魔王倒したけどカズマが行方不明になった件 (誰かも知れない)
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終わりと始まり

体がフワフワして、なんだか心許ない。

 というか、何も見えないし聞こえない。

 

 ――そんな中、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 

 なんとなくそちらに向かってみる。

 そちらに行きたいと願うだけで、体が自然とそちらに向かった。

 夢心地というか、浮遊感というか。

 なんだろう、この不思議感覚は。

 

 呼ばれた気がした方へと向かうと、やがて目の前に、大きな光が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神、イリアス。後藤東さん、あなたはダンジョンの2層において亡くなりました。――辛いでしょうが、あなたの人生は終わったのです」

 

「…えっ?」

 

「あなたにはいくつかの選択肢が…どうかされました?」

 

「俺、佐藤和真ですけど」

 

 

 

「…えっ?」

 

『ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!??』

 

 

======================

 

 

 

「つまり、君はうちの担当の世界で死んだ訳じゃないと」

 

「そういうことです」

 

「…面倒なことになっちゃったね」

 

そう言って頭を抱えているこの目の前の美人の女は、イリアスという女神らしい。

なんか俺のいた世界とは違う世界の担当なんだとか。

要するにどうやら俺は魔王を倒すための爆裂魔法で死んだ後別の世界の天界に来てしまったみたいだ。

 

「でも、俺はどうして別の世界の所に来てしまったんですかね?」

 

それも目が覚めたら美人が目の前に居るという幸せオプション付きで。

…何か裏とかないよな?

 

「恐らくだけど、魂の転送担当がミスっちゃったんだと思うよ」

 

「あぁ、なるほどね」

 

魂の転送に失敗したのか、なら仕方ないね。

 

「…ってんな馬鹿なことがあるかッッ!!」

 

「ひえっ」

 

「どうしてこうも天界の連中はめちゃくちゃなことしかしないんだよこの無能どもがああああああ!!!!」

 

「ひえええ」

 

「俺の頑張り返せよぉ…魔王倒した俺の頑張りかせよおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

「ひええええええええッッ!!」 

 

…思わず怒りに任せて当たり散らしてしまったがこの人が原因ではないみたいだし、ここは一旦落ち着こう。

そう思い直してこの目に涙を浮かべながら赤べこのようにペコペコし続けるイリアスを宥めることにした。ついでに情報も欲しいし。

 

「…はぁ、ところで魂の転送失敗って結構起こるもんなんすか?」

 

イリアスに質問をぶつけると、涙を拭いながら答える。

 

「まさか、これは過去にも事例は殆どない現象だよ。確率的にいえば金のエンゼルが5回連続で当たる確率よりも低いんだよ?」

 

「どんな例え方だよ…」 

 

もっとましな言い回しあったろうに。

 

「まあ、こんな低確率を引き当てるのだからある意味ラッキーといってもいいくらいだね。なんか運気挙がるような壺でも集めたりしてたの?」

 

さっきまで泣いてたくせにニヤニヤしながら疑わしげな視線を送ってくるイリアス。

…こいつ切り替え早えな。

 

「いやいや、そんな迷信じみたことなんかしませんよ」

 

「ほんとにー?」

 

「むしろ俺が売りつけて金をむしり取ってやりますよ…帰ったらやろ」

 

新たな金儲けの糸口が見えたぞ!

まずはバニルに相談しよう。

 

「うわ」

 

明らかに嫌そうな顔をしよるぞこいつ。

…ちょっとムカつくからついでにこの女神のパンツもむしり取ってやろうかな。

 

「にしても俺のステータス、運の値だけは高いはずなんだけどなぁ…」

 

「んー…悪運も高かったのかな」

 

「悪運…あっ」

 

まさかアイツのせいか?

 

「何か心当たりがあるの?」

 

「いやー、内のパーティにはとてつもなく運と知力の低いあほんだら駄女神がおりまして…」

 

「その人に影響されちゃったのかもね…って女神!?」

 

「はい、ちょっとムカついたので異世界に行く特典として無理やり連れてきました」

 

「うわー、無理やり女神を…うわー」

 

…ちょっとムカつくからパンツむしり取ってやろうかな。あと一回「うわー」っていったらむしり取ってやろうかな。

 

「でもその女神って、アクアのことだよね?」

 

「ご存知なんですか?」

 

「まぁ、同僚だからね。流石に知ってるよ」

 

この人やエリスのようなしっかり者の同僚がいるのになんでアイツは…ハァ。

 

「…でも今の情報で分かっちゃうとかアイツどんだけ」

「し、仕方ないじゃない!仕事やらないやってもやらかす怠け者女神で有名だったんだから」

 

「うわー」

 

まじで駄女神なんだな、アイツ。

つか今までどうして女神やれてたんだよ。普通クビだろクビ。

 

「まぁ、女神としての力は強かったからクビにはならなかったみたいだけどね」

 

まあアイツのチートじみたステータスとスキルを見れば、女神たる力があることは否めないけどさ。

つかそうじゃなかったらアイツは職を失ってたわけか。

 

…良かったなぁ、アクア!

欠けてるのが運と知力だけで良かったなぁ…ウウッ。

いかんいかん、目から涙が…。

 

「ちょ、ちょっとなんで突然泣いてるの!?」

 

「いえ、気にしないでください。嬉し涙なんで…ウウッ」

 

「何に対するッ!?」

 

ま、天界での悲惨なアクアの事情はともかく、とにかく俺は魔王討伐特典を得るためにもさっさと帰りたいわけなんだが…

 

「そもそも俺はもとの世界に帰れるんですか?」

 

「あぁうん、普通に帰れるよ」

「マジすか!」

 

帰れるとしても絶対なんかの対価払わないといけないとおもってただけに、これは朗報だ!

 

「ただ別の管轄といってもそっちの世界とこっちの世界は遠いから連絡をとるのに時間がかかるけどね」

 

「時間がかかるって、どれくらい?」

 

「うーん、1ヶ月くらい?」

 

「1ヶ月!?」

 

嘘だろ!?

 

「そっちの管轄とは横の繋がりがあるわけではないからね。一度上に報告してから転送の許可取んないとならないんだよ」

 

「…天界も日本の企業体系と大して変わんねぇのかよ」

 

流石に日本の企業の方がましだけどな!

 

「ま、そういうことだから気長に待ってね!」

 

マジか、すぐには帰れないのか…

 

「…ハァ、分かりましたよ」

 

「あれ、随分素直だね。てっきり『待てるかこの無能どもめッッ!!!』ぐらいは言うかと思ってたよ」

 

昔の俺ならばそれぐらい…いやそれ以上に罵詈雑言をぶつけてたに違いない。

だが…

 

「まあ今までの経験からもうこういう事態には慣れっこですから。どうせこれ以上はどうにもならないって」

 

なんならあのろくでもない世界よりかは悪いことにはならないだろう。

 

「…苦労したんだね、君も」

 

「つーわけで寝床と飯よろしく」

 

さあちょっとした休暇だ!

羽休めするとしよう。

 

「まあ今回はこっちの落ち度だからね、ちゃんと用意しておくよ。こっちの世界のリゾート地に一旦送ってあげるからそこで長期休暇を楽しめばいいよ」

 

「いや布団と飯さえあればいいんで」

 

「いやいやいやお宿は必要でしょうお宿は」

 

「いや布団と飯とシュワシュワさえあればいいんで」

 

「なんか増えてるし…ってまさか君ここに住み着く気!?」

 

「じゃないと近況とか聞けないじゃないか。転送が早まる可能性だってあるかもしれないし」

 

「いやあったとしても伝えてあげるからッ!」

 

「それにいじる相手もいないし」

 

「そっちが本音かッ!」

 

「うるせぇ!さっさとオフトゥンと豪華な飯とシュワシュワ100杯用意しろよ!こちとらついさっきまでカツカツで休まらない生活してたし怠惰な日常を味わいたいんだよ!今回の件は全面的にそっちが悪いんだ、遠慮なんてしてやるかッ!!」

 

「態度悪ッ!」

 

「んでもってここでゴロゴロしながらたまにアンタをおちょくるグータラニート生活をおくってやらあ!!」

 

「うわー。紐宣言だ、うわー」

 

「…『スティール』ッッッ!」

 

「えっ、ひゃっ、なに…?」

 

「げっへっへっへっ!!お宝ゲットじゃあああああ!!!!」

 

「きゃあああああああああああ!!!!!!」

 

「なーっはっはっはっはっは!!!!うおらあああああああああああ!!!!!」

 

「返して!返してよ!私のパンツ返してくださいいいいいいいい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく祝・魔王討伐というこんなめでたいときに、カズマは一体どこに行ってしまったんでしょうか?」

 

「めぐみん…」

 

「さては私達を驚かすために隠れてるんですね?」

 

「めぐみん」

 

「いいでしょうカズマ、私は売られた喧嘩は買う主義ですから」

 

「めぐみん!」

 

「見つけ出したらとっちめてやりましょう」

 

「めぐみんッ!!」

 

「うるさいですよダクネス。さっきから人の名前呼んで、なんなんですかいったい?」

 

「…そろそろ帰ろうめぐみん、日が暮れてしまう」

 

「何言ってるんですかダクネス。まだここにカズマが隠れてるかもしれないんですから見つけ出してやらないと」

 

「案外テレポートで先に帰ってるかもしれないぞ?」

 

「それはあり得ませんよ。ここには爆裂魔法を使った形跡がありますから、カズマではテレポートする魔力も残ってないでしょうし。ならばここに隠れている可能性が高いのは間違いありませんッ!」

 

「しかし…」

 

「しかしもかかしもありません!とにかく今はカズマを探しましょう。手を休めてる暇はありませんよダクネス」

 

「…もうやめてくれ、めぐみん。もう手がボロボロじゃないか」

 

「そんなことはどうでもいいのです。とにかく瓦礫をどかさないと」

 

「どうでも良くなんか無いッ!それにもう体力も残ってないだろう!」

 

「別にこんな石ころ程度、わけありません」

 

「いいからやめろめぐみんッッ!!!めぐみんが今しなければいけないことはそのボロボロの体を治すことだッ!!」

 

「…ああもううるさいですね。そんなに言うんだったらダクネスは先に帰っててくださいよ。私一人でも見つけてやりますから」

 

「…もう本当は分かってるんだろめぐみん」

 

「…何がですか」

 

「分かってるはずだ、賢いお前なら」

 

「だから何がですか」

 

「爆裂魔法を使ってテレポートは出来ない。その上カズマが魔王と戦ってた場所は瓦礫の下だ」

 

「…」

 

「それにこの狭い空間で爆裂魔法を使ったんだ、巻き添えを喰らわないはずが無い」

 

「…」

 

「だから分かってるはずだ」

「…」

 

「分かってるだろう」

「…やめてください」

 

「いくらカズマでも」

「やめてください」

 

「生きている可能性など」

「やめてくださいッ」

 

「無いことぐらいッ」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!」

 

「…めぐみん」

 

「わかってますよ分かってるに決まってるじゃないですかそんなことッッッ!!」

「でもそれを認められると思いますかッ!?そんなの認められるわけないじゃないですかッッッ!!!」

「なんでカズマが死ぬんですかッ!!なんでこんな無茶したんですかッ!!なんで魔王も消えて平和も戻ろうとしているのにカズマは戻らないんですかッッ!!!」

 

「…」

 

「諦められるわけないじゃないですか…カズマが生きている可能性を、諦められるわけないじゃないですか」

 

「…あぁ、そうだな」

 

「だから私は帰りません。捜索をやめるつもりもありません」

 

「だめだ、一旦帰るぞめぐみん」

 

「嫌です」

 

「めぐみん」

 

「…嫌です…」

 

「帰ろうめぐみん」

 

「…嫌ッ…です…ッ」

 

「帰るんだ。自分の身を犠牲にしてでも魔王を倒してくれた、カズマのためにも…帰るんだ」

 

 

 

「ッ…ふ…ッ…!」

「…う…ッ…ぅゔッ…うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日魔王は滅び、世界に平和が訪れた…

 

 

 

 

 

佐藤和真という男の消失とともに。

 

 

 




コメディとシリアスの織りなす感動(?)のストーリー、ここに開幕。


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勇者、不在

身体がふわふわとして、心許ない。

視界は真っ暗で何も見えない。

 

「(懐かしい感覚ね)」

 

そのまま導かれるように歩き続けると、目の前に大きな光が──

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい、アクア先輩」

 

 

そこは見慣れた白い部屋。

そしてニコリと笑顔を浮かべ佇むエリス。

 

 

 

そのことが示す事実はたった一つ。

 

 

 

「私、死んじゃった…?」

 

 

 

「えっ?」

 

エリスのこの反応、図星ってことよね?

 

「なんでよー!女神なのに!私女神らのにッ!」

 

「ちょ、ちょっと、落ち着いて下さい!」

 

「これが落ち着けるもんですか!ていうかパーティでリザレクション使えるの私だけなのに、私が死んだ場合どうやって生き返ればいいのよ!?」

 

「いや、あの、別にアクア先輩は死んでしまったわけでは…あっ、ゆっ、ゆっらっさっなっいっでっくっだっさっいっ!」

 

私は掴んでいたエリスの両肩を放さずにさらに力を込める。

こっちは緊急事態なのっ!

なんたって魔王軍と戦闘中なんだから!

 

「どうするの!?ねぇどうするのッ!?まだこっちは魔王軍と戦闘中なのよ!?回復役であるこの私が抜けたら勝てっこなんてないじゃない!返してよ!ねぇ返してよッ!私を元の場所に返してッ!!」

 

「ちょっ、ちょっと、やめっ、でちゃうっ!お腹の中のものでちゃちいますからぁッ!」

 

エリスがなんか言ってるみたいだけど、何が言いたいのか全っ然わかんないわ!

ていうか今はエリスの言うことなんか気にしてる場合じゃないの!

 

「早くッ!さあ早くッ!」

 

「まってッ、ほんとにッ、おちつい…うぷっ」

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

「ですから、アクア先輩は死んでしまったわけでは無いんです」

 

なぜか口元を抑えながらおかしなことを言うエリス。

まさか私が揺らしすぎておかしくなっちゃったのかしら?

 

「そんなはず無いわ!だってここに来る直前に聞こえたのよ?ものっそい大きな爆発音!あれは爆裂魔法の音ねッ!女神の私が言うんだから間違いないわ!」

 

もうすっごい音だったんだから!

あまりにもびっくりして転びそうになったなんてことは、恥ずかしいから言えないけど!

 

「確かにそうですが…」

 

「じゃあもうその爆裂魔法に巻き込まれたに決まってるじゃない!ほらやっぱり死んでる…っていうか爆裂魔法ってことは私、めぐみんに殺されたの!?私めぐみんには何もしてないわよ!?なんで私仲間に殺されなきゃ行けないのよォッ!?」

 

確かに迷惑かけたり根に持たれるようなことはしたことあるかもしれないけど、何も殺すことはないじゃない!

私、めぐみんのこと仲間だと思ってたのにぃ!

 

「違います!違いますから!爆裂魔法を打ったのはめぐみんさんではありませんし、それで死んだのはアクア先輩ではありません!」

 

「ほかに誰が死んだっていうのよッ!?」

 

「魔王です!魔王が死んだんです!それに爆裂魔法を打ったのはめぐみんさんではなくカズマさんなんです!」

 

「へっ?…魔王?」

 

「はい魔王です」

 

「…ッ、いやいやいやカズマは冒険者よ?爆裂魔法なんて使えるはずが…」

 

「魔王を倒す直前に習得したようですね。スキルポイントはかなり余ってたみたいですから」

 

「えっ、じゃっ、じゃあまさか、ほんとに…?」

 

「はい!カズマさん、ひいてはアクア先輩達は無事魔王の討伐に成功されました!」

 

「っしゃあああああああああああああああああああ!!」

 

「…ですが、その」

 

「さっすがカズマさん!やれば出来る子だと思ってたわ!まあ女神であるこの私を連れているのだから当然の結果ね!それよりも魔王倒したんだがら報酬金凄い額になるわよね!?…宴会よ宴会!大宴会開催決定ねッ!シュワシュワ飲みまくるわよーッッ!!」

 

最近習得した新しい宴会スキルもお披露目しなきゃね!

待ってなさい私のファンの諸君!度肝抜いてやるんだから!

…あ、でもおひねりは受け取らないからそこんところよろしくね?

 

「あの、私の話を…」

 

「さあ早く来なさいカズマッ!魔王討伐の報酬で私を特典に選んでさっさと帰るわよッ!!」

 

…まさか日本に帰るなんて言わないわよね?

ちゃんと私達のお家に帰るわよね?

 

「ええと、そのカズマさんのことなんですが…」

 

「…なによ?カズマがどうかしたの?」

 

「その、爆裂魔法を打ってその爆裂に巻き込まれた後亡くなったはずなのですが、どうも消息が分からないんです」

 

消息が分からない?

…この子何言ってんのかしら?

 

「死んだんならここに来るはずでしょ?待ってたらそのうち来るわよ」

 

「いえ、そのカズマさんの魂が見当たらないんです」

 

「…ッ、なっ、なら実はまだギリギリ生きてて瓦礫の下にでも埋まってるんでしょ!虫の息のまんまじゃ流石に可哀想だから早く掘り起こして上げないと!」

 

ステータス自体は並以下のカズマのことだ、きっとゴキブリ並の生命力を持つカズマでも苦しいに違いない。

早く助けて上げないと!

 

「…それはあり得ません。爆裂魔法を至近距離で受けたのですから、髪の毛一本さえ残ってはいないでしょう」

 

「な、ならカズマはどうなったっていうのよッ!」

 

「原因はわかりませんが、もはや完全に消滅してしまったと考えるほかないかと…」

 

しょうめつ、ショウメツ…消滅?

 

「…ッ…そんな…!」

 

「…アクア先輩」

 

「…そ、そんなわけないじゃない!!どうせクズマさんのことだからどっかに隠れて私達の反応見て楽しんでるに違いないわ!!出てきなさいカズマッ!!今なら私のゴッドブローで許してあげるからッ!!カズマッ!カズマさー」

 

「アクア先輩ッ!!いい加減に」

 

「──じゃあなによッ!!!カズマの努力は無駄だったっていうわけッ!!?」

 

「…ッ、無駄だなんてそんなこと」

 

「だって無駄じゃないッッ!どんなに頑張って魔王を倒してもカズマが消えちゃったら全部無駄じゃないッッ!」

「消えちゃったら、カズマは報酬も賞賛も名誉も魔王討伐のご褒美も酒場でのチヤホヤもなにもかも手にできないのよ?」

「その上残された私達の気持ちはどうしろっていうの!?こんなの無駄以外何でもないじゃないッッ!」

 

「アクア先輩!!」

 

「それとも何!?天界がどうにかしてくれるわけ!?カズマを返してくれるわけッ!?」

 

「た、確かにこんな状況では、上に掛け合ったところでどうにもならないかもしれません…ですが」

 

なんかエリスはグチグチ言ってるけど、天界がたった1個人のために力を割くことはないと分かってる。

 

だからこそ、ここに居る意味は無い。

 

「──もういいわ、私帰る」

 

「あっ、だっ、だめです!まだ話は終わって…」

 

「もういいって言ってるでしょッ!…もう自分でどうにかするわ」

 

「許可無く勝手に降りたら怒られちゃいますよ!」

 

「そんなことどうだっていいわよ!だれがこんなとこ戻ってくるもんですかッ!」

 

「まっ、待って!」

 

エリスの私を止める声が聞こえるけど、もう立ち止まれない。立ち止まらない。

日常を、カズマを取り戻すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

「行っちゃいましたね…」

 

「ほんとに、まだ話があったのに…」

 

「でもまあいいです。アクア先輩はまた戻ってきますから」

 

「必ず、またここに戻ってきます」

 

「ですから、そのときには"共犯"になってもらいますからね…アクア先輩」

 

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

 

 

「だーはっはっはっ!!酒だ!もっと酒を持ってこいッ!」

 

俺は今、まさしく至福の時を味わっている。

何も気にせずに!息をするように何かをやらかす厄介なアイツらもいないこの場所で!白昼堂々酒を飲める!

なんて気分のいいことだろうか!

 

そしてイリアスもそんな俺を止めることは出来ない!

何故なら…

 

「そーらそーらぁ!酒をもっれこーいッ!…ヒック」

 

本来俺のストッパー役のイリアスもまた酒に酔っているからである!

と言うのもイリアスが渋々俺の要望に答えてシュワシュワを持ってきた(たまたまイリアスの後輩の天使がたんまり持ってた)のだが、イリアスにとっては初めて見る酒だったためか

 

「ちょっとどんな味か気になるなぁ…」

 

とかなんとか言い始めたため、仕方なく一口飲ませてやったらもうすぐにどハマり。

あれか、女神は皆シュワシュワの虜になる決まりでもあるのか。

 

というわけで、1時間と経たない内にこの状態になってしまったのである。

こいつ、アクア並の駄女神力を隠していやがったな。

 

だがそんなのは今の俺にはどうでもいいことだ。

なんせ俺、今1ヶ月の長期休暇中だから!

あの貧乏暮らしとアクの強すぎるパーティのメンバーから解放された今気分は上々!ヒャッホー!

 

 

「だーいたいなんで俺は毎回毎回こういう面倒な事態に巻き込まれなきゃならねーんだよ!?どいつもこいつも厄介な問題ばっか起こしやがると思ってたら、今度は天界がやらかすとかさ!どうしてそうなるんだよッ!…酒でも飲まんとやってられんわ!」

 

「そーらそーらぁ!もっと言ってやれーッ!…ヒック」

 

「その上アイツらすーぐ俺のこと頼ってくるんだよ…なんでだよ!?自分でどうにかしてくれよ!俺なんも悪くないだろうがッ!!…まぁ、たまぁに俺が悪いこともあるけども!ほぼほぼお前ら悪いだろ!」

 

「そーらそーらぁ!もいっちょ言ってやれーッ!…ヒック」

 

「その癖パーティのリーダーであるこの俺を軽んじやがって!!だぁれがヘタレクソニートじゃあッ!!お前ら俺がいなかったらどうにも出来んだろうがッ!!ステータスはいいのに頭脳がチンパンジー並の駄女神とか!天才の極みみたいな能力と魔力を有する紅魔族なのに爆裂魔法しか打たないロリっ子とか!攻撃力、防御力ともに一級品なのに自分の攻撃は当たらず敵からの攻撃には興奮するどM女騎士とか!お前らだけじゃ何も出来んだろ!?もっと俺を敬えッ!!」

 

「いーぞいーぞッ!なんらうちの上司みらいなこといっれるけどいーぞいーぞッ!…ヒック」

 

「つかめぐみんは俺を惑わそうとすんな!毎回期待させておいてお預けされんのはもう懲り懲りなんだよッ!!あとダクネスもだ!お前見てくれはいいんだから、その豊満な身体で毎度毎度夜這いされたら堕ちちゃいそうで怖いわッ!」

 

「そーらそーらッ!カズマさんはどーてーなんだぞぉ!もっと気遣ぇ!…ヒック」

 

「そーだそーだッ!童貞舐めんなッ!…ってお前が言うなお前がッ!!」

 

怒りに任せて酔っ払いの頭を手をグーにしてグリグリと捻りながら潰そうと試みる。

やっぱり今の俺でも許せんもんは許せんわッ!

 

「いらいッ!いらいれすーッ!!」

 

「うるせぇ!俺を童貞とイジくった罰だ!甘んじて受け入れろッ!!」

 

「ひええええええええッ!!……ぐえっ」

 

ひとしきりグリグリした後、満足したので放してやった。

解放された女神は痛む頭を抑え、頬を上気させ、涎を垂らしながら床をバタバタとのたうち回る。…なんかやらしいな。

アクアと違ってこいつ、まだヒロイン力があるぞ…。

そう思うとさらにエロいッ…ゴクリ。

このムラムラした気持ちをどうにかしたいが、コイツからまたパンツを毟り取ったら酔と痛みが合わさって暴走しそうだし…どうしたもんか。

 

「…あの、イリアス先輩大丈夫ですか?」

 

「ぬううううううん…いらい」

 

「ええと、頭冷やすための氷でも持ってきましょうか?」

 

「ぬううううううん…お願いしますれす」

 

…イリアスの後輩、君に決めた!

 

「なぁ、あんた」

 

「…私のことですか?」

 

「そうだ、あんたのことだ。…なぁ、俺と賭け事しようぜ」

 

「えっ、いや、そんな突然…」

 

「いいから、俺と賭け事しよう」

 

「いや、あの、私一応天使ですのでそういうことは…それに今氷取ってこないと」

 

「…うるせぇ!いいからやるぞ!俺がお前にスティールをしてパンツを取れたら俺の勝ち、パンツを取られたらお前の負けなッ!」

 

「それどっちも私の負けなんですが!?ていうか普通にセクハラですよねこれ!?」

 

「天界にセクハラもパワハラもねぇ!いいからヤラせろ!」

 

「なんか言い方がものすごく卑猥なんですがッ!?そもそも魔法使えなかったはずじゃ…」

 

「こっちの世界にもスティールはあったから使えたんだよ!この転がってる駄女神のパンツも毟ってやったしな!つかなんでテレポートは無いんだよ!おかげで帰れなかったじゃねぇかッ!」

 

「なにその理不尽な怒り!?私のせいじゃないですし、私じゃどうにも出来ませんから!」

 

「だーッ!もうゴチャゴチャうるせぇ!もうヤるからな!あと3秒したらヤるからな!」

 

「あなた酔っ払いすぎです!絶対後悔しますからッ!!」

 

「今やんない方が後悔する!」

 

「もう通報されても文句言えないですよッ!?」

 

「…それではいきまーす、3、2…」

 

「だめですッ!やめてくださいッ!!イリアス先輩も止めてくださいッ!!」

 

「ぬううううううん…氷、くだちい」

 

そう言って後輩にしがみつく泥酔いイリアス。

ナイスだ!そのまま押さえつけろ!

 

「ちょっと、離してください!!」

 

「…1!…『スティール』ッッ!!」

 

──その瞬間、イリアスの後輩の顔が真っ赤に染まる。

 

「ひゃああああああああああああああッッ!!」

 

手元を確認すると、それはまごうこと無き─パンツ!

 

「だーはっはっはっ!お宝二枚目ゲットおおおおッ!!」

 

「なんでそんなパンツばっかり取れるんですかぁッ!私のパンツ返してくださいッ!」

 

「やーなこったッ!うおらああああああああッ!!」

 

「きゃああああああッ!私のパンツふり回すのやめて!やめてくださいッ!!」

 

「ぬううううううん…お水も、くだちい」

 

 

 

 

…異世界生活、最高だぜッ!!

 

 

 

 




カズマさん、絶賛異世界生活堪能中。


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