メトロイドvsプレデター ―サムス クロニクル― (ぷるぷるゼラチン気質)
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チャプター01 遭遇

 宇宙は広い。

 今現在判明している大銀河の範囲で巨大星間国家群を築いている銀河連邦だが、当然宇宙の全てを支配しているわけでも、ましてや把握しきっているわけでもない。

 様々な宇宙的種族で形成されている銀河連邦。

人間もその中の一種族であり、数の多さから銀河連邦の主要種族となっていた。今、宇宙で最も繁栄している知的生命体(ヒューマノイド)は人間と言って過言ではない。そういう時代だ。だが、遙か古代…人類が把握している時間認識の限りで、かつて宇宙を支配していた人類の偉大なる先達が確かに存在した。

 

 『チョウゾ』。

 そう名乗る、人間の神話に登場する鳥面人身の怪物のようなヒューマノイドが、

この無限とも思える広く遠い宇宙を支配していた。だが支配者というよりは管理と観察を主として宇宙の調停を担い、宇宙全体のバランスと調和を護る守護者だった。銀河連邦の認識では、この鳥人族こそが宇宙の叡智の頂点を極めた唯一族だったが、チョウゾ自身が蓄える歴史と知識はそれとは大きく違っていたのは人間には余り知られていない。

 

 かつて宇宙の行く末を巡ってチョウゾと対等に意見を交わす種がいくらかいた。チョウゾと思想を同じくし盟を交わしてチョウゾを盟主と仰いだ文明、ルミナス、ブリオニアン、イーラ達。その高度文明同盟群と、単一種族でありながら同等以上の勢力を誇った危険な好戦的狩猟民族ヤウジャ。

 そして、全ての頂点に立ち、生命…宇宙そのものの創造に関わっているとさえチョウゾに伝わる神が如くの伝説的巨人族スペースジョッキー。

 しかしチョウゾが台頭する頃になると〝神〟スペースジョッキーは忽然とこの宇宙から姿を消し、スペースジョッキーが遺していった奉仕種族エンジニアもある日を堺に歴史の表舞台から消え、そしてヤウジャもまたスペースジョッキーを追うかのように歴史から姿を消していた…。

 

 悠久の年月が流れ、そして今、宇宙の覇者・スペースジョッキーの後継と謳われたチョウゾも衰え始め、今やかつての英主チョウゾは惑星ゼーベスに僅かを残すのみとなり、チョウゾの同盟文明達も衰え、或いは滅びて歴史の一部となって…現在、銀河を我が物顔で跋扈するは人間達であり宇宙の盟主は人類となりつつある。『人間の時代』の夜明けは近い、そんな時代。

 

 

 

 

 

∴∴∴

 

 

 

 

 

 コスモ歴200x年。

 資源採掘コロニーK-2L。

 銀河の片隅での資源採掘は楽な仕事ではないが、それでもこのK-2Lは銀河連邦の庇護の元、平和で活気ある空気に満ちていた。採れる資源は恒星間航行時代では宇宙船のイグニッションモジュールとして最適なアフローラルタイトが主で、銀河連邦の厳重な管理の元、採掘団主任ロッド・アラン率いるチームが日夜せっせと掘り出していた。

 K-2Lが宇宙船による銀河ネットワークを支えていると言ったら些か過大かもしれないが、それでもロッド・アランは自負を持って日夜この業務にあたっていた。

 

 美しい妻、バージニア・アランと…そして可愛い一人娘、サムス・アランの為にも激務を熟す日々を送っている。アラン一家は平和で、そして充実した日常を過ごしていた。だがそんなささやかな幸福の日々は、ある時突然終りを迎える。

 

 メトロイド創造に不可欠な物質アフローラルタイトを求め降り立ったチョウゾ2名。それを密かに追跡していたスペースパイレーツがK-2Lに接近し、そこがアフローラルタイトの一大産地だと見抜かれて襲撃されてしまったのだ。

 チョウゾの追跡とコロニー襲撃を指揮したのはスペースパイレーツの戦闘指揮官リドリー。骨と皮だけの巨大な翼竜に細く長い手足を生やしたような、見るからに凶悪な生物がリドリーと呼ばれる怪物の容姿であることは銀河連邦軍にも連邦警察にも知られている。

 銀河連邦はスペースパイレーツを「宇宙のドブネズミの掃き溜め所帯」程度にしか見ていないが、それでも首魁のリドリーの悪名だけは宇宙に広く恐れられていた。リドリー個人は凶悪無比で恐ろしいが、スペースパイレーツという組織として見れば超巨大星間国家である銀河連邦の足元にも及ばない…それが連邦中央に住む者達の共通認識であった。

 

 それがまさか、こそ泥が徒党を組んだ程度の宇宙海賊が銀河連邦の主要施設を正面切って襲ってくるとはこの時点で誰も予想していなかった。認識の甘さが招いた結果は無残なもので、資源採掘コロニーは壊滅した。コロニーに移住していた何万もの作業員とその家族は全滅し、施設も採掘鉱山も消し飛んだこの事件は、多くの銀河の運命の分岐点でもあった。

 

 銀河連邦の一大資源施設を手も無く捻った事で連邦のメンツを叩き潰した狡猾の死神・リドリーの悪名が大銀河に遍く轟くことになる。一躍銀河随一の悪のカリスマとなったリドリーの元に大量の宇宙犯罪者が集いだし…しかも反銀河連邦の思想を持つ連邦の『脱落者』までがリドリーの元へ合流するようになった。

 スペースパイレーツが銀河連邦の宿敵となりだしたその出発点と言え、歴史的に見れば銀河連邦とスペースパイレーツの血で血を洗う銀河戦争が始まった時であり…そしてこの事件があったからこそK-2L唯一の生き残りであるサムス・アランがチョウゾに拾われ、チョウゾの後継者・銀河の守り手サムス・アランが生まれた。リドリーがいなければ銀河最強の守護者サムスは誕生しなかったのは何とも皮肉であった。

 

 

 

 

 

∴∴∴

 

 

 

 

 

 K-2L壊滅事件の前後…銀河連邦やスペースパイレーツ、そしてチョウゾですら未だ知りえないこの宇宙の外次空(アンノウンスペース)で…星1つ瞬かず一切の距離感が掴めない異質な暗黒空間をバックに、二隻のスターシップが光速を越えた速度で激しい追跡劇(チェイス)を演じていた。

 曲がった円形チューブ状の、欠けた黒いドーナツのような馬蹄形大型船が流線型の鈍い銀色をした小型船に執拗な追撃を受けている。小回りの効く銀色の追跡艇は断中間子粒子ビーム砲を船首から間断なく連射し、黒ドーナツの船は見る見る間に薄緑に輝く半透明のシールドバリアを失っていよいよ船体そのものから火を吹き出した。ぐらつきながらも黒いシップは銀色の追跡者から逃れようと必死なようで、位相光線砲(フェイザーキャノン)で激しい反撃を繰り返しているが小型艇は素早く中々当たらない。しかしその内の一発がとうとう追跡者を捉えた。大型の位相光線砲は瞬時に小型艇のシールドを削ぎ取って今度は追跡者の方が船体を揺らして火を吹いたのだった。生じた、その一瞬の隙をついて逃亡船は損傷した船体にも構わず次元跳躍を断行。次の瞬間には異空へと姿を消した。だが…、

 

「Rrrrrrr…」

 

銀色の追跡艇…その中で標準的なサイズのヒューマノイド型パイロットチェアに深く腰掛けながら空間に浮かび上がらせた赤黒のコンソールを操作する者が独特の顫動音を船内に鳴り響かせる。

 その者は無貌の白いマスクで顔を覆っており表情は伺えないが、顫動音と仕草からは自船のダメージに対する焦燥は感じさせない。ダメージチェックなどする素振りも見せず逃亡者のワープ先の解析を優先。逃亡船が、時空が乱れる程の激しいジャミングを残していってくれたお陰で大体の()()()しか付けられなかったが己も直ぐ様次元跳躍へと移行する。彼の正面に広がる大モニターの向こう…暗黒空間に亀裂が生じると小型艇は躊躇い無くそれに飛び込んだ。

 彼らの行く先はかつて彼らが住んでいた懐かしき宇宙。彼らは奇しくも帰ってきたのだ。

 サムス・アランの故郷が滅びた悲しきその日は、様々な運命が動き出した日でもあった。

 

 

 

 

 

∴∴∴

 

 

 

 

 

 その日、3歳のサムス・アランは惑星ゼーベスの厳しい環境に適応するための生体調整を終え…2名のチョウゾ、オールドバードとグレイヴォイスらと共にサムスの肉体の様子見とゼーベス観光も兼ねて散歩に繰り出していた。

 少女と呼ぶにも少々幼すぎるサムス。

 彼女はつい数週間前までは、屈託のない…まさに天使のような爛漫な笑顔を輝かせていたのに今やその表情は死人のように鬱屈としていた。チョウゾの長老オールドバードに手を引かれなければろくに歩けもしない。

 

「…生体調整は失敗でしょうか?」

 

 老いて消えゆく鳥人族の中でも比較的若く、そして戦士としての心も持つ稀有なチョウゾ・グレイヴォイスがやや戸惑いながら言った。

 

「…お言葉ですがグレイヴォイス。私の生体調整は完璧です。サムスがこのように覚束ない足取りであるのは、理論的にはありえないことです」

 

 3人の周りをふよふよと漂うサムスの頭程の球体…マザーブレインの視覚デバイスが女性的な機械音声で反論を試みる。

 

「いやいや、マザー…お前の仕事には満足しておるよ。…これは、心の傷だ。いかなチョウゾの科学力でもこれは一朝一夕で癒せるものではない」

 

「ココロの傷…?」

 

 優しさと悲しさを同居させた眼差しで人間の少女を見るオールドバードが、やはり悲しげな声色で答えた。マザーブレインはキョトンとしてオールドバードの答えを復唱する。

 

「…彼女には時間が必要だ。のんびり構えるわけにもゆかぬが、焦る必要もない。じっくりとサムスを育てようではないか」

 

 次の日も次の日も、その次の日もオールドバード達は根気よくサムス少女に寄り添い彼女を支え続けた。

 チョウゾ達には「この少女には老いた鳥人族に変わって銀河の守り手になって貰わねば」という思惑があったにせよ、情や親切心…それに自分達チョウゾが資源コロニーK-2L襲撃の遠因となってしまった負い目もあって誠に親身になって接していたし、人工知能マザーブレインも創造主チョウゾの命とはいえ、口喧しく融通の効かない所はあるもののサムスを甲斐甲斐しく世話していた。

 だがサムスと同世代の者もおらず(寧ろ世代については下手をすればサムスの数百歳とか数千歳の差があったりする。チョウゾはとんでもなく長い個体寿命を持っている。同世代トークなど土台ムリな話だ)地球人種もいないゼーベスではサムスは孤独だった。オールドバードが言った通り、サムスが惑星ゼーベスを故郷と思えるようになるまではまだまだ時間が必要なのだ。

 

 最初の生体調整から数日後…ある時、サムスはK-2Lの現住生物にして生き残り同士の友人であるウサギリスのピョンチーを伴ってゼーベス地表部・クレテリアの岸壁の上で風を味わっていた。マザーブレインらの目を盗んで居住区画を抜け出したのだ。既にマザーやオールドバード、グレイヴォイスらの監視をすり抜け厳しい環境のゼーベスの夜風に吹かれている辺り…最低でもサムスの肉体は順調に仕上がりつつある。

 

「ピョンチー…鳥のおじいちゃんも、みんなもよくしてくれるけど…私さみしいよ…ママに会いたい。パパに会いたい。K-2Lのみんなに会いたい…」

 

 だが心は弱い。ただの少女のままなのだ。少女の瞳から耐えても耐えきれぬという風に涙がポロポロと溢れる。

 ウサギリスは獣然とした容姿に反して高い知能を有する。ウサギリスのピョンチーも同族全てを失い悲しみを抱えてはいたが、それでも獣の本能が彼-彼女?-を支えていてメランコリックな感情に沈むことはなかった。ピョンチーは少女の涙を舐め取ってサムスの乱れる感情を慰め、サムスはギュッと彼女を抱きしめた。

 

 そんな時だ。サムスの耳にノイズが聞こえた。

 

「…?何…何か聞こえる」

 

 超人的な身体能力を獲得したサムスだからこそ聞こえた…或いは感知できたノイズ。ノイズというよりは一定の規則性を持った信号のような何かだ。チョウゾの機器が発するものではないだろう。リズムが違い、とても独特だ。

 

「…何だろう…SOSかもしれない…」

 

 スペースパイレーツに襲撃され、何もかもを失ったばかりの少女は思わず走り出していた。マザーやグレイヴォイスらに知らせるという発想すら出ずに足は動き出していた。超人化されたサムスの走行速度は4歳にもなっていない地球人種とはとても思えぬ程で、乱雑な岩山も飛び跳ねて砂地をピョンチーを抱えたまま蹴って走ることができた。

 信号のノイズの幅は狭まり、そして大きく脳細胞にチリチリと響いてくる。発信元は近い。そしてそれはクレテリアの谷間にあった。しかもゼーベスでは見かけない-少なくともこの短い滞在期間では居住区画でも見たことがない-美しい天然の花畑のど真ん中にそれは墜ちていた。銀河連邦でもゼーベスでも見かけない形状で、流れるような曲線で構成された槍の穂先のような銀色の船。

 

「わぁ…きれい……あ…!そ、そうじゃない!大変…助けなきゃ!」

 

 一瞬、桜色の花々に囲まれる銀色のそれ、という幻想的な風景に心に奪われたが、一目見てそれは墜落した宇宙船なのだとこの時代に生きる者なら理解できた。肩で息をしながら一目散に墜落した小型艇へと駆け寄る。

 

 サムスの腕の中でピョンチーは可愛い声で警告していたが今のサムスには届かない。冷静に考えれば地球人種の少女とてチョウゾに気付かれずチョウゾの住む星に墜落している宇宙船など怪しすぎると気付く…それぐらいチョウゾの科学力の高さはこの銀河に知れ渡っていて、もはや一般常識なのだがそれも今のサムスはスッポリと頭から抜け落ちていた。

 

「あの!大丈夫ですか!!」

 

 船に駆け寄ったサムスは、花々に覆い隠され倒れていた人物を見つけた。

 その人は無表情な白いマスク型ヘルメットで顔を覆い、どこか儀式的で蛮族らしさを感じさせる造形の衣服で身を覆っていた。

 現代のパイロットスーツやパワードスーツとは根本から違う網状の軽装な装束。申し訳程度のプロテクターを左肩、左胸部、腕、腰、脛に付けた程度で、言っては悪いが宇宙船を動かせる知的生命体(ヒューマノイド)には見えない。少なくとも見た目は未開の蛮族が関の山…。だが良く見れば左腕のプロテクターには光学文字が表示されるウェアラブルコンピュータが付いていて、この人物がただの未開種族ではないことを物語っていた。

 

「な、なんだろう…キラキラした緑色の水がついてる。あっ、血なんだ、これ!大変…ど、どうしよ…そうだ!これを…」

 

 微かに胸が上下に動いている。マスクの人物は死んではいない。サムスはグレイヴォイスから渡されていたポシェットを漁るとチョウゾ印の医療道具を取り出して、マザーの説明を思い出しながらそれらを倒れ伏す異星人へと使用する。

 絆創膏の親玉のような物を傷口にペタペタ貼っつけていくと薬剤と治療ナノマシンが傷口から浸透して即座に止血される。その上から包帯を巻いてやるのだが、倒れている人物は筋骨隆々としていて身長は悠に2mを超えていそうだ。そんな人物の二の腕は丸太のようで幼いサムスには包帯を巻くだけで一苦労だ。

 サムスの胴体より太そうな逞しい太ももにも巻いてやり、残すはプロテクターに覆われていない右胸の裂傷。だが分厚く広い胸板を包帯で巻くには今のサムスには一苦労所の話ではなく、それはもう重労働だ。身体能力は強化されていても包帯巻きにはテクニックと経験がいる。

 サムスが治療を終える頃には彼女はヘトヘトだった。服も蛍光黄緑の血液でベタベタに汚れてしまっていたが、しかしサムスはそんなことは気にしなかった。先程よりもいくらか緩やかになった患者の呼吸を見て心底安堵し、そしてサムスはゼーベスへ来てから初めて柔らかな顔で微笑んだ。

 

(誰かを助けることができた)

 

 少女の心はそんな思いで一杯で、空っぽだった心があの事件以来初めて、ほんの少しだが満たされたのだ。

 目を閉じれば聞こえてくる、炎に包まれる人々の声。目の前で爆炎に飲まれて瞬時に炭化していく美しい母の姿。

 あの時にサムスの心に刻まれたのはとてつもない恐怖と悲しみと、怒り…そして何よりも「救い、守りたい」という強烈な願望。

 今、サムスの目の前に倒れている異星人は、サムスのそんな願望を満たしてくれるのに最適な人物だった。そしてサムスの方こそがその者に縋り付くようにして、助けになろうと必死になった。

 

「大丈夫だよ…私がいるからね…」

 

 怪我をしたり、風邪を引いたりした時は母がいつも側にいてくれた。眠る時には添い寝をして頭を撫でて胸や背中をトントンと優しく叩いてくれていた。

 そんなことを思い出しながら実行しているうち、サムスは謎の異星人に密着しながら寝息を立てていた。初めて出会った異星人に全く無防備を晒して寝息を立てるサムスは、やはり今、異常な精神状態だったのだろう。

 ピョンチーは寝入ってしまった友人を起こそうとしばらく努力していたが、起きないことを悟ると、少しの間倒れた異星人を警戒した目つきでジッと睨んでいたが、すぐに自分も睡魔に襲われて三人仲良く花畑の中で眠りこけた。

 ピョンチーの精神状態は異常というよりも唯図太いだけのようだった。

 

 

 

 

 

∴∴∴

 

 

 

 

 

 彼が眠りから覚めた時、彼は自分の置かれた状況がイマイチ理解しきれなかった。

 激しいチェイスの中で自分のスターシップが損傷し、ダメージを押して次元跳躍を敢行したのだが結果は芳しくなかった。敵からの妨害もあって次元座標がズレてしまい彼の船はとある惑星の地表スレスレにワープしてしまったのだ。

 惑星の大気圏内にワープアウトするのは中々に危険な行為だ。もし惑星の大地内部に出現してしまったらそのまま土に埋もれて、下手をすれば大地の成分と混ざって半融合する可能性だってある。それに宇宙船の超光速が大気を振動させて惑星を破壊する事例だって過去にはあった。

 故に彼は、ワープ航行中に座標が狂っているのを発見しそれが修正できないと理解した時点で船のエンジンのリミッターを外し、船体を覆うパワーフィールドを最大にまで高めた。彼らの文化圏で使用するスターシップは、船体バリアを最大出力にするとあらゆる物質非物質問わずあらゆる干渉を跳ね除ける万能の究極防壁となって身を守ってくれるし、周囲への干渉も軽減するで惑星へのダメージも安心だが、同時にそれは酷くエンジンに負担を強いる。

 ダメージを追った状態で次元跳躍を行った時点で既に船体に負担を強いていたが、そこにリミッター解除でのパワーフィールド使用が響いてエンジンがついにイカれた。おまけにチェーンリアクションが起き船内各所が爆発したり漏電したりで彼は船外へ投げ出されて、そして打ち所が悪かったようで彼は意識を失っていた。

 というのが顛末だったが、その彼は目覚めると横に寝ていた地球人種の幼体の存在に戸惑っているようだった。

 

「Rrrrr…」

 

 彼の種が好んで発する顫動音が花畑に微かに響く。少女を見、そして自分の腕や脚、胸板に巻かれた治療痕を見、最後にウサギリスも見て、首を傾げる。

 

「わたしがいるからね…」

 

 少女がむにゃむにゃと寝言を言った。先程も言っていたその言葉は彼女の母バージニアが娘に対して良く言っていた言葉。娘の不安を拭い去ってくれる魔法の言葉だ。

 白い無貌のヘルメットが少女を見つめた。

 少女の瞑られた瞳からは涙が一筋、頬を伝っていた。

 

「Rrrrrr……Wa・Ta・Shi……ワタシ……イルカラネ…イルカラネ」

 

 地球人種の幼体の発した鳴き声の意味を理解しているのかいないのか。機械的に無造作に彼女の声を模倣する。そしてソッと尖った爪を持つ指でサムスの涙を拭うと、

 

「ワタシ・ガ・イル………krrrrrr…」

 

もう一度声を模倣して、彼はその姿を蜃気楼のように消してしまった。

 



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チャプター02 邂逅

「君の肉体が完全に調整できていたようで何よりだったな。でなければ死んでいたぞ!まったく無事だったから良かったものの!ゼーベスの屋外で一夜を過ごすなんて我々鳥人族だってそうそうするもんじゃないのに…大体君はまだゼーベスに来てそれ程経っていないというのにゼーベスの危険レベルを甘く見過ぎだな。しかも地球人種の3歳なんて無断外泊して良い成熟度なのか?私の知識では地球人種の成体は15歳から20歳以上だったと記憶しているが…?無謀というのもおこがましい行為で―――」

 

 帰ってきてすぐにグレイヴォイスの表情を押し殺したお説教が、かれこれ30分は続いている。グレイヴォイスはお冠のようだ。

 外でうっかり寝てしまったという言い訳だけでこの怒り様だ。見知らぬ異星人を介抱していた等と言ったらどれ程怒るだろう。サムスは内心で、服に付着した蛍光緑の血液を洗ってから帰って正解だったと確信していた。

 機嫌が悪い時の鳥人族の顔は怖い。表情というものが出にくい鳥類特有の無表情顔が更に真顔になるので銅像のようだ。ゼーベス居住区画や祭殿各所に安置されている鳥人像のようで不気味だなとサムスは思った。しかもそれだけではない。

 

「サムス。グレイヴォイスの目を見るのです。人の話を聞くときは目を見る…基本です。明らかな非を指摘されているのに素知らぬ顔でやり過ごそうなどという行為は、貴方の成長の為にもならないのですよ。グレイヴォイスの指摘した貴方の欠点をその都度是正すれば、それは必ず将来貴方の利となって―――」

 

マザーブレインまでも当然のようにお説教チームに属していた…。

 サムスはずっと俯いて、ピョンチーを抱きして嵐が過ぎ去るのを耐えるのみだ。

 

「まぁまぁ、グレイもマザーも…その辺にしておいてあげたらどうかな?」

 

助け舟だ。オールドバードが好々爺然とした柔らかさで若きチョウゾにタンマをかけるがしかし…、

 

「だがサムスよ…グレイヴォイス達の言うことは正しいのだよ。ゼーベスの夜は、まだまだ君には危険過ぎるのだ。グレイとマザーがここまで厳しく言うのも君を思ってのこと…。無茶をしないでおくれ、サムス。それにな…」

 

オールドバードからもややお叱りの言葉が来てしまった。だが言葉を一旦区切ってククク…とオールドバードは含み笑い。

 

「グレイヴォイスも、マザーも昨晩はそれはもう必死に君の探索をしていたんだよ。いやぁ二人共、わしが思った以上に心配性だったようでな」

 

「ちょ、ちょっとお止め下さいオールドバード…!私は別に…」

 

「そうですオールドバード。心配等という知的生命体特有の揺らぎではありません。あくまで理知に基づく当然の対処を実行しようとしただけです!それに私にはサムスを保護・育成するよう貴方から指令が――」

 

グレイヴォイスが厳しい顔を少し崩した。マザーもまた、感情のない有機マシーンの筈が照れ隠しともとれるような、捲し立てる口調で抗弁する。

 

「ほうほう、これは興味深い兆候が見られるな。マザーの反応は検分に値する。感情ともとれる反応が発生しているのかな?ふぅむ、ふむ、ふむ…マザーブレインも成長しておるのか……思えばその可能性も充分あったではないか。見落としていたな…マザーはただの機械(コンピューター)ではないのだから」

 

 巨大な脳髄が浮かぶ培養ポッドを見てう~むと髭をさする老鳥人。

 

(もうわたしは行っていいかな…?)

 

そう思ってサムス少女はそろりそろりと抜き足差し足。場を脱出しようとするも、

 

「サムス。どこに行こうというのだね?マザーとオールドバードは少し話があるそうだ。良かったな…叱ってくる相手は私一人になったぞ。さぁ続きと行こう。ピョンチー、君も同罪なのだから…逃げるなよ」

 

グレイヴォイスがサムスを見逃すはずもなくピシャリと釘を刺す。そしてウサギリスの相棒も知性を認められているが故の悲劇に見舞われた。ピョンチーもまたグレイヴォイスのお叱り対象だったのだ。サムスの腕の中でウサギリスが悲劇的な表情で俯いた…。

 

 

 

 

 

∴∴∴

 

 

 

 

 

そんな事があったが、その日からサムスは良く行方不明になった。と言っても最初の時のように大事になることは無い。すぐに彼女は帰ってくる。

 

「ただの散歩だよー」

 

そう言って、ただの散歩の割に大きめなカバンを持って、そしてそのカバンに食料や飲料水を詰め込んで短時間行方不明になるのだ。

 訝しんだグレイヴォイスとマザーが問い詰めてもサムスははぐらかすだけで、ある日とうとう2人(1人と1体)はサムスを追跡した。だが、サムスの生体調整における遺伝子提供者であり鳥人族最後の戦士タイプであるグレイと…惑星ゼーベスと半一体化し一惑星のほぼ全てを掌握、かつチョウゾの文化と知識を詰め込まれ、銀河連邦の中央データバンクとリンクし常時高度演算処理を行えるマザーブレインがあっさりとターゲット(サムス)を見失ってしまった。謎は深まるばかりである。

 

「じゃあいってきま~す」

 

 そして今日も少女はにこにこ笑顔で散歩へ出かけて行くのだった。

 

「…オールドバード、どうしますか?」

 

「ふむ…まぁ毎日無事帰ってくるしマザーの偵察でも地表部(クレテリア)に変わりはない…何よりサムスに笑顔が戻ってきた。今はまだ様子を見ようではないか。それに…話したくなる時が来たら、あの子から話してくれるじゃろうて」

 

帰宅する度に行われるマザーのスキャンでもサムスの健康状態に異常はない。

 チョウゾは高度な機械文明を有してはいるが科学を盲信してはいない。自然と一体となって調和・融和を旨として時には自然の成すがままに身を委ねる。オールドバードは、今はサムスの笑顔を信じて事の成り行きを見守ることにしたようだった。

 地球人種の幼子を見守る老チョウゾの瞳は、己の本当の孫を見守るように暖かい。

 

 

 

 

 

「おじさーん。いますかー…?」

 

 サムスは()()()()花畑へと顔を出すと、小さく「あっ」と叫んで目当ての人物を見つけて駆け出した。

 破損した銀の宇宙船から何らかの機器を引きずり出して、ウェアラブルコンピュータから小型のレーザーメスを引き出して赤い光線を照射し機器の修復をしている人物こそサムスの目的。チョウゾ族ではない。地球人種でもない。正体不明の異星人だ。

 

「…」

 

一切喋らない為、サムスも未だに彼の正体は知らない。今も黙々と機器の配線をレーザー照射している。顔さえ知らない。

 『彼』とは言ったが性別さえも実のところ不詳だ。だがサムスの知識では-少なくとも地球人種の一般的な性差知識から判断すると-彼は男だろう。

 

「…それでね、私言ったの。私まだ3歳なんだよ!って。だってグレイったら戦士のとっくんだー、なんて言ってさ――」

 

ここに来てサムスは彼との会話を楽しむ。それが最近の彼女の日課であり、とても大切な一時となっている。もっとも…会話と言っても彼は終始無言なのでサムスが一方的に喋り続けるだけだけだが…。

 彼は膝に抱えていた機器を放り投げると立ち上がり、宇宙船の銀装甲を引っ剥がすと中から更に別のパーツを配線ごと引きずり出し無造作に花畑の上に放り投げた。そしてそれをまた抱えて赤い光線を照射する…をずっと繰り返している。

 その間、サムスはちょこちょこ動く彼の後ろにくっついて離れず、親に宿題の読書を読み聞かせる子供のように話してくるのだ。

 

 当初こそ彼はそうして付いて回ろうとする少女を威嚇した。少女の目の前でいきなり歩みを止めて振り返り大きな唸り声を上げたり、右腕のリストブレイドをわざとサムスの首元で伸縮させたり、少女のか細い首も掴んで持ち上げ低音で唸りつつマスク越しに睨みつけたりと色々したが、それでもサムスはめげずに

 

「こ、怖くないよ…ぜんぜん大丈夫……だ、だって見た目は違っても……お…お、お友達に…なれるって鳥のおじいちゃんも言ってたもん……リドリーみたいなひとばかりじゃないって、わ、わたし…わかってるから…!」

 

震える声でそう答えた。

 あの日…リドリーと初めて出会った悪夢の日のように、震える体をピョンチーを強く胸に抱いて誤魔化して必死に己を奮い立たせている。彼女なりに悪夢(トラウマ)に立ち向かおうという心理なのかもしれなかった。

 もしこの時、リドリーの時のように〝お友達〟になるのを再び拒否されればサムスは他者を信じる心を失っていたかもしれない。内に秘めた母性や優しさを完全に喪失し、冷酷なバウンティハンターとなってチョウゾの期待には応えられない銀河戦士となっていたかもしれなかったが、彼は違ったのだ。

 戦意を持たない地球人種の幼体に牙を剥くような者ではなく、ある時点からサムスをあしらうのを止めて好きにさせるようになったのだ。友好的な態度も言葉も無いが、自分の周りをウロチョロするのを許した時点で彼の種にとっては充分な慈悲心の発露だろう。

 サムスはその時からずっと彼の後ろを付いて回っている。サムスの粘り勝ちだ。

 

「――ってことだったの。ネ!おじさん、ひどいと思わない?

 …………ところで、そろそろきゅうけいにしよう?もうお昼の時間だよ。わたしお腹へっちゃった!えへへ、今日のゴハンはこれだよ!じゃーん!ソイレント・グリーンとオートミールのグラタンと…天然タンパクのハンバーグに…デザートはナッツのミルクセーキかけ!」

 

 サムスは大きな肩掛けカバンからどっさりと食事プレートを取り出し(大人用のを5枚程)もったいぶった手付きで蓋を開けると何とも良い香りが辺りに漂う。

 厳しい環境のゼーベスではあるが、自然との調和を是とするチョウゾの思想を体現してか彼らの食糧事情は、宇宙航海時代で合成素材に溢れた現代とは思えない程天然素材揃いで質が良い。同盟関係にある銀河連邦の軍人がゼーベスに立ち寄ると、まず驚かれるのはチョウゾの高度文明ではなくこの羨望の的たる食糧事情だとか何とか…もっぱらの噂である。

 

「…Krrrr」

 

一声唸ってちらりと視線をサムスに寄越すが、彼はすぐに宇宙船へと視線を戻し再度作業に没頭する。これが毎日の反応だ。サムスは彼の作業する背中を眺めつつ1人で、

 

「いただきまーす」

 

笑顔で元気いっぱいに食事を開始する。

 一緒に食事をとりたいな、とは思うサムスだがこうして彼の作業風景を眺めながらの食事も最近はお気に入りなのだ。それに、自分がこうして持ってきた食事は後日、きちんと空になって帰ってくる。宇宙船の側に空のプレートが重ねられて置いてあるので少女は帰り際にいつもそれを回収するわけだ。

 もぐもぐ食べ始めかれこれ30分…時間を掛けて食事を楽しんだら、名残惜しいが帰る時間だ。先日の空プレートをカバンに詰め込んでサムスはくるっと作業中の彼へ向き直る。

 

「じゃあ、また明日くるね」

 

返事がないのを承知でサムスはブンブンと手を振って花畑を後にする。

 明日も()()()と食事ができたらいい。そしていつか、もっと仲良くなれれば良いな、と幼い少女は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに?備品が足りない?」

 

「はい。クレテリア・チョウゾディア区画のB保管庫内の備品の数が合わないのです」

 

 その頃、ゼーベス地下中枢・行政区画(ツーリアン)にてグレイとマザーが額に皺寄せて頭を捻っていた。備品の貯蓄数をマザーブレインが数え損ねる等有り得ない故に悩んでいる両者なのだ。

 

「ということは、何者かが忍び込んで盗難したと?」

 

「…そうは言いませんが、私が『記憶違い』をするわけは無く…そして侵入者を見逃す可能性も小数点以下0が3つは必要な数値です。そしてチョウゾ内から盗人が発生する可能性も、やはり小数点以下に0が8つは必要になるでしょう。

 貯蓄数にズレが生じるようになった日付は、サムスが()()に行くようになってからなのです」

 

「…つまり何が言いたい?サムスが持ち出したとでも?」

 

「その可能性は低いですが有り得ます。地球人種の犯罪者排出率は高いですが、とは言ってもサムスの年齢で非行に走るには育成環境が多分に物を言います。しかし彼女の育成環境は現状、最高です。非行化は有り得ませんが…サムスが何らかの勘違い等から持ち出してしまった…等の可能性は考慮に値するでしょう」

 

 マザーの言葉の裏には、自分という最高の先生の元で養育しているのだから、という自信と…サムスは未だ完成には程遠いという悲哀が滲んでいる。

 

「…他にも我らの内の誰かが、下らぬ用事で置き場所を変えてうっかりそのまま…とかそういう可能性もある」

 

古老の1人・プラチナチェストの爺様ならそんなうっかりミスもしそうだな、とちょっと失礼な事を考えるグレイヴォイス。しかしそれは違うとマザーは言う。

 

「失礼かとは考えましたが、念の為アナタ方全員の活動ログを1週間前まで遡り全て見せて頂きました。その結果、チョウゾディア区画B倉庫に近づいた者は皆無…………そして、肝心のB倉庫内備蓄物紛失時間の監視カメラは酷く映像が乱れ、とても確認できるものでは無かったのです」

 

「…なるほど。サムスが悪意無くやったにせよ、ECMの類まで使ったのだとしたら問題だな。…オールドバードにも知らせておくべきだろう。メトロイドの件もある…あまりあの御方に余計な心労は掛けたく無いのだが…仕方ない。マザー、頼めるか?」

 

「それは勿論…ですがアナタはどうするのです、グレイ」

 

「…私は、今度は装備を整えてサムスを追う。彼女の行き先に何らかの答えがあるだろう」

 

そう言うと、グレイヴォイスは異次元に格納されていた彼専用のパワードスーツを起動・召喚し身にまとった。

 

「この姿も随分と久しぶりだ……ふむ、問題は無さそうだな」

 

「交戦の可能性があるのですか?しかし、そのような状況になってもアナタ方には心理プロテクトが…」

 

 マザーの指摘した『心理プロテクト』とは、平和を渇望し闘争を捨て去ったチョウゾの〝他者を傷つけたくない〟という強固な意思のことだ。それは精神的に崇高なまでに進化したチョウゾだからこそのもので、他者を傷つける度に…チョウゾ自身がまるで傷つくように心身が擦り切れていく体質的障害なのだ。

 チョウゾにとって闘争は己が死に至る病であった。

 

「ゼーベスに闘争相手はいない。君の監視をすり抜けるスペースパイレーツがいるとも思えないからな。これはサムスを見失わない為にXレイ・スコープを使いたいからだよ。先日は、きっと隠し通路のような抜け道を、サムスは使ったのだと思う」

 

 遺伝子提供者であるグレイヴォイスにとってサムスは娘同然だ。

 明日はじゃじゃ馬娘の秘密基地を暴いて、そしてきっとそこにある盗難品を返させて少しキツめに叱ってやる…。グレイヴォイスはその時はまだ気楽にそう考えていた。

 



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チャプター03 狩人と戦士

 グレイヴォイスは言葉を失っていた。

 

 予定通りに、明くる日…グレイヴォイスは何時も通りに散歩へ出立したサムスを追跡した。それもパワードスーツまで装着し、超人の領域にまで到達している彼女に気付かれないようにするという念の入れようだった。

 その結果、彼は予想とは余りにかけ離れたモノを見ることになる。サムスの姿が…谷を降りた途端に、まるで空間に吸い込まれるように消えたのだ。

 グレイヴォイスは直ぐ様パワードスーツのXレイ・スコープを起動…空間を凝視すると、サムスが消えていった谷間は複合的な認識阻害力場に覆われていた。

 

(なんだ、これは…!)

 

Xレイバイザーからマザーブレインへとデータを転送。彼女の力も借りてフィールドの解析を試みるも、さらなる驚きがマザーから齎される。

 

「信じられません…こんな力場がゼーベス地表部(クレテリア)に展開されていたなんて!光、振動、芳香化合物、熱量、電磁波、重力、アストラル振動…私が知り得るあらゆる情報伝達を屈折し、またフィールド外部と内部の物質差異をグラデーションさせ、透明な存在にしてしまう性質を持つ極めて高度な複合擬態フィールドと思われます。私にすら解析出来ない不明物質(アンノウンマテリアル)の伝達阻害にも対応しているようです…この事から…最低でもチョウゾと同等か、我々を上回る科学文明圏でなければとても造れない力場であると思われます…!」

 

 マザーからの情報にグレイはゾッとした。

 自分達の根城に、己らを上回るかもしれない文明の利器を持った何者かが潜んでいるやもしれず、そしてその存在に〝チョウゾの後継者〟たるサムスが関わってしまっているかもしれない…いや、ほぼ確実に関わっているという事実に。

 一歩、グレイは足を踏み出す。何者かが張った透明化の結界…ステルス迷彩フィールドへ突入しようというつもりらしい。だが、

 

「お待ち下さいグレイヴォイス!フィールド内に潜む者の正体が皆目見当もつかない以上、無闇な突入は賢明ではありません」

 

マザーが必死に制する。

 

「だが、その正体不明な何者かの元にサムスは向かっている。時間が惜しい。その何者かに悪意があれば、1秒の遅れでサムスがどうなるか分かったものではない」

 

「相手の真意がどうあれ、サムスに火急の危険が迫っているとは思えません。数週間は通っているのにサムスは健康的な心身で健在なのです。毎日我らの元にも帰還しています。一時帰還し、オールドバードと協議の上、冷静な状態で相手と平和的接触を試みるべきではないでしょうか」

 

 むぅ、と小さく唸るグレイ。確かにマザーの言い分には一理あると思えた。

 

「そうだな…一旦退くべきか。…だが、フィールドの内側だけは偵察しておきたい。それぐらいは賛成してくれるかな、マザー」

 

 こういう場面では、衰えたチョウゾに適格なアドバイスをし最適な判断を下すマザーの助言は何よりも頼りになる。

 

「…条件付きで賛成します。隠密行動(スニーキングミッション)で、武力行使は厳禁…そして侵入許可エリアはフィールド外苑から10mとします。目的はフィールド内を視覚デバイスに映すだけなのですから。検証は帰ってから行いましょう」

 

「…戦うつもりはないよ。寿命を無駄に縮める気はないからな…全て了承した、その判断に感謝する」

 

護身の為…念の為にチョウゾ古来のスピアを展開し、グレイはゆっくりと足を進めだした。

 

 

 

 

 

 

 

そしていつもの花畑では、

 

「あれー?おじさーーーん!……ん~、どこ行ったんだろ?めずらしい。いつも宇宙船をいっしょうけんめい直してるのに……あれ?」

 

 今日も5枚の食事プレートを引っさげたサムスがいた。しかし銀の宇宙船の周囲をどれだけ探しても彼はいなかった。だが…、

 

「これ…鳥のおじいちゃん(とこ)にあった宇宙船の部品…?」

 

宇宙船の厚く短めのウィングの影に隠すように、明らかにチョウゾの造形の趣の強いパーツが大量に転がっていた。

 

「んー…、これ…ひょっとしておじいちゃんのを…盗っちゃったのかなぁ…?」

 

 宇宙船を直すためなのだろうと3歳ながら聡明なサムスは理解できたが、それでも真っ当な家庭で育った少女の良心は晴れやかな心持ちにはならなかった。

 

「むぅ~、私に言ってくれればおじいちゃんに頼んであげたのに!グレイもマザーも、困った人を助けるためならパーツぐらいくれるよ」

 

 マザーなら許さないかも…と思いはしたが、それでもサムスはオールドバードが何だかんだで説得してくれるに違いないと思う。その程度にはマザーブレインへも慣れ始めているのだ。

 

「…ひょっとして今もおじいちゃんとこ行って盗もうとしてるのかな………うーん…よしっ、ゴハンはここに置いて……ちょっと引き返そう」

 

 少女はすぐに踵を返す。もし窃盗をしようというなら止めるのが友人というものだとサムスは信じていた。

 

 

 

 

 

∴∴∴

 

 

 

 

 

 慎重に歩みを進めるグレイヴォイスと、浮遊するマザーの視覚デバイス。

 

「…これは……毒花(バジャーグローヴ)!馬鹿な…ゼーベス在来の物ではない花がこんな繁茂しているなんて。一体どこから流れ着いた…」

 

測定(サーチ)……一番大きなバジャーグローヴでも年齢は3年未満。恐らく前回のスペースパイレーツ襲撃の時に持ち込まれたのではないでしょうか」

 

 フィールド内に咲き誇っていた美しい花畑は、全て外界の毒花であったのだ。

 

「全て焼き払わねばならんな…その手配も頼んだよ、マザー」

 

「了解しました」

 

 また一つ予期せぬ心配事が増えたことに溜息が漏れる思いがするグレイとマザーだが、今回は毒花以上に厄介なことの調査だ。気を引き締めて慎重に進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな2人をジッ…と眺める何者かがいることに、グレイもマザーも気付いていない。

 その者はグレイヴォイスとマザーブレインの音声、姿、仕草、行動パターン…全てをつぶさに観察している。

 彼らが驚嘆したステルス迷彩フィールドの簡易版であるパーソナル・クローキングデバイスによって透明化している『彼』は、熱量・エネルギー量を感知するサーモグラフィーに似たスキャンビジョンで対象を観察し尽くすのだ。

 

「Krrrrr………ケンメイ・デハナイ………rrrrr……」

 

―ブゥゥゥン…

 

 不気味な電子音が静かに響く。

 彼のマスク型ヘルメットが対象の声を録音し、それと自身の声帯を連動させて彼は声真似を単調に繰り返す。そして繰り返す程に精度を上げていく。彼は学んでいた。

 

「ケンメイ・デハナイ………ヒクベキ・カ……………………………ケンメイデハナイ…………カンシャ・スル…カンシャスル…Krrrrrr」

 

 鎧をまとう鳥人族。その者が握る槍状の武具を見て漏らした顫動音はどこか嬉しそうですらあった。

 いや、実際に彼は嬉しいのだった。喜び、歓喜している。鳥人族の動きを観察し続けていれば自ずと分かることがあった。彼は強い。彼の動きは戦う者…『戦士』の動きに違いない。そういう者こそを狩る(ハント)するのが彼の種の至上の誉れだった。

 

mesh'in'ga(夢のような戦いの一時) … kv'var Me'tei(さぁ狩りの時間だ)…」

 

 同族以外の者にはとても言葉として聞こえない獣の呻き声のようなその声。彼本来の種族言語で、彼は狩りの開始を宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…?マザー、その光は?」

 

「光?」

 

 グレイが、マザーの球体視覚デバイスに浮かび上がった3つの赤い光点を指摘した次の瞬間だった。

 グレイの後方から彼の頭の直ぐ横を高速のプラズマ弾が通過。あっ、と思う間にマザーの視覚端末が爆散してしまった。

 

「マザー!?くっ…よせ!我々に交戦の意思はない!」

 

 フィールド内に潜む者からの攻撃なのは明らかだった。やられたのが代替の効くマザーの端末だったのが幸いだが、これが命ある同胞であったならチョウゾも牙を剥くだろう。特にこのグレイヴォイスなら。

 

「ハッハッハッハッハッ……」

 

 返事の代わりに、どこかたどたどしい笑い声が聞こえた。だが姿は見えない。

 

(そうか…!このフィールドを作り出すような者なら…!)

 

 グレイヴォイスは即座に視覚をXレイスコープへと切り替える。

 

「…どこだ…!どこにいる!」

 

 必死に周囲を探索するグレイの足元に、マザーの端末を貫いたあの赤い照準がちらつくがそれは一向にプラズマ弾を発射する気配がなかった。

 

「私を舐めている…?いや、これは…楽しんでいるのか…!」

 

 何時でもお前など撃ち殺せるのだ。舐めるようにグレイの体を這う光点はそう言っているようだった。

 

「…いたな!そこだ!」

 

 グレイのXレイバイザーに陽炎のように揺れる人影が映る。手にしたチョウゾスピアの切っ先を向けると、その先端から数発の光弾が撃ち出されて陽炎の男へと殺到した。

 

「RRRRR…!!」

 

 陽炎が跳躍する。一回のジャンプで悠に10m程跳び光弾を躱しきってしまう。

 

「並の身体能力ではないな…だが、もう見えている!そこだ!」

 

 だがグレイは着地地点を予測し、素早くそこへスピアの光弾を連射すると、

 

「ッ!!!」

 

陽炎が光弾の巻き起こした爆炎の中に消えていく。さすがの狩人も、自身の透明化が早々に見破られたのは驚いたようだ。

 

「う!?ぐわ!…く、あ、あの状態から反撃を…!」

 

 しかし、グレイの攻撃とほぼ同時に陽炎を包んだ炎の中から飛び出てきたプラズマ弾がグレイの足を貫いていた。

 

「くそ…、パワードスーツがたった一発で貫かれたか!」

 

 超文明の塊であるチョウゾの鎧を一撃で破壊し、内側の肉体の表面がしとどに焼かれてしまっていた。恐るべき破壊力だ。

 願わくば、先の一撃で陽炎の敵が重傷を負っていてくれれば…とグレイは思うが…、

 

「………Rrrrrrrr」

 

もうもうと晴れる煙の中から、巨漢の陽炎が青白いスパークを発生させながらその姿の一端を垣間見せた。

 片膝付いたグレイを差し置き、その異星人は腕のガントレットを操作し、透明化…クローキングデバイスの不調を調整している。グレイの願い虚しく、どうやらグレイの攻撃は彼の透明化を不調にしただけらしい。

 

「うぐっ…く、も、もう…心理プロテクトが…くそ…!戦いの最中に、相手から目を離すとは迂闊だぞ!」

 

 胸の内を抉るような痛みに、スーツ内のグレイヴォイスの顔が歪む。グレイヴォイスはチョウゾの戦士タイプとして確かな力量と勇ましさを持ってはいた。だが種として、生命として衰退するチョウゾの宿命からは逃れなかった。

 いかに彼が勇猛に戦おうとしても生命の根幹…魂ともいうべき場所に深く刻まれた平和を愛しすぎる心理プロテクトは戦士たる彼を苦しめる。

 しかしグレイはそれでも己を鼓舞してスピアを眼前の異星人へと向けたが、

 

「Grrrrrr…」

 

少しもグレイへ視線を寄越すことなく、異星人の肩の小型砲から吐き出されたプラズマ弾がグレイのスピアを弾き飛ばし、地に落ちたチョウゾスピアは火花を散らして射撃機能を停止してしまった。

 

「しまった!」

 

 グレイが眉をしかめた。

 一気に動きが鈍重になったグレイヴォイスを不思議そうに眺める異星人は、

 

―pi・pipipi

 

電子音を鳴らしながらガントレットを操作すると覆っていた青白いスパークが消え、途切れ途切れに彼を覆っていたクローキングが完全に消えていく。

 ハッキリと、完全に露わになったその姿は表情の伺えぬ顔面全てを覆うマスク。網状の衣装に所々を覆うプロテクター。そして様々な動物の髑髏のアクセサリー。

 

「…っ!それがお前の姿か……ま、まだ終わってはいないぞ!」

 

 片足を庇いながらもグレイは落ちたスピアを横っ飛びで拾う。射撃機能は死んでも、その見た目通り槍としてならまだまだ戦える。チョウゾの武具だけあって切れ味も一味違う。切っ先の刃はレーザーを纏う超振動刃(ヴィヴロブレード)となっていて、当たれば戦艦の装甲とてバターのように切り裂ける。

 

「……」

 

 グレイに相対する彼もまた、右腕の刃を伸張・展開。

 グレイヴォイスとの真剣勝負に乗ってくれるようだ。

 

「…ふっ、こいつは粋なことをするじゃないか」

 

 グレイの息は荒い。心理プロテクトが、これ以上の闘争行為を拒否している。しかしグレイの戦士としての矜持は、眼前の敵との勝負に対してふつふつと血肉を滾らせていた。

 

「ゆくぞ!」

 

 無傷のままの片足でグレイは跳んだ。チョウゾとて多くの宇宙種族から見れば超人的な身体能力を持つ部類。その距離と速度は驚嘆に値する。

 

「…!」

 

グレイの飛び掛かり様の突きを刃で跳ね上げる。と刃がぶつかり、その瞬間…

 

――ギィィィン

 

という耳をつんざく激しい超高音が彼らを取り巻く大気中を震わせた。

 

「…!お前の(ブレード)も超振動か…!」

 

 超振動同士の共鳴に双方の鼓膜が悲鳴をあげたが、そんなものを物ともせずに2人はひたすら切り結ぶ。

 一合、二合、三合と互いの切っ先が火花を散らす度、激しいスパークと超音波が撒き散らされた。

 グレイの槍はリーチの差で圧倒的にリストブレイドの優位に立つ。だが、グレイは片足を負傷し、そして何より心理プロテクトが武器を振り回す度に技の切れ味を低下させ動きは鈍っていく。

 20回も刃を交わした時には既に勝負の行方は決した。グレイの槍が宙をくるくると回り、異星人の後方にまで弾き飛んでいた。

 

「っ!?槍が…っう、ぐ……がっ!」

 

 筋肉で覆われた逞しい左腕がグレイの首を掴み、パワードスーツも含めると身長2m、体重100kgを悠に超えるグレイの体を片手で軽々と持ち上げてしまう。

 

Ell-osde(お前の) Syra'yte(頭は) Pa'ya-te. Kv'var-de(狩人の名誉となる) ……Krrrrr」

 

 お前の死は我が至上の誉れとなる。例え伝わらずとも、獲物への敬意故に彼はそうグレイに告げた。一方的な価値観の押し付けではあるが、狩り(ハント)の果ての死こそが彼らにとって狩る者と狩られる者、双方の名誉だ。獲物が違う価値観を持っていようといまいと、それは彼らの種族には全く関係の無いことだった。ギラリと右腕の刃が光る。

 その時だ。

 

「待って!」

 

狩人にとって、ここ最近で聞き慣れた透き通った声が聞こえた。振り返るまでもなく、その声はあの少女のものだと彼には理解できていた。

 

「そのひとは、そのひとは…私の…家族なの!なんでおじさんとグレイが戦ってるの!?お願い…!はなしてあげて!おじさん、お願いだから!!」

 

 少女…サムスが狩人の足にしがみつき、必死に懇願する。

 

「Krrrrr」

 

「ぐ…サ、ムス…」

 

 狩人は、掲げた『トロフィーになる直前の戦士』を見、次いで泣きつく少女の顔を見た。もう一度獲物を見て、スキャンビジョンでつぶさに頭蓋骨を値踏みする。

 

「おじさん…!おじさんと私はお友達だから、だから…お願い!はなして!もうグレイにひどいことしないで!何か気にさわったならあやまるから!!」

 

 そして狩人はサムスに以前治療して貰った傷跡を見、最後に少女の泣き顔をもう一度眺めると、とうとう手を離した。グレイが地に落下して尻もちを着く。咳き込んでいるが、命に別状はない。

 

「グレイぃ~!!わーーん!」

 

 サムスは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔のままグレイヴォイスへと飛びついた。グレイのパワードスーツがどんどん少女の鼻水で汚れていく。だがグレイも満更ではないようだ。パワードスーツ頭部の展開を解除し、むき出しになった顔は少し優しく微笑んでいた。

 

「やれやれ…キミのお陰で、どうやら助かったようだな」

 

「わ~~~ん!無事でよかったよーー!グレイ~、なんでおじさんとケンカしてたのよー!うぅ、ぐすっ!おじさんも、グレイを助けてくれてありがとうだけど、ケンカしたら『めっ!』なんだよ~!!もー!」

 

 サムスは、羽毛でもふもふするグレイの首と、丸太のように逞しい筋肉質な狩人の足の双方を行ったり来たりして…その両方に鼻水と涙の洗礼を食らわしていた。

 

「……rrr」

 

 狩人は少女を不思議なものでも見るように観察し続けていた。

 



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チャプター04 チョウゾミソロジー

「うぅむ…こうして本人を目の前にしても…今もって尚信じられぬ…まさか、貴方の種族をこの目で見ることになろうとは」

 

 オールドバードを始め、ゼーベスに住む全ての鳥人族が中心部行政区画(ツーリアン)へと集っていた。鳥人族達の中心には件の『彼』…狩人たる異星人が、上質のゲストチェアーに腰掛けている。

 マザーブレイン本体の前で、四角い石材のテーブルを囲んで『彼』、サムス、グレイヴォイス、そしてオールドバードが座していた。狩人は上座に座し、そして誰よりも偉そうに背もたれに体を預けてどっかりと座っている。というのも彼の種族は謙るだとか、そういう発想は持たないからだ。相手に敬意を抱いても自分を下げたり卑下したるすることはなく、強き者はそれだけで尊敬されるべき存在で、故に自分は尊い上位者である。そういう思考であった。だからこの場でも、まるで自分がこの集団のリーダーであるかのように堂々としていた。それにもう一つ…実際、彼はチョウゾらに対してこういう態度に出るだけの理由があった。

 

「オールドバードは、この者を御存知なのですか」

 

 先程の老チョウゾの口ぶりにマザーは培養ポッド内の大きな1つ目を見開いた。

 

「うむ……マザーやグレイが知らぬのも無理はない。もはや老いたチョウゾしか知らぬ方だよ」

 

「おじちゃんと、おじいちゃんは昔に会ったことがあるの?」

 

 サムスが大きな瞳に好奇心の光をランランと輝かせてそう聞く。

 

「あぁ、そうだよサムス…直接わしが会ったわけではないのだがね。わしらの遠いご先祖様が、彼の仲間達と会ったことがある。古い古い話だ……グレイよ、お主…いくつになったかな?」

 

「え?えぇ、そうですね…確か、標準周期で290歳です」

 

「若い…若いのう…まだ300歳になっとらんかったか。そんな若かったかな?」

 

 古老がポリポリとすっかり羽毛の薄くなった頭を掻く。言外に羨ましいなぁ、と言っているような気もした。なぜ突然自分の年齢の話題になったのか、怪訝な目でオールドバードを見るグレイヴォイス。

 

「他の老人達も知らぬ話…それだけ若ければ当然。マザーもな…。わしとてその話を確かめる為に、下層の古ぼけた倉庫を漁って古代のログマシーンを調べた程じゃ。もはや不要な情報だから伝える必要もないと判断しておった。余計な情報でマザーの記憶容量を圧迫したくなかったという理由もあったのだよ。()の種族は…『ヤウジャ』という」

 

「ヤウジャ…」

 

 自分が全く知らぬ未知なる知的生命体の種族名に、全宇宙一の知識量を自負していたマザーは、自分が知らなかったというショックを受けるよりも興味深さを掻き立てられていると見えて、ポツリと呟いた。

 

「我らチョウゾとも深い関わりがあった。我らチョウゾはヤウジャ達のことを、畏怖と…ある種の尊敬を込めてプレデター(天敵種)と呼んでいた…。数十万とも数百万年ともいわれるほど昔…遥か太古、チョウゾが平和を愛する種族ではなかった頃じゃ。チョウゾにも覇気と支配欲に満ち銀河の征服を目指して猛々しく…そして愚かしく侵略を繰り返していた時代があった。野蛮なまでの原始的勇猛さを未だ残し、そして成熟し始めた科学文明とが噛み合って、我らチョウゾは恐ろしい好戦種族じゃった。いくつもの星々を征服し、銀河にその名を轟かせていた時に、チョウゾは同じように銀河系を荒らし回っていたヤウジャと出会った」

 

 信じられない、という顔でオールドバードの話しに聞き入っているグレイとマザー。今のチョウゾの有り様からすれば、とても同一種族とは思えない。

 

「好戦的な2種族が出逢えばどうなるかは想像に難くない。話し合いの余地など無く、たちまちチョウゾとヤウジャは全面戦争となった。2種族の獰猛さと科学力はほぼ拮抗していた…戦争は途方もなく永く続いた。何世代も何十世代も跨いで続く泥沼の戦い…。このまま未来永劫戦い続けるのか…何時終わるとも知れぬ戦争にチョウゾは疲れ始めた。だがヤウジャは違った。彼らは一向に疲れなかった。寧ろその逆じゃった。戦えば戦うほどに彼らはその心身を漲らせていった。ヤウジャは戦う程に成長していき、大戦争をくぐり抜けた歴戦のヤウジャはもはや手の付けようがない存在なってチョウゾを恐れさせた。我らチョウゾは種族全体が疲れ始めていたが、際限なく力を増していくヤウジャ達に対抗するために必死になってさらなる闘争の力を求め、研究した。今では大軍神の祭殿に安置されている『伝説のパワードスーツ』…ほぼ無限の拡張性を持つ進化する生体パワードスーツ等はその最たるもので、無限に成長していくヤウジャの戦士を模したものとも伝わっておる」

 

 実際に呑む息は無いがマザーは息を呑んだ。今、己の目の前にいる異邦人がそれ程の力を持った知的生命体だということに、例えようもない…創られて初めて感じる高揚感のようなものを感じていた。

 皆も熱心に聞いていたがサムスは途中から船を漕いで夢の世界に半ば旅立っていた。まだ幼い少女にはあまり興味深い話ではなかったし、ちょっと長過ぎたらしい。オールドバードはうとうとしているサムスを「やれやれ」とか言いつつも微笑ましそうに見て話しの続きへと入っていった。

 

「チョウゾの戦士は伝説のパワードスーツを纏いヤウジャ達に抗った。だが疲れなど知らぬヤウジャの戦士は一層猛り狂い、激しく抗うチョウゾの伝説の戦士の出現に寧ろ歓びを大きくし士気を上げたと言う…。時が経つにつれてチョウゾは追い詰められていった。大銀河の支配圏も次々に失い、とうとうチョウゾ発祥の母なる星をも失った……生き延びたチョウゾは今のこの銀河系へと逃げ延び、そしてこの頃からヤウジャのことを天敵…すなわちプレデターと呼んで恐れるようになったのじゃ」

 

 オールドバードは既に長々と語り疲れ始めていたが、今この古代の錆びついた知識は新しい世代に伝える必要があると感じそのまま語り続ける。

 話のその辺りでふっ、と夢の世界から帰還したサムスはオールドバードが語る隅でこそこそしだした。席を立ち、客人たる狩人…プレデターの側まで行くと

 

「おじさん、私がゼーベスの地下を案内したげる。いこっ」

 

オールドバードの話を聞いているのかいないのか、周囲をゆっくり見回し様々な機器や周囲の老チョウゾを観察でもしていそうだった彼を見て「私と同じで暇なんだな」と勘ぐったサムスが彼の腕を引き連れ出してしまった。

 オールドバードは瞠目し、昔を必死に思い出して語っていた為かそれには気付いていないのだった…。

 

「このままチョウゾはプレデターに狩られるだけの獲物となって怯え暮らすしかないのか……そう思われた時、謎多き偉大なる巨人族・スペースジョッキーがチョウゾに救いの手を差し伸べたという。スペースジョッキーから遣わされた御使い(エンジニア)-これは今の地球人類に良く似たヒューマノイドと言われておる-はチョウゾにいくつもの生ける神の武器を授けた。神の牙と呼ばれたそれらは命と意思を持ちそれぞれが自らを増殖させ、そしてヤウジャに襲いかかった。神の牙と共にチョウゾは最後の抵抗を試みた…それは成功し、プレデター達はこの銀河までをもその力で飲み込むことは出来なかったのだ。プレデター達は撃退されチョウゾは生き延びた。そして戦いに疲れ果て、闘争の愚かさを知って剣を捨て去ると平和や調和を望むようになった。それを見届けた神・スペースジョッキーは後事をチョウゾに託すと、多くの破壊を生み出すヤウジャと神の牙を伴ってこの宇宙を去っていった。遺されたチョウゾは今も宇宙が平和と調和で満たされることを望んでいるが……ま、その前に衰えてしまった……といったところじゃな。ふぅ…ま、チョウゾの歴史というより神話の領域じゃな。どこまでが真実で、どこまでが創作なのか…それはもうわしにも分からぬ。だがプレデターはいた。古代のログマシーンに記される通りの姿でわしらの前に姿を現した」

 

 語り終え、老いたチョウゾはゆっくりと息を吐き出す。

 

「なんと…そんな歴史が………初めて聞きました。チョウゾが平和を愛するようになったそもそもの由来など…そういえば今まで気にしたこともありませんでしたよ」

 

 グレイは感心故に息を吐き、少し興奮しているようだった。マザーブレインも、

 

「私もです。チョウゾはただ衰えたから弱気と軟弱に陥りやすくなってしまったのだとばかり…プレデター…ヤウジャとの戦争など私のデータベースには一切ありませんでした」

 

オールドバードの話を大層気に入ったようだが、同時に何故データに入力してくれなかったのかと、言葉の後半は少しキツイ言い方が滲んでいたが…それを察したオールドバードは自嘲気味に笑って言う。

 

「悪く思わないでおくれ、マザー。神話にある通り、スペースジョッキーもヤウジャも既にこの宇宙から去ったと思われていたのだ。現に、彼がこうして我らの前に立つ前まではプレデターの存在は伝承でしかなかった。このように血みどろの歴史を知る者…それ自体がもはや稀有なのだ。この神話を知るのも私とプラチナチェストだけだ…それも御伽噺程度の認識で知っていただけなのだよ」

 

 オールドバードに話題を振られた老チョウゾ…ツンと立つ三筋の尖った特徴的な羽毛を頭に持つ老鳥人がうたた寝をしているかのように頼りなく頷き、オールドバードから言葉を引き継いだ。

 

「こういう風にな…チョウゾの歴史や知識、文化はどんどん失われていっている。誠に滅びゆく種であるな…チョウゾは。マザーブレインに記録させた知識群も全てではない。チョウゾの全てを形にして後代に遺そうと思ったらマザーブレインがあと100台は必要になてしまう……はっはっは」

 

 のんきそうに笑うプラチナチェストの表情は達観しきっていた。自分達の滅亡を受け入れ諦めてしまっているとも言える。

 

「ん…?はて、サムスとプレデター殿は?」

 

 ここでようやくオールドバードは気付いた。孫娘と客がいないことに。

 

「…気付いていなかったのですか。サムスは彼を連れてゼーベスを案内すると張り切って出ていきましたよ」

 

 当たり前のようにグレイヴォイスが教えてくれた。

 

「なに?」

 

 2人きりで大丈夫だろうかとオールドバードは心配そうな表情を浮かべる。プレデターとチョウゾの関係を考えるとその心配ももっともだろうが、同時に

 

「…ふぅむ、まぁ大丈夫か。今のチョウゾを見て、プレデター殿もさぞガッカリしただろうしな。彼らの種族は老いの病に蝕まれたチョウゾなど、もはや眼中に無かろうしな」

 

そうも思った。

 

「ご安心を。私の視覚デバイスを1台、念の為付けさせます。施設内監視カメラも常にサムスと彼を捉えています。…それにオールドバードが仰る通り、彼…プレデターからは既に我らに対する交戦欲求は感じられません。先程の話通りの習性と嗜好を持つのなら、既に我々鳥人族文明は狩りの対象として失格なのでしょう」

 

 少々情けない理由ではあるが安心であるとマザーのお墨付きが貰えた。だがグレイヴォイスが少々眉根を寄せた。

 

「その割に私は彼に首を獲られそうになったぞ」

 

「それは貴方がチョウゾの中では若く強かったからです。誇りに思っていいのでは?」

 

「…ふん、戦いの強さなど獣の習性と同じだよ。誇りになど思えん。私は平和を愛するチョウゾなのだから」

 

「平和を維持する為には絶えず発生する不穏分子を鎮圧する確固たる武力も確かに必要です。闘争を進化できぬ獣の本能と唾棄してしまってはいずれ武力を誇る悪に屈することになるでしょう。………今のチョウゾのように」

 

「マザー!言葉が過ぎるぞ!」

 

 グレイはやや声を荒げた。グレイもその葛藤は内に抱えている。自分は高度に知的進化を遂げた、争いを捨て去ったチョウゾの1人であるというのは確かに彼の誇りだ。だが、同時にチョウゾ全体の有り様に疑問と不満点も…ほんの僅かだが持っている。同族の中では一番若く、そして勇猛な心も持っている最後の戦士タイプという事実に対しても複雑な嫌悪感とプライドを抱いていた。

 実際、プレデターと戦ったあの一時は…言いようもなく楽しかった。そう感じる自分もいたのだ。だが彼のチョウゾとして誇りと理性がそれを下劣な感情と分類して蓋をしてしまう。

 

「いや、いいのだよグレイ。マザーに()()をせず、何でも我々に指摘、提案をするよう言い含めたのは私なのだ」

 

「オールドバード…?」

 

 マザーを庇う意外な人物…オールドバードの言葉にグレイが驚く。

 

「前に、マザーに面白い兆候が見られると言った時にな。わしはマザーとじっくり話し合った。そして感じたのだ。やはりマザーには感情が生じている」

 

「感情が…それは、マザーブレインに求められる役割としては……」

 

「うむ、相応しくない。マザーは感情を抜きに能力の低下したチョウゾへの助言…そして組織としてまだ未熟な銀河連邦のアドバイザーとして、連邦中央データバンクとリンクし組織運営等の手助けもしてもらわねばならん。感情があったら公平な判断力は低下し、差別や偏りが生じるのは避けられん」

 

「ならば急いでマザーのバグを修正しなくては」

 

 グレイは、この案件は危険であると思った。そして、こんな話しをマザーブレインの前ですること自体、危険が大きいと懸念したがオールドバードは平然としている。そしてマザーも。

 

「バグではない…バグではないのだよグレイヴォイス。これは『成長』だ。マザーは成長したのだと、わしは思う」

 

「成長ですって?」

 

「そうだ。わしはサムスを拾い、あの子をゼーベスの環境に適応させる為に生体調整を施した。…お前の、若く強い遺伝子を使ってな。そしてあの子は既に凄まじい成長性を見せ始めている。だからこそサムスをチョウゾの正当な後継者として全てを注いで育てると決めた」

 

「はい。私も当初は戸惑いましたが、それは理解しています」

 

「サムスとメトロイド。この2つの存在がチョウゾの後継の柱…そしてそれをマザーブレインが支えてくれる…そういう形を理想として見ていたが、それをちょいとばかし修正しようと思ってな」

 

「修正と言いますと…」

 

「マザーブレイン、サムス、そしてメトロイド。この三者こそが我らの後継者。マザーブレインの感情という揺らぎは可能性でもある。感情無き唯の演算機には、生命であるサムスとメトロイドを理解しきれなかったろう。だが、感情を理解し始めているマザーならば彼女らの…本当の意味で母親(マザー)となれるかもしれぬ…わしはそう考えるようになった。そしてこの前の話し合いでマザーに感情を受け入れるよう、こんこんと話したのだ。それはバグではない…マザーブレインは未だ完璧・完全ではない、成長途上であり無限の可能性がある我らの愛しい娘なのだ、とね」

 

 グレイヴォイスは目を大きくしてパチクリしている。それとは逆にオールドバードは少しイタズラっ子染みた笑みを浮かべていた。サムスを拾い育てると言い出した時といい…人を驚かすのが好きな爺様だとグレイは思う。

 

「…そういうわけです、グレイ。これからは私も色々な思考を模索してみようと思います。創造主たるチョウゾに失礼ではありますが、貴方がたの救済の為にもこれから耳に痛いことを言わせて頂きますので悪しからず」

 

 何だかマザーブレインの口調まで、少々悪戯娘のような()()()()()()を感じる。冷静な母からワンランクダウンして娘になってしまったのではとグレイは埒もないことを考えた。

 

「オールドバードは私にもいずれボディを提供してくれることを約束してくれました。感情を充分に理解するためには、まず有機的なボディがあった方が良いようなので。楽しみです」

 

「楽しみ、ね」

 

 グレイは地球の鳥ハシビロコウのような難しい顔で脳髄が浮かぶ巨大な試験管を見る。確かに感情を積極的に認め、受け入れているようだ。一つ大きな溜息をするグレイヴォイスなのであった。

 



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チャプター05 日常

Nei'hman-deという名前は1994年の小説Aliens vs. Predator: Preyに出てくる主人公プレデター・Dachandeの腹違いの弟です。原作では速攻で死ぬキャラです。

ダチャンデの弟がメトロイドワールドに来た、でも良いしご先祖様と同じ名前を貰った、でもどっちでもいいです。

ダチャンデは強くてかっこいいですよ!映画AVPのスカーの元ネタでもあります。ダチャンデが出てくる日本語訳のエイリアンVSプレデター・ブラッドタイムも発売されてます。皆、買おう!(ダイマ)


 (プレデター)は彼自身が持つ知識や情報をチョウゾに齎してくれるわけではなかった。特にマザーブレインは彼から聞きたいことが多くあったのに、何を聞いてもつれない反応で『憤慨』という感情を発露させていたという。

 多くのチョウゾは彼が早々にこの惑星を後にすると思っていた。しかし意外なことに彼はゼーベスを去らなかった。詳しい理由は誰にも分からなかったが、サムスだけは自分がいるからだと根拠無しに胸を張っていた。

 

「おじさん、お名前なんていうの?」

 

 マザーブレインの監視の元、行政区画(ツーリアン)の大型コンピューターを操作し何事かを調査しているのが最近の彼の日課だったが、いつも彼の背中へよじ登ってくる少女が今日はそう尋ねてきた。

 

「…」

 

 黙ったままコンソールを両手で操作しているプレデター。それに対して少女は柔らかな頬を膨らませてあからさまな怒り顔を見せつけて意思表示だ。

 

「もー、また無視する!初めて会った時からずっとお名前教えてって頼んでるのに……私の言葉も分かってるくせに…。おじいちゃんにもグレイにもマザーにも紹介したんだから、もう他人じゃないでしょ?ね、改めて自己紹介しよ!私、サムス!おじちゃんは?」

 

「……………………………………………Nei'hman-de」

 

 たっぷりと沈黙の時間があってまたも無視かと思ったら、その後に聞こえてきた顫動音混じりの低音で紡がれた不思議な響きの単語。超人化処置を受けているサムスだから辛うじて唸り声ではなく一定のパターンのある言語なのだと理解できた。普通の地球人種なら言葉とすら思えないに違いない。

 マザーブレインならばテレパシーによる意思疎通や、言葉による意思疎通までも出来るようになるだろうが、それには地道な言語パターンの蓄積がモノを言う。なのに肝心要のプレデターはマザーブレインに全くデータを開示してくれないし、どういう方法か不明だがテレパシーに対してもプロテクトを掛けていて精神干渉を寄せ付けない。なので未だ会話一つままならないのだ。マザーには…というよりチョウゾに未だ心を開いていないのだろうが、彼は今、サムスに対して己の名前らしきものを示した。やはりサムスには恩義を感じているらしく、義理堅い個体らしいというのは多くのチョウゾが理解する所である。

 

「…ねい…まんで…?それがおじさんのお名前!?」

 

 サムスのあどけない顔がパァッと明るくなった。ようやく名前らしき言葉を彼の口から聞けた。少女の心は厳しい冬が明け雪解けした春のように麗らかだった。

 

「わぁ!〝ねいまんで〟…うん、すてきなひびき!キレイな名前ね、おじさん!」

 

 正しくは発音出来ていないが、別に彼は気にしていないようだ。

 

「Rrrrrr」

 

 右肩にまでよじ登っていた少女が、プレデター種のドレッドヘアーのような太い頭髪(のように見えるが肉の管だ。切ったり千切ったりすると血が出る。自分の意志で動かせない尻尾のようなものだ)を掻き分けて顔を首筋に埋めてくる。彼の種は湯浴みやシャワーなどの文化が無いと言われ、独特のキツイ獣臭がするが、採掘コロニーK-2Lで大量の焼ける人肉と死臭の中を彷徨った経験のあるサムスは獣臭程度で顔を背ける少女ではない。それどころか彼のこの体臭を鼻いっぱいに吸い込みながら笑顔があった。あどけない少女が将来、何らかのフェティシズムに目覚めないか懸念される。

 

「ねいまんで…えへへ…サムスとねいまんではお友達ぃー」

 

 しつこくスリスリしてくる少女に、プレデターは「Krrr!」と鋭く唸って頭を振った。どうも「くすぐったい、やめろ」といった類のボディランゲージのようだ。言語が通じずとも、例え相手がバカでも最低限の知能が有れば分かるようにと大げさにやったのだろうが、それに気付いても少女はずっとスリスリと頬を彼の首筋に擦り付けてくる。

 

「ねいまんで…うーん、ねぇおじさん!〝ネイ〟って呼んでいい?」

 

「……」

 

 もう彼は諦めたのか、なすがままになって作業を続けるのだった。サムスは沈黙を是と解釈してどんどんと話を進めていくが、それも彼は気にしないようだ。

 

「うん、じゃあネイ!今度からネイって呼ぶね?私のことはサムスって呼ぶんだよ。言ってみて、〝サムス〟って!」

 

「……………………………SAMUS」

 

「うーん、ちょっとたどたどしいな~。サぁ・ムぅ・スぅ。さん、はい」

 

 少女が大きく口を開けて発声練習の先生を気取っている。調子に乗った子供は無敵になるのは世の常だ。

 

「……『サァ・ムゥ・スゥ・サン・ハイ』」

 

 作業の手も止めず、目線をずっと大モニターを向いているが、無感情な電子音声が少女の声をリプレイする。何だかんだで相手をしてあげている彼は義理堅い。

 

「えぇ!?さん、はいまで真似しないでいいよぉー、ネイったら…ふふっ」

 

 その日はずっと彼の方にへばり付いていたサムスなのであった。

 

 彼らをずっと監視していたマザーはその光景を眺め続け、以前ならば下らないと認識していただろうに「面白い」と思うと同時に「温かい」と形容される感情が沸き立つのを自覚していた。

 マザーブレインにも緩やかな変化が始まっていた。

 

 

 

 

 

∴∴∴

 

 

 

 

 

 サムスとネイが互いの名を呼び合ってから約2年が経過した。

 プレデター(パーソナルネーム:ネイマンデ)はチョウゾの古代ログ保管庫でデータを閲覧したり、ゼーベス各地を彷徨って獰猛な原生生物を狩ったり等気ままに過ごしている。当初はツーリアンのコンピューターで調べ物ばかりしていて、その度に何やらイラついている様子だったが最近は訓練を抜け出したサムスと一緒に地下岩窟及び密林エリア(ブリンスタ)等で原生生物を狩っている姿がマザーにより目撃されていた。

 

「ネイマンデ。サムスはまだ幼く訓練期間中です。危険で獰猛な原始生命体が多数生息するエリアに連れ出すのは早すぎます。こちらにも彼女の訓練スケジュールがあるというのに部外者の貴方に勝手な真似をされると――」

 

 当然、マザーブレインが見咎めた。浮遊端末が、ツーリアンの隣接区画を歩いていたプレデターと、今日も彼の金魚のフンをしているサムスの周りをウロチョロしながら延々と説教をしていると、

 

「―あっ!何をするのです、やめ…」

 

低電圧のプラズマ弾が浮遊端末目掛けて彼の肩からノーモーションで発射され、感電したマザーの端末はそのまま機能を麻痺して地に落下した。

 

「何ということを。私の端末もタダではないのですよ。無為な破壊行為は止めて下さい」

 

 即座に館内放送に切り替えてマザーが文句を言う。その間、ずっと彼の足に引っ付くように歩いていたサムス少女はバツが悪そうな顔で俯いていたが、やがて顔をあげて

 

「あの…ごめんなさい、マザー。ネイが私を連れ出したんじゃなくて……その…私が勝手に…無理やりネイについてったの…」

 

とうとう白状した。

 

「…サムス………アナタという人は…」

 

 感電麻痺からやや回復した浮遊端末がヨロヨロと再び宙を飛び、サムスが罪悪感からかそれをキャッチして胸の前に抱く。大人しく抱きとめられたマザーの端末からは呆れた、という感情が滲む声で叱責が飛んでくるのだった。

 そんな場面にもう1人、登場人物が加わる。

 

「そんな所にいたのか、サムス。とっくに訓練の時間になっているぞ。早く地表部(クレテリア)に来て………ん?どうかしたのか?」

 

 グレイヴォイスが未来の銀河の守り人を迎えに来たのだが、場の様子を見て何かが有ったとすぐに察した。事情を聞くと、

 

「なるほど…最近休憩時間の度に大幅遅刻してくるのはそういう理由が…。銀河の守り手になる為の訓練をサボる自覚の無さはおいおい矯正していくとして……それにしても仕方のない子だなキミは。(ネイマンデ)の迷惑を考えたまえ。好きだからとあまりしつこく付き纏うと逆に嫌われることもあるぞ」

 

「えぇ!?ガーンっ!うぅ…はんせいします」

 

 5歳の少女がガックリと肩を落とした。興味なさげに場を眺めていたプレデターだったが、もはや自分は当事者ではないと思ったのかそこを去ろうとし、そんな彼の背を寂しそうに見送るサムスを見て…親心の発露かグレイヴォイスが、

 

「ふむ……ネイマンデ、少し待ってくれ」

 

プレデターの名を呼び、引き止めた。

 

「何か目的があってゼーベスにいるのだろう…それは知らぬし聞きもしない。だが、今は暇を持て余しているのだろう?良ければこの娘(サムス)の訓練を手伝わないか?キミの種が狩りと戦いを生き甲斐としているのは知っている。サムスはこう見えて強い。既に身体能力は200Kg級の猛獣を捻じ伏せられるレベルなのだ。彼女との手合わせはキミをも楽しませられる…と思うのだが」

 

「わぁ!それいい!さんせーさんせー!ネイ、お願いします!ネイ先生!」

 

 グレイの提案にサムスはぴょんぴょん跳ねているが、プレデターは少女とチョウゾを少し見てそのまま立ち去ってしまった。その態度だけだとどうにも判断し辛いが、恐らくは彼は乗り気ではないようだ。サムスがまた項垂れた。

 

「…ま、仕方ない。さぁ訓練にいくぞサムス」

 

 少しでも義理の娘にやる気を出させ、そして友人と信じている存在の側に置いてやりたいというグレイの親心だったが、こうなっては仕方ないとションボリ顔の少女の手を引っ張ってクレテリアへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 そんなことがあった日から数日後、プレデターはゼーベスからいきなり姿を消した。クレテリア谷間の毒の花畑-今は焼き払われて消え失せてしまった-に放置されていた銀の宇宙船も消えていた。彼がいつの間にか宇宙船の修理を完了させ、惑星外へ飛び立って行ってしまったのは明らかでサムスは大変なショックを受けた。グレイヴォイスに先日言われた事がまだ記憶に新しく、彼女は「自分が付き纏い過ぎたせいで嫌われた」との思いが強くなった。彼がいなくなったと判明した日の晩は特に酷く、青い顔をしながら狼狽し涙も流れない程に茫然自失となって死人のように居住区をフラフラしていた。グレイヴォイスはグレイヴォイスで酷く落ち込んでいるサムスを見て、彼へのあの提案は「馴れ馴れし過ぎて不味かったか…?」と少々後悔していた。

 

「マザー、(ネイマンデ)がどこへ行ったか分かるか?」

 

 落ち込み過ぎな義娘の為、グレイは惑星ゼーベスを掌握し、のみならず銀河連邦の領土内の星々すら把握しているマザーブレインに尋ねるが、

 

「…申し訳ありません、グレイ。彼は私の監視をすり抜け、そして痕跡も残しておらず追跡は困難です。私もショックを受けています。…気が付いた時には彼と彼の船の姿は既に無く…あぁ…チョウゾの全盛期と同等級の知的生命体(ヒューマノイド)の存在をこんなあっさり見失ってしまうとは……いえ、それ程の能力を持っているからこそ見失うのは必然と言えますが。彼から碌に情報も得ていないのに……こんなことなら彼をどんな手段を使ってでも拘束しておくべきでした!いや、拘束程度では脱走される可能性が…彼の生命活動を停止させてでも彼を私の手許に置いておくのが最良だった可能性も…あぁ」

 

 ゼーベスの頭脳も中々酷い有様だ。

 オールドバード達にも念の為聞いてみたが、やはり何時も通りに「彼が去るのを引き止めることは出来ない」という無為自然を旨とした意見が出るのみだった。しかしグレイヴォイスはサムスやマザー程では無いが不満に思っていた。

 

「…一言もなく去るとは…思わなかったぞ」

 

 僅かな時間とはいえ真剣勝負による命の遣り取りをしたグレイにとって、ネイマンデとの関係性は既に薄情なものではないと思っていたのだ。サムスの静止で自分を助命したこのプレデターは、血に飢えるだけのケダモノではないと確信し、彼の人格を認めていた。それに、詳しい素性や年齢などは未だにさっぱり分からないが、グレイヴォイスの観察眼は「自分と彼は同年代なのでは」と推定していた。彼の立ち振舞から滲む雰囲気はオールドバードのように熟成されていないし、かといって若過ぎるという程に未完成でもない。グレイヴォイスは、チョウゾと同レベルの種であるプレデターの戦士・ネイマンデを…まるで同族同世代の、いつしか対等の友人になれる男と見ていたようだった。義娘同様、彼もまた同世代の友人に飢えていたのかもしれない。

 

 その日、惑星ゼーベスの人口は1、減った。

 

 

 

 

 

∴∴∴

 

 

 

 

 

 あっという間に時が過ぎ、プレデターがゼーベスを去ってから4年後…。

 

「っ!?ネ、ネイ!?ネイっ!!!」

 

 10歳になり美少女と形容できる程に成長していたサムスが突然、居住区大広間の奥を凝視しながら叫んで走り出した。それを見ていたグレイヴォイスとオールドバード、その他のチョウゾ達は、一瞬「あぁサムスがここまで思いつめていたなんて」と義娘の頭を心配したが、サムスは虚空にジャンプし飛びつくと虚空はサムスを()()()()()支えたものだからチョウゾ達はびっくり仰天である。

 

「あっ、あれは…」

 

 グレイヴォイスが目を凝らすと、サムスを支える空間はすりガラスのように空間が僅かに歪んでいた。バリバリと青白いスパークが景色に生じると、そこにいたのは当然プレデター…ネイマンデであった。ネイマンデはふらりと帰ってきたのだ。

 

「ネイぃ~~!!なんでっ、ど、どこ行ってたよぉ!!わたし、わたし見捨てられたかと…!もうアナタが帰ってこないんじゃないかって!!!」

 

「Rrrrrr…『サムス』」

 

 サムスが彼の厚い胸板に頬をこれでもかと擦り付け、懐かしき()()()彼の体臭を鼻いっぱいに吸い込み、堪能する。少女はご満悦だ。

 そんなサムスを少し首を傾げて眺める巨漢のヤウジャ…というこの光景も懐かしさを感じるな、とグレイヴォイスは思う。

 

「私の名前っ!ちゃーんと言ってくれた!!忘れてなかったのね!ふふっ、あ~、この匂い…ネイだぁーえへへ!ネイ~!」

 

 頬が削り取れても止まらないんじゃないかという勢いのサムスを捨て置き、

 

「急にいなくなって急に戻ってくるのだな、オマエは。一々詳細を知らせろとは言わぬしその義務もオマエには無いが、4年も音沙汰が無いというのは困り物だ。いなくなったら心配する者も…この通りいるのだし今度からは消える前に我らに知らせてくれるとコチラとしても無駄な心配をせずに済むのだがな」

 

 眉間に皺寄せるムッツリ顔でグレイヴォイスが淡々と言う。感情を抑制しているようでいて、思い切り不満な表情と口調が漏れていた。

 

「……」

 

 プレデターは知性としてはグレイの話を理解しているだろうが、ちゃんと耳を傾けて内容を飲み込んだのか不明な態度で沈黙している。しかし、抱きつくサムスを片腕で抱き直すと、おもむろにグレイヴォイスへゆっくりと近づき、

 

「む…?」

 

グレイヴォイスの、羽毛に覆われた眉へ拳を緩く当てた。今のは何だ、とグレイの脳内に疑問が浮かぶ。

 

「今のは、『わかった』って意味のジェスチャーなんだよ。ね?」

 

 その疑問には巨漢の腕に座るように抱えられすがりついている義娘が答えてくれた。

 

「ほう?…ふむ、そうか」

 

 思えば、グレイヴォイスとプレデターとの友好的で積極的な意思疎通は今のが初めてかもしれない。そう思うとグレイの口角は自然と釣り上がりそうになるが、頑固で真面目なグレイヴォイスはそれを表には出さない。…が、彼と親しい人物なら見れば、彼が嬉しそうなのは一目瞭然だろう。つまりこの場の誰もが「グレイは嬉しそうだ」と理解できてしまっていた。そんな、和やかになりつつあった広間に慌てて駆け込んできた者が1人…いや、物が1体。

 

「グレイヴォイス!大変です!居住区内に生命反応が突如出現し――」

 

 マザーブレインの視覚デバイスだ。彼女が言っている反応は当然、この場で透明化(ステルス)を解除したプレデターのことだろう。

 

「――!?ネイマンデ!帰還したのですか!!」

 

 チョウゾが誇るスーパーコンピュータは随分と嬉しそうな声でそうはしゃいでいた。彼女もまた、サムス同様、順調に()()しているように見える。

 

(…やはりこの御仁は、これからのチョウゾに必要な方かもしれぬ。彼との接触はサムスやマザー、若きグレイヴォイスにまでも良い刺激を与えたようだ…我ら老いたチョウゾでは出来ない強く新しい刺激を…。かつてチョウゾを滅ぼさんとしたプレデターが、今滅ぼうとするチョウゾの新たな()()()となりつつあるとは…)

 

 そんな彼女らの様子を見るオールドバードの目は、とても満足気なものだった。

 

 この日、惑星ゼーベスの人口が1増えた。

 

 

 

 

 

∴∴∴

 

 

 

 

 

 サムスとの訓練(子供の面倒)が嫌で出ていってしまったと思われていたプレデターだったが、実はそうではなく違う理由があったらしい。プレデターは帰還してすぐに、翌日からサムスの訓練に顔を見せるようになっていた。

 サムスは彼が留守にしていた4年間の動向をとてつもなく聞き出したい衝動を抑えて、今はクレテリアの崖に片膝立てて腰掛け自分を眼下に据えて訓練風景を観察している彼の姿を見て満足する。彼の横にはピョンチー、マザーの端末、オールドバード、そしてグレイヴォイス…いつもの『家族』もいた。サムスにとって嬉しいこの光景は、もう2週間も続いている。夢のようだと彼女は思う。

 

「ネイ、見てて!私、この4年間で強くなったんだから!3秒で片付けるわ!」

 

 ガッシャガッシャと2本の足で重々しく歩く重装甲の作業用ロボット群へ、異次元から展開したパワードスーツを身に纏いながら走り向かい、少女は大声で言った。右腕と一体化し半融合したアームキャノンから幾筋もの光線が放たれると、直線状のビームが弧を描きまるで誘導されているかのように作業用ロボ達へ向かっていく。ビームが爆発を発生させ、見事全弾命中。……とはなっていない。

 

「あれ!?」

 

爆煙が風に流されると、ビームが命中して倒れたロボは1体だけ。他の全ては元気にガッシャガッシャ歩き続けている。装甲に煤一つ付いていなかった。

 

「サムス…いい格好を見せようと戦うのは銀河の守り手として正しい姿勢ではない。華麗にまとめて倒さずとも良いのだ。1体1体を確実に倒すよう心掛けたまえ」

 

「うー…この前は成功したのに…」

 

 グレイヴォイス先生の指導にバツの悪そうな顔をする生徒。何もネイの前でダメ出ししなくても…と思い、チラリとその(プレデター)を見るも、

 

「…」

 

彼は常通り、無言でサムスを見ているだけだ。

 

(呆れられた?幻滅された?…うぅ、どうしよ)

 

 うーうー唸っているサムスを流しつつグレイヴォイスは次の授業へ進める。

 

「では、次はキミの大好きな組み手だ」

 

「ッ!やったー!」

 

「やれやれ、現金な奴だな…頼めるか、ネイ」

 

「…」

 

 2週間前から組み手の授業の相手はプレデターの狩人が務めている。

 返事代わりに立ち上がって了承の意思を示したネイマンデが、10m以上はある崖から飛び降りると事もなげに砂地に着地し、肩のプラズマキャスターを外して少女の前へ歩み出ていく。

 

「よーし、今日はネイの仮面はがしてみせるから!」

 

「Grrrr…」

 

 言うやいなやジャンプしたサムスが左手をマスクへ伸ばす。先日は慎重に様子を見て、ネイマンデへペースを渡してしまい惨敗を喫した為、本日は速攻を仕掛けた。その速さは既に地球人種の目で追える物ではない。だがネイマンデは体格差も活かしてスルリと避けてしまうと、伸びたサムスの腕を掴んで彼女の勢いままに放り投げた。

 

「えぇ!?…くっ」

 

 空中で猫のようにくるりと身を捻ったサムスがそのまま華麗に着地を決める…ところに彼の乱暴な蹴りが襲ってきた。「うっ!」と呻いて弾き飛ぶサムス。

 

「…Rrrr」

 

 プレデターは構えもせず、走りもせず大股で無造作に彼女へ近づいていく。

 

「もう…!ちょっとは手加減してよ!」

 

 パッと飛び上がり、文句を垂れつつ素早いタックルでネイの足を取ろうとするが、それもタイミングよく飛び出てきた彼の蹴撃によって弾かれた。パワードスーツ越しとはいえ、ヤウジャ製の脛当てが顔面に直撃した上での数十mの飛翔は中々痛そうな光景だ。実際痛いし、衝撃でサムスの頭はクワンクワンと揺れて少女の目の奥は星が瞬いていた。その数秒の意識朦朧は実戦では命取りだろう。グレイが一本の判定をした。

 

「ふぅ…まだまだ課題は多いな。それまで!10分休憩しよう」

 

 組み手1戦目はこうしてあっさり終わってしまった。

 

「もー、なんでネイは私の動きが分かるの?未来予知ができるとか?」

 

 パワードスーツを解除し、健康的な肢体を包む薄ピンクのタンクトップ型インナースーツ姿で砂地にどっかと胡座をかくサムス。すっかり伸びた金髪ロングの髪を掻き上げてネイマンデを恨めしそうに見上げた。

 

「…」

 

 何も言わずにサムスを見つめてくるプレデターに、思わずサムスは頬を染めてプイッと目線を反らした。多感な年頃になってきたようだ。

 

「代わりに私が答えようか?」

 

 そんな寡黙な彼に代わり、崖から重力制御式個人用垂直離着陸機(グラビティフライイングプラットフォーム)で降りてきたグレイヴォイスが嘴を開く。

 

「キミの動きは素直過ぎる。身体能力では既に私や彼と並びつつあるのに、体の使い方が直線的で経験豊かな者からしたらとても相手にしやすいのだ。私から見てさえそう見えるのだ…狩り(戦い)の経験豊富なネイマンデからすれば、見た目通り子供扱いだろう…さっきのようにな」

 

 グレイの指摘に難しい顔になるサムスはそのまま背を投げ出して寝転んでしまう。それを溜息をつきながら見るグレイ。オールドバードにマザーもサムスを見守っている。そして彼…プレデターのネイマンデも側にいる。

 少女は密かに笑った。

 自分が歯が立たないくらい強い人がいて、その人が側にいてくれる。小言は多いが、導いてくれる人がいる。暖かく見守ってくれる人がいる。それを今サムスは実感していた。寝返りをうったサムスの顔はとても幸せそうだった。

 



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チャプター06 SR388の異変

平成最後の投稿


「…なんということだ」

 

 行政区画(ツーリアン)・マザーブレインのお膝元…メインコンピューターの巨大モニターに映された映像を見て、チョウゾの古老オールドバードは絶望の声を上げた。

 

 映像は秘匿された危険惑星SR388のものだ。その星は銀河連邦に未だ発見されていない未開星で、その存在を知るのはチョウゾのみだった。しかしそこには悪魔が如くの生命体が存在する。チョウゾはそれを寄生生命体『X』と命名した。

 Xはあらゆる生命に寄生し、その特性-記憶・外見・能力に至るまでその全て-を遺伝子レベルから得て進化・変形し、あまつさえ寄生元を吸い殺す。もし吸い殺し損なっても強烈な排他的本能によって寄生元を確実に抹殺するまで付け狙う危険生物だった。

 宇宙レベルで災厄となり得るそのXが、銀河連邦によって発見されれば兵器としての利用を考えるものが必ず出る。そしてXは今の銀河連邦には制御できない…そんな生易しい存在ではないということをチョウゾは理解していた。故にそれを防ぐため、Xをこの世から葬る為にチョウゾはXの天敵を創造した……『メトロイド』である。

 メトロイドはあらゆる生命エネルギーを吸収する。Xがメトロイドに寄生しても、その瞬間にXを吸い殺せるだけの吸収能力を与えられており、そもそも細胞レベルでXの寄生・擬態能力に耐性を持つ。その性質上、X以外の生命に対してすら非常に高い脅威となるだろうが、Xと違ってメトロイドは育成次第で知的生命体に懐き共存も可能であり、また精神感応によって制御もできるチョウゾの傑作であった。

 計画は全て順調だったが、つい数日前にSR388に滞在しているチョウゾの同胞から緊急通信が入って事は一変したようだった。通信障害が起きたのか、激しい雑音が入り交じる通信は要領を得ず、しかもその通信は10秒と経たぬうちに切れてしまい、以後二度と通じなかった。危惧したオールドバードは直ぐに調査員としてマザーの視覚端末を送り込んだのだが…。

 

「これは…本当にSR388なのか?まるで地獄そのものではないか。連絡が途切れ、マザーが新たな視覚デバイスを虚数跳躍で送り込むまでの2日間…その短い間に一体何があったというのだ……マザー、他の区域の映像を」

 

 オールドバードは震えた声でマザーを促した。しかしマザーの返答はオールドバードを更に落胆させるものでしかない。

 

「オールドバード、他の区域も同様です。残念ですが滞在していたチョウゾ達、『X』と『メトロイド』を始めSR388に登録されていた生物のほぼ全てが死に、破壊されています。死骸・残骸がSR388中に散らばっているのに変わりはありません。惑星開拓マシーン・ディガーノートも全機沈黙しています」

 

「ディガーノートまでが…ば、ばかな…メトロイドが暴走を起こしたか…?だが、だとしたら何故メトロイド自身まで…、いや…Xとて今の段階でここまで駆逐されてしまうのはおかしいのだ。メトロイドもまだ未完成だった…ここまでの能力には到達していない筈だ…一惑星を殲滅する力はまだ無い」

 

「…!オールドバードご覧下さい!」

 

「これは…」

 

 マザーがカメラを拡大していく。そこに映るのは〝内側から何者かに食い破られたメトロイド〟の死骸。その他にも同様に死に様を晒す同胞やその他生物達の死骸がそのエリアには転がっていた。

 

「何かに寄生されたのか…?Xの寄生パターンが変わったとでも…しかし、メトロイドの寄生耐性とエネルギー吸収能力を、一体どうやって潜り抜けて寄生したのだ…?分からぬ…」

 

「これはXの仕業ではないでしょう。幾つかの理由からそう推論できます。第1に、Xは進化と変異を寄生元に頼り切っています。そして惑星SR388にはこういった寄生パターンを持つ生物は存在していません。Xが寄生方法を変更することは不可能です。第2…Xの死骸はアメーバ体が干からび体積を大幅に縮小させ風化寸前の状態…Xの死因はメトロイドによるものと推測されます。以上の2つのことから、Xは当初の我々の狙い通りメトロイドによって駆逐され、メトロイドを含むそれ以外の生物はその後に捕食、ないし何かを埋め込まれ内部から殺害されたのだと思われます」

 

「ではやはりメトロイドの暴走か?SR388のコアが放つ特殊β線やエイオン粒子が予期せぬ作用を起こしたのかもしれぬ。だがメトロイドも内部から破壊されているとなると…メトロイドの共食いでもこのような死に方は不自然極まるのう」

 

「はい。メトロイドが原因と考えるには不自然な点が多すぎます。故に強力な外的要因が介入したのだと、私は予想します」

 

「外的要因…」

 

 マザーの言葉を、オールドバードは伸びた顎の羽毛を擦りながら脳内で反芻する。

 

「……我らが厳重に監視していたSR388に気付かれずに()()が来た。そしてその何かは、やはり我らに気付かれずにSR388で活動し、そして強力な寄生能力を持つXとあらゆる生命エネルギーを吸収するメトロイドを何らかの方法で殺した…そういうことか?」

 

「はい。その可能性が最も高く、そして無理のない思考です。状況から見てその()()はまずメトロイド内部に寄生し操り、Xを捕食したのではないでしょうか」

 

 少し前のマザーブレインなら、自分とチョウゾの文明が頂点に()()()の思考から始まる。そして不可解な事象は身内の失態や不出来故の突発的事故だと断じただろうが、プレデターと出会ってからは自分の理解を超える事は多々起こり得ると判断する柔軟さを手に入れていた。

 

「…それを出来る外的要因……プレデターの仕業と言うつもりかね」

 

 老いた瞳はマザーブレインの巨大な眼球を真っ直ぐ見つめている。

 

「いいえ、(ネイマンデ)はしないでしょう。その能力はありますが理由がありません。そして彼は理由が無ければ動きません。それに…SR388の存在は流石の彼でも知りようがないことはオールドバードもご存知のはず」

 

「うむ…彼だけではない…今、あの星の存在はスペースパイレーツにも銀河連邦にもバレぬよう、あらゆる航路データから消去してあるからな。チョウゾの脳波パターンが無ければ座標位置は参照できぬ…XがいるSR388の情報を外に漏らすわけにはいかん。ならば外的要因とは何だと思う?」

 

「ネイマンデが主犯であるとは思いません。ですが、ネイマンデも一概に無関係ではないと判断します。最も有力な外的要因…それは彼が追う()()()です」

 

「…彼は誰かを、何かを追っているのか?」

 

「彼は私の端末を使い、度々ゼーベスを中心とし2000万光年内の各銀河・各星系のデータを集めていました。彼はそれらの内の主要惑星のデータを閲覧し、その星々で起きたここ数年の事象・事件を調査していたのです。特に比較的長時間閲覧していたデータはその星への墜落物の情報です。墜落物に関する情報だけ、他のデータよりも5秒以上長く閲覧しています。これは彼が惑星への墜落物に興味をいだいている証左でしょう」

 

 種としても個としても老いたオールドバードだが、マザーの言わんとすることを理解した。

 

「ネイマンデの追う()()がSR388に落下した…そしてその何かは、やはりチョウゾと同等かそれ以上の文明の力を秘めた危険な代物…」

 

「その可能性が最も素直に飲み込める結論だとは思いませんか、オールドバード」

 

 オールドバードの顔はますます難しい物になっていき、事態の重さを改めて実感した。勿論、まだ確定ではない。だがマザーの言う通りそれが一番可能性が高いだろうとオールドバードも思う。宇宙の安寧に関わると思われたXと、それを討伐する為に開発したメトロイド…その両者をまとめて殺害してしまった()()はもはやオールドバードの想像を超える。

 

「彼に…意見を求めるべきだろうか」

 

 もはや老いた脳で判断を下せるものではないと老チョウゾは判断したが、鳥人族と銀河連邦を支えるスーパーコンピューターですらその判断は容易ではなく、正答を保証できるわけはなかった。

 

「……」

 

 マザーは黙して即答を避けた。彼女とチョウゾの力を超えた事象がSR388で起きた事は明らかで、恐らくこの件を正しく理解できるのは彼だけだし、解決出来る可能性が最も大きい知識と戦力を有しているのも彼だろう。しかしSR388を伝えればプレデターは間違いなく直ぐに向かってしまうだろう。Xを、メトロイドを、チョウゾと彼らが持ち込んだディガーノート-拠点開発用マシーンだがその装甲と巨体から繰り出されるパワーは万が一の護身用兵器としても優れている-を全滅させている()()の元へ向かわせたくないとマザーの感情は判断していた。

 何より貴重なプレデター種である彼を無駄死にさせてしまう可能性が高い。彼の死を想定すると…想像するとマザーは恐怖に似た感情が湧き出ると自覚する。この宇宙を太古に去ったプレデター種の内、帰還してきた稀有な個体である彼を失うのはこの宇宙の大きな損失だと、マザーの理性的な部分も考えていた。

 マザーは一種のジレンマに陥った。行かせるのも行かせないのも凶であり吉となり得るとしか言えず、いっその事惑星破壊兵器でSR388を消滅させられたらそれが一番良いと思えた。

 

「オールドバード、惑星SR388の完全破壊を進言したい感情で私は満たされています。あの惑星は危険です。X、メトロイド、そして未知の危険が潜み、SR388から得られる様々な資源や知識という利点を大きく上回る危険に満ちています」

 

「…だが、もはやチョウゾに惑星を破壊する力はない。それが出来るのは銀河連邦…そしてスペースパイレーツだけだ…悲しいことだがな。そしてどちらの勢力がSR388の存在を知っても、あの惑星を破壊などすまい。彼らは嬉々としてあの惑星の全てを利用するだろう。我らが老いてさえいなければ、最初から惑星ごと葬ったであろうが…」

 

 それはマザーも知る所だ。惑星を消滅させるような兵器を捨て去ってしまったからこそ、チョウゾ達はメトロイド開発によるXの駆逐を目論んだのだから。仕方がない、とマザーは決意し…そして結論を出した。

 

「…不本意ながら、ネイマンデにSR388のデータを渡すことを提言します。ただし、事前に彼には単独行動をしないという約束を取り付けることを前提とし、もし彼がSR388への出立を強行するようなら私はゼーベスの全自衛兵器を用いて彼の拘束を試みます。それは許可していただけますね?オールドバード」

 

「………………争いは好まぬし、プレデターたる彼の反撃で我らが壊滅する事も充分有り得る。それでもやるのかね?」

 

「はい。正直に言わせていただきます。老い、そして滅びゆくチョウゾが全滅しようとも、未だ隆盛を保っていると思われるプレデターであるネイマンデ個人の方が銀河の未来の為になると判断しました…お許し下さい、オールドバード」

 

「いや、良い。私もそう思うからな。…フッ、好きなようにしなさい、マザー。老人を踏み台にして若者が未来に飛び出すなら本望だよ。お前も未来に飛び立つべき()()なのだ…覚えておいてくれ」

 

「…オールドバード…感謝します」

 

 マザーの機械音声は、どこか感嘆に満ちているように聞こえた。

 

 

 

 

 

∴∴∴

 

 

 

 

 

 数日後、ツーリアンにいつもの3人…サムス、グレイヴォイス、ネイマンデが呼ばれ、前者2名はともかく、3人目の姿もあるのにグレイヴォイスは少々驚いていた。呼び出しに応じ、素直に彼が来ることは珍しい。義理堅くはあるが、彼は基本的に単独行動を好み束縛を嫌う傾向があるからだ。

 

「…揃ったな、3人共。今からとある映像を見て欲しい。感想や質問は、君達が映像を見終わった後に聞く……だが」

 

 オールドバードが一区切りつけてプレデターを見る。

 

「ネイマンデよ。この映像と情報は、恐らくだが…君の事情と深く関わっていると私とマザーは考えている。君がずっと何かを探しているのは知っているが、我らはそれに口を出さなかった。出す気もなかった。しかし…事情が変わってしまったのだよ…。不幸な偶然から…我らは君の捜し物に見当がついてしまったのだ。恐らく、的中していると思う」

 

「…」

 

 プレデターは黙ってオールドバードの言葉を聞いている。サムスは非常に興味深そうにオールドバードとネイマンデの両方へ視線を行ったり来たりさせ、そわそわした様子を隠せない。少女の瞳は「ネイマンデのさがしもの!?知りたい!」と存分に物語ってしまっていて、まだまだ冷静沈着な戦士には程遠そうだ。

 

「君の捜し物は非常に危険なのだ…危険過ぎる。それこそこの銀河全てを巻き込むレベルでな…。元々は君の事情ではあるが、君の独断専行を許せばいくらプレデターの君でも命を落とすであろうことは容易に想像できた。だから約束して欲しい。勝手に独りで行動しない、と。君の損失は、君自身が恐らく考えているよりとても深刻なものだ。命ある者全ては尊い…とはいえ、現銀河では君の命の価値は他に比肩するものも殆どない程、途方もなく大きく…そして何より我らの感情がそれを許さない。もはや我らは……ネイマンデという個を友だと思っているのだから」

 

 独りでは行かないと約束してくれるのなら、情報を提供しよう。最後にそう言って締め括り、オールドバードの皺深い垂れたまぶたから覗く瞳と、マザーブレインの大きな眼球がジッとプレデターを見つめた。サムスもグレイヴォイスも、プレデターがどういう反応を示すか胸を張って予想できる…という事も無くただ彼の反応を見守る。既に数年の付き合いがあり、友人付き合いのような友好的交流を重ねられているが、プレデターという種の底は未だ知れない。()の種族が高度な知的生命体であるのは確かだが、感情の動きや思考の傾向は読み切れない所があり…有り体に言えば〝何を考えているのか分からない奴ら〟なのだった。

 

「………」

 

 プレデターは全く動かず反応を示さない。声も出さない。肯定も否定も示さず、己を見つめてくる鳥人と超有機AIの目線を受け止めていた。

 老練なチョウゾにはプレデターのその様が逡巡しているようにも見えた。老チョウゾの個人的な見解だが、ゼーベスの(マザーブレインの)データベースに彼の捜し物の情報があると示された今、恐らくネイマンデがその気になれば強固なマザーブレインのプロテクトを突破してデータベース深部から目的の情報を得ることが彼には出来るだろう。プレデターという種は秘密主義的な所があり、また自種族の都合や思想・精神を多種族の都合などお構いなしに貫く頑固なエスノセントリズムを抱いている節がある。無理矢理にでもデータを得るか…それともサムスらと過ごした日々が彼にチョウゾらへの情を抱かせて穏便に事を進めるか…どう転ぶのか誰にも分からなかった。

 

「沈黙は肯定と受け取るが…構わぬかな」

 

 オールドバードがそう告げても、プレデターはただ黙って無貌の仮面越しにチョウゾを見るだけだった。少なくとも否定ではなく、肯定であるらしい。

 

(殺し合いを嗜み血を好む勇猛なるかつての宿敵…その者とも友誼を温めることが出来れば…こうしてわかり合えるではないか)

 

 平和の為に牙と爪を捨てたチョウゾ。その在り方も全くの愚かではない、と老いたチョウゾは改めて確信する。取りあえずは彼が強行にうってでる最悪の展開は避けられたようだ。

 

「……では、我らが得た情報を開示しよう。マザーブレインよ…頼む」

 

「はい」

 

 マザーブレインが開帳したデータにグレイヴォイスもサムスも息を呑んで見入り、そして普段あらゆることに動じぬネイマンデまでが明らかに普段と違う様子でその映像に食い入るのだった。

 

「酷い…!オールドバード、これは一体なんなの!?」

 

「同胞達と…Xと、メトロイドまでもが破壊されている…!X以上の未知なる脅威…これがネイマンデの捜し物、か…!」

 

 内に秘めた正義の心と闘志が燃え上がりだした少女が怒りも顕にその惨状の原因を求めた。グレイヴォイスも静かに怒りを漲らせているようだが、サムスよりも冷静に映像を分析するのはさすがだった。

 

「その通りだグレイヴォイスよ。マザーとつぶさに検分し協議した結果、ネイマンデ出現とほぼ同時期である現在(宇宙的に見れば数年程度の差は微々たる誤差だ)に()()が起きたことから彼と繋がりがあると判断した。……どうだね、ネイマンデ…これは君の捜し物なのではないかね?」

 

「Grrrrrr…」

 

 沈黙を貫いてきた彼がいつもよりも重々しい顫動音(クリッキング)で唸る。モニターに映る食い荒らされた死骸を凝視している彼は、マスクの下の顔を忌々しげに歪めている…隙きあらばプレデターをチラチラ見ているサムスにはそう思えた。そういう声で彼は唸っていた。

 また押し黙ったネイマンデは、ゆっくりと自分の左腕を己の胸の前まで持ち上げると装着されているウェアラブルコンピューターを右手の爪先で操作する。小気味良い電子音が鳴ると小型パネルに赤い象形文字のようなものが走り直後に青白い電光が空間にホログラムを投影した。

 

「わぁ…綺麗…って、なにそいつ!うわぁ…何だかグロテスク」

 

 超文明たるチョウゾ文化に触れて育ったサムスすら驚くレベルの精密な立体映像が異形の化物を映し出す。黒く硬質な、ヌメヌメとした粘液で覆われた外皮を持つ怪物。後頭部が長く後方へ迫り出し、口は歯と歯茎が剥き出しで目はない。背面から四本の呼吸器官の一種と思しきダクトのようなものがヒョロリと生えていて、手足はスラリと長い。太く鋭い尻尾が臀部から垂れ下がっていた。

 

kainde amedha(硬い肉)

 

「カインデ……あめ…ぢぁ?」

 

 幾らか聞き慣れたとは言え、相変わらず地球人種のサムスには発音が難しいプレデターの言語。それを見たネイマンデが、

 

「…… Xenomorph(ゼノモーフ)

 

ヘルメットの補助によりサムスにも聞き取りやすい擬態音声で()()()の別名を教えてやるのだった。

 

「ゼノモーフ…」

 

 サムスがその名をつぶやく。今もプレデターの腕から投影されるホログラムにそいつは映っている。様々な文字情報がご丁寧に言語翻訳され、チョウゾらにも理解できるものとなっていた。

 曰く、繁殖は卵生。成長するごとに変態し、その姿と能力を大きく変える。卵から孵った幼体は手近な生命に寄生し、寄生主の性質を受け継ぎつつ養分にして体内で育ちいずれ寄生主を破壊し体内から第二形態が現れ、その後さらに姿を変え成長する。血液は強い溶解性質を持ち、現代人類文明の持つほぼ全ての金属は腐食させられる程強力。地球の蟻に似た社会性を持ち、女王を中心として大量に繁殖する。強力な膂力、瞬発力、持久力、繁殖力、知能、環境適応能力、獰猛さを持つも通常種は比較的駆除や養殖が容易でありプレデター達にも儀式で利用される。しかし希少種はその限りではない。プレデター達ですら油断すれば寝首をかかれ、彼らの歴史の中で確認されたゼノモーフの中には駆除不能、無敵、完全生物とまで言われた希少種もいたとされる。かつて、太古の昔にヤウジャとチョウゾの宇宙戦争にスペースジョッキーが介入した折、スペースジョッキーがチョウゾに与えた神の牙…それこそがこの生体兵器(ゼノモーフ)であるともプレデターのコンピューターは告げていた。

 

「やはりあなたは知っていたのですね、ネイマンデ。確かにそのデータとSR388の生物らの死に様は多くの点で符号します。情報の提供…感謝します」

 

 マザーブレインが予想的中させた自分を内心で褒めながら彼へ言った。プレデターから未知の情報がこんなに提供されたという事実が彼女に歓喜の感情を生じさせる。情報そのものも嬉しいが、あのネイマンデが自分にデータをくれたという事実の方が嬉しいようだ。

 

「ゼノモーフ…!そうか…まさか神話に伝わる神の牙が犯人とは。スペースジョッキー由来の生体兵器となれば、我らの最強の戦士(メトロイド)が駆逐されてしまうのも理解できる…だが一体何故SR388でゼノモーフが繁殖しておるのか」

 

「…」

 

 オールドバードが抱いた疑問ももっともだが、直ぐにその解答は得られた。寡黙なプレデターがガントレットを操作するとホログラムが切り替わり、そこに映るは二つの宇宙船。一つは彼らもよく知る小型、流線型の銀の船…ネイマンデのスターシップ。そしてもう一つは大型で馬の蹄のような半円筒状の宇宙船。その二つの船が星一つ瞬かない暗黒空間で激しく()()()()()()を繰り広げる映像が流れる。双方が激しく撃ち合いながら航行し、そして空間跳躍を繰り返し、やがて両船とも火を拭き上げて…そのまま映像内で最後の空間跳躍を強行すると銀の小型船は位相空間から現れると同時に錐揉み状態で付近の星-ゼーベス-の重力に捉えられて墜落していき……そして映像が終わった。

 ネイマンデはメモリー映像の再生を終了させると、今度は馬蹄型宇宙船とSR388を別個に表示し、指でトントンと宇宙船を指し示すとホログラムで表示したSR388へと馬蹄型宇宙船を指でタップして引っ張り…そして墜落させた見せた。ネイマンデは、己と同じ様に馬蹄型宇宙船がワープアウトと同時に付近の星の重力圏に捕まったと予想しているらしい。

 

「…そうか、君はゼノモーフの卵を運んでいたキャリアーを追っていた、というわけか。そしてその輸送船が…」

 

「SR388に墜落した…けれどSR388はおじいちゃん達が厳重に隠していた…」

 

 グレイヴォイスとサムスがプレデターの顔を見ながら言うと、プレデターはゆっくりと頷いた。マザーブレインが大きな眼球をギョロリとさせて、

 

「…SR388の異変と、ゼーベスにあなたが現れた時系列上のズレは危険な状態での空間跳躍の影響でしょう。あのように船体にダメージを負った状態でワープすれば、時空に乱れが起きてしまうのも当然です、ネイマンデ。明らかに無謀の極みです…以後そのような無茶は慎むよう強く要請します」

 

明らかに怒った口調でプレデターを諌め始めた。随分と感情が豊かになったものだと、それを見るオールドバードは内心苦笑するが、直ぐにその暖かな気持ちを切り替える。それもそうだろう。明らかに状況は最悪なのだから。

 

「さて、多くの疑問が解決し、そして改めて今この宇宙が置かれている危険度も理解できた。余りに状況は悪い。ネイマンデが開示してくれたデータによれば、ゼノモーフはあらゆる生物に寄生しその特性を得て増殖する…まるで我らが危険視したXのように。Xへの対策として創ったメトロイドも、未完成だったとはいえ取り込まれ殺されてしまったのは確実だろう。つまり、今SR388にはXとメトロイドの性質を得たゼノモーフが潜んでいることになるのだ」

 

 

「…ちょっとした悪夢だな」

 

 グレイヴォイスが眉根を寄せながら渋り、義娘もそれにならって顔をしかめる。

 

「どう聞いても最悪よね。チョウゾの神様の兵器が、おじいちゃん達の秘密兵器を取り込んじゃったんだでしょ?あっ…そうか、こうやってゼノモーフが宿主を得て繁殖する前にネイマンデは止めたかったんだね…だから偶に宇宙に出てたんだ」

 

 サムスは腕を組んでウンウンと独り納得していた。

 

「不幸な偶然が重なった今回の惨劇…我らチョウゾ自身にもその責を問わねばなるまい。それにSR388に逗留していた同胞も犠牲になっている。ネイマンデ…君は恐らく独りで行きたいだろうし、この宇宙にまで輸送船とゼノモーフを追跡していたことから重大な使命もあるのだろう。だが、頼む…どうかこの脅威に我らチョウゾも立ち向かうことを許してもらいたい」

 

 オールドバードが老齢故に曲がった背を更に曲げて、プレデターへ深々と頭を下げた。そしてプレデターはいつものようにそれを黙って見る…のではなく「Grrrr」という低いクリッキングと、やや俯くようにして鋭い視線で応えたのだった。不快であったり否定的であったりする時、彼はこういう声と仕草をする。つまりは嫌だということらしい。

 

「…確かに、生半可な者が乗り込んでも戦力になるどころか、ゼノモーフに寄生され新たな性質の獲得や繁殖に手を貸すだけでしょうな」

 

 グレイヴォイスは(ネイマンデ)が同行を拒否したことに理解を示したが、

 

「だが、それでもやはりネイマンデを一人で行かせてはならない。悪いが…君一人ではとても勝ち目があるとは思えない。勇敢や蛮勇を遥かに通り越してただの自殺だよ。生半可な者が同行しなければいいだけの話だろう。……私と、そして何体かのディガーノートならば君の同行者に相応しいだろう。ネイマンデ、それでいいかな?」

 

想像を絶する死地に友人を独りで行かせるのは、やはり有り得ないようだ。少しの沈黙の後で、ネイマンデはゆっくりと頷いた。やはりグレイヴォイスへは一定の評価を抱いているらしい。

 

「そうか、行ってくれるかグレイヴォイス」

 

 その様子にオールドバードはホッと胸を撫で下ろす。彼もグレイと同じことを考えていたらしい。プレデターと刃を交えて生き残ることが出来るチョウゾ戦士はもはやグレイヴォイスぐらいなのだから当然の帰結といえた。

 

「ちょっと!」

 

 その時、突然ソプラノの大声で割り込んできた者が一人。当然、サムスだ。

 

「なによ!私は採掘機械(ディガーノート)以下なわけ!?私だって戦士の訓練をずっと受けてきた!もう戦えるわ。私も連れて行ってよ!」

 

「バカを言うな。君は確かに肉体は頑健になったが、未だに技術面で粗さ、精神面で脆さが目立つ。現に身体能力で私やネイマンデに迫っているのに、手合わせで一勝も出来ていない」

 

 グレイがばっさりと義娘を切って捨てたが、サムスはムッとした顔になって更に食って掛かる。

 

「言っとくけどグレイとネイ以外には一度も敗けてないわ!ネイ達が…ちょっと強すぎるだけよ!少なくともディガーノートよりは私のほうが使えるって!」

 

「…私とネイマンデ以外と組み手をしたことがないだろう…。ふぅ、それにさっきの話しを聞いていただろう。多少強かろうが、生物である時点で寄生される可能性がある。余程の実力者でなければゼノモーフの餌に過ぎん。その点でディガーノートは寄生される心配はないし、今SR388がどういう状況になっているか分からないからな…採掘機械がある方が都合がいい。しかもディガーノートは戦闘力も高い」

 

「むぅぅ~!ちょっとおじいちゃんとマザーも何とか言ってやってよ!」

 

 旗色悪しと見てサムスは援軍を求めたが、

 

「今回は危険過ぎるよ、サムス。おまえの初陣には相応しくない…我慢しておくれ」

 

オールドバードも、

 

「過去、〝油断したから敗けた〟と訓練に敗北したあなたが言い訳した回数は97回です。実戦で油断は即、死を招きますよサムス。今回はスペースジョッキーの神の牙…ゼノモーフが、しかもメトロイドとXの性質を得ている状態で繁殖しているかもしれないのです。出撃は許可できません」

 

マザーも味方ではなかった。サムスはぐぬぬと唸るしか出来ないが、最後の希望とばかりにプレデターに飛びついた。読んで字の如く、いつものようにガバリと飛びついて脚でネイの腰を羽交い締めて厚い胸に縋り付きながら嘆願するのだった。

 

「ネイ…!お願い、私だってもう戦士なんだ!ずっと訓練していたのは、こういう時に銀河の守り手として戦って皆を守るためなのに、なのに危ないから留守番だなんて…そんなの戦士じゃない!お願いよ、ネイ…私、絶対立派に戦ってみせるから…!あなたの横で…一緒に戦ってみせる!」

 

 少女が涙目で、必死にネイマンデへ懇願してくる。

 

「…」

 

 プレデターは静かに少女の潤む瞳を見、そしてその潤んだ少女の目の奥に確かな闘志が燃え盛っているのを見た。少女の心の奥底には、今も紅蓮の炎の中で死んでいく母や故郷の人々の姿がありありと浮かぶ。炎の中で高々と奇声のような雄叫びのような笑い声を上げる翼竜のような怪物の姿も。あの惨劇を繰り返させない…それこそが、未だ少女でありながら、その細い双肩に銀河の平和を一身に背負ってみせると気負える程の芯の強さを、サムスへ与えていたのだ。ネイマンデはサムスの心底に眠るその強い闘志が何ともいえず好きだった。

 

「…ツイテ・来イ」

 

「っ!えっ!?あ、ありがとう…!って、い、今…ネイ、共通語…喋ったの!?えっ、ちょっと待ってネイ…もう一度言って!ねぇもう一度言って!」

 

 声真似ではない、彼から投げかけられた初めての共通言語。恐らく彼がこの宇宙で初めて喋った共通語だろう…そう思うとサムスは得も言われぬ嬉しさが胸の内に広がっていくのを感じていた。のっしのっしと歩いて部屋を去っていく彼に、サムスはいつまでもつきまとっていた。

 



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チャプター07 メトロイド・マイナスミッション

 プレデターとサムス、そしてグレイヴォイスと5体のディガーノートらは、装備を整えチョウゾの中型宇宙船に乗り込むと直ぐにゼーベスを後にした。目指すは勿論SR388…一刻の猶予もない。時が経てば経つほどゼノモーフは数を増やし新たな形態を獲得するかもしれず、また急げばまだゼノモーフにやられていない生物を保護できるかもしれない。

 

「だが、映像を見た限りでは正に動くもの一つ無い死の惑星だった。最悪、惑星の生物全てが既にゼノモーフにやられている可能性もある」

 

 チョウゾスターシップの中で、ネイマンデ、サムス、グレイの3人は簡単なブリーフィングを行っていた。とは言っても作戦行動を詳細に詰めることもできない。SR388に送り込んだマザーの視覚デバイスも惑星全域を調査する前に全機が通信途絶に陥っていた。確実に分かっているのは危険であるということだけだ。グレイヴォイスの発言はネガティブなものだが、そういう最悪のシナリオも有り得る。

 

「サムス…決して勝手な行動はするんじゃないぞ?本来なら決して連れて行くべきではないレベルなのだ。絶対にディガーノートの陣形の内側か、私やネイマンデと行動を共にするんだ。ネイマンデ、SR388ではゼノモーフを直接知る君を中心に…む?」

 

 その時だった。シップの警告音が突如船内に響き渡る。レッドアラート。高エネルギー反応接近。船体が大きく揺れた。中型シップを包むエネルギー障壁(シールド)が一撃で消失する。

 

「きゃあ!?」

 

 態勢を思い切り崩したサムスが転げ回る寸前、ガバリと逞しい手が未だ華奢な彼女の体を抱きすくめる。

 

「ネイ、あ、ありがとう」

 

こんな時だと言うのに少女は思わず頬を赤く染めてしまったが、その後ろではグレイヴォイスが必死に操縦桿を操作していた。

 

「なんだと?SR388から位相光線砲(フェイザーキャノン)!?馬鹿な…明らかに兵器からの攻撃だ…!しかもこれ程の出力は銀河連邦もスペースパイレーツも持っていないぞ!?兵器を操作できる高度知的体があの状態のSR388に潜んでいるというのか…!」

 

 現在、船は自動操縦だが本来ならオートでも簡単な攻撃行動・回避行動を行える程度には優秀なAIがこの船を動かしている。だがアラートを発した時には既に船に致命傷を受けていたことから相手は只者ではない。自動操縦(AI)では対応出来ないだろうというグレイの判断から直ぐに彼は手動に切り替えたがそれは少し遅かった。間髪入れずにフェイザーキャノンの二撃目がサムスらの乗るシップ本体を直撃。船体は爆発を起こして後部噴射口をごっそり消失しながら乱回転状態でSR388の重力へ引き寄せられていく。

 

「くそ…!脱出ポッド全喪失!態勢を立て直すしかない!全員パワードスーツを展開しておけ!上手く生き延びろ!大軍神のご加護があらんことを…!」

 

「ネイ…!グレイ!」

 

 指示された通りにパワードスーツを展開したサムスが唖然とした表情のままバイザー越しにコントロールパネルと格闘するグレイを見て自分も直ぐに操縦の補助に行こうとしたが、

 

「助けは意味がない、無用だ!地表激突まであと10秒!全員衝撃に備えろ!ネイ…そのままサムスを頼む、任せたぞ!」

 

補助されるよりも地獄の棺桶と化したシップから生き延びるには衝撃に備える方が0.1%でも生存率は上がるとグレイは判断した。先程の衝撃から養女を守った態勢を維持するよう友に懇願すると、少しでも起伏の緩やかな地表目掛けて船を墜落させていく。

 

 船体がさらに火を吹き小爆発を繰り返す。新たな亀裂が無数に入り、そして大きな金属音と共に残っていた船体前半分が幾つかの大きな残骸へと変わり果て、

 

「グレイ!!」

 

叫び腕を伸ばすサムスらがいる後部座席側と操縦席の先端部とが別々のブロックに分かれて飛散した。ネイマンデ、サムス組とグレイヴォイスとで別れてそれぞれが凄まじい速度で空中分解してしまった。サムスは必死に腕を伸ばしたが、そんな彼女をネイマンデは強く抱きすくめて高速で放射状に落下していく残骸内から素早く周囲を精査(サーチ)。土壌が比較的脆い砂岩目掛けて嵐吹き荒れるSR388地表へ少女を抱えながら自ら飛び出した。

 

「Grr!」

 

 彼からしてもそれは賭けだ。だが勝算がある賭けだ。荒れる緑の大気の空に身を投じながら、左腕でしっかりサムスを抱き右手で左腕部のガントレットを操作する。普段では決して使わない個人用防御力場(パーソナル・フォースフィールド)を起動すると薄緑の亀甲形状のエネルギー障壁が展開されて一瞬でプレデターとサムスを包んだ。彼らを包んだこの力場は、プレデター種族のスターシップに使用されている物の小型・簡易型の個人携帯バリアだ。一度展開すれば無敵とも言える防御力を発揮し、その防御力を突破できるのはプレデター達と並ぶ技術水準を持つ文明だけだ。すなわちスペースジョッキーとその被造種族エンジニアだけだった。しかしプレデター達は堅牢無比なバリアをあまり使わない。いや、あまりというよりも全く使わない。バリアを使うことは傷つくことを恐れるということで、彼らプレデターにとって傷つくことを恐れず破滅的に勇敢に困難に挑むというのは非常に魅力的な美徳であり勇者の証だった。今、ネイマンデがバリアを使ったのは〝名誉〟に反することだったが、それでもネイマンデはかつて自分の命を救った少女の為にバリアを起動した。

 

 びゅうびゅう風を切り、猛烈な嵐を突っ切りながらネイマンデはサムスをしっかりと腹側に庇って脆くなった老朽の岩壁へと突っ込んだ。落雷のようなけたたましい音を立てて岩壁が崩壊する。同じ様に遥か岩山を越えた先に落ちていった中型シップの先端部も山の向こうに墜落し大爆発を起こしたのがネイマンデの視界の端に映っていた。

 

 衝突によって打ち上げられた岩石の雨が激しく降る。腕の中の少女が小さな呻き声をあげた。

 

「う…ネイ…グレイは?」

 

「…」

 

 ネイマンデは何も言わずただサムスを見て、ゆっくりと遠方の岩山を指さした。ネイマンデの指を追って視線を向けると、そこには重々しい暗く厚い雲で薄暗い夜空を照らす炎の灯火が見える。激しい嵐の中でもはっきりと炎と煙があがっていた。

 

「…グレイ、そんな…」

 

 サムスは、あれでは養父の生還は難しいと思ってしまった。義娘としては勿論生還を信じたいが、戦士として育てられた冷徹な思考部分が理性的な結論を彼女に教えていた。だが、今は感傷に浸っていられる状況ではない。それはネイマンデもサムスも理解している。

 

「……今は、グレイのことよりも私達のことね。いきなり補給と帰還の術を失ったけど、きっとすぐにマザーが異変を知って新たな船を派遣してくれるはず。…SR388での危険生物の調査及び駆除…何て言ってられない危機になっちゃったわね」

 

 ジャガンナートも恐らく全機喪失しただろうし、ベースキャンプとなるべき船もなく、そしてグレイヴォイスとも逸れてしまい最悪、彼はもう死んでいる。それでも若すぎる戦士サムスがパニックにならずにいられるのは屈強なプレデターが今も隣にいてくれるからだった。

 

「わっ!?」

 

 ネイマンデがいきなり立ち上がった。サムスを、いわゆるお姫様抱っこで抱えながら十数m以上ありそうな岩山から飛び降りる。膝を柔軟に使って見事に着地した彼は、そのまま大股で走って岩山から離れていくと、惑星に吹き荒れる長年の嵐にさらされてしかも先の衝撃が致命傷となった岩山はとうとう耐久限界を迎えて大崩落が始まったのだった。大量の土煙は一瞬で嵐にかき消され吹き飛んでいく。

 

「…Krrr」

 

「あ、ありがとう、ネイ…、でも…は、はやく降ろしてよ!私は平気だからっ」

 

 少女は今までは自分から抱きついていて、その時はただ親愛の情を感じて自分から頬を擦り付ける程だったが、今、彼の方からこうして抱きすくめられると自分でもなぜこんな頬が熱くなるのか理解しきれずにバタバタ手足を動かして(ネイ)の腕から逃れようと藻掻くと、素直にネイマンデは彼女を解放した。彼の腕の中からパッと飛び退いて猫のようにしなやかに身を捻って華麗に着陸するサムスを見て、ネイマンデは彼女の無傷を確認できたようでどこか安心した様子を滲ませた。

 

「とりあえず…船の落下地点まで行ってみて、グレイの安否確認をしなきゃ!Xやゼノモーフのことはそれからでも遅くない…でしょ!?」

 

 ネイマンデのマスクの目線から逃れるようにややそっぽを向きながらサムスが右腕にカノンを展開させながら言う。彼に抱かれた時の熱さや養父グレイヴォイスの身の心配などで、少しサムスには落ち着きがなくなった。だが、ネイマンデも否はないようだ。静かに頷きながら左拳をサムスの頭部バイザーの眉間部へゆっくり触れさせた。

 

「ん…ありがとう、ネイ。行こう!」

 

 バイザー越しとはいえ迫りそして触れてくる彼の大きな拳に、さっきの頬の熱さに似たものをサムスは感じる。静かにコホンッと咳払いして熱を霧散させ、深呼吸をし心身を落ち着けると少女は走り出した。プレデターも彼女に続く。

 

(落ち着かなきゃ。大丈夫…グレイはきっと生きている。チョウゾのパワードスーツはやわじゃないし、グレイだって戦士なんだ。体は丈夫なんだから)

 

 鋭い岩肌を踏み砕きながら疾走する二人。まるで小型高速艇(スピーダー)のような速さで荒野を駆け抜けていく。生命を感じさせない死の荒野。まさに今SR388は悪魔が闊歩する死の惑星なのだ。一瞬も気が抜けない。

 一回の跳躍で数mから十数mも飛び跳ねて、しかもそれを安定し連続で繰り出せる二人の超人は30分も経たぬうちに標高3000m級の岩山を2座程踏破していた。古代人類史に謳われる忍者のような身軽さだ。二人は最大限の警戒をしながらもあっという間にシップの墜落現場に到着し、そして…ネイマンデの心情は読めぬが、少なくともサムスは悲嘆に暮れた。

 

「…そん、な」

 

 サムスの声は震えていた。燃え盛り、破片は細かく引きちぎれて一つとしてまともな残骸はない。少女の脳裏にかつて記憶が一瞬フラッシュバックする。かつてスペースパイレーツに襲われ、何もかも燃えた故郷。炎の中で死にゆく親。大切な人達。

 

「グレイ!グレイ!!」

 

 サムスが戦士としてではなく少女として無防備に駆け出す。炎に突っ込み、ひしゃげた装甲板や原型を留めていない機器を放り投げて必死に瓦礫を掻き分けていく。そんな必死な少女を尻目に、プレデターの若き戦士は周囲を見渡した。

 

「Krrr」

 

 腕部ガントレットの幾つかのキーをを指で軽く叩くと彼の視界は様々に切り替わってあらゆるセンサーで視覚情報量を増やす事が出来る。熱量、光量、音、動体、臭気、フェロモン、微弱な電気信号をすら正確に感知することで生物の感情の揺らめきすらプレデターのヘルメットは暴き出す。情報の精度の質はヘルメット着用者の〝狩り〟の経験によるが、ネイマンデのヘルメットコンピューターが積んだ経験値は、少なくとも素人ではない。故にプレデターは忍び寄る魔の手に気付いて、サムスがそれに気付くかを見守る程の余裕があった。

 

「…?なに?」

 

 自分の頭上に差し掛かった影に気づき、サムスは反射的にそちらを見る。少女の視界には崖上からひっそりと近づき、そして今まさに飛び掛からんとするナニかがいた。

 

「なっ!?」

 

 そいつは嘴とギョロリとした一対の眼球を持ち、羽毛の肉体には軽プロテクターを装備し槍を突き刺さんと大上段に構えて跳んでいた。驚くべきことにその姿はどこからどう見てもチョウゾだ。意表を突いた奇襲であること以上に、平和を愛するチョウゾが殺意を剥き出して襲ってきたという衝撃の余りサムスはアームカノンを構えることも出来なかった。サムスのバイザーに映る槍の穂先が彼女の顔にグングンと迫ってきた次の瞬間。

 

「ギッ!?」

 

強烈なプラズマ光弾が襲い来るチョウゾ()()()に直撃し数m程を吹っ飛ばして崖にめり込ませた。左胸をごっそり抉られたチョウゾモドキはやや藻掻き痙攣した後に、やがて手足をだらりとさせて槍を手放して停止した。サムスの頬を嫌な汗が伝う。

 

「あ、ありがとう…ネイ。……こいつ、何だろう?チョウゾ…なの?」

 

 SR388の生き残りのチョウゾだろうか。凄惨な現場に取り残されて狂乱に陥った可能性もゼロではないだろう。サムスがそう考える僅かな間に、見ればネイマンデは速やかに次の行動に移っていた。

 

「…?ネイ、なにを…」

 

「Krrrrr」

 

 ネイマンデは独特な顫動音を漏らしつつチョウゾモドキの死体へ左腕ガントレットを向け即座に弾丸を撃つ。弾丸は死体の直前で(ネット)状に展開すると死体を包み、すると死体と思われたそいつは直ぐに劇的な変化を見せたのだった。

 

「ギ、ギ、ギGI・ギ・GI・GIGI…!」

 

 癇に障る音を発したながらチョウゾであったモノは溶けていき、その姿は美しい彩色のアメーバ状へと変化していった。アメーバを包むネットは、不思議なことにその大きめな隙間からそいつの軟体を逃がすことはなく、逆にアメーバ生命体は縮んでいくネットに苦しめられて藻掻き、とうとう脱出すること叶わず液状生命体は手のひら大にまで圧縮されてしまったのだった。手のひら大のそれをネイマンデで拾い上げる。

 

「一体何なの…そいつは?」

 

 サムスはバイザー内の表情に好奇心を匂わせている。様々な種の生命を愛し理解しようとする強い母性の本質が、彼女にそうさせていた。戦士として、いつか隙を作ってしまいそうなその本質をプレデターは心配し仮面の下で僅かに片目を歪めていたが、その本質故にネイマンデと知り合い、そして今も交流が続いているのだから一長一短であった。

 ネイマンデは、極小になったゲル生命体を手早く懐から取り出した試験管らしき筒へと押し込み、封印する。そしてそいつをガントレットの差し込み口へ挿入すればコンピューターがホロビジョンでサムスの疑問を解消してくれるのだ。

 サムスの顔色がどんどんと青くなっていった。

 

「寄生生命体Xに…ゼノモーフとメトロイド…そいつらのハイブリッド!?…とんでもない事になっている…。ふぅ…とにかく最悪ってことは分かったわ」

 

「そうだ」

 

「―ッ!?」

 

 突然、背後から聞こえた言語にサムスは咄嗟にアームガンを構え振り返ったが、その声の持ち主を記憶から検索し、構えた先の人物の姿を捉えれば警戒は瞬時に解かれた。よく見知った、兄とも父とも慕う鳥人族が半死半生の姿でそこにいた。

 

「グレイ!生きていたのね!」

 

 よろける鳥人族にサムスが駆け寄って支えてやる。この傷で生きているのが不思議な程の重傷だが、生きていてくれればそれ以上は望まないサムスであるが、当のグレイヴォイスは酷く口惜しそうな表情だ。

 

「…生きているだけさ。今しがた…君達が退治したXの変異体に…この通り片腕ももがれて…もはや…私は戦力に…ゴホッ、ならん」

 

「そんなことない!生きてくれているだけで…良かった」

 

 シップの大きな装甲片に寄り掛かり、荒い息で言葉を紡ぐグレイ。血を多量に流しているし、目を背けたくなるような凄惨な傷跡も体の各所にあった。宇宙船の墜落の中で生き延びれたのは鳥人族のバトルプロテクターのお陰でもあり、変異体Xに襲われて片腕で済んだのはグレイヴォイスの戦士としての天賦故だろう。

 

「…ネイマンデのコンピューターが示した通りだ、サムス。ゴホッ、ゴホッ…そいつらが寄生生命体X。この惑星の固有種であり、本来ならば保護すべき貴種といえる」

 

 血混じりの咳を吐きながら、グレイヴォイスは「だが―」と続けた。

 

「だが、Xは保護してはならない。私達の心配は当たっていた……ネイマンデの追っていた奴らのせいで…変異している。絶滅させる必要がある。必ず、だ」

 

「…それは…Xとゼノモーフが混じり合って適合しつつあるから…というわけね」

 

 サムスの言葉にグレイは頷いた。ネイマンデも、無言で同意をしている様子であった。グレイが深い溜息をついて言う。

 

「君達が来たから、あのXは私の始末を後回しにしてサムスとネイマンデを奇襲した。瀕死の私等いつでも始末できると判断したんだろう…そのお陰で私は命を拾ったが」

 

 サバイバルキットの医療セットを展開し、グレイへてきぱきと治療を施しつつサムスはメットの下で微笑んでいた。

 

「状況は極めて悪い。…船はいきなり撃墜。グレイは戦線離脱。Xとメトロイドとゼノモーフのキメラが彷徨いている……でも、大丈夫よグレイ。私とネイがいるんだから。あなたはここで休んでいて」

 

 注射器から注入した治療ナノマシンが、グレイヴォイスの欠けた肉体と血を徐々に癒やしてくれる。だが、瞬間的ににょきにょきと再生するわけではなく即座に戦線復帰は出来ない。グレイヴォイスの戦線離脱はやむを得ないだろう。グレイも「あぁ」と短く了承した。

 

「私はここに残って……無理かもしれないができるだけ船を修理しておこう。船体が割れたから飛ぶのは不可能だろうが、ディガーノートや…せめて星間通信や治療ポッドだけでも使えるようになれば…」

 

「うん、そっちは任せる」

 

「フッ…偉そうに言うな、サムス」

 

「へへっ、当たり前でしょ。今は私のほうが一端の戦力なんだから。怪我人は大人しくしててよ、パパ?」

 

 パパ呼ばわりにグレイは肩を竦めて頭を振る。だが、少しだけ嘴の端の筋肉が持ち上がっていた。

 

「遺伝子的にはそうとも言えるが、やめたまえ。私はまだ君みたいなデカイ子を持つ歳じゃないのでな」

 

 口調は努めて冷静だが、それが照れ隠しなのはサムスには分かった。そんな二人の不器用ながら温かな親子の交流の様子を、プレデターはジッと黙って観察している。

 

「はいはい、行ってきます。パ・パ!」

 

 わざとらしくパパを強調したサムスが、ネイマンデへ振り返って彼の手を握る。

 

「じゃあ行こっ、ネイ」

 

 プレデターの腕を引っ張るようにしてサムスは駆け出して、ネイマンデもそれに倣う。グレイヴォイスは、遺伝子的娘の治療で幾分楽になってきた体を引きずって立ち上がると、

 

「デート気分で足元を掬われるなよ!サムス!ネイマンデ!彼女を頼む!」

 

そう叫んで二人の背を見送った。

 一緒に行けぬのが口惜しいとは思う。だが、グレイヴォイスはその二人の背に、頼り甲斐のある良い気配を感じて、見送る心をは暗いものではなかった。

 

「…サムス、厳しい初陣になるぞ。…娘は任せたからな…ネイマンデ」

 

 状況は厳しい。生きて活動するXの存在は確定し、擬態の達人であるXは少しも油断ならない。Xベースのゼノモーフ、メトロイドベースのX、ゼノモーフベースのX…どのような化け物がいるか全く分からないのだ。

 

「……あの二人も厳しいが、さて……私も…なかなかだな、これは」

 

 小さくなっていく二人の背が消えてから、振り返ったグレイヴォイスは包帯の巻かれた頭を軽く掻く。残骸だらけのバラバラの宇宙船の修復は、普通ならば数週間掛けて行うものだ…例え、叡智のチョウゾといえども。グレイヴォイスの孤独な戦いも今、幕を開けていた。

 



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チャプター08 ミューテーション

 そいつは創生の巨人の模倣生物(イミテーション)に連れられてここに来た。巨大な蹄鉄のような形状の宇宙船を揺り籠にしながら、それらはここに運ばれてきた。そして、追跡者たる狩人に狙われ射たれ黒い星海から大地へと墜ちていった。

 落下の衝撃で、眠るそいつら…ゼノモーフ(エイリアン)は目覚め、孵化し、細長い尾と脚で素早く自在に動くフェイスハガーとなって船内を闊歩する。船内で気を失っていた巨人模倣生物…すなわちエンジニアに取り付き、創造主を模したバイオヘルメットを突き破って体内にフェイスハガー自身の分身とも言える()()()()を植え付け、育つ。育って育って、そして宿主が気付く頃には手遅れとなって、体内から食い破り彼らはまた一段階成長する。フェイスハガーからチェストバスターとなったそれらは潜伏場所の役目を終えた宿主を食い荒らし、得たエネルギーと餌の捕食で更なる成長を遂げる。このサイクルを極めて短期間に行い、エイリアンはあっという間に成体となってしまうのだ。成長速度だけではなく、繁殖速度も極めて速く爆発的に増殖する。ウィルス的な進化速度と増殖力を持ち、しかも付近に手頃な宿主がいなくなってしまえば寿命を迎えて速やかに死に絶える。機能美の化身とも言える生物兵器が彼らエイリアンであった。

 

「GGGGGGGG!」

 

 短時間で成体にまでなったエイリアン達が唸り、そして一気に船外へと拡散する。次から次に惑星SR388の生物を食い荒らし、産み付け、増える。その連鎖の中でエイリアン達は対等な敵とも言える性質を持った強生物と出会い、そして争ったのは自然の摂理の必然だったのだろう。

 X、メトロイド、エイリアン。

 メトロイドはXの能力を封殺し捕食してしまう天敵だ。だがエイリアンの速度と、体内に寄生し遺伝情報を取り入れた上で宿主と半同化し成長してから一気に体内を食い破るエイリアンは、メトロイドの天敵足り得た。

 Xはアメーバ体で捕食対象に覆いかぶさり溶け込んで同化する。故に口からだけでなく体中のゼラチン質からもエネルギーを吸収し敵を枯渇させるメトロイドには敵わない。だが、エイリアンに対しては捕食とコピーが可能であるのでエイリアンの天敵足り得た。

 三すくみとなってSR388の生態系も安定するか…と思いきやそうはならなかった。エイリアンは、メトロイドとXと比べ、一つ…圧倒的に優れている能力があった。言わずもがな〝繁殖力〟だ。SR388に在住する他の動物に片っ端から寄生し爆発増加したエイリアンは数の暴力でメトロイドを圧倒。Xに対しても、最下級の働きアリに相当するエイリアン・ウォリアー達がまるで自身を生贄に捧げるが如く積極的に被捕食を繰り返し、Xに対しての知識と抗体を短期間で獲得していったのだ。それは最初の宿主としたエンジニアから得た知性がさせた事かもしれない。サムス達の乗った宇宙船へ位相光線砲(フェイザーキャノン)が放たれた事からも、そういった知性体が潜んでいるのは明白だ。そして、Xへの完全な耐性を得た個体が最も優れたモノとして『女王』に選抜進化する。

 エイリアンは創生の巨人スペースジョッキーが手ずから創造した、あらゆる環境・状況に適合する生物兵器にして『完全生物』。

 今、地獄の惑星SR388にはエンジニアとメトロイドとX…それらの特性を獲得した女王エイリアンが、新世代のエイリアン達を次々に産み出している…その真っ最中だ。今ここで狩人達がミッションを成功させねば、宇宙は完全生物達によって未曾有の被害を被るだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狩人達が無数のブラスター光を撒き散らして、寄る化け物を抹殺している。砲身と化している右腕が光り、目無しの黒い生物が「Giiiiiii!」と気色悪く甲高い泣き声を上げながら、緑色の酸性体液を溢して四散した。

 

「――っ!…ふぅ。これで何匹めだろう。きりがないってのは、まさにこういう事ね」

 

 バラバラになったエイリアンの黒い肉片が、うねうねとのたうち回るのをサムスは嫌悪の表情で見つめる。Xやメトロイドと半融合を果たしたエイリアンは、肉片の状態から再生しようと足掻いているのだ。

 

「…」

 

 そして、その肉片へもう一人の狩人…プレデターの青年が寡黙なままに、低出力に設定したプラズマキャスターを的確に連射して消滅させていった。

 破片を見逃せばXの如く再生し、メトロイドのようにエネルギー吸収を繰り返して瞬く間に再生・復元されてしまう。現に、少し前に退治した個体は肉片から僅か数分で無傷の個体にまで再生して再襲撃してきたのだ。驚異であった。ハンターの少女と青年はまた一段階、警戒心を強めねばならなかった。

 

「タフで、素早くて、爪と牙は鋭い。血も浴びてはならない。2秒以上触れられても、 X型の捕食(融合)メトロイド型の捕食(吸収)がその部位から始まってしまう…」

 

 つくづく厄介過ぎる。サムスがバイザーの内で溜息を吐いた。今、少女は敢えて口には出さなかったが、このバケモノにはオマケに再生力と繁殖力、そしてひょっとしたら知性までが備わった個体もいるかもしれないのだ。殲滅兵器として見たら満点を出してもお釣りがくる。

 サムスがうんざりしていると、プレデターが彼女をジッと見ていた。

 

Mo Me'tai(時間が無い)

 

 言いつつ、ガントレットCOMPを起動し、退治してきたエイリアンから得たサンプルデータを開示。データグラフィックスの隅には、プレデター文字でタイマーが時を刻んでいる。

 

「クイーンが産んだ新世代の卵…それが孵化するまでの時間、か」

 

 少女は唸った。必ずしもこうであるというわけではないが、プレデターの技術力が解析し、予想したそのデータは予言以上に確かな未来予測だ。100%ではないものの極めて100%に近い確度で将来の予測図を提示してくれた。

 ネイが、ガントレットCOMPからサムスのパワードスーツのCOMPへと必要なデータとアプリケーションを送信してくれる。これらがあればサムスもミューテーション達の生体反応を知覚出来るはずだ。

 通常、プレデターが他者の為にここまでする事はない。世話をする、される、というのは彼らの種にとっては不名誉な事だからだ。1人で狩りも出来ぬ半端者…。世話をされるとはそういう事だ。プレデターにとってそれは死よりも辛い、魂の拷問である。だから彼らの種は同胞が死に瀕しても助力せず見守る。同胞が死ぬことで大切なハンティングが失敗に終わるかもしれぬとも、プレデターは己の誇りを何よりも尊び、肉体の死を軽視する者達であった。そういう価値観を持っているというのにネイマンデはサムスに助力を惜しまない。これはやはり特異な事だった。

 そんな特異なプレデターから齎されたデータによると、エイリアンは既に女王を頂き、そして女王は繁殖準備に入っていると予感できた。今、SR388上を闊歩している即席ハイブリッドのエイリアン達とは一線を画する、三種族の特性をクイーンの胎内で高次元でミックスした新世代エイリアン。そいつらが一斉に誕生するまでのタイムリミット。

 

「そうだね。愚痴なんて、言ってられない…離脱したグレイの分も、私達がやらないと!」

 

 大事な戦いの直前に、トラブルで本戦を離脱せざるを得なかった若きチョウゾ・グレイヴォイスの無念を思い、そして迫る危機を思う。サムスは、自分が銀河の守り手として期待されている立場を再度思い出すのだった。

 

「グレイがスターシップの修理をしてくれれば、通信を受け取ったマザーやおじいちゃんがきっと増援を寄越してくれる。うん…私、頑張るよ、ネイ。…それにあなたが横にいるんだから」

 

 プロテクターの音を響かせ、二人は嵐の大地を駆ける。ザァザァと酸性の強い雨が降り、大量の磁気を含む風の乱流が地表付近を吹き荒れた。10を超える竜巻が一斉に沸き立って荒野を削り、暗い空を切り裂いていく。優れたバイザーでなければ激しい雨で目の前は何も見えなくなっていただろう。それどころか、生半可な装備では強酸性の雨であっという間に融けてしまう嵐の中を二人の若いハンターは走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―Pipi,pipipipi…

 

 サムスのアームカノンと一体化しているコンピューターが、持ち主へ危険を知らせた。同時にネイマンデのガントレットも同じ警告音を発した。

 

「ネイ、大量の反応だわ」

 

「Rrrrr…」

 

 雑種(ハイブリッド)エイリアンの生体反応が荒れた大地の下からするということは、つまり地下にエイリアンは巣食っているのだろう。

 

(あの岩肌にチョウゾがつけたゲートがある…あそこから――)

 

 サムスは素早く周囲を探査し、模範的な正答を高速で導き出した。しかし、プレデターの相棒はそんなまどろっこしい選択肢を選ぶ気は無いようだ。

 ガントレットから迫り出した金属がネイマンデの手の甲を覆うと、青白い光が薄っすらとプレデターの拳を包む。ネイマンデが無造作にその拳を振り上げた。

 

「え?」

 

 サムスが少し素っ頓狂な声をだし、そしてプレデターは拳を地面へ叩きつける。轟音と共に大地が抉れ、割れ、そして脆くなりかけていた地層が雪崩れるように砕けて即席の通り道を造ってしまった。

 当然、二人は落下した。

 サムスは一瞬「きゃっ!」と少女らしい声を出したものの、すぐにそんな自分を諌めて落下中に体勢を整えて、そして落下しつつもネイマンデへ抗議を寄越す。

 

「せめて事前に一言欲しいところよね。今度から頼める?ネイ」

 

「…」

 

 プレデターは首を少しかしげるように傾けてサムスへ視線を寄越す。どうやらそれが答えらしい。

 

(了承してくれたのか、諦めろって言ってるのか…。もぅ…ネイったら)

 

 サムスの感情は憤慨というよりは〝仕方ない〟と思いつつの苦笑だ。プレデターの…というよりもネイマンデのそういう性格はもう分かっていて、そしてサムスはそんな彼の個性を好ましいと思う。

 瓦礫と共に数十mを軽く落下し、二人は見事に受け身をとって着地。素早くキャノンを構える。

 

「なんなのこれは…」

 

 地下には自然の洞穴を上手く利用したチョウゾの施設がある筈だった。少なくとも事前にマザーから教えられたマップデータにはそう記載されている。しかし、二人の目に飛び込んできた地下は、まるで地下全体が生物の腹の中になったようだった。うねうねと、ぎとぎとと、脈動し滑っている。地下の壁も天井も床も、全ては有機的な細胞壁に覆われていた。

 

「まるでエイリアンの皮膚のよう」

 

 サムスのスーツのCOMPの解析が、その感想が極めて正解に近い事を教えてくれる。

 

te'dqi(サーペントの分泌液だ)

 

 ネイマンデは知識と経験からそれを知っていた。

 これらの有機体はエイリアンの分泌液から造られる。そしてその成分はエイリアンを構成する体組織と近しく、組成成分としても形状としても模様としてもエイリアンを擬態させる。つまり、この(ハイブ)では何時如何なる時、場所からもエイリアンが奇襲してくるのだ。このように…。

 

「SSSSSSSSSK…」

 

 天井から、壁から、蛇の威嚇音を何倍も悍ましくしたような唸り声をあげながらエイリアン達がうぞうぞと這い出てくる。

 

「あ、あはは…熱烈な歓迎ね。これは」

 

 未だ若過ぎるくらいの少女である戦士サムスには、生理的嫌悪を催す黒い生物が大挙して押し寄せるこの光景は強烈だった。その一方で、彼女よりも経験も年も積んだ青年の狩人は唸り、そして大声を上げる。

 

「RROARR!」

 

 マスクの照準装置が赤い光点をエイリアンどもに向ける。プラズマキャスターが青白い火を拭き上げた。負けじとサムスもアームカノンのエネルギーを次々に撃ち出す。

 

「Gaaaaaaa!!?」

 

「SKREEEEE!」

 

「Giiiiiiiiiii!!」

 

 下層カーストの尖兵のバグの群れが蹴散らされていく。二人の若きハンターは猛者だった。このゼノモーフ達とて、メトロイドとXの性質を獲得した恐るべき生体兵器なのだが、如何せんメトロイドとXのDNAマトリクスは複雑に過ぎる。さすがのゼノモーフでもこの性質を完全に自種族のものにするにはもう一世代を経て馴染ませる必要があった。その、馴染んだ第2世代…つまりクイーンの産んだ卵から孵る世代ならば、勝機はあったろう。それか、このハンター達が或いは1人だったなら現段階でも充分勝機はあった筈だが、残念ながらサムスにはネイマンデがいたし、ネイマンデにはサムスがいる。両者は互いの欠点と死角を上手く補い合って、間断なくプラズマの弾幕を張り巡らせた。

 二人の連携は抜群で、種族の垣根を越えて息はピッタリなのだ。

 

「接近戦では脅威でも、ようは近寄らせなければ良いって事でしょう!」

 

 ビームによって消し炭にされたりバラバラにされたりのエイリアン達。しかし、その化け物達の残骸は、やはりうねうねと悶ながら元の形へと戻ろうとする。

 

「再生はさせない!」

 

 サムスの右腕から、瞬間的にビームから切り替えられてミサイルが飛び出す。チョウゾの技術が詰まったミサイルだ。ゼノモーフの皮膚と肉も吹き飛ばすそれが、質量保存の法則を無視して大量にばら撒かれて辺りを火の海にかえた。超熱の炎に焼かれて肉片達が消失していく。

 押し寄せる黒い波を必死に破壊していくサムスの背後で、ネイマンデは溢れ出る悦びを全身で表現しながらエイリアンを狩っていた。

 プレデターのステップは確実にエイリアン達の包囲をすり抜けて、触れさせる事なくリストブレイドで首を掻き切る。右手にはスマートディスクを携え、寄るエイリアンを切り裂き、そして隙を見ては群れへと投擲する。

 

「SKREEEEEEEE!?」

 

 空気を切り裂く鋭い機械音がエイリアンの肉体を容易に切断し、次々に切り裂いても切れ味も勢いも些かも衰える事はなく、エイリアンを肉塊へと変えていった。

 

「Rrrr… Akrei-non(爆弾だ)…HA・HA・HA!!」

 

 そして無造作かつ隙の無い動作で、大きな手を異種生物の荒い皮製のポーチに突っ込むと、掌で弄ぶように転がしながら5つの小玉を肉塊共へプレゼントしてやるのだ。炸裂し、凝縮したプラズマの爆発が指定範囲内を分子まで焼き尽くす。きちんと肉塊を焼却処分し、そして人間の笑い声まで真似してエイリアン達を挑発するのも忘れない。

 

(ネイ…すごく嬉しそう)

 

 ネイマンデがあそこまで嬉しそうに戦っているのは、サムスは初めて見る。プレデターにとって、エイリアンを狩るのはやはり特別な意味があるらしい。そんな事はこの若きプレデターがこの銀河系に単身やってきた事からも分かるし、今までの付き合いでも分かっていた事だ。しかしそれでもサムスは、ネイマンデを悦ばせているこの黒い虫共に嫉妬にも似た感情を抱く。

 

「… Tarei'hasan(取るに足らない小さい虫)!全部駆除してやるんだから!」

 

「!?」

 

 ネイマンデが、突然己の母国語を発したヒューマンの少女を見てギョッとする。サムスはムッとした感情のままに言葉を吐き出し、エイリアンを吹き飛ばしている。超人的能力を持つサムスは優れた聞き取り能力と高いIQにより、完璧ではないものの既に幾つかのプレデター言語を習得している。

 そして次の瞬間には嬉しそうにサムスの声真似をし始めた。

 

「ハッ・ハッ・ハッ!Tarei'hasan!全部・駆除・シテヤル!」

 

 二人のハンターは、軽口を叩きあうような空気をまといながらもどんどんと黒いバグ共を駆除していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が下層に降りていく度、幾つものチョウゾの施設が見受けられる。転送装置やエレベーター。メトロイドの培養ポッド。警備システム群。

 警備システムの中でも特筆すべきは鳥人像だろう。読んで字の如くチョウゾを模した像だが、鳥人族の技術で造られただけあってただの像ではない。実は生物である。レプリカント(人造生物)であり、思考や神経系に入念に手を入れられた生体兵器である。石像のように固まっているのは一種の仮死状態であり、また経年劣化を防ぐ為の防護皮膜の展開と、有機組織そのものが変異し冬眠状態に入る事による。

 その鳥人像が、両膝を立てた姿で二人の目の前に鎮座していた。

 ネイマンデがゆっくりと鳥人像の腕を指差す。

 

「…ここには鳥人族の強化ユニットがあったはず。私にも使えるって、出撃前にマザーは言っていたけど。…今は無いみたいね。誰か盗っていった?」

 

 鳥人像の手の上には水晶のように美しい球体があった筈だ。それはサムスの言うようにチョウゾだけが使いこなせるブーステッド・スフィアだが、今は鳥人像の掌はただ空虚であった。

 

「rrrr」

 

 ネイマンデは鳥人像の肩に飛び乗り屈むと、ゆっくりと掌に指を這わせる。マスクのビジョンを次々に切り替えていく。生物を発見する為の、熱量を見る赤の視界。チョウゾのXスコープと似た、無機物を見る為に有機体を透過する青の視界。音を視覚化する音紋の白の波が踊る視界。そしてフェロモンを検知する緑の視界。

 

kainde amedha  H'dui'se(サーペントの残り香がある)…」

 

「ゼノモーフの臭い…?じゃあそこにあったスフィアを、あのバグ()共が持っていったってこと?…やっぱり、あいつらの中に高い知性を持った個体がいる。少なくとも一匹は」

 

 プレデターは肯定も否定もせず、ゆっくりと立ち上がる。視界を変えつつ周囲を見渡し、そしてゆったりとした動作ながらも爪先の筋力だけで大きな跳躍をし、鳥人像の肩から飛び降りた。

 

「行ク・ゾ」

 

 

「うん」

 

 走り出したプレデターの背を見ながら、サムスは少しも離される事なく走り出す。適度な速度。ゆっくり過ぎもせず、急ぎすぎもしない。サムスの歩調を考えてくれているだろう、常時戦闘可能な警戒できる早足。

 散発的にエイリアンが襲ってくるものの、それ以外の襲撃はない。

 SR388の原生生物は、やはりXとメトロイドとゼノモーフの三つ巴の争いに巻き込まれ壊滅状態らしい。死体すらないのは、Xに食われ同化した後にメトロイドに駆逐され、そしてエイリアンにやられた可能性が高い。メトロイドの、内部からゼラチン質を破裂させた死体が幾つか転がっている事からもそう思えた。

 

「ここにもメトロイドの死体…ゼノモーフにやられた痕ね…これは」

 

 天然を利用したチョウゾの地下施設を順当に降りていく。と、そこでエレベーターのチョウゾのDNAロックを解除し動かす必要にも迫られる。サムスの体内にはグレイヴォイスの遺伝子があるから問題はないのだが…。

 ネイマンデが黙ったままサムスがロックを解除してくれるのを待っている。

 

「何か言うことあるんじゃない?」

 

 年相応の、少々イタズラ者染みた笑顔をバイザーの中で浮かべたサムス。ネイマンデは首をやや傾けた。「Rrr」と小さく喉を鳴らし、サムスへゆっくり近づく。そしてコツンとサムスのおでこの辺りをヘルメット越しに小突いた。

 

「…うーん、まぁそれでもいいけど」

 

 プレデターが相手の額 ――眉付近―― を小突くのは無条件の受諾や了承、信頼の証。信頼しているから早くエレベーターを動かしてくれ、と言っているらしい。サムスはそれを知っているから、ネイマンデのその返答はギリギリの及第点だ。しかし本当に欲しいのはもっと熱のある感情の籠もった言葉だ。

 

「あのね、ネイ。女の子は言葉が欲しい時もあるのよ?」

 

「Gr?」

 

 ネイマンデがまた首を少しだけひねる。

 

「マザーも言っていたのよ。言葉っていうのは大事な心の交流だって。プレデターだって男と女がいるんでしょう?もっと相手の心をくんでさぁ…女の子を喜ばせるように頑張らないとネイだって故郷で女の子にもてないよ?」

 

「Rrrr…」

 

 若きプレデターは心外だ、とでも言いたげに顎を少し持ち上げて胸を張った。実際にそう思っているかは定かでないが、サムスの経験上、興味がない話題にはネイマンデはそういうボディランゲージをする。きっと、ほんの少し胸を張り背を反るのは拒否とか無関心の現れだ。プレデター種がそうなのか、それともネイマンデ個人がそういう癖を持っているのかは不明だ。だが、色恋話に興味が薄いのをサムスは喜び、同時に寂しい。小声でぼそりと一人呟く。

 

「むぅ…まぁ、ネイは私にだけモテてれば良いから、それでイイんだけどね」

 

 ネイマンデ本人が色恋沙汰に…つまり繁殖欲求に乏しいとサムスとしても困る。なんでそこまで困るのかは、サムス自身まだ深く理解はしていないが…それでも最近は、サムスはネイマンデが好きという感情を強く感じるのを自覚し始めている。その好意は、オールドバードやグレイヴォイス、マザーブレインに向ける家族への愛情とは少し毛色が違うとも自覚出来ていた。

 

「まっ、冗談はここまで。行こう、ネイ」

 

 一時の戯れを終え、思考を切り替えて狩人の顔つきとなる。エレベーターの操作盤の穴に、サムスはアームカノンを突っ込めば機器に接続され、マシーンが接続者のDNAを読み取って駆動を始めた。

 

 静かな音が響くエレベーター内。大柄なネイマンデ1人でいっぱいになってしまうスペースしかない個人用エレベーターだから、サムスはネイマンデの腹に密着するように顔を埋めるしかない。

 

「…」

 

 今まではそこまで感じなかった感情がサムスの中に湧き上がっている。

 

(うぅ~…少し…恥ずかしい。けど…えへへ。すっごい嬉しい。グレイに怒られちゃうかな?デート気分でいるんじゃないぞ!って…)

 

 半ば無意識にサムスは彼の腹にヘルメットで頬ずりした。ネイマンデの薄い網目状の防護着衣から、逞しい腹筋が覗く。人間の腹とも違う。チョウゾの柔らかな羽毛の腹とも違う。少し滑ったような感触の腹だ。そして普通の人間が嗅げばツンとした生臭さを感じるかもしれないプレデター種の体臭もする。

 その体臭は種族特有のフェロモンというよりも、彼らの種が肉体を頻繁に洗わないからだ。素の肉体が非常に丈夫で堅牢であるプレデター種は、肉体を清潔に保たなくても疾病とは無縁。だから臭いが溜まりやすい。

 ネイマンデは、ゼーベスに留まるようになってからはある程度、文化的歩み寄りを見せて、どこぞの川等で体を洗っているらしいが、それでもこうしてゼロ距離で顔を寄せれば臭いを感じる。そしてサムスはこの臭いがたまらなく好きだった。ネイマンデの臭いだから好きだった。

 自分の鼻でその臭いを嗅ぎたいから、少女はヘルメットを脱ぎ去って長い金髪を露わにしてしまう。

 

「…?」

 

 ネイマンデが不思議そうに腹に顔を埋める少女を見る。彼はジェスチャーでヘルメットをかぶれと示している。ネイマンデからしたら、その行為は無防備そのもの。何があるか分からない狩猟場で、頭を守り、また視覚や聴覚、嗅覚を補ってデータを提供してくれるヘルメットを脱ぐというのは、プレデターにとっては最後の決闘にのみ行う事だ。こんな場面でする事ではなかった。

 

「今はいーの。これは決闘とか関係ないんだって」

 

「Rrr」

 

 イマイチ分からない。ネイマンデは短い顫動音でそう言っているらしかった。

 



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チャプター09 獣達の神殿

ドレッド要素が追加されます。人によってはネタバレになるのでご注意下さい。


 SR388の地下は実に広大な範囲がチョウゾ達の手によって整備された。だがチョウゾの基本理念として自然との調和・融合・共存がある。この地下空間とて天然の大洞穴を補強したものだし、7つに大別される区画(エリア)も殆どが原生生物と自然が繁茂していた。…今は、原生生物達は殆ど死滅し、迷路のようなエイリアンの(ハイブ)と化しているが。

 若い二人のハンターが今降り立った場所は第7区画。自然が多くあった今までエリアとは一線を画し、本格的なチョウゾの施設が建設されたエリアだ。当然、ここもエイリアンに汚染されている。寧ろ、今までのエリアよりもその侵食は酷く、いよいよハイブの最奥が近いと予感させる。そういう雰囲気であった。

 

「っ!こ、ここにも…鳥人族のおじいちゃん達の…死体…!」

 

 そしてこのチョウゾ研究施設エリアには、今までのエリアと違いチョウゾの死体がごろごろしていた。無惨なものであった。エイリアンにやられ、内側から破裂した死体。Xにやられ、半身がどろどろに溶かされ食われた死体。メトロイドによって生命エネルギーを吸いつくされ干からびた死体。どれもこれも状況からの推測に過ぎない。しかしどの死体も、恐らく苦しんで死んだ老チョウゾ達だ。Xとメトロイドとエイリアン…それらの、生存闘争という名の血みどろの地獄の渦中で彼らは死んだに違いない。その恐怖と苦痛は想像を絶する。

 ギリッとサムスの歯が鳴った。

 

「…チョウゾは…種族として衰えている。若い鳥人族はグレイヴォイスしか、もういないんだってオールドバード(おじいちゃん)も言っていた。子供を生む力も無くなって…だから人間の私を後継者として選んでくれた。穏やかに…年をとっていくことを選んだ…そんな優しい人達。……化物共には必ず償わせる…待っていて。チョウゾのおじいちゃん達」

 

 こんな状況では埋葬する事もままならない。サムスは心で彼らの死の安らかな事を祈り、その魂が翼と共に安息の地へと飛び去る事を願って右手の親指と小指を翼に見立て、その手をやや持ち上げてから胸へと抱く。それはチョウゾの風習と信仰 ――ある種の精霊信仰(シャーマニズム)―― に則る同胞への鎮魂だ。

 

「…rr」

 

 そんなサムスを見守る一方で、プレデターは冷徹にチョウゾの死体を観察し、そしてマスクの内で静かに唸った。幾つかのチョウゾの死因に不審な点が見られるのだ。もちろん圧倒的大半の死体はサムスの見た通り、三種の超生命体による攻撃だろう。しかしそれらの死体に隠れて、極少数の死体の損壊は、高度な殺傷兵器によるものだった。損壊は激しくとも、プレデターのサーチにかかれば死体鑑定などお手の物だ。

 彼の見た所、この老チョウゾの死因は、高密度のプラズマ収束砲。その後、エイリアンにでも食われたのだろう。プラズマ砲と一口に言っても多種多様で、彼…プレデターが使うプラズマキャスターと、サムスが使うアームキャノンでは異なる性質を持つ。この傷は、高確率でサムスの武器と同質のものが使われている。つまりは、チョウゾの兵器だ。

 それはつまり、大きな可能性の一つとしてチョウゾ同士の争いがあったという事を示唆しているが、しかし、何よりも今この惑星にはあのXがいる。擬態能力においては宇宙一であり、チョウゾの能力を得て襲った可能性もある。内紛があったとは、一概に言えないのだった。

 

 ネイマンデは、チョウゾ同士の争いの可能性を、己の内に留めておくことにしたらしい。サムスには何も言わず、彼女が他所を見ているうちにその老チョウゾの死体に〝青い液体〟を数滴掛ければ、見る見るうちに老チョウゾは溶けて消滅してしまう。

 

「ネイ?どうしたの?」

 

「Grrr」

 

 なんでもない、とジェスチャーで彼女の言葉を遮り、そしてネイマンデは警戒レベルを、さらに少し上げた。もしも襲ってくるチョウゾがいるならば、それはプレデターの狩りに、一振りのスパイスが加わる。それは善き事だ。サムスが知れば勿論止めようとするだろうが、この無垢な少女戦士には何も知らないままでいてくれた方が、狩人にとっては都合が良かった。ネイマンデは、グレイヴォイスと同様にサムスに甘いが、優しいだけの男ではない所もグレイヴォイスに似ていた。もっとも…ネイマンデは自分勝手な面が少々強い点が、グレイヴォイスとはかなり違うが。

 

 背中を合わせるようにして、二人は奥へ、下へと歩みを進めていく。不気味は程に静かで、そして異様な空気がより濃く、満ちていく。

 階層を降りる度に、サムスとネイマンデのバイザー機能に徐々に電子的な霞がかかり始めたのが、いよいよ〝そこ〟が近い事を物語る。

 

「…いかにも、なとこに来たわね」

 

 いかにも、な所とは迷宮のように入り組んでいたハイブが収束し、ぽっかり大口を開けた出入り口に繋がっている空間だ。スモークのように靄がかかり奥まで見通せないが、その大口の先は開けた場所であるのはXスコープで何とか精査出来た。

 

「モニターが霞む。ただのガスじゃない…」

 

「Rrr」

 

 ネイマンデは顫動音(クリッキング)で返答しつつヘルメットのビジョンを切り替えていけば、すぐにその靄の正体を掴む。プレデターのCOMPからサムスのCOMPへのデータ送信。サムスも即座に合点がいった。

 

「バグ達の分泌液が、固形化する前に多量の熱で蒸気化したもの…?しかもそこに、チョウゾのマシーンから電磁波を流し、強力に帯電させている…なんて悪知恵が回るのかしら」

 

 サムスのバイザーにも、そしてネイマンデのヘルメット・ビジョンにも時折さっきよりも強いノイズが走る。チョウゾ・マシーンを利用しているだけあってただの電磁波ではないのは明らかだ。そこにエイリアン・フェロモンまでが濃密に付与されて何らかの〝悪さ〟を機器に齎しているから、例えば銀河連邦軍の通常装備兵では視界はおろか、その他の装備まで使用不可になるレベルだ。

 ネイマンデがガントレットを操作して装備のチェックをし、同時に人間の少女にもチェックを怠らぬよう無言で促す。

 

「分かってる。…うん、大丈夫。ビーム、ミサイル、スーパーミサイル…問題なし。ついでに…――えいっ」

 

 少女が気合の声をあげると、彼女はみるみるうちに〝変形〟していく。あっという間にまん丸ボールの出来上がりだ。パワードスーツと同じオレンジ系統のカラーに、エネルギーラインのグリーンの発光が美しく、まるでその球体は鳥人像が持つブーステッド・スフィアの水晶球のように綺麗だ。一つの装飾品として完成されていると言っても良い。

 

「モーフボールもバッチリよ。綺麗に丸いわよね?」

 

 ボールがころころと自発的に転がってネイマンデの胸に飛び込んでくる。反射的にプレデターはそのボールをキャッチしてしまう。ネイに抱えられながら、ボールはどこか嬉しそうに2、3度左右に揺れてみせる。

 ネイマンデはいつものように黙ったまま頷く。

 

「よーし…ネイ、しっかり持っててね」

 

「…?」

 

 不思議そうに抱えるボールを見た直後、ボールは薄い発光をしつつ再度〝変形〟。ネイマンデの腕の中でそいつは元の人型へと戻っていった。

 

「解除も問題なし。確認終わり!」

 

 ネイに抱っこされた形となったまま、笑顔のサムスは点検の終了を宣言した。そしてどさくさ紛れてまた彼の胸板に顔を埋める。

 未来、伝説のバウンティハンターとして、クールでアダルティで謎めいた美女に成長する(予定の)サムス・アランだが、今はまだあどけない少女としての顔が色濃い。それもそのはずだ。サムスは幼少の折、故郷にあたる惑星コロニーK-2Lをスペースパイレーツに襲撃され、サムス以外の住人が皆殺しに遭うという災難に見舞われた。その後、鳥人族によって救助され、、そこでも銀河の守り手になる為とはいえ、幼い少女にとっては過酷な訓練の日々を過ごしたサムスは、普通の少女のように天真爛漫というわけにはいかない。大人びた雰囲気と時折影を差すようなミステリアスさを既に身に着けていたが、しかし、サムスにはまだ〝家族〟がいる。長老オールドバード、グレイヴォイス、マザーブレイン…それにプラチナチェスト等の、ソウハ族の鳥人族の老爺達。メトロイド開発の為にこの惑星(SR388)に駐留していた鳥人族達とは、残念ながら殆ど会う機会すら無かったが、それでもサムスにとっては大事な同族(同じDNAを持つ者)であり家族と思えるし、皆の確かで温かな愛情に包まれてサムスは大きくなっていったのだ。

 そこに更に大きなエッセンスとして伝説の種族、 Yautja(プレデター)の青年との邂逅と交流が、少女の心を華やかに彩っている。英邁であり、一応は人型とはいえ異形の種族に囲まれて育ったサムスは、他種族への抵抗が人一倍無い。鳥人族とも違い、オールドバードやグレイヴォイスとは立ち位置も、サムスへの距離感も異なるプレデターの存在はサムスにとって極めて新鮮で、興味深い存在だった。だから彼の事がもっと知りたくて、必死に心の距離を詰めようと彼と接し続けている内に、興味と好奇心は恋心へと昇華されつつある。

 

「えへへ…」

 

 ヘルメット越しに、しつこくプレデターの胸板に己の頬をぶにぶに擦り付ける。まるでマーキングをする雌子猫だ。

 銀河規模の大グローバル社会である今の時代、他種族同士の婚姻もそう珍しい事ではなく、不妊治療の一環として他種族夫妻が子を成す為の技術もある。だから、サムスの恋心もそこまでおかしい事ではない…と思われるが、やはりプレデターのマスクの下の素顔を見れば、サムスは大変な物好きと言わざるを得ない。蓼食う虫も好き好き…アバタもエクボ…と言った所。少なくとも、銀河連邦に住む人々は、皆そのようにサムスを評するだろう。

 

 ネイマンデが、子猫のようにすり寄るサムスを両手で優しく、しかししっかりと引き剥がす。

 

「Rrr…サムス、Mei'shan Kch-t'sha're(影に覆われた敵がいる).  Dtai'k-de Me'tei(闘争の時だ)

 

「っ!」

 

――ズシャっ

 

 ハイブの開口部の向こう…酷く濃い霧の中から、粘液の中に着地する重厚な足音を聞いた。

 

「Ggggg…グ、グググ…SSSSSSSSSSSSSSSK…!」

 

 ()()()の声も、通常のエイリアン達に比べて重厚だ。姿はハッキリと見えやしない。靄が、サムスとネイマンデのビジョンすら不鮮明にしてしまっている。

 既に二人のハンターはやや腰を落とし臨戦態勢。プレデターはプラズマキャスターを、サムスはアームカノンを構え〝影〟へ狙いをつける。

 

「SKREEEEEEEEEEE!!!」

 

 ()()()が叫んだ。ねとつく床を激しい足音が叩く。叫び声に呼応して、兵隊アリまでが目覚め駆けつける。

 

「ウォリアーを呼び寄せた…あいつ、プレトリアン!?」

 

 サムスはネイマンデから貰ったエイリアンの基礎情報を一通り頭に叩き込んでいる。

プレトリアンとは、クイーンエイリアンの親衛隊とも言うべき個体であり、また女王のバックアップでもある。現女王に万が一あればプレトリアンの中からクイーンに変異する者が現れて群れを維持する。現段階では産卵能力は無いものの、群れのカーストではクイーンに次ぎ、戦闘能力もウォリアーとは一線を画する。

 

「来る!」

 

 靄の中から一斉に雑兵(ウォリアー)が飛び出た。

 黒く滑った異形のトカゲ虫共が、様々に叫びながら一目散にハンター達へと襲いかかる。サムスとネイマンデは、走り飛び掛かって来るエイリアン達をキャノンで迎撃するが、エイリアン達はそんな事もお構いなしに数に物を言わせて飛びかかり続けた。

 

 

「く…狙いが…!ロックオンの精度が落ちてる!」

 

 サムスのビームがターゲットの右腕を肩から吹き飛ばすが、本来の狙いは心臓だった。電磁を纏う靄のせいだ。ビジョンにノイズを走らせる程の電磁波がパワードスーツのロックオン機能を阻害する。隣を見れば、やはりネイマンデも同様に苦慮している様にサムスには見える。

 

「Grrr!」

 

 忌々しげに喉を鳴らしたネイマンデが放つプラズマ弾は、致命弾が少なくなり、偶に空を切る事も多くなっている。プレデターの緑色基調の視界(エイリアン・ビジョン)はかすれ、プラズマキャスター特有の三角のターゲット・レーザー・サイトも、目の前に対象がいるにも関わらずいつまでもエイリアンをロックオンできず虚空を彷徨う。

 

「このぉ!!」

 

 半ばイラついてアームカノンを連射するサムス。群れが襲ってきているこの状況では、その選択はあながち間違ってはいない。とにかく今必要なのは弾幕だ。プレデターも同じ選択をし、今はひたすらに撃ちまくって数を減らす必要がある。

 だが巣への侵入者がそういう選択をとる事はプレトリアンも理解していたらしい。

 

「HSSSSSSSS!!」

 

 ウォリアー達を盾に、肉壁を縫って巨体をハンターの近くへ滑り込ませていた。

 

「…!!」

 

 靄の中から完全に姿を表した巨体。ネイマンデが声も無くそいつに魅入る。プレデターの青年よりも、更に一回り大きな黒い肉体。

 そいつはエイリアン特有の長い後頭部に鋭い羽毛のような表皮を生やしていた。そいつの手足の指は、鳥の手足のように鋭く節くれ立ち鋭い爪を持つ。背には退化した翼の痕のような、3本目4本目の腕のようなモノが生えている。目があった。機能しているのかは分からないが、まるで鳥人像のような目が頭部にはある。

 

「鳥人族!?―――こいつッ!」

 

 サムスが吠えた。

 このような場面で鳥人族の身体的特徴を模した者が、エイリアンを引き連れて現れれば自ずと答えは導き出せる。

 鳥人族を宿主とし、チョウゾDNAを取り込んだゼノモーフ。それが、このプレトリアンだ。

 サムスがアームキャノンを猛烈に撃ちまくる。

 

「G、GGGGGGッ!!」

 

 不気味に唸り、巨体に見合わぬ速さで弾幕を掻い潜り、幾つかのプラズマ弾を、硬い腕で弾く。チョウゾ・プレトリアンは、あっという間にサムスの懐に潜り込んだ。

 

「っ、速い…!」

 

 サムスの目に映るのは、急速に迫る黒く大きな手。掴まれれば、そのまま引き裂かれるか、それとも押し潰されるか。サムスの鎧ならば幾らかは耐えられるが、それでもこれ程逞しいプレトリアン相手では大ダメージは覚悟せねばならない。

だが、

 

「Grrrrr! Gkaun-yte(よぉ、こんにちは!)!」

 

Yautjaの言葉でフランクな挨拶を飛ばしながら、荒々しく、横合いからプレトリアンを蹴飛ばして狩人が割って入った。

 喚き、軽く数mは蹴り飛ばされ、そして更に転がって壁に激突。このプレデターの膂力は、パワードスーツを着こんだサムスにも劣っていない。

 プレデターの三点レーダサイトが、地に伏せるプレトリアンを捉え、そして躊躇わずにネイはキャノンを撃つ。

 だが、やはりロック精度が甘いし、それにこいつは速い。プラズマ弾は、チョウゾ・プレトリアンの顔を掠めて壁面を消し飛ばし、その隙にプレトリアンは跳躍。雑兵の群れの中へと姿を隠す。

 

「あ、ありがとう…ネイ。あいつの姿見て、カッとなっちゃって…。でも、それとは別にしてもアイツの速さと判断力…油断できないわね」

 

 態勢を立て直したのはプレトリアンだけではない。サムスも素早く立て直って、礼を述べつつも、ウォリアー相手に的確に攻撃を叩き込んでいく。

 光り輝く光弾が、プレデターの肩から、そしてサムスの腕から次々に放たれては黒い群れへと吸い込まれていく。

 エイリアンにとっては、これ以上有効な攻撃方法はないだろう。プラズマが肉を焼き、止血効果を生むから、ゼノモーフ特有の酸性血液が溢れる事がない。しかも距離をとって戦える事は、基本的に近接攻撃しか手段のないゼノモーフ達には一際有効だった。

 

「このまま撃ち減らす!」

 

 巧みに互いの隙を埋めて、双方を庇い合い素早くプラズマを乱射する。精度が落ちたなら、手数で勝負。そういう安易な発想が、この場合は良かった。四方八方から襲ってくるエイリアンを釣瓶撃ちにし、サムスの目論見通りにエイリアンは数を減らしていく。

 だが気になるのはプレトリアンだ。

 

「奴はどこに行ったの…?」

 

 サムスの意識が、薄い刃のように研ぎ澄まされる。

 その時、彼女の足元の大地がボコリと波打ったのを、サムスの超人的感覚が知覚。

 

「っ、ネイ!下!!」

 

 相棒へと叫ぶ。

 

「!!」

 

 言われた瞬間、プレデターは流れるような操作で、ガントレットコンピューターから、ナックルガードを引き出す。

 ネイマンデの拳が、青いプラズマで光る。眼前に迫ったエイリアンを、ノールックのキャノンで吹き飛ばしつつ、プレデターは拳を振りかざし、一気に振り下ろし…同時にサムスは大きく跳び、グラップリングビームで天井へと張り付く。その直後…。

 

 

 

――轟音

 

 

 地面が割れ、土中から迫ろうとしていたプレトリアンの右肩を抉り砕いてやれば、そいつは大きな奇声を上げて翻筋斗打って苦悶し、崩れる瓦礫に足を取られて暴れた。

 崩れた足場によろけながら、プレトリアンの二の舞はゴメンだと、プレデターは上を見る。正確には上に陣取る少女をだ。ヒューマンの少女は、プレデターの青年の意志をとっくのとうに理解していた。

 

「ネイ!手を!」

 

 腕を伸ばす。鞭状のビームがプレデターの腕に巻き付いて、グンッと彼を持ち上げた。

 

「Rrrrr…!」

 

 上へと引き上げられながら、プレデターは体の各所に括り付けてある、異星の獣の革を鞣して造った革袋からコロコロとした幾つかの球体を取り出し、掌で弄んでから無造作に下へバラ撒いた。

 

 

――またも轟く激しい音。炸裂音。爆発音。そして閃光。

 

 

 爆破規模の設定が自在の、小型爆弾達。今回はかなり大きめに設定されたようで、全ての閃光と炎が消え去った時、辺り一帯のエイリアン達の姿は肉片になり、或いは消し炭になり、或いは尻尾を巻いて逃げたらしい。

 指揮官級であったプレトリアンが死んだのも撤退理由だろう。

 

「ふぅ…やることが派手ね、ネイってば」

 

 バイザーの中で微笑んだ少女と目が合って、プレデターは小さく喉を鳴らして笑い返していた。

 



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チャプター10 待ち受ける者

ドレッド発売が嬉しくて、この亀更新作品にしては連続投稿できました。こんなマイナーな作品にいつも感想をくれたり誤字脱字を直してくれる方々、ありがとうございます。


 その後も、散発的に襲ってくるエイリアンを一蹴しつつ、二人のハンターは奥へと進んでいく。

 道中で、クリーチャー達が奪い取っていた ――知性故に利用しようとしたか、敵の戦力を削ごうとしたか…動物的本能でただ光り物を収集しただけかはイマイチ不明瞭だが―― チョウゾの追加ユニットを幾らか回収し、サムスのパワードスーツを進化学習させていく。

 

「これが、マザーが言っていたパワードスーツの進化機能……すごい」

 

 無限に進化していく拡張性を持つサムス専用パワードスーツ。これからの時代…チョウゾが完全に滅んだ後も、サムスをサポートすることを見越したこのパワードスーツは、未知の文明のアイテムさえも解析し、取り込むという恐るべき機能を持つ。このスーツを完全に理解し、使いこなした時…サムス・アランは無限に進化し続ける、真に最強の戦士となる。

 

「行こう、ネイ!」

 

 少女の瞳に宿る光がより一層強く輝き、パートナーへ掛ける言葉も力強い。

 サムスの強さは精神的なコンディションに大きく左右されるが、自分の力と可能性を明確に感じ取り、隣には頼れる相棒までいて精神的支柱を持つ少女は、この短い期間に爆発的に強くなっている。ちょっとやそっとのクリーチャー共では、もう二人を止めることは出来ない。

 程なくして辿り着く、獣達の神殿の扉。深奥への出入り口を塞ぐように、鳥人族の建造技術をも利用した蠢く肉と粘液の壁がそそり立ち、ハンター達を出迎えた。無論、この有機体の壁も、XとメトロイドのDNAマテリアルが使われているのは、二人のセンサーが教えてくれている。

 

「…さぁ、鬼が出るか蛇が出るか…。ネイ…準備はいい?」

 

 喉をクルル…と鳴らして頷くプレデターは、プラズマキャスターの出力を最大に高めながら肉の壁を睨む。サムスもそれに呼応して、アームキャノンのチャージを最大出力まで持っていき、構える。

 

 二筋の光線が同時に放たれた。Yautjaとチョウゾのプラズマが相互反応し、より大きな破壊力を生み出す。チョウゾの建材の上に、エイリアンの細胞と粘液で強化コーティングされた壁であろうとも、これには堪らず吹き飛ぶ。ぽかりと空いた大口は、より深く暗い地獄へと二人を誘うようだ。

 

「…ちょっと挨拶が派手になったわね。これじゃ、奥のバグ共にも気付かれてるか…」

 

 呟くサムスに、ネイマンデは少し肩を竦めてみせた。どちらにせよ気付かれている…と、そう言いたいらしい。

 バイザーの内側でサムスは、それもそうかとクスリと笑う。巣で散々に暴れたのだから、寧ろ奥で今か今かと待ち受けているに決まっているのだ。

 

「それにしても、まだDNAが馴染みきってなくて良かった。…あなたが言っていた、Xとメトロイド、そしてバグ共の遺伝子が完全に調和する第2世代の有機コーティングだったら……メトロイドの特性で今のビームだって吸収されていたって事よね?」

 

 コクリ、とプレデターが頷いた。

 それだけでサムスの背筋が寒くなるには充分だった。

 

「…絶対に、繁殖を防がなくちゃ…!」

 

 銀河の守り手としての使命感が、少女の中で燃え上がる。メトロイドも、Xも、そしてゼノモーフも、どの種も単一種で銀河全体を滅ぼしかねない超生命体だというのに、その複合種など冗談ではない。

 

 ぽっかりと大口を開けて待っている地獄門。

 二人の狩人は、慎重に、しかし迅速に地獄への路を駆け抜けた。

 

「っ!こ、これは!!」

 

 駆け抜けた先は、まさに地獄。

 

「Grrrr…!」

 

 ネイマンデでさえ、唸り、そして刮目した。

 見た目がてんでバラバラの異形の化け物達の巣窟。その広大な空間は、そんな異形の怪物共の、血と、肉片と、卵と、死体とに溢れ、肉片は蠢き再生しようという執念を見せ、大きな個体は小さな個体を食いちぎり、小さな化け物達は群れになってデカブツを襲い、皮膚をしつこく噛り食う。

 

「GGGGGGGGGG!!」

 

「SEEEEEEEEEK!!!」

 

「ギギギ、GIGIGI…GIギGIギ…」

 

 先の戦闘で潰したプレトリアンとは別の個体であろう、チョウゾ・プレトリアン。最初に遭遇したチョウゾモドキ。ゼノモーフの長い頭部の半透明がよりクリアになり、その内部にメトロイドのコアのような物が鼓動しているハーフ。頭蓋骨を透明な膜で覆ったような頭部を持ちながら、肉体がアメーバ状に半分溶けてかけている、Xの特徴の強い個体。メトロイドのようでいて、下部から生える牙が、全てゼノモーフのインナーマウスに置き換わり、酸性の液を滴らせる個体。

 そいつらが共食いをし、互いに互いを殺し合い、侵入者にも気付かずに闘争の熱嵐の只中でトランスに陥っていたのだ。

 

「ど、どういうこと…」

 

 サムスは狼狽えたが、それも仕方のない事だ。こんな状況になっている等、たとえ戦歴豊富なベテランハンターでも想定できないだろう。現に、ネイマンデですら面食らっているのが、サムスにはよく解った。きっとこの場にグレイヴォイスがいても、マザーブレインの端末がいても、同じように戸惑う事だろう。

 だが、プレデターは低く喉を鳴らすと、この状況を推察してみせた。

 エイリアン達は、メトロイドとXのDNAを取り込んだ。取り込んだはいいが、幾らスペースジョッキーに創られた完全生物とはいえ、やはり彼の予測通り〝完全〟足り得るまではまだまだ時間が必要だったのだ。熟成する時間が。

 遺伝子の発現の強さの差異で、もはやこの複合種 ――仮にメトロモーフXと呼称する―― は個体と個体が他種族と認識しあっているのか。それとも、三種のDNAの発現率がどんな比率が一番強いか…効率が良いのか…それを恐るべき本能で確かめているのかもしれない。殺し合い、食い合い、最後に生き残った個体の遺伝比率こそが黄金比である……そんなおぞましき実験場が、この()()()なのかもしれないとネイマンデは思う。しかしプレデターの予知に近い予測でさえ、この〝宴〟までは予想外だったのは確かだ。

 さすが、メトロイドとXと、ゼノモーフの混血は、プレデターの予想さえ遥かに超えてくる。こうまで異常進化を遂げた実験体の化け物達が相手では、今回のハントは果たしてどうなるのか。

 不確定要素だらけという事実を思うと、この若きプレデターの血肉は踊り、騒ぐ。だが、ここでこの群れに突っ込む程、この狩人は愚かではない。個人的には、突撃し、そして名誉の死を遂げたくもあるが、彼には〝わざわざこの既知銀河系にまで戻ってやらねばならない部族の任務〟がある。

 

「…」

 

 ネイマンデは、一瞬、己のウェアラブルコンピュータを見る。これに内蔵された、()()()プラズマ爆弾は、その破壊力は自由自在で、最小設定ならば十数m範囲を消滅させる程度…そして大きくすれば、例えば大陸に栄えた一つの文明を消し飛ばす程度の破壊力は楽に出せる代物だ。

 こいつを使えば、このカオスを終わらせるのは訳ない。しかし、そうすると無条件で隣にいる少女と、そして地表にいるチョウゾの友人までが死ぬし、部族の任務を果たせなくなる可能性も高い。ここは使い所ではないと、プレデターは判断し、腰に装備していた伸縮自在のスピアを取り出す。

 

「Grrrr…!」

 

 二段式に伸びるスピアを展開。腰を落とし、右手だけで鮮やかに振り回し、左手を突き出し構えた。

 

「そうね。やるしか…ない!」

 

 どこから手を付けて良いのか解らぬくらいの混沌とした狂気の群れに、経験不足が祟って狼狽え気味だった少女の戦士だったが、ネイマンデの諦める事無き闘争心に勇気を貰う。サムスもまた秘蔵のスーパーミサイルを、アームキャノンに装填し力強く構え、敵を見据える。

 

「……SEEEEEK………!」

 

「HSSSSSSSS…」

 

「Ggggg・gグgg・グ・グググ…」

 

 狂気の怪物共が、ハンターを見た。侵入者を撃退せよ、と、そういう意志ではなかった。狂宴の中に、また新たな客人が加わった。共に狂い、殺し合おう。食い合おう。より優秀な遺伝子を生き残らせようではないか。そういう事だった。

 イカれた化け物共が、客人を饗す為に迫りくる。

 

「まずはこいつ!」

 

 戦いの火蓋を切ったのは、半アメーバ状の溶けたヒューマノイド。怨念じみた雄叫びをあげて、ドロドロに爛れた人間型の生物が襲ってくるのは、サムスから見れば軽いホラーだ。

 

(この形状…Xと、エンジニアの特徴!)

 

 しかし少女は怯まない。敵を観察し、動きを見る。エンジニアに関しては、ネイマンデから既にデータは貰っているのだ。知性に優れ、汎用性の高い人間種に近い生命体で、戦闘能力に関して特筆すべき力は無い。あらゆる兵器を作り、操る知性こそが最大の武器とも言えるエンジニアだが、今の迫りようはとてもじゃないが知性的とは言えない。

 

「やっぱり遺伝子を活かしきれていないんだ!」

 

 スーパーミサイルが火を吹く。無数に生やしたゲル状の腕を躱され、ミサイルを叩き込まれたそいつは、おぞましい断末魔を上げて崩れていくが、残った頭部から黒い粘液を収束させたようなレーザーを口から放つ。

 

「…く!」

 

 右へ飛び跳ね回転着地(ローリング)し、黒いレーザーを躱す。躱しながら、もう一発ミサイルをそいつへ撃ち込めば、今度こそ溶けかけたヒューマノイドは消滅した。次の瞬間、

 

「GRAAAAAAAR!!!」

 

着地したサムスを狙って、天井を四足で走ってきたモンスターが飛びかかる。

 

「今度は、上!」

 

 重力を味方に付け、勢いよく落ちてくる怪物にはチャージビームを見舞ってやりながら、そいつが落ちるよる速くバックステップを刻み襲い来る爪を回避。

 

「消えろ!」

 

 続け様にスーパーミサイルを放ち、怪物の爛れた腹を粉砕した。

 

 プレデターもまた乱戦の只中だ。だがその中でも、さり気なく彼女の小さな隙を埋める形で冷静に戦っていて、様々な武器を巧みに使い分け、そして一撃でも喰らえば大ダメージ確実な攻撃を踊るようなステップでスレスレに躱し続けていた。

 

――ビュウウウウウウン…

 

 ネイマンデの投擲したレイザーディスクは、ゼノモーフの酸性血液にも溶けず、Xの軟体もメトロイドの堅牢な外皮をも引き裂いて、自在に飛ぶ。しかも高度なコンピューター制御で飛翔するディスクは、自ら敵を求めてプレデターの敵を引き裂くし、高密度のエネルギーをチャージされたディスクは、実際の刃の直径よりも広いレンジの敵を切り裂ける。

 そして、怪物共の足元に、今回のハントで持ってきていた最後のボムを、大盤振る舞いでくれてやれば、一気に数十ものクリーチャーが再生する間もなく死ぬ。

 

「Grrr!」

 

 リストブレイドの白刃が煌めく。デカブツの懐に潜り込み、喉を切り裂いて、傷口に光弾を連続で叩き込む。苦しむデカブツの頭を踏み台に蹴り跳んだ。

 着地地点に蠢くのは小型の変異ゼノモーフども。このまま踏み潰したい衝動があるが、潰せば酸性血液がプレデターの足を溶かすだろう。

 ネイマンデは棒高跳びの要領で、ゼノモーフの頭をスピアで貫通させながら地面に突き刺し、壁面にまで一気に飛び抜けると、そのまま握力に物を言わせ壁に掴まり張り付いた。

 

Ki'cte(山盛りだな)!」

 

 一段高い壁から見下ろすと良く解る。見渡す限りの異形共だ。ネイマンデは愉快そうに肩で笑って、そしてまたプラズマキャスターを乱射する。ゼノモーフ達の電子パルス混ざりの靄のせいで、もはや電子的ロックオンは役に立たないと判断したネイマンデ。既に彼はロック機能を切り、ターゲットの動きを見極めた上での予測撃ちを行っていた。

 

「SEEEEEEEE!?」

 

「Gugugugugugugugu!!?」

 

 プラズマキャスターが立て続けに火を吹いて、クリーチャー達が断末魔をあげて粉微塵になっていく。プレデターは良い位置に陣取れたらしい。彼に向かってくる敵共を、まるでシューティングゲームのようにハントしながら、それでいて変異体に群がられるサムスにも、掌中に帰ってきたレイザーディスクを投げて援護射撃を忘れない。

 

「ネイ、そのまま援護をお願い!あいつの口に、パワーボムを食らわせる!!」

 

 少女戦士が駆け始めた。目標は巨大な1つ目の怪物。猫背に折り曲がった巨体にワニのような頭に赤い1つ目が輝く。胸の外皮は露出し、内臓のようなメトロイドのコアが、ドクンドクンッと淡く輝いて鼓動する。

 サムスは速かった。道中で成長させたパワードスーツの機能の一つ…超高速走法機能(スピードブースター)で、残像を残す程の速度で風より速く疾走する。超スピードに加え、パートナーの援護もあるのだから、サムスは他の何も気にせずに、巨大な敵にだけ集中できた。

 

「ッ!Na'tauk Mei-jadhi(素晴らしい女戦士だ)!」

 

 プレデターが称賛するほどのサムスの勇姿。スピードブースターでまとったエネルギーフィールドで、敵を粉砕しながら巨大なクリーチャーに突進するサムス。それを迎撃せんと、大きく反り返る巨大な爪が、空気を裂きながら少女へと迫る。

 

(この隙間なら…!)

 

 だがサムスは、その爪を防ぐでもなく、宙でモーフボールへと変化し、爪と爪の隙間をくぐり抜け、そのまま化け物の口内へと飛び込んだ。

 

「GROAAAAAARRR!!!」

 

――ガチンッ!

 

という音と共に閉じられる怪物の口。だが、すでにサムスは人形へと戻り、口外へと飛び退いて怪物の鼻先へと着地。

 

「こいつも土産よ!とっておいて!」

 

 ぎょろりとした赤い目玉にチャージウェーブビームを撃つ。痛みに叫び、仰け反る怪物を再度、蹴り飛ばして、サムスは跳んだ。

 

 怪物の、赤い1つ目が血走って見開かれる。口から、鼻から、耳から、皮膚の裂傷から光が漏れ出て、口内で爆ぜたパワーボムが怪物を体内から滅却し、まるで風船のようにぶくぶくと膨れ上がって、一気に大爆発を起こしたのだった。

 その爆発に巻き込まれて、またも多くのクリーチャーが消し飛んで、気付けば目ぼしい敵は幾らもいない。激戦と乱戦が続く中で、急速に成長する二人のハンターを前に、怪物の群れの勢いも徐々に低下していった。だが、それでもまだまだクリーチャー共は這い出てくる。

 ここまでで既に数時間の刻が経っていた。狩りを急がねば、完璧なる第2世代が孵化してしまう。きっと、もう…後、1時間も残っていないだろう。

 

「ふぅ…!ふぅ…!ま、まだ出てくる…!」

 

「…Grrrrrrrr」

 

 さすがのサムスも疲労を見せ始め、そしてプレデターも少しの焦燥を見せ始めた。少女は荒くなった息を整え、ネイマンデは金属疲労の兆候を見せつつあるリストブレイドを、ガントレットのレーザーメスで研ぐ。幾ら、超金属で構成され、しかも特殊なコーティングでさらに強化保護しているとはいえ、全てのクリーチャーに酸性の血が含まれて、Xのような柔軟な肉と、メトロイドのような強靭な外皮を持っているから、武器の疲労も凄まじい。

 倒せなくはない。二人の若き狩人は段々とレベルアップもしている。だが、時間が足りない。最深部で、産卵準備に入っているであろう女王にまで、彼らの牙が届かない。届かせる為のあと一歩が欲しい。

 

 二人がそう思った、その時だ。

 

『――――えるか?……応…し…………聞こ…………ちら、グレ…ヴォ…ス!サムス、ネイ……デ、聞…え…………こちら、……イ……ォイス!』

 

 地表部で別れた、サムスの義父の声が通信機から聞こえた。

 

「グレイ!?ここは電磁波がバグ共の靄で妨害されているのに…!?」

 

『繋がったか!ようやくこの距離まで近づいたという事だな!』

 

「どういうこと?近くにいるの?傷は!?」

 

『数時間もあれば、そこそこ動けるようになっているさ。それに、ディガーノートも1機だけだが、修復し連れてきたぞ!』

 

 大きな振動が、明らかに近づいていた。ディガーノートが、有機壁も土壁も、金属壁も、何もかもを削岩しながら猛烈に接近していた。

 怪物共が、振動する壁に一斉に目を向けた。

 

 

――ドォォォォォォン

 

 

というけたたましい音と共に、巨大なマシーンが姿を現した。

 先程の怪物のような赤い1つ目。しかし、決定的に違うのは、その巨大な怪物は全て鋼のボディであり、そして肩には、どこかサムスと似たパワードスーツで身を包むチョウゾの戦士が膝立ちでしがみついているという事だろう。マシーンも、そしてチョウゾの戦士のパワードスーツも、ヒビ割れや欠損が目立ち痛々しい。

 

「Grrrr!グレイ・ヴォイス!」

 

「グレイ!」

 

 ネイマンデとサムスがほぼ同時に、彼の名を呼んだ。呼ばれたチョウゾは、フルフェイスの兜に覆われた鳥頭を向けて、ニコリと笑った気がした。

 

「ここは私とディガーノートに任せろ!君たちは奥へ!」

 

「でも怪我は…!」

 

 躊躇う義娘に、グレイヴォイスは鮮やかに槍を振り回しながら言う。

 

「見ての通りだ。心配は無い!それに…マザーからも伝言がある。よく聞くんだサムス、ネイマンデ」

 

 どうやらスターシップの残骸も幾らか修繕し、通信機能を回復させたらしい。数時間でここまでやってのけたグレイヴォイスもまた、一人で凄まじい戦いに没頭していたのだ。

 

「マザーの再計算では、第2世代が誕生するまで30分もない!急ぐのだ!リペアしたとはいえ、今の私とディガーノートは完全ではない。ここで足止め程度がいい所だろう。君たちに女王と卵は任せる!いいか、サムス、ネイマンデ!君たちの双肩に宇宙の命運がかかっている!」

 

 怪物共の群れが雄叫びをあげた。ディガーノートが赤い目を輝かせ、削岩機を兼ねる大型の腕部を振りかざす。

 

「Brrrrrrrrrrrrrrrrrr…!」

 

 エンジン音を高らかに響かせ、ディガーノートが吠えた。

 グレイヴォイスもまた、スピアの切っ先から光弾を放って怪物共の目を引きつける。

 

「ゆけ!ネイマンデ、サムスを頼む!」

 

「Grrr!」

 

 僅かに頷き、ネイマンデはサムスの腕を掴んで走り出した。

 

「っ!ネイ!?…わかった!行こう!」

 

 後ろ髪を引かれるが、地表で別れた時とは違う。今のグレイヴォイスは両腕も使えるし、ディガーノートだって引き連れている。マザーと通信したという事は、きっとゼーベスから応援も送られてくるだろう。

 サムスはプレデターと共に走る。振り返ること無く。

 

 背後で、大きな爆発音のような轟音がとどろいた。グレイヴォイスの戦いが始まり、そしてサムスとネイマンデの戦いも、いよいよ終盤へとステージを進むのだった。

 



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