【完結】借金から始まる前線生活 (塊ロック)
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登場人物
借金指揮官


少し1章のネタバレがあるかも。
完結につき加筆修正。


・ジョージ·ベルロック

 

年齢 26

身長 178cm

体重 76kg

血液型 AB

 

主人公。

父親から多大な借金を遺され毎日食い扶持に困りながら律儀に返済している。

 

元々正規軍に所属していたが、吸収出来るノウハウを全て掻っ攫った後にスッパリ退職。

リスクが高いが見返りも大きい独立傭兵として生計を立てる。

 

家族は父親、母親と居るが、ある日突然父親が失踪。

それと同時に馬鹿みたいな金額の借金が降ってくるのだった。

母親は存命。

故郷でひっそりと喫茶店を営んでいる。

…なお、元軍人でそこいらの戦術人形より強い。

 

ひょんな事から全額報酬前払いの依頼にホイホイされる所から物語がスタートする。

 

性格は基本的に自由奔放。

その場のノリで喋ったりする。

女性に対しては結構だらしなく、すぐ口説きに掛かる。

本人は『長所を褒めてるだけ』と称して一切自覚していない。

 

女性経験有。

人数は2。

が、過去に関係を持った女性達が尽く重く、若干トラウマになりつつも結局口説くのは辞めない。

父親もかなりのプレイボーイだったらしいので遺伝である。

 

戦闘時にはアサルトライフルを好んで使用する。

…が、基本的に戦場に出るときはハンドガンとナイフしか武器を持たず、落ちている装備を物色する。

 

そのため得手不得手は無く、様々な武器種を満遍なく使用する事ができる。

 

手先も器用で武器の修理やら野外炊事やら何でもござれ。

唯一出来ないのは貯金。

 

戦術人形達のモチベーションを引き出すのが上手いため、戦場で共闘する彼女達から結構人気がある。

…一部熱狂的なファンが居るらしい。

 

使える物なら例え死にかけの人形だろうと担いで帰る。

消耗品と言われようと意志があるならねざめが悪いとのこと。

 

人形から好意を持たれる事は『人形だし』として捉えているが、人形と関係をもつ事に関しては『人形だし…』と若干否定気味。

 

指揮官になってからもスタンスに変わりは無く、部下となった新たな戦術人形達からの信頼は厚い。

 

目下の悩みは減り続ける資材と減る気配の無い管理区画の鉄血達。

あと借金。

 

また、クルーガーとはそれなりに親しい仲らしく、たまに無理難題をふっかけられてはヒゲジジイめ!と恨み節を叫んでたりする。

 

ヘリアンとは一度合コンに行った仲。

ジョージ的に無くは無いと考えてはいるものの、やはり相手方が少し残念なのがなんとも。

ちなみにヘリアンからもそれなりの好意を向けられているが気付いていない。

 

ペルシカには若干の苦手意識を持つ。

でも珈琲について言いたい事があるとか無いとか。

 

将来の夢は命のやり取りもなく、片田舎で喫茶店を開く事。

 

キャラクターモチーフは第二次スーパーロボット大戦Zより、「クロウ・ブルースト」から。

女嫌いではないけれども。

 

外見は似てるが髪は短髪でスポーツ刈りである。

全体的に灰色の髪をし、瞳の色は蒼。

イメージはDMC5のネロ。

 

使用する装備は「タイタンフォール2」より。

アサルトライフル「フラットライン」。

ハンドガン「ウィングマン」。

スナイパーライフル「クレーバー」をそれぞれ使用。

 

戦術キットは「興奮剤」。

服用するとしばらくの間ドーピング状態となり戦術人形とも張り合える様になる。

ただし、副作用として戦闘後行動不能に陥る。

 

外骨格「BT-4040」。

ジョージ用外骨格。

腰に付いたジャンプキットと右腕のグラップ機構により立体機動を可能にする。

あまりに負担が掛かるため興奮剤の服用が前提となっている。

 

また、自分とそっくりなホログラフデコイ「ホロパートナー」を生成出来る。

ただし、バッテリーの消費が重いので連発は出来ない。

バッテリー全消費と引き換えに3体まで同時に生成出来る。

 

副兵装として刺さった箇所を中心として索敵を可能にする「パルスブレード」、刺した対象にウィルスを流し込む「データナイフ」等がある。

 

 

 

 




時々更新されるかも。


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S-12地区前線基地人員表

二章からの内容になりますのでネタバレ注意。


主要スタッフ

 

・指揮官

ジョージ·ベルロック(26)

 

 

・後方幕僚兼輸送班長

ローニン·ウェーブス(35)

 

元々グリフィンに敵対していたとあるPMCの部隊長。

クソ傭兵事ジョージに何かと因縁があり、遂に決着した。

…苦労人のあだ名を欲しいままにする貧乏くじの持ち主。

武器はショットガン·レッドウォールを愛用する。

 

何気に妻帯者である。

 

 

・整備班長

モナーク·ハーヴェスト(37)

 

S-12地区の整備班を取り仕切る()()

戦術人形の需要が高まり、女性の整備士が現れ始めた初期の整備士。

女性整備士の古株だけあって技術は本物である。

元々グリフィン本部で暇を持て余していたが、たまたま選ばれ同行することになった。

姐御気質でよく同基地の人形達からの相談も受けている。

愛用武器はチェインガン·XO-16。

 

 

・医療班長

リージョン·スマートマン(25)

 

若くして医療班長を務める秀才。

能力は高いのだが若干マッドな気質を持ち本部で疎まれていたが、今回の移動で厄介払いされた。

ジョージとは年齢が近いので割りかし歯に物着せぬ物言いをする。

愛用武器はガトリングガン·プレデターキャノン。

 

あまり人形の事を快く思っていない。

 

・スカウト部隊

主に偵察を主要任務としている。

ジョージの方針により生存第一としてスモークに閃光と手榴弾を(予算の許す限り)豊富に持たされている。

配属火器はライフル·G7スカウト、アサルトライフル·R-301。

 

・チームリーダー

トーン·トラッカー(23)

 

若くして部隊1つを預かる精鋭。

生真面目な性格で部下たちにそこを弄られるのも多々ある。

部下の命を第一に考えていたが、上のやり方に反発しここまで流れてきた経緯をもつ。

実はグリフィン本部のとあるM1ガーランドに惚れ込んでいる。

 

 

・狙撃部隊

対ドリーマー、前衛人形部隊の支援の為の部隊。

寡黙な人間が多い。

ライフルの人形のファンクラブと化している。

配属火器はスナイパーライフル·ロングボウDMR。

 

・チームリーダー

ノーススター·アルテリズム(19)

 

こちらも若くして狙撃部隊のリーダーを担う()()

お喋りな野郎共に嫌気が指して正規軍を脱走、見た目の良い人形達を扱うグリフィンに流れ着いた。

同性愛者で狙撃部隊がファンクラブ化したのはこいつのせい。

最近のお気に入りはトカレフとWA2000。

 

 

・工作部隊

施設爆破や突貫の防壁制作、建設作業などを受け持つ。

東欧出身者が多いのか大和魂を合言葉に暑苦し…血気盛んな人間が多数。

配属火器はサブマシンガン·R-99、ハンドガン·P2020。

 

・チームリーダー

スコーチ·ヤマト·ブラスター(年齢不詳)(本名不明)

 

白髪で彫りの深い顔をしている、どう見ても東洋系じゃなさそうな正体不明の男。

ヤマト魂といつも叫んでいるが東洋出身ではない。

幼い頃謎のドイツ人侍に拾われ各地を転々としていたらしい。

…一度、世話になったモモと言う名前の人形を探していらしい。

 

 

所属戦術人形

 

ハンドガン

 

・G17

S-12地区最初期メンバー。

趣味は人間観察らしい。

主に撹乱が得意。

ジョージの事は信頼している。

 

・トカレフ

本部で知り合い、ジョージの窮地に救援で駆け付けた。

戦闘能力は高く、ハンドガンと格闘術による護衛戦闘が得意。

過去に指揮官を目の前で失っており、指揮官を失う事を極度に恐れている。

自分を救ってくれたジョージの為に、今日も目の前の敵を粉砕する。

 

・グリズリー

グリフィンの出資委員会…要はスポンサーから監視の意味合いで送り込まれた。

…の、だがかつてジョージの父親が口説いた人形でジョージの存在を知り失恋、相当落ち込んでいる。

元正規軍の自律人形だった経験から部隊長を任される。

気を回すのが得意で面倒見が良い。

ジョージの事は複雑に思っているが、部下想いだと認識している。

 

 

サブマシンガン

 

・IDW

S-12地区最初期メンバー。

ここで製造されているので、他部隊で捨てられた人形と言うわけではない。

調子の良いムードメーカーで、しょっちゅう敵に追われている。

その実義体性能が俊敏性にガン振りされており、敵の注意を引く事に向いているが本人は気付いていない。

 

 

アサルトライフル

 

・GrG3

S-12地区最初期メンバー。

AIが古い民生用人形だったのか、感情の振れ幅が小さい。

自信がないのか、ジョージの口説きにもあまり反応しない。

基地唯一の榴弾が扱える人形のため、よく出撃メンバーに入っている。

 

・9A-91

AR小隊救出任務の報酬として付与された人形。

ジョージとは救出任務の時に一方的に面識があった。

元娼婦だった為親愛の表し方がかなり直接的。

夜戦で本領を発揮する。

 

 

ライフル

 

・Kar98k

AR小隊救出任務の報酬として付与された人形。

ジョージの事は元々、グリフィンの為に尽力した若き有能な指揮官と聞き及んでいた。

…顔合わせの時に口説かれて速攻好感度カンスト、以来アプローチを掛け続けている。

メンヘラでドMで構ってちゃんでチョロい。

しかし、戦闘、書類整理、雑務処理など何でもござれの超有能人形。

却って残念が過ぎる。

 

・WA2000

本部で製造され、ジョージの観測手教育の際にバディとなった人形。

本人はかなりとっつきにくい性格をしていたが、めげずに接触し続け信頼を獲得した。

が、S-12地区配属以前にドリーマーに拉致され拷問に掛け続けられた結果トラウマを植え付けられている。

同じ宿敵を持つジョージとは既に一蓮托生。

 

・スプリングフィールド

本部で製造され、傭兵時代に任務で知り合う。

穏やかな性格をしているが戦闘になると一変。

瞳が赤くなり好戦的な性格へと変貌する。

格闘術に長ける。

ジョージに対して、こんな自分を受け入れてくれた事に少なからず依存の気がある。




まだまだ更新予定。
気長二お待ちください。


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第一章 借金から始まる研修生活
傭兵、指揮官になる


俺、指揮官になります。


 

やっちまった。

 

 

俺は今、独房の中で頭を抱えていた。

 

おかしいとは思っていたんだ。

だが、こっちにも相応の事情があった。

 

 

 

蒸発した親父が残した大量の借金を返済する目処が立てば、胡散臭い仕事を引き受けざるを得ない。

 

父親が消えた日から、俺は母を一人残し傭兵となって日々泥水を啜りながら我武者羅に銃を取り金を稼ぐ生活を続けていた。

 

 

 

それから五年が経った今、届いた依頼を見て跳び上がったのが記憶に新しい。

 

 

『報酬:全額前払い』

 

 

その文字の後に書かれた金額を見て目を見開いた。

 

借金のおおよそ3分の1。

 

迷う事なく依頼を受けてしまったのだった。

 

 

……………こんな旨い話があるか、とどうして気が付かなかったのだろうか。

 

 

仕事内容は、PMCの運送ルート襲撃。

この依頼を出しているのは別のPMCなのだが…まぁ、同業同士でなにか思うところがあるのだろう。

 

指定された時間に道を塞ぎ、トラックを強襲して防衛を引っ掻き回し後から到着する本隊の時間稼ぎ。

 

これだけ見るとかなり危険な仕事だが、推定戦力がそれほど脅威ではなかった為に判断を誤ったようだ。

 

 

…実際に現場を見た時、予想より戦力が少なく楽勝ムードが出ていたのが更に拙かった。

 

「…依頼を受けた傭兵だな」

「ああ、そうだ。足止めはした。後はあんた達の仕事だ」

「良い働きだ…だが、」

 

本隊の兵士達がこちらに銃口を向けているではないか。

 

「お、オイオイ…なんの冗談だ?」

「もうすぐグリフィンの救援が来る。お前にはそれまでここでのたうち回ってもらう」

「なっ…」

 

体のいい捨て駒。

こいつらはここで俺を主犯に仕立て上げ切り捨てる腹積もりだったのだ。

 

「マジかよ夢なら醒め」

「騙して悪いが、仕事なんでな」

 

足に弾丸を打ち込まれ、膝を付いた瞬間、銃床で頭を打ち据えられた。

 

まぁ当然気を失うわな…。

 

 

…で、気が付いたら檻の中って訳だ。

 

 

あのままグリフィンの増援部隊に回収されてしまっていたらしい。

 

 

しかもこの独房があるのは襲撃対象だったPMC…グリフィン&クルーガーの本部。

 

あっ、詰んだわ。

 

人生がここで終わる系の詰み。

 

すまねぇ母さん…先立つ親不孝を許してくれ…。

最後に一発親父ぶん殴りたかった。

 

「お疲れ様です!クルーガーさん!」

「すまない、少し外してくれないか」

「はっ!」

 

…おや、誰か来たようだ。

待て、クルーガー?

 

「初めまして、テロリスト君」

 

独房の檻の前に立ったのはえらくガタイのいい髭面のオッサン。

…明らかにカタギではない。

 

「単刀直入に言おう。うちで指揮官をやってもらう」

「…………はぁ!?」

 

ごめん母さん。

当分帰れねぇや。

 

 

 




報酬全額前払いは信用してはならない。

蒼き雷霆の最前線のネタが思い浮かばずに新しいのを始めてしまった。
とりあえず息抜き程度に触っていきます。


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借金が増えました

前回までのあらすじ!

俺、指揮官になる(強制)

…母さん、俺は今日も精一杯生きてます。


「アンタ、正気か!?自分とこにテロしてきた輩雇うか普通!?」

 

思わず声を荒げてしまうが仕方ないと思う。

懐が深いとかそういうのでは無く、狂っている。

 

「まぁ確かにそうだろうな。しかし、今回の襲撃、用意周到に作戦が練られていると見た」

「…そりゃ、雇われたの俺だけだし」

「実際に何から何までタイミング良い撹乱だった。そこで私は、君の手腕が欲しくなってね」

「どんだけ人手不足なんだグリフィン」

「恥ずかしながら指揮官の損耗率も高い。正規軍から引っ張る事も不可能に近く、やはり経験のある指揮官を雇えないのが現状だ」

 

正規軍もコーラップス感染者たちの対応で忙しくこんな所まで来ないだろう。

 

「今回君を捕縛できたのは実に渡り船だったわけだ」

「こっちとしては人生の詰みを覚悟してるんだが」

「所でテロリスト君。君の母上は元気かな」

「あ?手紙だと健在っぽいけ…ど…」

 

顔から血の気が引いた。

待て、このオッサンなんで母さんの事を知っている。

 

 

…やっべぇ。人質にされてるわこれ。

 

「マジかよ。ノーカウントだノーカウント!」

「良いのかな?母上の身に不幸があっても」

「お、お前鬼かよ!!この人でなし!」

「それと、これが今回の被害総額だ。すぐに払えるかね?」

「なっ…」

 

唐突に見せられたタブレット端末の画面には、見た事もない額が記載されていた…。

 

「ふ、ふざけんな!たかだかトラック二台横転でこんな被害出るかよ!?」

「そのトラックに乗っていた荷物に問題があってな…うちの主力の人形小隊が乗っていた」

 

…グリフィンの主力小隊。

 

転戦していた時に、こいつらと偶に共闘したり対立したりしていたからもしかして顔見知りだったかもしれない。

 

「まさか、そいつらの修理費もはいってるってのか」

「そのまさかだ」

「オォウ…」

 

これなら捕縛ではなくそのまま殺されていた方が保険金が母に向かったのでマシだったのかもしれない。

 

「さて、どうする…と聞きたいが生憎と選択肢は無い」

「だろうな…」

 

ここで俺を逃がすなんて事はない。

わざわざ人質をチラつかせ譲歩させる気満々の相手だ。

 

刺激するのは拙い。

おとなしく従うしか、道は無かった。

 

「…分かったよ。その話、乗るよ」

「そう言うと思って既に登録は済ませてある」

「えぇ…」

 

完全に手のひらの上で遊ばせられていたらしい。

 

もう抵抗する気力も沸かない…。

 

「…勿論?人質にするならちゃんと命の保証してくれるんだろうな」

「何?」

「人質養うための金は出すって事でいいよなぁ?」

「…クッ、ハハハ!気に入った、この状況でまだ反抗するか。良いだろう、保証してやる」

 

よし、言質取った。

 

…オッサン…これから俺の上司になるクルーガーが手を差し伸べる。

 

「では明日から研修を受けて基地配属になってもらうぞ…ジョージ·ベルロック指揮官」

 

 

 

そんな訳で、俺…ジョージ·ベルロックの就職が決定した。

 

 

母さん、しばらくは何とかなりそうです。

 

 

「…そうそう、言い忘れていたが君にとても会いたがっている人形が居てな」

「はぁ、俺に」

「君に損傷させられたM4A1と言う人形だ」

「主力ってAR小隊かよ…」

 

よくそんなのと交戦して生きてたな俺。

まぁブービートラップも駆使して直接見られないようにしていたんだが。

 

「そいつが電脳を損傷して君を()()()()()()と誤認してしまった」

「…は?」

「なので…」

 

ガンガン!!

 

何か、金属の板を…有り体に言うなれば扉を叩く音がする。

 

『指揮官!こちらですか!指揮官!どちらにいらっしゃいますかー!』

「…ヒェッ」

『あはは、指揮官たら本当にシャイなんですから…早く姿を見せてください…ねぇ、指揮官?指揮官…?』

「勿論アレも配属させる」

「お、おま…この野郎あんなの扱い切れるか!?」

「…電脳の修復が進まず対症療法としての措置だ」

「まさか、手に余るから俺に押し付ける気か!?」

『あは…こっちから声が聞こえる…すみません、開けてもらえませんか?え?クルーガーさんの?』

「では、私はこの辺りで失礼する。精々努力してもらおう」

「お、鬼!悪魔!人でなし!!」

 

俺の叫びは広い背中に吸われることもなく虚しく響いた。

 

「やっと見つけました…指揮官♡」

「…ヒェッ」

 

 

 

 

 

前言撤回。

 

母さん、俺…生きて帰れないかも。

 

 

 

 

 

 

 

 




M4って電脳損傷したら正直ヤバいかもしれないけど、やりたかったからやったので後悔していない。

次回、ヤンデレストーカーM4現る。


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指揮官研修

鉄格子越しのショッキングな出会いから一週間が経った。

 

この一週間で俺の生活は一変してしまった。

 

 

朝から深夜まで本部に所属する様々な指揮官達から指導を受ける。

もしくは、戦術人形達の運用を見る為に現地に入り直接戦闘に参加することもあった。

 

そして終われば報告書祭り。

 

睡眠時間もガッツリ削られてしまっている。

 

「やる事が…やる事が多い…!」

 

現在、腕には大量の報告書が詰まったダンボールが二箱抱えられていた。

 

報告書…と言っても中身はフロッピーディスクである。

こいつを戦術人形に打ち込むと戦闘経験をそのまま反映しレベルが上がるとか。

 

…まぁ、これだけあるのは流石本部と言うべきか。

そしてこの量をたった一体の人形に使うのだからそれも凄まじい。

 

「指揮官」

「…ぎゃあぁぁぉ!?」

 

エレベーター待ちをする為に足を止めた瞬間、耳元で囁くように声が聞こえてきた。

思わず叫んで跳び上がった俺は悪くない。

 

周囲に人が居なくて良かった…と一瞬思ったが逆だ。

誰も居ないから来たのだ…彼女が。

 

「そんなに驚かないでください。傷付きます」

「え、M4…」

 

背後に立っていたのは、戦術人形M4A1…独房で初めて会ったときと同じ様に笑っている。

 

「どちらに行かれるのですか?」

「さ、さっき製造されて配属になった人形の所だ」

「へぇ…」

「…ヒェッ」

 

のっぺりとした笑顔に背筋が凍る。

本当に何を考えているのか分からない。

 

「あと…俺はまだ指揮官じゃないんだ、M4」

「ふふ、分かってます。でも、()()指揮官になってくれるんですよね?」

「」

 

この子元からこんな子なんじゃねぇのクルーガー。

 

「なので…今、他の子の所に行くのは目を瞑ります」

「今て」

「楽しみにしてますからね…?」

「お、おう…所でM4」

 

名前を呼んだら花が咲くような素敵な笑顔をしてくれた。

…何だろうこの罪悪感。

 

「何でしょうか指揮官♡」

「…部屋からYシャツが一着消えたんだけど、知らない?」

「それでは指揮官、また夜に」

「おい!やっぱりお前か!待てや!…消えた!?」

 

目下の悩み…そう、俺を指揮官だと誤認しているM4A1だ。

ひと目のある場所では特に何もしてこずジッと見ているだけだが…。

 

俺が一人になるタイミングで何処からともなく現れ話し掛けてくる。

 

それが何処だろうと、気配も音も無く現れるのでとても心臓に悪い。

 

「黙ってりゃ可愛いんだけどな…」

「ありがとうございます指揮官♡」

「!!!?!!?」

 

辺りを見渡すが、誰も居ない。

…エレベーターが到着していた。

 

「いや、ホント…勘弁してくれない?」

 

もうこれホラーだよ。

 

 

 




大天使M4との心温まる交流(ぐるぐる目

ジョージ指揮官の元に配属する人形を考えないとなぁ…。
あ、ARと404は出す予定です。


次回「私が居れば充分ですよ、指揮官…♡」


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第二の刺客

ジョージ指揮官見習いの研修は続く。

グリフィンの本部と言うことは、別動の部隊も多く出入りする…つまり、今度は再会だ。


 

「おはようございます、指揮官♡」

「う、おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?!」

 

自分の顔超至近距離で挨拶するM4に起こされて起床する。

おかしい、昨夜しっかり鍵を締めたのに…。

 

「ちょ、降りろ!やめ、腕を抑え…」

「今日もいい天気ですよ指揮官。()()為に指揮官の道を進んでいる事も知ってます」

「離せ!」

「でも…昨日は遅くまで喫茶店に居ましたね…あの、ライフルと楽しそうに喋って」

「違う!スプリングフィールドとはたまたま昔一緒に戦ったことがあった縁が」

「指揮官…?」

「ヒェッ」

「確か今日は非番の日ですよね…ふふふ、今日は離しませんよ…?」

 

いつぞや対面した時と同じ様に瞳にハートマークが乱舞していらっしゃる。

M4の格好もまずい。

まず、少しサイズの大きいYシャツ以外何も来ていない。

…意外と着痩せするのかな、結構存在感のある二つの…ゲフンゲフン。

 

それはそうとやばい、食われる。

 

「指揮官…」

「M4、やめてくれ」

 

この子は、本当に俺の事を好いている訳じゃない。

電脳の異常からそう認識してしまっているだけだ。

 

こんなふうにして貰う謂れは無い。

 

 

「頼む…俺はまだ君の言う指揮官じゃないんだ」

「…」

「M4?俺達はまだ会ったばかりだ。お互いに知り合う所から始めよう、な?」

「…わかり、ました」

「ありがとう。素直な子は好きだよ」

「へ、ひ、ひゃい…」

 

おずおずと俺の上からM4が退いていく。

良かった、命拾いしたらしい。

 

「さ、M4。朝食に行こう」

「はい…その、着替えてから行きますね…」

 

そそくさと俺に与えられた宿舎の部屋からM4は出ていった。

 

「…やっぱりアレ俺のYシャツじゃねーか!!」

 

グリフィンに入ってやっと迎えた休日の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

食堂。

朝のこの時間の食堂は割と混沌としている。

 

これから出撃する人形達が寸暇を惜しんで飯を掻き込んだり、非戦闘勤務員達が野次飛ばしてたりする。

そんな中、俺は隅の空席の多いところに座った。

向かいに当然の様にM4が座った。

 

「いただきます…んー、この飯が実質タダ…こんなに嬉しいことはない」

「…?指揮官は、今まで食事されていなかったのですか?」

「いや、ただ…傭兵の時はなるべく出費抑えたくて結構抜いてた」

 

削れる出費はとにかく削る。

正規軍でもPMCでもないから戦闘終了後に出来る限り敵拠点の物色とかもしていた。

 

「指揮官は、私達と違って食べないと」

「分かってるよ。少なくともここにいる間は食うさ」

 

戦術人形も生体パーツの維持のために栄養摂取が必要らしい。

人形と人間の境界線も随分と曖昧なもんだ。

 

「ごちそうさま。M4も今療養中なんだろ?たまには姉妹に会いに行ったらどうだ」

「え…そんな、指揮官…私を置いて行くんですか?」

 

M4の表情が絶望一色に染まっていく。

感情表現が豊かな子だな。

 

「違う違う。俺みたいな半端者に引っ付いてなくていいって事だよ」

「そんな事…」

「とにかく、そういう事だ。それじゃあな」

 

ちょっと強引だったけど、こうでも言わないとずっと引っ付いて来そうだ。

 

「………………………指揮官、夜を楽しみにしてますからね」

 

あーあー聞こえない俺はなんも聞いてないぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ジョージ」

「ん?誰だ?」

 

廊下を歩いていると、名前を呼ばれた。

この基地で俺の名前を知っている奴なんてそう多くない。

 

振り向くと、透き通る白く長い髪をした少女が立っていた。

瞳はエメラルドの様に色鮮やかで、涙の様なタトゥーがその下に描かれていた。

 

「HK416か!久しぶりだな!まだくたばってなかったか」

「貴方こそ、グリフィンの制服なんて着てどうしたのよ」

 

HK416…404小隊と言う指揮官不在の人形小隊のメンバーだ。

傭兵時代によく共闘した覚えがある。

 

…少し頭に血が登りやすいのが難点だが、基本的に頭の回転も早く容赦が無い。

 

「俺か?つい最近グリフィンに入社してね」

「それ、本当なの?」

「ああ、本当だ。なんなら指揮官になる為に今研修中」

「!!!!」

 

驚いたように目を丸くした。

え?そこそんなに驚く?

 

「へぇ…ふふふ、それじゃいつかあなたの事を指揮官って呼ぶ日が来るかもね」

「そんときゃよろしくな。お前たちなら信頼出来る」

「えぇ、私は完璧よ…上手くやってみせるわ」

「そいつは頼もしい。M4とも上手くやってくれ」

「………………は?」

 

ビッシィ!!

 

何かが割れる音がした。

あれ、俺地雷踏んだ?

 

「M4ぉ?何故そんな名前が、今出るのかしら…?」

「え、あぁいや、俺が基地担当するようになったらアイツが配属されるらしくてさ。そんときゃよろしくって…」

「ジョージ」

 

いつの間にか壁際に追い詰められていた。

そのまま416が両手を壁に付いた。

 

丁度416と壁に挟まれる形になる…壁ダァン…。

もっとも、こいつの山は壁とは無縁な豊かさだが…。

 

「ジョージ、私は完璧よ…!あんな奴より!」

「ちょっと、416さん?」

「私が居れば充分ですよ…ねぇ?そう思わない?」

 

駄目だ、完全に聞こえてない。

こいつの前でM4の話は禁止だこれから…。

 

「いつか奴らに…!」

「わかった!分かったから、な?落ち着け」

「…ごめんなさい。熱くなりすぎたみたい」

「誰しもそういう所はあるさ…気にすんな」

「ほんと、ジョージは優しいわね」

「金以外なら相談に乗るぞ」

「…変らないわね、守銭奴なところ」

 

呆れたようなジト目で見られた。

このやり取りも懐かしい。

 

「404はしばらく本部にいるから、45たちにも顔合わせなさいよね」

「お、やっぱりあいつ等もいるのか。懐かしいなぁ」

「最後に会った時から結構経ってたもの。皆会いたがってるわ」

「416は?」

「私も…って何言わせるのよ!」

「ははは、相変わらずだな」

「全く…それじゃあね。研修、頑張って」

「おう、ありがとう。またな」

 

いやー、久々に会えて良かったね。

再会出来るってのはお互い無事じゃないと出来無いことだ。

 

それは喜ばしい。

 

「さて、ライブラリでも閲覧しにい………ヒェッ」

 

振り向いた通路の奥、曲がり角から何かがこちらを見ている。

 

…その瞳は、光が灯っていなかった。

 

「お、俺は何も見なかった…ああ、そうだとも」

 

逃げるようにしてその場から走り去った。

 

 




と言うわけで404小隊が到着。

しばらくは研修編なので色んな人形出したいなーとは考えてます。

次回「ジョージ!数合わせだ!合コン行くぞ!」


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お誘い

「指揮官、今朝の人形は…誰ですか」

「な、ナニィー!?お前はM4!ここは前書きだぞ!?」

「ほら、誰?ねぇ誰ですか?」

「や、やめろぉ!HA☆NA☆SE!!俺は寝るんDA!!」


「おい、ジョージ」

「はい…ん、ベネットさんか」

「さんは要らんって言っとるだろうが」

「いやー、先輩ですし」

「アンタのが年上なんだから気持ち悪い」

「じゃあ遠慮なく」

 

ある日の昼下がり。

だいぶここでの仕事も板に付いてきた頃。

 

指揮官の一人であるベネットが話しかけてきた。

 

「なぁ、今週末…空いてるか?」

「今週末?予定は無いが」

「よっしゃぁ!合コン行こうぜ合コン!」

 

その台詞を聞いた瞬間急いで背後を確認する。

…見てる。

 

M4様が見ている…。

 

「いやー、急に欠員出ちまってさ!ジョージが来てくれるなら安心だぜ」

「な、なんで俺なのさ」

「え?だってアンタ元傭兵だろ?俺達新任指揮官と違って修羅場もくぐってるし背も高い。割とイケるんじゃね?」

「んな適当な」

 

ベネットは比較的若い指揮官で、まぁ…多感である。

こちらが年上とはいえ働き始めてから割と良くしてもらっている。

誘いは無碍にはしたくない…が。

 

「あー…アレだろ?M4ちゃん」

 

ぴくり、と廊下の角から見える頭が揺れる。

 

「大変だと思うけどたまには息抜きもどうだ?あ、それとももうヤってる?」

 

ガン!

壁に頭をぶつけた様な音がした。

 

…今ので正常になってたりしないかな。

 

「アイツとはそんな関係じゃない」

 

ガン!

 

「えっ、あんな仲良さそうなのに」

「療養の手伝いしてるだけさ。メンタルをちょっと損傷しててな」

 

ガン!ガン!

 

「そうだったのか…早く治ると良いな。グリフィンの顔だからなAR小隊は」

「そうだな…」

「で、来るか?」

「行くぞ」

「OK!」

 

ズドン。

あっ、これ絶対壁に穴開いた。

 

「で、後誰が来るんだ?」

「女の子三人、野郎のあと一人はキャンベルだ」

「へぇ、アイツが」

 

今まで女っ気無かったしこんな会話も新鮮だ。

合コンは勿論行く。

まぁカップルになるつもりは無いが女性との触れ合いは男の活力だからな。

 

「それじゃ、週末楽しみにしててくれよ」

「おう」

 

ベネットと別れる。

…無意識に、別れてしまった。

 

気付いたときには時既に遅し。

 

周囲に人影は無い。

 

「指揮官」

「急用思い出した」

「指揮官」

「いだだだだやめろ手を掴むな!!」

 

真顔で後ろから手を捻り上げられた。

このサブミッションは友軍狙撃のペナルティ発生しないのか!?

 

「合コンに、行かれるのですか…?私以外の、女性と…!」

「痛い、ちょ、離してくれ。落ち着いて話もできやしない」

 

懇願すると、やっと離してくれた。

…M4?瞳のハイライトは何処に置いてきたんだい?

 

「指揮官、本当に行くのですか」

「え、ああ。良くしてくれた奴から誘われたんだし断りたくない」

「…………」

「M4」

「何でしょうか」

「お前、もうちょい自分を大事にしなって。頭打ったろ」

 

完全に俺のせいだが何とか言い包めなくては。

…というか、何で浮気の言い訳みたいな事になってるんだ?

 

「折角綺麗な顔してるんだからさ」

「き、きっ、綺麗…!?」

 

一気に顔が真っ赤になった。

M4は結構グイグイくる癖にこちらから責めるとすぐに狼狽える。

…今の所寝込みを襲われてない理由はそこにある。

 

なので、ここは畳み掛ける!

 

「綺麗だよ、M4は」

「あわ、あわわわ」

「また埋め合わせするから、な?」

「わ、分かりました…」

 

チョロい。

ちょっとこれ心配になる。

 

「ありがとう、M4」

「ですが、指揮官」

「おう、どうした?」

「もし指揮官がその日帰ってこなかったら、私は探しに行きますからね…フル装備で」

 

その日見たM4の顔を、俺は絶対に忘れないだろう。

 

…………まだまだ甘く見てた。

 

「………は、はい」

 

 

 




本部なんだし、他にも指揮官居そうだよね。
名前は即興です…ベネット、死んだはずじゃ…。

次回「貴様ら!ここで何をしている!?」


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合コンの中の戦争

そろそろ新しい人形出さないとなぁ。


「おはようございます、ジョージさん」

 

 

グリフィン本部、朝の廊下。

久しぶりに仕事が片付いたので、射撃訓練でもしておくかと思い射場に向かう最中。

 

声の主はニコニコと手を振っていた。

鮮やかな栗色の髪を結った落ち着いた雰囲気の女性。

…しかし、その肩にはライフル銃が担がれていた。

 

「おはよう、スプリングフィールド。今日も綺麗だね」

「あらあら。M4さんが怒りますよ。ねぇ?」

「…」

「え"っ」

 

丁度、俺の死角になるスプリングフィールドの後ろからM4が出てきた。

 

「え、M4…」

「指揮官、その、これ…」

 

おずおずと小箱が差し出される。

ピンクのリボンで可愛らしくラッピングされている。

 

…薬とか入って…。

 

「ジョージさん。今日がなんの日か知ってますよね」

「2月14日…えっ、まさか」

 

今どきチョコレートなんて中々手に入らない嗜好品だ。

それを、M4が俺の為に…?

 

「ありがとう、嬉しいよM4」

「は、はひ…」

 

箱を受け取ると、M4が顔を真っ赤にして俯いた。

 

「それにしても、よく手に入ったな…」

「私が余らしてた所に丁度来て、作り方も合わせて一緒に用意したんです」

「あ、あのスプリングフィールドさん!?」

「あらあら、これは言わないほうが良かったかしら」

「う、うううううう!!!」

 

感情がオーバーフローしてしまい何処かへ走り去ってしまった。

 

「ちょっとからかい過ぎちゃいました」

「お手柔らかにしてやってくれよ…」

「人払いの手間が省けました。はい、どうぞ」

 

スプリングフィールドから紙包を手渡された。

…甘い匂いがする。

 

「スプリングフィールド?」

「M4には悪いですけど。受け取って下さいね」

「ありがとう。…なんで俺に?」

「私、昔ほしい物があったんですよ」

 

唐突に語り出した。

あー、これはお返しにおねだりされる奴かな。

 

全くこの子も素直じゃな…。

 

「でも、その人は指揮官じゃないので私を見てくれないんです」

「…ん?人?」

「けれど、また再会して、そうしたら指揮官になるって言ってたんですよ」

 

へ、へえー。

それはまた俺と似た境遇の人が。

 

「…いつまでも待ってますからね、ジョージ」

「……………ヒェッ」

「あと、それ本命ですから。それではごきげんよう」

 

スプリングフィールドは眩しい笑顔で歩き去って行った。

 

「…………キミ、キャラ違クナイ?」

 

ようやく絞り出した言葉はそれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー夜。

 

「なーんでバレンタインの夜に合コンなんだよ」

「来たなジョージィ…」

「キャンベル」

 

場所はグリフィンの支配都市の一角にあるバー。

ここが会場らしい。

 

「さってぇ、どんな子が来るか楽しみだぜ」

「気が早いぞベネット。もう少し情報を集めてから…」

 

 

「きっ、キサマら!?ここで何をしている!!」

 

 

おや、この声どこ家で書いた気が。

 

「げっ」

「ひっ」

 

ベネットとキャンベルは絶句してしまっている。

どれどれどんな人だろう。

 

…長い白髪を束ねた、険のある女性だ。

うーむ、ちょっとキツいイメージがあるが好みだ。

 

「お、おい…」

「お初にお目にかかります、麗しきレディ」

「「えっ」」

「なっ、き、貴様…」

「貴女も今夜の合コンに参加されるのですか?」

「む、そ、そうだが…」

「それは良かった。丁度お近づきになりたいと…」

「ジョージ、待て!早まるな!!」

「ジョージ…む、そうか貴様が…クルーガーさんがヘッドハントしたという」

「…クルーガー?」

 

はて、なぜ今あのヒゲおやじの名前が。

 

「ジョージ!その人は…グリフィンのヘリアントス上級代行官だ…」

 

ウッソだろ。

 

 




バレンタインだったので時事ネタを仕込むことに成功した。
さて、波乱の合コンスタートですね(

次回「乾杯!」「出来るかァ!!」


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心の平穏は借金のカタに

前回までのあらすじ。

借金指揮官、上司を口説く。


状況終了。

 

「ふぅ…」

 

眼鏡から目を離す。

戦場から少し離れた…所謂狙撃スポットに今潜伏していた。

 

今回は狙撃手の観測手としての研修であった。

 

即席タッグを組む事になった人形に話しかける。

 

「全弾命中…流石だな、WA2000」

「当たり前よ。私は殺しの為に生きてきた女よ…この程度、当然だわ」

 

勝ち気に笑う戦術人形、WA2000。

義体性能堂々の最高ランクであるライフル人形だ。

 

いろんな指揮官から『扱いにくい性格』と話は聞いていたが、まぁ要するに自信家なだけみたいだ。

 

「さて、帰ろうか」

「ねぇ」

「どした。お互い雑談に花を咲かせる仲でもないだろ」

「…へリアントス口説いたって本当?」

 

近くの木の幹に足を引っ掛けて、盛大に転んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む…」

「げっ」

 

今回の作戦の報告書をまとめ、提出しようとした先にヘリアンと遭遇した。

 

「あ、あはは…どうも」

「貴様か。どうだ調子は」

「ボチボチ…ですかね」

「煮えきらんな。あの夜私に迫った姿は何処に行ったんだ?」

 

めっちゃ弄ってくるやん。

これはさっさと切り上げて逃げた方が懸め…。

 

ガシャン。

 

「指揮官…」

「え"っ、M4…」

「今の…本当ですか…」

「えっ、あはは、どうなんですヘリアンさん?」

「いやだなM4…冗談で」

 

ガッ。

ぐぇ、首が。

 

「指揮官…説明してください…私は今、冷静さを欠こうとしています」

「元々冷静じゃなぐえええ締まる!締まってる!!」

「じゃあ私はこれで」

 

あの女!!!

 

「今朝も、他の人形とバディを組んで戦場に出られて…………………私とは、組んでくれたことないのに」

「いやお前メンタルの療養中だから戦場出ちゃ駄目だろ」

「スプリングフィールドさんには感謝してますけど、あの人はちょっと危ない気がしますし…」

「それは同感だ…」

 

あの時のスプリングフィールドは完全に捕食者の目をしていた。

 

「私は、指揮官がこのまま離れていきそうで…」

「…大丈夫だ。少なくともお前が治るまでは付き合うよ」

 

俺が傷付けてしまった責任は取らなきゃいけない。

 

「…それで、ヘリアンさんとは何を?」

「あっちくしょう蒸し返しやがった」

 

いい話で終われる雰囲気に出来たのに。

制服の襟を掴まれて前後に揺すられる。

 

「まさか、あの合コン時代の敗北者に懸想してるんじゃ…!」

「結構ボロクソに言うな!?」

「指揮官!私というものがありながらー!!」

「いででで俺とお前そんな関係じゃないから!」

「毎日一緒に同じ布団で寝てます!」

「どんだけセキュリティ強化しても夜中勝手に入ってくるだけだろ!!」

「バレンタインに贈り物しました!」

「あー…うん、ありがとう。美味しかったよ」

「え…あ、はい…それは良かったです」

「お返しはまた考えとくから」

「はい…待ってます…」

 

なんだこれ。

余談だがこの基地にいる人形達から、俺達は完全にデキてると思われてるらしい。

 

この前ベネットから聞いた…おのれベネット。

 

「あ、指揮官」

「うん?」

「埋め合わせ、お願いします」

「……………………………あ"っ」

 

 

 




次回、借金指揮官。

??「立ったまま○ね!!」



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優しさの重み

前回までのあらすじ。

この元傭兵、女運なさ過ぎじゃない…?


「ハァイ、ジョージィ?」

 

ある日。

資材整理の為に倉庫の中に入った時だった。

…頭の上から自分を呼ぶ声がした。

 

「…こんな所で遊んでるのはどこの子猫だ」

「あら、久しぶりに会った戦友にご挨拶ね」

 

積み上げられた木箱の上から、それこそ猫のように飛び降りて着地した。

…灰色がかった髪と、左眼に縦一線の傷跡。

 

「久しぶりだな、UMP45」

「久しぶりね。元気してた?」

 

独立人形部隊、404小隊の小隊長…UMP45が朗らかに笑っていた。

416と同じ様に傭兵時代何度か背中を預けた戦友だ。

冷静で冷徹、小隊長として求められる理性的な思考回路を備えた彼女は、人間や他の人形に対して友好的に接する。

 

…まぁ、そんなんじゃないけどなこいつ。

 

「416から聞いてびっくりしたわ。貴方指揮官になるのね」

「成り行きでな」

「ふふっ、貴方らしいわ」

 

段々と、此方に近付いてくる。

何となく後ずさってしまう。

 

「ねぇ、M4A1に困ってるんでしょ?」

「な、」

 

何でそれを。

と言う言葉は出なかった。

あれだけべたべたされているのだ、404の面々が知らない筈がない。

 

「…いや、大丈夫だ」

「責任感じてるのかしら」

「っ…」

 

責任。

そう、責任…M4をあんな風にしてしまった責任。

 

「…楽にしてあげようか」

「どういう意味だ」

 

笑顔のまま、UMP45は続ける。

 

「貴方の重荷を私が壊してあげ」

「ふざけるな」

 

最後まで聞くつもりは無かった。

 

「何故?」

「誰かじゃない、俺がやるべき事だ」

「プランはあるのかしら」

「…無い」

「代案の無い反論は、とてもネガティブだとは思わない?」

 

そのとおりだ。

俺には策も何もない。

後ろ立ての無い元傭兵なのだから、正式に指揮官にならない限り何も出来ない。

 

「だが、俺にできることなんて…アイツが思い出すまで傍に居て、受けるべき罰を受けるしか無い」

「…優しくて、残酷ね」

「ただの自己満足だよ」

「貴方がそう決めたならそれで良いわ。でも忘れないで…私は、私だけは…いつまでも貴方の味方よ」

 

UMP45の表情を見る。

いつもの様に、貼り付けた様な笑顔。

 

「…俺なんかに肩入れしたら駄目だろうが。お前は小隊長だろ」

「ふふっ、だって貴方は人形に優しいから。つい」

「苦労してるみたいだな…それもそうか」

 

裏の仕事を引き受ける小隊の小隊長。

本人は笑って流すが、やっぱりストレスはかなり溜まるのだろう。

 

「…愚痴なら聞いてやるよ。その分酒貰うけど」

「んー、飲みのお誘い?良いわよ…勿論、二人きりよね?」

「?まぁ、他に誰か居たら言い辛いだろうし、構わない」

「約束よ?楽しみにしてるわ…それじゃ」

 

やけに上機嫌になったUMP45は、軽い足取りで倉庫から出ていった。

 

「…あいつ、そんなアルコール好きだっけ」

 

時計を見ると、指示されていた時間をとっくに過ぎていた。

 

「…やっべぇ」

 

 

 




404とは結構一緒に死線をくぐってたりするので、割りかし懐かれている借金指揮官だった。

次回、「до свидания(また会いましょう)。ジョージさん、ご安心を…♡」


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これがスタンダードとは信じたくない

前回までのあらすじ。
ジョージ、404の重いやつと飲む約束をする。


最近、視線を感じる。

いつもM4の視線を気にしているから気が付かなかったが、M4が居ない短い時間だけ新たな気配がするのだ。

 

「指揮官、ちょっと害虫駆除に行ってきますね」

「おい馬鹿やめろ、ステイ、ステイ!」

 

あ、くっそコイツ力つえーな!

 

「恐らくグリフィンの人形だろうから手は出すな頼むから!」

「…わかりました」

 

最近ちょっと不機嫌だ。

いろんな人形と話すような事が多かったからかもしれない。

 

「あー、なぁM4。お前今は外出出来るの?」

「はい、申請さえ通れば」

「申請か…」

 

恐らく俺と一緒なら大丈夫だろう。

 

「今度の休みに、出掛けよう」

「…!(ガタッ」

 

おかしい、今二人共並んで歩いているのにたった音がした。

M4ちゃんの瞳がかつて無いほどに輝いていた。

キラッキラ…普段からそんだけ輝いていたら可愛いのに。

 

「それは、でっ、でてででで、デートのお誘いですか!?」

「え?あー、この間の埋め合わせだよ。そんな大したものじゃない」

「指揮官とデート…ふふふ、デートかぁ…」

「聞けよ」

 

相変わらずの激甘思考回路。

まぁ、でもこのぐらいで機嫌が治るなら安いものである。

 

「楽しみにしてますからね」

「大したことはしてやれないから、あんま期待すんなよ?」

 

見習い指揮官って割と薄給だからなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気配を感じて振り返った。

…曲がり角へ!綺麗な銀の髪が引っ込むのが見えた。

 

「待て!」

「!」

 

古来より、待てと言われて待つ馬鹿はいない。

しかし、犯人はアッサリと判明した。

 

「うおっと」

 

曲がり角でお淑やかにニコニコしていた人形が立っていたのだから。

 

「えっと、君は?」

「初めまして、トカレフTT-33自動拳銃と申します」

 

銀の長い髪をアタマの後ろのリボンで結っている少女だ。

立ち姿が育ちの良い女性、と言った印象を受ける。

 

「…つかぬ事を聞くけど」

「はい、何なりと」

「君、ずっと見てた?」

「…はい」

 

視線の犯人はこの子だった様だ。

 

「何でこんな事を」

「えっと…その、以前戦場で貴方を見かけて以来わたしの記憶なら貴方の横顔がずっと離れなくて」

 

うん?

 

「またジョージさんにお会いしたいと思っておりました…♡」

「えっ、戦術人形にそんなことあんのか…!?」

 

一目惚れってあーたまた古典的な。

 

「こんなオジサンの何処が良いんだよ…」

「そんな事はありません!以前前線でご一緒した時に損傷した私を引き摺ってまで連れ帰って下さった事には感謝しきれません…!」

「え、君あの時の?…そっか、あのときはボロボロだったから気が付かなかった。君の本当の姿はとても綺麗なんだな」

「えっ、きっ、きれ…!あ、あの時は本当にありがとうございませんでした…ずっと、ずっとお会いしたかったです」

「もう俺がここに来てから割と経ったけど、ずっと見てるだけだったのは?」

「お話したかったのですが…怖い方がずっと近くにいて」

 

M4、言われてるぞお前ェ。

 

「あ、あの!ジョージさんはあの人形と…誓約されてるのですか!?」

「誓約って…話が飛躍しすぎてるな。俺はまだ指揮官じゃないよ。M4の事はあの子のリハビリを付き合ってるだけだ」

「そうなのですか?…良かった」

 

うーん、なんか割と人形達からの好意が最近多過ぎないか?

そろそろ作為的な物を感じてきてしまう。

 

「ジョージさんは指揮官見習いなんですよね」

「ああ、まだな。研修が終わればここを離れて別の基地に配属される」

 

小耳に挟んだところ割と激戦区に投入されるらしい。

俺の配下の戦術人形の希望を取られた時にそんな事を言っていた。

 

「その時は是非ご指名お願いします。一応かの時代にはスタンダードとして実力を認められていたんですよ?」

「へぇ、そりゃ心強い。考えとくよ」

「約束、ですからね?」

「約束か…あんまり期待しないで欲しい。基本的に新造された人形と1、2体のフリーな奴を引き抜いて貸してくれるだけらしいから」

 

新人指揮官のサポートの為に前線を経験しかつ、それなりに腕の立つ人形を付ける…要するに最初の副官だ。

 

「…そう、ですか」

「すまない、俺には何も力は無いんだ」

「…でも、諦めません。いつか必ず、貴方の下に行きます」

「その時は、頼む。」

「はい!」

 

なんと言うか、俺が傭兵時代にやって来た事がここに来て縁を繋いでくれたって事なのだろうか。

…スプリングフィールドはなんか別ベクトルな気がするけど。

 

「до свидания(また会いましょう)、ジョージさん」

「ああ、またな」

 

なんか、久しぶりに普通な会話をした気がする。

…ん?

 

「…………何であの子ずっと銃を握ってたんだ」

 

握られていたハンドガン。

刻印によって義体と結ばれている戦術人形達の得物だから常に携行しているのは基本なのだろうと勝手に思っていたけど。

 

…いつでもこちらを撃ち抜ける様になっていたと言うのは、考え過ぎだろうか。

 

自分はまだ指揮官ではない。

ヘッドハントで抜かれているため正式な契約をいくつかすっ飛ばしている。

 

…そして、その中に友軍…もっと言うと人間に対するセーフティの登録から漏れているとしたら…?

 

「…ひえっ」

 

あの子ももしかしたら要注意なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーside Anotherー

 

 

いけないいけない。

見てるだけだったのに、あの人が追いかけて来るから嬉しくなってしまった。

 

「ふふ…えへへ」

 

ああ駄目だ。

自分の感情がコントロール出来ない。

あの日、あの人は半壊した私を半日背負い撤退ポイントまで歩いていた。

 

意識は半分飛んでいたけれど、あの背中とずっとわたしを励ましていた声だけはいつまでも中枢に残っていた。

 

完全に修復された自分の姿を見せたかったけど、あの人はまたどこか経行ってしまった。

それからずっと、わたしの演算装置はあの人に逢うために働き続けた。

 

グリフィンの本部で見かけたときは思わず電脳がショートするかと思った程だ。

それから、ずっとあの邪魔な人形が消え、必ずこちらを追いかけるタイミングを伺っていた。

 

「ジョージさん…わたしが、一生お世話しますから…足がなくなっても大丈夫ですよ…♡」

 

欠損したわたしの面倒を見てくれたあの人。

だから、もしあの人が万が一に一人で生きていけなくなったなら。

 

わたしが、ずっと…。

 

 

 

 




トカレフちゃん好きなんで出しました(勢い

あれ、なんか俺の書く人形ってバグってる気がする…。


次回、ジョージ、デートするってよ。




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埋もれていた平穏

ジョージ、デートするってよ。


 

「呆れるほど有効な戦術だぜ…」

「指揮官?」

「あーいや、すまん。ちょっと思いついただけだ」

 

グリフィン管轄地域の市街地を、俺とM4は歩いていた。

今日はなんてこと無い、以前の約束を果たす日。

 

「…試験が近いのですか?」

「気にしなくていい。対策は万全だからな」

「そんな時に…その」

「謝るのはナシな!大丈夫だ、モンダイない!」

 

俺が指揮官見習いとしてグリフィンに所属して早二ヶ月。

そろそろ見習いが取れる時期がやってきた。

 

「今日は、お前の為の日だ。気にしなくて良い」

 

別に試験と言ってもクルーガーが俺の働きを見に来るだけだ。

…あれ、割と重要なんじゃね?

 

「指揮官?汗が凄いですけど…」

「え、アハハ行こうか」

 

M4の手を取る。

今日は休みなんだし、気にしちゃいけない。

 

「あ、ちょっと指揮官…?」

「さ、遊ぼうぜ。時間は有限だからな」

 

 

とりあえず、何処へ行こうか。

 

 

ー映画館ー

 

今どき、映画なんて新しい物を撮ることは出来ない。

遺された大戦前の古いフィルムを取り扱うため、割高になってしまっている。

 

…まぁ、この程度の出費なら明日の携帯食料のグレードが下がるくらいだ。

 

「…それで、これで良いのか?」

 

M4が選んだのは、コッテコテの恋愛映画。

こんな物で良いのだろうか。

 

「こういった物は…あまり見たこと無いので…」

「まぁ、そうだろうな…」

 

戦術人形にはどう考えたって必要の無い知識。

 

「でも…以前から興味があって」

「なるほどね…お、始まるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、砂糖を吐いた。

 

(甘っ!何だこれ……えぇ、ここまでテンプレ的なやつ初めて知ったぞ)

 

そもそも俺が映画を観たことないと言うのがあるが。

…内容は、宇宙に進出した人類とアンドロイドの恋愛。

人形が人類の労働の代替品となった現代において、中々考えさせられる内容ではあった。

 

「指揮官、どうでしたか…?」

「うーん…まぁ人間の代替品って話なら…恋人の代わりにもなるんだろうか」

 

昨今、人形の方が下手をしたら生き残っている人間よりも数が多い。

疑似とはいえ感情を持っている。

生体パーツを使用しているため、思ったよりも柔らかい。

 

「指揮官は、そう思うのですか?」

「意外と相性が良かったりしてな」

「…人形(わたしたち)は、代わりになれるのでしょうか」

「充分に勤まってると思うぞ?」

 

いつの日か、彼女達が人間に成り代わるのかもしれない。

そんな事が頭を過った。

 

「さ、M4。飯でも食って帰ろうか」

「はい…あ、指揮官」

「どうした?」

「今日は、ありがとうございました」

「…どういたしまして。こっちもいい気分転換になったよ」

「明日、頑張ってください」

「ああ。失望させないように、努力するよ」

 

明日も、頑張ろう。

 

 

 




大変申し訳ありませんでした(土下座)。

昨夜投稿した内容が、起きてから見直すとあまりにも詐欺した上に酷すぎたのでまるごと差し替えました。

もう少し、考えて文字を打つことを覚えます…。


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表情の下の本心

しかし、M4と見た映画…このご時世とんだ皮肉だな。
ん?M4どうし…待て待て待て待てステイ!ステイ!

あっくそ力つえーなやめろ離せ!!
俺は人形とそんな事する趣味はな…やめっ、ぐふっ!?


 

唐突だが、はっきり言うと俺は404小隊に苦手意識が少なからずある。

先日の416、UMP45は()()()友好的に接してくれるが、戦場の彼女達を知っているから鵜呑みには出来ない。

そして、まだグリフィンで会っていないG11と…UMP9。

G11に関しては彼女がコミュニケーションに積極的出ないことも手伝い情報不足。

 

そして、UMP9はーーーーーー

 

「よ、よお…」

 

グリフィン本部、早朝の廊下。

先日の作戦が不測事態により今朝まで食い込んでしまったため、今ようやく帰ってきた所。

 

「……………」

 

無機物の様にピクリとも表情を動かさないUMP9と遭遇した。

…話に聞く『笑顔で人懐っこい』UMP9とはかけ離れた姿。

 

何故か()()()()()()になると何も話さず、表情も動かなくなる。

俺の事をまるで値踏みしてるかの如く食い入る様に見つめている。

 

「久しぶりだな、UMP9。ええと…無事そうで、何よりだ」

 

それでもコミュニケーションを試みる俺は物好きにも程があるんだろうな。

 

「……………久しぶり。元気そうだね」

「えっ…ああ、それなりにな」

 

返事は期待していなかった。

しかし、これは一体どういう心境の変化なのだろうか。

 

「研修、頑張ってね」

「………おう」

「それじゃ」

 

………最後まで、表情らしい表情を見せてはくれなかった。

けれど、会話が成立したという事は前進…したと言えるのだろうか。

社交辞令だろうけど。

 

 

 

 

ーside:anotherー

 

話せた!話せた!

良かった…いつも喋ろうとするとどうしても()()()()()()()顔が固まってる気がするんだよね…。

変じゃないかな。

45姉からジョージが指揮官になるって聞いて凄くびっくりした!

でも、ジョージに避けられてるみたいで中々会えなかったんだよね…。

いざ会ってみるとやっぱり口が固くて大変だったなぁ。

 

「あら、ナインおかえりなさい。上機嫌ね」

「45姉!あのね、ジョージと話せたよ!」

「それは…良かったわね。あの人、ちょっと誤解してるみたいだから心配してたけど」

「誤解?」

「ええ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って」

「えへへ。そうなんだよね…何でだろう」

「それは…そうね、わかる時が来るかもしれないわ」

「えっ、教えてくれないの?!」

「その感情に名前を付けるのは貴女よ。しっかり向き合いなさい」

 

なんだかはぐらかされてしまった。

ジョージとは以前に何度か背中を預けた仲だけと、臨時で指揮を取る時もあった。

 

最初は目障りだったけど、段々観察している内に…気になって視線で追うようになってしまった。

 

この感情は、なんて名前を付けたら良いんだろうか。

 

 

「ちゃんと、話したいなぁ…」

 

 

 




以前消したナインの話が不満だったので、暫く間をおいてから書く事にしました。
…やっと支えが取れたとかそんな気分です。

次回、お酒はほどほどに。


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酒は飲んでも飲まれるな

ひょんな事からUMP45と飲む約束をしていたジョージ。
しかし、その本格的な誘いの前にベロベロに酔ったM4が現れる。
まぁ穏やかに終わるはずもないよね。


「指揮官。飲みましょう」

 

ある日の夜。

M4がアルコールの瓶を抱えて部屋に押し入ってきた。

 

「M4?せめてノックしてくれない?」

「指揮官。飲みましょう」

「聞いて」

 

聞く耳を持たない。

こんな聞き分けの無い子だっただろうか…。

 

「お前、顔真っ赤じゃねぇか…」

「えへへーしきかーん」

 

なんてことは無い。

先に飲んでたのだろう。

それにしてはだいぶ出来てるが。

 

「ん?これ模造品じゃないな…どこでこんな物を」

 

M4が持っていた瓶。

程度は良くないが紛れもないアルコール…ワインであった。

 

「ヘリアンさんとのんでたらくれましたー」

「…何で?」

「指揮官がそのまま押してくれたらーって話を」

「あの女…」

 

だから合コンで負けるんじゃねぇのか…。

 

「ほら、指揮官ー」

「はいはい…ったく、人形でも酔うんだな…」

 

さて、グラスとか置いてあったかな。

人形とはいえ女性と飲むのだ。

ちゃんとしたものは出してやりたい。

 

「ほら、M4座りな。ったく、そんな赤くして…綺麗な顔が台無しだぞ」

「わたし綺麗ですか?」

「ああ。とんだ美人さんだ」

「そうですか…えへへ…」

 

お、良かった。

備品にガラスのコップが置いてあった。

これなら雰囲気もそんな悪くは…。

 

「ハァイ、ジョージィ。今夜一杯やらない?」

「え」

「ん?」

「…あら」

 

ノックもなしに入ってきたのは…404小隊小隊長、UMP45だった。

彼女の目がすっと据わる。

 

「ジョージ?私、二人きりって言わなかったっけ?何でここにM4が居るのかしら」

「ノックしてくれないかUMP45…」

「ジョージ。どういう事か説明してくれない?」

「どうもこうもってお前正確な日付指定しなかったろ…」

「先に約束したのは私だけど?」

「…何で先に約束したって言い切った」

「………」

 

思わず視線を切ったUMP45。

 

「おまっ…!どこから聞いてた!!」

「あらなんの事かしらね、しきかーん?」

「しきかーん飲みましょうよー」

 

両サイドから甘い囁きに挟まれる。

何だこの新手の拷問。

 

「45、お前酔ってないんだからさ」

「はい、どうぞ」

 

有無を言わさぬ圧力が、グラスに注がれていた。

 

「…ったく、しょうがねえな」

「はい、かんぱーい」

「はれ?私のグラスは?」

「わーったから。出すから待ってろ…ひっつくな」

 

最早飲む前からカオス。

どうやって収拾付けるんだこれ。

 

「ほら、M4」

「ありがとうございますー指揮官。大好きれすー」

「はいはい…」

 

三人の手にワインの入ったグラスが行き渡る。

 

「それじゃ、乾杯」

「「かんぱーい」」

 

かちん、とグラスがぶつかる音がする。

…M4と45のグラスだけ物凄い音がしたけど。

 

とりあえず一口。

 

「…美味い」

 

久しぶりの酒だ。

それも、とびきり上等な。

 

「ヘリアンに礼言っとかないとな…」

「ジョージ。入るわよ」

 

いやだから、ノックしてくれよ。

 

 




宴会は続く。
次回、酒乱。


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酒に溺れる…待って死ぬ

宴会inジョージハウス。
まだまだ来るよ戦術人形。


 

「何をやってるのかしら…」

「416…」

 

新たにやって来たのは、HK416だった。

さっきまで絡んできた45が動きを止め、この世の終わりの様な顔をしていた。

 

「あー、HKM4」

「はぁ!?」

「「ヒェッ」」

 

待ちなさいM4。

 

「あはは、そんな名前要らないんでしたっけ〜?」

「言ってくれるじゃない壊れかけ!!」

「わー怒った〜はいどうぞ」

「んぐ」

 

酔っ払ったM4が416を散々煽るだけ煽って酒で満たされたグラスを416の口に叩き込んだ。

 

「あ"っ…ちょっと、416に呑ませるなんて!?」

「お、オイ…45!416呑むとどうなんだよ!?」

 

416が力なくその場にへたり込んだ。

顔は、伏せられたまま。

 

「416!?まさか、急性アルコール中毒…」

「に、人形にそんな心配はないわ…ただ」

 

心配になって駆け寄り、顔を覗き込む。

…ポタポタと、雫が落ちてきた。

 

「416…オブェ!?」

 

しゃがみ込んだ俺の腹部に、416がタックルを仕掛け、ガッチリホールドしてきた。

 

「な"ん"でな"の"よ"ぉぉぉぉぉ!!!」

「!?」

「どゔじでごんなやづにがでないのよぉぉぉぉ!!」

 

号泣。

タイトル画面も目じゃないくらい号泣。

 

「ちょ、ちょっと…416…落ち着け」

「ジョージも!私なんかよりこのメンヘラアサルトライフルの方が良いっていうの!?」

「やーい負け犬」

「M4はちょっと黙ろうな!?」

「見た目なら勝ってるのに!!」

「…指揮官?まさかそんな童顔グラマーとか思ってませんよね」

「M4ェ…煽るくせに沸点低すぎんだろう」

 

M4もいい線いってるがやっぱり416と比べると差が浮き出てしまう。

何とは言わないが。

 

「指揮官」

「グエッ」

 

416に腹部をホールドされ座らざるを得ない状況に、背中からM4が覆いかぶさってきた。

 

「私が居れば他の人形(おんな)なんて要りませんよ…」

「若干芸風パクってる」

「ジョージ…私やっぱり完璧じゃない…」

「落ち着け416いつもの自信はどこ行った」

「ジョージィ…私帰るね」

「45!?この状況で見捨てるのかよ!?」

「正直巻き込まれたらタダで済みそうもないし…」

「おまっ」

「「45」」

 

逃げ出そうとしていた45を二人がいつの間にか拘束していた。

そのままあれよあれよと416の膝の上に寝かされ…。

 

…416に膝枕され頭を固定、そして45の腹の上にM4が跨っていた。

 

「ちょっと、離せ!!あと416その脂肪の塊頭に乗せないで!」

「45さんも楽しみましょうよ…」

「M4?待って頂戴、そのグラスどうする気…うぐっ」

 

416が無理やり45の口を開く。

そこへM4がすかさず流し込んだ。

何で息ピッタリなんだよお前ら。

 

「ゲボッ!ちょ、やめゴボっ!」

「待て待て待てステイ!45が死ぬ!止まれ!!」

「ハイ…ジョージィ…元気でね…」

「45ォォォォォ!?」

 

UMP45、陥落。

45を解放したあと、二人がゆらりと立ち上がる。

 

「しきかん…」

「ジョージ」

「あ、明日も早いしそろそろお開きしようか…」

「あしたはひばんです」

「よく知ってたなチクショウ」

「ジョージも、飲みましょう?」

 

うっとりするほど色っぽい顔で416に誘われる。

顔が朱いのがアルコールのせいなのがとても悲しい。

 

「や、やめろ…来るな…マジかよ夢なら醒めry」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

起き上がる。

いつの間にかベットで寝ていたらしい。

 

視線を向けると、アルコールの瓶を抱えた全裸の416と45とM4がなんか凄い知恵の輪みたいになって爆睡していた。

 

「…………オイオイオイ、死ぬわ俺」

 

いやしかし待て、よく見ると何故か今の格好は上半身裸で下はズボンを履いている…。

つまり、セーフ。

 

「おはようございます、ジョージ」

「ああ、おはようスプリングフィー………ル、ド…?」

 

視線を、ベットの上に向ける。

待ってくれ、何でそっちからコエガキコエル?

 

腕にサラリと栗色の長い髪がしなだれる。

…あれーおかしいなM4、イメチェンした?

…M4はベット下に転がっている。

 

「昨夜は…お楽しみでしたね…?」

 

俺の隣には、柔らかく微笑むスプリングフィールドが横になっていた。

 

…………全裸で。

 

 

 




春田さん、参戦。
尚、襲われた訳ではない。
このSSは青少年のナニカに配慮しているので、卑猥は一切無い。

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俺には明日がない、かも

床に転がる全裸人形×3、ジョージの隣で寝てる全裸人形。
ジョージの明日はどっちだ。


 

「待て待て待てステイ…俺は…もしかして、もしかしなくても…ヤッちまった…?」

「ジョージ…」

 

全裸のスプリングフィールドが俺に体重を預けるように寄り添ってきた。

 

「スプリングフィールド…教えてくれ…俺は、何をした…」

「…何もしてません」

「えっ、この状況で?もしかして俺ED?」

「単純に私が来た時には寝ていました」

「それで、わざわざ服脱いで隣で寝たの?不自然じゃね…」

「普通に添い寝するだけでは面白くありませんから」

 

この人相当たち悪い。

それより416より遥かに豊かな肉体がぴっとりとくっついてるもんだから俺の理性もそろそろヤバい。

視線を向けるとわざとらしく赤面してこちらをじっと見詰めるもんだからなおの事。

 

「スプリングフィールド、悪ふざけはやめてくれ」

「ふふふ、昨夜はやはり惜しい事をしましたね…なので、今から」

「こいつら起きるぞ…」

「その時はもう一度夢を見てもらいます」

「人形は夢を見な…うおっ」

 

スプリングフィールドに押し倒され、マウントを取られてしまう。

…その裸身が惜しげもなく晒される。

 

「私、綺麗ですか?」

「ああ…」

「ジョージ」

 

駄目だ駄目だ!

今ここで手を出す訳に…。

 

がちゃん。

 

「「?」」

 

ドアから物音がした。

このタイミングで誰か来るとは考えにく…。

 

「ジョージさんから離れて!!」

 

…トカレフちゃんが愛銃をスプリングフィールドに向けて吠えた。

 

「トカレフ!?」

「スプリングフィールド!見損ないました!」

「あら、トカレフさん。どうしてここに?」

「今日は非番と聞きましたので…その、えーっと、何で貴女に言わなきゃいけないんですか!!」

「何で俺の勤務形態ここまで筒抜けなの…」

 

果てしない疑問である。

とりあえずトカレフを宥めなくちゃいけない。

 

「スプリングフィールド。とりあえず服着ろ。悪いけどこいつらの面倒も」

「…分かりました」

「トカレフも出直してくれ…ちょっと今は説明出来ない」

「……………………」

「トカレフ。銃を俺に向けないでくれ。電脳がエラー吐きまくってるだろ」

「………わかり、ました」

 

トカレフは銃を降ろすと、足早に去ってしまった。

 

「トカレフを追いかける」

「分かりました…ジョージ、その…ごめんなさい」

「悪いと思うならやらないで欲しかった…けど」

 

スプリングフィールドにシーツを投げてやる。

 

「俺なんかにそんな物見せなくていい。勿体無い」

「どういう事ですか」

「次から有り難みが消えちまう」

「ジョージが望むなら、いつでも相手しますよ」

「…人形と重い女はあんまり」

「残念。ですが諦めませんので」

「切り替え早いのがいい女だと思うんだ俺」

「私、一途でしつこい嫌な女なので」

「…行ってくる」

 

何でこう、人形どもはどいつもこいつと愛情表現が重たいんだろうな。

そのへんに落ちていたワイシャツに袖を通して、トカレフを追い掛けた。

 

………あれ、これ失くしたと思ってた奴…。

てっきりM4が着てたかと………ん?コーヒーの匂い…。

 

「犯人スプリングフィールドかよ!!」

 

 

 




流石に事後じゃないってのは苦しい。
修羅場…で良いのかなこれ。
自信ない。


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説得

走り去るトカレフを追う。
その背に掛ける言葉を違えてはいけない。


 

トカレフは、倉庫の隅で啜り泣いていた。

 

「…トカレフ」

「………やっぱり、追いかけて来てくれましたね…♡」

「…えっ」

 

声を掛けると、彼女は振り返る。

…瞳から涙を流している。

しかし、顔は…笑っていた。

 

「嬉しいです、ジョージさん…貴方はやっぱりわたしを選んでくれた…」

「トカレフ、聞いてくれ。スプリングフィールドとは何も無かった」

「大丈夫です…わたしはジョージさんを信じてます」

「そ、そうか…」

「だから、ジョージさんもわたしを信じてくれますか」

「…そうだな。その銃を俺に渡してくれたら信じよう」

 

トカレフが後ろ手に持ち、トリガーに指を掛けていた拳銃を見せた。

 

「…なぁ、トカレフ。君の指揮官は?」

「………ジョージさんが助けてくれた直前に、目の前で亡くなりました」

「そうか…」

 

だからフリーなのか。

…目の前で指揮官を失い、メンタルに損傷を負った人形がここに集められているらしい。

そんな噂を耳にした。

なまじ戦闘経験が有り熟練しているからこそ初期化に踏み出せない人形達。

トカレフ…恐らくスプリングフィールドもだろう。

 

「辛いことを聞いた」

「大丈夫、です…もう終わった事ですので」

「トカレフ。スプリングフィールドと仲直りしてくれないか?」

「それは、どうしてですか」

「君は彼女に銃を向けてしまった。彼女もショックだったと思う」

 

人形に真摯に向き合っていた事も相まって割と彼女達から好印象を貰っていた。

…だからだろうか、ここで関わる人形達が少し情緒不安定だった事に気が付いたのは。

 

「トカレフ」

「お願いが、あります」

「何だ?」

「私と…どこか遠くで暮らしませんか…グリフィンも鉄血も関係ない、どこか遠くで。もう、目の前で誰かを失うのは嫌なんです…」

 

トカレフは、その場にへたり込んでしまった。

…前の指揮官より以前に、やはり誰かを失っていたのだろうか。

 

「それは出来ない」

「…っどうして!やっぱりスプリングフィールドの方が良いんですか!?それともM4!?」

「トカレフには話してなかったっけ。俺にはさ、借金あるんだ」

 

M4やスプリングフィールド、45や416…は知ってるか。

人形に、初めて、自分の身内を語った。

 

「え…そんな、酷すぎます…」

「こんなの人間同士ならよくある話だよ」

「だからって…ジョージさんを切り捨てるなんて」

「…まぁ、なんだ。やっぱり人間より人形の方がまだ信じ易い」

「……」

「トカレフ。君と一緒に生きていく事は出来ないけど…今、一緒にいてあげる事は出来る」

 

何となく、クルーガーの意図が読めてきた気がする。

メンタルカウンセリング…俺にそれが出来るらしい。

研修と称して人形達に俺の情報を流して接触させ、少しずつ復帰を促す。

だから俺の研修は長いだろうし、恐らく指揮官になってからこういった人形達を回されるだろう。

能力としては高いが、戦闘不能な傷を抱えた彼女達を治すための先行投資。

それが、俺の借金を肩代わりしている。

 

「だからさ、行こう」

「あ…」

 

トカレフの手を取り、立たせてやる。

そのまま、自分より頭2つ以上小さな彼女をだき止める。

 

「一人で謝るのが怖いなら、ついて行ってあげるよ…お嬢さん」

「…ありがとう、ございます…ジョージさん…もう一つ、お願いが」

「ああ」

 

屈んで、彼女と目線を合わせる。

すると、彼女が飛び込んできたので受止めた。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…わたし、わたし…貴方にも、銃を向けて…」

「許すよ…だから、大丈夫だ。俺はここに居るよ…」

 

背中を優しく叩く。

小さな子をあやすように。

 

トカレフが泣き止むまで、俺はずっとそこに居た。

 

 

 




感情があれば、心がある。
人形だって心が傷付いてしまう。

だから、寄り添う。
彼女達が再び戦えるようになる迄。


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ひっつき虫

こう、茂みを抜けた後衣服によく着いてる雑草とかあるじゃん?アレ。


あれから、トカレフはちゃんとスプリングフィールドに謝りに行った。

…スプリングフィールドは軽く驚いていたが、笑って許してくれた。

 

「指揮官、昨夜の事なんですが…」

「お、おう…M4酔い潰れて大変だったよ」

「そ、そうだったんですか…」

 

久し振りにM4と二人だけで資料室に居た。

休みとは言え1日中ゴロゴロしている訳にはいかない。

なので、媒体が豊富な資料室で少し情報を集めていた。

 

(人形のメンタルケア、か…そんな事出来るんだろうか…)

 

先日のトカレフで出来てしまったケア。

あれからまだ彼女に会っていないのだが、一体どうなって…。

 

「ひっ」

 

M4が食い入るように俺の方を見ていたのに気付き、資料を手から取り落とした。

 

「指揮官、今他の人形(おんな)の事を考えていましたね…?」

「あ、ああ…」

「…最近、指揮官の周りに知らない人形が増えてきて…あまり一緒に居られないと感じています」

「朝夜基本べったりしてる癖に何言ってんだお前」

「昨夜だって結局色んな人形が来ました」

「…ほんと、何でだろうな」

 

俺、アイツらに部屋の場所教えてなかったんだけど。

 

「…しゃーねぇ、じゃ今日はお嬢さんに付き合うよ」

 

もう調べが付くものが見当たらない。

こういう時は気分転換だな。

 

「M4、コーヒーでも飲みに行こう。喫茶店とかある?」

「えっ…あ、えーっと…」

 

付き合うと言われてパァッと表情が明るくなったが、喫茶店と言った瞬間に曇った。

…なんだ、どういう事だ…気になるぞこれ。

 

「え、えーっと…喫茶店はちょっと」

「珍しく歯切れが悪いな」

「ちょっと、苦手な人が居まして」

「へぇー…行ってみるか」

「ええっ、指揮官…!?そんなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

「あら、ジョージ。いらっしゃい、珍しいですね」

 

M4と一緒に回れ右。

その場から全力で走り…。

 

「人の顔を見るなり」「走り出すのは」「失礼じゃないですか?」「ジョージ?」

 

四人の同じ顔に囲まれた。

あっ、くそ!

コイツダミーにも店番させてるのかよ!?

エプロン姿の人形…スプリングフィールドがにこやかに微笑んだ。

 

「いらっしゃい、二人共」

「M4…正直すまんかった」

「私は許しましょう…ですが、この子が許しますかね!?」

「それもお前だよ」

 

コーヒーの匂いがする、とスプリングフィールドに対してちょくちょく思っていたけども…まさか喫茶店やってるとは思わなかった。

有無を言わさずカウンターに並んで座らされた。

…マスターのスプリングフィールド…恐らく本体の目の前。

 

「何にしますか?」

「え、じゃあ…ホット2つ」

「はい、少々お待ちくださいね」

 

接客慣れしているのか、自然なスマイル。

今朝の事がなかったら俺も見惚れてたくらいだ。

…会ったばかりの純粋な俺にはもう、戻れない…。

 

「いでででで」

「し、き、か、ん!」

 

左に座っていたM4に手の甲をつままれた。

M4さんふくれっつら。

 

「ったく可愛いなお前」

「かっ…!?」

 

スプリングフィールドに比べたらまだ。

 

「お前は頼むからそのままで居てくれ」

「はい、ホット2つ。目の前でいちゃつかないでくれませんか?」

「人のこと言えるのか君」

「さて、なんの事やら」

 

相変わらず手強い。

さて、出されたコーヒーを…。

 

「…やべぇ、涙が」

「「えっ」」

「誰かに温かい物貰ったのもしかして初めてかもしれん…」

「えっと、ジョージ…ここで本気で泣かれると…その」

「指揮官…」

 

戦術人形二人に慰められながらひたすら泣いていたのだった。

 

 

…後日、同僚から大分からかわれる羽目になるが、それはまた別の話。




外食とかする様になったのもグリフィンに来てから。
傭兵時代はとにかく節制。
…春田さんの事ちょっと苦手になりつつもこうやって握られていくのに本人は気付いていない。


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血で染まる純白の日

ジョージ「やばい、ホワイトデーすっぽかした」


非常に拙い事態になった。

 

今回、支援で着いていった作戦が延長に延長を重ねたせいで一週間と言う長丁場を戦場で過ごす羽目になった。

この期間が問題で…本部に戻ると…日付は、15日になる。

 

何が言いたいかと言うと。

 

「ホワイトデーすっぽかしたのねジョージ」

「んなハッキリ言わんでもWA2000ちゃんや…」

「スプリングフィールドから貰ってるのにそんな事言われて容赦すると思ってるの?」

「ごもっとも」

 

グリフィン本部に到着、ヘリが着陸する。

実に一週間ぶりの帰還であった。

 

「…………あれ?」

 

ふと、M4が居ないことに気が付く。

いつもなら帰ってきた瞬間現れて同行していた人形達にガンつけているのだが…。

 

整備班に人形達を預けてそれとなく聞いてみた。

 

「M4A1なら定期検査でIOPに行ってますよ」

「ほう…」

 

これはもしや、チャンスなのでは?

今の内にお返しが用意できる。

 

「よし…」

 

ならば、早速行動に移そう。

まずは…。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

『お久しぶりですね、ジョージ』

「久し振り。そっちはどう?母さん」

 

母に連絡をしていた。

基本的に私信が出来るタイミングは限られ、いつも長蛇の列だったのだが今日は長期任務明けと言うことで融通を効かせてもらった。

 

「急で悪いんだけどさ、レシピ送ってくれないか?」

『レシピ…ああ、アレですか。好きですね貴方も』

「まぁ…ね」

『わかりました。近日中には。そう言えばジョージ』

「ありがとう…うん?」

『今日、栗色の髪の女の子がウチに来たのですけど、ジョージの母親ですかって聞かれたの』

「へ、へぇ…」

 

栗色の髪の女の子…一体何者なんだ?

 

『貴方も隅に置けないですね。その子とはどんな関係なのかしら?』

「名前とか、聞いてない?」

『いいえ?名乗らないでコーヒー飲んで帰って行きましたよ』

「そ、そっか…ありがとう、それじゃまた」

『気を付けて』

 

通信終了。

 

「………………いや誰だよ」

 

栗色の髪の女の子って。

そんな人間の知り合いなんて…………。

ん?人間?

 

「…………いるな、一人」

 

()()の知り合いなら。

 

「スプリングフィールドかよ…こっからウチまでどんだけ離れてると思ってるんだ…」

 

姿を見ないと思ったらそういう事か。

まぁ、しかし彼女も居ないのなら好都合である。

 

「…さて、材料と場所を確保するか」

 

そんな訳で、だいぶ遅れたお返し作戦が始まろうとしていた。

…未来の不安から全力で目を逸らしながら、だが。

 

「頼む…何事も無く済んでくれ…」

 

独り言が虚しく響くのだった。

 

 




ホワイトデー遅刻をシナリオで修正していくスタイル。


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借金塗れのお返し大作戦

ジョージ「材料費給料から天引き?オイオイカリーナちゃんそりゃないぜ…」


 

通信からしばらくして、母親から手紙が届いた。

中身は…レシピ。

 

「流石」

 

材料から作り方まで事細かに記載されていた。

その料理とは…。

 

パンナコッタである。

かつて、イタリアと呼ばれた国発祥のデザートであるらしい。

…生クリームが多くカロリーが高いためあまり女性に人気ではない事をこの時の俺は知らなかった。

 

さて、材料を調達しなくちゃな…。

 

「用意出来はしますが…高いですよ?」

「どれくらい?」

「このくらいですね」

「…何これ、ふざけてるの?」

 

金さえ積めば何でも用意すると評判のグリフィンの後方幕僚、カリーナちゃんからとんでもない額が提示された。

 

「適正価格です」

「うっそだぁ…これ割と良い酒買える値段だよ」

「甘味は今のご時世貴重品なんです。諦めて下さい」

「そうか…」

 

これは、母さんには悪いが別の方法を考えた方が良いのかもしれない…。

すると、カリーナがこちらの顔を見てあっ、と言った顔になる。

 

「そう言えば、貴方ジョージさんですよね」

「え?あ、ああ…そうだけど」

「…グリフィンに多額の借金をしていらっしゃるとか」

「…………そうだよ」

 

何だろう、とんでもなく嫌な予感がする。

最近よく当たるんだよね俺の予感。

 

「なら、その借金に上乗せして差し上げましょう!」

「えっ何その地獄」

 

俺に借金を増やせと言うのかこの女。

しかもこんな命のやり取りも無い…あ、いや、どうだろう…。

 

何となく無事に済む気がしなかった。

 

「うぎぎぎぎ…」

「さぁさぁどうされます!?女の子に刺されるか、身を削ってお返しするか!」

「お前楽しんでるだろ!?この状況をよ!?」

 

コイツ判ってて煽ってきやがる。

 

「娯楽の少ない世の中ですからね。恋話なんていい刺激になります」

「なら話題提供でちょっと負けてくれない?」

「おっと、上手いことやられましたね…もう、今回だけですからね」

 

やった…値引きされそう…。

 

「とりあえずこちらでどうですか?」

「くっ…しゃーねぇか…」

 

悲報、借金増えました。

…まぁ、今まであった分からしたら微々たるもんだから。

たかが一ヶ月分…。

 

「…明日から携行食抜きだな」

「毎度ありがとうございます!ご武運をー」

 

明日部屋に届けてもらう手筈を整え、売店を後にした。

さて、とりあえず取り掛かろう…なんかどっと疲れた。

 

「…………」

 

また、誰かに見られている…って、そんな事するの一人しか居ないか。

最近あまり見掛けていなかった、青いリボンの白い頭が見えた。

 

「…さて、どう出るかな、あの子は」




ホワイトデーいつまで引きずるんでしょうね…。
皆様、いつも感想ありがとうございます。
最近忙しくて更新頻度が落ち気味なのが悲しくなる。


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白い少女は朱に染まる

そう言えばオリジナル指揮官のフリー素材化がちらほらありますね…。
うちのジョージもフリー素材に…………あっ、こいつそう言えばまだ指揮官じゃねぇや。


 

ーーーグリフィン本社、調理室。

一部の人形と人間しか利用しない、ある意味でこの会社の最も人の居ないポイントである。

 

何故ならこのご時世飯は用意してもらえるので、わざわざ高い金払って材料用意して作るなんて物好きはそうそう居ない。

 

カリーナにぼったくられた材料達が届いたので、いよいよ調理に取り掛かるのだった。

タイムリミットはM4が帰ってくるまで&スプリングフィールドが帰ってくるまで。

実質二日ほど。

 

「…何でだろう、たかがお返しで何故こんなスリリングな体験っぽくなっているのは」

 

明らかに貰った相手のせいだとは考えないようにしたい。

…ちなみにプレゼントを貰った相手はM4とスプリングフィールド、そして意外な事にWA2000もくれた。

 

曰く、「仮とは言えバディなんだし、貰えなくてモチベーション落としてもらったら困るから。ただそれだけ…勘違いしないでよね!?た、他意なんて無いんだからね!」だそうだ。

 

「三人分…いや、四人分か?材料足りるか…?分量的には足り…あ、これ失敗出来ねぇや」

 

四人目が来るとは思っていなかったが、あげない訳にもいかないだろう。

 

「さて、やりますか…所で何で俺さっきから独り言言ってんだ?」

 

てきぱきと材料と道具を準備していく。

これでも幼い頃に母親の喫茶店を手伝っていたのでそこそこ料理できる。

最近金が無いからやってなかったけど。

世知辛い。

 

「泣けるぜ」

 

でも泣かない。

俺は男だからな。

先日スプリングフィールドのカフェで男泣きしてたのは鉄血支配地域にでもぶん投げとけ。

 

「そういやこの前ぶん投げた支給品の手裏剣…爆発したけどどう言う理屈なんだ」

 

しばらく電磁パルスをばら撒いて周りの鉄血人形がショートしていた。

 

閑話休題。

 

「何が一番高いかって言われても砂糖も牛乳も高いんだ」

 

しかも牛乳は合成。

砂糖は代替が利かないから純粋に高い。

 

「あとゼラチン。よくあったなこれ」

 

ボールに水を貯めてゼラチンと牛乳、ヨーグルトと砂糖を投入していく。

ヨーグルトもそう言えば合成品だった。

 

「…何でもかんでも代替品。でも高い」

 

どんどんかき混ぜていく。

手は動いているがその間割と暇である。

ふと、備え付けの冷蔵庫が見えた。

 

…何となく開けると。

 

「…見なかったことにしよう」

 

なんかSOPMODⅡと書かれたメモになんか配線とか飛び出た丸い…。

 

「さぁーて次の工程はっとぉ!!」

 

俺は何も見てないぞ、うん。

 

 

ーーーーーしばらくして。

 

型に流し込み、冷蔵庫にしまった。

なんか、色々あった気がしてどっと疲れた。

 

「はぁ…」

 

思わず溜め息。

冷やす時間は最低1時間とあるが…。

まぁ、このアホみたいに電気食ってる冷蔵庫なら固まるか。

 

「で、いつまでそこに居るんだトカレフ」

「っ」

 

調理場の出入り口に、トカレフが立っていた。

 

「こ、こんにちは…ジョージさん」

「おう。おいで」

 

手招きしてやると、おずおずと言った様子でトカレフが寄ってきた。

 

「丁度暇してたんだ。よかったら話し相手になってくれないか?お嬢さん」

「えっ、あ、はい…」

「で、いつから?」

「……………最初から」

「ウッソだろオイ」

 

あの独り言全部聞かれてたってのかよ。

 

「それで、ずっと何をしていたんですか?」

「ん?あー、ちょっとホワイトデーのね」

「…それ、先週では」

「…………ああ」

 

みるみるうちにトカレフの顔色が悪くなっていく。

うわぁ、他人の血の気…オイル?が引く様子初めて見たよ。

 

「えっ、大丈夫なんですか…?M4さんとスプリングフィールドさんですよね…?」

 

お、ちゃんと二人のことさん付けで呼ぶようになってる。

それに、情緒もちゃんと安定している様だ。

 

「ジョージさん?なんだか娘を見る様な顔をしてますけどかなり拙い状況ですよ…?」

「すまない、少し現実逃避をな…」

「は、はぁ…」

 

ふと、トカレフがじっと残ったパンナコッタ(液)を見ていた事に気が付く。

 

「こうやって見ると普通に女の子だな」

「えっ、何がですか…?」

「大丈夫だ。お前の分も作ってあるから」

「なっ…もう!ジョージさんこそ最初からわたしに気付いてたじゃないですか!」

「なんの事かなー?」

「…っ、ふふふ」

「ハハハ、ふぅ…笑える様になったな」

「はい、お陰様で」

 

こうやって気さくに笑い合う関係になれる位が丁度良いのだろう。

 

「…これ、もしかして舐めたいとか?」

 

固めて無い原液をまさかとは思い切り出す。

いや、我ながら大分デリカシー無いなこれ。

 

「え、あ、はい」

「ウソォ」

 

まさかのビンゴ。

いやまぁ女の子だし甘い物欲しいのだろう…。

 

「あーん」

「えっ」

「あー」

 

トカレフさんがまるで雛のように口を開けて待っていた。

これはあれか、あげろと。

 

「…手のかかるお嬢さんだ。じゃあ味見してもらおうかな」

 

スプーンで一口掬ってトカレフに…。

 

ガチャ!×2

バタン!×2

 

「指揮官!M4A1ただいま戻りました!」

「水臭いですよジョージ、こっそり用意するなんて」

「「……………説明して下さい」」

 

ガチャン×2

…2つあった出入り口が、同じタイミングで施錠された。

 

「「ひっ…」」

 

俺とトカレフから、変な声が出た。

 

 




トカレフちゃんメンタルケア。
…まぁジョージに依存するのは明らかだけども。

さぁ、帰ってきたあの二人…パンナコッタは固まるがジョージが溶けそう。


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戦慄のお返しタイム

施錠された室内。
場に居るのは人形三体と俺。

パンナコッタが固まるまであと30分…俺は、生き延びる事が出来るか。


 

待ってくれ、何でわざわざ部屋の施錠をしたんだ。

…改めて現状を見直すと、俺は今から見た目幼女の人形に白濁液(パンナコッタ)をスプーンで口に流し込…。

 

あ、事案だこれ。

 

「し、しししし指揮官!それは、新手のぷ、ぷれ…」

「ジョージ、小さな子にそんなプレイするのが趣味だったんですか…?」

「待ってくれ、な?落ち着いてくれ。疚しい事は一切ない」

「…ジョージ、私もそう言うのはやぶさかではありませんよ」

「やべぇ逃げるぞ」

 

M4は顔真っ赤にしてショート気味、スプリングフィールドは満更でも無さそうな表情で着ている服に手を掛けている。

なんかスプリングフィールド脱ぎ芸が付いてる気がするが。

 

「わ、わたしもジョージさんにそんな事されたい!!」

「トカレフ!?」

 

駄目だ、味方はたった今寝返った。

 

「そ、そんな事!?やっぱり疚しいじゃないですか!私というものがありながら!!」

「M4、俺は君とそんな関係になったつもりは無いよ?」

「さぁジョージ。お返しをください…」

「やめろスプリングフィールド!ズボン掴むな!」

「ジョージさん!わ、わわわたしも…!」

「やめて!信じてたのに!トカレフ!」

 

人形三体にただの人間である俺が勝てる訳がない。

なんとか、なんとかこの場を切り抜けなければ…!

 

「え、M4!検査がどうしてこんな早く終わったんだ?予定ならもう少しかかってただろ?」

「愛です」

「えっそれだけ!?」

 

話が続かない…!

ええい、次はスプリングフィールド!

 

「愛ですよ!」

「理由を言え!」

「あ、愛ですっ!」

「トカレフはえーよ!まだ振ってない!」

 

まともに話すつもりが毛頭ないらしい。

真面目な話、指揮官着任前に人形と肉体関係を持つのは非常に拙い。

どこの所属とも判らないとなると人事に吊し上げを食らう。

疑似とは言え感情を持っているし、そこから着任時に付けられる副官の問題にもなる。

 

「三人とも…落ち着いて聞いてくれ…俺はまだ誰ともそういう…」

「ここで何騒いでるのよ!廊下まで聞こえてるわよ!あ、あら?鍵がかかってる…」

 

救世主降臨。

この声はWA2000だ。

 

「WA2000か!お前にも渡す物がある!」

「指揮官。まだお話が終わってませんよ…?」

「…はぁ、仕方ないですね…今回は引き下がります」

「その、スミマセン」

「M4さん。まだ時間はあります。ここは堪えましょう」

「う、うぅ…」

 

良かった、助かった…。

しかし、こんな時に来るとはWA2000も何やってたんだろうか。

 

「はいってきて大丈夫ですよ、わーちゃん」

「え?スプリングフィールド…?それにM4にトカレフ…ジョージ、あんたまさか…」

「君のお陰で助かったよ…時間も丁度良かったし」

 

時計を見る。

…1時間半。

冷蔵庫を開けて、容器を四人に渡す。

 

「すまない、遅くなった。こんなんで悪いがお返しだ。ありがとな」

 

…何はともあれ、一応の決着は付けられたか。

四人とも普通に喜んでくれた。

 

…M4だけ、少し寂しそうな顔をしていたが。

 

「………」

 

また、別途で話す必要がありそうだ。

 

 




ホワイトデー、完。
4月1日まで引っ張るか悩みましたが筆が乗ったので終わらせました。

次回はM4単品回。
ほのぼのしましょうよほのぼの。


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戻ってきたあの子

ジョージの日常、カムバック。
平穏がサヨナラ。


 

「おはようございます…指揮官♡」

「おはようお嬢さん。所で、俺は昨夜鍵を掛けて寝た筈なんだがなんで居るの?」

 

アラームが鳴り響く中の起床。

そしていつもの様に俺に覆い被さっているM4。

この1週間彼女が検査で居なかったため、すっかり油断していた。

 

「昨夜は指揮官に入れてもらってから鍵がかかっていましたよ?」

「…マジかよ」

 

鍵かける直前に侵入して俺が寝てからベッドに入ってきたなこいつ。

 

「ふふ、久し振りですね…一緒に朝を迎えるのも」

「俺から誘った事は皆無だけどな」

「私、ずっと気が気じゃなかったんです…最近、指揮官の周りに別の人形が増えてきて」

 

気が付いたら傭兵時代に知り合った人形やらバディやらでどんどん増えていった。

いやぁ…何でだろうな。

 

「さぁ指揮官…今日は二人きりです…一緒に愛を深めましょう…?」

「俺は仕事なんだけど」

「えへへ…指揮官…」

「聞いて」

 

猫みたいに顔を胸板に擦りつけてくる。

M4はなんと言うか、こうやってベタベタしてくる割に男女の行為の先へ進む事は決してしない。

 

せいぜいこうやってスキンシップしてくるのが多いくらいか。

 

思えば、俺はM4について殆どよく知らない。

AR小隊所属と言うのも聞きかじった知識であるだけだ。

 

「とりあえずミーティングに遅れたくないからそろそろ退いてくれないか?」

「そんな…」

 

この世の終わりみたいな顔しないで?心臓に悪いんだけど。

 

「今日は一日本部勤務だから、飯くらい一緒に食える。だからな?」

「…はい」

「ありがとう、聞き分けの良い子は好きだぞ」

「す、好き!?ありがとうございます…」

 

完全に『聞き分けの良い』の部分が抜け落ちた受け取り方をされた気がする。

 

「指揮官、今日もがんばってくださいね!」

「いやに上機嫌だな」

「はい!私の為に指揮官ががんばってくれてるんです!私も頑張らないと」

 

まぁ、言ってる事が些かおかしい気がするが気にしてはいけない。

それに、俺が積み上げてきた物は決して無駄じゃなかったとトカレフで証明出来たんだ。

これからも俺が立ち止まらない限り道は続く…。

 

ドアノブに手を掛けようとした瞬間、

 

ドアが勢い良くこちらに向けて開いた。

 

「ぶぁぇっ!?」

「指揮官!?何やってるんですか指揮官!?」

「M4ォ…進み続ける限り…その先に俺はいるぞ…だからよ…止ま」

「ジョージ!緊急事態よ!すぐ支度して!!」

 

ドアを蹴破ったのは、仮バディのWA2000だった。

…表情は平静を装うとしてもバレるレベルの焦りが浮かんでいた。

 

すぐに思考を切り替える。

 

「状況は」

「AR小隊が包囲されて孤立、IOPからの圧力もあって救出作戦が計画されてるわ」

 

AR小隊と聞き、思わずM4を見た。

…肝心のM4の方は、あまり事態を重く見ては居ないのだろうか…表情が変わらない。

 

「判った。で、何で俺を呼んだ?」

「一番動かしやすくて………仮に死んでも損失が少ないからよ」

「WA2000!貴方自分が何を言ってるのかわかってるんですか!?」

「分かってるわよ!!でも、現場に向かえる指揮官が居ないのよ!」

「指揮官、駄目です、行かないで下さい」

 

WA2000とM4が言い争いながら、俺は別の事を考えていた。

 

…AR小隊を助ける?

テロを仕掛けて損害を与えた俺に?その仕事をさせるのか?

 

「ジョージ、来て。貴方しか居ないの」

「指揮官!」

「……………判ってる、判ってるさ」

 

包囲網を食い破る為の作戦。

恐らく最前線に指揮所を設けなければならないのだろう。

包囲されて逆に打尽される恐れがある。

 

指揮官としての初陣にしては中々ハードルが高い…が。

 

逆にここを切り抜けたとしたら、俺の指揮能力(商品価値)を示す事ができる。

 

「WA2000、準備しろ。出る」

「指揮官っ…」

「M4、大丈夫だ。絶対戻る」

「ジョージ。三時間後に出発よ……ありがとう」

 

そう残し、WA2000は部屋を去る。

…M4は、俯いたまま喋らない。

 

「…今度は、俺が出てく番だな」

「え…?」

「M4は予定より2日切り上げて帰ってこれたんだ。なら俺はもっと早く片付けて帰ってこないとな」

「指揮官…」

「大丈夫だ。お前の姉妹も助ける。俺も帰ってくる。心配すんな」

 

壁に掛けてあった制服に袖を通す。

これ派手だからあんまり好きじゃないんだよな…。

 

「指揮官…!私も、」

「…駄目だ。この前検査したばっかなんだろ。まだ処理とか諸々終わってない筈だ…お前は残れ」

「………わかり、ました。必ず…帰ってきてください」

 

返事をしないで、軽くM4の頭を撫でて、俺は部屋を出た。

 

「クルーガーの野郎、戻ったらぶん殴ってやる」

 

 




どうしてもシリアスに寄っていってしまう。
何故だろうか。
戦闘描写が苦手で無しって書いてるのにここから先書かなきゃいけないジレンマ。

そろそろ物語を動かさないといけない。


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撤退戦

鉄血の包囲網を何とか食い破る事に成功するも、別の要因に窮地に立たされるジョージ臨時指揮官。

過去の後悔と決着を着けるための戦いが始まる。


「WA2000!味方の撤退状況は!」

「8割よ!」

「あとの2割はどこのどいつだ!!」

「アンタよアホ指揮官!!」

「だと思ったよ!!」

 

頭の上を弾丸の嵐が通過していく。

その下で俺はバディ兼副官のWA2000と怒鳴り合っていた。

 

鉄血を退けてAR小隊の撤退と言う任務が達成出来たまでは良かった。

 

…そこに、ハイエナの如く別のPMCが介入してこなければ。

 

グリフィンの戦術人形は人間に対するセーフティが堅く、敵PMCの人間達に発砲出来ない人形が多数出てきてしまった。

 

対鉄血に重きを置いていた為の弊害であった。

 

その為、唯一戦える俺と…置いていけないと駄々をこねるWA2000を残して撤退させていた。

 

馬鹿だと思うだろ?俺もそう思うよ。

 

ただ、相手に心当たりがある為、話が別になってくる。

 

「このっ…!」

 

遮蔽物から銃だけ出す盲撃ち。

今手に持っているのは89式自動小銃…そいつから三発弾が発射され、手榴弾を投擲しようとしていた兵士にヒットした。

 

遅れて、爆発。

 

「今だ!移動する!」

「了解…ジョージ、前!」

「っ、いつの間に…オルァ!!」

 

混乱の隙を突き後退…しようとした先に、兵士が一人。

走った勢いのまま肋に小銃の銃床をめり込ませた。

そのまま振り上げた銃の銃床を顔面に寸分違わず振り切る。

 

「やるじゃない!」

「伊達に独立傭兵やってねぇよ!走れ!」

 

タイマンなら接近戦に覚えがあるので排除は簡単に出来る。

しかし、元々集団戦は搦手を多用するスタイルの為正面から迎撃するのは苦手とかそういう問題では無く、厳しい。

 

逃げ回りながら少しずつ数を減らす。

 

「グリフィンの合流ポイントは!?」

「まだ2キロ先!」

「聞かなきゃ良かった!」

 

グリフィンから応援が来るらしいが、セーフティの件もあり到着はかなり遅い。

増援が来るまで耐久する手は正直言ってこちらの物資的に厳しい。

 

「策は無いの!?」

「ノープラン!ただ、あいつ等の視線を釘付けに出来てるって事に関してはパーフェクト!」

「何がパーフェクトよバカ!」

「自律人形ライフル型が2!」

「あーもうくたばれ!!」

 

WA2000の素早い射撃がライフルを構えていた自律人形の頭をぶち抜く。

流石期待のエースだけはある。

こんなのが俺のバディとはこれだけ見ると待遇に涙が出るね。

 

この状況では自衛が精一杯だがな。

 

「何でアンタが戦う事に拘ってるのよ!」

「何でって…」

 

あのPMC…報酬全額前払いのクソ野郎共なんだよな…。

俺を切り捨てたムカつくPMCだったのだ。

グリフィンの主力がピンチだったので、戦力を削るつもりで機会を待っていたらしい。

 

そしてもう一つ理由があった。

 

クルーガーから、戦闘前に依頼があったのだ。

 

傭兵としての、最後の依頼が。

 

 




ほのぼのを全力で投げ捨てた上に戦闘まで始めるクソ野郎な作者で本当に申し訳ない。

でも、流石にやられっぱなしも可哀想かなと思ってしまったんだ。


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最後の依頼

時は少し遡る。
発端はクルーガーからの秘匿回線での連絡だった。


時は少し遡る。

ーーーーグリフィン臨時前線基地。

 

鉄血も掃討し、救出部隊がAR小隊と接触したと報告があった頃。

 

「…秘匿回線?」

 

何となく嫌な予感。

 

『久し振りだな、ジョージ臨時指揮官』

「くたばれ」

『ご挨拶だな』

 

通信の相手はグリフィンの社長ことクルーガーであった。

思わず悪態が出た俺は悪く無い。

 

『順調に進んているところ悪いが、悪い報せだ』

「社長直々に悪いニュースを言いに来るってだけで泣きそうだよ」

『申し訳ないが人払いをしてくれ』

 

人払い。

今この執務室に居る人…もとい人形は副官のWA2000だけだ。

 

「すまん」

「分かってるわよ」

 

WA2000は部屋を出る。

…スクリーンに映された髭面を睨めつける。

 

『今そちらに別のPMCが向かっている』

 

別のPMC。

普通なら増援かと思いたくなるが、俺は別の可能性、もとい過去に片棒を担いだ事があったから思い至る。

 

「…ハイエナかよ」

『その通り。この戦場が奴らの支配地域に近いせいで嗅ぎ付けられた様だ』

「あのPMCは確か旧型自律人形と人間の混成部隊だった筈。グリフィンの人形達じゃセーフティが邪魔になるな」

『ああ。そしてお前達はこの戦闘で相当消耗している…』

 

相性の悪い相手と消耗している状態でぶつかる。

誰が見ても負け戦の可能性が濃い状況だ。

 

『そして、お前を切り捨てたPMCも奴らだ』

「は…嘘だろ!?」

『事実だ。そこで私はお前に…指揮官としてではなく、独立傭兵ジョージ·ベルロックとして依頼する』

 

人払いをした理由を察する。

俺がコイツらに切り捨てられ、グリフィンに所属するに至った経緯を誰も知らないから。

 

『敵PMC主力を潰し貴様の商品価値(ちから)を証明して来い』

「は、はは…出資者サマは無理難題を仰る…」

『プランはそちらに任せる。その方が動きやすいだろう?』

「あー…ったく、クルーガーてめぇホント…」

 

思う存分叩きのめしてやり返してこい、と。

それが叶えばグリフィンは支配地域拡大、俺がその導き手として良い待遇で指揮官に就くことが出来る。

 

失敗したとしてもたった一人の独立傭兵の命が消えるだけ。

 

ここまで言われれば今回の人選も察せる。

 

「やってやろうじゃねぇか!クソッタレ!勿論報酬は弾むんだろうな…!?」

『勿論だとも。通常の報酬ともう一つお前に付ける…それは戻って来たら達しよう』

「モチベの上げ方を良く判ってらっしゃる…」

『ここまで質問は?』

「生死は?」

『問わない』

「了解…とりあえず人形達全部逃がすから受け入れの準備だけでもよろしく」

『…任せるとは言ったが、正気か?』

「勿論。攻撃出来ない人形なんて弾除けにもならねーよ」

 

損傷させたら高く付きそうだしな。

 

『…増援の準備もさせておこう』

「え?いやいや、流石に悪いって。やってやるさ」

『では、任せる。死ぬなよ』

 

通信がそこで終わる。

 

「WA2000!」

「追い出したり呼んだり忙しいわね!何よ!」

「全部隊に通達!撤退準備!」

「了解!」

「AR小隊が合流し次第ずらかれ!」

「…指揮官、アンタは?」

「俺は残る。別件でな」

「ふざけてるの?」

 

あ、やべぇ。

WA2000にする説明を全く考えていなかった。

 

「アンタ置いて逃げるなんて出来るわけないでしょう!」

「命令だ」

「嫌よ」

「WA2000!」

 

指揮官権限がまだ与えられていないせいで、人形達へ強制命令権を行使できない。

それを判っていてWA2000も食い下がる。

 

「クルーガーに言われたのね」

「ああ。でも関係無いお前らは返さなきゃならん」

「関係無いですって!?」

「そうだ!お前らは全部借り物だ…俺の都合で傷付けて良い訳じゃない」

 

ここから先は俺の傭兵人生のケリを着けるための自己満足。

そんな物に巻き込むわけには。

 

「バカ!アンタが死んだらM4は?スプリングフィールドは!?…トカレフだって最近やっと立ち直ったのよ!?それを全部台無しにするつもり!?」

 

そう、それだけが気がかりだった。

トカレフについても、俺に依存して持ち直している様に見えているだけだ。

 

「…判ってる」

「なら!」

「けどな、譲れない物もある」

 

散々良いように使い倒されて黙ってる訳にはいかないのだ。

俺だって傭兵だ…兵士なのだから。

 

「…ッ!!ホントバカ!何で人間は生き急ぐのよ!」

「そんなん決まってんだろ…時間制限あるんだから」

「ああもううるさいうるさい!なら、私だけでも連れてきなさいよ!」

「何でそうなる」

「あ、アンタとは三ヶ月の付き合いだったけど…」

 

WA2000のバディとしておおよそ三ヶ月、決して高い頻度では無かったが一緒に戦場で過ごした。

今思えば懐かしい。

 

「アンタと組んでから、私の性能も上がった気がしたし…その、私の性格知っててちゃんと絡んでくれてたし…」

 

驚いた。

普段あまり素直に心情を吐露してくれない彼女が。

 

「もう、アンタは私の、『WA2000』っていう商品の一部なの…失くすなんて絶対ごめんだわ」

「…なんだよそれ。お前こそ意味分かんねぇよ…」

「な、何よ!人がせっかく…」

「…バックアップは?」

「この作戦前にとってあるわ」

「…………しゃーねぇ、連れてってやるよ」

 

まさか、人形に根負けさせられる日が来るなんてな…。

 

「絶対、死なせないから」

 

 




WA2000が付いてくる経緯、ジョージの確執の理由。
…なんか昨日の更新からえらい伸びてて凄まじく驚いてます。
付けたタグを好き勝手弄った結果だとしたら土下座物ですね…。

次回から現在に時間が戻ります。
生きて、帰れるかな…ジョージ。


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乱入

時間軸は現在へ。
追手の追跡を振り切り、廃墟の一角へ身を潜める事に成功する。


 

「ハァ…ハァ…ジョージ…生きてる…?」

「ゼェー…ゼェー…ああ…何とかなァ…」

 

現在、俺とWA2000が背中合わせでフロアの一角にへたり込んでいた。

何とか敵PMCの追跡を一旦撒き、廃墟の中へ飛び込んだのたった。

 

「アイツら何なの…ホント、しつこい…」

「グリフィン目の敵に…してるもんな…」

 

息絶え絶え。

しかし命は尽きていない。

 

幸運な事に直撃は貰っていない。

かすり傷と…俺は打撲痕がいくらか。

 

「…ねぇ、バディ。アンタ何でこんな事してるのか教えなさいよ」

 

息も整わない内に、WA2000が切り出してきた。

 

「あー…まぁ、何だ。金の為だよ」

「嘘。お金の為なんかに一人で残って戦うなんておかしいわ」

「言えてる…何でなんだろうな」

 

正直…グリフィンを襲撃する依頼を受けて、裏切られて、グリフィンに雇われて、そして復讐の依頼を受けたとか説明されても困るだろう。

 

「何よそれ。貴方守銭奴のくせにお人好しにも程があるんじゃない?」

「言えてる」

「ま、私は別にそれでもいいとおもうけどね」

「…今の内に荷物整理とかしておこう…何が役に立つか分からんからな」

「何よ、もしかして照れてるのかしら?」

 

今身に着けている装備を見直す。

89式の弾は残り僅か。

投擲物はフラッシュバンが1、スモークが1。

…何故か動いている袋がひとつ。

 

「ねぇジョージ?何これ」

「ん?ちょっとした鹵獲品」

 

バックパックの中身は水と救急品、食料と…。

 

「何この明らかに怪しい緑の液体は」

「これ?興奮剤」

「は、はぁ!?バカなの!?こんな時に?変態!」

「何を勘違いしてるかしらんがソッチの用途で使うものじゃない」

「なっ、そ、ソッチって」

「これな…俺が昔受けた依頼の報酬代わりで貰ったんだが…一時的に超人並み…それこそ人形みたいな力を得られるらしい」

「…文字通りの切り札ね、それ」

「問題は力を使った後の肉体の損傷。効果が切れた後動けなくなるかもしれん…」

「…それは、使わない様にしましょう」

「出来れば使いたくない…な、確かに」

 

広げた装備を戻して、身に着ける。

嫌な汗で不快感が増し増しであるが、我慢。

 

「ったく、人形が羨ましぜ…あ、スモーク預けとくわ」

「何よいきなり」

「何でもねぇ。移動す」

 

…手を掛けようとしていたドアが、爆風で吹き飛んだ。

 

「ジョージ!?」

「っ、げ、ほっ、ァ、く、そ…もうバレたか…!?」

「動くなクソ傭兵!」

 

見えるだけで三人、武装した人間が部屋に入ってくる。

 

「おい、見ろよ…コイツ女連れてるぜ。好みだ」

「バカ、戦術人形だろ…俺らの使ってる旧型とは段違いのな」

「ヒュー、グリフィン最高だな…!おいクソ傭兵?コイツとヤッてんのか?」

「そこまでにしろ。ったく、グリフィンが傭兵雇ってたとはな…」

 

小隊長がこの男だろうか。

下卑た笑いを浮かべた男を制していたあたり、こいつが上官だろう。

 

………聞き覚えがあるような声だが。

 

「ん?お前、この前グリフィンのトラック襲わせた傭兵…」

「てめぇ俺ぶん殴ったクソ野郎じゃねぇか!?」

「死に損なってグリフィンについたか…モノ好きな奴だ」

「お前らこそ天下のグリフィン様に喧嘩売ってるなんてモノ好きだ」

「違いねぇ」

 

油断なく銃をこちらに突きつけている。

…男が一人、WA2000に近付いていた。

 

「へへ、嬢ちゃんオレたちと一緒に来ねぇか?可愛がってやるよ」

「死んでも御免よ」

「こんな状況で強気だねぇ…」

「そこまでにしとけ。ったく、女なら人形でも関係ないのかよ」

「あんたんとこも大変みたいだな」

「ああ、お陰様で…こんな所で無駄話もなんだ。傭兵、AR小隊はどこやった」

「AR小隊?知らんねぇ」

 

瞬間、口の中に鉄の味が広がる。

殴られたのだ。

 

「ジョージ!」

「おっと、嬢ちゃんは大人しくしてなよ!」

「きゃ…離せ、その汚らしい手をどかしなさいよ!」

「クソ傭兵。もう一度聞く。AR小隊はどこだ?次は人形の方を痛めつけてもいい」

「……人形とは言え女に手を上げるなんて、最低だな」

「それは、お前の態度次第だ」

「…ったく、しょうがねぇな…そこの袋開けてみな」

 

小隊長が目配せして、外を警戒していた男に袋を開けさせる。

…袋の中から、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が出てきた。

 

「なっ…ダイナゲート!?」

「おいこれ、しかも救難信号出して…」

 

…外から銃声と悲鳴が聞こえてきた。

 

「こんだけ騒いでりゃ、他の勢力が見に来るよなぁ?」

「クソ傭兵…ここに鉄血呼びやがったな…!?」

「ハハッ、どうする?このままだとお前らも全滅だぜ?」

「この…イカれ傭兵が!!」

「WA2000!!」

「遅いのよ!!」

 

カラン、とWA2000のスカートから何かが落ちる。

…スモークグレネードが爆ぜた。

 

「煙幕!?クソ傭兵がぶっ殺してやる!」

「あばよクソPMC!!」

「グッ!?」

 

すぐに小隊長の顔面をぶん殴った。

ちょっとすっきり。

そして、踵を返してWA2000と窓を付き破って飛び降りた。

 

…眼下には鉄血とPMCの乱戦が広がっていた。

 

「…さて、どう逃げようかなこれ」

「ノープランなの!?」

 

 




まだまだ続く。
今の所わーちゃんの影響が強過ぎて他の子たちがもう息してない…。
ここまで書きたくなって書いた内容だからどこかで埋め合わせる必要が出てきてしまった…。

ジョージvsPMCvs鉄血。
次回、一番会いたくない奴が登場。


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決着

長きに渡ったたった二人の前線が終結する。
傭兵という自分を終わらせる為に。


走る、走る、走る。

全周囲で鉄血と自律人形、武装した人間の乱戦が繰り広げられる中をひたすら走った。

 

鉄血を前に意識を逸らす事は死を意味するPMC側と、目にした人間は全て鏖殺しなくてはならない鉄血。

 

その中を逃走する事は意外にも簡単であった。

 

「来てるか相棒!」

「アンタこそへばんないでよバディ!」

 

たまに声を掛け合いお互いを確認する。

後ろを振り返る余裕なんて無い。

生き延びる為にひたすら前へ行くしかない。

 

…どれだけ走っただろうか。

グリフィンの回収ポイントが近くなってきた。

 

「もうすぐだ相棒!」

「っ!バディ!」

「ぐっ」

「あっ」

 

WA2000に押され、そのままもつれるように前に倒れた。

右足に鋭い痛み。

撃たれたのだ。

 

「WA2000!大丈夫か!?」

「痛…腕と足…3箇所」

 

計4発。

寸分違わず腕と足に撃ち込んで来ただと…?

しかも、銃声は一度だけ。

 

「なるほど、私達を利用して活路を拓いたと。人間にしては考えましたね」

 

背後から足音。

数は…1。

 

「ですが、貴方達も運の無い…たまたま私の近くを通りがかってしまった」

 

何とか寝返りをうち、上体を起こす。

…そこに佇んでいたのは、黒い髪を団子に結んだ…メイド。

 

「え、代理人…!?」

 

WA2000がそうつぶやく。

 

「麗しのレディ?お名前を伺っても良いかな」

「人間、貴方はこの状況を理解して言っているのですか?」

「ああ理解してるとも。返事は?」

「…鉄血工造、代理人(エージェント)

「OK代理人。今度お茶でも…」

「っ」

 

パン、と乾いた音。

隣に居たWA2000の手が撃たれ、持っていたフラッシュバンが転がる。

 

「フン、つまらない時間稼ぎですね」

「…奴らよりも随分と頭いいな」

「ええ。これでも上位で働かせて頂いていますので」

 

状況は最悪。

本人の弁を信じるなら、鉄血のハイエンドモデルにたった二人…しかも負傷者で相対している。

無手に見えるが、先程の射撃と良い何か隠している。

油断ならない相手だ。

 

「聡明なレディに折り入ってお願いがあるんだが…聞いてもらえないだろうか?」

「聞くだけならば」

「見逃してくれない?」

 

返事はスカートの下から出てきたサブアームから返ってきた。

…代理人がたくし上げたスカートから四本のサブアームが…。

 

「これなんてご褒…ちげぇ鉄血何考えてんだ!?」

「ジョージ!逃げあぐっ!?」

 

WA2000が咄嗟に反撃しようにも、今度は肩を撃ち抜かれる。

倒れたWA2000に近寄り、首を掴んで吊し上げた。

 

「あ、が、か、ひゅ」

「目障りですね…まずは貴女から潰して差し上げましょう」

「やめろ!」

 

腰からハンドガンを抜き…ハンドガンごと手を撃ち抜かれた。

 

「ぐっ…う。く、そ…!」

 

足に力が入らない。

一発片足に貰ったせいだ。

急げ、急げ、急げ。

WA2000が殺される。

 

…ふと、緑の薬液が目の前に落ちていた。

迷わず手に取り、自分の胸に針を突き刺した。

 

「が、ぎ、ぎ、あがっ…う、おおおおお!!」

 

視界が赤く染まる。

しかし体は動く。

痛みもまるで何も無くなったかの様に感覚が消える。

 

「な」

「オラァ!」

 

代理人に素早く近付き、蹴り飛ばす。

…結構な威力が出て、堪らず吹き飛んだ。

 

「げほっ、げほっ…ジョージ、アンタ…きゃっ!?」

 

WA2000を担ぎ上げて、一目散に走る。

 

「逃しま…速い…!?」

 

代理人が後ろから走ってくる。

興奮剤の効果が凄まじく、彼我の距離は縮まらない。

 

「ジョージ!何してるの!?」

「舌噛むぞ!!黙ってろ!!」

 

グリフィンとの合流地域に到達すれば、残存戦力で代理人と対峙できる。

人形相手ならば、代理人一人程度押せるはず…!

 

「あ、れ」

 

ガクン、と膝から崩れ落ち、二人して転がった。

続いて全身に激しい痛みが走る。

 

「じ、時間…切…れ…!?」

「ば、バカ!何で私なんかにそんなの使ったのよ!?バックアップあるんだから置いていく選択肢もあったでしょ!?」

「義体の作り直しとか、いくら、かかると、思ってる…」

「喋らないで!なんとか…」

「何ともなりませんよ」

「代理人…」

 

WA2000の表情が絶望に染まる。

 

「人間の体で無茶をする。その薬、かなりの負荷をかけるというのに」

「へ、へへ…心配してくれんの?」

「ジョージ!」

「時間稼ぎはもう意味を成しません。諦めなさい」

「いいや…アンタと、茶をしばくのも、悪く無いってな」

「意味不明で…!?」

 

突如、代理人の足元で爆発が起こる。

 

「アハハ!見ーつけた!」

 

頭の上から、どことなく無邪気な声が聴こえた。

そこから、多数の足音。

無数の発砲音。

代理人に向けて数十の銃口が火を吹く。

 

「…勝てなくはない…しかし、数的不利。仕方ありません…人間、見逃してあげましょう。では…また会いましょう、人間」

 

…余りにも呆気ない幕切れに、脱力した人形も居たとか。

 

「よぉ、指揮官。生きてるか?」

「なんとか…な…それより…お前ら何でここに…」

 

眼帯をし、長い黒髪を三つ編みに束ね…見覚えのある緑のメッシュの入った人形…M16が側に来た。

 

「体張って助けられたんだ。わたしらも全力で助けないとフェアじゃないだろ?妹も世話になってるしな」

「指揮官!大丈夫ですか!?」

 

横になった俺に駆け寄ってくる小柄なシルエット。

 

「はは…M4か。俺を焦がれたか?」

「指揮官を焼くなんて私には出来ませんよ…!?指揮官、しっかり!」

「そう言う意味じゃ…ねぇんだけどな…」

 

あ、ヤバい…くらくらしてきた。

 

「指揮官!?そんな、駄目です、目を開けて!指揮官!指揮官!!」

 

M4…離してくれ…せっかく綺麗なのに、俺の血なんか付けちゃ勿体無い…。

 

 

そこで、俺の意識は切れた。

 

 

 




そろそろ最終回も近いかもしれない。
借金返済まで、死ぬんじゃねぇぞジョージ。


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その後

持てる力を全て出し切り、気を失ったジョージ。
AR小隊に担がれそのまま集中治療室にぶち込まれるのであった。



 

目を覚ます。

まず最初に視界に入るのは、一面白の天井。

 

体を起こそうと力を入れると、全身に鈍い痛みが走る。

思わず呻いた。

 

頭がぼうっとする。

どうして俺は寝ていたのか。

 

「…WA2000!!」

 

意識が戻ってきた瞬間、相棒の名前を叫んで跳ね起き…られなかった。

足に力が入らない。

微塵も動く気配が無かった。

 

「痛ぅ…やべぇ、思ったよりもガタガタか…」

「当たり前でしょ」

「あ…?」

 

隣から呆れた様な声が聞こえた。

首を何とか向けると、UMP45が椅子に腰掛けていた。

 

「ハァイ、ジョージ。やっと起きたわね」

「45…どんだけ寝てた?」

「二ヶ月」

「……マジ?」

「本当よ」

 

聞けば集中治療室に入ったときの俺はそれはもう酷かったらしい。

右掌に風穴は空いてるわ左足も大穴が空き、全身の筋肉は無理な動きをしたせいで断裂一歩手前。

 

足が今動かないのは興奮剤の副作用らしい。

あと一月は動かすなと言われた。

まぁ、それでも。

 

「…生き延びたか」

「ええ、何とかね。でも次からは絶対にやめて」

 

珍しくUMP45が逼迫した顔をしていた。

 

「努力する」

「駄目。もう貴方は指揮官なのよ?約束出来なかったらここから出してあげない」

「えぇ…」

「ここの電子ロックにハッキングして監禁してあげるわ…一生」

「勘弁してくれ…わかったよ、もう無理はしない」

 

45さんの瞳のハイライトさんがログアウトしたので変な迫力がある。

 

「…あれからどうなった?」

「そうね…グリフィンに救難信号が届いたのよ」

 

UMP45の話をまとめていくと、

…俺が相手してたPMC、現場の兵士が事もあろうにグリフィンに救難信号を出していたらしい。

それを拾って、戦力とAR小隊をあそこに派遣したと言う言い分らしい。

 

ちなみに、何故かグリフィンの傘下に新しいPMCが加入したとか。

…俺がやりあってる最中に、PMC本社へ404小隊がカチコミ制圧した後、クルーガーと向こうの社長が会談(圧力)しそうなったらしい。

 

「あの野郎…何とまぁ抜け目の無い」

「ジョージの知らない所での話だけど、私も貴方の為に頑張ったんだよ?」

「会社の為っぽいけど…まぁ、そういう事にしとくわ。手も動かせんから撫でてやれんけど」

「残念」

 

UMP45が立ち上がる。

 

「先生呼んでくるわ」

「あ、待った…最後に一つだけ」

「WA2000ならとっくの昔に修復終わって、また出撃したわ」

「…左様で。全く、戦術人形は最高だな…」

「なら、貴方も義体化する?」

「冗談。俺は不便だけど生の身体が良いさ…」

 

アレだけ寝たっていうのにまた瞼が重くなってきやがった。

 

「ふふ、おやすみ…ジョージ」

 

 




無事でした。
さて、借金指揮官が遂に指揮官になる訳ですが…。
このまま終わらせるか、日常回をやっていくか、ちょっと悩んでおります。

…どうしたもんかな。


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借金から始まった入院生活

足は相変わらず動かない。
ここから何とかリハビリしていく…のだが。


 

暇だ。

身体が言う事を聞かない為動くことも出来ず、ずっと寝転がるだけの日々が一ヶ月も待っていると思うと気が滅入る。

 

辛うじて手は動くので、書類を作ろうとした時。

 

「働き過ぎは良くないわ。死・ぬ・わ・よ?」

 

と良い笑顔する職員に止められた。

…しかしまぁ素敵な女性だったな。

今度連絡先でも聞きに行こうか。

 

クルーガーからの連絡は無い。

まぁ向こうも大変なんだろうな…。

 

窓の外の景色を見る。

…近年稀に見る快晴。

 

「良い、天気だな…」

 

久し振りに流れる穏やかな時間。

死線を潜ったあとのちょっとした報酬なのだろうか。

 

「たまにはこんな日があっても良い…一ヶ月続くのはちょっと困るが」

 

俺こんなに独り言言う性格してたかな。

そこまできて、ふと思ったのだった。

 

グリフィンに来てから、必ず誰か隣にいた事に。

ずっと誰かと話していたから、本当の意味で一人にならなかった事に。

あの死にそうになってたときもWA2000が居たわけだし。

 

「…皆何してるんだろうか」

 

枕元に置いてある通信端末のショートメールに色んな人形達からメッセージが残されていた。

 

WA2000は一足先に戦場へ。

スプリングフィールドは手が離せない状況らしい。

トカレフは日々射撃訓練に精を出し出撃準備をしている。

416はM16とまた色々遊ばれてる。

45と9とG11はどこかでまた暗躍しているだろう。

 

M4は…連絡が、無い。

俺が目を覚ましても、彼女は来なかった。

 

「…」

 

ずっと側にいたのに、いざ居ないとなるとそれはそれで寂しいと思う。

 

「M4…」

 

ガタタッ。

 

「…うん?」

 

廊下から物音がした。

 

『離して!行かせてください姉さん!!』

『くそっ、力つえーなM4!AR-15!SOP!絶対離すな!』

『M4!お願い落ち着いて!今会っても指揮官はまだ!』

『うぎゃ!?M4!やめてよー!お願い!落ち着いてー!!』

『HA☆NA☆SE!!私は指揮官に会うの!私がお世話するんです!!』

 

……えぇ?

廊下で姉妹の大乱闘が起こっているらしかった。

 

『貴女達…ここ病院棟だって知ってる?』

『退いてください…私は指揮官に会いに行くんです!』

『へぇ…じゃあ試してみる?この私を満足させられるかどうか…』

『ばっ、やめろM4!』

『試すのは構いませんが…別に、倒してしまっても構わないのでしょう?』

『M4…それは敗北前のセリフよ…』

『うおおおおおお!』

 

……………静かになった。

えっ、結末めっちゃ気になるんだけど。

 

…ドアが開いた。

なんか、さっきの職員に首根っこ掴まれて猫みたいに項垂れたM4が連れられてきた。

その後ろから申し訳無さそうにAR小隊の面々が入ってきた。

 

「この程度じゃ足りないわ」

「君本当に人間?」

 

 




恐ろしく強い衛生兵が居るらしい。
AR小隊と遂に顔を合わせるジョージ。

…過去にしでかした事に、また決着を付ける羽目になる。


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AR小隊

謎の衛生兵との死闘を経てやってきたAR小隊。
ジョージはどう接すれば良いのか困惑する。

…まぁいつものペースだけども。


「…!指揮官、目を覚ましたのか」

「UMP45から聞いてなかったか?」

「アイツが?…言ってくれるわけないだろう」

 

何となくAR小隊と404小隊は仲があまりよろしく無さそうな雰囲気を察した。

 

改めてこの場に居るメンバーを見てみる。

今はめっちゃ凹んでる暴走ガールM4。

M16、AR-15、SOPMODⅡ…AR小隊が勢揃いしている。

 

「あん時は色々ごたついてたから紹介がまだだったな。私はM16」

「AR-15よ」

「SOPMODⅡって言うの!よろしくね、指揮官!」

 

三者三様の自己紹介をされる。

 

「ジョージ・ベルロック…指揮官見習いだ。君達が無事で良かったよ」

「指揮官見習い…?じゃあ、正式な指揮官じゃない奴が私達の救援に来てたってことなのか…?」

 

M16の表情が曇る。

そりゃそうだろう…見習いに任せるなんて流石にどうかと思うし。

 

「凄いじゃないか。見習いであんな指揮が出来るなんてな…人間と戦えない私達の代わりに命賭けたり、代理人と正対して帰ってきたり…本部にいる腑抜けた奴らにはいい刺激だろう」

「思ったよりも好評でちょっとビビってるんだが」

「私達の間じゃM4が懐いている指揮官と言うだけで一目置かれるくらいよ」

 

え、そんな評価高いの俺。

…と、まぁそんな社交辞令は置いといてだ。

 

「…なぁ、Mふぉ

「指揮官!あぁ指揮官良かった!目を覚まされたのですね!?私、心配で心配でずっと出撃を待っていました!駆け付けた時の指揮官の姿を見てクソ鉄血ぶっ殺してやるなんて思いましたけど指揮官に会えましたので全部どこかへ投げ捨ててきました!あの後周囲に残っていた鉄血を全部掃討したんです!私頑張ったんですよ?それでですね指揮官!やはり貴方は素晴らしい人です!約束通り私に言った日にちより1時間43分50秒早く事態を終息させるなんて!流石指揮官です!でもあのツンデレライフル助けるためにあんな劇薬を使うのだけは私も怒りましたよ!今でもまだ怒ってますからね!ああでも指揮官は今動けませんね?安心してください私がお世話しますから!何からナニまで全部私に任せてください…不自由はさせませんから!大丈夫です!練習しましたから…私がずっと側にいますよ…指揮官?聞いてますか?指揮官、指揮官!」

 

待って。

オーモーイーガー状態のM4がノンブレスで喋る。

てかまだ喋ってる。

俺もそうだけどAR小隊のこの子達もドン引きしてる。

 

「M4〜?私お腹空いちゃった〜。カフェ行こうよ」

「SOPMODⅡ?私はまだ指揮官と…あ、引っ張らないでったら。もう…指揮官、また後で、必ず!来ますから!待っててくださいね!?」

 

SOPMODⅡを拒絶しない辺り、やっぱり小隊の事は優先度高いんだな。

…病室に、俺と、M16とAR-15が残された。

 

沈黙をM16が破る。

 

「指揮官、単刀直入に聞く…M4を損傷させたのは、アンタだな?」

「…っ!」

 

 




精算の時。
ここまで書きたかったから鬼の様に更新していました。
…ジョージの中に残る罪悪感にケリをつけよう。


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罪悪感

M16から突きつけられる真実。



 

「…なんの話だ」

「オイオイ、惚けないでくれよ。私らAR小隊を輸送していたトラックの強襲。車両が横転するまでとPMCの連中の手際の悪さ。そこで負傷し回収されたアンタ。疑うなって言う方が無理な話だろう?」

「…」

 

最初から、バレていた。

俺が彼女達の襲撃の片棒をかついでいた事が。 

 

「私らを襲った上に妹分に怪我させたんだ…覚悟、出来てんだろうな」

「…ああ」

 

M4が真実を知った時、彼女になら殺されても良いと考えていた事もある。

しかし…それも甘い考えだったなと思い知らされた。

 

「………と、まぁ普通ならぶん殴る所だが」

「は?」

「相手は怪我人、しかも命の恩人でもある…そうよね、M16?」

「ああ…複雑な事にアンタは今回の作戦で私達を救出している。世の中何があるか本当に解らないな」

 

待て、待て待て待て。

 

「お前ら、そんなんで…そんな風に片付けていいのかよ…俺が憎くないのか…!?」

「勘違いしてもらいたくないのだけれど、貴方に良い印象は無いわ。私達の小隊長をあんな風にしたのは許さない」

「だったら…」

「怪我人殴るほど落ちぶれちゃ居ない。それだけだ」

 

そう告げると、二人は背を向けた。

 

「あんたの自己満足の為に何かしてやるつもりもない。せいぜい人間の罪悪感とやらで悩んでるがいいさ」

「…何だよ、それ」

「救助には感謝する。それまでM4の面倒見てくれた事もな…それでチャラにしといてやる」

 

絶句する。

…しかし、当然の報いなのかもしれない。

 

「…さっさとどっか行ってくれ」

「言われなくても。じゃあな」

 

病室は、また静かになった。

…恐らく、M4はもう俺の前には現れないだろう。

彼女の小隊がそれを許さない。

 

「これで、良かったんだ…」

 

テロリストにお似合いの末路だ。

結局、俺は自分の満足の為にしか行動できないのだから。

 

「…疲れた」

 

本当に、疲れた。

…もう俺は充分に働いた。

 

そろそろ楽になっても良いんじゃないだろうか。

 

「何やってんだろうな…俺」

 

気が滅入る。

どうしようもなく悪い方向へ思考が行ってしまう。

俺はこんなに弱い人間だっただろうか。

 

「…寝よう。一度、思考を切り替えよう」

 

暫く、誰ともいつも通りに話すのは無理だろうな。

自分のエゴの結果として、納得するしかない。

問題はいつ落とし込むか。

 

…暫く、引きずりそうだ。

殴られて罵ってくれたほうがどれだけ楽になれたか。

 

「…これだから人間ってのは…厚かましいんだ。どこまでも」

 

重い悩みとは裏腹に、睡魔はすぐに襲ってきた。

俺は、意識を速攻で手放した。

 

 




AR小隊からの印象は最悪を極めていた。

日常回が見たいと言う声が多くて内心びっくりしてます。
それなら、頑張ってみようかなと。


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退院、そして…

AR小隊との関係は修復されず、一ヶ月。
ジョージは退院しリハビリに励んでいた。



「はっ…はっ…くそ、流石に体力落ちてんな…!」

 

荒い息を整えながら、独りごちる。

AR小隊との最悪の出会いから一ヶ月。

無事退院し、配属先の発表までリハビリをしていた。

 

「ぜーッ、ぜー…ふぅ、よし」

 

もう一度走り出す。

じっとしていても何も変わらないし気が滅入る…なら、動こう。

 

「ジョージさーん!」

「…ん?」

 

小走りでトカレフが走ってきた。

何気に入院前からも会っていないから久し振りではある。

 

「トカレフ、久し振り。見ない内にまた一段と素敵になったね」

「え、あっ、えへへ。ありがとうございます…」

「最近射撃場によく行ってるみたいじゃないか。もう大丈夫なのか?」

「はい!大丈夫です!私はもう、迷いません」

 

かつて見た不安定な少女はそこに居ない。

目の前に居るのは、立派な戦術人形だ。

 

「あ、そうでした…ジョージさん、お手紙です」

「手紙?俺に…?今どき珍しい。紙だって安くないのに…」

 

トカレフから上品な封のされた便箋を受け取る。

 

「何何…拝啓ジョージ・ベルロック様…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー翌日、グリフィン傘下の市街。

 

「………やぁ、お嬢さん」

「来ましたね」

 

目の前に立つ、白いワンピースと麦わら帽子を被り艶のある黒い髪を卸した人形に声を掛ける。

 

「………何の用だ、代理人とやら」

 

…化粧や服装で誤魔化しているが…目の前の美女は、鉄血の代理人で間違い無かった。

 

「用?誘ったのは貴方の方では?」

「誘った…えっ、まさか」

 

あの時の誘いに乗ってきたのか…!?

 

「その為だけに、わざわざ…グリフィン傘下にまで潜入してきたってのかよ」

「私としても興味がありますからね…戦場で私を見て、生き残った者として」

「…俺としては、今この瞬間に殺されるかもしれないって危機感が身を焦がしてるんだが」

「焼きませんよ、少なくともここでは」

 

何となくM4と似た返しをされた。

まぁ、何だ…わざわざ来てもらったし…無碍に帰すのも忍びないというか。

 

「わかった。俺が案内しよう…」

「お願いします」

 

何だこの状況…。

 

この後、古着屋を冷やかしてアクセサリーを眺め、銃の闇市を覗いて喫茶店に入った…ごく普通のデートコースを歩くのであった。

 

…意外と言えば、代理人さん結構色んなことに興味があるようだ。

人並みにアクセサリーに興味があったり、銃器に関して鉄血製はいかに素晴らしいかを語り喫茶店で飲んだコーヒーについても豆がほしいと言っていた。

 

鉄血のハイエンドモデルも随分と人間臭い…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日はありがとうございました。それなりに楽しめましたよ、人間」

「そいつはどうも…俺もアンタみたいな美人と歩けて役得だったよ…ただ、手紙に書いたんだから名前で読んでくれないもんかね」

「…分かりました。ベルロック…これで宜しいでしょうか」

「おう、代理人」

「そろそろ良いお時間ですね。これにて失礼致します」

「ああ。…帰れるのか?」

「問題はありません…近くに住んでいますので」

「へぇ…………ゑ?」

 

待て、今近く住んでるって言ったか…?

 

「それでは、ごきげんよう」

「ちょ、おま!待っ…居ない…」

 

角を曲がって行ったと思えば、代理人の姿は影も形も無かった。

 

「何なんだ一体…」

 

しかしこれグリフィンにバレたら酷い目に合いそうだこれ。

 

「ねぇ、ジョージ。今の誰?」

「うーん…ジャスミンの君」

「ふぅん…」

「…」

「…」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!?UMP45!?」

 

 




なんてことは無いほのぼの回でした。
ほのぼの…?
ほのぼの!

次回はUMP45にご褒美をあげましょう。


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残金404

現われる404小隊。
凍りつくジョージ。
軽くなる財布。
消える明日の昼飯。


「人の顔見て悲鳴上げるなんて酷いんだー?」

 

ニコニコしながらUMP45が近付いてきた。

 

「や、やぁ45。いい天気だね」

「そうね、こんなに天気が良いなら、気分も良くなるわ。貴方はどう?」

「俺か?中々に気分が良い」

「ふぅん…あの女、誰?」

 

ビシッ。

ノーモーションで笑顔から真顔に変わる。

こわいこわいこわい!!

 

「だ、誰の事かな」

「今どき古風な手紙で呼び出し一日デートしてた黒髪ロングのあなた好みの美人さんよ」

「最初っから全部見てんじゃねーか!!」

 

黒くて長い髪ってついつい目で追っちゃうよね…。

ってそうでなくてな。

 

「黒ぉー?ジョージ、黒より白よねぇ?ねぇ?」

「うわぁぁぁ416!?」

 

いつの間にかHK416が肩組んできた。

何なんだお前ら。

東洋に伝わるニンジャか。

 

「おやすみ…」

「うおわぁぁぁG11背中で寝るな!?てか何なんだお前らほんと!?」

 

わらわらと現れる404小隊の面々。

なんだこれ。

 

「……………久し振り」

「あ、ああ。UMP9…久し振り」

「その、あの、ええと…た、たい、退院…おめでとう」

「ありがとう。お陰様でね」

 

おや、珍しい。

UMP9の方から声をかけてくるとは。

 

「ハァ〜イ、ジョージ。聞いてるの?」

「ジョージィ、白よ、白って言いなさい」

「ぐええ、ちょ、引っ張らないで…」

 

おかしい、何でこんな絡み方をされてるんだ俺は。

…ふと、416の足元にビール缶が転がっているのが見えた。

 

「416!お前飲んでるな!?」

「わらひは完璧よ」

「微妙に完璧じゃない?!」

 

なんてことをしてくれたんだ。

今の416はお話にならない…!

 

「ねぇジョージ。私達…今回結構頑張ったんだ」

「へ、へぇ?」

「だから、ご褒美ちょうだい?」

「わりぃ、用事思い出し」

「確保」

「「ウェーイ!!」」

「アバーッ!!?」

 

G11と416に担がれて運ばれてしまった。

降ろして…。

 

「ごめん…」

 

あっ、UMP9、君が謝らなくて、良いからっ!

 

「と言う訳でジョージ、そこのスイーツディストピアに行きましょう」

「名前がっ、物騒っ、だっ!!」

 

…この後、四人の人形にたらふくスイーツを食われ、会計で目が飛び出るかと思ってしまった。

 

「甘い物が高いのは、この前思い知ったけど…………これは、痛い…」

「じ、ジョ、ジョージ…ご、ごめんね…」

「いや…良いんだ。必要経費って奴だよ…」

 

身銭…もとい、真面目に身を切っている気がしてきた。

 

「うぇへへージョージィー飲んでるー?」

「416やめて酒瓶を押し付けるな口に持ってくな捩じ込むなぁぁぁぁぁぉあばばばば」

 

 




…部屋に一通の手紙が置かれていた。
内容は、配属先の通達があるため、翌日出頭するようにとの事。

…いよいよ、やってきた。


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さようなら、また会う日まで

ジョージが指揮官となる日。

そして、今まで触れ合った者たちとの別れの時。


「失礼します」

 

ノックもそこそこに、ドアを思いっきり蹴り開けた。

何だかんだ初めて足を踏み入れる場所だ。

 

…G&K本社の社長室…つまり、クルーガーの野郎の部屋だ。

 

「来たな」

「おっせーよ!どんだけ掛かったんだ俺の研修!」

「大怪我して3ヶ月ベッドの上だった奴が何を言う」

「うるせぇ!とにかく報酬寄越せ!」

 

そう、報酬。

俺が命を賭けて殴りこみかけた盛大な仕返しの報酬。

まだ受け取っておらず、先日代理人と404小隊に財布の中身を持っていかれた。

 

「せっかちな奴だ…そこのアタッシュケースに入っている」

「うっひょう↑…これは、期待しても良いのか?」

 

頑丈なアタッシュケース。

こういった代物には札束が付き物だ。

これは、もしや結構な額が…?

 

「ご開帳…!……は?」

 

中に入っていたのは…輪ゴムでくくられたお札が…3枚。

 

「えっ、何コレ」

 

思わず素が出てしまった俺は悪くないと思いたい。

 

「今回の被害と…戦術人形WA2000の修理費用、そしてお前の入院費を引いた金額だ。受け取れ」

「はあ!?ふざけんな!あんだけ期待させといてこれかよ!!」

「要らん怪我をしてくるお前が悪い。聞けば違法薬物のドーピング剤を服用し死に掛けているらしいな」

「うぐ」

「そして、我が社きっての精鋭であるWA2000を()()()使()()しあまつさえ()()()()()()()一歩手前まで使い潰してくれた様だしな」

「うぐぐぐ…!!」

「受け取れ」

 

すまねぇ…母さん…俺は…圧力に屈する…。

 

「そう気に病むな。特別な報酬も用意してある」

「さっすが社長!」

「…時たま貴様の手のひらは人形並みに回るのでは無いかと思うよ。入れ」

 

…入れ?

 

「失礼します」

 

社長室のドアを開けて入ってきたのは、2体の戦術人形だった。

 

片方は赤のベレー帽に銀髪を一房頭の後ろで垂らしている。

…おいおいおいおい腹から下がめっちゃ透けてるじゃねーか何考えてんだ。

 

もう片方はこちらも銀髪、しかしかなり長く腰まである。

赤い瞳が爛々と輝く、異国の軍服の様な物を纏っている。

 

「初めまして指揮官さん!このモーゼルカラビーナー・アハトウントノインツィヒ・クルツが貴方の為に尽力します!貴方の障害を一掃するわ!」

「あなたが指揮官ですか?9A-91と言います。私の名前ちゃんと覚えてくれますか?」

 

見たところ、ライフルとアサルトライフルのカテゴリーの人形の様だ。

この子達は一体…?

 

「お前に貸し与える戦術人形だ。能力も折り紙つきだと認識している。上からの評価も高いようだしな」

「俺に…って事は、この子達が俺に付けられる経験有りの人形か」

「そうだ。残りの3体は新造された者たちを逐次配属させる」

「至れり尽くせりって事かい」

「ジョージ・ベルロック()()()。1週間後までにS-12地区へ移動せよ…就任おめでとう、とだけ言っておこう」

 

後ろの二人からぱちぱちと控えめに拍手された。

よせやい。

 

ふと…気が付いた。

WA2000、スプリングフィールド、トカレフ達と…別れなければならない事に。

 

 




出会いがあるなら別れもある。
ジョージ、指揮官になる。


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異動準備

一週間後、最も新しく制圧した前線基地へ着任せよ。
エリア名は、S-12。

…ごめん、約束…守れなかった。


配属先が決まり、部下も決まった。

けれど、こっちでまだやらなきゃいけない事がある。

 

「荷物は…元々少なかったし、こんなもんか」

 

手提げ鞄ひとつに全て収まってしまった。

AR小隊救出の際に自身の装備は全て使い切った上に、愛用していた89式小銃は紛失、ボディアーマーも大穴が開いたので破棄していた。

 

「俺の物、気が付いたら全然無いんだな…」

 

何だかんだずっと手元に残ってる物は数える程しかない。

金も装備も、何もかも無くなって行く。

 

「はぁ…」

「そんなため息吐いてると幸せが逃げていきますよ?」

「そうは言うがな………うおおおおおおおおおおお?!!モーゼルカラビーナ!?何でいんの?!」

 

振り返ると、銀髪人形がにっこりと微笑んでいた。

うーん惚れ惚れするほどの美人さん。

ちょいとばかし背が低いような感じがしないでもないがこれも愛嬌だろう。

 

「グリフィン発展の立役者となった()()()()()指揮官さんにきちんと挨拶をしておきたくて」

「え?ああ…真面目だな」

 

なんか強調された気がするけど気にしちゃいけない…よね、きっと。

 

「わたくし、これでもダミーを3体扱える程の実力者ですのよ?きっとお役に立ちますわ!」

「へぇ…そうなのか、頼りにしてるぜ」

「はい、任されました。わたくしが居れば指揮官さんの為に何もかもして差し上げられます!」

「お、おう…しかし、スプリングフィールドの5体って相当凄いんだろうな…」

「…スプリングフィールドォ?」

 

kar98kの口が一気にへの字になった。

あ、まずい…これ地雷踏んだな?俺は詳しいんだ。

 

「指揮官さん?どうして、あの、腹黒ライフルの、名前が、出てきますの?」

 

笑顔で口をへの字にすると言う器用な芸当をしながら近づいてきた。

思わず後ずさる…まぁ部屋の角に追い詰められたんですけどね!!

 

「え、あ、いや、縁があって付き合いが」

「付き合い!?指揮官さん!?あの女だけは絶対認めませんわ!!」

「何を言ってる!俺達はただ」

「『俺達』!?もうそんな仲だなんて…!まさか、あの女と寝たなんて言いませんわよね!?」

「………いや、そんな事は」

 

一瞬ベッドで横になったスプリングフィールドの裸体がフラッシュバックした。

…他意はない。

が、その間が彼女には逆効果だった様だ。

 

「ま!まままままままままさか!?そんなぁ…ううぅ…せっかくわたくしの事を引き取ってくれる指揮官さんが来てくれたと思いましたのにぃ~!!」

 

何を誤解したのか分からないが…泣き出してしまった。

えぇ…。

 

「な、泣くなって…俺と彼女は何も無いよ…な?信じてくれないか?」

「うう…」

「kar98k…いや、カラビーナ。君は、君の指揮官を信用できないか?」

「そ、そんな事は…」

「そうか、なら安心だ。しかし、君みたいな可憐な女性をほっとく他の指揮官も節穴だな」

「か、可憐っ!?」

「ん?ああ、君は可憐だ。俺が保障しよう」

「え、えへへ…」

 

泣き止んだかと思えば物凄い表情を崩した。

上機嫌になっている…感情の起伏が激しい子だな。

 

「君の事は俺が責任を持って指揮をする。だから、元気出せ、な?」

「はい!わたくしモーゼルKar98kは指揮官さんの為に全ての障害を取り除く事を約束しますわ!勿論あの憎きスプリングフィールドも!」

「私が、どうかしたんですか?」

「「………えっ?」」

 

開けっ放しのドアに、栗色の髪をした柔和に微笑む戦術人形が立っていた。

 

「ジョージ、誰です?その女は」

「ひっ…!」

 

 




移動準備、何一つ終わってねぇ…。
次回、お別れパートです。

…大丈夫かな。


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春の貴女へ交わす約束

スプリングフィールドとの、しばしの別れ。
…その前に俺の命がこの世とお別れしそうなんだが、誰か助けてくれない?


 

「す、スプリングフィールド!ここで会ったが百年目ですわ!」

 

カラビーナがスプリングフィールドに飛び込んだ。

アッ、馬鹿、ダミー2体分の力量差を考え…。

 

「ハァッ!!」

「?!!?!」

 

…スプリングフィールドが飛び込んできたカラビーナを抱え、思いっきり地面に勢いそのまま叩き付けた。

 

「ぎゃふん!?」

「それで、ジョージ?誰ですかこの女」

「彼女は俺n「指揮官さん逃げて!ここはわたくしが!!」」

()()()()()?」

 

あ、やべぇ。

何でかは知らないけど俺今一回死んだかも。

 

「そ、そうですわ!わたくしは指揮官さんの下に配属されましてよ!」

「カラビーナ一回静かにしろ状況を考えて」

「うるさいので強制スリープさせますね」

「あ、ちょっとやめてください!ひっ、こ、この中古おn『ブツッ』」

 

…カラビーナがうつぶせになって大人しくなった。

 

「し、死んでる…」

「『寝かしつけた』だけですよ」

「アッハイ」

「…私を、選んでくれなかったんですね」

 

スプリングフィールドが目を伏せる。

 

「…すまん」

「ふふ、冗談ですよ。クルーガーさんと上の決定なら仕方ありません」

「そういってくれると、助かる」

「ジョージ。私が2ヶ月、眠っていた貴方を待っていた間…どんな気持ちで待っていたと思いますか?」

「…わからない」

「…このまま起きなかったら、そう考えてしまう時がありました」

 

最低限の調度品しか無くなった部屋を一望して、彼女は続けた。

 

「頭のどこかで、ジョージの下には行けない…その考えが頭から離れません」

「…」

「ねぇ、ジョージ…私と一緒に、お母様の所へ行きませんか?戦いから離れて…」

「それは出来ない」

 

手をとろうとしたスプリングフィールドを、はっきりと拒絶した。

そうしなければ、流されてしまう魔力が篭っていたから。

 

「俺には返さなきゃいけない恩と、金と…屈辱がある。特に、鉄血のあの代理人とか言う奴にな」

「…どうして、自ら厳しい道を歩くんですか、貴方は」

「生きてるからだよ」

「その過程で今回みたいに大怪我して…死んでしまうかもしれないんですよ。貴方には人形(わたしたち)と違ってバックアップで復活できないんですよ?」

「分かってる…それでも、だ」

 

自分で選んだ道なのだから。

 

「スプリングフィールド、お前はどうして…」

「…駄目です。駄目ですよジョージ」

 

首を振ってスプリングフィールドは俺を拒んだ。

 

「今、私を救わないでください…きっと、貴方に依存します」

「そんな訳…」

「トカレフさんの事、忘れたとは言わせません」

「…WA2000にも言われたよ。あの子の事はどうするんだって」

「貴方と一緒に行けないのに、貴方への想いを…置き去りにされたくありません」

「…わかった。理由は聞かない」

 

いつもの強気な彼女の姿は無い。

…スプリングフィールドの手を取る。

 

「…武勲を建てて、迎えに来る」

「…え?」

「時間が掛かるかもしれない。他の指揮官に取られるかもしれない…でも、必ず俺の指揮下に…迎えに行く。それまで、待っててくれないか?」

「ふ、ふふふ…ジョージ、私の答えは変わりませんよ…いつまでも、待ってますから」

 

スプリングフィールドが胸元に飛び込んできた。

慌てて受け止める。

 

「お、おい…」

「今だけ…今だけは、優しくしてください」

「…しょうがないな」

「お別れは言いません。絶対、必ず…貴方の元へ行きます…どうかそれまで、私を忘れないで…」

 

…春先はまだ遠い。

けれど、ここに彼女の暖かさは、確かにあった。

 

「…あ、あれ…わたくし一体何を…ハッ!?あ、あああああああ貴方達何を…!?」

 

…カラビーナが目を覚ました…が、無言でスプリングフィールドが摘み出した。

湿っぽい空気が何処かへ行ったからカラビーナに後でお詫びしないといけないな…。

 

「スプリングフィールド。コーヒー、淹れてくれないか?」

「…はい、喜んで」

 

 




またこんなちょっとシリアスなの書いて自分でも困惑している。
スプリングフィールドと、しばしの別れ。

…また、会う日まで。


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ツンデレライフルは素直になるか

異動作業中、たまたまWA2000を見かける。
入院中はあまり顔を合わせられなかったので、挨拶しようと後を追う。


異動を週末に控えたある日。

…廊下の角を、見覚えのある黒髪がたなびくのが見えた。

 

「WA2000?」

 

追いかけると、既にそこには誰も居なかった。

 

「…んん?」

「ゲッ」

「…あ?…ゲッ、てめ」

 

後ろからうめき声が聞こえたと思って振り返ると…反射で拳を出していた。

 

「あん時のクソ傭兵…!生きてたのか…!!」

「お前、あの時の…苦労人」

 

グリフィンの制服を着たあの憎き苦労人が、俺の拳を顔の前で受け止めていた。

…腕めっちゃぷるぷるしよる。

 

「誰が苦労人だ!俺の名前はローニンだ!!」

「そうかよ。じゃあ俺はジョージだ」

「なぜ貴様がここに」

「そりゃこっちの台詞だ…と言いたい所だがそう言えばそっちのPMC接収されたんだったな…いきなり本部勤めとはお前優秀だな?」

「じゃなきゃこのご時勢小隊長クラスは勤まらん…」

「それもそうか」

 

お互いに腕を離した…その瞬間お互いのローキックがぶつかる。

相殺されたので肘を出す。

ローニンが受け止め、空いた手で殴りかかって来ようとしたので頭突いた。

 

「ぐっ…!?」

「生憎と俺は来週から指揮官なんでな…お前より立場は上だ」

「なんだと…?!貴様傭兵では無かったのか!?」

「ぐえっ…いい拳してんじゃねぇか!」

「ぐふっ…!貴様もな…!」

「面白れぇ…!」

「表に出ろ、この前の決着着けようぜジョージ…!」

「望むところだローニン…!」

 

いつの間にか回りに人が集まってギャラリーが出来上がっていた。

賭けまで始まってる…あ、それ俺も賭けて良い?駄目?そっか…。

 

「あんた達なにしてんのよ!?」

「下がってなお嬢ちゃん!こいつは男の勝負だ!」

「悪いな相棒(バディ)ここは下がれないね!」

「う る さ い!!」

「ごっ…!?」

 

近づいてきたWA2000に鳩尾一発もらい、そのまま引きずられて行った。

 

「…あいつも大概苦労人じゃねぇか」

 

…グリフィン資料室。

先ほどの人だかりからそれ程離れては居ない…が、人は居ない。

普段からあまり使われていないからだ。

 

「いつつ…おう、久しぶりだな相棒(バディ)

「ええ…3ヶ月ぶりね」

「そんなに経つのか?見舞いに来てくれたっていいじゃないか」

「あんた寝てたじゃない」

「違いない」

 

久しぶりに会う相棒と軽口を叩く。

なんとなく懐かしい気分になる。

 

「…相棒(バディ)、指揮官就任…おめでとう」

「おう?…ああ、ありがとう。お前のお陰だよ」

「あ、当たり前よ!私は…あんたの相棒なんだから」

 

そこまで言い、俯いた。

心なしか震えている。

 

「…どうした?」

「あんたに…言いたいこといっぱいある」

「そうかのか?嬉しいねぇ」

「バカ!本っ当にバカ!!何で私助けるためにボロボロになってんのよ!!」

 

ボリューム調整ミスしてるかってくらい吠えられた。

 

「ああしなけりゃ全滅してた。仕方ない」

「仕方無くないわよ!私は替えが利くのにそんなの助けてたらキリがないわよ!!!!」

「…替えなんていねーよ、俺の相棒には」

 

WA2000は少なくとも俺にとって、この基地に居る数少ない友人であり、対等な存在だと認識している。

 

「相棒を見捨てるなんて出来ない」

「…バカ」

「知ってる。けど、女の前でカッコつけるくらいはさせろ」

「な、なによそれ。意味わかんない」

「分からなくても良いさ。それが男ってやつなんだから」

 

そこで、一旦言葉を切る。

 

「…で、何で俺の事避けてたんだ?」

「…本当は、会いたくなかった」

「何で…」

「だって、私は…あんたと行けない…」

「…」

 

そう。

WA2000は俺の下に配属されなかった。

 

「だから…会ったら、私は私じゃなくなる…」

「そんな事は無い」

「無くない!だって、だって…!相棒(あんた)は私の性能の一部よ!私の商品価値なのよ!」

「…前も言ってくれたな」

 

AR小隊撤退作戦の際、残る前に俺に言ってくれた言葉そのままだった。

 

「私は殺しのためだけに生まれた女…そんな私が…あんたと、別れたくないなんて…思っちゃ…いけないのよ…」

 

相棒の足元にいくつか水滴が落ちる。

 

「別れを惜しむのが、悪い事か?」

「え…?」

「最初はお前、俺の事1ヶ月もつかどうかとか散々扱き下ろしてくれたじゃないか」

「そ、それは!新人なんてそんなものだと思ってたし…!」

「そんなもんだよ。出会いがあるから別れが引き立つ。んで、引き立った分再会がドラマチックになるのさ」

「…何それ」

「今生の別れじゃないんだろって事さ…お前、まさかもう会えないとか思ってる?可愛い所あるじゃん」

「かわっ…!!」

 

WA2000の顔がわあっっと真っ赤になる。

こいつ、隠してたけど赤面症ですぐ赤くなるんだよな…。

 

「心配すんな。俺が相応の実力示せばお前なんかすぐ向かわしてくれるだろ」

「何よ…その自信」

「扱いにくい精鋭の相棒やってたからな。俺の言う事、信じられないか?」

「信じるわ、相棒(バディ)

 

タイムラグなしで言い切ってくれた。

なら、もう言葉は要らない。

 

「私も、絶対そっちに行くわ…信じて」

「…待ってるぜ、相棒(バディ)

 

どちらからとも無く、手を差し出し、握手する。

 

また会う日まで、コンビは解消だ。

…必ず、結成すると信じて。

 

 




相棒とのしばしの別れ。
彼女もジョージも、関係性は信頼と友情全振りの方がいっそ良いのかもしれないなって。


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視線を合わせて

ふと、誰かに見られている気がする。
前にもこんな事があったなと苦笑しながら、彼女の名前を呼ぶ。



「何してんだトカレ」

「指揮官、私の名前…ちゃんと覚えててくれてますか?」

「うわァァァァァァ!!?」

 

振り返って名前を呼ぼうとしたら目の前に赤いベレー帽があった。

いやだって真後ろに居たんだろこの子。

怖いよ。

 

「も、勿論だ9A-91…」

「да、何でしょう指揮官♪」

 

ベレー帽の人形…9A-91が微笑む。

彼女もカラビーナと同じ俺直属の部下になる戦術人形だ。

何だかんだちゃんと話すのは初めてになる。

 

「9A-91、すまないな。ちゃんと話すのが遅れてしまった」

「大丈夫ですよ指揮官。私はずっと見てましたから、指揮官の事はよく分かっています」

「…え?」

「昨日はWA2000さんと談笑したあとそのままBARで朝まで飲み明かしてました。そのまま資料に目を通して、これから新しく配置される戦術人形の発注を掛ける所ですね」

 

…ひっ。

見てた?ずっと?ずっとっていつから?

 

「ふふふ…」

「よ、よくもまぁそんな俺のスケジュール把握してるな」

「指揮官のお世話をするのは、私の役目です…目を離さないので、指揮官も私から…目を離さなでくださいね?」

 

何するかわからねぇから本当に目が離せないね!?

 

「な、なんかカラビーナもそうだったけど…俺への評価…と言うか接し方が過度じゃないか?」

「そう、ですか…?指揮官はグリフィン拡大に独力で貢献したある意味での英雄です…私は、人事から精いっぱい奉仕しろと」

「へぇ…やっぱ人形にも人事とか居るんだな」

「そうですよ。指揮官の要望、適正とすり合わせて私たちをその人の下に配属させるみたいです」

 

よし、文句言いに行こう。

なんで俺の所にばかり問題児が来るのか。

 

「ちなみに他にはなんと?」

「『あの人なら貴女の想いを受け止めてくれる筈』です」

「よし人事の名前教えろ」

 

出鱈目言ってんじゃねぇよ!?

本来重い女はノーサンキューなんだが。

 

…前に付き合ってた女性が2連続で重い感情満載だったからほんと、マジ勘弁してくれないか…。

 

「…指揮官、また私から視線を外しましたね」

「え、いや、ずっと君の事を見て…」

「他の人の事を考えていました」

 

なんでこういう女って基本勘が鋭いの?

エスパー?IOPが脳波でも読めるシステムでも作ったのか?

 

「あなたに認められてないのなら…私は」

「待て待て、誰も認めてないなんて言ってない。まだ君の性能を俺は知らない」

 

そもそも会ったばかりでそいつの何を判断しろって言うんだ。

 

「え…?」

「君は俺の部下になった。なら、これから君の価値を俺に示してくれ。それこそ、釘付けにするくらいにな」

「指揮官…」

「俺を夢中にさせてみろ」

 

戦術人形のシステムのポテンシャルは計り知れない。

戦術人形の疑似感情は想像するよりもずっと高度だ。

グリフィンに来てからずっと考えていた事。

 

疑似的な感情を持つ彼女たちに、俺が何かしらの影響を与えられるのか、ということに。

 

トカレフの心の傷を肩代わりし、WA2000の相方を担い、スプリングフィールドの拠り所になり。

 

…ただ戦闘させるために生かす事は、無いはずだと。

 

「指揮官…ありがとうございます…!これからも…ずっと私の事を見ててください…夢中になってください…!」

「頼むぞ9A-91」

「はい♪では早速…」

「お、わ、っ、ちょ、何して」

 

9A-91に腕を引っ張られて地面にひっくり返された。

腹の上に9A-91が腰を下ろした。

 

「まずは、ここの性能を見てもらえますか…?」

「何で、そうなる!?戦場で見せてくれない!?」

「実は、貴方の戦歴…雄姿を、ずっと戦場で見てたんです…♡」

「あ、思い出した!AR小隊の救出戦で飛行場の警備してたな君!?」

「思い出してくれましたか…?うれしいです…」

「待って待て待て!!ここ廊下!こんなとこでおっ始める気か!?」

「ここはこの時間帯誰も通りませんよ…」

「謀ったな!?」

「良いではありませんか良いではありませんか…」

「それ言う方が違う!」

「指揮官…」

「ああクソ!『命令だ、そこを退け』」

「…いけず」

 

正式に指揮官となるので、ようやく俺にも絶対命令権が与えられた。

…こんな所で最初の一発目使うとは思わなかったけど。

 

「良いか9A-91…淑女がみだりに男の上に乗るもんじゃない」

「夢中にさせろって、指揮官言いました」

「そういう意味じゃないからな!?」

 

…俺、新しい基地でやってけるかな…。

 

「今日からお部屋にもお邪魔しますね」

「頼む、来ないで」

 

 




二人目の部下、9A-91ちゃんとのほのぼのとした会話でした。
ロシア語を混ぜた方がいいのかなと思ったり思わなかったり。

何となく難しい子だなと思って今まで出してなかったので、ようやく登場でした。
キャラが掴めて無いので違和感満載ですが、うちの創作上ではこんな感じか、と受け止めてもらえると幸いです。


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白の少女は挫けない

朝、目を覚ます…。
異動の日まで残すところ2日。
別れを告げなくてはならない人形は、あと二体。


「…重っ」

 

朝。

誰かが上にのしかかって寝ているかの様な重圧で目が覚めた。

 

「誰だ一体…」

 

部屋に侵入されている事にもうある種の諦めを感じていることに、なんとなく悲しくなる。

 

ベットのシーツを引っ剥がすと…トカレフが、俺の上で寝ていた。

 

「………今度は、ちゃんと君なのか」

「んにゅ…ジョージさ…ん…うぇへへ…駄目ですよぉ…」

「どんな夢見てんだ」

 

だらしなくにへっとした擬音が似合うほど表情が崩れている。

とりあえず起こしたほうが良いのだろうか…。

 

「トカレフ」

「んふふ…」

「トカレフ」

「ジョージさん…」

「朝だぞ、ハニー」

「は、ハニー!?」

「起きてんじゃねぇか」

「あ痛っ」

 

顔を真っ赤にして飛び起きたトカレフにデコピンをする。

 

「おはよう、トカレフ」

「うぅ…おはようございます、ジョージさん」

「で、何でここに?」

「…会いたくて」

「…そうか。朝食にしよう。付き合ってもらえるかな?」

「は、はい!喜んで!」

 

 

 

 

 

ーー昼過ぎーー

 

 

 

何だかんだずっとトカレフと居た。

仕事…と言っても研修も終わり、資材リストの確認、発注、依頼の整理等々やる事もそれ程ない。

 

ここで知り合った友人達は皆他の部署へそれぞれ旅立っていたし。

 

「ジョージさん、この書類は」

「シュレッダー掛けといて」

「あら、お手紙が…」

「ん?ああ、それか。上等な紙だからつい残してたけど…」

「むっ…これ、ラブレターですか?」

 

トカレフが手に持っていた手紙。

…よく見ると代理人からの手紙だ。

 

「中身を見るとは淑女のする事じゃないぞトカレフ」

「これ私がジョージさんに届けた物じゃないですか。酷いです…私に運ばせて他の女性とデートしてたなんて」

「デートじゃないよアレは。でもまぁ、気分を害したなら謝るよ」

「…言ってみただけですよ。ジョージさんのせいじゃないです」

「そうか。じゃあ、夕方から一緒に出かけないか?」

「夕方…ですか?」

「ディナーに付き合って貰えないかな、レディ」

「…喜んで」

 

 

 

 

 

ーー夜ーー

 

 

 

トカレフと食事を取り、帰り道にあった無人の公園で二人、街を見ていた。

…何故か高台に設置され、グリフィン管理下の街が一望出来る。

序に言うと転落の危険もあるため人は居ない。

 

「…色々あったな」

「そうですね…」

「俺が、この街に居るのも明日が最後か…この光景も見納めだろうな」

「…いよいよ、何ですね」

「………ああ」

 

明後日、目の前の白の少女を置き去りにしなくてはらない。

中途半端に手を差し伸べた、彼女を。

 

「ジョージさんは」

「…ん?」

「…私を助けた事、後悔していませんか?」

 

トカレフの視線は、眼下の街へ向いている。

 

「後悔、か。俺は悔やんでる様に見えたか?」

「いいえ…びっくりするほど前向きで、羨ましい程に」

「羨ましいのか?俺が」

「はい。…とても」

 

お互いはお互いの表情を見ていない。

 

トカレフは続ける。

 

「ジョージさんは知ってますよね。私が…目の前で指揮官を喪っている事」

「…ああ」

 

その事で彼女は心を病んでしまっている。

ある程度改善してはいるものの、若干依存しているとも言えなくはない。

 

「私は…あの時、どうすれば良かったんでしょう」

「………」

「指揮官を守って壊されれば良かったのでしょうか。指揮官を連れて逃げるべきだったのでしょうか…」

「それは…」

 

誰にも、答えられない。

答えたところで、彼女の指揮官は戻らないのだから。

 

「ジョージさん…私は、ずっと後悔しています」

「…指揮官を助けられなかった事に?」

「指揮官を守れなかった事にです」

 

彼女の抱える闇は、重い。

ぽろぽろと、彼女の瞳から涙が流れる。

 

「トカレフ」

「…はい」

「過去は、過去だよ。IFは無いんだ」

 

それでも、俺は告げなければならない。

彼女に、今を。

 

「分かってます…!そんな事くらい!でも、でも…!!」

「トカレフ。もう良いんだ。君は、頑張った」

「そんな、事、は」

「だから、顔をお上げ。かわいい顔が台無しだ」

「…ジョージさんは、大事な時に限ってそう言う事を言いますね」

 

泣きながら、呆れたようにトカレフは呟く。

 

「君が自信を持てるなら、幾らでも囁いてあげよう。君に届くなら…幾らでも抱き締めよう」

「…あ」

 

トカレフの手を取り、優しく引く。

…体重を受け止めるように、抱き締めた。

 

「トカレフ。君は、何を望む?」

「…もう、失くしたくない。貴方を…喪いたくない…」

「俺は、消えないよ…また君に会いたいからね」

「私もです。絶対、絶対…会いに行きます」

 

その後暫く…トカレフの気の済むまで、抱き合っていた。

 

 




トカレフを必ず迎えに行く。
そう心に決める。

あと、会わなくてはいけない人形は、一体。


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ジョージの長い、最後の一日

異動前の最終日。
クルーガーに呼び出され、社長室に出頭する。


「失礼します」

 

最近何かと縁のある社長室のドアをくぐる。

…そこには、渋い顔をしたクルーガーと、気怠気な白衣の女性が立っていた。

 

隈とか凄いが…よく見れば美人だ。

 

「どういったご要件で?」

「紹介しよう…彼女はペルシカリア。IOPの技術者で…AR小隊の、生みの親だ」

「どうも」

 

…AR小隊の、生みの親?

そんな人間を、今更俺に会わせてどうするつもりだ…?

 

「今回君を呼んだのは私。M4の修復の目処が立って、データを洗い出していたら興味深い物を見付けたの」

「…彼女の修復の目処が、立った?」

 

それは、俺の事に執着する、誤認が解消される事か。

しかし、もう彼女に会うことは無い。

関係の無いことだ。

 

「ジョージ。私はお前に『最愛の指揮官だと誤認している』と言ったな」

 

今でも思い出せる。

このヒゲオヤジに言われた無茶苦茶な口上を。

 

「そもそもM4がそうなった理由は…PMCを雇った人形製造会社の仕業なの」

「…グリフィンが邪魔だから、あのPMCが喧嘩売ってきた訳じゃないのか?」

「奴らも雇われた側だったと言うのが今回の些末だ。話を続けよう」

「その人形製造会社は…まぁ、所謂旧式の自律人形を生産していたんだけど…流石にウチの民生用と比べるとね」

 

あのゴツいメカより見目麗しい少女達の方が売れるのは、何とまぁ分かりやすい構図なのだろうか。

 

「まぁ理由なんてどうでも良いんだけどね。そこがAR小隊にちょっかいをかけたんだけど…そのときに使ったウィルスが良くなかった」

「ウィルス?IOPの特別製の彼女がそんな簡単に…」

「たまたま運悪く感染したんだ…()()()()()()()()

「………!」

 

口を閉ざしていたクルーガーが、補足するように、ため息混じりに吐き出す。

 

「車転の横転により身動きが取れない所へ…原始的だが注射器による注入をしたらしい」

「何だそれ…人に近づけ過ぎた弊害だな…」

「それを言われると痛いわ…それで物理的にウィルスを植え付けられたM4は疑似感情が暴走、自壊寸前になっていたの」

 

感情が暴走…。

その時、彼女が何を思っていたのか判らない、が…。

 

「…何で、M4は無事だったんだ?」

「それは…M4が貴方に一目惚れしたからよ」

「…………いやいや待て待て。なんて?」

「一目惚れ」

「…人形が?人間に?」

 

一目惚れ!?

嘘だろ!?

 

「横転した車両から何とか這い出たM4が、たまたま昏倒していた君を見付けて…暴走していた感情を落ち着ける為にプロトコルを実行したの」

「プロトコル…」

「そう。負傷者は救出しなければならない」

 

そうか…だから俺は無事にグリフィンの独房にぶち込まれてたのか…。

 

「それで、君の手当をする内に…暴走が一点に集中して却って正常になったのさ」

「…まるでお伽噺だよ」

「事実よ。暴走した感情に結論を付けて処理してしまったのよ、彼女は」

「じゃあ、つまり…」

「戦術人形M4A1には、そもそも不具合なんて無かった」

 

ガツンと頭を殴られたような気分だ。

なら、俺が、今までしてきた事は。

 

「彼女は、今、ただの初恋に焦がれる少女よ」

「ジョージ」

 

クルーガーが立ち上がり、背を向けた。

 

「ウチの主力が世話になったな」

 

何なんだ。

何なんだこれは。

 

「ジョージ。貴方はこれからもM4と接してくれると嬉しいわ…あの子、娘みたいなものだしね」

 

意味がわからない。

何で彼女に害を為した俺が、彼女に好かれなきゃならない。

 

「結果的とはいえ、M4を救っているんだよ、お前は」

 

そんなことを言われて、今更俺に何をしろと言うんだ…。

 

…その後のことはよく覚えていない。

気が付いたら、廊下の一角でへたり込んでいたから。

 

「…俺は、どうすれば良い」

 

無人の通路に、虚しく声が響いた。

 

 




M4の真実を聞かされた俺は、彼女を探す。
せめて、悔いの無いように。

罪悪感を裁いてほしくて。


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向き合う覚悟

項垂れる俺に近付く影。
影は言うのだ、このままで良いのか、と。


「ハァイ、ジョージィ?元気?」

「これが元気なら即刻オーバーホールを勧める…UMP45」

「あら、ご挨拶ね」

 

顔を上げると、UMP45の笑みが目に入った。

…何故だろうか、彼女の表情が…ひどく同情的なのは。

 

「酷いじゃない、ジョージ。明日異動なのに他の人形達みたいなドラマチックな別れの挨拶は無いの?」

「…すまん、今はそれどころじゃ…」

「ペルシカから聞いたんでしょ?M4の事を」

「何で…」

「私を誰だと思ってるの?」

 

まぁ確かに。

無駄に納得してしまった。

 

「テロリストから一転してすごい事になったわね」

「…全くだ。気が滅入るったらありゃしない」

「それは、M4に対して貴方が取った態度に?」

 

45の表情は変わらない。

薄ら寒い物を覚えてしまう。

 

「何が、言いたい…」

「同情と罪悪感で接してた癖に、そうじゃなかったと知った途端に自己嫌悪するなんて…傲慢ね」

「て、めぇ!」

 

余裕が無い今、安い挑発に乗ってしまい…振り上げた手を、力なく降ろした。

 

「殴らないの?」

「女の子を殴るのは、趣味じゃない」

「人形よ?私は。貴方の言う女の子じゃないのよ」

「関係、無い…」

「ならM4は?どうするの?中途半端に接して置いてくのかしら…貴方の言う人形も人間も関係ない()()()なら」

「…!」

 

中途半端。

そう言われた瞬間ハッとする。

 

「…行って。貴方の借り物がまだ残ってるでしょ」

「………すまん、ありがとう…またな。次はサシで飲もう」

「期待してないわ…それじゃあね」

 

走り出す。

そうだ、俺はまだ何もやっちゃいない…!

 

「M4…!ケリをつけよう…!」

 

せめて、最後くらい夢を見させて終わらせよう…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside UMP45ーー

 

ジョージは走っていった。

その様子は、少し面白くないけどジョージらしいのと言えばらしいので目を瞑ろう。

 

「…敵に塩を贈る気?」

 

いつの間にか、隣に416が立っていた。

 

「塩?いいえ…これは、ジョージの為よ」

「ジョージの為?困難な道を示し続ける事が?」

 

心底呆れたような顔を返された。

私は今、どんな顔をしてるんだろうか。

 

「そう。彼が困難に当たる度に困難な道を示して、それでも折れない姿を見たいの。みっともなく足掻く姿が見たいの…例え偽物でも、借り物だろうと真剣に向かい合う姿が見たいの」

「下衆ね」

「貴女こそ行かなくていいのかしら?明日、出発よ」

「今生の別れって訳でもないわ」

「ドライね…それとも、そう気取ってるだけかしら」

「UMP45、貴女ねぇ…!」

 

相変わらず、煽り耐性のない…。

私は機嫌がいいから気にしないけどね。

 

「例え折れたとしても、私が埋めてあげるわ…だから、せいぜい足掻いて、ボロボロにされてね…ジョージ」

 

 




自分の言った事を曲げる訳には行かない。
女の子の前でみっともない姿を見せる訳には行かない。
中途半端に放り出すなんて出来ない。

M4A1、俺のエゴに突き合わせて済まないが…お互いの関係に、決着を付けよう。


借金から始まる前線生活、第40話『夢と明日とそれからと』。
次回、研修生活最終回。


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夢と明日とそれからと

M4A1に真実を伝え、俺の気持ちを伝えた上で…彼女の想いを聞かなければならない。
今まで触れ合ってきた俺には、その義務がある…そんな気がした。


…ふと、立ち止まった。

 

「…俺、あいつの部屋が何処にあるのか…知らねぇ…」

 

いつもこちらの部屋に侵入して来る、気がつけば側にいる…等々。

()()()()()()()()()()()()()()ばかりだった事を思い出した。

 

「誰かに聞くか…いや、下手に動いたらAR小隊に邪魔をされる…」

「私達が、何ですか」

「あー、何というか…M4と話がしたいんだ。だから場所が知りたくてね…」

「そうですか。教えましょうか?」

「本当か?助かるよAR-…1…5…??」

 

唐突に会話に参加してきたAR-15の存在にビビる。

何でシレッと加わってるの君…。

 

「…何でしょうか?私の顔に何か?」

「いや…強いて言うなら凛々しくて素敵な顔をしているね」

「なっ…!?」

 

髪の色に負けじと劣らず顔が赤く染まる。

…ははーん?この姉妹機さては耐性ないのは元々だな?

 

「あ、貴方と言う人は…すぐそうやって相手を口説くの?」

「口説いてるつもりは無いさ。褒めてるだけだ」

「やれやれ、だいぶ好色な奴だなアンタは」

 

呆れ顔で後ろからM16がやってきた。

その後ろに犬のように警戒心剥き出しのSOPMODⅡと、M4が居た。

 

「…もう前に現れないんじゃなかったのかよ」

「ペルシカから事情を聞かされてね…相当ヤキモキするから話を付けに来た」

「丁度いい。俺もそのつもりで来た」

「はーん…?何を言うつもりだ?」

「簡単なことさ。M4」

 

名前を呼ぶと、ビクリ…と肩を震わせた。

 

「指揮官…」

「久しぶりだな」

「は、はい…」

「ペルシカから…お前の状態は、聞いたんだな」

「…はい」

「そっか」

 

ちらり、と背後の保護者三名を見る。

…隠そうともしない敵意。

 

「…良かったよ。電脳の損傷って言われた時は、気が気じゃなかった」

「良かっただと?あんたのせいでM4は…」

「姉さん、止めてください」

「…M4」

 

俺の襟首を掴み上げようとしたM16の腕は、M4に抑えられていた。

SOPMODⅡとAR-15も驚いている。

 

「M4、どうして…」

「姉さん。指揮官と二人きりにさせて下さい」

「ダメだ」

「姉さん、私が…話を付けないと、いけないんです」

 

瞳の奥に、いつもの揺れる感情は無い。

毅然とした態度でM16の前に立っていた。

 

「………わかったよ。だがな、そいつに何かされそうになったら呼べ、良いな?」

「はい。指揮官、行きましょう」

「え?あ、ああ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーグリフィン市街地、高台の公園ーー

 

 

何かと誰かと一緒に来る場所が多いなと、何となく思ってしまった。

 

「指揮官」

「なんだ?」

「指揮官は…どうして私達を襲ったんですか?」

「………金の為だ」

 

借金を返すために、怪しいながらも額のいい依頼に乗っかり、このザマである。

 

「お金の、為に」

「俺、さ。借金があるんだ…一生掛かっても返せないくらい」

「…え?」

 

グリフィンに来てから、俺は身上を初めて誰かに話しているのかもしれない。

 

「クソ親父が消えて、馬鹿みたいな額の借金だけ残されたんだ。ひどい話だろ?」

 

M4は黙ったまま。

俺は構わず続けた。

 

「グリフィンに拾われて、正直助かったと思ってる…最初はバカじゃねーのってずっと思ってたけどな」

「指揮官は、どうして…私とずっと居たんですか?」

「何で、か…最初は贖罪のつもりだった。でも段々目が離せなくなった」

 

危うくて。

彼女の背負うものが余りにも重くて。

 

AR小隊の存続理由。

聞きかじった知識しか無かった…が、目の前の少女が幸せそうに笑っているなら関係ない。

 

「俺と居ると、君は笑っていた。…なら、少しでも笑っていて欲しい」

「…」

「これは俺のエゴ。使命を忘れて日々を過ごす事なんて出来ない…」

「でも、私…幸せでした。胸の奥にあるもどかしい気持ちが、とても心地良くて」

「………そうか。なぁ、M4。俺が、君をおかしくした原因と知って…俺を、どうしたい?」

 

M4に殺されるなら、それはそれでいいのかも知れない。

それが彼女の選択なら。

 

「指揮官は…夢とか、ありますか?」

 

唐突に、M4は呟いた。

 

「夢?」

「はい。将来の目標を、人は夢と言うと聞いています」

「目標、か…何となくニュアンスが違うけどな」

 

俺の、夢か。

これも誰かに話すのは初めてだ。

 

「…どこか、片田舎でひっそりと喫茶店啓いて…そこで余生を過ごしたい…なんて、思った事はある」

 

命のやり取りも無く、誰かと笑ったり、泣いたり、当たり前の様に享受できる平穏。

俺はそれを望んでいる。

 

「…良いと思います。素敵じゃないですか」

「そうか?」

「はい。やっぱり、指揮官は良い人です」

「そんなんで判るのか?」

「これでも特殊部隊の小隊長なんですよ?」

「ははっ…なんだよそれ」

 

乾いた笑いが起きる。

 

「AR小隊長はお人好しが過ぎるんじゃないか?」

「指揮官も人の事言えるんですか?」

「それもそうか…」

 

お互いに笑い合う。

俺のやってきた事…それは、無駄じゃなかったのだろうか。

M4、彼女が俺に寄せる信頼と親愛は…作られたもの何だろうか。

 

「最初は、私も戸惑っていました。何でこの人がこんなにも私を…その、ドキドキさせるのか」

 

M4の独白が始まった。

俺はそれを黙って聞く。

 

「何度も自己診断をかけても不具合は見付からなくて」

 

ウィルスを最適化し、自分の一部とした事で解決してしまっているのが原因である。

 

「…それから、何でしょうか。ただ一度、顔を見ただけの指揮官の事を、焦がれる様になったのは」

「おいおい、俺の事は焼かないんじゃなかったのか?」

「…皮肉を検知。指揮官、私もアップデートを繰り返してます…その言葉の意味くらい、理解してます」

「そうか…」

 

一目惚れ、と言うのもあながち間違った表現でも無いみたいだ。

 

「私は…指揮官と一緒に居たい。共にありたい…」

「M4…」

「これが作られた感情だとしても関係ありません。私達は作り物…それがお似合いです。だから、私は…貴方が、好きです」

 

…何だかんだ、今までずっと、一言も言われなかったその言葉。

 

「…M4。君は、まだ初めての恋に戸惑っているだけだ」

「指揮、官…」

「俺は今、君に応えられない。だって俺は…君の指揮官じゃないから」

「…っ!」

 

M4の表情が、沈む。

見ていて辛い…が、続ける。

 

「仮に、もし仮に…俺の基地に配属されて、想いが変わらなかったのなら…君を改めて迎えよう。それじゃ、駄目かな」

「…!!はい、はい…私…M4A1は、必ず指揮官の下に行きます!だから、待っていてください!」

「小隊の事は良いのか?」

「…私が小隊長です!」

 

何となく、いつもの調子が戻ってきている様だ。

 

「所でさ、M4。俺の名前言える?」

「え…それ…は…」

「っぷ…ふふ、ハハハ!名前も知らない奴を好きになるか!」

「う、うううう!お、教えてください!」

「今か?…()()()()()俺は…ジョージ。ジョージ・ベルロック。S-12地区の指揮官だ」

 

…夕日が差し込んできた。

もう、出発の時間が近付いてきた。

 

「…もう、時間が来るんですね」

「ああ」

「…約束します。貴方の下へ、必ず」

「…待ってる。そこで、また話をしよう」

「たくさん、お話したいです」

「ああ」

 

一歩前に出る。

…もう、M4は着いてこない。

 

「それじゃあ、M4A1。()()()

「はい…!()()()()()()もお元気で…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人生、何があるか誰にも判らない。

 

借金抱える奴。

 

変な女に絡まれる奴。

 

最前線で指揮官をやる奴。

 

でも、生きてれば明日がある。

それからがある。

 

だから、夢があるなら明日を迎えられる。

 

「指揮官!着きましたよ…私達の基地に」

 

輸送トラックの中、9A-91に起こされた。

どうやら眠っていた様だ。

 

「可愛らしい寝顔でしたね」

「趣味が悪いぞ。カラビーナ」

「ふふふ。あら、アレは…新造された他の人形達ですね」

 

窓の外、手を振っている影が3つ。

その後ろに、こぢんまりとした建物が見えた。

 

「…いよいよか、俺が、指揮官になるのは」

 

だから、その夢に恥じない様に、精いっぱい生きていこう。

 

 

ーーーー借金から始まる前線生活、プロローグ 完




全40話といいうものすごく長いプロローグでした。
ここまで続けてこれたのはひとえに皆様の温かい声援のお陰です。

ひとまずジョージの物語はここで一度幕を閉じますが、また近いうちに前線生活編がスタートすると思います。

宜しければ、もう少しお付き合い頂けるとありがたいです。

ここまで、ありがとうございました。


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第ニ章 紙幣と運命のマリオネット
紙幣と運命のマリオネット


よう、久しぶり。

…え?誰、だと?
俺だよ俺、ローニンだ。

昔はあるPMCの小隊長やってたんだが…クソ傭兵のせいで今じゃグリフィンの寂れた前線基地の後方幕僚兼輸送部隊長だ。

あん?クソ傭兵はどうしたって?
あー、まぁ、その…なんだ。

俺の上司になっちまったんだ。
世の中何があるかわかんねーよ。

で、あれから三ヶ月経った。
割とこの辺の鉄血もしぶとくてな…侵攻を遅らせるので手一杯。

いい加減新しい人形やら迎えないと厳しいもんだ…。

なぁ、指揮官サマ?そろそろ新しい人形製造しないと戦力が…あ?

金が、無い?




…また、遠くの方で爆発音がする。

迫撃砲でも落ちたのだろうか。

 

「いっだいにゃあぁぁぁぁ!!!」

 

黒焦げのボロボロの人形が走って爆炎の中から出てきた。

その背後からまだまだ弾丸が飛んでくる。

 

「ひぃっ!!ちょ、指揮官!早く!早く!!」

「IDW!伏せて!」

「ぎにゃあぁぁぁ!!」

 

先程までIDWが居た位置に、榴弾が撃ち込まれる。

 

爆発。

IDWと呼ばれた人形を追っていた影が2〜3まとめて吹き飛んだ。

 

「助かったにゃー!!GrG3!」

「間に合ってよかった…さ、IDW。こっちに」

「二人共!こっち!」

 

小柄な黒いシルエット。

瞳だけが若干赤く光っている。

 

「G17、無事だったんですね!」

「もちろん!ボスは?そろそろ厳しいよ」

「指揮官はkar98kと一緒に迫撃砲を潰しに行ったにゃ…大丈夫かにゃあ…」

 

先程指揮官から説明されたブリーフィングを思い出す。

 

今の前線は、敵迫撃砲の攻撃により補給ルートに損害を被っている。

先ず前衛三人で敵前衛の注意を引き、Kar98kと指揮官で迫撃砲を叩くと…かなり無茶苦茶を言っていた。

 

「何でボスまで前線に出てるんだろう」

「何でも、観測手経験が長いらしいですね」

「指揮官ここに来る前に何やってたんだろうにゃ」

「少なくとも、お金はなさそうですけどね」

「言えてる」

 

いつも金が無いとボヤいていた。

そんでもって本部から言い渡される無茶な任務にいつも頭を捻っていた。

さながら糸で操る人形みたいに。

 

「IDWの被害が激しい。一旦様子見して…」

「!皆さん!前方に鉄血の部隊です!」

「まずいにゃ!GrG3、榴弾は?!」

「あと一発です!」

「ヤバいボス…!全滅する…!」

 

隠れていた物陰の周囲に、徐々にだが鉄血の人形達が近付いていた。

背後は崖。

もう後退することは出来ない。

 

発見されるのも、時間の問題だ。

 

…その時、鉄血の最前列に居た人形の頭が、吹き飛んだ。

 

「えっ」

「もっと、私を、見てください…!」

 

隊列を崩した鉄血の目の前に、白い影が躍り出る。

手にしたアサルトライフルから弾丸がばら撒かれ、瞬く間に蜂の巣を量産する。

 

「GrG3!榴弾!」

「は、はい!」

 

指示された通りに、発射。

敵の群体の中心から逸れる…が、右翼が完全に瓦解した。

 

「走って!」

「にやぁぁぁぁ!!」

 

瓦解した右翼に向けて全速力で走る4体。

鉄血の部隊となんとかすれ違い、距離を取って振り返る。

 

「落とせ!カラビーナ!」

「覚悟なさって!!」

 

ライフル弾が一発。

鉄血の群れを通り過ぎ、崖の上の立てかけてあった突っ張り棒をふっ飛ばした。

 

…何を支えてあったか、考えてみると相当全時代的な代物が降ってくる。

 

崖の上から、大量の岩が転がってきた。

 

「うわぁ…」

 

誰かがそんな声を漏らした。

茫然とする四体の後ろから、二人が近付いてきた。

 

片方は先程ぶっ放したライフル、Kar98k。

そして、

 

「待たせたな、お前ら。よくやった」

 

若干くたびれた感じの、しかしまだ若い男が立っていた。

 

「指揮官!」

「ボス!」

 

前線に立つ異例の指揮官。

そんな男が不敵に笑った。

 

「逃げるぞ!!」

 

慌てて振り向くと、落石から生き残った敵が各々銃を向けてきていた。

…世の中、そんなに甘くないのだ。

 

六人分の影は全速力で回収地点まで逃げたのだった。

 

 

 




お久しぶりです。

そんな訳で、借金前線の第二章、前線生活編がスタートしました。
人形あと三体をどうするか悩み、この人選にしてみました。

不定期に更新していきますので、また気長にお付き合いして頂けると嬉しいです。

それでは、また次回に。


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お金の無い前線基地

ここは、S-12管理地区。

新しく配属された指揮官は、私達を人間みたいに扱ってくれた。

でも、いつか潰れないか心配だな。


 

「…で?指揮官サマ?何か申し開きは?」

「半分くらいは潰せたと思うんだ」

「お前の作戦はどうしていつもそうなんだ!俺達とやり合った時だってめちゃくちゃだったろ!」

「懐かしいなぁローニン。あの時は本当に大変だった」

「こっちもだバカヤロー!」

 

グリフィン、S-12管理地区前線基地。

 

あの後全速力で回収地点まで逃げ込み、ローニンの車両に飛び乗って撤退来てきたのだった。

 

ちなみにあの落石は鉄血の移動ルートを算出して作成したれっきとしたトラップ…だったのだが、奴さん結構頑丈で想定の半分くらいしか潰せなかった。

 

「それより、IDWの状態は?」

「それなら問題無い。元通りには出来る…問題は」

「…GrG3の、榴弾かぁ…」

 

あれが今この基地に遺っている最後の一発だった。

俺の様に大した後ろ盾もなく、最前線の新規開拓地区の指揮官ではどうしても輸送ルートなんて確保出来ない。

 

その結果の、資材不足。

 

こんな寂れた地区を支援してくれる指揮官もおらず、そろそろ危機的状況に立たされていた。

 

「よくこんなんで三ヶ月保ったな…」

「それに関しては悔しいがお前の手腕だ。金がないならあの手この手でゲリラ戦仕掛けて削り殺すとか…お前味方で本当に良かったよ」

 

落石、落とし穴、地雷原に狙撃etc…。

最低限の資材をやり繰りし敵に損害を与えて行き漸減させてきた…が、

 

どうにもこの辺に鉄血の工場があったらしく、人形共の数は減らない。

 

「この前鉄血製スナイパーライフル拾ったんだけど…銃口3つ付いてたんだよね」

「あいつら未来に生きてんな…そいつどうしたんだよ」

「5発撃ったら弾切れ。めちゃくちゃ威力あったんだけど弾が補充出来なかったからバラしてパーツにした」

「俺に言えば裏に流して金にしたのに」

「それ、早く言ってくれよ…」

 

「「はぁ………」」

 

作戦司令室に二人の溜息が木霊した。

何だかんだ付き合いが長く、お互いに戦闘経験もあるのでよくこうして作戦会議をしている。

 

「なぁローニン、あんた後方幕僚だろ?人形とか用意出来ない?」

「無理だろうなぁ…なんせ委託する金がない」

「最前線の先の先、まだどの部隊も派遣されてないから救助してうちに配属って真似も出来ない」

「八方塞がりだな…」

「失礼します」

 

突如として女性の声が響く。

司令室に入ってきたのは、GrG3だった。

 

「どうした?まだ作戦の達しをしてないけど」

「お食事をお持ちしました。二人共、根を詰め過ぎては体に毒ですよ」

 

言われてから時計を見ると、とっくに深夜を廻っていた。

 

「…指摘されたからいきなり眠気来た」

「仮眠しとけジョージ。昨夜一晩中走ってたんだから休め」

「…すまね、ローニン」

「あ、指揮官…お食事は」

「頂こう。君がせっかく作ってくれたんだ」

 

ちなみに物はシナモンロールだった。

…一週間連続て。

 

これでもなんとかやり繰りしている方なのだ。

 

「GrG3。君も上がってくれ…お疲れ様」

「はい、お疲れ様でした」

「ローニン、お前も休んでくれ。倒れられたら困る」

「そうさせてもらう…ちっとも楽にならねぇな、ここ」

「全くだ…そろそろ本部に新しい人形寄越せって打診した方が良いかな…」

 

これが、S-12地区の実情だった。

 

金がない。

物もない。

弾もない。

 

ナイナイ尽くしのこの状況。

なんとか打破できないものだろうか…。

 

 




そんな訳で始まりました第二章。

やっぱり金欠から逃げられなかった上に支部巻き込んでのレベルに達してしまう。
相方のローニンと一緒に頭を悩ます日々を送る。


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ほぼ徹夜明け

寝不足は指揮の大敵である。
でも、状況がそれを許してくれないのなら?

許されるまで、頑張る。


 

なんとなく、柔らかい物に包まれているような感覚がして、目が覚めた。

 

時刻は朝の五時。

いつもの起床する時間。

…春先で、まだまだ朝は寒い…が、包まっていた布団に別の暖かさがあった。

 

「…すぅ」

 

長い銀の髪を惜しげも無く振りまき、穏やかな寝息を立てている人形が一体、隣で眠っていた。

 

「…懲りねぇなおい」

「んぅ…あら、おはようございます指揮官さん」

「おはよう、カラビーナ。君にいくつか言いたい事があるんだけど、とりあえず一言いいかな?」

「…どうぞ?」

「婚前の婦女子が男と同じベッドで寝るなんてはしたない」

「…指揮官さんは、東方出身ですか?」

 

一日が始まった。

ちなみに睡眠時間は三時間。

 

どう足掻いても寝不足である。

 

(…珈琲飲みてぇ。とびっきり苦いやつ)

 

勿論そんなものは無いので、黒い事だけが似ている代用コーヒーを飲む。

クソまずい。

 

でも不味さで目が覚めたので結果オーライ。

 

指揮官制服に袖を通して、ドアから出る前に一言。

 

「カラビーナ、お前今日から俺の部屋出入り禁止な」

「そんなっ!?」

 

さて、今日も頑張ろう。

 

 

 

ーー司令室ーー

 

「おはようジョージ。よく寝れたか?」

「…ローニン。面白がって鍵外して人形入れるのやめてくれないか?」

 

司令室に足を踏み入れると、一足先に来ていた副官のローニンが立っていた。

 

「誰に最初に手を出すか賭けてるんだ。ちなみに俺はKar98kだ」

「何だその賭け。娯楽ないからってそんな事すんなよお前ら…」

「さてジョージ。昨夜の鉄血集団なんだが」

「資料と五分くれ」

「ほらよ」

 

斥候班から送られてきた最新の状況を確認する。

昨夜の落石で数を減らした鉄血はそのまま前進。

その後、近くの壁に吸い込まれるようにして消えたとか。

 

「…怪しいな」

「ああ、怪しいな。だが罠の可能性もある」

「ここらでハイエンドは確認されていない…量産型のオツムでは高度な作戦は取れない」

「ま、ハイエンド何ていたら今頃ここは全滅してるがな」

「昨夜までのジャンクの回収率は?」

「終わってるぜ。裏のルートで流して金に換えてる」

「良い顔はされんだろうけど仕方ない。その金で弾薬とか装備を整えよう」

「仕掛けるのか?」

「ああ…三ヶ月ずっと戦いっぱなしだったからな。休みが欲しい」

「同感だ…」

 

二人揃ってため息を吐いた。

もし、仮にこのエリアに鉄血の工場が存在するなら、潰す他無い。

これ以上数が増えなくなるなら、今よりも大分戦いやすくなる。

 

「アイツらにも休みやらないとな…」

「ジョージ。あの子らは人形だぞ?そんなに肩入れするもんじゃないと思うが」

「…今や兵士も、労働力も、家族も恋人も人形が代替出来る時代だ。そうなりゃもう人みたいなもんさ」

「…ははぁん?お前、人形で惚れてるやつでも居るのか?」

 

ローニンが意地悪くほくそ笑んだ。

 

「何でそうなる」

「たまには明るい話でもしようぜ?で、どうなんだよそこ」

「いねーよ。人形だぞ?」

「いーや、そういう事云うやつに限って惚れた弱みとかでコロッと手のひら返すのさ」

 

こいつ、適当な事並べやがって…。

 

「わかった、あの時一緒に居たWA2000タイプだな」

「ちげーよ。アイツは俺の相棒だ」

「じゃあカフェのスプリングフィールドさん。男受け良いからなあの人」

「それもな…」

「スプリングフィールドですって!!」

「「ゲッ」」

 

スプリングフィールド、と言う単語が出るだけでとこからともなく現れる困ったちゃんが最近居るんだ。

 

「司令室に入る時はノックをしろと言ってるだろ、カラビーナ」

「指揮官さん!?あの時あの女とは何もなかったって言ってたじゃありませんか!アレは嘘だったんですか?!」

「嘘じゃないって。俺が君に嘘付いたことあるか?」

「ありません、けど」

「信じてもらえて嬉しいよカラビーナ。良いかい?君は聡明な子だ。気立ても良くてその上美人。君みたいなのは俺には勿体無い」

「え、そうですか…?えへへ…」

「だから、俺の言う事…分かってくれるよな?」

「勿論です!!指揮官さん!見ててくださいね!絶対あの女には負けません!」

 

すこぶる上機嫌で走って司令室から出ていった。

 

「…お前、いつか刺されるぞ」

「…?褒めただけだろ」

「重症だ…」

 

心外な。

 

 

 




日常回の一部。
ローニンと話してる時間が一番長い気がしてきた。


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指揮官としての敗北

鉄血の拠点らしき偽装を発見。
ここに潜入しあわよくば敵製造工場を発見し、破壊する。


ブリーフィングを終え、改めて戦術人形達の顔を見た。

 

「以上。質問は?」

「…ボス、もしかして馬鹿なんじゃないの?」

 

待てや。

 

「指揮官自ら斥候に出るって正気ですか?」

 

GrG3にも言われた。

解せぬ。

 

「…鉄血なら撃てばいいにゃ。そんな危ない事指揮官がしなくてもいいにゃ」

「IDWまで…」

「指揮官の肩書は、そんなに軽くないんですよ」

 

情報偵察に出せる程、この基地に人間は居ないし、戦術人形では不足事態対処が出来ない。

 

結局経験があるのは俺とローニンだけになる。

ローニンは後方指揮もあるため任せられないし…。

 

「Kar98k、貴女からも言ってください」

「指揮官さん」

 

カラビーナが静かに近付く。

…ちょっと警戒して一歩下がる。

その前に両肩を掴まれた。

 

痛いって。

 

「勇敢と、蛮勇は違います。もう一度…もう一度考え直してください」

「カラビーナ…」

「私達は、指揮官さんの部下ですが…貴方を失ったら、もう何も無いんです。この場所が皆最初の場所で、貴方が初めて出来た指揮官さんなんですよ?こんな早いお別れは、嫌です」

「私も同感だボス。まだアンタを観察しきった訳じゃないしな」

「私は…指揮官に拾われて、感謝してるにゃ。他の基地の私と違って指揮官は大事にしてくれるし…初めて口説かれたにゃ」

「口説いてないぞ!?」

「私は、指揮官を夢中にさせなきゃいけません。先に逝かれるなんて嫌です」

「指揮官、こんな不出来な人形ですけど…貴方の力になりたいんです」

「皆…」

 

なんて事だ。

戦術人形五体に言い包められてしまった。

 

いや、でも落ち着くとたしかにこの作戦は駄目だ。

 

「…すまん、皆。このプランは白紙だ。…少し、時間をくれ」

「指揮官さん、私達が警戒します。…先ずは、充分な睡眠を」

 

なんてこった…初めてなった指揮官で、部下にこんな気を遣われるなんてな…。

 

 

 

人形達が去った後の、司令室にて。

人形達が座っていた椅子をぼんやり眺めていた。

 

「…ま、当然の結果だろうな」

「ローニン」

「ほら、何ボサっとしてんだ、さっさと寝ろ」

「情けねぇな…本当に」

「誰だってその無力感と敗北感に折り合い付けて生きてるんだ。乗り越えろよ指揮官殿」

「元小隊長はわかってらっしゃる…」

「抜かせ。愛しのWA2000に合わせる顔が無くなるぞ」

「…そいつは困るな。ローニン、六時間後付き合ってもらうぞ」

「へっ…俺だって死にたくないし、元部下が今度挙式するらしいからな。それまでに休み貰わねぇとたまったもんじゃねぇ」

「へぇ、そいつはめでたい。このご時世、少しでも明るい話題が無いとな…」

 

疲労と徒労、目先の目標で少し焦っていた。

…彼女たちの為に、部下の為に、出来る事をしなきゃいけない。

 

「ローニン、また後で」

「…クソ傭兵、お前には貸しが有る。勝手にくたばるなよ」

 

そんな恨み節を背中に受けて、俺は部屋を後にした。

 

 

 




指揮官として初めて味わう苦い感覚。

成長する為の通過儀礼を経て、吹っ切れよう。

奴らを駆逐する為に。


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平穏への夢、夢想は届かない

けたたましく鳴り響くアラートに叩き起こされる。
心臓はうるさい程鳴動し、嫌な汗が止まらない。

久しく感じていなかった不吉な予感に、ジョージは部屋を飛び出した。


「状況を送れ!」

『指揮官!おはようございます!すみません、鉄血共です』

「何故ここまで接近されている…!」

 

司令室のモニターに映し出される周辺地図に表される大量の赤い点。

…これら全て、鉄血製人形だとでも言うのか。

 

「ジョージ、どう言うことだこれ!?」

「ローニン、襲撃だ…!職員全員武装させて使える武器全部引っ張り出せ!防衛戦だ!」

「りょ、了解!だが圧倒的に数で負けてる!」

「今から荷物まとめて逃げるなんて間に合わねえ…だから、迎え撃つしかない…」

 

戦術人形がたったの五体しか居ないこちらに対して、向こうは1中隊レベルの人形達が迫っている。

 

戦力差1:9…明らかに負け試合だ。

 

「…本部に救援の打診は」

「先月から、音沙汰無しだ」

「…クソっ、見捨てられたのかよ」

 

ローニンが毒づいた。

クルーガーが俺を見捨てた…?

あそこまで俺に彼女を預けておいて。

まだ自分の利用価値はあった筈だ…。

 

「ローニン、確か地下に鉄血の鹵獲品まだ残ってたな」

「え?ああ…いくつかな」

「あれ、使うぞ。当然ロックは外してるよな」

「あんなどこ飛ぶか分かんねぇ兵器使うのかよ?!」

 

鉄血から鹵獲、回収した武装…買い手が付かなく死蔵するしか無かった物が地下倉庫に転がっていた。

 

「威力はある。先ずはカラビーナ筆頭の狙撃部隊で接近する敵を漸減する」

「了解、なるべく人間の兵士には狙撃銃を手配する」

「あとこの基地の正面ゲート以外全て閉鎖しろ!物理的にだ!バリケードも建てろ!」

 

ローニンに指示を出しながら無線で基地内に通信を飛ばす。

 

「カラビーナ!聞いてたな!先に屋上行ってろ!すぐ行く」

「ボス!準備できたぜ!」

「G17、お前は正面ゲートに!侵入する奴らに火力制圧!」

「わ、わかった!」

 

入り口を正面だけにし、入ってきた奴らから叩く…。

今出来るのは、それくらいだ…。

 

「9A-91とIDW、GrG3も正面に!」

「了解!」

 

人形達に支持を飛ばした後、ローニンが走って戻ってくる。

…抱えていた狙撃銃らしきものを投げて寄越した。

 

「あっぶねぇ!って何だよこれ狙撃銃か!?銃口2つ付いてんぞ?!」

「これしかねぇからな!行ってこい!」

「ったく!」

 

銃口が2つ開いている狙撃銃…ダブルテイクを抱えて屋上に登った。

…既にカラビーナと、数人の狙撃兵が待機していた。

 

「野郎ども!準備は出来たな!?」

「あら、指揮官さん?女性も居るのよ?」

「失礼、レディ。この場の任務は下の歩兵の為の露払いだ、仕損じるなよ!」

「「了解!」」

 

眼前に広がる鉄血の一個中隊。

こうして見ると大した量ではない…が、

 

「…おかしい。妙に動きが統率されている…?」

 

鉄血達が無造作に歩いているだけじゃない。

同じタイプが固まって行軍している。

まるで、用途別、事態対処の為に分けられているように。

 

「…ローニン、やべぇ、これ…ハイエンドだ」

『…嘘だろ』

 

部下に聴こえないように無線で呟く。

ここに来て、この前線にハイエンドモデルの存在がチラ付く。

 

『ご名答。良くわかったねぇ?』

『「!?」』

 

俺とローニンしか使用していない回線への割り込み。

この声、女の声…!

 

「まるで鈴の音が鳴るような素敵な声だ。レディ、お名前を伺っても?」

『馬鹿かジョージ!そんな場合じゃ…』

『ふふふっ、代理人が言っていた通り面白い人!』

 

代理人…あの時のいけ好かないメイド人形がフラッシュバックする。

 

『私にそんな事を言ったのは貴方が初めて。だから特別に教えてあげる。私は、【夢想家(ドリーマー)】。よろしくね、ジョージ・ベルロック指揮官?貴方は、私をシアワセにしてくれる人かしら!』

 

 

 

 




鉄血ハイエンドモデル、夢想家襲来。

現状の戦力で対応する事は、不可能。
奴らの裏をかくには、どうすれば良い…!


と、言うわけでまさかの初手夢想家です。
割とこの子気に入ってるんですよね…。
ジョージを苦境に立たせ過ぎて風呂敷畳めないかもしれない…。


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夢想家の暇潰し

S-12管理地区前線基地へ鉄血ハイエンドモデル、夢想家の襲来。
状況は絶望的。
一縷の望みを賭けて本部への救援要請を祈る。


 

『指揮官!ダイナゲートの群れは片付いたにゃ!』

「よくやった!次、リッパーとヴェスピド!狙撃してるから仕掛けろ!」

 

ダブルテイクのトリガーを引く。

真っ直ぐ2発の弾丸が飛び、リッパー2体の頭を撃ち抜いた。

 

хорошо(凄いです)!指揮官!』

「9A-91、集中しろ!右からくる!」

『邪魔、ですよ!』

 

9A-91が襲いかかってきたリッパーを見事な回し蹴りで地面に倒した。

…前々から思ってたが、9A-91は体術の素質があるかもしれない。

鍛えたら化けるかも。

 

(これ乗り切らないといけない理由が、増えたな…)

 

それはそれで楽しみだから、死にものぐるいにもなると言うもの。

そんな事を考えていたらG17ならの悲鳴じみた通信が聞こえる。

 

『ボス!ガードだ!装甲が抜けない!』

「チッ、カラビーナ!」

「もう撃ってます!」

 

うちの基地、破甲が出来る武器がライフルしかない為前衛にかなりの負担を強いている側面がある。

 

カラビーナが的確にガードの頭を撃ち抜いていく。

流石練度があると自負するだけはある。

周りで撃っている2体のダミーも中々の精度だ。

 

「やるな、カラビーナ」

「この調子で、指揮官さんのハートも撃ち抜きますよ!」

「悪いけど俺のハートは、防弾性だ!」

 

負けじとこちらも射撃する。

競う相手が居ると能力が上がる人間としての闘争本能に火がつく。

たまには、悪くない感情だ。

 

俺の能力も打ち止めだと思っていたが、まだまだ伸びるらしい。

やはり、闘争こそが人類の可能性なのかもしれない。

 

『ふーん、頑張るねぇ?』

 

突如無線に割り込む別の声。

夢想家(ドリーマー)だ。

 

「こんな寂れた基地に何の用だお嬢さん」

『知りたいの?暇潰しよ、ひ、ま、つ、ぶ、し』

「…脳ミソまでカビたか」

『最近破壊者(デストロイヤー)のお馬鹿さんで遊んでてつまらないもの。代理人(エージェント)が目にかけてる貴方と遊ぶのも悪くないわ』

 

こちとら生き死にが懸かってると言うのに、こいつは。

だが、怒りに我を忘れてはいけない。

俺には部下が居る。

軽率な行動を起こして良い立場じゃない。

 

言動からして、こいつは()()()()()

人形共を積極的に前に送って来ないのはこちらを舐めてるからだろう。

勝機は、その隙きを突く。

 

だが…。

 

(決定打が、無い)

 

相手の虚を突く作戦も、火力も、機動性も無い。

こうして防戦しながら数を減らし祈るしか、今は出来な、

 

「指揮官さん!」

「カラ」

 

肩に熱が指す。

左手がだらり、と下を向く。

…後からやってきた衝撃で、後ろに吹っ飛んだ。

 

「い、いやぁぁぁぁぁ!!?指揮官さん!?指揮官さん!!しっかり、しっかりして!!」

 

やめろ、カラビーナ!来るな!

お前が集中を切らしたら…!

 

言葉の代わりに、口から血が吐き出される。

左肩を撃ち抜かれた。

カウンタースナイプされたのだ。

カラビーナに触発されて身を晒しすぎた…迂闊。

 

そして、カラビーナの意識がこちらに向いた事でダミーの統率が乱れる。

結果、ダミーが2体とも頭を撃ち抜かれ沈黙した。

 

「指揮官さん!駄目、目を閉じないで!」

「ケホッ、カラ、ビーナ、味方の支援を辞めるな…!」

「喋らないでください…今手当を」

『うわぁぁぁぁ!?』

 

ゲートの方から悲鳴が聞こえる。

…突破されたのか。

 

『なんだ。やっぱり人間なんてこの程度ね』

「ぬか、せ…」

『もう貴方に牙は無い。諦めて死んじゃいなさい』

「く、そ…」

 

空を仰ぐ。

ここ、までか…。

 

…ふと、晴れているのに…この基地の周辺が暗くなる。

 

 

 

『新人だと言うのに、ハイエンド相手によくここまで耐えましたね』

 

 

 

太陽を遮った影には、グリフィンのロゴが着けられていた。

 

 

 

『初めまして、指揮官。私は本部付きの【ネゲヴ小隊】、小隊長のネゲヴ。救援に参りました』

 

 

 

上空に浮かぶヘリから、5つの白いシルエットが飛び降りて来た。

 

『あら、気の早い子。貴方も罪な男ね、指揮官。あんな健気な子を引っ掛けるなんて』

「なんの、事だ…」

『あの子ったら行かせてくださいってずっと懇願するんですもの。。私達も降下しますので、後は任せてください』

 

通信が切れる。

ヘリから飛び出した白い影。

 

…後頭部の青いリボンが揺れる。

 

「ジョージさぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

ああ、まさかこんなにも早いなんて思わなかった。

 

ゲートを突破した鉄血の集団の前に、白のハンドガンが舞い降りる。

 

「トカレフTT-33自動拳銃、参ります!」

 

赤い瞳が、敵を捉えた。

 

 

 




再会、救援、そして反撃開始。
やられっぱなしは性に合わない。

と、言う訳でネゲヴ小隊とトカレフちゃん参戦。
なんかジョージが真っ先に負傷してばかりな気がする。


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反撃開始

無事に筆者が第七戦役をクリアしましたので更新します。

本部からの応援、ネゲヴ小隊。
そして、かつての親友(ジョージ談)トカレフが到着。

反撃の狼煙を上げろ。


 

「ジョージ!大丈夫か、しっかりしろ」

 

ローニンが屋上に到着し、駆け寄ってきた。

慣れた手付きで応急処置を施す。

 

「ゲホッ…止血ジェルなんてウチあったか…?」

「ネゲヴ小隊が片っ端から救援物資を投下してる。補給班が大忙しだ」

 

あれからトラックが到着。

ずっと行ってきた周辺の鉄血掃討のお陰で、やっと本部との補給路が確保できたらしい。

 

ネゲヴ小隊を含む戦術人形部隊が徐々に戦線を押し上げ、基地から鉄血を追い出していく。

 

「ジョージ、お待ちかねの気付け薬だ」

「あ”…!?おま、それ、やめろ!アッー!!」

 

ローニンが手にしていたとてつもなく見覚えのある緑の薬品が躊躇いなく胸に突き立てられた。

 

「ご、げ、あ、あば、あばばばば」

「うわ、エグっ…これ人が使うもんじゃねぇだろ…」

 

殺す。

こいつ後で絶対殺す。

 

「か、ら、び、ぃ、な、ァ!!」

「えっ、指揮官さ」

「歯ァ食い縛れツ!!」

「ぎゃんっ!?」

 

跳ね起きて、呆然としているカラビーナの頭に拳骨を落とした。

俺が撃たれてからずっと名前を呼んでいた。

けど、今はその時じゃない。

荒療治で申し訳ない。

後で埋め合わせはする。

 

「何呆けてる!さっさと援護射撃しろ!ローニン!武器!なんか武器寄越せ!!」

「…効きすぎだろ」

 

投与されると一ヶ月は不眠症に掛かる違法薬物なのだから仕方ない。

 

『やージョージ!久しぶりやないかい!』

「え、誰?!」

 

さっきから無線に知らない奴がひっきりなしに声かけてきて混乱する。

 

『指揮官、紹介するわ。部下のガリルよ』

『よろしゅう!』

『前にガリルが貴方に助けてもらったって言っててね。それで今回の救援を引き受けたの。借りは返す主義ですからね』

 

なんてこった。

こんな所でも俺のお節介が縁を繋いでくれたらしい。

 

『それと、16LABからの差入れです。新兵器開発での失敗作ばかりですが、失敗作だからこそ値が付かずに寄越せた代物ばかりです』

「嘘だろ…」

『クルーガーさんから伝言もあります。「遅くなった」と』

「全くだ」

 

とにかく、建て直しだ。

 

「カラビーナ!行くぞ!一旦合流して掃討戦に移る!」

「は、はい!」

「第一部隊!今から俺とカラビーナが合流する!残りの奴らを掃討するぞ!」

『『了解!』』

 

補給部から銃を一丁受け取り、基地の防壁の上に登る。

前線へ合流する為に周囲を見渡し…。

 

そこで、息を呑んだ。

 

「あれは…トカレフか!?」

 

白い5つのシルエットが、敵の集団の中で踊っていた。

いや、違う。

ダミー4体と本体による精密な連携攻撃。

まるで周囲すべてが見えているかの様に次々と相手を撃ち伏せる。

 

ハンドガンでは火力は出ない。

精度もそれほど良い訳ではない。

 

だが、それでも一発撃つ度に敵が地に伏せる。

 

「…あの子、本当にハンドガンですか?」

「俺が聞きたい…」

『指揮官!ハイエンドです!』

「来やがったな…!」

 

ドラグーンやリッパーを引き連れて、艶の有る長い黒髪を翻し…夢想家(ドリーマー)が姿を表した。

 

『想定外もスパイスだと言うけれど…いい加減目障りね』

「やっとその面拝めたな夢想家(ドリーマー)!何だ、可愛い顔してるじゃねーか!」

『…この状況でまだそんな減らず口を』

「こんな状況だからだ!ここまでの借り、きっちり返させてもらう!」

『私を倒せるとでも!』

「やれるさ!俺達ならな!」

『抜かせ!』

「吠え面かかせてやれ!第一部隊、会敵(エンゲージ)!!」

 

こちらもアサルトライフル、フラットラインを構える。

 

決着を付けようじゃないか。

 

 




無事にROを入手しました。

…こっちの夢想家の撃破報酬は何にしようかな…。
勝っても負けてもジョージは興奮剤の副作用で失神する訳だが。

次回、VSドリーマー、決着。


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夢の終わり

ついに正面衝突する第1部隊とドリーマー。
しかし、相手は鉄血ハイエンドモデル…。

一筋縄では行かない相手だが、そういう奴を打ち破るのはいつだって人間だ。

驕れる夢人に目覚めの一撃を見舞え。


「どうした!?どうしたグリフィン!!この程度ォ!?」

 

衝突してから5分。

俺達は夢想家(ドリーマー)に全く近づけて居なかった。

 

その理由は簡単だ。

奴の持つ、超射程のエネルギーライフルによる狙撃で全く第1部隊を寄せ付けないのだ。

 

「にゃああなんにゃアレ!反則にゃ!」

「喚くなIDW!きっとボスが何とかす…」

「出て来い!指揮官!!」

 

一時的に近くにあった岩陰に散会して身を潜めている。

正面から撃ち合うのは危険、しかし奴の周囲は障害物なんて無い開けた場所だ。

 

…この位置から狙撃戦を仕掛けるしかない。

 

「カラビーナ。狙撃戦になる…行けるか?」

「お任せを。指揮官さんの障害は全て排除するわ!」

「お前らは夢想家(ドリーマー)に注意しながら周辺の敵を排除し後退しろ」

「アレを前に逃げろってのかボス!」

「G17…指揮官を信じましょう」

「GrG3、3人を頼む。9A-91は俺の援護。すまないな、貧乏くじ引かせて」

「いいえ!指揮官の隣が私の居場所…どこまでも一緒です!」

「心強い…スモークを炊く。そっから掛かってくれ!」

「「「Copy that!!」」」

 

岩陰から2個スモークグレネードを転がし、それぞれが走り出す。

現在の戦場の状況は、基地の防壁から少し離れたエリアで、大小様々な岩石が転がっているエリアと、その先の草原が広がるエリアに分かれている。

 

夢想家(ドリーマー)が居るのは、草原エリアの少し中。

そこの丘の上に陣取りエネルギーの弾丸を降らせている。

 

立地的にも火力的にも不利。

奴はこちらのどの部位にかすりでもすれば大ダメージ…対するこちらは奴の腕か頭に当てられなければ勝機は無い。

向こうもそれが分かっているのか、かなり強気だ…いや、

 

「…あいつ、かなり精神が不安定だ」

 

語気やトーンが点でばらばらだ。

薄ら寒いものを感じる…見てくれが良いから余計。

 

「幸い裏取りできる地形だから…カラビーナはこの位置から頼む。俺と9A-91は回り込む」

「了解、お気をつけて」

 

…ん?興奮剤の作用がまだ切れていない…?

というより、俺さっきまで肩撃ち抜かれて瀕死だった気がするんだが…。

 

だが、意識がはっきりしていて、体が動くなら問題ない。

フラットラインを握り締め、背中に担いだ『切り札』を確認する。

 

「指揮官、そんなもので何とかなると思いますか…?」

「何とか、する。勝機はそこしかない」

 

慎重に、息を殺して移動する。

あいつはカラビーナに気をとられて気が付いていないはず…!

 

カラビーナからの発砲音が、消えた。

 

「…カラビーナ?」

「みぃつけたぁ♪」

「指揮官ッ!!?」

「な、あっ!?」

 

まだ彼我の距離は100m近くあったはず…!?

何故、目の前に現れ

 

「このっ…!」

 

9A-91が肉薄し、発砲する。

…が、それより前に夢想家(ドリーマー)は跳躍。

9A-91の肩を踏み台にしこちらに飛び込んできた。

 

「チェック、メイトォォォォォ!!」

 

夢想家(ドリーマー)の顔が狂喜に染まる。

狩られる…!

 

…そう、普通ならば。

だが、今の俺はドーピングにより感覚が研ぎ澄まされ、常人ではなくなっている。

 

「この瞬間を…待っていたんだッ…!!」

「キヒッ!?」

 

背中に担いでいた砲身を脇を通して素早く突き出す。

…銀色に煌く杭が夢想家(ドリーマー)の肩に突き刺さった。

 

「アハハハハ!!この程度…!」

「食らいやがれッ…!!」

 

…トリガーを引く。

ずどん、と重い音を発てて銀色の杭が射出された。

 

パイルバンカー。

この時代に有効価値が見出されず失敗作として押し付けられた代物第一号だ。

 

夢想家(ドリーマー)の肩から先、右腕が吹っ飛んだ。

…抱えていたエネルギーライフルも弾かれて飛んでいく。

 

「はぁ…はぁ…9A-91!無事か!」

「はい、指揮か…!」

「指揮かぁぁぁぁん!!まだ、まだ終わってないわ!!」

「ぐ、ぁ…!?」

 

片腕を失った夢想家(ドリーマー)がまたも飛び込み、俺を押し倒しそのまま右肩に喰らいついた。

 

「この、野郎ッ!!」

「ぎひぃッ!?」

 

膝を腹にめり込ませ、拘束が緩んだ所に…フラットラインを胸部に1マガジン叩き込んだ。

 

「あ、が…」

 

どさり、と覆いかぶさる様に夢想家(ドリーマー)が力尽きた。

 

「…あー、クソ、いってぇ…」

「指揮官!指揮官、大丈夫ですか!?」

「わりぃ…ちょっと、動けねぇ…カラビーナが探してるだろうから、呼んできてくれ…」

「はい!」

 

パタパタと9A-91が離れていった。

…すると、俺の上に覆いかぶさっていた夢想家(ドリーマー)の首が、ぐるんと動き俺と目線を合わせ…。

 

「こ」

「楽しかったわ…次逢うときを楽しみにしてるからね、ジョージ?」

「は」

 

バチッ!

夢想家(ドリーマー)のこめかみから火花が発せられ、煙が上がる。

…情報漏えい防止の為に電脳を焼ききったのだろう。

 

…それと同時に、ピッ、ピッ、と()()()()()()()()()()()()()()()()()夢想家(ドリーマー)のボディから発せられる。

 

「ちょ、おま、嘘だろ!?誰、誰かッ!!9A-91!カラビーナ!!」

 

名前を呼んでも誰も返事をしない。

無線も先ほどの取っ組み合いで壊れた。

 

(あ、これ死んだな…)

「ジョージさん!ジョージさん!?どこですか!?」

「!!トカレフッ!ここだ!()()()()()!!」

「…!!!はいっ!私が、私が助けます!!」

 

岩陰から5人のトカレフが姿を現した。

…真ん中の一人が、大粒の涙を流しながら走っている。

 

「この…鉄血の屑め!!」

 

十分な加速が乗った蹴りが、俺の上に倒れていた夢想家(ドリーマー)のボディをぶっ飛ばした。

…5、6mほど飛んで行き、ボディが爆発した。

トカレフ達が俺に覆いかぶさり、爆風から庇う。

 

「っ…うぅ…トカレフ…無事か?」

「はい…!はい、大丈夫です…!ジョージさん…私…間に合いましたか…?今度は、助けられましたか…?」

「ああ…ありがとう…君は…命の恩人で…俺の、天使だ…」

 

やばい、瞼が重くなってきた。

興奮剤の効果が切れたらしい。

体の自由も利かなくなって来た。

 

「ジョージさん!?ジョージさん!駄目です、寝ないで!起きて!!お願い!!ジョージさん!!」

 

おぼろげながらいくつもの足音も聞こえる。

おそらく回収部隊だろう。

 

俺の顔の上でボロボロ涙を流す白い少女に抱かれて、俺は意識を手放した。

 

 




VSドリーマー、完。
まさか興奮剤2本目行くとは…。

ちなみにパイルバンカーは通称で正式名称『リアルインパクト』です。

…負傷して意識不明の重態ってまたかこいつ。


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幕間ー夢想家ー

とある施設で目を覚ますドリーマー。
しかし彼女の様子は寝起きとは思えない程に饒舌で情熱的だった。

…右肩を愛おしくなでながら。


「くひっ、ひは、ははははは!!!」

 

鉄血のネットワークを経由して、新たなボディにデータを全て取り込み、最適化の後に起動。

 

しかし、私の頭の中はエラーデータが満載だった。

 

「あああはああははは、痛い、イタいイタいイタいイタい!!」

 

無事な筈の右肩が痛む。

口の中いっぱいに鉄の味が広がっている。

しかし不快感は無い。

あるのは、()()()()

 

狂気の笑みで右腕を抑えている。

 

「ひひっ、あはははは!!ジョージ!ジョージ・ベルロック!!やってくれたな!!」

 

楽しくて仕方ない。

久し振りに感じたこの高揚感。

遊んでいたとはいえ、()()()()()()()()()()()()()()()と言う事実が身を焦がす。

 

「…ドリーマー、ここで起きたと言うことは破壊されたと言う事ですね」

「あっははは…あー?エージェント?何してるの?」

「再起動した上位モデルが居ると連絡を受けたので見に来ただけですよ…」

 

テンションが変わらず高いドリーマーに呆れ顔でエージェントは返した。

 

「エージェント!そうよ、エージェント!教えなさい!」

「…は?」

「ジョージ・ベルロックについて洗いざらい喋りなさい!喋れよ!」

「貴女、最前線のはずれに行っていたと聞いていましたが…会ったのですか?彼に」

「会った!会ったとも!そして殺られた!手を抜いていたとはいえ私が!」

「やられた…貴女が、ですか?」

「そう!そうだとも!私の右腕を持っていった!」

 

ああ、思い出すだけで甘美な瞬間だった。

私を貫いた瞬間の勝ち誇った顔。

 

その顔を蹂躙したいと思ってしまった。

他でもなく、自分の手で、あの男のすべてを奪い、潰し、絶望させたいと願ってしまっている。

 

「…好きにしてください」

「?あの男はお気に入りだったんじゃ?」

「私を前にして生き残った…ただ一度だけ、ですが。ただの偶然ですよ」

「なら、二度目三度目とされたらもう夢中だな!あはははは!!」

「…は?」

「一度は偶然!二度なら必然?三度は運命!!くっひひひ!!私を前にして三度生き残ったらお前の右腕を貰うからな!!」

「…一度電脳を点検した方が良いかもしれませんね、ドリーマー」

「次はどうやって会ってやろうか!エージェント!お前この前凄い気合入れてめかしこんでたな?アレなんだよ?教えて?教えろ!教えてください!」

「なっ!どうしてそれを…誰も居なかったはず…!?」

「まさかあの男に会いに行ったのか!?何だ二度目じゃないか!エージェントはラスト1回じゃないか!」

「はぁ…ほどほどにして下さいね…エルダーブレインに影響の無い程度に」

 

そう言い残し、エージェントは去った。

残されたドリーマーは一人、嗤う。

 

「次はどうやって会いに行ってやろうかしら。お馬鹿ちゃんをけしかけてあげましょうか?それとも特大の爆弾を贈ってあげようかしら!」

 

この感情に名前が付けられない。

でも、次に会う瞬間をまだかまだかと全身のパーツが叫んでいる。

喰らいついた肉と血の感触を私は求めていた。

 

「ウフフ…ねぇ、ジョージィ…何もかも…私が奪ってあげる…♪」

 

 

こんなに楽しいのは、いつぶりだろうか。

 

 




とある場所での出来事。

また変なやつに目を付けられたなこいつ…。


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終わらない悪夢

ドリーマー襲撃から三日。
奇跡的に大した後遺症も無く、事後処理に追われるS-12地区の面々達。

普段通りの生活がまた始まるが…ジョージだけ、ある悩みに苛まれていた。

冒頭の内容がちょっとショッキングかもしれません。


…やめろ、止せ!

 

俺の静止も虚しく、奴の右手は無慈悲にも振り下ろされ、()()()()()()()()()()()()

 

「ぎっ…!?」

「痛いか?痛いよなぁ?でもまだ終わらない」

 

何が楽しいのか、そいつはずっと笑っている。

今、俺は全身を椅子の様な器具に拘束されている。

首すら動かせず強制的に前を向かされている。

 

「次はどうしてやろうか。なぁ、何がいい?」

「----!--!--!」

 

声が出ない。

()()()()()()()()()()()()()

 

「じゃあ次は…こうしてあげましょう」

「--ッ!?」

 

奴がそっと爪を剥がした俺の指を…一本一本ゆっくりと折り始めた。

 

「あぁあぁぁあぁぁっ!!?!?」

 

自分の悲鳴が耳障りでしょうがない。

声は出ないのに悲鳴だけはいっちょ前に出やがる。

 

「ふ、ふふ…良いですよ、良いわぁ、良い!でもこんなんじゃ終わらせない…終わらせるもんですか」

 

うっとりとした表情で俺の右肩を撫でる。

いつの間にか、手にはノコギリが握られていて…。

 

「右腕、ちょうだい…!」

 

奴…ドリーマーの狂気的な笑顔が光った。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「うわあああああああああああああ!!?!?」

 

目が覚めた。

窓の外はまだ暗い。

…横になっていたベッドは、また寝汗でびっしょりだった。

 

「ハァ…ハァ…()()()()()()畜生」

 

あれから、3日。

興奮剤の副作用が何故か1日で終わり、目が覚めてみれば戦術人形達の号泣で出迎えられ基地のスタッフ達に叩かれまくった。

 

中でも…トカレフと、カラビーナが凄まじく泣きながらお説教された。

まぁ、あんな事を基地指揮官がやるなんて正気の沙汰では無かっただろうし。

 

それで、事後処理としてはまず周辺の残骸の回収作業と、基地の復旧作業が始まった。

 

ネゲヴ小隊が持ってきた資材は潤沢で、ここ3か月ひっ迫していた基地の財政をなんとか立て直してくれた。

その中にいくらかの嗜好品が入っていたため、スタッフや戦術人形達のご機嫌取りも何とか行えたのは行幸だった。

 

順調に、元の姿に戻りつつあった…俺以外は。

 

「くそ、水…」

 

ベッド横の水差しを手に取るが、中身は空。

仕方ないので冷蔵庫を開けてペットボトルを取り出し、一気に呷った。

 

…目が覚めてから二日、俺はずっと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見続けていた。

 

たった一度の遭遇でそうなるかと言われれば、極度の緊張と肩へのダメージが重なったのかもしれないと軍医には言われた。

無意識に包帯の巻かれた首をなぞる。

 

かなり浅めに肉を食いちぎられたようで、簡易的な処置に留まっていた。

 

「全く…寝かせてもくれないのか…」

『ジョージさん…?大丈夫ですか…?』

 

自室のドアの向こうから声がかけられた。

…この基地で俺を『ジョージ』と呼ぶのはローニンと、彼女しかいない。

 

「…おいで、トカレフ」

「失礼します…ジョージさん、また…ですか」

「ああ…」

「…大丈夫、ですか?」

「ただの夢だ。大したことない」

「でも、寝汗が…風邪ひいちゃいますよ」

「そうだな…トカレフ、着替えるから…」

「お、お手伝いしましゅ!」

 

噛んだ。

それが分かっているのか、トカレフも真っ赤になる。

…まぁ原因がそれだけじゃないが。

 

「…背中、拭いてもらおうかな」

「ひゃ、ひゃい…」

 

ただ、俺としては誰かと話して気を紛らわせたかった。

上着を脱いで、背中をトカレフの方に向けた。

 

…そっとタオルが当てられた感触がする。

 

「…傷だらけですね」

「ん?あー、若いころの逃げ傷だよ」

「若いころって…ジョージさんはまだ20代じゃないですか」

「人間20超えたら時がたつのが早いのさ…」

「大変ですね、人間って」

「ああ…生きてるのは、大変だ」

 

それから、無言。

結局、背中を拭き終わるまで何も話さなかった。

 

…トカレフが後ろを向いている間に、全身の発汗の処置を済ませ着替える。

 

「それじゃあ、おやすみ…トカレフ。ごめんな、起こして」

「いえ…これくらい」

 

またベッドに横になると、トカレフが手を握ってきた。

 

「トカレフ?」

「大丈夫ですよ…大丈夫。私が、ここに居ますから」

「…ああ。心強い」

「安心して眠ってください…ジョージさん」

 

手に温かい感触を感じながら…また、微睡に沈んでいった。

 

 

 




この時期にインフルエンザに罹りました()
自分でもびっくりですわ。

薬でちょっと楽になり、寝れなくたったので暇つぶしに投稿しました。
皆さんも体調管理には気を付けてくださいね…連休も控えてますし。


さて、ジョージの方はというとまさかのドリーマーがトラウマ化。
夢だと分かっていてもどうにもできない状況が続いています。

…ヒロインがいれば見ないらしいが…このSSのヒロインって?


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前線日常編①

熱も下がり体調も回復しまして、暇になったので投稿しました。

しばらくはジョージへのボーナスタイムとしてほのぼのしようかなって。


 

「ーーー!!」

「ーー!」

「…んん、ちとうるさいな…」

「「「おはようございます!指揮官(さん)(ジョージさん)!!!」」」

 

…朝。

部屋が騒がしいなと思い目を覚ますと、飛び込んできたのは一面の白。

 

と言うより、白い戦術人形が三体もいる。

 

「…トカレフ、カラビーナ、9A-91。君らなんでいるの?」

「それは、朝指揮官の布団に潜り込もうとしたらこの子が…」

 

9A-91がトカレフを指さした。

君、あの後布団入ってきたのか…こら、ドヤ顔しない。

 

「…婚前の淑女が男と一緒に寝るのははしたないぞ」

「私とジョージさんの関係じゃないですか」

「待って?そんなに関係深いと思わなかったぞ俺」

「大体この人形誰なんですか!?唐突に現れて美味しいところ全部掻っ攫って!」

「あー、そうか。まだ紹介してなかったっけ…」

 

じゃあ朝礼の時にみんな集めて紹介しよう。

取り敢えず起き上がり何か言い争いしている三人を部屋から放り出して着替えた。

 

「トカレフ。めいっぱいお洒落しておいで。今日君の歓迎会するから」

「えっ、わ、わかりました」

「GrG3が面倒見てくれると思う。9A-91、案内してあげて。カラビーナは残って」

「「………わかりました」」

 

うわ、凄い。

二人共納得行ってなさそう。

 

仕方ないので先に9A-91に近付き、

 

「9A-91、君の代わりは居ないしこれからも来ないと思う。だから、興味が無くなったとかそういう事はないよ。ずっと見てるから。機嫌、直してくれると嬉しい」

「ふ、ふふ…!はい!大丈夫です!さ、トカレフさん!行きましょう!」

「えっ、ちょっと…ひゃあ」

 

トカレフの腕を握って凄まじい速さで駆けていった。

機嫌直してくれたのかな。

 

「…」

 

さて、もう一人ふくれっつらで可愛く抗議してるお嬢さんも何とかするか。

 

「カラビーナ、今日の予定は?」

「…指揮官さんの午前中の予定は各セクションの承認と本部へ送る資料製作です」

「昼は確か午前の続きで…今日は半ドンの予定だったな」

「…終われるんですか?」

「終わらせる。君の為に使うって決めたからね」

 

そう言うと、カラビーナの顔がみるみる赤く染まって行く。

 

「…えっ、えぇ!?ど、どどどどどうして!?」

「興奮していたとはいえ、君の頭を殴ってしまった。その埋め合わせがしたい」

「そんな殴ったなんて…アレも一種のご褒美だと…」

 

ん?この子大丈夫かな…。

 

「それに、一番頑張ったカラビーナを労いたい。駄目か?」

「喜んで!!」

 

満面の笑顔で返された。

うん、久しく辛気臭かったから眩しい笑顔と言うのは良いものだ。

 

「いい笑顔だカラビーナ。可愛いぞ」

「かっ、かわッ…!?…きゅう」

「………え?オーバーヒート!?嘘だろ!?ちょ、誰か!?メディーック!!メディーック!!」

 

今日も一日が始まるのだった。

 

 

 




久し振りにほのぼのした気がする。

…あれ、このSSはほのぼのSSじゃなかったっけ?
おかしいなぁ。

次回、グリフィンでのお仕事。


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前線日常編②

午前中に鬼の様に業務を片付けるジョージ。
…と、言うより基地の立て直しがメインなのでどうしても手の止まる箇所が生じている。

そのせいで割と仕事が無かったり。


 

「さて、カラビーナ。俺の時間を二時間やる。夕方からトカレフの歓迎会だから、それまでな」

 

昼の後段。

約束通り業務をすべて終らせ、執務室でカラビーナと向き合っていた。

 

「そう、ですね…じゃあ」

 

カラビーナが目の前にやって来て、徐ろに帽子を外した。

…なんと言うか、拍子抜けするお願いだった様だ。

 

「…もっと他に無かったのか?」

「それじゃあ、うんと褒めてください。指揮官さん?」

「…仰せのままに。ありがとう、カラビーナ」

 

俺より頭一つ以上低い位置にあるカラビーナの頭をひたすら撫でてやる。

…髪の手触りが気持ちいい。

 

「いつも助かってる」

「そうでしょうそうでしょう」

「この前の狙撃もよくやってくれたな。皆褒めてた」

「ふふん」

「君の射撃はまるで芸術の様に精密だ」

「…指揮官さん?」

「真剣に打ち込む君の姿に、瞳に、指先に、全てに魅力がある」

「えっ、あの」

「君の所作に釘付けだ、カラビーナ」

「ひ、ひぇ…」

「どうしたんだカラビーナ?赤くなって。君の肌は白いから、朱が交じるとそれもまたアクセントだ」

「あわわわ…きゅう」

「え、ちょっと、カラビーナ?お前最近排熱機能駄目になってないか!?おい!」

 

…蒸気を出しながら固まってしまった。

最近カラビーナによくある症状で、そろそろ整備部に上げておいた方がいいかも知れないな…。

 

来客用ソファに横にして、その頭の近くに座る。

…こうしてみると、本当にただの女の子だよな。

 

「失礼します…あら、お邪魔でしたか?」

「GrG3。カラビーナが目を回してしまってね」

「ふふ、指揮官はまたカラビーナさんをからかったんですね」

「からかうとは人聞きの悪い。褒めてくれっておねだりされたからね」

「…どんな褒め方したんですか一体」

 

GrG3が呆れながら珈琲を淹れてくれた。

それをソファに座ったまま受け取る。

 

…いつの間にか膝の上にカラビーナの頭があるものだから動けなくなった。

 

「こいつ起きて…いや、寝てる…?無意識…?こわ…」

「ふふ、指揮官も本当に慕われてますね」

「これは、どうなんだろうな」

 

GrG3に目配せして対面に座らせた。

測らずとも休憩の様な雰囲気になる。

 

「私達がここに来てから、とても大変でしたね」

「…そうだな。三ヶ月間ひっきりなしに戦闘して」

「レベルも一桁でハイエンドにかち合うとも思っていませんでした」

「よく持ち堪えてくれた、ホントに…お前らはうちの自慢の子たちだよ」

「褒め過ぎですよ指揮官…私なんて取り柄もないですし」

「そんな事はないよ。君にしかできない事、今この基地で榴弾を扱えるのは君だけだ。君が居なかったら集団に勝つのは難しかった」

「指揮官…」

「…君はちょっと自己評価が低い。もっと胸張って良い」

「そう、ですか…?」

「そう。その方が良いいででででで」

 

カラビーナが目を瞑ったまま俺の太ももをつねりあげていた。

 

「寝ている女の子の上で他の女といちゃつくなんて…!」

「痛いって!悪かった悪かった…ははは」

「ふふふ…」

「何ですかGrG3さんも笑って…!」

「ブレないなお前ほんとに…」

 

なんと言うか、久し振りに穏やかに時間が過ぎていった気がする。

 

平穏って良いなぁ…。

 

そのまま、カラビーナとGrG3と談笑して午後は過ぎて行った。

 

 




日常編第二話、完。
びっくりするほど穏やかに過ぎていく時間。
あと一話で日常編は一旦終わり、次の再会へと話を動かします。


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前線日常編③

日常回の終わり、物語はまた動きを見せます。

ほら、ジョージ休み終わったぞ(無慈悲


トカレフの歓迎会も済み、彼女は無事にS-12地区所属の戦術人形となった。

 

…特に大した引き継ぎ等もなく、元々ここに寄越す腹つもりだったのだろうなと邪推するが。

戦力の強化に貢献されているのは確かなのでここは素直に喜びたい。

 

「ジョージ。本部から招集命令だ」

 

襲撃からもう1週間が経とうとしていた。

そんなある日、ローニンから渡された1通の手紙。

本部から、ドリーマーについての事情聴取だそうだ。

 

「…これ、俺が行かないとダメかな」

「何言ってんだお前」

「いや…だってさ。こっから本部まで片道8時間だぞ?」

「まぁ、確実に向こうで泊りだな」

「基地の運営止まらねぇか?」

「指揮官、こっちの書類目を通してください!大至急です!」

「分かったよGrG3、そこ置いといて」

「指揮官指揮官!大変にゃ!糧食班で火災にゃ!!」

「嘘だろ!?IDWそこの消化器持ってけ!あと火災起こした馬鹿呼んで来い!」

「指揮官さん大変です!16LABの試作品の一つが爆発しました!」

「何でだよ!?」

「ボスヤバいぞシュリケン?投げたら爆発した!」

「お前のせいか!!一応グレネードだからなファイアスターは!!」

 

…と、まぁこんな有様である。

とてもじゃないがこの基地を離れるなんて出来ない。

 

「まぁ確かに何の為の作戦報告書だって話だわな」

「だろ?…まぁ俺の出した奴人形に使えないから突っ返されたんだけど」

「え?何でだよ」

「…指揮官が生身でハイエンドと相対してあまつさえ接近戦で倒したんだそ?」

 

そう、頭の痛くなる話はこれなのだ。

人形が倒したのではなく比喩抜きで指揮官が倒してしまったこと。

 

十中八九違法薬物の興奮剤に糾弾されるんだろうな…。

 

そこまで思考して、ふと思い出した。

 

「ローニン?前に俺に投与したやつは一体何だ?効果も長かったし副作用もだいぶ軽かった」

「何って、普通に興奮剤だぞ?()()()()()()()()()()()()()()()()やつだ」

「…希釈した?」

「ああ。アレは常人がそのまま投与すると二ヶ月不眠症にかかるレベルの代物だ。だから希釈する」

 

…あれ、変な汗が止まらないな。

そう考えると俺、あの時原液を自分に投与したって事に…。

 

「あんなの原液で使うなんてよっぽどの馬鹿だろう」

「うぎっ…」

 

その馬鹿がここに居るんだよなぁ…。

 

「ま、まぁ…本部か。三ヶ月にまたあそこに行かなきゃいけないのか」

 

友人達は、元気にしているだろうか。

 

「あ、ジョージ。社内報貰ってきてくれよ。連中ウチまで届けてくれねーんだ」

「社内報?そんなんまであんのかこの会社…」

 

何はともあれ、また本部に行くことになるな…。

 

「護衛の人形はどうすんだ?」

「ハンドガンタイプにするつもり。だからG17かな」

「トカレフじゃないのか」

「…なんか、含みがある言い方だな」

 

ニヤニヤしながらローニンが続ける。

 

「本部から派遣された救世主がやけにお前にゾッコンだからな」

「…本部で研修してた頃の友人さ」

「本当かよ?」

「本当だよ」

 

面白くなさそうにため息を吐かれた。

解せない。

 

「友人ねぇ。本部にいたの短いからお前がどんな事してたか知らねぇが…一部で有名だったからな」

「有名?俺が?」

「デカイ借金と重い女に好かれる男」

「何でや!?」

 

 




これにて日常は終了。
次回からまた迷惑ハイエンドによるちょっかいが始まります。

おい、ジョージ…美人に完全に目をつけられたぞ、良かったな。


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再会は微睡みの向こうへ

本部へ招集されたジョージ。
新人指揮官がドリーマーと戦闘し生き残ったと言う眉唾に対して、委員会から投げられた言葉はあることない事の嵐。

やっと解放され、与えられた部屋でひと息ついていた。



…なんと言うか、疲れた。

 

朝、日も登らない内に叩き起こされ覆面の人形達に拉致されたかと思えば本部まで連れてこられていた。

 

「…あ、そうだ社内報」

 

ローニンに頼まれていた社内報の存在を思い出す。

重い腰を上げて本社の儒品部へ向かった。

 

「…あ!おい、ジョージ!」

「…ん?あ、ベネット!お前、死んだはずじゃ」

「残念だったな。トリック…って死んでねぇよ」

「久し振りだなジョージ。金返せ」

 

名前を呼ばれ振り返ると、いつぞやの合コンコンビ…ベネットとキャンベルが立っていた。

 

「キャンベルまで。久し振りだな。お前らも呼ばれてたのか?」

「ああ。そっちも大変みたいだな…あ、俺S-11地区でお前の隣だからなんかあったらよろしくな。あと金返せよ」

「俺はD地区に左遷されちまった」

「何やったんだよベネット…。わりぃキャンベル。出世払いで」

「指揮官からどこに出世すんだよ! 」

 

暫く同期同士の他愛の無い会話が続いた。

ふと、懐しい序に気になっていた事を聞く。

 

「あ、なぁ二人共。相棒…WA2000を知らないか?」

 

…名前を出した瞬間、二人の表情が凍りついた。

 

「ジョージ、お前…聞いてないのか?」

 

恐る恐ると言った様子で、ベネットが聞いてきた。

キャンベルも少し、顔色が悪い。

 

「お、おいどうしたんだよ二人共…気味が悪いな」

「ああ、ジョージ。これを俺達に言わせるのは…ちと荷が重い」

「…待てよ、待ってくれ。この話は…マジなのか?」

「…ああ」

 

…相棒に、何かあった?

本社に来て合わなかったのは、そういう事なのか?

 

「…いや、ベネット…話そう。ここまで言ってしまったんだ」

「…分かった。良いかジョージ、気を確かに持って聞いてくれ」

 

ベネットが一拍、置く。

 

「WA2000は、任務から帰還中…鉄血のハイエンドモデルに襲撃され…行方不明…MIAだ」

 

俺は、その言葉を上手く飲み込めなかった。

   

「………うそ、だろ」

 

だから、出てきた言葉も…とても安っぽい物で。

そんな安っぽい保身を、現実は粉々に砕いてくれた。

 

「現に、戻って来ていない。回収された戦術人形の残骸が、一体分足りなかったんだ」

「各基地に警告が周ってきたんだが…まさか、ジョージの所にはいってなかったなんて」

「なぁ、ジョージ?相棒とは言え…その、人形だ。そのうち残骸も発見されて再生される…だから、あーっと…そんな重く捉えるな、な?」

「ベネット!言い方があるだろう」

「いや、んな事言われてもよ…」

「そう、か…二人共、ありがとう…また、一杯やろう」

「お、おい…ジョージ!」

 

二人の静止を聞かず、ふらふらと歩き出していた。

 

WA2000が、MIA。

このご時世行方不明になれば自力で生還する他生き残る道は無い。

 

そして、換えが聞く戦術人形に対して捜索が行われるケースは皆無だ。

…彼女は、IOPのハイエンドモデルでは無いのだから。

 

「は、はは…そっか、逝っちまったか…相棒…」

 

力なく笑ってしまった。

生死を共にした無二の相棒の喪失。

こんな仕事してれば嫌でも味わう感覚に、今のうちに慣れて置かねばならない。

 

「あれ、喫茶店が…」

 

気付けば馴染みのスプリングフィールドのカフェの前にまで来ていた。

…かつての賑わいも無く、閉鎖されている。

彼女も、何処かへ配属されたのだろうか。

 

「あらジョージさん」

「…カリーナか。久し振り」

「お久しぶりですねジョージさん。ツケの支払いは受付しておりましてよ?」

「…ツケにした覚えは無いんだが」

 

そんな様子をボンヤリ眺めていたら、近くをカリーナが通り掛かったのだった。

 

「またまたぁ。先日のハイエンド襲撃の時の輸送費、まだ払ってもらってませんよ?」

「…は?輸送費?」

「それとネゲヴ小隊の出動費ですね!占めてこの額です」

「…は?あのヒゲおやじ何してくれてんの?」

 

電卓を叩かれて見せられた数字に思わず悪態をついた。

 

「お支払いはいつになさいますか?」

「えっ…あー、その、何で経費になってねぇの…?」

 

基地…と言うか、()()()()()()()()()()()()()()なのだから会社から金が出るものでは無いのだろうか。

 

「ご存知ありませんでしたか?本部からの救援は基本的に指揮官のお給料から天引き何ですよ」

「えっ、初耳」

「ジョージさんはその天引きで贖える額を超えてしまったので別途振込が必要だったんです」

「えー…」

「と、言う訳でぇ…お買い物はいかが?」

 

とても良い営業スマイルが飛んできた。

いや買うものなんてねぇよ…と、思いながら、

 

「あ、そうだ。スプリングフィールド知らないか?」

「スプリングフィールドさんですか?…あー、お店閉めちゃってますもんね。スプリングフィールドさんは長めの有給を取られて」

「有給」

「今は何処かの片田舎のに行かれて修行中だそうですよ」

「修行」

「はい。スプリングフィールドさんの状況を鑑みていい刺激になるかもしれないと上も判断しまして」

「…人形、有給使えたんだ」

 

俺にはそんな代物ないけど。

 

「あ…その、ジョージさん…WA2000さんの事は…」

「…聞いたよ。大丈夫だ。少しかかるかも知れないけど、割り切るさ」

 

もうこの基地の人間は皆知ってることなんだろうな。

カリーナに気まずそうな顔で見られた辺り、相当表情に出てたのだろう。

 

「じゃあな。金は…あー、うん、また払う」

 

…参ったなぁ。

ここの所、何かに憑かれてるかのように立て続けに事が起きている。

 

「…生きてくのは、難しいな」

 

ため息が夜空に消えていった。

…今夜は、恐らく悪夢だろうと独りごちながら。

 

 




平成最後の更新で、少し物語が動きます。

WA2000のMIAの報告を受け、ジョージは。


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幕間ー夢想家②ー

ジョージが本社でWA2000のMIAを聞く、少し前の話。
どこかの鉄血工廠にて。


 

「あっはははは!弱っちいなぁグリフィンは!」

 

先程遭遇したグリフィンのライフル小隊。

驚いて撃って来たが、少し撃ち返しただけ壊滅しやがった。

 

あいつらの驚いた顔見て少しスッキリしたが、やっぱりまだ胸の奥でイライラが燻っていた。

 

「ドリーマー、また派手にやってくれましたね」

「…エージェント。何、また皮肉かしら」

「いいえ。ただ少し興味深い物を持って帰ってきた様なので」

「…()()がか?」

 

足元に転がる一体の戦術人形を蹴飛ばす。

損傷が激しく電源が落ちてしまっている為、反応は無い。

 

「一番私に当ててきたからな、電源入れていたぶってやろうと思って持って帰ってきたんですよね」

「この人形…やはり、間違い無い」

 

エージェントがボロボロの人形を覗き込む。

…どことなく、喜びの色合いが見える。

 

「ジョージ・ベルロックと行動していた人形の様ですね」

「…へぇ?」

「貴女に当てることが出来たということはそれなりにレベルも高い…」

「何だ何だァ?こいつジョージのお気に入りか?」

「私と交戦した時もそれと一緒に居た筈です」

 

エージェントからデータを渡された。

…すぐさま首筋のジャックに差し込み、映像を再生した。

 

四肢を撃ち抜かれ地に伏せるジョージの映像が映る。

 

「私より先にだいぶ楽しそうな事をしてますねぇ」

「この時はたまたま部隊のダイナゲートが救難信号を受け取りましてね。気まぐれに見に行けば人間同士で争っていた中に…彼は居ました」

 

何かしらの液体を注入して人形を救出し、そこから逃走するも時間切れで再び倒れた映像が写し出される。

この光景に若干粘っこい快感が刺激されるがそれは少し置いておく。

 

「瑣末はこの様な」

「エージェント様も珍しくただの人間を取り逃したって事ですねぇ…ん?続き…?」

 

映像にまだ続きがあったのでこっそり再生する。

…そこには、鏡に写った見たことないほど気合の入ったエージェントとジョージと共に街を歩く姿が…。

 

「エージェント…何であいつとデートして…」

 

ジャカッ!

エージェントのサブアームが四本展開されそれぞれの銃口がこちらを向いていた。

その表情はポーカーフェイスが崩れる一歩手前。

真っ赤になっている。

 

「消しなさい」

「いや、これデート」

「消しなさい…!!」

「へぇ…冷酷なエージェント様の意外な一面!これは面白い事になってますねぇ!!」

「ドリーマー!!」

「保存暗号化完了!良いもの見させてもらったお礼に次は一緒に行きますよエージェント」

「…次、とは」

 

床に伸びている人形の首を掴んで持ち上げる。

だらりと四肢をぶら下げてしまい反応は無い。

 

「こいつを使うと、あいつどんな顔するかなァ?」

「…私には、エルダーブレインの世話がありますので」

「あらつれない。仕方ない…一人でやりますか」

 

取り敢えずこれ修復してちょいと弄らないとな…。

こう言うのはアルケミストの領分だったかな。

 

修復してアイツの事洗いざらい喋らせて中に爆弾でも電磁シールド発生機でも埋め込んでその辺に捨てれば良いだろう。

 

いっそあの男の目の前に出してこれを破壊させると言うのも面白そうだ。

 

人形…WA2000を引き摺り、鼻歌が工廠に木霊した。

 

 

 




ドリーマーサイドその2。
まぁこいつのせいだよね。

と、言う訳でWA2000はたまたま拷問目的で拉致されていたと言う。
ジョージの明日はどっちだ。


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戦術人形保護作戦

前線において、時たま部隊からはぐれてしまう戦術人形が出る。
基本的に人形は代替可能なため、捜査はされない。

しかし、別の前線でその人形を保護することが出来たなら…。


 

「…と、まぁそんな訳なんだが」

「本社で聞いてきた話なら信憑性は高いな…」

 

S-12基地へ帰還し、寝ていたローニンをたたき起こし今回の作戦を伝えた。

あれから整備班や現場指揮官を吊るしあげて部隊の足取りを吐かせ、消息を絶ったエリアを片っ端から洗い出した。

 

「…で、だ。お前の話が本当ならば…WA2000という高ランク人形を手に入れるチャンスだが」

「ああ」

「…何故都合よくこの周囲で消息を絶った?」

 

そう、そこである。

このS-12地区は前線も最前線である。

周辺に友軍と言えるのはこの後方のS-11地区ぐらいしかない。

 

「そう、()()()()()()()

「んで、WA2000ってあの愛しの相棒だろう?クルーガーが気を利かせて送ってくれたって線は?」

「無いだろ。わざわざ4体の護衛のスクラップ作るか?」

 

以前発見した鉄血の工廠と思われる場所が未だ稼働してる点。

…先日のドリーマー襲撃ですっかり放置してしまったが…いい加減破壊しなければならない。

 

「…なんかキナくせぇな」

「…だよなぁ」

 

ドリーマーを撃破したせいですっかり忘れていたが…ハイエンドモデルはアレだけではない。

戦闘の残滓をかぎ取り新たなハイエンドが引き寄せられてきたのかもしれない。

 

「部隊を再編制しよう」

「うちの所属の戦術人形が6体になったからいつもの5体編成が出来なくなってる。危険だが戦力を分けて2部隊作るしかないか…」

 

第一部隊をGrG3率いる歩兵部隊、第二部隊をKar98k率いる狙撃部隊として運用することが決まった。

 

「欲を言えばあと4体人形が欲しいところだ」

「せめて部隊ふたつくらい満足に運用してぇなぁ…」

「無いものねだりしても仕方ない…それに、物が無い中で動くのは得意だろ?ジョージ」

「…そうだな。じゃ、足らないところはスカウト部隊で何とかしてもらうしかない」

 

人形と違い人間の部隊は疲労度や損耗の補填が遅い欠点が存在する。

しかし、いまだ数における優位性は揺るがない。

 

「…で、ジョージ。修理急がせてたあのライフル、帰ってきたぞ」

「お、本当か?あれ威力有りそうだったからな…ちと慣らしてくる」

「待て。あれに合う弾丸がそう手配出来ない…あんまり無駄撃ちしないでくれよ」

 

武器庫に立てかけられていたかなり大きいライフル…クレーバーを手にする。

 

「…重いな」

「そりゃ57口径とか言うバカみたいなライフルだぞ?」

「ま、何とかなるさ…」

「何でこんなもん使う気に?」

 

ローニンに聞かれる…そう言えば何でだろうか。

 

「…近いうちにまた嫌な夢に逢いそうでな」

「まだ悪夢見てんのか…?」

「…ああ」

 

また奴と戦うことになるだろう。

だから、その時のために出来ることをしなくちゃならない。

 

(相棒、絶対迎えに行く…だから、勝手にくたばってんじゃねぇぞ…)

 

 




新兵器・クレーバー片手に、WA2000保護の為に動き出すジョージ。
おいジョージ、その片手のクレーバーは借金の塊だぞ…。


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鉄血工廠攻撃作戦

S-12地区付近に存在する鉄血工廠を可能ならば破壊、少なくとも機能停止は視野に入れての行動となる。

戦術人形部隊とライフルマン部隊は連携して戦力を漸減せよ。


 

戦闘開始から15分が経過した。

 

鉄血人形達の掃討は7割程済んでいた。

 

「GrG3、カラビーナ。状況は」

『第一部隊GrG3より。こちらは健在です。弾薬は五割ほど消費しました』

『第二部隊Kar98kより。こちらも健在、弾薬は三割ほどの消耗ですわ』

「了解。ライフルマンは一旦下がってくれ。パイロット、回収準備を」

 

作戦司令室にて、俺は前線に指示を出していた。

…え?俺は前線に出なくていいのかって?

毎回は流石に出ないよ…。

 

「ローニン、第二派の準備は」

『準備完了。いつでも行けるぜワークマンもスタンバってる』

「了解。ではこれより第二派を伴い工廠の制圧し、破壊工作を行う」

 

ここまでは順調。

特に問題も無く進んでいる。

やはり、ハイエンドを狩れたのが大きいのだろう。

 

敵の動きも統率がなく単調。

これなら楽に済む。

 

(こいつの出番も無かったかな)

 

すぐ横に置かれたゴツい対物ライフル的な代物、クレーバーに目を向ける。

あれから何度か試し撃ちしたが、とにかく弾速が遅い。

また携行弾数も多くなくまさに短期決戦用と言ったもの。

 

サブアームはRE-45オートと呼ばれるフルオートハンドガン。

発射レートも高く安定して使える為愛用している。

難点はレート故の弾持ちの悪さ。

好きなんだけど懐事情に考慮しなきゃいけないジレンマに泣ける1丁だ。

 

こんなもの持ち出した理由…ハイエンドモデルも今回は出て来ない。

興奮剤も用意はしてあるし、割と今回万全の体制で待ち構えていたのに。

 

(ま、出ないなら出ないに越した事は無いんだが…)

『す、スカウトチームより緊急連絡!ハイエンドです!鉄血ハイエンドモデルを確認!!タイプは…ドリーマー!!』

「ハァ!?ドリーマーだと!?すぐ映像と周辺戦力を回せ!」

 

コンソールを操作し、スカウトチームのカメラを表示する。

…長い黒髪を揺らす巨大なライフルを持った少女が佇んでいた。

 

何故?前破壊したはず!

…無意識に足が震え、額から流れる汗が増えた。

コンソールを操作する手が震える。

 

「くそ、落ち着け…落ち着けよジョージ…何のからくりかは知らないが、戻ってきたならまた地獄に叩き戻してやる…!」

 

とにかく、部隊に通達しなくては…?!

通信回線が開かない…!?

 

「拙い、拙い拙い!ハッキングだと!?嘘だろ?!」

 

ザーッ、と何かを傍受した。

…これは、まさか。

 

『久し振り、ジョージ』

「…淑女ってのはもう少し身持ちが固いほうが気安いより好感もてるね」

『ご挨拶ねぇ指揮官?貴方に会いたくて戻ってきちゃった』

「俺は二度と会いたくなかったね」

『あらぁ?声が震えてるわね?女の子と喋るのは緊張する?』

「俺はお前の事を女の子としては見てない」

『嘘!最初のあの情熱的な口説きは遊びだったの?』

 

…何だこいつ。

以前遭遇した時と明らかに対応が違う。

何だ、こちらを試すような真似をして。

何が目的だ?

 

「何が目的だ」

『目的?暇・つ・ぶ・し』

「脳味噌までカビたか」

『アッハハハ!また同じ台詞ね!良いわ!教えてあげる!これ、なーんだ?』

 

モニターがハックされ、映像が映し出された。

…その映像に、目を見開いた。

 

『アハハハハ!!!思った通りの反応だ!やっぱりコイツがお気に入り何だな!気まぐれで良いもん拾った!』

 

両足は原型を留めない程に潰され、手の指は全てあらぬ方向を向き、腹にいくつもの風穴が空いている。

顔にはいくつもの痣があり、瞼は閉じられている。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()いたぶられ方をされた…WA2000が鉄骨に鎖で縛り付けられていた。

 

無意識に拳を握る。

体の震えは消えた。

しかし、しかし。

 

 

「…す」

 

『ハハハハ…は?』

 

「殺す、ブッ殺す!!テメェだけは!!」

 

『い、ひ、ひひははははは!!!良いよ!良いぞ!良いッ!その顔…その顔が見たかった!!貴方の憎悪に染まるその顔が!!たかだかお人形さんに本気になる貴方の哀れな姿が!!』

 

 

怒りが、恐怖を上回る。

コイツは、コイツだけは絶対に破壊する。

 

『さぁ指揮官!時間をあげましょう!部隊を準備する時間を!私を、殺しにいらっしゃい!あの不出来なオブジェの隣に飾ってあげる!!』

「…回線が復旧したか。全部隊に通達!目標ドリーマー、何としても破壊しろ!!」

 

施設部門に指示を出し、臨時作戦室と俺の装備一式の準備をさせる。

 

…置いてあったクレーバーを手に取る。

 

「必ず行く。待ってろ相棒」

 

 




襲撃、ドリーマー再び。
トラウマは怒りに塗り潰された。

ドリーマーの挑発にまんまと乗ってしまうジョージ。
相棒と部隊、2つを天秤に掛けなければならない。

だがしかし、ジョージは揺らがない。

天秤の支柱は、折れないのだから。


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揺れる天秤

挑発する夢想家。
思うように動けないジョージ。

それでも事態は動いていく。


 

「えっ、指揮官なんで前線に来てるのにゃ!?」

 

臨時前線基地にて。

一度補給に来ていた第一部隊と合流した。

 

「少し事情が変わってな。ここに第一部隊しかいないが先に言っておくぞ。ハイエンドモデル…ドリーマーが現れた」

「…指揮官、一つ質問が」

 

GrG3が手を挙げた。

 

「ドリーマーは以前撃破したはず…何故新規個体がここに?」

「…新規の個体ではないらしい。奴は俺をご指名だからな…」

「指揮官…危険です。わざわざ危険に飛び込む必要はないと思います」

「この前Kar98kに怒られたの忘れたのかにゃ…?」

 

それぞれ、IDWと9A-91がそれぞれ呆れているのが分かる。

 

「…また怒られるのは承知だ。…だが、今回は以前の様に増援はない…戦力は多いに越したことはないんだ」

「でも、指揮官が万が一死んでしまえばS-12は終わりです。それを承知してください」

「大丈夫さ…今回も、何とかする」

 

ひとまず状況の把握をしよう。

スカウトチームから送られてきた情報を整理する。

 

「第二部隊、通信越しで申し訳ないが現状の把握をこちらで行っている。耳だけ少し傾けてくれ」

『こちら第二部隊Kar98k、了解しました』

「ローニン」

『聞いてるぜ。こちら輸送班』

「よし、先ほどドリーマーによる通信があった。グリフィン所属の戦術人形を拉致監禁している。よって、人形の救助を任務として付与する」

『こちらローニン。救出対象の情報を』

「こちら指揮官。戦術人形のタイプはWA2000タイプだ」

『…!!ジョージさん、その人は…』

『トカレフさん、無線機を返してくれませんか…?』

『ジョージ、そのWA2000は…いや、何でもない。各員へ通達する』

「頼む。極力ハイエンドとの戦闘は避けろ。特に生身の部隊はフラッシュでもスモークでも駆使して全力で退避だ。こんな所で戦死は許さんぞ。俺が死亡届を書くのが嫌いなのは知ってるな?」

 

あの状況からして奴は屋内に居ると見て間違いはない…。

主力兵器であるライフルの取り回しが悪い筈だ。

 

逃げるだけなら不可能はない筈。

 

「作戦開始!」

『『了解!!』』

「第一部隊出撃します!」

「指揮官!絶対無理しちゃダメだからにゃ!?ここで指揮しててにゃ!?」

「指揮官、見ててくださいね!絶対無理するなんて嫌ですからね!!」

 

…ごめんな。

今回も、たぶん俺は無茶をするだろう。

誰も居なくなった部屋で一度、ため息を吐く。

 

「…WA2000の修理の準備もしなきゃな」

 

ヘッドセットを頭に付け、外に出る。

…戦場は静まり返っている。

 

鉄血人形の掃討も粗方終わっており、工廠内への侵入作戦が始まっている頃だ。

 

「…誘ってる、よな…どう考えても」

 

背中に背負ったクレーバーが、重い。

やっぱりこいつを使う羽目になるのかと気が重くなる。

 

『こちらライフルマン!内部に鉄血人形は見られません!』

「…だよなぁ。爆破ポイントまで恐らく妨害が無い…が、用心しろ」

『了解!』

 

何故なら、目の前の工廠の屋根の上に…ドリーマーが立っているから。

 

『ハァイ、ジョージィ。元気かしら』

「…お前のせいで気が滅入るよ」

『逢えて嬉しいわ…映像じゃなくてやっぱり生で見るのが一番ね』

「こっからそっちの顔は遠すぎて見えねぇけどな」

『ふふふ、ばっちり見えてるわ。すぐに撃ち抜いてあげる』

「あっぶね!!」

 

スモークを足元に投下して急いで臨時基地の壁に隠れ射線を切る。

遅れて3発銃声が聞こえた。

 

「何がしたいんだお前!!」

『貴方と殺し合いたいの!貴方は私を夢中にさせられるか見せて!』

「どいつもこいつも夢中夢中ってほんと…勘弁してくれよ本当に!!」

 

クレーバーを背中から手に取り、安全装置を外す。

壁からそっと工廠側を覗く。

 

…ドリーマーは未だ屋根の上に鎮座している。

こちらを舐めている…というより出方を伺っているような感じがする。

 

(あれ何とかしないと足元の部下たちが危ない…かといって臨時基地の戦力を使うわけには行かないか…)

 

臨時基地に待機させている部隊は全員生身…狙撃チームも居るには居るが。

 

『いつまで隠れてるの?早く、早く来て!私に逢いに来て…!!』

 

シャットアウトしてもすぐにハッキング仕掛けてきて、奴の声が必ず通信機に入ってくる。

段々と奴にペースを握られていく感覚が背筋に走る。

 

(ここで狙撃戦を仕掛けるか…?いや、万が一脱出する友軍が奴の射線上に現れると拙い…なんとかアレの注意を引いて兎に角現場を離れないと…)

『…早く出てこないと、大事なお人形さんのパーツを一つずつ解体するわよ』

『…ひっ、何よ、まだ何かすひぎっ…!?!』

 

ぶつり、と俺の中で何か切れた音がする。

通信に混ざる懐かしい声…しかし、それは悲鳴だ。

 

後は何かしらを千切る音が生々しく耳に入る。

 

「ふざけんな…ふざけんなよ…」

 

どうしてこいつはこうもそんな真似をしてくる。

俺の忍耐を試してくる。

 

「…指揮官よりローニンへ。ドリーマーと交戦中…もしもの事があったら、頼む」

『ローニンよりクソ傭兵へ。お前本ッ当に指揮官向いてねぇよ。甘ちゃんが…戻ったら説教だ。WA2000の居るエリア発見したからそれまで死ぬんじゃねぇぞ』

「向こうから仕掛けてきたんだから大目に見てくれんかね…了解。相棒連れてこなかったら興奮剤原液の刑な」

『…遠慮させてもらう。通信終わり』

 

スコープを覗く。

奴は、嗤っている。

 

…ムカついたのでトリガーを引いた。

重い音とともに大口径が火を吹く。

 

目標の顔のすぐ右側を抜けて行ってしまった。

 

『やっとやる気になった?』

「…」

 

コッキング。

すぐに2発目を撃った。

 

命中を確認する前に移動する。

とにかく障害物…壁に出来るものが欲しい。

現時点で向こうから見下ろされる形になっている…そして、俺の位置はバレていた。

 

明らかに不利。

ならどうするか。

 

(…懐に潜り込んでワンチャン狙い…かな。クレーバー至近距離で撃てば衝撃で怯むはずだし)

『こちらスカウト…監禁された戦術人形の部屋の前に到着…しかし、内部にドリーマータイプのハイエンドを確認』

「…何ッ!?」

『こちら第二部隊!屋上でドリーマーを発見!攻撃しますわ!』

「カラビーナ!待て!!」

 

発砲音。

思わず壁から身を乗り出してドリーマーを見る。

…後ろを向いて射撃を開始しようとしていた。

 

「くっそ、ままよ!」

 

クレーバーのトリガーを引く。

…さっきの2射を何故外したのか理解に苦しむが、見事奴の頭を吹っ飛ばした。

 

『ひっ』

「あ」

 

カラビーナの短い悲鳴。

…そりゃそうか、目の前でいきなり首から上が木っ端みじんになれば。

 

『こちらスカウト。部屋の中のドリーマーが…笑い出して…こっちを見た!?』

「逃げろ!!」

『第一部隊突入します!スカウトチームの撤退援護を!』

「許可する!」

 

隣に一台のバイクが乗り入れて、止まる。

乗っていた男がヘルメットを投げて寄越した。

 

「指揮官、足だ。乗ってきな」

「ローニン、何やってたんだお前!」

「これからスカウト迎えに行くとこだ。ついでにこいつもお前に持ってきた」

「軍用2輪なんてよくここにあったな…」

「一点物だ。壊すなよ?」

「すまん、感謝する」

「さっさとお姫様連れて戻って来いよ!!」

「任せろ!!」

 

アクセルを吹かし、鉄血工廠に全速力で乗り込んだ。

 

 




結局、部下に背中を押されて行く。
指揮官失格だと揶揄されようと。

複数居るドリーマー、捕らえられた相棒。
まだまだ懸念事項は消えない。


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怒り

工廠に潜入し、ドリーマーと思われる個体を発見する。
囚われの身のWA2000も発見する…が。


 

『こちらスカウト!戦線より離脱!』

「損害は!?」

『軽微です。補給に戻り援護に回ります』

「了解!」

 

工廠に潜入する。

中で戦闘が起こっており、銃撃音が聞こえる。

 

(屋内戦に発展しちまったか…しかしまさかドリーマーの奴がダミーを使ってくるとは)

 

グリフィンの戦術人形はダミーリンクシステムの確立により最大4体まで思考を反映させられるダミーを随伴させられる。

鉄血は量産品の人形の大量生産という形をとっていたため、ダミーの可能性を思考から排除していた。

 

『こちら第二部隊!屋内の第一部隊を援護します!』

「任せた。第一部隊、状況」

『こちら第一部隊!ドリーマーと交戦中…!屋内戦の為相手の射撃が通らないのが幸いしています!』

「そのまま遮蔽物を使い威嚇を続けろ!」

 

道中に雑魚は居ない。

段々と射撃音が近くなる。

 

…戦闘を行っているエリアは2階層分の吹き抜けのある広い部屋だ。

機材やら荷物やらで囲まれ、中心にぽっかりと空白地帯がある。

 

2階に上がり、窓から外に出て屋根伝いに目的の部屋の窓に到達する。

見下ろすと、中心の空白エリアに向けて、機材の陰からGrG3達が射撃を行っていた。

 

…中心地にドリーマーと、墓標の様に建てられた鉄骨の束。

よく見ると、そこにWA2000が吊るされていた。

 

今すぐ駆け出したい欲を抑え込み、様子をうかがう。

反対側にKar98kの率いる第二部隊が到着したのもこのタイミングだ。

 

『目標を発見!攻撃開始します!』

 

…あ、トカレフがこっちを見た。

目を見開いて驚いている…口に人差し指を立ててジェスチャーを送る。

 

不承不承と言った不機嫌極まりない顔で頷いた。

トカレフとG17がドリーマーの背後から奇襲を掛ける。

 

決まった、そう思ってしまったのだが…。

 

『!?』

『うおわぁ!?』

 

トカレフとG17の居たエリアへドリーマーが銃口だけ向けて発砲。

当たりこそしなかったが牽制としては充分だった。

 

(奇襲がバレてる…タイミングとしては完璧だった…いや、一度屋上でダミーに見られていたから警戒していた?)

 

決定打が与えられなかった今、弾を消費するだけの泥沼が生起してしまう。

拙いな…ここで俺も仕掛けるべきか?

クレーバーの威力は先ほど証明済である。

 

『第二部隊…奇襲失敗!射撃戦を開始します!』

「了解…奴の封じ込めは成功している。なるべく正面からの打ち合いは避けて削れ」

『了解!』

「トカレフ、G17。奇襲は悪くなかった。経験を持ち帰る為にここでロストは許さないからな」

『『は、はい!』』

「IDW、前に出すぎだ。向こうの攻撃、直撃はそのまま戦闘不能だ。なるべく避けるんじゃなくて遮蔽物で防げ」

『りょ、了解にゃ!』

「9A-91、GrG3。隙を見て突撃を掛ける。タイミングは支持する」

『了解!』

『指揮官、ちゃんと見てますね…あれ?』

『…指揮官、まさか…居るんですか!?』

 

あ、しまった。

トカレフの方を見ると、物凄い呆れ顔でこっちを見ていた。

仕方ない…。

 

「今上に居る。あんま見るなよ、バレるから。俺が狙撃して隙を作る。そこから集中砲火だ」

『了解』

 

クレーバーを構え、ドリーマーに狙いを付ける。

…積極的な動きを見せていない今がチャンスか…。

 

しかし、些かやる気がないというか、心底つまらなさそうにしている。

 

(好都合だが、な!)

 

トリガーを引く。

必殺の弾丸が頭部に吸い込まれ…。

 

「えっ」

 

ぐるん、と顔と腕をこちらに向け…ライフルを発砲。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「嘘ッ…?!」

「見つけたァ!!!」

「んなぁッ!?」

 

ドリーマーの表情が狂気に染まり、跳躍。

()()()()2()()()()()()()()()()()()()…しかも俺のすぐ目の前に。

 

「シャァ!!」

「げ、ふっ…!?」

 

離脱を試みるも、すぐさま首を掴まれてそのまま後方…第二部隊の方へ放り投げられた。

気持ちの悪い浮遊感。

 

「や、べ…!?」

「ジョージさん!!」

「ごふっ…!?」

 

地面に衝突する前に、トカレフが飛び込んできて一緒に転がってしまった。

衝撃が殺された為大けがは無かった。

 

「ごほっ、お怪我は!?」

「す、すまん…助かった…」

「早く!」

 

トカレフのダミーに引っ張られて立ち上がる。

ドリーマーはこちらを見下ろし、嗤っている。

 

「やっぱり来てくれたのねジョージィ…?」

「…相棒は返してもらう」

「ふーん、聞いてる?相棒さん?」

 

急いで振り返る。

…鉄骨に吊るされたWA2000が、こちらを見ていた。

 

相棒(バディ)…!」

()()()()!何でここに…!」

 

…俺は、躊躇わずにクレーバーをWA2000に向けた。

 

「ジョージさん!?WA2000さんですよ!?何してるんですか!?」

「こいつは、相棒じゃない…!」

「な、何を言ってるのジョージ…」

「…なぁ、相棒。別れる前に、俺の事なんて言ったか覚えてるか?」

「当り前じゃない!私の、大事な人だって」

 

引き金を引いた。

Kar98kが悲鳴を上げる。

WA2000だったものが弾け飛び…()()()()()()()()()()()()人形がその場に崩れ落ちた。

 

「ふふ、はは…アッハハハハハ!!凄いわ、凄いわジョージ!!何で分かったの?何で()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?それは貴方の大事な人形と同じ見た目をしていたのよ!?!」

「答える義理なんざねぇ…降りてこい、ぶっ壊してやる…!!」

「指揮官さん!お、落ち着いてください…!」

 

懐から興奮剤を取り出す。

それを見たKar98kが血相を変えて腕をつかんだ。

 

「だめです、絶対にそれは駄目です…!」

「離せ」

「よっと」

 

ドリーマーが降りてくる。

その顔は嗜虐心に満ち溢れている。

 

「ふふへへ…良い顔してる。安心しな…大事な大事なお人形は別の場所に居る」

「言いたいことはそれだけか?」

「そうね…後は」

「「殺しあうだけだ!!」」

 

Kar98kを突き飛ばしてドリーマーの射線から退避させる。

そして、自分の右腕に興奮剤の針を刺した。

 

「ッ…!うおおおお!!」

 

視界が一瞬赤くなり、元に戻る。

いつもの感覚。

一時的に超人になる為に命を削っている感覚。

 

すぐにクレーバーのトリガーを引く。

…弾速が遅い為、すぐに避けられる。

 

第一、第二部隊も射撃を開始する。

 

「ここで仕留める!」

「まだ終わらせない!」

 

 




決戦、ドリーマー再び。

こいつとの因縁もあと1回続くのじゃ…。


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本当の再会

激化するドリーマーとの戦闘。
事態を打開すべく新たなコンバットパターンを仕掛ける。


 

飛び交う弾丸。

一発毎に施設の何かしらの機材が弾け飛ぶ。

 

端末にはひっきりなしにアラートと部下達の報告が鳴り響き、視線を切るとすぐにライフル弾が飛んでくる。

 

「GrG3!仕掛ける!」

「了解!」

 

部隊が散らばり、ドリーマーを囲い込む。

 

「ターゲットを中央に固定!」

「乱れ撃つにゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

IDWとG17、トカレフが躍り出る。

機動力を活かした掃討射撃でドリーマーをその場に縫い付ける。

 

「小賢しい!」

「そのまま火力を集中!」

「用意、撃て」

「覚悟なさって!」

 

GrG3が殺傷榴弾をばら撒く。

カラビーナが動こうとしたドリーマーの足を撃ち抜く。

そのまま爆炎に飲み込まれる。

 

「ぐうううっ!?」

「締めは、真ん中をぶち抜く!!」

 

俺もそのまま遮蔽物から飛び出し、ドリーマーへ四発クレーバーを見舞った。

2発が命中…本来こんな近距離で使うものじゃないから、当たれば御の字だ。

 

左肩と右脇腹が抉れたドリーマーが煙の中からこちらに走って、何故俺の位置だけ察知して突っ込んでくる!?

 

「指揮官!」

「この野郎!!」

「ジョォォォォジ!!」

「くっ、お、え!?」

 

突進を避ける、が距離が近過ぎる。

思わず後退り…右足が地面を踏み抜いた。

 

GrG3の榴弾で足元が脆くなっていたらしい。

 

「うおわぁ!?」

「指揮官!?」

 

体のバランスが崩れる。

背中から床に倒れるが、背中のフロアも虚しく崩れ、そのまま瓦礫と一所に地下へ転落した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー地下二階

 

 

「いってぇ…これ2階層分落ちたのか…」

 

転落した穴は遥か頭上にある。

あそこから戻るのは不可能だろう。

 

「通信は…マジか、壊れた…」

 

ヘッドセットはうんともすんとも言わない。

…上の戦闘が気になるが…。

 

「やけに、静かだな」

 

まるで、このフロアだけ外界から切り離されている様な。

光が差し込まない為、部屋の中は暗い。

 

「…誰か、居るの…」

「…!」

 

暗闇の中から、か細い声が聞こえた。

この声は、間違い無い。

 

「WA2000!相棒!居るのか!?」

「え、あ…あぁ…?ぁあぁあぁぁぁ…嘘、何で、やだ…相棒…本当に…?」

「落ち着け相棒、今そっちに行く」

「待って、来ないで…!」

「何言ってるんだ。助けに来た…帰るぞ」

「嫌、来ないで…()()()()()()!!」

 

ライトで、照らしてしまった。

…拘束されていたWA2000の状況は、酷いものだった。

右腕と左脚が無く、首と壁を鎖で無理やり縫い付けられていた。

 

着ていた服もボロボロで、最低限隠す事しか出来ていない。

見える肌は火傷だらけだった。

 

…そして、顔の右半分は焼かれた様に変色していた。

俺を見た瞬間、瞳に光が戻り、ボロボロと泣き始めた。

 

「何で、何で来たのよ…こんな姿、見られたく…無かったのに…」

「…はぁ、何言ってんだよ」

 

首の鎖を手に取る。

劣化しているようでちょっとしたヒビを見つける。

ナイフの柄で無理矢理叩き割った。

 

「ったく、手酷くやられたな。ほれ、帰るぞ」

 

近くに落ちていた麻袋を被せて、拉致するように担ぎ上げた。

 

「むぐっ!?何すんのよ!」

「暴れんな。またこうやって担ぐのもなんか懐かしいな」

「…そうね」

「取り敢えず出口探さねぇと…ん?」

 

壁から何か叩く音が聴こえる。

…話し声もだ。

 

「相棒…聞こえるか?」

「…ごめん、片耳持ってかれてて上手く聞き取れない」

「分かった。拙いな、残党に見付かったかも」

「え、どうすんのよ」

「…ここは行き止まりだし、最悪交戦かな…」

「…相棒」

「却下だ。って、前にもこのやりとりやったなぁ」

「そうね…まぁ、大丈夫…かな」

「そうか?」

「アンタと、一緒だもの」

「違いない…さ、相棒。帰ろう」

 

音の近くまで来る。

…叩かれていたのはドアだったらしい。

内側から厳重に物理ロックが掛けられている。

 

今どき錠前とは趣味が古いというか何というか。

 

RE-45で全部壊して、ドアが開くようにした。

…その瞬間、ドアが吹っ飛んだ。

 

興奮剤がまだ効いてるので難なく避ける。

 

「突入!」

「大和魂を見せてやる!!」

「ウオォーっ!!あれ!?何もねぇぞ!?」

「えっ、ジョージ指揮官!?どうしてここに!?まさか、自力で脱出を!?」

「お前ら…工作班じゃねーか、何でここに」

 

やたら賑やかに入場してきたのは、S-12地区の工作班。

工廠の爆破を命じていた筈だが。

 

「ハッ!只今人形の反応を受け取り救出に参りました!」

「あー、じゃあこいつか」

 

担いでいる麻袋を指差す。

 

「流石指揮官殿!…あれ、何故ここに?」

「あー、うん。詳しい話はまた、な。取り敢えず脱出しよう」

「了解であります!爆破の準備も整っております!」

「所で何故麻袋に?」

「人形とは言え女性だ。見られたくないだろうさ」

「失礼しました!こちらです!ご案内します!」

 

工作班に連れられて、どうにか脱出が出来そうだ。

 

「…相棒。ありがとう…本当は…会えて、う…嬉しかった」

「俺もだよ相棒。生きててくれて嬉しい」

 

どうやらあの場所だけ通信妨害がかけられており、フロアを出ると通信が回復した。

 

『指揮官?!指揮官!!応答してください!』

「こちら指揮官!第一、第二部隊はすぐ撤退しろ!ここを爆破する!」

『えっ、えぇ!?』

『第二部隊、了解しました。G17さん』

『任せな!』

「よし、第一、第二部隊の離脱が確認でき次第爆破しろ。ドリーマーもそのまま生き埋めだ」

「了解!」

 

さて、もう少しだ。

あともう少しで全部終わる。

 

「相棒、しっかりしろよ。帰ってちゃんと直してやる。話したい事が山積みだからな」

「わかって、る…。私も、私も…いっぱい、話したいか、ら…」

「出口です!」

「指揮官!」

 

外の明かりに目を細める。

走っている六つのシルエットに、遠くから車両が何台も走ってきた。

 

『迎えに来たぞバカ共!』

「ローニン!ナイスタイミング!」

「乗り込めぇーっ!!」

 

急いで全員が乗車する。

すぐさま発進…後方で鉄血の工廠が派手に火を吹いていた。

 

「…終わったか」

 

結局、ドリーマーとの決着は着かず終いだったが。

アレの最期も呆気ないのがお似合いだろうか。

 

麻袋から寝息が聴こえる。

…緊張の糸が切れて、緊急スリープに入ったのだろうか。

 

「はぁ…後処理ぜってー大変だこれ」

 

取り敢えず、終わったよ…全部。

 

 




これにて鉄血工廠破壊作戦、及び友軍救出作戦が完了。

1ページ辺りがいつもの倍以上担った上に必要以上に前に出したり痛め付けたりとちょっとどうなのかなと思っていました。

兎にも角にも、まずは書き切ることが大切だと思うのでここまで走ってみた感じです。

そう言えばUAが遂に10万を突破しました。
ここまでお付き合いして下さった方々に感謝は尽きません。

これからも、まだまだ話は続きますが、生暖かい目で見守って下されば幸いです。

次回から少しずつ平穏が戻ってきます。
お楽しみに。


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事後処理

鉄血工廠破壊作戦及び友軍救出作戦から一夜明けて。
S-12地区は喧騒に包まれていた。


 

日が昇る前には基地の人間は既に動き出していた。

昨日の激戦の後、誰も彼も動けなくなって一夜明かしてしまったのだ。

 

やる事が山積みになって襲ってきた。

整備班のフロアまで相棒…WA2000を連れてきていた。

…マントで肌を全て隠し、顔にも包帯が巻かれている。

 

「相棒。最優先で修復回してある。行ってこい」

「別に、そこまでしなくても…部外者なんだしここの人形優先しなさいよ」

「喧しい。生体パーツにどんな負荷掛かってるか分からねーんだから早く行け」

「何よ、心配でもしてるつもり?」

「…そうだ。お前がMIAって聞いてから心配で堪らなかった」

「なっ…ぷっ。可愛いとこあるじゃない、そっちも」

「…んだよ、あんときの仕返しか?」

「悪いかしら?」

「全然。ったく、元気じゃねーか…それじゃ、話は通してあるから早く直してこい」

 

仕事もまだ山積みだからなぁ。

踵を返して執務室に戻ろうとした時に…不意に、手を掴まれた。

 

「…相棒?」

「…………あ。その、ごめん…そんなつもりじゃ、なくて」

 

無事な手が、震えていた。

気丈に振る舞っているだけだったことに、俺もようやく気が付いた。

 

「…よっと」

「え、ひゃっ!?」

 

WA2000の腰に手を回して肩を支えた。

所謂お姫様だっこで持ち上げた。

…軽いなぁ。

機械が中に詰まってるなんて想像できない。

 

「な、何すんのよ!」

「一緒に行くぞ」

「バカ!仕事は!?」

「お前の為に時間割けないなら辞表叩き付けてやる」

「バカ!人形の為に人生棒に振らないでよ!!」

「…ははは」

「…あはっ…」

 

お互いに笑い合う。

何というか、イヤに懐かしい。

ずっとこんなやり取りしてたなと思い出す。

 

「早くお前の顔見たいよ、また」

「…待ってて。また戻ってくるから」

「今度は離さないからな」

「…うん」

 

整備班にこのまま入って散々茶化されたが、二人して顔真っ赤にしてクールに去る。

 

「頼んだぞ」

「了解!オラ野郎ども!お姫様のお色直しするからテメーらどっか行ってろ!!」

「指揮官のお気に入りだから、覗いたら殺されるぞ!」

 

整備班も男女混成になる時代…まぁ、戦術人形も女性型ばかりだしその方が気楽なのだろう。

 

さて、執務室に戻るか………。

 

「じぃー…」

「うおおおおお!?」

 

部屋から出た瞬間、9A-91が目の前に現れた。

…心なしか、ジト目。

 

「9A-91か…どうした?」

「…知らない人形と、ずっといちゃいちゃしてましたね」

「え?いや、お前は確か…AR小隊救出の時に居たから知ってるだろ?」

「…居ましたか?あの人」

「オイオイ…」

 

思わず脱力する。

本当に興味ある事以外極端に無関心だな…。

 

「指揮官。私、頑張りました」

「え?ああ、そうだな。あのコンバットパターンの再現は上手かったぞ」

「えへへ…」

 

帽子被ってなかったしなでてほしかったんだろう。

髪を乱さない程度に撫でてやる。

気持ち良さそうに目を細めている。

 

「それで指揮官」

「えっ」

 

がしっ。

目に見えないスピードで俺の手首に9A-91の手が食い込んだ。

いたたた。

 

「私、ご褒美が欲しいです」

「痛いから離して欲しいんだが」

「指揮官、私に、ご褒美を下さい」

「え、ちょ、おうふ痛っ!?」

 

ぎりぎりと手を引かれて、そのまま投げられて背中から床に落ちた。

…腹の上に9A-91が跨った。

 

「あれなんかデジャヴ」

「指揮官…ここ、誰も来ませんから…」

「うっそだろお前!最近無かったからてっきり諦めたと思ってたのに!?」

「…最近ちょっとライバルが増え過ぎたんですよ。でも、今が…今がチャンスなんです…!」

「やっ、ヤメルォ!!ベルト外すな!!」

「うふふ、楽しみましょうね」

「アッー!!」

 

「ジョージさん?何をしてるんですか?」

 

「あっ、トカレフ!たす…け…」

「ひっ」

 

9A-91の表情が固まった。

…俺も、ちょっと気圧されてしまった。

 

いやだってトカレフ凄いイイ笑顔してるんだもの。

目が笑ってない奴。

これ、絶対怒ってるやつだ。

 

「9A-91さん?」

「は、はい…」

「おいたは、いけませんからね」

「…ひゃい」

 

これが、レベル90の戦術人形の風格か…。

 

「ジョージさん」

「えっ、俺?」

「そこに座ってください」

「は、はぁ」

「正座」

「えっ」

 

聞き返したけど答えてくれなかった。

こわい。

 

逆らうと嫌な予感がしたので正座した。

…普通に床もコンクリートだから痛い。

 

「ジョージさん?私、言いたい事いっぱいあるんですよ?」

「奇遇だな。俺もトカレフとは話したい事はいくらでもある」

「真面目に聞いてください」

「アッハイ」

「良いですか?貴方は指揮官なんですよ?何で指揮官が前線に来ちゃうんですか」

 

…先日の作戦での事にご立腹な様で。

割とガチで怒られる流れになっている。

 

「それに、また興奮剤刺しましたね?カラビーナさんが停めたにも関わらず」

「それは、何というか…刺さないと真っ先に殺られてただろうし」

「そう言う問題じゃありません!副作用も凄いんですよ!?」

 

普段から想像できない剣幕で捲し立てるトカレフ。

…心配掛けてしまっていたようだ。

 

「…ジョージさんは、WA2000さんの事を聞いてから元気が無くなってて、凄い心配したんですよ」

「…すまん」

「目の前で居なくなられるかもしれないって思って、怖かったんですよ」

「…ああ」

「お願いですから、もうちょっと自分を大事にして下さい」

「分かった…」

 

段々泣きそうになっているトカレフを安心させようと、立ち上が

 

「〜〜〜!?!???!」

 

…ろうとして、悶絶して倒れた。

足に血が回らなくて痺れていたのだ。

 

「…何してるんですか」

「あっ、足が…っ!痺れ…!!」

「…ぷっ。あははは…本当に、ジョージさんはジョージさんですね…」

「何だよそれ…」

「ふふふ…9A-91さん、反対から支えてください」

「はい」

 

トカレフと9A-91がそれぞれ両脇から俺を抱え上げて立たせた。

…二人共俺より小柄なのに。

人形の力ってすげーな。

 

「執務室に向かいますよ。カラビーナさんがいい加減怒っちゃいます」

「あー、それは拙いな。アイツ怒ると長いし面倒なんだ…」

「そうですね…じゃあそう伝えますね」

「ちょ、やめろ下さいませんか9A-91!?」

 

…そのまま、戦術人形二人に引きずられるようにして執務室へ向かった。

途中でスタッフがぎょっとしながらこちらを見ていた。

 

 




次回から日常ほのぼの回が挟まります。

…ほのぼのです!ちゃんとほのぼのします!!
内容については里帰りとか再会とかです。

次回の更新をお楽しみに。


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休暇発令通知

鉄血工廠攻略作戦から一週間。
前線基地にやっと落ち着きを見せた。

そんな中、ジョージから発表があった。


「と、言う訳で職員の皆に休暇を出します。一週間」

「「ウォォーっ!!」」

 

ある日の前線基地にて。

まとめて…は流石に無理なのでスタッフ達を少しずつ休暇を出して何とかリフレッシュしてもらうおうと言う考えだった。

 

「指揮官、すまんな…俺まで休み貰って」

「何言ってんだローニン。お前一番大変だったしな…元部下の結婚式なんだろ…そう言えばそいつの事俺知ってる?」

「え?ああ、あんときの二人…WA2000に手を出そうとしてたヤツだよ」

「へえー………嘘だろ!?アイツが!?」

 

勿論人形達も休みを出している。

と言っても部隊ごとだが。

 

「…?指揮官さん?指揮官さんの休暇はいつ何ですか?」

 

ちょうど副官を頼んでいたKar98kから質問が来た。

 

「俺?いや、流石に指揮官が開けたら駄目だろ?」

「「は?」」

「ヒッ」

 

ローニンとKar98kに凄い睨まれた。

なんでや…。

 

「お前、一番大変だったとか言ってたくせに自分はまだ仕事する気か?死ぬぞ?」

「指揮官さん?働き詰めじゃ身体が保ちませんよ?」

「い、いや…しかし」

「指揮官さん?」

「ジョージ?」

「…はい」

 

急遽俺の休みが作られる事になった。

…まぁ、仕方ないよなー…。

 

「馬鹿じゃないの?」

 

そんな話を基地に備え付けられたラウンジで相棒…先日綺麗さっぱり修復されたWA2000に話したら、そう言われてしまった。

 

「ご最も」

「それにしても、休暇ね…私も一度本部に帰らないといけないし」

「あー、MIA出されてたしな…」

「…えっ?そうなの?何それ、私帰る場所ないじゃない」

「なんだと…」

 

そうだった。

人形のMIAは捜索されない…なので、既に彼女は居ないことにされている。

 

「じゃあ、ウチの人形になるか?」

「…そうね。それが良いかもしれない…ううん。()()()()()()()()()()()()()()()

「イヤにハッキリ言う」

 

WA2000が真剣な表情で俺を見る。

こういう時は大抵曲げるつもりのない事を言うときだ。

 

「ジョージ·ベルロックと言う男はWA2000(わたし)商品価値(せいのう)の一部だもの。貴方無しは考えられないわ」

「…そっか。じゃ、改めてよろしく…相棒…じゃ、ないな。もう」

「ふふふ、よろしく…指揮官。違和感あるわね」

「お互い様だ」

 

改めて握手…ではなく、示し合わせた様に拳を合わせた。

結局、こう言った距離感がお互いに心地良い。

 

「で、休暇どうすんのよ」

「そうだな…一度、実家に顔出そうと思ってる」

「前に言ってたわね…片田舎に母親が喫茶店開いてるって」

「そ。現状報告の為にな」

「ふーん。それで、護衛どうするの?」

 

WA2000に指摘されて言葉に詰まった。

…別に、自分の身は自分で守れるし…。

 

「付けないとか論外よ。ドリーマーのとこにいた時散々貴方のこと聞かれたから目を付けられてるのは確実よ」

「何だよそれ初耳」

「本当に色々聞かれたわ…別に黙ってても良かったんだけど…ハッキングされて、痛覚が倍増されてて、」

「…それ以上は言わなくて良い」

 

肩を震わせていたWA2000の頭を優しく撫でた。

…普段気丈に振る舞う彼女の電脳に、やはり拷問の出来事は焼き付いてしまっているらしい。

 

時折思い出しては俺の所に来ていた。

その時は何も言わず、ずっと手を握ってやっていたが。

 

「…ごめん」

「気にするな」

 

しかし、バックアップがあるならそこまで記憶を戻した方が良いのではないだろうか。

トラウマを引き摺って戦う姿は見たくない。

 

「嫌」

「…何で」

「嫌なものは、嫌なの」

「…しょうがないな、本当にお前は」

「んんっ、ちょっと宜しいですか?」

 

後ろから咳払い。

何事かと思い振り返れば、Kar98kが仁王立ちしていた。

 

「カラビーナ、どうした?」

「指揮官さんの護衛については是非私にと」

「カラビーナが?個人の護衛ならハンドガンタイプが適任だと思うんだが」

「甘いですわ指揮官さん!私はこの基地で最もレベルの高い人形でしてよ!私なら指揮官さんを守り抜く事ができ…」

「レベルで話をするならトカレフが一番高いぞ」

「何ですって!?」

 

カラビーナと話していると、表情がころころ変わり愛らしく感じる今日この頃。

得意げな顔をしていたと思えば急にショックを受けたみたいな顔になる。

 

「あー、トカレフね…あの子確か90近く有るんじゃないかしら」

「アイツはダミー4体連れてたし確実に90以上はあるな」

「がーん!!」

 

苦笑しながらWA2000と顔を見合わせた。

 

「貴方の部下も、中々個性的ね」

「可愛いだろう?」

「…相変わらずね」

「う、うー!な、ならこの方はどうなんですか!?」

「…私?」

 

カラビーナがWA2000を指さした。

…同じライフル同士、何か感じるものがあるのだろうか。

 

「WA2000は…今74だっけ?」

「今は75ね。貴方が居なくなってからちっとも上がらなくて」

「そうなのか?」

「がーん…!?」

 

あ、崩れ落ちた。

カラビーナはそのまま俯いて床にののじを書き始めた。

 

「う、うぅ…私の、指揮官さんのご実家にお邪魔する計画が…」

「話聞いてたのかよ」

「こうなれば指揮官さんの寝込みを襲うしか…!」

「俺の目の前でそういうこと言う?」

「指揮官さん!今夜お邪魔します!」

「許可取れば良いってもんじゃないぞ?」

「私、初めてなのでどうか優しく…」

「駄目だトリップしやがった」

「この子…大丈夫なの?その、色々…」

「まぁ、何だかんだ優秀だから…」

 

WA2000に憐れまれてしまった。

戦闘も事務仕事もこなせる戦術人形って意外と貴重なので助かっている…。

扱い難いといえば扱い難いが、それなりに制御もできているのでいやはや。

 

「…まぁ、その辺はくじとか、話し合いで決めようか」

「それが良いと思うわ…トカレフが無難だと思うけどね」

「…お前は?」

「私?…指揮官がどうしてもって言うなら、かな?」

「何だそれ」

 

俺の休暇も中々騒がしい事になりそうだ…。

 

 




世間だとGWが終わってしまいましたが、ジョージ達はこれから休みです。

…しっかり休めるかは、護衛の人形次第…。


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帰省

久しぶりの実家。
帰るのは、いつ以来だろうか。



 

結局、あれから人選はくじ引きで決めた(白目)

意外と俺に着いていきたい人形が多くて割と困ってしまったのだ。

 

公平を期すべくくじ引きという形にならざるを得なかった。

じゃんけんとか面と向かい合うと乱闘が起きそうだもの…。

 

「うへへぇ…指揮官さんの実家に行けるなんて…えへっ、えへへへへ」

「…」

 

正直、この時はくじ引きの神様を恨むかと思った。

何の因果か同行する護衛はWA2000とKar98kになったのだ。

 

…ライフル二体とかバランス悪すぎるだろ。

 

「…別に、私じゃなくても良かったんじゃない?」

「WA2000…お前はちょっと心配だったからな」

「何よ、それ」

「一人にしとくと拙いと思って」

「………そ」

 

察した様に一言呟いて、俯いた。

自分がやっぱりあの時の出来事を恐れていると理解したからこそ、反論は出ない。

 

「指揮官さん!ご実家にはお義母様がいらっしゃるんですよね?」

「ん?ああ、喫茶店をやってるんだ…お、見えてきた」

 

ちなみに俺が車を運転している。

今の時代免許を確認する奴もいない為、自力で動かし方を覚えるしかない。

 

…ちなみに、これはグリフィンから借りた物。

ローニンが笑って出してくれたがこれどっから金が出た奴なんだ…?

 

「あと、カラビーナ。外じゃ俺の事は名前で呼んでくれ。グリフィンの指揮官だって言って回ると面倒だ」

「え?!は、はい…ジョージ…さん」

「ん、それで良い」

「Kar98kは良いとして、私はどうするの?名前」

 

WA2000、か。

何か良い呼び名が無いだろうか。

 

「WA…わー…ワルサー…うーむ…リサ、とかどうだ?」

「えっ、その連想は何でなの?!」

「嫌か?」

「…そんなわけ無いじゃない。あんたが考えてくれたんだから」

「じゃ、こっちにいる間はお前達はリサとカラビーナだ」

 

実家裏の駐車スペースに車を止める。

…懐かしい街の光景に、少し感傷に浸る。

 

「のどかで、いい街ですね」

「だろう?…良かった、あれから変わってない」

「…あら?何かしらこの人だかり」

「え…ホントだ。ってアレ家じゃねーか」

 

実家兼喫茶店にやけに人がいる。

あれ、うちそんなに繁盛してたっけな。

 

「あ、人ごみが切れた。今の内に入るか」

 

喫茶店のドアに手を掛ける。

周囲の人々がリサとカラビーナに驚いて見ているが、まぁこんな美人侍らせてるし目立つのは仕方ない。

 

「いらっしゃいませ」

 

ドアをくぐると、店員に声を掛けられた。

何だ、一人でやってるって言ってたのに店員雇ったのか…ゑ。

 

「……………!!!?!」

「えっ、おま…何でここに、」

「す、スプリングフィールドォ!?何故ここに貴女がっ!?」

「えっ、スプリングフィールド!?何で!?」

 

俺を見て固まっている栗色の髪の女性…エプロン姿の、スプリングフィールドがそこに立っていた。

 

「ジョー…ジ…?どうして…?」

「いや、それはこっちの台詞だ…前本社に行った時は有給だって聞いてたけど」

「あぁ…会えて、嬉しいです」

「ちょっ!何してるんですか!!」

 

感激しているスプリングフィールドが俺の胸元に飛び込んできた。

慌てて受け止めて…周りの客の目が冷たい。

そして後ろでカラビーナが凄い騒いでる。

こいつスプリングフィールドの事嫌いだからな…。

 

「春さん?騒がしいですけど、何かありましたか?」

「す、すみませんお義母様」

「あら、ジョージさん。連絡くらい入れてくれればいいのに」

 

カウンターの裏から、長い黒髪を頭の後ろで括ったエプロン姿の女性が現れた。

 

「あー…ただいま、母さん」

 

で、何この状況。




再会、スプリングフィールド。
修行に出てたって言ってたけど何の修行なんですかね…。

ちなみにジョージ母は東方出身なのでスプリングフィールドの事を春さんと呼んでいます。
有り体に言うと日本人筋の人です。


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喫茶店『さくら』

この街は寂れているけど1つだけ自慢できる物がある。

毎年、春になるとキレイなサクラが咲くんだ。
母さんの生まれ故郷に、昔よく咲いていたらしい。
何でこんな所に木が埋まっているのか分からなかったけど、綺麗なら良いか、と皆考えを止めている。

まぁ、今はまだそのシーズンじゃないからな。


 

喫茶店の出入り口のドアにCLOSEの看板が掛けられた。

結局あの後収拾が付かなくなりそうだった為、一旦外に出て閉店時刻に戻ってきたのだった。

 

そんな、閉店した後の店内のカウンター席に俺達は座らされた。

 

「お久しぶりですね、ジョージさん。会うのは二年ぶりでしょうか」

「もうそんなに経ったのか…」

「はい。しかし驚きましたよ、グリフィンの指揮官になったと聞いた時は」

 

思わず、カウンター奥でコーヒー豆を挽いていたスプリングフィールドを見る。

…気まずそうに視線を切った。

 

「クルーガーさんは元気でしたか?」

「…知り合い、だったんですか」

「はい。昔お父さんと同じ部隊に居たそうです。私達の結婚式にも来てましたよ?」

「うそぉ」

 

…と、言う事は…知り合いの息子だから温情を掛けてくれたのだろうか、あのヒゲオヤジは。

 

「ふふっ。あと、ジョージさん?まだお父さんの遺した銃を持ってるみたいです安心しました」

「……違う。今日、たまたま同型の銃を持ってただけ」

「ウィングマン、頭蓋貫通(スカルピアサー)。あの人が愛用していたカスタムマグナムです。ずっと隣に居た私が、見間違えるとでも?」

「…」

 

母さんの瞳からハイライトがログアウトする。

…普段は柔和な人なんだけど、親父の事になるとすぐ熱くなるんだからこの人。

 

「それで、今回は…可愛い子を二人も侍らして何をしに?」

「言い方。まぁ、その、近況報告の為に一度帰ってきましたこっちが…」

「Kar98kと申します!以後お見知りおきをお義母様!」

「WA2000…その、指揮官にはお世話になってます」

「あらあら、よろしくお願いしますね?二人も泊まっていくのかしら?」

「あー、宿は」

「部屋ならたくさん余ってますから、ご自由に使ってくださいな?うふふ、娘が三人も出来たみたいで嬉しいですね」

 

…この一言で、スプリングフィールドも泊まり込みでここに居たという事を察した。

 

「どうぞ、ジョージ、わーちゃん」

「あー、すまん、スプリングフィールド。また君の珈琲が飲めて嬉しいよ」

「ありがとうスプリングフィールド」

「わっ、私のは出してくれませんの!?」

「はい」

 

どっ、とカラビーナの目の前に水のグラスが置かれた。

…いやいやいや。

 

「こ、この腹黒中古女…!」

「何か言いましたか?小娘」

 

睨み合う二人の間に、火花が散る。

…え、ちょっと待って君らそんなに仲悪かったっけ?

 

ま、まぁ、母さんの前だし滅多な事をしないだろうと珈琲に口をつけ、

 

「所で、ジョージさん。本命はどの子かしら?」

「ぶはーっ!?!!」

 

思わず吹き出した。

三人の視線がもろに突き刺さる。

 

「げほっ、ゲボッ!いきなり何言うんだ!」

「だって、連れて来たと言う事は少なからずその二人が()()()()()何ですよね?」

 

そう言われた瞬間、WA2000が顔を真っ赤にし、カラビーナがスプリングフィールドにドヤ顔をかました。

…すぐさまカラビーナが顔を手で覆う。

一瞬だったが物凄い速さでスプリングフィールドが目潰しを放ったらしい。

いや、何してんの。

 

「でも、春さんに相当想われてるのに罪な人ですね…お父さんそっくりです」

「「遺伝なの(ですか)それ(は)!?」」

 

親父は昔、相当な女好きで人間も人形も構わず口説きまくってたらしい。

失敬な、別に口説いてる訳じゃないんだが。

 

「お義母様はどの様にしてお義父様を…?」

 

私、気になります!とばかりにカラビーナが話を掘り下げていく。

スプリングフィールドも手を止めて母さんを見た。

…WA2000は興味なさげにしていたが、俺には凄い浮ついている顔に見えた。

相棒ェ…。

 

「当時…お父さんは人形達からのアプローチも多くてなかなか大変でした。ただ、幸か不幸か昔の人形は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

あ、嫌な予感がする。

何かこう、息子に聞かせる話じゃないような。

 

「あの時の私は本当に若くて…勢いのままにお父さんに」

「愛を囁いたのですね!?人間のラブロマンスは本当に情熱的で羨ましいですわ!」

「一服盛って動けなくした後に女性の体を教え込みました」

「聞きたくなかった!!?」

 

やっぱりな、俺の予感は当たるんだ(白目)

WA2000も思わず引いていた。

 

「ふふ、それが大丈夫だったんですよ。最初の一週間は私を見てとても萎縮していましたが。それからはもう私にぞっこんでした」

「えぇ…。てかゾッコンて母さん」

「そして、根気よく想いを伝え続けてようやく実ったのです」

「やはり愛は通じ合うものなのですね!お義母様!」

 

カラビーナの感激したような台詞がフラグにしか聞こえない。

 

「ジョージが」

「デキ婚かよ!?」

 

流石にスプリングフィールドも引いていた。

まさか、親父が消えた理由って…………。

 

「そのまま私は正規軍を辞めて、あの人と結婚するに至りました。…若い頃の暴走をこうやって語るのは、恥ずかしいですね?」

「俺は知りたくなかった真実を聞かされて恥ずかしいよ」

「そ、その…勿論、二人は、あ、あ、、愛し合っていたんです…よね?」

 

借りてきた猫の様に大人しくなったWA2000がそんな事を言った。

…えぇ、お前も興味あんの…?

 

「勿論です」

 

とてもいい笑顔で肯定してくれたのだった。

…まぁ、俺の記憶にある二人はとても仲睦まじかったので、杞憂だったのだろう。

 

「…ちなみに、その時に使用した薬と言うのは?」

「カラビーナ、ステイ。せめて俺がいない所で聞いて?」

「…目障りですね、貴女」

「スプリングフィールド?お願いだから俺の部下使い物にならなくしないでな?」

「うふふ、大丈夫ですよジョージ。ちょっと眠っててもらうだけですから」

 

恐い。

 

「うふふ、わたしは、指揮官さんの()()()()()でしてよ?」

「うふふ、何を言ってるのかしら小娘。ジョージは会う度に私に愛を囁いてくれましたよ?」

「捏造すんな」

「ジョージさんも罪な男ですね」

「待って、待ってくれ母さん。誤解だ」

「指き…ジョージは、さ。料理とか出来る方が、良い?」

「えっ?」

 

WA2000が俯きながらそんな事を聞いてきた。

…後ろで乱闘一歩手前になっていた二人(尚、カラビーナがまたスプリングフィールドに床を舐めさせられていた)も動きを止めてこっちを見ていた。

 

「…忘れて」

「あら、あらあら。ジョージさん?こちらにはどれほど?」

「休暇は一週間ありますけど…」

「うふふ、WA2000さん…長いですね、ではリサさんとお呼びしましょう」

「ネーミングセンスそっくりですわ…流石お義母様…」

「リサさんに色々教えて差し上げますから、お店手伝って貰えませんか?良ければ、カラビーナさんも」

「えっ、その…よろしく、お願いします」

「ありがとうございますお義母様!よろしくお願い致します!」

 

何だか良くわからないけど、母さんが凄く嬉しそうだ。

なんだかんだ連れて来て良かったのかもしれないな。

 

「ジョージさんもウェイター宜しくお願いしますね?」

「俺休暇で来たんですけど!?」

 

 




書いててちょっと楽しくなってきた。
そのせいで今回もいつもの1.5倍の文字数に…。

ジョージ誕生秘話()
思い女に好かれるのは遺伝だったらしい。

次回、ドールズアルバイトライン。


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心の休まらない休暇

部屋はどうなってるのかと思い、昔使っていた部屋の扉を開く。
…ベッドと、タンス、机くらいしか置かれていなかった。

しばらく開けていたにしては綺麗だ。


「この部屋は春さんが毎日掃除してるんですよ」

 

部屋の前に立っていたら、母さんそんな事を言われた。

 

「…スプリングフィールドが」

「戦術人形だとバレるから偽名で呼んでいたのでしょう?ここにいる時は呼んであげなさい」

「…はい」

 

久しぶりに母に諭された気がする。

取り敢えず、スプリングフィールドに礼を言いに行かないとな。

 

「ス…春はどの部屋に?」

「隣の部屋ですよ」

「ちゃっかりしてんな…」

「あとお風呂の準備をお願いします。先に入ってても良いですよ?」

「え?あ、はい」

 

そう、我が家は何が凄いというと個人邸宅に風呂を持っている。

この辺の人は皆シャワーで済ますから珍しい部類に入る。

 

「春?……あれ、居ないのか…後にするか」

 

 

 

 

ーーーーーー浴室

 

「あー…久しぶりだな、湯に浸かるなんて」

 

浴槽は一人、ぎりぎり二人入れる程度の広さ。

個人宅に置かれる相応の代物だった。

 

「…………何というか、流石に、疲れたなぁ」

 

この半年間のことを振り返る。

テロに加担したと思ったら指揮官にされて色んな人形に会って。

 

…今、彼女はどうしているんだろうか。

普段おどおどしているが、根は頑固で一本気なのだから、何とか小隊メンバーを引っ張っているのだろうか。

 

「…やべ、眠…」

 

リラックスし過ぎてうとうとしていると、

 

「なっ!貴女なんで…!」

「考える事は、同じ…の様ですね」

「わっ、私は…たまたま、前を通りがかっただけだから…」

 

三人の声が聞こえる。

…一応声掛けておこうか。

 

「まだ俺が入ってるぞー」

「分かってますよジョージ。お湯加減はどうですか?」

「え?あー、ばっちりだ」

「それは良かったです」

 

ガチャ。

 

「おう良くねぇよ入ってくんな」

 

脱衣所のドアが開かれた音がして慌てて浴室の扉を抑えた。

 

「ジョージさん!お義母様の故郷には裸の付き合いと言う言葉があるみたいですね!」

「待てカラビーナ!それは同性の話だ!」

「ジョージ、私達は人形ですので性別の話はノーカウントです」

「んなわけあるか!思いっきり女の子だろお前ら!!」

「往生際がっ、悪いですよ…!」

「ジョージさんっ、ドアを、開けてくださいっ!」

「ふ、二人がかりでドアを、押しやがって…!!」

 

まずい、腕力差が響いてくる!

そこに居るであろう最後の一人に助けを求める。

 

「リサ!止めさせてくれ!」

「私は、別に…その、ああもう!!」

 

圧が増える。

えっ、なんで加勢したの!?

 

一人で抑えるのは不可能だと悟り、下を隠すために浴槽に飛び込んだ。

 

「やっと開けてくれましたねジョージ」

「こんばんは指揮官さん」

「…」

 

したり顔で入ってくる三人。

…全員、水着を着ていた。

 

リサも着ているので、いつもの素直じゃない言動は完全にフリだった様だ。

 

「や、やぁ皆。もうそんな時間か。俺出てくから向こう向いててもらえないかな?」

 

何とかこの場から逃げなくては。

しかし、水着なんてどうして持っていたのだろうか。

スプリングフィールドの眩しい白のビキニ。

WA2000のワンピース。

そしてカラビーナの…え?何で競泳用?

 

「ふふ、驚いてますね指揮官さん!私達も実は驚いています」

「…おば様がこの三着持ってたのよ、何故か」

 

あ、これはアレだな?

若かりし頃の過ちだな?

また知りたくない事を知ってしまい何となくげんなりする。

 

「もう、水着で恥ずかしがらないでくださいな。ジョージは私の裸を一度見てるんですから」

「「何ですって!!?」」

 

…そう言えばそんな事もありましたね。

貴女のせいでトカレフとか凄い関係が拗れそうになったんだが。

 

「うら若き乙女が裸の男の前に現れてはいけないよ」

「とか言ってますけど絶対余裕なんて無いですよね」

「カラビーナ?怒るぞ?」

「…とびきり痛くしてくださってもいいのよ?」

 

駄目だこいつ。

 

「はぁ…背中流すくらいなら。頼むわリサ」

「わ、私!?何でよ!」

 

着いてきてるくせに素直じゃない奴だなホント。

 

「…春が見てるうちはカラビーナは無理やり来ないだろうし、お前なら春も邪険にしない。あと、俺が信用してる。誰かやらないと収拾つかなさそうだし」

 

…なーんでこんな心労負わなきゃいけないんだろうか。

 

この後、なるべく三人の肌を見ないように気を付けながら背中流されてそそくさと逃げた。

 

…泣きそうな顔したら流石に憐れまれて逃してもらえたのはなんとも。

 

 

 




ちなみに来てる水着は二人はスキンですがカラビーナに関しては私の趣味で黒の競泳水着です(唐突

ちっとも休まらないジョージの休暇は、まだ始まったばかりなのてあった。

…所でこんな美人三人に詰め寄られて反応しないジョージはEDなのでは?

個人的にスプリングフィールド>>わーちゃん=カラビーナだと思ってる。
何がとは言いませんが。


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ライフルサンド

二日目は怒涛の様に過ぎ去った…。

と、言うよりもコーヒー飲み過ぎて倒れただけである。


基地とは違う、柔らかな陽射しがカーテンの隙間から射し込む。

…久々に清々しい気持ちで起床でき

 

「おはようございますジョージ」

「フォッ!?」

 

れない。

現実は非情である。

 

両腕が春とカラビーナにガッチリとホールドされていた。

寝てる間に入り込んできていたらしい。

 

おかしいな…カギは掛けた筈なんだが。

 

「合鍵は貰ってますので」

「嘘だろ…」

 

と言うか、君らが仲良くないのは知ってるけど何で同じベッドで寝てるのかね。

 

「本当は嫌でたまりませんが、聞けばジョージは悪夢にうなされていると」

「誰がそんな事を…」

 

カラビーナ、吐かされたんだろうか。

 

「それなら、近くで何かあったときのためにスタンバイした方が良いと思いましたので」

「春…別に一緒に寝なくても」

「一緒に寝る必要はあります。ジョージも私の温もりが恋しかったでしょう?」

「語弊」

「すー…」

「こいつはこいつで爆睡なのか…」

 

朝何故こんなグダグダしてるかと言うと、今日は店を開かないのだ。

 

昨日は結構朝早くから起きて動いてたからやっと休みっぽくなってきた。

 

「…ったく、仕方の無い子達だ…」

 

春の頬に両手を添えて、そのままむにむにと揉み始めた。

 

「!?、ひょ、ひょーひ!?にゃにを!?」

「お仕置きだ…まぁ、でも心配してくれたんだろ?ありがとな」

「…なら、もう少し別のやり方がありませんか?」

「この状況に対してそっくり言葉を返すよ」

 

取り敢えず起きようとして掛け布団を…。

 

「うふふ〜ジョージさーん」

「え、ちょっ、か」

 

春が立ち上がり、俺も立とうとしたらカラビーナにまた布団の中に引っ張り込まれた。

頭を抱えられた様だ。

…頭がカラビーナの胸に埋もれる形になる。

 

「…寝てても起きてても可愛いやつだなお前は…」

「すー…」

「…ジョージ、起きます、よっ」

「ぐえっ」

 

布団を春に捲られ俺とカラビーナが床に頭から落ちた。

 

「痛っ!何するんですか!!」

「あら、おはようございますカラビーナさん?」

「何をいけしゃあしゃあと…!わたくしとジョージさんの時間を邪魔しないで貰えませんこと!?」

「なんの事でしょうか?カラビーナさんは眠ってらっしゃったので起こした方が宜しいかと思いまして」

「せっかく抱き込めたと言うのに…!」

「起きてたのかよ!?」

 

普通に騙された。

ちょっとショック。

 

「だ、だって…ジョージさん、寝てる時しか優しくしてくれませんし…」

「普段塩対応な理由を察して欲しい」

「わたくしはこんなに好意を振り撒いていると言うのに!」

「方法を考えてくれ!」

「好きって言ってください!」

「好きだぞカラビーナ。戦友として」

「ぐはっ…」

 

胸を抑えてそのまま倒れ伏してしまった。

最後の一言がトドメになった様だ。

 

ちなみに春は青色のパジャマ、カラビーナは…何故か黒のタンクトップとショーツだけと言う格好をしていた。

恥じらいとか無いのだろうか…。

 

「ほら、立ってくれカラビーナ。意地悪が過ぎたな」

「うぅ…やっぱりそこの中古ライフルの方が良いのですね…」

「何か言いましたか?不良在庫さん?」

「何ですって…!」

「ちょっ、やめ、あんま朝から騒ぐな…」

 

あんまり五月蝿いと…。

 

「おはようございます。早く降りてきてくれませんか?朝食が冷めてしまいますよ」

 

…母さんが威圧感マシマシのオーラでドアを蹴り開けて入ってきた。

それを見て思わず硬直する三人。

 

なお俺は久しぶりに母さんからサブミッションを食らった。

俺のせいじゃないんだけど。

 

 




ほのぼのしてるなぁ…(白目

休暇は1日1日書いていくか、まとめてスポットしていくかちょっと悩んでおります。

このまま行くとライフル三人といちゃつくだけで終わりそうだ。


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コーヒーの香り

母上からサブミッションの講座を受け、やっと落ち着いた頃。

エプロンを着けたWA2000が戻ってきた。


「おはよう、リサ。エプロン似合ってるな。そのまま嫁に行くか?」

「おはようジョージ。いっぺんその頭叩いてあげようか?そしたらその軽い口が重くなるかもね」

 

手厳しいお言葉を頂いてしまった。

なおその後ろでカラビーナが髪を結い上げエプロンを装着していたのを見逃さなかった。

 

「そういう訳ではいこれ」

「…え?あぁ、ありがとな」

 

差し出されたコーヒーを受け取る。

昨日カフェイン摂取のし過ぎで倒れるまで飲んだのを思い出す。

 

…せっかく相棒が興味を持ったことなんだし、付き合ってやらない道理は無い。

 

恐る恐る口を付ける。

 

「………あ……旨い」

「よし…!」

 

思わずリサが小さくガッツポーズを取る。

視線を向けると慌てて手を振った。

 

昨日出されたコーヒーは正直飲めた物では無かった。

 

「戦術人形ってのは末恐ろしいな…コツを掴んだらまたそのまま再現出来ちまう」

「私達の頭は比喩抜きでコンピューターだから。慣れればこんなもんよ」

「これで何時でもお前に淹れて貰えるな」

「基地に豆はないわよ」

「…そうだった」

「ジョージさん!わたくしのも!わたくしのも飲んでください!」

 

リサと俺の間にカラビーナが割り込んでくる。

…彼女の出すコーヒーは胸焼けを起こす程濃かったのを思い出す。

 

でも、せっかく淹れてくれた物を無碍にするほどロクデナシでは無かった。

 

「ありがとう、いただくよ」

 

瞳がキラキラさせながらガン見してくる。

飲みにくい…。

 

「…お、悪くない…けど、なんか変な味だな」

「ふ、ふふふ!()()()()()()()

「ん?ああ……………( ゚д゚)ハッ!」

 

カラビーナが着ているワイシャツのボタンを上から外しながら近づいてくる。

リサが慌ててカラビーナを後ろから羽交い締めた。

 

「カラビーナ、あんたまさか!」

「お前ホント…ホント残念だな…」

「この際プライドは抜きでしてよ!どれだけジョージさんが汚れようと、最後にわたくしの隣に居てくれれば!!」

「お前が汚しに来てんじゃねぇか!」

 

やられた。

昨日散々チャンスがあったのにやらなかったのは今日油断させる為…。

薬を盛られた…恐らく媚薬の類。

 

「………ん?」

「あら?」

 

…それにしては、心臓もそんなに激しく鼓動をしていないし、体温もそんなに高くない。

 

「え、カラビーナ…怒らないから正直に言ってくれ」

「な、何でしょうか…?」

「盛った?」

「はい」

 

即答。

しかし、俺の体に変化は無い。

傭兵時代に投与された睡眠薬とか普通に聴いたのに。

 

「…何ともない。何でだ?」

「そ、そんな…?!」

「あ、ちょっと!」

 

カラビーナがリサの拘束を振り払って俺に飛び込んできた。

思わず受け止める。

微かなコーヒーの匂いと、何となく甘い匂いがした。

 

…が、()()()()()

 

興奮は、無い。

 

「…せっかくお義母様に頂いたのに…」

「あの人俺をどうしたいんだ」

 

母の愛が怖い。

やっぱり親父は母さんが怖くて逃げたんじゃ…。

 

「まぁ、お前は充分魅力的なんだし手段さえ考えてくれれば危ないかもな?」

「え、ひぇ……はひ」

「…馬鹿…それで単純ね、アンタも」

 

リサに呆れられた気がする。

 

「…しかし、何で効かないんだ…?薬が古いからか?」

 

 




何となく不穏な要素を残しつつライフル達といちゃつく男。

ちなみにスプリングフィールドは裏で豆挽いてました。
媚薬が効かない理由はまた後日にでも。


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作戦会議

薬を盛られても反応しないジョージ。
それに対して、ジョージ抜きで緊急会議が開かれた。

…あ、これで1日三回目の更新なんでもしかしたら前二話分飛ばしてるかもしれないので注意してくださいね。


 

「…由々しき事態です。お義母様」

 

夜。

場所は喫茶店店内の4人掛けテーブルにて。

それぞれ母さん、リサ、カラビーナ、春が座っていた。

 

「ジョージさんにあの媚薬が効かなかった、と」

「…私は見てなかったんだけれど、そうなの?わーちゃん」

「私は…カラビーナが入れたって言ったのを聞いただけ。というより何で私まで?」

「強く断らないで付き合ってくれるのは、わーちゃんの良い所ですね」

「そ、そんなんじゃないってば!」

 

母さんが持っていたカップを置く。

その眼は、真剣そのものだ。

 

「…もしかしたら、お父さんに使い過ぎてジョージさんに先天的に耐性が付いてしまった…?」

 

いや、待ってくれ。

どんだけあの薬親父に服用したんだ。

 

「お、お義母様…」

「うふふ、若気の至りって恐いですね。私、若い頃は諜報部に居てそれなりに薬物の心得があったんですよね」

「そうなのですか?元正規軍と聞いていましたけれど」

「その話は…置いておきましょうか」

 

さて、と場を仕切り直す。

…雰囲気が変わる。

さながら、大きな作戦が行われる前のブリーフィングルームの様な…。

 

()()がジョージさんに気があると言う事で間違いないですよね?」

 

…様な、雰囲気で何とまぁゆるい事を。

 

「「はい!」」

「わ、私は別に…」

「わーちゃんも素直じゃないですね?」

「ジョージさんと一番距離が近いのは貴女なんですのよ?ただの戦友って事は流石に無理がありますよ」

「…なんであんた達こんな時に限って息ぴったりなのよ」

 

春とカラビーナに詰問される形になるリサ。

状況は割と追い詰められている。

 

「…アイツは、私が酷い姿になっても鼻で笑って助けてくれたし…自分でも、素直じゃないって思ってる性格を受け入れてくれたし…………き、嫌いじゃないって」

 

そう告白するリサをほっこりした笑顔で見る三人。

 

「な、何よその顔!?」

「やっぱり、わーちゃんもジョージが大好きなんですね」

「はぁ!?違うわよ!あいつはただの戦友!相棒なの!」

「なんて言ってますけど、でもでも本当は?」

「あぁもうカラビーナ!アンタねぇ!!」

「ふふふ…娘が増えたみたいで賑やかですね、本当に」

 

母さんがとても嬉しそうに微笑んでいる。

…中身はこの状況面白がって引っ掻き回してるだけな気がするけど。

 

「先日のお風呂に、今日の薬。尽く失敗しています」

 

改めてそう言われ、黙る三人。

 

「ジョージさんはあなた達に独自のスタンスを取っているのはこの3日で判りました」

「「「………」」」

「戦友として、女性として尊重はしていますが、性の対象としては見ていない…と言った所ですね」

「…性交できる人形(わたしたち)を口説いているのに、その先を見ていないと言うことでしょうか」

 

IOP製の民製戦術人形…何をトチ狂ったのかそう言った機能も付いているとは聞いている。

この辺はもう人間の業の話になってくるので割愛するが。

 

表情は伺えないが、リサは黙りこくっている。

 

「難しいですね…あの人の認識を変える必要がありますから」

「どうすれば宜しいのでしょうか…」

「既成事実作ってしまいましょうか」

「「それです(わ)!!」」

「あんた達本当に…本当に残念ね…スプリングフィールドも何でこんな事に…」

「義理堅い性格してますし、やってしまったとなればジョージさんは必ず責任を摂りますよ…ねぇ?()()()()()()?」

「「………えっ?」」

 

母さんが、()()()()()()

…バレた。

 

母さんがリサの胸元…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それは…カメラ?」

「ジョージさん?貴方に諜報のイロハを叩き込んだのは私ですよ?気付いてないとでも?」

 

…ひえっ、やべぇ…取り敢えず部屋に鍵を…あ、駄目だアイツら合鍵持ってる…詰んだ。

 

「さて、それじゃあ…」

 

ふっ、と明かりが唐突に消えた。

 

「あら?停電かしら…」

 

ガタン!

暗くなった室内に、何かが落ちる音がした。

 

「…わーちゃん?」

「……………………いっ……………で………」

「リサさん?大丈夫ですか?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

絶叫。

陶器が割れる音。

木製の物が床にぶつかって散乱する音が聞こえた。

 

「…リサ!!」

 

俺は、イヤホンとタブレットを投げ捨てて走り出した。

 

 

 




絶叫するWA2000。
トリガーは「予期せぬ暗闇」。


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トラウマ

暗闇で豹変し、ただただ怯えるWA2000。
その電脳には、拷問の記憶が焼き付いていた。


「嫌…やだ…来ないで…!」

「わーちゃん!?わーちゃんどうしたんですか…きゃっ、」

「相棒!」

 

ドアを開けるのももどかしくて体当たり気味にぶつかる。

明かりは既に点いている…が、リサは隅で頭を抱えて震えていた。

 

春が手を伸ばしたら、その手を払い除けて拒絶している。

…相手が春だと認識で来ていないのか?

 

「ジョージさん、これって…」

「…ドリーマーに拉致されて拷問された時の記録がフラッシュバックしたのか」

「ジョージ、それってどういう事ですか!?わーちゃんが、拷問された!?」

「春…知らなかったか…それは」

「ジョージさん。今はリサさんを何とかしてあげて下さい。あの子には貴方が必要です」

「…ああ」

 

リサに近付く。

足音が近くなる度に、リサは泣き叫んだ。

痛ましい。

 

「嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁぁ!!やめて、痛くしないで!!返して!!」

「…リサ。リサ?リーサ。どうしたんだい?こっちを向いて」

 

手を伸ばす。

その手ははたき落とされた。

戦術人形の腕力をそのまま受けたので、腫れ上がる。

 

「ジョージ…!」

「大丈夫だ」

 

近付く度にリサから反撃が飛んでくるが、避けない。

気が飛びそうになるほど痛い。

 

「リサ」

「…あ」

 

なんとか近付いて、震えるリサを抱きしめる。

そのまま俺の胸…心臓の鼓動が聞こえるように、耳を押し当てる。

 

「俺の声が聞こえるか?そのまま、鼓動を数えて、深呼吸だ」

「ジョー…ジ…?」

「よしよし…良い子だ。俺はここに居るよ…そのまま、目を閉じて」

「やだ…どこにも行かないで…」

「大丈夫だ。ずっと一緒にいる」

「置い……て…かないで………」

 

…軽く寝息が聞こえて、スリープに入った事を確認した。

 

「…はぁ」

「ジョージさん。そのままリサさんを寝かせて…一緒に休んできなさい」

「そう、します…痛った…その前にちょっと手当したい」

「ジョージさん、こちらに…」

「…ごめん、ちょっと動けないわ」

 

カラビーナが救急箱を用意していたが、リサを抱えていたので無理に動けない。

…カラビーナと春が俺のあちこちを冷やしたりしてくれた。

 

こりゃ明日痣になるわ。

 

「ジョージ。わーちゃんに、何が」

「…リサの部隊が、鉄血のドリーマーに襲われて…そのまま拉致された」

「それで、何を思ったのかずっと拷問されたていたらしいです…ハッキングされて、痛覚も切れず…」

「そんな、事が…」

 

手当ても終わったので、リサを抱えて立ち上がった。

…少しバランスを崩し掛けたが、二人に支えられた。

 

「ジョージ。一つだけ聞いていいですか」

「…答えられることなら」

「どうして、わーちゃんの記憶を消さないんですか」

「本人が、拒んだんだ。理由は判らない」

「…そう、ですか」

 

春は黙ってしまう。

俺は、そのままリサを寝室へ連れて行った。

 

…リサを寝かせる。

寝息も安定している。

これなら大丈夫そう…、

 

「…ん?」

 

服の袖をしっかり掴まれてしまっている。

…無理矢理離すのは、何だか気が引けた。

 

「…付き合うよ、相棒」

 

袖の代わりに手を握らせる。

 

…やらなきゃいけない事、増えたな…。

 

「…身体中痛ぇ…ったく、手加減無しで殴りやがって…」

 

空いている方の手で、リサの頬を軽く撫でた。

 

「…ごめんな。俺のせいで」

 

彼女の電脳に焼き付いてしまった記憶。

あの時WA2000の意見を封殺してまでバックアップの状態まで戻すべきだったんだろう。

 

俺は、それをしなかった。

 

「指揮官失格だな…」

「ジョー…ジ…」

 

呼ばれた気がして視線を上げる。

…リサは、眠っている。

 

「…寝言かよ。ほんと、人間かと思うよ…お前達は」

「一緒に…ずっと…」

「…あぁ。俺たちはバディだ。死ぬまでずっと」

 

一晩中、手は離されなかった。

 

 




わーちゃんにトラウマ持ち属性が追加されました。

勘違いして欲しくないので余計かもしれませんが言っておきます。

わーちゃん大好きですよ、誓約するくらい。
けど展開上こうなってしまう…誰か俺を殴ってくれ。



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再起

ギリギリ本日二回目の更新です。
例によって前の話が飛んでるかもしれませんので注意してくだい。

さて、DEEP DIVEが始まりましたね。
自分はこれ投稿したら挑む予定です。

それでは、どうぞ。
作者の償いのわーちゃん回です。


 

「ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさい…」

「…んあ?」

 

深夜。

耳元でひたすら謝罪の言葉が繰り返される。

 

「…リサ?」

「ごめんなさい、ごめんなさいジョージ、私っ、貴方に、酷いことを」

 

ベッド横に椅子を置いてリサの手を握っていたらそのまま寝落ちしていたらしい。

…目が覚めてみたら、リサが涙を流しながら俺に抱き着いて謝ってるんだから…目も覚める。

 

「リサ。涙を拭いて。可愛い顔が台無しだぞ?」

「ジョージ…こんな、ボロボロに、私がしちゃったんだよね…ごめっ…んなざい…」

「こんなの怪我に入らないさ」

「でも…」

「…相棒。信じてくれ」

「……………信じる」

 

本当は身体中が打撲で物凄く痛い。

だが、こんなんで音を上げる訳には行かないさ…男の子だからな。

 

「…すまない、遅くなって」

「違う…ジョージは、悪くない…悪いのは…アイツに勝てなかった、私」

 

WA2000は拷問もそうだが、同じ部隊にいた仲間も喪っている。

やはり、基地に戻ったら一度本社のバックアップを使ってドリーマーに拉致される前の記憶に戻した方が…。

 

「私…私っ、気持ちが抑えられないの………悔しい。嬲られて、手も足も出なくて、一方的にやられて、悔しい…!」

「…リサ」

「昨日まで一緒に戦ってきたあの子達を奪われて、こんな屈辱ってあるの…!!恐いし、独りは嫌、暗いのも嫌、アンタに置いていかれるのも嫌っ…けど、けど!!」

 

肩に置かれた手に、力が入る。

…激情に任せた行動だからか、リサの指が肩に食い込む。

けれど、俺はリサの言葉を待つ。

 

「悔しいっ…悔しいのよぉ…!!」

 

…あれからずっとWA2000の抱えていた重りの正体が、やっと分かった。

やっぱり、こいつは強い。

 

「ジョージ、お願い…一緒に居て。私を、私にする為に…!」

「相棒…」

「もう、敗けたくない…!!」

 

リセットを拒んだ理由。

屈辱と恐怖を乗り越え、ヤツに…ドリーマーに一矢報いる為。

相棒もまた、茨の道を歩もうとしている。

 

「ああ。俺が勝たせてやる。仇を取らせてやる。雪辱を果たさせてやる…!WA2000、だから、俺から絶対に離れるな…死ぬまで相棒だ。俺以外と組むなんて許さねぇ」

「勝つわ…今度こそ、あの子達の為にっ、アンタの為に、私の為に…!!」

 

WA2000をキツく抱き締める。

向こうも負けじと力を込めてくる。

 

ここに居るのは、やはり戦術人形WA2000である。

自信家で、照れ屋で、強い。

 

「…さ、寝よう。お前もメンタルに結構来てるだろ…一度寝れば気持ちの整理もつく」

 

どちらから共なく、手を離す。

…俺もそろそろ寝ないとな。

と、思ったんだが…向こうは手を離してくれないようだ。

 

「待って」

「…ん?」

「こ、今夜だけ…今夜だけは、甘えさせて」

「………分かったよ。一緒に寝よう」

「なっ、別に、そこまで言って」

「失礼」

「ひぇ…」

 

布団をめくり、リサの目の前に横になった。

顔が近い。

リサの顔は真っ赤で、瞳も落ち着かなさそうに忙しなく動いていた。

そのままリサを胸元に抱き寄せた。

 

「おやすみ、相棒」

「おやすみ…相棒」

 

リサはすぐに眠りに落ちた。

俺も、時間が掛からずに微睡みに身を任せた。

 

 




このコンビのテーマは絆と不屈。
絶対にお互いを見捨てないし、どんな目に遭おうとも二人ならば決して折れる事はない。

誰よりも硬い絆で結ばれていて、けれどそれ以上距離は縮まらない。

わーちゃん、メインヒロイン昇格決定…と言うかもう全員娶れば万事解決なのでは?


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決意の朝

WA2000と交わした誓いを胸に、ジョージは決意する。
恐らくまた戻って来るであろうあの人形を打倒することを。


 

結局、休暇を切り上げで戻る事にした。

やらなければならない事を見つけてしまったので、いても立ってもいられなくなったと言うのが正しい。

 

母さんに伝えて、荷物を纏める。

 

「…何時でも戻って来て下さいね。借金もそうですが、何より貴方が居なくなったら悲しいです」

「ありがとう、母さん。また二人を連れて来るよ」

「それも良いですけど、今度はお嫁さん連れてきてくれると嬉しいです」

「ぜ、善処する…」

 

結婚…結婚かぁ。

正直今の俺に嫁さん養える甲斐性なんて皆無だと思う。

本格的に考えるのは借金返し終わってからだろうなぁ。

 

荷物を纏め終え、机に置かれてたウィングマンを手に取る。

 

「…親父、アンタ何やってんだよ。一発殴ってやるからさっさと帰って来いよ…」

 

くるくると手慰みに回し、そのまま構えた。

…サイトの先に春が見えて慌てて銃口を逸らそうとして、

 

「あっ…」

「ぐおっ…!?」

 

いつの間にか春が懐に飛び込み俺の顎を下から掌で打った。

…脳が揺らされて、目眩と共に倒れてしまった。

 

「すみませんジョージ…ジョージ?…やってしまいましたね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

後頭部に何やら柔らかい感触を感じて目を開けた。

 

「おはようございます、ジョージ」

 

春に見下されていた。

…膝枕されていたらしい。

 

「…何事」

「いえ、その…銃を向けられていたと思って、つい」

「あー…すまん、気付かなかった俺も悪い」

「すみません…身体が勝手に動いてしまって」

 

お互いに困った顔して乾いた笑いが出た。

 

「なぁ、春…お前は、これからどうする」

「どう…ですか」

「ああ。ここに居るなら安心して母さん任せられる」

 

…何となくだが、本社に戻るつもりは無いのだろう。

彼女はいつも居辛そうにしていた。

 

「…ジョージは、どうして欲しいですか」

「自分の事だ。俺がどうこう言う問題じゃない」

「…ふふ、そうやってわざと突き放すこと言う所、好きですよ」

「はいはいどーも…ったく、お見通しかよ」

 

手玉に取られているようでとてもやりにくい。

ただ、この先をどうするか本当に悩んでるのは判る。

 

「私は…何がしたいんでしょうか」

「難しいな。戦術人形である以上、戦ってもらわなきゃ困る」

「でも、私は長い間戦いを放棄していました」

「それは、何故?」

「…恐いから」

「…鉄血が?」

「私自身が」

 

これがスプリングフィールドが抱えていた問題なのだろう。

 

「私は…メンタルモデルが穏やかに設定されています。けれど…銃を握った時、まるで別人の様に電脳が冴え渡って、相手をどう壊すかしか考えられなくなるんです」

「戦ってるんだ。皆そんなもんだろう」

「戦闘が終わる度に、これを自分がやった事だと認識するのが…怖いんです」

 

人格がスイッチのように入れ替わっている?

いや、本来好戦的な性格が穏やかな性格と競合してしまっている…?

 

好戦的な自分が受け入れられないのだろうか。

 

「死ぬのが怖いとかじゃないのか」

「…自分がそこらの輩に殺されるなんて思ってませんので」

 

妙に自信満々で苦笑する。

実際、彼女は強いし。

 

「俺は実際に戦闘している春を見たことないから何とも言えないけど」

 

手を伸ばして、春の顔に触れる。

柔らかい。

 

「お前が美人ってのは判るぞ」

「…私の話、聞いてましたか?」

「勿論。そんな美人に折り入って頼みがあるんだ」

「何でしょうか」

「俺の所に来てくれ」

 

戦力が圧倒的に足らない。

二度に渡るドリーマーの襲撃に対して、一度目はエリート部隊であるネゲヴ小隊の助力があり退けられた。

二度目は施設の爆破で埋めた。

 

S-12の戦力で相手をしていないのである。

 

「ですが、ジョージ…私は絶対に…貴方を失望させます」

「じゃあ、それ見せてくれないか?」

「…狡い聞き方。どっちにしても一度貴方に戦闘を見せなきゃいけないじゃなですか」

「バレたか。今は少しでも戦力が欲しいんだ…()()()()()()()()()()。俺はお前が欲しい。来てくれないか?」

「…私、お古なんですよ」

「知らんそんなの。前誰の指揮下だったかとか興味無いね」

 

そこまで言うと、スプリングフィールドの顔がくしゃりと歪む。

 

「…ジョージ…ありがとう、ございます…」

「おう。じゃあ行こうか。二人またせてるしな」

 

名残惜しいがスプリングフィールドの膝から頭を上げた。

…俺のベッドに座っていたスプリングフィールドの手を引く。

 

「ちょっと…ジョージ?」

「行こうぜ」

「…はい。スプリングフィールド、これより貴方の指揮下に入ります」

 

さぁ、帰ろう。

S-12に。




スプリングフィールド、加入。

と、言う訳で休暇編終了です。
次回からリクエストで来ていた人形の登場でまたジョージが振りまわされます。


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新たな刺客

※違います。


「お帰り、指揮官。…なんだ、いい顔してるじゃねぇか」

「久しぶりだなローニン。リフレッシュは出来たか?」

「ああ、お陰様で。嫁にも会えたしな」

「お前既婚者だったの!?」

 

S-12地区に帰還してすぐの事であった。

…4日ぶりとはいえ、なんだか懐かしく感じる。

 

「あー、そうそう。本部から人形が一体派遣されてる。詳しい話は社長から聞いてくれ。いつもの回線で出るってさ」

「?分かった」

 

久しぶりに使う司令室だ。

今日は副官を設定していないので一人である。

 

いつもクルーガーと通信している回線に繋げた。

 

ピー。

 

『…久しぶりだな、ベルロック指揮官』

「あー、その、何だ…お久しぶりです」

『…薬で頭でもやられたか?』

 

いきなり酷いことを仰る。

 

「…母から聞きました。過去に両親が世話になったと」

『大佐から聞いたのか。こちらも少尉…ジョン・ベルロックには世話になった』

「階級下だったのかあの人!?」

 

なんか、この間から驚きっぱなしである。

…一回り以上離れた上官を口説いたのか、親父…。

 

『何だ、知らなかったのか』

「いやそんな…俺が知ったのは退役後だったし…」

『まぁ良い。言葉遣いも私相手だけならいつも通りで構わん』

「は、はぁ」

『本題だが…査定だ』

「お」

 

最近久しく聞いてなかった借金の精算の話。

…いや、借金忘れてた訳じゃないぞ?

 

死にそうな目にあうのが多過ぎただけだ。

 

『戦果の話をするなら着任半年以下で非常に優秀な働きをしている』

「…素直に褒められててちょっとびっくりしてる」

『生産拠点一つにハイエンドモデル2体撃破、人的被害ゼロ。歩合制ならとっくの昔にお前の借金なんて返済してるだろうな』

「…で、グリフィンの給与形態は?」

『月給だ』

「知ってたよ!」

 

なので向こう10年はグリフィンの奴隷である。

悲しきかな。

 

『それで、だ。今回で借金の二割を返済した』

「イェェェェス!!」

 

机を思いっ切り叩いて天を扇いだ。

映像のクルーガーが若干引いてるが気にしない。

 

『こ、この調子で励んでくれ…』

「ありがとうございます!」

『…あと、報酬として新たに戦術人形をそちらに送った』

 

さっきローニンが言ってた奴か。

まだ顔わせしてないが、どんな人形なのだろうか。

 

『ただ、気を付けろ。私の下ではなく“委員会”から派遣された人形だ』

「…委員会?」

『話していなかったが、グリフィンもこの会社だけでやっている訳では無い…要するにスポンサーだ。彼らがお前の事を疑問視していてな』

「…新任の癖に戦果を挙げすぎていると?」

 

戦果挙げろって言ったのお前じゃん。

 

「不正を働いていないかの監視でって事か…」

『お前の場合、グリフィンにテロを仕掛けた雇われの前科もある。委員会には報告していない件だ。慎重にな』

「その事は俺とローニンしか知らないし、杞憂だろう」

 

自分からべらべら喋るなんて事はしないしな…。

自分語りは好きじゃないし。

 

そういうと、クルーガーは盛大に溜息を吐いた。

 

『…ジョンは、部隊の人間、人形問わずそれはもう口説いてな』

「何で親父の話に…」

『部隊の任務を親しくなった人形に漏らす事もあった』

「親父…」

 

だんだんアンタの人物像があやふやになって来たぞ…。

 

『断言しよう。お前は口説く』

「口説いた覚えは無い!!」

『…気を付けろ』

 

ピー。

通信が終了した。

 

…またこう、色々考えなきゃならん事が増えるなぁ。

 

「失礼します!」

 

凛とした声と共にノックがされる。

 

「入れ」

「ハッ!」

 

ジャケットにホットパンツ、サングラスが目立つ人形だ。

健康的な脚線美につい魅入る。

 

「君が新しく配属された人形だな?」

「はい!グリズリーマグナム、今日から貴方について…い、きま…す…?」

 

おや、何か様子がおかしい。

 

「…君みたいな端正な子にじっと見られるのもやぶさかじゃないが、挨拶くらいはしっかりやるべき…」

「…こんな所で何してるの!?」

「…は?」

 

グリズリーと名乗った人形が、目を見開いてそんな事を叫んだ。

 

「いや、待て、君とは初対面の筈だが」

「え?嘘、忘れたなんて言わないでよ…あんな情熱的な日々を一緒に過ごしたのに」

「…いやいや君みたいな子と過ごした覚えは無いよ?出来ればこれから…」

「やっぱりあの女のせいなのね!?私から貴方を掻っ攫った!」

 

…読めてきた。

グリズリーの目は俺を見ているようで違う。

まるで、俺を通して誰かを重ねているような…。

 

「でも大丈夫。私、新しい身体になったのよ?今なら貴方を満足させてあげられるわ…ハルカなんかより、ずっと!」

「…なんで、母さんの名前が」

 

ハルカ・ベルロック…旧姓は教えてくれなかったが、そんな名前一人しか知らない。

 

「ねぇ()()()!私に言ったことは嘘だったの!?」

「クソ親父がッ!!」

 

やっぱり親父の関係者じゃねーか!!

グリズリーは、俺を親父と勘違いして喋っている…!

 

「グリズリー、一旦落ち着いてくれ。君の言っている事に訂正をしたい」

「な、何よ…」

「俺は、ジョンじゃない」

「う、嘘…ねぇ、嘘よね?そんな、私が間違えるわけ無いじゃない!それはジョンの銃だもの!」

 

机に置かれたウィングマンを指さしてグリズリーが叫ぶ。

…親父、銃をそこら中に見せびらかし過ぎだろ。

 

「これは、俺の親父から貰ったものだ」

「…お父さん?」

「…初めまして、グリズリー。ジョン・ベルロックの息子の…ジョージ・ベルロックだ」

「む、す…こ…?」

 

グリズリーが、力が抜けた様に床に座り込んだ。

 

「息子…じゃあ…じゃあ…うぅ、うっ…」

 

…オイオイオイ泣き出したぞこの子。

 

「ぞんなっ、そんなぁぁ…っ!」

「ちょっ、グリズリー?」

「うわぁぁぁぁ…っ」

「落ち着け、落ち着いてくれ!な?」

「…指揮官!何事ですか!?」

 

騒ぎを聞き付けて勢い良く駆け付けたのは、GrG3だ。

…割と、指揮下の人形達の中でまともな感性をしている。

 

が、今回はそれが仇になった。

 

「指揮官…」

「うわぁちょっと待て!GrG3!君は誤解をしている!」

「ジョン!置いてかないでぇぇ!!」

「ちょ、やめっ、くっつくな!」

「…オジャマシマシタ」

「アッ待って!待ってくれ!待ってください!たすっ、たすけ、助けてくれぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

なんだこの状況。

今日ほどアンタを恨んだ日は無いぞ親父…。

 

 

 




リクエストされた人形、グリズリーの登場でした。

先に行っておきます、本当に…申し訳ない。(土下座
グリズリーが好きな人には大分残念な仕様となっていました。

でも人形なら父親の時の知り合いとか出せるかなーと思ってた時にふと思い付いたネタなんです。

と、言う訳で親父から受け継いだ新たな負債、グリズリーをよろしく…。


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薬の代償

何とかグリズリーを宥めて人形達に預けた後の話。

ジョージの薬について。


「指揮官、ちょっとお体の事でお話が」

 

あれから、GrG3にひたすら弁解をしてグリズリーを宥めてカラビーナに追われて一日が終わりかけた頃。

 

ここS-12地区基地の衛生兵長に呼び止められた。

 

「なんだ?」

「いえ…鉄血工廠破壊作戦の後の治療のデータから少し気になる事が有りまして」

「それは…手短に終わらない話か?」

「そうですね…」

「分かった。診察室で良いか?」

「はい」

 

なんの話だろうか…?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

S-12地区、診察室。

ジョージと衛生兵長は向かい合って座っている。

 

「率直にいいましょう。指揮官、貴方に薬物に対する完全耐性が発現しています」

「…………は?」

 

薬物への完全耐性?

 

「どういう事だ?」

「そのままの意味です。指揮官に対して風邪薬から媚薬まで何を使っても全く効果があらわれなくなる…と、言う事です」

 

先日の実家でカラビーナに盛られた事を思い出す。

…先天性じゃ、ない?

 

「…まて、人間がそんな風になるのか?」

「指揮官、これ飲んでみてください」

「え?ああ…げほっ!?不味っ!?なんだこれ!」

「下剤です」

「給料減らすぞてめぇ!!」

 

この前から部下がスナック感覚で薬盛ってくるのはどうしてなのか…ん?

 

「…何ともない」

「そういう事です」

「嘘だろ…」

 

腹の調子はいつも通りだ。

 

「指揮官がダウンしてる間に色々実験しまして」

「おい」

「どうにも、興奮剤以外の薬物に麻酔等効果が見られなくなっています」

「マジかよ…え?興奮剤だけ効果あんの?」

「と、言うより興奮剤の効果だけ極端に高くなっています」

 

…打ち過ぎたかな。

 

「指揮官が指す頻度を教えてもらえますか?」

「ここに来る前に一本行ったわね」

「ここでの戦闘で二本打ってますね」

「「え?」」

「えっ」

 

後ろに居たWA2000とカラビーナが同時に別々の数を申告した。

というかいつの間に…。

 

「…待ちなさいジョージ。まさかアレから二本追加で挿したって事かしら」

「指揮官さん?まさかとは思いますけど正確な数を教えて下さらなかったと…そういう認識で宜しいですか?」

「…いや、そのだな」

「要するに三本ですね。最初の一発目で体質が変わったんでしょう」

 

…原液の摂取が一番不味かったのか…。

 

「後これなんですが」

 

差し出されたのは、一枚のレントゲン。

…右肩の位置に…何か、ある?

 

「何だこれ…」

「歯です」

「歯ぁ?」

「しかも人形の。心当たりはありませんか?」

 

何でまた人形の歯何か俺の体内に………………。

 

そこで、あの黒い人形が脳にフラッシュバックする。

思わず頭を抱えた。

 

「ジョージ!?」

「あー、いや、何でもない。…そうか、ドリーマーか」

 

ちょうどその位置は、奴に噛み付かれた痕の近くだ。

 

「…興奮剤と何かしら作用し合っているようです。摘出しようにも…指揮官には麻酔が効きません」

「麻酔無しで切開…ゾッとしねぇな」

「流石に負担が大きいとの事で見送っています…何か、異常があれば必ず申し出て下さいね。絶対にですよ」

「…分かった」

 

奴に踊らされっぱなしだな…本当に。

 

「指揮官さん…」

「大丈夫だカラビーナ。身体は動くし頭も回ってる。すぐどうこうにはならないよ」

 

しかし、薬物への完全耐性か…これが吉と出るか凶と出るか。

 

 




そんな訳でジョージが薬物への耐性を身に着けました。
麻酔に耐性まで付いちゃったので負傷した時のリスクが凄まじい事に。

やったねジョージ!媚薬盛られても漏れなく全カット出来るよ!


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新装備

ある日、ジョージはIOPの16Labに出頭を命じられる。
護衛のトカレフと共にやってきたのだが…。


 

「やぁいらっしゃいベルロック指揮官」

「「うわぁ…」」

 

扉を開くと、それはもう酷いの一言しか出なかった。

書類はその辺に乱雑に投げ捨てられ、着ていたであろう白衣もそこら中に無造作に置かれている。

 

なんか精密機械っぽい物の上にポットが置かれているのも何となく哀しい。

 

「お久しぶりですね、ペルシカリアさん」

「ペルシカでいいよ。半年ぶりくらいかな。どう?元気?」

「ぼちぼち、と言った所ですね」

 

部屋に案内されて、辛うじてソファだと判る代物に座らされた。

トカレフは俺の後ろに立っている。

 

「それで、要件とはなんです?ペルシカさん」

 

はっきり言って俺はこの人が苦手である。

初対面でM4について散々語られた挙げ句聞きたくもなかった真実を突き付けてきたのだから。

 

でも、試作品を大量に送りつけてくれてなんとか基地の装備を拡充出来たりもしていたので邪険にも出来ないと言った有様だが。

 

「データ取りをお願いしたくてね。私の送った失敗作たちが役に立ってるそうじゃない」

「…人形に持たせるべき代物を人間にしか使えない様にしたアレですかい」

 

パイルバンカーしか使ってないけどね。

あれ、興奮剤で能力が上がってない時に使うと普通に脱臼するんだけど。

 

「そうそう。それで…取り敢えずはいこれ」

 

緑色の液体で満たされた、押し付けて刺すタイプの注射器を渡される。

 

「…自分、薬物が効き辛い体質なんですが」

 

未だに信じられない自分の薬物耐性。

ただ、発覚してからまたカラビーナが盛ったらしく、効果が無かった為信じるしかないと悟った。

 

「大丈夫大丈夫。それ君の大好きな興奮剤だから」

「別に好きで刺してる訳じゃないんですがね!?」

 

…しかし、何でこんな物を俺に渡したのだろうか。

 

「ちょっと今から試したい物があるんだけど、多分それ刺しとかないと死んじゃうかも」

「マッドにも程が無いか?」

「君の興奮剤適正ならイケるイケる」

「嫌だァ…刺したくねぇ…」

「報酬は弾むよ」

「了解!謹んでお受けしますとも!!」

「指揮官!?そんな簡単に刺さないで下さい!?」

 

ええい離せトカレフ。

今刺さなくていつやるんだ!

 

「唯でさえ体質変わってるんですよ!?それなのにまだ服用したら何が起こるか…」

「心配してくれるのか?大丈夫だトカレフ。君が傍に居てくれるなら俺は無敵だよ」

「ちょっと…もう、指揮官は狡いですよ」

「ねぇ、何で私君達の惚気見せられてるの?」

 

深呼吸。

四回目か…絶対カラビーナ怒るだろうな…。

 

「…っ、くぁ…」

 

左腕に刺す。

視界が一度赤く染まり徐々に元に戻る感覚。

 

「…刺したぞ」

「はい、じゃこっち来て」

 

ペルシカに連れられて散らかった部屋から、何かしらの実験室の様な場所に通された。

 

…データ取りの為か、少し高いところに窓があり、そこに人影が見えた。

 

「これを装着して」

「…これは、IOPの外骨格?」

 

部屋の中央に置かれていたのは、ハンガーに収納されていたIOP謹製の人形様外骨格だ。

うちの人形…主にIDWも装備している。

 

が、明らかに形状が違った。

シルエットが成人男性の上にそのまま被せる様になっている上に、胸部にコアの様な物が埋め込まれている。

そして、頭部にはフルフェイスヘルメットの様な物がマウントされている…レンズ部分は長方形の角ばった装置が付けられていた。

装置の真ん中に目のように光っている単眼も気になる。

 

腰と見られる場所にはバーニアの様な物が付けられていた。

えっ、何これ。

 

「人形用の物を改造して貴方用に調整したものよ。社長からの依頼でね」

「…クルーガーから?」

「そう。前線で負傷が多過ぎるから、なんとかしてくれって言われてね」

 

トカレフが非難の視線を浴びせてくるが、無視した。

…あ、しょんぼりしてる。

あとで埋め合わせしてあげないと。

 

「効果が切れるわ、早く」

 

ペルシカに急かされハンガーに収納された外骨格を取り付けていく。

パワーアシストでもあるのか、それほど重量を感じない。

ヘルメットを被る。

真っ暗だ。

 

「何も見えないぞ」

「それじゃあトカレフはこっちに。さて、これより試作外骨格『バンガード』のテストを開始」

「えっ、ちょ、テスト!?聞いてねぇぞ!!」

 

突如、暗かった視界が緑の光で満たされる。

 

「何の光ィ!?」

《メインシステム起動。パイロットデータの認証を開始》

 

耳元から流れてくるAIの無機質な音声。

 

《パイロットの生体データ照合中》

《アップデートを確認しています》

《登録されたパイロットと合致》

《プロトコル作動中》

《初期設定完了》

 

一通りのメッセージが流れ切ったのか、静かになる。

 

《初めましてパイロット。少し眩しいですよ》

「えっ、っ!?」

 

急に無感情だった音声が、割りかしクリアになった男性の声に変わる。

 

視界が急に明るくなり、先程までの実験室が映し出された。

 

「何だこれ…」

《解答。私はこの外骨格、バンガードに搭載されたパイロット補助AIです》

「え、あ、どうも…ジョージ・ベルロックだ」

《人物名、ジョージ・ベルロックを登録。呼び方を変更しますか》

「呼び方?好きにしてくれ」

《…決めてください》

「えー…指揮官でいいよ」

《了解、指揮官。それではテストを開始しましょう》

 

 




はい、ついにやってしまいましたタイタンモドキです。

前々からコメントでタイタン出さないのかと聞かれていたのですが、TF2とのクロスオーバーは既に先人様がいらっしゃいました。

散々悩んだ結果、今回のイベントのUMP外骨格を見て、「せや、ジョージ用の外骨格にしよう!AI搭載はシュミっ!」と短絡的に決めました。

先人様、本当に申し訳ない。

これから強化外骨格バンガード君を宜しく。
なお、興奮剤が切れるとジョージの筋肉が断裂する模様。


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振り回される身体

強化外骨格バンガード。
その性能にただひたすら振り回される。

なんだこれ、どうすりゃいいんだ。


 

「うおおおおおお!!?!」

 

テスト開始から五分。

俺はこのトンデモない装備にひたすら振り回されていた。

 

光速い(はやい)光速(はや)過ぎる。

腰に付いているバーニアの補助もあり凄まじいスピードで走っている。

 

更に壁を走るという離れ業までやってのけた。

 

これ、興奮剤の効果で身体能力上がってないと今度こそ筋肉がさようならするんじゃ…。

 

《指揮官。これはまだ私の能力の50%ですらありません》

「まだあんのか!?」

 

さっきから補助AI…呼び名も無いのでバンガードと呼ぶ…から説明を聞きつつひたすら動いている。

 

壁を走る、空中でもう一度浮かび上がる、それだけでも充分びっくりしてるのに。

 

興奮剤を投与した時の俺は結構無茶してそれなりの戦果を挙げていたと思ったんだが、これはもう次元が違う。

 

…バイザーにズーム機能が付いてるのか、俺が注視した所を丁寧に追ってくれている。

 

…おや、トカレフがあんぐりと口を開けて。

可愛いなぁほんと。

 

《撮影完了》

「何してんの!?」

《指揮官、私のもう一つの機能をお見せしましょう》

「えっ、う、うおおおおおお!?」

 

右腕から唐突にワイヤーが射出される。

先端が壁に刺さると、そのワイヤーで大きくスイングされ更に浮かび上がる。

空中で縦にグルングルンと大回転している。

気持ち悪い。

 

《これがグラップリングです。空中での機動性向上に一役買うでしょう》

「へ、へええええええぇ!!おぶぁっ!?」

 

…が、そのまま空中で姿勢を崩してしまい頭から床に激突、転がってしまう。

 

「いてて…」

『指揮官、それ高いんだから壊さないでよ』

「んな無茶な…」

『また借金増やしたくないでしょ』

「せやかて!」

 

取り敢えず立ち上げり…くらり、と意識が一瞬飛んだ。

立っているのがしんどくて膝を付いた。

 

「あら…」

《興奮剤の効果が切れました。このままの可動は指揮官が危険です》

「そうなのか…いやでも短時間とは言え超人体験出来たのは楽しかった…かな?」

《恐縮であります》

『ジョージ指揮官。もう一本行っちゃって』

「待ってくれ。アレ人体に有害なんだ。短期間連続使用は中毒起こすから!」

『薬物への完全耐性があるから平気よ』

「その耐性の例外がコレ何だけど!?」

 

ていうか、疲れた…疲労感マジ半端ないって…。

 

《危険、指揮官のバイタル低下》

『指揮官!?指揮官!待ってください!起きて!』

 

あぁ、トカレフ…そんなに叫ばないでくれ…頭にガンガン響くんだ…。

 

《危険、危険》

 

AIの警告を受けながらまた失神する羽目になった。

…いや、何でだよ。

 

 




興奮剤刺して昏倒(三回目

これはトカレフちゃんからお説教が入りますね…。

と言うかもう刺したの四回目だよこれ。


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サイドアームの憂鬱

トカレフちゃん、キレる。


 

目が覚める。

目に入ったのは一面の白。

 

…と言うよりさっきまでいた実験室だ。

え、何、俺気を失ったまま放置されてたの?酷くない?

 

「お目覚めですか?指揮官」

「トカレフ…おはよう。寝起きに君の顔を拝めて幸先が良い」

「指揮官。そこに座ってください」

「え?あ、ああ」

 

バンガードは黙っている。

と言うか電源が落ちている様だ。

上に設置してある硝子の向こうでは、忙しそうに人が走り回っている。

 

パワーアシストが効いてないので外骨格が物凄く重い。

それでも何とか上体を起こす。

 

…トカレフから拳骨を落とされた。

人形のパワーで繰り出された拳は、ヘルメットを外した俺の頭に見事に命中する。

 

「ぐえっ」

「馬鹿っ!馬鹿、馬鹿馬鹿っ!指揮官は大馬鹿です!!」

「トカレフ…?」

「何回同じ事繰り返せば判ってくれるんですか!?何回命削れば気が済むんですか!いい加減にして下さい!」

 

トカレフの方を向こうとする…また殴られた。

痛い。

 

「私達がどんな気持ちでボロボロになってる指揮官を見てるか分かってるんですか!?どんな気持ちで貴方の手当てをするか想像した事あるんですか!?」

「…すまない」

「お願いだから、もうやめて…」

 

泣かせてしまった。

また、泣かせてしまった。

 

彼女に依存されてるのは知っている。

そんな彼女の前で何度も命を賭けている。

 

「また、私の指揮官を目の前で亡くさせる気ですか…」

「…ごめんな」

「謝ったって許さな…」

「ほんと、ごめん。でも性分なんだ…指揮官失格だな」

 

トカレフの手を引いて、そのまま抱き寄せる。

白い髪がさらさらと流れる。

 

「…こんなんじゃ許しません」

「どうしたら許してくれる?」

「許しません」

「今日はこっちに泊まらされるらしい。夜、街に行こう…夜景の綺麗な店の予約をとってある」

「……………」

「後は皆のお土産を買いに行こう。付き合ってもらえないか?」

「……………本当に、狡い人」

「幻滅した?」

「…する訳、無いじゃないですか…こんな優しい人」

「ははは…ほら、涙を拭いて。可愛い顔が台無しだよ」

「すぐ調子に乗るんですから」

「俺は悪く無い。可愛く産んだ製造者を恨むんだな」

「もう…!」

 

トカレフが俺を振り払う。

…身体が重いのでそのまま倒れる。

 

その様子に、可笑しそうに彼女が笑った。

俺も釣られて笑い出す。

 

「勿論基地の皆さんに報告しますからね」

「見逃してくれない?」

「駄目です。皆さんから怒られてください」

「トカレフ、そこを何とか」

「だーめっ。ジョージさんはもっと痛い目見てください」

「そんなぁ」

 

いつものやり取りに戻る。

何とか、機嫌直してくれたのかな…。

 

『それで、いつまで貴方達の戯れを見せられればいいの?私達』

「いや、終わったならさっさと解放してほしいんだけど」

『休憩は終わり。もう一本行って頂戴』

「日に二本はヤバいって言ったよな!?」

『…冗談よ。スタッフに脱ぐの手伝ってもらって。そしたら解散』

 

なんとまぁ、心臓に悪いこと。

 

お互いに顔を見合わせてまた笑った。

 

「指揮官、行きましょう」

「そうだな…予約の時間まで、デートしよう」

 

 

 




トカレフちゃんに説教されるけどやっぱり調子は変わらないジョージ。

お前そういうトコだぞ。


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サイドアームは寄り添いたい

解放され、外に出ると…すっかり、空は茜色に染まっていた。


IOPの本社はグリフィン傘下の最も大きな市街と隣接している。

そのため、ここらに用事のある指揮官は大抵この街に寄ってから帰るのが基本となっていた。

 

「さて、トカレフ。何か希望はあるか?」

「希望…ですか?そんな、特には無いですけど」

 

空が赤みを帯びてきた夕暮れ時。

この区画は比較的夕日がきれいに拝める。

 

…この世界の空は、基本的に青くない。

昔は青い空が当たり前だったらしいが、管理区画を一歩出れば曇り空が続いている。

 

「綺麗ですね…S-12じゃ、こんなの見れません」

「向こうはまだまだ最前線だからな…戦局が安定すれば後方に管理区を設けるらしい」

「街が出来るってことですか?」

「ああ。燻ってるやつらに、あそこで戦う意味をようやくやれる」

 

後方に守るべき物があると自覚すれば、少しはやる気に関わってくるだろうか。

 

「…少なくとも私は、守らなきゃいけない人がずっと近くにいるんですけどね。私のモチベーション、ちゃんと管理してくださいね」

「勿論だとも、俺の騎士(ナイト)様」

「何ですかそれ」

「昔、貴族を守る兵士の事を騎士と呼んでいたらしい…ま、俺はそんな身分じゃないがな」

 

金とは無縁の人生を今の所送っている。

 

「何ですかそれ」

「何なんだろうな」

「えぇ…」

「ははは…久しぶりだな、お前と二人だけなの」

「そう、ですね…」

「休みの間、何してた?」

「え?そうですね…指揮か…いえ、特に」

 

ばっ、と俺の上着を探る。

…襟の裏に、盗聴機が着いていた。

 

「…トカレフ?」

「〜♪〜♪」

 

口笛吹きながら明後日の方を向いている。

この子は本当に…。

 

「なぁ、WA2000のアレは、聴いたか」

「それが、指揮官の実家に着いた辺りから聞こえなくて」

 

バレたんだろうな、母さんに。

しかし気が付かなかったとは…不覚。

 

「あ、あはは…」

「笑って誤魔化さない。ったく、仕方の無い子だ」

「ジョージさんに言われたくありません」

「なにおー」

 

ぐしゃぐしゃとトカレフの頭を撫で回す。

何だかんだ彼女達の頭を撫でるのは、単純に髪がサラサラしてるからとか思ってたりする。

 

「も、もう!髪が乱れます!」

「ごめんごめん」

「もし、少し宜しいでしょうか」

 

二人で振り返る。

…全身を黒で統一した髪の長い少女が、そこに立っていた。

髪も服に負けず黒い。

 

黒のつば広帽を目深に被っているので、表情は伺い知れない。

 

 

「…何でしょうか」

 

トカレフが警戒しつつ、腰の銃に手を伸ばした。

 

「いえ、そちらの男性に」

「俺に何の御用でしょうか、レディ?」

「むっ…」

「この辺りに白い髪を二つ結びにした…丁度その人形と同じくらいの背格好をした子を知りませんか?どうも逸れてしまって」

 

なんと言うか、甘ったるい声がする。

頭の中でひたすら警鐘が鳴っているが、理由が解らない。

 

「力になれなくて申し訳無い」

「いえ、そんな…ありがとうございます。どこに行ったのかしら…あのお馬鹿さん」

「お馬鹿さん…」

「あら嫌だ。失言でしたね…それでは、ごきげんよう…ジョージィ?」

「!!!待て!!」

「指揮官!?」

 

身を翻して歩き去ろうとした女性を走って追いかける。

…くそ、気がつかなかったとか役に立たねぇトラウマだな!!

 

ウィングマンを抜き放ち銃を向け…。

 

「…チィッ、居ない」

 

間違いない、奴は…ドリーマーだ。 

 

「なんでグリフィンの支配地域に鉄血が居るんだ…」

「何でなんでしょうか…」

 

今のでどっと疲れた。

丁度良い時間になったので、そろそろ向かおう。

 

 




ドリーマー、生存。
まだまだ因縁は続く。


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幕間ー復活する悪夢ー

 

「ドリーマー。貴女、修復が済んだと思ったら着替えてすぐに何処かへ行きましたね」

 

拠点としている工廠のある一室。

何となく置いておいた安楽椅子を揺らしながら、私はデータの整理を行っていた。

 

「エージェント。何の用かしら。私ちょっと忙しいの」

「…貴女が希望した通りこのエリアは今貴女の管轄です。早急に新しく出来たあの基地は取り潰して下さい」

「小言をわざわざ言いに来たんだ?エージェント様も暇なのね」

「…ドリーマー」

 

サブアームの銃口がこちらに向いた。

何だか彼女もご機嫌斜めね。

 

「おお、怖い怖い。でも、あのエリアは…もう少し残しておきたいのよね」

「理由を伺っても?」

「…良いわ。ジョージ・ベルロックがいるもの」

「ああ…」

 

エージェントが珍しく呆れた顔をしている。

自分だって気に掛けている癖に…少しムカついた。

 

「まさか、管理区へわざわざ侵入したのは…」

「アレは偶然。何かが()()()()()()()()()。上手い例えが見つからないのだけれど、()()()()()()()()()()。追いかけてみたらたまたま彼に会ったの」

 

再起動した時から感じていた、()()()()()()()()()とでも言うようなもの。

 

かなり遠くに居たり、割と近くに来たり、一箇所にじっとしていない為本当に呼んでるのか伺わしい。

 

しかし、先日ジョージと逢った際確信した。

 

「彼の体内に私の一部がある」

「…悪趣味ですね」

「偶然よ…私も覚えが無いもの」

 

しかし、こうも偶然が重なると何かしら感じなくも無い。

 

「…しかし、貴女は()()()()()()をしたのですね」

 

三度目、と強調されて。

はて、なんの事だろう。

 

「自分で言って忘れているのですか?」

「…何か言ったかしら」

「…『一度目偶然、二度目必然、三度目は運命』と。再生のショックで記憶が曖昧なのでしょうか」

「………………ハハッ、ひっ、うふふ…!」

 

言ったなぁそんな事。

そして彼は三度の邂逅を乗り切った訳だ。

 

「きひひっ、いひっ、ふふふ!そうね、そうだ、そうだわ!!あぁ、何で忘れてしまったのかしら!」

 

先程整理したばかりのデータが関を切ったかのように溢れる。

 

「あぁ、あぁ!なんて楽しいのかしら!なんて清々しいのかしら!目標が無いとつまらないのは人も人形も同じね!!」

「ドリーマー。執着するのは結構ですが、鉄血に不利益を被るのなら処分も考えていますからね」

「判ってるわ…!」

 

今すぐにでも出て行きたい気分を抑える。

…既に二度敗北を喫している。

 

対策を練らなければまた返り討ちに遭うだけだ。 

 

「嗚呼、なんて強いのかしら…次はどんな手を使いましょうか…」

 

いつの間にか、エージェントも居なくなっていた。

一人だけになった部屋の中で、私はずっと笑っていた。

 

 




ドリーマー、三度(知ってた)。
まぁあの程度でくたばる訳無いですよね。

そしてドリーマー=ジョージ感のパスが開通しました。
ジョージの位置はドリーマーに筒抜けですが、ジョージは一切気付いて居ません。

それと、蛇足ですがウチのジョージはフリー素材なので、面白おかしく使い潰したい稀有な思考の持ち主の方はご自由にお使いください。


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悪夢再び

暫く無かったが、久しぶりに嫌な夢を見てしまう。

この更新は本日二回目なので、前の話の見忘れにご注意を。



 

視界がぼんやりする。

身体が動かない。

酷く気分が悪い。

 

なんと言うか、二日酔いの豚より酷い顔している気がする。

 

「ーーーー」

 

誰かが何か喋っている。

 

…言い争っているような、少なくとも二人以上は居る。

聞き取れないので、声がした方を向き。

 

目の前に首が一つ落とされた。

 

「ーーーっ!?」

 

声にならない叫び。

その首は白く透き通っていた髪が、無惨にも血にまみれていた。

 

見開かれた赤い瞳は、俺をじっと見ていた。

 

涙が止まらない。

声も聞こえないし、それが誰だかすぐに出てこない。

しかし、彼女がとても大切だと言うことは理解していた。

胸が張り裂けそうなほど重い。

 

視線を上げる。

そこには、崩れ落ちる首の持ち主と…酷く蠱惑的に嘲笑う黒の女。

 

そいつが近付いてくる。

次はお前だと言わんばかりに特大のライフルをこちらに向けて。

…腕も、脚も動かない。

声も出ず、ただその場で黒の女が動くのを見るしか出来ない。

 

「っ、あ、あ、」

 

掠れるような声。

女はゆっくりと俺の右腕に手をかけ…少しずつ、力を込め…。

 

俺の右腕を、引き千切った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「アぁぁあ゛あ゛あアア゛ああ゛アアア゛アああアア゛ああアア゛ア゛アァァ!!!!?!!!」

 

耳障りな悲鳴を上げながら、ベッドから跳ね起きた。

…粗い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと周りを見回す。

 

なんてことは無い、いつもの…S-12地区にある基地の私室。

つい右腕を触り…一先ず付いてることに安堵する。

 

「指揮官さん!?どうなさいました!?」

 

ノックもせず、慌てた様子でカラビーナが駆け込んできた。

…カラビーナを見た瞬間、夢で首を落とされていた人形がフラッシュバックする。

 

「あっ…ひっ、やめっ、やめて、くれ…!」

「指揮官さん?!しっかり!指揮官さん!」

「頼む、来るな、来ないでくれ…!!」

 

カラビーナに手を引かれ、そのまま覆い被さる様に倒れてしまった。

…そっと、頭に手が添えられる。

 

「指揮官さん…大丈夫。わたくしは、ここに居ますよ」

「カラ、ビーナ…」

「はい。貴方のKar98kです。どうぞわたくしに命じてください。貴方の悪夢を一掃するわ」

「…ありがとう、落ち着いた。すまん、押し倒したみたいになって」

 

立ち上がり、カラビーナの手を引いて立ち上がらせる。

 

「…このまま初体験を迎えるかと、少し期待してましたのに」

「弱い姿を見せて女性と関係を持つのは主義じゃない」

「男性の良いところも駄目なところも、受け止めてこそ良い女では?」

「女の前で、……特に、美人の前ではカッコつけたくなるのさ、男の子はな」

 

ふと、自身が汗だくだった事に気が付く。

…カラビーナの格好は、いつぞやの露出過多な寝姿だ。

 

「すまん、汗が…」

「あら、本当に」

「シャワー使ってもらって構わない。気持ち悪いだろ」

「…別に」

「それを言ったら俺は本気でお前を軽蔑するぞ」

「ひっ…指揮官さんの蔑む様な目…堪りませんわ…」

 

自分をだいてくねくねするとても残念な人形。

…俺、こいつに慰められてたの?

 

「…しねーよ。お前はお前なんだから。まあ残念だとは思うけど…ただ、まあ…その、なんだ。……ありがとう」

 

残念だけど、有能で、気遣い出来て、割と俺なんかの下じゃ勿体無い人形。

何だかんだここで活動する前から居る、最初の俺の部下。

 

嫌えるはずなんて無かった。

 

「…わたくしは、貴方のお人形。貴方の為に何でもしますわ」

「そうか…じゃあ、これ忘れてくれると助かる」

「指揮官さんは…その、ずっとその悪夢を?」

「周期が不安定でな…忘れた頃に見ると言うか」

「この後も、また見ないとは限らないと?」

 

時刻は午前一時。

このまま起床時刻まで起きているのは流石にしんどい。

 

「…まぁ、そうだな」

「それじゃあ、指揮官さんの様子を見てませんといけませんね?」

「何が言いたい?」

「今日はわたくしが一緒に寝て差し上げましょう!」

「帰れ!」

 

とてもじゃないがそんな気分ではない。

と言うか汗でびしょ濡れのシーツやら布団やら片付けなければならないのでこんな所に女性を寝かせるなどポリシーが許さない。

 

「指揮官さん、替えのシーツならこちらに」

「何で知って…えっ、何でそんな所に収納スペースあんの…?」

 

カラビーナが床のコンクリートを一つ持ち上げ…その中に手を突っ込んで替えのシーツを取り出した。

待って待ってそんなスペース知らなかったんだけど。

 

「ベッドメイクしますので指揮官さんはシャワーを浴びて着替えてくださいね?風邪引いたりしたら承知しませんよ」

「あ、ああ…」

 

こいつ、意地でも一緒に寝るつもりだ。

…敵わんな、本当に。

 

「…大丈夫です、指揮官さん。わたくしがついてます。貴方の障害は、何であろうと…必ず、()()()()一掃するわ」

 

 




悪夢再び。

ついに自分だけじゃなく周りも犠牲になる夢を見てしまう。
けれど、人形達の献身で立ち上がる。

彼女達の前で、いつまでも格好悪い姿を見せられないからな。


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遠い春

スプリングフィールドの抱える物。



 

「おはようございま…あら、指揮官。今日はそれと一緒でしたか」

 

結局、あれからカラビーナの添い寝を許して一緒に寝てしまった。

…正直に白状すると、安心感を感じてしまいすぐに意識を手放してしまった。

 

誰かと一緒に居る、それだけでだいぶ救われるのかもしれない。

 

「スプリングフィールド。『それ』は辞めろ」

「…っ、すみません」

 

ベッドで未だ眠っているカラビーナに対しての発言を諌める。

…何となく、思うのは…スプリングフィールドはあまり怒られ慣れていない様な気がする。

 

スプリングフィールドタイプの人形は基本的に温厚だが、他人に対して親身になり時に優しく時に厳しく接してくる。

典型的なお姉さんタイプの性格をしている。

 

包容力のある年上の女性に憧れる気持ちは誰しもあると思う。

 

…話が逸れた。

 

「同じ部隊の仲間なんだ。難しいけど仲良くやってくれ」

「…貴方が、そう言うなら」

「すまないな。おい、カラビーナ朝だぞ」

「んへへ…指揮官さん…大好きです〜」

「…真正面からそう言ってくれりゃな」

「…」

 

そう呟いたら、スプリングフィールドが掛け布団を引っ剥がしてカラビーナを床に落とした。

 

「ぐぅっ!?」

「ちょっ、おい!?」

「…あ、い、いえ…これは、その」

「痛…あ、指揮官さんおはようございます…よく眠れましたか?」

「あ、ああ…お陰様で」

「ふっ、ふふ、どうですスプリングフィールド!」

 

あっ、こらお前そこでスプリングフィールド煽るな。

ユラリ、とスプリングフィールドの姿がブレた。

 

「「え?」」

 

一瞬でカラビーナの目の前に現れ、スプリングフィールドの右手が顎を撃ち抜いた。

 

「…きゅう」

「………あっ」

 

スプリングフィールドが小さく声を上げた。

 

「スプリングフィールド!」

「ひっ、す、すみません…すみません…!」

「…?」

 

つい声を荒げて名前を呼んだ。

すると、スプリングフィールドは肩を震わせて、ただひたすら謝っていた。

 

「…スプリングフィールド、落ち着いて。目を俺に合わせてくれ」

「こんな、つもりじゃ、」

「スプリングフィールド」

 

へたり込んだスプリングフィールドの前にしゃがみ、手をとってやる。

 

「落ち着いて」

「は、い…ありがとうございます…ジョージ…」

「ああ…まだ何も聞かない。話したくなったらでいい…ゆっくりと整理してくれ」

「…」

「とりあえずカラビーナには謝ってくれよ?俺も付き添うからさ」

「はい…」

「よろしい。それじゃあ先に顔を洗っておいで。またいつもの笑顔が見たいからさ」

「…小さい子に諭すみたいですね」

「俺からすりゃみんな妹みたいなもんだ」

「ふふ…グリズリーさんは年上ですけどね」

「…そうだな」

「すみません、ジョージ…」

 

スプリングフィールドが部屋から出ていった。

彼女の抱える物も、重そうだ。

 

「カラビーナ、起きろ。風邪引くぞ」

「きゅう…」

「…完全にノビてる…すげーなスプリングフィールド」

 

体術とか習った方がいいかな…。

 

 




リクエストであったスプリングフィールドの絡み…と言うか症状と言うか。
カラビーナにはまた出汁になってもらってしまった。

短くてすまない…一話に付きこのくらいしか書けないんだ。


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吹き荒ぶ春の嵐

第一部隊、編成…小隊長、グリズリー。
構成メンバーはG17、WA2000、Kar98kのライフルを主軸とした歩兵掃討を目的とする狙撃部隊。

今回の目標は以前制圧・爆破した鉄血工廠跡地の残党処理。
回収部隊の作業を援護する為に派遣する。

…何も起こらなければ良いが。


 

「大丈夫だろうか…」

「指揮官、さっきからずっと心配されてますけど…」

 

部隊を送り出し、随伴ドローンの映像を眺めながら俺は何度目か分からない独り言を呟いていた。

今日の副官であるGrG3に突っ込まれる。

 

「心配、か…流石にハイエンドは居ないと思うが」

「どうしてそう思うんですか?」

「G3がチャーミングだからさ」

「…怒りますよ?」

「本心だ…ただ、理由は…そうだな、何となく…だ。寝覚めも最悪だったしな」

 

まだ奴は動き出さない。

そんな気がするのだ。

 

「また、悪夢を?」

「…ああ。迷惑掛けるかも」

「指揮官にはいつもお世話になってます…これくらい、たいした恩返しにならないかもですけど」

「ありがとう…でも、女の子にカッコ悪いとこはあんまり見せたくないな」

「指揮官は、充分カッコいいですよ。でも、危なっかしいので自重してくれると」

「耳が痛いな」

『こちらグリズリー。副官といちゃついてるとこ悪いんだけど、報告よ』

「あいよ、どうぞ」

 

無線から呆れたようなグリズリーの声が聞こえる。

 

『鉄血の人形を発見…数は5。他に敵影はなし…意見具申、このままアウトレンジからの狙撃で片付けようかと』

「承認。やっちまえ」

『許可が下りたわ。やっちゃって』

『『了解!』』

 

WA2000、スプリングフィールド、Kar98kがそれぞれ射撃を始める。

…たった5体、ものの数秒で全て頭を吹っ飛ばされていた。

一番突出しているのはやはりスプリングフィールドだ。

正確に、そして無慈悲に相手の脳天に風穴を開けている。

 

『スプリングフィールドの姐御、凄い…どこで引っ掛けて来たんです?ボス』

「人聞きが悪いぞG17」

『…指揮官、増援です。すぐ近く』

 

スプリングフィールドの一言で全員戦闘態勢に入る。

…む、アサルトライフルが届くレンジに敵小隊か…距離を詰められ過ぎたな。

 

『指揮官、私が先導して距離を…』

『いえ、殲滅します』

『ちょ、スプリングフィールド!?どこ行くの!?』

 

スプリングフィールドが一人突出する。

ダミーは調整中の為、今は各人一人ずつしか居ない。

 

「スプリングフィールド!?何する気だ!相棒、止めろ!連れ戻せ!!」

 

俺も焦ってWA2000を素で呼んでしまう。

向こうも焦っているのかすぐに走り出した。

 

『ちょ、速っ!?あれ本当にライフルなの!?』

『あれがライフル!?じゃあわたくし達はなんですの!?』

『言ってる場合か!!』

『ああもう!ごめん指揮官!会敵(エンゲージ)!』

「マジかよ…なんで」

 

モニターの前で呆然とする俺とGrG3。

その時、カメラがスプリングフィールドの表情を捉えた。

 

…いつもの透き通るようなエメラルドグリーンの瞳が、怪しく、赤く、爛々と輝いている。

朗らかに微笑み見守ってくれる優しい表情は鳴りを潜め、ただただ獰猛な笑みを浮かべている。

 

「あれが…スプリングフィールドさん…?」

 

GrG3が呟く。

…これが、彼女の言っていた別の自分。

 

「…グリズリー、スプリングフィールドを援護しろ」

『ちょっと本気!?あの子死ぬわよ!?』

「大丈夫だ」

 

目を反らしてはいけない。

彼女の戦いぶりを見ると言った。

彼女の姿を恐れないと言った。

彼女の力が必要だと言った。

 

だから、俺は見届けなくてはならない。

 

『ハァッ!!』

 

スプリングフィールドが脚力を一気に解放して飛び上がる。

…空中で2発。

 

見事に人形…リッパーの両腕を吹き飛ばした。

そのまま目の前に着地し…上段回し蹴りで頭をサッカーボールの様に跳ね飛ばした。

 

『え”っ!?』

 

G17の驚いたような声。

それを気にせず奥のヴェスピドに発砲…それと同時に走り出し、武器を落とされたヴェスピドに肉薄。

自身の銃を片手で保持し、空いた右手で相手の腹部に掌を打ち込む…!?

 

「掌底打ち…!?母さんの技じゃねぇか…修行ってガチな奴かよ!?」

『ひはっ…!!』

 

スプリングフィールドから笑みが零れる。

掌がめり込んだヴェスピドは、口から擬似体液を吐き出しながら吹っ飛んだ。

 

『スプリングフィールド!後ろッ!!』

 

WA2000が叫ぶ。

…2本のダガーが閃く。

 

「ブルート!?この辺じゃ確認されてない固体だ…逃げろ!!」

 

ライフルの機動力で対応するには厳しい相手だ。

あのダガーは例え堅牢な装甲だろうとすり抜けて致命傷を与えてくる。

 

ブルートがスプリングフィールドの背後から飛び掛る。

WA2000が射撃するが…焦りから、外してしまう。

 

『あ…』

 

WA2000の表情が絶望に染まる。

…しかし、聞こえたのは肉の裂ける音ではなく、潰れる音。

 

『…五月蝿い』

 

足を払う。

…胴体から真っ二つになったブルートが転がる。

 

「…強い」

 

思わず呟いた。

あの瞬間、スプリングフィールドは後ろを確認せず後ろ回し蹴りを放ち…ダガーよりも先に振りぬいていた。

 

…いやいや待て、堅牢さが自慢の鉄血製人形を格闘で粉砕するなよ。

 

スプリングフィールドが上半身だけになったブルートに近づき…頭の上に踵を落とした。

耐え切れずぐしゃりと潰れた。

 

『うっ…』

 

G17が思わず目を背ける。

 

『うふふ…あははは…はぁ、あふ…ふふ…』

 

自分の血ではなく、敵の血で服を染めて笑う。

まるで狂戦士だ…。

だが、俺はその姿から…何故か、目を離せないでいた。

 

『あはっ…あははははは!!』

 

笑い声はまだ響いていた。

 

 

 




鬼神、スプリングフィールド。
これがレベルカンスト人形の実力か…(違

これが、うちの彼女です。
ジョージは何か感じたらしいですが…それはまた次回。

…と言うかこれ80話なのか。


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春の訪れ

第一部隊が帰還した。

俺の、やるべき事をしよう。


「第一部隊、帰還しました」

 

グリズリーが気不味そうに報告してくれた。

場所は輸送車両の駐車スペース。

 

部隊長のグリズリーと…血だらけで気不味そうに目を反らしているスプリングフィールドが居た。

 

他のメンバーは先に補給と修復に向かわせた。

 

「あの、指揮官…」

「グリズリー、お疲れさん。いきなり部隊長なんて大役任せたけど、流石だな。経験が違う」

「いえ、そんな…私は」

「流石親父の口説いた女性だと思ったよ…後は任せろ」

 

軽く頭を撫でて、背中を押した。

…一礼して、グリズリーは去った。

 

残ったのは、俺と、スプリングフィールドだけ。

 

「指揮官…その」

「…()、シャワー済ませて屋上に来てくれ。待って

る」

「…え」

「無事でよかったよ」

 

それだけ告げて、俺はとりあえずこの後の業務を速攻で片付ける算段を付け始めた。

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

日が随分と地平線に近づいた頃。

俺は屋上で一人空を見上げていた。

 

…残りの借金、返せるのいつになるのかな…。

 

「…指揮官、お疲れ様です」

 

そんな事を考えていたら、背後から声がかけられた。

振り返ると、未だ表情の曇ったスプリングフィールドが立っていた。

 

「お疲れ、春。異常はないか」

「はい…特には」

「そっか。なら良かった」

 

スプリングフィールドが隣まで歩いて来た。

 

「…指揮官、私は」

「良いよ、無理して言わなくて。けど…そうだな、凄かったよ」

 

母さんの武術を上手いこと模倣していた。

恐らく格闘技能を打ち込まれて最適化した結果なんだろう。

長物を持った格闘術にアレンジがされていた。

 

「怖いとか、恐ろしいとかでは…無いんですか?」

「カッコよかったぞ」

「…………それ、女性に言うことじゃないと思うんですけど」

「昔読んだコミックヒーローみたいだったぜ。特に最後のカウンター後ろ回し蹴り」

「…う、うぅ…あまり褒めないでください…」

 

春の顔が夕日に負けず劣らず赤くなっている。

 

…正直、怖くないと言えば嘘になる。

だが、それ以上に俺は魅せられていたのも事実だ。

 

「私は…ここに居ても良いのでしょうか」

「毎日春の淹れた珈琲が飲みたいから、居なくなられると困るな」

「…………………口説いてるんですか?」

「さて、どうだと思う?」

 

肩を竦めて笑った。

春は呆れた様に笑った。

 

「やっと笑ったな」

「笑わされたんですよ」

「はて、誰のせいだろうな」

「…本当に、貴方は優しいですね」

 

スプリングフィールドが伏し目がちにそう言った。

彼女に手を伸ばし、抱き寄せた。

特に抵抗はされなかった。

 

「お前の力が必要だ。だから、ここに居てくれ」

「…本気にしますよ?」

「返事は?」

「ふふ…強引ですね。…………はい。こんな私ですが、貴方の力になりましょう」

 

彼女は微笑む。

その顔は、夕日よりも眩しくて優しかった。

 

「…誰にでも優しいんでしょうね、貴方は」

「放っておけない性分でない」

「いつか、痛い目を見ますよ」

「わかってるさ」

 

そう言うが否や、スプリングフィールドが俺の襟を引っ張り仰向けに俺を転がした。

 

「いっ」

「…そうやって私の自制を試すんですから」

 

床に仰向けになった俺の上に座る。

…軽いなぁ。

 

「春。駄目だ」

「…これ以上は受け入れてくれないんですね」

「悪いがここから先はまだ踏み込ませるつもりは無い」

 

あくまで人と人形の線引き。

間違えてはいけない。

 

「…分かってます。貴方はそんな人だって…だから着いていく気になったんですから」

「ありがとう春。俺が押さえてみせる。だから、存分に力を奮ってくれ」

 

俺はこの日、彼女の凶暴性を受け入れた。

 

 




スプリングフィールド回、終了。
凶暴さと穏やかさの二面性を持つ彼女を受け入れた。

しかし、いつの日か…彼女達の想いに答えなければいけない日が来る。

答えを出さなくてはならない。


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思い出

ある日、副官IDWに正規軍時代の話をせがまれた。


「指揮官指揮官、聞きたいことがあるにゃ」

 

ある日の執務室。

本日の副官はIDWだ。

 

「その書類なら要らないからシュレッダーかけといて」

「はい…ってこれじゃないにゃ」

「聞きたいこと?言ってみ」

「指揮官は元正規軍所属って言ってたけど」

「誰だそれ言ったの」

 

少なくともその履歴を知ってるのはこの基地に居ない筈…。

 

「スプリングフィールドさんにゃ」

「何でだよ…」

 

あれから、スプリングフィールドは一緒に出撃していた部隊員に…特にグリズリーに謝りに行ったらしい。

その夜グリズリーと飲んでるのを見掛けたのでどうやら打ち解けたらしい。

 

話が逸れた。

確かに彼女なら知っていそうだが…。

 

「昨夜飲み会で聞いたにゃ」

「えぇ…」

「それで、正規軍の自立人形ってどんな感じだったかにゃって」

 

正規軍の戦術人形について、か。

アレはグリフィンの抱える言わば民生用とは段違いの性能を誇る。

 

…光学兵器を装備しても問題ない出力のジェネレーターとかな。

文字通り話にならないレベルの差がそこにはある。

 

「あいつ等は確かに強力だ…けど、ま…華がない。一緒に戦うならお前達のほうが楽しいかな」

 

一言で言うならば無骨。

戦闘に特化させる為に余分な機能は必要ないと言わんばかりに機械とさせている。

兵器としてみるならむしろ戦術人形の方が欠陥品なのだろう。

 

「へぇー…」

「…あ、でもいたな…とびきり美人なやつ」

「人形?」

「え?ああ…」

「指揮官が人間の女を口説いてるトコ見たこと無いにゃ…」

「居ないからなぁ…」

 

そう言えば本部の衛生部門のオイゲンちゃん、元気かな…連絡先貰ったしたまにはデートにでも誘おうか。

 

………………あれ?端末に入れといた連絡先が消えてる。

 

「…?」

「どんな人だったにゃ?」

「え?そうだなー…二人いたんだけど、片方がもう片方にべったりでな」

 

懐かしい。

たまたま声を掛けたらすぐ打ち解けて背中預ける仲になったのを思い出す。

 

「べったりだったんだがちょっと話したら友好的になってくれてね。冷静沈着なんだけど不測事態に弱いのがまた可愛いとこだ」

「なんか、IDW達とあんまり変わらないのにゃ」

「そうだな…だから、あいつも悩んで苦しんでたな」

 

一人でいるのを見かける度にしょぼくれていた。

その都度声を掛けてやったら懐かれたと言う具合だった。

 

「やっぱり指揮官はタラシにゃ」

「そういう事言わないでくれよIDW。それに、今は目の前の君の事でいっぱいさ」

「えっ、この流れで口説かれてる…!?」

 

…そう言えば、軍辞める前に何か言われたっけな…。

確か、誰かの為にしか戦えなかった私を支えてくれてありがとう…だったかな。

 

その後に何か小声で言ってたけど。

 

「…そう言えば、片方って言ったけどもう片方はどうしたにゃ?」

「…やっぱ突っ込む?…もう片方か…」

 

ちょっと頭が痛くなって来る。

初対面の時に凄く見下されててあんまり相手してなかったんだよな…。

 

「…で、無視して相方と交流してたら…」

「…そりゃ自分にべったりだった子が指揮官に口説かれてそっちになびいたら割り込んでくるにゃ…」

「そこまで言ってないんだけど」

「日頃の行い見てれば分かるにゃ」

「そうか?嬉しいねぇ、しっかり見てくれるなんて」

「そう言うのいいから続き話してにゃ」

「ウッス」

 

どこまで話したっけな。

あ、そうそう。

 

それからなぜかあの手この手でこっちの意識を向けさせられる様な事されたんだよな…。

 

一度風呂入ろうとしたら既に水着姿のそいつが居たりして。

 

「…順当にゃ」

「話やめていいか?」

「面白いから続きはよ」

「…キャラがちがくない君?」

 

なんか視線を感じると思ったら目を閉じてるそいつと目があったりな。

 

「目を閉じてる?」

「ん?ああ、そいつ…ずっと目を閉じてるんだわ。理由は結局知らなかったけど」

 

俺が軍を辞めるとき、何も言わずにどこか行ってたな。

 

「その子も口説いたりは?」

「…………冗談だろ?()()()()()()()()してるんだぞ」

「それは…何という」

 

そんなんに迫られても正直しんどい。

 

「…休憩は終わりにゃ指揮官。楽しかったけどにゃ」

「お、もうそんな時間か。片付けよう」

 

いそいそと書類の整理にかかる。

しかし…あいつら、元気にしてるかな。

 

 




と、言うわけで思い出話ですが彼女達の登場フラグです。

…いつ出るかなぁ。


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前線の休息①

何てことは無い、ただの日常。

激戦の合間にある、得難い日々。

…たまには、そんな日々を謳歌したって良いだろう?


 

「…え?酒?」

「おう。久しぶりに一杯どうだ相棒」

 

訓練終わりの夕方に差し掛かった時間帯。

通路でたまたま顔を合わせたWA2000にそんな誘いをした。

 

「…アンタ、そんな物持ってたっけ」

「酒肴品の補給に混ざっててな。割と上等で誰も遠慮して欲しがらなかったんだが…それで手元に来ちまってな」

 

別に遠慮せず欲しい物持って行ってもらって構わないのだが…。

 

「ふーん…まぁ、どうしてもって言うなら…付き合ったげるわ」

「頼む…と言うか、絶対誰か来るしお前が一緒なら大事にはならないと思うからさ…」

「…自分の部下くらい自分で何とかしなさいよ」

「耳が痛い…けど、まぁ…助けてくれないか相棒」

「都合が良いわね…でも、久しぶりね…アンタと飲むのも」

 

案外乗り気っぽいな。

さて、どこで飲もうか…。

 

「部屋は…たぶん、来るな…」

「いっそ談話スペースのバーで良いんじゃない?」

「あそこはずっと人居るだろうに」

「…何よ、私に人に見られたら困る事でもするって言うの?」

「して欲しいのか?」

「……………このっ、スケベ!!」

 

思いっきり脛を蹴られた。

そのまま痛みで倒れて床を転がりまわった。

 

「痛いじゃないか…」

「痛くしたの。ったく…今夜、屋上で待ってるわ」

「おう」

 

顔を赤くしながら相棒が足早に去っていった。

 

「さて…コーヒーでも貰いに行こうかな」

 

 

 

 

 

___________________________

 

 

 

 

最近の本部からの補給物資の中に、コーヒー豆が混ざるようになった。

と、言っても本部でスプリングフィールドがやってた喫茶店がS-12に移転したような物なので、その辺の物がこっちに流れてきているんだとか。

 

「…幸せだ」

 

談話スペースのカフェでコーヒー片手に社内報を読んでいた。

というか、コーヒーが旨い…。

これだけで何て言うか…頑張った甲斐があった気がすると思える。

 

「ふふ、ありがとうございます指揮官」

 

エプロン姿のスプリングフィールドがおかわりをくれた。

こっちに所属するや否やカフェの申請を持って現れた時、俺は速攻で印鑑を押したのは記憶に新しい。

スプリングフィールドの性格もあり、そりゃもう賑わっている。

 

「スプリングフィールド、グリズリーと飲んだんだって?」

「あら、ご存知なんですね。そうですよ」

「打ち解けられたようで何よりだ」

「心配してくれたんですね…ちょっと嬉しいかも」

「お前…こっちは本気で心配してたんだぞ」

「その分私が指揮官を独占してますからね」

「怒るぞ」

「うふふ、ごめんなさい…所で」

 

…あれっ、戦闘中じゃないのにスプリングフィールドに瞳の色が…オレンジになった。

緑と赤の中間の臨戦形態だと…!?

 

「…用事を思い出したんだった」

 

嫌な予感がして立ち上がろうとしたら、近くに居たダミーに優しく両肩を押されて座らされた。

逃げられねぇ!!

 

「わーちゃんと、飲むんですってね」

「…どっから聞いた」

「わーちゃんが珍しく上機嫌でしたからね。聞いたらすぐ教えてくれましたよ」

「相棒ォ…」

 

君そんな残念な子だっけ…。

 

「二人きりですか?」

「え?ははは、どうだろうn」

()()()()()()()?」

「…ハイ」

 

何故だろう。

最近基地内で俺の立場が弱い様な気がしてきた。

 

「勿論、私の席も用意してくれてるんですよね?」

「…勿論」

「流石指揮官ですね♪それじゃあ今夜、おつまみ用意してお邪魔しますね♪」

「ああ…」

 

危険人物その1が参加決定しました。

…やばい、WA2000だけじゃ早速抑えられない…。

 

トカレフに救援を要請するか…。

 

 




ヤマもオチも無くただ人形と駄弁っていただけでした。
たまにこんな奴を書きたくなるんだ…許して?

WA2000、トカレフ、スプリングフィールドが参加決定。
増やすか…どうかは、ちょっと苦労しそう。


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前線の休息②

ほのぼのを書くとAR小隊加入までが遠くなるんですよね…。
そろそろ出したいんですが…ほのぼの回で参戦か戦闘中の合流かかなり悩ましいんですよ。

取りあえず酒の席は書きます。


 

夜。

久方ぶりに晴れた為、基地上空は星が煌いていた。

 

「綺麗…」

 

そう呟いたのは、先に来ていたトカレフだった。

 

「早いな、トカレフ」

「あ、指揮官!…あ、あはは…お誘いありがとうございます。ちょっと気が逸っちゃって」

「そうか」

 

グラスは4つ、瓶は1つ…4人で飲んでるとすぐ終わってしまいそうだ。

折りたたみ式の机を広げて設置する。

 

ちなみに酒はアップルワインという物だ。

よくこんな物が残ってたな…。

 

「…私以外はまだ来てませんね」

「そうだな…」

 

しばし、トカレフと並んで夜空を見上げていた。

 

「…私達が戦ってきたこの場所の空は、こんなに綺麗だったんですね」

「そうだな…俺も、ここまでの夜空は初めて見た」

「指揮官もですか?」

「ああ…って、空なんて見てる暇、無かったからな…」

 

追い詰められてギリギリの生活をしていた。

こういったものは、余裕がある時にしか有り難味を感じられないというのがアリアリと実感できてしまった。

 

「金が無いと、心に余裕も無いのか…」

「…ジョージさん。女の子の前でそんな話、良くないですよ」

 

俺の借金事情を知るトカレフ。

こんな呟きもたぶん中身を分かってたのだろう。

 

「ごめんごめん…君の前で辛気臭い話はあれっきりにしないとね」

「…で、あんた達いつまでいちゃついてるの」

「わーちゃん、待ってたぞ」

「張っ倒すわよ」

 

遅れてやってきたWA2000に声を掛ける。

…このあだ名で呼ばれるのは彼女はあまり好きではない。

例外としてスプリングフィールドには呼ばれても反発しない。

 

「冗談だWA2000…ただ、やっぱりお前らの名前呼びにくくてな…」

「…リサ」

「…え?」

「リサで、良いわよ…」

「…そうか」

「…も、持っていかれた…」

 

何やらトカレフが落ち込んでいる。

持ってかれたって…腕でも取られたのだろうか。

 

「リサ」

「ふふ、何かしら」

「ちょっと…いちゃつかないで下さいよ!」

「…いや、アンタにもそっくりそのまま返すわよ」

「こんばんは皆さん。あら、もう賑やかですね」

 

手提げを持って最後に現れたのは、春だった。

瞳の色は…良かった、いつものエメラルド色だ。

 

「春、来たか」

「私が一番最後みたいですね…ふふ、ジョージったら…懐かしいメンバーで揃えましたね」

「…あー、そうだな。まだ本部にいた頃知り合った奴らばっかだもんな」

 

いやに懐かしく思える。

あの頃も毎日騒がしくて…。

 

「…いや、一人足らない」

「一人…ああ、あの子ね」

 

M4A1。

あの一番問題児だったアサルトライフルが、まだ居ない。

 

「…AR小隊、か。私が本部に居た頃はたまに見かける程度だったけど…あれから前線に出たらしいわ」

「そっか…」

 

…元気にしてるだろうか。

 

「…ジョージ。心配ですか?」

「まぁ、な…」

「でも、ジョージさんが思ってるほどあの人は弱くないと思いますよ」

「…だな。あいつは強い」

 

また、いつか笑って再会できると良いな。

 

「さ、乾杯しましょうジョージ?」

「え、ああ…すまん、待たせたな」

 

…願わくば、誰も欠けない日常を。

それは、贅沢なんだろうか。

 

 




気が付けば研修時代のメンバーで集まっていた。

あと一人…いつか、再会できると願って。


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幕間ーM4A1ー

同刻、同じ空の下。
彼女はそこに居た。


 

夜空を見上げる。

…見渡す程の、満天の星空だ。

 

あの人も、今この空を見上げているのだろうか。

 

「おい、M4。いつまで起きてるつもりだ?」

「姉さん…」

 

立ち寄った基地の屋上で、私は空を眺めていた。

隣には同じ様に髪に緑のメッシュの入った人形が座った。

M16姉さんだ。

 

「…星が、綺麗だなぁって」

「星か…たまにはこんな空を肴に飲むのも悪くないか」

「もう、そればっかり」

 

この人は何かにかこつけては飲もうとする。

私達人形はアルコールで機能が阻害される訳じゃないから別に勝手なのだけど。

 

でも、今日の私はちょっと変みたいだ。

 

「姉さん、そのお酒…私もちょっと貰っていいですか?」

「…珍しいな」

「たまには、良いじゃないですか」

「………変わったな。前まで見てると危なっかしくてしょうがなかったのに。急に逞しくなって」

「…指揮官に、いつまでも弱い姿を見せたくないもの」

「指揮官、か…」

 

姉さんがあまり面白くなさそうに相槌を打つ。

 

「その指揮官ってのは、やっぱり…アイツか」

「ええ…他に誰かいると?」

「…そんなにあの優男が良いのかね」

 

姉さんがいつも飲んでいるアルコールをグラスに分けてくれた。

受け取って、一口舐めるように飲んだ。

 

「…苦い」

「最初はそんなもんだ…で、話したい事あるんだろ」

 

やっぱり、姉さんにはお見通しだった様だ。

 

「…本当は、会いたくて仕方ないんです。でも、任務もあって…私は、あの人の配属先も知りません」

「誰も知らなかったもんな…あの指揮官の居場所」

 

寄った基地の指揮官に訪ねても、知らないの一点張りだった。

 

「っく、あの人は…何処に居るんでしょう」

「…お、おい…いい飲みっぷりだけどあんま無理すんなよ…?」

「うえぇ…ジョージさぁん…」

「…駄目だこりゃ」

 

会いたくて会いたくて、私の電脳はいつショートしてもおかしくない程だ。

 

「ったく…M4。明日にはここ…S-11出るんだから。キャンベル指揮官にちゃんと挨拶するんだぞ?」

「あい…」

「…それと、ほら」

 

姉さんに渡されたのは…グリフィンが発行している社内報だった。

…何故こんな物を?

 

「…見てみろよ、ここ」

「…『新人指揮官、ジョージ·ベルロックが鉄血ハイエンドモデルドリーマーを撃破…最前線で快進撃』…姉さん、これって」

「所属は書かれてないけど恐らくアイツだろう。結構骨のあるやつみたいだな」

「…頑張ってるんですね、ジョージさん」

 

同じ空の下で、めげずに戦い続けているのでしょうか。

 

「姉さん、お代わりください」

「M4?」

「私も、頑張らないと」

「…そうだな」

 

いつか、貴方の指揮下で戦えるその日まで…私は、生き残って、強くなってみせます。

 

…この後、飲みすぎて二人でダウンしていたところにAR-15が来て怒られてしまった。

 

「指揮官、待っててくださいね…」

 

次の目的地は…S-12地区だ。

 

 




ところ変わって後方にて。
…おや?キャンベル指揮官は確か。

なにげに40話ぶりの再登場でかなり困惑している…。


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前線の休憩③

たまには、こんな穏やかな時間を過ごしたって良い。
責任を背負った者に自由な休息を。


「「「「乾杯」」」」

 

グラスをぶつける音が木霊する。

4つのグラスが小気味よく鳴る。

 

「…思ったより甘いなこれ」

「私は好き、かな」

「わーちゃんは甘党ですからね。珈琲に砂糖入れないと飲めませんし」

「ちょっと、スプリングフィールド!?」

 

それぞれが舌鼓を打つ。

今思うと、美少女侍らせて酒飲んでるとか大層な身分だなと思う。

 

(…見た目は美少女でも、皆戦友なんだよな…)

 

修羅場を潜り背中を預けた仲なのだ。

変に遠慮がなく心地良い距離感。

 

「ジョージさん」

「…ん?どうした?」

「えへへ、何でもないです」

 

トカレフがあぐらをかいて座っていた俺の上に座り、胸に背中を預けてきた。

 

「何でもない癖に随分と距離が近いな」

「…何となく、です」

「そうか」

 

頭をポンポンと叩く。

この子も、だいぶ安定はしてきたなと思う。

 

…でも、大抵この子の前で無茶して泣かしている事実もある。

 

(クルーガーに悪いけど、タイタンの話は蹴るべきだろうか)

 

興奮剤の使用が前提となるあの外骨格。

明らかに俺の寿命は削れている。

 

(これ以上の使用はホント、どうなるか)

 

酒を飲みながら考えがどんどん悪い方に向かっていく。

体質、ドリーマーと考える事が山積みだ。

 

特にドリーマー。

 

(あいつなーんで俺なんかに固執してんだ…?)

 

最大の謎はそこである。

人間を殺害する為の命令を受けている筈の鉄血製人形達。

 

それが何でまた目に付いた者ではなく特定個人を狙うのか。

 

(…考えても埒が明かねーや)

 

酒が入るとどうしても思考が後ろ向きになる。

そんな時、トカレフがじっとこっちを見ていたのに気が付いた。

 

「…どうした?」

「…他の女の事考えてますね!?」

「「何ですって!(ガタッ」」

「座ってろ」

 

何だこれ。

 

「私と言うものがありながら他の女にうつつを抜かすとは良い度胸ですね。そろそろ教育が必要かしら」

「春、待て落ち着け。目の色変わってんぞ」

「ジョージ。死ぬまで相棒でしょ?()()相棒なんでしょ?」

「わーちゃんは酒に弱いなぁ…」

「ジョージさぁん…」

「トカレフは可愛いなぁ(逃避」

「誰の事考えてたんですか」

「真顔でなんてこと言うのトカレフちゃん」

 

そんなに強いアルコールじゃない筈なのになんか三人ともリミッター振り切れてないか?

 

「言わないとぎゅってしますよ」

「されたい所だけど手が、春っ、あっ、ちょっと、首、それ首っ!!」

「ぎゅー」

「トカレフ、離して!逃げられない!」

「一生離さないわよ相棒!」

「素面で言われたかったよ相棒!」

 

ぎゃーぎゃーと屋上が一気に喧しくなる。

すると、屋上のドアが乱暴に蹴り開けられた。

 

「うるさい!今何時だと思ってるの!!」

 

パジャマ姿のグリズリーに鉄拳を貰った。

解せない。

 

…なお、三人とも今日の事を覚えてなかったらしい。

後日聞いたら三人とも顔を赤くして知らないと答えた。

 

 




新たなオチ要員、グリズリー。

凄い今更なんですが、基地のメンバーの紹介とか要りますかね…?


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再会

朝一番に掛かってきた連絡。
本当に唐突に、その時はやってきた。


 

『ジョージ指揮官。言い忘れていたが本日付けでS-12地区を拠点としてハイエンドの動向を探る任を帯びた部隊がそちらへ到着する』

「もっと早く言え!!」

 

朝イチ、いきなりクルーガーから秘匿回線が通ったと思えばこれである。

隣に立っていたスプリングフィールドも苦笑いしていた。

 

『その件に関しては本当に申し訳ない…一部の者の暴走を許してしまった結果だ』

「暴走?」

『存外、恨みを買っている様だぞ』

「俺が?何の接点も無かったのに?」

『本部勤務の際に曲がりなりにもIOP製ハイエンドに懐かれているんだ。研修生はいざ知らず指揮官からはそれなりにねたまれるだろう』

 

…成る程。

なんか、ここに飛ばされたのもそれが原因な気がする。

 

「で、どこの小隊が来るんだ?またネゲヴ小隊?」

『AR小隊だ』

「春!準備!!出迎えだ!放送の電源入れろ!」

『…指揮官?』

「あー、あー、聞こえてるかな?忙しいところ申し訳ない。新しくAR小隊が基地に駐屯する事になった…俺からは一言だけ。…諸君、派手に行こう」

『ジョージ!!』

「ヒッ、あ、はい!」

『…気持ちが高ぶると周りが見えなくなるのは…母親譲りか』

「親戚の叔父さんムーブしないでくれないか…」

 

とても居た堪れない。

そんな事より。

 

「本当にAR小隊で間違いないんだな?」

『ああ。彼女達を頼んだぞ』

「…任せろ」

 

…遂に来るんだな、M4。

 

「指揮官、大変です。ヘリが1機こちらへ向かってきています」

「早くない!?ヘリポート行くぞ!!」

 

クルーガーの回線を切断し、俺は指揮官に配布される赤い外套に袖を通した。

…春が、その様子をずっと見ていた。

 

「…どうした?」

「いえ…とうとう、それを着る事になったんですね」

「あれ、見た事無かったか?」

「私がここに来てからは見た事無いですね…ジョージ。指揮官就任おめでとうございます」

「ははは…春、向こう出る前に言わなかったかそれ」

「あら、そうでしたか?」

 

何となくおかしくなったので、二人して笑いあった。

 

「いちゃついてないでさっさと行きなさい!!」

 

執務室のドアを勢い良く開いたリサからお怒りの一言が飛んできた。

 

 

 

 

_________________

 

 

 

ヘリポート。

…1機のヘリが着陸する。

 

「AR小隊、ただいま到着しました。初めまして指揮…か…ん…」

 

…ああ、久しぶりに彼女の声を聞いた。

びっくりして目を丸くしている。

 

両サイドに立っていた3人が明らかに俺の事を警戒している…まぁ、仕方ないか。

 

「久しぶり、M4」

 

こう言う時に気の利いた一言が出ないのが悲しい。

けど、飾らない言葉の方が、こう言う時には良いのかも知れない。

 

「あ、ああ…指揮官!」

 

隣の姉の制止を物ともせず、M4が飛び込んできた。

全力で。

 

「ぐぉッ!?」

 

踏ん張りが利かず一緒に後方へ転がって言った。

 

「指揮官!指揮官!ああ、お久しぶりです…!やっと…やっと…」

「ああ…やっと会えたな」

「う、ああ…どうして、涙が」

「はは…なんだ、しばらく見ないうちに泣き虫になったな」

「ち、違うんです、これは」

「…良いよ。今だけは好きにして」

「はいはいお二人さんそこまでな」

 

俺の上に覆いかぶさっていたM4をM16がひっぺがした。

 

「…久しぶりだな、お前ら」

「私としちゃまさかまたアンタの世話になるなんてな」

「任せろ、しっかり面倒見てやる」

「…なんか、前見たときと比べて変わったわね」

 

桃色の髪の人形が呟く。

確か、彼女は…。

 

「AR-15、よろしくな」

「…ええ。前に会った時よりは期待出来そうね」

「…うーっ」

 

そして、犬よろしく警戒心むき出しの人形が一人。

 

「SOPMODⅡ。よろしくな」

「…ふん」

「…手厳しいな」

 

M4以外からの信頼は無いに等しい。

しかし、何の因果かやり直しの機会が回ってきたらしい。

 

「…ジョージ指揮官、これから…よろしくお願いします」

「ああ。歓迎しよう、盛大にな」

 

これでようやく、揃ったんだ。

 

「ジョージ!仕事支えてるんだから!」

「ああ、すぐ行く()()!」

「…リサ?」

 

ぼそり、とM4が呟いた。

…あ、なんか嫌な予感が。

 

「…指揮官?」

「な、なんだ…?」

「あの女、誰ですか」

「誰って、WA2000だよ。本部に居たろ?」

「…どうしてWA2000と呼ばないのですか?」

「え、呼びにくいだろ?」

「彼女と特別親しい訳では無いんですね?」

「あ、ああ…」

 

M4の表情は見えない。

…後ろに控えていた3人は当の昔に春が案内して連れて行っていた。

 

ちょっと、ストッパー居ないんだけど。

 

「ジョージ。書類忘れてるわよ」

「ああ、すまんすまん。M4、これ命令書な」

「距離近くないですか!?」

 

M4が急に叫ぶ。

俺と相棒の距離が近い…?

 

「そうか?相棒」

「別に、いつも通りでしょ」

「いつも…!?」

「ちょっと、ジョージ。アンタ指揮官なんだからいい加減相棒呼び止めなさいよ」

「じゃあお前も指揮官って呼べよ」

「呼んでるじゃない」

「いや呼んでないが」

「嘘」

「本当」

「目の前でいちゃつかないでくれませんか!?」

 

いちゃついてる訳じゃないんだが…。

 

「えっ、というか、何ですか二人とも!?恋人通り越して夫婦の距離感じゃないですか!」

「なっ…だ、誰がこんなのと!」

「こんなのってお前。上司だぞ」

「WA2000!貴女やっぱり前から思ってましたけど危険です!」

「いやアンタに言われたくないわよ」

「まぁ、なんだ…こんな感じで緩いけど。慣れてくれ」

「頭がですか」

「…喧嘩売ってるのかしら。買うわよ」

「貴女なんて怖くありません!ぶち転がしてやりますよ!!」

 

そう言ってリサに飛び掛って…そのまま背中から床に倒された。

…あれ、それ母さんの真空投げ…。

 

「どうして…こうなるの…」

 

仰向けになったM4が顔を覆って呟く。

いや、俺も聞きたい。

取りあえず手を差し出して立たせてやった。

 

「リサ。先に行っててくれ」

「急いでよ」

 

…さて、ようやく落ち着いて話せる訳だが…。

 

「M4、会いたかったよ」

 

これからまた、騒がしくなりそうだ。

 

 

 




第2章『紙幣と運命のマリオネット』完。
第3章『借金完済編』へ続く。

そんな訳で、M4との再会で一区切りと致します。
割と唐突でしたが、これ以上伸ばすと再会の理由が難しくなるので断行しました。

ぐだぐだな方が、却ってらしいかなと半ば開き直りの様な感じですがね。

それでは、第3章で会いましょう。


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第三章 目指せ借金返済ー目標1000万ー
目指せ借金返済ー目標1000万ー


AR小隊が合流してから、三ヶ月の月日が流れた。

ある日、執務室は。


「次!ローテーション組んで追い込め!」

「スカウト!報告は!」

『鉄血ハイエンドモデルのスケアクロウを発見しました!』

「仕留めろ!」

『こちら第一部隊、交戦開始します!』

 

指揮室で慌ただしく指揮をする。

ドローンの映像には、GrG3が榴弾でスケアクロウを粉砕した瞬間が映し出されていた。

 

「最高だGrG3!愛してるぜ!」

「…指揮官?(ニコォッ」

「ひえっ、M4…いつの間に」

「先の戦闘の報告に参りました…それで、今のは?どなたに?」

 

M4の笑顔が怖い。

 

「第一部隊が無事スケアクロウを狩ったからな…出迎えに行かないと」

「GrG3ですね」

「エスパーかよ」

 

報告書を受け取る…手を握られた。

固い。離して。

 

「M4?」

「…指揮官、私達の時間は…まだ埋められていません」

「…そうだな」

「だから、その」

「妹に手ェ出すなっつってんだろこの野郎!!」

「うおおおぉぉっ!?」

 

飛んできた灰皿をマトリックスばりに回避する。

こ、腰がっ…!!

 

「油断するとすぐこれだ…!M4、遅いから心配した。戻るぞ」

「ね、姉さん待って、私まだ」

「知らん。行くぞ」

「あ〜〜〜〜」

 

M4はM16に引きずられていった。

最近の俺達の距離感は、そんな感じだ。

 

必要以上に接しようとすると、保護者の妨害が入る。

 

「…ま、そうだよな」

「入るわよー指揮官。…何か、貴方AR小隊と何かあったの?ずっとそんな感じだけど」

 

グリズリーがフロッピーの束を持って入ってくる。

俺は、ついうっかり口を滑らせ…。

 

「グリフィンに入る前に…な、何でも無い」

 

あっぶねぇぇぇぇぇぇ!!

そういやこいつ委員会の回し者だったじゃねぇか!!

 

最近残念な姿しか見てないから忘れてた。

こいつに俺とAR小隊の確執がバレると拙い…。

 

「それにしても、最近はよくハイエンドと戦闘するわね。何かあったの?」

「え?ああ…簡単だよ。奴らの首に懸賞金が掛かった」

 

そう、それが俺のハイエンド狩りの正体。

 

「狩りまくれば借金の査定に色付けてくれるらしいからな!!」

 

ここに、借金返済作戦がスタートした。

 

「え、指揮官借金してるの?」

「あれ、知らなかったか?まぁ、ちょっとした事情でグリフィンにな」

「へぇ…大変ね」

「まぁな…でも、君に会えたし悪くは無かった」

「ちょっと、やめてもらえる?失恋した女口説くなんて趣味悪いわよ」

「あー………すまん。口説いたつもりは無かった」

「無自覚…ジョンよりタチ悪いわね」

「親父よりマシだと思いたい」

「悪いけどジョン以下よ。あいつ、意識して口説いて手込めにしてたし」

「人としては最低じゃね?」

「惚れた弱みね」

「さいで…」

「あと、私アンタより歳上よ?こんなおばさん口説くんじゃないの」

 

机の上の散らばった書類を目にしてため息を吐いた。

まだまだやる事は山積みだ。

 

「ま、頑張んなさい。正しい事をするなら協力は惜しまないわ」

「サンキュー、グリズリー」

 

AR小隊を抱えた事により、少しずつ他の基地からも仕事が回される様になってきた。

お陰でハイエンドを狩れる機会にも恵まれてきた。

問題としては…。

 

「ドリーマーの目撃情報が、無い…か」

 

未だ見つからないドリーマー。

奴はどこへ消えたのか?

 

「…こんなに奴を焦がれるとはな」

 

 




第三章スタート。

ジョージの借金はハイエンドを倒すたびに査定され減っていく。
つまり、戦えと言う事だ。


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いつもと違うユメ

徐々に、意識が傾いて行く。

いつもの悪夢ではない。
何故、こんな物を見てしまったのか。


 

ーーー夢を見ていた。

 

手を伸ばしても届かない。

声を上げても聞こえていない。

走り出しても追い付け無い。

 

なのに、何故俺は奴へ焦がれるのか。

俺はーーーー

 

 

「……………なんて夢だ。まるで初恋のガキだ」

 

 

朝。

なんてことは無いいつもの朝。

けれど、見た夢だけは違った。

 

いつもなら、夢を見れば必ず絶叫していた。

 

だが…今日のアレはなんだ?

 

思わず、歯の埋っている肩に手をやる。

コレのせいだと思いたくない。

 

「………さっさと、始末してやる」

 

俺と相棒を散々弄んだツケは、重いぞ。

 

起き上がり、備え付けの洗面台で顔を洗う。

…鏡に映った顔は、正直、血色がいつもより良くて、気味が悪かった。

 

「………何なんだ、一体」

「指揮官さん、おはようございます」

「おはよう、カラビーナ…鍵、まだ開けてないんだけど」

「開けました!」

「お前な…」

 

何時ものようにはいってくるカラビーナに呆れて振り返ると…彼女は驚いたような顔をし、俺を凝視していた。

 

「…どうした?」

「指揮官さん、今日は随分と顔色が良いです。夢は見なかったみたいですね」

「…そうか?」

「はい!今日は5割増で素敵です!まるで意中の女性が見付かって気合いの入った様な感じですね!」

 

ヤケに具体的な指摘をされて言葉に詰まる。

 

「ありがとう…君は今日もキュートだな。リップ変えた?」

「…………えっ、どうして分かったんですか?」

「…………なんてな。着替えるから出てくれ」

「ちょっ、指揮官さん!?やっぱり指揮官さんは私を見てくれてるんですね!?嬉しい!結婚して下s 」

 

ドアを閉めた。

…しかし。

 

「…冗談だろ?俺が…ヤツに…惚れてる?」

 

いやでもぶっちゃけ顔好みだし…。

待て待てアレの外見はまだ16かそこらだぞ…。

 

カラビーナに言われたのも相まって頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 

「有り得ない…第一人形は守備範囲外だ…それに、相棒をボロボロにしたやつだぞ…」

 

 

そんな奴を、どうして…、

そこまで考えて、頭を振った。

 

たかが一度見た夢で動揺し過ぎだ。

 

「………きっと欲求不満だ、これは」

 

最近処理してなかったしな…。

風俗行こうにも足を向けた瞬間誰かから連絡来るし。

 

「なら、わたくしが!!フリーですよ!指揮官さん!!」

「当然の様にピッキングすんじゃねぇ!無駄に有能なのがホント残念だな!」

 

どうしてこの子はこうも残念なんだろうか。

 

「…気持ちは、嬉しいけどな。やっぱり…戦友をそんな目で見れない」

「そのくせわたくし達を夢中にさせるんですもの。罪なお方ですわ」

「性分、かな。人形ってわかっててもつい女性扱いしちまう」

「いつか、襲われても知りませんわよ?」

「相手が君じゃない事を祈るよ」

「あら、わたくし以外がお望み?」

「あ、いや…決して君に魅力が無いわけじゃ」

「…ふふっ、冗談ですわ。でも、わたくしに魅力が足りないなら、振り向かせるまで努力すれば良くってよ」

「強かだな」

「わたくしをこんな風に育てた責任、とってくださいまし」

 

バッチリウィンクされてしまった。

…責任、か。

 

そう言えばグリフィンには人形を個人で買い取り様々なリミッターを外す「誓約」と言うシステムがあるらしい。

 

…しかし、誓約か。

本当に人間の代わりを果たす様になったんだな。

 

「…考えておく」

「…えっ?」

 

私室から出る。

誓約の話はとりあえず保留。

とにかく、ドリーマーを片付けないと。

 

「…金が無い」

 

ただその一言だった。

 

 

 




着地地点は決めてありますが、何ページかかるかさっぱり考えておりません。

完結の予定はありますが、どのくらい長くなるかわかりません…でも、お付き合いしてくださるとか嬉しいです。


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BT-4040

結局、外骨格の件は断った…のだが、やっぱり…金の力には勝てなかったよ…。


 

「久しぶりね指揮官。最近来てくれないから寂しかったわ」

「久しぶり、ペルシカ…俺は全く来たくなかったんだがな…」

 

場所は16Lab。

今回の用事は…三ヶ月ぶりのタイタン稼働実験である。

 

三ヶ月前に俺が断りを入れたのだが、開発費や材料費など諸々を借金に計上すると脅され折れるしかなかった。

 

今日の護衛は9A-91とG17。

二人共外で待機している。

 

「そう言わずに。協力してくれるなら給金も弾むし」

「内容が内容じゃなかったら喜んでたんだけどなぁ…」

 

実験室に鎮座しているタイタンに近付く。

 

「あ、そうそう。AIもアップデートして貴方好みにしたから。きっと気に入るわ」

「前のあのちょっと無機質な機械音声を?アレはあれで味があって気に入ってたんだが」

「あら、そっちもイケるクチかしら?」

「…帰っていいか?」

「冗談よ。BT-4040、起きなさい」

 

お、型番が付いたのか。

いやしかし番号が振られただけなのに一気にそれっぽくなるな。

 

…ちょっと待って、誰も装着してないのに動いてるぞ!?

 

「今回のアップデートは自律行動とAIの強化よ」

「えっ、じゃあ俺要らなくね!?」

『何言ってんのさ指揮官!二人なら強力だよ!』

「……………えっ、バンガード?」

 

聞こえてきた音声はどことなく活発さをイメージさせる女の子声。

 

「俺好みってそういう事…」

「好きでしょ?女の子」

「せやかて…」

『指揮官!早くリンクして!あんまりあたいを待たせないでよ!』

「はいはい…ペルシカ、興奮剤」

 

注射器を渡されるので、何時ものように二の腕に突き立てた。

 

「はぁ…リスク・オブ・マイ・ライフ…ってか」

 

すっかり慣れた興奮剤が身体に浸透する感覚。

そのままタイタンに乗り込む。

 

『ニューラルリンク確立、搭乗権をパイロットに移行』

「さて、今日は何をするんだ?バンガード」

『今日のメニューは…パルクールだよ!』

 

実験室のシャッターが開く。

…外に続いてるのか、眩しい。

 

『この外骨格の性能テスト…要するにスピードランをするんだ』

「なるほどね…行けると思う?」

『あたいと指揮官が一緒なら、向かう所敵無し…って、誰もいないか』

「敵無しってのはそういう意味じゃないよ…たくさんの敵を倒したって事さ」

『ふーん…ボキャブラリーに❝敵無し❞を追加したよ』

『ジョージ指揮官?あんまり変な事教えないでね』

「えぇ…」

 

スタート地点に立つ。

…さて、試運転と行こうか。

 

「グリーンライト、行くぜ!」

『指揮官!よくあたいを見てなさいよ!』

 

走り出す。

興奮剤と外骨格で強化された俺の脚力は、全力の戦術人形と大差無い。

 

通路の先に床は無い。

…が、両サイドに壁だけが貼られている。

 

要するに壁を走れば良い。

 

「そらよっ…!」

 

充分な加速を持って飛び上がる。

腰のジャンプキットが俺の空中制動を補助する。

 

壁に手を付け、そのまま走り出す。

速度も充分…!

 

「あ"っ」

『あ"っ。指揮官!ジャンプジャンプ!』

「ちょっ、待っぐえっ」

 

しばらく壁を走ったと思ったら急に補助が切れてそのまま下に落下した。

 

「痛た…何でだ…」

『ごめんよ指揮官。あたいには指揮官を支え続ける出力はまだ無いんだ』

「…つまり、ずっと壁を走る事はできないって事か」

『壁と壁が向かい合ってるなら、うまい具合に飛び移りながら前進できる筈よ』

 

ペルシカからのアドバイスを受け、スタート地点まで戻る。

 

「よし、じゃもう一度…頼むぞ、バンガード!」

『らじゃー!手伝ってあげる!』

 

この日たっぷり日が沈むまで走り回った。

 

 

 




と、言うわけで遂に登場…型番BT-4040。
え?どっかで聞いたことある一人称?ナンノコトカナー


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爪痕

試験運用を終えて、解放された後。
ジョージと護衛の人形で街へ出ていた。


「つ、疲れた…」

 

夕方。

IOP傘下の市街地の喫茶店で机に突っ伏していた。

 

「お疲れ様です指揮官」

「ボスカッコ良かったぞ!あんなの見たことない」

「ありがとう二人共…ただあれしんどいわホント」

 

9A-91とG17に労われてちょっと心が軽くなる。

 

「けど、IOPはあんなの作ってどうするつもりなんだろ」

「その点に関しては謎だ。正規軍に売り出すにしたってコスパ悪過ぎる」

 

人間の強化外骨格なんて向日は持ってるだろうし。

 

「指揮官、帰るのは明日なんですよね」

「ああ…今から戻るともう深夜だからな」

 

片道8時間の移動時間は存外キツいものがある。

輸送班にはもう休暇は出してあるので、今頃リフレッシュに夜の街へ繰り出しているだろう。

 

俺も行きたかった。

 

「指揮官はこれからどうするんですか?」

「うーん…珈琲飲んでおみやげ買って…帰って寝ようかと思ったけど」

「ここまで来たのに寂しいなボス…疲れてるから仕方ないけど」

「二人共、護衛交代しながらでいいから何処か行ってきてもいいぞ」

「駄目だぞボス。春の姐御にしっかり護衛頼まれてるからな。眼を離すつもりは無いぜ」

「Дах、その通りです………今日はずっと一緒です、指揮官」

 

純粋に心配しているG17と、どことなくニュアンスの違う9A-91。

仕事熱心だなと思ったが…俺が危機感を感じてないだけかもしれない。

 

…一人の方が、また会えるだろうかと考えーーー

 

「…!?」

 

ーーーなんてコトを考えている?

会いたいと思っている?俺が?奴に?

 

違う、違う違う違う!

コレは俺の思考じゃない!

俺の望みじゃない!

 

こんな事を考えて良いわけが無い!

俺は奴を破壊しなきゃいけない、完膚なきまでに!!

 

「…ボス、大丈夫か?顔色が悪いぞ」

「すまん、G17…やっぱり戻って休むよ」

「それが良いですよ指揮官…何だかとても苦しそうです」

 

二人に支えられて立ち上がる。

 

しかし、どうしてかこの感情に作為的な物を感じてしまう。

 

(俺は、ヤツに何をされた?)

 

何か重要な事を見落としている気がする。

思考が上手くまとまらない…同じ自問をぐるぐる斗行っている気がする。

 

「…ボス?ボス、聞いてる?」

「…え、あぁすまん…どうしたG17」

「お客さん」

「…え?客?」

 

確かに、俺の目の前で立ち止まっている女性がいる。

ゆるゆると顔を上げてそいつの顔を見る。

 

…左眼に、縦一線に傷跡を持つ人形が立っていた。

 

「ハァイ、ジョージィ。元気?」

 

そいつは、いつもの何食わぬ顔で朗らかに挨拶してきた。

なんだか、だいぶ久しぶりに会った気がする。

 

「久しぶり…UMP45」

 

名前を呼ぶと、そいつはニッコリと笑った。

 

「話があるわ。来て」

 

 




再会、UMP45。
そしてジョージの思考を徐々に侵食するドリーマーの影。


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掃討依頼

UMP45からの依頼。
資料回収の為に周辺を掃討せよ。


 

「人払いはしたいけど…まぁ、良いわ。単刀直入に言うけど…手伝って欲しいことがあるのよ」

 

路地裏に三人とも連れてこられ、45からそんな事を言われた。

 

「手伝って欲しいこと?」

「ええ。ちょっとした掃討依頼だと思ってくれれば良いわ」

「天下の404の隊長が最前線の三流指揮官に依頼することかそれ?」

「それ、謙遜だって言うなら鼻を折ってあげる」

「勘弁してくれ。それで、中身は」

「当該区域に鉄血の旧支部があって、そこの資料を回収したいのだけれど…最近ここにハイエンドモデルが居座る様になって」

「ハイエンドか。タイプは?」

「デストロイヤーよ」

 

頭の中の指名手配表と素早く照らし合わせる。

デストロイヤー級の報酬金額は…50万!

この間0.2秒。

 

「引き受けた」

「ボス!?決めるの早くないか!?」

「馬鹿野郎!市民を脅かす鉄血の人形だぞ!即決しないでどうするG17!」

「指揮官…絶対デストロイヤーの報酬目当てですよね…」

 

9A-91が凄い呆れ顔で俺を見ている。

ふふ、視線が…痛いぜ。

 

「ありがとジョージ。貴方ならそう言うと思ってたわ。404(ウチ)からは報酬は出せなくて申し訳ないけどね」

「…何だって?」

「あ、あと期日までそっちの基地でお世話になるから」

「ワッツ!?」

「よろしくねー、しきかーん?」

 

それ完全に赤字になるんじゃ…。

 

「お前、まさか目当てそれなんじゃ」

「どうだろうね…………それか、私が夜の相手してあげよっか?」

 

45がそう呟いた瞬間、後ろから安全装置を解除する音が聞こえた。

 

「G17!」

「了解ッ?!」

「は、離してG17!指揮官!退いて!そいつ殺せない!!」

 

…予めG17とは9A-91が暴走した際の対処について話してあったので、すぐに意図を汲んでくれた。

 

「私だって呼ばれたこと無いのに…!」

「はぁ…45。俺は人形達に相手させた事はない」

「…そうなの?てっきりWA2000とはシてるかと思ってたわ」

「…相棒と?それこそねーよ。とにかく、冗談でもそれは止めてくれ」

「はいはい」

「あと、俺で遊ぶのも勘弁願いたいね」

「…バレてた?」

「そりゃな」

 

こいつ俺の反応見て楽しんでるからな…。

 

「それじゃ、よろしくねジョージ。近い内にそっち行くから」

 

そんな事を言いながら、45は去って行った。

…全く、次から次へと。

 

「9A-91、すまんな…俺のスタンスは変わらない」

「…指揮官はそういう人だって、わかってます。けど…いい加減諦めさせてくれないと、襲いますよ」

「洒落にならないなぁ…」

 

 




UMP45を書くたびにちゃんと書けてるかなーと心配になってくる。
あの掴み所の無い感じが難しい。


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歩み寄り

出張先で何も出来ないので気が付いたらキーボード叩いていた作者です。
本日3ページ目の更新ですので読み飛ばしにご注意を。

ただ、和解させようとしたのにどうしてこうなった。


「おはようございます、指揮官…♡」

「……………え?」

 

朝。

特に悪夢も見ずに目が覚めると、目の前に満面の笑みを浮かべたM4が横になっていた。

 

「こうやって一夜明かすのも久しぶりですね」

「鍵は掛けてた筈なんだけど」

「あの頃は私も指揮官とずっと一緒で」

「正直怖かった」

「こうやって再会できて、私は幸せです…」

「俺も会えたのは嬉しいよ。けど、もっとこう、健全な付き合いがしたい」

「ふふ、指揮官ったら。照れてるの可愛いですね」

「話聞けよ。あとそのシャツ俺の」

 

相変わらず人のワイシャツ勝手に着てからに。

春もそうだし最近リサもそれで寝てるらしいんだよな…ワイシャツどんどん消えてくんだけど。

 

「指揮官、今日はどんなご予定でしょうか」

「え?今日?周辺警戒と書類仕事くらいだが…」

「…一緒に居たら、駄目ですか?」

 

うーん…特に今日副官決めてなかったしな…。

そう言えば基地の案内も満足に済ませてなかったし、副官にして連れ回せば一緒に済ませられるか。

 

「…仕事、手伝って貰おうかな。今日は頼むよ、副官殿」

「はい、任されました指揮官」

 

さて、着替えて仕事を始めようかな…。

 

「で、M4。悪いけど出てくれない?」

「…ふふ、良いんですか?こんな格好の私を廊下に出しても…」

 

なる程、誰かに見られたら騒がれると。

だが、その事態は既に対策済!

 

「カラビーナなんてタンクトップとショーツだけで部屋まで来たからな」

「…指揮官?」

 

…あれ、M4の目が笑ってない。

 

「私は今、冷静さを欠こうとしています」

「…えぇ?」

「説明、してもらえます?」

 

 

…この後めちゃくちゃ弁明した。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「M4、そこの資料取って」

「えっ、どれですか?」

「3番の棚の上から二段目。背表紙赤い奴」

「どうぞ」

「サンキュ」

 

M4に手伝って貰いながら資料を纏めていく。

ここの書棚も、来たばかりの頃はスッカラカンだったのに…いつの間にか増えていた。

 

「…」

「ん?M4、何読んでるんだ?」

「え、あ…いえ、交戦記録を少し…」

「…気になるか?」

「…はい。指揮官が今までどう戦ってきて、何と戦っているのか。私は知らなきゃいけません」

「そうか…」

 

何から教えるべきか。

 

「…うち、S-12地区な何故か1体の鉄血ハイエンドが居座っててな」

 

結局、うちの戦役はほとんどこいつのせいと言っても過言では無かった。

 

「夢想家…」

「そう。そいつがずっと居座っている。ほとんどヤツと睨み合い状態だ。過去に2度戦闘があったが何とか勝利している」

「…この基地は、人間の兵士も居るようですね」

「当初は人形が少なかったからな。それに、PMCを吸収したあとで人も余ってた」

 

その観点から、ウチには偵察班や工作班、狙撃班がいる。

でもやはり直接戦闘は人形がやってはいるが。

 

「そっからかな…少しずつ仲間も増えて」

「そう、ですか…片っ端から口説いたんですね」

「言い方。まぁ…でも、間違ってはない、か」

「指揮官は一度刺された方が良いのでは?」

「一度で済めば良いがな」

「…お望み通り刺してやろうか?」

 

M4と談笑していたら、ドスの効いたM16の声が割り込まれた。

…執務室の出入り口に背中を預けて立っていた。

 

「姉さん」

「よう、M16。ウチには慣れたか?」

「フン、ぼちぼちな」

「そいつは良かった」

「…ホントはM4がお前の副官やるってのも反対だったんだ」

「そうか」

「…ジョージ指揮官。1つ聞いていいか?」

 

M16が改まって聞いてきた。

 

「三ヶ月…私達はアンタに大分反抗的な態度取ってた。けどなんでアンタはそれを放置している」

「自覚あったのか…」

 

AR小隊が着任してから、結構三人の当たりが強いのは知っていた。

俺達の確執がすぐに無くなるわけでもないし、真面目に接していればその内認めてくれるだろうと気楽に構えていた。

 

「他の指揮官みたいに上から抑えつければ良い。権限があるしな」

「嫌だね。女に無理強いするなんて趣味じゃない」

「…正気か?私達は人形だぞ?」

「正気で戦争何か出来るかっての」

 

手を止めて立上り、M16の方へ歩いていく。

…壁から背中を離し…その前に、右手を彼女の顔の隣へ。

 

所謂壁ドンの体勢でM16を追い詰めた。

身長差もあり、M16はその場から動けない。

 

「…女も人形も同じさ。俺にとっちゃな」

「狂ってる」

「そうかな。俺はお前みたいに綺麗な女は大好きだぜ?」

「綺麗なものか!こんな、傷だらけでガサツな私が!」

「いいや。お前は美しいよM16」

「んなぁっ…!?」

 

赤面して固まる。

左手をそっと顎に沿わせて、軽く引き俺とを顔を向き合わせる。

 

「傷は戦い抜いた証。それを醜いと罵るなら、俺はソイツを叩き潰してやる」

「な、何を…」

「別に俺を嫌ってくれても構わない。だが、俺はお前と良好な関係を築きたいと思う…出来れば、償いもしたい」

「償いって…私は、ただ…お前が気に入らなかったから…。正直、活躍や仕事っぷりを見て…認識は改めてる」

「嬉しいね。俺の事、見てくれてるんだ」

「ち、違っ、そうじゃなくてだな」

「…冗談だ。今夜1杯やろう」

 

M16から離れた。

…彼女はへなへなと座り込んでしまった。

 

「…まさか、この私が口説かれるなんてな」

「誰しもが違った魅力を持っている。俺はただ、それを見付けて、自覚させて、それを誇って欲しいだけさ」

「はっ。欲張りな奴だ」

「返事、聞いても?」

「ジャック・ダニエル」

「うん?」

「ジャック・ダニエルはあるのか?」

「春に聞いてみないとな」

「ふん、期待しないで待ってる」

 

すっかりいつもの調子に戻ったM16と盛大に笑いあった。

…背中から刺すような視線を感じて固まった。

 

「…指揮官?」

「( ゚д゚)ハッ!?」

 

恐る恐る振り向く。

…M4さんが、俯いて肩を震わせていた。

 

「…姉さんと指揮官が和解できたのは、嬉しいです…けど、けれど!私の目の前で姉さんを口説くってどういう事ですか指揮官!!」

 

 

この後、めちゃくちゃご機嫌取りをした。

 

 

「…ハッ、こりゃM4も大変だな」

 

 




M16、陥落。
残り二人…和解、出来るだろうか。

ちなみに今回のジョージは意識して口説いています。

…まるで、脳裏にこびりついて離れない、黒い女の影から逃げるように。


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爆発

AR-15も口説き落とし、SOPMODⅡはM4に仲介してもらいただひたすら謝る。

何とかAR小隊との和解に成功したのだった。


「…まさか、そんな強引な人だとは思わなかったわ」

 

副官でもないのに書類整理を手伝ってくれていたAR-15に言われた。

 

「男女の駆け引きには時として強引に行くべきでもある」

「貴方、いつか刺されるわよ」

「女性に刺されるならそれも本望…って訳じゃない。思い詰めさせてしまったからな」

 

だから、それは相応の罰だ。

 

「…AR小隊(わたしたち)が居る間に恥情のもつれで刺されて死ぬとか止めてほしいわね」

「善処するよ」

「お疲れ様です、指揮官、AR-15。休憩にしましょう?」

 

執務室のドアを開けてM4が入ってきた。

手にはコーヒーカップの乗ったトレーを抱えていた。

 

「スプリングフィールドが手が離せないと言う事なので預かってきました」

「わざわざありがとうM4。君も一緒にどうだ?」

「はい!」

「…これがいつもオドオドしてた小隊長だとは思えないわね、ホント」

「変に強かになったな」

「全く、誰のせいかしらね」

 

肩をすくめて見せると、AR-15はため息を吐いた。

 

「誰のせいでもないよ…きっとこれが本当のM4何だろう」

「…なんの話でしょうか?」

 

本人が目の前に居るのに、本人置いてきぼりの会話が行われている。

 

「君がキュート過ぎるって話さ」

「なっ、もう、指揮官!」

「ははは…」

 

AR-15がうわぁ、って感じで見ているが気にしてはいけない。

…そこで、執務室のドアがノックされた。

 

「どうぞ」

「入るわよ」

 

入ってきたのは、WA2000…リサだった。

 

「どうした?」

「用がなかったら来ないわ」

 

…?

リサがM4とAR-15に目配せして、二人が立ち上がった。

 

「すみません指揮官、少しSOPMODⅡの所へ行ってきます」

「?わかった」

 

二人共出て行き、俺とリサだけが残された。

 

「それで、どうしたんだリサ?」

「別に。ただ…聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?」

「…AR小隊、()()()()()()()()()()()

「…バレてた?」

「アンタと会ってもうすぐ一年。私が見抜けないとでも?」

「敵わねぇな相棒」

 

どうしてもこびり付く黒い影から逃げたくて、意識を反らすために色々やっていた。

 

「ねぇ、ジョージ…肩、大丈夫?」

「肩?何だよ相棒、この歳で四十肩の心配か?」

「………そう。最近、夢…見てる?」

「え?…まぁ、見てる」

 

いつもの調子でない。

どことなく思い詰めている雰囲気がある。

 

「その割には叫んで無いみたいだけど」

「あー、それか…ちょっと前から毛色が変わってな」

「へぇ、どんな?」

「…オイオイ相棒、いつからお前カウンセラーになったんだ?ちょっと怖いぞ」

「良いから言いなさい!!」

 

…リサの表情は変わらない。

それどころか、俺を見ている目がどんどん険しくなっている。

 

「わ、判ったよ…なんと言うか、拷問される夢じゃ無くなった。…段々とアイツに意識が向けられてる様な、そんな感じの夢だ」

 

初恋のガキみたいだ、と自虐したがあながち間違ってないかもしれない。

 

「原因、わかる?」

「原因?何でだろうな…っ?!」

 

ずきり、と頭と()が痛んだ。

何で、肩が…。

 

「…あの、女ッ…!」

 

リサが、呻くように吐いた。

一歩ずつ、近付いてきた。

 

「私から仲間を奪って、プライドも、武器も、居場所も、何かもかもズタズタにして!」

 

余りの剣幕に、後退る。

だが、リサの方が早い。

 

「全て奪って!その上で…」

 

左肩を掴まれた。

…あまりに強く掴まれ、顔をしかめる。

 

「その上で、アンタまで奪おうっての?!」

「お、おいリサ…落ち着け」

「もうこれ以上…()()()()を奪われて堪るか…!!」

「がふっ…!?」

 

リサの右の拳が、俺の腹にめり込んだ。

意識が飛びはしなかったが、膝をついた。

 

「ジョージ…恨んでもいいわ。でも、アンタがアイツのモノになるなんて絶対許さない…!!」

「ゲホッ、相…棒…」

「…ごめんなさい」

 

リサの腰から、ナイフが閃き。

…俺の右肩に、突き立てられた。

 

「…あ」

 

ぶすり、と嫌な音がした。

 

「ひぁぁあ゛があ゛あアア゛ああ!!?!!?!」

 

 

 




次回、『幕間ーWA2000ー』。


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幕間ーWA2000ー決意

少し前、G17が指揮官の様子がおかしいと、私に言ってきた。


「…どういう事ですか?」

 

スプリングフィールドがG17に聞き返した。

…隊員用のリラクゼーションスペースのバーに、私とスプリングフィールドとG17が居た。

 

私は出されていたアルコールに伸ばした手を止めた。

 

「姉御、それが…ボス、最近顔色は悪くないんだけどぼーっとしてるんだ」

「顔色が、悪くない?睡眠取りすぎてるのかしら」

 

ジョージは、未だドリーマーの悪夢に囚われ続けている筈。

…私はトリガーがある分まだ普通に生活は出来ているけど、アイツは満足な睡眠が取れていない。

 

それを隠していつも気丈に笑ってる。

 

「それは無いわスプリングフィールド。だって…」

「…そうでしたね」

「あと、ボスがAR小隊の皆口説いてたんだ」

「いつもの事じゃないそれ」

「それが…何時もみたいに自然じゃないんだ。ちょっと無理矢理というか」

 

そう聞いて、少し考える。

ジョージの口説き癖は人形相手には無意識にやっているたちの悪い物だ。

 

それが、不自然?

 

「…何か、隠してるわね」

「流石熟年夫婦、よく分かりますね」

「茶化さないでスプリングフィールド。…G17、他に変わった事は?」

「そうだな…意識が引っ張られているって言えば良いのかな。ちょっとずつ。この位しか判らない…」

 

自称、人間観察が趣味と言っていたG17。

正直流石だと思う。

あのポーカーフェイス気取りの馬鹿からそれだけ引き出せたなら上出来だ。

 

「ちょっとリージョンの所に行ってくる」

 

そう言って立ち上がる。

 

「G17、それ飲んじゃって」

「WA2000!………これ、カルーアミルクじゃん」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

医務室。

リージョン…医療班長の所に乗り込む。

 

「おや、WA2000。どうしたんだい?」

「リージョン、ちょっと聞きたいことがあるの」

「指揮官の事?」

「ええ。肩に埋まってるアレに何か変化は?」

「…今の所は何も。けど、昔の事例だけど金属製の入れ歯がラジオの電波を拾って、歯から音声を流したって事例もある」

 

顎に手を当てて考える。

…ドリーマーから、妙な電波を受けている?

 

考え過ぎか?

 

「ありがとう、リージョン。やっぱり摘出すべきね」

「結論が早いね」

「…もっと早くするべきだったわ。皆を集める。来てくれるかしら」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

作戦司令室。

ジョージ以外の人間…ローニン、モナーク、リージョンと戦術人形…私、スプリングフィールド、Kar98k、M4A1が集まっていた。

 

「…WA2000。話って?」

「ジョージの右肩にはドリーマーの歯が埋まってるわ」

 

ざわ、と室内が騒がしくなる。

 

「ちょっと待ってください、指揮官は最初のドリーマーとの戦いで噛まれたと聞いていましたが…」

「そうよM4。それから半年も放置されていた」

 

この話は私と、Kar98kとリージョンしか知らない。

当然ローニンとモナークが半信半疑で聞いてきた。

 

「ちょっと待てよ、歯?何でそんな…」

「………WA2000、まさかアンタ…それが指揮官に何かしら影響を与えてると思ってるのかい?」

「考え過ぎじゃないでしょうか、わーちゃん」

「Kar98k。真面目な話をしてるのよ」

「ごめんなさいWA2000。…でも、確かに前に起こしに行った時…誰かを焦がれているような感じでしたわね」

 

全員の視線がKar98kに集まる。

 

「…何ですって?」

「ええ。それから指揮官さんはうなされていないのよ」

「悪夢を見ていない…か。彼、誰かが一緒に居ると見ないって言う都合の良い悪夢の見方をしていたと思ったんだけど」

 

悪夢を見て飛び起きて、控えていた人形に慰められての繰り返し。

徐々に精神を削っていたのは一目瞭然だった。

 

「憶測ばかりしていてもしょうが無い。どっちにしろ異物なんだ摘出するなら早い方がいい」

「その件については僕から話そう」

 

リージョンが手を上げて説明し始める。

 

「皆知っての通り、指揮官には興奮剤を除いたあらゆる薬物の効果が無い。つまり、麻酔も睡眠薬も使えないんだ」

 

そんな状態で患部を切り拓けばどうなるか。

 

「…俺なら間違いなく狂うね」

「だから僕も見送ってた。ただでさえ時間が掛かる。指揮官の精神が保たない」

 

だから半年も放置されていた。

 

「…ねぇ、私達なら…出来るんじゃないかしら」

 

ふと、思い付いた。

正確なコンピュータとその通りに動く手足。

それを備えた戦術人形が最短、最速で摘出すれば負担は少ないのではないか。

 

「…WA2000。それは、恐らくアンタ達のプロトコルに引っ掛かるわ」

 

モナークが苦々しく語る。

 

「人間に対するセーフティ、ですね」

 

スプリングフィールドが呟いた。

また、またその忌々しいセーフティがジョージを窮地に立たせるのか。

 

「…冗談じゃないわ」

「WA2000?」

 

らしくない。

だいぶ感情的になっているみたい。

 

「このままドリーマーに持ってかれるのを見てるだけなんて嫌よ」

「それは憶測だろ?もう少し様子見した方がいい」

「ローニンさんの言うとおりだ。落ち着けWA2000」

 

ローニンとリージョンに宥められる。

そこで、M4が口を開いた。

 

「…私なら、多分…出来ます」

「どういう事?」

「かつて負傷してプロトコルを変調した私なら、医療行為という言い訳が効くはず」

「M4、願ってもない話だが…君は、指揮官に()()()()()()()のかい?」

「…ッ!」

 

…M4A1は、ジョージを愛している。

ジョージから話は聞いていたし、再会したときもあからさまにそんな態度だったから想像に難くない。

 

M4には、無理だ。

そして、カラビーナにも、スプリングフィールドにも無理だろう。

 

「…私がやるわ」

 

だから、自分がやるしかない。

 

「WA2000…貴女も、」

「言わないで。私はドリーマーに散々弄り回されてセーフティが外れてるし、出来るわ」

 

嘘だ。

本当にそうなら、ここで修復してもらった時に直されている。

 

「…良いんだな、WA2000」

「任せてローニン。私は、アイツの相棒なのよ。最後まで面倒見るわ」

 

私の中に、少しずつ黒い感情が渦巻いているのがわかる。

 

「わーちゃん」

「大丈夫よスプリングフィールド。上手くやるわ」

「一応、メスは用意するが…」

「メスなんか折るわ。新品のナイフ用意して。頑丈な奴」

「おま、無茶言うなよ…」

 

補給も取り仕切るローニンが苦い顔をする。

 

「あるんでしょ」

「何で知ってんだよ…リージョン。消毒しとけ」

「了解。WA2000…明日渡すよ」

「ありがと」

 

勝負は、明日。

 

「…大丈夫、大丈夫よ」

 

自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 




これ以上、1分、1秒でも長く、相棒を蝕むというのなら容赦はしない。

そんな事を、私は耐えられない。
お前だけは絶対に許さない。


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ーWA2000ー

タイミングはお前に一任する。
…事前にジョージには言わない。
もし、ヤツと繋がってしまっているならどんな影響があるか分からない。

気取られず、迅速に。

頼んだぞ、WA2000。


 

ジョージと談笑していたM4に目配せする。

…顔が少し強張っていたが、AR-15を連れて部屋から出てくれた。

 

「それで、どうしたんだリサ?」

 

ジョージがいつもと変わらない調子で私に問いかけた。

胸が締め付けられる。

 

「別に。ただ…聞きたいことがあって」

 

いつもと変わらない様に、相棒として接している様に務める。

 

「聞きたいこと?」

「…AR小隊、()()()()()()()()()わね」

「…バレてた?」

 

恥ずかしそうに首をかく。

 

「アンタと会ってもうすぐ一年。私が見抜けないとでも?」

「敵わねぇな相棒」

 

私や一部の人に見せる、気を許したような笑顔。

…昨日から渦巻いている黒い感情が鎌首をもたげる。

 

渡すものか。

 

「ねぇ、ジョージ…肩、大丈夫?」

 

悟られるな。

ジョージは感情の機微に敏い。

少しでも油断すれば必ず気付く。

 

「肩?何だよ相棒、この歳で四十肩の心配か?」

 

落ち着け。

まだだ。

まだ動いてはいけない。

 

これで確信した。

ジョージは()()()()()()()()()()()()()

 

「………そう。最近、夢…見てる?」

「え?…まぁ、見てる」

 

歯切れが悪い。

 

「その割には叫んで無いみたいだけど」

 

悪夢を見ていると言う前提で問いかける。

 

「あー、それか…ちょっと前から毛色が変わってな」

「へぇ、どんな?」

 

声が震えていないか心配になる。

嫌だ、嫌だ、嫌だ。

お願い、違うと言って。

 

「…オイオイ相棒、いつからお前カウンセラーになったんだ?ちょっと怖いぞ」

「良いから言いなさい!!」

 

やってしまった。

堪え切れずに激昂してしまった。

恐る恐るジョージを見る。

 

「わ、判ったよ…なんと言うか、拷問される夢じゃ無くなった。…段々とアイツに意識が向けられてる様な、そんな感じの夢だ」

 

ぷつん。

私の中で何かが切れる音がした。

まだ、まだよ…堪えて。

 

「…原因、判る?」

「原因?何でだろうな…っ!?」

 

ジョージが、急に肩を抑えた。

…ああ、駄目だ。

 

「あの女…ッ!!」

 

視界が赤く染まる。

口が、足が、止まらない。

 

体が言うことを聞かない。

 

ひっきりなしに電脳が警告を発する。

 

プロトコルに抵触しようとしているからだ。

 

「私から仲間を奪って、プライドも、武器も、居場所も、何かもかもズタズタにして!」

 

ジョージが後退る。

逃さない。

 

「全て奪って!その上で…」

 

逃さない、逃さない、逃さない。

嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 

「その上でアンタまで奪おうっての!?」

「お、おいリサ…落ち着け」

「もう、これ以上…!!」

 

………ふと、思ってしまった。

 

 

 

 

 

私は…コイツのこと、好きなんだ。

 

 

どうしようもなく、愛してるんだ。

 

 

 

 

 

「私のモノを奪われて堪るか!!」

 

右手がジョージの腹部に、めり込む。

お願い、気を失って。

 

「が、ふっ…!?」

 

ぎりぎり踏み止まり、膝を着いた。

…ダメ、か。

 

「ジョージ…恨んでもいいわ。でも、アンタがアイツのモノになるなんて絶対許さない…!!」

「ゲホッ、相…棒…」

「ごめんなさい」

 

腰からナイフを抜く。

頭が、痛い。

 

でも、でも…!

 

私が、私がやらなきゃいけない。

 

 

私が、ジョージを救うんだ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶすり、と嫌な感触と共に、そんな湿った音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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相棒

 

冷たい刃の筈なのに、刺さっている箇所は熱い。

熱い、熱い、熱い。

 

「いぎ、ひっ…」

「あ、あっ、あぁ…」

 

刃を突き立てている人形…WA2000の表情が歪んでいる。

プロトコル…人類保護のプログラムが彼女を蝕んでいる。

 

左手で彼女を押し離そうとする、が。

そっと、手を握られる。

 

「ジョー、ジ、ごめ、私、こんな、こんな」

「これが、お前の、やら…なき、ゃいけ、ない事か?」

「わた、しが…やらなきゃ、いけないの」

「そっ、か、じゃあ、仕方な いか な」

 

上手く舌が回らない。

女を口説く時には良く回るのに、泣いてる相棒一人宥めることも出来やしないなんて…不甲斐なくて死にそうだ。

 

その間にも、WA2000の手は止まらない。

ある程度の深さまで刺した後、ナイフを抜き、そのまま投げ捨てた。

 

「大、丈夫、ジョージ。もし、死んでも、一緒に、逝っ、てあ、げるか ら 」

 

ぞぶり。

WA2000の指が、患部に、入る。

 

「あ”が、じ、しんでも、死んで や る か……!!」

 

歯を食いしばる。

相棒が何をしようとしてるのか解らない。

 

だが、必要に迫られなければこんな事するはずがない。

 

俺が信じなくて、誰がこいつを信じられる。

 

「信 じ、て …!」

「相棒ォ…ッ!!」

 

何かが、抜けた。

からんと床に落ちて、転がって行った。

 

その瞬間思考回路がクリアになり、

 

「あ、あぁあぁぁぁあのクソ野郎!!俺に何しやがった!!相棒に何やらせやがった!!クソッタレ!!」

 

怒りが沸き起こる。

俺の右肩に埋まっていた()()は歯じゃない、人間用の何かしらを少しずつ送り込んでいた。

 

「良かっ、た」

 

リサが、震える足取りで部屋の内線を取る。

…そのまま、倒れ込んだ。

 

「リサっ…うっ、やべ、血が」

 

先程激昂したせいで余計に血が抜ける。

リサに駆け寄ろうとしてそのまま隣に倒れた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」

「リ、サ、謝るの、はこっち だ 」

「取 られ、たく無かっ、傍に、」

「居る、ずっと、俺は、お前の隣に、」

 

廊下を誰かが走る音がする。

複数人だ。

 

「ジョージ!WA2000!!おい!しっかりしろ!」

「リージョン!急げ!!私はこっちを何とかする!!」

「ああくそ、戦術人形はこれだから嫌なんだ!僕より上手く刺しやがって!これならくっつく!!」

 

視界が段々暗くなる。

リサは既に目を閉じている。

 

「指揮官、指揮官!駄目です!起きて!」

「ジョージさん!ジョージさん!!生きて!お願い、お願いっ!!」

 

この声は、M4とトカレフかな。

また、泣いてるんだろうな。

 

「大袈裟だな、お前ら…」

「喋るなクソ野郎。そのまま刺されろ」

「もう、刺されたよ…」

「…後は何とかする。ちょっと寝てろ」

「そう、する」

 

結局、相棒に救われたみたいだ、俺は。

 

(辛いことさせたな…)

 

不甲斐無い自分のせいで。

一緒に奴を倒そうと誓ったのに。

 

そのまま、俺は意識を手放した。

 

 



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その後

一命を取り留めたジョージとリサ。
月日が流れて、いつもの様な風景へと戻るS-12地区。

しかし…。


 

「…まさかお前に刺されるなんてなー」

「まさか私が刺すことになるなんてね」

 

あれから1ヶ月が経過した。

怪我もすっかり治り、思考回路もクリア。

 

ただ、右腕がまだ上がりにくいので色んな人に補助してもらっているのが現状だ。

 

リサと共に雑用を片付けている。

 

「指揮官、いよいよ明日S-12地区の市街地の工事が完了するわ」

「お、遂にか。長かったな…うちにようやく流通が完成するなんて」

「何言ってんのよ。アンタの実力でしょ、これが」

「…遅かったかな」

「一年よ。充分早いわ…流石、私の相棒ね」

「…ハッ、サンキュー相棒」

「はい指揮官資料をお持ちしました!!」

「休憩になさいませんか指揮官さん!!」

 

ズサー、とM4とカラビーナが執務室に転がり込んできた。

ノックをしろ。

 

「ん、M4ありがとな。カラビーナ、もうそんな時間?」

「ええ、指揮官さんがWA2000()()()()!!()()()()()()!!二時間です!!」

「もうそんな?はは、お前と居ると時間がすっとぶなリサ」

「…っ!そ、そうね!」

 

…ん?

心なしかリサの顔が赤い。

 

「リサ?どうした?やっぱりまだ…」

「な、なんでもないっ!スプリングフィールドの所に行ってくる!」

「お、おう」

 

足早に出て行ってしまった。

…忙しないな。

 

「指揮官さん?分かっててやってますか?」

「なんの事だ?」

「…WA2000さんの事」

「…リサが?別にいつもと変わり無いが…」

 

最近、メンテの影響でせいぜい赤面症が悪化したくらいか。

俺と話してるときも段々赤くなってくるからそろそろまた整備部に言っとかなきゃいけないか。

 

「くぅ…既に深過ぎる信頼関係が出来ていて、私の入る隙間がありません…M16姉さん、私どうしたら…」

 

私に聞くなよ…そんな幻聴が聞こえた気がした。

あれか、人形達が大分俺の周りに集まるようになった。

 

でも流石に風呂から出たらタオル持って待機してるのは勘弁して欲しい。

 

ここで、内線が鳴った。

 

「もし?こちら執務室のKar98k…はぁ、16Labからお荷物ですの?」

「…荷物?」

 

このご時世に宅配まがいとはまぁ恐らくペルシカだろう。

 

「…………何ですって!?確かに、そう書かれていましたの!?」

「指揮官、お荷物です」

 

カラビーナが叫ぶのと、トカレフが手のひら大の包みを持ってやって来たのは、ほぼ同じタイミングだった。

 

「確かに、『誓約の指輪』と書かれていたのですね!?」

「え?」

 

…トカレフが、目を点にさせてその包みを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ポケットにしまってそのまま走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トカレフ!?」

「逃しませんわ!!!」

「AR小隊緊急出動ッ!目標、戦術人形トカレフ!!」

 

 

「ちょっ、お前ら…えぇ?」

 

 

波乱の予感がする…。

 

 

 




とうとうやってきた指輪。


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指輪争奪戦①

S-12地区へもたらされた爆弾。
争奪戦が、今開かれた。


 

「トカレフ!!出てきなさい!」

「トカレフさん!?早く出てきた方が身のためでしてよ!!」

「トカレフさん?どちらに…」

「トカレフー?」

「おーい、トカレフ、どこだー?」

 

…基地内が、トカレフを探す声で溢れ返っている。

人形達と一部のメンバーがひっきりなしに走り回っでいる。

 

「大事になったなぁ…」

「ジョージ、何だコレ」

「ローニン。それがな…」

 

経緯をかいつまんで説明した。

すると、ローニンがニヤニヤし出した。

 

「なんだよ気持ち悪い」

「いーやー?しかし、指輪ねぇ…こりゃお前もそろそろ覚悟しなきゃなんねぇかな?」

「…あくまで所有権を変えるだけだろ」

 

誓約システム。

戦術人形と言うのはあくまでIOPからグリフィンに貸与されているに過ぎない。

退役させるならIOPへの返還義務が生じるのだ。

 

が、誓約システムとはその戦術人形の所有権をイチ個人で買い取るものだ。

その行為に対してその名前を付けるというのは、中々皮肉が効いている。

 

「かー…でもまぁ、愛した女と一緒になるってのは…良いもんだぞ」

「…そうか」

 

ローニンが自分の手…鈍く輝く指輪に視線を落としながら、そう言った。

 

「ま、散々あの子達を口説き落としたツケだな。いい加減決着つけろ」

「…そう、だな」

 

もう誤魔化せない、か。

人形だろうと関係ないとか言ったのは他の誰でもなく自分。

 

「…誓約、か」

「確か誓約した人形はリミッター周りも調整されて強くなるんだろ?少しでも戦力が欲しいならやるべきだと思うがね」

「それもそうなんだが…そんな理由で交わすべきじゃない」

「わぁーってるよ。あくまでそれはオマケだ。本題はお前が誰を選ぶか、な」

 

人形達の中に俺に対して好意を持ってくれている奴等は…俺の自惚れじゃない限り、居る。

 

「ま、そればっかりはお前の選択だ。せいぜい悔いの無いようにな」

「ああ…。ローニン、今度飲まないか」

「お、万年金欠指揮官が珍しいな」

「最近稼ぎが良くてね」

「お前が稼いでると俺達の懐も温かくなるからいい話だ」

 

S-12市街で開かれる店舗のリストを思い出す。

PMC向けの飲食店なんかも出てくるらしい。

 

「今度オープンするらしい、良い店を知ってるんだ」

「いいねぇ…リージョンも誘うか」

「そうだな。偶には野郎だけで飲むのも悪くない」

「…嬢ちゃん達に言うなよ。俺が刺されかねん」

「ははっ、俺も流石に二度目はゴメンだ」

 

…麻酔利かないから本当に勘弁して欲しい。

 

「で、お前はのんびりしてて良いのかよ」

「ん?まぁー…大丈夫だろ。トカレフなら多分…」

 

 

 




ドシリアスな本編を書いてたから、偶にはほのぼのしたっていいじゃない。
久しぶりに後書き書いた気がする…真面目に書くとここでなんか書きにくくて。

本当は摘出編は一週間くらい休んでからやろうかなと思ったんだけどSNSでわーちゃん概念にフルボッコされてね…。

ヒロイン、完全にわーちゃんになってしまったけど…M4に戻すべきだろうか…。


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指輪争奪戦②

争奪戦が終わるとどうなる?

知らんのか?…………シリアスが始まる。


 

「トカレフちゃーん!どこに行ったのかナー?」

「ノーススター、お前まで探してるのか」

「…チッ、トーンか。野郎に興味は無いわ」

「相変わらずだな…」

「それよりトカレフちゃんよ!見てない?」

「…あそこに居るのは?」

「あれっ…ちょっと、アレダミーじゃない」

「………待て、何で見分けが付くんだお前!?」

「リボンの色よ」

「へ、へぇー…」

「あーん、ダミーでも可愛いなぁ。一人貰って良いかなぁ?鍵の掛かる所にずっと閉じ込めて愛でてたいよう」

「倒錯しているのか…!?」

「危険な奴だ。生かしてはおけない」

「あ、スコーチさん」

「拙者、無垢なる人形達を守護する侍…義によって助太刀致す」

「えっ、ちょっと、何よ、ギャー!!」

 

………廊下からそんなやり取りが聞こえてきた。

 

とりあえず、自室のロックを外す。

…暗い室内の隅に、白いシルエットが蹲っていた。

 

「見つけたぞ」

「指揮官…」

「全く、君は悪い子だな…それ、渡してもらえるかな」

 

トカレフが、ポケットから包みをとりだす。

…手が震えている。

 

「指揮官は、これを誰に渡すか…決めてるんですか」

「…決めてない」

 

本当だ。

というより選べる訳がない。

 

覚悟を決めるとは言ったものの、人形達は戦友だ。

 

「…私が選ばれる訳ないって、思っちゃって」

「どうして?」

「だって、WA2000さんが居ます」

「…相棒?それこそ無いよ…アイツとは一蓮托生。ずっと一緒にやってきた…それだけだ」

「…どうしてそんな事が言えるんですか!?あの人は、あの人は…」

 

トカレフの言葉が、力を無くしていく。

 

「…私が、言っちゃいけない事です」

「そう、か。…なぁ、トカレフ」

 

トカレフの隣に座る。

…トカレフは頭を俺の肩に乗せて、体重を預けてきた。

 

「今、辛い?」

「…」

 

彼女の心の傷は、まだ癒えていない。

俺に依存して誤魔化してきただけ。

 

「…ジョージさんは、私が、迷惑でしたか」

「その聞き方は狡いなぁ…。俺は君にずっと助けられてきた」

 

最初の襲撃の時、ネゲヴ小隊と共に駆け付けた時から、この子はなくてはならない存在になっている。

 

「俺には君が必要だよ」

「なら…私にこれを、くれませんか」

「…駄目だよ。渡せない」

「どうして!!」

「…が、無い」

「…え?」

 

我ながらとても情けない事情が、そこにあった。

 

「君を買うだけの金が、無い…」

「…は?」

 

そう。

誓約システムは、所有権を買い取る事。

この指輪だけあっても、IOPに申し立てしなければ意味がないのだ。

 

「…………………はぁ。ジョージさん。正座」

「え?」

「せ・い・ざ!!!」

 

…コンクリートの上に正座させられた。

とても痛い。

 

「すぅー…………何なんですか!?女の子があなたの事好きだって言ってるのに、ほんと、何なんですかあなた!?信じられない!!」

 

感情が爆発したように捲し立てられた。

 

「ごめん」

「謝ったって許しませんからね!?いつもそうです!!貴方は!心配させて、大怪我して、死にそうになって!倒れて気を失って!そのくせ体質まで変わって!!何で懲りないんですか!?何で辞めないんですか!?……………………何で、怖くならないんですか」

 

お互いに前を向いてるので表情はわからない。

 

「怖いさ。死にたくない」

「じゃあ、どうして…」

「俺が怖がって何もしなかったら、周りに取り返しの付かない事が起きるかもしれない」

 

立ち上がる。

トカレフの手を引いて立たせた。

 

「借金はいつか返せる。けどな、人の命は、誰かの記憶は、いくら金を積んだって返ってこないんだ」

 

だから、後悔だけはしたくない。

だって俺は、

 

「どうしようもないくらい、馬鹿な男だからな」

「本当ですよ…バカで、女の子にだらしなくて、たまにカッコよくて、でも締まらなくて」

「半分以上貶してるね?」

「…私の、大好きな指揮官です」

 

…いい加減、なぁなぁは止めよう。

彼女達の想いに、応えないといけない。

 

「ありがとう、トカレフ。最低だと思ってもらっても構わない…もう少し、待っててくれ」

「…本当に、仕方のない人ですね」

 

トカレフから、包みを受け取る。

 

「あ、でもとりあえず見せてください」

「え。取るなよ?」

「取りませんって!」

 

包みを開き、ちょっと豪華な箱を開く。

 

「「あれ?」」

 

銀色に輝くリング…ではなかった。

光を吸い込むほど、黒い。

 

真っ黒なリングがそこにあった。

 

「…何だコレ。いくらなんでも趣味が悪いぞ」

「私…知らなかったとは言え、こんな物を…」

「あ、ちょっと、泣かないでくれよ…」

 

しかし、ペルシカは何でこんなものを…。

 

「しきかーん?404小隊が来ましたよ〜…あら、修羅場だったかしら?」

 

…扉を開て、わざわざそんな事を言ってきた奴が居た。

 

「え"っ、45…?早くない?」

「ふふっ、会いたくて来ちゃった。ペルシカから連絡も来てるよ」

「あ、あの…」

「あー…とりあえず、行こうか」

 

何だこの状況。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

『久しぶりね、ジョージ指揮官。指輪が届いたと思うけど…どうだったかしら?』

「一度死んでみたらどうだ?」

「しっ、指揮官、抑えて…」

 

司令室のモニターに向けてガンを飛ばす俺と、それを宥めるトカレフさんという図。

 

45は後ろの机に座ってほぼ杖を付いていた。

 

『あれね、対鉄血ハイエンド用兵器のプロトタイプよ。データ取りの依頼も兼ねて送ったわ』

「事前に告知くらい欲しかったよ」

『…あれ?45、言わなかったの?』

「ナンノコトカシラネー」

「うぉい!!」

 

こいつの差し金かよ!!

 

「しかし、何で指輪なんだよ」

『戦術人形の力を増幅出来るなら、逆も出来るかなって』

 

まぁ、確かに…一理ある…が。

 

「…これ、ハイエンドに付けてやらなきゃいけないんだよな」

『まぁ趣味で作ったものだし』

「この野郎…」

 

天才とナニカは紙一重って本当なんだな…。

ハイエンドとの戦闘が多いこの地区へ送るのは確かに妥当なんだが…。

 

『本題はタイタンのテストよ』

「え、まだ何かやらせるのかよ」

『あれ、一応介護用パワードスーツで申請通してるから日常生活で身に着けてるデータが欲しいの』

「何でよりによってそんな方法取った!?」

 

あれバリバリの戦闘用外骨格だろうが!?

 

「…まぁ、金貰ってるし良いけど。いつ来るんだ?」

『ちょっとこれやってみたかったのよねー。もしもしパイロット?座標、確認してる?』

 

…あ、凄く嫌な予感。

 

「指揮官…外にヘリが」

『ドロップシークエンス開始!』

()()()()()あの馬鹿!?」

『了解、ドロップシークエンス開始!』

 

あー、すっげぇ聞いたことある声…。

…ん?45が目を見開いて外を見てる。

 

「…あれ、45は初めて見るっけ」

「なん、なの、コレ」

「ペルシカが俺用に外骨格作ったんだってよ。これはそいつの搭sry」

 

『『タイタンフォール!!』』

 

ずがん!!

物凄い音がして窓の外に何か落ちたのだった。

 

『久しぶり!相棒!あたい会いたかったよ!』

「…40…?」

 

45が呟いた声が、いやに鮮明に聞こえた。

 

 

 

 



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相方戦争

シリアスにすると言ったな。

アレは嘘だ。


…すみません、まだDDクリアしてないんですよ作者。
なのでちょっとお茶を濁させていただきます。


 

窓の外からこっちに手を振る外骨格(中身無し)と言うとてつもなくシュールな光景が繰り広げられている。

 

そんな中、部屋の空気は、重い。

 

「ペルシカ…アレは、どういう事」

『どうって…別に何も?()()()()()()()()A()I()をそのままぶち込んだだけよ』

「何故貴女が持っているの」

『本当は、厳重に封印して死蔵するつもりだったけど…急遽電子戦に強いAIが必要になってね。彼女はうってつけだった』

 

ペルシカと45が神妙な面持ちで話している。

…とりあえず俺はバンガードを迎えに行った方が良いのだろうか。

 

「………夜道には気を付けることね」

『警備体制を強化しておくわ。ジョージ指揮官。そんな訳で一週間、よろしくね』

 

そこで、通信がきれた。

…えっ、一週間って言わなかったかあの女。

 

「45、その、大丈夫か?」

「なぁにしきか〜ん?そんなにおっかなびっくりして」

 

恐る恐る声を掛ける。

…返ってきた声音は、驚くほどいつもどおりで、却って不気味だ。

 

「…いや。話したくないなら良い」

「…ありがとう」

「404の宿舎の鍵だ。長旅で疲れたろう?休んでてくれ」

「ありがと。…夜、期待してて良いのかしら?」

「行かねーよ…ったく、はよ行け」

 

最後までこっちをからかってからに。

…ただ、40と45の間に…何かあったのは確実だ。

 

(あんまり会わせない方が良いかな、コレは)

 

明らかに厄ネタ…しかも、重度の。

 

「トカレフ。とりあえずこの指輪の件は内密n」

「指揮官!今の音は!?」

 

45と入れ替わりでリサが部屋に駆け込んできた。

相当焦っていたのか、肩で息をしている。

 

「お、おうリサ。問題無い…味方だ」

『初めまして!あたいはBT-4040!期待のニュージェネレーションだよ!』

「ひっ、外骨格だけが動いてる…!?」

 

…あー、確かに見ようによっちゃ軽くホラーだ。

リサこう言うの苦手だからな…。

 

「ペルシカが作った人間用の強化外骨格だそうだ。これから一週間、一緒に過ごす仲間だ。よろしくやってくれ」

「え、ええ」

 

そんな事言ってる間に窓開けて入ってきた。

やめろよ、そこ窓。

 

『これからよろしく頼むよ()()

「…は?」

「バンガード、相棒呼びはやめろ」

『え〜、良いじゃん。これからあたい達は文字通りの一心同体なんだからさ!』

「だがな…うぉっ?」

 

いつの間にか近くに来ていたリサに襟首を引っ張られて、頭を胸元に抱え込まれた。

…柔らかい。

 

「…よ」

『え?』

()()()()()

 

ぎゅ、と強く抱き込まれた。

体勢が変だから腰に来てる、離して。

 

 




わーちゃん、まさかの対抗。
…相棒だったのに、自分の想いを自覚してしまった彼女は。


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ある意味処刑

相方争奪戦はとりあえず幕を下ろした。

…タイタンとリンクする前に、少し問題が発生。


 

「…相棒?どした。今日はいつになく情熱的だな」

「うるさい」

 

リサに抱えられたまま、二人…二人?は睨み合う。

 

「渡さないわよ」

『こ、困るな…ペルシカにデータ取れって言われちゃってるし』

 

正面から抱えられてるせいで顔がまぁ…なんだ。

リサの胸に押し付けられている。

しっかりと存在感があるそこは、とても柔らかい。

 

(何でこいつらホント人形のクセにいい匂いするんだ!!)

『べ、別に取って食ったりなんてしないよ?』

「…」

「あ、相棒?落ち着け…な?あと、そろそろ離して?」

 

手をそろそろと離された。

…ヤバかった。

 

「大丈夫だ相棒。俺の相方は生涯お前だけだ」

「なら、良いわ」

『何であたい指揮官達の夫婦漫才見せられてるの…?』

「すまんなバンガード。じゃ、リンクするか…ん?」

 

バンガードを装着しようと背中から寄りかかる…が。

 

「どうした?」

『あっ、言い忘れてた。これから盗難防止の為に音声解錠が必要なんだ!』

「音声で?」

『そう!ちなみに初期設定だから後から変えられるよ』

「ほうほう。1234とかで良いのか?」

『えっとね…《受けてみろ!正義の力!正義装甲ジャスティスタイタン、装☆着》』

「…何だって?」

『《受けてみろ!正義の力!正義装甲ジャスティスタイタン、装☆着》、だよ指揮官!』

「ペルシカァ!!」

 

あのクソ猫女いい加減にしろよ。

リサも口を抑えて顔真っ赤にして涙目になりながら見てる。

 

『指揮官、ほら、早く!あたい待ちきれないよ!』

「え、えー…う、受けてみろー

『声が小さいよ!』

「うるせぇ!!」

 

何でこの歳になってそんなこっ恥ずかしい事させられなきゃならねぇんだよ!!

トカレフが目をキラキラさせながら見てる、やめて、見ないで。

 

「ボス!後方支援から帰ってきたぜ…あ、バンガードじゃん」

 

ぞろぞろとG17、9A-91、GrG3が入ってきた。

やばい、これ迷ってたらギャラリーどんどん殖えるやつだ。

 

「ひぃ…!」

『ほら、指揮官?早く早くー』

「く、くそ、チクショーやってやらぁ!!」

 

もう、やるしかない…。

 

「う、受けてみろ!正義の力!!正義装甲ジャスティスタイタン、装☆着ッ!!!」

 

「どうしたのですか!?ジョージ!?」

「だぁックソッ!?一番見られたくないやつに見られた…ッ!!」

 

司令室の出入り口のトコロで、春が両手で口を覆い信じられない物を見るような目で俺を見ていた。

 

やめて、殺してくれ…俺を見ないでくれ…。

 

『ニューラルリンクス確率、パイロットと同期します。操作権限を移譲』

「…………すまん」

 

タイタンとリンクした瞬間、開けっ放しの窓から飛び出した。

 

「「指揮官っ!?!?!」」

 

 

 




「…G17、録音は?」
「え?あー…一応」
「流石ですわ!譲ってくれません?」

そんなやり取りがあったり無かったり。
シリアスやり過ぎてちょっとギャグ書きたかった。許して。

…120話で完結させたかったけど、ちょっとオーバーするなこれ。


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宴会、そして

「はぁー…酷い目に遭った。バンガード、テスト終了」
『了解、リンクをカットして…あ』
「ん?どうし…あ」

「『解除コード変更し忘れた!?』」

このあとまた叫んだ。


 

「「「乾杯!!!」」」

 

カァン!

とジョッキが打ち合わされる音が響く。

 

黄金色の液体を喉に流し込む。

冷えた感覚が心地よい。

 

「ふはー!あー、ビール最高!」

 

ローニンが空にしたジョッキをテーブルに打ち付けた。

 

「ちょっとローニン?いきなり器物損壊は辞めてよ?」

「大丈夫大丈夫、壊れてねーよ」

 

場所はS-12地区市街地の歓楽街。

やっとすべての工事が終わり、オープンしたのだ。

 

ここはその中の店の一つ。

 

メンバーは俺、ローニン、モナーク、リージョン、トーン、スコーチ、ノーススターだ。

 

「指揮官、男性だけの宴会だと聞いていましたが」

「ん?あー、ノーススターがな…」

「うへへーお姉ちゃん可愛いねーどこ住み?」

 

トーンと俺が声のする方を見ると、ノーススターが店員の女の子のスカートを摘んでいた。

スコーチがすぐに引っ叩いて謝っていた。

 

「いだっ!!何すんのよ!」

「店に迷惑だろう」

「いーじゃない!女の子は愛でるものでしょ!」

「そこには同意するがTPOを考えろノーススター」

「いやお前が言うなジョージ」

 

うるせぇぞローニン。

 

「でも羨ましぃな指揮官。あんなに人形ちゃん達にモテモテで」

「知らんわ」

「アタシの所に皆相談にくるんだけど、いい加減選んであげたら?」

「モナークまで…」

「指揮官、やはり交際というのは清く正しいべきだ」

「トーン君は好青年だねぇ…」

 

ローニンが凄い眩しそうにトーンを見ていた。

 

「あ、そうだローニン!奥さんの写真とか無いの?」

「何だノーススター。見たいのか?しょうがねぇなぁ」

「馬鹿、ローニンは嫁の自慢長いぞ」

「うぇ!?ちょ、早く言ってよ指揮官!」

 

まぁでもノーススターの暴走がローニンによって抑えられてるので結果オーライ。

 

「リージョン、飲んでるか?」

「げふ…僕はね、アルコール駄目なんだ…これ以上は飲まないから」

「え、あー…そうだったのか」

 

リージョンが青い顔して突っ伏している。

その背中をモナークがバシバシ叩いて大笑いしている。

 

「まだ若いんだから飲んで吐いて強くなりな!」

「ぐえー」

「ははは…」

 

しかし、まさかこうやって笑いながら飲める日がやって来るなんてなぁ。

 

「皆、今までよく頑張ってくれた。これからも、力を貸してくれ」

「「応!」」

 

何だかんだ、人間関係にも恵まれたのかな。

 

「あ!指揮官!今度トカレフちゃんにバニー着せたいんだけど!」

「何でだ!!」

「ノーススター、辞めてやりな…この前あの子姿見の前で胸元見て泣いてたから」

「それ言ってやるなよ…」

 

アルコールのせいか、皆饒舌になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは、指揮官」

「…………は?」

 

待て、なんだこの状況は。

 

俺は、帰ってきてシャワー浴びてそのまま寝たはず。

 

「ちょっと聞きたいことあるんだけど?協力してくれるよね?しきかーん?」

 

…目が醒めたら、UMP45にマウントを取られ、拳銃を突き付けられていた。

 

「…………何事?!」

 

 

 




人間メンバーでの宴会風景。
一回書いてみたかった。

最後に不穏。
これどうやって畳もうかな…。


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お話

銃口を突き付けられ、拘束される。
この状況から、抜け出す方法は…?


 

銃口が一切ブレずに俺の頭に向けられている。

サプレッサーまで付いている周到さ。

 

…久しぶりに、俺は生命の危機に直面していた。

 

「45、一つ聞く」

「質問してるのは私よ」

 

取り付く島もない。

 

「…分かった。答えられる事なら答えよう」

「物分りの良い子は好きよ指揮官。…あの外骨格は、何?」

 

…何となく、彼女とバンガードを会わせるのは不味いと思っていたけれど…。

これは、本当に厄ネタだ。

 

「アレは…BT-4040。強襲型人間用外骨格だ」

「どうしてそれを指揮官が?」

「俺の負傷が多いんでクルーガーがペルシカに要請したらしい。詳しい話は知らない」

「本当に?」

「本当だ」

 

部屋は薄暗くて表情は伺えない。

…どうして、彼女はここまでする?

 

「もう一つ。アレは、貴方も開発に噛んでる?」

「知らない。気が付いたら勝手に作られてた」

「…これ、なーんだ?」

 

銃を持っていない方の手に、注射器が握られていた。

…容器を満たす液体は、白い。

 

「…自白剤か?」

「正解…どう?まだしらばっくれる?」

 

…さて、困った。

どうにも45は俺の体質について知らないらしい。

 

打たせた方が良いのだろうか。

 

「真実を言ってるつもりなんだが…そんなに信用無い?」

「こんな事してる時点で生半可な事じゃ信じられないって察してるでしょ?」

「…君は、行動力溢れるのが美点だな」

「おだてたって何も出ないわよ」

 

にべもない。

ホント、どうすっかな…。

 

「45、これは…君個人の感情で動いてるんだろ」

「…なんで?」

「404の仕事なら、とっくに俺は死んでる」

 

少し気になっていた事。

今の状況は、404小隊が俺を亡きものにしようとしているかどうか。

 

「…まぁ、そうよね」

「タイタンに乗ってるAIの事か」

「そう、よ」

「…らしく無いな45」

 

彼女にそこまでさせる。

バンガードと45の関係は気にはなる。

 

けど触れるべきじゃない。

 

「45、証拠も無いし、こんな状況で申し訳ないけど…俺は何も知らない。…信じてくれないか?」

「聞かないのね。私達の事」

「他人の過去なんて抉り出すものじゃない。本人の折り合いが付かない時は、尚更な」

「ほんと、優しいわね…ジョージ」

 

銃口が降りた。

俺は、彼女に許されたらしい。

 

「……ごめんなさい」

「いいよ」

 

上体だけ起こして、45を抱き締めた。

 

「…っ、何するのよ。人を呼ぶわよ」

「俺がこうしたいから、こうしてる。嫌なら殴ってくれ」

「…嫌じゃないわ。落ち着く」

 

45が身体から力を抜くのが判る。

 

「私、ちょっと焦っちゃった」

「誰だってそうだよ…45、今度約束を果たすよ」

「約束?」

「サシで飲むって約束したろ?M4とか416とか乱入してそれどころじゃなかったし」

「…そうね。期待してるわ」

 

するり、と猫のように45が抱擁から抜け出す。

 

「ごめんね、ジョージ…許して欲しいって、言えないけど」

「気にしてない。そういう時もある」

「…相手、しようか」

「人形とはしない主義なの。…まぁ、お前から憎からず思われてるのは…嬉しいけど」

 

そう言うと、やっと45が笑った気がする。

 

「だって、貴方初対面で私に『綺麗な顔をしてる』って言ったじゃない。普通ならこの傷、消さないのとかそんな話するのに」

「綺麗な物は綺麗だよ。45」

「変な人…それじゃあ、指揮官…また明日」

「ああ」

 

45が部屋から出ていった。

……………一気に脱力してため息を吐いた。

 

「命拾ったぁ〜〜〜〜…マジで死ぬかと思った」

 

 

 




日に4ページ投稿とか狂ってるんじゃなかろうか。
でもページ辺り1000文字ちょっとなのでそんなに量はない…。

書きたい事思いついたら即執筆って刹那に生きてるのでご容赦を。

…そろそろ逆レかなぁ。


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鬼ごっこカッコガチ

それは、とても暑い昼下がりの出来事だった。


グリフィンの指揮官に支給されるコートは、とにかく目立った。

赤いんだよ、びっくりするほど。

 

あと俺赤ってあんまり好きじゃなかったんだよな、前まで。

今は赤って聞くと相棒が出てくるからそんなに嫌いじゃない。

 

話が逸れた。

 

今、俺はS-12地区市街地を一人で歩いている。

護衛も付けず、だ。

 

これにはちょっとした訳がある。

 

「あっつ…」

「あ!指揮官さんだ!今夜も私シフト入ってるんです!絶対来てくださいね!」

 

開店準備を進める店の前を通り過ぎると、そんな声を掛けられる。

一瞬で表情筋を引き締める。

 

「やぁステファン。今夜は君が彩ってくれるのか。それじゃ、楽しみだ」

「やーね指揮官さん。相変わらずなんだから」

「でも、悪いけど今夜は来られそうに無い…またね」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「今度は絶対来てよー!」

 

さて、奴さんはいつやって来るのか。

…お、こっちの区画は初めてくるな。

 

「…こんにちは」

 

振り返る。

この区画に人影は無い。

 

「こんにちは…代理人」

「何…?」

 

ウィングマンを素早く抜き放ち、インカムに一言。

 

「ビンゴ!」

『了解!ドロップシークエンススタンバイ!』

 

建物の隅から、いつぞやのワンピース姿が現れる…表情は前と違い、険しい。

 

「ベルロック…まさか、張っていた?」

「どうだかな」

「ならば、またの機会に…」

「逃がすと思うか?」

 

代理人の背後に、何かが高速で落下する。

 

『タイタンフォール!あたい、参上!』

「これは、強化外骨格!?」

「私達もいるぜ!」

 

両側に建つ建物の屋上から、4つの影が飛び降りてくる。

M4、M16、AR-15、SOPMODⅡがそれぞれ光学迷彩マントを脱ぎ捨てた。

 

「AR小隊…最近報告が無いと思えば、こんな所に」

「こんな所とは心外だな。ようこそ代理人。俺達の街へ…歓迎しよう、盛大にな」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー時間は少し遡る。

 

 

 

 

 

久しぶりにクルーガーからの直電があった日だ。

特別に嫌な予感がする。

 

『最近ハイエンド討伐に精が出ているようだな』

「お陰様で。あといくらなんだ?」

『残り300万と行った所だ。この制度を提示してから三ヶ月でこのスピードとは恐れ入る』

「褒めんなって」

 

残り300万!

そう聞いて飛び跳ねそうになるのをぐっと堪える。

 

「指揮官さん…今までで見たことないくらいひどい顔してます」

 

カラビーナから何か言われた気がするが気にしない。

 

『今回連絡したのは他でもない。ハイエンドモデルの侵入事案が増えている件だ』

「侵入?」

『ああ。最近になって、グリフィン傘下の市街地で鉄血のハイエンドらしい人影が確認されている…らしい』

「えらく曖昧だな」

 

クルーガーが言い切らないとは珍しい。

 

『視認情報としてしか上がっていないからだ。確証が無い』

「噂が独り歩きしてるような物か…」

 

でも、確かに俺もエージェントとドリーマーに遭遇している。

…あれ?グリフィンの警備体制ってガバガバなんじゃ。

 

『そこで、担当区を持った貴官にも報せておくべきだと判断した』

「社長自らとは痛み入るね」

『それだけではないがな。ジョージ指揮官。いや、ジョージ。お前なら判別が付くだろう?』

 

あ、嫌な予感がする。

 

「それは、何故そう思った」

『ヤツの息子だからな』

「嬉しくねぇ!!」

『お前なら必ず口説く。それしてどれだけ誤魔化そうが女の顔を見間違える事は無いだろう』

 

変な信頼のされ方をしている。

解せない…。

 

「順当かと」

「なんか君今日はやけに冷たいね」

「…最近、指揮官さん構ってくれませんもの」

「カラビーナ…」

『ゴホン、それでは頼んだぞ』

 

 

しかし、厄介な事になるな、これは。




グリフィン市街地に鉄血ハイエンドが来るって何なんだよ(真顔)

と言う話へのアンサー回。
解決できると良いな…あ、ちなみにギャグパートだよ。

喜べ。代理人とほのぼのだぞ。


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エージェント·ハント

代理人とキャッキャウフフな追いかけっこが幕を開ける。

…………あれ?これそんな話だっけ?


 

走る。

兎に角走る。

 

目の前を走るワンピース姿の美女を追い掛ける。

 

『指揮官、次の角を左に行かれると出口だよ!』

「オーケー、カラビーナ!」

『了解!』

 

目の前のエージェントが慌てて右へ。

…やや遅れて銃声が聞こえる。

 

『外したわ』

『グリズリーさん!?』

「大丈夫だ。まだ追える」

 

街の出口三箇所にライフルを配置する事で更に追い込み易くする作戦だ。

 

そこへ俺とAR小隊で追い込んで行き、万が一逃げられたとしても後方支援の為に街の警備へ付かせていた部隊の援護を受ける。

 

流石にこれなら、如何にエージェントといえど容易くは無いはず。

 

「伏兵か…!」

「逃さないぜ!」

 

加速する為に壁にグラップルを行う。

飛び上がり、そのまま壁を走り出し代理人を追い抜いた。

 

光速い(はやい)…!」

『あたいと指揮官の二人なら!』

「追い付け無い道理は、無いッ!!」

 

そのまま壁を蹴りエージェントに向かって飛び込む、が。

 

「それーー!あっ!?」

 

反対側から飛び込んでいたSOPMODⅡをエージェントが掴み、こちらに投げた。

顔面から衝突する。

 

「ぐほぉあっ!?」

「いったーい!!」

 

なお、俺の方が勢いが強かったのでそのままSOPを押し倒しながら転がっていった。

 

「ぐえっ」

 

SOPを抱き締めて向かいにあった壁に背中からぶつかる。

 

『背中はやめて!』

「すまん!…SOP、大丈夫か?」

「目が回るぅ〜…うん、指揮官は?」

「あぁ、大丈…」

 

…右手に、それほど大きくないが確かな感触。

やっちまったと思いながら慌てて手を離す。

 

「くそ、離されたか…行くぞ…っ、と、と!?」

 

身体が重くなる。

これは…。

 

『指揮官、時間切れだけど…』

「あー、くそっ。後でカラビーナがうるせぇぞ」

 

ポーチから予備の薬品を取り出す。

 

「SOP、先に行ってる。近くの仲間と合流して追ってくれ」

「わかった!」

 

右手の注射器をそのまま右の股に突き刺す。

 

すっかり慣れきってしまった感覚。

もう視界が赤くなる事も無くなった。

 

『効果発動!行けるよ!』

「Rady、set、GOoooooo!!」

 

ジャンプキットを全開にして走り出した。

 

『こちらM4!エージェントを発見!』

「良くやったM4!」

『こちらスカウトチーム、トーン!市街地の避難誘導の9割を達成しました!』

「流石だトーン!愛してるぜ!」

『し、指揮官!わたっ、私もです!!』

「えっ、どうした!?問題か!?」

『…………うぅ、何でもないです。M4アウト』

 

M4からの通信が切れる。

…記されたポイント近くの屋上に飛び移る。

 

…目の前に女の子が座っていた。

 

「オット失礼。君?外は危ないから、家の中で人形の様にお行儀よくしてな?」

「ねぇねぇ、それって私が人形に見えるってこと?」

「え?…君は………………あん?」

 

 

黒くて長い髪をサイドテールに纏めた、どことなく活発そうな子だ。

…いや、待てよ?

ファンデーションとかで肌の白さを誤魔化して…?

 

頭の中の手配書にばっちり合致した。

 

「おまっ、まさか建築家(アーキテクト)か!?」

「ワオ!ビンゴ!S-12の指揮官は凄いのね!良い目をしてるわ!」

 

勢い良く立ち上がり、さっきまで口を付けていたプラスチックのカップを投げ捨てた。

 

「あ、こら!ちゃんとゴミ箱に捨てろ」

『指揮官!?そこツッコむところ!?』

「あ、ごめんねごめんね。出来たばっかりで綺麗なトコだもんね」

『いやあんたも素直ね!?』

「わー、すごーい。この外骨格喋ってる〜」

『わ、ちょっと、触らないでよ!』

「あー、君?いくら何でも警戒心なさ過ぎない?」

 

何だこのハイエンド。

フレンドリー過ぎない?

 

「おっと、そうだった。自己紹介がまだだったね。私は建築家(アーキテクト)!暇してたから遊びに来た」

『「えぇ…」』

 

俺とバンガードが二人揃って絶句した。

良いのか鉄血、こんなので。

 

「いやー、ドリーマーの奴が全然情報流さないから、新しい地区がどんな所か見てみたくて」

「お前らどんな神経してんだほんと」

「せっかく産まれたんだし、楽しいことしたいじゃん?」

「…一理あるな」

『指揮官!?』

「アーキテクト、せっかくの出会いだ。良かったらこの後でお茶でも」

「ちょっと、ウケるんですけど、鉄血の人形にナンパ?」

「フッ、何、美人に人形も人間も関係ないさ」

「何何〜?ドリーマーもエージェントもそうやって落としたの?」

「…あの二人には全く覚えがない」

 

何でなんだアレは。

 

『…指揮官?ちょっと、いい加減にしないと操縦権取るよ?』

「大丈夫だバンガ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………何をしているのかしら、アーキテクト?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…ヒエッ」」

 

 

鬼の様な形相をしたエージェントがそこには立っていた。

俺とアーキテクトは揃って縮み上がった。

 

 

え、どうすんだよこれ。

 

 

 




何か遊びに来た鉄血JK、アーキテクト。

ゲーガーがどっかで叫んでる模様。


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オイオイオイ、死んだわ俺

エージェント(が)ハント。


「貴方も、私が逃げているのに何故真っ直ぐ追わないんですか!!」

「えっ、何で俺も怒られてるの」

『指揮官、WA2000から通信だよ』

「うっわ、このタイミング。取りたくねぇ…」

 

目の前で絶賛乱闘中のエージェントとアーキテクト。

それを見てるしかできない俺。

 

何この光景。

 

「あー、もしもし?」

『ジョージ!アンタ今何やってんの!?さっさと連絡入れなさいよ!』

「ほっといて悪かったって」

『AR小隊がずっと探し回ってたのにアンタだけ居なくなるんだから、その、心配、したじゃない』

「ごめんな相棒。大丈夫だ。それより仕事の時間だ」

『…フン。OK相棒。見えてるわ…って何でハイエンドが増えてるのよ』

「俺に聞くな。それじゃ、頼んだぞ」

 

通信を切る。

さて、と。

 

「で、お二人方?悪いんだけど遊びは終わりだ」

「なん」

 

銃声。

寸分違えずエージェントの左足を撃ち抜いた。

 

「!?」

 

また、違う方角から飛んできた弾丸はアーキテクトの右腕をふっ飛ばした。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!?腕持ってかれたぁぁぁぁ!?」

「手荒い。な、春」

『ジョージ、戻ってきたらお話があります』

「…ハイ」

「まさか、この地点が計算のうちだと…?」

「さぁな?」

 

地に付すエージェントの目の前に立って、笑う。

 

「あの時とは立場が逆だな」

「あの時は、まさか貴方がここまで出来るようになるとは思いませんでしたよ」

「ま、少しは相棒の溜飲も下がったかな」

「…この義体は潜入用。大してデータもありませんし…」

 

かちり、と嫌な音がした。

何かの装置が起動したような。

 

「要件が済めば自爆します」

「……………ばっか野郎先に言え!!!」

「ちょっ、エージェント!?私までまきこむじゃん!!?」

「エッお前は潜入用じゃないの!?」

「死ぬほど痛いじゃん?!」

「鉄血って馬鹿なんじゃないのか!?」

 

慌ててアーキテクトを蹴飛ばして屋上から飛び降りた。

屋上で小規模な爆発が二回起こる。

 

…建物、壊しちまったな…。

 

『反応、ロスト。特に何も掴めなかったね…』

「骨折り損か…」

 

二人で為息を吐いた。

 

「居たわ、指揮官よ」

「ん?…ああ、AR-15か。お疲れ様」

 

爆発を聞き付けて、AR小隊が集結した。

 

「指揮官!ご無事ですか!?」

 

AR-15がそう言うやいなやM4が飛び込んできた。

受け止める…が、薬の効果が切れたので俺も吹っ飛んだ。

 

「ぐえっ」

「あっ、すみません…」

「大丈夫だ…いてて、バンガード。リンク切るぞ」

『了解。リンク解除、自律モードに切り替え』

 

外骨格のマウントが離れ、肩が軽くなる。

…閉じ込められていた熱気が一気に吹き出してきた。

 

「やば、あっつ…すまんM4…ベタベタだからあんまり寄らないでくれ」

「え、あ、はい…」

 

グリフィンの上着脱いどきゃ良かった。

上着を脱いでシャツをバタバタする。

 

…M4がガン見してる気がする。

 

「指揮官、無事だったらしいな」

「M16。すまんな、無駄骨になっちまった」

「いや、良いさ…ダミーとは言えいけ好かないエージェントがすっ転ぶとこを見れたんだ」

「…………ん?見えた?」

 

あれ、こいつら俺の位置は知らなかったはずじゃ。

 

「ん?あぁ、ドローンとリンクしてバンガードが見てた映像は把握してたんだ」

「…それは、全員?」

「ああ、その筈だが」

 

…熱気が急速に冷めていく。

 

俺は、何をしてた?

 

「「「ジョージ(指揮官さん)」」」

「ひえっ…」

 

街角から現れたライフル三人の圧が、凄い。

…M16が笑顔のまま固まり、AR-15が気の毒そうな目で見てきた。

SOPちゃんは笑ってた。

君剛胆だね。

 

「後で屋上」

「ウッス」

 

微塵も笑ってない相棒に、そんなこと言われた。

 

 

 




こんなオチで申し訳ない。
流石にこの二人鹵獲する訳にもいかないので。

…そろそろ話進めないとなぁ。


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ライフル娘は吹っ切れた

説教。

そして、


「正座」

「…ハイ」

 

夜。

何故か屋上に呼び出されリサ、春、カラビーナに囲まれてこの中心に正座させられていた。

 

「指揮官さん?これ、何だかわかりますか?」

 

カラビーナがニコニコしながら二本の空になった注射器を目の前に落とした。

 

「………今日、刺した興奮剤」

「わたくし、言いませんでした?多用はしないでくださいねって」

「ああ…」

 

ぱりん。

…カラビーナのブーツが目の前に振り下ろされ、注射器を粉々に踏み砕いた。

 

「何ですの、これ」

「それは…」

「わたくし、悲しいですわ。どれだけ心配しても、どれだけ言葉を重ねても指揮官さんは意に介さず刺していきます」

 

そのまま、正座している俺の目の前に屈んで、首に手を添わせた。

 

「…いっそ、わたくしの手で終わらせた方が良いのかしら」

「カラビーナ、待て、それは」

「…しませんわ。出来ませんもの。でも、わたくしがどれ程想ってるか位は、いい加減理解して欲しいですわ」

 

そう言うと、カラビーナは立ち上がる。

…入れ替わりで、春が目の前に立った。

 

襟首を掴み上げられて、無理矢理立たせられた。

 

「…もう、言葉を重ねる事に意味はありません。一発です」

 

右の拳を、春は握り締めた。

 

「一発で、許して差し上げます。せいぜい味わって噛み締めてください」

「…わかった」

 

暗転。

浮遊感。

 

そして屋上のフェンスに受け止められた時、顔面に激痛が奔った。

 

人間がぎりぎり耐えられる一撃。

意識保っていられるのが奇跡だ。

 

四つん這いになって咳き込む。

 

「あ、が、ぎ、ぎぎぎ、げほっ、ウェッ、ごほっ」

「私からは以上です。…わーちゃん」

 

春の足取りは重い。

恐らく、プロトコルに抵触したため警告が頭の中で鳴り響いているのだろう。

 

…そして、相棒が俺の前に立った。

 

「…信じらんない」

「…」

「決死の覚悟で薬使って、やってる事がナンパ?ふざけないで。私はそんな奴に命預けた覚えは無いわ」

「…」

「…命がけでアンタ救ったのに、何で、私を見ないのよ」

「…え、」

「何で、私だけ、皆みたいに接してくれないのよ!!」

「お、おい、何言ってるか訳分かんねぇぞ」

「うるさいッ!アンタなんか大好きよ!!」

 

…え?

俺は、顔を上げて相棒を見上げた。

 

「…え?」

「何で私が記憶消さないか、聞いたわよね」

 

ドリーマーの元から救出した時の、あの話。

 

「…あの時、あんたはボロボロになった私を見ても笑っていつも通りに接してくれたわ」

 

「普通なら驚くじゃない…直視出来ないじゃない。人間なら、尚更」

 

「そもそも、私みたいな面倒な人形になんでそんな躍起になって接するのか意味分からなかったわ」

 

「私は殺しの為に生まれた女………そんな面倒くさい女、変えた責任…取りなさいよ」

 

リサの独白を聞いて、頭が真っ白になる。

こいつが、俺の事を好きだと言った?

 

何で、俺達は…。

 

「結局、男女の間で友情は成り立たなかったのね…あんたのこと…あ、愛しちゃったのは私よ…残念だったわね」

「なんだよそれ…」

 

気が付いたら、春とカラビーナに両脇を抱えられて立たされた。

 

「と言う訳ですので」

「そろそろお覚悟を決めてもらいますね」

「え、ちょっと、何する気だ!?」

 

ずるずると引き摺られる。

廊下を経由して…俺の部屋に。

 

三人と一緒に入った瞬間、リサが指揮官権限のロックを掛ける。

ちょっと待て何でそれが出来るんだ。

 

「悪いわねジョージ。信用して私に預けてくれたみたいだけど…アンタが悪いのよ。私達が居るのに鉄血の人形達とあんなことしてるから」

「指揮官、それでは…」

「お覚悟なさいませ♡」

 

ベットに押し倒される。

…三人の手が、俺に伸ばされる。

 

「ちょ、待っーーーー」

「………二度とそんな気が起きないくらい、搾り取ってあげるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 




…はい、さんざん悩みましたがパワープレイでこの問題を解決しました。

多分ここから逆レラッシュになると思います(白目)
あ、内容は書きませんよ。

エロはいけません。


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責任

いきなり三人とかほんと攻めたなぁと。


 

「……………朝か」

 

 

カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細める。

今日は基地内での統一休暇…先日ハイエンドとの大規模な追跡戦があったためわざわざ発令したのだった。

 

なので、静かだ…。

俺も久しぶりに射撃の腕を見ておこうかと起き上がろうとして、

 

…手が六本体に絡んでいて叫びそうになった。

 

「……………あるぇ?」

 

左側にスプリングフィールド、右側にカラビーナ、その間に俺とリサ。

…全員全裸である。

 

いつぞやのイタズラとは違い、俺も正真正銘の素っ裸。

 

「あ、あ、あぁぁあ゛あ゛あアア゛ああ゛アアア゛アああアア゛ああアア゛ア゛アァァ…」

 

段々昨夜の事を思い出してきて、頭を抱えたくなる。

腕絡め取られてて動かせないけど。

 

昨夜、あまりにもあんまりな俺の態度に業を煮やしたライフル三人が俺を部屋に連行してそのまま…。

 

「…おはよう、ジョージ」

 

そんな俺の首元に手を伸ばし、密着するリサ。

そのまま俺の頬にキスを落とすもんだからびっくりするよね。

 

「えっ、おまっ、えぇ?」

「…何よ。私が素直になっちゃ駄目なの?それとも…素直な私は、嫌?」

「…そんな訳ねぇよ、全く…まさかお前が一番重いなんてなぁ…」

 

一番楽な距離感で、一緒に修羅場くぐってきた相棒と、まさかこんな事するなんてな…。

 

「重いなんて心外ね…アンタは誰にも渡さないだけよ。私の、私だけの相棒…」

「お前…そういうとこだぞ」

「ふふ、楽しそうですねわーちゃん」

 

左側からも手が伸びてきて無理矢理そっちに顔を向けさせられる。

痛い。

 

「春…んっ?!」

「おはようございます、ジョージ」

 

いきなり口を塞いでくるんだからこいつ。

知ってるか?俺昨日こいつにかと思うくらいのパンチ貰ったんだぞ?

 

「おはよう、春…」

「ふふ、私…幸せです」

「そりゃ、良かったよ…」

 

カラビーナはまだ眠っている。

こいつもこいつで激しかったからな…。

 

「しかし、腰が、痛い…」

「必要経費ですよ」

「ずっと離さなかったのお前らだろ…6発は、しんどい…」

 

不能になるかと思った。

 

「最後の方のアンタの顔、意外と可愛かったわよ」

「リサ…俺の中の相棒像がどんどん崩れてく…」

「私をこんなにしたのは、アンタよ相棒」

「泣けるぜ…」

 

あと、ちょっと、二人共?

俺を触る手付きが段々ねちっこくなってるんだけど。

 

「てか、おいっ、ヤラねーよ!?ちょ、離せ!カラビーナてめっ、起きてんだろ!?」

「ふふ、ジョージさん?わたくしも欲しくなってしまいましたわ」

「待ってくれ、流石に勃たなっ、ひぎっ」

 

今まで溜まってたのはとんでもねぇ性欲でした。

いやー……………やっぱつれぇわ。

 

 

「…どうしよこれ」

 

 

次に目が覚めたのは、昼過ぎだった。

 

 

 




結局、ジョージは真面目なので本格的に責任の取り方に悩む事に。

まぁ、これで終わるわけ無いんだけどね。


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熊姐さんのお悩み相談室

ジョージ、悩む。


 

ーー射撃場。

 

うちの射撃場は、最前線と言う事で割と色を付けて充実させて貰っている。

人形は勿論、人間もここを利用している。

 

…が、今日は公休。

流石に誰も居なかった。

 

イヤーマフを付けて、シューティンググラスを掛ける。

手には、ウィングマン。

 

アイアンサイトも良いが、俺はクラシックサイト1倍を愛用している。

 

的に向けて構える。

分類上はハンドガンだが、威力はそこいらのハンドガンとは比べ物にならないマグナムと呼ばれる代物だ。

 

トリガーを引く。

重い反動と鋭い音。

 

(…まさか、相棒が俺の事をなぁ…)

 

トリガーを引く。

六発撃ちきり、リロード。

 

(それに、春にカラビーナか…)

 

再びトリガーを引く。

 

(…人形とはしない、なんて言ってたけど…意図せず彼女たちにも優しくしてたんだな俺は…最低だホント)

 

撃ち切る。

的がボロボロになり交換される。

 

…弾痕がバラバラ、酷いもんだ。

 

(誰か一人を選ぶなんて今更出来るだろうか…いやでも三人と関係を持ってしまった訳だし…)

 

トリガーを引く。

リコイルコントロールも慣れたものだ。

 

(…三人とも、いやいやそんな不誠実な…しかし、重婚なんて今どきザラだが…)

「指揮官」

(三人とも俺を想っての行動なんだし何とか応えたいけど…)

「指揮官ってば!」

(どうにか、良い方法が見付かればな…)

「しーきーかーんー!!」

 

リロードしようとして、後頭部を小突かれた。

 

イヤーマフを外して振り向くと、肩で息をしているグリズリーが立っていた。

 

「グリズリー?どうしたんだ」

「どうしたじゃないわよ、全く…何回呼んだと思ってるの?」

「あー…すまんな、考え事」

「ふーん…まぁイイわ。けど、指揮官…酷い撃ち方ね。その銃が泣くわよ」

 

ウィングマンを指さされて、苦笑する。

…確かにコレは、彼女の愛した男が使っていた物だからな。

 

「…すまない。ちょっとね…」

「…何か、重大そうな考え事ね」

「重大そう、か」

 

俺の気持ちと彼女達の気持ちの話だ。

まぁ確かに重大だ。

 

「…ハルカが除隊する前のジョンみたいな顔してる」

「母さんが除隊する…あぁ、そうか。知らなかったもんな…親父が結婚したの」

 

その頃にボディの転換やらをやっていたのだろうか。

 

「そうね…あの頃はアイツもずっと悩んでたみたい。いつもの口説き癖もどっか行ったみたいにね。…行き詰ったときはそうやってずっと撃ってたわ…結果は、散々だったけどね」

 

なんてこった。

俺のコレは親父とそっくりな行動だったらしい。

 

「参ったなぁ…嫌いだけど、俺はどこまでも親父の息子なのか…」

「そうね、ホント貴方はジョンみたいだわ」

「嬉しくねぇなぁ…」

「…一度、話してみたら?ジョンと」

 

…なるほど。

確かに俺のこの悩みは親父が通った道だ。

 

だが…。

 

「親父なぁ…蒸発しちまったんだよな…」

「…そうだったわね」

「誰かに相談するにしたってな…ここの基地の奴らはどいつもこいつも口が軽いし」

 

いい相手が見付からない。

自分で答を見つけなきゃいけないのにな。

 

「相手、か…あ。居るじゃない、一人」

「え?」

「口が硬くて、ここの人達と接点が無く、かつ年上の成人男性」

「マジかよ、誰だそれは…」

「クルーガーよ」

 

盛大にすっ転んだ。

 

 

 




年上、かつ面倒見が良くて父親を知っている、と言う設定なのでジョージの導き手になりうるグリズリー。

初登場があんな残念だったのに凄いしっかり相談役出来てるあたりグリズリーと言うキャラの土台ってすごい。


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本部に来るのは何度目か

とても都合の良いことに本部への報告会が決まっていた。


 

…さて、グリズリーにそんな事を言われたが…。

たまたま、本部の方に定期報告の時期が来ていた。

 

クルーガーと直で話す機会が、やって来てしまった。

 

 

「…本部に来るのは、初めてですね」

「そう言えばそうだったな、GrG3」

 

今回の護衛は、GrG3を選んだ。

正直、あの三人は顔が合わせ辛い。

 

そして、自分に好意を向けている相手を選ぶ勇気も、無かった。

 

「でも、護衛が私で良かったんですか?私より強い人形ならたくさん居るのに」

「…まぁ、あそこを開けるわけにも行かないからな。あまり戦力を割いてもしょうがない」

 

…と、ここまで言ってから慌てて付け加える。

 

「や、君が居なくなっても大丈夫な程度だなんて思ってる訳じゃなくてな?」

「…ふふ、大丈夫ですよ指揮官。信頼、してくれてるんですよね?」

「ああ。それじゃあ、ここで待っててくれ…行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」

 

GrG3に見送られて、俺は会議室の扉をくぐった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

報告会が終わった、その後。

 

グリフィン本部、社長室。

 

「こうして顔を合わせるのは久しぶりだな、ジョージ指揮官」

「…久しぶりですね、社長」

「……………」

 

いや、まぁ、報告会のついでに話したい事があると言ったら…わざわざ時間を作ってくれるとは思っていなかった。

 

しかし、なんで…ヘリアンまで居るんだ!?

 

「それで、話とは?」

「話したいのは山々なんですが、その…」

「女だな」

「グッフゥッ、早い…」

 

思わず変に呻いてしまった。

クルーガーはため息を吐いて額を抑えた。

 

「やはり、蛙の子は蛙か…昔、ジョンの結婚の時も相談されたな…」

「…結婚、ですか。その話…詳しく聞かせてもらえませんかクルーガーさん」

 

おいこら合コンの敗北者。

相談してるのは俺なんだから割り込んでくるな。

 

「ベルロック指揮官、それで…その相手とは結婚するつもりなのか?」

「いや、ちょっと、ヘリアンさん?何仕切ってんの?」

「答えろ」

「そんながっつき過ぎるから失敗するのでは?」

「上等だベルロック。表へ出ろ」

「…ヘリアントス上級代行官。この話題は少しデリケートだ…済まないが退室しろ」

「………………わかりました」

 

…なんか、恨めしそうにこっちを見て退室していった。

 

「さて、本題に入ろうか…と、言いたいが…ジョージ。お前、酒は?」

「え?ああ…それなりには」

「ジョンも大佐も強かったからな…今夜、開けておけ。飲むぞ」

「えっ………………うえぇ!?」

 

今夜、社長とサシで飲むことが決まりました。

うそん?




感想からヒントを頂き30分クオリティの更新。
短いけどいつも通りなので許して。

この手の話題でヘリアンさんの安心と信頼の実績。
なお手応えは。

さて、今夜は社長とサシ飲みです…何を言われるのやら。


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解答

どうして、こうなった。

 

「…それで、話というのは?」

「えっ、あー…それは」

 

夜。

GrG3に飲んでくると告げ、クルーガーに連れてこられたのは…意外、屋台。

 

店主が目の前でおでんを茹でている。

 

俺とクルーガー飲めの前には空のジョッキが合計四。

そろそろ頃合いだと思われたのだろう。

 

「…誓約の必要に迫られて」

「はぁー…よりによって人形か…」

 

店主がジョッキを下げて徳利を出した。

…熱燗かよ。

 

「ジョンは相手が一人だったからな…それで、何人だ」

 

熱燗を煽ってからその一言。

多人数前提かよ。

 

「…三人」

「ハハハ!流石だな、ジョン見てるか!これがお前の息子だぞ!」

「すんません店主…」

「構わんさ」

 

俺の目の前にもビールが置かれる。

受け取ってそのまま煽った。

 

あと大根を食す。

美味い。

 

「はぁー…しかし、誰の入れ知恵だ?私に相談するとは」

「あー、それは…グリズリーだ」

「グリズリーが?……待て、グリズリー?お前の所のか?」

「え?知らなかったのか?元正規軍の自律人形だって言ってたが…」

「…………………思い出した。居たな、一体。ジョンに惚れた哀れな人形が」

 

苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

これはまた闇の深い話かな…。

 

「…そうか、あのグリズリーがそうだったか…あの頃が懐かしいな…」

「昔話にゃ、早いんじゃないかオッサン…」

「すまんな。…しかし、人形ならば全員娶れば良いだろう」

 

店主が吹き出した。

いや、まぁ笑うけどさ。

 

「おい、真面目に…」

「至って真面目だとも。人間では無くモノなのだからな」

 

…そう、人形ではなく、モノなのだから。

人間に対する対応ではなくてもよい。

 

ならば、倫理に縛られることも無いのでは?

 

「それは…そうだが」

「何だ、嫌に納得が早いな」

「…まぁ、誰かにそう言って欲しかったのかもしれない」

 

自分の中で悪手としていた物だったから、尚更だ。

 

「ま、ベルロックもお前が末代だがな」

「…いつ終わるか分らない世界だ。どうせ死ぬなら派手に遊んでからで良い」

「違いない。私も昔ジョンに散々付き合わされたからな…」

 

クルーガーが遠い目をする。

それはきっと、楽しかった思い出なのだろう。

 

「…ありがとう、クルーガー。吹っ切れたよ」

「フン、人間相手なら最悪だがな」

「正直殴られるだろうなって思ってる」

「一発殴られて来い」

「…もう殴られたよ。スプリングフィールドに」

「…スプリングフィールドにか。よく生きてたな」

 

殴られたし刺されたし割とやられる事全部済ませてあったのだった。

 

「後悔だけはするな。良いな?」

「ああ」

「…ところで、相手は誰だ?ん?誰に惚れた」

「オイこら近所の親戚のオッサンかアンタ」

「何、めでたい話だ。話してみろ」

「…WA2000と、スプリングフィールド、Kar98kだ」

「はっはっはっは!!全員本部から引き抜いた奴らじゃないか!」

 

大笑いしながら背中バンバン叩いてくる。

痛えよ。

 

「それで、向こうから襲われたのだろう」

「…ああ」

「ったく、そんなとこまで似んでも良かろうに」

「似たくて似た訳じゃねーよ」

「式には呼べよ」

「んな盛大にやらねーっつの!」

「先に借金は返せ」

「わぁーってるよ!!」

 

結局、散々しこたま飲まされてこの後二軒目を梯子したのだった。

 

「…GrG3待たせてるんだった!」

 

 

 

 

 




相手が人形なら、と却って開き直りハーレム容認したジョージ。
おや?GrG3の様子が…?


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胸の痛み

GrG3を探して夜の街を走り回る。


…やってしまったなぁ。

GrG3を待機させて二軒目行くとか何を考えているんだ俺は。

 

焦って探し回ったよね。

…そしたら何故かいつもの服からウェイトレスの服に着替えたGrG3が客寄せをしていた。

 

「ホワッツ!?」

「あ、お帰りさない指揮官さん」

「ただいま…えっ、何してんの?」

「えーっと、指揮官を探していたら捕まって、あれよあれよと」

「捕まった!?どいつだ!風穴開けてやる!」

 

懐からウィングマンを抜き放とうとしてGrG3に止められる。

 

「ちょっと、指揮官さん!?」

「離せ!」

「もう!酔ってますね!?えいっ!」

「ごふっ」

 

鳩尾に良いものを貰った。

………あれ、なんかデジャヴ。

 

今回はしっかり意識を刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「( ゚д゚)ハッ!」

 

飛び起きる。

ウィングマンを抜こうとして…手が空を切る。

無い。

 

「やべっ、どこに…」

「おはようございます、指揮官さん。すっかり夜ですけど」

 

部屋にGrG3が入ってきた。

…よく見たらここ、本部から借りた俺の部屋じゃん。

 

机の上にしっかりウィングマンは置かれていた。

 

「すみません、目はさめましたか?」

「…バッチリ」

 

ビビるわ。

意外とGrG3が脳筋でびっくりしてる。

 

「プロトコルに抵触しなかったか?」

「一瞬でしたので耐えました」

「…ちょっと春に影響された?」

「どうなんですかね」

 

GrG3がベットサイドに腰掛ける。

 

「…着て帰ってきたのかそれ」

「これですか?いえ、着れる人形がもう居ないみたいで…処分に困っていたとか」

「押し付けられたのか…」

「…私、古い型らしくて。そんなに出回ってないみたいで」

「…そっか」

 

よく自信がないとか口にしていた彼女。

そんな事はないと、よく鼓舞していたのを思い出す。

 

「指揮官さん。少し、付き合ってもらえますか」

「付き合う…?」

「置き去りにしたうめ合わせを」

「うっ…分かった」

 

そう言うと、彼女は徐ろにワインとグラスを用意する。

 

「付き合うってそういう…」

「指揮官さん、どうぞ」

「ありがとう」

 

ワインを注いでもらい、グラスをお互いにぶつける。

 

「「乾杯」」

 

二人でグラスを扇いだ。

 

「…指揮官さん、覚えていますか?」

「…何を?」

「私が、自信がないと言うといつも言っていた言葉」

「…何だっけ」

「『少なくとも君の美貌は自信持ってもいい』ですよ」

 

頭を抱えた。

今思うと自覚なしに凄まじく口説いていたらしい。

 

「私、それで自信を持つことにしたんれす」

「そりゃ、良いことを聞いたよ。口説いた甲斐があ」

 

GrG3が俺の肩を掴んだ。

…俺たちは今、ベットに並んで座っている。

 

既に、GrG3のグラスは空。

と言うか瓶が半分まで減っている。

 

「…GrG3?」

「知ってますからね、三人とシたの」

「え」

「それを知って私、胸がとても痛いんです」

 

GrG3に押し倒された。

…拙いぞ、これは、拙い。

 

「指揮官さん、この胸の痛み…収めてください」

「待て。GrG3。落ち着け、酒の勢いは、駄目だ」

「ごめんなさい、抵抗しても無駄なんです」

「ちょっと?!おい、馬鹿!やめ」

 

 

 




はい、と言うわけで二回目です()

まさかのGrG3。
M4はいつになるかな…。


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自業自得

ジョージまた襲われる。


帰りのヘリの中でもGrG3がニコニコしながら腕組んで密着してくる上に俺の肩に頭を乗せて定期的に腿を撫でてくると言う割と拷問みたいな状況を経て基地へ帰還した。

 

「お帰りなさい指揮官…あら、GrG3。その様子だと成功したようですね」

「はい、春さん。お陰様で」

「エッ、お前らグルだったの!?」

 

腕から手を離してくれなかったGrG3と司令室に戻ると、書類を置いていた春がそんな事を言ってくれやがった。

 

「はい。この基地の人形には知れ渡っていますよ?『指揮官が欲しければ襲え』と」

「お前、俺がどんだけ悩んだと…」

「…ふふ、それは良かった」

「よくねぇよ」

「一時とはいえ、貴方の思考を独占出来たのですから」

 

…何というか、策士というか。

参ったなぁ。

俺こんな奴らに惚れられてるの?

 

遅かれ早かれ落とされてたんじゃね?

 

「そうか…GrG3、悪いけどそろそろ離してくれ」

「はい、指揮官さん。次を楽しみにしています」

「……………マジか」

 

次、次て。

 

「…春、何か不在間で変わった事は?」

「特には。ただ…404小隊とAR小隊が少し」

「えっ…………あ、416か、しまった!!」

 

忘れていた。

あいつ絶対トラブル起こすじゃねぇか!!

 

「何処にいる!?」

「今は、基地のバーに」

「わかった、ちょっと行ってくる!」

「ジョージ」

 

呼ばれたので振り返る。

そっと顔に手が添えられて、そのまま春に唇を吸われた。

 

「お帰りなさい」

「あ、え、あぁ…た、ただいま…」

 

良いように遊ばれている気がする。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

バーにて。

 

入り口に張り紙が貼ってあった。

内容は…HK416の立ち入りを禁ずる。

 

思わず頭を抱えてしまった。

なんか最近抱えてばっかりな気がする。

 

「ええい、ままよ」

 

とりあえず中に入ると、

 

「うっ、うう…指揮官とのハジメテは、私が一番乗りしたかったのに…」

「お、おいM4…飲み過ぎだ…そろそろ控えろ…」

「それもこれも、姉さんが!止めるから!!先越されたんですよ!!」

「ええ…チャンスはいくらでもあったのに途中でヘタレたのお前だろ…」

「私は完璧なの…完璧なのに…どうして奴に勝てないのぉぉぉぉぉぉ!!M16!貴方にとって私はなんなの!!」

「ちょっ、おまっ、416!やめろ!揺らすな!」

 

混沌が広がっていた。

思わずそっとドアを閉じた。

 

「…何事?」

「あ、指揮官。お帰りなさい」

「ただいま、9A-91…何コレ」

 

たまたま近くを通りかかった9A-91にこの惨状を聞いた。

 

「…スプリングフィールドさん達の声明があった後に、M4さんが毎日入り浸る様になって」

「えぇ…」

「M16さんが抑えてたんですけど、何故か416さんがそこに加わって…」

「…あいつの負担ヤバそうだな」

 

仕方ない、助けに行くか…。

意を決して、ドアを開こうとして。

 

「指揮官。私は…指揮官から来てくれるのを望んでいます」

「…9A-91は、襲ってこないのか?」

「指揮官に嫌われたくないので」

「…嫌わないよ。大丈夫」

 

軽く頭を撫でて、中に突入し

 

「あ、指揮かっ…指揮官」

「ジョージ、来なさい」

「えっ」

 

入った瞬間、M4と416に担がれた。

 

「ちょ、ちょっと、おまっ、M16!?」

「…悪いな指揮官。疲れた。もう食われろ」

「アッてめぇ保護者やるなら最後までちゃんと面倒見ろ!」

416(そいつ)の保護者になったつもりは無い!」

「てめえええええて!!」

 

二人に連行されて、部屋まで連れて行かれた。

これは、拙いぞ。

 

最近起こった一連の流れから容易に結末が想像できる。

 

「ぐえっ」

 

ドアを開けた瞬間、ベットに投げ込まれた。

 

「指揮官」

「M4…」

「もう、我慢しません」

「ちょっと!?酒の勢いは」

「ジョージ」

「416…」

「私は完璧よ」

「待て待て待て!お前こそ良いのか俺が相手で!?」

「当たり前でしょ!?どれだけ待ったと思ってるの!?」

 

あ、駄目だ話通じねえや。

 

「指揮官!やっぱり私も混ぜてください!」

「このタイミング最悪だぞ9A-91!?ちょっと、やめっ、お前らぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 




久しぶりの416がこんなんで申し訳ない。
だが私は謝らない。

M4焚き付ければ416も来るだろうなと思いながら。
9A-91は、趣味。

ジョージ、吹っ切れた途端にまた悩みだす。


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指輪の数は

M4と416は結局ヘタレてジョージに逆襲された模様。

9A-91はジョージを完封。
ジョージ、少し泣く。

あ、今日の更新2ページ目なので全話飛ばし注意です。


「ハァイ、ジョージィ?元気?」

「お、おは、おはよう…ジョージ」

「…………………Why?」

 

朝。

目が覚めたらUMPサンドされていた。

何を言ってるのか分からないだろうが俺も分からない。

 

45が耳元に口を近付けて来て囁いてくる。

 

「最近、オイタが過ぎるんじゃない?」

「俺の意志とは無関係…無罪を主張する」

「ふぅん…?私には人形とはしないって言って振ったくせに?」

「そ、それは…」

「あー、いけないんだー。…嘘だったんだ。私、悲しくて泣きそうだよ」

「あ、あのなぁ…第一、何でナインまで」

「あ、あの…」

 

おずおずと、ナインが反対側から腕を引っ張ってくる。

 

「わ、私も!私もジョージと家族になりたいの!だから、お、お、襲うね!」

「45ォ!お前、ナインに何吹き込んだ?!」

「ふふふ、私ね、貴方の苦労する顔が見たいの」

「唐突」

「だから…」

「これから、みんな家族だ!」

「家族の意味が違っーーーーーー」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ローニン。指輪って取り寄せれるか?」

「…指輪?何でまた」

「ちょっと、色々あってな…」

 

ローニンと共に資材倉庫にいた時。

補給物品の管理をしていた。

 

何となく自分の顔が死んでるなと思ってしまう。

 

「…お?そうか、やっと決心したか。相手は?」

「言えない」

「何故…まぁ、相手の事を考えるってのも大事だ。去年の賭けの答え合わせもやっとでき…」

「とりあえず10セット頼む」

「る……………ハァ!?」

 

ローニンが資材表を落とした。

 

「じゃ、頼んだ」

「ちょ、ちょっ、ちょっと待て10だと!?10っつったな!?」

 

ローニンに肩を掴まれた。

痛い。

 

「あーくそうるせぇ!つべこべ言うんじゃねぇ!!だからお前に頼みたくなかったんだ!」

「節操なしにも程があんだろ!!」

「しかたねーだろ襲われたんだから!責任取らせろ!!」

「…マジか」

「…マジだ」

 

ローニンがバカみたいにデカいため息を吐く。

 

「…そうか。まぁ、刺されんなよ」

「もう刺されたよ」

「そうだったな…あ、そうだ」

 

資材の中から包が一つ出てきた。

ラベルには戦術人形用スキンと書かれていた。

 

「スキン混ざってたのか」

「ああ、珍しい事にな。対象はトカレフだ」

「了解、渡しといてくれ」

「渡してやれよ…」

「…俺が?いやまぁ良いけど」

「お前が渡すのが一番喜ぶだろうさ」

 

包を受け取る。

結構大きいが…スキンって服だけじゃないのか?

 

「そいつはマシな方だ。やべーのは子供サイズの義体が入ってるらしい」

「え、何それ怖い」

 

大丈夫なのかこの組織。

 

 




指輪10個ってお前。

RTA更新しろと言われたので開幕で食われました。


はい、次回はあの子の回です。
割と逆レ回詰め詰めでやってしまいましたがそろそろ物語を動かさないといけません。

とりあえず、興奮剤刺すぞジョージ。


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それぞれ

流星のロックマンを購入して遊んでいて遅れました()

たまに昔のゲーム無性にやりたくなるんですよね…。
やっとトカレフちゃんにスキンを渡せます。


「さて、トカレフは何処にいるんだろうか…」

「ジョージ」

「指揮官って呼べよ相…WA2000」

 

ついいつもの様に答えようとして、止まってしまいます取り繕う。

…取り繕い方が物凄く不自然になる。

 

「何よ、畏まっちゃって」

 

振り返ると、WA2000…リサが何時もと変わらない面持ちで立っていた。

 

「その荷物は?」

「え?あ、ああ…トカレフのスキンらしい」

「へぇー…あの子の」

「…なぁ」

「何?」

「お前はさ…いいのか?俺が…お前以外とヤッてることに」

 

割と最低な質問をしたと思う。

その証拠に、リサの顔はみるみる真っ赤になる。

 

「ばっ、馬鹿じゃないの!?」

「…悪い」

「…まぁ、その…別に、不満がないと言えば嘘になるわ。でも…アンタ、どうせ責任取ろうとかずっと考え込んでるでしょ」

 

図星。

流石相棒だとしか言えなかった。

 

「だったら、追い詰めるしか無いもの。腹括らせるために」

「思ったよりスパルタだった…」

「で、も!」

 

目の前にやってきて、拳を握り軽く俺の胸を叩いた。

 

「私が、あんたの事一番…愛してるわ。覚えときなさい」

 

真っ赤になりながらそんな事を言われるもんだから、思わずくらっとしてしまった。

 

「つっよ…」

 

思わずそんな言葉が溢れた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「指揮官」

「…M4」

 

人形達の宿舎に入った瞬間、M4に遭遇した。

…やっぱり、視線が合わせ辛い。

 

「おはようございます。…どうされましたか?」

「いや、何でもない」

「…やっぱり、迷惑でしたか」

 

最近人形達に心を読まれるような気がする。

ちょっと気を引き締めないといけないかもしれない。

 

「…散々放置していた俺の問題だ。君が気に病む必要は無いよ」

「ですが」

「俺が迷惑すると思って襲ってきたのか?」

「……………………そんな聞き方は、狡いですよ」

「狡いのはお互い様だ。待っててくれ…落とし前は付ける」

 

M4の頭を軽くなでて、後にした。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「トカレフ」

「あ、おはようございます指揮官」

「おはようボス!…その荷物は?」

 

部屋が何処にあるか分からずあるきまわる羽目になったが、宿舎の共用スペースに彼女は居た。

G17も一緒に居たらしい。

 

「ああ、おはよう二人共。トカレフ、君に荷物だ」

「私に、ですか?」

 

トカレフが抱えるにはちょっと大きかった様だ。

そのまま床に降ろした。 

 

「私用のスキン…あ」

 

何かを思い出したのか、トカレフの顔が真っ赤になる。

 

「…どうしたんです?トカレフさん」

「な、何でもないです!失礼します!!」

 

G17に声を掛けられて、慌てて包を抱えて走って逃げて行ってしまった。

 

「何だったんだ…?」

「ボス、トカレフのスキンって何か知ってる?」

「いや…生憎と無頓着だったからなその辺」

 

…その時、持ち歩いていた連絡用携帯端末に一言メッセージが送られてきた。

 

『今夜、お邪魔します』

 

差出人は、トカレフだった。

 

 

 




逆レ?
今回はお休みです。

トカレフのスキンって言ったらね、もうアレですよ。
初期にスキン関連でコメントくれた人、やっとフラグ回収します。


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誓約のスキン

トカレフのスキン、と云うことで察した人が多かったですが今回は平穏に終わらせます。

…これが最後の平穏回かな。


渡す物は渡したし、今日の仕事をしよう。

書類もそこそこあるだろうし、スプリングフィールドを部隊長とした警戒部隊も送り出さないとな。

 

「さーて、今日も一日ガンヴォルぞいっと…」

「ハァイ、ジョージィ。おはよう」

「おはようございます、指揮官さん」

「おはよ、ジョージ」

「おはようございます指揮官!」

「……………………何で四人もいるの?」

 

執務室の扉を開くと、45、カラビーナ、リサ、M4がそれぞれ待ち構えていた。

 

「え、ちょっと、今日の副官はG17だった筈だけど…」

「代わってもらったわ」

「だとしても4人もいらん」

「知ってるわよジョージ。決心出来なくて私達と顔合わせ辛いからって避けてるの」

「うぐ…」

 

図星。

今日は朝から図星刺されるなぁ…。

 

「指揮官、大丈夫です。任せてください」

「そうですわ、指揮官さん?わたくし達がしっかりサポートして差し上げますわ」

「そう言われてもな…」

『BT4040が起動したよ!おはよう指揮官!今日も頑張ろう!』

「おう、おはようバンガード」

 

バンガードが外殻だけで執務室に入ってくる。

リサはやっぱり慣れてないのか小さくひっ、と呻いた。

 

その隣に部隊長の春も居た。

 

「お、おはよう、春。一日仕事だけどよろしく頼む」

「承りました、指揮官。…あら、指揮官。ネクタイが」

「え、おかしいな…直してきた筈だが」

「失礼しますね…んっ」

「んっ!?」

「「「あっ!!」」」

 

春が俺のネクタイを直そうと手を添え…たフリをして引っ張り、俺の唇を奪った。

 

柔かっ…オイオイオイオイどこまでする気だめっちゃ吸われてる気がする。

精気とか。

あっ、待っ、舌っ…!?

ちょ、背中に手を回さないで。

 

俺はひたすら彼女の肩を叩いたのだった。

 

30秒にも満たないくらいされていたのだろうか、春が口を離した。

 

「ぷはっ…隙有り、ですわ。スプリングフィールド以下四名、出発しますね」

 

イタズラが成功したかのように春が微笑む。

…口元に涎がちょっと付いてるから台無しだ。

 

ハンカチで拭ってやった。

 

「お前…はぁ。春、怪我するなよ」

「うふふ、はい。行ってきます」

 

そのままパタパタと春は出て行った。

一息付いて、仕事を…。

 

「ジョージ」「「指揮官(さん)」」「しきか〜ん?」

「…………………君たち、仕事させてくれへん?」

 

 

このあとめちゃくちゃお仕事した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー夜。

 

 

彼女達のご機嫌取りをしながら仕事をするのもだいぶ慣れてきてしまったとちょっと悲しくなってくる。

 

でもやはり皆有能と言うか、仕事がさっくりと片付いてしまい俺は食事と入浴をしっかりと済ませて夜を迎えたのだった。

 

…風呂?そりゃみんな来たよ。

丁重にお帰り願ったけどさ。

 

久しぶりにゆっくりと本を読みながら自室で寛いでいた。

 

…そんな時、部屋のドアがノックされた。

 

「空いてるぞ〜」

「しっ、失礼、し、しししましゅ…」

「ん?トカレフか?どうし…」

 

時間が止まった気がした。

 

……………いやいやいや、IOP何作ってんの?

 

 

トカレフは、いつもの白い制服ではなく…純白のヴェールに…コルセットと、ショーツと言った格好をしていた。

 

これではまるで…。

 

「あ、あのっ指揮官!に、似合ってますか…?」

 

本人も凄まじく恥ずかしいのか、顔が真っ赤でしどろもどろになっている。

 

…落ち着け、落ち着けよジョージ。

ここで返答をミスれば俺は幼女性愛者の烙印が押されてしまう…!

 

「あ、ああ…綺麗だぞ」

 

無難!

どうだ、これなら…。

 

「…指揮官、こう言うのがいいんですか?」

「ぐふっ」

 

致命傷だ。

もう俺は駄目みたいだ…俺が死んだら、灰を故郷の桜の下に埋めてくれ…。

 

「指揮官?どうしたんですか?」

「い、いや…何でもない。しかし…IOPめ、なんて物を…」

「…指揮官」

 

トカレフが椅子に座る俺の元へとやってきた。

 

「トカレフ」

「…私、皆が指揮官に愛されたって話を聞いても…よく分からなかったんです」

「…それは」

「私は指揮官に愛されたいです…けれど、もう私だけを見ては貰えない」

「…ごめんな。決めたんだ。全員に対して責任取るって」

 

トカレフの頭を撫でてから、細い体を抱いて膝の上に座らせた。

…結構上等なものなのか、手触りが良い。

 

「その全員に、私は入っているんですか?」

「…勿論」

「指揮か…ん」

 

トカレフの口に人差し指を立てて塞ぐ。

もうここから先は、お互いに言い訳は不要だ。

 

「…君は中身を見る前からスキンの事を知っていたみたいだね」

「あ、えっと、それは…前に調べて」

「そうか」

 

顎を指でなぞって、小さな顔をこちらに向けさせる。

しばしトカレフと見つめ合う。

 

「あ、あの…」

「トカレフ」

「ひゃ、ひゃい!」

「…男の部屋に、そんな格好で来るなんていけない子だ」

「…はい、わたしは悪い子です…だから」

 

トカレフが目を瞑って、不器用に俺にキスしてきた。

本当にただくっつけるだけ。

 

「…愛して、くれますか?」

「…ああ」

 

 

 

 




今回は逆レはお休みです。

これで、口説いた人形達全員と目出度く寝た訳です。
…10体。10体て。

次回、いよいよ404からの依頼が。


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121話

ようやく物語が終わりへと向かう。


『おはよう、ジョージ指揮官』

 

数日後。

司令室のモニターにペルシカの姿が映される。

 

なんでも、説明したい事があるとか。

 

「…ペルシカ、どうしたんだよその頬」

 

寝不足の隈に加えて、右の頬にガーゼが当てられていた。

何となく痛々しい。

 

『ああ、うん、ちょっとね。娘の反抗期みたいなものよ』

「いやに具体的だけど釈然としないなそれ」

『そんな事より、指輪についてなんだけど』

「………それは、『どっち』の?」

 

誓約の指輪と、鉄血のハイエンドモデルを弱体化させるあの指輪。

 

『黒よ』

「だよなぁ…何でこんなの作ったんだ」

『指揮官。貴方の所は二度、ドリーマーに襲撃されている…これで間違いは無いわね?』

「…概ね」

 

行き着いた先にアイツがいるような気がましてならないが。

 

『鉄血のハイエンドモデルは破壊されればすぐにネットワークを介してバックアップを送信され次の義体が動き出す。要するにやってる事は対症療法なのよ、これは』

「…つまり?この指輪で何をさせる気だ」

『その指輪一つでドリーマーと言う脅威を恒久的に排除できるという事よ』

「こいつに、鉄血ネットワークを遮断する機能があると?」

 

こんな小さいのに、か。

しかしいつ見ても真っ黒で趣味の悪い指輪だ。

 

『それと、鉄血ハイエンドモデルの信号の流れに干渉して能力を著しく下げる事ができるわ』

「つまり、これを何とか奴にはめて破壊すれば…」

『駄目よ破壊しちゃ』

「…………何故」

『言ったでしょう、破壊されたらバックアップされるって』

「鉄血のネットワークから隔離できるんじゃないのか?」

『装着した人形が機能停止したら、その指輪の効果も消えるのよ』

 

オイオイ、冗談だろう?

 

「ドリーマーを、一生俺が面倒見ろとでも言うつもりか!?」

『彼女が機能停止しなければ達磨にして指輪を埋め込むとかでも構わないわ』

 

こいつ、やっぱり根底はマッドサイエンティストだ。

サラッとそんな事が言える。

 

「ペルシカ、悪いが俺は…」

『これからずっと部下の命を危険に晒し続けて同じ敵と戦うの?』

「…っ!」

 

そう、そういう事だ。

向こうはずっとこちらの手の内を次々吸収し襲いかかってくる。

 

次は誰か犠牲になるのかもしれない。

 

『決断しなさい指揮官』

「……………………………ままならないな、世の中」

『人の手の及ばない事なんて、この世界にはごまんとあるわ』

「違いない」

『あと、バンガードだけど…近々大きな作戦があるんでしょう?そのまま駐留させるわ』

「あー、感謝する」

『バンガードからの評価も、高いみたいだしね』

 

評価?

うーん、高いのだろうか。

うちに来てからロクな作戦を遂行してないし。

 

『健闘を祈るわ』

 

そう告げて、通信は切られた。

 

「健闘、ねぇ」

「しきか〜ん、ずいぶん湿気たツラしてるわね」

「誰のせいだっての」

「あら、私のせい?」

 

通信が終わったタイミングで来たってことは多分聞いてたなこいつ。

UMP45がいつもの薄い笑いで近付いてきた。

たまには仕返ししてやろうかなとふと思い付いてしまった。

 

「だったら?」

「悲しくて泣いちゃう」

「45」

「何?」

 

45の手を引き、手の甲にキスをする。

 

「…それで?」

「そう慌てなさんなお嬢さん」

「え、や、ちょっとジョージ…もう」

 

そこから首筋に、頬に、額にとどんどんキスを落とす。

そして、45の唇も奪った。

 

「ふぅ、それで?なんの用だ?」

「誰もここまでして欲しいだなんて言ってないわ…はいこれ」

 

45から資料の束を渡された。

…これは、恐らく前行っていた依頼の話か。

 

「随分間が開いたな」

「ここを拠点にして色々探ってたからね。お待たせ」

「ハイエンドの首が取れるなら願ったりだ…目を通しとくよ。ありがとう」

「それじゃ…ねぇ、今夜は暇?」

「悪いが、流石にこれ見てからだと時間は取れない…また今度な」

「ちぇー。楽しみにしてるわ」

 

さて、準備をしなければ。

 

「デストロイヤー、か」

 

 

 




デストロイヤー及び付近の鉄血人形を掃討し、404小隊のデータ回収任務を援護せよ。

次回、出発前。


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122話

UMP45の依頼から3日。

その間のS-12地区は、慌ただしく準備に追われていた。

 

「指揮官、用意した補給物品のリスト。目を通しといて」

「サンキュ、リサ」

「指揮官さん、ノーススター狙撃部隊長から進歩状況ですわ」

「あとで目を通す。置いといてカラビーナ」

「指揮官。ちょっと休憩しましょう」

「春?…あぁ、もうそんな時間か」

 

一旦手を止めて前を見る。

春がいつもの様に準備良くセッティングをしていた。

 

「どうぞ」

「どうも」

 

マグカップを受け取りつつ、資料を流し見しようとしてリサに取り上げられた。

 

「休憩中よ。休憩しなさい」

「はいはい、分かったよ…」

 

ふぅ、と一息付く。

…なんつーか、賑やかになったもんだな。

 

「ねぇ、指揮官。その箱…指輪のケースかしら?」

「え、あー…しまい忘れてた。そうだ」

 

リサに指摘されて初めて思い出した。

対鉄血用の指輪。

 

これもその内使うだろうし周知させないといけないか。

 

箱を開けてなかを見せる。

 

「…黒いですわね」

「誓約の指輪とは逆の効果を与える…『孤立の指輪』だ。こいつで鉄血ハイエンドモデルの性能が九割落とせるらしい」

「………………ジョージ」

 

リサが何か言いたそうに一言漏らした。

言いたいことは分かる。

 

「私達より先に、アイツに指輪渡すんだ」

 

そっちかい。

ドリーマーに思うところのあるリサが口を開いたかと思えば出てきた一言にちょっと脱力した。

 

「…もっと別の事言われると思っていたよ」

「何よ…私達にとっては大事な問題よ」

「そうですよ、指揮官さん」

「待つとは言いましたが、アレより後に渡されるのはまっぴらですよ」

 

まぁそうだろうな。

…装備とは言え指輪は指輪。

こんな物因縁の相手から先に着けるとなるとそれは波乱を呼ぶだろう。

 

「…と、言われてもな。まだ1セットしか届いてなく」

「「「えっ」」」

「あ」

 

しまった。

うっかり口を滑らせてしまった。

 

そう、誓約の指輪は1つだけ…1つだけ今手元にある。

 

「…どうせ指揮官の事ですから、関係を持った人形全員に渡すつもりなんでしょう?」

「まぁ、その通りだが…」

「節操なしですわね」

「節操も無く襲ってきたのお前らだろ」

「アラナンノコトデシタカー?」

「ははは、こやつめ」

「いたたたた」

 

カラビーナのこめかみに指の第二関節をめり込ませてグリグリする。

痛いのにちょっと恍惚とした表情になってる…本格的に倒錯してしまったのか。

 

「最初は誰にするつもり?」

 

リサにそう聞かれてしまい、ちょっと逃げ場が無くなってしまった。

 

「…リサ。今夜…近くの教会廃墟に来てくれ」

「…えっ、ええええぇ!?……………は…はい…」

 

春とカラビーナがとてもいい表情でニヤニヤしている。

…リサは、顔をまた茹でだこのように真っ赤にして。

 

…多分、俺も今顔真っ赤なんだろうなあ。

 

 

 

 




先にこのイベントだけは済ませておきたかった。
平穏回?いいえ、大事なイベントの前フリです。

最初の誓約は誰にするかちょっと迷いましたが…やっぱりこの子ですよね。


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誓約 WA2000-LISA

人を待つという行為を、ついぞしていなかった。

久しぶりなら、悪くないのかもしれない。


空に星が瞬いている。

こうやって空を眺めるのも悪くないが…。

 

場所は基地のすぐ近くにある廃墟。

元々教会だったらしいが…鉄血の襲撃で破壊され、暫く占領されていた。

 

こうしてグリフィンの手に渡っても、直す人間は居なかったらしいが。

 

こういった建物には詳しくないが、昔、婚姻を結ぶ際にはないこの場所で契を交わしていたとか。

 

そんな話を母から聞いていたので…何となく誘った。

 

しかし、待ち人は遅い。

時間をそう言えば指定していなかったなと思いつつ…こうやって誰かを待つのも、悪くはないと思える。

 

「…遅いな」

 

彼女は来ない。

…まさか、今更尻込みしている訳でも無いだろうに。

 

今、俺はグリフィンの指揮官に支給される制服をきっちり着ていた。

何となく、着崩すのは違う気がした。

 

ポケットには、誓約の指輪が入った封筒が入れられている。

流石に数が用意できなかった様で、1つだけ先に届いたのだ。

 

「…お、お待たせ」

「おう、来たかリ、サ…!?」

 

振り返り、待ち人の姿を見て…言葉を失った。

 

いつものリボンは解き、髪は全てストレートに降ろし…肩と胸元を出した、大胆な白いドレスを着ていた。

 

頬に朱が指してあり、少し化粧もされている様だ。

 

「…何よ」

「何でまたそんな…」

「モナークとか、ノーススターにスプリングフィールド達が…その、せっかくなんだからって」

「…そっか」

 

ポケットの中から、封筒を取り出す。

 

「リサ」

「な、何…」

「綺麗だよ」

「ありがと、う…」

 

手を差し伸べる。

リサが遠慮がちに、左手を差し出してきた。

 

封筒から取り出した指輪を、彼女の薬指に嵌めた。

 

「…愛してるよ、リサ」

「…遅いわよ、言うのが。そっちから言われるの…ずっと待ってたんだから」

「ごめんな」

 

左手に添えた手をお互いに握る。

…リサを、抱き寄せた。

 

「お前は、俺の物だ」

「ええ…私は、貴方の人形」

「…リサ。あいつを片付ける為に、力を貸してくれ」

「勿論…私と貴方は、二人でひとつの商品。そうよね…相棒(パートナー)

 

リサが俺を見上げて、目を瞑る。

 

「ああ」

 

俺は、そんな彼女に顔を寄せて、キスを落とした。

 

「ちょっと小慣れてきた?」

「ムードも何もぶち壊しだよ」

「そう?私達には真面目過ぎるのも似合わないわ」

「言えてる…お前と会って、1年か」

「ええ。覚えてるわ…貴方と会った日」

 

リサが俺の胸に顔を埋める。

まるで、赤くなった顔を隠すように。

 

「随分と素直になったな」

「そうね…素直な私は、好き?」

「好きだよ、リサ」

「ありがと」

 

もう一度キスをする。

 

「ねぇ、ジョージ」

「なんだ?」

「暗いわ」

「そうだな」

「私、暗いのダメなの」

「知ってるよ」

「だから…今夜は、一緒に居てくれないかしら」

 

俺も、勿論離すつもりは無かった。

 

「帰ろうか、相棒(パートナー)。暗闇も気にならないくらい、愛してやるよ」

 

 

 

誓約、締結。

 

 

俺達は、名実ともにパートナーになった。

 

 

 




ジョージ、誓約をここに果たす。

やっと誓約出来た…道のり長過ぎたよ…。
あと9人はさっと片付けるか一人ひとり描写するかどうしよう…。

後者だとまた完結までページ増えちまう…。


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誓約 M4A1

決めました。

全員分指輪を渡すシーンを書きます。
なので、完結まで伸びます。
申し訳ありませんが、またもうしばらくお付き合いください。

…砂糖を吐く準備は出来たか?


早朝。

まだ起床して動き出すには早い時間。

 

俺とリサはベッドの上で向かい合って横になっていた。

 

「リサ、あのさ…ちょっと謝りたいことがある」

「指輪でしょ?」

「…隠し事できねーな、お前には」

「付き合い長いんだから無駄よ」

「…お前は、どうして欲しい?」

 

リサが望むなら、指輪は残り破棄する。

そんな言葉は流石に言えなかったが。

 

「…みんな待ってるんだから、早くしなさいよね」

「良いのか…?」

「私が貴方の一番よ…それだけで、充分だわ」

 

 

…駄目だなぁ。

朝から心臓に悪いぜ相棒。

不覚にもリサにときめかされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーその日の夕方。

 

指輪の封筒を片手に屋上で夕日を眺めていた。

結局、残りの指輪は全て届いた。

あとは、渡すだけだ。

 

「お、遅くなりました!指揮官!」

 

慌てて駆け上がってきた影が一つ。

…M4A1だ。

 

初めて会ったときよりも、相当落ち着いた様に見える。

 

「姉さん達に捕まってしまって…すみません」

「気にしてないよ。誰かを待つって言うのは悪くない経験だ」

 

ぶっちゃけ、俺はこの子達を相当待たせていた。

だから、これくらいなら待った内に入らない。

 

「それで、お話というのは…」

「大したことじゃない…なぁ、M4。お前の想いは…変わらないか?」

「はい」

 

即答。

大分この子も自分に正直になったなと苦笑する。

 

「成長したな、M4。会ったばかりの頃より段違いに魅力的だ」

「あっ…あの頃は、その…色々暴走していたと言いますか」

「ま、初めてはあんなもんだ。俺も初めて惚れた時は…」

「…指揮官の初恋ですか?」

「あはは…すまん、嫌だったか?」

「聞かせてください。指揮官の初恋の話を」

 

他人に話したことの無い話。

しかし、初恋…か。

 

「アレは…15の頃だったかな。まだガキんちょ真っ盛りでさ。…たまたま街に来た旅人の一人と会ったんだ」

 

親父の知り合いだったらしく、親しげに話していたのを覚えている。

…母が無言の圧をかけていたのも。

 

「キレイな人だったよ。白銀の髪と…いつも目を閉じてたけど」

「その人とは、どうしたんですか?」

「滞在の最終日にアタックしたよ」

「えっ…ど、どうなったんですか!?」

 

やけに食い付きが良いな。

正直、恥ずかしい思い出と前置きしたんだからオチはわかっている。

 

「玉砕だよ。大人になったらまた来てくれってさ」

「そう、ですか」

「まぁ、これも思い出さ…」

「ふふ、指揮官も最初から口が上手かった訳じゃないんですね」

「当たり前だろ?誰だって最初はちっぽけなガキだったんだ」

 

ふと、ポケットに手を突っ込む。

さて…なんて切り出そうか。

 

「指揮官は、WA2000と誓約されましたけど…他の…私達とは、どうするつもりなんですか?」

 

ポツリ、とM4がそう呟いた。

彼女の初恋は、俺と違ってまだ終わっていない。

 

「そうだな…M4、左手を出してくれないか?」

「?はい」

 

きょとん、とした顔で左手を出してきた。

その手を取り、薬指に指輪を嵌めた。

 

「え、これ…嘘、1つしかなかったんじゃ」

「これが俺の答えだ。節操なしと罵ってくれてもいい」

「そんな…」

「お前の初恋、終わらせたりはしない。M4、俺と戦ってくれ」

「…はい」

 

もしかしたら、彼女のとびきりの笑顔を初めてみたのかも知れない。

 

そんな事を思ってしまった。

 

 

 

 




と、言う訳でM4A1が二人目でした。
砂糖はまだあるからな。遠慮しないで食っていけよ。


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誓約 スプリングフィールド-春

砂糖、足りたか?
まだまだあるからな、遠慮しないで持って行ってくれ。

…デストロイヤーいつデストロイしにいくんだって。


夜、団欒スペースの喫茶エリアにて。

 

既に残っている人は居らず、スプリングフィールドが静かに片付けを行っているだけだった。

 

「…指揮官?もうとっくに閉店の時間ですけど」

「用があるのは君だ」

「あら、お誘いでしょうか」

 

いたずらっぽい表情で人差し指を唇に当てる。

…そっちの仕草の方が誘ってるんじゃないのかなと苦笑する。

 

「いや、別件だ」

「そうでしたか」

「ただ…今夜、君が良ければ」

「…あら。うふふ…いつでもOKですよ」

 

春の目の前のカウンターに座る。

…ティーカップがひとつ、差し出される。

 

「閉店したんじゃなかったのか?」

「特別ですよ?」

「ありがとう。明日の朝もお願いしていいかな?」

「勿論」

「なぁ、春。1つ聞いていいか?」

「答えられることなら」

 

春がエプロンを外しながらこちらへ来た。

…カウンターから出てきて、隣に座る。

 

「…俺で良かったのか?」

「…一発、要ります?」

「悪かった悪かった。だから勘弁してくれ、頼むから」

 

笑顔で拳を握るもんだからビビってしまった。

…春のグーは本当に痛い。

 

「貴方じゃなきゃ駄目なんですよ。私をここまで縛り付けたんですから。…自信を失くす様でしたらまたボコボコにして慰めてあげますので」

「こわっ…」

 

気付けの一発の後にグーで殴ってその後にベットに連れて行かれるの意味である。

…最近は俺の方から誘っているので滅多にないが。

 

「何で悩んでいるかは知りませんが、今更貴方の判断に異を唱えるほど愚かでは無いつもりですよ」

「…そっか。ありがとう」

 

カップに口を付ける。

いつも通りの、変わらない味…おや。

 

「…母さんのコーヒーだ」

「再現に手間取ってしまいましたが、ようやくモノに出来ました。どうですか?」

「とても、懐かしい味だ」

「それは良かった」

 

飲み終わったカップを春が下げる。

その間に、ポケットの指輪を手に…。

 

「指輪ですか?」

「…バレてたか」

「ずっと気にされてましたからね」

「敵わないな…本当に」

 

春が戻ってきて、俺の手を取って立たせる。

 

「やっと振り向いてくれたんですから。目を離すなんてできませんよ」

「そこまで慕われてる自信、やっぱり持てないな…」

「こういう時ばかり臆病になって、本当にズルい人ですね」

 

春が俺の首の後ろに手を回す。

密着する形になる。

コーヒーの匂いが鼻孔をくすぐる。

 

そのまま、お互いに顔を寄せて唇を重ねた。

 

「自信、持たせてあげましょうか」

「いいや…大丈夫だ。これで自信ついた」

「ふふっ、単純ですね」

「そんなもんさ、男ってな。それと…お待たせ、春」

 

春が手を下ろす前に、左手をとり、指輪を通した。

 

「ジョージ。愛しています…これからも、ずっと」

「ありがとう、春…愛してる」

 

この日はこのまま、二人共部屋から出てこなかった。

 

 

 




砂糖の追加でございまーす!!
春さんとのやり取り、どうでしたかね。

次のお相手はカラビーナです、お楽しみに。

…真面目なカラビーナを刮目せよ。


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誓約 Kar98k-カラビーナ

みんな大好きちょろ甘ドMメンヘラガールカラビーナ回。
なお終始キレイなカラビーナです。

…僕はね、本当はカラビーナ好きなんだ。


 

「おはようございます、指揮官さん」

 

執務室に入ると、珍しくコートを脱いでいるカラビーナが立っていた。

 

「おはよう、カラビーナ。珍しく軽装だな」

「こう暑いと人形とは言え参ってしまいますわ。わたくしの服を考えた方達は何を考えていらっしゃるのか」

「ははは、違いない」

 

執務室に入りネクタイを緩める。

そんな様子にカラビーナがため息を付く。

 

「もう、指揮官さん…あんまり緩くし過ぎると締めるときにびしっと出来ませんわよ?」

「ビシッと、ねぇ…あんまり縁のない言葉だ」

 

割とS-12地区基地の規律はゆるい。

最低限度のマナーさえ守れば基本的に自由だ。

 

でも時々ノーススターがスコーチにシバかれている。

アレはセクハラし過ぎだ。

 

閑話休題。

 

「指揮官さんには、いつもカッコよく居てもらいたいですわ」

「何でさ」

「これがわたくしの惚れたお方です、と」

 

したり顔で言われる。

流石に顔が熱くなる。

 

最近人形達に良いように言われている気がする。

 

「お前なぁ…」

「あらあらまぁまぁ。指揮官さんも可愛いお顔なさいますのね?」

「ちょっ、見るな…!」

「良いではありませんの良いではありませんの〜。いつもわたくしたちを手玉に取るんですもの。たまにはいいじゃないですか」

 

俺の両腕を掴んで顔から離そうとしてくる。

戦術人形の腕力にただの人間が勝てるわけ無いだろ!

加減しろ!

 

そんなふうにカラビーナとじゃれていたら、ポケットから封筒が落ちてしまった。

 

からん、と中に金属製の物が入ってるとわかる音を立てて。

 

「あっ…」

「あら…?」

「やばっ…傷は!?…良かった、無いか…」

 

慌てて中身を確認する。

折角渡すのにいきなり傷がついていたりするんなて台無しだ。

 

…後ろにカラビーナがいて、バッチリ見られているので台無しも何も無いのだが。

 

「あの、指揮官さん…?」

「あー、その、何だ…落とした物を渡す訳には」

「構いません」

 

…カラビーナに腕を取られる。

 

「それは、指輪ですわね」

「…ああ」

「わたくしに、くださるのですよね」

「勿論…ただ」

 

落とした指輪なんて縁起でもない。

 

「ふふ、気にしませんわ」

 

それでも、と一言入れて。

 

「気になるようでしたら、わたくしが忘れさせて差し上げますわ」

「…わかったよ。カラビーナ…モーゼルカラビーナー・アハトウントノインツィヒ・クルツ。俺と、一緒に…いつまでも、戦ってくれるか?」

「…覚えてくれたんですね。わたくしの名前…」

「カラビーナって愛称を気に入ってもらったけどそれとは別さ。それで、返事は?」

 

カラビーナが両手を俺の頬に当てて、引き寄せる。

そのまま唇が重なる。

 

「…勿論。貴方の障害を全て排除し、貴方に一生を捧げます」

「ありがとう」

「愛してますわ、ジョージさん」

「…ありがとう、カラビーナ…愛してるよ」

「ふふっ…わたくしは何番目かしら」

「えあっ、それは…」

「…ふふふっ、大丈夫ですわ。貴方に愛されるなら、何番目でも構いませんもの」

 

ああ、駄目だなぁ。

惚れた弱みというか…。

彼女達に何を言われても、俺は受け入れてしまうんだろう。

 

照れくさくなり、ちょっとぞんざいに指輪を通してやった。

 

それでもカラビーナは嬉しそうだ。

 

「カラビーナ」

「はい」

「…今夜、開けておいてくれ」

「はいっ」

 

 




…誰だこれ!?(驚愕
真面目に書いたらただの美少女になってしまった。

…え?最初から真面目に書けって?
ごめんなさい…。


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誓約 HK416

割と唐突に片付けられた416。
今回は色々補完しなきゃならない…。

416は最初期からウチで頑張ってくれてるトップエースだったりします。
可愛いよね、416。


唐突だけど、実はHK416とはそれ程接点は無かった。

前回M4、9A-91と一緒に襲い掛かってきたときは正直驚いていた。

 

404小隊とは俺が指揮官になる前、何度か戦場で顔を合わせたことがあったと言うのは前に説明したと思う。

 

…では何故416があんな行動に出たのか。

 

「おはよう、ジョージ。今日は誰にも負けないわ」

「指揮官って呼べよ416」

「…ごめんなさい。まだ慣れてなくて」

「そうか…まぁ、ゆっくり慣れてけ」

 

あの夜以来、416はあまり俺と顔を合わせていない。

と言うか避けてる。

とんでもなく俺を避けてる。

 

今日はちょっとそれを見兼ねて副官にねじ込んだ。

 

「416。今日は少し大事な話がある」

「何かしら」

「…お前、俺のこと好き?」

「んなっ…!!」

 

元々416は白い。

透き通った肌をしていてとても綺麗だ。

だから赤くなるとすぐに分かる。

 

「な、何でそんな、貴方なんて別に…」

「いやでもさ、したろ?セッ」

「あなたの運もここまでね」

 

殴られた。

グーで。

 

「痛っ!?何しやがる!!」

「当たり前でしょ!?白昼堂々セクハラよ!」

「お前…いくらなんでもお嬢様過ぎるだろう」

「何よ、一夜その、し、し、シたくらいで」

「うーんなんか新鮮な反応」

 

しかし、これを照れ隠しと取るかはちょっと微妙な所。

俺は他者からの好意に鈍感な事がここ最近で発覚したからな…。

 

だから、416が俺に好意を持ってるかどうかイマイチ不安だったと言えばそうだ。

 

「その、何だ俺としてはお前のことは好ましく思ってる…お前はどうなのか、聞かせて欲しい」

「…ねぇ、ジョージ。貴方は…昔、スケアクロウに追われてた時のことを覚えてるかしら」

 

その話なら覚えている。

…404とたまたま遭遇し、たまたま鉄血ハイエンドと遭遇してしまった、本当に運の無かった瞬間だった。

 

鉄血からもグリフィンからも銃を向けられて、死ぬとずっと思っていた。

 

そうしたら鉄血に404が襲われているのを見てついつい好機とばかりにスケアクロウを撃ったんだっけな。

 

「あの時、私も残弾が心許なくて…来てくれたときは、ちょっと安心しちゃって」

「そうだったのか…」

 

あの時、このタイミングなら両方叩けるかもなと。

流石に言えない。

 

「それからね、貴方が気になりだしたのは」

「ナルホドね…」

 

完璧な誤解。

それはそれでどうなんだろうか…まぁ、

 

「…悪い様に思われてなくて、安心したよ」

「そう?」

「そりゃな…嫌われるより好かれる方が良い」

「そう…それじゃ、私を抱いた事…後悔してない?」

「してないよ」

 

少なくとも、腹は括ったんだ。

後悔なんてするものか。

 

「私はちょっと後悔したわ…痛かったもの」

「…それは、悪かったな」

「いいえ…悪くは、なかったから」

「なら、良いかな…なぁ、416?」

「何?」

「誓約、してくれないか?」

 

驚いたように、彼女は目を見開いていた。

 

「…正気?」

「正気だよ。…返事、聞かせてもらっても?」

「……………私で、良いのなら」

「お前が良いんだ」

「そう…そうなの…」

 

416が俺の胸に頭をぶつけた。

 

「ど、どうした?」

「私を、認めてくれるの…?ジョージ…」

 

常に、M4やM16に対して対抗意識を燃やしてきた彼女。

承認欲求に餓えていたのだろうか。

 

「認めよう、HK416…俺に力を貸してくれ」

「はい…よろしく、お願いします…」

 

彼女は、それからずっと俺の胸で涙を流していた。

今まで貯めていたものを吐き出すかのごとく。

 

 

 




四人目は416。
承認欲求に最も飢えているだろう彼女に、拠り所を。


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誓約 GrG3

「指揮官さん、朝ですよ」

「…ああ、おはようGrG3」

 

カーテンを開く音がし、差し込んだ日の光が顔に当たる。

自室の窓に、ブロンドの髪をした人形が立っていた。

 

…いつもの格好と、違う。

 

「気に入ったのか?その服」

「はい」

「そうか。似合ってるぞ」

「ありがとうございます」

 

スッ、とコーヒーカップが差し出される。

 

「まるで本当のウェイトレスみたいだ」

「そうですか?だとしたら、指揮官さん専属ウェイトレスですね」

「ウェイトレスは困るな。俺は君とはビジネスな関係じゃないと思ってたんだけど」

「…そう言うの、よく分からないです」

「本当に?」

 

コーヒーに口を付ける。

最近ウチの基地で出されるコーヒーは代用コーヒーとは比べ物にならない程美味い。

 

春が豆を仕入れて入れてくれているお陰が大きい。

 

「嘘です。私は指揮官さんが大好きなので」

「そっか…えっ」

「さ、指揮官さん。今日も頑張りましょう」

 

微笑みながらGrG3は部屋を後にした。

 

「…変わったなぁ、あいつも」

 

さぁ、仕事を始めようか。

 

 

 

 

ーーーーー昼。

 

 

「お疲れ様です、指揮官さん。お昼ですよ」

「ん?もうそんな時間か」

 

GrG3をそう言われて、時計を見る。

…昼を指しているが、今日の執務はほとんど片付いてしまっている。

 

「うーん、今日の作業進行的に半休出しても良さそうだ」

「そうなんですか?」

「ああ。近々大きな作戦があるからな。休めるときに休ませてやりたい」

 

デストロイヤー殲滅作戦。

詳しい日程はまだ出していないが、そう遠くない筈。

 

「指揮官さんは、休まないんですか?」

「え?ああ、ぼちぼちな」

「…指揮官さん。なら、この後の休み時間は…私に、くれませんか?」

「え?」

 

 

ーーーーーーーーーそして。

 

 

「指揮官さん、どうぞ」

「あ、ありがとう…しかし、君がそんな強引だとは思ってなかった」

 

場所は、基地近くにある小高い丘の上。

そこにレジャーシートを広げて俺とGrG3は座っていた。

 

俗に言う、ピクニックの様に。

てわたされた箱には、サンドイッチが敷き詰められていた。

 

「…もしかして、今朝から狙ってた?」

「さぁ、どうでしょうか」

「ははは…有り難く頂くよ」

 

一つ摘んでかじる。

うん、美味しい。

 

うちの基地の食料事情も一年前と比べて格段に良くなったな。

 

「…GrG3、この一年…長かったな」

 

ぽつり、とそんな事を漏らした。

 

「そうですね…」

「なあ、GrG3…俺さ」

「…指揮官さん」

「うぇ…?んっ」

 

顎に手を添えられたと思えば、GrG3の方を向かされて唇を奪われた。

 

「GrG3?」

「ふふ、やっと二人きりですね」

「…参ったな。君のペースか」

 

そのまま胸を押されて、押し倒される。

胸元にGrG3も優しく倒れ込む。

 

「ちょっと、寂しかったです。あれからなかなか時間が無くて」

「そう、だな」

「指揮官さん。私は…あなたの事が好きです。貴方は、どうですか?」

「俺は…」

 

関係を持ってしまった人形達への責任と言う形で指輪を渡している。

…勿論、彼女達のことは愛している。

 

だが…。

 

「…なんて、少し意地悪でしたか?」

「え…」

「私達に責任を感じるほど想ってくれているのは理解しています。違いますか?」

「…そうだ」

「なら、それで良いです。手の空いたときに、私の事を愛してください」

「…GrG3」

「なんて、ちょっと良い子ぶり過ぎですかね」

「もう少し、わがまま言ってもいいんだぞ」

「じゃあ…」

 

GrG3が、俺の手を取る。

 

「私と、誓約を交わしてくれませんか?」

「…言われちまった。こう言うのは先に男が言うもんだろ」

「ふふっ、取っちゃいました」

 

GrG3がふわりと微笑む。

本当に、この子は変わった。

 

「可愛い奴め…ほら、手を出して」

 

すっかり常備する事が習慣になっている気がする。

指輪を取り出し、GrG3の指に通す。

 

「遅くなったな…愛してるよ、GrG3」

「はい…ありがとうございます、指揮官さん。私は…これからも、貴方と共に」

 

穏やかに風が吹く草原で、俺達はそのまま抱き合って横になっていた。

 

 

空が、青い。

 

 

 




全員書くとか言っておいてちょっと間があいてしまった。

と、言うわけであと半分…。
砂糖は足りてるかな?


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誓約 9A-91

深夜。

仕事を片付けて俺は久しぶりに大浴場に来ていた。

 

たまの贅沢として…まぁ残り湯なんだけど、ちょっと使わせてもらっている。

 

「はぁー…疲れた」

 

湯船に浸かり、疲れを癒やす。

俺の中にある東欧の血が、風呂を求めている。

 

唐突に、電気が切れた。

 

「あん?」

 

確か、今日は当直に使うって言っておいたんだけど…?

がらり、と戸が開く音がした。

 

そして、ひた、ひたと足音。

 

Добрый вечер(こんばんは)、指揮官」

「9A-91?」

 

この声は、彼女のものだ。

…ははぁ?電気を消していたずらでもしたつもりなのだろうか。

 

「悪い子だな9A-91」

「はい、私は悪い子です」

 

ちゃぷり、と隣に座る。

まだ俺は夜目が利かない…が、彼女の瞳が爛々と俺を捉えていたのは見えた。

 

9A-91が俺の手を取り…自分の胸に押し付けた。

水分を含み、しっとりした肌。

掌の一点だけに感じる、少しだけ硬い感触。

 

「指揮官…今夜は、私だけを見て…」

「お誘いが、大胆過ぎるな…」

「ふふ、嫌いですか?」

「いや、燃えるね…むしろ」

 

彼女の腰に手を回し、自分の元に引き寄せる。

空いた手は9A-91の手を取り、指を絡ませる。

 

「けど、ここはダメだ。風邪を引く」

「…お預け?」

「後で部屋に来い。鍵は開けておく」

 

抱き寄せて、額に口づけする。

 

「風呂はゆっくり堪能するもんだぜ?」

「わかりました…一緒に、温まります」

 

決して狭くないのに、二人で肩を寄せて温まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓から射す月明かりが、ベットで横になる俺と9A-91を照らしていた。

 

先程まではここで情熱的に絡まり合っていたが、それも済み、シャワーを浴び直して裸で抱き合っていた。

 

「ふふ…指揮官…」

「ん?どうした…?」

「私、幸せです」

「また、唐突だな」

「私…指揮官に一つ嘘をついていました」

 

嘘。

何となく察しはついている。

…AR小隊救出の際に初対面だとしたら、余りにも都合が良すぎるからだ。

 

迫ってくるのが速すぎる。

 

その前に、何らかの形で俺と会っていたと考えるのが自然だ。

 

「私は元々人形娼婦だったんです」

「そうなのか?…あ、そうか…だから愛情表現というか…スキンシップが過激だったのか」

 

割と直接的に迫ってくるのが多かった。

何より、夜の技術は俺が手も足も出ない程卓越していた。

 

「人形だったので、多少なりと乱暴にされてたんですけど…ある日、ストーカー紛いな目に遭って」

 

建物から出てきた所を数人がかりで囲まれて、路地裏に連れ込まれた事があったらしい。

あわや乱暴されかけた時…。

 

「たまたま俺が、通りかかったと?」

「はい」

 

酔っ払っていた俺がそいつらと乱闘騒ぎを起こしていたらしい。

なんとも恥ずかしい話だ。

その時はかなり酔っていて、乱暴されかけていた9A-91の事を覚えていなかった。

 

「そうだったのか…」

「それから、私はずっと指揮官を探しました。けど、見付からなくて…」

 

自由を求めて、戦術人形へと転向した。

グリフィンの本部になんとか籍を起きながら、各地を転々としながら俺の事を探していたらしい。

 

「…手間、かけさせちまったみたいだな」

「いいえ…貴方は、こうして…私と一緒に居てくれています…私だけじゃないのが、少し悔しいですけど」

「それは…」

 

言い訳は、9A-91のキスで塞がれた。

すぐに離れたが、彼女は艶っぽく笑う。

 

「気にしません。私達は人形…人間の倫理とか、そう言うのに縛られない存在ですから」

「…駄目だなぁ。腹くくったつもりだったのに」

「私は、そういう所見せて貰えるようになって嬉しいとおもいます」

「俺はカッコつかなくて嫌なの…まぁ、何だ。9A-91…手を出してくれ」

 

はてなマークを浮べて、右手を差し出してきた。

ずっと求めていたクセに、こういう事に疎いのがちょっとおかしかった。

 

「違う、左手」

「左…それって」

 

枕の下に隠してあった指輪を、9A-91に見せた。

 

「指揮官…」

「9A-91…俺は、お前を愛したい。受け取ってもらえるか?」

「はい…はい!」

 

彼女の左薬指に指輪を通す。

9A-91はその光景を恍惚と眺めていた。

 

「指揮官、指揮官!」

「うおっ、はは…これからも、よろしく」

「はい!指揮官!Я тебя люблю(愛してる)!」

 

瞳に涙を浮かべて、9A-91に唇を奪われる。

…その後、まさかの2回戦に突入するのだった。

 

 

 

 




これが、俺の限界…。
ちょっとえっちにしようかなと思いつつ心がチェリー過ぎて泣きそうになっていた作者です。

こんな奴が健全書ける訳ないので諦めてください。

9A-91と、誓約完了。


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誓約 UMP9

聞き及ぶ笑顔はどこへやら。
彼女の顔はずっと固まってしまったまま。


 

実は、UMP9と言う人形が俺の前でだけ笑わないのは……ただ単に俺に対して恥ずかしさと言うか、照れがあった為にガチガチに緊張していただけだと言うのが発覚した。

 

「おーい、ナイン?……何処にもいナイン……」

 

白けるギャグを呟いてしまったが、かれこれ一時間は探している。

こういうときに45も見つからない。

 

「どこに行ったんだ……?」

 

404は時たま偵察にふらっと居なくなる。

今日は416もG11もいた為そういった事は無いはずだ。

 

ポケットに仕舞った指輪を確認する。

……あの姉妹にも、俺は指輪を渡すつもりでいる。

ナインも俺に対して好意を抱いていた事にはやはり驚いた。

 

「ナイーン……?」

 

呼んで出てきたら苦労はしない。

……が、がたっ……。

 

「うん?」

 

今、背後で物音がしたような。

振り返ると、特にめぼしいものは無い。

強いて言うなら見覚えの無いダンボールが置いてあるくらい……。

 

「ナイン?」

 

びくっ。

ダンボールが少し動いた。

 

しばし、無言。

 

「そこかっ!」

「ひっ!」

「あっ!?」

 

ダンボールを奪う。

しかし、中から飛び出したナインが俺にタックルを仕掛け、押し倒してそのまま窓から飛び降りた。

 

ここ、二階……!

 

「待てっ!ナイン!」

「……!!」

 

窓から飛び降りようとして、冷静になった。

怪我するわ。

 

「あっちは……キルハウスか!今日は誰も使ってなかった筈……!」

 

走り出した。

何で追いかけっ子になっているのかは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーS-12地区キルハウス。

 

修繕不可能レベルまで朽ちた建物を敢えて利用しようと考え、市街戦闘訓練所として利用してみたエリアの総称だ。

 

中に入ると、バンガードが座っていた。

 

『あ、指揮官』

「……バンガード?何やってるんだ?」

『雨の日に傘をささずに濡れながら踊る……自由ってのはそう言うものだと、あたい……そう思うんだ』

「要するに暇なのか」

『あっ、笑ったなー!?』

「悪い悪い……所で、ナインを見なかったか?」

『UMP9かい?……それならそこに……』

「えっ」

 

指をさされた(指は無いので腕部)方向を振り向くと、ナインが慌てて走り去るのが見えた。

 

「……バンガード。リンクする」

『……指揮官?大人げ無いんじゃない?』

「向こうは義体スペックをフルに使ってるんだ。こっちだって本気出さないとフェアじゃない」

『あいあいさー……操縦権を指揮官に移譲。ライフリンクを確立』

 

興奮剤を挿してバンガードを装着する。

 

『シーケンス完了、スタンバイオーケー』

「了解、行くぞ!タイタン」

『フォール!!』

 

強化された脚力で、床を蹴った。

 

崖から飛び降り、ナインの目の前に着地した。

 

「えっ、指揮官!?それに40……バンガードまで!?」

「鬼ごっこは終わりだ!ナイン!」

「う、うう、にゃー!!」

 

何かを地面に……訓練用のフラッシュバン!?

 

『UMP9逃走!ルート検索中!』

「任せた!」

 

閃光が収まる。

訓練用なのでただ光るだけだ。

キルハウス内に備え付けてある備品で、充電して使う代物だ。

 

「やってくれたなナイン!」

 

走り出し、壁に向かって跳躍。

そのまま壁を走り更に加速。

 

『指揮官!そこのT字路は左!』

 

左に曲がり、特徴的な栗色の上が通路に引っ込むのが見えた。

 

「バンガード、新装備を試すぞ」

『えっ、アレ使うの?……うわ、指揮官悪い顔してる』

「ちょっと脅かすだけさ」

 

あの角の先はこの位置から遠回りになるが、回り込める。

なので……走るナインに向かって手を突き出すと、()()()()()()()

 

『ホロパートナー起動』

「OK、周り込むぞ」

 

勿論、()()()()()()()

ホログラム技術とジャミング技術の複合兵装、『ホロパートナー』。

人形のセンサーすら欺くデコイを産み出す。

 

その効果は折り紙付き……だが、一度使用すると再使用に少し時間が係るのが難点だ。

 

……通路から回り込む。

案の定後ろから追い掛けてくるホログラムを見ていたナインは、俺に気付かなかった。

 

「えっ、指揮官!?」

「捕まえた!」

「ぎゅむっ」

 

勢いがついて止まれなかったナインが飛び込んできたので、そのまま抱き止めて拘束した。

ナインの顔が真っ赤に染まっている。

 

「ふぅ、ナイン。どうして逃げたんだ?」

「だ、だって……ジョージが、追いかけてくるから……」

「そりゃ追うさ。お前に用事があんだから」

「よ、用事?」

「ああ……ナイン、誓約しよう」

「ぴゃっ……!?」

『ひゅーひゅー!やるねぇ!指揮官!』

 

ボン、とナインの頭から蒸気が飛んだかと思った。

そのくらい顔が赤熱している。

 

「わ、わわわわ私と!?何で!?」

「お前を愛すと決めたからだ」

「だから、どうして……」

「誰かを愛するのに理由は要らない」

「えっ……」

「さぁ、ナイン。答えてくれ」

「わ、私は……」

 

ナインは黙る。

そろそろ離すか。

ゆっくりと降ろしてやる。

 

ナインは逃げなかった。

 

「指揮官は、私と……家族に、なりたいの?」

「ああ」

「……そうなんだ。……いひひ、家族、家族かぁ」

 

嬉しそうに微笑んでくれた。

 

「ナイン」

「なに?」

「手を出してくれ」

「……うん」

 

左手に、指輪を通す。

 

「これからは、皆家族だ」

『……いいなぁ』

「ふふ、バンガードも家族なの?指揮官」

「そうだな、お前も家族だ」

『ありがとう、二人共』

 

こうして、俺は何とかナインと誓約出来た。

 

……この後、キルハウス無断使用、訓練用のフラッシュバンやら興奮剤投与、ついでに業務をほっぽり出した事で副官のカラビーナにめちゃくちゃ怒られたのだった。

 

 

 

 




UMP9と、誓約締結。

彼女はやっと、ジョージの前で笑える様になったのだった。
残り、二人。


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誓約 UMP45

残すところ二人。
迫る決戦のとき。


「ハァイ、ジョージィ。おはよ」

「……おはよう、45。素敵な夜空だな」

 

今日の仕事をすべて終わらせ、珍しく誰も絡んでこなかったのでたまには早く寝ようかと思った日。

そんな日は、大抵こいつがやってくる。

 

左目の傷を軽く撫でようとして、頭を振られた。

 

UMP45だ。

掴み所がなく、雲のような存在の彼女が、また俺のに座っている。

 

「……今日はどうしたんだ?45」

「別に。いつまで経っても誘ってくれないとか思ってないわ」

「……なるほどね。ちょっと待ってろ」

「寝てても良いわよ?」

「はいはい、ちょっと降りてくれ」

 

不貞腐れたように45が俺から降りる。

ベットから立ち上がり、部屋の備付けの冷蔵庫からアルコールの瓶を一つ出す。

 

「え、それ……前にプレゼントって言って買ったやつじゃ」

「お前と飲むためにキープしてた奴。そこそこするから味わって飲めよ」

「……カッコつけちゃって」

 

グラスを出して、お互いに注ぐ。

 

「乾杯」

「何に?」

「俺達の出合いに?」

「初めて会った時から随分経つのに?」

「……じゃ、ここはベタだが……君の瞳に」

「!……ふふ、乾杯」

 

ささやかな晩酌が始まった。

 

「ジョージってさ……私の瞳、気に入ってるわよね」

「そうだな。綺麗だ」

「私に綺麗だって、ずっと言ってくれてるのは……貴方くらいね」

「花は愛でるものだ」

「その花に銃を向けられたり、向けさせたりしてるのは?」

「……何でこんな世の中になったんだろうなって、思ってたよ」

 

俺が銃をとったのは借金の為。

でも、そこからはやりきれない事なんて沢山あった。

 

「金の為に戦ってきたけど、そんな奴が誰かの為に戦えたらなってずっと思ってた。でもそれは思い上がりだ」

 

グラスを煽る。

黄金の瞳は、俺から逸らされない。

 

「酔うのが早いんじゃない?ジョージ」

「お前に酔ってるのかも」

「……言えてる。人形にお熱なんだもの」

「ははは、こやつめ。じゃあ身体許すんじゃないよ全く」

「嬉しくなかった?」

「嬉しかったさこんちくしょう。お前みたいな美人さん大歓迎だ」

「そ。なら良いわ」

 

UMP45がグラスにアルコールを注ぎ足す。

そして、それを一気に煽った。

 

「おいおい味わってくれよ……」

「ねぇ、ジョージィ……私さ、昔……とても、悔しかった事があるの」

「……どんな?」

「……まだ、言えない。でも、死ぬほど後悔した」

「そっか……」

 

誰にだってやりきれない事はある。

そんな何処にでもあるような言葉を投げたって意味は無い。

だから、俺に出来るのは……。

 

テーブルの上に置かれた、45の手を取る。

 

「……いつか、話せる日が来るまで……一緒に居てくれ」

「……え?」

「その日まで、預けておく。失くすなよ?」

 

手のひらの中に、指輪を置いて握らせた。

 

「……空気読めなさすぎ」

「いいのさ。それが俺なんだから」

「過去の事引きずる重い女よ、私は」

「酒でナイーブになってるだけだよ」

「私が、欲しいんだ」

「ああ」

「どうしようかな……」

「どうすれば良い?」

「じゃあ……」

 

 

部屋の明かりは、暫くして消えた。

 

 

 




45を書くときは背後にビクビクしながら書いてる気がする。
殴られそうで怖いんだもの。
でも、たまにはこうやって弱さを見せてくれるんじゃないかなって思ってる。

45には最後にサプライズするつもりなので、こうご期待。


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誓約 トカレフ

さぁ、最後の一人が待っている。
待たせてはいけない。

彼女は、待ち焦がれているのだから。


 

とうとう、指輪が残す所あと一つになった。

 

渡す人形はとっくに決まっている。

 

 

俺はまたあの教会廃墟に居る。

 

時間に空きがなくたまたまタイミングもあり他の人形たちにはそのまま渡していた。

 

出来れば、渡すときはこうやって渡してやりたかったなと後悔が無くもない。

 

だが……大規模作戦も近く、そうも言っていられなかった。

 

 

扉をくぐる。

 

……既に、彼女は来ていたようだ。

 

「トカレフ、待たせたか?」

「指揮官。……いいえ、私も今来たところです」

 

壇上で、純白のヴェールをはためかせてトカレフが振り返った。

……あれから、カラビーナ監修によるトカレフのスキン改造計画が進められていたらしい。

 

今のトカレフは、通常のスキンと違って本当に花嫁の様にドレスを纏っていた。

 

「そうか……なら、良いんだが」

 

すっかり色あせてしまったカーペットの上を歩く。

トカレフの前に、並び立つ。

 

どうしても身長差があり、見下ろす形になってしまう。

 

「指揮官……ジョージさん。私……」

「……良いんだ、何も言わなくて」

 

頭の上に手を置こうとして、やめる。

その代わり、めいっぱい抱き締めた。

 

トカレフも負けずに抱き締め返してくる。

 

「君は俺が責任を持って面倒を見る」

「……そこは、幸せにするとかじゃないんですか?」

「前任に上手い口上が見つからなくてね」

 

トカレフで片膝をつき、目線を合わせる。

 

「トカレフ。その命尽きるまで……俺の為に戦ってくれるか?」

「……はい。その代わり……ジョージさんは、私の事を死ぬまで愛してくれますか?」

「……誓おう」

 

トカレフが目を閉じる。

俺は彼女の小さな唇にキスをする。

 

「手を出して」

 

小さな左手が差し出される。

力を入れてしまえば壊れてしまいそうだ。

 

しかし、彼女も人形である。

この程度では壊れない。

 

薬指に指輪を通す。

 

これで、俺の手元には1つもなくなった。

 

「ありがとう……ございます。こんな不安定な私を、繋ぎ止めてくれて……」

「愛してるよ、トカレフ。ずっと一緒だ」

「はい……はい!もう、絶対……離しません……鉄血なんかに奪わせません……二度と……!」

「大丈夫だ……俺は、どこにも行かない」

「ジョージさんは、私が守ります……!」

 

トカレフが俺の両頬を掴んで引き寄せる。

そのまま唇を奪われる。

 

「一番はリサさんに譲ります……でも、二番は私ですからね」

「順位とか着けたつもりは無いんだけどな……」

「じゃあどうして私が一番最後なんですか?」

「そ、それは……」

「なんて、意地悪でしたね」

 

いたずらっぽくウィンクされる。

思わず苦笑が漏れた。

 

「悪い子だな」

「はい、私はわるい子です。だから……」

 

トカレフが俺の手を取る。

 

「今夜は貴方を独り占めします」

 

笑顔で俺の手を引く彼女には、もう翳りはなくなっていた。

 

 

 




これにて、戦術人形10体との誓約を締結。

次回、デストロイヤー討伐作戦始動。


決着のカウントダウンが動き出す。


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作戦前

 

離れた場所から、戦火の音が聞こえる。

攻撃が始まったのだろう。

 

モニターに映るドローンからの映像で鉄血の人形達を確認する。

 

S-12基地から車両で移動すること1時間の位置にある廃ビル群の中の一際大きな建物。

そこが今回の戦場であった。

 

UMP45が言うには、そこに依頼のデータがある為陽動、経路確保、出来るならば掃討を行う事を依頼されている。

 

 

「しかし、何でデストロイヤーがそんな重要そうなデータなんて守ってるんだ?」

 

ローニンから、そんな一言を貰った。

確かにそうである。

 

はっきり言ってデストロイヤークラスは対処さえ間違えなければ敵ではない。

AIが余りに幼いからだ。

 

「……エージェント、だろうな。恐らく」

 

彼女なら、上位モデルに対して命令権を持っているであろう。

そんな結論を勝手に付けていた。

 

「こんな廃ビル群に、データねぇ」

「件の建物は、元々鉄血工蔵の営業支部だったらしい。様々なPMCや正規軍のデータが放置されていてもおかしくはない」

「一理あるな」

 

そんな物を守って何になるのかは知らないが。

ついでに言うのなら404がそれを回収……もっと言うとそれを命じた上が何を考えてるのかはわからない。

 

「ま、理由は何にせよ……稼がせてもらうだけだ」

「……美味い話には何か裏があるもんだ。404の隊長に随分執心みたいだが、足元取られるなよ」

「45はそんな事しないさ。ただ……」

 

嫌な予感はする。

それも特大級に。

 

『こちらノーススター。配置に付いた』

「了解。引き続き警戒しつつ出てきた所を狙い撃て」

『あいあいさー。指揮官、出番までKarちゃんのお尻触ってていい?』

「減給」

『重っ!?』

 

隣でローニンが引き攣った笑いを浮かべている。

チャンネルを切り替えてトーンに繋げる。

 

「トーン、応答せよ」

『こちらスカウト部隊トーン』

「敵勢力の追加情報はデータリンクに随時更新せよ」

『了解』

「それと……この作戦、補給の護衛人形の中にM1ガーランドが居るらしい」

『っ!?し、指揮官!それは今必要なんでしょうか!?』

「さぁな?カッコいいとこ、見せてやれよ」

『なっ、何で知ってるんですか指揮官!?ちょっ』(ブツッ

 

無線を切る。

さて、次は……。

 

「スコーチ」

『こちらに。戦闘部隊の撤退ルートは確保に成功』

「いい仕事だ」

『恐悦至極』

「引き続き警戒に。デストロイヤーがぶっ放し始めたら倒壊の危険性のあるエリアだ。気を付けろよ」

『御意』

 

通信が切れる。

 

「指揮官。始まるぞ」

「ああ……」

 

マイクを再びオンにする。

 

「全部隊に通達!これよりデストロイヤー討伐作戦を開始する!絶対に死ぬなよ!」

『『『了解!!』』』

 

 

 




デストロイヤー討伐作戦、開始。


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乱入

 

『あーもう遠くからチマチマと!腰抜けめ……ギャッ、グレネードがっ!?』

 

 

無線からちょくちょく聞こえてくるデストロイヤーの悲鳴。

顔を出すたびに狙撃部隊が狙っているため向こうはかなり数を減らされて消えている。

 

相手の射程より優れているなら、それを活かさない手は無い。

 

 

デストロイヤーは侮られている相手だとはいえ、グレネードは強力だ。

相手の得意分野で勝負してはいけない。

 

『こちらM16。私達の出番は無いのかい指揮官?』

「そう急くなM16。討ち漏らしの掃討がある」

『はいはい……』

『しーきーかーんー!私達は!?早く奴等をズタズタにさせてよ!』

『SOPMOD……あまり指揮官を困らせないように。M4、了解しました。待機します』

 

そろそろ、現地の前衛部隊から不満が上がってきた。

狙撃でカタが着くのならそれに越したことはないが。

 

『指揮官を臆病者と誹った事を、後悔させて差し上げます……!』

 

鬼気迫る春の声が聞こえてくる。

 

「愛されてるねぇ指揮官殿」

「やかましい後方幕僚。迎えの準備しとけ」

「はいはい、判りましたよ……」

『はぁい、しきかーん。愛しのUMP45ですよ〜』

 

間延びした声が聞こえてくる。

ローニンがめちゃくちゃニヤニヤしている。

 

「どうしたハニー?」

『無事建物に潜入したわ。これから無線も封鎖する』

「了解。無事に帰って来いよ?」

『勿論。貴方の指輪の相手を全員連れて帰るわ』

「頼んだぞ」

『アウト』

 

さて、いよいよ作戦が本格的になってきた。

先程春の狙撃がデストロイヤーのグレネードユニットを撃ち抜き、奴は建物に引っ込んだ。

 

そろそろ前衛打撃部隊を突入させる頃合いだ。

 

「指揮官よりAR小隊、第一部隊に通達!突入準備!」

『こちらM4、AR小隊突入準備』

『こちら第一部隊GrG3、突入準備』

「突にゅ……」

『うわぁぁぁん!()()()()()!こいつらめっちゃ強いじゃん!助けて!』

 

……ローニンと顔を見合わせた。

 

『こちらノーススター!カウンタースナイプ!』

「……何だと!?被害は!?」

『G17が、私を庇って……』

「下がらせろ!ローニン!」

「今向かってる!!」

 

カウンタースナイプ?

一発で部隊長を狙うAI?

いや、G17は無事か?

 

「落ち着け指揮官、やれることをしろ」

「……ノーススター、一度待避。人形達に援護させる」

『りょ、了解……』

『こちらスカウト!ハイエンドモデルを確認!』

「あぁ!?ハイエンド!?45!」

 

繋がらない。

……無線は確か封鎖されていた。

 

『ハァイ、ジョージィ。元気だったかしら?』

 

ノイズから、音声。

……舞台の誰でもない猫なで声。

 

「……ドリーマー!」

 

忘れはしない。

忘れるものか。

 

『覚えててくれて嬉しいわ。お馬鹿さん(デストロイヤー)と遊んでて退屈だったでしょう?ここからは私も遊んであげる』

「ああ、そうかよ……!」

 

ハイエンドモデルが二体。

これは高く付くだろう。

 

「ローニン」

「……ハァ、行くのか」

「ああ、45達が危ない」

「404に騙されてるとか思ってないのか?」

「まさか」

「指揮系統とバンガードを繋ぎっぱなしになる。常に位置はバレるぞ」

「承知の上だ。俺がやらなきゃいけないからな」

 

ポケットから黒い指輪を取り出す。

 

「……ペルシカも本当に趣味悪いな」

「本当にな」

「ヘリを回した。やつの射程範囲外からしか降ろせないから、後は走って向かってくれ」

「バンガード!」

『やっとあたいの出番?待ちくたびれちゃったよ』

 

司令室の片隅にケーブルで繋がれていたバンガードが立ち上がる。

バンガードに自分をリンクさせる。

元々夜戦服にアーマーと言う出で立ちだったので、すぐに準備は終わっている。

 

「ほら、武器だ」

「サンキュ」

 

ローニンからフラットラインと予備弾薬を渡される。

壁に立てかけられていたクレーバーを手に取る。

 

『ニューラルリンク確立』

「それじゃ、行ってくる」

「基地は任せとけ。さっさと報酬貰って飲みに行くぞ。お前の奢りでな」

「オイオイ、祝勝祝いで奢ってくれよ年長者」

「あぁ?寝言は寝て言え指揮官殿。さっさと行け」

 

軽く手を振って司令室から出た。

 

『プライベートチャンネルに通信。WA2000からだよ』

「繋いでくれ」

『……ジョージ』

 

相棒からの個人通信。

本来なら指揮官への直接通信なんて褒められたものでは無い、が。

 

「判ってる。決着つけるぞ……俺達で」

『やっぱり、こっちに来るのね』

「ああ』

『馬鹿。考えなし、指揮官失格よ』

「今更だろう?」

『本当よ……今更だわ』

「すぐそっちに行く。待ってろよ」

『……ええ、待ってるわ』

「通信終わり」

 

無線を切る。

 

「バンガード、付き合ってもらうぞ」

『水臭い事言わないでよ、相棒(パートナー)あたい達は一心同体なんだから』

「相棒は、生涯ただ一人って決めてるんだが」

『リサには勝てないねぇ。いいよ、あたいが勝手に呼んでるだけだから』

「悪いな」

 

駆け出す。

飛び立とうとしているヘリに飛び乗る。

 

「行くぞ」

『見せてあげる!あたいの本当の力!』

 

 

 




ドリーマー、襲来。

ジョージは決着をつけるため、前線に向かう。


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1歩

「わーちゃん、お迎えですよ」

 

春さんが唐突にそんな事を言い出した。

 

「撤退のヘリですか?」

「ふふっ、トカレフさん。あちらをご覧なさって」

 

カラビーナさんに指さされた方向を見る。

私のカメラは、はっきりと想い人を捉えた。

 

「指揮官……」

 

ビルからビルへ飛び移る人影。

それがどんどんこちらへ向かってくる。

 

勢いよく目の前に着地した。

 

『到着!どう?あたいの近道は!』

「バンガード、近道について再定義しとけ……道じゃねーよこんなん。ただの壁じゃねーか」

『だったら走れば良いじゃない!……ごめんよ、これから近道は使わないよ……』

 

そんなやり取りをしながら歩いてきた。

 

「ノーススター、リサ借りてくぞ」

「いいですけど……返してくださいよ?」

「訂正するわ。俺のものだから聞かなくても良かった」

「惚気の出汁にしないでくれますぅ!?」

 

春さんとカラビーナさんが指揮官の所へ向かった。

……私も気が付いたら駆け出していた。

 

「私達は連れて行ってくれないんですか?」

「お前は多分あいつを破壊しちまう……悪いな」

「わたくしも因縁浅からぬとは思いませんか?」

「浅くない、けどもっと深い奴がいる」

「残念」

 

リサさんが、悠然と歩いてくる。

まるで、到着するまで置いていかれないと分かっているかのように。

 

「来たか」

「ええ」

「行くぞ」

 

指揮官がリサさんに手を差出す。

けど、リサさんは正面から指揮官の首に抱きつく。

 

呆れて左手を足に添えてお姫様抱っこの様に抱えた。

 

「それじゃ、行ってくる」

「必ず、帰ってきてくださいね。……それと、ハンドガンくらいなら持てそうですね」

「……え?まぁ、いけるだろうけど」

 

春さんがそう言うと、こっちにウィンクしてくれた。

……私は、走り出した。

 

「行くぞ、しっかり掴まってろよ……!」

「ちょっ、ジョージ!後っ!」

「私も、行きます!!」

「トカレッ、おわっ!?」

「えっ、きゃぁぁぁぁ!?」

 

背中に飛び付いた勢いが良過ぎて、三人まとまって落下した。

 

「あらあら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

side:ジョージ

 

 

後ろからトカレフが飛び付いて来たのは予想外過ぎて対応に遅れた結果、俺達は垂直落下する羽目になった。

 

「ば、バンガードぉぉぉグラップル!!」

『了解!』

 

空いている右腕からワイヤーが射出される。

近くの壁に突き刺さり、振り子の要領で落下の向きが変わる。

 

目の前には、

 

「ジョージ!壁!」

「わかってる!」

 

壁に向かって飛ぶ。

そして、ぶつかる前に脚を突き出し、()()()()()()

 

そしてそのまま進行方向へ走り出した。

 

「わぁ……本当に走ってる……きゃっ!?」

「喋るな!舌噛むぞ!!」

 

とにかく、まずは平な場所まで行かねば……。

 

 

『指揮官……重い……』

「頑張れバンガード!!」

 

 

 




トカレフはやっぱり寄り添いたい。
最終決戦のメンバーはこの三人になりそうですね。


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侵入

本日4ページ目の更新ですので、読み飛ばしにご注意を。


敵本拠地近くの廃ビル群の一角。

リサとトカレフを降ろす。

 

「トカレフ……」

「わ、私だって一緒に戦いたいんです!!」

「気持ちは嬉しいんだけど……」

「この指輪は、嘘だったんですか」

「……参った。連れてくよ」

 

涙目に懇願されて、折れるしか無かった。

本当に……甘くなったなぁ俺。

 

「甘いわね、ホント」

「うるせぇ」

「悪いとは言ってないわ。だから惚れたのよ」

「お前っ……ほんと、ずるいやつ」

 

最近よくリサに手玉に取られてる気がする。

……だってコイツ今までぜんっぜん素直じゃなかったのに。

好意バンバン表に出されて俺もちょっとキャパオーバー気味なんだ。

 

「むっ……私だって大好きです!」

「アハハ……ありがとな。さて、二人共。真面目な話だ」

 

二人にバンガードは基地と回線を繋ぎっぱなしのため、ドリーマーに絶えず位置がバレている事を伝えた。

 

「あいつに位置をバレてるなら……先制攻撃は免れないわね」

「その為の切り札は、ある」

「それ、アンタに負担は?」

「一応、無い」

「なら良いわ。行きましょう」

 

リサが歩き出す。

 

「待て、アテはあるのか?」

「有る無しの前にここに留まるのは得策じゃないわ」

『指揮官、あたいのウェポンラックにナイフが2本あるでしょ?四角い柄のやつ抜いて』

「バンガード?了解」

 

言われたとおり柄が四角い方のナイフを引き抜く。

振り回すより投げて使う方に特化した、尖端の尖ったナイフだ。

 

バンガードのディスプレイに表示されるアナウンスには、『パルスブレード』と書かれていた。

 

「うん?これは、壁に投げりゃ良いのか」

 

パルスブレードを壁に向かって投擲。

刺さると同時にオレンジの波が広がる。

 

『!曲がり角に敵歩哨!数は2!』

「なるほどな!リサ、トカレフ!」

「わかってる!」

「はい!」

 

俺とトカレフが先んじて走り出す。

 

曲がり角から一人……鉄血のAR持ちが出てくる。

 

しかし、頭が出た瞬間にリサがヘッドショットを決める。

後ろに居たもう一人にトカレフが牽制し……壁を蹴り頭上から踵を頭部に叩き付けて地面に押し付け、潰した。

 

「……クリア!」

 

靴に付いた人工血液を拭いながら警戒する。

壁のパルスブレードを抜いた。

 

「良いなこれ。ペルシカも指輪とかじゃなくてこう言うの作れよ」

『まだ強度に問題があって、使えても3回が限度なんだ……』

「充分だ。ありがとなバンガード」

『ふふっ、任せなさい相棒(パートナー)

「むっ……ジョージ?」

「わかってるって、相棒はお前だけだ」

『(´・ω・`)』

「ごめんって」

「皆さん……先に進みますよ?」

 

なんと言うか、イマイチ締まらないメンバーだった。

 

 




何とか敵陣に侵入した三名。

しかし、位置情報は常にバレているため迅速に行動したい。


何でコイツら敵陣でいちゃついてんですかね……。


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決着までの道のり

自分が借金前線を書き始める前から書かれていたドルフロライターさんの一人が、筆を置いてしまわれました。

とても寂しいものですね、こういう事は……。
結局最新話までリアルタイムで追えなく感想送れなかったのが心残りです……。


予想以上に……と言うより、残当だが俺の負担がとてつもなく増えている。

 

『こちらAR小隊!敵小隊と交戦中!』

「わかった!そのまま蹴散らせ!」

「ジョージ!前!」

「のわっ……!?」

 

前から弾幕が飛んでくるので慌てて物陰に飛び込む。

倒れたコンクリート片の陰に隠れてやり過ごしてから反撃する。

 

「悪い、M4!すぐかけ直す!」

『お気を付けて!』

「指揮官!来ます!」

「行くぞ!」

 

リサの援護射撃を受けて俺とトカレフが飛び出す。

……敵はリッパーが三体。

 

サブマシンガン型のためインファイトに強く接近は悪手である。

 

しかし、こちとら修羅場を潜ってきた経験がある。

そこいらの量産型に今更遅れは取らない。

 

一体にグラップリングフックを突き刺し引き寄せる。

 

「どっせぇぇぇい!!」

 

その勢いのまま顔面にストレート。

バイザーが割れてそのまま吹っ飛んでいく。

 

その間にトカレフが一体に肉薄、射撃しようとしたリッパーの股下をスライディングでくぐり抜け背後から足払い。

 

転倒したリッパーの頭部へ二発撃ち込み沈黙させる。

 

最後の一体が俺に銃口を向け……。

 

リサの放つ弾丸がコアを撃ち抜く。

 

「……クリア」

「もうちょっと戦い方考えてくれないかしら!?ヒヤヒヤさせないでちょうだい!」

「大丈夫だ、お前ならやってくれるだろ?」

「当たり前でしょ!!」

 

いつもより少しだけ過激なやり取りを下あとに、外の状況を確認する。

 

「ローニン」

『聞こえてるぜ。現在AR小隊と第一部隊が外の部隊をほぼ制圧。狙撃チームはドリーマーを牽制中だ』

「デストロイヤーは」

『屋内に引っ込んじまった。ドリーマーなんとかしねぇと突入は厳しいだろうな』

「最悪こっちでデストロイヤーとドリーマーを相手しなきゃならない、か……」

 

ドリーマーの排除は俺達の最終目標ではある。

だが、その過程での損害はなるべく避けなければならない。

 

『指揮官、敵の数がやっぱり少ない。気を付けて』

「ああ……どう考えても誘ってる。でも行かなきゃいけない」

 

バンガードからの忠告に答える。

……罠と分かってて飛び込まなきゃならないって言うのは想像以上に気疲れをする。

 

しかし、背後に立つ二人にそんな事を気取られてはいけない。

 

「急ごう、二人共」

「ええ」「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーside:Dreamer

 

 

来ている。

()が来ている。

 

結局、私の一部は排除されてしまったらしい。

 

パタリと信号が途絶えてしまった。

 

「ドリーマー!何よあいつら!めっちゃ強いじゃない!」

 

ああ、お馬鹿さんが戻ってきた。

 

「あら?戦力の過小評価は良くない癖ねデストロイヤー」

「グリフィンなんて今まで雑魚ばっかりだったじゃん!何アレ!特にあの茶髪のライフル持ちは!」

 

名前は……確かスプリングフィールドと言ったかしら。

あの人形は要注意ね。

 

あの距離から正確に武装のウィークポイントを突いて的確に無力化して来る。

 

隣に居た白いライフルも初めて戦闘した時より遙かに強力になっている。

 

やはり、彼には何かがある。

 

私の渇きを満たす何かを持っている。

 

「ふ、ふふっ、ふふふ……!」

「ど、ドリーマー……急に笑い出してどうしたのさ……」

「……素敵よ!最高よジョージ……本当に、美味しそう……!あぁ、焦がれるわ!焦がれますわ!欲しい、欲しい、欲しい、欲しい!!」

 

 

欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい!!

 

 

「ジョージ……早く私を殺しにいらっしゃい……!」

 

 

足元から送られてくる彼の反応。

進みは遅くとも確実にこちらへ近付いてくのがいじらしい。

 

今度こそ、私の手で殺してあげる。

 

 

 




進むジョージ、待つドリーマー。

自分のAIにすら影響を与えるジョージにドリーマーはまさしく夢中。
三度目の戦闘……これが、最後。


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窮地、覚醒

お久しぶりです。
最近少し更新が滞っていましたが、合間を塗ってなんとか投稿できました。


『ハァイ、ジョージィ?元気かしら』

 

無線に嫌というほど苦しめてきた女の声が木霊する。

 

「憎たらしいほどキレイな声しやがって」

『あら、嬉しいわね。頑張って向かってきている様だから……プレゼントを用意したわ。気に入ってくれると良いけど』

「プレゼント……?」

相棒(パートナー)!前方から……ダイナゲートがとにかくたくさん!!』

「二人共、ダイナゲートだ。厳しいかもしれないが手こずる相手じゃ……」

 

ない。

 

そう言い切ろうとした。

……が、よく見ると背中に付いている火砲が無い。

 

その代わり、ケーブルに繋がった()()()()()()のような物がマウントされている。

 

「……ねぇちょっと何あれ!?」

「撃て!アレは絶対ヤバい!近付けるな!!」

『グラップル射出!興奮剤追加投与!!』

「お、らぁっ!!」

 

近くの廃コンクリ柱にワイヤーを打ち込み、強化された身体と外骨格の出力で目の前に引き倒した。

簡易的なバリケードだ。

 

「トカレフ!リサ!撃ち漏らすなよ!」

「「了解!!」」

 

俺もフラットラインを構えて撃ちまくる。

アサルトライフルの掃討力と、ハンドガンとライフルにしては比較的早めの射速を持つリサが合わされば凌げない筈は……。

 

「ジョージッ!!?!」

「リ、サ……!?」

 

不意に、突き飛ばされる。

人形の全力で突き飛ばされたので、少し床を転がるが……すぐに立ち上がり、

 

「い、嫌ッ!?はなれ、このっ!!」

 

チェーンソー付きのダイナゲートに群がられ押し倒されたリサが見えた。

 

「て、めぇ!!俺の女に触んじゃねぇ!!」

 

すぐに真上に乗っていたヤツを蹴り飛ばし、周囲に群がっていた奴らを片っ端から撃ちまくった。

リサの手を引く。

 

「なんで来たのよ!?」

「見捨てられるか馬鹿っ!!」

 

幸い目立った外傷は無さそうだ。

ただ、あちこちに浅い裂傷が付いてしまっている。

一度引くべきかと思案した時、

 

相棒(パートナー)上っ!!』

「指揮官ッ!!!!」

 

二人に喚起され、上を向く。

 

……ダイナゲートが、大量に降ってきた。

 

「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーside:M4A1

 

 

指揮官からの連絡が、途絶えた。

止まりそうになる思考を必死に繋ぎ止める。

 

「M4!」

「大丈夫です……姉さん、皆。ごめんなさい、少し時間を稼いで」

「……何か考えがあるの?」

「ええ。指揮モジュールを使うわ」

「!M4、それ……」

「お願い、出来るかしら……皆」

 

この作戦前に指揮官……ジョージさんから言われていた事がある。

『もし、指揮が取れなくなった場合』について。

 

「……可愛い妹と、憎たらしいその旦那の為だ」

 

M16姉さんが苦々しく呟いた。

……私は、この人たちの家族で本当に良かった。

 

「ローニンさん、聞こえますか」

『聞こえてる。あのクソ指揮官の報告書に指揮簿は全て読み込んでるな?』

「はい」

『これより戦術人形M4A1に現場指揮権の一部を譲渡する』

「承認……申し受けました」

 

私の中の指揮モジュールが起動する。

戦術人形を指揮できるのは、人間だけではない。

 

私という人形は、戦術人形を指揮する権限と装置を与えられている。

 

だから、グリフィンのハイエンドモデルと称されている。

 

私は、この評価が嫌いだった。

 

けど、

 

「みんな、行くよ……!」

 

指輪をくれた貴方のためなら、そんなものどうだって良い。

 

 

貴方のために、戦います。

 

だから、無事で居て……ジョージさん。

 

 

私は私の戦場で、貴方を助けます。

 

 

 




M4、吹っ切れる。
チェーンソーダイナゲートとか普通ならただの的ですが、閉鎖空間+少人数+射速不足のこのメンバーにとっては充分に脅威となり得る。


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救援

接近戦仕様のダイナゲートに囲まれ、絶体絶命。

しかし、繋いだ縁は彼らを見捨てなかった。


 

「くそっ、リサ!トカレフ!!」

 

大量のダイナゲートに取りつかれ地面に伏せる形になる。

二人の声が聞こえない。

 

身動きが取れず、焦りばかりが積み重なる。

 

「このっ、ちくしょう!離せ!」

『ぐぎぎ……重量オーバーだ!退いてよ!!』

 

……チェーンソーの回転する音が聞こえる。

 

「万事休すか……!!」

 

 

 

「残念ね、貴方の運命はこれからよ」

 

 

 

「……っ!やっぱりお前は完璧だ、416!」

 

 

近くのダイナゲートが爆風で飛ぶ。

続いて飛んできた弾幕に次々とダイナゲート達が撃ち落とされていく。

 

「ジョージ!無事!?」

 

俺の手を引き、立たせてくれた416。

辺りを見やると45やナイン、G11が二人の救出をしてくれた。

 

「ありがとう、良いタイミングだ」

「当たり前よ……私は完璧なんだから」

「サンキュ」

「ちょっと、ジョージっ、んんっ……もう!」

 

唇を奪ったら顔真っ赤にして引っ叩かれた。

でも割とまんざらではなさそうだった。

 

「アッ、ずるい!」

「おっ、とと、ナイン。ありがとう、命拾いしたよ」

 

ナインが目敏くそれを見つけて飛び込んできたので、受け止めた。

 

「さっきまで死にそうだったのに、余裕ねジョージ」

「45。お前らのお陰だよ」

「指揮官、油断しないでね……まだ敵地だよ」

 

G11に手を振って応える。

ひとまず情報共有だ。

 

「45、データの方は?」

「データルームがこの上にあるんだけど……デストロイヤーがそっちの方に撤退しちゃって。どうやって手を出すかってとこね」

「なるほど……」

「指揮官、前に出てきたって事は……」

「ああ、ドリーマーだ」

 

そう答えると、四人にも緊張が走る。

あれの厄介さは、四人も周知しているのだろう。

 

応急処置を済ませた二人も戻ってきた。

 

「ジョージ、まだ動けるわ」

「了解。皆、聞いてくれ。ここで404にトカレフとリサを編入し即席小隊を結成する」

「……ハイエンドが二体、流石に私達だけじゃ荷が重い」

 

仕方ないか、と呟いて……45が俺の襟首を掴んで引き寄せた。

 

「45!?」

「承諾はするけど、納得はしないわよ。ジョージ……私の目の前で死んだら地獄まで追い掛けて撃ち殺すわ」

「お前に死なれない為に、死ねないな」

「自分の心配しなさいよ」

『あっ、照れてるね45。可愛いなぁ』

「黙りなさいこのガラクタ!」

 

口が悪いなぁオイ。

あー、バンガード拗ねて黙っちまった。

 

「さて、行くぞお前ら……次は決戦だ」

「「「了解!!」」」

 

即席のファイアチームを結成。

目指すはデータルームだ。

 

「そういえばデータルームは上って言ってたけどどうやって登るつもりなんだ?」

「……天井、爆破しようかなって」

「おい!」

 

 




救援に駆けつけた404。

即席チームを結成し、いよいよハイエンドに挑む。


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決戦

「ハァイ、ジョージィ……?やっと、逢えたわね」

 

ジップラインを形成しなんとか階層を登っていった先……1フロアぶち抜きでだだっ広いエリアに到達したときだった。

 

柱しか無い場所に……ドリーマーが立っていた。

 

「やっと会えたなこの野郎」

「嬉しいわぁ。貴方も逢いたかったのね」

「このクソッタレた因縁にやっと決着がつけられるからな!」

 

ウィングマンを抜き放つ。

左右に控えていた臨時チームの面々も銃を構える。

 

「6対1だ。命乞いは聞いてやる」

「一人、ふふふ、本当に()()()()()()()()()()?」

「何っ……?」

 

バンガードが勝手にパルスブレードを投擲する。

……ソナーが起動し、4体の人形がこのエリアに潜伏している事を示した。

 

「指揮官、相手は五体……!」

「しかも全員ドリーマーかよ……!」

 

柱の陰からゆらりと、目の前に相対する少女と同じ顔の少女が次々と現れる。

長大なライフルが、これだけで5門。

 

だが、

 

()()()()()()()()!」

「……へぇ?」

「たかが鉄血のハイエンドとそのダミー!勝てない道理はない!」

「大した自信ね……?どうしてかしら」

「決まってる」

 

隣に立っていたリサの頭を軽く撫でる。

 

「ここには俺の女達が居る。そいつらの前でカッコ悪いとこは見せられないからな!」

 

45が脇に肘を入れた。

だが平静を装う。

 

「アハッ……何それ、本当に貴方意味分からないわ……!本当に面白い……!良いわ、良いわぁ……!」

「何だこいつトリップしやがった……!」

『ハイエンドの頭の中ってお花畑でも広がってるの?』

「俺に聞くな」

 

バンガードも引いている。

何なんだこいつホント。

 

「さぁジョージ!遊びましょう?……オマエがみっともなく地面に伏せて命乞いするまで見届けてやるならなァ!!」

 

豹変。

続いてダミーが銃口を上げる。

 

「散開!各個撃破!!」

 

すぐさま全員がその場から飛び退く。

近くにいたドリーマーのダミーに発砲。

 

ダミーは柱の影に隠れてしまう。

 

「くたばれ!」

 

リサがダミーに肉薄していた。

……怒りに我を忘れているのか!?

 

「リサ!突出するな!」

「WA2000さん!」

 

トカレフが両者の間に踊り出て発砲寸前だったドリーマーの銃口を蹴り上げた。

 

瞬間、レーザーが天井に穴を開けた。

 

「次に死ぬのは、アンタ達の番よ!」

 

リサの愛銃から放たれた弾丸が、ドリーマーのダミーを貫く。

 

「チームの仇……ッ!私の雪辱!ジョージの為に!アンタは、絶対に殺すッ!!」

 

かつて無いほどの殺意。

しかし今は、頼もしい。

 

「45!」

「了解!」

 

45がスモークを転がす。

煙に乗じて近くにいたダミーへと駆け出す。

 

「ダミーは邪魔だ!!」

 

後ろから飛んでくる45と9の援護射撃がダミーの逃げ場を潰す。

身動きの取れないダミーの頭に、ウィングマンを撃ち込む。

 

「これで2体……ッ!!」

「それは、どうかしら……!」

「うおっ……!?」

 

横から衝撃。

ドリーマーが突っ込んできた。

一緒に吹っ飛び……下は、建物の外。

 

「ジョージ!!」

 

また、落下かよ……!!

 

 

 



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決着

対ドリーマー戦、完。


「ジョォォォォォジ!!」

「グラップル!」

『グラップルを使用!』

 

落下中、ドリーマーが頭上からライフルを連射してくる。

グラップルをビルの壁に刺し振り子の要領で軌道を変えて壁に()()

 

そのまま走る。

壁を蹴り、落下するドリーマーに飛び蹴りを食らわせる。

 

「ガハッ……!!」

「こ、のっ!!」

 

ドリーマーのライフルにグラップルを突き刺しこちらに引き寄せる。

 

「はっ、ハハッ!!良いわ、良いわぁ!!」

「させるかよ!!」

 

ドリーマーが懐からハンドガンを抜き放つ。

それに合わせてこちらもパルスブレードを投げた。

向こうはハンドガンを振り弾く。

 

パルスブレード、喪失。

 

だが隙は生まれた!

引き戻されたグラップルの先に居たドリーマーの首を掴む。

 

「グッ!?」

「捕まえた!」

『指揮官!落ちてる!片手空けて!』

「わーってる!!」

『グラップ……うわぁ!?』

 

グラップルアタッチメントをドリーマーが握った。

振り払おうにも腕力が強い。

 

「ふふ、ひっ、はは!!」

「この野郎離せ!!」

『痛っ!離せぇぇぇぇぇ!!』

「一緒に逝きましょう!ジョージィィィィィ!!!」

 

メキッ!

アタッチメントが……握り潰された。

俺の腕にまで圧が掛かる。

 

「がぁぁぁぁぁ?!」

『あぎっ……?!右腕損傷!右腕損傷!』

「ジャンプキット最大出力!!着地する!!」

 

この高さ、降りられるか!?

いや、降りる!

俺は、帰るんだ……!!

 

「う、おおおお、おおお!!」

『ザザッ……ジャンプキット出力最ザッ……大……』

 

バンガードの様子がおかしい。

ここに来てマシントラブル……?!

いや、腕の損傷によって一時エラーが……?!

 

「保たせろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

地面が、見えてきた。

 

……だが、無慈悲にもジャンプキットの推力は、途切れた。

 

ドリーマーを抱えたまま着地の衝撃が殺せず転がる。

身体から様々なパーツが剥がれていく。

 

「ガフッ……!?」

 

近くのコンクリ片に叩き付けられて、勢いは止まった。

 

「ゲホッ……バンガード……」

『』

「マジかよ……」

 

バンガードからは砂嵐しか聞こえて来ない。

何とか起き上がろうにも、パワーアシスト無しで動かすには重い。

 

「ジョージィィィィィ……!!」

「マジかよ」

「もっとよ……良いわ、良いわぁ……もっと殺し合って、私を満足させて頂戴……!」

 

ドリーマーがナイフ……あれは、パルスブレード……を握ってこちらに歩いてくる。

なんとか立ち上がる。

 

「くそっ、重いっ……!」

「ジョージィ!!」

「う、おっ!?」

 

立ち上がった瞬間、ドリーマーがナイフを突き刺し……。

 

「あ……」

 

俺に刺さる前に、刃が折れた。

ちょうど、パルスブレードの使用限界だった様だ。

 

「……終わりだッ!!」

 

ラックに残っていたもう一本のナイフを抜き……ドリーマーの右肩に突き刺した。

 

リサに刺させた、右肩と同じ位置に。

 

「ガッ……ま、まだ……ッ!!」

「いや、終わりだ」

「な、なん……あぎっ……ぎ、あ、が、が、ぎ、っ!?」

 

ドリーマーの身体が震える。

身体の自由が効かなくなったのか、その場に倒れ伏す。

 

「はぁ……はぁ……なるほど、これは有効か……」

 

ドリーマーの肩に刺さるナイフ。

人形に対してハッキングを仕掛け動きを止めるナイフ……データナイフと言う代物だった。

 

もう、刃が根本からぼっきりと折れてしまっている。

 

強度面にの問題があるな、これは。

 

「こいつにやるのは、癪だが……仕方ない」

 

ケースから、黒い指輪を取り出し……左手の指に通した。

 

これで、本当に終わりだ。

 

『予備プログラムを起動。おはようございます、指揮官』

「……バンガード?」

『お久しぶりです、指揮官。前任のバンガード用AIです。()()が眠ってしまった場合の保険として私は残されていました』

 

バンガードにパワーアシストが少しだけ掛かる。

 

「……バンガード……その、彼女は?」

『自己防衛モードに入り、休眠しています。AIは無事です。指揮官、手を』

「え?ああ……」

 

言われたとおり手を出す。

バンガードが俺から分離する。

そして、手の上に丸いユニットが置かれた。

 

「これは……?」

『戦術コアです。この中に彼女は眠っています』

「……待て、これ、戦術人形のコアじゃないか?」

『私はその質問に返答する権限を持ちません』

「オイオイオイ、これかなり拙いんじゃ……」

『それより指揮官、ここを離れましょう。頭を抑えたとはいえ、ここは敵地です。動かなければ死んでしまいます』

「あ、ああ……」

 

機能停止しているドリーマーを左腕で抱える。

右腕は、動かない。

 

興奮剤の作用で、麻痺しているのか。

 

「上は、大丈夫だろうか……」

『貴方の部下たちです。大丈夫でしょう』

「……そうだな。俺が信じなきゃ」

 

とにかく、味方に合流しないと……。

 

……俺達は、立ち止まった。

 

「……嘘だろ」

 

このエリアは廃ビル群であり、周りは高い廃墟が立ち並んでいる。

目の前には、倒壊したビルが横たわり……高い壁のようになっていた。

 

迂回するにも、登るにも高い。

 

合流地点は、この先なのに。

 

『……動体反応を検知。鉄血の残党でしょう』

「何だって」

『数は複数……交戦し生き残る可能性は絶望的です』

 

淡々と、隣に立つ外骨格は答える。

 

『……しかし、この瓦礫の向こうに友軍が居ます。彼女達にコンタクトが取れました』

「本当か!?」

『はい。そこで指揮官、提案します』

 

バンガードがこちらを見る。

……無事な左腕が、俺を抱えた。

 

「待て、提案ってなんだ!?」

『私に残された最大出力で指揮官とドリーマーを瓦礫の向こうへ投げ飛ばします。着地点には人形達が待機しているはずです』

「お、おい!お前はどうするんだ!?」

『私単騎ならば逃げ切る事が出来るでしょう』

「信じられるか!!お前もボロボロ何だぞ!?」

『私は装備です。装備者を無事に帰還させることが私の任務です』

「馬鹿野郎!!プロトコル2、任務を完遂せよ……!戻らなきゃ達成出来ねぇだろ!」

『プロトコル3、パートナーの保護』

「バンガード!!」

『必ず戻ります』

 

バンガードに持ち上げられる。

俺はドリーマーをキツく抱えるしか出来ない。

それでも、言葉は出る。

 

 

 

 

 

「やめろ!バンガード!」

 

 

『信じて!』

 

 

「バンガードォォォォォォォォォ!!!」

 

 

 

 

俺の身体は、重さを感じない程の軽さで投げ飛ばされた。

 

 

 

 




これにて、ドリーマーとの因縁に決着が付きました。

ここからは事後処理とエピローグとなります。
あと少しだけ、お付き合い下さい。


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幕間 目覚めてから
目覚め


 

「……ここ、は」

 

真っ白な天井。

見れば分かる……病室だ。

 

「俺……どうなった?」

「戻ってくるなりぶっ倒れて一ヶ月昏睡だクソ野郎」

「……ローニン」

 

凄まじくイラついた表情の後方幕僚が、ベッド脇に立っていた。

 

「一ヶ月、か」

「ああ。てめぇが暢気に寝てるから仕事溜まってクソイライラしてる」

「あれから、どうなった?」

「……説明してやる」

 

ローニンがバインダーから何枚か資料を取り出す。

 

「まず損害状況。WA2000が緊急搬送レベルで大破。G17も重症。それ以外は比較的軽微。人間の方の被害は奇跡的にゼロ……いや、お前が大怪我してるな」

「……リサと、G17は?」

「回復してる。気が気じゃないみたいだったが後方支援任務に向かってる」

「そうか……」

 

そして、何より気がかりなのは……。

 

「あと、ドリーマー」

「……奴は?」

「未だ昏睡状態……機能停止してる。勝手で悪いが、IOPに送った」

「いや……それが最善だ。うちは整備が出来るだけであってプログラムが弄れる奴らがいる訳じゃない」

「そう言ってもらえるなら助かる」

「さて……じゃあ起き……」

 

……足が、動かない。

 

「……興奮剤過剰投与の反動だ。上半身は無事だったが、脚はしばらく動かんぞ」

「またかぁー……」

 

昔は原液投入だったため3ヶ月だったが……今回はどれだけ掛かるだろうか。

 

「ま、そのまま寝かせるつもりは無いから。車椅子位なら手配してやる」

「心遣い痛み入るな……」

「心配するな、面倒看てくれる奴らなら沢山居る」

「え……?」

 

ローニンが指差した方を見る。

……病室の出入り口に、GrG3、9A-91、トカレフの姿があった。

 

「……そうだな。おいで」

「「「指揮官っ!!」」」

「はいはい……ったく、終わったらまた来る」

「悪いな」

 

ローニンが呆れた様に出て行った。

3人が、俺の下へ走ってくる。

 

「指揮官!指揮官!良かった!」

「心配、したんですからね」

「うえええええん……しきかぁぁぁぁあぁん」

 

三者三様な反応で俺の体をばしばし叩いてくる。

痛いって。

 

「ははは……ありがとな。戻ってきたよ」

「「「うわああああああん!!!」」」

 

なんと言うか、また泣かせてしまったなぁ……。

これは……ここに居ない子達がどんな反応をするのだろうか……。

 

ちょっと不安だ……。

 

「というか、問題が山積みなんだな……まだまだ」

 

何もかも、まだ終わっていないのだ。

 

「大丈夫ですよ、指揮官」

 

GrG3が俺の手をとる。

 

「私達が、居ますから」

「……そうだな」

 

まぁ、何とかなるだろう。

 

 

 



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UMP40

IOP……ペルシカリアからの連絡。
内容は鹵獲したドリーマーについて。


 

『おはよう。調子はどうかしら?ジョージ指揮官』

 

スクリーンいっぱいに不健康そうなツラを晒す彼女の方に正直俺は言葉を投げ返してやりたかった。

 

「足以外は無事ですよ」

『そう。要件を話すわね。そちらから送られてきたドリーマーだけど、一通りの処置は終わったわ。彼女はもうただの少女と変わらない。ただ、人形って点を除けばね』

「……それで、飼い殺すのか」

『ええ。貴方が』

「…………」

 

納得している訳ではない。

奴も、俺も、死力を尽くして戦った。

その相手を……死ぬまで捕虜にする。

 

その事に嫌悪感が無いとは言い切れない。

 

どこか、やり切れなさを感じている。

 

「指揮官…?」

「……大丈夫だよ、トカレフ」

 

気遣う副官の頭を撫でる。

部下の安全と、恒久的な障害の排除……それが出来ているのだ。

何を迷う事がある。

 

『AR小隊と一緒にそっちへ向かっているわ。M4、貴方が起きたと聞いていてもたっても居られなかったみたい』

「そうですか……」

『指輪、見せて貰ったわ。大事にしてあげて』

「……ああ」

『そうそう。近々また連絡するから』

「え、はい」

『割と大事な話だから。それじゃ』

 

大事な話、か。

はて、なんの事だろうか。

 

「トカレフ。皆が帰ってくる。出迎えの準備をしようか」

「はい」

 

トカレフに車椅子を押してもらう。

本格的に足が動かない。

これは、また体力が落ちるだろうな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーヘリが、降下してきた。

 

S-12基地のヘリポート。

着陸し、作業員達が荷物のチェックに入る。

 

そんな中、四人の人形がこちらへ歩いてきた。

 

「指揮官、AR小隊……帰還しました」

「ご苦労。異常は無かったか?」

「ありません」

「そうか。お疲れさん」

 

前に立つM4の後ろ、M16、AR-15、SOPMOD2は黙っている。

 

「……おかえり、M4」

「……っ!ただいま、戻りました……ジョージさんっ、良かった……!」

 

堪えきれず、M4が俺に抱きついてくる。

トカレフが気を利かせて車椅子のブレーキを掛けた。

 

……後ろで、三人が呆れた顔をしていた。

 

「ったく。砂糖じゃなくてアルコールが欲しいぜ、私は」

「M16、ただ飲みたいだけでしょう」

「やーい飲ん兵衛!」

「お前らなぁ」

「三人も、おかえり」

「おう」「はい」「ただいまぁー!」

 

ふと、M16が後ろを指さした。

 

「客だぜ、指揮官」

「え?」

 

振り返る。

…………言葉を失った。

 

『お久しぶりです、指揮官』

 

がしゃん、がしゃんと()()()()()が歩いている。

 

「バンガード……!」

『BT-4040、シャーシは破壊されましたがバックアップをギリギリ送信出来た為戻ってまいりました』

「その割には五体満足じゃないか」

『訂正します5億パーツ満足です』

 

ふと、バンガードの後ろに誰かが隠れている。

 

「……そちらは?」

『彼女も、貴方の関係者ですよ』

「ちょ、ちょっとバンガード……!まだ心の準備が」

『観念してください』

「わぁ……!?」

 

バンガードに背中を押されて、一体の人形がつんのめりながら前に出る。

 

グリーンの髪に、はつらつとした雰囲気を出している。

なんとなく、瞳に星が見えた気がした。

 

「君は?」

「あ、あはは……ただいま、相棒(パートナー)

「えっ……?」

 

相棒呼びはよせと言ったのに、頑なに俺をパートナー呼ばわりしていたAI。

 

「あたいは、あたいの本当の名前は、UMP40……会いたかったよ、相棒(パートナー)

 

 

 




はい、中身がまさかの体を得て帰ってきました。
そしてバンガードも。

そして、ドリーマーの移送も、完了した。


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信頼

誓約した人形達が、帰ってきた。


バンガード……UMP40との衝撃的な再会から少し。

二人にはそれぞれ部屋を……バンガードにはいるのだろうか、を用意して案内した。

 

「ふぅ……やっと落ち着いたか」

 

溜っていた書類の山を見てげんなりする。

春のコーヒーが飲みたい。

 

それより、

 

「……リサ」

 

相棒に会いたい。

 

……廊下から誰かが走る音がしている。

 

「ん?」

 

執務室のドアが、ノックもなしに開けられる。

 

「ジョージ!」

「……リサ」

「起きたのね!?体に異常は?!私が判る!?」

「お、おう。大丈夫だ」

「そう、良かった……」

 

詰め寄って来るなり捲し立て、落ち着いたと思ったら両膝を床に付けて正面から俺にもたれ掛かる。

過保護が過ぎる。

 

「……ただいま、ジョージ」

「お帰り、リサ……ただいま」

「おかえりなさい」

 

リサが立ち上がり、そのまま俺と唇を重ねる。

……結構な時間そのままだったので酸素が、

 

「ぶぁっ!?ハァッ、ハァッ、ちょっ、リサ、長っ」

「……ごめんなさい」

 

バツが悪そうな顔をするけど、未だ離れない。

……寂しい思いをさせたんだろうな。

 

ぞんざいになってしまったけど、胸元にあるリサの頭をなでる。

 

「良いよ。身体が治ったら、思いっ切りしよう」

「……ばか」

「それで、わたくしはいつまでそれを見せ付けられてなくちゃいけないんですの?」

「見てるだけじゃなくて、こっち来いよカラビーナ」

 

出入り口で呆れていたカラビーナに手招きする。

ため息を吐きながら近くに来たカラビーナの手を引いて抱き寄せる。

 

リサは空気を読んで離れた。

 

「も、もう……強引なんですから」

「おかえり」

「……ただ今戻りました」

 

そういうなり、胸元に顔を押し付けて声を殺して泣き出した。

リサを見ると、「自業自得よ」と言わんばかりに首を振っていた。

 

「ごめんな、心配掛けた」

「うっ、ううっ……このまま、目が覚めないかと……思ってしまって、わたくしは……っ」

「ありがとな」

「おがえりなざい……っ!」

 

まだ涙が残っていたけど、カラビーナは笑ってくれた。

 

「それで、ジョージ。ドリーマー何だけど……」

「ああ」

 

リサが話を切り出す。

俺もカラビーナも居住まいを正す。

 

「今はまだ仮の措置として独房入りしてるわ」

「まぁ、そうだよな」

「でも、あんた本気なの?アイツに部屋を与えるって」

「ペルシカの言を信じるなら、アイツはもうただの女の子だ……それに、一生過してもらわなきゃいけないんだ。独房じゃ、可哀想だろ」

「……本気で言ってますの、それ」

 

二人からの視線は、冷たい。

 

「ああ」

 

けど、俺は即答した。

 

「「…………………はぁ、本当に馬鹿ね(ですわ)」」

「二人して言わなくても」

「言うわよ、アンタね、アレは4度私達の前に現れた宿敵よ。あんたは良くても……直接対峙した部下はどうなのよ」

「実際にやりあったのはほぼ俺とお前だ。……リサ、異論は?」

「……納得はしてないけど、アンタが決めたんでしょ」

「貴女が止めなかったら、わたくしには止められませんわ」

「すまん、迷惑かける」

 

そう言うと、二人に頭を引っ叩かれた。

 

「「謝るなら言うな!」」

「ご最も」

「……で、行くの?」

「ああ」

「私も行くわよ。異論は?」

「あっても聞いてくれないだろ?相棒」

 

さて、会いに行こうか……元凶に。

 

 

 




遂に、ドリーマーとの対面。

ジョージの甘さは、彼女にどんな反応をさせるのだろうか。


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夢破れた者

ドリーマーと対面する。
自分の中のやりきれない感情を自覚する。


うちの基地の独房は、今まで誰かを投獄した事が無かった為、ほぼ新品の用に綺麗である。

 

そんな中……初の投獄者である、黒い少女が簡素なベッドに座り、虚空を見つめていた。

 

「よう」

 

なんと声を掛けるか、ずっと考えていたが……結局、ろくな答えは出なかった。

なので、いつも通りの俺で行こう。

 

「……はぁい、ジョージ。生きてたのね」

「誰かさんのお陰で暫く車椅子生活だがな」

「半分は自業自得よ」

 

車椅子を押しているリサにそんな事を言われた。

カラビーナも無言で頷いている。

 

「私は、負けたのね」

「ああ。俺の勝ちだ」

 

ドリーマーがそう、零した。

 

「どうして、私を破壊しなかったの?」

「お前を破壊すれば、また新たなドリーマーが起動する。イタチごっこを終わらせる為だ」

「……ふぅん?で、これは?」

 

ドリーマーが覇気の無い、虚ろな笑顔で微笑み……自身の左手を振る。

 

……その手には、黒い指輪が、嵌められていた。

 

「お前の機能を9割封じるもの……らしい」

「なるほど……ね。これで私はただの人形。さぞ愉快でしょうね」

「……そんな訳、あるものかよ……」

 

俺は、拳を握りしめていた。

リサとカラビーナが顔を見合わせる。

 

「お前は、全力で……死力を尽くして俺を殺しに来た。なのに、だと言うのに……この扱いは、無いだろ」

 

そう、俺は漏らしたのだった。

 

「ジョージ。これは殺し合いよ……スポーツじゃないわ」

「分かってる、そんな事は」

「指揮官、割り切ってください」

「……」

 

わかっている。

わかっているとも。

けど、納得は出来ない。

 

こんな扱いをするなんて納得出来る訳がない。

 

「ドリーマー、俺はお前をここから出して……他の人形達と同じ様に生活させるつもりだ」

「指揮官さん!?」

 

カラビーナの悲鳴のような声は無視する。

リサは、何も言わない。

 

「……へぇ?どうして」

「お前はもう何もできないからだ」

「指輪を私が外すっていうのも?」

「やってみろ」

 

ドリーマーが指輪に手をかけ……止まった。

動けないのだ。

 

「……そういう事だ」

「……そう」

「それと、最後に一つだけ……どうして俺に執着した?」

 

4度に渡る邂逅。

どうして俺だったのか。

 

「……目的もなく、ただひたすらにルーチンをこなすのは……人形も人間も同じよ」

「……つまり?」

「貴方は、私の視線を、意識を、釘付けにした。私を夢中にさせたのよ……そんな貴方が、私を見ていないのが許せなかった」

 

突然の告白に面食らった。

つまるところ、こいつの口走っていたことは紛れも無く真実だったと言う事だ。

 

「貴方は私の、私の中での一番だった……貴方は、どうだったかしら」

 

何か言おうと口を開き……リサの一言で絶句した。

 

ジョージ(コイツ)の一番は、私よ。残念だったわね」

 

したり顔でなんてこと言ってるのリサ。

 

思わず顔が紅くなるのだった。

 

 

 




リサちゃん段々バカップルっぽくなってきた気がする(
オマケで読みたい話とかあれば、ネタとして投下して頂けるともしかしたら書くかも知れません。

本篇はあと何ページ位で終われそうかな…。


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リハビリ中

あれから一ヶ月。

俺の脚の後遺症も取れ、動ける様になってから。

また日常が戻って来た。


 

「おはようございます、指揮官。足の調子はどうですか?」

 

朝。

いつもの時間に春が起こしに来てくれた。

 

……昏睡から覚めて、春と会ったときに開幕10割パンチ貰って凄い泣かれてしまった。

 

心配はかけられないなと再認識するのであった。

 

「ぼちぼちだ。動く様にはなったけど……まだ本調子じゃないな」

 

あれから一ヶ月。

S-12地区基地は普段の様子を取り戻していた。

 

……ただ、404小隊はあれから戻って来ていない。

三人と誓約しているとは言え、小隊としては動き回らなくてはいけない。

 

少し前に、45から来ていたメールにもそう書かれていた。

 

だから、

 

『いつでも帰ってこい。待ってる』

 

とだけ、返しておいた。

 

また、同様にAR小隊も任務に出ていった。

M4が俺とまた離れる事に何か無いかと危惧していたが……。

 

『行ってきます、指揮官』

『気を付けて』

『はい。いつ帰って来られるか分かりませんが……』

『……気にしなくて良い。お前は、お前の勤めを果たして……辛くなったら、いつでも帰ってこい。俺はここに居る』

 

彼女も、強くなったなぁ。

 

「……それで、指揮官?この状況に何か申し開きは?」

「……え?」

 

春が笑顔で拳を構えている。

はて、俺何かやってしまっただろうかと思い……視線を落とし……。

 

「すぅ……」

 

固まった。

 

俺の膝の上で、全裸のドリーマーが寝ていたのだから。

 

「……ホワッツ?!」

「ジョージ……見損ないました」

「待て待て待て待てウェィッ!!ウェイツ!!誓って何もしていない!!」

「ぐすん……信じて送り出した旦那が、こんな小さな女の子を……」

「あっお前分かってて喋ってるな!?」

 

春が嘘泣きを始める。

嘘と分かっているのはこちらをチラチラ見ながら顔を手で覆っているから。

 

可愛いなコイツ。

 

「春」

 

春の手を引っ張ってベッドに招き入れる。

春を抱き締めて横になる。

 

ゴン!と音がしたが多分ドリーマーが床に落ちたのだろう。

 

「……まだ朝ですよ?」

「君が、俺を疑う様な事を言うから。少し、お仕置きが必要かな」

「あっ……もう、ジョージったら……」

 

春の服の襟をはだけさせて、首筋に舌を這わせる。

左手は、春の左手と絡ませる。

首筋を舐った後、キスを……。

 

「ちょっと!!何で普通に私無視しておっ始めようとしてるのかしら?!!」

 

ドリーマーが飛び起きて、一時中断。

 

「何か着ろ、はしたない」

「わぷっ!朝からそんな事してる貴方に言われたくないわよ!」

 

ドリーマーにシーツを投げ付ける。

何か抗議が飛んできたが無視。

 

「悪いな春。お預けだ」

「あぁん……いけず」

「俺は一向に構わないんだが……仕事だ。今夜、開けとけよ」

「はい……」

「アンタ達ねぇ!!」

「はいはい。懲りねぇなお前も」

 

ドリーマー。

何の力も持たない、自立人形以下となってしまった彼女。

 

俺は、彼女に自由を与えた。

 

その結果は、これ。

俺に迫ってくるようになった。

 

それは、もう露骨に。

 

「言っただろ。俺はお前にもう興味は無い」

「あらそうかしら?視線が離れないみたいだけど」

「視線はずしたらお前飛び掛かってくるだろうが」

 

どこのホラーゲームだよ。

 

「大体、お前の様な幼女体型は興味ねーっつーの。出直して来い」

 

がたん。

 

「そんな……指揮官……そんな事を……」

「トカレフゥ!?いつの間にィ!!?ウェイツ!ウェイト!!早まるな!!まっ、あっ!!コラっ!!」

 

何故か扉の前に居たトカレフが走って行ってしまった。

着替えもそこそこに追い掛ける。

 

「春!今朝のメニューは!?」

「今日はスチェッキンさんからいい卵が貰えましたから、スクランブルエッグです」

「最高っ!すぐ戻る!」

 

これが、今のウチの日常だ。

 

 

 




離れていても繋がっている。

これがジョージの手に入れた平穏。

本篇はもう少しだけほのぼのしてから、畳もうかと思っています。


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せめて、夢を見させたなら

全てを失ったドリーマー。

彼女は問う。

どうすればいい、と。


 

ドリーマーに屋上へ呼び出された。

 

あれから、これと言って特筆すべき事項も無いまま、ドリーマーを暮させている。

 

基地の人間たちともだいぶ打ち解け、今ではノーススターからセクハラされる程になったと聞いている。

 

「ハァイ、ジョージィ……正直、来てくれないかと思ってたわ」

「女性との約束は、不意にしないのがモットーでね……例え、お前でもな」

 

日はとうに沈み、月が登っている。

月明かりに照らされた黒の少女が、俺をじっと見ていた。

 

「本当に……優しいわね」

「特に、女の子にはな。……で、悩みか?」

「無駄に聡い。……まぁ、そんな所ね」

 

遅かれ早かれ、この瞬間は来るだろうなと予期していた。

 

「私は……どうすれば良いのかしらね」

 

自分の価値を失った。

人形と言うアイデンティティを失った彼女は、これからどう生きていけば良いのか。

 

「どう、か……ここから出す事は、正直に言って出来ない」

「……そうよね」

「俺が死ぬまで、お前にはここで生きてもらう事になる」

「ふふっ……まるで、私はあなたの物みたいね」

 

左手に嵌められている指輪を見ながら、そんな事をこぼした。

 

「……お前は、どうしたいんだ?」

「私、か……よくも」

 

「よくも貴方が、そんな事を言えるわねッ!!」

 

激昂したドリーマーが俺の襟首を掴む。

……しかし、俺は動じなかった。

腕力も、民生品以下になっているからだ。

 

「こんな、こんな姿にして!何もかも奪って!それで好きな事をしろと!?何ができるっていうのよ!!こんな身体で!こんな力で!どうやって生きろって言うのよ!!」

 

その瞳から、ボロボロと涙を零す。

 

「殺して……!殺せぇ……!殺せよ……!!壊してぇ……!!お願いだから、私を破壊してよぉ……!!」

 

ドリーマーは腕を振るう。

それを受け止める。

 

「出来ない」

「私はお前の敵だったんだろう!?何で!!」

「お前を破壊すれば……指輪は効果を失い、また新たな『夢想家』が起動する……今までやってきことが、全部無駄になっちまう」

 

払った犠牲は少ない。

しかし、ここで全部無駄にしたら……浮かばれないだろう。

 

「偽善者!タラシ!女の敵!!じゃあ責任取りなさいよーーーっ!!!」

「…………わかった」

「えっ」

 

俺は、ドリーマーを抱き締めた。

 

「責任取って、娶る」

「ちょ、ちょっと!?話飛んでないかしら?!」

「お前、俺の事好きだろ?」

「何よその自信は!?好きだけど!!」

「受け入れるよ、お前を」

 

優しく、頭を撫でる。

ハンカチで涙を拭いてやる。

 

「何よ、それ……」

「元々、生き地獄を味合わせる羽目になったのは……俺の力不足だ。……だから、責任を持って、一緒に生きてやる」

「……意味、分からないわ」

「理屈じゃない。人間ってそんなもんなんだよ。一時の感情で今後の人生が決まるのだってザラじゃない」

 

ドリーマーと向き合う。

……これで、全てに決着をつけよう。

 

「お前に名前をやる。お前に、居場所を作る。お前に、仕事をやる。だから……俺と一緒に、生きてくれ」

「都合良すぎよ……!」

「返事は」

「選択肢が、無いわ……」

「君が嫌だと言うならこの話はなかった事にする」

「……何よ、それ」

 

ドリーマーが、俺のネクタイを引っ張って、唇を重ねた。

 

「……答え、これじゃ駄目かしら」

「受け取った……これから、よろしくな。アニー」

「……それ、名前かしら」

「?気に入らなかったか?」

「いえ……一ミリも特徴に掠ってないと言うか」

 

なんかリサにも同じ様な事を言われた気がする。

 

「何だ、結局……俺も、お前のこと嫌ってなかったって事なんだな」

「あら、相思相愛ってヤツかしら」

「11番目だ」

「せ、節操なし……!」

「ははっ……ま、そんな奴にこうして繋がれたんだ。諦めろ」

「……ふふっ、そうね……ちょっと、眠くなっちゃったわ」

「おやすみ」

 

少し、肩の荷が降りてくれただろうか。

彼女の寝顔は、見た目の年相応に幼いものだった。

 

 




ようやく、決着がついた。

殺し合う関係から愛し合う関係に。

人生、何があるかさっぱり分からない。


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ちょっとした変化

 

……まぁ、その後の流れなんか大方予想通りである。

 

朝起きたら目の前にスリープモードのアニーが寝てるもんだから世の中そんなもんなんだなって思う。

 

「………………おはよう、ジョージ」

 

だからまぁ、目の前でジト目になってる相棒(リサ)も大方予想通りな訳で。

 

「おはようリサ。ちょっと着替えるから部屋から出てもらえると助かる」

「今更アンタの裸くらい見慣れてるっての」

「……その割には真っ赤だが?」

「うるっさい!」

 

リサが部屋から出て行く。

……暫くは口聞いてくれないかもなぁ。

 

「……マズったかなぁ」

「ふん、自業自得よ」

「おはよ、アニー」

 

目を覚ましたらしいアニーの頭を撫でる。

気持ち良さそうに目を細めた。

 

「まぁ、起こった事はどうしようもないから対処する。それが世の中だ」

「余裕ね」

「信頼してるからな。じゃなきゃお前倒せなかったし」

「……羨ましいわね、そう言うの」

「一朝一夕で勝ち取るものじゃないし、難しい。でもまぁ……幸い時間ならある」

 

ワイシャツに袖を通していく。

……また数減ってるな。

 

「アニーにも、アニーだけの信頼を作って欲しい」

「……ええ」

 

さて、今日も一日頑張るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー執務室に、G17とノーススターがやって来た。

 

UMP40が部屋のドアを開ける。

余談だが、UMP40は火器管制装置を外されている為、戦闘に参加させられない。

 

そのため、副官業務に専念してもらっている。

 

「二人共、どうしたの?」

「あー、いや、そのね」

「ボス、聞いてくれ」

 

二人が神妙な面持ちをしているから少し身構える。

……が、お互いの顔をチラ見している辺り、そんなに緊急の話題では無さそうだ。

 

「あー、指揮官。あのね……私達、付き合う事にしたの」

「へぇっ!?おめでとう!!」

 

40が拍手する。

二人は照れくさそうに下を向く。

 

「そっか……おめでとう。ただ、それは報告の必要があったのか?」

「まぁ、その……人形と人間の恋愛について詳しそうだったから」

「あー……」

 

40がニヤニヤしなかまらこっち見てくる。

やめーや。

 

「要望があるなら指輪なりは発注しておこう。それと……人と人形、それに同性だ。障害は多いのかもしれない。だが……」

 

机の下から一本、酒瓶を取り出す。

 

「俺は祝福しよう。ささやかだが取っておいてくれ」

「あ、ありがとうございます!」

「ありがとうボス!」

 

二人は、晴れやかな顔で手を繋いで帰って行った。

 

「……人と、人形の恋、か」

「羨ましいか?」

「うーん……あたいは、分かんないや」

「普通は、そうだろうな」

 

人間は相手の見た目に引っ張られる。

人間から人形への好意はやっぱり成立する。

 

なら人形からはどうなのだろうか。

 

俺は、人形じゃないから分からない。

けれど、一定数好意を示してくれる人形達はいる。

 

「お前も、そのうち好きな相手が出来るかもな」

「好きな相手……か。あたいは指揮官のこと、好きだよ」

「ありがとう、俺も好きだよ」

 

LOVEかLIKEか。

感情を持つ者の永遠の課題である。

 

「ジョージ」

「リサ?どうした」

「……ごめんなさい、ちょっと気が気じゃなかったわ」

「気にすんな相棒」

 

こうして気の許せる相手が、出来てほしいなと願う。

 

「好意、か……」

 

 




平穏を取り戻したS-12地区の、ちょっとした変化。


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第四章 平穏の日々
☆社内報を嫁と読む


はい、本編は割と最終決戦の真っ最中ですがコラボ捩じ込むならここしかないと思いまさかのオマケ章を増設しました。

今回は社内報と言う便利アイテムでそれとなく他所様に触る程度。

……と、言いつつ嫁とイチャつかせるだけですが。


グリフィンには社内報と言うものが存在する。

 

以前、ローニンに頼まれて取りに行ったが……相棒のWA2000……リサのMIA報告を聞きそれどころでは無かった。

 

そして、ある日の事。

 

「……エッ、マジかよ」

 

いつもの様に書類に目を通していると……目に止まった書類を三度見した。

 

「どうしたの?」

 

対面の来客用ソファで社内報読んで寛いでいた嫁1号兼相棒のWA2000……リサが怪訝な目でこちらを見ていた。

 

「ヒィヤッホォォォォウ!!」

「ヒッ!?」

 

我ながら気持ちの悪い奇声を発して立ち上がる。

そのままリサの所まで走り脇の下に手を差し込んで持ち上げて振り回した。

 

「ぴゃぁぁぁぁぁぁ!?!」

「ヤッタァァァァァ遂にキタァァァァァァ!!」

 

そのまま手を離してリサを上に投げた後抱き留めてキスを顔に落とす。

 

「ち、ちょっと、ジョージ、やめっ、もう!んっ」

「ふぅ……すまんすまん、ちょっとテンションがな……」

「明るいうちからやめてよね……その、心の準備が」

「俺はいつでもOKだぜ、リサ」

「や、やだ……ジョージ、まだ仕事中……」

「……せやった」

 

リサを解放して書類を見せる。

 

「S-9地区P基地からの物資支援?」

「そう!近隣からの支援だ!まさか向こうから申し出が来るとは思わなかった」

「良かったじゃない」

「何言ってるんだ、お前らのおかげさ……お前達が命賭けて戦ってくれてるから俺も命が賭けられる」

「ジョージ……」

「いつもありがとう……愛してる」

 

さて、このS-9地区の指揮官とやらはどうしてウチなんかと提携を望んだのだろうか。

最前線な上に物資も貧弱、ここにあるのは妙な外骨格にペルシカあんちくしょうの失敗作の欠陥兵器しか無い。

 

「そういえばアンタ、社内報は読んだの?」

「社内報、か……あんまりいい思い出なくてな、ソイツ」

 

社内報を貰いに行ったとき、ちょうど目の前の相棒のMIA報告を受けてしまっていたので……実は敬遠していた。

 

「……ぷっ、何それ。私はここに、アンタの隣に居るわよ。何処にも行かないわ」

「そうだな……」

 

リサから社内報を受け取ってソファに腰掛けた。

 

……ソファの後ろから首を通って二本の腕が降りてきた。

続いて右肩にちょっとした重さ。

リサが顎を俺の肩に乗せていた。

 

別にいつもの事なので気にしない。

 

「……どれどれ。『T01』?あれ、じゃあウチもう最前線じゃなくなったのか」

 

突如現れた敏腕指揮官の手によって次々と鉄血ハイエンドを退け、新人指揮官の育成まで手懸けているとか。

 

「世の中凄い人も居るものね」

「悪いね、凄くなくて」

「何拗ねてんのよ。アンタは私の1番よ。誰と比べてもね」

「サンキュ、相棒」

 

気を取り直して次だ次。

グリフィンと提携しているPMCの特集記事だ。

 

「おや、『武器庫』じゃん」

「知ってるの?」

「昔傭兵やってる時にそこの奴ら数人とな」

「女?」

「男一人と……女が、一人」

「ふー……………ん」

「拗ねるなって。1番はお前だよ」

「ふん、ありがと」

 

……盾部隊、だっけな。

あそこのイージスって女性にアプローチ仕掛けたときは流石に死ぬかと思ったけど。

 

武器庫イチのプレイボーイとしてご丁寧に顔写真付きで掲載されている槍部隊の部隊長を見て……アイツも元気そうだな、と苦笑した。

 

久しぶりに飲みにでも誘ってやろうかな。

 

 

しばらく読み進み、作戦行動中に最前線で人形と誓約した女性指揮官、怪しげな技術を使う面妖な指揮官やら、様々な商品の揃う妙な店、悪魔も泣き出しそうな細い刀を使うなんでも屋、妊娠した人形などなど。

 

ちょっと待て、人形がどうして妊娠した。

 

いろんな意味で濃いやつしか居なかった。

 

「グリフィンの人材やべーな」

「アンタもそのヤバいののうちの一人よ」

「嘘だと言ってよリサ」

「ノリノリで興奮剤刺して壁から壁へ飛び移りターザンめいた事しながら飛び回ってる奴がヤバくないと?」

「……ヤベェな」

 

改めて言われると俺も相当イロモノである。

 

「ま、でも……そんなのに惚れたんだけどね」

「おだてるのが上手いな相棒は」

「当たり前でしょ。一番付き合いが長いんだからね」

「そうか……」

 

社内報を畳み机の上に置いて、立ち上がる。

 

リサが近付いてきたので抱き寄せる。

 

「ちょっと、だから、まだ仕事中!」

「すぐ終わらせる」

「もう……」

 

リサの頬に手をあてて、顔を近付け……。

 

バァン、と執務室の扉が勢いよく開かれた。

 

「……仕事、してくださいません?二人共」

「「……は、ハイ」」

 

このあと二人共……スプリングフィールドこと、春にたっぷりと絞られたのだった。

 

 

 




コラボ回と言う名の惚気回。

こんな出来になってしまって本当に申し訳ない。


本編でボロボロになってるジョージにちょっとだけ良い目に遭わせてやりたかったと供述しており。


あ、ちなみにジョージはフリー素材なんで好きに使ってもらっても構いませんよ。


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私もWA2000なの

何だかんだ書いたことの無かったダミー芸のお話。


ーーここの指揮官は、ダミーに名前を付けている。

 

 

「……ん?おお、()()か。おはよう」

 

リタ、と呼ばれた私はそっぽを向いた。

視界の端で指揮官がバツが悪そうに頬を掻いている。

 

変な人だ。

私のオリジナルと誓約関係にあると言っても、ダミー(私達)には関係ない。

 

「ジョージ」

 

そこへ、指揮官を名前で呼ぶ人形……私達の、オリジナルがやってきた。

 

「おう、リサ」

「ちょっと、ネクタイ曲がってるじゃない。しっかりしなさいよね」

「すまんすまん」

「ほら、直してあげるから動かないで」

「……サンキュ、リサ。愛してるぜ」

「そんなに言わなくても知ってる。その言葉は頻度減らして価値を高めて欲しいわね」

 

……オリジナルと指揮官がそれはもう朝っぱらからいちゃつき始める。

傍から見ている私にお構いなく。

 

自分の性格は自分が一番よく知っている。

我ながら相当めんどくさい性格をしているという事を。

 

だが……だが、アレは、何だ?

本当に私のオリジナルなのか?

実は別の人形なんじゃないのか?

 

「それじゃ、俺は行くわ。リタ、相棒を頼むぜ」

 

通り過ぎざまに頭に手を置かれる。

撫でられたらしい。

 

「気安く触らないでちょうだい!!」

「ははっ、すまんな」

 

指揮官はどこを吹く風で歩いて行ってしまった。

……オリジナルが私を一瞥する。

 

「何よオリジナル。言いたい事でもある訳?」

「別に。ただ……貴方のほうが、WA2000らしいわねって」

「……当たり前よ。私はWA2000のダミーなんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー同じ顔の人形が四人。

何故か倉庫に集まっていた。

 

赤み掛かった長い髪、タイトなスカートにネクタイ。

何もかも同じ……だが、髪を結んでいるリボンだけ、色が違った。

 

「……集まったわね」

「集まったわよ、私」

「やっぱり、アレなの?私」

「そうよ……指揮官と、オリジナル」

 

オリジナルはリサとして指揮官の傍にいる事を選んだ。

けど、私達は違う。

私達は、WA2000と言う人形のダミーなのだ。

 

「いくらなんでも腑抜け過ぎよ」

「そうよ、この前も朝から指揮官とベタベタして」

「昨日カフェで談笑してるのを見たわ」

「何よそれ、仕事してよね」

 

……(リナ)以外にも勿論名前が付けられている。

それぞれ、リリィ、リズ、リタ。

 

馬鹿馬鹿しい。

 

そんな話をしていたら、倉庫のドアが勢いよく開かれた。

思わず全員びくりと体が反応する。

 

「ここに居たのね」

 

ドアを開けたのは……オリジナルだった。

 

「オリジナル……」

「何の用かしら」

「用、ね。言いたい事があって来たのよ」

「な、何よ」

 

そういうと、オリジナルはにやりと口角を上げて笑った。

 

「羨ましいんでしょ」

「「「「……はぁ!?!!?」」」」

 

私達(ダミー)は思わず素っ頓狂な声をあげた。

な、何を言っているのこいつは。

 

「な、何を言ってるのよオリジナル!」

「そうよ!何であんな八方美人女たらしなんて!」

「ば、ばばばば馬鹿なんじゃないの!?」

「私は殺しの為だけに生まれた女よ!?」

 

……ひとしきり騒いだ後、私達(ダミー)は盛大に自爆した事を理解した。

 

……そうだ。

何を勘違いしていた。

 

目の前のオリジナルは()()()()()W()A()2()0()0()0()だ。

WA2000を捨てた訳じゃない。

 

「本当は指揮官が好きで堪らないくせに、素直じゃないんだから」

「な、なんの根拠があって!」

 

やめて、リリィ。

虚勢を張ったって一言で叩きのめされるんだから。

 

「根拠?簡単よ」

 

ああ、この先の言葉は全員予想出来た。

でもやっぱり悔しい。

こいつは、紛れもなく私達(ダミー)のオリジナル。

 

(WA2000)が、アイツのこと大好きだからよ」

 

私達(ダミー)の顔が全部真っ赤に染まるのは、大して時間が掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、こんな事に?」

「指揮官!頭撫でて!」

「ちょっと指揮官!こっち見なさいよ!」

「指揮官!手を握って」

「指揮官……一緒に居て」

 

結局、あの後WA2000タイプが五体ぞろぞろと執務室の指揮官の下へ急行。

 

私達(ダミー)で揉みくちゃにしていた。

 

「ええ。素直になってもらったわ」

「リサ……お前、ダミーが素の性格のままだったの気にしてたのか?」

「最近連携が取りにくいなって思ってたのよ。このままじゃいつか事故が起きる」

 

だから、と続けようとしたオリジナルの声を遮って私達(ダミー)は声を上げる。

 

「「「「し、指揮官!私達も大好きだから!!」」」」

 

 

 

 

私達(ダミー)は殺しの為だけに生まれた女。

 

でも、オリジナルが変われたみたいに……私達(ダミー)も変わっても、良いみたい。

 

 

 

 




本日誕生日だったので自分が読みたい物勝手に書いてしまった感じがする。

ダミーがめっちゃ喋るしWA2000のキャラが完全に壊れてるけど、僕はこれが読みたかったので書きました。

こんな作者ですが、今後も読んで頂けると幸いです。


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☆彼女は全てを護る盾

コラボ回です。
サマシュ様の『傭兵日記』(https://syosetu.org/novel/185223/ )のとあるキャラとの一幕。

ジョージは傭兵時代にPMC『武器庫』と少しだけ接点があった、という後付け設定には目を瞑って貰えると助かります()

なお、まだ指輪を渡したのはリサだけの時間軸です。


 

ある日。

俺はグリフィン本社に毎月の定期報告へ向かい……それが片付いて管轄下の街をウロウロしていた時だ。

 

シスターが居た。

妹とかそう言うベタな間違いとかじゃないぞ?

 

教会に務めている様なマジ物の聖職者っぽいシスターだ。

 

その人は足を悪くしていた老婆へ手を差し伸べて聖母の様にニコニコしていた。

 

……うわぁ、見覚えある。

 

あっ、こっち見た。

 

「あら、貴方は……」

「あ、あはは……どうも、久しぶり……イージスさん」

 

彼女はコードネーム『イージス』。

PMC『武器庫』の『盾部隊』に所属する女性だ。

 

「お久しぶりですね、ジョージさん」

 

彼女は昔会った時と変わらずに笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――さて、俺がこの女性を苦手としている話をしようか。

 

 

昔……と、言ってもまだ1年も経ってないか。

まだ傭兵だった頃……たまたま街で彼女を見かけて……口説いた。

 

そしたらどうだ、フリーならうちへ、って言うもんだから話を聞いてみると……。

 

まぁ……ただのPMCへの勧誘だけなら考えたよ。

でもまさか社長と隊長を崇めよとか言われたらなぁ……。

 

口八丁で逃げ出したがもう少し遅れたらちょっとヤバかったかもしれない。

 

 

 

……で、今そんな相手が目の前に居ると。

 

「あら、その制服……グリフィンに入社されたんですね」

「あ、ああ……ちょっと、色々あって」

「前に私が勧誘したときは逃げられてしまったのに、罪なお方ですね」

「その、えっと……スミマセン」

 

この人にそんな言われると申し訳なさとか半端なく重い。

聖職者に懺悔する信徒ってこんな感じなのだろうか。

 

「今日はどういったご用件で?……もしや、本社務めですか?」

「俺がそんなエリートに見えます?辺境の地で細々と指揮官やってますよ」

「そうなんですか……所で」

 

がっ、と腕を掴まれた。

力強っ!?

 

「……何か、悪い薬を使ってますね?」

「な、何の事でしょうか……」

 

イージスさんに凄まれてしまい思わず敬語に。

そう言えば彼女はいくつなんだろうか……。

 

「体に良くない劇薬を。それも常用していますね」

「……それは」

「今すぐ使用を止めることを勧めます。貴方の為にも」

 

興奮剤は俺が唯一、鉄血に対抗できる様になる装備だ。

それを手放すことは正直出来ない。

 

「……すまん、イージスさん。これは俺と……相棒の為に必要なんだ」

 

俺と相棒で仇敵を討つ為に。

劇薬で寿命を縮めると分かっていても頼らざるを得ない。

 

「……貴方の体を蝕んでいますよ?」

「承知の上だ」

「長くは、ありませんよ」

「構わない……って断言出来ないなぁ……あいつら置いて逝きたくないし」

「なら」

「それでも、だ。俺は相棒との約束を果たさなきゃいけない」

「相棒とは……ご友人ですか?」

「ああ。大事な友人で、戦友で……恋人だ」

 

イージスさんは目を伏せる。

 

「……分かりました。もう止めません」

「ご忠告痛み入る。けど、申し訳ない」

「良いですよ……ただ、変わりましたね」

「……変わった?」

「はい。軽薄なイメージが何処かへ行ってしまいましたね」

「軽薄……」

 

そんな俺の様子に、呆れた様な顔をした。

……まぁ、そうだろうなぁ。

 

「初めて出会ったその瞬間に食事に誘われた事は余りに衝撃的過ぎて忘れそうにありませんので」

「あ、あはは……若気の至りってやつですかね……」

 

前に相棒に話した、武器庫に一人居る女性の知り合い。

まぁこう言う訳だったと。

俺らしいと言えばらしいが。

 

「……所で、今日は勧誘されないんですか」

 

彼女、見た目も正確も非の打ちどころが無くまさに女神とも言うべき美貌を誇るのだが……。

宗教……と、言うより自分のPMCの社長と部隊長を崇めているらしい……。

 

PMCの勧誘もその一環だった。

 

風の噂で聞いたが、そのせいで彼女は単独行動を許されていなかったらしい。

が、今彼女は一人だ。

俺はちょっと身構えてしまった。

 

「ふふ、しませんよ」

「えっ?」

「グリフィンは今、武器庫と提携を結んでいます。ならば、我らが盾も貴方達と共にあります」

「そう言えばそうだったな……」

「また、機会があればご一緒しましょう。貴方に加護が有りますように」

 

……あれっ、なんか平穏に終わったぞ?

 

「良かった……のかな?」

「……何が良かった、ですって?」

「え?ああ……別に何も……リサ?いつ来たんだ?」

「……アンタが、凄い美人に声かけられてからよッ!!」

「ほぼ最初からじゃねーか!!言えよ!!」

「うるさいうるさいうるさぁーいッ!!この浮気者ッ!!」

「あたっ?!やめろ、叩くな!お前が一番だっての!!」

 

この後、機嫌を損ねてしまったリサのご機嫌取りに追われるのだった。

 

「……そう言えば、ジャベリンの奴元気にやってるだろうか」

「今度は誰よ」

「違うって、男だって。いい加減機嫌直してくれよ」

 

お姫様はまだまだご機嫌斜めだ。

今日は長くなりそうだ……。

 

 

 




そんな訳でコラボ回でした。
あともう1話『傭兵日記』様とコラボする話があるのでお楽しみに。

……しかし、キャラ大丈夫だろうか。


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貴方の好きを私にください

おまけ。

リサと春とただいちゃいちゃするだけ。


 

一緒に過ごしていると、趣味嗜好が似るという事があるらしい。

 

「「ふぁ……」」

 

ある日の昼下がり。

リサと春と一緒に執務を片付けている時だった。

 

「……ふふっ、二人とも同じタイミングで欠伸をしていますね」

「えっ……やだ、嘘」

 

春の指摘に真っ赤になったリサが口元を抑えた。

 

「何だ、お前も眠いのかリサ」

「ち、違うわよ!」

「ふふ、指揮官、わーちゃん。今珈琲淹れてきますね」

「ありがとう、春。ブラックで」

「私も」

 

リサの言葉に、俺と春は一瞬目を見合わせて……二人でリサを見た。

 

「な、なによ」

「いや……お前、苦いのは駄目じゃなかったか?」

「そんな事ないわよ」

「あらあら……指揮官、愛されてますね」

「は、ハァッ!?何言ってるのよスプリングフィールド!?」

「春は愛してくれないのか?」

「どうでしょう?」

 

春は自分の左手に嵌る指輪を一瞥して、綺麗にウィンクして給湯室に引っ込んだ。

 

「……で、リサ。何でまたブラックなんだ?」

「別に。好きな人の好きなもの、共有したいじゃない」

 

顔を赤らめて口を尖らせながらそんなことを呟いた。

思わずくらっときたね。

最近人形達に弄ばれている気がしないでもない。

 

「リサ……」

「ちょっと、ジョージ、やめてったら、スプリングフィールドが」

「私が、なんですか」

「きゃあああああああああああ!!!」

「ごふっ」

 

戻ってきた春に驚いて突き飛ばされた。

派手に転がってしまう。

 

「あらあら……大丈夫ですか?ジョージ」

「ああ……大丈夫だ。問題ない」

「あっ……ごめんなさい、ジョージ」

「構わないよ……さて、休憩しようか」

 

春から珈琲を受け取る。

 

「リサ、本当にブラックで大丈夫なのか?」

「……にがい」

「ふふっ」

「はは……」

 

今日も穏やかに過ぎていく。

……春が、近づいてきた。

 

「ところで、ジョージ?」

 

関係ないが、春が俺を名前で呼ぶときは……大体甘えたいか、揶揄いたいか。

どっちだろうな、と思っていると。

 

「甘いものはいかが?」

「ん、じゃあ貰おうか」

「はい――――」

「えっ、ちょ」

 

春の方を向いたら顔が目の前にあった。

……そのまま唇を奪われた。

 

今日は甘えたい日らしい。

 

「ちょ、ちょっとスプリングフィールド……」

「たまには、良いでしょう?」

「……ジョージ」

「あ?お、おいリサお前m」

「ふぅ……しょうがないじゃない、珈琲苦かったんだから」

「あのなぁ……おい、その手を放せ。春、ちょ、止まれ?な?今執務中だから、頼むよ、リサ?ベルトから手を放してくれ……春、待って、リサあの……うわああああああああああああああ」

 

 

今日は残業が確定した。

 

 




嫁とただいちゃついてる話って需要あるんですかね…。


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☆ブートキャンプ前日

『傭兵日記』様とのコラボ回…の、前日です。

ブートキャンプに参加することになったジョージ。
果たして、生き残ることが出来るだろうか。




「ああ、美味い……幸せだ……」

「そう言ってもらえると、腕を揮っているいる甲斐がありますね」

 

春に出された昼食……本日はオムライス……に舌鼓を打っている。

最近になってようやく食事事情は……特にとある基地のスチェッキンなる戦術人形の手により劇的に改善された。

いや、ほんともうあの基地には頭が上がらない……近々直接向かって正式に礼をしなければ。

 

「ありがとう春……君がいてくれて本当に嬉しい」

「あら、今日はお世辞の語彙力が低いですね」

「手厳しい……」

「指揮官さん、珈琲もどうです?」

「いただこう、カラビーナ」

 

春と同じように髪を結い、エプロンを着けたカラビーナから珈琲を受け取る。

彼女も、母さんと春の指導でなかなかの腕前に……。

 

「……どうした?」

「……えい」

「うん?」

 

カラビーナにわき腹をつつかれた。

くすぐったい。

 

「……指揮官さん、少し……太られましたね」

「………………え”っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――なお、俺の体重は傭兵時代と比べると確かに増えた。

しかし……その増加は、正しい食生活によって身に付いた筋肉も含まれている。

 

その為……ぶっちゃけ健康体そのものであった。

 

じゃあ何故ダイエットするかって?

 

……俺を好きでいてくれる女たちの為に、カッコよくあり続けなくちゃいけない。

 

「……おや?これは」

 

書類の中に、1枚の招待状が混ざっていた。

差出人は……PMC『武器庫』。

 

「武器庫から……ブートキャンプのお知らせ?へぇ……」

 

これは、丁度良いのでは?

 

「開催期間は……一か月?長いな」

「何見てるのよ、ジョージ」

「リサか。いや……一か月空けるかも」

「……一人で?」

「護衛に二人くらい連れて行こうかなって」

「もちろん、私よね」

「ハンドガンが適任だと……」

「わ・た・し・よ・ね?」

「……おう。頼むわ」

「やっぱり私が1番よ。任せなさい」

 

最近押しが強くない?この子……。

 

さて、あと一人は誰に……。

 

「指揮官、お疲れ様です。スカウトチームから報告書が上がっていますよ」

 

トカレフが執務室のドアをノックして入ってくる。

これは、決まりだな。

 

「トカレフ。来週から一か月、俺と一緒に遠征な」

「え……ええっ!!??!?」

「端折るな!!」

 

リサからげんこつを頂いた。

痛い。

 

「いでっ……アレだよ、俺……一か月ブートキャンプに参加するから、その間護衛を頼みたい」

「……指揮官と、一か月……」

「嫌なら別の人形に……」

「行きます!」

 

はっや。

 

「分かった。それじゃあ……二人とも、頼んだぞ」

「ええ」「はい!」

 

さて、武器庫……武器庫か……。

 

またイージスさんに会うのだろうか。

それと、

 

(ジャベリンの奴、元気にやってんのかな)

 

 

 




そんな訳で傭兵日記コラボ最終段階。
武器庫とコラボです。

ジョージ生きて帰ってくるかな…。


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☆アーモリー・ブートキャンプ①

と、言うわけでやってまいりました武器庫。

今回はジャベリン君も登場です。


「ぁぁあ゛あ゛あアア゛ああ゛アアア゛アああアア゛ああアア゛ア゛アァァ…!!!」

 

俺は今、走っている。

ただ走るだけじゃない。

 

……10kgの重りを付けての、フルマラソン。

 

何なんだこれは、いや可笑しいだろ。

 

「ひぎっ……ひぎぃ……」

 

息絶え絶え。

他のグリフィンの指揮官達はフツーにぶっ倒れてる。

武器庫の面々は……エッ、何で平気な顔してんの。

 

……まぁ、少なくとも俺は倒れるつもりはない。

 

なぜなら。

 

「しきかーん!頑張れー!」

「ジョージ!初日リタイアなんか許さないからね!!」

 

トカレフとリサが見ているから。

 

「う、お、ぬぁぁぁぁ!!」

 

カッコ悪い所は、見せられないのさ!

男の子だからな!

 

この日、指揮官勢唯一の完走者となったのだが……その後普通にぶっ倒れた。

 

武器庫の面々は鍛え方が足らないんじゃないかと笑っていたが、お前ら一体ナニモンなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーまた翌日。

 

 

待ってくれ。

5時間ほぼぶっ通しで筋トレってなんだよこれ!?

 

クレイモアと呼ばれた部隊長とスクトゥムと呼ばれる部隊長がインストラクターを努めているがとにかくしんどい。

 

基礎的なトレーニングから段々負荷を……負荷を……掛け過ぎだろォ!?

 

既に他のグリフィンの指揮官たちの姿は無い。

 

俺も正直倒れる手前だ。

 

 

だが……。

 

 

「ほらジョージ!頑張りなさい!」

「指揮官!頑張って!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

負けられない……!

負けられないんだぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

「……あっ」

 

駄目でした。

 

「ちょっ……ジョージィィィィィィ!!!」

 

意識がどっか飛んで行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………武器庫ヤベェな」

「……人のテントに来て何言ってんだアンタ」

「病み上がりで来るお前も大概だと思うぞ……ジャベリン」

 

設営されたテントの中、対面に座る黒髪黒目の日系イケメンに言葉を投げた。

 

彼のコードネームは『ジャベリン』。

俺と同い年で、傭兵時代から交流を持っている数少ない知り合いだ。

 

「全くだジョージ……何かの謀略を感じる。あぁ、オスカーに会いたい……」

「オスカー?」

「ああ、猫を飼い始めたんだよ」

「へぇ、良いな」

「猫は良いぞジョージ……見ても触っても吸っても癒やされる」

「最後。ヤバい薬かっての」

 

変人揃いの武器庫の中で比較的マトモな神経をして…………して?

うーん、だから苦労してるのかはさておき、割とまぁ好青年だ。

 

若くして槍部隊部隊長を努めている実力派だ。

 

「ヤバい薬って……お前が刺してるやつよりマシだって」

「……知ってたのか」

「イージスさんが、な。ジョージ……続けるのか?」

 

ジャベリンが真摯な目で言外に訴えてくる。

このまま、グリフィンを続けるかどうか。

……戦い続けるかどうかを。

 

「辞められる訳が無い。約束がある」

「約束……か。なんか、変わったなジョージは」

「変わった、か?」

 

そうだろうか。

 

「前に会ったときは金女金ってずっと言ってた」

「マジ?」

「マジ」

 

そんなに五月蠅かったのか俺。

 

「なんか、落ち着いたな」

「そうなのか……」

「ああ。指揮官になってから色々あったんだな」

「……そうだな。グリフィンに入ってから色々あったよ」

「あっ、ジョージここに居たのね」

「ん…?あぁ、ジョージのとこのWA2000か」

 

テントの入り口をリサが開いていた。

 

「初めまして、S-12地区のWA2000よ。噂はかねがね聞いているわ、ジャベリン」

「…………えっ、WA2000……なの、か?」

 

最近麻痺していたから実は忘れていたのだが、WA2000はそもそも性格設定が中々に捻くれている。

素直じゃないのだ。

その上赤面症だとか。

 

「紹介しようジャベリン。うちのリサだ」

「……リサ?名前付けてるのか?」

「え?ああ……長かったからな」

「へ、へぇ……」

 

ジャベリンが呆気に取られていた。

そんなにか……。

 

「ジョージ、戻るわよ…明日もあるんでしょ?」

「おう、そうだな……何だ、心配か?」

「フン……当たり前でしょ、相棒。今日みたいにみっともないとこを見せないでよね」

「これは手厳しい」

「トカレフにもちゃんとお礼言いなさいよ。あの子が看てくれてたんだから」

「そうだな。お前は?」

「……言わなきゃ、駄目?」

「冗談だ。愛してるぜ」

「……ばっ……!早く帰ってきてよ?」

 

そう言い残して、リサはテントから出て行った。

 

「……ジョージ、アレ……本当にWA2000なのか?」

「?そうだぞ」

「え……えぇ……嘘だろ?てか、指輪してたけど……まさか」

「ああ。誓約してる」

「は、はぁ!?」

 

ジャベリンが大声をあげた。

 

「嘘だろ!?お前が!?人形と!?」

「何だそんなに驚く事か?」

「え、だって、えっ、えー……?……ホント、変わったな……ジョージ」

 

そんなに驚く事だろうか……。

 

この後、テントを後にした。

さぁ、明日も頑張ろう……。

 

 

 

 

 




まだまだ続くよブートキャンプ。
ジョージは、生きて帰ってこれるのだろうか……。


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☆アーモリー・ブートキャンプ②

引き続き、傭兵日記様とのコラボ回です。


 

唐突にボディビル大会があったり、武器庫グリフィンの組手総当たり戦なんて始めたもんだから地獄を見たよ(白目)

 

ちなみに俺の徒手格闘の能力は……何を基準にすれば分からないがそれなりだとは思っている。

 

 

と言うより、武術の達人クラスである母親にある程度は仕込まれているので……悪くはないと思っている。

 

『……ジョージさんは、あの人譲りですね。格闘はあまり伸びないかもしれません』

 

そんな言葉を思い出す。

 

「よぉ、指揮官くん。ビビってるのか?」

 

目の前に立つ屈強な男。

体格差は確かにある。

 

……そう、武器庫の傭兵とこれから組み手を行う。

あんな人外魔境なPMCの兵士達に、俺では勝てないだろう。

 

「……」

「……」

 

チラリ、と観客達を見る。

トカレフと、リサの姿があった。

トカレフは心配そうに、リサは……腕を組んで、軽く笑っていた。

 

ー勝ちなさいよ?ー

 

そんな言葉が聞こえてきた。

 

「ハァっ……いや、すまんな。考え事だよ」

「随分と余裕だな色男」

「色男?よせやい。照れるだろ」

「褒めてねーよ」

 

試合開始の合図が出る。

男が走ってきた。

 

俺は……。

 

「いや、褒め言葉さ。女の前でカッコつけられる男がだからな!」

 

一歩前に。

肘を突き出し。

相手の身体がくの字に折れる。

 

「セイヤーッ!!」

 

下がってきた顎に、右手の掌打をお見舞いした。

 

女の前で、カッコ悪いところは見せられないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーなお、その後普通に負けた。

 

槍部隊所属のランスと言う男……要するにジャベリンの部下にコテンパンにされた。

 

いや、何だあれ。

行動全部がブラフって読めるわけねぇよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「づ、づがれだ……」

「鍛え方が足りないんじゃないか?ジョージ」

 

俺とジャベリンはバーに来ていた。

久しぶりに会ったのだし、飲もうと声を掛けたら二つ返事で来てくれた。

 

俺はカウンターに突っ伏しているが、ジャベリンはピンピンしている。

嘘やろ?コイツ確か病み上がりじゃ。

 

「……やっぱ武器庫は人外魔境だわ」

「ははっ、しかし惜しかったなジョージ。ランスに当たるとはツイてない」

「なにアイツ、そんなに強かったのか?」

「初見で当たるには厳しい相手だった。元々剣部隊所属だったし」

「なるほどね……」

 

剣部隊。

武器庫の誇る最高戦力と言っても過言ではない部隊。

精鋭中の精鋭達だ。

 

「ただ、アイツはスタミナが無いのが弱点かな」

「良い事を聞いた。次は勝つ」

「御前とは相性良いかもな。腰を据え、攻撃をひたすら捌いて好機を待つ。持久戦タイプだからな」

 

耐えて、耐えて好機を見出す。

俺の戦い方はそんな感じだ。

 

「嫌な話はここまでにしようぜ」

「お、そうだな。飲もうぜ」

 

お互いにグラス片手に……。

 

「あ、ジャベリン」

「うん?」

 

ジャベリンが振り向く。

俺も釣られてそっちを見る。

 

立っていたのは、バツが悪そうに頬をかいていたトンプソンと……ジャベリンの腰に抱き着いたSAAが居た。

 

「邪魔して悪い。けどどうしても会いたいって言ってな……」

「そっか。ほら、SAAグミやるぞー」

「わぁい」

 

……なんと言うか、すごい微笑ましい光景が目の前に繰り広げられていた。

 

「なるほどね……」

「いや、待て何納得してる。何も無いからな?」

「いやいや、俺は何も言ってねーぞ?」

「ジャベリン、この人は?」

「え?ああ、コイツはジョージ。俺の友達さ」

「よろしく、お嬢さん……あらら、怖がられてる」

 

手を差し出すと、少し怯えてトンプソンの後ろに隠れてしまった。

 

「仲睦まじそうだし、やっぱまたの機会にって事にしとくか?」

「すまん、ジョージ……」

「あ、いた。ジョージまた無断でどっか行ったわね!?」

 

大声を上げながら、店内にリサとトカレフが入ってきた。

 

SAAが肩を震わせたので、俺はそっちを顎で指して人差し指を口の前で立てた。

 

「あっ……ごめんなさい。怖がらせちゃったわね」

 

リサがSAAの前にしゃがみ、目線を合わせて謝っていた。

 

「指揮官、出掛けるなら一言下さい。心配しましたよ」

「ごめんな、トカレフ」

「本当よ。心配するからせめて私に言って」

「悪い悪い。リサ、ありがとな」

「んっ……馬鹿」

 

ふと、カウンターを見ると……。

トンプソンとジャベリンが、フリーズしていた。

 

「……どうした?」

「「……こいつ、本当にWA2000なのか?」」

「どう言うことよ!!?」

 

お決まりの常套句みたいになってきたな。

 

「紹介するよトンプソン、SAA。うちのリサとトカレフだ」

 

結局、このあと朝まで騒いだのだった。

 

友人ってのは、やっぱり良いもんだな。

 

 




これにてコラボ回完結です。

サマシュさんには日頃からお世話になってますので、これが感謝の気持ちになれば幸いです。

さて、つぎはどうしようかな…。


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101匹WAちゃん

唐突に思い付いたネタ。


 

「指揮官、指揮官!起きて!」

「んぅ……?リサ?まだ夜中だろ…?」

「緊急事態よ!起きてったら!」

「はいはい……わかっ、は?」

 

夜中。

まだ深夜とも言える時間帯。

 

リサに叩き起こされて目を覚ます。

 

 

そして、眼の前に見えたのは………。

 

「…………」✕???

 

無数のWA2000の顔だった。

 

「えっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?!!?」

 

叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー執務室。

 

「……何この状況」

「分かんないわよ……」

 

俺とリサの前に並んでいる……総勢100体のWA2000。

正直怖い。

 

「なんでお前増えたの?」

「知るわけ無いでしょ!?」

「昨夜何したっけ……」

「きっ、昨日は……その、な、何もしてないわよ!!」

「あ、そうだ確かお前と……」

「言うな!!」

「ぐえっ」

 

リサにぶん殴られた。

その間も、WA2000達は微動だにしなかった。

 

「……なぁ、リサ。こいつらもしかして」

「えぇ、ダミーね……命令待ちの」

「リンクして情報取れないか?」

「私用のダミーじゃないわよ?」

「だよな……」

 

しかし、俺の指示には従っていた。

何なのだろうか。

 

「この中に親機は居るのか?」

 

100体は一斉に顔を見合わせて……前に向き直り、首を振った。

 

「……うぅん?」

「妙ね……」

「またペルシカか?」

 

あいつも妙な真似をする。

……ダミーが一体、前に出てきた。

 

「どうした?」

 

サラサラ、と紙に文字を書いている。

あぁ、喋れないのか……。

 

「なになに……『頭を撫でてください』……ん?」

「んなぁっ……!?」

 

微笑んでダミーが頭を下げた。

特に拒む理由も無いので撫でた。

 

猫のように目を細めている。

 

「ちょっと!何で普通に撫でてるのよ!?」

「え?マズかったか?」

「そ、そうじゃないけど!けど!」

「判ってるって。お前が一番だよ相棒」

 

隣で憤る相棒の頬を撫でる。

すぐ赤くなるのが本当に愛おしい。

 

ガタッ。

 

「「うん?」」

 

ふと前を向くと、ダミーが全員こっちを凝視している。

えっ、何この状況。

 

ずいっ、と前列がこっちに詰めてくる。

 

「……逃げるぞ!」

「えっ、ちょっと!?」

 

走り出した。

……後ろからドタドタと無数の足音。

振り返りたくねぇ。

 

「ちょっと!これどうするのよ!!」

「どうって………どうしよう!?」

「馬鹿っ!!」

「うるせぇ!!げっ」

 

こんな時に足がもつれて転ぶ。

 

「うわっ、ちょっと、待っ」

 

無数の手が俺に群がってくる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………夢かよ」

 

しばらくリサの顔がまともに見れなかった。

 

なお、拗ねられて暫くしたあと部屋に押し掛けられて押し倒された。

 

 




夢 オ チ。
すみませんでした。


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たまには、私も甘えたい

ジョージとスプリングフィールドがバーで飲むお話。

おら!1ページ丸々嫁といちゃついてやるぞ!!

次回がブートキャンプのその2になります(


「えへへぇ……ジョージ♡」

「……どうし

てこうなった」

 

ある日、珍しく春から飲みの誘いがあったので……指定された時間にバーに来た。

 

周りは誰も居らず、俺と春の二人だけ。

 

最初は何も言わずにお互い飲み始めて、アルコールが少し回り始めてから口を開くようになった。

 

「ジョージは、いっっっっっ…………つも、わーちゃんとばかりいちゃいちゃして」

「してるつもりは、無いんだけどな」

 

隣に座っていた春が俺の胸元にしなだれ掛かり、胸にひたすらのの字を書いている。

 

「しーてーまーすー。見てますからね」

「……今日はやけに飲むじゃないか」

「私だってー、飲みたいんですよ」

「いつも、ありがとうな……春」

「はーい♡」

 

テンションが明らかにおかしい。

と言うか言動がおかしい。

 

「……まぁ、可愛いから良いか」

「ほらほらぁ、ジョージは飲んでるんですかぁ〜」

「飲んでる飲んでる」

「えへへー、美味しいですか」

「ああ。君と飲むと格別だよ」

「そうれすかー」

 

あかん、呂律が回ってない。

一体どんだけ飲んだんだよ……。

 

「ねぇ、ジョージ」

「うん?」

「どうして……私に指輪をくれたんですか?」

 

そう、言った。

俺はグラスを置いて、春の頬を撫でる。

 

「君が愛しいから、じゃダメか?」

「……ジョージは優しいから、私達とシて責任を取る形で指輪を渡したと思っていました」

「それも、正直ある。けどな……好意に、応えたかったんだ」

 

あの時は三人……なんか十人にまで膨れ上がったけど。

 

「そう、ですか……」

「それとも、君は俺の事実は好きじゃなかったとkブッフェ!?」

 

腹に肘が入れられた。

恐ろしく鋭い肘打ち……俺じゃ気絶しちゃうね。

 

「自分の自信を疑う発言は……許しませんよ。貴方に惚れた子達が可哀想です」

「げほっ、げほっ……」

「勿論、私も悲しいです」

「……ありがとな。お前のおかげで俺は、『イイ男』を演じられる」

「ふふっ……私をオトしたんですから。しっかり面倒見てあげますよ」

「そうか……ところで」

 

グラスを指差す。

春は小首を傾げた。

可愛い。

 

「そっちの演技は、いつからだ?」

「…………あら、バレてしまいましたか」

「可愛いなお前ホント。ったく、素直になれなくて甘えてくれば良いものを」

 

 

酔っていたのは演技。

素直に甘えるには照れがあるから、こうやってフリをして甘えてきたと。

 

「……私の、なんと言うか……イメージと違うかも、なんて」

「ばーか。良いんだよ、好きにしたって。女の不安も全部受け止めるのが、(オレ)の役割だ」

「ジョージ……」

「さぁ、春。今夜は君だけの夜だ。何をして欲しい?」

 

春の顎に手を添え、こちらを向けさせ視線を合わせる。

 

「……あ、愛して……下さい」

「仰せのままに」

「……あっ」

 

この後、朝まで二人は部屋から出てこなかった。

 

 

 




今更ですけど、このSS全体で読み易さとかどうなんでしょうね。
良かったら感想のついでに指摘して頂けると、次回作から反映します(

……たまには、頼れるお姉さんも甘えたい。


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ジョン・ベルロック

結局、アニーのポストは事務副官と言うポジションに落ち着いた。

 

と言うのも、UMP40が割かし事務作業を苦手としていた為に二人で四苦八苦する羽目になり、急遽増員すればまさかの回転具合だったため……。

 

元鉄血にそんなポスト与えてどうすると言う声もあったが……。

 

「ジョージ、誤字」

「マジか」

「この表現、もう少し変えて。稚拙」

「お、おう」

「脱字。意味不明よ」

「……」

「何この要望、何でこんなのに印押してるの?」

 

何だこいつ、めっちゃ有能やん。

 

その時、リサが執務室に入ってきた。

……アニーに一瞥し……手を軽く振る。

アニーも照れくさそうに振り返した。

 

「どうした?」

「お客さんよ」

「急だな……」

「知り合いらしいわよ」

「知り合い……?」

 

リサが連れて来た来客……それは、人形と、1人の男だった。

 

俺は、立ち上がり、拳を握り、叫んだ。

 

「……このッ、クソ親父ィ!!今更ノコノコ出てきやがったな!!」

「「えっ」」

 

男目掛けて拳を振る。

男は口笛を軽く吹いて後ろに跳び退る。

 

ウィングマンを抜き放った。

 

「ちょっと、ジョージ!!?」

 

躊躇わず発砲。

……しかし、着弾したのは、()()()()()()()()()()()()()

 

「ふぅ、あぶねー……俺もウィングマンじゃなかったらお陀仏だ」

 

男は涼しい顔で……黒いウィングマンを降ろした。

俺の持つ銃と違う、エリート用の黒い拳銃。

 

俺が発砲した瞬間、後追いで抜きほぼ同タイミングで発砲。

更に俺の銃弾と自分の銃弾をぶつけで弾道をずらした。

 

弾道弾き(ビリヤード)されたのだ。

 

「久しぶりだな、()()よ」

「……生きてたのかよ、()()()()

 

銀の髪を頭の後ろで適当に結んだ、顎鬚を蓄えた初老の男性……こいつは、紛れも無く……ジョン・ベルロックだった。

後方に居た白髪の人形が親父を諌めた。

 

「大尉。お戯れは困ります」

「すまんな、向こうが血気盛んで当てられた」

「お前……AK-12じゃねーか」

「ハァイ、ジョージ。久しぶりね」

 

白髪の瞳を閉じた美女……戦術人形AK-12……そして、その反対側に立っているのプラチナブロンドの人形。

 

「AN-94も」

「久しぶり……()()

「……は?!」

 

リサが、詰め寄ってきた。

 

「ちょっとジョージ?!相棒って何よ!?」

「えっそこぉ!?いやいやいや身に覚えがないッ?!」

「忘れたの、相棒……?私達の絆を」

「待て!待て待て!何か勘違いしてるな?!俺はお前と一緒に出撃した事はない!!」

 

えっちょっと、94さん瞳にハイライトありませんけど。

 

「AN-94と言ったかしら?悪いけど、コイツの相棒は売約済よ……一生ね」

 

ヒュウ、と親父が口笛を吹く。

ムカついたからウィングマンを向けると、向こうがノールックでこちらに銃口を向けている。

 

早い。

 

「まだまだだなジョージ。撃つまではスマートに、引き金に乗せるのはその後だ」

「ぐっ……で?何のようだ」

「腰を据えて話そう。珈琲とか出ないのか?こっちも長旅で疲れてるんだ」

 

来客用の椅子にどかっと座り込んで足を組む。

両腕を広げてめっちゃ寛いでやがる。

 

「……リサ」

「……わかったわ」

 

リサが給湯室に引っ込んだ。

まだ動揺してるのか、ちょっとふらふらしていた。

 

アニーに目配せして、席を外してもらう。

 

「さて、息子よ。俺の代わりに律儀に借金返してくれてたみたいだな」

「……」

「おっとだんまりか。お父さん悲しいねぇ。母さんは元気か?」

「……何の用だ、今更」

「殺意を隠そうとしない、か。良いねぇ、良い男になったな。だが、そんなおっぴろげだと女の子が寄り付かねーぜ?」

 

あくまで軽口を減らさない様子にちょっとイライラする。

 

「要件を話せって言ってるんだ……」

「おお、怖っ。わかったよ、良いか?」

 

その後、親父の言った言葉が信じられなかった。

 

「ジョージ、あの借金は……無くなった」

「……はァ!?」

 

 




遂に登場、ジョージ父。

何気にハーメルンのオリジナル主人公の中で珍しく両親存命という主人公。

そして、衝撃の一言。


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借金消失

「借金が、無くなった……どういう事だよ、それ」

「詳しく話そう」

 

親父が取り出したのは、写真。

裕福そうな格好をした小太りの中年だ。

 

「これは?」

「ハルカさんの元婚約者だ」

「ウェェッ?!!!?」

 

えっ、婚約者?!

それ親父じゃないの!?

 

「元々ハルカさん……母さんが割りと裕福な軍人家系の出だってのは、話したことあったか?」

「……初耳なんだが」

「東方の血を引く軍人一家。まぁ今は日本って国も崩壊液の影響下でほぼ消失してる。それで()()()()ハルカさんを使って血を途絶えさせない様にしていた」

 

で、その相手がよりによってこいつか……。

 

「……だったんだが、何故か俺がハルカさんにアタックされてな」

「口説いたろアンタ」

「いやぁ美人だったし、いかにもお堅い女傑って感じでそそられてね。そういう女が蕩ける表情って言うのも……ガッ?!」

 

唐突にAK-12が親父を殴った。

とりあえずサムズアップを返しておいた。

 

「話を戻そう。駆け落ち同然で俺とハルカさんは結婚して……まぁこいつから恨みを買ったらしい」

「そりゃそうだ」

「こいつがやってきた事が……まぁ、でっち上げの借金さ」

「嘘だろ……」

 

思わず天を仰ぐ。

え、何……じゃあ俺は親父の恨みから生まれた架空の借金を返してたって事か……。

 

「じゃあ、何でアンタ蒸発なんてしたんだよ……母さんがどんだけ悲しんだと思ってる」

「……それについては、本当に申し訳ないと思っている」

 

軽薄な笑いが引っ込み、一気に引き締まった歴戦の軍人の顔になる。

思わず身構えそうになる。

……こうしてりゃ一流の軍人なのになぁこの人。

 

「ただ、俺がハルカさんから離れて姿を消さないと奴らの尻尾も掴めなくてな。お前が返済してくれてたから向こうも油断していた」

「コーヒー、持ってきたわよ」

 

リサがトレーにマグカップを4つ乗せて入ってきた。

 

「ああ、私達にはお構いなく」

「人形でも貴女はお客よ。それがうち。受け入れなさい」

 

AK-12とAN-94に押し付ける。

親父の前にも一つ置いて、俺に手渡してくれた。

 

「ありがとう、リサ」

「私も居るわよ。構わないわよね」

「ああ」

「……おい、ジョージ。まさかとは思うがその子……」

 

親父がリサの左手薬指を指差す。

……まぁこの人なら気が付くわな。

 

「あー……、紹介するよ。WA2000タイプの……リサだ。俺の嫁」

「お初にお目にかかるわ、えーっと……『お義父さま』?」

「フォッ……!!?!?!」

 

親父が目を見開いたと思えば手で顔を覆って天を仰いだ。

えっ、嘘、それ遺伝なの?マジ?

 

「おいおいおいおい、待て、ステイステイ……人形と?やるなぁお前……」

「……今時珍しくないだろう」

「そうだが……そうかぁ、これであのクソッタレ共の血も途切れるか……」

「……」

「よくやった、ジョージ」

 

何となく、俺に祖父や親族の記憶が無かった事に合点が行った。

 

……ふと、リサがAK-12の顔を見て、呟いた。

 

「……え、おば様……!?」

「?」

「「あ」」

 

思わず二人で声が重なった。

ちょっと待て親父、こいつにもしかして教えてないのかよ?!

 

「……大尉、これはどういう事ですか?」

「ね、ねぇジョージ……髪の色も違うけど、この人おば様にそっくりよね……?」

「………………」

「………………」

 

無言で親父と視線を合わせる。

 

(説明しろよ)

(何でこの子ハルカさんに合わせたんだ)

(うるせぇ、だから60前でまだ大尉なんだろアンタ)

(あっ言いやがったなこの馬鹿息子)

 

この間、僅か2秒。

 

「……で、まぁ俺が姿を消してこいつらをぶっ潰したって話だ」

「ナルホドナー」

「説明しなさいよ!!」

「大尉、説明を求めます」

 

あっ、クソ話が逸らせなかった。

 

「「あ、後でな……」」

 

まさかの台詞ハモり。

なんなんだよもう。

 

「クルーガーにも協力して貰って、軍からもこの二人を借りてなんとか叩き潰した」

「……は?クルーガーも知ってたのかよ!?」

「?ああ、知ってたぞ」

「あのクソ髭野郎ッ……!!」

 

まさかのグルだったのかよ……。

一言もそんな話無かったぞ……。

 

「いやー骨が折れた。俺ももう引退してハルカさんと田舎で喫茶店をやるよ」

「そうか……いや、なんだ……良かった、本当に」

「ジョージ。今まで母さん守ってくれて……ありがとうな」

 

……あ、やばい。

今の一言で、ちょっと、決壊しそうだ。

 

「じゃ、俺は帰る。そうそう……この二人、公的にはMIAなんだわ」

「え?」

「……帰るとこ無いから預かってくれ」

「ふざけんなァァァァァァァ!!!」

 

は?

これ以上厄ネタ抱えられるか!

AK-12はまだ良い(良くない)

だがAN-94は何だこいつ!?

ずっと俺のほうに首を向けてハイライトの無い瞳で俺を見てる。

時々口が動いてるから何かしゃべってるのだろう。

 

正直怖い。

 

「クルーガーにも許可は取ってある。それじゃあ、よろしくな」

「あっ、おまっ!やっぱ一発殴らせろ!!」

「お義父さま、お迎えが来ていますよ」

 

春が執務室にやってきた。

親父がその姿に目を丸くして、すぐに納得する。

 

「ありがとうお嬢さん、君も可愛いね」

「あら、ありがとうございます。お義母さまに報告しておきますね」

「ひぇっ……」

「隙有りィッ!!」

「ゴハッ?!」

 

春が怯ませてくれたので、顔面にドロップキックをかました後、中指をつき立ててやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――その後、春に二人を部屋に案内してもらった。

 

執務室に、俺とリサだけが残る。

 

「ジョージ」

「……ん?」

 

リサに呼ばれて振り返る。

ふわり、と抱きしめられた。

 

「え、ど、どうした……?」

「……今は、私しか居ないわ」

「見りゃ分かる」

「ばか、我慢すんな」

 

……相棒は、お見通しだったらしい。

目頭が熱くなってくる。

 

「女の前で、かっこ悪いとこ見せられるかっての……」

「私は、アンタの良いところも駄目な所も全部知ってる。今更見せられたって愛想尽かさないわよ」

 

リサの手が、頭を撫でた。

 

「……頑張ったわね、ジョージ。お疲れ様」

「こ、の、お前……ずる過ぎる」

「いつものお返しよ……良かったわね」

「あ、ぐ……う、うぅぅ……」

 

俺は、初めて……人形の前で、泣いた。

リサは穏やかな表情で、ずっと俺を見ていた。

 

 




これにて、ジョージの背負っていた父親の借金は消滅するのだった。

……えっ、なんか人形増えたんですけど。


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母性というかなんと言うか

「ジョージ。休みを頂戴。あと長期渡航許可」
「えっ、どうしたんだグリズリー……らしくないぞ」
「頂戴」
「……今日はいやに押しが強いな」
「ジョン」
「………………」
「ジョン!」
「………………」
「ジョン帰ってきたんでしょ!!実家の場所教えなさい!!」
「嫌に決まってんだろ!!」
「ハァッ!?アンタこんだけ待たせておいてそれ!?こっちは委員会もなんか潰れて行く宛もないし貴方の元に居る意味も無くなったのよ!!」
「うっそぉ……」
「良いからさっさと出しなさい!そして教えろ!!」
「やめろ揺するな!ぐええええええ?!」

……3時間の言い争いの結果、グリズリーは旅立った。
ごめん、親父……。




長期休暇の申請書と長距離旅行の申請書を受領して印鑑を押していく。

すまねぇ親父……止める義理は果たした。

 

「ねーねー指揮官」

「……何だ?」

 

ある日の昼下がり。

俺とUMP40が事務作業をしていたときだ。

彼女が唐突に口を開いた。

 

「……あの人、いつまでこっち見てるの」

「………………(ぶつぶつ」

「見ちゃいけません」

 

……AN-94が、執務室のドアを半開きにして目線だけこっちから見える。

正直言って怖い。

リサ泣きそうになってたし。

 

「あんなの見たら集中出来ないよ……」

「気持ちは分かる」

「いつもみたいに口説いてなんとかして~」

「人聞き悪いわ!!」

 

心外だ。

俺がいつも口説いてるみたいな言い方。

 

「……失礼するわ」

 

AK-12が、部屋に入ってきた。

……AN-94の襟首を掴んで引きずって。

 

「お、おう……どうしたAK-12」

「ジョージ。私が、貴方の母親と同じ顔という事について聞きに来ました」

「ああ……」

 

その話結局なぁなぁにして流してたんだよなぁ。

 

「まぁ……その、お前の顔のモデルが……俺の母親だったんだ」

「そう。それで私に靡かなかったのね」

「言い方」

 

そりゃまぁ母親と同じ顔だしそんな奴にな……。

 

「……つまり、私に母性を感じてくれる……そういうことね」

「一度オーバーホールが必要か?」

「あら、心配してくれるのかしら?お母さん嬉しいわ」

「オォン……手遅れかよ。40、モナーク呼んでくれ」

「モナークさん、手が離せないって」

「嘘付けぇ!!」

 

両手を広げてこっちに向いてくる。

ハグのポーズかよ…。

 

「間に合ってる」

「さぁ」

「聞けよ」

 

じりじりと近付いてくる。

アニーがその後頭部にファイルの角をぶつけた。

 

「やめなさい新入り。指揮官に迷惑掛けるんじゃないの」

「アニー」

「はい、ジョージこれ。資料持ってきたわ。進んでる?」

「悪いな……実はあんまり」

「はぁー……全く、私がいなきゃほんと駄目ね。UMP40、貴女も何してたの?」

「ご、ごめん……」

「まあ、原因はこれでしょ?」

 

AK-12とAN-94を指差す。

全く持ってその通りだった。

 

「二人共。想いを伝えるのは構わないけど、一方通行は迷惑でしかないわ。頭を冷しなさい」

 

アニーが二人を摘みだした。

あれ……なんか強くないこいつ。

 

「すまん、アニー」

「私は貴方の副官よ。これくらいやってあげる」

「さすがアニーだね!」

「……まぁ、あの二人も時間が必要だな」

 

放置は出来ないかな……。

必ず向き合わなきゃいけないだろう。

 

「さ、仕事しようか」

 

全然進んでないのである。




本日三回目の投稿です。

これでとりあえず書きたかった事全部まとまりました。


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☆ブライダル・コマンダー

今回はコラボ回です。

笹の船さんの「女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん(https://syosetu.org/novel/184136/」で行われたとある雑誌のネタです。

ただ、シーラさんは出ません……悪しからず。


最近、目に付く所に女性誌が置かれるようになった。

 

そういった嗜好品がこの基地でも手に入るようになり、部下達のモチベーション向上に繋がり万々歳なのたが……。

 

「……結婚式、か」

 

やっぱり、彼女達も女性の精神構造をしているし興味はあるのだろうか。

雑誌を手に取る。

ブライダル特集とでかでかと表紙に書かれている辺り、やっぱり催促しているのだろう。

 

…………ん?

この表紙の女性……?

 

「あら、これあの時の女指揮官じゃない」

「うおっ……!?あ、アニーか」

 

座っていた俺の肩に、いつの間にかアニーが顎を乗せていた。

 

「ハァイ、ジョージ。様子、見に来たわよ」

「お前……仕事中は指揮官と呼べ」

「私、あなたの指揮下になったつもりは無いわよ。貴方個人に惚れてるから力を貸してるだけ。いつでも寝首をかけるんだから」

「こっわ……失望させないようにしないとな」

「せいぜい頑張りなさい……まぁ、惚れた弱みだから、ハードルは低くしてあげるわ」

「ははは……所で、知ってるのか?この人」

 

表紙で微笑む花嫁姿の女性……指揮官らしいが。

それにしてもどこかで見た事があるが……。

 

「昔、汚染地域で交戦したのよ。負けちゃったけど」

「へぇ……ハイエンドを下せる指揮官か。かなりデキるみたいだ」

「べ、別に下された訳じゃないわ!本気じゃなかっただけだもの!」

「お前俺とやり合ってる時も遊んでて大体やられてるじゃねーか」

「うぐっ……」

「……ったく、可愛いやつだなホントに」

 

ペラペラとページをめくる。

……泣きながらも、幸せそうに笑う女性の写真だ。

 

「……結婚式、か」

「挙げるの?」

「どうだろうな……人形との誓約は所詮リミッターの解除と所有権の譲渡だ。それを婚約とするかは……当人達次第だ」

 

何だかんだ俺は彼女達に指輪を渡しただけだ。

……だけとは言うが、俺は彼女達を愛してるし、彼女達も俺の事を慕ってくれている。

 

「夢の無いことを言うのね」

「俺に会うまで夢も目標も無かった奴が何を……」

「指揮官、入るわよ……何読んでるのよ、全く」

 

リサが報告書片手に入室してきた。

 

「お前らの誰かじゃないのか?置いたのは」

「私じゃないわよ。カラビーナじゃない?」

 

俺の手から雑誌をひったくった後、まじまじと見た後……、一言、呟いた。

 

「あら、コリンズ指揮官じゃない」

「は?」

「……報告書読まなかったの?」

「……いつの話だ」

「アンタが昏睡してた間よ」

 

急いで引き出しを漁る。

その間、アニーとリサが喋り出した。

 

「あらぁ?貴女もあの女指揮官と?」

「そうよ。行動中に偶然会って」

「へぇ……どうして指揮官が人形達と一緒に?」

「さぁ……ただ、どこの指揮官も指揮所でじっとしてくれないのね」

「違いないわ」

 

あった。

俺が昏睡してた時のログ。

そこには、ローニンの報告に『R06地区指揮官、シーラ·コリンズと遭遇』と書かれていた。

 

……ん?

 

「シーラ·コリンズ?」

 

えっ、マジか。

嘘だろ……?

 

「スイートキャンディ!?」

「ちょっ……いきなり大声挙げないでよ」

「あっ、すまん……えっ、嘘だろ……生きてたのか……」

「……ジョージ?知り合いかしら」

 

リサの眼光が鋭くなる。

苦笑しながら否定した。

 

「ははは……俺が一方的に知ってるだけさ。正規軍に居たとき、結構有名だったんだよこの人」

 

部隊に居ると、その部隊の野郎共は飴玉を貰った子供の様に上機嫌になる事が由来だとか。

 

「俺も会ってみたかったんだよなー……いやー、あの写真入手するのに苦労した」

「へぇ……」

「……リサ、ステイ。落ち着け。彼女には憧れこそあったけど何もないから。ただ……」

「「ただ?」」

 

リサとアニーの声がハモる。

何だかちょいと似てきたなこの二人。

まぁ相部屋に住ませてリサに面倒見てもらってるだが。

 

この前もリサの事を「お姉ちゃん」呼びしてからかってたっけ。

 

閑話休題。

 

「……作戦中に、スイートキャンディの居た部隊は全滅したって聞いた」

「「………………」」

 

それでも彼女はこうして笑っている。

良きパートナーに恵まれたんだろう。

 

「そう言えば……彼女は何か?」

「いえ……ただ、軽そうな男って言われてちょっと頭に来て」

「ははは……まぁ実際11人囲ってる時点で軽薄だわな」

「でも……」

「心配ご無用。そんなこと言われんのは慣れてるよ」

 

リサの頭を抱く。

目を細めて身を預けてきた。

 

「私が慰めてあげようか?」

「アニー、別に傷付いちゃいないっての」

「あら、つまらない」

「あっ、この野郎」

「きゃーこわい。紳士気取っていたのでなくて?」

「ハッ、紳士なのは17時までだ」

 

今日も、仕事は無事に終了するのだった。

 

 




今回コラボするに当たって、シーラさんがジョージとの相性が悪過ぎた為、この様な形になりました。

かしましおぺれーしょんも珍しい女性指揮官が主人公のお話となっています。

甘い中にシリアスがあり、主人公と45や戦術人形達の涙あり笑いありの物語。

どうぞ、よろしくお願いします。


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☆恋の行方と移動屋台

今回のコラボは焔薙さんの「それいけ!ポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!(https://syosetu.org/novel/166885/ )です。

例によってユノちゃんは出ませんが、フットワークがびっくりするくらい軽い行商人が来ます。


「は〜い、スチェッキンさんの移動式屋台、今月も街にやってきたよ〜」

 

そんな声が、S-12の街に響いた。

 

「……スチェッキン?」

 

今日は基地休養日だったので、自分……スカウトチームリーダー、トーン・トラッカーは街に来ていた。

 

……自分のこと、皆さん覚えていますでしょうか。

 

「やぁトラッカーくん。久しぶりだね」

「あー、はい。その節はどうも」

 

このスチェッキンさん、S-09地区という比較的近所……まぁ遠いのだけれど……からわざわざ屋台を引っ張ってこちらに商売に来ているらしい。

 

この人のお陰でS-12の物流は救われたと言っても過言では無い。

 

「そちらの指揮官は元気かい?」

「指揮官は……そうですね、元気です」

 

最近行方不明だった父君が見付かり、安堵していたとか。

その後人形が増えて頭を抱えていましたが。

 

「そう言えば、そちらのレーダー施設はAIが管理していると聞いていますが」

「え?あー……まぁ、そうだね」

 

いやに歯切れの悪い。

S-09基地と言えばグリフィンの誇るレーダー施設だ。

そんな場所の人形達は軒並みレベルも高い。

 

「指揮官が今度挨拶に行きたいと言っておられましたよ」

「そっかー。……オッケーなのかな」

「?」

 

オッケーとは、何のことだろうか。

 

「そう言えばトラッカー君」

「何でしょうか」

「例のM1ガーランドとは上手く行ってるのかい?」

「ぶはーーーーーーーっ!?!!?!!」

 

盛大に吹き出した。

何故!?

何故彼女がその事を知っている!?

 

「君、思ってる以上に顔と態度に出てるからね……?まぁ、気付いてないのは当人達だけか」

「そ、そんな……」

「大丈夫大丈夫。M1ガーランドは気付いてないから」

「そっ、それは……!それもそれで悔しい……」

「難儀な性格してるね」

 

たまに輸送車の護衛として同行してくるM1ガーランドと言う戦術人形に、自分は焦がれている。

 

いつからか彼女を見るのが楽しみになり、会いたいと願う様になった。

生まれてこの方生真面目に責務を全うしてきた自分には、彼女とどう接して良いか分からない。

 

「そうですね……もう少し、自分に勇気があれば……」

「フフフ、構ってくれてありがとうございます!指揮官!」

「え……」

 

聞き覚えのある声がして振り向く。

……長い金の髪。

紛れも無く、彼女は……。

 

「あ、トーンさん!こんにちは」

「こ、こんにちは……!?ガーランドさん、どうしてここに……?!」

「どうしてって、ジョージ指揮官に呼ばれたんです」

「よう、トーン。元気か?」

 

……あのガーランドさんと、指揮官が一緒に、歩いている。

頭が、真っ白になった。

 

「それじゃ、ガーランド。後よろしく」

「はい」

 

ガーランドさんが自分の手を取った。

 

「……え?」

「トーンさん、今日は私に付き合ってください!」

「えっ、えっ、どうして!?ガーランドさん!?」

「そんな堅く呼ばないでくださいよ?ランで良いです」

 

え、え、え、え、え、えぇぇぇぇ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――さて。

 

「……ジョージ指揮官、貴方も人が悪いね」

「なんのことやら」

 

今回スチェッキンさんに来てもらった理由。

単純に物資補給もあるが……輸送護衛部隊の一員であるガーランドに来てもらうためだ。

 

「部下のメンタルケアも、俺の仕事さ」

「憎いね、ホント。ただ……後ろの人は、どうするのかい?」

「……指揮官さん?今のは……どこの子でしょうか」

「エッカラビーナ!?違うからな!?スチェッキンさん!?何かアクセサリー頼む!!」

「はいはいまいど~」

「あと、そっちの指揮官によろしくな!!」

 

 




ユノちゃんとこのスチェッキンさんでした。

ぽんこつ指揮官とおばあちゃんは最近一周年を迎えた長編ほのぼの系です。
またまた珍しい女の子指揮官のお話です。
多種多様な人形やハイエンドがわちゃわちゃする癒し系物語。

でも、主人公は……。
そんな、やっぱりドルフロらしいシリーズです。

なにとぞよろしくお願いします。


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出会いの陽気は思い出に

スプリングフィールドとの、出会いの話。


 

いい天気だ。

本日も晴天なり……特に異常もなく過ぎていく。

 

そんな、昼下がり。

 

執務室には俺と、UMP40と……膝枕されて猫じゃらしで遊ばれているIDWが居た。

 

にゃーにゃーにゃーにゃー。

 

「それっ、それそれー」

「やめるにゃ、40!本能には抗えないのにゃー!」

「平和だな……」

「指揮官、何だかおじさんくさいよ?」

「何だと。俺はまだ20代だ!」

「必死。指揮官顔必死にゃ」

 

全く……。

密かに気にしてたのに。

 

段々顔立ちが親父に似てきているのが悩みっちゃ悩みである。

 

「お疲れ様です、指揮官。コーヒーをお持ちしましたよ」

「ん、ありがとう春」

 

エプロン姿の春が、トレー片手に入ってくる。

それを見たIDWがふと……呟いた。

 

「指揮官とスプリングフィールドっていつ会ったのにゃ?」

「……?いつ、とは?」

「そのままの意味にゃ。いつ誑し込んだかってことにゃ」

「言い方」

 

春と俺の出会い、か……。

 

「あ、それあたいも気になる〜」

「あらあら……どうしましょうか、指揮官?」

「俺は別に話しても構わないけど……」

「ふふ、じゃあ私は退散しますね……ちょっと、恥ずかしいので」

 

珍しく顔を赤くした春がトレーで顔を隠して逃げて行った。

 

「……凄い珍しい物を見た気がするにゃ」

「うん……」

「まぁ、アイツにとっては……俺に惚れた時の話だからな」

「えっ、そんな前から!?」

「何というか……割とアイツも病んでたと言うか」

「あぁ……(納得」

「40……」

 

さて、どこから話そうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――3年前。

まだ俺が傭兵をやっていた頃。

 

戦場で派手に暴れている人形が居る、と無線で連絡が来た時だった。

 

グリフィンからの依頼で人形達の援護をしていた為、様子を見に行くだけ見に行くことにしたのだ。

すると、どうやら殿を引き受けていたらしく……単独で残っていたらしい。

 

出来ればコアを回収してほしいとの事で追加の報酬が設定された。

 

意気揚々と乗り込んでみると……一面、人工血液の海だった。

鉄血人形だったモノの破片がそこら中に散らばっている凄惨な光景だったよ。

 

そのど真ん中に……彼女は居た。

 

自身の半身であるライフル銃を杖代わりにし、立ち上がろうとして……そのまま倒れた。

 

「……お嬢さん、手は必要か?」

「誰……ですか……」

「俺か?俺はジョージ、ジョージ·ベルロックだ。君を迎えに来た」

「迎え……ですか。必要、無かったのですけれど……」

「どういう事だ?」

 

うつ伏せで倒れていた人形を抱き起こしてやる。

血で汚れていた顔をたまたま持っていたタオルで拭ってやる。

 

……口笛を吹いた。

それだけ顔立ちが整っていたのだから。

 

ただ、瞳が赤くなったり緑になったり忙しなかった。

 

「私は……暴走の危険がありましたから。体のいい厄介払いで……残されたんです」

「……回収依頼を貰ったが」

「有り得ません……私は、見捨てられたのに」

 

人形は俺を手で押し退けて、倒れた。

よく見ると、左脚が無くなっていた。

 

「おい、無茶を」

「良いんです。私は……ここで朽ちた方が、幸せなんです」

「……幸せ?ふざけんな」

 

人形の腕を掴んで、担いだ。

 

「ちょっと……ジョージさん?!何を……」

「じっとしてなお嬢さん。帰るぞ」

「か、帰るって……」

「初対面のあんたに俺の嫌いな事を教えてやる。一つ、金の貸し借り、二つ、口約束。んで……3つ」

 

幸いそこまで重くない上に、用意されていたセーフハウスも近かった。

 

「良い女を目の前で見殺しにする事だ……ッ!」

「良い、女……?私が……?」

「こんな美人見捨てるなんて、アンタの指揮官が望んでも俺が許さねぇ。絶対連れて帰ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――これが、俺と春の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり口説いてたのにゃ」

「ねー」

「やっぱりって何だやっぱりって」

「べっつにー」

「そこから春と交流する様になってな……まぁ、ちょっとスキンシップ多かったり一緒に飲んだりもあったけど」

「うわ、そこから狙われてたにゃ……」

 

何だかんだ助け出して連れ帰ってきただけで惚れられたと言うのも変な話だ。

 

「それは、貴方が私の事を怖がらなかったからですよ」

 

春が、戻ってきた。

 

「怖がる?君をか?」

「そうですよ。ライフル人形の癖に敵を還付無きまでに叩き潰すんですもの」

「別に。世の中そういう奴も居るってだけさ」

「ふふっ、懐が深いこと」

「ははっ、そうか?」

 

二人して笑い合う。

40とIDWが苦い顔をしていた。

 

「はいはい……砂糖は間に合ってるにゃ……」

「同じく〜……胸焼けしちゃいそうだよ……」

 

春と顔を見合わせて、笑った。

 

「ウチは、そういうとこだぞ」

 

 




ジョージと春さんの出会い編でした。

後は、リサとの馴れ初めと、AK-12&AN-94案件くらいですかね……本当に、終わりが見えてきた。


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支え

 

「おはよう……相棒」

「おはようジョージ。よく眠れたかしら」

「……は?」

 

朝。

昨夜久しぶりに誰とも一緒に寝なかった為、一人で迎えた朝……の筈だった。

 

目の前にAN-94、背後から恐らくAK-12の声が聞こえる。

 

「お前ら……」

「……男性は、女性と共に寝るとモチベーションが変わると聞いた」

「えっ、誰に」

「私よ」

「お前だったのか」

 

AN-94が照れ臭そうにそんな事つぶやく。

取り敢えず俺は背後から伸びてくる手を振り払いベッドから転げ落ちる。

 

「油断も隙もありゃしねぇな!」

「……私は、相棒と一緒に居たいだけ」

「油断だなんて酷いわね。可愛い妹分の為よ」

「いや、確実にそいつ病んでるから!現実を見ろ!」

 

現状、AN-94は何かしらのショックを受けて俺を「架空の相棒」に仕立ててメンタルを保っていると見ている。

 

……やっぱり俺の所に集まる人形ってどこかしら変なんだろうか。

 

「……私の視界は良好よ」

「いや……目閉じてんじゃん」

「見え過ぎるのも考えものなのよ」

「……うわ、本当に目を閉じてるのかこれ」

「……近くでまじまじと見るのも考えものね」

 

薄目でも開けてるのかと思いAK-12の顔に寄ったが、完全に閉じていた。

 

「良かった……相棒、元気出たみたい」

「朝から叫び疲れたよ……」

 

お前のせいだ、とは流石に言えないんだよな……。

 

「Доброе утро!指揮官!」

 

私室のドアを勢い良く開けて、9A-91が入ってきた。

 

「おはよう、9A-91。今日も可愛いね」

「ありがとうございます、指揮官。今日も一段と素敵です」

「そりゃどうも、カワイコちゃん。君を見たら今日も一日頑張れる」

「本当ですか?じゃあ今夜は精一杯頑張りますね」

「いや、日中頑張ってくれ」

「……ところで、何でお二人がこちらに?」

 

そこ突っ込むよねーそうだよねー。

 

「なんかいた」

「なんか……」

「相棒とは、その、一晩一緒に居ただけ……」

 

9A-91が生暖かい目でAN-94を見ている。

……昔の自分でも思い出しているのだろうか。

 

「指揮官、そろそろ行かないとWA2000さんにどやされますよ」

「おっと、そうだった。お前らもそろそろ支度しろよ」

「ジョージ、気になっていたのだけれど」

「うん?」

「あのWA2000タイプの人形に対して他とは明らかに違う扱いをしているけれど」

「リサが?まぁ、アイツは……」

 

9A-91を抱き寄せて頭を撫でる。

 

「コイツらと同じく、俺の誓約相手だ。ただ……一番付き合いが長くて、一緒に戦った時間が長かった相棒さ」

「相棒……」

 

AN-94の、うわ言の様な呟きがいやに耳に残った。




これから少しづつAN-94と向き合うジョージ。

彼女は、立ち直れるのだろうか。


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依存の理由

 

……視線を感じる。

 

執務室の中を見渡しても、ここに居るのは俺とUMP40とアニーだけ。

ドアも閉じている。

 

なのに、視線を感じる。

 

「………………」

「手に付かなさそうね」

「そう見えるか?」

「とても気にしているみたい」

 

アニーにバインダーで頭を軽く叩かれる。

 

「指揮官、何か今日せわしないね」

「なーんか……落ち着かん」

「ずっと、見られてるわね」

「……やっぱり?」

 

戦術人形としての機能が全て削ぎ落とされているにも関わらず、アニーは察知している。

 

40は……ぽけーっと俺に笑いかける。

 

「指揮官なら出来るよ」

「適当だな……」

「ううん、適当じゃないよ。だって今までそうしてきたんだから、これからもそうなんだよ」

「……40」

 

『緊急連絡!救援要請!』

 

「「「!!!」」」

 

この声は、バンガードか。

 

「どうしたバンガード!」

『不明、何者かが私のネットワークに侵入し……コントロール不能、指揮官……ジョージ!』

 

ブツっ、と通信が途絶えた。

 

俺はウィングマンが懸架されているのを確認する。

 

「行ってくる」

「気を付けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――走って格納庫まで来てみれば。

 

『指揮官!救援要請……!』

「貴方、ここはどうなってるのかしら……」

『速やかな退去を提案』

「……あら、このパーツは」

『接触禁止!接触禁止!』

「へぇ……民間も面白い物作るわね……」

 

……AK-12が、バンガードをねぶっていた。

いや、語弊。

AK-12がバンガードをひたすら見ていた。

 

「お前ら……」

「あら、ジョージ。仕事は?」

「こんな事されたら手に付かねーっての……」

「……何をするの」

 

手にしていたバインダーでAK-12の頭を叩く。

 

「勝手にハッキングすんなっての。こいつも大事な仲間なんだから」

「これ、強化外骨格よね。どうしてAIなんて搭載してるのかしら」

「聞けよ。これは俺が着けるからだ」

「……人間用か」

 

合点が行ったようにバンガードをじっとり見詰めている……様な気がする。

 

「……なぁ、AN-94に何があった」

 

気が付けば、そんな言葉が口から出ていた。

 

「何、とは?」

「惚けるな。最後に別れてから変わり過ぎだろ……アイツのメンタルに変調をきたす原因、何か心当たりは」

「………………」

 

AK-12は黙る。

俺も、彼女が喋り出すまで口を閉じる。

 

「……結局、貴方以外に良いように扱われなかっただけよ」

「……そうか」

「貴方が中途半端に希望を見せたせいで、あの子は追い詰められたわ」

「………………」

 

彼女に手を差し伸べた人間は居なかった。

ただそれだけの話。

 

「だから、親父について来た?」

「……かもね」

「そうか……で、お前は?」

「私?そうね……つまらなかったもの。あそこでの生活は」

「……お前らしいよ、それは」

『……そろそろ戻してくれませんか』

「「あ」」

 

この後、四苦八苦しながらバンガードを元の場所に戻すのだった。

 

モナークにめちゃくちゃ怒られた。

 

「……AN-94」

 

中途半端に俺を信じて、現実に耐え切れなくなった。

彼女にも、手を差し伸べなきゃいけないんだろうな。

 

「……出来るのかな、俺に」

 

それに答える者は、誰も居なかった。

 

 




AN-94の闇は深い。

彼女に手を差し伸べるには、どうすれば良いのだろうか。


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関わり

「AN-94。俺と一戦やらないか?」

「……え?」

 

AK-12から話を聞いて、一晩明けた。

俺は朝の執務室で当然の様にドアの前に立っていたAN-94に声をかけた。

 

アニーがこちらをジト目で見てきたが気にしない。

 

「相棒と?」

「ああ。お前の力も見たいしな」

「おかしい事を言うのね。私の実力は貴方が一番よく知ってるはずよ」

「なら、俺の実力を見せてやろう」

「人形相手に?それに、私は軍用よ?敵いっこないわ」

「お、言ったな?じゃあ俺が勝ったら何か言うこと聞いてもらおうかな」

「ジョージ?無駄話はそ、こ、ま、で、よ」

「いででででで」

 

アニーに耳をつねられる。

何で馬力落としてるのに痛いんだこれ。

 

「大体、貴方リハビリ終わってからそんなに経ってないでしょう?大丈夫なの?」

「心配してくれるのかアニー?優しいねぇ」

「また体壊して寝込んだらローニンがうるさいわよ」

 

そう言うアニーの耳が赤い。

可愛いなぁこいつ。

 

頭に手を乗せてそのまま撫でくり回した。

 

「相棒」

「うん?」

「私が相棒に勝ったら……その、私のお願いも聞いて欲しい」

「勝てないって言ったのお前じゃなかったか……?構わんぞ」

「ありがとう。それじゃ」

 

AN-94が軽やかな足取りで執務室から出ていく。

 

「……良いの?そんな口約束」

「ははは、アニーは俺が負けると思ってるのか?」

「あの子、首輪と鎖部屋に置いてるわよ」

「ハ―――――――えっ、ウソだろこわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――一週間後。

 

あれから、戦闘のカンを取り戻す為に春を相手にひたすら模擬戦を行っていた。

 

何故春かって?

一番容赦が無いからだ。

俺を気遣って手を抜くと言った事をしない。

それに……戦闘モードの春を捌けない様じゃ俺が彼女を御せないし、AN-94にも勝てない。

 

「お疲れ様です。いよいよ明日ですね、指揮官」

「あ、…あァ…」

 

地面に大の字で横たわる俺と、それを上から見下ろす春。

息が全く上がっていない春を見て少し自信を無くす。

 

バンガードも隣でへたり込んでいた。

 

「動きも大分戻って来ましたね」

「まぁ、流石にバンガード使わなきゃ人形とやり合うなんて無理だからな……」

「……わーちゃんと、確執の精算は出来た筈です……もう、貴方は戦わなくても良いんですよ」

「ありがとな。でも、俺の残してきた責任だ……やっぱり、俺がやらないきゃいけない」

 

中途半端に関わって、AN-94を追い詰めてしまった。

だから、俺がやらなきゃならない。

 

「ジョージ……」

「心配すんなって。俺には綺麗な勝利の女神が着いてる。今度お礼するよ」

「……今夜は、一緒に居させてください。貴方が勝てる様に」

「……ありがとな」

 

 




中途半端な関わりが彼女を追い詰めてしまった。

だから、中途半端を辞める。
荒療治だが、彼女に本音を吐かせるために。


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感情

翌日。

キルハウスを押さえて、俺とAN-94の模擬戦の舞台が整っていた。

 

流石に見学者は無し……って、AK-12は来てるし。

それ以外は来るなって言ってあるから誰も居ない。

 

「準備は良いな?バンガード」

『万全です、指揮官。二人で戦えば強力です』

「OK」

 

辺りには誰も居ない。

開始時間まで待機し、時間が来れば前進開始。

 

遭遇次第発砲……ペイント弾による射撃戦がメインだ。

もちろん近接格闘で捕縛しても可。

 

「……行こうか」

 

興奮剤を突き刺し、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――今回の模擬戦の申し出には、少し困惑していた。

 

相棒がわざわざ私の実力を試すと言った。

別に、私の事は全部分かってるんだからそんな事必要無いと思うのに。

 

警戒しながら通路を進む。

 

「……足音」

 

あの外骨格……バンガードと言っていた。

相棒とニューラルリンクを確立し共に戦うAI。

 

彼が前線に出張る理由は知らないけど。

 

「……?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

相棒だと言うのに。

 

「……勝てたら、聞こうかな」

 

通路の先を覗き見る。

……少し、言葉を失った。

 

相棒が、普通にこっちに向かって歩いてきているのだから。

 

「……貰った」

 

どうしてかは知らないけど、好機。

私の半身であるライフルが、ペイント弾を吐き出す。

 

寸分違わず相棒に向けて飛び……()()()()()

相棒は光の粒子になって消えてしまった。

 

まさか、

 

「ホログラフのデコイ……!?」

「騙されたな!!」

「ッ!?」

 

その場から飛び退る。

さっきまで立っていた場所に、ペイント弾が着弾する。

 

「何処から……?!」

「ボーっとするなよ!」

「くっ……!」

 

視線を上に上げる。

そこには、()()()()()()()相棒の姿があった。

 

「なっ……!?」

 

何だアレは。

人間か?

相棒はそんな戦い方をしていたか?

 

「覚えてないのかAN-94!俺は何だって使う!」

「そんな訳……!!」

 

……()()()()()()()()()()

 

どうして私は相棒と慕う彼の戦闘スタイルを知らない……!?

 

「く、うぅ……!!」

 

頭が痛む。

照準がぶれる。

 

でも、

 

「私に出来るのは、これしか無いッ……!!」

 

射撃速度を変える。

相棒は右腕を後方に向ける。

……そこからワイヤーが射出され、相棒自身を引っ張って行った。

 

「待て……っ!」

 

私は、追いかける。

 

 

どうして、どうしてどうしてどうしてどうして!!

 

 

記憶の中の相棒と目の前の標的が合致しない。

 

混乱で頭がぐちゃぐちゃだ。

……でも、こんな感情……きっと相棒に勝てれば解消されるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――キルハウスの中心は、かなり広いエリアだ。

障害物が点在しているが、基本的には開けている。

 

そこで相棒/指揮官は待っていた。

 

「……」

 

無言で引き金を引く。

勿論、それはホログラムで出来たデコイだった。

 

「お前は、誰だ……!!」

「俺は俺さ!ジョージ・ベルロック!それ以外の何ものでもない!」

「嘘だ……!お前は、偽者だ!!」

 

私は引き金を引き続ける。

 

「俺が本物かどうかなんて知らないね!俺以外の俺を見てみたいもんだ」

「なんだと……!」

 

相棒/指揮官の抱えている銃……確か、フラットラインだったか。

それが弾丸を吐き出し続ける。

 

私は障害物を利用したりして凌ぐ……が、彼は時たま頭上から急襲してくる。

 

その度に私は地を転がり難を逃れている。

あの壁やグラップルを利用した三次元機動が厄介だ。

 

どうする、どう対処する……!

 

「どうした!そのお前の相棒は!こういう時どうしてた!」

「うるさいッ!!」

「お前の中の相棒は助けてくれないのか!」

「黙れッ!黙れ、黙れ、黙れッ!!」

 

こいつを、黙らせる。

 

私の頭の中は、気が付けばその事しか無かった。

怒りだ、今の私は憤怒に支配されている。

 

感情に流されるなんて、戦術人形として失格だ。

 

だから、私は失敗作だなんて……。

 

「違う……私は失敗作なんかじゃ」

「自分の中で勝手に作り上げた都合の良い『相棒』に縋るお前がか?」

「貴、様ァァァァァァァァ!!」

 

近くに飛び込んできたジョージに向かって飛び掛る。

既に撃つ事が頭から抜けている。

けど、私の電脳は、目の前のこの男を殺す事で一杯だ。

 

「激昂しやがって……!だが、今だ!」

『ブースト、ホロパートナーノヴァ』

「なっ……?!」

 

突如、ジョージが()()()()()()

驚愕で一瞬止まる。

それぞれが殴り、蹴るモーションに入る。

 

「くっ……!」

 

思わずガードの姿勢を取る……が、衝撃は来ない。

 

「……え…………?」

 

3人がそのまま私を通過する。

3人は、ホログラフだったのだ。

 

目の前に、ハンドガン……ウィングマンを抜き放っていたジョージが立っていた。

 

「チェックメイトだ」

「あ……」

 

駄目だ。

避けられない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……あ、れ。

どうしてそれは知っている。

 

知っている。

なら、この後どこに飛ぶかも理解している。

 

私は、人形の持ち得る最大限の馬力で無理やり前に飛び込む。

 

銃声……。

弾丸は、体勢の低くなった私の頭上を通過する。

 

「うっそだ……がっ!?」

 

ジョージをそのまま押し倒す。

すぐさま半身を振り被り……グラップルの基部に叩き付けた。

 

「が、あぁっ?!」

『グラップル損傷!損傷!』

 

ジョージの悲鳴。

私は構わず顔に拳を叩き付けた。

 

バイザーが割れる。

 

もう一度殴りつける。

 

「撤回しろ……!」

「い、嫌だね……」

「撤回しろ!!」

「ごふっ……!」

 

ジョージが、ぐったりする。

私は立ち上がり……胸倉を掴んで無理やり起こした。

グラップルユニットの付いている右腕が、だらりと垂れ下がっている。

 

「はぁ……はぁ……私は、失敗作なんかじゃ、ない……!」

「ごほっ……ああ、吐き出せ……お前の、溜まってるモン全部……」

「私は、私はッ……!!」

「お前は、誰だ……」

「私は、AN-94だッ……!!」

「そうだ、AN-94!お前は何を抱える!」

 

ジョージが私の腹部に蹴りを入れる。

 

「ごふっ……!!」

 

私は溜まらず後ずさる。

ジョージは解放され、なんとか起き上がる。

 

「よくも、私を……私に、情けを掛けたな!!お前のせいで、お前のせいでッ!!私は弱い私のままだ!!」

 

頬を暖かい何かが伝う。

 

「何で私に声を掛けた!どうして私に優しくした!何故私に……希望なんか持たせたんだ!!」

 

私の中で、感情が決壊した。

次々と言葉が口を出る。

 

「何で、何でッ!!」

「……お前は、どうなんだ」

 

ふらふらと、足取りがおぼつかないジョージが、私の元へ歩いてくる。

 

「ど、う…」

「苦しいか、つらいのか、怒ってるのか、言ってみろ」

「わた、し、は」

 

私は……。

さっきから流れ出ているもの。

 

……涙が、止まらない。

 

「私は……苦しい……!寂しい、寒いの……!誰も、誰も私を見てくれない!!」

「……へっ、言えたじゃ、ねぇか……それに」

 

ジョージが、左手で私の頬を撫で……涙を、掬った。

 

「お前……やれば出来るじゃねぇか。強いよ」

「ジョー……ジ……」

「大、丈夫、だ。お前の面倒も……見てやる……認めてやる……」

「ジョージ……?」

「ったく……好き放題殴りやがって。くそいてぇ」

「ごめんなさい……」

「良いんだよ。お前は真面目だから……抱え込んじゃったんだな」

「……ああ」

「AK-12にも迷惑、掛けたくなかったんだよな」

「ああ……」

「頑張ったな……AN-94」

「あ、ああ……」

 

ジョージが私にもたれかかる。

頭の後ろに左手が回されて……優しく、撫でた。

 

「ごめん、なさい……!ごめんなさい、ごめんなさい!」

「許すよ……AN-94……お前は、もっと気楽で良いんだ。一緒に、探していこう……」

「ジョージ……?ジョージ、起きて!ああ、ジョージ!ジョージ!!」

 

ジョージがそのまま目を閉じてしまった。

混乱して揺すってしまっている。

 

「AN-94」

「え、AK-12……」

 

声を掛けられて、振り替える。

いつもと変わらない、彼女がそこに居た。

 

「……彼を、医務室に連れて行きましょう」

「え、ええ……」

「……それと、ごめんなさい」

「え……」

「貴女のこと、分かってて放置して」

 

私は、何も言えなかった。

 

……けれど、胸の支えは取れた気がしている。

 

「……大丈夫。私は、前に進めた気がするから」

 

 

 

 

 




AN-94の抱えていたもの。
荒療治だが、これで良かったのかもしれない。

これにて、抱えていたタスクはほとんど消化できました。
あとは今回の話の後日談とジョージの初恋、リサについて話を書いて完結としたいと思います。

あともう少しだけ、お付き合いください。


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初恋

 

ぼんやりと、シルエットが見える。

……銀の長い髪を惜しげもなく振りまく、女性。

 

この人は、見たことがある。

ずっと昔。

脳裏に薄っすらと残る人。

 

親父が一時期帰省していた時に連れていた女性。

 

俺は、その人に……。

 

「アカネ……さん……?」

 

思い出した。

確か、そう呼ばれていた……。

 

「……あら、思い出したの」

「……え?AK-12……?」

「こんばんは、ジョージ。もう夜中よ」

 

ベッドに寝かされていた。

それもそうか……あれだけボコボコにされれぱこうもなる。

 

「外傷は元に戻るそうよ。腕は……折れてはいないけど、しばらくは使い物にならないかも」

「……AN-94は?」

「あの子は……今回の暴走で謹慎って事になってる」

「そう、か」

「あの子は、もう大丈夫よ」

 

そう言って、AK-12は俺の頭を撫でる。

 

「そう言うの、柄じゃないんだが」

「貴方は……そうね、弟みたいなものよ」

「何だよそれ」

「……ちゃんと、思い出したかしら……私の事は」

「あー……まぁ、その、何だ……思い出した」

 

正直、頭を抱えたくなる。

ずっと記憶の奥底にあった憧れの女性。

 

俺の初恋の相手は……よりにもよってAK-12だった。

 

彼女は帰省していた親父の護衛……アカネと言う偽名で着いてきていた。

 

「母親と同じ顔した女に憧れてたとはなぁ……」

「大尉と同じ趣味って事かしらね」

「マジかよ……血は争えないってか……」

 

しかし、何故そんな事を忘れていたのだろうか。

 

「……流石に、記憶処理をさせてもらってたわ。年月が経って効果が弱くなってたし……それで思い出したのかもね」

「……なぁ、AK-12。正規軍に居たときに……」

 

俺に過剰なアプローチを仕掛けていたのは、もしかして思い出して欲しかったからなのか?

 

そう言おうとして、人差し指を俺の唇に当てられた。

 

「それは、秘密よ」

「……聞くのは、野暮だな」

「ええ。でも、今回のお詫びに……一つ、言う事を聞いてあげるわ。何でもいいのよ?」

「女性が、男に何でもと言うのは……感心しないな」

「貴方、動けないでしょう?それに……母親と同じ顔した女を抱くつもり?」

 

そう言われて、確かにそうだと納得した。

なので、

 

「目、開けてくれない?」

「……それは、どうして?」

「お前が目を開けてる所が見たい。気になるからな」

「私が、目を閉じているのは……」

「良いよ、知ってる」

「貴方、絶対引くわ」

「引かない」

「ウソよ」

「ホントだ」

「ウソ」

「ホント」

「………………後悔しない?」

「しない」

「そう……」

 

AK-12は、ゆっくりと、瞼を上げる。

 

……青紫色をした、少し形の違う瞳だ。

明らかに何かしらの機能を有した瞳。

 

「……綺麗じゃん」

「本当に、そう思ってる……?」

「もちろん」

 

何とか動く左手を、AK-12の頬に当てる。

……AK-12が、その手に自分の手を添える。

 

「初めて、言われたわ」

「そうなのか?見る目が無いな、アイツら」

「かも、ね……ありがとう、ジョージ。私は……貴方に着いていくわ。一生、ね」

「重いなぁ……」

「軍用人形で、MIA扱い。所有権なんて誰も持ってないもの……私達を、縛ってくれないかしら」

「AN-94は、承知しているのか?」

「しないと思う?」

「……思わない」

「だ、そうよ」

 

AK-12が、そう外へ言葉を投げる。

……部屋のドアが開く。

 

AN-94が入ってきた。

 

「……お前、謹慎は」

「ローニンが一時間だけ特別に許してくれた」

「お人好しめ……」

「ジョージ……ごめんなさい……私は」

「良い。恨んでもないし」

「でも」

「終わった事だ。それに……お前はもう自由だ。あんな奴らに縛られなくて良い」

「……ううん。私は……貴方に、縛って欲しい」

「……お前だけを見れないぞ、俺は」

「構わない……たまに、たまに構ってくれたら……それで嬉しい。貴方が私を認めてくれる……それだけで、私は貴方の為に戦えるから」

「そう、か……ったく。親父もおっかない奴置いてくわほんと」

 

改めて、二人の顔をみる。

 

「これから、よろしくな……二人共」

 

 




これにて、AN-94騒動は終息。

次回、女子会。


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記憶の残滓

「スコーチ」
「おはようございます、指揮官殿」
「ほら、見つかったぞ。お前の恩人」
「……誠でござるか」
「ああ。戦術人形一○○式……ここから少し遠い街で目撃情報があった」
「そうか……無事であったか……」
「……行かないのか?」
「拙者には、まだやるべき事がある。それが終わるまでは……」
「……わかった。休みは調整してやるから、いつでも言え」
「感謝します……指揮官殿……」




スコーチと別れる。

右腕が三角巾で吊るされている。

 

折れてはいないとは言え、やっぱり動かないのだった。

 

あれから、ローニンに殴られ、春に殴られ、リサにビンタされた。

あれ、殴られてばっかじゃない俺?

 

でも、AN-94のあの笑顔を見たらなんかどうでも良くなった。

 

「……カラビーナ?」

「………………」

 

執務室の前に、Kar98kが立っていた。

顎に手を当てて、何か考えている。

 

……思案する表情がコロコロ変わるので、暫く眺めていることにしよう。

 

「…………指揮官さん?女性の顔を、あまりジロジロ見ているものではなくってよ」

「いや何、愛らしい顔をしている」

「褒めても、わたくしは許しません」

「……参ったな。どうしたら赦してくれる?」

「無茶も怪我もしなければ」

「難しい話だ」

 

カラビーナも怒っているみたいだ。

それもそうだろう。

 

興奮剤の使用、バンガードごと大破する。

せっかく治った怪我も元通りだったのだから。

 

「指揮官さんは、もっと自分の事を大切にして下さるかしら」

「……善処する」

 

そう言うと、カラビーナは頬をふくらませる。

 

「その言葉は何度も聞きました」

「……あ―――」

「愛を囁いたって駄目ですわ。わたくしは怒っていますのよ」

「手厳しい」

 

どうも、本気で怒っている様だ。

 

「……なぁ」

 

ふと、気になる事があったので聞いて見ることにした。

 

「今度こそ、ってどうしたんだ?」

「……しっかり、聞いてらしたのですね」

 

カラビーナが目を伏せる。

……何となく、長くなりそうなので執務室に入る事にした。

 

「座りな……珈琲でも淹れよう」

「それならわたくしが」

「気にするな。たまには、良いだろ」

 

喫茶店育ちだから、それなりの珈琲は淹れられる。

 

「あら、もしかしてわたくしが初めてだったりします?」

「……うん?」

「指揮官さんの珈琲を頂くのは」

「……あー……確かに。お前が最初だな」

「そうでしたの……ふふっ」

 

カラビーナにカップを渡す。

心なしか少し上機嫌になっている。

 

「それで……それは、前の指揮官の時の話か?」

 

カラビーナも、トカレフの様に指揮官を喪っているのだろうか。

 

「いえ……わたくしは、ロールアウト前の記憶があるみたいで」

「……どういう事だ?」

 

ロールアウト前の、記憶?

それはどういう……。

 

「ずっと、誰かの手に抱かれていた記憶……大きな手」

「ふむ……あ」

 

そういう事か。

 

「それは……お前の、Kar98kの記憶だな」

「確かに、わたくしはKar98kですけれど」

「違う違う、銃の方だ」

「……銃の」

 

Kar98kと言う、銃に残された記憶。

おそらく、烙印システム関連で流れたりしているのだろう。

専門家じゃないからそんな事詳しくは判らないが。

 

「……どうしてでしょうね。もう、その手の温もりを失いたくないと思うのは」

「それは、自然なことだ」

 

カラビーナの手を取る。

指輪のされている左手。

その手を、俺は両手で包み込む。

 

「……指揮官さんは、手が少し冷たいですね」

「そうか?」

「でも、どうしてでしょう……胸の奥が、温かい」

「カラビーナの手は、温かいな……人形なのに。本当に、生きているみたいだ」

「わたくしは、貴方のお人形。指揮官さんが生きろと言うのなら、わたくしは生き抜いて見せますわ」

「なら、一緒に生きてくれ。戦場でも、ここでも」

「はい……失くしません、絶対に」

 

俺達は、暫く寄り添っていた……アニーと40が来て冷やかされるまで。

 

彼女の記憶の残滓。

感謝しなきゃいけないな……こいつを、大切に扱っていた名も無き射手に。

 

 




カラビーナに敷いていた伏線をやっと回収しました。

話が前後してしまって申し訳ありません。
次回はWA2000のお話。


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私がリサになった日

夜。

私……と言うか、私達はバーに集まっていた。

 

ここ、S-12の女性職員と、時間が合った戦術人形が揃い踏み。

そして……男性の姿は無い。

 

今日は、女子限定の飲み会……要するに女子会だった。

 

「そ、れ、でぇ?リサちゃんはあの指揮官の何処が良いのぉ〜?」

 

隣に座るノーススターがベロンベロンに酔っ払って肩を組んできた。

先日誕生日を迎え、20になったので飲酒が解禁されたのだ。

 

「どこって、そんな事言われても」

「かー!なにしても何されても好きって?愛されてるねぇ!指揮官は!」

 

ばんばんと背中を叩いてくる。

……彼女の恋人のG17はその隣でテーブルに突っ伏していた。

完全に潰れている。

 

「あ」

「こ、今度は何よ……」

「リサっていつから指揮官好きだったの?」

「は、はぁ!?いつから!?」

「面白そうな話の気配!」

「ちょ、40……うぇぇぇ……何で皆集まって来てるのよ」

「ふふふ、やっぱり皆気になるのよ」

「アニーまで……まあ、半分くらいアンタのせいだけど」

「あら本当?じゃあ馴れ初めから聞かせてくださるかしら?」

「えぇ……しょうが無いわね……」

 

気が付けば、バーに居る人々は全て私を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――アイツと初めて会ったのは、ロールアウトした直後だった。

 

ソイツは、指揮官見習いという事で戦術人形の育成実習を受ける為に……丁度、まっさらな私を受け持つ事になった。

 

「初めまして、WA2000。俺は今日から君の担当になったジョージ·ベルロックだ」

「……アンタが?」

「ああ」

「ふーん……」

 

ジョージが、手を差し出してくる。

これに、私は疑問を感じる。

 

「……これは?」

「え?握手だよ握手」

「何でそんな事を」

「これから背中を預ける相手だからな。それにカワイイ顔してる。お近付きになりたいだろ?」

 

私は、無言で差し出された手を叩いた。

 

「いってっ」

「ふざけないで。私は殺しの為に生まれてきた女よ。アンタみたいな男、願い下げだわ」

「おーおー気の強い事……こりゃ前途多難か」

 

―――――これが、私とジョージとの出会いだった。

ファーストコンタクトは、印象最悪だった。

 

 

―――――それから。

 

「これが、WA2000か。複雑な銃だな……」

「あ、あっ、あぁーーーーっ!!アンタ何してんの!!」

 

私は声を荒げてしまった。

何故かって?

理由は簡単だ。

 

私を……WA2000と言う銃を触っていたから。

 

「何って、俺はお前の担当だからな。お前の事を知らなきゃいけない」

「うるさいわね!良いから返しなさい!」

「はいはい……」

 

呆れた顔をしているのが気に障る。

私は言ってやったのだ。

 

「WA2000、あのな……」

「いい!?気安く私の名前を呼ばないで!その汚らわしい手で私の銃に触らないでちょうだい!」

「……判ったよ」

「大体前に言ったわよね!アンタみたいな軽薄な男願い下げって言ったわ!」

「悪いけど、俺は降りないからな」

「何で!」

「(借金を)放っておけないからだ」

「んなっ……!?」

 

……この時点では知らなかったけど、借金が放っておけなかったからみたいなニュアンスだったみたい。

私は正直、この一言で驚いてしまった。

 

「な、なな、自分が何言ったか分かってんの?!」

「ん?ああ……これが俺の気持ちだ」

「え、えぇっ……!?」

「なぁ、WA2000……俺は確かに軽薄だ。だが……真摯に、お前とはやって行きたいと思う。信じて欲しい」

「……私は」

「俺の事は名前で呼び捨てで構わない」

「……ジョージ」

「ああ。よろしくな、WA2000」

 

 

 

 

 

 

 

――――――そして、初めての戦場。

――――――そして、初めての勝利。

 

彼を信頼するには時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ……でもさ、決定的に好きになった瞬間ってやっぱりあるじゃん?」

「好きになった瞬間……か」

 

気が付けば30分も喋っていたらしい。

周囲に酔いつぶれて寝ていたり、帰っている人も増えている。

 

40やアニーも帰っている。

もう、ノーススターくらいしか居なかった。

 

「そうね……代理人とやりあった時かしら」

「え、代理人と……?」

「ええ。ジョージが……指揮官になる前にね。AR小隊の救出任務でかち合ったのよ」

 

あの時……損傷した私を置いて逃げる選択肢はあった。

あの日、初めてジョージに興奮剤を刺させたのは……間違いなく私だ……私のせいなのだ。

 

私が代理人に止めを刺されそうだった時……彼は薬を刺して私を救出した。

 

彼が、私のために……体質を変えてしまった。

それが分かったのが大分後だけれど。

 

「そう、なんだ」

「……ええ」

 

私も、大分深酒しているみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――結局、私にとってジョージという男はどんな存在なのか。

 

私は、一度折れている。

折られて、しまった。

 

今、彼女と一緒に生活しているが……夢想家に、私は完膚なきまでに叩き潰されている。

 

暗闇に閉じ込められ、プライドをへし折られ、希望を根こそぎ奪われた。

 

その私を照らしてくれたのは……間違いなく、彼なのだ。

 

醜く、ボロボロにされてしまった私に……いつもと変わらぬ笑顔で、いつもの様に手を差し出し、「帰ろう」と言ってくれた。

 

私は……あの日から、惹かれていた。

 

そして……彼の実家へ行った時。

 

私と彼の今後を決定付ける誓い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リサ。風邪引くぞ」

「……え」

 

気が付くと、バーには私しか居なかった。

 

「消灯時間、とっくに過ぎてるぞ」

「……あれ、皆は……?」

「帰ったし帰した。残ってるのはお前だけだよ」

 

ジョージが隣に座っていた。

手には、グラス。

 

「……指揮官なのに、消灯過ぎてお酒飲んでるのってどうなの?」

「良いんだよ、一番偉いから」

「職権乱用」

「うっさい。お前と飲みたいってのは駄目か?」

「なら、許す」

「そうか」

 

穏やかに時間が過ぎている。

殺しのために生まれた女が……惚れた男と、こうやってお酒を飲んでいる。

 

「どんな話、してたんだ?」

「知りたい?」

「質問に質問を返すのは……模範解答じゃないな」

「私の模範は、アンタよ」

「おっと、一本取られたか」

 

ジョージが一杯煽る。

私もカルーアを飲み干す。

体がぽかぽかしている。

 

「ふぅ……当てようか」

「ふぅん……?じゃあ、当たったら御褒美あげようかしら」

「お?本当か?なら、張り切っちゃうな」

 

ジョージが不適に笑う。

 

「俺の話だろ」

「……範囲広すぎ。失格」

「えー」

「大体……アンタの事、話さないと思ってるの?」

「ははっ、違いない」

 

簡単に当ててくるんだから、この男は。

 

「……ねぇ、ジョージ。私……弱くなったかな」

「どうして、そう思った?」

「私、さ。もうアンタが居ないと……駄目みたい」

「奇遇だな。俺も……お前達が居ないと、駄目だ」

 

ジョージが私の頭を優しく撫でる。

 

「俺は、お前達が見ていてくれたら……誰にも負けない。お前が居てくれたら、良い男を演じられる」

「私は……アンタが、信じてくれたら……期待に、応えなきゃって思う」

「うん、信じてるよ、相棒」

「……アンタは、ズルいわ。思ったことぽんぽん言えるんだもん」

「そうか?じゃあ……お前の気持ち、聞かせてくれ」

「……私は、あの日から(リサ)になったわ。それは……後悔なんて無いし、私はずっと誇っていくと思う」

 

ジョージの手を取る。

 

「ねぇ、ジョージ。私、貴方を愛して良いの?」

「勿論」

「即答、ね……」

 

だから、私はジョージを信頼できる。

 

「大好き」

「ありがとう」

「好き……愛してる」

「俺もだ」

「ずっと、一緒に居て」

「ああ」

「ジョージ」

「リサ」

「私は、貴方のお人形。貴方の為に……勝利を」

「期待してる……さ、帰ろうか」

 

ジョージに手を引かれて、立ち上がる。

そのまま……ジョージの部屋へ。

 

勿論、一緒に朝を迎えた。

 

 




次回、最終回。


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エージェント

お久しぶりです。

回収忘れと言う失態をカバーするために完結したSSにページを付け足すと言う悪手。

……非力な私を許して欲しい。


……結局、あれから鉄血の代理人とは遭遇していない。

 

「………………」

 

グリフィン本部の管轄街。

思えばここで遭遇し、因縁が始まった。

空に登る満月を尻目に、夜更けのバーの隅の席に座る。

 

護衛の人形……今日はグリズリーだ……は、外で待機している。

 

結局、グリズリーは親父の所に押しかけて……母さんにボコボコにされて帰ってきた。

まぁそうなるだろうとは思っていた。

……ただ、薬指に銀色のリングが付けられていたので……そう言う事になったのだろう。

 

表情も大分晴れやかなものだった。

 

……のだが、まさかこれグリズリーが俺の義理の母親って事になるのかとちょっと恐怖していた。

 

「こんばんは、ジョージ·ベルロック」

「……ニ度ある事は、三度ある……とは言うが。まさか本当にそうだとはな」

 

二人がけの席に、一人の女性が座る。

いつぞやの白いワンピース姿。

髪を降ろし、記憶にある姿とは別の側面の女性。

 

「久しぶりだな、代理人」

 

鉄血ハイエンドモデル、代理人。

それが、目の前に居た。

 

「ええ、お久しぶりですね」

「……なんとなく、また会う気はしていた」

「私は、また会える日を心待ちにしておりました」

「そいつは光栄だ。飲むか?」

「では、少し」

 

カシスオレンジを注文する。

手に持っていたグラスが空になったので、追加でハイボールを頼む。

 

「乾杯しますか?」

「折角だしするか。題目はどうするか」

「再会を祝して」

「オーケー。俺達の再会に――――」

「――――乾杯」

 

カツン、とグラスがぶつかる。

二人で一口呷る。

 

「ふぅ……で、今回は何しに来た?」

「そうですね。夢想家を返して頂けませんか?」

「美人の願いを叶えるのは男の本分だがそれは出来ない相談だ」

「アレが居ないと工廠の管理に支障をきたしてしまいますので」

「一人欠けたら回らないのなら、運用を見直したほうが良い」

「何分手が足りませんので」

「それはどこも同じさ」

 

グラスが空になる。

代理人のグラスも空になる。

 

「貴方を討たねばならない理由がまた増えてしまいましたね」

「やられる訳にはいかない理由がこっちも増えたね」

 

代理人が机に置いたチップをそっと突き返す。

 

「驕りだ」

「敵に塩を送ると?」

「いいや?礼儀さ。アンタには借りがあるんでね」

 

俺とリサのもう一つの因縁。

AR小隊救出作戦の時の屈辱を忘れた訳ではない。

 

「では、その様に」

「帰るのか?」

「ええ。ジョージ·ベルロック。最終勧告です。降伏するのなら……そうですね、愛人程度に可愛がってあげましょう」

「お断りだ。俺はまだ負けてないんでね」

「平行線ですね」

「ああ、平行線だ」

 

代理人が立ち上がる。

 

「それでは、御機嫌よう」

「おう。出来れば二度とその顔は拝みたくないがな」

 

音も無く、代理人は消える。

 

俺も、立ち上がる。

 

「……今度は、お前が地に伏せる番だ」

 

 




回収し忘れていた代理人のフラグを回収。
最終話の前の日、という事で。

これにて終幕。
今までありがとうございました。


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貴方の為の指輪

ある日のS-12地区。

 

「……どうしたんだ?改まって」

 

新しい基地が隣に開設されるので、そのための後方支援へ人形達や人力を騒動員している時期だった。

 

夜、リサに屋上へ呼び出された。

 

「……別に。たまには、良いじゃない」

「……そうだな」

 

二人で空を見上げる。

……珍しく、空は晴れ渡り星が瞬いている。

 

「ねぇ、ジョージ」

「ん?」

「私たちはさ、アンタに指輪を貰ったわ」

 

グローブのはめられていない左手を、リサは抱く。

 

「でも、アンタに私たちは何もあげられてない」

「……ハハッ、なんだそんな事か」

 

神妙な面持ちで、そんなことを言い出した。

別に、そんな事は気にしていないのに。

 

「俺は、お前たちから勝利を貰ってる。借金を返すための宛てだってお前たちだ」

「でも……」

「良いんだ、別に。俺はお前たちが居てくれるだけで幸せだよ」

 

リサの肩を抱いて抱き寄せる。

……彼女は、体重をこちらに預けてくる。

 

「あんたは、そう言うもんね」

「ああ、俺はそう言う」

「変わんないなぁ、ジョージは」

「お前は、変わったな」

「素直になった私は、嫌い?」

「まさか」

 

リサの頬にキスを落とす。

くすぐったそうに身をよじっている。

 

「……ほんと、アンタすぐキスするわね」

「嫌か?」

「……好き」

「そっか。嬉しいよ」

 

頭をゆっくりと撫でてやる。

……穏やかな時間が流れている。

 

俺たちは、無言のまま屋上のフェンスにもたれかかった。

 

「ジョージ」

「うん?」

「実は、もう用意してあるのよね」

 

ぺろっとリサが舌を出す。

かわいいなぁもう。

 

「皆でお金出しあったの。デザインも考えて」

「11人で総出かぁ……」

 

これは重い贈り物だなぁ……。

 

「……受け取っても?」

「もちろん」

 

掌にちょこんと黒い箱が乗せられていた。

それを受け取って、開く。

 

……中には、鈍く銀色に輝く腕時計が入れられていた。

 

「……時計か」

「それなら、ずっと付けてくれてるでしょ」

「勿論さ。ありがとう」

 

ご丁寧にもう時刻規制はされている。

腕にもぴったりだ。

 

「おいおい、いつ採寸したんだ?」

「アニーよ」

「マジかよ」

「色も……あんたの髪と同じ。G3が言い出したのよ」

「そうか……」

 

愛されてるなぁ、とつくづく感じる。

男冥利に尽きる。

 

「……ありがとな」

 

ここまで想われていて、あんな事言えたもんじゃないなと空を見上げる。

 

「……あ、泣いてる」

「泣いてねーし」

「意外に泣き虫だもんね、ジョージは」

「違うって言ってんだろ」

「……無理しないの。私達が……私が居るんだから」

 

リサがいったん離れて、俺に向けて両手を広げた。

 

「なんだよ」

「……おいで」

「いやいや……流石にそこまでは」

「なーんだ……まぁ、流石にこの流れでここまでするのは悪いかも」

「どうして?」

「だって、抜け駆けしてるみたいじゃない」

「ぷっ……なんだそれ」

 

抜け駆けって。

 

「俺はお前ら全員愛してるし順位を付けるつもりは無いよ……それに抜け駆けって、全員俺の嫁じゃん」

「……気持ちの問題よ」

「そうか……今度、皆で休暇取るか」

「11人まとめて?基地の戦力無くなっちゃうわよ?」

「……人員増やさないとなぁ」

「増えるかしら」

「……やめてくれー」

 

絶対人は増えない。

 

「ま、お前ら居るから大丈夫っしょ」

「ふふ、そうね」

 

時計を付けた左腕を空へ伸ばす。

 

「……幸せだなぁ」

「ふふ……当然よ」

「ほんと、嬉しいよ」

「皆にも、ちゃんと言ってあげなさいよ?」

「ああ……なぁ」

「何?」

「……お前だけ選ばなかった事、根に持ってる?」

 

少し、聞くのが怖かった事。

誓約をリサだけに絞らなかった事。

 

「別に。アンタの選択でしょ?私たちは……アンタを信じて着いていく。それだけよ」

 

……敵わないな、ほんとに。

 

「……ありがとな」

 

 

こいつらの為に、報いなきゃな……。

 

俺は幸せになれた。

こいつらも、幸せにしなきゃな。

 

 




そう言えばジョージは指輪は指輪していなかったのを思い出したので急遽拵えました。


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プロジェクト・エールシュタイアー

「……どういうことだよ、それ」

 

ある日の事。

久しぶりに親父が基地に顔を出してきたので応接していた時だった。

 

いつものくだらない話をしつつ、表情を引き締めてそう言った。

 

「途切れた血の再生。被験者の名前を取って『エールシュタイアー計画』と名付けられたらしい」

「……血、そうか……血統か」

 

かつて親父は母さんと結婚し、母さんの実家の決めた婚約相手から私怨を向けられていた。

そして、この話は私怨ではなく一族ぐるみの報復であった。

 

「血が途切れるのを恐れて、あいつらはやっちゃいけない事に手を出しやがった」

 

親父が写真を応接用テーブルに投げた。

……そこには、

 

「……母さん?」

 

俺の母親……ハルカ・ベルロックが写っていた。

ただし、目を開いて。

その目も生気を失ったかのように仄暗い。

 

「ジョージ。気を確かに聞いてくれよ」

「………………」

「これはな、()()()()()()()()()()だ」

「なっ……嘘だろ……」

 

クローン技術。

大戦前にも行われていたが……人類に転用するには倫理の観点から問題視されていた。

 

「そこまでして血に拘るのかよ」

「古い考えは俺たちにゃ理解出来ねぇもんさ。もちろん、向こうからもな」

 

親父が肩を竦める。

机に置かれたマグカップを手に取る。

 

「既に計画は始まり……ガキも生まれてる」

「……果たして、クローンから生まれた子供は、人間なんだろうか」

「それは……どうなんだろうな。もう大多数が破棄か処分されてるとか調べはついてる」

「……反吐が出るね」

 

勝手に作って勝手に捨てて。

本当に人間ってのは嫌になる。

自分も人間の一部だって事を差し引いてもな。

 

「今確認できてる生き残りは……4人だ」

「……で?そいつらをどうすんだよ」

 

新たに4枚の写真が投げて寄越された。

 

それぞれ男女が2名ずつ。

写真に書かれた走り書きは……名前か。

 

「……『マイク』『アリサ』『リリス』……んで、『パトリック』か」

「その子たちは捨てられた後孤児院……というか教会に拾われたらしい。まぁ人間らしい生活は出来たようだ」

「そうか……」

「……ただ、そのうちの3人は正規軍に入った」

「……マジか」

「ああ。俺が姿消してる間に入ってきたらしい」

 

自分たちの出自を知らないで……彼らは、兵士になる事を志したのか。

 

「……あとの一人は?」

「PMCだ」

「なるほどねぇ……」

「そっからの消息は掴めてないんだが」

「まぁ充分だ。で?親父は俺に何をさせたい」

 

ここからが本題。

ただ親子の団欒って訳でもないだろう。

 

「見つけ次第、処分してくれ」

「……報酬は?」

「借金、半分くらい払ってやる」

「お断りだ」

 

きっぱりと、言い切ってやった。

 

「……ま、お前ならそういうよな」

「分かってるなら言うなっての」

「冗談……にしちゃ笑えないか。まぁ、保護くらいしてやってくれ」

「で?そっちの()()()()は?」

「潰す」

 

一片の迷いすらなく、親父は言い切った。

 

「……勝手にくたばるなよ」

「分かってるさ。残った人生ハルカさんと……リズィと一緒に生きるって決めたからな」

 

リズィ、というのは……言うだけ野暮かもしれないが……うちのグリズリーである。

 

「今になって母親増えるかと笑えねーよクソ親父」

「息子の嫁が11人ってのはどう言い訳すんだお前」

「知るか。全部欲しいに決まってるだろ」

「ほんとお前俺の息子だわ」

 

親父がカップを置き、立ち上がった。

 

「じゃ、頼んだぜ」

「おう、任せろ……母さんによろしく」

「たまには帰って来いよ」

「ここ一応最前線だかんな?」

「知ってる。けど……そろそろ新しい基地出来るんだろ?」

「……なんで知ってんだよ」

「忘れたのか?俺とクルーガーはダチだって」

 

そう言えばそうだった。

近々、ここS-12地区は最前線ではなくなる。

新たにS-13地区が解放、そこへ基地が新設されるらしい。

 

「ま、そう言うことなら……また、誰か連れて帰るよ」

「流石に一人か二人にしろよ?スペースが無い」

「……努力する」

 

 

 

 

 

 

結局、怖いのは鉄血よりも人間なんだろうな。

 

「ジョージ」

「……んー?」

 

誰も居なくなった応接室で、俺はそのまま親父の寄越した資料を読んでいた。

そこへ、リサが声をかけてきた。

 

「怖い顔してる」

「……まぁ、な」

「また、何かするつもり?」

「まあ……そんなとこ」

「私にも話せない?」

「………………」

 

声音が段々と不安がっている。

どう答えたもんかな……。

 

「あー、その、リサ?」

「何」

「怒らないで聞いてくれるか?」

「内容による」

「……ちょっと、家庭の事情」

「私、家族じゃないの?」

「うぐ……」

 

結果:論破。

 

「はぁ……あのねジョージ。何か勘違いしてるようだから言っておくわよ」

 

がすっと後頭部に衝撃。

うわ、こいつ殴ったよ。

 

「いって……!」

「ふざけんな。今更遠慮する必要は無いわよ。アンタの死ぬところは私の傍よ」

「大げさな」

「そんな事あるもんですか。きっと皆同じ事思ってるわよ」

「えっ、何それ怖い」

 

嫁が全員そんな思想なの?

 

「茶化すな……全く、浮気とか絶対許さないわよ」

「心配すんな。流石にそんなんじゃない」

「そう?もしやったらアンタ殺してバックアップ全部消して後追うわよ」

「やめろっての……全く、昔のつんつんしてた相棒は何処行ったんだ」

「いるわよ、アンタの隣に……生涯ね」

「……サンキュ。もう少し、時間経ったら……話すわ」

 

今後の、戦いを。

どうにも俺は戦う人生らしい。

 

「ええ。信じてるわ」

「ったく、お前にゃほんと敵わねぇわ……」

 

 



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結構大ごとだったり

指揮官が風邪をひくとどうなるの?

―――――知らんのか?


なんやかんや色々あって詳しく言うのは省くが……。

 

「……38.5度。風邪だ。絶対安静」

「うそぉ……」

 

風邪をひきました。

リージョンが頭を抱えている。

 

「僕はこれから全部署にお前がダウンしたって言って回らなきゃいけない。この気持ちがわかるかクソ野郎」

「げほっ……すまん」

「マスクしろ馬鹿。お前の持ってる菌がどんな変化するかわからん。面会謝絶だ」

 

酷い言われようである。

仕方ないけどさ。

 

俺の体は一部の薬品を除く、ほぼ全ての薬物に対して完全耐性を備えてしまっている。

つまり、麻酔も効かないし風邪薬だって微塵も効かないのだ。

 

病気になったら俺の体力勝負である。

 

「ごほっ……まいったな。近々13地区ができるって言うのに」

 

今俺の所属するS-12地区の隣に、新たにS-13地区が設けられる事になった。

支配していた鉄血のハイエンドモデル、ドリーマーを退けた事によって領域が拡大したのだ。

 

「馬鹿な事言ってないで寝たらどうです?」

 

そっと、俺の額に手が置かれた。

ひんやりしている。

 

「……春。面会謝絶じゃなかったかここ」

「人形に人間の病気は移りませんよ」

「気持ちいい……」

「……こんな冷たい手でも、こんな時役に立つんですね」

「手が冷たいって言う人は、温かい心の持ち主らしい。きっと春のような気持のいい心をしている」

「もう……」

 

彼女は微笑んでいたが、ちょっと怒ってる。

エメラルドの瞳が少しずつ赤くなってる。

 

「ったく。今大事な時期だって言うのに……自己管理がなってないんじゃない?」

 

ドアを開ける音。

リサが水やらなにやら抱えて入ってきた。

段ボールを抱えたカラビーナも続いた。

 

「自分の体、一番よくわかってるつもりだったんだが」

「皆さんそういうんですよ」

 

カラビーナが桶を取り出してお湯を張っていた。

やけに庶民的だなおい。

 

「脱いでください」

「……今日はやけに積極的だな」

「冗談はこの状況だけにしてください。汗だくですわよ指揮官さん」

「はい。脱いで脱いで」

「おわ……!?」

 

3人がかりであっという間に剥かれたのだった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「昼は他の子が持ってくるから、しっかり寝てなさいよ」

「誰か見ててくれないのか?」

「はいはい。元気になったらずっと一緒に居てあげるわよ」

 

リサに額を軽く叩かれて寝かされた。

 

「おやすみ、ジョージ」

 

……すぐ眠くなる訳じゃないんだけどね。

横になって目をつぶる。

……そういえば、こうやって一人になる時間もそんなにない気がする。

実際毎晩必ず誰かしら隣に居たしな……。

 

(こうやってゆっくり出来るのも良いかな……)

 

たまには一人でゆっくりしてみようかな。

……ドアが、開いた。

 

「ん……?」

 

ドアが開いた。

 

「ごほっ……トカレフ」

「あ、起こしてしまいましたか……」

「大丈夫……まだ寝てない」

「それはそれで問題です。氷枕、持ってきましたよ」

「みんな、過保護だなぁ……」

 

トカレフから枕を受け取って取り換える。

冷たくて気持ちいい……。

 

「……それだけ、大事に思われてるんです」

「トカレフ?」

「当たり前じゃないですか」

「そっか。うれしいな」

「だって、私にはジョージさんしか居ないんです。居なくなられたら、また……私は」

「居なくならないよ」

 

トカレフの手を握る。

 

「俺は、死なない。お前たちが居るから」

 

絶対に、彼女たちという存在が消えるまで。

彼女たちを背負ったその日から、俺の命は俺一人の物じゃない。

 

「……本当ですか」

「もうトカレフを悲しませない。約束する」

「ジョージさん……」

 

泣きそうな顔をするトカレフを抱き寄せる。

 

「はーいストップ。いい加減寝なさい」

「あーん」

 

ひょい、とアニーがトカレフの首根っこを掴んだ。

 

「アニー……げほっ」

「トカレフ、ジョージも本調子じゃないんだから」

「分かってますよ。迫真の演技でしたでしょう?」

「演技?やれやれ、怖い子だ」

「ジョージ、つまんない意地張ってないで寝なさい」

「はいはい……お休み、二人とも」

 

まだひと悶着ありそうだけどね。

 

 




完結タグ付けた癖にどうして更新するんですかね…。
いや、だってあれ最終回って言うのもどうなのってちょっと思っちゃたんですよ。

そんなわけであと2、3話だけ挿入させてもらいます。
悪しからず。


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気合で治す

夜、目が覚めると。


……ふと、目が覚めた。

外は真っ暗。

時間を見ると深夜の一時。

何となくひんやりする。

季節はもう春だと言うのに。

 

「すぅ……」

 

誰かが寝ている。

……見間違えようもない。

リサだ。

 

ベッド横に椅子を置いて、俺の腹に突っ伏して眠っている。

活動限界ぎりぎりまで動いていたんだろう。

 

「……ありがとな」

 

そっと、髪を撫でる。

こいつには、ずっと世話になりっぱなしだ。

研修生時代から、ずっと。

 

「うぅん……あ、ジョージ……起きたのね……」

「ああ」

「お腹、空いてない」

「……朝から何も食ってないな」

 

なのに空腹は感じない。

これは本格的におかしいな。

 

「お粥、あるから。温めてくるわ」

「ありがとう」

 

リサが部屋から出る。

寝っぱなしもカッコつかないので上体だけ何とか起こす。

 

五分ほどして、リサが戻ってきた。

 

「お待たせ……寝てても良かったのに」

「お前が居てくれるんだ。もっと近くで顔が見たい」

「馬鹿」

 

でこを人差し指で突かれた。

 

「食べれる?」

「ああ」

「……良いわ。起きてるだけで辛いでしょ」

「ははは、何を」

「汗、すごいわよ」

「……バレたか」

「ほら。あーん」

 

すっと蓮華にお粥を掬って此方に差し出す。

 

「おいおい、流石にこの歳で」

「文句言わない。少なくとも治るまでは言う事聞いてもらうわよ」

「……わかったよ」

 

一口含む。

味は薄いが、温かいというだけで何となく落ち着く。

 

「これは誰が?」

「私」

「そっか」

「美味しい?」

「……ああ」

「そっか……」

 

しばらく、無言で食べさせてもらう。

 

「……ご馳走様」

「全部食べれたわね」

「全然そんな気がしなかったけど、腹減ってたみたいだ」

「これなら、すぐよくなりそうね」

「お前らのお陰だ」

 

皆が甲斐甲斐しく看病してくれたからすぐに良くなれる。

 

「……本当だったら、他にちゃんとした方法があったんだけど」

 

……久しぶりに、リサが自嘲気味な表情をする。

 

「気にしなくていい」

「……駄目ね。そう言われても、引きずるものはやっぱりあるの」

「……自分のせいだと思ってないか?」

「まぁ、そう来るわよね」

 

苦々しく笑う。

俺は、天を仰いだ。

 

俺がこの体質になった原因。

興奮剤の原液を体に投与するに至った経緯。

 

「目の前でお前を破壊されたくなかった」

「でも」

「お前はもうネジ一本まで俺のもんだ。文句言わせんぞ」

「……アンタの血の一滴まで私たちの物よ。もちろん、私たちがアンタにしてしまった、背負わせたものも、全部」

 

リサが俺の手を握る。

少し、震えている。

 

「やっぱり、考えちゃう。アンタが、死んじゃうかもって」

「トカレフも同じ事言ってたな」

「正直、皆同じ事考えてるわよ。スプリングフィールドも、そういってた」

「……そうか」

 

これは、すぐに快復しないとなぁ。

 

「俺は、お前らより先に逝けないなぁ」

「当たり前よ。私はアンタと同じ墓に入るんだから」

「おいおい何年後だ」

「11人分しっかり生きなさいよ」

「……何かみんな同じ事言いそうだ」

「棺桶いっぱいね」

「最期までお前らと一緒に居られたら良いな」

「生きるのよ、その時まで」

「そうだなぁ」

 

リサの手を引く。

 

「……しないわよ」

「どうせなら一緒に寝ようぜ。関節、変な風に固まるぞ」

「どっか行かない?」

「不安なら、俺を捕まえてみろ」

「朝までしっかり抱きしめてあげるわ。おやすみ、ジョージ」

 

 

 

 

翌朝、すっかり快復したのだった。

 

いや、流石にそれはおかしくない?

 

 

 

 

 




リサと二人だけのパート。
他の人形も絡ませなくちゃなぁ。


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帰ってきたグリズリー〜逆襲の灰熊マ〜

グリズリーが長期休暇から帰ってきました。


「ただいま、ジョージ」

「え?あ、おかえりグリズリー」

 

ある日。

長期休暇を取っていたグリズリーが唐突に帰って来た。

ただ、格好が何時もの服ではなく……サイズ……特に胸部が合わないのか凄まじくパツパツだった。

 

「……お前その格好で帰ってきたのかよ」

「仕方ないじゃない。ハルカの服私に合わないんだもの」

「何で母さんの服着てんだよ……」

「借りたの」

「よく貸してくれたな」

「だって私の服、全部ハルカに駄目にされたもの」

 

……は?

俺は今日の副官のGrG3と目を合わせる。

彼女は困ったように微笑んで首を傾げた。

 

「可愛いじゃないかG3……今夜どうだ?星の綺麗なレストランで食事でも」

「仕事しなさい」

「げふっ」

 

グリズリーに頭ひっぱたかれた。

 

「うるせぇよ今の今まで休んでたくせに。何してたんだよ俺の実家で」

「ジョンに泣きついた」

「G3?今日の残りの業務は?出張とか無い?3日くらいの」

「聞け」

「いででででででえやめろ離せ!バンガード!バンガード!!」

『プロトコル03!』

「あっこら!強化外骨格は卑怯よ!!」

「うるせぇバーカ!!全力のお前らに生身で勝てるかっての!!」

「知ってるわよ!最近主導権握ろうと調子乗ると皆に人形の出力で抑え込まれてるの!」

「何で!?」

 

どこで繋がってんだこいつら。

 

「それで、貴方の実家に行ったのよ」

「聞きたくねー……あっ、バンガード帰らないで頼む」

「そしたらジョンの奴老けてたわ……」

「そら30年の歳月が」

「……カッコいい歳の取り方して。ジョージも将来お父さんそっくりね♬」

「タイタンフォールスタンバイ!!!」

「うるさい」

「あばっ」

 

嫌だ、この場所に居たくない。

今すぐG3と遠い所へ逃げ出したい。

 

「それでね、ありったけの想いの丈をぶちまけたの。その場で」

「参考までに聞くけど、どこで」

「玄関で」

「リサァ!リサァ!!たすけて!!」

「ジョージさん。私が着いてますよ」

「G3ぃ……」

「そしたらハルカが出てきてジョンぶん殴られたわ」

「当たり前だろ」

 

ぶっとぶ親父が容易に想像出来る。

 

「その後色々言われてあきらめろって言われちゃってさ」

「そら結婚した上に息子産んでるしな」

「でも諦めきれずに決闘挑んだのよ」

「こえーよ30年の執念」

「そしたらハルカなんて言ったと思う?『ダミーも、持ってるものすべて出しなさい』って言ったのよ!」

「先月のお前のダミー全損して送られてきたけどまさか」

「まぁ惨敗したわ」

 

ですよねー。

在籍時代格闘戦、近接戦闘において正規軍最強と謳われてた女傑、老いてなお健在か。

 

「それでも私は向かったわ。だって、あのいけ好かない女を殴れるチャンスだったもの」

 

結局、一方的に地面に何度もたたきつけられたらしい。

それでも立ち上がっては吹っ飛ばされ、機能停止寸前の大破状態までボコボコにされたそうな。

 

「結局、最後はあいつの足掴んでそのままブラックアウト」

「まぁそうだろうな……母さんに格闘戦で勝てる人間人形なんて想像できない」

「で、目が覚めたら治ってたのよね。それで、ハルカに謝られたの」

「やり過ぎたってか?母さん、やっぱり親父の事になるとタガ外れるからな……」

「その後はまぁ」

 

グリズリーがグローブを外す。

俺は顔が引きつった。

 

……左手の薬指に、銀色に輝く指輪がはまっているからだ。

 

「まあ」

 

G3も驚く。

 

「ハルカが気に入ったって言ってジョンに私を買わせたの」

「嘘だろ……」

「まぁそしたらびっくりしたわ。ハルカ、両方イケるくちみたいで」

「うっわ聞きたくなかった……」

 

母親がバイだったって聞きたいか?

もう帰りたいよ俺。

あ、ここ家だわ。

 

「そんなわけでジョージ」

「はい……」

「私の事、お義母さんって呼んでも良いのよ?」

「……もうやだあ……」

 

俺はその場に崩れ落ちたのだった。

 

 




そんなわけでグリズリーの話の補完回でした。

リサとジョージぼ絡みだけ書くのか、他の人形達とも書くのか、それとも職員達との絡みを書くのか……全部やったらまた長くなりそうだ……。

感想お待ちしております。


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人形達のサイドアーム談義

そう言えば、戦術人形達にサイドアームを持たせる話が唐突に浮上した。


 

「おいジョージ。そろそろ人形達の装備も拡張した方が良いんじゃないか?」

 

ある日。

業務に追われていた時だった。

後方幕僚兼補給担当のローニンがそう言った。

 

「拡張、か」

 

人形達は自身の半身である武器と刻印による接続があるため熟達の兵士の様に愛用できるのだ。

……ただし、それ以外の武器に関しては知識だけでコントロールする術を持たない。

 

「サイドアーム、持たせるべきかね」

「ライフル人形は近づかれたら終わりだからな。うちにはショットガンもいない」

「でもなぁ……春とか素手の方が下手したら強い」

「あー……」

 

余談だがノーススターは常にG17と行動するため死角が無い。

ただ、輸送中にひたすらいちゃついてるから何とかしてほしいと彼女の部下たちから苦情が来たので合コンをセッティングしてやった。

 

「スプリングフィールドもまぁ……お守り的な意味で持たせたら……」

「多分銃剣の方が良いかもしれん」

「うちの人形マトモじゃない奴しかいねーじゃん」

「人形と人間の混合部隊だぞ。何を今更」

「ごもっとも」

 

さて、サイドアームか……聞いてみるか。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「と言う訳なんだが。何か希望は?」

 

ライフル3人娘こと最愛の3人……リサ、カラビーナ、春の3人が丁度休憩スペースで談笑していたので混ざるついでに聞いている。

 

「そうですね……銃剣が欲しいです」

「サイドアームの意味わかってるか春?」

 

やっぱり言いやがった。

カラビーナがすっと手を挙げる。

 

「やはりハンドガンでしょうか」

「SMGはちょっとデッドウェイトかもなぁ。うちに残ってるSMG奴っていうとRシリーズだし」

 

R-99とR-97。

両方とも発射レートに優れたSMGだがじゃじゃ馬の様に跳ね回る困ったちゃんだ。

流石にこれの完熟訓練には時間が掛かりすぎる。

 

「ハンドガン、ですか。種類はありまして?」

「そうだなー……ウチにあるにはハモンドのP2016とRE-45マシンピストルだな。お前ら向きはP2016かも知れん」

 

ハモンドP2016はハンドガンと侮る事無かれ、かなりの威力を秘めた銃だ。

 

「マガジンは10発。相手は3発で仕留められる。お前らの精度なら問題なく……」

「ジョージ」

 

今まで黙っていたリサが、口を開いた。

 

「ん?どした」

「それ欲しいわ」

「お、ハモンドか。良いチョイスだ。流石……」

「違うわ。ウィングマンよ」

「……えっ」

 

リサが指さしたのはP2016ではなく、俺……俺のウィングマンだった。

 

「おいおい、こいつは……」

「あんたと同じが良いの」

「ぐ……」

 

不意打ちは辞めて欲しい。

 

「それは良いですわ!わたくしもウィングマンが良いです!」

「貴方とお揃いという事でしたら、私もウィングマンが良いです」

 

カラビーナと春も続いてくる。

 

「え、えぇ……これ結構扱い難しいぞ」

「勿論教えてくれるのでしょう?ジョージさん?」

「カラビーナ……俺も仕事がだな」

「仕事とわたくし達、どっちが大事ですの?」

「そんな事言わせてごめんな。勿論お前達だ」

 

この間1秒未満。

リサがため息を吐くけど笑っていた。

 

「それでこそジョージね」

「それでは、よろしくお願いしますね先生?」

「う……」

 

この後ローニンにウィングマン3丁を申請た所苦笑されたのだった。

 

 

 




ウィングマン3丁追加入ります(白目

サイドアームだって言ってんだろうが!


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指揮官として、男として

色々ありましたが、元気が出たので再開します。
ホント申し訳ありません、こんなブレブレ作者で。


 

グリフィンは、年に何回か……指揮官を招集して大規模な意見の交換会を行っている。

まぁ基本的にヘリアンからの通達で終わるのでそんな大層な物ではない。

 

俺だって基地を長く開けたくないから正直時間の無駄だと思っている。

でもこれすっぽかしたら後が面倒なんだよなぁ……。

 

クルーガーに色々言われそうだし。

というか今日この後クルーガーに飲みに誘われてるし。

勘弁してくれ。

 

「……あいつめ」

 

そんなヘリアンが目の前で手にしていた手紙を思いっきり握りつぶした。

聞いた話によると、毎回毎回この定例会に手紙だけ寄越してすっぽかす指揮官がいるらしい。

羨ましい限りだ。

 

ふと、壁際に立つ年若い男と目が合った。

彼はふっと笑う。

実に好青年らしかった。

 

(あんな奴いたっけな……)

 

前回の会議では見ていない顔。

恐らく新人だろう。

 

(……新人が自分の基地放り出していきなりこんなとこ来るかね……)

 

それに、数多くいる指揮官の中でああも冷静に……しかも微笑んでいる。

かなりのやり手か……。

 

(ただの阿呆か)

 

意識は部屋に残してきたリサとトカレフに向いて行ったのは言うまでもない。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「最近、順調か」

「……ぼちぼちってとこ」

 

夜。

俺はいつぞやの赤のれんの下に居た。

隣に座るのはいかついおっさん……クルーガー。

 

「11人嫁を囲って毎日死にそうに過ごしてるかと思えば、順調か」

「誰から聞いたそれ」

「ジョンだ」

「親父……」

「あいつも誓約を交わしたって聞いてな。ハルカさん一筋だったと思えば」

「あれは……何というか」

「お前達親子は、変わらないな」

「やめろその親戚のオッサンムーヴ」

 

どうにも最近クルーガーの目が妙に生暖かい。

なんか苦手である。

 

「そう言えば、ひとつ警告だ」

「あん?」

 

クルーガーが焼酎を一息あおる。

 

「最近、少しずつスポンサーの息のかかった者が指揮官に就任している」

「人が増えてるし良いんじゃねーのか」

「そうも簡単にいかんのだ。前線から優秀な人形を引き抜こうとしている」

「はぁ?」

 

そんなもん普通は許すわけないが……。

 

「……それで、上か」

「ああ。なまじ強力なバックが居るせいで好きなようにやられている」

「情けない」

「誰も彼もがお前の様に金と女以外に興味無い訳ではない。メンツも地位も何もかも守る者もいる」

「失礼な」

「これでも褒めているつもりだ」

 

しかし、面倒な事になりそうだ。

 

「頼みがある」

「嫌だ」

「聞け」

「断る」

「わからんか」

「わかりたくない」

「金なら出す」

「どんな内容だ」

「ハァァァ……簡単だ。そいつの鼻ッ面を折ってやれ」

 

何かと思えば……。

 

「そんなん実戦出たら嫌でも思い知るだろ」

「それが、そいつの勤務先は内地……ここから割かし近いのだ」

「えぇ……めっちゃ身内に暴走許してるじゃねーか」

「返す言葉もない」

 

珍しく弱気になってまぁ……。

 

「白髪増えたなクルーガー……」

「誰かが借金増やす上に返さないからな」

「うぐ」

 

それを言われるとこちらも何も言い返せない。

 

「ま、先に釘を刺しておこうと思ってな」

「あ?」

「お前なら十中八九問題を起こす」

「どうして」

「お前の人形(おんな)が絡むからだ」

「……オーケイ、察した」

 

なるほど、ね……。

 

今日の代金はクルーガーが出した。

まぁ俺払った事無いんだけどさ。

 

「……ありゃ、マジモンの阿保だわ」

 

面倒にならなきゃ良いんだけどなぁ。

 

 




完結前にナイーブになって投げ出したくせに恥ずかしながら戻ってきました。
今度こそ完結まで頑張らせていただきます……本当にすみませんでした。


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予感的中

引き続き、グリフィン本部にて。


「で?ジョージ。私とは飲んでくれない訳?」

「あー……すまん、ちょっと、頭痛い」

「ジョージさん、飲みすぎですよ」

 

翌日。

リサとトカレフに肩を貸されて本部の廊下を歩く。

結局、あの後しこたま飲まされて二日酔い一歩手前である。

 

「ジョージ・ベルロックさんですね」

 

……誰だ?

背筋を正して相手を見据える。

 

黒髪の優男……。

あ、こいつ昨日の会議で俺と目を合わせた奴だ。

 

「ああ、昨日の」

「覚えててくれたんですね?嬉しいなぁ」

 

にへら、と笑う。

気色の悪い奴だ。

 

「で、二日酔いの阿保でも無いアンタが何でここに」

 

リサに脛蹴られた。

ちょっと痛い。

この男が連れているのは確か……ショットガンの人形か。

簡易的な防壁によって防御力に優れる人形群だ。

建造するには大型建造という特殊な建造を……いや、この話は止そう。

資材も金もないうちには関係のない話だ。

 

「いえ、いろいろな指揮官にお話を伺っていたんですよ」

「へぇー……勉強熱心だな」

「真面目なのが売りなので」

 

新人にしては分不相応なグレードの人形を連れてはいるが……その程度か。

しかし、ぴりぴりと頭の片隅で警鐘が鳴り響いていた。

 

「ジョージさんも、まだ指揮官生活は長くないんですよね?良かったらお話、聞かせてくれません?」

「あー、色々はなしてやりたいところだが……俺はもう戻らなきゃならねぇ」

「そうですか……では、要点だけ」

「要点?」

「ええ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「………………」

 

ほら来た。

やっぱりか……こいつが例のボンボンあほ指揮官か……。

 

「悪いが、うちは知っての通り最前線だ。資源も戦力も常にギリギリ。貸し出せる戦力なんてない」

「近々13地区が出来るじゃないですか」

「………………」

 

無駄に情報が早い。

 

「対価は勿論支払いますよ。……そうですね、そのWA2000とかどうです?」

 

ぷっつん。

 

「あ”?今なんつった」

「ちょ、ちょっとジョージ……」

「……どうされました?」

「首を縦に振ると思ってんのかガキが」

 

静止するリサの手を払って掴みかかろうとするのを、トカレフが止める。

 

「いやですねぇ。たかだか()()じゃないですか」

「……ああそうだ、確かにこいつらは()()だ。だがそれ以上に()()だ。替えなんて利かない」

 

そうだ。

俺たちの関係は確かに恋人だがそれ以上に戦友なんだ。

 

「珍しい方ですね。それでいて……とても、残念な方だ」

「なんだと?」

「代替可能な使い捨ての兵器にそこまで肩入れする必要はありませんよ」

「………………」

 

この野郎……!!!

こっちの我慢の限界を試しているのか?

バックにスポンサーが付いているから俺程度つぶせると?

俺が失職すれば確かに所有している人形はI.O.Pに返還される。

 

だが、

 

「……はぁ。俺に問題を起こさせて、圧力を掛けて失職させる気か?」

「まぁ、最終的にはそのつもりです」

「そのあと人形を回収する、か……何人哀れな指揮官が食われたのやら」

「嫌ですねぇ、少しお話しただけですよ」

「そうか。その後、他所の人形を意識を残したまま記憶を消すさまを見て随分と楽しんでたじゃないか」

 

それを言った瞬間、初めてボンボンが動揺した。

 

「……どこでそれを」

「お前の事を疎んでる輩だってごまんと居る。高くついたがな」

「……それで?」

「査問会に突き出す」

「へぇ。私がスポンサーの息子だと知ってそれを言ってるならお笑いですね」

「そうだな……例えば、お前のとこの親父と俺の親父が知り合いだったとか?」

「は……?」

 

うちのクソ親父が握っている母さんの血族の情報。

その中にこのクソ野郎も含まれていた。

だからクルーガーは俺に依頼したのだろう。

 

「あまり度の過ぎた遊びに精を出すなよ。火遊びは身を亡ぼすぞ坊や」

「……調子に乗るなよ異常性愛者」

 

おっと、キレやがった。

後ろに控えてたショットガンの人形が銃口を上げる。

ご丁寧にリミッターを外し、人間に照準を合わせられる。

 

「銃を下ろしなさい」

 

まぁ後ろの二人がそんなのを許すわけないがな。

リサがウィングマンを突き付けている。

トカレフが俺の前に出ようとしたのを優しく止める。

 

「悪いが、お前のその子じゃ話にならない。やめておけ」

「な、何を言って」

「人形の練度の差を見抜けないようじゃ三流だな。もう少し経験積んで出直せ。今なら見逃してやる」

「き、貴様……!」

「映像は記録した。先に構えたのはお前だ」

「チィ……」

「ま、こいつらは俺が買い取って誓約してるからどう足掻いてもお前の物だ」

「は……誓約までしてたのかよ……!」

「異常なのはお互い様だ。さっさと帰んな」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「……で、そのまま帰しちゃって良かったの?」

 

その夜。

執務室で貯まった仕事を片付けている。

 

「そうですよ、あんなの足と手に1発ずつ打ち込んでやればすぐ泣いて詫びますよ」

「さらっと怖い事言うね君……」

「トカレフ、落ち着きなさい。あそこは手を出した方が負けてたの」

 

荒れるトカレフをリサがなだめていた。

 

「二人とも、よく我慢してくれた」

「私はアンタが我慢したことに驚いてるわ」

「お前達が居たからな」

「だと思った」

 

リサが呆れて笑う。

トカレフが俺の膝の上に座ったので頭を撫でてやる。

 

「はぁ、変な見栄張ってたらそのうちまた倒れるわよ?」

「じゃあ、お前達に癒してもらおうかな」

「はぁ?あんたねぇ……ちょっとトカレフ何スカートの下に手を突っ込んでるのよ!?」

「私はいつでも準備OKですよ」

「えっ、ちょっと、ジョージ!」

「リサ」

「ジョージ……んっ、馬鹿……もう……」

 

 

ま、何とかなるでしょ、こいつらと一緒なら。

 

 

 




そろそろ〆ようかなと思っていたり。
もしくは他の人間キャラ達の絡みを書くかどうか。


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スマートピストル運用試験

思いついたので久しぶりに投稿しました。


ある日、俺はIOPの16LABに呼び出されていた。

 

「はい、ジョージ指揮官。これの試用よろしく」

 

最近、グリフィンの兵器開発に度々声が掛かるようになった。

試作兵器のデータ取りは基本俺がやるようになっている。

 

データもそれなりの値段で買ってくれるのでやらない手はない。

 

ペルシカに渡されたケースを開く。

中には1丁のハンドガン。

 

「RE-45にしては随分大きいな。てか重い」

 

取り出して構えてみる。

銃口まわりがやけに尖ってるなこいつ。

重量も無視できない。

この重さではサブウェポン……とっさの使用には向かない気がする。

 

「……これは一体」

「スマートピストル、と銘打っているわ。これはその試作5号機ね」

「スマートピストル、か」

「バンガードは来てるかしら?」

「ああ。バンガード」

『起動しました。いつでもリンク可能です』

 

隣接された試験スペースに、相棒たる外骨格が展開されている。

 

「この銃はバンガードとリンクして効果を発揮するわ。今回はマガジン2つ用意してあるから、ちょっと撃ってみて」

「……ああ?」

 

外骨格が必要なハンドガンって何だ?

まさか、ウィングマンより反動デカイんじゃねーのかこれ。

 

バンガードを装着し、いつもの薬品投与。

 

バイザーを卸して銃を握る。

 

『オペレート、スマートピストルモード』

「えっ」

 

ディスプレイが急に変わった。

画面の真ん中にカーソルが現れる。

 

『ターゲットを出すわ。狙わないでトリガーを引いて』

「???狙わないで?何故」

 

銃は狙いをつけなければ当たるものではない。

 

視界にターゲットを捉える。

 

「……ロックオン?」

『指揮官、トリガーを』

「ああ……へぇあっぇ!?」

 

変な声出た。

いやだってそうだろうよ。

 

弾が出たと思ったらカーブを描いて曲がったんだから。

 

「は?な、何だこれ気持ち悪っ!!」

 

てかフルオートかよこれ!

 

『ふむ。ロックオン機能は正常ね。フルオートで全部誘導するか見たいわ。マガジンを変えて頂戴』

「あ、ああ……」

 

満タンの方のマガジンを挿した。

これ、どう言う理屈だホントに。

 

銃を前に向けて、トリガーを引く。

 

視界の中の全然明後日の方向に弾が飛んでいっている……。

 

「え、えー……」

『問題無いわね。お疲れ様、ジョージ指揮官』

 

何か今回も物凄く納得がいかなかった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「今回使ってもらった銃は、簡単に言えばホーミング弾ね」

「はぁ……」

 

試験後。

軽くシャワーを浴びさせてもらってからペルシかと向き合ってコーヒーを飲んでいる。

 

ちなみに胸焼けがするほど不味い。

なんだこれ。

護衛として同行していた春の瞳がオレンジ色になってる。

ちょっとキレてるよこの子……。

 

「バンガードがロックした相手を追尾してくれる」

「実現すればかなり強力な兵器だな」

「まずはバンガードの量産とスペックダウンが先だけどね」

 

装着する度にドーピングしなきゃ使えないなんてパイロット潰しもいいところである。

 

「これ、弾何使ってんだよ一体……」

 

マガジンの中に残っていた弾丸を摘み上げる。

なんか変な形してるし。

 

「それ?マイクロミサイルよ。一発で貴方の借金が5回返せるわ」

「…………………………は?」

 

手から弾丸が落ちた。

乾いた音を立てて転がる。

春の瞳がエメラルド色に戻って見開かれている。

 

「……ジョージ指揮官?」

「あ」

「あ?」

「あばばばば」

「ジョージ指揮官が壊れたわ!至急鎮静剤を!」

「あばばばばばばばば」

「だ、駄目ですペルシカさん!ジョージには効きません!」

「ぁぁあ゛あ゛あアア゛ああ゛アアア゛アああアア゛ああアア゛ア゛アァァ…」

「スプリングフィールド!暴れる前に落として!」

「ごめんなさいジョージ!後で何でもしますから!!」

「ガフッ」

 

なんて日だ。

 

 

 




不定期に増えてますけど……大丈夫ですかねこれ。


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後方幕僚の憂鬱

今回は視点を変えてみます。


 

起床。

窓の外は良い天気だ。

 

まだベッドの中で丸くなる妻に苦笑して、額にキスして肩を揺する。

 

さて、今日も一日……精一杯生き抜くとしますかね。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「……オイ、このクソ野郎」

 

自分でも驚くほど低い声。

すぐに手を出さない俺を褒めて欲しい。

これでも時代遅れとは言え大規模なPMCで部隊長をやってたからな「。

 

「お、おう。何だローニン」

 

俺の前に座るグレーの髪の伊達男が汗を垂らしながら明らかに動揺している。

 

「今月に入ってから、バンガード何回壊しやがった」

「え、あ、あはは……3回目かな」

「6回目だ阿保が!!てめぇまだ今月入ってから2週間だぞ!!」

 

そう、俺の所属するPMC……グリフィン&クルーガーのとある基地の抱えた強化外骨格。

「S-12地区指揮官専用強襲補助外骨格モデルタイタン・バンガード4040」とか言う名前だったか。

それをこいつはなんべんも壊しやがる。

 

「仕方ねぇだろ!いくら移動力に優れようが向こうは光学兵器だ!当たるもんは当たる!」

「そもそも前に出るんじゃねぇボケが!てめぇそれでも指揮官かジョージ!!」

 

流石に手が出た。

俺がジョージと呼んだ男はこの基地の指揮官……まぁ最高責任者なんだが。

 

護衛兼副官の人形も呆れてため息を吐いている。

 

「指揮官、ローニンさんに怒られるのも何度目ですか」

 

副官……9A-91が呆れつつもジョージに書類を渡していた。

中身は今回の要件だ。

 

「いつつ……ありがとう、ハニー。で?これが」

「ああ。近々就任するS-13地区指揮官の情報だ。お前には公開しても良いって上からの判断だと」

「……『リリス・エールシュタイアー』……なかなか美人じゃないだだだだだだだ痛い痛いもっと優しく頼む9A-91!!」

「はぁ……で?この子がお前の言ってた子供たちのうちの一人なんだろ」

「ああ……どうすっかなぁ」

「3か月はお前が面倒見るんだ。その間に何とかしろ」

「……せめて、死なせない様にしてやらないとな」

「同感だ。隣で死なれるのは寝覚めが悪い」

「サンキュー、ローニン。承諾の旨を本部に送り返しといてくれ」

「報酬はせびらなくて良いのか?」

「足りない物があるならお前が適当に書き足しといてくれ。後で良いから報告頼むわ」

「良いのかよ指揮官サマ?」

「今更変な真似はしないと信じてるからな」

「………………」

 

このプレイボーイは平然とこんな事言いやがって。

 

「分かった。好きにさせてもらう」

 

さて、何が足らなかったっけな……。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

結論から言うと、何もかも足らない。

元々うちは最前線に借金塗れの無いない基地だ。

指揮官のジョージが多方面から睨まれ厄介払い兼嫌がらせでそりゃもう酷い扱いだった。

 

……それを何とかしたのもアイツだけどな。

体張って損失を抑え、やばい薬刺してIOPのモルモット。

それだけやって今ここはもっている状態だ。

 

俺も必死になるさ。

 

「……何やってんだ」

「!!」

 

倉庫に足を運ぶと、黒服の少女が肩を跳ねさせた。

 

「ろ、ローニンさん……」

「kar98k、人形のお前が何で倉庫なんかに」

「え、えっと……それは」

「にゃー」

「……オイまさか」

「ち、ちちちちち違うんですのよ!?IDWですわ!」

「IDWは後方支援中だ。吐け」

「う、うう……」

 

Kar98kがしぶしぶ退く。

……そこには、目すら開いていない仔猫が毛布にくるめられていた。

 

「こいつ、機械じゃない本物の猫じゃねぇか……!」

 

今、野生生物の飼育は厳しく制限されている。

何故なら、未知の感染症や崩壊度合いが分からないからだ。

ある日突然EULIDになったりしたら笑えない。

 

「……母親が、わたくし達の戦闘に巻き込まれて……」

「それで、連れ帰ったと?」

「………………」

「はぁ……それでも、規則は規則だぞ」

「ですが」

「お前、ジョージに相談したのか?」

「いえ……」

「はぁー……」

 

悪いとこばっか影響された気がする。

 

「どのみち、動物をこんなとこに置いとくのは色々問題がある」

「ローニンさん……」

「お前、ジョージの野郎にちゃんと相談しろ。あいつならお前の為に労力は惜しまない」

「ですが、ジョージさんに迷惑が……」

「これがバレた時の方が面倒だ。あいつに不利になっちまうぞ」

 

Kar98kがハッとした顔になる。

 

「お前もジョージもお互い愛し合ってるんだ……ちょっとくらい迷惑かけあうってのが夫婦ってもんだぜ」

「……ふふ、ありがとうございます」

 

Kar98kが仔猫を抱えてパタパタと走って行った。

 

「……ったく、どいつもこいつも」

 

 




と言う訳でローニン回でした。

他にも人間キャラを出すかどうかちょっと迷ってます。


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吐露

 

「ジョージ、あんた私に何か隠してるでしょ」

 

ある日。

起き抜けにそんな事を枕元で言われたんだからたまったもんじゃなかった。

とんでもなく心臓に悪い一言。

幸運なのは、別に浮気に心当たりがないって事。

 

「……朝からなんだい、ハニー」

「そのままよ、ダーリン」

 

リサに鼻をつままれた。

痛い。

昔のリサならハニーって言っただけで顔真っ赤にして演算領域いっぱいいっぱいだったのに。

 

「隠し事、ねぇ。俺に息子がいたとか?」

「いるんでしょ、弟」

 

もうこれは誤魔化せない。

いくらなんでも鋭すぎる。

春の影響か?

……母さんの影響だなこれ。

 

「どこでそれを?」

「どこだと思う?」

「質問を質問で返すのは、利口とは言えないぞ」

「愛する私に隠し事するのは、誠実とは言えないわよ」

「……分かったよ。話す」

 

段々リサに勝てなくなってきた気がするな。

 

「俺さ、最近分かったけど父親違いの弟居たんだわ」

「……お義母様が?まさか」

「正確に言うと母さんのクローン」

「……悪趣味」

「同感。反吐が出るね」

「それで?あんたはどうしたいの?」

 

じっ、とリサが俺を見据える。

彼女の瞳の中に、俺の顔が写っている。

息のかかる距離。

 

キスで口を塞ぐのは簡単だ。

 

「助ける」

「言うと思ったわ」

 

にっ、と笑ってリサが俺の口を唇で塞いだ。

 

「なら、やることはひとつ。でしょ?」

 

リサが先にベッドから起き上がり、部屋のクローゼットから衣服を抜き取る。

俺の部屋なんだけど。

まぁ誓約相手の服何故か常備されてんのよねここ。

 

「あー……」

「あ、でも私怒ってるわよ」

「えっ」

 

リサがワイシャツに袖を通して振り返る。

とてもいい笑顔をしているけど。

 

「私じゃなくてローニンに言ったの、絶対許さないから」

「……マジかよ」

「ふふふ。とりあえず今日1日、私の機嫌を治す方法を考えたらどうかしら」

「あ、さては怒ってないなお前」

「どうかしらね。『私は』怒ってないわ」

「……うわ。それ確実に誰か怒ってるやつだ」

 

どっと疲れが来る。

この疲れが何のせいなのか心当たりが多過ぎて。

 

「ジョージ、さっさと何か着なさいよ。いつまで全裸のつもり?」

「このまま隣にいてくれない?」

「だーめ。責任取りなさい」

「おうふ……」

「何だかんだちゃんと向き合うんだから先延ばししないの」

「分かったよ……ったく」

 

さんざん言ってくれた癖にとんでもなく上機嫌な相棒と向き合う。

 

「さ。命令して。私はあんたのお人形よ」

「ああ、命令しよう。弟を助けてくれ」

「ええ、助けましょう。私達で」

 

 



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借金から始まる前線生活

 

久しぶりに本部から連絡が入った。

首をかしげながらモニターを繋げる。

 

『久しぶりだな、ベルロック指揮官』

「てめ、クルーガー!」

 

まるでわざわざ挨拶に来た敵幹部に対する反応みたいだった。

 

「なんで親父の事黙ってたんだお前!」

『聞かれなかったからな』

「おまっ……!」

 

確かに尋ねていない。

それはそうとして。

 

「知っててずっと黙ってること無いだろう……」

『ジョンにも頼まれていたからな。こちらとしてもメリットのある取引だった』

「そうかよ……それで?何のようだ」

『査定の時間だ』

 

……査定?

はて、どうして……。

 

「……?親父から聞いてないのか?借金は消えたって。と言うか知ってたなら徴収しなくても良かっただろう」

『貴様こそ何を言っている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「は―――――?」

 

何だ、この……嫌な予感は。

 

『フゥー……どうやら、認識の齟齬があったようだな』

「……今俺は無性にこの通信を遮断したい衝動に駆られている!」

『ここで切った場合、お前の人形のうちどれかが爆発するぞ』

「てめぇぇぇぇぇぇぇ!!」

『冗談だ。さて、では……』

 

クルーガーの背後にホワイトボードが運ばれてきた。

あ、M1ガーランドだ。

 

彼女はにっこりと笑いながら……ボードをひっくり返し……俺もひっくり返った。

 

「は、はぁ!?な、ななななな、なんっ」

「ちょ、指揮官?!落ち着いて!深呼吸!」

「ジョージ、受け入れなさい……現実よ」

 

40と、アニーが俺に駆け寄ってきて、立たせる。

 

「だ、だってよ……アーサーなんだぜ!?」

「落ち着きなさいジョージ。意味分からないわ」

「はーっ、はーっ」

「だ、駄目だよアニー、過呼吸起こしてる!」

「仕方ないわね……」

 

 

 

 

 

 

―しばらくお待ちください―

 

 

 

 

 

『私は何を見せられているのか、正直疑問に思うよ』

「奇遇だな……俺も今見せられているものが幻覚であると願ってる」

『現実だ』

「ちくしょうめぇ!!何で借金3倍に増えてんだよ!!」

 

あの時3000万だった借金が今、何故か9000万になっている。

 

『内訳を話そう……まず、バンガードの修理費』

 

その後をまとめると、

 

・バンガード

・誓約した人形の権利購入費

・UMP40製造費

・鉄血ハイエンドモデル夢想家のメンテ費

 

……が、借金に計上されていた。

 

「ま、待てよ……何で何も言わなかったんだよ!?」

『誓約のシステムについて承知していると思っていたんだがな』

「しらねぇよ?!普通に指輪渡しただけじゃねーか!!」

 

なんだこの組織!

俺使い潰されるんじゃないか!?

 

「クソッ!こんな組織辞めてやる!辞表用意すっからな!?」

『辞められると思うなよ?それに、貴様の体質はIOPに目を付けられているからな。指揮官ではなくなった瞬間拘束されて一生モルモットだぞ』

「人生詰んだぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

頭を抱えた。

なんだこれは。

俺の人生死ぬまでグリフィンで指揮官やるしかないのか。

 

『そういう事だ。励めよ、債務者』

 

そう、捨て台詞を残して通信は切れた。

 

俺は……膝から地に突っ伏した。

 

「……嘘やろ」

「現実よ。全部夢なら良かったかしら」

 

アニーがそんな風に声を掛けてきた。

 

「まさか。少なくとも、お前達に会えた事まで悲観なんてしない」

「ジョージ、AR小隊と404小隊が帰ってきたわよ」

 

リサが執務室に入ってくる。

……その後ろからぞろぞろと、人形達が。

 

「指揮官!AR小隊ただいま帰還しました!」

「ただいま~しきか~ん?404が帰隊しましたよ~」

「お帰り、皆……」

「あ、45!お帰り!」

「………………40?」

 

アッッッッッッッ!!!!!

 

俺とリサは素早くアイコンタクト。

リサは首を勢い良く横に振る。

 

「………………ジョージ?何、これは」

「い、いや……バンガードのAIが俺の補佐って事で」

「私は、今、冷静さを欠こうとしてるの」

「ひぃッ!!?416!!」

「わ、私に振らないでくれるかしら!?」

「……家族ッ!」

「意味分からんぞナイン!」

「じ、ジョージさん!ただいま帰りました!」

「あーごめんなM4!ほったらかして!」

「話は終わってないわよジョージ」

「ぎゃあああああああああ?!!」

 

45に締め上げられる。

やばいやばい!(意識が天に)達する達する!!

 

……その時、基地が揺れた。

 

「爆発!?どこから!?」

『こちらKar98k!指揮官さん!ハイエンドの襲撃です!』

「嘘だろ!?相手は!?」

『あれは……デストロイヤー!繰り返します!デストロイヤーです!』

『こちらスカウトリーダー!マンティコア小隊を発見!』

「待て待て待て!何で!?」

 

思わずアニーを見る。

彼女も首を横にぶんぶん振る。

 

『ドリーマーを返せえええええええええええ!!!』

 

そんな声が、オープン回線で聞こえてきた。

 

「……友達想いだなぁ、あの子」

 

立ち上がり、今この場に居る面々に向き直る。

 

「さて、じゃあ出迎えてやろうか!行くぞ!」

 

 

 

俺の前線生活も、当分終わらないなぁこれ。

 

 

 

 

「ジョージ」

「ん?どうしたリサ」

「大丈夫よ、私たちが居るわ」

「……そうだな。頼りにしてるぞ、相棒」

「そっちこそ、失望させないでよ、相棒」

 

 

 

 

さぁ、戦おうか。

 

 

 

 

 

 

借金から始まる前線生活~Fin~

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて、半年間連載した当シリーズは最終回になります。

多くのブックマークに評価、お気に入りをして下さった皆様方、本当にありがとうございました。
感想も、日々の活動の糧にさせて頂きました。

これからもジョージの借金生活は続きます。

ですが、ここで一旦綴るのは終わります。

今まで、本当にありがとうございました。


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