エクター卿の小噺 (Tabasco)
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おつまみ
◇
「よーし、それで合意ということで」
「君のことを信用しないわけではないが、本当に問題ないのかね
この撤退戦、我が軍はかなり厳しい状況を強いられることになる
かの騎士王を信じないわけではないが...」
「クソほど信頼に足る人ですよ
特にサクソン、ピクトのクソったれ共を掃除することにかけて、王と騎士達の右に出るものは無い」
「実績で言えば確かにそうだ。
…しかしブリテンと我らがローマの小競り合いは未だ解決に至っていないものも多い
協力する、と銘打っておいて後ろから刺されたのではたまらんのだよ」
「んな騎士道に反することは出来ませんって
まー...そちらから少しばかり物資を融通してもらえば文句はありません
多ければ多いほど、騎士たちは快く力を奮うと思いますけどね」
「この戦が終わったら、次は君たちがミートパイになる番だとしても?」
「流石、沈む間際の大国は言うことが違う
我々としてもそれは避けたいですが___」
「...現状把握は大事ですよ、サー。
聞けば、ローマは内輪揉めでご多忙だとか」
彼の顔が強張った
「...待ちなさい、誰から聞いた?」
「マリア様が教えてくれたんですよ。
強請るなら今だって」
「なるほど、邪教にはマリアを名乗る不敬者がいるようだ
...はあ...もういい、分かった。条件は飲む」
「あぁ、なんて聡明な方だろう。
うん、そう返事をしてくれると信じていましたが」
彼は溜息を吐いて、眉間に手をやった
「…エクター卿。食事をするときは、異臭がしないか確認してからにした方がいい」
「知ってます?
毎日ですよ、それ」
◇◇◆
「貧相な国とはいえ、一国の食糧庫の半分を埋めるなど素晴らしい功績だな
一体、どんな手を使った?
月のない夜には気をつけろ、とは言われなかったか」
「あーあ、ひどい言いがかりだ。ちゃんと相手も納得してくれましたよ。
頑張ってくれる騎士様たちにお礼がしたい、なんておっしゃってさぁ」
白亜の城キャメロット
月明かりが差し込む城の一角に、二人分の会話が響き渡る
一人は皮肉気に唇を歪ませて、もう一人は芝居がかった仕草で煉瓦の壁に背を向けていた
どちらも“黙っていれば”と前置きが入る、風貌の整った騎士達だった
「納得ね、物は言いようだ。
こんな外交官に頼らざるを得ないなんぞ、この国の未来も危ぶまれるな」
白銀の鎧を着た騎士が悠々と言い放った
「これは傑作だ。
仕事は片手間に、年中女の尻を追っかけまわしているケイ卿、貴方が言われますか」
首元に巻いた襟巻きを巻いた騎士は、愉快そうに言って目を細めた
「そういえば、昔何処ぞの姫君に浮気がばれて刺された騎士がいたな
そうだ、ちょうどこんな具合のアホ面をしていた」
「…私が悪かったです。頼むから、その話はやめてくれ
くそ、寒気がしてきた」
それまでの冷ややかな空気は消え、騎士はバツの悪そうに肩をすくめた。
「俺に口で勝とうなぞ百年早い
エクター卿。それで、こんな夜更けに何の用だ?」
言外に早くしろという彼の口ぶりは、しかし、どこか面白がっているようにも聞こえた
「フランスの酒を融通してもらったんだ
せっかくだから、舌が貧相なブリティッシュに酒の本当のおいしさを教えてあげようと思って」
「お前とランスロット卿が飲むような酒か?
...惚れ薬でも入ってそうだな」
「はっはー。今世紀最大の侮辱と見たぞ。」
・
・
・
「はぁ、懲りないですね」
酒瓶、酒瓶、酒瓶に次ぐ酒瓶
ブリテンでは嗅ぎなれない、どこか甘ったるい酒の香り
太陽が昇り、キャメロットの一日が始まろうとしている時刻
アーサー王の側近、ベディヴィエール卿は人気のない、白亜の廊下に転がる騎士を視界に入れた
「…そこにおられるのはかの慈悲深き騎士ベディヴィエール卿かね
お水取ってきてくれないか吐きそう」
「自業自得ですって...後で持ってきてあげますから
エクター卿、アーサー王がお呼びです。」
「あーい了解しましたー」
「とか言って寝ないでください。
ほら、いきますよ」
外見からじゃ絶対わからない、ベディヴィエールの怪力に引きずられていった
「何で騎士ってそんなに働き者なの?マゾなの?死ぬの?」
「そんなこと言ってると、またランスロット卿に叱られますよ...」
「ふーんだ。私の方がギャラハッドと仲いいし
別にいいし」
「いえ、五十歩百歩...なんでもないです」
「.......ちきしょーーー確実にあいつの弊害だぜ!?
女の子と話してるとギャラハッドの目が冷たい...泣ける..」
「流石に三日で十人はちょっと」
「何で知っ___
いやいや、それはない!常識的に無理ですって、うん」
「...貴方が常識を説かれますか、貴方が。」
読んでくれてあざまる水産
◇◇◇
白亜の城
昔の輝きを失った、美しいだけのただの城
白い煉瓦で組まれた渡り廊下には何もない
馬鹿話に興を注ぐ騎士たちの声はなく
熱があふれていた馬上槍試合の場には静寂があった
なんて静かなことか。…うん。これはこれで悪くない気もする
少なくとも、複雑極まりない女性関係も騎士たちの面倒くさい小競り合いもない
…かくいう私も彼女に浮気がバレたときは冗談ではなく死を覚悟した
…おっかなかったな…だが、それも愛らしかった
思えばこの城の輝きは一瞬だった
救世主だ、完璧だ、なんて言われた我らが王の治世
永遠でないと、我らが王は人間なのだとわかっていながら
私は運命を受け入れることしかできなかった
多くを望みすぎた
未来に希望を抱きすぎた
今まで抱え込んだ負債を精算するがごとく、キャメロットは滅んだ
そんなわけで、ああ、これは納得できる結末だ。いささか残念だけどね
灰色の空に鳥が飛んでいる
西の方角に飛んでいくのを見送りながら、私は歩き始めた
***
全体的に、うん。
オチもありきたりな笑い話だ
それでも聞きたいなら、どうぞ今後ともご贔屓に
...あー。もう行かなくちゃ。義兄を探さないと
じゃ、また
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「ブルターニュ産ワインだった」
ひどい、まだ何も言ってないぜー
「ご苦労だった、エクター・ド・マリス卿。
懸念されていた兵糧の問題を解決できたのは、卿の尽力あってこそだろう」
「恐れ入ります。ひとえに騎士王への信頼あってこそですよ
お客人も、かのアーサー王ならばと快く承諾してくれました。」
「卿は相変わらず、世辞が上手だ
報告感謝する。長旅で疲れただろう、ゆっくり休んでくれ」
「有難う御座います」
「確かに疲れているでしょう
昨日、あれだけ飲めば」
首に襟巻きを巻いた騎士の顔が引きつる
顔面に不意打ちでスターゲイジーパイを見せつけられたような気分だった
「これはこれはトリスタン卿。___誰から聞いた?」
「何故か二日酔いを患われているケイ卿から、もしエクター卿が王に"帰ってきたばかりで疲れている"などと虚偽の報告をした場合、止めるように言われましたね」
「....クソッタレ。意図的に潰したのに気付いていやがったか」
「....私は悲しい。何故誘ってくれなかったのです」
「やめなさい二人共。王の御前ですよ」
そう言うのは、太陽のような忠節の騎士
彼は、エールと合わせると最高に美味しいマッシュポテトを作ってくれる
「エクター卿...過度の飲酒は体に悪い
控えるようにとは言わないが、自重することも大切だろう」
凛々しい騎士の王は苦笑した
「うっ...申し訳ありません。
寛大なお言葉、誠に感謝致します...」
「これ、前にも聞きましたね」
◇◆◇
「あの日ベットで愛を確かめ合った麗しい婦人も、私が目をつけていた花売りの少女も!
な ぜ か !義兄上が関わると、皆!義兄上に想いを寄せちまう!
ファーーック!王よ、私の純愛を傷つけた罪によりこいつの首を切りましょう!
ええ、もちろん介錯は私がッ!」
「エクター卿が、純愛...?」
「トリスタン卿、本気で驚いた顔をするのはやめていただきたいのですが
私をなんだと思ってるんです」
「歩く下半身」
「はっはー。死にてぇみたいだなクソ鯨」
「....もしかして彼、酔っているのか」
「誠に遺憾ながら...王よ、我が義弟は至って通常です」
__________________________________________________
読んでくれてまじあげみざわ
***
混沌で中庸な騎士様達
***
さーて、どーしたものか
獅子王ね。カリスマ性は抜群、状況判断能力はある、彼に従う人間は____悪くは扱わないだろう
...まぁ、雇い主としては悪くない、か
_____じゃあ、何が問題だ?
仕える主君としては、問題がある
正直言って私は人民救済に興味はないし、大義や正義を重んじる優等生にはサブイボが出るような人間だ。前は兎も角、獅子王とは、無論同僚とも相容れそうにない...はぁ。
だが美味い酒は、一人では飲めないしなぁ
なるほどな
オレが言うのもなんだが...お前なんで騎士になったんだ?
職場的には最高だったし...
あっきれたぜ...。
それで、モードレッド卿は?
獅子王に反逆の旗をあげるっていうんなら、私は応援するよ
はん、すっこんでろ
どうせ、後ろから野次飛ばしてるだけだろうが
はっはー。高みの見物ほど楽しいもんはないよね
あー...酒があればさらに良いのに
........まてよ
そ う い う こ と か!
エクター、お前だな?キャメロットの武器庫に酒蔵作りやがった大馬鹿野郎は!
....あ、ありえねー!保険として魔力まで使ったのに何故わかった..!?
待て待て待てその剣を下ろせ!話し合おう!
なんっで鎧つなぎ合わせて酒樽作ってんだよ!
おかげで兵の武器調達にくっそ苦労したわ死ね!!
うっわ最後の戦いだったのにほんとごめんなさい
あーー!それでも騎士王と戦えちゃう叛逆の騎士って最高にかっこいいぜー!抱いてー!
....あぁぁぁそこはらめぇえええ
うるっせぇ!!!
気色悪ぃ声出すんじゃねーよ三枚舌野郎!
はぁ...はぁ...しぬかと...おもっ...だ
___おい、まだ許してねーからな?
はい、はい、なんでも言うことききますよぉモードレッドサマ
ハァ....調子のいい野郎だぜ
...なぁ、オレが獅子王に着くって言ったらよ、お前はどうする?
......motherfucker
何 故 だ!何か君に恨まれるようなことしたか?どうしてだ、どうしてそっちに着く!?
私を殺したいのか?!
おう、自分の胸に手当てて考えてみろクソ野郎
つーかもう死んでるんだよ、オレ達は。
あぁ...前々から思ってたがよ。なんでオレのことそんなに怖がってんだ? お前だって、パーシヴァルの奴と相討ちになるぐらいにはできんだろ
私瀕死だったからね、それ
......あれだよ、君の母親
私、あの人に花束渡した後の記憶がなくてね
......勇者って本当にいたんだな
オレ、初めてお前のこと見直したわ
いつか、腹から触手なんかが突き破って出てくるんじゃないかって思うとさ...
....おう、火葬くらいならしてやるよ
まさか世界史の教科書を持ち出すことになろうとは...
あぁ神よ、同日模試なんてありませんでした。そうですよね?
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チーズフォンデュ
寝たいです、マスター
***
「ふふ。使わせてもらうわよ、エクター」
◇◆◆
高原に炎の柱がそびえ立つ
全てを飲み込んでしまいそうな勢いだ。
実のところ、聖剣の中ではこれが一番怖い
あーぁ。暑くるっしいたらありゃしない
なぁ、グリン師匠
ひひーん。
だよねぇ。ちょーわかるー
したり顔で相槌を打ってくれる同僚の馬がなんだかとても愛おしい。具体的にいうと顔とか。
「_____ガラティーン!!」
最後の柱が燃え上がった。
「...おっと。
ガウェイン卿、大丈夫ですかー?」
「ええ、こちらは終わりました
...ところで、エクター。先程から私ばかり働いているように思えるのですが」
彼の目がジッと細められた
その、深い海色の瞳は一人の女性を想起させる
あまり心地いいとは思えない思い出と共に
「あ、あぁ申し訳ない
なにぶん後ろから刺すのが得意分野でして
こういった、あっぴろげな戦いは些か苦しいのですよ」
なんとなく背筋に冷たいものが当てられた気がして、さっと思いついた戯言を口にした。
何故だか、体が怠い。
「適材適所というのは分かりますが...貴方は十分戦えるでしょう?」
ふんわりとウェーブがかかった金髪が揺れる
王とはまた違った気品がある容姿だ。ご婦人方には、こういう誠実さが感じ取れる男の方が人気があるのだろうか。....不毛な話だ
目の前の彼とあの彼女には決定的な違いがある
「私の蟻みたいな助力なんて、太陽の如き貴方の前には無意味も同然
そうだろ?
陰ながら見守らせてもらいますよ、ええ」
◇◇◇
前に、お会いしませんでしたか?
...それナンパ?千年前の?
確かに常套手段ではありましたが...
いえ今のは違いますよ?
ふーん。...マシュに何か用?
...ひとつ、聞きたいことがあります
あの、ところでマスター。...何故彼女を庇うのですか?
私何かしました?
自分の胸に聞いてみてください。
あと目がやらしい。スケベ、なんか最終回で裏切りそう
マシュに近づいちゃダメ。です
先程のことは本当に謝ります、マジで
...そうですね、騎士王に誓ってもうしません
きしおう?って...
...先輩、敵性反応です!
千年ぶりの休暇かと思ったんだけど
はぁ。ここも大概地獄だなぁ
...大丈夫、かな
ご心配なく、マスター
後ろから刺すのは得意なんですよ
先輩のこと、信じてます
私たち、先輩に指一本触れさせたりしませんから
...うん。ありがとう、ふたりとも
(...お嬢様
私の....とても、大切な人に貴女はよく似ている..気がする
あぁ思い出せない。なんだ、これは )
読んでくれて...まじ卍...
幽霊っていつの時代からいるのかなぁ
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