深海提督、ワンピース世界で生きる(?) (菅野アスカ)
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深海提督、着任。
「あれえ…?」
私の名前は「田辺浅葱」。どこにでも居るようなにわかミリオタ大学院生である。
目覚めると、そこは見知らぬ軍艦の甲板でした。まるで意味が分からんぞ。
私、いったい何をしていたんだっけ…?
ええと、確か、寮の私室に戻って…ワンピース読んで…艦これやって、寝たはず…
【その疑問には、私たちがお答えしましょう!】
「へ?」
女性の声。
振り向くと、そこには―――
「歴代エラー娘ええええええええええええええええ!?」
そう、妖怪猫吊るし、妖怪猫土下座、妖怪猫パンチ、妖怪猫垂らしが勢ぞろいしていたのである。ちなみに、最初に発言したと思われるのは初代エラー娘だ。
【…びっくり、しますよね…】
静々というのは、4代目エラー娘。
【あの、説明するので、その、聞いていただけますか?】
ぺしぺしされつつ、3代目エラー娘が言う。
「お、オッケー」
【はい、ありがとうございます】
これは初代。初代が1番はきはきとものを言う。3代目は、若干おっかなびっくりという感じ。4代目はぽけーっとした不思議ちゃん系。じゃあ2代目は…
【ううっ…こちらの不手際ですぅ…ごめんなさいぃ…】
はい、見ての通りの低姿勢。こっちが申し訳なくなってくるほど。
【あのですね…ここは、ワンピースの世界です…】
「え、艦これじゃなく?」
【はい…】
【えっと、その、我々は艦これ時空の住人なのですが、その…世界のバグで…】
「バグで?」
【あなたの異世界の同一存在、我々の世界の提督が、まだ死ぬ運命ではないのに、死んでしまったんです!】
「は?」
【ほら、よく小説とかであるでしょう?平行世界の自分みたいな。あれが異世界にもあって、我々の世界の提督は、観測者時空のあなたと同一のものだったんです】
「は、はあ…」
SFはよく読むし、まあわからんでもない。
【ひっく、ぐず…それでですね…それを修正し…提督を復活させるべく…あなた方を死なせて身代わりにすることになってしまって…】
「身代わりかい…って、待て。あなた『方』?私以外にもいるの?」
【この世界のあなたの同一存在のことです。身代わりにしたっていうのは…運命力を分けてもらった、みたいな?死者蘇生はコストがちょっとあれで、2人分必要だったんですよー】
「あー…私と私を生け贄に私復活、みたいな?」
【…まあ、その感覚でいいです】
「でも、私死んだなら、どうしてここにいるの?」
【…お詫び、です。我々がしっかり見張っていれば、今回の事件は起きなかったので。ですので、比較的フレキシブルな、こちらの世界の意思に頼んで、復活させてもらいました。…完全復活ではありませんが…】
「へ?」
【ええとですね、その体は、こちらのあなたの体がベースです。でも、精神と魂のベースはあなたで、こちら側の方は記憶やスキルのみにとどまっています。サルベージできたのがそれだけだったんです…すみません】
…つまり、この世界の私の体の大部分と記憶とスキル、この私の精神と魂の大部分だけがどうにか持ってこれたと…
【それで…種族は…人から船幽霊になっています…。この船…ぷかぷか丸が轟沈しない限り…あなたは生存することができます…。水中でも呼吸が可能で…水圧につぶされることもありません…。暗視もできます…】
「あ、これぷかぷか丸だったの?」
【はい。それと、交渉の結果許可が出たので、未使用の部分に深海鎮守府的な物を作っておきました。妖精さんもいますよ。資源も採れるようにしておいたので、大丈夫です。深海棲艦と艦娘、どちらでも建造可能。まあでも、位置が位置だから、深海提督になっちゃいますね】
「えっ?」
そういえば私、全然周囲を見ていなかった。
立ち上がってくるっと1回転すると…なんと、ぷかぷか丸はシャボン玉に包まれており、深海に向けて突き進んでいるではありませんか…
「…気づくの遅すぎんだろ私…!!!」
【まあまあ、テンパってたんだから仕方ありませんよ。あ、時間軸は本編開始の20年前です。ええと、何か質問は?】
「1つだけ…」
【はい、なんでしょう?】
「ここ…どこ…?」
【あ、大事ですねそれ。ここは
「無い」
【よし。では、ごきげんよう…】
そう言うと、エラー娘たちは、大気に溶けるように消えていった。
「…さて、私はつくまでどうしていようか」
自動操縦機能でもあるのか、はたまた彼女らや世界の意思の能力か、ぷかぷか丸は勝手に目的地へと進んでいる。であれば、私がすることはないわけで…
「んー…こっちの私の記憶でも見ていようか?」
情報確認は大切だ。とりあえず、どんな人物なのかだけでも見てみよう。
…名前は「ローレライ・エリーザベト」。海軍准尉…どの世界の私もそっちの道に進んだか。私も、おじいちゃんに止められなかったら、海上自衛隊にでも入ってたんだろうなあ…
名前が名前だし、歌が上手だったから、仲間からは本物のローレライじゃないかって言われてて…うん、歌がうまいっていうのは言われたことないけど、歌うの好きだし、美声とは言われた。
子供のころ、海賊に自分が住んでた街を焼き払われて、正義を求めて海軍に入ったけど、「何か違う」と思い始めた矢先に別の支部に左遷されて、移動中に今回の件で乗ってた船が沈んで1人だけ死亡…うーむ。幸薄い一生だな…
あ、ぷかぷか丸はもともとこの沈んだ船だったのか。それをエラー娘たちがこの形にまで仕立てたと…
というか、この記憶だと、黒髪だけど…今の私、白髪っぽいよなあ。しかも、健康的に焼けた小麦色の肌だったのが水死体のごとく青白いし、着てる服も、あっちこっち擦り切れてるけど大日本帝国軍のそれに近い黒と銀の詰襟軍服…
鏡があれば、見られるんだけどな。長門型は居住空間が大きいし、探せばあるかなあ?
それにしても、エリーザベト、かあ。名乗るのに、ちょっと…勇気がいる。それに、海軍関係者にバレるかもしれないし…名前は自分で考えよう。
名字は、ローレライみたいなニュアンスで行こうかな。歌う伝説上の生物となると、代表格はセイレーンやハーピー…うーん、ハーピーの原型のハルピュイアが名字っぽいかなあ。うん、いいの思い浮かばないからハルピュイアでいいや。名字はハルピュイアで決定。
名前…エリーザベトのもじりだと、どうしてもエリーとかエリザとかになるよなあ。人名にはそんなに詳しくないし…あ、どこかの王妃のエリーザベトの愛称が「シシィ」だったな。ハルピュイア・シシィ…しっくりこない。かといって、エリーやエリザでもなんか違う。
んー…じゃあ、「メアリー・スー」と「マーティー・ストゥー」、「シシィ」をもじって…「ハルピュイア・メリィ」…あ、これいいかも。
よし、なんか個人的にしっくりくるし、これにしよう。
「うん?」
ふと前方を見ると、巨大なサンゴのドームに包まれたような都市が見えた。あれが目的地だろうか?サンゴの隙間をシャボン玉の膜が埋めている。中には空気があるようだ。…あれなら、人間でも住めそう。
さらに近づく。
あ、待ってあれ結構綺麗。イタリアとかにありそう。誰かカメラ持ってきてカメラ。できればポラロイド。駄目か。この世界にポラロイドはないか。
そんなこと考えているうちに、サンゴドームの下部の門の1つ(あっちこっちに門があるが、その中で最も大きい)が開き、ぷかぷか丸はその中へ進む。
『来ましたよ~!!』
『深海提督が深海鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮に入ります!』
妖精さん(衣装やカラーリングが深海仕様)たちが出迎えてくれている。可愛い。
『いやー、何事もなくついてよかったです!』
『本当に!』
「歓迎ありがとう。…ところで、ここって、なんていう都市?」
『名前はないみたいですよ?』
『魚人さんたちが作りかけのまま放置しちゃったのを、エラー娘さんと私たちで頑張って直したんです!』
「あ、そういえば放棄されたって言ってたな。理由とかわかる?」
さすがに立地条件最悪な場所に人呼んだりはせんだろうけど、万が一ということもある。
『えっとですね。この辺は嵐になりやすくて、よく船が降ってくるんです』
『それで、作業がいちいち中断されるから、嫌になってほっぽり出したみたいです!』
「…それ、大丈夫なの?」
『大丈夫です!処分に困る大き目のやつはサンゴで引っかかって入ってこないし、小さいのなら何とかなります!』
「そ、そう。じゃあ、大丈夫かな。…でも、名無しは困るな」
まさか全体を深海鎮守府と呼ぶわけにもいかないし、かといって名もない都市というのも…
『では、提督が名付けたらどうでしょう?』
「…え?」
『あ!!いいですねえ!!』
『だってここ、提督が来ることになったから蘇ることになったんですもん』
確かにそうだけど、私のセンスとかたかが知れてる。
アトランティスとか、レムリアとか…あ、そうだ。
海底にできた都市、というわけではないけど。あっちこっちに門があって、水路でつながっているところが何だかそれっぽいし。
「じゃあ…イースで」
『イースですか!』
『かっこいいと思います!』
はしゃぐ深海妖精さんの可愛さよ…
~しばらく後~
『それで、ここが提督のお部屋になってます!』
この都市、イースの全体と、鎮守府全体を案内してもらった。…と言うと語弊があるか。イースはとにかく広いから、一部だけ見せてもらってざっと説明してもらった。
イースは、丸い都市を4つの太い水路が×の形に区切り、それぞれ、北と東は居住区、西は鎮守府、南は訓練場になっている。
イースの中央には水路が集結…というよりすべての水路の始点があり、イースを包んでいるのと同じサンゴを一部に使用した小舟が数艘ある。これらのサンゴは「ジャイアント・バブリーサンゴ」というものであるらしい。このジャイアント・バブリーサンゴ、ヌタウナギのように表面に自己保護用の粘膜張ってるだけらしい(じゃあなんでバブリーなんて名前付いてんだよ)が、なら酸素はどうなってるのかというと、地上から空気を引いてくるホース(岩礁とかに偽装してあるらしい)があるから大丈夫なんだそうだ。この小舟は空気タンクを乗せているため、コーティング船同様の効果が得られるそうだ。ぷかぷか丸?あれは私が望めば大体何でもなっちゃうそうだよ。船幽霊ってそういうものだっけ?
水路は、太い4本の水路がどんどん枝分かれして、100を超える水路になっている。それぞれの水路の先には門があり、そのまま外に通じている。
訓練場は、よっぽどのことがなきゃ壊れない(らしいけど深海棲艦や艦娘にどれだけ通じるかなあ…)高い壁に囲まれており、鎮守府や居住区に被害が出にくいようになっている。
鎮守府は…アニメの鎮守府とだいたい同じだ。色合いが深海棲艦風だけど。
「案内ありがとう」
『今日はお疲れでしょう。もう20時ですし、お休みになりますか?』
「うん、そうする」
『それでは、おやすみなさい』
「おやすみ」
深海妖精さんが出て行った後、タンスの中を漁って寝間着を出す。まさか軍服で寝るわけにもいかないし。
さっさと着替えて、眠ろうとして…私は、自分の顔を確認していないのに気づいた。
「鏡あるし、確認しちゃおう。」
呟いて、私は化粧台の鏡をのぞき込んだ。
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うちの子たちの設定
なので、ネタバレ注意かもです
☆5評価をしてくださったぼるてるさん、ありがとうございます!
ハルピュイア・メリィ
外見年齢:20歳
性別:女性
深海提督。「田辺浅葱」と「ローレライ・エリーザベト」が交ざっている。外見は、紋章とか全部外してあって金の部分が銀になった大日本帝国海軍の軍服を着た、肩くらいまでの長さで切りそろえられた癖のある白髪で、紫の目の女性。目の色は日光の下だと赤、暗所だと青になる。ツルペタではない、スレンダーだ。
顔立ちは駆逐棲姫と重巡棲姫とfateのセイバーオルタを足して3で割った感じ。クールビューティー系。
身長172センチ、体重不明。
元々軍艦に興味があった。一時期は自衛隊に入りたいと思っていたが、祖父の兄と弟がそれぞれ桜花と回天に乗せられ戦死しているせいで祖父の反対にあい、研究職はうまくいけば一生食っていけるという話を聞いて研究者を目指した。
1番好きなのは艦これ、その次にワンピースが好き。
軍艦についての知識はカンスト済み。軍艦の名前の元ネタを調べていくうちに、地理や神話にも詳しくなった。
知的に思われるが、実際は肉体派。「いくら頑張って戦略考えても、結局最後はフィジカル」であるため。物理で殴る系提督。
艦これの初期艦は漣。でも1番好きなのはまるゆ。
深海棲艦も艦娘もどっちも好き。深海棲艦で特に好きなのは集積地棲姫と深海雨雲姫。
ワンピースで1番好きなキャラはコラソン。
ふわふわな長髪キャラとドジっ子はジャンル問わず好き。
船幽霊なせいで体温が異常に低く、熱に弱い。また、水場を見つけるときのみ発動する直感が備わった。
こちら側で生きていたローレライの記憶は大部分を受け継いでいるが、細部はよく覚えていない。
本人は記憶していないが、浅葱の死因は寝てる間に発生した地震によるピタゴラスイッ死。ただし、なんとなく落ちてくるものが怖い、くらいには覚えている。
ローレライの死因は溺死だが、実は彼女をあまりよく思わない人物が多く、嵐が起きた時これ幸いと彼女を海に放り込んだという裏事情がある。本人もしっかり覚えているため、元々あった海軍嫌いが加速した。
なお、ローレライは正義感が強すぎて「どうして天竜人を野放しにしているんだ!?」と上層部に訴えたせいで左遷されている。
性格面は、天然でぽえーっとした浅葱としっかり者で面倒見のいいローレライが6:4くらいの割合で交ざっている。
2人の死は「肉体の死」を浅葱に、「精神の死」をローレライに押し付けたもの。そのため、浅葱の死体はかなり無残なことになっており、ローレライの精神は最期の最期で崩壊した。
戦闘のときは軍刀を使う。しかし、そこまで切れ味が良くないため、途中で体術に移行する。
浅葱はそこまで腕力がないが、ローレライはかなりの実力者。力こそ強くないものの、速度と柔軟性と反射神経はかなりのもの。彼女のスキルを継いだため、それなりに戦える。
駆逐雨潮棲姫
外見年齢:18歳
性別:女性
艦種:駆逐艦
双子の深海棲艦。
白黒のセーラー服の上に冬物の軍服を羽織り、下には白黒の横じまパレオを着用。かなり長くてうさ耳のように見える灰色の角がある。髪も灰色。双方ともにセミロングにしている。
艤装として、深海仕様の連装砲ちゃんのようなものを2体連れている。通称ヤンキー連装砲。
はおっている軍服が白い方を雨、黒い方を潮と呼んでいるが、それ以外にも細かな違いがある。ただし、パッと見た時わかりやすいのが軍服の色。
いささか子供っぽい。駄々っ子。しかし、実際にはほかの艦に対し劣等感を抱いており、それが原因で人づきあいが苦手。
ただし、間宮には懐いている。というか、餌付けされた。
見た目以外(性格など)にはほとんど差異がないが、雨の方から話し出すことが多い。
艦船ステータス
レベル 20
耐久 20 火力 30
装甲 28 雷装 80
回避 95 対空 49
搭載 0 対潜 45
速力 高速 索敵 20
射程 短 運 10
最大消費量
燃料 20 弾薬 25
装備
深海5inch連装砲
深海水上レーダー
近々、改にすることを検討されている。
素材となった念は「完成できなかった船の無念の思い」。
「タトエ沈ンダトシテモ…出撃デキタダケ、マシジャナイ…」
「私タチ…走レナカッタノ…ネエ、ドウシテ…?」
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じわじわ知られてきていた
☆1評価をしてくださったハーフシャフトさん、ありがとうございます!
「『歌う亡霊』ねえ…」
海軍元帥のコングは、報告書を読み、そう呟いた。
その報告書は、ある町で発生した事件について書かれたものだ。
海賊がその町で略奪を始めて少ししてから、世にも妙なる歌声が町中に響き渡り…次の瞬間、亡霊のように青白い肌の女性が、その海賊団の船長の首をはねていたという。
目撃者が描いた、その女性の似顔絵が…
「つい先日、殉職したローレライ准尉に瓜二つ、と…」
黒髪であったローレライと違い、白髪だったが…同じ外見なのである。
誰かの嘆きには手を差し伸べずにいられず、略奪を行う海賊には鬼のように苛烈だったローレライのことだ。無念のあまり亡霊になっていたとしても、不思議ではないな…と、同僚たちは思っていたが、つい先ほど、それが変化した。
原因は、匿名で届けられた、とある小荷物である。
内容は、鍵付きの日記帳、手紙、そして
日記帳の鍵は
手紙は、ローレライの同僚の男性に宛てられたもので、3重の封筒の中に入れられた挙句それぞれにしっかりと封がされていた。
「几帳面なローレライらしい」と思っていた海軍の面々だったが、
『これはきっと、私ことローレライ・エリーザベトの遺書です。
私は、海軍の准尉です。これを拾った方、もしもあなたがお尋ね者なのでしたらごめんなさい。どうか、これを海軍に届けていただきたいのです。
理由は単純。真実を伝えるためです。
私は(雑音によってかき消された)支部へ、異動することになっていました。そのため、この海域を通ることになったのです。この辺りは嵐がよく発生する海域だと聞いていました。実際、外はひどい嵐です。でも……ああ、神様…。
(しばらく、すすり泣きと怒号と雨音)
でも、でも!!一緒に来てくれた人たち…仲間だと、思っていた、のに…!嵐になったのは私のせいだと言って、私に…うう…海に、飛び込め、と…。
それを、拒否、すると…今度は、無理やり放り込もうとして…。
私は今、私に与えられた船室でこれを記録しています。きっと、見つけられたら、壊されてしまうでしょう。ですから、これは、私の日記や手紙と一緒に樽に入れて、流すことにします。筆跡や声で、わかっていただけるでしょうから…。
最後、に…。
itrshbd enqdudq.
ああ、もうあの人たちが入ってきます。もう、終わります…(「出てこい!」「逃げ場はないんだぞ!」などの怒鳴り声が聞こえる)』
これが、内容である。
最後の「itrshbd enqdudq.」は、彼女がよく合言葉に使っていた「Justice forever.(正義よ永遠なれ)」を1つずらしたもの。
そして、声も筆跡も、間違いなくローレライのそれなのである。
そのため…「海軍に恨みを持ったまま死んだローレライが、怨霊になってしまったのでは?」と、考えた人物が大多数になってしまったわけである。
「亡霊だの怨霊だの、馬鹿馬鹿しい…」
ぽつりとつぶやいたコングは、数週間後、その考えを撤回させられることとなる。
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深海提督、建造
☆4評価をしてくださったMinorNoviceさん、ありがとうございます!
『そろそろ建造終了しますよ~!」
「えっと、深海棲艦の方だよね」
『はい!』
あちこちで海賊を襲ったり、採掘したりして手に入れた物資を使い、まず小型建造をすることにした。
ここ深海鎮守府には、艦娘用と深海棲艦用の工廠があり、使う資材もそれぞれ違う。
しかし、両方の資材がいい具合に溜まってきたため、両方同時に建造してみた。
ところが、艦娘の方は見事失敗。嫌というほど見た失敗ペンギン君が降臨した。開発じゃなかったんだが…やっぱり、ゲームとは勝手が違うらしい。
で、深海棲艦の方に一縷の望みを託しているというわけだ。
「そう言えば、レシピは妖精さん任せにしちゃったけど…どんなの?」
『やっぱり初めてということで、駆逐艦レシピにしようかとも思ったんですが…思い切って、全艦種が出やすいレシピにしてみました!』
「…楽しみなような、不安なような…」
~移動中~
「あと1分だね」
『はい!ワクワクしますね!』
「さて、誰が出るかな~」
小型建造だから、鬼や姫は出ないだろうけど…イロハ級の彼女らも結構好きだし、誰でもばっちこい。
まだかまだかと待っていると、ついに建造完了。
シャッターが開き、出てきたのは…
「………ヲ?ヲヲ…」
大きな黒い帽子をかぶり、ステッキを携えた白髪の少女…
すなわち、ヲ級ちゃんでした。
『わああ!』
『いきなり空母です!しかも軽空母じゃなくて、正規空母ですよ~!!』
「たまには博打もしてみるもんだね…」
敵艦隊のアイドル、空母ヲ級。実は、私も結構好きだったりするのだ。
可愛いだけでなく地味に耐久と火力も素晴らしく、初期に迎えられたのは僥倖と言えよう。実際、ゲーム内でも苦しめられたしね。
「ヲ、ヲッヲ、ヲヲ?」
こてんと首をかしげる。あらやだ可愛い。
たぶんだけど…「あなたがここの提督?」って聞いてるのかな?
「ええと…こっちの言葉はわかるかな?」
「ヲ!」
返事をして、うなづく。どうやら、言葉は理解できているようだ。
「良かった。私がここの提督のメリィだよ。これからよろしくね、ヲ級」
「ヲ、ヲ!」
びしっと敬礼しながら、返事をするヲ級。…かわいい。
「母性に目覚めそう…」
「ヲ?」
「あ、何でもない」
いやしかし、まさかしょっぱなからヲ級ちゃんを引けるとは。艦娘の方はあんなことになったけど、割と建造運はいいのかもしれない。できれば前世の方で発動してほしかった。陸奥になるビームの恐怖を散々味わいましたよ、ええ。
『あのう、提督…』
「?どうかした?」
おずおずと、建造妖精さんの1人が話しかけてきた。
『空母って、たくさん資材を使うんですよね?』
「…………あ"っ」
ヲ級フィーバーもつかの間、私は資材集めという現実に引き戻されたのであった。
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深海提督、遭遇
複数人が同時に話しているのは《》で表現します。
あれから数週間。
全力で資材を集めまくった結果、資材不足が解消したばかりか、建造がある程度できた。しかも、1回だけだが大型艦建造も。
おかげで、ずいぶん戦力が充実した。
「わあ、すごくいいお砂糖…え、こんなにお安いんですか!」
「お、嬢ちゃんわかってるね~。必死に値切って仕入れてその値段に抑えてるのさ。品質に問題はないぜ!」
「これならあっちも買えそう…このお砂糖2袋ください!」
「よし、2袋だから…」
現在、私たちがいるのは、ある島の商店街。
そして、今、店のおっちゃんと話していたのは…何を隠そう、給糧艦「間宮」である。まさか建造できるとは思わなかった。
なお、街にいるときは私のことを極力「提督」と呼ばせないことにしている。一般市民の方に勘違いされても困るからね。
「ネエ、次ハドコ行ク?」
「私ハ向コウノ古道具屋ガ気ニナル」
この2人は、ゲーム内では見たことのない子たち。「駆逐雨潮棲姫」、種別は名前からもわかる通り駆逐艦。2人合わせて1つの艦だ。
白黒のセーラー服の上に冬物の軍服を羽織り、下にはこれまた白黒の横じまパレオを着用。頭には灰色の角が2本生えているのだが、かなり長いためうさ耳のようで可愛い。髪も灰色で、双方ともにセミロングにしている。
今は出していないが、艤装として、深海仕様の連装砲ちゃんのようなものを1人1体(つまり2体)連れている。かなり目つき悪い。通称ヤンキー連装砲。
呼びわけのために、はおっている軍服が白い方を雨、黒い方を潮と呼んでいる。
17か18くらいの見た目に反して、2人そろって少々子供っぽいところがあり、それでいて人付き合いは若干苦手な模様。ただ、間宮さんには結構懐いているから、こうして一緒にお出かけもする。
「じゃあ、そこ行ってみようか。面白いものありそうだし」
間宮さんの買い物も終わったしね。
~移動中~
その古道具屋は、種類を問わずとにかく大量の品が無造作に置かれていた。
ざっと見ただけでも、照明器具、本、舵輪など統一性がない。というか最後の1つは何故ある。
「あら、包丁。これくらいなら研ぎ直せばまた使えそう」
間宮さんは製菓包丁を見つけてご機嫌である。
「スノードーム…」
「綺麗ネ」
雨潮は端の方に埋もれていたスノードームを発掘、何度もひっくり返して眺めている。
私はというと…
「錨に…これは、ボイラー室のパイプ?船の部品がずいぶんあるんですね」
「おう。処分に困ったもん何もかも俺に押し付けてきやがる。どうにもならねえだろ、それ」
ならばくず鉄屋にでも売ればいいのでは、とは思うのだが、黙っておく。
折れてフジツボに覆われた錨に、元はパイプだったのであろう曲がった破片。そのほかにも、船の何かしらの部品らしきものがわんさかあった。港町だから仕方ないのかもしれないけど…
「じゃあ、これとこれとこれと、あと向こうの鎖ももらいます」
「何に使うんだ?」
「そこは秘密ということで」
普通は鋳溶かして作り直す程度しか使い道の無さそうな物ばかりだが、深海棲艦を建造するのに結構重要なのだ。
3人にねだられた包丁とスノードームも買って、さあ帰ろうとしたその瞬間。
「シシィ!!!生きていたんだね!!!」
叫び声とともに、肩を掴まれた。
振り向いたら、そこには1人の男が立っていた。
顔立ちは、結構整っている。ビジュアル系バンドのベースっぽいと言えばわかるだろうか。朱色とまではいかないものの黄色っぽい赤の髪に、深い紫色の瞳。右耳には豪奢な金のピアスを、左耳には宝石がちりばめられたプラチナのイヤーカフをしている。首筋や腕には薔薇のタトゥーもあり、とにかく派手な見た目だ。
私のことを迷わずシシィと呼んだということは、ローレライの知人だろうか?
「あの、人違いではないでしょうか」
「何を言っているんだい?俺がシシィを見間違えるわけがないじゃないか。ああ、ひょっとして照れているとか?会うのが久々だからって恥ずかしがる必要はないじゃないか、素直になりなよシシィ。そうだ、戻ってくればまたずっと一緒に居られるよ!さあ、シシィ、海軍に戻ろうよ。大丈夫、君を移動させようとした無能はみんな排除しておいたから。ほら、早く!!」
…あれこれヤバい人?
「ちょっとあなた、その人は私たちの知人のメリィさんです。シシィさんという人ではありませんよ」
「なんだお前たちは?俺とシシィの感動の再会に水を差さないでくれ。ここにいるのはシシィだ。シシィ、君からも言ってくれ」
「いえ、この子たちの言っていることは正しいです。私はメリィと言います。ですので離していただけますか?」
「シシィ、なぜそんな酷いことを言うんだい?君はシシィじゃないか」
「ですから人違いで…」
「そうかわかったシシィそいつらが君をたぶらかしたんだねそいつらがいるから一緒に来れないんだね戻ってきたくても戻ってこれないんだね大丈夫だよシシィ今俺が助けてあげる俺が守ってあげる君がもうこんな奴らにつかまらないようにしてあげるもうあんな無能に傷つけられないようにしてあげる君は俺だけのものだシシィ大事なシシィ誰よりきれいな俺だけのシシィ」
アカン(確信)。
「…間宮さん、雨潮、退却するよ!!」
《了解!!!》
男の顔に本気のパンチを叩き込んで肩から手を無理やり離し、雨潮が出したヤンキー連装砲に乗って逃亡する。さすがに姫級の艤装なだけあって、下手な駆逐艦よりずっと早く動けるのだ。雨潮自体、俊足だしね。
「シシィ…?なんで逃げるの…?」
怖いからに決まってんだろうが殺すぞ。
「逃げないでよ…どうして俺から逃げるんだよ…シシィ!!!!!!!!!」
そう叫ぶと、男は恐ろしいほどの速度で追って来る。さらに速度を上げる間宮さんと雨潮とヤンキー連装砲。
最高速度で、逃走した。
~逃走中~
「何だったんだあいつ…」
現在地点、ぷかぷか丸内部。これから帰還する。
「提督のもとになったという、ローレライさんの友人か何かでしょうか…?」
「私アイツキラーイ」
「私モ」
「もうあの島行くのやめようかな…」
あそこが最寄りの島だったんだが…
聞こえてるか、あの世のどこかにいるであろうローレライ。私に受け継がれた記憶にはちっとも残ってないが、あれはお前の彼氏か何かか。
もし違ったとしても、これだけは覚えといてくれ。
あんな置き土産は要らん!!!!!!!!!
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深海提督、帰還
☆9評価をしてくださった紅頚黄鼓光慧航行さん、ありがとうございます!
我が家のひいおじいちゃんは、陸軍に居たそうです。
行った先で食べ物がなくて虫まで食べていた、なんて話をよく聞きました。
それに比べればはるかに恵まれた環境にいるのに、未だに子供舌卒業できない私…
「提督、目的地に到着しました」
「あ、もう?早いなあ」
まっすぐ帰ってもいいのだけど、ちょっと寄り道をする。
つい先日も、この海域で嵐が発生した。そのため上を通った船が数隻沈没したのだが、運が良ければ(というのもどうかと思うが)ほしいものが手に入るだろう。
「海賊船ガ2、商船ガ1ダヨー」
「船の種類は?」
「ガレオン船ト、キャラベル船ト、キャラック」
「あー、ガレオンがあるかー。ごめん間宮さん、ちょっと手間取りそう」
「いえいえ、構いませんよ」
潜水艦なら話は別だけど、深海棲艦と違い、艦娘は水中での呼吸ができない。そこは人間と一緒なのだ。
というわけで、回収作業は、深海棲艦たちと私で行うこととなる。間宮さんなどの艦娘は、ぷかぷか丸の中で待機。
ぷかぷか丸を出て、泳ぎ出す。
船幽霊だからか、水の感覚が前世以上に心地いい。人が水に好感を抱くのは、全ての命の生まれた場所が海だからだとか、人の体の半分以上が水だからだとか言うけれど、この心地よさはどちらかというと前者のようだ。
母なる大地、母なる海。どちらもよく聞く言葉だが、今の私は海の方に母性を感じる。こうして水中にいると、実家に帰って来たかのような安心感に包まれるのだ。
まあ、海で母というと、前世で提督と人類最後のマスターを兼任していた私は、どうしても某グレートマザーを思い出してしまうのだけど…
「提督、イイノ見ツケタヨー」
「お、さっそく?」
雨が抱えていたものは、ぱっと見赤いもやもやした塊。
エラー娘たちが用意していた資料によると、これは怨念の集合体なんだそう。
何故かはわからないが、深海棲艦を建造するには、怨念などの念と廃材が必要不可欠らしい。つまり、古道具屋で買ってきた錨とかも、建造に使うのだ。
念が強ければ強いほど、上位の深海棲艦が誕生する。廃材が船に関係するものであればなおいい。
たまにクラバウターマンのなれの果てとかも拾ってくることがあるが、そう言うのは、元の船の種類にもよるけれど、大概優しかったりやんちゃだったりする深海棲艦になる、らしい。
元々、クラバウターマンというのは、船版座敷童子のようなもの。いれば船旅がうまくいき、沈没することもなくなるけれど、船員が仲たがいを起こしたり、怠けたり、悪事に手を染めたりすれば、去っていく。そうして行き場を無くしたクラバウターマンが、水底に留まることも結構あるようで、現在5隻いる深海棲艦のうち2隻はクラバウターマンが使用されている。
ちなみに、雨潮はちょっと特殊。実は、「完成できなかった船の無念の思い」からできている。
少し前、火山の噴火が原因で捨てられてしまったとある街へ行ったとき、ドックに未完成のまま放置された2隻の船を見つけた。その船に、ちょうど怨念と同じようなもやになって残っていた無念を、実験も兼ねて使ってみたら、生まれたのが雨潮である。2隻分が1つになっていたためか、双子なのだ。
無念や怨念などの感情の集合体があるというのも不思議だけど、そう言うものなんだろうと飲み込んだ。
なお、念は素手で触ると念がこっちに伝わってきてしまうので、手袋して回収している。
「提督、隠シ金庫ガ!ガレオン船ノ船長室ニアッタ!!」
「よくやった潮!!!」
潮の案内で入っていくと、そこには確かに大きな金庫があった。銀行にあるようなの。
どうやら潮がこじ開けたらしく、大きく扉が歪んでいる。
中にはたくさんの宝石と、宝箱がいくつか。
宝箱はヤンキー連装砲に持たせて、宝石はこういう時のために持ってきた袋の中に突っ込む。
そんな感じで、回収作業を進めていく。
~回収中~
宝箱12個、怨念1つ、1000万ベリー、その他もろもろ。船の鉄製品も引っぺがしてきた。
宝箱の中身は、鎮守府に帰ってからのお楽しみ。みんなのいるところで開封と決まっているのだ。
どうやら商船は商売を終えて帰ってくる途中だったらしく、商品はほとんど残っていなかったが、代わりにお金がたくさんあった。
「大漁~♪」
「オ金イッパイ!」
「どれもいい宝石ばかり…これは宝箱にも期待できますね!」
「じゃあ、帰ろうか」
~帰還中~
『提督、お帰りなさい!!』
「ヲ、ヲ!!」
「ただいまー」
深海妖精さんとヲ級ちゃんが出迎えてくれた。
「司令官さん、お帰りなさいなのです!」
「電、ただいま」
電も走ってやって来た。まさか、何の気なしに建造してこの子が来るとは思わなかった。どうしてか、前世ではなかなか来なかったんだよね…。
「ワ級たちとチ級は?」
「もう少ししたら来ると思うのです」
弊深海鎮守府には、2隻のワ級が居るが、どちらも元クラバウターマン。納得できるような、微妙なような。
「シレイカン、オカエリナサイ」
「オ…カ、エ…リ…ナ、サイ…」
「オツ…カ…レ、サマ…デ、ス」
「うん。ただいま、チ級、ワ級たち」
どうやら、深海棲艦にもまともに話せるのとそうでないのがいるらしい。人型に近くなればなるほどうまく話せるようになる(ヲ級は話せなくもないけどヲッヲって言ってる方が楽だからそう言ってるだけらしい)そうなのだが、彼女たちは少々苦手らしい。
なお、見分けるために、番号を書いたネックレスをつけてもらっている。これからどんどん増えるだろうから、たくさん用意せねば。
「今日は大漁だったんですよ!」
「物資タクサン補給デキル!」
「オープンセサミ!」
潮、どこで覚えたそれ。
まあいいや。
「とりあえず、この宝箱開けてみよう」
うちの子たち設定に、雨潮を追加しました。よければ見ていただけると幸いです。
クラバウターマンが木槌を持っているのは、悪戯(甲板などをたたいて音を出す)と警告(いろいろな箇所を叩きまくり危険を知らせる)のためであって、クラバウターマンが船を直したという話はないそうです。
さらに、本来クラバウターマンが姿を現すのは、船長の前。沈没する前、一度だけ会いに来るそうです。
それを考えると、メリー号って本当にすごい船なんですよね。本当はできない船の修理を見よう見まねでやったばかりか、船長でもなんでもないけど自分を大切にしてくれるウソップの前に姿を現し、極めつけに自分の思いをテレパシーで伝える。頑張り屋さんだったんですね、メリー。
なお、クラバウターマンの気配を感じたり姿を現したりするのはたいてい悪いことの前触れなので、スカイピアでメリーのクラバウターマンをウソップが目撃したのはメリー沈没の伏線ともいえる…か…?
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深海提督、交戦
☆7評価をしてくださったドイツ第三帝国親衛隊さん、
☆5評価をしてくださったゴレムさん、ふじさんさん、
☆4評価をしてくださったお祈りメールさん、
ありがとうございます!
本当に長らくお待たせしました…!!!
受験も一段落したので、少しはこっちにも顔出せると思います、たぶん。
「はあっ!!!」
腰の軍刀を引き抜き、眼前のカエルのようなトカゲのようなデカブツを一閃。
腹から噴き出す血を浴びないように飛びのいて、軍刀を納める。遠くの方から砲撃音やらなにやら聞こえてくるから、向こうも頑張ってくれているらしい。
うむうむ、うちの子たちも強くなったもんだ。この調子で頑張っておくれ。
今何をしてるのかって?
あの謎のV系男から逃げきってから何となく行きづらくて、電ちゃんをあの最寄りの島に偵察に行かせたら…まさか、あいつが海軍の少将だったとは。資材確保のためにあちらこちらで暴れまわってたのもあって、私のことがうわさになってたどころか、海軍の皆様が捜索に来てたわ。こりゃほとぼり冷めるまであの島行けないな、と悟って、少し遠出するようになったのが3日前。
今朝、資材にも余裕が出てきたし、位置的にも結構近いし、シャボンディ諸島まで行ってみよう!なんて言い出したのは誰だっけ。私だったかも。私しかいないわそんな馬鹿。
結果、間宮さんが人さらい屋と海賊兼任してるやつに見つかってさらわれてしまった。さらいたくなる気持ちはわかる。美人で巨乳だから高値が付きそうだし、おっとりしてるからさらいやすそう。だが、間宮さんをさらったのは完全なる悪手と言えよう。
今日、私が連れてきたメンツは、
ヲ級elite(最初に建造したヲ級ちゃん。改にしたらeliteになった)
雨潮改(この度めでたく改になった)
電(改にすることを検討中)
これに加えて間宮さん、である。
空母は食う母、なんてどっかの誰かが言ったように、ヲ級ちゃんは大食いである。雨潮は人当たりのいい間宮さんに懐いてるし、電にとっては唯一の自分と同じ「艦娘」。すなわち…全員、間宮さんガチ勢である。無論、私も含む。間宮さんのお母さんオーラと料理スキルの前ではみな平等だ。
さらわれたら当然秒で取り返しに行くじゃろ?
小舟に乗って逃げる奴らを追っかけて、小舟で来てた割にはでかいガレオン船3隻からなる本隊を見つけるじゃろ?
ヲ級ちゃんが容赦なく制空権確保して航空攻撃&砲撃始めるじゃろ?
負けじと雨潮&電が魚雷撃ち込むじゃろ?
…まあ、そういうことだ。ちなみに冒頭のやつは海賊が飼ってたよくわからん生き物。さらった人を逃がさないための番犬的な存在らしい。
鍵がかかっていた扉は戦闘の余波で大破しており、中に大きな檻があることや、間宮さんがその檻を捻じ曲げて人々を解放しているのが見えた。さすがに戦闘特化の他の艦と比べたら見劣りはするかもしれないが、この方もれっきとした艦娘。その腕力は人間をはるかにしのぐ。殺生を好まないから、必要でなければ無暗に使わないだけで。今回は、被害者の皆さんが船にいるかもって思ったから、わざと抵抗しなかったんだろう。
「間宮さーん、お迎えでーす」
「あら、ありがとうございます」
にこにこ笑顔でそう返してくれるけど、うん。場所が場所だからか和めない。
「ああ!畜生、テメエら商品を!」
背後からの声。それと同時に、走ってくる音が聞こえてくる。…遅い。
軍刀とは反対側に下げたそれを抜いて、腰を捻って後ろを向き、大きく刀を振りかぶった身なりのいい男の胸に突き刺し、発砲する。被害者さんたちは、間宮さんが目隠ししておいてくれたようだ。
「ぐ、ふ…」
「相棒!」
「銃剣だと…!?」
そう、銃剣!こないだ拾ってきた宝箱の中身だ。海賊船の隠し金庫にしまわれてただけあって、作りもしっかりしてるし、使いやすい。サブウェポンとして愛用している。惜しむらくは単発式なところか…ま、この大きさで連射は難しいわな。
やってきた男は、今しがた撃ったのを除けば5人。体勢を立て直し、軍刀の柄に手を添える。
「くらえ!」
棍棒持って飛び掛かってきたのを右にずれて躱し、ちょうどそこにいた鎖鎌持ってるのに斬りかかる。
私の戦法は、基本的に居合だ。力ではなく速度。剛ではなく柔。体重×スピード×握力=破壊力だって偉い人が言ってた。
「ぎゃっ」
腕を切断。遠距離攻撃持ちは怖いからね。
次に、最初の棍棒持ち(扉の破片やら倒したカエルもどきやらにつっかえて立てないでいる)をヘッドショットして、鎖鎌のを蹴倒し、その奥にいた2人の剣士の首元を一閃する。
「このっ」
「甘い」
残った1人(ハンマー持ってた)が背後から襲い掛かってきたが、横に飛びのいて躱す。未だ持っていた銃剣で、胸と頭とを撃った。
「私の大事な家族に、手、出さないでよ」
これを後ろで聞いていた間宮さんは赤面してたし、間宮さんが聞いてるのを忘れてた私も気づいた瞬間赤面した。
この後、被害者の皆様を緊急用らしきボートに乗せて脱出させて、船の部品と財宝をはぎ取れるだけはぎ取って帰った。
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