五等分の運命 (電波少年)
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第1話:『人間』として

どうも皆さんはじめまして。
ハーメルンで初めて小説を投稿する『電波少年』というものです。


ここ最近になって五等分の花嫁を読みその面白さに感動し、衝動的にこの小説を書くに至りました。

自分が思い描いた小説を書くためにかなりの原作改変があるので、苦手な方はご注意を。

仮面ライダーに関しては響鬼、ウィザード、ゴースト以外と現在視聴中のジオウを除けば全て視聴しました。

初めての投稿で何かと至らぬことが有ると思いますが、コメント欄などで指摘していただければ幸いです。

そしてこの作品では原作の設定の一部を完全に改変して進行します。
苦手な方は即ブラウザバックすることをお勧めします。

「上杉風太郎」という少し曲がった不器用さではなく、「剣崎一真」という真っ直ぐすぎて不器用な青年が主人公ならこの物語はどうなるか。
暖かい目で見守っていただけると幸いです。

最後に一つ言うまでもないかもしれませんが一番好きな仮面ライダーの作品はは『仮面ライダー剣』です。





俺は忘れない。

 

あの日の君の笑顔を。

 

あの時何もかもを忘れてしまうかもしれなかった俺を救ってくれた君を。

 

この俺をもう一度だけ『人間』として生きさせてくれたことを。

 

目の前でまるで「生きているか」のように、そして幸せそうに眠る君の頬を撫でる

 

 

 

あぁ...夢が覚めてしまう。...

幸せで、それでいて儚い夢が覚めてしまう...

 

だけどそれでも俺は...

 

もう忘れない。

君が思い出させてくれた。

 

おれは... おれは...

 

人類を守るために...全ての人の『笑顔』を守るために戦うヒーロー

 

 

 

『仮面ライダー』だ

 

一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

 

目が覚めた。見上げても映る景色は丸型の蛍光灯と少しばかり穴が空いたり汚れていたりする天井。

 

俺はゆっくりと体を起こす。

いつから寝ていたんだろう。確か自分はある紛争地帯で子供たちを逃がすために戦っていたはずである。

 

そしていきなり意識が消え、目が覚めたら全く見覚えのない建物の中にいる。この狭い部屋を見渡す限りここは恐らく誰かの家だろう。

 

だがそこで俺はある違和感に気付く。それは自身の『手』だ。

以前、といってもジョーカーとなった後の事だが俺の手は最早人とはは思えない、一言で形容するなら『化け物』とでもいえる手だったはずだ。

なのに今はどうだろう。俺の手の形は肌色より少し薄いただの『人間』の手である。

 

「なんだこれは...おれは人間に戻ったっていうのか?でもそしたらバトルファイトは...?」

 

脳裏に浮かぶの最悪の光景。俺が人間に戻ってしまったのならこの世に存在するアンデッドは相川始‐ジョーカーアンデッドのみになる。

 

もしそうなればまたあの黒い醜悪な異形、ダークローチが全ての人間を...いや人間だけではない。全ての地球上に生きる生命を駆逐しようとするはずである。

 

窓の外を見る。だが眼下に映る景色は平和そのものである。とても今から世界が終わるとは思えない。

 

だが違和感はそれだけでは終わらない。鏡に移る自分の姿に気付く。

それは前の自分の顔とは似ても似つかない、黒髪でかつ少し前髪で目元が隠れている暗そうなどこかの学校の制服を着た青年の姿だった。

 

.....訳が分からない。

 

率直な気持ちだ。一体何が起こっているというのか。

紛争は?ジョーカーは?アンデッドは?バトルファイトは?

様々な疑問が頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。

 

 

「ダメだ...埒が明かない...」

 

そこで、俺はまず一旦冷静になることにした。

まず情報を得よう。ここはまず何処なのか。そもそもここは地球なのか。と、ふと耳にテレビかラジオらしきものの音が入る

 

『今日の東町の天気は雲ひとつない快晴です。洗濯物は...』

 

まずここが日本であることはハッキリした。そして次に耳に入ったのはまだ年端も行かない少女の声。

 

 

 

「よかった〜。これで洗濯物を外に干せるね〜。」

 

ただ今部屋から出るのはまずいだろう。まずは自分自身が何者かをできるだけ他の人物に頼らずに明らかにしなくては。

 

そこでポケットをまさぐるとなにか手帳らしきものが出てきた。学校という文字があるあたり恐らくこれは学生手帳だろうか。

めくると学生証と書かれた紙が出てくる

 

高校2年生

 

『上杉 風太郎』

 

そこに書かれていた文字でようやく自分の身分を理解することが出来た。

 

情報を纏めるとここは日本のどこかにある東町という街であり、自身は上杉風太郎という高校2年生だという事だ。ということは先程部屋の外から聞こえた少女の声はこの風太郎君という青年の妹なのだろうか。

ともかくこれで情報はまとまった。さぁ今すぐ部屋を出て...

 

「いやいやいや待て待て待て」

 

自分は『剣崎一真』だ。正確にはもう剣崎一真では無くなっていたけど。

今自分の身に何が起きている?俺はなぜこの上杉風太郎という青年になっている?もう訳が分からない。また頭の中がかき混ぜられるような感覚に襲われる。

 

だがその思考はある声で突然遮られた。

 

「あ、お兄ちゃんおはよう。もう起きてたんだ」

 

俺は何も言うことは出来ず目をパチクリとさせる。

 

「ちょっとどうしちゃったのお兄ちゃん。らいはのこと忘れちゃったの?」

と怪訝そうな顔で自分に尋ねてくる。

 

「あ、あぁ...らいはちゃんね...もちろんお兄ちゃん(?)はらいはちゃんのこと覚えているぞ」

と言うと、

 

「え、なんで急にちゃん付けしてるの...?お兄ちゃん頭でも打った?」

 

不思議そうでいてそれでいて少し引き気味に聞いてくる。

 

「い、いや全然俺は平気だぞ。らいは」

と、たどたどしく答える。

 

「ふーん、変なお兄ちゃん。てか早く朝ごはん食べちゃいなよ。今日学校でしょ?」

 

...まずは腹ごしらえにするとしよう。




この最初に出てきた『君』はもうかなり歳をとっているという解釈でお願いします。


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第2話:新たな『運命』

あまり間を開けないでの投稿となりました。
一応、風太郎(剣崎一真)のことは会話文のなかでは風太郎と表記し、それ以外の部分では剣崎と表記することにしました。
今回もよろしくお願いします。


おれは妹に言われた通り、朝食を食べることにして、部屋を出た。

 

その瞬間、

「おぉ!起きたか風太郎!!その様子だと昨日はあまり眠れなかったみたいだな!!!なにかイカンことでもしてたのか?」

と言い、ガハハハハハとうるさい声で笑う金髪の髪にサングラスを載せた男。

 

そして間髪入れず、

「どうした風太郎、早く座れ!今日も我が家のかわいいかわいいらいはが朝ご飯を作ってくれたぞ!」

と着席を促す。

その後らいはが「朝だから少し静かにしてよお父さん!」と続ける。

 

今の会話から目の前の金髪の男がこの風太郎という青年の父親だということがわかった。先程見た自分の顔とは髪の色のせいもあってかあまり似ているようには見えなかったが。

 

とりあえず俺は「あ、あぁ...」と言われるがままに畳の上に直接腰をおろした。

なのに何故か目の前の金髪の男は俺の方を目を見開いて見てくる。

 

「どうしたんだ、珍しいじゃないか風太郎!俺が言うことに素直に従うなんて。いつもならなにか1つ減らず口を叩いているだろうに!」

と変わらずうるさい声で話しかけてくる。

 

俺はどうしたらいいか分からなかったのでとりあえず、

「そ、そうかな...父さん...(?)」

と答えた。

 

何故か場の空位が凍りつくような感じがする。なんだ今なんか俺変なこと言ったか?

 

そして目の前の父親であろうと男が恐る恐る口を開く。

「父さん...?今の俺のことを『親父』じゃなくて、『父さん』呼んだのか?」

そして先程の豪快な笑い方とは打って変わって深刻な顔で

「風太郎お前...頭でも打ったのか...?」

と先程聞いたようなやり取りだった。

 

ただ、さすがは元仮面ライダー、状況判断に優れる剣崎は

「じょ...冗談に決まってんだろ!何寝ぼけたこと言ってんだ親父!」

と少し強めに言い返す。さすがに恐らく父親であろうこの男に今の言い方は不味かったか?など疑ったが

 

「なんだ!風太郎お前も少しは冗談が言えるようになったのか!」

と言い、またガハハハハハと豪快に笑う。

なんとも愉快な父親だ...。

 

そして

「もう!いつまでやってるの!早く食べないと遅刻するよお兄ちゃん!」

と声がかけられた。

 

とりあえず今は手早く朝ごはんを食べて学校に行こう。いつ元の体に戻るか分からない。その時にこの体の本来の持ち主の風太郎君に遅刻させていたような事があってはならない。

 

周りの建物などを見渡しながら歩いてみる。日本は自分がまだ人間だった2004年とはあまり変わらないなと思う。ジョーカーになったあとの剣崎が生きていた地域は紛争により建物などはほとんど崩壊してしまっていたのだ。ただ今上杉風太郎として生きているを歩く人この街を歩く人はみんな笑顔に満ち溢れている人が多い。

 

剣崎はそれだけで心が暖かくなるのを感じた。彼は人を守るためにライダーになり人を守るために人間をやめた男だ。人間が笑顔でいることそのものが彼にとって幸せなのだ。

 

そして自分と同じ制服を着たほかの学生について行くようにして歩く。街を見渡していた剣崎は少し落ち着いたように前をむく。

 

そして前を向いたその時、彼はあまりにも美しい人を『見た』。

 

青いセーターを見に纏い、少し大きめのヘッドフォンを首にかけた美しき少女を。

 

 

だが不幸なことにその少女は俯きながら歩いていた。しかもそこは横断歩道。信号こそ青だったが、なんの運命のいたずらか、スピードをだしたトラックがその少女に横から迫ってきていた。

 

その少女はトラックの存在に気づくも避けるのは間に合わない。

これから怒る最悪の事態に彼女は目をつぶる。

 

そして少女は吹き飛ばされた。

 

 

―横から来ていたトラックにではなく、後ろから自分を抱きしめるようにして走ってきた青年によって。―

 

そして少女を抱きしめるようにして前へと吹っ飛んだ剣崎は声を上げる。そして剣崎は少女を抱きしめていた手を離し

「痛ってぇ.....あっ、君大丈夫?怪我はない?」

と語りかける

少女は首を縦に降る。

そして剣崎は

「ちゃんと前を見て歩かなきゃダメだよ。」と先程周りの建物や人をキョロキョロと眺めていたような人が言うこととはとても思えないがそんなことすっかり忘れて注意を促す。

 

少女はとても小さい聞こえないような声で「ありがと...」と呟くとそのまま走り去ってしまった。

 

普通は死ぬかもしれない大事故に繋がるおそれもあったのにたったそれだけかと思うかもしれない。

だが剣崎は満足げだった。自分はまた『人間』として人の命を救うことができたのだ。

そして彼は擦りむいた傷跡から見える赤い血をみて自分は今本当に『人間』だということを認識し、すこし嬉しそうに微笑むのだった。

 

 

今思えば彼の新しき『運命』はここから動き出していたのかもしれない。

 

 

 

 

 




今日の投稿はこれで終了となります。

まだ初めての投稿で至らぬことも多いとは思いますが皆さん是非アドバイスや誤字脱字の指摘などよろしくお願いします。


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第3話:疑惑の『再開』

疲れました,..


剣崎はトラックに轢かれそうになった少女を助けて学校へと向かう。その時まわりの生徒達が

「うそ、あの上杉が...」

「いや、あいつが人を助けるなんて何かの間違いだろ...」

「今の女の子誰だろう...可愛かったなぁ」

などと口々に話し出す。

 

この場に居にくくなった剣崎は人助けしたことを疑われるなんてこの青年はどんな人間だったんだろうと疑問に思いつつも、早足で学校に向かった。

 

正直に言ってしまうと高校の授業はあまり面白くなかった。

 

そもそもこの剣崎一真、勉強面において特に苦労したことがないのだ。彼はいわゆる天才というやつである。勉強も運動もそれらを上達させるのに努力という努力をしたことは無かった。彼が何かをやろうとすれば必ず平均よりさらに上のラインまで軽々と到達してしまうのだ。

 

彼が努力無しで出来なかったことと言えばライダーとして戦うことぐらいである。これに関しては1人前になるまでに多大な努力を要した。ひとえにこれも橘さんや虎太郎や広瀬さんなど周りの人間の支えがあったからこそである。彼は多くの人間との出会いによってライダーとして成熟していったのだ。

 

そんなことを考えていると社会科の頭の毛が薄い教師から

「こら!上杉!人の授業を他所を見ながら受けるんじゃない!」

と怒られてしまった。

 

それで剣崎は立ち上がり

「すみませんでした先生!」

と素直に頭を下げて謝った。

教師もクラスメイトも驚いたような顔でこちらを見ている。

 

剣崎は

「俺今...何か変なこと言っちゃいました...?」

と頭を掻きながら尋ねるのだった。

 

その後病的なまでに素直になった上杉風太郎に『悪霊が取り付いている』や『家族を人質にとられている』などのありえない根も葉もない噂が流れたのはまた別の話。

 

そして時が流れ昼休み。彼は1人で食堂へと向かう。それなりの広さもあり中々いい感じの食堂である。

剣崎はメニューを見ながら何を食べるか考え出す。

『ラーメンにカレー...全部美味しそそうだなぁ。とりあえずこの焼肉定食ってのにしてみるか』

と彼は心の中で呟き、焼肉定食を買おうとした。値段も400円と中々にリーズナブルである。

 

そして彼は財布を開けて驚愕することになる。なんとお金は200円しか入っていなかったのだ。

「え?!」

と思わず大きな声を上げてしまい周りから奇異の視線を向けられ思わず、イカンイカンと自身を戒める。

だがいくらなんでも200円はないだろう。今時の小学生でもせめて500円くらいは持ってるもんだろうと心の中で文句をいう。

ただ所持金が200円ではライスくらいしか食べるものがない。彼が呆然としていると食堂のおばちゃんが

「あぁ、いつものね」

と勝手に用意を始める。

俺は一体何が出てくるのだろうと年甲斐もなくワクワクしていた。

 

 

出てきたのはご飯に味噌汁、お新香だけだった。そしておばちゃんが「200円」と言いながら右手を出してくるので俺は仕方なく財布から200円を出して払う。

花の高校生がまさかの無一文になってしまった。

確かに剣崎はライダーになりたての頃は給料が少なかったのもあって、大した飯を食べれていたわけではなかった。

 

いやそれでも200円って...

 

ただぶつくさ言ってても始まらない。とりあえず今はちゃっちゃっと食べてしまおうと思い水を取りに行く。

 

水を入れ終わり席に座ろうと歩き始めたところで、剣崎はいきなり走ってきた生徒にぶつかられてしまった。

剣崎はその衝撃でコップの水を頭からかぶってしまう。

 

ぶつかった生徒は

「あ、ワリ」

と平謝りして去ろうとしたが

剣崎は

「いや、大丈夫だよ。これくらい直ぐに乾くさ。」

と笑いながら答える。

さすが剣崎、相手はいくらなんでも高校生、こちらこそ外見は高校生が中身は正真正銘の成人である。そのようなことで大人気なくいちいちカッカッしてはいられない。

 

ただそこでまた他の生徒からの視線が注がれ彼らは口々に

「あれ本当に上杉くん ?」

「彼があんな笑顔見せたの初めてだぞ...」

などと話していた。

 

本当にこの上杉風太郎、どんな人間だったんだろうと少し困惑しながら席につこうとした。

 

だがまたここでも運命のいたずらである。

席にトレーを置こうとした剣崎であったがもう一方からきた別のトレーとぶつかってしまったのである。

 

そこにいたのは剣崎が朝通学途中に助けた少女だった。

 

だがとりあえずぶつかってしまったのは謝るべきであろう。剣崎が「ごめん」と言おうとしたその時、少女は眉間に皺を寄せ

「あの!」

そう大きな声で言われ剣崎は朝のことで、なにか謝ったりでもするのかなと考えた。そこでそのようなことを言うなら「もう気にしないでいいよ」などと返すつもりであったが

 

「私の方が先でした。となりの席が空いているので座ってください」

などと言ってきたのである。

 

流石の剣崎もこれには黙っている訳にはいかない。

 

「あのなぁ、君。席のことだけならまだいいとして朝自分を助けた人に対してその言い方はないだろ!」

と少し声を荒らげる。

剣崎は別に感謝されたいとかなにか見返りを求めて助けた訳では無い。だが自分が助けた人にこのような高圧的な態度でこられては言い返しざるをえなかった。

 

だが少女は矢継ぎ早に

「私があなたに助けられた?何を言っているんですかあなたは。」

と返した。

 

剣崎は思わず「は?」と漏らしてしまった。

 

少女は続ける。

「人の席を取ろうとするだけではなく、今度はありもしない恩を売ってくるだなんて...

あなた自分が人として何をしているか本当にわかっているんですか?

そもそも食堂の席は早い者勝ちですよ?」

 

なんだこの女。助けて貰ったことすらなかったことにしようって言うのか?確かに見返りなどを求めたつもりはない。でもいくら何でもはこの言い方は許されるはずはない。いくら勝気で男勝りな広瀬さんでもこんな言い方はしないだろう。

 

ならこんなやつともう話す必要は無い。

「へー、早い者勝ちかぁ」

食堂はみんなのものだ。どこの席に座ろうと俺の勝手である。剣崎はこの悪女の一瞬の隙をつき元凶となった椅子に素早く座った。

 

「ならこれでこの席は俺のものだな!」

と勝ち誇ったかのように告げる。

 

そうすると少女「ちょっ」と言ったあと呆れたように前の椅子に座る。

 

俺は内心でよくこんな言い合いの後にその相手の前に座る気になったなとつくづく思う。

 

その後少女は俺と少し目を合わせたあと

「午前中にこの高校を見て歩き回ったせいで足が限界なんです」

と告げてきた。

そこでおれはこの少女がこの学校の制服とは違う制服を来ていたことに気づく。

 

ただそんなことは知ったことではない。剣崎は半ば無視するような形になりつつも食事を摂り始めた。そして一瞬チラリと彼女のトレーの上の天ぷらが沢山のったうどんとプリンを見てなんでこんなやつがこんないいもん食ってんだと心中でボヤいた。

 

とりあえず彼は制服のポケットに入れたままになっていたテスト用紙を広げてみた。

なんと100点満点である。自分もテストはほぼ毎回100点だったので驚きはしなかったがとりあえずこの上杉風太郎という青年が非常に学業面において優秀な生徒であることがわかった。ちなみにこの程度の問題なら自分でも簡単に解けるということもわかった。

 

だがいきなり目の前の少女は

「行儀が悪いですよ」

と注意してきた。

 

「人の行儀を注意する前にまず自分の性格を直せよ」と言いそうになったがそんなことを言えばまた喧嘩になるのは明白である。

剣崎は一言、

「ほっとけ」

と言い放った。

 

だが彼女は何を勘違いしたのか

「食事中に勉強なんて...余程追い込まれているんですね」

と言い、俺の(ものではないが)テスト用紙を取り上げたのだ。

 

彼女は鬼の首を取ったかのような顔をしてテスト用紙を見るが、その後すぐに青ざめた。

そして

「100点...」

と呟いた。

 

そこで剣崎は少し意地悪く、

「あー、テスト用紙みられちゃったなぁ〜

恥ずかしいなぁ〜」

とわざとらしく発した。まぁ自分が取った点数ではないのだが今はこの少女に無性に腹が立っていたのだ

 

彼女は悔しそうに頬を膨らませ

「悔しいが勉強は得意ではないので羨ましいです。」と呟いた。

たがすぐに「私いいことを思いつきました!」といい手をパンと叩いた。

 

「せっかく相席になったんです。」

 

「勉強 教えてくださいよ」

とお願いしてきた。

 

「どの口が言ってんだよ」

とだけ剣崎は告げ「ご馳走様でした」をして席を立つ。

 

だが彼女はなおも食い下がってきた。

「お昼ご飯 それっぽっちでいいのですか?

私の分少し上げましょうか?」

と尋ねてくる。

 

誰がこんなやつから施しなど受けるものか

剣崎はちらりと彼女を一瞥し、

「満腹だよ。そもそも誰がお前から...」

まで言いかけたところでお腹から『グゥ〜』と音が鳴った。

 

一瞬の沈黙のあと剣崎は

「本当に少し貰っていいのか」

とあっさり折れ、年上としてのプライドを捨ててこの満たされない食欲を少しでも埋めることに決めた。

 

 

約10分後

「いや〜悪いな。飯を分けてもらっちゃって。」

とお腹がある程度膨れ満足げになった剣崎は少女に言った。

少女も

「それなら良かったです。私も先程は少し言いすぎました...

助けてもらったというのはなんのことがわかりませんがとにかく申し訳ありません。」

と謝罪した。

 

......まぁ今朝の件は水に流すとしよう。こちらも100%善意でやったことだ。それを一々追求するのは野暮というものだろう。

 

それを言うと少女はこちらを少し見上げて頬を少し種に染ながら聞いてきた。

「あの〜先程の勉強の件は...」

 

「まぁそれに関しては俺でよければ少しは力になるよ。ただこっちも色々とやらなければいけないことがあるからいつでもという訳にはいかないけど」

と答えた。もちろんやることこは現場を理解することである。

そう告げると少女はパァっと顔を明るくし

「本当ですか!?あんなことを言ったのに申し訳ないです。」

「いや別にもう気にしてないよ。むしろ飯を分けてもらったからそれくらいはやらせてもらうよ。」

と告げる。

そして彼女は最後に

「ではまず自己紹介をさせてください。

私の名前は中野五月です。

お名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」

と言われ

「あぁ。俺の名前は剣z...上杉風太郎だ。よろしくね、中野さん」

と握手を求めた。

 

「はい!よろしくお願いします!」

と五月もニッコリ笑って握手に答えた。

 

そして五月と別れたあと自分の電話が妹のらいはちゃんからの電話で鳴ったことに気付き、とりあえずトイレで出ようと思い、トイレの個室に入った。

 

「お兄ちゃん!お父さんから聞いた!?」

と耳をつんざくような声で話しかけてきた。

「ど...どうしたらいは

もう少し落ち着いて」

 

「あ、ごめんね。うちの借金なくなるかもしれないよ」

 

 

......は?借金......?

 

「え?らいは...借金って...」

「もう!お兄ちゃんとぼけないでよ!

お父さんがいいバイト見つけたんだ。最近引っ越してきたお金持ちのなんだけど娘さんの家庭教師を探してるらしいんだ」

といい、

「アットホームで楽しい職場!相場の給料の5倍が貰えるって!」

と興奮気味に伝えてくる。

 

...それ怪しい裏の仕事じゃないのか...

例えば家庭教師に行った途端不死の生物を封印をするハメになったりだとか

 

らいはが続ける

「人の腎臓って片方なくなっても大丈夫らしいよ」

「それ俺がやるの?!」

もうあんな悲しいだけの戦いはゴメンだ!

人の命の安全が脅かされるとかなら話は別だけど...

 

「うそうそ。成績悪くて困ってるって言ってたよ。でもお兄ちゃんならできるって信じてる!」

「ちょっと待て、やるとは一言も...」

「これでおながいっぱい食べられるようになるね!」

剣崎は満腹気味のお腹をさすりながら

「その娘ってどんな奴なんだ?」

とまだあまり話してもいない妹の笑顔のために仕事を受けることを決意した。

 

だがらいははその娘さんの名前を忘れてしまっていたようでその名前は聞くことが出来なかった。

 

午後の教室では

「午後から転入生くるらしいよ」

「あーそういえばそんな話しあったねー」

などと噂されていた。

 

そして担任が転入生を紹介します。といい後ろについてきた生徒に自己紹介させる。

それはつい先程自分に飯をくれたあの少女だった。

 

彼女は黒板に名前を書きその名前を告げる

「中野五月です。どうぞよろしくおねがいします。」

 

「女子だ」

「普通に可愛い」

「あの制服って黒薔薇女子じゃない」などと口々に話し始める。

 

まさかおれが教える予定の娘ってこの子のことなのか..., 。

 

とりあえずこっちに向かってきた五月に対して声をかけた

「やぁ、中野さん」

「あら!上杉さん!上杉さんもこのクラスだったのですね!知り合いがいて良かったです!」

と嬉しそうに告げてくる。

まぁ知り合いと言っても知り合って2時間程だが。

先程まではボソボソ程度の声量だった教室が一気に騒がしくなる。

 

「え?!中野さんと上杉って知り合いだったの?!」

「まさかあの上杉が?!」

ごめん。上杉風太郎くん。この剣崎一真はまた君の体で余計なことをしましたと心の中で謝った。

 

翌日昼飯(もちろん焼肉抜き焼肉定食である)を摂ろうと思った俺と中野さんはまた食堂で出会った。

「あ、中野さんもいまから昼食?」

「あら。上杉くんもですか?」

「そうなんだ。よかったらまた一緒に食べない?そのあと少し勉強を教えてもいいけど」

「本当ですか!?あ...でも」

と言葉を濁らせる。

 

そしたら後ろから

「五月ー!こっちだよー!」

と随分元気な声が聞こえてくる。

振り返ってみると数人の少女たちがすでに席を囲んでいた。

「すみません。上杉さん。私...」

なるほど中野さんはいまからこの友達と飯を食う約束をしていたのか。なら男の俺がいても邪魔なだけだろう。そう判断しと立ち去ろうとした。

だが振り向いた途端

「行っちゃうの?」

と呼び止められた。

そこにはショートカットの女子生徒がこっちを見上げていた。

「そりゃ中野さんが友達とご飯を食べるなら俺が邪魔するのは悪いよ。」

「席探してたんでしょ?私たちと一緒に食べていけばいいよ。」

「いや...でもなぁ...」

と言葉に詰まる。

「なんでー?美少女に囲まれてご飯食べたくないの?彼女もいないのに?」

「なんだよそんなこと関係ないだろ」

別に上杉に彼女がいたかどうかは剣崎には分からないが周りの反応を見る限りどうもその類は無さそうだと判断した。剣崎もなかなか失礼な男である。

 

とにかく俺はこの場を立ち去ろうとした。

だがショートカットの女子生徒は俺の前に立ちふさがり

「五月ちゃんが狙いでしょ

ん?」

と聞いてくる

「いや別に狙ってるとかそういうのじゃないよ。」

と正直に答えたものの

「ん〜???ほんとかなぁ〜???」

と絡んでくる

...中々面倒なやつだなこいつ

 

「じゃあ照れ屋な君のために私が呼んできてあげよう」

と彼女は五月に声をかけようとする。

だが俺は「待ってくれ」と遮り

「これは自分の問題だし自分でなんとかするよ」

と告げた。

そしていきなり

「なんだ中々カッコイイとこあんじゃん」

といい俺の背中を叩いてきた。唐突のことで思わず「うっ」と声が漏れてしまう。

 

「あ、でも」

なんだまだ何かあるのか

「困ったらこの一花お姉さんにそうだんするんだぞ♡何か面白そうだし」

(まぁ本当は俺の方が君より年上なんだけどな)などと心の中で呟くもそれを口に出すような馬鹿な真似はしない。

 

本当は午後からの家庭教師のためにすこしでも中野さんと話しておきたかったがまぁ仕方ないか。などと腕を組み考えていたら

「うーえすーぎさーん」

「ん?」

目の前に女の子の顔があった。

「近っ!」

と思わず後ろに飛び退いてしまう。

「あはは。やっとこっち見た」

などと言い笑っている。

「ではいきなりですが質問です!

あなたが落としたのはこの100点のテストですか?それともこの0点のテストですか?」

「.......100点の方だよ」

「あなたは正直ものなので両方差し上げます。」

「いや別に0点の方はいらないよ。そもそもこれ誰のテスト?」

「何を隠そう私です。」

「君かい!よくそんなん渡そうとするなぁ...」

思わずため息のように出てしまった。そういえばこの少女は俺の名前をなぜ...ってテスト用紙見たからかと1人合点していると

「それにしても100点なんて初めて見ました。引くほどすごいです。」

「俺は0点なんて滅多に見た事ないんだけどなぁ。」

「にしてもすごいですねぇ〜上杉さん。

見た目の割には社交的なところもあるしそれに加えて天才だなんて!」

 

おいおい見た目の割にはなんて失礼な子だなぁと思ったが、先程剣崎もこの上杉風太郎には彼女はいないだろうと勝手に判断したのでおあいこである。(実際に居ないのだが)

「でもまぁわざわざ拾ってくれてありがとう。」

と一応お礼を言っておく。

「はい!何かをしてもらったらありがとうと言えるのはとてもいいことです!

どういたしまして上杉さん!」

と二パっと笑いながらリボンの少女は剣崎に告げ、席に戻って行った。

 

そういえば中野さんはどうしよう。まぁ午後に会えるし最悪今は喋れなくても仕方ないか。と考えて中野さんが座っている席を見た。

剣崎はそこでなにか既視感のあるものを見た。五月にではい。剣崎から見て五月の右隣に座るヘッドフォンをつけた少女にだ。

 

剣崎は半ば無意識に彼女に近づいた。

「あの〜」

そういうと席に座っていた5人かいっせいにこちらを見る。

だがそれでも剣崎は口をとめず

「君、昨日の朝の子?」

と尋ねた。

だが髪を腰までおろした勝気そうな少女がこっちを見て

「なに言ってんのこいつ...気持ち悪!」

などと剣崎に言ってきた。

いきなりのことすぎて剣崎は声が出なかった。そこですかさず五月が声を上げる。

「ちょっと二乃!上杉さんに何を言ってるんですか!」

「何怒ってんのよ五月。本当の事言っただけじゃない!それとも何?あなたこの男が好きなの?」

「え?!いや!そういう訳じゃ...その...」

あちゃー。こりゃほんとに面倒なことになっちゃったな。自分に悪口を言われたことをすっかりわすれ言い合いをするふたりを眺める

 

するとヘッドフォンを付けた少女が小さな声で

「やめて」

と呟いた。

「この人が言ってることに嘘はない...。私は昨日この人に助けられた...」

とたどたどしく口にする

そこで驚いたような顔で五月が

「え?!あれ本当だったんですか?!なら私はなんてことを...」

「え?あ、いやべつに謝らなくていいよ。多分俺中野さんとそのヘッドフォンの子を間違えたんだと思う。こっちこそろくに顔を覚えてなかったのにごめん。」

「何よこれどういうことよ!」と先程中野さんに二乃と言われた少女は困惑する。

場が少し混沌とした所で

「ちょっといいー?その『中野さん』ってのやめてくれない?」

と自分のことを一花と名乗った子が声を上げる。

「あ、なんか俺不快な思いにさせちゃった?」

と剣崎は尋ねるが、一花は

「いや、そんなんじゃないよ

ただそれだと分かりにくいなってだけ

だって私たち......

 

 

5つ子の姉妹だから!」

 

 

この日から剣崎はさらに混沌とした日々に突入していくことになるがそれはもう少し先のお話。

 

 

 

〜ある車内〜

 

「江端」

「はい」

「例のモノは彼にすでに渡し終えたかい?」

「もちろんでございます」

「そうか、ならいいんだ」

男は「フッ...」と不敵に笑うと窓から外を見る

「見せてもらおうじゃないか上杉風太郎くん。これくらいの試練なら君は乗り越えられると信じているよ。」

そういうと男は大きな蜘蛛が描かれたカードに視線を戻し、もう一度不敵に笑った。




ここから更新まで少しあきます。
CSMのブレイバックル欲しかったなぁ...

今回もコメントや評価お待ちしております!


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第4話:覚悟の『変身』

お待たせしました第4話です。
今回でやっと変身します。


「え?い...5つ子?!」

俺は驚愕のあまりつい叫んでしまった。

「そうなんですよ〜。驚きました?」

と四葉が続けてきた

「え?そりゃまぁ...」

剣崎は今まで戦い続けてきた300年間、内線地域などで救った子供たちの中で5人兄弟などはそれなりに見かけることはあった。

だが5人同じ日に同時に生まれる、要するに5つ子という姉妹を見るのは初めてだった。

 

だがそこでキンコンカンコンと昼休みがあと10分で終わるというサインが鳴る。

これ以上食堂に長居するのも良くないだろう。

「あ、もうこんな時間。じゃあまたね、えーと...」

「上杉風太郎だ。これからよろしく一花さん。」

「上杉風太郎君ね。あと私は一花でいいよ。

こちらこそよろしく!」

と一花は元気に言い放ち教室に戻っていく。

他の面々も教室に戻っていくようだ。

 

俺も教室に戻る途中で中野さんもとい五月に話しかける

「いやまさか五月さんが5つ子だったなんて」

「やはり驚かれましたか...

私もすっかり言うのを忘れていました」

「確かに言われてみればみんなよく似てるよなぁ。

あ、だから俺あの子と五月さんを間違えちゃったのか」

と剣崎は納得する。確かにこの5つ子達、髪型を除けば顔や体つきなどは非常に良く似ているのである。

 

「それにしてもすみません。上杉さん

私...まさかあなたが本当に三玖を助けてくれていただなんて...」

と申し訳なさそうに謝罪した。

だが剣崎は

「別に謝る必要なんてないよ

目の前の人が危ない目に逢おうとしているのに助けないでいろ、なんて言う方が無理ってもんさ」

五月は少し剣崎を見つめると

「上杉さんは本当にお優しいお方なのですね。

何はともあれありがとうございました。上杉さん」

「あぁ、どういたしまして。五月さん」

と剣崎は優しく答える。

この五月という子、少し気が強いことを除けば中々ちゃんとした子じゃないか、と大きく評価を改めた。

そして五月は少し恥ずかしそうに

「あの...私の事も五月さんではなく五月と呼んで頂けませんか?」

と告げてくる。別に剣崎は断る理由もないので

「あぁ、わかった。色々あったけど改めてこれからよろしく、五月」

と優しく微笑む。

五月は

「はい!よろしくお願いします!

上杉さん!」

と元気に返した。

 

そして時は流れ放課後

俺は五月の勧めもあり、一花、三玖、四葉、五月と一緒に帰っていた。(二乃は俺がいることが面白くなかったのか、1人で駅前の方に行ってしまったらしい)

五月は肉まんを2個も食べていた。

...こんなに食べて夕飯は大丈夫なのだろうか。

「五月ちゃーん」

といい一花がいきなり五月のお腹をつまみ上げる。

「やっ!やめてください!一花」

 

一花にムニッと摘まれた五月のお腹を見てなるほどカロリーというのは嘘をつかないなということを剣崎は確信した。

 

一花が五月をイジりそれを見て四葉が笑う。

見る限り仲良さそうな姉妹じゃないか。そんな取り留めもないことを剣崎が考えていると

 

「ねぇ...ちょっと...いい...?」

 

と不意に横から声をかけられた。

 

「ん?」と剣崎が横を向くとそこには剣崎が昨日の朝助けたヘッドフォンの少女がいた。

確かこの子は三玖といっただろうか。

「あ、確か君が三玖さんだよね?」

と尋ねる剣崎。同じトーンで三玖は

「三玖でいい」

と答える。剣崎は軽く頷いて

 

「それでどうしたの?三玖。

なにか俺に聞きたいことでもある?」

と三玖に尋ねる剣崎。三玖は少し呼吸をおく。

なんだ一体何を言われるのだろうと剣崎は身構えた。そして三玖はついに口を開く

 

「なんで...あの時私を助けたの?」

と何か俺をありえないものを見るかのような目で見ながら告げてくる。

だがら剣崎は「なんだそんなことか」と言うと

「目の前の人が危ない目に逢おうとしているのに、助けない訳にいかないだろ?」

とほとんど五月に返したことと同じような答えを言う。

だが三玖は少し下を向いて

 

「私には...分からない」

と呟き姉妹たちの方に行ってしまった。

 

まぁ確かに剣崎はよく同じ質問をされることがあった。何故そこまでして人を助けるのか、そんなことをして自分にメリットはあるのか、などだ。

だが剣崎はこのような質問をすることそのものがよく分からなかった。

 

彼は、剣崎一真は、誰よりも『人』を愛している男である。『人』のために戦い『人』のために自分が『人』であることをやめた。

それでも彼は『人』のために闘い続けた。それこそ自分がかつて『人』であったことを忘れてしまいそうになるほど。

 

まぁこんな男だからこそ彼は他の人を理由無く助けられるのである。

 

だがそこで五月が思い出したように声を挙げた。

「そういえば今日から家庭教師の方が来て下さるはずです

こんなことをしてる場合ではありません。早く帰りましょう」

それに続いて一花が

「あ!そんな話もあったねぇ」

と続ける。

四葉は

「どんな先生なんだろー」

と呑気に言う。

 

だがそこで剣崎にある考えが浮かんだ。いや、浮かんでしまった。

(俺が教える娘さんってまさか五月だけじゃなくて...)

と何かを察し恐る恐る四葉に尋ねた。

「あの〜四葉?まさか家庭教師って君たちも教わるの?」

と言うと四葉はすかさず

「当たり前じゃないですか!

なんてたって私たち姉妹、みんな赤点で落第してこの高校に来たんですから!」

とめちゃくちゃ自信満々に答える。

 

そこで剣崎は諦めたように

「ごめんみんな

その家庭教師って多分俺だ。」

と恐る恐る告げてみる。

 

すかさず五月は

「え?!上杉さんが家庭教師?!」

と反応する。

「あぁ...なんかごめん」

と申し訳なさげに謝るが四葉は

「何言ってるんですか上杉さん!

上杉さんみたいに100点を取れるような人に教えて頂けるのなら私たちも安心です!」

とフォローを入れてくる。

一花も

「そっかー。家庭教師って君だったんだー。

でもまぁ知り合いからラッキーかなー。」

なんて気が抜けた感じで言う。

三玖は下を向いていたがその頬にはよく見なければわからない程の笑みが零れていた。

 

だがそこで剣崎はあることに気づく

「そういえば、あの二乃って子も...」

五月は少し申し訳なさげに

「はい...

あの子ちょっと素直になれないところがあって...」

だが剣崎は

「気にすることないって。なら今から俺が彼女を探してくるよ」

と告げる。

五月はすかさず

「い、いけません上杉さん!

まさか家庭教師であるあなたにそこまでお手を煩わせる訳には!」

「大丈夫だよ

それにいずれあの子にも勉強を教えなきゃいけないなら今から話して少しでも交友を深めておきたいしさ」

と答える

後ろで一花が「ははーん。中々罪な男だねぇ、上杉くん」などと言っているが無視だ。

「そういうことだからちょっと待ってて!」

と言い残し走って駅前に向かう。

「あ、待ってください上杉さーん!」

 

剣崎が去った後で五月は

「上杉さん.....」

と少し心配そうに呟いた。二乃の気難しさをよく理解しているからだ。

 

 

駅前に着いた剣崎は辺りを見渡す。二乃は見当たらない。まぁ何となくあの子が寄っていきそうな場所でも探してみるかと思い歩みを進めた剣崎。

 

 

彼の戦いの『運命』が動き始めた瞬間だった

 

 

後ろで「キャアァァ!」という女性の悲鳴が聞こえる。剣崎はすかさずそこに向かうとその眼前にはありえないものがいた。

 

忘れるはずもない。青みがかった肌。この世の生き物とは思えないまさに異形の姿。

 

 

♠︎2 リザードアンデットがその右腕に付けている剣で女性を切り裂いたのだった。

 

駅前にいた人間達が一斉にその異形から逃げ出す。最早そこに冷静な判断力はない。

 

だが1人その流れに逆らうようにその異形に向かう男がいた。

 

 

剣崎一真である。

 

 

彼は困惑していた。なぜアンデットがここにいる?バトルファイトがまた始まろうとしているのか?ならジョーカーは...始もこの世界に?など様々な考えが浮かぶ。

 

だが彼の体は考えとは裏腹にその異形に向かっていった。

そして彼はその異形に飛びつき動きを止めるために後ろから組み付く。

 

彼は『人』を助けるという行動そのものが病的なまでに体に染み付いていた。目の前の人を助けるのに理由がいらないのではい。

 

そんな理由を考える前に彼の体は目の前の人を助けようと勝手に動き出すからだ。

 

だが剣崎はあえなくその異形に振りほどかれその勢いで人のいない路地裏に吹き飛ばされた。衝撃でカバンの中身が全て出てしまった。

 

久しく忘れていたこのじんわりとした痛み。

剣崎はすぐに立ち上がることが出来なかった。

 

だが目の前の光景に剣崎は衝撃が走った。

 

その異形が次にその毒牙にかけようとしているのは剣崎が探していた『中野二乃』本人だった。

 

「いや...何よコイツ!近づかないで!」

とノートや化粧道具を投げつけるが特に効果はない。

 

剣崎はうつ伏せのまま手を伸ばす。

俺はもう失いたくない。俺の目の前で力なき人を誰も殺させない。

 

 

そして剣崎は気付いた。

破れたバックから出てきたものはノートや教科書だけではなかった。

なぜかそこに剣崎が忘れようとも忘れることなんて出来るはずもない。

 

A BEETLEとヘラクレスオオカブトが描かれたカードとそれを入れるバックルだった。

 

剣崎はまたも困惑する。

何故この世界にライダーシステムが?

あらゆる憶測が浮かぶが剣崎はもう考えない。

 

今俺に救う力があるなら、俺ができることは目の前の少女を救うことだけだ。

 

なら...俺は...

 

 

もう一度『運命』と戦う!

 

 

彼は覚悟を決めた。それに背を向けることはしない。

 

剣崎は慣れたような手つきでカテゴリーAのカードをバックルに差し込み、バックルは自動で剣崎の腰に巻き付く。

 

右手を前にかざす。

一瞬あの時のことを、仲間たちと裏切られたりしながらも、人を守るために闘ったあの日々を思い出す。その時に戻るかのように...

 

彼は右手をバックルに戻し、人を守る戦士として、『仮面ライダー』として戦うために、あの言葉を叫ぶ。

 

 

「変身!!」

TURN UP

 

 

目の前に青い光の壁-オリハルコンエレメントが表れる。彼は脇目もふらず、その光の壁に突っ込む。

 

彼の体が銀色の騎士に変わっていく

 

 

今ここに誰にもその変身を見届けられることは無く

 

 

『仮面ライダー』が誕生した。

 




一応アンデットの詳細を載せておきます(pixiv調べ)
♠︎2 リザードアンデット
全身が鋭利な刃物で構成されており、発達した脚力を活かして右腕の剣や左腕の斧のなどを使ってすれ違いざまに敵を切り刻む戦法を得意としている。



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第5話:『仮面』の裏側

明日は双動Wの発売日ですね。
私はサイクロンジョーカーだけ買おうかなと思っています。


私、中野二乃は後悔していた。

『元はと言えばあの上杉とかいう男のせいだ。あの男が私たちの仲に土足で踏み込んできたからだ。』

 

この中野二乃という少女は誰よりも自分の姉妹達を愛していた。昔は何をする時も一緒で好みも何もかも一緒だった。

今でこそみんな性格は変わってしまったが、この姉妹への愛情は周りに見せないだけで二乃の心の中には確かに存在していた。

 

だからこそ、彼女はこの姉妹の輪の中にいきなり打ち解けてきた上杉風太郎という男が許せなかった。いつでも5人一緒だった中にいきなり男が入り込んできたことにいい思いはしなかった。

しかも自分以外の姉妹達はこの出会って間もない男のことを信用し受け入れようとしているのである。

二乃はこの事実が受け入れ難くなり、彼女らと別れてしまった。

 

だがそれが裏目に出た。

駅前でお気に入りの化粧品店のディスプレイを眺めたりしていると、急に女性の悲鳴が聞こえてきた。

二乃は興味本位でその悲鳴の持ち主のところへ向かった。

 

そこで見たのはあまりにも非現実的な光景だった。

右腕に剣を携えた異形が女性を切り捨てたのである。

彼女は驚きと恐怖のあまり尻もちをついてしまった。

途中、顔はよく見えなかったがある男がその異形に組み付くも直ぐに引き剥がされてしまった。

 

そしてその異形は二乃を見ると、右腕の剣を構えて二乃の方に向かってきた。

 

二乃はとにかく手元にあったものを投げつけるものの怯む様子すら見られない。

 

そして二乃の目の前に立つと、その異形は右腕の剣を振り上げた。

 

二乃はこの後起こりうる最悪の状況を考え、目をつぶった。

 

そして異形は二乃に剣を振り下ろす。

 

 

だが二乃は目の前の『ガキンッ!』という鈍い金属音に驚き目を覚ました。

 

 

自分と異形の目の前に何かが割り込むように入っていた。

それは、右手に持った剣で異形の剣を遮り、鎧を着て、銀色の仮面を付け、赤い目をしていた、見たことも無い騎士のようなものだった。

 

その騎士は異形と鍔迫り合いをしたあと異形を蹴り飛ばした。

 

そしていきなり二乃の上半身を右腕に、足を左腕に、要するにお姫様抱っこのような形で抱えあげた

二乃は思わず

「ちょっ!」

と声をを挙げてしまった。

 

二乃を抱えあげた騎士は異形から離れた場所に行くと、そこで二乃を降ろし、

 

「逃げろ。ここは危険だ」

とだけ告げ、異形の方へ剣を構えて向かって行った。

 

 

剣崎は心底ほっとした。目の前の命を、それも自分が知る者の命を助けることが出来た。

 

あとはあの異形-アンデットを倒すだけである。

剣崎は前の世界でライダーとしてかなりの経験を積んでいた。流れるような剣さばきでアンデットを的確に追い込む。

そしてアンデットにトドメを刺そうとカードホルダーを広げる。

 

だがそこで剣崎は驚愕した。

「え?!未封印状態のカードしかないじゃないか!」

広げたカードホルダーには、アンデットを封印していないブランクカードしか無かったのである。

その隙を突き、アンデットは左腕の斧で謎の戦士-もとい仮面ライダーブレイドを攻撃した。

ブレイドは吹き飛ばされ、

「ヴェッ!」

と声を挙げたが、なんとか受身を取る。

そして剣崎は

「お前を封印するのにカードなんているものか!」

と叫び向かっていく

 

彼はかつてカードなしで、最強クラスのアンデット ♠︎K コーカサスビートルアンデッドの封印に成功しているのである。

目の前のリザードアンデットはそのコーカサスビートルアンデットに比べれば数段劣る相手だったのだ。

 

「うおぉぉぉぉ!」

と連続でリザードアンデットを斬りつける。

リザードアンデットは反撃どころかブレイドの鬼気迫る連撃にガードすら出来ず、あえなく倒れた。

そしてその腰につけたプレート-アンデットバックルが割れ完全に封印できる状態になったことを示す。

 

そして剣崎はブランクカードを倒れたアンデットに投げつける。そのカードがアンデットに当たった瞬間、アンデットはそのカードに吸い込まれるようにして消えていった。

カードには♠︎2 SLASH と刻まれた。

 

そしてブレイドは裏路地に入り込み誰も見ていないことを確認すると、バックルのレバーを引っ張り変身を解除した。剣崎一真自身ならまだしもこの体は上杉風太郎のものである。それがライダーに変身していたとなると色々と面倒なことになるのは自明の理である。

 

剣崎は色々考えたがまず二乃を探すことにした。

そしてバックルをポケットに無理やりしまうと、そのまま二乃を探して走り始めた。

 

二乃はマンションへの道のりを先程の不機嫌ぶりや怯えぶりはどこへやら興奮気味に歩いていた。

 

そこで二乃を見つけた剣崎は声をかけた。

 

「おーい!二乃ー!大丈夫か?怪我はないか?」

と叫び手を振りながら二乃方へと向かった。

二乃は

「ちょっと他の人もいるのに人の名前叫ばないでよ!」

と返す。キツイ物言いだが昼間の食堂の時に比べ随分嬉しそうだ。

「てか何よあんた見てたの?」

と続けてくる。

剣崎は困ってしまった。まさか自分があのライダーだということを言うわけにはいくまい。

「あ、あぁ。俺が君を見つけた時には既にあの仮面をつけた戦士が君を助けていた後だったよ」

「ふーん。つまりあんたあの怪物にビビって逃げたんだー。男らしくないわねー。」

剣崎は少しカチンともきたが、それを悟られてはいけない。

「はぁ...あのかっこいい騎士の仮面の奥を見たいわ。ちゃんとお礼を言わなきゃ。

あっ!もしかしたら私が憧れてした白馬の王子様だったりして!」

と言われ、剣崎は少し気恥ずかしくなる。そのかっこいい騎士の仮面の奥の顔はこの冴えない男子高校生なんだよなぁ...とさりげなく上杉風太郎の顔をディスりながら二乃について行くことにした。

 

剣崎は二乃になぜ付いてくるのか問われ、家庭教師の件を全て正直に話した。二乃はあーだこーだ文句を言いながらもマンションのエントランスに着く。エントランスには顔がよく似た4人の姉妹が俺たちの帰りを待っていたようだ。

エントランスに着くなり五月は

「大丈夫でしたか!?二人とも!」

とかなり焦った様子で聞いてくる。

四葉が続けて

「今、駅前が大変なことになってるんですよね?!」

と興奮気味に聞いてくる

「あれ?なんでそのこと知ってるの?」

と剣崎が不思議そうに返すと

すかさず三玖がスマホを操作して

「これ」

といいネットニュースのようなものを見せてきた。そこには

『東町の駅前に謎の怪物出現?!

女子高生を守った謎の仮面ヒーロー!』

という見出しでトップニュースの欄に上がっていた。

 

剣崎は心の中で「あ、やべ...」と呟く。確かに少し派手にやりすぎてしまったかもしれない。と反省するがあの状況ではそうもいかなかっただろう。

そんなことを考えているとすかさず二乃が

「ふーん。あんた達詳しいこと何も知らないんだー」

と得意げに返す。

一花は

「ん?何か詳しいこと知ってるの?」

と二乃に問いかける

二乃は食い気味に

「だってその女子高生って私だもん」

と返した。

 

二乃と剣崎を除く周りの人間は一斉に「えっ!」と声をあげる。

二乃はさらに続けて言う

「その怪物に襲われたのは私よ。

その時その仮面を付けたヒーローが助けてくれたの。

かっこよかったわ〜。私をいきなり抱き抱えて、『逃げろ、ここは危険だ』って言って、逃がしてくれたの。ほんっっっとこの男とは大違いね!」

剣崎は複雑な気分になった。だが何も言えない自分が悔しくて歯噛みする。

「まぁ、俺が何も出来なかったのは事実だよ。でも本当に二乃に怪我がなくてよかった。」

と告げる。五月はハッとして

「本当に良かったです。もう二乃も勝手に1人でどっかに行ったりしないで下さい。」

と二乃に釘を指すが、二乃は

「私の勝手でしょ」と聞く耳を持たなかった。

 

五月は「とりあえず上杉さんも1度家に来てくだい」、と剣崎を家に案内した。二乃は以前俺が来ることに不安そうだったが。

 

そして彼女らが住むマンションの部屋にはいった剣崎は驚愕した。

「ひっろ......」

とその大きさに半ば感動する。お金持ちだと聞いては板がこれ程とは。虎太郎の家なんかよりも断然豪華である。

 

俺が部屋中を見渡していると一花が

「改めて自己紹介しよ!」

とみんなに声をかける。が、

「私はパス。こんなやつに勉強を教えてもらうなんてまっぴらごめんだわ」

というが一花がせめて自己紹介だけでも、と半ば無理やり参加させた。

 

 

「とりあえず自己紹介しちゃおっか。とは言ってもフータロー君ぐらいしかあまり知らない人は居ないけど。私は中野一花。長女だよ。

よろしくねフータローくん」

「中野二乃。言っとくけどあんたみたいなやつから教わる気なんてないから」

「中野...三玖...よろしく...」

「中野四葉です!これからよろしくおねがいしますね、上杉さん!」

「中野五月です。不出来な私たちではありますがよろしくお願いします、上杉先生。」

 

剣崎は

「別に先生なんてつける必要はないよ。

俺がどこまでやれるかは分からないけどやれるだけのことはやろうと思う。

よろしくな一花、三玖、四葉、五月

そして二乃も。」

と笑いながら言う。

それに一花、四葉は二パっと笑い、五月も優しく、そして三玖も少しだけ優しく微笑んだ。しかし二乃だけはいつまでたっても仏頂面だった。

 

さぁ勉強を始めようとしたところ、2つの携帯が鳴る。一花と四葉だ。

一花は

「はい。一花です。え?今からですか?

う〜ん。はい、分かりました。今から向かいます。」

四葉も

「え?私にですか?私でよかったらすぐ行きますよ!」

と答えた。

2人は頭を下げながら

「ごめんね、フータロー君。私今からちょっとと急な用事が出来ちゃって」

「すみません上杉さん!なんか今からバスケ部の代理に来てくれと言われてしまって...」

剣崎に言ってきた。

 

剣崎は

「四葉の理由は分かったとして、一花はどうしたんだ?」

と聞くが一花は

「え?いや、ちょっとね...」

と言葉を濁らせるだけだった。

 

そこで剣崎は少し考えたあと

「分かったよ。一花に何があるのかは分からないけど誰だって人に言えない秘密くらいはあるからな。四葉も本当は勉強して欲しい困った人を助けたいって気持ちは痛いほどよくわかるよ。今日は行ってきなよ。でも明日はちゃんと勉強してもらうからな。」

と2人に言った。

まぁ今の剣崎なんて誰にも言えないことなんて山ほどあるし、そもそも剣崎も困った人を見過ごせない人間だ。剣崎は仕方なく2人の頼みを了承することにした。

2人は笑みを作って

「ありがとう!フータロー君!」

「ありがとうございます!上杉さん!」

と口々に感謝すると荷物をもって部屋を出ていった。

 

じゃあ残った3人に勉強を教えようかと思ったその時

「やっぱ私はパスで。こんな女に甘いだけで自分が危険になったら逃げ出すようなつの授業なんて受けたくないもの」

と言い放ち自室へ戻って行った。

 

残ったのは2人だけになってしまった。

そこで三玖も「今日も私はいい」とだけ言い残して自室へ戻っていく。

 

結局剣崎と五月だけがリビングに取り残された。どうしようかとお互い困ったような目で見つめあったところで剣崎の携帯が音が鳴った。五月に「少し出てくる」の言うと、ベランダにでた。

見たことも無い番号だが一応出た方がいいだろうと電話に出る。

「やぁ、もしもし。君が上杉風太郎君かい?」

と聞いたことがない男の声が聞こえてきた。

「はい、そうですけど...あなたは?」

と剣崎は聞き返す。

「私が君に家庭教師を依頼した、五月君達の父だよ」

と淡々という。

剣崎は

「えっ!あなたがあの子達の父親?!

あ、ご、ご無沙汰です!」

としどろもどろに続ける。

「いや、そこまで畏まらないでくれたまえ、上杉くん。どうだね娘達は?」

と彼女たちの事を聞かれる。

剣崎は「あー...」と声を上げたあと各々の事情で今日は家庭教師を続けるのが困難になってしまったことを伝えた。

その後中野父は「ふぅむ...」と何かを考えるかのように黙り込んだ。

剣崎はしまったと思った。家庭教師が出来なかったなど余計なことを言うべきではなかった。もしこれで教師として役に立たないと判断された場合、解雇されてしまう。

そうなれば妹のらいはちゃんはお腹を空かせて泣いてしまうかもしれない。

 

剣崎は必死に取り繕う言葉を探した。

だがその言葉を言う前に中野姉妹の父は

「そうか。なら今日くらいは多めに見よう。ただ君には娘を卒業まで導いて欲しい」と告げた。剣崎は少しホッとして、「分かりました。娘さんを卒業させてみせます」と告げた。

「そういえば今日駅前に何か化け物のようなものが出たなどという話を聞いたのだが、君は大丈夫だったかね?」

剣崎は思わずギョッとした。まさかその話が出てくるとは思いもしなかった。

「へ?あ、いえ!俺は全然大丈夫です。」

と見えない相手に向かいガッツポーズを作る。

「そうか。なら良かった。ならば明日からよろしく頼むよ、上杉風太郎君」

「はい、分かりました!お父さん!」

その後「君にお父さんと呼ばれる筋合いはないよ」と抑揚のない言葉がかえってきたあと電話は切れた。

 

剣崎は改めてホッとした。1日で解雇なんてことになったららいはに格好がつかない。

駄目なお兄ちゃんとして見放されてしまうかもしれない。それにあの時の電話の嬉しそうならいはの声を裏切ることなんてできなかった。

 

リビングに戻ると五月が誰ですか?と声をかけてきたので君たちのお父さんだよと答える。何を聞かれたか問われたが「特に何も」とだけ返す。

 

その後再度電話が震える。なんだまだ何か言うことがあるのかと思いつつ画面をみるとそれはらいはからの着信だった。

 

「もしもし、らいはか?」

「あ、お兄ちゃんもしもし。今日何時くらいに帰ってくるの?カレーの用意出来てるよ。」

 

剣崎は時計を見ながら「ん〜」と唸ったあと何かを思いついたような顔をして

「らいはそのカレー何人分ある?」

と聞いた。らいはは、

「うーん。作り置きの分もあるからある程度多めには作ってあるよ。お兄ちゃんお腹すいてるの?」

「よし、それなら大丈夫だろ。

らいは!今日お客さんを連れていくから待っててくれ!」

とだけ告げる。らいははびっくりした様子で

「お兄ちゃんが人を連れてくるの?!」

と聞いてきた。これは面倒な流れになるかもしれない。剣崎は「とにかく待ってて」と言い残し電話をきった。

 

そして五月を方を見て、「今から俺ん家来る?」と誘うのであった。

 

 

中野家から上杉家に向かう途中五月は再び剣崎に聞いてくる

「でも本当に良いのでしょうか。いきなり家に伺っても」

「大丈夫だよ。そんなこと気にする家族じゃなさそうだから」

「なさそう?」

「あ、いや。絶対気にしないから大丈夫だって!」

と客観的な言い方になってしまったのを即座に正した。

そしてそんなやり取りを繰り返すうちに、上杉家に到着した。

 

お金持ちのお嬢様の五月は最初はボロボロの上杉家をみて、一瞬びっくりした顔をしたが直ぐに察すると、優雅に一礼をして家に入る。こういうあたり教育が行き届いてるんだなぁと剣崎が感心していると

「ガハハハハハ!!!まさか風太郎が女の子を連れてくるとはなぁ!」

とあのうるさい声が聞こえてきたのであった。

その後みんなで夕飯を食べ、(五月は3杯をペロリと平らげた)少し世間話でもすると、五月を通りまで送っていくことになった。

 

タクシーが来るまでまだ少し時間がある。

「ありがとうございました。上杉さん」

と五月は剣崎に対して礼を言う。

「いや、無理やり誘ったのはこっちだからさ」

と返す。

「で、ちょっと五月にお願いがあるんだけど」

「え?お願いですか?私で良ければ力になりますよ」

「明日学校が終わったら今日の家庭教師の予定時刻に全員集めておいて欲しいんだ。」

「? わかりました」

「じゃあよろしく、五月」

「はい、お任せ下さい!」

と自信ありげに答える五月。そんな話をしているとタクシーが見えてきた。

そろそろお別れかな。そんなことを剣崎が考えていると五月が最後にこっちを向いて何かを言おうとしているが中々踏ん切りがつかないのか、言葉を発しない。

どうしたんだ?と声をかけようとしたその時、五月が意を決したように口を開く。

 

「あの!上杉さん!私と...私と友達になっていただけませんか?」

 

それを聞き、なんだそんなことか。と思った剣崎はすぐに笑って

 

「あぁ、いいよ、五月。

これからは家庭教師として友達としてよろしくな」

と言い、この前のようにまたガッシリと握手を交わしたあと彼女をタクシーに乗せた。

 

そして家に帰るとらいはが「お父さんちょっと出かけて来るって」と俺に伝えてきた。俺は「分かったよ」とだけ答えると明日の家庭教師のためにあるものを作り始めた。

 

剣崎の新しい『運命』の物語は始まったばかりだ。

 

 

 

 

〜ある病院にて〜

「さすがは上杉風太郎くんだ。あの程度のアンデットでは相手にもならないか。これも君の教育の賜物かな?勇也?」

と言い金髪の男-上杉風太郎の父、上杉勇也の方を向く。

「別に俺からは風太郎に直接何かをしたわけじゃない」

「そうか。ならばこれは上杉君がもつ天賦の才だということか」

「もうこんなことは終わりにしろ。お前の娘も知ればきっと悲しむ」

「なら代わりに君が戦うかい。まぁその体では君は直ぐに壊れてしまうと思うがね」

 

勇也は歯噛みする。確かに今の自分の体では仮にライダーシステムを使えたとしてアンデットに、ましてこの男を倒すなど不可能中の不可能だろう。

 

「君には感謝しているよ。君が死力を尽くして戦ってくれたおかげでこれが手に入ったのだからね」

と言い放ち、蜘蛛が描かれたカードを勇也に見せつける。

 

「ッ!お前本気で...」

「当たり前だ。もう後戻りはできない。この計画を成功させる為にもまずは...」

と言うと机の電子ロックを外しクワガタが描かれたカードとカマキリが描かれたカードを取り出す。そして

 

 

「レンゲルの力が必要だからね」

 

と静かに言い放つのだった。




これからコメント全てに返信することは難しくなってしまいます。
申し訳ありません。

あと少し補足ですがなるべく全アンデットと全ライダーを出せるよう努力はしますが少し厳しいかもしれません。
とくにアンデットに関しては戦闘描写を端折ってしまうことになるかもしれません。



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第6話:苦悩の『天才』

剣崎ってライダー主人公の中でも一番優しいやつだと僕は思います。

そしてお気に入り数が30を突破しました!皆さん本当にありがとうございます!


剣崎は学校が終わり、放課後中野姉妹の住むマンションへ向かった。そこでエントランスで彼女達が住む部屋の番号を鳴らし、その後インターホンに出た五月から「迎えに行く」と言われ今に至る。

わざわざ迎えに来てもらうのも悪いので自動ドアを開けてくれるだけでいいよ、と言おうとしたが五月は

「いくら友達とはいえども上杉さんはお客様です!」

と言われこれ以上言っても時間の無駄だなと思い、迎えに来てもらうことにした。

「こんにちは!上杉さん」

と五月の元気そうな声が聞こえてくる

俺も

「こんにちは、五月」

と返した。

 

そしてエレベーターに乗り30階へと向かう。

何もこんな高い所に住まなくてもいいだろうになんて考えながら中野姉妹が住む部屋のドアを開けた。

「どうぞ、上がってください。上杉さん」

「おじゃましまーす」

リビングに行くとそこには一花、二乃、

三玖、四葉の姿があった。良かった、ペンケースやノートがあるのを見る限り今日はちゃんとやってくれそうだ。

「ごめんね、フータロー君。昨日はあんな感じに抜けちゃって」

「すみまさん、上杉さん!この四葉、今日はちゃんと授業を受けます!」

と2人して謝ってくる。

剣崎は

「いや、いいんだ。今日からちゃんと受けてくれるなら大丈夫だよ」

と返す。

 

三玖の様子を見る限り今日はちゃんと受けてくれそうだ。

二乃も不本意ながらという感じで座っている。

 

そこで剣崎は口を開く

「今日はみんなにこれをやってもらう」

といいカバンから特性手作りテストをだした。ちなみに上杉家の家計簿的な事情から全て手書きである。

「このテストで50点以上取れたなら別に急用が入ろうが俺の授業を受けまいが好きにしてくれていい」

 

剣崎は昨日ハッと閃いたのだ。別に全員一気に教える必要は無い。四葉が全員赤点とか言っていたがそれも仕方ないだろう。調べてみたところ彼女らが通っていた黒薔薇女子という学校はかなりレベルが高く落第など特段珍しい事でもないらしい。確かにそれだけ厳しい学校なら多少手を抜いてしまえば仕方の無いことなのかもしれない。

 

だが卒業だけなら話は簡単だ。この剣崎手作りテストは高校生の中でも非常に基礎的な内容になっている。ここは黒薔薇女子ほど厳しくはないし、なにも大学を目指してくれと言われている訳でもない。卒業をするならば赤点を取らなければいいだけ。うちのレベルの高校ならこの基礎学習さえ出来ていればなんとでもなるだろう。

そこで五月が聞いてきた

「上杉さん。もし合格ラインを超えても勉強を教えてくれますよね?」

「ん?あぁ、こっちにも余裕があるなら手伝うよ。」

とニッコリと剣崎は笑う。

一花はそんなこっちを見てニヤニヤとしており、二乃はつまらなそうだ。

 

「制限時間は1時間だ。さぁ解いてくれ」

と解答を促す。

 

二乃は「あまりあたし達を侮らないでね」と言い放つ。

 

 

彼女らがテストを解き続けるなか剣崎は今の状況について考えて、ノートに箇条書きでまとめていた。

・自分は上杉風太郎という青年の体を借りている

・5つ子の家庭教師を任されている

・なぜかアンデットがこの世界に現れていた

・バックルと♠︎のカテゴリーA、カテゴリー2はある

 

そこで剣崎が考えたことは1つ。まだこの世界にアンデットは現れるのか。剣崎はあの一体でアンデットが現れないことを心から願った。

そして1時間の経過を告げるアラームが鳴った。

 

そして採点を終えて彼女たちに

「おめでとう!100点だ!5人合わせてな!」

と、半ば自暴自棄気味に伝えた。ちなみに点数は、一花が12点、二乃が20点、三玖が32点、四葉が8点、五月が28点である。

 

が、そこで剣崎が持っていた携帯が剣崎の意識を携帯に向かわせる。

 

これまた見たことない電話番号だった。

 

剣崎は「ごめん。みんなちょっとまってて。」と告げるとベランダに出た。

 

「はい、もしもし」

「やぁ、上杉風太郎...いや、仮面ライダーブレイド」

「!!!」

剣崎は思わず身構えた。その電話の主はボイスチェンジャーか何かを使っているのかかなり低い声だ。そして電話の主に叫ぶ。

「誰なんだあんた一体!」

「別に名乗るほどのものでは無い。私は君に伝えておくことがある」

「なんだそれは...?」

剣崎が恐る恐る話しかける。そうすると電話の主は

「今、君たちが通っている学校の近くにアンデットが現れている」

「!」

剣崎の儚い願いはあえなく崩れ去った。

 

「別にそこに向かうか向かわないかは君の自由だ」

そしてさらに

「ただ学校にいる者達の命は保証できないがね」

と冷たく言い放つ。

剣崎は考えた。この男は何者だ?なぜアンデットの存在を知っている?そもそもなぜ俺がブレイドだと知っている?

だが電話の主は剣崎に深く考える暇は与えず

「君の携帯にアンデットサーチャーを入れておいた。それでアンデッドの詳しい位置をしれるだろう。そしてそのマンションの駐車場に1つ贈り物を置いておいた。使ってくれ」

さらに剣崎は困惑した。誰だこいつは?しかもこの用意の良さは?

だがアンデットが人間の命を今にも脅かさんとしているなら答えは1つ。

「分かった。行ってやる」

「助かるよ。では頼んだ。仮面ライダーブレイド」

通話が途切れた。

 

そしてベランダからリビングに戻り、5つ子たちに告げる。

「みんなごめん。俺も急用できちゃって...

戻ったらすぐに授業をするからみんな少しだけ自習して待ってて!」

とだけいうと走ってマンションの駐車場へと向かう。駐車場に何があるか、剣崎は何となく予想はついていた。

 

5つ子達はポカーンとしていた。

今日こそはと意気込んでいた剣崎が、いきなり授業をすっぽかして出ていってしまったのだ。二乃は

「何よあいつ。教える気なんて最初から無いんじゃない!」

と得意なって言う。だがすかさず五月が

「上杉さんはそんな人じゃありません!」

と反論する。

「にしてもどうしたんですかねー、上杉さん。とても急いでいるように見えましたけど」

と四葉は頭の上に『?』マークを浮かべる。

「でもまぁ私も昨日自分の都合で勝手に抜けちゃったしね〜」

と一花は反省気味だ。

「...」

三玖は剣崎がとび出て行った玄関の方を見つめていた。

 

 

剣崎は駐車場へと向かう。そしてそこで見たのはかつての自分の愛車、ブルースペイダーだった。

俺はブルースペイダーに跨り、学校へ向けて全力でアクセルを捻った。

 

そしてカードを入れたバックルが腰に巻き付く。

 

「変身!!」

TURN UP

 

電子音と共に剣崎が乗ったブルースペイダーの前にオリハルコンエレメントが現れる。

それをくぐった瞬間、剣崎一真は

 

『仮面ライダーブレイド』に変身した。

 

 

そして学校では

「うわ!何だこの化け物!」

「先生助けてー!」

「け、警察を呼ぶんだ!」

と大混乱が起きていた。

 

羽の生えた化け物-ローカストアンデッドはまず目の前の生徒を殺めようとその手を伸ばす。

「し、死にたくない...」

その手が生徒に振り下ろされんとするその時、

 

「ギャッ!」と言う叫び声をあげて、怪物はいきなりバイクに弾き飛ばされた。

 

そしてそのバイクに乗っていたのは、数日前に駅前に現れた怪物を打ち倒した謎のヒーロー

 

『仮面ライダー』だった

 

 

ブレイドはバイクから降りるとグラウンドにいる者達に叫ぶ

「みんな早く校舎内に避難しろ!

ここは危険だ!!」

そう叫ぶと生徒や教員は一斉に校舎内に戻っていった。

 

「もう...もう誰も殺させない!」

剣崎は右手に剣を握りしめ怪物に斬りかかった。だが怪物はその驚異的な脚力でジャンプし、簡単に攻撃を避けた。

 

「だったらこっちも!」

ジャックフォームに変身して空に飛んでやる。と左腕のラウズアブゾーバーに手をかけようとしたが......

 

そもそもラウズアブゾーバーは無かった。

 

剣崎も完全にあると思いこんでいた。その隙にローカストアンデッドが強力なキックをブレイドにお見舞いする

 

「グッ!」

 

ブレイドは何とか右手の剣-ブレイラウザーで攻撃を防ぐ。こっちから相手の場所に行けない以上、ブレイドができることはただ一つ。

カウンターである。

 

ブレイドは次にくる攻撃に備えてカードホルダーを展開し、そこにあるカード『SLASH』のカードをブレイラウザーの刀身の横の溝に入れて引く。

 

SLASH

 

という電子音と共に刀身が青い光を帯びて強化される。

 

そしてブレイドは強化されたブレイラウザーを構える。

 

そして地面に降り立ったローカストアンデッドはもう一度地面を強く蹴って飛び上がり、ブレイドに蹴りを喰らわせようとする。

 

ブレイドはそれを読んでいた。蹴りの軌道を落ち着いて避けると、強化されたブレイラウザーの刀身をローカストアンデッドの体に叩き込んだ。

 

「ガァッ!」

 

と叫んだ後、ローカストアンデッドは力なく地面に倒れ、アンデットバックルが割れて、完全に封印できることを示した。

ブレイドは倒れたアンデットに封印のカードを投げる。そしてアンデットはそのカードに吸い込まれ、カードには『KICK』と刻まれた。

 

ブレイドは一息つく。そして変身を解除しようとしてハッとする。

学校の生徒達が自分のことを次々とスマホで撮影してくるのだった。

「すげー!!これこの間のヒーローじゃん!」

「あの怪物を倒したのか!本物じゃんかよ!」

「かっこいいー!!」

など先程の阿鼻叫喚とは真逆の雰囲気だ。

 

ブレイドはすぐにバイクに跨り、学校を出たあと路地に入り込み、変身を解除した。

 

 

そしてバックルをしまうとそのまま中野姉妹が住むマンションへと向かう。

 

部屋へ戻るとなにやらリビングが騒がしい。

ドアを開けると五月が開口一番に

「大丈夫ですか?!上杉さん!」

と焦り気味に声をかけてくる。

剣崎は知らない体を装い

「何かあったのか?」

とわざとらしく尋ねた。

続けざまに二乃が興奮気味にスマホの画面に映し出されたネットニュースを見せて

「ちょっとこれみなさいよ!!

またあのヒーローが出たのよ!

はぁ...私ももう一度会いたかったわぁ...」

と残念そうに呟く。

 

とにかく剣崎の正体がバレたということは無さそうだ。剣崎は少しホッとした。

とりあえず剣崎は

「まぁ今少し離れていたけど、テスト直しとかしてた?」

と5人に尋ねた。全員一斉にビクッとしたあと、黙りこくってしまった。

「イヤデスネーウエスギサーン。

シテナイワケナイジャナイデスカー。」

とロボットのように四葉が告げる。

「なら一問目、厳島の戦いで毛利元就が破った武将の名前は?」

「「「「「......」」」」」

誰からの反応もない。

 

「仕方ない、今からテスト直しするか」

 

そしてあっという間に時間はすぎていく。

簡潔にいえば、剣崎の家庭教師は下手の一言に尽きた。

剣崎は天才である。今まで勉強をするのに努力などをしたことがなかった。ほかの人間が努力をして理解していくところを剣崎はその有り余る才能だけで通り過ぎてしまった。

ゆえに剣崎が抱えた一番の問題は、彼女たちが何が分からないのか分からないのである。

 

例えば数学。

この問題は二次関数の並行を考えればいいと言っても、そもそも二次関数が分からない。

 

例えば社会。

30年戦争を説明しようとしてもプロテスタントとカトリック。強いて言うならキリスト教をそもそも知らない。

 

などなど挙げていけばキリがない。

剣崎が教えて行く上で普通ならそこは端折って説明するところを彼女らには一々説明していかねばならないのである。

五月がいくらやる気があったとしても根幹となる知識なければ問題は解けない。

ほかの4人に至ってはやる気があるのかすら怪しい。

とにかく剣崎は今の課題は彼女達の視点に合わせることだと確信した。彼女たちと同じ視点に立って問題を見つめない限り家庭教師をするとこは不可能だ。

 

結局すぐに授業は終わってしまい、五月を除く4人は次々に自室に帰っていく。

姉妹の中で1人残った五月は申し訳なさそうに謝る。

「ごめんなさい。上杉さん。一生懸命頑張ってはいるのですけど...」

「いや、今回に関しては完全に俺が悪いよ。授業を途中で放棄しちゃうし、ろくに教えられないし。ごめんな、こんな無力な教師で」

「い、いえ!上杉さんが謝ることではありません。何もかも私たちが今まで勉強から逃げてきたことが原因なんです...」

シュンと縮こまってしまう五月。

だが剣崎は何かを決めたような顔をした。そして

「よし!俺もっと努力するよ。みんなにちゃんと分かりやすく教えて絶対みんなを卒業させる!約束する!」

と五月に言い、五月に小指を向ける。

「あ、あの...上杉さん?」

不思議そうに聞いてくる五月に剣崎は

「指切りだよ。約束は破らないように指切りをしておくんだよ。いずれ他の4人ともするつもりだけどまずは五月にして欲しい」

そう言うと五月は少し顔を赤くして

「上杉さんがそう言うなら...」

と俺と同じように小指を差し出す。そして互いに小指を絡ませると

「「ゆーびきーりげーんまーんうそつーいたらーはーりせんぼーんのーます、」」

「「ゆーび切った!!」」

 

といい絡ませた小指を解いた。

 

ただ剣崎のいう卒業は言葉通りの意味だけではなかった。これから降り注ぐアンデットからの脅威から君たちを絶対守り抜く。

そんな固い決意を持って指切りをしたことを、五月はまだ知る由もない。




♠︎5 ローカストアンデッド
イナゴの祖たるアンデッドである。カテゴリーはスペードの5。
イナゴを大量に産み出して攻撃に利用する能力を持っており、明確な描写はないがこのイナゴもアンデッドから産み出されている事からかなりの強靱性を持つと思われる。

今回はこのイナゴを生み出す能力は使いませんでした。

そして剣崎は、上杉風太郎が免許を取っていたことを彼の免許証の実物を見て知っています。
1つ、ネタバレになるかもしれませんが、言わせて頂きます。
当然ながら『上杉風太郎』の優しさと『剣崎一真』の優しさはかなりベクトルが違います。
『風太郎』が時には突き放すことができる優しさならば、『剣崎』はそばにいてあげる優しさを持っていると僕は解釈しています。

どちらが本当の優しさなのかは分かりませんが、この2人の優しさの違いが物語...というよりは姉妹に影響を及ぼすかもしれません。


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第7話:私だけの『秘密』

15日の花嫁8巻楽しみです。

そしてブレイドに変身しているときの剣崎の声ですが、マスクのせいでくぐもって本人とは分からないという解釈でお願いします

そして!お気に入り数が50を突破しました!こんな作品を読んでくれる皆様方、本当にありがとうございます!


「ハァハァ...」

危なかった。剣崎一真、一生の不覚である。

あと少しで遅刻するところだった剣崎は「ふぅ...」と一息付き、汗を腕で拭う。昨日は家庭教師として生徒の5つ子たちと同じ視線に立てるよう、この体の本来の持ち主-上杉風太郎の本棚を漁り、中学生の教科書から丁寧に復習していたのである。

何事もまずは基礎からというが剣崎はこの基礎を省くことが今まで出来てしまっていた。だからこそその省いた穴をしっかり埋められるよう基礎訓練をしていたのである。

 

だがその基礎訓練のせいですっかり寝るのが遅くなってしまい、気づけばいつもより20分も遅い起床となってしまった。

 

ふらふらと歩く上杉の近くに見たことも無い暗い外国車が停車した。随分とかっこいい車だ。同じ黒でも虎太郎の白鳥号とはえらい違いである。そんなどうでもいいことを考えているとその車の中から見知った顔がでてきた。その車のドライバーと思われる初老の老人が恭しく頭を下げてくる。

そして

「あ!フータロー」

「おはようございます、上杉さん!」

と一花と四葉が挨拶をしてくる。

俺も「おはよう」と返すと五月がこちらに歩いてきたた。

「おはようございます、上杉さん。昨日はどうもありがとうございました。」

と頭を下げる。

「あんな授業で頭を下げてもらっちゃ逆にこっちが悪い気になるよ」

と言い、五月に頭を上げさせた。

 

だがそれだけ言うと五月以外は少し先に歩いてしまう。それもそうだ。昨日は俺の実力不足のせいでちゃんとした授業ができず微妙な空気になってしまったのだ。

そのせいで何となく気まずい空気になった。

二乃はすれ違いざまに「ダメ教師」と小声で俺に聞こえるように呟いた。

ぐうの音も出ない。

「ごめんなさい。上杉さん。でもこれから一緒に頑張っていきましょう」

と五月は優しく語りかける。

「あぁ、ありがとう。五月。じゃあ昨日のテストの問一の答え、覚えてくれてるよな」

「えぇ!当たり前じゃないですか!答えは...

え〜とぉ...そのぉ...」

 

......先が思いやられそうだ。

 

それにしても五月以外の姉妹から何となく距離感を感じてしまう。よく昔から剣崎は優しいけど、真っ直ぐすぎて不器用だと言われており、それを本人も痛いぐらい実感している。

だから人と信頼関係を築くのが少し苦手だったりした。

そこで昨日作り上げた5つ子卒業計画ノートを見て、あることに気づいた。

 

『あれ?三玖...一昨日のテストの1問目を正解してるじゃないか』

 

ということに気付く。

 

『ならなぜ昨日の質問で彼女は答えなかったんだ?』

 

そんなことを考えているとすぐに昼食の時間になってしまった。

 

食堂に行くと、今から昼食を摂ろうとしていた三玖に出会った。

剣崎は優しい笑顔で

「やぁ、三玖」

と声をかけた。

そこで彼女の持つトレーの上に視線を下ろす。

「サンドイッチと...なにその飲み物...?」

「抹茶ソーダ」

「なんだそりゃ!」

そんなおかしなものを好むのは地球上を探しても橘さんくらいなものだろう。

それにしてもこの子、本当に何を考えているのかわからない。そういえば始も最初に会ったときはこんな感じだったなぁ...なんて昔を思い出し、三玖に聞きたいことがあったことに気付く。

「ひとつ聞いていいか?三玖。

昨日の問題の件なんだけど...」

と言いかけたところで

「上杉さん!お昼一緒に食べませんか?」

「うぉっ!」

と後ろからいきなり現れた元気な声に思わず飛び退く。

「なんだ四葉か。びっくりしたなぁもぅ」

「あはは〜。朝は先に行っちゃってすみませ〜ん」

と謝ってくる。そしてもう一度三玖に話しかけようと口を開いたところに再度四葉が割り込んだ。

「これ見てください。英語の宿題!

全部間違えてました!あはははは!」

「......」

どうしようかと思ったその時

「ごめんね〜邪魔しちゃって」

と一花が四葉を引き剥がした。

「一花も見てもらおうよ」

と四葉が提案するも

「うーん、パスかな

だって私たち馬鹿だし ね?」

と苦笑した。

「だからってなぁ」

と剣崎は言うがすかさず一花も口を開く。

「それにさ

高校生活勉強だけってどうなの?もっと青春をエンジョイしようよ」

 

「恋とか!」

 

そこで剣崎は「恋...か...」とだけ呟くと黙りこくってしまった。

剣崎は恋などしたことは無かった。人と心を通わせることがライダーになる前はほとんどなかったこともそうだし、ライダーになったらそれはそれで戦いに明け暮れる日々で恋などしている暇はなかった。

 

だが本当の理由はもっと違う所にあった。剣崎は恋をすることそのものを心のどこかで恐れていた。彼は11歳の時に目の前で両親を失った。自分の先輩が恋人を失い、絶望する姿を見た。

そしてようやく親友として心を通わせることことができた相川始や出会った時から一緒に頑張ってきた虎太郎や広瀬さん達との別れ。

これらのこと全てが今の剣崎に大切な人を作ることそのものを無意識の内に拒絶させていたのだ。

 

そんなことを考えて深刻な顔をして俯いていると一花が心配そうに

「フータロー君?なにか辛いこと思い出させちゃった?」

と心配そうに、だが何かを期待するかのように声をかけた。

「いや、大丈夫だよ。少し昔のことを思い出しちゃっただけさ」

一花は何がわかったのか「ははーん」などと言っていた。そしてそこに四葉が

「あはは...恋愛したくても相手がいないんですけどね

三玖はどう?」

と問いかけた。

三玖は「えっ」と声を上げたあとに頬を少し染め小さな声で

「い...いないよ」

と呟き、走ってどこかに行ってしまった。

その後四葉がとなりで

「あの表情...姉妹の私にはわかります。

三玖は恋をしています」

と俺に告げてきた。

 

教室に戻った剣崎は三玖のことを考えていた。別に三玖に好きな人がいるのは構わない。花の高校生だ、恋愛の1つや2つはしても損は無いだろう。だが三玖には勉強をしてもらわないと困る。剣崎も高校生のころ恋愛が原因で高校生活が狂った人間を何人か見てきた。そして自分の席につき机の中の教材を出そうとすると1番上に手紙のようなものがあることに気がつく。

その手紙の表紙には『フータローへ 三玖』と書いてあった。

手紙を開くと

『昼休みに屋上に来て。

フータローに伝えたいことがあるの。

どうしてもこの気持ちがおさえられないの。』

 

色々考えた結果、ある答えにたどり着いた。

『三玖が好きなのって俺の事か?!』

剣崎は焦った。三玖が恋心をもってしまうのは仕方の無いことだ。そりゃあ勉強を頑張って欲しいけど抱いてしまったものはそう簡単に離せない。

だが相手が自分となると話は別だ。俺は剣崎一真だ。上杉風太郎ではない。もしこれで彼女と恋愛などをしてしまったら彼女の気持ちそのものを騙すことになってしまう。

 

混乱していたところに五月が話しかける

「どうしました?上杉さん

何か悩み事でもありますか?」

と問われ

「え!あ!いや!な、なんでもない!なんでもないよ!」

と焦りまくりで答える。

五月は不思議そうな顔をして「変な上杉さん」と呟いて自分の席に座った。

 

だが呼ばれた以上行かねばなるまい。そうして昼休みに屋上たどり着いた剣崎は

「だれもいないじゃん!」

と1人で叫んだ。

イタズラか?まさか昨日の俺の酷すぎる家庭教師に対する抗議なのでは...

よからぬ考えをしていると後ろのドアがガチャと音を立てて開いた。そこから現れた人物におれは声をかけた

「三玖!」

「良かった。手紙見てくれたんだ」

三玖は安堵の表情を浮かべる

「い、いやそういうことをしたいのは分かるんだがいまは勉強が...」

「食堂で言えたら良かったんだけど

誰にも聞かれたくなかったから」

 

『まずい...これは非常にまずい』

剣崎はそう思い次の三玖の言葉に身構える。

 

そして三玖は

「ずっと言いたかったの

...す......す...」

剣崎は断る覚悟を決め、目を閉じ...!

 

 

「陶 晴賢」

 

 

...と三玖の口からでてきた武将の名前にあっけに取られ言葉が詰まってしまった。だがすぐさま剣崎はその言葉の意味を理解した。

それは昨日彼が口頭で姉妹らに聞いた問題のこたえだった。すかさず剣崎は三玖の肩を掴み尋ねた

「待ってくれ、三玖!何故それを今このタイミングで!?」

だがその衝撃で三玖の手握ったスマホが手から落ちてしまった。

「わーっ」

「あ、ご、ごめん」

と言い、三玖のスマホを拾いあげようとした剣崎の目に映ったのは三玖のスマホのホーム画面。

 

風林火山と書かれた武田菱だった。

 

三玖は

「見た?」

と威圧的に聞いてくる。見てしまったものは見てしまったので

「え...ああ...」

と答えた。三玖は

「戦国武将...好きなの...」

と顔に手を当てながら言った。

それを聞いた剣崎は

「なーんだ、好きって戦国武将のことかぁ

いいよね、戦国武将。俺も好きだったなぁ」と中学生の時を思い出す。

あの時は互いの国を巡る戦国時代の話に夢中だった。男の子なら誰でも1度は体験するだろう。そんなどうでもいいことを考え、剣崎は三玖に聞く。

「でも女の子で戦国武将が好きなんて珍しいね。どうして好きになったの?」

と純粋に不思議に思って聞いた。

「きっかけは四葉から借りたゲーム

野心溢れる武将達に惹かれてたくさん本も読んだ。

でもクラスのみんなが好きな人はイケメン俳優や美人なモデル」

「それに比べて私は髭のおじさん...」

 

「変だよ」

と三玖はつぶやく。

だが剣崎は首を捻り、

「なんで変なの?」

と三玖に聞いた。三玖は「え?」と言い剣崎を見上げると

「確かに戦国武将が好きな女子校生は珍しいかもしれない。でもそれだけで変な理由なんかにはならないと思うよ。それに...」

 

「好きなことに好きって正直に言えることって、俺本当にいい事だと思うんだ」

「...!......」

 

と心で正直に思ったことを剣崎は眩しいくらいの笑顔で三玖に言った。三玖はびっくりした顔で俺を見つめている。

そこで剣崎は「そうだ!」と手を叩き三玖に提案した。

「俺、三玖が知ってる戦国武将の話聞きたいからさ。次の授業は日本史を中心にして三玖に俺が知らない戦国武将のことを俺にも沢山教えて欲しいな」

一瞬の逡巡のあと三玖は

「本当にそんなことでいいの?」

と恐る恐る聞いてきた。剣崎は笑顔で

「あぁ 三玖がそれでいいなら」

と答えた。

 

だが三玖は少しだけ表情を固くすると

「本当に...本当にフータローは優しいね」

と呟いた。とっさのことに剣崎は「え?」とだけ声をだす。三玖は続ける。

「だってフータローはあの時...トラックに惹かれそうになった私を助けてくれた時...

もしかしたら自分が死んじゃってたかもしれないんだよ?!」

三玖の声が少し大きくなる。

「それなのに...それなのにフータローはそんな原因を作った私に嫌な顔1つせず接してくれる。どうしてなの?どうしてフータローはそんなに優しくなれるの?」

三玖は目を潤ませて俺に必死に尋ねた。

そんな三玖に剣崎はとても優しい声で

 

「人を助けるのに...理由なんていらないよ。

俺の目の前では、誰も悲しんで欲しくない。

みんなに笑顔にいて欲しいんだ」

 

嘘偽りなき言葉で剣崎は答え、

「だから俺は三玖にも笑っていて欲しいな」

と三玖の頭を撫でた。

三玖はドキッとした後、剣崎の目を見つめた。

三玖は気づいた。

このフータロー、もとい剣崎一真の危うさにだ。彼はみんなに悲しんで欲しくない、みんなに笑顔でいて欲しいといった。

だがそのみんなに、肝心な「自分」が入っていないのだ。彼は目の前の人間が死ぬなら自分が代わりに死ぬことをなんとも思っていない。むしろその行為を当たり前とすら思っている。そんな自己犠牲に等しい危うさに三玖は気づいた。ただ三玖はその場では言いたい言葉が見つからず、

「ありがとう」

と言うことしか出来なかった。

 

そして昼休みの終了10分前を知らせるチャイムがなった。

 

剣崎は心から安心していた。三玖が授業を受けてくれることに成功したのだ。それに戦国武将をきっかけに彼女のことをもっと知っていければな、なんて思っていた。

そんなことを考える剣崎の前で彼女は自販機で飲み物を買い、

「これ友好の印、飲んでみて」

と先程飲んでいた抹茶ソーダを進めてきた。

「これかぁ...」

とか力無く笑う剣崎に三玖は

「大丈夫だって。鼻水なんて入ってないよ、なんちゃって」

と笑いながら手渡した。剣崎は思わず

「え?」

と聞き返した。三玖は笑いながら

「石田三成が大谷吉継の鼻水の入った茶を飲んだっていう逸話があるの」

と得意げに答えた。そして

「もっと色々教えてあげるね、フータロー」

と微笑む彼女に剣崎は

「よろしくお願いします。三玖先生」

と同じく微笑みながら返し、2人は互いの教室へと帰っていった。

 

そしてこの日の最後の授業が終わると、俺は教室を出る。どうやら五月はクラスの女子と話をするようだ。

まぁ今日は家庭教師のバイトがある日ではないし、家に帰って5つ子姉妹に教える勉強内容の確認でもしようと考えていた。

だが教室の外に、ヘッドフォンを首にかけた少女-三玖を見た。

剣崎は教室を出ると

「どうした?三玖」

と三玖に聞いた。彼女はキッと覚悟を決めた顔で

「一緒に帰ろ、フータロー」

と告げてきた。

 

そして三玖と2人きりの帰り道。断る理由が1つもなかった剣崎は三玖の申し出を快諾した。帰り道は三玖の戦国武将トークをひたすら聞いていた。戦国武将のことを話す三玖の目は輝いていた。

 

そして帰り道の公園で俺は三玖に少し座っていかないか?と提案した。三玖は首をブンブンと縦に降った。

 

そしてベンチに座る三玖に今買った抹茶ソーダを手渡した。ちなみに剣崎が自分が飲むように買ったのは少し苦い思いでのあるオロナミンCだ。

 

「それにしても本当に三玖は戦国武将のことならなんでも知ってるな。三玖のおかげで色々な話を知ることができたよ、ありがとう」

と半ば感心しながら三玖に話かける。三玖は

「ううん、感謝するのはこっち。ありがと、フータロー。私も色んなことが喋れて楽しいよ。」

と最初の頃からは考えられないような笑顔で剣崎に答える。

「もっとその話、姉妹のみんなにも話してあげればいいのに」

と何気なく言うと三玖は体育座りをして蹲り、

「姉妹だから言えないんだよ」

とボソッと口にする

 

「え...なんで...」

 

「5人の中で私が1番落ちこぼれだから」

と蹲ったまま答える。

 

そうか、そういうことか。三玖は自分自身に自信がないんだ。だから好きなものを好きだとハッキリ言えないし、あまり自己主張もしないんだ。

だが剣崎もすかさずフォローを入れる

「でも5人の中じゃ三玖が1番優秀だ

あの時のテストも点数は一番三玖が上だった」

「やっぱりフータローは優しいね」

まぁ2位と五月との差は4点ほどしかなかったが。

「私程度に出来ること、ほかの4人も出来るに決まってる」

 

「5つ子だもん」

 

と三玖は少し悲しい笑顔で剣崎に告げた。そして三玖は「だからフータローは私なんか諦めて...」と告げたところで

 

だが剣崎は何かに気づいたように目を見開くと三玖の手を握った。とっさのことに三玖は「ひゃう」と声を漏らす。

 

「それだよ三玖、そこだよ。

5つだから三玖に出来ることはほかの4人にも出来る。

つまり他の四人に出来ることは三玖にもできるってことだ」

剣崎は続ける

「大丈夫だ、自信をもて。一花も二乃も四葉も五月も」

 

「そして三玖も。みんなが100点になる力があると俺は信じている。

だから俺は、みんな5人一緒に頑張って欲しい。5人揃って卒業してほしい」

剣崎は言った。

三玖はプィっとそっぽを向くと「なにそれ屁理屈」と呟き、

 

「『5つ子』を過信しすぎ」

 

と剣崎に言った。

「それに5人って...フータローは卒業しなくていいの?」

「え?!いや、そんな訳ないだろ!俺もちゃんと一緒に卒業するぞ!」

もし留年なんてことになろうものなら俺はこの上杉風太郎君に示しがつかない。いつ戻ってもいいよう風太郎くんに何も悪い影響を残す訳にはいかない。

 

そんなことを考えて、2人で笑う剣崎と三玖。だがそこで剣崎の携帯がピピピっと鳴った。何かと思って画面を見ようとしたその時、

 

だが1つの落雷が二人の耳をつんざいた。

 

あまりにも一瞬の出来事。三玖は何が起こったか分からなかった。剣崎はすぐさま雷の落ちた場所を睨みつつ三玖を庇うように前に立つ。

落雷によって起きた煙が晴れる。

そこに立っていたのは

 

長い角を携えた怪物、

 

♠︎6 ディアーアンデットだった。

 

「逃げるぞ、三玖!」

剣崎はそう叫ぶとすぐさま三玖の手を取り走り始めた。三玖はまだ現状が理解出来ず、目を白黒させる。

だがアンデットは2人を逃がすまいと脅威的な脚力で2人の前に飛んでくる。

だが剣崎は着地の隙を狙って、アンデットの腹に蹴りを入れた。アンデットが怯む。

その隙に剣崎は三玖の手を取ったまま逃げる。だがディアーアンデットは得意の雷撃で剣崎と三玖を追撃する。それをなんとか避け、人が誰もいないことを確認すると、2人は近くの工場に逃げ込んだ。

 

ハァハァとまだ呼吸が整わぬうちに三玖が剣崎に尋ねる。

「あいつは何?!なんで私たちを襲ってくるの?!」

剣崎は何も答えない。三玖は少し狂乱気味に「答えて!」と剣崎の肩を揺する。

 

だが剣崎は

 

いきなり三玖を抱きしめた。

 

三玖は先程のように訳が分からず混乱する。

そして剣崎は

 

「安心してくれ、君は俺が守る!」

 

と叫んだ。三玖はその言葉に妙な安心感を覚えた。だがアンデットがこちらの存在に気づいたようだ。工場の中に入ってくる。そして剣崎は三玖を離して立ち上がると

 

「もう時間はない、三玖!」

「はい!」

ビックリして何故か敬語になってしまった三玖。

「今から俺がやること、他の誰にもいわないでほしい。約束してくれるか?」

別に剣崎はこれで三玖がどう答えようと答えまいと変身するつもりだった。

だが三玖は

「分かった...秘密にする!私とフータローの!」

といつもの声とは比べ物にならないようにお腹から力込めて言った。

そうすると剣崎は安心したように

「ありがとう、三玖」

と優しく告げた。

 

剣崎は♠︎のAをバックルに装填する。

そしてバックルが腰に巻き付く。

 

そして剣崎は仮面ライダーとして戦う覚悟を決めるために『あの言葉』を叫んで走り出す。

 

 

『変身!!』

TURN UP

 

剣崎は仮面ライダーブレイドへと変身した。

 

 

「ウェェェェイ!」

剣崎はブレイラウザーをディアーアンデットに叩きつける。だがディアーアンデットは両手に持った剣を2本交差させてブレイドの剣戟をガードする。

 

剣崎は一旦バックステップで距離をとる。だがそこに電撃が浴びせられる。

もろに受けたブレイドは吹き飛ばされた。

 

「フータロー!」

三玖は叫ぶ。まさか今の一撃で...

 

だが吹き飛ばされたブレイドはすぐさま立ちがあるとアンデットに向かって走る。ブレイドは走ったままカードホルダーからカードを取り出しブレイラウザーにラウズする

 

『SLASH』

 

電子音がなったあとブレイラウザーの刀身が青白い光によって強化される。

アンデットはこちらに向かって走ってくるブレイドを迎撃するために電撃を放つ。

だがその電撃の全てをブレイドは強化された剣でガードする。

そしてブレイドは全身全霊を込めて手に握りしめたブレイラウザーをアンデットへと振り下ろす。

先程のようにガードしようとするアンデット。しかし先程とは違いブレイラウザーは『SLASH』のカードによって強化されていた。ブレイラウザーの剣戟により、アンデット持っていた2つの剣と2本の立派な角が叩きおられた。

アンデットがその衝撃で吹き飛ぶ。

 

そしてブレイドはカードホルダーからもう1枚カードを取り出すとそのカードをラウズする

 

『KICK』

 

電子音が流れたあと、ブレイドは高くジャンプする。そして空中一回転をした後、なんとか立ち上がったアンデットに右足を叩きつけた。

 

再度吹き飛ばされ、爆発をあげたアンデット。ブレイドは吹き飛ばされたアンデットのバックルが割れたのを確認するとそこに向かってカードを投げた。

アンデットはカードに吸い込まれ、カードには『THUNDER』と刻まれた。

 

戦いが終わった。ブレイドはバックルのレバーを引っ張る。

かれは仮面ライダーブレイドから上杉風太郎の姿へと戻った。

 

剣崎は三玖の方を見る。三玖は未だに何が起こったか理解しきれていない。

だが剣崎はそんな三玖に近づき話しかける。

「今まで黙っててごめん。でも俺はこれからもこの化け物が現れる限り戦わなきゃいけないんだ」

 

「もう誰かの涙を見たくないから」

と彼は口にした。

 

三玖は

 

「大丈夫。誰にも言ったりしないよ」

と剣崎に優しく告げる。

「たしかにこれからもフータローが戦いに行くのは心配だよ。でも私はちゃんと勉強するってきめた。フータローがこの怪物と戦うなら、

私は、今までの弱い私と戦う。

だから...大丈夫!」

と何かを決断して彼女はハッキリと剣崎に思いを告げた。

剣崎は

「ありがとう、三玖。」

と言い放つと三玖に小指を差し出す。

「俺は、5人が笑って卒業できるよう全力で家庭教師をやる。三玖は今回見た事を誰にも言わないのとちゃんと勉強を頑張る」

 

「それを約束する、指切りだ」

「分かった。約束するねフータロー」

 

そうして2人は約束の指切りを交わした。

 

「マンションの前まで送っていくよ、三玖」

「いいの?」

「こんなことがあった後だし、おれ三玖の話もっと聞きたいからさ」

とはにかむ剣崎

「分かった。いこう、フータロー」

と剣崎の横に並んで歩き出す

 

 

マンションの前まで来ると、

「じゃあな、三玖」

「うん、また明日。フータロー」

三玖はマンションを離れていく剣崎に手をふる。そして剣崎が見えなくなったところで心の中で彼女は1人呟いた。

 

 

 

『大丈夫だよ、フータロー。

このことは誰にも言わない。

だって......私と......

私だけのフータローの秘密だもん』

 

そして三玖はある決心をする。自分には当然ながら怪物から人を守る力なんてない。

だから自分が上杉風太郎を助けると。何があっても彼のそばで、彼を支えると。

 

 

 

 

だがそれを心で呟いた時、彼女の瞳の奥で何か黒いものが揺れたことを

 

本人ですら気づくことは無かった




♠︎6 ディアーアンデット
カテゴリー6に分類されるヘラジカの祖たる不死生物。

断崖絶壁の急斜面を軽々と跳躍する驚異的な脚力を持っており、山腹などに獲物を誘い込んで扇状に伸びた角から雷撃を浴びせて攻撃する戦法を得意としている。また、二本の七肢刀で相手と斬り結ぶ剣技にも長けている。

そしてご報告です。

三玖ファンの皆様には申し訳ないですが、この作品の三玖は少しだけ剣崎への愛をこじらせていきます。ですがそのまま拗らせ続けるわけではありませんし三玖を悪者にしようという気は一切ないので、闇堕ちしていた時のムッキーを見る時のように暖かい目で見守って頂ければ幸いです。

あと風太郎(剣崎)の身体能力についてですが、剣崎依存とさせていただきます。ご都合展開のようになり申し訳ありません。


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第8話:馬鹿な『英雄』

8話です。
これでやっと花嫁の1巻分が終了...
ながかった...


剣崎はたくさんの教材が入ったバッグを片手に中野姉妹が住むマンションを訪れようとしていた。

さぁエントランスに入ろうという時に、コンビニ帰りと思しき三玖と遭遇した。

「やぁ三玖、コンビニ帰りか?」

「うん。フータローは今から授業?」

「そうだよ...って三玖も受けるよな」

「当たり前。フータローとの約束を破るわけにはいかない」

そして三玖が持つマンションのカードキーで自動ドアを開けると、エレベーターに乗り込む。

 

そこで三玖は

「昨日は助けてくれてありがとう」

と剣崎に礼を言った。剣崎は

「だから別に礼なんていらないよ。

俺は目の前の人に傷付いて欲しくないだけさ」

そして「怪物と戦うのも俺がやりたくてやってるだけだからさ」と付け加える。

「やっぱりフータローは...仮面ライダーなんだね」

剣崎は三玖の発言に違和感を覚えた。なぜ三玖が仮面ライダーという呼称を知っている?

そして剣崎は三玖に問いかける

「あれ、なんで三玖が仮面ライダーって呼び方知ってるの?」

と言うと三玖は

「もうみんなそう呼んでる」

と掲示板サイトが映るスマホの画面を見せてくる。その中には

『謎のヒーロー 仮面ライダー その正体は?』

『もはや都市伝説ではない仮面ライダー』

『街を守る正義のヒーロー 仮面ライダー』

などと様々なタイトルで書き込まれていた。

三玖が言うからには、誰かが勝手に付けた名前らしくそれが浸透していったらしい。

なるほどこの時代のネーミングセンスは2004年と大差無いらしい。

 

そんなことを考えているとあっという間に30階に着く。そして部屋の前まで来ると三玖は耳元で

「今日もよろしくね、仮面ライダー先生」

と悪戯っぽく囁く。剣崎は少し気恥ずかしくなってしまった。

リビングに向かうと

「おはようございまーす」

と四葉の声が聞こえてくる。

「上杉さん!今日は準備万端ですよ」

「私は...まぁ見てよっかな」

「上杉さん、今日もよろしくお願いします」

「フータロー、約束通り日本史教えてね」

 

良かった。今日はみんな授業を受けてくれそうだ。なら俺も基礎復習の努力の成果を見せて...

「あら、また懲りずに来たの?ヘタレ教師」

「二乃...」

いきなり現れた二乃は意地悪そうに微笑むと

「前みたいに途中で抜け出ちゃわなければいいけど」

と剣崎に投げかける。だが前回いくらアンデットを倒しに行かなければならなかったとはいえ、授業を放棄したのは事実なので剣崎には言い返すことはできない。そして横を見ると三玖が二乃を鋭い目付きで睨んでいることに気付く。まるで

『何も知らないやつが偉そうに言うな』

とでも言うかのように。

これはいけない。剣崎はとにかく二乃を誘おうとする。

「どうだ、二乃も一緒に...」

「死んでもお断りよ。第一、レディーを置いて逃げるようなやつからの授業なんてタメになるはずがないもの」

と冷たく言い放つ。すると剣崎の横にいた三玖がクスリ...と小さく笑う。

何を隠そう、あの時駅前で二乃を救ったのは仮面ライダー-剣崎一真本人である。三玖からしてみれば、その事を知らずに散々剣崎を罵倒する二乃が滑稽に見えたらしい。

二乃は「何笑ってんのよ、三玖」と三玖に聞くが「別に、何も」と三玖は流した。

そこで二乃は「あ、そうそう。四葉」と四葉に声をかける。

「バスケ部の知り合いが大会の臨時メンバーも探してるんだけど、あんた運動できるし今から行ってあげたら?」

「今から!?えっと...でも...」

四葉は歯切れが悪そうだ。そこにすかさず二乃が

「なんでも5人しかいない部員のひとりが骨折しちゃったみたいで、このままだと大会に出られないらしいのよ。頑張って練習してきただろうに...あーかわいそう」

剣崎は黙って見ていたが四葉は

「上杉さんすみません!困ってる人をほっといてはおけません!!」

と上杉に謝る。授業を受けて欲しい気持ちは山々だが、剣崎にも授業途中で抜け出したという前科がある。それに困ってる人をを見過ごせない剣崎には、四葉の気持ちが痛いほどよくわかった。

だから剣崎は四葉を止めることは出来なかった。だがそんな剣崎に三玖は

「あの子、断れない性格だから」

と告げる。だが二乃は止まらなかった。すぐさま

「一花も2時かバイトって言ってなかった?」

「あー忘れてた」

と一花をバイトに行かせた。

 

二乃は五月にも図書館で勉強をした方がいいと勧めたが、五月は

「上杉さんは私たちのために来てくれました。それを無下にするすことは出来ません。」

と残ることにした。剣崎は最初に会った時に比べて随分と優しくなった五月に心の中で『ありがとう...本当にありがとう...』と呟いた。そして剣崎は気を取り直し

「仕方ない...じゃあ三玖と五月だけでも」

と授業を始めようとするが二乃は三玖にも茶々を入れ始める。

「あれー?三玖まだいたの?あんたが間違えて飲んだアタシのジュース買ってきなさいよ」

と三玖に部屋から出るよう促す。だが三玖は

「それならもう買ってきた」

とコンビニのビニール袋を指さす。

二乃は袋の中身を取り出すが、入っていたのは抹茶ソーダだけだった。「って何これ!?」と抗議の声をあげるも誰も聞いていない。

五月が

「上杉さん、授業はいつになったら...」

と聞いてくる。

三玖も

「あの子は置いといて授業始めよう」

と続ける。

剣崎は

「仕方ないか...よしじゃあ始めるか!」

と言ったところに二乃が

「あんたらいつからそんなに仲良くなったわけ?」

と尋ねてくる。二乃は続けて

「え?え?三玖も五月もこういう冴えない顔の男が好みだったの?」

とニヤニヤしながら聞いてくる。五月は

「私が上杉さんを?!え、そ、そんなこと...」

と顔を赤くして俯いてしまった。

だが三玖は

「二乃はメンクイだから」

と二乃を批判する。何気に三玖も酷いことを言ったことに剣崎は気付かない。そこで間髪入れずに二乃が

「はぁ?メンクイが悪いんですか?イケメンに越したことはないでしょ?」

と反論する。

「なーるほど。外見を気にしないからそんなダサい服で出かけられるんだ」

「この尖った爪がオシャレなの?」

姉妹の言い合いは続く。剣崎もさすがに横槍を入れる。

「まったく...二乃も三玖も仲良くしろよ。

外見や中身なんてそんなこと、今は関係ないだろ」

と少しキツめに言う。すると三玖は申し訳なさそうな顔をして

「そ、そうだね...ごめんねフータロー。

二乃はもう邪魔しないで」

と剣崎に謝る。

だが二乃は剣崎の方をむくと

「キミ、お昼は食べてきた?」

と剣崎に聞いてきた。

剣崎は

「そういえば」

と言った瞬間、お腹が『ぐぅぅぅぅ』となった。そしてそれを見た五月はプッと笑ってしまった。恐らく転校初日のことを思い出してしまったのだろう。

 

「じゃあ三玖の言う通り、中身で勝負しようじゃない。どちらがより家庭的か、アタシが勝ったら今日は勉強なし!」

三玖がピクッと反応する。剣崎は

「まさかそんな勝負するわけ...」

と恐る恐る三玖に聞くが

「フータロー。すぐ終わらせるから待ってて」とキッチンに立つ。

キッチンに立った三玖を見た瞬間、五月は

「わ、私!ちょっと図書館行ってきます!!」

といい、部屋を飛び出してしまった。

あれだけ意気込んでいたのに...と思いつつ、でもどうして急に逃げ出したんだ?と剣崎は不思議に思ったが直ぐにその答えを知ることになる。

 

そして出来上がった料理を見て剣崎は全てを察した。

「じゃーん!旬の野菜と生ハムのダッチベイビ〜」

「オ...オムライス」

と2人が手作り料理を出してきた。

二乃の料理は色とりどりの野菜を使ってとても美味しそうだ。

三玖のオムライス(?)は中々個性的な見た目をしている...

 

三玖は恥ずかしそうに

「やっぱいい。自分で食べる」

と言うが

「せっかく作ったんだから食べてもらいなよー」

と二乃は逃がす気は無さそうだ。

まぁ何はともあれ、食べてみなければ味は分からない。剣崎はまず二乃の料理を口に入れた。

「!なるほど、こりゃ美味い!」

「でしょ〜?」

と二乃は胸を張って答える。にしても美味いなこれ。下手したら虎太郎の手料理より美味しいんじゃないか?そんなことを考えながら二乃の手料理をペロリと平らげた。

 

そして次は三玖の料理を口に運ぶ。

「ウッ!」

と言い、剣崎は一瞬苦しそうな顔をする。この味...カテゴリーQが封印された時に失恋を味わった時の虎太郎の料理にそっくりだ。

恐らくこれを美味しいと言って食べれるのは橘さんぐらいだろう。

だが剣崎一真、ここで男を見せずしていつ見せる!剣崎は覚悟を決めると、皿の上の料理を一気に口の中に運び飲み込んだ!

そして死にそうになりながらも

「ご、ご馳走様でした...」

と手を合わせた。

「さぁ、どっちの料理が美味しかったのか答えてもらおうじゃない」

二乃は勝利を確信した顔で聞いてくる。一方三玖は浮かない顔だ。

 

剣崎は少し考えたあと口を開く。

「俺はこういう勝負事で嘘をつくようなことはしたくない。今回の勝負に関しては、二乃。君の圧勝だ。」

と告げると二乃は「当たり前じゃない」といい、鼻を鳴らす。

「約束通り今日は授業は無しだ。」

三玖は

「で、でも...」

と続けるも剣崎は、

「でもこれは約束だ。俺は約束を破るようなことはしたくない」

と三玖に言い放つ。「だけど」と剣崎は続ける。

「三玖の料理は...なんというか...すごく温かく感じた。なんて言えばいいのかな...

頑張って美味しくするぞ、みたいなそんな温かさが感じられたんだ。ごめんな、俺口下手だから、上手く言えないや」

剣崎は「はは」と笑い頭を搔く。だがそれを聞いた三玖は安心したような顔になり、小さな笑みを浮かべた。

 

「だからもしこれから三玖が料理を練習するようなことがあればその時はもう一度俺に三玖の手料理、食べさせて欲しいな」

と三玖に言う。三玖は少しびっくりした後

「フータローのためなら...いいよ」

と恥ずかしそうに承諾したのであった。

その様子を見ていた二乃は

「何それ!つまんない!」

と言い放ちその場を去ろうとした。

 

そこで剣崎の携帯が音を鳴らす。画面を見るとアンデットサーチャーが反応していた。このマンションから北西17kmの場所にアンデッドが出現していることを伝えてきた。

 

剣崎はすぐさま立ち上がると

「ごめん!俺もう行かなきゃ」

と言うと部屋を出ようとする。

二乃は「さっさと出て行きなさい」といい自室へ戻っていく。言われなくてもそのつもりだ。だがそこで三玖に呼び止められた

 

「フータロー...行っちゃうの?」

 

その目は不安一色だった。

だが剣崎は三玖の方を振り向いて

 

「大丈夫。すぐ帰れるさ」

と三玖を安心させる。

 

三玖は目を閉じたあと、

「分かった。じゃあ今日は私、1人でも勉強する。それが...フータローとの約束だから」

 

三玖は意を決する。それを見て剣崎も安心し、「じゃあ、行ってくる」と言うとマンションの駐車場に急いで向かう。

 

そして駐車場に着き、ブルースペイダーに跨ると、アクセルを捻り走り出した。

 

 

 

 

その頃一花は黒い車の後部座席に乗り、移動していた。次のバイト場所に向かうためだ。

一花は剣崎に対して、このように逃げてしまうことを申し訳なく思っていた。そして次くらいはちゃんと授業を受けてあげようかな。

 

そんなことを考えた瞬間、前方から「ドガン」という大きな音が聞こえた。そして車はスピンしガードレールに激突する。

 

何が起こったかわからず、目を白黒させる一花。とにかく車を出ようとドアを開き、外に出る。

「大丈夫かい!?一花ちゃん」

と声をかけてくる。どうやらドライバーの男性は無事なようだ。

だが車の上にいたのは最近街に出ると話題になっている化け物だった。

 

化け物-♠︎3 ライオンアンデットはルーフを蹴って地面に着他する。

「お、お前!何も...」

と化け物に声をかけようとした男性は化け物の左手により吹き飛ばされてしまった。

だが「うぅ...」と唸っているあたり、命に別状はないだろう。だがそこまで冷静な判断力は一花にはなかった。

そして化け物は一花に向かって歩いてくる。

化け物は右手につけた鉤爪をギラリと輝かせ、一花に歩み寄る。

 

一花は恐怖で声を出せない。

今までの思い出がフラッシュバックしてくる。まだ姉妹が小さかった頃、あの時は何をするのにも一緒だったなぁ。そして最後に浮かんだのは...何故かあの上杉風太郎という青年の顔だった。

 

もうちょいちゃんと授業を受けておけばよかったかな。そんなことを考え、一花は目を瞑った。そして抵抗を諦めた一花にライオンアンデッドが鉤爪を突き立て......

 

 

 

る前に青いバイクがアンデットを吹き飛ばした。

 

そしてそのバイクから誰かが降りた。

そうだ、確かこれは最近巷で有名な

 

『仮面ライダー』とかいうヒーローだ。

 

その仮面ライダーは一花に

「大丈夫か!?一...君!」

と駆け寄る。

ブレイドは一瞬一花の名前を呼びそうになってしまった。そうなればなぜこの仮面ライダーが一花の名前を知っているのかという余計な疑問が生まれてきてしまう。ブレイドはすぐさま発しかけた言葉を飲み込み言い換えた。

 

ブレイドは一花を駅前の時の二乃にしたようにお姫様抱っこをする。一花は

「ひゃっ」

と声を上げる。そしてブレイドは近くにあった建物の裏に一花をそっとおろした。

そして

「ここから動かないで」

と告げると剣を右手に持ち、アンデットへと走っていく。

 

 

アンデットは右手の鉤爪を振り回し、ブレイドを攻撃する。

 

ブレイドはそれを落ち着いて回避する。そして右手のブレイラウザーで上、右、左、と様々な場所から斬り付ける。

 

だがそれだけではライオンアンデッドは倒れない。ライオンアンデッドは手近な車を見つけるとそれを押してブレイドにぶつけようとした。

あまりにも隙だらけな攻撃、避けようとすれば簡単に避けられる。

だがブレイドの後ろには守るべき人、『中野一花』がいる。ブレイドは正面から車を受け止めた。

 

タイヤがギャルルルルと言う音をあげる。

「うおおおおお!!」

と声を上げ、ブレイドは全力で踏ん張った。

 

そして一花にあわや接触という寸でのところで車が止まった。安心するブレイド。

だが休ませる暇などないというかのようにアンデットはブレイドに接近すると右手の鉤爪をブレイドに叩き込む

 

「ヴェッ!」

 

と喘ぎブレイドは吹き飛んだ。

 

「仮面ライダー!!」

一花が叫ぶ。そしてアンデットは目の前の一花に対象を戻す。そして鉤爪を振り上げるが、

 

THUNDER

 

という電子音とともに、ブレイドが持つ剣の切っ先からアンデットに向かって電撃が放たれた。アンデットはすんでのところでその雷撃を鉤爪で防ぐ。

だがそれが命取りとなった。アンデットは鉤爪を盾にした時、自分の視界をそれで覆ってしまった。

 

そして雷撃を放ったあと、走り出してきたブレイドに対応することが出来なかった。

ブレイドは渾身の力を込めてアンデットに体当たりを食らわせた。

 

吹き飛び地面に叩きつけられるアンデット。

その隙にブレイドはカードホルダーを展開し、2枚のカードを取り出しラウズする!

 

 

KICK

THUNDER

 

《ライトニングブラスト》

 

電子音が鳴る。ブレイドの顔が真っ赤に染まり、左手に持った剣を地面に突き立てる。

 

そして高く飛び上がり空中一回転すると、

雷のエネルギーが込められた右足をアンデットに叩きつけた。

 

「グガァ!!」

 

と叫び声をあげアンデットが爆発する。

倒れたアンデットに剣崎は封印のカードを投げつける。アンデットはカードに吸い込まれカードには

 

BEAT

 

と刻まれた。

 

そしてすぐさまブレイドはバイクに乗るとそのまま走り出す。そして誰もいないところで変身を解除し、もう一度、先程戦闘をしたところへ向かう。

 

そこにはまだ地面に座り込む一花の姿があった。剣崎は何も知らないかのように

「どうしたんだ?!大丈夫か、一花!」

と一花に駆け寄る。一花は首を縦に降る。大丈夫なことはもちろん分かっていたが、こういう演技をするのは中々歯痒いものがある。

そして剣崎は携帯を取り出すと、倒れている男性のために救急車を呼ぶ。

 

直ぐに救急車が来てくれた。隊員達は男性を救急車に乗せ、走り去って行った。

 

「一花に怪我がなくて良かった。

ところでさ、さっきの男の人、誰なの?」

「あの人は...仕事仲間、うん!ただの仕事仲間だよ。いや〜ごめんね。フータロー君には助けられちゃったなぁ」

と「たはは」と笑う一花。とにかく剣崎の正体がバレたということは無さそうだ。

 

「それにしてもフータロー君、どうしてここに来たの?」

「え!」

しまった、そんな理由考えてなかったぞ。剣崎は「えーと、えーと」と必死に取り繕う理由を探す。だが一花は

「まぁいいよ。仕事仲間を助けてくれた恩もあるし、聞かないであげる。前に君が言ったように誰にだって言えない秘密はあるもんね」

 

剣崎はホッとし

「そうしてくれるとありがたいよ」

と返した。

 

そして剣崎は「あっ」と言い思い出した。アンデットサーチャーを見たあと急いでここまで来たためバッグをマンションに置いてきてしまったのだ。そこで剣崎は一花に

「これから一花はどうするんだ?」

と聞いた。一花は

「うーん。こんなことになっちゃったし、今日はもう帰ろっかな。あ、でもこの件だけは伝えておかないと」

と言い、スマホを取り出し電話し始めた。

恐らく相手は雇い主だろうか。何やら話したあと今日は休む旨を伝えてお辞儀をすると電話を切った。

「よし、これで大丈夫かな」

「なら一花。帰るならちょっとせまいけど乗っていくか?」

と剣崎はバイクの空いたシート部分をポンポンと叩く。剣崎がバイクに乗れることに初めて気づいた一花。そして

「ならお言葉に甘えちゃおっかな」

と言う一花だが何かに気づく。

「あれ、このバイク...」

さっきの仮面ライダーが乗ってたやつと同じとまで言いかけたところで剣崎は早口で喋り出す。

「あ、やっぱ気づいちゃった?そう、実はこれ最近街に出るヒーロー、仮面ライダーが乗ってるやつと同じ車種なんだよ〜。

いや〜同じ質問を何回もされて困っちゃったなぁ〜」

にしてもこの剣崎一真という男は本当に嘘が苦手である。だが一花は「ふーん」とだけいうと、剣崎から受け取ったヘルメットを被り空いたシートに座り、剣崎の腰に手を回す。

 

ちなみにこのブルースペイダー。シートが小さく剣崎は前に詰めて少し無理をしている状態である。そこにもう1人の人間が乗ってくる。かなりキツキツであり一花は剣崎の背中にがっしりと抱きついた。

 

剣崎の背中に一花の豊満に育った胸が密着させられる。

 

剣崎は一瞬やましいことを考えそうになったがイカンイカンと頭を振り、そのままマンションまで走り出した。

 

一花はマンションに着くまでの間、今日起きたことを考えていた。

仕事に関してはさすがに今日は仕方ないだろう。あんなことがあったあとだ。

だがそんなことよりも一花が気になったのは自分を助けたヒーロー 『仮面ライダー』についてである。一花はあの仮面ライダーの正体が気になって仕方がなかった。

一体誰が?自分が知らない人、それとも知っている人?もし知っている人ならそれに1番近いのは?

 

一花は今自分が抱きついている上杉風太郎の背中を見つめる。だがすぐに

「ま、そんなわけないか」

とひとり納得した。

 

そしてマンションに到着し、バイクを停めると一花と剣崎は2人で部屋へと向かう。

だが急に一花の電話がなった。

どうやら今日のできなかった仕事の埋め合わせの話であり、少ししたら戻るから先に部屋に入っててくれとの事だった。

 

そして剣崎はバッグを回収したらすぐに帰るつもりだった。

 

だが部屋に入った先にいたのは、風呂上がりでバスタオルを体に巻いてドライヤーで髪を乾かす三玖だった。

「ご、ごめん!三玖!」

と後ろをむく剣崎。だが三玖はこっちを見つめたまま何も言わない。

剣崎が後ろを向いていると

「誰?三玖?」

と声がする。

剣崎は違和感に気づく。ん?俺が今話していたのが三玖だろ?なんで自分の名前を?

そんなこと考えていると

「お風呂入るんじゃなかった?空いたけど」

と告げられ、剣崎は確信した。

 

間違いない!こいつは三玖じゃない、二乃だ!

剣崎から血の気が引いていく。

まずい...よりにもよって二乃だとは思わなかった。

「いつもの棚にコンタクト入ってるから取ってくんない?」

と二乃は目が悪いせいで、剣崎のことを三玖だと勘違いしてお願いしてくる。

「お昼にいじわるしたことまだ根にもってるの?」

やばい、今すぐにコンタクトを探さなくては

「あれは勢いで...悪いとは思ってるわよ」

違う...どこの棚にあるんだ?

「何してんの?そこじゃないって

別に場所変えてないわよ」

二乃が迫ってくる。剣崎はライダー時代の時に築き上げた身のこなしで二乃と距離をとる。

「...やっぱ怒ってんじゃん」

本当にどうしよう。そう剣崎が考えたとき、

「全部あいつのせいだ」

「......!!」

「パパに命令されたからって好き勝手うちにはいってきて...

 

私たち5人の家にあいつの入る余地なんてないんだから」

 

そうか...だから二乃は...

 

「決めた!フータローは今後出入り禁止!」

 

だが今しかない。剣崎はバッグを持って玄関へと向かおうとする。

 

だがその時、二乃が足を滑らせる。

二乃の頭が床へと落ちていく。

 

「危ない!!!」

剣崎は考えるより先に走り出した。

 

そして二乃の上半身を右手で、下半身を左手で抱え...

 

 

あの時...剣崎がこの世界にきてライダーとして初めて人を助けた時のように...

 

 

彼女をお姫様抱っこで助けたのだった。

 

 

 

二乃はあの時のことを思い出した。

あの時...自分が怪物に殺されそうになった時、身を呈して自分のことを守ってくれたヒーローのことを。

 

 

『仮面ライダー』のことを。

 

だが今自分のことを抱えているのは...

 

 

 

今自分が最も忌み嫌う人間-上杉風太郎だった。

 

 

この時、剣崎一真はまだ理解していなかった。

 

「はい。なら明日に今日の分を。分かりました、必ず行きます。」

 

 

この落第5人組と一人ひとり向き合うことの難しさを

 

「中野さん上手で頼もしいよ〜」

「お役に立てて嬉しいです。次の試合も頑張りましょう」

「あのさお願いがあるんだけど、

このまま正式にバスケ部に入らない?」

 

 

そして剣崎は知ることになる。

 

「私は...フータローのこと...」

 

 

300年以上生きた剣崎ですら、まだまだ馬鹿のままだったということを!

「ちょっ、こ、この変態!」

「ち、違うって!俺は忘れ物を取りに来ただけだって」

「と、撮るって何をよ?!」

 

ガチャっと玄関の扉が開く音がする。

「一花?!怪物に襲われたって、それは本当なんですか?!」

「大丈夫だよ、五月ちゃん。

私は見ての通り元気だって」

そう話した2人は

 

バスタオルを巻いた二乃をお姫様抱っこする剣崎を見た。そして五月は

 

「最低です...上杉さん...」

 

と冷たく告げるのだった。

 

 

 

〜ある病院〜

「江端」

「はい、旦那様」

男は蜘蛛が描かれたカードを見ながら尋ねる。

「バックルとラウザーは?」

「はい、バックルは調整中、ラウザーは開発の最終段階に入っています」

「そうか、上出来だ。だが焦らないようにしてくれ。まだ時間はある」

「承知しております」

「今はとにかく...ブレイドにアンデットを倒してもらうしかないからね」

そう言うと彼は蜘蛛が描かれたカードを机にしまうのだった。

 




♠︎3 ライオンアンデッド
カテゴリー3に属する、ライオンの祖たる不死生物。
主に夕方から明け方に活動し、8km先にも届く咆哮で相手を威嚇する。
また、鋼のクローを装備した強靭な右腕から放たれるパンチは相手を粉々に粉砕する。



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第9話:剣崎の『願い』

キャラ紹介

剣崎一真/仮面ライダーブレイド:頭脳明晰。文武ともに優秀。純粋で真っ直ぐな性格をしているがそれ故に不器用なところがある。
親友を守るためにジョーカーとなり戦い続けるがあるとき意識を失う。そして目覚めると上杉風太郎という高校2年生の青年の体に憑依していた。
落第寸前の5つ子の家庭教師を頼まれ、持ち前の優しさも相まって、体の持ち主の妹の上杉らいはのためにそれを受ける。
そして人々を守るためもう一度仮面ライダーとして戦う。ただ体の持ち主の上杉風太郎に対して危険な目に遭わせてしまっていることには少なからず責任を感じている。

中野一花:長女。大人っぽい魅力で剣崎をからかうこともあるが、中身の剣崎がそもそも大人なのでまだ子供っぽいところもあるなぁ程度にしか思われていない。仕事仲間と車で移動していたところをアンデットに襲われ、ブレイドに助けられた。

中野二乃:次女。姉妹の輪の中に入り込んできた剣崎をよく思っておらず、その輪の中から追い出そうとしている。駅前でブレイドに助けられ、ブレイドの正体を知りたがっている。

中野三玖:三女。好きなものは戦国武将。元は自分に自信が持てなかったが、剣崎の励ましにより自信を持てるようになる。剣崎が仮面ライダーであることを姉妹の中で唯一知っており、剣崎に対する仄かな恋心が目覚め始めている。

中野四葉:四女。元気一杯で勉強に対するやる気もあるのだが、剣崎と同じで困ってる人を見過ごせない性格が災いして授業に参加できないことが多い。

中野五月:末っ子。剣崎とは転校初日に喧嘩になるも昼ご飯を分けたことで仲直りした。
5人の中で1番やる気があるもののそれが毎度空回りしている。剣崎とは自分たちを絶対に卒業させるという約束で指切りをした。

今回は戦闘はありません。
長くなって申し訳ありませんでした。本編に入ります。


「裁判長、ご覧ください」

今、中野家では中野姉妹の次女、中野二乃に剣崎が不貞な行為を働いたという容疑で裁判が開かれていた。

五月がそういいながら裁判長役の一花にスマホの画面を見せる。そこにはバスタオルを巻いた二乃をお姫様抱っこする剣崎が映っていた。五月は続ける。

「被告は家庭教師という立場にありながら、ピチピチの女子高生を目の前に欲望を爆発させてしまった...

この写真は上杉被告で間違いありませんね?」

「た、確かにその写真に写ってるのは俺だけど...」

認めざるを得ない剣崎。ていうかピチピチの女子高生ってなんかおっさん臭い表現だな...

そんなことを考える剣崎に二乃が追い打ちをかける。

「裁判長」

「はい、原告の二乃くん」

「この男は1度マンションから出たと見せかけて私のお風呂上がりを待っていました。悪質極まりない犯行に我々はこいつの今後の出入りを禁止を要求します」

「ま、待ってくれ!それは困る!」

もしそうなってしまえばこの5つ子たちに家庭教師を続けていくのは困難になる。

それだけは何としても阻止しなくてはならない。

だが一花は片目をつぶりながら言う。

「たいへんけしからんですなぁ」

「だから違うって!聞いてくれ一花!俺はバッグを忘れて...」

というものの一花は頬を膨らませそっぽを向いている。

だがそこで三玖が手を上げる。

「裁判長」

一花はニッコリと笑って発言を許可する。

「フータローは目付きは悪いけどこれは無罪」

なんかまたさりげなく馬鹿にされた気がする...

そんなことを考える剣崎を他所に三玖は続ける。

「フータローは誰よりも私たちのことを考えてくれてる。絶対にフータローはそんなことしない」

「み、三玖...」

俺は三玖に感動してしまった。

そして次の授業を日本史中心にしようと決心したその時二乃が三玖に文句を言う。

 

「あんたまだそいつの味方でいる気...

こいつは『撮りに来た』って言ったの!

盗撮よ!」

 

「忘れ物を『取りに来た』だけでしょ。

そして別に私はフータローの味方をしてる訳じゃない。二乃がお門違いなことを言ってるから正しいことを教えてあげているだけ」

 

二乃は一瞬頭に血が上りそうになるが、三玖の目を見るとあることに気づき、「はーん」と言う。

「裁判長〜。やっぱり三玖は被告への個人的感情で庇ってま〜す」

三玖はドキッとする。確かに二乃が勘違いをしているということは分かっている。だがフータローに味方をする気が無いといえばそれは真っ赤な嘘だ。

「ち、違...」

三玖はなにかブツブツと呟きながら俯いてしまう。そんな三玖に剣崎が声をかける。

「ありがとう、三玖!俺はきっと三玖が信じてくれると思ってたよ〜」

と言うが、三玖は剣崎の顔を見つめたあとまた顔を赤くしてその顔を手で覆ってしまう。

 

剣崎は内心「あ、あれ?」と思う。そこに二乃からの追撃が入る。

「え〜?その態度は警戒してるってことかな〜?」

それを聞くとすぐさま三玖は先程の口調に戻り、

「してない。二乃の気のせい」

と反論する。そして2人の言い合いが始まる。

「言っとくけど私は裸をみられたんだから!」

「見られて減るようなもんじゃない」

「は〜?あんたはそうでも私は違うの!」

「同じような体でしょ」

その様子を一花は腰に手を当て眺め、五月はあわあわとする。とりあえず五月がすかさず仲裁に入る。

「い、今は、私たちが争ってる場合じゃ...」

 

「五月は黙ってて」

「てかあんたもその写真消しなさいよ」

 

と二乃と三玖に凄まれ完全に怯えてしまい

「裁判長〜」とい一花に泣きつく。一花は「よーしよし、頑張ったねー」と五月をあやす。

 

一花はスマホに映る写真を見ながら二乃に問いかけた。

「まぁどっちの言い分も分からなくはないけど〜、そもそもなんでこんなことになったのかな?」

そう言われた二乃は「うっ」というと返答に困るように目をおよがせる。

 

仕方あるまい。あまり恩着せがましいことはしたくなかったが本当のことを言うしか無さそうだ。

剣崎が「実は...」そこで写真をもう一度見た五月が割って入った。

「これって...まさかフローリングの上で滑った二乃を支えた。

そういう風に見えなくもありませんが」

「そう、そうなんだよ!ありがとう五月!」

剣崎は五月に笑って礼を言う。

五月は少し頬を赤らめると

「お礼を言われる必要はありませんよ。

あくまで可能性の一つを提示したまでです。」

そして五月は「それに」と付け加える。

「困っている上杉さんを見過ごしてはおけませんでしたから」

と五月は優しく微笑む。

 

剣崎はこの写真を撮った本人が五月だということはすっかり忘れて、「五月〜、ありがと〜う」とひっきりなしに頭を下げた。

それを見ていた三玖は

「確かに。やっぱりフータローは優しいね」

と微笑み、一花は

「そもそもフータロー君にそんな度胸はないよねー」

と言ったところで、

「ちょ、ちょっと!

何解決した感じになってんの!?

確かに助けて貰ったのは事実だけど...

私、こいつに体を触られてるんですけど!」

と二乃は納得いかない様子だ。そんな二乃を呆れた目で見ながら、三玖は

 

「二乃、しつこい。それにあなたはフータローに助けてもらったんだからお礼の一つでも言うべき」

と言い放つ。二乃は

「...!!あんたねぇ...」

とイラつきを隠さない。

だが今の三玖の発言はさすがに聞き捨てならない。剣崎は人を助けるのに理由はいらないと思っており、自分が勝手にした行為に礼を強制させようとするのは少し話が違う。

剣崎は少し語調を強めて三玖に注意する。

 

「待ってくれ、三玖。俺はお礼をされたくて助けたんじゃない。ただ目の前で二乃が怪我をするかもしれなかったから助けたんだ。今の発言は撤回してくれ」

 

「!ご、ごめんなさいフータロー。私...そんなつもりじゃなくて...」

 

三玖は申し訳なさそうに剣崎に謝罪する。三玖の顔は目に涙を浮かべている。やってしまった。剣崎はまた自分の不器用さを反省する。そして三玖をどう慰めようか考えている時に一花が声をあげる。

「まぁまぁみんな、1回落ち着こうよ。

それに私たち、昔は仲良し5姉妹だったじゃん」

「...っ」

場の空気が一気に重くなる。とりあえず剣崎は二乃に

「とはいえ、俺の注意不足が招いた事故だ...

本当に...ごめん...」

と謝る。だが二乃は

「昔はって...私は...」

と言い残すと走って部屋を出ていってしまった。

「ま、待ってくれ!」

と叫び、二乃を追おうおする。だが三玖が

「ほっとけばいいよ」

と告げる。剣崎はいくら喧嘩をしていたとはいえ、その言い方は無いんじゃないか。その事を言おうとしたが三玖の悲しそうな顔を見て、とてもそんなことを言う気にはなれなかった。

 

「仕方ない...今日は帰るか...」

ため息をついて、エレベーターに乗り込む。

そこで剣崎の携帯がプルルルと鳴った。こんな時にアンデッドか。そう思った剣崎だが携帯を開くとそれは妹のらいはからのメールだった。

『上杉らいは

お疲れ様!

はーい、ごはんできてるよー

今日はなんとお兄ちゃんの好きなカレーうどんです!』

剣崎はつい微笑んだ。だがその心の中には

『彼女たちはこれでいいんだろうか』という不安が残っていた。

 

だが剣崎は昔のことを思い出す。剣崎は人の不幸を見過ごせない。だからこそ人が触れられたくない所にも首をつっこみ、トラブルになってしまうということが多々あった。それも剣崎の純粋すぎる優しさが引き起こしてしまったことである。そのせいで、剣崎は始や虎太郎などと対立してしまうこともあった。

 

ただ悩んでも仕方ない。剣崎はとりあえず出直すことに決め、エントランスを出ようとして足を止める。

 

なぜならそこにはジャージを着て、体育座りで蹲り、半べそをかいてる二乃がいた。

一瞬の沈黙のあと、二乃は自動ドアに向かって走り出す。だが自動ドアは既に閉じてしまい、開くことは無かった。

二乃は

「チッ、使えないわね」

と剣崎を睨む。剣崎はそこで二乃が鍵も持たず飛び出したはいいものの、中の3人に開けてもらうのもバツが悪い...と考えているのだろうと考えた。

そんな剣崎の視線に気づいた二乃は

「何見てんのよ。あんたの顔なんてもう見たくもないわ」

と剣崎を拒絶する。

だがそこで剣崎の覚悟は決まった。剣崎は二乃の前にどっかりと胡座をかいて座り込んだ。

「な、何よ」

と二乃は怪訝な顔をする。

「みんなバカばっかりで嫌いよ。そもそもあんたみたいな良くもわからない男を招き入れるなんておかしいわ」

 

だがそこで剣崎は優しい声で

 

「二乃は......みんなのことが大好きなんだな」

と微笑む。

「は、はぁっ?!なんで今の会話からそんな流れに...」

「俺さ...」

剣崎が二乃の言葉を遮る。

 

「いや、俺の友達の話なんだけど、その友達...11歳の時に両親を火事で無くしてさ...」

「...!...」

剣崎はまるで自分のことを他人のように語る。まぁ今の体からするとあながち間違いでもないのだが。

剣崎は続ける。

「そいつ、めちゃくちゃ真っ直ぐだけどめちゃくちゃ不器用で、いっつも周りの人間と衝突して...気づけば周りには誰もいなくなってた」

「......」

「そいつは頑張って打ち解けようとするんだけど、結局自分の性格のせいで、他人の大事なところに勝手に踏み込んで...いつも周りから拒絶されてた」

 

剣崎は昔を思い出し、懐かしそうに語る。

 

「でもそんなやつに転機が訪れた。人生で生まれて初めて心を通わせて、本音で語り合うことのできる仲間ができたんだ...」

剣崎は広瀬さんと虎太郎を橘さんを睦月を、そして相川始の姿を脳裏にうかべる。

 

「当たり前だけど、なんの衝突もなく友達になれたわけじゃない。何度も喧嘩したりしたし、お互いに不貞腐れて口も効かなくなったり、時には傷付け合う時もあった」

 

「でも、だから...だから本当にかけがえのない仲間に...『家族』と変わらないくらいの仲になれた」

 

二乃は俺の話を黙って聞いている。

 

「でも、それは...長く続かなかった。

全員と本当に心を通わせてからまもなく、あることが原因で、そいつは仲間たちの目の前を去った」

 

剣崎はあの日のことを...親友のために自身が『人間』であることをやめた日をはっきりと覚えている。

300年以上の年月が経とうと、それだけは忘れる事がなかった。

 

そこで剣崎は二乃の目を見て言う。

 

「確かに喧嘩したり、気に食わないことがあったり、同じ屋根の下で暮らしているなら、いろんな衝突があると思う。

でも、それでも...絶対仲直りをすることだけは忘れないでくれ。

そいつみたいにいつ急に大切な人が目の前からいなくなるか分からない。もしそんな時が訪れるとしたら...その時きっと後悔することになる」

 

「いくら二乃が口に出さなかったり、否定したとしても...俺にはわかる。二乃があの姉妹のことを誰よりも大好きで...誰よりも愛してるって...」

 

剣崎には分かっていた。二乃は誰よりもあの姉妹を愛しているからこそ、自分のような異分子が気に入らないことを。二乃が他の姉妹に向ける愛情は...あの時の自分がかけがえのない仲間たちに向けていたものと、遜色ない。

 

「だから、俺はそんな悲しい思いをお前にして欲しくない。

俺はお前に、いや...君たち5つ子の姉妹に...いつまでも笑顔でいて欲しいと、心から願ってる。」

 

そこまで言い切ると、剣崎は静かに笑う。

 

少しの沈黙が流れる。

 

その沈黙を破り二乃は

「あんた、友達のこととか言ってたけど、随分詳しく知ってるのね。

しかもその友達。なんだかあんたにそっくりね。」

と剣崎に言う。剣崎はギョッとして、「そ、そうかな?ま、まぁ俺もそれなりに仲良かったから」と取り繕う。

二乃は下を向いたまま

「見当違いも甚だしいわ。人のことわかった気になっちゃって。そんなのありえないわ。

キモ」

と剣崎を罵倒する。だが剣崎は何も言い返さない。優しく二乃を見守る。

だがそこで二乃は何かを決めたかのように立ち上がる。

 

「やっぱ決めた。私はあんたを認めない。たとえそれであの子たちに嫌われようとも」

 

ダメだったか。折角の説得も無駄になってしまったと剣崎が諦めたそのとき、目の前の自動ドアが開く。そこには三玖がいた。

三玖は

「二乃、いつまでそこにいるの。早くおいで」

と二乃に言う。

そこで剣崎に存在に気づき

「あ、フータローもいたんだ。ちょうど良かった、明日なんだけど」

と言いかけたところで二乃が割り込む。

「三玖!帰るわよ!」

「でもまだ話が」

「いいから!」

そこまでいうと二乃は黙り込む。そして目を閉じ自身の頬を両手でパンパンと叩くと少し気恥しそうに

 

「さ、さっきは......ご、ごめん」

 

とたどたどしく謝罪した。

三玖は一瞬驚いたような表情をしながらも、

 

「私も...言い過ぎちゃって、ごめんね」

 

と二乃に謝罪の言葉を口にした。

 

そして二乃は三玖の手を取ると、

「さぁ、さっさと行くわよ。こんなとこに座ってたらお尻が痛くなっちゃった」

といつもの調子で言う。三玖は「ちょっ」と言いつつ、手を引かれていく。

だがそこで剣崎を目にした三玖は全てを察したのか

 

『ありがとう、フータロー』

 

と剣崎だけに見えるように声を出さず口だけを動かした。

 

その様子を見届けた剣崎は安心したような顔つきになると、ぐぅぅぅと鳴った腹をおさえ、夕飯のカレーうどんを楽しみにしながら家路についた。




なるべく1日1本以上のペースで更新できるよう努力はしますが、都合上遅くなる時もあります。すみません。

そしてついにお気に入り数が100を超えました!これを励みにもっと頑張っていきます!登録者の皆様本当にありがとうございます!


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第10話:さらば『休日』

今回は一応戦闘はありますが、消化不良で終わります。
すみません。


上杉風太郎という青年の体に生まれ変わって初めての日曜日が来た。今日は丸一日休みだ。剣崎はこの時間がある日曜日だからこそ、家庭教師としての勉強をするいい機会だと思い、基礎復習をしていた。

 

正直今日に至るまでの道のりは長かった。

二乃に自分のことを話した次の日に、家庭教師のために姉妹のマンションを訪れたが二乃には当然のように邪険に扱われた。しかも一花は仕事の埋め合わせ、四葉はバスケ部の手伝いということで席を外しており、また三玖と五月だけにしか教えることが出来ない形になってしまった。

しかもその次の日、その日は家庭教師がオフの日であり久々にゆっくり落ち着いて、基礎復習が出来ると思っていたらアンデッドが現れそれどころではなかった。

まぁ特に苦戦することも無く封印し、♠︎4 TACKLE のラウズカードを手に入れた。

 

結局何やかんやで剣崎の気が休まる日はなく、家庭教師とアンデッドとの戦いを経て今日に至る。

 

「おっと、こんな余計な考え事してる場合じゃない」

と教科書に目を戻す。

「この公式...中々使いやすくていいな。高校の教科書にはないけど教えてみるか。

お、これは中々解きやすい問題。これなら四葉でも出来るはずだ。

ん?ほぅほぅ、あの合戦にはそんな裏話が...

これは三玖にでも話してあげれば喜ぶだろうな」

と次々におもったことをノートに書き留めていく。

「なんか俺...めっちゃ家庭教師してるな」

とキメ顔で自画自賛する剣崎。

っていかんいかん。集中力が続かないのは剣崎の悪い癖である。剣崎は今まで勉強面では努力という努力をしたことがない。今復習しているところも当然のように理解している。だからすぐにほかのことを考えてしまう。

「集中、集中」

自分の頬を両手で叩くと、再度ノートに向き直る。

 

だがそこで玄関からピンポーンというチャイムの音が鳴らされた。

誰だ?剣崎は玄関へと向かう。そこで玄関の扉を開けるとそこにいたのは五月だった。

「上杉さん。おはようございます」

「おはよう、五月。日曜日なのにどうしたんだ?」

「実は、あなたにお渡ししたいものが...」

そこまで言いかけたところで

「ただいまーって、あ!五月さんいらっしゃーい」

とらいはの元気な声が聞こえてきた。

「あら、らいはちゃん。おはようございます」

五月がらいはに返す。剣崎は

「おかえり、らいは。五月もこんな所で立ち話なんてのもあれだし、とりあえず上がりなよ」

と五月を家にあげた。

 

らいはが冷たい麦茶を持ってきてくれたところで3人で四角いテーブルを囲んで座る。

五月は「ありがとうございます、らいはちゃん」と言い、麦茶を口にした。そこで剣崎が口を開く。

「そうだ五月、渡したいものって?」

「それはこれです」

と言うと、五月は鞄の中から『給与』と書かれた茶封筒を取り出してテーブルの上に置く。五月は「父から預かった上杉くんのお給料です」と封筒の中身を告げた。

 

らいはが嬉しそうに剣崎に話しかける。

「すごーい、頑張ったね」

「とは言ってもなぁ、俺は今月は2回しかろくに授業できてないし。期待しない方が...」

と言いかけ、封筒の中身を取り出したところで、手が止まる。そしてその手がわなわなと震え出す。

「一日五千円を5人分。計二回で五万円だそうです」

と告げる。

 

「お母さん、お兄ちゃんがやりました」

らいはが写真の母親に向かい手を合わせる。

「すっげぇ...これなら借金も...」

このペースなら上杉家の借金もすぐに返済できるだろう。そう思った剣崎だが、一瞬何かを考えたあと、封筒にお札を戻すと、

「このお金は受け取れないな」

と言い、封筒を机に置いた。

五月は

「え?」

と間の抜けた声を出す。

「確かに俺は君たちの家に家庭教師として2回訪れた。でも俺はまだ君たちにろくに勉強を教えられちゃいない。」

剣崎は五万円というお金の重みを十分に理解している。剣崎は初めてライダーになってからもよく金欠に苦しめられた。さらに給料を払ってもらえず、銀行の残高が27円になったこともある。

 

しかも剣崎が働いていた仮面ライダーは命をかける仕事だ。だがその割には給料は少なかった。それでも剣崎はその仕事に命をかける価値は十二分にあると感じていた。

 

だが剣崎はこの家庭教師という仕事においてはまだなんの成果も出せていない。それなのにこんな大金を貰うのはおこがましいことだと考えたのだった。

 

だが五月は「そうでしょうか。セクハラしてたじゃないですか」と告げ、らいはは「お兄ちゃん?」と怒ったような顔をで剣崎に詰め寄る。

剣崎は困った顔で、「あの誤解は解けただろ?!」と叫ぶ。

 

だが五月は優しく微笑み

「それに何もしてないなんてことはないと思いますよ。

上杉さんの存在が五人の何かを変え始めています」

と嬉しそうに剣崎に告げる。

「みんな上杉さんに出会ってから、嬉しそうにすることが多くなりました。私には...いや、姉妹のみんなもそれに気づいてきていると思います。

だから返金は受け付けません!どう使おうが上杉さんの自由です!」

と剣崎の返金を突っぱねた。

 

そう強く言われては仕方ない。剣崎は考えるような動作をしたあと

「らいは、何か欲しいものはあるか?」

と妹のらいはに尋ねた。

 

 

 

そして1時間後。

剣崎、らいは、五月は巨大なボウリングのピンのオブジェが屋根に置かれているある大型アミューズメント施設を訪れた。

店内はゲームの筐体の音や、人の声で随分とガヤガヤしている。

「わー!こんなところがあるんだ!」

と目をキラキラとさせる。

「別に五月にここまで付き合ってもらわなくてもよかったのに」

「べ、別に上杉に付き合おうとした訳じゃありません!」

と1時間前のことを思い出す。

 

剣崎に何が欲しいか問われたらいはは

「私、ゲームセンターに行ってみたい!

五月さんももちろん行くよね?

 

ダメ?」

とうるうるとした瞳で五月におねだりするのであった。

 

そして今に至る。

「別に無理する必要は無かったのに」

「あの目を見て断れる人がありますか?

可愛すぎます!」

「それはわかる!」

そんなコントをする剣崎と五月にらいはが

「お兄ちゃん、これやろ!」

と射的ゲームに誘う。

「よし、やるか!お兄ちゃんの腕前を見せてやるぞ〜」

剣崎は腕を回しながら気合十分といった感じだ。

 

10分後

「くそ!もう1回、もう1回だ!」

「お兄ちゃん!もうやめとこ!」

自信満々にゲームを始めた剣崎だったが、景品は1つも落ちていなかった。実は剣崎、射撃はかなり下手である。橘さんに一応は教わったもののこれは完全にセンスの問題だった。兄としての面目が丸つぶれである。

しょんぼりとした剣崎は五月に頭を下げる。

「五月、頼む...俺の代わりに...」

「わ、私ですか?

そう言われてもあんな小さなもの...」

「大丈夫、俺が支えるから」

と剣崎は五月の銃を握る手に、自分の絵を添える。

五月は手を重ねられたことにびっくりしてつい引き金を引いてしまった。

「わぁっ」

「どこ打ってるんだ、五月!」

「あはははは!」

あたふたする2人をらいはが腹を抱えて笑う。

 

その後も3人はエアホッケー、UFOキャッチャーなど様々なゲームを楽しんだ。

「次こっちだよー」

「らいはちゃん。前を見ないと危ないですよ」

小走りするらいはを五月が追いかける。

そんな五月に剣崎は

「なんか悪いな、付き合わせちゃって」

と謝り、言葉を続ける。

「らいはも年頃の女の子だ。きっと沢山やりたいことがあると思う。

それなのにらいははそれを全部我慢して家のことを手伝ってくれる。

だから俺はあの子が望むことを全て叶えてあげようと思ってる。

多分それが俺のやらなきゃいけないことなんだ。」

 

らいはが上杉風太郎という兄のことが大好きだということに剣崎はすぐに気づいていた。

そしてこの上杉風太郎も同様にらいはのことを妹として、大切な家族として愛していたであろうということを。

剣崎は「俺なんかにはできすぎた妹だよ」と頬を掻きながら苦笑した。

「お兄ちゃん、五月さん

最後に3人であれやってみたいな」

らいはが指をさしたのはプリクラだった。

 

剣崎は「よし、やるか!」と随分乗り気だ。

五月から見ても、妹の望みを叶えてあげたいという剣崎の思いに嘘偽りは見えなかった。

 

『モードを選択してね』

と筐体から音が流れる。剣崎はどれを押せばいいかなんて分かるはずもないのでとりあえずプリティモードというのを押した。

『素敵な笑顔でキメちゃお☆

カメラを向いてね』

と筐体から音が流れる。

 

もじもじする五月に剣崎は

『頼む、五月。らいはのためだ』

と目で語りかける。剣崎はらいはの左手を、五月は右手を握る。

『3、2、』

 

「なんかこれ、家族写真みたいだね」

 

『1』

 

パシャっという音と共にシャッターが切られた。

 

らいはが写真にラクガキやスタンプを押して、写真が現像された。

 

そこにはニッコリとしたらいは、そして驚いたような顔をした剣崎と五月が写っていた。

 

「おい!五月!なんだよこの顔!」

「う、上杉さんだって!なんですかこの間抜けな顔!」

と言い合う2人に、

「はい、これ五月さんの分」

とらいはが写真を渡してくる。

五月はなんだかんだ言いながらも

「い、一応受け取っておきます」

と満更では無さそうだ。

 

「お兄ちゃんもありがとう。

これ一生の宝物にするね!」

と満面の笑みで答えた。

 

それを見た剣崎は

「五月、今日は来てくれてありがとな」

と伝えた。

「ただ、日曜日が潰れちゃったな...

でもまだ夜があるか...

五月、お前達も夜は勉強しろよ」

と言う剣崎だったが、五月は少しバツが悪そうな顔をすると

「...あ、わたしはここで...」

と逃げようとする。

「...どうした五月、なんか怪しいぞ。

宿題は出したよな。ちゃんと終わらせたのか?」

「わーっ!ついて来ないでください!」

そこでらいはが

 

「お兄ちゃん、五月さんが4人いる」

と後ろを指さす。五月が4人?!ま、まさかドッペルゲンガーとかいうやつか...?

 

恐る恐る後ろを向いた剣崎の視線の先には

 

 

浴衣を身に纏い、顔のよく似た4人の姉妹がいた。

 

 

三玖は突然の遭遇に驚いたような顔をする。

一花は

「あちゃー、デート中にごめんねー」

と謝り、二乃は

「五月!なんでそいつといるのよ!」

と疑惑の目を向ける。

四葉はらいはに

「わー!上杉さんの妹ちゃんですか?

これから一緒にお祭り行きましょう!」

と誘う。

「お、おい。でもお前達宿題は...」

と言いかけたところで

「お兄ちゃん...ダメ?」

「フータローも一緒に行こ?」

とらいはと三玖が見つめてくる。

 

剣崎は諦めたように

「も、もちろんだ!」

と告げた。

 

「だーけーど、1つだけ条件がある」

 

そして

 

 

「もう花火大会始まっちゃうわよ...

それなのに...

 

なんで私たち家で宿題してんのよ!」

と二乃が文句を言う。剣崎は

「週末なのに宿題終わらせてないからだろ!

だからあれほど計画的にやっておけと言ったのに!」

と言い返す。

「悪いけど片付けるまでお祭りはお預けだ」

と言ったところで剣崎の携帯が鳴る。

そこには剣崎が最も見たくなかったであろう、アンデッドサーチャーが映りアンデッドの居場所を剣崎に知らせるのだった。

 

「ッ!!

みんな、すまん急用が入った!宿題は終わらせたら1箇所にまとめておいてくれ!

用が済んだらすぐら向かうから代わりにらいはを連れて行ってあげてくれ!」

 

と剣崎はバックルを持ったことを確認し、アンデッドの元へ向かおうとする。

みんなは「はーい」と返事し、らいはは「すぐ来てね、お兄ちゃん」と手を振る。

そして玄関まで来たところで、追いかけてきた三玖に「待って!」と呼び止められる。

リビングからは「おっ?」と面白そうなものを見たような一花の声が聞こえた。

 

振り返った剣崎は三玖の不安そうな顔を見る。三玖は小声で

「フータロー、絶対戻ってきてくれるよね?」

三玖は心配して剣崎に聞く。

剣崎は笑って

「安心しろ、三玖。必ずすぐに済ませて向かう。約束だ」

と右手を三玖の頭にのせ、ワシャワシャとその頭を撫でる。三玖は「ひゃう」と思わず声を上げた。

そして三玖の頭から手を離すと剣崎は玄関のドアをあけブルースペイダーが停めてある駐車時へと向かう。

 

三玖は

「フータロー...絶対に...戻ってきてね...」

と1人呟き、リビングへと戻った。

 

だがすぐさま一花は

「どうしたの〜三玖?

なんかやけに焦ってたけど?」

といたずらっぽく聞く。

一花以外の三姉妹もみんな三玖に興味津々だ。だが三玖は落ち着いた声で

「なんでもないよ。早く宿題終わらせちゃお」

と言って座り、再びペンを持った。

 

 

剣崎はアンデッドサーチャーが示す方へと向かう。そしてバイクに乗ったままバックルのレバーを引っ張り

 

「変身!」

 

の掛け声とともに仮面ライダーブレイドへと変身する。

 

そしてたどり着いた公園に♠︎9 ジャガーアンデッドを発見する。

 

剣崎はバイクを降りるとすぐさま右手にブレイラウザーを構え、

「ウェェェェイ!」

と叫び、アンデッドへと突っ込む。

 

だがジャガーアンデッドはその驚異的な脚力を活かし、難なくブレイドの剣戟を躱す。

 

そして縦横無尽に動き回りブレイドを翻弄する。

「クソっ!ちょこまかと!」

ブレイドは剣を振り回すもアンデッドには当たらない。そしてアンデッドはブレイドの背面に回ると、鋭い牙でブレイドに噛み付こうとする。

 

だがそれを読んでいたブレイドは横に転がって回避する。

そしてカードホルダーを展開するとカードを1枚取り出し『THUNDER』のカードをラウズし、切っ先からアンデッドへと電撃を放つ。

 

ジャガーアンデッドはそれをジャンプで避けると、一旦体制を立て直すべく、茂みへと逃げ込んだ。

「待て!」

ブレイドは茂みへと追いかけるがそこにアンデッドの姿はなかった。

 

「クソっ、逃がしたか!」

地団駄を踏むブレイドではあったが、そんなことをしていてもアンデッドが戻ってくる訳では無い。

ブレイドはバックルのレバーを引っ張り、変身を解除する。

 

剣崎はすぐに三玖との約束のために再びバイクに跨る。そして今日はアンデッドはもう現れないでくれと心から願うと、花火大会の開催場所に急いでバイクを走らせた。

 

 




♠︎9 ジャガーアンデッド
壁をも駆け上る驚異的な脚力を持ち、鋭利な牙は鋼鉄さえ噛み砕く。
また、左腕の鉤爪と、右腕に隠したナイフで暗殺者のように獲物を仕留める。


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第11話:剣崎、『奔走』

今回の話にはみんな大好きあのキャラが出てきます。
ちなみに本当にただのネタ要員なので同名の空似だという設定でお願いします。


第11話:

「やっと終わったー!」

「みんなお疲れ様ー」

喜ぶ四葉たちにらいはが労いの言葉を送る。

宿題をやっていなかった5つ子たちはそれを終わらせるとようやく花火大会の開催場所へと来たのだった。

「花火って何時から?」

「19時から20時まで」

「じゃあまだ一時間あるし屋台行こー!!」

姉妹らはそんなやり取りをする。だが五月だけは

『上杉さん...いつになったら来るんでしょう』

と1人浮かない顔をしている。そしてそれに気づいた三玖が優しい声で

「大丈夫だよ、五月。フータローは必ず来るよ。だって...私と約束してくれたもん」

と諭す。五月は

「だといいのですが...」

と不安げだ。

だがそこに

 

「みんなー!遅くなってごめーん!」

 

と剣崎が手を振りながら走ってきた。

 

「あ、フータローさーん!こっちでーす!」

「遅いよ〜、フータロー君!女の子を待たせるのは感心しないぞ〜」

と四葉と一花が笑って手を振る。

「別にあんたなんて来なくてよかったのに...」

と二乃は不服そうだ。

「そう言うなよ、二乃。俺だってめちゃくちゃ走って...」

と言いかけたところで五月が

「上杉さん!」

と剣崎に声をかける。

「もう用事はお済みになったのですか?」

と剣崎に問いかけた。剣崎は「ん?あぁ...まぁ...」と否定も肯定もしない。

「ていうかお前...五月...だよな?」

「?そうですけど?」

「いやごめん...みんな顔似てるし髪型が変わるとどうもな...」

「...!別にどんなヘアスタイルにしようと私の勝手でしょう!」

と五月が怒る。

「女の子が髪型変えたらとりあえずもっと褒めなきゃ。フータロー君て私たちのことちゃんと見てるようで意外と見えてないよね〜」

と一花が剣崎に告げる。

「そ、そうか?」

「そうだよ〜」

と2人のやり取りを三玖は黙って見つめていた。

「あ、そうそう。フータロー君、浴衣は本当に下着を着ないのか興味ない?」

「えっ?!いや、さすがにそれはないだろ!」

焦る剣崎。

「本当にそうかな〜?......

 

...なーんて冗談でーす!どう?少しはドキドキした?」

剣崎はガクッと肩を下ろし

「あんまり人をからかうなよ、一花!」

と一花に文句を言う。剣崎は今まで異性との関わりが少なく、そういうことへの免疫がイマイチ育っていなかった。

 

だがそこで一花のスマホが鳴った。

「一花、いつまでそこにいんの?

はぐれちゃうわよ?」

二乃が一花を心配するが

「ごめーん。ちょっと電話」

と一花はスマホを耳に当て離れていく。

「あれ?どうしたんだ一花。どこかに向かってるのか?」

「別にあんたには関係ないでしょ。

ったく今日は5人で花火を見に来たのに...

本当になんであんたがいんのよ」

散々な言われようだ。

「俺はらいはに頼まれたから来ただけだよ」

とらいはを見る。

 

「らいは。あんまり離れると迷子になっちゃうぞ。ここ掴んでな」

とらいはを袖に掴まらせる。

「あ、そうだお兄ちゃん見てみて!

四葉さんが取ってくれたの!」

と袋に入った大量の金魚を見せてくる。

「おいおい...もうちょい加減できなかったのか?」

「あはは...らいはちゃんを見てると不思議とプレゼントしたくなっちゃいます」

「うん、それは分かるぞ四葉」

四葉の言葉に即同調する剣崎。

「あ、そうだ。これも買ってもらったんだ」

とらいはは花火セットを剣崎に見せる。

「あ、花火セットか」

剣崎は懐かしい思い出に刈られる。昔ハカランダという喫茶店の前で、虎太郎、広瀬さん、そしてその喫茶店を親子で切り盛りする栗原親子と花火をしたのを思い出す。花火を持って楽しそうにする天音ちゃんを始が優しい目で見守っていたことも、もちろん剣崎は忘れていない。

「でも今日花火大会に来たのに...それいるか?」

「だって待ちきれなかったんだもーん」

「まぁ後で時間を見つけてできたらいいな。

それとちゃんと四葉のお姉さんにお礼は言ったか?」

と剣崎はらいはに問いかける。

らいはは

「四葉さんありがと!大好きっ」

と四葉に抱きつく。四葉はきゅんとして

「あ〜んらいはちゃん可愛すぎます。私の妹にしたいです〜

待ってくださいよ...私と上杉さんが結婚すれば合法的に義妹にできるのでは...」

と真剣な顔で考え出す。

「自分で何言ってるか分かってる...?」

と二乃がツッコミを入れる。

 

そしてその矛先が剣崎に向く。

「ちょっと!四葉に変な気起こさないでよ!」

「んなことあるか!」

と言う剣崎だが二乃に迫られバランスを崩してしまう。そして隣にいた三玖に肩を組むような形になってしまう。

「あっ、三玖ごめん。大丈夫か?」

剣崎は三玖から体を離す。

三玖は頬を赤くすると剣崎にしか聞こえないような声で

「だ、大丈夫。それよりフータローこそ大丈夫だった?」

と恐る恐る聞く。そこで剣崎は先程アンデッドと交戦したが逃がしてしまい、アンデッドがまた現れるようならもう一度行かなければならない旨を伝えた。

三玖はまたも心配そうな顔をするも

「そ、そうだよね...フータローは人々を守る仮面ライダーだもん...

だ、大丈夫。心配しないで」

と剣崎に言う。剣崎は安心した顔になると

「しっかし人多いなぁ。これじゃあろくに動けやしない。

これだと花火も落ち着いて見られないぞ...」

だが

「二乃がお店の屋上を借り切ってるからついて行けば大丈夫」

と三玖に言われ、改めてその金持ちぶりに驚く剣崎。

「まぁそれなら大丈夫か。ならさっさと行くか」

「待ちなさい」

と二乃に呼び止められる。

「せっかくお祭りに来たのにアレも買わずに行くわけ?」

「アレ?」

「そういえばアレ買ってない...」

「アレやってる屋台ありましたっけ」

「あ、もしかしてアレの話してる?」

「早くアレ食べたいなー」

 

みんながいうアレとはなんなのか、気になる剣崎。そして5つ子たちは声を揃える。

「せーの...」

 

 

「「「「「かき氷

焼きそば

リンゴ飴

人形焼き

チョコバナナ

!!!!! 」」」」」

 

「...」

「全部買いに行こーっ!」

「お前達本当に5つ子なのか...?」

と疑わしく思う剣崎であった。

 

そして各自が各々の食べたいもののために屋台を回った時。

五月は頬をふくらませ、ぶすっとしている。

「機嫌なおしなよー」

「思い出しても納得がいきません」

「まぁ面白かったし良かったじゃん」

先程の人形焼き屋での記憶が蘇る。

 

 

「へい、いらっしゃい!うちの人形焼きはそんじゃそこらの人形焼きとは人形焼きが違うよ!!見てよし!嗅いでよし!!くってよし!!!さぁ買った買った!」

 

陽気そうな関西訛りの若い店主に五月が注文する。

「すいません。ひとつ頂けますか?」

「へい!300円だよ!毎度あり!」

と15個入り300円で五月に手渡す。

だが問題は次に起きた。一花が注文した時だ。

「すみませ〜ん、私もひとつ下さい!」

と注文する一花。すると店主の若い男は一花の顔を見ると、

「べっぴんさんだねぇ〜!!!はい、サービス!」

と15個入りの袋にギリギリいっぱい詰めて手渡す。

そして

「ついでに俺も持ってって!!」

と一花の手を握ったところに

「こらー!!!」

という声とともに気の強そうな関西訛りの強い女性から店主の顔に小麦粉の袋が投げつけられる。そのせいで店主の顔は真っ白になってしまう。

「み、みち!!」

「何やっとんあんた!!綺麗な人見るとすぐ手ぇだして!!あんたにはガツンと1発言ったらなって前から思っとったんや!!

ちょっと来!了!!」

「ま、待ってくれ!!勘弁してくれ、みち〜!!!」

と耳を引っ張って連れていかれてしまった。

 

剣崎はちょうどその場にいなかったのであとから話を聞いただけなのだが...

なんだかその店主...前に1度どっかで会った気が...

とそんなことを考えた剣崎だった。

 

「複雑な5つ子心...」

「ほらこれ食べて元気だして」

「らいはちゃん!次は輪投げしよっか!」

「わー!らいはD〇欲しい〜」

「あんた達遅い!!」

と思い思いのままに動く姉妹たちに怒る二乃。

「二乃のやつ、いつになく気合入ってるなぁ」

と二乃を見る剣崎。

「それにみんな随分とテンション高いし、花火大会って別に今年だけなわけじゃないだろ」

と不思議に思う剣崎。そこに三玖が静かに告げる。

 

「花火はお母さんとの思い出なんだ...

お母さんが花火が好きだったから毎年揃って見に行ってた。

 

お母さんがいなくなってからも...毎年揃って

私たちにとって花火って、そういうもの」

 

そうか。だから二乃はあんなに...

三玖の話で納得した剣崎。

 

そして張り切る二乃だったが人の波に飲まれかけていた。

「ったく鬱陶しいわね...

あんたたち...ってあれ?四葉と妹ちゃんは...?」

 

そこでスピーカーからアナウンスが入る。

『大変長らくお待たせいたしました。

まもなく開始します。』

 

それを聞いた人々はいっせいに動き始める。

二乃は急に激しく動き始めた人混みの中でもみくちゃになってしまった。

「痛っ、足踏んだのだれよ!

ちょっとみんなどこ!?四葉!一花!五月!三玖!......

 

 

フ...」

 

「大丈夫か?二乃。危ないから掴んでろ」

 

と剣崎が二乃の手を取った。

「何よ...」

「ここじゃあ花火をみるどころの騒ぎじゃない。まず予約した店ってのに向かおう。」

と二乃に提案する剣崎。

「あんたなんかお呼びじゃないわよ」

「ったく...行くぞ、二乃。5人揃って、花火みるんだろ」

 

二乃はそれを聞くと剣崎の手を強く握りしめた。

そして

 

「やっと抜けたわ!

あんたが道を間違えるから遅くなったじゃない」

「だから悪かったって」

2人は何やかんやありながらも予約した店にたどり着く。

 

「ここの屋上よ、きっともうみんな集まってるはずだわ」

と階段を駆け上がる二乃。

「お、おい二乃。走ると危な...」

と言いかけたところで二乃が後ろにバランスを崩す。それを見た剣崎はすぐに二乃を支える体勢をとる

 

 

「「あっ...」」

 

 

そして二乃は、人生で3度目のお姫様抱っこをされながら今年初めての花火を目にすることになった。

 

「だから走ると危ないって言おうとしたのに...」

 

「あ、ありがと...って早く下ろしなさいよ!」

とじたばたする二乃。剣崎は「分かったよ」と言いながら二乃をおろす。

頬を膨らませる二乃だったが誰もいない屋上を見ると、顔を青ざめさせた。

 

「どうしよう...よく考えたら今年のお店の場所、私しか知らない...!」

 

「えっ...」

 

二人の間に沈黙が流れた。

 

だが剣崎は直ぐに踵を返す。

 

「ど、どこ行くのよ」

「決まってるだろ?俺がみんなを探してくるよ」

「べ、別にあんたにそんなことしてもらう義理はないわ!」

「義理はなくても俺がそれをしたいだけさ」

と剣崎はそのまま階段を降りていく。

 

「あんた、格好つけてるけど何か探す目処はたってるの?」

そこで剣崎がピタリと足を止める。そして前を向いたまま首を横にブンブンと降る。

二乃は「はぁ...」とため息をついたあと、1回こっち戻りなさいと剣崎に手招きする。

剣崎はそれに従うと、二乃は人混みの一点を指さす。

そこには一花と思われる後ろ姿があった。

「今ちょうど四葉からメールがあったわ。

らいはちゃんと一緒に時計台にいるそうだから私はその2人を迎えに行く。

だから...あんたに一花は任せたわよ」

と言うと、剣崎はサムズアップして

「任された」

と言うと走って階段を降りていく。

 

その姿を見た二乃は

「何よ...かっこつけちゃって...

それにさっき人に走るななんて言っておいて自分も走ってるじゃない」

と悪態をつくと、四葉とらいはを迎えに行くために自分も動き出した。

 

人混みに再度入った剣崎。だがある程度場所の目処は立っていたためすぐに一花を発見出来た。一花は耳にスマホをあて誰かと話しているようだった。

「後でかけ直します」

一花は電話を切る。

 

「おーい、一花。早く店に行くぞ」

と一花の肩を叩こうとする。そこで何者かが剣崎の伸ばした手を掴み、「君、誰?」と剣崎に問いかけた。

だが剣崎はすぐにもう一方の手でその自分の右腕を掴んだ手を払い飛ばした。

そして臨戦態勢をとる。まさかこいつがあの電話の人物か?そんなことを考える剣崎。

だがその男は剣崎に

「一花ちゃんとどういう関係?」

とさらに質問する。だが剣崎はそれにすぐ答える。

「俺は一花の家庭教師だ。あんたこそ何者だ」

男が口を開こうとする。

 

だがそこに

「フータロー?」

と剣崎に呼びかけ三玖が現れた。だが三玖に気を取られた隙に男と一花は姿を消した。

「あれ...あいつどこに...

てか三玖!よかったよ見つかって」

「うん、フータロー背高くて目立つから...」

「そうだ!一花を追いかける!付いてきてくれ!」

「あ、待って!

痛っ」

その声に気づき剣崎は三玖の方を振り向く。よくみると三玖の足の甲が青くなっていた。

「三玖、その足...」

「足踏まれちゃって...フータローは先に行ってて」

という三玖。だが剣崎は三玖に背を向けてしゃがみ出す。

「フ、フータロー?」

「歩くの大変だろ?乗ってくれ、三玖」

剣崎は三玖をおんぶしようとした。三玖は一瞬驚いたような顔をした。

「ほ、ほんとにいいの?」

「あぁ、もちろんさ」

そう言われた三玖は幸せそうに微笑むと剣崎の背中に乗った。

「三玖、一花は見えるか?」

「一花...?見えないけど...

まさかこのまま追いかけるつもり?」

「あぁ、でもその前に」

というと剣崎は三玖を背負ったまま歩きだす。そして一旦人混みを抜けると側にあった階段に三玖を座らせる。そして三玖に「少し待っててくれ」というとちょうど近くにあった薬局で包帯を買ってきた。

「三玖、1回草履脱がすぞ」

と三玖の足を触る。三玖は「あっ...」と湿った声を漏らす。

「い、痛かったか?」

「ううん、だ、大丈夫」

そう言われたので剣崎は三玖の足に手早く包帯を巻く。これもライダー研修時代の応急処置訓練の賜物だった。

「これで少しはマシになったか?」

「う、うん。ありがと...フータロー...」

というと三玖は俯いてしまう。三玖は先程自分の足に直に剣崎が触れた感覚を思い出し、体が火照ってしまう。

「どうした、三玖?どこかまだ痛むのか?」

「え!いや、もう大丈夫だよ...本当に大丈夫」

危なかった。もしこんなことがバレたらフータローに気持ち悪がられてしまうかも...だが三玖は首をブンブンと横に振って思考をリセットしようとする。

 

そして剣崎が三玖の隣に腰をおろす。

剣崎に三玖は問いかける。

「そ、それで...一花を見かけたのは本当?」

「あぁ...俺に気づいたはずなんだけど髭のおっさんとどこかに行ってしまった」

剣崎はおもいだす。というかあの髭のおっさん、なんかどこかで見たことがある気がするんだけどなぁ...

 

とりあえず三玖にまず色々と聞くか。

「三玖、あの二人の関係に心当たりはあるか?」

「ううん、あっ...

前に一花が髭の人の車からでてきたの見たかも...」

「おいおいそれって...なんかアヤシイ関係だったりしないだろうな

まぁ今はそれはいいとして、花火が終わるまであと40分...

 

このままだと5人集まる前に花火が終わってしまうかもしれない」

剣崎は歯噛みする。三玖はそんな剣崎に尋ねる。

「どうしてフータローはそんなに私たちのことを心配してくれるの?

私たちってただの家庭教師と生徒だよ?」

「どうしてって...これは二乃にも話したんだけど、お前達5人にいつまでも笑っていて欲しいからだよ。

それにお前達5人の思い出を今年で途切れさせたくないんだ」

剣崎笑う。そして笑顔のまま「ちょっとクサイかもしれないけど俺本当にそう願ってるからさ」と告げる。

 

三玖は視線を落とす。そして

 

「そうなんだ...二乃にも、同じ話したんだ...

あ、いや!なんでもない、なんでもないよ...やっぱりフータローはみんなに優しいんだね...」

 

私...今何を言ったんだろう。別にフータローが姉妹の誰と話そうが、私が気にすることじゃない。

気にすることじゃないのに...

 

 

 

今の胸が締め付けられるようなこの苦しい気持ちは...

一体何...?

 

 

この時から三玖の心にとても小さい黒い何かが巣食い始める。

そしてその小ささ故に三玖自身もそのことににきづいていない。

 

そしてそんなことを知る由もない剣崎は三玖に

「歩けそうか、三玖?まだキツそうならもう一度俺がおぶるけど」

と言い手を伸ばす。三玖はそんな剣崎を見て優しく笑うと

「大丈夫、歩けるよ。フータロー」

そう言って剣崎の手を取る。さぁ一花を探しに行こうと歩き始めたその時若い女性2人組が2人に話しかける。

「すみません、花火大会に来られた方にアンケートをしているのですが...」

「すみません、今急いでいて...」

「答えていただけた方には100円分の割引券を差し上げていて...」

剣崎の動きがピタッと止まる。

「1つだけでいいので!」

ま、まぁ1つだけなら、そう思った剣崎は答えることにする。

「お二人はどのようなご関係ですか?」

2人は固まる。

だが2人組の片割れが

「そこはいいでしょ、この2人はカップルに決まってるじゃん」

ともう片方に告げる。

剣崎は「い、いやカップルではなくて、えーと」と的確な答えを考える。

 

 

だが三玖はたとたどしく、だがそれでもハッキリと聞こえる声で

 

 

 

「この人は...フータローは私を守ってくれる...

 

ヒーローみたいな存在です...」

 

 

と頬を赤く染めながら答えた。

 

2人組は「おおっ」と色めきだった声をあげると「ありがとうございました〜」といい、剣崎に割引券を渡して去っていった。

 

二人の間に沈黙が流れる。そこで剣崎がその沈黙を破ろうとしたが、その沈黙を破ったのは剣崎の携帯が受信した、

 

アンデッドサーチャーの音だった。

 

 

剣崎は

「み、三玖、おれ...」とアンデッドの所に行く旨を伝えるが

三玖は

「大丈夫、分かってる。フータローはヒーローだもん。行ってきて」

と優しい微笑を浮かべながら答える。

三玖は信じていた。剣崎なら必ず怪物を倒してすぐに戻ってきてくれると。だから今の三玖に迷いはない。

 

剣崎は一瞬呆気にとられたが、すぐに安心したような顔をすると「五月と合流して予約された店に向かってくれ」とだけ言い、サーチャーが示す場所へと走り出す。

 

 

そして運のいいことに、アンデッドが出現した場所と一直線の場所にブルースペイダーを停めていたのだ。

剣崎はブルースペイダーに乗り、アンデッドがいる場所を目指す。

 

 

そしてそこにたどり着くがそこには人っ子一人いない。一瞬サーチャーの故障を疑った。

 

だが剣崎はすぐに横に飛び退いた。その瞬間ジャガーアンデットが先程剣崎がたっていた場所を抉るように攻撃した。先程剣崎が倒し損ねたジャガーアンデッドは剣崎を暗殺しようと身を潜めていたがそれは失敗に終わった。

アンデッドはもう一度剣崎に飛びかかる。

 

だが剣崎はバックルを既に腰に装着していた。

そして

 

「変身!」

TURN UP

 

という叫び声のあとにオリハルコンエレメントが現れ、剣崎に飛び掛ったアンデッドを弾き飛ばす。

 

そして剣崎はオリハルコンエレメントに突っ込みそれをくぐると変身を完了させた。

 

だがジャガーアンデットは自慢の脚力を使ってブレイドをまたも翻弄する。

だがさっきと違い剣崎は落ち着いていた。

 

ブレイラウザーのカードホルダーを展開するとカードを取り出しラウズする。

 

BEAT

 

という電子音がなる。

 

だがその動作を隙と見たアンデッドはブレイドに飛びかかる。

しかしそれはブレイドの思った通りの行動だった。ブレイドはアンデッドの飛びかかる軌道を落ち着いて確認すると、『BEAT』のラウズカードによって強化された拳を勢いよくアンデッドの土手っ腹に叩き込んだ。

 

「グゲァ!!」

 

アンデッドはとっさの反撃に何が起きたかわからず昏倒する。

 

アンデッドを吹き飛ばしたブレイドはもう一度カードホルダーを展開し、二枚のカードを取り出し、1枚ずつラウズする

 

KICK

THUNDER

《ライトニングブラスト》

 

 

「ウェェェェイ!!!」

 

電子音とともにブレイドは一連の動作を決めると、昏倒するアンデッドにエネルギーが濃縮された右足を叩きつける。

 

アンデッドはまたも吹き飛ぶと爆発をあげた。そしてアンデッドバックルが二つに割れる。

 

ブレイドは倒れたアンデッドにブランクカードを投げる。ブランクカードには

 

MACH

 

と刻まれた。

 

戦闘が終わったブレイドは変身を解除する。

オリハルコンエレメントをもう一度くぐりその姿は仮面ライダーから上杉風太郎の姿へと戻った。

 

剣崎はバイクに跨るともう一度花火大会の場所へと向かう。

 

 

 

会場に戻った剣崎はバイクを降りる。幸い花火はまだ打ち上がっている。今すぐ一花を探さなくては。そう思った彼に後ろから声をかけた人物がいた。

「フータロー君」

「!? 一...ムグッ」

と剣崎はいきなり現れた一花に口を塞がれる。

「フータロー君...さっきのことは秘密にしておいて。

 

私はみんなと一緒に花火を見られない」

 

一花は微笑を浮かべながら剣崎にそう告げた。




本当は1話で花火回終わらせようと思ったのですが、さすがに厳しかったです...

あと一花が言っていた「さっきのこと」とは、剣崎が一花と一緒にいたヒゲの男に出会ったことです。

次回に続きます。


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第12話:花火と『笑顔』

またひとつご報告があります。
この『五等分の運命』の1話を投稿して約1週間ほどですがお気に入り数が200を突破しました!

私自身も驚きを隠せません。この作品を読んでくれている皆さん、本当にありがとうございます!


「遅い...フータロー大丈夫かな」

三玖はアンデッドを倒しに行って一向に帰ってこない剣崎を心配していた。

鏡に映る自分を見つめる三玖。そこで先程の一花の言葉を思い出す。

『女の子が髪型変えたらとりあえずほめなきゃ』

 

もしかしたら剣崎が褒めてくれるかも。

と考えた三玖は長い髪を後ろで纏めた。

 

 

そして人のいない路地で剣崎を捕まえた一花は

「急なお仕事頼まれちゃって

だから花火は見に行けない。

ほら同じ顔だし一人くらいいなくても気づかないよ」

と一花は頭を掻きながら言う。

「それはさすがに無理があるだろ」

「あっ、ごめんね...人待たせてるから」

「おい!一花、待ってくれ。せめてちゃんと説明してくれ」

「なんで?

なんでお節介焼いてくれるの?

私たちの家庭教師だから?

 

それにフータロー君も...

何か私たちに言えないことがあるよね?」

 

「ッ!

そ、それは...」

言葉に困る剣崎。

「じゃあ、そういうことだから...」

とこの場を去ろうとくる一花。

だが

「あ、やば」

と言い路地から出かけたところで身を引いた。

路地を出たところに先程一花を連れだした髭の男がいた。

「あの人仕事仲間なの、ほら前に怪物に襲われた時...」

 

そこで剣崎は「あぁ」と納得したように思い出す。以前ひげの男と一花がアンデッドに襲われ、そのアンデッドを倒したあと剣崎が救急車を呼んだことをだ。

「お前を探してるんじゃないか?」

髭の男は妙にキョロキョロして何かを探すように歩いている。

そして男はこちらに向かってくる。

「大変!こっち来た!

どうしよう...仕事抜け出してきたから怒られちゃう!」

「え!?そんなこと言われたって...

あ、奥から逃げれば...」

「あー!もう間に合わないよ!」

と焦る一花は自身の背中を壁につけ剣崎を抱き寄せた。

ひげの男は路地を見る。だがそこには抱きしめ合う男女。

男は路地の入口に「よっこいしょ」と言いながら腰を下ろす。

よりによってそこに座るのか。これでは迂闊に出られない。そんなことを考える剣崎を一花はさらに引き寄せる。

「おい、一花...いつまでこうしてるんだ?」

「ごめん、もう少し」

おいおい、少し近すぎるぞ...そう汗を流す剣崎に一花は問いかける。

 

「私たち、傍から見たら恋人に見えるのかな?」

「え?いや...どうだろう」

色恋沙汰には相変わらず疎い剣崎に一花は続ける。

「本当は友達なのに悪いことしてるみたい」

「...俺らって友達なのか?」

「えっ、

えっーと...さすがにハグだけで友達超えちゃうのはさすがに早いかなー...」

と頬をかく一花。剣崎は慌てて弁明する。

「い、いやそうじゃなくてさ。一花は俺の事友達だと思ってくれてたのか?」

そんなこと言われた一花は「え?そうだけど、違うの?」と驚いたように声を上げる。

 

「いや、俺さ...小さい時あんまり友達とかいたことなくて...やっと友達っていう友達ができた時にはちょっと色々事情があって、直ぐに離れ離れになっちゃったんだよ」

 

一花は意外そうな顔をする。

剣崎みたいな優しくて素直な人に友達がいないなんてこと、信じられなかった。

 

「それって、引越しとか?」

「え、ま、まぁそんなとこかな」

と剣崎ははぐらかす。

「だけど」と剣崎は続ける。

 

「俺今、一花が俺の事友達って言ってくれて、ちょっと嬉しかったんだ。

こんな俺みたいなやつでも、また友達ができるなんて思わなかったから」

剣崎は苦笑する。

 

一花はそんな剣崎の嬉しそうで、それでいてどこか寂しげな瞳を見つめた。

 

一花はそんな剣崎の瞳の奥──目の前にいる『上杉風太郎』という男のことをもっと知りたいと思うようになった。

そして一花は

 

「決まってるじゃん、私、フータロー君のことが好きだから...」

「え?」

そこで一花はハッとして、顔を赤くしながら

「も、もちろん友達としてだよ!」

と取り繕う。だがそんなことに気づかない剣崎は

「ありがとう、一花」

と太陽のように一花に微笑む。一花はそんな剣崎の笑顔を見て、自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

 

そこに路地の出口にいるひげの男の

「もしもし...

少しトラブルがあって...撮影の際は大丈夫ですので...」

という会話を聞く。

「撮影?それじゃあ一花の仕事って...」

「実はあの人カメラマンなの。

私はそこで働かせてもらってる」

「あぁ、カメラアシスタントか」

剣崎はまた懐かしい感覚に駆られる。

思い出したのは栗原親子のことを幸せそうに微笑みながら撮る、

自分の親友-『相川始』のことだった。

 

「いい仕事じゃないか。

また今度写真を撮ることがあったら俺にも見せてよ」

一花は少し申し訳なさそうな顔をした後にいう。

「...うん

良い画像が撮れるよう試行錯誤する。今はそれが何より楽しいんだ」

 

「でも学生のこの時期でそこまで仕事にかまけてて大丈夫か?進学のこともあるし勉強をすることも大切な仕事だと思うけどなぁ」

「じゃあフータロー君はなんのために勉強してるの?」

「俺か?別に俺は勉強っていう勉強はしたことないけど...今のお前達のために中学校のことからやり直してはいるけどな」

 

「それは私たちのためなの?お金のためとかじゃなくて?」

 

剣崎は笑いながら「そりゃ最初はお金のためだったよ」と言いながら続ける。

 

「それでもお前達の家庭教師をしているうちに、俺はお前達5人皆で笑いながら卒業して欲しいって思うようになったんだ。

それに俺はそれだけこの仕事に価値というか、やりがいみたいなものを感じてるんだ」

 

そう言ったところで路地の出口から

「一花ちゃん!やっと見つけた!」

という声がした。とうとう見つかってしまったか。諦めかけた剣崎だがどうも様子がおかしい。

「こんなところで何やってんの!

言い訳は後で聞くから早く走って!」

 

そう言いながら男に手を引かれていたのは

髪を後ろに束ねた三玖だった。

「三玖!?もしかして私と間違えて...」

一花が驚きの声をあげる。

「とにかく追うぞ!」

と剣崎と一花は男と三玖を追いかける。

 

そして剣崎は素早い身のこなしで人の波を交わすと、三玖の手を引く男の前に回り込む。そして三玖の手を掴む男の手を払うと、三玖を自分の方に引き寄せる。

「......っ」

三玖は突然のことに動揺している。

男は驚き

「また君か!君はこの子のなんなんだ!」

と剣崎に怒鳴る。

 

だが剣崎は男を見据えて言う。

 

 

 

「俺はこの子のヒーローだ、返してもらうぞ」

 

 

剣崎は三玖の手を握りながらいう。

それを聞いた三玖は先程の自分の言葉を思いだし、顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 

だがそんなことはお構い無しにと男は続ける。

「何を訳の分からないことを!」

「よく見てくれ!こいつは一花じゃない!」

「その顔は見間違え用がない!

さぁ早く......

 

うちの大切な若手女優を離しなさい!」

 

ん?何を言ってるんだこいつ?剣崎は一瞬頭が真っ白になる。だが剣崎の閃きは早かった。

「まさかカメラで撮るって...撮られる側の方ただったのか?一花」

一花は俯いたまま首を縦に降った。

 

だがそんな剣崎を他所に、男はすぐさま一花を連れていこうとする。

「行こう、一花ちゃん」

「待て!まだ話は...」

「止めないでくれ。人違いをしてしまったのは本当にすまなかったね。でも一花ちゃんはこれから大事なオーディションがあるんだ。

時間もない。

 

これも一花ちゃんの夢のためなんだ、分かってくれるね。」

 

だが剣崎は

「いや、俺はまだ納得してない。一花と2人で話したいことがある」

とあくまで男の言う通りにする気は無い。

「頼む!このオーディションは一花ちゃんの人生を左右するものになるかもしれないんだ!分かってくれ」

 

「なら俺がその会場まで一花を送り届ける。アンタは先に行っていてくれ」

剣崎に譲る気は無い。

 

「そ、そんなこと認められるわけが...」

という男を一花が手を伸ばし遮る。

「お願いです。私にあと少しだけ時間をください。必ず時間は守ります。」

と男に懇願する。男は少し黙ったあと剣崎に尋ねる。

「本当に一花ちゃんを時間通りに送り届けてくれるんだね?」

「あぁ。必ず時間は守る。約束する」

男は諦めたようにため息をつくと、「ならいいだろう」といい剣崎にオーディション場所の住所が書かれたメモを手渡し、先に会場に向かった。

 

「よし」と頷く剣崎。そんな剣崎に三玖が

「フータロー...足これ以上無理っぽい。一花をお願い」

と一花のことを任せる。しまった、と剣崎は歯噛みする。一花のことを考えすぎるあまり怪我をしていた三玖にまで頭が回らなかった。

「お願いフータロー、一花とちゃんと話してあげて。

私は...私は大丈夫だから」

と微笑みながら剣崎に告げる。

 

そしてそこに予想外の人物が現れる。

「ふっふっふ、どうやらお困りのようですね...」

そいつは特徴的なリボンをぴょこぴょことさせる。

「っ!お...お前は!ちょうど良かった、三玖を頼む!一花、来てくれ!」

「ちょっ、フータロー君!」

剣崎はその予想外の人物に三玖を預けると一花の手を引いて走り出す。

 

 

 

そして自分のバイクを停めた場所まで一花を連れてきた。

「ハァハァ...ちょっとフータロー君!いきなり走り出すからビックリしちゃったよ!」

「ごめん一花、でも今はこうするしかなかった」

「でもまぁ今はいいや。それでフータロー君、話したいことって何?」

一花はいつもの調子で剣崎に尋ねる。

 

「一花、お前の本心を聞かせてくれ。

お前は今どうしたいんだ?毎年みんなで見ていた花火を見れなくなったとしてもそれは叶えたい夢なのか?」

 

「私の...本心...?

そんなの1つだよ。女優になるって夢、叶えたいよ」

 

「嘘だな」

 

「ほ、本当だよ!?」

 

慌てる一花に剣崎は尚も続ける。

 

「お前が本当にそう思っていたとしても、どうも俺にはそういう風に見えないんだ。

お前はいつも大事なところで自分の本心を隠そうとする。

俺には分かるぞ。お前は...

 

まだ心の奥底から笑えてない」

 

誰よりも人の笑顔を見るために戦ってきた男には分かる。剣崎は言葉を紡いでいく。

 

「いつもそうやって余裕のあるふりばかりして、自分の心を悟られまいと隠している。

聞かせてくれ、なんで俺とあのオッサンから隠れてた時、かすかに震えてたんだ?」

 

「べ、別に震えてなんかない!

それに、それにフータロー君だって私たちに何か隠してることあるでしょ!私にだってそれくらいは分かってる...

それなのに私だけに本当のこと話せなんて...そんなの不公平だよ!」

 

いつもの余裕はどこへやら、一花は叫ぶ。

 

「じゃあ、俺の秘密を教えるなら...

お前は本当の思いを話してくれるんだな?」

 

剣崎は一花に問いかける。

 

「え?ま、まぁそれなら...」

「約束だぞ?」

「う、うん。いいよ、約束してあげる」

 

そこで剣崎は周りに自分と一花だけしかいないことを確認すると、

「一花、見ててくれ。これが俺の秘密だ」

というと、バックルに♠︎Aを装填し、腰に装着させる。

そして

 

 

 

「変身」

TURN UP

 

 

 

電子音とともに青い光の壁-オリハルコンエレメントが現れる。剣崎はそれにゆっくりと近づく。

その様子を一花は固唾を呑んで見守る。

そして剣崎がオリハルコンエレメントに接触し、くぐり抜ける。そこに剣崎の姿はなく、

 

街を守る謎のヒーロー

 

 

『仮面ライダー』がそこにはいた。

 

 

 

一花は声が出なかった。否、出せなかった。目の前に映るそれはあまりにも非現実的な光景すぎた。

 

そして変身したブレイドは一花の方を振り返ると、「他のみんなには言うなよ」というと再度バックルのレバーを引っ張る。

するとまたどこからともなく青い光の壁が現れ、仮面ライダーの体を自動で通り抜ける。

 

その姿は元の人間の姿-上杉風太郎の姿に戻っていた。

 

「う、そ...フータロー君が仮面ライダー...?

じゃああの時助けてくれたのも、フータロー君...?」

一花はようやく口を開く。1度一花は剣崎が仮面ライダーではないかと疑った時があった。だがその時はそんなことあるはずないと勝手に1人で納得していた。

だが今目の前に映るその光景はその疑いが正しかったことを如実に表していた。

 

「あぁ、これが俺の秘密だ...とは言ってもそれのほんの一つだ。ほかの秘密はどうしても今言うことが出来ない。許してくれ」

と謝罪する。

だが一花はその謝罪をきくと、納得したような顔で

 

「......この仕事を初めてやっと長女として胸を張れるようになれると思ったの」

と約束通り剣崎に本心を語り出す。

 

「1人前になるまであの子たちには言わないって決めてたから...花火の約束あるのに最後まで言えずに黙ってきちゃった。

これでオーディション落ちたら...みんなに合わす顔がないよ...」

そして悲しげな顔で空に打ち上がる花火を見ながら「花火大会...終わっちゃうね」と呟く。

するといつもの調子に戻り

 

「それにしてもフータロー君が仮面ライダーだったなんて、正直めちゃくちゃビックリしちゃった。それにフータロー君...私の細かい所まで意外と見えてたんだね」

と素直に驚いた様子だ。

 

だが剣崎は

「いや、俺はそんな些細なところに気づけてたわけじゃない。

ただ本当に...一花の笑顔がみんなと違うなってことだけだ。」

と正直に告げる。剣崎はさらに続ける。

 

「一花。お前が夢に向かって走り続けるなら俺はそれを止めやしない。そりゃ勉強もきちんとやってはもらうけど俺は自分の出来る限りで、お前の夢を応援する。

そして俺はお前達姉妹みんなに笑っていて欲しい。悲しいことや辛いことがあっても最後には笑っていて欲しいんだ。

それも貼り付けた『仮面』みたいな笑顔じゃなくて、

 

心からの笑顔でさ」

 

と剣崎は心からの笑顔で一花にそう告げた。

 

 

その時一花の中である『感情』が生まれた。

それは今まで一花が姉妹に向けていたものと似ているようでまったく違う。

 

そして一花はその『感情』をこの世生まれて初めて持った。

この『感情』は...

 

そして一花はその感情の名前に気づく。

そうだ、そうだ。これは『恋』。

 

じゃあこの感情は誰に向けたもの?

その答えは一花のすぐ目の前にある。

 

一花に心からの笑顔で笑いかける、上杉風太郎に。

 

 

 

『私は...フータロー君のことが...』

 

 

 

 

「おーい?どうした一花?早く乗りなよ」

ハッとする一花。

 

そこにはヘルメットを被りバイクにまたがる剣崎がいた。

そして剣崎は一花に予備のヘルメットを手渡す。それを被った一花は前のように、

 

『仮面ライダー』に助けられた、あの日のように剣崎の後ろに座り、腰に手を回しその大きな背中に張り付く。

 

「というか、フータロー君。あの時も私に嘘ついたんだ。お姉さんショックだな〜」

「あ...ってそれは今どうでもいいだろ!

ったくちゃんと捕まってろよ、一花。

さぁ、 飛ばすぞ!」

というと剣崎はアクセルを捻る。

 

 

そして時が少し時間が経ちオーディション会場。

 

「では最後の...中野一花さん」

「はい、よろしくお願いします。」

 

「卒業おめでとう。」

審査員が台本を読み上げる。

一花それに台本通り答えていく。

 

「先生、今までありがとう」

 

 

上手く笑えてるかな。あぁ...こんな時みんなはどうやって笑うんだろう。

 

四葉なら。三玖なら。五月なら。二乃なら。

 

そして一花は思い出す。

彼の笑顔を。

 

自分が今や恋心を抱いてしまった、彼の眩しい位の笑顔を。

 

そうだ。彼ならきっと...こんな風に...

 

「先生。

あなたが先生でよかった。あなたの生徒でよかった。」

 

それはまるで上杉風太郎、いや剣崎一真が見せる、心からの笑顔だった。

 

 

剣崎はオーディション会場の外で、一花が戻るのを待っていた。

 

そこに一花とあのヒゲ男が現れた。

「どうだった?一花」

「うーん、どうだろ」

そんなやり取りをする2人にヒゲ男が告げる。

「どうも何も最高の演技だった。

私は問題なく受かったと見ている。

まさか...一花ちゃんがあんな表情を出せるとは思わなかったが...

それを引き出したのは恐らく君だ。」

「いや、俺なんてなにもしてないよ」

「どうだかね...私も個人的に君に興味が湧いてきたよ」

と色っぽい動作で剣崎を舐めまわすように見るヒゲ男。剣崎は背筋が凍りつくような感覚に襲われた。

「あ、そうだ!用事終わったなら一花を返して貰うぞ!」

というと、一花をまたバイクに乗せる。

「ま、待ちたまえ!どこへ行くんだ!」

というヒゲ男を無視し、剣崎は一花を乗せて走り出した。

 

一花はバイクを運転する剣崎に尋ねる。

「ちょっと、フータロー君!

なんでそんなに急いでるの?」

「秘密だ!」

「なにそれまた秘密?」

「大丈夫だ!すぐ分かるから」

と剣崎は目的地向け、バイクを走らせる。

そしてバイクを目的地の近くの駐車場に止めると目的地まで歩き出す。

 

「みんな怒ってるよね...花火を見られなかったこと、謝らなくちゃ」

「どうだかな...でも花火を諦めるのはまだ早いと思うぞ」

そして2人は公園にたどり着く。

 

そこで4姉妹達が花火をしていた。

そんな2人に気づいた四葉が

「あ、一花に上杉さん」

と声をかける。

「打ち上げ花火と比べると質素なもんだけど、なかなかこういうのも風情があっていいだろ?」

「......!」

一花は驚きの表情を隠さない。

「上杉さん、準備万端です!

我慢できずにおっ始めちゃいました」

 

時は一花のオーディション中に溯る。

らいはと三玖と一緒にいた四葉。そんな時らいはの子供用携帯が鳴った。

「もしもーし、あれお兄ちゃん?どうしたの?」

「もしもし、らいは。そこに四葉はいるか?いるなら代わってくれないか?」

「四葉さん?いるよ、今から代わるね」

 

「......もしもし、上杉さん?お電話代わりました四葉です!」

「四葉か。お前あの時らいはに買ってあげた花火まだ持ってるよな?」

「あ、あの花火ですか?もちろん持ってますよ」

「そうか!なら会場近くの公園で俺たちだけで花火大会をしないか?」

「私たちだけ、のですか?あっ!まさか一花のために...」

「察しが良くて助かったよ。じゃあ俺は一花が戻ってきたらそっちに向かうよ」

「了解です、上杉さん!一花をお願いしますね!」

「あぁ、任せとけ」

 

 

そして時は現在に戻る。

「四葉、お前が花火を買ってくれてたおかげだ。助かったよ、ありがとう」

「ししし、もっと感謝してくれちゃっていいんですよ?上杉さん!」

四葉は白い歯を見せてにっこり笑う。

 

「上杉さん!大丈夫でしたか?」

「あぁ大丈夫だよ五月。特にトラブルとかはなかったさ」

 

「ちょっと!あんた!なんか一花に変なこととかしてないでしょうね!」

「二乃!というかそんなことしてないし、そんなことする余裕も無かったよ!」

と返す剣崎。

「とにかくアンタには一言言わなきゃ気が済まないわ!

 

お!つ!か!れ!」

「お、おう。お疲れ」

 

「五月...」

「一花も花火しましょうよ

三玖、そこにある花火持ってきてください」

「うん...」

線香花火をしていた三玖。そして三玖はちらりと剣崎の方を見る。剣崎の顔を見るとまた顔が火照ってしまい、頬を赤くする三玖。

「フ、フータロー...こ、これ...フータローの分の花火...」

「三玖ありがとう。今日はごめんな。色々と迷惑かけちゃって」

「ううん、だ、大丈夫」

 

「なんか妙に仲良くありません?この2人」

怪訝そうな目で2人を見る五月。

 

そこで

「みんな!ごめん!」

と一花が頭を下げた。

「私の勝手でこんなことになっちゃって...

本当にごめんね」

「一花、そんなに謝らなくても」

と五月が言うも、二乃側って入る。

「全くよ。なんで連絡くれなかったのよ。今回の原因の一端はあんたにあるわ。

でも...

 

目的地を伝え忘れてた私も悪い」

 

「私は自分の方向音痴さに嫌気がさしました...」

「私も今回は失敗ばかり」

「よくわかりませんが私も悪かったということで!屋台ばかり見てしまったので」

姉妹達は5人揃って反省する。

 

「みんな...」

「はい、あんたの分」

二乃が一花に花火を手渡す。

そして五月がそんな様子を見て言う。

「昔...お母さんがよく言ってましたね

 

誰かの失敗は五人で乗り越えること。

誰かの幸せは五人で分かち合うこと。

 

喜びも、悲しみも、怒りも、慈しみも、

 

 

 

私たち全員で、『五等分』ですから」

 

 

 

姉妹達は楽しそうに笑いながら、そして一花も心から笑いながら花火を楽しんでいる。

らいはは一日中遊んだせいで疲れて寝ていた。

 

剣崎は今日のことを思い出す。

朝からゲームセンターに行って、花火大会に行って、アンデッドと戦って、また花火。

この体になってから最も多忙な1日だった。

 

だが剣崎は満足だった。いまの姉妹達はみんなが心から笑えている。それだけで剣崎は満たされた。そして彼女らの楽しそうな顔を見ていると、やはり今の自分の家庭教師という仕事に巡り会えたことが幸せであったと思う。

 

 

そして剣崎はこんな幸せな日々をもう一度送れることが何よりも嬉しくて、

 

 

 

 

この日々がいつ急に終わりを告げるのか、それがずっと気がかりだった。

 

いつの間にか花火セットの花火は残り5本になっていた。

「最後はこれでしょー」

「これに決めた!」

「これが一番好き」

「私はこれがいいです」

「これが楽しかったなー」

 

「「「「「せーの」」」」」

 

二乃、四葉、五月は自分たちが望んだ花火を取る。

 

だが一花と三玖は、同じ線香花火を取ろうとしていた。

「あは、珍しいね。私はこっちでいいよ

それは譲れないんでしょう?」

一花は三玖に線香花火を譲る。

 

三玖はまたあの時の光景を思い出す。

 

『俺がこの子のヒーローだ』

 

三玖は剣崎との思い出に1ページが増えたことが何よりも嬉しかった。

 

「三玖!線香花火より派手な方が面白いよ!」

「私はこれがいい」

「へーそんなに好きなんだー」

 

三玖は剣崎との思い出を脳裏に甦らせる。

 

トラックに轢かれかけた自分を助けてくれたこと。

君だけを守ると抱きしめてくれた彼が仮面ライダーだと知ったこと。

おぶってくれて、足に包帯をまいてくれたこと。

私のヒーローだといってくれたこと。

 

三玖はそれら全てを線香花火の火花を見て思い出す。そして

「うん、大好き」

と静かに答えた。

 

 

花火を終えた一花は剣崎の元へと歩き出す。

 

だが剣崎はベンチに座ったまま目を瞑り、すーすーと寝息を立てていた。

 

そんな寝顔を見て一花は剣崎の隣に座る。

そしてゆっくりと剣崎を横にするとその頭を自分の膝の上に載せる。

 

 

「頑張ったね。

ありがとう。

今日はおやすみ。

 

 

 

私の『仮面ライダー』」

 

と静かに誰にも聞こえない声で言うと、すやすやと気持ちよさそうに眠る剣崎の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ある病院〜

「旦那様。バックルとラウザーの開発及び調整が終わりました」

「やっと終わったかい、江端」

「はい、全て滞りなく」

「本当にブレイド――上杉風太郎君には頭が上がらないね。正直2回の授業で5万円などでは足りないくらいだよ」

「しかし実戦調整がまだ...」

「安心してくれ、江端。

これは私が試そう」

 

そう言うと男は蜘蛛が描かれたカード

♣︎A スパイダーアンデッドが封印されたカードをレンゲルバックルに装填する。

そしてラウズカードが入ったレンゲルバックルは自動で男の腰に装着される。

 

 

 

「変身」

OPEN UP

 

 

電子音と共に紫色の光の壁-スピリチアエレメントが出現する。

スピリチアエレメントは自動で男に迫りその姿を壮麗かつ禍々しき姿

 

 

 

『仮面ライダーレンゲル』へと変身させた。

「おぉ...」

男は感嘆の声を上げる。

 

だがそんな男の脳内にカードに封印されたスパイダーアンデッドが語りかける。

『俺を受け入れろ、俺の力を...』

「黙れ」

 

そう男が冷たく呟くとその声はしなくなった。

「所詮カテゴリーAとはいえこの程度か...江端、融合係数は?」

「はい、旦那様。現在の融合係数は...1052です。初変身でこれはかなり高い数値化かと」

「いや、これではまだ足りない。それに私ではこれ以上この力を引き出しきるのは難しいだろう。それにまだ完全な適合者は現れていない。現状、これは私が使うしかなさそうだ」

 

そう言うと男はレンゲルバックルの開かれた扉を閉じ変身を解除する。

 

パソコンを見る。そこには『適合可能者リスト』と書かれた表があった。

そこにはあらゆる人間の名前が羅列されている。

 

そしてそこには

『中野一花』

『中野二乃』

『中野三玖』

『中野四葉』

『中野五月』

 

と五つ子たちの名前も書かれていた。

 

 

 

 

 

剣崎や五つ子たちの知らないところで、新しき『運命』が動き始めていた。




今まででこの12話が1番書くのが大変でした。一花の説得のところは原作と同じオーディションの練習にしようか迷いましたが少しでも『仮面ライダー』感を出そうと思い、このような形にしました。

そして一花も三玖もまだ『自分以外の人間は風太郎が仮面ライダーだということを知らないと思っている』ということを頭の片隅に置いておいて頂ければ幸いです。

そして次回は完全にオリジナル内容でやります。
話が少し動きつつ、いつもよりはかなり重い展開になってしまうことをご了承ください。苦手な方はご注意ください。

今後も応援よろしくお願いします。


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第13話:動き出す『蜘蛛』

今回はかなり重い内容になります。
原作ファンの方には不快に思われる方もいるかもしれません。閲覧される方は十分注意してください。


そして前回のように前編後編の2部で展開する予定です、ご了承ください。

あとボアタックルが当たります


「ハッ!」

ブレイドは剣を振るう。

ブレイドは♠︎7 トリロバイトアンデッドと交戦していた。普段朝起きる40分前に携帯が鳴り目を覚ますとアンデッドサーチャーが反応していた。そしてそれを見たブレイドは急いでサーチャーの示す場所に向かった。

ブレイドが来た時には、既にアンデッドが暴れていたからか近くには人は誰もいない。

 

ブレイドは一旦距離を取ると、カードをラウズする。

 

TACKLE

 

ブレイドはカードにより突進力を強化し、アンデッドに体当たりをかます。

 

アンデッドはその体当たりをもろに受け吹き飛ぶ。

 

そしてカードホルダーを展開し、『KICK』と

『THUNDER』のカードを取り出しトドメをさそうとする。

 

 

 

REMOTE

 

 

そう電子音がなると剣崎の手に持っていたカードに紫色の光が当てられる。

カードを離してしまうブレイド。

そのカードから急にアンデッドが復活し、ブレイドへと襲いかかった。

 

「なに!リモートだと!?」

 

剣崎はこの能力を知っていた。

『REMOTE』それは♣︎10 テイピアアンデッドが封印されたラウズカード。

その能力はラウズすることにより、ラウズカードに封印されたアンデッドを解放して使用者の意のままに操る、恐ろしい能力である

 

そしてそれは剣崎の元いた世界では、仮面ライダーレンゲルが持っていたラウズカードである。

睦月や桐生といったレンゲルの変身者はこのリモートを使い、剣崎や橘を幾度となく苦しめた。

 

そのカードの力が今使われたのだ。

剣崎は驚きのあまり、解放されたローカストアンデッドとディアーアンデッドに接近を許してしまい苦戦を余儀なくされた。

 

だが

 

「下がれ」

 

 

と機械で変えたかのような不自然な低い声の後、解放されたアンデッドは急に大人しくなるとブレイドへの攻撃を中止し、どこかへと去っていく。

どうやらトリロバイトアンデッドも復活したアンデッドに襲われるブレイドの隙を見て離脱したようだ。

 

 

そして剣崎の前に声の主は現れた。

 

 

 

『最強』の仮面ライダー、

 

 

『仮面ライダーレンゲル』がブレイドの前に立った。

 

 

「レ、レンゲル!?なぜこいつが!?」

 

「久しぶりだね、上杉風太郎君。

いきなり質問するようで悪いがなぜ君がレンゲルのことを?」

 

「黙れ!誰なんだお前は!?何故この世界にアンデッドがいる?何故俺がライダーシステムを持っている?そして...」

 

何故俺をこの世界に呼び出した?

ブレイドはそう告げようとしたところで「待ちたまえ」

とレンゲルに止められる。

 

「今はそれらの質問に答えるときではない。

今の君にやってもらいたいことは1つ。

 

 

アンデッドから彼女たちを守り抜くことだ」

 

 

「彼女たち?まさか五月たち、五つ子のことか?」

 

「そうだ。今の君の役目は彼女らを守り抜くことだ」

 

「なぜお前がそんなことを?」

 

「今それを話すときではない。

それに彼女たちを守らなくても構わないさ。

 

 

その代わり彼女たちには痛い目を見てもらうことになるがね」

 

とレンゲルは加工した抑揚のない声で続けたあと、

「何故君がレンゲルを知っていたかということについては保留しておく。それではまた会おう。上杉風太郎君」

 

と言い残し去ろうとする。

 

「待て!俺の質問に答えろ!!」

 

飛びかかるブレイド。だがそれをレンゲルは右手に持っていた杖状の槍-醒杖レンゲルラウザーの一振で吹き飛ばした。

 

「ぐあっ!」

 

もろにその一撃を受けたブレイドは直ぐに体制をたてなおす。

だがそこにはレンゲルの姿はなかった。

 

「くそっ!何なんだ...なんで俺は...」

 

 

この世界に来た?その疑問に答える者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

剣崎はあの後、変身を解除すると一度自宅に帰り鞄を取るとそのまま学校へ向かった。

 

だがその時も剣崎の頭の中は、いきなり現れたレンゲルのことでいっぱいだった。

 

あいつは何者だ?あいつは何を知っている?

あいつがアンデッドを?

 

あいつがこの世界に俺を?

 

そんなことを考えながら剣崎は歩き続ける。

 

それに今のブレイドは『KICK』と『THUNDER』というコンボを使えるカードの2枚を失ったことで、弱体化していた。

 

この状況でアンデッドに、ましてや正体も分からぬあのレンゲルが襲って来た場合、勝てるのか。

 

 

剣崎は考え続ける。

 

俺はなんでこの世界にきたんだ

 

「......ー......くーん」

 

あのレンゲルは一体誰なんだ

 

「......くん?」

 

 

 

それに五つ子たちを守れ?訳が分からない...一体どうしてあいつはそんなこ...

 

「ちょっと!聞いてるの!フータロー君!」

「えっ?」

 

ハッとなる剣崎。その横には頬をふくらませる一花がいた。

 

「もうどうしたの?フータロー君。

なんかすごい悩んでるように見えたけど」

「い、いや。大丈夫だ、心配しないでくれ」

 

「本当に大丈夫?顔色悪いよ?まさかモンスターと戦ってる時に怪我でもしちゃった?」

「平気だ。気にするな...」

 

「うそ。絶対なんか怪しい。何があったか話してみ...」

 

「大丈夫だって言ってるだろ!」

 

いつもの優しい口調とは違い怒鳴る剣崎に一花はたじろぐ。

そして困ったような笑みを浮かべて

「ご、ごめんね...そ、そうだよね。言いたくないことの一つや二つくらい誰にだってあるってフータロー君言ってたもんね。わ、私先行ってるから!」

 

「あ、ま、待ってくれ、一花!」

そう叫ぶも既に時遅し。一花は走って先に行ってしまった。

 

ただ、今の剣崎に自分の行いを反省する余裕はなかった。今も彼の頭は未知に対する不安で埋め尽くされている。

 

剣崎は重い足を引きずりながら登校した。

 

結局授業には一切身が入らなかった。

まぁ元からあまり授業は聞いていなかった剣崎だが、今日は尚更だった。

授業中に指名されてもそれに気付かず、問題の答えを言えと言われても全く見当違いのことを言う剣崎。

何やかんやあり今や5時間目だ。

 

そんな明らかにおかしい剣崎を見て、クラスメイトたちは勝手なことを話し始める。

「今日の上杉君なんかヤバくない?」

「あぁ、なんか様子が変だぞ」

「これはもしや恋の悩みでは?」

「そういえば前、上杉が中野姉妹の3番目と一緒に歩いているところを見たぞ」

「あっ、私花火大会で上杉君が一花さんと一緒に走ってるところ見たよ!」

 

見当違いな憶測が飛び交う教室。

 

そんな中、五月は1人いつもと違い暗い様子の剣崎を見て、

『一体どうしたんでしょう、上杉さん...

まさか本当に...恋の悩み...?』

 

そして社会科担当の学年主任の頭の毛の薄い教師が生徒達を注意したその時、携帯のピピピピというアラーム音が教室に鳴り響いた。

 

「誰だ!授業中は電源を切っておけと言ってるだろう!」

 

だがある生徒が怒る教師を見向きもせず、教室の外へ走り出した。

 

それは剣崎だった。いきなり教室を飛び出した剣崎を教室が大声で呼び止める

 

「お、おい!待て、上杉!お前点数が高いからと言って授業放棄は許さんぞ!」

 

だがそんなことは剣崎はそんなことは聞こえていないと言った様子だ。

 

彼は一心不乱に走る。

 

そして明らかに顔に余裕が無い剣崎を隣のクラスの三玖が教室のドアに付いている窓越しにみていた。

 

『フータロー...?』

 

 

だが今の剣崎には誰の声も届かない。

それだけ今の剣崎には心の余裕がなかった。

 

 

新しく動き始めた『運命』

 

 

それに飲み込まれて行くかのように...

 

 

そして剣崎は校門を出て、サーチャーの示す場所...街の大型ショッピングモールに向かう。

 

今の剣崎にブルースペイダーはない。剣崎はただひたすらに走り続ける。

 

 

 

そしてショッピングモールの店外、人通りの多い歩道の真ん中に明らかに人とは思えない異形-ディアーアンデッドが手に持った剣を振り回し大暴れしていた。

 

近くにいた警察官達がアンデッドに発砲するも効果はなく、アンデッドが放った電撃に打たれてしまった。

 

雄叫びを上げるアンデッド。

 

 

 

そこに仮面ライダーブレイドが飛びかかった。

 

「ウェアアアア!!!」

 

ブレイドは型も何も無いといった様子でとにかくブレイラウザーを振り回してアンデッドを追い詰める。その猛攻にアンデッドはたじろぐ。

ブレイドの嵐のような連撃に得意の電撃攻撃すらできないアンデッド。そしてブレイドはアンデッドのガードが甘くなった足にブレイラウザーを叩き込む。

体勢を崩し転ぶアンデッド。そんなアンデッドにブレイドはひたすら剣を振り下ろし続ける。

 

いつもならどこからともなく現れ、敵を颯爽と倒していく街のヒーロー、『仮面ライダー』。

 

だが今回はいつもと違う。まるで理性のタガが外れた狂戦士のようにブレイドは、地面に突っ伏し反撃すらできないアンデッドに右手の剣を叩き込み続ける。

 

アンデッドバックルは既に割れていた。

それでもブレイドは剣を振るい続ける。

 

 

 

新しき『運命』から目を逸らすかのように。

 

アンデッドは不死の生物であり、倒しきることは不可能である。だからアンデッドを無力化する際はカードに封印するという方法をとる。だが今のブレイドはそんなことを忘れていた。

 

何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!

 

なんで俺はここにいるんだ!

なぜジョーカーとなり戦い続けていた俺がここにいる!

どうして俺はこの青年に乗り移ったんだ!

 

 

 

頼む、頼む...誰か答えてくれ。

 

 

 

そして何度剣を叩き込んだのか分からなくなったころ、ブレイドは肩で息をしながら思い出したかのように封印のカードをアンデッドに落とすように手から離した。

 

アンデッドはカードに吸い込まれ、『THUNDER』と刻まれたカードは再びブレイドの手元に戻っていく。

 

そしてブレイドは人混みから離れるように歩き始めた。

いつもなら民衆は、好奇心から追いかけたりその仮面の裏の顔を知ろうとしただろう。

 

だが今行われた一方的な蹂躙を目にした民衆にそんなことを考える人間はいなかった。

 

 

だがその人混みから少し離れた場所で、その様子を見守っていた金髪の男、

 

 

 

 

『上杉 勇也』は悲しみと怒りが混ざったような顔をすると、

 

 

「すまねぇ、風太郎...」

 

 

と呟くとその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

そしてブレイドは人がいない路地裏に入り込むとそこで変身を解除し、地面に倒れるように座り込んだ。

 

「俺は...俺はこれからどうすればいいんだ」

 

 

レンゲルが現れたことにより、この世界にやっと慣れてきた剣崎の日常は脆くも崩れ去った。

 

 

『これから俺はどこに行けばいい』

 

剣崎は恐ろしい『何か』が動き始めたことを悟っていた。そして剣崎はその『何か』に自分が近しい人間、

 

 

らいはや五つ子たちを巻き込みたくなかった。

 

 

目を瞑る剣崎。

そして剣崎の中である決心が生まれる。

この件には彼女らを巻き込みたくない。

 

なら俺がやることは一つ。

 

剣崎はある人物に電話をかけた。

何度か頭を下げながら通話をする剣崎。

そして通話が終わる。

 

これでもう心残りはない。そう思い立ちあがろうとする剣崎に

 

 

「フー...タロー...君」

 

と声がかけられた。

 

顔を上げるとそこには一花がいた。

 

 

「なんで、こんな所にいるの?」

「一花こそ、なんで...学校に行ったんじゃなかったのか?」

「えっと...それは...」

 

実は一花は先程のことがショックで学校に行こうとは思ったが、どうにもそんな気になれずサボってしまった。そこで行くあてもなく街をさまよっているとショッピングモールの前でアンデッドを倒すブレイドを見た。

 

そのことを正直に伝えて謝ろうとする一花。

 

だがそんな一花を、剣崎の言葉が遮った。

 

「まぁちょうどいい。一花と、姉妹みんなに伝えなきゃいけないことがある」

 

真剣な顔つきの剣崎。その真剣な顔に一花は何かイヤなものを覚える。

 

「まずは一花、さっきは酷い言い方してごめん」

とペコリと頭を下げる剣崎。

「それはもういいの。それで...みんなに伝えないといけないことって?」

恐る恐る尋ねる一花。

 

 

少しの沈黙の後、剣崎は意を決したように口を開く。

 

 

 

「俺は...お前達の家庭教師を下りることにした」

 

 

 

 

 

「............え?」

 

 

一花の目からハイライトが消え失せる。

 

 

 

「悪いけど俺はもうお前達の家庭教師を続けられない。急にこんな無責任なことしてごめん。他の姉妹にも伝えておいてくれ、じゃあ俺行くから」

 

そう一花に謝り、この場を立ち去ろうとする剣崎。

 

だが一花は半狂乱の状態で剣崎に縋り付く。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!

いきなり家庭教師をやめるってどういうこと?!まさか私が今日先に行っちゃったから!?」

 

剣崎の服をグイグイと引っ張り訴えかける一花。だが剣崎は口を開かない。

 

「なんで黙ってるの!答えてよ...答えてよ!

それにそんなこと急に言っても、お義父さんが許してくれるわけが...」

 

「お前達の親父さんには、もう許可は取ってある」

 

「え...?」

 

「なんでこんな急に、とは聞かれたけど理由は言わなかった。だけど親父さんも了承してくれたし、親父さんに俺なんかよりもっと良い家庭教師を付けてあげるよう言っておいたさ。

 

そういうわけだ。本当にごめん。」

 

 

「なんで...なんでよ...

折角フータロー君と分かり合えたと思ったのに...こんなの自分勝手だよ!」

 

叫ぶ一花。そしてその目からは涙がこぼれ落ちる。

 

だが剣崎はそんな一花に冷たく言い放った。

 

「ならそう思ってくれて構わない。

お前達は...俺のそばにいちゃダメだ」

 

そういうと剣崎は尚もワイシャツにしがみつく一花を振り払うと、走りだした。

 

 

「ま、待って!待ってよ、フータロー君!

なんで...なんで...私たちに笑って卒業して欲しいって、私たちにずっと笑っていて欲しいって言ったのに...

 

 

......嘘つき...」

 

1人残された一花はそう呟くと、路地裏から出てマンションへと幽鬼のような足取で帰り始めた。

 

 

 

そして剣崎は最後の仕事として、らいはに電話をかける。

 

「もしもし、らいはか?」

「あ、もしもし。お兄ちゃん?どうしたの」

 

そして剣崎はらいはに、自分に緊急のバイトが入ってしまい家に少しの間帰れなくなったことを伝えた。

 

らいはは何やら文句を言っていたものの、剣崎はとにかく「頼む、わかってくれ」と繰り返し、とうとうらいはも折れてしまった。

 

「用事が済んだら早く帰ってきてね。

約束だよ、お兄ちゃん」

 

「あぁ、約束だ」

 

剣崎は電話を切る。

 

 

 

これで思い残すことはない。

彼女らを守ることだけなら、別に家庭教師を続けなくともできる。

それにまだ自分にはわかっていないことが多すぎる。それらを調べるのに、家庭教師という仕事は足枷になる。

 

剣崎は今自分がやっている『家庭教師』という仕事が好きだった。

目の前の5つ子達が笑顔になってくれるのが嬉しかった。

 

だからこそ彼女らの笑顔を守るために自分が彼女たちと近すぎる場所にいるのは良くない。

 

「『運命』に巻き込まれるのは、俺だけで十分だ...」

 

そう呟くと剣崎はどこへ行くわけでもなく歩き始めた。

 

 

そして中野姉妹が住むマンション。

 

その部屋の中はかなり険悪なムードになっていた。

 

「ったく家庭教師が聞いて呆れるわ!

いきなり学校の授業を抜け出すなんて、それ家庭教師以前に学生としてアウトじゃないの!」

二乃は随分とイライラしている。

 

「でもどうしたんでしょう、上杉さん...

何か今日は、いつもと違う感じだったというか...」

と心配そうな五月。

 

「それに今日の家庭教師にも来てくれてないし、本当にどうしちゃったんでしょう」

四葉は不思議そうな顔をする。

 

「フータロー...どうしたんだろう...」

三玖も心配そうな顔を隠せない。

 

 

 

そんな所に、部屋のチャイムがなった。

 

五月が鍵を開けると、そこには目の光を失った一花がいた。

 

玄関に入った一花は力なく倒れ込む。

 

「一花!?どうしたんですか、一花!」

と五月は一花に呼びかける。

その騒ぎを聞いてリビングにいた、二乃、三玖、四葉の三人も玄関に集まる。

 

そして全員集まったところで一花がいつもとは比べ物にならないくらい弱々しい声で

 

 

 

 

「フータロー君...家庭教師、やめちゃった...」

 

 

 

 

と姉妹たちに伝えた。

 

場の空気が一瞬にして凍りつく。

 

誰も口を開くことが出来ない。

 

 

 

そして三玖が何も言わずに走り出そうと玄関のドアへと向かう。

 

だがそんな三玖の腕を四葉が掴む。

 

「ちょっと三玖!靴も履かずにどこ行こうとしてるの!?」

 

「フータローを探しに行く。あって直接話を聞く。時間はない...四葉、離して」

四葉は三玖に気圧されてしまう。

だが四葉は

「落ち着いて、三玖!

それにまずは一花から話を聞こうよ」

 

すると五月が一花の背中を擦りながら

「何があったのですか?一花」

と一花に話を聞こうとする。

 

一花の目は真っ赤になっており、泣いたことは火を見るより明らかだった。

 

そして一花は昼に剣崎にあったことを話した。

 

 

二乃、四葉、五月はそれぞれ考え込んでいた。

 

だが一花と三玖は剣崎が消えた理由に多少の目処はついていた。

 

2人は剣崎がライダーであることを知っている。そして剣崎がいなくなった理由も、何となくライダーに関わることだろうと。

 

「とりあえず一旦リビングに戻って、そこで話し合いましょう」

 

五月は内心とても困惑していた。だがとりあえず話し合わなければ事態は動かないと思っていた。

 

二乃と四葉はフラフラになった一花を立たせると、五人でリビングに向かう。

 

そして一花を座らせると、ほかの四人も腰を下ろす。

 

 

「い、一花!上杉さんが家庭教師やめちゃったって...」

「私にもはっきりとしたことはよく分からない...でも今日の彼、何か辛そうだった...」

 

そこで五月は思い出す。今日の何をするにしても上の空な剣崎のことを。彼は自分の勉強はあまりしないにしても学校の授業はきちんと受けていた。

 

はっきりいって誰の目から見ても今日の彼は異常だった。

 

 

でも自分たちが今何をすべきなのか、五月にはそれが全く分からなかった。

 

話し合いでは主に2つの意見が出た。

 

三玖は今すぐ剣崎を探しに行くべきだと主張した。

 

それに対し二乃はなんの情報もない今、下手に動くべきではないと返す。

 

議論は平行線をたどる。

 

 

「だ!か!ら!今動いてもアイツがどこにいるかわかんないのに探しようも無いでしょうが!!」

 

「ならいい。私は一人で行く」

 

「どうしてあなたがアイツのためにそこまでするのよ!」

 

「......二乃には関係ない」

 

 

もはや今の三玖に冷静な判断力はない。

あの時四葉が止めていなければ裸足のまま街を駆け回っていたに違いない。

 

四葉と五月には今の2人を諌めることも出来ず、一花はずっと蹲って動かない。

 

いつもなら一花は自分が長女らしくあるために、他の姉妹を纏めようとする。

 

だが今の一花にはそれをする余裕なんて欠片ほども残されていなかった。

剣崎に振り払われた、あの感触。それを思い出す度彼女は大切な人からの『拒絶』されたことへの絶望から震え出す。

 

「そう思うなら二乃はここで待っていればいい、私は行く」

と三玖はスマホなどをいそいそと用意し、肩がけのバッグに詰め始める。

 

「...! そう、なら勝手にしなさい。

別に三玖がすることを私が止める義務はないわ」

 

「に、二乃!待ってください!それに三玖も少しは落ち着いて...」

 

「五月、うるさい。別に私がどこに行こうがあなたには関係ない」

 

「......!

三玖!あんた少しは言葉を選びなさいよ!

五月はあんたのこと心配して...」

 

「悪いけど今の私は、彼のこと以外に注意を払えるほどの余裕はない。

じゃあ私、行くから」

 

三玖はいつもより冷たく、より無機質にそう言い放つと玄関へと向かいドアを開けて外に出た。

そして剣崎を探すために街へと走り出す。

 

そして三玖が部屋からいなくなったことで流れた沈黙を二乃が破る。

 

「ったく...何なのよ!なんでこんなことになっちゃったのよ!」

 

二乃は叫ぶ。もちろん二乃だって剣崎のことは心配だし、探しに行きたい気持ちで一杯だった。

だがいつも姉妹の諍いを宥めている一花がこの様では、今この場を冷静に纏めるのは次女である自分の役目。

 

そんな責任感が二乃の気持ちを邪魔した。

 

「わ、私、三玖を探しに行く!」

 

そういい玄関に向かう四葉に二乃がまた叫ぶ。

 

「ちょっ、ちょっと四葉!あんたが今行ってどうなるのよ!」

 

「それはそうだけど、やっぱり私たち姉妹だもん!ほっとけないよ!」

そういうと四葉も三玖を探すために玄関を出た。

 

再びの沈黙。そして部屋に残された一花がいつもとは比べ物にならない弱々しい声で

 

「私のせいだ...私がこんなことになるなんて考えずに、フータロー君のこと言っちゃったから...

私のせいで...私のせいでみんながバラバラになっちゃった...

 

私、長女失格だなぁ...」

 

と自分を責め出す。

 

「そ、そんな!一花はいつも私たちのことを纏めてくれました!一花は何も悪くありません!

だから、だから...

 

そんなに自分を責めないで...」

 

そういって五月も泣き出してしまう。

いつも他の姉妹に助けられてばかりで、一人では何も出来ない自分が情けなくて。

 

「何よ...本当に何なのよ...

何もかも全部...アイツのせいじゃない...」

 

 

『俺は君たち姉妹に...いつまでも笑顔でいて欲しい』

 

二乃はあの日、鍵を忘れてマンションに入れなくなった自分にかけてくれたあの言葉を思い出す。

 

あの優しい太陽のような笑顔。それを思い出すと胸が苦しくなる。

 

 

 

 

いつも何をするのも一緒だった仲良し姉妹達の輪に、ヒビが入りかけていた。




♠︎7 トリロバイトアンデッド

カテゴリー7に分類される三葉虫の祖たる不死生物。
水棲のアンデッドで獲物を捕食する際には陸上に上がって左腕の爪と左肩の二本角を手裏剣にして投げつける。


前回姉妹達が絆を深めたばかりなのにこのような展開になってしまい申し訳ありません。次回で一旦解決させます。



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第14話:研ぎ澄まされた『勇気』

前回と内容は繋がっています。


そして今回の戦闘パートは「変身」した時に仮面ライダー剣の挿入歌『覚醒』を脳内で流しながら読んでいただけると嬉しいです(笑)


剣崎はどこかにいた。

そこがどこかは分からない。右を見ても左を見ても真っ白で何も無い世界が広がっている。

「どこだ...ここ」

その空間を歩き始める剣崎。だがそこには何も無い。ただ虚無だけが際限なく広がる。

 

だがそこに『誰か』が現れた。これは誰なのか。その『誰か』を見るが全身にはモヤのようなものかかかっている。

 

「誰だ、アンタは?」

 

剣崎は尋ねる。

その『人らしき』者は何も答えない。

 

「誰なんだアンタ一体!答えてくれ!」

 

 

そしてその時剣崎の意識が急に遠のいた。

 

 

 

 

 

 

「待ってくれ...アンタはだれ......

 

ハッ!!.........夢か」

剣崎は目を覚ます。

どうやら寝てしまっていたようだ。

時計を見る。時刻は午前2時。

 

剣崎は一花を振り払ったあと、何か情報や『仮面ライダーレンゲル』の目撃情報がないか聞いて回った。

だが有力な情報はひとつも得られず、『仮面ライダー』を見たという人がいてもそれは昼間に自分が変身していたブレイドのことであった。

 

結局剣崎は何も分からないまま夜の1時過ぎまで街をさまよい続けたどり着いた広場のベンチで少しだけ寝てしまった。

 

しかも今の自分の着ている服は学校指定の制服である。もし仮に警察などに見つかってしまえば補導は免れないだろう。そうなった場合非常に面倒なことになる。

 

そうだ、服を買えばいいじゃないか。なにか安いシャツの1枚でもと思い財布を見るがそこに入っていたのは50円玉と10円玉が1枚ずつ、一円玉が5、6枚ほどだった。

 

剣崎のお腹がぐぅぅぅと音を立てる。

何せ今日は朝からアンデッドを倒しにいき、そこでレンゲルと接触ししたあと『リモート』で解放されたアンデッドを再度封印し、レンゲルの謎を調べるために街を歩いた。

 

つまり今日は何も口にしていなかったのだ。

アンデッドになっていた時は食料などは必要としなかった。なにせアンデッドは不死の生物である。食べ物を食べて味を感じることはあれど、食事はそもそも必要なかった。

 

だが今の剣崎は普通の人間の高校生である。

人間である以上どうしようもなく腹は減る。

 

「はぁ...」

 

空腹を他所に昼に自分が一花にしたことを思い出す。

 

「何やってんだ...おれ」

 

あの時は心に余裕がなく、彼女の心を考えている暇はなかった。だがある程度落ち着いた今になって先程の自分の行動を振り返る。

あの時の一花の絶望した顔が脳裏に蘇る。

 

笑顔でいて欲しいと口では言いながら、あんな行動をした自分を殴りたくなる。

 

だがそこで自分を殴っても事態が好転するわけでもない。

 

剣崎は再びベンチに寝転がり、額に腕をのせる。今自分は何をするべきか、彼にはその答えが出せなかった。

 

 

 

 

4時間ほど前

 

「ただいまー...」

「四葉!それで三玖は見つかったのですか?」

「ううん、どこにもいなかった...」

「そうですか...」

 

四葉はいつになく落ち込んでいる。結局あのあと何度も三玖に電話をかけたが繋がることはなかった。

 

「一花と二乃は?」

「二乃は寝るといってそのまま部屋に行ってしまい、一花も何も言わずに部屋に...」

「そうなんだ...」

 

五月はなんでこんなことになってしまったのだろうと考える。だが答えは簡単だった。

 

剣崎がこの姉妹の中でそれだけ大切な存在になってしまっていたからである。

 

彼女らは剣崎の優しさに、笑顔に、純粋さに、そして不器用さに知らず知らずのうちに惹かれていた。

 

 

 

そして自室に入った一花は、足の踏み場もないくらい汚い部屋の中のベッドの上で、涙も枯れ果てた目で天井を見つめていた。

 

彼女は剣崎に対する思いの正体-『恋』にいち早く気づいていた。

さらに彼女は直接剣崎から家庭教師をやめると聞かされ、拒絶されてしまった。

 

この二つはいくら長女らしく振る舞うとはいえ、中身は普通の高校生の少女の心に大きな傷を負わせるのは簡単なことだった。

 

 

「フータロー君...会いたいよ...」

 

誰にも届かない手を虚空に伸ばす、一花。

そして彼女は諦めたかのように手を下ろすと泣いて真っ赤になった目を閉じた。

 

 

 

 

 

時を戻す。

 

五つ子の三女、中野三玖は剣崎に会うために東町を奔走していた。

 

だが何時間も探し回ったがどこにもその姿は見あらなかった。

 

「どこ...どこにいるのフータロー」

 

彼女はまだ花火大会で負った足の怪我がまだ治り切っていない。それなのにもかかわらず彼女は走り続けた。

 

自分の『ヒーロー』を探すために。

会ってちゃんと話をして、またいつもみたいな笑顔で笑って家庭教師をしてくれることを。

 

だがそんな彼女の願いを裏切るかのように剣崎の姿は見当たらなかった。

道行く人に目付きの悪く黒髪で背の高い男子高校生がいるか聞き回ったものの、誰もが知らないという様子だった。

 

もともと三玖は身体能力が低く体力もない。

 

半日以上街を歩き回った彼女の足は悲鳴をあげていた。怪我の鈍い痛みが自分の足の限界を伝える。

そして彼女はとうとう力尽きたどり着いた広場のベンチに座り込んだ。

 

空を見上げる三玖。月にはまるで自分の心を表すかのように雲がかかっている。

 

彼女は自分の無力を嘆いた。

あの時、自分を守ってくれた剣崎を支えていこうと決めたのに、今の自分は何もできずにベンチに座り込んでいる。

 

三玖には分かる。今剣崎は誰よりも悩んでいて誰よりも辛いはず。そんな時にそばにいてやれない自分が腹立たしかった。

 

「私...やっぱりフータローがいないと何も出来ないんだ...」

 

今の三玖の気持ちは、『彼に会いたい』、それだけだった。

だが現実は非常である。今の彼女の気持ちを嘲笑うかのように辺りは静かだ。

 

『もう帰ろう、そして何もかも忘れよう』

 

そう諦め、ガクガクと生まれたての小鹿のように立ち上がる。

 

そして広場を出ようとしたその時、

 

三玖は目にした。

 

 

ベンチに寝転がり、額に腕をのせる男の姿を

 

 

 

今自分が最も会いたくてたまらない『上杉風太郎』の姿を。

 

彼女は半ば無意識のうちに走り出した。

さっきの弱々しい足取りはどこへやら、

さながら目の前にお宝を見つけた海賊のように一目散に剣崎のもとへ走り出す。

 

 

 

「フータロー...!!!」

 

「......えっ!三玖!?」

 

剣崎は驚いて飛び起きる。そこには昨日まで自分の生徒だった、中野姉妹の三女

 

『中野三玖』の姿があった。

 

剣崎は最初逃げようとした。今の自分に関わってはいけない。

今迫りつつある得体の知れない恐ろしい『運命』に彼女たちを巻き込む訳にはいかない。

 

だが三玖は剣崎に向かって走り出した途中で派手に転んでしまった。

 

受身もとれず転がる三玖。

剣崎はいても立ってもいられず三玖の元に走る。

 

「お、おい!大丈夫か、三玖!」

 

倒れた三玖の元に駆け寄る三玖。その足はプルプルと痙攣している。まさかこの少女は、この細い足がこんなになるまで自分のことを探していたのか。剣崎は一気に罪悪感に苛まれる。

 

そして三玖は自分の元に駆け寄ってきた剣崎に涙を流しなら笑う。

 

「よかった...会いたかった...本当に会いたかったよ、フータロー...!」

 

「......!」

 

とにかく剣崎は三玖をお姫様抱っこで抱えると、すぐ近くのベンチに彼女を横たわらせた。

 

「どうしたんだ、三玖。

こんな時間まで何してたんだよ...」

 

「フータローを探してたの」

 

「なんで俺なんか...

それに俺はもうお前たちの家庭教師じゃないんだ...」

 

「だって、フータローは私の『ヒーロー』だもん。

近くにいてくれないと、私心配になっちゃう。

 

 

それに...私たちまだフータローに『笑顔で卒業する』っていう約束、守ってもらってない」

 

優しい笑顔で微笑む三玖。

そこで剣崎はハッとする。

 

『そうだ、何やってたんだ俺は!

俺はこの子達に約束したじゃないか。

五人揃って笑顔で卒業してもらうって...

 

いつまでも五人笑顔でいてもらうって!』

 

 

三玖は続ける。

 

「だからフータロー...もし何か言いたくないことがあるなら無理に言わなくていいんだよ...

 

 

でも、でも...今は私たちの側にいて...!

フータローがそばにいないと、今の私たちは心から笑えないから...」

 

 

その言葉は決定的だった。

 

今の剣崎が忘れていたもの、

 

 

それは『勇気』。未知の恐怖に立ち向かう『勇気』。

 

そして剣崎の願いは、

 

今の自分のことを知りたい、

この世界に潜む謎を解明したい。

 

 

だがこれらはある1つの願いに比べれば、塵も同然だ。

 

今も、昔からも、剣崎の願いはただ一つ。

 

 

 

『全ての人間が笑顔でいてくれること」

 

 

 

誰かと共に喜んで。

誰かと共に泣いて。

誰かと共に怒りあって。

 

 

それでも最後は大事な人と『笑顔』でいて欲しい。

 

それが剣崎の変わらぬたった一つの願いである。

 

覚悟は決まった。

恐らく、今の自分には未知の脅威に打ち勝つほどの強い力はない。

 

でも、『勇気』がある。そんな恐怖に自分から進んでいけるほどの、

 

研ぎ澄まされた『勇気』が今の剣崎にはある。

 

 

 

そして覚悟を決めた剣崎の前に、2つの異形が現れる。

 

1つは昨日の朝倒し損ねたトリロバイトアンデット。

1つはレンゲルによって開放されたローカストアンデッド。

 

 

「フ、フータロー...」

 

三玖が心配そうに声を上げる。

だが今の剣崎に迷いはない。

 

敵が何体だろうと関係ない。

 

 

それに立ち向かうことが出来る『勇気』を持っている!

 

 

 

「三玖、ありがとう」

 

「え?」

 

「お前が俺に気づかせてくれた。

今俺がやることはお前たちと離れて一人で悩むことじゃない。

 

今俺は、心から笑えていない人々のために!」

 

 

 

「今目の前にいる大切な人の笑顔を守るために、

 

 

俺は戦う!!!!」

 

 

 

 

剣崎はバックルにカテゴリーAを装填する。

 

そして剣崎は叫ぶ!

『仮面ライダー』として戦うために、大切な人の笑顔を守るために!

 

 

 

 

「変身!!!!!」

TURN UP

 

 

 

オリハルコンエレメントをくぐり、剣崎はブレイドへと変身する。

 

そして2体のアンデッドに同時に斬りかかる。

それを回避してすぐさまブレイドを囲むアンデッド。

 

そしてアンデッドはブレイドに一斉に飛びかかる。

ローカストアンデッドの蹴りを剣崎は横に飛んでかわす。

そしてそこに突っ込んできたトリロバイトアンデットの突進をブレイドは正面から受け止める。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

強力な突進攻撃をブレイドは止め切った。

だがすぐさまそこにローカストアンデッドが再度蹴りを入れようとしてくる。

 

だがブレイドは止めたトリロバイトアンデットを突き飛ばし、蹴りを入れてきたローカストアンデッドにぶつけた。

 

トリロバイトアンデットをぶつけられたローカストアンデッドはその衝撃で吹き飛ぶ。

 

受身を取り立ち上がったローカストアンデッドにブレイドはブレイラウザーの切っ先を突き立てた。

 

「ガァ!」

 

と激痛に喘ぐアンデッド。

 

そしてブレイドは切っ先をローカストアンデッドに突き立てたまま、ラウザーに

『THUNDER』のカードをラウズする。

 

THUNDER

 

強力な電撃を体内に直接流し込まれたローカストアンデッドは、そのまま後ろに倒れた。

 

そしてブレイドはカードを投げ、ローカストアンデッドを封印した。

カードに『KICK』と刻まれる。

 

 

だがその隙を見て、トリロバイトアンデットは左腕の鋭い爪をブレイドに突き刺そうとする。

 

「フータロー!後ろ!」

 

その声で振り向いたブレイドはその爪の攻撃を右手の剣でガードする。

 

そのまま鍔迫り合いのような形になるブレイドとトリロバイトアンデット。

だがブレイドはそのままカードホルダーを展開し、カードを取り出しラウズする。

 

BEAT

 

ブレイドはビートにより強化された左拳をトリロバイトアンデッドの脇腹に叩き込む。

 

いくら強力な皮膚を持つトリロバイトアンデットといえどもその一撃は十分に効いたらしく、膝をつく。

 

そしてブレイドは一旦距離を取ると左手に持つ三枚のカードをラウズした。

 

KICK

THUNDER

MACH

《ライトニングソニック》

 

「ウェェェェア!!!」

ブレイドは助走をつけると、ジャンプして飛び上がる。

 

 

そしてライトニングブラストを放つ時の一連の動作をとると、マッハの効果で加えた助走の威力をプラスして、雷のエネルギーを纏った右足をトリロバイトアンデットの正面に打ち込んだ。

 

「ウェェェェイ!!!!」

 

 

「グガァァァ!!」

 

アンデッドは一瞬にして吹き飛ぶと爆発し、封印が可能になったことを示すようにアンデッドバックルが割れた。

 

そこに封印のカードを投げる、そこにはMETALと刻まれた。

 

変身を解除するブレイド。

そこにはいつもと変わらぬ『上杉風太郎』の姿があった。

 

「フータロー...」

 

「三玖、俺もう一度やりたいよ。家庭教師。

お前たちのそばでお前たちに笑顔でいてもらうために」

 

「......!フー...タロー...!」

 

「多分これからもっと戦うことが多くなる。その度に俺は授業を中断してアンデッドと戦わなければならなくなってしまう。

 

そんなダメダメな家庭教師でも三玖たちが良いって言ってくれるなら、もう一度だけ俺にチャンスをくれ」

 

剣崎は頭を下げる。

虫のいい話だってのは百も承知だ。でも、俺はもう一度お前たちのそばにいたい。

 

もう二度と、大切な人の悲しむ顔を見たくない。

 

「顔を上げて、フータロー」

 

そう言われ顔を上げる剣崎。

 

 

そんな剣崎に、いきなり三玖は抱きついた。

 

 

「み、三玖!?」

倒れそうになるも踏ん張る剣崎。

 

そして三玖は本当に安心しきったような顔で

 

 

「おかえり、フータロー」

 

と言って、心から笑うのだった。

 

 

 

 

 

そして剣崎は三玖をマンションに送り届け、今日は夜も遅いしと言い去ろうとした。だが三玖はとにかく部屋に来てと言って聞かない。

 

そして三玖は

 

「みんなフータローがいなくなって悲しんでる。

まずはちゃんと謝らなきゃダメ」

 

と顔を近づけて剣崎に凄む。

剣崎は諦めたように頷くと、彼女達がすむ30階の部屋の前にたどり着く。

 

いざ部屋のドアを開けようとしたが、一花にあんなことを言ってしまい、姉妹みんなが悲しんでいるということを聞いた今、なかなか踏ん切りがつかない。

 

「大丈夫、フータロー。みんなフータローが戻ってきてくれたら喜ぶから」

 

と優しくフータローを諭す。

 

 

そして剣崎は意を決したようにドアを開けた。

 

そしてリビングからドタドタと足音が聞こえる。そこにいたのは泣き腫らして赤くなった目の五月だった。

 

「え...う、上杉さん!?それに三玖も!」

 

そう大声をあげる五月。そしてその声を聞きつけたかのようにもう1人の足音。

 

「三玖!!それに上杉さんも!どうして今ここに?!」

 

四葉もまた大声で驚く。

 

「とにかくまず入ろう、フータロー。

話は中で」

と三玖に促され部屋に入る。

 

そしてリビングに着くと、四葉は階段を駆け上がり、一花と二乃を叩き起す。

 

「二人とも!早く起きて!

三玖と上杉さんが帰ってきたよ!」

 

その瞬間飛ぶように一花と二乃が自室を出てきた。

 

そして2人の姿をしっかりとその目に捉えた一花は何も言わず剣崎の前に走ってくる。

 

剣崎は慌てて頭を下げる。

 

「ご、ごめん!一花!今朝はあんなひどいことして!

でも悪気があったわけじゃなくて...」

 

と言う剣崎に一花は無言で抱きついた。

 

一日で二人の女の子に抱きつかれた剣崎は目を白黒させる。そんな剣崎に一花は

 

「よかった...フータロー君...

もう二度と会えないのかと思った...

帰ってきてくれて...本当に良かった...!」

 

と安堵の声をあげる。

 

そして

「嘘...本当に二人とも帰ってきたの...?

私、夢見てないわよね...!?」

二乃は信じられないものを見るかのように、2人に駆け寄る。

 

「二乃...ごめん!

この間あんな偉そうなこと言っておいて...

全部俺の責任だ...本当に済まない!!」

 

と謝罪する剣崎。

 

「ほ、本当よ!あんたのせいで大変だったんだから!そんな頭を下げたくらいじゃ私は許さないわ!」

 

「二乃、今はそんな意地張ってる場合じゃない」

 

「な...!み、三玖!というかあんたにも言いたいことが山ほどあるわ!

さっきはよくも私にあんな偉そうな口を聞いたわね!?」

 

「別に五つ子の姉妹だし偉そうも何もない。

 

 

でも...ごめん、二乃、五月。

さっきは言い過ぎた...反省してる」

とペコリと頭を下げる三玖。

 

「いえいえ...私は三玖と上杉さんが帰ってきてくれただけで嬉しいんです

そんなごめんだなんて...」

 

と三玖を気遣う五月。そこで「みんな!」と剣崎が大きな声で五つ子たちの注意を集める。

 

そして剣崎は正座すると、頭を地面につけ手を前につく。

いわゆる日本人が最大の謝意を相手に示す最高位の謝罪スタイル―――土下座だ。

 

「今回は俺のせいで、迷惑かけて本当にごめん!

一花にはひどいことを言ったし、一花にも他のみんなにも心配をかけた...

 

俺、家庭教師失格だ...」

 

と土下座したまま謝る剣崎。

 

「あんたはそもそももう家庭教師辞めたじゃない!それに私はあんたのことなんかこれっぽっちも心配なんか...」

と言いかけた二乃を、

「二乃!今は上杉さんの話を聞こう!」

と四葉がその口を塞ぐ。

 

「許してくれとは言わない。

 

だけど、どうか一つだけお願いがある...

 

 

もう一度、俺に...お前たちの家庭教師をやるチャンスをくれ!」

 

と剣崎は精一杯謝罪の意を込めて、頭を地面に擦り続ける。

 

「こんな都合のいい話、聞いてくれるわけがないってのは分かってる。

 

でも俺は...みんなに『笑顔』で卒業して欲しいんだ!その思いに嘘はない!

 

だからその手伝いをもう一度俺にやらせて欲しい!」

 

 

 

「フータロー君、顔上げて」

 

そう言われると剣崎は顔を上げる。そして一花は優しい顔で

 

「私はもう一度君に家庭教師をやって欲しい。もう一度私たちのそばにいて欲しい

 

君がいるだけで、私たち姉妹は前より何倍も笑えるようになったから...」

 

と顔を赤らめて答える。

 

「だから君がもう一度家庭教師をしてくれるなら私は大歓迎だよ。

 

みんなは?」

と妹たちに聞く一花。

 

「賛成。フータローにはちゃんと責任取ってもらう」

 

「はい!私も賛成です!これからまたお世話になります、上杉さん!」

 

「わ、私もです!上杉さんがまた家庭教師をして下さるというのなら是非!」

 

と三玖、四葉、五月は一花に賛同する。

 

「二乃は?」

一花に聞かれた二乃は答える。

 

「賛成なんて出来るわけないわ。

そもそも今回の原因は全部こいつにあるわけだし、まず私はこいつを家庭教師だと最初から認めてないわ」

 

二乃はどうやら剣崎を許すつもりはないらしい。

 

「でも...

別に他の子達に教えるというなら勝手にしなさい。あんたに教わるか教わらないかは自分で決めることだわ」

 

と曲がりなりにも剣崎が家庭教師に復帰することを認めてくれた。

 

「二乃...ありがとう!」

 

「な、何よ気持ち悪いわね!」

 

剣崎は泣きそうになりながら二乃に礼を言う。

だがそこで五月が1つ呟いた。

 

「でも、お義父さまがそれを許してくれるでしょうか?」

 

「「「「「あっ...」」」」」

 

と五月を除く5人の声がこだまする。

 

「ならちょっと遅いけど今から電話して聞いてみればいいんじゃない?」

と一花は提案する。

「そうしなよ。もしお義父さんが何かを言うようなら私が一緒に説得する」

と三玖も乗り気だ。

 

時刻は既に午前の3時を回っている。今の時間に電話をするなど失礼にも程がある。

 

そして二乃は、躊躇う剣崎の携帯を勝手にとると素早く電話番号を入れて電話を繋ぎ、携帯を剣崎に投げる。

 

「に、二乃!」

「ったく男ならウジウジしてないでシャキッとしなさいよ!」

と剣崎に言う。

携帯を受け取った剣崎は仕方なくベランダに出る。

そして通話は繋がった。

 

「なんだね、上杉くん。こんな時間に電話とは感心しないな」

「お、お父さん...」

「君にお父さんと...まぁいいだろう。用件はなんだい?今月分の給料なら後日渡すと言ったはずだが」

 

そこで剣崎は大きく息を吸うと、意を決して喋り出す。

 

「お父さん、お願いがあります!

もう一度...もう一度俺を家庭教師として雇ってください!」

「それは何故だね?」

「俺、どうしてももう一度だけ娘さん達に勉強を教えたくなったんです。

なんなら給料は今までの半分でも!それでもダメなら最悪タダ働きでも...」

 

剣崎はやけくそ気味に言う。だが返ってきた答えは意外なものだった。

 

「そうか、いいだろう。ではもう一度君を雇うことにしよう。給料も今まで通り支払わせてもらうよ」

「ほ、本当ですか?!ありがとうございます!お父さん!!」

剣崎にとっては願ったり叶ったりの返答だった。だが喜ぶ剣崎に「ただし」と続ける。

 

「一つ条件がある」

「え?」

「何、簡単なことさ。次回の中間テスト、娘達全員を赤点回避まで導いてくれ」

「ぜ、全員ですか?!」

「そうだ。それに一度仕事をやめた者をもう一度雇うのだからね。これくらいのハードルは設けさてもらうよ。もし達成出来なければ、君には再びこの仕事を辞めてもらう。

 

やるかやらないかは君の自由だ」

 

だが剣崎の答えは決まっていた。

 

「やります!やらせて下さい!必ずや娘さん達を赤点回避に導いてみせます!」

「そう言ってくれて嬉しいよ。

では、健闘を祈る」

とそこで通話は切れた。

 

ベランダを出てリビングに戻る剣崎。

 

「どうでしたか?!上杉さん!」

 

五月たちはみな心配そうな視線を剣崎に向ける。

 

「いいってさ。もう一度雇ってくれるそうだ」

 

ワアッと姉妹達は湧き上がる。

二乃は相変わらずツンとしていたが、どことなく嬉しそうだ。

 

「でも、一つだけ条件が出た」

「条件って?」

三玖が聞く。

 

「次の中間試験でお前達全員に赤点回避をさせろってさ」

「「「「「え?!」」」」」

 

しまった、と剣崎は思った。この状況でこんなことを言ってはプレッシャーになるに決まっている。

剣崎は歯噛みした。だがもし言わずに彼女らの誰かが赤点を取ってしまった場合のことを考えるとそれはそれでゾッとする。

 

だが彼女らは驚きこそしたものの、悲観的な事は一切言わなかった。

 

「そっか、ならひとつ前の私たちと違うってことを見せちゃおうかな?」

 

「随分と簡単な条件ね。

でっ、でも!別にあんたの助けは受けないし、何もあんたのために勉強するんじゃないんだからね!自分のためよ!」

 

「絶対にやり遂げる...!もうあんな悲しい思いはしたくないし、フータローにもさせたくない」

 

「よーし!私も頑張っちゃいますよ〜!上杉さんがいてくれれば百人力です!」

 

「わ、私だってやってみせます!上杉さんを解雇なんてさせません!」

 

五人は決意を新たにした。

 

剣崎は彼女らへの感謝の気持ちで一杯だった。一度家庭教師を勝手に辞めて、姉妹の輪をめちゃくちゃにした自分をもう一度受け入れてくれた。

 

そしてその五人に剣崎はかつての仲間たち、

虎太郎、広瀬さん、橘さん、睦月、始の姿を思い出した。

決して最初から一つになれていたわけではなかった。何度もいがみ合ったし、裏切りもあった。

 

だけど最後に彼らとは最高の仲間になれた。

 

 

だから剣崎はもう一度心に誓う。

もう二度と彼女達を悲しませないと。

 

彼女達を『笑顔』にさせると。

 

「みんなありがとう...本当にありがとう...」

剣崎はつい泣きそうになってしまった。

 

「おっとフータロー君泣いちゃったのかな?

お姉さんが慰めてあげよっかぁ〜?」

 

「い、一花!別に泣いてなんかないぞ!」

 

「まったく男のくせに情けないわね〜。

これじゃあ泣き虫フータローね」

 

「に、二乃まで...もう勘弁してくれ!」

 

アハハハハ!と楽しそうな声が部屋中にこだまする。

 

「みんな、今日はすまなかった。そして本当にありがとう。

じゃあまた明日...」

 

「フータロー、今から帰るの?

もう遅いし泊まっていって」

 

「え!?いや、さすがにそこまで迷惑は...」

 

「あ、それ賛成!フータロー君も疲れたでしょ?泊まっていっちゃいなよ」

 

「ちょっと、一花!三玖!あんた達自分が何言ってるか分かってんの!?

女五人の空間に男一人を泊めるなんてそんなこと許されるはずないわ!」

 

二乃は反対する。

 

「でもまぁ上杉さんも疲れてそうですし、今から帰るくらいなら泊まっちゃった方が楽だと思いますよ?」

 

「う、上杉さんがどうしてもと言うなら私は構いませんけど...」

 

と二乃を除く四人は剣崎を泊めるのに賛成のようだ。

 

「ったく仕方ないわね...

でも寝るならそこのソファで寝なさい!

それなら泊めてあげるわ」

 

と条件付きで泊めることを二乃も許した。

 

四葉はお客様をソファで寝させられませんと言ったが、剣崎は泊めてもらうだけありがたいよと言い、ソファに寝転がった。

 

そして泥のようにすぐに眠ってしまった。

 

そんな剣崎の寝顔を見た全員は、記念にその寝顔を撮影すると自分の部屋に戻り、登校時間までの少しの間でも眠ろうとした。

 

 

 

そして全員が寝静まったと思われるその時、階段に一番近い部屋がそっと開かれた。

 

その部屋は一花の部屋だった。

一花は基本寝る時は全裸だが今回は珍しくパジャマを着ていた。

そしてゴミだらけの部屋を自分のベッドの掛け布団を持って、そっと抜け出た。

 

そしてソファでいびきをかきながら爆睡する剣崎の前に立つ。

 

そして剣崎に掛け布団をかけると

 

「あれだけ心配させられたんだもん。

これくらいなら...許されるよね...」

と言い、自分も掛け布団の中に入る。

 

ソファは剣崎が寝ているので剣崎と背もたれの僅かな隙間に体をねじ込むようにして入る。かなり剣崎に体重を預ける形にはなるが、何せ爆睡している剣崎である。そう簡単には起きそうになかった。

 

明日一番最初に起きて部屋に戻ればいい。

 

そう考えた一花はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

「上杉風太郎君、私にはわかっていたよ。君が家庭教師を辞めることは無いと。

君にはまだやってもらわなければいけないことがある。

そして今の君は彼女達のかけがえのない存在になりつつある。

 

このままいけば、あの中の誰か一人は...」

 

五つ子達の義父、中野マルオはパソコンに映し出された、五つ子達の予想融合係数をみる。まだ全員300台に乗るか乗らないかとあまり高くない数値である。これでは変身すらままならない。

 

「上杉風太郎君の最大融合係数は...1265か。

まだ変身してそこまで経ったわけではないのに、ここまでの数値を出すとはね」

 

そして彼はパソコンから目線を離すと、いつもより無機質に冷たく呟く。

 

「私は...__を...君を拒んだこの世界を許さない。たとえ私のしようとすることで、君が愛したあの子達を犠牲にしようとも」

 

そして男はパソコンの電源を切ると、すっかり冷めたコーヒーを一口だけ口にした。




今回のタイトルは仮面ライダー剣の前期op『Round ZERO〜BLADE BRAVE』の一節です。

そして五等分の花嫁の8巻を読みました。
それにしても面白かった。や三N1(やはり三玖がNo.1)

てかマルオって...マルオって...


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第15話:天才の『努力』

今回は戦闘はありません。

今回はあまり話は動かず、ほのぼの回的な感じです。


「ん...ふぁ〜あ...」

と欠伸をして伸びをする二乃。

この家での料理は専ら二乃が担当しているため彼女は家の中でも1番早起きである。

 

そしてまだ寝ている剣崎を尻目に二乃は眠い目を擦りながら洗面所へと向かう。朝ご飯を作るにしても、まずは顔を洗って歯を磨かなければ。

 

だがまだ二乃は寝起きだったかせいか、剣崎が寝ているソファの『違和感』に気づかなかった。

 

洗面所でやることを済まし、さぁ料理を作ろうとする二乃。

だがそこで初めてその『違和感』に気づく。

 

「あいつ...昨日布団かけてたかしら...?

それにあの布団...まさか!」

 

と二乃は寝ている剣崎の掛け布団を剥いだ。

そこには剣崎に覆い被さるようにしてすやすやと寝息をたてる一花がいた。

 

「ちょ、ちょっと!何してんの、一花!

起きなさいよ!」

 

と二乃はペシペシと一花の頭を叩く。

そこで一花ではなく剣崎が目を覚ます。

 

「んぅ...うるさいなぁ...

って一花!?何してんだお前!」

 

剣崎はそこで初めて一花がいたことに気づく。剣崎も一花の方を揺すって起こそうとする。

 

「んー...」

 

と一花はまだ半分しか開けられていない目で剣崎を見つめる。

 

そしていきなり目を見開いた。

 

「ってフータロー君。あ、やば」

 

と3時間前くらいのことを思い出す。

確か自分は寝ている剣崎に掛け布団をかけた。だがそこで一緒に寝たいという欲に負けてしまい同じ布団の中に潜り込んだ。

 

明日朝一番に起きればバレないだろうと考えていた一花であったが、どうやらその目論見は失敗したようだ。

 

「ほんっと最低!

せっかく見直したと思ったら、またこんなことしてるし!」

 

「ま、待ってくれ!誤解だ、二乃!

俺本当に知らなかったんだ!」

 

と冤罪を主張する剣崎。

 

「あ〜...ごめんね、フータロー君。

君の可愛い寝顔を見てたら、お姉さん我慢できなくなっちゃった」

 

とまさにテヘペロという擬音がつきそうな顔な一花。

 

そこでその騒ぎを聞きつけてか、三玖、四葉、五月も起きてくる。

 

「朝から何...ってフータロー...何してるの」

 

「ちょっと上杉さん!まさかもう二人はそんな関係に!?」

 

「ふ、不純です!!」

 

と口々に騒ぎ出す姉妹達。

 

「違うんだ、話を聞いてくれ!」

 

とタジタジになる剣崎。

だが剣崎はこの騒がしさがとてつもなく嬉しかった。またこの幸せを取り戻せたことが何よりも嬉しかった。

 

 

 

 

そして30分後...

 

「よし、完成だ」

と剣崎は6人分のプレートにトースターで焼いた食パン、スクランブルエッグ、ベーコンと小さなサラダを盛り合わせて、テーブルに置いていく。

 

「わ〜美味しそう!上杉さんは料理もできるんですね!」

 

と四葉は感心したように目を輝かせる。

できるとはいっても本当に簡単な料理だけだ。

剣崎は高校生の時から一人暮らしをしており、ある程度の家事スキルは身につけていた。ライダーになってからも虎太郎にちょこっとだけ料理を伝授してもらう時があった。

 

さすがに虎太郎や二乃ほど美味しくて凝った料理は作れないが、それでも朝ご飯としては十分すぎるほどであった。

 

結局あの後剣崎は姉妹たちに散々問い詰められたものの無実の罪を認める訳にはいかず、二乃の代わりに朝ご飯を作ることで解放してもらったのだ。

 

正直姉妹たちも剣崎の料理を見てみたいという気持ちもありその条件を承諾した。

そして目の前には出来たての美味しそうな朝ごはんが広がっている。

 

「はむっ...美味しいです!」

と五月も大絶賛だ。

 

「美味しい...これが、フータローの味...」

と三玖も恍惚の表情をうかべる。

 

まぁ昔見た料理レシピをそのまま再現しただけではあるが。

 

「フン、まぁまぁじゃない」

と二乃も申し分ないと言った様子だ。

 

「本当にすごいね〜フータロー君。

勉強も運動も出来て、料理も作れちゃうなんて。逆に君にできないことなんてあるの?」

と一花も驚いている。

 

「うーん、何だろう...」

と顎に手を当てて考える剣崎。元々彼は何事においても才能を発揮する天才タイプである。彼はやってみろと言われて出来なかったことなどほとんどなかった。

 

強いていえばライダーとしての戦いだけは、一人前になるまでにかなりの努力を要した。

 

「上杉さんって本当に天才ですね...

私にもそのスキルを色々と分けて欲しいです」

と剣崎の才能を羨ましがる四葉。

 

「ほら、みんな。早く食べないと遅刻するぞ」

と促す剣崎。

彼は昨日から着ていた制服のままであり、勉強道具が入ったカバンも全て教室に起きっなしである。

特に用意することもない剣崎は自分で作った料理を食べ終えると、ソファに座る。

 

そして全員が用意をし終わると、六人で玄関を出る。

 

そして取り留めもない会話をしながら通学する剣崎。

 

学校に近づくにつれて、周りからの視線も集まる。

「すごいな上杉君...あの五つ子たちと一緒に登校してるぞ」

「でもまぁ最近のあいつなんか変わったし分からんでもないかなぁ」

「あ、分かる!なんか朗らかな感じになったよね」

と噂する生徒達。

 

そして学校に着くと、五つ子達と別れ一人職員室に向かう。

 

「先生!」

 

「あっ!上杉!お前よくも昨日は授業を抜け出したなぁ〜?」

 

「す、すいません!急な事情があって!本当にすいませんでした!反省してます!」

と頭を下げ続ける剣崎。

 

「そ、そうか。ならとりあえず1枚でいいから反省文を書け。それにしてもお前...ホント変わったな〜」

 

「そ、そうですか?」

 

「あぁ、誰の目に見ても明らかだ。前のお前はあんなに偏屈でひん曲がったやつだったてのに、何がお前をそんなに変えたんだ?」

 

「い、いや〜、ええと...その...」

 

「まぁ、いいんだ。別に人が良い方に変わったことを一々咎めるやつはおらん。とにかく放課後までに反省文出して帰れよ」

 

「はい!わかりました」

 

と言うと剣崎は職員室を出て、教室へと向かう。教室に戻ると、普段より勉強している生徒が少しばかりか多い。

そういえば中間試験が迫っていた。

五つ子の義父との約束、五つ子全員の赤点回避という約束を思い出す。

 

そして自習をしている五月の方に歩く。

五月の後ろに着くと、五月のノートの一点を指さす。

 

「誰...上杉さん!どうしたんですか?」

「五月、その訳間違ってるぞ。この文は関係代名詞が省略されているから分かりにくいけどこれは2つの節で出来ている文だ」

 

「あっ...ありがとうございます」

 

そう言うと五月は間違った箇所を赤ペンで修正した。

 

「上杉さん...」

と心配そうな目を剣崎に向ける五月。昨日はやってみせると言った五月であったがやはりまだ自信が持てないでいるのだろう。

 

そんな五月を優しく剣崎が諭す。

 

「大丈夫だ。まだ時間はあるから今日から1つずつ苦手なところを潰していこう。俺はお前達が全員赤点回避できる力があると信じてるぞ」

といい、五月の頭を撫でる。

 

クラスの視線が一気に集まる。

五月は顔を赤くして恥ずかしそうに怒る。

 

「う、上杉さん!他の人がいらっしゃるところで頭を撫でないでください!」

「はは、ごめんごめん」

 

と謝ったところに担任が教室に入ってきた。

剣崎と五つ子たちは寝た時間が遅く、寝不足状態だったが、ここで授業を聞き逃すわけにはいくまいと一生懸命起きながら授業を聞いた。

 

そして反省文を提出した放課後、

一花、三玖、四葉、五月は学校の図書室で勉強していた。

四葉もバスケ部の助っ人を断りこちらに集中してくれている。

 

「一応二乃も呼んでみるよ」

 

といい剣崎は一旦図書館を出る。

 

「二乃〜今日はどこ遊び行く〜」

「あっ、駅前に美味しいパンケーキ屋さん出来たらしいよ〜」

と二乃を遊びに誘う女子達。だが二乃は

 

「ごめん、今日はパス。私ちょっとやらなきゃいけないことがあるの。また次の機会に行くわ」

とその誘いを断り、女子達と別れる。

すると二乃は教室の外に設置されている自分のロッカーから教科書や問題集を出すと、それらをバッグに入れる。

 

「よっ、二乃」

 

「な、あんた...見てたの...?」

 

「あぁ、バッチリな。なんか安心したよ」

 

「〜〜〜っ!」

と二乃は顔を赤くする。

 

「一花も三玖も五月も図書館にいる。

よかったら二乃も...」

 

「嫌よ。別にあんたに頼らなくても私は一人で出来るわ」

 

と二乃は一人で歩いていってしまう。

 

「仕方ないか...」

 

と図書室へ戻った剣崎。

 

「フータロー君ちょっといい?分からないとこがあるんだけど」

「フータロー、私にも教えて」

「上杉さんっ!質問いいですか?」

「上杉さん。ここの問題なんですが...」

 

と二乃を除く姉妹達が次々に聞いてくる。

 

「わ、分かったから1人ずつな」

 

と一人一人丁寧に教えていく剣崎。

彼も基礎復習の甲斐があり、初めての時に比べて格段に教えるのが上手くなっていた。

 

そして今日予定していた課題は粗方片付いた。

 

「すごいじゃないかみんな。

俺もこんなに早く終わるとは思わなかったぞ」

四人を褒める剣崎。

 

「まーね。私達も最初の時とは違うってこと」

「これもフータローのおかげ」

「上杉さんも教えるのがとても上手くなってて分かりやすかったです!」

「ありがとうございます。上杉さん。」

 

「フータロー、私はまだできる」

 

「まだ試験は終わっちゃいない。でもあんまり煮詰めすぎても体に毒だ。

休憩するのも大事な仕事だぞ。一旦休憩にしよう」

 

と言い、三玖の頭を撫でてやる。三玖は顔を真っ赤にしつつも幸せそうな顔をしている。

そんな様子を羨ましそうに、そして少し嬉しそうに眺める一花。

 

今回の件を経て、姉妹の結束はさらに固くなっていた。

剣崎の家庭教師を続けてもらうために、二乃も過程は違えど姉妹一丸となって赤点回避のために努力している。

 

とてもいい傾向だと思った。最初はまったく勉強に乗り気でなかった姉妹達が今は一生懸命頑張っている。

 

「そうだ、上杉さんっ」

 

「ん?どうした四葉」

 

四葉が剣崎に尋ねる。

 

「このテストのあと、何があるかご存じですか?」

 

「え?何かあったっけ」

 

「忘れちゃったんですか?林間学校ですよ、林間学校!」

 

剣崎は「あぁ」と頷き、その存在を思い出す。

 

「そういえばそんなのあったなぁ」

 

「上杉さんは楽しみじゃないんですか?」

 

「まぁ普通かな」

 

剣崎は林間学校に、そもそも学生時代にいい思い出というものがなかった。友達がいなかった剣崎は寂しい学生時代を過ごしてきたからだ。

 

そこで剣崎は時計を見る。休憩してから20分が経っていた。

 

「よし、じゃあみんな。今日予定していたところは終わったけど、まだやれるか?」

 

「もちろん、まだ全然いけるよ」

「大丈夫」

「さぁ頑張っちゃいましょう!」

「わ、私もやれます!」

 

四人はまだまだやる気だ。ならと剣崎は明日の予定を前倒して進めることにする。

 

四人は再び教科書とノートに視線を戻す。

その間に剣崎は勉強スケジュールの組み直す。このペースならさらに試験対策を磐石なものに出来る。

剣崎は質問されたらそれを教えつつ、スケジュールを組み直した。

 

そしてあっという間に完全下校時刻になる。

 

だがもちろん夜も勉強はある。そして今日もマンションに泊まることを勧められた剣崎は一旦四人と別れ、荷物をまとめるために自宅へと帰る。

 

「あ、お兄ちゃんおかえり。昨日少しの間帰れないって言ってたけど大丈夫なの?」

 

「あ、あぁ。思ったより用事が早く片付いたんだよ。じゃあ行ってくる」

 

「五月さん達に迷惑かけちゃダメだよー」

 

「もちろん、分かってるって」

 

玄関を出て姉妹らのマンションへと向かう剣崎。

 

「風太郎。どこ行くんだ」

 

「ん?あぁ親父か」

 

そこにいたのは上杉風太郎の父親、上杉勇也だった。

「五月たちの家だよ、家庭教師さ」

 

「そうか、お前変なことすんじゃねぇぞ?」

 

「!!あ、当たり前だろ!」

 

といいいつものようにガハハハハと笑う勇也。そこで笑うのをやめるといつもとは違う様子で剣崎に尋ねる。

 

「なぁ、風太郎。家庭教師のバイトは楽しいか?」

 

「あぁ。楽しいよ。あいつらも勉強にやる気出してれてるしこっちもやり甲斐があるさ」

 

「そっか!なら大丈夫だな!五月ちゃん達によろしく言っといてくれよ」

と剣崎の背中をバンと叩く勇也。

 

「いった!

ったく...行ってくるよ、親父」

 

「おう、行ってこい!風太郎」

 

剣崎はこの『親父』という呼称が好きだった。勇也のことを騙すことになっているのは彼自身が一番よく分かっている。

だが剣崎はあの日、11歳の時に両親を失ったあの日を思い出す。

 

あの日失った『父親』という存在。それが今の自分にいることがとても嬉しく感じられた。

 

そして剣崎の姿が見えなくなったところで、勇也は一人悔しそうな顔をする。

 

「風太郎...お前にだけ背負わせちまって、本当にすまねぇ...」

 

そして勇也は決意する。いつか必ず息子を戦いの『運命』から解放すると。今息子が感じている『幸せ』を守ると。

 

そして勇也は自宅へと戻っていく。

 

「帰ったぞ!らいは」

 

「あ、お帰り!お父さん!今お兄ちゃんが五月さん達の家に行ったよ。

あと今日の晩御飯はシチューだよ!」

 

「美味そうじゃねぇか!早く出してくれ!」

 

「もう、お父さんは大人なんだからもうちょっと我慢しなきゃダメだよ!」

 

そうだ。自分は父親だ。風太郎とらいはを守るのが俺の役目だ。

 

たとえ俺自身が命を落とすことになったとしても、この2人だけは守り抜く。

 

『もう家族を...大事な人を失うわけにはいかねぇ』

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

そして五つ子たちが住むマンションでは、みんなで夕食を摂ったあと、剣崎が作った勉強スケジュールに沿って勉強している。

 

二乃だけは自分でやるといって、部屋に戻ってしまったが。

 

彼女は何度か躓きながらも一つ一つ習ったことをモノにしている。

 

 

だが剣崎が1つ気がかりなことが残っていた。

二乃のことである。彼女は唯一自分が教えていない。一人で大丈夫とは言っていたが、やはり心配である。

 

すくっと立ち上がる剣崎。

 

「フータロー君?」

 

「みんなちょっとだけ自分でやれるところをやって待っててくれ。二乃を呼んでみる」

 

というと二乃の部屋の前へと行き、彼女の部屋のドアをノックする。

「俺だ。二乃、ちょっといいか?」

 

「.........入りなさい」

 

といわれ二乃の部屋に入る剣崎。

それを五月達は心配そうに見つめる。

 

「なんの用よ」

 

「二乃がちゃんとやれてるか気になってさ」

 

「フン、馬鹿にしてくれちゃって

ならこれ見なさいよ」

 

といい、ノートを剣崎に見せてくる。

そこには数学の問題が解いてあった。

 

「どうよ、これで分かったでしょ。あんたなんか...」

 

「これ間違ってるぞ」

 

「え!?」

 

「それにここも、ここも。」

と間違っている問題を次々に指摘する。

結果的に間違っていた問題は見開き1ページにやってあった8問中6問だった。

 

「う、うそ...ちゃんと授業の復習したのに...」

 

呆然とする二乃。だがそんな二乃の肩にポンと手をのせる剣崎。

 

「大丈夫だ。まだ時間はある。今からやったらきっと間に合う。

あの日言っただろ?俺はみんなに『笑顔』でいて欲しいって。その気持ちに嘘はないって。

もし五人の中で誰か一人でも赤点を取ってしまえば、きっと五人みんな笑えなくなってしまう」

 

優しく諭す剣崎。それを黙って聞く二乃。

 

「だからさ、二乃。俺の授業を受けてくれ。

頼りないヘタレ教師かもしれないけど、全力でお前達の力になる。俺を信じてくれ」

 

と頭を下げる剣崎。

二乃は一瞬驚いたような顔をして頬を赤くしたあと、すぐに呆れたような顔になって言う。

「ほんっとあんたってバカね。なんで教える側 のアンタが頭下げてんのよ...

ならあんたの授業、受けてやってもいいわ」

 

「本当か?!」

 

「その代わり、あんたに聞きたいことがあるの」

 

何だ?頭に疑問符を浮かべる剣崎に二乃がポケットからあるものを取り出す。

 

それは生徒手帳だった。

 

「生徒手帳?」

 

「あんた気づいてないの?これはあんたのものよ。ソファに挟まってたわよ」

 

今日寝ていた時か、朝ごはんを食べ終わりソファに座った際に落としたのだろうか?

 

「拾ってくれてたのか。ありがとう、二乃」

 

と二乃の手から生徒手帳を返してもらおうとするが、二乃はその手を上にあげる。

 

「え?」

 

「教えてもらうって言ったでしょ。

この生徒手帳に入れてたあの写真の金髪の子、誰なのよ」

 

「????」

 

「あんたが入れてたんじゃないの?

なら自分で見なさいよ」

 

と二乃が剣崎に生徒手帳を渡してくる。

そして生徒手帳を開くとその最後のページにある写真が挟んであった。

その写真には金髪の柄の悪そうな少年が写っていた。

 

誰だ?この少年。剣崎は考える。まさか今の自分、『上杉風太郎』の少年時代?

いやいやそれは無いだろう。この根暗で真面目そうな青年がこの子なわけはないだろう。

 

 

「で、誰なのよこの子」

 

「えーと...そもそも何で二乃はこの子のこと知りたがってるんだ?」

 

すると二乃は顔を赤らめながらまるで恋する乙女のようになる。

 

「だ、だって...その子の見た目、めちゃくちゃタイプなんだもん!

ってかそんなこと一々聞かないでよ!とにかくこの子が誰かを教えてくれればいいのよ!!」

 

どうする?答えが全く見つからない問に直面してしまった剣崎。そして

 

「え、ええっと...知り合い

そうそう、昔の知り合いだよ!」

 

と大嘘をつく剣崎。

『すまん、二乃...許してくれ。俺にもわからないんだ』

と心の中で謝る剣崎。

 

「ふーん。知り合いね...

まさかあなたが話してたあの子のこと?」

 

そうだと剣崎は思い出す。剣崎は二乃と二人で話しをした際、自分のことを上杉風太郎の知り合いだということにして話したのだ。

 

「いや、それは違うよ。それはまた別の知り合いさ。

というか二乃。教えることは教えたぞ。勉強は...」

 

「はいはい、分かってるわよ。約束だもんね、受けてあげるわよ」

 

「ほ、本当か?!ありがとう、二乃!」

 

と嬉しそうに笑う剣崎。

 

二乃はドキッとする。

 

『なんで...なんでこいつの笑顔を見ると、こんなに嬉しくなるの...』

と二乃は自分に問いかける。

 

「じゃあ、二乃。学校の教材を持ってリビングに来てくれ。今から猛スピードで復習して、他のみんなに追いつくぞ!」

 

「あっ...ちょっと待ちなさいよ!

ったく本当にあいつ...子供っぽいのか大人っぽいのか分からないわ...」

 

なぜか二乃は目の前の青年-『上杉風太郎』に対して、同年代なような気がしなかった。

子供のような純粋な面もあれば、妙に大人びているところもある。

 

「どうした?俺の顔になんかついてる?」

と尋ねる剣崎。

 

ハッとした二乃は

「べ、別に見てなんかないわよ!早く行くわよ!」

 

と剣崎と一緒にリビングに降りる。

 

「あっ、二乃!二乃も一緒に勉強するの?」

 

「不本意だけどね...」

 

と二乃はリビングにあるテーブルに教材を置いて座る。

 

「よし、みんな何か分からなかったりしたところはあるか?」

と一花、三玖、四葉、五月に聞く。

 

「私はやっぱ国語かなぁ。漢文がどうにもねぇ...」

「私は英語。比較とか関係代名詞とか、難しすぎる」

「私は全般的にわからないことばっかりです...」

「私は社会と数学が特に...」

 

剣崎はふむふむといった感じで5つのノートに色々と書き込む。

 

「なるほどな...」

と言いつつ、緑色のノートをパラパラとめくる。

 

「じゃあ四葉、一花が今やってる漢文を見てやってくれないか?」

 

「え?!私がですか?!」

 

「あぁ、四葉に見て欲しい」

 

と四葉に促す剣崎。

 

四葉は渋々一花のノートを見る。そして何か引っかかるところを見つけたようだ。

 

「あれ?一花、この書き下し文ちょっと変じゃない?これ再読文字があるから正しくはこうだと思うけど」

 

「あ、そっか。この『将』って再読文字だったっけ」

と一花は間違った部分を訂正する。

 

そして剣崎は青いノートを開いて何かを確認すると三玖に告げる。

 

「三玖。五月が解いてる社会の練習問題を見てやってくれ」

 

三玖はコクリと頷くと、五月の社会の練習問題の回答を見る。三玖も何かを見つけたようだ。

 

「五月。日本海海戦の時の日本側の指揮官は大塩平八郎じゃない。同じ平八郎でもこっちは東郷平八郎」

 

「あっ!私としたことが下らないミスを...」

 

と五月は間違いを訂正する。

 

「すごいじゃないか、四葉、三玖。」

と剣崎は2人の頭を撫でる。

嬉しそうに笑う四葉と三玖。

 

そして剣崎は五つ子全員に向けて言う。

 

「勉強ってのは、他人に教えられて始めて身に付いたって言うんだ。

お前達同士で教え合えれば、教える側はさらなるスキルアップ、教えられる側は自分のミスに気づくことができる。

もし教える側がわからなければ、自分の知識の抜けがあるってことも分かる」

 

と剣崎はこの間買った『良い教師になるためのいろは』という本に書いてあったことをまるで自分の言葉のように話す。

 

だが五つ子達はそれを感心して聞いている。

 

「もちろん今まで通り、どうしてもわからない所は俺が教える。

でも自分自身が分かっているところは積極的に分からない人に教えてあげて欲しい」

 

と剣崎は新しい方針を話した。

 

「何よそれ、あんたが楽したいだけじゃないの?」

 

「二乃!」

 

「ってさすがに冗談よ!こいつのバカ真面目さくらい私もさすがに気づいてるわよ!」

 

怒る五月に二乃が返す。

 

「じゃあ早速その方法で勉強していこう」

 

と新しい学習方針で勉強を再開した五つ子たち。そして2時間半ほどそれを続けたところで、一旦休憩が入る。

時刻は10時半。今まであまり勉強をしてこなかった彼女たちだ、2時間半も続ければさすがに疲れてしまったようだ。

 

だが新しい学習方針のおかげもあってか、試験対策一日目にして、既に剣崎が放課後に組みなおしたスケジュールの2日目の半分ほどの内容が片付いていた。

 

「すごいなぁフータロー君。やっぱり教えるのめちゃくちゃ上手くなったじゃん」

 

「悔しいけど確かに分かり易いわ...」

 

「やっぱりフータローはすごい。

あと五月、理科を教えてくれてありがとう」

 

「なんか勉強出来るようになってきた感じがします!」

 

「い、いえ三玖!私なんてまだまだです。

それに三玖の社会も分かりやすかったですよ」

正直予想以上の進度だった。

剣崎は彼女たちの潜在能力とそのやる気に感動していた。

彼女たちは勉強が出来なかったんじゃない、やってこなかっただけだったんだと改めてそう認識する。

 

だが彼女たちのやる気の源は、剣崎だ。赤点を回避して、剣崎に家庭教師を続けてもらう。その一心で今こうして必死に頑張っている。

 

「てかもうこんな時間じゃない!

さっさとシャワー浴びちゃいたいわ」

 

時刻は10時半だった。

 

「なら先にフータロー君浴びてきちゃいなよ」

 

「いや、俺は一番最後でいいよ。」

 

と遠慮する剣崎。あくまで自分はこの家においては余所者だ。しかも泊めてもらう以上あまり迷惑をかけるわけにはいかない。

 

「いえ!上杉さんが一番疲れてるはずです!遠慮なんかせず先に入ってちゃってください!」

 

と四葉がぐいぐいと剣崎を押す。

 

「わ、分かったよ!四葉!

分かったからそんなに押すなって!」

 

と仕方なく一番風呂をご馳走になることにした。

 

そして剣崎が風呂に入っている間、お喋りをしながら休憩をする五つ子たち。

 

だがそこで二乃はあるものの存在に気づく。

それは先程五つ子達が勉強中に、教えている時以外はずっと何かを書き込んでいた。

 

表紙には『試験対策』とだけ書かれた5冊のノート。

恐らく国語、数学、社会、理科、英語の5教科だろう。

一体どんな剣崎がどんな勉強をしているのか、気になった二乃。

そして二乃はノートをめくって驚愕した。

 

「どうしたの?二乃」

 

と三玖は不思議そうな顔をする。二乃は震え声で

 

「あいつ、どこまで真面目なのよ...」

 

と手に持ったノートを他のみんなに向かって見せた。

 

 

 

そこには各姉妹の教科事に関するデータがビッシリと書かれていた。

間違えた問題、それが書いてある教科書のページ数、分かりやすい教え方やそれの練習になる基礎問題。

それが5冊分、各姉妹ごとに書かれている。

一花が黄色。二乃が黒。三玖が青。四葉が緑。五月が赤。

 

しかも問題だけではなく、各教科事に関する正答率や誤答の傾向。その教科に対する取り組み方なども記されている。

 

そして、良い点、これから改善していく点などが全て手書きで書かれていた。

 

つまりこの5冊のノートは五つ子専用の『試験対策』ノートだったのだ。

 

「フ、フータロー君。ここまで...」

「ほんとバカよあいつ...何も普通ここまでやらないわよ」

「フータロー...こんなにまで私たちのこと...」

「上杉さん...私感動しました!」

「本当に上杉さん...真面目すぎですよ...」

 

感動する五つ子たち。三玖と五月に至っては目尻に涙を浮かべている。

 

あんなに馬鹿だった自分たちのためにここまで彼は尽くそうとしてくれている。

 

そして五つ子たちは改めて『赤点を回避して風太郎を救う』という決意をより固いものにした。

 

そして剣崎が風呂から上がってきた。

 

「いや〜いい湯だったぁ〜...

って何泣いてんだ?!三玖!五月!

まさか泣くほど難しい問題があったのか!?」

 

と三玖と五月に駆け寄る剣崎。

そんな剣崎に三玖は告げる。

 

「フータロー」

 

「どうした、三玖?」

 

「私たち頑張るから。絶対赤点なんて取らない。何がなんでもフータローには家庭教師を続けてもらう」

 

他の姉妹たちもその決意を目で剣崎に語る。

 

「みんな...ありがとう!こんな不出来な家庭教師なのに...俺、嬉しいよ!」

 

とまた子供のように笑う剣崎。

その笑顔を見て、五つ子たちは自身の心が暖かくなっていくのを感じた。

 

そして0時まで勉強をすると、今日のように寝不足になって授業に集中できないなんて事がないよう、五つ子たちは各自の自室に、剣崎はソファに行くとそのまま眠りについた。




やばい...
完全にサブストーリーを作るタイミングを逃してしまった...


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第16話:運命の『分岐点』

今回少し中途半端or手抜きに感じてしまうかもしれません。

本当に申し訳ございません。


「よし、こんなもんか」

 

剣崎は自作の味噌汁を味見し、頷く。

とうとう今日は試験当日である。

 

今の時刻は午前5時半。

五つ子達は今日のために死力を尽くして勉強してきた。いざ試験前日と彼女らは図らずとも不安になってしまったらしく、徹夜をしようとしたが、寝不足で試験に集中できなくなってもいけないと考えた剣崎は午前1時に彼女らを無理やり寝かせたのだった。

 

だが正直にいうと彼は彼女達なら大丈夫だと思っていた。何より相当な量をこなしてきたし、剣崎が当初予定した課題量の1.8倍を彼女たちはやり遂げてくれた。

 

ちなみに剣崎は特に自身の試験勉強は特にしていない。教科書を一度読み直しただけであり、それだけで彼は十分満点を取れるほどの実力を持っている。

 

そして彼が今作っているのは朝ごはんである。彼女らが起きる時間に合わせて、ご飯を炊いておき、味噌汁を作り、鮭を焼いた。

ちょうど冷蔵庫に食材もあったので、彼が作ることにしたのである。

 

そして7時になると五つの部屋から一斉に目覚まし時計の音が鳴る。そして一斉に全ての部屋の扉が開かれる。

 

「んぅ〜...おはよ〜...」

「おはよ...」

「よく寝た...」

「私はまだ眠いですぅ〜...」

「ふぁ〜...早いですね、上杉さん」

 

「みんな、おはよう。朝ごはん出来てるぞ。」

 

テーブルには先日とは違い、『ザ・日本の朝ご飯』という朝ごはんが並んでいた。

 

「あ〜、ありがと〜...ってあんた勝手に冷蔵庫開けたでしょ!」

 

「え?あ、あぁ。そりゃ冷蔵庫開けなきゃ料理は作れないだろ」

 

「そういう問題じゃなくて!なんで人ん家の冷蔵庫勝手に開けたか聞いてんのよ!」

 

「二乃!折角上杉さんが作ってくれたんだから、あんまり文句言っちゃダメだよ!」

 

怒る二乃を四葉がたしなめる。二乃もなんとか納得してくれたようで五つ子たちは洗顔と歯磨きをすると、テーブルに座った

 

「「「「「頂きます」」」」」

 

と手を合わせる五つ子達。剣崎は「はい、召し上がれ」と微笑みながら言うと自分も椅子に座り、朝ごはんを食べる。

 

「はむっ...相変わらず上杉さんの料理は美味しいです」

 

「この鮭もいい塩加減。やっぱりフータローの料理は美味しい」

 

「わっ、このお味噌汁美味しい〜」

 

と姉妹達は剣崎の作った朝ごはんに舌鼓をうつ。

 

「みんな慌てないで食べろよ。時間はまだあるからな」

 

そして全員が食べ終わった頃。

「そうだ、みんなに渡しておくものがあったんだ」

と剣崎は5枚の紙を姉妹に1枚ずつ渡していく。

 

「みんなの各教科ごとの苦手なところや間違いが多かった問題を軽くまとめておいた。

テスト前にでも見ておいてくれ」

 

そして一番下には1人ずつへのコメントが書いてあった。

 

一花には『終わったからって油断するな。ちゃんと見直しをすること』

二乃には『分からない英単語はローマ字読みで思い出すこと』

三玖には『気張りすぎるな。適度に肩の力を抜くこと』

四葉には『落ち着いて取り組むこと。ケアレスミスは極力ゼロに』

五月には『自信を持って挑め。自分を信じればきっといける』

 

それをみた姉妹たちは

「フータロー君...ほんとに真面目で優しいなぁ、君は」

「こ、こんなこと書かれなくてもちゃんと思い出せるわ!」

「フータロー...私絶対やってみせる」

「見ててください、上杉さん!」

「上杉さん...ここまでして頂けるなんて...」

 

とさらに決意を固める。

 

「よし、じゃあ行くか」

 

と五つ子たちと一緒にマンションをでた剣崎。

 

みんな心なしか足取りがいつもよりしっかりしている気がする。試験に向けて気合いは十分といったところか。

 

そんな所を考えていた剣崎の携帯が鳴った。アンデッドサーチャーだった。最近はあまりアンデッドが出現していなかったこともあって完全に油断していた。

 

そして何より今日は試験日である。

五つ子たちはもちろん自分を試験を受けなくてはならない。それも今の自分の身体の元の持ち主は成績優秀者である。もし戻った時のことを考えて点数を下げるわけにはいかない。

 

だが事態が事態だ。今この街でアンデッドに対抗しうる力を持つのは『仮面ライダーブレイド』と『仮面ライダーレンゲル』の二人だけであり、後者はその目的などもはっきりせず間違いなく人助けのために戦うことなどはしないだろう。

 

なら、自分が行くしかない。

 

「みんな、先に行っててくれ。忘れ物を取ってくる」

四葉と五月は「分かりました」と言い、二乃は「ちゃんとしなさいよ」と軽口を飛ばす。

 

だがそんな剣崎を一花と三玖は心配そうに見つめる。

 

「フータロー...大丈夫?試験に間に合う?」

 

「あぁ。大丈夫だ。すぐ取ってくる」

 

と言いニッコリ笑う剣崎。

 

「フータロー君、絶対に来てね。私たちが赤点を回避する前に君が普段通りの点数を取ってくれないと私困っちゃうから」

と一花も剣崎に笑いかける。

 

恐らく一花なりの気遣いなのだろう。

 

「じゃあみんな!ちゃんとプリント見て確認しておいてくれよ」

 

と言いながら剣崎はマンションに戻るフリをして、アンデッドの元へと向かう。

 

「三玖もフータロー君が心配?」

 

「うん...だけど私も信じてるから。必ず時間通りに戻ってきてくれるって」

 

 

 

剣崎の秘密を自分だけのものだと思っている二人はまだそのすれ違いに気づいてはいなかった。

 

 

 

そして四葉はふと疑問に思った。

 

『あれ?上杉さん忘れ物を取りに帰るって言ってたけど...マンションの鍵どうするんだろ?』

だが四葉はすぐに「余計なことを考えちゃダメ!今は試験に集中!」と自分に釘を刺すとそのまま学校に向かって歩く。

 

 

試験開始まで、あと残り45分。

 

 

 

 

剣崎はアンデッドサーチャーの示す場所まで走った。

着いたのは歓楽街の路地裏。

 

そこにいたのは♢7 トータスアンデッドだった。

剣崎はついにきたかと思う。

今まで剣崎が戦ってきたのはスペードスートのアンデッドだけだった。

 

だが前回レンゲルの襲撃を受けた際、レンゲルにリモートを使われたこと、レンゲルの存在そのもの、そして今目の前にダイヤスートのアンデッドがいることからハートスートのアンデッドは確認できていないが、どうやらこの世界には全てのスートのアンデッドがいるだろうということを確信する。

 

だがそんなことを考えている余裕はない。

剣崎はバックルにカテゴリーAを装填する。そして腰に装着して変身する。

 

「変身!」

TURN UP

 

オリハルコンエレメントを通過したブレイドは勢いそのままにトータスアンデッドにパンチを食らわせる。

 

だがそのアンデッドの硬い甲羅に阻まれ、ダメージは入らない。

 

トータスアンデッドはその異常な筋肉を活用し、左手の亀の甲羅状の盾をブレイドに叩きつける。

 

「ぐぅ!」

 

と言いブレイドは吹き飛ばされる。

だがブレイドは受身をとり立ち上がると即座にブレイラウザーを抜き、剣戟を浴びせる。

 

だがその剣戟すらもアンデッドの甲羅が硬すぎるせいでダメージが入らない。

 

アンデッドも左手の盾で反撃するがブレイドはそれを躱して、距離を取る。

 

「くそっ!ならこれなら」

 

とMETALのカードをラウズする。

ブレイドの身体は一瞬にして硬質化した。

 

アンデッドが突進攻撃をしかけてくるが、ブレイドはそれを正面で受け止める。

そして『メタル』の力で硬化した拳をアンデッドの顔面に打ち込む。

 

METALの効果が切れてしまったが、アンデッドはまだ怯んでいる。ブレイドはその隙にトドメを刺そうとし、カードホルダーを展開しようとする。

 

 

だがそこに何者かがブレイドの背中に斬撃を浴びせた。

 

「ウェア!」

 

とブレイドは吹き飛ばされる。立ち上がって後ろを見ると 、

 

そこには『仮面ライダーレンゲル』が立っていた。

 

「やぁ、上杉風太郎君。今日もアンデッド退治に精が出ているね」

 

と加工した低く抑揚のない声で喋りかけるレンゲル。

 

ブレイドはレンゲルを警戒する。

 

だがそれを隙とみたアンデッドはブレイドに襲いかかる。

回避運動を取ろうとするブレイド。

 

だが

 

 

BITE

BLLIZARD

《ブリザードクラッシュ》

 

という電子音と共に、レンゲルは飛び上がり、その足から冷気が発せられ、それによりアンデッドは一瞬にして凍りつく。

そしてレンゲルは大きく足を開くと、アンデッドに挟み蹴りを食らわせた。

 

アンデッドは一切抵抗出来ず、吹き飛ばされて倒れると、封印可能な状態を示すようにアンデッドバックルが割れる。

レンゲルはそこに封印のカードを投げ、アンデッドを封印した。カードには『ROCK』

と刻まれた。

 

 

アンデッドを倒したレンゲルはブレイドの方を向く。

 

「何故お前がアンデッドを封印した!」

 

「後々のためさ」

 

と怒るブレイドに答えるレンゲル。

 

「お前の目的は何なんだ!答えろ!」

 

「今はそれに答えるときではないよ。それにこの出会いは偶然だ。私は本当にこのアンデッドを封印しに来ただけだったからね」

 

と剣崎と会ったことを偶然と言うレンゲル。

 

「そんなわけないだろ!何が目的なんだ!」

 

「今言ったことが真実だよ。

それに目的を答えろ、か...君が試験を円滑に受けられるよう手助けして上げようとしたことかな」

 

「ふざけるな!」

 

とまるで冗談のようにいうレンゲルにブレイドは斬りかかった。

 

だがレンゲルは『SMOG』と刻まれたカードをラウズする。すると辺り一面に煙幕がはられる。

 

そして煙幕が晴れるとそこにレンゲルの姿はなかった。

 

「くそっ!!」

 

とブレイドは地団駄を踏む。

だがこんなことをしている場合ではない。試験開始まであと15分。

ブレイドは変身を解除し、『上杉風太郎』の姿に戻ると、全力疾走で学校に向かって走った。

 

 

「遅い...」

と剣崎の手作りプリントを確認していた五月はちらちらと黒板の上に取り付けられている時計をチラチラと確認する。

 

試験開始まであと5分だった。仮に今着いたとしても完全に遅刻である。

 

五月は祈った。どうにか間に合って欲しいと。五つ子は全員全科目赤点回避、剣崎はいつも通り満点。それがベストだが、剣崎は間に合うのだろうか。

試験官が各列ごとのプリントを数えている。

 

このままでは試験が始まってしまう。

もうダメなのかと思ったその時、教室のトビラが開かれた。

 

「すいません!遅れました!」

 

剣崎だった。階段を駆け上がってきた彼はゼェゼェと息を荒くしている。

 

「遅刻だぞ!上杉!テスト用紙を配るから早く席につけ!」

 

と試験官の教師が怒鳴る。

 

「はい、すいません!」

 

と言いながら剣崎はいきの整わぬまま席に着く。そしてちらりと後ろを向くと、五月に向かってサムズアップした。

 

「!」

 

それに気づいた五月はさらに気を引き締めた。

そして用紙が配られ、この日最初のテスト、国語が開始された。

 

 

───────────────────────

 

「よぉ、マルオ」

 

「私のことを名前で呼ぶなと言ったはずだが」

 

勇也は中野マルオが医院長を務める病院の屋上で彼に話しかけた。

 

「まだそんなことを気にしてんのかよ。それにお前は...」

 

「そんな話をしに来たのではないだろう」

 

と勇也の言葉を遮る。

 

「...まぁちょいと質問と頼み事があってな。

まずは質問だ」

 

「今そんなことをしている時間はないのだがね」

 

「とりあえず聞いていけよ。今朝風太郎を襲ったレンゲルに変身していたのはお前か?」

 

勇也がいつものおちゃらけた感じから一気に真剣な面持ちで聞く。

 

「そうだといったら?」

 

「別になにかするわけじゃねぇさ。それに風太郎は俺がスクーターに乗っけてった。多分テストには間に合ってるだろうな」

 

「そうか。では頼み事とは何かな?一応聞いておこう」

 

そう言われた勇也はスゥと息を吸うと口を開いた。

 

「俺にギャレンバックルとカテゴリーAを返せ」

 

「また唐突に何故だね?戦うことを放棄したのは君自身だろう。それに君はその身体で戦ってももたないはずだ」

 

「うるせぇよ。これ以上風太郎の命を脅かさせるわけにはいかない。お前がバックルを返せば俺はあいつに全てを話して、戦いから身を引かせる」

 

「答えを言おう。断る」

 

「何故だ!戦うことなら俺だってできる。下級アンデッドぐらいなら余裕だし、上級が来たとしても戦い用によれば...」

 

「そういう話ではないんだよ、勇也」

 

そう冷たく言い放ちながら、彼は勇也の方を向き直る。

 

「私の計画を達成するためには、今は上杉風太郎君をアンデッドと戦わせる必要がある」

 

「ふざけんな!もうあいつには...」

 

と勇也が言いかけたところでマルオは白衣のポケットから何かを取り出す。

 

「だが君にはカテゴリーAを不完全な形ではあるが封印してもらったという恩もあるからね。これを渡しておこう」

 

とマルオは勇也にその何かを放り投げた。

 

「こ、これは...!」

 

「ラウズアブゾーバーだ。上杉風太郎くんにはその実戦調整をしてもらいたい」

 

「そもそもこれを俺があいつに素直に渡すと思うか?」

 

「渡すか渡さないかは君の勝手だ。だがこれから上級アンデッドが、ましてやカテゴリーKなどが出現した際、彼はそれ無しでやれると思うかい?」

 

「テメェ...」

 

「そもそも私が君にバックルを返さなければ戦えるのは彼しかいない。それとも戦うなと説得でもしてみるかね?風太郎君の性格上聞き入れるとは思えないが」

 

「マルオ!お前はどこまでクズになりゃ気が済むんだ!」

 

「さぁね。だが何度も君に言っただろう。私はあの日から...『妻』を失ったあの日から悪魔になったとね。それに君にならこの気持ちは分かるはずだ。

 

 

同じく『妻』を失った君になら」

 

 

「......!!」

 

「少し話し過ぎた。診療の時間だ、私は戻る」

 

と言いながらマルオは院内に戻っていく。

 

だがそんなマルオを勇也が呼び止める。

 

「待て!分かった、アブゾーバーはあいつに渡す。だがせめて...この試験が終わった後の林間学校の期間中に、東町にアンデッドが出た時だけバックルを返してくれ」

 

と頭を下げる勇也。

 

「何故だ?何故君がそこまでする?」

 

「決まってんだろ...『父親』だからだ。風太郎には林間学校くらいは普通の高校生として楽しんで欲しい。

 

それに父親が子供の幸せを願って何が悪い?」

 

「ッ......。考えておこう」

 

というとマルオは再び院内に戻る。そんな彼の背中を見届けた勇也は少し空を見上げると自身も病院を後にした。

 

 

───────────────────────

 

剣崎と五つ子たちは試験を解いていた。今は最後の科目、英語である。

 

剣崎は開始30分程で全ての問題を時終わったものの、五月はかなり苦戦している様子だった。

 

『えぇと...この文確かどこかで...』

 

五月は必死に記憶を漁り、目の前の文を訳そうとする。そこで電撃のように記憶が蘇る。

 

『五月、その訳間違ってるぞ。この文は関係代名詞が省略されているから分かりにくいけどこれは2つの節で出来ている文だ』

 

『そうでした。この文型は省略されているからそれなら訳は...』

 

閃いた五月は解答欄にカリカリと答えを書き込む。

 

そしてさらに30分が経過し、試験の全科目が終了した。

 

 

 

 

そして三日後

 

「先日の中間試験の返却を行う」

 

と担任から全員に答案が返された。

まさに今日は運命の分かれ道である。

 

そして剣崎のもとにも答案が返却される。

周りに生徒が集まる。

 

上杉風太郎の人格が剣崎になってから、彼の持ち前の素直さと優しさが周りに受けたようで、クラスの人気者になっていた。

 

「上杉何点だった?」

「やっぱり全科目満点?」

 

「あぁ、今回は簡単だったかな」

と剣崎は右上に100と書かれた5枚の用紙を机の上に置いた。

 

「さっすが天才上杉!」

「いやいや、俺なんてまだまだだよ。

っとそうだった。俺テストの復習があるから 行かなきゃ。じゃあまた!」

 

と剣崎は席を立った。周りは100点のテストの何を復習するんだと思ったが剣崎の本来の目的は違った。

 

 

 

 

それは三日前。テスト最終日にまで遡る。

 

「みんな。まずはお疲れ様。今日までよく頑張ったな」

 

と五つ子を労う剣崎。

 

「ほんっと疲れた〜」

「やっと勉強から解放されるわ〜」

「これでいっぱい眠れる...」

「結果が心配です〜」

「ここまで必死に頑張ってきたのです。だからきっと...」

 

と五つ子たちは思い思いに口にする。そこで剣崎が彼女らにある提案をする。

 

「そこでだ。テスト返却日、俺は屋上に行く。それぞれの結果は1人ずつ見ることにしようと思う」

 

「なんでそんな面倒なことするのよ」

 

と二乃は訝しむ。

 

「なんというか、まぁ...プライバシーかな...」

 

と剣崎はお茶を濁す。これは剣崎なりの配慮だった。もし仮に誰かが一科目でも赤点をとってしまっていた場合、みんなの前で言い出すには非常に辛い思いをするのは想像にかたくない。

 

だから剣崎は1人ずつ結果を見ることにしたのだ。

 

「まぁフータロー君がそうするってのなら、私はそれに従うよ」

 

と一花も了承し、他の五つ子たちも了承してくれたようだ。

 

 

そして三日後に時を戻す。

 

剣崎は屋上で五つ子の誰かが来るのを1人待っていた。

 

そして屋上の扉が開かれる。

 

そこにいたのは三玖だった。

 

「フータロー、待った?」

 

「いや今来たところだよ」

 

「良かった。じゃあこれ試験結果」

 

と彼女は用紙を見せる。それをみた剣崎は「おぉ」と声を上げる。

 

その5枚の試験用紙の結果は剣崎が期待していたものだった。

 

 

国:39 数:46 理:40 社:70 英:36 計:231

 

 

見事三玖は全科目赤点を回避したのだった。

 

「すごいじゃないか、おめでとう三玖」

 

「ううん、私の力じゃない。フータローのおかげ」

 

「いやそれは違うぞ、三玖。これは三玖が自分で努力して取った点数だ。だから三玖はもっと自分を誇っていいんだぞ」

 

と剣崎は三玖の頭をわしゃわしゃ撫でる。三玖は幸せそうな顔でうっとりしている。

 

「ありがとう、フータロー。じゃあ私、行くね」

 

「あぁ、じゃあまた後でな」

 

三玖は屋上の扉を開けた。そして三玖が出ると同時にある人物が屋上に来た。

 

それは二乃だった。

 

「次は二乃か。三玖は全科目赤点回避を成し遂げたぞ」

 

「へぇ...そうなんだ」

 

と二乃はなにか飄々とした様子だ。

 

そこで「そんなに見たいなら見せてあげるわ」と言いながら剣崎に用紙を差し出した。

 

 

国:35 数:32 理:34 社:40 英:59 計:200

 

 

二乃もちゃんと合格ラインを超えてきた。

 

「さすがは二乃だな」

 

「フン、当然よ」

 

と鼻を鳴らす二乃。彼女は始めたのが少しだけ遅かったのもあったが、そんなハンデは何のそのと赤点回避を達成したのだった。

 

「本当によく頑張った。おめでとう」

 

と剣崎は三玖にしたのと同じように二乃に笑いかけながら頭を撫でた。

 

二乃は剣崎の笑顔を見て、またあの時の胸が熱くなる感じを覚えた。

だが「人の頭を気安く撫でないで!」と手を払い除けるとそのまま屋上を出た。

 

 

そして剣崎は二乃が屋上を出てから15分ほど待つと、扉が開く。

 

そこにいたのは一花だった。

 

「やっほー、フータロー君ー」

 

と一花はパタパタと手を振りながら剣崎の方に歩み寄る。

 

「よっ、一花。ってその様子は大丈夫そうだな」

 

「どうかな〜?実は悲しいのを隠してるだけかもよ?」

 

「......嘘だよな?」

 

「嘘嘘。ごめんね、からかっちゃって」

 

と一瞬疑いかけた剣崎に用紙を渡した。

 

国:31 数:61 理:49 社:35 英:47 計:223

 

「どう?私もちょっとはやるようになったでしょ」

 

「ちょっとなんかじゃないよ。最初の時と比べたら雲泥の差だ。本当によく頑張ったな、一花」

 

「フータロー君」

 

「ん?どうした一花」

 

一花は褒められていた時は違い、真剣な面持ちになり剣崎に言う。

 

「私たちの家庭教師になってくれてありがとう。あなたのおかげで私たちは本当の笑顔を取り戻せた気がする。

あなたが『仮面ライダー』で人の笑顔を守るために戦わなきゃいけないってのはよく分かってる。だから...せめて私たちが笑顔で卒業する時までは側にいて...

何があってもその時までは私たちの前からいなくならないで...」

 

「一花...」

 

「って何言ってんだかなー私。ごめんね、なんか変な空気にしちゃって」

 

「いや、そんなことないよ。今俺、内心めちゃくちゃ喜んでるんだ」

 

「え?」

 

「一花が今言ってくれただろ。私たちはあなたのおかげで本当の笑顔を取り戻せたって。俺、自分のやったことで人が笑顔になってくれるのが嬉しいんだ」

 

「フータロー君...」

 

「それに一花が、姉妹みんなが俺を必要としてくれてるってのも本当に嬉しい。またこうして誰かと一緒に色んな感情を共有できることが今の俺にとっての一番の幸せなんだ」

 

 

ああ、この笑顔だ。本当にこの笑顔は、私たちの心を暖かくしてくれる。

 

 

「フータロー君...」

 

 

 

 

『あなたが好きです。』

 

 

 

 

 

この言葉を一花は飲み込んだ。この『上杉風太郎』への想いは本物だ。だがもしここでその一歩を踏み出してしまえば、きっともう戻れなくなる。

せっかく揃った姉妹たちの足並みが、崩れてしまう。

一花は恐れた。長女として、姉妹を纏めることに責任感を持つ彼女は自分の想いを押し殺した。

そして彼女は気づいていた。自分の『上杉風太郎』への想い。

 

三玖はそれと同じものを持っているだろうと。

 

一花は三玖を心配していた。剣崎が家庭教師をやるようになってから、三玖はよく笑うようになった。自分を出すようになった。

 

だが時折一花は見ていた。自分やそれ以外の姉妹が剣崎と仲良くしているのを、三玖は嬉しそうに、姉妹が笑えていることが幸せそうに、

 

 

そして何か辛そうに、その様子を眺めていたことを。

 

だから一花は言い出せなかった。三玖のために、姉妹のために。彼女の想いを五つ子の長女という責任感が蓋をした。

 

「一花?」

 

と剣崎は不思議そうな顔で一花に尋ねた。

すると一花はハッとした。

 

「えっ、あ、いや!なんでもない...何でもないよ!」

 

「本当か?なんか今の一花、すごい辛そうな顔してたぞ」

 

「し、してないよ!勘違いだって、勘違い!

じゃあ私行くから!四葉と五月ちゃんが合格してたらちゃんと褒めてあげなきゃダメだぞ〜」

 

と一花は逃げるように屋上を出た。

 

 

剣崎はまた一人になった。

残るは四葉と五月。

 

だがこの二人がなかなか来なかった。一花が去ってから一時間ほど経った。

 

そして剣崎が眠くなってきたところで、屋上のドアがゆっくりと開かれた。

 

そこには少し難しい顔をした五月がいた。

 

剣崎は少し嫌な予感がした。だがなるべくそれを剣崎は出さないように五月に話しかける。

 

「よっ、五月。どうしたんだ、そんな難しい顔して」

 

「え、えっとですね...こ、この度は私ら五つ子の家庭教師を担当して頂き誠に...」

 

「いやいやいや、何言ってるんだ?五月」

 

妙に畏まって言う五月に剣崎はツッこむ。

 

「え、えーとこれはそのぉ...

お、遅れてすみませんでした!」

 

「え?あ、うん」

 

といきなり謝る五月に驚いてうまく言葉が出てこない剣崎。

 

「どうして遅れたりなんかしたんだ?五月にしては珍しいな」

 

「そ、そのぉ...上杉さんへの感謝の言葉を考えていたら、その...少し遅くなってしまって」

 

「そうだったのか...でも感謝の言葉ってことは...」

 

「は、はい!テストの方は大丈夫でした!」

 

と五月は慌てながら用紙を剣崎に見せる。

 

国:45 数:31 理:69 社:38 英:43 計:226

 

「五月も合格か。頑張ったな」

 

と剣崎は五月の頭を撫でる。五月は「ひゃう」と驚きながらもまんざらでもなさそうだ。

 

そしていきなり五月は声を上げた。

 

「う、上杉さん!本当にありがとうございました!あなたのおかげで私たちは少しだけ前に進めたような気がします」

 

「そうか。そう言って貰えると嬉しいよ。でもテスト直しは忘れるなよ?」

 

「も、もちろんです。でも最後に一つだけ言わせてください。

 

これからもよろしくお願いします。上杉さん」

 

と微笑む五月。

 

と五月も屋上を出たところで残るのは四葉だけとなった。

 

だが待てども待てども四葉は来なかった。

 

既に三時間が経過し、時刻は四時。そろそろ完全下校の時間になってしまう。四葉を除く姉妹たちは五つ子全員と剣崎の六人で一緒に帰ってなにか美味しいものでも食べようと言い、図書館で待っている。

 

 

そろそろこっちから探しに行くか。そう考え屋上を出ようと立ち上がった時、扉が開いた。

 

 

そこには四葉がいた。

だが剣崎は一目見て全てを察した。握りしめてくちゃりと潰れた点数用紙、そして泣き腫らしたであろう赤い目。

 

そしてようやく四葉が口を開く。

 

「待たせて...ごめんなさい、上杉さん...」

 

「あぁ、待ったぞ、四葉」

 

剣崎は優しく微笑みながら答える。

 

「テスト、今日返されたんですけど...他のみんなは?」

 

「他のみんなはかなり前に来たよ。

みんな...全科目の赤点を回避したよ」

 

それを聞いた四葉は「あっ...」と声を漏らすと、目から涙を流し、膝をついてしまった。

駆け寄り、しゃがむ剣崎。そんな剣崎の胸に顔を埋めて、彼女は泣きじゃくった。

 

「ごめんなさい...!ごめんなさい!上杉さん...!私のせいで...!私なんかのせいで...!」

 

彼女の手から点数の書かれた用紙が落ちる。

 

そこには

 

国:54 数:35 理科:28 社:34 英:33 計184

 

と無情にも理科の点数が赤で書かれていた。

 

以前の彼女ならなんとも思わなかっただろう。むしろこれだけ点数を取れたことを大喜びしていたに違いない。

 

だが今は違った。五つ子で全科目赤点回避。それができなければ、剣崎は家庭教師を解雇。

 

そのボーダーラインを四葉は、一人だけ、一教科だけ超えることが出来なかった。

 

「本当にごめんなさい!上杉さん...あんなに頑張ってくれたのに...私なんかのためにあれだけ頑張ってくれたのに...!それに答えられなくてごめんなさい!本当にごめんなさい!」

 

と大粒の涙を零しながら、四葉はひたすら剣崎に謝り続ける。剣崎はそんな四葉の背中をさすりながら宥める。

 

「何を言うんだ四葉。お前は十分頑張ったじゃないか。俺はお前達の努力を一番近くで見てきた。だから分かるぞ」

 

「でも...それじゃあ上杉さんは...」

 

「いいんだ、四葉。俺は家庭教師をやめたりなんかしない。別に給料なんか貰えなくたって続けてやるさ」

 

「え?」

 

「その代わりほかのバイトをしなきゃいけなくなるから今まで通りは行けなくなるかもしれないけど、心配するな。何ももう会えなくなった訳じゃない」

 

「でも...でも...」

 

と四葉は泣き続ける。

 

今の剣崎にはどうすることも出来なかった。いくら四葉が泣こうとも、剣崎が慰めようとも、目の前にあるのは理科が28点という無情な赤点、剣崎の家庭教師解雇の印があるだけだった。




少し中途半端なところで終わって申し訳ないですが、明日は投稿できないかもしれません。

本当にすみません。


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第17話:四葉、『逆転』

先日、この『五等分の運命』のお気に入り数が300件を突破しました!

これもひとえに読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。


剣崎は泣きじゃくる四葉を慰め続けた。

今の四葉にはあらゆる気持ちが渦巻いていた。

 

あと2点で合格出来たという悔しさ。

 

結局自分だけが赤点を取ってしまい泣くことしか出来ないという情けなさ。

 

そして剣崎や五つ子に対する申し訳なさ。

 

それらのあらゆる感情が四葉に涙を止めさせなかった。

 

 

「私は...上杉さんの...みんなの努力を無駄にしました...私が...私が...!」

 

「四葉...違う、俺のせいだ。俺がもっと上手く教えられていれば...」

 

『俺はまた嘘をついた...

 

彼女たちを『笑顔』にさせると言ったのに』

 

剣崎は不甲斐ない自分自身を責めた。

 

四葉が姉妹の中で一番勉強ができなくて、それを彼女自身が理解して姉妹の中で一番努力していたことを彼は知っていた。

 

だから四葉に非は無い。悪いのはそんな誰よりも努力をした彼女を裏切った自分自身だ。

 

 

 

 

 

そこで屋上の扉が勢いよく開かれた。

 

「ちょっと何してんのよ!!

うちの可愛い妹を泣かせてるんじゃないわよ!」

 

そこにいたのは腕を組む二乃。その後ろには一花、三玖、五月がいた。

 

「ま、待って...二乃!やめて...悪いのは全部私たがら...お願いだから上杉さんを責めないで...」

 

四葉は涙でぐちゃぐちゃになった顔で二乃に懇願する。

 

「いや、悪いのは全て俺だ。俺はこんなにも努力した四葉を合格させてやれなかった。すべての責任は俺にある」

 

「ったく...これだから天才サマは...まぁあんたみたいに常に満点を取ってれば『アレ』は意識するはずないものね」

 

と二乃は呆れたような顔だ。

 

そこで剣崎は違和感を覚えた。今四葉だけが合格できずに泣いてしまっているという状況なのに、二乃に加えほかの三人も少し困ったような、嬉しいようなという顔つきである。

 

そこで五月が四葉に尋ねる。

 

「四葉。あなた2週間前の科学実験の結果を纏めたレポートは提出しましたか?」

 

「え?一応出したけど...上杉さんに色々と教えて貰いながらだけど自分で書いて提出したよ...」

 

そこで剣崎はハッとした。

 

「そうか!『アレ』か!

四葉!その提出されたレポート、この間返却されたよな? 」

 

「は、はい。されましたけど...」

 

「その右上に赤ペンで書かれてたアルファベット、覚えているか?」

 

 

 

 

「えぇと...確か...『A』でした...」

 

 

 

四葉がそういった瞬間、辺り一面がシン...となる。そして

 

 

 

「「「「「やったー!!」」」」」

 

 

と四葉を除く五人が一斉に喜ぶ。四葉はまだ何が起こったか分からないという顔だ。

 

「やるじゃん、四葉!」

「ほんとヒヤヒヤさせないでよね!」

「四葉、おめでとう」

「本当に...本当に良かったです...」

「よくやったぞ!四葉!」

 

とみんな口々に四葉を褒め称える。

 

「えーと...みんな?」

 

「おめでとう、四葉。これで全員赤点回避達成だ!」

 

と剣崎は四葉に笑いかける。

一瞬ドキリとした四葉であったが首を横にブンブン振って気を取り直す。

 

「ど、どういうことなんですか!?赤点回避達成って...私だけ理科が28点だから、上杉さんは...」

 

「フフフ...甘いな、四葉。今回の俺が解雇を免れる条件は赤点回避。だが何も親父さんは、『素点』だけで赤点回避とは一言も言っていない。

 

そしてお前が提出したレポートの評価は『A』...もうここまで言えば分かるだろ?」

 

 

「あっ、まさか!」

 

やっと四葉は気づいたようだ。

 

「ようやく気づいたな。四葉の理科は28点じゃない。素点の28点に加えて...

 

 

 

『平常点』の+3点で合計点は31点だ!」

 

「......!!!」

 

と四葉の顔は一気に明るくなった。

 

すると携帯が鳴る。画面を見ると、五つ子の父親の電話番号だった。剣崎は電話に出る。

 

「はい、上杉です」

 

「もしもし、上杉君だね。確か今日はテスト返却日のはずだが、娘達の結果はどうだったかな?」

 

だが正直な話を言うと、マルオは姉妹たちがら赤点回避をできようができまいが剣崎を家庭教師として続投させるつもりだった。

これも全て計画のため、そう考えていたマルオに帰ってきたのは意外な答えだった。

 

「五人で五科目すべての赤点を回避出来ました!」

 

「!...ほう」

 

とマルオは興味深そうに頷く。

 

「正直に話すと四葉だけは平常点込みで30点を超えたんですけど...お父さんあの日赤点回避と言っただけで素点に関しては...」

 

「いや、それで結構だ。何事も結果が全てだ。その結果において赤点回避という目標を達成できているなら私が言うことは何も無いよ。よくやってくれた、上杉くん」

 

「お、お父さん...!」

 

「君にお父さんと呼ばれる筋合いはないよ。

ではまた」

 

と言うとそこで通話は途切れた。

 

「父は何と...?」

 

と恐る恐る尋ねる五月。

 

「何も言うことはないってさ...」

 

「!...つまりそれって...」

 

 

 

「あぁ。おめでとう、みんな。

そして、これからもよろしく」

 

とペコリとお辞儀をした剣崎。

 

そしてそんな剣崎にいきなり四葉が抱きついた。

 

「よ、四葉?!」

 

ビックリして声を上げる剣崎。ほかの姉妹達も「「「「あ!」」」」と驚く。

 

「上杉さん...本当に、本当に...ありがとうございました。私、生まれて初めて勉強して良かったって思えました!」

 

と最高の『笑顔』になる四葉。

 

「!...そうか、それは良かった」

 

と剣崎はまた誰かの笑顔を取り戻せたことを喜んだ。

 

 

「よし!テストも終わったことだし、テスト直し......といきたいところだが、正直いって俺も今日は疲れちゃったし...俺、今なんか甘いものでも食べたい気分だからさ。

 

みんなでもパフェでも食べに行かないか?」

 

と剣崎は五つ子を誘う。

そしてすぐさま彼女らはそれに返す。

 

「さんせーい!私もパフェとか食べたくなっちゃった!」

「私も行くわ!ここ最近頭使いすぎちゃったし、糖分補給しなくちゃ!」

「私も。抹茶パフェが食べたい気分」

「私はフルーツパフェがいいです!」

「では私は特盛で」

 

「よし!なら駅前のファミレスでいいか。今日は俺から見事赤点回避を成し遂げたみんなに奢ってやるぞ!」

 

と剣崎は意気揚々に五つ子たちと駅前のファミリーレストランに向かった。

 

 

 

 

 

 

30分後

 

「わぁ〜、美味しそう〜」

 

五つ子と剣崎の目の前には6つのパフェが並んでいた。

一花がチョコパフェ

二乃がストロベリーパフェ

三玖が抹茶パフェ

四葉がフルーツパフェ

五月がジャンボパフェ

剣崎は悩んだ結果、一番安いミニパフェにした。

 

五つ子たちはパフェに舌づつみをうっており、お互いのパフェを交換したりしていた。ちなみに注文した際に受け取った伝票を見て顔を青くした剣崎はたまの贅沢を無駄にしないようチビチビ食べていた。

 

ちなみにいま剣崎達が座る席も一悶着あって決まったのだ。ファミレスに着いた剣崎一行は店員に案内され席につこうとした。先頭にいた剣崎は特に何も考えずテーブルを挟んで6人がけの席に一番最初に座った。

 

だがそこで少し問題が起きた。誰が剣崎の横に座るかという問題である。三玖が「私でいいよ」と言い座ろうとしたが、一花が「ここは公平にジャンケン」でと提案し、みんながそれを飲んだ。そして結果は見ての通り、一花の一人勝ちだった。そして剣崎のテーブルを挟んで前に座るのは三玖である。

 

「フータロー君、私のパフェも味見してみる?」

 

と剣崎の左隣りの一花が尋ねてくる。

 

「いいのか?」

 

「もちろん。そもそもこれフータロー君の奢りだしね」

 

と笑う一花。

 

「じゃ、ちょっと貰おうかな」

 

「じゃあ、はい。あーん」

 

と一花はスプーンに一口分のパフェを乗っけるとそれをそのまま剣崎の口に運ぼうとする。

 

「え?」

 

一花のパフェから自分で一口分掬おうとしていた剣崎は硬直した。

 

「え?じゃない!いいから早く口開けて」

 

と急かされた剣崎は「あ、あぁ」と言いながら口を開ける。

 

「あむっ」

 

「美味しい?」

 

「んっ、あぁ、美味しいよ。ありがとう、一花。」

 

と剣崎は飲み込んで答えた。

そしてその様子を少しムッとした顔で見ていた三玖はすぐさま一花と同じようにスプーンにパフェを一口分乗せて、剣崎の前に出してきた。

 

「フータロー、私のも。あーん」

 

「え、えぇ...」

 

「嫌なの?一花のは食べたのに」

 

「そ、そんなことないぞ!い、頂きます!」

 

というと剣崎は三玖にパフェを食べさせて貰った。

 

「ありがとう、三玖。美味しかったよ」

 

と微笑む剣崎に三玖は顔を少し赤くして

 

「よかった」

 

と返した。

そしてそれを一花は黙って見つめていた。

 

「はいそこ、さっきから何イチャついてんのよ」

 

「イ、イチャついてなんかない...」

 

と二乃が三玖をイジりだす。

 

そしてそこで四葉が「みんな!」と少し大きな声で席に座る剣崎達に呼びかける。

 

「今回は本当にありがとうございました!上杉さんやみんな協力のおかげです!」

 

と四葉がニッパリと笑う。

そこに剣崎が返す。

 

「本当によく頑張ったな、四葉。それにみんなも。最初の時に比べてあんなに頑張るもんだから、俺も教えてて楽しかったよ」

 

と笑う剣崎。

 

五つ子たちも笑う。

 

 

 

だがこの楽しい時間はいきなり終わりを告げた。

 

 

 

 

音を立てて割れる窓ガラス。現れる異形。そして響き渡る叫び声。

 

店内は一瞬として阿鼻叫喚の地獄と化した。

 

「な...」

 

目の前の異形-♥7 プラントアンデッドは剣崎と五つ子を視界に捉えると右手の蔦を彼らに向かって放つ。

 

「伏せろ!!」

 

そう叫ぶと剣崎は五つ子たちを無理やり地面に伏せさせた。

 

彼女らは状況を理解出来ていない。

 

 

だが一花と三玖は違った。

すぐさま立ち上がると

 

「逃げるよ!みんな」

 

とほかの三人を立ち上がらせて走り出した。だがアンデッドは逃がすまいと蔦を伸ばそうとする。だがそのアンデッドの背中に剣崎は組み付く。

 

「早く逃げろ!」

 

「で、でも上杉さんは!」

 

「俺もすぐ行く!だから早く!」

 

と心配の声を上げる五月に逃走を促す。

 

そして店外に出ようとした一花と三玖にアイコンタクトを交わす。だかアンデッドもいつまでも組み付かれているわけもなく背中にいる剣崎を振り払うように吹き飛ばす。

 

「グッ!」

 

と吹き飛ぶ剣崎だったがそれと同時にバックルを装着し、叫ぶ。

 

 

「変身!!」

TURN UP

 

幸い客や店員は全員避難が完了しており、変身する剣崎を見た者はいなかった。

 

 

 

 

「へぇ〜、あれが『仮面ライダー』...

面白そうじゃん。俺もちょっかいだしてみるとするかね」

 

 

と店の外の電柱から店内を見つめる派手な格好をした男-♠︎Q カプリコーンアンデッドを除いて。

 

 

ブレイドは剣戟をプラントアンデッドに浴びせようとするものの、蔦による妨害で中々接近することが出来ない。

 

「クソっ!」

 

ブレイドは一旦距離を取ると、カードをラウズする。

 

TACKLE

 

突進力が強化され、ブレイドはプラントアンデッド目掛けて突撃する。

 

アンデッドはそれを蔦で迎撃しようとするものの、ブレイドは止まらない。

 

そしてブレイドがアンデッドに体当たりを直撃させる瞬間、横から来た衝撃に彼は吹き飛ばされた。

 

 

「ヴェア!!」

 

 

床を転がるブレイド。見上げるとそこにはやけに派手な格好をした男。剣崎はこの男に見覚えがあった。

 

「お前は...カテゴリーQ!」

 

剣崎は一度、ジョーカーとなる前にこのカテゴリーQ カプリコーンアンデッドと戦ったことがあった。彼は上級アンデッドと呼ばれる知能の高いアンデッドであり人間の姿に変身することを可能としている。一度ブレイドと戦った際も♥Q オーキッドアンデッドと組んで剣崎の親友の虎太郎を人質にとることで、剣崎を変身させずに始末しようとした卑劣なアンデッドである。

 

そしてカプリコーンアンデッド-矢沢は告げる。

 

「あれぇ?仮面ライダーブレイドォ、俺のこと知ってんの?

なら都合がいい。俺も混ぜてくれよな?」

 

矢沢は剣崎のことが記憶にないらしい。剣崎はこれで自分を『上杉風太郎』と言う青年に乗り移らせた存在以外、自分のことを知らないのだと確信した。そしてその乗り移らせた存在が『仮面ライダーレンゲル』の正体であるということも。

 

だが考える剣崎を尻目に矢沢は

 

 

「フォーーーー!!!!!」

 

 

と甲高い叫び声をあげると、その姿を♠︎Q カプリコーンアンデッドへと変化させた。

 

そしてブレイドに飛びかかる。

 

取っ組み合いになるブレイド。だがそのブレイドの背中をプラントアンデッドが右手の蔦で打つ。

 

「ガっ!」

 

と苦痛に喘ぐブレイド。そんなブレイドにさらに二体のアンデッドは追撃をかける。

 

「どうした?仮面ライダー。こんなもんかぁ?」

 

カプリコーンアンデッドはブレイドの周りをジャンプで飛びまわる。店の机や壁を蹴って、その軌道をブレイドに悟らせない。

 

そして彼の背中に回り込む。蹴りを放ち、それをガードするブレイド。だがその背中をプラントアンデッドが蔦で打つ。

 

ブレイドは完全に二体のアンデッドの連携攻撃に翻弄されていた。

 

前回、家庭教師をやめた時にもブレイドは二体のアンデッドと同時に戦った。だがあの時は戦意が高揚しており、アンデッドはどちらとも下級アンデッドだった。

 

だが今目の前にいるアンデッドの一体はカテゴリーQに属する知能の高い上級アンデッド。彼は常にブレイドが嫌がる攻撃を繰り出し、それをブレイドがガードするとその隙にプラントアンデッドに攻撃させるという手法を取った。

 

その戦術に見事にハマったブレイドは一瞬にして追い詰められた。

 

「なんだよ、つまらねぇなぁ。それなりの数のアンデッドが封印されていると聞いて来てみたが所詮こんなもんかよ」

 

とカプリコーンアンデッドはつまらなそうに頭の後ろで手を組む。

 

「待て!お前どこでそれを聞いた!?」

 

「どこって...同じアンデッドからだよ。カテゴリーKのアンデッドから聞いたのさ」

 

「カテゴリーKだって!? その正体は誰だ!言え!」

 

「言え、だって...?それは負けてるやつの態度じゃねぇよなぁ!?」

 

カプリコーンアンデッドはブーメラン状の武器をブレイドに飛ばしてきた。ブレイドはそれをもろに食らうと店の奥に吹き飛ばされる。

 

「これで、終わりだなぁ?仮面ライダー!」

 

カプリコーンアンデッドは角に青い炎を、プラントアンデッドは右手の蔦を硬質化させ、ブレイドにトドメを刺そうとする。

 

 

MACH

 

と電子音が鳴ると、ブレイドは高速移動をして、その2つの攻撃を躱した。

 

 

カプリコーンアンデッドがブレイドを吹き飛ばしていたことにより、ブレイドはカードをラウズする隙ができていたのだ。

 

そしてすぐさまプラントアンデッドの後ろに回り込み、ブレイラウザーの刃をアンデッドの背中に突き刺し、その体を貫いた。

 

 

「グゲェア!」

 

とアンデッドは苦悶の声をあげたあと倒れる。そしてブレイドは封印のカードをアンデッドに落とすと、カードに『BIO』と刻まれた。

 

 

「ちっ!」

 

と舌打ちをすると、状況の悪化をみて逃走しようとするカプリコーンアンデッド。

だがブレイドはそれを許さなかった。

 

 

BIO

 

 

と今封印したカードをラウズし、切っ先から放たれた蔦で、カプリコーンアンデッドを拘束した。

 

「なっ!?放しやがれ!!」

 

もがくカプリコーンアンデッド。

そしてブレイドはトドメを刺すためにカードホルダーから二枚のカードを取り出してラウズした。

 

 

SLASH

THUNDER

《ライトニングスラッシュ》

 

 

そう電子音がなると、電撃を纏い、切れ味の強化されたブレイラウザーで、カプリコーンアンデッドを叩き斬った。

 

 

「ガァ!!」

 

と断末魔をあげて、倒れるカプリコーンアンデッド。

 

そしてブレイドは倒れたカプリコーンアンデッドに尋ねる。

 

「カテゴリーKの正体は誰なんだ?そいつから何を聞いた?」

 

「さぁねぇ...」

 

「しらばっくれるな!答えろ!」

 

「知らねぇもんは答えられねぇよ。それに聞いたって言ってもお前がアンデッドを封印してるってことくらいだ」

 

と答えるアンデッド。どうも嘘を言っているようには見えない。ブレイドは諦めたようにカードを投げ、アンデッドはそれに吸い込まれる。カードには『ABSORB』と刻まれた。

 

「これだけあってもなぁ...」

 

とブレイドは封印されたABSORBのカードを見つめた。そしてブレイドは店の外に出て変身を解除しようとする。

 

だがそんなブレイドの行く手を阻むように目の前にある人物が立ち塞がった。

 

「待って!」

 

それは二乃だった。彼女は店内でブレイドが勝利したのを見ると、姉妹の制止を振り切り、ブレイドに会いに来たのだ。

 

「私は前駅まであなたに助けてもらいました。な、名前は中野二乃と言います!」

 

剣崎は内心で「知ってるよ...」と呟く。だが間違ってもそんなことを口に出すわけにはいかない。ブレイドは無言で店内を去ろうとする。

 

だが二乃は両手を広げて、ブレイドを行かせまいとする。

 

「待って!まだ行かないで。私はあなたに聞きたいことがあるんです!あなたは誰なんですか?その素顔を見せてください!」

 

とまるで自分の運命の相手を見つけたかのように必死に尋ねる二乃。

 

どうしようかと困り果てる剣崎。だがそこに他の姉妹達が駆けつけた。

 

「二乃ー!いきなり走ったら危ないでしょ!」

「やめて、二乃。仮面ライダーが困ってる」

 

と一花と三玖は二乃を抑える。そして二人はブレイドに目で「行って」と伝える。

 

ブレイドはそんな二人に心の中で礼を言うと、割れた窓からジャンプで店外に出ると、誰も見ていないところで変身を解除した。

 

そして店内に残された五つ子たち。

 

「すごい...仮面ライダーって本当にいたんだ...」

 

と未だに驚きの色を隠せない四葉。

 

「ちょっと!せっかく仮面ライダーの正体を聞くチャンスだったのに逃しちゃったじゃない!どうしてくれんのよ!」

 

と怒る二乃に一花は優しく言う。

 

「誰だって知られたくない秘密の一つや二つくらいあるってフータロー君も言ってたでしょ。きっと仮面ライダーにもそれがあるんだよ」

 

とわざとらしく言う。以前納得した様子を見せない二乃。

 

三玖はそれを聞いて頷く。

そして思う。

 

 

『誰にだって秘密はある。でも...フータローの秘密を知ってるのは、私だけ』

 

と、その秘密を知るものが姉妹にもう一人いることなどを知らない三玖は心の中でそう呟いて静かに笑った。

 

 

 

「みんな!大丈夫だったか?」

 

剣崎はわざとらしくみんなのもとに駆け寄る。

 

「上杉さん!上杉さんの方こそお怪我はありませんか?」

 

と心配そうに尋ねる五月。

 

「あぁ、俺は大丈夫だよ。見ての通りピンピンしてる」

 

「それにしても仮面ライダーが来てくれて助かりましたね」

 

「え?あぁ、まぁそうだな」

 

としどろもどろになって答える剣崎。その様子を一花と三玖は笑いを堪えながら見ている。

 

「あら、アンタも無事だったんだ。そうだ!アンタ仮面ライダー見なかった?確かそっちの方から出ていったハズなんだけど」

 

「い、いや、知らないぞ!俺はなんも見てない!」

 

と大嘘をつく剣崎。二乃は「まったく...使えないわねぇ」とため息をつく。

 

「とにかくみんな怪我がなくて良かったよ。なんかごめんな、折角休んでもらおうと思ったのに...」

 

「ううん、フータローは何も悪くない」

「まぁ店の中もこんなんになっちゃたし、とりあえず帰ろっか」

 

と五つ子と剣崎はファミレスを後にする。辺りには数台のパトカーが到着しており、店内から出てきたために色々と事情を聞かれたが、怪物に襲われそうになったところを『仮面ライダー』に助けてもらったということを一花が上手く説明してくれたことで、直ぐに解放された。

 

 

そして剣崎は五つ子をマンションへと送った。

「上杉さん、今日までどうもありがとうございました。また明日からもよろしくお願いします」

 

と恭しく頭を下げる五月。

 

「こちらこそありがとう。みんなが頑張ってくれたおかげで俺はまた家庭教師を続けられる。みんな本当によく頑張ったな。いろいろあったけど今日はゆっくり休んでくれ」

 

「はい!ではまた明日、上杉さん」

 

とマンションの中に戻っていく五つ子たち。

 

それを見届けると、剣崎も上杉家へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

〜病院〜

 

「旦那様、カテゴリーQがブレイドに封印されました」

 

「あぁ、知っているさ。だが同時に驚きもしているよ。これだけの短期間で、もうカテゴリーQを倒すまでに至るとは」

 

「それにしても良かったのですか?ラウズアブゾーバーを上杉勇也に与えて」

 

「心配ないさ、江端。彼は直接ではないにしても必ずあれを風太郎君に渡すだろう。ブレイバックルを彼に渡させたようにね。

そして上杉風太郎、彼のポテンシャルは計り知れないものだ。おそらく彼はもっと強くなる。それこそ......

 

 

私や江端を倒すほどにね」

 

「左様ですか」

 

「あぁ。そして彼には来たるべき滅びの日のためにもっと役立ってもらわなくてはならない。

そして彼の存在が、この偽りのバトルファイトに『存在しない』真のダークホース...

 

 

 

 

 

『ジョーカー』を目覚めさせる鍵になる」

 

 

 

そういうとマルオは患者の診療のために席を立った。




♥7 プラントアンデッド
地底に根を張り巡らせて獲物を探知し、右手や背中にある蔦で獲物を絡めとりその体液を吸い取る。また毒液をまき散らしながら右手の蔦を硬質化させた武器で相手に襲い掛かることもある。

♠︎Q カプリコーンアンデッド
普段は矢沢という名前のエキセントリックな青年に変身している。
トリッキーな動きで敵を翻弄し、角からの青い炎やブーメランで攻撃する。
矢沢の姿でも口から衝撃波を発する事が出来る。

今回名前だけでてきたオーキッドアンデッドの説明はいずれ載せます。

活動報告にも書きましたが、これから少しの間、毎日更新をすることが厳しくなります。事前報告なしに更新しない時も出てくると思いますのでご了承ください。

あともう1つ、今回はラウズカードのAP使用量をブレイラウザーの初期APの5000に合わせましたが、次からの戦闘はイメージした描写のために、使用したAPの合計値が5000にならない時も出てきますのでこちらもご了承願います。


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第18話:紫色の『瞳』

双動 ファングジョーカーの出来が凄すぎて感動しました。


「三玖、これは...?」

 

剣崎の目の前の皿には、おはぎのような真っ黒な物体が載せられていた。

 

「コロッケ」

 

「石じゃないよね?」

 

「味は自信ある。フータローも四葉も食べてみて」

 

剣崎と四葉は恐る恐るこのコロッケ?を口にする。

 

「んぐっ...ま、まぁまぁかな」

 

「あんまり美味しくない!」

 

「どっち?」

 

剣崎は気を遣い、四葉は正直な感想を口にした。

 

「ま、まぁ料理はこれくらいにしてさっさとテストの復習を...」

 

「待って。

絶対にフータローに美味しいって言わせてみせる。だから食べて」

 

 

 

そして数十分後。

 

 

剣崎は床の上でお腹をおさえながら仰向けになっていた。彼のお腹は常にぐるるるると音を立てる。

 

「上杉さん、大丈夫ですか?三玖がすぐにお薬を買ってきますからね」

 

「め、面目ない」

 

結局あのあと剣崎は三玖の作るコロッケを食べさせられ続けたのだ。剣崎は「おいしい」と嘘をついたが、純粋な剣崎の下手くそな嘘は、三玖には見破られてしまった。

 

そしてこのザマである。

 

「何してんのよ。ひとん家で優雅にお昼寝とはいい度胸ね」

 

「これが優雅に見えるか?」

 

と剣崎は嫌味を言う二乃に返す。

 

「まったく何してたんだが。まぁいいわ、五月!早くランチに行くわ......」

 

と二乃が言いかけたところで剣崎の携帯が鳴る。そこにはアンデッドサーチャーが出現したアンデッドを表示する。

 

「嘘だろ...こんな時に...」

 

と剣崎はフラフラと立ち上がる。

 

「上杉さん!何してるんですか?」

 

「ちょっと急用だ。家庭教師の仕事は帰ってからだな...あと四葉、次の試験までに少しの時間も無駄にしたくない。すぐに帰るから二乃と五月を引き止めて置いてくれないか?」

 

「りょ、了解です!」

 

と彼はお腹を抑えながら玄関へと向かう。

だがそこで、

 

「ただいま...ってフータローどこ行くの?」

 

と帰ってきた三玖に鉢合わせる。

 

そこで剣崎は三玖以外に聞こえないように話す。

 

「悪い三玖。怪物が出た。すぐに帰るから少しだけ待っててくれ」

 

「で、でもフータローお腹は大丈夫なの?そんな状態で行ったら...」

 

「大丈夫だ。心配するな、三玖」

 

と笑う剣崎。すると三玖は手に持っていたビニール袋からあるものを取り出す。

 

「これ飲んでって」

 

それは胃腸薬とミネラルウォーターだった。

それを受け取った剣崎は薬を口に入れると、ミネラルウォーターで流し込んだ。

 

「ありがとう。すぐ戻ってくるからな」

 

と剣崎は三玖の頭を撫でる。三玖は顔を赤らめて安心したような顔つきになると「行ってらっしゃい、フータロー」と剣崎を見送った。

 

 

剣崎はマンションの駐車場に停めておいたブルースペイダーに跨ると、急いでアンデッドが現れた場所に急ぐ。

 

そして剣崎はバイクに乗ったまま、バックルを装着する。

 

 

「変身!」

TURN UP

 

 

オリハルコンエレメントは剣崎を仮面ライダーブレイドに変身させると、彼はブルースペイダーの簡易ラウザー-『モビルラウザー』にカードをラウズする。

 

MACH

 

『マッハ』のカードをラウズしたブルースペイダーは、一気にスピードを上げる。

 

そしてブレイドはアンデッドが出現した場所、街のはずれにある工場にたどり着く。

 

そして地面には何人かの工場の職員が倒れている。その工場の奥には、♠︎8バッファローアンデッドがまさに人の首を絞めあげ殺害しようとしていた。ブレイドはすぐさまアンデッドに体当たりをしかけ、職員を解放させる。

そして「早く逃げろ!」と促し、工場から逃がすとアンデッドと戦闘を開始した。

 

ブレイドはまず袈裟懸けに剣を振るう。

だがブレイドの剣を振るった腕は途中で止まってしまい、動かすことが出来ない。

 

そして不可思議なことが起こる。ブレイドの体がアンデッドの方へと引き寄せられたのだ。

 

「な、何!」

 

アンデッドは自分の方へ引き寄せられたブレイドに左肩に刺さっている槍を突き立てて、攻撃を仕掛けた。

 

「ウェア!」

 

と吹き飛ぶブレイド。体制を立て直すもまた再び磁力のようなものに引っ張られる。そして次にアンデッドは自慢の腕力でブレイドを拘束すると工場の壁面に叩きつけた。

 

「グワァ!」

 

と壁に押さえつけられるブレイド。アンデッドは左腕でブレイドの右手を、右腕でその首を締め上げる。ブレイドは自由に動く左手でアンデッドを殴るも効果はない。

 

『まずい、このままだと絞め落とされる...

なら!!』

 

と次にブレイドは意外な行動に出た。なんとバックルのレバーを引っ張り変身を解除したのだ。アンデッドの腕力が生身の剣崎の首を襲う。だが剣崎は間髪入れずにもう一度バックルのレバーを引っ張り、首を締められながらも叫ぶ。

 

 

「変身!」

TURN UP

 

 

すると電子音とともに現れた青い光の壁-オリハルコンエレメントは剣崎を拘束するアンデッドを吹き飛ばした。そして剣崎はそれをくぐると再度ブレイドに変身した。

 

だが吹き飛ばされたアンデッドだったが直ぐに受け身を取ると、再び磁力を発生させてブレイドを引き寄せようとする。だがブレイドはそれを読んでいた。

 

ブレイドはその磁力に引っ張られる力をプラスして右手のブレイラウザーを力いっぱいアンデッドに投げつけた。投げつけられた剣に気付き磁力を弱めるアンデッド。だが間に合わなかった。

ブレイラウザーはアンデッドの右角を破壊した。片方の角が折れてしまったことにより、アンデッドは磁力を発生させることが出来なくなってしまった。

アンデッドは諦めまいと左肩の槍をブレイド目掛けて射出する。

 

だがブレイドは咄嗟にMETALのカードをラウズし、それによって鋼鉄化されたブレイドの体は槍をはじき飛ばした。

 

ブレイドは三枚のラウズカードを取り出しラウズする

 

 

KICK

THUNDER

MACH

《ライトニングソニック》

 

 

「ウェェェア!!!」

 

ブレイドは雄叫びを上げながらアンデッド目掛けて走る。そしてジャンプし空中一回転を決めると、雷のエネルギーが凝縮された足をアンデッドに叩きつけた。

 

「グォォォ!!」

 

アンデッドは吹き飛び爆発すると、腰につけていたバックルが割れた。そしてブレイドは倒れるアンデッドにカードを投げ封印した。

カードには『MUGNET』と刻まれた。

 

変身を解除した剣崎。

 

そして剣崎はいつの間にか腹痛が止まっていたことに気づき、すぐさまブルースペイダーに跨ると、マンションへ向かった。

 

 

 

そしてマンションに到着した剣崎。既に慣れたと言わんばかりの手つきでオートロックを解除すると五つ子達の住む部屋へと戻った。

 

「ハァハァ...た、ただいま」

 

と剣崎は息を荒くしながら部屋に入る。するとリビングからこっちに向かってくる足音がした。その足音の持ち主は三玖だった。彼女は特に大事のないような剣崎を見て安心した顔になる。

 

「おかえり、フータロー。大丈夫だった?」

 

「あぁ、全然大丈夫さ。三玖のくれた薬のおかげだ、ありがとう」

 

と礼を言う剣崎。三玖はとてもうれしそうな顔をすると、小走りでリビングに向かっていってしまった。

 

剣崎もリビングに行く。

 

「あら?またおサボりかしら?」

 

と二乃は意地の悪い顔で剣崎に問いかける。

 

「す、すまん、二乃。急な用事が入っちゃって」

 

「...まぁいいわ。なら早く始めなさいよ」

 

「え?」

 

「何が『え?』よ!とっとと勉強を教えろって言ってんのよ!あんた何しに来たわけ?」

 

「そ、そうか、そりゃそうだよな!よしじゃあ早速だけどみんなテスト直しを始めるぞー」

 

と剣崎は切り替える。

 

そして2時間ほどだった休憩時間。剣崎はベランダに出て外の空気を吸っていると、そこに四葉が現れた。

 

「お疲れ様です、上杉さん」

 

「ん?あぁ、四葉こそお疲れ。わからない所とかなかったか?」

 

「もっちろんですとも!上杉さんの教えにわからない所などひとつもありません!」

 

「そうか。なら次のテストは全科目100点満点だな!」

 

「えっ!そ、それはちょっとな〜...」

 

と下らないやり取りをして笑い合う剣崎と四葉。すると四葉は少し落ち着いた様子で言う。

 

「上杉さんが初めて来た時に比べて、私達は大きく変わりました」

 

「え、そうなのか?」

 

「気付いてないんですか?」

 

「いやまぁ、みんなよく笑うようにはなったかな〜ってことぐらいかな」

 

「本当にどれだけ笑顔が大好きなんですか、上杉さんは...」

 

と呆れる四葉。

 

「でも他に変わったって例えば?」

 

「色々ですよ。さっき上杉さんが急用で席を外した時、私にランチに行く二乃と五月を止めるように言ってましたよね。ですが実際に止めてみたらびっくり仰天、本当に二人とも家に残ったんですよ」

 

「あ、確かに」

 

と剣崎は頷く。今までの二乃だったらそんな制止は聞かずに、ランチに行っていただろう。それがまさか二乃も五月も残り、剣崎が来るまで自分で出来る限りのテスト直しをしていたのだから驚きである。

 

「それに二乃や五月だけじゃありません。一花も三玖もみんな良い方に変わっているのが私にはわかります。成長できてないのなんて、私ぐらいですよ」

 

と「えへへ」と笑う四葉。

 

「それは違うな」

 

「え?」

 

意外そうな顔をする四葉。剣崎は続ける。

 

「四葉だけが変わっていないなんてことは無い。なら四葉はあの時、なんで泣いたんだ?」

 

「...!」

 

「悔しかったからだろ。きっと前までの四葉なら勉強に関してそんな感情は抱かなかったはずだ。そしてそれは四葉も変われていたからこそ生まれた感情のはずだ」

 

「上杉さん...」

 

「それにみんなが変わってくれているなら俺も嬉しい。加えてそうやってお前達五つ子の笑顔が増えたことが、俺にとって成績が上がることより、何よりも幸せなことなんだ」

 

と剣崎はニッコリと笑う。四葉はその笑顔に思わずドキリとしてしまう。彼女は自分の胸が熱くなっていくのを感じた。

 

そして小声で

 

 

「そういう所ですよ...上杉さん」

 

 

と呟いた。

 

「え?なんか言った?」

 

「いえ、何も!ささ、早くテスト直しの続きをやっちゃいましょう!」

 

と剣崎の背中を押す四葉。

 

 

そして三玖はその様子を見つめていた。

 

 

 

だが剣崎と四葉の様子を見つめる三玖のことを、小さな『蜘蛛』がさらに見つめていたことをこの時は誰も知る由もなかった。

 

 

 

 

 

その後テスト直しを続け、バイトから帰ってきた一花を加えると、9時まで家庭教師を続けた剣崎は家路についた。

 

 

 

 

 

そして次の日。

授業が終わり放課後、四葉はスキップしながら図書館へ向かった。

 

「上杉さん、もうすぐ林間学校ですよ!

 

って、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

と四葉は驚いて腰を抜かす。目の前には恐ろしい形相をしたピエロがいたのだ。

 

「四葉か。驚かせちゃったな」

 

と剣崎は金髪のカツラとお面をとる。

 

「なんだ、上杉さんだったんですか。こんなもの付けてどうしたんです?」

 

「肝試しの実行委員になったんだって」

 

と対面の三玖が答える。

 

「肝試しって林間学校のですよね?」

 

「そうだよ。誰もやる人がいないし、みんなが楽しんでくれるならと思って俺が引き受けたんだ。それに...俺、一度でいいからこういうのやってみたかったんだ」

 

と子供のように笑う剣崎。

そんな剣崎を三玖と四葉は「かわいいなぁ」なんて思いながら見つめる。

 

「そうだ!上杉さん、林間学校の伝説を知っていますか?」

 

「伝説?なんだそれ」

 

剣崎は聞き返す。

 

「それはですね...最終日に行われるキャンプファイヤーのダンス。そのフィナーレの瞬間に踊っていたペアは、生涯添いとげる縁で結ばれると云うのです」

 

「へー、そんなロマンチックな話もあるんだな」

 

「フータローはこういうの信じてるの?」

 

「いや別に信じてるってわけじゃないけどさ、こういう伝説ってなんか面白いじゃん」

 

と三玖に答える剣崎。三玖はそんな剣崎の瞳を見つめる。純粋で、優しげで、でもどこか危うさをもつそんな瞳をマジマジと見つめる。

 

「なんで好きな人と付き合うんだろ」

 

と三玖は呟く。

 

「え、うーん...なんでだろう...」

 

と剣崎は考え込む。彼はそういった恋愛沙汰にはからっきしである。

だがそこに

 

「その人のことが好きで好きで堪らないからだよ。三玖も心当たりがあるんじゃない?」

 

と胸に手を当て劇っぽく答える一花。

そう言われた三玖は再び剣崎を見つめる。

目が合う二人。

剣崎は「ん?」といった視線を向ける。三玖は顔を赤くして俯いてしまう。

 

「ってそうだ。一花、もう始めるぞ」

 

「ごめんね、フータロー君。今日も撮影が入ってるんだ。もう行かなきゃ。

今は何よりお仕事優先。寂しい思いをさせてごめんね」

 

と手を合わせる一花。

剣崎は困ったように笑うと

 

「頑張れよ、一花。応援してるぞ」

 

と一花に微笑む。一花は少しドキッとすると、「ありがと、フータロー君」と言い、図書館をあとにしようとした。

 

だがそこで一花の携帯が鳴った。

画面を見た一花は「あー、やば...」と呟く。

そして三玖に向き直る。

 

「林間学校でまだきめてないことがあったらしくてクラスの子たちに呼び出されちゃった。悪いけど三玖、いつもの頼める?」

 

「わかった。フータロー、ウィッグ借りるね」

 

「いつもの?」

 

と剣崎は不思議そうに三玖を見つめる。すると三玖はトイレに入り、ウィッグを付けてでてきた。さながらその姿は一花そっくりだった。

 

『影武者作戦か...嫌な予感しかしないが...』

 

と思った剣崎は三玖のあとをつけることにした。

 

三玖は指定された教室に着く。そこには目つきの悪い男子生徒が1人だけいた。

 

「な...中野さん、来てくれてありがとう」

 

「あれ?クラスのみんなは?」

 

「悪い。君に来てもらうために嘘ついた」

 

「それで一...私に用って?」

 

すると男子生徒は一息吸うと口を開いた。

 

「俺とキャンプファイヤーで一緒に踊ってください!」

 

「え、私と?なんで?」

 

「それは...好き...だからです」

 

三玖は困ったような顔をした。

そこで三玖は適当に返事を誤魔化そうとした、その時だった。

 

 

 

 

『お願いしますって、言っちゃいなよ』

 

 

 

.........え?

 

 

「あの...中野さん?どうかしましたか?」

 

男子生徒は急に固まってしまった一花に尋ねる。

 

「え?あ、いや大丈夫だよ。返事なんだけどまた今度で...」

 

「今答えが聞きたい!」

 

「えっ、でもまだ悩んでるから」

 

「ということは可能性あるんですね」

 

三玖は男子生徒にしつこく絡まれる。

 

「というか中野さん...雰囲気変わりました?

髪かな...ん、なんだろ...

確か中野さんって五つ子でしたよね。もしかして...」

 

男子生徒が入れ替わりを疑い始めたその時、

 

 

 

「一花、こんな所にいたのか。姉妹の四人が呼んでたぞ」

 

「フータロー...」

 

「何勝手に登場してんだコラ。誰だよお前コラ。気安く中野さんをしたの名前で呼ぶんじゃねぇよコラ。お、俺も名前で呼んでいいのかなコラ」

 

「一花がいいって言うならそれはお前らの勝手だ。少しは人の返事を聞いたらどうだ?

 

行くぞ、一花」

 

「待てコラ!」

 

「俺は一...中野さんと踊りてぇだけだ。お前関係ないだろ」

 

「少なくとも初対面のアンタよりは何倍も深い関係だよ」

 

といつもと違い、強気に返す剣崎。

 

「んだとテメェ....一、中野さん。邪魔者を片付けるんでしばしお待ちください。オラ出てけ!」

 

と男子生徒は剣崎を教室から力ずくで出そうとする。剣崎が仕方ないと男子生徒の腕をとり、投げの姿勢に入ろうとしたその時、

 

「この人と踊る約束してるから」

 

と三玖が剣崎の腕を抱き寄せ、男子生徒から引き離した。

 

「へ?」

 

「あ」

 

と咄嗟のことに二人して固まってしまう。

 

「うそだ...こんな奴中野さんには釣り合わねぇ!」

 

「そ、そんなことないよ!フータローはかっこいいし...私の、『ヒーロー』だから...」

 

と恥ずかしそうに答える三玖。

 

「つ、付き合ってるんですか?」

 

と恐る恐る尋ねる男子生徒。

 

「も、もちろんラブラブだよ」

 

と言うと三玖は剣崎の腕をつかみ、教室を去ろうとする。

だがその二人に男子生徒は尚も噛み付く。

 

「ちょっと待て!恋人同士なら、手を繋いで帰れるだろ」

 

「別にしてもしなくてもいいだろ」

 

「なんだ?出来ないのか?やっぱり怪しいな」

 

三玖は覚悟を決めて剣崎の手を握ろうとした。

 

だがそれより早く

 

 

「ほら、これで満足か?」

 

 

と剣崎は三玖の手を取った。しかも指同士を絡めて繋ぐ、恋人繋ぎというやつだ。ちなみに剣崎は恋人繋ぎなどもちろん知るはずもなくただこの場を収めるために三玖の手を握っただけだったが。

 

「ご、ごめんね。とにかく私たち、初めてじゃないから」

 

と三玖は飛び上がりたいくらいの嬉しさと恥ずかしさを必死に堪えて、そう告げた。

 

すると男子生徒は諦めたように

 

「くそーっ!林間学校までに彼女を作りたかったってのに、結局このまま独り身かーっ!」

 

と叫んだ。

 

そこで三玖は男子生徒に訪ねた。

 

「なんで...なんで好きな人に告白しようと思ったの?」

 

「中野さんがそれを言うか...そーだなぁ...とどのつまり、相手を『独り占め』にしたい。これに尽きる。」

 

「!!」

 

三玖は何かに気付いたような顔つきになった。

 

 

 

「ったく中野さんを困らせるんじゃねーぞ」

 

「わかってるよ、任せろ」

 

と返す剣崎。そんな剣崎に男子生徒は「任せた」とだけ言うと、教室を去った。

 

 

「ほ、ほら。フータロー行くよ」

 

「そ、そんなくっつかなくてもいいだろ」

 

と困り果てる剣崎。

 

「今は一花だもん。これくらいするよ」

 

と答えた三玖。

だが三玖の意識は全く違う所にあった。

 

 

 

 

『独り占めしちゃえばいいんだよ。他の誰にも渡さず、私だけのフータローにしちゃえばいいんだよ』

 

 

......違う。そんなのダメ...私に、話しかけないで!

 

 

 

 

「三玖、三玖!」

 

「...!!フ、フータロー?どうしたの?」

 

「いや、なんかぼうっとしてたからさ」

と笑う剣崎。

 

そうだ。この笑顔はみんなのものだ。私だけが『独り占め』していいものじゃない。三玖はそう思うと、剣崎と一緒に歩き出す。

 

この時は剣崎も三玖自身も気づかなかった。

一瞬、ほんの一瞬だけ、三玖の青い双眸が、

 

 

妖しい『紫』色に変わっていたことに。

 

───────────────────────

 

「らいはちゃん。何作ってるの?」

 

「えっと、プレゼント...かな」

 

そういったあと顔を赤くしていたらいはいきなりパタンと倒れた。

 

 

〜病院〜

 

「江端、やっとだ...やっと現れた」

 

「...!旦那様、まさか」

 

「あぁ、そのまさかだ。とうとう私以外にレンゲルに適合できる者が現れた。やはり私の見立ては正しかった。上杉風太郎君を家庭教師にしたのは正解だった。

まだまだ初期段階だが、もしかしたらいずれは、あの現象を...」

 

とマルオはパソコンを見つめる。

 

 

 

そこには予測融合係数 882

 

 

 

 

最適合者 『中野三玖』

 

 

 

と記されていた。




♠︎8 バッファローアンデッド

左右の角にプラスとマイナスの強力な磁力をもち、獲物を引き寄せることができる。それに加え驚異的な腕力も持つ。
また、左肩に突き刺さっている多数の槍を用いて遠方の対手を串刺しにする遠距離攻撃方法も持つとされる。


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第19話:見えない『亀裂』

改めて空いた時間に花嫁を全巻読み返しました。

五つ子たちって、なんかみんなさり気ない一言とかで闇堕ち回避してる感ありますね。4巻の三玖とかあのまま放っておいたらどうなってたんだろう(期待)


あの後、剣崎は二乃、三玖、四葉、五月と共に街にある大型ショッピングモールに買い物に来ていた。

そして剣崎に林間学校に来ていく服を選ぼうということになった。

 

まずは四葉が選んだ。キャップ、動物が描かれたファンシーなシャツとかなり派手だ。

 

「上杉さんは地味目なお顔なので派手な服をチョイスしました」

 

「さすがに子供っぽすぎないか?」

 

次に三玖。the 和服だった。

 

「フータローは和服が似合うと思ってたから和のテイストをいれてみた」

 

「テイストってか、もう和そのものだな!」

 

その次は五月。ドクロの描かれたノースリーブシャツ、チェーン付きのダボダボとしたズボン...

 

「私は男の人の服がよくわからないので男らしい服装を選ばせて頂きました」

 

「いくらなんでもアウトレイジすぎる...」

 

最後に二乃。青と紺のストライプ模様のシャツ、ジャケット、Gパンだった。ちなみにジャケットは昔剣崎がBOARDから支給されたものによく似ていた。

 

「おお、これはいいな」

 

「あ、二乃本気で選んでる」

 

「ガチだね」

 

「あんたたち真面目にやりなさいよ!」

 

と彼女らはカードでその服を購入した。

 

そして5人はショッピングモールで欲しいものを粗方買い尽くした。

 

「ふー、買ったねー」

 

「三日分となると大量ですね」

 

「にしてもすごい量だな...しかも洋服に万単位って...」

 

「こんなの安い方よ」

 

「はいフータロー。お金はいいから」

 

「まぁ本当はこっちが払いたいところだけど、今回もお言葉に甘えさせてもらうよ」

 

と剣崎は三玖から二乃が選んだ服が入った紙袋を受け取る。

 

「林間学校もいよいよ明日ですね」

 

「まだ買うものあるわよ」

 

「にしてもこんなに大勢で買い物なんてしたの久しぶりだよ。ありがとな、みんな。楽しかったよ」

 

と笑いながら言う剣崎。彼は買い物と言っても、あまりみんなで行くというようなことをしたことがなかった。

 

この『上杉風太郎』という青年になってから、剣崎にとっては初めての経験ばかりだった。味のないつまらない高校時代を過ごしてきた剣崎にとっては、買い物という些細なことですらとても楽しいものだった。

 

剣崎の笑顔を見た四人は自然と心が暖かくなるのを感じた。

 

そして二乃と五月は残りの買い物を済ますと言って、先に行ってしまった。お返しに剣崎が選ぼうかと進言したがどうも残りの買い物とは下着のことだったらしく、剣崎は慌てて発言を撤回し待つことにした。

 

「そうだ、上杉さん。明日が楽しみでもしっかり眠るんですよ」

 

「もちろんさ」

 

「しおりは一通り読みましたか?」

 

「そりゃもうたくさん読んだよ」

 

と興奮気味に寄ってくる四葉。そして笑顔で

 

「最高の思い出を作りましょうね!上杉さん」

 

と言う四葉。

 

「あぁ、もちろん!俺も心ゆくまで楽しむよ」

 

と笑って返す剣崎。

 

だがそこで剣崎の携帯が鳴る。電話番号が表示されており出る剣崎。

 

「はい、上杉です。あ、妹がいつもお世話に...え?

 

らいはが倒れた!?分かりました、すぐ帰ります!!」

 

と剣崎は駆け出す。

 

「ま、待ってください上杉さん!らいはちゃんがどうかしたんですか?」

 

「すまん!説明はあとだ。みんなには先に帰ったと言っておいてくれ!」

 

と自宅に急ぐ剣崎。

 

 

『待っててくれ、らいは!』

 

剣崎はとにかく走る。そして人通りのない通路に差し掛かったその時、剣崎の横にあった建物の壁が崩れその破片が剣崎を襲う。

 

なんとか飛び退き破片を躱す剣崎。アンデッドかと思ったが

 

 

「やぁ、上杉くん」

 

 

と禍々しきオーラを放つ『仮面ライダーレンゲル』が立っていた。

 

「どけ!レンゲル!今はお前に構っている暇はない!」

 

「悪いがそういうわけにはいかないのでね。今君の実力を確かめておく必要がある」

 

「いいからどけ!」

 

「君が来ないならこちらからいかせてもらうよ」

 

とレンゲルはレンゲルラウザーで斬撃を放つ。それをすんでのところで回避する剣崎。

そしてそのままバックルを付ける。

 

「クソっ!やるしかないのか...

 

 

変身!!」

 

 

と剣崎は仮面ライダーブレイドに変身した。襲いかかるレンゲルラウザーの刃をブレイラウザーの刃でガードする。

 

両者は鍔迫り合いのような形になる。

 

「何なんだお前は!何故俺の邪魔をする!何が目的なんだ!」

 

「何を言うんだ上杉くん。私は君に感謝しているのだよ。君のおかげで私の悲願は果たされようとしている」

 

とレンゲルは錫杖を上にあげて、ブレイドをよろけさせる。そしてそこに鋭い突きを放つ。しかしブレイドはそれを横っ飛びで避け、ブレイドも勢いよく突きを放つ。ガードするレンゲルの錫杖の刃に当たり、火花が上がる。

 

そして両者はカードを使用する。

 

 

BEAT

 

ブレイドの右手が青く光る。

 

 

SCREW

BLLIZARD

《ブリザードゲイル》

 

レンゲルの右手も冷気を纏う。

 

そして突き出した両者の拳がぶつかり合う。

 

「ウェア!!」

 

とブレイドが押し負け吹き飛ばされる。

 

「どうした、立ち上がりたまえ。ここで君が負けるようでは私の計画は台無しだ」

 

とレンゲルは錫杖をブレイドに叩きつける。

 

「ガっ!」

 

ともろに食らうブレイド。そしてもう一度錫杖を振り上げるレンゲル。だがその動作を隙と見たブレイドはレンゲルに蹴りを入れる。

 

「ぐっ!」

 

と体勢を崩すレンゲル。ブレイドは一旦距離を取る。

 

そしてカードホルダーを展開し、カードを取り出す。だがレンゲルはその隙を見逃さなかった。

 

「甘い!」

 

REMOTE

 

とレンゲルはいち早くラウズする。レンゲルラウザーの穂先から紫色の光が剣崎の取り出したカードに照射される。

 

 

だがその光を浴びたカードは何も起きず地面に落ちた。

 

「何...グハッ!!」

 

とブレイドは困惑するレンゲルに体当たりを食らわせる。

 

「なぜリモートが...まさか!」

 

とレンゲルは地面に落ちたカードを見る。だがそこにはアンデッドが封印されていないブランクカードが二枚あるだけだった。

 

「そうだ、これは囮だ!まんまと騙されたな、レンゲル!!」

 

と言うと、ブレイドは素早くカードをラウズする。

 

 

KICK

THUNDER

MACH

《ライトニングソニック》

 

だがレンゲルも負けじとカードを使う。

 

 

BITE

BLLIZARD

《ブリザードクラッシュ》

 

 

レンゲルは飛び上がると、足から冷気を放ちそれをブレイドに浴びせる。だがブレイドはマッハのカードの力でとてつもない速さを得ていた。冷気に凍させられるよりも、レンゲルの挟み蹴りが当たるよりも先に雷のエネルギーが凝縮された右足をレンゲルの胸にクリーンヒットさせた。

 

「カハッ...」

 

と喘ぐと、レンゲルは建物の裏に吹き飛ばされた。

 

「逃がすか...!」

 

とレンゲルを追うブレイド。だが建物の裏には人っ子一人存在しなかった。

 

「どこに逃げた!レンゲル!」

 

叫ぶも当然レンゲルは現れない。だがこんなことをしている場合ではないと気付いた剣崎はすぐに自宅へと走り出した。

 

 

そして息も絶え絶えに自宅へとたどり着いた剣崎。

 

「らいは!大丈夫か!?」

 

と剣崎はドアを開ける。そこには布団を敷いてそこに寝るらいはがいた。彼女は弱々しい声でつぶやく。

 

「うん...お出かけの最中にごめんね...なんか熱みたい...」

 

「今は無理するな、色々買ってきたから」

 

と剣崎は解熱剤やゼリー飲料、スポーツドリンク、額に貼る冷たいシートなどを袋から取り出す。

 

「お薬飲ませて」

 

「ああ」

 

「汗拭いて」

 

「任せろ」

 

「あと学校の宿題やっといて」

 

「それは自分でやろうな」

 

と剣崎はらいはの汗を拭くと、解熱剤とスポーツドリンクを飲ませた。

 

「...ありがと」

 

「親父は明日まで帰れないそうだ。だから俺がらいはの面倒を見るよ」

 

「でもお兄ちゃん、明日は林間学校...」

 

「気にするな。可愛い妹が辛い思いをしている時近くにいてやるのがお兄ちゃんの仕事さ」

 

と笑う剣崎。

 

「もう、お兄ちゃんったら...

 

と困ったように笑うらいは。

 

「でも、ダメだよお兄ちゃん。明日はちゃんと旅行行って、帰ったら楽しいお話いっぱい聞かせてね...」

 

剣崎は一瞬黙りこくると

 

「わかった。だから今はゆっくり休め」

 

とらいはを寝かしつけた。

 

 

そして次の日。

 

「ハァハァ...」

 

と息を荒らげ、そして右脇腹を抑えながら勇也は上杉家の階段を登る。

 

『クソっ...久々すぎて、感覚鈍ってたぜ...』

 

そしてなんとか階段を登りきる。

 

 

「らいは!生きてるか!」

 

「親父。静かにしてくれ。らいははまだ寝てる」

 

「看病してくれてたのか...ってもう林間学校のバス出てんじゃないのか!?」

 

「そんなこと今はどうでもいい。まずはらいはが良くなる事の方が大切だ」

 

と言い切る剣崎。

 

実の所、剣崎は林間学校に行くことを恐れていた。その恐れの原因はアンデッドである。もし自分が町にいない間に東町にアンデッドが出現したら、どうするのか。そのことを考えた剣崎は昨日の夜に林間学校への欠席を決意した。

 

だが勇也は来派を見守り続ける剣崎に対し、ぐちゃぐちゃになり付箋まみれの林間学校のしおりを剣崎に差し出す。

 

「らいはのことは俺に任せろ」

 

「いいや、俺は残る」

 

「どうしてだ、俺も今日は仕事を休んだ。らいはの面倒は俺が見る」

 

「ダメだ」

 

と意地を張る剣崎。そんな剣崎に対し、勇也は困ったような顔をする。

 

そんな張り詰めた空気の中、いきなり剣崎の携帯が鳴る。剣崎は一旦外に出て、通話ボタンを押した。

 

「やぁ、上杉風太郎君。先日はどうも。予想以上に君が強くなっていて、私も驚いたよ」

 

と加工された低い声が聞こえる。

 

「やはりお前がレンゲルだったのか...」

 

「その通りだ。そして君にひとつ朗報だ」

 

朗報?なんの事か気になる剣崎に男はつづける。

 

「君が林間学校に行っている間は、この東町にアンデッドは現れない」

 

「な...そんなこと信用できるか!」

 

「これに関しては本当のことだ。君が私を倒したことに対しての褒美だ」

 

「なぜだ...お前は一体何を企んでいる!」

 

「それは今話すときではないよ。それではまた会おう、上杉風太郎君」

 

とプツリと電話は切れる。剣崎は歯噛みすると一旦家の中に戻る。そしてらいはの寝る部屋に行こうとしたそのとき、勇也が剣崎の前にくちゃくちゃになり付箋まみれの林間学校のしおりを差し出す。

 

「行ってこい、風太郎」

 

「でももうバスも既に出た。今から行ってもムダだ」

 

その時剣崎と勇也の横にいたらいはが

 

「あー!!お腹すいた!」

 

と元気そうな声を上げながら起きてきた。

 

「らいは!?熱は...」

 

「私はもう大丈夫だから!お兄ちゃんは林間学校行ってきて!」

 

とらいはも剣崎を林間学校に行くよう促す。

だがもうバスは出てしまった。

 

その時、

 

「上杉さん!」

 

と横から声がかけられる。そこにいたのは五月だった。

 

「五月...!?なんで...」

 

「すみません上杉君をお借りします」

 

というと五月は剣崎の手を取り、引っ張る。

 

「お、おい!ちょっと...」

 

「行ってらっしゃーい!お兄ちゃーん!」

 

とらいは五月に手を引っ張られる剣崎を見送った。

 

「五月...バスは...」

 

「見送らせて頂きました」

 

「なんでうちに?」

 

「私しか上杉さんの家を知りませんから」

 

と剣崎は五月にある場所に案内される。そしてそこには黒塗りの高級車、その前に一花、二乃、三玖、四葉がいた。

 

 

「おそよー、フータロー君」

「ったく何してんのよ」

「よかった...フータロー来てくれた」

「こっちですよ、上杉さーん!」

 

 

 

 

「上杉さん。あなたは前に言いましたね、私たちに『笑顔』でいて欲しいと。もしあなたがあの言葉が嘘でないと言うなら、大人しく林間学校に来てください。あなたがいれば、きっと私たちは『笑顔』でいられますから」

 

 

 

 

と優しく微笑む五月。その言葉を受けた剣崎は次第に目頭が熱くなるのを感じる。

 

 

 

 

「い、五月...一花、二乃、三玖、四葉...

みんな...みんな本当にありがとう!

俺、みんなの家庭教師になれて...本当によかった!」

 

 

 

 

と最高の笑顔になる剣崎。その笑顔をみた五つ子達も自然と笑顔になる。剣崎がいるだけで、彼女達は笑顔になれる。剣崎の存在は、いまや五つ子達にとってなくてはならないものとなっていた。

 

「もうフータロー君ったら!そういうストレートなのちょっとずるいぞ!」

「ほんっとあんたって筋金入りの馬鹿ね」

「フータロー...私もあなたに会えて良かった...」

「う、上杉さん!私も上杉さんが家庭教師で良かったです!」

「なら決まりですね。行きましょう、上杉さん」

 

と姉妹たちも喜びを隠さない。

 

だがそこで二乃は地面に学生手帳が落ちてるのを発見し、それを拾い上げると金髪の少年の写真を見る。

 

「ねぇ、この写真っていつ撮ったの?」

 

「え?ええっと、5年前くらいかな?」

 

と適当を言う剣崎。

 

「ふーん...5年前ね。やっぱりこの子、どこかで見たような...」

 

というと二乃は剣崎に手帳を返した。

そして車の前では一花と三玖が何やら話している。

 

「三玖、昨日言ってたキャンプファイヤーの話、本当に私でいいの?」

 

「うん。私がその場しのぎで決めちゃったことだから」

 

「そっか。なら私が女子代表としてフータロー君の相手をしちゃおうかな」

 

今の『上杉風太郎』は同学年の女子の間でもちょっとした人気があった。今までの無愛想さは何処へやら、よく笑うようになり困っていると助けてくれて、それに加えて高身長で頭がいいばかりでなく、運動も人並み以上にこなす。そんな彼に人気が出ない訳ではなく、林間学校のキャンプファイヤーでも剣崎と踊りたいという女子が少なからず存在していた。

 

だがそんな女子達も剣崎のダンス相手が一花となれば諦めるだろう。

 

三玖は一花に譲ったことを後悔していなかった、後悔しないようにしていた。そして車に乗ろうとする三玖に再びあの『声』が聞こえる。

 

 

 

 

 

『一花と踊らせていいの?』

 

......え

 

 

『本当は独り占めしたいんだよね?ならしちゃえばいいじゃん。一花からフータロー、取っちゃいなよ』

 

そんなことしない!私たちは何でも五等分だから、今回は一花に譲ってあげるだけ...

 

 

『いつまでそうやって自分に嘘をつき続けるの?』

 

...え?う、嘘なんか...

 

 

『認めちゃいなよ。こっちが本当の私、上杉風太郎を自分だけのものにしたい、こっちが本当の『中野三玖』だって』

 

ち、違う!違うの...私は、本当の私は...

 

 

 

 

 

「...!...く!...三玖!どうしたの、聞こえてる?」

 

「えっ、あ、ご、ごめん。ちょっとボーッとしてたみたい」

 

三玖は我に返ると車に乗り込む、

三玖は心でつぶやく。

 

『大丈夫。一花なら心配ない。きっと一花はフータローを独り占めなんてしない』

 

だが一花の心中は違うものだった。

 

『三玖が言うならいいよね。それにフータロー君のことを仮面ライダーって知ってるのは私だけ。私だけがフータロー君の秘密を知っいる』

 

 

この二人のすれ違いが、いずれ姉妹や剣崎達の仲に大きな亀裂を入れることになるのをこの時はまだ誰も知らない。

 

 

 

「みんな乗ったー?」

 

「ちょっと詰めて」

 

と剣崎と五つ子全員は車内に乗り込む。

 

五月は隣にいる剣崎を見つめる。

 

『上杉さん。あなたのおかげです。あなたのおかげで私たちは前よりずっと仲良くなれました。だから、今回の林間学校、絶対に楽しんで頂きますから!』

 

と五月は決心する。

 

「上杉さん!乗り心地はどうですか?」

 

「ふわっふわで最高だよ」

 

「なら良かったです!」

 

『任せてください、上杉さん!私がこの三日間をあなたの最高の思い出にしてみせます!』

 

四葉も五月と思いは同じだった。

 

「それでは...しゅっぱーつ!!」

 

 

 

 

───────────────────────

半日ほど前

 

「やぁ...江端...少し帰るのが遅れてしまって悪かったね...」

 

「だ、旦那様!」

 

と江端はフラフラになったマルオを支える。

 

「大したものだよ、彼は。いくら一日で二戦目とはいえ完敗だ。私が変身するレンゲルでは最早彼を抑えることは不可能だ。それほど彼は強くなっている」

 

「よもやそこまでとは...。旦那様、レンゲルバックルとカテゴリーAは?」

 

「あれは私の元を去った。新たなる依代、『三玖』君のもとにいずれ現れるはずだ。そして彼女はきっとその力を最大限に引き出せるはずだ。

 

そういうとマルオは自分の椅子にドサッと座る。そして彼は口元ににじみ出た『緑色の血』をハンカチで拭くと、ゆっくり目を閉じ休み始めた。




次回は家に帰ってくるまで勇也が何をしていたのかを描く19.5話をやる予定です。


コメントに関してですが、時間の関係もあり返信が必要だと判断した質問等以外には返信しないことにします。ですがコメントを頂けることは私としても非常に嬉しいです。これからもドシドシコメント&評価をお願いします!


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第19.5話:戦士の『再誕』

完全にノリと勢いで書いてしまったため、登場キャラのテンションが少しばかりおかしくなっていますがご了承ください。

ですが書いていてとても楽しい回でした。

そして五等分の花嫁 74話読みました。正直言うとこういう展開を待ってました。やっぱドロドロは必要ですね...


「行くか」

 

勇也は適当に荷物をまとめるとそれらをシートの内側にある収納部分にいれて閉じると、スクーターに跨る。

 

「っとその前に」

 

彼は自分の息子、『風太郎』に今日は仕事で帰れない旨をメールで伝えた。

 

そして彼はアクセルを捻る。彼はある場所を目指していた。それは彼が自宅を置く東町からかなり離れた場所にある。高速道路を使おうかと思ったが上杉家の家計簿事情を考えて、彼は仕方なく一般道路を使ってその場所を目指す。

 

そしてかなり深い森にさしかかる。

勇也は相変わらず嫌な道だと思った。そこに行く時には必ずこの森を通らなくてはならない。薄暗く、自然と体温が下がる気がするこの道は彼は嫌いだった。

 

そして彼はある建造物にたどり着く。それは古びた小さな木造の小屋だった。彼はその小屋に入る。小屋の床には汚くなった絨毯が敷かれ、テーブルや椅子、止まった時計などがあり、かつて人が住んでいた後がある。だが彼は慣れたように止まった時計を外す。

 

時計のが掛けられていた壁には1から10までの数字が書かれたボタンがあり、彼はそれに6ケタの数字を打ち込む。すると外で何かものが動くような音がする。小屋の外に出て、裏手に回るとそこには地下に続く階段があった。

 

彼はそれを下る。最後の1段を下り、ドアを開ける。そこには多くの機械が設置されており、さなが秘密基地のようだった。そして数名の研究員、そして自分自身が探していた五つ子の義父『中野マルオ』とその執事、江端の姿があった。

 

「よぉマルオ」

 

と勇也は軽い感じで声をかける。

 

「私のことを名前で呼ぶなと言ったはずだ」

 

と抑揚のない声で返すマルオ。

 

「そうかい。にしても昔からなんでお前はそこまでして『人間』としての名前で呼ばれることに関わる?』

 

「君には関係の無いことだ」

 

「まだ__さんのこと引きずってんのかよ...もし彼女が生きていたなら今のお前のことを...」

 

「口を慎め、勇也。誰のために私がわざわざここに来たと思っている」

 

「っとそうだったな。悪ぃわりぃ。俺はただ...『人間』でなくとも『人間』以上に優しかったお前に、戻って欲しいだけだよ」

 

「........バックルの調整は済んでいる。只今の君に使えるとは思えないが」

 

それを聞くと勇也の目は鋭くなる。

 

「侮るな、マルオ。俺は『あの時』の俺とは違う。大切なものを守る決意はできている」

 

「そうか。やはりお互いに過去を引きずっているところだけは変わらないようだね」

 

と相変わらず冷淡な目で答えるマルオ。

 

 

そして勇也は広い空間に出る。

 

そして研究員の一人から『ギャレンバックル』とカテゴリーAを受け取る。

彼は慣れた手つきでギャレンバックルにカテゴリーAを装填する。

 

バックルは勇也の腰に自動で巻き付く。

勇也は思い出すように叫ぶ。

 

 

「...変身!」

TURN UP

 

青白くクワガタの意匠を施した光の壁-オリハルコンエレメントが現れる。

勇也はゆっくりとその壁に近づく。そしてスルリとその壁を通り抜けた。

 

 

 

彼は、『仮面ライダーギャレン』へと変身した。

 

 

「やった、やったぞ。これで俺はまた戦える...!」

 

 

だがマルオは冷たい目でモニターを見つめる。そこにはギャレンの融合係数が表示されている。数値は529。まだ予想値ではあるが一度も変身していない三玖を下回るその数値に彼は思わずため息を吐く。

 

だが三玖のことは決して口には出さない。勇也に聞かれれば、きっと彼はその場でマルオに戦いを仕掛けようとするだろう。

 

 

「勇也、君の現融合係数は529だ。」

 

「529!?なんでそんな低い数値が...」

 

「だから君には無理だと言っただろう」

 

「やってみなきゃわかんねぇだろ!

早くアンデッドを出せ!」

 

マルオはいいだろうというと、リモートの力を利用して造ったアンデッド解放装置に

♢8 バットアンデッドが封印されたラウズカードを入れる。するとその装置を通して勇也がいる空間にラウズカードが落ちる。そのラウズカードからアンデッドが出現した。

 

アンデッドを視認したギャレンはホルスターから銃型のラウザー-『ギャレンラウザー』を抜くと、アンデッドを捉え引き金を引く。

銃口から弾が発射されるが、一発もアンデッドには当たらない。

 

「チッ、かなり感覚が鈍ってやがる!」

 

とギャレンは飛び回るアンデッドを追いかける。だがアンデッドは旋回するといきなりギャレンに体当たりを仕掛ける。

 

「ガっ!」

 

とギャレンは避けることも出来ず、もろに攻撃を食らってしまう。立ち上がり、地上に降りたアンデッドに格闘を仕掛けるギャレンだったが、全てアンデッドにいなされてしまう。

 

するとアンデッドは得意の飛行能力を活かし、急上昇する。ギャレンは再び、発砲するも当たらない。

 

「なんで当たらねぇんだよ!」

 

 

その様子をマルオは強化ガラス越しに眺めながら研究員に尋ねる。

 

「ギャレンの融合係数は?」

 

「514...502...493...下がり続けています」

 

「やはり彼にはもう無理か。元々期待などしてもいなかったが」

 

とマルオはマイクを通して、ギャレンに変身する勇也に呼びかける。

 

「訓練は中止だ、勇也。君ではもう無理だ」

 

「無理だと?!ふざけんじゃねぇ!俺はまだやれる!」

 

「無理だ。今の君の融合係数は400台だ。これ以上の数値が出るとは思えない」

 

「うるせぇ!黙って見てろ!」

 

と勇也は叫ぶ。そしてギャレンラウザーのカードホルダーを展開し、2枚のカードをラウズする。

 

 

BULLET

ROCK

 

 

ギャレンはアンデッドの飛行ルートを予測して弾丸を打ち込む。アンデッドはそれを翼を使ってガードする。だがそれが命取りとなった。

 

弾丸が命中したアンデッドの翼が石化したのだ。ギャレンが放った弾丸はROCKのカードの力で石化の効果が付与されていた。

 

アンデッドは真っ逆さまに落下する。そしてギャレンはアンデッドの落ちる場所に素早く移動すると、

 

 

UPPER

FIRE

 

 

の二枚のカードをラウズし、炎を纏った拳でアンデッドの腹にアッパーカットを叩き込んだ。

 

「グギャア!!」

 

とアンデッドは苦悶の声を上げ、爆発する。そして地面に横たわるとアンデッドバックルが割れる。ギャレンはそこに封印のカードを投げ、アンデッドを封印した。カードにはSCORPEと刻まれた。

 

ギャレンは変身を解除するとその場に座り込む。

 

「ハァハァ...どうだ、俺でもまだやれる」

 

「確かにアンデッドは倒せたようだね」

 

の声とともにマルオが現れる。

 

「だがたかが下級アンデッドにこれだけ苦戦するとは少々期待外れだな」

 

「何ぃ?」

 

「君はやはり弱くなったようだ。それに風太郎君はラウズカード無しでもアンデッドを倒せている。それに比べて君はこれだけボロボロになりながらようやく下級アンデッドを一体倒せた程度だ」

 

「うるせぇな...俺はやる、やると言ったらやるんだよ」

 

と勇也は大の字に寝転がりながら、そうマルオに言い返す。そして勇也はさらに続ける。

 

「本当にあの時のお前はどこに行っちまったんだよ...『アンデッド』でありながら、人間を、最愛の人を守ろうとしていたあの時のお前は...」

 

「...言っただろう、私は悪魔になった。人間でもなく、アンデッドでもない。私は世界の敵だ。妻を奪ったこの世界そのものの敵だ」

 

とマルオは静かに、ただいつもよりほんの少しだけ感情を込めて言う。

 

「そうかよ...正直今のお前が何を目的にしてるのかは知らねぇ。だけどな、俺はお前の中の『中野マルオ』という父親を信じてる」

 

「そんなもの...もう私には存在していない」

 

「どうだろうな...ならマルオ、変身しろ。俺と戦え。俺がお前を封印する」

 

「何を言っているのかわかっているのか、君は。今の君は下級アンデッドに手を焼く程度の実力しかない。そんな君が私を封印するだと?」

 

「元はと言えば俺の責任だ。お前の近くにいながらお前を止められなかった俺が悪い。

 

だから今ここで、『ケジメ』をつけようぜ」

 

と勇也は立ち上がり、マルオを挑発する。

 

 

そしてマルオは地面を見つめていた目を勇也に向けると

 

 

 

「いいだろう」

 

 

と胸ポケットからレンゲルバックルとカテゴリーAを取り出す。

 

 

「おいおい、変身ってそっちかよ」

 

 

「これは私が今できる最大限のハンデだよ。仮に私がアンデッドの力を使えば、

 

 

君は本当に死ぬだろうね」

 

 

 

「どうだかな...」

 

 

と勇也はギャレンバックルを腰に巻きながら返す。

 

マルオもバックルにカテゴリーAを装填し、腰に装着する。

 

 

 

そして互いにあの言葉を口にする。

 

 

かつての友を、その目に見据えながら。

 

 

 

「変身!!」

TURN UP

 

「変身...」

OPEN UP

 

 

 

勇也はギャレンに、マルオはレンゲルに変身する。

 

変身すると即座にギャレンはレンゲルに向かって弾丸を発射する。その弾丸をレンゲルは錫杖をグルグルと回しながら弾く。

 

そしてギャレンに一気に接近すると、斬撃を加えようとする。

 

「おおっと!」

 

とギャレンは横に回りながら避ける。

だが回りながらもレンゲルに銃撃を加え続ける。

 

それらをすべてレンゲルは弾き飛ばす。

 

 

江端はモニターを見ながら驚愕していた。

 

マルオの融合係数は相変わらず1000台だったが、勇也の融合係数は先程400台にまで落ち込んだのにも関わらず、今は511...547...569と少しずつ上がり続けている。

 

「ギャレンの融合係数が尚も上がり続けています!」

 

「これが...上杉勇也の力か...」

 

と江端は尚も驚愕する。そして二人の戦いを見つめる江端。

 

 

「ハッ!」

 

とギャレンは錫杖で鋭い連続突きを放ち続ける。それらをギャレンは全て回避する。そして放たれた突きを回避しつつ、錫杖を掴み、上に持ち上げる。

それによりレンゲルの胴がガラ空きとなる。そこにギャレンは銃撃を加える。

 

「グッ!」

 

「どうした、マルオ!あれだけ偉そうなこと言っといてこんなもんか?!」

 

とギャレンはレンゲルを煽る。

 

「舐めるな、勇也」

 

とレンゲルはカードをラウズする。

 

 

REFLECT

 

 

ギャレンはレンゲルを殴りつけた。

だがその攻撃のダメージは『リフレクト』のカードにより全てギャレンに反射された。

 

 

「カハッ!」

 

と予想せぬダメージにギャレンは怯む。レンゲルはギャレンの隙を見逃さなかった。

錫杖を横薙ぎし、渾身の威力の威力の一撃をギャレンの右脇腹に叩き込んだ。

 

ギャレンは声も出さず、吹き飛ぶ。

 

「終わりだ、勇也」

 

とレンゲルはギャレンに歩み寄る。ヨロヨロと立ち上がるギャレンだが、足腰が折れ倒れ込みそうになる。そこにレンゲルはギャレンに向けて錫杖を叩きつけようとする。

 

だがギャレンはレンゲルの胴にタックルを仕掛けた。倒れ込む振りをしてレンゲルの隙を伺っていた。

 

唐突のことに反応できないレンゲルをギャレンは押し飛ばすと、一定の距離を開け、そこに銃撃を連射し怯ませる。

 

二人は変身した時のように向き直る。

 

 

「次で終わりにすっか?」

 

「あぁ、そうしよう」

 

と二人は確認をとると、互いにカードをラウズする。

 

 

DROP

FIRE

《バーニングスマッシュ》

 

 

SCREW

BLLIZARD

《ブリザードゲイル》

 

 

ギャレンは前転宙返りをしながら炎を纏った足を、

レンゲルは冷気を纏ったコークスクリューパンチを繰り出す。

 

 

炎と冷気がぶつかり合い、大きな爆発を引き起こした。

 

煙が空間を包み、ガラス越しには二人の姿を目視できなくなる。

 

「旦那様...!」

 

と江端は静かに言う。

 

 

 

そして煙が晴れる。

 

 

そこには片膝をつき変身が解除されたマルオと、先程のように地面に大の字に倒れ、同じように変身が解除され、ゼェゼェと荒く呼吸をする勇也の姿があった。

 

 

「...参った。俺の負けだ、マルオ」

 

「私を...名前で呼ぶなと言っただろう」

 

とマルオは立ち上がる。そして彼は勇也に背を向け、歩きだす。

 

「おいおい、的に背を向けていいのかよ」

 

「君如きに背中を見せた所でどうどういうことは無い。あと今日から4日間の間だけ、君にギャレンバックルを貸し与える。バックルには発信機を付けさせてもらったがね」

 

「...!そりゃどうも」

 

短いやり取りを終えると、マルオはモニタールームに戻る。

 

「旦那様!お怪我は...」

 

「平気だ。アンデッドの治癒力なら、これくらいの傷は数時間程度で治る。では私は風太郎くんの所に行く。勇也には余計なことを言わないでくれ」

 

「心得ております」

 

と江端は恭しくお辞儀をすると主人を送りだす。

 

 

 

『勇也、私を許せ。私は君のようにはなれない。君のように過去を振り切って前だけを見て歩くことは出来ない。

 

そして私は君を、妻が愛した娘を、人間を、私を含めたアンデッドを、全ての生命をこの世から消し去る。

 

 

この偽りのバトルファイトの勝利者は最初から...

 

 

《ジョーカー》と決まっている』

 

 

そして彼は歩き出す。

 

 

勇也は傷だらけの体で立ち上がると地上に出た。辺りはすっかり暗くなっており日を回っていた。そしてスクーターの収納にいれておいたリュックサックにギャレンバックルとカテゴリーAをしまい込む。

 

風太郎とらいはに久しぶりなにか美味いものでも買って行ってやろうか。だが勇也は自分の携帯に留守番電話が来ていたことに気づく。その番号はらいはの通う小学校からだった。

 

そしてその内容を聞いて驚愕する。らいはが高熱を出して倒れたと言うのだ。

 

「クソっ!待ってろ、らいは。すぐ帰るぞ!」

 

と勇也はスクーターに跨りアクセルを全開で捻り自宅を目指した。

 

だが彼の心はらいはを心配すると共に、自身が『仮面ライダー』に戻りまた人を守れることに喜びを感じていた。

 

そして彼は決意する。

 

『俺はもう、あの時とは違う...

 

 

 

愛する人を見殺しにした、あの時とは...!』

 

勇也はさらにスクーターのスピードをあげ、帰宅を急いだ。




♢8 バットアンデッド
夜行性である為に太陽の光を極端に嫌っており、普段は暗い下水道や洞窟の奥深くにその身を潜ませている。

活動時間となる夜間での行動の際は暗視スコープの役割を果たす眼と全長が8mにも及ぶ巨大な翼を使って獲物となる人間の生き血を求めて暗躍し、上空から獲物目掛けて襲いかかる習性を持つ。

また、超音波で暗闇でも的確に相手の位置を把握する能力も有するほか、無数の蝙蝠を操って敵に襲いかからせる事もできる。
そのほか、滑空しながらの体当たり攻撃で敵を粉砕する戦法を得意としている。

22時くらいに日間ランキングを見たら、72位にランクインしてしました。嬉しい限りです。これからも頑張ります。


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第20話:溢れだす『闇』

装動のラビットドラゴン、近くのスーパーから抜き取られてて買えませんでした...


「グゥ...グゥ...」

と剣崎は車で寝息をたてていた。あのあと林間学校に行くために旅館を目指し剣崎一行は出発した。

だが剣崎は先日レンゲルと戦い、妹のらいはを看病していたためあまり眠れていなかった。

そんな剣崎は口を開けて頭が悪そうな顔をして寝ていた。

 

「プッ...ほんとすごい顔ね。撮っちゃお」

 

と二乃が剣崎の寝顔を撮った。それに続いて他の姉妹達もみんなで剣崎の寝顔を撮る。彼女たちは二枚目の剣崎の寝顔を手に入れた。

 

車は渋滞で1時間以上の足止めを食らったが、なんとか旅館にたどり着けた。

 

「おおっ!いい感じだな!」

 

と剣崎は泊まる部屋に入って称賛の声を上げた。

 

「でも四人部屋ですよ?」

 

「ねぇ、本当にこの旅館に泊まるの?いくらこいつとはいえ男と同じ部屋は嫌!」

 

「団体のお客さんが急に入ったとかで一部屋しか空いてなかったんだもん。仕方ないよ」

 

と四葉は二乃を宥める。

 

二乃は旅館の前の犬小屋に剣崎を泊めることを提案したが、今日は豪雪であり死んでしまうので却下となった。

 

『久しぶりだなぁ...旅館に泊まるの』

 

剣崎が最後に旅館に泊まったのは300年以上も前の話だった。そして剣崎がバッグを開けるとそこにはカラフルな紐のようなものと手紙が入っていた。剣崎は手紙を読む。

 

『お兄ちゃんへ

旅行の安全をねがってお守りを作りました。林間学校楽しんできてね。

 

P.S. お礼のおみやげきたいしてます♡

らいは』

 

と書かれていた。

剣崎は嬉しさのあまり飛び上がりそうになったが、それをなんとか抑えた。

 

そんな剣崎の後ろで五つ子たちは部屋の隅っちょでコソコソ話していた。

 

「不本意だけどご覧のありさまよ。各自気をつけなさいよ」

 

「気をつけるって何を...」

 

「それはほら...一晩同じ部屋で過ごすわけだから...

 

あいつも男だってわけよ。あの純真無垢な笑顔に騙されちゃうと、パクッといかれちゃうわよ...」

 

五つ子たちはゴクリと唾を飲み込む。

 

「そんなことありません。上杉さんに限ってそんなこと...」

 

「おーい、何してるんだみんな」

 

「な、なんでもありません!」

 

「なら...トランプやろうぜ!」

 

と剣崎はトランプを見せる。

 

「き、気が利くねーなつかしいなぁー」

 

「何やります?」

 

「七並べしませんか?」

 

「ババ抜きでしょー」

 

 

 

 

10分後......

 

「さぁ、四葉。カードを引いてもらうぞ...」

 

と剣崎はカードを見せる。その手には♠︎のAと♡の2が握られている。

 

「えーっと...こっち!」

 

と四葉は右のカードを引く。

 

「揃いましたー!」

 

と四葉は♡の2と♢の2を捨てた。

 

「ってことは」

 

三玖は本来四葉からカードを引くはずだったが、四葉は既に上がってしまった。よって残りカードが1枚の剣崎からひかざるを得ない。

 

「負けちゃった...」

 

と三玖は剣崎から取った♠︎のA、♣︎のA、そしてJOKERと書かれたカードを捨てた。

 

そして時間は流れ、夕食の時間になった。

 

「おぉ、美味そうだな」

 

「すごい豪勢ですね...明日のカレーが見劣りしそう...」

 

「三玖、あんたの班のカレーを楽しみにしてるわ」

 

「うるさい、この前練習したから」

 

「そういえばスケジュール見てなかったかも」

 

と一花がしおりを開こうとしたところで、剣崎が口を開く。

 

「2日目のイベントは10時 オリエンテーリング、16時 飯盒炊さん、20時 肝試し。

3日目は10時から自由参加の登山、スキー、川釣り。そして夜はキャンプファイヤーだ」

 

「なんでフータロー君暗記してるの...?」

 

と剣崎を変な目で見る一花。剣崎は今回の林間学校を非常に楽しみにしておりしおりの中身は全て暗記していた。

 

「そういえばキャンプファイヤーの伝説の詳細がわかりましたよ」

 

「伝説?」

 

「関係ないわよ。そんな話したってしょうがないでしょ。どうせこの子たちに相手なんていないんだから」

 

「あ、あはは...」

 

と苦笑いする一花。

そういえば俺、一花と踊ることになったんだっけと思い出した剣崎。まぁ所詮は迷信だろうと剣崎は頭の隅に留めておく程度にした。

 

だがその様子を見ていた三玖の心臓は再びドクン...と音を立てる。

 

 

 

『このままだと本当に一花にフータロー取られちゃうよ?』

 

...うるさい。喋らないで。

 

 

『フフフ...いつまでそう言ってられるんだろうね...』

 

.........

 

 

三玖は怖かった。あの時、自分のことを一花だと勘違いした同級生に迫られてから、自分の中に誰かの声が聞こえてくるようになった。

三玖は首をブンブンと振る。これはきっと悪い幻聴だ。三玖はそう思い込むことにした。

 

そして夕食をとったあと、剣崎と五つ子たちは別れて温泉に入った。

 

温泉に浸かりながら五つ子たちはお喋りをする。

「上杉さん、普段旅行とか行かないのかな」

 

「まるで徹夜明けのテンションだったね」

 

「とにかくあいつのトラベラーズハイは危険よ。...そして問題は、あの狭い部屋にギリギリ布団が6枚。誰があいつの隣で寝るか」

 

「二乃、考えすぎじゃない?私たちただの友達なんだし」

 

「そうだよ!上杉さんはそんな人じゃないよ!」

 

「なら四葉が隣でいいわけ?」

 

「え!それは...どうだろ」

 

と言葉が詰まる四葉。

 

「なら一花。あんたは気にしないでしょ」

 

と一花を指さす二乃。

 

「私にきたか〜」

 

「ただの友達なんてしょ」

 

「...うん。フータロー君は...いい友達だよ」

 

「なら決て.....

 

 

「待って」

 

 

と三玖が立ち上がる。

 

 

 

その双眸を紫色に光らせながら。

 

 

「なんで一花なの?」

 

 

と三玖は告げる。

 

 

「み、三玖?」

 

と心配そうな顔つきになる四葉。

 

 

 

「え?あ、びょ...平等...みんな平等にしよう」

 

三玖の目はいつもの綺麗な青色に戻る。

だが誰もそのことには気が付かなかった。

 

そして三玖は自分の考えを姉妹たちに話した。

 

「なるほど考えたわね」

 

「誰も隣に行きたくないなら、全員が隣に行けばいいんだ」

 

「少なくともフータローから見たら」

 

三玖の考えはフータローを部屋の入口から見て右側の布団の真ん中に寝させ、左を三玖、斜め左上を五月、上を一花、斜め右上を二乃、右を四葉で固めるという作戦だった。

 

そして彼女たちは意を決して部屋のドアを開けた。

 

だがそこには一番左奥の布団でスゥスゥ寝息をたてる剣崎の姿があった。

 

「えーっと...私たちも寝よっか」

 

とみんなで布団に入った。

 

 

 

その夜、既に日も回った頃、剣崎は目が覚めてしまった。昼に車の中で寝てしまったのが原因だろう、と考えた剣崎はムクリと立ち上がると、寝相が悪くめちゃくちゃになった姉妹たちを踏まないように気をつけながら外に出た。

 

 

 

だが剣崎が起きて部屋から出たことに、一花は気がついていた。

 

 

 

剣崎は外に出る。雪はすっかり止んでいた。剣崎は手頃な岩にゆっくり腰を下ろし、星を眺めた。

 

 

300年たっても、この星空だけは変わらなかった。なにがあっても星たちはキラキラと輝き続けている。

 

そして剣崎は思い出す。自分がジョーカーだった時の最後の記憶。

 

あの時自分は砂漠の紛争地帯で戦火に巻き込まれる子供たちを守るために戦い続けていた。あの子達は大丈夫だろうか、とこの後に及んでまだ他人の心配をする剣崎。

 

剣崎は今の自分、『上杉風太郎』の手を見る。はっきりと目に映る『人間』の手。思えばこの青年の体には相当な負荷をかけてしまっている。そして自分はこの青年に成りすますことで、周りの人間を欺いている。

 

 

 

それはまるで、『SPIRIT』のカードに封印されているヒューマンアンデッドの姿を借りて、自身がジョーカーであることを偽っていた『相川始』ように。

 

 

 

だがそれと同時に剣崎は今の自分を手放したくない気持ちに狩られる。今の自分は『人間』として、人間社会に存在している。

 

剣崎は『人間』を愛している。

だからあの時、愛する全ての『人間』を守るために、『人間』だった自分を愛すことをやめ、『アンデッド』になった。

 

そして一人の『アンデッド』を『人間』として生きさせた。

 

剣崎は人間を愛していると言いながら、その愛すべき人間を騙している自分を憎む。

 

だがそれ以上に剣崎は今の自分の『人間』を手放したくなかった。

 

ため息をつく剣崎。部屋にもどろうか、そう考えた時、後ろから

 

「何してるの?フータロー君」

 

と声がかけられる。振り向くとそこには一花がいた。

 

「ちょっと目が覚めちゃって。そういう一花は?」

 

「えっ!えーっと、わ、私もかな?」

 

言えなかった。前で寝ていた剣崎のことが気になって、中々眠れなかったなんてそんなこと一花は言えなかった。

 

「そっか。俺そろそろ部屋に戻ろうかなって思ってたんだけど」

 

「そ、そうなの?私、今ちょっとフータロー君とお話したい気分なんだ。あともう少しだけ付き合ってくれない?」

 

と上目遣いに尋ねる一花。剣崎は「あぁ」と言って笑うと

 

「いいよ。俺で良かったら、話し相手になるよ」

 

と快諾する。

一花の胸が高鳴る。

 

「ほんと!?良かったぁ」

 

「で、話したいことって?」

 

「実を言うとこれといったことは無いんだよねぇ。じゃあ...最近の私たちのこと、フータロー君はどう思う?」

 

「うーん。四葉が言うからにはみんなすごい変わったらしいんだけど...俺そう言うところ見抜くの苦手で、みんなに『笑顔』が増えたなってことくらいしか分からなかったな」

 

とはにかむ剣崎。

 

「やっぱそこかぁ。なんでフータロー君ってそんなに『笑顔』を大切にしてるの?」

 

「何でって言われてもなぁ。人間悲しい顔でいるよりは、『笑顔』でいる方が前を向けていいと思わないか?」

 

「へ〜...やっぱフータロー君って優しいなぁ。もう1つ、いい?」

 

「あぁ、いいぞ」

 

と剣崎は一花に返す。

 

「どうしてフータロー君は『仮面ライダー』になったの?どうして名前も知らない人のために戦えるの?」

 

「え!」

 

と剣崎は上擦った声を上げる。まさか仮面ライダーの事を聞かれるとは思わなかったからだ。

 

「仮面ライダーを...辞めたくはならないの?」

 

「仮面ライダーをやめたい...か。そう思ったことは一度もないな」

 

「なんで?辛くはないの?」

 

「辛い時もあったさ」

 

剣崎は昔を思い出す。何度もアンデッドに傷つけられ、仲間に裏切られ、身も心もボロボロになってしまうこともあった。

 

「でも、俺が戦うことで誰かの『笑顔』を守れるんだ。俺は、たとえそれが知らない人であっても...その人の涙を見たくないんだ」

 

「フータロー君...」

 

「なんでライダーになったかは、まだ答えられない。話すにはちょっとばかし自分の方で整理してからにしたい」

 

「...そっか」

 

「ごめんな。なんか中途半端な回答になっちゃって」

 

「ううん!いいの。なんだか少しだけフータロー君のことが分かった気がするから。やっぱすごいなぁ、フータロー君は。私は優しくないから、そんな風にはなれないや」

 

と笑う一花。

 

「一花は優しいだろ」

 

と返す剣崎に一花は「え?」っといって固まる。

 

「一花はいつも姉妹のことを一歩離れたところで見守ってあげている。そしてみんなを立ててあげられる一花が優しくないなんてことは無いだろ」

 

「そ、そうかな...?」

 

「そうだよ!きっとほかの姉妹たちも一花の優しさに何度も救われているはずさ」

 

と微笑む剣崎。彼は「だからさ」と続ける。

 

「一花ももっと自分を出していいと思うぞ。長女だからしっかりしなきゃ、ってのは分かるけど少しくらいは自分に甘えていいんじゃないかな」

 

「フー...タロー...君...」

 

「それにそれだけ優しくて周りのことがしっかり見えてる一花なら、女優業の方も大丈夫さ。俺は一花の夢を応援しているぞ」

 

と言うと剣崎は一花の頭に手を載せる。

 

一花は不思議な気分だった。その笑顔は子供みたいなのに、自分の頭に載せられている手は大人みたいに大きく感じる。

 

そしてそんな不思議な気分を吹き飛ばすくらい、彼女の心は喜びに充ちていた。

 

「フータロー君」

 

真剣な顔で剣崎に向き直る一花。

 

「三玖が言っちゃったらしいけど、やっぱり私からも言うことにする。私と、キャンプファイヤーで踊ってくれませんか?」

 

と一花真っ直ぐな視線で剣崎を見つめる。

 

「今のフータロー君の言葉で決めた。今の私は、フータロー君と踊りたい」

 

一花はいつになく真剣だった。

そんな一花に剣崎は優しい笑みで返す。

 

「一花は本当に俺でいいのか?なんかキャンプファイヤーには伝説みたいなのがあっただろ。共に踊った人と一緒に結ばれるって。別に俺は信じてるわけじゃないけど、一花は本当にそれで構わないのか?」

 

「私だってそれを信じてるわけじゃないよ。でも、それでも私は、君と踊りたい」

 

「なら喜んで引き受けさせてもらうよ。言っとくけど俺、ダンスとかやったことないからな」

 

と言うと一花はプッと吹きだした。

 

「それくらいお姉さんがリードしてあげる。ね、私の『仮面ライダー』」

 

とウインクを剣崎に投げる一花。

剣崎は少し恥ずかしそうな顔をすると

 

「なら決まりだ。明後日はよろしく、一花」

 

「うん!よろしくね、フータロー君」

 

と二人は笑い合うと、旅館に戻りそのまま布団に入ると、眠りについた。

 

───────────────────────

 

 

『だから言ったのに...』

 

...やめて

 

『結局フータロー、一花に取られちゃったね』

 

やめてって言ってるでしょ!?

 

 

実は三玖も一花同様剣崎のことが気になってろくに眠れなかった。そしてずっとうつ伏せで目を開けていると、剣崎が外に出たことに気づいた。剣崎を追いかけようとしたが、一花が先に行ってしまったため1度は諦めた。

 

だが結局諦めきれず、三玖は数分たったあと自分も外に出ようとした。だがその時聞いてしまった。一花が剣崎に自分からキャンプファイヤーのダンスの相手を申し出たことを。

そしてそれを快諾する剣崎の姿を。それだけ聞いた三玖はすぐに部屋に戻って寝たフリをした。

 

幸か不幸か、一花が剣崎のことを『仮面ライダー』だと呼んだことまでは聞いていなかった。

 

そして謎の『声』は三玖に話しかけ続ける。

 

『だから私を認めちゃえばいいのに。そうすればきっとあなたがフータローと踊れていたんだよ』

 

...別に踊れなくなって構わない。一花は独り占めなんてしない。

 

『どうかなぁ?もしあなたが一花ならきっとフータローを独り占めしようとするはずたけど』

 

...何なの...あなたは誰なの?!なんで私に話しかけるの?!

 

『だから言ったじゃん。私は三玖、中野三玖。五つ子の三女で、フータローを自分だけのものにしたいと思ってる本当のあなた」

 

...違う...違う!

 

『いいよ。どうせあなたは私を認めることになる。その時まで、そうやって自分を騙し続ければいい』

 

それだけ言い残すと『声』は聞こえなくなった。

 

「私は...今の私は...何がしたいの...」

 

と弱々しく三玖は呟く。だがその声を聞き届けた者は誰もいなかった。

 

───────────────────────

 

チュンチュンとスズメの鳴き声がする。日が昇りすっかり朝になっていた。

 

「...んー」

 

と一花は寝返りをうつ。そしてゆっくり目を開くとそこには剣崎の寝顔があった。

 

昨日の夜からだったが、部屋の中は姉妹たちの寝相の悪さのせいでめちゃくちゃになっていた。

 

一花はムクリと起き上がり、剣崎の寝顔を見つめる。剣崎の寝顔を見るのはこれで三度目だったが、相変わらず子供みたいだなぁと感じた一花。

 

「これくらい平常心でいられなきゃ、一緒に踊ったりなんてできないもんね」

 

と一花は剣崎の頬に触れようとする。

 

 

 

そこで部屋のドアが開かれる。

 

「もう朝ですよ。朝食は食堂で」

 

そこで五月が見たのは眠る剣崎の頬に手を触れようとする姉妹の誰かの姿だった。

 

五月は勢いよくドアを閉める。窓から差し込める太陽光のせいで顔はあまり見えなかった。

 

『う、嘘...あれって』

 

ともう一度確認しようとドアを開ける。だがそこに剣崎に触れようとする誰かの姿はなく、全員が横になって寝ていた。

 

すると後ろから五月を呼ぶ声があった。

 

「中野!ここで何やってるんだ!」

 

「えっ、先生...?」

 

 

その後、剣崎一行はたまたま同じ宿に泊まっていた学校のみんなと合流することが出来た。

 

姉妹たちはクラスごとに分かれ、剣崎と五月は同じバスに乗り込む。

 

「まさか同じ旅館だったなんてな」

 

と驚く剣崎。だが五月はそれどころではなかった。

 

『よく見てないから判断つかないけれど...あれは...私たちの中の誰かが...上杉くんを...』

 

と考え込む五月。

 

 

 

そして一花はバスの中でスマホの画面を見つめる。彼女はさきほど剣崎の頬を撫でようとしたのが五月にバレていないか心配になっていた。そして彼女が気をまぎらわせるために読んでいた記事は

『女優業と学生の両立の厳しさ-休学も選択肢の一つ』

という見出しがつけられていた。

 

 

 

 

オリエンテーリングを終え、飯盒炊さんの時間になった。

 

二乃は調理班のリーダーとなり場を仕切っていた。

 

「じゃあ私たちでカレー作るから。

男子は飯盒炊さんよろしくね」

 

男子達は「うーい」というと、その場をあとにする。

 

「わっ、二乃野菜切るの速っ。家事やってただけのことはあるね」

 

「これくらい楽勝よ」

 

と二乃は野菜を切り続ける。

 

だがそこで後ろから「おおっ」との声がする。

 

「すげぇな、上杉。お前料理もできたのか」

 

「いや、できるって言っても簡単なものだけだよ」

 

「本当にこいつなんでも出来るなぁ」

 

と剣崎の班の男子達は感心する。

 

「ちょっと!上杉くんに感心してないで薪でも割ってきてよ」

 

と女子達が男子達に促す。が

 

「いいよ、俺がやるから。野菜切るの任せてもいい?」

 

と剣崎が薪を割りに行こうとする。

 

「え、本当にいいの?」

 

「あぁ、任せてくれ。こういうのは男の仕事さ」

 

と剣崎は笑って女子達に返す。

剣崎に野菜を切るのを任された女子は顔を手で覆う。

 

「やっば...最近の上杉くん、マジでやばいわ...」

 

「いやでも、上杉くんは無理でしょ〜。あの五つ子達じゃ私たちなんて相手にもならないって」

 

「たしかになぁ。上杉くんは無理かぁ」

 

と言いながら彼女らは中野姉妹たちの方を見た。

 

 

「これもう使った?片付けておくね」

 

「は、はい」

 

と一花が計量カップを片付ける。

 

「中野さん美人で気が利いて完璧超人かよ」

 

「俺の部屋も片付けて欲しいぜ」

 

と男達は一花にうっとりとした視線を向ける。まぁ自分の部屋すらろくに片付けられないような一花が他人の部屋を片付けるなんて点で無理な話ではあるが。

 

四葉はひたすら薪を割っていた。

 

「いやもう薪割らなくていいから!」

 

「あはは、これ楽しいですね」

 

と四葉は額の汗を拭う。

 

 

五月はカレーを煮込んでいる鍋の前でスマホのタイマーとにらめっこをしている。

 

「そろそろ煮込めてきたかな」

 

「待ってくださいあと3秒で15秒です」

 

「細か過ぎない?」

 

 

三玖は何やら茶色いものをカレーの鍋に入れようとしていた。

 

「三玖ちゃん何入れようとしてるの!?」

 

「お味噌。隠し味」

 

「自分のだけにして!」

 

「あはははは」

 

と五つ子たちはそれぞれ飯盒を楽しんでいた。薪を割り運び終えた剣崎はご飯が炊けたが見に来ていた。

 

だがそこにはこの前三玖を一花だと勘違いしてキャンプファイヤーのダンスの相手を申し込んだ男子高校生がいた。

 

「よし、ご飯は炊けてそうだな」

 

「おいコラ。気付かないふりしてんじゃねぇぞコラ。俺を忘れたとは言わせねぇぞコラ」

 

「やだなぁ忘れるなんて。名前は...えっと」

 

「前田だよ」

 

と案の定絡まれ、彼の恋の悩みを散々きかされたところで、誰かが何やら言い合いをしていることに気づいた。

 

「なんでご飯焦がしてんのよ!どーせ放ったらかしにして遊んでたんでしょ」

 

「ちげーよ、少し焦げたけど食えるだろ」

 

とかなり険悪なムードだ。止めに入ろうか、そう思った剣崎だったが

 

「じゃあ私たちだけでやってみるからカレーの様子見てて」

 

と二乃が顔は笑いながらもめちゃくちゃ怒ってることに気づき、火に油は注ぐまいと見て見ぬふりをした。

 

そんなことを考えていた剣崎の横に、リボンが特徴的な少女が現れる。

 

 

「上杉さん、肝試しの道具運んじゃいますね」

 

「ん?あぁ、四葉か。というかお前、キャンプファイヤー係だろ?別に無理して手伝ってくれなくてもいいよ」

 

「いえ!無理などしていませんよ。これくらいやらせて下さい!」

 

「...よし!前田。うちの班の飯の世話、任せてもいいか?」

 

「あ?んなもん誰がするかよ」

 

「そこをなんとか頼むって。それと後でやる肝試しは自由参加だ。クラスの女子と一緒に来てくれよ。」

 

剣崎はスっと金髪のウィッグとピエロの仮面を被る。そして

 

「な?」

 

と顔をしたから懐中電灯で照らして、前田を驚かせた。前田とその横にいた女子は「ひいっ!」というと走って逃げてしまった。

 

「その調子ですよ、上杉さん。これ上着です」

 

と四葉が先日二乃が選んでくれたBOARDの支給品によく似たジャケットを剣崎に渡す。

 

四葉も顔に包帯を巻きコスプレをする。彼女も準備万端と言った様子だ。

 

「上杉さん。悔いなんてこれっぽっちも残さないぐらい、楽しい林間学校にしましょうね」

 

「あぁ、もちろんさ」

 

と返す剣崎。ただ剣崎はこの幸せな時間がいつまで続くか、そのことが頭の隅から離れなかった。

 

「あ、次の人来ましたよ!」

 

「よし、いくぞ...」

 

「ばあっ!」

 

だが驚かせた相手の反応は随分とつまらないものだった。

 

「あ、フータロー」

 

「四葉もいるじゃん」

 

「ってなんだ二人か」

 

と剣崎は肩透かしをくらったような気分になる。

 

「なんだとは心外だなー。それにどうしたのその金髪。妙に似合ってるじゃん、染めたの?」

 

「カツラだよ」

 

と一花は剣崎に近寄って話す。

 

その光景を見た三玖にまたあの『声』が聞こえる。

 

 

───────────────────────

 

『見て、あの二人。すごい楽しそう』

 

...だから何

 

 

『きっとフータローもこんなつまらない私より...一花のことを大切に思ってるんだろうなぁ』

 

そ、そんなことはない!フータローはみんなに優しいから...

 

 

『みんなでいいの?』

 

...え?

 

 

『フータローの笑顔を、身体を、心を、私だけのものに...独り占めしたくないの?』

 

フータローを...私だけのものに...?

 

───────────────────────

 

 

「どうした、三玖?聞いてるか?」

 

剣崎に声をかけられハッとする三玖。

 

「え?何?」

 

「そっちは崖だから危険だ。ちゃんとルート通りに進むんだぞ」

 

「わ、分かってるよ。行こう、一花。」

 

「え?うん」

 

と三玖は一花を連れて歩き出す。

 

だが三玖の心は恐怖に塗りつぶされそうだった。

 

『助けて...助けてよ、フータロー。私、もう自分がわからなくなりそう』

 

 

三玖はそんな恐怖を払拭するかのように、ただ黙々と歩き続ける。

 

 

その頃二乃と五月も肝試しに参加し、森の中を歩いていた。五月はビクビクとしているが二乃は心なしかつまらなそうだった。

 

「はぁ...林間学校ってもっと楽しいと思ってたんだけどなぁ」

 

「まだ始まったばかりですよ?」

 

「そもそも最初から躓きっぱなしじゃない!それで何も無かったからよかったものを...」

 

「!ということは今朝のは二乃じゃない...」

 

「え?何が?」

 

ここでようやく剣崎が木の上から足を紐で吊るして驚かせにかかった。

 

「わあぁぁああ!もう嫌ですぅうぅ!」

 

と五月は逃げ出してしまう。二乃も「五月!待ちなさい!」と五月を追いかけて行ってしまった。

 

「まさかここまで効果抜群だとはな」

 

「やりすぎちゃいましたかね...」

 

「あれ?あいつら今どっちに行った?」

 

 

 

その頃、一花と三玖は暗い森の中を早足で歩いていた。

 

「ねぇ、三玖」

 

「何」

 

と一花に素っ気なく返す三玖。

 

「私、フータロー君にちゃんと自分から言えたんだ。キャンプファイヤーで踊ってくださいって」

 

「ッ......」

 

三玖の胸がざわつく。いけない、これ以上はいけない。なにかがいつもと違う。

 

その時、三玖の手が緩み手に持っていた懐中電灯を落としてしまう。

 

「あっ」

 

と懐中電灯はコロコロと後ろにいた一花のさらに後ろに転がっていってしまう。

 

「もう三玖ったら」

 

と一花は懐中電灯を拾いに行く。

 

 

 

 

だが三玖は目の前にあるものを見つけていた。

 

それはトランプらしき1枚のカードだった。

 

『確かこれって、フータローが仮面ライダーになってる時に使ってる...』

 

と考えながらそのカードを拾い上げる。

 

そこには

 

 

 

 

禍々しき『蜘蛛』が大きく描かれていた。

 

 

───────────────────────

 

それを見た瞬間、三玖の心に溜め込まれていた黒い何かが、それを包んでいた膜を破るかのようにして溢れだす。

 

 

 

三玖は真っ暗な空間で目を覚ます。そして目の前にいたのは、まさしく蜘蛛の化物だった。

 

 

『やっと俺を手に入れたな』

 

...何!?あなたは誰なの?!

 

 

『何を言っている...俺は...

 

私は...』

 

 

蜘蛛の見た目がぐちゃぐちゃと変わっていく。そしてそれはある少女-『三玖』と同じ姿になる。ただ一つ違う点は、瞳の色が『紫色』になっている所だった。

 

そしてそれは三玖の心に響いていたあの『声』で三玖に告げる。

 

 

 

『私は...中野三玖だよ。あなたが元から心に抱えていた、黒い部分』

 

...え?

 

 

「あなたは私、私はあなた。あなたがもっと自分のやりたいことができるように、私を受け入れて?」

 

私は...私は...!

 

───────────────────────

 

 

三玖の双眸が妖しい『紫色』に変わる。

 

三玖はカードをポケットにしまい込むと、一花の方に向き直る。

 

 

「はい、三玖」

 

と一花が三玖に懐中電灯を手渡そうとする。

だが三玖は受け取らない。

 

そして三玖は『紫色』の目を、一花に向けながら口を開く。

 

 

「おかしいよね、フータローはみんなの家庭教師なのに...

 

 

 

一花だけで 『独り占め』なんて、良くないよね」

 

 

 

三玖の心が、黒く、汚く、醜く染まり始める。

 

 

 

 

その頃、二乃は一人で走っていってしまった五月を探していた。

 

「五月ー。どこ行ったのよー」

 

 

すると二乃のスマホのライトが突然消えてしまう。

 

「嘘っ、もう!?昨日充電忘れてたかも」

 

あたりをキョロキョロとしながら足を踏み出そうとした二乃。

が、足元にあった木の根に躓いてしまう。

 

「あっ!」

 

しかしそこで何者かが二乃の腕を掴む。そのおかげで二乃は転ばずに済んだ。

 

 

「あ、ありがと...ってあなた」

 

「ったく大丈夫か?」

 

「嘘...キミ...写真の...」

 

 

そこにいたのはまさに二乃が一目惚れした写真の少年を、そのまま成長させたような金髪の青年だった。

 




次の投稿がいつになるか分かりません。申し訳ないです。


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第21話:蝕まれる『心』

数日ぶりの投稿となりました。申し訳ありません。

今回も戦闘パートがなく少し単調に感じられてしまう方もいるかもしれませんが、ご了承ください。

そしてお気に入り数が400件を突破致しましたことをご報告させていただきます。
閲覧者の皆様に心から御礼申し上げます。

こんな駄作を読んで頂き本当にありがとうございます。これからも精進を重ねていきますので応援よろしくお願いします。


「やっぱり...あの写真の...」

 

「何言ってるんだ?いいからこっち来い」

 

と二乃の手を引っ張る剣崎。だがその時、二乃のスカートが木の枝にひっかかりめくれあがってしまった。

 

「あっ...ご、ごめん!」

 

慌てて謝る剣崎。そして次に飛んでくるであろう罵声に備える。

 

だが二乃は顔を赤くしたままうんともすんとも言わない。不思議に思う剣崎に二乃がようやく口を開く。

 

「キミの名前、教えて!」

 

「な、名前?」

 

そこで二乃は前に写真を見た事を使える。

 

「それにしても驚いたわ、あいつがいってた知り合いに会うだなんて」

 

「あっ」

 

剣崎はようやく気づく。二乃が自分のことを前に見た誰かも分からない金髪の少年だと思い込んでいることに。

 

剣崎はすぐに正体を明かそうとする。もし自分が『上杉風太郎』だとバレたらどうなるか。恐らく二乃は恐ろしい剣幕で怒鳴り散らすに違いない。

 

だが剣崎は少年の名前を知らない。そこで剣崎は咄嗟に

 

「お、俺の名前は......えっと...カ、カズマ!」

 

と自分の本当の名前を名乗ってしまった。

 

「へぇ、カズマくんっていうんだ。かっこいい名前ね」

 

と褒める二乃。剣崎はなんとも言えない気持ちになってしまう。

そして二乃は「えっと...」と続ける。

 

「私、妹とはぐれちゃったの。一緒に探してくれないかな...?」

 

「も、もちろん!俺で良かったら一緒に探すよ」

 

「本当!?じゃあ、行こ!」

 

っと二乃は眩しいくらいに笑う。本来ならコテージまでのルートを教えて五月を探しに行ってもよかったのだが、というか二乃に正体がバレるリスクなどをかんがえたのなら確実にそっちの方がよかったのだが、ここにきて剣崎特有のお人好し属性が発動してしまった。

 

2人は暗い森の中を歩き始めた。

 

だがそこに会話はない。二乃は照れから、剣崎は余計なボロを出すまいとしたからだ。

 

だが二乃はこの『カズマ』と名乗る少年に何か親近感のようなものを感じていた。

 

『なんだろう...この、慣れた感じ』

 

今日初めてあったのに、何故か毎日会っているような感覚に襲われる二乃。だがそこで彼女はあることに気づく。『カズマ』の額に小さな傷を見つけたのだ。

 

「ちょっと、おでこ怪我してるじゃない」

 

「ん?あぁ、こんなん唾でも付ければ勝手に治るよ」

 

と返す剣崎。実際かなり小さなかすり傷であり気になるほどのものでもなかった。

 

「そんなわけにはいかないわ。よいしょっと...これでよし!」

 

と剣崎の額のキズにハート柄の絆創膏を貼った。

 

『二乃のやつ...いつもと随分態度が違うな』

 

とやりにくそうにする剣崎。

 

「待って、なにか声みたいの聞こえない?」

 

「ん?別に聞こえないぞ。いいから早く行くぞ」

 

と先導する剣崎。二乃も「あ、待って」と言いながらついてくる。そして道を歩くと二乃が

 

「この道の方が楽そうだわ。こっちから行こうよ」

 

と少しだけ開けた道に走り出す。

 

「あっ!そっちは!」

 

「え?」

 

 

 

と剣崎は手を伸ばす。だが既に時遅し、二乃の身体は崖から投げ出された。お互いに伸ばした手は届かない。

 

 

 

「くそっ!」

 

と歯噛みすると剣崎は自身も崖を蹴って飛び出す。そしてバックルを腰に装着すると

 

 

 

「変身!!」

TURN UP

 

 

とブレイドに変身した。

 

そして二乃を抱きしめ、そのままブレイドは二乃の下敷きになる形で地面に叩きつけられる。

 

 

「ガっ!」

 

「きゃあ!!」

 

 

剣崎は痛みのあまり声が漏れてしまう。いくらブレイドに変身していたとはいえ、それなりの高さの崖から落下し、それに二乃の体重もプラスされていたためかなりの衝撃だった。恐らく上が五月だったらこの程度では済まないだろう。

 

「ってぇ...大丈夫か?二乃」

 

だが二乃は固まっている。こっちを見たまま口をパクパクさせている。そしてようやく喋り出す。

 

「う、嘘でしょ...!?カズマくんが...『仮面ライダー』...!?」

 

 

しまった...と剣崎は思う。確かにこれは仕方がなかった。もしあそこで変身しなければ自分はともかく二乃にまで被害が及んでいたかもしれない。

 

一応、MACHのカードもあるので逃げようと思えばいくらでも逃げることは可能だ。だが彼女を完全にルートから外れてしまった森の中に取り残すことも出来ない。

 

 

「今見た事、誰にも言わないでくれよ」

 

「い、言うわけないじゃない!というか今でも信じられないわ!!じゃああの駅前の時も、レストランの時も...あぁ、神様って本当にいたのね...」

 

と二乃は興奮冷めやらぬ様子だ。だがそれも無理はない。自分のことを助けてくれた白馬の王子様と、一目惚れした青年がまさかの同一人物だったのだ。これは最早奇跡としか言い様のないものだった。

 

するとブレイドは足に力を込めると大きくジャンプし、崖の上に戻る。

 

そして『BIO』のカードをラウズし、蔦を二乃の身体に優しくまきつける。

 

「きゃっ」

 

突然のことに変な声をだす二乃。そして剣崎は蔦を手繰り寄せ、二乃も崖の上に戻してやった。

 

「怪我はないか?」

 

「え、えぇ。大丈夫よ」

 

すると剣崎はバックルのレバーを引いて変身を解除した。

 

「まぁ見られたもんはしょうがないか。ほら、行くぞ」

 

「ま、待って!怖いから...手、握って」

 

と手を出す二乃。だが直ぐに冷静になった彼女は自分が言ったことを理解し、手を引っ込めようとした。だが

 

「ほら、これでいいのか?」

 

と自分の手は目の前の青年に握られていた。

 

不安な時、誰かが手を取ってくれたら。剣崎は昔からこう思っていた。11歳にして両親が死に、剣崎は孤独になった。親戚の元に預けられてはいたものの、剣崎のそばに寄り添ってその不安を和らげてくれる存在は当時の彼にはなかった。

だから剣崎は不安や恐怖を覚える人がいるなら、それを取り除いてあげることが、自分ができることの一つだと認識していた。

 

人間は1人でも誰かがそばにいてくれれば、それだけで安心出来る。そのことを誰よりも深く理解していた剣崎は、二乃の手をとることに疑問を抱かなかった。

 

「あ、あああ...」

 

と二乃はまたも口をパクパクとさせる。そんな二乃の手を引き剣崎は歩き始めた。

ようやく二乃も落ち着き、剣崎に尋ねる。

 

「カズマ君、キミは明日もここにいるの?」

 

もちろん剣崎は明日もここにいる予定だ。だがそこにいるのは『上杉風太郎』であって、『カズマ』ではない。

 

「いや、俺は明日の朝には帰らなきゃいけない。ちょっとやることがあって」

 

「それって、『仮面ライダー』として?」

 

「...まぁ、そんなとこかな」

 

「そっか。それなら仕方ないか」

 

妙に物分かりのいい二乃に剣崎は少し驚く。

 

「私の知り合いにね、あなたにそっくりな人がいるの。あ、見た目の話じゃ...ってよく見たら顔まで似てるわね」

 

「...! そ、そうか?他人の空似じゃないか?」

 

二乃は「そりゃそうよね」と言うと話を戻す。

 

「そいつ本当お人好しっていうか、なんていうんだろ...バカ...そう!バカね!筋金入りのバカよ!

あっ、もちろんカズマくんはそいつとは違うからね!」

 

と二乃は閃いたような顔で言う。剣崎は「こ、こいつ...」と今すぐにでも正体を明かしてやりたくなるがその衝動をグッと堪えた。

 

「多分アイツならさっき私が落ちた時...ううん、私じゃなくても飛び込んでたと思う。たとえ相手が見知らぬ人でも、その人の命が危ないってならきっとアイツも行くとと思う。

 

 

それで自分が死ぬとしても」

 

「二乃......」

 

「なんでだろう。初対面なのに、何故か君とは初めてあった気がしないわ」

 

「そ、そりゃあ駅前の時とかに会ってるからな」

 

「そう...よね」

 

二人の間にはなんとも形容しがたい空気が流れる。剣崎は今からでも自分の正体を明かすべきか迷った。そんな時、近くの茂みから声が聞こえた。

 

「わぁぁぁん...二乃ぉ...どこ行っちゃったんですかぁ〜」

 

「い、五月!」

 

と二乃はようやく見つかった五月に駆け寄る。

 

「二乃!よかった〜...すっごい怖かったんですよ〜」

 

「あなたがビビって先に行っちゃったのが悪いんじゃない!」

 

「ご、ごめんなさい!それにしても、よく二乃は1人でいられましたね...」

 

そう言われた二乃は少し嬉しそうな顔になる。

 

「1人じゃないわ。ほらここに...

 

あれ?」

 

先程までいた『カズマ』と名乗る青年の姿はもうどこにもなかった。

 

 

 

 

剣崎と二乃が出会う数分前。

 

 

「み、三玖?」

 

一花は明らかにいつもと様子の違う三玖に何か嫌なものをおぼえる。

 

「昔から変わらないなぁ、一花は。そうやってすぐ人のものばかり欲しがって、いつも無理やり取っていって」

 

「そ、そうだっけ?」

 

一花はあまり身に覚えのない自身の過去の話を聞かされ一瞬戸惑う。

 

「そうだよ。昔っからそう。そして今回も。1人だけ抜け駆けして、フータローを自分だけのものにしようだなんて...やっぱり一花は一花だね」

 

とその語調は柔らかい。だが一花はもっと別の『何か』に恐怖を感じていた。

 

「あなた...本当に三玖?なんかいつもと様子違うよ!?」

 

「何言ってるの?私は...わ、私は...

 

うっ...何故...まだ認めないの...」

 

と三玖はいきなり頭を抑えて蹲る。

 

「ちょっ、ちょっと三玖!大丈夫!?」

 

「.........い、一花.........」

 

とフラフラになった三玖を一花が支える。

 

「どうしちゃったの三玖」

 

「へ、平気。一花、今のこと全部忘れて。あんなの私の本当の思いじゃない」

 

「み、三玖...うん。大丈夫、分かってる。とにかく今は一旦コテージに戻って休もう」

 

「うん...ごめん、一花」

 

「気にしない気にしない。こんなときこそ長女らしくしなくちゃね」

 

とウインクしてみせる一花。

 

一花は三玖に肩を貸したまま森を抜け、コテージに戻る。

 

「ごめんね、一花。迷惑かけちゃって」

 

「大丈夫。三玖もしっかり休んで」

 

と三玖をコテージにあるベンチに座らせた。

 

「じゃあ私、明日のキャンプファイヤーの準備の手伝いしてくるから!三玖はしっかり休むんだよ」

 

「......うん。ありがと、一花」

 

そう言葉を交わすと一花はキャンプファイヤーの準備に向かう。

 

 

───────────────────────

三玖の心の中。そこには紫色の瞳を持った三玖にそっくりの少女。三玖は初めて自分からもう一人の自分に話しかける、。

 

 

なんでこんなことをしたの!?私を操って...

 

 

『操ってなんかないよ』

 

...え?

 

 

紫色の双眸をたずさえた三玖はそう笑いながら告げる。

 

 

『これは全部あなたが思ったこと。私はその思いに素直になれるよう後押ししてあげてるだけ』

 

...う、嘘...そんなの信じない!

 

 

『もう、まだ素直になれないだなんて。そういえば『アレ』もそろそろきてるかも。取りに行かなきゃ』

 

というと紫色の瞳の三玖は、先程見た異形-スパイダーアンデットの姿に戻る。

 

『その体、少し使わせてもらう』

 

といいスパイダーアンデットの三つの眼が妖しく光る。その眼を見つめた三玖の意識は暗黒に落ちる。

 

───────────────────────

 

「よし」

 

というと三玖の体を乗っ取ったスパイダーアンデットはコテージの裏にある雑木林の中に入る。

 

「俺が乗っ取るだけではこいつを従い切らせるのは不可能か。やはり、こいつ自身の『闇』を利用する方が効率がいい」

 

そう呟きながら、草を掻き分ける。そしてスパイダーアンデットはあるものを見つける。

 

「あった、あったぞ!これさえあれば...」

 

と喜びながら地面に落ちていた『レンゲルバックル』を拾い上げる。

 

そしてすぐさま彼女の身体を彼女自身に返す。

 

「......えっ」

 

と三玖はなにが起こったかわからないと言った様子だ。

 

「今私...何を...」

 

と言いながら自信が右手に握っているものを見る。それが何かは分からない。だがそれから非常に危険な『何か』を彼女は感じていた。

 

───────────────────────

 

再び三玖とアンデットは三玖の心の中に現れる。スパイダーアンデットはまた紫色の瞳を携える三玖の姿に戻る。

 

 

『ねぇねぇ、フータローが私だけを振り向いてくれる方法、教えてあげようか?』

 

そんなものいらない。他人に協力してもらう必要なんかない。

 

 

『本当にいいの?このままだとフータロー、一花に取られちゃうよ?』

 

ッ......

 

 

『フータローはいつも顔も知らない人を守るために戦ってる。そんな生き方、私にはできっこない。そう思ってるんでしょ』

 

...だから何。別に私はそんな生き方を...

 

 

『違うよ。人を守るために傷つくフータロー。そんなフータローを、私が守ってあげればいいんだよ」

 

私が...フータローを...?そんなことできるわけ...

 

 

『できるよ、私なら。フータローが『人々を守る仮面ライダー』なら、私は『フータローだけを守る仮面ライダー』になればいい』

 

私が...仮面ライダーに...そんなことできるはずがない...!そもそも私はあなたの思い通りになんかなったりしない!

 

───────────────────────

 

意識をハッキリと取り戻した三玖は手に持っていた『レンゲルバックル』とスパイダーアンデットが封印されたラウズカードを再び雑木林の中に投げ捨てた。

 

そしてその場から急いで離れた。

 

「私は...負けない...自分の『闇』になんか負けない...!」

 

三玖はそう一人つぶやくと、コテージに戻る。

 

 

 

 

 

その頃剣崎は、二乃を五月と合流させたところで自身もコテージに戻り、肝試し用のコスプレを脱ぎ私服に着替える。彼は少し休憩したら、明日のキャンプファイヤーの準備の手伝いに向かう予定だった。

 

缶コーヒーを片手に椅子に座る剣崎。だがそこで何か焦った様子の三玖に出会った。

 

「あっ、フータロー...」

 

「どうした、三玖。なんか随分焦ってるみたいだけど、なんかあったのか?」

 

「う、ううん!なんでもないよ!」

 

「本当か?どこか具合が悪かったりしないか?」

 

「大丈夫、フータローがいるなら...私は大丈夫」

 

「? まぁそれなら良かったよ。じゃあ俺、キャンプファイヤーの準備の手伝い行ってくるよ」

 

「うん。行ってらっしゃい、フータロー」

 

三玖は手を振りながら剣崎と見送る。

 

 

 

「負けない...私は負けない...」

 

 

三玖は決意する。自分の闇に打ち勝つ決意を。

 

 

そしてその決意はすぐに打ち砕かれることになる。

 

 

 

「よいしょっと」

 

と剣崎は丸太を持ち上げる。剣崎はコテージから離れた倉庫に昨日の雪から一時的に避けていた丸太を運んでいた。

 

係達の頑張りもあり、倉庫に残されている丸太の数はかなり減ってきていた。そして剣崎は最後の一本を持ち上げようとしたとき、

 

「わっ、重」

 

と声がした。そこには自分が持ちあげようとした丸太を一緒に持つ一花の姿があった。

 

「あれ、どうして一花がここに?」

 

「そういうフータロー君こそどうしたの?」

 

「いや、おれはただの手伝いで来ただけだよ。別に一本くらい自分で運べるし、一花がわざわざ手伝ってくれなくても大丈夫だぞ」

 

「まぁまぁ、そう言わずに。一緒に運ぼうよ。明日私たちも踊るキャンプファイヤーなんだから、自分でも少しくらい手伝わないと」

 

「そうか。ならちゃっちゃと片付けるか」

 

と二人が丸太を持った時、一花が

 

「フータロー君...さっき三玖に会わなかった?」

 

と尋ねる。

 

「三玖?さっき会ったけど」

 

「本当!?三玖、なんか変じゃなかった?何か変な事言ってたりしなかった?」

 

と丸太を運ぶことを忘れ剣崎に詰め寄る一花。剣崎は一旦丸太を倉庫の壁に立てかける。

 

だがそこで

 

「これで全部かな?」

 

「疲れましたよー」

 

とこちらに向かってくる人の声がする。

 

すると一花は何故か剣崎と倉庫の端に隠れる。

 

「おい、別に隠れる必要ないだろ」

 

と小声で話す剣崎。だが一花は何も言わない。

 

 

その時、倉庫の扉からガシャン、ガチャ、という音がした。

 

「「ん?」」

 

二人して首を傾げ、目を見合わせる。そして状況を理解する。

 

「ま、まさか!」

 

と剣崎は倉庫の扉を押したり、ガンガン叩いたがビクともしなかった。一花を見る剣崎。そんな一花は「たはは...」と言いながら苦笑いをした。

 

二人は倉庫の中に閉じ込められてしまったのだった。




創動のラビットドラゴン買えました...
付属パーツはビートクローザーより交換用手首が良かったですw



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第22話:崩壊の『産声』

いつもより少し短めです、申し訳ありません。


中々頑丈そうな扉である。剣崎が蹴ったり、ぶつかったりしても開く気配すらない。

 

「ご、ごめん。フータロー君...私のせいで」

 

「別に気にすることじゃないさ。それに俺にはこれがある」

 

と剣崎はバックルを取り出す。ブレイドに変身さえすれば、扉を壊すことなど造作もないことだろう。

 

「待って。あの扉の右上にあるやつ、多分あれ扉を壊したら警備員とかが来ちゃうやつじゃない?そんなことしたら林間学校が台無しになっちゃうよ...」

 

「そ、そっか。まぁでも」

 

と剣崎はバックルにカテゴリーAを装填しようとする。機械ならば物理的に壊さずとも、ラウズカードの『MAGNET』の力を使えば強力な磁力で機械を狂わせることができるはずである。

警備会社には悪いが、この室温が低い冬の倉庫内に取り残されるのは良くない。

 

そう考えた剣崎は変身しようとするが、

 

「ま、待って...もうちょっとだけ誰かが来るのを待ってみてもいいんじゃないかな。それにいくらなんでも壊しちゃうのはまずいんじゃ...」

 

と一花が歯切れの悪そうに提案する。

 

「うーん...まぁ確かにそうかぁ。

分かった、もうちょっとだけ待ってみるか」

 

そういって地面に座り込む剣崎。

 

ほっと胸を撫で下ろす一花。実を言うと、壊すの壊さないだのはただの建前である。彼女は剣崎と二人きりになれたこの空間に少しでも長くいたいと考え、彼を変身させなかったのだ。

そして一花も剣崎の隣に座る。

 

「本当にごめんね、フータロー君。私がさっき...」

 

「いいからいいから。気にするなって。」

 

「で、でも...」

 

言葉を続ける一花はかすかに震えている。昨日まで雪が降っていたこの場所はかなり気温が下がっている。

 

「にしても冷えるなぁ、ここ。...そうだ!」

 

と剣崎は今自分が着ていたジャケットを一花の肩にかけた。

 

「フ、フータローくん!?」

 

「寒いだろ?それがあれば少しはマシになるだろ」

 

「でもそれじゃあフータロー君が」

 

「俺は平気だよ。こう見えても俺、寒さには強いんだぞ」

 

とガッツポーズをしてみせる剣崎。

 

「なんか私、フータローくんには迷惑かけっぱなしだなぁ」

 

と体育座りになりながらそう呟く一花。

 

「そんなことないさ。仮に一花がそう思っていたとしても、俺は一度も迷惑に思ったことなんてないぞ」

 

と微笑む剣崎。その顔を見つめた一花は自分の心が温かくなるのを感じる。この青年の笑顔にはなにか魔法でもかかっているのだろうか、そんなことを考えている一花。

 

「それにもっと一花は周りに迷惑をかけてもいいんじゃないか?ちょっと前にも同じような事言ったけど、何でもかんでも一人で抱え込んじゃ息詰まっちゃうからな。

 

もし何か困ったりしたことがあったら、俺でよければ相談に乗るからさ」

 

と笑う剣崎。

 

「フータローくん...」

 

一花の心は寒い倉庫の中とは違い、暖かなもので満たされていた。

 

そして彼女は意を決したように口を開く。

 

 

「なら早速一つ、相談しちゃってもいいかな?」

 

「あぁ、なんでもいいぞ」

 

といつものように微笑みながら一花と目を合わせる剣崎。そして一花は少し息を吸うと、その重い口を開く。

 

 

 

 

「私、学校やめるかも」

 

 

 

 

と一花は剣崎に告げる。

剣崎は思わず

 

 

「えっ」

 

 

と言葉を漏らしてしまう。

 

そして一花は、辞めるとはいうものの休学の形をとること、今までも何度か学校を休んで仕事に行ったこと、他の俳優を夢見る高校生たちも休んでいることを教える。

 

黙り込む剣崎。

そんな剣崎に一花は続ける。

 

「私、この間のテストでは最低限の結果を残せたけど、やっぱり馬鹿だし。高校に未練はないかなーって...」

 

と言葉を紡いでいく一花。

 

だが彼女の思う所は少し違うところにあった。

 

一花は三玖が剣崎のことが好きなのを知っている。そして自身も三玖と心を同じくして彼のことが好きである。

だが一花は今日の肝試しの時、いつもと明らかに様子が違う三玖を見てしまった。

 

紫がかった目、挑発的な言動、そして何よりも言葉では言い表しようのない醜い『何か』

を一花は見てしまったのだ。

 

そのことが自身の休学の可能性を後押ししてしまった。

 

自分が大人しく身を引けば、きっと三玖も...

 

それは五つ子の長女としての一花の妹たちに対する思いやりからきたことだった。

 

 

だがそんな一花に剣崎は優しく話しかける。

 

「すごいな、一花は。こんなに若いのに自分のやりたいことが見つかってるなんて」

 

「え?」

 

の目をぱちくりさせる一花。

 

「正直いうと俺、今自分が何をやるべきか...何も分かっちゃいないんだ。今の俺は周りの環境に流されるままに動いてるだけ。右も左も分からない。

 

それなのに一花は『女優』という一つのゴールを見つけられている。それって凄い立派なことじゃないか」

 

 

と素直に思ったことを口にする剣崎。剣崎の顔を見つめる一花に、彼は続ける。

 

 

「もし一花が自分の夢を叶えるためにどうしてもというのなら、俺は止めない。

 

確かに俺はお前達五つ子を笑顔で卒業させるって言ったけど、俺はそれよりお前達五人にいつまでも笑顔でいてほしい。お前が夢を諦めることでお前の笑顔が失われちゃ本末転倒だ。

 

あいつらも最初は悲しむだろうけど、お前の想いを聞けばきっと分かってくれるし、絶対その想いを応援してくれるはずだ。

 

それに自分の『やりたいこと』に向かって一直線に突っ走っていけることって、本当にすごいことだと思う。

 

まぁとにかくまずは『挑戦』だな!」

 

とその優しい笑みを崩さず一花に告げた剣崎。

 

 

 

その笑顔を見た一花は自分の心のブレーキが効かなくなったことを確信する。

 

でももう手遅れだ。伝えよう。何事もまずは『挑戦』。

 

 

 

『君のことが好き』

 

 

 

この想いを伝えるのなら今しかない。一花はスクッと立ち上がり、真っ直ぐな瞳で剣崎を見つめる。

剣崎は「一花?」と言いながらキョトンとした目をしている。

 

一花は先程の休学のことを伝える時よりも、さらに深く深く深呼吸をする。

そして自身の頬をパンパンと叩くと視線の先に見据える剣崎にその想いを伝えるべく口を開く。

 

 

 

「フータロー君。実は、私...君のことが...」

 

 

 

そう言いかけたところで、一花の足の踵が壁に立てかけておいた丸太にぶつかってしまった。

それによりバランスを崩した丸太は、その横にいた一花を潰さんとばかりに倒れ出す。

 

咄嗟のことに反応出来ない一花。

 

そしてその丸太が一花にぶつかろうとしたその時、

 

 

 

「危ない!!」

 

 

と剣崎は一花の手を引いた。

 

そして勢い余って二人は倒れ込んでしまう。

 

 

目を開ける一花。

 

 

その視線の先には、まん丸とした瞳。

 

 

二人の顔は今にもくっつかんばかりのところにあった。

 

一花の心でアラートが鳴る。『もうダメだ』。平常心ではない一花はその顔をゆっくりと剣崎に近づけようとする。

 

 

その時、ビー!ビー!といううるさいサイレン音が2人の耳に入る。

 

やっと気を取り戻した剣崎は一花から離れると

 

「っとっと!す、すまん!一花!」

 

と手を合わせて謝る。そして一花もハッとした様子で

 

「だっ、だだだだ大丈夫!!!そ、それこそフータローくんの方は怪我は...」

 

「いや、俺の方はなんともないけど...ってか何だこの音...」

 

そう辺りを見回すと、警報機から『衝撃を感知しました。30秒以内にアンロックしてください。解除されない場合直ちに警備員が駆けつけます』と音声がなる。よく見ると、倒れた丸太が倉庫の扉の一部を破壊していた。

 

「や、やば!とにかく逃げるぞ!」

 

「あ、う、うん」

 

としどろもどろになりながら答える一花。

 

「うわっ!なんだこれ!」

 

と驚く剣崎。2人の頭上からは、以上を感知してかスプリンクラーから水が噴出されている。

 

もうこうなったら仕方あるまい。ブレイドに変身して『MAGNET』の強力な磁気で機械を壊すしかない。そう考えた剣崎がポケットのブレイバックルに手を当てたその時、倉庫の扉が開かれた。剣崎はすぐにバックルをしまい込む。

 

「た、助かっ...」

 

と言いかけた剣崎は扉の外にいた人物に目を見開く。

 

 

 

「一花、上杉さん。2人してこんなところで何してたんですか」

 

 

 

そこには心配そうな顔をした四葉と、眉をひそめる五月の姿があった。

 

そして剣崎と一花の二人はこのあとこってりと五月に絞られることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その四葉と五月の後ろで、

 

 

 

倉庫の中の剣崎と一花を見た、『三玖』は

 

「あっ」

 

と声を漏らす。

 

 

 

彼女の心の中の何か大事な部分が、パリンと音を立てて割れた。

 

───────────────────────

 

『ほうら、言わんこっちゃない』

 

え...あ...

 

 

と紫色の双眸を携えた『三玖』が、ショックのあまり言葉を発することができなくなった青い瞳の『三玖』を見てクスクスと笑う。

 

 

『これでもう分かったでしょ?今のあなたになんか、フータローは振り向いてはくれない』

 

嫌...!嫌...!見捨てられたくない...!フータローに『だけ』は...見捨てられたくない!

 

 

と頭を抱えて悶える三玖。

そんな彼女にトドメを刺さんばかりに、紫色の瞳の『三玖』は告げる。

 

 

『ならあなたができることは一つ。もう自分でもわかってるでしょ?』

 

......あ、ああ、ああ.........

 

 

『言って。あなたの口からハッキリと、私を『受け入れる』と言って』

 

...わ、私は...私は...あ、あなたを...

 

 

「違う。『あなた』じゃない。私は『私』。今目の前にいる私は、『中野三玖』という人間の一部。

 

いや、もう一部じゃない。今の中野三玖は、ほとんどが自身が抱えていた『私』という闇によって占められている。

 

だから私は『私』。今の中野三玖は『私』』

 

 

 

最早青い瞳の三玖に選択の余地は残されていない。

 

 

 

...わ、私は...

 

 

 

 

『私』を受け入れる...

 

 

そうハッキリと口にした三玖。

 

 

 

その瞬間、彼女の瞳は今までよりもさらに深く、妖しく、濃い『紫色』に染まった。

 

 

───────────────────────

 

 

三玖はゆっくりと目を開く。

 

その瞳は濃い『紫色』に染まっている。

 

 

そして妖艶に笑うと、その場を後にしてある場所へと向かう。

 

 

そこは森の開けた場所。森の中で何故かそこだけ、木が生えていなかった。

 

「やっぱりもう来てたんだね」

 

というと彼女は足元に落ちている

 

 

『レンゲルバックル』と『カテゴリーA』を拾い上げる。

 

そして彼女は少し辿々しい動作でバックルにカードを装填する。

 

カテゴリーAが装填されたレンゲルバックルは自動で彼女の腰に巻き付く。

 

 

「そうだ、私しかいない。フータローを守ってあげられるのは、私だけなんだ。

 

一花にも、二乃にも、四葉にも、五月にも誰にも譲らない。

 

フータローは...私『だけ』のもの...!」

 

三玖は止まらない。彼女の心の中から溢れ出した闇は彼女の身体を、精神を侵食していく。

 

 

そうだ、確かフータローは...いつもこうやって

 

 

三玖は思い出す。剣崎が何かを守るために『仮面ライダー』に変身するあの姿を。

 

 

そして彼を守る決意をした今、まさに自分は『あの言葉』を口にする資格がある!

 

 

 

 

 

 

「安心してね、フータロー。もうあなたを危険な目に合わせたりはしない。フータローが私の事だけしか見れなくなるよう、私が守ってあげる......

 

 

 

 

 

『変身』」

 

OPEN UP

 

 

三玖がレンゲルバックルの扉を開くと、そこから紫色の壁-スピリチアエレメントが出現する。

 

その壁は立っている三玖に対し、自動で動き出し、その体を通過する。

 

 

そしてスピリチアエレメントをくぐった三玖の身体は鎧を纏う。

 

 

元の華奢な体からは想像もつかないくらい、屈強な体躯、そしてその荘厳さが紛れてしまうほどの禍々しさ。

 

 

 

 

今ここに、第二の『仮面ライダーレンゲル』が誕生した。

 

 

 

〜病院〜

 

「医院長...!」

 

とモニターを眺める研究員らしき男が手を震わせながら口を開く。

 

「どうした」

 

と医院長と呼ばれた男-『中野マルオ』はそちらを向く。

 

「レンゲルが...『中野三玖』がとうとうレンゲルに変身しました...!」

 

「......!! それは本当か?融合係数は?」

 

マルオは一瞬驚いたように目を見開くと研究員に尋ねる。

 

「はい...融合係数は......!!

せ、1418です!!!」

 

と研究員は驚きながら告げる。

 

「やはりだ...彼女が『アレ』を成し遂げるか...

 

ありがとう...上杉風太郎くん...

 

これで私の計画の第一段階はクリアだ...!」

 

とマルオは小さく笑うのだった。




また少しの間投稿できません。ご了承ください。


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第23話:小さな『反抗』

完全に不定期投稿になってしまった...


「すごい...これが今の私...フータローを守る力を持つ私...」

 

レンゲルは自分の両手を見ながらそう呟く。

 

三玖は己の闇を増幅され、それに塗りつぶされてしまった。結果彼女はカテゴリーAに適合してしまい、レンゲルに変身してしまった。

 

「まずは、フータローに私が味方って分かってもらわなくっちゃ」

 

少し無邪気そうにいうとカードホルダーから適当なカードを一枚取り出し、それを放り投げる。

そして『リモート』のカードをラウズする。

 

REMORT

 

レンゲルラウザーの先端から紫色の光が放り投げたカードに照射される。するとカードに封印されていた♥10 センチピードアンデットがその姿を現した。

 

そのままアンデットはのそのそと歩き出す。そしてレンゲルは姿を消した。

 

 

 

 

 

その頃、剣崎と一花は四葉や五月によって質問攻めにされていた。どうしてこんなところに二人きりでいたのか、丸太が倒れているのかなどキリがない。

 

「上杉さん!正直に言ってください!今ならまだ罪は軽くなります!」

 

「だから本当に何かしたわけじゃないんだって!頼むから信じてくれよ〜...」

 

とタジタジになる剣崎。そんな剣崎を一花が庇う。

 

「い、五月ちゃん!

フータロー君は何も悪くないの。全部私が勝手にやったことだからフータロー君を責めないであげて」

 

と頭を下げる一花。

 

どうこの場を切り抜けようか、そんなことを考えていた剣崎の思考を邪魔するかのように彼のポケットの携帯がなる。

スプリンクラーの水で故障などはしていなかったようだ。

 

そもそも携帯があるなら姉妹の誰かに連絡をとればいいのではないか。だが悲しいかな、剣崎の携帯には父親の勇也と妹のらいはの携帯の電話番号しか登録されていなかったのだ。

 

「上杉さん、携帯なってますよ」

 

「あ、あぁ」

 

と四葉に促され携帯を見る剣崎。そこにはアンデットサーチャーが表示され、近くにアンデットがいることを示していた。

 

「...!! みんな!すぐにコテージに戻っててくれ。絶対にそこから離れるなよ!」

 

というと剣崎は走り出す。

だが

 

「ま、待って!フータロー君...」

 

と心配そうに剣崎を見つめる一花。

 

「ちょっと上杉さん!まだ話は終わって...」

 

と五月も引き留めようとするが

 

「ごめん!話は後で!とにかくコテージに戻るんだぞ!」

 

とだけ伝えると彼はサーチャーの示す場所に全力疾走で走り出す。

 

「くそっ...!確かにあいつ東町には出現しないって言ってたけど、ここには普通に現れるのか...!」

 

と悔しそうに歯噛みする剣崎。

 

そして雑木林を抜ける。

 

そこにいたのはセンチピードアンデット。アンデットは剣崎を見るなりすぐに飛び掛ってきた。

 

だが剣崎はその飛びつきを回避するとバックルを腰に装着する。

 

 

 

「変身!」

TURN UP

 

 

 

剣崎は出現したオリハルコンエレメントを走ってくぐり抜け、『仮面ライダーブレイド』に変身した。

 

ブレイドは右手にブレイラウザーを構えると、アンデットと一定の距離を保ち、お互いに出方を疑っている。

そしてブレイドが先にしかけた。

 

急接近し、右手の剣を叩きつけようとするがアンデットはそれを回避した。

 

そしてアンデットは口から猛毒を吐き出す。

 

さらにそれを避けたブレイド。的を外した猛毒は地面に生えていた低木にかかり、猛毒を浴びた低木は一瞬で枯れてしまった。

 

アンデットは続けて手に持っている鎖鎌-ピードチェーンをブレイドに放とうとしたその時、

 

 

 

 

アンデットは背面からの衝撃によって弾き飛ばされた。

 

「グガッ!」

 

と喘ぎ倒れるアンデット。

 

ブレイドは咄嗟のことに何が起きたか分からなかったが、目の前の存在が全てを分からせた。

 

「...! 何故お前がここにいる、レンゲル!」

 

とレンゲルに対し怒りをぶつけるブレイド。だがレンゲルは何も言わない。

 

そのままレンゲルは醒杖-レンゲルラウザーを構え突貫してくる。

 

ブレイドは剣を構え迎撃しようとした。

 

だがレンゲルはブレイドではなく、ブレイドの後ろで不意打ちを仕掛けようとしたアンデットを打ち据えた。

 

またも吹き飛ばされるアンデット。

 

レンゲルはカードホルダーから三昧のカードを取り出すと、ラウズする。

 

 

RUSH

BLLIZARD

POISON

《ブリザードベノム》

 

 

電子音がなると、レンゲルは冷気を纏わせたラウザーでアンデットに突きを放つ。先程剣戟を浴びせられ、なんとか立ち上がったアンデットはそれを回避できずもろに食らう。

 

その瞬間アンデットの体は氷漬けになり、そこにPOISONのカードで付与された猛毒を流し込み、そのまま吹き飛ばされた。

 

 

 

アンデットは爆発し、アンデットバックルが割れる。レンゲルはそこにカードを投げ、アンデットを封印した。カードには『SHUFFLE』と刻まれる。

 

その光景をただ呆然と眺めていたブレイドは我に返る。

 

「レンゲル!お前の目的はなんだ!何故俺の代わりにアンデットを倒す?」

 

黙ったまま何も答えないレンゲルにブレイドはなおも叫ぶ。

 

 

 

「いつか必ずお前の正体と目的を暴いてやる。

だがその前にひとつだけ、どうしても答えて欲しいことがある。

何故お前はあの時、俺に五つ子たちを守るように言った?」

 

 

だがそうブレイドが告げた後に、異変が起きた。レンゲルがいきなり頭を押さえ悶え始めたのだった。声は出すまいとしているのか、声は聞こえない。

 

ブレイドはレンゲルがなにか狙っているのか警戒する。

 

だがレンゲルはフラフラとおぼつかない足取りでブレイドから離れる。

 

そして『スモッグ』のカードをラウズし、辺り一面に煙幕をはる。

 

「待て!」

 

とブレイドが煙幕を突っ切って追いかけたが、そこにレンゲルの姿はなかった。

 

「何なんだ...俺は一体...何をどうすればいいんだ...」

 

一人で問う剣崎。

ただ夜の静寂だけが、その答えをいう者はいないということを示していた。

 

 

 

 

「ハァ...ハァ...」

 

とレンゲルは息も絶え絶えと言った様子で頭を抑えている。

───────────────────────

 

なぜ...もう完全に...己の闇に囚われたはずなのに...

 

『やめて!私を受け入れるとは言ったけど...フータローを危険な目に合わせることだけは許さない!』

 

 

......

 

『いいから返して!この身体は...『私』のもの...!』

 

 

───────────────────────

 

「......ハッ!」

 

と三玖は意識を取り戻したかのように我に返る。地面を見ると、そこにはレンゲルバックルとカテゴリーAが無造作に転がっている。

 

「こんなもの...!」

 

と三玖は再びその場から走り去る。 バックルとカテゴリーAから背を向けるように。

 

 

 

まるで己に突きつけられた『運命』から逃げるかのように。

 

 

 

───────────────────────

 

『なぜ...先程は完全に飲み込まれていたはず...』

 

カテゴリーA-スパイダーアンデットは三玖の姿から元の醜い蜘蛛の姿に戻る。

 

彼はかなり困惑していた。あの時、上杉風太郎と中野一花が二人でいた姿を見て、三玖の心の『闇』は暴走したはずだった。

 

スパイダーアンデットの目的は簡単だ。

 

自身の『闇』に囚われ、完全に暴走した三玖を『仮面ライダーレンゲル』として戦わせてアンデッドを封印させ、二体を残した時点で三玖の意識を完全に乗っ取り、自身が封印されている『CHANGE』のカードをリモートさせる。それだけで自身はバトルファイトの勝者に一気に近づくことになる。

 

つまりスパイダーアンデットは三玖のことを都合のいい隠れ蓑としてしか見ていない。

 

もとから中野三玖はその心に小さな闇を抱えていた。そもそもそういった汚い部分はどの人間でも持っているものである。

 

だがアンデットはその三玖が持つ『闇』の可能性に目をつけた。

 

「この女の闇は普通の人間が持つものとは比べ物にならない」

 

そのことを瞬時に見抜き、アンデットは三玖の心の闇に剣崎を独占するようけしかけたのであった。

 

しかも不幸なことに、三玖の置かれていた環境が彼女の闇の侵食を加速させてしまった。

 

姉妹は同じ顔の五つ子、それなのに自分はみんなと違って何も無い。中野三玖は本当にそう考えていた。だがそこにあの男-『上杉風太郎』が現れた。三玖がその青年に陶酔するようになるまで時間はかからなかった。

 

ほかの姉妹と違って何も無い自分を命を呈して守ってくれて、太陽のような眩しいくらいの笑顔で笑いかけてくれて、

 

 

他の姉妹は誰も知らないとっておきの『秘密』を教えてくれたことが、彼女を変えた。

 

 

一花みたいに美人じゃなくて、

二乃みたいに料理ができなくて、

四葉みたいに運動ができなくて、

五月みたいに皆に愛されてなくて、

 

 

そんな自分に唯一与えられた、愛おしくてたまらない大事な人の『秘密』。

 

この『秘密』が三玖の心に残されたほんの小さな光だった。

 

しかしスパイダーアンデットはその光の正体にまだ気づけてはいない。

 

この『秘密』が自分のだけのものではなかったのだと本人がわかってしまった時、彼女の心が本当の闇に塗り替えられることになる。

 

───────────────────────

 

「はぁ...つっかれたぁ」

 

と剣崎はヘトヘトになった様子だ。あのあとレンゲルに逃げられた剣崎は仕方なくコテージへと戻った。明らかに様子のおかしいレンゲルだったがその原因が剣崎に分かるはずもない。彼は諦めたように一旦レンゲルのことを考えるのを辞めることにした。

 

「フータローくん、本当に大丈夫?怪我とかしてない?」

 

「大丈夫さ。ひとつも怪我なんてしてないよ」

と一花を宥める剣崎。だが一花はまだしょんぼりとした顔をしている。

 

「そんな顔するなって。林間学校はまだ一日残ってる。そんな顔してちゃに明日のキャンプファイヤーも楽しめないぞ」

 

「...!!そ、そうだよね!私がしっかりしないとダンスが下手なフータローくんが困っちゃうもんね!」

 

といつものように笑う一花。そんな顔を見て安心した剣崎は部屋に戻り、疲れた身体をベッドに運ぶとそのまま横になりぐっすりと寝てしまった。

 

 

 

剣崎たちがコテージに戻った少し前に、三玖も部屋に戻っていた。同じ部屋のクラスメイトたちは他のクラスメイトの部屋の友達のところに遊びに行っているようで、この部屋には誰もいない。

 

三玖はすぐさまベッドに潜り込むと、すぐに掛け布団を被り目を瞑った。

 

そして一人、ベッドの中で呟く。

 

「私、どうなっちゃうんだろ...」

 

まさか自分が『仮面ライダー』になってしまうだなんて思いもしなかった。今は自分の中のドス黒い『闇』をなんとか押さえ込んでいるものの、きっとあの声が直ぐに聞こえてくるはず。その時自分が何をしでかすかわかったものでは無い。

 

あの『私』を受け入れた時、自分の中の『上杉風太郎』への愛情が、恐ろしい勢いで流れたのだった。

 

愛してる。

他の子を見ないで欲しい。

自分だけのものになって欲しい。

 

そんな独占欲が彼女の理性を壊そうとした。それでも自分を抑えられたのは、上杉風太郎の『秘密』を自分だけが知っているからであろう。他の姉妹と違って何も無かった自分に、唯一与えられたかけがえのないもの。

 

それが『秘密』-上杉風太郎が『仮面ライダー』であるということだった。

 

この『秘密』はほかの誰も知らない、そう信じて疑わなかったからこそ三玖は何とか自分を取り戻すことが出来たのだった。

 

 

 

 

 

「怖いよ...助けてよ、フータロー...」

 

 

 

 

 

その嘆きは誰にも聞こえることはなかった。

 

 

 

 

 

林間学校三日目

 

「上杉ー、起きろー」

 

「ん、んぅ...よっと...」

 

と友人に起こされた剣崎は起きて伸びをする。先日は二乃を助けるために崖から飛び下りたり、一花と倉庫に閉じこめられたこともあってかなり疲れが溜まっていた。

 

剣崎は眠い目を擦りながら部屋に備え付けの洗面所で顔を洗い、同じ部屋のクラスメイトたちとジャージのまま食堂に向かうところで、

 

「おっはー、フータローくん」

 

と一花が声をかけてきた。

 

「ん。一花か、おはよう」

 

「もうフータローくんったら寝癖ついてるぞ」

 

「朝遅かったら直してる時間が無かったんだよ」

 

と剣崎は自分の頭のはねた部分を手で抑える。手を離した瞬間ピコンと元に戻ってしまったが。

一花はその様子を見て「フフフ」と笑う。

そして剣崎の手を取ると、

 

「ほら行こ!このあとスキーもするんだからさっさと食べちゃわないと」

 

「お、おい。わかったから引っ張るなって」

 

とそのまま引っ張っていってしまった。

 

「やるなぁ上杉」

「やっぱあの噂って本当だったのか」

「あー...上杉と一花さんが付き合ってるってやつか。こんなんもう確定だろ」

「俺も早く彼女欲しいなぁ」

 

と男子生徒たちは羨ましそうに剣崎を見る。

 

 

 

そしてその後ろを四葉と五月が歩いていた。

 

「怪しい...」

 

「本当に上杉さんと一花が...」

 

と疑うように彼らを見る四葉と少し心配そうな顔をする五月。

 

「二人と合流しちゃおう!」

 

「ま、待ってください!四葉!」

 

と走り出した四葉を追いかける五月。

 

「おーい、一花ー!上杉さーん!一緒に食べましょーう」

 

「四葉...うん!一緒に食べよっか!フータローくんもいいでしょ」

 

一瞬残念そうな顔をした一花にそう提案された剣崎は「構わないよ」というと一花、四葉、五月、剣崎の4人で朝食を摂ろうとした。

 

 

その後五月が一花の顔が赤いことに気づき、彼女が風邪をひいたことが分かるのはもう少しあとのことである。

 




♥10 センチピードアンデット
肩の大ムカデは、無数の小ムカデの集合体で、分離しての活動が可能。
鎌が付いたピードチェーンは100メートル先の獲物を仕留め、口から出されるセロトニンとヒスタミン系の猛毒は相手を激痛と高熱で苦しめ、死に至らしめる。
また、上記の毒の解毒剤はセンチピードアンデッド自身が持つ抗体でのみ作られる


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第24話:黒い『欲望』

かなり展開がダレてしまい申し訳ありません。
今回で林間学校編を終わりにします。


「ハァハァハァ...や...やりますね、上杉さん...」

 

「よ...四葉、お前もな」

 

「お疲れ様、二人とも」

 

と二人は互いに真っ白な雪の上に座りながら互いを讃え合う二人を、三玖が労う。

 

結局朝食の後、一花の体調がおかしいことに気づいた剣崎たちは彼女を無理やり部屋で休ませることになった。

一花は意地でも剣崎と滑ろうとしたが止まらない咳と赤い顔を見た剣崎はなんとか彼女を宥め休ませることが出来た。

 

その後剣崎は自身が一花の彼女の看病をしようとしたが、五月は

 

「一花のことは私に任せてください。それに、上杉さんと一花を二人きりには出来ません」

 

と進言し四葉もそれに賛成し、一花の看病は五月がすることになった。

当の一花は少し残念そうな顔だったが、剣崎は「スキーが滑れないからだろうな」と一人納得していた。

 

四葉と五月は間違いなくその一花の不満に気づいていたが。

 

その後三玖が剣崎と四葉の二人に合流した。本当は昨夜のこともあり、あまり行く気では無かったが、剣崎がゲレンデに行くということを知りその重い腰をあげたのだった。

 

 

そして剣崎、三玖、四葉の三人でゲレンデに来ていた。

 

「それにしてもお上手ですねー上杉さん。本当に初めてなんですか?」

 

「本当だよ。にしても話には聞いていたけどスキーって面白いな」

 

「でしょ~?なら次は上級者コースに行ってみましょー!」

 

とストックを持つ剣崎の手を引っ張る四葉。

 

「ま、待っ、あっ」

 

とその二人を呼び止めようとした三玖は派手に転んでしまった。

 

「だ、大丈夫か!?三玖」

 

と三玖に手を差し伸べる剣崎。三玖は「あ、たりがとう」と言いながら剣崎の伸ばされた右手を掴もうとした、その時

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 

と三玖の手になにか電流のようなものが走ったようた気がした。三玖は剣崎の手に触れた瞬間、その手を引いてしまう。剣崎の右手に、手袋越しで触れただけなのに、なぜか三玖の身体が火照り始める。

 

きょとんとした剣崎の顔を見る三玖。それだけで彼女の心臓の鼓動はバクバクと脈打つ。

 

「お、おい、本当に大丈夫か?」

 

と心配そうな顔をする剣崎。

 

「だ、大丈夫。本当に大丈夫だから。心配しないで、フータロー」

 

と三玖は1人で立ち上がった。だがその時

 

「お、お待たせしました」

 

とスキーウェアに身を包んだ五月が現れたのだった。

 

「い、五月!?一花はどうしたんだ?」

 

「じ、実はそれが...」

 

と五月は剣崎達に事の顛末を話す。当初五月は一花の看病をしていたのだったが、窓からスキーをする生徒達を見つめた一花が急に五月も行くように進めてきたのだという。

 

当然五月は病人を残していくわけにはいかないと拒否したが、

 

「五月ちゃんにまで迷惑かけられないな。それに私は大丈夫。なんたって長女だもん!」

 

とゆっくり立ち上がると五月の背中を押しながら半ば無理矢理部屋の外に出してしまった。すぐに一花の部屋に戻ろうとした五月だったが一花は「行っておいで」と言うばかりで聞く耳を持たず、仕方なく来てしまったらしい。

 

「そういうことだったんだ。なんか本当に一花らしいです」

 

と苦笑する四葉。確かに一花は心配だが、一花の性格上妹たちが自分のせいで林間学校を楽しめなくなることが許せなかったのだろう。

 

「まぁそれなら仕方ないか。きっと一花も五月に楽しんできて欲しかったんだよ」

 

「そ、そうでしょうか」

 

「きっとそうさ。一花なら、絶対そう考えるさ」

 

と五月を慰める剣崎。すると四葉がその暗い空気を打ち壊さんとばかりに

 

「鬼ごっこしましょう!私が鬼です!皆さん早く逃げてください!

10~~9~~」

 

と提案し、カウンドダウンを始める。

五月は「わわわっ」と焦りながら条件反射のようにその場を離れる。

 

三玖も

 

「フ、フータロー...私と一緒に...」

 

と言い剣崎が振り向きかけその顔が見えたところで、

 

「ッ!!」

 

の再び電流が走るような感覚に襲われる。

 

「??どうした、三玖」

 

と不思議そうな顔をする剣崎に三玖は「何でもない」といいながら1人で滑っていってしまった。

 

仕方なく剣崎も滑り出す。

 

 

 

そして少し滑ったところで、ふと昨日のレンゲルのことを思い出す。

なぜか昨日会ったレンゲルは今までと違い一言も言葉を発しなかった。

それに、急に自身の頭を抑え苦しそうにした後、煙幕を貼って逃げてしまった。

 

それだけではない。レンゲルは何故か1度も剣崎を攻撃しなかったのだ。攻撃の手はすべてアンデットに向けるばかりではなく、アンデットに不意打ちをくらいそうになった剣崎を助けたのだった。

 

前にもレンゲルが剣崎を攻撃せずアンデットのみを倒したことがあったが、あの時とはどうも何かが違う気がした。

 

 

 

「何がどうなってるんだ...」

 

 

そう呟いた剣崎が前を向いたその時、

 

彼はコース外の積雪に突っ込んでいた。

 

周りに集まった生徒達がザワザワとしてくる。頭から突っ込んだらしくまだ誰が突っ込んだかは知られていない。

 

剣崎はすぐに立ち上がりフードを被るとその場を立ち去ろうとする。

 

だがその時後ろから

 

「あれ...この絆創膏...

 

カズマ君?」

 

 

と二乃に声をかけられた。

 

「えっ...ひ、人違いです!」

 

と剣崎はスキー板を取ると、その場から走り出す。

 

「ま、待って!逃げないで!」

 

と二乃に追いかけられる剣崎。

近くにあったレンガ造りの休憩所を曲がろうとした時、その前には四葉がいた。

 

「おっと、上杉さん見っーけ」

 

と四葉は剣崎に詰め寄ろうとする。

 

『や、やばい...四葉に捕まれば二乃にもバレる...かといって引き返せば...』

 

頭がクラクラとする剣崎。その時何者かが剣崎の手を引っ張った。

 

 

「カズマ君!」

「上杉さん!」

 

二乃と四葉は鉢合った。

 

「あれ?四葉じゃない?

そっちに金髪の男の子行ってない?」

 

「二乃こそ上杉さんを見てない?」

 

と二人は話しながらその場を立ち去って行った。

 

 

 

そこで剣崎は自分が雪で出来た空間-かまくらにいることに気づく。そして横にいる人物を見て思わず声を出した。

 

「三玖...」

 

「フータロー...」

 

と二人は見つめ合う。

 

「助かったよ...三玖、ありがとう」

 

「ううん、フータローこそどうしたの?」

 

と三玖は剣崎に何があったかを問おうとする。

 

「ちょっと色々あって二乃に追いかけられちゃってな...」

 

と言い頭を搔く剣崎。

 

「そう...二乃も...」

 

と三玖の顔は何故か暗くなる。

だがそんなことに剣崎は

 

「それじゃあ、俺一旦戻るから...」

 

 

と立ち上がろうとする。だがそんな剣崎を三玖は

 

「行かないで...!!

お願い、フータロー...

お願いだから...私のそばにいて!!」

 

といつもの三玖は思えないほどの強い口調で引き止める。

 

「み、三玖?」

 

とさすがの剣崎も三玖の様子が少しおかしいことに気づく。

 

「行かないで、フータロー...

このままだと私、おかしくなりそう...」

 

三玖は恐れている。あの『蜘蛛』の声がまた自分の頭の中に聞こえてくることを。

目の前の青年を自分だけのものにしたくなる衝動が段々と抑えがたくなってきていることを。

三玖の中に生まれてしまった小さな『独占欲』はもうその形を留めないほどに肥大化してしまっている。

 

「わ、わかった。わかったから、一旦手を離しくれ、な?」

 

と三玖を宥める剣崎。すると三玖はゆっくりと手を離す。剣崎はもう一度腰を下ろす。

 

「どうしたんだ、三玖。なんかいつものお前らしくないぞ」

 

「......わ、私...実は」

 

三玖は剣崎に全てを話そうとする。自分の中にもう一人の自分の声が聞こえてくること、自分が『仮面ライダーレンゲル』に変身してしまったことを。

 

だがその時、三玖が一番聞きたくなかったあの声が三玖の中に聞こえてくる。

 

 

───────────────────────

 

『余計なことしないでよ』

 

....!!!

 

と三玖はハッとする。目の前にはもう二度と見たくなかった紫色の瞳を持った『自分』がいる。

 

 

『よく考えなよ。もしあなたが時分が『仮面ライダー』だなんて伝えたらどうなると思う?きっとフータローは私のこと、嫌いになるよ」

 

え...い、嫌!フータローには嫌われたくない!!

 

 

『でしょ?なら今はその事はフータローに話さないで』

 

やめてよ...

 

 

『?』

 

やめてよ...!もう私に喋りかけないでよ!!

頭がおかしくなりそうなの...あなたの『声』を聞いたあの時から...

 

 

『うるさいなぁ。でも少なくとも今『仮面ライダー』のことを話せばきっとフータローは私のことを嫌いになっちゃうから、それだけは気をつけてね』

 

ま、待って...まだ話は...!

 

───────────────────────

 

「...?...!...く!

 

三玖!!」

 

「......あっ、え...わ、私...」

 

と三玖は目を白黒させる。そこには紫色の瞳を持った自分はおらず、愛おしきひと-『上杉風太郎』がそこにはいる。

 

「大丈夫か?三玖、お前も熱でもあるんじゃないか?」

 

「そ、そんなことないよ!ちょっと四葉に追いかけられて疲れたから、ボーっとしちゃっただけ」

 

と適当なことを言って誤魔化す三玖。

 

「そうか、ならよかった。にしても四葉のやつ、早いなぁ。本当...あの身体能力が少しでも勉強に向いてればもっと成績も上がるんだろうけどなぁ」

 

と話を切り出す剣崎。三玖はホッとし

 

「そ、そうだよね。私もここがなかったら捕まってた」

 

と話題に乗る。

 

「三玖だと四葉から逃げるのはちょっと難しいかもな」

 

と少し悪戯っぽく笑う剣崎を見て、「フータローの意地悪」とぷくっと頬をふくらませる三玖。そして少し考えたような顔をした後

 

「そうだ、四葉にハンデを貰えばいいんだ。なにか荷物でも持ってもらって、足の速さを平等に...」

 

「それはちょっと違くないか?」

 

と剣崎は三玖の言葉に挟むように口を開く。

 

「お前達五人はは元々頭脳も身体能力もほぼ同じだったんだろ?五つ子だし。

ってことは四葉はきっとあの身体能力は後から努力して身につけたものだ。

だから、その努力を否定するような事をするのは良くない」

 

とハッキリ口にする。

 

「あ......」

 

と三玖は声を漏らす。剣崎に言われて四葉の身体能力の高さの所以に気づいたということもあるが、本当のところは剣崎に否定されたことへのショックからだった。

 

「そんな悲しい顔するなよ。なんなら三玖は三玖なりの努力をすればいい。三玖が本当に自分がやりたいことを見つけて、それを努力するって気になったなら、俺は三玖の努力を応援する」

 

「フータローが?」

 

「あぁ。俺が三玖が満足するまで付き合うから、安心しろ。俺が付いてるさ」

 

とサムズアップし三玖に微笑みかける剣崎。

 

その笑顔を見た三玖。その瞬間三玖の身体はほぼ無意識に剣崎に抱きついた。

 

「お、おい!三玖!?」

 

と驚きの声を上げる剣崎。

 

「......とう」

 

「え?」

 

 

 

 

「ありがとう...こんな私なんかのそばにいてくれるって言ってくれて...本当にありがとう、フータロー。

 

私、努力するから。自分のやりたいことを見つけるから。

 

だからその時まで私のそばからいなくらないで、フータロー」

 

と三玖は涙を流しながら剣崎に抱きつき続ける。

 

「三玖...」

 

というと剣崎は三玖の頭に手を載せ、その頭を優しく撫でる。

 

 

三玖は願わくば、この時間がいつまでも続いてほしいと思った。彼の温もりはスキーウェア越しでも痛いほどよく伝わる。

この時間だけ剣崎の優しさが自分だけに注がれている、そんな感覚が彼女の体を包み込む。

 

 

『やっぱり私、フータローのこと大好きなんだ。ほかの全てをなげうってでも、彼だけは私のそばにいて欲しい』

 

───────────────────────

 

『「ほかの全てを失ったとしても、

 

 

 

 

 

例えそれが時を同じくして生まれた『姉妹』だとしても、私は......

 

 

 

 

フータローだけは私のものでいて欲しい」』

 

 

 

 

初めて二人の三玖の声が重なった。

 

 

───────────────────────

 

「お、おい三玖?その、ちょっと離れてくれないか?そのー...なんというか当たってるというか...」

 

と歯切れの悪そうに切り出す剣崎。事実、今剣崎には三玖の豊満に育った胸がスキーウェア越しでもその感触が伝わるくらいしっかりと押し当てられていた。

そう言われた三玖はすっとその身を離す。

 

「うん、わかった。

もう大丈夫。ありがとう、フータロー」

 

とニコリと笑う三玖。

 

「よし。それならここを出るとするか」

 

と剣崎はかまくらを出て、それに三玖も続く。

 

「じゃあ先言ってるからなー」と言い残し下の方へ滑っていく剣崎を手を振りながら見送る。

 

そして三玖はひとりでに呟く。

 

「私のやりたいこと...見つかったよ、フータロー。それは、あなたを私だけのものにすること。

 

 

 

そのためなら私は、『みんな』との絆を捨てることになっても構わない」

 

 

そう言った三玖の双眸は、禍々しい紫色に塗り替えられていた。

 

 

「ごめんね、一花。今日のキャンプファイヤー、フータローとは踊らせない」

 

 

小さな笑みを浮かべた三玖は、それだけ呟くと自身も滑り出した。

 

 

───────────────────────

 

『何を...するつもりなの』

 

それは『私』も分かってるでしょ

 

 

『.........』

 

止めないの?

 

 

『今の私は、自分が何をするべきか...分からない』

 

そう...なら私の勝手にするね。

 

 

───────────────────────

 

 

時間は経ち、辺りもすっかり暗くなったころ、生徒達はキャンプファイヤーの準備をしている。

当然剣崎もそれに参加し、丸太を割ったりするのを手伝っていた。

 

 

一花はその様子をベンチに座りながら眺めていた。彼女は風邪をひいていたが、一日寝ていたからかかなり体調は良くなっていた。

 

そして一段落着いたところで剣崎は一花の座るベンチの隣に地震も腰を下ろす。

 

「おつかれ、フータロー君」

 

「あぁ、ありがとう。一花は体調の方は?」

 

「平気。あー、早く始まらないかなぁ」

 

と一花は年甲斐もなく足をブラブラさせる。

 

だが一花は未だに気がかりなことがあった。

それは三玖のことである。三玖の『上杉風太郎』に対する恋心に気づきながら自分はそれを独り占めしようとしている。

もし今までの一花ならきっと三玖に譲っていたであろうが、現在の一花にそんな気は全くなかった。

それだけ彼女の心は剣崎に対する恋心で満ち溢れていた。

 

「開始まであと30分か」

 

と携帯の画面を見て時間を確認した剣崎。

 

そんなところに二乃が現れた。

 

「アンタ、ちょっと来なさい」

 

と言い二乃は剣崎の手を引っ張る。

 

「え、お、おい。ちょっと待てって」

 

「二乃、離しなよ。フータロー君、困ってるじゃん」

 

と一花は少し重みのある声でそう促す。

 

「別にそんなに時間がかかることじゃないわ。ちゃんとキャンプファイヤーが始まるまでには返してあげるから。約束するわ」

 

「......分かった。ならちゃんと戻って来てね、フータロー君。約束だよ?」

 

「あぁ、約束だ。なら二乃、ちゃっちゃっと済ませてくれよ」

 

というと二乃は剣崎をコテージの横に連れて行く。そこには誰もいない。

 

「で、何の用だ?」

 

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、その、アンタ...も、もしかしてなんだけど、『仮面ライダー』の正体、知ってたりしないわよね?」

 

「知らない知らないそんなことこれっぽちも知らないぞ」

 

とすぐさま首を横に振る剣崎。二乃は完全に『仮面ライダー』の正体を『カズマ』という金髪の青年だと信じ込んでいる。そんな彼女にまさか『仮面ライダー』の正体は自分ですなどとは口が裂けても言えない。

それを聞いた二乃は

 

「そ、そりゃそうよね。

あと!も、もう一つ聞きたいことがあるんだけど!」

 

「?」

 

「あの写真の男の子の連絡先とか知らない!?知ってるなら教えて欲しいんだけど...」

 

「ご、ごめん。連絡先までは分からないな」

 

「写真を持ち歩くぐらい仲良いのに?」

 

「結構昔に引っ越しちゃったんだよ」

 

とかなりバレバレな嘘をつく剣崎。

まぁ彼の人柄的に、嘘をついたりすることはとくいではないのでしかたがないことではあるのだが。

 

「...そう。ならいいわ。

もう行っていいわよ」

 

「悪い...力になれなくて」

 

 

「別にアンタが気にすることじゃないわよ

それに彼の心くらい、私一人で射止めてやるわ...」

 

「え?なんか言ったか?」

 

「な、なんでもないわよ!それじゃ!」

 

と二乃は走っていってしまったので剣崎はとりあえず一花のところに戻ることにした。

 

だがその時剣崎の携帯が震える。

それを見ると、そこにはアンデットサーチャーが映っており、アンデットの場所が表示されている。

 

「アンデット...ってカテゴリーJ!?」

 

カテゴリーJとはいわゆる上級アンデットに属するアンデットであり高い知能と戦闘力を持っている。

 

「行くしかない!すまない、一花...」

 

と剣崎は後ろ髪を引かれる思いをしながら一花に心の中で謝罪をすると、サーチャーの示す場所に向かって走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして10分ほど走ったところでサーチャーの示す場所にたどり着く。剣崎は既にブレイドに変身している。

 

「どこだ、どこにいる!」

 

と辺りを見回すブレイド。

 

だがそこに♠︎J イーグルアンデッドがその鋭い鉤爪で強襲をかける。

 

「ウェア!!」

 

と吹き飛ばされるブレイド。だがそこで妙な違和感を覚える。

 

いま空を旋回しているイーグルアンデッドは上級アンデットである。

前にブレイドがこのアンデットと交戦した時は理知的な印象を受ける『高原』という人間としての姿も持っており、その見た目通りの性格だった。

 

だが今空を飛ぶイーグルアンデッドからは理性というものを感じられない。まさに戦うことのみを目的としているかのように。

 

「どういうことだ...あいつは上級アンデットじゃなかったのか?」

 

と考える剣崎に隙を与えんとばかりに再び急降下して鋭い鉤爪で攻撃を仕掛けるアンデット。

ブレイドはそれを右手に持った剣でガードする。

ガギンと鈍い音共に火花が散る。

 

アンデットはヒット&アウェー戦法をとり攻撃を与えては上空へと逃げるという行動を繰り返している。

前にブレイドが戦った時は、彼の親友-相川始がから飛行を可能にするラウズカード-『FLOAT』の力を使って自身も飛ぶことにより応戦することが出来たが、今のブレイドに飛行を可能にする力はない。

 

なら以前ローカストアンデッドを倒した時のようにカウンターを狙おうとしたブレイドだったが、そんなブレイドの考えを裏切るようにイーグルアンデッドの翼の羽が手裏剣のようにブレイドへと降り注いだ。

 

「何!?」

 

と驚きつつも回避するブレイド。

とどのつまりイーグルアンデッドは接近せずとも羽手裏剣で遠くから攻撃するだけでブレイドを倒すことが出来るのである。

 

 

 

「何か、なにか方法はないのか!」

 

とカードホルダーを展開するブレイド。そこで彼はあるカードに目をつけ、それを取り出す。

尚も羽手裏剣をブレイドに飛ばし続けるアンデット。

ブレイドはそれを躱して全てやり過ごし、そこでカードをラウズした。

 

 

MAGNET

 

 

その瞬間、アンデットの体がブレイドへと引き寄せられる。ブレイドはマグネットのカードにより磁界を操ったのだった。

 

アンデットは引き寄せられまいと翼をはためかせるがその体はどんどんブレイドに近づいていく。

そこでブレイドはさらに二枚のカードをラウズする。

 

 

THUNDER

BIO

 

 

電子音とともにブレイラウザーの切っ先から蔦がアンデットへと伸びる。

その蔦はアンデットを捕らえたその時、蔦に電流が流れ出す。

 

感電したアンデットはそのダメージにより無抵抗になる。そしてブレイドは一気にアンデットに近づくと、『BEAT』のカードをラウズし、青白く光る右拳をその腹に叩き込んだ。

 

 

「グゴァァ!!!」

 

 

と嗚咽を上げ、吹き飛ばされたアンデット。

 

ブレイドはそのアンデットにカードを投げ封印する。

 

カードには『FUSION』と刻まれる。

そしてブレイドは変身を解除した。

 

「ハァ...ハァ...」

 

と息も絶え絶えになる剣崎。携帯を見るとキャンプファイヤーまであと3分しかない。

 

今から走っても少し遅れてしまうが、一花が自分を待っている。

剣崎は疲れた身体に鞭打つと走り出す。

 

 

だがその時、

 

 

コテージに戻ろうとする剣崎の目の前に、

 

 

 

 

『仮面ライダーレンゲル』が立ち塞がった。

 

 

「レ、レンゲル...」

 

と剣崎は後退りをする。

するとレンゲルはおもむろにカードを一枚放り投げると、『REMORT』のカードをラウズする。レンゲルラウザーの穂先から紫色の光が放り投げられたカードに照射される。

 

そしてカードから♡3 ハンマーヘッドアンデットが解放され、剣崎へと襲いかかる。

 

剣崎はアンデットの突進を交わす。そしめブレイバックルにカテゴリーAを装填し、バックルを腰に装着すると、レバーを引っ張り叫ぶ。

 

 

「変身!!」

 

 

剣崎は本日2回目のブレイドへの変身を行った。

 

ブレイラウザーでハンマーヘッドアンデットに剣戟を浴びせるブレイド。

アンデットはその一撃をくらい怯む。

そこに追撃を浴びせようとするブレイド

 

 

 

だがそのブレイドの剣崎をレンゲルはレンゲルラウザーによって防ぐ。

 

レンゲルは自分からは攻撃せず、ブレイドの攻撃を受け流したりガードするだけ。

 

だがそれだけでブレイドの体力は削られていく。

 

「く、くそっ...このままだと時間が...」

 

何としてもキャンプファイヤーが終わるまでには一花のところに戻らなくては。

 

ブレイドは迫るアンデットに体当たりを食らわせると、そのまま突き飛ばす。

 

そして三枚のカードをラウズする。

 

KICK

THUNDER

MACH

《ライトニングソニック》

 

 

「ウェェイ!」

 

と電を纏った右足をアンデットに叩きつけるブレイド。

 

その一撃を受けたアンデットは爆発すると地面に倒れ込む。そこにブレイドは封印のカードを投げる。カードには『CHOP』と刻まれる。

 

だが後ろにいたレンゲルはブレイドを羽交い締めにする。

 

 

「離せ!お前の...お前の目的は何なんだ!」

 

と怒るもレンゲルは答えない。ブレイドは渾身の力で無理やり羽交い締めを脱出すると、剣戟を浴びせようとする。

 

だがレンゲルはそれを躱すとカードをラウズする。

 

GEL

 

電子音が流れたあと、レンゲルの身体は液状化する。ブレイドの剣戟は液状化したレンゲルに当たるがすぐにその体はくっ付いて再生してしまう。

 

 

『何なんだ...さっきからまるで時間稼ぎが目的かのように、一切攻撃はしてこない』

 

 

不審に思うも、レンゲルは一切ここを通す気は無いらしい。液状化した身体でブレイドにまとわりつき、彼の行動を妨害する。

 

 

「こんのぉ...離れろ!」

 

ともがくブレイド。だがレンゲルはひたすらにブレイドを足止めする。

 

 

GELの持続時間が終わりを告げ、レンゲルの身体が液状化を解かれた。

 

ブレイドは膝を着いたがブレイサウザーを杖のようにしてなんとか立ち上がる。

 

「何故俺を倒さない!?今の俺を倒すなんてお前にはわけないはずだ!」

 

と叫ぶも依然レンゲルは声を挙げない。

 

そしてレンゲルはブレイドをじっと見つめると、そのまま『SMOG』のカードをラウズしその場を去った。

 

ブレイドは追おうとするも足が動かない。

仕方なく変身を解除し、コテージに戻ることにした。

 

 

 

フラフラと覚束無い足取りでなんとかコテージにたどり着いた剣崎。

だがキャンプファイヤーの炎は既に消えており、嫌でもキャンプファイヤーが終わったことを剣崎に伝えた。

 

剣崎は倒れそうになる体を必死に2本の足で支えながらコテージの中に戻る。

 

そこには四葉がいた。

 

「う、上杉さん!!何してるんですか!」

 

と四葉は怒った顔をしながら剣崎に詰め寄る。四葉に詰め寄られた剣崎は思わず倒れ込みそうになる。

 

「あっ...ご、ごめんなさい、上杉さん...

でっ、でもとりあえずついてきてください!」

 

と四葉は剣崎の肩を支えながらある場所を目指す。

 

その場所とは二乃が泊まっている部屋の前だった。

 

そこでドアを開けると

 

 

「二乃!!!

本当のことを言ってよ!!!」

 

 

「だから!

知らないって言ってるでしょ!!!」

 

 

「ふ、二人とも...お願いだから落ち着いて...」

 

 

と物凄い剣幕で怒鳴り散らす一花と二乃とそれを仲裁しようもする五月の姿があった。

 

そして開かれたドアの外にいた人物を見て、部屋にいた面々は驚愕する。

 

「フ、フータロー君!どこ行ってたの!?」

 

と剣崎に駆け寄る一花。

 

「ご、ごめん、一花。実は...」

 

と剣崎は一花の耳元で小声でアンデットが現れそれを倒しに行っていたことを伝える。

 

「そ、そんな...」

 

「アンタどこ行ってたのよ!!

アンタがいなくなったせいで一花に質問攻めにされて大変だったんだから!!」

「だ、だって...あそこでフータロー君を連れ出したのは二乃なんだし、誰だって二乃が怪しいと思うじゃん!」

 

と二人ともかなりご立腹の様子だ。

 

「み、みんなごめん...俺のせいで、迷惑かけて...」

 

と落ち込む剣崎。

 

 

 

 

「みんなどうしたの、暗い顔して」

 

 

 

そんな声とともに、何故か満足げに微笑みながら三玖が現れた。

 

「そ、それが実は...」

 

と四葉が全ての事情を三玖に話す。

 

「そうだったんだ。でもフータローにはやらなきゃいけない事があったんでしょ?

なら仕方ないよ」

 

と三玖は剣崎を擁護する。

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ。私たちはこいつのせいで...」

 

「二乃もフータローを許してあげて。

フータローにも色々と事情があったんだよね?」

 

と剣崎に優しげな目で語りかける三玖。

 

「まぁ、そうだけど...でも俺...」

 

「ならもうこれで終わりにしよう。

一花も今回は残念だったけど、きっとまた次の機会に何かしらいいことあるって」

 

とあくまで優しく諭す三玖。

 

 

その後剣崎、一花、三玖、四葉、五月は浮かない顔をしたまま部屋へと戻っていく。

 

 

部屋に戻った三玖はベッドにごろりと横になり目を閉じる。

 

 

───────────────────────

 

『ねぇ...』

 

何?

 

 

『これも、私が望んだことなの?』

 

そうだよ?私がやっていることは全てあなたがほんの少しでも心の底で望んだことだけ。

本当に私はあくまであなたの思いを行動に反映しているだけ。

 

 

その証拠に『私』...

 

 

今すごいホッとしてるでしょ。

フータローが一花と踊らなくてよかったって。

 

 

『......私がそんなことを...』

 

大丈夫、安心して。これからもあなたが少しでも思ったことは私が全部やってあげる。

 

だって私は『私』だもん。『私』の悪い所は、私自身が一番よくわかっているから。

 

───────────────────────

 

「私の...本当の...心は...」

 

とそう呟くと三玖は静かに眠りについた。

 

 

 

 

そしてあっという間に最終日となった。

 

 

結局、今回の林間学校は剣崎や五つ子たちの仲に溝を作ったまま終わってしまった。

 

 

 

そして剣崎も三玖も他の姉妹たちも、まだ知らない。

 

 

自分たちが抗うことの出来ない大きすぎる『運命』の荒波に飲まれてしまったことを...

 

 

 

 

〜東町〜

 

 

「ッ...今度は一体...どこの世界に来たんだ?」

 

男は辺り一面を見渡す。

 

そこはまさに平穏そのものである。

 

 

「まぁいい。俺ならどこだろうと関係ない。

 

 

とにかくこの世界も、撮ってみるか...」

 

と男-『門矢士』は首から下げたのカメラを覗き込んだ。




♠︎J イーグルアンデッド(今回はレンゲルのREMORTで解放されての登場)
動体視力が物凄く高く、高速で空中を飛翔し、両腕の鋭い鉤爪で敵を切り裂く。離れた敵にも羽手裏剣を無数に生成して攻撃可能。高原の姿でも飛行能力と羽手裏剣を使える。

♡3 ハンマーヘッドアンデット(劇中未登場のため説明少なめ)
敵を頭に付いたトマホークで手刀の如く切り裂く


そして今回の話の一番最後に明らかにやばそうな世界の破壊者がいましたが、正直言うとあまりこいつは話の本筋には絡みません。

こいつが出るストーリーはあくまでサイドストーリー扱いで暇な時に書けたらなぁと思っています。


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番外編:通りすがりの『世界の破壊者』

再販のディケイドライバー買ってしまいました。
ガチャガチャ弄るのめっちゃ楽しいけどできればディケイド以外のライダーのファイナルアタックライドも欲しかった...


「というかそもそもこの街に怪物が出ているとは思い難いな」

 

と言いながら士は東町をぶらついている。

すると

 

「ケーキ屋か...雰囲気も悪くない、入ってみるか」

 

と士はケーキ屋に入店する。

 

「いらっしゃいませー」

 

と女性店員に案内され席に着く士。

 

「ご注文は何に致しますか?」

 

「フルーツタルトとチョコケーキ、あとコーヒー」

 

「畏まりました〜」

 

と店員は注文を承ると、店の奥へと入っていく。

 

士は店の窓から外を見る。道行く人々の顔はまさに日常を謳歌しているというもので、特にこの世界に何か危機があるようには見えない。

 

たまたま時空を超えて来てみたはいいものの特に何も無い平凡な世界。まぁたまにはこんな世界でゆっくりと羽を休めるのもいいだろうと考えていると

 

「お待たせしました〜」

 

と注文した品々が士の座るテーブルの上に並べられる。

 

士はケーキに向き直ると、手に持ったフォークでチョコケーキを一口サイズに切り、口に運ぶ。

チョコの甘さが口に広がり、そこで苦いコーヒーを飲む。じんわりとした苦味がこれまた絶妙なハーモニーを醸し出す。

フルーツタルトも果実がたっぷりと入っており、中々の美味しさである。

 

あっという間に食べ終わると代金を支払い店をあとにする。

 

「さて、これからどうしたものか...」

 

と士は考える。この世界は平和だが、普通すぎる。特に変わったものもない世界だ。

 

 

 

てくてくと街を歩くもののめぼしいものは何も無く、町外れの公園を訪れる。

 

遊具もそこそこにありそれなりに広い公園だった。

 

そしてその公園から見下ろす街の風景はとても綺麗なものだった。

 

「よし」

 

というと首から下げたカメラを覗き込み、シャッターを切る。

 

そして士はその公園を後にし、再び街に戻った士。さて次の世界に行くまでどう時間を潰そうかなどと考えていたその時、

 

 

 

一人のスーツの男とすれ違った。

 

 

 

士は途端に振り返る。だがそこにスーツの男はいない。今士は恐ろしい程の寒気を覚えた。平凡な街の風景には似つかわしくないとてもドス黒い『何か』。

それを彼は即座に感じとっていた。

 

「何者だ、あいつ...」

 

と彼は再び歩き始める。

 

 

 

1時間ほど街を散策したところで、広場のベンチに腰かける。

 

あの時すれ違った男-そこから感じた寒気の正体を士は考える。

少なくとも普通の人間ではない。

 

まるで今生きることそのものを億劫に感じているかのような、まさに死んだ目をしている。

 

なのにその瞳の奥からは何かがゆらゆらと、それでいて激しく燃えているような気がした。

 

士は軽くため息をつく。そして立ち上がり、また世界を移動するまでに何かしらのやることでも見つけようとしたその時、

 

 

「キャーーー!!!」

 

 

という女性の叫び声が聞こえた。

 

士がその叫び声の元に向かうと、そこには血を流して倒れる女性と、その女性を攻撃したであろう怪物-♡8 ゼブラアンデッドが立っていたのであった。

 

「...!!!

こいつは...アンデットか?」

 

士は瞬時にその怪物の正体を見抜く。

 

『またブレイドの世界に来たのか?俺は』

 

などと考える士であったが、ただボーっと突っ立っている訳にはいかない。

今この場でこの怪物を倒す力を持つのは自分だけしかいないのだから。

 

「仕方ない、俺が相手をしてやるか...」

 

と士が手帳型の武器-ライドブッカーから

 

 

 

『 KAMENRIDE DECADE』

 

 

 

と仮面ライダーの絵が描かれたカードを取り出そうとしたその時、

 

士とアンデットの間に割り込むようにバイクが急ブレーキで停車してきたのである。

運転手はバイクを降りるとヘルメットを取る。そこには金髪のチャラチャラとした見た目の男が現れた。

 

「おい!ボウズ、さっさと逃げな!」

 

と男が士に逃げるように促す。

 

「この男...まさか」

 

と士はある予想をたてる。

 

「何突っ立ってんだ!早く行け!!」

 

 

 

そして士は目にする。目の前の金髪の男が手に見た事のあるカードとバックルを持っていることに。

 

「やはりこいつ...」

 

 

男は慣れた手つきでバックルにカードを装填すると腰に装着し、叫ぶ。

 

 

「変身!!」

 

 

 

男-上杉勇也はオリハルコンエレメントをくぐると、『仮面ライダーギャレン』に変身した。

 

「ウォォォォ!!」

 

とギャレンは格闘攻撃を仕掛ける。アンデットはそれを躱し、得意の脚力でギャレンを翻弄する。

 

「この男、やはり仮面ライダーだったか。しかもこいつは仮面ライダーギャレン...

あいつも...BOARDとやらの派遣社員か」

 

士が訪れた仮面ライダーブレイドの世界は民間会社が仮面ライダーをアンデットの討伐に派遣しているという世界だった。

 

もし仮にここがブレイドの世界ならばあの金髪の男も派遣されてここに来たのだろう。

 

「確かカズマはあの後BOARDの社長になっていたな」

 

そしてその世界で『仮面ライダーブレイド』に変身していたのは、今この世界で『上杉風太郎』として生きている剣崎一真ではなく、『剣立カズマ』という青年であった。

 

剣立カズマは士のかけがえのない絆で結ばれている仲間である。もしかするとこの世界でも会えるかもしれない。

 

 

そう考えながら立っていると

 

 

「グハッ!」

 

 

という声ともにギャレンがこちらに吹き飛ばされてきた。士はスっとそれを避ける。

 

「お前、まだ逃げてなかったのか!」

 

「おいオッサン、誰に命令されてこいつと戦ってる?」

 

「誰に命令って...俺は自分の意思でここまで来たんだよ」

 

「何?」

 

と士は怪訝そうな顔をする。

 

その時ゼブラアンデッドは手に持った蹄型のブーメランをギャレンと士に投げつけてくる。

 

「危ねぇ!!」

 

と2人はそれを飛び退いて回避する。

 

「オッサン、大丈夫か?」

 

「オッサン言うんじゃねぇ!いいからお前は逃げろ!!」

 

「アンタ、なんで戦ってる?」

 

「んなもん決まってんだろ。戦う力のない人を守るためだ、俺にはその力がある...

もう二度とあと時のようには...

 

うおっとぉ!」

 

と二人はブーメランを避けながら戦い続ける。するとアンデットは業を煮やしたのか、能力の一つである分身を生み出してきた。

 

 

 

「そうか...戦う力のない人々を守るためだというのなら、俺も戦う必要があるみたいだな...手を貸すぞ、オッサン」

 

「お前が戦うって...お前、一体何者だ...?」

 

 

ライドブッカーからディケイドのカードを取り出す。

 

そしてカードを持ち、ディケイドライバーに挿入する。

 

 

 

「通りすがりの仮面ライダーだ...

覚えておけ!

 

『変身』!!!」

 

 

KAMEN RIDE ディケイド!!

 

 

「な、何!」

 

と勇也は驚きの声を上げる。無理もない、勇也が認識していた仮面ライダーはブレイド、ギャレン、レンゲルの三体のみである。

 

なのに目の前の不遜な態度の青年は自分が見た事もない仮面ライダーに変身したのであった。

 

「おいボウ「オッサン、お前は左をやれ、俺は右をやる。どちらかが分身だというならどちらとも倒してしまえばいい」

 

とディケイドはギャレンの声を遮ると、ライドブッカーをソードモードにして右にいるゼブラアンデッドに斬撃を仕掛ける。

 

「ったく、しゃあねぇなぁ!」

 

とギャレンもギャレンラウザーの銃撃をアンデットに浴びせる。

 

ディケイドとギャレンの猛攻にたじろぐアンデット。

 

そしてギャレンは二枚のカードをラウズする。

 

BULLET

FIRE

 

電子音の後に引き金を引くと、ギャレンラウザーから炎を纏った弾丸が放たれ、アンデットに命中する。だがアンデットは倒れることなく消えてしまう。どうやらこちらが分身だったようだ。

 

「おいボウズ!そっちが本物だ!」

 

「言われずとも分かっている!」

 

とアンデットを斬り付けるディケイド。

 

だがアンデットはあきらめず分身を6体も作り出し、ディケイドを一斉に攻撃する。

 

その連撃をひらりひらりと避け、ディケイドはドライバーにカードを入れる。

 

 

 

ATTACK RIDE ILLUSION!!

 

 

 

ドライバーから音が鳴るとディケイドも五体の分身を作り出し、ゼブラアンデッドを本体含め蹴散らしていく。

 

その圧倒的な戦闘力を前に、ギャレンはただ立ち尽くすのみだった。

 

「まだこんなライダーがいたのかよ...

これもマルオが作ったのか...?」

 

 

考えるギャレンを他所にディケイドはひたすらにアンデットを追い詰める。

 

 

「アンデットなら、この力で倒してやるか」

 

 

 

KAMEN RIDE BLADE!!

 

 

 

その瞬間ディケイドの姿は勇也が知るライダーの一人、『仮面ライダーブレイド』へと変わった。

 

「おいおいまじかよ...」

 

と最早驚くことにすら疲れたようにため息混じりに漏らすギャレン。

それも仕方の無いことである。

いきなり変身したかと思えば、恐ろしいほどの実力でアンデットを追い詰め、さらには自分の息子が変身するライダーの姿になった。

 

ディケイドブレイドは他の分身と共にアンデットを連続で斬り付け続ける。

分身を全て消されたアンデットは為す術もなく膝をつく

そしてディケイドブレイドはトドメをさすためにカードをディケイドライバーに入れる。

 

 

 

FINAL ATTACK RIDE ブブブブレイド!!!

 

 

 

「ハァっ!!!」

 

 

ディケイドブレイドはアンデットにライトニングブラストを放つ。まともに食らったアンデットは吹き飛ばされ、腰のアンデットバックルが割れた。

 

「オッサン、こいつを封印しろ」

 

「え、あ、あぁ」

 

とギャレンは封印のカードを投げる。

カードには『GEMINI』と刻まれ、ギャレンの手に戻る。

 

「お前、何者なんだ?」

 

とギャレンはディケイドに問いかける。

 

「俺は仮面ライダーディケイド。世界の破壊者だ。俺からもいくつか質問がある。

お前はBOARDから派遣されたライダーじゃないのか?」

 

「ぼ、ぼあ...なんだって?」

 

「...まぁいい。二つ目だ。オッサン、この世界にアンタ以外のライダーはいるのか?」

 

「...何故そんなことを聞く?」

 

「ただの興味本位だ。助けてやったんだし、それくらい教えてくれてもいいだろう」

 

ギャレンは目の前のライダーを怪しむが、どうもこのライダーに変身する青年が悪人のようには見えなかった。

ギャレンは諦めたように銃をホルスターに戻すと喋り始める。

 

「俺が知っているライダーは俺を含めて三人だ。この俺ギャレン、お前が姿を変えているブレイド、そしてレンゲルだ」

 

「そうか...大体分かった」

 

「わかったって何がだ?」

 

とギャレンは聞くがディケイドは変身を解除する。

 

「悪いが次の行き先が決まった、またな」

 

「お、おい!まてよ、まだ話は...」

 

とギャレンは士を止めようとするが、士は光のカーテンのようなものをくぐって消えてしまった。

 

結局1人この場に残ったギャレンは変身を解除する。

 

「ったく...一体何がしたかったんだ、あの通りすがりの仮面ライダーとかいうやつ」

 

勇也は諦めたように溜息をつくと、バイクに跨りその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

「俺が知らない、仮面ライダーブレイドの世界...か」

 

士は考えていた。今回彼が訪れた世界は、前に士が訪れた仮面ライダーブレイドの世界とは全く違うものだった。

 

だが士は知っている。仮面ライダーブレイドに変身できるのが、剣立カズマだけではないというとことを。

 

 

 

 

「剣崎...一真...」

 

 

 

 

とその名をつぶやく。士は一度、剣崎一真本人と出会い、対決し、完敗を喫していた。

 

 

 

「もしかしたら...あの世界は、剣崎一真が仮面ライダーブレイドに変身している世界か...?」

 

と半分あたりで半分外れの予想を立てる士。

 

だが彼は目を閉じ、考えるのをやめた。今は次の行き先のことを案じることにした。

 

そして

 

「あのケーキ...中々美味かったな。

次に機会があれば、もう一度この世界を訪れてみるのも、悪くは無いか...」

 

と言いフッと笑うと新しい世界へと続く光のカーテンをくぐるのであった。




♢9 ゼブラアンデッド
鋭敏な耳で獲物に居場所を特定して高速を誇る脚力で相手を追い込み、巨大な馬蹄型のブーメランのような飛び道具を用いて仕留める戦法を得意としている。

また、高速移動から生み出される分身能力に長けているが、分身体を生み出す際に緑色に発光するという特性を持っており、それさえ把握できれば容易に本体と分身体を見分ける事ができる欠点を持つ。



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第25話:砕け散る『硝子』

かなり久々の投稿になってしまい申し訳ありません。

割と話が動きます。

あといつの間にかお気に入り500件超えてました。本当にありがとうございます。これからも頑張ります。


「その人は無罪だよ。

私、見てたもん」

 

 

 

目の前に現れた白いワンピースを着ていた髪の長い少女は、驚くほど綺麗で、美しかった。

 

その瞬間少年は言葉を失う。

 

 

 

当然だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり少女の腹から歪な刃が生えてきたのだから。

 

 

 

 

少女の白いワンピースは、腹から吹き出した血によって真っ赤に染まる。

 

 

 

辺りは阿鼻叫喚に包まれる。街に現れた異形達は、刺す、叩く、引き裂くなどの行為によって次々と人を殺めていく。

 

 

男の声が聞こえる。

 

 

 

 

「おい!!しっかりしろ...目を開けてくれ、

 

〇〇!!!.........〇〇!!!」

 

 

「ありがとう...愛していたわ、〇〇〇...」

 

 

 

 

その男は細い目をいっぱいに開けて、目の前にいる女を抱き抱えていた。その女は先程腹を刺された少女とどことなく似た顔つきをしている。

 

 

男に抱きかかえられた女は糸が切れた人形のようにガクリと崩れ落ちる。

 

 

 

「ふざ...けるな......なぜだ...なぜだ!」

 

 

 

男は半狂乱になって叫ぶ。

 

 

 

 

「私が...私が...!!」

 

 

 

男は何かを決意したようなを目をすると、

 

 

 

 

 

 

 

その身体を街に蔓延る異形と同じような姿に変える。

 

 

 

 

「万能の力を...私の手に!」

 

 

 

 

異形は雄叫びを上げると、そのまま他の異形たちのもとに突っ込み、そして...

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

「.....うわぁ!!!」

 

と剣崎は飛び起きる。彼は過呼吸気味になった自分の呼吸を整える。

そして冷静になると

 

「何だったんだ...今の...」

 

と一人つぶやく。彼は夢の内容を思い出す。

 

「あれ...アンデット、だよな...」

 

夢の中で現れた異形-それは剣崎が倒すべき敵-アンデットだった。それらが街の人々を虐殺する光景を彼は夢で見ていた。

 

ただ夢で見た事だからか内容はぼんやりとしか思い出せない。

 

「いや、タチの悪い夢だ。そうに決まってる」

 

といい剣崎は立ち上がって時計を見て驚愕する。

時刻は9時10分。

 

「やっ、やばい!!」

 

というと剣崎は急いでバッグを背負うと走り始めた。

今日は五つ子たちの家庭教師が午前9時から入っており、すでに10分の遅刻だった。

 

剣崎はヘルメットを被るとブルースペイダーに飛び乗り、彼女らが住むマンションへと急いだ。

 

 

 

 

そしてマンションにつきオートロックを解除して部屋へと向かう。

 

「み、みんなすまん!寝坊した!!」

 

「そんなこと見なくてもわかるわよ!

まったく...寝癖くらい直してから来なさいよ!」

 

と部屋に入った瞬間二乃に怒られてしまった。まぁ今回に関しては10:0で剣崎が悪いので仕方がない。

 

「ご、ごめん。今から始めるから...

っとそうだ、一花。ちょっといいか?」

 

「え?私?」

 

と剣崎に呼ばれた一花は声を上げ、剣崎に手を引かれるままについて行く。

他の姉妹たちは怪訝そうな目でこちらを見ていたが、今の剣崎にはどうしても心にひっかかっていることがあった。

 

「まずは、その...キャンプファイヤーの件、ごめん」

 

と頭を下げる剣崎。

 

「そ、それはもういいよ。フータロー君は『仮面ライダー』なんだから仕方ないよ」

 

と頭を上げさせる。

 

「悪い...

話を変えるけど実は一つ聞きたいことがある」

 

「聞きたいこと?」

 

「ああ。最近...っていってもいつのことかよく分からないんだけど

 

 

 

この国のどこかで怪物が大量に発生して、人が大勢殺された...そんな事件、聞いたことあるか?」

 

剣崎はとても深刻そうな顔でそう告げる。

 

「え?そんな事件、今まで1度も聞いたことないけど...」

 

「そ、そうか。ならいいんだ」

 

 

 

『そうだ。あれはタチの悪い夢だ。そうに決まっている』

 

 

「よし、なら今日も授業開始だ。修学旅行でできなかった分を取り戻すぞ!」

 

と剣崎は意気揚々に語る。

 

 

 

そしてリビングからベランダで話す剣崎と一花の姿を、三玖はじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

もはやその奥が見えないくらい濁った紫色の瞳で。

 

 

 

勉強は概ねプラン通りに進んだ。林間学校が原因で一度は悪化しかけた剣崎と五つ子たちの関係も少しずつ修復しつつある。

 

 

そして今日予定していた課題は全て終了した。

 

一花は仕事に出かけ、三玖は少し出かけてくると言い家を出ていった。

今部屋には剣崎、二乃、四葉、五月の四人が残っている。

 

他愛もない会話を交わし、さぁ帰ろうという時だった。

剣崎の携帯がまるで平和な時間の終りを告げるかのように鳴り出した。

画面を見ればアンデットサーチャー。剣崎はすっと立ち上がり、「悪い!急用が入った」というと急いで部屋を出てバイクの停めてある駐車場へと向かった。

 

「匂うわ...」

 

「え?」

 

突然の二乃の発言に少し驚いたような声を上げる五月。

 

「に、匂うって何がですか?」

 

「う、ううん。なんでもないわ。なんでもない...」

 

と二乃らしくない態度に困惑する五月。

すると二乃は俯きがちになりながら自室へと戻って行った。

 

そこでボフッとベッドに寝転がると腕を頭に載せる。

二乃は感じてしまったのだ。剣崎と一花の関係の変化を。今までの教師と家庭教師では収まらないようなさらに濃い関係になってしまっているような気がした。

 

 

 

「私、疲れてるんだわ」

 

 

 

とボソッというと二乃はそのまま目を瞑る。

 

 

ありえない...私の想い人はカズマ君ただ1人なんだから!

 

 

と心の中で呟き、徐々に意識を手放していった。

 

 

 

一方その頃剣崎は駐車場のブルースペイダーのエンジンをかけて、再度サーチャーでアンデットの出現場所を確認していた。

 

そこで彼は一花と三玖にメールを送った。

今この街にまた怪物が現れているから用心してくれ、との内容だ。

 

そして剣崎はバイクに乗るとサーチャーの示す場所へと向かった。

 

 

 

街にあるビルの前にたどり着いた剣崎は辺りを見回す。近くにいた人間は全員避難していたようだった。そしてそこには♠︎10 スカラベアンデッドが現れていた。

スカラベアンデッドは一定範囲の時を止めるという恐ろしい能力を持ったアンデットである。事実、この能力の前に剣崎は追い詰められ、始の協力がなければ封印することは不可能だった。

 

そんな強敵が剣崎の前に現れていた。

剣崎を視界に捉えたアンデットは彼に襲いかかる。

 

剣崎はそれを躱すとバックルを腰に装着した。

 

 

「変身!!」

TURN UP

 

 

剣崎はオリハルコンエレメントをくぐり抜け仮面ライダーブレイドへと変身し、アンデットに急接近し格闘戦をしかける。

 

ブレイドの格闘に対応できず、サンドバックのように殴られたアンデットは体制を崩し倒れてしまう。

ブレイドは大きな違和感を感じていた。

 

『おかしい...なぜ時を止めてこない?』

 

アンデットは先程からブレイドに襲いかかるもののその固有能力である時止めをしてこない。

スカラベアンデッドは時を止める能力が強力であり、身体能力そのものは並以下である。

 

それではライダーとしての経験を積み身体能力も高い剣崎には到底適わない。

 

剣崎はブレイラウザーで連撃をかけ、アンデットをズタズタにする。だがいくら追い詰められようともアンデットは時を止めてはこなかった。

 

そしてブレイドはアンデットを蹴り飛ばすと、カードホルダーを展開し三枚のカードを取り出しラウズする。

 

 

KICK

THUNDER

MACH

《ライトニングソニック》

 

 

「ウェイ!!」

 

 

とブレイドは掛け声とともに、アンデットの腹部を蹴り抜く。アンデットは抵抗出来ずまともにくらい爆発した。

そしてブレイドはアンデットに封印のカードをなげ封印した。

カードにはTIMEと刻まれた。

 

特にダメージなどは負うことなく難なく終わった戦闘。

だが剣崎の中では拭いきれない違和感が残った。

 

そして剣崎は試しに今手に入れたTIMEのカードをラウズしてみることにした。

 

TIME

 

とそれに準ずる電子音は流れたもののなぜか時が止まっているような感覚はない。どうやらブレイラウザーの故障などではなさそうである。

 

「おっかしいなぁ...」

 

とブレイドは腕組みをする。

だが考えるブレイドの後ろから

 

 

「フータロー君!!」

 

と声がかけられた。

 

 

「い、一花!?どうしてここに...」

 

「いやそれがさ、近くにまた怪物が現れたって聞いたものだからもしかしたらフータロー君に会えるかなぁって思っちゃって」

 

と舌を出す一花。だがブレイドは変身を解除し、上杉風太郎の姿に戻ると呆れたような顔になりながら口を開く。

 

「今回は何も無かったから良かったけど次はこんなことするなよ。もしお前が軽い気持ちで来て、お前が傷つくなんてことがあったらどうするんだ」

 

と諌めるように言う。

 

「ご、ごめんね!次はそんなことないようにするから!

 

でも.....フータロー君に怪我がなくてよかった。さっすが、私の『仮面ライダー』♡」

 

と心底安心したような顔を見せると剣崎にギュッと抱きついた。

 

「お、おい!一花!」

 

と顔を少し赤らめる剣崎。

そして幸せそうに彼に抱きつく一花。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな二人を三玖はビルの影から見つめ、絶望したような顔で座り込んでしまった。

 

 

先程アンデットが現れたことを知った時、三玖は剣崎を助けるために自身もアンデットの発生場所へと向かった。

だが三玖が既に着いた頃にはアンデットはブレイドによって封印されており三玖が出る幕は無かった。

 

どう剣崎に話しかけようか考えていたところだった。

 

 

 

そんなところに一花が現れたのだった。

彼女はブレイドのことを『フータロー君』と呼んだのだった。

 

 

 

その発言こそが、三玖の心の最後の砦をまるで硝子のように粉々に壊してしまったのだった。

三玖は剣崎の正体が仮面ライダーであることを自分しか知らないと思い込んでおり、それが唯一の彼女の心の支えであった。

 

そして三玖は自身がレンゲルになってしまった時、闇を受け入れてしまったことに絶望しながらも、もし自分が彼を守れたらということを考え、彼女はレンゲルとして戦うことを決めた。

 

だが闇に侵食され尽くされた三玖の心の中でもほんの小さな光が残っていた。

それが剣崎の仮面ライダーの秘密である。ほかの姉妹と違って何も持っていない自分に、唯一与えられた大切なもの。

 

 

 

だがそれすらも、一花に取られてしまった。

 

 

 

「今の私.....なにもなくなっちゃった」

 

と呟く三玖にまたあの声が聞こえた。

 

───────────────────────

 

『もうなーんにも無くなっちゃったね、『私』』

 

.....

 

『全部全部一花に盗まれちゃったね。哀れな『私』』

 

うるさい!うるさいうるさいうるさい!!!もう喋らないでよ!もう出てこないでよ!!もう私の事なんて...放っておいてよ...

 

 

『そんなこと...できるわけないでしょ』

 

と紫色の瞳の三玖は、青い瞳の三玖を優しく抱きしめる。

 

 

えっ?

 

『だって、 ...私は『私』。『私』は私なんだよ。『私』は私のことをいちばんよく分かってる。今でも諦めきれないんでしょ、フータローのこと』

 

.....そうだよ。でももう私になんて...

 

『ううん、振り向いてくれるよ。

 

だからそのためには

 

 

 

 

 

 

邪魔者を消さなきゃ』

 

 

 

邪魔者を...消す.......?

 

 

『うん。フータローと一花の二人の関係をめちゃくちゃに引き裂いちゃえばいいんだよ』

 

どうやって?

 

『私になら、分かるはずだよ。だって私と一花は、五つ子だもん』

 

.....!!!

 

───────────────────────

 

 

あの戦いのあと一花は仕事に戻り、剣崎は自宅へと帰った。

 

さぁ明日の家庭教師のために復習をしようと腰を畳の上に下ろした時、らいはが小さな小包をもって来た。

 

「お兄ちゃーん」

 

「ん?どうした、らいは。ってかその箱...」

 

「お兄ちゃんにお届けものだって。ハンコは私が押しといたから」

 

「俺に届けもの?まぁいっか。ありがとな、らいは」

 

と剣崎はらいはの頭を撫でる。らいはは嬉しそうな顔をして夕飯の準備を始めた。

 

 

剣崎は受け取った箱を眺める。

 

「何か頼んだっけな...いやそもそも俺通販とかの使い方なんて知らないし...まぁとにかく開けてみるかぁ」

 

と剣崎は部屋のカッターナイフを使って小鼓を開ける。

 

 

そして彼はその中身に驚愕するのだった。

 

「こ、これは!

 

ラ、ラウズアブゾーバー!?」

 

と剣崎はそれを手にして驚きの表情を隠せない。

 

剣崎は一瞬のうちに頭を回転させる。だが存外簡単なことだと剣崎は思った。恐らくだが、あの電話の人物-仮面ライダーレンゲルの変身者が送ってきたに違いない。

だがそれはそれで余計に訳が分からない。レンゲルは林間学校の前に一度ブレイドに敗れた。林間学校では煮え湯を飲まされはしたものの、このタイミングで敵に塩を送る理由は全く想像出来なかった。

 

「でもまぁ...くれるっていうなら貰うに越したことないか」

 

と独り言で呟き、それをポケットに入れた。レンゲルの目的は全く持ってわからないが、敵が強くなってきていることは事実。レンゲルに上級アンデッド。彼らを倒すために、ラウズアブゾーバーを手に入れておくことは決して悪いことではなかった。

わざわざ送ってくる辺り、これも敵の思うつぼのだろうが、今は仕方ないと諦めた。

 

 

 

とにかく今の自分は五つ子たちの家庭教師である。いくら仮面ライダーとして戦うとはいえ、自分の仕事をないがしろにしてはいけないと考え、教科書を開こうとしたところで携帯がなる。

 

そこにはつい先ほどと同じようにアンデットサーチャーが表示されていた。

 

 

「またか...!」

 

と剣崎は歯噛みすると急いで家の外に出る。

 

「ちょっと!お兄ちゃん!どこ行くの?」

 

「悪いらいは!なるべく早めに戻る!!」

 

「夜ご飯までに帰ってきてねー!」

 

と剣崎に手をふるらいは。そんな彼女に最低限の平静を装い彼はブルースペイダーに飛び乗りサーチャーの示す場所へと急いだ。

 

 

小さな公園だがそこにアンデッドの姿はない。どこだと辺りを見回す剣崎に

 

 

 

「フータロー君」

 

 

 

と声がかけられた。

 

 

「い、一花!!ここは危険だ!!今ここに...」

 

「アンデッドのことなら心配はいらないよ」

 

「な、なんでそんなことが分かって...

というか今お前、アンデッドって」

 

 

 

「うん。だってさっきフータロー君の携帯がなったのは、私がアンデットを解放したからだよ。

 

 

じゃあ、フータロー君。見てて」

 

 

 

すると一花はポケットからあるものを取り出す。それは装着者を仮面ライダーレンゲルに変身させる、レンゲルバックルであった。

 

それに彼女はカテゴリーAを装填する。カテゴリーAを装填されたレンゲルバックルは自動的に一花の腰に装着される。

 

 

「い、一花!!それは!!!」

 

 

一花は手を顔の前にかざす。そして紫色の目で剣崎を見据えると、

 

 

 

 

 

「変身」

OPEN UP

 

 

 

 

 

 

と呟き手を降ろす勢いでレンゲルバックルを開く。

 

そこから現れたスピリチュアエレメントは一花の体に自動的に接触し、

 

 

彼女を『仮面ライダーレンゲル』へと変身させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜剣崎がレンゲルと出会った1時間後の病院〜

 

「そうか、ラウズアブゾーバーを渡してくれたか。すまないね、勇也。

.......それはまだ話すことではないよ、では」

 

というとマルオは電話を切る。

彼は手元のカテゴリーA スタッグビートルアンデッドを見る。林間学校のあと勇也は律儀に礼を言ってバックルとカテゴリーAを返却してきたのであった。それに郵送物を装ってラウズアブゾーバーを渡すなどあまり勇也らしくない行動に僅かな笑みが漏れる。だがそこで彼は一つ気になることを言っていた。

 

「ブレイドに姿を変える、謎のライダー...か」

 

どうも勇也はマルオですら認識できていないライダーと出会い共闘をしたらしい。

マルオは諦めたように目を閉じる。何事にもイレギュラーは付き物だ。それが計画の支障にならない以上、一々気にしていても仕方がない。

 

すると後ろの扉が開かれ、執事を務める男-江端が入室してきた。

 

「お疲れ様です、旦那様」

 

「あぁ」

 

「とうとう三玖様が...」

 

「あぁ。彼女の融合係数が1500を超えた」

 

モニターには先程の三玖の変身時の融合係数が記録されていた。そこに映し出される融合係数最高値:1566という数値。

 

「私は確信したよ。彼女ならいずれ成し遂げられる。カテゴリーKと融合し、その力を最大限に引き出すキングフォーム。

 

そしてそれを超える力。

 

 

 

 

 

同スートの13体のアンデットとの同時融合を、三玖くんならきっと」

 

 

 

 

「ですが、そのためには」

 

「分かっているさ。まずは...♣︎のカテゴリーK、それを封印しなくてはいけないからね。

 

本当に惜しいことだよ。レンゲルではなく、ブレイドかギャレンを渡せていれば、比較的スムーズに彼女にカードを揃えさせることが出来たというのに。

 

 

 

 

それこそ私か江端が封印されればカテゴリーKは確実に渡すことが出来ていた」

 

「左様でございます」

 

「それは仕方ないだろう。スパイダーアンデッドは人の闇に付け入ることを得意としている。やつが三玖くんに惹かれたのは必然というものだ。

 

 

だがあの老人が私たちに素直に封印されるとは思えない。

江端、いざと言う時は」

 

 

 

「承知しております、旦那様」

 

 

 

 

 

 

そういうと江端はその姿を異形に変えた。

 

 

「私のような頼りない剣でよければ、なんなりとお使い申し上げください」

 

彼は恭しくマルオの前にに跪くのだった。




♠︎10 スカラベアンデッド
時間を止めるというアンデッドの中で最強クラスの能力をもつ。
ただしその能力は、特別な白い布を身につけることで無効化される。(キングとスカラベアンデッドは、常にその布を身につけていた)

今回スカラベアンデッドくんが時止めを使わなかったのはちゃんと理由があります。これも物語の終盤に分かることなので気を長くして待って頂ければ幸いです。



ここ最近投稿が滞ってしまい申し訳ありません。
理由としては何個かあるのですが、主に挙げられるのは3つ。

勉強、趣味の楽器、艦これです。 主に1:5:4くらいの割合で時間を割いていました。

これからも投稿ペースが落ちてしまうと思われますがご了承ください。


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第26話:知らないという『罪』

今週のジオウの次回予告やばかったですね....
まさか剣崎と始と天音ちゃんが出てくれるなんて...

しかも変身して戦っているというのがもう...

しかもラウズカードセット発売とか、おのれ財団Bィ!!!



「嘘だ......」

 

今にもショックで倒れそうになる体を無意識のうちに必死に支える剣崎。

 

「嘘じゃないよ。私は......今までずっとフータロー君のことを騙してきたの。

 

ごめんね?」

 

といいながらレンゲルはこちらに歩み寄る。

 

「どういうことなんだ!答えてくれ、一花!」

 

「どうもこうも...これが答えだよ...!!」

 

レンゲルはそう叫ぶと醒杖を剣崎に叩きつけようとする。

剣崎はそれをなんとか避け続けながら必死にレンゲルと化した一花に呼びかける。

 

「一花!聞いてくれ、一花!!

いつもの優しいお前に戻ってくれ!!

こんなことしても...誰も笑えない!!」

 

 

 

「...そうやって...」

 

 

「え?」

 

 

「そうやって一花一花って...その名前を呼ばないでよ!!!」

 

 

とレンゲルは剣崎の首を締め上げる。

 

 

「い、一花...カハッ......」

 

 

「ハァ...ハァ...」

 

レンゲルは肩で息をしながらさらに剣崎の首に力を込める。

 

 

『このままじゃ...やるしか...ない..!』

 

 

剣崎は首を絞められながらもバックルを装着した。

 

 

「...変...身...!」

TURN UP

 

 

 

「キャッ...」

 

 

 

バックルから出現したオリハルコンエレメントはレンゲルを吹き飛ばす。

 

 

そしてブレイドとレンゲルは向き合う。

 

 

「一花。何があったか話してくれ」

 

「あなたに話すことなんて...グッ!?」

 

 

とレンゲルは頭を抑えて苦しそうに呻く。

 

 

「ど、どうした!?大丈夫か、一花!」

 

とレンゲルに駆け寄るブレイド。だが

 

 

「近寄らないで!」

 

とレンゲルは手に持っている醒杖をガムシャラに振り回してブレイドを近寄らせない。

 

「頼む!話してくれ!!

まさか一花も...睦月のように...」

 

剣崎は思い出す。剣崎が元の世界の時に仮面ライダーレンゲルに変身していた上条睦月という青年のことである。

彼はスパイダーアンデッドに魅入られてしまい、ライダーの力を己を最強と証明するという間違ったことに使ってしまったことがあった。

 

そして剣崎は恐らく一花も心に抱えた何らかの闇のせいでスパイダーアンデッドに付け入られてしまったのだと考えた。

 

だがレンゲルは考える剣崎を他所に1枚のラウズカードを放り投げた。

そして一枚のカードをラウズする。

 

 

 

REMORT

 

 

電子音と共にレンゲルラウザーの穂先から紫色の光線が放り投げた二枚のラウズカードに照射される。

そしてその二枚のカードから♣︎2 ビーアンデットと♥10センチピードアンデットが解放され、ブレイドに襲いかかった。

 

ブレイドが二体のアンデッドに対応している間にレンゲルは『SMOG』のカードをラウズし煙幕を発生させた。

 

「待て一花!まだ話は...ウェッ!」

 

レンゲルを呼び止めようとしたブレイドであったがアンデットがそれを妨害する。

煙幕が晴れた頃にはそこにレンゲルの姿はなかった。

 

「クソっ!!」

 

センチピードアンデッドが装備している鎖鎌-センチピードチェーンでブレイドを攻撃する。ブレイドはそれをいなし反撃しようとするが、上空を飛んでいるビーアンデットが胴体部から針を射出し、その反撃を邪魔する。

 

ビーアンデットを倒そうにもかなり上空を飛んでおり、注意を上空に向けるとその隙をついて鎖鎌が飛んでくる。

 

リモートで呼び出された二体のアンデッドだがかなり連携が取れており、ブレイドは苦戦を強いられた。

 

ブレイドが状況を好転させようとラウズカードをしようとした時、センチピードアンデットが口から猛毒を吐き出す。

 

それを避けたブレイドだったがバランスを崩しそこをビーアンデットの針が直撃する。

 

「ウェア!!」

 

とブレイドは大きく吹き飛ばされ後ろにあった木に激突する。

 

 

 

 

「何か...何か手はないのか!」

 

 

 

そう叫んで立ち上がった時、地面に何かが落ちた。

 

 

「......!そうだ!これなら!!」

 

 

 

地面に落ちたそれは、ラウズアブゾーバーだった。ブレイドは素早くそれを拾い上げると左腕に装備する。

 

アンデッドは不穏な動きをするブレイドを一刻も早く倒そうとするが、ブレイドはちょうど木々の下にいて上空を飛ぶビーアンデットからはブレイドを視認できない。

 

センチピードアンデットが鎖鎌を飛ばすがブレイドはそれをブレイラウザーで弾く。

 

そしてカードホルダーから二枚のカードを取り出し、ラウズアブゾーバーに挿入した!

 

 

 

 

 

ABSORB QUEEN

 

FUSION JACK!

 

 

 

 

電子音と共にブレイドにカテゴリーJが融合させられる。

 

するとブレイドの顔を覆う仮面と胸部の装甲が黄金に輝く。胸部にはイーグルアンデッドの紋章が刻まれ、背中には六枚の翼-オリハルコンウイングが展開された。

 

 

ビーアンデットはそれに気づかず見えないブレイドに針を連射する。

 

だがブレイドは針が着弾するよりも早くオリハルコンウイングによって得た飛行能力により上空へと飛び上がり、ビーアンデットを蹴り飛ばした。

 

ビーアンデットはあえなく地面に叩きつけられる。

 

 

二体のアンデットはブレイドを地上に引きずり下ろそうとするもブレイドは超高速で飛行し、攻撃は全く持って当たらない。

 

 

ビーアンデットはもう一度飛び上がるとブレイドを追いかける。だが両者のスピード差は歴然であり、ブレイドはあっという間にアンデッドを置き去りにする。そ

 

そして二枚のカードをラウズする。

 

 

TACKLE

METAL

 

 

ブレイドの体は硬質化され突進能力が強化される。そしてそれにジャックフォームの高速飛行がプラスされ、ブレイドはビーアンデッドに体当たりを仕掛ける。

全速力でブレイドを追いかけていたビーアンデッドは止まることも避けることも出来ずブレイドに激突され、再び力なく地面に落下する。

 

そしてブレイドはビーアンデッドを封印する。カードには『STAB』と刻まれる。

 

それをみていたセンチピードアンデッドは力の差を理解し逃走しようとするが、ブレイドはさらに二枚のカードをラウズする。

 

 

SLASH

THUNDER

《ライトニングスラッシュ》

 

 

 

「ハァァァ......ウェェェェイ!!」

 

 

 

ブレイドは高速でアンデッドに接近し、強化されたブレイラウサーでセンチピードアンデッドを斬り裂いた。

 

アンデッドは避けることも出来ずに攻撃をくらい爆発した。

 

ブレイドはそこに封印のカードを投げつけ、アンデッドを封印した。

そこには『SHUFFLE』と刻まれた。

 

 

 

 

ブレイドはバックルのレバーを引いて変身を解除する。そして地面に手を付く。

 

 

「嘘だ...一花が、レンゲルだったなんて...

 

 

嘘だこんなこと!!!」

 

 

剣崎は怒りのままに地面に拳を叩きつける。拳は切れてそこから赤い血が流れる。だが今の剣崎にそんなことを気にしている余裕はなかった。

 

そして剣崎は立ち上がるとブルースペイダーに飛び乗り、急いで中野姉妹が住むマンションへと向かった。

 

〜中野家マンション〜

 

「ただいま〜」

 

気の抜けた声とともに一花は、マンションへと戻った。

 

「ちょっと一花!遅いわよ!

あと少し遅かったら五月が待てずに晩御飯に

手を出してたわ!」

 

「ちょ、ちょっと二乃!!」

 

と焦る五月。

三玖と四葉は既に食卓に座っており、一花は自身も急いで手を洗い食卓に座る。

 

 

「それじゃあみんな手を合わせて!

いただきま...

 

 

 

ガチャン!!!

 

 

と玄関のドアが大きな音を立てて開いた。

 

姉妹たちは目を丸くする。そして凄い勢いで剣崎がダイニングへと飛び込んできた。

 

 

「う、上杉さん!?」

 

と四葉は驚いて素っ頓狂な声を上げる。

 

「ちょっとアンタ!何勝手に入ってんのよ!!」

 

とニ乃は剣崎を静止しようとするも、

 

 

「二乃。少し黙ってくれ。俺はこいつに...一花に用がある」

 

 

といつもの剣崎とは思えないような低い声で一花を睨む。

 

 

「あ、あの...フータロー君?

ど、どうしたの?」

 

 

と目を白黒させる一花。

 

 

「とぼけるなよ...一花。

付いてこい。ここじゃみんなに被害が及ぶ」

 

と剣崎は一花の腕を掴むと部屋の外に連れ出そうとする。

 

一花は突然のことに動揺して剣崎にされるがままになる。だがそれを二乃が遮ろうとするが

 

「待ちなさ「どけ、二乃。今俺は一花に話があるんだ。お前の相手をする時間はない」

 

と剣崎は二乃に凄む。二乃は普段とはあまりにも様子が違う剣崎に戦慄し、それと同時にあることに気づく。

 

 

 

 

「なんでアンタ...そんなに悲しい目してんのよ...」

 

 

 

 

と絞り出すような声で剣崎に問掛ける二乃。だが剣崎はそんな二乃を無視すると一花の腕を握ったまま2人で部屋を出る。

 

あまりにも唐突な出来事に姉妹たちは何も出来ずにそれを見ていることだけしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

ただ一人、紫色の双眸をより一層醜く輝かせ、妖艶な微笑を浮かべていた三玖を覗いて。

 

 

 

 

 

そして二人は屋上に登る。

 

 

「ちょっと...ちょっと、フータロー君!!」

 

 

と一花は剣崎の手を振り払う。

 

 

「今日のフータロー君、なんかおかしいよ!

何があったか教えてよ!」

 

 

「教えるのはお前の方だろ!!

何がお前の目的だ!」

 

 

と剣崎は怒号を飛ばす。

 

 

「も、目的って...」

 

「しらばっくれるのもいい加減にしろ!

なぜ俺にあいつらを守らせる!

なぜこの世界にアンデッドがいる!

なぜライダーが存在している!

 

なぜ俺は...」

 

 

『なぜ俺は人間としてこの世界にいる』

そう言いかけたところで剣崎は口を噤む。

 

 

 

 

 

無意識だった。

 

『何故だ...何故言葉が出てこない...』

 

 

剣崎の身体は、無意識にその言葉を出すことを拒んだ。それは心のどこかで彼自身がアンデッドに戻ってしまうことを、再び取り戻せた人間を手放すことを嫌がったからであるとは剣崎自身も気づかなかった。

 

だがそんなことを知る由もない一花は困ったような顔で叫ぶ。

 

 

 

 

「ちょっと待ってよ...フータロー君何を言ってるの?ライダーとかアンデッドとか...いきなりそんなこと言われてもわからないよ!!

 

ちゃんと...私にわかるように言ってよ!!」

 

 

 

 

 

 

そして剣崎と一花が屋上に出て行った頃、部屋に残された姉妹達はどうすることもできずただ座り尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蜘蛛は嘲笑う。まるでこの崩壊を楽しむかのように。己の野望を果たすために。

巣にかかった『中野三玖』という少女の心は、少しずつ、少しずつ、蝕まれていく。




♣︎2 ビーアンデッド
蜂の祖たる不死生物で、スート・クラブのカテゴリー2に属し、当時のラウズカードの解説によれば、小回りの効く飛翔能力と胴体部を伸ばして打ち出す槍によりヒットアンドアウェイの攻撃を仕掛ける

センチピードアンデッドは前に載せたため割愛。


あとオンドゥル語についてですがこの作品では緊張感が無くなることを考えて、元のセリフで使うことにしました。


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第27話:止められぬ『暴走』

ハーメルン内で『仮面ライダーW』と『艦これ』のクロスオーバー作品を執筆し始めました。

よければぜひそちらもご覧下さい。

あとお気に入り数が555(ファイズ)を突破しました。皆さん本当にありがとうございます。
本編どうぞ


「分かった...話す気がないならそれでいい。

ただ、他の姉妹には何があっても手を出すな。

もし危害を加えるなら...俺がお前を倒す」

 

 

 

『俺が必ずみんなを守る。そして必ず一花をカテゴリーAの呪縛から解放してやる』

 

 

そしてそれだけ一花に言うことをいって剣崎は屋上を立ち去ろうとした。

 

「フータロー君...私、どうすればいいの...」

 

一花はその場に座り込んで泣くことしか出来なかった。

最愛の人に見限られたことは今の彼女にとって、あまりにも辛すぎた。

 

 

 

「待ちなさい!!」

 

 

そして剣崎が屋上を出ようとした時、目の前に二乃が立ち塞がった。

二乃の後ろに三玖、四葉、五月も付いてきている。

 

「アンタ、何してんのよ...」

 

「二乃には...関係ない。どいてくれ」

 

「どかないわ。ちゃんと説明してもらうから。私たちの姉を泣かせたことを含めてね」

 

二乃の顔には『怒り』の二文字がハッキリと書かれている。

 

「何があったの?答えなさいよ」

 

「頼む。聞かないでくれ」

 

二乃と目も合わせようとしない剣崎。

 

 

「アンタ、男でしょ!?ウジウジしてんじゃないわよ!」

 

 

そんな彼の態度に激昂した二乃は剣崎の頬を強く張った。

 

「ッ......」

 

だが剣崎は答えない。答えられない。

この姉妹たちに全てを告げてしまえば、彼女は過酷な『運命』に巻き込まれる。それだけは何としても避けなければならない。

 

「何かいいなさい!」

 

そして再度剣崎の頬を叩こうとした時、三玖がその腕を強く掴む。

 

「なっ...み、三玖!離して!」

 

「...出さないで」

 

 

三玖は二乃を腕をさらに強く掴む。

 

「いっ...痛い!」

 

「フータローに...手を出さないで」

 

「ちょっ、ちょっと三玖!」

 

四葉が慌てて三玖と二乃を引き剥がす。

 

「四葉、邪魔」

 

三玖は冷たく四葉を振り払う。

 

「アンタ、随分と強気になったじゃない」

 

二乃は掴まれた腕を抑えながら三玖を睨む。だが三玖はそんな二乃をまるでゴミを見るかのように、『紫色』の瞳で見据える。

 

「そう?でもそんなことはどうでもいい。

もし次にフータローを叩いたりでもしたら...私、あなたに何をするか分からないから」

 

すると二乃はその三玖を見てブルリと震える。本能的な恐怖が二乃の体を支配する。

 

「...行くわよ、一花」

 

二乃、四葉、五月は一花を立ち上がらせるとそのまま4人で部屋に戻る。

だが帰り際剣崎に言い放つ。

 

「アンタ、もう明日から来ないで」

 

「に、二乃!」

 

「黙ってなさい、五月。私はもう二度とこいつにうちの敷居を跨がせるつもりはない。

 

結局、あの日に私に話してくれたことは嘘だったのね」

 

「ッ...!」

 

それだけいうと二乃たちは部屋へと戻っていく。屋上には剣崎と三玖だけが残される。

 

「三玖...おれは...」

 

 

 

 

「大丈夫」

 

 

 

そういうと優しく三玖は剣崎を抱きしめる。

 

 

 

「前にフータローは私を守ってくれたでしょ?だから次は私がフータローを守る番。

 

たとえみんながフータローを拒絶したとしても、私だけはあなたの味方でいるから」

 

「み......く......」

 

「だからフータロー。

 

今は私を頼って。私だけが、あなたの心を支えるから」

 

 

剣崎は泣きそうになったが、それを堪えた。

自分の心を支えると言ったこの少女を、自分が『運命』の魔の手から守らねばと決意したから。

 

 

 

 

 

 

〜どこかのビルの屋上〜

あの後三玖は剣崎と別れた。あの温かい体から離れるのは名残惜しかったが、彼にも帰る家がある。

 

仕方なく三玖は剣崎を話したのだった。

 

「フータロー温かったなぁ」

 

そういって妖艶に微笑む三玖。今の彼女は底の見えぬ濁り切った紫色の瞳をしている。

髪留めは蜘蛛の糸の意匠をあしらったものを付けており、着ているセーターはいつもの水色のものではなく、瞳の色と同じ濃い紫色である。

 

そして三玖はゆっくりと目を閉じる。ここで三玖の意識は完全に途切れ、その意識と身体はスパイダーアンデッドに乗っ取られる。

 

 

 

「こそこそと隠れるな、出てこい」

 

 

そしていつもの三玖らしからぬ強い口調で話す。

 

「どうだい?三玖くんの身体は。中々居心地が良くなっただろう」

 

「フン、悪くは無いと言っておこう」

 

そういって三玖は後ろを振り向く。そこには三玖の義父、『中野マルオ』の姿があった。

 

 

 

「気に食わんな。早くその化けの皮を剥いでやろうか?『カテゴリーK』」

 

 

 

「その名前で呼ばれるのも私としてはあまり嬉しくないのだがね、カテゴリーA-『スパイダーアンデッド』」

 

「フッ...アンデッドともあろうものが呼ばれ方に気を遣うとは...らしくないな、

カテゴリーK。いや......

 

 

 

『ギラファアンデッド』

 

 

 

 

貴様は俺にとって邪魔な存在だ。消えてもらう」

 

 

 

 

 

すると三玖に憑依したスパイダーアンデッドはレンゲルバックルを取り出す。するとそれはまるで生きているかのように三玖の腰にひとりでに巻き付く。

 

 

 

 

「『変身』」

OPEN UP

 

 

その言葉と共にレンゲルバックルが勝手に開かれ、その姿を『仮面ライダーレンゲル』へと変身させる。

 

「ほう...もはやバックルに触れることなくレンゲルへの変身を可能にしたか。これは融合係数が2000台に届くのも夢ではないね」

 

 

「...減らず口を...死ねぃ!!」

 

 

レンゲルはレンゲルラウザーをマルオの身体に叩きつけようとする。

 

 

だが

 

 

 

 

 

ガギン!!という鈍い金属音と共に、その刃はマルオの身体に到達する前に盾のようなものに阻まれる。

 

 

そしてレンゲルとマルオの間に、中野家の執事、『江端』が割って入っていた。

 

 

「旦那様には手出しをさせるわけにはいきませんな」

 

「すまないね、江端」

 

「き、貴様は!」

 

 

レンゲルが距離を取ろうとするがその前に江端はレンゲルラウザーを掴み、逃がさない。

 

そして江端はその姿を異形へと変える。

 

 

 

 

 

「やはりお前か...カテゴリーK...『コーカサスビートルアンデッド』!

 

ガァ!」

 

 

 

 

コーカサスビートルアンデッドは右手の剣を振るい、一撃でレンゲルを吹き飛ばす。

 

「フフフ...カテゴリーKが2体か。面白い、かかってこい!『最強のライダー』であるこのレンゲルが相手をしてやる!」

 

「待ってくれ。今私たちは君と争うつもりはない。私は君と三玖君に一刻も早く強くなって欲しくてね、これは私からのプレゼントだ」

 

マルオはある物をレンゲルへ投げ渡す。

 

「それはレンゲル専用の『ラウズアブゾーバー』だ。カテゴリーJとカテゴリーQは既に君は所持しているはずだ。

 

それを使えばジャックフォームの力が手に入る」

 

レンゲルは怪訝そうにそれを見つめるがそれを腕に装着する。

 

「いずれ貴様らは後悔する。俺がキングフォームの力を手に入れれば貴様らなど一瞬にして封印してやる」

 

「ならば君がキングフォームになるその日を楽しみに待っているよ

 

さらばだ」

 

そういうとマルオとコーカサスビートルアンデッドは一瞬のうちに姿を消した。

 

 

「余計なネズミがもう1匹紛れ込んでいたようだな...」

 

 

「おっと、気づかれてたか」

 

そういって姿を表したのは黒いスーツに身を包んだ眼鏡の女である。

 

「まずは自己紹介だ。私は『下田』。

 

 

まぁお前には『カテゴリーJ』って言う方が分かるだろうな」

 

 

 

「何が目的だ。まさかただ通りかかったという訳ではあるまい」

 

 

 

「おお!よく分かってんじゃねぇか!なら1度しか言わねぇから耳の穴かっぽじってよーく聞きな。

 

 

 

 

 

今すぐその嬢ちゃんの体から出ていけよ、クソ蜘蛛野郎が...

その子はてめぇみたいな薄汚いゴミが取り付いていいような子じゃねぇよ、消えな」

 

 

女らしからぬ汚い口調でアンデッドを罵る下田。

 

 

 

 

「にしても『零奈』さんも浮かばれねぇなぁ。まさか旦那が自分の娘を目的のために道具のように使うようなやつだったとは...

 

いくら愛していたとしても...これじゃああまりに『零奈』さんが可愛そうだ」

 

 

 

「なんの話しをしている?その汚い口を閉じろ、『ウルフアンデッド』。そもそも貴様が俺を攻撃すればその痛みを受けるのはこの娘だぞ?」

 

 

「んなこたァ分かってるよ。その腰に巻いてるものをぶっ壊せばいいってこともな」

 

「ほう?やってみるがいい。まずは貴様がこのジャックフォームの犠牲になれ」

 

 

口汚いやり取りを終えると、下田はその姿を♥J-ウルフアンデッドに変える。

 

 

そしてレンゲルは2枚のカードを取り出すとラウズアブゾーバーにセットしていく。

 

 

 

ABSORB QUEEN

FUSION JACK!!

 

 

 

するとレンゲルの体に♣︎J-エレファントアンデッドが融合させられる。そしてレンゲルの胸にはエレファントアンデッドの紋章が刻まれ、腕には巨大な手甲、『オリハルコンタスク』が装備され、さらなる巨躯を手にする。

 

 

「来い、薄汚い獣め。寝言はカードの中で吐かせてやる」

 

「そうかい。ならお前はその子の身体から離れて一人で吐きな」

 

 

今、新たな力を手にしたレンゲルとウルフアンデッドの戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

〜上杉家〜

 

剣崎は三玖と別れたあと一人で家路についていた。家に帰っても何も食べる気もおきず、夕飯を食べずに一人部屋に寝転がっていた。

 

らいはは少しでも食べるように進めたが、剣崎はそれを頑なに拒否した。

勇也はそれに対して何も言わなかった。

 

 

『俺は今...何をすればいいんだ』

 

もはや剣崎は周りのこと全てが信じられなくなっていた。守ろうとしていた少女自身が、自分を傷つける敵だったのである。

 

そしてそれを問い詰めるのに強引な手を使ったせいで、もう二度と修復できないであろう亀裂を自分と中野姉妹の間に作ってしまっていた。

 

『最低だ。俺は...みんなを『笑顔』にさせるなんて言ったのに、結局俺は昔から何も変わっていなかったんだ。

 

 

 

きっとこれは俺への罰だ。この『上杉風太郎』の姿を借りて、人間を演じた俺への罰なんだ』

 

自責の念に刈られた剣崎はもはや目を瞑ることしか出来なかった。

 

何もやる気が起きず、ただ剣崎は目を瞑るだけである。

 

 

だが『運命』が彼を逃がさなかった。剣崎の携帯が震え出す。そこにはアンデッドサーチャー、『カテゴリーK』の出現を示していた。

 

「カテゴリー...K!」

 

剣崎飛び起きると勇也にもらいはにも声をかけず直ぐに家をとび出る。

 

 

そしてサーチャーで場所を確認すると直ぐにバイクを走らせた。

 

 

〜ビルの屋上〜

 

「チィっ!!」

 

ウルフアンデッドはレンゲルの攻撃を躱す。大振りな一撃だが当たれば紛れもない致命傷となる。レンゲルのジャックフォームは飛行能力がない代わりに、エレファントアンデッドの力で攻撃力、防御力共に凄まじく向上する。

ウルフアンデッドはかなりのすばやさを持つアンデッドだったが、ジャックフォームの防御力の前に有効打を欠いていた。

 

「どうした、カテゴリーJ。そんなものか」

 

「余計なお世話だ、蜘蛛野郎」

 

口では強がるものの実際にダメージを与えるどころか怯ませることすらも出来ずにいる状況にウルフアンデッドは歯噛みする。

 

『仕方ねぇ...なんとか一瞬だけでも隙を作って、その間にバックルだけを壊すしかなさそうだな』

 

そう考えたウルフアンデッドはとにかく素早く動き回り、レンゲルを翻弄する。そしてビルの鉄柵を破壊すると次々にレンゲルに投げつけていく。

 

「フン!」

 

しかし鉄柵だけではレンゲルには傷一つつけることは出来ない。うっとおしく感じたレンゲルは鉄柵を弾き飛ばす。

 

 

 

だがその動作が隙となった。ウルフアンデッドはその膂力を活かして一瞬のうちにレンゲルの懐に飛び込むと、バックル目掛けて鋭い爪を伸ばし、バックルを破壊

 

 

 

 

 

「やめて...下田さん。苦しいよ...助けて」

 

 

 

「え?」

 

 

 

出来なかった。スパイダーアンデッドは卑怯にも三玖の声で下田に語りかけたのだった。三玖の声でその動きを止めてしまったウルフアンデッドの腕をレンゲルがジャックフォームの握力を以て左腕で思い切り掴む。

 

「イッ!?」

 

あまりの激痛にたじろぎ腕を引き抜こうとするもジャックフォームとなったレンゲルの握力は凄まじくとてもではないが引き抜くことは出来ない。

 

「かかったな、獣め」

 

「て、テメェ....」

 

レンゲルはラウザーを地面に突き立てると、カードリーダーに2枚のカードをゆっくりと通す。

 

 

SCREW

BLLIZARD

 

《ブリザードゲイル》

 

 

電子音とともに、レンゲルの右腕が冷気を纏う。

 

「喜べ...貴様が最初にこのジャックフォームに封印されるのだ」

 

そう言葉を投げかけるとレンゲルは右ストレートをウルフアンデッドの腹に思い切り叩き込んだ。

 

 

「かひゅ......」

 

口から肺に残されていた空気と、血を吐き出す。

ジャックフォームにより圧倒的な威力を誇るブリザードゲイルが、ウルフアンデッドを文字通り一撃で叩き伏せたのだった。




♥J ウルフアンデッド
スート・ハートのカテゴリーJに属する、劇中におけるオオカミの始祖である上級アンデッド。人間の死体にウイルスを流し込んで狼人間にして操る事が出来る。

下田さんとは五等分の花嫁の原作の7巻にでてきた、口の悪い先生です。一応いい人なのでこのゾンビを生み出す能力を使うことがないと思います...
剣でいう虎姐さんポジです。

あと江端さんが変身したコーカサスビートルアンデッド、マルオの正体であるギラファアンデッドははまたちゃんとした戦闘の際に後書きに詳細を載せます。


三玖がまじでやべーやつになってしまっていますが、これも全て薄汚いアンデッドであるスパイダーアンデッドのせいです。

三玖ファンの皆様、本当に申し訳ありません。


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第28話:割れた姉妹の『輪』

ジオウ29話めっちゃ面白かったです。

ウォズのことが嫌いでも、醤油とってご飯よそってあげるゲイツくんがやさしすぎる。

あとよくわからない理由で始に殴りかかったケンジャキが実に初期のブレイドらしくて良かったです。


あと今回重いです。でもこれも薄汚い((ry


「カハッ...ゲハっ...」

 

ウルフアンデッドは下田の姿に戻り、吐血をする。

 

アンデッドの緑色の血が地面に広がる。

 

「無様だな、カテゴリーJ」

 

「......」

 

無言でレンゲルを睨む下田。レンゲルはカードケースから封印のカードを取り出し、下田に近づけて行く。

 

逃亡しようとするも体が動かない。殴られた場所は凍りついてしまっており、骨、内臓共に大きなダメージを受けた。

 

 

 

『こりゃダメかね...すみません、先生。

約束、まもれそうにないです...』

 

 

下田は諦めたように目を閉じる。

 

そしてレンゲルが封印のカードを下田に触れさせようとしたその時、

 

 

 

 

一筋の剣戟がレンゲルを襲った。

 

「ヌゥ!」

 

レンゲルはすかさず腕に装着されている手甲で、その剣戟を防ぐ。

 

 

「チィ...ブレイドか」

 

 

レンゲルの視線の先には背中に翼を携えた仮面ライダーブレイドが立っていた。

 

ビルに着いた剣崎は階段を上る時間を惜しみ、ジャックフォームに変身して一気に屋上まで飛び上がってきた。

 

 

 

『こりゃ僥倖だ...!』

 

 

 

レンゲルの注意は完全にブレイドに向けられていた。

下田は持てる力を全て振り絞ると、その体をもう一度ウルフアンデッドに変化させ、一気にビルを飛び下りた。

 

 

「チッ...獣め...」

 

 

「見つけたぞ...一花...何があっても、ここでお前を止める!」

 

ブレイドは右手に持った剣を構える。

 

「...哀れだな...何も知らないこととは、実に哀れだ」

 

そこでようやく剣崎は一花の口調がおかしいことに気づく。

 

『まさか、今の一花の意識は完全にカテゴリーAに...』

 

ブレイドは剣を強く握りしめる。

 

『だったら何がなんでも、アンデッドを一花の体から追い出してやる!』

 

ブレイドは一気にレンゲルへと接近する。だが今のブレイドに実際にレンゲルを攻撃しようという気は更々ない。

 

狙いはウルフアンデッドと同じ、腰に装着したバックル。取り付いたカテゴリーAを追い払うならば、バックルを破壊して不完全な状態で封印されたカテゴリーAをリモートで復活させ、再度倒して完全に封印するしかない。

 

だが当然だがレンゲルは抵抗する。その圧倒的な防御力のおかげで、いくらジャックフォームのブレイドの攻撃を受けようとも怯まず、隙を見せない。

 

倒す気のないブレイドの攻撃では尚更だった。

 

「どうした、そんなものか?ブレイド。

同じジャックフォームでも、これほどに差が出るとはな」

 

「黙れ!早く一花の身体から出ていけ!」

 

「うっとおしい蝿が!」

 

「ウェア!」

 

 

そしてレンゲルの放った醒杖の一振がついにヒットし、ブレイドはビルの屋上に叩きつけられた。

 

『まずい...このままじゃジリ貧だ...』

 

本来のブレイドのジャックフォームの力であれば、一方的とはいかずとも十分にレンゲルのジャックフォームと戦うことができる。

 

だが一花がレンゲルにのっとられていると認識している今の剣崎は本気を出すことが出来ない。

 

 

 

「終わりだ、ブレイド。貴様はもう必要ない」

 

 

「クソっ...俺はまだ...」

 

 

 

レンゲルが腰のカードケースに手をかけようとしたその時であった。

 

 

「ヌッ!?グゥォ..オオオ...」

 

 

レンゲルが頭を抑えてもがき出す。それは一度剣崎が見た林間学校中に出現したレンゲルと同じだった。

 

「な、何が起こっているというんだ...」

 

 

「なぜ...貴様の意思は...完全に、おれが...グゥァァァ...」

 

レンゲルはフラフラとしながら、カードを取り出す。だが恐らく自分自身で攻撃することは不可能だろう。

 

 

『撤退するつもりか...でももしかしたらその時!』

 

ブレイドは何かに気づいたかのようにカードホルダーを展開する。

 

そして1枚のカードを手に取る。

 

 

「ブレイド...今回はこれで終わりにしてやる...」

 

レンゲルは1枚のカードを放り投げると、左手に持った『リモート』のカードをラウズしようとしたその時であった。

 

 

『シャッフル』

 

 

ブレイドがさきに『シャッフル』のカードをラウズした。

 

するとその力により、ブレイドとレンゲルが持っていたカードが入れ替わる。

 

ブレイドの元に『リモート』が渡り、レンゲルの元に『シャッフル』が渡る。

 

 

「よし!これでリモートは使えない!」

 

 

「貴様ァァ!!グッ...ウォォ...

覚えておけブレイド、次にあった時は...必ず俺が貴様を殺してやる...!」

 

 

そう呪詛を吐いてレンゲルは『スモッグ』のカードをラウズし、煙幕を張るとその姿を消した。

 

ブレイドはすぐに逃がすまいと煙幕に飛び込んだがそこにレンゲルの姿はない。

 

 

 

「一花...」

 

 

 

1人屋上に残されたブレイドは変身を解除し、風太郎の姿に戻り、一花の名前をつぶやく。

 

 

そして事切れたように座り込んでしまうのだった。

 

 

 

〜ビルの柱の影〜

 

頭を抑えたレンゲルは、近くの柱にもたれ掛かるとフラフラになりながら変身を解除するのだった。

 

───────────────────────

 

『なぜ余計なことをした!あそこでブレイドを倒しておけば...』

 

なんで...なんでフータローを殺そうとしたの...

 

 

三玖は静かな怒りをスパイダーアンデッドに向ける。だがスパイダーアンデッドはその醜悪な顔を三玖に向け投げかけ続ける。

 

 

『力だけを得て、それであの女を排除して上杉風太郎を自分だけのものに...そんな都合のいい話、本当にあると思ったのか?』

 

どういうこと...

 

 

『まだ分からないか...まぁいい。貴様を騙し続けるのも疲れた。

 

俺は何も善意でお前の願いを叶えようとした訳では無い』

 

何を...言っているの...?

 

 

『俺もお前と同じで、叶えたい願いがある。そのために俺はお前を上手く使わせてもらった。

 

俺はどんな手を使ってでも、この『バトルファイト』に勝利する。

 

ブレイドはアンデッドを封印して回っている。だから俺はお前を隠れ蓑にしただけだ』

 

なんの話しをしているの?バトルファイト?

アンデッド?ちゃんと分かるように...

 

 

『黙れ小娘が。

最早隠れる必要もない。このバトルファイトに残ったアンデッドも少ない。あとはあの憎きカテゴリーK-『タランチュラアンデッド』さえ封印できれば、俺はキングフォームの力を手に入れられる。

 

そうすれば、残りのアンデッドなど簡単に蹴散らすことが出来る』

 

分からない...あなたは何を言って...

 

 

恐怖に顔をゆがめる三玖に対し、スパイダーアンデッドは何処吹く風と言った様子で続ける。

 

 

『今回は何とか俺を抑えられたようだが...最早そうはいかんぞ。次にお前の心の闇が大きく揺れ動いた時、その時こそお前の意識は俺に飲み込まれる。

 

その時を楽しみに待っておけ、小娘』

 

───────────────────────

 

そして三玖の意識は現実に戻る。

 

「あ...あ...あぁ......」

 

最早言葉を発することが出来ない。彼女の脳はあまりの膨大な情報を処理しきれずにパンク寸前だった。

 

そして足元に転がるレンゲルバックルを掴む。

 

「こんなものが...こんなものがあったから!」

 

三玖はレンゲルバックルを屋上から思いっきり投げた。

 

だがバックルは空中で静止すると、そのままありえない軌道を描いて再び三玖の手中に納まった。

 

そこで三玖はようやく気づくことになる。

 

自分は『運命』という名の蜘蛛の糸にがんじがらめに絡め取られてしまったということを。

そして蜘蛛の糸に絡め取られた獲物は、その肢体を蜘蛛自身に貪り食われるしかない。

 

 

彼女は絶望すると、そのまま当てもなく街へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

〜ビルの屋上〜

 

「やはり『運命』には...抗えないのか」

 

剣崎は夜空にぼんやりと浮かぶ月を見つめていた。その『運命』の残酷さに彼は打ちひしがれるしかなかった。

 

もう何もかもを諦めてしまった方が早いのではないか。全てを捨ててこの街から逃げて、新しく一人の人間として生きる道を選ぶということも不可能ではない。

 

 

 

そんな考えが剣崎の頭に浮かんだ時だった。

 

 

 

 

 

「顔を上げろよ、風太郎」

 

 

 

 

 

剣崎は振り返る。そこにいたのは

 

 

 

 

「親父......」

 

 

 

 

 

そこにいたのは上杉風太郎の父、上杉勇也であった。

 

 

「どうして...ここに...」

 

 

「今来たところだ。見た感じ、

 

 

何をどうしていいか分からないっていったところか?まぁ無理もねぇか。

 

少なくとも友人以上の関係の女が、自分を殺そうとしたなら誰だってそうなっちまうさ」

 

 

「..... !!

 

見てたのか...!」

 

 

「あぁ。何から何まで見てたさ。最初から全て...お前があの日、ライダーシステムを使って『ブレイド』に変身した時から、全てな」

 

 

 

「なんで親父が...ブレイドのことを!」

 

 

 

すると勇也は自嘲的な笑みを浮かべながら言葉をつむぎ続ける。

 

 

「なんで?簡単さ。お前が『ブレイド』になるように誘導したのが俺だからだ。

 

お前が付けているブレイバックルも、ラウズアブゾーバーも、全て俺が手配した」

 

 

 

「......なんでそんなことを!!」

 

 

 

 

剣崎はその身を起こすと、勇也に掴みかかる。

 

「アンタが全てしくんだのか!?この世界にアンデッドがいるのも、俺がブレイドになったのも、一花がレンゲルになったのも!

 

全て、アンタが!」

 

 

「......!一花ちゃんが、レンゲルに...」

 

「しらばっくれるな!アンタがしくんだことだろ!?」

 

 

すると勇也は剣崎の腕を掴み、引き剥がす。

 

 

そしてポケットから『ギャレンバックル』を取り出す。

 

 

 

「そ、それは!」

 

 

 

顔を驚愕に染める剣崎。

 

 

 

 

「ご明察。俺もお前と同じ、ライダーシステムの適合者だったのさ。

 

 

 

 

 

風太郎、俺と戦え。親子喧嘩と洒落込もうじゃねぇか。お前が俺をこえるくらいに強くなってることが分かったなら...

 

 

俺が知る全てのことをお前に話してやる。

 

どうだ、やるか?やらねぇのか?

 

 

 

 

「やってやる!アンタを倒して...全ての情報を聞き出してやる!!」

 

 

 

「決まりだ!!本気でこい!風太郎!!」

 

 

 

そして両者はバックルにカテゴリーAを装填すると、腰に装着する。

 

 

 

 

 

「「変身!!」」

 

TURN UP

 

 

2人はオリハルコンエレメントを潜り、剣崎はブレイドに、勇也はギャレンに変身する。

 

 

そして月明かりがビルの屋上を照らす中、ライダー同士の偽りの親子喧嘩が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

〜中野家〜

 

「三玖、遅いね...何時帰って来るのかな...」

 

四葉は部屋にかけてある時計を見つめる。既に時刻は22時。

 

「放っておきなさい」

 

そんな四葉に二乃は冷たく言い放つ。

 

「放っておけって...そんなこと出来ないよ!だって私たち姉妹なんだよ!?」

 

「何!?姉妹だからなんなの!?

少なくとも私が知っている姉妹は、姉の手を掴んで痕を残すようなやつじゃないわ!」

 

そういって二乃は袖をまくる。そこには先程屋上へ続く階段で三玖に掴まれた痕がはっきりと残っていた。まだ跡が痕が消えないの見る限り、相当な力で握られたのがわかる。

 

「しかも三玖は...一花を泣かせたあの嘘つき野郎をを擁護してるのよ!?

私たちの長女を泣かせたやつを庇うようなやつなんか私たちの...

 

 

 

 

「二乃!!!」

 

 

 

 

ソファで話を聞いていた五月がいつもとは比べ物にならないくらい大きな声で叫ぶ。

 

「...それ以上...言ってはいけません...

お母さんは...そんなこと、」

 

 

「......! ウザイのよ...そうやって母親面してる時のアンタ、本当にウザイ!」

 

 

二乃はとうとう怒りを抑えられなくなって、テーブルに置いてあったグラスを地面に叩きつけた。グラスは音を立てて粉々になる。

 

そのまま二乃は部屋へと戻って行ってしまった。

 

「あ、アハハハ...そ、掃除しなくちゃね。

 

もう二乃ったら...怒ってもモノには当たるなって、あれだけ...あれだけお母さんに言われてたのに...」

 

破片を拾い集める四葉だったが、その途中でポロポロと涙を地面にこぼし続ける。

 

 

 

「四...葉...」

 

 

 

「私だって...私だっておかしいと思ってる!一花は部屋から出てこなくなっちゃったし、三玖はどっか行っちゃうし...二乃の気持ちはわかるよ...

 

 

でも、でも私たちは!上杉さんの優しさを知ってる!

あの笑顔が、言葉が、温かさが全部嘘だったなんて、私は思いたくない!!」

 

 

 

「四葉!!」

 

 

 

五月は四葉を後ろから抱きしめた。

 

 

「ごめんなさい......何も出来なくて...ごめんなさい...」

 

 

リビングに残された2人はただ泣くことしかできなかった。

 

 

 

粉々に砕けたグラスが、今まで何をするにも一緒だった姉妹の輪が、『運命』という大きすぎる力に砕かれてしまったことを、静かに暗示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ビルの屋上〜

 

2つの影がぶつかり合う。

 

それは親子喧嘩というにはあまりに激しすぎるものだった。

 

ブレイドが右手に持つ剣でギャレンを斬りつける。

 

ギャレンが銃をブレイドに連射する。

 

 

「どうした風太郎!!ジャックフォームは使わねぇのか!?」

 

「そんなものは必要ない!」

 

ブレイドが知っているギャレンの戦い方と違い、勇也が変身するギャレンの戦い方はとにかく猪突猛進である。あまりの勢いのある戦い方にブレイドは苦戦気味だった。

 

突進を仕掛けるブレイドをギャレンは飛び上がり空中前転で避け、後ろをとり、がら空きの脇腹に銃撃を仕掛ける。

 

 

「グワァ!!!」

 

吹き飛ぶブレイド。その隙を見て、ギャレンはカードをラウズする。

 

BULLET

 

 

強化された銃弾がブレイドを襲う。

 

だがブレイドは『METAL』のカードをラウズし、体を鋼鉄化し銃撃から身を守る。

 

 

そしてその防御力を活かして、銃撃を浴びせてくるギャレンに強引に突っ込む。

 

「何!?」

 

懐に入ったブレイドはブレイラウザーでギャレンをめった切りにする。

 

倒れるギャレンに追撃をかけようとしたブレイドだったが、何とかギャレンは銃で牽制し、距離を取る。

 

そしてお互いに3枚のカードを取り出す。

 

 

KICK

THUNDER

MACH

《ライトニングソニック》

 

DROP

FIRE

GENINI

《バーニングディバイド》

 

 

「これで終わりだ!」

 

「いいぜ...こい!」

 

 

ギャレンはギャレンラウザーをホルスターに。

そしてブレイドはブレイラウザーを地面に突き刺す。

 

 

ブレイドは助走をつけ、雷のエネルギーを纏った右足で飛び蹴りを。

 

 

ギャレンは2人に分身すると炎のエネルギーを両足に。

 

 

 

空中でぶつかり合うお互いの技。

 

だがブレイドは右足一本なのに対して、ギャレンは二人分の両足を合わせて4本。

 

マッハによる加速を加味しても、ブレイドはギャレンに押されていた。

 

ブレイドは最後に力を振り絞る。

 

 

 

 

「ウェアアアア!!!!」

 

 

「ウォォォオ!!!!」

 

 

 

そして2人の叫び声をかき消すように、大きな爆発が起こり、爆煙が屋上を包んだ。

 

 

 

地面に転げ落ちるブレイドとギャレン。

 

 

だがまだお互いの戦意は喪失していなかった。2人はもう一度ラウザーを手に取ると、この戦いに決着をつけるために最後のカードをラウズした。

 

 

BEAT

 

 

UPPER

 

 

お互いの右腕が青白い光を帯びる。

 

 

そのまま2人は走り出す。

 

互いにまるで磁石で引っ張られるように、接近していく。

 

 

 

 

 

 

先にギャレンの鋭いアッパーが放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれをブレイドは体を捻ることで、そのアッパーカットはブレイドの体を掠るだけに留まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがブレイドの懇親の右ストレートは、ギャレンの顔に吸い込まれるようにして打ち込まれ、その仮面の一部を破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてギャレンはその割れた仮面から目を覗かせると、少しだけ笑ったような顔をして、その変身が解除された。その後ゆっくりとブレイドにもたれ掛かるようにして倒れ込んだのであった。

 




デルタギア出ましたね。まぁお金ないから買えないんですけどね


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29話:知りすぎる『罠』

ジオウ30話見ました。

剣崎と始の血の色が赤になったところで、不覚にも涙が出そうになりました。

剣崎が救われて本当によかった...


「おい、起きろ。親父」

 

「......負けちまったか」

 

「あぁ。俺の勝ちだ」

 

剣崎は勇也を揺すり起こす。そして自分が勝利したという事実のみを端的に伝える。

 

「アンタが知っている全てを話してくれ」

 

「分かってる、約束だからな。とはいっても話すことが多すぎるな...お前が聞きたいことを俺に言ってくれ。応えられることには全て答えてやる」

 

 

「じゃあまず...なんでこの世界にアンデッドがいる?」

 

「知らん」

 

「...おい」

 

剣崎は呆れたように口を開く。

 

「すまねぇな。だが少なくともアンデッドは4年前から出現していた。

 

ただ、ここまで活発には活動してなかったけどな」

 

「4年前...」

 

「あぁ。俺が『ある男』に誘われて、『ギャレン』になった年だ」

 

「親父が、ギャレンに...その『ある男』ってのは?」

 

 

「そりゃ気になるよな。まぁ少なくともそいつが全てを握っているといっても過言じゃねぇ。

 

ただこれを聞いたらお前はもう引き返せなくなるぞ」

 

「いいんだ。俺は真実を知って...『運命』と戦う」

 

 

 

「分かった。なら全てを教えてやる。

 

 

その男の名は......」

 

 

 

〜病院〜

 

「江端、行こう。もはやこの病院に残って自分を偽る必要はない」

 

「畏まりました。それにしても良かったのですか?ギャレンバックルを勇也に渡して。今回は発信機も付けていませんが」

 

「大丈夫だ。そういえば先程ブレイドとギャレンの2人の変身を確認した。そして恐らく勇也は全てを上杉風太郎くんに話すだろう。ここで彼ら2人を殺すことは容易い。

だがそれをしてしまえば、三玖くんの融合係数に異常が出て13体融合を成し遂げられなくなる可能性もある」

 

「分かりました。では新しく出来た施設の方に直ぐに移動を」

 

「古い方は処理しておいてくれ。勇也が場所を知っているのが些か気がかりだ」

 

「畏まりました。直ぐに手配させます」

 

「では向かおうか」

 

 

そしてマルオは病院を出ると、江端の運転する車に乗って目的の場所へと向かった。

 

 

『それにしても驚いた。先程勇也と上杉風太郎の間で起きたと思われる戦闘。そこでまさか上杉風太郎の融合係数が1700を超えるとは。

 

これはもし仮に三玖くんが失敗した時のための保険になるかもしれない。

 

とにかく今はタランチュラアンデッドの封印を急がなくてはいけないね』

 

マルオは外を見る。目に映るのは今まで自分が過ごしてきた東町の風景。

 

 

『零奈...君は僕のことを恨んでくれ。君が愛した娘を利用し、この世界を破滅に導こうとする僕を...

 

 

僕は...この世界も...『二度』も失敗した自分自身も...許すことはできない』

 

 

 

 

 

 

〜ビルの屋上〜

 

「その男の名は...『中野マルオ』。お前が家庭教師をしている5つ子の義父だ」

 

「......え?あいつらの...父親が...」

 

「元々あいつは悪いやつじゃなかった。感情は表に出さねぇけど、それでもどこかに温かさを持ったやつだった。若くして自分の病院を持ってて、スーパードクターなんて言われてたな。

そしてあいつは5人の娘を持つ優しい女性と結婚した。ただあいつは...ある時から狂っちまった」

 

勇也は昔を思い出し、懐かしそうに、ただどこか悲しそうに続ける。

 

 

「5年前に、あいつの嫁さんは死んじまったんだよ。元から持っていた持病が悪化してしまったらしい。あいつはあらゆる手を尽くして嫁さんを救おうとしたが、もう既に手遅れになっていた。

 

その一年後に俺は...あいつから『アンデッド』と『ライダーシステム』の存在を教えられ、『ギャレン』となった」

 

 

「親父に、そんな過去が...」

 

 

「あともう1つお前に伝えておかなきゃいけないことがある。これはお前にもらいはにも伝えていないことだ。

 

そしてこれが俺が『ギャレン』として戦うことを決めた最大の理由だ。

 

ただこれはお前にとって辛い現実だろう。それでも聞く勇気はあるか?」

 

 

 

「ああ。俺は決めたんだ。『運命』と戦うって。そのために1つでも多くの真実を知っておきたい」

 

 

剣崎は覚悟を決めたような顔で口を開いた。

 

 

 

 

「そうか...なら話そう。俺が『ギャレン』になった理由はただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 

『復讐』だ。お前の母であり、俺の妻だったあいつを殺した...アンデッドに対する復讐だ」

 

 

勇也は普段とは比べ物にならないくらいに真剣で顔つきになっていた。その表情にはどこか怒りの色も見える。

 

だが剣崎はそんな勇也に比べてどこか冷静だった。確かにその殺された女性は上杉風太郎の母であって、剣崎の母ではない。

 

 

「......意外と落ち着いてるんだな」

 

「...え。あ、ごめん」

 

「別に謝ることなんてねぇさ。そして復讐を決めてギャレンになってから俺はアンデッドを封印するために戦い続けた。酷い時なんて一日4体と戦う時もあった。

 

まぁそんだけ戦ってりゃあ、体も持たなくなってくる。」

 

 

勇也は悔しげに続ける

 

 

「そして俺はあるとき、蜘蛛のカテゴリーAと戦いそれをなんとか封印した。まぁ結局、封印が不完全だったせいでこんなことになっちまって...そして俺はその戦闘の際に負った傷が原因でギャレンには変身できなくなった。

 

 

もう戦えない。そんな時に...ライダーシステムに適合する資格を持った男がいた。

 

 

それが風太郎。お前だ。俺はお前を騙してライダーにしたんだよ。

 

あの時は驚いた。初めて見たはずのバックルやラウザーを一目見て使いこなしやがった。さすがは試験オール100点ってところだな」

 

冗談めかして言うものの、その顔にはもうしわけないという気持ちが見え隠れしている。

 

 

「俺から話せることはこれだけだ。アンデッドが現れた理由は俺にも分からねぇし、どうしてマルオがライダーシステムなんぞを作れたのかも分からねぇ」

 

「そうか...分かった」

 

「だけど風太郎...お前はもう戦わなくていい。俺ももう戦える。お前は...

 

 

 

 

「それはできない」

 

 

剣崎が勇也の言葉を遮る。

 

 

「言っただろ?俺は『運命』と戦うって。それに...俺には救ってあげなくちゃいけない奴がいる。

 

俺が一花を...蜘蛛の呪縛から解放する」

 

「そうか...」

 

「帰ろう、親父。らいはも心配してるだろう」

 

「...あぁ」

 

「でもその前に...行っておきたいところがある。親父は先に帰ってらいはを安心させてやってくれ」

 

 

「あの子達の家か」

 

剣崎は無言で首を縦に降ると、勇也はフッと鼻を鳴らして笑った。

 

こうして2人はビルの屋上を後にする。いつも通りの他愛ない会話をしながら階段を下っていく。

 

 

 

『すみません、勇也さん。今だけは...俺に人間として家族を演じさせてください』

 

 

 

しかし、決して剣崎の顔が明るくなることは無かった。

 

 

 

 

 

 

〜中野家〜

 

時刻は現在午前1時。結局四葉と五月は眠ることも出来ず2人でリビングのソファに身を寄せ合いながら座っていた。

 

「三玖...遅いね」

 

「大丈夫。きっと...きっと帰ってきてくれます。そしたら上杉さんとちゃんとお話して、前みたいに...」

 

また涙を流しそうになるのを堪える五月。

 

だがその時、5つ子達の部屋のインターホンがピンポーンと音を立てた。

 

 

四葉と五月はいてもたってもいられず走り出す。その扉の向こうに三玖がいることを信じて。

 

 

だがそこに居たのは予想外の人物だった。

 

 

 

「三玖!...ってあなたは...」

 

 

 

「おぉ...五月ちゃんか...あまりに先生とクリソツだから見間違えそうになったぜ...」

 

 

ボロボロのスーツに身を包み、弱々しく声をあげる下田だった。その体からは所々緑色の液体が滲んでいる。

 

 

「まさかあなたは...下田先生!?どうしてこんなところに...しかもその怪我...とにかく今は中に!」

 

 

「いや、いいんだ。一つだけ伝えることがあってきた」

 

下田は扉の前に座り込んだまま今のにも途切れそうな声で言葉をつむぎ続ける。

 

「お前らの義父...中野マルオには気をつけろ。あいつは...五月ちゃんたち5つ子を利用して何か...とんでもないことをしようと...カハッ...!」

 

すると下田は口を手で抑える。その指の隙間から緑色の液体が地面に零れ落ちる。

 

「し、下田さん?」

 

「悪ぃな五月ちゃん。一つだけこちらから聞きたいことがある。一花ちゃんが今どこにいるか分かるかい?」

 

「一花ならちょっと事情があって部屋のベッドで寝込んじゃって...」

 

そう答えた四葉。すると下田はなにかありえないことを聞いたような顔になり、思考をめぐらせる。

 

「まさか...今家に二乃ちゃんか三玖ちゃんはいるかい?」

 

「実は...三玖が...」

 

『そういうことか...ってことはさっきレンゲルから発せられた声は、一花ちゃんのものじゃなく三玖ちゃんの...』

 

下田が考えをめぐらせていると、心配そうに自信を見てくる四葉と五月の姿が目に入る。すると下田はスッと立ち上がる。

 

「おっといけねぇ...これ以上汚したら管理人さんに怒られちまうな...私はそろそろお暇させてもらうぜ...」

 

 

それだけ言うと下田は非常階段に向かって走り出した。

 

「ま、待ってください!下田さん!」

 

五月も走って非常階段に向かったが、そこに下田の姿はない。

 

 

 

 

 

下田は非常階段に向かうと1つ下の階からアンデッドに変身して飛び降りたのだった。

 

 

『待ってろ、三玖ちゃん。私がレンゲルと接触できりゃあ、ブレイドの兄ちゃんを上手いことレンゲルに誘導できる。

 

 

 

 

零奈さん。これが今の自分に出来る、精一杯の恩返しです。』

 

 

 

 

ウルフアンデッドは決意を胸にすると、その嗅覚を生かし、レンゲルの元へと向かった。



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第30話:『BLADE BRAVE』

やっとここまで来ました...

そしてお気に入り数が600件を突破しました。読者の皆様本当にありがとうございます!


「.........」

 

三玖は街にある広場のベンチで1人座っていた。その顔は何かに怯えたように青白くなっている。

 

「...ッ!!」

 

三玖がいきなり耳を塞いだ。どうやら風が拭いて空き缶が転がっただけだが、今の三玖は目に映るもの、耳に入る音全てが恐怖の対象になっている。

 

どこからあの蜘蛛が来るかわからない。またあの醜い姿が、醜い声が聞こえてくると思うと、彼女の身体は縮こまってしまう。

 

 

 

 

「...もう、やだ...誰か、助けて...」

 

 

 

 

全てに怯え切った三玖は誰にも届かない手を虚空に伸ばす。

 

 

 

 

 

だがその手を不意に掴む者がいた。

 

 

 

「......ッ!!」

 

 

 

驚きのあまり声が出なくなる三玖。見上げると、

 

 

 

 

 

「...やぁ、三玖ちゃん。こんな遅くに出歩いてるから、姉妹のみんなが心配してるぜ」

 

 

 

 

息も絶え絶えになり、誰が見ても痛みを堪えた痩せ我慢と取れるような笑みを浮かべる下田が自身の目の前に現れていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜上杉家から中野家への道中〜

 

勇也と別れたあと剣崎は中野家を目指していた。いつもの家庭教師に行く時の道に比べて、今夜は随分と気が重くなるようなきがしていた。

 

事実剣崎の頭は不安で一杯である。

 

一花のことはどうしよう。

その前に五つ子たちに謝るのが先か。

でもまず二乃に許してもらえないと家にあげてもらえないんじゃ...

そもそもこんな時間だしみんな寝ているかも...

 

考えれば考えるほど、彼の頭の中は不安という2文字で埋め尽くされていく。

 

だがマイナスなことばかり考えてはいられない。剣崎はそんなマイナスな空気を払うかのように首を横に振った。

 

そして自身の頬を2回パンパンと叩くと覚悟を決める。

 

 

 

『とにかくまずは誠心誠意謝ろう。

 

そして一花とちゃんと腰を据えて話し合おう。あいつならきっと分かってくれる』

 

 

そう信じ、中野家への道を歩き続ける剣崎のポケットがブルブルと震える。中では携帯が振動していた。

 

まさか五つ子の誰かからでは?

 

そう思って画面を見た剣崎の顔は苦悶に染まっていく。

 

そこに映し出されるのは、アンデッドサーチャー。

 

そしてサーチャーが知らせるのは、カテゴリーJとレンゲルの存在。

 

 

 

 

「...!!

一花...今すぐ行くぞ!!」

 

 

 

 

剣崎は脇目も降らずに、サーチャーが示す広場へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜サーチャーが反応する数分前の広場〜

 

「あ...あなた...は」

 

「私は下田。君たちのお母さんの元教え子だ。どうやらその様子だとまだカテゴリーAに意識は飲まれてないみたいだな」

 

「私から...離れて。声が聞こえる...あいつの声が頭に響く...!!」

 

三玖は頭を抱えながら幽鬼のような顔で下田を睨む。

 

『不味い...このままだとこの子の意識と身体が完全にカテゴリーAに乗っ取られちまう』

 

あくまで飄々としていた下田だったが、その額に流れる冷や汗が彼女の焦りを表している。

 

「なぁ、三玖ちゃん。家に帰ろう。みんな心配してるぞ」

 

「でも...」

 

「三玖ちゃん。すぐにバックルを渡すんだ。あれをぶっ壊す」

 

下田は優しげだったが、その言葉からは確固たる意思が感じられる。

 

「バックルって、これのこと...?」

 

「あぁ、それだ」

 

「分かった。なら早く壊して。私を解放して...」

 

 

 

三玖はバックルを恐る恐る下田に渡そうとする。

 

 

 

『小娘が...余計なことを』

 

 

 

 

「......ッ!!!

 

あ、あ...ああ...あぁあぁぁ...」

 

三玖がバックルを持ったまま蹲る。

 

 

「ど、どうした三玖ちゃん!」

 

 

三玖に駆け寄ろうとした下田だが、三玖が纏うオーラが変わったことですぐにその歩みを止める。

 

 

 

 

 

そして下田に向き直った三玖の瞳は、暗く濁った『紫』に彩られている。

 

 

 

 

 

「貴様.....獣風情が姑息な真似を」

 

 

 

 

「カテゴリー...A!!」

 

 

 

 

下田は三玖の意識がカテゴリーAに乗っ取られたのを察知すると、すぐに自身の身体をウルフアンデッドに変化させ、三玖が握るバックルを奪おうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが1歩遅かった。

 

三玖が持っていたバックルには既にカテゴリーAが装填されており、自動で腰に巻き付き、オリハルコンエレメントを出現させる。

 

 

紫色の壁にウルフアンデッドは吹き飛ばされる。

 

 

そして下田が何とか起き上がって三玖を見ると、そこには『仮面ライダーレンゲル』がその身を顕にしていた。

 

 

 

「わざわざ自分から死にに来るとはな...いいだろう、ここで貴様を完全に封印する!」

 

 

 

「やってみろよ...!」

 

 

 

ウルフアンデッドはその体に残る力全てを稼働させ、レンゲルに飛び掛る。先程レンゲルから受けた傷はまだ生々しく残っており、骨格、内蔵の損傷と共にとても戦えるような状態ではない。人間では既に死んでいるだろう。

 

だがアンデッドは不死生物である。たとえどれだけのダメージを受けようと死ぬことはない。ただ痛みは人間と同じように感じるし、傷も度を超えると動けなくなる。

 

 

だが今の下田は痛みも傷そのものも気にしてはいなかった。

 

 

下田はとにかくレンゲルを鋭い爪やその強靭な顎を使って攻め続ける。

 

 

 

 

 

『零奈先生。アンデッドの私を...人間として導いてくれた、私の恩人。

 

先生、できれば私は教師として娘さん達をあなたが私にしてくれたように導いてあげたかったです』

 

 

 

 

 

ウルフアンデッドは自分の恩師への思いを胸に、レンゲルに猛攻を加える。レンゲルはジャックフォームになるタイミングを失い、その火事場の馬鹿力すら超えた攻撃にたじろいでいる。

 

 

「三玖ちゃんを...返せ!!」

 

「この獣がッ!! その汚らしい爪を俺に触れさせるな!」

 

「汚ぇのはテメェだろうが!!」

 

 

そう啖呵を切るウルフアンデッドだったが、着々とその身に限界は迫っていた。

 

そしてレンゲルは反撃はしないが、ウルフアンデッドの攻撃を確実に防御し、既に体力が尽きかけているウルフアンデッドの自滅を狙っている。

誰の目にもウルフアンデッドが先に力尽きるというのは明白であった。

 

 

「どうした。先程の勢いはどこへいった」

 

「く...そ...!」

 

 

とうとう限界が来た。腹部の凍傷と内臓の損傷が彼女の身体の活動を停止させようとしている。

 

 

 

「貴様は嬲り殺しにしてやる。封印される前に最大の苦痛を味あわせてやる」

 

 

そういうとレンゲルは2枚のカードをラウズした。

 

 

 

POISON

SMOG

 

 

 

するとレンゲルラウザーの先端から紫煙が辺り一帯に充満し、その煙はウルフアンデッドを包み込む。

 

 

 

「......煙...?......!

 

ガハッッ......?!」

 

 

突然ウルフアンデッドがえずきながら地面に緑色の血を地面に吐き出してしまう。

 

 

「ガハッ......ア......ガ......」

 

 

ウルフアンデッドは毒の煙を吸い込んだ。そのせいで彼女の身体は内側から破壊され、耐え難いほどの激痛がその身を襲う。

 

 

 

「ガァっ...ゲハっ...この...下衆が...!」

 

 

「馬鹿なヤツだ。あの時大人しく封印されていればここまでの苦しみを味わうことはなかったというのに...」

 

 

「あ......く、そ......」

 

 

毒はその体を容赦なく蝕んでいく。とうとうその身体を維持することが出来なくなり、ウルフアンデッドの身体は下田の姿に戻る。

 

アンデッドは不死生物であり、むしろその特性が下田を永遠の苦痛に誘ってしまった。

 

 

「内臓が溶かされていく感覚はさぞ苦痛だったろう。

 

もはや嬲ることするも飽きた。これで終わりだ」

 

 

レンゲルはゆっくりと封印のカードを持って近づいてくる。

 

 

 

『まだだ......まだ、まだ終われねぇ...

 

 

『あいつ』がここに来るまでは...まだ!』

 

 

 

だが下田の身体は動かない。その体はもはやボロ雑巾のように外も内も傷だらけになっている。

 

どうやらもう終わりのようだ。下田が諦めその目を閉じたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

TACKLE

MACH

 

 

 

「ハアッ!!」

 

 

 

 

 

 

背中に大きな6枚の翼を携えた騎士、『ブレイド-ジャックフォーム』が圧倒的な加速と共に、レンゲルを体当たりで吹き飛ばしたのだった。

 

 

 

 

 

「来たぞ......レンゲル!」

 

 

 

「...ブレイド...!」

 

 

 

 

『やっとこさ...間に合ってくれたか...』

 

 

 

 

下田は安堵からか一気に脱力した。安心感のせいなのか、身体の苦痛がほんの少しだけ和らいだ気がした。

 

 

 

「だが...お前にこいつを傷付けられるかな?

 

 

 

いまレンゲルに変身している、『中野三玖』という女をなぁ!!」

 

 

 

レンゲルは大仰に手を広げ、ブレイドに現実を突きつける。

 

 

「...何? 三玖が...レンゲル?」

 

 

 

「そうだ。

こいつは貴様に恋焦がれていた。そして貴様が他の女と会話をすることにすら焦りと苛立ちを覚えるようになり、その心に闇が生じた」

 

 

「......」

 

 

ブレイドはただ黙ってレンゲルの話を聞いている。

 

 

「こいつは常に心の中で慟哭していたぞ。お前がレンゲルに一花という女の名を吐く度にこいつはその心の闇を増幅させて行った。

 

たとえ俺がいなくともこいつはいずれその嫉妬心から壊れていただろう。先の突撃の時も貴様に傷つけられたことにこいつは涙を流したぞ。

 

むしろ俺がこいつの意識を借り受けてやることで、こいつをその苦しみから解放させてやっていたのだ。

 

 

それなのに...お前は俺を倒すというのか?」

 

 

「.........」

 

 

尚もブレイドは何も答えない。

 

これも全てスパイダーアンデッドの計画通りだった。

三玖の本心を全て赤裸々に剣崎に語ることにより、自身を封印しようという剣崎の心を動揺させるという狙いだった。

 

そして今ブレイドはただ黙って突っ立っているだけである。

スパイダーアンデッドは完全に自身の術中にブレイドが嵌ったと確信した。

 

 

その様子を見ていた下田は心の中で強く歯噛みする。ブレイドに声をかけようとするが、毒によって声帯すら破壊されてしまい、掠れた息が漏れるのみである

 

 

『ダメだ...あの蜘蛛に惑わされるな...』

 

 

そう心で呼びかける下田だったが、当然その声はブレイドには届かない。

 

 

レンゲルはその仮面の裏で笑う。見事にブレイドは自分に手出しが出来なくなった。

 

そしてレンゲルはラウズアブゾーバーに2枚のカードを挿入する。

 

 

ABSORB QUEEN

FUSION JACK

 

 

 

 

レンゲルもブレイドと同じようにジャックフォームへと変身する。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてブレイドに歩み寄り、その巨腕に見合う力を持って、醒杖を振り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「死ね、ブレイド!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

醒杖の刃がブレイドへと振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その刃がブレイドを斬り裂くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だと...」

 

 

 

ブレイドは刃が自身の体に触れる寸前で、醒杖の柄を左腕で掴み、その動きを止めていた。

 

 

 

 

 

「な、何故だ...同じジャックフォームでもパワーは完全にこちらが上回っているはず...

 

 

なのに、なぜ押しきれない...!」

 

 

 

レンゲルはその手に力をこめ、レンゲルラウザーを押し込もうとするものの、一切動かない。

 

 

 

「たとえ今俺の前にいるレンゲルが、一花でも...三玖でも...俺がやることはただ一つだ、カテゴリーA。

 

 

 

お前を解き放ち、そして完全に封印する。

 

 

 

もうこれ以上、お前なんかに彼女らの『運命』を弄ばせてたまるか!」

 

 

 

 

 

そしてブレイドは醒杖を掴んだ左腕を振り払い、レンゲルの体勢を崩させると、その胸に思い切り正拳突きを食らわせた。

 

 

 

その突きをもろに食らったレンゲルは後ろによろめく。

 

 

「ガァっ...!

 

き、貴様...なぜ攻撃できる...この女を、貴様が攻撃できるはずが...」

 

 

 

 

 

 

「三玖!!!」

 

 

 

 

 

『剣崎』は空気が震えるくらいの大きな声でレンゲルの中にいる『三玖』の名を呼ぶ。

 

 

 

 

「三玖、よく見てくれ。この広場、お前なら覚えているだろ?」

 

 

 

レンゲルは剣崎の言葉を受けて、ほぼ無意識に辺りを見回す。

 

 

そこは剣崎はレンゲルの存在を知って、五つ子達から距離を置くために逃げて来た広場だった。

 

 

 

 

「貴様の声など...こいつに届くわ

 

 

『ここは...』」

 

 

「...!!!」

 

 

レンゲルの様子が変わる。

 

 

 

 

「三玖!!お前はあの時、思い出させてくれた!!!

 

 

お前を...お前達五つ子を必ず『笑顔』にさせると!!

 

 

 

あの時、目の前に残酷な『運命』を突きつけられて、自分が果たすべき責任から逃げ出した時...

 

 

 

真っ先に俺の事を見つけ出してくれたのが、お前だったんだ!!!

 

 

『三玖』!!!」

 

 

剣崎はあの時を思い出す。あの時の自分はこれから己の身に降りかかるであろう『運命』という荒波に誰も巻き込まんと、自分は周りにいた全ての人間を遠ざけようとした。

 

 

 

 

でもそんな自分に、戻ってきて欲しいと手を差し伸べてくれたのが、三玖だったのだ。

 

 

 

剣崎はあの時自分を見つけてくれたことが嬉しかった。

 

そう思っては行けないと思いつつも、そう思わずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 

「『三玖』!!!戻ってこい!!

 

 

お前の心は、そんな蜘蛛なんかを住まわせていいところじゃない!!

 

人間誰しも闇を抱えてる!!

 

だったら俺も一緒にそれを背負う!!

 

 

だから......

 

 

 

 

自分を取り戻せ!!三玖!!

 

 

 

 

 

 

俺にもう一度、もう一度だけお前達五つ子を『笑顔』にさせるチャンスを俺にくれ!」

 

 

 

 

 

「『......!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、暗く寂しい深淵に沈んだ三玖の心が、『剣崎』という男によって引っ張りあげられた。

 

 

 

 

「『フータロー!!』」

 

 

 

 

今確かに三玖は、自分が愛すべき者の名を、己の意思で、自分自身の心で呼んだ。

 

 

 

 

 

するとスパイダーアンデッドはその意識を再び支配しようともがき出す。

 

 

 

レンゲルはまた頭を抱えて、暴れ出す。

 

 

 

 

『その体を...俺に寄越せェェ!!!

 

バトルファイトに勝つのは俺なんだぁ!!』

 

 

 

 

「今ならハッキリと言える!!もう私にあなたは必要ない!!

 

お願い!フータロー!!

 

この『蜘蛛』を...追い出すのを手伝って!」

 

 

 

レンゲルは三玖とスパイダーアンデッドの声が混じった声を上げる。

 

 

 

「任せろ!」

 

 

 

その三玖の声を聞いた剣崎はカードホルダーを展開し、その中から1枚のカードを取り出すとラウズする。

 

 

 

 

REMOTE

 

 

 

 

 

するとブレイラウザーの切っ先から、青い光

がレンゲルに照射される。

 

 

 

 

その光を浴びたレンゲルは気が狂ったかのように暴れ出す。

 

 

 

 

 

『ガァァァァ!!!やめろ....やめろォ!!俺を...追い出そうとするなぁぁ!!!』

 

 

 

 

 

「出て行って!!もうあなたには惑わされない!!私のこの想いを...もうあなたには利用させない!!

 

 

 

この身体は、私...『中野三玖』のもの!!」

 

 

 

 

 

『あ、が、アァォアアアァォアア!!!』

 

 

 

 

 

 

するとレンゲルの身体が淡い光を発する。

 

 

 

 

そしてその変身は解除され、三玖の体から、居場所を失ったスパイダーアンデッドが飛び出してきた。

 

 

 

 

三玖はその衝撃で気を失い倒れてしまう。

 

 

 

「やっとその姿を表したな!!スパイダーアンデッド!!」

 

 

ブレイドはその姿を確認すると、スパイダーアンデッドの身体に、斬り掛かる。

 

 

ディアマンテエッジで強化された刃が、アンデッドの身体をズタズタに裂いていく。

 

 

 

「ゲアッ!!この...人間風情がぁ!!」

 

 

 

怒りで我を失ったスパイダーアンデッドはまるで猛牛のように、ブレイドに突進を仕掛ける。

 

 

だがブレイドはジャックフォームの飛行能力を活かしてその突進を回避し、すれ違いざまにまた斬り裂く。

 

 

 

 

そして2枚のカードを取り出す。

 

 

 

 

「これで終わりだ、スパイダーアンデッド!

 

 

三玖の心を利用し、五つ子たちの『運命』を翻弄したお前の『運命』を...ここで終わらせる!!」

 

 

 

SLASH

THUNDER

《ライトニングスラッシュ》

 

 

 

ラウズされた2枚のカードの中で、アンデッドが動く。

 

 

そしてブレイドは上空に高く飛び上がると、グルリと旋回し、雷のエネルギーをブレイラウザーに集中させる。

 

 

 

 

「ハァァァァ...ウェェェェイ!!!」

 

 

 

ブレイドはその雷のエネルギーが凝縮された剣を、上空から下降するスピードを加えて、スパイダーアンデッドに振り下ろす。

 

 

 

 

「グギャアアアアア!!!!」

 

 

 

 

スパイダーアンデッドの身体はライトニングスラッシュの一撃で頭から真っ二つに斬り裂かれた。

 

 

 

 

そしてブレイドはアンデッドバックルが割れたのを確認し、

 

 

 

 

 

「これで...終わりだ」

 

 

 

 

封印のカードをスパイダーアンデッドに投げて、完全に封印した。

 

 

 

 

 

 

今『蜘蛛』によってかき乱された剣崎と五つ子たちの物語が、終わりを告げたのだった。




原作のムッキーのように三玖がスパイダーアンデッドと一騎打ちするような展開を期待された方には申し訳ありませんが、この物語ではこのような展開にさせて頂きました。


そして次回からopが『ELEMENTS』に変わるイメージです。


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第31話:突然の『来訪者』

展開が浮かばなくてかなり投稿期間が開いてしまいました。

なので一応生存確認も込めて中途半端な時間の投稿になりました。

本当に申し訳ないです...



関係ない話ですがジオウ32話見ました。まさかbelieve yourselfが流れるなんて...


 

 

 

何か見覚えがある...

 

 

 

目に広がる景色はただ白一色で。

 

 

 

 

同じような景色が延々と広がっている。

 

 

 

 

「ここは...あの時の...」

 

 

 

 

目を覚ました『剣崎一真』はその白い空間を見回す。

 

 

 

 

だがそこから得られるのは『白』という色の情報だけである。

 

 

 

 

人間は何も見えない暗闇から恐怖を感じると言うが、今の剣崎はそのあまりの『白さ』に得体の知れない恐怖を感じていた。

 

 

 

彼の目の先に広がる『無』はここには何も無いということを伝えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそこに突然現れた。

 

 

 

 

どこか見覚えのある人型のシルエットが剣崎の目の前に現れた。

 

 

だがその姿はどこかぼんやりとしており、その顔を見ることは叶わない。

 

 

 

 

「アンタは...前ここで...」

 

 

 

 

どこかで会ったはずのシルエットに話しかけるが、それは答えない。

 

 

 

 

 

するとそのシルエットは先の見えない『無』に向かって歩みを進めていく。

 

 

 

 

 

「ま、待ってくれ...!

 

 

まさか...アンタは...!!」

 

 

 

 

 

 

 

だが剣崎がその言葉を言い切る前に、その見覚えのある人型シルエットがパクパクと口を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

『.........と........を頼む』

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

「......ぎさん!.....すぎさん!

 

 

上杉さん!!」

 

 

 

「...ゥ、うぅ...こ、ここは...」

 

 

剣崎はムクリとその身を起こす。その目線の先には既に見慣れた中野家のマンションの部屋の天井が広がっていた。

 

 

「上杉さん!」

 

 

 

 

四葉、五月が一斉に剣崎に群がる。

 

 

「お、おいおい。一体何が...」

 

 

「...まさか上杉さん...昨日のことを覚えていますか?」

 

 

「昨日の...」

 

 

 

 

『確か俺は...カテゴリーAを封印して、それで...』

 

 

 

 

 

 

〜数時間前〜

 

 

ブレイドは己の手に戻ってきたカードを見つめる。

そこには確かにカテゴリーAが封印されており、完全な封印を示すかのようにカードに描かれているスペードマークが紫から金色に変わっている。

 

 

「やっと...これで...」

 

 

 

「ブレイド...」

 

 

ブレイドが振り返ると、そこには身体を血まみれにし、肩で息をするスーツの女性が立っていた。

 

身体中から滴り落ちる緑色の血が、彼女がアンデッドだということを物語っている。

 

 

「おつかれさん...本当に、三玖ちゃんを助けてくれて感謝してるぜ」

 

 

「お前は、カテゴリーJ...それに三玖ちゃんって...」

 

 

「私は下田。まぁ...詳しい話は...カハッ...無しだ。私について知りたきゃ、五月ちゃんにでも...聞いてくれ」

 

 

何とか言葉を繋いでいる下田だったがもはや息は絶え絶えである。

 

 

「ブレイド。お前に...頼みがある。あの娘たちを...『零奈』さんの娘さんたちを護ってあげてくれ...

 

これ以上...あの男の思い通りにさせるわけにゃあいかねぇんだ」

 

 

「......お前...」

 

 

「もう...疲れたな...

 

出会ってすぐでなんだが、もう1つ頼みがある。このまま私を...封印してくれ...

 

少し...休ませて欲しいんだ」

 

 

 

 

ブレイドは逡巡したものの、下田の言う通りに封印のカードを取り出した。

 

 

「本当に...いいんだな?」

 

 

「あぁ。ブレイド、お前ならきっとあの五つ子ちゃんたちを救ってやれる。もう...私の役目は終わりだ」

 

 

 

ブレイドはそれを聞き遂げると、下田にゆっくりと近づいていき、その体に封印のカードを触れさせた。

 

 

 

『零奈さん...少しだけ、休みます。

 

 

あなたの娘さんたちに...あなたから教わった沢山のことを、教えてあげたかったです。

 

 

アンデッドである私を...人間のように導いてくれて、ありがとうございました』

 

 

 

 

そう心の中で下田は呟いた。

 

 

そしてとても穏やかな顔で、カードに封印されていった。

 

カードには♡J 『FUSION』と刻まれた。

 

 

 

 

 

 

そして下田の願いを聞き届けたブレイドは、バックルのレバーを引っ張り、『上杉風太郎』の姿に戻った。

 

 

 

 

そして意識を失った三玖を背中に背負うと、そのまま彼女が帰るべき家へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

〜現在〜

 

 

「上杉さんは、数時間前に突然この家に来たんです。三玖を背負って」

 

 

「でも三玖をリビングのソファまで運んだら、そのまま自分も気絶しちゃったんですけどね」

 

 

「...すっかり思い出せたよ。そうだ、ほかの3人は?」

 

 

「三玖は部屋で寝かせています。二乃は上杉さんがここで気絶した後に家を出て...

 

一花は昨日から寝込んでいたんですけど、ある時突然『出かけてくる』とだけ言い残して彼女も...」

 

 

「そうか...」

 

 

五月は剣崎の言葉を聞くと、何かを考えるかのように目を閉じ、そしてゆっくりと開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「上杉さん、教えてください。あなたが知っていることを」

 

 

 

 

 

「......」

 

 

 

 

五月の目は真剣そのものだ。

 

 

もはやはぐらかすことなどは不可能だろう。

 

 

 

『いいや...話さない訳にはいかない。この子たちの父親のことも...』

 

 

 

そして剣崎は覚悟をして言葉を紡いでいく。

 

 

 

 

「四葉、五月。今から俺が話すことは全て真実だ。もしかしたら荒唐無稽な作り話に聞こえてしまうかもしれない。でも...

 

 

 

 

「大丈夫です、上杉さん。私は上杉さんがそんな嘘をつくような人ではないって分かってますよ」

 

 

 

そう言ってニシシと笑う四葉。五月も四葉と同じ心持ちのようだ。

 

 

 

 

「ならまず1つ言っておくぞ。最近になってこの街に現れた怪物を倒している『仮面ライダー』...

 

それは俺だ」

 

 

 

 

 

「「え?」」

 

 

 

四葉と五月の声が重なる。

 

 

 

「...まぁ信じられないよな」

 

 

 

そう言いながら彼はズボンのポケットに入れておいたバックルを見せる。

 

 

すぐに四葉がスマートフォンを操作する。ここ最近ネットの掲示板に怪物と戦う『仮面ライダー』の写真があがっていたのをおもいだしたからだ。

 

そしてそこに映る銀色の戦士は確かに剣崎が今手に持っているバックルを腰に装着していた。

 

 

 

「分かっただろ?そして全て話してやる。俺が知っていることを」

 

 

 

 

 

〜数十分後〜

 

 

「そんな...三玖も、私達も...みんな、お義父さんに騙されて...」

 

 

剣崎が知る全てを聞かされた四葉と五月は呆然としていた。

 

無理もない。人を殺す怪物をこの世に蘇らせた者が自分たちの義父だったのだ。

 

 

「俺も全てを知っているわけじゃない。

 

でも...お前達の義父が間違いなくこの件に絡んでいる。そしてそれに気づい三玖は巻き込まれて...」

 

 

「そうだ!お義父さんに電話してみよう!」

 

 

そう言って四葉はスマートフォンを手に取るが...

 

 

 

『おかけになった電話番号は現在使われておりません...』

 

 

 

と無機質なメッセージ音が流れるのみだった。

 

 

「繋がらない...」

 

 

 

「な、なら今からお義父さんの病院に行きましょう!

 

私も直接お話を聞かないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その必要はないよ、五月くん」

 

 

 

 

 

 

 

突然リビングへの入口から発せられた声に驚く三人。

 

 

 

 

そして剣崎達が見つめる先には、

 

 

 

 

 

 

 

 

黒いスーツに身を包んだ五つ子達の義父、『中野マルオ』が立っているのだった。

 

 

 

 



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第32話:『破滅』への一歩

令和になりましたね。



「お、お前は!」

 

 

そう、リビングのドアの前にいたのは、

 

 

 

 

「お、お義父さま...」

 

 

 

 

5つ子の父親、中野マルオだったのだ。

 

 

 

「君たちに渡したいものがあってきた」

 

 

 

 

そう言うとマルオは懐から茶封筒を取り出し、ダイニングのテーブルの上に置いた。

 

 

 

「では失礼させてもらうよ」

 

 

 

マルオはすぐに踵を返して帰ろうとする。

 

 

 

 

「待て!」

 

 

 

 

だがそんなマルオを剣崎が呼び止める。

 

 

 

 

「このままお前を帰らせると思うか?

 

 

中野マルオ!お前には全てを話してもらうぞ!」

 

 

 

「今はその時ではない」

 

 

 

「なら力ずくにでも!」

 

 

 

 

剣崎はバックルを取ると、カテゴリーAを装填し、腰に装着する。

 

 

 

 

「う、上杉さん...?何を...」

 

 

 

「四葉!五月!離れてろ!」

 

 

 

 

剣崎はバックルのレバーを引いた。

 

 

 

 

「変身!!」

TURN UP

 

 

 

 

剣崎はオリハルコンエレメントをくぐる。

 

 

彼は『仮面ライダーブレイド』へと変身した。

 

 

 

「俺もこの子達の前で手荒なことはしたくないんだ!アンタも父親なら子供に全てを話せ!」

 

 

 

「手荒なこと...か。私も同じ気持ちなのだがね。出来れば今日はこのまま帰らせてくれないかい?」

 

 

 

そう懇願するマルオだが、ブレイドは逃がす気は無いとばかりに、腰のブレイラウザーに手をかける。

 

 

そんな2人を前に、四葉と五月は声を失っている。

 

 

 

 

「...いいだろう。君がその気なら、こちらも同じ手段に出させてもらおう」

 

 

 

 

そういうとマルオは手に持っていた銀色のアタッシュケースを開く。

 

 

 

すると彼は銀色のベルトを腰にまく。

 

 

剣崎はそのベルトに見覚えがあった。

 

 

 

 

「そ、それは...!」

 

 

 

「最後のライダーシステム-『カリスラウザー』だ。これの作成には少々手間取らされた」

 

 

 

 

マルオはどこからともなく1枚のラウズカードを出す。そこには♡A マンティスアンデッドが封印されている。

 

 

 

 

「どのみち『アレ』は返してもらうつもりだったが...こうなっては仕方がない。今返してもらうよ」

 

 

 

 

 

マルオはカードを腰につけたカリスラウザーのカードリーダーでラウズする。

 

 

 

 

「変身」

CHANGE

 

 

 

 

 

マルオの体は『仮面ライダーカリス』に変化した。

 

 

 

 

 

『仮面ライダーカリス』。剣崎の親友であり、この世を破滅に導くジョーカーアンデッド-相川始が『仮面ライダー』として戦う時に使っていた姿である。

 

『カリスラウザー』も仮の名であり、本来の名は『ジョーカーラウザー』。それはジョーカーの姿を、ラウザーにラウズしたアンデッドへと変えるという力を秘めている。

 

 

 

 

そのことを知っていた剣崎は戦慄する。まさか目の前のこの男が世界を破滅に導く最恐の不死生物であるかと疑ったからだ。

 

 

 

 

「ど、どういうことだ...お前が、ジョーカーな

のか?」

 

 

 

 

 

「私が...ジョーカー?

 

 

フフ...ハハハハハ」

 

 

 

 

 

 

剣崎の言葉を聞いた仮面ライダーカリスことマルオはかわいた笑い声をあげる。

 

 

 

 

「本当に私がジョーカーだったら...どれほど楽なことだったか」

 

 

 

 

剣崎はその言葉に違和感を覚える。

 

 

 

 

「なら何故お前がカリスラウザーを...」

 

 

 

 

「これはあくまで私が作り出した正規のカテゴリーAを使う最後の『ライダーシステム』だ。

 

 

 

 

そして『上杉風太郎』くん。なぜ君がジョーカーのことを?

 

勇也すらそのことは知らないはずだが」

 

 

 

「...!!」

 

 

 

「言えないか。どうやら秘密ごとはお互い様のようだ。

 

だが、君が何を知っていようと私がやることは変わらない」

 

 

 

 

「...黙れぇ!」

 

 

 

ブレイドはカリスに斬りかかる。

 

だがカリスはどこからともなく取り出した醒弓-『カリスアロー』でそれを受け止める。

 

 

 

 

そして2人は鍔迫ったまま、ベランダの窓を割って、そのまま落ちていく。

 

 

 

 

「上杉さん!!」

 

 

 

四葉は30階から落ちていった2人に驚き、自身もベランダに向かう。その際割ったガラスで足を軽く切ったがそんなことは気にならない。

 

 

 

そして見下ろすと、

 

 

 

 

ABSORB QUEEN

FUSIONJACK

 

 

 

 

FLOAT

 

 

 

ブレイドはジャックフォームに、カリスはフロートのカードを使うことで飛行能力を得て、空中戦を展開していた。

 

 

 

だがさすがにジャックフォーム相手では分が悪いのか、カリスが押され気味である。

 

 

 

「ここでお前を倒して、全てを聞き出してやる!」

 

 

 

「そうか。やってみたまえ」

 

 

 

焦る剣崎とは対照的に、マルオは落ち着いている。

 

 

「ウェイ!」

 

 

 

「クッ...」

 

 

 

ブレイドの鋭い斬撃が、カリスを襲う。なんとかカリスもカリスアローで裁くが、大きく吹き飛ばされる。

 

 

しかしカリスは吹き飛ばされた勢いを利用して、ブレイドから逃げようとする。

 

 

 

「逃がすか!!」

 

 

『マグネットの力で引き寄せてやる!』

 

 

ブレイドはカードホルダーを展開する。

 

 

 

だがそれはカリスの計算の内だった。カリスはブレイドがカードを手に取るより先に、カリスアローにカリスラウザーを装着する。

 

 

そしてブレイドが『マグネット』のカードをラウズしようとしたその時、

 

 

 

 

SHUFFLE

 

 

 

 

 

カリスが『シャッフル』のカードをラウズした。

 

その効果により、2人の手に持ったカードが入れ替わり、カリスの手に『マグネット』が、ブレイドの手に『シャッフル』が渡る。

 

 

 

突然のことに「何!」と驚くブレイド。

 

 

 

 

すぐにカリスは交換したカードを使用する。

 

 

 

『MAGNET』

 

 

 

その効果により、ブレイドはカリスに引き寄せられていく。

 

 

カリスは一気にブレイドに接近すると、ブレイドの持つラウザーから『ある1枚のカード』を奪い取る。

 

 

 

「確かに返させてもらったよ。それではまた会おう、『上杉風太郎』」

 

 

カリスは剣崎から奪ったカードをしまうと、新たに2枚のカードをカリスアローに装着されたカリスラウザーにラウズする。

 

 

 

DRIL

TORNADO

《スピニングアタック》

 

 

 

 

カリスは体に風をまとい、ブレイドにドリルのようにグルグルと回りながらキックを食らわせる。

 

 

 

「ウェア!!!!」

 

 

 

 

その一撃にブレイドは為すすべもなく、蹴り飛ばされ、地面に激突し、その変身は解除された。

 

 

 

カリスはそのままフロートの効果でどこかへと飛び去って行った。

 

 

 

 

「ま......て......」

 

 

剣崎は立ち上がろうとするが、地面に叩きつけられた衝撃で、言葉も発することが出来ない。

 

 

 

既に飛び去ったカリスに手を伸ばす。だがその手は届かない。

 

 

 

 

「上杉さん!!大丈夫ですか!?」

 

 

 

 

四葉と五月の2人は直ぐにマンションのエレベーターを使って1階に降りてきていた。

 

 

お互いに非現実的な光景を見せられながらも、体が勝手に動いていた。それは剣崎に対する信頼からか。

 

 

 

「上杉さん!しっかりしてください!上杉さん!」

 

 

「よ、つば...いつ...き...」

 

 

「待っててください!すぐに救急車を呼びますから!」

 

 

五月はポケットからスマートフォンを取り出し、119番に通報しようとするが、手が震えてしまい上手くいかない。

 

 

 

 

「早く、早くしないと...!上杉さんが...!上杉さんが!」

 

 

 

 

五月は涙目になってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だ。その程度の怪我なら『これ』で十分だ」

 

 

 

 

 

 

RECOVER

 

 

 

 

 

 

その音声と共に、地面に倒れ伏す剣崎に、銃を向ける者がいた。

 

 

 

 

 

「あ...あなたは...」

 

 

 

 

「すまねぇな、五月ちゃん。うちの息子が迷惑かけちまって」

 

 

 

 

四葉と五月が見上げると、そこにはブレイドとよく似た姿をした赤いライダー-『仮面ライダーギャレン』が立っていた。

 

 

 

「ま、まさか...あなたは、上杉さんのお父様何ですか!?」

 

 

「上杉さんに銃を向けて何をする気なんですか!?」

 

 

「安心してくれ、別に傷付けようとしてるわけじゃない。

 

自分の子供をそんな風に扱える父親が......

 

いてたまるかよ」

 

 

 

『ギャレン』という仮面で顔を隠しながら、勇也はどこか悔しそうに呟く。

 

 

そしてその声を聞いた四葉は恐る恐る剣崎の前から退く。

 

 

 

「風太郎、今治してやる」

 

 

 

そう言ってギャレンは引き金を引いた。

 

 

 

銃弾は剣崎の体に撃ち込まれる。だがその銃弾は彼の体を傷つけるどころか、『リカバー』の効果により、その身体を癒していった。

 

 

 

 

「う...おれ、は...」

 

 

 

「上杉さん!傷は!?」

 

 

 

「平気だ...」

 

 

 

そう言うと剣崎はよろよろと立ち上がる。

 

 

 

「どこへ行くつもりだ」

 

 

 

ギャレンは剣崎の前に立ち塞がる。

 

 

 

「あいつの...元へ...」

 

 

 

 

それだけ言うと剣崎は再びガックリと崩れ落ちる。

 

 

リカバーは傷を治すことは出来ても、昨日のカテゴリーAとの激戦までに蓄積された疲労を回復させることは出来ない。

 

 

 

 

剣崎はさっきまでのように意識を真っ暗なところへと落としていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

 

ブレイドを撃退し、まんまと逃げ仰せたカリスはある場所に着地する。

 

そしてカリスラウザーを着脱し、腰に巻かれていたベルトを外すことで、彼は元の『中野マルオ』の姿へと戻る。

 

 

そこは木々が生い茂っており目の前には崖があるだけで、一見何も無いように見える。

 

 

だがマルオはそこにあることが分かるように地面に埋め込まれたレバーを引く。

 

 

すると目の前の崖の岩が音を立てて開き、そこには鉄製の扉が現れた。

 

さらに彼は扉の横の基盤にパスコードを打ち込み、開いた扉の中へと入っていく。

 

 

 

 

〜研究室〜

 

 

「お帰りなさいませ、旦那様」

 

 

 

江端が恭しく頭を下げる。

 

 

 

マルオは徐に先程剣崎から奪った1枚のカード、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スパイダーアンデッド』が封印された♣︎のカテゴリーAをポケットから取り出す。

 

 

 

「これでカテゴリーA、バックルと共に回収が完了した」

 

 

 

「おお、それでは...」

 

 

 

「あぁ。これらは一旦『彼女』に預けてみようと思う。『真の適合者』が完成するまでの中継ぎではあるが、1つでも駒は多い方がいい。

 

幸い風太郎くんの尽力のおかげで蜘蛛も完全に封印されている。これ以上余計なことはしないだろう」

 

 

 

「かしこまりました。ではすぐに旦那様のご期待に添えるよう、『真の適合者』の器の完成を進めて参ります」

 

 

 

 

「頼むよ。

 

そしてもう1つ、『新世代ライダーシステム』の方はどうなったかな?」

 

 

 

「そちらは既に完成しております」

 

 

 

 

江端がそう言うと研究者の1人がカートをマルオの目の前に押してきた。

 

 

 

 

そこにはレンゲルバックルとよく似たバックルが三つ、そしてその前にはラウズカード-『カテゴリーA』も置かれていた。

 

 

 

「こちらが右から順に、『ラルクバックル』、『グレイブバックル』、『ランスバックル』です。

そしてそれらに対応した『人口アンデッド-ケルベロス』が封印されたカテゴリーAでございます」

 

 

 

 

「適合者は?」

 

 

 

 

「既にこちらで数人に目星を付けております」

 

 

 

「そうか、ありがとう。では適合者になれる可能性がある者を調べ、その中で最も融合係数が高い者に『新世代ライダー』となってもらおう。

 

とにかく今は一体でも多くのアンデッドを封印してもらわなくては」

 

 

 

「しかし旦那様...私には些か懸念があります」

 

 

 

「何かな?言ってみてくれ」

 

 

 

江端は少し申し訳なさげに口を開く。

 

 

 

「私には『新世代ライダー』が『あの老人』、そして上杉風太郎を倒すことが不可能のように思えます。

 

 

特にあの上杉風太郎には、何か...言葉では形容しがたい何かを感じています」

 

 

 

 

「江端、それには僕も同感だ。

 

僕自身もあの上杉風太郎くんには『何か』不思議なものを感じている。彼には我々以上に何かしらの秘密があると見ている」

 

 

 

 

「やはり...」

 

 

 

 

「だがそれも心配ないさ」

 

 

 

 

マルオは振り返る。

 

 

そこには外から見えない人ひとり入れる大きな培養ポッドがあり、彼はそこに手を触れる。

 

 

 

 

 

 

「『真の適合者』になる彼女なら必ずブレイドに勝つことができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

零奈の遺伝子を最も色濃く受け継ぐことになる六人目の姉妹、

 

 

 

 

『六月』なら、必ず......」




まず、謝罪から。

とうとう今回仮面ライダーカリスを出すことになったのですが、どうしてもその設定上、色々な原作設定を改変せざるを得ませんでした。

♡2には出番があるのでまだ封印されていないので、変身解除方法はデンオウベルトのようにベルト部分を本体から外すと解除できるという方式にしました。

申し訳ありません。


そして色々考えた結果、劇場版の新世代ライダーは出すことにしました。出来ればブレイドライダーは全員出したかったのでこのような形で出せて嬉しいです。



そしてなんとムッキーが出てしまいました...
ちなみに完全にオリキャラですので、何卒よろしくおねがいします。


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第33話:新たなる『変身者』

かなり久々の投稿になりました。

原作である程度の情報が出揃ったのでこれからまたぼちぼちと上げていきたいです。


「と、まぁ今話したことが全てだ」

 

 

勇也は中野家のソファにどっかりと座りながら自身の秘密を赤裸々に四葉と五月に話した。

 

四葉は黙ったまま何も語らず、五月は何が何だか分からず混乱する頭を必死に整理していた。

 

 

先の戦いで気を失った剣崎は五月の部屋のベッドで寝息をたてている。

 

勇也が撃った『リカバー』のおかげで傷はひとつも残っていない。

 

 

「あの...勇也さん」

 

 

「ん、どうした四葉ちゃん」

 

 

話すことがなくなった勇也は四葉の呼びかけに応える。

 

 

 

 

「一つ、聞きたいことがあるんです」

 

 

 

 

「何だ?俺が答えられることならなんでも答えるぞ」

 

 

 

その言葉を聞いた四葉は大きく深呼吸をすると、その澄んだ瞳をもって勇也に問いかけた。

 

 

 

 

 

「私が...上杉さんの代わりになることはできますか?」

 

 

 

「......!四葉!」

 

 

 

 

五月が絶叫する。だが当然だ。今の四葉の発言はあまりに荒唐無稽すぎたのだ。

 

 

 

 

「だって...私たちに隠れていつも1人で上杉さんは傷ついてたんだよ!

 

それを私は何も知らないで...

 

家庭教師をしてる時に携帯がなった時の上杉さんの顔、五月だって覚えてるでしょ!」

 

 

 

「そ、それは...」

 

 

 

五月は言葉に詰まる。

家庭教師をしてくれている時はあんなに優しい笑顔を向ける剣崎は、アンデッドサーチャーという戦いの始まりを告げる鐘がなった途端に険しい表情を浮かべていた。

 

 

四葉や五月はその顔が何かを隠しているような気がしていても、それに対して一歩踏み入れて聞くことが出来なかった。

 

 

 

「もう...上杉さんが傷付くのを、見たくないよ。だから...私が...私があの人の代わりになる!」

 

 

四葉は急に立ち上がると剣崎が寝ている五月の部屋へと向かう。

 

 

「四葉!」

「四葉ちゃん!」

 

 

五月と勇也が静止しようとするも四葉は止まらない。

 

 

そして彼女ベッドの上で目を閉じる剣崎の元に辿りつく。

 

 

四葉はちらりと剣崎の顔を見る。

 

 

 

 

ついに四葉は五月の机に置かれていたブレイバックルとカテゴリーAを手に取る。

 

 

 

「これを、ここに入れれば...」

 

 

 

「四葉ちゃん!やめろ!」

 

 

 

勇也と五月が部屋の前に駆けつけた。

 

 

だが四葉は既にブレイバックルを腰に装着している。

 

 

 

 

「上杉さん、安心してください。もう、あなたに痛い思いはさせません!」

 

 

 

 

四葉は先程の剣崎を真似て、ブレイバックルのレバーを引っ張る。

 

 

 

 

TURN UP

 

 

 

「ぐっ...!?」

 

 

四葉を制止させようとした勇也だったがブレイバックルから展開されたオリハルコンエレメントに弾き飛ばされた。

 

 

 

 

「私も、上杉さんのように......!」

 

 

 

 

 

 

「だめ......だ...」

 

 

 

 

 

 

 

四葉の動きが止まる。

 

 

 

 

 

「う、上杉、さん...」

 

 

 

 

四葉の腕はベッドで横になっている剣崎によってがっしりと掴まれていた。

 

 

 

「四葉...それはお前がやることじゃない。

 

戦う選択をしたのは俺だ。四葉に背負わせる訳にはいかない」

 

 

 

 

剣崎はそう言うと四葉の腕を掴んだままベッドから立ち上がり、彼女の腰に巻かれていたバックルを取り外す。

 

 

 

そして剣崎はバックルをしまうと、ヨロヨロと部屋の外へと歩き出す。

 

 

 

「どこへ...行く気だ」

 

 

勇也が尋ねる。

 

 

「一花のところだ。今から探して謝らなきゃならない」

 

 

 

「上杉さん!」

 

 

 

「これは俺の問題なんだ!

 

彼女を傷付けたのは俺だ!一花に対してはっきり謝らなきゃいけないんだ!」

 

 

 

 

そういって剣崎はあてもなく部屋を飛び出る。

 

 

「まってください!上杉さん!」

 

 

 

四葉も剣崎を追いかけるように部屋を出ていった。

 

 

 

 

マンションには勇也と五月だけが残される。

 

 

 

 

「くっそ...俺ももう年かな...今ので腰打っただけでこのザマだ...」

 

 

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 

 

「一応な。にしてもあの畳...外側からぶつかるとあんなに痛てぇのか...」

 

 

 

勇也はそう言って力なく笑っていた。

 

 

 

 

 

 

〜エントランス〜

 

 

 

よろめきながらエントランスを出る上杉にようやく追いついた四葉。

 

四葉が部屋を出た時、既に剣崎はエレベーターに乗ってしまっていたため、四葉は階段を駆け下りて来ていた。

 

 

 

「ハァ...ハァ...ちょっと上杉さん!止まってください!

 

 

一花の居場所だって分からないのに、どうするつもりなんですか!?」

 

 

 

「なら駆け回って探すさ。四葉は部屋に戻っていた方がいい。

 

 

いつまたお前達の父親が俺を狙ってくるか分からないんだ」

 

 

 

「それでも...放っておくことなんてできませんよ!」

 

 

 

 

「四葉...でも俺は一花を探さなきゃ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ、フータローくん。私はここにいるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

剣崎と四葉は驚いたように右後ろを振り向く。

 

 

 

そこには天使のような笑みを浮かべて剣崎を見つめる一花の姿があった。

 

 

 

ただ、彼女の身を包むのはとても天使とは言い難い真っ黒なスーツだった。

 

 

 

 

「い、一花!よかった、俺、一花をさがしてたんだ!

 

 

この間は本当にすまなかった。俺が

 

 

 

 

 

 

「フータローくん、私のことを探してくれていたの!?」

 

 

 

 

「あ、あぁ。この間のこと、謝らなきゃって思って」

 

 

 

 

「ううん!もういいの、そんなこと」

 

 

 

 

 

剣崎は申し訳なさそうに、一花はそんなことどうでもいいように眩い笑顔で会話を続ける。

 

 

 

だが四葉はそんな一花に言いようのない不安感を得ていた。

 

 

 

 

確かに目の前の人物は一花だ。それは間違いない。

 

 

だが、彼女の中の大切な『何か』が決定的に欠けているような、そんな気がしていた。

 

 

 

 

 

「そ、そうか。でも一花に何も無くて本当に良かったよ」

 

 

 

「うん!私はもう大丈夫だよ!

 

 

それよりどうしたの?フータローくん。なんかすごい疲れているように見えるけど」

 

 

 

 

「いや、俺は平気だ。それより

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平気じゃないよ」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

思わず剣崎は慄く。

 

 

一花の表情は先ほどの眩いばかりの笑みとは大きく異なっていた。

 

 

 

それは『無』。今、彼女の顔には凡そ表情と呼べるものがなかった。

 

 

 

 

 

「やっぱりフータローくん、追い詰められてたんだ。

 

もう疲れたよね?もうやめたいよね?

 

 

 

だから、私と何処か遠くへ逃げよ?」

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

剣崎は言葉が出ない。

 

今目の前にいるのは確かに一花だ。

 

 

だが、彼女の中には本来あるべき『何か』が欠落している。

 

 

 

 

 

「な、なにを...」

 

 

 

 

 

 

「やっぱりだ。フータローくん苦してんでたんだ。

 

 

 

安心して。すぐに助けてあげるから」

 

 

 

 

 

一華は感情の篭もっていない笑みを浮かべながら剣崎に近づく。

 

 

 

 

「な、何言ってるんだ一花!俺にわかるように説明してくれ!」

 

 

 

 

「大丈夫。ちゃんと二人きりになれたら説明してあげるから、今は大人しく私と来て。

 

 

 

 

 

 

嫌って言っても......力ずくで連れていくから」

 

 

 

 

 

すると一花はスーツの懐に手を伸ばし、『あるもの』を取り出す。

 

 

 

 

「そ、それは...!」

 

 

 

 

 

 

一花の手に握られているもの。

 

 

 

 

 

それは紫と金を基調としたバックル。

 

 

 

 

レンゲルバックルだった。

 

 

 

 

 

「な、何故レンゲルバックルが!?

 

 

カテゴリーAは完全に封印したはずなのに...」

 

 

 

 

 

そして一花はレンゲルバックルを手から離す。

 

するとレンゲルバックルはまるで意思を持つかのように一花の周りをぐるりと回り、彼女の腰に装着される。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、フータローくん。

 

 

 

 

ほんの少しだけ痛いかもだけど、我慢してね。

 

 

 

『変身』」

 

 

 

 

一花の目の前に現れたスピリチュアルエレメントは彼女に迫り

 

 

 

 

 

 

 

 

その身体は『仮面ライダーレンゲル』という鎧に覆われた。

 

 

 

 

 

「何で...何で...」

 

 

 

 

「フータローくん。動かないでね」

 

 

 

 

 

レンゲルは剣崎に1歩ずつ歩み寄っていく。だがそこから殺気は感じられず、ただひたすら不気味な雰囲気を纏っている。

 

 

 

 

 

 

「やるしか...ないのか!」

 

 

 

 

 

剣崎はブレイバックルを装着する。

 

 

剣崎は後ろを振り返り、目で四葉に隠れているよう促す。

 

 

四葉も剣崎と同様に思考が動転していたが、なんとか彼の意思を汲み取りマンションの近くの茂みに身を隠した。

 

 

 

それを確認した剣崎はバックルのレバーを引っ張る。

 

 

 

 

 

「......『変身』!」

TURN UP

 

 

 

 

 

剣崎は出現したオリハルコンエレメントに勢いよく突っ込み、『仮面ライダーブレイド』に変身する。

 

 

 

そしてその勢いのままレンゲルに組み付く。

 

 

 

 

 

「どうしたんだ一花!何があったんだ!答えてくれ!」

 

 

 

 

 

「だからそれは二人きりになれたら教えてあげるって」

 

 

 

 

「それは、できない...

 

俺には今、守らなくちゃいけないものがある!」

 

 

 

 

ブレイドは必死にレンゲルに組み付きながら訴える。

 

 

 

 

 

「そう.........

 

 

 

 

 

 

なら、こうするしかない!」

 

 

 

 

 

レンゲルは勢いよくブレイドを突き放すと、レンゲルラウザーでその身体を打ち据えた。

 

 

 

 

「カハッ......!!」

 

 

 

 

ブレイドは突然のことに受身も取れず、地面に突っ伏す。

 

 

 

 

 

 

「大人しく来てくれればこんなことせずに済んだのに......

 

 

悪いけど、少しだけ眠ってもらうね」

 

 

 

 

レンゲルは右手に醒杖を携えたまま地面に伏しているブレイドに歩み寄る。

 

 

ブレイドは立ち上がろうと四肢に力を入れるが、崩れ落ちてしまう。

 

 

 

 

『ダメだ......連戦のせいで、もう、体力が...』

 

 

 

 

度重なる戦いに加えカリスに怪我を負わされた今の剣崎に、最早戦う力はほとんど残されていなかった。

 

 

 

 

『...今ここで、倒れる訳には...』

 

 

 

 

 

 

レンゲルが倒れるブレイドにゆっくりと手を伸ばす。

 

 

 

 

だがブレイドは一向に立ち上がることは出来ない。

 

 

 

 

そしてついにレンゲルがブレイドを掴もうとしたその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこからか放たれた銃撃がレンゲルを襲った。

 

 

 

 

 

 

否、正確には銃撃ではなくボウガンからの狙撃。

 

 

 

 

 

不意の一撃はレンゲルに直撃し火花をあげる。

 

 

 

 

 

思わずよろめくレンゲル。

 

 

 

 

 

ブレイドも何が起きたかわからず、倒れたまま後ろを振り返る。

 

 

 

 

 

 

そしてその視線の先にいたのは

 

 

 

 

 

 

「何だ...何なんだ!

 

 

 

あの、ライダーたちは!?」

 

 

 

 

 

 

 

剣崎がまだ見た事もない三人の『仮面ライダー』が立っていたのだった。

 

 

 

 

 

 



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第34話:決意の『引鉄』

ゼロワン面白いですね

ジオウは個人的にめちゃくちゃ好きな作品でした。

平成ライダーは最高です。


「何のつもり...?

 

あなたたちは誰なの?

 

なんで私の邪魔をするの?」

 

 

 

レンゲルは自身を妨害したボウガンを構える赤いライダーを睨む。

 

 

 

ブレイドも隙を見て何とか立ち上がると、近くにあった木に寄りかかる。

 

 

 

 

「私の邪魔をするなら...消えて」

 

 

 

レンゲルがラウザーを構えて三人のライダー達に突撃する。

 

 

 

 

 

それを見て真ん中にいたライダー-『グレイブ』がようやく口を開く。

 

 

 

 

「『ランス、ラルク』。君たちはレンゲルを。『ブレイド』は僕が抑える」

 

 

 

「...了解」

 

 

 

「分かったわ」

 

 

 

グレイブの言葉に緑のライダー-『ランス』は渋々と、赤のライダー-『ラルク』は淡々と頷く。

 

 

 

「オラァっ!」

 

 

 

ランスが勢いよく長槍-『ランスラウザー』を振り下ろす。

勢いよく突進したレンゲルと激しくラウザー同士がぶつかり合う。

 

 

 

そこをラルクがボウガンで地面を撃ち、レンゲルを牽制する。

 

 

 

ラルクとランスがレンゲルと戦う一方で、グレイブは気にもたれかかっているブレイドの元へと向かっていた。

 

 

 

「やぁ。仮面ライダーブレイド

 

 

いいや、上杉風太郎くん。まさかこのような形で相見えることになるとはね」

 

 

 

「...誰だアンタ」

 

 

「そうか、この姿では分からないか。

 

では、変身を解かせてもらうよ」

 

 

 

そう言ってグレイブはグレイブバックルを閉じる。

 

スピリチュアルエレメントがグレイブの体をくぐり抜けその体を元の姿へと戻した。

 

 

 

そしてそこに立っていたのは

 

 

 

「これで分かってもらえたかな?上杉風太郎くん。」

 

 

 

上杉風太郎と同い年くらいの男だった。

 

 

髪は綺麗な金髪であり、端正な顔立ちである、まさに好青年と呼ぶに相応しい男だった。

 

 

 

「お、お前は...」

 

 

「思い出してくれたかな?

僕の最高のライバル、上杉風太郎くん」

 

 

 

 

 

 

「だ、誰だ?」

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

戦っているレンゲルたちを他所に金髪の青年とブレイドの間では一瞬だけ気の抜けた空気が流れた。

 

 

 

「ふ、ふざけるな!武田だ!『武田祐輔』だ!

 

学校の成績ではいつも1位を競い合ったライバル同士だろう!?」

 

 

 

「そ、そうだっけ?

 

おっかしいなぁ...人の名前は必ず覚えるようにしてたんだけど...」

 

 

 

 

場の空気に似合わぬやり取りを繰り広げる2人に、レンゲルと戦闘を続けているランスが叫ぶ。

 

 

 

 

「おい武田!いつまで漫才やってんだコラ!

 

早くそいつを連れていかねぇと...」

 

 

 

 

「余所見しないで!」

 

 

 

 

一瞬何かを言いかけたランスに、レンゲルの一撃が降り注がれる。

 

だが何とかラルクがそれをカバーする。

 

するとランスは再びレンゲルに向き直り槍戟を浴びせる。

 

 

だが武田もランスの言葉を聞いて冷静さを取り戻したようだった。

 

 

 

「おっと僕としたことが。

 

こんなおしゃべりなら君を連れて帰ったあとでいつでも出来ることだ。

 

まずは先にやることをやらなくてはね」

 

 

武田はまたグレイブバックルを取り出すと、カテゴリーA-『ケルベロス』を装填し、腰に装着する。

 

 

 

「『変身』」

OPEN UP

 

 

 

彼は再び仮面ライダーグレイブの姿に戻る。

 

 

 

「話はあとだ。まずは君に来てもらわなくてはならない」

 

 

 

グレイブはブレイドへの距離を詰めていく。

 

 

 

 

「ま、待ってくれ!俺は今ここを離れる訳には行かないんだ!」

 

 

「なにか特別な理由でもあるのかい?」

 

 

 

グレイブは一旦歩みを止める。

 

 

 

 

 

だがその時だった。

 

 

 

 

「グオッ!」

 

「キャア!」

 

 

 

 

ブレイドとグレイブの間にランスとラルクが吹き飛ばされてきた。

 

 

 

彼らが飛んできた方を見ると、そこにはジャックフォームとなったレンゲルの姿があった。

 

 

 

 

「...邪魔しないで。

 

彼は私が守るの。彼を連れていくだなんて...絶対許せない!」

 

 

 

レンゲルはその巨腕を用いてグレイブを攻撃する。

 

 

 

「そうかい。だがこちらも引き下がる訳には行かなくてね!」

 

 

 

グレイブはそれを躱すと腰からグレイブラウザーを引き抜き、レンゲルに斬り掛かる。

 

 

 

レンゲルはその剣戟を片腕でガードする。

 

 

 

レンゲルとグレイブの間で激しい攻防が繰り広げられる一方、

 

 

ブレイドは目の前にいるライダー-ランスとラルクと向き合っていた。

 

 

 

「ッ...」

 

「...」

 

 

2人のライダーは言葉を発することなく、だがどこかやるせないと言った様子でブレイドを見つめている。

 

 

 

「た、頼む!俺の話を聞いてくれ。

 

 

さっきここにカリスというライダーが攻めてきたんだ。

 

次にあいつが来たら、今度は俺以外の人間に危害が及ぶかもしれない...

 

 

だから俺はここで...

 

 

 

 

 

「ハァ!!」

 

 

 

 

そうブレイドが言いかけたところでランスが鋭く槍を突き刺そうとする。

 

 

ブレイドはすんでのところで回避に成功した。

 

 

 

 

「...俺達だってな......

 

やりたくてこんなことやってるわけじゃねぇんだ...」

 

 

 

「な、なら!」

 

 

剣崎はどこかで聞いたことのあるような声の主を説得しようと試みた。

 

だが

 

 

 

 

「けどよ...

 

こっちにもお前と同じで守らなきゃいけない人がいる...

 

 

だから大人しく捕まりやがれ!」

 

 

 

 

ブレイドの声はランスに届くことは無かった。

 

それでもブレイドは諦めず、次にラルクの方に訴えかける。

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

ラルクのボウガンは既にブレイドを捉えていた。

 

 

 

 

 

「そうよ...

 

 

私にも守らなきゃいけないものがあるの...

 

 

何よりも大切なあの子たちを......

 

 

私は......!!!」

 

 

 

 

『MIGHTY』

 

 

 

 

ラルクは『MIGHTY』のカードをラルクラウザーにラウズした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのために私は...この道を選んだのよ!」

 

 

 

 

 

そう告げて引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

「なにっ...!」

 

 

 

 

 

 

ボウガンから放たれた高エネルギー弾はブレイドに直撃し、その体は壁に叩きつけられた。

 

 

 

そしてブレイドは強く頭を打ち、その変身は解除されてしまい、剣崎は力なく地面に横たわった。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

『俺は...俺は...』

 

 

 

剣崎の意思は既に暗闇の中に沈みかけていた。

 

 

 

視界はぼやけ、体に力は入らない。

 

 

 

彼は目の前の『光』に必死に手を伸ばそうとする。

 

だがその手は決して『光』に届かない。

 

 

 

 

 

『俺は...守らなくちゃ...いけないんだ...』

 

 

 

 

 

どこかも分からない真っ暗闇の中で、目の前に映る『光』に手を伸ばし続けた。

 

 

 

 

『俺は...人間として...仮面ライダーとして...みんなを、守らなくちゃ...いけないんだ...』

 

 

 

 

そしてその手が落ちそうになったその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かが『剣崎』の腕を掴んでいた。

 

 

 

 

 

 

『選手交代だ。

 

 

これから少しの間だけだが、アンタは休め』

 

 

 

 

『剣崎』はその声の主を見る。

 

 

 

視界はぼやけているが、その輪郭をうっすらとだが捉えることが出来た。

 

 

 

 

それは既に見慣れた姿だった。

 

 

 

目の上で切りそろえられた黒髪に、長身痩躯なその輪郭は、『剣崎』がこの世界で誰よりもハッキリと認識できるものだった。

 

 

 

 

そして『剣崎』の意思は今度こそ本当に暗闇の中に落ちていった。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時にラルクはボウガンを手から落としてしまう。

 

 

 

「私は...私は...」

 

 

 

ラルクは両手で自身の顔を覆う。

 

まるで今自分が行ったことを見ないようにするかのように。

 

 

 

「あ、あぁ...あ...」

 

 

 

そしてラルクがブレイドを撃ち抜いた所を見ていたレンゲルはワナワナと震え出す。

 

 

 

次の瞬間レンゲルは無言でラルクの元へ突っ込んでいた。

 

 

 

ジャックフォームの剛腕がラルクを襲う。

 

しかしその前にランスが背後から槍を叩きつける。

 

 

だが

 

 

 

「邪魔!!」

 

 

 

「ガハッ!」

 

 

 

 

レンゲルに鬱陶しげに吹き飛ばされた。

 

 

 

 

「ッ...不味い...!」

 

 

 

グレイブがカバーに入ろうとするが間に合いそうもない。

 

 

 

 

 

ついにレンゲルがラルクを打ち倒そうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

どこからが放たれた銃弾がレンゲルを襲う。

 

 

 

 

「......誰」

 

 

 

 

 

レンゲルが辺りを見回す。

 

ほかのライダー達もその銃撃がどこから放たれたのか分からなかった。

 

 

 

 

 

「悪いがここは引き分けだ。

 

お前ら全員早く退け」

 

 

 

 

 

何者かが地面に降り立っていた。

 

 

 

 

 

「君は一体?

 

見たところ僕達と似たような力を持っているようだが...」

 

 

 

グレイブが剣を構えたまま問いかける。

 

 

 

 

 

問いかけられた者は手に持っていた銃を畳んで腰に戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺か?俺は

 

 

 

 

 

 

通りすがりの『仮面ライダー』だ。

 

 

覚えておけ」

 

 

 

 

 

 

 

その名は『仮面ライダーディケイド』。

 

 

 

この世界に再び『世界の破壊者』が訪れたのであった。




Aへの扉の方も投稿しました。
是非ご覧ください


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第35話:世界の『真実』

今回はこの世界の謎が解き明かされる超重要回のつもりなのですが...


自分が考えた内容を文字に起こすことが難しく非常に分かりづらくなってしまいました。

なので注意しながら呼んでもらえると幸いです。


今この場には、5人のライダーが対峙している。

 

 

 

自身の想い人、上杉風太郎を手に入れるためにその姿を『仮面ライダーレンゲル』に変えた中野家の長女-中野一花。

 

 

上杉風太郎を捕らえるために強襲をかけた『仮面ライダーランス』と『仮面ライダーラルク』。その2人を従える『仮面ライダーグレイブ』-武田祐介。

 

 

そしてその乱戦に割って入った『世界の破壊者』こと『仮面ライダーディケイド』-門矢士。

 

 

 

全員が黙って互いに警戒し合う。

 

 

少しの沈黙の後、その静寂を破るようにグレイブが問いかける。

 

 

 

「ディケイド...と言ったかな?

 

君はなんのためにここに?

 

それに、『世界の破壊者』というのは...一体どういう意味なんだい?」

 

 

 

グレイブの問いにディケイドは間髪入れず答える。

 

 

「俺がここに来た理由は一つ。

 

この世界の『歪み』を目にしたからだ。

 

 

そして俺は『世界の破壊者』だ。

 

それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

 

ぶっきらぼうな答えにグレイブは再び黙り込む。

 

 

「とにかく全員ここは退け。

 

 

もしどうしても戦いたいってんなら...

 

 

俺が相手になってやる」

 

 

 

ディケイドはあくまで毅然とした態度でそう告げる。

 

 

それを目の当たりにしたグレイブたち新世代ライダーは1歩後ずさる。

 

 

ディケイドから溢れ出るオーラが、彼らの本能に警鐘を鳴らす。

 

 

 

 

こいつはどうやっても勝てる相手ではない。

 

 

 

 

「...さっきから言わせておけば、舐めてんじゃねぇぞコラ...!

 

そんだけやる気なら俺が

 

 

 

 

「待ちたまえ、『ランス』。」

 

 

 

 

槍をかまえディケイドと一戦交えようとしたランスをグレイブが制止する。

 

 

 

「ここは彼が言う通り、僕達は退くとしよう。

 

 

相手の出方が分からない以上、積極的な戦闘は避けるべきだ」

 

 

 

「当然の判断だな」

 

 

 

グレイブの言葉にディケイドは少し得意げに告げる。

 

 

 

 

「ま、待ちなさい。私は...

 

 

 

「『ラルク』。任務に私情を挟むのは頂けないな」

 

 

何かを言おうとしたラルクだったが、これもグレイブに遮られる。

 

 

 

 

『それに...今殺気立ってる『彼女』の注意を逸らせたのは大きい。

 

 

ここで彼女に暴れられると、こちらも無事では済まなそうだ』

 

 

 

 

 

そしてグレイブの思惑通り、自身の意思でこの場に現れた一花はこの場に現れたディケイドをじっと見つめている。

 

 

今にも襲いかからんとする様子で。

 

 

 

 

「さぁ二人共、撤退だ。」

 

 

 

グレイブの声と共に、新世代ライダーたちは去っていった。

 

 

ランスは悔しそうに、ラルクはどこかやるせない様子ではあるが、それでも心のどこかでグレイブの意見を認めているようだった。

 

 

 

 

そしてこの場にはレンゲルとディケイドの2人が残される。

 

 

 

だがどちらもその場を去ろうという気は無くまさに一触即発という状況である。

 

 

 

 

「お前はどうする?『仮面ライダーレンゲル』」

 

 

 

「決まってるよ。あなたを倒してフータロー君と遠くに行くの」

 

 

 

「つまり...

 

 

 

 

退く気はないってことか」

 

 

 

 

 

そしてそうディケイドが言い終わるその前に、レンゲルが飛びかかる。

 

その剛腕を振り上げ、彼を殴り飛ばすつもりである。

 

 

だがディケイドはその拳を落ち着いて避ける。

 

 

 

「いきなり殴りかかってくるなんてな。

 

俺としてはもう少しお喋りを楽しんでも良かったが...」

 

 

 

「あなたと話すことなんて何も無い。

 

 

早く消えて」

 

 

 

レンゲルはレンゲルラウザーを取り出し、突きを放つ。

 

 

ディケイドはその突きをライドブッカーのソードモードで受け流す。

 

 

そして離れ際にガンモードに切り替えると、正確無比な射撃を放った。

 

 

だが

 

 

 

 

「ダメージは特に無し...か」

 

 

 

着弾したレンゲルの体からは白煙があがるのみで身じろぎひとつしなかった。

 

 

 

『今の私には誰も勝てない。

 

 

 

フータロー君のことを想えば想うほど、このバックルは私の体に力を与える。

 

 

 

このバックルをくれた『お義父さん』もそう言っていた』

 

 

 

 

 

そしてレンゲルは腰のカードホルダーから3枚のカードを取り出し、ラウズする。

 

 

 

RUSH

BLIZZARD

POISON

《ブリザードベノム》

 

 

 

レンゲルラウザーの穂先に冷気が集まる。

 

 

レンゲルはラウザーを構えると、ディケイドにそれを向ける。

 

 

 

 

「これで終わり。

 

さようなら、ピンクのライダーさん」

 

 

 

レンゲルはディケイドに向かってゆく。

 

 

だがディケイドは腰のライドブッカーを落ち着いて開く。

 

 

 

「そうだな...これで十分か」

 

 

 

しかしディケイドはそれに対して焦ることも無くライドブッカーから2枚のカードを選ぶ。

 

そしてカードをドライバーに読み込ませて言った。

 

 

 

『KAMEN RIDE KABUTO』

 

 

 

音声の後、ディケイドはその体を『仮面ライダーカブト』に変える。

 

直後、もう1枚のカードをドライバーに挿入する。

 

 

 

 

『ATTACK RIDE CLOCK UP』

 

 

 

 

その瞬間、ディケイドを除いてこの世界の全てのものが動きを止める。

 

 

 

否、性格には動いてはいるが、ディケイドからしたらそれは止まっているも変わらない速さだった。

 

 

 

ディケイドはライドブッカーでレンゲルラウザーを叩き落とし、さらにその体に一撃を食らわせる。

 

 

それを食らったレンゲルはクロックアップされた時間の中でゆっくりと吹き飛んでいく。

 

 

 

 

ディケイドはすぐに壁の近くで倒れ付す風太郎の体を抱えあげる。

 

 

 

「悪いな。お前の想い人は少し借りていくぞ。

 

話したいことがあるなら今度ゆっくりと話してくれ。

 

 

 

あと最後に一つ。

 

 

俺はピンクじゃなくて『マゼンタ』だ。

 

覚えておけ」

 

 

 

 

レンゲルには届かない言葉を放つと、そのまま高速でその場から離れていった。

 

 

 

 

『CLOCK OVER』

 

 

 

どこからかそんな音が聞こえると、流れる時間は元に戻る。

 

 

 

「ッ...!?」

 

 

 

レンゲルはハッとする。

 

 

目の前のピンクのライダーを倒すために氷の槍を放ったはずだった。

 

 

 

だが気付くと、その手にラウザーは無く自身は吹き飛ばされ地面に倒れていた。

 

 

 

そして辺りを見回す。

 

 

そこにはディケイドも上杉風太郎の姿もなかった。

 

 

だがそこに

 

 

 

「一...花...」

 

 

 

四葉が現れる。

 

 

 

「四葉。

 

 

フータローくんがどこに行ったか知らない?

 

 

知っているなら正直に答えて」

 

 

 

レンゲルはバックルを閉じ、その姿は一花に戻る。

 

 

 

「ねぇ!!!

 

 

一花一体どうしちゃったの!!

 

なんで一花が上杉さんのように『仮面ライダー』になってるの!?

 

 

教えて!!」

 

 

 

四葉はいつもとは違い、物凄い剣幕で叫ぶ。

 

 

 

「そんなことはどうでもいいの。

 

フータローくんはどこ?」

 

 

 

だが一花は四葉を視てはいなかった。

 

 

その眼は四葉の方を向いているが、さらにその奥を見ている。

 

 

今の一花にとっては、『上杉風太郎』以外ののことは眼中になかった。

 

 

 

「...知らないならいいよ。

 

自分で探すから」

 

 

 

一花はそう言って去ろうとする。

 

 

 

「待ってよ!一花!!

 

私たちは五つ子でしょ!

 

お母さんも言ってた!私たちは喜びも悲しみも五等分だって!

 

 

 

「それが何?」

 

 

 

 

 

いつの間にか雨が降り始めていた。

 

 

 

一花は髪も着ているくろいスーツも濡れ、四葉も頭のリボンがくたびれてしまっている。

 

 

 

 

 

「何もかも五等分?

 

フフっ......馬鹿言わないで。

 

 

なんでこの想いまで五等分しなくちゃいけないの?

 

そんなに仲良しこよしがしたいなら、あなた達4人でやればいいのに」

 

 

 

「いち...か...?」

 

 

 

四葉の目から静かに涙が流れる。

 

 

だがその涙も、一花のスーツのように真っ黒い空から注がれる雨水で流されてしまう。

 

 

 

 

「それとも何?

 

フータロー君をバラバラにして五等分にでもする?」

 

 

 

「そ、そんなこと一言も

 

 

 

「なら、黙ってて。

 

 

私は自分がやりたいことをするから。

 

 

私は彼と二人だけで誰もいないところで暮らすの。

 

それを邪魔するなら...例え姉妹でも、

 

 

 

 

許さないから」

 

 

 

 

 

一花はそれだけ言うと、今度こそどこかに去っていった。

 

 

 

四葉は地面にへたりと座りこんでしまう。

 

 

雨水が彼女を容赦なく叩きつける。

 

 

 

そしてその雨水は、四葉の姉妹との楽しい思い出を、パリンパリンと脆い硝子細工のように砕いていってしまう。

 

 

 

 

「どうして......どうして......

 

 

 

こんなことに...なっちゃったのかな......」

 

 

 

 

 

四葉は『あの時』を思い出す。

 

 

 

5年前。

 

 

 

京都で家族とはぐれた時に出会った、あの金髪の少年。

 

 

 

今はあの時と比べ物にならないくらい快活な好青年になっていたけれども、浮かべる笑顔は『あの時』と変わらない笑顔を。

 

 

 

 

そして弱々しくか細い声で呟いた。

 

 

 

 

 

「...助けて。上杉さん...」

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

「...ここは」

 

 

 

意識はまだはっきりしないままだか、なんとか体を起こす。

 

 

 

 

「ようやく目を覚ましたか。

 

 

相当疲れが溜まってたみたいだな。かなり眠っていたぞ」

 

 

 

目の前には、茶髪の男がたっていた。胸からはピンク色のカメラを提げており、どこか尊大な態度である。

 

 

 

「アンタは?」

 

 

 

「俺は門矢士。『世界の破壊者』だ。

 

そしてお前は、『上杉風太郎』。

 

 

 

いや、『剣崎一真』と言った方が正しいか?」

 

 

 

 

「......!!

 

なぜその名前を」

 

 

 

「やはりな。

 

お前が『剣崎一真』なら俺のことを覚えているだろう。

 

あの時は随分とやってくれたな」

 

 

 

士は、一度剣崎一真と戦っていたことがあった。

 

だがその時の士は本調子ではなく、簡単に剣崎一真に敗北してしまった。

 

 

 

門矢士は当初こう予想していた。

 

 

 

自分が訪れたこの世界こそが、当時自分を倒した『仮面ライダーブレイド』。

 

剣崎一真が元いた世界だと。

 

 

 

『ただ、実態はそんな生易しいものじゃなかったみたいだな。

 

 

この世界は、既に大きく歪み始めている』

 

 

 

そのことを確信している士は地面に座り込む風太郎に向き直る。

 

 

 

「『剣崎一真』。本当のことを話せ。

 

お前はその体...『上杉風太郎』という男の体を借りてこの世界にいる。

 

そうだな?」

 

 

 

「...なるほど。

 

 

正解だ。大したヤツだな、アンタ」

 

 

 

「当然だ。この俺に分からないことがあるはずないだろう」

 

 

「だが、『今』は違うな」

 

 

「何?」

 

 

 

士は眉をひそめる。

 

 

 

 

「確かにこの体は『上杉風太郎』という男だ。

 

 

そしてこの体に、『剣崎一真』という男の意識が入っていることも正解だ。

 

 

ただ今の俺は、

 

 

 

体も意識も正真正銘『上杉風太郎』だ」

 

 

 

「...!!」

 

 

 

「俺の中の『剣崎一真』はいま深い眠りについている。

 

あいつの意識は今途絶えている。

 

 

俺は『ある日』突然『剣崎一真』という男の意識を体に抱え込むことになった。

 

まぁ全て俺が許可したからなんだが...」

 

 

 

 

 

風太郎は目を細めて思い出すように語る。

 

 

 

 

「その日から『俺自身』はずっと眠っているような状態だった。

 

俺の意識が目覚めるのは、この体に乗り移った『剣崎一真』が眠っている時や、極度に疲労している時、

 

つまり『剣崎一真』の意識が弱い時だけ、俺は『目覚める』ことが出来ていた。

 

ただ、自分の体を動かすことは出来なかったけどな」

 

 

 

「だが、今は『剣崎一真』の意識が完全に途絶えていることで、『上杉風太郎』本人の意識が表に出てきている、

 

そういうことだな?」

 

 

「ご明察だ」

 

 

「ならばお前は『剣崎一真』の記憶を...」

 

 

 

「あぁ。もちろん引き継いでいるさ。

 

相当ハードな人生を送ってきたみたいだがな。

 

にわかには信じ難かったが...」

 

 

 

風太郎はそう言って地面を見つめる。

 

 

 

 

「なら、俺から警告させてもらう。

 

今この世界は大きく歪み出している。

 

本来のこの世界の在り方がある事をきっかけに小さな歪みを産み、今それはとてつもなく大きくなった」

 

 

 

「世界の歪み?」

 

 

 

「そうだ。

 

その歪みによって、この世界は今に滅びようとしている」

 

 

 

「世界が...滅ぶ?」

 

 

「ああ。

 

間もなくな。恐らくこのままだと世界は3日持つか持たないか...ってとこだな」

 

 

 

「本当なのか」

 

 

 

士は沈黙する。

 

その沈黙は肯定を表すのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「どうすればその歪みを直すことが出来る?」

 

 

 

 

「なぁに簡単だ。

 

歪みの原因を消してやればいい。

 

 

 

歪み原因が何か...知りたいか?」

 

 

 

「何だ。勿体ぶらず教えろ」

 

 

 

風太郎も士と同じようにぶっきらぼうに続ける。

 

 

士は「いいだろう」と言うと、あえて後ろを向き風太郎から視線を外す。

 

 

 

 

「この世界の歪みの原因。

 

それはこの世界に本来いたはずの『ジョーカー』が消えたことだ。

 

『ジョーカー』ってのは...まぁ『剣崎一真』の記憶を継承しているなら分かっているだろう?」

 

 

 

 

風太郎は答えない。

 

 

その沈黙は先程の士と同じように肯定を表す。

 

 

 

「この世界に『ジョーカー』がいない理由はひとつ。

 

 

 

それは『ある世界』に2人目のジョーカーが生まれたことで、本来この世界にいるはずのジョーカーの枠が無くなったからだ」

 

 

 

 

「......!!!

 

まさか、『ある世界』で生まれた『2人目のジョーカー』ってのは...」

 

 

 

 

 

 

 

「そう。

 

 

 

 

そのこの世界にあるはずだったジョーカーの枠を奪った、『2人目のジョーカー』。

 

 

 

 

 

 

それが、『剣崎一真』だ」

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

「報告は以上です」

 

 

 

「勇也が会った謎の『ライダー』がまた現れたか。

 

これ以上我々の邪魔をするならば対処する必要がありそうだ。

 

 

とにかくご苦労だった。

 

君たちは下がりたまえ」

 

 

 

『中野マルオ』は椅子に座り、机の上で手を組んだままそう告げる。

 

 

 

「失礼します」

 

 

 

短いやり取りを終えると3人の青年は部屋を出る。

 

 

 

 

 

「それにしても一体誰なんだろうね...

 

あのライダーは。

 

自分のことを『世界の破壊者』と言っていたが」

 

 

 

そういって青年のうちの一人、『武田祐介』は考え込む。

 

 

「キミはどう思う?『ランス』...

 

 

っと、もうその呼び方をする必要はなかったね。

 

『前田』くん」

 

 

「うるせぇな...

 

こっちはイライラしてんだコラ」

 

 

 

前田は右手に掴むランスバックルを睨むと、忌々しげに着ている服の内ポケットに突っ込む。

 

 

 

「俺は先に帰らせて貰うぜ。

 

この施設にいると窒息しちまいそうだ」

 

 

 

それだけ言うと前田はすぐにエレベーターを使ってビルから降りていく。

 

 

ここは街の一角にある大型のビル。

 

 

マルオが研究所と病院とは別に建てたものである。

 

 

 

「君はどうするのかな?

 

『中野二乃』くん」

 

 

 

武田が少し視線を下ろすと、そこには浮かない表情を浮かべて、両手に持っている『ラルクバックル』を見つめる二乃の姿があった。

 

 

「確かに上杉くんを撃ってしまったのは僕としても見過ごしがたいことだが、任務のためなら仕方あるまい。

 

 

僕自身もそこは割り切「うっさい!!!」

 

 

 

 

二乃が叫んだ後、廊下がシンと静まり返る。

 

 

二乃は肩を振るわせながら、目尻に涙を浮かべている。

 

 

 

そして何も言わず二乃は走って行ってしまった。

 

 

 

 

武田は困ったような顔になるが、彼も2人の後を追うように歩き出す。

 

 

 

『上杉風太郎...

 

 

君は変わってしまった。

 

 

まるで君がどこか遠く離れたところに行ってしまったように感じるね...

 

 

だが、彼には思い出して貰わなければ。

 

 

君の本当のライバルは、この武田祐介。

 

 

僕だけだということをね』

 

 

 

武田はグレイブバックルを一瞥すると、ビルにあるトレーニングルームへと向かっていった。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

二乃は1人で駅前を歩いていた。

 

 

 

別になにか目的があるわけでもなく、彼女はただ歩く。

 

 

 

『私は...どうすればいいの?

 

 

家族を守るために『アイツ』を撃って...

 

 

でも、結局みんなはバラバラのままで...

 

 

三久がレンゲルになってたことを聞かされたら、次は一花がレンゲルになってて...』

 

 

 

思考がこんがらがり、何をすればいいのかわからない。

 

 

 

「分からない...

 

 

前みたいに、解けない問題を教えてくれた時みたいに、私に教えなさいよ...バカ...」

 

 

 

そんな言葉が口から漏れたその時だった。

 

 

 

 

 

「キャーーーーッッッ!!!」

 

 

 

 

 

どこからか甲高い嬌声が響き渡る。

 

 

 

その声にハッとした二乃はすぐにその叫び声の元に駆けつける。

 

 

 

 

「ば、バケモノだぁ!!」

 

 

「助けてー!!」

 

 

 

人々は混乱し、駅前はごった返している。

 

 

 

 

するとそこには、カテゴリー4にしてハートスーツのアンデッド-『ペッカーアンデッド』がその鋭い刀と左指に装着されたナイフで人々を襲っていたのだった。

 

 

 

大人たちは我先にと逃げ出していく。

 

 

 

だが

 

 

 

 

「助けてー!ママー!!!」

 

「大丈夫!大丈夫よ!!!」

 

 

 

 

逃げ遅れてしまったのだろうか、小さな少女が母親に抱かれながら泣いて母に助けを求めていた。

 

 

 

娘を傷つけさせまいと母親は娘をぎゅっと抱きしめ、自身の背をアンデッドに向ける。

 

 

 

 

『助けなくちゃ!!』

 

 

 

 

二乃はすぐにポケットのバックルを取り出し、カテゴリーA-『ケルベロス』のラウズカードを装填しようとする。

 

 

だが

 

 

 

『な、何!?』

 

 

 

 

 

手が震えてしまって、思うようにバックルにカードを装填することが出来ない。

 

 

先程、剣崎を撃ち抜いてしまったという罪の意識が、彼女をライダーに変身させることを拒んでいた。

 

 

そうしているうちにも、アンデッドはギラリとした刃を親子に向け、1歩ずつ距離を詰めていく。

 

 

 

『お願い!動いて!

 

 

私は今戦わなくちゃいけないの!!!

 

 

私は......私は...!!!!!』

 

 

 

 

 

 

その時、二乃は初めて剣崎に助けられた日のことを思い出した。

 

 

 

アンデッドを前に何も出来ず、ただ尻もちをついて怯えていただけの自分を、その身を呈して守ってくれた『仮面ライダー』

 

 

 

『剣崎一真』のことを。

 

 

 

 

 

彼女は一度目を瞑ると、何かを決意したかのようにゆっくりと開く。

 

 

 

 

「そうよ!

 

私はあの時とは違う!

 

何も出来ずに怯えることしか出来なかったあの時...私を助けてくれた『アイツ』と同じ。

 

 

今の私は...『上杉風太郎』と同じ、

 

 

 

 

 

 

『仮面ライダー』よ!」

 

 

 

決意を固めた二乃は、ラルクバックルにカテゴリーAを装填するとそれを腰に装着する。

 

 

 

 

そして彼女は、誰かを守る覚悟を決めた『剣崎』と同じように、あの言葉を叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『変身』!!!」

OPEN UP

 

 

 

 

 

 

 

 

迫り来るオリハルコンエレメントにに自ら突っ込むと、右手に持ったボウガンでアンデッドを牽制する。

 

 

すぐに接近すると、アンデッドに蹴りを入れて吹き飛ばし、震える親子に優しく寄り添う。

 

 

 

「もう大丈夫よ。

 

 

早く逃げて」

 

 

 

「あ、あ...ありがとうございます!」

 

母親はそう言うと、娘の手を引いて逃げようとする。

 

だがその時、少女は『二乃』に

 

 

 

「ありがとう。かっこいいおねーちゃん」

 

 

 

とだけ伝えてその場を離れていった。

 

 

 

二乃は仮面の裏で微笑む。

 

 

だがアンデッドはすぐに立ち上がると、右手の刀をラルクに突き出す。

 

 

「ッ...!」

 

 

ラルクはそれを交わすと、突き出された右手をガッチリ掴み、膝蹴りを入れる。

 

 

怯むアンデッドの手を離さず、ゼロ距離でボウガンを連射する。

 

 

 

アンデッドはその一撃にたまらず吹き飛ばされた。

 

 

これ以上は不利だと判断し、飛んで逃げようとするペッカーアンデッドだったがラルクはそれを逃がすまいとラウズカードを使う。

 

 

 

「これで終わりよ!」

 

MIGHTY

 

 

 

 

ラルクは『MIGHTY』のカードを使うと、アンデッドに狙いを定める。

 

 

 

「そこ!」

 

 

 

 

発射されたエネルギー弾はアンデッドに直撃する。

 

 

「グガァァァァァ!!!」

 

 

 

アンデッドは叫び声を上げながら落下し、地面に叩きつけられる。

 

するとそのバックルが割れ、ラルクはブランクカードを投げる。

 

 

そこには『♢4 RAPID』と刻まれる。

 

 

 

ラルクは初めて『仮面ライダー』としてアンデッドを封印することに成功した。

 

 

中野二乃が『剣崎一真』と同じ『仮面ライダー』になった瞬間だった。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

「何となく分かってたようだな」

 

 

 

地下道では、士と風太郎が話を続けていた。

 

 

 

「『剣崎一真』の記憶を継承した時になんとなく...だな。

 

彼が世界を破滅に導く不死生物になったってのは事実として知ってはいたが、それがこの世界に影響を及ぼしていたことまでは...」

 

 

「そりゃそうだろうな。

 

別に『ジョーカー』がこの世界にいなくなったことはあくまで歪みの発端だ。

 

その歪みが大きくなったのはちゃんと理由がある」

 

 

 

すると士はばつが悪そうな顔をして、またそっぽを向く。

 

 

「どうした?教えてくれないのか?」

 

 

「.........」

 

 

 

そう問かける風太郎に対して士は何も答えない。

 

 

 

「頼む。教えてくれ。

 

俺は今真実が知りたい。

 

この世界の歪みが大きくなった原因、それは何だ?」

 

 

「...お前に覚悟はあるのか?」

 

 

「...何?」

 

 

士は改めて風太郎に向き直る。

 

 

だがその顔はとても険しいものである。

 

 

 

「真実を受け止め、自分自身で決断をする...

 

 

 

その覚悟がお前にはあるのか?」

 

 

 

 

「.........」

 

 

 

風太郎は息を飲む。士に先程までの余裕さはなく、まさに鬼気迫る表情である。

 

 

 

「俺にその覚悟があるのかどうか...まだ分からない。

 

 

 

けどな、真実から逃げ続けても何も始まらない。

 

 

この世界があと3日しかもたないってなら、尚更だ」

 

 

 

「ほう...

 

 

そもそもお前、『剣崎一真』が自分の体に入るのに自分自身納得したと言っていたが...」

 

 

 

「それは本当のことだ。

 

 

ある日突然どこからか『誰かの声』がしてな...

 

 

『お前の身体に『ある男』の意識を移したい』ってな。

 

 

突然のことに、俺も何が何だかさっぱりだったんだが...」

 

 

 

 

 

風太郎はその時のことを思い出しながら話していく。

 

 

 

 

「『ある男』はとても危険な状態だ、だからお前の助けがいる。

 

 

『誰かの声』がそう俺に告げた。

 

 

そして俺は咄嗟に『わかった』って納得しかけちまった。

 

 

その瞬間俺の意識は無くなった」

 

 

 

 

 

 

 

 

「...そうか。いいだろう。

 

なら全てを話してやろう

 

 

 

この世界は本来あるべき『ジョーカー』を失っただけではなく、もう1つある『矛盾』を抱えている。

 

 

 

 

 

 

その『矛盾』はお前だ。

 

 

『上杉風太郎』。

 

 

『剣崎一真』がお前の体に意識を移し、『上杉風太郎』となった。

 

 

そして今俺の前に立つ『上杉風太郎』の意思は本人のもの。

 

 

この世界に『上杉風太郎』が実質的に2人いるという形になっている。

 

 

だがそれは世界の在り方として『矛盾』している。

 

 

同じ世界に同じ人間が2人存在してはいけない、それが全ての世界の共通のルールだ」

 

 

 

 

すると士はゆっくりとライドブッカーを開き、『仮面ライダーブレイド』のカードを取り出す。

 

 

 

「同じ人間が同じ世界に二人いれば、どちらかが消える。

 

 

俺自身も同じ人間が同じ世界で鉢合わせ、片方が消える瞬間を目撃したことがある。

 

 

だがお前らはそれを片方の身体に2人の意識を介在させるという方法でスルーしている。

 

 

だが、それが世界の『矛盾』となってしまった。

 

 

 

いいな?よく聞け。

 

 

 

 

 

この世界の『矛盾』を消し、歪みを縮小させるためには、

 

 

 

 

『上杉風太郎』。

 

 

 

お前の意識が完全に消え失せ、『剣崎一真』が完全にこの世界の『上杉風太郎』となる。

 

 

それが条件だ」

 

 

 

 

 

「俺が.........消える......?」

 

 

 

 

風太郎は唐突に言われたことに思考が回らなくなる。

 

 

だが何とか必死に考えを整理する。

 

 

「待て。『剣崎一真』が俺自身にとって変わるよう仕向けた存在、それが...」

 

 

 

 

 

「そこまで分かってるみたいだな。

 

 

 

なら最後の答え合わせだ。

 

 

 

お前が聞いた『謎の声』の正体。

 

 

 

そいつは『統制者』。バトルファイトの管理者だ。

 

 

『統制者』は『ジョーカー』のいないこのバトルファイトを正式に行わせるために、『剣崎一真』という歯車を呼び寄せた。

 

 

 

『剣崎一真』ではなく、『上杉風太郎』がこの世界に存在を認められないのは『統制者』がそう決めたからだ。理不尽かもしれないがな。

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、覚悟を決める時だ。

 

 

 

この世界を守るために己自身を犠牲にしてもう一人の自分に世界を託すか、

 

 

 

 

世界とともに心中するか...

 

 

 

それを決めるのはお前だ、『上杉風太郎』」

 




はい、結局すべての元凶はねじれこんにゃくでした。

あいつ小説版やジオウでもそうですけどほんとろくなことしませんね...

まぁあいつほど黒幕に適任なやつもいないのでしかない気もしますが


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第36話:『切札』は自分だけ

久々の投稿です。


「俺は...俺は...」

 

 

「決めるのはお前だ、上杉風太郎。

 

それにまだ世界の崩壊が始まるまで3日はある。

 

それまでにしっかり考えるんだな」

 

 

 

伝えることを伝え終えた士は風太郎に背を向けると、そのまま歩き出す。

 

 

 

「あんた、なぜ俺にこんなことを教えた?」

 

 

 

「なぜ?どういう意味だ?」

 

 

 

「そのままの意味だ。

 

この世界が滅びることで何かアンタにデメリットはあるのか?

 

時空を超えることが出来るならアンタだけこの世界からほかの世界に逃げれば済む話だ」

 

 

 

 

そう尋ねる風太郎に士は背を向けたまま小さく笑う。

 

 

 

「俺は『世界の破壊者』だ。どんな世界だろうと滅びるか、滅びないかは俺が決める。

 

それを身勝手なルールで世界を壊そうとしているやつが個人的に気に食わなかっただけだ」

 

 

 

「...そうか」

 

 

 

「そういうことだ」

 

 

 

 

士と風太郎はその会話を最後に互いに逆方向に歩いていった。

 

 

 

 

そして士が向かった先には

 

 

 

 

 

「まったく...きみも嘘が下手だねぇ。

 

士」

 

 

 

「...海東。なぜお前が」

 

 

 

「当然だろう?僕は士がいる所にならどこだろうと現れるさ」

 

 

 

士の視線の先にいた男の名は『海東大樹』。

 

 

あらゆる世界の宝を探し求めており、その正体は士がディケイドになる前から『通りすがりの仮面ライダー』だった『仮面ライダーディエンド』である。

 

 

 

「それにしても君は嘘が下手だ。

 

 

自分が『世界の破壊者』だとか勝手に世界を壊すやつが気に食わないだとか...

 

そんなことは君にとって何一つ関係ないはずだ」

 

 

 

「何を根拠にそんなことを言っている?」

 

 

 

 

士は海東の横を通り過ぎつつ、海東に問掛ける。

 

 

 

それに対し士の方に振り向いた海東は飄々とした態度で答える。

 

 

「根拠なんて、君が『仮面ライダーだから』で十分だろう。

 

そしていま上杉風太郎の中に眠る『剣崎一真』だって『仮面ライダー』だ。

 

きっと彼も『仮面ライダーとして』自分自身の成すべきことを成すはずさ。

 

 

それに君はこれからどうするつもりなんだい?上杉風太郎の選択によってはこの世界が滅びてしまうこともありえる訳だが」

 

 

 

「どうなろうと俺には関係ない。

 

そうなった際に考えれば済む話だ」

 

 

 

「そうか。僕としては君と共に世界の滅びを迎えるのも吝かではないのだがね」

 

 

「お前と共に滅びを迎えるだなんて死んでも御免だ」

 

 

「全くつれないなぁ」

 

 

 

海東はそう悪戯っぽく笑うと、士の横に並ぶ。

 

 

 

「なぜついてくる?」

 

 

 

「どうせこの世界に一人でいても暇なだけさ。

 

この世界にめぼしいお宝は特になくてね。彼が選択をするまでは君と共に行動させてもらうよ」

 

 

 

「...勝手にしろ」

 

 

 

士はそうぶっきらぼうに応えると、海東と共に歩を進めていった。

 

 

 

───────────────────────

 

 

その頃士と別れた風太郎はどこへ行くわけでもなく彷徨い歩いていた。

 

 

 

『本当に、この世界は滅びるのか?

 

見た感じではこの街並みは特にいつもと変わらない。

 

 

この平和な世界が、あと3日で本当に...』

 

 

 

 

 

 

「何してんだ、こんな所で」

 

 

 

 

 

 

それは聞き慣れた声。

 

 

 

上杉風太郎という人間が生まれて初めて聴いたその声の主は

 

 

 

 

 

「親父.....」

 

 

 

 

上杉勇也。正真正銘の上杉風太郎の父である。

 

 

風太郎を探して走り回ったのか、息は少し乱れており、額には汗が滲んでいる。

 

 

 

 

 

「どうした風太郎。そんな湿っぽい顔して。

 

 

四葉ちゃんや五月ちゃんが心配してるぞ」

 

 

 

 

「.....今は一人にしてくれ。色々と考えたいことが

 

 

 

「風太郎、お前...なんか変わったな」

 

 

 

 

勇也を遠ざけようとした風太郎の言葉を遮る。

 

 

 

勇也の目は不思議そうに、かつどこか懐かしそうな目をしている。

 

 

 

「いや、変わったってよりは...戻ったのか?」

 

 

 

 

「な、なんの事かさっぱりだな。

 

とにかく1人にさせてくれ」

 

 

 

「そういう訳にはいかねぇな。またいつマルオ達が襲ってくるか分からねぇ。

 

 

そんな中お前だけ一人でいるのは危険すぎる」

 

 

 

勇也はいつもと違い、至極真剣な様子で風太郎に告げる。

 

 

 

 

「だ、だから今俺は

 

 

 

 

「そうだ。久しぶりに2人でゆっくりと話でもしながら歩かねぇか?」

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

「全員揃ったようだね」

 

 

 

 

市内にあるビルの最上階。

 

 

そこには中野マルオ、そして新世代ライダーとして選ばれた三人が集められていた。

 

 

 

 

「では、これより新しい任務を言い渡す」

 

 

 

「待って。その前に話があるわ」

 

 

 

「何だね?二乃くん。

 

任務の説明もある、手短に頼むよ」

 

 

 

「...なんで...どうして一花が変身していたの」

 

 

 

二乃は震えながら必死に言葉を紡ぎ出す。

 

 

 

 

 

「バックルとカテゴリーAは私が一花くんに渡した。

 

 

そしてレンゲルになることも一花くん自身が望んだことだ」

 

 

「だからって...約束が違うじゃない!

 

 

私は、『他の四人をライダーになることを強制しない代わりに私がライダーとして戦う』ことだったはずよ!」

 

 

 

 

二乃はマルオに詰め寄る。

 

 

 

実は二乃はラルクになる前、マルオとある契約を交わしていた。

 

 

 

二乃はある日マルオに呼ばれ、そこで『上杉風太郎』が『仮面ライダーブレイド』に、『中野三玖』がスパイダーアンデッドによって操られ『仮面ライダーレンゲル』になっていたことを伝えられた。

 

 

マルオは新世代ライダーを開発した際、そのうちの一つを姉妹の誰かに託すことを決めていた。

 

 

そして五つ子の中で最も他の姉妹を守ろうとする意志が強い二乃に白羽の矢を立てた。

 

 

案の定二乃はその条件を飲み、『仮面ライダーラルク』として戦うこととなった。

 

 

 

 

「確かに私は君と約束を交わした。

 

だが決して私は一花くんにレンゲルになることを強制した訳では無い。

 

 

力が欲しいと、彼女が強く私に望んだからこそ私は彼女の思いに答えた迄だ」

 

 

 

「そ、そんな屁理屈...私が許さない!」

 

 

 

遂に怒りが頂点に達した二乃はバックルを取り出すと、カテゴリーAを装填しようとする。

 

 

だが

 

 

 

 

「待ちたまえ。

 

今ここで揉め事を起こすことは、新世代ライダー部隊の隊長を任されたこの僕が許さない」

 

 

 

 

新世代ライダー部隊の隊長である『仮面ライダーグレイブ』、武田祐介がそれを制止する。

 

 

 

その静止により、少し冷静になった二乃はバックルをしまう。

 

 

 

「でも...私は認めないわ。私は『仮面ライダー』よ。

 

私は『仮面ライダー』として、守るべきものを守る。それが私の使命よ」

 

 

 

「そうか。ライダーとしての自覚があるようで何よりだ」

 

 

 

 

「...おい」

 

 

 

一向に進まないやり取りに業を煮やしたのか、武田の横に静かにたっていた、『仮面ライダーランス』である前田が声を上げた。

 

 

 

「テメェらの話は他所でやれ。

 

俺はライダーなんざとっとと辞めたいんだ。なにか仕事があるなら早く言え。

 

すぐにでもこなしてやる」

 

 

 

「辞めたいならいつ辞めてもらっても構わないのだがね」

 

 

 

「よく言うぜ。俺の家族や彼女を人質に取っておいて...」

 

 

 

 

 

 

そして武田や二乃と同じく『新世代ライダー』となった前田も、ライダーとなるための理由があった。

 

 

 

新世代ライダーの開発にあたって、アンデッドとの融合係数が高い数値を出す見込みがある人間に限って調査したところ、前田はその見込みがある人間の中でも、とりわけ高い数値を出したのだった。

 

 

それこそ剣崎や三玖には及ばないものの、ライダーとして戦うには十分な数値である。

 

 

そしてすぐに武田はマルオが手配した特殊部隊によって連れて行かれた。

 

そこで家族や、林間学校で出来た恋人に手を出さないことを条件に、彼はライダーになる運命を受け入れたのだった。

 

 

 

「すまないことをしたね。だがこちらもかなり切羽詰まっていてね。

 

汚い手段を講じざるを得なかったことに関しては謝罪しよう」

 

 

 

「...そんな謝罪が聞きたくて来たんじゃねぇよコラ」

 

 

 

「では話を本題に戻そう。

 

 

私が君たちに与える任務は他でもない、『あるアンデッド』を倒して欲しいのだ」

 

 

 

「アンデッド如き、我々新世代ライダーの敵ではありません。すぐにでも片付けましょう」

 

 

武田は自身満々にそう答える。

 

 

 

「頼もしいね。だがそのアンデッドはそう簡単に倒せるような敵ではないよ。

 

この私ですら、1度戦った際に手こずったからね。

 

その時に倒すことも出来なかったのだが」

 

 

 

「そんなやつの相手を私たちにさせるの?

 

パパが倒せなかったやつが私たちで倒せるの?」

 

 

「新世代ライダーの性能なら、連携をすることで必ず倒せるはずだ。

 

シュミレーションでも撃破可能という結果が出ている。

 

あとは君たち自身の技量次第だ」

 

 

「んで、そのアンデッドはどこにいんだ?」

 

 

「実は少しここから遠いところにいてね。

 

近辺までの移動手段はこちらから手配しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのアンデッドは、『熊虎』という旅館の店主で人間としての仮の姿をしているが、構うことなく倒してくれ」

 

 

 

 

 

 

「ッ.....!!!

 

パパッ!! そこって...」

 

 

 

二乃は思わず声を上げる。

 

 

 

「なんだ?知ってんのか?」

 

 

「だって...だって...そこは...」

 

 

 

二乃はプルプルと震えており、彼女の顔は青くなっている。

 

 

「そこにいるアンデッドは

 

 

 

『カテゴリーK』-タランチュラアンデッド。

 

 

 

 

私の妻の父、二乃くんたちの祖父だ」

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

風太郎と勇也は広場を歩いていた。

 

雨は弱くなったが止んだ訳ではなく、二人を濡らす。

 

 

「風太郎、覚えてるか?

 

まだお前がちっちゃかった頃、よくこの広場に来ただろう」

 

 

「そんなことも...あったな」

 

 

「あん時のお前はかわいかったぜ?

 

まだこーんなにちっこくてな」

 

 

そう言いながら勇也は自身の腰の辺りに手を伸ばす。

 

 

 

「あぁ」

 

 

「変わっちまったよな、色々と」

 

 

どこか気の抜けた返事をする風太郎に対し、切なげ目で空を見上げる勇也。

 

 

 

「何か、あったのか?

 

まぁそりゃ色々とお前には世話かけちまったわけだが...こんなオヤジで良ければ、何か話してくれ。

 

できる限りは力になるぜ」

 

 

 

勇也なりの不器用な優しさだった。

 

 

うまい言葉は言えないが、それでも自分なりの言い方で息子に向き合おうとする勇也の姿は、何よりも『父親』らしい姿だった。

 

 

 

 

 

「もし...さ」

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

「もし、自分の命と引き換えに大勢の人の命を救えるなら、親父は...なんの躊躇いもなく自身の命を捨てられるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

必死に絞り出した言葉だった。

 

 

 

風太郎はこの決断だけは自分自身の中に留めておこうと決めていた。

 

 

そもそも自分が命を捧げなければ、どのみち世界とともに自分自身も死ぬしかないのだ。

 

 

そうなれば自分が消えることが、犠牲を減らす最善の方法だと風太郎自身もわかっていた。

 

 

 

 

だがその1つの決断を出すことが、彼にとってなによりも難しい決断なのだ。

 

 

最善の方法が分かってるとはいえ、自分を育ててくれた父親に、愛する妹に別れを告げなければならない。

 

 

だが自身を犠牲にしなければ父親も妹も世界

も全てが滅ぶ。

 

 

 

 

 

 

何が正しいことか分かっているはずなのに、

 

 

 

上杉風太郎はその決断を出すことが、ただ単純に『怖かった』。

 

 

 

 

 

 

不安、恐怖、そして現実に対する怒り

 

 

 

様々な感情が綯い交ぜになって震える風太郎に、勇也は静かに答えた。

 

 

 

 

 

「当然だ。

 

 

 

俺はほかの大勢の人の命を救えるなら自分の命くらい捧げるさ」

 

 

 

「!!!!」

 

 

 

 

「そりゃあ死ぬのは怖いが、それ以前に俺は他の人が苦しむのはもっと嫌だな」

 

 

 

「何で...どうしてそこまで、見ず知らずの人間に対して献身的になれるんだ...」

 

 

 

「何で...って当然だろ。

 

 

 

俺は『仮面ライダー』だからさ」

 

 

 

 

 

「仮面...ライダー...」

 

 

 

 

「別にお前にまでそういう風に生きろとは言わねぇ。

 

 

 

 

自分の息子が辛い思いをして喜ぶ親なんざいねぇからな。

 

 

 

でも、俺は、自分自身は『仮面ライダー』としてそういう風にありたいと思ってる」

 

 

 

 

勇也はその目に確かな決意を宿してそう答えた。

 

 

 

 

 

『そうか...

 

 

ただ俺は、自分の意志とは関係なく流されていただけだった。

 

 

 

でも...』

 

 

 

 

風太郎は自身が持っていたバックルを手に取る。

 

 

 

そのバックルは『上杉風太郎』という人間が『仮面ライダー』であることの確かな証明だった。

 

 

 

 

「親父...」

 

 

 

「まぁ、そう暗い顔すんな!

 

 

さっきメールでらいはが飯作ってるってよ。

 

 

とりあえず四葉ちゃんや五月ちゃんも連れて一旦家に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念ですが、このまま帰らせるわけにはいきませんな。上杉勇也」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、辺りの空気が変わった。

 

 

 

異常なほどの威圧感に一帯が包まれる。

 

 

 

 

それほどの威圧感の正体とは

 

 

 

 

 

「...久しぶりだな、江端さん。

 

昔からアンタは変わんねぇな」

 

 

 

 

『江端』。中野家の執事で、初老の紳士といった風貌だが、その正体は最強クラスのアンデッド-『カテゴリーK』、コーカサスビートルアンデッドである

 

 

 

 

「そちらもお変わりないようで。

 

 

そして出会って早速ではあるが、あなたには消えてもらわなければならない。

 

上杉風太郎、あなたは我々の元に来てもらいます」

 

 

 

「親父...どうする」

 

 

 

「決まってるだろ。ここでむざむざやられる訳にはいかねぇ...

 

さっさと倒して、夕飯までには帰らないとな...

 

 

 

 

『変身』!!」

TURN UP

 

 

 

すぐさま勇也はギャレンに姿を変えると、江端に接近する。

 

 

 

「無駄なことを...

 

手荒な真似はしたくなかったのですが、仕方ありますまい」

 

 

 

そう言って江端もコーカサスビートルアンデッドに姿を変える。

 

 

 

「ハァッ!」

 

 

 

コーカサスビートルアンデッドに鋭い突きを放つギャレン。

 

 

 

だがその拳は、突然虚空に現れた堅牢な盾によって阻まれる。

 

 

「グッ...それなら!」

 

 

 

ギャレンはすぐさま回り込んで背中に蹴りを放つ。

 

 

 

だがその蹴りも盾によって阻まれる。

 

 

 

「無駄だ。あなたの攻撃は決して私に当たることは無い」

 

 

 

「何を...!」

 

 

ギャレンは距離をとると、ラウザーを抜き銃撃を放つ。

 

 

それすらも盾に阻まれるが、ギャレンは銃撃を放ったままカードホルダーを展開する。

 

 

そして2枚のラウズカードを使用した。

 

 

 

BULLET

ROCK

 

 

 

「これならどうだ!」

 

 

 

カードの効果をまとった銃弾が放たれる。

 

 

特に気にする様子もなく江端は盾を出現させ、銃弾は盾に着弾する。

 

 

 

だが

 

 

「ほぅ...」

 

 

「かかったな」

 

 

 

弾が命中した盾は一瞬のうちに石化してしまった。

 

 

 

「これなら簡単に砕けるぜ!」

 

 

 

ギャレンはまたも接近すると、石化した盾に飛び蹴りを浴びせる。

 

 

 

「無駄なことだと、言ったはずだ」

 

 

 

ギャレンの蹴りが当たる寸前に、石化したはずの盾はまとわりついた石を吹き飛ばして元の姿を現すとギャレンの蹴りを跳ね返した。

 

 

 

「ぐあっ...!

 

 

な、なぜ...」

 

 

 

「そのような下級アンデッドの力でこの盾を封じることなど不可能だ」

 

 

 

「どうすれば...って風太郎!!

 

どうした!

 

なぜ変身しない!?」

 

 

 

 

 

「え!あ、あぁ...」

 

 

 

勇也の声にハッとする風太郎。

 

 

剣崎の『記憶』を通して知識はあったものの、実際の戦いを前に足がすくんでいた。

 

 

 

『できるのか...『剣崎一真』ではない、この俺に!』

 

 

 

そして風太郎はどこか願うようにして、バックルにカテゴリーAを装填する。

 

 

 

「変身!」

TURN UP

 

 

 

風太郎の前に、オリハルコンエレメントが現れる。

 

 

それを前にゴクリと唾を飲む。

 

 

「やるしか...ない!うぉおおおおお!!!」

 

 

 

彼は決意を固めると、その光の壁に突っ込んだ。

 

 

風太郎はするりと光の壁を抜けると、その体は『仮面ライダーブレイド』に変化した。

 

 

 

 

「い、いけた!」

 

 

 

「風太郎、連携だ!

 

俺が盾を引き付けてる間にお前が本体を攻撃しろ!」

 

 

 

勇也の言葉に首を縦に降る風太郎。

 

 

 

ギャレンはすぐに銃撃をコーカサスビートルアンデッド目掛けて放つ。

 

 

 

当然その銃撃は盾に阻まれるが、そのおかげで今アンデッドを守る盾はない。

 

 

その隙を突いてブレイドはカードホルダーを展開する。

 

 

 

 

『確か...この組み合わせで』

 

 

 

KICK

THUNDER

《ライトニングブラスト》

 

 

 

 

すると2枚のラウズカードの力がブレイドの右足に集約される。

 

 

 

 

「うぉおおおおお!!!」

 

 

 

 

剣崎のようにスムーズな動きではないが、風太郎は我武者羅にキックを江端に放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン!」

 

 

 

「ガッ...」

 

 

 

 

 

 

しかし、コーカサスビートルアンデッドは右手に剣を出現させると、その剣を振るいブレイドを一撃で叩き落とした。

 

 

 

 

「風太郎!」

 

 

 

 

地面にぐったりと横たわるブレイドに駆け寄ろうとするギャレン。

 

 

 

 

「上杉勇也。あなたでは私に勝つことは叶いません」

 

 

 

 

そう告げると同時にアンデッドの剛腕をもってしてギャレンの突きを放った腕を掴みあげる。

 

 

そしてガラ空きの胴体に渾身の剣戟を浴びせた。

 

 

 

 

「カハッ...」

 

 

 

 

ギャレンは宙を舞うと、地面に倒れ込んだ。

 

 

ダメージの蓄積によって変身も解除されてしまった。

 

 

 

 

「親父ィ...」

 

 

 

風太郎は立ち上がろうとするも、崩れ落ちる。

 

 

 

 

「もはや立ち上がる気力すら見受けられない...

 

残念ですが、1度完全に眠ってもらいます」

 

 

 

 

 

 

 

そう言って、江端は右手に持つ剣を地面に横たわるブレイドに振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も無い真っ白な空間がそこにはあった。

 

 

 

 

前も、ここに来たことがある気がする。

 

 

 

 

 

 

『戻らなきゃ...みんなを、助けに...』

 

 

 

 

 

 

『彼』は歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 

だがどれだけ歩いても、何も見えてこない。

 

 

 

 

 

出口が、『答え』が見つからない。

 

 

 

 

 

 

『どうすれば、いいんだ』

 

 

 

 

 

 

『彼』は、膝をつく。

 

 

 

 

 

もう誰も、犠牲にしたくない。

 

 

 

 

 

だが、『世界』を救うためには、誰かが犠牲になる必要がある。

 

 

 

 

 

 

『そんなこと、俺には決められない!』

 

 

 

 

 

犠牲になるのが自分自身なら、彼は喜んでその身を差し出しただろう。

 

 

 

 

 

だが、今回ばかりは、自分を犠牲にしては何もことが進まない。

 

 

 

 

少なくとも、『彼』が消えれば事態は最悪の方向へ動くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

『彼』は、自身が抱える『戸惑いや迷い』を振り払えずにいる。

 

 

 

 

 

 

『ジレンマに叫ぶ声は』は、『不可能』を壊せずにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、諦めてしまおうか。

 

 

 

 

 

 

『彼』は、再び目を閉じようとした。

 

 

目を背けようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、もう1人の彼の意識が、

 

 

 

 

 

「出番だ、『仮面ライダーブレイド』は...アンタにしかなれない」

 

 

 

 

 

 

『上杉風太郎』が、『剣崎一真』にそうさせることを許さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『君は...上杉、風太郎』

 

 

 

 

「あぁ、そうだ。

 

 

剣崎一真」

 

 

 

 

 

上杉風太郎は小さな笑みを浮かべて、剣崎一真と向き合う。

 

 

 

その瞬間、剣崎は風太郎に向かって、頭を地につける。

 

 

 

 

「すまない!

 

許してくれ!

 

 

 

俺のせいで...俺が君の身体で、勝手なことをしたせいで、こんなことに...

 

 

 

俺は、俺は...何てことを」

 

 

 

 

 

剣崎はひたすらに詫び、そして恥じた。

 

 

彼は、自分が人間に戻れたことを喜び、そして謳歌した。

 

 

 

 

ただし、その身体は上杉風太郎のものであって、自分自身のものではない。

 

 

 

 

 

だが剣崎は、誰よりも人間を愛した男は、

 

 

 

 

自分が人間に戻れたことが嬉しくて、『仮面ライダー』として人々を護れることが幸せで、

 

 

 

 

 

その事実から目を背けた。

 

 

 

 

 

剣崎は、許されないことをしたと思った。

 

 

殴られても、蹴られても、自分に文句を言う資格なんぞない。

 

 

 

この過酷な運命に、本来無関係であるはずの青年を引き込んだのは、剣崎一真自身だった。

 

 

 

 

 

『何が、『仮面ライダー』だ...

 

 

俺には、人を護る資格なんてない。

 

 

俺は...

 

 

 

 

 

「それは違うな」

 

 

 

 

しかし、自責を続ける剣崎を、風太郎が制した。

 

 

 

 

「別に俺は、アンタが俺の身体で何をしたかなんて気にしちゃいない。

 

 

それに、昔テレビで見てた『ヒーロー』のようになれるのは、案外悪くなかったしな」

 

 

 

そう言って頬をかく風太郎。

 

 

 

そこで彼は咳払いをすると、改めて剣崎に向き直る。

 

 

 

 

「よく聞いてくれ。

 

 

もう、時間が無い。この世界は、あとわずかで滅びを迎えることになる。

 

 

このまんまじゃ、『統制者』の思う壷だ」

 

 

 

 

「統制者!?

 

なぜ君がそれを」

 

 

 

「悪い。それを話す時間はない。

 

『ある男』から聞いた。

 

 

 

とにかく、今アンタがすることは一つ。

 

 

 

 

剣崎一真、アンタが『上杉風太郎』になれ。

 

 

 

もう、アンタにしか、この世界は救えない。

 

 

『剣崎一真』というたった1人の男の存在が

、この滅びゆく世界を変えられる」

 

 

 

 

 

「せ、世界が滅びるって...

 

 

それに、俺が、『上杉風太郎』になるなら、キミは...」

 

 

 

 

 

「いいんだ。俺は、消えることになる...

 

 

だがもうそれしかない」

 

 

 

 

「いいわけないだろ!?

 

消えるなんて、絶対ダメだ!

 

 

君が消えたら、勇也さんや、らいはちゃんは...」

 

 

 

 

「それしかないんだ!

 

 

俺に...アイツらを護ってやることは、できない。

 

 

 

もうこの世界は、『剣崎一真』にしか救えない!」

 

 

 

 

 

風太郎は、剣崎一真を手を掴むと、無理やり引き起こす。

 

 

 

 

 

「思い出せ!

 

アンタは、『仮面ライダー』だろ!?

 

 

 

アンタは人間を護るため...

 

 

 

 

人間ではない『相川始』を救うために、戦った、『仮面ライダー』だろ?!」

 

 

 

 

 

「...!!!」

 

 

 

 

 

風太郎は震える手から、剣崎一真を離す。

 

 

 

 

 

「いくんだ、もう、本当に時間が無い。

 

 

ここでアンタがいなくなれば、俺だけじゃない、もっと多くの人間が消えることになる。

 

 

 

 

 

頼む...親父を、らいはを、みんなを、救ってやってくれ」

 

 

 

 

 

 

上杉風太郎は、涙を必死にこらえた。

 

 

 

 

彼は、怖かった。

 

 

 

自分が消えることが、大切な家族に会えなくなることが、

 

 

 

 

だが、ここで決断しなければ、世界が消滅した後できっと後悔し続ける。

 

 

 

 

 

だから、彼は己を犠牲にする道を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の『剣崎一真』と、同じように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かった。任せてくれ、上杉風太郎。

 

 

 

俺が、『キミ』になって、世界を必ず救ってみせる。

 

約束する」

 

 

 

 

 

 

「あぁ...約束だ」

 

 

 

 

 

 

それだけ言葉を交わすと、

 

 

 

 

剣崎一真は走り出す。

 

 

 

いつの間にか、この真っ白な世界に、1本の道が出来ていた。

 

 

 

 

 

 

剣崎がそこを走り出すと、彼が足をつけた道が、消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風太郎は、それを見送った。

 

 

 

 

 

 

『頼むぞ、剣崎一真。

 

 

きっと、『切札』はアンタだけが持ってる。

 

 

 

 

世界を救え...『仮面ライダー』

 

 

 

剣崎一真!』

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

「何だと...?」

 

 

 

 

 

コーカサスビートルアンデッドが振り下ろした剣は、

 

 

 

ブレイドの体を切り裂くことは無く、片手によって止められていた。

 

 

 

 

ブレイドは剣を掴んだまま、立ち上がる。

 

 

 

その力に、アンデッドも思わず身をそらす。

 

 

 

 

 

『何だ、一体何が起こっている!?

 

 

まるで、先程までの『上杉風太郎』とは別人だ!』

 

 

 

そしてブレイドは剣を掴んだまま、

 

 

 

「ウェイ!」

 

 

 

 

と拳をアンデッドに叩きつけた。

 

 

 

 

「ヌゥ...!!」

 

 

 

 

たった1発のパンチは、先程までどれだけ攻撃を食らっても効く素振りを見せなかった江端を、吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「俺は戦う!

 

人間のために、護るべき人のために!!

 

 

 

 

託された、想いのために!!!」

 

 

 

 

 

そしてブレイドは、吹き飛ばしたアンデッドに向かっていった。

 

 

 




久々の投稿になってしまいました。


実はこの間鎧武を見直し、YouTubeの方で2週目のキバを見ました。


次の作品はあるアイドルゲームをモチーフとして、キバか鎧武で書きたいです。

そしてこの作品もようやく最初に想定していたゴールまでの道筋が見えてきました。遅筆にはなりますが、引き続き応援お願いします。


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第37話:『人間』の願い

かなり期間が空いてしまいました。申し訳ありません。

ゼロワンもそろそろ終わりですね。セイバーの抽選は見事に外れたので店頭に並ぶ日を待ちたいです。

セイバーの装動が楽しみです。


「風太郎...お前...」

 

 

勇也は言葉を失っていた。

 

 

先程と打って変わって、戦況はこちらに傾いた。

 

彼らの攻撃を阻んでいた盾をブレイドは上手く躱しながら的確に剣戟を浴びせる。

 

 

「上杉風太郎...ここまでとは...!」

 

 

 

「ハァッ!!」

 

 

 

ブレイドとコーカサスビートルアンデッドが織り成す鈍い金属音が辺りにこだまする。

 

 

 

鍔迫り合いの形になるが、ブレイドの力が勝り江端は押し込まれる。

 

 

 

 

「なぜ、『カテゴリーK』である私を...ジャックフォームも無しに...」

 

 

「当然だ!

 

今の俺は...俺だけの力で戦っているわけじゃない!

 

 

託された思いがある!その思いに答え切るその時まで、俺は負けない!」

 

 

 

「ヌゥ...!」

 

 

 

「風太郎の動きが、変わった...」

 

 

 

先程とは打って変わって気迫溢れる戦いぶりに、勇也は驚く。

 

 

 

今のブレイドは一つの迷いもなく剣を振るっている。

 

 

そしてその一撃一撃が、確かにアンデッドにダメージを与えている。

 

 

 

カテゴリーKとはいえ、これだけの猛攻を受けてはタダでは済まない。

 

 

 

「ハァッ!」

 

 

 

「させん!」

 

 

 

 

ブレイドの剣戟を、黄金の盾で防ぐ。

 

 

 

「上杉風太郎...いや、仮面ライダーブレイド。

 

 

 

先程までとは『同一人物とは思えない』ほどに強くなられた...

 

 

だが、それでもこの盾を破ることはできますまい」

 

 

 

 

ブレイドとギャレンの攻撃を幾度となく受けても破れることのなかった黄金の盾がアンデッドの前に鎮座する。

 

 

 

だがブレイドはそれに一切臆することなく、ブレイラウザーを左手には持ち替え、右拳をグッと握りしめる。

 

 

 

「ハァァァァ...ウェア!!」

 

 

 

 

「なッ......!?」

 

 

 

そしてその固く握りしめられた拳は、

 

 

 

 

 

 

最強の盾をまるでガラスかのように、一撃で打ち砕いてみせた。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

『こちらグレイブ。指定ポイントに到着』

 

 

 

『俺もついたぞ』

 

 

 

『...私もよ...』

 

 

 

 

深い森の中に泊まる1台のバイク。

 

 

二乃はヘルメットを外すと息を着く。

 

 

 

相も変わらず、ここの空気は彼女の心を癒す。

 

 

 

『でも、私の気持ちは何一つ晴れない』

 

 

 

 

二乃はバックルを見つめる。

 

 

 

 

彼女ら新世代ライダーに与えられた指令、それは二乃ら中野姉妹の祖父-アンデッドを封印することであった。

 

 

 

「確か、『カテゴリーK』だったかしら...」

 

 

 

 

『......ク...ラルク!聞こえているかな?』

 

 

 

『っと、ごめん。ぼーっとしていたわ』

 

 

 

『しっかりしてくれ。今回の任務もそう簡単にはいかないだろう。

 

 

僕達はこれから3方向から旅館を目指す。

 

 

サーチャーも旅館の場所を示していることからカテゴリーKは間違いなく旅館にいるはずだ』

 

 

 

 

『そのまま旅館で合流し、一気にアンデッドを叩く...でしょ。そんなこといちいち言われなくたって覚えてるわよ』

 

 

 

『そうか。それなら結構』

 

 

 

『おい、さっさと移動しろやコラ。

 

俺だけ先に着いて待ちぼうけとか笑えねぇからな』

 

 

 

『もちろんさ。僕も移動を開始する。

 

念の為にこれ以降の通信は控えるようにしよう。サーチャーの確認を怠らないように』

 

 

 

『『了解』』

 

 

 

 

二乃はそれに頷くと、旅館へ向けて歩を進める。

 

 

 

 

『当然よ。やってみせるわ。

 

 

あの子たちは、私が守らなきゃいけないの』

 

 

 

───────────────────────

 

 

「っにしても本当に広い森だな...」

 

 

 

前田は二乃や武田との通信を終えると、さっさと歩き出した。

 

 

 

『確か、アンデッドが旅館から移動することを考慮して3方向から...だっけか?

 

んなことしなくても3人で一気に行ってぱっぱと終わらせればいいのによ』

 

 

 

 

彼は心で不満を漏らす。

 

 

『こんな森にくると、思い出しちまう。

 

 

あの日のこと』

 

 

 

 

彼の脳裏に浮かぶのは、1人の女の顔。

 

 

 

キャンプファイヤーの時に恋に落ち、一生守っていこうと心の中で誓った女の顔。

 

 

 

『そして、あの日のことも』

 

 

───────────────────────

 

 

〜数週間前〜

 

 

 

「...ここは...」

 

 

 

前田は目を覚ますと、その目に広がるのは真っ白な天井であった。

 

 

そして気づくと、彼の体はベッドにガッチリと固定されている。

 

 

 

「な、なんだこりゃあ...!

 

 

おい!誰だコラ!!

 

 

なんだって俺は縛られなきゃいけねぇんだ!

 

出てこいコラ!!」

 

 

 

 

『申し訳ない。『前田』くん。

 

 

少し窮屈だとは思うが、そのまま聞いてくれたまえ』

 

 

 

どこからか声が聞こえ、前田はキョロキョロと辺りを見回す。

 

 

すると壁にかけられたモニターが目に止まった。

 

 

 

 

「てめぇか!!

 

 

一体俺に何をするつもりだコラ!」

 

 

 

『すまない。随分と手荒い歓迎になってしまったことと、数日前の非礼については今ここで詫びよう』

 

 

 

「あの日...って!」

 

 

 

『思い出した!今からいつかは分からねぇが、いきなりスーツの男たちに囲まれて、付いてこいと脅された...

 

確か何人かは殴り飛ばしてやったが...』

 

 

 

 

『少し強力な睡眠薬を使うことになってしまってすまない。その年であまり強い睡眠薬は健康を阻害する恐れがあるからね』

 

 

 

「んなこたァどうでもいいんだコラ!

 

 

さっさと俺を解放しろ!」

 

 

 

『少し落ち着いてくれたまえ。

 

私は君にきちんと話したいことがあってここに運んだんだ』

 

 

 

『話したいこと...?』

 

 

 

 

そこで前田は、モニターに映るマルオから『仮面ライダー』の話を聞かされた。

 

 

人々の平穏を脅かすアンデッドという怪物を封印するために戦ってほしい。

 

 

 

そして前田の友人-『上杉風太郎』もかなり前から仮面ライダーとして戦っていることを。

 

 

 

 

「なるほどな...ってんな話にはいそーですかってなるかコラ!

 

なんで俺がそんなことを

 

 

 

 

『彼女を知っているかな?』

 

 

 

そう言ってモニターに映し出されたのは

 

 

 

「なっ...!」

 

 

 

自分の想い人が街を歩いている映像であった。

 

 

 

 

『これはリアルタイム映像だ。

 

 

彼女は常に我々の監視下にある』

 

 

 

「ッ!!てめぇ...!!!」

 

 

 

『もちろん彼女だけではない。

 

 

君の家族も、友人も、全て我々の監視下にあることを留意して貰いたい」

 

 

 

「ふざけやがって...!!

 

アイツに手ェ出してみろ!その瞬間てめぇをぶっ殺す!!」

 

 

 

 

 

 

 

『ならば、受け入れたまえ。

 

『運命』から逃れることはできない。

 

 

拒むことは許されない。受け入れるか、それが嫌なら破滅しかありえない』

 

 

 

 

 

その言葉を語った時、彼の顔が一瞬、わずかに歪んだ。

 

 

 

 

 

「...運命?お前、何を...」

 

 

 

「すまない。喋りすぎた。

 

さぁ、決断したまえ」

 

 

 

 

 

「俺は...

 

 

 

───────────────────────

 

 

『やめよ。

 

 

もう起きたことだ。

 

 

何がなんでも全部終わらせて、また平穏な日常を取り戻しゃいいんだ』

 

 

 

 

 

「っとそろそろ到着か」

 

 

 

前田が深い森を抜けると、そこにはかなり年季の入った旅館が鎮座している。

 

 

 

 

『やっぱり俺が1番先に着いたか...

 

 

さて今からどうす......!!』

 

 

 

 

振り向く前田。しかしそこには誰もいない。

 

 

 

「気のせいか....」

 

 

 

 

 

 

「何をしている」

 

 

 

 

 

「ッッッ!!!」

 

 

 

 

 

前に向き直った前田の目の前に現れた謎の影に、彼は思わず後ずさる。

 

 

 

よく目をこらすと、そこには細身の老人が立っていた。

 

 

 

 

「てめぇが...カテゴリーK」

 

 

 

「ほう...なぜそれを...」

 

 

 

「さぁ、なんでだろうな...」

 

 

 

 

『悪ィな、武田...中野...

 

 

報告なんかしてる暇はねぇ...

 

 

 

 

それに、中野にこのアンデッドを封印させるのは、あまりに酷だ...

 

 

 

だから、俺がやる!』

 

 

 

 

前田はバックルにケルベロスのラウズカードを装填すると、腰に装着する。

 

 

 

 

「『変身』!!!」

 

 

 

 

『OPEN UP』

 

 

 

前田は『仮面ライダーランス』に変身すると、長い槍を構える。

 

 

 

 

「お前も早くアンデッドの姿になりな。

 

 

その姿じゃやりにくて仕方ねえ」

 

 

 

「.........」

 

 

 

 

老人はランスをマジマジと見つめる。

 

 

 

そして、どこか呆れたように、悲しそうに口を開く。

 

 

 

 

「なぜお前のような優しき青年が...」

 

 

 

 

「あ?」

 

 

 

 

「お前は、その力を持つべきでは無い。

 

今すぐ、元いた所へと帰れ」

 

 

 

 

「何言ってんだてめェコラ!

 

 

あんまり舐めんじゃねぇぞ!」

 

 

 

「なら、なぜその槍を生身のワシに突き立てようとしない」

 

 

 

「テ、テメェ...

 

なら、やってやるってんだよコラ!」

 

 

 

 

ランスは雄叫びを上げて老人に突撃する。

 

だが老人はその鋭い突きを柳のようにするりと躱す。

 

 

「どこを狙っている。

 

覚悟が無いならここを去れ」

 

 

 

「ちょこまかと、避けんな...!」

 

 

 

ランスは槍を振り回すが、老人はカスる素振りすら見せない。

 

 

そしてランスが槍を大きく振り下ろしたその時、老人は槍を踏みつける。

 

 

 

「なっ......」

 

 

 

ランスは一瞬硬直する。

 

 

 

「フッ...!」

 

 

 

老人は息を吐くと、掌底をランスに打ち込んだ。

 

 

 

「......ッ......!!」

 

 

ランスは声を発することも出来ず、吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

「...ハッ......カハッ...い、今のは......!」

 

 

 

「丈夫なものだな、ライダーシステムとは。

 

 

だが、これでお前に勝ち目が無いことは分かるだろう。

 

これ以上痛い目にあいたくなければ、すぐに立ち去れ」

 

 

 

 

老人はランスに迫る。

 

 

 

老人が放つ気迫に、ランスは思わず慄く。

 

 

 

 

『なんなんだよコイツ...こんなやつと俺は戦おうとしてたのかよ...!』

 

 

 

 

 

「どうした、恐れで逃げることもできないか?」

 

 

 

 

「......に.........だ」

 

 

 

 

 

「なんだ」

 

 

 

 

 

「何、言ってんだ...

 

 

逃げるだと...?冗談じゃねぇぞコラ...

 

 

俺は逃げるわけにはいかねぇんだ......

 

 

 

 

大切なものを護るために...俺は、ライダーになったんだよ!」

 

 

 

 

『MIGHTY』

 

 

 

ランスは一瞬のうちにラウズカードを使う。

 

 

 

エネルギーが穂先に集中していき、

 

 

 

 

「喰らいやがれ!!」

 

 

 

 

「ッ!!!」

 

 

───────────────────────

 

黒い剣と白銀の剣が火花を散らす。

 

 

コーカサスビートルアンデッドとブレイドの戦いは熾烈を極めていた。

 

 

 

 

「ハァッ!!!」

 

 

 

「ヌゥッ...!」

 

 

 

ブレイドの懇親の剣戟を、コーカサスビートルアンデッドは必死に防ぐ。

 

 

 

身体能力などで見れば、アンデッドは完全にブレイドを上回っている。

 

 

だがブレイドの気迫と、それに呼応して上昇を続ける融合係数が更なるブレイドの力を引き出している。

 

 

 

「ウェイッ!!!」

 

 

 

「なに......?!」

 

 

 

 

そしてブレイドの大振りの斬撃が、異形の握る剣を吹き飛ばす。

 

 

 

ブレイドは吹き飛ばした剣を奪うと、二刀流の構えをとり、一気にアンデッドに突撃する。

 

 

 

彼は迫り来る突きを躱す。

 

 

 

 

 

「俺は!」

 

 

 

左手の大剣が、防御の構えをとるアンデッドの腕を無理やり弾く。

 

 

 

 

「絶対に!!」

 

 

 

右手のブレイラウザーがアンデッドの躰を横薙ぎに斬る。

 

 

 

「負けない!!!」

 

 

 

そして2つの剣が同時に振り下ろされ、異形の黄金の躰を斬り裂いた時、

 

 

 

パキリと音を立てて、アンデッドの腰に装着されたバックルが割れた。

 

 

 

 

「お見事です...上杉風太郎殿...いや、あなたはもう......」

 

 

 

「ッ......」

 

 

 

「あまり詳しいことは、存じ上げておりませんが...あなたと闘い、あなたの思いは痛いほど私に伝わりました」

 

 

 

「江端さん...」

 

 

 

「この人外の獣に、その名前で声をかけて頂くなど...」

 

 

 

『いつのことか...あまりに長すぎて、もう上手く思い出しかねます』

 

 

 

───────────────────────

 

 

『この私を、倒すとは...同じカテゴリーKとして誇りに思うぞ...』

 

 

 

『......』

 

 

 

『どうした...早く統制者を呼び寄せろ。

 

 

私を封印するんだ』

 

 

 

『いいや、君を封印はしない』

 

 

 

『なに...この私に、情けをかけるつもりか!!』

 

 

 

『情けなどかけるつもりは無いよ。

 

 

ただ、僕は君に協力して欲しいだけなんだ』

 

 

 

『協力...だと...

 

私を兵士にして、他のアンデッドを封印でもさせるつもりか...?』

 

 

 

『そんなことをするつもりはないさ。

 

そもそも君にやらせるくらいなら、僕がやった方が遥かに効率的だ。

 

 

 

 

手短に言おう。僕の使用人となれ、今日から僕達は人間になるんだ』

 

 

 

「...は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これで、ほぼ全て封印したか』

 

 

 

『助かったよ、『エバタ』。

 

 

『彼』との話も着いた。

 

 

こうして『ジョーカー』も封印することが出来た。

 

 

 

これで、『人間』の時代がくるはずだ。

 

 

これより地球は、人類の繁栄が始まる』

 

 

 

 

『『人間』を知りたいか...変わった奴だな、貴様は』

 

 

 

『どうだろうね。

 

 

でも不思議じゃないか?僕らアンデッドは皆それぞれ完全に異なる姿を持っている。

 

 

 

なのに、僕らを含む一部のアンデッドは『彼』と似た姿にもなれる。

 

 

なぜ『彼』だけが...『彼』は僕たちアンデッドの中でも、あまりに異質すぎる』

 

 

 

『その話も、既に聞き飽きた』

 

 

 

『そう言ってくれるなよ、エバタ。

 

 

 

きっと君だって心のどこかに引っかかっているはずだろう?

 

 

君だってその、白い髪を携えた、『人間』の姿を持っている。僕も同じさ』

 

 

 

『否定はせん......』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『旦那様。本日のご予定ですが...』

 

 

 

『悪いがキャンセルにして貰えないか?

 

 

零奈さんと会食をしにいくことになったんだ』

 

 

 

『...わかりました。こちらから説得しておきましょう』

 

 

 

『すまないね』

 

 

 

『旦那様』

 

 

 

『なんだい?』

 

 

 

『すっかり、『人間』らしくなりましたな』

 

 

 

『...戦いしか知らなかった自分にとって、このぬるま湯はあまりに心地よすぎたのさ。

 

 

君だって、そうだろう?』

 

 

 

『否定は、しません...』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今お嬢様たちを送ってまいりました』

 

 

 

 

『ありがとう』

 

 

 

 

『今日もお嬢様たちにお会いになるつもりは...』

 

 

 

『零奈さんに伝えておいてくれ。

 

 

今日も仕事で帰れそうにないと』

 

 

 

『...承知しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『すまない...また駄目だった...

 

 

また僕は、何かを間違えていたみたいだ』

 

 

 

『...............』

 

 

 

 

『もう僕らは、既に取り返しがつかない所まで来ている。それ以上は、戻れない。

 

 

だから、今度こそ...ここで、全てを終わらせよう』

 

 

 

 

『...旦那様』

 

 

 

 

『どうした?』

 

 

 

 

 

『もう...お休みになっては、いかがでしょうか?』

 

 

 

───────────────────────

 

 

「...旦那様」

 

 

 

「江端さん。

 

 

あなたは何を知っているんだ。

 

 

中野マルオは、一体何をしようとしているんだ?」

 

 

 

 

「それは...言えませぬ。

 

 

私はあくまで旦那様に仕える身...

 

 

旦那様の信頼を裏切ることは、何があってもできません」

 

 

 

 

「...そう、ですか」

 

 

 

「上杉風太郎殿...無礼を承知で、私めから一つだけお願いをしてもよろしいでしょうか?」

 

 

 

「お願い...?」

 

 

 

コーカサスビートルアンデッドは、バックルが割れているのにも関わらず、よろめきながらもゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

 

「どうか、旦那様を止めてあげて欲しいのです。

 

 

そして、どうか...どうか...お嬢様たちも、あなたの手で、お守りして頂きたい...

 

 

あなたの要求すら聞かず、こちらの願いを押し付けるなど道理が通らぬことは分かっております...ですが、そこを何とか...

 

 

 

 

「江端さん」

 

 

 

 

 

足を震わせ、立つのもやっとのアンデッドに、ブレイドはそっと近づく。

 

 

 

 

「俺はあの男が何をしようとしているかは、分からない。

 

 

でも、あの人がやることできっとこの世界は良くない方に動いてしまうことだけ分かる。

 

 

 

それに、一花も、二乃も、三玖も、四葉も、五月も、必ず護ります。

 

 

 

いいや、彼女たちだけじゃない。

 

 

 

この世界の戦えない、戦いたくないと思ってる全ての人を俺は守るつもりです。

 

 

 

俺は...『仮面ライダー』ですから」

 

 

 

 

『剣崎』は力強く述べる。

 

 

 

その言葉に嘘偽りはひとつもなく、全て彼の純粋な思いだった。

 

 

 

 

 

『あぁ...

 

 

このお方なら...旦那様が愛した、この世界を、お嬢様たちを、零奈様の想いを、きっと守り抜いてくださる』

 

 

 

 

 

「上杉風太郎殿、私から最後にもう1つだけお願いします。

 

 

 

 

私を封印してください。

 

 

きっと私の力は、あなたの支えとなる。

 

 

 

 

私も全身全霊で、あなたのためにこの身を捧げましょう」

 

 

 

 

「江端さん......

 

 

 

 

任せてください!」

 

 

 

ブレイドはホルダーを展開すると、スペードスートの最後のブランクカードを取り出す。

 

 

 

 

そしてそれを持って一歩進む度に、覚悟を決め、江端のという名の異形に向き直る。

 

 

 

 

 

「じゃあ、いきますよ」

 

 

 

 

「最後まで我儘を聞いていただき、恐悦至極にございます」

 

 

 

 

そして、ブレイドのもつブランクカードがアンデッドの身体に触れる。

 

 

 

 

 

光が放たれ、異形の姿がゆっくりと消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『旦那様。

 

 

少々暇を頂きます。

 

 

 

 

あなたが与えてくださったこの『江端』の名は、私にとって何事にも変え難いものでした。

 

 

 

 

江端という1人の『人間』として、あなたに仕えたことを、私は誇りに思います』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその場から光は消えて、

 

 

 

 

 

 

カードには『カテゴリーK-コーカサスビートルアンデッド』の力が宿ったのであった。

 




出来れば本編はあと13話くらいで終わらせたいです。


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