機動戦士ガンダムSEED unlimted blade works (時代錯誤)
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prologue
少年はその顔を覚えている。
目に涙を溜めて、生きている人間を見つけ出せたと。
心の底から喜んでいる男の姿。
それがあまりにも嬉しようだったことを。
まるで救われたのは少年ではなく男の方ではないかと思ったことも。
少年が目にしたものは赤い空。
何故なのだろう。
先ほどまで、確かに空はいつもと同じ青であったはずなのに。
夕暮のそれとは違う赤い空が目の前に広がっている。
そして、違うのは空の色だけではなかった。
知らない景色が果てしなく広がっており、目に映るのは瓦解した建物と、空と同じ色をした焔。
見慣れたはずの街並みが跡形もなくなくなっている。
目の前に広がるのは確かに自分の日常であったもの。
何故、何故、何故。
そんな疑問が少年の頭の中を巡る。
しかし、少年は歩みを止めない。いや、もはや自分でも歩いていることに気づいていないのかもしれない。
周りのもの全てを見ないようにして、聞こえてくるものに耳をふさいで、前へ前へと歩いていく。しかし、それでも限界が来て少年は崩れる。
地獄の光景の中に少年が1人。
なんとか身体を動かし、身体を起こす。
しかし、身体は上を向くだけで、もはや一歩も動くことは出来なかった。
見える景色は変わらない。
赤い空とそこに立ち昇る、黒い煙。
そして、そこで初めて少年は理解した。
これは戦争なのだと。
この地獄は戦争なのだと。
だが、その瞳には憎悪も悲哀もなかった。
潰えようとする命の前では、そのような感情は何にも意味をなさないと知っているのか。
それとも、もはやそんな感情さえこの地獄の中に取りこぼして来てしまったのか。
そして、赤かった景色はなりを潜め雨が地上へと降り注ぐ。
少年は目を閉じる。
もう良い、もう良いんだ。
そう心で呟く。
だが…
「生きてる、生きてる、生きてる…」
そうして、少年は決して忘れることはないだろう。
自分を救った男のその言葉とその羨ましくなるほどに満たされたような顔。
そして、何かに感謝するように握られた手の感触を。
コズミック・イラ(以下C.E.)30年
パレスティナ公開会議と銘打たれたそれは、各宗教界の権威者が一堂に会し、コーディネイターに関する議論を行うがまとまらず、宗教界は権威失墜した。
以後、コーディネイター寛容論が世界に蔓延し、第一次コーディネイターブームが到来する。
しかし、C.E.40以降、極秘裏に精製されたコーディネイター達が、学術・スポーツ・芸術の各方面で成果を上げ始めると、「ヒト」としての能力差が顕著となり、ナチュラルの反コーディネイター感情が悪化を始める。
狂信的カトリックやイスラム原理主義過激派、ブルーコスモス構成員等の武装遺伝子差別主義団体が地下で結集し、反コーディネイター運動が過激化し、C.E.44年に完成し、建造拡大が行われていたプラントにも反コーディネイターのテロ行為が発生する様になる。
そして、C.E.53年、コーディネイターに生まれなかった事を悲観したナチュラルの少年の銃撃によりすべての発端となった最初のコーディネーター、ジョージ・グレンが暗殺され、世界はこの日を境に二分した。
これ以降、コーディネーターのほとんどはプラントへ移住。その後S2インフルエンザの流行し、多数の死者を出す。しかし、コーディネーターにその発症者は見られず、プラントはワクチンにの開発に成功し、地球へと供給したものの、インフルエンザの流行を「神の鉄槌」とした宗教界が権威を復権した影響もあって、地球はコーディネイターアレルギーを再発し、C.E.55年に「遺伝子改変禁止に関する協定」(通称「トリノ議定書」)が採択され、遺伝子操作は再び法律で禁止される。
以後、C.E.65年、プラント最高評議会の政権与党、黄道同盟がさらなる党勢拡大のうえ発展する形で、自由条約黄道同盟ZAFT(ザフト)が結党されたこともあり、世界は名実ともにナチュラルとコーディネーターの一触即発の事態となり、争いの方へと動き出す。
しかし、ほとんどの者は思わない。
それよりも前に戦争の火が燻っていだことを、テロリズムという正義のためとして振るった剣。その剣が取りこぼした1つの火種が、いずれ双方を襲うことになる《正義の味方》という剣を鍛える炎となったことを。
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偽りの平和に訪れる男
コズミック・イラ(以下C.E.)70
《血のバレンタイン》によって、地球、プラント間の緊張は一気に武力衝突まで発展した。
誰もが疑わなかった、数で勝る地中軍の勝利。
が、当初の予測は大きく裏切られ戦局は疲弊したまま、すでに11ヶ月が過ぎようとしていた。
L3宙域に存在する衛星コロニー、ヘリオポリス。
ナチュラルとコーディネーター、地球とプラント間の緊張が高まる中、数少ない中立の意思を示すオーブ首長国連邦の有する資源コロニーである。
そのためか、今もなお戦闘が各地で起こっているにもかかわらず、道行く人々の顔は平穏を享受し穏やかなものであった。
そんな中、一人の男がいた。
白い髪に浅黒の肌をしており、黒いズボンに真っ赤なライダースジャケットを着たその男は、他の人々とは異なり、少し険しい表情をしながら町を歩く。
「やれやれ、まさに平穏そのものだな、ここは。」
と、立ち止まり、誰に言うでもなく皮肉めいた口調でそうつぶやく。
男は肩に担いだ自分の身長よりもある細長い鞄のようなものを、かけ直しつつ、再び町を眺めつつ歩みを進めた。
すると、どこからかニュースの報道が自然と耳に入る。目を向けると、どうやら、すぐ近くにある工業カレッジの入り口近くにて何か作業をしている少年の端末から流れたもののようだった。
内容としては、南アフリカの慢性的な食糧不足問題、そして東アジア共和国のマスドライバー施設を有するカオシュン宇宙港にての戦闘中継であった。
実況者の伝える内容と、その声色から戦局は思わしくないことが分かる。
男は報道が聞こえる方へと目線を向ける。
すると、先ほどまではいなかった二人、別の少年と少女が、座っていた少年の端末の映像を眺めていた。
「ひえー、先週でこれじゃ、今頃はもう墜ちちゃってるんじゃないのカオシュン。」
「カオシュンなんて、結構近いじゃない。大丈夫かな、本土?」
「ああ、それは心配ないでしょ。近いって言ったてうちは中立だぜ。オーブが戦場になることはまずないって。」
それを聴いた男は苦笑した。
(やれやれ、危機感のないことだ。そうやって能天気に話している自分達の足元で何が造られているのかとも知らずに。)
そう心の中で彼らを皮肉って、男は歩きはじめた。
(さて、情報が正しければ、向かうべき場所はあそこだな。)
男の目線の先には、モルゲンレーテ社の工場があった。
オーブ本国のオノゴロ島に本社を置き、兵器の開発製造を行っている国営企業。
このヘリオポリスもオーブに所属するコロニーであるため、その工場が存在するが、普段は開発と同時に工業カレッジの学生のゼミの場として解放されているという。
男は歩いていくのは骨が折れると思い、普段人々が移動に使っている、ビークルの乗り場へと向かった。
すると、何の縁なのか先ほどの少年達も同じ乗り場にいた。
見てみると、また別のグループの学生とはしゃいでおり、後ろにいたサングラスをした凛とした女性に先に乗せるようたしなめられていた。
男はその女性と二人の男性が民間人でないことをすぐに見抜いた。
(あの感じ、軍人か。どうやら情報は正しかったようだ。ならば、あちらもそろそろ仕掛けてくるに違いないか。)
そう思案していると、学生達もビークルに乗り込み走り出していた。自分の番が回ってきたのを確認すると、男もまた乗り込み、目的地へと向かう。
ビークルが走り出すと、すぐに工場が見えてきた。
手前にはセキュリティーのために無人だがその隔壁は下がっている。
「さて、入手したIDが使えればいいのだがな。」
そういって、入手した偽造カードをスキミングする。
すると問題なく、隔壁があがったことに安心し、男はそのまま走り出した。
(第一関門は突破。さて、ここからだな。あまりうかうかはしていられないが。)
そうして、男は前を走る、学生達とは別の場所へと向かった。
到着したそこは、他の場所とは違う雰囲気を放っていた。男がビークルから降り、近づくと、銃を構えた男が近づいてきていった。
「ここは関係者以外の立ち入りは許可されていない。所属とID を提示しろ。」
「モルゲンレーテ本社所属のシロウ・エミヤだ。例のモノの最終調整のために来た。」
そういって、IDを渡す、シロウ・エミヤと名乗る男。
IDを渡された男がそれを確認する。
「確認した。ここから入って地下にいけ。そこに例のアレはある。」
「了解した。地下にあるのは全機体か?」
「いいや、今あるのは2機のみだ。残りの3機はすでに艦の方へと移送されている。」
「何?いや、了解した。まずはこちらを優先する。」
そういって、エミヤは建物の中に入った。
(ちっ!やはり遅かったか!だが、全部で5機あることは確認できた。それに、まだ2機あるのならばデータの回収には問題はないか。)
と、いらだちながらも気持ちを切り変えようとエレベーターに乗ろうとしていた、その時。
突如、建物の外から爆音が響いた。
「何!まさか、このタイミングで!やはり、出遅れたか!」
そうはき捨てると、エミヤはエレベーターでの移動は危険と思い、非常用階段から地下に向かった。
(この感じであれば、外の3機は諦めるしかないか。ならばせめて、下に残った2機だけでも。)
エミヤは階段を駆け下る。
そして、目的の工場区最下層に到着すると、そこでは既に戦闘がはじまっていた。
しかし、エミヤはそんな状況には目もくれず、取り残されていた目的のものを確認していた。
灰色の巨躯、それは地球連合軍が未だ持ち得ない兵器だった。
「やはりまだ残っていたか。しかし、この状況はいささか面倒くさいな。データを取るにしても、邪魔が多すぎる。排除するのはたやすいが、それでは上が何と言うか。」
と、冷たい目で今も尚、戦闘を繰り広げる者たちを見ながらエミヤは思案していた。
肩に担いだ細長い鞄を下ろし、中からあるものを取り出す。
それは弓であった。
今や時代錯誤といっても言いその武器をエミヤは手に取り、弦を張る。
すると、
「お父様の裏切り者ォ!!」
戦闘の怒声とは異なる悲痛な叫びが聞こえた。
エミヤは思わず、その声の方を向く。
そこにいたのは、先ほど見かけた暗い茶髪の少年ともう一人。
エミヤはその金髪の少女を見て目を疑う。
「何故こんなところに彼女が!ちっ、たわけが!好奇心は猫をも殺すということもわからないのか!」
エミヤは苛立ちをあらわにした。
断ち崩れた金髪の少女を少年が手を引いて走り出す。
その方向は工場区のシェルターがある場所だった。
そして、オレンジ色の作業着を着た女性が彼らの姿に気づくのをシロウは見た。
「ええい!あいつらのせいで、目線がこちらにも移ったか!」
エミヤは弓と矢を持って、遮蔽物となる瓦礫に身を潜めた。
このままでは、あの機体を死守しようが、奪取されようが彼の目的が失敗に終わる。
(どうする。やはり全員排除するしかないか。)
そう思い、飛び出そうと瓦礫から身を乗り出したその時、茶髪の少年が戻ってきたのが見えた。
そして、彼は一人のザフト兵が上から先ほどの女性を狙っていることに気づくと叫んだ。
「危ない!後ろ!」
その声に気づき女性が後ろを向き、銃を放とうとするが、もはやそこに弾はなかった。
しかし、銃弾は彼女を襲うことはなかった。
(ちっ、素人が!)
エミヤが弓に番えた矢を放つ。音もなく、放たれたそれは、数十メートルの距離等気にすることなく、目標を穿った。
(おそらく彼女は指揮官クラスだろう。ここで死なれては、ザフトにみすみす目の前のアレを奪われる。それだけは阻止せねば。)
そう考え、エミヤは再び身を隠す。
何が起こったのかと、女性と少年は疑問を抱く。
しかし、もはやそんなことを気にする余裕もなかった。
女性が少年に向かって叫ぶ。
「来い!」
「左ブロックのシェルターに行きます!お構いなく!」
「あそこはもうドアしかない!」
その会話をエミヤも聞く。
そして、再び爆発が起こる。
意を決した少年が、女性の方へと向かうのを見てシロウは考える。
(どうやっても、このままでは消耗戦か。ならばやはり、排除するしか、ん?)
エミヤが矢を番え下にいる者たちを狙おうとしたその時、一機の上で先ほどの少年がザフト兵と膠着してるのが見えた。
「やれやれ、何だか知らないが、戦場でそれでは殺してくれといっているようなものだぞ。」
そうつぶやき、矢を放とうとしたその瞬間。
負傷した女性が拳銃でザフト兵を撃ち、少年を無理やり機体の中へと押し込んだ。
ザフト兵もまた、残されたもう一機へと登場する。
「しまった!」
タイミングを見逃したエミヤをよそに、機体は動き出す。
失った好機は取り戻せない。
エミヤは爆炎広がる工場区の中、動き出すその機体を見上げた。
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ガンダム、その真価
『ヘリオポリス全土にLv.8の避難命令が出されました。住民は速やかに最寄の退避シェルターに雛案してください。』
そう避難勧告の放送が流れている。
先ほどの平穏が一転し、それらを享受してた人々は皆顔色を変えて混乱の中走っている。
そんな様子を一人、エミヤは破壊された工場区の外に出て見ていた。
「ちっ、この状態ではどうにもならんか。だが、ものは考えようか。アレの性能を実際にこの目で見ることができる。奪取された時はまた別の方法を考えるしかないわけだが。」
そう言って、エミヤは自分が取り逃がしたモビルスーツ(以下MS)の方へと目を向けた。
今まさに、その新型MSはザフトの主力機であるジンと交戦している。
だが、新型だというのにその機体は押されていた。
正直に言って、たって歩くのがやっとと言える状態あり、先ほどからジンの攻撃にされるがままであった。
「どうした、アレでも新型の機体か?いや、どうやらOSの設定がまだなのか?これでは、実際に見れても何の意味もない。」
そう愚痴をこぼすエミヤ。
そういっていると、再びジンがサーベルで攻撃を仕掛けた。
しかし、次の瞬間、新型に変化が現れる。
それまで灰色だった機体が鮮やかな赤、青、白の三色のトリコロールへと変わった。
そして、ジンのサーベルをいともなげに防ぎ、はじき返した。
その様子にエミヤは目を見開く。
「なに!なるほどアレがフェイズ・シフト装甲(以下PS装甲)というやつか。確かにアレでは、ジンのサーベル等は問題にはならんか。」
すると、奪取された機体もPS装甲を展開し、その巨躯を鮮やかなマゼンダに変えた。
そして、向かってくる弾頭を頭部に装備された武装で迎撃する。
「どうやら向こうは早々にシステムのOS設定を直したか。やはり、目下の課題は性能云々よりも機体のOS設定らしいな。それをどうにかしない限り、現状でどうにもならんが、なまじナチュラルでは無理もないか。」
事実、トリコロールのMSは再び追い詰められていた。
よもやこれまでかと思っていると、そのMSはジンのサーベルを避け、体当たりをした。
それによりジンが転倒する。
それ以降、新型MSはそれまでが嘘のような動きを見せた。
攻撃をかわすのはもちろんのこと、ジンの顔面に拳を入れる。
「何、どういうことだ?まさか、この短期間でOSを書き換えたのか?そんなこと、できるはずが…。」
そこまで言って、エミヤは考える。
確かにナチュラルには無理だが、もしアレに乗っているのがコーディネーターなら。
そうして、エミヤはあの時無理やりMSのコックピットに乗せられた少年を思い出す。
(もしそうなら、なんて皮肉な運命を持った奴なんだ。)
そして、決着は付いた。
新型MSが両腰からナイフを出し、ジンを戦闘不能にした。
ジンは自爆を図ったが、PS装甲のため新型は目立った損傷もなく健在であった。
「さて、見るものは見た。一機とはいえ奪取されずにすんだのは僥倖だな。さて、これからどうすべきか。」
一時的に戦闘が終えた中、エミヤは考える。
すると、戦闘を終えた先ほどの機体がある方向へと向かう。
そこには、見知った少年達の姿があった。
エミヤはそれを見て、先ほどの戦闘が誰の手によって行われたのか確信する。
そして、自らの目的を達成するための糸口を見つけもした。
コックピットから出てきたのはやはりあの茶髪の少年であった。
しかし、一緒に乗っていたはずの女性が降りてくる様子はない。どうやら、中で気を失っているようだった。
それを好機と見るや、エミヤは少年達に近づく。
「君達、大丈夫か?」
その声に少年達は驚くも大人であるエミヤの姿を見て安堵の表情を見せる。
「はい、大丈夫です。でも、実はあのMS の中に人が。僕たちだけじゃ動かせなくて。」
とサングラスをかけた少年が応える。
「分かった。詳しいことは良く分からないが、手を貸そう。」
「あ、ありがとうございます。」
よくもまあ口からでまかせが出るものだと、エミヤは自分にあきれた。
そうして、エミヤは約束どおり、女性を機体から下ろし、近くに寝かせた。
そして少女に向かって言う。
「悪いが、女性が相手だ、彼女の世話は女性に任せたい。えっと…。」
「ミリアリアです。ミリアリア・ハウ。」
「そうか、ミリアリア。彼女のことを頼む。」
そう言って、エミヤは機体の方へと行った。
そこには最も気になっていた少年の姿があった。
エミヤは彼に近づくと声をかけた。
「これに動かしていたのは君か?」
「え?いや、あの。」
いきなりの質問にたじろぐその少年をエミヤは優しい声色を持って話しかける。
「別に怖がることはない。責めているわけでもなしな。どのような状況であれ、君のような子供がこれを動かしたということに疑問はあるが、それでも君はやらねばならないと思ったのだろう。」
「っ!」
「それは彼らのためかい?」
そういってエミヤは少年の友人達の方に目をやる。
少年もまたそれを見て頷いた。
「はい。」
「ならば後悔することはない。君のしたことは正しいと私は思うが。」
と、エミヤは少年の肩に手を置く。
「キラです。」
「ん?」
「キラ・ヤマト。ボクの名前です。」
「そうか、私はエミヤ。シロウ・エミヤだ。このような格好だがモルゲンレーテに所属している身でね。本国からのお達しで来てみれば、まさかこのようなものをヘリオポリスで造っていたとは。知らなかったとはいえ、君にも謝らねばならないな。」
そういって頭を下げるエミヤ。
その様子にキラは驚く。
「そんな、シロウさんのせいじゃありません。だって、誰にも分かりませんでしたから、中立のここにこんなものがあるなんて。」
「ああ、そう言ってもらえると気が楽になるよ。ありがとう、キラ。」
と、エミヤは再びキラの肩に手を置く。
これまで色んな大人にあってきたが目の前の男はそのどれらとも違う雰囲気をかもし出していた。
同姓だというに、キラは思わず顔を赤くする。
「あ、あの僕あの女の人の様子を見てきます。」
そう言って、キラは走っていった。
エミヤはその様子を見ながら思う。
(やれやれ、本当に最低の人間だな私は。)
そして、再び目の前のMSに目をやると、キラの友人達がその回りをうろちょろとし、あろうことかトールと矢ばれていた一人はコックピットに乗っていた。
その様子に唖然としたエミヤはすぐさま降りるよう声をかけようとした、その時。
「その機体から離れなさい!」
その言葉と共に銃声が響く。
振り向くと、そこには意識を取り戻したあの女性が銃口をこちららに向けていた。
彼女は負傷した体を起こすとこちらに近づいてきた。
キラが彼女に駆け寄り制止する。
「何をするんです!やめて下さい!彼らなんですよ、気絶したあなたを下ろしてくれたのは!」
すると女性は今度はキラへと銃口を向ける。
「助けてもらったことは感謝します。でもアレは軍の重要機密よ。民間人がむやみに触れていいものではないわ。」
すると、彼女とキラの間にエミヤが庇う様に入る。
「貴女の言うことも分かるがね、だが事実としてアレを操縦していたのは彼だろう。」
「貴方は?」
「シロウ・エミヤ。モルゲンレーテ社の者だが、私もアレの存在を知らなかったわけだが。そんな私でさえ知らされていなかったものだ、確かにそちらにとっては重要なものなのだろう。しかし、機密だからとはいえ、守るべき民間人を銃で脅すとは、地球連合軍の士官はそこまで落ちぶれたのかね?」
「なんですって!」
「事実だろう?本来守るべき者に守られ、そんな者たちに恩をあだで返すようなまねをするとは、君がいかほどの将校かは知らないが、恥を知れ!」
激昂する彼女にエミヤは皮肉を交え叱責する。
しかし、彼女もまた彼が言うことが事実であると自分でも分かっていた。
だからこそ、その瞳は悔しさでにじんでいる。
「ともあれ、貴女の意識が戻ったのであれば我々はその指示に従うべきなのも確かだ。さて、どうすればいい?」
「っ!では、みんなこっちへ。」
女性は銃を下ろすことなく、全員を一列に並ばせ、一人ずつ名乗らせた。
全員の名前を聞き終えると、最後に彼女マリュー・ラミアスは自身の名前と、エミヤが見抜いたように自分が地球連合軍の将校であることを明かした。
「申し訳ないけど、あなた達をこのまま解散させるわけには行かなくなりました。」
その言葉にエミヤ以外のものが驚く。
「事情はどうあれ、あなた達は軍の重要機密を見てしまったあなた方は、しかるべきところと連絡が取れ、処置が決定するまで、私と行動を共にしていただかざるを得ません。」
その言葉に、キラの友人達、サイ・アーガイル、トール・ケーニヒ、カズィ・バスカーグが反発する。キラやミリアリアも何もいわないが思いは同じだった。
しかし、その反応がますますマリューを苛立たせた。
そして、再び彼女は空へむかって発砲する。
「黙りなさい。何も知らないこどもが!」
そして、銃口をキラたちへと向け、続ける。
「中立だと関係ないと言ってさえいれば、今でもまだ無関係でいられる。まさか本当にそう思っているわけではないでしょう。ここに地球軍の重要機密があり、あなた達はそれを見た。それが今のあなた達の現実です。」
「そんな乱暴な」
サイがつぶやく。
しかし、マリューは続ける。
「乱暴でも何でも、戦争をしているんです。プラントと地球、コーディネーターとナチュラル、あなた方の外の世界はね。」
マリューとキラたちの間に嫌な沈黙が流れる。
両者共に言っていることはわかるつもりだ。しかし、生きてきた場所、見てきたものの違いが、彼らの間には大きな溝としてあるのだ。
「で、ご高説はそれで終わりかね?」
するとそれまで黙っていたエミヤが両者の間に入る。
その様子を見てマリューは眉間にしわを寄せる。
「貴方も指示に従ってもらいます。シロウ・エミヤさん。」
「ああ、それについて、私は異論はない。ここが戦場である以上、軍人である貴女の指示に従うのが最も効率がいい。なら、ご高説が終わったのなら指示をくれたまえ。彼らも私もそれなしでは、何もできない。」
と皮肉を言いながらも、エミヤはマリューに従う意思を見せた。
キラたちもまた、エミヤが従うのならと渋々ながらもそれまで持っていた反感を潜める。
「賢明な判断、感謝します。」
そういって、マリューの指示に従いキラにはあの新型MSであるX-105 ストライクでの通信を、サイたちには工場区から無事であろうNo.5のトレーラーを持ってきた。
しかし、ジャミングによる通信妨害のせいでなかなかつながらない状況にあった。
マリューはキラにストライカーパックと呼ぶ装備をつけた後に、再び通信を試みるよう言う。
負傷した腕を押さえながらも毅然と振る舞おうとするマリュー。
そんな彼女にエミヤが話しかける。
「まだ通信妨害が続いているようだな?」
「え?ええ。」
「はっきり言おう。マリュー・ラミアス、地球軍の機密はこのMS5機だけか?」
「どういう意味かしら?」
「ここまでの通信妨害を行っているということは、敵は意地でもこちらの内外の連絡を取らせたくないということになる。それは何故か。」
そこまで言われ、マリューはエミヤの質問の意図を理解する。
「では最初からザフトの狙いは!」
「ああ、モルゲンレーテということだろうな。ならば、このストライク一機を残している現状を良しとはしないだろう。」
その言葉にマリューは目を見開く。
ザフトが本命がG兵器と呼ばれるMSであることにもだが、それ以上にこのわずか短時間でそれを予測したエミヤという男の観察眼に彼女は驚いた。
そして、次の瞬間エミヤはキラに向かって驚くべきことを言う。
「キラ、急いで装備を装着して、いつでも攻撃できるようにしておけ!」
「え、なんでですか!?」
「いいから、早くしろ!」
そのあまりの剣幕にキラは、言われたとおりに運ばれた武装をストライクに装備させる。
マリューもまたエミヤが何をしようとしているか分からずに尋ねる。
「貴方、なにを!?」
「ヘリオポリスを強襲したザフトの狙いは、最初からコイツだ。なら、まだ外には奴らがいる。その証拠に、攻撃を受けてから数時間たつというのに通信妨害はまだ行われている。」
その言葉を聴きマリューはハッとする。
しかし、そんなマリューをよそにエミヤは再びキラに告げる。
「いいか、キラ。敵が来るとしたらあそこからだ。」
とエミヤが指し示したのはヘリオポリス上空に糸のようにある、コロニーへの連絡用パイプであった。
キラは装備された巨大なランチャー砲でいわれた方向を狙う。
するといきなり爆炎が起こり、煙の中からザフトのMSとそれを応用にしてオレンジ色のモビルアーマー(以下MA)が現れた。
キラはエミヤの予想通りの展開に驚きつつも、言われたとおりに引き金を引く。
するとザフトの白い機体シグーもまさかそのようなタイミングで攻撃があると思わなかったのだろう。間一髪という体勢でこれを回避するものの、追ってきたMAの砲撃を浴び、武器が大破、わずかであるが損傷した。
しかし、波乱はそれだけでは終わらなかった。
再びコロニー内が爆発したと思ったら、今度は上空より巨大な宇宙戦艦が現れる。
戦況を見るや、不利と判断したのだろうシグーは先ほどのストライクが放った砲撃でできた巨大な穴から離脱していった。
再び脅威を退け、安堵するキラ達。
しかし、エミヤは一人、ヘリオポリスにできた巨大な傷跡を見て、地球軍が作り出した新型MSの真価に目を鋭くした。
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