ウルトラ怪獣擬人化計画 男だけど、怪獣娘やっています!? (断空我)
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プロローグ

前から興味のあったウルトラ怪獣擬人化計画に手を出しました。

全部で十五話予定。

主人公の設定は次回くらいに掲載します。

個人的に大好きなウルトラ怪獣を選びました。

ギャラクトロンにするか悩みましたが、彼にしました。



 夢を見ていた。

 

 俺は宇宙剣豪になっており、愛刀を手に様々な相手と戦っていた。

 

 ガルタン大王と呼ばれる存在、テロリスト星人、腕を刃にしているツルク星人。

 

 様々な相手と戦い勝利してきた。

 

 求めるのは強き相手。

 

 挑むのは最強の猛者たち。

 

 手にしているのは最強の相棒である刀。

 

 そんな自分へ名を上げようと様々な相手が挑んでくる。

 

 いつの間にか、自分は宇宙最強の剣豪という称号を手にしていた。

 

 名を上げようと卑怯な手段を用いる者もいれば、真っ向から挑む者もいた。

 

 中には自分が刀を使うのに対して銃や暗器を用いるものなど様々。

 

 そんな彼ら相手に負けることはなかった。

 

 いつからか強い相手を求めて、俺はある星へ足を運ぶ。

 

 彗星に乗って強い相手、そう、宇宙の平和を守っているとされる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢……で、朝か」

 

 目元を覆っている髪の毛を払いのける。

 

 周りを確認してから自分がどこにいるか再認識した。

 

 日本へ向かっている輸送船。

 

 そこの一室。

 

 最低限の就寝具と家具しか置かれていない。

 

「久しぶりの日本か」

 

 揺れる船の中で静かに息を吐く。

 

 起き上がろうとした時に置かれている端末が地面へ落ちそうになるのをキャッチする。

 

 スイッチを押して時間を確認しようとするが反応しない。

 

「またか」

 

 何度かスイッチを押してようやく画面が表示して時間がわかるようになった。

 

 懐へ仕舞い、壁に掛けられている刀袋を手に取った。

 

 両手で感じる重量、そして安心感のようなもの。

 

「風祭君、日本についたよ」

 

 ノックの後に優しそうな笑みを浮かべた船長が顔を出す。

 

 アメリカの騒動の際に知り合い、日本へ向かうということで乗船許可をもらった。

 

 船内ではお客という扱いだったが、力仕事などを率先して引き受けていたことで、いつの間にか船員や船長と仲良くなってしまっていた。

 

「ありがとうございます」

 

 ぺこりと会釈して外に出る。

 

 船は長い旅の終着駅といえる日本へたどり着いていた。

 

 俺は刀袋を提げて久しぶりに日本の大地を踏みしめる。

 

 サングラスをかけなおして俺は町をぶらぶらと歩くことにした。

 

 目的地はあるのだが、久しぶりの日本なので色々とみてみたかった。

 

 港を出て、町へ踏み出した時。

 

 爆発が起こる。

 

「……うわぁぉ」

 

 爆風で一瞬、光と熱風が顔を撫でる。

 

 驚いている目の前で黒くうねうねしている怪物がいた。

 

「シャドウか」

 

 いつからか、どういう存在なのか。そのすべてが謎になっている存在。

 

 ただ一つわかっているのは人類の敵であるということ。

 

 シャドウの出現に作業をしていた者達は慌てて逃げていく。

 

「やれやれ……」

 

 シャドウ相手に人類は対抗する術をもっていない。普通の人にできるのはとにかく、逃げる。

 

 逃げて、シャドウが立ち去るのを待つしかないのだ。

 

 俺はため息を零しながら荷物を投げ捨てて、刀袋から鞘に納められている一振りの刀を握り締める。

 

 シャドウに対して、唯一ともいうべき対抗策が存在していた。

 

 それは過去に人類と敵対していた存在の力。

 

 懐から黒い端末、調子の悪いソウルライザーを起動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソウルライド…………ザムシャー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 叫びと共にソウルライザーを起動して、俺の体は甲冑や鎧のような獣殻(シェル)に体が覆われる。

 

 最後に片目へ眼帯がつけられて、俺は怪獣……娘へその姿を変えた。

 

 

 怪獣娘、それは遠い過去に人類と敵対していた怪獣と呼ばれる存在の魂、カイジューソウルを宿した少女達の総称。

 

 カイジューソウルを宿し、力を使えるものがシャドウと戦うことができる。

 

 これ、なんとかならねえぇなか?

 

 名乗る時に困ると思いながら愛刀の星斬丸を構える。

 

 

「星斬丸の錆にしてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”GIRLS”という組織がある。

 

 怪獣娘を保護、人間社会との共存を支援するための機関、国際怪獣救助支援組織であるGIRLS。

 

 まだまだ謎の多い怪獣娘たちの調査・研究。力の使い方の訓練、未知なる脅威への対策を行っている。

 

 そのGIRLSに属した新入りのアギラ、ミクラス、ウィンダムの三人はシャドウが現れたという通報を受けて現場へかけつけていた。

 

「あれ?」

 

 現場に到着したアギラは戸惑った声を漏らす。

 

「シャドウがいない!?」

 

「どういうことなのでしょう?」

 

 首を傾げながら三人は周りを探すことにした。

 

 直後、彼女達の背後から大きな音がする。

 

「うひゃ!?」

 

 驚いた声を上げて倒れるミクラス。

 

 少し遅れて、彼女達から少し離れた場所に巨大シャドウが落下してきた。

 

 ブヨブヨの体を揺らしながら起き上がるシャドウ。

 

 瞳のようなものが三人を捉える。

 

「ミクちゃん、ウィンちゃん!」

 

「大きいけれど、やろう!」

 

「行きましょう!」

 

 アギラ、ウィンダム、ミクラスが身構えた時、シャドウの体に光が走った。

 

 直後、シャドウの体が四散する。

 

「え?何が起こったの……?」

 

 戸惑うアギラ達。

 

 目の前で土煙が広がる中でゆっくりと一人の存在が現れる。

 

「あれは……」

 

「刀でしょうか?」

 

「シャドウを一刀両断だったよ!?」

 

 驚く三人達の前で光に包まれて現れたのは。

 

「キッコ〇?」

 

「いや、モ〇ゾーじゃない?」

 

「凄い長さの髪や髭ですね」

 

 三人の前に立っていたのは黒いスーツをきている男……だろう。

 

 長い髪の毛と髭に隠れていて表情は見えない。

 

 しかし、髪の隙間から覗く鋭い瞳にアギラとウィンダムはどうすればいいか悩んでいた。

 

「おーい!そこの人!何者~!」

 

「「(迷わずに聞いたぁ!?)」」

 

 言葉を失っている二人の横でマイペースにミクラスが男へ問いかける。

 

「ん?」

 

 問われた男は髪の毛を退かしてミクラスを覗き込む。

 

「お前、怪獣娘か?」

 

「そうだよ!貴方も?てか、男だからそんなことはないかぁ~」

 

「いや、一応、その怪獣娘なんだよ」

 

「え!?男なのに!?」

 

「信じられないことだが、ほれ」

 

「あ、ソウルライザーだ」

 

 ミクラスに男はソウルライザーをみせる。

 

「悪いんだが、GIRLSまで案内してくれないか?久しぶりの日本で土地勘が薄れているんだ」

 

「いいよ~!」

 

「「(あっさりとオーケーした~!)」」

 

 嬉しそうに挙手するミクラスに男は微笑む。

 

「悪いな。自己紹介がまだだったな。俺はザムシャーだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠い昔、

 

 怪獣と呼ばれる存在が街を破壊し人と戦うといった時代があった。

 

 その時代からかなりの月日が流れ、人々の中から怪獣の存在は忘れ去られる。

 

 しかし、ある日、人々の中から怪獣の魂“カイジューソウル”を宿した者達が現れた。

 

 やがて、怪獣娘と呼ばれる存在が次々と姿を見せる。

 

 これは怪獣娘と唯一の男であり後に“怪獣剣豪”としてその名前を広める男の物語になるはずである。

 

 

 

 



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第一話 剣豪とGIRLS

この作品はアニメなどの展開にいきつつ、オリジナル展開が起こります。




「このあたりはあんまり変わっていないなぁ」

 

 俺は怪獣娘達の三人と共にGIRLS東京本部へ来ていた。

 

 GIRLSは出来て日が浅く、建物も新築同然だ。

 

 そんな建物を見上げながら中に入ろうとしたところで三人娘に止められてしまう。

 

「あの、本当にGIRLSに所属しているのですか?」

 

「あぁ、身分証は……ないんだが、このソウルライザーが証明、ってあら?」

 

 バチンと音を立てて起動しようとしたソウルライザーの画面がブラックアウトした。

 

「真っ黒だ」

 

「壊れてしまったのでしょうか?」

 

「そうみたい……!?」

 

 アギラ達は急に俺から距離をとる。

 

 どうやらソウルライザーが壊れたことで俺が暴走するかもと思っているのだろう。

 

 ソウルライザーは怪獣娘が暴走しないようにする安全装置でもある。それが壊れたことで暴走の危険性があがったと判断したのだ。

 

「大丈夫ですよ~“ザムザム”は暴走しないですから~」

 

 GIRLSのゲートから風船を手にした少女がやって来る。

 

 朱色の長い髪を左右に結って、GIRLSの制服を纏っている人物。

 

 手には「おかえりなさい」と書かれたプラカードがあった。

 

「お帰りなさい、ザムザム!」

 

「よぉ、ピグモン」

 

 やってきたのは怪獣娘“ピグモン”。

 

 俺と同じGIRLSの古参メンバーの一人である。

 

 常に笑顔を絶やさず子供が大好きで、面倒見が良い相手だ。

 

 カイジューソウルに覚醒したのも人間が大好きだったことが理由だったはず。

 

「アギアギ達は現場であっていると思いますが彼はザムザム、私達と同じ怪獣娘なのです」

 

「男なのに?」

 

「はい、困ったことに男性唯一の怪獣のため、怪獣娘のカテゴリーに入っている可哀そうな人なんです」

 

「言い方!もう少し考えろよ……やれやれ」

 

 俺はため息を零す。

 

 事実なので否定はできない。

 

 隣でウィンダムとアギラが憐れむようにこちらをみている。

 

 俺だって納得してないからな。

 

 心の中で思いながらピグモンを先頭にGIRLSの中に入る。

 

「ところでザムザム」

 

「何だ?ピグモン」

 

「どうして、連絡が遅れたのです?」

 

「これの調子が途中から悪くなってな。さっき、壊れたみたいなんだよ」

 

 俺はピグモンに起動しなくなったソウルライザーを渡す。

 

「大丈夫なのです~?」

 

「あぁ、問題ない」

 

「じゃあ、すぐに修理して治します~~」

 

「頼む」

 

 ピグモンに壊れたソウルライザーを差し出す。

 

 途中で俺と四人は別れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピグモンさん、あの方は本当に怪獣娘なんですか?」

 

「はいです!唯一で貴重な男子の怪獣さんなのです」

 

 ピグモンは三人へ図鑑を見せる。

 

 怪獣の情報が記載されている本だ。

 

【宇宙剣豪 ザムシャー 体長53メートル、体重5万5千トン 出身地:不明。

 名刀 星斬丸を手に様々な相手と戦い勝利を収めている】

 

「宇宙剣豪……」

 

「何かカッコよさそう!」

 

「見た目がおっかない……しかも、刀を使うんだ」

 

「はい!GIRLSでは古参メンバーです!」

 

「でも、今まで私達、みたことありませんでしたよ?」

 

 ウィンダム達がGIRLSへ入って日が浅い。けれど、彼のことは誰からも聞いていない。

 

「実は」

 

「特殊任務で海外にずっといたんだよ。よーやく、帰ることができてな」

 

 話の途中に彼らの前に一人の男性がやってくる。

 

「え、誰?」

 

「ワイルドです。おまピトに出てきそう……」

 

「…………………イケメン(ポツ)」

 

「やっぱりさっきの姿よりも今の姿がカッコイイですよ!ザムザム!」

 

「「「え?」」」

 

 ピグモンの言葉に三人は相手の顔を見る。

 

 整った顔立ちで肩まで伸びている髪を後ろで束ね、目の部分はサングラスで隠れていた。

 

 頬など余分な肉はなく、整った顔つき、目元はサングラスで隠れているが部分的なパーツだけでもイケメンだとわかる。

 

 

「さっきはまともに自己紹介できなくて悪かったな。GIRLSに所属しているザムシャーだ。よろしくな」

 

 ニコリと微笑むザムシャーにミクラスは元気よく、ウィンダムとアギラが戸惑いながら挨拶を返す。

 

「しっかし、久しぶりにGIRLSの制服を着たわ~」

 

「ザムザムはずっと海外にいましたからね~」

 

「制服を保管してくれていたの、ピグモンか?」

 

「いえ、エレエレですよ」

 

「…………どっかのタイミングで感謝を言うわ」

 

「その方がいいですね~」

 

 にこりとほほ笑むピグモンと引きつった顔をしているザムシャー。

 

「あの、海外といっていましたけれど」

 

「ん?あぁ、ちょっと悪さを働く怪獣娘と力を暴走させる怪獣娘の面倒を見るために海外へいっていたんだよ……二年くらい」

 

「ながっ!」

 

「まー、元から風来坊気質があったからなぁ。特に困ることはなかったな」

 

 ザムシャーはそういうとアギラとミクラスの間へ腰かける。

 

「ねぇねぇ、その袋に入っているのは?」

 

「ん?あぁ、これか」

 

 ミクラスの質問にザムシャーは細長い袋からあるものを取り出す。

 

「そ、それは!?」

 

 ウィンダムは息をのむ。

 

「刀?」

 

「そ、俺のカイジューソウルが覚醒した時に現れた名刀、星斬丸だ」

 

「ザムザムは色々と変わっている怪獣娘なのです。研究も兼ねて海外で検査も受けていたんです」

 

「ほへー」

 

「あ、そうです!久しぶりの日本ですからザムザムに三人の指導をしてもらいましょう~」

 

「え、おい、俺は日本に戻ってきたばかりだぞ!?」

 

「大丈夫です!ザムザムならできます」

 

 笑顔のピグモンにザムシャーは困った表情を浮かべている。

 

「いや、しかし、こいつらも嫌がるかもしれないだろ。怪獣娘にカテゴライズされているとはいえ、男だし」

 

「大丈夫です!」

 

「よろしくお願いします」

 

「お願いします」

 

 ぺこりと三人が頭を下げた。

 

 その結果、ザムシャーが三人の監督役(仮)になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

 

 

 三人を送り届けて戻ってきたザムシャーはピグモンの書類整理を手伝っていた。

 

「相変わらずピグモンは仕事を抱え込んでいるんだな」

 

「そんなことはありませんよ~」

 

「普通の人がやる量を超えているという自覚を持ちなさい」

 

 ピグモンと同じくらいの速度で書類を終わらせるザムシャー。

 

「誰かに頼られるというのは嬉しいのかもしれないけれど、無理はするなよ」

 

「そういうザムザムこそ、色々と抱え込まないでくださいね~」

 

 会話をしながらも書類作業の手を緩めることはない。

 

 本来ならかなり遅い時間に終わるはずの書類作業もザムシャーがいたおかげで早い時間で終わる。

 

「あ、ザムザム」

 

「なんだ?」

 

「この後の予定は?」

 

「んー、飯食べて寝る」

 

「それでしたらピグモンと夕食に行きませんか~?」

 

 体を少しモジモジしながら尋ねてくるピグモンにザムシャーは考える。

 

「良いかもな。久しぶりに色々と話したいし」

 

「ではレッツゴーです!」

 

 笑顔のピグモンは嬉しそうにザムシャーの手を引く。

 

「お、おい」

 

 バランスを崩しそうになりながらもピグモンとザムシャーの二人は夜道を歩きだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザムザム、海外はどうでした?」

 

「うーむ、色々なことが経験できたかな。オーストラリア支部やアメリカ支部に属している怪獣娘に振り回されることもあったが見聞を広めることも出来た」

 

「体のことは?」

 

「相変わらず不明、どうして俺だけが怪獣娘なのか、カイジューソウルがどうして宿っているのか、まったくもって不明だ」

 

「そうです~」

 

「ま、お前が暗くなる必要はない。いつかは俺以外にも現れるだろう……多分」

 

 そういいながら目の前の食事にザムシャーは口をつける。

 

「それにしても、俺がいない間に色々と怪獣娘が増えたみたいだな」

 

「ザムザムがいたのはかなり初期の話じゃないですか、当然です」

 

「まーな。ところでピグモン」

 

「何です?」

 

「良いお相手は見つかったか?」

 

 ザムシャーの問いかけにピグモンはテーブルへグラスを置いた。

 

「あと一年ですよ」

 

 にこりと笑みを浮かべながらピグモンは告げる。

 

「?」

 

「あと一年、私の相手がいなかったらザムザムとお付き合いをさせてもらうという約束、ピグモンは忘れていませんから」

 

「……」

 

 地雷を踏んだ。

 

 ザムシャーは即座に理解した。

 

 笑顔を浮かべているピグモンだが、その目はいつもと違い、獲物を狙う狩人……そのものである。

 

「まぁ、そうだけどさ。ほら、探す努力というものを」

 

 無言の圧力。

 

 ザムシャーは抵抗をやめる。

 

 これ以上は自分の外堀が埋められてしまう。

 

「そういえば!」

 

 話題を変えるためにアギラ達のことを話す。

 

「あの三人、大物になりそうだな」

 

「ザムザムがそういうなら期待大ですね!」

 

「おいおい、俺の一言でそういう評価なのかって、お前がそういうこというわけないよな」

 

「勿論です!ピグモンはちゃーんとみんなのことを見ていますよ!」

 

「わかっているって……だけど、俺が面倒を見ても大丈夫なのか?」

 

「大丈夫です!それと……」

 

 ピグモンから告げられたのは最近発生している暴走怪獣娘の話。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎる。

 

 ザムシャーとピグモンは別れてそれぞれの帰路につく。

 

「久しぶりの日本…………色々と楽しいことがありそうだ」

 

 台の上に置いた星斬丸をみながらザムシャーは眠りについた。

 

 

 




簡単なオリキャラ紹介


怪獣娘名:ザムシャー

性別:男

人間としての名前:風祭直人(かざまつりなおと)

身長:180センチ程度

体重:(測定忘れのため不明)

趣味:旅、強者と戦う、山に行くこと。

苦手なもの:恋愛、電子機器

備考:男でありながらカイジューソウルを宿し、怪獣娘に変身することができる男。変身できる原因などは不明。今も調査中。幼いころから自然に囲まれて過ごしてきたことから人間としてのスペックがかなり高い(本人談としては雪山で獣のように三日三晩過ごしていたこともあるという)。本編開始前に特殊任務で海外を旅してきた。
本人は自覚していないが異性に好かれやすい。
五人ほど、好意をよせられているが回答は保留中。



一日一話更新を予定しています。


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第二話 剣豪と暴走怪獣娘

今回、アニメであった展開に手を加えています。




 

「というわけで、暴走怪獣娘を探すぞ」

 

「おー!」

 

 ザムシャーの言葉に元気よく答えるミクラス。

 

「えぇっと」

 

「それってかなり危険なのでは?」

 

 対してアギラとウィンダムは不安そうに尋ねる。

 

「危険、かもしれないな」

 

「ザムシャーさんのソウルライザーは?」

 

「明日、修理が終わる予定だ」

 

「それって、今日、怪獣娘と遭遇したら、危険なのでは?ザムシャーさんが」

 

 不安そうにウィンダムが尋ねる。

 

「まぁ大丈夫だろう」

 

「えぇ!?その根拠はなんですか?」

 

「なんとかなる、何事も」

 

「成程!」

 

「そうなんだ」

 

「二人とも納得しないでください!あぁ、不安しかない」

 

 ウィンダムは頭に手を当てて困った表情をしている。

 

「別に今日、遭遇すると決まっているわけじゃない」

 

「そ、そうですよね!そう考えたら」

 

「ただ」

 

 安心しようとするウィンダムにザムシャーは微笑む。

 

「俺は運がない方だからすぐに遭遇するかもな」

 

「フラグを建てないでくださぁいいぃぃぃいいい!」

 

「ハッハッハッ」

 

 叫ぶウィンダム。

 

 ザムシャーは笑顔で笑う。

 

「ひとしきり、ウィンダムをからかったところで捜索を始めるとしますか」

 

「ウィンちゃん、大丈夫?」

 

「疲れました」

 

 笑顔のザムシャーの傍でうなだれるウィンダムへ心配そうに尋ねるアギラ。

 

 まだ探索すら開始していないのにウィンダムはぐったりしていた。

 

「まぁ、早々に遭遇することはないはずだし、ぶらぶらと街を見て回ると考えればいい」

 

「……そんなのでいいのかな?」

 

「久しぶりの日本をみたいという気持ちもある」

 

「それが本音のようにみえる」

 

「よくわかったな。アギラ、偉いぞ」

 

 ザムシャーはアギラの頭を撫でる。

 

「あ、ふぁ、ふみゅ~」

 

 撫でられたアギラは気持ちよさそうに目を細めた。

 

「アギちゃん、嬉しそう……」

 

「満更でもなさそうですね」

 

「!?」

 

 二人の視線に気づいたアギラは慌てて離れる。

 

「さて、ぶらぶらと街の探索を」

 

 始めようかとザムシャーがいった直後、近くで爆発が起こった。

 

「「「…………」」」

 

「あー、うん、行ってみようか」

 

 三人から向けられる視線にザムシャーは頬を指でかきながら目的地へ向かう。

 

 嫌な予感的中という文字が三人の中で同時に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのよぉぉおおおおおおおお!」

 

 街中で口から炎を出して叫ぶ怪獣娘がいる。

 

 突然の事態に周りの人たちは逃げ出していた。

 

 幸いにも道の真ん中で火を噴いているおかげなのか周囲の建物に被害はまだ出ていない。

 

「「「本当に、いた」」」

 

「ありゃ、かなり暴走しているなぁ」

 

 どこからか双眼鏡を取り出してみているザムシャーは酷く冷静だった。

 

「冷静、ですね」

 

「まぁな……しっかし、あのまま放置というわけにはいかないし……お前達、あの怪獣娘を止めるために戦ってきなさい」

 

「「え!?」」

 

 ザムシャーの言葉にアギラとウィンダムは戸惑った声を漏らす。

 

「私達だけですか?」

 

「なぁに、三人で止められなかったら俺が行くから」

 

「よぉし!やってみる!」

 

 アギラとウィンダムと比べてやる気満々なミクラス。

 

「アギさん」

 

「ウィンちゃん、どちらにしろ放っておけないから……行こう!」

 

 三人はソウルライドして暴走している怪獣娘へ突撃した。

 

 しかし。

 

「まぁ、そうなるよな」

 

 暴走している怪獣娘に三人は逃げるだけで精一杯だった。

 

 暴走しているからなまじ力の加減がない。

 

 全力に近い攻撃に圧され気味だった。

 

 幸いなのか、三人はケガなく逃げ回っている。

 

「そろそろ、行くか」

 

 ザムシャーは三人が無事なことを確認して目の前に立つ。

 

「ザムシャーさん、危ない!下がって」

 

「大丈夫だ。任せろ」

 

アギラが下がるように訴えるもザムシャーはにこりとほほ笑み、刀袋から星斬丸を取り出した。

 

 煙の中から姿を見せたのはツインテールと角、セーラー服にスクール水着のような姿の怪獣娘。

 

「なんなのよぉぉぉぉぉぉおお!私の何が悪いっていうのよぉおおおおおおおおおおおおおお」

 

「危ない!」

 

 炎がザムシャー目がけて迫る。

 

 ウィンダムが叫ぶ中、ザムシャーは鞘から星斬丸を抜刀した。

 

 直後、銀色の光と共に放たれた炎が両断される。

 

「「え?」」

 

「うそぉ!?」

 

 炎を斬りながらザムシャーはゆっくりと怪獣娘へ接近する。

 

「ウソ……炎を斬っている」

 

「あの人、ソウルライドしていない、ですよね?」

 

「人間びっくりショーみたい!」

 

 目をキラキラさせているミクラス。

 

「何を暴走しているのか知らないが……子供の癇癪みたいなことで周りに被害なんて出すんじゃない」

 

 炎を切り裂いたザムシャーは鞘でコツンと怪獣娘の頭を叩いた。

 

 叩かれた怪獣娘は地面にめり込む。

 

 体がピクピクと痙攣しているからおそらく生きているのだろう。

 

「一撃!?」

 

「……凄すぎです」

 

「人、だよね?」

 

 あっさりと相手を無力化させたザムシャーの姿に三人は言葉を失っていた。

 

 そんな三人の後ろに一人の怪獣娘が立つ。

 

「ありゃりゃ、先を越されたか」

 

「先輩!」

 

 ミクラスが喜び声を上げる。

 

 後ろにいたのはレッドキングの怪獣娘だ。

 

 鞘に星斬丸を戻して肩で暴走している怪獣娘を抱えてやってくるザムシャー。

 

「ん?お前、レッドキングか」

 

「え?」

 

 レッドキングはザムシャーの姿を見て目を見開いている。

 

「どうした?」

 

「ざ、ざ、ザムシャー!?いつの間に日本へ帰ってきたんだよ!?」

 

「先日」

 

「マジか!?なんで連絡をくれなかったんだよ!!」

 

「ソウルライザーが壊れて修理に出しているんだよ。戻るかもっていう連絡は知人一同に送っていたはずだが?」

 

「もしかして、これ?」

 

 レッドキングがみせたのは文字化けしているメール。

 

 文字化けメールを見て、サッと、目を逸らすザムシャー。

 

「……この時からソウルライザーの調子が悪かったから」

 

「あ、ソイツ、暴走していた怪獣娘ですよね?オレが預かりますよ」

 

 その目はとても泳いでいた。

 

「じゃあ、頼む。俺は三人の面倒を見ないといけないからな」

 

 そういってザムシャーは気絶している怪獣娘を預けた。

 

「うす!あ、この後、暇か?今度、何か食べようぜ!パ……牛丼とか」

 

「牛丼とかもいいが、パフェとかも食べたいから、そういうのでもいいか?」

 

「お、おう!」

 

「じゃあ、後で本部で会おう」

 

 レッドキングに任せてザムシャーは三人の方へ向かう。

 

「大丈夫か?三人とも」

 

「はい!」

 

「びっくりしたぁ……」

 

「ザムシャーさん、滅茶苦茶、強かった」

 

 ウィンダム、ミクラス、アギラの三人はそれぞれ立ち上がる。

 

 大きな傷がないことを確認するとザムシャーは星斬丸を刀袋へ仕舞う。

 

「っ!」

 

 直後、ザムシャーは信じられない速度で星斬丸を構えた。

 

「うぇぇっ!?」

 

「ど、どうしたのですか?」

 

「顔が、怖い……」

 

「すまない、気のせいのようだ」

 

 首を振りながら何でもないと答えるザムシャー。

 

 その際、サングラスがずれて地面へ落ちた。

 

「「「!?」」」

 

 さらなる衝撃が三人を襲う。

 

「うわぁ~」

 

「イケメンすぎます」

 

「……」

 

 アギラ達がザムシャーの素顔を見て言葉を失った。

 

 サングラスで隠れていたがやはりザムシャーはイケメン。

 

 その事実を知った瞬間である。

 

「どうした、呆然として?」

 

「ザムシャーさん、目」

 

「あぁ、いけね」

 

 ザムシャーは落としたサングラスを拾う。

 

 アギラはサングラスで目元を隠すまでの間にザムシャーの目をみる。

 

 黒い瞳と赤い瞳。

 

 左右で色の違う瞳だった。

 

「ザムシャーさんは瞳の色が左右で違うの?」

 

「アギちゃん、迷いなくいくね」

 

「そういうところは遠慮するものですよね?」

 

 アギラの後ろでミクラスとウィンダムがひそひそと話す。

 

「あぁ、この目か?まぁ、生まれつきのようなもので」

 

「そうなんですか?」

 

「まぁな」

 

 どこかはぐらしているようなザムシャーの言葉に気になりつつもアギラはそれ以上の追及をやめる。

 

 ザムシャーは少し離れたところで周囲を見た。

 

「気のせいか?」

 

 暴走していた怪獣娘と戦った直後、ザムシャーは視線を感じた。

 

 その視線が何なのかわからないがよくないものだと直感的にザムシャーは感じ取る。

 

「ただの気のせいであってほしい」

 

 ザムシャーはサングラス越しに夕焼け空をみながら微笑んでいる三人娘をみる。

 

「守って……いるんだよな?」

 

 小さな疑問のような声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マァァァァァァイフレェエエエエエエエエエエンド!」

 

 

 

「うわっ!?」

 

 後ろから大きな声で叫ばれてザムシャーは小さな悲鳴を漏らす。

 

 振り返るとスーツ姿の男性が物凄い速度で走ってきた。

 

「マァァイフレェンド!会いたかったですょぉぉぉおおお!」

 

「JJ!なんでここに、てか、やめろ!離せ!」

 

 走ってきた男性はジャンプしてザムシャーを抱きしめる。

 

「つれない態度ではないですかぁ!前は夜明のコーヒーを共に味わった仲だというのに!」

 

「ただ寝泊まりしただけだろうが!こんな人ごみで俺に抱き着くな!あと、頬をすりすりさせるなぁあああああああ!」

 

 シリアスは裸足で逃げ去った。

 

 

 そんな最後である。

 

 




JJさん、ザムシャーと友人だったという。

次回、ウルトラシリーズから登場するキャラがでてきます。



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第三話 剣豪と実験、襲撃

「ザムザム、暇ですか?」

 

「ご覧の通り、三人の報告書を確認中……もう少ししたら終わるから待ってくれるか?」

 

「はーい」

 

 GIRLSの一室。

 

 ピグモンの向かい側の机で作業をしているザムシャーは書類をチェックしていた。

 

 先日の暴走した怪獣娘に関するレポート。

 

 学生である三人が作成したものを修正、手直しして上層部などが確認できるものとして仕上げる最終段階だった。

 

「ウィンダムとアギラはともかく、ミクラスは誤字脱字が多いなぁ……変換ミスなのか、意図的なのか怪しいところがあるが」

 

「……ミクミクはピグモンがしっかりと指導します」

 

「そこは頼む。よし、チェック完了。メールも送信した。それで、話ってなんだ?」

 

 書類を片付けてザムシャーは顔を上げる。

 

「その前にザムザム、室内ではサングラスを外してください」

 

「悪い、癖でな」

 

 ピグモンに言われてザムシャーはサングラスを外す。

 

 外したことで鋭い赤と黒の瞳がピグモンの前に晒される。

 

「まだ、慣れないですか?」

 

「無理だろうな。きっと、何年過ぎても、俺はこの目を好きになれないと思う」

 

 サングラスを懐へ仕舞いながらザムシャーは小さな笑みを浮かべた。

 

「ピグモンは綺麗な瞳だと思いますよ」

 

「……ありがとう」

 

 手で顔を隠しながらザムシャーは呟いた。

 

 その言葉はピグモンに届いていて笑みを浮かべる。

 

「さぁ、お仕事頑張りましょう~!」

 

 ピグモンの言葉にザムシャーは意識を向ける。

 

 先ほどよりも、ほんの少しだけ作業の手は進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼過ぎ、ザムシャーはGIRLSの所有する研究施設へ向かっていた。

 

 GIRLSのスーツではなく黒いスーツのザムシャーはゲートの前で警備員に呼びかける。

 

 しばらくして、ザムシャーは奥の研究施設へ向かう。

 

「よぉ、我夢」

 

「ザムシャー!久しぶり!」

 

 ドアの向こうにいたのは白衣を着た青年。

 

 彼の名前は高山我夢。

 

 GIRLSに所属する天才科学者で、ザムシャーの少ない友人である。

 

 彼は19歳という若さでありながら様々な特許を取得している。

 

 そして――。

 

「俺のソウルライザーの調子はどうだ?」

 

「無事に修理できたよ。これだ」

 

 ザムシャーのソウルライザーの整備担当でもある。

 

「あれ、助手は?」

 

「あぁ、友也は久しぶりに休みを取っているよ。なんでも仲間と会うんだって」

 

「そっか、アイツとも会いたかったんだがなぁ」

 

 我夢には助手の一条寺友也がいる。

 

 彼に負けず劣らずの天才で、彼は怪獣についての研究をしていた。

 

 ザムシャーは我夢から受け取ったソウルライザーを眺める。

 

「外部フレームは問題なかったんだけど、内部、基盤とかがショートしていた。何か電波か電撃でも受けた?」

 

「……両方受けたな」

 

「成程!一応、基盤を取り換えて特殊コーティングを施したよ」

 

「いつもすまないな」

 

「いいや、ザムシャーが頑張っている証拠だよ」

 

 我夢はにこりとほほ笑む。

 

 彼は知っている。海外でザムシャーがどんな任務をしてきたか。

 

 報告書を見たというのもあるが彼の人となりを知っているので予想はできた。

 

 何より、海外の科学者仲間から彼のことを聞かされていたのである。

 

「大学はどうなんだ?」

 

「そうだ!聞いてよ!この前話していた粒子加速機が形になったんだ!」

 

「あぁ、前に話していた……機材が揃わないと嘆いていたんじゃ?」

 

「そうなんだけど、ジャンク屋でよいパーツが手に入ったは……良いんだけど、最後の段階で部品のパワーが足りなくて」

 

「楽しそうだな」

 

「え?」

 

 ザムシャーに言われて我夢はポカンとなる。

 

「とても楽しそうにしているぞ」

 

「そうかも、研究している時がとても楽しいかなぁ~」

 

 笑みを浮かべる親友の姿にザムシャーも自然と笑みを浮かべる。

 

「僕の話もそうだけど、ザムシャーのソウルライザーの調子もみないと、仮想訓練室へ行こうか」

 

「あぁ」

 

 二人は研究室から少しだけ離れた場所にある仮想訓練室へ足を運ぶ。

 

 仮想訓練室はザムシャーのデータ収集などを目的として作られた施設である。

 

 他にも暴走した怪獣娘の力を安定させるための装置の開発のためにも使われていた。

 

『それじゃあ、はじめてくれ!』

 

 スピーカーから我夢の言葉が響く。

 

「ソウルライド!ザムシャー!」

 

 ソウルライザーを起動して体を獣殻が覆う。

 

 刀袋から星斬丸を取り出して、何度か素振りを行う。

 

「前よりも体に馴染んでいる気がするな」

 

『仮想敵を出すよ!準備はいいかい?』

 

「頼む!」

 

――仮想敵。

 

 それはこの訓練室のみシミュレーションで生み出すことができる特別な敵。

 

 目の前に現れるのは過去に存在していたと言われる怪獣。

 

 ただし、あくまで過去の文献などを基にした存在にすぎない。

 

 星斬丸を構えて駆け出すザムシャー。

 

 目の前の敵の攻撃をいなしながら次々と倒す。

 

 しばらくして仮想敵の姿が消えた。

 

『終了!体の調子はどう?』

 

「問題ない……いや、前よりも適応している感覚だな」

 

 星斬丸を鞘へ納めてザムシャーは手をにぎにぎと動かす。

 

 前よりも思うとおりに体が動く。

 

 ソウルライザーを解除して人の姿へ戻る。

 

「どうだった!?」

 

「体に問題はない。むしろ前よりも動ける感覚だ」

 

「データを見る限りカイジューソウルとうまく同調できている。もう大丈夫だ」

 

「長かったな」

 

「イレギュラーなことだったから仕方ない……って、ごめん」

 

「事実だから気にしていない」

 

 謝る我夢にザムシャーは首を振る。

 

 もともと、男であるザムシャーが怪獣娘になれたということで様々な問題があった。

 

 覚醒当初にうまくカイジューソウルと同調できなかったザムシャーは酷く不安定な状態で我夢達に何度か迷惑をかけてしまったことがある。

 

 そのことを思い出した我夢へ気にするなとザムシャーは言う。

 

「同調できたんだ。後は“元”に戻る方法を探そう」

 

「……」

 

 励ますような我夢の言葉にザムシャーは答えなかった。

 

「そうだ!大学の友達と夕飯を食べるんだけど。ザムシャーも一緒に来ない?」

 

「俺も?」

 

「うん!きっと仲良くなれると思うんだ!」

 

「……そうだな、どうせだ。行ってみる」

 

「ようし!じゃあ、すぐに行こう!」

 

 我夢とザムシャーが歩き出そうとした時、施設内が大きく揺れて警報が鳴り出す。

 

「警報!?」

 

「我夢はここにいろ。俺がみてくる」

 

 応答を待たずにザムシャーは爆発の音が聞こえた方向へ走る。

 

 走り出したザムシャーの目の前の隔壁が爆発を起こした。

 

「っ!」

 

 手で顔を防いだザムシャーの前にはシャドウがいた。

 

 しかし、ザムシャーの知るぶよぶよしたシャドウではない、騎士甲冑のようなものを纏い、赤い瞳のようなものが顔についている黒いシャドウ。

 

「……シャドウビースト」

 

 シャドウの上位種がそこにいた。

 

「ソウルライド!ザムシャー!」

 

 ソウルライザーを起動してザムシャーは星斬丸を構える。

 

 騎士型のシャドウは腕を槍のようなものへ変えるとザムシャーへ突貫してきた。

 

 振るわれる槍をザムシャーは星斬丸で受け流す。

 

 受け流すと同時にがら空きになっている胴体へ刃を振るう。

 

「一閃!」

 

 がら空きになった体へ放った星斬丸の一撃でシャドウビーストの体は斬られる。

 

「チッ」

 

 ザムシャーはシャドウビーストから距離をとった。

 

「固いな」

 

 星斬丸は確実に目の前のシャドウビーストの体を切り裂いた。

 

 しかし、表面だけで肝心の内部に至っていない。

 

「とてつもない固さか」

 

 ブンと星斬丸を振りながら構えなおす。

 

「ギギギギギ!」

 

 不気味な声を出しながらザムシャーへ迫るシャドウビーストだが、目の前に現れたバリアーの壁に正面から激突した。

 

「これは」

 

「ザムシャー……」

 

 後ろから聞こえた声に振り返ると一人の怪獣娘が立っていた。

 

 腰まで届く長い髪、頭部の触覚。

 

 全体的に黒い姿。

 

「久しぶりだな、ゼットン」

 

 宇宙恐竜 ゼットンのカイジューソウルを宿した少女、ゼットンが表情を変えずに立っていた。

 

「久しぶり」

 

「少し手伝ってもらえるか」

 

「ン」

 

 頷いたゼットンは目の前で火球を生み出してシャドウビーストへ放つ。

 

 シャドウビーストの体は一兆度の火炎によってその体が黒焦げにされてしまう。

 

「星斬丸!」

 

 叫びと共にザムシャーが高速で鞘から刃を振りぬく。

 

 ゼットンの火球とザムシャーの一撃によってシャドウビーストの本体、そして核を切り裂いた。

 

 体を両断されたシャドウビーストは不気味な笑いをあげながら消滅する。

 

 シャドウビーストが消えたことを確認してザムシャーは星斬丸を鞘へ納めた。

 

「すまないな。ゼットン、助かった」

 

 フルフルとゼットンは首を横へ降る。

 

「いつ、戻ってきたの」

 

「連絡を入れたはずだぞ?」

 

「文字化け」

 

「……あぁ、すまないな。調整が終わってから連絡を入れるつもりだったんだがな」

 

「そう」

 

「怒っているか?」

 

「……少し」

 

「すまん」

 

 謝罪するザムシャーの前でゼットンはテレポートする。

 

「ザムシャー!」

 

 肩をすくめていたところで我夢がやってきた。

 

「我夢」

 

「大丈夫だったかい?」

 

「あぁ、助っ人もいたしな」

 

「助っ人?」

 

「それよりシャドウの襲撃だったが施設は大丈夫だったか」

 

「隔壁のいくつかが壊されていたけれど、大丈夫だった」

 

「そうか、この調子だと夕飯は無理そうだな。俺は帰るよ」

 

 事後処理や施設の状況を確認しなければならない。おそらく我夢は動けないだろう。

 

「あぁ、またの機会に!」

 

 手を振ってザムシャーは我夢と別れる。

 

 ちらりと施設内を見渡してから彼は歩き出した。

 

 

 




今回、ウルトラマンガイアの高山我夢と名前だけですがウルトラマンギンガの一条寺友也が登場しました。

二人とも並行世界の人物なので、ウルトラマンになったり、ジャンナインに搭乗はしていませんが天才的な頭脳は健在です。


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第四話 相談事とインパクトな再会

今回、ある意味のメインヒロインが出てきます。


何か、評価をたくさんもらえて、驚いています。

これからも楽しみにしていてください。



「あれ、ザムシャーさんじゃない!」

 

 休日のお昼ごろ、

 

 アギラは仲良しのミクラス、ウィンダムと共に町中を歩いていた。

 

 楽しく三人でクレープを食べていた時、ミクラスがある方向を指さす。

 

 人ごみの中を流れる様にすいすいと進んでいく人物。

 

 間違いない、確かに自分たちの教育役を務めているザムシャーだ。

 

 講義はピグモン、訓練、その他などはザムシャーが面倒を見てくれている。

 

 遠征においては同行してもらえなかったが頼りになる人だとアギラは思っていた。

 

 そんな彼は相変わらず背中に刀袋を下げているがいつものスーツ姿ではない。

 

 黒を基調としているがラフな格好をしている。

 

 完全な私服姿だ。

 

「何か用事でもあるのでしょうか?」

 

「ハハーン」

 

「ミクちゃん?」

 

 ミクラスが何か気付いたようなポーズをとる。

 

 その顔はニヤリとしていた。

 

「きっと、あれだ!デートだよ!」

 

 面白いものをみつけたというようにミクラスは笑みを浮かべる。

 

「「デート!?」」

 

 ミクラスの言葉に二人は叫ぶ。

 

 デート、それは年頃の女の子がきけば飛びつきかねない話。

 

 男女一度はやってみたいこと。

 

 その言葉を聞いた二人は衝撃を受ける。

 

「デート、た、確かにザムシャーさんはそういうことがあってもおかしくはないお年頃でしょうけれど……アギさんはどう思いますか?」

 

 隣を見たウィンダムは言葉を失う。

 

「で、デート、ザムシャーさんがデデデデデデデデデデデデデデ!」

 

「アギさん!?」

 

 ガタガタと体を震わせるアギラの姿にウィンダムは叫ぶ。

 

 なぜ、彼女がこんな奇行に走っているのかわからず心配する。

 

 しかし、アギラは壊れたラジカセのようにぶつぶつと同じ言葉を繰り返していた。

 

 斜め四十五度で叩けばなんとかなるだろうか?

 

 そんなことをウィンダムが考え始めた時。

 

「あ、行っちゃうよ!」

 

「行こう」

 

 小さく、けれど決意ある声でアギラは駆け出した。

 

「アギさん……!?」

 

「アタシ達も行くよ!」

 

 慌てて走り出したアギラを追いかける二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尾行されていることを知らないザムシャーはマイペースに進んでいく。

 

 そんな彼の姿を見てアギラはぱしゃりと端末のカメラで写真を撮る。

 

「アギさん、何をしているんですか?」

 

「写真撮影」

 

「それは、と――」

 

 ウィンダムの言葉を遮るようにミクラスが指さす。

 

「あ、あのお店に入ったみたい」

 

 ミクラスの視線を追いかけると。

 

「ここって」

 

「確か、女の子に大人気のスイーツ店ですよね?」

 

「どうする?入る?」

 

 ミクラスが店内を覗き込もうとして固まった。

 

「ミクちゃん?」

 

「あ、な、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 信じられないものをみたような声を上げるミクラスに周りがぎょっとした表情を向ける。

 

「ちょっと、どうしたんですか!?落ち着いてください!」

 

 慌てて、ウィンダムがミクラスに駆け寄る。

 

「落ち着けるもんか!あれ!あれぇ!」

 

 半ば泣き叫ぶミクラスの視線。

 

 その先にいたのは彼女が尊敬する大怪獣ファイターであるレッドキング。

 

 彼女が楽しそうにケーキを食べている。

 

 向かい側にいる相手はザムシャー。

 

 普段みることのない笑顔のレッドキングにミクラスはショックを受けている。

 

「お二人で、デートなのでしょうか?」

 

「ミクちゃん!」

 

「……アギちゃん!」

 

 二人はがしりと互いの手を握り締める。

 

「何でしょうか……これ」

 

 自分が可笑しいのだろうかと本気で考えてしまうウィンダムだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「どうしたんだよ」

 

「いや、誰かが叫んでいたような気がして」

 

 有名なスイーツ店内。

 

 そこでザムシャーの向かい側に座るレッドキング、横に小さいがザンドリアスがいる。

 

「なぁ、レッドキング」

 

「何だよ?」

 

「お前、本当においしそうな顔して食べるよな」

 

「なっ!!」

 

「ザムシャーさんはおいしくないんですか?」

 

 ザンドリアスが問いかける。

 

 彼女は先日、暴走した怪獣娘で現在はレッドキングが指導役と面倒を見ている。

 

 レッドキングへ会いに行った際に普通の人なら死ぬようなことをさせられそうになっていた場面に遭遇してしまい、スイーツ店へ誘うことで救った。

 

 彼女はザムシャーに襲い掛かったということで負い目があるのかザムシャーへおずおずと話しかけた。

 

「おいしいぞ。それよりも笑顔を浮かべて味わっているレッドキングをみているほうが楽しいかもな」

 

「なっ!なぁああっ!」

 

 顔を真っ赤にするレッドキング。

 

 その横でザンドリアスが呆れたようにため息を零している。

 

「スパルタから助けてくれたことは感謝するけれど、この人、超鈍感かも」

 

 ぽつりと言葉を漏らしたザンドリアス。

 

 幸運なのか、言葉は二人に届いていない。

 

「さて、甘いものを食べたところで少し真面目な話をするか」

 

「何だよ」

 

「最近のシャドウについて、変なシャドウの報告……聞いているだろ?」

 

「あぁ、シャドウの上位種、シャドウビーストに変な姿をしている奴のことだろ。ザムシャーは実際に遭遇してみてどうだったんだよ」

 

「強かったな。本気で挑めば倒せるだろうが、新入りとか戦いなれしていない奴はキツイな」

 

「……そっかぁ、じゃあ、先輩としてオレらが頑張らないといけねぇな!」

 

 隣で青ざめているザンドリアスを置いて、二人は真剣な話をする。

 

「さて、前置きはこれくらいにして、お前に相談があるんだ」

 

「え、あれだけ重要にみえたのに前置きだったの!?」

 

「重要だったんだがな、俺にとってはこっちが重要になるんだよ」

 

「ザムシャーの重要な話って、あれだよな?」

 

 以心伝心。

 

 互いの考えていることがわかるくらいレッドキングとの付き合いはある。

 

「あぁ、あれだ」

 

 真剣な表情でザムシャーはソウルライザーを取り出す。

 

 端末を開いてメール画面を開く。

 

「前に文字化けしていたということで改めてメールを送りなおしたんだがな……内容がこれなんだよ」

 

 覗き込むレッドキングとザンドリアス。

 

「「え?」」

 

 メールを見た二人は息をのむ。

 

【殺す】

 

 ただ一言、しかし、とても恐ろしく感じる内容だった。

 

「(ナニコレ!?とっても怖いんですけれど!誰が送ってきたの!?)」

 

「あー、こりゃ、相当、怒っているかもしれねぇなぁ」

 

「そうだよなぁ、会いに行くべきなんだけどさぁ、どうもすれ違ってばっかりなんだよ」

 

「……ザムシャーは死にたいわけか?」

 

「俺にそんな趣味はない……」

 

「あのぉ、ザムシャーさん。このメールの送り主って」

 

「あぁ、相手は」

 

 ザムシャーが相手の名前を告げようとした時、端末に警報が鳴り出す。

 

「タイミングが悪いな。行くか」

 

「うし!オレも行くか」

 

「ザンドリアスはついてきてもいいが、どうする?」

 

「え、私!?」

 

「どうせだからついてこい!色々と知るべきだからな!」

 

 立ち上がったレッドキングはザンドリアスを脇に抱えて走り出した。

 

「……まぁ、指導係は俺じゃないし、いいか」

 

 支払いを済ませてザムシャーは走り出す。

 

 既にレッドキングはソウルライドして戦場へ向かっている。

 

 ザムシャーもソウルライザーを起動した。

 

 獣殻を身に纏い走り出した時、中学生の女の子を襲おうとしているシャドウの姿がある。

 

「星斬丸!」

 

 叫びと共に鞘から抜いて目の前のシャドウを切り裂く。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、はい!」

 

 頭の左右をドリル型の団子?の少女は頷いた。

 

「ここは危険だ。すぐに安全なところまで逃げるんだ」

 

「はい!」

 

「良い子だ」

 

 ザムシャーは少女の頭を撫でながら立たせる。

 

「あ、あの、貴方は?」

 

「ただの宇宙剣豪だ」

 

 ザムシャーはそういって駆け出す。

 

 目の前にはうじゃうじゃと湧き出ているシャドウの姿。

 

「さてさて、暴れるとするか」

 

 星斬丸で次々とシャドウを切り裂く。

 

 背後から襲おうとする個体もいるが振り返らずに一撃で突き立てる。

 

 鞘に星斬丸を収めて周囲を見た。

 

 敵はもういないか。

 

「ザムシャーさん!」

 

「アギラか」

 

 息をきらせてやってくるアギラ。

 

「その様子だとシャドウと戦闘していたみたいだな」

 

「はい、その、近くにいたので」

 

「ケガはないか?」

 

「大丈夫です。ザムシャーさんは?」

 

「問題ない」

 

 二人は同時にソウルライザーを解除する。

 

「GIRLSには連絡しておいたからまもなく調査が入るだろう……お前は一人か?」

 

「いえ、ミクちゃん達と」

 

「いつもの仲良しトリオか」

 

「ザムシャーさんは?」

 

「俺はレッドキングと」

 

「デートですか?」

 

 震えるような声でアギラが問いかける。

 

 その瞳は不安げに揺れていたのだがザムシャーは気づかない。

 

「ん?いや、相談だよ」

 

「相談?」

 

 首を傾げるアギラにザムシャーはため息を零す。

 

「あぁ、相談事、こっちの意見を聞きやしない、わからずやのことでな」

 

「そう、わからずやなの?」

 

「あぁ、こっちが事情を説明してもメールに返事をしない。既読スルーをやらかす全く困った奴だよ。そもそも昔から苦労する奴なんだよ。不器用な癖に一匹狼を気取って、自分の好きなことには全力投球、そのことに巻き込まれる方のことも」

 

「あの、ザムシャーさん」

 

「うん?なんだ、アギラ」

 

「後ろ」

 

「あ?後ろ?」

 

 アギラに言われて振り返るザムシャー。

 

 すぐに前を向く。

 

 だらだらと彼から汗が滝のように流れていた。

 

「さて、アギラ、俺は帰る」

 

「え、あの」

 

「いいか、俺は何も、見なかった!いいな!それじゃ」

 

 逃げようとしたザムシャーの首に白い尾が巻き付いた。

 

 抵抗する暇もないまま後ろに引き寄せられる。

 

 そこにいたのは怪獣娘。

 

 頭に鋭く尖った触覚を持ち、桃色の長い髪、スタイルの良い美女。

 

 だが、鋭い眼光がそれらを台無しにしていた。

 

 絶対零度ともいうべき視線。

 

 その視線を向けられているザムシャーの顔が青くなっていく。

 

「え、エレキング……」

 

「久しぶりね、ザムシャー」

 

「元気そうで」

 

「いいえ、私は怒っているわ。一切の連絡も寄越さず……知っているわよ?海外で色々とやらかしていることを」

 

「何のことでございましょうか?」

 

 目の前のエレキングの威圧にザムシャーは言葉を失っていく。

 

 余計なことを言えば、最後、自分の命はない。

 

「まぁいいわ。あなたのことについてはベッドの上で話をしましよう」

 

「え!?」

 

 離れたところにいたアギラが驚いて顔を赤らめる。

 

「悪いが、遠慮しておこう!報告も、あるし、なぁあああ!」

 

 一瞬のスキをついて逃げ出すザムシャー。

 

「そう、でも、逃げられないわよ」

 

 どこまでも絶対零度の視線でエレキングはザムシャーを見ていた。

 

 直後、爆音のような音を立てて追いかけるエレキング。

 

 命がけの鬼ごっこが開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後、ボロボロの状態でGIRLS本部に運び込まれるザムシャーの姿があったらしい。

 



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第五話 ザムシャーとエレキング

次回からオリジナル展開になります!


「酷い目にあった」

 

 シャドウ襲撃の翌日。

 

 アギラがGIRLSの建物へ入ろうとすると中央階段の近くで悪態をついているザムシャーの姿があった。

 

 GIRLSの制服でサングラス姿だ。

 

「ザムシャーさん」

 

「よぉ、アギラ。一人か?」

 

「うん……」

 

 頷いたアギラはザムシャーの傍へやってくる。

 

「ザムシャーさん」

 

「何だ?」

 

 顎を手の上へのせているザムシャーへアギラは尋ねた。

 

「えっと、あれからエレキングさんとは」

 

「何にもない。俺は無事に逃げきったのさ」

 

 どこか遠い目をしながらザムシャーは答える。

 

 ウソである。

 

 アギラは知っていた。

 

 彼がボロボロの状態でGIRLSに戻ってきていることを。

 

「……エレキングさんと何かあったんですか?」

 

 前にエレキングと会ったがあそこまでおそろしい雰囲気ではなかった。よくて近寄りがたい程度。

 

 実際、ミクラスのいう苦手という感覚が正しいと思うのだが、ザムシャーに対してはどこか容赦ないように思える。

 

「別に~、昔から振り回されているだけだ」

 

「昔、から?」

 

「いわゆる幼馴染っていう奴さ。俺とエレキングは」

 

「幼馴染……」

 

 アギラをみて、ザムシャーは顔を近づける。

 

「お前、大丈夫か?」

 

「え?」

 

「いや、なんというか、元気がないというか……そんな感じがして」

 

「そうかな?」

 

 首をかしげるアギラ。

 

 しかし、チクリと何かが刺さった様な痛みがあった。

 

 その痛みが何なのか考えようとしてもモヤがかかってよくわからない。

 

「俺の気のせいだったかな?さて、俺は外にでも」

 

「させないわよ」

 

「ぐぇっ!?」

 

 背後から伸びてきた腕がザムシャーの首元を掴んだ。

 

 変な声を上げて後ろへ仰け反るザムシャー。そのまま、相手は歩き出す。

 

「貴方には調査部の手伝いをしてもらうわ。暇でしょう?」

 

「ぐぅえ!ぐぁ!ぐぉうわ!?」

 

「(首を絞められていて会話しているようにみえない)」

 

 アギラが戦慄している中、やってきたエレキングはザムシャーを捕まえて歩き出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、怒っているのか?」

 

「口よりも手を動かして」

 

「(怒っているな)」

 

 GIRLS本部にいくつかある事務室。

 

 決して大きくない部屋にパソコンと大型プリンター一台。

 

 リフレッシュ用のお茶とお菓子はあるがそれ以外は何もない。

 

 集中して作業をするための仕事部屋。

 

 そこにザムシャーとエレキングはいる。

 

 彼らは明日、GIRLS上層部で行われる会議の資料作りをしていた。

 

「(資料の内容はシャドウについてか……上層部で話し合うということは事態は段々と深刻化してきているということか)」

 

 資料へ目を通しながらザムシャーは思案する。

 

 シャドウは神出鬼没、人や建物を破壊する謎の生命体。

 

 コンタクトを取ろうとするが今のところ成功例はない。

 

 科学者のホリイがコンタクトをとろうとしたが襲撃にあったことをザムシャーは思い出す。

 

「なぁ、エレキング」

 

「黙って、手を動かして、非合理的な作業に割く時間は一秒でも減らしたいの」

 

 質問しようとしたところでぴしゃりと言われてザムシャーは小さく唸る。

 

「非合理的……誰もやらないような仕事、断ろうと思えば断わることも出来た癖に昔からお前は真面目だよな」

 

 ピクッとエレキングの手が一瞬、止まる。

 

「貴方が言うのかしら?壁役を一手に引き受けている癖に」

 

 鋭い目線がザムシャーを見据える。

 

「何のことだ?」

 

「ゼットンほどでもないけれど、貴方は海外のシャドウ、怪獣娘を狙う犯罪集団と戦っている」

 

「流石は調査部だ」

 

「ふざけないで」

 

 メガネの位置を戻しながらエレキングは鋭い視線をむける。

 

 いつもよりも三割増し鋭い。

 

「いくら貴方が現時点で一人しかいない男の怪獣娘だからといって無茶をしていいわけではないわ」

 

「別に無茶はしていないさ。俺のやれるべきことをやっているだけだ」

 

「いいえ、違うわ。貴方は」

 

「――やめろ」

 

 先ほどよりも低い声でザムシャーがエレキングをみる。

 

 サングラス越しからの鋭い瞳を前にしてもエレキングは話を止めない。

 

「やめないわ。何年過ぎても、貴方が変わらない限り、私は言い続けるわ」

 

 対峙するように見合う二人。

 

「変わらないな。お前は」

 

「変わらないわ。私は何年、何百年経とうと、貴方に対する思いは変えない。絶対に」

 

沈黙が場を支配する。

 

 先に折れたのはザムシャーだった。

 

「平行線だ。この話はこれ以上やっても無駄だ」

 

「私は機会があれば続けるわ」

 

「お前は……」

 

「そういえば、タイムリミットが近づいているそうね」

 

 互いに作業の手を止めることなく会話が続く。

 

 仕返しという様に先制パンチを放ったのはエレキング。

 

 ザムシャーの手が止まる。

 

「何で、知っている?」

 

「お節介な人が教えてくれたのよ……罪深い男ね。貴方のことを好いている者が五人もいるなんてね」

 

 さらなる攻撃。

 

「ふーん、って、おい、ちょっと待て!五人ってなんだ?初耳だぞ!?」

 

「貴方が気付いていないだけよ。鈍感は罪ね」

 

 これ以上、話すと自分がドツボに嵌る。

 

 ザムシャーはそう考えて無言で作業を続けることにした。

 

 毒のある会話を続けながらも作業は二時間も経たずに終了。

 

 二人は荷物をまとめてGIRLSを後にする。

 

「じゃ、俺はこれで」

 

 ザムシャーは入り口で別れて帰ろうとした。

 

「待ちなさい。これからデートよ」

 

 去ろうとした彼の腕を掴んでそのまま歩き出す。

 

 身長の高い(ザムシャーより下だが)彼女に引っ張られてしまう。

 

「お、おい!?」

 

「何かしら?」

 

「俺は疲れているから」

 

 掴まれている腕に温もりと柔らかさを感じるも冷静にザムシャーは離れようとする。

 

「こんな可愛い女の子を放置するのかしら?夜道でR指定の漫画であるようなあんなことやこんなことに巻き込まれることになってしまったら――」

 

「おそろしいことを淡々と述べるな……わかったから!わかったから付き合うよ」

 

「はじめから素直になってほしいわね」

 

「あー、はいはい」

 

 エレキングに引っ張られる形でやってきたのはファミレス。

 

「ここで夕食をとりましょう」

 

「その手にあるチケットは?」

 

「割引券を持っていることを思い出したの」

 

「あ、そう」

 

 にこりとほほ笑むエレキングにザムシャーは苦笑する。

 

「じゃあ、メニューを」

 

「私が決めるわ」

 

 ザムシャーがメニューを取ろうとしたらエレキングが奪って店員を呼ぶ。

 

「おい、俺に選ぶ権利くらいあるだろ?」

 

「そういって格安で少量のものばかり選ぶんでしょ?相手のことを考えて、そんなことはしなくていいのよ」

 

「別に……」

 

 詰まったザムシャー。

 

 図星である。

 

 その間に料理が運ばれてくる。

 

 エレキングの好み、そしてザムシャーの好みのものばかりだった。

 

「ところで明日、おまピトのグッズが発売するのだけれど」

 

 おまピトとはお前にピットイン!というアニメの略称。

 

 男女問わず幅広く好まれているアニメだ。

 

 GIRLSの職員で視聴している者もいる。少し前にウィンダムがアギラとミクラスを連れて映写機を使ってみていた。

 

 かくいうザムシャーもエレキングに丸二日ほど拉致されてみせられたことがある。

 

 嫌いではない。

 

「……手伝いでもしろと?」

 

「そうね、人手が多い方が手に入るものも多いわ。お金の心配はしなくていいわ。出すから」

 

「金に困っていないぞ?」

 

「私のプライドの問題です」

 

「あ、そ」

 

 呆れながらザムシャーはエレキングの話を聞く。

 

 自分が海外にいる間の内容、彼女のオススメアニメなど。

 

「ちなみに今季、貴方が気に入りそうなのはSSSS.というアニメよ。刀を使う男がいるから気に入るかもしれないわね」

 

「お前、俺が刀使っているから言っているわけじゃないよな?」

 

「そんなことないわ」

 

「……怪しい」

 

「酷いわ。幼馴染の言葉を疑うなんて」

 

「ウソ泣きする素振りくらいみせるだろ……真顔で顔を近づけないでくれ」

 

 メガネ越しとはいえ、鋭い瞳にザムシャーは少しびびりそうになる。

 

 ファミレスで食事を終えて外に出た。

 

 薄暗い夜空の下、二人は歩いていく。

 

「送ってくれるわね?」

 

「あぁ、その前に」

 

 ザムシャーは鋭い瞳でエレキングを守るようにしながら暗闇を睨む。

 

「いい加減、出てきたらどうだ?」

 

 その言葉に柱の陰から一人の男が出てくる。

 

 ふらふらとおぼつかない足取りで手にはナイフを持っていた。

 

「へへへへ、お前が悪いんだ。俺の天使にぃ近づくからなぁ!」

 

 口の端にブクブクと涎が垂れている。

 

 明らかによくない薬をやっている感じだった。

 

 ザムシャーが身構えている前で男は奇声を上げてナイフで襲い掛かる。

 

 振るわれるナイフをザムシャーは刀袋で防ぐと同時に弾き飛ばして、そのまま拳で顔を殴った。

 

 殴られた男は口の端から唾液を零しながら地面に倒れる。

 

「弱いな……」

 

 ピクピクと痙攣している男の姿を見ながらザムシャーは端末で110番通報した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストーカーに狙われているなら狙われていると正直に言えばどうだ?」

 

 男をやってきた警察へ引き渡す。

 

 GIRLSの身分証を見せたことで後日、事情聴取ということになりエレキングをザムシャーは家まで送り届ける。

 

 道中でわかったことだが、エレキングは少し前からストーカーに付け狙われていたらしい。

 

「言ったら貴方はすぐに飛び出していくでしょう?」

 

「当然だ。怪獣娘を守るのが俺の仕事だし」

 

「助けてと言えば迷わずに向かうことは良いことかもしれないけれど、私は嫌いだわ」

 

 エレキングはそういうとザムシャーの手を引く。

 

「おい、家の前まで送っただろ」

 

「終電、もうないわよ?」

 

「なぬ!?」

 

 端末を起動して時間を確認する。

 

「マジ、か!」

 

「今日は私の家に泊っていきなさい」

 

「はぁ、仕方ないか」

 

 

 ため息を零しながらザムシャーは家の中に入る。

 

「お邪魔します」

 

「ただいまは?」

 

「お前の家族になった覚えはない。お邪魔しますで十分だ」

 

「残念だわ」

 

 ため息を零すエレキング。

 

 ザムシャーはある部屋のドアを開けた。

 

 最低限の家具とベッド。

 

「この部屋、まだ残していたんだな」

 

「当然よ。貴方の部屋だもの」

 

 後ろからエレキングがザムシャーの肩へ頭を乗せる。

 

 ザムシャーの鼻をエレキングの髪がくすぐった。

 

「貴方と私の大事な思い出の部屋よ」

 

「……もう終わった話だろ」

 

「私は認めていないわ」

 

「悪いが俺はよりを戻すつもりはない。お前も忘れて新しい――」

 

「先に風呂に入って」

 

 顔にぺしゃりとタオルを叩きつけられる。

 

 少し痛いと感じながらザムシャーは風呂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(本当に、女心がわからない相手ね)」

 

 エレキングは風呂へあっさりと向かったザムシャーのことを考えてため息を吐く。

 

「(いえ、わかっているから、あんな態度をとるのでしょう)」

 

 昔からあぁなのだ。

 

 自分よりも誰かを優先する。

 

 相手のことはしっかり評価する癖に自分のことに対しては評価が低い。違う、低すぎるのだ。

 

「(あんな環境に居れば当然かしら)」

 

 幼いころから彼を知っているからこそ、彼のことなどわかる。

 

 何より彼の家は色々と問題を抱えていたのだ。あんな環境でザムシャーのような人間が今のように育てられたのは奇跡だ。

 

 

「(とにかく、彼はしばらく日本にいる。ならば、その間に色々と調べましょう)」

 

 ザムシャーが海外で何をしていたのかは知っている。

 

 問題はザムシャーが何を隠しているのかだ。

 

「(彼の友好関係から調べるべきかしら……すべて調べて、彼ともう一度、ヨリを戻す)」

 

 一度、短い期間だがエレキングとザムシャーは恋人の関係にあった。

 

 どちらから告白したというわけではなく誤魔化すための偽装めいたものだったが、エレキングはそのまま外堀を埋めるつもりでいたのだ。

 

 だが、察知したのか、相手が上手だったのかザムシャーの手によってその関係は終わったものとされている。

 

 エレキングは諦めない。

 

 ザムシャー自身、はっきり自覚していないが彼に好意を寄せている者は多すぎる。

 

 エレキングは当然のことながらGIRLSに所属している者のほとんどは彼に好意を寄せているといってもいい。

 

「(私の中で強敵とみているのはピグモン、レッドキングといったところかしら)」

 

 好意を寄せている者の中にゼットンもいるが彼女の“好意”はどういったものなのかよくわからない。

 

「(それにしても)」

 

 アニメなどが趣味の自分がまさかアニメみたいな展開になるなど夢にも思っていなかった。

 

 これもすべて。

 

「おーい、風呂、終わったぞ」

 

 ドアを開けて寝間着姿の彼がやってくる。

 

 彼のために用意していた寝間着を使っているから当然のことながらサイズはぴったり。

 

 肩まで伸びている髪を解いているから後ろからみれば、女の子と間違えてしまうかもしれない。

 

「どうした?」

 

「別に、では、貴方の汁が入ったお風呂を満喫させてもらおうかしら」

 

「怖いことを言うな」

 

「冗談よ」

 

「……そうか」

 

 あの目は疑っている。

 

 エレキングは付き合いが長いから彼が何を考えているのか予想できる。

 

 安心してほしい。

 

 自分はそこまで変態ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多分……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一緒に寝ましょうか」

 

「冗談は寝てからにしなさい」

 

「一緒に、寝るわ!」

 

「ソウルライザーを取り出すな!わかった……わかったから!」

 

 断らないことは正解だ。

 

 もし、拒絶すれば縛ってでも一緒に睡眠をとっただろう。

 

 ザムシャーが気付いているか知らないが。

 

 メガネを外して寝間着姿で互いにベッドの中に入る。

 

 距離をとろうとしていたザムシャーを背後から抱きしめた。

 

 一瞬、体を震わせたが抵抗は無駄だと知っているのか大人しくしている。

 

「(昔よりも彼の背中が大きい)」

 

 それは当然かとエレキングは考える。

 

 あれからかなりの月日が過ぎていた。

 

 成長するのは当然だ。

 

「(アピールしているのに反応がないというのは辛いわね。いっそのこと過ちを犯してやろうかしらと思ってしまう)」

 

 瞳を暗くしながらエレキングは衝動にかられそうになるのを堪える。

 

 おそらく、間違いなく、本気で実行したら彼は抵抗する。そして、嫌われてしまうだろう。

 

 未来がわかっているからこそ、エレキングは実行しない。

 

 アプローチを続けて、いつか、彼から襲ってもらえるようにするのだ。

 

 エレキングは胸を押し付けながらそんなことを考える。

 

 重たくて邪魔だと思っていたがこういう時は便利。

 

 そうエレキングは考えながら眠りについた。

 

 翌朝、寝がえりをうったザムシャーが自分に覆いかぶさっているところを見て、堪能するのは内緒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴリラン航空206便をご利用いただきありがとうございます。当機はまもなく日本へ到着いたします』

 

 飛行機の機内。

 

 豪華なシートに腰かける女性が目を開ける。

 

「ようやく日本か」

 

「楽しみだね!」

 

「あぁ……何より、日本には奴がいる」

 

「お姉ちゃんたち!ボク、楽しみだよ!」

 

 話している女性二人の後ろから少女が顔を出す。

 

「楽しみだなぁ、お爺ちゃんには聞いているけれど、どれだけ強いのかなぁ、宇宙剣豪って!壊し甲斐があるよ!」

 

 ニコニコと純粋な笑顔で物騒な言葉を吐き出す少女。

 

「壊して、壊して、徹底的に壊して、ボクのものにするんだぁ!あぁ、楽しみだなぁ」

 

 ぽつりと呟きながら少女は思いを馳せる。

 

 これから自分が壊すべき相手のことを。

 

 




エレキングさんの話と次回の話のつなぎ。

ところどころ、ウルトラマンネタを挟んでいます。



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第六話 超獣 襲来!

もし、ウルトラ怪獣擬人化計画の三期がスタートした場合、超獣が出てくるのだろうか?

この作品は書くときにウルトラソング聞きながらやっていると筆が進む。

ウルトラマン愛、故だろうか?

ちなみに今回の話はウルトラ怪獣擬人化計画ギャラクシーデイズのコミックを参考にしています。


 GIRLSの会議室。

 

 そこに三人の姿がある。

 

「ピグモン、良いか?」

 

「はい、お願いします」

 

 俺はピグモンに確認を取ってから正面スクリーンに映像を表示する。

 

 画面には初老の男性が映った。

 

『初めまして、GIRLS日本本部の諸君、私はアーサー・グラント、GIRLSオーストラリア本部の責任者だ』

 

 映像に現れたのはGIRLSオーストラリアの本部長であるアーサー・グラント、大金持ちでオーストラリアのGIRLSの設立に多大な寄付を行い、自らが責任者になった。

 

 冷静で、的確な指示などをすることで下からの信頼も厚い。

 

 時々、頭の固いのが傷だが。

 

『突然の連絡に驚かれていると思うが事態は急を要するため、友人であるザムシャーを介して連絡をさせてもらった。先日、オーストラリアから日本へ怪獣娘が数人向かったことが発覚した』

 

「怪獣娘、ですか?」

 

 ピグモンが首をかしげる。

 

『そうだ。ただ向かっただけなら事務的な報告で済んだのだが、彼女達の目的に問題がある』

 

「目的とはなんです?」

 

『ザムシャーの抹殺』

 

 アーサーの言葉にピグモンと同席しているエレキングが目を見開いている。

 

「アーサー、一応の確認だが、俺が狙われる理由は?怪獣娘といっても俺は二大コンビとしか面識ないぞ?」

 

 GIRLSオーストラリア本部にはシラリーとコダラーという二人の怪獣娘がいる。

 

 二人は仲が良く、タッグを組んで事態の解決にあたる。一度だけ手合わせをしたがてこずったということだけ記しておこう。

 

『キミが狙われる理由についてだが……ノルバーグを覚えているだろうか?』

 

「忘れるわけがないだろう」

 

「ザムシャー、ノルバーグというのは?」

 

 エレキングの疑問にアーサーが答える。

 

『ノルバーグは自然保護のために活動していた科学者だ。だが、彼は人間が自然を破壊していると考えてから人間を洗脳して、自分が統治するという危険思考に至り、無関係の若者たちに違法な人体実験を行った危険な科学者だ』

 

「実験台にされた若者たちは植物人間になってしまった。偶然だったのだが、俺はオーストラリア本部の面々と協力してノルバーグと彼に操られた人間の捕縛に協力した……確か、ノルバーグは懲役が決定して牢屋の中だろ?」

 

 その段階になってザムシャーはオーストラリアを離れた。別件でそこから離れなければならない事態が起こったのである。

 

『その後、ノルバーグの助手だった人物の証言で彼から教育を受けていた怪獣娘の存在が確認された』

 

「教育ですか?」

 

『特別な指示を受ければ行動を起こす、いわば暗殺の部隊のような役割を受けていたらしい……向こうのいう調整が終わっていなかったために秘密の施設におり、我々の捕縛で発覚しなかったらしい』

 

「まーた、面倒なものを残していたもんだ」

 

『詳しいことはわからないが牢獄からノルバーグが直接指示をだしたようだ。指示の内容がザムシャーの抹殺ということらしい』

 

 どうやらあの時のことで相当、根にもたれているようだ。

 

「しかし、オーストラリア本部でその怪獣娘を捕縛することはできなかったのか?二大怪獣娘がいたほどだし」

 

 

『本当はね。僕達だけで捕まえるつもりだったんだよ』

 

『チャールズ、割り込むんじゃない!』

 

 画面にメガネをかけたオーストラリア本部の科学者の一人、チャールズが割り込んでくる。

 

 お調子者で口の軽い人物だが、仕事などに関しては信頼できる。

 

 彼女が定期的に変わることで有名だ。

 

「久しぶりだな。チャールズ」

 

『やぁ、ザムシャー、久しぶり!キミの勧めてくれたレシピ、とてもおいしかったよ!』

 

『チャールズ!』

 

アーサーがチャールズを画面から追い出す。

 

「アーサー、どういうことか話してくれ」

 

『当初は我々、オーストラリア本部のメンバーでその怪獣娘を捕縛するつもりだった。しかし、相手は普通の怪獣娘ではなかった』

 

「普通ではない?まさか!」

 

エレキングが目を見開く。

 

『ノルバーグが手にした怪獣娘は“超獣”にカテゴライズされる者達だったのだ』

 

「超獣……」

 

――超獣。

 

 れは怪獣と異なる力を持った存在。

 

 過去に出現して怪獣をバラバラにしたことや武器を体内に内蔵していたことから怪獣を超えた存在として超獣という分類が作られた。

 

 怪獣娘においても出現の可能性は示唆されていたが実在していたことに俺達は驚きを隠せない。

 

『捕縛に参加したアーミー、そして“コダラー”、“シラリー”の二人も傷を負って治療中だ』

 

「おいおい、あの二人を倒すなんて相当の実力だな……」

 

「日本本部も警戒を強めます!」

 

『すまない、キミに後始末を押し付けるような形になってしまった』

 

「別にいいって」

 

『ノルバーグのアジトで回収した情報はそちらへ転送してある。援軍……といえるかはわからないが私の優秀な部下を数名、そちらへ送る。どれだけ役立てるかわからないが』

 

「いいや、助かった。ありがとう、アーサー」

 

『健闘を祈るよ』

 

 通信が終わり、画面がブラックアウトする。

 

 エレキングが室内の電気をつけた。

 

「さて、と」

 

「どこへいくつもり?」

 

 出ていこうとした俺をエレキングが呼び止める。

 

「相手は俺を狙っているんだ。だったら人に危害が及ばないところで待ち構えるべきだろ?その準備だ」

 

「ザムザム!どうして戦う前提なんですか!」

 

「ピグモンの言うとおり、貴方を保護して私達が戦うという手段もある」

 

「悪いけれど、皆が傷つくのを指くわえてみているなんてことはできない。俺を狙っているというのならこっちからお呼びすればいい」

 

「ザムザムが傷つくことはないですぅ!オーストラリア本部から送られてきた情報などを精査して対策を立ててからでも遅くはないです!」

 

「ピグモンの言うとおりよ。あなた一人が無茶をする必要はない……といっても貴方は聞かないでしょう。だから!」

 

 ソウルライドしたエレキングが長い尾で俺の体を封じ込めようとする。

 

 “動きが視えて”いた俺は捕まる前にドアを蹴り開けて外に飛び出す。

 

 ゴロゴロと転がりながらそのまま窓から外へ踏み出した。

 

「ザムシャー!!」

 

 後ろから鬼気迫る表情で追いかけてくるエレキング。

 

 その目は必ず捕まえるという感情、そして。

 

「ごめんな」

 

 謝罪しながら重力に引かれて落下していく。

 

 空中でソウルライザーを起動してソウルライドする。

 

 地面へ着地すると同時に全力でGIRLSの建物から離れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザムザム!ピグモンは怒っているですぅ!」

 

「問題ないわ」

 

 ぴょんぴょん跳ねているピグモンの前で冷静にエレキングはある端末を取り出す。

 

 MAPに赤い点が表示されていた。

 

「エレエレ、これはなんです?」

 

「ザムシャー追跡レーダーよ」

 

「え?」

 

「ザムシャー追跡レーダー。アイツが日本にいる限りどこだろうと逃げられないわ」

 

 にこりと笑みを浮かべているエレキングだが、その瞳は笑っていない。

 

「(エレエレ、怖いですぅ!)」

 

 ピグモンが戦慄している時。

 

「でしたら、その端末を手にすればザムシャーを追いかけることができるということですね?」

 

「誰です!?」

 

 叫んだ直後、空間が割れた。

 

 赤い空間から日傘のようなものを手にした怪獣娘が現れる。

 

 オレンジ色の髪に青い獣殻のようなドレスを纏った少女。

 

「こんにちは~」

 

「この施設にどうやって!」

 

「私、異次元空間を移動する能力を持っていまして……どれだけ強固なセキュリティーを持っていようと問題ないのです~」

 

 にこりとほほ笑みながら怪獣娘が笑みを浮かべる。

 

「あ、自己紹介が遅れました。超獣のバキシムといいます。できれば穏便に済ませたいのでその端末を渡してもらえないでしょうか?」

 

「断るわ」

 

 ばっさりとエレキングは拒絶する。

 

「これは私の目的のためのものよ。どこの馬の骨になんか渡せないわ」

 

「(さらりと自分の欲望が混じっています!?)」

 

 蚊帳の外になりつつあるピグモンを余所にバチバチと火花を散らすエレキングとバキシム。

 

 尾を構えるエレキングに対してバキシムは日傘を構えたままだ。

 

「!!」

 

 最初に攻撃を仕掛けたのはエレキング。

 

 鞭のように繰り出す尾がバキシムに迫る。

 

「よっと!」

 

 バキシムは高速で振るわれる尾の連続攻撃を右へ左と躱していく。

 

「成程、超獣に喧嘩を売るだけはありますね。でも、この程度なら」

 

 カッとバキシムが両手を前に構える。

 

「相手になりませんよ?」

 

 両手と鼻の部分から放たれる無数のミサイル。

 

 エレキングは咄嗟に盾で防ぐが衝撃は殺しきれず後ろの壁に体を打ち付ける。

 

「え、エレエレ!」

 

「あら、邪魔するの?」

 

「ふ、風船です!」

 

 にこりと笑顔を向けられてピグモンは咄嗟に風船をバキシムへプレゼントする。

 

「これはありがとう、邪魔するなら命はないわよ?」

 

 笑みを浮かべるバキシム、震えるピグモン。

 

「あら、まだやりますか?」

 

 起き上がったエレキングを見てバキシムは微笑む。

 

「やめた方がいいですよ?怪獣は超獣に勝てることはない。それ以上やるというのなら、体がバラバラになる覚悟をしてもらわないといけませんね」

 

「エレエレ!逃げてください」

 

「…………それはできない」

 

 エレキングは強い瞳でバキシムを睨む。

 

「私達は不用意な破壊を望んではいません。ザムシャーの居場所を察知できるというアイテムを渡してもらえれば命や施設の破壊はしません」

 

「断る」

 

「冷静な判断とは思えませんね」

 

「……彼のことで冷静でいられない。それだけのこと」

 

 尾を構えなおしてバキシムを睨んだ。

 

「理解できませんね。自分の命を優先すべきです」

 

「……フッ」

 

 エレキングは笑う。

 

 その姿にバキシムの表情が険しくなった。

 

「貴方を馬鹿にしたわけではないわ……自分の命よりも大事なものを見つけてしまっているから……彼を死地へ踏み込むようなことはさせない。何より」

 

 尾を地面に叩きつけてエレキングは体勢を落とす。

 

「貴方程度を倒せないと彼に追いつくことは到底不可能なのよ」

 

「そう、じゃあ、燃え尽きてしまいなさい」

 

 バキシムが口から高温の火炎を放つ。

 

 しかし、

 

「な!?バリアー!!」

 

 エレキングへ直撃するはずだった炎はバリアーに阻まれてしまう。

 

 バリアーを飛び越えたエレキングが隙をついて尾を振るった。

 

 頭にきつい一撃を受けて体勢が不安定になったバキシムへ連続で尾の攻撃が炸裂する。

 

「ラスト!!」

 

 突如、エレキングはテレポートされる。

 

 驚く彼女だが、その行動が自身の命を救う行為だということをすぐに理解した。

 

 なぜなら、エレキングのいた場所に強力な光線が通過したのだ。

 

 光線は特殊素材で作られていたGIRLSの建物に大きな穴をあける。

 

「あわわわわわ!」

 

 ピグモンが驚いている中、エレキングとテレポートしたゼットンが現れる。

 

「……助かったわ」

 

「どう、いたしまして……でも、油断できない」

 

 二人はバキシムを守るようにしている一人の怪獣娘をみていた。

 

 腕に巨大な刃物を構えている相手はぞっとするほど冷たい目で2人を見据えている。

 

 しかし、バキシムの方が優先だったのか、ふらついている彼女を抱えるようにして異次元の壁を越えて姿を消す。

 

「エレエレ!大丈夫ですか!」

 

 ピグモンが大急ぎでエレキングへ駆け寄る。

 

「……ゼットンの手助けがなければ、やられていた……超獣、シャドウより厄介な相手かもしれない」

 

「とにかく手当をしましょう!それと、他の怪獣娘の皆さんに警告を出します!」

 

「賢明な判断ね。おそらく他の怪獣娘に居場所を問い詰める可能性があるわ」

 

 ちらりと振り返ると既にゼットンは姿を消していた。

 

 気になる後輩の様子をみにいったのだろう。

 

「超獣……あんなのが全てザムシャーを狙っているとなると」

 

 とんでもない事態になる。

 

 エレキングは痛む体を堪えながら対策のために動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、超獣の標的となっているザムシャーはというと。

 

「なぁにこれぇ?」

 

 目の前の光景に間抜けな声を漏らす。

 

 空き地の塀。

 

 木造の塀の一部から突き出ている尻がある。

 

 

――尻である。

 

 黒いスパッツのようなものから覗いている大きな尻。

 

 美尻が突き出ている光景に流石のザムシャーも言葉がでない。

 

「だ、誰かいるのか!?」

 

 疑問が相手に聞こえたのだろう、塀の向こうから焦っている声が聞こえてきた。

 

「まぁ、いるけれど」

 

「すまない!押してもらえないだろうか!つっかえて抜けられないんだ!」

 

「いや、あのさ……押すって、その……美尻を?」

 

「び!?」

 

 相手から戸惑った声が聞こえる。

 

「いや、女の美尻を男が押すっていうのは色々と問題だと思うんだけど」

 

「び、美尻!?ええい!このままというわけにもいかないんだ!頼む!押してくれ!」

 

「……思ったんだけど、戻るという選択肢はないの?」

 

 ザムシャーの疑問にじたばたしていた足が動きを止める。

 

 検討中なのだろうか。

 

「すまない……足を引っ張ってくれ」

 

「わかった」

 

 相手の両足を掴む。

 

 モッチリしている足を掴みながら引っ張る。

 

 少ししてスポーンという音と共に体が抜けた。

 

「た、助かった……」

 

 塀の隙間からスポンと抜けてきたのは美女だった。

 

 細い体に突き出ている部分もあり、女性に耐性のない者からすれば一目ぼれしてしまっただろう。

 

 問題は。

 

「出来れば、落ち着いて俺の話を聞いてほしい。これは不慮の事故であって決して悪意あって触れようとしたわけではないんだ。予想外に勢いがあって」

 

 ザムシャーの手が美女の胸を触っていることだろう。

 

 慌てて手を放したがあのまま押していたらもっと恐ろしい事態になっていた。

 

「あぁ、触れられた……男に……まさぐられるように」

 

 ぶつぶつと何かを呟いている美女。

 

 ザムシャーは落ち着いてから再度、弁明しようと考えていた時。

 

「結婚しなければ!!」

 

「えぇ」

 

 まさかの予想外の告白にザムシャーは呆然としてしまった。

 

 

 




軽い紹介

アーサー・グラント

元ネタはウルトラマングレート、UMAの隊長。
金持ちでUMAに多大な出資を行って、オーストラリア支部も彼の投資によって最新設備が揃えられている。
隊長として信頼関係はあるが、頑固で、偶に信じないこともある。
この作品においても金持ちであることは変わらず。


チャールズ

元ネタはウルトラマングレート、UMAの科学者。
UMAの戦闘機ハマーに乗ることもあれば、科学者として有害な農薬を中和する薬品を開発したりなど、優秀ではある。
ちなみに彼女はいたのだが、仕事の関係で振られてばかりいるらしい。


シラリー&コダラー

ウルトラマングレートに登場する怪獣でありラスボスの二体。
今作においては名コンビといえる怪獣娘。
尚、オーストラリア本部に好意を寄せる男性がいるらしいが、互いに同じ相手を好きになってしまい、火花を散らしているとか、そうでないとか。



今回から超獣シスターズが登場します。
超獣の設定や扱いがどうなるかわからないけれど、とりあえず怪獣より強い、ミサイルなどを内蔵していると言った風になっています。




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第七話 超獣と怪獣

著しいキャラ崩壊があります。

この怪獣が好きな人はすいません!


 

空港。

 

 そこでピグモンはある人たちを待っていた。

 

 片手に風船、もう片方の手にようこそ!と人の名前が書かれている。

 

「ピグモン!」

 

「ジーン!お久しぶりですぅ!」

 

「あれれ、僕は無視なのかい」

 

「お久しぶりです!チャールズさんも!」

 

 ピグモンが出迎えた相手はオーストラリア支部からやってきた応援。

 

 ジーン・エコーとチャールズ・モーガン。

 

 今回の超獣対策のためにオーストラリア支部からかけつけてきたのである。

 

「あれから二日が経過しているけれど、大きな騒動はありません」

 

 再会を喜ぶのは程ほどにしてピグモンは二人をGIRLS日本本部へ連れていく。

 

 用意しておいた会議室で今後の対策などについて話し合う。

 

「オーストラリア本部でも超獣について、過去の資料などについて調べたところ、いくつかわかったことがあります」

 

 ジーンが資料を表示する。

 

「超獣とは怪獣を超える能力を持った改造生物のことをいいます。過去の資料によると超獣と怪獣が戦った際、怪獣が敗北したことから超獣は怪獣より強い存在と認識されているようです」

 

「まー、超がついているからね。怪獣より強いってことだ」

 

「チャールズ!」

 

 肩をすくめるチャールズにジーンが注意する。

 

「何か、聞き捨てならないな」

 

 チャールズの言葉に反応したのはレッドキングだ。

 

「超獣だか何だか知らないが今は同じ怪獣娘だろ?そんな相手にオレ達が負けるわけない!」

 

「師匠、落ち着いてください」

 

「レッドキングさんの言うとおり!」

 

「ミクさんも落ち着いてください!」

 

 着席しているレッドキング、憧れのレッドキングに同意するミクラス。

 

 慌てて落ち着かせようとするザンドリアスとウィンダム。

 

 彼女達も超獣と遭遇する可能性があるのでこの場に集められていた。

 

 その中でアギラはそわそわしたように周りを見ている。

 

「あの……」

 

 手を挙げたのはアギラ。

 

「ザムシャーさんの姿が見えないですけど」

 

 その言葉にエレキング、ピグモン、チャールズ、ジーンの表情が険しくなった。

 

「え?……何か不味いこといっちゃった?」

 

「さぁ?」

 

 戸惑うアギラにミクラスが首を傾げる。

 

「ザムザムのことですが」

 

「大変だよなぁ、ザムシャーも超獣に狙われているんだし」

 

「チャールズ!!」

 

 ジーンが遮ろうとするも時既に遅く。

 

 会議室内が静まり返る。

 

「あれ、どうしたの?」

 

「チャールズ……」

 

 呆れた表情のジーンがチャールズを見た直後。

 

「……………きゅう」

 

 脳の処理が限界を超えたアギラが可愛い声を出して倒れる。

 

「大変だ!アギちゃんが気絶したぁ!」

 

「お、お、お、お、お、お落ち着け!アイツのことだ!早々やられるなんてことはない!」

 

「し、師匠も落ち着いてください~!助けてぇ!」

 

 気絶するアギラ、慌てるミクラス。

 

 悲鳴を上げるザンドリアス、そのザンドリアスを振り回すレッドキング。

 

「カオスね」

 

 光景を見たエレキングがぽつりと漏らす。

 

「もう!皆さん、静かにしてくださぁい!」

 

 ピグモンがぴょんぴょん跳ねる。

 

 会議室内が落ち着いたのはそこから三十分後のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ふぅ、逃げ切れたか?」

 

 俺は建物の陰に隠れて周囲を警戒する。

 

 あれから四時間。

 

 ひたすら逃げ回って体力を消耗している。

 

「まさか、あんなことになろうとは……」

 

 ため息を零しながら外に出ようとした時。

 

「あれ、ザムシャーじゃん」

 

 びくぅ!と体を震わせながら後ろを見る。

 

「なんだ、ゴモラか」

 

「なんだは酷くなーい?」

 

 後ろにいたのは茶髪のショートカットでボーイッシュな印象を持つ少女。

 

 GIRLSに所属する大怪獣ファイトのホープと呼ばれる怪獣娘。

 

 ゴモラである。

 

「気分屋、お前に構っている暇はないんだよ」

 

「酷い!私の扱いが酷い!」

 

「ゴモラの扱いなんてこんなもんだ」

 

 怪獣娘ゴモラ、とにかく楽しいことが大好きで、周りも楽しめるように巻き込む。

 

 迷惑をすることもあるらしい、主にアギラが被害を受けていると聞いていた。

 

「およよよよ~」

 

「……ウソ泣きは満足したか?俺は行くぞ」

 

「待って、待って!冗談だから!本当に待って」

 

 去ろうとしたところでゴモラに腕を掴まれる。

 

「何だ?」

 

「どうしたの?珍しく焦っているようにみえるけど」

 

「……き、気のせいだ」

 

「そうかなぁ?」

 

 ニコォとゴモラが笑みを浮かべる。

 

 その目をみて俺は嫌な予感がした。

 

 ゴモラという怪獣娘は楽しいことが好きだ。

 

 自分と周りを巻き込むトラブルメーカーでもあるが、周りも笑顔にするから仕方ないなぁという扱いになる。

 

 ただし、俺は例外だ。

 

 ゴモラに巻き込まれると大抵、碌な目にあわない。

 

 主にエレキングの追及という精神攻撃になるが。

 

「どうしたの?なーんか重たそうな女に捕まりそうで全速力で逃げてきたという顔をしているけれど」

 

「どういう顔だ。しかも変にピンポイントだな」

 

「そうかな?昼ドラをみたからかもしれない!」

 

「あ、そう」

 

 ともかくゴモラと話をしていて時間を取られるのもマズイ。

 

 さっさと逃げることにしよう。

 

「じゃあ、俺は」

 

「見つけたぞ!」

 

 最悪だ!

 

 振り返ると逃げていた相手が目の前にいた。

 

 片手に婚姻届けを持って。

 

「どこで手に入れた!?」

 

 つい叫んだ。

 

「フッ、こんなこともあろうと何枚か所持していたのだ。さぁ、これに署名と捺印をするんだ!そうすることで私達は結ばれる!」

 

「いやいやいや!初対面で結婚に至ることがおかしい!どうして、そうなるんだ!?」

 

「フフフ、出会ってひとめぼれ、結婚、それが私の望むことだ」

 

 胸を張ることじゃないと思う。

 

「普通!そこは知り合って期間を置くべきものだろう!?相手のことを何一つ知らないだろ!」

 

「そうだ!しかし、長い時間をかけて知っていけばいい!結婚して逃がさないように包囲して、ジワジワと」

 

「洗脳だ!」

 

 我慢できずに叫んだ俺は悪くないと思う。

 

 普通ではない。

 

「ねーねー」

 

「なんだ?」

 

 裾を引っ張られて振り返る。

 

「ザムシャーはあの変な人とどういう関係なの?」

 

「……困っているところを助けた。それだけの関係だ」

 

「何だと!この私の美脚に触れて、さらには……む、胸も押しただろうに!」

 

「はぁ、ザムシャーのいつもの病気か」

 

「待て、俺を病人扱いするな」

 

「え~、だっていつもザムシャーがやっていることじゃん、ザムシャーの毒牙にかかったのはこれで何人目なんだろうか?そもそも一人に絞ればいいんだよ!私とか」

 

「何の話をしている!?」

 

 俺は叫ぶ。

 

 突然の事態に理解が追いつかない。

 

 ふと、俺は気づく。

 

 向こうがやたらと静かだった。

 

 ゴモラと前を向くと、相手はどこから取り出したのか写真と俺を交互に見ている。

 

 なんだろう?

 

「どうしたのかな?」

 

「さぁ、今のうちに逃げる……」

 

 とするか、と言おうとしたところで目の前をミサイルが通過した。

 

 通過したミサイルは近くの信号機に直撃、爆発を起こす。

 

「ふ、ふふふふふ」

 

 飛来した方をみると俯いて笑っている美女の姿。

 

 自然と嫌な予感というものが頭をよぎった。

 

「あぁ、なんということだ!貴様、貴様が!私達の探している相手だったとは!なんという偶然!なんという悪戯だろうか!」

 

「どうしたの?あれ」

 

「さぁ?」

 

 首を傾げていると纏っている外套を脱ぎ捨てた。

 

 中から現れたのは獣殻。

 

 赤い髪のような突起の集合、そして、額に伸びる二本の角。

 

 鋭い爪。

 

 間違いない、相手は怪獣娘。

 

 しかも。

 

「超獣、か」

 

「その通り」

 

 ふっふっふっと相手は笑う。

 

「私の名前はミサイル超獣!ベロクロン!貴様を倒すために海を越えてやってきた!!さぁ、ザムシャー、私と戦え!勝てば婚姻届けにサインをしてもらおう!!」

 

「最後で台無しだ!」

 

 カッコいいなと心の中で思ったら最後で台無しだ。

 

 本当にひどい!

 

「ザムシャー、ここは私に任せてよ!」

 

 星斬丸を取り出そうとしたところでゴモラが止める。

 

「ゴモラ、相手は超獣だ。それに狙いは俺だ。だから」

 

「まーまー!ソウルライド!ゴーモラ!」

 

 俺の呼び止める言葉を聞かず、ソウルライドしたゴモラはベロクロンへ駆け出す。

 

 ベロクロンとゴモラは互いの拳を受け止める。

 

「おー!やるじゃん!」

 

「貴様、貴様は一体なんだ!!」

 

「私?ゴモラだよ!」

 

「そんなことは聞いていない。貴様はザムシャーとどういう関係なのだ!」

 

「うーん、深い関係だよ?」

 

 ウソである。

 

「なん、だと!」

 

 相手は真に受けたようだ。

 

「フフフ!照れ隠しであろう?私に本心を悟られまいという魂胆だろう。貴様のようなチンチクリンを好きになるはずがない」

 

「……チン、ちくりん?」

 

 気のせいだろうか、背筋が冷たい。

 

 ベロクロンはゴモラへ見せつける様に体を前に揺らす。

 

 ぶるんと体の一部が揺れた。

 

「フフフ、そんな体で満足できるものか!」

 

 挑発するベロクロン。

 

「決めた!」

 

 気のせいだろうか、ゴモラは笑顔の筈なのに絶対零度のようなものを感じる。

 

「徹底的に叩き潰す!大きければよいことじゃないってザムシャーに証明してみせる!」

 

「ふふふふ、大きさが正義だ!」

 

 バチバチと火花を散らしあう二人。

 

 何だろうか。

 

「目的、代わってない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先手はゴモラ。

 

「エンヤーキック!」

 

 奇妙な叫びと共に放たれる蹴りをベロクロンは華麗に回避。

 

 回避しながら手を前に伸ばす。

 

「テリブルスラッシュ!」

 

 叫びと共に放たれる光弾がゴモラに迫る。

 

「よっと!」

 

 くるくると回転しながらゴモラは尻尾で光弾を叩き落す。

 

 叩き落したが尾には少しばかり焦げ跡がついていた。

 

「うひゃ~」

 

 焦げ跡を見て驚きの声を漏らす。

 

 続けて放たれる光弾。

 

 ゴモラは飛び回るようにしながら躱す。

 

 直撃した個所から爆発を起こすもゴモラに決定打を与えられない。

 

「ええい!ちょこまかと動きおって!」

 

 光弾を放ち続けるベロクロン。

 

 隙間を縫うようにしてゴモラが接近する。

 

「エンヤアターック!」

 

「しまっ!」

 

 近づかれたベロクロンが防御しようとするが遅い。

 

 放たれた一撃を受けたベロクロンは地面に倒れる。

 

「うし!」

 

 倒したと思った直後、ベロクロンの背中や後頭部の突起物からから無数のミサイルが空へ舞い上がる。

 

「うへぇ!?」

 

 飛来するミサイルの雨。

 

 ゴモラは咄嗟に両手を交差して防ぐ。

 

「これで終わりではないぞ!」

 

 口から巨大なミサイルを放った。

 

 そのミサイルはゴモラのいた場所に直撃する。

 

 大爆発と爆風が周囲に広がった。

 

 吹き飛ばされないように周囲へ大きな瓦礫が飛ばないように星斬丸で弾き飛ばす。

 

「フフフ!これで、私とお前の邪魔をする相手がいなくなったぞ!フフフ、フハハハハハハハ!」

 

 大きな叫びをあげるベロクロン。

 

 既に勝敗は決したと彼女は思っていた。

 

 しかし。

 

 ズボン!

 

 彼女の真下の地面に穴が開いて、そこからゴモラが姿を現す。

 

「は?」

 

 目を丸くするベロクロン。

 

 にこりと笑いながらベロクロンの口の中にゴモラは自らの角を押し込む。

 

「はぐぅ!?」

 

 慌てて引きはがそうとする。

 

「遅いよ!超振動波!!」

 

 ゴモラという怪獣は角から振動波を出す。

 

 振動波を使って地面を掘って突き進んでいくことができる。

 

 怪獣娘であるゴモラはその超振動波を攻撃技として使用することができた。

 

 掘る際にも使えるが攻撃として使う場合、広範囲に攻撃できる上に、特定の相手にダメージを与えることもできる。

 

 何より。

 

「それだけ固いなら中に流すしかないよね!」

 

 バチンと超振動波が終わってゴモラは角を抜いた。

 

 かなりのダメージがあったのか相手は地面に大の字で倒れる。

 

「ブイ!」

 

「大丈夫なのか?」

 

 ピクピクと痙攣しているベロクロンをザムシャーがのぞき込む。

 

「普通、私の心配をすべきじゃないかな?」

 

 ゴモラはベロクロンのミサイル攻撃などでダメージを受けたのか煤だらけの上に獣殻の一部も傷だらけになっている。

 

「お前ほどの猛者がそうそうやられるわけないだろ……まぁ、レッドには無理だろうけれど」

 

「酷いなぁ!まぁ、事実だけど」

 

 ぷりぷりと怒るゴモラ。

 

「さて、気絶しているコイツをGIRLSに連行してくれ。色々と情報を吐き出すはず……おい、何で尻尾が俺の腹に巻き付いているんだ?」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべているゴモラ。

 

 その顔は面白いものをみつけたという表情。

 

「あ、もしもし!エレキング?うん、私~、実はね。ザムシャーを見つけたんだ。え、うん、超獣もいたけれど、倒したよ?それでねぇ!ザムシャーが婚約届を………あ、うん、わかったよ」

 

 通話が終わったのはゴモラがこちらをみる。

 

 その目は面白いものを見つけたというものと哀れみが向けられていた。

 

「今すぐエレキングが来るって、色々とお話がしたいそうだよ?」

 

「……今すぐにこの尾を!」

 

「嫌だよ。面白そうだし……何より」

 

 ゴモラは視線を逸らす。

 

「私の命も危ないし」

 

「…………なんか、すまん」

 

 ザムシャーは謝罪するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、負けちゃったみたいですね」

 

 そんな彼らの様子を遠くのビルからバキシムはみていた。

 

 日傘をさしながら困った様な表情をしている。

 

「お姉ちゃん、負けたの?」

 

「そうみたいです。でも、標的の姿は発見したから良しとしましょうか~。ところで、ちゃんと手にしましたか?」

 

 バキシムは後ろにいたフードをかぶっている少女へ問いかける。

 

「うん!ちゃんと手に入れたよ!」

 

 にこりと頷いた少女の首元が怪しく輝いていた。

 



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第八話 挑戦状

超獣の進撃は続く!


 

「何か言い残すことはあるかしら?」

 

GIRLS日本本部。

 

その一室でコンクリートを膝の上に乗せられているザムシャーがいる。

 

監視役は冷たい瞳のエレキングと絶対零度の瞳のアギラ。

 

入り口には怯えているウィンダムとミクラス、ザンドリアスの姿がある。

 

星斬丸は奪われてエレキングが握り締めていた。

 

「誤解なんです」

 

 冷たい視線にさらされながらザムシャーは口を開く。

 

「そう、初対面の女性に告白されて、婚約届に署名を求められることが誤解というのならそれはとても面白いことね」

 

 エレキングの冷たい視線にザムシャーは目を合わせない。

 

「……ザムシャーさん、署名はしたんですか?」

 

「しておりません」

 

 絶対零度のアギラ。

 

 今にも冷凍光線を吐き出しそうだ。

 

 ソウルライドしているからか二人の怪獣としての姿に周りは怯えている。

 

「あ、まだやってたんだ」

 

 空気を読まずにチャールズが室内に入ってきた。

 

「例の超獣ちゃん。目を覚ましたよ?ザムシャーに話がしたいって」

 

 ギロッと二人の視線が向けられながらもチャールズは平然としている。

 

「行かないの?何か、ザムシャーとしか話をしないとか言って聞かないんだけど?」

 

「行くしかないだろ……」

 

 ある意味、大物だと残りのメンバーは思った。

 

 

 

「待っていたぞ。愛しい人……後ろの有象無象共はなんだ?」

 

「貴方が知るべきことではない。こちらも質問に答えてもらうわ」

 

 拘束されているベロクロンの一室。

 

 逃れられないように特殊合金で動きを封じ込まれている。

 

 万一、脱走できないようにレッドキングが監視もしていた。

 

 ベロクロンはザムシャーの姿を見て笑みを浮かべるもすぐにエレキングとジーンに気付いて視線を鋭くさせる。

 

 冷たくエレキングが質問を投げかけた。

 

「貴方達はどうして彼を狙うの?」

 

「我々の育ての親からの指示だ」

 

「ノルバーグのことね。彼は非人道的なことをしていたのよ!」

 

「あぁ、脳みそを弄って思考能力を奪うという奴か?それがどうした?この世は弱肉強食、操られる奴らは所詮、弱い奴らなだけのこと」

 

「なっ!」

 

「じゃあ、貴方も敗者ね。だって負けたもの」

 

 エレキングが挑発するようにベロクロンへ告げる。

 

「ああ、悔しいことに私は敗者だ。だから、この私のことをぐちょぐちょのぐちゃぐちゃにしていいのだぞ?愛しい人よ」

 

 ベロクロンが熱い瞳をザムシャーへ向ける。

 

 肝心のザムシャーはエレキングの尾によって視界をふさがれていた。

 

「おい!私と愛しい人の逢瀬を邪魔するな」

 

「知らないわ。敗者、こちらの質問に答えなさい」

 

 ビリビリとした空気が漂う中、ジーンが問いかける。

 

「教えて、彼を狙う超獣は何体いるの?」

 

「私が負けたので後二体……だが、どちらにしろ、勝敗は見えている」

 

「貴方達の負けよ」

 

「いいや、違う。違うぞ。有象無象よ」

 

 ベロクロンは不敵に笑う。

 

 その姿にエレキングは不穏なものを感じ取る。

 

「私達姉妹には最恐の切り札がいる。お前達がどれほど強かろうとアイツにとっては赤子の手を捻るほどに造作もないことだ。そう、お前達は何もできずに敗北する。そういう未来しかないのさ」

 

「いいや」

 

 ザムシャーが口を開く。

 

 エレキングの尾をどかしながらベロクロンを見据える。

 

「相手がどれほどの強さを持っていようと、俺がそいつを倒す。怪獣娘達に危害は絶対に加えさせない」

 

 先ほどまでの表情と違う。

 

 どこまでも強く、そして固い覚悟を宿した瞳でザムシャーはベロクロンをみる。

 

「あぁ、素敵だ」

 

 ベロクロンはうっとりした表情でザムシャーをみる。

 

「その姿はとても素敵で美しい。あぁ、触れ合いたいものだ。だが、愛しい人よ。お前でも妹には勝てまい。妹が完膚なきまでお前を破壊するだろう。だが、悲しむことはない。壊れた後はこの私が愛でてやろう。そうして――」

 

「話は終わりよ」

 

 エレキングはザムシャーの首根っこを掴んで外へ出る。

 

 後ろでベロクロンが何かを言っていたが彼女は振り返らずにドアを閉めた。

 

「超獣は二人……私が遭遇した相手以外にもう一人いることがわかった」

 

「エレキング」

 

「却下」

 

「まだ、何もいっていないぞ!」

 

「話は聞かない。彼を会議室へ……貴方もついてきて」

 

「え、いいのかよ?」

 

「監視カメラがあるわ」

 

 レッドキングも来るように告げる。

 

 星斬丸を持ったまま、エレキングは去っていく。

 

 ジーンはザムシャーを連れて会議室へ向かう。

 

 残されたベロクロン。

 

 監視カメラによって彼女の動きは見張られている。

 

 

 

「時間か」

 

 

 ベロクロンの目の前の空間が音を立てて割れた。

 

 

「おひさ~、大丈夫だったかしら?」

 

 割れた赤い空間の中から姿を見せるのはバキシム。

 

 愛用している日傘を折りたたんでベロクロンを拘束している手錠を壊す。

 

「すまんな」

 

「いいの、いいの、三人しかいない家族なんだから」

 

 ニコリと微笑むバキシム。

 

「そうだな、必ずプロフェッサーの目的を果たさないとな」

 

「その割には、標的にデレデレしていたようだけど?」

 

「し、仕方ないだろう。惚れた弱みだ」

 

「軽いわね~、あの子に悪影響を与えないか心配だわ」

 

「問題ない。目的を果たして後はおいしく」

 

「欲望が丸見えよ」

 

 涎を垂らし始めたベロクロンをバキシムが注意する。

 

「時間もないからさっさと行くわよ」

 

「まぁ、待て……提案がある」

 

 ひそひそと二人は話し合う。

 

「仕方ないわねぇ、宛はあるの?」

 

「ない!」

 

「目つぶししてやろうかしら」

 

 ブルブルと体を震わせるバキシム。

 

「だが――」

 

 続けられたベロクロンの言葉にバキシムは呆れながらもその計画に賛同した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エレキング!」

 

 会議室でザムシャーがエレキングを追いかける。

 

「貴方と話すことは何もないわ」

 

「俺はあるといっているんだ!」

 

 話を聞こうとしないエレキングの肩を掴んで振り向かせようとした。

 

 しかし、パシリと弾かれた。

 

「私はない。貴方は大人しくしていなさい」

 

「けれど!」

 

 尚も話しかけようとするザムシャーをジーンが止める。

 

「貴方のやろうとしていることはわかる。自身を囮にすることで残りの超獣を捕まえようというんでしょう?でも、貴方も仲間なの。そんな無茶をみんなが認められるわけはないわ」

 

「だが、このまま何もせずにいられない……だったら」

 

「チャールズがノルバーグのアジトにあったデータを解析しているわ。それがわかれば超獣の対策だって立て」

 

「た、大変です!」

 

「アギちゃん!アギちゃんがぁああああああああ!」

 

 ドアを開けてやってきたのは慌てた様子のウィンダムとミクラス。

 

 ウィンダムの手には黒い端末が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あー、マイクテスマイクテス、聞こえているか?愛しい人。私はお前に負けた。お前に戦いを挑む権利は失われている。そのため、私の妹たちがお前の相手をしよう。ただし、相手をするといって愛しい人以外もくる可能性もある。そこで申し訳ないが人質を用意させてもらった。愛しい人以外が来れば、悲しいことだが、この人質は……最後まで言わせないでくれよ?愛しい人ならわかってくれると思っている。指定する場所へ愛しい人だけが来るように』

 

 場所が表示されて画面がブラックアウトする。

 

「アギアギが攫われるなんて」

 

「すぐに助けに行かないと!」

 

「だが、オレ達がいけばアギラの命はない、か………こうなるとザムシャーに動いてもらうしかないみたいだな、エレキング」

 

 レッドキングがエレキングをみる。

 

 エレキングは何も言わずに立ち上がる。

 

「エレキングさん……」

 

「俺が行く」

 

 追いかけようとしたウィンダムとミクラスを制してザムシャーが外へ出た。

 

 すぐにエレキングの姿を見つける。

 

「おい、エレキング!」

 

 追いかけたザムシャーはエレキングの肩を掴んで振り向かせた。

 

 ザムシャーは息をのむ。

 

 振り返った先のエレキングは泣いていた。

 

 泣いていたのだ。

 

「お前、泣いて、いるのか」

 

「バカ!」

 

 叫ぶと同時にエレキングが平手打ちする。

 

 殴られたザムシャーは少し後ろへ下がった。

 

「エレキング、刀を渡してくれ」

 

「やっぱり、貴方はバカだわ」

 

「バカだ、なんだといわれても俺は自分の生き方を変えない。何よりアギラが攫われたんだ。このままにしておけない。俺のやったことに他の奴らを巻き込んでしまった。そのケリをつけないといけない」

 

 だから、とザムシャーは手を伸ばす。

 

「刀を渡してくれ。俺のやり残したことにケリをつけさせてくれ」

 

「…………デート」

 

「え?」

 

「今度、私とデートをすること、それが条件よ」

 

「わかったよ、お姫様」

 

 肩をすくめながらザムシャーは頷いた。

 

 エレキングは星斬丸を差し出す。

 

 受け取ったザムシャーは懐からソウルライザーを取り出した。

 

「アギラは必ず助ける。だから、任せろ」

 

――ソウルライド、ザムシャー。

 

「先に暴れているからな」

 

 ソウルライドしたザムシャーはGIRLSのビルから飛び出した。

 

 ザムシャーが飛び出した窓からエレキングは彼の後姿を見つめる。

 

「あちゃー、いっちゃったかぁ」

 

 やってきたのはチャールズ。

 

 彼の手にはパソコンが載っている。

 

「チャールズ」

 

「ノルバーグのデータの解析が終わったんだ。思った通り、超獣のデータがあった。いやぁ、超獣というのは厄介だね。怪獣にない技術が加えられていて、普通の怪獣ならすぐに倒せちゃうよ。何よりこのデータにある怪獣娘、とぉってもヤバイね、っと!?」

 

 チャールズから端末を奪い取ってエレキングは内容をみる。

 

「これは……」

 

 驚きで彼女は目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だ」

 

 目的地の手前までやってきたザムシャーは動きを止める。

 

 空間が割れて、そこからバキシムが姿を現す。

 

「あらあら、気付かれるとは驚きです」

 

「超獣だな」

 

「はい、バキシムと申します」

 

 日傘を折りたたんでぺこりと会釈するバキシム。

 

「悪いが先を急いでいる。邪魔をするなら」

 

「するなら?」

 

「斬る」

 

「うふふふ、この私を舐めないでくださいね?」

 

 微笑みながらバキシムが身構えた。

 

 

 

 

 



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第九話 最強剣豪VS最恐超人

超獣シスターズ編は今回にて、終了。




「そ、そんな」

 

 どさりと音を立てて崩れ落ちるバキシム。

 

 俺は星斬丸を鞘へ納める。

 

 カチンという音が響く。

 

「な、なぜ、私の居場所がわかったのですか?」

 

 自分が攻撃を受けたことが信じられない様子のバキシム。

 

 俺を見上げてくる相手に一言。

 

「直感」

 

「そんな……バカ、な」

 

 意識を失うバキシム。

 

 致命傷を与えていないから死ぬことはない。

 

「さて、行くか」

 

 倒れているバキシムについては簡易的に拘束しておいて、後から来る連中に任せるとしよう。

 

 地面を蹴り、目の前の壁を切り裂く。

 

 ドアを開けている暇も惜しい。

 

 もわっと土煙が舞う中、俺の瞳は闇の向こうを見据える。

 

「やぁっと来たね!」

 

 闇の中から笑顔で姿を見せたのは獣殻を纏った怪獣娘、

 

 額に角、首元に緑色に輝く結晶のようなペンダントが付いている。

 

 手には武器というべきなのだろうか?独特なデザインの刃を握り締めていた。

 

 ニコニコと笑顔を浮かべている相手に俺は問いかける。

 

「お前は誰だ?」

 

「僕はエースキラー!最恐の超獣だよ!」

 

「俺はザムシャーだ」

 

「そっか!キミがザムシャーなんだ!うんうん、わかるよ!キミからとても強い力を感じる。あぁ、楽しみだな!キミを壊せるなんて!」

 

 姉がやられたのかどうか聞かず、俺がザムシャーであると知ると嬉しそうに笑顔を浮かべている。

 

 やはり、普通ではないらしい。

 

「やりあう前に聞きたい。アギラは無事か?」

 

「アギラ?あぁ、お姉ちゃんが連れてきた子のこと?そこにいるよ?」

 

 エースキラーが指さす方をみると柱に拘束されているアギラの姿があった。

 

「ザムシャーさん!」

 

「アギラ、大丈夫か?」

 

「うん、ボクは大丈夫……」

 

 手足に鎖が巻きつけられているが危害を加えられた様子はない。

 

 そのことに俺は安心した。

 

「ね、ね!もういいよね?やりあおうよ!」

 

「あと一つ」

 

「ぶー!僕ははやりたいのにさぁ!」

 

「何で俺を狙う?」

 

「ん~、知らない!いいよね?もうやるよ!」

 

 言うや否やエースキラーは刃を手に襲い掛かる。

 

 速度は俺が対峙してきた相手の中でかなりの速さを持っていた。

 

 星斬丸を抜かずに後ろへ下がる。

 

 振り下ろされた斬撃は地面に巨大なクレーターを作った。

 

「おぉ!凄いね!今の躱すんだ!ほとんどのガラクタはみんな今ので壊れちゃうんだ!」

 

「そうか」

 

 楽しそうに話すエースキラーは武器を構える。

 

「刀、抜かないの?」

 

「どうだろうな」

 

「抜いたほうがいいよ?僕、強いから」

 

「気が向いたらやるさ」

 

 俺の言い方にムッとした表情のエースキラーは額の角を前に伸ばす。

 

「じゃあ、少し驚かせてあげる」

 

 にやりと笑ったエースキラーから俺は距離をとる。

 

 直感で嫌な予感がした。

 

「超振動波!」

 

 放たれた衝撃波は真っ直ぐに俺を直撃。

 

――ゴモラの技!?

 

 声を上げる暇もないまま、胸部に衝撃が襲い掛かる。

 

 視界が暗転する中、瓦礫が上に覆いかぶさってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レッドキング、ウィンダム、ミクラスはザムシャーからのメールによって気絶しているバキシムを拘束。

 

 倉庫内で戦っている二人の様子を伺おうとした時。

 

「悪いが妹の邪魔はさせんぞ」

 

 ベロクロンが三人へ光弾を放つ。

 

 回避する中、レッドキングが前へ飛び出す。

 

 拳同士がぶつかりあう。

 

「おい!お前の妹っていうのはどんな技もコピーできるんだって?」

 

「おや、プロフェッサーのデータを調べたのか?その通り、我が妹”エースキラー”は怪獣娘の技をコピーできる凄い超獣だ。まさに最恐の超獣といっても過言ではない」

 

「一つ、聞きたかったんだが、お前らはどうしてザムシャーを狙う!」

 

「愛しい人を狙え、プロフェッサーが我々に伝えた最後の指示だからさ、何より、私は愛しい人が欲しい。妹が壊した後でも!」

 

「ざっけんな!てめぇはぶっ飛ばす!」

 

「やってみるといい!」

 

 拳同士のぶつかり合い。

 

 レッドキングVSベロクロンの戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、今の?」

 

 拘束されているアギラは驚いていた。

 

 ザムシャーが距離をとった途端、エースキラーから衝撃波のようなものが放たれて近くの瓦礫の山の中に消える。

 

「ん~、誰からもらったか忘れたけれど、超振動波っていうんだ!地面を掘るために使う振動を攻撃に転用できるんだ!凄いよね!」

 

 笑顔で話すエースキラー。

 

 瓦礫に埋もれたザムシャーが起き上がる様子はない。

 

 エースキラーは首を傾げた。

 

「あれ~、今のでやられちゃったのかな?つまんないなぁ、強いって聞いていたのにぃ、せっかく、色々と楽しめると思ったのにぃ……どうせだから、キミで試してみようか!」

 

 にこりとほほ笑みながらエースキラーがアギラに顔を近づける。

 

 息をのむアギラに顔を近づけてエースキラーは尋ねた。

 

「そうだ!僕のおもちゃになるか!下僕になるか選ばせてあげる!」

 

「それって、違いがないんじゃ」

 

 相手の呼吸が感じられるほどの距離まで見つめられて、アギラは戸惑う。

 

「ううん!僕のおもちゃになったらサンドバックみたいに手に入れた技の試し相手になるけれど!下僕なら僕の言うことを聞いていれば、生きていられるよ?ほら、違う!」

 

 笑顔で嬉しそうに語るエースキラー。

 

 しかし、話している内容はまともとは思えないものだ。

 

「キミは可愛いからね!特別に選ばせてあげる!どっちになっても可愛がってあげるよ?」

 

 笑顔を浮かべるエースキラー。

 

 純真無垢、しかし、赤子のように無垢であるからこそ、残酷なことを平気でできる。

 

 そのことをアギラは理解してしまう。

 

「ヒッ」

 

 怯えた声を漏らすアギラ。

 

 ソウルライドしようにもソウルライザーは奪われて、体の自由は鎖で奪われてしまっている。

 

 顔を近づけるエースキラー。

 

 ニコニコとアギラの頬へ触れようとした時。

 

 背後の瓦礫が音を立てて吹き飛ぶ。

 

「痛いな、ったく」

 

 土煙の中から無傷のザムシャーが現れる。

 

 獣殻に傷一つない。

 

「うわっ!凄いね!今の平気だったの」

 

「まぁな、何発か過去にくらっているし、角材に頭をぶつけた方がひどい」

 

 後頭部をさすりながらザムシャーはエースキラーの前に立つ。

 

「アギラから離れろ」

 

「えー、気に入ったのに」

 

「仲良くしたいなら別の方法で仲良くしろ」

 

「別の?オモチャと下僕以外にあるの?」

 

 平然と尋ねるエースキラーにザムシャーは呆れたようにため息を零す。

 

「これは、一度、無力化させた方がいいんだろうな」

 

 先ほどまでとザムシャーの表情が変わる。

 

 笑みや優しさ、そういうものが一切なくなった表情。

 

「出来るといいね!レーザー攻撃!」

 

 両手を前にして赤いレーザーが放たれる。

 

 ザムシャーは回避した。

 

「続いて、高熱火炎!」

 

 緑色の結晶から放たれる高熱火炎がザムシャーを焼いた。

 

「よしよしよし!どうだ!」

 

 バキュン!と高熱火炎が切り裂かれた。

 

 星斬丸をザムシャーは抜いている。

 

「今の、シラリーの技だな?」

 

「誰かは覚えていないなぁ、他にもお姉ちゃんたちの技も持っているよ!」

 

 同時に放たれる光弾、ミサイル。

 

 ザムシャーは歩きながら飛来するものを切り裂いていく。

 

「この程度か?」

 

「まだまだ!くらえ!」

 

 エースキラーが雷撃を放つ。

 

 雷撃をザムシャーは星斬丸で受け止める。

 

「悪いが少し痛い目をみてもらうぞ」

 

 星斬丸を鞘へ戻して体勢を落としながら走り出す。

 

「いいよ!いいよ!潰してあげる!火球!」

 

 クリスタルから放たれる火球は一兆度のもの。

 

「それはゼットンの技か!」

 

 放たれる火球をザムシャーは回避しようとする。

 

 しかし、周囲をバリアーで包囲された。

 

 

 

 

 

 

――逃がさない、僕の勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

 エースキラーが勝利を確信した時、目の前の火球とバリアーが切り裂かれた。

 

「星斬丸、惑星斬り!」

 

 鞘に戻して瞬時に放たれた一撃はエースキラーの首元と胴体を狙う。

 

 回避することが間に合わずエースキラーは吹き飛んで瓦礫の中に埋もれる。

 

「っつぅ」

 

 ザムシャーは肩を抑えた。

 

「完全に回避は無理だったか」

 

 ゼットンの技までコピーされているのは予想外だった。

 

 一兆度の火球は完全に躱しきれず、肩の獣殻が溶けている。

 

 中の皮膚まで焼けていた。

 

「ザムシャーさん!」

 

「アギラ、すまないな、巻き込んでしまった」

 

 謝罪しながら刃で鎖を斬る。

 

「どこもケガはないか?」

 

「ボクは大丈夫、でも、向こうは……!」

 

「安心しろ、命は取らないさ。それに獣殻に守られていた」

 

「そう、なんだ」

 

 未だ心配そうに瓦礫の方を見ているアギラ。

 

 そんな彼女の姿を見てザムシャーはポンと頭を撫でる。

 

「え、なに?」

 

「お前は優しいな」

 

「むぅ」

 

 頬を膨らませるアギラ。

 

 直後、瓦礫の方が大爆発を起こす。

 

「なに?」

 

「アギラ、ソウルライド、しておけ」

 

「え、でも」

 

「取り返しておいたから」

 

 ザムシャーから受け取ってソウルライザーを起動する。

 

 炎で包まれる瓦礫の中から姿を見せるのはエースキラー。

 

 しかし、先ほどと異なり瞳は赤く、見境問わず破壊を繰り返している。

 

「破壊!ハカイハカイハカイハカイハカイハカイハカイスルハカイスル!」

 

「暴走しているな」

 

 エースキラーはカイジューソウルの暴走で意識がない。

 

 このままでは危険だ。

 

「アギラ、援護してくれるか?」

 

「え、でも」

 

「悪いが、片腕をやられているからとどめをさせない。俺が攻撃を防ぐからお前の自慢の角でエースキラーにとどめをさしてくれ」

 

「は、はい!」

 

「大丈夫だ。お前に傷一つ、つけさせはしない」

 

 ザムシャーの言葉に頷くアギラ。

 

 エースキラーは光弾や光線、ミサイル、火炎などを次々と吐き出していく。

 

 駆け出すザムシャーにも攻撃を繰り出す。

 

 片手で星斬丸を操りながら目の前の攻撃のみを無力化させる。

 

 そんなザムシャーの後ろをアギラは走った。

 

「今だ!俺の背中を踏み台にして飛べ!」

 

 アギラは頷いてザムシャーの背中を蹴って宙へ跳ぶ。

 

 そんな彼女を標的としてエースキラーが攻撃を仕掛けようとする。

 

「こっちだ!」

 

 ザムシャーの声に反応が遅れる。

 

「行け!アギラ!」

 

 アギラの角がエースキラーに直撃。

 

 強力な攻撃を受けたエースキラー。

 

 目を回しながらエースキラーは地面に大の字で倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空港

 

 

「助かったよ、チャールズ、ジーン」

 

「いやぁ、俺達はなーんにも出来なかったよ!」

 

「そんなことないさ、二人が持ってきた情報があったから、超獣対策ができたんだからさ」

 

 空港で俺とピグモンはチャールズとジーンの見送りに来ていた。

 

「あの子達、どうなるんだい?」

 

 ノルバーグの指示で襲撃してきた超獣の怪獣娘はGIRLSが保護した。

 

 エースキラーも目を覚ましてからは暴走をしていない。

 

 星斬丸の一撃で意識を失ったことが暴走の原因だった。

 

「しばらくはGIRLSで事情聴取だな、更生の余地あれば情状酌量もありえるさ」

 

「その時はピグモンたちが面倒みるです!」

 

「ノルバーグの件は念のため、こちらでちゃんと調べるわ。彼女達の名前とかね」

 

「悪いが頼む」

 

「今度はこっちへ遊びに来てね?」

 

「あぁ」

 

「ピグモンも行くです!」

 

 握手を交わして二人は空港のゲートへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、超獣たちによるザムシャー襲撃事件は終わったのである。

 

 

 




ある意味チートな怪獣娘、エースキラーだと思う。

ゼットンも大概だけど、技をコピーできるのは凄いと思う。ちなみに、コミックだと、コピーした技はかなり弱い……。


次回も楽しみにしていてください。


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第十話 アギラの介護!?

今回、アギラがヒロインか?




「ケーキセットです」

 

「あ、どう――」

 

「ボクが受け取ります」

 

 俺が喫茶店でケーキを受け取ろうとすると横から手が伸びて、机の上へ置かれた。

 

「さ、ザムシャーさん。どうぞ」

 

「お、おう」

 

 机に置かれたケーキをみて、フォークを取ろうとするがそれも奪われる。

 

「はい、あーん」

 

 表情を変えずにフォークに突き刺したケーキを俺に差し出してくる少女。

 

 彼女の名前はアギラ。

 

 GIRLSに所属する怪獣娘だ。

 

 いつもの表情に見えるが頬が少し赤く見えるのは気のせいだろう。

 

「おぉ~」

 

「ぐぐぐ!アギちゃんのアーンは私だけのものなのにぃ!」

 

 反対側へ視線を向けると興味深そうにこちらをみているウィンダムとハンカチをぎしぎしと噛んでいるミクラスの姿がある。

 

 どうしてこうなったのか。

 

 事の始まりは俺の包帯で固定されている腕を見た時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違和感があると思っていたがまさか、骨折していたとは」

 

「もう~!無茶しすぎなのです!ザムザムはぁ!ピグモンは気絶するかと思ったのですよぉお!」

 

「すまない、悪かったって」

 

「いいえ、許しません!罰として今度のオフの日の時間はピグモンがもらいますよ!」

 

「……わかったよ」

 

 騒ぎあいながら通路を歩く二人。

 

 ピグモンとザムシャー。

 

 黒いスーツ姿のザムシャーとGIRLSの制服のピグモン。

 

 ザムシャーはスーツの上着を羽織っているだけで片方の腕がギブスで固定されている。

 

「いやぁ、エースキラーと戦っている時から少し違和感があった。それからはれ上がって病院へみせたらこうなるとはなぁ……」

 

「しばらくはお休みです!」

 

 ピグモンに言われて渋々、頷くザムシャー。

 

 その時、曲がり角からアギラが姿を見せる。

 

「あ、ザム」

 

「よぉ、アギラ」

 

 片手で挨拶をするザムシャー。

 

 しかし、アギラは途中で固まる。

 

「どうしたのです?アギアギ」

 

 固まったアギラにピグモンは不思議そうに尋ねる。

 

「その、腕の、包帯は?」

 

 震える声でアギラが質問した。

 

 その時の言葉が酷く気になったが俺は答える。

 

「あぁ、前の戦いで痛めていたみたいでな?念のため、固定しているんだよ」

 

「前の……戦い……」

 

 ぶつぶつと呟いて俯いたアギラ。

 

 その姿は少し怖く、後ろへ下がってしまう。

 

 アギラはぐいっとやってきて、自由の方の腕を掴む。

 

「ザムシャーさん!」

 

「なんだ?」

 

「今日から腕が治るまでボクがザムシャーさんの介護をします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、アギラ」

 

「ふぁに?」

 

 モグモグとケーキを味わうアギラ。

 

 既に俺の分は食べ終わって、今は彼女の分を味わっていた。

 

「無理して俺の介護なんてしなくていいんだぞ?」

 

「大丈夫、無理していないから!これから治るまで付き添いするから!」

 

 握りこぶしを作ってやる気をみせるアギラ。

 

 気持ちは嬉しいのだが。

 

「それとも、迷惑?」

 

 一転して、不安そうな表情でこちらを見上げてくるアギラ。

 

「別に迷惑じゃないさ……ただ、女の子に看病みたいなことをされるのに慣れていないだけだ」

 

「そう、良かった」

 

 アギラはホッと息を吐く。

 

「アギちゃん、名演技!?」

 

「いえ、あれは本心なのでは?」

 

「隣はうるさいぞ」

 

 がやがやと騒ぐミクラスとウィンダムに注意を促す。

 

「はぁ」

 

 俺はため息を吐きながら紅茶を飲もうとする。

 

「あ、ボクが」

 

「これくらいは俺で出来るよ」

 

 カップを取ろうとするアギラを制して俺は紅茶を飲む。

 

 

 

 それから少しして彼らは解散、それぞれのルートで帰宅する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日も頑張ろう!」

 

 家の自身の部屋。

 

 そこでアギラは端末を見ている。

 

 端末にはピグモンから送られてきたザムシャーの予定表が記されていた。

 

 エースキラーとの戦いで自分を庇って負傷したザムシャー。そのお礼として彼の手助けをする。

 

 ピグモンへ伝えたところあっさりと承認されて、彼の介護をすることになった。

 

 幸いにもザムシャーは本部にしばらくいるということなので問題ないということ。

 

「そういえば」

 

 ふと、アギラは思い出す。

 

 

――アギアギも気を付けてくださいね?

 

 釘を刺すような言葉があった。

 

 まるでピグモンの嫌な予想が起きてほしくないように思える。

 

「そういえば、ボク、ザムシャーさんのことを詳しく知らないなぁ」

 

 明日、色々と聞いてみよう。

 

 不思議と嬉しい気持ちになったアギラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 アギラはザムシャーのことで気になっていたことを尋ねる。

 

「あの、ザムシャーさん」

 

「なんだ?」

 

「その、いつもサングラスをしているけれど、なんで?」

 

「あぁ、そのことなぁ……まぁ、アギラはこれからも一緒にいるわけだし、話しておいた方がいいのかなぁ」

 

 近くに喫茶店にアギラと二人で入る。

 

 メニューを頼んだところでザムシャーがサングラスを外した。

 

「前もチラッとみただろ?俺の目だ」

 

 サングラスを外して、片方の目を開ける。

 

「赤い……」

 

 アギラの目の前にいるザムシャーの片目は血のように真っ赤だった。

 

「俺がカイジューソウルに覚醒した時の代償……とでもいいかわからないが俺の目は宇宙剣豪ザムシャーという怪獣と同じ片目が真っ赤になったんだよ」

 

「そんなことが」

 

「詳しい原因は判明していない。まぁ、視力が落ちているわけじゃないんだ。ただ、日本人でオッドアイというのは偏見をもたれやすいからな。その理由でサングラスとかで目を隠しているんだよ」

 

「…………辛くないの?」

 

「全然、むしろ、嬉しいと思っている」

 

「嬉しい?」

 

「あぁ、こうして、守れる力があるからな」

 

 ザムシャーはそういって刀袋に収まっている星斬丸へ触れた。

 

 一瞬、表情が強張ったことをアギラは気づかなかった。

 

「そうだったんですか、その、ごめんなさい」

 

「どうして謝る?」

 

「だって、ぶしつけすぎたから」

 

 苦笑しながらザムシャーはアギラの頭を撫でる。

 

「な、なに?」

 

「いや、アギラは優しいなぁって」

 

「そんなこと」

 

「皆がアギラを好きになる理由がわかるよ」

 

「す、好き!?」

 

 顔を真っ赤にするアギラ。

 

 首を傾げるザムシャー。自分は何かおかしなことをいったのだろうか?

 

 疑問に抱きながらしばらく落ち着くまで待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひと段落ついたところで俺とアギラはGIRLSが管理している保護施設へきていた。

 

 保護施設は力を制御できない怪獣娘のために作られた施設であり――。

 

「もう一つが意図的に力を破壊のために用いた怪獣娘を保護するための施設なんだよなぁ」

 

「そうなの?」

 

「本来は力が暴走した怪獣娘が訓練できるようにっていうことで作られたんだがなぁ、開発した人間がマッドすぎて、こうなったんだよ」

 

「誰がマッドだ。刀バカめ」

 

 ザムシャーの言葉に白衣を纏った男が出迎える。

 

「俺が刀バカなら、お前は地球バカだよ。藤宮」

 

 白髪交じりの青年は藤宮博也。

 

 この施設の責任者である。

 

「本来の手続きで一週間は必要だ。それをお前は」

 

「文句は上へいってくれないか?俺は呼ばれたから来たに過ぎない」

 

「フン、来い」

 

 藤宮はちらりとアギラを一瞥してから施設のカードキーをかざして中に入る。

 

「ザムシャーさん、知っている人?」

 

「藤宮博也だ。ここの施設の責任者で、科学者だ」

 

 俺が答えようとしたら藤宮がすらすらと説明する。

 

「ちなみに、あぁみえて、恋人は実験用ハムスターだ」

 

「貴様を殺す」

 

「ぎぃ」

 

 アギラが小さな悲鳴を漏らす。

 

「お前、自分の真顔がどれほど相手を怖がらせるか自覚するといい」

 

 後ろへ隠れたアギラをみながら俺は笑う。

 

 藤宮は基本的に笑わない。

 

 過去に色々あり、俺と我夢、その他を巻き込みながら色々と起こり……最終的にGIRLSに所属することになる。

 

「色々あったなぁ、ホント」

 

「貴様を何回殺してやろうと思ったか」

 

「そろそろ、終わってくんない?後輩が怯えているから」

 

「フン。ここだ」

 

 案内された部屋は強固な扉。

 

 カードで機械を読み取り中に入る。

 

「!?」

 

 ドアが開かれるとともに何かが飛びかかろうとした。

 

「危ない!」

 

 アギラが叫ぶも藤宮はあっさりと横へずれて、前に踏み出した俺が襲撃者を地面へ叩きつける。

 

 慈悲?

 

 そんなものはいらない。

 

 何せ。

 

「へぶぅ!」

 

 相手が変態(ベロクロン)なのだから。

 

「ひ、ひどいぞ!愛しい人」

 

「黙れ、藤宮が避けなければ、お前、藤宮とキスしていたんだぞ?」

 

「そんなことはない。何せ、藤宮所長が避けることは事前打ち合わせ済みだ」

 

「おい?」

 

「知らないな」

 

 藤宮へ問いかけるも相手はポーカーフェイスのまま。

 

 この野郎、まだ根に持っているなぁ。

 

「……さて、アギラ、大丈夫か?」

 

「う、うん」

 

「愛しいひとぉ、いつまで私はこのままなんだぁ」

 

「永遠に地面とキスしてろ」

 

「ひどぃぃぃぃ、でも、感じちゃう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この施設で保護されている三人の怪獣娘。

 

 三人は自らを超獣シスターズと名乗っているらしい。

 

 ミサイル超獣 ベロクロン。

 

 一角超獣 バキシム。

 

 異次元超人 エースキラー。

 

 この三人は驚くことに血のつながった姉妹らしい。

 

 姉妹で途方に暮れていたところをノルバーグに保護(本人談)されて、怪獣娘としての力を制御してもらったという。

 

「ザム、シャーさん、助けて」

 

 話をしている間に移動したエースキラーによってアギラは抱き着かれていた。

 

 念のため、ソウルライドしてもらっていたからアギラは無事だが、全力で抱きしめられていることで少し苦しそうである。

 

「おい、エースキラー、アギラから離れろ」

 

「え、嫌だ!モチモチしていて、素敵な抱き心地なんだもーん」

 

 俺は無理やりエースキラーをアギラから引きはがす。

 

「すまないな。アギラとやら、この子は気に入った相手にとことん抱き着く癖があるのだ」

 

「お姉ちゃんも大好きだよ~」

 

 謝罪するベロクロンにエースキラーが抱き着いた。

 

 流石、超獣?同士、抱き合っても平然としているな。

 

 実のところ、超獣シスターズと三人は名乗っているがエースキラーは超獣にカテゴライズされるのか怪しいところがある。

 

 文献や過去の資料においてエースキラーの記述がみつからなかったということがある。

 

 ただ、超獣出現時期にエースキラーらしきものが確認されたということで超獣の仲間としてカテゴライズされてはいるらしい。

 

 

 

「じゃれあうのはそこまでにしてくださいな。話が進みません」

 

 飲んでいた紅茶のカップを机に置いて続きを促したのはバキシム。

 

 次女ということらしいが、冷静のようだ。

 

「それで、私達が施設から解放されるのはいつですの?」

 

「解放というのは語弊があるな。一時的に外へ出歩けるだけだ。仮釈放のようなものだ」

 

 ギロリと藤宮が睨むもバキシムは涼しい顔だ。

 

「GIRLSとして、キミ達は大人しく話を聞いてくれるなど、更生可能と判断しているから、外へ出て、色々なものと触れ合ってほしいと判断してくれている」

 

「あら、そうですか」

 

 淡々とした態度をとるバキシム。

 

「愛しい人よ!愛しい人と一緒に外へデートというのも」

 

「いいなぁ~!あ、僕はキミとも一緒にいたいなぁ~!ね、ね!名前はアギラだったよね?」

 

「そうだよ」

 

「ハグさせて」

 

「ううぶ!」

 

 返事を前にアギラへ抱き着いたエースキラー。

 

 俺は間に割り込んで引きはがす。

 

「何するのさぁ~!」

 

「人の許可を取るようにしなさい。アギラが迷惑だろ?」

 

「そうなの?」

 

「少し、力が強い、かな」

 

「ふーん、難しいね」

 

 あまり理解していない様子のエースキラーに俺は何とも言えない表情を浮かべているだろう。

 

 三人は勉強があるということで席を外す。

 

「わかったか?」

 

「お前が来ているということで何かあると思っていたが……彼らの価値観の問題か?」

 

「そうだ」

 

 俺の問いかけに藤宮は頷いた。

 

「最低限はあるといっていい、だが、今のように彼女達はソウルライド状態のままだ。自分達の力が人間とどの程度、違うかということをわかっていない」

 

「よくそれで外出許可の話がでたな」

 

「話が進まない。それだけだ」

 

「……まぁ、ノルバーグの下にいたらそうなるよなぁ」

 

「ともかく、あのまま外に出せば問題が起こる。ここぞとばかりに連中も食いついてくるだろう。そこで、お前や理解のある怪獣娘を呼ぶということになったわけだ」

 

「成程」

 

「絶望させるなよ?」

 

「わかっているよ」

 

 藤宮の言葉に俺は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 施設を出た俺とアギラの間に会話はなかった。

 

 電車に乗っている間も静かだ。

 

「ザムシャーさん」

 

「なんだ?」

 

「エースキラーちゃん達はどうなるんですか」

 

「地道にいくしかないな」

 

「大丈夫、かな?」

 

 アギラ自身、エースキラーに対して思うところがあるのだろう。

 

 実際に人質とされ、恐怖していたというのに……。

 

「他人のために心配できるアギラはとても優しいな」

 

「そう、かな」

 

「あぁ、普通の人はあんなことがあれば、相手を恐れるしかない。でも、歩み寄れるっていうのは勇気がいる。それが普通にできるアギラは優しいし、とても強い」

 

 アギラは自覚がないだろう。

 

 しかし、と素晴らしい才能だと俺は思った。

 

「アギラは強いさ。誇っていい……何より――素敵だと思う」

 

 あれ?

 

 待て、

 

 待て待て、

 

 俺はいま、何を言った!?

 

「あ、すまん!今のなし!わすれ――」

 

 横のアギラをみて俺は言葉を失う。

 

 顔を真っ赤にしてアギラは気絶していた。

 

「うぉうぅぅぅ」

 

 伝わったか心配だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「どういうことかしら?」

 

 本部へ足を踏み入れた途端、待機していたようにエレキングの尻尾で俺の体は拘束された。

 

「なんだ!?いきなり!」

 

「私の質問に答えなさい。どういうことかしら?」

 

「いや、何が!?」

 

 ギリギリと締め付けられている。

 

「エレエレ、落ち着いてください」

 

 

 聞こえてきたのはピグモンの声。

 

 その声は慈愛に満ちている。彼女なら。

 

「話をするなら徹底的に、誰にもばれないように尋問すべきですぅ」

 

 訂正、ピグモンも悪魔側だった。

 

「さ、会議室を抑えたからいくですぅ」

 

「行くわよ。キリキリ歩きなさい」

 

「いや、一体、なにが!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後になってわかったがGIRLSの怪獣娘(女性限定)のグループメッセでアギラがある発言をして、俺に疑惑が向けられたという。

 

 内容は教えてもらえなかった。

 

 

「(教えられるわけがない)」

 

「(本当にピグモンの警戒していた通りになってしまいましたぁ!)」

 

 俺は知らなかった。

 

 

――ボク、ザムシャーさんのこと、好き、かも。

 

 

 

その発言がなされたことに。

 

 




藤宮博也

ウルトラマンガイアに登場した人物。
科学者で天才、超高性能コンピュータを作ったりしている。
ちなみに本編でも恋人は実験用のハムスターだといわれています。

この世界では怪獣娘に対して偏見を持つ人間に対して、苛立ち、怒りなどをもち、小説にして五冊ほどの出来事があり、ザムシャーと我夢が主人公として頑張ったらしい。

尚、ザムシャーのことは嫌いである。



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第十一話 ゼットンを探せ

土日は更新するか未定です。

話数が残り少ないですがお付き合いください。


 

「ほえぇ~、やっぱりすごいなぁ」

 

 アギラは怪獣大百科で“ゼットン”のことをみていた。

 

 様々な情報が大百科には載っている。

 

 怪獣が存在していた時代から既に長い時間が過ぎている現代においてもゼットンの知名度はとても高い。

 

「アギちゃん、また調べているの?」

 

 そんなアギラにネットサーフィンをしていたミクラスが声をかける。

 

「いっっっっっっっつも、調べているよね~」

 

「そ、そんなことないよ」

 

 本で顔の下半分を隠すアギラ、その姿をニコニコとみているウィンダム。

 

「研究熱心なのは良いことですよ。当初の目的から外れてはいますけれど」

 

 そういう彼女達の机の上には学校の教材が置かれている。

 

 休日、GIRLSのオフということで彼女達は学校の課題を片付けるということで集まっていた。

 

 その課題の片づけにやる気をだしているのは二人だけで、ミクラスは開始三分で息抜きに入ってしまっている。

 

「あの、ミクさん?」

 

「はいはーい、勉強しているよ」

 

「そうはみえませんが?」

 

「ソウルライザーの操作練習!」

 

「ウソだな」

 

 ミクラスが自信満々に胸を張っている中で否定の声があがる。

 

「その動きは操作練習じゃない。アプリか何かを操作しているな?」

 

 ザムシャーの言葉に固まった隙を突いて、アギラが彼女のソウルライザーを覗き込む。

 

「マンガ読んでいる……」

 

「げっ!」

 

「ミクさーん」

 

「ちちちち、違うんだよ!これは」

 

 ウィンダムはため息をついた。

 

「はぁ、先日の試験の時に少しは改まったかと思いましたが」

 

「だーってぇ!今、テストとかなんにもないんだもん」

 

「その場しのぎだといつか痛い目をみるぞ」

 

 ため息を吐く。

 

「なぁ、アギラ」

 

「駄目」

 

「まだ、何も言っていないんだが」

 

「帰るっていうんでしょ?駄目だよ。ザムシャーさんの介護担当はボクなんだから」

 

 むすぅと顔をしかめるアギラにザムシャーはため息を零す。

 

 三人が座っている場所のすぐ隣。

 

 そこでチューチューと炭酸飲料を飲んでいた。

 

 腕のほとんどが回復しており、介護の手を借りなくても良いのだがアギラは完全回復まで付き合うといって聞かない。

 

 その結果、ピグモンとエレキングに酷いプレッシャーを向けられる毎日だった。

 

「そもそも、ガールズ空間に男の俺がいるってことは異常だと思うんだが」

 

「……そんなことないよ」

 

「俺の目をみていいましょう。ミクラスもそう思うよな?」

 

「うん!」

 

「そこはもう少し!もう少し!緩和しましょう!」

 

 ウィンダムが慌てて叫ぶ。

 

「いいよ、こういうストレートな発言は嫌いじゃない」

 

「それにしても、アギちゃんは本当にゼットンさんが大好きだよねぇ」

 

 あら、スルーされた。

 

 ザムシャーはアギラに気付かれないように席を立つ。

 

 ドリンクを補充して戻って来ると三人娘は何やら決意を込めた表情をしている。

 

 あ、これは不味いぞとザムシャーは察した。

 

「ザムシャーさん」

 

「なんだ?」

 

「ゼットンさんを探そう!」

 

「はぁ?」

 

 ミクラスの叫びにザムシャーは気の抜けた声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら俺が席を外している間に「ゼットンさんが普段、何をしているのか調べよう!」とミクラスが言い出したらしい。

 

 流れに乗って?アギラとウィンダムも賛同したという。

 

「それで、どうして、俺?」

 

 ファミレスを後にして俺達はGIRLSの本部へ来ていた。

 

 本部ならばゼットンに会えるかもしれないという考えだ。

 

「ピグモンさんの話だとザムシャーさん古参だよね?ゼットンさんのことを何か知っていたり?」

 

「まぁ、そこそこの付き合いだな……」

 

「そうなんですか?」

 

「メッセのやり取りがある程度だが」

 

「……メッセの、やりとり?」

 

 ショックを受けたような表情のアギラ。

 

 今の表情からして連絡先も知らないのではないのだろうか?

 

「いや、ほら、普通だって、きっと」

 

「そんなことはないわ」

 

 背後に寒気がする!

 

 振り返ると絶対零度の笑みを浮かべているエレキングがいて、横にいるゴモラが嬉しそうにアギラへ抱き着いていた。

 

「エレキングさん、どういうことですか?」

 

 ウィンダムが先ほどの会話を聞いて尋ねた。

 

「あの子と連絡先を私も交換しているけれど、会話が成立したことはないわ……ほら」

 

 端末を見せるエレキング。

 

「うわっ!既読スルーだ!」

 

「おそろしいことをしますね」

 

 端末には既読の表示はされている。

 

 しかし、返事のメッセが一つものっていなかった。

 

 学校という集団の中でやれば、確実に浮いてしまう行動である。

 

「ただ一人を除けば……だけど!」

 

 楽しそうにゴモラが一人の人物をみた。

 

 気まずくなって視線を逸らす。

 

 余計にエレキングの絶対零度の視線が増した。

 

「ほら、ふ、二人も知らないみたいだし、他の場所へいってみるとしよう」

 

「そうだね」

 

「行くか~」

 

「ありがとうございます」

 

 ぺこりと三人が離れていく。

 

 俺も後を追いかけようとした。

 

「待ちなさい」

 

「ぐぇっ」

 

 しかし、エレキングが尾で首を絞める。

 

「ちょっ、絞めている!」

 

「私はとても傷ついたわ。貴方のせいでハートがボロボロよ」

 

「だから!?」

 

「何かしてほしいわ」

 

「わかった!今度、デートとか買い物付き合うから!」

 

「言質はとったから」

 

 端末をボイスレコーダーのモードにしていた。

 

「わかったから!ヤベッ、意識が」

 

 意識が落ちる寸前のところで尾から解放される。

 

「まったく、なんだよ」

 

「はぁ~、ザムシャーは女心がわかっていないよね?」

 

「いきなりなんだよ?」

 

「別に~、ところで私も傷ついたんだけどぉ?」

 

「今度、何かするでいいだろ?」

 

「うん!いいよ~!」

 

 そういって俺は急ぎ足で向かう。

 

「嬉しそうだね」

 

「そんなことはないわ」

 

「鏡見た方がいいよ?」

 

 ゴモラにいわれてエレキングは手鏡を取り出す。

 

 その表情を知っているのはゴモラしかいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追いついたザムシャーは川辺にいるアギラ達の姿を見つけた。

 

 レッドキングがザンドリアスを川へ落とそうとしている。

 

「何してんの?」

 

「あ、お兄ちゃん!助けて~!」

 

「助けてっていうのはわかったが、何をどうしろって?そもそも、お前はレッドキングに何をしたんだ?」

 

「私が何かした前提!?」

 

 泣きそうな顔をしながらザンドリアスはザムシャーへ助けを求める。

 

「いや、お前の不用意な発言で川へ落とされそうになっているのかと」

 

「違う!師匠が私を特訓として川に落とそうとしているの!!」

 

「何でそうなったんだ?」

 

「おい、ザムシャー」

 

 じりじりとザンドリアスへ近づいていたレッドキングが声をかける。

 

「おう、何でザンドリアスを川へ落とそうとしているんだ?」

 

「特訓だよ。気合でなんとかさせてやろうってな!」

 

「流石に時期を考えてやれよ。風邪をひいたら問題だろ?」

 

 ザムシャーの言葉にザンドリアスはきらきらと目を輝かせる。

 

 レッドキングは申し訳ない表情になった。

 

「ところで、アギラ達はこの二人に話を聞いたのか?」

 

「あ、そうだった。あの、ゼットンさんがどこにいるか知りませんか?」

 

「アイツは気まぐれだからなぁ……オレも知らないんだよ」

 

 首を振るレッドキング。

 

 それに対してザンドリアスは思いついたように叫ぶ。

 

「私!見たよ!」

 

「本当?」

 

「どこどこ!?」

 

「テレビ!」

 

 ザンドリアスの言葉に空気が凍った。

 

「よし、お前、一回、川へ落ちようか」

 

「ひぃ!?なんでですかぁ!」

 

 レッドキングがザンドリアスを川へ落とそうとする。

 

「落ち着けって……そんなことしてザンドリアスが風邪をひいたら問題だろ?ここはランニングとかにしておけって」

 

「まぁ、そうだな。うし、行くぞ!」

 

「ひぃぃ~~~~」

 

 悲鳴を上げるザンドリアスを引きずるようにしてレッドキングは走り去っていった。

 

「って、ミクラスもいっちゃったぞ!」

 

「ミクちゃん…………」

 

「あははは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからあてもなくゼットンを探したが当然、見つかることもない。

 

 ミクラスはレッドキングたちについていっていない。

 

「困りましたね」

 

「うん……」

 

「なぁ、アギラ」

 

 ザムシャーはアギラへ声をかけようとした。

 

 その時、端末から音が鳴り出す。

 

「シャドウ!?」

 

「アギラ、ウィンダム、頼んでいいか?」

 

「はい!」

 

「避難誘導ですね?」

 

「頼むぞ」

 

 背中の刀袋から星斬丸を取り出す。

 

「「「ソウルライド!」」」

 

 ソウルライザーを起動する。

 

「アギラ!」

 

「ウィンダム!」

 

「ザムシャー!」

 

 獣殻を身に纏い、怪獣娘となる。

 

 地面を蹴り、ザムシャーはビルの屋上へ向かう。

 

「ゼットン!」

 

「ザムシャー……」

 

 ゼットンはビルの屋上にいた。

 

 いつもの怪獣娘の姿、しかし、鋭い視線で空を見上げている。

 

 歪み始めている空間を睨んでいた。

 

 彼女の傍に立ってザムシャーも理解した。

 

「シャドウが来るな」

 

「うん」

 

 頷いた直後、二人の目の前にシャドウが現れる。

 

 只のシャドウではない。

 

 シャドウビースト。

 

 

 シャドウの上位種。

 

 アギラ達には荷が重い相手だ。

 

 ザムシャーとゼットンへシャドウビーストは火球を放つ。

 

 二人は左右へ躱しながらシャドウビーストへ距離を詰めた。

 

 星斬丸を振るうが相手の姿が掻き消える。

 

 ゼットンがシャドウビーストの背後に回り込んで拳を振るう。

 

 ゼットンの一撃にシャドウビーストは空へ逃げる。

 

 動きを読んでいたザムシャーが星斬丸でシャドウビーストの体を切り裂く。

 

 切り裂かれたシャドウビーストは悲鳴を上げる。

 

 悲鳴のような奇声に顔を歪めつつもザムシャーは刀を振り切った。

 

 シャドウビーストは地面へ落下することなく火球をゼットンとザムシャーに放つ。

 

 ゼットンがバリアーを展開してザムシャーと自身を守る。

 

「…………」

 

 ザムシャーをゼットンが真っすぐにみる。

 

 その瞳の向けられる感情に気付いてザムシャーは頷いた。

 

「頼む」

 

「任せて」

 

 バリアーが解除されると同時にザムシャーが地面を大きく蹴る。

 

 こちらの動きに気付いたシャドウビーストが火球を放つ準備に入るが既にゼットンが必殺の一兆度の火球を放つ方が速い。

 

 火球でその身を焼かれるシャドウビースト。

 

「星斬丸――斬!!」

 

 星斬丸を逆手に持ち、勢いよく振り上げる。

 

 シャドウビーストは何もする暇もないまま、星斬丸によって切り裂かれた。

 

「あち!あちち!」

 

 斬る際にゼットンが放った炎を浴びてしまってでザムシャーの獣殻が少しばかり焦げていた。

 

「くそっ、最後に恥ずかしいことしちまったな」

 

 振り返るザムシャー。

 

 しかし、ゼットンはいなかった。

 

「心配性なのか、優しいのか」

 

 ビルの下へ向けるとアギラとゼットンが話し合っている姿がみえる。

 

 ザムシャーは笑みを浮かべた。

 

 アギラと話をしている時のゼットンの表情はとても柔らかい。

 

 そういう風にみえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、アギラ達のことを忘れてついていったミクラスはあの後、二人に謝罪したという。

 




次回からザムシャーの過去に踏み込んでいきます。


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第十二話 ザムシャーの秘密

分割してもよかっただろうか?

今回、オリジナル色が強いです。


 

 

――お前など、生まれなければよかった。

 

 あぁ、これか。

 

 暗闇の中、どことなく響く声。

 

 もう何年も聞いてきた言葉だ。

 

 

――アンタなんか!いらない!

 

 

 これも聞いてきた。

 

 何度、面と向かって言われただろうか。

 

 最初は声を枯らして訴えていたかもしれない。

 

 だが、いつからかやめた。

 

 やめた理由は何だっただろう?

 

 最早、それすら思い出せなくなってきている。

 

 

 

――貴方なんか。

 

 

 あぁ、いつのまにかここまできたようだ。

 

 聞こえてくる声は自身への嘆きと激しい怒り、そして、底見えぬ激しい憎悪。

 

 

 

――貴方なんか産まなければよかった。

 

 

 俺に対しての憎悪だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝かぁ」

 

 窓からの光が目に差し込む。

 

 体を起こす。

 

「そういえば、治ったんだったか」

 

 折れていた腕をさする。

 

 手を閉じて開いてを繰り返して状態を確認した。

 

「やっぱり、あの日が近づいているからだろうな」

 

 俺はちらりとカレンダーをみる。

 

 もうすぐ、爺ちゃんの命日だ。

 

 顔を洗って、着替えを済ませたタイミングでソウルライザーに連絡が入る。

 

 連絡主はピグモン。

 

――本部へ来てください(絵文字)

 

 というメッセージ。

 

 少し下へずらしていくと。

 

 

 

――週末、デートしましよう!

 

 

 ハートマークの付いた一言。

 

 その内容をみて笑みを浮かべる。

 

 同時に申し訳ない気持ちになる。

 

 こんな俺にここまでの好意を寄せてくれるのに申し訳ないと。

 

「あぁ、ダメだ。こんな気分になっているのがばれたら怒られる」

 

 彼女達は鋭い。

 

 こういう方面に疎い俺だとすぐにばれてしまうだろう。

 

「行くか」

 

 星斬丸が入っている刀袋を掴んでドアを開ける。

 

 外に出た時。

 

「待っていたわ」

 

「おう?」

 

 ドアの向こうで端末を操作していたエレキングがいた。

 

 いつものように鋭い瞳でこちらをみてくる。

 

「ピグモンからの連絡よ。貴方と同行してくれと」

 

「おぉう?」

 

「さぁ、本部まで一緒に行くわよ」

 

 一緒にという言葉を強調してエレキングがこちらへやってくる。

 

「逃げるという選択肢はないから」

 

 こちらの考えを先読みしたような言葉に俺は両手を上げる。

 

「降参だ」

 

「いきましょう?」

 

 そういって俺の腕に抱き着いてきた。

 

「おい、何で抱き着く」

 

「人ごみを利用して逃げようという手段を封じるためよ」

 

「変な誤解を受けるぞ?」

 

「構わないな……………牽制にもなるし」

 

「何かいった?」

 

「行くわよ」

 

「ちょ、引っ張るな!転ぶ!マジで転ぶぅぅぅぅぅぅ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレキングに引っ張られてGIRLS本部に到着する。

 

 逃げることはしなかった。

 

 まぁ、逃げたらその倍、おそろしいことが待っているのだが。

 

「さぁ、入るわよ」

 

「わかっている。もう逃げないから放せ、このままだと」

 

「あーーーーーー!」

 

 面倒なことになると言おうとした俺だが、それを遮るほどの大きな声が聞こえてきた。

 

 聞き覚えがあるなぁ。

 

 嫌な予感がして振り返る。

 

「愛しい人!これはどういうことだ!」

 

 指をさしていたベロクロンが物凄い勢いで俺の前にやってきて、エレキングと俺を交互にみる。

 

「浮気か!」

 

「お前と交際した記憶はない!」

 

「どういうことだ!私が閉じ込められている間に毒牙にかけられてしまったというのか!?あぁ、こうなることを恐れていたのに、おい、貴様!今すぐ離れろ!」

 

「嫌よ」

 

 そういってさらに抱き着いてくるエレキング。

 

 ベロクロンが歯ぎしりしている。

 

「てか、何でお前がいる?保護観察中だろ?」

 

「フッ、GIRLSの見学さ!運が良ければ愛しき人と出会えるだろうと思っていたが、まさか、こんなことになろうとはなぁ!」

 

「何かしら?ポッと出風情が何か」

 

 なんだろうか?

 

 二人の間にみえない火花のようなものが散っている気がする。

 

「こんなところで何をやっている?」

 

「藤宮か、助けてくれ」

 

「断る」

 

 俺の頼みをばっさりと切り捨てた藤宮。

 

「まだ保護観察だ。余計な騒ぎを起こすな」

 

 藤宮がベロクロンの腕を掴む。

 

「それに見学はまだ始まったばかりだ。行くぞ」

 

「うぅぅぅぅう!愛しい人!待っていろ!すぐに」

 

「行くぞ!」

 

「あの女……敵ではないわね」

 

「お前はなんで勝ち誇っているんだ?」

 

 フンスと勝利した表情のエレキングへ突っ込んだ俺は悪くない。

 

「女には負けられない戦いがあるのよ。貴方にはわからないでしょうけれど」

 

 エレキングは俺の手を引いて歩き出す。

 

「そういえば、お前、仕事は?」

 

「あるわよ」

 

「行かなくていいのか?」

 

「貴方をちゃんと会議室まで連れていく。それが今の仕事よ」

 

「逃げるわけないだろ?」

 

「今のあなたの信用度はゼロよ」

 

「何気に酷いことを言うな」

 

「私の約束、いくつ反故に」

 

「わかった、わかったから、行こう」

 

 あぁ、早く解放されたい。

 

 エレキングにほとんど抱きしめられながら俺はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようです。ザムザム」

 

 会議室へ到着するとあっさりとエレキングは俺を解放して去っていった。

 

「よぉ、ピグモン、やってくれたな」

 

「何のことです?ザムザムのことを待っていたんですよ」

 

 俺が少し睨むもピグモンは変わらず笑顔だ。

 

「ザムシャーさん、何かあったの?」

 

「いや、気にしないでくれ……ところで、アギラ、お前、右の頬どうしたんだ?」

 

 アギラの頬にはどういうわけかキスマークがついている。

 

「うえぇ、まだついていた?」

 

「アギちゃんは私のものぉ!」

 

「あははは」

 

 アギラはハンカチで頬を拭いていた。

 

「?」

 

「実は」

 

 ウィンダムの話によるとアギラ達と会議室へ向かっている最中にエースキラーと遭遇。

 

 マーキングと称してアギラにキスをしていったという。

 

「なんというか、百合百合しいな」

 

「えぇ、本当に、えへへへ」

 

 メガネを光らせながら微笑むウィンダム。

 

 あれ、この子もエレキングみたいな子?

 

 そんなことを思っている間にアギラは頬のキスマークをふき取る。

 

「こうなったのもザムシャーさんのせいだ」

 

「俺のせい!?」

 

「だって、ザムシャーさんがいればボク、こうならなかったもん」

 

「いや、俺がいても起こったんじゃないか?アギラは同姓に好かれそうだし」

 

「そんなこと……」

 

「アーギちゃーん!」

 

 その時、ゴモラが現れてアギラへ抱き着いた。

 

 嬉しそうにアギラの頬へ顔をすりすりしているゴモラ。

 

「確認しよう、同姓に好かれていない?」

 

「そう、思いたい」

 

 視線をさ迷わせるアギラ。

 

 まぁ、仕方ないよな。

 

「アギラは可愛いし」

 

「か、かわっ!?」

 

 俺の発言に顔を赤くするアギラ。

 

「アギちゃんは私のものぉ!」

 

「渡さないよぉ!」

 

 がおぉ!と叫び声をあげるゴモラとミクラス。

 

 なんだ?

 

「それで、話っていうのは」

 

「スルーするんですか!?」

 

 ウィンダムが驚いているが仕事の話が重要だろう。

 

 俺がそういうと微妙な表情をしている。

 

「今日は最近発生している壊れた機材の修理ですぅ」

 

 ピグモンの言葉に俺は頷いた。

 

「力仕事か、だったら俺だけでも」

 

「駄目ですよぉ!今日のザムザムはアギアギ達と行動してもらいますからぁ」

 

「いや、俺一人で」

 

「だ・めですぅ」

 

 有無をいわせぬピグモンに俺は頷く事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほへぇ、黒焦げ」

 

「うわぁ、黒焦げだねぇ!」

 

「落雷でもあったんでしょうか?」

 

「いや、最近の天気予報で雨はなかったな」

 

 俺達は壊れた看板の前に来ていた。

 

 アギラ達の言うとおり、看板は落雷か何かの影響で黒焦げになっている。

 

「ピグモンの指示だと看板を外して取り換えてほしいそうだ」

 

「え?この板を?」

 

「専門の業者が取り換えた板を上から塗るんだと」

 

「おーし!じゃあ、すぐにやろうよ!」

 

 ミクラスがソウルライザーを取り出す。

 

「うん」

 

「はい!」

 

 三人がソウルライザーを起動する。

 

 怪獣娘になったアギラ、ミクラス、ウィンダムの三人は黒焦げになっている看板へ手を伸ばす。

 

「そこの釘で手を刺さないように気をつけろよ」

 

 適度に俺が指示を出しながら三人の動きを見る。

 

 大きな問題もなく看板の取り換えは解決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、取り換え!?」

 

「はいぃ、実は昨日、業者がやってくると黒焦げになっていたみたいで」

 

「おいおい、どうなっているんだ?」

 

 作業をして翌日に黒焦げっていうのはなぁ。

 

「そのことで話があるわ」

 

 ピグモンと話し込んでいるとエレキングがタブレットを片手にやって来る。

 

「計測したところ……この地域に反応が出ているわ」

 

「暴走している怪獣娘がいる?」

 

「その可能性がありうる。ただ、ステルスのような能力を持っているのか、反応が小さくて確証はできない。もしかしたら本当に落雷の可能性もありうるわ」

 

「……とにかく、注意しないといけないわけか」

 

「ザムザム、まさかと思いますが」

 

「張り込みをしてみる……まぁ、何もなければそれでいいんだ。看板交換もただというわけじゃない。それに黒焦げにしている犯人が怪獣娘で、暴走しているというなら保護しなければならない……だろ?」

 

 俺の言葉にピグモンは不安そうに、エレキングはいつもの表情だった。

 

 しかし。

 

「待ちなさい」

 

 俺が通路に出たところでエレキングがやってくる。

 

「なんだ?」

 

「今度、デートの約束があること忘れていないわね?」

 

「え?いや、そんな約束をした覚えは――」

 

「や・く・そ・く」

 

 ぐぃっと顔を近づけるエレキング。

 

 その目に俺は頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「看板、交換が終わったぁ~~!」

 

 ミクラスが拳を突き上げる。

 

 交換作業は一時間ほどだ。

 

 しかし、彼女達は疲れた様子はない。むしろやり切ったという表情だ。

 

「ご苦労様、ほら」

 

 俺は彼女達に買ってきたジュースを差し出す。

 

「うわぁ、ザムシャーさん!さっすがぁ!」

 

「ありがとうございます」

 

「……ありがとうございます」

 

 嬉しそうにするミクラス。

 

 感謝して受け取る二人。

 

「これから、どうするんですか?」

 

 ジュースを一口飲んで、ウィンダムが尋ねる。

 

「しばらく様子見……かなぁ?」

 

「つまり、張り込み!!」

 

「ミクちゃんが輝いている」

 

「やる気満々ですね……でも、私達、学生ですから勉強を」

 

「お前達は帰っていいぞ?俺が残るから」

 

「え、ザムシャーさんが?」

 

「ですが、独りにするというのは、その暴走した怪獣娘かもしれないんですよね?」

 

「そうだよ!ほら、ここは協力すべき!……勉強はその後、頑張るから、さ」

 

 三人は頑として帰る気配を見せない。

 

 こうなると四人で張り込みだなぁ。

 

「何か飲み物と一緒にパンでも買ってくるよ」

 

「じゃあ、アンパン!」

 

「刑事ドラマの見過ぎだよ」

 

「でも、定番ですよね!」

 

「はいはい、わかりましたよ。お姫様たち」

 

 ミクラスは遠慮しなくなったなぁ。ホント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミクさん、少しは遠慮した方がいいですよ?」

 

「えぇ~、ザムシャーさんが奢ってくれるって言っているんだからいいじゃん」

 

「今度からミクちゃんだけ自腹にした方がいいかも……ザムシャーさんの財布が底をつくことになったらエレキングさんが黙っていないと思うよ」

 

「うぅ!?」

 

 アギラの指摘にミクラスは顔をしかめる。

 

 ミクラスは情報部にいるエレキングが苦手だ。

 

 ザムシャーとエレキングが親しいことをアギラは知っている。

 

 何度かデートの約束をしているところを目撃していた。もし、ザムシャーの財布に金がなくてデートができないと知ったら。

 

「無表情で攻撃してくるだろうね」

 

「うえぇぇ、それは嫌だなぁ」

 

「わかったら自粛しましょう。それがミクさんの為にもなります」

 

 項垂れるミクラスにアギラとウィンダムが説得する。

 

「おい」

 

 三人が仲良く話をしていた時、声をかける者がいた。

 

 アギラ達が振り返ると銀髪で首輪のようなものをつけている女性が睨んでいる。

 

 そう、睨んでいた。

 

 まるで敵をみているかのように鋭く黄色い瞳がみている。

 

「えっと、なんでしょうか?」

 

 戸惑いながらウィンダムは尋ねる。

 

 何か睨まれるようなことをしただろうか。

 

「匂う」

 

「え?ウィンちゃん、何か匂うの?」

 

「ウィンちゃん……」

 

「そ、そんなことないですよ!えっと、すいません、何が匂うんでしょう?」

 

 二人からの視線に逃げる様にしてウィンダムは目の前の女性へ問いかける。

 

 こっそりと自分の匂いを嗅いでみるも臭さなどは感じない。

 

「あぁ、やっぱり」

 

「え、あの?」

 

 何やらぶつぶつと呟き始めた相手にウィンダムは戸惑い始める。

 

 この人、もしかして、ヤバイ人なのでは?

 

 彼女が距離を置き始めた時、女性がカッと目を見開く。

 

「お前から匂う!!」

 

 叫びと共にバチバチと雷撃が起こった。

 

「きゃっ!」

 

「ウィンちゃん!」

 

 吹き飛んだウィンダムをミクラスが咄嗟に抱き留める。

 

「ミクさん、ありがとうございます……」

 

「あの人……」

 

 アギラの視線の先では女性の姿が変わっていた。

 

 銀髪の頭部に伸びる二本の山羊を連想させる角。尖った尻尾に細長い脚を覆う獣殻。

 

 口の端からは小さな火が漏れている。

 

「怪獣娘……」

 

「しかも、暴走しています」

 

「どうしょう、私達でなんとかするしかない、よね?」

 

 ザムシャーが異変に気付いて戻ってくるまでに時間がかかる。

 

 それまで自分達で目の前の暴走している怪獣娘と戦うしかない。

 

「グゥゥゥ!アァ!匂う!匂うぞぉっぉおおおお!」

 

「ミクちゃん!」

 

 叫ぶ怪獣娘の標的となったのはミクラス。

 

 彼女の前に近づいて拳を振るう。

 

「このぉ!」

 

 咄嗟に両方の拳を受け止める。

 

 しかし、相手の勢いは止まらず押され始めた。

 

「な、んて、力なんだよぉぉぉぉぉ!」

 

 ミクラスが力任せに押し返そうとした時、目の前の怪獣娘の姿が消える。

 

「え――」

 

 気付いた直後、ミクラスの体が宙に浮いた。

 

 一瞬で下に体を丸めるようにしていた怪獣娘の蹴りがミクラスの顎を狙ったのだ。

 

 攻撃を受けたミクラスは少し宙に浮いて、地面に倒れる。

 

「ミクさん!」

 

「ウィンちゃん!」

 

 駆け出そうとしたウィンダムをアギラが止めようとした。

 

「ザァアアアアアアアアアアアアア!」

 

 ウィンダムへ怪獣娘は火炎放射を放つ。

 

「っ!」

 

 咄嗟に横へ跳んだウィンダムだが、怪獣娘は既に回り込んでおり、彼女の頭に一撃が叩き込まれる。

 

「ウィンちゃん!!」

 

 アギラが駆け寄ろうとしたが目の前に怪獣娘が降り立つ。

 

「グゥゥゥ!グウゥゥァアアアアアア!」

 

 獣のような雄叫びにアギラは後ろへ下がってしまう。

 

 しかし、ここで逃げれば、ミクラスやウィンダム。

 

 自分の友達を見捨ててしまうことになる。

 

 そんなことはできない。

 

 アギラは目の前の怪獣娘をみる。

 

 相手は獣のように唸りながら駆け出す。

 

 鋭い拳がアギラに迫ろうとした時。

 

 横から銀色の光が降り注いだ。

 

「グゥアァァァ!」

 

 風を斬る音と悲鳴が聞こえてくる。

 

 アギラが瞬きした。

 

 暴走した怪獣娘のいたところ。

 

 そこに立っていた一人の男。

 

 手に刀を握り締めて、サングラスをかけているがその瞳は真っ直ぐに暴走している怪獣娘をみている。

 

「ザムシャーさん」

 

「すまない」

 

 アギラの頭に彼はポンと手を置く。

 

 一言、けれど、その言葉には大きな感情が込められていた。

 

「俺が遅くなったばっかりに」

 

 ザムシャーは倒れているミクラスとウィンダムへ視線を向ける。

 

「ここは俺に任せて、お前は二人を安全な場所へ運んでくれるか?」

 

「ザムシャー、さんは?」

 

「俺はアイツの相手をする」

 

 ザムシャーは星斬丸の剣先を暴走している怪獣娘へ向けた。

 

「暴走しているとはいえ、ここまでやるなんて随分と性格の荒いようだな」

 

「ウゥウゥゥゥ!この、匂い!!」

 

「あ?」

 

 動きを止めるとピクピクと鼻を動かした。

 

 直後、その体から膨大な殺気が吹きだす。

 

「見つけた!みつけた、みつけたみつけたみつけたみつけたぁ!!」

 

 大きな叫び声をあげてザムシャーへ襲い掛かる怪獣娘。

 

 その拳をザムシャーは回避する。

 

 振るわれた一撃は地面に巨大なクレーターを作った。

 

「うわっ、と」

 

 バランスを崩しそうになりながら刀を構えなおす。

 

「急に速度が増したな……なんだ、コイツ」

 

「お前ぇええええええええ!」

 

 正面から振るわれる拳を受け止める。

 

「なんだ、お前?」

 

「お前、お前、お前お前お前お前お前お前、お前!二宮レンだな?」

 

 最後の方はとても小さな声。

 

 けれど、ザムシャーの耳はそれを聞き逃さなかった。

 

「お前、なんで」

 

 今まで表情を変えなかったザムシャーに起こった小さな変化。

 

 

 戸惑い、そして驚愕。

 

 二つの感情が渦巻いてザムシャーの動きを止めさせてしまった。

 

 グィッと怪獣娘は星斬丸を握り締める。

 

 本来なら手を切ってしまうかもしれない行為だが、獣殻に覆われているおかげで皮膚を傷つけることはない。

 

 身を乗り出すようにしてザムシャーの耳元で暴走しているはずの怪獣娘は言葉をささやく。

 

「私は二宮マナ、貴様の妹だよ。お、に、い、ちゃ、ん」

 

「なっ!?」

 

「会いたかったよぉ」

 

「ふざけるな!」

 

 一瞬、動揺しながらもザムシャーは相手を蹴り飛ばして距離をとる。

 

「ウソじゃないよぉ!あぁ、この匂い!間違えるわけがない!よーやく見つけたぞぉぉぉおおお!」

 

「っ!」

 

 口から火炎を吐く。

 

 後ろに気付いたザムシャーが星斬丸を回転させながら炎を四散させる。

 

「見つけた、見つけたみつけたぁ!フハハハハハハ!」

 

「ぐっ!」

 

「ザムシャーさん」

 

 ザムシャーの後ろではアギラが二人を守るようにしていた。

 

 ここで退いてしまえば、アギラ達が炎でケガをしてしまうかもしれない。

 

 それはならない。

 

 そんなことは絶対にさせてはならない。

 

 ザムシャーは星斬丸を回転する速度を上げた。

 

 じりじりと怪獣娘との距離を詰めていく。

 

「そこだ!」

 

 炎が弱まったタイミングを突いて、ザムシャーの一撃が怪獣娘の肩に直撃する。

 

 攻撃を受けた怪獣娘は悲鳴を漏らす。

 

「ガアアアアッ!フフッハァ!」

 

「わらって……いる?」

 

 アギラは暴走している怪獣娘が笑顔を浮かべていることに気付く。

 

 ザムシャーの一撃を受けてダメージを負ったはず、なのに笑顔なのだ。

 

 流石のザムシャーも異変に気付いていたのだろう、表情が険しい。

 

「アァァ!最高だ。もっと、もっとぉぉおおおおおづぁあああ!?」

 

 笑顔で叫んでいた途端、怪獣娘が顔を歪めた。

 

「グッ、こんなときにぃぃぃい」

 

 忌々しいという表情で怪獣娘は自らの首に触れる。

 

 銀色のチョーカーのようなものを引きちぎろうとしていたがびくともしない。

 

 頑強な作りらしいものを触りながらザムシャーを睨む。

 

「逃がさない、お前をぉ」

 

「メガトンテール!」

 

「おらぁ!」

 

 暴走怪獣娘が何かをしようとした時、ザムシャー達を守るようにゴモラとレッドキングが現れた。

 

 二人の攻撃を受けて吹き飛ぶもすぐに踏ん張り、睨む。

 

「チィッ、待っていろ。私はまたお前の前に現れる!お前を絶対に許さない!お前を苦しめてやる!」

 

 ザムシャーを指さしながら暴走怪獣娘は飛び去る。

 

「ありゃ、難敵だな」

 

「暴走しているのにちゃんと意識あるみたいだもんねぇ」

 

 怪獣娘の姿が見えなくなったことで警戒を解く二人。

 

 ザムシャーは星斬丸を鞘へ戻した直後、膝をついた。

 

「ザムシャーさん!」

 

「大丈夫だ……それよりも二人をみてもらう必要がある。医療班へ連絡を」

 

「既にオレがしてある。お前も少し力を抜け」

 

「すまん、少し、休む」

 

 レッドキングにいってザムシャーは地面に座り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事件から次の日。

 

 

 俺はいつものスーツ姿で墓地へ来ていた。

 

 あの後、アギラも含めた三人は救護班によって病院へ搬送される。

 

 アギラは大丈夫らしいが念のためだ。

 

 俺はGIRLSへ報告を済ませ、墓地へ向かうことにした。

 

 心の中の迷いを晴らすためということと、今日が命日であるからだ。

 

 目的地である墓の前で立ち止まる。

 

「久しぶり、爺ちゃん」

 

“風祭家之墓”

 

 そう刻まれている墓石の前で俺は笑みを浮かべた。

 

 この墓には俺を育ててくれた爺ちゃんとばあちゃんが眠っている。

 

 厳しくも正しく俺を育ててくれた爺ちゃん。

 

 最期は精一杯、生きたことを満足したように爺ちゃんは眠りにつく。

 

 愛しい人と同じ墓に入れることが救いだといっていた。

 

 花束を置いて、墓石に水をかけて、線香を差し替えた。

 

 両手を合わせて感謝の気持ちを込める。

 

 今の俺がいられるのは爺ちゃんのおかげだ。

 

「レン」

 

 聞こえた声に自然と体に力が入った。

 

 その方向へ視線を向けないようにしながら片付けて立ち上がる。

 

「レン!待ちなさい!」

 

 後ろから聞こえる声を無視する。

 

 最悪だ。

 

 なんで、このタイミングで!

 

「待ちなさいといっている」

 

「アンタ、誰だ?」

 

 肩を掴まれないように避けて振り返る。

 

 あぁ、ダメだ。

 

 視界に入れただけで、どうしょうもないほどの怒りが俺の中で叫ぶ。

 

「何を言っている。私はお前の父だ」

 

「知らない。俺に父はいない」

 

 俺の言葉に相手は顔をしかめる。

 

「確かに、我々はお前を捨てた。だが、頼む!お前にマナを救ってもらわなければならない!」

 

「マナ?」

 

「そうだ!お前の妹だ。お前が奴に奪われてから、生まれた子だ。お前と面識はない……だが、奴も突然、お前と同じようにおかしくなってしまった!」

 

 爺ちゃんに受けた修行がなければ今頃、カイジューソウルに飲み込まれて暴れていただろう。

 

 それほど、までに俺は怒りの感情に包まれ始めている。

 

「おかしくなってしまったアイツを戻せるのはお前しかいない!わかるだろう!すべてはお前からはじまったんだ!マナを家族として戻せるのは――」

 

「黙れ」

 

 拳を強く握りしめすぎて、血が流れる。しかし、痛みを感じない。

 

「家族?アンタの口から出る言葉はどれも軽すぎる。アンタの目的は知っている。だが、興味もないし、関わるつもりもない。はっきりって俺には迷惑でしかない。何かするなら勝手にしろ。だが、俺に迷惑をかけるなら、容赦しないからな」

 

「レン!待て!お前は」

 

「それと!」

 

 星斬丸を抜きそうになる衝動に駆られる。

 

「俺は風祭直人だ。てめぇらの知るレンじゃねぇよ!」

 

 最後に怒りの感情が口に乗りつつ、そのまま歩き去ろうとした。

 

「この、忌み子め!」

 

 気付けば刀袋から星斬丸を抜いて思いっきり振りぬく。

 

 斬撃が衝撃波となって相手のすぐ横を通過する。

 

「今度、俺の前に姿を見せたら……殺す」

 

 相手が腰を抜かしているが俺は手を差し伸べることもせずにそのまま、墓場を後にした。

 

「ごめん、爺ちゃん……」

 

 墓前で俺は最低なことをした。

 

 悔しさと怒りが俺の中でうずまいて気付けば拳を壁に叩きつけてしまう。

 

 壁に小さな凹みができる。

 

「くそっ、俺は」

 

「ザムシャーさん?」

 

 聞こえた声に俺は振り返った。

 

 そこにいたのはアギラ。

 

 彼女は驚いた目でこちらをみている。

 

「アギラ……どうして」

 

「えっと、退院許可をもらって、そのことを報告しようと……したら、ここだって」

 

 ちらちらと目をさ迷わせるようにしながらアギラは尋ねる。

 

「さっきの人は?」

 

「みていた、のか」

 

「ごめんなさい」

 

「謝らないでくれ、俺の未熟が招いたことだ……」

 

 俺はアギラをみる。

 

「場所を変えるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アギラと共に俺は喫茶店へ足を運ぶ。

 

 人が少なく、レトロな音楽が流れている店内。

 

 そこで俺はアギラの前でサングラスを外す。

 

「あ……」

 

 俺の目をアギラは真っ直ぐに見る。

 

「前に話したことだけど、少しウソがあるんだ」

 

「ウソ?」

 

「これ、生まれつきなんだよ」

 

 サングラスで隠していた片目。

 

 そこにあるのは深紅のように赤い瞳。

 

 本来ならありえない瞳だ。

 

「医者も全員、お手上げ、原因不明ってことで気味悪がられた。俺の家が裕福ってこともあってかなり荒れたんだよ」

 

 元々、名家であった生まれた場所はとにかく俺の目を忌み子として恐れ、遠ざけた。

 

 成長していくが、俺は家族の愛情を貰うことはなかった。

 

 普通なら荒れくれていただろう。

 

 しかし、ある人達が俺を引き取ってくれた。

 

「風祭誠……爺ちゃんだった」

 

 爺ちゃんは高齢だったが山で生活している変わり者だった。

 

 俺の実情を知った爺ちゃんは怒り、俺の両親にある約束を書かせるとそのまま引き取っていく。

 

「約束?」

 

「俺に近づかないこと……それが条件だった」

 

「どうして?」

 

「まぁ、有体にいえば、虐待を受けていたんだよ。俺は」

 

 服に隠れてみえないが俺の背中には火傷の跡が薄く残っている。

 

 この事実に偶然にも気づいた爺ちゃんたちは怒り、絶縁状を叩きつけるようにして俺を引き取ってくれた。

 

「まぁ、そこからが大変だったけれど」

 

 爺ちゃんは大自然の中を駆け回るほどにたくましい人。

 

 同じようにできるようになるまで厳しく、出来たら優しく褒めてくれた人だった。ばあちゃんは爺ちゃんと違って、いつも優しく笑顔を絶やさない。

 

 二人の愛情で俺は歪み、ねじれずに育ったんだと思う。

 

 だからこそ、俺は思った。

 

 俺にできることは何でもしょう。

 

 それが、俺に愛情を注いでくれた人たちにできる恩返し。

 

「だけど、俺は心のどこかで恨んでいるんだと思う」

 

「恨んで?」

 

「俺を生んだ人たちは俺を否定した。生まれなければよかったと面と向かって言われた……気にしていない、筈だったんだ。だが、前にした時、心の中にどうしょうもない激しい怒りが噴き出した。少しでも抑えきれなければ……暴走していたと思う」

 

「ザムシャーさん……」

 

「アギラ、教えてくれよ」

 

 縋るように、答えを求める様に俺はアギラへ問いかける。

 

「俺は、生まれてこなければよかったんだろうか?」

 

「そんなこと、ないよ」

 

 頬に温もりが伝わる。

 

 アギラが身を乗り出して両手で俺の頬を掴んでいた。

 

「ザムシャーさんがいたから救えた人達だっている。超獣シスターズだって、暴走したエースキラーも救えたのはザムシャーさんがいたからだよ?それに、ボクだって」

 

 笑顔でアギラが俺をみる。

 

 その目には連中のような蔑みや怒りはない。

 

 あるのはどこまでも澄み切った慈愛。

 

「アギラ……俺は、生きていいんだろうか?」

 

 気付けば、心の奥底、誰にも、もらしたことのない感情を吐き出していた。

 

「当たり前だよ。ボクはザムシャーさんに生きていてほしい……」

 

 アギラは優しく俺を抱きしめてくれた。

 

 気付けば、俺は泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後。

 

 

「大変、大変、見苦しいところを」

 

「そ、そんなことないよ」

 

 俺達は離れて互いに顔を真っ赤。

 

 喫茶店だが、人がいないということが幸いだった。

 

「ありがとう、アギラ」

 

「ううん、ボクだってザムシャーさんに感謝でいっぱいだから」

 

「そっか」

 

「………………ボク、ザムシャーさんのこと、好きだよ」

 

「あぁ、そう…………………うん!?」

 

 顔を真っ赤にして視線を逸らすアギラに俺は戸惑う。

 

「アギラ、今のって」

 

「告白だよ。恥ずかしいけれど」

 

「いや、その、嬉しいんだが」

 

「やっぱり、ボクみたいなのに告白されるのって迷惑かな?」

 

 しゅんと悲しそうな表情になるアギラ。

 

 ヤバイ、これはトニカクヤバイ。

 

「違うんだ。全く違う!えぇっと、実はさぁ」

 

 俺は白状することにした。

 

「五人に告白されて保留にしているんだよ」

 

「ふぇ?」

 

 ぽかんとした表情のアギラ。

 

「誰とはいえないんだが、それぞれに告白されて保留中なんだよ……だから、その、応えられないというか……こんな俺に告白してもアギラが悲しむだけで」

 

「そんなことないよ!むしろ、やる気がでた」

 

「へ?」

 

 アギラの言葉に困惑する。

 

「頑張ってザムシャーさんに振り向いてもらえるように頑張るから」

 

 フンス!といって握りこぶしを作るアギラ。

 

 その光景に俺は笑みを浮かべるしかなかった。

 

「なんで、女っていうのは」

 

 誰も強いのだろうか。

 

 そう俺は心の中で思った。

 

 

 

 



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第十三話 史上最大の兄妹喧嘩

先生!もう少し、感想が欲しいです。


「どういうことか説明してもらおうかしら」

 

「話す、だから落ち着いてその鞭を下ろしてくれ」

 

 GIRLS本部。

 

 中に入った途端、待ち構えていたエレキングに鞭を突き付けられてしまう。

 

 眼光は今にも誰か殺してしまいそうなほど鋭い。

 

 付き合いが長いからこそわかる。

 

 求める答えを出さなければ俺の命はない。

 

「まず、何の説明を求めているんだ」

 

「これよ」

 

 エレキングがみせたのはソウルライザーの端末。

 

 怪獣娘達のグループメッセのようだ。

 

 そこに表示されているのはアギラの一言。

 

「告白しました」

 

 一言が記されていた。

 

 その内容を見て、俺は固まる。

 

「さぁ、吐きなさい。あの子に何をしたの?」

 

「どちらかというと……助けてもらったのは俺の方だな」

 

 エレキングに何があったかを話す。

 

 彼女は自分の事情を把握しているので誤魔化す必要はない。

 

「良かったわね。受け入れてくれるかわいい子がまた一人、手に入って」

 

「いや、だから……」

 

「不用意な発言をして傷つけたら殺すわ」

 

「……わかっている。だから、鞭を下ろしてくれ、首が絞めつけられていて、痛い……」

 

「今度、デートをすること、わかっているわね?」

 

「あの、今月は色々と財布の中が」

 

「デ・ェ・ト」

 

「わかりました、デートに行かせてもらいます」

 

 逆らえば命はない。

 

 俺にある選択肢はデートに行くことのみ。

 

 逃げれば確実に命はない。

 

 エレキングの言葉に逆らえば、俺の命はない。

 

 あと、確実に何回かデートの話が来るだろう。

 

 バイト、考えるべきだろうか?

 

「ところで、俺の頼んだことは調べてくれたのか?」

 

「私は所詮、遊びなのね」

 

「今度、買い物の荷物持ちをさせてもらいます」

 

「私の家で一泊、アニメ映画の鑑賞会」

 

「……わかりました」

 

 さっさと本題へ入ろう。

 

 これ以上は心身共にもたなくなる。

 

「情報」

 

「二宮マナ、年齢は16……桜ヶ丘中学校を卒業、以降は不明」

 

「不明?」

 

「中学卒業後の経歴がない……というべきかしら、ただ、考えるなら」

 

「軟禁したんだろうな。おそらく、中学卒業後くらいに怪獣娘として覚醒し始めていたのね」

 

「あの家なら、いや、あの二人ならありえるな」

 

「……大丈夫?」

 

「俺は大丈夫だ……」

 

「そろそろ会議の時間よ」

 

「行こう、我夢達も来ているはずだ」

 

「無理はしてない?」

 

 こちらをみずにエレキングが問いかける。

 

 心配してくれていることはわかった。

 

「無理はしていない。俺は俺のできることをやるだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室。

 

 ピグモンをはじめとした怪獣娘が待っていた。

 

「ザムシャー!」

 

「我夢、友也も来たんだな」

 

「今回の件は色々と興味がありましたから」

 

 白衣を纏い淡々と答えるのは一条寺友也。

 

 我夢の助手ということになっているが彼に匹敵するほどの天才だ。

 

「ザムシャーさん、大丈夫?」

 

「俺は大丈夫だ。アギラ、お前も会議に参加するのか?」

 

「うん、ミクちゃんとウィンちゃんの分まで頑張る!」

 

「そっか」

 

「おい、オレ達のことは無視か?」

 

「そんなわけないだろ……レッドキングやゴモラ達も頼りにさせてもらうぞ」

 

「任せろ!」

 

「ドン!と頼ってね!」

 

「私、凄い場違いの予感が」

 

「ザンドリアス、無理はするなよ」

 

 不安そうにしているザンドリアスへ声をかける。

 

 ガタガタと不安そうにしていた彼女だが、俺が撫でると嬉しそうに目を細めていた。

 

「無茶はするな。大丈夫だ。俺達がいるからな」

 

「はい!」

 

「よし……って、なんだ?」

 

 周りの視線が鋭い。

 

 エレキングの絶対零度はさらに増しているし、レッドキングはちらちらとこちらをみて、イライラするように拳を鳴らしている。

 

 ゴモラは面白いものを見つけたように微笑み、アギラは頬を膨らませていた。

 

「さ、会議をはじめるですぅ!」

 

「ピグモン、怒っている……」

 

「我夢さん、余計なことは言わない方がいいですよ」

 

 ひそひそと我夢と友也が端で話し合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザムザムからの報告で該当する怪獣娘はおそらく、これになると思います」

 

 会議の内容は俺が遭遇した暴走怪獣娘、二宮マナのことだ。

 

 ピグモンが正面のスクリーンに表示したのは一体の怪獣。

 

 “パズズ”と称される怪獣。

 

「過去の資料によれば、パズズは雷撃と火炎だけでなく、格闘能力も有していた怪獣とされています。ザムシャーさんやアギラさんの報告から推測する限り、該当する怪獣娘はパズズではないかと思います」

 

「雷撃?使っていなかったような」

 

「いや、最後の方だが、雷撃を放とうとしていた……不発に終わったから力を使いこなせていなかったのかも」

 

「それは違うよ」

 

 スクリーンの映像を切り替えて我夢が立つ。

 

「ザムシャーが最後に撮影してくれたパズズの映像をみたんだけど、ここ!」

 

 我夢はスクリーンを拡大して銀色のチョーカーを映す。

 

「このチョーカー……前にオーストラリア本部が送ってきたノルバーグの研究資料にあったものと同じの可能性があるんだ」

 

「チョーカーには特殊な波長を感知すれば対象を抑え込もうとするシステム……ですが」

 

「どうしてパズズがそれをもっていたのか……という謎が残るわけね」

 

 友也の疑問をエレキングが繋げる。

 

「おそらくだが、パズズの実家、親の仕業だろう」

 

 俺の言葉に全員の視線が集まる。

 

「ザムザム……」

 

「貴方」

 

 二人の目が俺に向けられる。

 

 心配してくれていることは嫌というほど分かった。

 

 だが、ここは俺がやらなければならないことだ。

 

「パズズ、いや、二宮マナの家は元華族の流れをくむ名家だ。その力は今もかなりのものだときいている。あくまで可能性の話だが、ノルバーグの存在を知って取引を持ち掛けたのかもしれない。パズズの存在を世間に露見されないようにするためにな」

 

「何か、問題があるの?」

 

「あるのさ、あの家は世間体を気にする。悲しいことだが、あの家は怪獣娘に対して理解があるわけじゃない……いや、頭が古すぎる」

 

「お兄ちゃんは、どうして、わかるの?」

 

 ザンドリアスが問いかける。

 

 俺の表情を見て少し怯えているような気がしたが、感情を必死に抑え込んでいないとどうなるかわからない。

 

「俺の本当の名前は二宮レン、パズズ……二宮マナと血のつながった兄妹、らしい」

 

 誰かが息をのんだ。

 

「あの家から遠ざけられた後に妹は生まれたらしい……最近、わかったことだけどな」

 

 だから、と俺は告げる。

 

「パズズの相手は俺がする。みんなは周りに被害が及ばないようにしてほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハッ、ハハハハァ……」

 

 暴走怪獣娘、パズズこと二宮マナは路地裏にいた。

 

 顔を歪めて、彼女は笑っている。

 

「ようやく、ようやくみつけたぁ」

 

 バチバチと首元のチョーカーから電撃が走る。

 

「あぁ、ウザイ……」

 

 チョーカーに手を伸ばす。

 

 パズズが怪獣娘としての力に覚醒したのは少し前。

 

 まだ、彼女が中学生の時。

 

 突然、怪獣娘としての力を覚醒してしまった。

 

 それだけのことで彼女の世界は闇に包まれる。

 

 優しかった両親は自分を化け物のように恐れて、蔵に閉じ込めた。

 

 しかし、パズズとしての力が強かったことで蔵は倒壊。

 

 彼女の力を抑制すると言って首にチョーカーをつけられ、さらに強固な倉庫のような空間にパズズは閉じ込められる。

 

 パズズはそれからずっと誰とも触れ合えずにいた。

 

 最低限の食事が運ばれてくるだけ、ずっと独りぼっち。

 

 クラスメイトが心配してくることもない。

 

 闇の中で孤独。

 

 偶然にもパズズは聞いた。

 

 聞いてしまった、通常よりも超えた聴覚によって。

 

 

――あの子もまさか奴と同じになるなど。

 

 

――兄妹揃って化け物なんて。

 

 

 兄?

 

 兄がいるの?

 

 暗闇の中でマナは問いかける。

 

 しかし、返答はない。

 

 返答はなかったがマナにとって救いだった。

 

 自分と同じ存在がいる。

 

 何より兄。

 

 兄に会えば――。

 

 気付けばパズズはチョーカーの力に抗いながら倉庫を壊して外に飛び出した。

 

 探しているうちに、色々と嫌なことに遭遇して。

 

「あぁ、ようやく見つけたんだ。逃がさない、逃がさない、絶対に逃がさない。そうして」

 

 にこりとマナは微笑む。

 

「逃がさないぞ。お兄ちゃん……」

 

 バチバチと音を立ててチョーカーから電撃が走る。

 

 パズズは気づかない。

 

 チョーカーに亀裂が入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、ザムシャー」

 

 会議室を出ようとしたところで呼び止められる。

 

 振り返るとレッドキングの拳がさく裂した。

 

 防ぐことも抵抗する暇もないまま彼は吹き飛び、向かい側の壁に体を打ち付ける。

 

「ちょっ!?」

 

「レッドキングさん!?」

 

 ザンドリアスとアギラが慌てて止める。

 

「お前、これから何をするつもりだ?」

 

「……」

 

「当ててやろうか?お前の妹を誰にも迷惑かけずに倒すつもりだろ?」

 

「だったら、なんだ?」

 

「このバカ野郎がぁああああああああああああ!」

 

「きゃああああああ!?」

 

 真横にいたザンドリアスが悲鳴を上げる。

 

 かなりのデカイ声にやられたのだろう。

 

「お前、何でもかんでも一人でやろうとしてんじゃねぇよ!オレ達を頼れ!」

 

「……それは、これは俺の家の」

 

「ンなことしるかぁ!」

 

「私の時と真逆!?」

 

 目をくるくる回しながらザンドリアスが叫ぶがレッドキングは聞いていない。

 

 顔をぐぃっと近づけた。

 

「お前はオレ達のためにずっと戦い続けていただろう!こういう時くらい頼れ!それぐらいのことはオレ達だってできる!」

 

「……レッドキング」

 

「おう!何だ!」

 

「揺らすな、吐きそう」

 

 話をしている間、散々、体を揺らされたことで気持ち悪い。

 

 正直に言って放してもらってから。

 

「悪かった……といっていいかわからないけど、手伝ってくれ」

 

「最初からそういえばいいんだよ!」

 

 胸を張るレッドキング。

 

「みなさーん!パズパズらしき反応です!」

 

「……早速か、行こうぜ」

 

「あぁ」

 

 レッドキングと拳をぶつけ合う。

 

 それから、目を回しているザンドリアスへ声をかけた。

 

「すまないな、ザンドリアス」

 

 主にレッドキングの被害に対して。

 

「どぉ、いたしましてぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハッ、どうだぁ、出てこねぇかぁ?」

 

 パズズは笑いながら火炎を吐き出す。

 

 町や人に被害は出ていない。

 

 しかし、暴れる怪獣娘から逃げ惑う人たちは恐怖していた。

 

 怪獣娘に対して人が最低限の理解はあってもすべてを知っているわけではない。

 

 暴れていれば当然ながらそれは恐怖の対象になる。

 

 パズズは近くの車を掴む。

 

「ほぉらよぉ!」

 

 力強く投げる。

 

 車が宙を舞い、逃げ惑う人たちの頭上へ降りかかろうとした時。

 

「キャッチ!」

 

 下から現れたアギラが掴む。

 

「アンド!」

 

「セーフ!」

 

 くるんと回転しながら車を受け取ったレッドキングが安全な場所に置く。

 

「見つけたぞ!暴走怪獣娘!」

 

「あー?」

 

 パズズと向かい合う様に立つレッドキング。

 

 傍にはアギラ、ザンドリアス、ゴモラの姿もある。

 

 パズズは舌打ちした。

 

「てめぇらみたいなのに相手はねぇんだよ。お、か、え、り」

 

 シッシッというように挑発するパズズ。

 

 ニヤリとレッドキングは笑う。

 

「お前の大好きなお兄ちゃんなら、来ないぜ?オレ達の!だからな」

 

「殺す」

 

 カウンターの挑発がクリティカルヒット。

 

 地面にクレーターを作りパズズがレッドキングに接近する。

 

 振るわれる拳を正面からレッドキングは受け止めた。

 

「良いパンチじゃねーか!大怪獣ファイトに出ようぜ!」

 

「うぜぇ!興味ねぇ!」

 

 近距離で火炎を吐くも体を大きくのけ反って躱しながらキックを繰り出す。

 

 パズズは両腕を交差して攻撃を防ぐ。

 

「どうした?お兄ちゃんに会えなくてやる気もねぇか?」

 

「黙れ」

 

 苛立ちながら近くの車を投げる。

 

「よいよいせーっと!」

 

 横から現れたゴモラが車を受け止めた。

 

「危ないなぁ、もう!ザムシャーの妹でも乱暴すぎ――」

 

「消えろ!!」

 

「うわっ!?」

 

 慌ててゴモラは地面の中に潜る。

 

 しかし、火炎がゴモラの尻尾を少しばかり焦がす。

 

「ゴモたん、大丈夫?」

 

「アチチ、少し焦げちゃったよ」

 

 アギラが心配そうに尋ねる。

 

 地面から顔を出して尻尾をふーふーするゴモラ。

 

「余所見してんじゃねぇ!」

 

 レッドキングのパンチを受けたパズズが地面に倒れる。

 

「うし、どうだ!」

 

 パチリと目を開けるパズズ。

 

 瞬間。

 

「うあっ!」

 

「おう!?」

 

「痛い……」

 

 パズズの体から雷撃が走る。

 

 衝撃で痺れてしまう三人。

 

「ウザイ、邪魔、消えろ消えろ消えろ!お前らに何か用ねぇんだよ!うぜぇええええええええええええええええええ!」

 

 バチバチと迸る雷撃と雄叫び。

 

 レッドキングがみるとパズズの首のチョーカーがない。

 

「あ、壊れている」

 

 ゴモラの視線は地面。

 

 砕け散ったチョーカーがあった。

 

 チョーカーをパズズは踏みつぶす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄色かった瞳が真っ赤に染まっていく。

 

 暴走し始めている。

 

 このままでは理性が失われてしまうだろう。

 

 だが、

 

「出番だぞ!」

 

 レッドキングが空に向かって叫ぶ。

 

 キラリと輝いた直後、弾丸のように落下してくる影。

 

「ようやくか」

 

 ゴキゴキと音を鳴らしながら体を動かすザムシャー。

 

 手の中にある星斬丸を握り締める。

 

「グルゥウウウウウウウウウウウウウウ!ウワァォオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 怪獣のように叫ぶパズズはザムシャーに迫る。

 

「ザンドリアス、離れていろ」

 

 振るわれる拳を躱しながらザムシャーは上空にいるザンドリアスへ叫ぶ。

 

 ザンドリアスは悲鳴を上げながらパタパタと逃げる。

 

 レッドキングたちは近くで様子を伺っている。

 

 何かあれば助けようとするだろう。

 

 そのことがザムシャーは嬉しく思えた。

 

「コッチヲミロォオオオオオオオオオ!」

 

 叫びながら振るわれる蹴りを星斬丸で受け流す。

 

「煩いな。お前なんかに興味はない」

 

「ミロォオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 近距離で火炎を吐かれる。

 

「熱いんだよ!」

 

 炎をふさぐべく顎を蹴り飛ばす。

 

 少し後ろへ下がった隙をついて、腹に一撃。

 

「ウガァアアアアアアア!ミロヨォォォオオ!」

 

「うるさいな。俺はお前に興味はないし、見る気はねぇんだよ」

 

 振るわれる尻尾を手で掴んで振り回す。

 

 近くの壁に体を打ち付けようが地面を抉ってしまったような気がするがザムシャーはやめない。

 

 止まる気すらなかった。

 

「何か……」

 

「ザムシャー、怒っているな」

 

「うん、激オコ!」

 

 楽しそうに話すゴモラの言葉に二人は何とも言えない表情だ。

 

 その間にザムシャーとパズズは距離が開いていた。

 

「お前に長く付き合うつもりはない。ここで潰して終わらせる」

 

 どことなく苛立った様子のザムシャーは体勢を落とす。

 

 パズズも構える。

 

 頭部の角にバチバチと雷撃が集まっていく。

 

 ザムシャーは静かに星斬丸を握り締める。

 

「お前を斬る」

 

「ミロォォオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 放たれる雷撃。

 

 先ほどまでのものと異なり真っ直ぐにザムシャーに迫る。

 

 雷撃が直撃して爆発が起こった。

 

「ザムシャーさん!」

 

「うわっ、直撃!」

 

 アギラとゴモラが叫ぶ中、黒煙の中からザムシャーが姿を現す。

 

 獣殻が剥がれ落ちて中の皮膚も傷ついている。

 

 ザムシャーの赤い瞳は真っ直ぐにパズズを見据えていた。

 

 そして。

 

 星斬丸の刃が煌めいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それで、どうなったんですか?」

 

「アギちゃん!続きを早く!」

 

 病室でウィンダムとミクラスが続きを急かす。

 

 椅子に座っているアギラはジュースを一口、飲んで。

 

「ザムシャーさんの一撃で暴走した怪獣娘は気絶。GIRLSに保護されたよ」

 

「さっすがレッドキング先輩!」

 

「いや、そこはザムシャーさんの凄さかと……雷撃を正面から受けたのに平然としているんですよね?」

 

「そうでもないよ。雷撃のせいでしばらく痺れて動けなかったみたいだから」

 

 アギラは思い出す。

 

 パズズを倒した直後、雷撃によってしばらく動けずゴモラに弄られていた。

 

「あの姿を見ていたら、何か、ドキドキしたなぁ」

 

「「え?」」

 

「どうしたの?ミクちゃん、ウィンちゃん」

 

 トロンとした瞳のアギラに二人は戦慄する。

 

「いいえ!なんでもないです!」

 

「そうだよ!アギちゃん」

 

 二人は全力で首を振った。

 

「ところで、暴走していた怪獣娘ってどうなったの?」

 

「この病院で保護されているよ」

 

「え?」

 

「すいません、アギさん、もう一度」

 

「この病院で保護されているよ。今は大人しくしている」

 

「えっと」

 

「まぁ、少し複雑なところはありますけれど……大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫……とはいえないかな?」

 

 アギラは思い出す。

 

 

 運び込まれた病室。

 

 そこで暴れるパズズ。

 

「触れるな!触るな!失せろぉぉぉおお!」

 

「大人しくしろ」

 

 尚も暴れようとしたパズズだが、現れたザムシャーが迷わずにゲンコツを繰り出す。

 

「きゃうん!」

 

 殴られたパズズはベッドの上に倒れる。

 

「治療、よろしく」

 

「は、はい!」

 

 

「何度か暴れるとどこからともなくザムシャーさんが現れてゲンコツを繰り出すんだ」

 

「大丈夫なのかな?それ」

 

「容赦ないですね。ザムシャーさん」

 

「方針なんだって」

 

 アギラの出会った藤宮という人物の話によれば、落ち着くまで徹底的にスパルタ方針をとるらしい。

 

「でも、ザムシャーさんとパズズって姉妹なんでしょ?」

 

「話し合いで解決は無理なんですか?」

 

「うん、だから、ボクやってみようと思うんだ」

 

「「え?」」

 

 そういってアギラは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何の用だよ」

 

 パズズの病室へアギラは足を運ぶ。

 

 アギラの姿を見てパズズは鋭い目で睨む。

 

「お話、しようと思って」

 

「はぁ?こっちはねぇよ。失せろ」

 

「嫌だ」

 

「は、おい!何勝手に座って」

 

 文句を聞き流してアギラは腰かける。

 

 パズズはそっぽを向く。

 

「ザムシャーさんとお話した?」

 

「バッ、なっ!てめぇには関係ないだろ!」

 

「あるよ、未来の義理の妹だもん」

 

「………………はぁ!?」

 

「あれ、聞いていないの?」

 

「何を!?てか、どういうことだ!?義理の妹ってんなんだ!」

 

 目をぐるぐるしながらパズズは叫ぶ。

 

「ボク、ザムシャーさんに告白したから」

 

「は、はぁあああああああああああああああ!?」

 

「院内では静かにしないとダメだよ」

 

 アギラは置いてあったお菓子を手に取る。

 

「いや、無理……てか、何だ!どういうことだよ!説明しろ!」

 

「そのままのことだよ。ボク、ザムシャーさんに告白した」

 

「二回も言わなくてもいいっての!理解できるからな!じゃなくって!」

 

 うがーっと叫ぶパズズ。

 

 頭の中が混乱してぐちゃぐちゃだ。

 

「ちゃんとザムシャーさんと話をしていないからだよ」

 

「うっ」

 

「話をしてみたら?」

 

「どうしろっていうんだよ」

 

 俯いたままパズズが問いかける。

 

「生まれてから一度もちゃんとした会話をしたことねぇんだ!そんな相手とどういう話をすればいいんだよ!」

 

「普通の話をすればいいじゃん。良い天気とか、色々あるでしょ」

 

「それは……」

 

「パズズは色々と考えすぎなんだよ。じゃあ、ボクも立ち会うから話をしようよ」

 

「ハッ、何でお前が」

 

「いいから、いいから!ほら、ザムシャーさん」

 

 アギラはザムシャーを呼ぶ。

 

 少ししてドアが開かれてザムシャーが姿を見せる。

 

「なんだ?アギラ」

 

「パズズが話をしたいって」

 

「……わかった」

 

 アギラが用意した椅子に腰かけるザムシャー。

 

「で?」

 

「え、あ、その……」

 

 少し詰まりながらパズズは視線をさ迷わせる。

 

「今日は良い天気ですね!」

 

「……曇っているぞ?」

 

 開始からつまずいた。

 

「何やってんの?パズズ」

 

「いや!?お前が話の振り方で言ったんだろ!」

 

「そうだけど、周りはみようよ」

 

 アギラの指摘に顔を赤くするパズズ。

 

「アギラと仲良くなったんだな」

 

「はぁ!?ンなわけないだろ!何をどう見れば!」

 

「違うのか?」

 

「ボクは仲良くできると思うけどなぁ」

 

「お前はもう黙れ!あぁ、くそっ、今まで悩んでいたのがバカらしく思えてきた」

 

「そうか」

 

「兄貴こそ!なんで私に話しかけてくれないんだよ!」

 

「……深い理由はない。ただ、俺が話しかけたことでお前が暴走するかもしれないから、話しかけられるまで何もしないと決めていただけだ」

 

「え、そうなの?」

 

「あぁ」

 

 呆気にとられるパズズ。

 

 頷いたザムシャーに呆れながら叫ぶ。

 

「バカ兄貴!妹を心配して普通は話しかけるもんだろ!」

 

「……そうなのか?」

 

「さぁ?」

 

 ザムシャーとアギラは互いに首を傾げた。

 

「お似合いカップルみたいなことしてんじゃねぇ!兄貴!兄貴なら妹の肩をもてよなぁ!」

 

「……わかったから、叫ぶのをやめろ」

 

「うぅぅ!バカ兄貴……これから色々な話をしてもらうからな!」

 

「わかったよ。マナ」

 

「!?」

 

 ザムシャーの言葉にパズズはぽろぽろと涙をこぼす。

 

「どうした?」

 

「どうしたじゃない!このタイミングで名前を呼ぶんじゃないよ……バカ兄貴ぃ」

 

 泣きながらパズズはザムシャーに抱き着いた。

 

 抱き着かれたザムシャーはパズズの頭をやさしく撫でる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く!院内は静かにしてくださいね」

 

「すいませんでした。美山婦長」

 

「家庭のことで色々とあるみたいだけれど、他の人もいるのだから……あと、無茶をし過ぎないこと!」

 

「わかっています」

 

「口だけではいえます!ちゃんと実行してください!」

 

 泣きじゃくるパズズが落ち着いた後、異変に気付いてやってきた美山咲子婦長に俺は事情を話してお説教を受けた。

 

 パズズは泣き疲れて眠り、アギラは仲良しの二人のところへ戻っている。

 

「ちゃんと聞いていますか?」

 

「はい、聞いております」

 

「妹さん、ちゃんと大事にしてあげるのよ」

 

「はい……」

 

 この人には頭があがらない。

 

 GIRLSに入りケガばかりしていた俺の面倒を見てくれた。厳しくも優しい人である。

 

 何度もケガをして怒られた。

 

 

 だが、それ以上に優しくしてくれた人でもある。

 

 パズズの面倒をみてくれているのが彼女なので色々と頼りになった。

 

「パズ……マナのこと、もうしばらくお願いします」

 

「わかりました。それと、彼女さんが来ているわよ」

 

「え?」

 

 笑みを浮かべながら美山さんは後ろを指す。

 

「ザムザム!迎えに来たですよぉ!」

 

 ニコニコと笑顔でやってきたのはピグモン。

 

 嬉しそうに手を振っている。

 

 前にピグモンが「ザムザムの彼女です!」といったことが原因で俺の彼女だと信じていた。

 

 美山さんは誤解したままらしい。

 

 ピグモンが訂正をする気がないから当然なのだろう。

 

 やってきたピグモンは嬉しそうにほほ笑む。

 

「どうした?」

 

「どうしたじゃないですぅ!タケナカさんから連絡が来たですよぉ!あとは任せてほしいそうですぅ」

 

「……待て、お前、まさか」

 

「はい!全部、話しました」

 

「……いや、これだけのことに日本の総理大臣を動かすなよ」

 

「えへへ、ザムザムのピグモンはがんばりますぅ!それに、怒っていますから」

 

「え?」

 

「ザムザムやパズパズがこれ以上、傷つくことはないです!」

 

「……すまない、ピグモン」

 

 ピグモンは俺に抱き着いてくる。

 

「ザムザムはこれ以上、傷つかなくていいんですよ」

 

「……そう、かもな」

 

「あとは、ピグモンを彼女にしてくれればオールオッケーですぅ!」

 

「さて、帰るか」

 

「もう!ひどいですよぉ!ザムザム!」

 

 プンプンと怒って(全く怖くない)ピグモンが追いかけてくるのをみながら俺は小さな笑みを浮かべた。

 

 

 




美山咲子

ウルトラマンレオ、恐怖の円盤生物シリーズに登場した美山家の大黒柱。
本編においても婦長だったので、登場してもらいました。
厳しいお母さんですけれど、とても深い愛情を持っています。
家族を失った悲しみに沈んでいたトオル君を救い上げるほどの愛情を持っています。


ちなみに、この国の総理大臣はタケナカというらしい。


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第十四話 温泉、大告白!

本編は次回にてひとまず終わります。

その後は番外編をやります。


「はい!大当たりぃ!温泉旅行が当たったよぉ!」

 

「……マジ?」

 

 とある商店街の福引。

 

 カランカランと鳴らされるベルの音に俺は戸惑いの声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GIRLS本部。

 

「さて、これ、どーすっかなぁ」

 

 数多くある部屋の一つ、警備部。

 

 仮だが、俺の所属している部署だ。

 

 GIRLS日本本部の警備が本業である。

 

 所属人員一人!という寂しいところ、しかし、誰かに邪魔されることがない部署でもある。

 

 ため息を零しながらひらひらと手の中のチケットを眺めた。

 

 ある有名旅館の温泉チケット。

 

 入浴するだけでもかなりの金額になるらしいのだが、このチケットがあれば入浴だけで一泊二日食事付きという素晴らしいもの。

 

 問題はチケットの内容。

 

「一枚につき、二人までだからなぁ」

 

 この場合、妹のパズズといけばいいのだが、アイツは遠征でいない。

 

 戻って来るのが来週で、チケットの期限を過ぎてしまうのだ。

 

 そのため、他の人を誘うべきか考えないといけないのだが。

 

「ここは一人で行くか……」

 

 誰かと行くとなったら色々と面倒なことになる。

 

 例えば。

 

 

 

 

 

 モヤモヤモヤ~。

 

 

 

 

 

 

 

ピグモンの場合。

 

「ザムザム、ピグモンは悲しいですぅ。ピグモンではなくて他の人と行ってしまうなんて、とても悲しくて皆さんへ風船を配る元気もないですぅ」

 

 周りからの絶対零度の視線が突き刺さる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴモラの場合。

 

「もう!なんで私を誘ってくれないのさぁ!もしかして胸の大きい人とお風呂に入りたかったのぉ?このスケベェ!」

 

 大きな声で言われて俺の社会的地位が崩壊。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レッドキングの場合。

 

「ザムシャー、これからバトろうぜ?」

 

 目からハイライトが消えた状態で拳を打ち鳴らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アギラの場合。

 

「ヒクッ!ひどい……ひどいよ、ザムシャーさん。ボクのことは遊びだったんだね。とても悲しいよ」

 

 泣いているアギラの傍で怒りに染まっているミクラス、ウィンダムの姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレキングの場合。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめよ、寒気がしてきた」

 

 最悪の想像をしてしまった。

 

 寒気がしたので湯飲みのお茶を飲み干す。

 

 コトンと湯飲みを置いた。

 

 エレキングのことは考えないようにしよう。そうしないと、体の震えが止まってしまう。

 

 こういう場合は甘いものでも食べようっと。

 

「遊びに来たよぉ~」

 

 冷蔵庫からケーキを取り出したタイミングでドアを開けて入って来る者がいた。

 

ゴモラだ。

 

「……」

 

「無言で口から涎を垂らすな!おそろしい!しかも、近づくな!!」

 

 涎を垂らしながら近づいてくるゴモラに俺はケーキを遠ざける。

 

「わかった!半分くらいやるから!すぐに涎を拭け!」

 

「うわーい!大好きだよ!」

 

「現金すぎる……」

 

 笑顔で両手をあげるゴモラの姿に折れはため息を零す。

 

 まぁ、他の奴らがいなくて助かった。

 

「ところでさぁ、ザムシャーは行くの?」

 

「何の話だ」

 

 ケーキをもぐもぐと味わっていたゴモラの質問に俺は首をかしげる。

 

「あれ?アギちゃんから聞いていないの?」

 

「いや、本当に何の話だ?」

 

「GIRLSのメンバーで温泉旅行にいくって――」

 

「ゴモたん!」

 

 バキャンとドアを壊してやってきたのはアギラ。

 

 怪獣娘としての姿で現れた彼女は信じられない速度でゴモラの体を揺らす。

 

「……ドア……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、ザムシャーさんをのけ者にして」

 

「いや、チケットがないって話だろ?だったら仕方ないだろ……俺は留守番でいいよ」

 

「駄目だよ!ザムシャーさんだって仲間なんだから」

 

「……ありがとな」

 

 アギラの言葉に嬉しく思って彼女の頭を撫でる。

 

 嬉しそうに目を細めるアギラ。

 

「いいなぁ、アギちゃん……?」

 

 ゴモラが何かに気付いたように俺のポケットへ手を伸ばす。

 

「あ、これ!」

 

「あぁ、福引で当てた奴だな」

 

「ここだよ?みんなで行こうって話していたの」

 

「「え?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

「ザムシャーさんのクジがあってよかったね!」

 

「はい、皆さんで旅行なんてすばらしいです」

 

 バスの中でミクラスとウィンダムが楽しそうに話す。

 

 どうやら俺が入手したチケットの旅館へGIRLSのメンバーは向かうことになっていた。

 

 チケットは貰ったらしいのだが、人数的にいつものメンバーが行くことができないということで困っていたらしい。

 

 喜べばいいのか、女子だらけの中に男子だけという状況を悲しむべきかわからない。

 

「ところで、ザンドリアス。静かだが、大丈夫か?」

 

「お願いです、お願いですから私のことはそっとしておいてください、お願いします」

 

 いつもの砕けた口調ではなく敬語。

 

 余計な発言をすれば自分の命はないかもしれない。そんな恐怖からくる行動だった。

 

「……わ、わかった」

 

 ガタガタと体を震わせているザンドリアス。

 

 乗り物酔いだろうか?

 

 余談だが、俺の隣にいるのはザンドリアス。

 

 さっきから体が震えていて様子がおかしい。

 

 心配しているのだが窓からみえる景色をみていて、視線を合わせようとしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い!)」

 

 

 

 ザンドリアスはザムシャーの隣で恐怖していた。

 

 ちらりと気付かれないように後ろを見る。

 

 ギロリ!とこちらをみている複数の視線に気づいた。

 

「(ひぃ!)」

 

 小さな悲鳴をザンドリアスはあげそうになる。

 

 口で手を抑えた。

 

「(私のクジ運は最低だ!)」

 

 ザムシャーの隣。

 

 誘惑、かつ魅力的な座席を取り合うために複数の怪獣娘が血眼になって当たりのくじを引こうとしていた。しかし、引き当てたのはザンドリアス。

 

 

――わかっているな?

 

 

――彼に手を出せば命はないわ。

 

 

――大丈夫だと思うけれど、念のためだよ?

 

 

――お願いします。

 

 

――ね?

 

 自分から何かをするつもりはないのに、どうして、こんなことになっているのだろう。

 

 怯えるザンドリアスの上から服がかけられる。

 

「え?」

 

「これから向かうところは少し寒いからな」

 

「え、でも」

 

「さっきからブルブル震えているのは寒いからだろう?あったかくしとけ」

 

「……お兄ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「チッ!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 ザムシャーに上着をかけてもらったザンドリアスは温かい気持ちになった。

 

 背後の舌打ちに気付かなかったのは幸せか、不幸なのかはわからない。

 

 

 

 

 温泉旅館についた俺達は部屋に荷物を置く。

 

 旅館側に俺からお願いしてもらったことで小さな部屋に一人だ。

 

 女性陣は大きな部屋を使うことになっている。

 

「ザムシャーも一緒の部屋にすればよかったのに」

 

「冗談は寝てからにしろ。女子が沢山部屋にいる中で男子一人がどれだけ苦痛かわかるか?」

 

「全然!」

 

 ゴモラの頬を左右に引っ張る。

 

「いふぁいよぉ!」

 

「笑顔でいったお前が悪い」

 

「もぉ~、傷物にされちゃったよぉ」

 

「安心しろ。その程度でお前に傷はつかない」

 

「酷い!」

 

 騒ぐゴモラを無視して俺はお風呂セットを手に取る。

 

「あれ、お風呂に入るの?」

 

「夕飯前に入る。そういうものだろ?」

 

「えぇ~、外の散歩に行こうよ!」

 

「行ってこい」

 

「つれなさすぎる!」

 

 ゴモラが騒ぐ横で俺は部屋を出る。

 

「お前も風呂に入るんだろ?」

 

「あ、バレてた?」

 

「堂々とお風呂セットをもっていたらなぁ」

 

 俺と同じようにお風呂セットを持っているゴモラ。

 

 二人でわいわいいいながら浴場にたどり着く。

 

「それで、それで!ザムシャーはどっちに入るのかな?」

 

「喧嘩売っているのか?男湯に決まっているだろ」

 

「ふーん、じゃ、後でね!」

 

 あっさりと引き下がるゴモラ。

 

 そのことに違和感を覚えつつも俺は浴場に入る。

 

 皆は既に入浴しているという。

 

「やっぱり、温泉が楽しみだったんだろうな」

 

 脱衣場で服を脱いでタオルを肩から下げて浴場へ足を踏み入れる。

 

 ドアを開けてやってくる熱風のようなものを浴びながら周りを見た。

 

 客が少ないこともあってほとんど貸し切りである。

 

 風呂へ入る前にシャワーで頭や体を洗う。

 

「ふぅ、体の疲れがとれるなぁ」

 

 体を伸ばしながら湯船につかる。

 

 ほどよい温もりが日ごろの疲れをとってくれるような気分だ。

 

 首を左右へ傾けるとバキバキと嫌な音がした。

 

「マジで疲れているのかもしれないなぁ」

 

 しばらく満喫してから露天風呂へ向かう。

 

「……おぉ、誰もいない」

 

 露天風呂は当然のことながら誰もいなかった。

 

「貸し切り気分を満喫かぁ、最高だ」

 

 意外と俺は風呂好きである。

 

 のんびりと浸かりながら天井を見上げることが好きだ。

 

 ぼぉっとそんなことを考えていると塀の向こうが騒がしいことに気付く。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「放してよぉ、あっちにいきたいのにぃ」

 

「やめなさい、向こうに彼がいるとも限らないでしょ」

 

「大丈夫!一緒にやってきたから」

 

「ゴモたん、そういう話じゃないと思う」

 

「あのぉ、ザムシャーさん以外に人がいるかもしれませんよ?」

 

「あ、それもあるかぁ」

 

「ザムザムぅ~!入っていますかぁ?」

 

「おい!?ピグモン!」

 

「あれ?先輩、顔が赤くなっていないですか?」

 

「なっていない!なっていないからなぁ!」

 

 向こう側は女湯のようだ。

 

 ゴモラはともかく、エレキングやアギラ、ウィンダム、ピグモン、レッドキングの声が聞こえる。

 

 ザンドリアスの声が聞こえないのは静かにしているのだろう。

 

「呼んだか?」

 

 呼ばれたので正直に答える。

 

 すると、女湯が静かになった。

 

「……気のせいだったかな?」

 

 まぁいいや、今はこの温泉を満喫しよう。

 

 そう考えた時。

 

「ザムザムゥ!そっちの塀に扉ないですかぁ?」

 

「あ?扉?」

 

 ピグモンに言われて探す。

 

 確かに扉らしきものがある。

 

「あるなぁ、何か書いて」

 

「あ!読まずにそこのドアを開けて中に入ってください?」

 

「うん~」

 

 温泉に浸かっていることで少しばかり思考が回らないけれど、ピグモンに言われて俺は扉を開ける。

 

「開けたぞ?」

 

「確保!」

 

 扉を開けた瞬間、俺は中に引きずり込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、こうなった?」

 

 扉の向こうにはもう一つ露天風呂があった。

 

 それだけなら問題はない。

 

 しかし、俺の周り、温泉の中には女湯にいるはずのピグモンたちがいた。

 

「ここの温泉、混浴があるんだって!」

 

 正面にいるゴモラがにこにこと告げる。

 

 ちゃんと体にタオルを巻いてくれているが濡れて肌に張り付いていることで全員、そのスタイルが強調されていた。

 

 ゴモラに凹凸はないけれど、綺麗な肌などが目に付く。

 

「どうしたの?あ、もしかして、私の魅力に」

 

「駄目ですぅ!ザムザムうぅ!」

 

 横からピグモンが俺に抱き着いてきた。

 

「おい、抱き着くな」

 

「えへへへ、ザムザムの体はポカポカです!」

 

 ぴったりと抱き着いてくるピグモン。

 

 こういうスキンシップをとることはあった。しかし、肌と肌が触れ合っていることでいつもと違うドキドキが俺の中にある。

 

「こっちをみなさい」

 

「ぶべ!」

 

 無理矢理、首を横に向けられる。

 

 そこにいたのは幼馴染のエレキング。

 

 当然のことながら彼女のスタイルは良い。

 

 何より白い肌が温泉で少し赤くなっていることで。

 

「(ヤバイ、鼻に何かが集まってきている気分だ)」

 

「ザムシャー……おい、こっちをみろよ」

 

 言われて後ろへ視線を向ける。

 

 そこにいたのはレッドキング。

 

 当然のことながら彼女は大怪獣ファイター。

 

 鍛え抜かれた肉体がそこにある。

 

 しかし、ただ筋肉があるというわけではない。出るところはでていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。

 

 日焼けしている肌が余計にその体を健康的に見せていた。

 

 何より、頬を赤らめて、自分の体を抱きしめているために、大きな二つ。

 

 

――アカン、限界や。

 

 

 言語までおかしくなりながら俺は空に赤い二つの噴水を解き放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アギちゃん、行かなくてよかったの?」

 

 ミクラスが女湯の露天風呂で寛いでいるアギラへ尋ねる。

 

「皆さん、いっちゃいましたけど」

 

「今はのんびりとウィンちゃんやミクちゃん達と温泉を満喫したい」

 

 この時、アギラは友情を選ぶ。

 

 ちなみにザンドリアスは露天風呂の景色を見ながらボケーとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ?」

 

 何かに体が揺れて意識を取り戻す。

 

「あ、ザムシャーさん。起きた?」

 

 自分を上から覗き込んでくるアギラと目が合う。

 

「アギラ?あれ……俺」

 

 周りを見ると温泉ではなく大広間だった。

 

「凄いタフだよねぇ、ザムシャーさん」

 

「何が?」

 

「話によると鼻血を吹き出しながらも死ぬ物狂いで男湯へ帰還、体をふいて下半身を着替えた後に倒れたそうです」

 

「記憶にない……」

 

「それよりも床が真っ赤でまるで殺〇現場だったね!」

 

 アギラ、ウィンダム、ミクラスという順番に俺の顔を覗き込んでくる。

 

 体を起こした俺にザンドリアスが水の入ったペットボトルを差し出す。

 

「あぁ、すまない」

 

「無茶しないでよ!貴重なストッパーなんだから」

 

 ぽつりとザンドリアスが漏らした言葉に苦笑する。

 

「ところで、他のメンバーは」

 

「師匠やエレキングさんは卓球」

 

「ゴモたんとピグモンはお土産をみにいくって、そろそろ戻ってくるんじゃないかな」

 

 ふむふむ。

 

「ところで」

 

「「「「?」」」」

 

「お前達、顔を近づけすぎじゃないか?起き上がれないんだが」

 

 俺に言われて離れる三人。

 

 むしろ、アギラは近づいてきた。

 

「おい、アギラ」

 

「こういう時くらい、ザムシャーさんと触れ合っていたい」

 

「おうふ」

 

 ストレートなセリフに俺は困る。

 

「ボクはザムシャーさんのこと、大好きだよ」

 

「前もいったけど、俺は」

 

「それでも」

 

 いつもの目、けれど、とても強い瞳でアギラは俺を見てくる。

 

「それでも、ボクはザムシャーさんが好き、だよ?」

 

「おぉ!アギちゃんが告白!」

 

「ミクさん!?良い雰囲気なんですから邪魔しちゃ!」

 

「そもそも、私達の前で告白するというのがどうかと思うんだけれど」

 

 ザンドリアスの指摘に俺とアギラは離れる。

 

 その時。

 

 音を立ててドアが開かれた。

 

「ちょっぉぉおっと待ったぁ!」

 

 ドアを開けて姿を見せるのがゴモラ。

 

「私もザムシャーのことは好きだよ!あ、アギちゃんも同じかそれ以上だよ!」

 

 続けてピグモン。

 

「ザムザム!ピグモンはザムザムのことがだぁいすきです!できれば、えへへへへ」

 

 続けてエレキング。

 

「ザムシャー、私は諦めていないから」

 

 最後にレッドキング。

 

「えっと、その、ほら、オレもお前のことが、す、すすすすすすすすすす、好きだぞ!」

 

 

 

「いや、これなんだ?いや、待て、一体なんだ?」

 

 

 戸惑う俺。

 

 ドアを開けてやってきたと思ったら告白の嵐。

 

 落ち着ける暇もない。

 

「おぉ、告白の嵐だね」

 

「アギさん!頑張ってください!」

 

「うん、二人とも、頑張るよ」

 

「え、ナニコレ……わけわかんない」

 

 頭を抱えているザンドリアスに激しく同意したい。

 

 こんな告白の嵐の後、おいしい料理を味わうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は【宇宙剣豪ザムシャー】のカイジューソウルを宿している。

 

 【ザムシャー】は宇宙で様々な相手と戦い、強くなっていた。

 

 いつしか、宇宙最強と言われてもおかしくないくらいの強さを求めたがそれでも彼は強者と戦う道を選んだ。

 

 しかし、俺はザムシャーであって、ザムシャーと同じ道を進むわけではない。どうして、男の俺がカイジューソウルを宿したのかいまだにわからない。

 

 だが、もし、何か意味があるとするならば、俺は守ることにこの力を使いたいと思う。

 

 彼女達、怪獣娘を害悪から守る。

 

 そのことに力を使う。

 

 それが今の俺の在り方。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か、カッコイイこといって終わらせようとしている?」

 

「そんなことはない。決して、だから、俺を部屋に戻せぇ!」

 

「駄目ですぅ!今日はいっぱい、いっぱぁい!ザムザムと過ごすんですぅ!」

 

「た、たまにはいいだろ!諦めろ!」

 

「ザムシャーさん、ゲームしょう」

 

「あぁ、まったく………………幸せなのかねぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この温泉騒動が五人目にばれて、のちにとんでこないことになるのは別のお話である。

 




次回、最後の一人が登場予定?


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第十五話 登場!五人目のお嬢さぁん

これにて本編はひとまず完結です。

お付き合いいただいてありがとうございます。

番外編を投稿する予定なのですが、書きたい話が多くて、出来上がり次第、出す予定です。


 

「マァァァァイフレェェェェンドォォォォォォォ!」

 

 

「うるせぇええええええええ!」

 

 目の前の男を殴り飛ばす。

 

 全力ではないが相手はきりもみ回転して床に倒れる。

 

「何をするんだ!」

 

「朝から煩すぎるんだよ!近所迷惑を考えろ!」

 

 殴ってしまったことに後悔はない。

 

 コイツは人とは思えないくらい頑丈な体をしているからな。

 

「それで、JJ、何の用だ?」

 

 目の前にいるのはスーツを着こなしたチョイ悪い顔をした男。

 

 名前はJJ。

 

 どこかチャライ印象を持っているが刀を手にすればその力は俺に匹敵するかもしれない人物だ。

 

 本人は刀なんて振るえないといつもいっているけれど。

 

「決まっているだろぉ!大事なイベントがあるんだ!」

 

「寝る」

 

 話の内容は予想していたが、タイミングが悪い。

 

 俺は布団を頭にかぶる。

 

「うぉおおおおおい!約束しただろう!布団から出ろ!せめて、夜明のこぉひぃぃぃおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 とにかくうるさい。

 

 それが俺の友人であるJJに対してのイメージである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから寝ようとしたのだがJJが煩すぎて、寝ることもできずに早朝から長蛇の列にならぶことになってしまう。

 

「あぁ、眠い」

 

「だらしないぞ!マァイフレンド!」

 

「うるさい、なんでお前はそんなにテンションが高いんだ」

 

「わかりきっているだろう!おじょうさんに会うためだ!」

 

「あぁ、はいはい、くそっ、眠気が酷くて頭に入ってこない」

 

「何かあったのか?」

 

 俺の様子に気付いたのかJJが問いかける。

 

「別に、寝ようとしたところで長電話がきて……ふぁわぁ」

 

 寝ようとしたところでアギラ、レッドキング、エレキングの順番に電話がきた。

 

 狙っていたのか偶然なのかわからないが、俺は寝ることができなかった。

 

 アギラは別に問題ないのだが、エレキングが厄介だった。寝ようとすれば電話の向こうから絶対零度の声が聞こえてくる。逆らったら最後、俺の命はなかっただろう。

 

 ちなみにレッドキングはデートのお誘いだった。

 

「JJはともかく、なんで湊兄妹がいるんだ?」

 

「久しぶりだな、直人」

 

「アサヒが行きたいっていうんだよ」

 

「だって!滅多に会えないんですよ!こういう時くらい行くべきじゃないですかぁ!」

 

 俺の前で赤、青、黄の三色の服装をしている三人。

 

 長男の湊カツミ、次男の湊イサミ、長女である末っ子の湊アサヒ。

 

 仲の良い兄妹たちまで来ているなんて有名なイベントなのだろうか?

 

「はい!直人さん!」

 

 俺が尋ねようとしたところでアサヒが俺に飴玉を差し出してくる。

 

「ハッピー!」

 

「あぁ、サンキュー」

 

 頷いてアサヒから飴玉を受け取る。

 

「ザムシャーさんも楽しみですよね!」

 

「あぁ、そのことなんだが」

 

「お、始まったみたいだぞ?」

 

 イサミの言葉に俺は列の先頭をみる。

 

 そして、固まった。

 

「ん?どうした?」

 

「悪い、俺は用事を思い出して」

 

 前に桃色の法被を着た集団がいた。

 

 あぁいう集団は苦手である。

 

 条件反射のように逃げの体勢に入った。

 

「そうはいかないですよぉ、マァイフレンド!」

 

 列から抜け出そうとしたところでJJに腕を掴まれる。

 

「おい、何すんだ!?」

 

「抜け出すことはゆるさなぁい、ここで一緒におじょぉうさんを見るんだ!」

 

 ギギギと腕に力を籠められる。

 

 これでは抜け出すことは出来ない。

 

「さぁ、列に戻りなさぁい」

 

「わかった、わかったよ」

 

「これで直人さんも楽しめますね!」

 

 笑顔のアサヒにいわれて俺は頷くしかない。

 

「ところで、直人!」

 

「なんだ?」

 

「今度、父さんと母さんが会いたいって」

 

「あぁ、うん、時間を作っていくわ」

 

 カツミに言われて俺は頷く。

 

 湊家はセレクトショップを営んでいる。

 

 父親が独特なデザインの服を作り、母親は科学者という少し変わっているが家族愛はとても強い。

 

 そこはとても羨ましいと思う。

 

 温かい家庭というのはあそこなんだろうな。

 

「なぁ、カツミ」

 

「うん?」

 

「今度、家に行くときは妹もつれて行っていいか?」

 

「え!直人さん!妹がいるんですか?」

 

「あぁ、アサヒと歳は近いぞ」

 

「ハッピーな関係になりたいです!」

 

「多分、仲良くなれるんじゃないかな?少し、不器用なところはあるけれど」

 

「おいおい、そこは兄譲りかぁ?」

 

「からかうなよ」

 

 イサミを睨む。

 

「それよりさぁ」

 

 尋ねようとしたら前の方から急に大きな歓声があがった。

 

「あ、はじまったみたいですよ!」

 

 きゃー!と手を振るアサヒ。

 

 アイドルを見て興奮する少女みたいなイメージだなぁ。

 

 実際、来ているのはアイドルなんだろうけれどさ。

 

「ところで、カツミ、これは一体」

 

「Oh!皆さん!今日は来てくれてアリガトウ!」

 

 壇上からヒラヒラと手を振る美少女。

 

 その姿に俺の思考回路が停止する。

 

 ウソやろ?

 

 目の前の相手に動きが止まる。

 

「直人?どうした?」

 

「あ、いや、俺は用事を思い出したので、即座に帰ろうかと」

 

「無理だって、列が進みだしているし……JJさんが凄い睨んでいる」

 

 イサミの言うとおり、俺が抜け出さないようにJJが凄まじい瞳でみている。

 

 逆らうことができず列は最前になった。

 

「今日もキレッキレですね!」

 

 JJは彼女の前に立つと笑顔で握手する。

 

 壇上の上に立つ美少女。

 

 茶色よりの長い髪に白い肌、そして澄んだ瞳。

 

 頭部と体を覆っている金属的な獣殻。

 

 怪獣娘、キングジョーが壇上にいる。

 

 JJと話し込んでいるからこちらに気付いていない。

 

 今のうちに抜け出すか。

 

「ところで今日は僕の友達を連れてきたんです」

 

 なぬ!?

 

「Oh!それは素敵です!」

 

 ニコニコと、しかし、瞳は一切も笑っていない状態でこちらをみている。

 

「JJの友達のKNと申しますぅ!」

 

 誤魔化すようにピクピクと笑顔を浮かべながら目の前の怪獣娘さんと握手をする。

 

 怪獣娘、キングジョー。

 

 彼女はファッションモデルとして主に活動している。

 

 大怪獣ファイトというイベントにはでないが様々な広告塔で活動しており、人気の怪獣娘の一人。

 

「今度、大きなイベントがありますので、絶対に来てくださいネ!」

 

 握手をする。

 

 グググと凄まじい力に冷や汗が流れた。

 

「はいぃ、か、必ず」

 

 ウソをつけば赦さない。

 

 そんな瞳へ正直に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、帰るか」

 

 JJに恨み言を十分ほど告げてからわかれる。

 

 湊兄妹たちとは今度、会う約束を交わした。

 

 星斬丸が手元にないから少しばかり違和感があるから早く家へ。

 

「ダーレダ!」

 

 急に視界が手で塞がれる。

 

 耳元で囁くような声に俺は少し考えて。

 

「キングジョー」

 

「Oh!流石です。ザムシャー!」

 

 振り返ると怪獣娘の姿ではなく、私服姿のキングジョー。

 

 ファッションモデルだけあって服のセンスは素晴らしい。

 

「久しぶりです!会いたかったデスヨ!」

 

 笑顔で抱き着いてくるキングジョー。

 

 バランスを崩さずに彼女を抱き留める。

 

「危ないだろ……あと、誰が見ているかわからないし」

 

「大丈夫です!変装はバッチリですから!」

 

「そういう問題じゃ……あぁ、いいや、それで何をしているんだ?」

 

「う・め・あ・わ・せ」

 

 笑顔で顔を近づけるキングジョー。

 

 断れば、どうなるかわからない。

 

 何より。

 

「告白の保留しているんデス!これくらいは当然ですよネ?」

 

――告白の保留。

 

 これで分かったと思うがキングジョーが俺に告白している最後の一人。

 

 五人目の少女である。

 

「降参、付き合うよ。デートに」

 

「流石です!」

 

「だから、何度も抱き着くな!」

 

「ハグくらいさせてくださぁい!」

 

「あぁ、もう!」

 

 逃げることも出来ずに俺はキングジョーの腕を抱き着かれながらショッピングモールを歩いている。

 

 普通なら気付かれるかもしれないのだが、人ごみであり、そもそもこんなところでアイドルと遭遇するわけがないという先入観からか、誰も気づく様子はない。

 

 本当なら引きはがしたいのだが、彼女は全力で抱き着いてきており、無理やり剥がそうものなら泣く。

 

 泣かれると俺の負けである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザムシャー、聞きましたけどシスターは大丈夫なのですか?」

 

「ン?あぁ、マナのことか?今は大丈夫だ……勉強のために保護施設にいるけど」

 

「そうなのですカ?」

 

「怪獣娘の力の制御で少し問題があるらしくてな、我夢と藤宮にみてもらっている」

 

「それなら大丈夫ですね!あの二人は天才ですから!」

 

「そうだな」

 

「それに、私とザムシャーをくっつけたキューピッドでもありマス!」

 

「……そうだね」

 

 実のところ、俺とキングジョーが接点を持った原因はそれだったりする。

 

 藤宮の暴走を阻止するために我夢、そしてキングジョーと色々あった。

 

 本当に大変だった。

 

 まさか、結婚前提の告白をされるなど、誰が予想できようか!!

 

 普通、主人公っぽい我夢に惹かれるんじゃないの?

 

「この服はザムシャーに似合います!」

 

「そうか?少し色合いが俺の好みじゃないんだが」

 

「ザムシャーの色はブラックなどばかりです!明るい色もチョイスしましよう!」

 

「そういうもんかねぇ?」

 

 俺の横で話し続けるキングジョー。

 

 明るい性格であり、なにより話をすることが大好きな彼女はいつも笑顔で楽しそうにしている。

 

 まぁ、そこに惹かれるところもあったり――。

 

「っ!?」

 

 背後に殺気を感じたぞ!?

 

 俺は後ろを見る。

 

 しかし、そこには誰もいなかった。

 

「気のせいか?」

 

「どうしました?」

 

「いや、何でもない」

 

 この後、キングジョーに頼まれて彼女に似合いそうな服を選ぶなど、とにかくファツションデートのようなものだった。

 

「こういうデートでいいのか?」

 

 

「デハ、アソコへいきますか?」

 

 

「やめろ!」

 

 遠目のピンクなホテルを指さしたキングジョーへ叫ぶ。

 

「私はそういう関係になっても」

 

「もう少し、自分を大事にしなさい!」

 

「ムゥ~、ですが、ザムシャーと一緒になりたいという気持ちにウソはありません!」

 

「それは嬉しいけれど、でもな」

 

「あ!」

 

 キングジョーの指さす方へ視線を向ける。

 

 

「Chu!」

 

 

 頬に柔らかい感触。

 

 振り返るとくるりと回りながら離れるキングジョー。

 

 

「ウフフ、隙ありデス!」

 

 笑顔で微笑むキングジョー。

 

 今回は俺の敗北である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、このやり取りをミクラスに目撃されてしまい。写真を収められたばかりか、それをGIRLSのグループメッセに拡散。

 

 後日、エレキング、レッドキング、アギラ、ピグモンたちにお説教を受けた。

 

 

 火に油を注ぐようにキングジョーがいつの間にか撮影していたキスの瞬間をメッセに張り付ける。

 

 

 

 

 これもすべてJJって奴のせいなんだ!

 




五人目はキングジョーでした。

果たして、うまく書けているか謎ですが……。

軽くキャラ紹介

JJ

ウルトラ怪獣擬人化計画の第二期のアニメに登場した人物。
ちなみに中の人はウルトラマンオーブにでてきたあの人だったりする。
夜明のコーヒーとか、色々な名言の多い人!



湊カツミ、湊イサミ、湊アサヒ

ウルトラマンR/Bに登場した仲の良い兄妹たち。
もうすぐ劇場版が公開するから出した……というわけではなく、やりたい番外編の伏線のためにでてもらいました。
ちなみに、三人はウルトラマンに変身しないよ!



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