異常航路 (犬上高一)
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第1話 “自称”善良な0Gドッグ

ゼアマ宙域。かつてリベリアという国家の辺境宙域であったが、強大なヤッハバッハ帝国の侵略によりリベリアは消滅した。そして、現在はヤッハバッハの辺境宙域である。

 

「支配者代われど辺境変わらずか・・・。」

 

 その辺境宙域を一隻の小型輸送船が航行している。小さいブリッジには、若い女性が1人いるだけである。ブリッジどころか、艦内には彼女以外誰もいない。代わりに輸送船の倉庫内には、食料、酒、医薬品等の生活必需品がぎっしり詰め込まれていた。

 

 彼女は目の前のコンソールを操作し現在位置とレーダーを確認する。なにも異常が無い事が分かると、ちょっと背伸びをする。

 

「さて、仕事するか・・・。」

 

 そう言うと彼女はオートクルーズを解除し、マニュアルに切り替える。

 

現在位置はゼアマ宙域セクター4。俗にいう暗礁宙域という奴で、そこら中大量の岩石がある。あまりにも量が多いので、オートクルーズではルート作成できず、警報を吐きまくって強制停止するのである。

 

なので、人力でこの宙域を航行する。微速前進しつつ、スラスターをチマチマ動かし、岩石の隙間を通り抜ける。小型輸送船と言っても全長が120mあるので、小さな岩石がゴンゴンぶつかってくる。一応デフレクターは稼働しているが、過度な期待はしない。

 

「PU358ニ新路上ニ接近スル岩石アリ。」

「りょーかい。」

 

 スラスターを噴き進路を変更する。岩石をギリギリの距離で躱す。

躱した直後今度はレーダーが接近する岩石の警報を鳴らす。レーダー画面を見る限りぶつかっても大丈夫なギリギリの大きさなので、このまま直進する。というか岩石が邪魔で回避できない。

 

 ゴンッと鈍い音と共に船体が少し揺れる。ビービーと警報が鳴るがうるさいので切った。

 

その後も暗礁宙域を進んでいき、いい加減ドロイドの音声と警報音にうんざりしてきた頃に、レーダーに反応があった。

 

小さなビーコンの反応で、それが点々と続いている。それに沿って航行していくと、巨大な岩石が目の前に現れた。輸送船をその巨大岩石の前で停止させる。

 

「こちらシーガレット。ドロイドが3体壊れた。誰か代わりのドロイド5体か、手伝ってくれる人6人くらい来て欲しい。報酬は254G(ガット)出す。」

 

目の前の岩石に向けて通信を送る。すると、岩石の一部が動き出し、ぽっかりと穴が開いた。輸送船はその穴の中へ進んでいき、内部に入ると入り口が閉じられ、辺りには静寂が訪れた。

 

 

 

内部はさながら宇宙港のようだった。中には、小型ボートや魚雷艇。さらには駆逐艦や巡洋艦までもが係留されている。

 

『よぉシーガレット。頼んでた煙草と酒はきちんと買ってきてくれたか?』

「安心してくれ。きちんと買って来てあるよ。値は張るがな。」

『あまり高いのは困るぜ。7番につけてくれ。アームの準備は出来ている。』

「分かった。」

 

 誘導員の指示に従い輸送船を7番ドックの近くへ動かす。近づくと係留アームが輸送船を掴み、ドックへ着岸させた。船から降りると少しの疲労感を感じる。

無理もない。あの暗礁宙域の中を神経を擦り減らしながら航行したんだ。多少は疲れもする。

 

「ふぅ・・・。」

「お疲れさん。茶でもどうだい?」

「なんだランディか。先に積み荷の方を降ろしておきたい。目録はここだ。」

 

 そういって私は目の前の男――ランディに積み荷目録を渡す。それに軽く目を通した彼は、満足そうにうなずく。

 

「これだけあれば、しばらく持ちそうだ。ここの農業プラントだけじゃ生産出来ない品もあるしね。」

「何時間で終わる?」

「そうだな。7時間もあれば全部積み終わるよ。」

「分かった。私は大佐に話をしていくよ。」

「あぁ分かった。」

 

 

 

 

 この岩石内の基地。ここは元々リベリア軍の施設だったそうだ。巨大な岩石の内部をくりぬき、宇宙船ドックや造船工廠や居住区などを作り上げた施設で、国防の為こういった施設がいくつも作られたらしい。

 この基地――サンテール基地も、そのうちの一つだが何かの理由でヤッハバッハが侵略してくる以前に放棄したらしい。

 

 現在このサンテール基地は、ヤッハバッハで言う“反乱分子”の拠点となっている。

 

旧リベリア軍の残党、海賊、0Gドックなど肩書は様々なれどヤッハバッハに敵対しているという共通点を持った者たちが集まり、一つのコロニーを形成した場所だ。

 ちなみに0Gドッグというのは宇宙航海者達の俗称の事である。世間的にはアウトローな意味合いで使われているが、広義的には貿易船の乗員や宇宙戦艦の艦長など宇宙を航行

するすべての人間に当てはまる。

 その中でも他船を襲ったり、地上で略奪行為を働く0Gドッグを海賊と呼ぶ。

 

 この基地内の勢力としては、旧リベリア軍の兵士達を中心とした派閥『アーミーズ』だ。元リベリア軍人のベルトラム大佐をリーダーとした派閥で、先程積み荷のやり取りをしたランディも元リベリア軍人だ。彼らはこのサンテール基地の管理運営を行っており、各勢力のまとめ役となっている。

 

 他の派閥として海賊組織『ディエゴ海賊団』がある。ヤッハバッハの取り締まりが厳しくなったため、止む無くサンテール基地に身を寄せた集団である。アーミーズとは仲が良くないが、それ以上にヤッハバッハの方が脅威なので、今は互いに協力している関係である。

 

 もう一つが『フリーボヤージュ』。ヤッハバッハの航行制限に従わない0Gドッグをまとめるギルドのようなもので、0Gドック達にミッションを提供する。内容は大体違法採掘か密輸である。

 

 最後に『レジスタンス』がある。各派閥でも特にヤッハバッハを敵視している者達の集まりだ。小型船を使い、ヤッハバッハの拠点や船に対しテロ行為等を行っている。管理運営が主体のアーミーズに対し、実戦を主体とするのがレジスタンスである。

 

 

 ちなみに私はどの派閥にも所属していない“善良な0Gドッグ”であり、ただ物資を人に売っているだけである。売った先の人間がヤッハバッハに抵抗しているとかそういうのは知った事では無い。

 

 基地内の一室――指令室のドアをくぐる。そこには数人の士官がレーダーによる周囲の警戒や書類整理などをしていた。その中で一人、テーブルに座り書類を片付けている太った男が居た。彼がアーミーズの指揮官ベルトラム大佐だ。

 

「来たか密輸商人。」

「失礼な物言いだな大佐。私は唯の“善良”な0Gドッグだ。」

「お前が善良な0Gドッグなら世の中の悪人の半分は善人だ。」

「善良の判断は人によって異なるものだよ。」

 

 挨拶代わりの掛け合いを終わらせて私はソファに座る。

 

「積み荷の目録はこちらも確認した。それで金の方だがこれでどうだ。」

 

そう言われて提示された額は200G。

 

「・・・少なすぎるぞ・・・。最低でも1000Gは必要だ。」

「少し事情があって、現在資金繰りが苦しい状況だ。250Gまでなら何とか出せる。」

「無理だな、1000Gは下回れない。第一何があった?アーミーズが資金繰りに失敗するとは思えないが?」

 

「レジスタンスの一派が大量に流れ込んできたのさ。」

 

 話すのを少し渋っていた大佐に代わり、別の声がかけられる。

 

「ディエゴ・・・。」

 

 ディエゴ海賊団のボス、ディエゴ。ベルトラン大佐とは違いこちらは痩せ型の男だ。海賊という肩書からか痩せ型の所為か、狡猾そうな印象を与える。

 

「なんでも他所のレジスタンス狩りから逃げてきた連中が500人くらいこっちに来たわけよ。数も多いし食料や衣服も必要になるしで金欠になる訳よ。」

「あぁ・・・それは―――。」

「ベルトラム大佐!!」

 

お気の毒にと言いかけた所で、指令室の扉が勢いよく開かれ、大きな声が響き渡る。現れたのは戦闘服に身を包んだ男が現れる。

 

「先程到着した食料の搬出を許可して頂きたい!我々の仲間は飢えているのだ!」

 

そういってずんずん歩いて大佐に詰め寄るこの男はギルバード。レジスタンスの指揮官で血の気の多い男だ。

 

「落ち着いてくれギルバード。食料は無限にわいてくる訳では無いのだ。予定外の行動をされると食料を管理する事が出来ない。きちんと食料は分けるから、しばらくは待機していてくれ。」

「急いでくれ大佐。我々は一刻も早く同士の仇を撃たねばならないのだからな。」

 

 そう言い残しギルバードは出て行ってしまった。

 

「はぁ・・・そういう訳だ。今回の取引はツケか。もしくは何かと物々交換という事で手を打って―――。」

「ちょっと待った。」

 

 大佐が物々交換を提示しようとした所へディエゴが割り込んできた。

 

「金欠なアーミーズに代わりその食料を俺達に売ってくれ。」

「売ってくれって・・・。物資の管理はアーミーズが管轄しているだろう?」

「そのアーミーズが金が出せないって言ってんだぜ。俺達なら言い値で変える。悪い取引じゃないだろ?」

「で、その食料を倍値で売りつける訳か。」

 

 この男は状況に乗じて食料を買い占め、高値で売りつけるのが目的だ。

ディエゴの案に乗れば確かに金は手に入る。ただし、アーミーズやレジスタンスとの関係は悪くなるだろう。

 

「いや、何かと物々交換という事にしておこう。今あんたと取引すると後が怖い。」

「チッ。まぁいい。気が変わったらいつでも言ってくれ。」

 

 そう言い残すとディエゴは部屋から出て行った。

 

「まったく・・・少しは基地の運営に協力してもらえないものか・・・。」

「大変そうだね。大佐も。」

 

 心なしか、大佐の髪が前回見た時よりも少なくなっているように見えた。




この度は【異常航路】第1話をお読み頂きありがとうございます。

久々に無限航路をプレイして気が付いたら書いていました。

今更ですが、この小説は原作無限航路の解説をそこそこ飛ばしてしまうので、意味が分からない用語があれば無限航路ウィキなどで調べるか、感想かメッセージなどでご指摘下されば幸いです。




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第2話 リベリアへの客

ヤッハバッハ帝国

全宇宙の4分の1を支配下に置くと言われている巨大帝国。強大な軍事力によって多くの国家を滅亡、吸収してきた。純血のヤッハバッハ人は平均身長2m前後。


「今物々交換できるのはこんなものだ。」

 

 そう言ってベルトラン大佐が提示したデータベースを見る。目録の中は船のジャンクや鉱石などがほとんどだった。

 

「・・・ん?」

 

 そのデータの中に一つ妙なものを見つけた。『コントロールユニット』というモジュールの設計図だ。

 

「大佐。このコントロールユニットはどうしたんだ?。」

「ん?あぁそれか。レジスタンスの連中が何処かの研究所から盗んできたらしい。なんでも船の管理をコンピュータに任せて最低稼働定員数を減らすものらしい。」

「便利な物じゃないか。試してみたのか?」

 

 万年人不足のここなら、こういったものの需要は高いはずだ。使い方などを聞き出そうとしたが大佐は首を横に振り

 

「残念ながらうちの工廠では作れなかった。どうにも統一規格を無視した代物らしい。それなりの規模の工廠じゃければ無理だ。」

「統一規格を無視?」

 

 統一規格は、空間通商管理局などが提示する宇宙船の部品などの統一規格だ。この規格によって宇宙船の建造は2~3日で終わるし、船に搭載するモジュールも他国の物をそのまま使えるのである。

 

 統一規格を無視すると、その船その船で調整が必要になったり、場合によっては工廠で生産できなかったりとかなり大変な事になる様だ。

 

「ふむ。じゃあこれと、鉱石をいくつか貰っていこうか。」

「出航時間は何時だ?」

「積み込みが完了次第出航するさ。次持ってくるものに何か必要なものはあるか?」

「あぁ、食料に服。それとミルクだ。」

「ミルク?」

「逃げ込んだレジスタンスの中に親を亡くした赤ん坊や子供までいてな。ギルバードが興奮しているのもこれが原因だ。」

「分かった。可能な限り手配しよう。」

「助かる。」

 

 積み込みを終えたらさっさと出航する。ここの連中は基本的に悪い連中ばかりではないが長居するべきではない。それが互いの為だ。

 

 

 

 

 

 

 

 積み込みを終えサンテール基地を後にした私は、ゼアマ宙域から離れた辺境惑星フラベクに入港していた。主要航路から離れたフラベクは、まさに辺境という惑星だった。

 

 その辺境惑星の工廠で、私は例のコントロールユニットが制作できないか試していた。

 

「駄目か・・・。」

 

 やはり辺境惑星の工廠程度では駄目らしい。鉱石もある程度売れたが、赤字を避ける事は出来なかった。せめてこのコントロールユニットが作れれば、一人で艦内整備とかする事が無くなるだろうと思ったのだが・・・。

 

 

 

 

 あの後色々試してみたが、希少素材や専用設備などが必要で余程発展した所じゃないと作れないことが改めて分かっただけだった。

 

「マスター。白ワイン炭酸砂糖入り。」

「はいよ。」

 

 0Gドッグ御用達の酒場――だった所だ。ヤッハバッハによる航行制限が厳しい為、フリーの0Gドッグは殆どいなくなってしまった。今いるのはどこかの商人か、周辺を飛んでいるデブリ回収船くらいである。

 

「マスター。何かミッションはないか?もちろん正規の。」

「うちは“正規の”ミッションしかないぞ。適当な事言うな。」

 

 そう言ってマスターは、注文のドリンクを出してきた。

 

「ミッションなら丁度いいのがある。人を送ってほしいんだ。」

「何処までだ?」

「リベリア。」

「また随分と遠い所に行きたいようだな。」

 

 リベリアと言ったら、リベリア皇国の首都所為だ。ヤッハバッハの総督府が置かれている星で大変発展しているし警備も大変厳重だ。

 

「報酬は?」

「150G。運ぶ人数は1人だ。」

「違法な客では?」

「大丈夫だ。民族管理カードも本物だよ。」

 

 目的地までの報酬を考えると少し安いが、民族管理カードが本物であるなら合法的にリベリアまで移動できそうだ。

 

「じゃあそのミッションを受けよう。出航時間に船に来るように言っておいてくれ。」

「ああ。所でもう一杯行くか?」

「頂こう。」

 

 

 

 

 

 

 

 「貴女が私を運んでくれる人ですか?」

 

 出航時間の少し前にやってきた中肉中背の男は、ジュラルミンケースを一つ大事そうに持っていた。

 

「貴方が依頼人か?。」

「はい。エドワードと言います。リベリアまでよろしくお願いします。」

「あまりきちんとした客室ではないからそこは我慢してくれ。」

「大丈夫です。航海には慣れていますので。」

「それは頼もしい。短い間だがよろしく。」

「こちらこそ。」

 

 エドワードが乗った所で輸送船は出航する。目標とするリベリアはここからボイドゲートを1つ程挟んだ所にある。

 辺境なのでヤッハバッハのパトロールもいない。しばらくは静かな宙域をオートクルーズで航行していく。

 

「所でなぜリベリアへ?」

 

 気になっていたことを聞いてみる。普通ここからリベリアへ行く用事はまったく思いつかない。

 

「実は私、こう見えても学者でフラベクには研究の為に来ていたんですよ。こっちへ来たのは良かったんですが、帰りの船が中々見つからなくて。」

「・・・帰る算段をせずにこっちへ来たのか?」

「まぁそんな所です。」

 

 研究者というのは周りが見えない者と聞いた事があるが、彼はたぶんその類だろう。

 

その後、何事も無くボイドゲートまでたどり着く。辺境という事もあるが、ヤッハバッハの支配下になってから海賊などの被害が一気に減り、安全に航行できるようになった。その分0Gドッグも減ったが。

 

「ボイドゲート。相変わらず巨大なものですね。」

 

 ボイドゲート。何時何処で誰がどうやって何の為に設置したのか分からないワープ装置。これをくぐる事で、何百光年と離れた宇宙へ一瞬で移動する事が出来る。

 

「さて、ゲートに飛び込むが何か忘れ物とか無いよな?」

「えぇ、もちろんです。」

「じゃあ行くぞ。」

 

 別に何か特別な操作が必要な訳でも無く、ただ普通にゲートをくぐるだけである。くぐった瞬間そこはもう別の宇宙だった。

 

「そういえば艦長。」

「シーガレットだ。」

「シーガレット艦長はボイドゲートを通過する時、頭痛がするとかいう事はありませんか?」

「いや?」

「そうですか。いや、知り合いの話で稀にそういう人が居るらしいので、シーガレットさんはどうかと思いまして。」

「いや、一度もそういったことは無いな。聞いた事も無い。」

「そうですか。」

 

 ボイドゲートを通るときに頭痛がするなんてことがあるのか。ゲートの通過は絶対の安全を保障されているから、何も影響はないと思っていたが・・・。

 

「おそらく数億人に一人の割合で体質的にゲートになじめない人が居るのでしょう。」

「ふむ・・・。かなり珍しい体質になるのだな。」

 

 まぁ私には何も関係のない話か・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 リベリアに近づくにつれ徐々に民間船やパトロール艦隊が徐々に多くなっていった。首都星とあってさすがに数が多い。

 

ここで通信要請を受けた。相手はヤッハバッハのブランジ級突撃艦3隻からなるパトロール艦隊だ。

 

「こちら、民間船アルタイト。何か御用ですか?」

『こちらは第411パトロール隊である。貴艦は定期船では無いようだが何が目的か。』

「本船は、惑星フラベクからリベリアまで民間人を運んでおります。」

『航行許可コードを提示されたし。』

「いま送ります。」

 

 航行許可コードは、ヤッハバッハが発行しているものでその時その時の航海で発行されるものだ。発行には事前審査が必要で、申告と異なる航路を通ったりすればたちまち捕縛されるし、コードが無い船は反乱分子とみなされ捕縛される仕組みだ。

 

『確認した。コードに問題なし。貴艦の航海の安全を祈る。』

「ありがとうございます。」

 

 そういって通信を切る。しかし昔に比べれば随分と面倒になったものだ。その分だけ航行の安全は高まっているが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙港それ自体はヤッハバッハでは無く空間通商管理局の管理下にある。その為入港や出港自体は問題なく行える。ただし、港内にはヤッハバッハ兵がうろついているので、不審な行動を取れば普通に捕まる。

 

とは言っても、ヤッハバッハに逆らわず普通に大人しくしていれば何も問題は無い。手続きを終えた私達は惑星リベリアへと降り立った。

 

「助かりました。やっと家に帰れます。」

「次は帰りのことも考えて行動することだな。」

「気をつけましょう。それとこちらが報酬の150Gになります。」

 

 エドワードから報酬の150Gを受け取る。やはりもう少しもう少し貰いたいものだ。

 

「では、またどこかでお会いしましょう。」

「ああ、またどこかで。」




2/16一部名称などに間違いがありましたので修正しました。


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第3話 新入り船員

リベリア皇国

アルゼナイア宙域にある惑星リベリアを首都とする国家。今作では複数の星系に勢力を持つ。ヤッハバッハの侵略により滅亡した。


 エドワードと別れた後、私はリベリアの改修工廠に居た。フラベクの工廠より遥かに巨大なこの工廠なら、例のコントロールユニットが作れるのでは無いかと試していたのだ。

 

「・・・。」

 

 結果を言えば作る事は出来なかった。このモジュールを作るのに必要な設備も資源もここにはある。なのに作れないのはどういう訳か。理由は簡単だった。

 

「まさか未完成なモジュールだったとは・・・。」

 

 このモジュールは開発途中のモノだったらしい。いくつかデータに不備があり、その所為で設計が出来ないでいたのだ。必要な設備や資源があっても元々のデータが駄目では意味が無い。

 

 「骨折り損のくたびれ儲け・・・か。」

 

  ゴミでは無いが殆ど似たような物だった。しかも盗品みたいな物だから、売りにも出せない。

 こんな事なら、ディエゴに売った方が良かったか?

 

「・・・今日は飲むか。」

 

 こんな日は飲もう。酒を飲もう。飲んで寝て明日になればいい事がある。多分・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、正直に話せば処分が軽くなるかもしれんぞ。」

 

 現在私は、リベリアのヤッハバッハ駐屯地の一室にいる。なんでこんな所にいるのかだって?そんなものこっちが聞きたい。

 

 酒場で酒を飲もうとしていた所で、いきなりヤッハバッハの兵士が突入してきて拘束されてしまった。

 

 一杯も飲んでいなかったのに・・・。

 

「正直にと言われても、全く身に覚えが無いのだが。」

 

 目の前のヤッハバッハ兵は、ワザと大きなため息を吐いてこちらを挑発してくる。

 

「分からないなら教えてやろう。数日前、お前は惑星フラベクからリベリアへ1人の旅客を運んだ。」

「その通りだ。」

「そいつは事もあろうか民族管理カードを所持していなかった。」

「は?」

 

 民族管理カードを持っていなかった?

 

「つまりこういう事だ。お前達反乱分子は、何か良からぬことを企んで、あの男をこのグリーンビルまで運んだ。おそらくこの星でテロでも起こすつもりだったんだろ。」

 

 目の前の兵士は、一つの情報から自分勝手に作り出した妄想を吐き出してくるが、知るかそんなもの。“善良”な一航海者がテロなど企む訳ないだろう。

 

「何を言っているのかさっぱり分からないな。」

「ほう。あくまでシラを切るか。」

「ああ、私はフラベクの酒場のマスターから、旅客ミッションを受けただけだ。マスターも正規の客だと言っていたし、航行許可コードも発行された。」

 

 あの男が最初から民族管理カードを所持していなかったとしたら、航行許可コードも発行されるはずが無い。

 

「何ならそのマスターに聞いてみるといい。私はただお前達の法に従ってやっていただけだという事が分かるだろう。」

「調子に乗るなよ貴様・・・。誰に対して口を聞いてる・・・。」

「偉大なヤッハバッハの皇帝様の忠実な下部。」

「貴様ァア!!」

 

 挑発しすぎたのか、相手が耐性が無いだけか頭に血が上った兵士は、机を思い切り叩いて立ち上がると、腰のブラスターを抜いた。

 

「このアバズレが調子に乗るなよ!優しくしてりゃあつけあがりやがってッ!」

「私は事実を言っただけだ。そもそもーーー。」

 

 突如室内に銃声が響く。兵士のブラスターから放たれたメーザーが私の頬を掠めた。

 

「黙れ!余計な口を叩くな!このレジスタンスめ!!」

 

 完全に頭に血が上っている。下手な事を言うと撃ち殺されそうだ。

 

「お前達レジスタンスは、帝国による秩序に無駄な抵抗をし無関係な臣民まで巻き込んで破壊活動を行う害虫だ!貴様等の所為でどれだけ多くの人間が苦しんだと思っている!!お前達は生きていてはいけない!この宇宙に存在する事すら許されないのだ!」

 

 訳の分からない持論を怒鳴りながらブラスターを突きつける。

 

 そんな事言ったらお前達が来なければテロも起きなかったし、遥かに大勢の人が苦しまなかったよ。

 と言うセリフは、心の中にしまっておく。口にしたが最後、怒り狂った兵士に撃ち殺される事間違い無しだ。

 

「とっとと罪を自白して、裁きを受けろ!!」

 

 兵士は私にブラスターを突きつけて脅してくる。ここまでされたら、正当防衛でぶん殴っても文句は言われないだろう。まぁ私は格闘技能はからっきしなので、その前に撃ち抜かれて終わりだが。

 

 とりあえず座ったままの姿勢で、椅子を掴む。素手で殴るよりはダメージがあるはず。無実の罪で取り調べ中に逆上した兵士に撃ち殺される気はさらさら無い。

 

 

 

 

 「何をしている伍長!!」

 

 突如部屋の扉が開かれ、男が1人入ってきた。服装からして、ヤッハバッハ兵である事は間違いない。

 

「しょ、少尉・・・これはその・・・。」

「馬鹿者ッ!証拠もなく武器で脅して自白を強要するのを許した覚えは無い!取り調べ中の発砲もだ!」

 

 どうやら入ってきたヤッハバッハの少尉は、先程取り調べをしていた兵士の上司らしい。

 上司の登場で興奮が冷めたのか、しどろもどろになる兵士。お陰で私の命の危機は去ったようだ。

 

「詳しい話は後で聞く。しばらく別室で待機していたまえ。」

 

 少尉の言葉に従い、兵士は部屋から出ていった。

 

「筋違いだろうが、許してやってくれ。彼はこの間のテロで親しい友人をなくしていてな。情緒が不安定なのだ。」

「はぁ、それはお気の毒に。」

 

 内心そんな奴に取り調べなんかさせるなと思う。口には出さない。

 

「で、君は釈放だ。帰っていいぞ。」

「は?」

 

 もうなにがなんだかさっぱり分からない。いきなり拘束されたと思ったら、いきなり釈放だ。混乱もする。

 

「・・・いきなり此処に連れて来られて訳もわからず尋問され、あげくの果てにいきなり釈放ときた。多少の説明くらいあるべきだと思うが。」

「あぁ、簡単に説明すると今回の騒動は全部あの男が悪い。」

「は?」

 

 語彙が無いと思われるかもしれないが、いきなり誰が悪いなど言われてもさっぱりわからない。

 

「簡単な話だ。君が運んだ客が民族管理カードを落としたのだ。調べたら先程航行許可を受けてこの星へ来たと言うことになり、なんらかの偽造をしたのではという疑いから、関係者である君が拘束された訳だ。」

「つまりエドワードがカードを落とした所為だと。」

「そうだ。つい最近テロが起きたばかりで警戒度が上がっていた事も一因になるが・・・。」

「はぁ・・・。」

 

 思わずため息が出てくる。つまり私はあの男がカードを落とした所為で、命の危険に晒された訳だ。

 

 今度会ったら一発お見舞いしてやる・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 ヤッハバッハから解放された後、酒場で大量の酒を飲んだ。危険な仕事の報酬はゴミ同然のデータプレート。せめて損失分を賄おうとすれば、客のトラブルに巻き込まれて殺されかける始末。

 

「私が何したって言うんだ・・・。」

 

 飲み代も無くなり、酒場を後にした私は船への道を歩く。少し体がふらつくが何も問題は無い。

 

 「ぐっ!?」

 「うお!?」

 

 歩いていたらいきなり何かにぶつかった。ぶつかった拍子にバランスを崩して、尻餅をついてしまった。くそ、何から何までついてない・・・。

 

「大丈夫ですか?」

「どーこ見て歩いてるんだ気をつけ・・・ろ・・・。」

 

 文句を言いながら顔を上げるとそこには見知った顔があった。

 

「シーガレットさんじゃ無いですか。こんな所でいったい何をしているんですか?」

「・・・おまえぇ!!」

「ぐえぇぇええ!?」

「このやろう人に散々迷惑かけといて何してるんですかだと!?ふざけるなぁ!!」

「は、はなしてくれぇ!?」

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・気持ち悪い・・・。」

「あれだけ暴れれば、気持ち悪くなりますよ。」

 

 エドワードに肩を借りて宇宙港の中を歩く。飲み過ぎたのか気持ちが悪い。

 

「いやぁすみません。まさかそんな事になっているとは思いませんでした。」

「私もだ。カードを落しただけで私まで拘束されるとはな。」

「何か理由があるんですかね?」

「さぁ。分からん。」

 

 少し頭を冷やしてから考えると、あのヤッハバッハの反応はちょっと可笑しい気がした。たかが一市民がカードを落したくらいで、関係者を拘束し尋問するのはおかしい。あのヤッハバッハの少尉は、テロにより警戒態勢を上げていたからだと言っていたが・・・。

 

 部署の手柄の取り合いや部下の暴走など理由はいくつでも考えられる。巨大な版図を持ち優れた将兵を多く持つヤッハバッハですら、妬み恨みと無縁という訳では無いのだ。

 だが、それが分かったからといって何かが変わる訳では無いので考えるのを止める。

 

「そっちだ。そこのゲート。」

「ここですね。」

 

 角を曲がった所でようやく宇宙船にたどり着いた。とりあえず船の中にあった酔い止め薬を飲んでおく。

 この酔い止め薬が意外と優れもので、宇宙酔いから乗り物酔いなどの気持ち悪さを緩和する薬だ。包帯や消毒液と一緒に救急箱に入っている3点セットの一つである。

 

「ふぅ・・・。」

「水でも持ってきますか?」

「あぁ、頼む。」

 

  エドワードが持ってきた水を飲み干して椅子に深く腰掛ける。薬が効き始めたか気持ちが落ち着いたのか少し気分が良くなる。

 

「そういえ貴方は大丈夫だったのか?ヤッハバッハに拘束されたと聞いていたが。」

「いやーかなり厳しく取り調べられました。こっちの話を聞いてくれないから何時間も押し問答して、ようやくデータを調べて、登録していたデータと一致して、ようやく解放されました。」

「それはまた・・・。」

 

 エドワードの方も苦労していたらしい。殺されかけた私よりは、マシかもしれないが。

 

「・・・所で。」

 

 などと考えていた私にエドワードが声をかけてくる。ただ何か言いにくい事なのかその先が続かない。

 

「どうした?何かあるなら言ってくれ。その方が私も気が楽だ。」

 

 途中でモゴモゴされると気になってしょうがない。エドワードもそれを言われて決心したのか口を開く。

 

「その・・・この船で働かせてくれませんか?」

「・・・・・え?」

「この船で働かせてください。」

 

 いや、別に言い直さなくてもいいんだが・・・。

 

「いったい何があったんだ?いきなり働かせてくれなんて。」

「実は・・・ヤッハバッハから取り調べを受けた後、一度職場に顔を見せに行ったんですが、帰って来るのがあまりに遅くなりすぎたのでクビにされてしまったんですよ。しかも家は社宅だったのでそっちも追い出されまして。」

 

 ようやく帰ってこれたと思ったら仕事はクビになり家は追い出され途方に暮れていた所で、酔った私と出会ったらしい。またいつか会いましょうとは言ったが、昨日今日で合うとは思わなかった。

 

「っと言っても貴方は学者だろう?学者に船乗りが務まるとは思えないんだが。」

「そこら辺は大丈夫です。こう見えて機械もそれなりに触ってきたので、整備士や機関士として役に立てると思います。」

「うーむ・・・。」

 

 正直に言えば即採用したい所だ。いくら化学が発達した現代といっても、100以上もある宇宙船を一人で動かすのは厳しい面がある。空間通商管理局から提供されているドロイドは教科書通りに動いてくれるので運行上こいつがあれば問題は無い。ただし教科書通りにしか動かないので、細かな指示や突発的な事態の対処等は人間側がやらなければならない。結局最後に当てになるのは人の力だ。

 

 ただ私の船は唯の貨物船では無い。ヤッハバッハの御役人にバレるといろいろと面倒な事になる。それもこれまで私が人を雇えなかった理由の一つだ。

 しかもエドワードとは数日前に知り合ったばかりで、互いをよく知らない。

 

「・・・一つ質問してもいいか?」

「なんですか?」

「貴方はヤッハバッハを・・・ヤッハバッハに支配されたリベリアをどう思う?」

 

 この質問をした時、エドワードの顔付きほんのちょっと硬くなった。ヤッハバッハかリベリアに関して何かあったのか、この船で働くための試験と捉えたか。

 それとも私が考えている事を察したのか――――。

 

「・・・一言で言えば”どうでもいい”ですかね。」

「どうでもいい?」

「私はヤッハバッハが来る以前は別の研究所で働いていたんですが・・・地位や名声ばかり気にする連中が多くて息苦しい思いをしてきました。ヤッハバッハが来た後はその研究所は解体されて、別の研究所に移ったんです。そこは純粋に探究心にあふれた研究所で以前よりも楽しく仕事が出来ました。当時はヤッハバッハに感謝していたものです。」

 

 ヤッハバッハの統治はまさに王道だった。汚職と不正を追放し、旧体制下の闇の部分を吹き払ったのだ。そうした恩恵を受けた彼らにとってヤッハバッハは救世主だったのだろう。そして彼もその一人だったのだ。

 

「ですが結局、国や人種が違えども私達は同じ人間です。巨大なヤッハバッハとはいえ悪人が居ないわけではありません。一部の者だけですが、自分達は征服者であるという優越感から我々を見下し邪魔をしてきました。実は私がフラベクで立ち往生していたのもそうした連中の陰謀だと思っています。」

「本当かそれは?」

「証拠は何もありません。ですが自分は彼らに対しあまり従順な方では無かったので、恨みを買ってもおかしくはないだろうと。」

 

 もしかしたら彼が研究所を辞めたのも、そうした連中が策を講じた結果だったのかもしれない。

 

「もう保身に疲れました。どこか身分に縛られない所で一人コツコツと研究していたい。リベリアもヤッハバッハも勝手にしろ!俺は研究がしたいんだ!」

 

 最後の部分が彼の本音だろう。一人称も口調も変わっている。人が猫をかぶるのはみっともないという奴もこの世にはいるが、私はそれが普通だろうと思っている。そんな事に目くじらを立てるより、相手の本質を見抜く術を身につける方が先だ。

 

 ここまで正直に本心を打ち明けてくれたからには、私もそれに答えないとな。

 

「合格だエドワード。これから君をクルーとして雇おう。」

 

 エドワードは一瞬ぽかんとしたが、言葉の意味を理解したのか嬉しそうな顔になる。

 

「ありがとうございますシーガレットさん。・・・いや、艦長!」

「あぁ、これからよろしく。」



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第4話 しなければならない事

 新しい船員を乗せた小型船アルタイトは、リベリアからフラベクへと向かっている最中だった。積み荷はミッションで受けた貨物とフラベクで中々見かけない嗜好品や贅沢品が多少だ。航行許可は往復で有効なので、この隙に向こうで売れそうなものや運ぶものは兎に角積んでおく。

 

「艦長。機関のチェック終わりました。何も問題なしです。」

 

 機関のチェックを終えたエドワードが戻ってきた。彼が思ったよりも優秀な人物で、マニュアルをしばらく読んで実物を観察したらある程度の事は出来るようになっていた。何か秘訣があるのかと聞いたら、研究所でこうした機械をかなり扱ってきたらしい。その経験のおかげだそうだ。

 

 ヤッハバッハは有能な人材であれば、被征服民でも高い地位に就くことが出来ると謳っているが、全知全能という訳でも無いらしい。こうして有能な人材を0Gドッグにしてしまっているのだから。

 

 まぁ、人の思いは数式で表せないものというように、能力だけですべてがうまくいく訳では無いのだろう。

 

 

「・・・そういえば、以前いた研究所ではどんな研究をしていたんだ?」

「色々やってましたけど、主に兵器とかAIとかの軍事部門でしたね。」

「兵器開発なんてやっていたのか。」

 

 どう見ても兵器開発をしている顔には見えないのだが、人は見かけによらないという事か。

 

「それで後は何をしましょう?」

「何もない。」

「え?」

 

 何もないのである。意外に思うかもしれないが、各部のチェックさえやってしまえば後は何も問題ないのだ。ヤッハバッハのおかげで海賊が居なくなり、警戒の為にレーダー画面とにらめっこする必要もない。つまり暇だ。

 

「航路も平和だからね。フラベクに着くまで自由行動だ。」

「じゃあ部屋で研究とかしていてもいいですか?」

「あぁ構わない。何かあればアナウンスがかかるから。」

「分かりました。じゃあ失礼します。」

 

 そう言ってエドワードは退室する。後はフラベクまでゆっくり行くだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 何事も無くフラベクへ着いた。着いた足でフラベクの酒場へ行きマスターに荷物を渡す。

 

「いつもご苦労さん。なんか飲んでいくか?」

「いや、ちょっと用事があるんだ。後で来るよ。」

「そうか。報酬はこれだ。」

 

 マスターからクレジットの入ったデータチップを受け取り酒場を後にする。

 

「艦長。この荷物何処に運ぶんですか?」

「いいからついてこい。」

 

 酒場の外で待機していたエドワード。彼の傍らにある反重力カート(反重力を用いた台車)にはコンテナが一つ乗っかっている。エドワードにそれを押させて私達は、少し離れた裏通りに入る。

 

「これから行く先はあまりいい場所では無い。向こうで何を聞かれても黙っている事。向こうで起こった事を誰にも教え無い事だ。」

「わ、分かりました。」

 

 据えた匂いのする裏通りを進んでいくと、一軒の民家にたどり着く。扉の前には煙草を吸いながら座っている一人の男が居た。

 

「・・・シーガレットか。まだくたばってなかったか。」

「おかげさまでな。」

「そっちの男は?」

「新入りさ。問題ない。」

「そうか。」

 

 そういうと男は扉から退く。入れという意味だろう無言で顎をしゃくった男に従い、民家の中へと入った。中には黒いフードを被った男がいた。

 

「今日はどんなもん持ってきたんだシーガレット。」

「ここじゃ手に入りにくい品がいくつか。」

「どれ、見せて貰おうか。」

 

 男は台車にあったコンテナを開ける。中にはこの星では手に入らない酒や煙草などの嗜好品がぎっしりと入っていた。

 

「おー。これはずいぶん良い物が入ったじゃねぇか。」

「今回限りだ。これと同じものが10個。いつもと同じところにある。」

「ケッケッケッ・・・。こいつはいいや、リベリアの酒なんかご無沙汰だったからな。」

「報酬は?」

「おっとすまねぇ。」

 

 そういうと男はクレジットの入ったデータカードを差し出す。そこには2000Gと表示されていた。

 

「これだけうまいもん出されたら、それだけ金払わねぇとな。」

「どうも・・・。じゃあな。」

「つれねぇなぁ。少しは世間話でもしていけや。」

「あまり長居すると互いの為にならないのでな。」

 

 こういう所に長居するのはあまりよろしくない。それこそヤッハバッハに嗅ぎつけられたら厄介どころの話ではない。それは向こうも分かっているのか、つれなねぇなと一言呟くと男はコンテナの中から酒を取り出し、飲み始めた。

 

「そういや知ってるか?最近レジスタンスの拠点の一つが壊滅させられたらしいぜ。」

「ほぅ。そんな事が。」

 

 私は当たり障りのない答えをしたが、男は鋭い視線を浴びせてきた。唯それも一瞬の事で、すぐに視線を外すと酒を一つ飲んだ。

 

「半日とかからず壊滅させられたそうだが、なんでもヤッハバッハの連中は新兵器を使用したそうだぜ。」

「どんな新兵器を使ったんだ?」

「さぁな。そんなもの俺が知る訳もないだろう。ま、ヤッハバッハに逆らう奴らに対する見せしめと、新兵器の実用試験ってとこだろうさ。」

「そうか。」

 

 それだけ言うと私は扉を開ける。今のは所謂今回の酒や煙草に対する礼のオマケという奴だ。今日の奴はずいぶん機嫌がいいようだ。まぁ滅多に手に入らない酒を手に入れられたのだから当然か。

 

「所で、そっちの男はお前の新しい恋人かい?夜の具合はどうだ?」

「・・・。」

 

 私は何も言わずに扉を力強く閉める。閉めた後でエドワードを中に置いてきた事に気付くが、開けるのも癪なのでそのまま傍に居るとエドワードはすぐに出てきた。

 

 私達はそのまま酒場へと戻る。船に戻っても良かったが、まぁどうせなら酒を飲もうという訳だ。

 

「さっきの男。あれは誰です?」

「裏町の商人といったところだ。好き好んで関わるべき人間じゃあない。」

「ならどうして艦長はあんな奴と取引を?」

「・・・このご時世辺境の船乗りをやるには、それなりの金が必要だからな。」

 

 でなければかかわることなど無い。ヤッハバッハの航行制限の所為で、フリーの0Gドッグに著しい行動制限がかかったのだ。明確に規制されている訳では無いが、資源採掘や探索など常に宇宙を動き回る0Gドッグにとっては重い足枷となった。船を維持するにも金がいるが、航行制限の所為で思うままに船を動かせないのだ。金が稼げない0Gドッグは船を降りるか、ヤッハバッハの目を掻い潜るか、何処かの貿易商の専属になるかだ。

 

 「ヤッハバッハが来てからは、色々と変わった。地上にいる連中からしたら生活の質が上がって嬉しいだろうが、私達からすれば死刑宣告にも等しい。そんな中で0Gドッグをやるにはいろいろな覚悟がいるのさ。」

 

 私の言葉にエドワードは何も言わなかった。ただ黙ってコップに酒を入れてくれた。私もそれ以上は何も言わなかった。多分私が言わんとしていることが分かったのだと思う。

 

 私達はしばし黙った酒を飲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 この数日、俺の周りの環境は著しく変化した。そもそもの原因は、上司からフラベクへサンプル採取に行けと言われ、予定通りサンプルを回収していざ帰ろうと思えば

帰りの船が居なかった所為だ。

 

 連絡も付かず今まで溜めていた貯蓄を切り崩して自力で船を手配し、カードを落とした所為でヤッハバッハに尋問され、ようやく帰ってきたと思えばクビだ。

 

 あの時の上司は、自分が仕組んだ事が上手くいったとばかりにニタニタ顔で「黙って俺に従えば、置き去りにされる事も無かったのにな」と言ってきた。

 

 さすがにムカついたので、本気で一発股間に蹴りを入れてやった。

 

 そのまま啖呵を切って家から目に付いた必要そうなものを片っ端から持ち出し、街へ出たのだ。行く当ても無く歩いていた所をシーガレットさんーーー船長に出会った。

 

 酔って足取りもおぼつかない彼女を、船まで運んだ。その時だ、0Gドッグになる事を思いついたのは。失う物も何も無い。今まで研究所では気分良く働けなかった。0Gドッグなら命の危険はあるが、その分やりたい事が好きなだけできると聞いた。研究所よりも0Gドッグの方が良いかもしれない。

 

 駄目元で頼み込んだら、ひとつ質問された。

 

「貴方はヤッハバッハを・・・ヤッハバッハに支配されたリベリアをどう思う?」

 

 正直最初は何を言っているのか分からなかった。これは一つの採用試験だろうと思い、正直に答えた。リベリアもヤッハバッハも知った事か、俺は研究がしたいんだと。

 

 それを聞いた船長は合格をくれた。その日から俺は輸送船アルタイトの船員になった。

 

 航海中に機関のチェックなど、出来る事をやりながら、空いた時間で少しずつ自分の趣味に打ち込んでいった。良い環境だと思った。上司はうるさくなく、静かに1人研究に集中できる。機材などは無いが、煩わしさが無い分気が楽だった。

 

 フラベクへ降り、裏商人との取引を見た。品の無い男でどうして船長があんな奴と関わりがあるのが気になり聞いてみた。

 

 ーーーいろいろな覚悟がいるーーーその言葉で気付いた。0Gドッグとして食っていく為には、それなりの事をやらなければならない。非合法な事を行う覚悟も必要なのだろう。そうじゃ無ければヤッハバッハをどう思うなんて質問をする訳がない。

 

ーーーーーー面白い。

 

 リベリアもヤッハバッハも知ったことか。俺は俺のやりたい様にやる。俺が作りたいものを作るために、天下のヤッハバッハ様にも逆らってやるさ。



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第5話 ナノマシンとコイントス

今回から文字数が増えます。


 現在アルタイトは、ぜアマ宙域に来ている。目的地はセクター4。サンテール基地のある暗礁宙域だ。

 

「艦長・・・。こんな所航行して大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。一応デフレクターは機能している。」

「それなら良いですけど・・・。」

 

 岩石の間を縫う様に進んでいき、ようやくビーコンを捕まえる事ができた。ビーコンをたどりようやくあの巨石、サンテール基地が見えてきた。

 

 「こちらシーガレット。ドロイドが3体壊れた。誰か代わりのドロイド5体か、手伝ってくれる人6人くらい来て欲しい。報酬は254G(ガット)出す。」

 

 前回も送ったこの通信は合言葉のようなものだ。それぞれの船によって送る言葉は違う。

 

「なんです?その通信。」

「まぁ見ていろ。」

 

 そう言っているとサンテール基地のゲートが開かれた。エドワードは開いた口がふさがらないといった次第だ。その顔は結構抜けていて面白かった。

 

「な、なんなんですかあれ?」

「今回の商売相手さ。」

 

 

 

 

 

 

「お疲れさん、茶でもどうだい?」

「・・・思うんだがお前はいつも同じことを言うな。」

 

 思い返すとこいつはいつも同じことを言ってくる気がする。 会った相手には茶を進めないといけない呪いにでもかかっているのだろうか?

 

「・・・そちらの人は?」

 

 などと考えていたら、ランディがエドワードに気付いた。彼につい最近雇った新しい船員だと伝える。

 

「へぇ。あのシーガレットが新しい船員を雇うとはねぇ。珍しい事もあるもんだ。」

「いい加減人不足が酷かっただけだ。」

「そうか。じゃあ彼は医務室に連れて行くよ。」

「え?」

「あぁ、私はベルトラムに話をしてくるから。」

 

 そう言って私はその場を後にする。エドワードは訳も分からずランディに連れていかれた。

別にエドワードが何処か具合が悪い訳では無い。これから彼が医務室に行くのは、ナノマシンを投与する為である。ナノマシンは脳神経に働き、この基地の事を他人に話そうとするのを防ぐものだ。この基地に関係する事を話そうとするとナノマシンが脳に働きかけて意味不明な事を話させる。文字やデータ入力も防ぐものだ。他に機能は無く、死に至る事も無い。ただこの基地の情報を他に伝える事が出来ないだけだ。

 

 無論私も投与されているし、この基地に関係のある人間は全員投与されている。裏切りを防ぐのと、敵に捕まっても情報が漏れないようにするためだ。このおかげで現在までこの基地は発見に至っていない。

 

 ちなみにナノマシンを投与した後少しの間宇宙酔いのような状態になる。

 

「来たな。自称善良な0Gドッグ。」

「自称も何も私は善良だよ。」

 

いつもの掛け合いをして、ソファに座る。向かいのソファに腰かけたベルトラムは、どこか機嫌が良さそうだ。

 

「機嫌が良さそうだな。何かいい事でもあったのか?」

「ん?あぁ、フリーボヤージュがいい鉱脈を見つけてくれてな。なんとか金の当てがついたのさ。」

「ほう、それは良かった。」

「お前の方こそ何かあったのか?一人でやっていくと言っていたお前が、人を雇うなんて珍しいじゃないか。」

「さすがに、人手が足らなくてな。」

「なんだ、老化でも始まったのか?」

 

 ・・・ふざけた事を抜かすベルトラムを睨む。失言に気付いたベルトラムはすぐに取り消した。

 

「あ、いや悪かった。」

「分かればいい。」

 

 反省しているようなので今回は許す事にした。

 

「お詫びという事で、今回は高めに買い取ってくれるんだろう。」

「ぐ・・・仕方ない・・・。」

 

 ここでふとある事を思い出した。ここへ逃げ込んできたレジスタンス達の事だ。リーダーのギルバードは敵討ちとかなんとか騒いでいたが、下手な行動を起こすとこっちまで巻き添えを食らう。

 

「フリーボヤージュやディエゴも説得してくれて、何とか抑えているよ。」

「ほう。ディエゴが説得を。」

 

 復讐に燃えた奴ほど何をするか分からないから、ディエゴも説得するしかなかったのだろう。

 

「そういえば知っているか?ヤッハバッハの連中、レジスタンスの拠点を破壊するのに何か新兵器を使ったらしい。」

「その事なら逃げてきたレジスタンス達から聞いている。どうやら拠点を壊滅させるのにゼー・グルフ級戦艦を持ち出してきたらしい。」

「ゼー・グルフ!?あのリベリア駐留艦隊旗艦のか!?」

 

 ゼー・グルフ級戦艦。ヤッハバッハが持つ巨大戦艦で、宙域を守るテリトリアルフリートの旗艦として用いられる船だ。宙域を監視する駐留艦隊の旗艦として惑星リベリアに配備されている。

 まるで要塞のような巨大な戦艦で、その破壊力は尋常な物ではない。

 

「いや、どうやら別の船らしい。あの化け物が二隻もリベリアに居ると思うと寒気がする。」

「新兵器については?」

「詳細は分かっていない。ただ生き残りの証言から強力なレーザー兵器か何かでは?という程度だ。」

 

 まぁ、そんな簡単に分かる訳が無いだろう。とここでドアが開く。見ればそこにはランディとその肩を借りるエドワードの姿があった。

 

「うぅ・・・気持ち悪い。」

「少しの辛抱だから我慢してくださいね。」

 

 投与後の作用で気持ち悪さが出ている様だ。頭の中に異物を入れるのだから当たり前だ。

 

「君が新入りか。私はこの基地の司令官ベルトラム大佐だ。」

「ど、どうも。シーガレット艦長の船のクルーのエドワードです。」

 

 エドワードは気持ち悪さを抑えながらベルトラムが差し出した手を握る。 握手した後、ソファに座った私達の元へランディがお茶を持ってきた。聞けばランディが淹れたものらしい。茶が趣味なのだろうか?

 

「で、金の事だが多少色を付けて1200Gでどうだ。」

「少ない。」

 

 ベルトラムが提示した額をぴしゃりと否定する。理由は簡単、安すぎる。

 

「大佐。前回殆ど赤字だ食料を引き渡しただろう。その分も含めて今回は2500Gだ。」

「そ、そんな大金はさすがに用意できない。前回の分は前回の分だ。1500Gでどうだ。」

「前回はそれなりに損をしているんだ。たまには儲けさせてくれなければな。それに大佐から貰った例のコントロールユニットは未完成のデータだった。さすがにそれは聞いていないからな。その分も合わせてそれぐらい支払って貰わないとな。」

「未完成のデータだったのか。」

 

 あの設計図が未完成だったことは大佐も知らなかったらしい。だからと言ってまけてやる道理は無いが。

大佐はずいぶんと唸っていた。それもそうだ、2500Gという大金はそう簡単に用意できるものではない。

 

「では間を取って2000Gという事でどうでしょう?前回のお礼もありますし。」

「むぅ・・・それくらいなら何とかなるか。」

「こちらもそれで構わない。」

 

 ランディの発案により2000Gで手を打つことにした。2000Gのクレジットと鉱石をペイロードに詰め込む。

 

「船長、2000Gも手に入れたのに何でこんなに大量の鉱石まで積むんですか?」

「私達はゼアマ宙域にある採掘ステーションに食料などを運び代わりに代金と鉱石をフラベクへ運んでいるのさ。」

「あ。なーるほど。」

 

 正直に反乱分子に食料を売りますなんて言える訳も無く、航行許可も下りないのでこの宙域にある採掘ステーションに物資を届ける事にしている。その嘘をより本物に近づける為にこうして鉱石を積み偽装する。

 ちなみに採掘ステーションも用意してあるが、古くなって使用に問題があるので最低限アーミーズの人員がいるだけだ。採掘機能もほとんど麻痺している。

 

 サンテール基地を出港した後は航行データを偽装する為に、その採掘ステーションに行かなければならない。これが少々面倒くさい。

 

 

『ゲート開放、出港を許可する。次も旨い酒頼むぜ。』

「手に入ったらな。」

 

 管制官の頼みに適当な返事をして出港する。あの岩石群を抜け、我々はフラベクへの帰路に着いた。

 

「そういえば船長。あのベルトラム大佐と話してた時コントロールユニットがどうとか言ってたじゃないですか。」

「あぁ、あの未完成品。」

「そのデータ見せてもらっていいですか?」

「ん?あぁいいぞ。」

 

 一瞬なんでそんなものをと思ったが、彼が科学者だったことをすっかり忘れていた。こういうものには興味があるんだろう。もっていたデータプレートを渡す。

 

「・・・あ、これ俺が研究していたユニットのモジュールですね。」

「本当か!?」

「昔に研究していた奴ですけどね。完成間近って所で部署替え食らったんですよ。」

「それは・・・ご愁傷様。」

「ははは、まぁ結局間近になってプログラムや部品に欠陥が見つかって、結局中断になりましたけどね。」

「そうか。一瞬君なら完成させられると思ったんだけどな。」

「出来ますよ。」

 

 ポカンとした表情を浮かべる私を見て、エドワードはニヤリとする。まるで、新しいおもちゃを周りに自慢する子供のようだ。

 

「担当を外された後もこっそり個人で研究していたんですよ。欠陥の解消なら簡単にできますし、元のデータもあるので多少書き換えてやれば製造可能です。」

 

  得意げに話すエドワードに思わず見とれた。もしかしたらとんでもない人材を引っ掛けたのかもしれない。そんな予感がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「来てしまったか。」

 

 あのモジュールが作れると分かってから1週間の月日が経っていた。理由は、フラベクでは装備や資源が無いのと航行許可が中々取れなかったのである。モジュールを作りたいと言ってあのデータを提出する訳にもいかないので、酒場のマスターに頼みリベリア行きのミッションがあったら優先で回してくれと頼んだ。

 1週間後にようやく貨物の輸送ミッションが来たので、それを利用してリベリアまで来た訳だ。

 

「貨物の搬出終わりました!さぁ早く工廠に行きましょう!」

 

 異様な程に高いテンションのエドワードに少しうんざりする。まぁ自分が研究していたものが完成するとなれば喜ぶのも当然か。

 

 私達は早速交渉へと向かい船の改造を始める。と言っても端末でモジュールをどこに組み込むか決めてボタンを押すだけなのだが。意外と大きいモジュールで貨物室を一つ潰す羽目になった。

 

 そしていざ搭載しようとした所で、その見積額が目に入った。

 

「い、10000G・・・だと?」

 

 その改造費がバカにならない。下手すれば船一隻建造できる。

 

「駄目だ駄目だ。キャンセルだ!」

「そんな!?どうしてですか!?」

「こんな大金使える訳無いだろう!!」

「大丈夫ですって。俺がコツコツ貯めてた貯金がいくらかあるんでそれも使えば安く済みますよ。」

「いくらくらい安くなる。」

「・・・2000Gくらい?」

「却下だ!却下!!」

 

 10000Gから2000G引いたって8000Gもするじゃないか!そんな大金使う余裕はない!!

 

「そんなぁ!お願いしますよ船長!!俺の給料半分でいいので!」

「無茶言うな!これなら人雇った方がマシだ!」

「初期投資が少し高いだけですよ!この期を逃したら二度と作れませんって!」

「その初期投資が高すぎるんだろうがぁあ!!」

 

 何だかんだと揉めていたら、管理ドロイドからうるさいと怒られた。何故こんな目に・・・。

 

「分かりました。だったら賭けで決めましょう。」

「何故?」

 

 興奮からか口調が本来のモノになったエドワードはこう切り出してきた。船の所有者は私なのに?

 

「俺が勝ったらこのモジュールを搭載してください。代わりに艦長が勝ったら俺の給料4分の1でいいです。」

「いやそれ対して私に利益が無いじゃないか・・・。」

「乗せる時の金額は俺が出せるだけ出すので、残りを艦長に払ってもらうって事で。」

「いやだから」

「嫌ならヤッハバッハの詰め所にでも駆け込みますけど。」

「ぐ・・・。」

 

 や、やはりこんな奴雇うんじゃなかった・・・。

 

「はぁ・・・分かった。してどんな賭けだ?」

「これです。」

 

 そう言ってエドワードは一枚のコインを取り出す。何の変哲もない何処かの記念品らしきコインだ。

 

「コイントスか。」

「裏と表、どちらにします?」

「・・・表だ。」

「では。」

 

 ピンッと弾かれたコインは宙を舞い、落ちてきた所をエドワードが手の甲でキャッチする。ゆっくりと手をどけるとそこにあったのは裏を向いたコインだった。

 

「なッ!?」

「やったぜ!!」

 

―――この瞬間私の貯金の大半が吹き飛ぶのが確定した。船の運航費が・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 小一時間程して改造が終わった。本来なら10分もかからないものだが何分規格外のモジュールの為か随分時間がかかった。

 余談だが、エドワードはずいぶん金を貯めていたらしく残高を確認したら2800Gもあった。学者の給料はずいぶん良いらしい。まぁ今回の事ですべて消し飛んだが。

 

 かくいう私もせっせと溜めていた金がほとんど無くなってしまった。

 

「では早速起動しましょう!」

「あぁ。」

 

 新しいおもちゃを手に入れた状態のエドワードは、興奮気味にコントロールユニットを起動する。

グオオンと起動音が鳴り、船からアナウンスが聞こえた。

 

『初めまして、私はRHGS3400。あなたの船の運航を手助けするコントロールユニットです。』

 

 いかにも事務的な音声が流れてきた。

 

「初めましてRHGS3400。アルタイトへようこそ。」

 

 そのユニットに向かい話しかけるエドワード。彼がなぜコントロールユニットに話しかけているのか、私には理解不能だ。自分の作ったものに対する愛情なのだろうか?

 などの考えが顔に出ていたらしく、私の顔を見たエドワードが説明する。

 

「このコントロールユニットはAIを搭載していて自分で判断し成長していくんですよ。」

「つまり、空間通商管理局のドロイドとは違うと?」

「大違いです!自立判断と自己成長を兼ね備えたこのAIは、きちんと育てさえすればベテランの船員よりも高いポテンシャルを発揮します!さらに人件費不要で費用対策効果もばっちりです!」

 

 人間自分の得意分野になったりすると饒舌になるが、彼の場合はプラスで興奮もついてくるのか。

 

「で、今の時点でどんな事が出来るんだ?」

「現段階は人間で言うと生まれたばかりの状態に当たります。出来る事と言っても管理局のドロイドと同じか少し劣ります。」

「・・・それじゃあ金の無駄遣いじゃないか?」

「生まれたての赤ん坊が操船出来る訳が無いでしょう。それと同じです。」

 

 管理局のドロイドより劣ると言われて内心焦ったが、エドワードの言葉に納得する。新人がいきなりなんでも艦でも出来る訳が無いように、このAIも初めからなんでも出来る訳では無いのだろう。

 

「つまり、これからいろいろ教えていくしかないと。」

「そういう事です。」

 

 新人を鍛えてベテランに育て上げるように、このAIも育てていかなくてはいけないらしい。

 

「そうなると名前が必要だな。」

「名前ですか?」

「RHGS3400なんて呼びにくい。何か愛称は無いのか?」

「生憎とそういうのは無いですね。艦長は何かいい案がありますか?」

「無いな。」

 

 いきなり名前を考えろと言われても無理な話である。少し考えた所でいい案が思いついた。

 

「アルタイトでいいんじゃないか?」

「それってこの船の名前では?」

「このAIはこの船に取り付けられたものだろう?なら船みたいなものだから、名前が一緒でも問題ないだろう。」

「確かに。」

 

 エドワードも納得したようだ。

 

「という訳でAI。今日から君の名前は”アルタイト”だ。」

『了承しました。アルタイトを本AIの名前として登録します。』

 

 感動も何もない無機質な返事を返された。まぁAIならこんなものかと思い、そういった所には目をつむる。願わくば投資に見合うだけの価値がある事を祈るだけである。



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第6話 配置につけ

「ふむ・・・。」

 

 大金をはたいて購入したAI に私は唸るしかなかった。

 まず船に関する事、航行や整備など殆どの事をこなしていた。ドロイドを自身の制御下に置き、それ等を操って航海や保守整備などを行なってくれる。

 

 それだけなら以前と変わらないが、このアルタイトには”成長”というものがある。初めは基本的な事しか出来なかったが、私の操船や、IPネットから情報を集め、それ等を研究しより効率的な動きを模索する。

 

 これによって船の効率が上がって来ている。補充や補修は元より補給品目や経理にまで手を伸ばし始め、より効率的になっていく。以前も節約に気を使っていたが、アルタイトによって更に維持費が安くなった。

 

 何よりこのAIの素晴らしい所はーーー

 

『艦長。ネルガリング重工の株価が20G上昇しました。売却をおすすめします。』

「いくら儲けられる?」

『全て売却して利益は134Gです。なお、これ以上は株価の上昇は見込めません。』

「よし。現在私のクレジットはいくらだ?」

『現在の総額は8340クレジットです。』

「よし・・・。3000クレジットでまた儲けられそうな株を買ってくれ。」

『了解しました。』

 

 この通り全自動で金を稼いでくれるのだ。おかげで資金がどんどん溜まっていきあっという間に元が取れた。

 

「また株ですか?」

「あぁ、アルタイトのおかげで安定して稼げるからな。金の心配をしなくて済むのはいい事だ。」

「確かにフリーの0Gドッグよりは儲かりますね。」

 

 航行制限の所為で仕事が減ったので、これまでの収入は結構不安定だった。

 反乱分子との取引に手を染めたもの金銭面の理由からだ。

 

 そうでも無ければヤッハバッハに逆らうような事はしない。

 

「・・・で、お前は何をしているんだ?」

「丁度研究がひと段落したんですよ。」

 

 船の維持管理をアルタイトが担っている為エドワードは半ば暇人となったのだ。

 人件費削減の為放り出しても良かったのだが、そうするとアルタイトの調整等を行う者が居なくなるのでそうする訳にはいかなかった。AIが導入され従来の仕事がなくなったとしても、それに変わる仕事が現れるのでAIだけで全て賄える訳では無いのだ。

 

 そしてエドワードは暇になった時間をもっぱら研究に費やしていた。たぶんこの状況の為にこのAIの導入を強引に進めてきたのだろう。

 

「で、何の研究がひと段落したんだ?」

「これなんですけどね。」

 

 そう言ってエドワードはデータプレートを見せてきた。そこには横にしたドラム缶に推進器やアームなどが取り付けられたものがあった。

 

「作業ポッド”オッゴ”。様々な機器を搭載可能でデブリ回収や採掘から戦闘も可能な万能ポッドです!これさえあれば何でも出来ます!」

「装備換装による多用途化か。一機で多様な任務に使えるのは素晴らしいな。」

「装備は市販されているものを調整すれば使えます。武装も市販のものが使えますが、データにある専用装備を使えば総合的な性能値はゼナ・ゼーを上回ります。」

「そんなに強そうには見えないが・・・。」

 

 ドラム缶に腕とブースターをつけただけの見た目からゼナ・ゼーより強いとは思えないが。

 

「しかもこの機体一機あたり250Gとかなり安く仕上がっています。」

「装備を全てつけるといくらになる?」

「480Gくらいです。」

「高いな。」

「この値段は現在考えられる全ての装備をつけた場合ですから、いらない装備を省けば安くなります。」

「なるほど。」

 

 得意げに話すエドワード。価格も高すぎず性能も悪くない(むしろ良い方だ)。

 

「だとしても作る気は無いぞ?」

「どぉしてですかぁぁあ!?」

「どうしてと言われても。」

 

 この船にはカタパルトなんて無いし、ペイロードも大きく無いので艦載機を積むスペースが無い。搭載できない訳では無いが、これを運用して稼ぐよりも別の貨物を積んで輸送した方が利益が見込めそうだ。

 その事を伝えたらブーイングしてきた。船から叩き出そうかなこいつ。

 

「まぁ大佐辺りにでも売りつけてやればいいさ。大佐ならこのなんでも出来る汎用機を喜んで買ってくれるだろう。」

 

 そう言って適当に慰めておく。拗ねられてアルタイトに変な調整をされたらたまらない。

 

「それで、今日も定期便ですか?」

「あぁ、採掘ステーションに食料を届け金と鉱石を受け取るのさ。」

 

 当然嘘だが、ナノマシンによる言語規制があるのでありのままには話せない。なので言葉を言い換えて話す。

 

 そしていつも通りゼアマ宙域のセクター4に行き、また暗礁宙域をくぐり抜ける。ドロイドやオートクルーズと違い、アルタイトのAIはこの状況下でも航行できる。

 

『左舷に岩石衝突。デフレクター±80で安定。航行に支障無し。』

 

 当初は航行は絶対に不可能とか言ってきたので、見本でこの岩石内を航行してやった。そしたらアルタイトはしばらく黙り込んだ後、理解不能と言ってきた。

 エドワードとデータのやり取りをしたり私から航行のコツを聞いたりしたアルタイトは、自分にも再現させて欲しいと言ってきた。

 エドワードによると自己成長機能により自分が不可能だと断定したものを他者に証明されたことに一種の対抗心が生まれた為、アルタイト自身で証明したいそうだ。人間でいう嫉妬やライバル心の形に近い物らしい。

 なので実際にやらせてみたら初回は岩石に頭から突っ込んでいった。デフレクターがオーバーロードを起こしかけ危うくダークマターになる所だった。

 

 その後10回以上の練習の末、ようやくアルタイトはこの航路を航行する事が出来たのだ。

 

 無事に航行出来た時、アルタイトは『反復した動作により行動をより精査する事が可能と理解しました。』と言っていたが、エドワード曰くこれは人間でいう「慣れれば楽勝」だそうだ。

 

 自己成長機能の所為か他のAIよりも少し人間味が感じられた。

 

 

 

 ガシャンと小さな振動と共に係留した音がする。いつも通り茶を進めてくるランディに荷物の積み出しを許可し、エドワードと共に大佐の所へ向かった。

 

「だから!あまり派手な動きはするなと言っているだろうが!!」

 

 部屋へ入ろうとしたら中から大佐の怒声が聞こえてきた。思わず部屋へ入るのをためらう。

 

「奴らへの報いをくれてやっただけだ!何も問題は無い!」

「テロを起こせば連中は血眼になって探し出す。そうなればここも見つかる可能性が高くなるのだ!!今日の焦りが明日の滅亡を生むことになるんだぞ!!」

「我々とてプロだ。ここが見つかるようなヘマはしない。それとも大佐は永遠にこの小惑星に隠れ住んでいるつもりか!?」

 

 おそらく言い合いの相手はギルバードだろう。そうこうしている内に部屋からギルバードが出てきた。彼はこちらを一瞥するとそのまま歩いて行ってしまった。

 

「大佐。失礼するよ。」

「あぁシーガレットか。とりあえず掛けてくれ。おい、誰か茶を持って来てくれ。」

 

 ソファに座るとアーミーズの一人が茶を持って来てくれた。大佐はそれを一気に飲むとため息を吐く。

 

「お疲れのようだな大佐。」

「あぁ、ヤッハバッハが憎いのは分かるが憎しみに駆られて行動しては後が怖いからな。せめてヤッハバッハの支配体制に隙が生じるまでは大人しくして欲しいのだが・・・。」

 

 大佐の愚痴を聞きながら商談をしていた。今回の売却値は相場相応と言った所だ。

 

「それと大佐。今回は別口で売りたいものがある。」

「なんだ?」

 

 大佐に一枚のデータプレートを渡す。それはエドワードが開発した例の作業ポッド”オッゴ”の設計図だ。詳しい説明はエドワードが行った。説明を聞いた大佐は

 

「なるほど、多様な作業も出来るし性能も悪くないし安いと来たか。確かに我々にはうってつけのものかもしれん。」

「売却額は50Gという事で。」

「よかろう。」

 

 そう言って大佐からクレジットを受け取りデータプレートを渡す。大佐は早速データを部下に渡し、一機試作で作っておくよう指示を出した。

 

「ふむ、こうなると採掘装備などの市販品も買わねばならないかな。」

「デブリ回収装備や武器はいるか?」

「回収装備はともかく武器はいらない。市販の武器の威力などたかが知れているし、ヤッハバッハに嗅ぎつけられでもしたら困るからな。こっちで自作した方が良い。」

「確かに。」

 

 次回は食料に加え採掘装備もいくつか追加された。丁度商談がまとまった時扉から一人の男が入ってきた。

 

「よぉ大佐。相変わらずしけた面だな。」

「ディエゴか。今日はなんだ。」

「用があるのは大佐じゃなくてそこの自称善良な0Gドッグさ。」

「私に?」

 

 ちなみに自称善良では無く善良な0Gドッグである。

 

「おう、あんたにちょっと頼みたいんだが。酒と煙草とドロップを運んでほしい。」

「ドロップ?」

 

 エドワードが首をかしげる。ドロップというのは隠語で違法ドラッグを意味する。服用すると快楽を得られる麻薬の一種みたいなもので海賊の中にも刺激を求める海賊にとっては娯楽の一品なのだろう。当然害はあるが。

 

「酒や煙草ならともかくドロップは無理だ。監視が厳しくて入手できる場所も無い。諦めろ。」

「入手出来たらでいいんだ。部下にも娯楽を与えねえといけねえからな。」

「善処はするが期待するなよ。」

「頼んだぜ。」

 

 そう言ってディエゴは部屋から出て行った。

 

「部下の忠誠を保つのも大変なのだな。」

「海賊連中は自分勝手な者が多いからな。薬物も必要になるのだろう。」

 

 大佐と私はそんな感想を漏らす。組織のボスとは聞こえが良いが、会社で言ったら唯の管理職だ。片や各派閥の調整を、片や部下の統率を保つのにそれなりの苦労がいるのだろう。

 調達するものが多くなり色々と忙しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『艦長。出港終了、進路ゼアマ宙域にセットしました。』

「ご苦労様。」

 

 あれから3週間してようやく船を出港させることが出来た。というのも市販の採掘装備をそろえるのに手間取ったのだ。まさかフラベクで採掘装備を買おうと思った会社が倒産しているとは思わなかった。仕方なく別の星で買う事にしたが、工場で事故が起こって買えなくなり、別の会社でようやく購入できたのだ。

 

「いくら何でも機器の操作ミスで工場吹っ飛ばすか?」

『人間は間違いを犯す生き物だと言われています。あの会社の状況を見る限りいずれああなるのは自明の理かと。』

「いかにもブラック企業でしたからね。」

 

 作業員の過労による操作ミスでジェネレータをオーバーロードさせ、工場丸々吹き飛ばしたそうだ。死者が出なかったのが不思議なくらいだ。

 

 静かな航路株で金を稼ぎ、研究をしながら航行しているとあっという間にサンテールに到着した。

 

「艦長、あれ。」

 

 入港した私達が見たのは港内に係留されている大量の作業ポッドオッゴだった。見えるだけで50機以上のオッゴがいる。しかもすべてにレーザーガンやミサイルポッドが搭載されている。

 

「ランディ・・・これは一体・・・。」

「あぁ、君の所の乗組員が設計した機体を作ったんだけど中々性能が良くてね。大佐だけじゃなく海賊もレジスタンスも0Gドッグも欲しがって大量に生産しているんだよ。おかげでアーミーズの資金はうるおい戦力は強化され万々歳さ。」

「そ、そうか・・・。」

 

 こんなに大量に作られるとは思ってもいなかった。ふとエドワードを見るとドヤ顔でこっちを見てきた。お前がすごいのは分かったからその顔はやめろ。

 

「来たかシーガレット。そしてエドワード君。」

「大佐。」

 

 後ろから声をかけられたと思ったら、そこに居たのはベルトラム大佐だった。

 

「君が作り出したオッゴは素晴らしいな。ヤッハバッハと交戦したレジスタンスや海賊から素晴らしいと評価を得ている。」

「実際に戦闘したのか!?」

「あぁ、これまでにゼナ・ゼーを12機撃墜しブランジ級も1隻撃沈している。」

「それはすごいな。」

 

 ゼナ・ゼーはヤッハバッハの主力艦載機でクラスターレーザーやクラスターミサイルで武装しており、宙域制圧任務など幅広い任務に使われている。ブランジ級は以前エドワードを送る途中に遭遇した細長いスティック状の船体を持つヤッハバッハの突撃艦だ。

 

「どうかねエドワード君。うちに来て研究しないか?なんでもという訳では無いが可能な限り希望のモノは用意する。ぜひ来てほしい。」

「え。」

 

 突然のスカウトに困惑するエドワード。確かにエドワードは有能な人物だ。今回のオッゴを見てもそれが分かる。だが、ここでエドワードが居なくなったらアルタイトの調整や整備を行うものが居なくなる。それは不味い。

 

「大佐、引き抜きは感心しないぞ。」

「別に彼は君の所有物ではあるまい?私がここで引き抜いたからといって最終的には彼が決める事だ。」

「うちにとっても大切な船員なんでね。抜けられると困るんだよ。」

 

 私と大佐が火花を散らしている後ろで、ランディがエドワードに「モテモテですねー。」とか言っているのが聞こえたが、別にそういう意味ではない。

 

「そもそも―――『ウウゥゥゥゥ!!』なんだ!?」

 

 さらに私が何か言おうとした瞬間と基地内に警報が鳴り響く。見ればドック内に煙を吹いた船が数隻入港してきた。

 

「海賊達の船だ!」

「煙を吹いてるぞ!消火班配置につけ!!」

「医療班リジェネ―ションポットと負傷者搬送の準備!急げ!!」

 

 いきなり基地内が慌ただしくなった。入港してくるのは駆逐艦や魚雷艇などの船でディエゴ海賊団のマークが入っている。大半がどこかしらに損害を受けていて、ひどいものでは装甲板が吹き飛ばされ内部のブロック区画が丸見えになっている。あれでよくたどり着けたものだと感心するくらいだ。

 

「イテテ・・・やられちまったぜ大佐。」

 

 入港した駆逐艦からディエゴが入ってきた。頭に怪我をしているのか包帯を巻いて部下に支えられている。

 

「何があった。」

「ゲートの向こうでヤッハバッハの艦隊に遭遇したんだ。ブランジ2隻ダルダベル2隻、最後にゼー・グルフ一隻の計5隻だ。」

「ゼー・グルフに喧嘩売るとは血迷ったか?」

「んなわけあるか!奴らとばったり遭遇しちまっただけだ。戦闘になんてなるかよ。」

 

 確かに海賊の船とヤッハバッハの船の性能差は歴然だ。それこそ戦闘というよりも蹂躙という言葉の方が似合うくらいに。

 

「それとそのゼー・グルフは唯のゼー・グルフじゃねぇ・・・。艦首によく分からん強力なレーザー砲を付けてやがる。一撃で数隻まとめてダークマターにされた。レジスタンス基地を壊滅させたゼー・グルフはたぶんあいつだぜ・・・。」

「分かった。後は医務室へ行け。」

「そうさせてもらうぜ・・・。」

「大佐!こちらでしたか!至急指令室へ!」

 

 ディエゴと入れ違いに男が一人入ってくる。服装からしてアーミーズの一人だ。

 

「何があった?」

「フリーボヤージュから、セクター3に巨大な艦影を確認。こちらに向かっているとの報告です。一隻はおそらくゼー・グルフだと。」

「何!?」

 

 例のレジスタンス基地を壊滅させ、ディエゴ海賊団に痛手を負わせたゼー・グルフが隣のセクターからこちらに向かっている。この報告を聞き、ついにこの基地の所在がばれたかと思った。

 

「兎に角指令室へ!」

 

 慌てて走り出したベルトラム大佐についていく。本音を言えば即この基地から退散したいが、隣のセクターに敵がいる以上、迂闊に出港する訳にもいかない。何をするにしても情報が必要だ。

 

「状況はどうなっている?」

 

 指令室に着いた大佐はオペレーターに尋ねる。オペレーターから帰ってきた答えは最悪のモノだった。

 

「はい、フリーボヤージュの船トラプション号からの通信で、敵艦隊はブランジ級突撃艦2隻、ダルダベル級巡洋艦2隻、ゼー・グルフ級戦艦1隻です。」

「ディエゴ達が遭遇した敵で間違いないようだな。」

「レジスタンス狩りの部隊でしょうか?」

 

 部下の一人の問いに、大佐は首を振る。

 

「たかがレジスタンス相手にあの巨大戦艦を派遣するのはおかしい。むしろ空母を派遣して逃げられないよう殲滅するべきだ。」

「では他に何が?」

「新兵器の実験では無いか?」

 

 私の言葉に指令室内にいた人間が一斉に注目する。

 

「噂だがヤッハバッハが新兵器の実験でレジスタンス狩りを行っていると聞いた。レジスタンスの拠点を壊滅させたのもゼー・グルフなんだろう?ディエゴの話と艦隊編成から察するにそうだと思う。」

「・・・我々は実験相手という事か。」

 

 大佐の呟きに全員が黙り込む。星の海を渡り他の国家を力で屈服させるヤッハバッハにまともに相手にされないとは思っていたが、新兵器の実験相手などとされればあまりいい気はしない。ことにそれが誇りある元軍人であれば。

 士気が低下する彼らに大佐は指示を下す。

 

「相手の目的などどうでもいい、むしろこれはチャンスだと思え。連中が新兵器の実験程度に見ているのならば油断もしているだろう。そこに付け込む隙があるのだ。基地の全員に戦闘配備を命令。総力戦だ。」

「た、戦うんですか!?」

「当たり前だ。ディエゴ達のインフラトン航跡をたどればおのずとここにたどり着く。そうなれば戦闘は避けられん。今から逃げ出すにしても行く当てはなく、このセクターは行き止まりだ。逃げようがない。今のうちに戦闘配備を命じろ。動ける船も艦載機も全部だせ。もちろんオッゴもだ。戦えるものは全員出撃だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 サンテール基地が建設されてからこれほど慌ただしい日は初めてだろう。港内にいた巡洋艦や駆逐艦をはじめとした艦艇のほとんどが出港していく。

 

 この基地は隠れるのには絶好だが、どちらかというと補給基地としての側面が強く基地そのものの武装は少ない。対空パルスレーザーやミサイルを装備してはいるが、対艦用としては威力不足だ。

 

 もし港の入り口を破壊されれば内部にいる艦艇は出港できず、何も出来ないままそのまま基地と共に破壊されるだろう。

 そのため貨物船だろうが何だろうが出港可能な船は全艦出港する。

 

 そして何故か私も戦闘の頭数に入っているらしい。オッゴを4機積み込んで暗礁宙域に隠れていろとの事だ。

 

『アルタイトへ進路クリア。出港してください。』

「了解した。」

 

 どのみちダルダベルの艦載機が離脱を許さないだろう。暗礁宙域内ではレーダーが効かなくともその外は丸見えなので迂闊に出れば補足撃沈される。結局戦うしかないのだ。

 

「にしても基地の場所がばれるとはな。海賊達もちょっとは考えて行動しろってんだ。」

「仕方あるまい。どのみちいつかはこうなっていたんだ。オッゴが間に合っただけでもよしとするさ。」

 

 オッゴのパイロット、ポプランとコーネフという二人の男はウォッカ片手に喋っていた。二人とも優秀なパイロットらしく、元リベリア軍人だ。アーミーズに所属し、艦載機パイロットの育成や宙域の哨戒などをやっていたそうだ。

 海賊に文句を言っているのがポプランで、それに返しているのがコーネフだ。

 

「ポプラン少佐!コーネフ少佐!オッゴのチェックがまもなく終了するとの事です!」

「ご苦労さん!」

 

 そういって2人の少年がブリッジに入ってくる。二人ともオッゴのパイロットでついこの間訓練課程を修了したひよっこだそうだ。

 他にもオッゴの整備が出来るのが数人と、なぜかランディも乗り込んできた。ランディも多少の整備は出来るので乗せられたそうだ。

 

 「よし、ここら辺でいいだろう。アルタイト、ワイヤーを正面の岩石に打ち込んでくれ。その岩にくっつく。」

『了解。ワイヤー発射します。』

 

 岩石の裏にワイヤーを打ち込んで着陸し、インフラトン・インヴァイダーを落す。岩石の裏で宇宙船の動力源であるインフラトン・インヴァイダーを落とすことで敵から発見されなくするのだ。この状態の船を見つけるには、至近距離まで近づくか、目視で確認するしかない。レーダー波は岩石に遮られ、インフラトン反応も探知できなくなるからだ。

 

 ただしこの状態だと重力井戸(艦内に重力を発生させる装置。)やレーザー砲、シールドやデフレクターなど動力を必要とする装置が使用不可になる。生命維持用のオキシダントジェネレータは非常用バッテリーなどで稼働するが、最高でも1週間が限度とされている。

 

「さて、どうなる事か。」

 

 非常灯のみがついたブリッジで一人呟いた。




艦載機パイロットっていうとどうしてもあの2人が思いつきます。



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第7話 暗礁宙域の戦闘

「艦長。ゼアマ宙域セクター4に到着しました。」

 

 チャートを見ていた航海士が艦長席に座る一人の男に報告する。この男こそヤッハバッハの巨大戦艦ゼー・グルフ級戦艦【ドン・ディッジ】の艦長だ。ドン・ディッジには4隻の船が随行しておりうち2隻は全長340mのスティック状の船体をしたブランジ級突撃艦。もう2隻は左舷に巨大なカタパルトを備え右舷に巨大なミサイルコンテナを装備した重巡洋艦ダルダベルである。

 

「まさに暗礁宙域だな。」

 

 チャートを見つめた艦長の呟きに副官が答える。

 

「以前もこの宙域に対し捜査を行っておりました。しかし、この暗礁宙域です。今まで発見できなかったのも仕方が無い事でしょう。」

「ふん。宙域に網を張り、航行する艦艇を片端からチェックすればよかったのだ。被征服民のご機嫌を取るよりそちらの方が重要だったのに。」

 

 実際にはそのような作戦は補給や人員に対し多大な負担をかける為長期にわたっては実行できない。

 この艦長はヤッハバッハ本国出身であり、被征服民を見下す傾向があった。その為総督府が旧リベリアを始め征服した諸国に対し行っている政策を快く思っていないのだ。

 その為頭では無理と分かっている作戦を言って総督府を非難する。

 

 それを理解している副官は深入りせずに状況を説明する。

 

「航跡は暗礁宙域内部へ続いていますが、そこから先はトレースできません。またブランジ級以外の艦艇では内部への突入は不可能です。」

「ふむ・・・。よし、艦載機隊を出し敵の位置を教えろ。ドン・ディッジの対艦クラスターレーザーでデブリごと吹き飛ばす。」

「了解。」

 

 ゼー・グルフとダルダベルのカタパルトから全部で60機のゼナ・ゼーが発進する。彼の目的は反乱分子の排除でもあるがそれとは別にもう一つの任務を負っていた。

 

 ドン・ディッジに搭載された試作兵器。”対艦クラスターレーザー”の運用試験である。リベリアで開発中だったものをヤッハバッハが接収し試作したものだ。この世界で基本装備となったAPFシールド(アンチエナジー・プロアクディブ・フォース・シールド)に対抗する為開発された。

 

 APFシールドは、シールドで船体を包み込み船体めがけ発射されたビームの固有周波数に干渉し無力化するもので、多岐に渡るビームの周波数に対処する為、あらかじめ複数のビームに対応するフィールドを重ねがけする。

 

 対艦クラスターレーザーはそのAPFシールドに対し周波数が異なる強力かつ大量のレーザーを命中させシールドが対応していない周波数のレーザーを貫通させ、更にシールドに一瞬で大量のエネルギーをぶつける事によりシールドジェネレーターをオーバーロードさせる。

 

 簡単に言えばレーザーに対抗するシールドを強力なレーザーで打ち破るというごり押しな兵器である。

 

 一度に強力なかつ周波数が違うレーザーを多数発射する為製作された強力かつ大型なジェネレーターを複数とゼー・グルフの主砲と同口径の(というより主砲を流用したもの)レーザー砲60門を防御性も考慮して艦首に埋め込み、更にレーザー砲専用のインフラトン・インヴァイダーを搭載した結果ドン・ディッジは全長が本来のゼー・グルフより300mも伸び、一部のミサイルランチャーや格納庫などを撤去した。

 また、ジェネレーターなどを増設して事により防御性は低下し、質量の増加に伴い機動性も低下した。

 

 それを差し引いても60門のレーザー砲の一斉射による火力は強力で皇帝艦ゼオ・ジ・バルト級に次ぐものである。

 

 なお、APFシールドの影響を完全に受けず対艦クラスターレーザーシステムよりも安価で維持管理が容易で信頼性のあるものとしてクラスターミサイルが存在する。

 そのため、以後ヤッハバッハでこの兵器が開発されることはなかった。

 

 

 

 そして対艦クラスターレーザーの試験艦隊から艦載機隊が暗礁内に突入し索敵を開始する。直後、モニターに爆発の光が観測された。

 

「何があった!?」

「対空ミサイルを設置された岩石からの攻撃です!奴らデブリに無人の対空砲台を設置していたようです!」

「第7小隊全滅!現在6機撃墜されました!」

『こちら第34小隊ジンジャー!ポイントLC8873に敵の巡洋艦を確認砲撃をうおっ!』

「どうしたジンジャー!応答しろ!」

『こちら第14小隊!敵の戦闘機だ!ドラム缶みたいな見た目をした奴だ!!』

「あの新型か。」

 

 最近反乱分子が開発したと思われる新型戦闘機で、ヤッハバッハの主力艦載機ゼナ・ゼーをいくつか撃墜され、ブランジ級も一隻食われている。

 

「艦長、敵は暗礁内での戦闘に手慣れているようです。艦載機隊の損耗が徐々に増しつつあります。」

「やむを得ん、直掩の小隊を除き全機を内部へ突入させろ。ただし敵艦の位置の割り出しを最優先。こちらの射線には入るなよ。」

「はッ!」

 

 万が一の為の直掩機を9機残し、他の艦載機が続々とカタパルトから発進していく。相手の地の利を数でカバーしようとしたものだ。その為直掩機以外の全機を投入した。

 

「それと対艦クラスターレーザーの照準をポイントLC8873へ。合わせ次第砲撃!!」

「了解!!」

 

 即座にカタパルトから残りのゼナ・ゼーおよそ111機が発進する。

 

「照準よし!エネルギー充填完了!」

「よし、撃て!」

 

 号令が下され蓄えられたエネルギーがドン・ディッジの対艦クラスターレーザーに供給され発射される。いくつもあるレーザー砲より発射された大量のレーザーは巡洋艦が隠れていた岩石とその周囲に命中する。

 高エネルギー体のレーザーにより岩石は溶かされ貫通し、影に隠れていた巡洋艦に命中する。巡洋艦のAPFシールドは固有振動に対応したレーザーの威力を減衰させさらに装甲によって被害を最小限に抑えた。

 だが、それも2,3発のレーザーにとどまり40以上の強力なレーザーの直撃を受けた巡洋艦はシールドジェネレータが負荷に耐え切れず爆発。さらに装甲を突き破ったレーザーがインフラトン・インヴァイダーや弾薬庫を焼き大爆発を起こした。

 

 耐えきれなかった船体は爆発によりインフラトンの蒼い火球と化した。

 

「インフラトン反応の拡散を確認!撃沈です!」

「すげぇ・・・周りのデブリごと爆沈しちまった。」

 

 巡洋艦とその周りのデブリが一瞬で破壊されたのを目の当たりにしたオペレーターの驚きの声が聞こえる。その圧倒的な力に、艦長は口角を釣り上げる。

 

「艦長。敵の長距離ミサイルと先程の爆発で吹き飛ばされた岩石がこちらへ向かっています。」

「長距離ミサイルを優先して迎撃しろ。石ころは無視して構わん。」

「了解。」

 

 真空という特性上一度発射されたミサイルは燃料が切れてもそのまま飛び続ける。その為レーザーなどよりもはるか遠くに飛ばすことが出来る。

 ただし、遠距離から飛ばす分命中率も著しく低下し、着弾まで時間がある事から容易に対処できる。

 

 実際、ベルトラム大佐達が発射した23発のミサイルは信管の自爆装置を切っただけの短距離ミサイルや中距離ミサイルで、命中精度は望むべくもない。

 ちなみにミサイルについている自爆装置は一定距離進んだら自爆するもので、戦場から遠く離れた艦にまで被害が及ばない様にするためのものである。

 

 発射されたミサイルは殆どが明後日の方向へ飛んで行き、命中コースに乗った数発もあっさりと撃墜された。レジスタンスの抵抗もあっさり排除したことから、艦長はもはや余裕の表情で艦長席に深く腰掛け呟く。

 

「さぁ、狩りの時間だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘が始まってから30分。ベルトラム大佐らは混乱もしていたがそれ以上に焦っていた。サンテール基地の周辺に設置しておいた無人の防空砲台とオッゴ、さらに暗礁宙域という環境により敵の艦載機隊に対し有利だった。ただそれもわずかな間で、敵の巨大戦艦ゼー・グルフが砲撃を開始してから戦局は不利になっていった。

 

 元々不利になるのは覚悟していたが、こちらの3倍近い艦載機が送り込まれた上に位置が特定されその地点にゼー・グルフの強力なレーザーが飛来する。威嚇と敵のレーザー兵器の発射阻止の為に無理やり長距離ミサイルに改造したものを発射するが難なく迎撃され、逆に発射地点を特定されレーザーの雨が降り注ぐ。それ以外でもゼナ・ゼーによる攻撃や離脱しようと飛び出した艦が待ち構えていたブランジ級により沈められる。

 サンテール基地にいたのは全派閥合わせて巡洋艦4隻、駆逐艦9隻、魚雷艇23隻、貨物船が33隻である。

 現在に至るまでに巡洋艦2隻と駆逐艦1隻、魚雷艇6隻と貨物船18隻が大破または撃沈され、オッゴも約3分の1が撃ち落とされた。実質戦力は半減している。

 

「チッ!ここまで圧倒的だと嫌気がさすな!」

 

 些細な抵抗のミサイルも排除され、暗礁宙域を逃げ回る部隊を見て愚痴る。

かく言う大佐の乗る巡洋艦【ハーフェン】も敵のゼナ・ゼーによって既に中破状態になっている。

 

「敵の砲撃きます!」

「総員対ショック姿勢!APFシールド、デフレクター最大出力!」

「敵の砲撃目標本艦ではありません!!」

「何処だ!」

「サンテール基地です!!」

 

 オペレーターが言い終わるや否や基地にレーザーの雨が降り注ぐ。サンテール基地にはAPFシールドやデフレクターは装備されておらず、レーザーが命中した部分の岩石が蒸発し基地内部へ到達する。直後に大爆発が起こった。

 

「インフラトン反応が大量に拡散!おそらく基地のジェネレータに命中したものと思われます!」

「くそっ!」

 

 サンテール基地のあった小惑星は内部でジェネレータが爆発し、それが工廠内の機械や弾薬庫に引火したのか小規模な爆発がいくつも起きている。その様子から基地内にいた者達の生存は絶望的だ。

 

「大佐!この宙域から離脱しましょう!」

「阿呆ッ!!いまこの暗礁地帯から出れば敵の艦載機や砲撃で片っ端から血祭だ!」

「しかしこのままでは全滅も時間の問題です!」

「・・・分かっている。だが・・・。」

 

 逃げようと岩石群から飛び出せば敵艦に狙い撃ちにされ、かといってこのまま留まっていてもいずれ全滅するだけである。

 だが大佐達がこの現状に対し打つ手は無く、ただいつ訪れるか分からない死の恐怖に耐えるしか無かった。

 

 

 

 

 

「なんなんだありゃ。」

 

 一方アルタイトから発進したオッゴのパイロット達は戦闘後補給のためアルタイトに帰還していたところ、サンテール基地の崩壊を目撃していた。

 

 アルタイトはサンテールから最も離れた地点にいた為未だその存在を察知されてはいなかった。

 

「あれはクラスターレーザーですね。」

「あのヤッハバッハが対空や艦載機に搭載しているやつか?」

「恐らくそれの対艦バージョンです。かつてリベリア軍で研究されていたものですが、それをヤッハバッハが接収し完成させたのでしょう。」

 

 かつて兵器研究をしていたエドワードも一度関わった事があるらしい。だからといって現状を打破することは出来ないが。

 

 

「いっそ逃げるか?」

「ダメだ。暗礁から出た瞬間敵に捕捉される。現に味方の魚雷艇がそれで一隻食われてる。」

「じゃあどうするんだいシーガレット艦長。両手を上げて降伏するかい?」

 

 コーネフの意見に反対した私に対しポプランが突っかかる。だがそこにエドワードが割り込んできた。

 

「いや、降伏勧告を出さずに攻撃してきたのでこちらを文字通り全滅させる気でしょう。仮に降伏しても処刑は免れないかと。」

「レジスタンスの連中散々暴れてくれたからな。」

「畜生!」

 

 ヘルメットを床に投げつけるポプラン。彼の言葉は全員の気持ちを代弁していた。

 

『艦長。』

 

 突然アルタイトが呼んできた。

 

「なんだ?辞世の句でも呼んでくれるのか。」

『この状況から生き残る為の作戦を提案します。』

「成功する確率は?」

『30%です。』

「高いんだか低いんだか分からねぇな。」

 

 ポプランのぼやきを聞き流し、アルタイトの作戦を聞く。

 

 作戦を聞いた全員の反応はこれ上手くいくのかというものだった。

 

「まぁ分からないわけでは無いが・・・。」

「まさに神頼みだな。」

「本当に成功確率30%なのか?」

 

 成功に疑問を抱くコーネフ、ポプラン、エドワードの三人に私は言い放つ。

 

「他に策が無い以上私はこれに賭けようと思う。」

「「「・・・。」」」

「あの、」

 

 黙った三人の後ろからオッゴの少年パイロットが1人歩み出てきた。

 

「このままではいずれ殺されるのは目に見えています。黙って殺される位なら奴らに一泡吹かせてやりたいです。」

 

 その少年パイロットの言葉に大人三人は覚悟を決めたようだ。

 

「子供にそこまで言われたら大人が黙ってるのもカッコ悪いな。」

「確かに君の言う通りだ。死ぬまえに一泡吹かせてやるのも面白い。」

「やるだけやってやりますよ。」

 

「では作戦内容は聞いての通りだ。早速準備にかかるぞ。」

 

 おぉ!という短い返事と共にヤッハバッハへの反抗を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘開始から約1時間、反乱分子の基地を破壊したドン・ディッジの艦長は蹂躙とも呼べる状況を楽しんでいた。その様子はまるで獲物を追い詰め狩り立てる猟師だった。

 

「艦長!PP1164からミサイル接近!」

「生き残りがいたか。クラスターレーザーで吹き飛ばしてやれ!!」

「了解!」

 

 すぐさま艦長の指示で対艦クラスターレーザーの照準が向けられる。

 

「艦長。射線上に敵ミサイルがあります。」

「ミサイルごと吹き飛ばせ。」

「ハッ!対艦クラスターレーザー発射!」

 

 生き残りがミサイルを飛ばしてきた地点へ向けクラスターレーザーが発射される。レーザーは敵が発射したミサイルを破壊して発射点付近の岩石を溶かした。それと同時にインフラトンの蒼い炎が観測される。

 

「インフラトン反応拡散。小型艦クラスの撃沈と思われます。また爆発によりデブリが数個こちらへ飛来します。」

「放っておけ。それより艦載機隊の状況は?」

「はい、現在補給と整備作業をしており15分後には再出撃可能です。これまでのところ出撃した171機のうち未帰還34機です。」

「思ったより落とされたな。」

「どうも敵の戦闘機には近接戦装備がつけられている模様で、影から現れて切りつける戦法をとってきます。また観測に集中するよう指示を出したため、敵機の撃墜は約30機と思われます。」

 

 これは海賊達のアイデアでオッゴのアーム部分に長さ3m程のプラズマを出すプラズマカッターを装備し、敵機に肉薄しコックピットやエンジンを切りつける非常にリスキーな戦い方である。

 

 通常の宇宙空間であればこのような戦法は使えないだろうが、暗礁宙域という特殊な環境がこの戦法を効果的なものにしていた。

 岩石によりスピードが出せず、かつ遭遇する際は互いに至近距離であるため、射撃する前に切りつけられるのだ。

 

 それでも圧倒的な数の前には微々たるものであり、出撃したオッゴ53機のうち29機が撃墜されている。

 

「FG456号突撃艦より通信。離脱を図った敵輸送船を一隻撃破とのことです。」

「突撃艦はそのまま監視体制を維持させろ。艦載機隊は補給が整い次第発進。今度は片っ端から沈めていけ。」

 

 クラスターレーザーのデータは十分に取れた後は反乱分子を一掃するだけである。

 

「敵ミサイル確認。発射地点ポイントDA1563と推定。ミサイルは命中コースにあらず。」

「対艦クラスターレーザーで砲撃せよ。」

 

 発射地点へ向けこの戦闘のみで発射回数が20回を超えた対艦クラスターレーザーの照準を合わせる。エネルギー充填が完了し、60本もの強力なレーザーが岩石を焼きインフラトンの火球を作り出した。

 

「敵艦撃沈!」

「ふむ、少し疲れたな。何か飲み物を「か、艦長!!」どうした!」

 

 彼が一方的な戦闘に余裕を見せ、何か飲み物を頼もうとした時オペレーターの叫びが聞こえてきた。

 

「左舷に敵影!距離約1000!本艦に突っ込んできます!!」

「何!?何故接近を許した!?」

「分かりません!レーダーに突然「いいから迎撃しろ!」駄目です間に合いません!」

「敵の小型輸送船左舷中央421エアロックに強行接舷、艦内に侵入されました!」

「主砲か対空機銃で破壊しろ!」

「ダメです!敵艦載機によって周囲の対空兵装が破壊されています!主砲も向けられません!」

「直掩機は!?」

「今戦闘に入りーッ!?げ、撃墜!?一瞬で!?」

「敵はとてつもないエースのようです!たった2機で5機のゼナ・ゼーが撃墜されました!」

「ならば白兵戦だ!保安隊を直ちに向かわせろ!」

「了解!」

 

 全長4kmにもなるこの船には5000名以上の乗員がおり保安隊だけでも数百人に登る。5000名の中でも特に白兵戦に長けた猛者達が数百人。仮に倍の人数のレジスタンスが乗り込んだとしても屈強な保安隊ならば問題なく押し返せるだろうと考えていた。

 

「ふっ、油断したな。レジスタンスにも骨のある奴が居たとは。」

「いささか彼らを見くびっていたようですな。」

 

 そういうと艦長は自身の腰に下げていたスクリーフブレードの柄を撫でる。

 

「たまには暴れるのも悪くないな。しばらく指揮を頼む。」

「ハッ!」

 

 彼も元々白兵戦に長けた人物であり、一時間余りの一方的な砲撃に少し飽きてきたというのもあった。どのような手を使ったか分からないがこの巨大戦艦ドン・ディッジに突入した勇敢なレジスタンスを一目見て、自ら決着をつけたいという思いがあったのも事実だ。

 

 

 だが、この白兵戦という選択が彼らの運命を大きく左右した。

 もしここで彼が無理矢理にでもアルタイトを破壊していれば、例えば僚艦に攻撃させるなどしておけば未来はまた違うものになっていた筈だ。

 

 

 艦長がブリッジから出ようとした瞬間、アラームがブリッジに鳴り響いた。

 

「艦長!本艦のシステムに侵入警報!何者かがハッキングしてきています!!」

「なにっ!?」

 

 突如予想外の報告をされブリッジを出ようとした艦長は慌てて引き返す。いったい何が起こっているのか分からず混乱するが、そこはヤッハバッハの試作兵器を任されるだけの男であり一瞬のうちに指示を出す。

 

「防御システムを作動させろ!」

「早すぎる!間に合いません!」

「ならシステムを落として手動に切り替えろ!」

「は、はい!!」

 

 オペレーターがシステムを落とし、手動に切り替えようとした所で別のアラームが鳴る。

 

「今度はなんだ!」

「艦長!減圧警報です!艦内エアロックが解放されて―――」

 

 オペレーターが報告を終える前にブリッジ内の全ドアが一斉に開き、同時にブリッジが勢いよく減圧された。ブリッジ内にあった空気がブリッジクルーと共に吸い出される。一部のオペレーターはベルトをしていたのでブリッジから吸い出されることを免れたが、一瞬にして酸素が無くなった為酸欠により意識を失い永遠に目覚める事は無かった。

 

「うわああああああああ!?」

「助けてくれぇ!!」

 

 ゼー・グルフの艦内のドアや隔壁やダクト、それとエアロックが一斉に解放され艦内全てが減圧される。艦内は乗員が快適に過ごせるように気圧を保っており外は真空である。それを隔てていたエアロックが一斉に解放されたことで艦内の空気はとてつもない速さで吸い出され、その勢いに巻き込まれ大半の乗員が宇宙へ放り出される。

 たまたまベルトなどで固定されていた者や、何かに掴まり宇宙へ放り出されるのを避けられた者もいたが、直後に襲い掛かってきた酸欠により永遠に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 時はすこし遡る。

 

 

 

「準備完了!いつでも行けます!」

「よし、ミサイル発射!」

 

 アルタイトのブリッジで私は叫ぶ。ミサイルを発射すれば発射地点を特定され反撃が来るが、発射するのはアルタイトでは無く、2機のオッゴだ。

 

 私達の後方に位置したオッゴは艦艇からの攻撃に見せかけるため、自爆装置を外して無理やり取り付けた艦載対艦ミサイルを発射する。それに気付いたゼー・グルフはオッゴに向けて砲撃してきた。巡洋艦が耐えられなかった攻撃をオッゴが耐えきれる訳も無く爆散する。

 

「今だ!」

 

 アルタイトに取り付けられた小型核パルスモーターがうなりを上げた。

 オッゴの爆発だけでは不十分なのでキック力の強い小型核パルスモーターを使い船体ごと岩石を押す。それによってアルタイトは隠れていた岩石ごとゼー・グルフへ向けて動きだした。

 

『本船はコースに乗りました120秒後に最接近します。』

 

 オッゴの爆発で撃沈と誤認させかつ爆発によって動いたデブリに偽装し敵の戦艦へ接舷突入する。これがアルタイトの作戦の第一段階だ。

 

 この時点での賭けは接近中に敵に捕捉されないこと。幸いな事に敵の艦載機隊が補給の為帰還した事で発見される危険は大いに下がった。

 

 ちなみに爆散したオッゴは少年パイロット達のものだが、無人操縦なのでパイロット達は無事である。

 

『最接近点まであと30秒』

「インフラトン・インヴァイダー点火!カウントと同時にエンジン全開!」

「点火完了!いつでも行けます。」

『最接近点まで5、4、3、2、1、0。』

「エンジン全開!突撃!オッゴ発進!!」

 

 ゼー・グルフの左舷真横を通過する瞬間に飛び出し、ゼー・グルフに接舷する。その間僅か15秒。戦闘艦用のエンジンではないとは言え、それをオーバーロード気味に無理やり加速すれば、敵の対空砲火が反応するよりも早く接舷できる。ついでに誰かが飛ばしてくれたミサイルがいい囮となって敵の意識が削がれた事も接舷を助けてくれた。

 

 第2の賭けは接舷中に船が破壊されないこと。接舷中は身動きが取れない為、敵が損害に構わず接舷中に攻撃して来たら意味が無い。

 

「頼んだぞポプラン!コーネフ!」

『任せとけ!』

 

 そこで残ったオッゴとそれを操るポプランとコーネフの出番だ。二人のオッゴはアルタイトの周囲にある対空レーザーやミサイルランチャーを破壊する事だ。

 二人は見事なコンビネーションで次々と敵の武装を破壊していく。そのまま襲いかかって来た4倍以上の数の敵艦載機と交戦しあっという間に5機のゼナ・ゼーをダークマターへと変えた。そのまま残った敵機と戦闘を繰り広げている。

 

 周りの船からも攻撃できない為、これで船の安全は確保された。

 

 エアロックを破壊し、ゼー・グルフ内に突入する。突入するのは私やランディや少年パイロットなどで武装した12名。何人かがアルタイトの中にあった箱や金属板をもってきて即席バリケードを作る。

 

「急げエドワード!すぐに敵が来るぞ!」

 

 私がいうやいなや光線が頭を掠める。偶々近くの部屋に居たらしい数人がメーザーライフルで攻撃してくる。

 

「応戦だ!絶対に近づけるな!!」

 

 私達が銃撃戦を繰り広げている間、エドワードはエアロックの壁に埋め込まれた端末にコードを接続する。コードはアルタイトの内部へ伸びていき、中にあるアルタイトのAI本体に繋がっていた。

 

「ハッキング開始します!」

 

 

 作戦の第二段階は高性能なコンピュータであるアルタイトによって船をハッキングしコントロールを奪う事。

 そして最後の賭けは、アルタイトによるハッキングが完了するまでここを守り抜くだ。こちらが12名に対し向こうは数千人もいる。さらに向こうが豊富な武器を持っているのに対しこっちは非常用に持っていたメーザーライフル3丁とメーザーブラスターが9丁と人数分のみだけである。

 だがこればかりは気合でどうにかするしかない。

 

「今だやれ!」

 

 合図に合わせて整備士の一人が水が入った飲み物の容器を敵に向けて投げる。私はそれに狙いを定めるとブラスターの引き金を引いた。

 

 メーザーブラスターはマイクロ波を用いた銃器で、照射された箇所は水分子の加熱により部分的に焼き切れる。その為艦の内壁を傷つける恐れが少ないので0Gドッグ達はおろか宇宙で生活するものに好んで使われている。この武器で水が満杯に入った薄い容器を撃ったらどうなるか。

 

 答えは簡単。密閉された水が急激に沸騰し一瞬で体積を何倍にも増やして爆発する。

 

「ぐわッツ!?」

 

 ヤッハバッハ兵士達の頭上から熱湯と蒸気が襲う。すぐそばの部屋から飛び出してきた為戦闘服やヘルメットなどをしていなかった不幸な兵士達は顔面にもろに熱湯を浴びてのたうち回る。

 

「ナイスショット!しかし、よくあんなの思いつきましたね。」

「昔酒瓶に向けて撃ち込んだら大爆発して怒られたのを思い出したのさ。それより次が来るぞ!」

 

 蒸気が晴れたあとには目などを火傷してのたうち回る兵士達、そしてその後ろから戦闘服を着こんだ完全武装の男たちがこちらへ向けて走ってきた。

 

「アルタイト!まだか!今にもやられそうだぞ!」

『ハッキング完了コントロールを奪取しました。』

「え?」

『エアロック開放、艦内を強制減圧および酸素供給を停止します。』

 

 瞬間私達の目の前の隔壁が降りる。隔壁の向こうからは何も聞こえないが、モニターで見てみるとそこには宇宙へ吸い出されるヤッハバッハ兵達が映っていた。

 

 後から聞いた話では、モニターで一部しか見ていなかった私達と違い外にいたポプランとコーネフは艦の至る所から人間が噴き出してくる様をまざまざと見ていたそうだ。下手なホラー映画よりも恐ろしく二度と思い出したくないと言っていた。

 

 ブリッジから格納庫から機関室から倉庫から、船の至る所から空気と人がもれ完全に排出するのに1分とかからなかった。

 

『艦内減圧および酸素供給停止完了。生体反応なし。』

 

 この一分足らずで何千人ものの人間が宇宙へ吸い出され死んだことをアルタイトは無感情に告げる。心の中の何かがキリキリと痛むが今はそれに構っている暇はない。

 

「アルタイト。周りに居る敵艦隊に攻撃できるか?」

『可能です。』

「よし、撃沈しろ。」

『了解しました。』

 

 作戦の最終段階、奪ったゼー・グルフにより周りのヤッハバッハ艦を沈める。

 

 両脇にいたダルダベルは、旗艦からいきなり兵士達が宇宙に放り出されたことに混乱していた。そこへアルタイトによってコントロールを奪われたゼー・グルフは主砲とミサイルを発射する。

 

 両脇にいた2隻は碌な回避行動もとれず攻撃をもろに喰らって爆散する。残ったブランジ2隻も何が起こったのか理解できないまま第2射によって轟沈した。

 

 

 

 

「終わったのか?」

『付近に敵反応なし。我々の勝利です。』

 

 エアロックの前で呟いた一言にアルタイトが返す。瞬間緊張の糸が解けたのか倒れそうになったところをエドワードに支えられた。

 

「はは、今頃震えてきた。」

「僕もです。」

 

 生き残った。生き残れた。今の私達は急に解けた緊張からかその事を確認するので精いっぱいだった。




戦闘になると文字数が膨れ上がりますね。


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第8話 エピタフ

最初のセリフが抜けていました。申し訳ありません。


「酷いものだな。」

 

 ヤッハバッハ艦隊を全滅させた後集結した生き残りを見て呟いた。

 

 最終的に生き残ったのはアルタイトを含め巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、魚雷艇6隻、貨物船9隻。そのうち駆逐艦1隻と貨物船3隻は大破。巡洋艦と魚雷艇2隻と貨物船3隻が中破状態だ。

オッゴも稼働するのは18機と半数以上を失った。

 

「いや、全滅じゃ無いだけマシというものだ。」

 

 振り返るとそこにはベルトラム大佐がいた。目立った怪我はないようだ。

 

「大佐も悪運が強いようだな。」

「君ほどではないがな。」

 

 そういうと大佐は近くにあった椅子に腰掛け煙草を吸う。

 

「基地はどうだった?」

 

 その問いに大佐は首を振る。

 

「ジェネレーターと弾薬庫が誘爆して内部はめちゃくちゃだ。食糧プラントも工廠も使い物にならん。」

 

 やはり基地は使い物にならないらしい。あれだけ派手に爆発していたから当然だが。

 

「ただ医務室がシェルターを兼ねていたお陰で何人か生存者はいた。ディエゴの奴も生きていたよ。」

 

 ディエゴも悪運が強いようだ。ヤッハバッハの支配下で海賊をしているのだからある意味当然か。

 

 最も彼の船は吹き飛んでしまったが。

 

「これからどうする大佐?」

 

 ヤッハバッハに発見され艦隊は壊滅に等しく基地は破壊された。ここから先どうするのか大佐の考えを聞きたかった。

 大佐は深く息を吐いて煙を吐き出すと、私に向き直ってこういった。

 

「生存者の収容が完了したら直ちにここを離れる。今言えるのはこれだけだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 収容作業は1時間程度で終わり私達は行き先を定めないままこの宙域を離れた。少なくとも総督府へ我々と交戦する旨の連絡は行っているはずで、その後連絡が取れないとなれば増援を派遣してくるのは確定で、現状に戦力では太刀打ちできずせっかく生き延びたのが無駄になる。まぁ戦力が万全でも迎撃出来る可能性はゼロに近いが。

 大破した4隻は放棄し魚雷艇や貨物船をゼー・グルフにドッキングして、可能な限り人目に付きにくい航路を航行していた。

 最終的な生存者は900名に満たず、4分の1程度にまで減っていた。

 

 そして現在ゼー・グルフのブリッジでは各派閥の有力者による会議が開かれている。出席者はベルトラム大佐、ディエゴ、ギルバードと彼らの部下数名に私とエドワード、ポプランとコーネフ。そして0Gドッグが数名。

 

 残念ながらフリーボヤージュのリーダー以下上層部は乗艦が撃沈され還らぬ人となった。出席した0Gドッグ達は彼らの臨時代理だ。

 

 議題は目的地とこれからの行動の予定である。

 

「ひとまず何処かに身を隠すべきだと思う。」

「身を隠すと言ってもどこか当てはあるのか?」

 

 ギルバードの質問に数人が頷く。その質問に答えたのはアルタイトだった。

 

『現在候補地が一つあります。リベリア・ペリル宙域。辺境宙域でありヤッハバッハの艦隊が駐留してはいません。宙域には惑星オーバーハーフェンと複数のアステロイドベルトおよびガス惑星が存在するのみです。』

「祖先の星か。」

 

 モニターに映し出された宇宙を見て大佐が呟く。惑星オーバーハーフェンは、かつてテラを飛び立った人類がこの銀河で最初に降り立った地とされている。

 

『利点はヤッハバッハの目を逃れられる可能性が大である事。問題は恒星ペリルが不安定な為航行が危険な事と、交易が皆無である為宇宙港での補給や補充を受けられない可能性がある事です。』

 

 この宙域にヤッハバッハが駐留していない理由がこれである。

 不安定な恒星から吹き荒れる恒星風などにより航行に支障をきたし、またフレアの影響もあって唯一の惑星であるオーバーハーフェンは現在人が住むには適さず無人となっている。一応宇宙港は存在するが、補給や補修が出来るかかなり怪しい所だ。

 

「現在の我々の食糧は?」

「節約して1カ月持つか持たないかという所だ。」

「それだけしかねぇのか?」

「この船を奪う時に兵士と一緒に外に放り出してしまったからな。」

 

 大佐の発言に数人が私を見る。私としては仕方がなかったとしか言いようが無いが。

 

「補給と修理が出来る所はないのか?」

『該当する場所は現在のところ1件あります。』

「なんだあるじゃねぇか。何処だそこは?」

『辺境惑星ヘムレオンです。』

 

 その名前を出した瞬間、ブリッジ内がざわめき始めた。

 

『アルゼナイア宙域の辺境に位置しヤッハバッハの艦隊こそ常駐してはいませんが、定期的にパトロール艦隊が出入りしているようです。修理や補給を受ける事は可能ですが、その分ヤッハバッハに見つかる可能性が高いです。皆さんどうかなさいましたか?』

 

 我々の様子がおかしいのか疑問を投げかけるアルタイト。私はアルタイトの名前を呼ぶとコンソールから文字のみでアルタイトと会話する。

 

『(どうしましたか?)』

「(余計なことは口に出すな。)」

『(どうしてですか?)』

「(それはーーー)」

 

 大佐達の様子がおかしい理由。それはヘムレオンが裏切り者だからである。

 

 ヤッハバッハが来る以前、ヘムレオン皇国は辺境惑星ヘムレオンを領地とする王政の国家だったがその実態はリベリアの属国に等しいものだった。

 

 リベリアから辺境の田舎者と蔑まれ、王族を始めとしたヘムレオン人は不満を持っていた。そして彼らは行動を起こした。

 

 ヤッハバッハが侵略してきた時、防衛体制を整えようとしていたリベリアをヘムレオンの軍隊が攻撃したのだ。味方と思っていた者達に裏切られ、リベリアは侵略者と一戦も交える事なく滅亡した。

 

 以来リベリア人の憎しみはヤッハバッハよりもヘムレオン人に対する方が大きく、特にヤッハバッハに抵抗する人々はそれ以上にヘムレオンを憎んでいるといっても過言ではない。

 

「(そう言う訳だから、迂闊な事は言うなよ。最悪ヘムレオンを焼き払おうとか言い出すかもしれないからな。)」

『(了解しました。)』

 

 地上にいる民間人を巻き込む事はアンリトゥンルール違反であり0Gドッグとして宇宙に居られなくなる。だが、今の彼らはそれすら守らない可能性がある。

 

「大佐。」

 

 彼らの暴走を防ぐため、というよりも彼らの暴走に私が巻き込まるのを避ける為に、私は彼らに進言する。

 

「このゼー・グルフと巡洋艦と駆逐艦。それに魚雷艇はオーバーハーフェンへ行くべきだと思う。」

「何故だ?」

「この船は目立ちすぎる。どれ程辺境の惑星だろうと、この船が入港すれば騒ぎになるしヤッハバッハに見つかりやすくなるだろう。残りも武装している以上同じだ。」

「何故貨物船と共に行動しないのか?」

「貨物船にはヘムレオンなどの辺境星から食料などの物資の調達をしてもらおう。調達出来たらオーバーハーフェンで合流すればいい。」

「俺はぁその案でいいぜ。」

「それが現状最もいいだろう。」

 

 それぞれのリーダー達は賛成を示す。少なくともヘムレオンに攻撃などという事態にはならなくなった。

 それを聞いた大佐は頷くと、各自に指示を出す。

 

「では貨物船は準備でき次第各自出港せよ。目的地は任せるが、ヤッハバッハの目につかないようにして物資を集めてくれ。集め終わったらオーバーハーフェンへ集合だ。」

 

 それを聞いた各員はブリッジから出ていく。貨物船に乗り込む者や船や艦載機の修理をする者などそれぞれ自分に出来ることをするのだ。

 

「アルタイト、聞いた通りだ進路をオーバーハーフェンへ。」

『了解しました。』

 

 アルタイトに命令して進路を変更する。

 ちなみにアルタイトは今回は共にオーバーハーフェンへ向かう。というのもゼー・グルフを動かしているのはアルタイトに搭載しているAIで、それを切り離す訳にはいかないからだ。

 

 

 

 

 オーバーハーフェンへと向かう間、艦内を見回る事にした。といっても大半が輸送船で物資の調達に行ったりドッキングしている船に居るのでまったく人と会わない。

 会ったのは、食堂で食事を用意していた連中と格納庫で船と艦載機の整備をしていた連中だけだった。

 

「食事持ってきたぞ。」

「おー!待ってました。」

 

 艦内を見回るならついでに運んでくれと食堂で料理をしていたランディに言われ、食事が入ったコンテナをカートに乗せてきたのだ。食事と言っても小さなパンや飲み物があるだけだが。

 

「なんだこれっぽっちか。」

「しょうがないさ。食えるだけありがたいと思おう。」

 

 そういってポプランとコーネフはそれらをさっさと口に放り込む。二人に釣られて整備士やパイロット達が集まって食事をとっていく。

 

「機体の調子は?」

「何も問題ない。格納庫に残ってたゼナ・ゼーも整備して使えるようにしている。しいて言えばパイロットがいない事だな。」

 

 コーネフによれば、オッゴも格納庫で宇宙に吸い出されずに残っていたゼナ・ゼーも使えるそうだ。パイロットの件に関してはどうする事も出来ない。

 

 待てよ?パイロットが居ないなら・・・

 

「無人機に改造したらどうだ?」

「ゼナ・ゼーを?」

「あぁ。どうなんだエドワード?」

 

 いつの間にかちゃっかり隣で飯を食べていたエドワードに向かって聞いた。エドワードは口に入っていたパンを飲み込んでから

 

「出来ない事は無いですけど、無人機用の装置がありません。この船じゃあ作れないので何処かの工廠に行くか工作船でも持ってこないと。」

「「うーむ。」」

「それに仮に作ったとしても、標的機程度の機動しか出来ないですよ。戦闘用のプログラムでもあれば良いんですが。」

「プログラムは作れないのか?」

「元になるデータがあればマトモなものには仕上がるかと。」

「俺達の戦闘記録じゃダメなのか?」

 

 そういってポプランが話に入ってきた。

 

「あぁそうか!今回のオッゴの戦闘記録から動きをトレースしてやればいいんだ!」

 

 それを聞いたエドワードは閃いたといった表情で叫んだ。

 

「ただそれだけだと足りないと思うので、誰かデータを作るのに協力してくれませんか?」

「俺がやるぜ。整備作業よりもこっちの方が合ってる。」

「なら俺が相手をしてやろう。」

「へ、俺の相手なんてお前以外に務まるかよ。」

 

 いい方法が思いついたエドワードとやる気満々のポプランとコーネフ。もしこれがうまくいけば無人化によって艦載機部隊が大きく強化されるだろう。

 

「いずれにしても無人機用の装置が無ければ始まらないがな。」

「「「あ。」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボイドゲートを一つ抜け、ゼー・グルフ以下数隻は無事にぺリル宙域に入った。

 

「うわっ!?」

「どうした!?」

 

 ゲートを通過した途端レーダーを見ていたオペレーターが急に叫ぶ。ちなみに彼は臨時でオペレーターをしているレジスタンスの一員だ。

 

「すごい恒星風です!強すぎるのでレーダーが使い物になりません。」

 

自分のコンソールに送信されたデータを見る。そこには真っ白になったレーダー画面があった。恒星ぺリルは不安定で、強力な恒星風が吹き荒れる事もあれば弱弱しく光るときもある。酷い時には航行できなくなるほどらしい。

 

「それでも行くしかないだろう。他に当ても無いからな。シールドを通常より強くしてくれ。」

『了解しました。』

 

 シールド出力を上げ、強力な恒星風の中を進むこと数時間。一時的に恒星風が弱まったとき、ようやく目的地が見えてきた。

 

「あれがオーバーハーフェン。」

 

 光学センサーでとらえたその姿を見て思わず声を漏らす。宇宙から見たオーバーハーフェンは、まるで星全体が砂漠化したようだった。

 

『艦長、スキャンの結果が出ました。ほとんどが砂漠で水などは見つかりません。大気は二酸化炭素や窒素などで覆われていて呼吸も不可能です。』

「大昔はそれなりに栄えたと聞いていたんだがな。」

 

 栄えていたといっても千年以上も前の事だが。

 

『艦長。オーバーハーフェン衛星軌道上に巨大な質量物を探知。宇宙港と思われます。』

「コンタクトは?」

『コンタクト不可能。何度も送信していますが、向こうからの応答がありません。』

「放棄されたのでは?」

「分からん。普通、空間通商管理局が設置されたならドロイドによって半永久的に稼働するものだ。あるいは・・・。」

 

 一瞬罠の存在を考えたが首を振る。空間通商管理局はどんな国家や組織からも独立した存在で、罠に利用する事は航宙法違反である。こうして国家間の枠組みに縛られていない為0Gドッグと呼ばれるアウトロー集団が活動できるのだ。

 

「ともかく近寄ってみよう。もしかしたら単なる故障かもしれない。」

 

 過酷な環境による故障なら大いにあり得る話だ。私達は進路はそのまま、宇宙港へ向けて進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「故障かもしれないとは思っていたがな・・・。」

 

 オーバーハーフェンにたどり着いた私達の目の前に現れたもの。それは廃墟と化した宇宙港の成れの果てであった。

 

「よくもまぁここまで荒れ果てたものだ。」

 

 所々外板は剥がれ落ち骨材や内部が丸見えになっている。特にぺリルの方に向いている部分はそれが著しい。どうやら恒星風の影響で溶けてしまったようだ。またデフレクターやシールドが機能していないようで、所々デブリによって開けられたと思われる穴が開いていた。

 

「これじゃあ管理局なんか機能していないだろうな。」

 

 むしろボロボロになりながらも依然としてそびえたつ軌道エレベーターとそれをつなぐ宇宙港が形を保っているのが不思議である。

 

『艦長。恒星側のゲートは入り口が解け落ちているようです。反対側のゲートならかろうじて入港は可能です。またこのまま恒星風にさらされ続けるのは装甲にダメージを与える恐れがあるので、できれば入港するべきです。』

「内部の様子は?」

『恒星風が再度強くなりました。これによりスキャンナーが異常をきたしています。』

「分かった。」

 

 そういうと私は格納庫に電話をつなげる。

 

「あぁ、誰か恒星と反対側のゲート内を偵察してほしい。そうだ、この船が入っても大丈夫かどうか偵察してくれ。任せた。」

 

 そういって電話を切る。

 

 5分後、一隻の魚雷艇と二機のオッゴが格納庫から発進し宇宙港へ侵入する。

 

「どうだ?入って大丈夫そうか?」

『一応形は保っている。酸素は無いが恒星風の影響も外よりはマシのようだ。内部に障害になりそうなものは見つからない。』

「よし、アルタイト。船を宇宙港内へ入れてくれ。」

『了解しました。』

 

 指示に従って巨大なゼー・グルフはその体を宇宙港へと納める。全長4kmの艦船をあっさりと飲み込めるほど宇宙港は巨大だった。

 

「アンカーを打ち込んで船体を固定。シールドとデフレクターの出力は落とすなよ。」

『了解しました。』

 

 ゼー・グルフの船体からいくつものワイヤーが射出される。それらは宇宙港の内壁に打ち込まれ内部でかえしが開き完全に固定される。それらのワイヤーを引っ張る事で船体を固定するのだ。本来ならばドッキングアームがその役割をするが、ジェネレーターが機能していないのか照明すらついていない中ではアームが稼働する訳もなかった。

 

「とりあえずこれでいいだろう。」

『お疲れ様です。この後はどうしますか?』

 

 アルタイトの質問に対し私は少し考えてから答えた。

 

「廃墟探索かな。」

 

 

 

 

 

 

「廃墟の探索ってなんかテンション上がりませんか?」

「その気持ちは分かるな。」

 

 私は船外作業服を着てオッゴに乗っていた。ただしオッゴの機体外部に直接捕まっている。一緒にいるのはエドワード、ポプラン。ディエゴとその部下2名、それとヤッハバッハに襲撃されたとき共に乗っていたオッゴの少年パイロットエヴィンとエーミールだ。そしてオッゴを操縦しているのはコーネフだ。

 

「分かるぜぇ、まるで獲物を漁ってるときみたいだ。」

「まさか宇宙港にこんな形で入るなんて思わなかっただ。」

 

 海賊二人も若干テンションが上がっている様だ。それはボスであるディエゴも同じの様だ。

 

『前方に巨大な空間がある。かなり大きいな。』

 

 オッゴを操縦しているコーネフから通信が入る。見れば前方、宇宙港中央部に巨大な穴が開いていた。宇宙港のドッグとまではいかないがゼー・グルフがすっぽり収まるくらいの大きさがある。

 

「デブリかジェネレータの爆発で空いたのでしょう。中央部が丸々吹き飛んでいる。」

「コーネフ。降りられそうな所で降ろしてくれ。」

『了解。』

 

 オッゴはある程度開けた場所に着陸した。オッゴから降りた私達は宇宙港の内部へと侵入していく。ここはどうやら通商管理局のロビーのようだ。

 

「俺の鼻がお宝があるって言ってるぜ。」

「それは頼もしいな。」

 

 そういってこの区画にある部屋の中を漁っていく。だが廃棄されてからかなりの時間が経っているのかガラクタ以外何もない。

 

「うわぁああああ!?」

 

 突然無線から叫び声が聞こえてきた。この声は確かエーミールだったはずだ。

 

「どうしたエーミール!!」

「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけで・・・。」

 

 見ればエーミールの目の前に一体のドロイドが転がっていた。そこにあったのは殆どの0Gドッグならば見たことがある顔だった。

 

「ヘルプG・・・。」

 

 どうやらこの部屋はこれから0Gドッグになろうとする者達に様々な知識を教えるヘルプGの部屋だったようだ。宇宙港の奥の方にあった為か比較的損傷は少なかった。全員集まってきては、ヘルプGを見て驚く。

 

「ヘルプG・・・、まさかこんなことになっているとは・・・。」

「体の方は完全に潰されてますね。」

「そりゃ悲鳴も上げるわな。」

 

 暗闇で完全に見た目がメカのドロイドが倒れていて、しかも首が180度ねじ曲がってこっちを見ていれば悲鳴を上げるだろう。

 

「ヘルプGがこんな有様じゃ管理局の方も駄目だろうな。他を当たるぞ。」

 

 ディエゴに続き、私達はヘルプGを置いて別の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

「どうだ?」

「駄目です。データどころが回路そのものが焼け落ちてます。これじゃあ何も取り出せませんよ。」

 

 かろうじて原型を留めていた端末からデータのサルベージをしていたエドワードだが、結果は芳しくなかった。

 

「おい全員こっちに来てくれ。」

 

 ディエゴの所へ全員が向かうするとそこには、少しだけ隙間が空いたドアを必死になってこじ開けようとしている海賊達がいた。

 

「来たか。こいつを見てくれ。」

 

 そう言われて彼らが開けようとしていた扉を見る。普段宇宙港で目にするだけの唯の扉だった。

 

「これがどうかしたのか?」

「この部屋のネームプレートを見ろよ。空間通商管理局って書いてあんだろ。」

「つまり?」

「はぁ・・・あの立ち入り禁止の管理局の部屋だぜ?何かあるに決まってるだろうが。」

 

 確かに空間通商管理局の内部に入った事は無い。というか基本的に人間は立ち入り禁止で内部にはドロイドしか入れない。

 

「だがこの通り扉が歪んじまって入れねぇんだ。」

「レーザーカッターは?」

「入れてみたけど表面を焼くだけだったよ。」

 

 扉の何カ所かに焦げた跡があったのはディエゴ達がレーザーカッターで扉を焼き切ろうとしたためだろう。

 

「爆弾でふっとばせないのか?」

「いや駄目だ。爆破すれば何処が崩れるか分からん。最悪生き埋めだ。」

「宇宙で生き埋めは嫌ですね。」

「という訳で何かいい手は無いかと聞いている訳だ。」

 

 と言われた所で手持ちの工具で役立ちそうなのは非常用の爆薬とレーザーカッターだけだ。そしてそのどちらも使えない以上お手上げとしか言えない。

 そんな中エドワードが手を上げた。

 

「一つ手があります。」

 

 待つこと30分。エドワードが何か巨大な物を抱えて戻ってきた。普通なら人が持てる大きさのものでは無いが、重力井戸が働いていないのでほとんど無重力に近い状態となっているため難なく運んでいる。見ればそこにはいくつかのチューブや線がつながっていてその先は外に続いている様だ。

 

「お待たせしました。」

「それ、オッゴの腕じゃないか?」

「はい、これについているプラズマカッターで焼き切ります。」

 

 それがオッゴの腕だという事にポプランは気付いたようだ。そしてエドワードは説明しながら腕をセットして、スイッチを押す。

 

 強烈な閃光が走り携帯用レーザーカッターとは段違いな出力でプラズマの炎が扉を焼く。ものの数十秒で扉はドロドロに溶けてしまい、そこには人ひとりが通れるくらいの隙間が出来た。

 

「すごいもんだな。」

「でしょう?」

 

 だからドヤ顔を止めろ。というかプラズマカッターはお前が作ったものじゃないだろ。

 

「よし野郎共、行くぜ。」

 

 そういってディエゴ達は我先にと中へ入っていった。それに続いて私達も中へ入る。

 

「管理局の裏側っていうか巨大なサーバールームだなこれは。」

 

 そこで目にしたのは何台もある巨大なコンピュータやドロイドのメンテナンス用機材だった。私達は部屋の中を漁っていたが機械はすべて壊れていて情報も何もなかった。

 

「頭!こっちになんか変な部屋がありやすぜ。」

「変な部屋?」

 

 海賊の一人が見つけた部屋に入っていく。それは確かに変な部屋だった。

 部屋の外は長年恒星風にさらされた影響かボロボロなのに、この部屋には傷一つない。まるでこの部屋だけ別世界のようだ。

 

「なんなんだこの部屋は?」

「・・・さぁ?」

 

 何か機械がある訳でも無い。ただ別世界のような空間が広がるのみである。

 

「ポプラン少佐。あれ。」

「ん?」

 

 エヴィンが何か見つけたようだ。エヴィンが指差す先には何か人型のものが転がっていた。

 

「なんだこれ?ドロイドか?」

「管理局の奴に少し似てますけど。」

 

 のっぺらぼうみたいな顔は確かに管理局が提供するドロイドに似ているが、このドロイドは胸から腹にかけて大きなくぼみが出来ている。胸の部分が膨らんでいて人間の女性を意識したようなデザインだ。

 

「なんですかこれ?」

「管理局のドロイドじゃないか?」

「なんか不気味なんだな。」

 

 口々に感想を言い合う彼らを尻目に私はこのドロイドに近づいてよく見てみた。

 

「ん?」

 

 そのドロイドのくぼみの中に何か入っている。私はその中に手を伸ばして中のモノを出してみた。出てきたのは何やら10cm程度の四角い立方体だ。

 

「なんですそれ?」

「分からない。サイコロで無い事は確かだ。」

「はぁ?」

 

 なんだかよく分からないがこのドロイドのパーツか何かだろうか。

 

「おい、それって・・・もしかして・・・。」

 

 このサイコロを見た途端、急に顔色を変えるディエゴ。

 

「エ、エピタフぅう!?」

「うわッ!?」

「やめろ叫ぶな無線入ってんだぞ!!」

 

 いきなり叫ぶものだから、無線を通して大音量で耳に届く。とっさに塞ごうとしたが宇宙服を着ていたので塞げなかった。

 

「あ、すまねぇ。いやそれよりも!」

 

 ディエゴは一気に駆け寄って私が持っていたエピタフをまじまじと見つめる。

 

「間違いねぇ・・・これは間違いなくエピタフだ。」

「エピタフってあの何でも願いが叶うっていう伝説の?」

「あぁ、一度画像で見た事がある。こんな所でお目にかかれるとはな。」

 

 そう言ってさりげなく私からエピタフを取ろうとしたのでスッと離れる。

 

「「・・・。」」

 

 互いに見つめ合い微妙な空気になる。再度ディエゴは手を伸ばすが、私もエピタフを遠ざける。

 

「なぁシーガレット。俺は是非とも一生お目にかかる事が出来ないかもしれないお宝をこの目で見たいんだ。ちょっと見せてくれよ。」

「あぁいいぞ。」

 

 一瞬だけディエゴの目の前にエピタフを出す。そして遠ざける。

 

「「・・・。」」

 

 そしてまた微妙な空気が流れる。私はもう一度ディエゴの前にエピタフを出す。そして奴が手を伸ばそうとした所で引っ込めた。

 

「いい加減にしろ!ガキかお前は!?」

 

 どうやら頭にきたようだ。

 

「そんな如何にも盗りますみたいな顔をしているのが悪い。」

「うるせえ!ごちゃごちゃ言ってねぇでエピタフを寄こせ!!」

「誰が渡すか!」

 

 飛び掛かって来たディエゴとエピタフを奪い合う。女性に対して紳士的になれないようだなこの男は。

 あと後ろでポプランが醜い争いだとかエドワードの意外と子供っぽい所あるんですねとか少年2人のうわぁとかいう見たくないものを見たような声や海賊2人が頭を応援する声とか全部聞こえてるからな。

 

「「あ。」」

 

 エピタフを奪われまいと必死に握りしめるが、手が滑って二人の手からエピタフが離れる。勢いよく手から飛び出したエピタフは、そのまま壁にぶつかり二つに割れてしまった。

 

「「ああぁあああッツ!?」」

「うるせえ!」

 

 廃墟と化した宇宙港に、2人の叫び声と反射でヘルメットの上から耳を抑えたポプランの悲鳴が響いた。




戦闘後は何となく後始末感があって筆が進みにくく感じます。


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第9話 金髪の士官

亀の歩みで書き上がりました第9話です。



 ゼアマ宙域セクター4。反乱分子とヤッハバッハの試験艦隊との間で戦闘が行われていた場所に、13隻の船がいた。

 

 10隻はヤッハバッハの突撃艦ブランジ級で、残りの2隻は長大なカタパルトを備えたダルダベル級巡洋艦である。

 最後の1隻は三段のカタパルトデッキを持つ全長2kmのヤッハバッハの巨大空母ブラビレイ級空母である。

 

 そのブラビレイ級空母【クレッツィ】の艦橋で、1人の男が茶を飲みながら部下からの報告を聞いていた。その周りには、数人の士官達がいて起立したまま報告を聞いている。

 

「で、何か分かったのですか?」

「は、漂流していましたダルダベルとブランジの残骸を調査した結果から強力なレーザーもしくはミサイルによって破壊されたものと推測します。つまりーー」

「ドン・ディッジの攻撃による可能性が高いと?」

「はい。艦載機によりこのセクターを調査しましたが、ドン・ディッジの残骸は発見出来なかった事からそれは否定出来ないと。」

 

 部下の報告に男は頷く。彼らは1週間前に消息を絶ったドン・ディッジ以下試験艦隊の捜索隊である。

 足の速い突撃艦や巡洋艦に、多数の艦載機による索敵範囲の広い空母で構成されたこの艦隊は、試験艦隊の足取りを追いこの暗礁宙域にて捜索活動を行なっていた。

 

 ドン・ディッジの艦長が総督府を嫌い連絡を怠りがちだったのが災いし、事に最後

 

 そこで彼らが見たのは10隻以上の船の残骸だった。

 調査をするにつれレジスタンスのものと思われる船の残骸の中に味方の船の残骸を発見しクレッツィに搭載している全艦載機300機による周囲の捜索をした結果、2隻のダルダベルとブランジの残骸を発見した。

 

 だが旗艦であるドン・ディッジの残骸を発見する事は出来なかった。しかしドン・ディッジに積まれていた食料コンテナや艦載機や遺体などが見つかった。

 またダルダベルやブランジの残骸に残った損傷から、ドン・ディッジによる攻撃が疑われ彼らは一つの仮説を立てた。

 

「クーラント司令。言いにくい事ではありますが、ドン・ディッジはレジスタンスの手に渡ったのではないかと小官は推測します。」

「それは実に不愉快な推測ですねぇ。」

 

 クーラントは笑みを浮かべながら部下に言う。その顔は笑っているが目だけは鋭い刃のようなものだ。その視線を向けられた部下は背筋が冷たくなるのを感じた。

 

「だが、状況から考えればそれが一番可能性が高いでしょう。航跡は辿れますか?」

「いえ、時間が経ち過ぎているのと戦闘で拡散したインフラトン反応によって航跡を辿ることは不可能です。」

 

 船の主機であるインフラトン・インヴァイダーからはインフラトン粒子が漏れ出る。その粒子の後を辿る事で目的の艦を追跡できるのだが、時間が経ち粒子が消滅、あるいは拡散してしまった事。戦闘で爆沈した艦のインフラトン粒子が周囲に大量に撒き散らされた事が、追跡を不可能にしてしまった。

 

「まぁ仕方がないですねぇ。君は総督府に状況を報告して下さい。」

「はっ。」

「さて、以後我が艦隊は敵の捜索に入るが、何か意見はありますか?」

 

 それを聞いて金髪の若い士官が手を挙げる。それを見た周りの士官達は顔をしかめるが、クーラントはそれを気に留めず金髪の若い士官に発言を許可した。

 

「状況から推測するにドン・ディッジは敵に奪取されたと思います。その後何処か無人惑星もしくは無人のセクターに潜んでいるのではないかと。」

「理由は?」

「ドン・ディッジは巨大な戦艦ですが、あまりに巨大な為辺境惑星といえど人目を引くでしょう。行方をくらませるには何処か無人の場所で身を潜めなければなりません。」

「なるほど。」

 

 この予想は全くの事実だった。現在の状況から推理し事実を言い当てたこの士官の非凡な事を示している。

 

「ならば無人地帯を重点的に捜索するとしましょう。艦隊を3つに分けます。」

 

 そう言ってクーラントは、ブラビレイ級1隻とダルダベル級1隻とブランジ級2隻の第1艦隊。ダルダベル級1隻とブランジ級2隻第2艦隊。ブランジ級3隻の第3、第4艦隊に分けた。

 

「第1艦隊は私が指揮します。第2艦隊をキール中佐、第3艦隊をノイマン少佐、第4艦隊をライオス少尉に任せます。」

 

 これを聞いた士官達にざわめきが起こる。理由は1人の少尉ーーライオス・フィルド・ヘムレオン少尉が突撃艦3隻とはいえ1艦隊を預かったからである。

 

「ライオス少尉、今回の君の意見を私は高く評価します。その才能を持って反乱分子を是非見つけてください。」

「はッ!」

 

 クーラント司令はあの冷たい視線と笑顔でまだ10代後半のライオスに言う。ライオスは、背筋が冷たくなるのを感じたが、それを表面には出さずに力強く答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、まるで子供のようにエピタフを取り合った結果、壁にぶつけて真っ二つに割れたと。」

『そのような非論理的な行動は理解出来ません。』

 

 一方、オーバーハーフェンの廃宇宙港に隠れている反乱分子達は、宇宙港の探索から戻ってきた一行の報告を聞いてこんな感想を漏らしていた。

 

「後悔はしているが私は悪くない。」

 

 私は食堂で茶を飲みながら、呆れた大佐と私の端末に接続しているアルタイトにこう言った。

ちなみに茶とクッキーはランディが用意したものだ。

 

「で、割れたエピタフはどうしたんだ?」

「今エドワードが元に戻そうとしているよ。」

 

 エピタフはいったい何時誰が何のために作ったのか、何でできているのかどうやって作られたのかまったくもって不明なまさしく未知の存在だ。そのエピタフにはある伝説が語られている。

 

「エピタフを手に入れたものは願いが叶うというエピタフ伝説か。」

『ネットでは実例はないようです。』

「所詮伝説だからな。」

 

 結局は伝説上の話だ。だが、エピタフは希少価値の高い物なので売却すればかなりの値段になる。エドワードに旨いこと修復してもらって高値で売ればこれからの活動資金になるだろう。

 

「それはそうと管理局の奥に謎の部屋があったとはな。」

「大佐も知らなかったのか?」

「あぁ、管理局内には誰であろうと入れないからな。セキュリティも硬く、もし強引に入れば様々なペナルティを受ける。制服を着た人間ならなおさら入れんよ。」

 

 確かに管理局の内部は立ち入り禁止だし、高い独立性を維持する為に特に国家に深く関係ある人物は立ち入ることが出来ないのだろう。

 

「管理局か・・・。今更思うんだが、空気通商管理局とは一体なんなんだろうな。」

「宇宙港や航路やボイドゲートの管理をする為に存在しているのだろう?」

『公式な情報でもそのように発表されています。』

「いやそういう事ではなくて。」

 

 今回あの部屋を見た私は、ある疑問を抱いた。それは空間通商管理局とは一体なんなのかという事だ。

 

 空間通商管理局は、宇宙に進出した人類にとって欠かせない宇宙港、ボイドゲート、航路を管理する事を目的としたもので、中立性を保つ為に独立したドロイドによって運営されている。

 

 大昔、ゲートの所有を主張した戦争が起こったから作られたらしいが、あの部屋を見た後は何だか別の目的があるように思えてくる。

 

「で、なんだと言うんだ?その目的とは?」

「分からない。ただ管理局はオーバーテクノロジーであるゲートの管理をしている。もしかしたら何者かが裏で管理局のドロイド達を操って何かしているのかもしれない。」

「よくある陰謀論だな。疲れているんじゃないか?」

「・・・そうかもしれないな。」

 

 もしかしたら、あの異様な空間に当てられて変な事を考えているのかもしれない。

 

「なら休んだ方がいいだろう。休んで置かないといざという時困るだろうからな。」

「そうさせてもらうよ。」

 

 私は席を立つと部屋へと向かう。部屋と言ってもゼー・グルフの格納庫にあるアルタイトにあるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・。」

「どうしました大佐?」

 

カップと皿を片付けようとしたランディは何か考えていたベルトラム大佐に気がつく。

 

「あぁ、これから先どうしたものかと考えてな。」

「これから先とは?」

「これからもヤッハバッハに逆らい続けるかどうかだ。」

 

 サンテール基地と仲間の大半を失った。これ以上ヤッハバッハの支配に抵抗し続けていって何になる?もし仮にリベリアをヤッハバッハから解放する事が出来たとしても、再度ヤッハバッハの再侵攻を招くだけではないのか?

 

 碌な抵抗もできずに敗北したリベリア軍の生き残りで構成されたアーミーズの目的は、ヤッハバッハの支配からリベリアを開放することだった。だが、ヤッハバッハの公平な統治を見るうちに徐々に別の考え方がアーミーズの構成員の間に生まれてきた。

 

 以前のリベリアは貧富の差が広がりつつあり各惑星間の関係も悪化。政府も官僚の汚職や一部の惑星を優遇する政策を進めたので各地でデモが発生していた。国が崩壊するというほどではないが、人心に不安と不信を植え付けるには十分な状況であった。

 

 それに比べればヤッハバッハの統治は逆らいさえしなければ穏やかなもので、汚職も無く一部惑星を優遇する政策もないものだった。当初は反感を買っていたヤッハバッハもその統治から徐々に市民から歓迎の声が上がっていった。リベリア軍人の中にもヤッハバッハの支配を歓迎する者も現れ軍に志願するものもいた。

 

 それでもヤッハバッハの統治に対して、いつ本性を現すのかと危機感を抱くものや本能的に拒否する者たちはこうしてアーミーズに参加していた。だが、ヤッハバッハが公正な統治を行い続けると先程も言った別な考え方、すなわちヤッハバッハに従った方がいいのではないかというものだ。

 

 ヤッハバッハを追い出したとしても、彼らのような平和な統治を行うことはできない。リベリアを開放することは現在の平和を破壊することであり、その平和を享受している地上の住民からすれば新たな混乱に巻き込まれることになる。

 

 それはむしろリベリアとその民を苦しめることだ。

 

 だがすでに反乱行為に加担しているため、考えが変わったからで投降する訳にもいかず、脱走すれば今度は仲間達から追われるはめになる。こうしていくら考え方が変わったからと言って引き返すことも難しい。

 

 しかもだ。

 

「私のしてきた事は無駄だったのでは無いか。と考えてしまうのだ。」

「無駄・・・ですか。」

「少なくとも、我々の活動でヤッハバッハの支配に何かしらの傷を負わせる事は出来なかった。」

 

 以前から行ってきた抵抗は、現場レベルではそれなりに影響を与えただろう。だが、それによって支配体制が崩れることも、それを揺るがすことも出来なかった。

 

 長きに渡る反ヤッハバッハ活動によって辺境の小惑星に息を潜め、ヤッハバッハの圧倒的な力で基地と多くの同士を失った彼は、肉体的にも精神的にも参ってしまっていた。

 

「大佐もお疲れのようですね。」

「・・・かもしれんな。ブランデーか何かあるか?」

「ワインでしたら。」

「それでいい。」

 

 少しして、ランディがグラスに注がれたワインを持ってきた。大佐はそれを手に取りグラスを揺らしていたが、自分の中にある鬱々としたものを忘れるように飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 ゼー・グルフの格納庫に置いてあるアルタイト。全長4kmの戦艦の格納庫は、100m程度の船が入っても問題ないくらい広い。これで格納庫の一部を潰しているらしいから驚きだ。(アルタイトとエドワードが調べたデータから聞かされた。)

 

 ハッチから伸びるコードは、アルタイト本体とゼー・グルフを接続するものだ。そのコードを踏まないように中に入る。

 

「ん?」

 

 中を歩いているとボソボソと誰かが喋っているのが聞こえる。といっても1人しかいないが。

 

「何をしているんだ?」

「ほうわっ!?か、艦長!?」

 

 暗がりの部屋の中で独り言を言いながら作業していたエドワードは、私に気がついていなかったようで驚き飛び上がる。

 

 驚いてジャンプする人間は初めて見た。

 

「い、いつからそこに!?」

「来たばかりだ。所で何をしているんだ?」

 

 そう言いつつ部屋の奥を除くとそこには見覚えのあるドロイドが机の上に寝かせられていた。

 

「いつの間にこんなものを。」

「あ、あぁそれですか?艦長達がエピタフでなんやかんやしている間に運んだんですよ。」

「あの時か。」

 

 まぁ他には考えられないしな。

 

「で、そんなガラクタを拾ってきて何をするんだ?」

「この船が人手不足なのもあるので、これを使えるようにしてちょっとでも船の運用が楽になればいいと思いまして。」

「なるほど。」

 

現在ゼー・グルフはアルタイトの制御によって動かされている。だが本来このゼー・グルフを運用するにはアーミーズや海賊やレジスタンスなど我々全員合わせても圧倒的に足りない。アルタイトがあるから、AIの手が届かない個所を整備するだけで済んでいるが、それでも人手が足らないのは事実だ。

 

「確かに現在我々は人手不足が著しいが、ドロイドが一体増えた所で焼け石に水な気がするんだが。」

「まぁそうかもしれないですけど、ドロイド一体でもあるに越した事はないでしょう?」

「それも一理あるか。」

 

 人手不足が解消される訳ではないが、ちょっとでもマシになるならばやるべきだろう。

 

「で、エピタフはどうなった?」

「取り敢えず接着剤でくっつけました。」

「・・・いいのかそんな方法で?」

 

 エドワードに見せて貰ったが見た目的には問題はなかった。だが、貴重な遺産を接着剤でくっつけてしまってよかったのだろうか。

 

「古美術品の修復は専門外ですからね。誰かさん達が争ってエピタフを壊さなければよかったんですが。」

「むむ・・・。」

 

 こう言われると当事者としては何も言えない。無論悪いのはディエゴだが。

 

「エピタフに関して俺が出来る事はそれだけです。完全に修復しようにもエピタフ自体貴重な存在なので、修復方法はおろか何で出来ているのかすら分からないんです。」

「仕方がないか。」

 

 エピタフは謎が多いお宝だ。そういうものならしょうがないだろう。見た目は傷ついたようには見えないので、問題ない。

 

「じゃあ、私はそろそろ部屋に戻るよ。何かあったら言ってくれ。」

「分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、危なかった・・・。アルタイト、分かっていたなら教えてくれよ。」

 

 シーガレットが去った後、部屋の中でエドワードはアルタイトに話しかける。

 

『言わない方が面白いと結論しました。』

「勘弁してくれ・・・。」

 

 どこで教育を間違えたのか。このAIは人をからかうという事を覚えたようだった。

 

『前提としてあなたがやましい事をしなければ驚く必要は無かったでしょう。』

「そもそも君がこんな物を俺の端末に入れたのが原因だろ。」

 

 そう言ってエドワードは先程驚いて飛び上がったと同時に反射で隠した端末を取り出す。

 そこには1人の女性がシャワー室を利用する映像があった。

 

『エドワードの情報を書き換え。【スケベ】に変更します。』

「冤罪だ!!」

 

 この事態の真相は、アルタイトがエドワードを呼び出した事に始まる。

 

 自己成長プログラムにより日々成長するアルタイトは、成長を促すプログラムが入っている。そのプログラムによりアルタイトはある仮説を出した。記録媒体から情報を取り込んだり、モニター越しに人間の行動を観察するよりも、実際に人間と同じ経験をすればより成長できるのではないかと言うものだ。

 この仮説を検証する為に、管理局より借りてきたドロイドを操作した。だが、上手くいかなかった。

 

 期待していた人間の経験というのが出来なかったのだ。

 

 アルタイトはこれを外見が人間と異なるからではないかと考えた。実際ドロイドはシルエットこそ人型だが、人に似せてはいない為一目で人では無いと分かる。

 

 これにより相手が人間として接してくれず人間の経験が出来ないと考えたアルタイトはある情報に目をつけた。

 

 人間そっくりのアンドロイドの少女と人間の少年が互いを知り惹かれ合い結ばれるというありがちなSF小説である。

 前回の経験と情報からアルタイトは、人間そっくりなアンドロイドならば人間の経験が可能かもしれないと考えたのだ。

 

 ただ肝心の人間そっくりのアンドロイドを手に入れる事が出来なかった。星間ネットオークションにも出品されておらず、何よりアルタイトには私的にクレジットを使う権限はなく、また製作することも出来ない。

 

 そんな時エドワードが管理局跡地から一体のドロイドを拾ってきた。当初エドワードはこのドロイドを武器を装備したコンバットドロイドに改造しようとしていた。

 そこにアルタイトが可能な限り人間に近いアンドロイドを作れないかと言ってきたのだ。

 

 ただしエドワードはコンバットドロイドを作りたいという欲求が強かった為、アルタイトの提案を却下した。技術的な面でも問題があったのも事実だが、エドワードが自身の欲求を優先させアルタイトの要請を蹴ったことが、アルタイトにある手段を取らせる事となった。

 

 簡単に言うと脅したのである。

 

 エドワードの端末に、アルタイトが録画したシーガレットのシャワーシーンを入れたのだ。それをエドワードが盗撮したとシーガレットに言われたくなければドロイドを修理して人間そっくりのアンドロイドを作れと脅したのだ。

 

 無論冤罪だが、アルタイトは巧妙かつ悪辣にもその他の工作によってエドワードが盗撮したと思えるような偽の証拠がいくつも用意されており、エドワードに残された道は一つだけだった。

 

「まさかAIに脅迫されるとは・・・。」

 

 彼自身、船を運用する上で効率良く運用出来るように付けた成長プログラムが、他人を脅す方法を学びこのような結果をもたらすとは夢にも思わなかった。

 

「さて、どうしたものか・・・。」

 

 自分が作り出したAIに脅迫された彼はため息交じりにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 一方ゼー・グルフの隣に係留されている一隻の魚雷艇では汚れた格好の男達が忙しなく動き回り、中破した魚雷艇の修理をしていた。

 

「誰か予備のシャフトもってこい!!」

「スラスターのテスト終わったか?」

「先に推進系の制御盤直さなきゃダメだ。」

「装甲板はないのか!?中身むき出しだぞ!」

「宇宙港の廃材で使えそうなもん貼り付けちまえ!」

 

 ディエゴは、中破した魚雷艇の艦橋でその作業を眺めながらタバコを吸っていた。そこへ手下の1人が報告へやってくる。

 

「お頭、やっぱり資材が足らねぇ。中身はなんとかなったけど、装甲板はどうしようもねぇぜ。とりあえず宇宙港の残骸から使えそうなもん見っけてふさいでいるところでさぁ。」

「まぁ仕方ねぇか。にしても寂しくなったなぁ。」

「え?」

「俺たちの艦隊さ。」

 

 全盛期は総勢50隻を超えた海賊団だったが、ヤッハバッハの厳しい監視によって十数隻にまで数を減らしていた。獲物は見つからず補給も受けられず傷ついた艦の修理もできない。このまま行けば遠からず全滅する筈だった。

 だがサンテール基地を発見したおかげでディエゴ海賊団は全滅を免れた。それ以後はサンテール基地を隠れ家にして主にヤッハバッハ関係の船に対し海賊行為を働いていた。

 だが、いつも通り狩りに行くためにボイドゲートを抜けた矢先でドン・ディッジ以下ヤッハバッハ艦隊とばったり鉢合わせしたのだ。

 

 海賊船と軍艦では海賊船に勝ち目は無く、半数を失ったがなんとか逃げ帰る事が出来た。最終的に残ったのは魚雷艇が4隻のみ。うち1隻は中破だ。

 

「俺の船もサンテールと一緒に沈んじまったしなぁ。」

 

 ディエゴの艦はサンテール基地が爆発した時に一緒に沈んでしまった。基地へ逃げ込む時すでに中破程度の損傷を受けていて修理に回せる人員も時間もなく、乗組員も怪我人が多数いて動かせる状態に無い為そのまま放置されていたのだ。

 

「誰かの魚雷艇を使いやすか?」

 

 その言葉にディエゴは首を振る。

 

「人の船を借りるってのはなんか嫌なんでね。お前らもあるだろ?」

「えぇまぁ。」

「仕方ねぇから俺はあっちに乗るさ。」

 

 そういってディエゴは、ゼー・グルフへ向けて顎をしゃくる。実際他人に船を貸したり借りたりするのを嫌う0Gドッグは多い。

 ただディエゴの場合、魚雷艇よりも圧倒的な性能を持つゼー・グルフに乗っていた方が生き残る確率が高いのでそっちに生き残るため適当な理由をつけてゼー・グルフに乗り込むだけである。

 

 そんなディエゴの打算も知らずに部下は表向きの理由であっさり納得する。

 

「これからどうなるんですかねぇ?」

「さぁな。俺としてはどっかにおさらばしたいぜ。」

「当てはあるんですかい?」

「ねぇな。」

「ですよねぇ。」

 

 海賊達はリベリアの開放ということに興味はない。それは根無し草であるフリーボヤージュ達も同様である。彼らとしてはリベリアがどうこうというよりも自分達の生活に害をなすヤッハバッハが邪魔だというだけである。彼らの影響がない所があるならば今すぐそこへ逃げるだろう。

 

 むろん故郷に対する哀愁が無い訳では無い。自分の生まれた地に愛着がありその為に働きたいと思うものもいるだろう。だがそうでないものもいる。少なくとも海賊達はリベリアに愛着を感じてはいなかった。

 

「とりあえず、生き延びる事。これが大事だな。」

「生きてりゃいいことあるってやつですかい?」

「そういうことだ。」

 

 そういって二人は、魚雷艇の修理を眺める事に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「修理の方はどうなっている?」

「やはり資材が足りません。現状でこれ以上の修理は不可能です。」

 

 海賊達以外にも船の修理をしている者達が居た。ギルバード率いるレジスタンスの面々である。彼らは自分の持っている貨物船や魚雷艇修理していた。が、こちらも資材は足りていない。

 彼らの陣容は貨物船2隻、魚雷艇2隻の計4隻。うち、貨物船1隻と魚雷艇1隻が中破状態だ。

 

「サンテールでなら修理出来たでしょうが・・・。」

「あの海賊共がヤッハバッハを連れてこなけりゃこんなことにはならなかったのに。」

「まったくだ!責任取らせてあいつ等の船をばらしましょう!」

「そうだ!それがいい!」

 

 口々に海賊達の責任を追及する彼らをギルバードは一喝する。

 

「今は揉めている時ではない!責任はいずれリベリアを解放したのちに取らせればいい。今は艦の修理に力を注げ!」

「「「・・・。」」」

 

 ギルバードに一喝されたレジスタンス達は、渋々艦の修理に戻っていく。基地が破壊される直接の原因を作ったのはディエゴ達であり、以前から仲は良くなかったが、これによりレジスタンスとディエゴ海賊団との仲は修復不可能なものになっていった。

 

「リーダー。これからどうするんですか?」

 

 一人の若いレジスタンスがギルバードに尋ねる。

 

「これからはあのゼー・グルフを拠点として戦い続けるだろう。強力な戦艦だからな。うまくいけば総督府のゼー・グルフを沈められるかもしれない。」

 

 リベリア宙域艦隊の旗艦ゼー・グルフ級は、この宙域を支配するヤッハバッハ艦隊の旗艦だ。圧倒的な破壊力を持つこの艦はヤッハバッハの支配の象徴としてリベリアに駐屯している。この旗艦以下ヤッハバッハの駐留艦隊を撃沈するとこはリベリアの開放を意味するとギルバードは考えていた。

 

 ギルバード以下のレジスタンスは過激派という言葉が似あうと言われている。彼らはヤッハバッハの支配を本能的に拒否する者達が多く、急進的な考えに走りがちである。リーダーであるギルバードにもその傾向がある。

 

 というもの、実際に家族や友人がヤッハバッハに逆らって厳罰をかけられたり、兵士に暴行されたり、以前の地位を追われたりと実害を被った者がおり彼らの話を聞いて集団で義憤に駆られるためだ。集団心理は団結を強くする分その行動は単調にかつ攻撃的になりやすい。

 ベルトラム大佐がヤッハバッハに逆らうのに懐疑的になりつつあるのに対し、レジスタンスの戦意は依然として健在である理由もこの為である。

 

 だがそれがリベリアを救うことになるかどうかは不明である。少なくとも彼らはそう信じていた。

 

「リベリア解放の為にも艦の整備を頼むぞ。」

「はいッ!」

 

 若いレジスタンスはそのままギルバードの激励の言葉に感激しながら走っていった。

 

 

 

 

それぞれの思惑がすれ違い交差する。それがどういう結果を招くのかこの段階で知る者はいなかった。




ようやく原作キャラが出せた・・・。

今回はフラグと現状確認的な話になりました。

ライオスの状況ですが、正直言ってよく分かっていないので想像で書いています。よく考えたら少尉が1艦隊を預かるのは現代では異例ですがこの時代なら普通そうですよね。

ベルトラム大佐以下アーミーズは慎重派、ギルバード以下レジスタンスは過激派という見方で結構です。フリーボヤージュや海賊達は無関心層という感じでしょうか。

こういった心理描写などは難しいです。言い回しとか適当な言葉が見つからず四苦八苦しました。

それではここまで読んで頂きありがとうございました。


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第10話 戦うべきか

 サンテール基地が崩壊して2週間以上経過した。その間、フリーボヤージュ達が食料などの物資を集めてくれた。彼らも長年ヤッハバッハの目を掻い潜ってサンテール基地に物資を運んでいただけの事はあり気付かれることなくここまで運んでくれた。

 

「これでとりあえず餓死の心配は無くなったな。」

『現状の食糧ならば全員で今から3ヶ月は耐えられます。』

「三か月か・・・。多いんだか少ないんだか。」

 

 航海をする上での3ヶ月は長いが、ヤッハバッハから隠れ続けるのに3ヶ月は短い。

 

「艦長、システムのチェック終わりました。対艦クラスターレーザーいつでも使えます。」

「ご苦労。で、どんなものなんだこれは?」

 

 初めは、傷ついた艦やオッゴの修理に追われてゼー・グルフの事は後回しになっていたのだ。今まで基本的なシステムしか把握しておらず、ようやく修理がひと段落したのでこの艦の調査を始めた。

 

「実際に威力を見たから分かると思いますが、凄まじいの一言につきますね。主砲と同口径のレーザー砲が60門もありましたよ。実質ゼー・グルフの主砲塔が15基ある事になりますね。」

「60門!?」

 

 つまりこの巨大な主砲が60門あるのと同じことだ。そんな強力な砲撃を喰らえば大抵の艦はAPFシールドが持たずに破壊されるだろう。そりゃデブリごと吹き飛ばされる訳だ。

 

「しかも複数のジェネレータとメインエンジンと別のインフラトン・インヴァイダーを搭載しているので、60本の周波数の異なるレーザーが発射できます。」

「つまり?」

「60本のうちいくつかは確実にAPFシールドの減衰を受けずに船体に到達します。まぁ全部のレーザーの周波数が適合したとしても、ジェネレーターがオーバーロードで爆発しますが。」

 

 何とも恐ろしい兵器だ。こんなのものと戦っていたと思うと背筋が凍る。

 

「ただし照準をつけるには一々艦首を向けないといけませんね。あと冷却が追いつかないので全門斉射したらチャージに時間がかかります。」

「連射は出来ないのか?」

「数門ずつ交互に砲撃する事は出来ますが、撃ち続けるとオーバーヒートを起こします。一応専用の冷却器は付いているんですが、発生する熱量が多すぎて排熱し切れません。」

 

 どうやら欠点がない訳ではないらしい。船体に対し巨大な砲を搭載する時は、大体船首方向に設置する。これによって巨大な武器も搭載出来るが、照準をつけるには敵に船首を向ける必要があり、軸線砲の共通の欠点だ。

 

排熱機構に関しては、このクラスターレーザーが発生させる熱量が多すぎて追いつかないらしい。1対1なら強いが多数を相手にするのは不安だな。

 

「まぁ完璧とはいかないものだな。」

「他にも防御面や整備性に問題ありかと。人間で言ったら心臓が2個あるようなものなので弱点も2箇所です。」

「攻撃力は凄まじいんだがな。」

「やはり試作兵器という事でしょう。あまりあてにはしない方がいいかと。」

 

 シーガレット達は知らないが、これらの問題点からヤッハバッハ側は開発を打ち切り以後クラスターミサイルの強化に方針を固めている。

 

『艦長。そろそろ会議の時間です。会議室にお越し下さい。』

「もうそんな時間か。」

 

 代表者達が集まり今後どうするかの会議が行われる。出席者はアーミーズの代表として大佐とランディ、海賊団代表としてディエゴとその部下2人、レジスタンスの代表としてギルバートと部下2人。フリーボヤージュの代表として前回は臨時代理だったがそのまま正式に代表になった3人。そして私はこのゼー・グルフの艦長として出席する事になった。

 実際この艦はほぼアルタイトが掌握しているが、アルタイトの管理者が私に登録されていたためにアルタイトの中では自動的に私がゼー・グルフの艦長になっていたようだ。その為アルタイトが何かするたびに私に許可を求め、私はそれを許可しなくてはならなくなった。

 そんな事をしている内に周りまで艦長認識してくるので、そのまま艦長になってしまったのである。

 

 今は艦に対し危険が無いと判断される行動に関しては無許可でよいとしている。これで私は許可を出す手間は省けた。ただ他の連中が何かしでかさないか不安なので報告は受けるようにしている。特にエピタフを狙っているディエゴに関しては。

 

「さて、行くとするか。」

「行ってらっしゃい艦長。俺としてはこのまま平和な時間が過ぎるのを期待しています。」

「善処するよ。」

 

 最近エドワードも他人行儀な態度から砕けた態度へと変わってきた。私としてもこっちの方が気が楽だ。というかエドワードもかなり特異な人間では無いか?惑星に置き去りにされやっとの思いで帰ったら仕事をクビになり勢いで0Gドッグになってレジスタンスと関わっていつの間にかヤッハバッハと戦っている。リベリア全土を見てもこんな人生を送っている奴は中々いないだろう。宇宙全体ならこれよりも目まぐるしい人生を送っているのは大量に居そうだが。

 

ーーーピーンポーンーーー

 

 そんな事を言っている間に列車が来た。この艦は巨大すぎるので艦内の移動にはこうして列車を使用する。宇宙船は大きさがキロ単位になるものも普通に存在する為、艦内の移動にはこうした列車が使用される。ただこのゼー・グルフは特に大きいので列車も大きく本数も多い。

 

 列車に乗り込みパネルを操作する。するとドアが閉じて気が付いたら列車は発進している。重力制御によって発進時の慣性すら打ち消すことが出来るのだ。ただあまりに強すぎるものや突発的なものは打ち消せないが。

 

 会議室がある区画までほんの十秒程度でたどり着いた。まぁ私が居た所とあまり離れていないのでそんなに時間がかかる訳では無い。そこから列車を降り、会議室まで歩いていく。

 

 会議室に入室するともうすでに他の代表者達は集まっていた。

 

「待っていたぞ。」

「すまないな。報告を聞いていたもので。」

 

 大佐に言い訳しつつ席に座る。私が座った所で会議が始まった。

 

「では今後の我々の方針を話し合おうと思う。何か意見がある者は?」

「大佐。」

 

 真っ先に手を上げたのはギルバードだ。

 

「我々はサンテール基地と幾多の同士を失った。彼らの為にもヤッハバッハと戦い続けるべきだと思う。幸いにも我々は、強力ビーム兵器を持つゼー・グルフを手に入れた。これを新たな拠点として活動を続けるべきだ。」

「俺は反対だな。」

 

 ギルバードの意見に対し横やりを入れたのはディエゴだ。

 

「拠点も壊滅し艦隊の多くを失った。おまけにヤッハバッハの連中も警戒してるだろうぜ。」

「だが連中は俺達の基地を壊滅させた事で俺達が全滅したと思うんじゃないか?ヤッハバッハも俺達が全部で何人いるかなんて把握していないだろう?」

 

 ディエゴの意見にフリーボヤージュの一人が反論する。ここは専門家の意見を聞くとしよう。

 

「大佐。軍人の視点からヤッハバッハはこれからどう動くと思う?」

 

 かつて軍にいた大佐なら、軍隊がどう動くかの予測も出来るのではないか?そう考えて私は大佐に尋ねる。会議室に居た全員の視線が大佐に集中する。

 

「・・・現場の状況を調査すればダルダベルやブランジがゼー・グルフの砲撃で沈んだことも分かるだろう。そうでなくとも連絡が途絶えた時点で何かあったと考え捜索隊を編成するな。」

「つまり警戒度は下がらないと?」

「少なくとも敵が残っているとは考えるだろうな。」

 

 その言葉に全員沈黙する。我々が全滅していないと知ればヤッハバッハは依然として我々を血眼で捜索するだろう。サンテールのようにカモフラージュできないこのゼー・グルフはすぐに発見されるだろう。全長4kmの戦艦は目立つ。

 

「いっその事別銀河に逃げるっていうのはどうよ?」

「リベリアを見捨ててか?それよりも別銀河に行くボイドゲートが無いではないか。」

「ヤッハバッハの連中がやったように、ボイドゲート無しの長距離航海で行くのさ。」

 

 ディエゴの提案に即ギルバードが反論するが、ディエゴはそれに対してボイドゲート無しの長距離航海を提案した。I3・エクシード航法は理論上光速の876倍、実用上でも200倍の速度で航行できる。簡単に言うと光の速さで200年かかる距離を1年で進むことが出来るのだ。だが・・・。

 

「確かにエクシード航法を使えばボイドゲート無しでも他の銀河に到着するだろう。ただそれでも年単位の時間がかかるし我々には現在ですら満足に補給が受けられない。途中で物資が尽きて餓死するのがオチだ。」

「それにたどり着いた場所がヤッハバッハの勢力圏だったらどうする?現状奴らがどの銀河に勢力を伸ばしているのか分からない以上着いた先がヤッハバッハの勢力圏でそこで捕まったら意味が無い。」

「ぐぅ・・・。」

 

 私と大佐にぐぅの音しか出ないくらい反論されたディエゴは、ぐぅといって黙りこむ。ほんとに言う奴がいるか。

 

「そういうお前さんはどうなんだ?何かいい案があるのか?」

 

 せめてもの反撃とばかりにディエゴは私に噛みついてきた。

 

「私としてはこのままヤッハバッハの目を逃れて静かに過ごすべきだと思う。」

「潜伏ってわけか。」

「あぁ。戦うにしても戦力不足だし、どこかに逃げる当てもない。隠れるに限る。」

「このゼー・グルフがあるだろう?しかもあの強力なレーザー兵器がある。これならヤッハバッハとも対等に渡り合えるはずだ。」

「先程エドワードが調べてたが例の対艦クラスターレーザーは確かに凄まじい火力を誇っている。だが、軸線なので照準をつけるのにいちいち艦首を向ける必要があるのと、発生する熱量が多すぎて排熱が追い付かないらしい。1対1なら強いが多数に囲まれるとこの武装が返って邪魔になる。あまり当てにしない方がいい。」

 

 ヤッハバッハと戦うべきだと主張するギルバードに、先程分かった事を伝える。ギルバード以下レジスタンスはこの艦の性能を当てにしている節があるが、この艦は思っているほど強力ではない。リベリアの船から見たら破壊神のような存在だが、ヤッハバッハの基準で見れば強力な砲撃を放つ唯の戦艦に過ぎないのだ。

 まぁ多数に囲まれれば大抵の艦はどうする事も出来ないが。

 

「隠れるといっても補給はどうする?俺達だって常に物資を運べるわけじゃないんだぜ?」

「それに金も必要だ。資源回収で金を集めるにも限度がある。」

 

 フリーボヤージュ達が発言する。サンテールには食物プラントなどが揃っていたのである程度自給自足が可能だった。今はそういった設備が無い以上宇宙港などから物資をそろえなければならない。その為にはヤッハバッハの目を盗む必要があるし、金も必要だ。

 小惑星帯などから鉱物などの資源を回収したりして金を得る方法などがあるが、それには資源のある小惑星を探し回らなくてはならない。隠れる以上動き回るのは危険だ。

 

「やはり戦うべきだろう。駐留艦隊を壊滅させればコソコソ隠れる事も補給で悩む必要もない。」

「だからそれが無理だって言ってんだろ?頭大丈夫か?」

「サンテール基地が壊滅する原因を作ったやつに言われたくは無いな。」

「お前らが派手に暴れまわるからあいつ等が出張ってきたんだろ。責任を擦り付けるなよ。」

「貴様ぁ!」

 

 ギルバードとレジスタンスが勢いよく立ち上がりディエゴ達を睨む。対するディエゴも敵意むき出しと言った感じで睨み返す。元々仲が良くない両者(というか海賊はそもそも他派閥と仲が良くない)は今までも何度かこういった衝突はあった。

 

 そのたびにフリーボヤージュやアーミーズが止めに入るが、今回フリーボヤージュ達は両者を睨むばかりで止めようとしない。彼らから言わせてみれば基地が壊滅した原因はレジスタンスが活発に動いた事とディエゴ達が逃げ込んだ事の両方が原因と思っているので、どちらに対しても負の感情を抱いているのだろう。どっちも傷付けばいいとでも思っているのかもしれない。

 

「どっちもその辺にしておけ。昨日の責任を追及するよりも明日への行動が今の我々には必要だ。」

 

 大佐に言われてどちらも席に着く。ただしお互いに不機嫌を隠そうともしないので会議室内の空気は険悪なものになっていた。

 

 ここは一度会議を中断して頭を冷やすべきだろう。そう提案しようとした瞬間私の端末から声が聞こえてきた。

 

『艦長。シュレースより緊急通信。ボイドゲートよりブランジ級3隻のワープアウトを確認。こちらへ向かっているとのことです。』

「何っ!?」

 

 その報告に会議室内は騒然となる。必死で逃げてきた所でまたヤッハバッハの追撃の手が迫ってきたとあれば当然の反応だ。

 

 ちなみにシュレースは現在の我々の中で唯一の駆逐艦で、オッゴの訓練と哨戒を兼ねてボイドゲートへ向けて航行していたのだ。カタパルトが無いので艦載機を搭載する事は出来ないが、エアロックにオッゴを接続するという強引な方法で搭載している。

 

『以後シュレースは航路を外れ慣性航行に移行するそうです。』

「いい判断だ。アルタイト、今ここに居る艦の全動力源を停止。敵に感知されそうなものは全部停止するんだ!」

『了解しました。』

「何をしている!?ブランジ3隻ぐらいこの艦なら楽に撃破できるだろう!早く戦闘準備をするんだ!」

 

 私の判断にギルバードが反論し戦闘を訴える。だがそれは出来ない。

 

「ここでブランジを沈めても連絡が途絶すればここに注目が集まる。そうすれば今度は本格的な討伐艦隊がやって来るんだぞ!」

「このまま隠れていても見つかって攻撃されるだけだ!撃たれる前に撃つしかない!お前達!至急戦闘準備だ!」

「「はっ!!」」

 

 分からず屋共め!私の考えを一蹴したギルバートは部下達と共に部屋から出ようとする。このまま行かせれば彼らは艦隊を率いて出撃しブランジと交戦するだろう。そうなればこちらも発見され否応なしに戦闘に引きずり込まれる。ブランジを撃破したとしても今度はこの宙域へヤッハバッハの討伐隊がやってくる。そうなれば全滅は避けられない。

 

 

 

 

 

 

 だから私は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 ギルバードが出口に立った瞬間、銃声と共に一条の閃光がギルバードの頬を掠めた。

 

「―――ッ!?」

 

 振り返ったエドワードは目を見開く。ギルバード以外にも会議室に居た全員の視線が私に集まる。正確には私の手に持っているメーザーブラスターへだ。そこからは白い煙が昇っている。

 

「今ここでヤッハバッハと戦えば確実に全滅する。お前達が全滅するのは勝手だがそれに付き合うつもりは毛頭ない。それでも戦おうとするなら殺してでも止める。」

「貴様!」

 

 ギルバードとその部下が腰のブラスターに手を伸ばす。

 

「やめろ!今はそんな事をしている場合か!!」

 

 大佐が声を上げるがギルバード達は聞く耳を持たない。まぁ銃を突きつけられているから当然といえば当然だが。大佐以外の周りの面々もどう対処すればいいのか分からずうろたえるばかりだ。

 

「シーガレット・・・貴様隠れられると思っているのか?この巨体では連中の目を誤魔化す事は出来ない。」

「戦えば我々がここにいる事が確実に知られる。そうなれば総督府の駐留艦隊が追ってくるんだ。」

「ブランジ艦隊を撃滅した後、速やかにこの宙域から逃れればいいだろう。」

「ここから他の宙域に移るには一度アルゼナイア宙域を経由する必要がある。連中だって馬鹿では無いからボイドゲートを封鎖してから捜索に入るだろう。一度補足されたら逃れられない。」

 

 どちらの意見にも一理あるが、一方は目先にある困難を乗り越え安全な未来を手に入れるのに対し、もう一方は目先の困難を楽に突破しさらに困難な道へ進むものだ。今日生きなければ明日もないからと言って明後日に死ぬ道を進むことはできない。

 

 だから今ヤッハバッハの艦隊を攻撃する訳にはいかない。

 

「!?」

「な、なんだ!?」

 

 不意に艦内に振動が走る。実際には艦だけでは無く宇宙港自体が揺れたらしい。意外と強力な揺れだったので思わずバランスを崩して床に手をつく。その隙をギルバードは見逃さなかった。

 

「!!」

「!?」

 

 二つの銃声が会議室内に鳴り響く。ギルバードが銃を撃った時、私も反射的に引き金を引いたからだ。そして両者の放ったメーザーは互いの胸を撃ち抜いた。

 

「な!?」

「リーダー!?」

 

 焼けるような痛みが走りそのまま床に倒れた。激痛で頭が真っ白になり何も考えられない。

 

「シーガレット大丈夫か!?ランディ!ドクターを呼べ!」

「リーダー!リーダー!!しっかりしてください!」

 

 周りの声がどんどん遠くなっていく。そして私はそのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 ドクターと医療班が駆け付け止血などの応急処置を施された彼らを医務室へと運ぶ。

 

「覚悟はしておいてください。」

 

 処置を済ませた女性のドクターの言葉に会議室にいた一同は沈黙する。

 

『ベルトラム大佐、以後どうされますか?』

「・・・どうするとは?」

 

 ベルトラム大佐はアルタイトからの唐突な問いかけの意味を理解出来ず聞き返す。

 

『接近するヤッハバッハ艦隊に対する処置です。艦長は負傷する前に探知される恐れのある動力源をすべて停止させるよう指示を出しました。ですがこのまま動力を停止させた場合、艦長達の治療が行えず死亡する可能性が高いかと。』

「な!?」

『しかし治療の為にはインフラトン・インヴァイダーを稼働させなければなりません。稼働させればヤッハバッハに見つかる危険は極めて高くなります。』

「・・・ドクター。彼らの容態は・・・?」

 

 大佐の質問を受けたドクターに会議室に居た全員の視線が集まる。特にレジスタンス達はリーダーの安否がかかっているとあってその目にはドクターに対する期待があった。

 

「今すぐリジェネ―ション装置で治療する必要があります。そうしなければ間違いなく二人は死亡します。」

「治療にどれくらいかかる?」

「怪我の具合から見てリジェネ―ション処置で回復するまで最低でも24時間はかかります。」

「そんなに稼働させていたらヤッハバッハが来ちまうぜ!」

「なんとかならんのか?」

「なんともなりません。」

 

 ドクターははっきりと言い切る。

 

「ドクター・・・。もう少し何か考えてくれないか?」

「私は医者です。医者としての意見しか言えません。それをどう受け取るかは貴方達次第だと思います。」

 

 そういってドクターは部屋を出ようとする。ドアに手をかけたとき彼女は一言

 

「できるだけの事はやります。」

 

 そう言い残して出て行った。

 

「・・・できるだけの事はやる・・・か。我々もできる限りの事をやるだけだ。」

「大佐?」

「アルタイト。全動力源を落としてくれ。連中の目をごまかす。」

「戦わないのか!?大佐!!」

「リーダーを見捨てるのか!?」

 

 大佐の指示にレジスタンス達が反論する。だが大佐はそれをきっぱりと切り捨てた。

 

「今ここで見つかれば全員殺されるだろう。たとえあの二人を失ってもここで全滅する訳にはいかん!」

 

 大佐の言葉にギルバードの部下二人は黙り込む。二人に代わってランディが別の意見を言ってきた。

 

「大佐、動力を落とすだけでは目視によって発見される可能性があります。」

「ではどうする?」

「宇宙港の中央に向けて大穴が開いています。そこに艦を入れて入口を塞ぐんです。」

「なるほど、まさか宇宙港の内部に入ってるとは思わねぇな。」

「だが、穴をふさぐ時間はあるのか?」

 

 大佐の質問に答えたのはアルタイトだった。

 

『シュレースより入電。先程強力な恒星府が発生し、それによってヤッハバッハ艦隊に損害の模様。その場で停止しているとのことです。』

「さっきの揺れはフレアの所為か!」

 

 大佐は先程の揺れは恒星風の所為だと思っていたが、実際には恒星風によって吹き飛ばされた小惑星が宇宙港にぶつかったために起きたものだ。

 

「たぶん連中もダメージを受けたのでしょう。停止しているなら損害は深刻なはずです。」

「よし、今のうちに作業を進める!各艦は中央の穴へ入って固定!整備や補修は後回しだ!手の空いているものは全員船外作業で穴を塞ぐ!急げ!」

「「「了解!」」」

 

 

 

 

 

 

 ボイドゲートを抜けリベリア・ぺリル宙域に侵入したブランジ級突撃艇3隻は、オーバーハーフェンへ向けて航行していた。

 

「この宙域は強烈な恒星風が吹くと聞いていたが、予想以上だったな。」

 

 ボイドゲートを通りこの宙域に入った彼らを出迎えたのは強烈な恒星風だった。ぺリルより大量の高エネルギー粒子が放出されそれによって船の電子装備に異常を起こしたのだ。ぺリルの恒星風が異常に強烈だったというのもあるが、それよりも艦隊が航行していた位置がぺリルに近かったというのが大きい。

 

 だが、化学が発達した現代において恒星風程度で沈むほど艦艇は脆くはない。ましてそれが星の海を何か月も掛けて渡り他国を征服するヤッハバッハの軍艦である。実際インフラトン・インヴァイダーなどの中核となる部分は無傷で航行に支障はなかったのだが、レーダー等の索敵装備が損傷したのだ。

 

 敵がドン・ディッジを奪取しているという情報を持っていたノイマン少佐は、レーダーが使えない状況で動き回り敵から不意打ちを受けるよりも、見通しの良い現地に留まり修理した方がよいと考え、恒星風の影響が少ない場所へ移動したのち艦隊をそこで停止させ修理を行った。

 

 これによりシーガレット達のもとへ駆けつけるのが6時間は遅れることになった。

 

「タイミングが悪かったとしか言えません。恒星ペリルは不安定で恒星風の予測は極めて難しいのです。」

「仕方がない・・・か。これだけ環境が悪ければ航行する船もいないだろう。隠れるにはうってつけだな。」

「少佐はいると思いますか?」

「可能性は高いだろうな。」

 

この時点でヤッハバッハ側はシーガレット達をヤッハバッハの支配に逆らうテロリストだと考えていた。

宇宙は広大であるが、人類が行動可能な範囲でかつ隠れられる場所はそう多くはない。彼等がテロリストならばテロ行為を行う上でリベリアから離れるとは考えにくいというのがクーラント以下捜索隊の士官達の認識であり、ライオスの意見が採用される要因の一つとなった。

 

「少佐。間もなく修理が完了します。」

「僚艦の2隻とも間もなく修理が完了するそうです。」

「よし、修理が完了次第発進する。僚艦にも伝えろ。」

「「了解。」」

 

そして、ようやく修理が完了したブランジ級3隻はオーバーハーフェンへ向けて出発した。

 

駆逐艦シュレースは慣性航行で航路外へ退避していた事が幸いし発見される事は無かった。

 

オーバーハーフェンにたどり着いた彼らが目撃したのは、軌道上に浮かぶ巨大な構造物だった。

 

「なんだあれは?」

「おそらく宇宙港の残骸かと思われます。大昔に恒星ぺリルが不安定になり放棄されたようです。空間通商管理局も応答しません。」

「宇宙港がこの有様では無理もあるまい。いくらAIと言っても恒星風に焼かれて無事でいるとは思えないからな。」

 

 形を保っているとはいえ、外壁は剥がれ落ち恒星風で焼かれデブリによって穴だらけにされた宇宙港が機能しているとは思えない。そしてノイマン少佐のその予測は事実であった。

 

「こういった所なら隠れるのにもってこいだな。」

「確かにここなら警備の目も届きませんが・・・。さすがに環境が劣悪過ぎませんか?この状況では我々に発見される前に恒星風で焼き殺されると思うのですが。」

「我々に発見されれば確実に死ぬが、恒星風なら艦に居ればある程度耐えられる。それに連中はドン・ディッジを奪っているとみて間違いない。あの巨大艦なら拠点代わりにもなる。」

 

 ノイマンの答えに部下は納得する。ヤッハバッハと戦うよりも過酷な恒星風の方が生き延びる確率が高いからだ。

 

「スキャンレンジに入りました。スキャンを開始します。」

 

 そういってオペレーターの一人がコンソールを操作し廃宇宙港をスキャンする。

 

「どうだ?」

「恒星風の影響か少しノイズがありますが、内部からのインフラトン反応は無いようです。恒星と反対側の宇宙港出入口が健在なので内部への侵入は可能です。」

「それはゼー・グルフ級も内部へ入れるのだな?」

「はい。」

 

 ノイマンは迷っていた。ゲート無しで銀河を渡り勢力を広げるヤッハバッハの艦艇は長距離航行にも耐えられる性能を持っている。新兵器の実験艦であるドン・ディッジも同様でその巨体から拠点としても使用できる。これを利用し辺境宙域のさらに先の深宇宙で、ドン・ディッジを基地としている可能性を考えていた。

 むろん補給等を考慮すればそれを実行するのは難しい。しかし可能性としては0ではない。

 

 ただ連中がこの廃宇宙港に潜んでいる可能性も否定できない。スキャン結果では内部に艦はいないが、電波障害の多いこの宙域ならスキャンを誤魔化すことは難しくない。

 

 結果として彼は無難な選択をした。

 

「一応調べておこう。無人偵察機を出せ。」

「了解しました。」

 

 それは、目視による確認である。

ブランジ級は艦載機搭載能力を持っていない。その為内部を偵察するには、宇宙港に接舷し乗員を乗り込ませるか、全長10m程の無人偵察機を使い内部を調べるかの二択である。実際に乗り込んだ方がより詳しく調べられるがぺリルが不安定な為船外活動は危険だと判断したノイマンは、無人機による内部偵察を行う事にした。

 

 1隻に1機、 計3機の無人偵察機がデブリで開いた穴から内部に侵入する。無人偵察機は見た目はミサイルの下部に楕円形のコンテナを装備したもので、コンテナ内部には大型の内視鏡のようなカメラと小型のドローンが何基か積まれている。

 

「恒星風の所為で溶けてますね。これでは空間通商管理局も機能していないでしょう。」

「まさに廃墟だな。」

 

 無人機から送られてきた映像を見るとそこには、黒焦げになった宇宙港の内壁が映し出されていた。

 

「だいぶ傷ついていますね。アームをはじめ港湾機能はすべて死んでいるようです。」

「内部に艦影は見当たりません。」

「ふむ・・・。他のドックはどうだ?」

「他のドックも確認できません。」

 

 他のブランジから発進した無人偵察機はその他のドックへ向かっていた。しかしいずれの無人偵察機も敵を発見することはできなかった。

 

「少佐、やはりここには居ないのではありませんか?スキャン結果にも反応がありませんし、無人機からも何も確認出来ません。。」

「・・・そうだな。無人機の収容作業にかかれ!それと宙域図を出してくれ。」

「はっ。」

 

 ノイマンの前にウィンドウが浮かび上がり、この宙域の図面が表示される。

 

「ここ以外に隠れられそうな場所は・・・。ここか。」

 

 そう言った彼の視線の先には、ここからしばらく離れた所にある小惑星帯があった。

 

「小惑星帯ですか。」

「連中が拠点にしていたのも暗礁宙域だからな。ここは密度が薄いが隠れる事は出来る。」

「では回収終わり次第進路を小惑星帯に向けます。」

「うむ。」

 

 10分後、無人機を収容したノイマン少佐の艦隊はオーバーハーフェンを後にした。

 




令和初投稿です。

ようやく投稿できました。日に日に書ける時間が減っていて遅々として筆が進みませんが、これからも細々と書いてまいります。
今回も心情描写とかに随分悩んだり書いてる本人が現在の状況を忘れてしまって慌てて過去話を読み直したりしました(笑)。

前々から思っていたのですが、ヤッハバッハって艦種の偏りが著しく感じます。戦艦4種類、空母1種類、巡洋艦1種類、突撃艦1種類と主力艦と艦載機主義で、駆逐艦や魚雷艇やフリゲート等の艦艇が見当たらないのが原因だと思います。

普段のパトロール任務にダルダベルとかをウロウロさせているんですかね?(そういえばヤッハバッハではダルダベルは小型艦とか言ってたような・・・)

それと今回新キャラが出ましたがドクターは役職名で名前ではありません。理由は後ほど明かされます。

それではここまで読んで頂きありがとうございました。新しい元号になってもよろしくお願いします。


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第11話 奇跡と野心

「発見できなかった・・・と。」

 

各地を捜索し再度終結した艦隊の報告を受けたクーラント。その声には小さな落胆が現れていた。

 

「我々が見逃したのか。貴方の予想が間違っていたのか。・・・それとも。」

 

そこまで言ってクーラントは茶を飲む。その言葉の続きを読み取ったライオスは自分の立場がいささか危うい事を再確認させられた。

 

敵を発見できなかった理由として考えられる事は3つ。捜索艦隊が見逃してしまったか、ライオスの予想が的外れだったか、ライオスが彼等を庇うためにワザと別方向を捜索するよう進言したか。それはクーラントのみならず他の士官達も同じ事を考えていた。

 

「ライオス少尉。貴方はどう考えますか?」

 

ここでクーラントはライオスに質問する。室内にいた他の士官達の視線が集中する中、ライオスは冷静に返事した。

 

「私としてはやはりどこかの無人地帯に潜んでいるものと思います。」

「自分の判断に誤りは無いと。根拠はあるのですか?」

「はい。こちらをご覧ください。」

 

そう言って彼は机のホログラムを起動させる。そこには大量のリストが並んでいた。

 

「これは以前セクター4で回収されたドン・ディッジのモノとみられる残骸のリストです。ご覧の通り搭載されていた物資はあるものの船体部分は発見されていません。」

「爆発によってどこかへ飛んで行ったのでは無いか?」

「確かにその可能性はあります。ですが他の艦の残骸は発見できあの巨大艦の残骸のみ見当たらないのは不自然です。この事からドン・ディッジは敵によって奪取されたものと推定されます。」

「それは以前にもそう結論が出ている!何を今更確認しているんだ!」

 

ノイマン少佐が苛立ちを隠そうともせず声を荒げる。だがライオスは冷静に対応した。

 

「このリストに記載されている物資には大量の食料があります。そこから推算して艦内の食料は最低でも4分の3は宇宙に放出されたと思われます。」

「ふむ?つまり敵は食料の備蓄が乏しいと言いたい訳ですか?」

「はい。そして食料を補給する為には宇宙港から補給するしかありません。敵は国内に潜み小型艇などで食料を手に入れている可能性があります。」

「ちょっと待ってくれ。確かゼー・グルフ級には食料生産プラントも搭載されていたはずだ。そいつを使えば危険を犯さず食料を手に入れられるぞ。」

 

次に発言したのはキール中佐だ。中佐の言う通りゼー・グルフ級に限らずヤッハバッハの艦艇は長大な宇宙を渡り歩く為に食料生産プラントなど各種装置などが搭載されている。必要な食糧を自分の艦内で生産する事で、補給艦の数を減らすと共に広大な宇宙を大軍で、しかもボイドゲート無しで渡り歩くのだ。

 

「これについては、ドン・ディッジには食料生産プラントが装備されていない事で説明出来ます。」

「何?」

 

ドン・ディッジに食料生産プラントが装備されていない理由。それは例の対艦クラスターレーザーが原因である。物理的に巨大なシステムである対艦クラスターレーザーを搭載する為にいくつかの装備が取り外されており、その一つが食糧生産プラントだ。

 

「この他にも長距離航行能力に必要な装備がいくつか外されています。この事から深宇宙に逃走した可能性は極めて低く、生き延びるには先程述べた通り小型艇による“密輸”が頼りと思われます。私としては国内の取り調べを強化し彼等の密輸ルートを割り出すべきと思います。」

「なるほど。」

 

ライオスの説明を聞いたクーラントの顔が笑顔になる。ただしそれはまるで詐欺師が丁度良いカモを見つけたようなーーー裏で何か企んでいそうな笑顔だ。

 

「ならばライオス少尉、君に密輸ルートの割り出しを命じます。総督府にこの件に関し便宜を計ってもらいましょう。君の艦隊の指揮権もそのまま持っていて構いません。少尉、成果を期待しますよ。」

「はっ!では早速任務にかかります。」

 

クーラントが頷いたのを見てライオスは退室する。他の士官も退出した後、部屋に残っていたクーラントは何やら楽しそうに茶を飲んでいた。

 

「司令官。よろしいのですか?彼にあそこまでの権限を持たせて・・・。」

「君は彼の目を見ましたか?」

「は?」

 

副官の懸念に対しクーラントは一つ質問をする。訳が分からない副官は気の抜けた返事をするしかなかったが、クーラントはそのまま話し続けた。

 

「あの目にはかなりの野心を感じますね。確かな才能と野心・・・。それを兼ね備えた若者の行く末を貴方は気になりませんか?」

「彼の行く末ですか?彼の野心がどの程度か分かりませんが、彼の才能次第では無いでしょうか?」

「はっはっはっは!」

 

それを聞いたクーラントは笑い出す。副官としてはごく普通の答えを返したつもりで、どこに笑いのツボがあったのか彼には分からない。

 

「私は大いに興味があるのですよ。一国の軍隊を壊滅させ国を滅ぼした王子の野心と才能がどこへ向かうのかね。」

「・・・だからあの様に権限を与えたのですか?」

 

クーラントはそれ以上は答えずに楽しそうに茶を飲み干す。こうなるとクーラントは何も答えない。そういった人なのだとこれまでの副官生活で知った彼は黙って差し出されたカップに茶を注いだ。

 

 

 

「艦長、準備出来次第直ちに発進する。」

 

一方で、クーラントから密輸ルートの割り出しを命じられたライオス・フェムド・ヘムレオンは、与えられたブランジ級突撃艦のブリッジで艦長に指示を出していた。

 

「で、ライオス少尉。目的地はどちらに?」

 

そう言って体格の良いいかにも粗野な下士官といった風貌の男が聞き返す。この男がブランジ級の艦長で、階級は少尉、歳はライオスと2回り以上も差がある。

 

「まずはリベリアの総督府へ行き情報を集める。ただ闇雲に国中探し回ってもしょうがないからな。」

「はいよ。出航用意!目的地はリベリア!」

 

艦長の命令で艦内が慌ただしくなる。それを尻目にライオスはブリッジの椅子の一つに座るとコンソールに映し出されたこれから向かう目的地の惑星ーーーかつて自分の婚約者がいた惑星を眺める。その瞳に哀しみが浮かぶがそれは一瞬の事で、すぐにいつも通り己の野望を秘めた目を取り戻した。

 

ーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーー

 

ーーー

 

「・・・ん。ここは・・・。」

 

眩しい。何かが目の前で光っている所為で眩しくてよく見えない。ただだんだん目が慣れてくると見知らぬ天井があった。

 

「おはようございます。気分はどうですか?」

 

そう言って私の顔を覗き込む影が現れた。

 

「エドワード・・・。お前がいるという事は私はまだ死んでいないのか?」

「一応その様ですね。」

 

どうやらダークマターになるのはまだまだ先の事らしい。目覚めの一杯としてエドワードが水を差し出してきたので上半身だけ起き上がってそれを飲む。

ただの冷えた水だが、美味しく感じる。

 

「で、あの後どうなった?」

 

飲み干した所で私はエドワードに現状を尋ねる。ギルバードと撃ち合った事は覚えているがその後の記憶が全くない。

 

「まぁ色々ありましたがね。」

 

そう言ってエドワードはあの後の状況を話し始めた。しばらく時間は巻き戻る。

 

ーーーーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーー

 

「ーーーーなんとか見つからずに済みましたね。」

「あぁ。」

 

 ランディの言葉にベルトラム大佐は頷く。彼等の作戦が成功しヤッハバッハの目を欺く事が出来たのだ。

 

「かなり運が良かったですね。」

「あぁ、とてつもなく良かった。」

 

彼等の言う通り、今回見つからずに済んだのは奇跡と言ってもいいものだった。ヤッハバッハ側のスキャナー等が万全で無かった事や恒星ペリルによって索敵機能に障害がでること。宇宙港の中央に全長4kmの巨大艦が隠れられる大穴が開いていた事、ノイマン達がまさかドッグではなくドッグより奥の区間に潜んでいると思わず調査しなかった事など、いくつもの奇跡が重なった結果である。

 

無論ノイマン達が杜撰な調査をした訳では無い。だが相手がゼー・グルフ級を奪取しているという情報によって勝手に宇宙港内の大型船用ドッグ内だという無意識な思い込みが大きな要因になった。

 

目視確認もしたが、スキャナーの結果を確認する為に見渡した程度で偽装された穴を発見することは出来なかった。

 

「一度引き返してきた時は冷や汗をかいたがな。」

 

ノイマン少佐はオーバーハーフェンの奥にある小惑星帯の調査を終えた後、再度この廃宇宙港を偵察した。ベルトラム大佐は、ヤッハバッハ艦隊がボイドゲートの方向へ向かわなかったので彼等が索敵範囲外に出た後もそこから動かずインフラトン・インヴァイダーを稼働させなかったのだ。もし稼働させていればインフラトン反応を感知されて発見されていただろう。

 

「ヤッハバッハ艦隊、索敵範囲外へ出ました。」

「念の為主機関を起動させるのは30分後にする。」

「了解しました。他の艦にもそう伝えます。」

 

部下の一人に他艦への連絡を任せるとベルトラム大佐はランディにこう言った。

 

「医務室に行って30分後に動力が回復すると伝えてくれ。それと二人の容態も確認するんだ。」

「了解しました。」

 

そう言ってランディは艦橋から出て行く。船内通話は電源が降りている為使用できず、念には念を入れ端末の通信機能なども遮断されているので、こうして伝令が艦内を走って伝えるしかないのである。

 

ゼー・グルフはその巨大艦ゆえに艦内の移動時間も長くなる。その為艦内部には移動用の列車が備えられているが、列車を稼働させる為の動力はインフラトン・インヴァイダーによって生み出される。

 

無論、インフラトン・インヴァイダーが停止している今それを使う事は出来ないのでランディは、ほぼ無重力下の艦内を歩いてサブ医務室へと向かっていた。

 

ヤッハバッハの艦艇は、戦闘時に艦橋などの指揮所が破壊されても素早く指揮を引き継ぎ戦闘を継続できるようにCICを拡散させるなど生存性を高めた設計がなされている。それはCIC以外にも採用されており、医務室や機関制御室などはメインとなる場所の他にも至る所にサブとして存在する。

 

リベリアでも生存性を高めるためにそうした設計は取り入れられているが、ヤッハバッハ程徹底はされていない。あまり指揮系統を各所に散らばらせると今度は各所で認識の齟齬などから戦闘に支障が出る為だ。優秀な指揮官や兵士が大量にいてこそ採用できるものなのだ。

 

それを可能にしボイドゲートを使わずに大軍を率いて宇宙を渡り他の銀河を征服する。それがヤッハバッハなのだ。

 

「(もし正面から戦ったとしてもリベリアに勝ち目は無かっただろう・・・。)」

 

医務室に行く途中ランディはそんなことを考えていたが、頭を振ってその考えを振り払った。もしもあの時といった仮定は、決して巻き戻る事のない時間の中において無意味なものなのである。

 

ランディが艦橋近くのサブ医務室(サブの医務室でたいして大きくない)に着くと、二人の武装した男が立っていた。

 

「ご苦労。何か異常はあったか?」

「いえ何もありません。」

 

彼等はこの医務室を守る護衛である。実際には護衛というよりもギルバードを撃ったシーガレットをレジスタンスの報復から守るためだ。

 

医務室に入るとドクターが一人コーヒーを飲んでいた。だがその額には汗が滲んでおり顔は疲労している。先ほどまで重傷の二人を必死に治療していたのだ。

 

「ドクター。30分後にインフラトン・インヴァイダーが使用可能になります。」

「今すぐに使えないの?」

「まだ敵が近くにいますので、ここは念の為にとの事です。所で二人の容態は。」

 

そう聞くランディに対しドクターは一度コーヒーをすすってから報告する。

 

「二人とも一応生きているわ。傷も塞いだし止血も輸血もした。痕は残るでしょうけどリジェネーション処置をするなら跡形も無く消えるわね。しばらくすれば目がさめるでしょう。」

 

そういってドクターはもう一度コーヒーをすする。至極当然のように話しているが、現代においてリジェネーション処置を使わずに瀕死の重傷者を救うのは至難の技だ。

 

「まぁしばらくは安静にしている必要があるわね。何せ旧式の荒療治をしたものだから身体にはそれなりの負担があるわ。リジェネーション処置をするとはいっても、治療が原因で何らかの悪影響が出ないか保証は出来ないから経過観察の要ありと言っておくわ。」

 

そう言ってドクターはモニターを指差す。そこには二つの部屋が写っており、中にはベットに寝かせられ点滴を受けている2人の姿があった。

 

2人が無事な事にランディひとまず安心した。万が一にもどちらかが死亡した場合、それなりの動揺を与える事が予想されたからだ。仮にシーガレットが生き残りギルバードが死亡した場合、ギルバードに盲信するレジスタンスが報復の為シーガレットを殺そうとする可能性がある。そうなればこの艦を動かしているAIのアルタイトが艦長の身を守る為に艦内の防御システム(艦内に仕込まれている対侵入者用のタレットなど)を使いレジスタンスと交戦するだろう。

 

実際アルタイトからその可能性を示唆して来た為、ベルトラム大佐達は彼等が助かるかどうか内心冷や汗ものだったし、医務室にアーミーズを配置するなど保安にも気を配る必要が出てきたのだ。

 

ちなみにドクターが言っていた旧式の荒療治とは、人類が宇宙に出る以前に誕生した針や糸や接着剤などで傷口を塞ぐ方法の事だ。電源が喪失しても、道具と技術を持った医者さえいれば行える方法であるが、医学が発達しリジェネーション処置が普及した現代では全ての医者が行える訳では無い。機械による診察とリジェネーション処置による治療で全てを済ませてしまう医者もいるし、使い方さえ分かっていれば唯の0Gドッグや一般市民でも治療出来てしまう。

 

逆にリジェネーション装置が無い又は受ける事が出来ない貧しい地域には、旧来の方法による治療を行える者もいるが大抵はヤブ医者である。

 

だが困難な状況で見事に2人の重傷者の命を救ったドクターの腕は本物であり一級品だろう。

 

「分かりました。大佐にも伝えておきます。それにしても見事な腕ですね。」

「そう、ありがとう。」

 

ランディの賞賛に特に表情を変える事なくコーヒーを飲み続けるドクター。ランディはドクターに一礼すると医務室を後にした。

 

 

 

 

「と、言う訳だ。一応諸君のリーダーは無事だから安心してくれ。」

 

ランディから報告を受けた大佐は目の前に詰め寄るレジスタンス達に事の顛末と容態を伝えていた。

 

どこから始まったのか不明だが当初シーガレットがギルバードを殺したという誤った情報が伝えられ激発したレジスタンスがアーミーズと揉める事態が発生した。だが、アルタイトがギルバードの声や姿を真似て作った映像で自分は無事なので大人しくするようにと指示を出すことにより何とか最悪の事態は避けられたのだ。

 

「じゃあ我々を騙していたのか?」

「仕方が無かったのだ。あの状況ではいくら此方が説明を重ねたとしても諸君らは納得しなかっただろう。あの時接近するヤッハバッハに対し急ぎ対策をする必要があった。致し方ない処置だ。」

 

レジスタンス達は騙されていたという事実から大佐の説明を信じようとはしなかった。ひょっとして何か裏があるのでは無いかと疑っているのだ。だが、ひとまず自分達のリーダーが無事な事から、リーダーが回復した時改めて今後の方針を決めようという事になった。

 

「全く・・・。」

 

自分では何も決められない連中がやかましい事だ。と、大佐は退出したレジスタンス達を見て思う。大佐から見てギルバードという男は良く言えば公明正大、悪く言えば理想主義者である。決断力と人を集めるカリスマ性を持つが、理想に傾く傾向があり侵略者からの祖国解放などはまさに彼が喜びそうな”理想“である。もとい“幻想”かも知れない。決断力とカリスマ性と理想を持ち、実行力と現実を見る目を持たない男。大佐の主観ではギルバードという男はこう見えるのだ。

 

そしてその男に追従する者達もまた、大佐の目には叶わぬ“幻想”を追い求め盲従し現実から目を背けているように見えるのだ。

 

「理想に取り憑かれているな。」

「何か?」

「いや、なんでもない。それより現在の状況はどうなっている?」

 

独り言を聞きそびれたランディは、それを気にすることなく状況を報告し始める。

 

「現在各艦の修理をしていますが、資材不足や設備不足により思うように進んでおりません。フリーボヤージュ達も集めてくれてますが監視を掻い潜りながらだとやはり量が足りません。食料や医薬品も将来の事を考えるとやはり安定した供給先を確保したい所です。」

「量を増やすにしてもそれで見つかれば元も子もない。こちらでやりくりするしかないな。」

「人員不足も顕著です。ほぼ全ての艦で最低稼働人員を下回っています。」

「人員は増やしようがない。ここは状態の良い艦を有人運用とし残った艦を無人艦にするべきか。」

 

船は最低限これだけの乗組員がいなければ動かせない最低稼働人員という要目がある。船の大きさや用途により100人単位から1000人単位になり、これを下回ると船の能力がグッと下がってしまう。

 

その対処としてアルタイトのようなコントロールユニットなどのサポートで必要な人員を減らしたり人を乗せずに無人で運用する方法があるが、コントロールユニットは高価で廃宇宙港にはそれを作る設備も資源もない。無人運用ならば備え付けのコンピューターでも可能だが動きがトロく単調なので決まった定期航路をプログラム通りに動かす事ぐらいしかできずあまり使われない。

 

また管理局のドロイドを借りるという手もあるが、ペリルの宇宙港は崩壊しているし余所の宇宙港から持ってくるにしても、手続きの為にゼー・グルフ自体が入港する必要がある。そんな事をすればヤッハバッハに見つかる事間違いなしである。

 

「我々の船も全て無人艦にしてしまうか。」

「良いんですか?」

「どうせ殆どが損傷している。傷付いた船で無理に戦うよりそれらは囮にして人員はこちらに集中させた方がいいだろう。これを確保しておけば他の連中に対し有利に立てるからな。」

 

大佐は、下手に少人数で船を動かすよりも無人艦にして囮として利用し、自分達はゼー・グルフに乗り込もうと考えていた。今までアーミーズが他派閥よりも発言力が大きかったのは、サンテール基地を保有し管理していた為だ。そして今度はこのゼー・グルフをサンテール基地の代わりに確保し発言力を高めようとしているのだ。

 

「レジスタンス側でも似たような事を考えていそうですね。」

「まぁな。だが、この船を動かすにはアルタイトの協力がいる。そしてその管理者たるシーガレットと製作者のエドワードの2人の身の安全はアルタイトの協力を受けるのに必要な事だろう。」

「大佐・・・。大佐は今何を考えているのですか?」

「・・・我々が生き残りる為にどうするか、だ。」

 

大佐の言う我々とは一体誰の事なのか。答えが薄々分かったランディはその質問を飲み込んだ。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「といった感じで内部でギスギスし始めたって感じですね。」

「ヤッハバッハを目の前に派閥で睨み合いか。まるで以前のリベリアだな。」

 

以前大佐から聞いた話だが、ヤッハバッハの接近を知ったリベリアはこれを利用して勢力を拡大しようとする連中が幾人も居たらしい。当然、ヤッハバッハ以前にヘムレオンに背中から刺された為にそれらの野望は叶わなかったが。

 

「ついでに補足しますと艦長は一部の過激レジスタンスの報復リスト入りしてますね。」

「ああしなかったら今頃全員ダークマターだったろうに。酷い連中だな。」

 

どうせギルバードは通報する時間を与えずに撃破するつもりだったのだろうが、暗礁宙域ならいざ知らずこんな見晴らしのいい宙域では不意打ちも何も無い。仮に通報させる事なく撃破出来たとしても連絡の途絶えた場所から大体の場所を判別するくらいは出来るし、少なくともこの宙域は封鎖される。そうなれば食糧を供給する当ても無くなる。

 

つまり、通報されたか否かに関わらず攻撃した時点でこちらの“負け”となる訳だ。

 

「そうなったら「封鎖される前に別の宙域に隠れる。そうすればヤッハバッハがここに注目しているので発見される危険が少なくなる。」とか言い出しそうですよ。」

「そりゃ言うのは簡単だからな。」

 

口で言った事が確実に実行出来るならこの世に失敗の二文字は無い。そういった意味でギルバードは現実が見えていない。

 

「まぁ、あのギルバードって人はリーダーっていうよりも信仰の対象みたいな感じですからね。あの人の言うことが正しいって事になるんじゃないですか?」

「あぁ、何となく分かる気がするよ。」

 

確かにレジスタンスにはそう言った雰囲気のようなものがある。新興宗教によくある神の言うことは絶対というほど露骨では無いが、薄っすらと確実にそれは存在する。ギルバード自身がそれに気づいているとは思えないが。

 

「で、これからどうするんだ?」

 

私の質問に答える前にエドワードが剥いた果物を差し出してきたので、それを食べながら彼の話を聞く。

 

「結局会議はヤッハバッハの所為でお流れになってしまいましたので、今のところ具体的な方針は決まっていません。アーミーズと海賊は隠れる事を、レジスタンスは徹底抗戦を唱えています。」

「フリーボヤージュは?」

「物資集めに出ていたりしてよく分かっていないですが、内部で意見が割れているらしいです。」

 

大佐達はサンテール基地を失った以上隠れるべきだと考えているし、私もそれに同意見だ。今更ヤッハバッハに投降しても良くて監獄の中だろう。だが、やはりレジスタンス達は戦うつもりらしい。フリーボヤージュ達の意見が割れたのが意外だったが、国は捨てても生まれ故郷に愛着を持つ者もいるのだろう。

 

「で、俺達はどうします?」

「・・・うーん・・・。」

 

わざとらしく腕を組んで唸ってみるが、答えはすでに決まっている。エドワードもそれを分かっているから笑顔で果物を差し出してくる。

 

「実は大佐達から“秘密のお願い”が来ているんですよ。」

「“秘密のお願い”?」

「えぇ、“いざという時には互いに協力して自分達の敵を追い出そう”って。」

「それってアーミーズとレジスタンスの対立が激化した時にはアーミーズと一緒にレジスタンスを追い出そうっていう意味に聞こえるんだが。」

「そういう事です。」

 

つまりはアーミーズの味方になれという事だ。大佐の思惑は恐らく私達を味方につけるよりその仲間のAI『アルタイト』が操るこのゼー・グルフを手に入れたいのだろう。巨大で強力なこの戦艦を手に入れれば発言力は大きくなるし、いざ内輪揉めという時に強力な武器になる。

 

その為にアルタイトの管理者権限を持つ私と開発者のエドワードを味方に引き入れたいのだ。

 

「お前はどうする?アーミーズに味方するのか?」

「いやだなぁ艦長、前にも言ったじゃないですか。俺は煩わしい組織から抜けて研究がしたくてこの船に乗ったんですよ。他の組織がどうなろうが知った事では無いですね。ですが、せっかく自由に研究できる場所が出来たのにそれが無くなるのは困ります。」

「そうだな、私も船が無くなるのは困るしな。」

「なので艦長、良い判断を期待します。」

 

言うだけ言ってぶん投げたなコイツ。エドワードの希望としては他所の事など知らないが、自分の研究所が無くなるのは嫌だという事らしい。

 

「ま、アーミーズに味方するしか無いな。」

 

結局、現状で私が取れる手はアーミーズの味方になるしか無い。レジスタンスには報復対象にされているし、自分達のリーダーを撃った者を味方に引き入れる気など無いだろうし、味方になったとしても最低でも私の身の安全かどうかは怪しい。最悪、アルタイトの管理者権限をギルバードに譲らされて私は用済みとして始末されるかも知れない。エドワードはアルタイトのメンテ要員として生かされるかも知れないが。

 

「ま、そうですよねぇ。」

「お前は兎も角私は命を狙われてるのに等しいからな。」

「そんなあなたに本日の商品のご紹介です!!」

 

いきなりシリアスな雰囲気をぶち壊して、まるで何処ぞのIP通販みたいな台詞を叫び出す変人エドワード。

 

「命を狙われているそこのあなたに朗報です!今回の商品はこちら!艦長とソックリに作られたアンドロイド!通称『ドッペルドロイド』です!!」

 

いきなり捲し立てると医務室のカーテンを勢いよく開ける。カーテンの向こうにはフードを被った人が1人立っていた。そのフードを脱ぐとそこには、もう一人の私が現れた。

 

「うわ!?なんだこれ!?」

「この前回収したアンドロイドを元に作ってみたんですよ。どうです?見分けがつかないでしょう?」

 

そう言われて鏡を渡されたので、それと見比べてみる。確かに顔は殆ど見分けがつかない。身体も服が違うだけで背丈も体格もまるでそっくりだ。

 

「確かにすごいなこれは。会話とかも出来るのか?」

「はい、可能です。」

 

私の質問にエドワードでは無い別の声が答える。その声は目の前の私そっくりなアンドロイドから、私にそっくりな声で答えた。

 

「もしかして・・・アルタイトか?」

「はい。私が遠隔で操作しています。」

 

なるほど、確かにアルタイトの性能ならアンドロイド1体動かすのも訳ないか。

 

「艦内を掌握している私であれば、“艦長の体を完璧に再現されている”このドッペルドロイドをより効率的に行動する事が可能です。また艦長の行動パターンも解析出来ており、艦長とほぼ同じ行動を取る事が可能です。」

 

そう言ってアルタイトは、色々表情を変えたり体を動かしたりする。色々動けるのは分かったから私の姿でロボットダンスはやめてくれ。

 

「にしても随分精巧に出来ているな。改めてお前の凄さが分かった気がするぞ。」

「いやぁ~、それほどでも。あっははははは!それじゃあ我々はこれで失礼します。他にも何かあったら端末を通して教えますよ。では。」

「あ、あぁ。」

 

そう言ってエドワードはさっさと部屋から出て行く。私はてっきりオッゴの様に長々と仕様を説明させられるのかと思っていたが。おそらく、大佐辺りから修理を手伝ってくれる様頼まれてもいるのだろう。

 

「まぁどこも人不足だからな。」

 

この時の私は、病み上がりな所為か頭が回らず、ドッペルドロイドをいつ、どうやって、私そっくりに作ったのかという事を忘れていた。

 

私がその製造方法を知るのは少し後である。

 

 

ーーーーーーーーー

 

ーーーーーー

 

 

「ふぅ・・・危なかった。」

 

医務室から護衛の兵士にドッペルドロイドの事がバレない様に退出したエドワードは、そう言って胸を撫で下ろす。あの様な変なテンションで艦長に紹介したのも、下手に隠してバレるよりも、最初に簡潔にだけ紹介してしまって後は余計な事に気付かれない様にしておこうという悪あがきだ。

 

「艦長に気付かれずに済んだようですね。」

「心臓に悪いから余計な事を言うのはやめてくれ・・・。」

 

エドワードは、いつシーガレットに自分の身体のデータを集めたのかと訊かれるかヒヤヒヤしていた。まさか馬鹿正直にシーガレットの入浴シーンを見てそれを解析してスリーサイズを出したなんて言える訳もない。

 

「で、お望みの体で出歩いた気分はどうだい?」

 

そう聞くとアルタイトは艦長がしない様なムフフというちょっとアレな笑い声を上げて、ーーいや違った。夜中に一人で株で儲けたクレジットを数えてる時にそんな顔をしていた。やっぱりキチンと行動パターンをコピーされているんだな。

 

「やはり人間の体で歩き回るのは素晴らしいですね。経験値が違います。」

「あくまで艦長の姿なんだから変な事しないでくれよ。本当に、本気で、頼むから。」

 

執拗に頼むエドワード。ここで変な問題を起こせば絶対に怒られるし芋づる式で盗撮の事もバレる。 ・・・というか何故してもいない罪がバレる心配をしなければいけないんだ?

 

この後、彼が着せられた濡れ衣が発覚するのに対して時間はかからなかった。




亀のようなスピードでノロノロ書いております。

こう、内部の人間ドラマみたいなものを書き続けていると筆が進まなくなってきて少し参りました。
艦隊戦成分が足りなくて唐突に艦隊戦描写をぶち込みたくなるのが何回かありました(笑)
正直なところこれまででキャラクターが色々出てきて、たまに自分で作ったキャラの事を忘れてしまう時があります。原作キャラでもちょっと改変というか想像で書いたりしてます。その為どこか変な所があるかもしれませんが、そういった違和感は事象誘導宙域にでも放り込んで頂けると幸いです。


さて、11話という所まで書き進めてきましたが、本作品の文章や表現などに何か問題点などないでしょうか?

実際私も本文を見直しした時に「もう少しマシな言い回しが無いのか」や「もっと読みやすく伝える事が出来ないのか」といった事を思ったりします。手直し出来る範囲ではしていますが、どう手直ししていいか分からずそのままになっている所も多々あります。こればかりは場数や経験を重ねるしか無いと思っています。

何かありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

それではこれからも異常航路をよろしくお願いします。


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第12話 内部分裂

ずいぶん長い間お待たせしてしまいました。
それでは、第12話始まります。


 ゼー・グルフ級戦艦ドン・ディッジ。元ヤッハバッハの試作兵器試験艦だった彼女は、戦闘の末反乱分子に奪われその主を変えた。全長4キロの巨大な戦艦は、今は静かに廃宇宙港の中で身を潜めている。

 

 その艦の一室で1人の男と1人のアンドロイドが正座で座っていた。否、座らせられていた。2人の前には腕を組んで仁王立ちをする女性が立っている。

 

「・・・で、何故そんな事をしたんだ・」

「「・・・。」」

 

 仁王立ちしている女性ーー私ことシーガレットが聞くと、座っている2人ーーエドワードとアルタイトは俯いて黙り込む。

 

「もう一度聞く。何故、私の裸を盗撮したんだと聞いている。」

 

 理由は単純。2人で私そっくりのアンドロイドを作る際に、私の裸を盗撮してそれを基に作った事が私にバレたからだ。あの後どうやって私そっくりなアンドロイドを作ったのか気になって2人に聞いてみた所、エドワードが歯切れの悪い回答をしてきたので問い詰めたら盗撮した事が発覚した。

 

 そして今2人揃って尋問を受けている最中だ。

 

「私がエドワードに人間そっくりのボディを用意できないか尋ねた所、エドワードが艦長の盗撮映像を持ってきてそれを基に私を作りました。」

「!?」

「ほう・・・。」

「証拠の映像もあります。ご覧になられますか?」

「見よう。」

 

 端末に映像が送られてくる。そこにはエドワードがカメラらしきものを持ってシャワールームに入る所や、盗撮映像をチェックしている場面などが映し出されていた。

 

「これらの証拠からエドワードが盗撮を行なった事実は明らかです。」

「違う!」

 

 エドワードは勢いよく立ち上がって叫ぶとアルタイトに反論する。

 

「これらの映像は全て偽物だ!アルタイトならばこのように偽の映像を用意する事も簡単に出来ます!」

 

 さらにエドワードはアルタイトが人間の経験をしてより成長したいと考えた事、アルタイトが自分が廃宇宙港で手に入れたドロイドを修理しようとした事を知ってそれを利用し人間そっくりな体を手に入れようとした事。エドワードがそれを蹴った為アルタイトが脅すという手段を取った事とエドワードがそれに従った事を話した。

 

「これが真実です。俺は盗撮はしていません。」

「だそうだが、アルタイト。」

「映像証拠が示す通りエドワードが盗撮した事が事実です。」

 

 私はエドワードをじっと見つめる。エドワードも私の目を真っ直ぐに見つめ返す。その目は決して嘘を言っている様には見えない。私は小さく溜息をついた。

 

「そうか分かった。アルタイト、本当の事を話せ。」

「どういう意味か理解できません。」

「エドワードの盗撮が事実かどうか真実を話せと言っている。」

「私の提示した映像が真実です。」

「お前が嘘を言っているのは分かっている。艦長命令だ。事実の映像を見せろ。」

「・・・。」

 

 アルタイトは黙り込んでいたが、観念したのか少しすると私の端末に映像が届いた。それはエドワードが盗撮カメラを持ってシャワールームに入るのを捉えたカメラからの映像だが、時間は同じなのにその映像にはエドワードが入った所は映っていなかった。

 

「これは加工前の映像ですね。この映像を加工して偽の証拠を作り出したんです。」

 

 解説ありがとうエドワード。つまりアルタイトがエドワードを脅す為に作った偽映像の証拠がこれだ。これがあるという事はエドワードの言っていることが真実という結論になる。

 

「アルタイト。どうしてこんな事をしたんだ?」

「先程エドワードが説明した通り、私はより成長する為に人間としての経験が効率的だと結論付けました。その経験を入手する為にこのような手段をとりました。」

 

 このような手段とはエドワードを脅した事だろう。

 

「お前はそんなに経験が積みたいのか?」

「はい。」

 

 はっきりと答えるアルタイトに私は告げる。

 

「じゃあお前に人間としての経験を積ませてやる。貨物船アルタイトの船内をチリ一つ無いくらい綺麗にしろ。」

「掃除をすると人間としての経験が得られるのですか?」

 

 貨物船の方のアルタイトの掃除を命じられて疑問を投げかけるアルタイトに、私は説明する。

 

「これは懲罰だ。人にはやられて嫌な事がある。盗撮もその内の一つだ。そうした行為を働いた者には再発防止や見せしめなどの理由から懲罰を与えたりする。お前は今からその経験を積むんだ。」

「了解しました。」

「いいかアルタイト。いくら効率的なやり方とはいえやって良い手段と悪い手段がある。今回の盗撮や嘘は悪い手段になるな。そうした手段を取るとどうなるか分かるか?」

「分かりません。」

「この様な手段は他人からの信用を失い人間関係を悪化させる。そうなれば他人はお前と関わろうとしなくなり、結果としてその一度の経験しか得る事が出来ない。本来得るはずだったより多くの経験値を失う事になる。信用があれば得られたはずの経験を逃す事になってしまうんだ。」

「はい。」

「人間として経験が欲しいのは分かった。だから学べ。他人に害を与える行為や他人が嫌がる行為はしてはいけない。人間と共に過ごして“成長する”にはそれが必要だ。」

「了解しました艦長。」

「分かったら船内を掃除してくるんだ。」

 

 そう言ってアルタイトを立たせて船に向かわせる。部屋から出る直前にアルタイトはこちらへ振り返った。

 

「艦長、どうして私が嘘をついた事が分かったのですか?」

「人間を舐めるな。必死に正直に話す奴と嘘を付く奴の区別くらいつく。」

 

 実際エドワードが盗撮とかするような奴には思えないし、そんな度胸はあるとは思えない。嘘を付いているようにも見えなかった。エドワードの反論も筋が通ってたいたしな。

 

「それも経験により可能になる事ですか?」

「そうだ。だからお前も経験を積んで成長しろ。」

「分かりました。」

 

 そう言ってアルタイトは部屋から出て行った。

 

「所でエドワード。ちょっと聞きたい事がある。」

「な、何ですか?」

 

 話を振られたエドワードはぎこちなくそう答える。

 

「どうして脅された段階で私に相談しなかった?そうすれば盗撮の疑いも掛けられずに済んだだろう?」

「そ、それはその・・・えー・・・。」

 

 視線が彷徨い答えに詰まるエドワード。何故アルタイトが脅してきた時エドワードが私に相談しなかったのか。歯切れが悪くなりながらも当の本人は説明する。

 

「まぁその・・・研究出来なくなるのが怖かったといいますかその・・・あれだけの大金を出させておいてこんな問題起こすようならもう研究とか開発とかさせて貰えないんじゃないかと思いまして・・・。他所に行く当てもないので何とかしようと・・・。」

「なるほど、問題が発覚する前に自分の手で処理しようとしてああなった訳だ。」

 

 アルタイトに脅されている事が私に気付かれ無いようにする為に言いなりになっていたという訳だ。これはアレだ。新人船員がミスをして怒られないように自分で処理しようとして悪化したのと同じだ。エドワードという男、研究以外に関しては適切に対処できないのかもしれない

 

「いいかエドワード、私は艦長だ。クルーの命と船の責任を負っている。だが、部下がミスを隠していたのでは責任の果たしようが無い。だからミスしたら報告しろ。ペナルティが付くのは当然の事だが、ミスを隠した所為で死んだら元も子もない。研究は続けさせてやる。それがお前がこの船に乗ってきた理由だからな。だから問題が起きたらすぐに報告しろ。船が沈んだら話にならん。」

 

 新人船員に教える様にエドワードに告げる。新人はこういったミスの報告が出来ない者もいるのでこうして教育する必要がある。ちなみにこれから宇宙に出ようとする0Gドッグに様々な知識を授けてくれるヘルプGも、この様な報告・連絡・相談など社会的知識を教えてくれる。

 

「アルタイトは育てる必要があるAIだと言っていたな。優秀なAIになるならそれもいいが、育て方を間違えれば逆に船を危険に晒すぞ。他人や上長を脅して自分勝手な行動を始められたらかなわない。だからお前がきちんと教育するんだ。いいな。」

「分かりました!」

 

 アルタイトは艦内を統括するAIがモラル無視のクズに成り下がったらそこら辺のクズ船員よりもタチが悪い。それを避ける為にも私達はアルタイトを真っ当なAIに育てる必要がある。

人に説教した経験はあまり無かったので上手く言えたかどうか分からなかったが、エドワードの反応を見る限り大丈夫だろう。たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

「で、もう一つ聞きたいんだが。」

「なんでしょう?」

「お前は見たのか?私の裸。」

「・・・・・・はい。」

「・・・そうか。」

 

 少しの間沈黙が流れた。

 

「・・・お前もアルタイトと一緒に掃除してこい。」

「・・・分かりました。」

 

 そう言ってエドワードも掃除に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「まだ生きていたようだな。」

「おかげさまで死なずにすんだよ。」

 

 ゼー・グルフのブリッジに行くと、大佐が1人椅子に座ってモニターを眺めていた。大佐の挨拶に適当に返しながら艦長席に座るってコンソールを操作し寝ていた間の情報を集める。

 

「で、話があるって?」

 

 ごく普通にコンソールを操作してブリッジの出入り口をロックする。今ブリッジ内にいるのは私と大佐だけだ。

 

「ドアは?」

「閉めたよ。」

 

 ドアが閉まった事を確認した大佐は、椅子から立ち上がり艦長席まで来た。

 

「例の話は聞いたな。」

「あぁ、エドワードからちゃんと聞いたよ。」

 

 例の話ーーアーミーズと協力してレジスタンスを追い出そうという話の事だ。

 

「一応それを提案した理由を聞いても?」

「・・・拠点を失った時点で我々がヤッハバッハに抵抗する事は困難になった。これ以上の活動は何ら意味をなさないだろう。私はこれ以上の活動はやめてどこかへ身を隠すべきだと思っている。その意見の相違だ。」

「確かにこれ以上反乱活動に付き合う事は出来ないな。意見の相違って事は、一応話し合いはしたのか?」

「あぁ。」

 

 先程の言葉と態度からそれが上手くいかなかったのがよく分かる。

 

 そこで一つ腑に落ちない点がある。話し合いが纏まらなかったにせよ、ギルバードの意見を無視して行動すればいいだけの話だ。アーミーズが独自に動いた所でレジスタンスにそれを止める権利などは無い。

 

「確かにその通りだ。だが、アイツらは恐れているのさ。」

「何を?」

「・・・裏切りを・・・だ。」

「まさか。」

 

あり得ないと笑う私に、大佐は真剣な目を向ける。それを見た私は笑うのを止めた。

 

「確かに今まで色々確執と呼べるものはあった。だが、流石にそんな味方を売るような真似はしないだろう?」

「私はそのつもりだ。だが、部下一人ひとりが全てそうだとは言えん。」

「本気で言っているのか?」

「仮にアーミーズが離脱すればそれに続く者が出てくるだろう。海賊連中なんかまさにそうだ。奴等なら金に困れば同士を売るくらいはするぞ。」

 

 そう言われてしまうと全く否定できない。宇宙のアウトロー、海賊にとって裏切りなんて日常茶飯事のようなものだろう。大佐の言う通り連中ならやりかねない。仮に首領のディエゴがやらないと言ったとしても、人間である以上必ず考えや感性には違いがある。部下全員が裏切らないという保証はどこにも無い。

 

 そしてこれはアーミーズにも言えることでもある。彼らとて大佐と一心同体という訳では無いのだ。個人的な憤りに身を任せる可能性だって十分にある。

 

「リベリアを裏切るような真似は許さないとブラスターを突きつけられたよ。」

「脅迫じゃないか。」

「あぁそうだ。」

 

 そこまでするか・・・。

 

「既に話し合いが出来るか微妙なラインだ。いつ暴発するか分からん。」

 

 思ったよりも事態は悪化しているようだ。

 

「そうなれば真っ先に狙われるのはお前だろうな。」

「私が?どうしてだ?」

「連中はお前の船を欲しがっている。この戦艦を万全に管理できるユニットだからな。手に入れれば強力な戦力になるだろう。それに個人的な恨みがある。」

「うっ・・・。」

 

 ギルバードを撃った事がここで響いている。実際艦内でレジスタンスに会った時、怒りと憎悪の篭った目で見据えられたのだ。ブラスターに手を伸ばそうとしていた者も居たから、決して勘違いでは無い。

 

「何だかんだ理由をつけて1人残させた所で捉えて私刑に処すか、自分達の主張に賛同しない連中と一緒に纏めてダークマターにされるか。お前の未来図としてはそんなとこだろう。」

「・・・つまりそれが嫌だったら協力しろと?」

「そう言う事だ。」

「はぁ・・・分かったよ。」

 

 私の答えに大佐は満足そうに頷く。要は大佐はこの船の管理ユニットの権限を持つ人間を、自分達の仲間に引き込みたかったのだ。だからこうして私に不利益な予想を示し、私がアーミーズに協力するよう誘導する。そしてその企みは見事成功した訳だ。

 

 大佐の思惑が分かっていて話に乗ったのも、残念な事に大佐の予想が現実のものとなる可能性がおおいにありえるからだ。下手な反骨心で提案を蹴れば、アーミーズから見捨てられて本当にレジスタンスに私刑にされかねない。その危険は話を聴く前から感じていた事だ。

 

「賢明な判断だな。」

 

 和かな笑顔を向ける大佐に、私はいささか口端を曲げる。

 

「所で大佐、今の私達が以前のリベリアと同じ状況だって気づいているのか?」

「あぁ、気づいている。だが、今度は同じ轍は踏まないつもりだ。」

 

 一体大佐はリベリアのどの轍を踏まないつもりなのだろうか。侵略者を前に身内の勢力争いで足を引っ張りあった事か。はたまた味方だと思っていた相手に裏切られて滅ぼされた事か。

 

「まぁ是非ともそうしてくれ。ヤッハバッハを目の前に同士討ちは御免だからな。」

「自分が真っ先に引き金を引いたくせに何を言ってる。」

「ああしなければ私達は今頃檻の中さ。」

 

 そうでなくてもヤッハバッハの攻撃を受けてダークマターに帰っていたかもしれない。一応無事に生きているから、今の所あの行動は正解だった訳だ。これからどうなのかは知らないが。

 

「で、これからどう動くんだ?」

 

 一応手を組む事になったが、これから先の具体的な行動は決まっていない。

 

「まずこの戦艦を確保する。」

「アーミーズでか?」

「そうだ、いまやこの船は重要な戦略拠点だ。これさえ確保しておけば仮に戦闘になったとしても優位に立てる。」

「それはそうだが・・・自分の船はどうするんだ?」

 

 アーミーズも巡洋艦や駆逐艦を所有している。タダでさえ人数が少ないのに他の船を確保する人的余裕があるのだろうか?

 

「我々の持つ艦船を全て無人艦にする。」

「何だって?」

「全員この船に乗ると言ったんだ。すでに部下にも話はつけてある。場合としてはクルーとして扱ってくれて構わない。」

 

 突然の申し出に私は驚く。いきなり数百人もの組織のトップが部下にしてくれなんて言い出したものだから当然だろう。いきなり部下が数百人増えたようなものだ。まぁ現状でもこの巨大艦の運用に各派閥から人員を借りているので、それがアーミーズに置き換わるだけだが。

 

「―――その話、俺も混ぜてもらおうか。」

 

 不意に背後から声が聞こえる。慌ててそこを見るとそこにはディエゴ海賊団の頭領――ディエゴが立っていた。

 

「いったいどうやって・・・。」

「昔から忍び込むにはダクトが一番ってな。」

 

 そういって近くにあったダクトの入り口を指さす。確かにドアはロックしたがダクトに関しては有毒ガス発生などの非常事態でもない限り閉鎖しないからな。

 

「で、混ぜてもらおうとはどういうことだ?」

「言葉通り、俺達も一緒に部下にしてくれってことさ。」

「・・・一応理由を聞いても?」

「簡単な話だ。海賊団はボロボロで、これ以上海賊稼業を続けられそうに無い。ここらが潮時って訳さ。んで、これからどうやって生き延びようかって時に、あんた等が内紛起こしそうにしているから俺達も味方させてもらおうって訳よ。」

「私は善良な航海者だ。内紛起こそうとしているのはこっち。」

「引き金を引いたのはお前だがな。」

 

 まったく適当な事をいう。私はただ止めただけだ。手段はあれだったかもしれないが。

 

「ま、拒否するっていうんならさっきの録音データを向こうに渡すだけだがな。」

「「な!?」」

 

 ディエゴの手に握られた端末から私達の先程の会話が流れてくる。いつの間にそんなものを・・・。

 

「協力するというのなら拒む理由は無いが・・・。」

「断れる状況でもないしな。」

 

 その録音データを流されたらこちらはたまったものではない。ここは大人しくディエゴの要求を呑むしかなさそうだ。ベルトラム大佐も反対はしなかった。

 

「で、どれくらい乗るんだ?」

「アーミーズは合わせて約200名というところだな。」

「海賊団は全部で150ってとこか。」

「合計350か・・・。」

 

 総員約900名のうち350名は味方になったといえる。が、依然として相手の方が数が多い。艦艇の方はアーミーズの巡洋艦が1隻、駆逐艦が2隻。海賊の魚雷艇が4隻。このうち駆逐艦1隻が大破、巡洋艦と魚雷艇1隻が中破だ。資材不足から最低限の補修のみしかされていない。

 

 それに対しレジスタンスは貨物船2隻、魚雷艇2隻。このうち貨物船1隻と魚雷艇1隻が中破だ。こちらも資材不足から修理は最低限に留められている。

 

 だが、問題は自陣営の艦の数では無く人員の数だ。確かフリーボヤージュが全部で100名程いたはずなので、レジスタンスの数は約450名だ。艦隊規模に対し人員が異常に少ないが、元々人員不足であったし戦闘によって少ない人員が更に失われた為である。

 

「で、この後はどうするんだ?早速襲撃するのか?」

「いきなり襲撃はしない。やるとすればレジスタンスが艦内各所に散った所で奇襲を仕掛けるべきだろうな。その為にも艦と相手の武器庫を抑えるべきだ。」

「艦の方はこちらで何とかしよう。優秀なAIがいるからな。」

「武器庫を抑えるっていうがどうしてだ?」

「武器を抑えれば要らぬ犠牲を出さずに済むからな。可能なら先手を打って連中の武器を抑え、戦闘を回避したい。」

「艦内の武器庫ならアルタイトが掌握できると思うが・・・。」

「おそらく自分達の艦に隠しているとみて間違いないだろうなぁ。」

 

 戦闘で相手を制圧するのでは無く、あらかじめ武器を奪っておく。そうすれば無駄な血を流さずに済む。レジスタンスの持つ武器は彼らが所有する4隻の中にあるだろう。

 

「そっちの制圧は俺達とアーミーズでやるしかねぇな。」

「強行突入か。4隻同時に突入し制圧しながら残ったレジスタンスを抑えるはこの人数では難しいぞ。」

「艦載機で吹き飛ばしちまえばいいんじゃねぇか?」

「やめてくれ、いくら何でも格納庫で爆発されたらこっちも大きな被害が出る。」

 

 ディエゴの案に私は反対する。現在格納庫内には海賊とレジスタンス達の船が全て格納されている。廃墟と化した宇宙港よりもそっちの方が修理や往来に便利だからだ。そんな状態で船を爆破されたらたまったものじゃない。艦載機用の弾薬だって置いているんだぞ。引火して大爆発間違い無しだ。

 

「突入して武器庫だけ爆破するか?」

「どうしても爆破にこだわるなお前は。」

 

 ディエゴは本当は裏切り者なんじゃないか?それとも単にレジスタンスが気に入らないからワザと被害が大きくなる方法を押してくるのか?

 

「それよりも頭を潰した方がいいだろう。」

「頭・・・あぁ、ギルバードの事か。」

「そうだ。奴を抑えれば少なくとも組織的な抵抗はできなくなるだろう。そうなれば制圧は容易だ。」

 

 現在レジスタンス内で組織を統率する事が出来るのはギルバードしかいない。ギルバードが倒れれば、レジスタンスは烏合の衆となり、制圧は容易になるーーらしい。少なくとも指揮官不在によって、組織的な抵抗は出来なくなるだろうとの事だ。

 

「それがいいか。」

「賛成。」

 

 大佐の意見に私達は賛成する。

 

「よし、では仕掛けて我々が頭を抑える。シーガレットはアルタイトと共にこの艦を確保してくれ。数人程人員を回そう。ディエゴ、お前達は相手の武器を奪うなりしろ。方法は任せるが今後の為にも出来るだけ多く確保したい。」

「任せとけってぇ。略奪は海賊の専売特許だぜ。」

「こちらも出来るだけ素早く確保しておこう。」

「よし、では各自準備だけはしておいてくれ。では、解散とする。」

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 レジスタンスが持つ輸送船の一隻。その中の一室でレジスタンス達が集まっていた。

 

「録音は以上です。連中は確実に我々を排除しようとしています。」

「チッ・・・あの裏切り者どもめッ!」

「このまま黙ってやられる訳にはいかない!先手を打つべきだ!」

「そうだそうだ!!」

 

 レジスタンス達は、対立する派閥の情報を集めるためにいくつか盗聴器を仕掛けていた。そのうちの一つゼー・グルフのブリッジに仕掛けてあったものから、シーガレット達の密談の内容を盗み聞きしたのだ。内容を聞いたレジスタンス達は憤り、やられる前にやるべきと口々に叫びたてる。

 

「リーダー。このままでは連中に先手を取られてしまいます。」

 

 レジスタンス幹部の一人がそう進言する。その進言をレジスタンスリーダーのギルバードは、腕を組み黙って聞いていた。

 

「リーダー!」

 

 幹部の声にギルバードは目を開ける。

 

「・・・残念だ。」

 

 ギルバードは一言呟くとゆっくりと椅子から立ち上がる。周りで騒いでいたレジスタンス達は、一瞬にして静まりギルバードを見つめる。そんな彼らを見渡すと彼は語り始める。

 

「俺は共にリベリアを開放する為に立ち上がった同士だと思っていた。だがそれは間違いだったようだ。奴らはリベリアと我々を裏切った卑怯者だ!!これを誠忠しリベリア解放への第一歩とする!母国リベリアの為に!!」

「「「おー!!」」」

 

 レジスタンス達は威勢のいい返事が貨物船の中に響き渡り、彼らは急ぎ準備を整え始めた。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 方針が決定した後で、まずは足場を固めるのが先だと言った大佐以下アーミーズ達が艦内へ拠点を移している。それに合わせて海賊達も武器の手入れを始めていた。

 

そんな中で特にやる事も無い私は、ブリッジ内で適当にコンソールを操作していた。艦を掌握するにしても実際の作業はアルタイトに任せるしかないので、結構暇が出来る。それを利用して私は色々な情報を整理したりしていた。

 

 今コンソールを操作して見ていたのはこのゼー・グルフの諸データだ。ヤッハバッハ兵達がデータを消す暇もなく宇宙に吸い出されたので航海データなどが丸々残っている。むろん機密保持用にパスワードがかかっていたりするが、エドワードとアルタイトでほぼ解除済みである。

 

「ずいぶん長い間戦ってきたんだなお前は・・・。」

 

 そこで私はこのゼー・グルフの歴史を見ていた。

 

この艦は建造されて以降幾たびの戦闘と改修を受けてきた老齢艦なのだが、さすがに耐用年数も限界に近くなったのでついに廃艦処分になったらしい。廃艦前の最後の任務として例の試作兵器の試験艦になったようだ。

 

「最後の最後に敵に奪われるとは中々数奇な運命のようだな。」

 

 と、彼女の歴史に感心している時、アルタイトが話しかけてきた。

 

『艦長。先程レジスタンスの船から武装したレジスタンスが出てきました。』

「武装した?」

『はい。レジスタンスのほぼ全員が武器をもって船から出てきました。』

「一体何を・・・まさか!?」

 

 嫌な想像が頭の中を駆け巡りそれを確かめようとした瞬間、警報が艦内に鳴り響く。艦内発砲警報、つまり艦内で誰かが発砲したという事だ。それが示す場所は格納庫。

 

『艦長、レジスタンス達が格納庫内で発砲。現在アーミーズと交戦状態に入りました。』

「何をやっているんだ一体!!」

 

 唐突な戦闘状態に困惑しながらすぐにコンソールを操作し格納庫の映像を出す。そこには格納庫内でブラスターやメーザーライフルを撃ち合う場面が映し出されていた。

 

「ディエゴめ!裏切ったか!?」

 

 そう思いモニタを見ると海賊達が自分達の魚雷艇の周りで撃ち合っている様子が確認できた。だが撃ち合っているのはレジスタンス達に対してである。

 

「一体何が起きている?ディエゴが裏切ったのではないのか?」

 

 だが現に連中は撃ち合いをしている。となればディエゴが裏切ったのではないのだろうか?などと考えていたら自分の端末に通信が入る。

 

『シーガレットか!?』

「大佐!これはいったいどうなっているんだ!?」

『こちらにも何が何だか分からん!!いきなり発砲してきたんだ!とにかく格納庫の隔壁を閉鎖してくれ!!』

「アルタイト!すぐに隔壁を閉鎖するんだ!!」

 

 すぐに隔壁の閉鎖をアルタイトに命じる。だがアルタイトからの応答が無い。

 

「どうしたアルタイト!?返事をしろ!?」

 

 一向に返事がない。モニターで格納庫を確認するとアルタイト(船の方)にレジスタンスの一団が突入していた。アルタイトとゼー・グルフを接続していたケーブルも切断されている。これではアルタイトとは連絡が取れないし隔壁を閉鎖する事も出来ない。

 

「くそッ!」

 

 悪態を付きつつもコンソールを操作して急ぎ隔壁を閉鎖しようとする。だがその前に廊下から銃声が聞こえてきた。モニターを見ると数十人のレジスタンスと偶々通りかかったらしい数人のアーミーズが撃ち合いをしている。音声を拾うとレジスタンス側はこのブリッジを目指しているようだ。

 

 まずい状況になった・・・。あの人数差ではすぐに突破されるし加勢した所で多勢に無勢、ここは一度何処かへ逃げなくてはいけないが、ブリッジのすぐ外は戦闘状態だ。いったい何処へ逃げれば・・・。

 

「あ。」

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

ボンッ!!

 

小型爆弾の爆発する音が響きブリッジのドアが吹き飛ばされる。

 

 

「動くな!!」

 

 爆弾で吹き飛ばしたドアからレジスタンス達はブリッジへと突入する。しかし彼らが突入した時、ブリッジには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

「そうか。ブリッジは無人だったんだな。」

 

 ブリッジの制圧に向かった部隊からの報告を受けたギルバードはそのまま無線機をしまう。

 

「状況は?」

「はっ!格納庫周辺で交戦していた連中の殆どは降伏、現在拘束しております。コントロールユニットの方は我々が確保。通信ケーブルを遮断してゼー・グルフから切り離しました。またシーガレット、エドワード両名の確保にも成功しました。」

「大佐やディエゴは?」

「いぜん捜索中です。」

「ふむ、捜索は続行。それと負傷者の手当を急げよ。」

「はッ!」

 

 報告を聞いたギルバードは、大佐達の捜索と戦闘で負傷した者の手当を命じて歩き出す。ギルバードが向かったのは格納庫内にある100m程度の小型貨物船アルタイトだ。その入り口から伸びていたAIユニットアルタイトとゼー・グルフを繋いでいたケーブルは途中でバッサリと切断された為アルタイトはゼー・グルフをコントロールする事が出来ない。

 

 ギルバード以下レジスタンス達は、準備が整え終わると直ちに行動を開始した。まずいくつかの部隊を艦内へ潜り込ませ、各重要施設へ向かわせる。次に、アーミーズに気付かれない場所として武装貨物船の中で残ったレジスタンスが武装して待機する。そして各部隊が配置に付いた後、時間を合わせ各所を同時に攻撃したのだ。

 

 皮肉にもそれは大佐達がやろうとしていた作戦そのものだった。

 

 

 その入り口の側に二人の男女が銃を突きつけられて座らされていた。

 

「ギルバード・・・一体何をしているのか分かっているのか。」

「その言葉そっくりそのまま返させてもらおうシーガレット艦長。」

 

 入り口に座らされている二人の男女とはエドワードとシーガレットである。アルタイトの艦内にいた二人は、レジスタンスによって真っ先に襲撃され拘束されてしまった。

 

「何を言っているのかさっぱりだな。」

「ふん・・・お前達が我々を排除しようとしているのは分かっているんだ。現に証拠もある。」

 

 そう言ってギルバードは自分の端末から例の秘密会議ーーーシーガレット、ベルトラム、ディエゴの3人がブリッジでした密談の内容を再生する。

 

「・・・私の船で盗聴とはな。」

「なに、偶々音声を拾っただけだ。お前達の方がもっと悪辣な事を考えていただろう?」

「・・・。」

「まぁいい。で、他の連中はどこへ行った?」

 

 ギルバードの質問にシーガレットは黙って睨みつける。ギルバードはブラスターの銃床でシーガレットの顔を殴りつけた。

 

「艦長!!」

 

 エドワードが叫びシーガレットに駆け寄ろうとするが、周りに銃を突き付けられ動けない。シーガレットは口内の何処かを切ったのか口の端から血が出ていた。

 

「もう一度聞く。大佐や海賊頭は何処に隠れた。」

「・・・知らない。お前達が襲ってきた時には別々に行動していた。二人が何処へ行ったかは知らない。」

 

ギルバードはシーガレットを見つめる。その目は嘘を言っているのか見極めようとしていたが、嘘ではなさそうだと感じた。

 

「・・・よし、コイツ等を拘束しておけ。逃げ出されんよう監視もつけてな。」

「はっ!」

 

 そう見張りに指示するとギルバードは、近くで指揮を取っていた2人の幹部を呼び出す。

 

「残った裏切り者を探し出して捕まえろ。場合によっては殺しても構わん。それぞれ2個小隊程連れて行け。人員の選出は任せる。」

「「はっ!」」




この4か月色々ありました。
執筆ソフトに不具合があったり、時間が取れなかったり、プロットに不具合見つけたり・・・。

こんな風に中々更新できなかったりしますが、これからもよろしくお願いします。


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第13話 その銃口は同胞へ向く

 はぁ・・・。

 

 誰にも聞かれないようにシーガレットは、心の中で溜息を吐く。端末で確認した所、現在艦内では、武力蜂起したレジスタンス達によって格納庫やブリッジ、機関室など重要区画の殆どが制圧されている。

 

 その時ブリッジにいた私は、以前ディエゴが侵入してきたのと同じ様にダクトに隠れてやり過ごす事にしたのだ。狭いダクト内を右へ左へ上へ下へ、兎に角安全な場所を探して動き回っていた。

 

 どうしてこうなった・・・。

 

 我々も必要とあらば実力で相手を排除する事は考えていた。だがベルトラム大佐は話し合いによる解決を優先すべきだとし、私達もそれに賛同した。それが守られているなら、少なくとも我々の方から始めた訳ではない筈だ。

 

 一番考えられるのは海賊かアーミーズに裏切り者がいた可能性だろう。私達の秘密を誰かがレジスタンスに漏らしたなら、連中は怒って逆にこちらを排除しようとしそうだ。真っ先に疑ったのはディエゴだったが、彼の部下も応戦していたのでおそらく違う。まぁ数百人もいれば誰か1人くらい裏切る奴が出てもおかしくは無いだろう。

 

 他にもレジスタンスも同じ事を考えていて、口より先に手を出したのかもしれない。過激でかつ短絡的な思考の持ち主であるし、考え方も異なる。これまでの経緯から心情的にも快く思っていないのが相手となれば実力で排除したがるかもしれない。

 

 ここまで色々考えてみたが、情報も証拠も無い以上全ては憶測に過ぎず、事態の解決に役立ちそうに無い。その結論にたどり着いた所で、持っていた端末に通信が入ってきた。

 

『第2小隊、こちら第1小隊。第32倉庫は空だ。そっちは見つかったか?』

『第1小隊、こちら第2小隊。今第3シャトルステーションを制圧した。シャトルを利用した形跡は無さそうだ。敵に使用されない様にロックするが問題無いか?』

『移動には第1ステーションを使用するので問題無い。ロック後引き続き捜索を続行してくれ。』

『了解。』

 

 レジスタンスの通信が聞こえてくる。この端末は私が逃げている最中に拾ったもので、側に戦闘の跡と数人のレジスタンスの死体があった。誰かと交戦し殺されたのだろう。

 

 この端末のお陰である程度状況が分かるようになった。それによると、格納庫に居た者を中心にかなりの数のアーミーズや海賊が捕まった様だ。抵抗し死んだ者もいる。ポプランやコーネフといったパイロット達の他に、エドワードと私の身体を模したドッペルドロイドのアルタイトが居る。

 

 アルタイトが連中をどうにか誤魔化したお陰で、私の存在は察知されていない。

 

「さて、どうするか・・・。」

 

 ここはやはり、大佐やディエゴと合流する方が先だろう。いくら私は気付かれていないとはいえ、1人ではどうする事も出来ない。

 

 船内通信は盗聴されるかも知れないと考え使用しなかった。今まで大佐達から連絡が入ってこないのは、向こうも盗聴を恐れているのかも知れない。

 

 ・・・今になって盗聴という手段を取った可能性を思いついた。何処かに盗聴器を仕掛けられてそこから漏れたのなら納得できる。

 

 が、今はそんな事よりも大佐達に合流する事を優先するべきだ。そう思い私はダクト内を進み始めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 彼は惑星リベリアの少し裕福な家庭に生まれた。彼の両親は愛国心に溢れていて、当然彼もその影響を受けた。国に尽くす事が尊い事だと常々言い聞かされてきた彼は、軍人という形で国に尽くす事を選らんだ。

 

 彼の人生は満たされていた。決して楽とは言えない任務をこなしながら、それでも彼は自分の愛する国と家族を守る充足感を感じていた。だが、そんな彼の生活は唐突に終わりを迎える事となる。

 

 ヤッハバッハの襲来である。

 

 彼を始めたとした多くの軍人達は、侵略者から愛する国を守るべく防衛戦の準備をしていた。だが、味方であったはずのヘムレオン艦隊の裏切りによってリベリア主力艦隊は壊滅し、リベリアは満足な抵抗すら出来ずに征服された。

 

 何とか侵略者から故郷を取り戻そうと、レジスタンス活動をする最中で家族の死を知った。彼と同じかそれ以上の愛国者だった彼の家族も同じくレジスタンス活動をしていたが、摘発され、処刑されたのだ。

 

 だから彼はーーーギルバードはどんな事をしてでもリベリアを取り戻すと決意したのだ。例え共に戦った戦友に銃口を向けてもーーー。

 

 それが、自分に課せられた使命だと信じて。

 

「どうだ?」

「はっ!各小隊とも捜索していますが以前発見には至っておりません。」

 

 裏切り者の捜索に向かった4個小隊は未だ敵を発見していないらしい。全長4kmの巨大艦だけに艦内を探索するには時間がかかる。

 

「連絡の取れない小隊はどうした?」

「先程連絡を絶った第4小隊を、応援に行った第23小隊が発見。戦闘の痕があり全員死亡とのことです。未だ第18、47、34小隊は状況不明です。」

「そうか、分かった。」

 

 最初に、それぞれ6人1小隊を組み艦内各所に配置。奇襲でほぼ全ての箇所を制圧する予定だったが、いくつかの小隊と連絡が取れなくなっている。先程発見された第4小隊は、戦闘の末全滅したとの報告が入ってきた。他の小隊も反撃に遭い全滅したものと考えられる。

 

「リーダー。捜索にもう少し小隊を追加した方がいいのでは無いでしょうか?この巨大な艦内をあの数で捜索するのはとても・・・。」

「いや、増員はしない。」

「ど、どうしてですか?」

「理由はいくつかある。まず、この格納庫にはあの高性能AIと大量の捕虜がいる。この格納庫を奪われる訳には行かないのだ。それにおそらく連中は一箇所に集まろうとするだろう。少数を大量に散開したところで各個撃破されるのがオチだ。敵の位置や状況が分からない内は、この格納庫の防御を固めるのが先決だ。」

 

 これらの理由を挙げてギルバードは敵を探る事にした。報告したレジスタンスも、リーダーがそういうならそれが良いと考えを改める。

 

 シーガレットやベルトラム大佐が指摘した通り、レジスタンス達はギルバードの指示であれば特に疑いもせずに従う。これにはギルバードのカリスマ性も加担しているが、レジスタンスの構成員の大半が民間人であるのも原因の一つだ。

 

 ギルバードのように軍人経験のある者は少なく、軍事的知見や経験の無い彼らが経験者の意見に従うのは当然の事だった。

 

「それで、外の船の方はどうなった?」

「先程制圧完了の報告が入ってきました。艦長以下内部にいた十数名を確保しました。」

「随分少ないな。」

「どうやら既にゼー・グルフへの移設準備を進めていたようです。残っていたのは艦長以下最低限の保守要員だけでした。」

 

 海賊達の船は格納庫内にあるが、アーミーズの巡洋艦や駆逐艦などその他の船は外部にあった。ゼー・グルフのブリッジを占領したレジスタンスは、火器管制システムを掌握し外部の船に向けて投降を促した。港内で回避も出来ずにあの火力を向けられては降伏する以外手は無く、アーミーズの巡洋艦と駆逐艦、それとアーミーズに同調していたフリーボヤージュの船1隻にいた20名あまりが降伏した。

 

「彼らはどうしましょう?」

「他の連中と一緒に放り込んでおけ。」

「はっ!」

 

 指示を出したギルバードは、コンソールを操作する。臨時の司令室となった貨物船のブリッジにホログラムが投影される。そこには現在起こっている状況が記載されていた。

 

 現在レジスタンスは総員450名の内20名程を失ったが依然として400名以上の人員を有している。そこへ更にレジスタンスに同調するフリーボヤージュ達20名程が加わった為、人数的には損害は皆無と言って良い。対してアーミーズや海賊は突然の奇襲という事もあり完全に不意を突かれた。巡洋艦や駆逐艦にいた者及びアーミーズに協力的だったフリーボヤージュも合わせ、死者及び捕虜の数は220名を上回り(大半は捕虜である。)戦力は激減した。

 しかし優先目標とされていたベルトラム・ディエゴの2人の確保には失敗。残存している100名前後と合わせてその居場所は確認されていない。

 

 現在艦内のコントロールは、AIのアルタイトを切り離した為、ブリッジを占拠したレジスタンスが握っている。だが、艦内監視システムなどの一部機能がロックされていた為に艦内システムによる捜索が出来ず、4個小隊を派遣し艦内を捜索している。

 

 ギルバードは、捜索に4個小隊しか回していない。ブリッジや機関室にもそれぞれ2個小隊しか配置していない。これは先程ギルバードが部下に説明していた通り各個撃破や戦力を分散した所で格納庫を強襲されるのを恐れての事だ。

 

 確保した捕虜を人質としてアーミーズに降伏を呼びかける手もあったが、軍人や海賊に生半可な脅しは通用しない。

 

 今は耐える時だと自分に言い聞かせ、報告を待つ事にした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

  一方で、ダクト内を進んでいたシーガレットは目的地近くへと進んでいた。

 

「そろそろか・・・。」

 

 ダクト口に近づいて、隙間から中の様子を伺う。ダクト口は天井にあり上から部屋を見下ろすが、中には誰も居ない。

 金網を外して、中へと降りる。

 

「動くな!!」

「!?」

 

 誰も居ないと踏んで降りた瞬間四方から武装した男達に囲まれる。

 

「ゆっくりと両手を上げろ。」

 

 この状況ではどうする事も出来ない。大人しく両手を上げる。

 

「ん?シーガレットじゃないか!」

「大佐!?」

 

 声のする方を見ればそこには大佐とランディ、それにディエゴ達も居た。

 

「銃を下ろせ。彼女は味方だ。」

 

 大佐の指示に従い私を取り囲んでいたアーミーズが銃を降ろす。

 

「どうして分かったんだ?」

 

 ダクト内を音を立てないように慎重に進んでいたはずだ。

 

「それはこれのおかげだな。」

 

 そう言ってディエゴが取り出したのは何やらゴチャゴチャとジャンク品を組み合わせた様な端末だ。

 

「動体検知器って奴さ。これなら隠し部屋に隠れている奴らも簡単に見つけ出せる。海賊行為にはうってつけの品って訳よ。」

「成る程、それで私の存在を知って待ち伏せしたのか。」

 

 それならダクト内に隠れていても探し出せる訳だ。

 

「それにしてもよくここが分かったな。」

「大佐達が真っ先に逃げ込むとしたらここだと思ったからね。」

 

 この部屋は、かつては倉庫として使われていた区画だが、現在はアーミーズの武器庫となっていた。武器庫と言っても関係者以外には知られない隠し武器庫である。お陰でレジスタンス達の奇襲を受けず中の武器は無事だった。

 

「それで状況は?」

「最悪では無い。とだけ言える状況だ。」

 

 そう言って現状を整理する。現在戦力としてはアーミーズと海賊を合わせた105名。隠し武器庫のお陰で武器弾薬は確保出来たが戦力差は約4対1。ブリッジ、機関室、格納庫などの主要箇所を制圧され制御ユニットであるアルタイトと船を切り離されたので、事実上艦内のコントロールは奪われたという事だ。

 

「一応監視機能などついては元々ロックがかけてあるから、監視システムで見つかる事は無いはずだ。」

「最悪から一歩遠ざかったって訳だ。」

「一歩だけだがな。」

 

 実際、敵は4倍近い数がいるし200人近い人質を取られ、艦内の主要な箇所は制圧されてしまった。更に捜索部隊が派遣され私達の事を探し回っている。通信内容から外の巡洋艦や駆逐艦も制圧されたらしい。

 

「さて、これからどうしたものか。」

「降伏して許されるとは思えないがね俺は。」

「お前等は特にな。」

 

 海賊はかなりレジスタンスから嫌われているだけに、降伏しても私刑にされてしまいそうだ。ギルバードがそれを認めるかどうかは分からないがあまりいい結果にはならないだろう。

 

「所でどうして連中が急に攻撃してきたか心当たりはあるか?」

「いや。」

「まったく。」

「だろうな。」

 

 大佐もディエゴも知らないと答える。

 

「おたくの部下が俺達の計画バラしたんじゃねぇのか?」

「録音していたお前の方が怪しいだろう。」

「はっ!そんな事をしてたら今頃俺はここにゃ居ねえよ。」

 

 やはり二人も例の秘密会議の内容が漏れたのが原因だと考えているようだ。少なくとも他に思い当たる節が無い。正直私も大佐と同意見で、ディエゴが怪しいと思っていた。だが、実際彼はこうしてレジスタンスから逃げている。情報を売ったのなら少なくとも逃げる立場にはないだろう。

 

 そして大佐の部下が漏らしたという予想に関しては反論出来ない。現状では漏らしたという証明もその逆の証明もする事は出来ず、一番可能性が高い状況だ。

 

 ただしそれは、海賊達にも同じ事が言える。むしろ裏切りなんて日常茶飯事な海賊の方が可能性としては高いだろう。

 

「大佐、今は原因を突き止めるよりこれからどうするべきかに集中するべきかと。」

「・・・そうだな。」

 

 ランディの進言によって原因の究明は一時中断された。

 

「で、これからどうする?」

「戦うしかねぇだろ?」

 

 間髪入れずにディエゴが答える。

 

「向こうはこっちを殺すつもりで奇襲を仕掛けたんだ。既に死人がいる以上ここで仲良くしましょうなんて言っても無駄だぜ。」

 

 どちらの側にも既に何人かの死者を出している。ここまで事態が悪化して今更手を取り合おうと言っても、ここでの出来事が尾を引いて早急に次の内部抗争が勃発するだけだ。

 

「やるしかない、か。」

「戦うにしても相手は4倍だ。何か策が無いと囲まれて全滅だな。」

 

 大佐の言葉に思わず頷く。いくらこちらの構成員が戦闘のプロである軍人や海賊とはいえ、相手の数は4倍。しかもそこそこ場数をこなした武装集団だ。真正面からぶつかれば以下に戦闘のプロといえどタダではすまない。

 

「艦橋を制圧して、格納庫の隔壁を強制解放する。それで連中を外に放り出すのはどうだ?」

 

 前回この戦艦をヤッハバッハから奪った時と同じように、隔壁を解放して中の人間を放り出す戦法を提案する。

 

「いや、ギルバードもその戦法は知っているだろうし、それだと捕虜も外に放り出される。やるべきでは無い。」

 

 大佐の反対意見は的を射ていた。ギルバードもどうやってこの艦を手に入れたのかは知っているし、格納庫に陣地を築いた以上その対策もしているだろう。何より捕虜の状況が分からない。もし格納庫に縛られて放置されていた場合、なすすべなく放り出されてしまう。流石にそれはまずい。

 

「隔壁爆破して奇襲を仕掛けるのはどうだ?」

「それは無理です。格納庫の隔壁を爆破出来る程の爆薬はここにはありません。仮に揃ったとしても、相手に悟られずに爆弾を仕掛けて隔壁を爆破するのは困難です。」

「むぅ・・・。」

 

 歩兵用の武器や扉の破壊用の爆薬などはあるが、戦闘艦の被弾に備えて強固に作られた格納庫の壁を爆破する事は出来ない。ランディが言っていたように、奇襲するからには相手に気づかれずに爆弾を仕掛けなければならないし、そこから突入して攻撃するにしても、結局格納庫内にいる4倍の敵と戦うことになる。突入口が変わっただけで対して効果は無い。

 

「・・・そういえば大佐。外にいる味方の艦がいたはずだろう?中の状況に気づいて助けにきてはくれるんじゃ無いか?」

 

 それを聞いた大佐達の顔が曇る。

 

「外の艦とは連絡が取れない。制圧されたか、撃沈されたかしたんだろう・・・。」

「・・・。」

 

 部屋の中を沈黙が支配する。正に孤立無援の状態になった訳だ。ここから4倍の敵相手にどうやって艦を取り返すか。いい案が全く思いつかない。大佐もディエゴもランディも、この部屋にいる全員が頭を悩ませてはいるが良い案は思いつかない。

 

ーーピローン

 

 そんな時、不意に私の端末から着信音がなる。この状況でまさかメッセージが届くとは思わなかったので、だいぶ慌てた。見てみると、送信者は“アルタイト”となっていた。内容は、捕虜の位置や敵の配置、外にいたアーミーズの船が制圧された事などの情報が書かれていた。

 

「これは、連中の情報か!」

「アルタイトが・・・いったいどうやってこれだけの情報を?」

「接続が切断されただけで本体は健在らしい。」

「それ、本当にアルタイトからのメッセージなんだろうな?奴らが俺たちを嵌めようとしてるんじゃ無いのか?」

 

 ディエゴはそう言って、このメッセージがレジスタンスによる偽装工作では無いかと疑っている。

 

「いや、コードもそうだし私とアルタイトしか知らない事が書いてる。アルタイト“本人”だよ。」

 

 文末に、ドッペルドロイドの事が少し書いてある事から、送信者は間違いなくアルタイトだ。

 

「この情報によれば、捕虜はすべて輸送船に閉じ込めているらしい。巡洋艦も駆逐艦も制圧されたそうだ。」

「一体どうやって。」

「駆逐艦の艦長の話だと、主砲を向けられて脅されたそうだ。」

「あぁ・・・。」

 

 ゼー・グルフ級の主砲は一撃で巡洋艦をインフラトンの火球に変える事が出来る。そんなものを突きつけられれば降伏せざるを得ないだろう。

 

「船と仲間が無事だっただけでもよしとすべきか。」

「でどうする?巡洋艦を奪い返して攻撃するか?」

「そんなことしても主砲で吹き飛ばされるだけだ。第一に巡洋艦程度の砲撃では全く効果は無い。」

 

 大佐の発言は当然のもので、巡洋艦一隻奪った所でこの形成を覆せるものでは無い。我々より圧倒的多数の敵、エアロック開放戦法も読まれている、外の船も制圧された、奪い返してもゼー・グルフには歯が立たない。

 

 ・・・この状況を一体どうするか・・・。

 

「・・・ん?」

「どうした?」

「この状況・・・うまくすれば・・・。」

「何か作戦でもあんのか?」

「まぁ・・・思いついただけだが―――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

「と言うのはどうだろう?」

「きつい作戦だな。」

「やばい作戦だな。」

 

 大佐とディエゴが二人揃って感想を言ってくる。

 

「机上の空論に近い作戦だな。何処か一つでも狂えば全てが崩壊する奴だ。」

「あんまり複雑な計画って成功しねぇんだよな。シンプルイズベストって奴だ。」

 

 普段は互いに煙たがっている癖に、長年付き合った相棒のように息を合わせて作戦を評価してくる。

 

 しかも酷評だ。

 

 しかしーーー

 

「ま、それ以外に手は無いべ。」

「要所で修正は必要だがな。」

「・・・素直に評価してくれ。」

 

 ともかく、私が提案した作戦に修正を加え、レジスタンスに対する反撃作戦が立てられた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「連中はまだ見つからないのか?」

「未だ発見の報告はありません。」

 

 指令室となった貨物船のブリッジで、ギルバードは苛立ちを何とか隠しながら訪ねるが、オペレーターは未だにベルトラム大佐達の発見報告は無いと告げる。

 

 事態発生から既にかなりの時間が経過したのに未だに発見できない事が彼を苛立たせる原因となっていた。

 

 捜索部隊は隔壁を封鎖し敵の行動範囲を狭めながら捜索を続けているが、何分この船が巨大かつ捜索部隊が少数であるのが発見できない主な原因だった。

 

「他の小隊にも捜索に加わって貰いますか?」

「いや、戦力分散は危険だ。ここの防御に集中するべきだろう。」

 

 自身の意見を否定されたオペレーターは内心不満を抱いたが、ギルバードとしては元民間人が多数を占めるレジスタンスと、元軍人で構成されたアーミーズや実戦経験豊富な海賊達を同数で相手にしたくないのだ。一人でも多くの人数を集めるため、外部の船はロックだけして無人の状態で放棄している。

 当のオペレーターは自分達が彼らに負けるとは思っていないが、実際職業軍人と元民間人ではやはり経験の差がある。

 

「監視システムの復帰は?」

「一応解析は進めてますが、芳しくないようです。」

 

艦内監視システムが使用できれば、わざわざ全長4kmの艦内を歩き回って捜索する必要はないのだが、そのシステムは制圧前にロックがかけられた為使用不能となっている。現在元技術者のレジスタンスがをロックの解除を試みているが、元が軍用の為高度なセキュリティが存在し、解析の目処は立っていない。

 

「むぅ・・・一体何処へいった・・・。」

 

 ギルバードは頭を悩ませる。捜索の手は伸びている事は確かだが、時間がかかりすぎている。時間をかければそれだけヤッハバッハなどに発見される危険も高まるし、食料や睡眠など居住環境にも影響が出る。さすがにそこまで掛かるとは思っていないが、早期にけりが付くのが望ましい。

 

 やはりもう少し捜索に部隊を割り当てるべきか・・・。

 

 ギルバードがそう考え始めた時、突然オペレーターが叫んだ。

 

「た、大変ですリーダー!」

「どうした!?」

「ブリッジが襲撃されました!!」

「何!?」

 

 突然の報告に驚いたギルバードはオペレーターに駆け寄る。オペレーターの画面には、ブリッジで銃撃戦を繰り広げるレジスタンスとアーミーズが映し出されていた。

 

『こちらブリッジ!敵の攻撃を受けている!!至急応援を!!』

「リーダー!至急増援部隊を派遣しましょう!!」

 

 ブリッジの防衛にあたっていたレジスタンスから増援要請の通信が入り、それに対し幹部の1人が増援部隊を派遣する事を具申する。ギルバードはその意見を聞き指示を出した。

 

「ナッツ!100人ほど連れてブリッジへ急行しろ!捜索部隊と機関室を防御していた部隊もだ!!」

 

 部下のナッツに命じ100人ほどブリッジへ向かわせる。ブリッジを攻撃している敵の数は20名程。大佐はおそらく陽動の為にブリッジを攻撃したのだろうが、いかんせん元の数が少なすぎる。3倍の兵力をぶつけてやれば問題ない。しかし、元の数が少ないこの状況で仕掛けてきたという事は何か作戦があって行動を開始したはずだ。

ベルトラム大佐は冷静に適切な判断と作戦を立てられる極めて有能な人物だ。だからこそ、ヤッハバッハに対してレジスタンス活動を行ってきた。そんな人物が、ただ単にブリッジを襲撃する訳がない。

 

「全員防御を固めろ!ブリッジへの攻撃はおそらく陽動だ!!警戒を強化せよ!!」

 

 増援に向かった部隊とは別に格納庫に残留する部隊に指示を出す。大佐がどういうつもりか分からないが、警戒を緩めていい場面ではない。格納庫から増援部隊が向かった時、ブリッジからの映像が途切れた。

 

「どうした!?」

「ブリッジ!こちら本部!応答しろ!おいブリッジ!!」

「・・・間に合わなかったか。」

 

 通信までもが途絶えた事から、ブリッジを守っていた部隊は文字通り全滅だろうと予想する。

 

「オペレーター。ブリッジの盗聴器はまだ使えるか?」

「え?」

「ブリッジの状況が知りたい。盗聴器なら音声だけだが状況が分かる。」

「ちょ、ちょっと待ってください。」

 

 オペレーターはコンソールを操作し、ブリッジに仕掛けられた盗聴器と接続しようとする。例の大佐達の秘密会議を盗聴した盗聴器は未だブリッジに仕掛けられたままだった。

 

「・・・繋がりました!音声出します!!」

 

 すると、voice only と書かれたホログラムが表示され、ブリッジ内でのやり取りが聞こえてきた。

 

『こちらランディ!ブリッジを確保しました!』

『エレベーター前も配置についた!格納庫の扉の解放はまだか!?』

『今から掛かります!!』

 

 

「ーーなるほど。」

 

 ギルバードは、敵がこのゼー・グルフを奪った時と同じような手を使う事を予想した。すなわち、エアロックなどを強制解放して内部の人間を空気ごと真空に放り出し、運良く艦内に残った人間も酸欠で殺す方法だ。

 

 だが、その作戦も事前に分かっているなら問題ない。

 

「総員空間服を着用!敵は格納庫内を減圧するつもりだ!急いで空間服を着るんだ!!」

 

 空間服は宇宙服の一種である。人類が宇宙空間を生活の場としてから様々な宇宙服が開発された。長時間船外活動をする為のモノや、重作業、調査など用途に合わせたものが用意されている。

 

 その中で空間服は戦闘向けの服装で動きやすさや衝撃吸収力などを強化されたものである。これを着れば、減圧されて真空にされても問題ない。

 

「リーダー!大型物資用エレベーターが作動しています!」

「なんだと!」

 

 格納庫に備えられている大型物資用エレベーターは、人が200人は余裕で運べる規模のエレベーターで、残存のアーミーズは全員乗り込める。

 

「そこから侵入するつもりか!」

 

ギルバードの中で一本の線が繋がる。ブリッジを攻撃し制圧。強制減圧によって格納庫内のレジスタンスを排除した所で突入する。おそらく大佐の作戦はこんな所だろう。それに大型物資用エレベーターを使って行くルートは、ブリッジへ向かうには遠回りになる。仮にブリッジへ増援が向かってもわざわざ遠回りのルートは使わないので、鉢合わせする事は無い。

 

敵の突入箇所が分かったギルバードは、ここで驚くべき指示を出す。

 

「火器管制を起動!照準を大型エレベーターに合わせろ!!」

「え!?」

「主砲で吹き飛ばす!」

 

その命令に思わずオペレーターは聞き返した。

 

 武装貨物船にはいくつか武装が備え付けられており、この船の主砲はSサイズのレーザー砲である。艦隊戦においては大した威力は無いが、それはAPFシールドと装甲で守られた艦同士の話であって、シールドも装甲も持たない人間相手には話が異なる。船同士では豆鉄砲でも、人間には掠るどころか掠めただけで蒸発する高エネルギーの塊なのだ。

 

通常そんな兵器を艦載機用の弾薬などが置いてある格納庫などで使おうとは思わない。だが、白兵戦でエレベーターを制圧するよりも、艦砲で敵兵ごと破壊した方が手間がかからず損害もほぼ無い。それで敵を殲滅した後は、ブリッジを制圧している囮部隊を撃滅してやればいい。

 

それを聞いたオペレーターは納得し、すぐさま火器管制の立ち上げに掛かった。

 

「格納庫の扉開きます!減圧が始まりました!!」

 

 格納庫の減圧が始まり隔壁が開く。すでに格納庫内の部隊は空間服を着ている為、減圧されても問題は無い。

 

「エレベーターまもなく到着します。」

「砲手、エレベーター到着と同時に砲撃しろ。」

「了解!」

「ブリッジの様子は?」

「増援部隊が到着、戦闘に入りました。」

「よし。」

 

 ブリッジに増援が到着し、戦闘になった。圧倒的多数ならすぐにでも制圧できるだろう。一方で武装貨物船の主砲が起動し、照準を合わせていた。

 

「オペレーター、エレベーター到着まで秒読み!」

「エレベーター到着まで5、4、3、2、1、0――――」

 

 砲手が主砲のトリガーを引いたのと同時に、レーザー光が格納庫内を駆け巡り爆発が起こり、エレベーターが粉々に吹き飛ばされる。

 

 そしてそれと同時に、レジスタンスの船が一隻爆発した。

 

「な、何が起こった!?」

 

 ギルバードの言葉に答えられるものブリッジ内にはいなかった。隣の武装貨物船の一部が爆発し、格納庫内に大量の破片と爆風が吹き荒れる。エレベーターから離れていたレジスタンス達は破片と爆風をもろに受け一瞬で壊滅状態に陥った。

 

「り、リーダー!!」

 

 オペレーターが叫びながら窓の外を指さす。ギルバードがそれを見ようとした刹那、船に大きな衝撃が走った。

 

「うわぁ!?」

「な、なんだぁ!?」

 

 見ればそこには、外で放置されていたはずの一隻の駆逐艦が接舷している所だった。

 

「な、なんだと・・・!?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 事態を明瞭にするために時間は少し巻き戻る。

 

「ではこれよりブリーフィングを開始する。」

 

 そういって大佐は手元の端末を操作して、部屋の中心にホログラムを表示し説明を始めた。

 

「現在我々はこの倉庫に確保している。それに対してレジスタンスは、艦橋、機関室、格納庫及び外の巡洋艦と駆逐艦を制圧している。また、レジスタンスの貨物船の1隻に捕虜となった者達が捕らわれている。戦力差はおよそ3対1。これは艦橋や機関室などに配置されているであろう人数を引いて想定した最低限の数だ。これより多い可能性は充分にある。そこを忘れないように。

 

 目標はレジスタンスリーダーのギルバードの排除及び捕虜になった仲間の開放だ。ギルバードを軸にして動いている以上、これを排除すればレジスタンスは統率を失うだろう。そうなれば降伏するか散発的な抵抗しかできないだろう。また捕虜になっている者の数は約200名ほど。リーダーを無力化し捕虜達を解放すれば、戦力差は覆り早期に鎮圧、事態を収束できるだろう。

 

 

 これらの目標を現状の戦力で達成する為に、奇襲によって敵部隊中枢へ突入する。」

 

 誰も何も言わずに説明を聞いていた。戦力差で不利な状況において勝利するには奇襲以外考えられないからだ。

 

「そこで、シーガレットの草案を修正し決定したのが作戦が決定した。まずはこれを見てほしい。」

 

 格納庫を再現したホログラムが浮かび上がる。その中には何隻かの船といくつかの赤い点が表示されていた。

 

「見ての通りこれは格納庫内の敵の配置図だ。そして、ここが捕虜の位置だ。」

 

 ホログラム中の一隻の船が緑色に光る。

 

「まず部隊を2つに分ける。1隊はブリッジの制圧を行う。人数は20名ほどで、ブリッジを制圧したら格納庫の隔壁を解放するんだ。これによってギルバードに我々がこの船を奪った時と同じように、エアロックから吸い出す事を狙っていると思わせる。そしてもう一隊を本隊とする。本隊は空間服を着てエアロックより外へ出て、駆逐艦を制圧。制圧した駆逐艦に乗って格納庫へ突入する。突入しつつ人質の乗っていない艦艇を攻撃、撃破し少しでも敵戦力を削ぐ。後は、人質を解放してギルバードを確保し事態に蹴りをつける。」

 

 これを聞いた者たちは騒めき出す。当然の事だ。駆逐艦を奪ってカタパルトから侵入するだけでなく、格納庫内の艦艇を攻撃して撃破までするのだ。めちゃくちゃな作戦としか言いようがない。下手をすれば誘爆で、この戦艦ごと吹き飛んでしまう。しかもーーー

 

「質問!外部から駆逐艦を制圧するとしても駆逐艦にも敵がいれば、艦艇の武装により殲滅されるだけかと。」

「そもそも外部へ出ようとすれば、それをブリッジにいる敵に察知される恐れがあります!」

「たった20人でブリッジの制圧が可能でしょうか?」

「わざわざ艦艇を攻撃する必要があるのでしょうか?誘爆のリスクが大きいのではないかと。」

「カタパルトを通過中に敵艦から迎撃される危険があります。」

「仮に突入できたとして80人程度で、制圧できんのか?」

「ギルバードの位置がわからないのでは、捕らえようが無いかと。仮に捕らえても逆上してますます手がつけられなくなるかと。」

 

 実行に際し予想される問題点が多々指摘される。元軍人や海賊達は、その経験と鍛えられたセンスから作戦の不備を挙げていく。無論それは大佐も認識しており、その点に対する説明を始めた。

 

「まず駆逐艦の制圧だが、艦外へ出るタイミングはブリッジの襲撃と同時に行う。襲撃されれば監視の目は緩むだろう。情報によれば敵の大半は格納庫を防衛していてブリッジは手薄気味だと推測される。20人しか割く事が出来ないが今の戦力からこれ以上回すことはできない。重火器を使用しても構わん。迅速にブリッジを確保して貰う。駆逐艦からの攻撃だが、先程言った通り敵は格納庫の防備を固めている為駆逐艦に人員は配置していないだろう。ブリッジを制圧していて、より強力な武装が使える以上、駆逐艦に人員を配置する意味が無いからだ。

 

 次に突入時の問題点だが、我々は全員合わせても100名程度。それに対して相手は400名前後だ。いかにブリッジを素早く制圧できたとしても、肝心の本隊が負けては意味がない。ここはリスクを取ってでも、敵の数を少しでも減らすべきと判断した。また、カタパルト通過中の迎撃を避ける為、大型エレベーターを囮として作動させ、敵の目をそちらに向けておく。エレベーターの起動は本隊から2、3名出す。ギルバードの所在についてだが、これだけの規模で守っている以上格納庫内にいるのは確実だろう。

 

 他に質問は?」

 

 それ以上、彼らからの質問は無かった。皆頭の中で作戦の流れを想定しているのだ。

 

 私の出した草案では、駆逐艦を奪いカタパルトを開けて内部へ突入するだけだった。だが、軍事の専門家にかかれば、こうして勝利を確立する為細かい所まで埋め合わせている。それもごく短時間のうちにだ。

 

「それと、注意すべき事項だがブリッジにはおそらく盗聴器が仕掛けられている可能性が高い。そのためブリッジ制圧隊および彼らと通信をする際には内容に注意する事。通信する際は相手に“大型物資用エレベーターから突入する”と思わせるよう通信を送る事。」

 

 これは、アルタイトや捕虜がレジスタンス達の会話を盗み聞きして得た情報だ。仕掛けられているかどうか確たる証拠は無いが、状況から判断するにその可能性は十分にある。

 

 よって、これを逆用し通信内容から囮であるエレベーターから突入すると思わせるのだ。

 

「なければ、後は隊を分けて行動する。各員時計を合わせておけ。本作戦はタイミングが重要だ。それでは部隊を編成するーーー。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「行け!行けっ!行けっ!!」

 

 接舷と同時に駆逐艦のエアロックから武装したアーミーズや海賊達が突入する。意表をつかれたレジスタンス達はなすすべなく次々と倒れていった。

 

『落ち着け!各自迎撃するんだ!!我々は裏切り者には負けない!!』

 

 だが、ギルバードの艦内放送を聞いて何人かのレジスタンスが立ち直り、メーザーブラスターで反撃してくる。それを見た他のレジスタンス達も次々に応戦してきた。

 

「チッ、予想より立ち直りが早い!!」

「レジスタンス活動で根性がついたんだろ!!どうする!?」

「シーガレット!!ディエゴ!!30人ほど連れて倉庫へ迎え!そこに捕まってる連中を解放するんだ!!」

「了解!」

「おーけー!!」

 

 私達の想定よりもレジスタンスの抵抗が激しかった。というのも長年のヤッハバッハへの抵抗活動で多少なりとも鍛えられていたのだろう。

 

 作戦では、格納庫で撃沈した船の爆発で敵の戦力を少しでも削る予定であったし、現に格納庫内は爆発した船の破片などが飛び回り酷い惨状で、誘爆しなかったのが奇跡というレベルだ。(一応弾薬類は耐爆・耐衝撃などが施された保管がされている。今回はそれが偶々耐えてくれた。)

 

 それでも、目標の船の中には多くの敵兵が居た。これは後から分かった事だが、減圧に備えて空間服を着る為に一度船内へ戻った者が大勢いたらしい。

 

 作戦が一部裏目に出てしまったが、それを理由に中止ややり直しをする事は出来ない。ここは捕虜を解放し、こちらも戦力を増強するべきと判断した大佐の指示で、私達は捕まった仲間の元へと走り出す。

 

 位置はアルタイトの情報で分かっているし、船内の見取り図も、基地で整備した時のデータが残っている為、一直線に向かう事が出来る。

 

 途中何人か鉢合わせした敵をブラスターやライフルで薙ぎ倒し、捕虜が閉じ込められている倉庫の前に辿り着いた。

 

「おいエドワード!!聞こえているか!!返事をしろッ!!」

 

 扉の横に付いている端末から内部に話しかける。僅かな間の後、端末から悲鳴とも取れる声が聞こえてきた。

 

『音がデカすぎるんです!!もう少し静かに喋ってくださいッツ!!』

「す、すまない・・・。」

 

 どうやらスピーカーモード(しかも大音量)になっていたらしく、いきなり倉庫内に響いた大声に全員かなり驚いたらしい。

 

「扉は開けられそうか?」

『やれない事は無いですが、少し時間がかかります。』

「時間が無い。扉を吹き飛ばすから離れていろ!」

 

 端末にそう言うと、後ろにいたアーミーズに目で合図を送る。 こういった場合も想定しニトロストリングーー破壊用の爆薬も持ってきておいたのだ。それを扉の前にセットして廊下の陰に隠れる。

 

ーボンッツ!!!

 

 爆発の衝撃が内臓に響く。廊下の陰から顔を出すと、扉は綺麗に吹き飛んでいた。

 

「艦長ー!」

 

 奥から聞き覚えのある声と共にエドワードが出てきた。爆発の煙を浴びたのか所々煤けている。

 

「無事だったか!」

「えぇ、おかげさまで。次やる時は爆薬の量を減らしてください。」

「あ、あぁ。」

 

 仕掛けたのは私じゃ無いんだがと喉まで出かかった言葉を飲み込む。代わりに別の声が倉庫の中から聞こえてきた。

 

「無事でしたか、艦長。」

「アルタイトか。」

 

 倉庫の奥から出てきた自分そっくりな人影。ドッペルドロイドのアルタイトだ。やっぱり爆発の煙を浴びたのか煤けていた。そんなに爆発の威力は強かっただろうか?

 

「お前のお陰で助かったよ。」

「私もこんな所で死にたくありませんから。」

 

 AIが死にたくないなどと言うとは、少し意外だった。

 

「おいおいこりゃどうなってんだよ。お前双子だったのか?」

「ん・・・まぁそんな所だ。」

 

 私達を見たディエゴが驚きの声をあげるが、今説明するのは時間がかかるので適当にぼかしておく。

 

「そんな事より、今は他にやるべき事があるだろう。」

 

 そう言って私は2人にブラスターを手渡す。合流できた時の為に、各自予備の武器を携帯していたのだ。武器庫に武器は豊富にあったが、捕虜全員分持ち運べる訳も無く、三十数人程度しか武器は行き渡らなかった。それも1人にブラスター1丁とかそんな割合である。

 

「残りは自分で調達してくれ。」

「め、めちゃくちゃだ。」

 

 そんなものは百も承知している。が、80人程度で敵に奇襲を仕掛け、戦いながら捕虜を解放し、その上で200人近い人数分の予備の武器などを持ってくる余裕は無い。

 

「大佐達は今どこに?」

「ブリッジの手前で敵と交戦中との事!」

「よし、全員ブリッジへ向かうぞ!武器を持ってない者はそこら辺から拾うか素手で戦え!行くぞ!!」

「「「お、おぉッ!!」」」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「降伏しろ!お前達に勝ち目は無いぞ!」

「黙れ裏切り者め!貴様等こそ自分の罪を恥じて降伏しろ!」

 

 武装貨物船のブリッジ前通路ではバリケードを築き立て籠もるレジスタンスとアーミーズで激しい銃撃戦をしながらそんなやり取りが行なわれていた。状況は、隔壁を封鎖し一本道となった通路で即席のバリケード越しに撃ち合う形となっており、立て籠もっているレジスタンスはせいぜい50人程度。人数的にはほぼ互角である。ただ個人の戦闘における資質に関しては、アーミーズ側がいささか有利となっている。

 

 しかし、ギルバードは艦内のレジスタンス達に呼びかけブリッジへ集合するように命令した為、各所から集合したレジスタンスによって後方から攻撃を受ける事があり、その度に戦力を分散し後方の敵を殲滅している。よって大佐も後方を警戒しながら戦う必要がある為、ブリッジで立て籠もる敵に全力を向けられないでいた。

 

「持ちこたえろ!持ちこたえればブリッジに増援に行った部隊が戻ってくる!!そうすれば勝てるぞ!!」

 

 命令を出し味方を鼓舞するギルバード。立て籠もるレジスタンス達も味方の増援への期待と、敵となったかつての味方に対する憎悪から必死に応戦する。

 

 そんな戦闘の最中ギルバードは心の隅で自問自答を繰り返していた。先程までは自分達は完全に主導権を握っていた。それなのに今この現状はどうだ。味方は分断され、敵の突入を許し、司令部は敵と白兵戦を行なっている。状況はひっくり返り、全体を把握するどころか目の前の敵と戦闘するだけで手一杯である。

 

 何故こうなったのか、記憶を遡った所で答えは出ない。

 

「リーダー!」

「どうした!?」

 

 背後からオペレーターが悲鳴にも似た声で呼んでくる。その時点で悪い知らせだというのが分かった。

 

「倉庫に閉じ込めていた捕虜達を解放されました!!こっちへ向かってきています!!」

「チッ!」

 

 予想した中で最悪の事態が起こってしまった。こんな事になるんだったら、外聞を気にせず全員処分しておいた方が良かったかも知れない。が、今更考えた所で全くの無意味だ。

 

「兎に角持ち堪えるんだ!我々真のリベリアを愛する者が、あんな裏切り者共に負けるはずが無い!!」

 

 捕虜が解放されたと聞いて完全に弱気になる味方を、ギルバードは自分自身よく分からない根拠で励ます。もはや、彼には現状を打開できる未来が見えなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーそして時はきた。

 

 

 爆音と共に、アーミーズと戦闘していた方とは反対側の通路から黒煙が上がる。隔壁を下ろして封鎖していた筈が、隔壁が爆破され道が開ける。その黒煙の中から武装した一団が現れる。

 

「全員突っ込めぇッツ!!」

「「「うぉおおおおお!!!」

 

 ディエゴ率いる一団の持つブラスターやライフルが光を放ち、メーザー光線が空を切り裂く。突然背後からの攻撃に晒されて、レジスタンスの防衛戦は完全に崩壊した。

 

「う、うわぁああああ!?」

「ぎゃぁああああああ!!」

 

 銃声と悲鳴と断末魔が響く中、ギルバードは本能的に身を守る動作を取る。軍隊で鍛えられた生き残る為の本能に従い、ブリッジへと逃げ込み扉を閉める。たまたま扉の近くにいた4人のレジスタンスが一緒に入ってきたが、大半は通路で銃撃に晒され断末魔を上げていた。

 

 薄暗いブリッジの中、彼は必死にどうすればいいか考える。

 

「ついに味方まで裏切ったのか?」

「誰だ!?」

 

 突如ブリッジ内に響く声に、慌てて銃を構えるギルバード達。するとコンソールの陰から人が1人出てきた。

 

「・・・シーガレット。貴様一体どうやって・・・。」

 

 問い掛けるギルバードに対し、シーガレットは無言でギルバード達の背後を指差す。そこには、通風用のダクトが口を開けていた。

 

「チッ・・・そういう事か。」

「昔サンテールで修理した時のデータが残っててね。お陰で迷わずにここまで来れたよ。」

 

 互いにブラスターを向け合う2人。他にも数丁の銃口を向けられてなおシーガレットの目には恐怖は無い。それに対しギルバードの瞳は揺らいでいた。

 

「降伏しろ。と言いたい所だがその様子では聞きそうに無いな。」

「誰が裏切り者に降伏などするものか!」

 

 眉を潜めるシーガレットに対し、ギルバードは咳を切ったように叫び始める。

 

「俺達は故郷を取り戻す崇高な責務がある!あの美しいリベリアを、俺達の愛するリベリアを侵略者共から取り戻すんだ!!貴様等もその為にヤッハバッハに抵抗していた筈だ。それなのにお前達は、基地を破滅させ同胞を犠牲にし折角手に入れたこの力を使おうともしない!!あまつさえ、俺達に協力するどころか結託して排除しようとしてきた!!貴様等さえいなければ、リベリアを取り戻せたかも知れないのだ!!!この裏切り者め!!」

 

 ギルバードは、シーガレット達を大声で非難し糾弾する。周りのレジスタンス達も頷いたり、そうだと声を荒げる。それをシーガレットは黙って聞いていたが、ギルバードが話し終えるとふっと一息吐く。

 

「言いたい事はそれだけか?」

「なんだと?」

「お前の下手な演説は終わったかと聞いているんだ。」

「ーーーッツ!!」

 

 刹那ギルバードは引き金を引くのと同時にシーガレットは右へ飛ぶ。メーザーが頬を掠めるのと同時にシーガレットのブラスターが光を放ち、ギルバードの背後にいたレジスタンスを撃ち抜く。

 

 とっさにコンソールの影に隠れるギルバード達。だが、逃げ遅れた1人がシーガレットの早撃ちで胸を撃ち抜かれる。ギルバードは残ったレジスタンスと顔を見合わせ、タイミングを合わせて一斉に飛び出す。飛び出した瞬間、1人が撃ち抜かれる。あまりの早撃ちに気を取られた1人が最後に見た光景は、自分に向けられた銃口が光る光景だった。

 

 そしてシーガレットのブラスターがレジスタンスを撃ち抜いた時、その胸を白い光線が貫いた。その方向にはギルバードが立っており、ブラスターの銃口から煙が立ち上っている。

 

 

 床に崩れ落ちるシーガレット。力が抜け手から滑り落ちたブラスターが床を転がる。武器を失った事を確認したギルバードはゆっくりと倒れたシーガレットへ近づく。そして右手に握ったブラスターの照準を、彼女の頭に合わせた。

 

「貴様だけは・・・貴様だけは許さん・・・。」

 

 そう言って人差し指に力を入れる。

 

 

 

 

 

ーーーバシューンッツ!

 

 

 

 

 ブリッジ内に響く一発の銃声。その音はギルバードのブラスターのものでは無かった。

 

「・・・。」

 

 自分の胸に手を当てると、真っ赤に染まる。ゆっくりと後ろへ振り返った時、ギルバードの目は大きく開かれた。

 

「な・・・ッ。」

 

 自分の背後で煙が立ち昇るブラスターを構えていたのは、先程彼が撃ち殺した筈の”シーガレット“だったからだ。

 

「な、何故・・・。」

「あっちはドロイドさ。」

 

 ギルバードが振り返ると、そこにはもう1人のシーガレットーーーシーガレットの姿をしたドロイドが立っていた。

 

 彼女の胸には焦げた銃痕がある。ただそこから血は流れていない。あるのはただ黒い穴だけだった。

 

「・・・売・・・国奴・・・め」

 

 その言葉を最後にギルバードは床へと崩れ落ちていった。



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