学園に来たれ、深い衝撃。 (もょもと)
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始まり
ガタンッ と一際大きい音がした。踏切を電車が跨いだのだろう。
目は瞑っていたが、なんとなくそう感じる事が出来た。
「わぁー!都会だぁー!ディープ君!見て見て!信号いっぱいあるよ!あと!色々いっぱいあるよぉ!」
隣で俺の幼馴染、スペシャルウィークが、子供のようにはしゃぎながら窓に張り付いている。しかもこいつ、身を乗り出していやがる…
「わーわーうるさい、子供じゃねえんだから大人しくしとけよ、家にモラル置いてきたのか?」
「あっ…」
言わずもがな他の乗客には先程から痛い視線を向けられている。それをこいつに目で訴えるとようやく注目されていることに気がついた。
「え...えへへ...」
やっと顔を真っ赤にして大人しくなったスペシャルウィークにため息をつきつつ、俺も窓の外を眺める。
「なんで俺が行かなきゃいけないんだか...」
北海道の田舎に生まれた俺は、小さい頃からスペシャルウィークと共にかけっこしながら育ってきた。ど田舎だった事もあり、俺の他にはスペシャルウィークしか同年代がいなかったが。そのせいもあってか、俺は他にも男のウマ娘が存在していると思っていた。
俺が異例の存在だと母親に聞かされたのは、今から3、4年前の事だった。俺が世界で唯一のウマ娘である事、そして、性別は男に分類されるものの、生物学的にはウマ「娘」になるという事。
俺は当然の事、スペシャルウィークも俺が唯一無二の存在という事に驚いていたが、俺が1番驚いたのは、母が勝手に、日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称「トレセン学園」への入学届けを出してしまっていた事だ。
俺は田舎で平穏な日々を送りたいと思っていたのに、これでは目立ってしまう。そう抗議したが最早後の祭りだった。今はこうしてスペシャルウィークと共にトレセン学園のある東京都府中市に電車で向かっている。
一人で勝手に回想しながら、俺はまた一際大きいため息をつく。
それに気づいたスペが申し訳なさそうにこちらを見つめてくる。
「ご、ごめんねディープ君...怒っちゃった...?」
「不本意だけどもう慣れてる。そうじゃなくて、まあなんだ、学校行きたくないって思ってたんだよ。」
「ディープ君だって人の事言えないじゃん!子供みたいな言い訳して」
「うっせ、俺は田舎でひっそりと暮らしたかったんだ、レースなんかに興味ねえよ。」
「出た、ディープ君のひねくれー、ディープ君とっても速いんだから、絶対日本一になれるのに」
「日本一のウマ娘になる事がお前の夢なのに、俺が日本一になって良いのか?」
「えっ?あっ...じゃ、じゃあ日本二!」
そんなやりとりをしている内に目的地に到着したようだ。俺たちは電車を降りる...や否や、重大なことに気がついた。
「「最寄りの駅..次の駅だ..」」
やってしまった...時間に余裕を持って来ていたから、遅刻する事は無いだろうが、また乗らなきゃいけないのか...
そう思っていると、在ろう事かスペは走っていくと言い出した。しかも、いつのまにか駅員さんに勧められて、レース場を見に行くと言っている。
「いや、ちょ...」
「ほらディープ君!はやくはやくー!」
「はぁ..まったくあいつは..」
予測はしていたがやっぱりあいつと二人でいると振り回されるな...
なんやかんや言って付き合ってる俺も大概だが。
「初日から疲れるったらありゃしねえな..」
どこか抜けてるスペの事だ、このまま一人でいかせると、迷ってしまうかもしれない、そう考えた俺は、既に数十メートル先にある背中を追うために、渋々重い足を上げて駆け出した。
ちなみにディープの性格は、俺ガイルの比企ヶ谷に近いイメージです。
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スペシャルウィークの「夢」
スペシャルウィークの背中に追いついてから数分たつと、レース場が見えてきた。
「わぁー!すごーい!こんなに人がいっぱいなの、故郷とは大違い!」
スペシャルウィークの言う通り、レース場は大迫力だった。テレビで観たことはあったが、実際にその場に居合わせてみると一回り大きく感じる。
予想以上の迫力に圧倒されていると、スペシャルウィークが向こうからこちらに走ってくるのが見えた。
「ディープ君!たこ焼きにたい焼き、フランクフルトも買って来たよー!一緒に食べよっ」
いつの間に買って来たんだ...つーかそんなに食わねえよ...
そう思いつつ、仕方なく俺は食べ物を一つずつ受け取り、スペと一緒に近くのベンチに座った。
フランクフルトを口に運びつつ、俺はもう一度レース場を見渡す。
観客席には老若男女問わず沢山の人が押し寄せていて、このレースの人気ぶりが伺える。
「トゥインクル・シリーズ」
ウマ娘たちが競い合うレースの名称。国民的娯楽として定着しており、ウマ娘達が、時には仲間、時には敵として、ライバルと互いに己を磨くために切磋琢磨し、このレースに全てを注いでいる。
無論、俺たちもこのトゥインクル・シリーズに参加するためにやって来たわけだが(俺は乗り気じゃ無い)。
スペと昼食を取りながら談笑していると、奥の方から歓声が聞こえて来た。どうやらパドックが始まっているらしい。
スペシャルウィークが見たいと言うので、俺たちは歓声がした方向に歩いて行くことにした。
パドックの周りは、観客席よりも人の密度が高かった。俺とスペは、パドックが見える位置に体をずらした。すると、パドックの奥から、一人のウマ娘が出てきた。
やや明るめのオレンジ色のロングヘアー、耳には緑色の耳カバーとカチューシャが付いていた。その娘が出た瞬間に、一際大きい歓声が上がった。人気のウマ娘なのだろう。
1番人気、ゼッケン12番、サイレンススズカと実況に呼ばれたそのウマ娘は、全く表情を変えることなく、真っ直ぐな瞳をしていた。
「...綺麗...」
スペがそう呟いたのが聞こえた。確かに綺麗だ、人気が出るのも分かる。だが俺はサイレンススズカの走りの方が気になった。
「お前も負けてないけどな。」
「ふぇ!?」
「顔だけ。」
「!もうディープ君のばかっ!」
パドックの奥に戻っていくサイレンススズカを見つつ、顔をほのかに赤らめたスペをからかっていると、俺たちは不意に脚に違和感を感じた。首だけで後ろを向くと、棒付きのキャンディを加えた男が、俺たちの脚を揉みながら、うんうん頷いていた。
「二人とも腿の作りも良いじゃないか、まさに肥えウマ娘に難なし...ぶへぇッ!!」
何やら一人でぶつぶつ呟いていたが、それは甲高い悲鳴を上げたスペから繰り出された後ろ蹴りによって遮断された。
「なっ ななな何するんですかぁ!...ってあれ?」
「おいおいもろに顔面入ったぞ...」
スペの蹴りによって後方に吹っ飛ばされた男は、ピクリとも動かないまま仰向けに倒れていた。流石に死んではいないと思うが...
「あ...あの..大丈夫ですか...?」
「おい、生きてるか変質者。」
そう言いながら俺らが近づくと、その男はトラップが作動したかのように一瞬で起き上がった。
「ああいいよ、平気平気、慣れてるから。」
「なっ慣れてるぅ!?」
「ところで君、どこのウマ娘?出身は?年齢は?体重はぁ〜?」
目をギラギラさせながらスペの事を舐め回すように見てくる、反射的に蹴りを入れたくなったが堪えた。
「し、失礼な人ですねっ!お母ちゃんが言ってた通りです!都会は痴漢が多いって、失礼しますっ!」
「え?痴漢?」
不思議がる男をそこに残して、俺はズカズカと歩いていくスペの背中を追った。
男は俺らが離れていくまで、真剣な眼差しで俺らの事を見ていた。
怪しい男と一悶着あった後、俺たちはレースを見るためにゴール前に足を運んでいた。
「1番人気のあの人、どこにいるんだろう?」
楽しそうな顔をしているスペを横目に、俺は芝を見つめる。
見事なまでに洗練された芝だ。いつかここを走ってみたいと思った。
レースはごめんだが。
そんな事を思っていると、ファンファーレがレース場全体に響き渡った。観客から大歓声が上がる。それと同時に、ウマ娘達がゲートに入っていく。その中に、先程パドックにいたサイレンススズカの姿を見つけた。
どんな表情をしているかはここからは見えないが、おそらくパドックの時と同様、眉一つ動かしていないだろう。
「その様子だと本物のレースを見るのは初めてか。」
聞いた事がある声がしたと思えば、先程の怪しい男が横に立っていた。
「あ、貴方はさっきの!...初めてですけど、それが何か...?」
「ふむ、レースデビューを目指して田舎から出てきました、とかそんな感じか?」
そう話しかけてくる男を見て、俺はこの男がただの変質者ではないとなんとなく思った。だがスペシャルウィークは先程の件から完全に変質者だと思っているようで、
「私、日本一のウマ娘になるって、お母ちゃんと約束したんです。だから邪魔しないでくださいっ。」
そう言ってスペシャルウィークは口をプクーっと膨らませた。これはスペが怒った時にやる癖だ、可愛い。
「ほう..日本一か。」
それを聞いた男の顔が変わったのが分かった。腿を触った時とはまるで違う、未来を見据えているような瞳だった。
「なあ、日本一のウマ娘ってなんだ?」
「え?そ、それは...」
男は、俺も前から聞きたかった事をストレートに言った。スペシャルウィークは昔から、日本一のウマ娘になるとずっと言っていた。だがそれだけでは、明確な目標とは言えない。日本一のウマ娘なんて、ほぼ全てのウマ娘がなりたいに決まっている。大事なのは、「日本一」と言う言葉の中にどんな意味を見出すかだ。それが具体的にどんな意味なのか、完璧な模範解答は存在しないだろう。故に一人一人が自分の中でその「答え」を肯定して努力する。それこそ個々が思い描く「夢」に直結するのだろう。
スペシャルウィークは自分が思い描く「答え」がまだ漠然としているままだ。もっとも夢なんて持ったこともない俺よりはマシだが。
「お、そろそろだ」
スペシャルウィークが質問に対する返答を返せないまま、スタートゲートが開いた事でこの話は終わった。
2話にして話の進行ペースが遅い気がしてきた...
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サイレンススズカ
ゲートからウマ娘達が一斉に飛び出して行く、綺麗に揃ってスタートした後は、各ウマ娘が自分のベストポジションを確保しようと位置どり争いが始まっていた。
観客席からは大きい歓声が上がっていた。一人のウマ娘を応援する者、全員を応援する者、色々な人がいる。
俺は自分がレースに出るのは消極的だが、小さい頃から見るのは好きだった。どんな展開になるかを考えたり、誰が勝つか前走の走りを分析して予想するのが楽しかった。
今行われているレースは、あまり縦長にはなっておらず、どちらかと言えば集団で固まっているような展開だった。これでは外にいるウマ娘が圧倒的に不利だ、後半でへばってしまう。
一人で勝手に展開を読んでいると、集団から一頭のウマ娘が抜け出して先頭に立ったや否や、そのまま一気に差を広げていた。
ゼッケン8番、サイレンススズカだ。
「は、速い!...でもあのペースのままで大丈夫なのかな...」
スペの言う通り確かに速い、いや、速すぎる。あのままではスタミナが切れてしまうだろう。普通ならな。
「ところで君、ウマ娘だろう?男の」
不意に男に声をかけられた。目立ってしまうから耳と尻尾を帽子とズボンの中に隠していたが、バレていたか。
「男のウマ娘なんて珍しいな、君に夢はあるのか?」
「別にありません。何も...」
そう答えると男は一瞬不思議そうな顔をした。だがすぐに笑顔に戻り、
「なあ、あの娘、あのまま飛ばして勝つと思うか?」
そう言ってサイレンススズカを指差した。俺はこの時、試されているような気がした。俺は思ったままの事を言った。
「あれは飛ばしてなんかいませんよ、ただ普通に走っているだけです。あれがあの娘のマイペースなんでしょう」
そう言うと男は、
「よく見ているな、君は洞察力がある」
そう満足そうに言うと、レースの方に顔を戻した。
サイレンススズカが4コーナーを回って直線に差し掛かった。後続が一気に押し寄せてくる。スペが不安そうな顔をしていた。交わされると思っているんだろう。
だがサイレンススズカは、そこから一気に二の足で加速し、また大きく差を広げ、さらに加速し続けた。
終わってみれば2着に大差をつけてのゴール。だがサイレンススズカは、さほど息は切れておらず、既に呼吸が整っているようだった。
「へぇ...」
思わず自分の口からそんな言葉が漏れた。何を思ったかは自分でもよくわからない。だが、俺の中に沈没していた闘争心が、少しだけ、ほんの少しだけ反応したのが分かった。まあレースなんてごめんだから、すぐに収めたが。
「す、凄い!あんな人がいるなんて!」
スペシャルウィークは目をキラキラさせてそう言った。こいつなら、いや、普通なら、一緒に走ってみたいと素直に思えるんだろうな。
「とっても速かったねっ、ディープ君っ!」
「ああ、そうだな」
「君たち、見ていかないのか?」
そう男が言うと、スペシャルウィークは「あっ」と何かを思い出したかのように、
「ウイニングライブ!」
そう言った。
ウイニングライブとは、レースに勝った上位3着に入ったウマ娘だけが立てる舞台。観客と喜びを分かち合うと共に、己の強さを証明する事にもなる。
俺たちはサイレンススズカのライブを見ていく事にした。
ステージの中心にいる3人のウマ娘にスポットライトが灯り、音楽が流れる。観客も大盛り上がりでペンライトを振っている。
「♪〜♪♪〜♪」
サイレンススズカが歌う。透き通った綺麗な歌声だ。それに合わせて軽快なダンスも披露する。ステージに立ったサイレンススズカは、今日1番輝いていた。
俺とスペシャルウィークは暫くの間、ウイニングライブに酔いしれていたが。何か忘れているような気がした。
「「あっ!!」
俺とスペシャルウィークはほぼ同時に気付いた。
「「下宿先の約束時間過ぎてる(じゃねえか)!」」
スマホを見ると、既に約束の時間から数時間が過ぎていた。
「どうしようっ!どうしようっ!」
「落ち着け!っいや落ち着いてる場合じゃねえっ!急ぐぞ!」
俺たちは人に危害が及ばない程度のスピードで、下宿先の寮に急いで戻った。
次話はなるべく早めに出します
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転入初日
「初めまして、トレセン学園の理事長秘書をしている駿川たづなと申します。教室まで案内しますね」
「スペシャルウィークです!よろしくお願いします!」
「....ディープインパクトです」
サイレンススズカのウイニングライブから一夜明け、俺とスペシャルウィークはトレセン学園の廊下を歩いていた。
「初日から遅刻とかもう最悪だ...」
あの後俺たちは急いで下宿先に向かったが、当然間に合う筈もなく、寮長であるフジキセキ先輩に笑いながら注意をされた。部屋が空いていなかった為、管理員室で寝る事になったが...正直殆ど眠れなかった...
「ディープ君凄いクマ...大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃない...何でお前はそんなに安眠できるんだよ...」
たづなさんの案内で、俺たちは教室の前までやってきた。俺たちが礼を言った後、たづなさんは仕事に戻っていった。
「最初の挨拶はバッチリ決めなきゃね、ディープ君、見ててっ」
そう言ってスペは扉の取っ手に手をかける。
最初の挨拶の印象で、クラスメートに粗方の印象が伝わってしまう。楽しい青春を送りたいのなら、なるべく好印象な挨拶が望ましい。スペもそうするだろう。だが俺は、そんな学園生活を送るつもりは毛頭ない。
無難に陰キャを拗らせつつ、話しかけられたら自己紹介するくらいで済ます。よし、完璧だ。
スペが教室のドアを開けて中に入る。俺もなるべく目立たないように後に続く。
「ああああのっ私!今日からこのクラスに入るスペシャルウィークって言いまっ」ガッ 「ぐえっ!」
...盛大にコケたな。目の前で先陣を切った奴がやらかしたこの状況で、俺はこの後どうしたらいいのだろうか。色々考えていると、
「だいじょーぶ?」
顔が床に面していて見えないが、恐らく真っ赤であろうスペに、髪が桜色の小柄なウマ娘が声をかけた。
「君、転入生でしょ?私ハルウララっていうの!」
ハルウララと名乗った少女に続いて、数人がスペシャルウィークに近寄ってくる。
「セイウンスカイだよ〜、よろしく〜」
「ワタシは帰国子女のエルコンドルパサーデェース!」
「グラスワンダーです。初めまして〜」
うわぁ...立て続けに話しかけられてるよ、転入生の宿命ってやつか。スペなら平気だろうけどな。
「これからよろしくねスペちゃん!」
「うっ、うん!」
ほら、もう意気投合してるよ。俺は気付かれてないっぽいし。
俺は影を薄くしながら新規の転入につき新たに設置されたであろう窓際の1番後ろに向かった。
「あっ、ディープ君も自己紹介しなきゃ駄目だよっ!」
...正確には向かおうとした。
スペが言った刹那、全員の視線がこちらに集中する。もしこれがオンラインゲームだったなら即ログアウトしていただろう。
しょうがない、多少計画は狂ったが無難にいこう、無難に。
「あー、えー、ディープインパクトです。これから宜しくお願いします...」
「oh!貴方が噂のウマ娘デスね♪よろしくデース!」
エルコンドルパサーという黒髪ロングのウマ娘がこちらへ駆け寄ってきた。
「あの、やっぱり俺のことって噂になってるんだ...?」
「勿論です。男のウマ娘さんが来ると聞いて、学園中で話題になってますよ」
「さいですか...」
うげぇ...これは俺の思い描いた学園生活は送れそうにない気がする...
そう思っていると、後ろからポンと肩に手を置かれ、
「どうやら静かな日常は暫く送れそうにないみたいだねぇ」
と言って、空色の髪色でショートヘアのセイウンスカイがニヤニヤしながらこちらを見ていた。どうやらこのウマ娘は既に俺が表に出たがらない性格の奴だと気づいているようだ。
一悶着あった後、座学の時間で、ここトレセン学園での生活や教訓の授業を受けた後、昼食の時間がやってきた。
「さて、と」
俺は弁当を持って立ち上がった。出来るだけ人のいない場所で落ち着ける場所を探す。スペは先程のクラスメイトと一緒に食べるだろう。俺が気を使う必要はない。俺は教室を後にした。
「あ!ディープ君も一緒に食べよう!皆で食堂に行くんだ」
...正確には向かおうとした。
「いや、俺がいたら雰囲気壊れるだろ」
俺みたいな陰キャラだと雰囲気以前に場違いな気がする。
「そんな事ないよ、皆ディープ君と話したいって言ってるよ」
「スペちゃんが、アナタはとっても速いって言ってマシタ!アナタの事もっと知りたいデース!」
「ふふっ、私なんか敵いっこないって言ってましたよ。私も貴方とお話ししてみたいです。」
「頭が良くて、専門家みたいな事も言ってるらしいね〜。たまにはリラックスしてみたら〜?」
...スペのやつ、持ち上げすぎだ。しかしこれだけ大人数に迫られたらもう断るわけにはいかなくなってしまった。
「ダ...ダメかな?」
「はぁ、わかったよ」
「!やったぁ!」
スペはすごく嬉しそうだったが、俺は深いため息をついた。昨日から俺、ほぼ自由に動けてない気がする...。
皆が歩き出した時、セイウンスカイにまた肩にポンと手を置かれた。
「1人になりたい気も分かるよ〜、でもみんないいウマ娘達だから、警戒しなくて大丈夫だよ〜」
ゆるい感じでそう言ってくる。このウマ娘とは何か気が合いそうな気がする。なんとなくそう思った。
ディープ自身が走るのは、もう少し後になります。
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