元ブラック鎮守府に着任 (nekoge)
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1話

始動


英雄の物語は静かに始まる





2045年3月15日 水曜 冬 東京憲兵隊本部

 

「影野少佐入ります」

 

「入れ」

 

木目が綺麗に施されたドアを開ける。彼の名は影野海誠(かげのかいせい)。 身長175の長身で体格は筋肉質で細く、顔も整っている。しかし彼の鋭い眼光は鋭い。

 

「東京憲兵隊第三支部第一部隊影野少佐、憲兵司令官に呼ばれ参りました」

 

憲兵司令官の執務室は所々に似つかない豪華な装飾品がある。大半が前任者の私物だ。

 

「・・・影野少佐早速要件を伝える」

 

憲兵司令官は笑顔で机に置かれた封筒を開封した。

 

「発、海軍本部人事科 東京憲兵隊第三支部所属影野海誠少佐3月24日付け 呉鎮守府総監部所属第八鎮守府艦娘艦隊及び第四護衛艦隊所属護衛艦『やまゆき』指揮官着任を命ずる」

 

「・・・」

 

「もう一つある。正式な通知は来てないが君は4月1日で大佐に昇進する・・・まぁ急な人事で承認式は残念ながら行われない」

 

素っ気ない態度で司令官は伝える。

 

「ありがとうございます」

 

影野の言葉に一瞬だけ苦い表情を浮かべた憲兵司令官だったがすぐに笑顔をつくる。

 

「私も君にはあの件では世話になった。・・・上も有能な人材をこれ以上陸で遊ばせておくわけにはいかないとのことだ。頑張ってくれ」

 

「司令官」

 

「なんだね?」

 

「お世話になりました」

 

「・・・・・こちらこそ」

 

「影野少佐、帰ります」

 

影野は部屋を後にする。司令官は突然呟いた。

 

「死神・・・奴さえ居なければワシはこんな地位ではなくもっと上に、あいつさえ居なければ・・・」

 

その表情はまるで肉親の仇を討たんとする者のようだ。

 

「ワシはまだいい。あの件に関わっていた者は大半があいつに・・・・・・殺された」

 

一方の影野は本部に用意されていた控え室に戻り、机の上に立つ小人のような存在と話していた。

 

「隊長!司令官の要件とはなんだったのですか?」

 

影野は受け取った書類を見せる。

 

「やったじゃないですか!」

 

「・・・」

 

「今日は宴会ですね!」

 

この小人は妖精という存在であり、7年前突然この世界に現れた。その生態は未だに謎が多い。

 

「帰る」

 

「了解、ヨーソロー」

 

影野と彼の肩に乗った妖精は本部を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お土産買い忘れた!」

 

「・・・もう買った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月27日月曜 0830 憲兵隊第三支部正門前

 

支部の庁舎から門の道に礼服の隊員と事務員総員が列を作っている。

 

「総員気を付け!!!!!」

 

影野が庁舎から出てくるとラッパによる総員集合の合図と共に大声が響いた。

 

影野は庁舎から右手で敬礼を行い門まで歩いた。

 

門を少し出た所で影野は回れ右で体を後ろに向ける。

 

「帽振れ!!!!!」

 

第三支部所属の憲兵隊員と総員が涙を流しながら帽子を右手に持ち、影野に向かって帽子を振り、事務員は手を振っている。

 

「隊長!!!頑張って下さい!」

 

「俺たちの事絶対に忘れないでください!!」

 

隊員達は影野に向かって思い思いの事を叫ぶ。

 

「影野隊長!!!艦娘さん達に迷惑をかけないようにしてくださいね!」

 

「何をいっとるか!!!このボンクラが!!」

 

「痛!ちょっと殴らないでください鬼藁隊長!」

 

「影野隊長!!!男鬼藁勝司!!!必ずや隊長の意思を継ぎ更なる精進を行います!私は新しい隊長としてこの部隊と・・・」

 

「長いですよ鬼藁新隊長」

 

「工藤貴様!!!俺の意思を影野隊長に伝える神聖な行為を無かにするか!!!大体貴様も副隊長になったのだからこれから・・・」

 

「影野隊長!!新しい部隊でも頑張って下さーい。またいつか美味しいカレー作って差し上げますから!」

 

「何言ってんだい千代。あんたはまず米をきちんと炊けるようにするんだね」

 

「お、お母さん」

 

「菊の言うとおりだ」

 

「お父さんまで・・・」

 

「千代はまだ米炊けないのね。その脳ばらして見てみたくなったわ」

 

「人の妹に手を出したらただじゃおかないわよ」

 

「帽元え!!!!」

 

鬼藁の言葉に全員が帽子を被り直す。その様子を見ていた影野と小人もとい妖精。

 

「行きましょう提督」

 

「うん」

 

彼は用意されていた黒の公用車に乗車。

 

「最後まで大変でしたね」

 

「退屈はしなかった」

 

「これからどうしますか?」

 

「寝る」

 

その後影野と妖精は東京駅で新幹線に乗車、広島まで移動し、乗り換えで呉に到着した。

 

呉駅 1530

 

「迎えが来ているはずです」

 

すると黒塗りの公用車が駅の近くに停車する。

 

「影野少佐ですか?」

 

「ああ」

 

「こちらにどうぞ。鎮守府へお送りします」

 

影野は呉第08鎮守府に向う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1615 呉市 呉第08鎮守府正門

 

影野、鎮守府に着任。

 

鎮守府の周りは海に面しており周囲は赤レンガで囲まれている。

 

「広いですね」

 

「・・・」

 

「迷子になりそうです」

 

「・・・離れるな」

 

「提督・・もしかして私の事そんな風に思ってます?」

 

「・・・」

 

「もう、そんな態度だと女の子に嫌われますよ!」

 

「・・・」

 

「じょ、冗談ですよ」

 

影野は妖精と駄弁りながら門まで歩く。門には青のデジタル迷彩作業服を着用している警備隊の男が立っていた。

 

「御待ちしておりました」

 

「お疲れ様」

 

「身分証のチェックを行います・・・ありがとうございました。門を開けます」

 

男は門の右横にある詰所の様なところに入る。少しして門が機械な音をたてて開いた。

 

「お気をつけ下さい」

 

影野は鎮守府に入る。

 

その様子を見ている影がちらほらあった。

 

怯えた表情、怒りの表情。

 

「また繰り返されるの?」

 

誰かが呟いたその言葉は以前の鎮守府を象徴しているかもしれない。

 

ここは元ブラック鎮守府




艦娘一切登場してません。

プロフィール

影野海誠(かげやかいせい)

誕生日2020 04 23

身長175 出身広島 好きなものワイン、甘いもの 

軍歴 海軍兵学校 階級曹長 18歳(卒業時に少尉)

第5期艦娘艦隊指揮官過程 階級少尉 20歳~21歳
(この過程は卒業時も基本少尉、成績上位者は中尉、主席は大尉)

東京憲兵隊第三支部所属

第三部隊隊長 20歳~23歳
(少尉→中尉→大尉)


  第一部隊隊長23歳~24歳
(大尉→少佐)

呉鎮守府総監部付第八鎮守府艦娘艦隊司令官
(大佐) 24歳

得意戦術(合計50以内で計算) 最高10点

戦略10 指揮能力6 砲撃戦5 空母戦6 航空戦6 雷撃戦5 対潜戦7 対空戦5



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2話

前回までのあらすじ

着任


恐怖と恨みは伝染し自身を滅ぼす


1630 鎮守府本館中央広場

 

鎮守府正門を通りすぎた影野はレンガ造りの鎮守府の本館に向かって歩いている。噴水がある広場まで歩くと人影が現れる。

 

「お待ちしておりました、影野提督」

 

「・・・」

 

そこにはセーラー服と腰が露出したスカートを着て、手には羽根ペンとファイルとノートを持っている女性が立っていた。見た目は秘書、もしくは学校の委員長をイメージさせる。

 

「初めまして影野提督、私の名前は大淀と申します」

 

「影野海誠」

 

大淀の自己紹介に影野はそっけなく返す。彼女は無表情で聞いていたが影野の肩に乗っていた妖精を見て表情を変えた。

 

「その相棒妖精さんです」

 

影野の肩に立つ妖精の挨拶に少し驚く大淀。

 

「ず、随分と妖精さんに懐かれているんですね」

 

「ありがとうございます!」

 

「・・・」

 

「大淀さん!改めてよろしくお願いします!さっそく鎮守府の案内をお願いします!」

 

「分かりました」

 

「幸先いいスタートですね!提督!」

 

「・・・」

 

影野は本館の周りを少し見回した後大淀の案内に従い鎮守府本館に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

本館周辺

 

影野のが本館に入って暫くして近くの草むらから一つの影が現れた。

 

「まさかばれた?私達が・・・」

 

「川内姉さん残念ですが・・・あの男こちらを見て笑ってました」

 

「!?」

 

「慎重にいきましょう」

 

「了解」

 

(新しい提督・・・もう悲劇は沢山です。貴方には悪いですがこの鎮守府から出ていって頂きます。今度こそ私が皆を守ります。もう誰も泣かせません)

 

(神通に全部背負わせない。汚れるのは私だけでいい)

 

 

 

 

 

通路

 

「なに笑ってるんですか提督?」

 

「華」

 

「はい?」

 

「散ってほしくない」

 

「提督、桜が華やかなのは分かりますよ!花見が楽しみだからってまだ三月ですよ!」

 

(何を言ってるんでしょうか)

 

二人の意味不明な会話に戸惑う大淀。

 

 

 

 

1650 鎮守府本館5階提督執務室前

 

「提督こちらが執務室です。右は私室、左は休憩室があります。事前にお送り頂いた荷物は私室に運んでおります。明日の予定は冊子にまとめて執務室の机にありますのでご確認下さい。私は当直室に居ますのでお呼びの際は内線でお願いします」

 

「・・・」

 

「大淀さんありがとうございます!!」

 

「い、いえ。それでは失礼しました」

 

大淀は少し慌てながら部屋を出ていく。

 

「・・・」

 

「食事にしましょう!」

 

「・・・」

 

「今日の夕食はなんですか?」

 

「千代のおにぎり」

 

「・・・大丈夫ですかね」

 

「死にはしない・・・胃薬あり」

 

「準備ばっちりですね」

 

妖精と影野は覚悟を決める

 

 

 

 

2000 鎮守府本館2階東側艦娘居住区通称駆逐艦寮 4人部屋 201号室

 

「・・・響」

 

「なんだい暁?いつもの君らしくないよ」

 

「今日新しい司令官が来たのです」

 

「そのことなら心配しなくていいよ。今度も私達四人で乗り切れるさ」

 

「響の言うとりよ!大丈夫よ!わたしがいるじゃない」

 

「(雷はそう言っているけど、不安な表情が見え隠れしているよ・・・)」

 

「響・・・顔色悪そうだけど大丈夫?」

 

「・・・大丈夫だよ暁」

 

「(しっかりしなきゃ私が一番お姉ちゃんなんだからしっかりしなきゃ)」

 

「(新しい司令官は優しい人がいいのです。もうそれ以上は望まないのです・・・本当に・・・本当に)」

 

「(大丈夫、私は大丈夫、今度も、私は大丈夫、私が受け止めればいいのよ。私はだいじょうぶ。皆安心して私がいるから大丈夫・・・)」

 

「(皆もう限界だ。新しい司令官には悪いけど・・・私は)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたを殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 鎮守府本館2階東側艦娘居住区通称駆逐艦寮 4人部屋 202号室

 

「新しい司令官はどんな方でしょうか?」

 

「不知火はそんなことどうでもいいです」

 

「出来るだけ会いたくないけど、無理な話よね」

 

「陽炎姉さんの言うとうりやで、艦娘である限り叶わん事やで」

 

「あたしは別にどうもいいよ~」

 

「二人はは呑気ね、羨ましいわ(あなた達は着任したばっかりだから分からない。だから私達で守る。だから純粋なままでいてね)

 

「(二人は不知火が守る)」

 

「(今度はあんなことはさせん。やられる前に殺すで」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 鎮守府本館2階東側艦娘居住区通称駆逐艦寮 4人部屋 203号室

 

「潮あんた大丈夫なの?」

 

「うん・・・」

 

「嘘言わないで震えてるよ」

 

「大丈夫・・・朧ちゃん」

 

「新しい提督、今度こそ優しい人だったらいいな」

 

「もう聞き飽きたわよそれ、もう諦めなさいよ漣」

 

「曙ちゃんは手厳しいねえ」

 

「糞提督なんて消えてしまえばいいのよ!」

 

「(みんなは私が守る)」

 

「(ねえカニさん・・・私達って何のために生まれたのかな?もう疲れたな・・・)」

 

「(みんなピリピリし過ぎだよ・・・そんなんじゃこの先持たないよ・・・)

 

「(もう誰も居なくなって欲しくない。そのためなら私は何でも・・・また・・・同じ・・・ううっ・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

「誰か助けて・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2015 第08鎮守府本館1階医療用ベットルーム

 

「ねえ如月ちゃん聞いて、今日新しい提督が着任したんだよ」

 

「」

 

「どんな人なのかな」

 

「」

 

「前の提督とは違うといいね」

 

「」

 

「私ね、如月ちゃんを治せるかどうか聞いてみたいなぁって・・・どうかな?」

 

「」

 

「 ・・・ううっ ・・・ねえ答えてよ・・・」

 

「・・・」

 

「如月ちゃん・・・ううっ・・・うわぁぁぁぁん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2100 鎮守府本館2階西側艦娘居住区通称軽巡寮 212号室

 

「殺すなら今週中かな?」

 

「姉さん、相手は只者じゃないです。私たちの気配に気づいていました」

 

「厄介だね。でも私は諦めないよ」

 

「はい、同じ事は繰り返させません」

 

「今週中には殺すよ神通」

 

「はい、華の二水戦の名に懸けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 鎮守府本館2階西側艦娘居住区通称軽巡寮 213号室

 

「新しい提督・・・」

 

「どうしたの天竜ちゃん?」

 

「龍田、今度こそガキどもを・・・鎮守府を守るぞ」

 

「うふふ、そうね~」

 

 

 

 

 

 

 

2130 第08鎮守府本館3階東側艦娘居住区通称戦艦寮 301号室

 

「ねえ長門・・・」

 

「なんだ陸奥・・・」

 

「来たわね」

 

「そうだな・・・明日総員の前で挨拶がある」

 

「そう・・・」

 

「不安か?」

 

「そうね、無いと言ったら嘘になるわ」

 

「大丈夫だ、この長門がいる」

 

「・・・(強がっちゃって)」

 

「皆は私が守る」

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 第08鎮守府本館3階東側艦娘居住区通称戦艦寮 312号室

 

「榛名は大丈夫です、お姉様」

 

「嘘は駄目デス」

 

「榛名は大丈夫です」

 

「榛名お姉様辞めてください」

 

「今度も榛名がご奉仕すればお姉様方や霧島は守られる」

 

「榛名!・・・バカなことは辞めるデス!」

 

「金剛お姉様の言うとおりです!妹にそんな事してほしくないです!もしまたそんな事しようとしたら私が提督を・・・」

 

「比叡お姉様・・・提督をどうするのですか?」

 

「こ、こここ殺します!!!」

 

「比叡!!!」

 

「ヒエー!!?」

 

「そんな事言っちゃ駄目デス!もし聞かれたら今度こそ解体処分か捨て艦にされるデス!!!」

 

「榛名は、榛名は大丈夫ですよ皆・・・」

 

「(もう限界ダヨ・・・私達に希望は無いのですか?なんで他の鎮守府の私達はあんなに幸せそうに笑ってられるですか?もうイヤだよ、疲れたよ、もう・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府本館3階東側艦娘居住区通称重巡寮

 

「ねえ青葉辞めなさいって!」

 

「新しい司令官がどんな人なのか調べるのは青葉の使命です!」

 

「あなたそれで前の提督にどんな目にあったか忘れたの?」

 

「青葉は好きでやってるのです!辞めないのです!」

 

「どうしてそこまで・・・」

 

「(前の提督の失脚は少なからずですが青葉が関わっています。それは皆には内緒です。これは青葉の自己満足。次もも青葉の取材力で新しい司令官には消えてもらいます)」

 

「無茶しないでよね」

 

「青葉にお任せください!」

 

 

 

 

 

 

同時刻 第鎮守府本館4階西側艦娘居住区通称空母寮

 

「赤城さん起きてますか?」

 

「起きてますよ加賀さん」

 

「・・・赤城さん」

 

「新しい提督の事ですね」

 

「!」

 

「私も不安です。前任者と同じような方だったらと思うと・・・」

 

「怖いですか?」

 

「加賀さんが居てくれたら怖くないです」

 

「赤城さん・・・私も同じ気持ちです」

 

「今度も二人で乗り越えましょう」

 

「ええ加賀さん」

 

「赤城さん・・・」

 

「加賀さん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

2150 鎮守府本館5階 提督用私室

 

「ふぁ~あ」

 

数人の艦娘に暗殺されようとしているこの提督は呑気にあくびをしている

 

「提督大丈夫ですか?」

 

「うん」

 

「もうすぐ消灯ですよ?」

 

「うん」

 

「明日は挨拶ですよ?緊張してませんか?」

 

「心配なし」

 

「これから忙しく乗りますね」

 

「うん」

 

「まずは信頼関係ですか?どうします?この鎮守府以前(・・)来たときよりはだいぶマシになってますけど・・・」

 

「大丈夫」

 

「でも提督意志疎通下手じゃないですか」

 

「・・・」

 

「落ち込まないで下さいよ。大丈夫ですその為に私がいるんですから!」

 

「ありがとう」

 

「いえ、どういたしまして!」

 

影野はそう言って妖精を撫でる。

 

「はぁ~気持ちいいなぁ~」

 

 

ピンポンパンポーン 《消灯》

 

 

影野が妖精に構っていると館内マイクから消灯放送がきた。

 

 

「消灯ですね」

 

「寝よう」

 

「ですね、おやすみなさい提督」

 

「おやすみ」

 

影野と妖精はそれぞれベットに就いた。




鎮守府の施設《本館(ここがアニメ版の鎮守府施設と思って下さい) 別館(門の近くにある建物、軍属の事務員と警備隊が使用している) グランド(一般的な小中高学校の広さ) 入渠施設(アニメと一緒)柔剣道兼弓道場(アニメの弓道場を広くした感じ) 護衛艦用岸壁(影野が指揮する護衛艦が係留されている。1隻) 造修所(港務隊の施設、護衛艦の弾薬他消耗品が管理されている。場所は岸壁から近い)

所属艦娘

戦艦 長門 陸奥 金剛 比叡 榛名 霧島

空母 赤城 加賀 蒼龍 飛龍

軽空母 龍驤

重巡洋艦 青葉 衣笠 

軽巡洋艦 天龍 龍田 夕張 川内 神通 五十鈴 大淀

駆逐艦 睦月 如月 弥生 卯月 皐月 水無月 文月 長月 菊月 三日月 望月

暁 響 雷 電 朧 曙 漣 潮 陽炎 不知火 黒潮 雪風 時津風 島風




設定考える時が一番楽しい説


この鎮守府何人か百合百合してます


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3話

前回のあらすじ

提督命を狙われる


信頼は小さな一歩から始まる


ねぇ影野君

 

・・・

 

やっとだね

 

・・・

 

まずはおめでとうようやく夢が叶ったね

 

・・・

 

でもあの子達怯えてるね。影野君の顔が怖いからかな?私も初めて会ったときは怖かったな~

 

・・・

 

そんな不機嫌な顔しないでよ

 

・・・

 

そろそろ行かなきゃ

 

・・・!

 

じゃあまたね、今度は私が影野君の前に現れるときは影野君がピンチな時だ

 

・・・?

 

でも安心して、きっと助けるから。あの時みたいに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月28日 火曜 0600 提督室私室

 

影野は目を覚ました懐かしく愛しい者の声だ。

 

「・・・文香」

 

まだ薄暗い鎮守府庁舎の部屋に小さく声が響く。

 

影野は首に掛けてある懐中時計と指輪をみた。一つは愛しい人からの贈り物、もう一つは愛しい人に渡せなかった贈り物だ。

 

「むにゃむにゃ、影野隊長まだおやつには早いですよ」

 

妖精はまだ眠っている。

 

「・・・」

 

影野はベットから起き上がると寝間着のままトイレ、洗顔を行い、固形物の朝食を済ませ部屋の机に座った。

 

今日は0805に鎮守府所属の艦娘、隊員、事務員総員の前で着任挨拶、0930に影野が指揮する護衛艦視察、1000から1150まで鎮守府全体の視察、1330から呉地方総監府での挨拶と正式な命令受領、各種手続き、1530から呉市長に挨拶&住所登録、とにかく忙しい。

 

時刻は0625に。すると館内放送で総員起こし5分前が流れた。

 

「影野提督・・・」

 

「おはよう」

 

「おはようございます影野提督」

 

「眠いか?」

 

「少し眠いです」

 

「コーヒー」

 

「頂きます・・・」

 

影野は妖精用の小さなカップを取り出すと器用にコーヒーを注ぎ妖精に渡した。

 

「あぁ・・・コーヒーはブラックに限りますね」

 

妖精はそう言っているが影野はミルクを入れる派だ。

 

すると0630となり総員起こしのラッパが鳴る。

 

《総員起こし》

 

「さて朝御飯はなんですか!」

 

妖精は影野の用意した朝食を見て落ち込む。

 

「・・・早く温かい食事お願いします」

 

「善処する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0700 本館 食堂

 

ここは海軍の施設である。現日本海軍は旧海軍、海上自衛隊時代から総員起こし5分後に体操を行う。実際に鎮守府内に居る警備隊と港務隊と護衛艦の隊員は行っている。艦娘達は誰も行わない。

 

艦娘達は配食時間になると一階の食堂に行き食事を行う。

 

「そわそわ」

 

「そわそわなのです」

 

「止めてくれないかなそれ」

 

「うぅ・・・」

 

「二人とも大丈夫よ!私がいるじゃない!」

 

「雷もそればっかりじゃないか」

 

「逆に聞くけどなんで響はそんなに落ち着いてるの?」

 

「なのです!」

 

「今さら慌てたところで意味がないよ」

 

響は素っ気ないようすで答える。

 

「ちょっと響、そんな言い方って!」

 

「もういいかい?ごちそうさま」

 

響は去っていった。

 

周りの様子も似たような光景だ。

 

すると食堂に置いてある植木に小さい影が表れる。

 

「不味いですね。想像以上に不味いですよ!」

 

「そうですね」

 

「やべぇよやべぇよ」

 

「みんなぴりぴりですね」

 

「あなた達は呑気ですね」

 

「ほめてもなにもでないですよ」

 

「それほどでも!」

 

「やりました」

 

「頭痛くなりそう・・・」

 

それは影野と一緒に来た妖精とこの鎮守府に元々居る妖精の3人だ。彼らは影野に頼まれて艦娘達の様子を偵察していたのだった。

 

「大丈夫かなこの鎮守府・・・」

 

大丈夫じゃないよ妖精。

 

 

 

 

 

 

 

0745 鎮守府中央広場

 

艦娘を含め鎮守府に働く一部を除く総員が集まった。しかし艦娘と隊員、事務員の列は離れており、お互い極力顔も会わせないようにしている様子。

 

総員が集合した5分後に影野が広場に現れた。服装は黒色の礼装の第1種冬服《海上自衛隊の幹部の黒い冬服の制服》、鎮守府隊員も礼装服だ。

 

0800の国旗掲揚が終わり影野は予め用意されていたお立ち台に昇る。

 

すると鎮守府当直士官の隣にいた若い隊員がサイドパイプで総員を吹き、《総員集合》を令する。

 

当直士官の号令で総員が影野に敬礼を行い影野が答礼を行い、遂に影野が口を開いた。

 

「3月23日付けで着任した影野海誠。呉地方総監所属第08鎮守府艦娘艦隊及び第4護衛隊所属護衛艦隊『やまゆき』指揮官を任命され昨日着任した。よろしく」

 

影野はまるで業務内容を淡々と述べるかのような様子で口を開いた。

 

(なんか淡々としているわね)

 

(前の司令官と違って細いのです)

 

(前の奴と違って背が高いわね)

 

(意外に顔はいいわね・・・目付き悪いけど)

 

艦娘達は思い思いの事を考えた。

 

それから三分以上経過したが影野は一切口を開かない。

 

「・・・・・・?」

 

上記の表記は総員の総意である。

 

誰もが言葉を失った。

 

(え?これだけ?)

 

(何かもっと言うことないの?)

 

皆そう思った。奇しくも艦娘と人間の思考が一致した瞬間だろう。影野はそう思った・・・かもしれない。

 

その後当直士官の号令で敬礼をすると影野は広場から去っていった。

 

残された人々は暫くその場で立ち尽くしたが、すぐにそれぞれの職場に戻っていった。

 

 

 

 

 

庁舎の廊下

 

「・・・提督あの挨拶なんですか?」

 

「許せ」

 

「折角一緒に考えた挨拶の原稿どこにやったんですか?」

 

「部屋」

 

「提督なら覚えられたはずです!絶対わざとですよね?」

 

「・・・」

 

「はぁ・・・仕方ない人ですね」

 

「・・・」

 

「まぁいいです。これから頑張っていけばいいです!」

 

妖精は影野に甘い。

 

「次は護衛艦の視察ですね!」

 

「うん」

 

影野は肩に乗せている妖精と話ながら執務室へと歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0840 駆逐寮

 

「なんなのよあの挨拶!」

 

「ププ変わった提督ですね」

 

「もう漣ったら笑いすぎよ」

 

「だって朧、あんな挨拶ある?もしかして新しい提督ってコミュ障?」

 

「いい印象ないわよ。ただの糞提督よ!」

 

「ちょっと顔かっこよかったですね」

 

「で、でも目付きが怖いです」

 

「おやおや~かっこいいのは認めるのですか~」

 

「あうぅ」

 

「漣!からかわないの!」

 

「痛った~い!酷いよ朧~」

 

「とにかく皆気を付けるのよ!」

 

「分かってるわ」

 

「う、うん」

 

「へ~い」

 

「漣!ちゃんと返事する!!!」

 

「は、はい!ぼーのちゃん!!」

 

「ぼーのちゃん止めろ!!!」

 

「全く」

 

「は、はは」

 

食堂の時と同じくどこも似たような反応である。

 

その後影野は自分の指揮する護衛艦3隻と鎮守府全体の視察を終えて庁舎の執務室に戻っていた。

 

1200 執務室

 

「護衛艦なんて久しぶりでしたね!」

 

「ああ」

 

「この鎮守府広いですね!」

 

「ああ」

 

「この後のお昼はなんですか!!!」

 

「・・・」

 

「わくわく」

 

影野は執務室に置いてある戸棚からカップ麺を取り出す。

 

「・・・えっ」

 

「我慢」

 

「・・・食堂は駄目ですよね」

 

「いづれは」

 

「いつになるやら・・・そうだ!」

 

「?」

 

「事前に頼んで持ってきて貰うのはどうでしょうか?」

 

「・・・」

 

「それか護衛艦で食べます?」

 

「・・・」

 

「それか事務員の別館の食堂に行きますか?」

 

「・・・」

 

「それとも作りますか?休憩室に調理場がありますよ!」

 

「明後日から」

 

「やったぁ!!!」

 

妖精がはしゃぐ。影野の料理の腕はいい。

 

「明後日からは毎日食事が楽しみになります!!!」

 

「まかせろ」

 

「あ、3時のおやつはどうします?」

 

「明後日から」

 

「やったぜ」

 

「ふむ」

 

「でも食材どうするんですか?」

 

「少し拝借」

 

「泥棒は駄目ですよ!」

 

「問題なし」

 

「責任者は自分だから問題なしってわけですか?駄目ですよ?」

 

「・・・頼んだ」

 

「最初のおやつはシュークリームでお願いします」

 

「・・・了解」

 

その後護衛艦の視察、艦長との挨拶等の行事を終えたらあっという間に夕方となり、今日の課業も終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2030 鎮守府 調理室

 

食堂の隣に隣接されている調理室そこに割烹着を着た女性と2人の少女が食器を拭いていた。

 

「ありがとうね、文月ちゃんと皐月ちゃんこれで最後だから」

 

「僕達こそお礼を言いたいよ!だって毎日美味しいご飯作ってくれてるのから!」

 

「文月もそう思うよ~」

 

「ふふっありがとう」

 

外からみればとても絵になる風景だ。例えるならお母さんのお手伝いをする姉妹のようだ。守りたいこの笑顔。

 

「すいません」

 

そこに影野の相棒妖精が現れる。

 

「あら見かけない子ですね」

 

「妖精さんだぁ~」

 

「初めて見る妖精だな?」

 

「初めまして、この度影野提督と一緒にこちらの鎮守府に着任しました妖精です!」

 

 

「「「・・・!」」」

 

妖精の言葉に場が少しだけ不穏なものになる。

 

「・・・すいません空気を悪くしてしまって」

 

「いえ、こちらこそごめんなさい」

 

「ねぇねぇ妖精さん」

 

「どうしました?文月さん?」

 

「司令官と来た妖精さんはなんの妖精さんなの?」

 

文月の質問の意図を説明すると、彼女達艦娘にとって、妖精とはそれぞれ役職がある存在と認識だ。整備員からパイロット、それは様々だ。

 

「私は影野提督の相棒です!」

 

「相棒?」

 

「な、なんだそれ!?」

 

「変わった役職ですね」

 

「ねぇ妖精さん」

 

「なんですか文月さん?」

 

「司令官ってどんな人なのかな?」

 

文月の質問に言葉を失う皐月とほうしょう。

 

「影野提督はとても頭がよく優しいです。あと料理がとてもうまいです。ちょっとコミュニケーションが下手ですけど、あれでも過去には恋人が居たんですよ!。とっても素晴らしいですお方です!!!」

 

妖精の話を聞いて3人はそれぞれ考える。

 

(妖精さんは言うことはまるで嘘みたい。でも何だか気になるな~)

 

(信じられないよ、人間なんてどうせ同じだよ。僕は騙されないぞ)

 

(妖精さんは嘘をつきません。でも信じられない私がいます)

 

すると鳳翔が妖精に話しかける。

 

「妖精さん、ここに来たのは何かご用があったからじゃないですか?」

 

「あ、そうでした!実は食材を分けて欲しいのです!」

 

「食材ですか?」

 

妖精は鳳翔に理由を話した。

 

「分かりました。必要な分は持っていって下さい。でも一つだけ条件があります」

 

「鳳翔さん!?」

 

「大丈夫よ皐月ちゃん」

 

「なんですか?」

 

「実は食材の量と種類を少し増やしたいのですが」

 

皐月はその言葉に驚いた。いくら妖精さんとはいえ間接的に司令官に意見を言っている。皐月の経験上それは許されないことだった。過去に前任者に意見して暴行を受けたり、無茶な出撃で轟沈してしまった艦娘もいる。皐月はその言葉を姉のから聞かされていた。だが妖精の言葉は皐月には予想できない物だった。

 

「いいですよ!要望は紙に記載して持ってきて下さい」

 

「「え!?」」

 

「もし、持っていくのが心情的に難しいのなら私が代わりに持っていくので安心してください。今週はまだ忙しいので、来週からは休日以外はいつでも大丈夫です」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「お礼なら私でなく提督にお願いします」

 

「あ、」

 

「直接じゃなくてもいいですよ。ゆっくりでいいんです。提督はここの以前の状況も前任者のことも全て把握しています」

 

「そ、そうですか。お心遣い感謝します」

 

「いえいえ」

 

「(鳳翔さん・・・)」

 

「ねぇねぇ妖精さんもう一ついい~?」

 

「何でも聞いてください!」

 

ん?今難でもって言ったよね?まぁ冗談はさておき文月は純粋な意味で聞いている。

 

「何でも・・・司令官の得意料理ってなに~?」

 

「提督は全ての料理が得意です。特にはワインに合うおつまみとデザートは特に上手いです」

 

「デザートってなに?」

 

「デザート知らないんですか!?」

 

妖精は驚いた。

 

「うん、皐月知ってる?」

 

「僕も知らない」

 

「鳳翔さんは?」

 

「意味は存じ上げています。実際に出したことはありません。前任者が去るまでは最低限の食材でしかお食事をお出ししてないですから、出しても果実ぐらいです」

 

今は大分改善されたとはいえこの鎮守府は甘味を買ってないのだ。鳳翔の言うとおり出てきても余り新鮮ではない果実のまだ。

 

「マジですか・・・ではお教えいたします。デザートとは食後に食べる美味しい果実やお菓子のことです。まぁ食後に食べるおやつですかね」

 

「おやつって何?」

 

「あらゃらゃ、そこもですか。おやつとは午後もしくは深夜に少しだけお腹が減ったときに何かを食べる事です。夜に食べるのは夜食とも言います」

 

「へぇ~」

 

「甘いものか」

 

「ごめんなさい妖精さん、この子達まだお菓子類は食べたこと無いのです」

 

「えぇ!!」

 

妖精は鳳翔の言葉に驚く。以前の部隊ではその職務上様々な鎮守府に訪れていたが、駆逐艦をはじめ多くの艦娘はお菓子と聞くととても楽しみにしている雰囲気が感じられた。しかしこの子達には感じられない。妖精はそれを可愛そうだと思った。

 

「なら食べてみますか?」

 

「え?」

 

「む?」

 

「はい?」

 

妖精の言葉に3人は驚く。

 

「提督に言えば作ってくれますよ?」

 

「ご、ご迷惑ではないでしょうか」

 

「僕は別に・・・」

 

「あたし食べてみたい」

 

「え?」

 

文月の言葉に皐月が反応する。

 

「食べたい!!!」

 

「分かりました。皆さんのおやつも作ってもらうように頼んでみます」

 

「ありがとう妖精さん」

 

文月は妖精を優しく手で包んで自分の頬に優しく擦りつける。抱き合っているみたいだと皐月と鳳翔は思った。

 

「うっぷ、わっぷ、文月さん分かりましたから、そろそろ離して下さいよ~」

 

「わっごめんなさい」

 

「いえいえ、文月さんの柔らかほっぺを堪能できました、後で提督に自慢してやりますよ」

 

「えへへ」

 

「それではここで失礼します、そろそろ帰らないと提督が寂しがりますから」

 

「妖精さんばいばい」

 

「はい、それでは皆さんおやすみなさい!鳳翔さん明日の朝早くに取りに行くので朝食の準備の時に食堂の何処かに置いておいて下さい。用意してほしいリストはこちらです」

 

妖精は鳳翔に食材の書かれた紙を渡すと帰っていった。

 

「・・・二人とも今日はもう休んでいいですよ」

 

「分かった」

 

「は~い」

 

皐月と文月はそう返事すると自室に帰っていった。

 

「おやつ楽しみだね」

 

「べ、別に私は・・・」

 

ほうしょうは二人が出ていくのを確認すると明日妖精に渡す食材の確認をするため調理室の奥にある貯蔵庫に向かった。

 

 

 

 

 

 

「影野提督」

 

「・・・報告」

 

「ミッションコンプリート」

 

妖精がグッとする。

 

「了解」

 

「あと明後日のおやつ追加お願いします」

 

「・・・了解」

 

「何だか嬉しそうですね」

 

「善きかな」

 

「これが第一歩になってほしいです」

 

「頑張る」

 




世に文月のあらんことを






次回予告

影野の他の鎮守府視察







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4話

前回までのあらすじ

世に文月のあらんことを





今回胸糞描写あるよ



権力とは人を腐敗させ、善人さえも悪の道に誘い込む


お互いの信頼なくして勝てる戦なし





3月29日 水曜 0500 提督用私室

 

影野は目を覚ましベットから起きあがる。いつものように洗顔を済ませた後休憩室に向かう。そこには食材の入ったかごと珍しく早起きした妖精がいた。

 

「提督、貰ってきました!」

 

「うん」

 

「それではお願いします」

 

影野提督は朝食を作りはじめた。一時間程の作業を終えて簡単な朝食を作った。メニューはご飯、味噌汁、玉子焼き、納豆。

 

「頂きます!」

 

「頂きます」

 

妖精はいつも美味しそうに食べる。影野はいつもそう思っている。

 

部屋には暫く食器の音が静かに響いていた。

 

「あ~美味しかった~三杯も食べちゃいました」

 

「ごちそうさま」

 

「おっとと、ごちそうさまでした。感謝感謝です」

 

この後部屋に置いてあった高性能食器洗浄機に使用した食器を入れた。

 

今日の予定ほ0800の朝礼を行い、今日は一日かけて呉の01から09までの鎮守府鎮守府全てを回り、所属する提督達に挨拶、何人かは顔を知っている者がいた。しかし全員影野には関わりたくない様子。

 

1200 呉第04鎮守府

 

影野は昼食を別の鎮守府で食べていた。

 

場所は四階の来客用食堂だ。長テーブルが用意されており、共に食事をしているのはこの鎮守府所属の提督の中でトップである河原少将だ。年齢は46歳、見た目通りのおじさんだ。この世界の軍人を含め仕事の定年は65歳である。

 

「どうかな影野提督?うちの鳳翔の腕は?」

 

「美味です」

 

「それはそれは」

 

「私の分までご用意して頂いてありがとうございます」

 

影野の使用する机の右斜めのスペースに妖精の食事が用意されていた。ご丁寧に妖精用の小さい椅子と机まで。

 

「君は他の妖精と違って影野提督の大事な相棒だと聞いている。同じように対応するのは当たり前のことだよ」

 

河原は笑顔でそう言った

 

「元憲兵所属の君からみてうちの鎮守府の雰囲気どうかね?」

 

「並」

 

影野の答えに河原は苦笑いを浮かべる。

 

「並ですか・・・それは何も誉めるところも指摘するとこもないと言うことでしょうか?」

 

「いえ、違いますよ。この鎮守府は全体の環境、艦娘同士の関係性は問題ないです。しかし提督達と艦娘達の絆が不足しています」

 

「艦娘との絆ですか。この鎮守府には私の他に四人の提督がおります。皆は私と違いまだ若い、彼らは艦娘と積極的に関わろうとしているが・・・」

 

河原の顔の表情が暗くなる。

 

「貴方がそれを止めていますね」

 

「うむ・・・」

 

「喪失と恐れ」

 

影野の言葉に河原は少し驚く。

 

「何でもお見通しか。影野提督の言うとおり、彼女達と関わり絆を深めるとそれを失った時の感情は耐え難い物だ。私は過去にその様な光景を多く見てきた」

 

河原は思い出す。新米の提督が両思いだった艦娘を沈めてしまい廃人になってしまう光景、自ら命を絶ってしまった光景。彼らはわざと艦娘を沈めた訳ではない、慢心と無茶な作戦、進撃を命じた上官からの命令など様々な要因がある。河原は自らの部下にそうなってほしくないと思っていた。

 

思い更ける河原に妖精が話しかけた。

 

「河原提督はこの戦争の初期から海軍にいたのですか?」

 

「その通りだよ妖精、あの頃はまだ艦娘も妖精もいない中我々だけで戦っていた。その中で上官、同期、中には家族、私の世代や今の上層部は失うことの重さを特に知っている」

 

「・・・」

 

「その方々がついこの間まで今の上層部を占めてていましたね」

 

「そうだ、そしてその中で狂ってしまいこの間までの君達のお世話になった者も多いはずだ」

 

「・・・」

 

影野の見た河原は更に口を開く。

 

「もう一つ言いたいことがあるんだ。ある時突然艦娘と君達妖精が現れた。そこから奴等・・・深海棲艦との戦いは・・・五分五分となった時、海軍全体が浮き足たった。・・・しかしそれは戦いの激化と新たな野望が始まったと私は思っている」

 

影野は黙って話を聞いている。河原の言う野望とは現日本・・・もしくは海軍が行った事だ。

 

この頃日本海軍は艦娘という深海棲艦に対する唯一の切り札を使い陸軍、空軍を半ば傀儡にすることに成功した。そして時の政権をその影響力を使って自らの支配下にしようとした。

 

その一歩として東南アジア、西大平洋の島々の制海、制空権を日本が防衛する見返りにそれらの主権を持つ国の好きな湾岸に租借地と防衛の為の軍事組織を駐留させるという条約を当時の政権に提案させた。オーストラリアを除く、これらの国々は深海棲艦に蹂躙されるくらいならとその条約を結んだ。この結果海軍は一時期この国の国政を操れる出来る程の権力を手にいれた。

 

「あの時は酷かった、上層部は利権と癒着、腐敗まみれだった。艦娘達も一部を覗き不幸な目に・・・」

 

「自らも」

 

「自らも?」

 

「河原提督、その時は有能な多くの人材も潰されたのです」

 

 妖精の言葉に驚く河原。

 

「そ、それはどういう事でしょうか?」

 

妖精は暗い表情で影野を見る、影野は頷いた、すると妖精は話し始めた。

 

この時期は今でこそ日本海軍にとっては断罪の歴史となっているいが、いまでもこの時を懐かしむ者も多い。

 

ある時若く有能な男の提督が鎮守府に着任した。彼は艦娘と積極的に関わり艦娘達も彼を信頼し、その鎮守府はあっという間に戦果を上げた。ある時彼は他所の鎮守府との上官との演習で勝利した。その上官は自身よりも階級も年齢も下の若造に敗北したことに屈辱を受け、自らの権力を使い若い提督にでっち上げの罪を擦り付け憲兵に逮捕させた。若い提督の鎮守府所属の艦娘達は上官に申し立てを行った、上官はある条件を提示してそれが終わったら解放してやると言った。

 

「その条件とは・・・」

 

「マッサージです」

 

「!?」

 

河原が驚くのも無理はない、妖精の言ったマッサージとは性的な奉仕を意味するからだ。

 

「それも上官の関係者を含む友人、知人の・・・」

 

「上官の鎮守府は・・・」

 

「ブラック鎮守府と呼ばれています」

 

ブラック鎮守府とは艦娘の運用に関して特に厳しく、冷酷で鈴に例えると艦娘の使い捨て、暴行を含むあらゆる行為が日常的に行われる鎮守府の事を指す。

 

妖精の話は続く。若い提督の艦娘達は彼の為ならとどんな屈辱にも耐えた、時には励まし合い、涙を流しながらも耐えた。しかし、上官達はその様子を若い提督にみせつけた。彼はそれにショックを受け最後・・・彼が指輪を渡す筈だった艦娘が彼の目の前で上官との行為を見せつけられた若い提督の心は壊れてしまい、その場で舌を噛みきって自殺した。その後彼の艦娘達は絶望からただ快楽を求める存在となり、最後は・・・

 

「止めてくれ・・・」

 

「・・・」

 

「明確に軍法を犯している!なぜそんな暴挙を見逃せたのだ!」

 

河原もその様なことが行われていたのは知っていた、しかしここまで酷い行いは知らなかった。いや単に目を逸らそうとしていたかもしれない。

 

「確かに艦娘に関する軍法はその通りです。しかし例外を覗き、自ら進んで行うのは禁止されていません」

 

妖精は淡々と語る。

 

「その時その瞬間似たような事は起きていました。艦娘にとっては暗黒時代です。それに当事者達も初めは誠実な人が多かったのですが」

 

「長い戦争が人を狂わせたかのか・・・」

 

「貴方の方針ではもしかしたらこの先似たような事が起きるかもしれませんよ」

 

「なんだと!!!」

 

「交流は大切なんですよ。共に戦う者同士のを理解しないと勝てるものも勝てないです」

 

河原は考える。

 

「・・・お互いの理解」

 

「河原提督?」

 

河原は決心した

 

「後で部下達を集めて話し合ってみる」

 

その言葉に妖精は喜んだ。

 

「ありがとうございます!」

 

「・・・」

 

「影野提督も喜んでいますよ!」

 

「そうか・・・」

 

「そろそろ」

 

影野が時計をみて呟く。

 

「あ、そうですね。河原提督そろそろ次の鎮守府に出発します」

 

気が付けば時刻は1250

 

河原は影野と妖精を見送った後に執務室に戻ってきた。

 

影野は内線を手に取り電話を掛ける。

 

「・・・後で部下全員を私の執務室に呼んでくれ」

 

河原は決心した。変えていくことを

 

「影野提督・・・君は奴ら・・・艦娘兵器派にとっては厄介だな、しかし穏健派からしたら救世主・・・流石は死神だ」

 

暫くすると執務室をノックする音が聞こえた。




次回予告

提督の同期と演習、実食影野の特性シュークリーム 暗殺実行



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