起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない (Reppu)
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第0話:0079/04/15 マ・クベ(偽)基地に立つ

朝起きたらマ・クベだった、訳が分からない。

久しぶりの連休に浮かれて酒を飲みながらガンダムのBOXを見ていたのが最後の記憶、次に気が付いたら、妙に古臭いSFチックな部屋に居た。

二日酔いに痛む頭を抱えながら何処だと見回している内に目に留まった姿見に映った姿は、血の気の悪い神経質そうな優男、僕らの良く知る壷の人、マ・クベその人だった。

一応現実逃避の為に変顔やら怪しい踊りなどを披露してみるが、まったく遅滞なくトレースして動く姿見の中の人、うん、これ俺だ…ナンデ!?

 

「いや、ええ?なんで?なんでマ・クベ?」

 

混乱して意味のないつぶやきを繰り返すが、勿論事態は好転するはずもなく、むしろ数秒後には悪化した。

 

「おはようございます大佐、朝食をお持ちしました」

 

聞きなれない電子音に続いて実直そうな声がドアフォンから流れる。どう対応するべきか悩んでいると、声の主が不審げに問いかけてきた。

 

「大佐、いかがなさいましたか」

 

「あ、ああ、すまない、体調が優れなくてな、今開ける」

 

そう言ってドアを開けると、これまた見たことがある顔が感情のこもらない表情でこちらに視線を向けていた。

 

「医師を手配いたしますか?」

 

顔の主、ウラガンはやはり感情のこもらない声で聞いてくる。

 

「ああ、いや、不要だ、ありがとう、下がっていいぞ」

 

「…は、失礼いたします」

 

そう言って無表情な副官を下げさせると、俺は盛大にため息をついた。

 

「一体、何がどうしてこうなった」

 

 

 

 

一礼し、部屋を辞したウラガンは足早に移動を開始すると、基地内でも閑散とした方向に足を向ける。無論こちらに用事は無いのだが、今はその人気が無い事が重要だった。

 

「ああ、私だ。すまないが何人か人を選抜してくれ、基準は基地内に居て不審に思われず、かつ閣下と面識が無い者だ」

 

何があったのか、それを決めるには情報が足りない。しかし彼は上官に何かがあったことを見抜いていたし、その事実に確信を持っていた。

 

「そうだ、監視目標は大佐ご本人だ」

 

問題が無ければそれに越したことは無い。だが何かあったなら。

 

「一度、キシリア様のお耳にも入れねばならんかもしれんな」

 

優秀な男の右腕もまた、優秀な男だった。

 

 

 

 

「さて、これからどうすべきか」

 

ワゴンに載っていた豪勢な食事を平らげ、少し落ち着いたところで考える。

これが夢ならいいのだが、ここまでの時間に感じたすべてが現実であると合唱している。

で、あるならば当然今後の事を決めねばならない。

 

「このままだとテキサスコロニーで死ぬか、いや、映画なら生存の可能性も…オリジンだったらどうしよう」

 

媒体によってブレがあるものの、マ・クベは大体良い終わり方をしない。

そもそもこのまま行けばたとえ生き残ってもジオンが負ければ軍事裁判待った無しである。

 

「ヤバイ、ロクな未来が思いつかん」

 

理想的なのは原作知識を活かしてジオンを勝利に導くことだが、はっきり言ってそんな才能は俺には無い。というか、その程度で覆るような戦局ならジオンは負けていないだろう。

 

「…とすれば、亡命か」

 

妙案に思えたが、これもまたあまり良い手ではないだろう、なにせこれから20年近く地球圏はゴタゴタするのだ。直近でもコロニー落としまで行われるような大戦が起こる。そして各地にジオン残党が潜伏している状態で、果たして早々に要衝をほっぽり出して寝返った人物を彼らが見逃してくれるだろうか、具体的には某ハゲの艦隊とか。

 

「よし、諦めよう」

 

あーだこーだ考えたところで、所詮三流工業大卒の脳みそではどうにもならんと判断した俺は、ベストエンドは早々に見切りをつけ、さっさとベターに移る事にした。

 

「とりあえず生き残る、んで条約違反とかしないで人道的に動けば、ちっとはマシ…になるはず」

 

具体的には水爆だな、うん、あれはヤバイ。あとギャン、MSの操縦は憧れるがまかり間違っても連邦の白いキラーマシーンとの戦闘なんて御免こうむる。プライドや面子などより命が大事だ。

 

「そうと決まれば情報収集だな」

 

都合がいいというかなんというか、アルコールが抜けてくるにつれてマ・クベ本人の記憶も色々と頭の中に入ってくる。おかげで右も左もわからない、なんて事は無さそうだと安堵しているところに、とんでもない記憶がぶっこんできた。

 

「…え?」

 

基地の中でも特に厳重に秘匿されている区画、水爆貯蔵施設の隣にあるそこそこ広い部屋、その部屋一面に並べられた壷、壷、壷…。それらが押収品どころか賄賂、だけでなく買い付けに軍資金を横領した記憶と共によみがえる、これ、あかんヤツだ。

 

「俺は、生き延びることが、出来るのか?」




多分続かない。


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第一話:0079/04/15 マ・クベ(偽)軍務をこなす

お気に入りが付いたのでちょっと追加


着替えて指令室に向かうとウラガンが直立不動で待っていた、結構ガタイいいし表情に乏しいのでちょっと気圧されるが、なんとか押し隠して椅子に座る。

そうそう、記憶が貰えたおかげで大体今のジオン状況が解ってきたついでに階級も判明した。

幸い大佐、よかった黒海でエクストリーム水泳(MS着用)は免れた。

 

「今日の予定は?」

 

緊張で声が高くなるのに冷や汗をかきながら、いつもの問答を行う。

マさん、起きたらすぐ一日のスケジュールを自分で確認するんだが、執務に取り掛かる前に必ずウラガンさんにスケジュールの確認をしていた。どうもこれ部下が自身の行動を把握しているかとか、ダブルチェックとかの意味合いもあるようだが、大半は形式美に拘っての行動だったようだ。正直止めてもいいんだが、いきなりだと不審がられる。

実際朝食も普段は彼に給仕の真似事をさせていたようなので、調子が悪いと言ったところで急に一人で食べ始めたのは怪しかっただろう。ここからは極力怪しまれない動きをしつつ、原作を回避していかねばならん。

 

「は、本日午前は書類業務、13時より104採掘基地視察、17時よりヨーロッパ方面軍定時報告会議、19時より晩餐会となっております」

 

「わかった。では早速取り掛かろう」

 

記憶と齟齬が無い事に安堵しつつ、さっそく積み上げられた書類に目を通す。

しかし宇宙世紀だ何だと言っているのに未だに紙ベースの執務とは、まあ、無駄にホログラフィックとかにされても疲れるし手に馴染んだ分こっちの方が楽でいいんだが。

 

「……」

 

無言で書類を読み進めていく。大体は採掘資源の報告や鉱山基地敷設の進捗状況、後は不足している装備の陳情書などだ。

ふむむ、一見すると問題なく運営されている、流石マさん、政治方面はお手の物のようだ。

 

「ん?」

 

何枚かの書類に目を通している内にある事に気が付いた。

 

「ウラガン、随分とMSの補充パーツの要請が多いようだが」

 

パーツ補充の陳情だけで4件、MSそのものの陳情も2件ある。今は4月15日だから、オデッサ周辺、しかも守備隊がMSを喪失するような状況にはないと思うのだが。

 

「はい、先日の部隊転換で回されてきたザクⅠの稼働状況が芳しくないようです」

 

その言葉に記憶を探ると、成程、確かに一週間ほど前に施設の守備隊を前線部隊に引き抜かれている。本国連中頭数だけは揃えたようだが内容までは手が回らなかったようだ。

 

「旧式でも構わんとは言ったが、不良品までは許容できんな」

 

キシリア派閥の高官は政治屋が多い。おかげで装備が不足するという事態は少ないのだが、それはあくまで書類上数を満たしているという場合が多々ある。

しかも、内部で権力レースなんぞしている奴らばかりなので、失脚を恐れて連中失敗を秘匿する傾向が強い。今回もどうせ不足するとミスとなるからとりあえず動くものを送り付けたのだろう。こちらで動かなくなっても管理不備が問われるのは俺になるし。

 

「午後の視察は取りやめる。それよりキシリア様にアポイントメントを取ってくれ」

 

「宜しいのですか?」

 

「構わん、支障が出てからではそれこそ物笑いの種だ」

 

そう言いながら残りの書類を片付けていく。そこそこの量に見えたが、ほとんどが報告書だった事もあって予定よりも早い段階で手が空いてしまった。まだ昼まで一時間以上ある。

 

「かなり時間が空いたな、アポイントメントはどうだ?」

 

「はい、15時より10分程であれば可能との事です」

 

「解った。ではそれまで気分転換といこう」

 

そう言って俺は笑うと、執務室から出ることにした。

 

 

(いやぁ…でっけぇな、知ってたけど、これは迫力あるわ)

 

以前お台場で展示された等身大ガンダムを見た時もでかいとは思った。

だが考えてほしい。それより遥かに重厚なフォルムをしたザクが、それも大量に並べられている所を。正に威圧感満点である。

 

「如何なさいましたか?」

 

ウラガンを伴ってさっそく基地内の視察…と言う名の散歩に出かけた俺は、お目当てのMSハンガーでMSについ見入ってしまった。おかげで不愛想な副官の顔には怪訝の文字が貼り付いている。

 

「いや、装甲も良く手入れされている。ここのザクは問題なさそうだな」

 

適当な言い訳だったが、事実MSの表面は綺麗に清掃されており、被弾痕なども補修されしっかりと塗装も済まされている。

 

「た、大佐?如何なご用件でしょうか!?」

 

中尉の階級を付けた男性が慌ててこちらに寄ってきた。多分ここの管理責任者だろう。

 

「ああ、構わん、ただの散策だ、楽にしてくれ」

 

「え、は、はい、承知いたしました」

 

まったく緊張の解けない顔と姿勢でそう敬礼を返す中尉に思わず苦笑しながら、取りあえずこの不幸な中尉に色々と質問してみる事にした。

 

「どうだ中尉、不足しているものは無いか?」

 

「はい、いいえ大佐、整備状態は完璧です、不足もありません」

 

「そうか?ここの所ザクⅠの部品陳情や補充陳情があったのでな」

 

その言葉に一瞬中尉は眉を顰めると、取り繕った笑顔で切り返してきた。

 

「確かに、第2中隊の連中がその様に申しておりました、しかし我が第1中隊は問題なく運営しております」

 

成程、そうきたか。まあ、自分の管轄外にまで口を出すのは憚られるだろうし、最悪それで上司の心証を悪くしたら目も当てられないからね。そう言っちゃうのは判らんでもない。

 

「そうか、良くやってくれている。だが隣は隣、という態度は頂けんな。プライドを持って切磋琢磨することは止めないが、それで状況が共有されませんでは困る」

 

そう言うと自身の発言が失言だと考えた中尉は顔を青くする。まあ、部下に厳しそうだもんね、俺。

 

「状況によっては部下の行き来もあるだろう。その時確執があってはいかん、出来る限り整備状況や部品の保有なども共有してくれ、この重力戦線は個々の能力だけで越えられるほど楽観できるものではないぞ?まあ、現場をよく知る中尉には釈迦に説法かもしれんな」

 

「は、申し訳ありませんでした!」

 

その最敬礼に軽く返礼して次の目的地へと向かう。といっても隣接した区画なので5分もかからなかったが。

 

「うん、こちらは酷いな」

 

正にMSの野戦病院といった風情の第2ハンガーをキャットウォークから確認する。

先程の第1ハンガーと違い、こちらにあるのは全てザクⅠだが、違いはそれだけではない。

まずハンガーに五体満足で待機している機体が3機しかない。

オデッサ基地の整備部隊は3個中隊でそれぞれが1~3のハンガーに割り振られ各ハンガーは1~2個中隊、つまり9~18機のMSを整備している。はっきり言って整備員の負担が大きすぎると思うのだが、この辺りどうも宇宙での編成がそのまま適応されているようだ。

さて、話を戻すとこのハンガーにあるのは書類上9機のザクⅠのはずなのだが、見る限り使えそうなのはさっき目にした3機だけだ。後の機体はと言うと両腕が無かったり、足が無かったり、全部あるけど装甲が全て取り払われていたりと、一言で言ってスクラップ一歩手前である。

 

「大佐、このような格好で失礼致します」

 

くたびれたツナギ姿の男性がそう言って疲労の濃い顔で敬礼してくる。こちらも階級は中尉のようだ。

 

「ああ、忙しいのにすまんな、陳情の事で幾つか確認したいと思ってな」

 

「は、有難うございます」

 

中尉は一瞬顔を歪めたが、それをおくびにも出さずそう返してきた。

まあそうだろう。今まで何度か陳情は受けているがそれについて一々現場を確認などしていない基地司令が急にやってきて確認したいなどと言っているのだ。

不手際でも疑われているのではないかと思っても仕方ないだろう。

 

「何、今日だけでMS自体の陳情まで2件上がっていたのでな。何が問題なのか、確認しなければならんと思ったのだ」

 

「…はい、お手を煩わせ申し訳ありません」

 

今度こそ渋面を作る中尉に、言葉の選択を失敗したことを悟った。ああ、そうね、普段の俺を見てれば、何か問題を起こしたんじゃないの?って言うようにも取れるよね。ぬう、上の立場でものを言うってのは存外難しいな。

 

「中尉、謝る必要は無い。今見ているだけでも君たちが最善を尽くそうとしている事は分かる。事故などの報告も上がっていない。であれば、単純に渡された物がハズレだった、そう推察したが?」

 

その言葉に中尉は驚きの表情を浮かべた後、再び悔しそうな顔に戻り口を開いた。

 

「はい、大佐、運び込まれた9機は初日の点検時点で6機が整備不足と判断いたしました。

恐らく月で使っていたのでありましょう。脚部の劣化が激しく4機は部品交換で何とか復旧のめどが立ちましたが、残る2機はフレームの歪みが深刻だったためパーツを交換しても最悪腰部から破断する恐れがありました。故に2機は復旧の見込み無しとし機体の補充を陳情致しました」

 

「…その他の4機も随分な有様のようだが」

 

「部品が不足しておりましたので、廃棄の2機からパーツを移植しております。ただどのパーツも摩耗しており、そのため全身の調整が必要でありましたのであのように調整している次第であります」

 

「つまり、今挙がっている補充部品が届くまであの4機はあのままという事かね?」

 

「はい、いいえ大佐、内2機はパーツが揃っておりますので明日までに戦線復帰可能であります」

 

「…これは思ったより深刻だな」

 

この問題の解決はかなり難しい。

まずMSは一定数確保しなければ守備に穴が出来てしまう、だからMSの数は減らせない。けれどMSの生産量には限りがあるから旧式も使わないと間に合わない。旧式も使えば消耗するからその部品は確保しなきゃならんし、古い奴ほどガタが来ている分整備の回数も跳ね上がる。そうなればただでさえ少ないリソースから割いて旧式機のパーツを生産しなければならないし、整備回数が増えれば整備班の負担は増加する。整備班の負担を減らすには人員を増強するのが手っ取り早いが、そもそもジオンに兵無しである。

これはちょっとオデッサで死ぬかもしれない、死ぬのは嫌だなぁ。

 

「中尉、確認したいが、整備用のMSはあるのかね?」

 

「は、整備用は各中隊に1機配備されております」

 

うん、足りないね

 

「中隊のMS操縦資格者は何名いる」

 

「はい、我が隊には5名おります。どの中隊であっても5、6名は居るはずです」

 

「仮に整備用MSが増えた場合、整備効率は上がるかね?」

 

「はい、物資運搬、重量物の固定など仕事はいくらでもありますから」

 

成程、成程ね。

その言葉で素早く計算する。まあ、大分顰蹙は買うだろうが背に腹は代えられない。今回は宇宙の連中に泥を被ってもらおう。

 

「ありがとう中尉、参考になった」

 

それだけ言って踵を返す。やれやれ、休憩して仕事を増やすとか、どこのワーカーホリックだと言いたいが、まあ、死ぬよりはマシだろう。

何せここはオデッサ、数か月もすれば連邦の団体さんが血眼で襲ってくるのだから。

 

「ウラガン、守備隊のローテーションを組み直す、1カ月は現在稼働中の1個中隊のみで当たらせろ」

 

「宜しいのですか?」

 

「こちらが攻勢に出ている内は出来てもゲリラが精々だ、MSの出番は無い」

 

それだったらいっその事今あるザクⅠは整備部隊行きにして新しいザクⅡを強請ろう、最悪でも新品のザクⅠだ、出さないなんて言ったら直接メーカーに掛け合ってやる。

そんな事を考えているとポケット中の懐中時計がアラームを鳴らした、つうか凝った作りなのにデジタルかよ。

 

「ん、良い時間だな、いったん食事にしよう」

 

そう言って食堂へ向かおうとすると、ウラガンが怪訝な顔で付いてきた。ああ、そう言えばマさん、いっつも部屋で食ってたな。

 

「せっかくの機会だ、どうせなら食事も確認といこう」

 

昼丁度の食堂はかなり混雑していた、相応に雑然としていたのだが、俺が現れた瞬間、会話が止み、張り詰めた空気が漂った。まあ、いきなり基地司令とか現れたらそうなるよね。

 

「気にしてくれるな、食事に来ただけだ」

 

いや、あんたいつも一人で食ってたじゃん。という視線を食らいまくるが鋼の精神で無視し列に並ぶ。慌てて前に居た兵士が退こうとしたのでちょっとびっくりして反射的に止めてしまった。

 

「退く必要は無い、食事の順番に階級の上下は無いだろう。私より君が先に並んでいたのだ、君には先に食べる権利がある」

 

なんかめちゃくちゃな事を言っている気がするが、兵士君は納得してくれたらしく列に戻る。その様子を見ていた周囲がなにやらムズムズする視線を送ってくるがあえて無視を決め込む、べ、べつに恥ずかしかったわけじゃないんだからな!

あ、食事の内容はかなり良かったです、ご馳走様もちゃんと言ってやったぜ!

 

 

 

 

ありゃ一体何だったんだ。

午前の業務が終わって一息、麗し…と呼ぶには些か品の無い食堂で配食の列に並んでいたらいきなり基地司令が現れた。

何か食事に来たとか気にするなとか言ってるが、いやいや基地の最高責任者の前でリラックスしながら飯食えとか、普通の神経なら出来ない。少なくとも俺は無理だ。

なのにこういう時に限ってついてない、本当に食事をする気らしくよりによって俺の後ろに並びだした。思わず列からどいてしまった俺に落ち度はないと思うのだが、退かれた基地司令様はそうではなかったようだ。

一瞬驚いた顔をした後、苦笑しながら列に戻るよう言ってきた。アレ、貴方様ってそんなに気やすい方でしたっけ。

 

「俺はまだ寝てるのか?」

 

「奇遇だな、俺もそう思ってたところだ」

 

食事を受け取った後、そそくさと食堂の端に逃げた俺は、目の前の同僚につい聞いてしまったが、返って来たのはそっけない言葉だった。

 

「まあ、あれだろ、所謂人気とりじゃないのか?気さくな上官アピール?」

 

成程、と返しつつ幾分落ち着いた俺は気持ちを切り替えて目の前の食事に取りかかることにした、休み時間は短いのだ。

 

 

 

 

「食事は悪くないな、ウラガン、明日からは私も食堂と同じメニューでいい」

 

出来るだけ機嫌良さそうに仏頂面の副官に告げる、正直知識があってもコースメニューとかかったるくてボロが出そうだ。むしろお刺身定食とか食べたい。

 

「・・・承知しました」

 

「ああそうだ、酒保の方はどうだ?備蓄などに問題は無いか?」

 

疲労の貼り付いた中尉の顔を思い出しながらそう質問する。基地の初期稼働も一山越えたので、兵士達の気も緩む頃合いだ、目的に向かっている内はいいのだが、そこから解放されると緊張が切れて一気にストレスを感じたり、思わぬ疲労で体調を崩したりする。

嗜好品や娯楽用品があればそう言った事も緩和出来るだろう。

 

「消費は増加傾向ですが、現状問題無く運営しているとのことです」

 

「それは良いことだ、だが次の補給は今の最低倍は要請しておけ、近隣住民に手出しなどされては事だからな」

 

「アースノイドにそこまで配慮する必要があるでしょうか?」

 

明らかに怪訝を浮かべた表情でウラガンがこちらを見てくる。

 

「太古の為政者の言葉だよ、占領した民は徹底的に根絶やしにするか、深窓の姫のごとく甘く扱うか、二択しか無いそうだ」

 

いずれも中途半端だと潜在的な敵になる。ただでさえ我々は戦争を持ち込んできた侵略者なのだ。非協力的なだけならともかく下手にパルチザンになんぞなられたら連邦と戦う前に疲弊してしまう。そして本国からの補給だけで物事が回しきれない以上、彼らを根絶やしにする方法は不可能。故に残された手段はトラブルを起こさず、彼らに我々が良い統治者であると思わせるほかに無い。

 

「それにアースノイドと言っても彼らは宇宙に放り出されなかっただけの層だ、本質的には我々と大差ない存在だよ」

 

陰険眉無しの演説のせいで貧乏人はもれなく宇宙に放り出されたように勘違いされがちだが、地球にもかなりの量の貧困層が未だに残っていたりする。特に旧世紀以前の生活を営む少数部族などは移民の対象外だったし、環境低負荷農業などと言われる所謂オーガニック農法に従事している作業員などはコロニーの低賃金就業者と大差ない経済環境だ。オデッサ周辺は実は昔からの穀倉地帯なので当然住民も大半はそういった連中なのだ。

 

「皮肉ですな」

 

短い副官の言葉に思わず納得してしまう。スペースノイドの独立を掲げて起こしたはずの戦争で我々は同胞である筈のコロニー市民を虐殺しながら、地上に降りてからは倒すべき怨敵と呼んだアースノイドを本質的には同胞と呼び配慮する、何とも意味不明な行動だ。

 

「同感だ、だが戦争だ、始めたからには勝たねばならん。それこそ主義主張を犬に喰わせてもな」

 

書類を整理するウラガンはそれ以降口を開かなかった。



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第二話:0079/04/15 マ・クベ(偽)のそれなりに長い一日

ストック尽きましたので以後早くて月一投稿になります。
文字数も少ないです。


キシリア・ザビを君はどう思うだろうか。色々な意見はあるだろうが、俺の彼女に対する評価は、最悪のタイミングでやらかした紫ばばあである。年齢的には20代?しらん、あの一族の呪われた老け顔が悪い(人これを責任転嫁と言う)。

政治家としてのセンスは無い訳ではないし、新しいモノでも使えそうなら試してみるその姿勢は評価できるが、彼女には致命的な欠点がある。政治家や軍略家としては感情的すぎるのだ。

無論それが良い方面に作用する場合もある。例えばドズル・ザビも感情豊かな人物であるが、彼の場合それが兵との共感や弱者への慈しみとして発揮されることが多い。政治家として見ればやはり失格であるが、軍人、それも大隊の指揮官くらいなら魅力的な人間であろう。もっとも、そんな人物が方面軍の総指揮官なのは笑えないのだが。

対してキシリアは、感情の発露する部分が自身の理想や正義に寄る部分が多い。だからリアリストなギレンとはかなり相性が悪いし、理想や正義をギレンに預けているドズルも気に入らないのだろう。そして自身のそれを制御しきれないから、重要な最終局面であんなことをやらかすのだ。

長ったらしく分析したが、ようは癇癪持ちの潔癖症な小娘と言うことである。

こう考えるとデギン公は政治家としては一流だが父親としては精々二流だったんだなぁ、などとどうでも良いところに思考を飛ばしているのは、目の前で起こっている事にちょっと脳が追いついていないからだったりする。

 

「息災のようだな。火急の用件と聞いたが」

 

時間も僅かだし、多忙と言うことで音声だけだと思っていたら、思いがけず画像付きだった。

それはともかく、問題はモニターに映し出されている人物だ。切れ長だがやや垂れ気味でかわいらしさが抜けない目元、彫りは浅いが通った鼻立ちは典型的なモンゴロイド系美人の特徴を抑えており、亜麻色で丁寧に整えられた髪はつややかで絹と例えても違和感の無い、語彙の少ない俺では表現しきれず申し訳ないが、とにかくすっごいかわいい系美人が映っている。秘書官ですか?いいえキシリア本人です。…いやなんだこれ。

 

「ほ、本日はお忙しい所恐縮にございます」

 

「口上はよい、用件はなんだ」

 

声までかわいいでやんの、ほんと誰だこれ。

原作でキシリア相手に舞い上がっているマさん見て趣味わりいなとか思ってたが、どうしよう、キシリア様俺の超好み。これが本来のキシリアだとしたら、マさんと良い酒が飲めるか取り合って殴り合いかの二択である。いかん、思考があらぬ方向に飛んでいる。

 

「は、はい、先日受領しましたMSの件です」

 

「ああ、追加要請の。あれなら要求数を送ったと聞いているが?」

 

数はね。その言葉で漸く気持ちが落ち着いてくる。

 

「確かに数は届きました。即日2機解体処分するようなボロでしたがね」

 

その言葉にキシリアが眉を顰めた。だろうね、今までこんなクレーム入れたこと無いもんね。

 

「受領しました9機の内、稼働機は3機のみ、残りの6機は動かすことも出来ないガラクタ寸前でした。整備班の奮闘で4機は再生可能とのことですが、とても戦線で運用出来るとは言いがたい」

 

「…つまり?」

 

「ザクⅡの新品を寄こせとは申しません。しかし、せめてまともに動くモノを送って頂きたい。それから部隊の運用体制の見直し許可を。重力下では整備員の負担が極めて増大します。最低でも今の倍は人員が必要です」

 

「随分強請るじゃないか。他の戦線からそのような報告は上がっていない、貴様の工夫が足りないとは考えないか?」

 

国家のリソースは有限である以上、最小限のコストで目標を達成したいという気持ちは良く解る。そして自身の評価を考えれば、手持ちの戦力が十分でないから戦果を出せないとのたまうのは成程、無能と評価されても仕方が無いかもしれない。

 

「成程、であるならば重力戦線は一年と持ちませんな」

 

「何だと?」

 

「簡単な理屈です」

 

後方の採掘基地程度の指揮官ですら気づく程度に部隊が疲弊していると言うのに、もっとその辺りに敏感なはずの前線指揮官から増員の要請や兵站強化の陳情が上がっていない。つまりそれは相手を舐めきっているか、上層部に期待をしていないか、はたまた最悪指揮官がその辺りに無頓着なのか。いずれの理由であっても戦力の根幹であるMSの整備能力が低下すれば早晩前線は維持できなくなり、崩壊すれば後は連鎖的に宇宙まで追い返されるのは明白だ。

そう伝えれば、キシリア様は形の良い眉を寄せ目を閉じた。うん、解りやすく悩んでいらっしゃる。

 

「マ大佐、MSの件は都合するが整備部隊については即答しかねる…が、興味深い意見だ、こちらからも動くことを約束しよう。では以上だ」

 

沈黙はほんの数秒だったろう。目を閉じたままそう言葉を放ち、通信は一方的に切られた。たっぷり10秒、伸ばした背を維持していた俺はゆっくりと背もたれに体を預け大きく息をついた。

 

「ああ、緊張した」

 

俺には骨董趣味なんて無かった筈なんだが、なんだか無性に壺を眺めたい。マさんも壺を癒やしにしていたんだろうか、などとどうでも良い事を考えて居たら、コンソール横の机にティーカップが置かれた。そこで初めて仏頂面の副官が居たことを思い出す。

あ、これやばいかもしれん。

 

 

 

 

通信が切れ、少し光度の落ちた部屋で、キシリアは目を閉じたまま自然と口角が上がっていることを自覚した。

考えているのはつい先ほどまで話していたマ大佐の事だ。自身より少し年上で如何にも文官肌の彼は部下としては優秀であり、自身に好意を向けていることも自覚していた。そしてその上で物足りない男であると言うのがキシリア個人としての評価であった。

望んだ答えしか返せず、嫌われることを恐れて自身の弱みも見せられない。その上で気取ってみせるのだから、幼少の頃遊んだあの金髪の坊やと比較すればどうにも見劣りしてしまう。それが今日までの正直な気持ちだったのだが。

 

「正面から文句を言ってくるとは、思ったよりも骨がある」

 

正面からこちらの不手際を指摘し、堂々と強請って悪びれない。部下として見れば扱いにくくなったが、イエスマンよりもよっぽど信頼の置ける存在になったとも言える。

そしてあの表情、露骨とも言えるうろたえぶりは、むしろ取り繕ったすまし顔よりも魅力的に見え、何処か可愛らしさすら覚えた、その事実にキシリア自身が驚いていた。

可愛いなど、あの爬虫類じみた男から最も遠い所にある言葉だったろうに。

 

「困ったな、存外に私もまだまだ女だという事か」

 

自嘲じみた笑いをひとしきり上げた後、マスクとヘルメットを身につける。

さあ、女の私は暫くお休みだ。部屋から出たらまずMSの件について担当者を問いたださねばならない。ふわふわとした気持ちを押し込め端末で秘書を呼ぶ、その頃には頬を赤らめていた部下の顔は記憶の隅に追いやられていた。

 

 

 

 

朝方から感じていた疑念は確信に変わった。この男は昨日まで仕えていた大佐では無い。

自分を狼狽しながら見上げる男に何時もの無表情を返しつつウラガンは思った。

普段ならキシリア閣下との通話後10分程は入室の許可が出ない、どころか今回自分は勝手に入室し側まで寄っていたのだ。本来ならば即座に叱責が飛び、最悪副官から下ろされる。そうなるくらいに大佐は神経質であったし、部下の無礼に非寛容だった…少なくとも昨日までは。

 

「ウラガン、入室を許可した覚えは無いが?」

 

どこか作ったような、不自然な仏頂面でこちらを咎めるが残念ながら取り繕えて居ない。大佐ならここは咎めるよりもまず退出を指示する。

 

「は、申し訳ありません」

 

そんな思考をおくびにも出さずぬけぬけと謝罪してみせる。すると男は視線を逸らした後、苦笑して見せた。

 

「見ただろう?」

 

沈黙を続ければ、男は続けて話し出す。

 

「気取ったところで私も男に過ぎんということさ。好いた女性との逢瀬の余韻に浸りたい、そんな理由で職務を放棄していた」

 

人間的な弱みを見せる、本物なら絶対にあり得ない仕草にウラガンは自身がこの男に好感を抱いている事を感じ動揺した。

この男は大佐では無い。どのような手段なのか容姿も知識すらも同様だが、思考・感性に決定的な差異がある。同時に疑念が生まれる。違うとして、ならばこの男の目的はなんだ。

最も短絡的な答えは連邦のスパイ。現在の整形技術なら容姿を偽装するくらいは出来るし、知識も覚えれば良い。だが、最も気を遣うべき仕草や言動がこうも乖離していては全く無駄だとしか言えない。第一こちらの警戒をくぐり抜けて基地司令一人をすげ替えるなどと言う離れ業が出来るとして、すげ替えたのがこれではお粗末すぎる。

さらに解らないのが行動だ。敵対的な行動どころか積極的に献策し、基地環境の改善に努める。昨日までの、鉱山の稼働状況以外に興味を示さず、兵に対し忌避感じみた感情を隠そうともしない大佐とは雲泥の差だ。今のところ兵士には困惑しか与えていないが、少なくとも以前より良好な関係になっていくことは間違いないだろう。

そこまで考えてウラガンは自身の思考に混乱した。

おかしい、副官として仕える人物が明らかに変わったのだから更に上に報告することは当然として、すぐに拘束すべきだ。だと言うのに自分は本物の大佐より、目の前の男の方が仕えるに値する男なのでは無いか、などと考えて居る。

そんな自分の葛藤などお構いなしに目の前の男は告げてきた。

 

「職務放棄を黙っていてくれるなら今回の無断入室は不問にしよう…君の紅茶が飲めなくなるのも困るしな」

 

その言葉にぞくり、と背中がむずがゆくなるのを感じる。大佐は優秀だ。優秀故に部下に求めるのは自身の任務を忠実にこなすことで、それ以外は何も求めない。部下に望みはするが期待はしない。それはつまり、任務さえこなせば誰であっても構わないと言うことだ。

軍人としてあってはならないことだが、それでもウラガンはこの男をもう少しだけ黙認することにした。

 

 

 

 

確実にばれた。ばれたはずなんだけど、何故かウラガンさん静かに一礼して部屋から出て行った。これはあれか、この場は下がって後で拘束するとかいうパターンか?…いや、今拘束しない理由が何も無い以上、これはもう俺の名演がすり替わっていることを隠し通したと結論せざるを得ない。ふふふ、己の才能が恐ろしいぜ!脳内の誰かがんな訳あるか、バカか貴様、とか言っている気がするが気にしない、俺の精神衛生の為に。

 

「さて、この後の予定は報告会議だったか」

 

偉い人たちが集まっての会議とか謹んで遠慮したいがそうはいかないだろうなぁ。まあ、ヨーロッパ方面軍の定時報告が主みたいだし、今回は大人しく様子見しておこう。け、決して怖じ気づいた訳じゃ無いんだからね!

 



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第三話:0079/04/15 マ・クベ(偽)は進み会議は踊る

楽しんで頂けているようなので、ちょっと頑張りました。



鉱山視察を止めたおかげで空いた時間を使って、地域の権力者に壺を送るだけの簡単な作業(含む証拠隠滅)に没頭していたら、あっという間に会議の時間になりました。くそう、壺が全然減らねぇ。ついでに壺渡すたびに言いようのない喪失感に苛まれるんだけど、これ何かの呪いじゃ無いだろうな。

 

「では、定時となりましたので会議を始めます」

 

円卓に11個のモニターが映し出されているが、何人かは欠席のようで副官らしい人が映されている。どうも作戦部の集まりが悪いみたいだ、何かあったのかな。

 

「取り敢えず現状の共有といこう。何人か居ないがどうも連邦の遅滞戦闘に手を焼いているらしい」

 

そう切り出したのは、軍人と言うよりは大きくなったガキ大将と言った風体のユーリ・ケラーネ少将だった。視線で促すと、代理人として参加していた副官の一人が口を開いた。

 

「バルカン半島方面では山岳地帯に隠蔽したAMS部隊による攻撃が頻発しております」

 

「AMS?歩兵ごときに後れを取っていると?」

 

そう噛みついたのは確か兵站担当の大佐だった、名前は何だっけ?

 

「確かに歩兵はMSに比べ脆弱です。しかし全く無力という訳では無い」

 

「その通り、宇宙と違い遮蔽物に事欠かない地上では低視認の小目標はそれだけでやっかいだ」

 

実際オデッサ攻略の際最も損害を出したのは機甲戦力で、むしろ歩兵は不運な逃げ遅れ以外殆どが戦力を保持したまま撤退に成功している。

んで周囲の平野部を押さえた後いざ進軍、と言う所でその歩兵達が厄介な障害物になっている。先ほどの副官が言うとおり武装は貧弱だし、機動力も高くない、しかし殊隠れるという点については極めて優秀であるし、何よりミノフスキー粒子下の戦闘において従来の戦術がそのまま適応できる貴重な兵科だ。オデッサ基地でも周辺地域確保の為に行なった掃討戦で少なくない数のザクが撃破されている。

 

「確か複数の発射機を用いての攻撃が主体でしたな。それでも関節部などを狙わねば撃破までは出来ないという事だったと思うのですが?」

 

重力戦線のムービーを思いだし思わず口に出してしまった。あかん、大人しくしていようと思ってたのに。

 

「ええ、撃破されている機体は今のところ一機も無いのです」

 

「撃破されていないのに何故進撃が止まるのか?」

 

理解できない、という意思を存分に乗せた不満の声が上がる。おいおい、兵站部でも軍人だろうに。

 

「攻撃の内容がハラスメントに変わっているのでしょうな。片足を集中的に狙えば損傷くらいさせられるでしょう。足が止まればザクはでかい的だ」

 

典型的な遅滞戦術だ、そして現在のジオンにとってこれほど有効な手も無い。

何しろ敵の機甲戦力、航空戦力に対応できる兵器はMSしかない。一応前線部隊にはドップによる航空支援や、補助戦力としてマゼラアタック等の配備などがなされているが、正直相手の庭で運用するには熟成が足りていない装備だ。必然欧州方面軍はMSへの依存度が高くなるのだが、とんでもない事に欧州方面軍にはMSの供給能力が無い。

そんな馬鹿なと思うかもしれないが、何せMSは軍の虎の子であった事に加え、地球降下作戦自体が南極会議のご破算から来る泥縄な作戦計画であったため、生産拠点を地上に降ろすなんて準備を一切していなかったのだ。おかげでなんとか第二次降下作戦にはある程度ユニット化して持ち込んだのだが、当方面は未だに準備が整って居らず宇宙からの配給を待つ身である。

 

「MSが運用出来ないというのは部隊にとって極めて重大なトラブルだ。兵への負担も激しい。物理的にも、心理的にもな」

 

腕を組みながら、そうユーリ少将が唸る。部下思いな点を除いても、強引に戦線を押し上げて悪戯に損耗を増やせば、それこそ占領計画そのものが頓挫する。

そこまで考えて手元の資料に目を移す。見ればオデッサを中心に東西南北全方向に部隊を動かしているのがわかる。これはちょっと難しいな。そう考えている間にいつの間にか報告会は現状打開を考える討論に移っていた。前線の各指揮官は意外にも積極的で、後方の部隊を転用してでも戦線を突破したいといった雰囲気だ。確かに遅滞戦闘と言うことは相手に積極的な反撃の手段が無いとも言える。そのため、出来ればここでヨーロッパから連邦軍を追い出してしまいたいと言うのが主な意見だ。一方で事態を聞いて消極的になったのが最初に噛みついた兵站部の連中だ。

彼らは、積極的攻勢で増大するであろう物資の消費量が到底賄いきれない量であることを先ほどまでの会話から計算できてしまっているのだ。そしてそこにジレンマが生まれる。

兵站部の任務は究極的に言えば前線が要求する物資を不足無く揃えて渡すことだ。もちろん量を精査はしても、そもそも必要な分が渡せないでは存在意義が無い。だがここで攻勢に否定的なことを言えば、占領作戦頓挫の責任が兵站部に回ってきてしまいかねない。

俯瞰してみれば、そもそも用意出来ない量を要求しなければ実現できない攻勢計画しか提示できない状況を作った軍令部に問題があるのだから、現場での責任の押し付け合いは不毛過ぎるのだが、行き詰まった頭の状況ではそこに思考が向かないらしい。

ユーリ少将あたりは気がついていると思うが、立場的に前線部隊よりの彼では言いにくいのだろう。先ほどから目を閉じて黙り込んでいる。

しょうが無いなぁ。

 

「無理でしょうな」

 

言い合いの間を突いて発した言葉は思ったより大きく響き、全員の視線を集めた。はっは、興奮した軍人の顔とか超怖い!

 

「今、なんと仰ったか?」

 

東部戦線担当の大佐殿が血管を浮かべながら聞いてくる。OKクールになれよ、怖いから。

 

「要求されているだけのMSを準備するのは不可能だ、と申し上げた」

 

俺の言葉に作戦停滞の責任を押しつけられると考えた者は、安堵や喜色を浮かべ。逆に押しつけられたと考えた者は青くなったり、憤怒の形相でこちらを見ている。一人だけ面白そうにこちらを見ている奴がいるが、本来ならこれあんたの仕事だからな?

 

「現状欧州方面軍が保有しているMSは払底に近い状態にある。兵站部の方も上に掛け合っているだろうが、正直四肢の欠損くらいまで損傷した場合、部品を宇宙から下ろす必要がある現状では、今以上の消費は我が国の補給能力を完全に超えている。MSだけでもそんな有様です。とてもでは無いが攻勢を維持し続けるだけの物資の調達は不可能だ」

 

つまるところだ。

 

「軍令部が提示しているスケジュールが無茶なのですよ。出来ないことは出来ないのです」

 

「命令に逆らうと?」

 

「では命令に従い無駄死にしますか?私とて軍人だ、兵士は死ぬことも任務だとわきまえている。しかし、死ぬならば、死なせるならば。有意義に死なせるべきだ」

 

今日、ちょっとだけ顔を合わせた連中が脳裏にちらつく。エリート然とした中尉、疲弊しながらも懸命に職務を全うするべく働いていた中尉、仏頂面の副官、驚いた顔をしていた基地の下士官。いずれ彼らに死ねと命じる時が来るだろう。

 

「現場を見たことも無い、そもそも大戦なぞ経験したことも無い連中の立てたスケジュールが重要だと思うのなら命じてみたらいい。スケジュールの為に死ねとね」

 

「…ご高説は結構だが、では貴官はどうするというのかね?時間を与えれば与えただけ我々は不利になる。理由は言うまでも無いだろう!?」

 

そうだよねー。なんで国力ウン倍もある相手に喧嘩売るかね?あれか、ジオンの連中はマゾなのか、苦しいのが嬉しい系か。

 

「やらないよりはマシ、程度の案ですが」

 

そもそもの問題は戦線が広すぎる事、その一点につきるのだから。

 

「戦線を整理しましょう、全部同時は少々欲張りすぎだ」

 

「簡単に言ってくれるじゃないか」

 

そうね、でも今の状況なら結構上手くいっちゃいそうなんだよね。

 

「まずヨーロッパ、旧EU圏は諦めます。現在の…ああ、旧ポーランド国境付近で止めておきましょう」

 

その言葉に唖然とした表情を向けられる。

 

「何を言っている!?正気かね!?」

 

20世紀だったらあり得ない判断なんだけどね。そうか、この辺りは結構知られていないのかな?

 

「欧州の殆どは観光都市化していますから占領してもうま味が少ない。ラインやルールといった工業地帯は遺産として保存されていますが、殆どがモスボールどころか鑑賞保存用で稼働しません。仮に復旧するにしても数年が必要な状態でしたので、おそらく生産拠点であるという情報自体が連邦側のブラフです」

 

その言葉に欧州担当のモニターがざわめき出す。裏取りでもしてるんだろう。独立運動が本格化した辺りから動かしてるフリしてたからね、騙されても仕方ない。ただまあ、あの潔いまでの逃げっぷりからある程度推察出来ても良いんじゃないかなとは思う。生産拠点があればもっと頑強に抵抗してるよ。

 

「東方はカスピ海西岸とアナトリア半島まで押さえれば御の字です。アラビア半島は魅力的ですが、あの環境は戦争に全く向いていない。現状で手を出せる場所ではありません」

 

自覚があるのか東方担当の大佐は黙ったままだ。

 

「北方はバイコヌールまでの回廊地帯とモスクワを落としている現在で上出来です。これ以上は負担になるだけでしょう」

 

「バルト海はどうする?」

 

「ブリテン島を攻略出来なければどのみち大西洋に出られません。現状の戦力で落とせる自信がおありで?」

 

返ってきたのは沈黙だった。まあ無理だよね。

 

「これらを整理して出来た余裕で早急にバルカン半島を制圧。地中海を進撃ルートとしイタリア、イベリア半島を攻略。地中海を聖域化しアフリカ方面軍と連携、余剰戦力で北大西洋へ進出しブリテン島を海上封鎖…まで行ければ上出来でしょうな」

 

北大西洋がある程度押さえられれば北米とのやりとりが船舶で可能になる。この恩恵は計り知れない。

 

「言いたいことは解った。だが取った後はどう維持する?」

 

「バルカン半島を押さえれば、それぞれ海路で補給は賄えます。そもそもそれぞれの半島は欧州と山脈で区切られています。大規模な侵攻は困難ですから、配置する戦力もそれ程必要にならんでしょう」

 

それこそ航空機と、山岳に砲台でも配置すれば即席の要塞が出来上がる。

少なくとも現状よりも見通しが立ちそうな提案、そう感じたのか場に沈黙が訪れる。それを破ったのは、それまで黙っていたユーリ少将だった。

 

「壮大な作戦だ。だが重大な欠陥がある。貴官は海をどう渡るつもりだ?まさかMSに泳げとでも言うのか?」

 

現在ジオンの海軍はキャリフォルニアに集中している。というか、鹵獲したU-コンがそこにしか無いので実質キャリフォルニアにしか戦力が無い。だから俺の出したプランは今の状況ではただの妄想に過ぎない訳だが。

 

「伝手ならありますとも。それもすぐ近くに」

 

そう言って俺は地図を指さした。

 

 

 

 

ユーリ・ケラーネは目の前の出来事を黙って見守っていた。否、正確に言えば黙って聞く事しか出来なかった。

何だ、この男は。

同じ方面軍に籍を置く、かの大佐のことはある程度知っているつもりだった。晩餐会などで会ったこともあるし、その際幾度か言葉を交わしたこともある。気障で神経質、あまり付き合って楽しい人間ではないというのがユーリの率直な気持ちだった。ただ、南極条約をまとめた手腕やオデッサの運営状況から、政治に強い点は評価に値する。そういう男だと思っていた。

会議が前線組と後方組で対立するところまでは想定内、最後は誰かに泥を被ってもらい現状維持で調整する。おそらく累が及ぶのを嫌ってあの大佐が仲裁に出るであろうと予想して。

それが今日のこの男はなんだ。

軍令部の計画を非難したかと思えば次の言葉では攻勢計画を提示している。聞いていればやれそうだと考えてしまうから質が悪い。自然と口角が上がるのを自覚しながら自らの疑問を口にすると、想定済みだとすぐに返事が返ってきた。

なんだ、中々面白い男じゃないか。




工業地帯や観光都市化については完全な妄想です。
連邦軍の逃げっぷり(原作ではイベリア半島まで後退しています)と
地球環境を理由に宇宙移民を進めていたなら、環境負荷の高い重工業系は真っ先に宇宙へ行かされるだろうな、というのが主な理由です。

次から本当に月一です。


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第四話:0079/04/18 マ・クベ(偽)の誤算

予定より早く書けたので。


会議から3日が経った。あの後周辺地域の権力者を取り込むための晩餐会に出席したら、何故か居たユーリ少将にめっちゃフレンドリィに話しかけられ、相づちを打ちつつ何杯かブランデーを空けていたら、いつの間にか車に乗せられ欧州方面軍司令部にドナドナされていた。訳がわからないよ。

 

「貴様の話は非常に興味深かった。是非とも彼らと具体的な話をしてもらいたい」

 

訳:てめえが広げた風呂敷なんだからてめえで始末しろや、な?

 

おかげさまで連日神経質そうな軍人さん達と熱いミリタリートークで盛り上がっております。作戦計画概要の作成とその為の補給体制の調整計画の作成とも言う。

待って、マ・クベはただの基地司令なの。ちょっとこのお仕事は権限超えてると思うの。

まずいよね?ってユーリ少将に言いに行ったらいい顔で委任状渡されました。だから訳がわからねぇって。

 

「大佐、やはり戦力が足りません」

 

「前線への物資補給計画ですが集積地の選定についてご相談が」

 

「輸送計画の試算になります、やはり輸送車両が不足します」

 

「配置転換の計画になります、ご確認ください」

 

「大佐」 「大佐」 「「「大佐!」」」

 

「休憩!」

 

大声でそう言い部屋から飛び出す。やってられるかこんちくしょう!

この3日で憩いの場となった第二休憩室の自販機の隙間に体を滑り込ませ、購入したハンバーガーを同じく買った缶ジュースで流し込む。もっと良い物食えって?食堂は監視が居て食う前に連れ戻されるんだよ!飯寄こせって言ったら、無言で食ってた完全栄養食の箱渡されたわ。

ばれないように振る舞うとか言ったな?あれは嘘だ。嘘というかそんな余裕ないわ。

第一原作でこんなエピソード無いじゃん。いったいどうなってるんだってばよ。

 

「大佐、お時間です」

 

見上げれば2日目に補佐名目でつけられた中尉がにこやかな笑顔で見下ろしていた。コーカサス系の美人さんなのだが、今の俺には死神に見える。首を振り目一杯拒絶を示すと、笑顔のまま中尉が指を鳴らす。すると、彼女の背後から下士官服に身を包んだスキンヘッドと、笑顔がまぶしいマッチョメンが二人。有無を言わさず両腕をつかんで俺を持ち上げた。

 

「おかしい!明らかに隠れられないサイズだろう!?」

 

俺の抗議に白い歯のまぶしい笑顔で応えた二人はそのまま俺を参謀室へと運んでいった。

 

 

「お疲れですか、大佐」

 

「疲れていないように見えるか?」

 

司令部に急遽用意された個室でベッドに沈みながらそんな言葉を吐き出す。

計画なんて1日やそこらでほいほい出来るもんじゃねえんだから、お前らちゃんと休めよ!と切れ気味に怒鳴りつけ、存分に参謀達をドン引きさせた後、晴れて個室に籠城中である。24時間連続稼働なんて要求されたんだから俺に落ち度はないと思う。

尤も籠城しても実は休めていない。なぜならユーリ少将がオデッサに連絡も入れず俺をお持ち帰りしやがったので、良い感じに向こうの業務が溜まっているのだ。

幸いウラガンが優秀なので遅延は発生していないが、どうしても俺のサインが必要な書類はこうして休憩時間に処理しているのだ。おのれ少将、覚えておけよ。

 

「まあ、まあ、いい。それで、トラブルは起きていないな?」

 

「はい大佐。概ね順調に進んでおります」

 

そうか、進んでいるか…そうか。

 

「すまん、ウラガン。おそらく後数日は拘束される」

 

だからごめん、そっちはそっちで頑張って欲しい。

 

「承知しました」

 

静かだが迷いの無い返事にちょっと目頭が熱くなってしまう。良い副官だなぁ、俺は壺の配達人扱いなんてしないぞ。絶対、絶対だ。

 

「では、すまんが少し眠る。頼んだ」

 

そう言って意識を手放しかけた瞬間、空気シリンダー独特の音が響き扉が開いた。

 

「大佐、お時間です」

 

流れるような動作で、珍しく唖然とした顔の副官が映るモニターを消すと、コーカサス美人系死神が変わらぬ笑顔で指を鳴らした。

 

「死んじゃうから!」

 

「有史以来そう言って死んだ者は居ないと聞き及んでおります」

 

本日の籠城時間、1時間42分。戦争云々の前に過労で死ねるかもしれない。

 

 

宇宙世紀のエナジードリンクは優秀だ。さっきまで頭痛すら感じていた寝ぼけた脳がシャッキリ爽やかである…これ、覚醒するお薬とか入っていないよね?

 

「大佐、やはり現有戦力での攻勢となりますと、MSの被害が大きすぎます」

 

参謀長である中佐が苦り切った表情で口を開いた。

そらそうだ、他方面から引き抜いた戦力を使って、正面圧力を上げるだけの単純な方法だもの。戦術のせの字も無い、ただの数の暴力である。

 

「問題は地形と補給だな」

 

バルカン半島は山がちな上に大都市間を繋ぐような幹線道路も少ない。MSにしてみればあまり大差ない問題だが、兵站からすれば厄介だ。しかも丁寧に掃討していかないと山岳地形を利用してゲリラ化する可能性が高い。どーしたもんか。

 

「相手は歩兵ですし、ガウで爆撃しては?」

 

「難しいな。クレタの連邦空軍がいる限り制空権が取れん」

 

「揚陸して制圧しますか?」

 

「あそこが落ちれば地中海の制空権が一気にひっくり返る。向こうもそれは承知しているはずだから、それこそMSでも無ければ制圧は難しい」

 

そしてMSが海路で進撃できる事を教えてしまう代償としては、クレタ島攻略だけでは戦果が乏しい。その後ティレニア海を封鎖されたらイベリア半島は絶対に落とせなくなるからだ。

 

「つまり陸路で攻略するのが望ましい…そうしますとやはりMSの被害が軽視できません」

 

整備部隊を増員しても部品が無ければ直せないからなぁ。何か、何か無いかな。

そう悩んでいると18時を告げるチャイムが鳴った。定時なんて概念あったんだね!などと思いながら時計を見る。

 

「…中佐、今日は何日かね?」

 

「は?」

 

そう、俺は言ったじゃないか。出来ないことは出来ないと。

 

「やれやれ、やはり休息は必要だ。こんな事にも気づかんとは」

 

「あの?大佐?」

 

「簡単だ、全く簡単だ、中佐。手持ちでどうにか出来ないなら、他から持ってくれば良い」

 

そう言って俺は部屋から出る。ちょっと上層部におねだりだ。

 

 

 

 

この3日、ユーリ少将は中々に楽しい生活を送っていた。

大事な部下であるが司令部の連中は非常にネガティブな表情で会議をするので気が滅入る。そんな仕事を託した大佐は今までの気障ぶりが嘘であったかのように愉快な行動を繰り返し、今では一部の将兵から笑いを提供する癒やし要員のような扱いまでされている。おかげでこの所全体的に漂っていた緊張した空気がいくらか緩和され、兵士達が笑っている事が多くなったのだ。士気の改善を金も物資も使わずに行うなど、柔軟な将校を自認している自分ですら思いつかない事だ。もし計算してやっているならとてつもない男である。

秘書の尻を眺めるふりをしながら、そんなことを考えていたら。当の本人がアポイントメントを取ってきた。一昨日は職務内容の確認、昨日は待遇改善の嘆願。さて、今日はどんな愉快な話を持ってくるかと気楽に対応したら、いきなり爆弾を持ってきた。

 

「は?装備の陳情?それも試験部隊の奴をかっ攫う?」

 

「言い方は自由ですが、まあ端的に言えばそうなります」

 

そう言って大佐は端末を差し出してきた。黙って受け取り目を通すが、思わず聞き返してしまった。

 

「おいおい、正気か大佐」

 

装備を横からかすめ取るようなまねをすれば、大きな借りになる。所属する派閥が違えばそれはより顕著になるし、派閥内ですら弱みを作ったと立場を悪くするだろう。

これが新鋭の機体だとか、優秀なスタッフだと言われればある程度理解も示せるが。

そう言って試験部隊への配備指示書に目を通す。追加試験のための配備などと如何にもな名目は書かれているが、どうみても廃棄処分品を数あわせで現地に送る為の口実だ。

つまりこの大佐は、他の誰もが不要だと言っているモノを頭を下げて譲ってもらってこいと言っているのだ。

 

「戦争をやっている人間なぞ、皆正気を失っていると考えますが」

 

ぬけぬけと言い放つ大佐に、明確に不機嫌を伝えるべく言い放つ。

 

「哲学の問答じゃねえよ。こんなもんの為に俺に弱みを作れと言っている意図を話せといってるんだ」

 

そう睨み付けると、大佐は少し目をむいた後、可笑しそうに口を開いた。

 

「少将もそう言った事を気になさるのですな、良い勉強になりました」

 

「ふざけてんのか?それとも俺に対する嫌がらせか?」

 

そう言ったユーリを正面から大佐は見返す、その表情はここ数日の愉快な道化ではなく、怜悧な軍略家のそれだった。

 

「個人的な感情で無駄をするほど私は暇ではないし、ジオンに余裕も無い。必要だから必要だと言っている。委任状を寄こしたのは貴官だろう、ならば私が要求するモノをとっとと用意したまえ」

 

その物言いに思わず鼻白む。その表情に満足したのか、気障ったらしい悪い笑みを浮かべ大佐は言葉を続けた。

 

「大丈夫、悪い取引はさせませんよ。こういう事はそれなりに得意なのです」




暫く内政なターンです


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第五話:0079/04/24 マ・クベ(偽)は激怒した

今月分です


少将に啖呵を切った後。取り敢えず3日ほど使って計画書をまとめて参謀達に後の細かい調整を丸投げしつつ、いい加減本業に戻すか代理人オデッサに派遣しろよ、とユーリ少将に文句言いに行ったらあっさり解放された。オデッサに帰ろうとしたら何故か沢山の兵士達が見送ってくれた、解せぬ。

そして6日ぶりに帰ってきましたオデッサ。私は帰ってきたぁ!とか思わずガトーごっこを脳内でしていたら、ゲートでウラガンが恭しく迎えてくれた。昨日までのお付きとの差に思わず泣いてしまい見ていた一同にドン引きされたが、俺は悪くないと思う。

さて、そんな感動の再会から3日ほど経った本日、俺は自身の執務室で土留め色した顔の男子達と楽しいおしゃべりに興じていた。

 

「よく来てくれた。早速だがこれを見て欲しい」

 

そう言って俺は目の前に並んだ男たちに紙の束を渡した。緊張のためか上手く掴めない彼らをせかさず、ゲンドースタイルで見守る。うんうん、超震えてるね。大丈夫、おいちゃんそんなに怒ってないから。

リラックスさせてあげようと微笑みかけたのだが、更に顔色が悪くなった。左端の神経質そうな兄ちゃんなんか、脂汗かきながら膝が笑い始めてるんだけど。まあ、かわいそうとは思うが逃がす訳にはいかない。

 

「これは?」

 

「見ての通り、君たちに最も必要なデータだ」

 

渡したのは旧世紀の航空機の資料、それも詳細な設計データだ。

そう、いま目の前に居る彼らは何を隠そうジオンの迷戦闘機、ドップの開発チームなのである。先日帰ってくると基地防空機として配備されていたので、早速文句をつけたら何故かキシリア様から有り難い言葉を頂いた。

 

「ふむ、では貴様主導で後継機を準備せよ」

 

どう聞いても無茶ぶりです、本当に(ry

通信から1時間後には開発チームの連中を3日後に送るから準備しとけとの有り難いメールが届いた。あ、これ逃げられないやつですわ。

しょうがないのでバイコヌール基地とかに連絡取ったんだが、どこもひどい状態だった。

正直、キャリフォルニアで潜水艦鹵獲出来たくらいだから航空機の設計図くらいあるんじゃね?と聞いてみたのだが、電子データ類は片っ端から削除され、基地施設もほとんどが壊されていたらしい、むしろ工兵隊とか来てくれないかと相談された、無茶を言いよる。

ユーラシア方面軍の勤勉さを呪いながらちょっとご近所(モスクワ)まで足を延ばす。

案の定地下シェルターやら軍事基地は全滅だったが、連中、旧公文書館までは手が回りきらなかったようだ、実に僥倖。

電子データこそ削除されていたが、保管庫をぶち破れば旧ロシアの兵器データが大群でお出迎えしてくれた。ええ、片っ端から押収して現在データベース構築中です。

んで、今渡したのはとりあえずコピーを取った数十年前の骨董品ジェット戦闘機の設計図である。

 

「正直君たちには悪かったと思っている」

 

青さを通り越して死人みたいな顔で資料を読む開発チームの面々に声を掛ける。

いやまさかMS開発できるような技術者と企業が戦闘機造れないとは思わないじゃないか。

なんか変だと思って調べてみたら意外に答えは単純だった。

航空機設計に必要なデータ類は全て連邦によって秘匿されていたのだ。これもなかなか徹底していて、コロニー向けのものは個人レベルの設計ソフトに至るまで項目が削除されていた。おかげでこの人たちは航空力学の基礎も全くない状態から戦闘機を造る羽目になったのだ。そりゃ、宇宙艇に羽をはやしたような愉快なものになるわな。

 

「ゼロからあれだけのものを造ってくれた、それは感謝する。しかし現在の性能では残念ながら我々の要求は満たせていない」

 

俺の言葉に幾人かは顔を上げこちらを見た。相変わらず顔色は悪い、だがその目は興奮でギラギラと輝いていた。正直ちょっと怖い。

 

「だからすまないが、もう少し力を貸してくれないだろうか」

 

俺の言葉に力強くうなずく男たち、いいねいいね、燃えてるね、じゃあにいちゃん燃料投下しちゃうぞー。

 

「ありがとう、では当面の目標としてこのスペックの機体を開発する、期限は1ヶ月だ」

 

そう言って俺が要求書を渡したら何人かが泡吹いて倒れた、解せぬ。

 

 

 

 

その連絡が来たのは地上でのD3用生産ラインがやっと軌道に乗り、連日の徹夜から久方ぶりに解放された日の午後だった。数ヶ月ぶりの定時退社で同僚とどこかで飲もうかなんてたわいない世間話をしていたところに、主任が血相変えて飛び込んできた。

 

「よ、よし、全員居るな、緊急事態だ」

 

え、聞きたくない、全力で逃げ出したい、そんな俺たちの顔を見て主任が再度口を開いた。

 

「今、軍から連絡があった。D3の開発チームは至急荷物をまとめて地球に降りろだそうだ」

 

その言葉に重大なトラブルかと考えたがそれにしてはおかしい。もし大事なら軍からでなく、まず現地のスタッフから連絡がある筈だ。それに降りる位置も解らない。なんでヨーロッパ?うちの工場はキャリフォルニアにあるんだが。

 

「・・・どうも、欧州方面軍の幹部がD3に激怒したらしくてな、話を聞くから開発チームをこちらに送って寄こせと言ったらしい」

 

制服を着たお兄さんたちに有無を言わせないエスコートを受けながら乗ったシャトルで主任が洩らした。確かにあの機体は完璧とは言いがたい。だが提示された条件の中で最大限努力はしたし、少なくとも軍の要求は満たしていた。そして正直に言えば、今の設備と環境ではあれ以上の機体を提供することは出来ない。D3の採用にはそう言ったある種妥協も含まれていたのだが、まあ、前線の指揮官にすればそんな事は関係ないと言うことだろう。

主任が飛び込んできてから僅か3日で俺たちはオデッサのオフィスに通されていた。

目の前には政治将校と言われても信じてしまいそうな剣呑な雰囲気をまとった優男が一人、

爬虫類に通じる捕食者の視線に早くも気の弱いジョーイが体を震わせていると、事務的な挨拶のあと、男は分厚い紙束をこちらに渡してきた。訝しげな主任の言葉に、人の悪そうな笑みと共に挑発ともとれる言葉を男が発した。

ためらいがちに皆書類に目を通すが、そんなのは1ページ目だけで、すぐさま全員貪るように読み始めた。

それは俺たちが欲しても手に入れられなかった、航空機の詳細な開発報告書だったからだ。内容自体は旧世紀のもので随分と古いが、そんなことは大した問題では無い。なにせ俺たちはその大昔の情報すら持たずに造ろうとしていたのだから。

間違っても権力者の前でするべきじゃ無い態度で資料を読みあさっている俺たちに、男、基地司令のマ大佐は告げてくる。さあ、今度こそ本物の戦闘機を造れと。

皆の目に強い力を感じる、ここで引き下がったら技術者じゃ無い。そう決意を固める俺たちに司令はにこやかに死刑宣告をしてきた。

 

「ありがとう、では当面の目標としてこのスペックの機体を開発する、期限は1ヶ月だ」

 

そこにはD3など話にならないトンデモ要求が書かれていた、あ、これ死んだわ。

真っ暗になっていく視界の片隅でジョーイが泡を吹いて倒れるのを見ながら、俺も意識を手放した。

 

 

 

 

うん、長旅で疲れてた人にいきなり仕事の話は不味かったね、反省反省。とりあえず控えていた兵士の皆さんに医務室に連れてってあげてと頼んだら、素早くお米様だっこで連れて行った。もうちょっと丁寧に運んであげても良いんじゃ無いかと考えたところで、そういえば担架とかそういうのが不足してるのかという所に思考が行き着く。後で確認せねば。

そんな事を考えつつ、もう一件の案件を片付けるべく、隣の部屋で待たせていた人物を呼び出した。

 

「待たせてしまったかな。すまないがちょっと立て込んでいてね」

 

「はい、いいえ大佐殿、問題ありません」

 

疲労を感じさせない返答に思わず口元をほころばせる。

 

「ならば良かった。デメジエール・ソンネン少佐、オデッサへようこそ。貴官の働きに期待する」




ガンダムなのにMSが活躍しません、と言うか戦闘描写が無いですね。
でも暫くこんな感じです。


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第六話:0079/04/24 マ・クベ(偽)と鋼鉄の巨狼

UA100K突破感謝投稿。
エタらないよう頑張ります。
注意!
誹謗中傷が含まれます。苦手な方はご注意ください。



軍人然とした物言いに我慢が出来なくなり、ついに喉を鳴らして笑ってしまった。無いわ、デメジエール少佐が優等生みたいに話すとか、ないわー。

 

「あ、あの。大佐殿?」

 

「楽にしてくれて良いよ、少佐。口調も普段通りで構わない」

 

そう言いつつ視線を送ればウラガンがマグカップを用意してくれる。

 

「飲むだろう?」

 

「は、はあ頂きます」

 

応接用のソファに移動すると、釈然としない表情で少佐も続いて座った。

 

「緊張するな。なんて言葉は信用出来ないだろうね」

 

その言葉に少佐が顔をこわばらせる。

無理も無い。折角手に入れたであろう蜘蛛の糸の持ち主がいきなり挿げ替わったのだ。しかもその先は政治屋きどりの大佐と来た。MTの名誉を取り戻し、再び一角の英雄に返り咲く為に命を預けるには、正直心細い相手だろう。だから、ここが肝心だ。

 

「少佐のことは調べさせてもらったよ。国防軍時代からの生え抜きの戦車兵、教導団も経験しているね。MTの開発時には技術部から請われて参加している」

 

黙ってマグカップを見つめる少佐に構わず話を続ける。

 

「転機は5年前のMS適性審査だ。隊の殆どの人間がパスしたために部隊は解散、残ったのは古参で退役間近の軍曹と君だけだった。目をかけていた新人も、相棒だと思っていた戦友も皆君を残して去って行った」

 

俯いた少佐の表情は判らない。

 

「それからは随分と荒れたようだね。表向きはMT開発に打ち込んで見せていたが私生活は荒れ放題。糖尿病を患ったのもこの辺りだ」

 

「…めろ」

 

「決定的だったのは2年前のMT開発中止だ。正しく全てを捧げていたMTの不採用は、君を軍で孤立させるのに十分すぎる内容だった。この辺りからMTへ執着する発言が増えているね。怖かったろう?自分が不要だと突きつけられるのは」

 

しゃべりきる前にマグカップを投げ捨てた少佐が胸ぐらをつかんできた。おお、凄い力だ。

躊躇いなく腰の銃に手を伸ばしたウラガンを手で制止しながら。出来るだけおどけてみせる。

 

「ここの絨毯はそれなりに高いのだがね」

 

「大佐殿、あんたが良い性格をしているのは十分解った。で?俺をおちょくるために呼びつけたのか?地球方面軍ってのは随分と暇な所なんだな?」

 

ヒスパニック系は彫りが深くて怒った顔がすっげー怖いな!

 

「…それだけ怒っても発作が起きないようなら大丈夫だな」

 

ちびりそうになるのと声が震えそうなのを懸命にこらえて、そう口にする。声が小さかったのは胸ぐらを掴まれているせいだから許して欲しい。

 

「なんだと?」

 

「地球に降りても理解が追いつかない連中は沢山いる、という話さ少佐。取り敢えず離してくれるとしゃべりやすいのだがね」

 

怒りと困惑をない交ぜにしたままの顔ではあるが、つかみ上げていた俺の服を離してくれる少佐。ちょっと体が浮いてた、軍人怖い。

 

「実は先日、欧州方面軍内で部隊展開の見直しがあってね」

 

見直させちゃったのは俺のせいだけど。

 

「主攻面をイベリア半島に設定したまではいいが、どうにもMSでは力不足でね」

 

俺の言葉に驚きの表情を浮かべる少佐。察しが良い。彼はやっぱり優秀な軍人だ。こんな有能な人材を、たかがMSに乗れない程度の理由で冷遇するとか、ジオンは中々余裕があるじゃ無いか。

 

「必要なのは少々の攻撃など歯牙にもかけない装甲。立ち塞がる者を容赦なく粉砕する圧倒的火力。無理解な者達は言うだろう、失敗作が露払いに使われた。MSという主役を守るための前座だと。それがどうした、そんな連中の言葉など、先ほどの私の言葉と同じ無意味な雑音だ。気にせず見せつけてやるが良い、陸の王者の戦いというものを」

 

見れば少佐は再び俯き、肩を震わせている。

 

「試験もデータも取っている暇なぞ無いぞ、少佐。君には最前線で戦ってもらわねばならないからね」

 

涙を浮かべながら、少佐がもう一度姿勢を正し敬礼をしてくれた。そこには負け犬などでは断じてない、最高にかっこいい軍人が居た。

 

 

 

 

足裏に伝わる重みと、輸送機が巻き上げた風に混じる埃に、今自分が地球に立っていることを実感する。その事に僅かに興奮を覚えながら、デメジエール・ソンネン少佐はゆるみかける頬を引き締めた。

 

(ここからだ。ここからが本番だ)

 

MS適性無し。ただそれだけで、まるで不要品のような扱いを受けた。

待ってくれ、俺はまだ戦える!

証明するべく参加したMTは完成し、後はその力を見せつけるばかり。そう考えていた矢先に告げられた不採用通知。

戦う以前だ。自分はリングにすら上がる資格が無いと笑われたようだった。惨めさを忘れようと、元々荒れていた生活は更に荒れ、非常用のタブレット剤を用いねばならない程病が悪化した。

そして失意の中の開戦。宇宙を無尽に飛び回っていたMSは地球へと降り、瞬く間に戦線を広げていく。政府が頻りに伝える快進撃を聞くたびに、自分が取り残されている事を突きつけられているようで、酒の量が増えた。

戦車なんて時代遅れ、これからはMSの時代。隊から転属していく新兵が笑いながら言っていた言葉が耳から離れない。

だから、明らかに不要品の再利用兼体の良い廃棄処分だと解っていても、デメジエールは試験部隊行きの任務を承知したし、今回こそが己が負け犬などでは、時代遅れの不要品では無い事を示せる最後のチャンスだと考えていた。

 

「酒も止めた、医者の治療も受けた。情けないことに完璧には遠い。それでも今の最善は持ってきた」

 

予定が狂ったのはたったの6日前。唐突に呼び出されたかと思えば、現地試験の中止が言い渡され、同時に配備先の辞令を渡された。地球方面軍、欧州方面軍。試験などでは無い、実戦配備。1月近い繰り上げ出発だと言うのに、手際よく準備された大型輸送機にあらん限りの備品や機材が詰め込まれ、気がつけば機上の人になっていた。

夢じゃ無いかと思っていたのも、このどうしようも無いくらい伝わってくる地球という環境が現実だと教えてくれた。

 

「少佐のことは調べさせてもらったよ」

 

そう言って、痩せぎすの年下の大佐は、笑いながらデメジエールのここ数年を諳んじて見せた。自覚はしていたつもりでも、それを他者から聞かされるのは、また違った感情を揺り起こす。渡されたコーヒーに映っている自分のゆがんだ顔がひどく惨めに見えて、その状況を作っている目の前の男を殴り飛ばしたい衝動に駆られる。

 

「やめろ」

 

僅かに漏れた言葉は、しかし男に届かない。

 

「怖かったろう?自分が不要だと突きつけられるのは」

 

その言葉に、感情が理性を凌駕する。気がつけば持っていたマグカップを投げ捨て、男の胸ぐらを掴んでいた。

 

「ここの絨毯はそれなりに高いのだがね」

 

こぼれたコーヒーを見やりながら、困った表情を作る男に、階級も忘れて口を開く。

 

「大佐殿、あんたが良い性格をしているのは十分解った。で?俺をおちょくるために呼びつけたのか?地球方面軍ってのは随分と暇な所なんだな?」

 

「それだけ怒っても発作が起きないようなら大丈夫だな」

 

返ってきたのは予想外の言葉。表情を変えぬまま手を離すことを要求する大佐に、自身のしでかしたことの重大さにおののきながら、こわばりかけた指から力を抜く。そして、大佐の発言の意図に気づく。そうだ、この大佐は最初に言ったでは無いか、自分のことを調べたと。ならば、今までの発言はつまり、激昂した自分が発作を起こさないかを見ていたと言うことか。否、それだけでは無いだろう。大佐はこうも言った。地上に降りても理解の追いつかない連中がいる。それは他の兵士達の事だろう。考えてもみろ。戦線へと組み込まれれば、今までなど比較にならない程、MSパイロット達と接することになる。それどころか協同する事だって幾度もあるだろう。その時向けられるであろう嘲笑や中傷に、自身が冷静に対処できるかどうかを見ていたのでは無いか。

それは、リングに上がるかどうかではない、リングの上で十全に力を発揮できるのかという問い。その事実にデメジエールは目の奥が熱くなるのを自覚した。この大佐は、この方は。俺が戦える男であるという点に一欠片の疑問も抱いていない。

そして最後に掛けられた言葉、正に殺し文句だ。

MSには荷が重い、けれどお前なら、お前達なら。こんな事は造作も無い仕事だろう?

足に力を入れろ、胸を張れ。例え視界がゆがんでも、まっすぐに目を向けろ。

完璧にはほど遠い、それでも今できる最善を。

負け犬はもう居ない。




狼さん登場、してない。


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第七話:0079/04/29 マ・クベ(偽)と青いアレ

いつからヒルドルブの戦闘が見られると錯覚していた?


あれから5日が過ぎ、少佐は精力的に地上での慣熟訓練に励んでいる。今日も元気よく爆走するヒルドルブを窓から見ながら、俺はせっせと業務を片付けていた。時折カタカタと部屋が揺れたり、砂埃が酷いとコック長が怒鳴り込んできたり、連日のヒルドルブの整備で担当の整備員が泣いていたりするが、オデッサは概ね平穏である。ごめん、配置転換したらあの子お出かけするから後1週間くらい我慢して欲しい。

 

「失礼します。参謀本部より回答が届きました」

 

鉱山の稼働状況に目を通していると、ウラガンが端末片手に入室してきた。

 

「読んでくれ」

 

内容は先日頼んだオデッサの生産拠点化に対するものだろう。まさか断られる事は無いだろうが、結構時間がかかるとかだろうか。

 

「現在ジオニック社は生産に追われており、機材及び人員を送ることは困難である。ついては、OEMにてMS生産実績を持つツィマッド社より選定、送付する。以上です」

 

「…そうか」

 

「大佐?」

 

「いや、何でも無い。承知した旨を伝えておいてくれ」

 

いかん、ちょっと動揺して固まってしまった。ここでまさかツィマッドとつながりが出来るとか、これ死亡フラグとかじゃないよな?

 

「…しかし、ツィマッドか。正直に言えば、やりにくいな」

 

実はマさん、軍内でもとりわけ技術部門に嫌われていたりする。しかも一番嫌っているのがこのツィマッドだったりするのだ。ガンダム好きならこれは意外に思うかもしれない、正直俺もびっくりした。だってツィマッドってギャン造った会社じゃん。え、むしろ賄賂とか袖の下とかでズブズブドロドロじゃないの?と、思っていたら理由は簡単だった。

 

統合整備計画である。

 

某眉無しの野望とかだと、結構後半に提案されるため勘違いされがちなのだが、意外にもこれをマさんが提唱した時期は早く、79年の2月にはもう言い出している。この頃採用されているMSはザクⅠとザクⅡだけ。操作系に大差の無いこの二機しかない時期に何故そんな事を言い出したのか。その答えはとっても簡単。ジオニック社に便宜を図る為だった。

この頃ジオン軍では、今後増大するであろう地上戦に対応した新型機を求めていたが、ジオニック社はこの新型機開発でツィマッド社に後れを取っていた。というのも、主力であるザクに対する軍からの性能向上要求で、JだのFだのRだのとマイナーチェンジ機を造る羽目になったため、新型機開発を担当するはずだったザクの設計チームが集められず、開発が遅々として進んでいなかったのである。

一方ツィマッドは、ヅダの反省とOEMで吸収したノウハウを基に順調に開発を進め、試作機の完成までこぎ着けており、しかも性能も良好だったことから、軍も採用に乗り気だった。焦ったのはジオニック社の経営陣である。この頃戦場は地球に移っていたため、宇宙での戦闘は小康状態であり、宇宙機の発注は頭打ちになっていた。ここにきて新型機の採用を持って行かれた場合、MSのシェアを大きく奪われてしまうことになる。半分国営企業のくせに気持ちに余裕がなさ過ぎるジオニック社は何とか採用をもぎ取るため、様々な手段を講じることになるのだが、その一つが統合整備計画だったわけである。

性能的には難癖が付けづらいツィマッドの新型機であったが、コックピットのデザインがザクから大きく変えられていたのだ。そこに目を付けたジオニック社は一部の軍人に働きかけ、それが極めて重大な問題であるように仕向けたのだ。んで、その一部の軍人というのがマさんである。

曰く、大幅な変更はパイロットの機種転換を困難にする。前線でいくらMSがあっても誰も乗れないのでは意味が無い。教習に用いられているザクと異なっているのではパイロットの養成時間が更に増加してしまう。などなど。

意見そのものは間違っていないのだが、そこは程度というものがある。

確かにデザインは大幅にいじられていたが、実のところ、この新型機の操作系やモニターといったもののレイアウトは殆どザクと変わっておらず、MSに搭乗経験のある人間からすれば、乗用車とトラックほどの差すら無い程度だった。

不幸だったのは、問題を訴えられた総司令部にMS搭乗経験者が皆無だったことである。

加えて機械的な知識もあまり持ち合わせていなかった彼らは、渡されたコックピットの比較映像を見て、大きく違うと錯覚してしまった。マさんの見せ方やプレゼンの仕方が見事であったのも手伝って、この事は極めて重大な問題であると認識してしまった総司令部は新型機の仕様要求にとんでもない一文を追加する。

 

“コックピットはMS-06Jと同様ないし、差異は10%未満とする”

 

実機稼働まで行っていたツィマッドは大騒ぎである。

たかがモニターやコンソールのサイズが変わった程度で大げさな。と思うかもしれないが、少し考えてみて欲しい。あんな複雑な挙動をするMSを、僅か数枚のペダルと二本のジョイスティック、そして幾つかのスイッチだけで操作できるようにするためには、その裏にとんでもなく大量の機材が詰め込まれているのである。そう、それこそ全く隙間が無いくらいみっちりと。俗にモニター1つのサイズが変わるだけで配線経路を引き直すのに一日かかる。とまで言われるMSコックピットを、丸々替えろなどと言われたツィマッドは当然のように再設計を余儀なくされ、その間にザクを地上用に手直しする形で造られたヤツが完成する。

そう、ジオニックの青くてザクとは違うヤツ、MS-07グフである。

正直用兵側としては首をかしげたくなるコンセプトの機体なのだが、何故かパイロット、とりわけエースと呼ばれるような連中にバカ受けし、早期配備の嘆願書まで送られてくる始末。トントン拍子で話は進み、なんと統合整備計画提唱の1月後、3月には正式採用が決まってしまう。ツィマッド社にすれば悪夢のような決定だったことは想像に難くない。

もしかしたらこの時のトラウマのせいであんな近接特化のギャンなんて設計しちゃったのかな?とか、その上そんな仇敵にギャンを渡されたあげくロクな戦果も上げずにぶっ壊された史実の開発陣の心情を慮ると、技術者の端くれだった身としては涙を流さずに居られない。が、今は俺がマさんなのである。そんなこと言えば火に油、良くて拳でお話しされるのがオチだろう。

 

「…そういえば、グフも配備が始まっているのだったな」

 

オデッサには配備されていないが、前線部隊にはそれなりの数があったはずだ。

 

「ウラガン、すまないが欧州方面軍司令部にアポイントメントはとれるか?兵站部のミハエル大佐に聞きたいことがある」

 

 

 

 

「マ大佐から連絡?一体何だ?」

 

ミハエル・ヘラー大佐は副官の言葉に首をかしげた。仕事柄、それなりに接する機会の多い人物ではあるが、それ程親しくしている訳では無い。そもそも実直を人間に置き換えたようなミハエルと陰謀を体現したようなマでは、正直そりが合わない。

先日の会議では助けられる形になったが、未だ苦手意識は払拭されていなかった。

 

「何か補給状況で確認したいことがある、とのことですが」

 

「ああ、補給計画の件か、なら直接話した方が早いな」

 

書類のやりとりで済ませてしまいたいが、避けていると勘ぐられたりしては、後で何をされるかわからない。ここは丁寧に応対し、厄介事はさっさと済ませてしまおう。そう考えてミハエルは通信モニターのスイッチを入れた。

 

「お忙しい所申し訳ない。対応感謝するよ、ミハエル大佐」

 

「いえ、マ大佐も息災のようでなにより。本日はどのような用件です?」

 

フレンドリーさを演出したいのだろうか。猫なで声で話すマ大佐に言いようのない悪寒を感じながら、ミハエルは引きつりそうになる表情筋を懸命に制御し、笑顔で対応する。

 

「ちょっと気になったことがあってね、MSの補給に関する件なんだが」

 

「MSですか?」

 

先日提出された攻勢計画修正案に関する件だと考えていたミハエルは疑問に思ったが、そういえば会議の前後で軍令部からMSの件で叱責を受けたことを思い出す。

オデッサに送ったMSが故障だか損傷していただかで、目の前の男がキシリア少将に直接文句を言ったらしい。叱責を受けた軍令部の上司が輸送の際に不手際があったことにしたかったらしく、こちらにネチネチと嫌みを言ってきたのだ。その事に対する苦情だろうか?そう考えたミハエルは思わず顔をこわばらせる。

 

「うん、前線で運用しているグフについてなんだがね」

 

「は?はあ」

 

話が見えず、間抜けな返事をしてしまう。

 

「配備数と直近の補給状況を知りたいんだ。出来れば陳情の上がっている部品毎の詳細と、比較用にザクの資料があると助かるんだが」

 

「はあ、それくらいならすぐにでも用意しますが、一体どうしたんです?」

 

「ちょっとした罪滅ぼしをしようかと。すまないね、この借りはいずれ返させてもらうよ」

 

「壺なら十分頂いていますよ」

 

そう言って苦笑を浮かべながら視線を棚に送る。便宜を図ってくれたお礼、と称して何度も送られてきた壺で棚の上は一杯になっていた。尤も、ミハエルには壺の値打ちは解らないし、便宜を図ったのも自分では無く上司の命令なので、もらっても困ると言うのが本音なのだが。

その言葉に、マ大佐は一瞬考え込むと、朗らかな顔でこう返してきた。

 

「解った、次は皿にするよ。伊万里の良いのが手に入ったんだ」

 

違う、そうじゃない。

否定の言葉を言う前に、礼と共に通信は切られていた。




※あくまで作者の妄想です。


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第八話:0079/04/29 マ・クベ(偽)とツィマッド社

知らなかったのか?マ・クベは壺から逃げられない。


「やはりか」

 

連絡から一時間とかからず送られてきた資料に目を通しながらつぶやく。ここ2週間程の補給品のリストを比較すると、グフの問題点が見えてくる。

まず目を引くのが装甲補修剤の量だ。これは超硬スチールを使用したパテみたいなもので、被弾した場所に塗って補修したりするものだ。たまにツィンメリットコーティングみたいに塗られているのもこれだったりする。これの消費量がザクと同じくらいある。配備数は三分の一にもいかないのにだ。

つまりグフはザクに比べ明らかに被弾が多いと言うことになる。ただ今は相手の火力が低いので、ザクより装甲の厚いグフは損傷や行動不能に陥る事が少なく問題が顕在化していないのだ。

もう一つ目に付くのはアクチュエーターの陳情数だ。こっちはもう何で問題にならないか不思議なくらい差がある。その数驚きの5倍。ざっくり計算しても15倍故障していることになる。原因は明白。フィンガーバルカンのせいである。陳情理由を見ればとにかく左腕アクチュエーターが頻繁に損傷しているのが判る。そら、砲身なんて負担がかかる部分に駆動部なんか設ければそうなるわ。結構な部隊で左腕丸ごとの陳情があるのも絶対コイツのせいだろう。態々A型の腕要求してるし。

 

「そもそも、俺は格闘戦機が嫌いなんだ」

 

威力が高い事は、まあ、認める。大質量の物体をそれなりの速度で当てれば大きな威力を生み出すくらい中学生でも知っている知識だ。

しかし、しかしである。武器の進化に真っ向から挑みかかるその姿勢は如何なものか。

ミノフスキー粒子下における有視界戦闘への退化?全高18mの巨体が何を言う、地球が丸くても10km以上先から発見できるわ。ザクの速度が大体100キロ程だから、仮に同時に発見したとしても、殴れる距離まで行くのにかかる時間は6分、61式戦車の発射速度が毎分24発、余裕で蜂の巣である。そりゃ、ブーストを使ったり立体的な機動を取れば接近時間は減るし、射撃を躱すことも出来るだろう。だがそんなことを一々やっていたら推進剤なんぞあっという間に空になってしまう。ゲームじゃねえんだからブーストゲージが回復するなんて事は無いのである。

 

「やはりグフはダメだな」

 

多分に私情が挟まれている気がするが、データで裏打ちされればそれは最早正義である。そう言い張れる。しかし一方で問題もある。単純な性能は高い事に加え、部隊の精鋭に優先配備された都合から、前線パイロットに絶大な人気を誇る事だ。既に配備されている点も無視できない。

今更生産中止を申し立てても、前線からは不満が出るし、後方は製造ラインの置き換えで無駄にコストがかかってしまう。本当面倒くさいな、こいつ!

 

「理想はやはりドムなんだがなぁ」

 

前回の不採用が効いているらしく、ツィマッドは今元気が無い。史実でもドムが出て来たのはかなり後半だったことを考えると、案外このせいで開発が遅れたんじゃ無いだろうか。

加えて厄介なのが統合整備計画だ。総司令部に伝わったせいで、従来機とコックピットの仕様を変えねばならないホバータイプのMSは、難色を示される可能性が高い。

さっさとグフの生産を止めて、ドムを造ってもらってツィマッドにお詫びしようと思っていたのに、どうしたもんか。

 

「ホバー。ホバーのメリット…ぬう」

 

無論、ガノタを自称する身としては、ホバーのメリットなぞ簡単に挙げられる。

移動速度は上がるし、足回りの負担が減る。その結果部品の消耗も抑えられる。良いことだらけに見えるが、問題もある。第一にホバー機は採用実績が無い。今まで無いものというのを、軍組織、それも高官に有効だと理解させるのは非常に難しい。それが従来機より高コストであるなら尚更だ。歴史の後知恵をしている者から見れば、なんで有効な兵器を早期に配備しようとしないのか、不思議に思う事は多々ある。だが、それを実体験に置き換えると解りやすい。

例えばパソコンのOSだ、サービスが終了して新しいOSに乗り換えたとき、古い方が使いやすいと感じたり、設定をクラシックタイプにして使ったりしていないだろうか。これが開発と現場でも起きているのだ。開発側としてはより高性能なものを提供しているのだが、現場にしてみれば、それは経験を適用出来ない未知になる。解らないというのはそれを定量的に予測できないと言うことで、指揮官にしてみれば評価できない戦力になってしまう。おまけに、新しいということは今までに無い不具合を発生させるポテンシャルまで秘めている。このため、特に失敗の意味が重い軍では、既知の装備が尊ばれる事となるのだ。

この事から、前線の兵士にも受けが悪い事は想像に難くない。

誰だって自分の命を預けるなら、知らないものより知っている装備を選択するだろう。

加えて現状だと開発側ですらホバーのデータ収集は不十分だろうから、実績を作ろうにも、作る手段が無いのだ。あれ、これ詰んでる?

 

「現段階の欧州攻略プランが一段落したら、必ず戦線の拡大が検討される。その時ザクとグフでは対処しきれない」

 

動員できる人口が有限である以上、戦線の拡大に伴う必要戦力の増大は大きな障害になる。そこで先ほどの話に戻り、ホバーなら機動力が高い分、少数で広範囲を防衛できるので、必要な戦力を抑える事が出来る。史実でやたらとMAを開発しているのも、案外この辺りが理由かもしれない。MS十機で守る範囲をMA一機で守れれば、人的資源は十分の一ですむからだ。実際はそんなに単純な計算では無いけれども。

 

「実績…実績。何か無かったか」

 

こう考えると、史実でドム採用したのって英断だったんだなぁ、なんてことを思いながら背を伸ばす。すると、最近送られてきた壺が目に入った。何でも明代の頃の作品らしく、白磁に淡い青色の顔料で唐草模様が描き込まれている。オリジナルと違って壺の知識の無い俺ではあるが、なんとなくその淡い色合いが好きで飾っているのだが。

 

(青かあ、グフはグフでも、まだグフカスタムだったら…ん?)

 

マシだったのに。そう思いながら、重要な事を思い出す。

 

「そうだよ、ドムは何も急に造られた訳じゃ無いじゃないか!」

 

 

 

 

ツィマッド社が嫌いだと公言してはばからないものがある。料金の未払い、急な仕様変更、それとマ・クベ。

ジオンの重工業を支える大手である自負はあるが、ジオニックに比べればやはり一段劣ると認めざるを得ない。そんなツィマッドのMS部門が、全力を挙げて取り組んだ新型機採用に思いっきり土を付けてくれたのがマ・クベ大佐である。だからそんな相手から連絡が来た、と言っても誰も対応したがらず、散々たらい回しにしたあげく、対応したのが営業二課という所謂窓際部署の課長、ハルバ・ロウドであった。

 

「お世話になっております。ツィマッド営業二課、ハルバと申します」

 

「お初にお目にかかります。私はジオン突撃機動軍隷下、地球方面軍欧州方面軍隷下オデッサ鉱山基地司令、マ・クベ大佐と申します。長ったらしいのでオデッサ基地のマ、とでも覚えて頂きたい」

 

にこやかに挨拶してくる大佐に対し、ハルバは内心ため息を吐く。彼を知らない人間なんて、社には一人も居ないだろう。何しろハルバが対応しているのがそのせいなのだから。

 

「本日は我が社の商品に興味がある、との事でしたが」

 

「ええ、とても興味があるのです。御社が開発している熱核ジェットエンジンにね」

 

その言葉に思わず顔がこわばりかけるが、必死にそれを押し隠すと、ハルバはとぼけて見せた。あれはまだ社外秘の筈だ。

 

「開発…ですか?いえ、既に我が社は熱核ジェットを軍に納めさせて頂いておりますが」

 

「ええ、ガウ用のものを幾つか。ただ、私が言っているのは別のものです」

 

額に嫌な汗が浮かぶのを自覚する。これはまずい、おそらく自分の手には負えない案件だ。そう理解しても、急に通信を切る訳にもいかない。相手はコックピットの僅かな違い程度で新型機を不採用にする手腕を持っている。不用意なことをすれば、そこを突いて何をされるか解ったものではない。

 

「ガウ用以外ですか?申し訳ありません、開発品については門外漢でして。お役に立てますかどうか」

 

韜晦しようと口にした言葉は、大佐にあっさりと切り捨てられた。

 

「はっは。…社運をかけて開発中の新型MSの目玉になる推進器を、売り込むあなた方がご存知ない訳がない」

 

その笑顔にハルバは思わず悲鳴を上げた。社外秘を何故目の前の男が知っているのか。それと同時に己の不幸も呪う。今の仕草は完全に認めてしまった者の反応だった、もう知らぬ存ぜぬでは通せない上に、誰か別の人間に替わろうとも、この男はハルバから聞いたと言うだろう。そうなれば自分は社外秘を洩らした背任者として吊され、間違いなく追放される。

暗澹たる未来を想像し、うなだれるハルバにマは優しく語りかけてきた。

 

「御社の状況と、私への評価は相応に理解しているつもりです」

 

黙り続けるハルバに構わず、言葉は続く。

 

「先日の件については、実に不幸な出来事だった。ただ私とて、悪意を持って行なったのでは無い、そこは理解頂きたい。そしてその上で一つご提案したい」

 

聞くな、これは悪魔の言葉だ。そう理性が警鐘を鳴らすが、一方でハルバの商才が敏感に反応する。悪びれも無く話す目の前の男。あれは莫大な利益を生む顧客特有の空気だ。

 

「実は現在、ジオニックが御社の新型に近いコンセプトの機体を開発中です」

 

とてつもない爆弾発言にハルバは目を剥く。聞けばジオニックは採用された07、グフをベースにMS単独の飛行能力を有した機体を開発しているという。しかも既に試作機は実機が完成しており、キャリフォルニアにて稼働試験をしていると言うでは無いか。

これが事実ならツィマッドに勝ち目は無い。開発中の機体はあくまで熱核ジェットを使用した高機動機であって、とてもでは無いが飛行出来るものなどでは無い。当然、比較となれば、より地形的な制約を受けにくい飛行可能なジオニック社の機体が有利なのは明白だ。

そこまで考えたところで、ハルバは疑問を覚えた。ここまでの経緯から、もしジオニックの開発が順調ならば、目の前の男がツィマッドに接触してくる理由が無い。そして、男は言っていた。我が社が開発しているMS向けの熱核ジェットエンジンに興味があると。

 

「ご推察の通りです。ジオニックの機体は野心的に過ぎましてね。確かに飛びはするのですが、いかんせん距離は短い、飛行も安定しないと散々なものです」

 

「つまり、貴方は」

 

「はい、この機体開発に御社の技術協力をお願いしたい。手始めはMS用の小型熱核ジェットエンジンの提供ですな」

 

あまりにも勝手な物言いにハルバは溜息を吐いて見せた。

 

「成程、仰りたい事は理解しました。しかしそのお願いを聞いて、我が社になんの利益がありますか?」

 

ツィマッドにとって、推進器のノウハウは命綱だ。おいそれと開示出来るものでは無い。仮に提供の形にしても、MS全体と比べれば利益は下がる。ならば態々ライバル社に塩を送らずとも、自社の新型機完成を待てば良い。目の前の男はそんなことも解らない人物ではないと思うのだが。

 

「…自社の新型完成まで待てば良い、そういう顔ですな。利益を見るならそうでしょう。ほぼ間違いなくジオニックの新型は開発に失敗するでしょうしね」

 

こちらの心中を見透かすように大佐が目を細める。

 

「もっとも、その新型が完成するまで顧客がいれば、の話ですが」




装甲補修剤は某ロボ漫画からのパクリです。
本当のガンダム世界には多分ありません。


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第九話:0079/04/29 マ・クベ(偽)は斯く語れり

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「もっとも、その新型が完成するまで顧客がいればの話ですが」

 

俺の言葉に驚いたハルバ課長の仕草から、この交渉が上手くいく事を確信する。いやあ、マさんの弁舌スキルすげえわ、良くまあポンポン言葉が出るもんだ。自分のプレゼンすらどもって上司に苦笑させていた俺とは大違いである。

 

「…それは、どういう意味ですか?」

 

「言った通りですよ。御社の新型機が軍に売り込まれるのはいつになりますか?一年後?半年?全く新規の開発ですからデータ収集すら手間取っている状況だ。それともまさか一月後に出せるとでも言ってくれるのですかな?」

 

俺の言葉に、完全に気圧された表情になるハルバさん。素直なのは人として美徳だけど、政治家や営業マンがそれじゃ頂けないな。

 

「その前に軍は実績を積むでしょう。飛行型MSの開発失敗というね」

 

「それは…」

 

絞り出すように言うハルバさんにさらに畳みかける。

 

「得てして軍人というのは前例を尊ぶ気質です。トップメーカーが軍協力の下、失敗した兵器を御社が売り込んで、さてさて、誰が食いつきますかな?」

 

黙り込んでしまったハルバさんに最後の一押しとして、こちらの条件を提示する。

 

「ハルバ課長、これは投資だ。軍にホバー型MSの運用実績を積ませる、それも御社のエンジンを使って。それさえ出来れば後は新型機を売り込むだけです。ジオニックの機体は所詮改修機、元からホバーとして設計された御社の機体に比べたら完成度が違う」

 

目が泳いでる、これは落ちたな。

 

「だ、だが、我が社の新型にも実績は無い。カタログスペックだけでは納得しないでしょう。それに正直なところ、ホバー機のデータ収集は仰る通り進んでいないのが現状です」

 

「それなら心配要りません。ホバー機の試験データは全て御社にも開示させます。エンジンの調整が必要なのですから当然だとでも言いましょう。それに実機での実績ですが、それこそ簡単だ。ここでやれば良い。名目はそうですな、ホバー用練習機の実機試験とでもしておきますか」

 

机を指で叩きながら笑ってみせる。

 

「まあ、試験とは言えここは戦場ですからな。不幸な敵との接触もあり得るでしょう。そのリスクは承知頂きたいが」

 

俺の言わんとしていることを正確に理解したハルバさんは、視線を下げ考え込んでいる。恐らく、この話で得られる利益とリスクを懸命に計算しているのだろう。ウラガンが入れてくれていた紅茶をゆっくりと飲み干す頃、ハルバさんはゆっくりと顔を上げた。

 

「大変、大変興味深いお話でした。しかし、正直私では手に余るお話です。上に相談させて頂きたい」

 

迷いのないしっかりとした口調で提案してくるハルバさんに満足しながら、一応釘は刺す。

 

「当然ですな、御社の社運がかかっている。存分に相談ください。ああ、ただ、幸運の女神は前髪しか無いことは覚えておいてください」

 

 

通信を切り、深呼吸をする。うん、緊張した。俺やっぱ政治家や軍略家とか向いてないわ。平然とこういう事やれてるマさんマジすげえ。

 

「さて、もう一件片付けないとな」

 

居住まいを正し、次の連絡先へ繋げる。2コールほどで相手が出た。

 

「久しぶりだな、大佐。出陣式以来かな?壮健そうで何よりだ」

 

そう言って笑顔を向けてくるのはザビ家のお坊ちゃんこと、ガルマ・ザビ大佐だ。ちなみに階級は同じなのになんで上から口調かと言えば、ザビ家の人間は実際の階級より2階級上の権限を持つからだ。暗黙の了解と言う奴なのだが、ちょっと面倒である。

 

「お久しぶりです、ガルマ様。ガルマ様もお変わりないようで何よりです」

 

特に気にした風も無く、前髪をいじりながらガルマは口を開いた。

 

「それで、急な用件とのことだが?一体何があった」

 

「はい、実はガルマ様が主導しておられるMSについて相談がありまして」

 

そう言うと、一瞬考え込む表情になるガルマ様。おいおい、まさか知らんとか言うなよ。

 

「主導…ああ、もしかしてグフの飛行試験機の事か?耳が早いな」

 

顔をしかめながらの言葉は、正に苦虫をかみ潰した、と言うべき声音だった。まあ、開発が順調じゃ無いから、そんな顔になるのも仕方あるまい。

 

「はい、今後の地上作戦において重要な機体であると考えまして」

 

そう言う俺に、渋い表情をそのままにマグカップを持ちながらガルマ様が答える。

 

「大佐、君には悪いがあれは駄目だ」

 

だろうね。知っていてもおくびに出さず、発言を促す。

 

「駄目とは?」

 

「そのままさ。飛行時間も短く、制御も煩雑。おまけに大量に推進剤を積み込むおかげで被弾にも脆弱ときた。あれならザクをそのまま使った方がずっとマシだな。少なくとも落下事故の報告書を読まなくて済む」

 

そう言って憂鬱そうな瞳をマグカップに落とす。ああ、そういえば何度か落下事故起こしてたね。最後は空中爆発事故で殉職者まで出したんだっけ?

 

「しかし、現在のMSの展開能力ではこれ以上の戦線拡大は困難です」

 

「解っている。代案は用意しているさ」

 

「ド・ダイですか」

 

その言葉に目を見開くガルマ様。

 

「本当に耳が早い。そうだ、あれを再設計しMSを搭載する。これならMS側は何でも運べるしな」

 

確かに、展開能力だけ考えるならそれでも問題無い。ただこの方式には幾つか欠点がある。

 

「しかし、その方法ですとド・ダイ側の人員が必要になります。整備員も含めればかなりの人数になるでしょう。それでは展開力を上げる意味が無い」

 

そもそも省力化しようとしてるのに、手間を増やしてどうする。

 

「そうは言ってもな、大佐。あれは使い物にならんぞ?」

 

そりゃそうだろう、非可変のMSが空を自由に飛べるようになるまでは後20年近くかかるからな。

 

「要求が高すぎるのですよ。宇宙で使うつもりのものを地上に降ろして、今度は空まで飛ばそうというのです。それは無理があるでしょう」

 

そろそろ本題の切り出しどころかな。

 

「要求を下げるべきでしょう。少なくとも空を飛ばすのは無理です」

 

「下げてどうする。機動性の向上は必須だと君も言ったじゃないか」

 

「ええ、ですから、現行機より機動性に優れ、空を飛ばない程度の機体を造れば良い」

 

そう言うと、ガルマ様はポカンと口を開けた。え、思いつかなかったの?

 

「飛行試験型は地表効果試験時にどの程度の速度を発揮していましたか?そして滑走中の事故は何度起こしていますかな?」

 

その言葉に、慌てて副官に資料を持ってくるように指示するガルマ様。ちょっとからかってやろう。

 

「進捗が思うように行かない時は、誰しも否定的な気分になるものです。その中でも良い点、見るべき点を見つけるのが上に立つものの仕事ではないでしょうか。人であれば、褒めて伸ばす、と言ったところですか」

 

 

 

 

大佐の言葉に、ガルマ・ザビは顔が熱くなるのを自覚した。確かに自分は与えられた要件を満たすことだけにとらわれていて、それが実現可能かどうかの検討なんてしていなかったし、成果が出ないことについても装備側の不備だけで片付けていた。

成程、言われて資料を見れば、地上滑走時の速度は400キロに達しており、しかも事故は1度も起きていない。無論整地された滑走路をまっすぐ進むだけであるのと、複雑な機動を要求される戦場とでは勝手は違うだろうが、それでもこの機体は現状で従来機の4倍近い速度を発揮しているのだ。

 

「航続距離に関しても改善の策があります。つきましてはテストチームをオデッサに派遣頂きたい」

 

悪くない案だ、とガルマは思った。事故のせいもありキャリフォルニアでのテストチームへの視線は冷ややかだ。生産拠点も設置されるのなら、新しい拠点に移った方が彼らもやりやすいかもしれない。ついでとばかりに改修型のド・ダイも数機強請られた。輸送機として使えないか検討したいのだという。成程、確かに50トンもあるMSを乗せて運べるならそれなりの物資だって運べるだろう。

 

「それと、MSの数について。少し気をつけた方が良いかもしれません」

 

そうして、テストチームの話が一段落したところで、思い出したように大佐は唐突にそんなことを口にした。どういう事かと問いただせば、とんでもない事を口走った。

 

「連邦どもですが、どうやらザクを鹵獲して戦力として運用しようとしているようなのです。暫くは物資集積所などの警戒を強めた方が良いでしょう、ゲリラの基本ですからな」




こんな投稿今回だけなんだからね。


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第十話:0079/05/09 マ・クベ(偽)と無理難題

通算UA200000越えちゃったよ有り難うございます投稿


ガルマ様との楽しい男子トークから10日が過ぎ、ヒルドルブが居なくなった基地は、少し静かに、寂しくなるかと思ったら全くそんなこと無かった。ツィマッドの生産設備と作業員の受け入れをしていたら(ハルバさんが頑張ったらしく、実機は持ち込まなかったが、熱核ジェットエンジンの開発スタッフが既に一緒に来ていた)、前線からお礼と共に愉快なものが送られてきたからだ。

 

「ヒルドルブの増産嘆願書か。デメジエール少佐が泣いて喜びそうだな」

 

実際の所、あれが活躍できているのは少佐の類い希なる技量による所も大きいのだが、そこまでは前線の指揮官には解らないだろうし、何よりMSの人員を減らさず強力な戦力が手に入るのが魅力的に映ったらしい。まだ何も言っていないうちに候補生とか言ってマゼラアタックの搭乗員を送ってきた。いや、そんな人だけ送られても困るんだけど。

取り敢えず説明しようと候補生(仮)達と会ったら、みんな超期待した目で見てくるの。この人達もどうやらMS適性試験に落ちた口らしく、ヒルドルブは彼らにとって所謂希望になってしまっていたようだ。帰れって言ったらすっごい落ち込むだろうなぁ、なんて思いながら喋っていたのが不味かったのだろう。気がついたらヒルドルブの追加生産をキシリア様にお願いすることを約束してしまっていた。これが4日前。

そうそう、ヒルドルブと言えば、デメジエール少佐を引き抜いたせいで、北米のフェデリコ君達がはっちゃけたら不味いと思って、ガルマ様に警戒するよう忠告しといたら、かなり張り切ったらしく襲撃を未然に防いだどころか返り討ちにした上に捕虜まで捕まえたそうだ。

おかげでガルマ様は、今度本国で表彰され、ついでに大々的にプロパガンダ放送もされるらしい。お礼に壺が贈られてきたときは正直困ったが、飾っていたら段々愛着が湧いてきた。…この壺変な成分とか練り込まれてないよな?そんな事があったのが昨日。

そんで、今日なのだが。

 

「ウラガン、あれは何だ?」

 

キシリア様に頼み込んだら、ヒルドルブの件は思ったより良い返事が返ってきた。予備機として仮組みしていた2号車と、環境耐久試験に使っていた3号車を送ってくれる事になったのだ。3号車の方はバラして部品取りだが、それでもほぼ完成している機体が1機手に入るのは大きい。ついでに開発スタッフも何人か降りてきていて、ツィマッドに間借りしつつ、最終的にはMIP社から生産設備を持ってきてヒルドルブを製造するらしい。どんどん大事になってるな。

んで、今日はその機体の受け入れだったんだが。

 

「は、添付された資料によりますと、グラナダで開発した新兵器、とのことです。地上での動作試験実施の指令が届いております」

 

大型輸送機から運び出されているのは、どう見てもジオンのビックリドッキリメカ、アッザムである。そういえばグラナダに配備されているルナタンクを改造して造ったって設定でしたね。落ち着け俺、大丈夫だ。コイツの時は確かにやばかったが、史実でガンダムに襲われてもマさんは生き延びた。つまりコイツは死亡フラグじゃない、大丈…駄目だ、自分が騙しきれん。

 

「趣味の悪いタマネギだな。いや、食えるだけタマネギの方がマシかもしれん」

 

携帯端末に送られた資料に目を通しながら思わず口にしてしまう。いやだって、これどうしろというのだ。

 

「連続飛行時間は約50分、時速16キロ?メガ粒子砲を搭載しているが出力不足な上、ドライブさせると飛行時間が減るため発射数に制限がある?技術部はアホなのか?」

 

ヒルドルブ不採用にしといてこんなの造ってるとかちょっと正気を疑うのだが。

頭を抱えながら執務机に戻ると、絶妙なタイミングで通信室から連絡が来た。

 

「…閣下、キシリア少将から通信が入っているとのことです」

 

幾分硬くなった声音でウラガンがそう告げてくる。質問の前に連絡来るとか、嫌な予感しかしないんですが。

 

「解った、すぐ行く」

 

大急ぎで通信室に入ると、画面越しの美女は優雅にお茶を飲んでいた。あれか、紅茶なんかキメてるからあんな愉快な兵器造っちゃうのか、英国面に堕ちちゃってるのか。

 

「お待たせ致しました、キシリア様。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

「先日連絡があった機体の件だ、今日辺り届くはずだと思ってな」

 

そう言って柔らかく微笑むキシリア様。今まで機体の補充で確認の連絡なんて無かったんだけどな。ああ、あれか?貴重な機体だから流石に気になったんかな?

 

「はい、たった今到着致しました。荷下ろしも確認しておりましたが、特に問題は無いかと。ご配慮頂きまして、このマ、感謝の念に堪えません」

 

「良い。この所精力的に働いているようだしな。聞いたぞ?ガルマへ忠告したのも貴様だそうだな?」

 

あれ、ガルマ様喋ったのか。自分で思いついたことにしとけば手柄になったろうに。素直な良い子に育っているんだなぁ。こりゃちょっとシャアに暗殺されちゃうのは可哀想になってきたな。

 

「そんな噂がある、と申し上げた程度です。実際に事をなしたのはガルマ様ですから、私が功績だと誇れる事など何処にもありません」

 

そう謙遜して見せると、面白そうにキシリア様は笑みを深めた。卵顔なせいもあってその表情は実に愛らしい。本当にこの人キシリア様なんだろうか。

 

「地上に降りて随分変わったな。そちらの水が合ったのかな?」

 

「食事は悪くありません。ただ埃っぽいのが頂けませんね、兵達も閉口しています」

 

そう言って肩をすくめると、ついには破顔して笑い始めた。

 

「貴様の口からそのようなジョークが出てくるとはな。地球は思ったより興味深い所のようだ。…近々そちらを視察しよう。私も直接確認したいしな」

 

最後の言葉に、すっと体温が下がるのを自覚する。え、もしかしてこれ史実イベントフラグ?

 

「し、視察でございますか?」

 

「ああ、今回の輸送であれも届いているだろう?」

 

アッザムですねワカリマス。

 

「あの大型兵器でしょうか?」

 

「うむ、技術部にルナタンクを地上用に再設計させた。MAという新しいカテゴリーの兵器になる」

 

同じ試作機でもどこかの白い悪魔と比較にならない残念さだけどね。

 

「MA…」

 

「今後のジオンにとって重要な機体だ。貴様に任せる。使いこなしてみせよ」

 

いや、無理だろ、って言えたら楽なんだけどなぁ。これ多分ガルマ様に功績挙げさせたご褒美感覚なんだろう。こんなん断ったら今後の陳情に響いてしまう。ただでさえこの所無理言ってたし。でも流石にそのままは危険が危ないから言質くらいは取っておこう。

 

「承知致しました。しかしここは月や宇宙とは勝手が違います。使いやすいよう手を加えることをお許しください」

 

「構わん、必要なのは使える道具だ。貴様の良いように使え」

 

はい、言質頂きましたー。

 

「有り難うございます。キシリア様のご期待に添えますよう全力を尽くさせて頂きます」

 

「ふふ、ではまた連絡する。それまで壮健でな」

 

そう言って機嫌良さそうな声を残し通信が切れる。さて、あれどうしよう?

 

 

 

 

デニス・フロウはご機嫌だった。ドップの設計主任だった彼は、一介の設計士だったはずが、紆余曲折を経て、ここオデッサ基地で働いている。

 

「始めは殺されるかと思ったけど。重力と埃に慣れたらここは快適だね」

 

部下のジョーイ・ブレンがそんな事を嘯いていたが、全くそうだとデニスも思っていた。

来た当初はとてつもない要求書を突きつけられたと絶望しかけたが、その後に渡された資料でそれも杞憂に終わった。何しろ提示されていた仕様は旧式の航空機をベースに現行のパーツや構造材を用いれば十分達成できる値であり、その再設計についても軍が用意していた高性能CADのおかげでデータを入力すればほぼ自動で設計してくれる。おまけに、必要だと申請した物は即座に届けられる。おかげで今までの残業まみれの人生が嘘だったように連日定時上がりの余裕のある生活を営ませてもらっている。強いて文句を言えば基地から外に出るのに手続きが大変なことと、必ず護衛が付くことだろうか。

 

「失礼します。新型機の進捗報告に参りました」

 

そんな訳で、大幅に親しみを増した基地司令に定例の報告を持って来た訳だが。そこには執務机に突っ伏し、頭を抱えるマ・クベ大佐の姿があった。横にはいつもの副官も居るのだが、こちらも暗い表情だ。

 

「…ん、ああ、すまないデニス主任。進捗報告だな、読んでおくから置いておいてくれ」

 

「あの、何かあったのでしょうか?」

 

保身を考えれば、こんな発言はすべきでは無い。そう思ってもデニスは自然と口を開いていた。その事を後に多くの人に尋ねられることになる。何故、自ら苦労を背負い込むようなことを言ったのかと。その度にデニスは笑って答えた。

 

「だって、大佐が困っていたんだ」




コンゴトモヨロシク


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第十一話:0079/05/09 マ・クベ(偽)の目にも涙

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「始めに言わせて欲しい。諸君、有り難う」

 

部屋に入り、スクリーンの前に立った後、俺はそう言って頭を下げた。事の発端は2時間ほど前。キシリア様からの素敵な無茶振りに頭を抱えていたら、ドップⅡ(仮)開発チームのチーフであるデニスさんが、心配したのか悩みがあるのか、なんて聞いてきた。丁度いいやと思って、アッザムのことを話してみたら、真剣な顔になって定時後に時間が取れるかと言われた。幸い予定は特になかったので承知したら、会議室を押さえて欲しいとかウラガンに言ってる。あれ、もしかしなくても大事になってる?

んで、定時過ぎて会議室に行ってみたら、おいちゃん驚いたね。ドップⅡ開発チームの全員にツィマッドの技術員、ヒルドルブ関係で出向してきていたMIPの技術スタッフと、オデッサに居る技術系スタッフのほぼ大半が会議室に集まっていたのだ。おいちゃん思わず目頭が熱くなっちゃったよ。

 

「忙しい所、済まないが知恵を貸して欲しい。聞いているかもしれないが、改めて説明させてもらう」

 

そう言って俺は、みんなの前で改めてアッザムについて説明する。ツィマッドの技術者さん達はまだ来たばかりだから今一解らない顔だったが、MIPから来ているドップⅡ組とヒルドルブ組は険しい表情だ。まあ、このチームには前線から返ってきた戦闘ログを全部開示しているから、アッザムが如何に使い道が無いか理解できるのだろう。一通り説明した後、さて、知恵を借りようと口を開こうとしたら、ドップⅡ組のジョーイ君が手を挙げて発言許可を求めてきた。

 

「何か質問だろうか、ジョーイ技師」

 

「はい、大佐。あの、これは何を意図して設計された機体なのでしょう?」

 

良い質問だね。

 

「技術部の出してきた資料によれば、敵陣地…ああ、トーチカ破壊用だそうだ」

 

その言葉に首をかしげるジョーイ君。

 

「破壊用…これが移動トーチカでなくて、攻撃に使うのですか?」

 

「と、資料には書かれている」

 

んな、馬鹿な。なんて呟いてジョーイ君は座ってしまう。だよね、全幅50m以上、全高20mを超えるデカブツがふよふよ浮いていて見つからない筈が無い。おまけに最高速度は16キロ、ミサイルどころか対空砲を避けられるかすら怪しい。加えて連続飛行時間が50分。いや、時間あたり15キロも動けない兵器を前線でどう使えと言うのか。

 

「これを見ると、装甲もあまり信用出来ませんね」

 

端末に配布された資料を見ながら唸ったのは、ヒルドルブ組のアサーヴ・バンダリ技術大尉だ。アサーヴさんはヒルドルブの装甲関係担当の技術者さんで、とにかく何でも重装甲化したがる愉快な人だが、その知識と知見は本物だ。

 

「この程度の装甲では、CIWSならともかく100ミリ以上の対空砲には全くの無力です。おまけにこの低い運動性では歩兵のAMSすら脅威だ」

 

「機体の形状も良いとは言えないな。元がルナタンクだから、極力弄らない事で設計時間や新規部品の追加を減らしたかったんだろうが…」

 

そう言って端末を小突くデニスさん、ここの所航空機だけで無く旧ロシア軍装備のデザインを熱心に研究しているから、コンセプトに合致していないデザインが不満なんだろう。

 

「移動能力からして、単独で陣地を突破する事は想定していないでしょう。なのに全周に砲塔を配置するのはナンセンスだ。しかも対地と対空が何で同じ砲なんだ?」

 

だよねぇ。主砲の性能を見てみると、弾速と連射力は悪くないし、威力は280ミリバズーカ並と、敵陣地への攻撃としては有力な火力なのだが、航空機に対しては威力が過大だ。加えて機体上側に装備された砲は射角が狭く機体の90度をそれぞれが担当するような形であるため、戦闘状態になれば全部の砲を常にドライブ状態にしておかないと防空に死角が出来てしまう。

 

「それよりこのアッザムリーダーというのは何なのでしょう。陣地攻撃には範囲が限定的過ぎると思うのですが」

 

理解できない、という顔で資料を見ているのはヒルドルブの火器担当技術者をしているタカミ・アリサワ技術中尉だ。狂気を感じる程度の火力主義者で、既に数回ヒルドルブの火力増強プランを提出してきている。艦砲クラスのメガ粒子砲なんかほいほい手に入らないからね?

 

「確かに、対人用としては有用だと思うが」

 

ただ、歩兵制圧なら焼夷弾でもばらまいた方が遙かにリーズナブルだと思う。ヒートロッドといい、技術部は電気信仰でも始めたんだろうか。

 

「この機体が少々残念なのは諸君の意見で良く解った。では、どうしたらいいだろう?忌憚の無い意見が聞きたい」

 

俺の言葉に会議室が静まった。ですよねー。

 

「…まず、形状の見直しからでしょう。飛行性能を上げるために、せめてリフティングボディにしたい」

 

そうデニスさんが言い出すと、次々に意見が出始める。

 

「対地用火器ですが、現在の出力ならば連装、出来れば単装のメガ粒子砲1基にするべきです。門数を減らす分威力の向上も必要ですから、長砲身化し収束率を上げましょう」

 

「装甲配置ですが、全周を均等に覆うより。より被弾の可能性が高い底面部を厚く、上部は航空機の攻撃に耐える程度に変更した方が効率的でしょう」

 

「推進器なのですが、我が社が製造しているガウ用熱核ジェットのサブエンジンを流用すれば、ペイロードをあまり圧迫せず運動性を強化できるかと」

 

「高速化するのであれば現状の降着装置は邪魔です。コムサイあたりのランディングギアを転用した方が良いかと考えます」

 

うん、全部聞いていくとこれって。

 

「つまり、ミノフスキークラフト以外はほぼ新造になるのかな?」

 

「「そーですね」」

 

これ、現地改修で通るかなぁ。

 

 

あれから3日ほど過ぎた。結局、会議の結果。ジョーイ君をチームリーダーに時間を見つけて再設計する事が決まった。幸いMS用の高性能CADが空いていたので、早速データを突っ込んで計算させているとのこと、フットワーク軽いっていいね。出来上がった図面については大体の部分はヒルドルブチームのラボで製造して貰えることになった。ただフレームそのものは造れないとのことで、どーしたもんかと思っていたら、デニスさんがキャリフォルニアのMIP製造部に問い合わせてくれて、そこで試作しているMAと並行で調達してくれる事になった。デニスさんには今度贈り物(壺)をせねば。

メガ粒子砲の方もタカミ女史が取り外したものを切ったりくっつけたりして絶賛改造中。どうも却下してた火力増強計画のフラストレーションをここで晴らしているらしい。ちょっと覗いてみたら、これで倍率ドン!更に倍!とか高笑いを上げながら砲身を弄っていたので、そっと扉を閉じて見なかったことにした。一緒にやってた作業員の皆さんが泣きそうだったが、彼らには強く生きて欲しいと思う。…PXの嗜好品を多めに陳情しておこう。

そうそう、この3日でグフ飛行試験型の開発チームさんもオデッサに目出度く合流しました。早速ツィマッドの人達に足回り分解されて涙目になってたのが印象深い。その後、熱烈な歓迎会やったらまた涙ぐんでた。話しかけたらキャリフォルニアより飯が美味い、天国かここは、とか言い出す始末。残念地獄の最前線(ちょっと後ろ)です。

後、一緒に送ってもらったMS搭載型のド・ダイで試験的に補給を行なったら、すげえ量の感謝状やらメールが届いた。んで、そのせいでちょっと問題が。

 

「専用機の生産許可書?なんだこれは」

 

ここ最近何故だか熱い視線を時折向けてくる副官が、興奮した面持ち(見慣れていなければ気がつかない程度だが)で書類を渡してきた。

 

「はい、この所の功績を本国は高く評価しているそうです。その功労賞として専用機の建造を許可するとのことです」

 

ああ、つまり勲章代わりにMSやるよって事か。随分太っ腹だな…と思ったけどそうか、勲章だと退役後も年金つくし、今の給料も上げなきゃならない。でもMSなら備品として製造で多く金を使っても資産としては軍に残る。おまけに年金や給料に反映する必要も無い。ルウム以降専用機持ちが増えたのは戦意高揚もあるけど戦争の長期化が避けられなくなって勲章や階級が足りないと言うのもあるんだよなぁ。

 

「うん、それは有り難いが、専用機か」

 

正直もらっても困る。乗る気は無いし専用とか言えば余計なカスタムとかされちゃったりしているのだろう。そうなれば整備部隊への負担が増える、乗りもしない面倒なカスタムMSなんて倉庫にあるだけ邪魔だろう。

 

「嬉しいが…」

 

「いけません大佐」

 

不要を告げようとした言葉を喰い気味にウラガンが否定してきた。

 

「大佐がお考えの通りそのような事態は起こりえないでしょう。しかしこれは拒否出来ません」

 

「政治だな」

 

「はい」

 

ここの所俺はそれ相応の成果は出しているが、まあ心証は悪いだろう。しかしそこまで噛みついている俺でも成果を出せば報いるという度量を示すことでキシリア少将は軍内部で将器をアピールしたいんだろう。

しかしそうなると困るのは割と俺である。大体、先日大佐に昇格したんだしひっきりなしに報酬与えんでも良いじゃ無いか、と思ってしまう一方でこの位明確に飴をぶら下げないといけないほど各地の士気が下がっているんだろう事が容易に想像できて憂鬱になる。

ド・ダイで輸送テストしただけで感謝の連絡が来る程度にはそこかしこで物資が停滞してるからなぁ。どうも補給計画で予定していた主要道路が使えていない。勤勉な連邦の工兵さん達が律儀に橋という橋を片っ端から落とし、ついでに道路にIEDをしこたま埋めてったらしい。おかげで、折角組み上がったヒルドルブ2号車は即席の地雷処理ユニットをくっつけて各地の補給路を絶賛啓開中である。おかげでヒルドルブの配備要請がまた増えた。お叱りを覚悟してキシリア様に連絡したらあっさり増産許可が出た。おかしいと思ってちょっと資料見てみたら、理由は実に簡単。ヒルドルブは安かったのである。価格確認したら、マゼラアタック8輌分の値段でした。これ、下手したらザクより安いぞ?

それはともかく、専用機である。これぞ死亡フラグの筆頭じゃねえか!しかも拒否したら上官の顔に思いっきり泥塗るから、実質拒否権無いじゃない。どーしたもんか。

 

「ザクⅠなどでは、ダメだろうな」

 

「はい」

 

正直高級士官がMSなんて使う機会無いんだから、それこそドップでも良いくらいなんだけど、俺がそんなのを選べばちょっと問題になる。

例えば前線に良く出られるガルマ様や、どっかの闇オオカミとかいう部隊の隊長みたいに負傷が理由で乗れないとかなら、旧式機なんかを使ってもプラスのイメージになる。戦場に出ている実績があったり、そもそも乗れない体でもいざとなれば戦う気概がある、というアピールになるからだ。一方マさんと言えば、基地の安全な区画でのんびり壺眺めながら部下を顎で使う、と言うのが一般的な評価だ。こんな人間が専用機を適当に選べば、ああこいつは戦う気無いんだな、と思われる。俺なら思う。いや、まあ、戦いたくは無いんだけれど!

幸いなのはアッザムと違って欲しい機体を選んで良いということだ。いきなりグフとかそれこそギャンなんか受領指示来たら逃亡するところだった。ギャンまだ無いけど。

 

「…よし、解った。ウラガン、有り難く受領させて頂くと返信しておいてくれ」

 

「承知しました、機種は何と?」

 

「ああ、ここには今の私に最適の機体があるからな。それにする」




アッザム(アッザムでは無い)


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第十二話:0079/05/14 マ・クベ(偽)と海

就職が決まりました故、今後本格的に亀進行、不定期となります。
楽しんで頂いている所大変申し訳ありません。



笑顔とは本来攻撃的なものである、と言ったのは誰だったか。今日も今日とて鉱石採掘に勤しんでいたら、ユーリ少将が訪ねてきた。お茶出して、良いでしょーこのカップ、コペンハーゲン製なんだぜー、とか言ってたら肉食獣みたいな笑顔でコミュに放り込まれた。

 

「なあ、大佐。俺はそんなに気が長くないんだ。あまりからかってくれるな」

 

笑顔で恫喝とか、もうおいちゃんこの少将がヤクザにしか見えないよ。ナイーヴなギニアス君と相性悪い訳である。そういや、ラサ基地も今月頭に稼働状態になったって言ってたな。気持ちに余裕がある内はギニアス君も比較的まともだったし、お話ししてみるのも良いかもしれない。

 

「ユーリ少将、クリミアの件は欧州方面軍の直轄という話だったと記憶していますが」

 

なんて取り留めのない事を考えながら外の景色を見ていたら、大体の行き先が解ったので、ユーリ少将に半眼で文句を言った。行き先は絶賛建造中の黒海潜水艦隊の根拠地であるクリミア半島のセバストポリだろう。

実はセバストポリには旧ロシアの軍艦が戦史博物館扱いで多数停泊していた。100年は経っている骨董品だから再利用は望むべくもないが、それでも一級の資料であるし、何よりジオンに本当に必要な兵器がそこにはあった。

その名をプロジェクト941戦略任務重ミサイル潜水巡洋艦アクーラという。まあ、長ったらしい本名よりNATOコードのタイフーン型原子力潜水艦の方が知っている人も多いかもしれない。

100年どころじゃ無い旧式艦であるコイツが何故ジオンに必要なのか。それは、現在運用しているU-コンがジオンのドクトリンに全く適していないからである。

そもそもU-コンは、連邦軍が運用していたU型潜水艦をそのままコピー、ミノフスキー粒子下では運用の難しい巡航ミサイルのVLSを一部廃してMSの搭載能力を持たせた艦である。一見すれば問題無いように見えるが、実はそもそもこの艦の設計思想自体が問題だったりする。採用当時、既に地球連邦海軍に比肩する敵対的海軍戦力が存在しなかった。必然、想定される任務は非対称戦が主であり、環境としては制海権、制空権は完全に確保された状況。あるいは、満足な対潜能力を有さない相手との戦闘だった。そうした中で採用されたU型潜水艦に求められたのは、強力な対地攻撃力と指定海域に迅速に展開する航続力と高速性だった。結果静粛性は重視されず、推進効率が優先されたため、移動時にアホみたいな騒音をまき散らす潜水艦が建造される事になったのだ。ちなみにそんな事考えもしていなかった地球方面軍によって設立された潜水艦隊の栄光ある配備1番艦と2番艦は慣熟訓練中見事に連邦の対潜哨戒網に引っかかり太平洋の藻屑になっている。この時の教訓から、潜水艦の航行は緊急時を除き最高速度の20%以下に制限されており、その速度は旧世紀の潜水艦と大差ない速度になっている。笑えねえ。

こんな艦のため、当初ジオン海軍が想定していた潜水艦とMSによる通商破壊や、沿岸基地への奇襲といった作戦は予定より遙かに低調となっている。さて、翻ってアクーラである。骨董品ではあるものの、古き海のニンジャと呼ばれていた時代の静粛性を重視した設計、加えて極めて巨大な弾道ミサイルを艦内に収容する必要があった本艦はU-コンと遜色ないペイロードを誇っている。つまりちょっと弄ればMSを搭載可能な静粛性に優れた潜水艦に早変わりするのである。

その事を教えて、ついでに公文書館から引っ張ってきた設計図やら操艦マニュアルやら渡した筈なんだけど。

 

「はっきり言えば、建造の進捗が思わしくない。大佐の方でどうにかならんか」

 

憮然とした表情で頬杖をつきながらのたまうユーリ少将。いや、何言ってんの。

 

「申し訳ありませんが、艦の設計開発など門外漢です」

 

「だが、ドップの後継機開発をしている。先日は不採用だったヒルドルブを再生してみせた。おまけに開発が難航している新型MS計画の誘致に、確か新兵器の改修も行なっていたな?なら、潜水艦だけ出来ない道理はないだろう」

 

うん、他人に言われると何その技術屋さんって言いたくなるね。でも俺何もしてないんだよね。

 

「望外の高評価ですが、私はどれも手出ししていません。精々働きやすいよう環境を整えた程度です」

 

だから潜水艦造れとか無理だから。

 

「そうか。なら潜水艦の連中の環境も整えてやってくれ」

 

そう言ってまた笑顔になるユーリ少将。俺この人苦手だな!

 

 

 

 

「解りました。可能な限り、善処してみましょう」

 

ユーリが笑いながら告げると、大佐は疲れたような、どこか諦めたため息を吐きながらそう答えた。その仕草はどこか旧友であるギニアス・サハリンを思い出させユーリの笑いを誘った。とりあえずこのままセバストポリに置いていこうと考えていると、それを察したのであろうか、大佐が据わった目で口を開いた。

 

「着いたらまずオデッサに連絡させて頂きたい。どうせ缶詰にするつもりでしょう?」

 

「ほう、俺のやり方が解ってきたじゃ無いか」

 

上機嫌に返せば、不快感を隠そうともしない表情で大佐が口を開く。

 

「承知しているとは思わないで頂きたい。それと艦の建造ですが仕様決定に関する裁量権を頂きたい」

 

「それは構わない、どうせこのままでは完成すらおぼつかんからな」

 

やはり大佐は切れ者だ。そう確信しつつも、わざととぼけてユーリは質問を投げかけた。

 

「しかし大佐、それで問題が解決するのか?」

 

返ってきたのは溜息と胡乱な視線だった。

 

「ええ、問題について大凡見当は付いていますから」

 

 

 

 

絶対貧乏クジだこれ。

面白そうに聞いてくるユーリ少将を半眼で睨みながら俺は答えた。この狸少将、どうせまた自分で解決するべき事柄も、方法も解ってるくせに俺に投げてきやがったな。仕様決定の裁量権なんかほいほい許可出す時点で語るに落ちてるわ。ただ、この人部下から人望あるし、戦い方も堅実だから、悪い指揮官では無いんだよね。ただノリが体育会系だから学者肌な人や文官系の人間とすこぶる相性が悪いけど。

 

「しかし、艦が出来ていないとなると今後の計画を修正する必要がありそうですな」

 

何しろ当初の予定ではそろそろ1号艦が完成しており各種試験を実施している予定だったのだ。乗組員の慣熟も考えると下手をすれば数ヶ月の遅延が出てしまうかもしれない。そう考えて背筋に冷たい汗が流れる。U型潜水艦が2週間くらいでぽこぽこ建造されていたものだから、そのつもりで計画立てちゃってるんだよ。

 

「建造数の心配ならなんとかなる。遅れが出た時点で本国の建造ドックを押さえてあるからな。ただ1号艦が出来ん事には起工する訳にもいかんだろう?」

 

ああ、ガウの時みたいにパーツ製造して地球で組み立てるのか、それなら工期も短縮出来るだろう。って言うか。

 

「…直ぐに2号艦以降も起工してください」

 

そう言うとユーリ少将は驚いた顔をした。いや、そこ驚くところじゃねえから。

 

「全体に手直しが必要だというならともかく。今回は大した内容で遅延している訳では無いですから、造れる所まで造ってしまって構いません」

 

大量生産の車じゃねえんだから、こんな事で一々建造止めるなよ。

 

 

 

 

困り果てていたセルゲイ・スミノフの前に、その男が現れたのは、日差しに強さが混じり始めた5月14日の事だった。MIP社で艦艇の設計部署にいたセルゲイに潜水艦設計のチームリーダーの話が来たのは偶然で、彼自身に何か特別な才能があった訳ではない。ただ、ここの所減っていた艦艇の受注と言うことで、それなりに期待はされていると彼は考えていた。

雲行きが怪しくなったのは、到着して早々の3日目だった。最初に聞いていたのは旧世紀に設計された潜水艦からVLSを撤去し、代わりにMS用の格納庫を取り付ける、と言うことだった。

 

「簡単な仕事だ、降りてくるまでも無かったんじゃないか?」

 

そう暢気に構えていたら、突然本社から連絡が入った。曰く、仕様に追加したい項目がある。

クライアントが突然こういった事を言うのはそれなりに経験していたセルゲイは、まだこの時は、いつもの事だとしか考えていなかった。そんな自分を叱りつけたくなったのはそれから二日後の事である。当初と全く異なる仕様書が届き、設計が進まなくなってしまったのだ。

一日目の訓令では、MSの射出用カタパルトを装備すること、とあった。次の日の朝には対地攻撃能力は維持するためVLSは半数を残しMSの搭載数を減らすという。かと思えば夕方にはやはりMSの数は減らすなと言ってくる。どうにかスペースを捻出していたら今度は部品共有化の為に推進器をU-コンと同一のものに替えろと言ってきた。とどめは昨日、防空能力向上のために対空ミサイルと機銃を追加する必要があるなんて意見書を見せられた。しかも書いているのがガルマ・ザビ大佐だから始末に負えない。さらに意見書には被発見率低減の為に艦形は小さい方が望ましいなんて一文があるものだから、サイズを大きくするどころか、むしろ小さく出来ないかと担当士官が聞いてくる始末だ。

 

「俺にどうしろってんだ!」

 

この不幸の発端は、欧州方面軍の担当士官が勤勉だったことに起因する。当初、欧州方面軍司令部経由でマ大佐の資料を手に入れた担当士官だったが、資料だけでは不十分と考え、実際に運用しているキャリフォルニアの潜水艦隊に問い合わせた。この時受け取った海軍士官は快く情報を提供してくれたのだが、当然新型潜水艦のコンセプトなぞ知るよしも無く、挙がっている改善提案などをそのまま送った。更にそのやりとりを聞きつけた突撃機動軍の司令部が、新たに造るならと、今まで挙げられていた陳情の内容を訓令として送ってくる。真面目な担当士官は、階級が高い人間の大雑把な意見より、現場が欲している兵器を建造することが重要であると考える程度には善人だったので、渡された内容を、全て要求仕様としてセルゲイに伝えてしまったのである。惜しむらくは、U型と新型ではそもそもの特性が異なっている事に気づかなかった事か。

結果、根本から設計し直さねばならなくなった図面を抱えてセルゲイは途方に暮れることになる。そんな彼の前にやってきたのは、ここの所良く聞く名前の大佐だった。

 

「お困りのようですな、どれ、手伝いましょう」

 

不機嫌そうに言うと、大佐は机の上にあった仕様書を片っ端からシュレッダーに放り込み始めた。セルゲイが呆然としていると、机の上をさっぱりさせた大佐は満足そうに鞄から新しい紙束を取り出した。

 

「最新の仕様書です。これを基に御設計ください。ああ、これより後の仕様変更要求は雑音なので無視して頂いて結構」

 

手渡された仕様書は当初指示された内容そのままだった。あまりの都合良さにセルゲイが困惑していると、大佐は笑いながら付け加えた。

 

「御安心ください、責任は私が取りますよ」




嘘みたいだろ?まだ作中1月過ぎていないんだぜ?
U-コンのデメリットは妄想です。あんな形の潜水艦が静かだなんて認めません(憤怒)


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第十三話:0079/05/15 マ・クベ(偽)と進捗

お気に入り7000件突破感謝です投稿


潜水艦問題は2日でスピード解決してやった。着いて速攻で担当士官を呼び出し、事情聴取とお説教、仕様書を徹夜で造り直させて設計者さんに渡した。帰り際、設計者さんから熱いまなざしと、握手を求められた…厳つい男にばかりもてまくっている。まあ、敬遠されるよりは100倍マシだけど。日帰りになったらユーリ少将が残念そうにしていた。多分一緒に来てた秘書さんと仲良くするつもりだったんだろう、リア充とか爆ぜれば良いと思う。

 

「お疲れ様です。大佐」

 

執務机に座ると、そう言ってウラガンが紅茶を出してくれた。正に副官の鑑である。

 

「有り難う。しかしユーリ少将にも困ったものだ」

 

別れ際も暑苦しい笑顔で肩を叩かれた事を思い出す。この調子でまた頼むじゃねえよ、おめえがちゃんと調整しろよ!とは思ったが、よく考えればあの人ちゃんとしてたわ、マネジメントに失敗してるだけで。

 

「仕方がありません。皆大佐ほど有能では無いのですから」

 

「買いかぶりだウラガン。私程度の男なぞ幾らでも転がっているさ」

 

そう言って紅茶を飲みながら報告書に目を通す。うんうん、オデッサ基地の各セクションは概ね順調。鉱山は現在108鉱山まで稼働中、指定ノルマ分は輸送できている。ただ、これ以上増やすには、人員の増員とHLVが追加で必要とのこと。

ドップⅡの設計は終わって現在1号機の組立作業中、来週頭には実機が出来るそうだ。本当に1月で開発しちゃうとかジオンの技術者はバケモノかな?

ついでにやっときました的なノリでド・ダイの方も再設計案が挙がってきている。これ、08で出て来たド・ダイⅡじゃね?と思ったけど、大型化したり翼面積を増やしたりして更にペイロードを増やしているっぽい。デニスさんがMSが2機乗ってもダイジョーブ!って良い笑顔で言ってた。

ヒルドルブの方は量産化に向けて各種調整を行なってる。と言うのも以前気になってたことを聞いてみたら、なんか俺の意見を取り入れて一部修正するらしい。

グフ飛行試験型の方もかなり順調のようだ。出力調整が繊細だった推進器を安定したツィマッド製に換えたおかげで、ぐっと安定性が増した。ただ最高速度は350キロ台まで落ちてしまったとのことだが、それでも現行機のほぼ3倍である。航続距離に関しても劇的に改善したのでもうすぐ実戦テストがしたい、なんて相談されている。ユーリ少将に適当に良いところを紹介してもらおう。

そうそう、ホバー練習機の名目でツィマッドに持ち込んでもらった新型機も確実に仕上がってきている。来た当初はザクとプロトタイプ・ドムの合いの子みたいな見た目だったが、今ではかなりドムに近い形状に変わっている。グフで取れたデータも反映されているので完成度もかなり高く、ちょっとグフ飛行試験型の開発チームは焦っているらしい。

性能的には、旋回性や加速性でグフに劣るが、耐久性と射撃時の安定性、直進時の安定性はツィマッドの新型機の方が上だ。もう少ししたら基地のパイロットから見繕って実際に乗らせてみるのも良いかもしれない。

ただ、MS用ビーム兵器は全然開発が進んでいないので、胸部の拡散ビーム砲はマルチランチャーに変更されていて、専用装備です!ってドヤ顔で言われたジャイアントバズ用の推進剤タンクは取り外させた。機体に態々爆薬仕込むとか正気かな?一緒にジャイアントバズの方も再設計してもらっているが、なんとなくラケーテンバズみたいになりそうだ。

アッザムは、うん、もうなんだこれみたいな状態だ。なんでもMIP社が試作している次のMAに飛行特性を加味してリファインしたフレームをキャリフォルニアにて作成してもらっていて、早ければ来週末くらいに送ってもらうとの事だが、なんかビグロマイヤーとヴァル・ヴァロの混ざったような機体にメガランチャーみたいなものが腹にくっついている完成予想図を見せられた。もう何処にもアッザム残ってねえ。ところで全長80mとか書いてあるんですけど何かの冗談ですかね?

ちなみに搭載予定のメガランチャーモドキはタカミ中尉の手で既に完成し、昨日試射を行なっている。射爆場の一部がガラス化してたのはこのせいだな。報告書によれば、威力はムサイの主砲並と言うから、中々ヤバイ代物である。ただ、強引に収束率を上げたため、排熱の問題から連射性能は低下、砲身も冷却ユニットだらけで大分重量が嵩んでおりサイズに比べて思ったほど威力は出ていないらしい。次は頑張るとの決意表明で報告書は締められていたが、まだ足りないと申すか。

まあ、おかげでコイツとミノフスキークラフトへのエネルギー供給だけで更新したジェネレーターと推進器からのエネルギー容量を食い潰すので、他の火器は全て実弾になるとのこと。ただそれも4連装30ミリ機関砲とか、175ミリ連装砲とか愉快な文字が並んでいる。やっぱりジオンの技術者は(ry

 

「概ね順調、良いことだ」

 

上機嫌になった俺は思わず手元にあった壺を指で弾く。澄んだ音に思わず口元がほころんだ。ふふ、良い音色じゃないか。明らかに磁器の音じゃ無いけど。

 

「失礼します。セバストポリのモラン少佐よりご相談したいことがあるとの連絡が入りました!」

 

執務室の前で元気な声が上がる。入室を許可すれば、元気が過積載気味な笑顔の少尉が、見た目通りの大きな声で報告してくれる。

 

「報告致します!モラン少佐より、潜水艦搭載用MSについてご相談したいため、お時間をいただけないかとの事です」

 

モラン少佐というのは、昨日OHANASHIした新造潜水艦の担当士官のことだ。オデッサに帰る間際までひたすら謝っていて、なんかこれからも色々助けて欲しいとかで連絡員としてこの少尉をくっつけられた。念願の若くて可愛らしい女性士官なのだが、俺には解る。この子絶対ユーリ少将と同じ人種だ。

 

「ご苦労、エイミー少尉。アラン少佐が良ければ直ぐ話せる」

 

そう告げれば、何がそんなに嬉しいのか元気良い敬礼と承知の言葉を放ち、颯爽と部屋から飛び出していった。嵐みたいな子だな。

 

 

 

 

予想外の早さで返ってきた返事に、慌てて居住まいを正しながらアラン・モラン少佐は大きく息を吐いた。

 

「やはり大佐殿は凄い方だ」

 

自身の失態で遅れが出てしまっていた潜水艦建造を、到着して半日も経たずに解決してみせた手腕は、まるで魔法のようだったとアランは思う。間近で見て居たエイミー・パーシング少尉など、最初のおびえは何処に行ったのか、というくらい心酔してしまい、連絡員を自ら買って出るほどだった。

 

「先ほどぶりだな、少佐。何かあったのかね?」

 

苦笑を浮かべながらそう聞いてくる大佐に、アランは感謝の念を覚えた。あれだけ迷惑を掛けたにも関わらず、大佐殿は嫌な顔どころか即座に対応してくれる。これが突撃機動軍の司令部付きの連中なら、2~3日は待たされたあげく、会話の半分は嫌みとそれに対する謝罪で終わっていただろう。

 

「お忙しい所、何度も申し訳ありません大佐殿。少尉にも伝えたのですが、潜水艦搭載用のMSについてお知恵を拝借致したく思いまして」

 

現在、ジオン軍には水中用MSが2種類存在する。一つはザクを改修したザク・マリンタイプ。もう一つがゴッグである。ただし、マリンタイプは性能不足として試験用に僅かに製造されただけなので、選択肢はゴッグしかない。ところがここでちょっとしたトラブルが起きた。

ゴッグは現在整備中の太平洋艦隊に最優先で配備しているため、欧州へ回せないと言われたのだ。幾ら艦が出来ても載せるMSが無いのでは話にならない、土壇場まで回答してこなかった北米方面軍司令部に腹が立ったが、怒鳴ったところでMSが送られてくる訳でも無い。困り果てたアランは、恥を承知で大佐に泣きついたのだった。

 

「予定しておりましたMSの定数は2個中隊ですが、…ただの1機も回せないと断られまして」

 

「そうか。すまないがオデッサでも水中用機は製造していないな」

 

その言葉に、アランはやはり虫が良すぎたかと反省する。無い物を生み出すなど、それこそ魔法でもなければ出来ないのだ。魔法のような手腕はあっても、大佐は魔法使いでは無いのだから、いくら何でも無茶な願いというものだ。もう一度キャリフォルニアに打診し、それでもダメならユーリ少将に相談しよう。そう考えていた矢先、大佐が再び口を開いた。

 

「まあ、なんとかしてみよう。少々苦労を掛けるが、そこは許してくれよ?」

 

もしかして、本当に魔法使いなのかもしれない。アランは本気でそう思った。

 

 

 

 

大見得切って通信を終えると、ウラガンは驚きの表情で、エイミー少尉はアイドルか何かでも見るような表情でこちらを見ていた。何だよ、照れるからそんなに見るなよ。

 

「あの、宜しいでしょうか、大佐殿」

 

おずおずと手を上げながらエイミー少尉が口を開いた。

 

「ん、何かね?」

 

「大佐はゴッグを何処から手に入れるのですか?」

 

え、何言ってんの?

 

「いや?ゴッグを手に入れる当てなど無いが」

 

「ではマリンタイプを追加製造してもらうのですか?」

 

「あれは試作機だし、そもそも製造ラインも無い。手に入れるのは難しいだろう」

 

ザク・マリンタイプは、ザクの名こそ冠しているが、良く解らん仕様要求のため、殆どを新設計に置き換えられた別機体である。おまけに軍の要求を満たせず、開発が打ち切られたため、当然ながら製造ラインなんて存在しない。だから水中用MSを調達する事は、俺には出来ない。そう言い切った俺を前に、エイミー少尉は眉間にしわを寄せてうんうん唸っている。いや、そんなに難しい話じゃないぞ。

 

「考え方を変えたまえ、エイミー少尉。ウラガンの方はそろそろ解ったようだな」

 

俺が言う前にスケジュールを確認しだしたウラガンを見て思わず笑ってしまった。ほら、俺くらいの奴はここにもいるじゃないか。

まだ考え込んでいるエイミー少尉に、意地悪な教師のように指を立て、ヒントを口にする。

 

「我々が必要としているのは水中用MSではない。イタリア半島に上陸できるMSだ」

 

そう、何も水陸両用機を準備しなくても、防水処置さえすれば普通のMSでも海は潜れる。

無論運用に制限はかかるが、今回のように奇襲となれば相手の隙を突く分、性能が低くともやり様はある。後は必要な装備を調達するだけだが。

 

「大佐、ジオニック社にアポイントメントが取れました」

 

うちの副官は実に優秀である。

 

 

 

 

「はあ?マリンタイプの装備を再生産して欲しい?」

 

帰ろうとしていたハンス・シュミットを呼び止めたのは、地球からきた一本の通信だった。映っていたのは痩せぎすの不健康そうな男、ここの所営業界隈で聞くようになった、オデッサ鉱山基地司令の大佐その人だった。

 

「ええ、バラストタンクとハイドロジェットを取り敢えずそれぞれ30ずつ、関節部の防水シールも同じだけ欲しいのです」

 

その言葉にハンスは考え込む、用意するのは難しくない。タンクもジェットも下請けに作成してもらったので、本社の製造に負担はかからないし、関節用のシール剤もかなりの量が在庫で残っている。考え込んだのは、ただ販売する以上の金の匂いを感じたからだ。

 

「お売りする事は難しくありません、しかし失礼ながら貴方が本当に望まれているのは、別の物ではありませんか?」

 

 

「かないませんな」

 

そう言うと大佐は自身の計画を口にする。曰く、現行の陸戦機に簡易な防水処置と使い捨ての水中移動装置を付け、海から襲撃できるMSを造りたい。大当たりだとハンスは心の中で喝采をあげる。仮にこれが製品化できれば、現在参入に失敗している水中用MSの分野に食い込める。しかも装備は既に開発済みで、機体そのものも新規に造る必要が無い。しかも使い捨てなら、MSより安価でも多くの販売が見込めるから決して利益で見劣りしない。

 

「是非、是非我が社にお任せください。必ずご期待に添う商品をお届けしましょう」

 

満足そうに大佐がうなずき、通信が切れるのを確認すると、ハンスは大声を上げた。

 

「大至急06Mのスタッフを集めろ!全員だ!」




エイミー少尉の名前にピンとくる人は訓練されたおっさん(偏見)


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第十四話:0079/05/17 マ・クベ(偽)と専用機

今月最後の投稿になります


心地よい陽気が続く今日この頃、皆さんいかがお過ごしですか?こんにちは、俺です。マです。

一昨日連絡したジオニック社のハンスさんから連絡があって、マリンタイプの開発スタッフと、お願いしていた装備を在庫分だけ先に送ってきてくれた。早速最近増設したばかりの第4格納庫で一緒に持ってきた中古のザクⅡに取り付けて楽しんでいらっしゃる。用事のついでに顔出して、機雷対策にワイヤーカッターと既存の火器を運べるコンテナとかあったら便利だねー、なんて言ったら握手を求められた。はっは、褒めても何も出ないぞう?あ、これPXで使えるカードです。いえ、賄賂とかじゃ無いです、心付け、心付けですよー。

さて、何で今日は格納庫にいるかって言うと、ついに出来ちゃったからである。

 

「お待ちしておりました、大佐」

 

そう言って迎えてくれたのは第4整備中隊の整備班長を務めている中尉だった。以前強請っていた整備員の増員に伴って、第1~第3の補充人員と共にグラナダから遙々来てくれたいい人だ。

 

「出迎えご苦労、中尉。あれがそうかな?」

 

そう言って視線を向けた先には、ツィマッドが作成したドム試作型が鎮座している。グフ飛行試験型でホバーの稼働データを一気に集められたため、大幅に前倒しして完成したみたいだ。んで、こいつはラベンダーとガンメタルのツートンカラーに塗装されている。もう解るだろう、俺の専用機なのである。

まだ完成してない試作機、それも練習機を専用機に指定したときは司令部の連中に変な顔されたが、おかげでツィマッドに建造予算を付けることで完成が早まったようなので良しとする。ちなみにグフ飛行試験型の開発チームには、ナンデ?ナンデうちのじゃないの?ってハイライト消した目で詰め寄られた。ヤンデレ怖い。フィンガーバルカン取っ払ってから出直してこいって言ったら随分へこんでた、なんでそんなに指バルカンが好きなんだよ、鬼○郎か。

 

「はい、ツィマッドの方にも協力頂き完成致しました。しかしこれは、素晴らしいMSですな」

 

「MSを知り尽くした中尉から言われるなら、正に開発者冥利に尽きるな」

 

「では、早速お試しになりますか?」

 

俺の言葉に興奮した面持ちで搭乗を進めてくる中尉。あー、うん、シャアとか大義ロンゲとかなら、ここで試してみるか!とか言っちゃうんだろうけど。

 

「その事だがな、中尉」

 

「はい」

 

「私はMSに乗れんぞ?」

 

今、俺はこの空間を支配したね。だって目の前の整備班の皆さんや、少し向こうで様子を窺ってたジオニックの皆さん。キャットウォークとかでこっちを見物してた兵隊さん達がみんな揃って、え、マジで?って顔で絶句してるもん。

うん、言いたいことは解る。解るけど無理だよ?…今は。

 

「期待させて済まない。だがMSの搭乗時間が合計100時間に満たない私が、今これを扱うのは無理だ」

 

俺の言葉に落胆しつつも納得する皆さん。だよねー搭乗時間100時間以下とか学徒兵並だもん。

 

「だが、約束しよう。私は必ずこの機体に相応しい人間になってみせる」

 

それだけ言って敬礼した後きびすを返す。ふ、マ・クベはクールに去るぜ。そして約束はした、約束はしたが、期日は言っていない…つまり、そういう事!

MS搭乗という死亡フラグをへし折った俺は上機嫌に格納庫を後にした。

 

 

のが、昨日のこと。俺は再び格納庫に来ている。何故って?どうしても見せたい物があるって、整備班の皆さんが言うからだよ。

 

「お忙しい所、お時間いただき有り難うございます、大佐」

 

「いや、良くやってくれている諸君らの要望だ、足を運ぶくらいどうと言うことは無い。それで、中尉。見せたい物があるとのことだが?」

 

「はい!あちらになります」

 

そう言って連れて行かれたのは格納庫の端っこ。そこには見知った機材が置かれていた。

 

「…何故、ここにMSシミュレーターが?」

 

実はこのシミュレーター、オデッサにも何機かある。パイロットの訓練で実機を使うには数が足りないので、これで代用しているのだ、まあ、もっぱら暇つぶしの対戦ゲーム扱いだが。けど、全部シミュレーションルームに置いておいたと思ったけど。

 

「先日の大佐のお言葉、感動致しました。整備班一同、大佐のお役に立てればと奮起致しました!」

 

うわぁ、すっごい良い笑顔。これ、拒否れない奴ですわ。

 

「大佐用に準備致しました。存分にお使いください!」

 

頬が引きつるのを自覚しつつも、俺は頷く以外の選択肢を持たなかった。どうしてこうなった!?

 

「早速お試しください。手前味噌ですが、良く出来ています」

 

断れない雰囲気に、色々と諦めてシミュレーターに乗り込む。士官学校のパイロット課程以来だから、ざっと2年、いや3年ぶり?中のレイアウトは変わってない…いや、ジョイスティックがちょっと変わってるか?でも大した差はないな。あ、統合整備計画のせいか!?

ツィマッドさん頑張ったんだなぁ。

そんなことを考えながら、もたもたとシートベルトを着ける。古い記憶を引っ張り出しながら、何とかシミュレーターを機動させた。

 

「APU、チェック。Cd、チェック。フューエルライン、チェック。…」

 

教え込まれた手順で各項目をチェックしていく、案外覚えてるんだなぁ、やっぱ頭のいい人は記憶力もいいのかなぁ。

 

「…オールチェック、オールグリーン、エンジンコンタクト。スタートアップ」

 

声と同時に、シミュレーターが僅かに揺れる。士官学校の時は設定が宇宙だったのでそれに比べると少し機体の動きが重い。ここまで再現するとか宇宙世紀凄いなぁ。

 

「テストシーケンス1、スタート」

 

戦場の絆の超豪華版っぽくて段々興奮してきた俺は、ノリノリでチュートリアルを進める。単純な前進、後退、左右旋回、移動。使ってみて思うのは、考えていたより操作が簡単だという事だった。後で聞いたら膨大な実戦データが集まったおかげでMSのOS自体が大幅に改善されているらしい。ただ、この時はそんな事知らなかったので、もしかして秘めた才能とか開花しちゃった?実は俺TUEEEEE主人公だった!?とか思いながらノリノリで遊ぶのだった。

 

 

 

 

「凄いな、本当に100時間以下なのか?」

 

航空機が飛べば飛ぶだけ様々な状況を経験し、それに対応した技術を身につけられるのに対し、配属されてしまえば宇宙のみ、地上のみと周囲環境の変化に乏しいMSは、搭乗時間数だけでは技能を評価できないことは事実である。OS自体も更新されているから、ブランクを埋めるくらいには扱いやすくなっているだろう。だがそれでも100時間以下となれば、そもそも機体を起動させるだけでもたつくし、操縦ももっとぎこちないものだ。動作は大体荒っぽくなるか、逆に出力を絞り過ぎて鈍くなるのだが、大佐の動きは機体の規定値にぴったりと当てはまる。ここまで合わせられるのは、テストパイロットでもそうはいない。

感心していると、同じく横でモニタリングしていた曹長が、眉間にしわを寄せているのに気づいて、中尉は声を掛けた。

 

「どうした、何かトラブルか?」

 

「いえ、そうでは無いのですが」

 

「では何だ?」

 

歯に物が挟まったような口ぶりにもう一度訊ねると、曹長は疑問を口にした。

 

「大佐は搭乗時間100時間以下、と仰っていましたよね?」

 

その言葉に、今更それがなんだと言いかけ、中尉は曹長の言いたいことに気づく。大佐は地上に降りてからMSの操縦を一度もしていない。当然、新型機も。

その事実に、背筋に悪寒が走る。シミュレーターとは言うが、環境設定や機体負荷は完全に現実に則している。つまり、大佐は初めてのMSをほぼ完璧に乗りこなしている。

 

「…ニュータイプ」

 

「え?」

 

思わず口から出た言葉に、曹長がこちらを向く。

 

「いや、何でも無い。忘れてくれ」

 

だが、その言葉は周囲の者の脳裏にしっかりと刻み込まれることになり、暫くしてまことしやかに囁かれるようになる。オデッサの基地司令はニュータイプだと。

 

 

 

 

豪華版戦場の絆、超面白い!

いやあ、死亡フラグの事もあってMSの操縦関連は敬遠してたけど、やっぱりね?心の何処かで引っかかってたんですわ。ガノタとして、折角MS乗れるのに、その機会を捨てちゃうの?って。へへっ、自分に嘘はつけなかったぜ。それによくよく考えればあれじゃない?ドムに乗ってガンダムと戦ったなんて史実には無かったんだから、このままドムを専用機にすればギャン搭乗フラグ折れて、テキサスアボーン回避余裕でしたじゃない?行ける、これはいけるぞ!

なんてテンションでにっこにこしながらシミュレーターから降りれば、なんだか皆さん、随分真剣な目でこちらを見ている。ああ、あれか。シミュレーターの出来とか感想とか求めてる感じかな?

 

「流石だ、中尉。これはとても良い物だ。これからも大いに活用させてもらうよ」

 

あ、でもずっとソロだと飽きるかも。

 

「ただ、一つだけわがままを言わせて貰えれば、他のシミュレーターと繋げて模擬戦が出来るようにして欲しい」

 

「はっ!承知致しました!」

 

軍人のお手本のような敬礼に、俺も笑顔で返礼し格納庫を後にする。いやあ、良い物もらっちゃったなぁ。後で整備班の皆さんには何か差し入れしておこう。

なんて、上機嫌だったのが昨日のこと。今俺は奇妙な書類と対峙している。

 

健康診断のお知らせ

 

…なんぞこれ?




ゲーム感覚でMS操縦できるとか正にチート主人公ですね!


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第十五話:0079/05/19 マ・クベ(偽)はニュータイプか

4月分です


トンネルを抜けるとそこはHLV発射場でした。

急に送られてきた健康診断のお知らせを片手に基地の医務室に行ったら、ここじゃ無いって先生が言う。え、ここ以外基地に医療施設無いよ?って聞き返したら、無言で天井を指された。

そんな訳でただいま衛星軌道でHLV回収部隊との合流待ちです。丁度良く打ち上げる便があったからって、レアメタルと一緒に基地司令を梱包するのは如何なものか。

30分ほど地球は青かった…とかブツブツとガガーリンごっこをしているうちにHLVが僅かに揺れ、通信パネルに着信が入った。

 

「お疲れ様です、大佐。久し振りの宇宙は如何ですか?」

 

映っていたのは回収部隊の確かジャック・スワローとかいう大尉だ。気密を確認した俺はヘルメットを脱いで挨拶する。

 

「出迎え感謝するよ、大尉。やはり宇宙は良いな、重しが取れた気分だよ」

 

ぶっちゃけ主観で言えば初宇宙なのであるが、何処か懐かしい感じを受けるのは、やはり体がマさんだからだろうか。そんなやりとりをしつつ、いざムサイに乗艦したら何故かスーツにサングラスなMIB風お兄さんに両脇を固められ、速攻でコムサイに移された。え、何事?

 

「大佐はサイド6にあります医療施設にて精密検査を受けるように、とのキシリア少将からのご指示です」

 

サイド6?なんでわざわざそんなところに?しかもキシリア様から直々に?心当たりはあれなあれだけど、でもあの機関はまだ設立されてないはずじゃ。

混乱しているうちに船旅は順調に進み、やって参りましたサイド6はパルダコロニー。これあれですわ、絶対フラナガン的な奴ですわ。

そう言えば今月頭くらいに、敵の弾めっちゃ避ける奴とかいたらリスト作って送れって命令書来てたな。あれ、ニュータイプ機関設立の為の検体集めだったんか…でも何で俺が呼ばれてるんだ?

 

「お初にお目にかかります、マ・クベ大佐。私はフラナガン・ロムと言います。以後お見知り置きを」

 

そう言って握手を求めてきたおっさんは、ゲームなどで良く見知ったDr.フラナガンその人だった。

 

「よろしく、Dr.フラナガン。早速だが検査とやらを進めてくれないか?こう見えてそれなりに忙しい身でね」

 

正直、ジオン優勢のこの時期にあれこれやっておきたいんだよね。大体、俺絶対オールドタイプだから調べるだけ無駄だし。まあ、上からのご命令ですから?拒否はしないけどさ。

そんな訳で、怪しさ満点のDr.フラナガンにホイホイついていっちゃうと、廊下の先から何やら言い争う声がする。視線を送れば、どうやら姉妹っぽい女の子のちっさい方が研究員らしい人にまくし立てているようだ。

ん?なんで姉妹って判るのかって?だって二人とも髪の色が一緒なんだもん。目の覚めるようなビビットピンク、宇宙世紀の毛髪はどうなってんの?と思ったけど自分の毛も地毛で紫だったわ。いや、どうなってんだよ。

 

「Dr.フラナガン、あれは何かな」

 

またかよ、みたいな顔で別の通路へ行こうとする博士につい声を掛けてしまう。

 

「彼女たちはここの患者なのですが、よく治療を拒否してああして騒ぐのですよ。いつものことです」

 

ほーん。

 

「成程、いつもの事ですか」

 

話は終わりと踵を返す博士を無視して、騒いでいる人物達に近づく。慌てた様子で博士が追いかけてくるが、マさんそこは腐っても軍人。追いつかれる前に目的地に到着した。

 

「何をしているか」

 

不機嫌を隠さない声音で声を掛ければ、言い争っていた双方が驚いた様子でこちらを見た。

 

「お嬢さん、ここは医療施設だ。無闇に騒ぐものでは無いよ」

 

そう言えば、ちっさい方が憎悪を湛えた瞳でこちらを睨む。一方で助かったという顔をしている職員に俺は視線を送り注意を促す。

 

「見たところ、お姉さんの治療に妹さんが反対していると言う所かな?家族への十分な説明と不安の解消はスタッフとして当然の配慮だと思うが?」

 

「治療なんかじゃ無いわ!」

 

職員が何かを言う前に、目の前のちっさいのが噛みついてくる。

 

「マレーネ姉様は何処も悪くない!なのに薬とか変な機械に掛けられて、いつもぐったりして帰ってくるのよ!」

 

「ハマーン、私は大丈夫だから」

 

瞳一杯に涙を溜めている妹を諭すように姉が口を開く。うん、やっぱりそうだと思ったけど、実際に名前を聞くと動揺するね!

 

「と、言っているが?」

 

「…現在おこなっている治療は、ご本人にもすこし負担のある処置です。ですが本人の了解は得ています」

 

「私の体だって弄る、いやだって言っても止めてくれないわ!」

 

言葉だけ聞いてると完全に事案ですわ。

 

「だ、そうだが?治療行為にかこつけて一体何をしているのかね?」

 

「わ、私たちはいかがわしい事など一切していない!そもそもこれはキシリア少将のご指示で…」

 

「ならば君はキシリア様の名の下に、この子らに苦痛を与えていると。発言には気をつけるべきだな。その物言いはキシリア様の顔に泥を塗るに等しい行為だ」

 

「大佐、その辺りで」

 

顔を真っ赤にして今にもつかみかかってきそうな職員を制するように、俺の後ろから博士が声を掛けてきた。ち、今日の所はこのへんにしちゃる。でも覚えとけ、後で絶対赤いロリコン送りつけちゃるけんな!

深呼吸して気分を落ち着かせた後、少しかがんでちっさいのに視線を合わせる。泣かない彼女は、とても強い子だ。

 

「強い子だな、そして誰かの為に怒ることが出来る、優しい子だ。だが、無謀でもある。世界は君だけで抱えられるほど軽くは無い。大事なものを守りたいと思うなら、時には誰かを頼る事も覚えなさい」

 

おっちゃんなんて、頼って助けられてばっかりだ。

そう、胸の内で付け加えながら、メモ帳に連絡先を書き、身につけていたスカーフと一緒に渡す。

 

「とりあえず、頼る先その一だ。辛くなったらいつでも連絡したまえ、力になろう」

 

 

 

 

そう言うと大佐は立ち上がり、博士に案内を促した。少女達は少し落ち着いたのか、黙って職員の後についていく。それを見送ってフラナガン・ロムは小さく溜息をつくと、静かに待っていた大佐に口を開いた。

 

「困ります、大佐」

 

キシリア少将の覚えめでたい大佐のことだ、大凡この施設の意味を理解しているだろう。それは先ほどの職員とのやりとりからでも推察できた。だとしたら、彼女たちに施している実験の意義も十分理解していると思うのだが。

 

(女に甘い気障男か、結構だが研究の邪魔は困る)

 

大局より自身の矜恃に拘る男、そう評価を下方修正したところで、こちらを見ていた大佐と目が合う。その目はまるで虫か何かを見ているようで、自然とフラナガンは萎縮した。

 

「なあ、Dr.フラナガン。この施設について大体の想像はついている。その上で忠告だ。もっと上手くやりたまえ」

 

「上手く…」

 

「君たち学者の悪い癖だ。彼女たちを喋るモルモットくらいに考えているんだろう?今更直せとは言わん、直せるとも思えないしな。だがせめて、モルモットが気分良く実験に付き合える程度には配慮したまえ」

 

嫌々付き合うのと、進んで協力するの、良い結果が出るのはどちらか明白だろう。それだけ言うと、大佐は黙って再度案内を促す。

フラナガンは、あれだけ労る言葉を掛けながら、その少女がモルモットとして扱われることを許容するこの大佐に、言いようのない恐怖を覚えるのだった。

 

 

 

 

簡単な問診の後、体液を色々取られて、なにやら怪しいコードいっぱいの如何にもなヘッドギアを着けられて脳波を測定したら、以上ですお疲れ様でしたって施設から追い出された。この野郎、絶対赤いマザコン送りつけちゃるけんな!

心の中で中指を立てつつ、さて、折角だから観光でもしてこうか、ウラガンにお土産も買わなきゃ、サイド6クッキーとか売ってるかな?なんて考えてたら、またMIBちっくなお兄さんに両脇を固められた。

 

「ガルマ大佐より言伝です。グフⅡの完成パーティーを開くので是非参加して欲しい、とのことです」

 

そう言えば、宇宙に上がる前にグフ飛行試験型デキタヨーって連絡してたっけ。え、パーティーすんの?つうかグフⅡて、もう正式採用気分かよ。

 

「ちなみに聞きたいんだが、辞退とか出来るかね?」

 

「こちらです」

 

質問はあっさり無視され、ずるずると引きずられていく俺。ちょっと!マ・クベ大佐だよ大佐っ!?扱い悪くない!?などと言ってみたがやっぱり無視を決められた。解せぬ。




フラナガン「あ、これは違うわ」


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第十六話:0079/05/19 マ・クベ(偽)と女傑

びっくりするくらいネタがありません。


ジオン向けに開放されている港で、北米行きのシャトルを待ってたら軍艦の団体さんが入ってきた。腹減ったんで買ってきてもらったホットドッグをコーラ(グレープ味)でもぐもぐしながら、何の気無しに入ってきた艦を見る。あ、リリー・マルレーンじゃん、あれ。

接岸と同時にわらわら港湾職員にたかられて、発砲禁止テープを貼られているのを横目に見ながら、食べ終わったゴミを捨てようと立ち上がった瞬間、何故かブリッジに居た人物と目が合った。

否、合った気がしたと言うべきか。何せここからリリー・マルレーンのブリッジまでは200m以上離れている。相手の顔だって良く解らない距離、まして視線なんて言わずもがなだ。

それでも、俺は目が合ったと感じたし、どうも向こうもそう思ったようだ。待ったのはほんの数分。ゴミ箱に食べかすを放り込んだ頃には、黒い長髪の女性士官が目の前に立っていた。

 

「意外ですなあ。大佐のような方はそういった食い物がお嫌いだと思っていましたよ」

 

「男なぞ幾つになってもガキのままだよ少佐。そう考えればこういう物を食べていても不思議じゃ無いだろう?」

 

まあ、本物のマさんは嫌ってたみたいだけどね。

 

「お会いできて光栄です、大佐殿。突撃機動軍隷下511機動艦隊司令代理、シーマ・ガラハウ少佐であります」

 

「こちらこそ、突撃機動軍きっての精鋭である貴官に会えて光栄だ。突撃機動軍隷下地球方面軍欧州方面軍隷下オデッサ基地司令、マ・クベ大佐だ」

 

そう返礼すると、シーマ少佐は何とも言えない表情になった。

 

「精鋭ですか、喜んで良いのか迷う評価ですね」

 

まあ、ジオン内部でも悪名高くなっちゃってる海兵隊だからね。精鋭と言えば聞こえは良いが、それだけ過酷な戦場に投入され続けたという事でもある。美辞麗句の影で良いように使われてきた彼女には複雑な思いを起こす言葉だったようだ。むう、反省。

 

「含むところは無いんだがね。気を悪くしたなら謝罪しよう。すまなかった」

 

俺の言葉に今度は驚いた表情になるシーマ少佐。なにさ、俺が謝るのがそんなに意外かね?そう思いながら頭を上げると、シーマ少佐はバツが悪そうにまくし立てた。

 

「あたしみたいなはみ出し者に、下げて良い頭じゃ無いでしょう」

 

そんなこと言っちゃうのかい?

 

「自らを価値のないと思う者が、本当に価値のない者だ」

 

「は?」

 

唐突な言葉に、間の抜けた表情になるシーマ少佐、中々貴重なカットだ。撮影機材が無いのが悔やまれる。

 

「昔の偉人の言葉さ。人間、自分を小さく評価すればそれ相応の人間になってしまうものだ。少佐、他者の評価がどうであれ、君自身は、自らに誇りを持つべきだ」

 

俺の言葉にみるみる顔を歪ませ、暗い笑いを浮かべる少佐。多分気持ちに余裕が無いんだろうな、傍から見てても不安定だとわかる。

 

「はっ、コロニーに毒ガスを撃ち込んだ何を誇れって言うんだい」

 

「命じられた任務を忠実にこなし成功させた。軍人としてこれほど誇れる事が他にあるのか?少佐」

 

「その結果が今の悪名さね」

 

「そこが勘違いだ。その悪名とやらを背負うべきは命じた指揮官だよ。その為に我々はこんな大層な階級章をぶら下げて、君たちに命令するのだからね」

 

それでも彼女の表情は変わらない。

 

「大佐ほどの方ならご存知でしょう?あれは、私たちが独断でやったことだ、そうなっている。今更何を言っても…」

 

うーん、何言ってんだろ?

 

「それこそ、指揮官が無能の誹りを受けるだけだろう。部下の統制が取れないなど指揮官と呼べるかすら怪しい。まさか、そいつはそんなことも解らないアホなのかね」

 

さらっとディスったら何やら絶句してしまう少佐。丁度良いから言いたいこと言っておこう。

 

「他の誰がなんと言おうが、私にとって君は軍人の鑑だし、君と事をなした部下達は誇るべき精鋭だ」

 

まあ、それに。

 

「仮に、独断でやっていたとしてもだ。指揮官に察知もされず毒ガスを手配し、すり替え、運用出来るだけの工作が出来る人材など、厭うどころか私なら喉から手が出るほど欲しいがね」

 

 

 

 

この男は悪魔だと、シーマ・ガラハウは確信した。

疎まれ、避けられ、時には面罵までされたこともある。どこで狂ったかと言えば、間違いなく、今も夢に見るあの引き金を引いた瞬間だ。

コロニー市民を無差別に殺戮したジオンの面汚し。最初は弁明してみせた。けれど、地位も、金も、コネも無い。庇ったところでうま味の無い自分達の言葉を聞く者なんて一人も居なかったし、まして擁護する者など言わずもがなだ。ならばと被った悪役も、内についた棘で体を心を傷つける。

そんな抜けない棘がかさぶたで固まって、漸く痛みになれてきたその頃に、彼女は出会ってしまった。

 

(この男はなにを言っている?)

 

否定に慣れた頭は理解を拒む。理解してしまったら、もう悪役を纏えない、もう、あの痛みに耐えられない。

それが解らないほど目の前の男は鈍くないはずだ、それでも言葉を続けるのだから、間違いなく、彼は悪魔だ。全てを察した上での肯定は、今の彼女にとって猛毒に等しい。

本当は辛かった。誰かにすがりたかった。何よりも、背負わされた十字架を許して欲しかった。

男は言う。それはお前のものでは無い。お前は許されるべき罪など、最初から背負っていないと。

涙で視界が歪むのを彼女は自覚する。それは、もう悪辣な女傑に二度と戻ることが出来ない証だった。

 

 

 

 

下を向き、肩を震わせ始めたシーマ少佐を見て、完全に言い過ぎたことを自覚する。

やっべえ、超怒ってる。そうだよね、後方でのんびり壺集めてる俺になにが解るって話だよね!

 

「とにかく、私は君たちに含むところはない。もし、何かあれば気軽に訪ねてきたまえ、出来る限りだが力になろう」

 

だから機嫌直してくれないかな。と、視線を送るが、相変わらずの姿勢なシーマ少佐。うーん、なんかそこかしこで軍人怒らせまくってるなぁ、俺。絶対交渉とか向いてないわ。

気まずい沈黙に、耐えかねて視線をさまよわせていたら、MIBの兄ちゃん達がこちらに歩いてくるのが見えた。どうやらシャトルがついたっぽい。なんて僥倖。

あ、そうだ、せめて最後は小粋なジョークくらい言ってフレンドリーさをアピールしておこう!

 

「そうそう、今ウチで海兵向けのMSを作っているんだ。もし良かったら今度乗りに来るといい」

 

海兵隊だけにね!うん、全然上手くねえや。もう完全にやっちゃった空気に耐えられず、そそくさとシャトルへ向かう俺。シーマ少佐に後でお詫びの品送っておかなきゃ。

彼女、いつ頃の壺が好きだと思う?って聞いたら、MIBの兄ちゃんが初めてこっちを向いてなに言ってんだコイツって顔してた。解せぬ。

 

 

 

 

「はは、捨てる神あれば拾う神ありってやつかねぇ。ツキなんて何処に落ちているか解らないもんさ」

 

去って行く大佐を見送った後、ブリッジに戻ってきたシーマ・ガラハウは、明らかに上機嫌な声音でそう言った。久し振りに見る真っ直ぐな笑顔に、部下達も戸惑いつつも何処か浮ついた雰囲気を出し始める。副官を自認する大男が、居ない間に受け取った補給リストを渡しながら、原因を確かめるべく口を開いた。

 

「随分とご気分が宜しいようで。何かあの大佐とあったんですかい?」

 

その言葉に、シーマは目を細める。今までの境遇からすれば無理の無い言葉だ、だが、今後はそうはいかない。不安の芽は早めに摘んでおくべきだと考えた彼女は、それを伝えるべく口を開いた。

 

「口に気をつけな、デトローフ。飼い主には少しでも気に入られる方が良いからね」

 

それが、自分たちを正しく評価し、欲してくれるような相手なのだから尚のことだ。

 

「へ、へえ?」

 

いまいち理解が追いついていない大男は不思議そうな表情を浮かべる。しかし気分が高揚しているシーマは、気にせず言葉を続けた。

 

「シケたアサクラのご機嫌伺いは終わりだよ。もっといい男を見つけたからね」

 

「あの大佐殿がですかい?」

 

不信を顔に貼り付ける部下に、口角を上げながらシーマは言う。

 

「あたしらを丸ごと面倒を見ると言い放つ、中々のお大尽さね」

 

そう言いながら、件の男をシーマは思い出す。切れ者でありながら熱くもあり、それでいてどこか隙のある良く解らない男。けれど、今まで会ってきたどの男よりも好ましいと、シーマは素直に思った。

 

「あれだけ情熱的に誘ったんだ、精々甘えさせて頂きますよ、大佐」




いつからはにゃーんがヒロインになると錯覚していた?


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第十七話:0079/05/20 マ・クベ(偽)と重力戦線

ネット死んでました


「成程、やはり現状のミノフスキークラフトは扱いが難しいようですな」

 

「ええ、概念実証機の建造に入っていますが、やはり出力不足の解決が難しい。現状では実用的な速度で飛ばすだけで精一杯です」

 

晩餐会とか色々無駄じゃね?今晩は、マです。あの後シャトルに乗ってからはあっと言う間で、半日しないでロサンゼルスに到着である。うん、高速シャトルって凄いね、次から宇宙に上がるときは是非あれで送り迎えして欲しい。

んで、着いて早々にガルマ様からお小言頂いた。なんかグフⅡの開発責任者を名義変更しなかったのがご不満らしい。いいじゃん、どうせ責任者なんて名前だけで大した功績でも無いんだから。

どうも先の鹵獲ザクによるゲリラの件も含めて、俺がガルマ様に功績を譲ってると感じているようだ。いや、なんでそうなる?まあ、気になるって言うなら、ちょっと装備とかで融通してよ、具体的には今後のグフⅡ配備に向けてホバー練習機増産させてと頼んだら、なんか釈然としないといった顔で了承してた。あんま気にすんなよ。ハゲるぞ、遺伝的に見て間違いない。

そんな訳で俺より先に運び込まれていたグフⅡを昼間地球方面軍のお偉方の前でデモンストレーションした後、夜に開発記念晩餐会的な場が用意され、現在着飾った皆さんがキャッキャウフフしていらっしゃる。お偉いさんの前だから折角の飯も食えないし、酔っ払う訳にもいかんから酒も飲めない。来てる女の子はまず間違いなく現地企業とかのハニトラなんでお近づきにもなれないと、全然楽しくないので、壁にもたれてソフトドリンクをちびちびやってる…帰っちゃダメかな?

そんなことを考えてたら、目を¥マークにした女の子達にたかられてイケメンが困っていたので助けることにした。

 

「初めましてですね、ギニアス・サハリン少将。お噂はかねがね」

 

空気読まずにずかずか女の子バリヤーに突っ込んでいくと、あからさまに安堵した表情を浮かべるギニアス少将。そういやこの人かーちゃんのせいで軽い女性不信なんだっけか?

 

「これは、名高いマ・クベ大佐に知られているとは光栄だ。貴官とは是非一度話をしたいと思っていたのだ」

 

そんなわけで壁際のソファを陣取って楽しいボーイズトークである。内容は冒頭の通りだが。なんかユーリ少将とかの話を交えたらすっかり意気投合しちゃって、ギニアスさん敬語しゃべりになっちゃってる。立場上頑張って偉そうに喋っているけど、こっちが素らしい。一応俺大佐なんで…って改めるようお願いしたらすっごい悲しそうな顔されたんで、諦めて敬語OKにしてる。傍から見たら俺すっげえ態度悪くない?大丈夫かな?

 

「ここに居たのか、大佐。探したぞ?」

 

そう言って、女性の腰に手を回しながら話しかけてきたのはガルマ様、抱いてるのはイセリナ嬢だったかな?さっきまでテラスの方で乳繰り合っていたのだが、気が済んだらしく双方幸せそうな表情でくっついている。うんリア充もげろ、爆発しろは洒落にならんからNGで。

 

「紹介しよう、グフⅡ開発の功労者にして欧州方面軍の支柱、マ・クベ大佐だ。大佐、彼女は元ロサンゼルス市長エッシェンバッハ氏のご令嬢でイセリナ嬢だ」

 

「初めまして、欧州方面軍隷下オデッサ基地司令を務めております、マ・クベ大佐です」

 

「初めまして、イセリナ・エッシェンバッハと申します」

 

綺麗な会釈に感心する。流石いいとこのお嬢さん。

 

「このようなご令嬢に懸想されているとは、ガルマ様は幸せ者ですな」

 

「た、大佐!」

 

慌てるガルマ様に対して、嬉しそうなイセリナ嬢。ほんと、戦争中でなければ心から祝福したい。そんな気持ちで見て居たら、でも私怒ってるんです、的な表情でイセリナ嬢が口を開いた。

 

「でも、ここの所ガルマ様ったらお仕事ばかりで…ちっともお相手してくれませんの」

 

あれ、なんか嫌な予感。

 

「きっと、私よりお仕事の方が大事なんだわ」

 

うわ、初めてナマで聞いた、その台詞。

 

「そんなことは無い!君と一緒になれるなら私はジオンだって捨てる覚悟だ!」

 

「まあ、ガルマ様…」

 

そう言って抱き合う二人、自分たちの世界にはもう少し人気の無いところで入ってくれませんかね?

半眼で眺めていたら、赤い顔で咳払いしつつガルマ様が口を開いた。

 

「わ、私の事は置いておいて、マ大佐。話したいことがあるんだ、少し良いかな?」

 

ギニアス少将に視線を向ければ静かに頷いてくれた。うーん、大人の対応。

 

「はい、こちらでお伺いしても?」

 

「いや、人目が少ない方が良いな」

 

「では、あちらのテラスにでも。君、済まないがガルマ様と大事な話がしたい、テラスの人払いを頼めるかな?」

 

近くに居た警備の兵に頼むと、俺とガルマ様は連れだってテラスに出た。少し肌寒い風が、会場の熱気に当てられた体に心地よい。

 

「ガルマ様、お話とは?」

 

黙って外を見つめているガルマ様に声を掛ける。待ったのは一瞬、振り返ったガルマ様は真剣な面持ちで、口を開いた。

 

「正直に答えて欲しい。大佐、ボクは将の器か?」

 

「何故そのような事を?」

 

なんか怪しい雰囲気なんですけど。

 

「君が色々と功績を譲ってくれるのは、私に実績を付けさせようという姉上の心配りでは無いかと思っている。違うか?」

 

そんなん考えてもみなかったわ。びっくりして黙ってたら思い詰めた顔でガルマ様が続ける。

 

「…正直に、忌憚の無い意見を聞かせて欲しい。覚悟は出来ているつもりだ」

 

本当かよ。でもまあ言いたいこともあるし、ここは一つ言っちゃいますか。

 

「では、率直に申し上げさせていただく、ガルマ様は将の器ではありませんな」

 

言い放った言葉に一瞬呆けたあと、ガルマはみるみる顔を赤くし憤怒の形相を作り出した。いや忌憚の無い意見を言えと言うたじゃないか。しかも全然覚悟できてないし。

 

「それは、僕が親の七光りだと言いたいのか」

 

うーん、実に坊や。そらこれならぶっ殺しても大勢に影響ないかもとかシャアも思っちゃうかもしれん。ここは少し活入れるふりして丸め込もう、そうせんと俺今死ぬかもしれん。

 

「では、先ほどのお言葉は如何なお考えで仰られたのか。お答え頂きたい」

 

「先ほどの言葉だと?」

 

考え無しにしゃべってるとかー。

 

「小娘一人のためにジオンを捨てると仰いましたな?」

 

「あ、あれは、その言葉のあやと言うか」

 

「あやであれ本心であれ、その言葉が出たと言うことが既に問題です。解っておいでなのですか、貴方はこの重力戦線の最高責任者なのですよ?」

 

その言葉にはっとした表情になるガルマ様。いやいや、こんな事言われなくても気づいてください・・・無理か。士官学校出て今二十歳だっけ?大学生じゃん、そんな若造に一軍の将の自覚と所作を求めるのは、まあ酷だよね。

 

「望もうと望むまいと、貴方はザビ家の方でありその肩にはジオンの命運が乗っているのです。それを気軽に放棄するなどと言う者に将たる資格はありません」

 

「覚悟が足りなかったことは、認める。しかし私は・・・」

 

続く言葉が無かったのは矜恃か、羞恥か。それは俺には解らなかった。そして、その沈黙から察する事が出来るのは、彼の立場だろう。

ドズルはガルマに期待しているから、表だって対立はしていない、けれど重力戦線の総指揮官といいつつも、その重力戦線は機動軍主導、言ってしまえばキシリア隷下の部隊で行われている。簡単に言っちゃえば今のガルマは精々支店長、それもザビ家的には身内がいることをアピールしたい程度には重要だが、能力重視で選ばんでもいい程度の重要度の支店というわけだ。いやいや、ふざけんな。

 

「ガルマ様、我が国はサイド3が独立した、宇宙に浮かぶ国家です」

 

「いきなりどうした、大佐」

 

「お聞きください。宇宙に住まうが故に、ザビ家のお歴々は大きな勘違いをしておられる」

 

俺の言葉に、訝しげな表情を浮かべながら、ガルマは耳をかたむけている。うん、ここはしっかりと洗脳・・・もとい教育しておこう。

 

「今、我々は地球へと攻め込んでいます。つまり敵の領内で戦争をしております」

 

短期決戦が出来なかった事による泥縄の一手ではあるが、それでも地上に戦線を構築したのは、戦略的に見て極めて正しい。戦争を相手国でやれば、相手の国力に直接被害が出るからだ。だが、宇宙という広大な空間で生き、しかもその大半が無価値な空間で占められているスペースノイドには、どうにもそうした概念が希薄になるようだ。

 

(仮に地球における戦線が失敗して宇宙に撤退しても、それは元に戻っただけ、むしろ今度はこちらのホームグラウンドで存分に戦える)

 

頭が痛いことに将官クラスですらこんな認識を持っているのがゴロゴロ居るのだから始末に負えない。確かに兵站という観点からすれば負担は減る。しかし代わりに被るデメリットが大きすぎるのだ。

何せ自分の領内で戦争をすると言うことは、襲撃されてはまずい生産拠点が脅威にさらされる、最悪その拠点そのものが戦場になるからである。特にそうした拠点以外が極めて無価値な宇宙では、その傾向が尚のこと顕著だろう。

まさかおっさん、宇宙に移民までした世代の人類が総力戦を理解できてないなんて思わなかったよ、しかもその道で食ってるプロの皆さんが!

 

「我々の敗退は、戦場を宇宙に移すことと同義、そして戦場が宇宙になれば、必ず祖国は焼かれるでしょう」

 

何故って、それが総力戦だからだ。相手の国の生産力を奪いきらない限り止まらない、それが俺たちのやっている戦争。コロニー落としからの短期決戦が失敗に終わった今、勝たねば必ずそれは起こる。

 

「今は解らずとも、などと悠長な事は申せません。今すぐ、この瞬間覚悟なさっていただきたい。我々は祖国の剣の切っ先であり、そして最後の盾なのだと」

 

そう言い切ると、ガルマは顔を蒼白にして明らかに目を泳がせた。 我ながら酷なこと言ってるよなぁ。そう思ったらちょっとフォローしたくなった。

 

「ご安心ください。貴方には共に背負うと言ってくれる将兵がおります。彼らと共にあるならば、必ずやこの地に勝利をもたらせるでしょう」

 

それは、とても厳しい道のりではあるが、と心の中で付け加える。それでも少しは心が晴れたのか、ガルマは幾分表情を和らげ息をついた。

 

「解った、大佐、ここに私は誓おう、いかなる困難が来ようとも私は決して逃げ出さずこの務めを全うすると」

 

その言葉に、俺は黙って頭を垂れる、俺も覚悟を決めよう、ただ生き延びるだけの闖入者であり続けることは終わりにしよう。そう決めて顔を上げた先には、一端の男が笑っていた。

 

「ところで、大佐、君も一緒に背負ってくれるのかな?」

 

挑みかかるような言葉に、思わず笑いながら、俺も答えた。

 

「こんななで肩でよければ幾らでも」

 

 

 

 

パーティーに彼を呼んだのは、偶然では無かった。

ここの所姉上とのやりとりの中で増えた名前。扱いにくくなった、と評しながらも、珍しく喜色を含んだ物言いに興味がわいたからだ。

都合よく挙がっていた新装備開発の報告を理由に、わざわざ呼び寄せてみたが、最初は切れる男、と言った程度の感想だった。この程度の男ならそこらにとは言わないが、それでも傑物と称するにはいささか物足りないと感じたのは、やはりあの規格外の友人のせいだろうか。企画したパーティーが無駄になったと思いつつも、久しぶりに会えるイセリナのことを思いそれで相殺と考えた。

まさに節穴と言われても否定できない鑑識眼だ。

パーティーの合間を縫っての逢瀬、彼女の関心を引きたいがため、いや、偽るのは止そう。あのとき私は確かに彼女と暮らせるなら、今の立場など捨ててもいいと考えていた。

その気持ちを彼は正しく見抜いたのだ。

 

故に彼は言う、私は将の器では無いと。

 

自分で聞いておきながら、その評価に憤った。ああ、お前もほかの奴らと同じか。公王の息子、偉大な指導者の弟、身内、それは近しいとしながら、絶対にそれとは違うと告げる言葉。

ただただ生まれだけでこの場に座った男だと、私をそう呼ぶのだな。

怒りに傾く思考に冷や水をかけたのは、続いた彼の言葉だった。更に掛けられる言葉に、血の気が引いていくのを自覚した、それは正しく彼の言葉が理解できたからに他ならない。

成程、確かに私は、まったく将の器では無い。

責務を放り出して己の欲に走る人間が、一体どうして将を名乗れるというのか。

それに今気づけた事は全く僥倖であったし、それを伝えてくれる者と出会えた私は実に恵まれている。

 

成程、姉上が手放しに褒める訳だ。

 

今のジオンは危うい。

兄さん姉さんがなまじ才能があるものだから形にはなっているものの、最近の周囲の反応は2極化している。簡単に言えばザビ家に近づいて甘い汁を吸おうと考えるものと、勘気に触れぬよう貝のように口を閉ざすものだ。

正直これは国をまとめるためにギレン兄さんがダイクン派を中枢から排除したのが原因だが、あれが無ければ今頃ジオン公国は存在せず、最悪あの頃のサイド3首脳陣は片端から適当な理由で投獄されていただろう。そのくらい両派の関係は悪化していたし、解りやすい見せしめに出来る機会を連邦議会が見逃すはずが無いからだ。

経緯はどうあれ、兄さんは独裁者としての振る舞いを必要とされ、それに応えた結果、周囲は自ら望んだ独裁者を恐れ、追従しかしなくなってしまっている。

組織としてこれが健全であるはずが無い。

そんな中で、ザビ家に堂々と文句を言える人材のなんと貴重なことか。

この日私は、重力の底で、久方ぶりに光明を見た気がした。




本作のイセリナ嬢は適度に面倒な子です。ご容赦下さい。


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第十八話:0079/05/22 マ・クベ(偽)と戦車

いつも読んで頂き有り難うございます。


「お久しぶりです、大佐」

 

グフⅡ出来たよパーティーから宇宙経由で帰ってきたら、バルカン半島が一段落したとかでデメジエール少佐が帰ってきてた。大西洋渡るのに一々宇宙経由しなきゃならんとかホント面倒くさい。さっさと制海権と制空権取りたいなぁ。

 

「お帰り、少佐。大活躍だったようだね、叙勲申請が山のように来ているぞ」

 

「機会を与えて頂いてこそです。それに、ここに戻りまして改めて自分が意固地になっていたと実感しました」

 

うん?なんかあったん?寂しそうに笑う少佐が気になって少し聞いてみた。どうやら少佐、戻ってきてみたら演習場で見慣れないMSがいたもんで模擬戦をしたらしい。相手になったのは、自称練習機として目下増産中のドムだった。対戦してみたところ引き分けだったらしいのだが、その内容に思うところがあったらしい。

 

「運動性で始終圧倒され続けました。相手の弾切れを理由に引き分けなんて言われていますが、実戦ならあそこから格闘戦だって出来る。しかも聞けば乗っていたのは転換訓練中の新兵だそうで」

 

ホバーへの転換は始まったばかりのため、実は戦線から抜けても比較的影響の少ない新兵や、ザクⅠを与えられているような戦力評価の低い部隊から順次おこなわれている。ちなみにグフⅡの生産ラインは目下キャリフォルニアにて絶賛準備中であるため、オデッサでは代替として暫くドムを戦闘用に調整して使うことになっている。まあ、調整というのは予算取得の建前で機体は全く一緒なんだが。

そんな訳で少佐は戦闘用で無い練習機に乗った新兵にやり込められたと意気消沈していたようだ。

 

「あの機体相手なら、俺も受け入れることが出来ます。戦場の主役はMSに移ったんだと」

 

どこか憑き物が落ちたような、それでいて寂しげな顔で少佐は呟く。分からんでも無いが、ちょっと諦めるの早くね?

 

「なあ、デメジエール少佐。君の気持ちは解らんでも無い、実際ツィマッドは素晴らしい機体を作ってくれたしな」

 

俺の言葉に黙って頷く少佐。

 

「しかしな、何というか少佐には悪いのだが、今回の敗北はある意味当たり前なのだよ」

 

その言葉に驚きというよりは、裏切られたと言うような悲しみを顔に浮かべる少佐。まって、罪悪感が酷いから最後まで言い訳させて。

 

「考えてみたまえ。バルカンで連邦は少佐達から手痛い教訓を得た。今頃奴らは躍起になってMTを準備しているに違いない。だから、ホバー機転換の訓練内容には対MT戦闘を十分にやらせている。模擬戦の内容は聞いていないが、恐らく執拗に旋回機動で後ろを取られたんじゃないかね?」

 

機体に比べ反動が大きいヒルドルブは速射性能を確保するため、タンク形態では砲が前方にしか撃てなくなる。その弱点を突く戦法を俺自身提案していたのだが。相手の弾切れまで逃げ切るとか、デメジエール少佐ニュータイプなんじゃねえの?

 

「では、俺の敗北は必定だったと?」

 

「そもそも、ヒルドルブは自身より高機動で同等の火力を発揮できる相手との交戦を想定していない。むしろしっかり対策させたのに逃げ切れる方がどうかしているぞ?」

 

その言葉にどこかばつの悪そうに頭をかく少佐。やーい、照れてる照れてる。

 

「それにな、少佐。そんな悟ったふうに身を引かれても困る、まだまだ働いてもらわねば上に啖呵を切ってまで呼んだ甲斐が無いじゃないか。折角、新しい玩具まで用意したというのに」

 

「新しい…まさか、大佐」

 

「対策されたら、こちらだって対策する。兵器などというのはそれの繰り返しだろう?」

 

 

 

 

「MT-05B、兵達の間ではヒルドルブ改、と呼ばれているよ」

 

案内された格納庫に鎮座していたのは、確かにヒルドルブに似た車両だった。

 

「これは…その、大佐」

 

その威容に気圧されつつもデメジエールは口を開く。

 

「どうかな、少佐。ぐっと親しみやすい形になったと、我ながら自負しているんだ」

 

そこには、本来あるはずだった上半身を取り払われ、替わりに砲塔を載せた、巨大な戦車の姿があった。大佐は上機嫌で口を開く。

曰く、以前から主砲を旋回させるためにモビル形態に変形しなければならない事に不満があった。反動を制御仕切れていない上に、必要とされる敵接近時に装甲の脆弱な上半身を露出させねばならない。加えて折角ザクのマニピュレーターを使っているくせに携行火器はマシンガンを片手撃ち、予備マガジンのスペースすら無い。

 

「大体、モビル形態のメリットが気に食わん。砲位置を上げて遠距離で撃ちます?砲を不安定にしておいて精度が必要な長距離射撃をやれだと?」

 

設計当時はデメジエールも稜線射撃の機会が増加すると考え賛同していたものの、実際に地上で使ってみればその機会は殆ど無く、稀にあっても命中が期待できないため、榴弾を使用して61式などを攻撃する場合が殆どであり、曲射で十分対応可能だと判明した。むしろそんな大遠距離でも命中が期待できる相手など陸上戦艦くらいしかおらず、そちらはそんな距離では有効弾が望めないというなんとも残念な結論に至っている。

そうした実績を基に調整という名の再設計を受けたヒルドルブは大幅に仕様変更されていた。

まず、最初に述べたとおり、上半身が無い。代わりに主砲とモノアイは一回り大きな砲塔に納められ、複雑だった変形機構は取り外され、単純なターレットリングに置き換えられている。主砲は駐退機が増設された上で、砲塔には同軸機銃として120ミリマシンガンが装備されている他、連装の機銃塔が追加されている。見慣れない砲だと聞けば、先日送られてきた新兵器の余剰パーツになったビーム砲を転用したという。バズーカ並みの火力を高速かつ連射可能と言うから近接防御として実に心強い。その分マニピュレーターは取り外されてしまっていたので、接近された場合格闘戦が出来ないと言えば、大佐はあっさりと言い放った。

 

「MSと協同するのだから問題無い」

 

そもそも汎用性を求めるのであればMSで良い。ヒルドルブに求められているのは装甲と火力なのだから、それ以外の装備は不要である。とは、大佐の言である。そのためか、ドーザーブレードと、MS用の円匙とかいう愉快な装備が追加され、替わりにショベルアームも撤去されている。

 

「人的資源の少ないジオンの悪い癖だ。マルチロールと言う言葉に踊らされて本質を見誤ってしまっている」

 

大佐に言わせれば、そもそもMTの発端からして考え方が間違っているという。

 

「戦車に歩兵の役までやらせようとすれば、無理が出て当然だろう?」

 

その言葉は、新型MSの登場に諦観を抱いていたデメジエールの思いを木っ端微塵に打ち砕いた。そうだ、俺はここにMSの代わりになりに来たんじゃ無い。MSに出来ないことをやりに来たんだ。そう視界が開ければ、目の前の先祖返りを起こした機体は、成程魅力的な機体だ。

単純かつ分厚い装甲は被弾に強く、仮に損傷しても交換が容易だ。簡素化された機構は内部余裕を生み、その分大出力の機関やペイロードの増加に繋がる。機能の多角性を失ったと言えば聞こえは悪いが、それはつまり搭乗者へ複雑な操作を要求しないと言うことで、負担軽減だけでなく、新兵の練成時間短縮にもなる。そしてこれらを集約すれば、大佐の目論見も見えてくるというものだ。

 

「大佐は、MTの機甲部隊を本気で作るつもりですか」

 

興奮と期待に震える声を必死で押し殺し、デメジエールは大佐へ質問する。

 

「当然だ少佐。MSはまだ歩き出したばかりの未熟な兵科だぞ、対して地球環境はあまりにも過酷だ。灼熱の砂漠、極寒の凍土に、へばりつく泥濘。どれもこれも二本足や繊細な吸排気をもつホバーには過酷な環境だ。それらを踏みしめ戦線を押し上げるには、まだまだMTの力が必要だよ」

 

焚き付けるのが上手い方だ。そう感じデメジエールは苦笑しつつ、せめてもの意趣返しと、生まれ変わった巨狼を見上げながら口を開いた。

 

「しかし、これではMTでは無くただのでかい戦車ですな」

 

「でかい戦車が必要なのだよ。いかんかね?」

 

返ってきたのは満点の回答だった。

 

 

 

 

いやあ、少佐の居ないところで好き勝手に決めて作っちゃったヒルドルブ改だったけど、思っていたより気に入って貰えたみたいだ。実に僥倖。

すっげー乗りたそうにしてたから、一回いっとく?って言ったら速攻で演習場にすっ飛んでった。あれ、絶対ドムリベンジキメるつもりだ。まあ、MSも対MT戦闘、それもトップエースを相手に経験積めるし、デメジエール少佐も今後増大するだろうMSとの戦闘経験をがっつり積めてWin-Winなハズだから温かく見守ろう。ふふ、良い事をした日は気分が良いぜ。

なんて、思いながら増産するならまた格納庫増やさなきゃなー、とかいっそ地下設備も拡張するか?なんて考えながら執務室に戻ったら、ウラガンが困った顔で近づいてきた。なに、何かあったん?

 

「…大佐、先ほどからアサクラ大佐がお待ちです」

 

ウラガンの声に露骨な怒りが混じっている事から、内容は楽しいものじゃないんだろう。とはいえ、居留守を使う訳にもいかんので取り敢えず通信室へ向かう。ご用事なんぞ?

 

「こうしてお会いするのは初めてでしたかな。本日はどのようなご用件ですか、アサクラ大佐」

 

待たせていた分を差し引いても、明らかに嫌悪を滲ませているアサクラ大佐に、自然と口調が慇懃無礼になってしまう。まあいいだろ、アサクラだし。

 

「用件だと、よくもまあぬけぬけと!」

 

憤怒で顔が真っ赤になるアサクラ大佐。はっは、デザインも相まって軍服着たタコみてぇ。

 

「仰っている意味が解りかねる。一体何だというのです?」

 

「惚けるな!シーマ共の事だ!貴様から要請を受けたなどと抜かして勝手に地球に降りたのだぞ!?ご丁寧に転属申請まで出してな!」

 

え、初耳なんだけど。そう思ったところで、そーいえばサイド6で会ったときに力になるよ的な事を言ったのを思い出す。なんだよ、アサクラもうシーマ様に見限られたのかよ。

 

「確かにシーマ少佐と話したがね。必要なら力を貸すとも言ったが…失礼だが大佐、貴官は随分と部下に嫌われているようだ」

 

俺の言葉に赤を通り越して土留色になるアサクラ。うーん実に見ていたくない顔だ。

 

「聞けば随分な扱いだったようじゃないか。私がどうこうではなく、単に貴官が愛想を尽かされただけなのではないかね」

 

「貴様ぁ!本官を侮辱するか!」

 

ドヤ顔で言ってやれば、泡を飛ばして絶叫するアサクラ大佐。うわ、モニターに飛んでる、きたねえなあ。

 

「侮辱など、むしろこれは忠告だよ。部下を使い捨ての道具のように思っているようだが、少し自分の立ち位置も冷静に見つめてみた方が良い、存外体の良い捨て駒に自分も含まれているかもしれんよ?」

 

俺の言葉にあらん限りの罵倒を投げると、アサクラ大佐は一方的に通信を切った。やれやれ、あれで知恵者気取りとは恐れ入る。

アサクラ大佐は親ギレン派にもかかわらず突撃機動軍に籍を置き、大佐という立場にかかわらずコロニー奪取という極秘かつ重要な任務に従事している。加えて史実では決戦兵器であるコロニーレーザーの製造、運用を任されるなど、ギレンの腹心のような扱いだ。

だがしかし、そうだとすれば疑問が残る。まず腹心をキシリア派の突撃機動軍に入れる意図が不明瞭だ。キシリア様の監視や妨害なら、大佐という階級は不足だし、ただ単に手駒を送り込みたいだけなら、腹心を送る必要は無い。

そこから考えられる仮説だが、多分アサクラはギレンにとっての捨て駒なんだろう。キシリア派に送り込んでいるのは、おそらく何かあったときに他の派閥の人間として切り捨てるためだろう。そうであれば、機密になるような重要な任務を任せられるのに、他派閥に組み込まれ、しかも階級が低いことも頷ける。それに…。

 

「感情的で短絡的、かつ自己保身の為には外聞など気にしない。切り捨てても全く痛くない人材だからな」

 

通信の切れたモニターに向かい呟く。悪意だけで向かってくる相手に慈悲をやれるほど、俺は出来た人間ではないのだ。




アサクラ妄想回(誰得)


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第十九話:0079/05/23 マ・クベ(偽)と海兵隊

ちょっと早いですが連休と言うことで。


「いやいや、聞いてはいましたが、見れば見るほど混沌とした基地ですなぁ」

 

アサクラ大佐に罵倒された次の日、滑走路に大量の輸送機が来たというので何事かと見に行ったら、シーマ少佐が良い笑顔で敬礼してた。どうやら艦の乗組員まで全員ごっそり連れてきたらしい。来るの早いし、思い切り良すぎだろう。

 

「来る前には一言いってくれ、少佐。部下に野宿をさせるつもりかね?」

 

そう言いつつ、俺は昨日のキシリア様との会話を思い出していた。

 

 

アサクラ大佐の通信が切れて数分もしないうちに、キシリア様から連絡が入った。今更だけどこんなに頻繁に通信してて防諜とか大丈夫なんだろうか?そんなことを考えながらほいほい出たら、珍しく困り顔に頭まで抱えた姿のキシリア様がモニターに映った。

 

「困ったことをしてくれたな、大佐」

 

私怒ってます、と全力アピールされているキシリア様だが、見た目のせいで今一迫力が無い。むしろその手の人にはご褒美みたいな顔になってらっしゃる。後でコピー取っておこう。

 

「困ったこと、シーマ・ガラハウ少佐の件でありますか」

 

俺の言葉に盛大な溜息で応えるキシリア様。

 

「そうだ。海兵隊を1部隊丸ごと引っ張っていくなど、なにを考えている」

 

幸いにして宇宙は小康状態だったことと、装備は残していったので、グラナダで再編していた連中や本国からの増員で補填だけは出来たらしい。ただ、当然戦力価値が大きく下がってしまったので海兵隊から一般部隊に格下げされたようだ。それも含めて随分アサクラ大佐に噛みつかれたようだ。

 

「欧州侵攻に彼女たちの力が必要だと思いまして。申し訳ありません、事前に話を通しておくべきでした」

 

まさか、勝手に転がり込んできた。なんて言える訳もなく、しょうが無く苦しい言い訳を宣う俺。もう一度溜息をつきながら、半眼でキシリア様が問うてくる。

 

「で、本当のところは何だ?あれは引き入れるにしても厄介な連中だぞ?」

 

汚れ仕事をさせていたという自覚がある分、出来れば切りやすいアサクラの下で使いたいというのがキシリア様の考えなんだろう。この兄弟ほんと兵に対する接し方が極端だよなぁ。

 

「だからです。今までの冷遇があればこそ、ここで厚遇すれば彼女らは忠勇な兵として働いてくれるでしょう。多少の醜聞など比較にならない価値が彼女たちにはあります」

 

「他の部隊で手を打つ気は無いと、彼女ら以外にも海兵隊は居よう」

 

随分歯切れが悪いな。なんか相性悪いとかあったっけ?

 

「それこそ下策です。約束を反故すれば、彼女たちの忠誠は永遠に失われ、上層部への不信は暴走すら引き起こしかねません」

 

熱心に説得すると、何故か不機嫌になるキシリア様。そんなにシーマ少佐を引き入れたくないのかな?

 

「だが、今いる部隊との軋轢もあろう、そこまでして彼女に拘ることは…」

 

「私が説得致します。もっとも、優秀な部下達です、それ程の労はないでしょう」

 

そう言い切ると、キシリア様は腕を組み鼻を鳴らした。

 

「貴様の考えは良く解った。転属申請は受理しておいてやる、以上だ!」

 

そう言って通信は一方的に切られてしまった。なんか不機嫌みたいだったけど、何だったんだろう?

 

 

「ご命令なら部下に野営準備をさせますが。テントくらいは貸して頂けるんで?」

 

そんなことを考えていたら、楽しそうにシーマ少佐が言うので溜息で答える。

 

「冗談は止してくれ。呼びつけておいて野宿をさせたなど私の沽券に関わる。私が外に寝てでも君たちには屋根付きの場所で寝てもらうぞ」

 

その言葉にころころと笑うシーマ少佐。いや、笑うところじゃないからね?

 

「…この度は、多大なるご配慮、感謝の言葉もございません。私め以下海兵隊総勢2000名、いかようにもお使いください」

 

不意に真面目な顔でそんなことを言ってくるシーマ少佐。見捨てられないよう必死なんだろうな。とりあえずジョークでも言ってリラックスさせよう。

 

「ああ、手間の分は存分に働いてもらうとも。といってもまだ準備が整っていなくてね。暫くは地球と基地の食事に慣れる所から始めてくれたまえ」

 

そう言って笑えば、破顔した敬礼を返してくれた。

 

 

 

 

「君たちにやってもらいたいのは、潜水艦からの強襲上陸だ」

 

施設を案内しながら、大佐は世間話のように任務の内容を伝えてきた。なんでも、簡易改造を施した陸戦用のザクを潜水艦から発進させて、敵地後方を破壊するらしい。成程、効果は絶大だが、万一失敗すれば敵中に良くて孤立、最悪文字通り全滅すらあり得るリスキーな任務だ。それでも、今までの公開すら出来ない非合法な作戦や、アサクラが指示してきた威力偵察に比べれば随分と飲み込みやすい仕事だとシーマ・ガラハウは思った。

 

「艦の方は新型の潜水艦になる。今月末までには2隻は受領出来るはずだから順次慣熟訓練に入って欲しい。ああ、規模は当面6隻で運用予定だ」

 

「そうなりますと、半数ほどは手空きになりますね」

 

シーマの下には現在ザンジバル級1隻、ムサイ級7隻、パプア級2隻分の部下がいる。MSパイロットだけでシーマ自身も含めれば45名になり、2個中隊である18名を潜水部隊に転換しても、半数以上残ることになる。

 

「ここで、人数分のグフⅡやドムが用意出来れば格好もつくのだが、あいにく新型は前線で引っ張りだこでね」

 

受領出来るのは機種転換で余剰するだろうザクかグフになるとのことだった。

 

「出来ればザンジバルだって用意してやりたいのだが、良くてガウだろう。すまないね」

 

その言葉に古巣のリリー・マルレーンを思い出す。良い思い出なんて無かった気がするのだが、それでも愛着が湧いてしまうのは人の性だろうか。

 

「…君が、君たちが失ったものを全て取り返す、などという約束は出来ない。だが、手の届く範囲くらいは何とかしよう、約束だ」

 

つくづく悪い男に引っかかったものだ。シーマはそう思い苦笑する。今まで散々に裏切られてきた自分が、何の保証もない口約束を本気で信じているのだから。

 

 

 

 

一通り案内を終え、執務室に戻る。取り敢えず開設予定だった新鉱山用の宿舎に割り当てたけど、労働者の募集も掛けちゃってるんだよな、工兵部隊にまた頼まなきゃならん。いや、いっそ近所の建設業者使うか?…ダメだろうな、単純労働ならともかく、基地設備を造らせるとかスパイのリスクが高すぎる。盗聴器くらいなら可愛いもんで、爆弾でもしかけられた日には目も当てられない。やっぱり工兵隊に頑張ってもらおう。

 

「ここまでする必要があったのでしょうか?」

 

いつもなら座ると黙って飲み物を出してくれるウラガンが、今日は珍しく苦言を呈してきた。

 

「頼ってきた兵士を無下に出来るほど、私は冷酷にはなれんよ」

 

苦笑しながら答えれば、益々渋面を作るウラガン。なんだよ、ウチの副官も海兵隊嫌い組か?今後一緒にやっていくんだし、なにが嫌なのかちゃんとここで聞いておこう。

 

「なあ、ウラガン。彼女たちは確かに無頼なところがある、それは認めよう。だが貴様がそこまで厭うのが理解できん。彼女達のなにが不満だ?」

 

俺の言葉にウラガンは驚いた表情を作った後、深々とため息を吐いた。

 

「彼女たちの行いを知らぬとは言わせません。ジオンの栄光に泥を塗った張本人達ですよ?」

 

え、まじか。

 

「ウラガン、それは本気で言っているのか?」

 

「無論、作戦であったろう事は承知しております。それでも拒否もせずコロニーにガスを流し込める者など、信ずるに値するとは小官は思えません」

 

いや無理だろ。そもそも少佐達は毒ガスだと知らされていなかった訳だし、事前に知らされたとして、抗命したら最悪その場で殺される可能性だってある。それにだ。

 

「解らんな。なあウラガン。核で吹き飛ばすのと毒ガスで殺すの、そこにどれだけの違いがある?」

 

コロニー落とし用にガスを使われたコロニーは数基あったが、それ以外と言えば避難勧告もなく核攻撃にさらされている。当然住人は断言できるが全滅だ。サイド1なんて残す気が最初から無かったからどのコロニーも酷い有様だったという。心情的には一瞬で死ぬ核より毒ガスの方が残虐に見えるかもしれないが、そんなものは殺した側の主観であって、殺された側にすれば、どちらも理不尽な死だ。そして、核攻撃は練度が必要ない分、一般部隊でも広く使用された方法だ。だと言うのに海兵隊だけ悪人呼ばわりされるのは、いささか不公平じゃないかと俺は思う。まあ、コロニー出身者がより想像しやすい毒ガスに嫌悪感を抱くのは判らないでも無いんだけど。

 

「断言するぞ、自身の故郷であるコロニーを武器に使った時点でジオンに栄光など無い。そしてその作戦を是とし、乗った我々に彼女たちを責められる道理など一つも無い」

 

「しかし」

 

「彼女たちを責めるというのはそういうことだ。手を下したものを責めるならば、それを認めた者も責められる。当然のことだろう」

 

「…大佐は、あれが信じられるのですか?」

 

尚も懐疑の目を向けるウラガンに俺は言い放った。

 

「当然だ。それになウラガン、よく考えてみろ。少佐などと言っても彼女は所詮末端の兵だったのだぞ?しかも上官はあのアサクラだ。任務内容を偽っていた可能性は高いし、仮に伝えていたのなら、拒否した場合彼女らの命はなかっただろう。始めから選択肢のなかった彼女たちに罪をなすりつける者こそ、真に忌むべき者だと思わないか」

 

ウラガンはなにも答えなかった。




皆様良い連休を。


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第二十話:0079/05/27 マ・クベ(偽)と親父

お気に入り登録9000件突破記念投稿。
いつもお付き合い頂き有り難うございます。



海兵隊がオデッサの愉快な仲間達に加わって4日が過ぎた。流石精鋭、1日もすれば重力に慣れて、元気よく訓練中の連中に因縁をつけては模擬戦を繰り返していた。行儀良くしろと言ったのに…なんて呟いて頭を抱えていたシーマ少佐を見て、思わず笑っちゃったら、顔を真っ赤にしてそっぽ向かれてしまった。ごめん、昼のプリンあげるから許してって言ったら、

 

「あたしゃ子供かい!?」

 

って怒って行ってしまった。むう、エビフライの方が好みだったんだろうか。その後どうやら怒りを鎮めるべく模擬戦をしようとしたら、丁度いたデメジエール少佐と鉢合わせたらしく、煽り合い、罵り合い、大人げない模擬戦を経て、昼の食堂では和気藹々と飯を食っていた。ちなみに声を掛けたらクリームコロッケを強奪され、それじゃ俺もとかいってデメジエール少佐にプリン取られた。俺この基地の最高司令官なんですけどぉ!?って切れたら食堂が爆笑の渦に包まれた、解せぬ。

その後、良く解んないが俺のあげますよー、じゃ俺もーって山盛りになったクリームコロッケを食い尽くし執務室に戻ると、ウラガンが呆れた顔で待っていた。

 

「大佐、最近緩みすぎです。少しは威厳を保ってください」

 

「善処はしよう」

 

飯くらいリラックスして食いたいじゃん。厳めしい表情で食ってたら食い物にも失礼というものである。そんな俺の気持ちを察したのか、ウラガンはしょうがねえなコイツ、という表情になりながら報告書を読んでくれた。緊急性高そうなのとか、厄介そうな案件を最近こうしてくれるので、実に政務が捗っている。良い部下に恵まれた俺は幸せだ。これで上司の無茶振りがなければ最高なんだけど。

 

「先日連絡がありました、MS製造ラインの設置に伴う人員受け入れの件ですが、本日先行してジオニックより技術者が派遣されるとのことです」

 

「そうか」

 

グフⅡは最優先生産機体としてキャリフォルニアだけでなく本国でも製造されているのだが、それでも地球方面軍全体の需要は賄いきれていない。そんなわけで、オデッサ基地を本格的に製造拠点にしようぜ!って意見が総司令部で出たらしく、既に出来ているツィマッド社の製造工場を増築、ついでにジオニックも降ろして欧州方面のMS供給はオデッサを中心にやりくりする方針になったそうだ。ちなみに俺の階級は変わらない。責任だけ重くなっていくとか、とんだ罰ゲームである。

また、ついでに増産に対応するために鉱物資源のノルマ増やすね、来月までに今の150%なって指示が来た時は、思わず端末壁に投げつけちゃったね。幸い端っこにひびが入るだけで済んだけど。

 

「まったく、現金なものだな?つい一月前は送れる人員など居ないと言っていたのに」

 

利益が出ると分かればそんなことおくびにも出さず人を送ってくる。まあ、体面気にして送らないと言われるよりは全然マシなので、こっちも大人の対応である。

 

「仕方ありません。ドムの完成度は高く、今は欧州方面軍限定ではありますがかなり好評です。このまま広まれば無理をしてまで手に入れた主力機のシェアを持って行かれてしまいますから、ジオニックも必死でしょう」

 

本当に気持ちに余裕がねえな。

 

「それで、その技術者はいつ到着予定だ?」

 

「15時に予定しております追加のHLVに同乗するとのことでしたが」

 

え、もうすぐじゃん。

 

 

そんな訳で一通り書類に目を通した後、HLV発着場に来た。ウラガンが留守番してくれると言うのでふらふら一人で行こうとしたら、お供くらい連れて行けと注意された結果、キラキラした目で訴えていたエイミー少尉についてきてもらう事にした。

 

「ジオニックの技術者の方って、どんな人なんでしょうか?」

 

歩きがてらそんなことを言うエイミー少尉。実は俺もあんまり知らないんだよね。

 

「ジオニック社の人間とは営業や経営陣としか面識がなくてな。私も想像できないな」

 

ただまあ、国でもトップの企業だし、普通にエリートエリートした人がくるんでないの?ツィマッドやMIPの人達みたく温和な人だと良いなあ。なんて思ったのが悪かったのか、着陸したHLVから降りてきたのは、想像していた人物からかけ離れた容姿だった。年相応に寂しくなった頭頂部、しわの刻まれた顔はふてぶてしくも鋭い眼光を放つ。背は中肉中背、少しくたびれて見えるツナギの上にドカジャンを羽織り、足はまさかのサンダルで固める。首元に引っかけたタオルはそれらを纏めるに相応しい完璧なコーディネート。どこからどう見ても、まさにステレオタイプの町工場のおっちゃんが大地を踏みしめていた。

 

「あっ、お迎えの方ですか?ジオニック社と業務提携しておりますホシオカより参りました、ミオン・ホシオカです!…ほらっ、父ちゃんも挨拶!」

 

横にくっついてきていた、同じく作業着姿(流石にこちらは汚れ一つ無い営業用のものだったが)の女性が元気よく声を掛けてくると同時、中年男の肩を叩く。

 

「…ゲンザブロウ・ホシオカだ」

 

俺を迎えの人呼ばわりしたことに、エイミー少尉が絶句しているが、俺もまた別の意味で絶句していた。

 

「初めまして。突撃機動軍隷下地球方面軍欧州方面軍隷下オデッサ鉱山基地司令、マ・クベ大佐と申します」

 

あかんちょっと震えてきた。ちなみにミオン女史はどうやら俺がどういう人物か理解したらしく顔を青ざめさせている。が、今の俺には気にする余裕はなかった。

 

「ゲンザブロウ・ホシオカ氏、お会いできて光栄です。ミオン女史も、ささ、立ち話も何ですからこちらへ。エイミー少尉、荷物をお持ちしてくれ」

 

俺の予想外の厚遇に唖然とする少尉。案内するべく歩き始めると、慌てて近づいてきて小声で聞いてきた。

 

「あ、あの、マ大佐。あの方達はそんなに凄い人なんですか?」

 

ああ、そうか。普通しらんわな。

 

「ホシオカ氏はあのザクの生みの親だ。ミオン女史はザクのモーションパターンの制作者であり、教導大隊でも使用したシミュレーションのエグザンプル・データも作成している。言ってしまえば全てのMSパイロットの教師、それどころか母と呼べるような人物だ」

 

「あれ、でも、ザクってジオニック社が作ったんじゃないんですか?」

 

「基本設計をした、と言う意味ではジオニックが作ったと言えるな。だが実用レベルに達する機体に仕上げたのはホシオカ氏だ」

 

もし、彼らがいなければMSの性能はもっと低いものとなり、戦争に耐えられなかったかもしれない。あるいは実戦に投入されても、今より遙かにグロい戦果になっていたか。そこまで説明したところで、エイミー少尉が首をかしげた。

 

「んんん?でも、今回のお仕事って製造ラインの立ち上げなのでは?」

 

その辺も知らんよね。

 

「そもそも彼らがMSに関わったのは、核融合炉を持つ作業機のライン試作をジオニックから受注したからだ。その後のザクⅡにも関わっていたはずだから、これほど経験豊富な技師は居ないよ」

 

そんなこんなでウキウキしながら応接室に通して、お茶を出したところで気付く、あれ?ゲンザブロウ氏なんか具合悪そう?

 

「失礼ですがホシオカ氏。お加減が悪いのですか?」

 

「…いや」

 

そう言ったきり黙ってしまう。仕方が無いので説明を求めてミオン女史の方を向けば、何かを言いかけた女史を制して、ゲンザブロウ氏が静かに口を開いた。

 

「俺ぁな、軍人さん。確かに金に目がくらんだってのもあるが、あくまで人類の発展の為にMSを作ったつもりだったんだ」

 

その声にははっきりとした憤りを感じた。ああ、そうか。この人は知らずに人殺しにされてしまったのか。

 

「なあ、解るか?自分が世に出した製品が、何千、何万、いや、何十億の人間を殺したと聞いたときの気持ちが。そんなことに社員を、家族を巻き込んじまった人間の気持ちが。…仕事はする、だが、それ以上はなにも求めねえでくれや」

 

成程、責任感がある、そして自分の作るものに確かなプライドを持つからこその発言だ。

 

「そこまで仰るなら、致し方ありません。ウラガン、シャトルを手配しろ」

 

俺の言葉に訝しがる二人、対して察したウラガンは表情を変えず、エイミー少尉は焦りと動揺で愉快な顔になっている。俺は結論を伝えるべく口を開いた。

 

「嫌ならやって頂かなくて結構。代わりの者に頼みます、どうぞお引き取りください」

 

告げた言葉に、二人の顔は正反対の色になった。ゲンザブロウ氏は真っ赤に、ミオン女史は真っ青に。

 

「仕事はするっつってんだろうが!」

 

胸ぐらを掴む勢いで立ち上がったゲンザブロウ氏がつばを飛ばしながら叫ぶ。だが、ここは俺も引けない。

 

「ええ、ええ。ふて腐れても職人気質の貴方だ、人並みくらいにはやってくれるでしょう。だが、人並みなら他の人で事足りる。態々貴方を使う必要なんて無い」

 

そして、こういうタイプの人間は気分が乗らないときは、どうやっても人並み以上の事はしない。出来ないのでは無く、しないのだ。

 

「降りてきた技師が貴方だと知ったとき、私は柄にもなく神に感謝した。何故か解るか?貴方がこの道において最高の技師だと知っているからだ。だが今の貴方はどうだ?ふて腐れ、倦厭し、おまけに無気力!そんな人間に部下の命を預けられるか!」

 

MSは恐らく、世界で最も乱暴に扱われる精密機器だ。ちょっとの狂い、加工の甘さ、そんなもので簡単に人が死ぬ。それを造る工場をやる気の無い人間なんかに任せられる訳がない。

 

「手前に俺の何が解る!?」

 

「解らないですとも、私は貴方ではない。立場も生き方も違う我々が、言葉も交わさずわかり合うことなど出来るはずが無い。だから私は、今の貴方からしか判断出来ない」

 

そう言い返すと、部屋は沈黙に包まれた。

 

「勘違いしないで頂きたいが、私は貴方達に悪意など持ち合わせていない。ただ、今の貴方達には頼めないと言っているのです」

 

その言葉に、倒れ込むようにソファへ腰を下ろしたゲンザブロウ氏が、打って変わって弱々しい声で返してきた。

 

「買ってくれているのは、解る。けど俺は、俺の造ったものが人を殺すのがどうしようもなく怖いんだ」

 

その言葉にため息を吐く。流石にそのくらいは俺でも想像出来るからだ。

 

「当然ですな、それに恐怖できない人間など、想像力の欠如した欠陥品でしょう」

 

戦争大好きなサイコパスなら違うかもしれんけど。

 

「軍人さん。あんたは怖くないのかい?」

 

怖いよ?

 

「恐ろしいですとも。ですが、ここで止めてどうなります。せめて独立を勝ち取らねば、それこそ我々はただの虐殺者だ」

 

本当に嫌になるね。冷めかけた紅茶を口にしていると、俯いていたゲンザブロウ氏がゆっくりと顔を上げた。

 

「すいません、改めてお願いします。この案件、是非私にやらせて下さい」

 

先ほどまでの何処か世捨て人のような雰囲気は消え、腹の据わった表情でゲンザブロウ氏はそう言い切った。

 

「宜しいので?」

 

多分、ここが彼にとっての分水嶺だ。だからこそ、改めて俺は問うた。

 

「始めたのは誰でも、乗っかったのは俺の意思だ。気に入らねえからって自分だけ逃げるのは筋が通らねえ。せめて自分のケツくらいは拭かんとでしょう」

 

そう言って悲しそうな笑みを浮かべるゲンザブロウ氏。俺は黙って握手を交わした。




嫌がるおっさんに無理矢理…正に鬼畜の所業。


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第二十一話:0079/05/27 マ・クベ(偽)と訓練

平成も終わるので記念に投稿。


握手を交わした後、ゲンザブロウ氏は早速ウラガンに案内され、工兵部隊の隊長と打ち合わせに行った。本格的に基地の規模がでかくなってきたから、連れてきてる設営隊だけじゃ手が回り切らん。守備隊も増強せにゃならんし、後でちょっとお強請りせんといかんな。あ、でもそろそろ連邦が宇宙でちょっかい出してくる頃だっけ。それが終わってからの方がいいかな?

 

「大騒ぎでしたなぁ、大佐。今宜しいか?」

 

そう言いながら入ってきたのは、何故か秘書官用制服を着たシーマ少佐である。アップに纏めた髪といい、眼鏡でも掛けさせればそのままキャリアウーマンと言っても通じそうだ。

 

「構わないよ。うん?少佐その服はどうしたんだ?」

 

「デメジエール少佐に階級に相応しい格好をしろと注意されましてね、PXに行きましたらこれしかなかったんですよ」

 

着の身着のままで夜逃げしたもんで。と俺の質問に苦笑しながら答えるシーマ少佐、そう言えば持ってきてた荷物みんな精々バッグ一個分くらいだったなぁ。

 

「そうか、よく似合っている。他の隊員の必要分も纏めてくれたまえ、後で支給しよう」

 

そう言うと、キョトンとした顔になるシーマ少佐。ふっ、油断だな、その顔録画させてもらう。

 

「古い言葉に、衣服の乱れは心の乱れと言うのがある。その理屈で行けば、お仕着せを着せておけば気持ちも整うやもしれん。良い機会だし、実証試験といこう」

 

俺の言葉に、ころころと笑うシーマ少佐。うんうん、人間やっぱり笑いながら仕事した方が良いね。

 

「承知しました、後で全員に伝えておきます。すみません、本題に移っても?」

 

俺が頷くと、小脇に抱えていたファイルを広げて報告を始めた。

 

「隊の慣熟訓練ですが、上陸班を優先し実施しております。先に選抜しましたが、今後他の隊員の成績も考慮しまして、入れ替えも考えております」

 

妥当だね。

 

「受領予定はザクⅡとのことでしたので、全員一度はそちらで適性を確認します。同時に水中機動の訓練も行ないますが、こちらはシミュレーターの準備ができ次第、とのことですので早くて数日後になる予定です」

 

ゴッグもマリナーのデータも使えないからね、仕方ないよね。ちなみにザクフロッガー(仮)のデータはどう取ってるかと言えば、実機を黒海に沈めてみるという荒技で行なっている。数値見るなら実測が一番!とジオニックの面々が言っていたが、テストパイロットが涙目だったのを俺は見逃さなかった、そっとお酒を送っておいたので強く生きて欲しい。

 

「進捗は、大凡順調という所です。まあ我々は重力下での作戦も想定されていましたから当然と言えば当然なんですがね」

 

そう言って彼女は苦笑する。ああ、コロニーへの強襲制圧が海兵隊の主任務だったもんね。

 

「成程、結構だ。他に何か気になることはあるかね?足りないものは?」

 

そう言うと顎に手を当てて考え始める。いきなり給料足りんとかは勘弁してね?

 

「足りない、と言えば。あの新型、ドムでしたか。あれとやっていてザクでは火力が足りないと感じましたね。バズーカは当てにくいですし、マシンガンは火力が足りない。まあ、現状白兵戦で対応出来ていますが」

 

ん?今さらっと変なこと言わんかったか?

 

「待て、少佐。今なんと言った?」

 

「はい、ですからマシンガンでは火力が足りないと…」

 

「その後だ、ドムに白兵戦を挑んだのか?」

 

俺の質問に意味が解らないという表情で少佐は返事をした。

 

「はい、射撃をしつつ接近して来ますので」

 

なんてこったい…。

 

「た、大佐?お加減でも悪いので?」

 

思わず頭を抱えてしまった俺に、少し狼狽しながら声を掛けてくれるシーマ少佐。大丈夫だ、俺の体は、問題無い。

 

「すまないが、少佐。少し時間はあるだろうか?」

 

ちょっと、お勉強させなきゃいかん。

 

 

そんなわけで、シーマ少佐と仲良くシミュレータールームに到着である。適当に誰か対戦相手を見繕っといてって頼んだら、何故か少佐自らパイロットスーツに着替えてやる気マンマンである。しかも、ついでにできる限りの基地のパイロットに声かけといてって言っておいたらシミュレータールームはすし詰め、それどころか隣の会議室とかにシミュレーターの映像を流せるようにして、基地に居る待機中のパイロット全員が集められている。公開処刑じゃねえか。

正直腰が引けたが、ここまで大事にしてやっぱ無しとか言えないので、精一杯虚勢を張ってシーマ少佐に話しかけた。

 

「大事になってしまってすまないな、少佐」

 

「いえいえ、大佐も何かお考えがあるのでしょう?精一杯お相手を務めさせて頂きますよ」

 

うわ、玩具見つけた猫みたいな顔になってる。まあ、一流のパイロット相手に三流が粘るところを見せれば、かなりインパクトはあるし良い啓蒙になるだろう。

 

「では、よろしく頼む」

 

「はい、けれど宜しいので?ここには大佐の機体のデータが入っていませんが?」

 

「うん?ああ、問題無いよ。さあ、始めよう」

 

専用つってもあれ、塗装以外量産機と一緒なんだよね。

 

「っ!承知しました。海兵隊の腕、存分にご賞味くださいな!」

 

なんか、急に怒り始めた。俺、なんかしちゃったかな?

 

 

 

 

「問題無いよ。さあ、始めよう」

 

気負いもなく言う大佐に、シーマ・ガラハウはプライドを強く刺激された。

地上に降りて4日。決して長い時間ではないが、その間部下の訓練を見つつ、自身も地上戦に対応するべく準備をしてきた。新型機との模擬戦だって、最初こそその速度差に戸惑ったが、ただの1度だって土を付けられていない。その事を知った上で、あの大佐は言い放ったのだ。相手をするのに自分の機体を持ち出すまでもないと。

パイロットなんて人種は多少の差はあれど皆自信家で、自分が最も優れたパイロットであると考えている。だからシーマも大佐のその態度に、遊んでやろう位の気持ちから、少し恥をかかせるくらい良いかもしれない。と考えを改める程度にはプライドを傷つけられていた。

故に、シミュレーションが始まってからの状況は、彼女を存分に苛立たせていた。

ドムの運動性と装甲は非常に脅威だ。マシンガンは至近距離でなければ効果が無いし、バズーカは当てようにも高速で回避されてしまう。おまけに一気に距離を詰められる速度は熟練したシーマであっても武装の切り替えを見誤ればひやりとさせられる場面もあった。

そのため、ザクに乗った海兵隊員の基本戦術は、ドムが弾切れを起こすまで粘り、焦れて白兵戦に持ち込んだ所で仕留める。と言うものだったのだが。

 

「チョロチョロ逃げ回って!」

 

撃ち尽くしてしまったマガジンを取り替えながらシーマは悪態をついた。開始から5分程が経過しているが、未だに弾をかすらせてすらいない。大佐の動きは言葉にしてしまえば簡単だ。こちらの有効射程外の距離を保ち、じりじりと削ってくる。

装備は同じ120ミリマシンガンと280ミリバズーカだが、双方の装甲差によって生じる不均等を上手く利用しているのだ。狙おうとすれば必然足が鈍り、少しでも止まれば相手はマシンガンを撃ってくる。適当な射撃ではあるが当たれば損傷を免れない以上、回避を強要され、回避後の硬直を狙い澄ましたようにバズーカが襲ってくる。このバズーカを撃たせないため回避後に強引な射撃を行なうので悪戯に弾を消費し、マシンガンは既に最後のマガジンになっていた。

距離を詰めたくても速度差でそれも叶わない。一見すれば消極的な戦い方だが、ことMS同士での戦いであれば、これ程厄介な戦い方もないだろう。常に受け身に回らざるをえず、緊張を強いられ続けるこの戦いは、パイロットの消耗も激しい。

結果、マシンガンを撃ち尽くし、バズーカを止められなくなったシーマは撃ち込まれた6発目を躱しきれず脚部を損傷。続く7発目が直撃し、見事に戦死判定を賜ることになった。

 

 

 

 

バズーカ弾遅ぇ!マシンガン使いづれぇ!

シミュレーターで何とか辛勝したものの、課題が多く見つかる結果になった。

最初はMS教本に載ってる、とにかく敵艦へ突っ込め!肉薄!って内容に従って突っ込んでるのかと思って、何してんだよと頭を抱えたが、これは納得ですわ。弾全然当たらねえ。

まずバズーカ。弾速が遅すぎて話にならない。停止目標ならある程度期待できるけど、動き回ってるMSとかマジ無理。マシンガンの有効範囲外からだと射撃されたの見てから回避余裕でしたが本気で出来る。しかも大気の影響をもろ受けるから弾道が安定しねぇ、これはキツイ。

んで、マシンガン。威力は悪くないけど、弾頭重量で稼いでるせいでこっちも弾道が悪く弾速も遅め、加えて反動を抑えるために発射サイクルまで低いから修正射撃で無駄に弾を使う。しかも1発あたりのサイズがでかいから携行弾数も少ない。おかげで咄嗟の牽制にも制圧射撃にも使いにくい、中々に産廃な性能である。

そもそもこいつらそれぞれ対艦用と対戦闘機用で作られてんじゃねえのかよ。なんで方向性統一してんだよ、そこは一緒にする意味何もねえだろ。

今回のシミュレーションみたいに悠長に1対1かつ時間無制限!とかならのんびり攻撃出来るけど、そら実戦想定したら短期決戦挑みたくなるわ。

しっかしマシンガンはともかく、バズーカはどうすんべ。これ速度弾頭に依存してるから下手すると強度問題とか出て丸ごと作り直しだぞ?ジャイアントバズ(仮)はどうにかなるけど…、280ミリの方は順次予備行きかなあ、それまでマゼラトップ砲でも増産して凌ぐしかないかな?マシンガンの方は取り敢えず本体を改良しつつMMPー80の早期開発かなあ。

しかしこれは恥ずかしいな、ドヤ顔してお手本見せちゃる!みたいなアトモスフィアで完全にマの空回り、しかも全員視聴の公開プレイ、出てって笑われるならともかく痛々しいものを見る目で見られたら…当分執務室に引き籠もらざるをえない。

そんな覚悟を決めつつシミュレーターから出てみれば、皆が真剣な顔で討論してた。おっと放置プレイは想定外だぜ。

 

「あー、一応。これが私の考えているドムの運用だ。問題点も多いと思う。出来れば参考の一助になれば嬉しい」

 

それだけ言ってそそくさと場を後にする。後日、シーマ少佐から何が何でもドムが欲しいとお強請りされた。が、頑張るから睨まないでつかあさい。




Q:ドム乗りはなぜあんなに突っ込んでくるのか?
A:多分ジェットストリームアタック症候群


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第二十二話:0079/05/28 マ・クベ(偽)と補給線

令和という元号がしっくりきません。
平成の時も同じ事言ってましたが。


模擬戦から1日が過ぎ、俺は昨日考えた火器の改善提案を関係各所に送りつけていた。ゲンザブロウ氏を受け入れた段階でオデッサは鉱山基地から正式に生産拠点に格上げされたので、これもちゃんとした業務の一環になった。おかげで突撃宇宙軍司令部付きの参謀連中から鉱物掘らないで何してんの、暇なの?馬鹿なの?みたいな厭味が減ったのは、非常に喜ばしい。仕事は倍以上になったがな!

 

「大佐、ジオニック並びにツィマッドへの提案書の決定稿になります。ご確認下さい」

 

「助かる、ウラガン」

 

ちなみに改善提案に関しては、火力崇拝者であるタカミ中尉に思ったことをふわっと伝えると、具体的な提案書にしてくれるという、極めて俺に優しい作成手順が出来ている。ただし油断すると、お前は一体何と戦うつもりだ?と言いたくなるような超兵器を提案してくるので最終チェックは欠かせない。

 

「マシンガンはヘビーバレル化と銃身の延長、ショートリコイル化。それと可能であれば装薬の増加。バズーカは単純に推進薬を増やした改良弾頭の生産か。無難だな、宜しい各社に送ってくれ」

 

そう言ってサインをした書類をウラガンに返す。おお、なんか司令っぽい。

 

「それから、MS部隊の各指揮官より昨日のシミュレーションデータを全員へ閲覧可能にして欲しいとのことです。同じ要望が技術部からも挙がっております」

 

技術部はこれまでバラバラだった各社からの出向組の皆さんを纏めて1つの部署にしたものだ。どうもアッザムの一件以来、連帯感が出来たらしく積極的に意見交換するためにもどうせなら1つに統合されようぜって意見が出たそうな。もっとも軍に引っこ抜く訳にはいかないので、立場的には今までと変わらないのだが。ただ資材の請求は通しやすくなったせいで、一部の連中が趣味に走っているからちょっと注意が必要だ。

 

「…あれをか。いや、うん、見たいと言うなら許可する」

 

そこまでさらし者にしなくても良いじゃないと思ってしまうが。

内容が良いか悪いかは別として、教材として使えるというのなら俺の恥くらい安いものだ。

 

「承知しました。もう一件、鉱山開設の進捗ですが、第114及び第115鉱山基地の開設が遅れています。鉱山作業者が募集員数に達しておりません」

 

114と115は鉱山採掘増産指令に伴って、新たに開設中の鉱山だ。一月で10個近く採掘基地増やすとか、どっかの地球外炭素系土木機械も真っ青なブラックぶりである。

 

「仕方ないな、募集範囲を拡大する。まだ旧ロシアの方には人が居るかもしれん。それと開設までは他の鉱山基地に増産を指示しろ、ノルマ超過分については特別報酬を出す」

 

そうため息を吐きながら増産指示の書類を作っていると、窓がビリビリと振動した。

 

「ウラガン、基地上空はもっと高度を取るように注意しておけ」

 

窓の外では、量産化へ向けての最終調整、という名目でドップⅡが楽しそうにアグレッサーのドップを追いかけ回していた。結局Mig1.44ベースの機体になったそれは、俺の常識からは少々外れた愉快な運動を見せながら、あっと言う間にドップを撃墜してしまう。うんうん、良く出来てる。これなら開発完了報告しても大丈夫だろう。

 

「失礼します。技術部より連絡です。第4格納庫へ搬入しましたアッザムですが、午後より艤装を開始するとのことです!」

 

元気よく入ってきたエイミー少尉が大きな声で報告してくれる。視線を送ると何故か少尉も秘書官向けの服を着ていた。なに、それ流行ってんの?

 

「報告有り難う、少尉。艤装中の作業内容についても全てデータとして残すよう言っておいてくれ。特にトラブル関係は重点的にな。可能であれば経験の浅い者を入れ、作業の疑問点ややりにくかった作業についても洗い出してくれると嬉しい」

 

量産するとは思えないけど一応ね。稼働データも取れたらギニアス少将にも送ってあげよう。アプサラス様が早くできれば戦局もかなり変わりそうだし。どう考えてもあれチート兵器だもんなあ。しかし、急な要請だったのに、連絡してきた期日通りに送ってくるとか、キャリフォルニアの製造部の方には感謝しかないな、ちゃんとお礼言っとこう、そうしよう。

 

 

なんて思ったのがつい1時間前。今俺は何故かジオンのスカーフェイスゴリラ、もといドズル・ザビ中将とお見合いをしている。キシリア様やガルマ様が同じ遺伝子で出来てるとか本気で信じられないんだけど。あっちはあんなに劇的ビフォーアフターなのに、何でこっちは史実を忠実に再現してるんだよ、めっちゃ怖いわ!

 

「先日は、世話になったな」

 

は?なんのこっちゃ。

 

「…マレーネの件だ。無理をしていたのを止めたと聞いた」

 

「ああ、はい。少々行き過ぎていると感じましたので。ご息災でしたら何よりです」

 

ハマーン様から連絡無かったからすっかり忘れてたわ。そういやマレーネさんはドズル中将の侍従のふりしたお妾さんだったっけ?ちっくしょう、なんでこの顔面凶器が美人に人気あるんだよ、人柄?人柄か?ギャップ萌えの類いなのか?

 

「ああ、ハマーンもあれ以来良く笑うそうだ。感謝する」

 

何だろう、昔彼女の家で初めて会った親父さんがめっちゃ脳裏にちらつくんだけど。多分あのしかめっ面と嫌そうな口ぶりのせいだな。

 

「勿体ないお言葉です。それで、失礼ですがドズル閣下、本日は如何様なご用件でしょうか?」

 

そもそも俺はガルマ様に用事があって連絡したはずなんだ。そしたらお礼言うのもそこそこにガルマ様がドズル兄さんが大佐に話があるって言ってたと有無を言わさず通信を回されたんだよな。

 

「実はな、近々行われる連邦の大規模な作戦を情報部が捉えた」

 

ああ、なんだっけ。ヘリオン作戦だったかな。忠告しようと思ってたけど、普通に察知してるじゃん。やるな情報部!

 

「申し訳ありません、閣下。私は宇宙で動かせる戦力を持っておりませんので、お力添えは難しいかと」

 

俺の言葉に、太い笑みを浮かべるドズル閣下、笑っても怖いってある意味才能だと思う。

 

「ガルマの言う通り良い耳をしている。そうだ、連中どうやら宇宙で仕掛けてくるらしい」

 

「狙うとすれば軌道上の制宙権でしょうな、地球方面軍にとって完全なアキレス腱です」

 

それを聞いたドズル閣下は、渋い顔になる。

 

「現状の戦力であれば、ルナツーの残存戦力全てを相手にしても勝つことは出来る。出来るが」

 

軌道上で戦うなら、純粋な戦力の潰し合いになる。未だにルウムの損失を補填出来ていない宇宙攻撃軍にとっては、非常に厳しい戦いになるだろう。

 

「失礼ですが、キシリア様へ支援要請をなさっては?」

 

そう言えば、ドズル閣下は首を振りながらため息を吐いた。

 

「恥ずかしい話になるが、こちらの部隊は自分たちの統制だけでも手一杯というのが現状でな。別の指揮系統が入った場合どんな混乱を起こすか想像もつかん、それでキシリアの所のパイロットまで失っては目も当てられん」

 

はて、そうなると俺にお願いしたい事って何じゃろか?

 

「…今度の戦い自体はこちらで始末を付ける。問題はその後よ、貴様には宇宙攻撃軍の再建に力を貸して欲しい」

 

は?何言ってんの?

 

「吝かではありませんが、閣下。その、そう言った事は総司令部の管轄では?」

 

少なくとも一方面軍の基地司令に直接要請するような事じゃないと思うんですけど。そう考えて質問してみれば、不機嫌さを隠さない顔で閣下は吐き捨てた。

 

「その総司令部に任せていたから今回のようなことになった!連中そのまま数を戻せば良いとだけ考えおって。兵士の質の低下や敵がこちらの戦術に対策してくるなど一切考慮しておらん!しかもその数すら戻せんでは戦いようが無いわ!」

 

言っている内にテンションが上がってきたのか青筋を浮かべるドズル閣下。たまってる、ってヤツかな?だからって俺に直接相談とか横紙破りも甚だしいと思う。まあ考えるくらいは良いけど。

しかしどうしたもんか。MSパイロットの質の低下はどうしようもない。何せ前線で不足する分速成で育てざるをえず、数を確保しようとすればするほどその傾向は強くなる。そうなると方法としては限られてくるよなあ。

 

「例えば、解決方法としては、少数でも多数に匹敵する高性能機による数的負荷の削減。あるいは現状と互角の戦闘力を持ちながら、より未熟なパイロットでも扱える機体の開発…後は現在二線化している戦力の見直しでしょうか?」

 

俺の言葉に、ゲンドースタイルを取り続きを促すドズル閣下、いやそんな、大したこと言わないですよ?

 

「1つ目は単純ですが、パイロットへの負担が大きくなる分、根本的解決は望めません。2つ目もこれが出来るならそもそも総司令部が送ってきているでしょう。で、あれば取れるのは既存戦力の見直ししかないかと」

 

「だが大佐。見直しと言ってもMSと艦を除けば後は精々戦闘艇や突撃艇だぞ?」

 

開戦当初、資源的な問題から生産能力の大半をMSに割いた分。これらの兵器は旧式だったり、コスト重視で質は求められていない。加えて搭乗員は大抵MSへの転換訓練に落ちた所謂落ち零れ扱いなので、部隊そのものが評価が低いのだ。だが、逆に言えば開戦当初からの練度を維持した部隊が多く残っていると言う意味でもあり、地上から鉱物資源を獲得することで生産に関して余裕が出来ている現状であれば、これらを更新し戦力化することは一定の価値があるのではないかと俺は思う。

 

「存外、そう言う価値の無さそうなものにこそ、現状を打破するきっかけがあると小官は愚考致します」

 

ヒルドルブだってそうだったじゃん?

 

「…成程な、では大佐。よろしく頼むぞ」

 

そう重々しく頷いて通信を切るドズル閣下、あれ?もしかしなくてもしくじった!?




皆大好きなあの子がアップを始めました。


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第二十三話:0079/05/28 マ・クベ(偽)と残念MA

連休最後の投稿になります。


「その、災難だったな。大佐」

 

暫く頭を抱えていたが、当然事態が好転する訳もないので、取り敢えず上司に相談することにした。ただし、流石にキシリア様だと軍同士の軋轢になりかねないと思ったので、双方が甘いガルマ様にチクる。

 

「ドズル閣下の仰ることは十分理解できるのですが」

 

「繋いだのは私だしな。姉上には上手く言っておこう。兄さんにも今後は姉上をちゃんと通すよう注意しておく」

 

「ご配慮有り難うございます」

 

先日の一件以来、ガルマ様は後方での執務に注力することが多くなっている。直轄にしていた部隊の幾つかも他の部隊に割り当てて、自身で戦果を上げるよりも、北米戦線全体が安定することに尽力しているようだ。おかげで最近は親の七光り、なんて言うヤツは殆ど居なくなり、どちらかと言えば虎の子はやはり虎、なんてゴマ擂る奴らが増えたらしい。先日苦笑しながらそんなことを言っていた。

 

「それで、大佐。今回の件についても断ることも出来るが、どうする?」

 

本音から言えば断りたい、すっごい断りたい。けど補給線の防衛を一手に引き受けている宇宙攻撃軍に弱体化されるのは、死んでも避けたい事柄なのである。

 

「言った手前というものもございます。それに断って補給線の維持に支障が出るなどと言うことになれば、それこそ兵達に顔向けできません」

 

ある程度考えてはいるしね。俺の表情から何か悟ったのか、楽しそうな表情に変わったガルマ様が問うてきた。

 

「大佐がそう言う顔をするときは、決まって我が軍に良いことがある。教えてくれ大佐、今度は何を思いついたんだ?」

 

「いつもの再利用でございますよ。つきましては、ガルマ様に骨を折って頂きたいのですが」

 

そう言えば、苦笑交じりにガルマ様は了承の言葉を口にする。

 

「補給線の事となればこちらも他人事ではないからな。それで?私は何を用意すれば良い?」

 

直ぐ動いてくれる上司って本当に素敵だと思う。

 

「では、そちらの倉庫で埃を被っている試作MAを開発スタッフごと送って頂きたい」

 

 

 

 

相変わらず妙なものを欲しがる男だと、ガルマ・ザビは内心苦笑しつつ了承の言葉を口にした。指定されたMAは開発計画の最初期に設計されたもので、性能不足から繰り返し再設計されたものの、要求を満たせなかったことから、搭載している拡散メガ粒子砲のテスト後に廃棄が決まっている機体だった。

 

「正直、あれはMAとしては性能不足だと思うのだが」

 

そう言えば笑いながら大佐は肯定した。

 

「そうでしょうな、しかし突撃艇として見れば、破格の性能だと思いませんか?」

 

「それはそうだが、調達コストが違いすぎるだろう?」

 

比較的高額のジッコでさえ、件のMAに比べれば十分の一以下だ。

 

「逆ですよ、その程度の価格でMSに代わる戦力が調達できるのです」

 

その言葉に、ガルマはつい渋い顔になってしまう。確かに現状、攻撃艇や突撃艇は数合わせくらいの価値しかなく、戦闘に用いれば手酷い損害を被ることは間違いない。確かに価格で言えばMSより割高であるが、これらがMS並の戦力として数えられるようになれば、今後の部隊の補充は随分楽になる。何しろこれらの搭乗員はMSに転科できない人員ばかりなのだから。そうなれば正面戦力不足から促成されているMSパイロットを余裕を持って補充できるようになり、国全体としても人的資源の浪費を抑えられるだろう。

気持ちが揺れ掛けている所に大佐は更に畳みかけてきた。

 

「考えてみて下さい。開戦当初と現在では我が軍の台所事情は変わっております。水や空気、鉱物資源の制限が大きかった当初とは異なり、地上からそれらを送れる分、資材という面での資源は余裕が出来ています。一方で人的資源の補充は絶望的です。我々にとって今最も失えない資源は、人そのものなのですよ」

 

 

 

 

と言う訳で、とりあえずデータだけ先に送ってもらいました、黄色くて丸くて憎い奴。ジオン屈指の色物枠ザクレロ君。アッザムの方が一段落して鼻歌歌ってたジョーイ君を見かけたので、次これベースで宇宙用MA作るよーって言ったら愉快な顔して開発室の方へ走っていった。ははは、ドップの時を思い出すなぁ。

正直最初はアッザム(仮)をベースに宇宙機も調達したいなと考えていたのだが、現段階での製造コストをウラガンに纏めてもらったら、かなりグロイ数字になっていた。うん、ムサイとお値段一緒とかちょっと良く解らない。量産化すれば多少はマシになるとはいえ、流石にそんなもんぽこじゃか作っていたら財布に穴が開いてしまう。おまけに技術者の皆さんが頑張ってくれたおかげで大気圏内運用に特化しすぎていて、仮にベースにしても互換できるパーツは50%くらいだという。それならいっそ安価な別の機体を用意しようと思った訳である。と言う事でガトルとジッコを調べてみたが、双方共に現状で設計限界ギリギリまで性能向上が図られており、これ以上となれば根本的な構造の変更が必要になるらしい。ザク並にするにはどの程度変えないとダメなの?って聞いてみたら、互換できるとしたらコックピットくらいとか返事がきた。それ、完全新型と何も変わらん。じゃあビグロの廉価版ならどうかと思ったんだけど、そもそもビグロがまだできてない。どころか俺がドムとかグフとかヒルドルブとかで予算食ったせいで宇宙用機体の開発は後回しにされてたらしく、どうも史実より開発が遅延しているようだ。ビグロ待ってたら数ヶ月先まで再建着手できん。なので、今あるもので間に合わせようと考えた結果、色物君の出番となった訳である。

まあ、今回は大体やりたいことが決まっているから、それを技術部にお願いする事になる。折角なので要望を纏めるついでにちょっと意見とか聞いてみようとデータをウラガンやエイミー少尉にも見せたら、二人ともこれは酷いって顔でこちらを見てきた。だが残念、マ・クベは引かぬ。

 

「言いたいことは、大体解っているつもりだ」

 

こいつデザインもさることながら運用方法も奇天烈だからなぁ。自分の中でかみ砕けなかったのだろう表情で、エイミー少尉が控えめに口を開いた。

 

「あの、艦隊の防空網に拡散ビーム砲を用いて穴を空ける、と言うのは解るのですが、その後の対艦戦闘をヒートナタにて行なうと言うのは?」

 

「ジオンの技術者はどうも白兵戦信仰の宗教にでもはまっているのだろう、忘れて良い」

 

MSより運動性に劣るMAではあり得ないからね。ウラガンの方は複眼が気になるのか、目を細めたり画面を近づけたり離したりして頻りに目の錯覚を疑っている。すみません、それ本当に複眼なんですよ。

 

「今回のコンセプトは高速、瞬間火力、そして一撃離脱を考えている。複眼式よりもモノアイを複数用意した方が理に適っているな」

 

恐らく拡散ビーム砲の残滓でセンサーに障害が出るのを数で補おうというつもりだったのだろうが、小型になる分センサーの性能は落ちるか、高価になってしまう。そしてそこまで頑張って拡散ビーム砲を搭載する意味があるかと聞かれれば、俺としては首をかしげざるをえないというのが本音だ。

そもそも、俺がこの機体に求めているのは先ほどの台詞に集約される。なのでそこに必要のない装備や機能は出来る限り減らすか限定する方針だ。ガルマ様には大見得切ったもののお値段が安いに越したことはないしな!

 

「防空網への対処は散弾砲で代替する。その分空いたスペースを利用してジェネレーターをアッザムのものと同じものにして、タカミ中尉の設計したメガ粒子砲を可能であれば連装で装備。出来ればパイロンを追加して対艦ミサイルを2発程度積めると尚よい」

 

確か、統合整備計画のせいでポシャったツィマッドの試作機に搭載予定だったショットガンが開発済みだったはずだから、それを流用する予定だ。高速突入、一撃離脱かつ攻撃目標が敵艦艇であることから、出来れば実弾とビーム両方の攻撃手段は持っていたいし、瞬間火力を考えれば砲門数は多いに越したことはない。まあ、機体のサイズからして2門積めれば御の字だろうけど。

俺の言葉に慌ててメモを取り始めるエイミー少尉。おお、技術部に伝えてくれるんかな?なら折角だし思っている事全部言っちゃおう。

 

「突入するという性質上正面装甲は厚くしたい。運動性についてはある程度諦める、と言うよりは旋回性を犠牲にして加速性を確保する」

 

「それでは被弾率が上がるのでは?」

 

「ある程度は装甲でカバーする。ただし、主砲、副砲クラスは避けられる程度の運動性は確保したい。たしかツィマッドがゴッグの関節に面白い構造を使っていたと思う。あれでメインブースターを連結すればある程度偏向させられるだろう」

 

推進器そのものを振り回せば、元の機体より大分運動性は上がるだろう。後はそうだな。

 

「ついでに牽引用のワイヤーとグリップなどあれば便利かもしれんな」

 

「ワイヤーとグリップですか?」

 

「うん。…唐突だが、ザクⅡのR型は性能は良いのだが配備数が少ない。何故か解るかね?」

 

「高いからでは?」

 

即答するエイミー少尉。うん、正解。

 

「その通り。軍は現状のR型の戦果では大量配備は割に合わんと思っている訳だ」

 

さて、ではR型が何故割に合わないのか?最大の問題はプロペラント容量不足による稼働時間の短さだろう。簡単に言えば推進剤を2倍使うなら、母艦から出撃して帰ってくる行動半径は半分。戦闘中も使うのだから戦える時間も半分、これでは使い勝手が悪いと思われても仕方がないだろう。では何故こんな機体が採用されているかと言えば、このあたりも総司令部の見通しの甘さから来ちゃっていたりする。

総司令部が想定していたMSの主任務は、所謂空母から出撃する航空機の役目だ。当初想定されていた戦闘は作戦に従い決められた地点へ侵攻、戦闘を行なうというものだ。この場合であれば、タイムスケジュールはしっかりと管理されているから、移動の大半を慣性航行に頼っても問題無かった。つまり移動中のプロペラント消費を殆ど考慮しなくて良かったのだ。

ところが、戦争の長期化が確定すると任務ががらりと変わった。大規模かつ綿密なスケジュールのもと行なわれる軍事行動はほぼ無くなり、その分遭遇戦や哨戒に引っかかった敵への緊急展開といったMSを迅速かつ柔軟に展開させる事が多くなった。加えて、当初想定されていたミノフスキー粒子散布下に於ける艦隊戦距離では、思っていたよりも母艦に対する艦砲射撃の脅威度が高いことが、一年戦争初期の連邦艦隊との艦隊戦の戦訓から明らかとなっており、母艦をより後方に下げる必要が生じたことからも、プロペラント消費増大の問題が顕在化してきたのである。

このため、優速であることは評価されたが、練度の低いパイロットではプロペラント管理のシビアなR型は現場から歓迎されなかったのである。ついでに言えばルウムでベテランを多く失った事もこの状況を後押ししている。

さて、そこでだ。ザクレロにサブフライトシステムの真似事をさせたらどうなるだろう?

 

「戦場への行き帰りを気にせず戦えるとすれば、R型の価値は一気に高まる。ザクが急に高性能になれば、面白いことになると思わないかね?」




ザクレロは頑張れる子…ザクレロ?

後イフリートは犠牲になったのだ。


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第二十四話:0079/06/02 マ・クベ(偽)と外人部隊

よく考えたら今週投稿してない事に気付いた。


6月に入り、いよいよイタリア攻略が迫ってきた。シーマ少佐は受領した潜水艦隊の慣熟訓練の為に部下共々セバストポリに移動、デメジエール少佐も陽動のため旧スロベニア首都、リュブリャナに移動している。俺はと言えば指示された鉱物資源の採掘ノルマをこなせなかったため、この二日は報告書と改善内容の書類作成に追われている。いや、一月も無いのに生産量1.5倍になんて出来る訳ねえだろ、って言えたら楽になるんだけどなぁ。

それから昨日、ハマーンちゃんからメールが届いた。困ったら連絡してって言ったので、お礼とかで連絡して良いか迷ってたそうな。スカーフのお返しって薔薇をあしらったブローチも届けられた。男が付けるには少々可愛らしいデザインだが、折角もらったので身につけていたら、ウラガンは妙なものを見る目で、エイミー少尉は物欲しそうに見ていた、やらないよ?

そうそう、アッザム(仮)もこの5日間で大凡組み上がっていて、後は武装の取付けと起動試験を待つ状態だ。パイロットをどうしようか悩んで、海兵隊とかに良い奴居ないかなーってシーマ少佐に聞いたら、すっごい渋い顔で言われた。

 

「能力的には、心当たりがあります。能力的には」

 

なんで二回言った?どんな奴かと聞けば、曰く別の海兵隊に所属している少尉とのこと。優秀だが極めて態度が悪く協調性が低い、おまけに言動に妄言が交じることがある。正直今居る部隊でも持て余していて、近々別の隊に転属させる予定らしい。え、それ本当に大丈夫な人材なの?

 

「言ったとおり能力は一級品なんですよ。他の所と軋轢を生まずに引き入れるとすれば、あれ以上は思いつきません」

 

シーマ少佐がそこまで買っているなら間違いなかろうと言う訳で、早速キシリア様にお強請りしたら、向こうの部隊がすぐ了承したとかで1週間ほどで転属してくる事になった。

ついでにドズル閣下の件について謝罪したら、むしろこちらは苦笑された。

 

「ドズルの兄上は軍政に疎いからな。まあ、あまり出しゃばり過ぎて向こうの連中と変な諍いでも起こさなければ構わん。宇宙攻撃軍が強くなって困ることもないしな、こちらからもある程度便宜を図ろう」

 

あれ、案外仲悪くないのかな?結構この兄弟サツバツしてるイメージなんだけどな。

 

「こちらからも伝えておくことがある。直ぐに指令書も行くと思うが、イタリア半島攻略支援にMS特務遊撃隊を1つそちらに回す。物資の補給を貴様の所に任せたい」

 

「承知しました。それで、到着はいつ頃に?」

 

「2日後の予定だ」

 

いや、もっと早く言ってよ!?なんてことがあった5月末。言われた通り連絡があって、遊撃隊の人達が基地にやってきた。出迎えておいちゃんビビったね。

正直、外人部隊なんて呼ばれて冷遇されているってのは知ってたから、ある程度は酷い状況なんだろうなーって想像してたけど。いや、これは想像以上だわ。

まず移動手段。全部サムソントレーラー。しかも現地の部隊から一々融通してもらっているらしい。どれも懸命に整備したのは解るが、あちこちパーツが欠けていたり、タイヤが足りなかったりと割と酷いことになっている。肝心のMSも3機だけで予備機は無し。こちらも装甲のあちこちがくたびれていて中にはクラックが入っている部分さえある。うん、これは酷い。

 

「これは、態々お出迎え頂き有り難うございます。大佐」

 

「いえ、名将であられる貴官を迎えられ、私こそ光栄です。ダグラス・ローデン大佐」

 

そう言って手を差し出せば、朗らかな笑顔で握り返してくるダグラス大佐。はっはっは、目が笑ってないぞう、このタヌキ親父め。

 

「お疲れでしょう、高級ホテルは無理ですが基地に部屋を用意しました。ひとまずお休み下さい」

 

「感謝します、大佐」

 

一旦別れて執務室に戻ると、俺はため息を吐きながらウラガンに確認した。

 

「ウラガン、確かフロッガーへ改修待ちのザクが何機かあったな?」

 

「調整済みで装備の取り付け待ちが6機、整備済みが3機、整備中が5機であります」

 

俺の言葉にすぐ詳細を答えてくれるウラガン。すげえ、全部覚えてるの?

 

「それと守備隊向けに陳情していたギャロップがあったと思うが」

 

「1機は第2駐機場で点検中、もう1機は明日の補給便で到着予定です。最後の1機は来週の予定ですが」

 

うん、決めた。

 

「整備済みのザク3機とギャロップ2機を遊撃隊に回す。ザクは予備パーツも3機分だ」

 

「宜しいので?」

 

一応確認するウラガンに笑って返す。

 

「折角支援に来てくれた部隊だぞ?装備が不十分で戦えませんなどと言われてみろ、送って下さったキシリア様の面子まで潰しかねん」

 

という建前だ。ダグラス大佐は親ダイクン派だったせいで冷遇されている。本人が優秀なせいで部隊が戦果を挙げれば挙げるだけ危険視されて、より冷遇されるという悪循環。身内で足を引っ張り合いながら戦争するとか、我が祖国は随分余裕のようだ。うーん、片っ端からミサイルに詰めこんでジャブローに撃ち込みたい。

それはさておき、他の遊撃部隊員達も随分と重たい背景を背負い込んでいる。家族を人質にとられていたり、旅行中に故郷を壊滅させられていたり、売春婦の私生児で国籍がなくて強引に軍に入れられたりと、よくもまあ集めたなと言うような訳ありばかりである。このまま冷遇し続けたらそれこそ連邦のスパイに鞍替えしてもおかしくないぞ?

そんな訳で懐柔の意味を込めて飴を用意する。本当はMSもグフⅡやドムを都合したいところだが、相手は文字通り世界中を飛び回っている遊撃部隊。うちでずっと面倒が見られるなら問題無いが、他の戦区に行ったら最悪MSを奪われかねない。良くても新鋭のホバー機の補給は渋られること請け合いである。であるならば、補給が容易なザクⅡの方が都合が良いだろうという判断だ。あとせめて物資は目一杯渡しておこう。ウラガン経由で挙がってきた補給品のリストを片っ端から上方修正してサインしておいたら、警戒心丸出しの顔でダグラス大佐が挨拶に来た。お礼なら別に良いよ?

 

「…格別の配慮、感謝しますマ大佐」

 

「当然の事をしたまでです、お気になさらないで下さい」

 

笑顔で告げたら益々顔が険しくなった。なんだよ、フレンドリィにいこうぜ?暫く見つめ合っていたが、不意にダグラス大佐は溜息を吐いて首を振った。

 

「私も狸を随分やっていますが、貴方の方が一枚上手なようだ。降参です、お答え頂きたい、我々に何をさせるおつもりか?」

 

え?イタリア半島攻略の支援だけど。つうかその辺りの指令は欧州方面軍司令部からもらってんじゃないの?

 

「何をも何も、あなた方にして頂くことは司令部から指令が届いているかと認識していましたが?」

 

「惚けないで頂きたい。私がダイクン派でザビ家から疎まれているのはご存知の筈だ。その私が率いる部隊にこれだけ便宜を図ったと知れれば貴方の立場も悪くなるだろう。そこまでする以上指令以外に何かやらせたい事がある、そう考えるのが自然でしょう?」

 

頭良いとそこまで考えちゃうんだね。

 

「そこまで深い考えはありませんよ。少し恩を売って反感を抑えられたら僥倖、くらいの浅知恵です」

 

正直キシリア閥の中だと俺もう結構微妙な立ち位置だしね!キシリア様が目を掛けてくれてなかったら、とっくに何処かの辺境基地に左遷されてると思う。

 

「解りませんな、冷遇されている我々に恩を売って貴方に何の得があるのです?」

 

ああ、もう面倒くさいなあ。

 

「むしろ優秀な部隊を機能不全にして何の得になるのか教えて頂きたいですな。私に言わせれば政治闘争など壺1つ分の価値もない。そういったことがやりたいのなら独立を勝ち取ってから存分にやられるが宜しい」

 

今はそんなこと言ってる余裕なんて無いでしょうよ。そう視線を送れば、面を食らった表情で息を呑むダグラス大佐。たく、どいつもこいつもお気楽だ。

 

「まだ信じられないと言うならこう考えては?悪辣な基地司令が物資不足やMSの不調を理由に作戦行動が消極的にならないよう、事前に逃げ道を潰したのです。精々渡した物資分暴れて頂きたい」

 

 

 

 

食えない男だ。素直にダグラス・ローデンはそう思った。キシリア少将の懐刀であるこの大佐の事だ。先ほどの言葉は無論本心ではあるまい。

考えられるとすれば、自身に恩を売り、それを足がかりにダイクン派を切り崩す、あるいはダイクン派そのものをキシリア閥に取り込もうという魂胆か。

正直借りは作りたくないが、はっきり言って部隊の方は限界に近い。ここで物資を受け取らないという選択は部隊が苦しくなるだけでなく、MS遊撃部隊は部隊の状況や戦局よりも思想を優先するなどという醜聞に繋がりかねない。そうなれば同じダイクン派からすら距離を置かれる危険がある。今ですら綱渡りの兵站なのだ、そうなれば早晩部隊は壊滅するだろう。

 

(始めから選択の余地のない選択肢か、あくどい事をしてくれる)

 

降参の意味を込めた握手を交わし、形だけの感謝を告げ部隊へ帰ってみれば、そこは既に基地司令の毒牙にかかった後だった。

殆どの隊員が久し振りに手に入った嗜好品を思い思いに堪能しており、主計に至っては陳情を遙かに超えた物資の補給に涙ぐみながらリストを持ってきた兵士に感謝を伝えている。今までの状況が状況だっただけに戸惑っているものも少なからず居るが、殆どは基地司令に好意的な感情を抱いているのは明白だ。

 

「お疲れ様です、大佐」

 

そう声を掛けてきたのは部隊の中核であるMS部隊長のケン・ビーダーシュタット少尉だ。横には秘書官のジェーン・コンティ大尉と整備班長を務めているメイ・カーウィン技術少尉もいる。ケン少尉は困惑顔、ジェーン大尉は眉間にしわを寄せ、メイ少尉は笑顔と反応は様々、その意見も随分と分かれていた。

 

「随分な対応ですが、一体どんな取引をなさったんです?」

 

「マ大佐はキシリア閣下の懐刀です、あまり借りを作るべきではないかと」

 

「ぴっかぴかのザクだよ!それも3機!でもどうせなら新型くれれば良いのにね?」

 

部下の反応を見て、ダグラスはため息を吐く。

 

(悪魔と契約する時の気持ちが分かった気分だ)

 

出来ることなら奪われる魂が自分のものだけである事を。ダグラスはそう願わずにはいられなかった。




流石基地司令!なんたる邪悪!


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第二十五話:0079/06/04 マ・クベ(偽)とエントリィィィィ!

今週も頑張らない。


2台目のギャロップを受領した後、MS遊撃部隊は元気よくアラビア半島に旅立っていった。史実では5月頃に行なっていたはずのスエズ運河攻略を目指したジャベリン作戦に参加するためだ。尤も、今回はイタリア半島を落とすための陽動作戦だから本気で攻撃はしないけど、それでもアフリカと陸路で連絡してしまうのは連邦としてはイヤだろうからそれなりの戦力で妨害してくるだろう。マルタの連邦空軍や地中海艦隊を引きつけてくれる事を密かに期待していたりする。

海兵隊の方は選抜が済んで半数が基地に戻ってきたので、取り敢えずドムへの転換訓練を受けさせることにする。当初はザクかグフの予定だったのだが、ゲンザブロウ氏のおかげで思ったより早くホバー機が充足しそうなので、それならば海兵隊にもホバー回しちゃおうと思った次第だ。後、ザクフロッガーがかなり好評でザクⅡやグフが思ったより余剰しないのも原因だったりする。

ちなみに当のゲンザブロウ氏は色々吹っ切れたのか、ここの所技術部に入り浸って何やら悪巧みをしているらしい、先日覗いたらツィマッド組と悪い笑みを浮かべていた。

さて、そんなこんなありながら、本日はついにアッザムの起動試験である。シーマ少佐から紹介された少尉も昨日着任し、今日の試験に参加する予定だ。流石に降りてきて直ぐだし、少し体を慣らしたら?って言ったら。

 

「慣らすなら動かすのが一番だ」

 

なんて、実にマッチョな答えが返ってきたので壊れない程度に頑張れって返しておいた。出来る限り機体も壊さないで欲しいな。たっかいから。

 

「ジェネレータ起動確認、ミノフスキークラフトへの送電を開始して下さい!」

 

緊張した声音でオペレートをしているのはジョーイ君だ。ほんの少し会話をしただけだが、大凡パイロットの性格を掴んでいるんだろう、左手は常に緊急停止ボタンに掛けられている。

 

「いいですか、ヴェルナー少尉!少しずつ、少しずつですよ!?最初は10%まで…少しって言ってるだろうがぁ!?」

 

甲高い吸気音と共に、明らかにジョーイ君の言っている以上の出力が注ぎ込まれているであろう挙動をするアッザム。屋外だったのが災いし、みるみる高度を上げていく。あれ、今止めたら墜落必至だな。

 

「はっはぁ!エントリィィィ!」

 

ゴキゲンな船出だってやつかな?なんて現実逃避をしている間にみるみる小さくなっていくアッザム。ジョーイ君の悲しい絶叫だけが青い空に響いていた。

 

「随分楽しんだようだな。少尉」

 

ヴェルナー少尉が戻ってきたのはたっぷり2時間後だった。通信を入れても馬鹿笑いが聞こえるだけで返事がないだけでなく、いきなり欧州方面軍総司令部が置かれているブカレスト方向にすっ飛んでいきやがった。当然フライトプランなんて提出してなかったから、オデッサ方面から所属不明の大型機が高速で接近していると防空部隊にスクランブルがかかる事態になってしまった。

大慌てで連絡してなんとか最悪の事態は防げたが、対応したのがよりによってユーリ少将だったもんだから、すっごい悪い笑顔で貸し1つなって言われてしまった。貸しの前に借りを返して頂けませんかね?

 

「なかなか良い機体だ、大佐殿。ただ、一人で操縦するにゃもう少し工夫してもらいたいもんだな」

 

おっと、こやつ何も反省していませんね?

 

「感想と要望はレポートに纏めて技術部に提出したまえ。それとな少尉、言葉遣いを直せとは言わんし、私に敬意を払う必要は無い。しかし軍人である以上、階級には敬意を払うべきだし命令には従え。それが出来んというなら直ぐに軍服を脱いで漁師にでも何でもなるといい、幸い海も近いしね」

 

俺の言葉に顔を強ばらせるヴェルナー少尉。

 

「君は随分とご祖父を尊敬しているようだが、かの御仁は勝手気ままに一人で生きているように見えたかね?君はそんな安っぽい人間に憧れたのかな?」

 

「爺さんは男の中の男だ!孤高の海の男だ!知らねえ奴が知った風に語るんじゃねえ!」

 

「君の願う姿が、今の行動に繋がると言うなら軍は不向きな職場だな。孤独になりたがる人間など軍には必要ない。君が今日乗ったMAだって多くの人間が多大な労力を結集して造り上げたものだ、それを個人の好き勝手にされてはたまらんよ」

 

俺の言葉に歯ぎしりをするヴェルナー少尉。これは駄目かもしれんなぁ。そう思いながらも、言葉を続ける。

 

「人は群れることで多くのことを成し遂げてきた。軍とはその最たるものだ。なあ少尉、もう1度だけ言うぞ。命令には従え」

 

群れは秩序があって、初めて群れとして機能する。そして軍での秩序とは階級であり、そこから発せられる命令だ。それが機能しなければそれは軍ではなく、ただの個人の集まりにすぎない。そして個人の力量で覆る戦争など、もはやおとぎ話の世界の出来事だ。

 

「以上だ、下がって良い。ああ、除隊届は何時でも受けてやる。1度よく考えてみたまえ」

 

ヴェルナー少尉に退室を促した後、そこかしこにお詫びのメールやら付け届けの手配をしていく。まったく、どうにもジオン軍人はそのあたりに妙に寛容な連中が多くて困る。軍人じゃなくて武将とでも名乗った方が良いんじゃないか?そんなことを考えていたら、レポート片手に笑顔のジョーイ君が入ってきた。

 

「本日の試験結果になります。ヴェルナー少尉、アレですけど腕は本物ですね」

 

提出された稼働データは3日くらいかけて録る予定だったものが全て取り終わっていた。まあ、ニュータイプ疑惑すらあるパイロットだからなぁ。

 

「だが、やれることとやって良いことの区別がつかんではな、最悪別のパイロットを選抜する必要がある」

 

なにせあれだけ言ったからなぁ。明日には除隊して黒海で魚穫ってるかもしれん。そう考えてキシリア様になんて謝ろうか考えていたら、ジョーイ君が益々笑みを深くして口を開いた。

 

「それなんですが、さっきヴェルナー少尉が来て俺たちに謝って行きましたよ。あんなに真面目に説教されたのは爺さんの銛を勝手に持ち出したとき以来だって笑ってました」

 

え、どゆこと?

 

「だから多分、あまり心配しなくて良いんじゃないですかね?」

 

 

 

 

ヴェルナー・ホルバインにとって、祖父は理想の男性像であり、目指すべき目標であった。曾祖父は古くから続く漁村の網元で、祖父も父達に呼び寄せられるまでは地球で漁師をしていた。子供の頃、幾度か遊びに行った祖父の家で聞いた武勇伝は今でも諳んじられるし、祖父の持って来た道具は今でも自室に大切に保管している。唯一持ち歩いているのは、お守りにと本人から手渡された銛の穂先だけだ。

 

「爺さんの魂は、まだ海にいる」

 

アルツハイマーを患ったとかで地球の家を引き払い、両親の住むサイド3へ来た祖父の晩年は、隔離された白い部屋で終わった。見舞いに訪れても自分を認識できず、海のことを呟き続ける祖父を見たとき、ヴェルナーはそう考えた。病気になったと告げられる前の最後の漁、そこで鮫に襲われ海に落ちたと言う祖父は、魂を海に残してきたのだ。サイド3の市民権を持ちながらヴェルナーが海兵隊に志願したのも、コロニー国家であるジオンで学のない自分がなんとか海に関わる仕事に就けないか考えた末の事だった。尤も、この選択は完全にアテが外れた訳だが。

そこまで思い返して、脳裏に浮かんだのはこの地に自分を招いた風変わりな大佐のことだ。神経質そうな容姿に反して今までのどの上官よりも寛容な言葉を発した大佐は、同時に最も真摯に叱責もしてきた。

祖父の事を話すたび、どこか腫れ物を扱うように距離を取られていた自分にあそこまでしっかりと向き合って話をしたのは、恐らく両親ですら無かったことだ。そして、大佐の言葉が理解できれば自分が如何に独りよがりであったかが解り、自らの行いを恥じた。

海の男は、孤高であっても孤独ではない。

幼い頃、祖父から聞いた言葉だ。あの頃の自分には不思議な言葉だったが、大佐と話した今なら解る。漁に出れば確かに己の技量と力のみを頼りにする。しかしそれは仕事への向き合い方だけであり、そも、その場にたどり着くまでに多くの人達に繋がり、支えられ、また祖父も支えて立っていたのだ。思い返せば、祖父の家には多くの人が出入りしていて、むしろ孤独とは無縁の人であった。

そんなことも思い出せないくらい、自分は理解されないという環境に甘んじて、いつの間にか殻を作り閉じこもっていたのだろう。

 

「悪い事をしたと思ったら、誠意を持ってしっかり謝る。だったよな、爺さん」

 

 

 

 

翌日、早速ヴェルナー少尉が訪ねて来たので、やっぱり除隊かな、とビクビクしながら会ってみたら、いきなり頭を下げられた。昨日の話で自分が悪いと思ったとのこと。うん、反省して次からちゃんとしてくれたら良いよ。

そう言って正式にアッザムのパイロットに任命したら、目を見開いて驚いていた。いや、そこで何で驚くよ?

 

「あの、自分で言うのもなんだが…ですが、宜しいんで…宜しいのでありますか?」

 

その言葉に思わず苦笑してしまう。

 

「宜しいも何も、元々君を呼んだのはその為だぞ、少尉」

 

それと俺には頑張って言葉遣いを直す必要は無いよ?他のものにはそうはいかんから俺で練習したいってんなら吝かじゃないけども。そう続ければ、少尉は益々変なものを見る目で俺を見てきた。なんだよ、変人だって自覚はあるよ。

 

「何というか、あんた変わってるな。大佐」

 

その言葉につい笑ってしまう。

 

「偉いのはぶら下げている階級章であって私ではないからな。そう思えば嫌な上官にも苦も無く頭を下げられるだろう?自分はこいつに頭を下げているんじゃない、階級章に頭を下げているんだとね」

 

そう言えば釣られてヴェルナー少尉も笑顔になった。

 

「成程、実に理に適った考え方だ。参考にします」

 

こうして正式にパイロットになったヴェルナー少尉の意見で、アッザムは幾つかの小改造が加えられる事になった。具体的にはパイロットが単独でもある程度火器管制が行えるように操作系統を修正、それと背面飛行やロール時などミノフスキークラフトによる揚力補助が受けられない場合における揚力確保の為の補助翼の追加だ。おまけに対地攻撃力がビーム砲一門では不満だと言うことで、底面にパイロンを増設する事になった。

改造に掛かる追加予算申請がされたけど、これで戦果を挙げられ無かったら、俺、国民に殺されると思う。

何としてもモノにして戦果を挙げてもらいたい。そう切に願わずにはいられない6月頭、イタリア半島攻略まで後1週間の事だった。




出オチにも程があるタイトル。


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第二十六話:0079/06/09 マ・クベ(偽)のMS教室

お気に入り一万件突破有り難うございます投稿。


イタリア半島攻略作戦、通称トライデント作戦発動まで3日となり、ここオデッサも緊張した空気が漂っている。ウチを拠点としている幾つかの部隊も参加するので、このあたりは仕方の無い事だろう。ところで、三方から攻め込むからトライデント作戦らしいんだけど、そんな名が体を表す作戦名で大丈夫なんだろうか。情報部の防諜に一抹の不安を感じている身としては、もうちょっと解りにくい名前にして欲しいものである。

 

「転換訓練が終わったばかりの205大隊も参加か、全員無事帰ってきて欲しいものだな」

 

確認用のリストを眺めながらそう言えば、エイミー少尉が驚いた顔をしていた。なんぞ?

 

「あ、いえ、その。大佐でもそのようなことを仰るんだなぁと…」

 

何気に失礼なこと言うね、この子。

 

「当然だろう。彼らを一人前にするのに幾ら掛かっていると思う?…と言うことにしておいてくれたまえ、指揮官が見知った兵の死が堪えるなどと知れたら士気に関わる」

 

ドズル中将くらい真っ直ぐな人柄なら素直に好感を抱いて貰えるかもしれんが、マさんはどう見ても陰謀家ムーブなので、気の弱いただの軟弱者としか捉えられないだろう。そんな奴に命を預けて戦うなんてのは、俺だったら嫌だ。

俺の言葉にウラガンとエイミー少尉が微妙な顔で見つめ合っていたが、なにが言いたかったんだろう。つうかなに、いつの間にそんな視線で通じ合う仲になってんの?オフィスラブなの?

なんか微妙な空気を感じたので執務を切り上げて、今日は早めに日課に移ることにした。

 

「今日の書類は終わったようだな、では私はハンガーに行ってくる。何かあったら直ぐ呼び出すように」

 

そう言えば、二人は敬礼で見送ってくれた。執務室を退出するまでは我慢したが、廊下に出たら我慢しきれず俺は早足でハンガーへ向かった。

 

「やあ、中尉。今日も使わせてもらうよ」

 

責任者であるシゲル・チバ中尉にそう声を掛け、いそいそとシミュレーターに併設された簡易更衣室に入った。あれね、パイロットスーツ着て戦場の絆出来るとかもう贅沢の極みだよね。

 

「今日もバッチリです、大佐。存分にお使い下さい」

 

「有り難う、中尉」

 

更衣室から出れば、チェックと立ち上げをしてくれたのだろう、シゲル中尉が良い笑顔でサムズアップしてくる。そういやウチの基地タカミ中尉といいゲンザブロウ氏といいなにげに東洋系が多いな。なんか怪しい力でも働いてるんじゃろか、ガンダムって結構オカルトだし。

そんなしょうも無い事を考えながら敬礼を返しシミュレーターに座れば、早速幾つかのチャンネルが出来ていた。そう、俺の最近の日課は、こうして現職のパイロット達に交じって戦場の絆を楽しむことなのだ。実は随分前からネットワークには繋げてもらっていたが、流石に遊び感覚の俺が居るのは拙いと考え自粛していたのだ。ところが、先日のシーマ少佐との一件以来、むしろ参加して欲しいとの要望が多く来たので、晴れてデビューした次第である。ちなみに現在の戦績はサシなら無敗記録更新中、集団戦はシーマ少佐の率いる海兵隊に3対4で負け越し中、鍛えねば。

 

『お疲れ様です、大佐。宜しければ一手ご指南ください』

 

何処に入ろうか悩んでいたら、向こうから声を掛けられた。ふふふ、私は一向に構わんっ!

 

「承知した、ではシチュエーションはそちらに任せよう。よろしく頼む、トップ少尉」

 

 

 

 

「よう、アス。お前今日も行くだろ?」

 

そうアス・レジネット伍長に声を掛けてきたのは、同時期にドムを受領した同僚の伍長だった。所属している小隊こそ違うが、階級が同じで年も近いこともあり、基地内では良くつるんでいる。女だてらに少尉の隊長と真面目が服を着たような年上の軍曹と、あまり上手くいっていなかった事も無関係ではないが。

 

「おお、今日こそ撃墜だ」

 

実は今基地内では密かにある賭け事が流行っていた。それは、ここの所毎日のようにシミュレーターに参加している基地司令を誰が撃墜するか、というものである。

集団戦の方は既に海兵隊が土を付けているが、その内容は殆どの場合2個小隊以上の戦闘で、制圧や防衛といったシチュエーションでの勝利であり、未だに基地司令は撃墜されていない。おかげで賭け金は随分と貯まっており、撃墜したパイロットにはちょっとしたボーナス並みの報酬が約束されている。そして、撃墜の最有力候補がアス達のようなホバー機への転換組なのであった。

 

(まあ、最近はそんなことどうでも良いんだがな)

 

嘯いては見せたが、少し前からアスは大佐の撃墜にこそ拘るものの、賭け自体はどうでも良くなっていた。その変化は、間違いなくあの初めての対戦以来だろう。

アスは実のところ、未だに実戦を経験していない新兵だ。

降下作戦後の拡張作戦で欠員の出た2083小隊へ補充されたのがアスだ。ルウムからのベテランであるデル軍曹や、降下作戦に従事したトップ少尉とはどこか壁を感じていた頃、あの大佐と少佐の模擬戦を見た。

 

「なんでぇ、海兵隊なんて言ってもだらしねえでやんの」

 

自分ならもっと上手くやれる。薄ら笑いを貼り付けながらそう嘯いていたら、それを証明する機会はすぐ翌日に訪れた。

結果は手も足も出ずに、正しく完敗。後でログを見てみればたった一発のバズーカで仕留められていたと解る。それは、今までアスが持っていたプライドをへし折るには十分すぎる内容だった。

その頃アスは本国でのパイロット課程において、優秀な成績を修めていた。だから重力戦線に配属されたし、回された先もザクⅠや宇宙用を転用したような数合わせではなくJ型を装備した主力だった。

間違いなく、増長していたのだとアスは苦笑交じりに思い返す。部隊で一番状態が良いザクが回されるのは自分が最も戦力として頼りになるからだと考えていたし、不足した分として自機をザクⅠにしたトップ少尉を腕に自信が無いのだと密かに馬鹿にしていた。その後直ぐに隊がホバー機へ転換された時も、自分が優秀だからだと信じていた。

実際には大間違いだった訳だが。

状態が良い機体を優先して回されたのは、自分が未熟で、機体に不具合が出たときにフォロー出来ないから。トップ少尉がザクⅠに乗ったのも連携すればその程度の機体性能差を埋められるという判断から。何のことはない、自分は期待されていたのではなく、お荷物だと認識されていたのだ。それは個人戦の戦闘時間という、言い訳のしようのない結果として表れた。もしあの時、大佐の言葉がなければ自分はどうなっていただろう。

 

「3番機が最もホバーを扱えているが、経験が足りないな」

 

それは対戦後の何気ない感想。

 

「それぞれが、それぞれの足りないところを持っている。良いチームになるな」

 

それを聞いたとき、ふて腐れ掛けていたアスは自分の視界が晴れ渡るような感覚を覚えた。

そうだ、俺は何と戦っているんだ。そう思えば行動は早かった。今までの態度を詫び、トップ少尉に、デル軍曹に教えを請う。自分でも虫の良いことを言っている自覚はあったが、それでも笑って許し、知識や技術を教えてくれる二人に感謝を覚えた。

そうしてみるとそれまで感じていた壁なんてものは自分が勝手に作り上げていた虚構だと解ったし、優秀な二人を素直に尊敬すると同時に、自然と敬意を払うようになった。

変化はそれだけではない。なぜなら今アスは二人にホバー機の動作について教えを請われ、持論を教えているからだ。斜に構えた態度も、虚勢も、まして誰彼構わず粗暴な行動を取る必要も無い。なぜならアスは素晴らしい仲間に恵まれ、そしてその仲間に確かに認められているのだから。

 

 

 

 

そろそろ、1対3はいじめだと気付いて欲しい。

訓練は大抵1小隊単位か個人、多いとどっかの小隊同士の集団に交ぜてもらうのだが、ここの所のトレンドは個人戦だ。なのだが、何故かトップ少尉率いる2083小隊は小隊対俺の対戦を好み、自分たちの持ち分を全てこの形式で要求してくる。ちなみに何故か俺との対戦は人気があるらしく、対戦待ちまで現れ始めたので1小隊につき3回、個人であれば1日1回と限定している。それでも対戦出来ない面子が居るという現状に、少し俺は引いている。

なに、皆そんなに俺のこと撃ちたいの?

 

『ぬぁぁぁ!今日もダメだったぁ!』

 

モニター越しに絶叫しているのはアス伍長だ。トップ少尉の所に配属されている新兵さんだが、相性が良いのかドムの扱いが上手い。初見こそワンショットキルとかキメてやったんだが、ここの所どんどん動きが良くなっている。というか、どうもこの小隊、それぞれ意見交換しながら教え合っているらしく、どんどんクレバーさに磨きが掛かっているのだ。

最初はトップ少尉が指示を出して、アス伍長が好き勝手動いて、デル軍曹がフォローする、みたいなどこにでも居るような小隊だったのだが、最近では全員がトップ少尉並に地形を利用してくるし、アス伍長並にドムを扱っている、それでいて戦闘の駆け引きはデル軍曹のように手慣れてきていると中々始末に負えない。それでも最初は司令塔のトップ少尉を撃破すれば動きが乱れたのだが、ここ数日は指揮官をスイッチするということまでしだしたため、誰を倒しても連携が崩れない。これ、ケッテだけじゃなくロッテの訓練も相当してやがるな。

 

「欲をかいたな、アス伍長。あそこは味方の到着を待ったほうが確実だ」

 

単純な技量だけならそろそろ負けてもおかしくない奴がちらほら居るんだが、さすがはマさんの脳みそ。今回の模擬戦で言えば、バズーカが動作不良を起こしたように見せかけて、それに釣られて踏み込んできたアス機へバズーカを投げつけマシンガンでもろとも撃って爆風に巻き込み、カメラがホワイトアウトしている隙を突いてヒートサーベルで仕留めた。後は装備を奪って背後を取るために別れていたデル軍曹と二人をカバーできるよう高台に移動していたトップ少尉をそれぞれ各個撃破して勝利である。

 

「トップ少尉、気持ちは解らんでもないが狭い高台ではドムの機動性が殺されてしまう。ドムの速度ならギリギリまで待った方が賢明だったな」

 

『あの位置で狙撃し返されるなんて普通は想定しませんよ。と言うよりなんであの距離を初弾で当てられるんですか』

 

苦笑交じりにトップ少尉が反論してきた。ふふん、凄かろう、だが俺の腕ではないぞ。

 

「デル軍曹のマゼラトップ砲は調整が優秀だからな。私じゃなくてもあの砲なら誰でも当てられるだろう」

 

ちなみにマゼラトップ砲はマークスマンライフルの代わりに一部手直しをして運用している。最初は対艦ライフルを使おうと考えていたんだけど、既に地上にも弾薬の製造拠点があって、補充が容易な方が良かろうと思ってこちらにしている。重量があって反動を押さえやすいせいか、ドムパイロットの皆さんにはバズーカより便利と中々に好評である。

 

『お褒め頂き恐縮ですが、それで味方がやられては素直に喜べませんなぁ』

 

笑いながら帽子を脱いで頭をかくデル軍曹。そうね、ちょっとそのあたりは考えないとかも。

 

「うん、今後連邦がMSを投入してくれば、そうした事態も起こりうるな。何か対策できないか技術部に相談してみよう」

 

その後、一言二言交わした後、チャンネルを切ると、次の対戦待ちのコールが即座に鳴り響いた。俺、恨まれたりしてないよな?




何か記念の短いのとかも考えておきます。(書くとは言っていない)
今後ともよろしくお願いします。


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第二十七話:0079/06/12 マ・クベ(偽)と燃える長靴

いつもお読みいただきありがとうございます。
なんか、結構高評価いただいているみたいで、感謝の言葉もありません。
何とか完結できるよう頑張りますので今後ともよろしくお願いいたします。
この先全然ノープランなんですけどね!


「作戦開始1分前、時計合わせ、50、49、48…」

 

緊張から、喉の渇きを覚え水差しに手を伸ばした。いよいよ欧州攻略の大規模作戦、トライデント作戦が始まる。作戦の流れそのものは実に単純。アルプスを北壁にしてイタリア半島を北部の陸路、アドリア海を通り抜ける空路、そして地中海から南端へと上陸する海路の3方向から襲う。イタリア半島を落としたら、陸軍はそのまま西進しニースまでを確保、エクラン国立公園からニースまでに防衛線を構築し、その間に空軍の空爆でマルセイユの港湾機能を停止させる。そしてティレニア海の制海権を奪取している間にバレンシアへ上陸、橋頭堡を築き敵戦力を誘引したところで、ジオンのお家芸であるHLVによる衛星軌道降下で拠点制圧を行なう。この軌道降下にはシーマ少佐が参加を志願してくれた。

 

「ドムの宣伝としてはこれ以上無い舞台でしょう?」

 

つまり部隊分のドム用意しろって事ですねワカリマス。まあ、ドム自体は既に欧州戦線各所に配備されては居るんだが、実は国民向けにはまだ紹介されていない。欧州攻略の決定打とセットとか、さぞかし宣伝省にしてみれば美味しいネタだろう。これでツィマッドの株価でも上がれば一応罪滅ぼしにはなるかもしんない。

イベリア半島、というよりジブラルタルまでを落とすのが今回の作戦だ。いやあ、自分で提案しといてなんだけど、こんな壮大な作戦上手くいくのか不安になってきた。

 

「上手くいくでしょうか?」

 

時計を見つめながらエイミー少尉が呟いた。

 

「その為に準備をしました」

 

端末の資料を確認しながらウラガンが応える。その口調は普段と変わらない、なんて鋼のメンタルなんだ。

 

「物事に絶対はない。だがそれでもあえて言おう、この作戦は必ず成功する」

 

そう俺は言い切った。戦争、というより軍事行動はそもそも戦う前にどれだけ情報を正確に集めたか、そしてそれに従いどれだけ勝つ準備が出来たかで決まる。その意味では、今回の作戦は俺の知識というチートのおかげで史実よりも遙かに充実した状況で迎えられている。史実でも成功していたのだから、はっきり言って今回はイージーモードである…そのはずだ。内心ビクビクしているのだが、ここから先、俺が出来るのは精々物資を滞りなく送るくらいであり、今更オタオタしたところでもうどうにもならない。ならば、不貞不貞しい陰謀家を演じて少しでも周囲の不安を減らすのが俺に出来る最善だろう。

 

「3、2、1…作戦開始!」

 

「始まりましたなぁ」

 

司令室に置かれた自分の机に座って紅茶を楽しんでいたシーマ少佐が目を細めながらそう呟いた。ちっくしょう、俺が言いたかったセリフなのに!

 

「ああ、事前の連絡では地中海艦隊はスエズに張り付いたままだそうだ。デトローフ中尉達には楽をさせてやれそうだよ」

 

「楽をしすぎて鈍らないか心配ですよ」

 

「それは困ったな、幾ら私でも敵を増やすことは出来ないぞ?」

 

「これは凄い発見ですね、大佐にも出来ないことがあったとは」

 

シーマ少佐のおどけた台詞で司令室に笑い声が響いた。流石シーマ様、兵士の扱いを心得ていらっしゃる。

 

「少佐は私をなんだと思っているのかね。それから諸君、笑いたければ堂々と笑いたまえ。作戦は長い、だらけろとは言えないが張り詰めていては保たないぞ?」

 

そう言えば、皆が笑いながら了解の返事と敬礼をしてくれる。俺は本当に部下に恵まれてるなあ。

 

 

 

 

こちらの発言の意図を直ぐに察し、望んだ答えをさらりと言ってのける上司を見て、シーマは思わず頬を緩めた。全く、この大佐は何処までも出来る男だ。先日だって、イベリア半島への降下に使えないかと自分の小隊分のドムを強請ったら、何故か降下する海兵隊全員分のドムが支給された。既にチェックを済ませてHLVに積み込み終わっており、第二段階であるマルセイユ空爆が終わり次第、シーマ自身も乗り込んで軌道上で補給部隊と合流後、ジブラルタルへ再突入を行なう予定だ。

そんなスケジュールを反芻しながら件の大佐へ視線を送れば、しきりに水差しへと手を伸ばして居ることに気がついた。

 

(ははっ、流石に緊張してるかい)

 

人の評判など当てにならないものだ。大佐を見ているとつくづくそうだとシーマは思う。兵の気持ちなど解らない陰険な政治屋気取り。無頼だと言われる自分たちにすら対等に接し、己の不安で兵が動揺しないよう道化すら演じてみせる目の前の男が、どう伝わればそんな評価になるのかシーマは不思議でならなかった。

 

 

 

 

よく考えたら、ここで眺めててもする事ねえな。

水飲んだら少し冷静になってきて気付いてしまった。別に俺が指揮してる訳じゃないし、物資輸送とかの都合上指揮所要員には詰めて貰ってるけど、俺居る意味ねえや。かっこつけた手前どうしようかと悩んで周囲を見回したら、シーマ少佐は面白そうにこっち見てるし、ウラガンは一瞬視線が合ったが直ぐに逸らされた。ヤロウこの事に気付いてたな!?ちなみにエイミー少尉は俺の動きに不思議そうな顔を浮かべている、間違いなくこの子天然だ。

うん、ここに居るくらいなら鉱夫の求人書類でも作ってる方が遙かに価値があるな。

 

「よし、格好もつけたことだし私は仕事に戻る。ウラガン、すまないがここは任せる」

 

意を決して口にしたら、シーマ少佐が腹を抱えて笑いやがった。やめて!マの心の耐久度はとっくにゼロなのよ!

 

「承知しました」

 

「佐官が一人も居ないのはマズイでしょうから、一応私はここに居ますよ、大佐」

 

まだちょっと笑いながら、紅茶を片手にそう言ってくるシーマ少佐。まあ、なんだかんだ言って自分の手の届かないところで部下が戦っているから心配なんだろう。つくづく姉御肌なシーマ様である。俺は黙って頷いて、そそくさと執務室に逃げ帰るのであった。

 

 

「それで私と世間話ですか?」

 

そう言って画面越しに苦笑しているのはギニアス少将だ。どうでも良いけど完全に敬語で喋っちゃってるけど良いのかな、後で通話ログ聞いたどっかの忠臣職業軍人に襲われたりせんじゃろか。

 

「情報の共有は大事ですよ、少将。それにこれは世間話ではありません、我が軍の貴重な新兵器開発に関する意見交換です」

 

そう言う事にしておいて。そうお願いすれば、苦笑を深めて了承してくれるギニアス少将。ただ、断っておくけど会話の内容は殆ど先日送ったアッザムのデータについての質疑応答なので、俺の言い分もあながち間違ってないと思う。まあ、技術者の会話なんてプライベートでも50%以上仕事の話だから仕方ないね。後は何かって?30%が女の話で20%が趣味の話だな(偏見)

 

「データは拝見しました。いやはや、あの玩具をよくぞあそこまで引き上げたものです」

 

MA開発って事で元のアッザムやザクレロなんかのデータも閲覧済みだったらしく、俺がミノフスキークラフト搭載MAの試験データあげるよーって送ったときは微妙な顔してた。見た後の現在は随分評価が変わったようだが。まあ、稼働時間だけ見ても単独で1日以上の飛行可能、かつ高度10000mでマッハ4とかだから、最初のアレに比べれば随分足が延びたし速くなった。正直ジオン驚異のメカニズムすぎて引いている。

 

「だが、少将の考える到達点にたどり着くことはあの機体では不可能、ですかな?」

 

「敵いませんね」

 

まあ、ちょっと考えれば解るよね。単純な大気圏内での飛行を考えれば、態々ミノフスキークラフトなんて大仰なものは必要ない。しかも浮遊だけで無く推進器にまで使用すると言うのは、はっきり言って無駄である。

では何故そんなものを作るかと言えば、恐らく連邦が思い描いていたシナリオ、つまり宇宙空間を経由する弾道飛行で地球上のあらゆる位置に迎撃不能な速度でメガ粒子砲を送り込もうと言う訳だろう。多分、史実のアレは本当は完成途中で、起動出来る最低限の突貫工事だったんじゃなかろうか。何せあんなもんがふよふよ浮いててもただの良い的になるのが関の山だからだ。そもそもアプサラスⅡまでは高速での飛行試験を主眼にテストされているところを見れば、あの動きは明らかに意図していた運用とは違うだろう。

 

「弾道飛行となればジェットエンジンは使えませんからなぁ」

 

「かといってロケット推進はプロペラントの問題が付きまといます。十分な稼働時間を考えると最低でも巡洋艦クラスのサイズになってしまう」

 

その問題を解決するのが電力供給のみでほぼ無制限の飛行が可能なミノフスキークラフトなんだけども。

 

「雑な方法で良ければ、まあ手がない訳ではないのですが」

 

「雑?」

 

「ええ、仮にの話ですが。浮遊と姿勢制御のみに割り切れば試験機のミノフスキークラフトはどの程度のサイズになりますか?」

 

俺の言葉に少し考え込みながら、真面目に答えてくれるギニアス少将。

 

「それならば現状の半分以下、少なくともアッザムに搭載したものより小型化出来るでしょう」

 

マジか、この天才ちょっと凄すぎない?

 

「であれば、空いた容積にジェネレーターとジェットエンジンを積み込めば大気圏内の飛行はクリアできます」

 

おっと、それはお前のアッザムで解ってるよって顔ですね。まあ待ちなさいな。

 

「ちなみにですがギニアス少将、弾道飛行は連続で行なうのですか?」

 

「いや、そんな予定は…」

 

その否定で気付いた顔になるギニアス少将。ほんと、天才とか話が早くて助かるわ。

 

「ほら、雑な方法でしょう?」

 

そう言えば、苦笑しつつ少将は口を開いた。

 

「確かに。けれど実に現実的だ。正に大佐らしい提案ですね」

 

その言葉につい俺も苦笑してしまう。

 

「褒め言葉として受け取っておきます。では少将、せいぜい連邦に泡を吹かせてやって頂きたい」

 

「完成しましたら必ず貴方にも進呈しますよ。ユーリよりは大事に使ってくれそうですしね」

 

それは確かに、なんて言ってからは和やかな世間話が続き、ポットの紅茶が無くなったころウラガンが重苦しい表情で入室してきた。あ、これ絶対悪い知らせだ。

 

「大佐、友軍第一陣がイタリア半島に侵入致しました。北部の部隊は優勢に事を進めておりますが…」

 

そこまで言って言いよどむウラガン、止めてよ、聞きたくなくなるじゃん!

 

「空挺部隊に甚大な被害が出ているとのことです。ガウの3割が未帰還だそうです」

 

それ、ダメじゃん!




マッハ4は正直やりすぎたかなと思う、けど木馬がマッハ12とか言ってるし許してほしい!
ぜんぶミノフスキーの仕業なんだ。


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第二十八話:0079/06/12 マ・クベ(偽)と攻撃空母

累計UA100万超えちゃったよ投稿。
正直びびっています。


攻撃空母って不思議な名前だよね、攻撃しない空母ってあるんじゃろか?とか現実逃避しても渡された書類の数字は変わらない。出撃したガウ15機の内、実に4機が撃墜され、1機が被弾を告げて撤退したものの、未だ基地に戻っていない。恐らく途中で墜落したか、敵の航空機に墜とされただろうとのこと。実に幸先の悪いスタートである。マルタ島の空軍を完全に押さえ込んで制空権は確保できている筈だったので、この損害は完全に予想外だった。

不幸中の幸いは、どの機体もMSが降下し終えて空荷だったことと、墜落までかなり時間があったので、位置が不明な1機を除き恐らくかなりの人数が脱出しただろうと言うことだ。早速基地から救出部隊が出撃するらしいけど。

 

「ウラガン、救出機は確か…」

 

「はい、ファットアンクルです」

 

絶対ミイラ取りがミイラになるパターンだこれ。

 

「ウラガン、すまないがジョーイ技師とヴェルナー少尉を呼んでくれないか?」

 

「使うのですか?」

 

「全部しっかり整えて送り出したい、と言うのが本音だがね。仕方あるまい」

 

ただ、どちらかが無理だと言ったら諦めて別の方法を考える、そのつもりだったんだけど。

 

 

「問題ねえ」

 

「やりましょう」

 

「やらせて下さい!」

 

なぜか一緒に来たタカミ中尉まで鼻息荒く賛成してきた。え?つうかなんでタカミ中尉が居るの?

 

「アッザムは三人乗りですから。データ収集もかねて私と中尉も同乗してるんですよ」

 

最近報告書がいやに主観的だなあと思ってたらそう言う事か!?

ちなみにヴェルナー少尉がドライバー兼ガンナー、タカミ中尉がコマンダー兼サブガンナー、ジョーイ技師がオペレーター兼サブガンナーなんだって。ちがう、そこは重要じゃ無い。

 

「成程、つまり三人は実戦に耐えうると判断しているのだね?」

 

深く頷く三人に深く呼吸をした後、結論を告げる。

 

「解った。直ぐに出撃準備を。ウラガン、フライトプランを司令部に出しておいてくれ」

 

そう言って立ち上がると全員が怪訝そうな顔をした。どうかしたん?

 

「…失礼ですが。大佐、どちらにお出かけですか?」

 

え?

 

「ジョーイ技師は民間人だぞ?戦場に出す訳にはいかん。ならば一人分何処かから補わねばなるまい?」

 

なに当たり前のこと言ってんのさ。

 

 

 

 

こちらの疑問に対し、何故そんな質問をするのか。とでも言いたげに不思議そうな表情を浮かべる大佐に、ウラガンを含め、その場に居た全員が思わず絶句した。

 

「危険です大佐!」

 

「無茶を言わないで下さい!?」

 

悲鳴に近い否定の声を上げたのはエイミー少尉とタカミ中尉だ。自分も全くもって同感なのだが、困ったことに大佐を思いとどまらせる良い案が思い浮かばない。

 

「聞いていなかったのか、少尉?三人は先ほど実戦に耐えられると自信を持って言ったのだぞ。ならばそこに危険は無い。それからタカミ中尉、無茶と言うが民間人に戦闘行為をさせることの方が余程無茶苦茶だ。ジョーイ技師は南極条約の適用外なのだぞ」

 

即座に反論され言葉に詰まる二人に、ウラガンは小さく息を吐いた。相手はあの大佐だぞ、もっと頭を使って喋らねば止められない。

 

「基地司令が前線に出る方がよっぽど無茶じゃないですかい?」

 

「人手不足の悲しい所だな。残念だが大佐で前線に出ている連中はゴロゴロ居る。それに今基地で君たちを除けばアッザムに最も通じているのは私だ」

 

これで、階級を盾にするのと代わりの人員を出す案まで封じられてしまった。

 

「き、基地の運営はどうするのです!?」

 

「ちょっと行って直ぐ帰ってくる。それに2~3日空けてもウチの副官は優秀なのだよ、だろう?ウラガン」

 

「…はい、問題ありません」

 

やられた、ウラガンは周囲の視線で確信する。今の受け答えは内容的には数日間大佐が居なくても基地が運営出来るかという質問だ。その内容に対してのウラガンの答えは間違いなく発したとおりなのだが、会話の流れからすれば別の意味に捉えられる、今自分は大佐の出撃に賛成していると皆は認識してしまった。上手く止めるためにそれまで発言していなかったのも完全に裏目だ。事実皆自分から視線を外し必死で止めようと言いつのっているが、自分に意見を求める者は居ない。

 

「さて、議論も良いが私は命じたと記憶しているが?早くアッザムの出撃準備に入りたまえ」

 

反論を口にする前に会話を締められてしまう。この時ばかりは上官の有能さが恨めしいと感じてしまうウラガンだった。

 

 

 

 

渋々、という態度を全身で表しながら皆自分の作業に散っていく。残っているのはウラガンだけだ。

 

「私は反対です。大佐」

 

だろうね、ごめんよ。

 

「解っている、今回だけだ。直ぐMAのパイロット候補生を陳情する。だから見逃してくれ」

 

そう言っても晴れない副官の顔に罪悪感が募る。こんな俺をウラガンは本気で心配してくれているのだ。こんな偽物の俺を。思わず涙ぐみそうになりながら、努めて明るい声で言う。

 

「それにな、今回の件は大凡解っているんだ。だから危険は少ないし、対策も考えている。それにだ、今後もガウによる空挺降下は頻発するだろう。だからこそ貴重な搭乗員をこんな所で失う訳にはいかん」

 

だから、今回のリスクだけは許して欲しい。それでも晴れない副官の顔に、仕方なく切り札を使うことにする。

 

「大体だな、あれはキシリア様から私が名指しで頂いた物だ。随分アレンジしてしまったが、それでも一度も乗らずに部下に渡したとあっては、心証が悪すぎる。キシリア様に見捨てられてみろ、今度はアステロイドベルトに飛ばされても不思議じゃ無いぞ?」

 

そこまで言いつのると、ウラガンは漸く苦笑で顔をゆがめた。

 

「確かに、アステロイドベルトは嫌ですな。今更穴掘りだけの補佐では退屈してしまいそうです」

 

だろう?と笑い合って背を向ける。俺もパイロットスーツくらい着ておこう、アレにはサバイバルキットとか付いてるし。一応、一応ね?

そんなことを考えながら部屋から出れば、後ろからウラガンが声を掛けてきた。

 

「必ずお戻り下さい。私は貴方の副官以外やるつもりはありません」

 

俺は本当に良い部下に恵まれたと思う。

 

 

「まったく、本当に無茶苦茶な人だな、大佐」

 

コックピットに収まってしまえば腹も据わるのか、むしろ愉快そうな声音でヴェルナー少尉が話しかけてきた。いやいや、俺なんて大した事無いっすよ。つうかお前が言うなと声を大にして言いたい。

 

「無茶でも無いぞ少尉。今回の目的は高射砲陣地の破壊だからな、今居る戦力で最もリスク無く対処できるのがこのアッザムだった。それだけのことさ」

 

恐らく艦載用のメガ粒子砲あたりを転用した対大型爆撃機用の高射砲だ。確かガウ対策に北米や欧州で使われた奴だと思う。攻勢が遅れたのでイタリアやイベリアに建設が間に合ってしまったのだろう。これを今潰しておかないと連鎖して海兵隊まで孤立してしまう。

本当はヒルドルブで耕してしまうのが簡単なんだが、北部の戦力を拘束するために出払ってしまっている。後はマゼラアタック位だが残念ながら運ぶ方法が無い。

 

「しかし、高射砲と解っていて空から襲撃を掛けようと言うのですから、大胆だとは思いますよ」

 

各砲をチェックしながらそうタカミ中尉が苦笑した。でもあれは大型爆撃機、言ってしまえば対ガウに特化した砲台だから、今のアッザムなら全然いけると思うんだよね。相手もまさか超低空をマッハ超えでメガ粒子砲が突っ込んでくるとは思うまい。

 

「むしろアッザムには物足りない相手だと思うがね、まあ初陣ならそのくらいの方がかえっていいだろう」

 

それこそ初陣でどっかの白い悪魔とエンゲージなぞしたら有無を言わさずぶっ壊されかねんし。

 

「外観チェッククリアです。大佐、無事に帰ってきて下さいよ!」

 

最後まで機体の外周をぐるぐる回っていたジョーイ君から通信が入った。皆心配性だなあ。

 

「安心してくれ、ジョーイ技師。ヴェルナー少尉の腕は知っているだろう?機体には傷一つつかんさ」

 

「機体なんてどうでも良いから大佐が無事に帰ってきて下さい!いいですか!絶対ですよ!?」

 

「…了解した、必ず無傷で帰ってこよう」

 

ちょっと目頭が熱くなっちゃったじゃないか。全てのチェックを終えたことを確認し、ヴェルナー少尉へ向けて発進の合図をだすと、ヴェルナー少尉が不敵に笑った。

 

「任せてくれよ、大佐。クルーザー並みの快適な旅を約束するぜ…エントリィィィ!」

 

途端とてつもないGが体に掛かり、俺は意識が遠のく。それは口癖なのかとか、快適の意味を辞書で調べろとか、さっきまでの感動を返せとか走馬灯のように言いたいことが並んだが、結局何も言えないまま俺は意識を手放した。




段々ウラガンがヒロインなんじゃ無いかと作者も混乱してきました。


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第二十九話:0079/06/12 マ・クベ(偽)の出撃

年間ランキングトップ10到達記念。
いつもお読み頂き有り難うございます。
作者の考えているアッザム()はブラン(ビグロもどき)の手が無くなってバスターランチャーが吊された形を想像しています…アッザム?


「糞っ、随分手前で降りたぞ。死んでる馬鹿は居ないな!居たら返事をしろ!」

 

アルトゥール・レンチェフ少尉は、苛立たしげにマシンガンを放ちながら叫んだ。

 

「死んだら答えられませんよ、少尉。取り敢えず我々の隊は全員無事です」

 

溜息交じりの返事をしながら横に並んだマニング軍曹のグフⅡがジャイアントバズを放つと、先ほどから煩く射撃を繰り返していたトーチカが沈黙した。暫く警戒していたが、完全に沈黙している事を確認すると、構えていた盾を降ろしながら吐き捨てるようにアルトゥール少尉が口を開いた。

 

「アースノイド共が、調子に乗りやがって。おい、軍曹、伍長、我々の隊は前進してあの高射砲を叩くぞ」

 

「ま、待って下さい、少尉。墜落したガウから脱出ポッドが出るのを見ました。彼らの保護が優先では?」

 

慌てて意見具申する伍長に対し、アルトゥールは少し苛立ちを覚えながらも持論を話す。

 

「伍長いいか。ガウが墜落したことはもう司令部に伝わっている筈だ、救助部隊だって直ぐ来るだろう。その時に脅威になるアレは排除せねばならん、違うか?」

 

「し、しかし。まともな自衛手段の無い友軍を敵中に孤立させるのは危険では…」

 

その言葉にそれまで黙っていたイーライ・マニング軍曹が口を開いた。

 

「伍長、確かに我々は敵中に居る。しかし敵も戦力を北部の友軍に拘束され余裕は無い。だから優先して排除したいのは無力化したガウの搭乗員より我々無傷のMS部隊だ、私たちが暴れている限りは向こうも無事だろう」

 

だとしても、小隊だけであの高射砲陣地に挑むのは無謀だが。と付け加えるイーライ軍曹。

 

「俺たちに与えられた任務はあの高射砲陣地があるペルージア市の確保だ。他の隊の連中だって制圧のために向かっているだろう。ならばここでウダウダしているよりも前進した方が味方とも合流できる。ここに居てもミノフスキー粒子で通信もできんしな」

 

更にはっきり言ってしまえば、ペルージア市制圧後に補給を受けられる予定だったため、手持ちの弾薬が心許ないこともアルトゥールの懸念材料だった。自身とイーライ軍曹はともかく、接近戦の不得手な伍長は弾切れを起こせば負担が大きいからだ。

 

「とにかく移動…ん?なんだ?」

 

前進を促し掛けたところで赤外線センサーが高速で接近する巨大な熱源を感知した。

 

「全機散開!隠れろ!」

 

正体不明の何かに出遭うなどという不幸にうなり声を上げながらも、短く指示を飛ばす。

センサーを見れば東の方向から何か飛行物体が高速で接近しているようだ。

 

「一体何だってんだ」

 

「かなり大きい…それに凄い速度です!」

 

センサーの扱いに長けた伍長が動揺しながらもそう伝えてきた。尤も、正確な数字はどちらも解らないので、あまり意味が無かったが。

息を殺していたのはほんの30秒程度、みるみる近づいたそれは、速度を緩めること無く自分たちの頭上を通り抜けていく。そのあまりの巨大さと速度に、思わず口を開けてアルトゥールは何の指示も出せないまま見送ってしまった。

 

「なんだ、ありゃあ?」

 

「解りません。が、味方ではあるようです」

 

そう言って軍曹から送られてきた静止映像にははっきりとジオンのエンブレムが映されていた。

 

「あ、あの、聞いたことがあります。オデッサで新型の飛行兵器を開発していて、それが数日前試験飛行をしていたって」

 

慌てた様子で言いつのる伍長の言葉に、思わず軍曹とモニター越しに顔を見合わせたアルトゥールは、直ぐに決断した。

 

「なら急がんとな、どう考えてもアレはペルージアを目指していた」

 

今度は誰も反対しなかった。

 

 

 

 

気がつけばアドリア海上空でした。高度10mでも空の上なのは間違いないだろう。モニターに映し出される海面がすっごい近い上にやたらと上昇警報が鳴っている。ああ、この警報音がうるさくて目が覚めたのか。

 

「海面が、近いんだが。少尉」

 

「おお、お目覚めですかい、大佐。後1分くらいで着きますぜ」

 

もっと早く起こせよ!?じゃねえ、だから海面が近いんだよ!?

 

「そろそろ中尉も起こしてやって下さい。三十秒もしないでガウの撃墜ポイントを通過しますぜ」

 

その言葉に横で幸せそうに白目を剥いているタカミ中尉を揺すって起こす。俺の周りはギリギリまで言わない連中ばっかりだな!

 

「主砲メガ粒子砲、チャージ開始、ジョイントロック解除、FCS同期確認、トリガーロック解除」

 

そのままの速度でイタリア半島上空に突っ込む。一瞬見えた閑静な町並みは今頃酷いことになっているだろう。尤も目の前に迫り来る山脈に意識が行き過ぎていてそんなことに憐憫を感じる暇も無かったが。

 

「見えたぁ!大漁だぜぇぇ!」

 

アペニン山脈から飛び出せば、けたたましいレーザーロック警報と共に視界が180度回転する。と、先ほどまで機体があった辺りをぶっといビームが通り過ぎていった。同時にこちらからもビームが放たれ、不格好にそそり立っていた砲台が一つ吹き飛んだ。なんで撃たれたって解る?なんで回避行動中に当てられる?やっぱこいつニュータイプなんじゃねえの!?

 

「吹っ飛べ!」

 

隣では口角をつり上げたタカミ中尉が砲台への接近と同時に175ミリ連装砲2基から砲弾を景気よくばらまいた。搭載弾頭が対空用の散弾だったので倒壊させるまではいかなかったが、明らかに黒煙を噴き出し動作停止に追い込んでいる。貴方確か技術中尉じゃありませんでしたっけ!?

 

「大佐!迎撃機が上がってきます!対空防御!」

 

引き続きトリガーハッピーしている中尉が鋭く叫んだ。

 

「あ、はい」

 

あっれぇ、俺一番階級上だよな?なんて思いながら、割り振られていた4連装30ミリ機関砲のガンカメラをのぞき込み、慌てた様子で上がってきたTINコッドへ射撃を行なう。一昨日見ていたドップⅡとの対空演習の時みたいな異次元な動きでは無く、単調な直線運動だったので当てるのは非常に簡単だった。

 

「主砲冷却完了、もういっちょいくぜぇ!」

 

近くの人間がすっごいハイテンションだと妙に冷静になっちゃう事って無いかな。今正に俺がそれ。かっこつけて乗ったけど、うん、この二人居れば十分だったんじゃね?

交戦時間僅か3分。高射砲陣地を潰した俺たちは、追撃も受けず悠々と飛び去ったのだった。

 

 

 

 

後にジオン軍の新兵器として知られる事となるそのMAとの邂逅は、ペルージアの防衛を指示されていた連邦軍にとって、正に悪夢と呼ぶに相応しい被害だった。僅か3分の交戦後にもたらされた被害状況に、思わず指揮官であった大尉はうなり声と共に言葉を洩らす。

 

「6基のメガ粒子砲が全滅…しかも迎撃に上がった航空機も全て撃墜されただと!?宇宙人共め、なんて物を造りやがった!」

 

元々が対ガウ用に急遽準備された高射砲であったが、対地攻撃にもかなりの性能を示しており、事実南北米大陸ではガウの戦略爆撃を大幅に制限するだけで無く、攻略せんとするMS部隊にも甚大な被害を与えていた。ここペルージアに漸く配備されたときには、守備隊の士気も随分上がったのだが。

 

(不味いな)

 

指揮所内の空気を感じ、大尉は嫌な汗が流れるのを自覚する。何しろ防衛の要であると同時に、あの高射砲は守備隊にとってジオンとやり合えるという精神的な支柱でもあったのだ。

物的な喪失も痛いが、何より基地に広がってしまったこの絶望感の方が危険だ。おまけに観測班からの連絡が確かなら、先刻撃墜したガウはMSを降下済みだという。ならば先ほどの攻撃も無関係ではあるまい。

 

「…遺憾ながら、ペルージアは放棄する」

 

「大尉!?」

 

苦渋の決断に補佐官の少尉が悲鳴じみた声をあげた。ここを奪われればイタリア半島中央にぽっかりと防空の空白地帯が出来てしまうのだから当然の反応と言えた。しかし、肝心の高射砲が機能しない以上、留まっていてもそれは緩やかな自殺にしかならない。今の守備隊にMSに対抗できる手段はないのだから。

 

「少尉、君は小隊を率いて先行、本拠点陥落を司令部に伝えろ。軍曹聞こえたな、配置についている各隊に連絡だ。高射砲が沈黙している以上、連中のMSが直ぐに押し寄せてくるぞ、急げ!」

 

その言葉に二人は弾かれたように走り出す。その様子を呆然と見送っていた指揮所の他の要員にも大尉は大声で叫んだ。

 

「聞こえていただろう。書類及び機材は全て破棄、メモ一枚奴らに渡すな、それと高射砲の自爆コードを入力、済み次第我々も撤退する!急げ!」

 

後に大尉はこの時の行動が、応戦可能だったにもかかわらず職務を放棄したと査問委員会にかけられることになるのだが、戦後の軍事研究において、大尉の行動は極めて正しかったと評価されている。

なぜなら、この後の欧州戦線において彼の率いた部隊を除き撤退できた高射砲部隊は存在せず、また、拠点防衛の適った部隊も存在しなかったからである。




アッザム設計技師「時速16キロだし対G機構とかいらんだろ」
オデッサ組「なんだこれ、対G機構ついとらんじゃん!取り敢えずMSの移植しとこ!」
アッザム()「マッハ4で飛べる俺HAEEEEE20Gくらいかかってるけど!」
対G機構「俺精々10Gくらいまでなんですけど…」

なにが言いたいかっていえば、マ(偽)の訓練不足、デスクワーク組だから仕方ないね!


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第三十話:0079/06/16 マ・クベ(偽)とお説教

月曜日の野郎、呼んでないのにやって来やがる。


イタリア半島は強敵でしたね。

色々としょんぼりしながら基地に帰ってきたら、なんか知らんけど基地のいろんな人が滑走路に集まってお出迎えしてくれた。真っ先に駆け寄ってきたジョーイ君なんか顔ぐちゃぐちゃにしながら抱きついてきて、ウラガンに速攻で引き剥がされていた。ウラガンの方はこっちを見た後、怪我はないようですなって一言言うとさっさと戻ってしまったけど、多分凄く心配してくれたんだと思う。

んで、問題はその後で、ユーリ少将から感謝の連絡と共に有り難い指令書が届いた。

要約すれば、敵の対空陣地が想定よりずっと堅牢でガウ部隊がヤバイのでアッザムで防空網に風穴開けて!もっと言えば対空陣地アッザムで吹き飛ばして!って内容だった。

しかも出し渋らないよう、キシリア様のところにアッザムべた褒めした上に、送ってくれて有り難う!的な感謝の連絡までしたらしく、その日のうちにキシリア様から上機嫌と解る文章でユーリ少将に助力するよう個人的なメールまで届いた。

しょうがないのでウラガンに、ごめん、今回きりと言ったな、アレは嘘だって頭下げてマルセイユとサルディーニャ島を空爆。ついでにティレニア海でクルージングしてらっしゃったヒマラヤ級に挨拶したら恥ずかしがり屋なのか水の中に隠れてしまった。まあ、行きがけの駄賃に撃沈したとも言う。

そんな感じではっちゃけていたら、どうもキシリア様に俺が乗っている事をチクられたらしく、思いっきり怒られた。ちなみに怒りそうな筆頭であるデメジエール少佐は未だにニース近郊を防衛中、シーマ少佐もジブラルタル攻略で現在は宇宙に居るのでお説教は回避されている。戻り次第順次怒られるとも言うのだが。

ちなみに、だって他に適任者居なかったんだもんしょうが無いじゃんって言ったら、翌日には補充人員の連絡が届いた。ついでに2号機も送るから使えって書いてあったんだけど、どうしようこれ。

 

「素直に話されるのが一番かと、小官は愚考致しますが」

 

溜息交じりに紅茶を入れつつウラガンが口を開く。てか、キシリア様予算計上見てないのかな?

そんな訳で、正直に話すべく現在のアッザムのデータを用意しつつキシリア様に連絡を取った。んで、現在絶賛通信室の床の上に正座中である。膝が超いてえ。

 

「…なんだ、これは」

 

報告まだでしたよねー、今回の戦闘記録と機体のデータになりますー。なんて比較的軽くジャブから入ったのだが、キシリア様かなりショックだったっぽい。アッザムの写真見た瞬間ビシっって音が聞こえそうなほど固まって、漸く口を開いたと思ったら出て来た言葉がさっきのものでした。

 

「違うのです、キシリア様。お聞き下さい」

 

俺たちも頑張ったんだよ。元の機体はとても意義のある機体だし、決してあれが無駄だった訳じゃ無いんです。事実弄ったらほら、こんなに戦果挙げたでしょ?

 

「ほう?この機体の何処に元の装備が残っているのだ?」

 

ミノフスキークラフトはそのままですよ?そう返せばすっごい冷たい目で正座を言い渡された。

 

「他は?」

 

……外装の塗料とか?続きを促されたので仕方なく正直に話したら、今度は可哀想なものを見る目になった。はっはっは、キシリア様は感情豊かでいらっしゃる。

 

「一応聞くが、それで納得させられると思っていたのか?」

 

「はい、いいえ、キシリア様。しかし虚言を弄し今を切り抜けたとて、それは一時のしのぎにすらなり得ませんので」

 

大体嘘吐いて追加で送られてくるアッザムの改修なんかまたやってたら、面倒な予算申請やらメーカーさんへのお伺いで無駄に時間が食われてしまう。ただでさえザクレロの再設計までやってる上に攻勢中で忙しいんだから勘弁して欲しい。

そんな訳で素直にゲロったら、険しい顔で腕を組んで聞いていたキシリア様が盛大にため息を吐きつつ、先ほどの可哀想なものを見る目に再び戻るや口を開いた。

 

「貴様のことだ、製造用のマニュアルくらい作っているんだろう?2号機以降はグラナダが面倒を見てやる。直ぐにデータを送れ。ああ、追加人員はそのまま送ってやるからまかり間違っても二度とお前は乗るな」

 

使いこなせって言ったり、乗るなって言ったり。キシリア様の指示は難しいなぁ。

 

 

 

 

モニターの向こうで叱られた犬のような表情を浮かべる優男を見ながら、キシリアは頭を抱えたくなる衝動を必死で押さえた。

正直に吐いてしまえば、キシリア自身、件のMAはあまり期待できる兵器では無いと考えていた。だから安全に地上での運用データを取るために、わざわざ脅威度の低いオデッサを選んだのだ。使いこなせと言うのも基地司令として運用してみせろと言う意味であって、間違っても自分で乗りこなせと言う意味ではない。専用機を配備した後も、前線に出ることは無かったし、パイロットの補充を要請してきたのですっかり意図は伝わっているものと安心していたらこのざまである。

 

(シーマ少佐のことといい、地上に降りて随分現場よりになったじゃないか)

 

部下の顔ぶれからすれば下級士官に受けの良い将校は有り難いのだが、ここの所の大佐は少々やりすぎている。以前は派閥同士のパワーバランスを考えて、あえて戦果を挙げていなかったりする節があったが、地上に降りてからはそんなことはお構いなしだ。

おかげで大佐の居る派閥こそ力をつけているが、対抗するだけの能力がない派閥に所属する連中が足を引っ張る事で差を埋めようと蠢動し始めている。今はまだこちらで抑えられているが、これ以上ともなれば最悪どちらかの兄上やガルマに鞍替えされる可能性がある。

勝ちが見えている状況ならある程度許容も出来るが、今それをやられたら地球方面軍の攻勢が頓挫する事もありうる。

 

(最悪、ドズル兄上の所の将兵と入れ替えて貰うか?全く、汚れ仕事は私の領分だというのに)

 

世間ではギレンに対するザビ家内の政治的対抗馬と目されている自分だが、これはとんでもない勘違いである。独自のカリスマがあるギレンや武人気質な兵に高い支持を持つドズル、その若さや容姿で王佐の才を持つ者達を従えるガルマ。彼らでは取り込みにくい、あるいはギレンに対し野心を持つ連中をとり纏めるために、あえてそのように振る舞っているのだ。

アサクラが突撃機動軍に所属しているのも、戦後これらザビ家にとって不利益になる連中や、用済みになった輩を纏めて処分するためなのだが。

相変わらずしょげかえっている大佐に視線を送り、どうするべきか悩む。そして悩んでいた所で、ふとある事に気がついた。

 

「マ、そう言えば貴様は大佐だな?」

 

「はい、キシリア様。それが何か?」

 

突然の言葉に明らかに疑問を浮かべた表情で大佐が答えた。そうなのだ、この男はまだ大佐なのだ。

 

「なに、少々考えが浮かんだだけだ、気にしなくて良い。貴様は死なん程度にこれからも職務に励め、以上だ」

 

そう言って一方的に通信を切ると直ぐに別のチャンネルを開く。双方多忙の身ではあるが、今日は運が良いのか数コールで相手が出た。

 

「キシリア、珍しいな。お前から連絡してくるとは」

 

「はい、兄上に少々相談事がありまして」

 

そう言えばモニターの中の兄は手を振って人払いをした。全員が出て行ったのだろう、鉄面皮を脱いで、兄は本当の顔になる。

 

「まったく、独裁者なんぞやるもんじゃないな。早く終わらせて庭の手入れがしたい」

 

「難しいでしょう、父さんも隠居がしたいと先日嘯いていましたよ?」

 

そう言えばギレンは露骨に顔をしかめた。政治家として自身より長けた父が議会の手綱を握っていればこそ、俺程度が独裁者の真似事が出来ると常々言っている兄のことだ。父が隠居してそれらへの調整を自分がやることを想像してしまったのだろう。

 

「…最悪ガルマを呼び戻そう、あいつの為なら親父ももう暫く耐えられるだろ」

 

「それまでにドズル兄さんにも少しは政治の勉強をして貰いましょう。いつまでも猛将で居て貰ってはこちらの身が持ちません」

 

全くだ。その言葉で自然と二人は笑った。兄妹として、同じ苦労を知るものとして。

 

「さて、息抜きはここまでだ。それでキシリア、相談というのは?」

 

「はい、オデッサのマ・クベ大佐についてなのですが」

 

そう前置きし、自身の考えを話せば兄はよく見る鉄面皮になった。家族くらいしか知らない事実だが、あれは必死でものを考えている時の仕草だ。元の造形が悪相なせいでよく誤解されているようだが。

 

「…可か不可かと言われれば、可能だ。しかしそうなるとお前はどうする?」

 

その言葉に苦笑を浮かべながらキシリアは答えた。

 

「こちらはまあ、なんとかします。それよりご注意下さい、あれはかなりの厄介者です」

 

 

 

 

いつまで正座してれば良いんだろう?

良しの合図がないまま通信が切られたので止めるタイミングを逸してしまった。はっ、まさか次の連絡まで維持しろと言うのか?馬鹿な!ここは地球だぞ!?足が壊れてしまう!

 

「もう宜しいのではないでしょうか?」

 

俺の葛藤を見抜いたのか、通信後に入室してきたウラガンが、やっぱり残念なものを見る目で救いの一言を放ってくれた。だよね!よーしウラガンに言われたらしょうがないよねー。マ、仕事しなきゃだもんねー?免罪符を得て晴れ晴れとした気持ちで立ち上がる。ふふ、痺れてやがるぜ、この両足はよ。

そんな訳で、早速執務室に戻って仕事しようとしたら、ウラガンが爆弾を放り投げてきた。

 

「ああ、先ほどジブラルタル攻略のため海兵隊が降下準備に入ったそうです。シーマ少佐より通信がありました」

 

おお、もう降下すんの?めっちゃ早いな。つうか4日でイタリア半島奪っちゃうとかジオンの兵はバケモノかな?

 

「ついでに言伝を預かっております。戻ったら話があるので逃げないように。だそうです」

 

その言葉に俺は、基地の最高指揮官という言葉の意味について改めて考えさせられるのであった。




こんなのギレンじゃないと貴様は言う!
タグにあるとおり原作無視なのでご注意ください。


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第三十一話:0079/06/28 マ・クベ(偽)とジオンの娘さん達

今月も終わるのでちょっと更新


イベリア半島は強敵でしたね。ん、これ前も言ったかな?こんにちは、ご機嫌如何ですか?マです。

自分で立案しておいてなんだが、本当に20日間もかからずイベリアまで落とすとかジオン軍まじぱないな!と実感させてくれた。なんでこんなスピード解決したかと言えば、どうも連邦の皆さん高射砲依存症に罹っていたらしく、アッザムで片端から吹き飛ばしたら、みるみる士気ががた落ちし、抵抗らしい抵抗も出来ずに壊走するか降伏しちゃったらしい。

まあ、それよりも要衝のジブラルタルが海兵隊のせいで、僅か1日で陥落したのが最大の原因だと思う。あそこ落とされちゃうとイベリアを死守する価値が激減しちゃうからなぁ。

更に追撃を行なったので、散りぢりになった歩兵はともかくヨーロッパ奪還のために温存していた機甲戦力は文字通りの壊滅的打撃を被ったようだ。先に上がってきた報告書を見たけど海兵隊だけでも200輌近く撃破してる。こんなんされたらドム相手にPTSDになるぞ、いいぞもっとやれ。

さて、帰ってきたシーマ少佐に指揮官として軽挙妄動は慎むべきとか云々すっげえ怒られた翌日。トライデント作戦も残りは残敵掃討のみとなり、俺は比較的緩い時間を送っていた。ところがザクレロの進捗書類を読みながら心地よい陽気と戦っていたら、何かまたユーリ少将から連絡が入った。んだよ、鳥の巣頭、また厄介事か?すっごい嫌だけど階級は絶対である。諦めて通信に出たらなんか気まずげに用事を告げてきた。

 

「はあ、新兵の受け入れですか?」

 

「一応、そうなる」

 

何処か落ち着かない様子で、ユーリ少将が歯切れ悪く答えた。なんだよ、気になるじゃねえか。

 

「態度だけで厄介事だと解るのは良いですな。で、今回はどのような案件なのです?」

 

そう言えば、急に明るい笑顔になるユーリ少将。こんなに解りやすいのに、この人なんでこんなに高い地位になれたんだろう?

 

「受けてくれるか!いやあ、実はな?受け入れる新兵が曲者でな」

 

「何度も言いますが、納得しているとは思わないで頂きたい。それで、曲者とは?」

 

言われてぱっと思いつくのは懲罰部隊とかだけど、そう言うのならこんな風に言いよどんだりしないだろう。なんだかんだで兵士からの人望が厚いユーリ少将は、そう言う連中の扱いも心得ているからだ。

 

「うん、そのだな。その新兵なんだが…皆若い女性士官なんだ」

 

「はあ」

 

え、なに中年課長みたいな事言ってんの?いや、若い女性の部下が扱いにくいって、あんな秘書官連れててなに言ってんのこいつ。

 

「なんだ、その顔は。俺が若い女で困ったら可笑しいとでも言いたいか」

 

「自分の胸に手を当ててみれば宜しい。それで、その女性士官がどう問題なのです?」

 

近くに居ると手を出しちゃいそうなんて言ったら通信切るからな。

 

「簡単に言えば、彼女たちは人質なんだよ。元ダイクン派や新参のザビ派連中が忠誠の証にと差し出してきた訳さ」

 

「本国の連中は気楽で羨ましい。で、それがまた何故欧州戦線に?」

 

人質なら突撃機動軍の中核辺りで飼い殺せばいいだろうに。

 

「理由は2つだ。1つは彼女たちが勤勉でこの戦争へ積極的に貢献したがっていること。もう1つは、彼女たちに人質の自覚がないことだ」

 

それでも最初は主計課とか広報とかに回そうとしていたらしいが、志が無駄に高い若者特有の潔癖症なのか、自分たちが安全な所に置かれていると感じて無闇矢鱈と噛みついてくるらしい。ついでに言えば箱入りのお嬢様だけあって事務能力は壊滅的なため、仕事もろくに与えられなかったのが余計態度を硬化させた原因になったそうな。

そんなに前線が良いなら宇宙攻撃軍に送ってやればどうか?という意見も出たのだが、そこは箱入り(略)。体力も順当に低いため、あんな体育会系に放り込んだら動く的になるか、最悪自殺しかねないと言う訳で、戦線も落ち着いてきた欧州の司令部付きMS隊とかなら良いんじゃないかとユーリ少将に確認取らずに送られてきたらしい。まあ、確認したら確実に拒否するからね!

 

「実際の所、どの程度のものなのです?」

 

「やる気だけは、貴様のところの海兵隊並みだぞ」

 

やる気とか聞いてねえよ、大体その物言いはなにも誤魔化せてないからな?半眼で睨めば視線を逸らしながらユーリ少将は口を開く。

 

「あれならゲームセンター辺りでVRゲームでもやってる学生の方が役に立つな」

 

ああ、MS用シミュレーター作る隠れ蓑にジオニックがそんなん販売してたな。あれってMSじゃなくて戦闘機じゃなかった?え、つまりそう言う事?

 

「やる気はある、あるが自分で運転なぞ何一つしたことがないような子達なんだ、正直何がどうしてMSパイロットを志望しているのかすら俺には解らん」

 

奇遇だね、俺も解んないよ。

 

「それで、比較的安全かつMSにも触れるウチですか。妥当な判断ですな、全力で断りたいですが」

 

そう返せば、子供のような笑顔になるユーリ少将。こういう感情に裏表が無さそうな所とかが兵に人気なんだろうなぁ、人誑しめ。

 

「大佐ならそう言ってくれると信じていた。では明日にでもそちらに送る、頼んだぞ」

 

そう言って通信が切られる。俺は盛大にため息を吐いた。

 

 

それが、昨日の話。午前も早い時間からウラガンに連れられて早速着任の挨拶に来た娘さん達を見て、俺は動揺を隠せずに居る。

 

「お久しぶりです、大佐」

 

「ち、中尉!?君が何故ここに居る!?」

 

おもわず、げえ!中尉!?とか言いそうになった。すんでの所で堪えられた自分を褒めてやりたい。目の前に立っているのは欧州方面軍司令部のコーカサス系死神中尉だった。警戒して後ろに視線を送るが、今日はあのスキンヘッドスマイリー共は連れていないらしい。

 

「この度大尉に昇進致しまして。彼女たちを預かる中隊長として本日よりご厄介になりますわ」

 

そう言ってまぶしい笑顔を向けてくれる中尉改め大尉。やだ、帰れって言えたらどれだけ心の安寧がえられるだろう?

しかし現実は非情である。既に受け入れは了承してしまっているし、単純に俺の好き嫌いで中隊長の交換をするなんて、上に立つ者としての資質を疑われても文句を言えない。ただでさえ頼りないと思われている俺だから、ここで公正さも無いなんて認識されたら、それこそ誰も付いてこなくなってしまう。どっかのカエル型宇宙人も言っていた、隊長殺すに武器要らぬ、部下が全員辞めりゃ良いと。

 

「りょ、了解した。イグナチェフ大尉、よろしく頼む」

 

「嫌ですわ、大佐。エリオラとお呼び下さいな」

 

距離おきたいんだよ、解れよ!俺の周りに来る女性はこんなんばっかだな!

 

「承知した、エリオラ大尉。早速君達に任務を与える」

 

その言葉に大尉の後ろに並んだお嬢さん方は興奮した面持ちになるが、大尉は笑ったままだ。こいつ完全に解ってますね?やりづらいなぁ、なんて思いが顔に出るのを懸命に堪えながら、俺は窓の外を指さした。

 

「取り敢えず、良いと言うまで走りたまえ」

 

 

 

 

「まったくっ、あの、大佐はっ。見る目がありませんわね!」

 

隣を走っているジュリア・レイバーグ少尉が不機嫌を隠さないままそう吐き捨てた。尤もその速度は既に歩いている指導教官の伍長よりも遅かったが。

 

「思っていても、口にしない方が良い時もあると思うわよ?ジュリアちゃん」

 

そうのんびりした口調で咎めたのは、やはり同じ速度でよたよたと歩いているアリス・ノックス少尉だ。何でもそつなくこなす印象だったが、体力は人並みであったらしい。

 

「おう、元気があって宜しいな!ご褒美にもう一周追加だ。ほれ、走れ走れお嬢さん方!」

 

当然のように聞いていた教官が手を叩きながらノルマの追加を言い渡してくる。

勘弁して欲しい。セルマ・シェーレはうんざりとした気持ちで内心ため息を吐いた。教官の声が聞こえていたのだろう、先行していたB班のメンバーから恨みがましい視線が送られてくる。無理もない、既に運動場を5周、距離にすれば4キロ近く走っている。それなりに運動をしていれば少し長い程度の距離かも知れないが、半年前までエレカでの移動が当たり前だった身としては少々厳しい距離だ。おまけに班のメンバーと一緒に走る事を求められるため、自分のペースで動けないから疲労も大きい。

 

「納得いきませんわ!私たちMSパイロットでしてよ!?なんでこんなに走る必要があるのです!?」

 

そんなことを考えているうちにジュリア少尉が再び口を開き教官に食って掛かる。開き直って呼吸を整えていたら、教官が面白そうに口を開いた。

 

「何でって、そりゃ大佐に命令されたからだろう?良いと言うまで走れって」

 

その言葉に絶句してしまうジュリア少尉。

 

「知らなかったか?お嬢さん。軍じゃ命令は絶対だぞ?解ったらもう2周、頑張ろうな?」

 

その言葉に全員が無言の悲鳴を上げたのは、無理からぬ事だとセルマは思った。




新兵の訓練と行ったらやっぱり爽やかクソ兵隊さんマラソンですよね!


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第三十二話:0079/06/29 マ・クベ(偽)と新技術

6月の投稿になります、ちょっと短いです。


「では、大佐。行ってまいります」

 

HLV発射場でそう言って敬礼する曹長に俺も笑顔で答礼した。今日はオデッサで改修したザクレロを宇宙へ打ち上げるのだ。その後は、衛星軌道上に待機している第603技術試験部隊と合流、宇宙での実働試験を行なう予定だ。ついでに試作してた装備とかMAデサントの具合も確かめるために、グラナダにMSの配備も申請したら、ちゃんとR型を回してくれたらしく、良く解らんが603からお礼の連絡が来た。そういやヅダまでMS無かったんだっけか。そら宇宙の新鋭機回されたらお礼の一つも言いたくなるか。まあ、それで曹長やデニスさんがやりやすくなるなら、なにも問題は無い。

 

「デミトリー曹長。運用試験が終われば君はそのまま宇宙攻撃軍の教導隊に配属される。短い間だったが世話になった。向こうでも何かあったら連絡したまえ、出来る限りのことはしよう」

 

「はい、いいえ、大佐。私の方こそ、お礼を言わせて下さい。ザクレロを拾って頂き有り難うございました。必ず大佐のご期待に添えますよう、宇宙攻撃軍を再建して見せます!」

 

あれだけ弄ったから同じザクレロと言えるか微妙だけどね。最初鎌外すよって言ったらすっげえ悲しそうにしていた曹長がちょっと懐かしい。

 

「頼んだぞ。デニス技師、大変な仕事とは思うが、どうかよろしくお願いします」

 

「アッザムに比べれば楽な仕事です。さっと終わらせて直ぐ戻ってきますよ」

 

是非そうして下さい。俺だけじゃ技術部は制御出来ません。白く尾を引きながら昇っていくHLVを見上げて、ちょっとセンチメンタルな気持ちになりながら執務室に戻る。

途中第一駐機場をぐるぐる走ってるお嬢さん方から、すっごい視線で睨まれたが気にしない。俺が反応すると指導教官に任命したアス伍長達が嬉々として訓練のノルマを追加するからだ。あんましやるとその子達潰れちゃうよ?箱入りだったんだから。そう言えばトップ少尉が自信満々に返してきた。

 

「ご安心下さい、限界は見極めていますよ。まあ、限界まではやりますが」

 

ジオンの訓練はかなりスパルタなようだ。終わったころには精強な兵士に生まれ変わっていること請け合いだが、同時にその兵士に俺が恨まれると言うことでは無かろうか?ボディーガードとか付けるべきかもしれぬ。

なんてことを考えながら歩いてたら技術部の部屋の中からうなり声が聞こえてきた。ザクレロの仕様は纏めて送付済みだし、装備関連の生産準備も整えてある。そこまで考えて、そう言えば先日漸くこちらにも送られてきたゴッグが微妙な性能だったので手直ししたいね、とうっかり言っていたことを思い出した。覗いてみれば案の定スクリーンに映し出されたゴッグに対して技術部のメンバーが頭を抱えていた。

 

「だから、空冷の冷却ユニットを追加すれば排熱はマシになるだろ?」

 

「延びても精々数分ですよ、いっその事装甲へ逃がしては?」

 

「難しいですね、水圧に耐えられるようゴッグの装甲は分厚い。蓄熱容量は大きいですが排熱はあまり宜しくない、ついでに言えば容積的に伝達路の確保も困難だ」

 

「火力の低さも気になりますね、運動性能を考えれば拡散ビームにしたい気持ちは解りますが」

 

「そこはそもそもの機動性をあげるべきじゃ無いか?試して貰ったがヒルドルブ相手に手も足も出ない機動力は問題だろう」

 

正に侃々諤々、ただ、全員どちらかと言えば上陸後の性能を気にしている。現状水中の脅威が少ないから無理からぬ事だけど。そんなメンバーを見ていて、ふと思いついた事を口にしてしまった。

 

「装甲のスペースを減らせれば容積の問題は少し楽になりそうだな」

 

俺が来ていたことに気付いて居なかったんだろう。一斉に振り向かれてちょっとびびった。

 

「大佐、そらいったいどんな魔法です?」

 

中心になって喋ってたゲンザブロウ氏が、それが出来たら苦労しねえよって口調で聞いてきた。いや、ただの思いつき、と言うより原作知識のパクりなんだけどさ。

 

「我が軍のMSはモノコック構造を採用しているな?」

 

モノコック構造は機体の自重や運動時に発生する力を構造材、簡単に言えば装甲で受けるという考えの作り方だ。この方法の場合、軽量で同じ剛性を得る事が出来るため、MSにも採用されたのだが、ここにちょっとした落とし穴があった。

そもそもモノコック構造は構造材で力を受け止めるため、力を受け止めやすい形状を用いる必要がある。だから可動部が多いMSでは容積の確保が難しかったり、更に変形による剛性低下が大きい事から、被弾に耐えうる強度を確保していないと少しの被弾で分解事故に発展してしまうリスクがあった。強引にニコイチしたドラッツェなんかが、ぶつかっただけでバラバラになってるのは恐らくこのせいだ。で、これを解決するためにMSは装甲を厚くして解決を図っている訳だが、そのせいで軽量化のために採用した構造で却って重量が嵩む結果となってしまっている。これが、昔の戦車のように装甲で耐える事を前提としていれば大きな問題ではなかったのだが。

 

「していますが」

 

「機体の内部にフレーム構造を追加して、装甲は限界まで削る。その上でフレームにルナチタニウムを用いればかなりスペースに余裕が出来ると思う」

 

実はあまり知られていないが、チタニウム合金の研究については連邦よりジオンの方が進んでいる。じゃあ何故MSに採用しなかったかと言えば、まず大量のチタンを確保できる手段が地球にしか無かったことに尽きる。戦略物資としての価値は連邦も強く認識していたので、経済制裁以前から輸出量には大幅な制限が掛けられており、大量に製造するMSの材料に出来なかったのだ。

だがしかし!今ならこのオデッサ鉱山基地がある!

 

「それはまた斬新なアイデアですな。しかしそれでは根本から設計を変える必要がありますが?」

 

「当然そうなる。だが、現状の構造で行き詰まって居る以上、ある程度の冒険も時には必要だ」

 

まあ、正直に言えば後一月もせんとズゴックが開発されるはずだから、ゴッグはお払い箱になってしまう。つまり万が一開発に失敗しても従来通りで性能の約束された別プランが既にあるのだ。ならば多少投機的なプランであっても、実行してみるべきだ。

 

「大佐、そいつぁ大仕事ですぜ?今までのちょっとの手直しとは訳が違う。MSを根っこから変えちまおうって話だ」

 

俺の表情から本気である事を悟ったのだろう、ゲンザブロウ氏が確認するように口を開いた。そんな大それた事を、本当にするのかと。

 

「そうだな。だがゲンザブロウ氏、考えて欲しい」

 

そう言って周囲を見渡す。ただの鉱山基地によくもまあこれだけの人材が集まったもんだ。

 

「ジオニック、ツィマッド、MIP。恐らくどの会社でもこれを成し遂げるには数年を必要とするだろう。だが、ここなら?」

 

俺の言葉の意味を悟ったのだろう。静かに、けれど確かに興奮を湛えた視線が俺に集まる。

 

「企業の垣根を越え、目的のために力を束ねられる貴方方が居るここなら。それはどれ程の困難と言えるのでしょうな?」

 

 

 

 

もしこの男が軍人でなかったなら。そんな考えがふと頭をよぎり、ゲンザブロウは苦笑した。恐らく希代の革命家、あるいは今世紀最大の詐欺師。少なくとも誰かを誑かさずには居られない類いの人種であるとゲンザブロウは思った。

 

「良くまあ、あんな殺し文句がぽんぽん出るもんだ」

 

誰もが困難であると、そんな大それた事をするのかと後ずさる物事を目の前にして、この男は無責任にも言い放つのだ。お前達なら、こんな事は造作も無い事だろう、と。

これが、根拠もなにも無いならば、一笑に付して終わらせる。だが、ここには彼の言うように会社の利益や、しがらみから離れた、幸運にして大問題な技術者共が揃って居るのだ。

ごくり、と自分の喉の音が大きく聞こえた。

技術者ならば一度は考えてしまう笑い話の類いのそれは、しかしこの場所、この時に限ってはこの上ない魅力的な提案になっている。ならば、一人の技術者として、その誘いを断る理由は何処にも無い。

 

「そこまで買われて、やらんとは言えませんな。全く悪い人だ」

 

「知らなかったのですか?戦争をやっている偉い人間なぞ、みな極悪人ですよ」

 

そう韜晦してみせながら飾ってあった壺を指で弾く大佐は、正に映画にでも出てくる胡乱な悪役そのものだった。




作者の機械知識は嘘っぱちです。モノコック周りの話を本気にすると恥をかきます。


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第三十三話:0079/06/30 マ・クベ(偽)とニュータイプ

月一投稿と言ったな?
アレは嘘だ(今更)


昨日は結局あの後、色々な原作技術について仄めかしつつ俺の妄想を技術者に話してみた所、幾つかは実際に機体に盛り込んでみようかという話になった。技術界隈はすごいもんで、話してみれば、そう言えばそんな研究してた奴がいたとか、その技術会社で試作してるよ、なんて話が出るわ出るわ。まあ、技術なんて唐突に生まれるもんじゃ無いから、そら原作でこの後数年で形になった技術が研究中でも何ら不思議じゃ無いよな。

ただ想定外だったのは、殆どが会社の極秘研究だったもんだから、え、なにこの大佐産業スパイ?みたいな疑惑のまなざしを浴びまくった。正に雉も鳴かずばである。

さしあたってゴッグの改良計画と言うことで予算を計上するのと、生産設備を巻き込むためにツィマッド社へ連絡したら、ハルバさんから是非にと改良をお願いされた。ああ、そろそろ水中用MS第二次採用のお知らせが来てる頃だっけ。下手するとズゴックの情報とかも耳に入ってるだろうから、気が気じゃ無いんだろう。でもごめん、多分期待には添えないと思うよ?

技術と言えば、そろそろ連邦の白い奴が開発最終段階に入っている頃だったか。確か7月にビーム兵器の開発完了とプロトタイプが出来てた筈だから、もうちょっとしたらガルマ様に例の研究所をチクろう。上手くいけばV作戦への対応が根っこから変わるかもしれん。

ついでに被験者とか確保出来たら僥倖、なんて考えていたのが悪かったのか、何故かフラナガン博士から連絡が来た。なんだよ、オールドタイプな基地司令に何かご用ですかぁ?

 

「お久しぶりです大佐。その節はご迷惑をおかけしました」

 

モニターに映る博士を見て、危うく誰だお前って言いそうになった。以前会ったときは如何にもマッドサイエンティストと言った視線と仕草だったのに。今日の彼は、どう見ても近所の気の良いおじさんである。トレードマークのスーツや白衣も着ておらず、乳白色のカーディガンを着込み豊かなジェスチャーを交える姿は、以前を知っている俺には質の悪い冗談にしか見えない。

 

「は、博士も息災そうで。その、随分と印象が変わりましたな?」

 

そう言えば、博士は朗らかに笑い、手元にあったマグカップに口を付けた。マグカップにでかでかと可愛らしいキャラクタープリントがある事は、必死で見なかったことにする。

 

「以前、大佐がいらした時に仰ったでしょう?皆が協力的になる環境を作るべきだと。いやはや、我がことながらあの時はお恥ずかしいものをお見せしました」

 

ああ、言ったね、それがどうなると現状にたどり着くのさ?

 

「皆が協力的な環境。その為にまず皆に快適な環境を提供するべきでは無いかと考えたのです。そこで施設内で不満な点はどのようなところかを聞き取りまして」

 

ヒアリングをしてみたところ、もうこれでもかと不満が出たらしい。そら、モルモット扱いされてりゃ不満も溜まるわな。特に噛みついてたハマーンちゃんの要望は多岐にわたったそうな。研究員の格好が怖い、食事が無機質すぎて栄養補給以外の意味が見出せない。他にも沢山人が居るはずなのに会って話す場所や一緒に遊べるスペースどころか、そもそも他の人と会わせてすら貰えない。などなどなど。

そんな訳で思い切った改革に乗り出したらしい。まず、必要な場所以外で白衣を着ない。服装もスーツ限定だったのを私服も問題無いとし、中庭や図書室、更にまだ使っていなかった部屋を談話室に改造し職員、被験者の区別無く利用可能とした。食事も栄養重視のレーションではなく、一般に食べられているようなものに変更した。

するとどうだろう、今までおびえられるか嫌悪されるかしかなかった表情が笑顔になり、廊下ですれ違えば挨拶どころか寄ってきて会話をしようとする子まで現れた。人間好かれれば情も湧く。より親身に話すようになれば、どんな試験は辛いかとか、他の子の様子まで教えてくれる。更に言えば、今まで参加してもすぐ拒絶反応を示していたような試験でも頑張って受けるようになってくれた。それも遙かに成績は良好になるおまけ付きで。

 

「研究者以前に大人として恥ずかしい限りです。言われるまで子供にそんな窮屈な思いをさせて気にもしていなかったのですから」

 

いや、そんなん言われる前に気付けと言いたいが、無理だろうなぁ。今だって本当は子供に悪いとかじゃなくて、単純にこちらの方が研究に都合が良いからそうしているだけだと思う。

 

「それは良かった。博士の研究は我が国にとって重要ですからな」

 

まあ、現状誰も損をしていないので良いだろう。

 

「はい、更に面白い事も解りまして」

 

誰かに喋りたくて仕方ない顔をしているので黙って続きを促せば、どうもレクリエーションをしている被験者を見ていて妙なことに気付いたらしい。と言うのも、施設には比較用などという名目で、ザビ家の運営している孤児院からかなりの人数の子供がフラナガン機関に被検体として送られていた。ああ、なんか外伝に居た屍食鬼隊とかいう子達の事だな。確か他者との共感という事象を理解するために、まずその共感という機能を物理的に削除した人間を作ってみよう!なんてちょっとなに言ってるか解らない実験の被害者だったと思う。キシリアマジ外道!とか読んでて思ったけど、どうも聞いている限り今は行なわれていないっぽい。カマ掛けてみたらばつが悪そうに、そういう試験を行いたいと言う陳情は上がっていたが、却下したとのこと。ああ、つまり原作でもキシリア様は、何に使うか知らんで欲しいと言われた人間を都合良いところからほいほい送ったのね。もうちょっとマッド共の手綱をちゃんと握っておいて欲しい。

話を戻すと、その普通の子供達とニュータイプらしい子供達が交じってサッカーをしていたらしいのだが、あまり喋らず黙々とやっていたらしい。最初は気にもしなかったのだが、数回その光景を見た頃、妙だと気付いたのだそうだ。

 

「簡単に言ってしまえば、彼らは会話無しにコミュニケーションを成立させていたのです。ニュータイプ同士なら解りますが、そうで無い子同士でも、近くにニュータイプの子供が居るとそれが出来るようになるのです」

 

興奮した面持ちで告げるフラナガン博士。そらそうだ、今までの研究成果だと人工的にニュータイプを発現させることには成功していないし、そのアプローチも素養がある人間へ洗脳や薬物投与をして強引に引き出そうとする方法で、高確率で廃人、良くても情緒不安定な上に身体への負荷から寿命が短くなるといったデメリットが大きすぎる状況だ。これが仮に現状で発現しているニュータイプと長期間関われば能力が発現するとなれば、人工的にニュータイプを量産する事すら可能と言うことになる。多分違うと思うけど。

大方、無意識にニュータイプの子が他の子供の思考を読み取り、他の子に送り出しているんだろう。ただ、元々発現していなかった某赤いのとかがインド娘と一緒に居たら目覚めたくらいだから、現状高い能力を持つニュータイプに素養のある子を接触させていればそういう事も出来るかも知れない。

そうだとすれば、元になるニュータイプは多い方が良い訳で。研究のために使い潰すなんて論外だよね、と言う訳でフラナガン博士にちょっとチクっておこう。

 

「大変興味深い話でした博士。ところで、そちらの施設に居るクルスト博士でしたか?」

 

「はい、彼が何か?」

 

この頃はまだマッドな所あまり見せて無いんだっけ?だがこのマ、容赦せん!

 

「どうも彼はニュータイプに対し、少々過剰な危機感を持っているようだ。彼の行動には十分注意を払った方が良い」

 

その言葉に先ほどまでの緩い雰囲気は消え、真剣な表情になったフラナガン博士が聞き返してきた。

 

「それは、興味深いご忠告ですな」

 

「恐らく近いうちにニュータイプの能力について彼が幾つかの報告と、何らかの機材の開発を申請してくるでしょう。その内容には特に注意下さい。最悪施設にとって大きな損失を生むことになりかねません」

 

 

 

 

この大佐は本当にニュータイプではないのか?フラナガン・ロムは、モニターの向こうで何食わぬ顔をして紅茶を飲む男を注意深く観察した。以前検査をした時には確かにニュータイプの兆候は見られなかった。だが、あの時の忠告や今回の件を考えると、ただ勘が良いとか、知識が豊富だとかでは説明の付かない結果をこの大佐は起こしている。そう、まるで予め知っているかのように。そもそも行う事全てが良い結果を出すなど、たとえ天才でも不可能だろう。

今の言動だって奇妙な点は多い。施設の改革の際クルスト博士とも話したが、大佐と面識があるようではなかったし、大佐自身も以前訪れたときにそんなそぶりは見せなかった。

では、大佐はどうやって今日彼が提出してきた実験について情報を得たというのか?一見緩く見えるが、ズムシティの首相官邸より厳重な警備とスタッフの身元が保証されているこの施設に、スパイは愚か盗聴器の類いだって設置することは不可能だ。おまけに今日報告書が上がるまで、クルスト博士はニュータイプの危険性について述べた論文や報告を一切出していない。にもかかわらずそれを言い当てるなど、最早超能力といったオカルトの世界だろう。

なぜならそれは、フラナガン自身が研究しているニュータイプ達でも出来ないことなのだから。

 

(少々の危機感、ですか。確かに、貴方に比べれば我々の研究対象など赤子のようなものかもしれませんな)

 

思わず信じても居ない神に感謝する程度には、目の前の男が味方である事の幸運を噛みしめるフラナガンだった。

 

 

 

 

前回の忠告が効いているらしく、クルスト博士への監視を付けることをフラナガン博士は約束してくれた。よしよし、EXAMとか微妙な装置のために貴重なニュータイプ消費できんからね。大体アレ機体性能上がるなんて言ってるけど、要はリミッター外してるだけじゃねえか。機体もオーバーヒートするわ、パイロットが死んじゃう動きするわって、兵器として欠陥品にも程がある。あんなのに関わらなきゃジオンの騎士マニアももうちょっとましな人生を送れたかもしれん。

博士との通信を終えてそんなことを考えていたら、急に部屋の外が騒がしくなった。そんで何事と聞く前に扉が開き、金髪のお嬢さんがずかずかと入ってくる。再三にわたって言うが俺は基地司令、この場所で一番偉い筈なんだけど。

 

「納得出来ません!待遇の改善を要求します!」

 

走らせ始めて三日目で怒鳴り込んできたか。お嬢さんにしては持った方と評価すべきか、軍人として根性足らんと叱るべきかチョット迷うな…なんて俺が甘い人間だと思うなよ?

 

「私は止めて良いなどと一言も言っていないが。何故走っていないのかね、少尉」

 

「ですから!納得が出来ないと!」

 

「君は一々納得しないと上官命令が聞けないのか。なあ少尉、私には我慢出来んものが3つある。壺をぞんざいに扱う者。ヒステリックに叫ぶ者。そして何より我慢ならないのは命令を聞かない部下だ」

 

睨め付けてやれば、短い悲鳴を上げて後ずさる少尉。惜しい、チョット遅かったね。

 

「そんなに納得したいなら教えてやる。お嬢さん方のような兵士と呼ぶのも烏滸がましい半人前以下のヒヨコに貴重なMSなぞ預けられん。せめてその軽い頭に被さっている殻が取れてから口を利きたまえ。大尉!」

 

部屋の外で控えていたエリオラ大尉に声を掛ける。この人いつ見ても笑顔だな、心に深い闇を抱えていそうで怖い。

 

「監督不行き届きに止められなかった連帯責任だ。隊の全員で第二駐機場を10周。終わるまで許さん、日が暮れてでも走れ」

 

ちなみに駐機場は一周5キロくらいだから大体フルマラソンくらいの距離だ、まだ昼だし今日中には終わるだろう。

 

「罰を受けるのは私だけで良いでしょう!?」

 

悲鳴に近い声で口を挟む少尉にもう一度解りやすく教えてやる。

 

「ここは軍隊なのだよお嬢さん。一人の勝手が皆の不利益に繋がる実に素敵な職場だ。解ったのなら駐機場を11周、とっとと走れ」




駐機場は一周五キロ。割と狭い!


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第三十四話:0079/07/02 マ・クベ(偽)は賞金首

やることがある時って、別のことがよく進みません?
つまりなにが言いたいか。

E-3の攻略が全く進んでいません。



地下だというのに、その場所は完全にコントロールされた照明と空調により極めて快適に保たれている。現状の地球環境からすれば非常に羨ましい環境ではあったが、それを加味しても部屋に居る男達の気持ちは全く上向かなかった。

 

「これで欧州は完全に連中の勢力圏か」

 

「大陸はもう無理だ。ブリテン島も先日の空襲でポーツマスが機能を失ったからな。攻勢どころか島を守れるかすら怪しい」

 

「北米は?」

 

「カリブ海周辺は維持している。と言えば聞こえは良いが連中が戦線の拡大を嫌って動いていないだけだ。何よりキャリフォルニアの失陥が大きい。装備も弾薬の補給もジャブロー頼りでは、攻勢など夢のまた夢だ」

 

そう言えば、隣で煙草を燻らせていた男が溜息と共に続ける。

 

「こちらも似たようなものだな。地中海の制海権を取られてから北アフリカの部隊の動きが活発化している。今日明日でキリマンジャロが落ちるとは考えたくないが」

 

「例の機動兵器か」

 

その言葉に男は黙って頷いた。先日の欧州におけるジオンの大攻勢において唐突に現れたその機動兵器は、巨大戦車の対応にすら苦慮している連邦にとって正に悪夢のような存在だった。防衛の中核であるメガ粒子高射砲をこうも簡単に潰されては、再びMSの空挺降下が行なわれてしまう。

 

「おまけにあの羽つきに骨董品だ。一体連中に何があったんだ?」

 

行動範囲を飛躍的に広げたホバー移動するMSに、旧ロシア軍機を模倣した戦闘機。骨董品などと蔑んでいるが、新鋭機であるセイバーフィッシュですら1対1では対処できないという頭の痛くなる報告が上がっている。現状それ程配備が進んでいないため何とかなっているが、これの量産が本格化すれば各地の制空権すら怪しくなってしまう。

 

「まったくレビルの奴め、何がジオンに兵無しだ」

 

確かに開戦以前、連邦政府とジオン公国には30倍近い経済力の差と、それに近い戦力差があった。だがそれは単純に艦が30倍あるとか、兵士が30倍存在すると言うような単純な話ではない。更に言えば各サイドが壊滅した事で経済は大幅に縮小しているし、地球もコロニー落としの影響で太平洋沿岸地域は甚大な被害を受けている。更に月面都市やサイド6が中立宣言をしたために、今は良くて3倍と言ったところだろう。

無論国家の危機である現在軍事は優先されているが、それでもそのリソースは有限だ。肥大化した組織を効率よく運営するための官僚機構の弊害で、食料や医薬品など共有可能な物資は余裕があるが、その一方で人員の確保や装備の生産とその予算の獲得については、各軍が必死でパイを奪い合う様相を呈している。特に開戦初頭で甚大な被害を被った宇宙軍と海軍は組織を立て直すべくそれらをかき集めているが、現在矢面に立たされている陸軍や空軍にすれば、いつになれば使えるか解らないマゼランを一隻建造する資源で一台でも多く戦車や戦闘機を寄こせと言うのが本音である。

更にジオンはMSという新兵器により、宇宙と地上を同じ人員で戦わせるという荒技まで使ってきた。おかげで陸軍同士で比べれば、宇宙軍に人的資源を多く奪われているため、むしろジオンの方が戦力は優勢という笑えない状況に連邦陸軍は陥っていた。

 

「その辺りは多少負い目を感じているようだぞ。例のV作戦で出来たMSの先行量産機をこちらに回すと打診があった」

 

「ふん、自分の持論を証明するのに俺たちを体よく使うつもりだろう?」

 

嫌悪感を隠そうともせずに男が口を開く。欧州方面を担当していた彼は、今回の件で出世コースを閉ざされたのだから無理からぬ事と皆考えた。

 

「だが、我々だって鹵獲頼りでは話にならん。寄こすというなら有り難く使わせて貰おうじゃないか。運用試験をこちらで行なうのだから、連中への貸しにもなるしな」

 

MSの譲渡を借りではないと明言しながら北米担当の少将が意見を述べた。キャリフォルニアからの撤退時にMSの脅威を存分に味わった彼は、何としてもあれを手に入れねばならないと確信していた。故にたとえ宇宙軍にどのような思惑があろうとも、陸軍にMSが手に入るなら許容すべきだとも考えている。ただ、それを素直に言えば面子に拘る者達の反発は必至であるため、先ほどのような物言いになってしまっているが。

 

「MSが手に入ったとしてもだ。あちらにイニシアチブがあるのは変わらん。そこはどうする?」

 

「その点については、情報部が面白い情報を持ってきたぞ。4月半ば頃からオデッサ近郊の通信量が大幅に増大しているそうだ」

 

「オデッサ…確か司令官はマ・クベか、あれが関わっていると?」

 

「確たる情報は無い。だが逆に言えば、情報部が探れん程度にはあそこが厳重に守られているのは確かだ」

 

更に偵察機の空撮画像によれば、ここ2ヶ月で基地の規模も劇的に拡大している。それも考慮すれば、その拠点の基地司令が無関係であると考えるのは楽観に過ぎるだろう。

 

「早々にご退場願いたい程度には厄介な男という所か」

 

「そちらの方面でも話を進めておこう。やれやれ、早く戦争など終わらせたいものだな」

 

「いっそのこと賞金でも懸けるか、10万ルーブルでどうだ?」

 

最後の言葉に皆が笑いながら同意し、男達は各々の執務室へと帰っていった。翌日、ジャブロー参謀本部の掲示板に紫髪の陰気な男の手配書が貼られることになるのだが、10万ルーブルの賞金が支払われたという情報は、現在に至るまで地球連邦の公式記録に存在しない。

 

 

 

 

「なあ、ウラガン。カーゴは何故丸いんだろうな?」

 

最近気に入っているのか、ワショクのテリヤキなる魚料理をつつきながら、大佐がまた妙なことを言い出した。

 

「はあ、申し訳ありません。考えてもみませんでした」

 

ウラガンは有能ではあるが万能ではない。兵器を手配することも差配することも出来るが、何故その形なのかなどは関心の埒外なので、何故丸いと言われても何か理由があるのだろうと思う程度でそれ以上の答えなど持ち合わせていない。同じ人種だった前の大佐と違い、今の大佐はそこが気になって仕方ないようだが。

 

「だっておかしいだろう。コンテナが丸いか?施設の部屋を丸く作るか?いや、意匠としてそうする場合がある事は解る。だがカーゴだぞ?運搬用の台車をなんで丸くするんだ?上の方とか絶対デッドスペースが出来るだろう」

 

言っている内に興奮してきたのか、付け合わせのナットウなる腐ったビーンズを執拗にかき混ぜながら大佐が喋る。食堂なのでエキセントリックな行動は控えて欲しいのだが、今のところ聞き入れて貰えたことはない。

 

「ああ、あれはちゃんと理由があって丸いんですよ、大佐」

 

フランクに話しかけてきたのはMIPから出向してきているジョーイ・ブレン技師だった。アッザム事件(オデッサ基地司令部要員命名)以来随分親しげに接するようになった彼は、当然のようにウラガンの横に座り説明を始めた。

 

「元々カーゴとギャロップは緊急展開用HLVとそれの運搬車両として設計されたものでしてね。前線部隊がギャロップで移動するところに、宇宙からカーゴで直接物資を送りつけようって算段だったんですよ」

 

なので、宇宙での運搬の利便性と生産性を確保するためにHLVの生産設備を流用したからあのような形になったらしい。ただ、実際に戦争をしてみれば頻繁に動き回る部隊にピンポイントで物資を投下するのは困難であったし、位置がずれた場合ミノフスキー粒子下では捜索が行いがたい事、加えて最悪物資が無傷で敵に渡ってしまうというリスクから、そうした運用を控えているとのことだ。

 

「成程、そういう訳だったのか。有り難うジョーイ技師、疑問が一つ無くなったよ」

 

「いえいえ、お役に立てたなら何よりです。今度はギャロップを弄るんですか?」

 

「あれを弄るとなると大騒ぎになりそうですな。ガウの方も苦労しているようです」

 

以前大佐が編纂した旧式兵器のデータは、現在ジオン全てで共有されている。そして運用の結果、能力に難があるとされたガウは現在キャリフォルニアベースにてガルマ大佐主導で改良が進められているのだが、その進捗はあまり芳しくないようだ。

 

「ガウは何でもかんでも詰め込んだ機体だからな。ある程度分業させたいが、そうするには単体コストが高すぎる」

 

ミソスープを気難しげに飲みながら大佐が答えた。爆撃機と輸送機と空母を一機でこなそうと言うのだから無理も出るだろうとのことである。ただ、単純に3機に分ければ整備面での負担は倍以上になるのは明らかだし、運用するための人員も相応に必要になる。加えてあのサイズだ、生産設備自体の調整も悩みの種だ。

 

「その辺りは今度ガルマ様とも話してみよう。それで何の話だったか…ああ、ギャロップだったな。それ程文句がある訳ではないが、言わせて貰えるならあの主砲が気にいらんな」

 

射界が限定的で気に入らないとは大佐の言葉だ。

 

「大体、カーゴを連結したら左右30度ずつくらいしか撃てないとか構造的欠陥だろう?」

 

ちなみに無くてもエンジンが邪魔で180度も撃てないと、苦笑交じりでジョーイ技師が補足した。では何故そんな所に付いているかと言えば、どうやらこれも軍からの追加要求が原因だったようだ。ギャロップの試作車が出来上がっていざ実走という段階で、見に来た軍関係者が自衛用の火器が105ミリ機関砲だけでは不足だと言いだし、急遽火力を増強するために取り付けられたそうだ。ちなみに105ミリ機関砲も175ミリ速射砲に変更された。

今まで大佐が文句を言わなかったのは、そもそもギャロップが移動用の足である事に加え、整備や作戦指揮を取る人員が搭乗する移動拠点だったからだそうだ。なまじ戦える火器があると人間は逃げるよりも戦うことを選択しやすくなり、悪戯に被害が拡大するというのが大佐の意見である。

 

「MSがやられるような戦力にギャロップで勝てる訳がないだろう」

 

だが現状を考えれば、MSの行動範囲拡大に伴いギャロップ本体の安全性が高まっているので、それならば火力支援が容易な方が良いと言うのが今回改善提案を出そうと考えた理由らしい。改善したい点としては、近接防御火器の充実と主砲の射界の向上の二つだそうだ。この件についてジョーイ技師によれば、ギャロップは出力にも余裕があるので、車体を少しサイズアップし形状を弄ればそれ程難しい改造ではないだろうとのことだった。

 

「言ったらギャロップもここで造ることになりますかね?」

 

オデッサに出向する原因となったドップのことを持ち出してジョーイ技師が大佐をからかう。すると口角をつり上げて、食後のグリーンティーを飲んでいた大佐が答えた。

 

「オデッサはもうかなりの製造拠点を抱え込んでいる。生産効率は良くなるが、一度の失陥で生産能力が激減するという事でもある。これは我々がキャリフォルニアで証明した事実だ。その教訓はちゃんと司令部も認識しているさ」

 

後日、資源増産指示と同時にギャロップの改良、生産施設設置の指令が送られてきて深い溜息を吐くことになるのであるが、それを知るものはまだ居ない。




さあ、梅雨入りです、今週も頑張らずに行きましょう。


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第三十五話:0079/07/04 マ・クベ(偽)とヒエラルキー

モチベーションが上がらない時って、あるよね(言い訳のつもり)


厄介なお嬢さん方を迎え入れて一週間が経った。ジュリア嬢は相変わらず今にも噛みつきそうな目でこちらを睨んでくるが、彼女が何かをすると全員にフルマラソンが待っていると理解した他のメンバーに必死に止められている。うんうん、そうやって是非連帯感を強めて欲しい。なんて気楽に考えていたら、困った顔になったエリオラ大尉が話しかけてきた。

 

「申し訳ありません、大佐。正直に申しまして、そろそろ限界です」

 

あれ?その辺りはトップ少尉達が上手くやってくれてんじゃないの?と思ったら。どうやら少尉達は肉体的な限界は見極めているが、精神的な限界についてちょっと甘かったらしい。そもそも志願して前線に来るような奴なんだから覚悟してきてるんだろ?とばかりにブートキャンプ(易)をしたものだから、精神的にタフなメンバーはともかく、使命感だけのメンバーがそろそろ鬱かノイローゼにでもなりそうだとのこと。病気になれば大手を振って実家に帰れるんじゃね、とか不謹慎な事も考えたが、責任感が強い分自傷行為や最悪精神病で後送になんてなったら自殺しかねないというのが大尉の見立てだ。その気遣いを何故俺にはしてくれなかったんでしょうか。

 

「大佐は壊れませんから」

 

そんな方向の信頼は要らない。ともかくそろそろ飴を与えて欲しいとお願いされた。正直教育状況はノータッチだったので、少尉に来て貰ってそんな話があるけどどう思うって聞いたらすっごいしかめっ面された。

 

「はい、大佐。正直に申し上げれば彼女たちは最低ラインにすら達していません。MSに乗るには、最低でも後3ヶ月は必要でしょう」

 

まず体力が足りない。次いで兵隊としての知識も無い。正直なんで軍服を着ているのか解らないレベルで軍に対する理解もない。MSに乗せるどころか、本音で言えばとっとと本国へ帰れと言いたいというのがトップ少尉の忌憚のない意見だそうな。奇遇だね俺も同意見だよ。まあ、残念な予行演習と考えてやるけどね。

 

「…予行演習?どういう意味でありますか?」

 

「あくまで私の推測だが」

 

そう前置きして、史実でのジオンが行った学徒動員の話をする。まあ、第二次大戦以降、便利な人殺しの道具が増えれば増えるほど、兵隊の若年化が進むのは歴史が証明している。ジオンだって余裕がある今だからこそまともな訓練をした兵士を乗せているが、余裕がなくなれば歩兵や旧世紀の戦闘機などに比べれば遙かに体力面での負荷が低いMSを、それこそ動かせるだけで良いと考えて彼女たち程度の人員が新兵として送られてくるようになるだろう。話し終えた後、少尉の顔を見れば嫌悪に歪んでいた。

 

「子供を戦場に送り出す、控えめに言って吐き気がしますね」

 

「そうだな。だが追い詰められれば何処の国でもそうする。無論我が国だって例外ではない。幸か不幸か、彼女たちはまだ時間があるうちに来てくれた。最悪の中でも最善の一手が打てるよう、精々我々も訓練させて貰おう」

 

「…大佐は、今次大戦がそうなるとお考えなのですか?」

 

どうかな。俺は未来が見通せる訳じゃないからね。保身に走ったせいで原作知識も何処まで通じるか怪しいし。

 

「ならないよう最大限の努力はする。だが、なってしまった時に後悔しても遅い。であれば最悪に備えるのもまた軍人の使命だろう」

 

子供を引っ張り出した時点で、大人としても軍人としても失格だけどね。

 

「であるならば、シミュレーターに乗せるくらいが妥当でしょう。大佐がお相手してくださればより励みになるかと」

 

そーなの?ご褒美になるって言うなら吝かじゃないよ。

 

「解った、それじゃあ午後はお嬢さん方とデートといこう」

 

 

そんな訳で、書類仕事を片付けて鼻歌交じりにシミュレーター室に向かっていたら、通路でばったりシーマ少佐に出会った。

 

「やあ、少佐。君もシミュレーター室か?」

 

イベリア半島攻略後受領予定だったガウが、例の高射砲のせいで別部隊への補充に回されたせいで海兵隊はちょっと暇を持て余している。まあ、そのおかげで精鋭である彼らがシミュレーターや実機で基地に居る部隊を手当たり次第に教育してくれているので、基地司令としてはそれ程悪くないとも思っている。当初の予定通り陸路でのアフリカとの連絡も可能となったし、北大西洋への襲撃準備も着々と進んでいる。このまま順調にいけばブリテン島を攻略出来てしまうかもしれない。

 

「ええ、ホシオカの親父殿から頼まれ事でして。そう言う大佐こそ午後一番からとは、今日は司令部のうるさ型からお小言がなかったので?」

 

はっはっは、そんな訳無いじゃない。

 

「彼らの小言が無くなる頃には戦争は終わっていると思うよ。例のお嬢さん方へのご褒美を頼まれてね、これからシミュレーターで相手をするんだ」

 

そう言ったらなんか笑顔のまま停止する少佐。え?なに?

 

「大佐が直接指導なさるんで?」

 

「そんな大それたものじゃない。2~3回模擬戦をしてやるくらいだろう」

 

まだ体力的にも微妙な様子だし、MSパイロットがそれなりに消耗する事が解るくらい乗れれば今日は十分だと思う。正直俺との模擬戦がご褒美になるってのは今一ピンとこないけど。

 

「…成程。ああ、ちょっと失礼します」

 

そう言って少し離れたところで携帯端末を取り出して何やら話し始める少佐。何だろゲンザブロウ氏からの連絡かな?それ程大した用事ではなかったのか、すぐに通話を終えると、少佐はにこやかな笑顔で戻ってきた。

 

「失礼しました、大佐。それでは行きましょうか?」

 

頷いて歩き出そうとしたら、今度は俺の携帯端末が震えだした。なんだよ、タイミング悪いな。

 

「ああ、大佐ですか?その、ちょっとご相談したいことがありまして」

 

連絡の主はゲンザブロウ氏だった。何だろ?あれかなゴッグのことかな?

 

「相談ですか。申し訳ないが少し後でも宜しいでしょうか?先約が…」

 

「ああ、その、結構急ぎと言いますか出来ればすぐ来て欲しいんですが」

 

何、もしかしてトラブルでも起きたん?そんな感じで困っていたら少佐が話しかけてきた。

 

「どうかなさったんです、大佐?」

 

「ああ、どうもゲンザブロウ氏が至急の案件と言ってきていてね。どうしたものか」

 

「…宜しければ、お嬢さん方の面倒は私が見ましょうか?」

 

え、いいの?

 

「しかし少佐も用事があるのだろう?」

 

そう言えば笑ったまま少佐が口を開いた。

 

「こちらはそれ程急ぐ用事ではありませんし、内容もホシオカの親父殿がらみですから。大佐の用事のために遅れるなら納得してくれるでしょう。私は大丈夫ですよ」

 

そう言ってくれる少佐。考えてみれば、シミュレーターばっかで実機チェリーな俺より、実戦経験豊富で兵の扱いにも慣れている少佐の方がずっと適任な気がしてきた。ついでに言えば、女性同士の方が色々悩みとかも打ち明けやすいかもしれない。よし、ここはシーマ様に頼ってしまおう。

 

「それなら、すまないがお願いできるか、シーマ少佐。後で埋め合わせをしよう」

 

「期待しておきます、大佐」

 

そう笑ってシミュレーター室へ歩いて行くシーマ様。ハードル上がったなあ。

 

 

 

 

シミュレーター室にパイロットスーツにて集合と大尉に告げられたとき、ミリセント・エヴァンス少尉は思わず歓声を上げ掛けた。

色々な基地をたらい回しにされたが、このオデッサは特に扱いが雑だ。何しろこの一週間ミリセント達はただ基地の中を走らされていただけなのだから。友人のフェイス・スモーレット少尉や、A班のジュリア少尉のようにメンタルが強いメンバーは良いが、同じ班のミノル・アヤセ少尉が夜泣いている所を見たし、ミリセント自身も少々気持ちが落ちていたので、ここで念願のMSへの搭乗許可は何物にも代えがたいご褒美だ。

 

「まあ、実機じゃなくてシミュレーターだけどねー」

 

隣を歩くフェイスがそう茶々を入れたが、彼女も口元の笑みは隠せていない。

 

「ふん!全く遅すぎですわ!私をMSに乗せないだなんてジオンにとって損失でしてよ!」

 

後ろではジュリア少尉が上機嫌で大佐を非難している。教官に聞かれるたびにランニングの周回が増えているのだから、いい加減学習して欲しいとミリセントは密かにため息を吐いた。

 

 

「よし、全員居るな。では良い知らせがある」

 

部屋で待機していたら、引きつった笑みを浮かべつつ、エリオラ大尉がそう言って入室してきた。何事かと見れば、何故か秘書官の制服に身を包んだ少佐殿が良い笑顔で後から入ってくる。

 

「お忙しい大佐殿に代わって少佐殿が本日貴様らの面倒を見て下さる。少佐はあのジブラルタルを攻略した英雄だ、存分に胸を借りるといい」

 

「ご紹介に預かったシーマ・ガラハウ少佐だ。お嬢ちゃん達に大佐は勿体ないからねえ、あたしが精々遊んであげるよ…覚悟しな」

 

素晴らしく良い笑顔の少佐殿を見て、ミリセントは正しく虎の尾を踏んだことを自覚したが、既に事態は如何様にもすることは出来ず、黙って敬礼を返すことしか出来なかった。ちなみにこの日ジュリア少尉が泣いて謝るという極めて珍しい事態が発生したと言われているが、関係者各位が口を噤んでいるため、その真実は定かでない。




読者の期待を裏切っていくスタイル。


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第三十六話:0079/07/06 マ・クベ(偽)の密告

感想二千件突破感謝投稿。
全て読ませて頂いています、有り難うございます。




ゲンザブロウ氏の相談はやはりゴッグに関することだった。今の状況だと試作機でノウハウが得られるツィマッド社が、他社に比べ提供する技術に対し見返りが大きすぎるのではないか、と言うのがゲンザブロウ氏の懸念だった。簡単に言えば、今の状況だとジオニックやMIPがへそ曲げちゃうよ、最悪出向しているメンバーを引き上げられた上にそいつらクビにされちゃうかもなんて問題に発展しかねないそうな。

え、こんな貴重な経験積んでる技術者切るの?なんでって思うかも知れないが、今回はアッザムの時とは違い、各社の独占している技術をかなり踏み込んで公開しないといけない。ツィマッドは大推力エンジンやジェネレーター系とその制御プログラム。ジオニックは構造材関連にMSの制御系。MIPはメガ粒子砲関連の技術と、ちょっと協力程度で提供するのは難しいものばかりだ。

んで、それを見返りも無しにべらべら喋ると言うことは、その技術者は会社の利益を著しく損なう行為を働いた事になる訳で、会社からそんなコンプライアンス意識の欠如した人間なんて危なくて使えないと言われても確かに文句を言えない状況である。

当然クビになれば、仮に軍で再雇用しても今までのようには行かない。各社のデータベースにはアクセス出来なくなるし、横のつながりだって切れてしまう。もしかしたら会社の方からそれらの技師に自社機体への接触禁止なんて要求も出るかもしんない。それは困る、大いに困る。

 

「ではツィマッドには悪いが、今回の開発過程は各社に完全公開と言うことにしよう。無論提供できる技術に関しては、会社からの承認のあるもののみとする。どうだろうか?」

 

そう言えば、ゲンザブロウ氏もそれなら会社も納得するだろうと残念そうな顔で答えた。

 

「それだと残念ながら各社の技術の粋を集めて!とは行きませんな」

 

多分それはジオンが負けるとこまで行っても無理だと思うよ?

 

「会社が営利団体である以上それはどうしようもない事ですな。苦労をおかけします」

 

それにしても、このくらいのことなら通話で良かったんじゃない?何で呼んだの?って言ったら、突然狼狽し始めるゲンザブロウ氏。何、他に何隠してるの。

 

「ああ、その、いや。そ、そう!実はツィマッドの連中から相談を受けてまして!その内容について大佐の意見を聞きたかったんですよ!ほら、通話ですとちょっと解りづらいかと思いましてね?」

 

明らかに何か隠しているが、そこまで言えないなら無理に聞き出すのは控えよう。

 

「そう仰るなら真意は問いません。基地や兵達に害が無い範囲で、ですが」

 

「それは誓って無いのでご安心を」

 

そう安堵するゲンザブロウ氏に溜息で返す。

 

「…ゲンザブロウ氏、もう少し腹芸も覚えて下さい。その答えでは隠している事があると自白しているようなものです」

 

俺の言葉に、ばつの悪い顔になりながらゲンザブロウ氏は図面を端末に映した。ああ、言い訳って訳じゃ無く本当に相談したいこともあったのね。

 

「あー、ゴッグなんですが、今のレイアウトですと、どうしても排熱がクリア出来ません。大佐の言うセミモノコックで試算してみましたが、それでも容積が足らんのです」

 

そう言って見せてくれた図面は、なんだか一回りほど大きくなって、更にずんぐりと丸くなったゴッグだった。何か出来の悪いカプルみたい。

 

「地上での活動時間延長のために空冷機構を背面に追加しています。ただ、重量が増す分負荷も増しますから、思ったより効果が見込めません」

 

図面横の試算を見てみると、確かに微々たる変化しか見られない。そうだなぁ。

 

「いっその事水冷機構を削除してしまったらどうです?」

 

そんでその分空水両用式の冷却機構を積むとか。

 

「難しいですね。水冷機構で一番容積を食っている貯水ユニットはバラストタンクと兼用しているので外せません。両用ですとサイズがむしろ大型化してしまいます」

 

俺が思いつく位のことはもう試してるよねー。…ん?ちょっと待て。

 

「貯水ユニットとバラストタンクを兼用しているのですか?」

 

「ええ、そうですが」

 

待て待て待て。

 

「この機体はどう浮上するのです?」

 

「それは当然排水し…あ」

 

気まずい沈黙が流れる。それを打開するべく俺は口を開いた。

 

「どうも、この機体の冷却機構には根本的な問題がありそうですな。失礼」

 

そう言って図面を見れば、兼用されているせいでバラストタンクが耐圧殻の中に納められている。そりゃでかくなるし重くもなるわ。しかも肝心の上陸時に十分な水量を確保するため余計にでかくなっている。断言しよう、この機構を考えた奴は馬鹿だ。

 

「…兼用を止めればバラストタンクは小型化出来ますし、空水両用なら貯水タンクは要りません。そうなれば耐圧殻も要りませんからかなり容積が空きませんか?」

 

「た、確かにこれなら…ああ、ダメか」

 

すぐに再計算してくれたが、まだ駄目なようだ。見れば空冷にした分ラジエーターの位置に制限が出てしまい、それが内部機構、はっきり言えばメガ粒子砲と干渉している。

 

「では、レイアウトを根本から弄りましょう」

 

俺の言葉に疑問符を浮かべるゲンザブロウ氏。ふふふ、忘れて貰っては困る。俺は原作知識持ちのチート野郎なのだよ!

 

「腹部に装備している武装を全て移動します。メガ粒子砲は腕に、ミサイル発射管は背中に持って行きましょう」

 

大体何で腹にミサイル詰め込んだと小一時間問い詰めたいが今は良い。

 

「ミサイルは解りますが、メガ粒子砲を腕にですか?随分バランスが変わりますね。それにクローへの動力伝達も考えるとかなり肥大化しそうですが…」

 

「クローに関して言えば、むしろ何故可動させる必要があるか私は聞きたい。他機種同様に携行火器を持たせられるならともかく、相手を殴りつける鈍器を強度を落としてまで動かしたい理由は何でしょう?」

 

「…ものを掴むとかですかね?」

 

「掴むだけなら五本も必要ありません。精々2~3本あれば良い。ついでに大型化して強度を上げれば尚よい」

 

そう言いながら図面を指先でつつく。

 

「ついでですから、MIPが次の水陸両用機に採用する予定のメガ粒子砲を寄こすように言いましょう。腕にあれば射界は広がるはずですから、拡散式を積む必要性は薄い」

 

「それで空いたスペースに冷却系を追加ですか。面白い、ちょっと計算してみましょう」

 

興奮気味に端末を操作するゲンザブロウ氏を見て、俺は満足しながら席を立った。ちなみにシミュレーター室にも行ってみたが、入口に立っていた大尉にお礼を言われたあと、すぐに追い返された。中で乙女の秘密が行われているなんて言われたら退散せざるを得ないと思う。一体なにやってるんだろ?

 

 

そんなことがあったのが二日前、以来良く解らんがジュリア嬢は真面目に訓練に励んでいる。ただ、俺を見ると悲鳴を上げて逃げるようになった。ちょっと傷つく。ちなみに暇なときは訓練に支障が出ない範囲ならシミュレーター使っていいよって中隊のメンバーに伝えたら皆引きつった笑顔になったが、横で聞いていたシーマ少佐が良かったねぇ?って一言言ったらすっごい元気な声で感謝の言葉を述べられた。どうも彼女たちの忠誠心はシーマ少佐に掌握されているようである。

 

「やあ大佐、久し振りだ。活躍は聞いているよ、姉上に随分絞られたみたいじゃないか?」

 

それはさておき、7月に入っていよいよ連邦も色々出来上がっている頃なので、原作知識を使って色々とちょっかいだそうとガルマ様に連絡を取ってみた。開口一番からかわれたけど!

 

「自身の不出来を恥じるばかりです。搭乗員の選定もしておくべきでした」

 

「それでスクールを開いているのか?こちらまで聞こえてきているぞ?是非ウチにも来てやって貰いたいものだな」

 

「スクール?」

 

なんぞそれ?訳が分からないよって顔してたら、ガルマ様が笑いながら教えてくれた。

 

「ほら、大佐がシミュレーターで兵達と訓練しているだろう?あのデータは各方面軍に開示されていてな。先日なんてウチの教導隊の教官がオデッサで研修を受けさせてくれなんて頼んできたぞ?」

 

「受け入れは吝かではありません。むしろ人材交流は積極的にするべきでしょうし」

 

せめて、横の連帯くらい強めないとね。おっと話がそれてるな。

 

「受け入れの件はまた後ほど。本日はガルマ様にお聞かせしたい情報がありまして」

 

「…暗号強度の高い専用のレーザー回線を使ってまで大佐がしたい話か。随分面白い話になりそうだ」

 

バレるとチョット厄介だからね、先に処分されても困るし。

 

「実は、連邦の新兵器及びその運用研究についての情報を入手しました」

 

「なっ!?」

 

驚いた?驚いたでしょ?情報部すら得てない情報だもんねー。

 

「規模や装備の詳細は判明していませんが、どうやら北米の基地で新兵器とそれを運用する兵士の育成が行われているようです。状況からすれば恐らく新兵器はMTあるいはMSかもしれません」

 

「まて、まて大佐。そんな話は聞いたことがない。第一北米だと?連中は我々の目と鼻の先でそんなことをしていると?」

 

混乱しているのも無理はない。なにせ北米の主要な都市はほぼジオンの勢力圏だし、残存しているカリブ海沿岸だって攻められればいつ失陥してもおかしくない。普通に考えればそんなところで新兵器の研究なんぞしないわな。

 

「その盲点を突いたのでしょう。情報部もまさか最前線で新兵器の研究などしているとは考えていなかったのでしょうな。私自身、とある我々のシンパから情報がなければ調べようとも思いませんでしたから」

 

そう平然と嘯いてみせる。無論シンパなんて居ないし、あくまで原作知識ありきで幾つかの古美術商などの伝手を使って食料とかの移動量を確認して貰っただけだ。でも、それだけでも解る事ってあるんだよね。

 

「一ヵ所だけ随分と羽振りの良い基地がありましてね。規模は大したことがないのに食料などが明らかに他所より多く搬入されている」

 

つまり、それだけ多くの人員がそこに居ると言うことだ。隠蔽のために複数の業者を使うまでは良かったが、ちゃんと身元を洗わなかったのは失敗だったな連邦さん。世の中には金をくれればアースノイドもスペースノイドも関係ないなんて連中は山ほどいるぞ?

 

「…成程、成程だ、大佐。確かにこれは秘匿回線を使わねばなるまい。それで、場所は?」

 

「ジョージア州オーガスタ基地。リスクは高いですが、今落とす価値があると小官は愚考します」




原作開始まであと一ヶ月。
と、思ったら後二ヶ月もあるじゃねーか!

更に訂正。
よく考えたらとんでもねえ構造だと編集に突っ込まれたので加筆です。


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第三十七話:0079/07/09 マ・クベ(偽)と相談

E-5終わった記念と言う名の今週の投稿。


「良くやってくれた、大佐!感謝するぞ!」

 

いきなりドズル中将から連絡があったと聞いて何事かと慌てて出てみたら、馬鹿でかい声で感謝された。そんなに大声出さんでも聞こえますよ。

話を聞いてみれば、例の連邦宇宙軍の作戦のためにあちらさんジャブローから増援を出したらしいのだが、運が悪いことに打ち上げた宙域で第603技術試験隊が評価試験をしていたそうな。そう、オデッサから送ったザクレロの。双方とも不期遭遇戦だったわけだが、今回はこちらの方が運が良かったようだ。対艦ミサイルは模擬弾だったが、それ以外は完全装備でのMS曳航試験だったせいで、連邦艦隊は碌な対空準備もままならないまま、外縁に位置していたサラミス二隻をザクレロに撃沈され、空いた穴に完全装備のR型を三機も投げ込まれたのだ。結果からするとザクレロは数カ所被弾したが装甲板の損傷のみ、R型の内1機が小破したものの、増援として送り込まれる筈だった戦艦3隻、巡洋艦8隻からなる艦隊を文字通り全滅させてしまったのだ。ザクレロと宇宙での試験を兼ねて送られていたジャイアントバズの戦果は即座に本国に届けられ、性能評価をしていた技術中尉が大絶賛の上、一秒でも早く生産するべし、なんて報告書を上げたらしい。ちなみに戦艦1隻と巡洋艦2隻を単独で、その後戦艦2隻を協同撃沈したデミトリー曹長は特進して准尉になった上でジオン十字勲章を授与されるそうな。すっげえ感謝の言葉だらけのメールが来たけど、頑張ったのは曹長なんだから胸張って貰っときなって返しといた。加えてザクレロにびびったのか、活発化していたルナツーの動きが途端に止まり、頻繁に動き回っていた艦隊も引き籠もってしまったそうな。おかげで装備の更新時間が出来たとドズル中将はゴキゲンで俺に連絡を送ってきた次第である。

 

「ザクレロも良いが、あのジャイアントバズだ!あれは良い。既存の機体でも即座に運用出来るところが気に入った!」

 

いや、MSなんだからそらそうでしょと言いたいが、案外ジオンの携行火器って互換性が無かったりするんだよね、ジャイアントバズも元々ドム専用で設計してやがったし、同じマニピュレーター方式を何で採用してるのか考えろと問い詰めたい。当然ではあるが、うちから開発要求を出した装備は、ザクⅠでも使えるようにしろよ!絶対だぞ!フリじゃねえからな?と口をすっぱくして言ってある。まあビーム兵器は無理だろうが、せめて実弾兵器くらいはそうしておきたい。

 

「お気に入り頂けたようで何よりです」

 

「ソロモンにも製造ラインを設置する。MMP79も評判が良いぞ。全く、お前のような部下がいるキシリアが羨ましいわ!」

 

不用意な発言は避けて頂けませんかねぇ!?ちなみにMMP79はごり押しして生産を前倒ししたMMP80の事だ。早く地上でも量産体制に入りたい。

 

「閣下の下にも優秀な者は幾らでも居るではありませんか。かの赤い彗星や青い巨星、将であればコンスコン少将やカスペン大佐も居られる」

 

そう返せば自嘲じみた笑いを浮かべてドズル閣下は声のトーンを落とした。

 

「確かに、優秀な部下だ。だがあいつらは俺に似過ぎて政に向かん。不甲斐ない話だが、総司令部の連中との折衝すら半分以上俺の強権と恫喝だ。これでは自ら軋轢の火種を作っているようなものだ」

 

いやまあ、作ってますけどね。

 

「確かに、予算面である程度衝突があるのは致し方ないとは言え、宇宙攻撃軍と突撃機動軍の間には壁を感じることがありますな。我々は謀を企む陰謀屋と謗られておりますし、そちらは武骨な猪扱いです。なんとも嘆かわしい」

 

どっちも無ければ戦争に勝つ事なんて出来ないと言うのに。まあ、武官と文官の軋轢は人類史始まって以来の伝統でもあるので、ある程度は許容するべきなんだろうが。

 

「全くだな。貴様のような奴が後十人も居れば、この戦争ももっと楽だったろうに」

 

そうですかね?最近のキシリア様の表情見てるとそうは思えませんけど。

 

「ご期待に添えず申し訳ありませんが、私も分裂は出来ません。精々教えを説くくらいが関の山です」

 

肩をすくめて言えば、それまで大仰なリアクションを取っていた閣下がピタリと止まり、真剣な目をこちらに向けてきた。はっきり言って猛獣並みの迫力なんですが。

 

「教えを説く、説くか。それはいい。いいな大佐。兄貴とキシリアにも相談してみよう」

 

なんか知らんがまた勝手に納得して通信が一方的に切られた。俺知ってるんだ、この後絶対無茶振りされるって。

 

 

「士官の交換配属による軍間の交流活性化と連帯の強化…ねえ。良いことだとは思うが、それを何故うちでやることになる!?」

 

即断即決、実にドズル閣下らしいが、他の二人があっさり承知したことに驚いた。まあ、キシリア様はドズル閣下を派閥内に取り込めれば国内での発言権も増すだろうから不思議じゃないが、問題はギレン総帥である。あの人的にはキシリア様の力が増すのは面白くないんじゃないのか?そもそも、やるならやるで本国でやれば功績は自分の所になるし、思想の植え付けだってやりやすいだろうに、何で態々ここでやる?そこまで考えて俺はある仮説を思いつく。

 

「…成程、そう言う事か」

 

そもそも今回の交換配属は上層部の思いつきで、士官からすればいけ好かない相手の場所へ放り込まれる訳である。つまりギレン総帥は今回のプログラムは完全に失敗すると踏んでいるのだろう。その為に自分のお膝元は避け、キシリア様かドズル閣下の所へ押しつけた。んで、不用意な発言をした俺がスケープゴートにされたというオチだ。また貧乏クジだこれ!?

 

「…今度こそ左遷かもしれん」

 

正直俺は良い。別に食うに困らなければ、月だろうがアステロイドベルトだろうが、木星だって行ってやる。だが、今はダメだ。

 

「ここまで巻き込んでおいて、俺だけ逃げる訳にはいかんよなぁ」

 

ため息を吐きながら送られてきた交換人員のリストを見て、危うく紅茶を吹き出すところだった。

 

「あ、アナベル・ガトー大尉にシン・マツナガ大尉?閣下もまた随分なのを送ってくる」

 

佐官じゃないのかと思ったが、ソロモンに居るので有名どころはコンスコン少将にラコック大佐、後はカスペン大佐くらいだったかな?どの人も俺より階級上か同じだから、下手なことにならんよう配慮してくれたのかもしれん。ついでに言えば、二人に実績を積ませて昇格させようという腹づもりかな?それにしてもステレオタイプな武人二人を俺に預けるとか、ドズル閣下は不安にならんのだろうか。キレて俺のこと殴ったりしたら問題になりますよ?

まあ、今回はちゃんとキシリア様も承知しているみたいなんで、俺に全く拒否権無いんですけどね!

 

「失礼します、補給物資の受け入れが完了致しました。こちらがリストになります」

 

そう言いながらファイルを渡してくるウラガンを見て、つい言ってしまう。

 

「なあ、ウラガン。貴様もちょっと偉くならんか?」

 

「は?どういう意味でありましょうか?」

 

優秀な副官が居なくなるのは正直困るが、これだけ有能な男を俺の副官程度にしておくのは正直人的資源の無駄遣いではなかろーか?

 

「いや、貴様が基地の副司令になってくれれば、私も色々とやりやすいと思っただけでな」

 

「…閣下、自分は少尉であります」

 

知ってる。俺が居ない間オデッサ切り盛りしてくれてるのにね。

 

「それだよ、副司令になれば態々私の承認を待たずとも貴様が片付けられるだろう?今のジオンには人的余裕が無い。貴様のような男を少尉程度で留めておくのは、はっきり言って損失だ」

 

そう言えばウラガンは胡乱な目でこちらを見てきた。な、なんだよ。

 

「それで身軽になった大佐は如何なさるのです?今度は専用機で散歩でもなさるおつもりですか?無理難題で逃避したいお気持ちは判らなくはありませんが、諦めて現実を見て下さい」

 

良いじゃ無いチョットくらい楽したってさぁ!なんて言える訳も無く、俺は溜息を吐きながら渡された書類にサインをした。さて、何教えたら良いんだろう?

 

 

 

 

与えられた部屋で私物を片付けながら、アナベル・ガトーは何度目か解らないため息を吐いた。突撃機動軍との連帯強化の一環として、士官を交換し一定期間相手のやり方を学ばせる。人的資源に余裕が無いジオンでは、今後軍の垣根を越えての協同が必要になる。それを見据えての事だと上官は言っていたが、アナベル自身が十分に納得出来るだけの理由にはならなかった。正確に言えば、そうした協力体制を作っておく必要性は理解できる。しかしその担当候補に自分が挙がったのが解らないのだ。

 

「ガトー大尉、宜しいか?」

 

開いたままになっていたドアを叩いてこちらに声を掛けてきたのは、同じく派遣されることになったシン・マツナガ大尉だ。その表情はリラックスした様子で、少なくともアナベルが抱えている悩みとは無縁に見えた。

 

「ああ、このような有様で申し訳ない。どうかされたか、マツナガ大尉」

 

「いや、貴官が思い悩んでいるとドズル閣下が心配なさっていてな。暫くは同じ預かりになる俺にそれとなく探るよう頼んできたのだ」

 

そう正面から言うマツナガ大尉に思わず苦笑してしまう。白狼の異名を持つ彼もまた、自分と同じく武人としての気質が強い。それとなく、と言われながら真っ正面から来てしまう不器用さなどにその辺りがにじみ出ている。

 

「悩み、と言うよりは疑問です。率直に申し上げて私は武に生きております。この独立戦争に、祖国のため微力を尽くす所存ですが、それは一兵士としてだった」

 

MSで戦えと言われれば、敵艦隊に先陣を切って切り込んでも見せる。戦場で勝つために知恵も絞る、しかし今回の指令で学べと言われたのは、それよりも一段上の政や謀の類いだ。それは自分には過ぎた領分だと思っているし、そもそも性に合わないと感じている。素直にそう言えば、マツナガ大尉も自分もそうだと、笑いながら答えた。

 

「しかしマツナガ大尉は、失礼ながら悩んでいるようには見えない」

 

「私は貴官より少しだけドズル閣下を長く見ているからかもしれん」

 

マツナガ大尉はそう言って口を開く。一週間戦争とそれに続くルウム戦役で矢面に立った宇宙攻撃軍は、今でも多くの部隊が定数割れや欠番を起こすほどの被害を被った。特に深刻だったのが、大隊の指揮に当たっていた大佐や中佐といった士官で、高濃度のミノフスキー粒子下で艦隊戦を行うためにルウムで多くの士官が前線に立った結果、開戦以前から軍を支えていたベテラン将校を多く失ってしまったのだ。そのため、MSパイロットで功績の高い者を強引に佐官にするなどしてある程度指揮系統の空白を補ってはいるものの、根本的に兵站や戦略を踏まえた知識を持つ佐官が絶対的に不足してしまっているのだと言う。

 

「ドズル閣下の陳情や交渉などを聞いたことがあるが、あれは酷いものだぞ?破落戸の恫喝と大して変わらん」

 

喉を鳴らすように笑いながら、そうマツナガ大尉は上官を評する。

 

「つまりなガトー大尉、なんてことは無い話だ。おいたをしている時間は終わり、俺たちが面倒を見る番が来た、ただそれだけのことなのさ…。まあ、ちょっと早すぎるだろうとは、俺も思うがね」




ちょっと悩み中です。


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第三十八話:0079/07/12 マ・クベ(偽)と敗北

お詫び投稿


その一報が入ったのは、夕食が終わりウラガンの紅茶を楽しんでいる時だった。慌てた様子で当直の少尉が部屋に駆け込んで来たのだ。ノックも何も無かったから、ウラガンが眉を顰めたが、少尉の態度から咎めるより先に話を聞くことにした。

 

「どうした少尉。何かトラブルか?」

 

はっきり言って悪い話だと全身からビシビシ伝わってくるから全然聞きたくないんだけどね!

 

「ほ、報告致します!先ほど北米大陸にて大規模な戦闘が発生!味方MS部隊に甚大な被害が出た模様です!」

 

その報告に思わず眉を顰める。いや、早い報告は大事だけど肝心なことが何も解らん。

 

「少尉落ち着きたまえ。その連絡はどこから来た?誰からだ?」

 

「は、はい。地球方面軍司令部のガルマ・ザビ大佐からであります!至急マ大佐に繋いで欲しいと」

 

そっちの方が大事な用件じゃねぇか。うーん、うちの連中勝ちに慣れすぎてるのかちょっと打たれ弱いのかなぁ。このくらいで動揺してたら、オデッサ作戦とか起きたら半分くらい失神しちゃうんじゃないか?

 

「解った。ウラガン、少尉を食堂にでも連れて行ってやれ」

 

そう言って早速通信室に向かうと、モニターには完全に落ち込んだガルマ様が映っていた。今にも失意体前屈を決行しそうな顔つきだ。

 

「やあ、大佐。呼び立ててすまないな」

 

「いえ、問題ありません。先ほどかなりの損害を受けたと聞きましたが」

 

そう言えば苦しそうな顔になるガルマ様。こりゃ結構な被害っぽいな。

 

「完全に私の落ち度だ。グフⅡを二個中隊、マゼラアタックも1個大隊失った」

 

「場所はオーガスタですか?一体何が?」

 

事前に高射砲の存在は確認していたはずだから、それでは無いと思うのだが。

 

「実に古典的だが効果的な方法をとられた。障害物だ」

 

曰く、航空写真などでは解らないように巧妙に配置された巨大なコンクリート塊によってホバー機の行動が著しく制限され、動きが鈍ったところをこれまた隠蔽されていたトーチカや塹壕からの集中砲火で撃破されたそうだ。機動力を過信して突入した部隊の殆どが盾を携帯していなかったのも被害が拡大した要因だという。

 

「マゼラアタック隊が決死の覚悟で支援砲撃を行なっていなければ、投入した攻略部隊全てを失っていたかもしれん。完全に私の慢心だ」

 

マゼラアタック隊は175ミリの榴弾では障害物の破壊が困難だったため、経路開設のためにAPHEによる進路上のトーチカへの直接照準を試みたそうだ。幸いマゼラアタックの分離機能のおかげで、搭乗員の多くは生還したものの矢面に立った中隊は全員が戦死、残る中隊も殆どが重傷という有様だそうだ。ちなみにグフ部隊はもっと酷くて実に10名も戦死してる。グフに乗っているのはベテランが多いから、これは数字以上に重い損害だ。

 

「敵は既にホバーMSに対する対策を取ってきた訳ですか。厄介ですな」

 

「だが、収穫もあった。まず、オーガスタ基地は制圧した。おかげで何を開発していたかも解ったぞ。大佐の読み通り、連中MTとMSを投入してきた」

 

「両方とも開発ですか。呆れる国力ですな」

 

まだまだ全然余裕なのかよ、洒落にならんな。

 

「だが、まだ両方とも熟成されていないと言うのが戦った兵達の感想だ。MSの方はザクやグフならともかく、グフⅡの相手にはならないそうだ。MTの方も中途半端にMSと掛け合わせたせいで防御力も運動性もどちらも半端すぎると言っていた。尤も搭載火砲の威力だけは侮れないとのことだが」

 

「つまり、装備面では我々の方が優越していると?」

 

「MS、MTに関してはな。事実今回の損害も敵が防御施設を十分に整えていたからこそだ。しかし楽観も出来ん、これを見てくれ」

 

そう言って大佐は幾つかの写真をモニターに映す。

 

「現物も回収したが損壊が酷くてな、解析には少々時間は掛かりそうだが」

 

「ガルマ様、これは」

 

解っては居たけど、もう実戦に投入してきているのかよ。

 

「ああ、連中はMSに搭載可能なビーム兵器を既に完成させている。これが量産されれば我が方のMSの優位は一気に崩れかねん」

 

「確かに。ここで手に入れられたのは僥倖でしたな」

 

ビーム兵器の前には現状のMSでは装甲の意味が無い。加えて軽視されがちだが、弾速の速さと反動の低さも無視できないメリットだ。弾数こそ少ないと思われがちだが、同程度の威力の兵器がバズーカである事を考えれば、サイズ的にもサブウェポンとして携帯しやすいビームライフルの方が優秀だ。

それに、原作で連邦がメインウェポンとして採用したことも納得出来る。なぜなら高濃度ミノフスキー粒子下では余程訓練をしていても連携は難しく、更に三次元戦闘となる宇宙空間では確実に乱戦になる。そうなるとそもそも射撃の機会自体が少なく、あってもその時間は極めて短い。すると必然高弾速かつ高威力の兵器が好まれるようになる。加えてMSは歩兵のように痛みで動きが鈍ったり、止まったりしてくれないし、装甲化された目標だからマシンガンの弾一発では余程運の悪い所にでも当たらない限り損害すら与えられない。しかも補給は潤沢な上に戦力でも上回っているから弾切れになったら後退すれば良いのだ。

末期のジオンがビームライフルの配備に拘ったのも、この当てやすさで新兵の練度の低さを補おうとしていたのでは無いだろうか。まあ敵が採用した兵器を欲しがったという可能性も捨てきれないのだが。

とにかく現在ジオンが手間取っているエネルギーCAPの実物が手に入ったのは、ある意味で連邦のMSを手に入れたことより意味がある。どこぞの白い奴をぶっ壊すより重大な功績になるんじゃ無かろうか。

 

「こいつを装備した黒いMSにグフⅡ2個小隊が食われている。あの場で仕留めてくれたランス中佐には感謝しかないよ」

 

「黒いMSですか」

 

「うん。どうも指揮官用の高性能機ではないか、と言うのが中佐の意見だ。オーガスタにも配備されていたのは1機だけのようだったしな。ただ、量産機もそれ程性能で劣ってはいないし、何より量産機ですらビーム兵器を装備していたという報告が上がってきている」

 

「ぞっとしませんな」

 

大陸から叩き出せた欧州や、今回の作戦でほぼ制圧し終えた北米はまだしも、目下攻略中かつ後方拠点が十全でないアフリカや東南アジアはかなり辛い事になりそうだ。

 

「そこで、相談なんだが大佐。君の基地の戦力を少し引き抜きたい」

 

その言葉に俺は思わず唸ってしまう。

 

「既に205大隊がアフリカへ、207大隊が東南アジアへ配置転換予定ですが」

 

おかげで生産していたドムとグフⅡを予備機として根こそぎ持ってかれた。そのせいで基地の倉庫は久し振りに寂しい事になっている。つうか、これ以上ってもう基地守備隊しか残ってませんけど?

 

「いや、MSとは別口だ。先日総帥から漸く許可を貰ってな。キャリフォルニアでもMTの生産を始める。ついては君の所からMTの小隊を教導隊として借りたいんだ」

 

おお、マジか。

 

「それとアフリカ方面軍が拠点攻略に手間取っていてな。出来ればアッザムを貸して欲しい…2号機はまだ暫くかかるんだろう?」

 

ザクレロの大量生産のせいでMIPの本社が悲鳴上げてますからね。おかげで一回試作しただけのフレームなんて片手間ですら造ってる余裕無いわ!って切れられたらしい。デニスさんもソロモンで死んだ目してるらしいし、量産体制の確立はまだまだ先になりそうだ。

 

「欧州方面軍司令部が承知していれば私としては異存ありません。送るメンバーはこちらで選抜しても?」

 

「構わない。むしろその辺りについて私には知識が無いからね、こちらこそお願いしたい」

 

後でデメジエール少佐に相談しよう。そう思っているとガルマ様が何やら画面外に向かって叱責した。どうも連絡員かなんかがいきなり入ってきたようだ。うちも言えないけど、結構司令部とか指揮所付きの士官の質が悪い気がする。そんな事を考えながら紅茶を飲んでいたら、報告書を受け取ったガルマ様の顔がみるみる怒りの形相に歪んでいった。

 

「…大佐。オーガスタ基地の調査が終わった」

 

ああ、それでその顔か。

 

「おかしいと思ったんだ。制圧時にかなりの人数を捕虜にしたんだが、中に未成年が多く交じっていてな。念のため捕虜に尋問をしたら大当たりだ!」

 

そう言って資料を床に叩き付けるガルマ様。正直何処まで捕虜が喋ったか解らないが、聞いていて気分の良い類いの話は出てこないだろう。

 

「あそこは新兵器のパイロットを養成などしていない。連中、兵器としての人間を作る研究をしていたそうだ…あの子らはその実験体だと、人間をなんだと思っている!?」

 

良かったな、フラナガン博士。史実路線だったらガルマ様に人誅されてたかもしれんぞ。

 

「定石ではありますな。気分の良い話ではありませんが」

 

「大佐、君はこの行いが許容出来るのか!?」

 

「理解と許容は全く別ですよ、ガルマ様。単純に一軍人として連中の心中は理解できると言うだけです。人と兵器の違いはあれど、私も同じようなことをしていますから」

 

使えないものを使えるようにして戦場に送り出す。単純な話だ。まあ、俺個人として言わせて貰えば、不安定かつ運用出来る期間も恐ろしく短い強化人間なんてメリットが感じられないんだが。そんなことに将来の戦力を使い潰せる連邦は随分とお大尽様だ。

俺の言葉をどう解釈したか解らないが、暫し俯いた後ガルマ様は俺に宣言した。

 

「大佐、私は決めたぞ。この戦争は絶対に勝つ。そして地球連邦という組織を完全に破壊する。これからの人類のために、あの組織は不要だ」




ご心配掛けまして申し訳ありません。
取り敢えず、あちら様から何らかのアクションが無い限りこのまま公開させて頂こうと思います。
沢山の応援メッセージ有り難うございます。拙い文ですがこれからも頑張りますので、どうぞ宜しくお願い致します。


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第三十九話:0079/07/17 マ・クベ(偽)のこうどなじょうほうせん

UA150K突破並びに年間ランキング5位有り難うございます投稿


点けられたモニターに勇壮な音楽と共にジオンのマークが映し出される。いつ見ても好きになれないそのマークを忌々しげに眺めながら、男は煙草に火を点けた。当初は高級将校になった際のステータス程度の意味で始めた喫煙だったが、今では精神安定に無くてはならない存在になっている。

 

「これは、軍が解析した基地内に残された映像です!ご覧下さい!連邦は国民の自由と安寧を守ると嘯きつつ、その国民に対し斯様な人体実験を行なっていたのです!」

 

感情的なアナウンサーの声と共に流されている映像は、計測器に囲まれた椅子に拘束され甲高い悲鳴を上げる少女だった。しかも暴れる彼女を押さえつけ、医師風の格好をした男が薬剤を打ち込む所まで映されている。頭が痛いのはその男の顔が個人を特定出来る解像度で入り込んでしまっていることだ。それなりに情報に詳しい人間なら、彼が脳科学者でつい最近連邦軍の医療施設にスカウトされたことにもたどり着くだろう。その対処を考えているうちに、動かなくなった少女を引きずっていく所で画像は途切れ、アナウンサーが声高に連邦軍を非難し始めた。コロニーを落とす連中が人道を語るか。男の中に憤懣やるかたない感情がわき上がるが、次の言葉でその方向は一気に変えられる。

 

「この基地の存在は、連邦軍内部のシンパより提供された情報であると地球方面軍司令のガルマ・ザビ大佐はコメントしており…」

 

アナウンサーの言葉は最後まで流れず、代わりに盛大な破砕音が室内に響き渡る。告げられた言葉に沸点を超えた男がモニターへ向けて灰皿を投げつけたからだ。それでも収まりがつかない男は、咥えていた煙草を床に叩き付けると、何度も踏みにじった。

 

「インテリ気取りの陰険野郎め!厄介事ばかり残しやがって!」

 

陸軍に所属しながらレビルの熱心なシンパだったオーガスタ基地司令の顔を思い出し罵倒する。本当ならば呼びつけて殴りたいところだが、残念ながら基地陥落の際に座乗していたヘビィ・フォーク級共々吹き飛んでしまったのでそれも叶わない。

それよりも問題なのは先ほどの発言だ。アナウンサーは連邦軍内部のシンパと言った。オーガスタは陸軍にとって北米に残存していた貴重な基地だし、宇宙軍にすればニュータイプ研究をしていた重要拠点だ。防衛ラインを構築している他の基地に対しても同時に攻撃があればまだしも、明らかにオーガスタだけが狙われた今回の軍事作戦は、情報のリークがあったという発言の信憑性を高めている。だが男はこれはジオンの仕掛けた情報戦だと考えている。軍内部で予算の奪い合いや人員の取り合いはあるにせよ、ジオンという喫緊の脅威が迫った状況で、他派閥の足を引っ張りたいというだけで利敵行為に走る人物が上層部に食い込めるほど連邦軍は緩い組織では無い。加えて敵に与えた損害からして基地の防衛体制を把握していたとは考えにくく、情報提供があったとしてはあまりに片手落ちだ。

だが、これだけ信憑性の高い状況が作られれば、派閥の上流はともかく下の連中は簡単に納得しないだろう。そうなれば形だけでも内部調査が行なわれ、今度は内部調査をしたという事実が派閥間に溝を生む。ただでさえ余裕が無い現状で、更に軍同士の歩調が合わないなど最早悪夢と言っても差し支えない。暗澹たる気持ちになりながら、男はソファーへと体を沈めた。

 

 

 

 

「大佐、ウチはいつから託児所になったんで?」

 

目の前に広がる光景を見て呆れ顔で聞いてくるシーマ少佐に、こちらも溜息を交えながら返した。

 

「受け入れ先が他に無いと言うのだから仕方が無いだろう。まさか処分する訳にもいくまい」

 

俺たちの前には基地の端に造成された庭があり、そこで何人もの子供が思い思いに過ごしていた。年齢はまちまちだけど一番年上でも19だと言っていたから子供でよかろう。んで、彼らが何者かと言われれば、先日襲撃したオーガスタで被験者をやっていた子達である。最初プロパガンダに使うために本国に送られる予定だったのだが、想定以上に不安定で、中にはシャトルに乗った途端に錯乱してしまうような子まで居たから、急遽地球にある施設で面倒を見る事になった…という建前だが、実際には本国の連中が渋ったのである。

 

「催眠処置の痕跡があります」

 

診断したキャリフォルニアベースの医師がさらっとそんなことを書いたもんだから、いつテロリストに変貌するか解らん連中をコロニーには入れられないとか言い出したのである。そしたらその物言いにガルマ様が激怒して、当初キャリフォルニアで面倒を見る!と言ったところでキシリア様が待ったを掛けた。如何に子供とは言え、敵軍の軍事訓練を受けた者を軽々に近くに置くべきじゃ無いとかなんとか述べていたみたいだが、本音で言えば連邦側の研究していたサンプルを有効活用したかったのだろう。事実こちらに相談という名の命令が来た翌日にはフラナガン機関からスタッフが送られてきたし。

 

「本来なら基地とは別に施設を設けたいのですが難しいでしょうな。彼らの肉体はかなり酷使されていましたから充実した医療設備は必須ですし、万一を考えれば戦力の近くに置いておいた方が安全です」

 

端末に映されたカルテっぽい資料を見ながらフラナガン博士が口を開く。そう、送られてきたスタッフの一番前に堂々とこのおっさんが居やがったのだ。施設放り出して何しに来てんの!?って問い詰めたら、あっちでの検証はほぼ終わって後は装置の実用化なんだけど、そっちは専門の部下がやってて手が空いたから来ちゃった。とか言い出す。おっさんが言っても全然可愛くねぇから!要するに向こうの被験者は調べ終わったから新しいサンプルを見に来たって事らしい。一応ここ前線なんですけど?って厭味を言ってみたけど朗らかな顔で護衛がいるから平気ですって返された。

 

「科学者らしい理屈だねぇ、お守りをする側はたまったもんじゃ無いってのに」

 

防衛目標の有無は行動に大幅な制限が掛かるから少佐の意見は極めて正しい。

 

「キャリフォルニアの戦力が回復するまでの辛抱だ。その間不便を掛けるが大目に見てやってくれないか?少佐」

 

そう、問題はここより安全な地上の拠点がない事なんだよね。アジアとアフリカはまだまだ戦ってるし、北米は先日の戦闘で戦力を減らしてる。必然欧州になる訳だけど、こっちで戦力や設備が充実してると言えばオデッサが一番だ。だからそこら中から厄介事が投げ込まれてくる訳だが。

 

「…仕方ありませんね。暫く待機小隊を増やしましょう、手当ははずんで下さいよ?」

 

「お手柔らかに頼むよ、少佐」

 

そんな話をしていたら、ファイルを小脇に抱えた兵士が二人、こちらへ近づいてきた。視線を送れば、先日交換将校として宇宙攻撃軍から出向してきたシン・マツナガ大尉とアナベル・ガトー大尉だった。

 

「失礼します、大佐殿。ご指示のありました鉱山運営についてご質問させて頂きたいのですが」

 

「ああ構わないよ、シン大尉…ガトー大尉も質問かな?」

 

それなりにキビキビしているシン大尉に対し、疲労が見て取れるガトー大尉にも声を掛ける。元々武人!サムライ!って感じだし流石にいきなり鉱山一個運営はきつかったか。ウラガンにサポートして貰ってるからいけるかと思ったんだがなあ。

 

「はっ、いいえ大佐殿。私の問題も同様でありますから」

 

「その思い込みは良くないな。同じに見えても原因は別にある事だって往々にしてあるものだ。決めつけずに話してみなさい…まず君は少し周りを頼る事を覚えるべきだ」

 

そうしないとどっかの武闘派ハゲに言いくるめられてテロリストになっちゃうかもしれないよ?ジオンの真面目な手合いはどうもそうやって道を踏み外している気がして仕方が無い。

 

「周りを頼る…ですか」

 

「そうだ大尉。第一君は我々のやり方を覚えに来たのだろう?ならまずは我々に頼るべきだ」

 

つうか、解んないとことか聞いてくれなきゃ、何教えたら良いかこっちが解らん。実際に教える立場になってみると学校の先生の偉大さが良く解る。何が解らないか解らない奴にものを教えるとか俺には到底出来ん。

 

「…では、マツナガ大尉の次にお願いします」

 

暫し思案顔になった後、何処か晴れやかな表情になったガトー大尉がそう言えば、横で少々オーバーアクション気味にシン大尉が落ち込んで見せた。こっちはオデッサの水が随分性にあったようだ。

 

「おいおい、アナベル大尉。他人行儀じゃ無いか、俺のことはシンと呼んでくれ」

 

「わかりま…あー、解った、シン大尉。これでいいかな?」

 

照れた顔でそう告げるガトー大尉を見ながら、取り敢えず提案する。

 

「ではじっくり話すとしよう。ついでだ、シーマ少佐も付き合ってくれ。艦隊運営なら少佐の方が経験豊富だからな」

 

「では立ち話もなんですし、場所を移すと致しましょう。そういえば、誰とは言いませんが先日良い酒が手に入ったと聞きましたなぁ」

 

ばれてーら。

 

「ぜ、全部は勘弁してくれよ?」

 

「ついでですからウラガン少尉に頼んでつまみも貰いましょう。いやあ、有意義な話し合いになりそうですなぁ」

 

本当に全部は勘弁して下さいませんかねぇ!?

 

 

 

 

慌てふためく大佐を見ながらアナベル・ガトーは思わず吹き出しそうになり、そんな自分に驚愕した。上官同士の物言いを見て笑うなど、アナベルの価値観からすればとんでもない行為だったからである。

 

「うん、良いな。しかめっ面よりそちらの方が何倍も良いぞ大尉。硬いところが君の美点だが、硬いだけの鉄は脆いものだ。うちで少し軟らかさも覚えると良い」

 

そう大佐が言うと、我が意を得たりという表情でガラハウ少佐が続いた。

 

「では、柔軟な流儀の手始めとして緊密な上下関係の醸成と行きましょうか。いやあ、ボルドーのワインが飲める日が来るとは思いませなんだなぁ」

 

その言葉に悲鳴を上げながら懇願する大佐を見て、今度こそアナベルは吹き出してしまった。そして自分に足りないと言われたものが何なのか、それがおぼろげにではあるが見えた気がした。故にアナベルは、大佐に向かって口を開く。

 

「成程、アルコールには筋肉を弛緩させる効果があると聞きます。これは是非とも頂いて柔らかさを手に入れねばなりませんな」

 

ガトー大尉、貴様もか。などと何処かのカエサルが発したような事を口走る大佐に今度こそ笑顔を向けながら、アナベルはふと疑問に思った。

この方は何故私だけ名前で呼んでくれないのだろう?




感想欄にちょくちょくニュータイプが現れてびびる。(自身の発想の貧困さを棚に上げる)


追伸
ボルドーワインが気になる方は ルウム戦勝記念ワインで検索してみよう!(ダイマ)


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第四十話:0079/07/18 マ・クベ(偽)とオデッサの仲間達(新入)

ガルパン最終章上映記念
つまり週末は更新しないと言うことさ!


注意!
本文にて極めて重大な原作無視が行なわれています。
原作の雰囲気でない描写に嫌悪感のある方はブラバ推奨です。
本稿より必須タグが追加されております。
嫌悪感のある方は今一度確認をお願い致します。


































良いんですね?
警告はしました。
ではお楽しみ下さい。



人は何故、この翌日の苦しみを知りながら痛飲するのか。はい、俺の意思が弱いからですね。見事に空になったボトル達と割かし地獄絵図な私室を見てため息を吐いた。

開始三十分はまだ相談というか、話し合いの体を保ってたんだけどなあ。

容赦なく開けられていくワインに気を取られていたなんて言い訳にもなるまい。俺は頭を掻きながら、昨日のことを思い返す。

 

「たいさどのわ!なんでわらしをなまえでよばないでありますか!?」

 

廻っていない呂律に据わった目、真っ赤になった顔と酔っ払いの条件を完全に満たしたガトー大尉が唐突にそう言い出した。誰だよ!こんなになるまで飲ませたの!そう視線を送るとシン大尉が申し訳なさげにジェスチャーしてきた。

 

(ワイン一杯でここまで酔うとは思いませんで)

 

下戸かよ!?

 

「きいてるんれすかたいさぁ!」

 

「聞いている。少し落ち着きたまえ大尉」

 

因みにウラガンとエイミー少尉は、ガトー大尉が不規則に揺れ始めた辺りでツマミを取りに行くといったきり戻ってこない。逃げたな、正しい判断だ。でも俺を置いていったのは許せん。なんてことを考えていたら、急に俯いた大尉が肩を震わせ始めた。この上泣き上戸だと!?冗談では無い!おっとこれ違う人のネタだ。

 

「また、よばない。たいさはわらしのことがきらいなんれすべぇ?」

 

なんれすべって何語だよ。

 

「誤解だ大尉。その、知人に大尉と同姓同名の男がいてね。それでどうにも呼びにくかったんだ」

 

まあ、俺が一方的に画面越しに知ってるだけなんだけどね。

 

「男なのにアナベルですか、変わっていますな」

 

人ごとのようにコメントするシン大尉。おい元凶、余裕だな…後で覚えとけよ。非難がましく睨んでいたら、シーマ少佐が残念なものを見る目で口を開いた。

 

「それは大佐。アナベル大尉が不憫ですよ、ちゃんと呼んであげなさいな」

 

その言葉に凄い勢いで顔を上げた大尉が潤んだ瞳でシーマ少佐の手を握りしめた。

 

「わらし、しょうさのことをごかいしてました。しょうさやさしいれす」

 

「今までどう思われてたんだろうねえ…」

 

ド直球な物言いに頬を引きつらせながら応じるシーマ少佐。ターゲットが移ったと安堵の溜息を吐いたのが悪かったのか、思い出したと首を捻って大尉がもう一度催促してきた。

 

「さあ、たいさ!ちゃんろわらしをよんれください!」

 

手を広げて全力でばっちこいアピールな大尉。なんだよ、呼びながらハグでもしろってのか。こちらが躊躇していると、また顔を歪めて目一杯に涙を溜める大尉。見守る二人からも面倒だからちゃっちゃと呼んでやれよという無言の圧力をひしひしと感じる。

 

「解った、解ったよ。これからはちゃんと呼ぶと約束する、アナベル大尉…これでいいかね?」

 

「たぁいさどのぉー!」

 

呼んだ瞬間、満面の笑みを浮かべて抱きついてくる大尉。俺は自分の中で大事な何かが音を立てて崩れていくのを自覚しつつ固まっていると、すっごい形相になった少佐が大尉を引っぺがしてくれた。

 

「飲み過ぎだよ大尉!チョットこっちでおねんねしてな!」

 

言うや少佐は素早く大尉を拘束すると寝室へと連行していった。閉まった扉の向こうから、そこはダメ!とかアンタ何処触ってんだい!?とか非常に探究心を擽られる声が聞こえてくるが、俺は紳士なので覗いたりはしない。決して覗いたのがばれて社会的に死ぬのが怖いからでは断じてない。紳士だからである。

 

「あー、申し訳ありません。大佐殿」

 

バツが悪そうに頭を下げるシン大尉に溜息を吐きながら返事をする。

 

「想定外の事は起きるものだ、次に気をつければ良い。良い経験になったな、大尉」

 

そう言って空になった大尉のグラスにワインを注ぐ。さっきのドタバタでコルクが何処かに行ってしまった、こりゃ今日中に飲んじゃうしかないな。そんなこと考えながら自分のグラスにも注いでいると、大尉が真剣な目でこちらを見て居ることに気付いた。え、なに?俺そっちのケは無いぞ?

 

「気持ちは解るが止めておけ大尉。少佐の格闘術は実戦形式だ、命が幾つあっても足りんぞ」

 

そう忠告すると大尉は含んでいたワインを吹き出した。汚え!もったいねえ!?

 

「ガフッ、ゴホッ…そんなこと考えていません!」

 

じゃあなんだよ、繰り返すが俺はそっちは嗜まんぞ。半眼で眺めていたら、大尉はワインに視線を落とし、語り出す。

 

「…以前、ルウム戦勝記念式典で大佐をお見かけしました。率直に言います、私には貴方があのマ大佐だとは思えない」

 

まあ別人だしね。多分、シン大尉はここでの生活をそれなりに気に入ってくれているのだろう。鉱山基地の運営にも積極的だし、ウラガンからの報告でも懸命にこちらのやり方を覚えようという姿勢が見て取れる。故に、俺に対し疑惑を持っている事への罪悪感から俺自身に告白してきたんだろう。もし本気で嫌疑をかけて拘束しようと思うなら、もっと人がいる場所、それも同じ疑問を持っている仲間を伴ってやるだろう。その正直さは美点だし、俺自身も好ましいのだが。

 

「大尉、それを私に伝えて君は何がしたかったのかな?」

 

そう言って俺はゆっくりと立ち上がる。

 

「君の言うとおり、私がすり替わった誰かであったとしてだ。それを君が気付いた事を私に告げた意図はなんだ?」

 

「私は…その、ただ、疑心を向けてしまったことを申し訳なく思い…」

 

「ここは懺悔室では無いし、私は神父でもない。それにだ大尉。今の今までが欺き、信用させ、致命の一撃を狙うまでの擬態なら…この先どうなる?」

 

そう言って俺はゆっくりと近づいたサイドボードの引き出しを開け、手を入れる。大尉は顔を強ばらせ、腰を浮かせた。彼が丸腰なのは確認済みだ。

 

「忠告だ大尉。将になるなら、簡単に人を信用するな。疑念を持ったなら、その最悪も想定して行動しろ。疑心を持った相手にそれを伝えるなど、問題外だ」

 

そう言うと同時、引き出しから手を抜き大尉へと振り返る。手を伸ばしきる前に大尉は床へと転がりソファを盾にした。

 

「そのソファは総帥府に置いてあるもののレプリカでね、防弾板を仕込んでない安物だ。座る分には不足無いがね」

 

俺がそう言って近づくと大尉は意を決したのかソファから飛びだし、俺に掴みかかろうとした所で目を点にし、動きを止めた。

 

「だから簡単に人を信じるなと言っている」

 

そう言って俺は大尉の口にチョコレートを突っ込む。ちなみに何故チョコかと言えば、引き出しは菓子入れで適当なサイズのものが無かったからである。

 

「か、からかったのですか!?」

 

「心構えのレクチャーだよ大尉。君を安心させてやろうかと思ってね。少しは君の思うマ大佐だったかな?」

 

そう言ってソファに座り直しワインを飲む。

 

「今回はたまたま私が敵で無くて良かったな大尉。本当の敵だったら今頃死んでいるぞ?」

 

俺の言葉に、同じく座り直した大尉が怫然とワインをあおった。もったいねぇな、高いんだから有り難く飲めよ。

 

「人が悪いですな」

 

「当然だろう。マ・クベ個人が詐欺に遭って財産を失う程度なら間抜けで済むが、オデッサ基地司令が騙されれば多くの将兵が死にかねないのだぞ?相手を信じるのと同じくらい相手を疑いたまえ。特に人を使うならな」

 

 

そこまで思い出して一人身もだえる。酔っ払った勢いでなんか滅茶苦茶した気がする!ウラガン達に見られて無くて本当に良かった。あんなん私は部下を信じていませんよって言ってるのと一緒じゃねぇか。

 

「そして、問題はそれだけじゃ無い」

 

サイドボードからチョコレートを取り出し口に含む。甘味とほのかな苦みが広がり、残念なことに自分が起きている事を証明してくれる。

 

「まったく、最悪を想定しろか。人のことは言えないな」

 

そう言って今頃寝室で寝息を立てているであろう彼女達を思い返す。そう、彼女達。

 

「アナベル・ガトー、宇宙攻撃軍所属大尉。…性別、女性」

 

始めの違和感はキシリア様、次いでキャリフォルニア基地の司令であるガルマ様、原作とはずれた作戦日時。そして極めつけは名前通り女性のアナベル・ガトー大尉。ここまで来れば間抜けな俺だって気付く。

 

「つまり、ここは。俺の知っているガンダムに良く似た違う世界と言うことだ」

 

震える手を必死で握りしめて誤魔化す。ここまでは上手く行っている、だがこれからは?原作知識というアドバンテージが怪しくなった俺に一体何が出来る?こちらに来てから関わった人達の顔が脳裏に浮かび、それがどうしようも無い重圧としてのしかかってくる。俺が間違えれば、彼らが死ぬ。

 

「俺は、生き延びさせることが、出来るのか?」

 

俺の疑問に答える声は無く、つぶやきは大尉の寝息の響く部屋に溶けて消えた。




本話作成までの経緯

作「ねえ、ガトーってなんでアナベルって呼ばれんのだろうか?」

友「アナベルって女性名だからじゃね?呼ぶとダッシュして殴りに来るんだよ」

作「カミーユかよwでもガトーも大概じゃね?フランス語でケーキって意味じゃ無かった?」

友「ケーキwww名前女で苗字がケーキとか完璧すぎるwww」

作「しかも銀髪ロングで武士。これは明らかにくっころヒロインですわw」

友「つまり、ガトーは女だった?」

作「また、宇宙世紀の謎を一つ解き明かしてしまったか…w」

ここまで素面かつ深夜でも無い時間。人これを馬鹿と言う。


追記
アナベル大尉の声は佐倉綾音さんでどうですか?お客さん!



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第四十一話:0079/07/21 マ・クベ(偽)とジオンの騎士

ガルパン面白かったので興奮して書いた。後悔はしていない。



結局、明確な答えにたどり着けていない俺であるが、残念ながら時間は平等に過ぎていく。そして忙しさにかまけている間に、ふと気がついた。

もう原作知識とか言えないくらい状況を滅茶苦茶にしているじゃん、俺。ついでに言えば、多少のずれはあるとは言え、ジオンも連邦もここまである程度原作と同じ流れである事も気持ちに余裕が持てた原因だ。何せ流れが同じと言うことは、基本的な行動指針や目標が同じであるという事だからだ。当然、情勢に合わせて作戦が行われたり行われなかったり、前倒しされたり遅延したりはあるだろうが、それでも相手が大凡でも何がしたいか解っているというのは非常に大きい。そんな訳で色々と開き直った俺は、取り敢えず目先の問題を片付けることにした。

 

「戦災者保護施設の防備拡充に関する陳情か」

 

シーマ少佐を交えて再度防衛体制について打ち合わせをした席での一幕を思い返す。

 

「相手がMSやMTできたらどうすんだい?」

 

当初ドヤ顔で護衛居るからヘーキ!とか嘯いていたフラナガン博士だが、こともなげにシーマ少佐に言われて絶句していた。外縁とは言え、オデッサ基地の一区画にある施設までMSが来るなんて想像していなかったようだ。

 

「こんな所までMSが入り込めるとは思えませんが」

 

そう苦し紛れに返せば、少佐は可笑しそうに笑った。

 

「ジブラルタルに降りた時、連邦の連中も同じ事を言っていたよ。敵中に降下するなんて正気じゃ無いってねぇ…つまり正気じゃ無い奴ならここにMSで入り込んでくるという証明でもあるわなぁ?」

 

その言い方だと提案した俺が正気じゃ無い奴みたいなんだが…。ちょっと敵だらけで、退路が無くて、友軍の支援が受けられないところに降りて基地制圧するだけじゃないか。はっはっは、正気じゃねぇ!?

 

「ありうるな。今の連中は猫に追い立てられたネズミのような有様だ。数人程度の命でこの基地が活動を数日でも停止すれば釣りが来るくらいは考えかねん」

 

ミデア辺りを使って超低空侵入でもすれば、運が良ければたどり着く機も出るだろう。何せ増築に増築を重ねているもんだから、防空態勢や防御設備の構築が終わっていないのだ。ミデア1機でもMS3機は運べる筈だから、損耗を前提に突っ込んでくれば十分MSが暴れる余地はある。ついでに言えば、博士達の居る場所は庭や植林した森でそれなりのスペースがありながら守備は薄いため、敵からすればさぞかし降りやすいポイントになっていることだろう。何度か高高度偵察機を追い払ったという報告も受けているから、基地の概観は完全に把握されているだろうし。

 

「守備を預かる者としましては、対空火器の設置、並びにMS隊の常駐を提案します。問題は手空きのパイロットが居ないことですが」

 

「でしたら、MSだけこちらに頂けませんかな?幸い護衛に連れてきた者はパイロットなのです」

 

博士の提案に対し指揮権は基地側、つまり俺に帰属するという条件ならと少佐が付け加え、それに博士が応じたことから増強小隊が組まれる事になった。

そんでMS渡す以上手順は必要になる訳で、それが目の前の書類である。配備するのはドム4機、小隊としては半端な数だが護衛が4人でしかもロッテに慣れているとのことでこの数になった。幸いドムの生産も順調だったのですぐに配備すると、早速慣熟訓練を開始した。

 

「回避は1番機、総合的な技量では2番機、3・4番機は今後に期待と言ったところかな、博士」

 

訓練を眺めながら時折メモを取っているフラナガン博士に声を掛けた。服装こそそこら辺に居る近所のおっさんだが、顔つきは研究者のそれだ。ちょっと時間が出来たから顔を見に来たんだが、中々良い動きだ。

 

「お解りになりますか?」

 

「MSの動きはそれなりに見ているからね。まあ、シミュレーションだが」

 

そう言って博士の隣に座る。訓練は小隊を2対2に分けての模擬戦形式だ。技量の上では1・2番機が圧倒しているが、3・4番機も息の合った動きで善戦している。ただ2番機の技量が図抜けているから、ちょっと勝つのは厳しいだろう。

 

「1番機に乗っているマリオン・ウェルチ少尉はモーゼス博士の研究に参加していたのですが、例の一件で手空きになりましてね。こちらの施設の話をしましたら同行を願い出てきたのです」

 

良い子なんだね。軍なんか入らないで看護師とかでも目指せば良かっただろうに。

 

「彼女はザビ家の孤児院出身ですから。3・4番機の兄妹もですが」

 

あそこのスタッフ熱心なザビ家信者だからなあ、尊敬と言うより狂信に近い思考だし。3・4番機の兄妹の方は例のヤバイ実験に使われそうだったが方針転換で助かった組で、既に軍属だった事と少尉の近くに居た為かニュータイプとしての片鱗が見えたため、本人達の希望もあって連れてきたらしい。

 

「あの兄妹はまだサイコミュに反応はしていません。しかし互いの考えや思いが極めて高い精度で認識できるのです」

 

鼻息荒く告げてくる博士。

 

「あのような逸材をただの確認試験で使い潰そうなどと考えていたのですから、我ながら視野が狭いとしか言いようが無い」

 

研究の為の研究だったと自嘲する博士。おお、結構改心してるんだなぁ。でも、完全に丸くなられても困るんだよね。彼女達が死んでしまうのは避けたい、けれどその為に他の兵士の屍の山が積まれるなんて、そんなことは許容出来ないからだ。

 

「博士、それは違う。貴方の研究があればこそ、それを使う事が出来るのです。研究の為の研究、大いに結構ではないですか。貴方が疑問に思い解き明かそうとしたからこそ、彼らはただの兵では無い存在になれたのです」

 

俺の物言いに言いたいことを悟ったのだろう。一瞬呆けたような表情になった後、博士は悲しげに笑った。

 

「申し訳ありません、老いぼれのセンチメンタルと笑ってください…。大佐、我々は地獄に堕ちますな」

 

「良いでは無いですか。それで多くの命が存えると言うなら安いものです」

 

そんな風におっさん二人でしんみりしていると、模擬戦が終わったのかドムがこちらに戻ってきた。見立て通り1・2番機が勝ったようだ。3番機はペイント弾まみれ、4番機は袈裟懸けにバッサリやられたらしく綺麗に一本線のラインが入っている。

MSから降りると何やら話しながら向かってきた。青みがかった髪の女性…というよりは女の子と表現した方が良いような小柄なパイロットがまず俺に気付き敬礼をする。続いて気付いた2番機のパイロットが、最後に3・4番機が慌てた様子で敬礼をしたところで俺も立ち上がり答礼する。

 

「良い動きだ。新型だというのにもう乗りこなしている、流石と言うべきかな?」

 

「はっ、いいえ大佐殿。まだまだ十全にはほど遠い状況であります。しかしドムは素晴らしい機体ですな」

 

そう言って乗機を見上げているのは2番機のパイロット、ニムバス・シュターゼン大尉だ。この大尉、俺もゲームやら何やらでお世話になったり敵対したりしたのでよく知っているつもりだったが、ちょっと話してみたら割と原作と食い違いがあった。正確には、よく知られる人物評に書かれているようなことをやっているにしては、真面目というか高潔というか、要は本当に騎士っぽいのだ。気になって聞いてみれば言われたこと自体はやっていると本人談。え、つまり上官ぶっ殺したり、撤退してきた友軍ぶった切ったりしたの?何それ怖い。そう伝えれば、毅然とした態度で事実だと認める大尉。なんか言い訳もしないしその態度に違和感を覚えて調べてみたら、何のことは無い。ぶっ殺したという上官は部下を見捨てて敵前逃亡しようとしたところを取り押さえようとしたら撃たれたんで、やむを得ず応戦。撤退してきた友軍を切り捨てたというのも、どうも撤退を偽装して連邦に寝返った部隊が襲撃してきたのを撃破したというのが真相のようだ。普通に考えれば上官殺して降格で済むとか、味方切ったのにお咎め無しとか変だと思ったがそう言う事なのね。噂が一人歩きして完全に悪人扱いなのに何で訂正しないの?と聞けば、

 

「彼らを私が手に掛けた事は事実ですので」

 

なんて真顔で言いやがった。あ、こいつもアナベル大尉系の武人さんだわ。俺が渋い顔してると笑いながら続けるニムバス大尉。

 

「それに、解ってくれる者は解ってくれます。私はそれで十分です」

 

…こやつも後で指導せんと、何かの拍子でテロ屋モドキになりかねんな、注意しておこう。

そんなやりとりを思い出しつつ、ヒートソードを握っているドムを俺も見上げる。連邦もMSを送り出してきたということは、格闘戦の機会が高まるだろう。ドムは優秀な機体だが、格闘戦、特に速度を殺された状態での立ち回りはザクと同程度だ。無論装甲の分ドムの方が生存性は上だが、連邦がビームサーベルを投入している以上、あまり意味が無い。この辺りちょっと相談してみようかなあ。幸いアテもあるし。

 

「気に入って貰えたようで何よりだ。だが大尉の特性的にはグフⅡの方が合っていたかな?」

 

そう問えば、やはり真面目くさった顔で大尉が答えた。

 

「はい、大佐殿。私個人の特性であればグフⅡの方が合いましょう。しかし我が隊で考えるならばドムこそが適正であると愚考いたします」

 

「確かにな」

 

マリオン少尉も含めて未成年の残り三人はやはり肉体的に一般の兵には劣る。その辺りも研究していたフラナガン機関から提出された食事やサプリは支給しているが、一朝一夕で効果が出るものでは無い。だとすれば、同じホバーでも加速が鈍く、またグフⅡより耐G対策がしっかりしているドムの方が扱いやすいというのは頷ける。そんな風に納得していたら、なんと無しに真面目な大尉をからかいたくなって、つい口を滑らせてしまった。

 

「所で大尉、コイツの肩は赤く塗らんのかね?」

 

俺の言葉に目を見開く大尉。え、嘘、このネタ通じるの?この世界あのむせるアニメ存在すんの!?ってびっくりしてたら、少し興奮した様子で大尉が最敬礼をしてきた。なんぞなんぞ?

 

「そこまでのご配慮、感謝の言葉もございません。このニムバス・シュターゼン、必ずや大佐のご期待に応える事をここに誓わせて頂きます!」

 

そんな大尉の予想外の反応に困惑しつつ業務に戻ったら、数時間後にキシリア様から呼び出しがかかった。曰く、勝手に部下に専用機を与えてるんじゃねぇとのこと。なんのこっちゃと思ったら、よくよく考えればあの肩を赤く塗るのニムバス大尉のパーソナルマークだった。その日、通信が切れるまでの凡そ10分間、俺はひたすら猛虎落地勢を繰り出し続けた事をここに記しておく。

本日の教訓、口は災いの元。余計なことを考え無しに口にするのは止めましょう。




ネタバレにつき詳細は控えますが、もうちょっと長くても罰あたらんのではと思いました。
ガルパンはいいぞ?(ここで言う台詞ではない


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第四十二話:0079/07/22 マ・クベ(偽)と新しい力

今週分です。


「こんな事もあろうかと!既に用意してありますぜ大佐ぁ!」

 

ニムバス大尉の件から格闘装備を保持しつつ射撃できたら良いよねって技術部に話したら、待ってましたとばかりに鼻息荒くゲンザブロウ氏が声を上げた。絶対それ言いたかっただけだろ。デニスさん早く帰ってきて、このままじゃ技術部がロマン研究会にジョブチェンジしちゃう。そっちは間に合ってるんだ、ジオン的な意味で。

 

「とは言え別に俺たちのオリジナルって訳じゃ無いんですがね」

 

そう言って見せてくれたのは、いつの間にか大型のバックパックと可動式のハードポイントを追加された俺専用ドムだった。最近格納庫で目にしていなかったから奥にでも仕舞われたのかなって思ってたら新装備のテストベッドになってたでござる。それぞれ別々に研究用として予算申請されてたから全然気付かんかった。

 

「ゲンザブロウ氏、お願いですから次からは一声掛けて下さい」

 

さすがにMSは軍の資産なんで勝手に弄られると困る。一時期エースが機体のリミッターを甘くして使うというのが流行って、それを真似する兵が続出。結果信頼性はかなり高いはずなのにザクⅡの稼働率が6割くらいまで落ち込んだことがある。あれのせいでチューニングまで一々申請が必要になったし、それどころかS型作るって事になったんだよなぁ。通達されたジオニックの設計部が頭を抱えていたのをよく覚えている。そんな訳で、部品が変わるくらいの改造まで来ると、上にちゃんと申請せんといかんのだ。大体は事後報告でも許してくれるけど。

 

「それでこれがお話しした内容への対策ですか。成程」

 

そう言って実機を見つつ、渡された資料に目を通す。うんうん、大体想定してたのと一緒だ。こんなのを仕事の片手間で思いついて作ってみたりしちゃうあたり、やはりジオン脅威のメカニズムである。

 

「作業機時代に使用していた補助アームとFCSを連動させ、保持した火器を運用する。さしずめ背面装備とでも言った所ですか」

 

俺がそう言えば笑いながら返事をするゲンザブロウ氏。

 

「まったく折角驚かせようと思ったのに。甲斐が無いですな、大佐」

 

そいつは失敬。

 

「十分驚いていますよ。ドムの実用化段階で私も提案しようとしたが無理だと諦めたのですから」

 

なんせ元になった補助アームはちょっとした固定の補助とか、材料の運搬とか簡単かつ負荷の掛からない作業にしか使えなかった。無理も無い、元々ザクのモーションは人間の動作をサンプリングして作っているのだ。つまり、ジオンのMSは基本的に人間に無い部位は動かせるように作られていないのである。それに補助アームを主腕並みに使おうとすれば、強度確保のために質量の増加は避けられない。AMBACの都合上複数の四肢を持てば、それだけ計算が複雑になる点もこれらの発展を阻害した要因だろう。

 

「しかし良く実機を組めるだけのデータが準備できましたね?」

 

なにせ重量バランスが完全に変わっているからザクのデータを弄ってと言う訳にはいかないだろう。恐らく一から構築し直しているはずだ。しかもFCSと連動させるなら、作業機時代のデータも使えない。あれ補助アームも完全にマニュアル制御してたからなぁ。

 

「そこは人海戦術で。本気でやりましたからむしろミオンの時より自信作ですわ」

 

声を掛けたら整備班のメンバーがノリノリで廃材から人が背負うダミーを用意して、手空きの海兵隊員やら基地パイロットやらが暇さえあれば背負ってサンプリングしてたそうな。え、俺一回も見てないんだけど。

 

「びっくりさせようと隠れてやっていましたからなぁ、エイミー少尉を味方に出来たのが大きかったですな」

 

最近ウラガンと一緒に秘書の真似事しててくれたからね!そら俺の行動筒抜けだわ。実際の動作チェックはシーマ少佐が入念にチェックしてくれたから、この世で一番完成度の高い制御OSだと自慢するゲンザブロウ氏。スイッチ入っちゃうと何処までも突っ走ってしまうのは技術屋の悪い癖だと思う。

 

「頼もしい事です。ちなみに現行機の改修は出来ますか?」

 

ワンオフですとか言われたらもういっそシーマ少佐にプレゼントしちゃおう。皆には悪いけど、どうせならよく使う人が良い機体に乗った方がこの機体のためでもあるだろう。

 

「そこは問題ありません。背中のパネルと推進器を引っぺがしてコイツに換えるだけです。ああ、後OSの入れ替えは必要ですが現行のコンピューターで全く問題無いそうです。チバ中尉が太鼓判押してましたよ」

 

まじか。

 

「ゲンザブロウ氏。このユニット組んで欲しいと言ったら、どのくらいで幾つ用意出来ますか?」

 

そう聞けばゲンザブロウ氏は悪い笑みを浮かべて端末を取り出した。

 

「製造ライン無しなら日に2~3が限度ですな、それも組むだけで取り付けは別になります…で、ここに製造ラインの図面と工期の試算がありますが、どうしますかね?」

 

このおっさんやっぱりチートだわ。

 

「素晴らしい。すぐに施工を始めて下さい。上の方には私が上手く言っておきましょう」

 

そう言った所で更に笑みを深めたゲンザブロウ氏が最後の爆弾を投げてきた。

 

「承知しました。それと大佐、ドムなんですがね。今の改修をすると内部容積が大分空きましてね。それでMIPの連中と検討したんですが…、MIPが試作している水陸両用のジェネレーターが載るんですわ」

 

え、それって。

 

「ジェネレーターと接続せにゃならんとか、まあ色々制約はあるんですが…積めますぜ、ビーム兵器」

 

とんでもねぇ事をさらっと言ってくれたゲンザブロウ氏に、直ぐに報告書を纏めるようお願いして、俺は慌てて報告の準備に入った。

まず背面装備の件はすぐに伝えなければならない。何せ既存の機体を改修可能だから、安価に戦力を強化できる。加えて今現在もドムは増産中だから、許可を得るのは早ければ早いほど後で楽になる。

一方ビーム兵装については幾つか問題がある。取り敢えず最大の課題はジェネレーターの確保だ。何せズゴックに使用予定のジェネレーターは最近開発が完了したばかりの大出力のものだ。で、問題なのはジェネレーターの生産性だ。何せ出力はドムの倍近いのにサイズはほぼ変わらないという奇跡の一品なのだが、おかげで複雑化しており従来のものに比べると価格も上がるし、工数もかかる。そうなれば当然ドムの生産性も下がるので、それを許容するかどうかは俺の一存では決められない。

ただ、総司令部の連中こういう事に疎いからなぁ。性能上がるなら良いじゃんくらいのノリで簡単に承認しそうだ。もしそうなったらMIPに頼み込んでウチかキャリフォルニアにジェネレーターの製造ラインも降ろして貰おう。出来れば両方だと尚よいが。

そうこうしている内にゲンザブロウ氏が改造計画の概要と大体の数字を纏めた報告書を持ってきた。ジェネレーターに直接接続する方式をとる必要があるから仮にビーム兵器対応にするならバックパックにビーム砲を装備した専用のパッケージになるとのこと。

 

「つまり背面装備とは選択式になると?」

 

「ですな。まあジェネレーターを載せ替えた機体に関してはですが」

 

既存の機体だとそもそもビーム兵器ドライブできんからね。しかしこう考えるとエネルギーCAPって偉大な発明だよな、ドムと同程度の出力でビーム兵器使えちゃうんだもん。

 

「加えてユニットコストは現行機の…2倍。2倍ですか」

 

「ジェネレーターとビーム砲の価格は現在の試算ですから、量産すれば多少はマシになるでしょう、それでも良くて2割ですかね?」

 

なんか、一部のエース向けとか言って少数生産される未来が見えるわ。

 

「エネルギーCAPが実用化するまでの繋ぎにはなりそうですかな」

 

正直総合的に見ればあまり良い機体とは言いがたいが、今このタイミングでビーム兵器を使用できるMSが存在すると言うことが重要だ。

 

「あちらさんはもう実用化しているんでしたか」

 

「ええ。ですからこちらも用意せねばなりません」

 

武装で優位に立てていないと錯覚させられれば、まだ戦力として十分な数のMSを用意出来ていない連邦は消耗を避けようとするだろう。そうなれば大規模な攻勢では無く小規模なゲリラ活動に変えるか、基地に引き籠もって防備を厚くするかのどちらかだ。そしてそのどちらを取られても今のジオンにはメリットになる。文字通り地球の半分近くを勢力下において居る現状、時間はこちらの味方だ。

 

「連邦に時間を浪費させる。今の我が軍にとってこれ程価値のあるものは無い」

 

 

 

 

「なあ、良い知らせと悪い知らせがあるんだが聞きたいか?」

 

食堂の窓側の席で食事を取っていた少尉に同僚が声を掛けてきた。双方共に基地では古参のMSパイロットであり、ホバーへの最後発の転換組だ。

 

「なんだ?レビルが死んで戦争が終わるのか?」

 

「はっはっは、それなら今頃基地を挙げてのお祭り騒ぎだろ。んで、どっちから聞きたい?」

 

聞かないという選択肢は無いんだな。鳥肉のソテーをつつきながら溜息交じりに応える。

 

「なら良い方から」

 

「おう、例のサブアーム付きがシミュレーターで解禁になるってさ」

 

「もうか、早いな」

 

確か検証が始まって一月も経っていない。試験をやっている連中以外にも使わせるという事は、今後はあちらが標準機として生産されると言うことだろう。

 

「海兵隊の連中から聞いた話だからな。間違いないだろう」

 

「やれやれ、俺たちの機種転換が終わる頃には連邦軍が居なくなっちまいそうだ。んで、悪い方はなんなんだよ?」

 

今の話からメリットしか感じられない少尉が首をかしげると、話題を振ってきた同僚は溜息交じりで口を開いた。

 

「悪い方はな、サブアーム付きにもう大佐が乗ってる」

 

「まだ強くなるのかよあの人!?」

 

次辺りチーム戦なら撃墜できそうだと考えていた少尉は思わず叫び、そして深々とため息を吐いた。賞金獲得はまだ随分先になりそうである。




日系技術者の言いたい台詞No1はこれだと確信しています(偏見)
サブアームはサンボル版リックドムを見て貰えば解りやすいかなと思います。


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第四十三話:0079/07/24 マ・クベ(偽)とオデッサファニーズ

病院が退屈なので投稿。
皆さんも病気にはお気を付け下さい。


「つまりカタパルトを撤去して軽量化と主翼の空気抵抗の削減を狙うと、そう言う事か大佐?」

 

「はい、以前のドップでは航続距離の関係で母機が必要でしたが、ドップⅡであれば問題無いでしょう。それと後部カーゴベイに降下用装置を設ければMS降下時の速度低下も最低限で済ませられます」

 

久し振りに連絡があったと思ったらガルマ様からガウについて意見を求められた。ガウは難しいよねー。大分難航していたのか随分お疲れの様子だ。

 

「だが今の機動性では例の高射砲を避けることが出来ん」

 

「戦闘機並みの機動性を確保しなければそれは無理な話です。爆撃機や輸送機に求められる性能ではありません。諦めるしか無いでしょう」

 

「…アッザムがもう少し安ければな」

 

そう言ってため息を吐くガルマ様。現在グラナダで懸命に生産しているアッザム改であるが、その生産速度は芳しくない。先日漸く3号機がロールアウトしたが、東南アジア攻略に持って行かれてしまった。比較的落ち着いていて自力である程度装備が生産できる分、欧州と北米は本国からの装備が後回しにされているのだ。オデッサは良いけどキャリフォルニアはユーコン造ったり、ゴッグ造ったり、グフⅡ造ったりと大車輪なのでちょっと厳しいようだ。先日もウチで生産したグフⅡ無心されたしな。

 

「例の移民計画は順調なのでしょう?であればそこまで焦る必要は無いかと愚考しますが」

 

実は先日のプロパガンダ以来、地球に住む低所得者層や環境悪化によって難民化した人々の連邦への不信感が高まっており、そうした民間人をサイド3へ移民させるという荒技をガルマ様が繰り出した。

正直、環境悪化を促進させたジオンに来るのは拒否感があるんじゃ無いかと思ったんだが、対象となった人々は大体が今日食う飯にも困っているような有様だったので、助かるなら敵にでも縋る状態だった。元々コロニーからの輸入で食料を賄っていた上に地上における食料生産地である北米はこちらの勢力下、オーストラリアはコロニー落としで壊滅と言った具合で、備蓄していた軍はまだ平気だが民間、それも元々難民になっていたような人達はとてもでは無いが食っていけないらしい。んで、そこにきてあのプロパガンダである。

 

「ああ、エッシェンバッハ氏が協力してくれているのが大きい。それに大佐のアドバイスもな。あれを周知した後は希望者が膨れ上がったぞ」

 

「お役に立てたのなら幸いです」

 

大したことじゃないんだけどね。ただ移民した人達は兵役を免除されるようにした方が良いよって伝えただけだ。正直難民と言ったって先日までは連邦市民だったわけだから、鞍替えしたからとすぐ銃を向けるのは心理的抵抗が強いだろうし、何より厭戦気分が非常に強いだろうから、戦争から離れられるという言葉は魅力的に映ると考えたのだ。ついでにスパイ対策でコロニー間の移動は制限されること、既存の住民も同じく移民組へのコロニーへの移動は厳しく制限することも公開した。変に隠さずにデメリットも伝えたことでむしろ希望者は増えた。うまい話は罠じゃ無いかと疑っちゃうと言うのはダグラス大佐で学習済みなのだ。

 

「当面は既存の住民を疎開させて空いたコロニーへ移民させているが、すぐに収容限界が来るだろうな。早期にコロニーを確保したいが」

 

「突撃機動軍の艦艇ならばいくらか余裕がありましょう」

 

戦争初期に壊滅的被害の出た各サイドだが、それでも修理すれば使えるコロニーも結構ある。ルウムのテキサスコロニーなんかが良い例だ。あれは条約で使えないが、それ以外の奴なら持って行っても構わんだろうと、移民計画が提案された段階でルウムからのコロニー移動も提案している。今頃総司令部はガルマ様と同じく頭を悩ませていることだろう。まあ戦争に勝つために是非頑張って頂きたい。

 

「そちらは兄さん達に任せるとしてだ。実は本件に関しては少々問題があってな」

 

そう言ってガルマ様が何やら資料を送ってきた。

 

「ここの所の大佐の活躍は本国…それも開発陣を刺激していてな。はっきり言うと刺激しすぎた訳だが」

 

送られてきたデータは所謂提案書で、読み進めていく内に頬が引きつるのを自覚した。

 

「ガルマ様、これは?」

 

「開発部が提案してきたものでな。ジャブロー攻略用MS群…だそうだ」

 

眉間のしわからガルマ様も否定的なようだ。良かった、大真面目にこれ量産しようとか言われたら吹き出していたかもしれん。

 

「水陸両用…兼地中侵攻用MSの開発並びにその支援MS群の提案?本国の開発部は酸素欠乏症にでも罹ったのですか?」

 

「割と大真面目だ。連中どうも大佐に強い対抗意識を燃やしているらしくてな…。ドズル兄さんが宇宙攻撃軍の再建でも大佐を頼っただろう?アレが決定打になってどうも危機感を持っているらしいんだ」

 

なんか総司令部から、予算は一丁前に持って行くくせに方面軍のたかが基地司令以下の仕事しか出来ないとか居る意味あるの?馬鹿なの?みたいな煽りを頻繁に食らっているらしい。それは正直すまんかったと思うが。

 

「隠密偵察、潜入工作用MSを中核とし、岩盤掘削用MS、経路開設用MSと火力支援MS…。偵察機と火力支援機は百歩譲って理解できますが、経路開設に態々専用MSを開発?それに岩盤掘削用MSですと?連中敵陣地のど真ん中で土木工事が出来ると本気で考えているのですか?」

 

やっぱり酸素足りてないな、今度の輸送は多めにしよう。

 

「ギレン兄さんも懐疑的なんだがね。他に有効な装備が無ければ検討も視野に入れるべきだと」

 

それでガウなのね。

 

「大真面目にジャブロー攻略用MAを開発しているギニアス少将に土下座で詫びろと言いたいですな。ギニアス少将はなんと?」

 

「最大限の努力はすると言っていた…が、努力しようとも出来ないものは出来ないからな」

 

現状の開発ペースだと切り詰めても3ヶ月は必要だと言われたらしい。そういやアプサラス計画もなんか無駄呼ばわりされたとか少将からメールが来てたな。総司令部全方位に噛みつきすぎだろ。あちらも何かフォローするとして、こっちも余計なリソースは食いたくないしなあ…。仕方ない、また貧乏クジだ。

 

「では、仕方ありません。時間を稼ぎましょう」

 

大体ガンダムの実戦データやら残骸やら本国に送ってあるんだから、さっさとそれの対応をしろと言いたい。具体的にはエネルギーCAP早く作れよ。

 

「時間を?どうするつもりだ大佐」

 

「ちょっと試してやるのですよ。設計図は送られてきて居るのでしょう?であればとりあえず1機、このアッグを送って頂きたい」

 

明らかに愉快な形状をしているイラストの描かれた資料を突く。そういやこれどうやって運ぶつもりなんだろう。ホバーって書いてあるけど水中の移動装備が一切無いぞ?

 

「アッグ?いや、試作の機体があるから送るのは構わないが、よりによってそれか?他のはいいのか?」

 

いいんだよ。時間稼ぐためなんだから。

 

「アッグが目的地までの岩盤を掘削するのでしょう?」

 

そう俺が言えば、理解したのか悪い顔になるガルマ様。なんか指揮官として頼もしくなったけどその分黒くなっちゃったな。イセリナ嬢に嫌われんといいが。

 

「やれやれ、大佐を見ていると自分が若造だと良く解るな。了解だ、よろしく頼む。ああ、それと例のバックパックなんだが、グフⅡにも取り付けられるようにならないかな?部下からアレのおかげでドムが欲しいという陳情が大量に来ていてね」

 

「技術部に聞いておきましょう。ガルマ様もMIP社の件、よろしくお願いいたします」

 

その後挨拶を交わして通信を切ると、俺は腕を組んで溜息を吐いた。

 

「さて、一応もう一手打っておこうか」

 

 

 

 

初日のランニングが準備運動に置き換わって一週間。始めこそひたすら走らされるだけの一日に不満も覚えたが、今では皆黙々と訓練に取り組んでいる。そのくらいシーマ少佐とのシミュレーター訓練は衝撃的だった。自慢では無いが、ここに居るメンバーは集められた中でも、特にMSの適性が高いと評価されていたのだが。

 

(お笑いだよね)

 

走りながらミノル少尉は思わず笑ってしまった。そもそもMSの適性試験が問題だったのだから。ミノル達が受けた試験は士官向けの適性試験、階級的には間違っていなかったが問題は自分たちの親の事情を忖度した事務官によって、練成課程をすっ飛ばして任官していたことだ。つまり、適性試験では当然クリア済みである筈の体力や持久力といった項目は存在せず、空間認識力や反射神経と言ったものと機材に対する基本的な知識の有無程度だった。

これまでの扱いを思い出してミノルは納得する。ここに送られてくるまでの担当者は、その誰もが自分たちがとてもMSに乗れるような人間でない事を見抜いていて、だから事務や秘書といった部署に就けようとしていたのだ。自分たちが考えていたのと真逆の意味での特別扱いだったのだと思い知らされた時の落ち込みは、ちょっと思い出したくない。

 

「よし、ラスト1周!急げ!」

 

その声にペースメーカーをやっているジュリア少尉が速度を上げた。元々体格的には恵まれていた彼女はここ一ヶ月でメンバー一の体力と持久力を獲得している。あのおっかない大佐が、本気で自分たちをMSパイロットにしてくれるべくカリキュラムを組んでくれていると指導教官の少尉から聞かされてからは、最初の頃の不満はなんだったのかと言うくらい態度が豹変し従順になっている。ちなみに訓練中たまに通りかかる大佐に以前とは別の意味での熱い視線を送っているが、シーマ少佐のあの態度から色々察した方が良いとミノルは思う。

 

「はい、はい、問題ありません大佐殿…承知しました。全員集合!」

 

何事か大佐と端末で話していたらしいトップ少尉が集合を掛ける。ペースアップどころか全員ダッシュに切り替えてノルマをこなすとトップ少尉の前に集合した。

 

「よし、クールダウンしながら聞くように。今大佐から連絡があり、貴様らにMSを預けるとのことだ」

 

一瞬呆けた後、その意味が理解できたメンバーが歓声を上げる。ミノルも態度にこそ表さなかったが、興奮で動悸が激しくなるのを自覚した。

 

「はしゃぐな、大佐が仰るには試作機のテストをして欲しいとのことだ。それが新人でも扱えるのかが知りたいらしい。つまり、まだまだ貴様らは一人前とは認められていないということだ」

 

そうは言うもののトップ少尉の顔も笑顔になっていた。当然だろう、大佐が自らテストを命じると言うことは、自分たちがMSを任せられると認められたと言うことなのだから。

 

(試作機、どんなだろう?ドムみたいな機体だったらいいな)

 

その後、数日で実機が届き機体説明を受けた際、ジュリア少尉が崩れ落ちる事になるのだが、それはまた別の話である。




ガウの改造なんて思いつきません(憤怒


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第四十四話:0079/07/28 マ・クベ(偽)の采配

今月分です


「大分形になってきましたな」

 

ツィマッド社のMS製造工場で仮組みの終わったゴッグを見上げながら、隣に居るエリー・タカハシ技師に話しかけた。一瞬子供かと思う程小柄な女性であるが、ヅダの頃からMSの開発に関わっていたり、ホバーMSの開発を提案したりとツィマッド社の秘蔵っ子である。

オデッサにはドムの生産ライン立ち上げの頃から居るのだが、実はあまり接触を持っていなかった。と言うより俺が避けてた。

 

「組み上がってからが本番です。何処かの素人さんが適当を言ってくれたのをここまで形に出来るのですから、流石は我が社ですね」

 

肩まで伸ばしたさらさらの銀髪を揺らしながらニコニコと毒を吐くエリー女史。うん、やっぱりまだ根に持たれてるな。

 

「頂いた報告書ですと既に3号機まで組み始めて居るんでしたかな?パイロットは海兵隊を使いたいと聞き及んでいますが」

 

「ええ、キャリフォルニアの連中がへそを曲げてまして。まあ、自分が作った機体をここまでいじり回されたら拗ねる気持ちも解らないでは無いですが」

 

水中用だって大目に見られてたコックピット周りもザクに合わせたからなぁ。最終的に共有出来る部品モノアイだけだったっけ?

 

「どうせMIPの新型が出来ればお払い箱になる機体ですからね。名前が残るだけマシでしょう」

 

昨日、正式に水中用MSの次期主力としてズゴックが発表された。ウチで造っているこいつが間に合わなかったハルバさんは涙目になってたし、本格的にフロッガーが要らない子になったからジオニックの営業さんもちょっと残念そうな顔してた。ただ、ジオニックはアッガイの採用が決まって居るからそこまで辛く無さそうだった。

 

「そう言えばジオニックの水陸両用にも口出ししたとか。どうせならアッグみたいに開発中止に追い込んでくれればこの子の未来も明るいと思いませんか大佐?」

 

とんでもねえ事言いやがるなこの娘っ子は。

 

「無茶を言わないでください。そもそもアレとこれではコンセプトが全く違います。あちらは隠蔽重視の偵察機、こちらは精鋭向けの高性能機ですよ?」

 

「ならジェネレーターとかアクチュエーターとか専用にさせてくださいよー。そうしたら性能が後10%は向上する筈なんですよー」

 

裾ひっぱんな、子供か。

 

「おい、今子供かとか思っただろう?」

 

何故ばれたし。

 

「思っていません。重ねて申し上げますが無茶を言わないで頂きたい。貴方の言葉を借りるなら造ってからが本番でしょう。部品調達が難しくてメンテナンス性が悪い機体など問題外です」

 

「ちっ!」

 

早くデニスさん帰ってこないかなぁ、この子と直接やりとりするのきっついんだよなぁ。ゲンザブロウ氏はドムにかかりっきりでこっちは嬢ちゃんに聞いてくんな!って丸投げだし。

 

「調整も含めて起動試験は明後日辺りに出来る予定です。それじゃパイロットお願いしますねー」

 

そう言って手をひらひらさせると何処かへ消えてしまうエリー女史。本当に早くデニスさん帰ってこないかな。

 

 

 

 

「またあいつか!?」

 

総司令部経由で送られてきた開発中止命令を床に叩き付け、ネヴィル技術大佐は絶叫した。そもそものケチのつきはじめは彼が担当していた地球侵攻用兵器について、件の大佐からクレームが来たことだ。その後彼の関わった開発計画に口出しをすること数件、挙げ句の果てにはこちらがキャリフォルニアにて進めていた地上用MSの生産へちょっかいを出し、その結果大口の契約になるはずだったグフの調達数が大幅に削られてしまった。

幸いにして改良と平行で進めていた飛行型の有用性が認められたため、ジオニックとの関係もそこまでこじれなかったが、それについて口添えし、更には調整まで手伝ったのがあの男だと思うとネヴィルは実に苦々しい気持ちになる。

よくその事で厭味を言っていた宇宙軍の装備を担当している同期の大佐が、話も通されずに新装備の調達と運用が決まったと落ち込んでいた時は、久し振りに良い知らせだと気持ちが上向いたが、それを行なったのがあの男かと思うと癪に障る。

 

「なんなんだあいつは!?俺たちに何か恨みでもあるのか!ああっ!?」

 

飾ってあった観葉植物の鉢を蹴り倒し大人げなく暴れた後、応接用のソファへ身を投げ出し深々と息を吐く。この所、あの男のせいで技術本部の評価は下がる一方だ。肝心の本部長であるシャハトはいつもの日和見を遺憾なく発揮していて、幾らこちらが訴えても聞こうとしない。挙句、

 

「前線での評判は良い。つまり兵が欲しいと思っている兵器が届いて居るのだ。結構な事じゃ無いか」

 

などと言い出す始末だ。これだから政治の解らない技術屋は困る。

 

「ふん、だがアッグシリーズを中止したところで代替を用意出来まい。結局の所、我々技術本部が無くては話にならんのだ」

 

少々調子に乗っているようだがそろそろ高転びするだろう。その時に無様に泣きついてくるであろう事を想像して、ネヴィルは意地の悪い笑顔を作った。

 

 

 

 

激しい掘削音をBGMにアホみたいな顔でモニターを眺める。部屋には俺以外にウラガン、エイミー少尉、シーマ少佐に試験を直接監督していたシン大尉とアナベル大尉がいる。

 

「やはりダメだろう、これ」

 

「ダメでしょうなぁ」

 

「ダメではないかと」

 

「MSは乗るのが専門ですが、これは…」

 

ウラガンとエイミー少尉は慣れたコンビネーションで紅茶を入れている。ちなみにデメジエール少佐も誘ったんだけど、

 

「MS?作業用?解らんからパスで」

 

と言って新たに送られてきた戦車兵の教練に行ってしまった。その行動、大正解です。

 

「報告書にも書きましたがとにかく騒音が激しいです。隣の坑道からクレームが出ました」

 

余程激しく文句を言われたのか、顔をしかめながら報告してくれるアナベル大尉。実際の作業映像を見ても確かに掘削音以外聞こえない。坑道戦術なんて中世から使われている古典的戦術だ。こんな馬鹿でかい音を出していたら速攻でアンダーグラウンドソナーに捕まるわ。更に横に居たシン大尉も続けて問題点を指摘した。

 

「ドリルも問題ですな。掘削量にもよりますが、かなりこまめに休ませませんと焼き付きます」

 

掘削ドリルと言えば冷却剤を掘削部に噴射して焼き付きを押さえるのが一般的なのだが、見る限りそんな機構は無い。そら休ませるしか無いわな。

 

「どのくらいかの目安はあるかね?」

 

俺の問いに顎をしごきながら困った表情になる大尉。

 

「穴掘りは専門外ですからなあ。お嬢さん方に聞いた限りだと完全に勘頼りのようですが」

 

「うん、後でゲンザブロウ氏にでも聞いてみよう。しかしどうにもならんな、これは」

 

「一応、掘削速度は従来の掘削機よりは早いですな。問題は排土が間に合わん事ですが」

 

そう、普通にウチで使っている掘削用の重機より掘るのは早い、けれど掘った土を排出するコンベアは既存のものなのですぐに土が堆積してしまう。あまり知られていないが掘削後は余計な隙間が増える分、掘る前より土の体積が増してしまうのだ。だから随時土を運び出さないと機体が生き埋めになってしまう。所で今はテストなので鉱山にある重機とコンベアで残土を運び出しているけれど、これジャブローではどうするつもりなんだろう?加えて突っ込むなら、粉塵が出まくる環境下でホバー移動なんてするもんだから、埃を巻き上げるわ、ホバーが強力で残土を吸い込むわで頻繁に吸排気機構のメンテナンスが必要になる。使用環境と仕様が全く合っていない。やっぱりコイツの設計者は酸素欠乏症なんじゃなかろうか?

 

「掘削は宇宙でもやっていただろうに、何故気付かん?」

 

「無重力の宇宙では掘り出した残土が勝手にある程度退いてしまいますからなあ。掘削現場でも採取した鉱物用の輸送コンテナはありましたが、排土用は無かったと記憶していますよ」

 

受け取った紅茶をかき混ぜながらそう言うのはシーマ少佐だ。ああ、幾つか小規模な採掘衛星とかの制圧してるから、それで知ったんかな?

 

「つまり、全く考えてなかったと。有り難う諸君、この話は上に上げておく」

 

「あー、それなんですが。大佐一つお願いしても?」

 

申し訳なさそうに手を挙げるシン大尉。何だい?言うてごらん?

 

「どうした、シン大尉」

 

「あの試作機、何機か都合出来ませんかね?」

 

なんですと?

 

「自分からもお願いしたいのですが。都合はつきませんでしょうか、大佐」

 

え、アナベル大尉も?

 

「待て待て、先ほどの話だと使えないという事では無かったか?」

 

その言葉に困った顔になる二人。

 

「地中侵攻には全く使えません。が、掘削用重機としては優秀でして」

 

「騒音を気にしなくて良いならドリルの冷却機構を追加すればいい訳ですから、露天掘りの鉱山などではかなり作業能率の向上が見込めます」

 

「でしたら足回りは履帯にした方が良いでしょうなぁ。ホバーはダメでしょう」

 

聞けば、操作感は戦前にリースしてた作業機械に近くて、そちらの操作経験がある作業員がかなりいるとのこと。搬入する際に見られて、あれ欲しい!って要望も出てるらしい。どうせ中止にするからって機密保持を徹底しなかったのが不味かったな。

 

「…解った、一応ガルマ様に問い合わせてみよう」

 

その後、ゲンザブロウ氏に見つかり、高性能重機として生まれ変わったアッグは採掘作業や陣地構築、更には戦後の復興にと大活躍する事になり。設計者と計画者は称賛されたものの、その話をすると途端に不機嫌になったという。




ガウのご意見、色々有り難うございます。
そちらもいずれ書こうと思います。まだ原作まで1月もあるしね!
…これいつガンダム出るんだろう?


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第四十五話:0079/08/01 マ・クベ(偽)と模擬戦

皆さんの一ヶ月が早すぎる件


「よし。デル、アス、相手の性能は頭に入っているね?」

 

「はっ!問題ありません」

 

「こちらも大丈夫です。行けます」

 

即座に返ってくる言葉を頼もしく感じながらトップ・スノーフィールド少尉は大きく息を吸った。

 

「機体の性能は大した事は無い…が、新型で乗っているのがあの人だ。油断するな」

 

声を掛けられたのは偶然で、例のお嬢さん方の訓練状況を報告に行ったら丁度良いとばかりに訓練相手に指名されたのだ。そこまで買い物に行くような気安さで話す大佐を思い出す。

 

「新型機の試験を頼まれてね。どうせならサンプルは多い方が良いだろう?」

 

何でも生産前に口出しした所、要求に合わせたシミュレーションデータが送られてきて、それを使って動作検証をして欲しいと頼まれたそうだ。

ただいくら自分が言い出した事とはいえ、基地司令が自らテストする必要は無いのではないか。そう聞けば横に居たシーマ少佐が疲れた声で答えをくれた。

 

「運用がなんというか独特でなぁ、取り敢えず提唱した人間が一番理解して使えるだろうという判断だ。…それから正直この基地で大佐より腕の立つパイロットが居ないからねぇ」

 

一月程前からアッザムでの失態を反省してとかなんとか言いつつ実機での訓練にも参加するようになった大佐は、現在正直手に負えない領域に達しつつある。先日遂に撃墜されたものの、その内容はシーマ、デメジエール両少佐を筆頭にシン大尉とアナベル大尉に加えニムバス大尉にマリオン少尉を加えたその戦力が居れば基地の一つや二つ落とせるんじゃ無いかというメンバーが揃って漸くだった。尤もその内容は戦闘と言うより、逃げ回る大佐を一方的に襲い続ける狩りのような状況だったが。ちなみに唯一撃墜されたシン大尉は随分落ち込んでいたらしい。

そんなことを思い出しながら相手のスペックをもう一度表示する。

出力はグフと同じ。装備に関して言えば頭部に内蔵された90ミリマシンガンが2基に、腕に装備された改良型のヒート・ロッド、それから280ミリロケット砲と、どれも訓練で馴染みのある装備ばかりだ。気になる点は二つ。

 

「いいか、相手はこちらより一回り以上小型の機体だ。目視だけに頼ると距離感を狂わされるよ、ちゃんと計器も確認しな。それと高い隠蔽性能とある、各センサーの値には常に気を配れ」

 

訓練の一戦目は相手に有利、と言うより想定された運用下での試験だ。沿岸基地で夜間。正直他の水陸両用とやり合うのでも嫌な条件だ。

 

「相手の装備はドム相手には貧弱だ。唯一近接装備が厄介だが幸いこちらの方が速度がある。常に動いて距離を取って対処する。いつも通りだ、いいな?」

 

「「了解」」

 

二人が返事をすると同時に訓練開始のアナウンスが流れる。緊張にやや身を強ばらせながら、慎重に海岸線付近まで移動する。シチュエーションは揚陸襲撃であるから、海から飛び出してくる瞬間を叩いてしまおうと言うのが三人の出した結論だった。何しろ小型とは言え10mを超える物体だ、海から上がろうとすれば当然海面が激しく動く。揚陸されて障害物の乱立する場所ではステルスも活きるだろうが、こうも見晴らしが良ければその恩恵も受けられない。

今日こそ一泡吹かせてやる。息巻きながらその時を待ったが5分以上経過しても動きが無い。それでも油断を誘うつもりかと更に5分待ってみるがやはり海面は静かなままだ。

 

「おかしいですな、揚陸するとすればここだと思うのですが」

 

この基地でMSがギリギリまで水中から接近できるのはこの岸壁だけだし、何よりここならすぐ倉庫街に入り込める。

 

「こちらがここで張るのを見越して裏をかいたんじゃ?」

 

アス伍長の言葉に迷いが生まれる。今回のあちらの目的はサボタージュであるから、無理にこちらと戦う必要は無い。移動指示を出すべきか逡巡していると、唐突に後ろの倉庫街で爆発が起きた。

 

「クソ!やっぱりもう入り込んでっ」

 

そう悪態をついてアスが機体を倉庫街へ向け、その背を無防備に海へと晒した瞬間、海面が一気に盛り上がった。

 

「アス!後ろだっ!!」

 

トップは叫ぶが、それはあまりにも遅かった。海面から低く、しかし鋭く飛び出したそれはアス伍長のドムで巧妙にこちらの射線を遮りながら接近、同時に放たれたヒート・ロッドが振り返り切れていないアス伍長のドムの胴体へと食らいつき、致命の電撃を流す。

 

「アス!」

 

射線を確保するべく動いていたデル軍曹が叫ぶのも虚しく、脱力したドムのコックピットへ腕が押しつけられる。

射突式ブレード、スペック表の中に書かれた見慣れない名前の武器を思い出す。そしてそれは目の前で正しく使用された。

 

「このぉ!」

 

軍曹の機体とは逆方向へ移動していたトップは、アス機に当たるのも構わずトリガーを引いた。書かれている通りの性能であれば、アス伍長は間違いなく戦死しているからだ。MMP-79から120ミリとは比べものにならない連射が襲いかかるが、相手を捉えることは出来ずアス機に傷を増やしただけだった。

 

「何処へ!?」

 

「右です少尉!」

 

軍曹の言葉に従って視線を送れば、目を通したカタログスペック以上の速度で移動する目標の姿があった。よく見れば、ヒートロッドの巻き上げ機能を利用して速度を稼いでいる。

 

「多芸な事ですね大佐!」

 

追撃するべくマシンガンを向けるが、それはあちらの射撃で防がれてしまう。回避行動を終えた頃には、目標は倉庫街に消えていた。

 

「デル、アスは?」

 

「コックピットへの一撃で死亡判定です。見事ですなぁ」

 

想定通りの言葉に溜息を吐きながらアス機を見れば、寸分のずれも無くコックピットハッチが貫かれていた。味方であれば称賛を送りたいが、今は残念ながら敵である。

 

「電波は当然としても、熱源も音響も反応無し。厄介だね」

 

「便利な道具に慣れたのが仇ですな、目視がこれ程頼りないとは」

 

ミノフスキー粒子下でこそ索敵手段が重要であるという提唱に賛同していた大佐によって、ドムにはザクより多くの索敵装備が盛り込まれている。敵の発見は格段にやりやすくなったが、それは一方で開戦時は当たり前だった目視のみによる索敵の機会が大幅に減ったことを意味していた。仮に今対峙している機体と同等のステルス性を持つ機体を連邦が用意すれば、古参の連中はともかく、新兵にはかなり厳しい戦いになるだろう。何せ地球は宇宙と違い隠れる場所に事欠かないからだ。

 

「厄介だな、残念だが一度仕切り直す。防衛目標まで下がるぞ」

 

「目標が狙われませんか?」

 

「倉庫街で見えない相手と戦う方が危険だ。あのやんちゃな大佐殿だぞ?何をしてくるかわからん」

 

「ですな」

 

そう言って二機は遮蔽物の少ない道を選んで移動を開始する。奇襲をしにくくするだけでも火力の低い相手にすれば厄介だろうという判断だ。

 

「それにしても大佐殿は何処であの様な機動を覚えてくるのですかな?」

 

頻りに左右へ視線を送りながら軍曹が口を開く。

 

「確かに。だがグフ乗りとは何度かやった時にヒート・ロッドを機動に使う奴は居たからな」

 

何かに打ち込んでアンカー代わりにするという奴はそれなりに居たから、案外それを見ていて思いついたのかもしれない。それをシミュレーションとは言えいきなりやってみせる技量には舌を巻くが。そんなことを言いながら防衛目標まであと少し、倉庫街の途切れるところまで来た瞬間それは起こった。

 

「なぁ!?」

 

後方を警戒しつつ後をついて来ていた軍曹が驚愕の声を上げると同時、盛大な転倒音が響いた。慌てて振り返れば、自分が通過するまで何も無かった場所にワイヤーが張られている。否、それはワイヤーなどでは無く。

 

「そこかぁ!」

 

ヒート・ロッドの根元、即ち敵の居る位置へ向けてマシンガンを撃ち込む。僅か10秒でマガジンが空になり、即座にリロード。おまけとばかりにもう一マガジン分たたき込んだところでデル軍曹が起き上がっていないことに気付く。

 

「デルどうした、早く起きろ」

 

油断なくマシンガンを構えながらそう呼びかけるが返事が無い。

 

「デル!どうした!?」

 

焦燥に駆られ視線を向ければ、そこには仰向けになり、アス機と同様にコックピットを一突きにされたデル機があった。

 

「ひぃ!?」

 

まるでホラー映画のワンシーンのようだなどと、どこか冷静な部分が告げてくる。そしてこれがホラー映画なのだとしたら。

 

『終わりだ、少尉』

 

大佐の声がコックピットに響く。シチュエーションと設定からして通信は入らない、MS同士の接触回線、すなわちお肌の触れあい以外は。

振り返った先、トップ少尉が最後に目にしたのは片腕を無くした大佐の乗るアッガイだった。

 

 

 

 

アッガイ、面白い機体に仕上がっているなぁ。確か造ってるのはスウィネン社だったっけ?なんか愉快な思想の社長さんだったと記憶しているが、MS開発に関しては優秀なようだ。

 

「シミュレーション終了。大佐お疲れ様でした」

 

オペレーターを買って出てくれたエイミー少尉がそう告げてくる。コックピットもほぼザクのままだし、海兵隊向けにオデッサでも生産するよう打診してみようかな?

 

「しかし少し出力を持て余しているな、動きがピーキーだ。それに武装も格闘に寄りすぎている」

 

小型化の弊害で内蔵火器を殆ど用意出来なかったからなぁ。ヒート・ロッド?あれは飛び道具とは言わん。

 

『十分扱えていたように感じましたが?』

 

どこか疲れた顔で通信を入れてきたトップ少尉に俺は返事をする。

 

「こちらに有利な条件を並べたからの結果だよ少尉。それに人員の少ない海軍はどうしても単一の機体で複数の任務に従事する必要がある。まあ、内部容積が小さいアッガイでは、ハードポイントを設けて任務に合わせて装備を調えるのが精々だろうな」

 

折角だしそっち方面のアイデアも伝えてみよう。一個でもものになればラッキーだ。

 

『…左様ですか』

 

なにやら深い溜息を吐くトップ少尉。おいおい、溜息なんて吐いてると幸せが逃げちゃうぜ?

 

「とりあえず、次はシチュエーションを変えてみよう。そうだな、昼間の隠蔽はどの程度かやってみるか」

 

俺の言葉に何故か顔を引きつらせるトップ少尉。具合でも悪いの?止めとく?って聞いたらやけくそな声で返事がきた。

 

『はい、いいえ大佐殿!最後までお付き合い致します!』

 

それから暫くして、基地に実機のアッガイが運び込まれたのだが、何故か一部のパイロットと海兵隊は近寄ろうとしなかった。なんだったんだろう、アレ?




サンボルアッガイはアッガイじゃないと思います。
大好きだけどね!


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第四十六話:0079/08/04 マ・クベ(偽)と始まる物語

感想通算3000件突破有り難うございます投稿。
こういうことしてるからストックが増えないのです!


「率直に言おう、レイ大尉。アレではジオンに勝てない」

 

態々暗号通信まで使って、軍の最高司令官が言うことがそれか。苛立ちと落胆を感じつつ、しかし軍人として最低限の節度を保ってテム・レイは応えた。

 

「オーガスタの件は聞いております。ジオンの新型にやられたと」

 

でっち上げの陸戦型はともかくとして、虎の子として送った1号機が撃破されたのはテム自身も少なからず衝撃を受けた。だが、辛うじて持ち帰られたデータを見れば、それが彼の生み出した傑作、RXー78ガンダムの性能に起因する敗北でない事は明らかだ。だと言うのに。

 

「ならば話は早い。大尉には更に高性能な機体を開発して貰いたい。また宇宙用機の開発は一時中断し、建造中の4~6号機は陸戦用装備の開発母体とする」

 

簡単に言ってくれる。頬が引きつるのをテムは自覚する。現行のガンダムですら部品に求められる精度が高すぎて十分な数が確保できていない。そもそも先の敗北は数による圧殺であり、間違ってもガンダムの性能のせいでは無い。尤も、10倍の敵に勝てなければ性能不足だと言われてしまえばそれまでだが。

 

「4~6号機の件は承知しました。しかし、ガンダムの更なる性能向上となりますと…」

 

「それに関してだが、オーガスタから脱出に成功した開発チームとジャブローで機体の性能向上を研究しているモスク・ハン博士をそちらに送る。仕様は改めて送るから取り敢えず受け入れを頼んだ、ではな」

 

言いたいことだけ言い切るとレビル大将は通信を切ってしまう。テムは我慢できず手元にあったマグカップを壁に投げつけた。

 

「負けたら装備が悪かったか!?これだから野蛮な戦争屋共は!!」

 

一頻り罵詈雑言を叫んだ後、椅子へ深々と座り込み力を抜く。その頃には既に技術者の顔に戻っていた。

 

「現実問題として、ガンダムの性能は完璧だ。しかし生産性はとてもでは無いが量産に向くとは言えない」

 

これは駆動系にフィールドモーター駆動を採用したことに起因している。エネルギー変換効率や容積と言った面で流体パルスシステムに勝るのだが、肝心のモーターが非常に高い加工精度を要求するため、ガンダムの要求を満たす製品を製造できるのは月に本社を置くアナハイムエレクトロニクスだけだ。ルナツーで製造されている物は要求値に届かず加工不良も多い。アレではガンダムの半分も出力が出ないだろう。更に悩ましいのが先日の衛星軌道での連邦艦隊の敗北だ。大々的に発表されたアレのおかげで、月との輸送ルートに使っていたサイド6が高性能な工業製品は戦略物資に該当すると言いだし、フィールドモーターを積んだアナハイムの輸送船を追い返すようになったのだ。アナハイム側も大人しくそれに従っている。何のことは無い、ジオンが優勢だからあちらに媚を売っておこうという見え透いた行動だ。

 

「ふんっ、所詮我が身が可愛いだけのコウモリか」

 

毒づいたところで事態が好転する訳では無いためテムは別の事柄へと思考を移す。

部品供給が絶たれればガンダムの生産は愚か既存機体の維持も難しいだろう。

 

「だとすれば、現在ある生産拠点で製造可能なパーツで組むしか無い」

 

出力の高いモーターの製造自体は不可能では無い。裕度を持たせて大型化すれば良いからだ。だがそうした場合、ガンダムが実現していたあの高い自由度は失われてしまうだろう。それに大型化に合わせて重量の増加は避けられないから、現状より装甲を薄くして重量を維持するか、あるいは運動性を捨てて重装甲化するかだ。そう考えてテムは頭をかきむしる。

 

(なんと言うことだ、これではRX77へ先祖返りじゃないか)

 

だが幾ら考えても駆動系の問題が解決しなければどうにもならない。いくら高性能にする方法があっても、作れなければそれは絵に描かれた餅と変わらないのだ。

 

「問題はそれを何処まであの大将様が理解しているかだ。全く、これだから素人は」

 

さしあたってガンダムを十全に活かす環境を作るためにも、機体の数を揃えねばなるまい。そんな算段を付けつつ慣れた手つきで端末を操作する。

 

「まずはコイツの改善からか。やれやれ、また暫く家には帰れないな」

 

最近ロクに会話すら出来ていない息子の顔を思い出し溜息を吐く。

 

「この仕事が終わったら、一度地球に帰ろう」

 

そう呟くと、テムは通信室を出て研究室へと向かった。

 

 

 

 

「ああ、大佐。久し振りですね」

 

そう言って通信に出たギニアス少将は、以前に比べかなり疲労しているように見えた。

 

「お加減が悪いようで。少将、どうされました?」

 

そう聞けばギニアス少将は深々と溜息を吐いた。

 

「…ここの所総司令部からの質問が頻繁に来ていましてね」

 

聞けば東南アジア戦線の戦力増強にアッザムを送って貰ったまでは良かったが、その際に総司令部の中でこんな発言があったのだとか。

 

「あれ?今秘密基地で造ってるMA、ア・バオア・クーの新型と同じじゃね?」

 

流石総司令部、報告書斜め読みでもしてんじゃねぇかと言いたくなる発言である。

曰く、現在ア・バオア・クーにて開発中のMAでアプサラスのコンセプトはクリアできる。であれば、貴重なミノフスキークラフトは全部アッザムにしちまえよ。なんて連絡がチクチクネチネチ送られてくるらしい。ただ、アプサラス計画は公王陛下の承認という国家最高権力のお墨付きなもんだから、それを総司令部が否定するという形を避けたいらしく、こんな陰湿な手段で自主的に開発中止を言い出すように仕向けているっぽい。

 

「軍としても悪戯に機種を増やすのは望ましくない。1月以内に何らかの成果物が提出できない場合、新型への統合を議題に掛けると…」

 

それで急いで開発してて疲れているそうだ。そりゃそうなるわな。少将にしてみれば家の再興とか自分の夢とか、色々詰まってるのがアプサラス計画だ。しかも自身の体の問題もあるから変に突くとすぐに暴走する。総司令部は頼むからちゃんと相手を見て手段を選んで欲しい。

 

「もっと早く仰ってくれれば」

 

助けることも出来たかもしれない。そう言いかけた言葉は少将に止められた。

 

「そうも行かなかったのですよ、大佐」

 

少将の所属は総司令部技術本部。簡単に言えば軍の兵器開発を統括して居る部署である。んで、ここの所良いところが無い中順調に開発を進めて居たのが少将だったわけだが、それだけに期待がかかり、あいつに絶対勝って!ギャフン言わせたって!!という激励がそれはもう山のように来たらしい。そんな少将が俺と繋がっているなんて事になれば、可愛さ余って憎さが天元突破した連中に何をされるか解ったものじゃ無く、言うに言い出せない状況になってしまったそうな。問題は激励以外でなんの役にも立たなかったことらしいが。

そんな訳でどうにもならなくなってしまった少将は、せめてけじめとして俺に連絡をしてくれたらしい。

 

「出来たら送るなどと言っておいて、このようなことになってしまい申し訳ありません」

 

いや、謝られても回答に困る。そもそも少将なんも悪くないし。それに俺は往生際が悪い事にかけては自信がある。

 

「謝らないで下さい。それに諦めるのはまだ早い、成果の提出にはまだ一ヶ月あるのでしょう?」

 

原作だとミノフスキークラフトの調整やら試験やらが難航したのか試作機の初飛行が10月下旬。そこから1月もしないでメガ粒子砲の搭載が出来ている。そしてこの世界では既に試作機はアッザムのデータを参考にした分、飛行テストをほぼ終えていたはずだ。

 

「しかし、現状の機体ではとても納得させる事が出来るとは思えません」

 

まじか。

 

「飛行試験はほぼ終わっているのでしょう?搭載火器の開発が遅れているのですか?」

 

「はい、射撃管制プログラムの開発が難航していまして」

 

それは確かにマズイかもしれない。他の火器積んで誤魔化そうにもそれこそそれではアッザムと変わらない機体になってしまう。

 

「肝心のメガ粒子砲が撃てないとなると確かに厄介ですね…」

 

俺が顎に手をやって唸ると、少将は不思議そうな顔をして口を開いた。

 

「いえ、撃てますよ?」

 

「は?」

 

思わず間抜けな声を上げてしまう。

 

「撃つだけなら出来るのですが、マルチロックや複数射撃時の目標追尾にまだ問題が残っていまして。射手が手動制御しなければならないのです」

 

その言葉に俺は肩から力が抜ける。そうでした、この人びっくりするくらい天才でしたね。

 

「…少将、それは最終到達点にしておきましょう。今回の報告はアプサラスがアッザムとは違うという点を提示できれば良いのです」

 

「しかしアッザムと違うだけでは納得しないのでは…」

 

そこはプレゼン次第かな。でもそんなに分が悪い賭けじゃ無いと思う。この時期にア・バオア・クーで造っているMAって言ったら、多分ビグ・ザムだ。だけどまだあっちは開発中、こっちは既に実機がある。ついでに色々と間に合わせなアッザムのとは違う専用のメガ粒子砲は文字通り桁違いの威力を持っている。だから俺は笑いながら少将に告げた。

 

「十分すぎる違いです。アッザムにはジャブローの岩盤を貫けるような装備は無いですからな。そしてジャブローの岩盤が貫けるような火器に耐えられる装備が、一体この世にどれだけあると思いますか?そして新型のMAとやらはまだ射撃どころか完成すらしていない。ならばむしろそちらをアプサラスに統合する方が合理的だ」

 

俺の言葉に目を白黒させる少将。技術者の人って往々にして自分が決めた到達点を下方修正するの苦手だからなぁ、仕方ない。

 

「射撃管制プログラムは未完成なのではない、複座にすればマルチロックすら可能なプログラムです」

 

「いや、それは…」

 

「大気圏突入にも耐えられる分厚い装甲と冷却システムは多少の攻撃などものともしません。速度が遅い?目標到達後のこの機体の役割は、居座り続けて大火力による破壊をまき散らす事です。移動などMSに随伴できれば本来十分だ」

 

「た、大佐?」

 

「機体容積にもまだまだ余裕がある様子。件のア・バオア・クーで開発中のMAに積む予定のIフィールドを送って貰いビームに対する防御を盤石にしても面白い…。連中がこの機体にどのような評価を付けるのか楽しみだ」

 

呆気を取られている少将に俺は笑いかける。

 

「少将貴方は天才です。間違いない。だからもっと自分を大切にして下さい。貴方の存在はジオンの勝利に無くてはならないものです」

 

まあ、そんなことは抜きにして。

 

「それに、友人を失うというのはとても寂しいものです。私はそんな思いはしたくない」




七夕なのでちょっとしたサービス(のつもり)


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第四十七話:0079/08/05 マ・クベ(偽)と奴隷

今週分の投稿がまだだったなと気がついて。


基地のかなり奥まった場所、地下に設置されたそこは意外にも快適な空間だ。そこが捕虜収容用の独房である事を考慮しなければだが。

 

「やあ、ごきげんよう。トラヴィス・カークランド中尉、調子はどうかな?」

 

内容とは裏腹に微塵も友好を感じさせない声音で男が告げてくる。

 

「飯も寝床も不満は無いね。これでコイツと歩哨が居なけりゃ最高だ」

 

そう言ってトラヴィスは腕を持ち上げる。そこには厳めしい手錠が掛けられていた。

 

「私としてもそうしてやりたいのは山々だがここには怖い人が沢山居てね。君や君のご友人の安全を考えるとこれが最善なのだよ」

 

強化アクリル越しにトラヴィスは声の主へと視線を送った。陰気で胡散臭いその男は、この基地の司令だ。正直そんな大物が何故自分に関わるのか見当がつかないが、待遇はそれ程悪くは無い。先ほど言ったとおり食事は保証されているし、ベッドだって下手な士官室のものより上等だ。それ故に気味が悪いのであるが。

 

「それで、一体俺に何の用なんだい?」

 

オーガスタで降伏したのはトラヴィスの部隊だけでは無かった。だが武装解除された後、何故かトラヴィスの隊だけが極秘裏にこの基地へ連れ込まれ、こうして軟禁されている。

 

「では、単刀直入に。私の駒にならないかね?」

 

その言葉に思わず手にしていた水のパックを落としてしまう。

 

「おいおい、確かに俺はお世辞にも真面目とは言えないが…あんまり見くびってくれるなよ?」

 

殺気を込めて睨むとすぐ横に居た兵士がホルスターへ手を掛ける。しかし相手はそれを笑って制すると、そのままの口を開く。

 

「中々交渉の仕方を心得ている。そうだな、では君の欲しいものと交換ではどうだろうか?」

 

その言葉をトラヴィスは鼻で笑う。

 

「アンタに俺が欲しいものを用意出来るとは思えないな」

 

「そうかな。例えばサイド3でやっている食堂の話などは…君も興味があるんじゃ無いかね?」

 

その台詞に思わず立ち上がったところで自分の失敗を自覚する。目の前の男はこちらに向けていやらしい笑みを浮かべているのが目に映ったからだ。

 

「その様子だと少しは興味が出てきたようだ」

 

憮然とした態度でトラヴィスはベッドへ荒く腰を下ろした。非常に腹立たしいが、あちらの方が完全に上手だ。

 

「…彼女は、無事なのか?」

 

トラヴィスの言葉に相手は困った顔になる。

 

「おいおい、まだ私は君の返事を聞いていない。取引は公正にやるべきだろう?」

 

捕まえて閉じ込めておいてよく言う。内心毒づいたが最早状況は覆らない。せめてもの抵抗に精一杯不機嫌な声で答える。

 

「解った、アンタの狗になってやる。さあ、満足か?答えろよ」

 

トラヴィスの言葉に満足したのか、男は人の悪い笑みを浮かべて口を開く。

 

「結構、大変結構。では私も対価を払うとしよう。彼女は生きているし、無事だよ」

 

その言葉に安堵と悔しさ、そして少しの虚脱感を感じながら、これからの自分の処遇について漠然とした不安を覚えているトラヴィスに、男は爆弾を投げつけてきた。

 

「君の大事な人は二人とも無事だとも…今のところはね」

 

「どういう事だ!?」

 

いきり立つトラヴィスへ向かい、相変わらずの表情で男は口を開く。

 

「彼女の息子さんは今、地球に来ているよ。この意味は解るだろう?」

 

その物言いにトラヴィスは思わず歯ぎしりをしてしまう。戦争中の地球にジオンの人間が降りてきている理由など一つしか無いではないか。

 

「てめえ…!」

 

「サービスをしてやったご主人様に対する態度じゃ無いな?」

 

ぬけぬけと言い放つ男に殺意を覚える一方で、この男の立場を推察する。何故今トラヴィスにそれを告げるのか。その意図は?

 

「俺の態度次第では、息子を救ってくれる…そう言う事ですか?」

 

「残念だが確約はできん。彼も軍人だからね…まあ、君が協力的ならば手を尽くすことは約束しよう」

 

役者が違う。降参の意味を込めて手を上げながらトラヴィスはそう感じた。顔も見せなかった前の飼い主に比べ、コイツは大胆さも悪辣さも数段上だ。

 

「解った、いや、解りました。それで?俺は何をすればいいんで?」

 

そう聞けば、男が端末を操作し手錠を解除する。あまりにもあっけなく解かれた拘束に困惑していると。男はすました顔で口を開いた。

 

「まずは部下を掌握したまえ。ああ、説得に必要なものがあれば彼に言え、大抵のものなら揃えてくれる。それと誰か一人でも裏切れば、全員が死ぬ。それはしっかりと覚えておくように…後のことは追って知らせよう」

 

 

 

 

「宜しかったのですか?」

 

一通り彼と、彼の部下の経歴に目を通して貰っていたウラガンがそう聞いてきた。

確かに彼らの経歴は酷いもんである。何せスパイ容疑に味方の爆破、軍データベースへのハッキングと上官殺し、普通はお友達になりたくない類いの連中である。

 

「つまり、彼らはそれだけのことをしでかしても処刑せずに取っておきたい。それどころか貴重なMSを与えて戦力としたいほど有能であると言うことだな」

 

それに犯罪者扱いだがどうもその内容は不正確だ。折角捕まえたんで諜報部にお願いして洗って貰ったけど、どいつもこいつも状況的にこいつしかいないんだけど、証拠は無いとか証言だけなんて状態だ。多分、有能な連中を手駒にしたくて前の飼い主が色々手を回したんじゃ無かろうか。

 

「それに罪人であっても問題ない。それならば遠慮無く使い潰せば良いだけだしな」

 

「しかし、いつ裏切るか」

 

その点も多分平気だと思う。

 

「元々あの連中は連邦への忠誠心が低い。まあ、あの仕打ちで高かったら正気を疑うが。加えてこちらには切り札がある。これが有効な内はおいそれと裏切れんさ」

 

特にトラヴィスは自身の事よりも家族である女性と息子を気に掛けている。その点を見誤らなければ、彼を通して部隊を掌握し続けられるだろう。

 

「さて、では彼らを有効に使う準備といこう」

 

 

 

 

「異動…でありますか?」

 

「ああ、オデッサからの援軍で戦線も安定しただろう?上はこの機会に部隊の整理がしたいようだ」

 

世話になっている重慶基地の司令は、そう言いながら命令書を渡してきた。

 

「貴様の隊もそうだが、開戦初頭から展開している遊撃部隊や選抜部隊は多くがザクのままだろう?こちらが有利なうちに新型へ転換させようという事だ」

 

遊撃、選抜などと特別な部隊であるような呼び方だが、要するにこれらの部隊は正式な大隊に組み込みにくい訳ありばかりだ。かく言うダグ・シュナイドが指揮している部隊もそんな訳ありの一つだ。

 

「正直に言えば君の隊は危ういからな。悪くない話だと私は思っている」

 

部隊内での競争による戦果の拡大。そんな素人の思いつきのような名目で集められた所謂エリートコースから弾かれた人間が集められた部隊がダグの預かるマルコシアス隊だ。競い合うこと自体は否定しないが、それが明確な待遇差に繋がっているダグの隊では完全に裏目に出ている。他の小隊どころか、自隊のメンバーすらライバルとしてしまうこの方式は、部隊間の連携どころか、小隊内ですらまともなチームワークが発揮できていない。しかも戦果を焦るあまり無茶な行動に出る者が多く、部隊の損害を増大させている。碌な戦果も挙げられず、損耗も激しいとなれば、斯様な評価でも仕方の無い事だろう。尤も殆どの隊員はそれすら不甲斐ない隊の他の連中に足を引っ張られたと感じているだろうが。

 

「正直有り難いです。ただの異動では不満も出るでしょうが、新型への機種転換ならばひよっこ共もそれ程不満を溜めないでしょう。ご配慮感謝致します」

 

ダグの言葉に一瞬目を丸くした後、笑いながら基地司令は否定した。

 

「いや、私の推薦じゃない。あちらからのご指名だ」

 

「指名?」

 

短く肯定の言葉を吐きつつ、基地司令は取り出した煙草に火を付け紫煙を吸い込む。

 

「オデッサの基地司令が直接言ってきたのだよ。そちらに居るマルコシアス隊をこちらに譲ってくれないか、とね。根回しの良い男だよ、寄こせと言うのとほぼ同時に異動の指示が上から来た。ああ、君達の代わりにオデッサに行くはずだった部隊がこちらに来るそうだから、存分に訓練が出来るとまで言っていたぞ?」

 

可笑しそうに告げる基地司令を前に、ダグは嫌な汗が背中を伝うのを自覚する。ここの所色々と有名なオデッサ基地の司令から直接のご指名、それも聞く限りは望外の好待遇だ。それだけに嫌な予想が頭から離れない。

その切れ者らしい大佐殿は、俺たちに一体何をさせるつもりなのだろう?




伏線を張っていくスタイル、尚回収出来るかは未定の模様。
次の話なんて遠い未来の事なんか解らないよ。


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第四十八話:0079/08/09 マ・クベ(偽)と疾る幻影

今週分です


「初めまして、マ大佐。お噂はかねがね」

 

シャトルを降りるなりそう言って敬礼をしてくる少佐に俺は笑顔で答礼しつつジャブを放った。

 

「こちらこそ会えて光栄だジャン少佐、言っておくが専用機は間に合っているよ」

 

だからヅダは要らん、持って帰れ。

 

「はっはっは、これは手厳しい。しかしヅダをご存知でしたか」

 

「採用試験については聞いていたからね。正直まだ開発を続けていたとは知らなかったが」

 

事の発端は先月の末に、キシリア様へゴッグ改良型の経過報告をした時だ。ズゴックとアッガイの量産が決定したので、取り敢えず概念実証機としての開発継続とそれについての予算を認めて貰ったから、ちゃんと凄いの作ってますよ!って張り切ってプレゼンしたんだが、その場でキシリア様から微妙な顔でツィマッドの開発部からアポイントメントが来ていると伝えられた。一応こいつはキシリア様主導で開発している事になっているから、そのせいで向こうに連絡が行っちゃったらしい。んで、お話ししたいから是非会って!という連絡がストーカーばりに来るもんだから、いい加減切れそうになってたらしい。

 

「と言う訳で貴様の所に連中を送る、対処しろ」

 

「あ、はい」

 

女性は怒らせてはいけない、上官なら尚更である。

そんな訳で何故か宇宙機の開発チームがオデッサに遊びに来る事になった訳だが、ツィマッドの宇宙機と言えばそう、木星エンジンのスピードスター。加速し過ぎるとパイロットと共にスターダストにジョブチェンジをキメてくれる憎い奴、ヅダである。そして、ヅダ絡みでやって来ると言えば、当然ながらこの男なのだ。

 

「改めてオデッサへようこそ、ジャン・リュック・デュバル少佐。この出会いが実り多いことを期待しているよ」

 

そう言って差し出された手を握り返す。さて、このヅダキチは一体何しに来たのやら。

 

 

 

 

こちらを値踏みするような視線にジャンは思わず背筋が粟立ったが、それをおくびにも出さずに笑顔で握手に力を込めた。正直に言えば、ジャンは政治や駆け引きが苦手だ。4年前の採用試験も、もっと上手く立ち回れていたらと幾度も後悔したが、それをしてしまえば自身が唾棄した連中と同じになってしまう。故にジャンは自らの信念を曲げずにヅダの汚名を返上する必要があった。

 

(しかしこの大佐は、聞きしに勝る。という奴だな)

 

ここの所技術者や開発部界隈を盛大に引っかき回しているオデッサの基地司令。ただの資源採掘基地だったはずのそれを、あっと言う間に地上屈指の製造拠点に仕立て上げ、欧州方面の勝利を盤石にした男。それどころかジオン国内の主なメーカー全てに太いパイプを持ち、特に地上で運用する兵器では、オデッサが関わって居ないと言うだけで運用部隊が渋い顔をするなどと言われる始末だ。この上宇宙軍の再建にも大きく貢献したと言うのだから、何も知らない人間に話せば、嘘と思われるか、頭を疑われるかのどちらかだろう。ジャン自身も直接会うまで余程優秀な開発チームを抱えているのだと考えていたが、恐らくその考えは間違いだ。

 

「正直なところ、私が少佐にしてやれる事は無いと思うんだがね?」

 

その言葉だけでこの大佐がただの調整役や優秀な人間を集めただけの人物でないと解る。つまりこの大佐はジャンが何に困ってここまで頼ってきたのかを理解していると言うことなのだから。

 

「そうでしょうか?大佐のお力添えがあれば、ヅダは再び飛べると私は確信しておりますが」

 

故にジャンは、挑みかかるようにそう大佐に告げるのだった。

 

 

 

 

鼻息荒く熱弁するジャン少佐に正直ちょっと引きながらどうしたもんかと考える。だってヅダだよ、ヅダ。いや、好きな人がいるのは知っているし、あの設定にロマンを感じちゃうのは否定しない。でもちょっと冷静になって欲しい。例えば自分が部隊の指揮官だとして、果たしてヅダは適切な装備だろうか?

無論その性能は認める。スペックで見ればザクのR型とほぼ同じ性能をたたき出し、稼働時間はF型並み。コストだってザクⅠと比べたらかなり高いが、R型と比較すれば1割くらい割高なだけだ。加えて機動のほぼ全てをAMBACと主推進器で賄って居るから、プロペラントをアポジモーター用に分散配置せずに済み、被弾時の誘爆といったリスクも少ない。

しかし、しかしである。それを補って余りあるリスクが暴走分解である。

そもそも教練を終えて正式配備されたと言っても、パイロットの腕なんて千差万別。部隊内にだって差が出る。そんなところに下手な使い方すると暴走するよ!暴走したら確実にパイロット死ぬよ!なんて機体を配備できる訳がないのだ。

加えてそんな信用が出来ない機体なんて、幾ら性能が良いと言っても好き好んで乗る奴は居ないだろう。

 

「しかし、こうしてみると不思議な機体だな。少佐」

 

取り敢えず執務室の応接セットに招いて端末に映ったヅダのプロフィールを見ながら、そう首をかしげる。流石にスペックまでしっかりと見ていなかったから、改めてザクⅠと比較してみたけど、なんかおかしいのだ。

 

「重量としてはザクⅠより10t近く重い、それでいて推力はおよそ20000kgの増加、単純な推力比で言えばほぼ同じだ」

 

むしろザクの方が推力比は高い。

 

「ああそれは間違いです、大佐。重量は浅宇宙運用時としているかと。つまりそれが全備重量になります」

 

なんですと?

 

「すると何かね。ヅダはザクより4t近く軽いと言うことかね?」

 

「はい、加えてザクの推力は各所に配置しましたアポジモーターを含めた合計推力でありますから、主推進器同士で比較すれば推力の差もより大きくなります」

 

うん、解った皆まで言うな。

 

「つまりこの機体の問題は至ってシンプルな訳だな。機体とエンジンの強度不足、それに尽きる。設計した奴は安全率という言葉を学んだ方が良いな」

 

「それに関しては否定しませんね。特にエンジン開発チームは頭のネジが外れてましたから」

 

そう言うなりジャン少佐の横にどっかりとエリー女史が座った。サイズ的にはちょこんと言った方が正しいが。

 

「おい、また私を小娘扱いしてないか?」

 

「気のせいでしょう。それより何故エリー女史がここに?」

 

そう聞けば眉間にしわを寄せ、腕まで組んで鼻を鳴らすエリー女史。

 

「ヅダには多少なりとも私も関わっています。幾らか助言でも出来ればと」

 

成程ね。

 

「それで、本音は?」

 

「私が手がけた作品を大佐が駄作呼ばわりしたら殴ってやろうと思いまして」

 

この娘っ子はもうちょっと大人しく生きても良いと思う。

 

「しかし、事実分解していては問題でしょう」

 

「指定された安全率は守っていたんですよ、むしろ機体の剛性的にはザクより上だと保証します」

 

じゃあなんで分解すんだよ?そう半眼になって視線を送れば、ジャン少佐は居心地が悪そうに、エリー女史は不機嫌さを前面に出して答えた。

 

「はっきり言ってエンジン開発チームの馬鹿のせいです」

 

元々推進器のメーカーとして身を起こしたツィマッド社は、社内の暗黙のパワーバランスでエンジン開発チームが非常に大きな発言権を持っているのだそうな。んで、問題の出発点は、搭載予定だったものよりも高出力のエンジンを開発チームが提示してきた事だと言う。

 

「要求したとおり作りゃ良いのにあのマッドサイエンティストが。新型エンジン開発中に一緒に吹き飛ばねえかなと何度思ったことか」

 

思い出したら腹が立ってきたのか、お茶請けに出したタルトをフォークで突き刺しまくるエリー女史。気持ちは解らんでもないが食べ物を粗末にするんじゃありません。

 

「しかもツィマッドの上層部は殆どがこの推進器開発部門から上がってきた人間でしてね。かの御仁を止めづらい空気がありまして…」

 

そう言って渋い顔をするジャン少佐。まあ、それで同僚殉職させられてるしたまったもんじゃないわな。

 

「それならば、私が次に言う事も解るのでは?」

 

欠陥を改善できんなら言うことは無い、お帰り願うだけだ。

 

「お待ちください。エンジンの改善のめどは立っているのです。後は機体の剛性問題さえクリア出来れば!」

 

わっかんねぇなぁ。

 

「何故そこまでヅダに拘るのです?今のジオンは優勢に事を進めているとは言え、先行きは不透明だ。プライドや道楽にリソースを割く余裕は無い」

 

俺の言葉に顔を強ばらせる二人。さあ、どう返す?

 

「私は、政治や駆け引きが苦手です。ですから正直に申しましょう。死んだヴェルター中尉のため、この機体をただの失敗機で終わらせられないという気持ちは、もちろんあります」

 

だろうね、でもそれじゃ俺は動けないな。

 

「ですが、それだけで動くほど私は軽率でもないつもりです。大佐も軍が次期宇宙用MSの選定について動いていることをご存知でしょう」

 

聞いてるよ。正直エネルギーCAPさえ実用化すればR型で良いんじゃねと言うのが俺の意見だが。

 

「ツィマッドではドムを宇宙用に改修する事を提案しようとしています。だが、アレは駄目だ」

 

質量がでかい分ドムは宇宙で使うとプロペラントをバカ食いするからね。

 

「それでヅダだと?私としてはR型で事足りると考えているが」

 

「確かにR型は悪い機体ではありません。しかし今後を考えれば少々心許ないのも事実です。違いますか?」

 

「中々見ているじゃないか」

 

少佐の言うとおり、R型はザクとしては高い性能を誇るが、元のザクを限界まで突き詰めているためこれ以上の性能向上は難しい。特にジェネレーターなどの中核になる部品を設計変更なしに載せ替えることはほぼ不可能だ。つまり、戦争が長期化し連邦が高性能なMSを繰り出してきた際に対応しきれない可能性が高くなる。

 

「迂遠な言い方は得意ではありません。大佐の進めておりますインナーフレームMSの設計技術を頂きたい。アレがあれば強度問題を解決できます」




久し振りのメインヒロイン登場ですよ!


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第四十九話:0079/08/15 マ・クベ(偽)と魔獣

累計UA2000K有り難うございます投稿。
色々外伝的なものも妄想するんですが文章になりません。


ジャン少佐の物言いに、開示は別に構わんけど、他の企業にも開示するよ?ってツィマッド本社に言質を取ってデータ渡したらホクホク顔で帰って行った。リックドムよりマシな物を作ってくれることを期待しようと思う。それから中央アジア方面に展開していたマルコシアス隊をキシリア様にお強請りしたら、なんか色々諦めた顔で承知してくれた。元々無駄に多くなっている特別編成の部隊を統廃合しようという動きが出ていたので今回は有り難く乗らせて貰った。ちなみにマルコシアス隊の戦果競争方式はキシリア様が思いついた方法らしく、思いっきり失敗したことについて落ち込んでいた。

 

「ダグ・シュナイド大尉なら上手く手綱を握れると思ったのだが…」

 

切なそうにそんなことを仰っていたが、まあ無理よな。各隊で戦果を競争なんてすれば、ライバルが失敗して喜びこそすれど、フォローしてやろうなんて思う奴は少数だろう。その辺も考慮して他部隊のフォローなんかも査定する筈だったのだが、つまりそれは助けられたらライバルが得をする訳で、その結果作戦中助けない、関わらないなんていう暗黙の了解が部隊内で出来てしまっていたという。何それ馬鹿なの?死ぬの?

そんな連中なので基地に来ても非常に態度が悪い。いや、上官に逆らうとかはないんだけど、とにかく他の隊にけんか腰というか攻撃的な態度なのだ。どうしようかと悩んでいたら、デメジエール少佐とシーマ少佐があっけらかんと言ってきた。

 

「馬鹿に言っても無駄です。体に覚えさせるのが手っ取り早いでしょう」

 

「大佐が相手をしてやれば宜しい。その後に我々と大佐の訓練を見せれば嫌でも解るでしょうなぁ」

 

「アレを訓練と呼ぶのかね…」

 

シーマ少佐の言っている訓練とは、実機を使ったものなのだが、その内容が俺VSデメジエール少佐、シーマ少佐、シン大尉にアナベル大尉、そこにニムバス大尉とマリオン少尉が加わった1対6の変則マッチだ。はっきり言う、アレは訓練ではなくて良くて狩り、悪く言えばリンチだと思う。内容としては、大体少佐ズに泣きそうになるぐらい砲弾たたき込まれてる中、鬼みたいな速度で肉薄してくるシン大尉とニムバス大尉の斬撃に追い立てられ、息を吐く間もなく情け容赦ないアナベル大尉とマリオン少尉の狙撃を受ける。今のところ10分以上生き延びられたことはない。先日キリマンジャロを落として戻ってきたヴェルナー少尉が加わりたそうにこちらを見ていたが勘弁して欲しい。こちとらとっくにオーバーキルされてんだよ、なんで味方が増えないんですかね!?

 

「大佐は大事なお体です。つまり死ぬことは許されません。故にあらゆる状況から生還する技術を身につける義務があります」

 

断言するが、あの戦力から生還できるなら天パ付きの白い奴からでも生き延びられると思う。いや、断じてやるつもりはないが。

 

「しかし、それなら他のパイロットでも良いんじゃないか?」

 

いや別に訓練が嫌な訳じゃないんだ、MS乗るのも楽しいし。ただここの所実機訓練してるとウラガンが冷たい目で何かを訴えてくるんだよなあ。

そう言えば二人は良い笑顔で言い放った。

 

「やるなら徹底的にやるべきです」

 

「寝ぼけてる馬鹿を起こすには刺激は強ければ強いほど良いですからなぁ」

 

そんな訳でダグ大尉を呼び出したら、え、何言ってんのこの人達、正気?って顔された。うむ、然もありなん。

 

「機種転換に向けての実技指導を兼ねる…でありますか。いえ、それは問題ありませんが、指導者が大佐と言うのは?」

 

割と当たり前の反応なのだが、残念ながらこのオデッサでは通じない。

 

「レクリエーションの一環さね大尉。それに自分たちの指揮官がMSに通じているとなれば指揮にも信頼が置けるってもんさ」

 

そら、知らないより知ってた方が良いに決まってるけど。俺は見てしまった、少佐の目が笑っているのを。アレ、完全に玩具見つけた時の目だ。

 

「は、はあ。しかし恥ずかしながら我が隊の者は加減というものが解らん連中でして…万一にも大佐殿にお怪我などをさせてしまっては」

 

そうダグ大尉が言えば、ツボにはまったのかデメジエール少佐が吹き出す。

 

「大丈夫だ、大尉。大佐にその心配は不要だ、ここに居る全員が保証しよう。ああ、もしかしてとても見せられたものじゃない練度なのか?ならば仕方ない、他の連中を見繕うが」

 

その言葉に明らかに怒気を発するダグ大尉、そらそうだ。

 

「見せられないほどであるなら仕方ないなあ?そうだ、丁度今訓練中の新兵がいる。あれなら良い勝負になるかも知れません。ねえ大佐?」

 

そこで、何で俺に振る!?ほら、ダグ大尉完全におこじゃんか。

 

「二人とも、あまり挑発するな。すまないな大尉、ウチの連中はこの手の事が大好きでね。断ってくれても構わない、それで君達に不利益になるような事はしない。約束しよう」

 

二人をたしなめた後そう言えば、何やら腹の据わった、ついでに目も据わったダグ大尉が低い声で答えた。

 

「いいえ、問題ありません。ただ、先ほど申しましたとおりウチの者は加減の出来ん連中です。本当に宜しいのですね?」

 

あ、これは完全にやる気完了してますわ。

 

「ああ、構わないよ。内容は実機での演習で良いかな?」

 

「はい、構いません」

 

おお、即答。これは相当頭にきてますね。

 

「結構。では1300時より実施といこう」

 

俺の言葉に素早く敬礼し、承知した旨を口にするダグ大尉。それを見ていたデメジエール少佐が楽しそうに口を開いた。

 

「午後なら隊の連中にあまり飯を食わないように言っておいた方が良いぞ大尉。掃除も大変だからな」

 

だから挑発すんなって!

 

「…っ!失礼致します!」

 

顔を真っ赤にして大尉が退出する。扉が閉まったところで俺は盛大に溜息を吐いた。

 

「二人ともからかいすぎだ。ダグ大尉まであれでは冷静さを失ってしまうぞ?」

 

そう言えば先ほどまでの雰囲気とは打って変わって冷静な顔になった二人が口を開く。

 

「ダグ大尉も少々難がありますな。あれでは指揮官ではなく親父です」

 

「ガキのお守りなら仕方ないとは思いますが、そのまま戦場に出て来ているのは頂けませんなぁ。あれはいずれ部下も味方も殺すタイプです」

 

これでまだ一般的な部隊なら大過なくやれるだろうが、兵士として半人前の連中が部下では確実に悪い方向に働くと言うのが二人の評価だ。曰く隊長ではなく親父として接しすぎているため、部下に甘えが生まれる。甘えは統制を緩め、独断や不服従の温床になる。特に精神的に未熟な若い兵士なら尚のことだ。

 

「おまけに例の評価方法ですからな。あんな方式は新兵に死ねと言っているのと変わりません」

 

実際原作だと統制しきれずに部下を戦死させているからなあ。

 

「死人が出ないうちに彼らがここにこられたのは僥倖です。ですからたっぷりと教育してやりましょう」

 

そう言って笑みを浮かべる二人を見て、じゃあ二人が教育したってよ、最近ウラガンがMSに乗ると冷たい目で見てきて怖いんだよ。なんて思いながら諦めの溜息を吐いた。

まあ、契約もある事だしここは必要経費と考えよう。

 

「では、歴戦の新兵君達の教育といこう」

 

 

 

 

「つまり、我々は完全に舐められている。そう言う事ですか大尉?」

 

幾分悩んだが、ダグ・シュナイドは基地司令の執務室の会話を包み隠さず隊員に伝えることにした。挑発的な言葉だったため聞いた時点では随分と頭にきたが、少し時間が経ち冷静になり始めると少佐達の意図がおぼろげながら感じられるようになったのだ。

 

(あれは確実に試されていたな)

 

親子ほども年の離れた隊員に対し、自身は隊長として接してきたつもりではあるが、それが十全であったかと問われれば、返答に窮すると感じてもいた。

事実、ブリティッシュ作戦以降欠員こそ出してはいないが、幾度か危険な状況には陥ったし、地上侵攻に参加してからは隊員の突出を諫めることも多くなっていた。

 

「ふん!大佐だかなんだか知らないが、俺たち歴戦のベテランに新型に乗ったくらいで勝てると思っているのか?」

 

「だが、その大佐がオデッサデータの制作者だと言うぞ?」

 

オデッサデータとは2ヶ月ほど前から地球方面軍各地に配布されているエグザンプルデータだ。ホバー機が中心だが非常に有益なデータであり、その中でもMSの個人戦闘の最高難易度に設定されているドムは正に理不尽な強さで、勝つことよりどれだけ粘れるかが競われるほどだ。

 

「ここにはジブラルタルの英雄がいるんだぜ?あのデータはドムだし、大方手柄をその大佐が横取りしたんだろうさ」

 

そう言って鼻を鳴らすギー・ヘルムート軍曹を見てダグは少佐達の懸念が正しいことを実感すると同時に、取り返しがつかなくなる前にこのオデッサへ呼ばれたことを感謝した。

 

「相手にどのような意図があれ、俺たちのやることは変わらん。遠慮は要らん、大佐殿にお前達の実力を見せてやれ!」

 

故に、あえて煽るような台詞を吐く。今まで半端にしてきた事の清算をするために。

 

(これを機に俺も鍛え直そう。教え導くなど、俺にはまだまだ過ぎた領分だ)

 

密かにそう決意を固めつつ、息巻く部下達をダグは見回した。さて、この中で何人が心を折らずに兵士を続けられるだろう?




メインヒロイン脅威の2話連続出演!これでヒロイン人気もV字回復間違いなしですよ!


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第五十話:0079/08/17 マ・クベ(偽)の日常

早めに書けたので。


「あ、いたいた。ねえ、聞いた?」

 

定位置となった食堂の一角で遅めの夕食を取っていると、そう言ってフェイスが近づいてきた。

 

「お疲れ様、聞いたってどの話?」

 

ミリセントは眉を寄せながらそう聞き返した。何しろここオデッサは話題に事欠かない場所だ。聞いたかとだけ言われても一体何のことだか見当を付けるのも難しい。

 

「ほら、例の新しく来た選抜部隊の人達。早速大佐と模擬戦したらしいよ、しかも実機で!」

 

「何それ羨ましい」

 

戦士の表情でパフェと格闘していたミノル少尉が頬を膨らませながらそう不満を漏らした。

無理もない。シミュレーターこそ許可されているが、未だにミリセント達は戦闘用の実機の使用許可は出されていない。そのシミュレーターにしても正規のパイロットが優先されるから使える時間は少ないし、大佐と模擬戦が出来る事などめったに無いのだ。

 

「選抜部隊なんでしょ?即戦力だもの、私たちとは期待度が違うわ」

 

そう言いながら隣の席に座っていたセルマ少尉が抑揚のない声でマグカップを傾けながら答えた。悔しいけれどその通りだとミリセントも口には出さないが同意する。向こうはルウムから戦い続けているベテランで、こちらは速成と言うのも烏滸がましい半人前、扱いに差があって然るべきだ。

 

「でも私たちだって、目を掛けて貰っていると思うの。ほらぁ、隊専用のMSまで貰ってるじゃない?」

 

「その通りですわね。他人を羨んだところで知識も付かなければ技量も上がりません。今は与えられた任務を全力でこなすことですわ!」

 

そう言ってドヤ顔を作るジュリア少尉にメンバーは生温かい笑みを送った。先日基地の陣地構築の手伝いをした際にガテンファッションに加え土埃まみれになった姿を大佐に見られて奇声を上げた挙句、3日間生気の抜けた表情でハイとイエスしか言わなくなったのを全員が目撃していたからだ。恋する乙女は実に解りやすいのである。

 

「あー、でも、穴の掘りすぎで自分がパイロットなのか鉱夫なのか解んなくなってきたよ」

 

そう言って笑うフェイスにミリセントも頷き返すと、それを見ていたセルマ少尉が再び口を開いた。

 

「でも、学ぶ事も多いわ。最近は鉱山より基地の造成に参加することが多いでしょう?」

 

その言葉にフェイスが頷いた。最初の一週間こそ鉱山での掘削作業だったが、人数分の機体が揃うとそれぞれ基地の方々に派遣され、設営隊に頼まれるまま地面と格闘する日々だ。今日だって基地の西側に大規模な塹壕を掘るとかでフェイスは今まで作業に勤しんでいたのだから。

 

「工兵隊の皆さん、色々教えてくれるものねぇ。勉強になるわぁ」

 

アリス少尉の言葉に全員が深く頷く。工兵隊の人間は職人気質な連中が多いが、年頃の娘に弱いのか色々と教えてくれる。最初は効率の良い掘りかた程度だったが、今では有用な陣地構築についてや地形の読み方、中には爆発物を使った効率的な建物の壊し方まで伝授してくれる人まで居る。パイロットとしての技量に直接関わってくるとは思えないが、何がどう役に立つかなど今の自分たちが判断出来るものでは無いとミリセントは考え、教えて貰えることは何でも貪欲に聞いている。

結果、訓練が終わった後の食事や休日のお茶会などの会話も随分変わってきた。最初はどこそこのケーキが美味しかったとか、何たらのブランドの夏物のデザインがどうだとかだったが、ここの所は拡張工事の進捗具合や何処の隊の誰が何に詳しいかなんて会話ばかりだ。年頃の娘としては正直どうかと思うが、それを望んだのは他でもない自分である。尤も綺麗にタンクトップの日焼け痕が出来ている肌など本国の母が見たら卒倒するかもしれないが。

 

「それにしても選抜部隊かぁ。どんな演習だったんだろ?」

 

コーヒー色をした砂糖水を飲みながらミノル少尉がそう話を戻すと、鼻息を荒くしたフェイスが我がことのように自慢げに語り始める。

 

「それがね!最初は1対1だったんだけど、皆3分持たずにやられちゃったんだって!で、話にならないって人数増やしてって、最後は全員対大佐で戦ったって!」

 

「相変わらず無茶苦茶ですわね」

 

言葉こそ呆れ交じりだが、陶然とした表情で何一つ隠せていないジュリア少尉がそう評する。正直10倍以上の相手と渡り合うなど想像の埒外なのでミリセントもその言葉には同意した。

 

「マルコシアス隊って確か2個中隊でしょう?装備はザクだったと思うけど、それでもどうやったら勝負になるのかしら」

 

眉間にしわを寄せながら訳が解らないというセルマ少尉の言葉に、フェイスがまたも得意げに返した。

 

「『諸君らの連携は稚拙にも程がある。これではただの21連戦だ、ならば勝てんほどではないな』だって!」

 

「「その理屈はおかしい」」

 

大佐に認めて貰えるのはまだまだ先になりそうだ。ミリセントはこっそりと溜息を吐いた。

 

 

 

 

「ではこれより、MSM-03B…ゴッグ改の起動試験を開始します。シーマ少佐、いつでもどうぞ」

 

『あいよ!システムオールグリーン、ゴッグ改。起動するよ!』

 

シーマ少佐の宣言と共にゴッグは僅かに身を震わせた後、ゆっくりと動き出した。

 

「おお、動いた」

 

「当たり前でしょう、誰が設計したと思ってるんですか」

 

思わず感動して口を滑らせたらエリー女史に睨まれた。

 

「誰が設計していたとしても同じ感想ですよ。何せ今までと全く違う構造の機体ですからな」

 

絡まれると厄介なので視線は合わせずにそう答える。しかしすげえな、研究中のマモル・ナガノ博士に協力して貰ったとは言え、試作一号機だからもっとギクシャクするかと思ったんだが、その動きは実にスムーズだ。

 

「おい、あれを造れと言ったのは大佐だろう」

 

半眼になって突っ込んでくるエリー女史に俺は慌てて胡麻を摺った。

 

「いやあ、素人の思いつきを形に出来てしまうどころかここまでの完成度。ツィマッド社の、いやエリー女史の才能は驚嘆に値しますな。感謝します」

 

「ふ、ふん!まぁ、私無しではこの域に到達するまで後5年はかかったでしょうね!」

 

残念7年かかりました。照れて顔を赤くしつつも、視線は計測しているモニターをしっかりと見ている。ああは言うものの、やはり緊張はしているのだろう。そんな俺たちの不安を他所にゴッグは順調に試験項目をクリアしていく。いや、本当にすげえな。

 

「通常移動は問題ありませんね。少佐!ホバー移動に切り替えてください!」

 

『了解、熱核ジェットエンジン起動。行くよ!』

 

一瞬だけ減速した後、吸気系を解放したゴッグは独特の吸気音を響かせてホバー移動に移った。

 

「うんうん、新型のエンジンも問題無いみたいですね」

 

「原理的には先祖返りに近いですからな」

 

そう、何を隠そうこのゴッグ改はホバー移動を可能としているのだ。流石にグフⅡやドムに比べると格段に速度は落ちるが、それでも200キロ近い速度は出るし、足回りの関節への負担も少ない。特に上半身に重量が集中するゴッグにとって、脚部への負担軽減は陸戦能力向上の大きな課題でもあったので正に一石二鳥と言えるだろう。ちなみに他のホバー機に使っているターボファン方式はサイズの確保が難しかったので、ターボジェット方式を採用している。エネルギー効率が悪くなると技術者連中が渋っていたので、

 

「安心したまえ、どうせ先に人間の方が駄目になる」

 

と言ったら唖然とした顔をされた。大体現状で数ヶ月単位の稼働時間を誇っているのにそれが半分になったから何なんだと言いたい。そんな訳で小型かつ大出力で大食らいな新型エンジンは構造が単純化したことも手伝ってあっと言う間に完成、晴れてゴッグの足に納まっている。水中では完全にデッドウエイトになってしまうが、そこは致し方あるまい。

 

「機体の温度上昇も想定内ですね。良好です少佐、射爆場へ移動ください。メガ粒子砲のテストに移ります」

 

『はいはい、すぐ行くよ』

 

少佐の声も明るい。なんだかんだ言って基地にある機体は大抵乗ってるからなぁ。結構こういうのが好きなのかな?

 

「ターゲットは赤1、青1、緑1です。準備でき次第順次射撃を行なってください」

 

色はそれぞれ的の設置されたエリア、数字はエリア内に配置されている場所だ。今回で言えばそれぞれ射撃地点から200m、500m、そして1000mになる。一応その先に2000mと3000mがあるのだが、そちらは今回使わないようだ。まあ、初めての射撃だしね。

 

『了解、冷却機構解放確認。メガ粒子縮退、赤から行く。出力は50%…撃つよ!』

 

両腕のクローが開き射撃姿勢をとったと思った瞬間には、ゴッグの腕から光の奔流が吐き出され、赤の台に置かれていたターゲットを文字通り吹き飛ばした。

 

「出力50%でこれですか、すさまじいですな」

 

「悔しいですが流石MIPですね。良い仕事をします」

 

置いていたターゲットは黒いMS…プロトガンダムが持っていたシールドを模倣したものだ。モニターを拡大して見れば、見事に吹き飛んで後ろの固定具まで溶融させている。うん、これならジム辺りなら一発だろう、当てられればだけど。そんな事を考えている間に青、緑も当然のように吹き飛ばしたシーマ少佐が文句を言ってきた。

 

『こんな距離の固定目標なんざ目を瞑ってても当てられるよ。試験になるのかい?』

 

「動作テストですから今回は諦めて下さい。ちゃんと後で射撃テストもしますから」

 

『お楽しみは又今度って訳かい。期待してるよ博士』

 

そう笑いながら試験を続ける少佐に同じく笑みを返すエリー女史。二人を見て、俺も試験の成功を確信するのだった。

ちなみに、この日の試験結果を報告したところ、海軍からゴッグ改の配備要求が山ほど来てMIP社から涙混じりのクレームを受けたため、並行してズゴックのバージョンアップも手がけることになった。夕食の時エリー女史がすっごい目で睨んできたから黙ってプリンを差し出したのだが何故か鋭いローキックで回答された。解せぬ。




日常(ほのぼの)回


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第五十一話:0079/08/18 マ・クベ(偽)と古い友

いつの間にか年間ランキング3位じゃないですかー!ヤダー!
これは投稿せざるを得ない。


ブラジリアにある高級住宅街、その比較的外縁に位置する場所に彼の家はあった。要人向けに製造された特注のエレカから降りる彼を、壮年の家令が静かに迎えた。

 

「お帰りなさいませ、旦那様」

 

「ああ、1週間ぶりかな?まったく、あんな穴蔵で1週間だ、息が詰まって仕方が無い」

 

上着を脱いで家令に渡すと、水差しから水をグラスに注ぎ一息で飲み干し、大きく溜息を吐いた。

 

「全くもってお笑いだ。連中まだ勝てる気でいるぞ?」

 

黙って付き従う家令に返事は求めず、彼は言葉を続ける。

 

「今日の会合の話は何だったと思う?月面都市への経済制裁についてだ!アナハイムが非協力的な態度ならばこちらも相応の姿勢を見せねばならんだと?これ以上敵を増やしてどうする?あいつらの頭は飾りか!?」

 

ジャブローには軍需民需を問わず多くの物資が備蓄されている。だから開戦初頭で地上の全てが安全でないと叩き込まれた連邦政府の高官は我先にと疎開を理由にジャブローへと転がり込み、備蓄物資を貪って以前と変わらぬ優雅な生活を送っている。もっとも、天然もので無かったりワインのグレードが下がっている程度で彼らは随分と忍従した気になっているようだが。

 

(人口の流出は依然増加している。解っているのか?国民の多くが我々よりもこのような事態を引き起こしたジオンの方が頼れると考えているのだぞ!?)

 

特に深刻なのが北米だ。ガルマ・ザビという最高権力に近しい人間が正式な書類として安全を担保する。この魅力に勝るものは無いだろう。加えてあれだけの恐怖を味わっておきながら、未だに政治家連中はジオンとの戦いを戦争ではなく局地紛争だと考えている節がある。正直、彼からすれば楽観が過ぎるにも程がある。

 

「総人口の半数が死んだことをもう忘れたのか?」

 

自らの言葉に、本当に忘れていそうだと考えうなり声を上げる。開戦初頭で死亡した多くは選挙権の無いスペースノイドだったし、その後の死者もどちらかと言えば貧困層だったからだ。彼らにしてみれば自身の票にならない人間など居ないも同然であるから、それがどれだけ死のうともただの数字に過ぎないだろう。

 

「レビルもレビルだ。あの一週間で手打ちにしておけば良かったものを。人類が絶滅するまで続けるつもりか?」

 

ともすれば頑迷と思える程、総司令官に任命されたレビル大将は声高に徹底抗戦を叫んでいる。その様子は狂気すら孕んでおり、彼には人類を巻き込んだ壮絶な自殺行為にしか見えなかった。何しろジオン側からはサイド6を通して幾度か停戦の打診が来ていたのに、その条件を聞くことすらせずに追い返しているのだ。

 

「危ういな…うん?」

 

今後の身の振り方を考えつつ、溜まっていた郵便物を弄んでいると、中に変わった封筒が紛れ込んでいることに彼は気付いた。一見すると変哲も無い無地の封筒。消印も連邦の勢力圏内であり、しっかりと検閲済みのスタンプも押されている。しかし、それが余計にこの封筒を怪しくしている。

 

「…コロニーの公共機関用の封筒?」

 

再生紙を使用しているそれは手触りが悪く、好き好んで使う者はまず居ない。つまりこれは意図的に使われていると言うことだ。そしてそうした解る人間にしか解らない回りくどい意思表示を行なう人間を、彼はよく知っていた。

 

「やはりお前か、マ」

 

手紙は生存報告と、またチェスを指したいという変哲も無い内容だ。だが彼に決意させるにはそれで十分だった。

 

「すまない、紙とペンを。…どうやら俺の生き方は決まったようだ」

 

久し振りに見る主人の笑顔に家令は静かに頭を垂れ、要望をかなえるべく部屋を後にした。

 

 

 

 

「次の捕虜交換で君達を連邦へ戻す」

 

元スレイブレイスの面子を呼び出してそう告げると、全員が目に見えて顔を強ばらせた。まあそうよな、向こうじゃ犯罪者扱いだもんね。

 

「君達の任務は簡単だ。教えたルートを使って連邦の情報を流す、それだけだ。ああ、安心して良いぞ、既に情報源のアタリはつけている」

 

俺の言葉に緊張を幾分緩めるメンバー達。ただ、余り舐められないように釘も刺しておく。

 

「はっきり言うが、私は君達を信用した訳ではない。だから保険も掛けさせてもらう。具体的には君達の誰かが裏切った場合、君達の誰かの家族が不幸になる。よく覚えておくように」

 

露骨にトラヴィス中尉の顔が憤怒に歪むが無視して続ける。

 

「情報源以外でも有益な情報があればボーナスを約束しよう、ちなみに目下最大の目標はジャブローの位置特定だ」

 

あの場所は原作でも明記されてないし、地名も架空だったから特定できんのよな。

 

「そんなことを俺たちに言っちまっていいのかい?」

 

「これでも人を見る目には自信があってね。君達を信用はしていないが、その能力は信頼している」

 

ついでに言えばその性格もね。

 

「どうせ君達に拒否権は無い。そのつもりで励みたまえ」

 

そう言って退出を促すと、入れ替わりでアナベル大尉を伴ったシーマ少佐が入ってきた。ここの所ゴッグ改の試験の傍ら、本人曰くマルコシアス隊の面々を色々からかっているらしい。機種転換をしている彼らを色々と面倒見てくれているようだ。何だかんだと面倒見の良い少佐は基地に居るMS部隊の親分的存在になってる気がする。例のお嬢さん達も真面目に任務に取り組んでいるし、件のマルコシアス隊だって俺は嫌ってるみたいだけど、少佐にはびっくりするくらい従順だ。

 

「もう彼らの使い道が決まったんで?」

 

出て行ったトラヴィス中尉達に視線を送りながらそう聞いてくる少佐。

 

「ああ、幸い伝手があってね。彼なら上手く使ってくれるだろう」

 

「…成程。まったく悪い人ですなぁ」

 

「もちろんだ、でなければ軍で出世などしている訳が無い」

 

善人なら戦う以外の道を選ぶだろう。

 

「まあ、それに肖っている私が言えたことではないのですがね」

 

そう言って笑う俺たちに向けて、何とも言えない表情になるアナベル大尉。

 

「大佐達は、この戦争に否定的なのですか?」

 

ああ、そう言えばその辺りは全然話し合ってなかったな。良い機会だからちょっと説教といこうか。…嫌われたらまあ、その時はその時だ。

 

「この戦争、と言うよりは戦争全てが無駄だと私は思っている」

 

「無駄…ですか?」

 

「無駄と言うより浪費と言った方が正確か。考えてみたまえ大尉。この戦争でどれだけの人間が死んだ?彼らがもし生きていれば、一体どれだけ経済に貢献したかなど子供でも解るだろう。それを各々の欲を満たすために投げつけ合ってすり潰したのだ、これを浪費と言わず何という?」

 

俺の言葉にしかめっ面を作るアナベル大尉。ここの所鉱山経営させたから、情とか抜きに人的資源としての人間の価値も大分身にしみているのだろう。

 

「そもそも、この戦争の発端は我々が独立したいという欲に端を発している。ああ、誤解が無いように言っておくがスペースノイドの扱いが適切だったと思っている訳ではないぞ?私自身も不当だと感じたから戦争に乗ったのだからね。だがそれだって根底は今より良い生活がしたいという欲だ」

 

欲を否定はしない。欲があったから人類はここまで進化したし、脆弱な体で宇宙にまで生活圏を広げられたのだから。

 

「つまりな、大尉。誰かが正しい戦争などというものは人類史上どこにも存在しないのだよ。そこにあるのは立場の違いと、我欲をたとえ相手を殺してでも貫こうとする意地の張り合いだけだ」

 

俺の言葉を黙って聞き続ける大尉。表情が強ばっているのは信念と今の会話の乖離のせいだろうか。

 

「だから大尉、戦争の本質を正義や大義などという甘美な言葉で覆う輩には注意したまえ。特にそれを本気で信じている人間は最も危険だ。信念とやらで動く者は理屈で動かん、彼らにとって損得は問題ではないからな。そういうのは大体周りも巻き込んで盛大な地獄を作る」

 

どっかのハゲとかね。

 

「戦争の、本質」

 

「君もここに来て見ただろう?我々が敵だと叫んだアースノイド達を。どうだった、彼らは?」

 

俺の問いに苦しそうな表情になりながら大尉は答える。

 

「ただの、人、でした。我々スペースノイドと何も変わらない、ただの人。それが私たちの敵でした」

 

その言葉に俺も静かに頷いて、口を開く。

 

「そうだ。ただ属する陣営が違う、立場が違う、それだけのことだ。だから大尉、戦争をするななどとは言わん、私だって軍人だからね。だがそれを正しいなどとは断じて思うな。正しい戦争をしているなどと考えたなら、我々は畜生にも劣る存在になり果てるぞ」

 

俺の言葉に、大尉はただ黙って敬礼を返してきた。その時の彼女の表情については、我々の名誉のために記さないでおくことにする。




古い友人…一体何ランなんだ…。
当然ですが本作の独自設定です。


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第五十二話:0079/08/22 マ・クベ(偽)と連邦軍

今週分です


「よし、お客さんおいでなすったぞ…」

 

緊張で乾く唇をしきりに舐めながらスコープ越しに敵を睨みつける。相手の戦力はザクが3機に随伴として戦車もどきが同じく3両、それにAFVが2両続いている。羽つきやスカートつきが含まれていないことに少々物足りなさを感じたが、部隊に新入りが入ってきていたことを思い出し、訓練には良い相手かも知れないと思い直した。

 

『第二分隊、準備良し』

 

『第三分隊、行けます』

 

『だ、第四分隊、射撃準備できました!』

 

緊張に声をうわずらせる第四分隊の分隊長を落ち着かせてやろうと彼は口を開いた。

 

「大丈夫だ、奴らとの距離は3000。絶対に見つからん。だから焦らず落ち着いて手順通りやれば良い」

 

『り、了解しました』

 

幾分和らいだ口調が返ってきたことに満足しながら、その一方で彼は苦い気持ちにもなる。もしあの時自分が今の半分でも戦闘というものを理解していたら、隊の皆は、隊長は死なずに済んだのだろうか?

 

『目標、速度変わらず、連中ピクニックにでも来てるつもりか?』

 

呆れを含ませた口調で第二分隊が報告してくる。

 

「でかいおべべで気もでかくなっているんだろうさ、地球がおっかない場所だと宇宙人共に教えてやるとしよう…距離1500まで引きつけて斉射、第二、第三分隊は一番前の一つ目、第一と第四で後ろの奴をやる。いいか、ヘマして動力炉に当てるなよ?」

 

短く返ってくる承知の言葉に満足しながら射手の肩を二度叩く。射手の軍曹は小さく頷くと安全装置を解除した。すぐに他の分隊員は後ろに下がり身をかがめる。僅かな間の後、無警戒に獲物達がキルゾーンへ入り込んだ。

 

「撃て!」

 

叫ぶと同時、4本の光線がザクを貫いた。残された1機は何が起こったのか理解する前に前後で起きた友軍機の爆発に巻き込まれ転倒する。

 

「第二射!1、2、3は戦車もどき!4は転倒した一つ目を仕留めろ!」

 

「装填!」

 

ジェネレーターを入れ替えた装填手が退避するのを確認し射手の肩を二度叩いて自身もその場に伏せる。すぐさま射撃が行なわれ、今度は弾薬にでも誘爆したのか、戦車もどきの砲塔が盛大に吹き飛んだ。スコープで確認すれば、倒れていたザクもしっかりと撃ち抜かれ脱力している。

 

「よーし、トドメだ!3、4分隊、AFVを始末しろ!」

 

了解の返事から僅か5秒、最後の射撃が行なわれ敵部隊は文字通り全滅した。

 

「ふう、やれやれ。各隊、損害報告!」

 

服についた土埃を払いながら、彼は一応の確認を取る。返ってきた答えは当然のように損害ゼロ、正に完全勝利である。

 

「これで、部隊合計撃破数21、赫々たる戦果と言う奴ですな」

 

防護用ヘルメットのバイザーを上げて射手の軍曹がそう話しかけてくる。

 

「コイツの性能のおかげさ。先輩方はこれを有線誘導ミサイルでやっていた」

 

彼の命を救ってくれた隊長などは、そのミサイルで死ぬまでに部隊撃破数13機を記録している。

 

「まったく、エネルギーCAP様々ですな」

 

そう言って軍曹は砲身を叩いた。ラーティM79対MS歩兵ビームライフル。対MS用ミサイル、リジーナの発射器を転用した歩兵携行式のビーム兵器だ。有効射程3000m、一基を運用するには一個分隊が必要、射撃時の輻射熱が激しいため、射手は宇宙軍のパイロットスーツを改造した専用の防護服を身につけねばならない、射撃のたびにエネルギーCAPのカートリッジを交換するなど制約も多いが、MSですら一撃で撃破しうるその火力は一級品である。宇宙軍のMS偏重にオーガスタでの一件以来疑問を持った陸軍が独自に開発した兵器だ。

 

「機甲師団の連中も新しい玩具を貰ったらしい。そろそろ宇宙人共にここが何処なのか解らせてやらにゃならんからな」

 

そう言いながら次の獲物を狩るべく部隊に移動の指示を出す。何しろここは地球、歩兵の隠れる場所には事欠かない。

 

「ヨーロッパで俺たちを殺さなかったことを後悔させてやるよ、ジオン野郎」

 

 

 

 

「スカンジナビア半島に居る連邦軍が厄介だ」

 

本日の定例会議はそんな重苦しいセリフでスタートを切った。

欧州での本格的な掃討が済み西欧地域はほぼ勢力圏となったが、今一船団攻撃が上手くいっておらず、おかげでスカンジナビアやブリテン島の連邦軍はまだまだ元気だ。まあ、ブリテン島の方は引き籠もって居るのでこれ幸いと周辺を機雷だらけにしてやったのだが。問題は北欧の連邦の動きが活発でこれを締め上げるべく輸送船団への襲撃を行なっているのだが。

 

「資料を確認したが、襲撃に参加できている艦が随分少ない。もっと潜水艦隊を増強すべきではないか?」

 

簡単に言ってくれる参謀殿に俺は横やりを入れる。

 

「難しいですな。潜水艦のクルーはそう簡単には育成できません。そもそも宇宙でも艦艇は不足していますからな、適性のある人間は引き抜き難いですし一からとなればかなりの時間が必要でしょう」

 

「俺も大佐の意見に同感だ。それに港湾設備の問題もある。地中海の確保でかなりの数は確保できて居るが、距離が離れているし、なにより信頼できる整備員の確保が難しい」

 

腕を組みながらユーリ少将が追認した。

 

「だが放置は出来んでしょう。既にカレリア地方で部隊にかなりの被害が出ています」

 

「例の『ゲシュペンスト』ですか」

 

『ゲシュペンスト』はここ一週間くらいで全戦域に現れた未確認兵器だ。撃破された残骸からビームによる攻撃であることは特定出来ているのだが、それ以上の情報が無い。それというのも遭遇した部隊は文字通り全滅しているからだ。ただ解っているのは少なくとも歩兵を含む戦力であるという事だ、何しろこちらの兵士をご丁寧に皆小銃で撃って回っていたからね。存在を徹底して秘匿するには地味だが効果的だ。今のところ軍は特定が出来ないので効果的な対策が立てられず、補給を締め上げて活動を鈍化させようという方針だ。ただ、現状の大西洋艦隊は力不足も良いところで、補給路の封鎖なんて夢の又夢である。まあ、潜水艦がたかだか20やそこらじゃこのくらいが限度だよなあ。

 

「アフリカ方面が落ち着いたのだからアッザムでやれんか?」

 

「難しいな、あちらさんは海軍すらない状態でインド洋を担当している。むしろこちらのアッザムをまた送ってくれと打診されているぞ」

 

「二号機以降の戦果が余り芳しくないですからな。教練をもう少し改善できませんかな?」

 

無茶を言いよる。

 

「正直難しいでしょう。ヴェルナー少尉はパイロットとしては優秀ですが教官としては半人前以下です」

 

まず操作説明に擬音が入る時点で普通の人はついて行けないと思う。

 

「ガウを転用するのはどうだ?初期型ならドップを積めるだろう?」

 

「難しいな、連中戦闘機にすらビーム兵器を搭載している。ドップの防空だけではとても防ぎきれん」

 

連中セイバーフィッシュの改良型を戦線に投入してきている。こいつは何というか簡易型のコアブースターみたいな奴で、ビーム砲を搭載している上にこちらのドップⅡ並みの運動性を持っている。単純な格闘戦ならドップⅡの方が有利だが、トータル性能では向こうの方が優れている上にどうも既存のラインが流用できるのか既に大量投入されている。航空機のパイロット数は元々連邦の方が多いから、こちらの航空隊はかなり苦戦を強いられているようだ。流石連邦空軍、悔しいが航空機に関してはあちらの方が一日の長がある。

 

「その点についてですが朗報が。先日我が軍もエネルギーCAPの実用化に成功したとの連絡がありました」

 

おお、遂にか。

 

「更に同技術を用いビーム兵器搭載型の対地攻撃機を設計中、遅くとも来月中には実機が配備予定とのことです」

 

「おいおい、ちゃんと使えるんだろうな?」

 

「なに、問題があったら大佐に渡せば良いさ。だろう?」

 

「皆さんは私を便利な修理道具か何かと思っておられるのか?」

 

憮然として返事をするが何故か会議は笑いに包まれた。いや、マジでその認識は勘弁して欲しい。

 

「しかし敵の防空能力は侮れん。特にヒマラヤ級だ、アレをどうにかしなければ悠長に船団襲撃など出来んぞ?」

 

あれ一隻で40機近く航空機を運用出来る上に、連中お大尽にも輸送船団に直掩として必ず随伴させている。艦自身の防空能力もかなりのものだから厄介だ。

 

「リスクを考えれば潜水部隊で処理するのが理想ですが」

 

「キャリフォルニアで建造中の水中型MAは如何なものでしょう?」

 

そう聞いてくるミハエル大佐に溜息交じりで答える。

 

「ズゴックの製造にかかりきりらしく、先日漸く1号機の仮組みが始まったそうです。これからテストと考えれば早くても9月下旬でしょう」

 

「一ヶ月か、長いな」

 

問題はそれだけじゃないんだよなぁ。

 

「問題は地上だけでは無いかもしれません」

 

俺の言葉に視線が集まる。なんかデジャブだな、なんて関係ないことを考えつつ口を開いた。

 

「サイド6経由でアナハイムからかなりの工業製品がサイド7に輸出されています。表向きは工作機械やそれ用の補充部品だとなっていますが…」

 

いやらしい顔で情報をリークしてきたアナハイムの常務の顔を脳裏に浮かべながら話をつづける。

 

「主な取扱品はフィールドモーターだそうです。…ところで連邦のMSはフィールドモーター駆動ですな?」

 

俺の言葉に皆がざわめき出す。まあそうなるよね。

 

「連中既に宇宙用MSを準備していると見て間違いないでしょう。最悪本国との補給が絶たれる事もありうる。地上だけである程度対応出来る準備が必要です」




連邦のターン


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第五十三話:0079/08/23 マ・クベ(偽)と技術開発本部

ここの所、本作が真面目な仮想戦記っぽく評価頂いておりまして、非常に光栄です。
でも待って欲しい。これがどういう作品だったかもう一度思い出して欲しい。
そう考えて書きました(嘘)


ネヴィル・シュート・ランウェイ大佐の朝は早い。朝の照明が灯火される丁度30分前に起床しポットを火に掛ける。湯が沸いて紅茶を入れる適温になるまで20分。この間に彼はリビングへと移動し、日課となったサンドバッグへの打撃を始める。開始当初不用意に殴った結果手首を痛めた経験から、打撃手段はもっぱらカラテチョップだ。ネヴィルは学習する男である。

軍のデータベースから印刷した陰険そうな男の顔写真を慣れた手つきで所定の場所に貼りつけ準備が整うと、ネヴィルは大きく息を吸い込み腕を振り上げた。

 

「きぃぃええええええぃ!!」

 

甲高い絶叫とともに二度、三度と腕を振り下ろす。貼り付けられた男の顔は無残に歪んでいき、7度目の打撃で剥がれ落ちた。すかさず距離を詰め容赦の無いストンピングを見舞うこと10度、トドメの一撃とともにアラームが鳴り響き、時間が来たことを告げる。乱れた呼吸と服装を整え茶葉をポットへ投入、しっかりと3分蒸らした後完璧な姿勢でカップへと注いだ。

 

「ふむ、やはり朝はアッサムにかぎるな」

 

この日課を始めて以来、心なしか体調も上向いて居る気がするし、食欲も強くなった。朝から入れた紅茶の味を楽しめなくなっていた自分に気付いた時は愕然としたが、それも最早過去の話である。

 

「地球難民の受け入れ拡大に伴い各サイドの遺棄コロニーを調査、か。上手くいくのやら」

 

玄関から取ってきた新聞を広げつつトーストを齧る。たっぷりと塗ったマーマイトの芳醇な香りと味を口いっぱいに楽しみながら、めぼしい記事を読み進めていく。

 

「なに?ヒミコ・モリグチの慰問コンサートだと!?ええい!抜かった!」

 

すぐに端末へ手を伸ばしチケットを購入しようとするが既に完売、仕方なく彼は部下何人かに連絡を取り、チケットの確保に成功する。

 

「ふう、まったく。慰問というなら我々技術将校は無料で、いや、むしろ招待するべきなんじゃないか?事務所は何を考えているのやら…おっと、もう時間か」

 

壁に掛けられた時計を確認すると針は7時30分を指していた。そろそろ登庁の時間だ。気象設定は夏であるため外も随分明るくなっている。玄関を開ければ既に温くなり始めた空気が部屋へと入り込む。今日も一日中々ハードになりそうだ。

 

「だが、休んでなど居られん」

 

ネヴィルの熱心なアドバイスが功をそうし、サハリン少将の開発しているMAは開発継続が決定。さらには先日実用化したエネルギーCAPを用いる対地攻撃機の開発命令も受けた。正に重力戦線の命運は彼自身の双肩にかかっているとネヴィルは確信している。

 

「ふふ、所詮政治屋気取りの素人が口出しした間に合わせなどではこの難局は乗り切れん。やはり最後に頼られるのは我々技術者なのだ」

 

さあ、今日も祖国へ貢献しよう。そして新型機開発の暁には長期休暇を貰うのだ。

 

 

「オデッサから水陸両用機の追加装備について相談がしたいと連絡が…」

 

「水陸両用はキャリフォルニアに移管した、あちらで話せと伝えろ」

 

登庁早々に聞きたくない名前を聞いて眉間にしわを寄せる。だが報告は義務であるし、それを行なった部下に罪はない。最大限の自制心を発揮し、努めて静かな声でするべき事を伝える。食い気味に言葉を発したくらいは大目に見て貰おう。

 

「大佐、昨日ご指示のありました追加装備付きド・ダイGAですが設計が終了しました」

 

そう言って手渡されたファイルを開き内容を確認する。概ね想定していた通りの機体の出来に満足して頷いていると、ファイルを渡してきた部下が何かを言いたそうにこちらを見ていた。

 

「どうした?何かあるのかね」

 

「はい、いいえ大佐。今回の追加装備が何を意図しているのかと、疑問に思いまして」

 

部下の勉強不足に思わず嘆きたくなるが、彼が解らないのも無理はないと思い直す。なぜなら全ての人間がネヴィルのように天才ではないのだから。先人であり偉大なる天才の義務として、優しく彼を教え導くことにする。

 

「先日挙がってきた地球方面軍からの報告は読んだかね?」

 

「はい。正体不明のビーム兵器により少なくない被害を受けていると」

 

その言葉に首肯を返しネヴィルは言葉を続ける。

 

「私は聞いた瞬間、これが何による攻撃かすぐに解った。故にそれに対する装備追加を命じたのだよ」

 

「ゲシュペンストの正体を看破なさったのですか!?」

 

その反応に満足しながら彼へ答えを教えてやることにする。

 

「実に簡単だ、連中は歩兵にビーム兵器を携行させているのだよ、熱や音源に反応がない上に目撃者を態々歩兵の小銃で始末しているのが何よりの証拠だ。小銃で止めをさしているんじゃない、持っている火器がビーム砲以外小銃しかないのだよ」

 

ネヴィルの言葉に部下が目を見開く、確かに歩兵に持ち運べるほどビーム兵器を小型化しているなど、とてつもない技術革新に思える。しかし状況から推察すれば、かなり無理をした兵器である事も容易に想像出来る事から、ネヴィルはそれ程脅威だとは考えていなかった。

まず攻撃されている射線が複数であることから連射は出来ない。加えて前線の歩兵が積極的に運用していないことから、運用には複数人が必要であり機動力に乏しい事も推察できる。恐らく歩兵に持てる限界まで軽量化を行なったために、エネルギーCAPの容量が低いのだろう。加えて射撃時に必要な電力を大型のジェネレーターで賄えないので、恐らく爆薬式発電機あたりで強引に電力を確保しているに違いない。

 

「つまりなんと言うことは無い。所詮間に合わせの急造品だよ、どこかの基地司令の作品よろしくな」

 

所詮凡人の考えだとネヴィルは鼻で笑う。そして自分の作品についても教示する。

 

「古来より歩兵の天敵は炎だ、故に新型ド・ダイには対地火炎放射器を装備させる。炎は遮蔽物や急造の陣地ごときでは防げんからな。連中自分の浅知恵の結果を知れば頭を抱えることだろうよ」

 

ちなみにこの火炎放射器付きド・ダイは欧州方面軍に支給された後、即座にオデッサへと送られ、火炎放射器は撤去されることとなる。その報を聞いて以降、ネヴィルの朝の日課が10分延長される事になるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

アッガイの改良について相談しようとしたらすげなく断られた上にたらい回しにされたでござる。と思ったらどうもアッガイの設計者がキャリフォルニアに降りてきているらしい。なんだよ、嫌われてるかと思ったじゃねえか。絶対嫌われてるけどな!

 

「…どうも」

 

早速ガルマ様に連絡したら、なんかすぐ呼び出してくれた。そんな訳で何ともテンションの低そうな兄ちゃんが画面の前で体育座りをしている。なんで体育座り?

 

「初めまして、ヨハン・スウィネン技師…でよろしいかな?私は…」

 

「初めまして、クベ大佐。貴方のことは色々伺っています。アッガイの件も聞いています」

 

…うん、この人やりづらいな!

 

「ご存知頂いているとは光栄です」

 

「アッガイを好き放題弄って頂いたようで。おかげで社の評判も上々です。感謝していますよ?」

 

嘘くせえ!

 

「…あー、スウィネン氏、いや、ヨハン氏とお呼びしても?その件については謝罪する気はありませんよ?」

 

そう言うとヨハン氏は一回頷くと目を閉じて固まった。コイツ寝てねえか?

 

「…あれは元々私が設計したものを大幅にデチューンしたものです。愛着がない訳ではありませんが、より役に立つ形へと変わったなら技術者として喜ぶべきでしょう」

 

そう言って目を閉じながら何度も頷くヨハン氏。起きてるんだよね?俺達今ちゃんと会話してるよね?

 

「そう言って頂けると助かります。ついてはそのアッガイについてなのですが」

 

俺の言葉に一瞬体を強ばらせた後、ヨハン氏はゆっくりと目を開くと相変わらずの表情でこちらを見てきた。

 

「水中用装備を追加するには、あのアッガイ?では容積が足りません。…寝ていませんよ?」

 

それは態度で示しなさい。

 

「ええ、ですから、外部に接続する形を考えています…と言うよりはアッガイをコアモジュールとして小型の潜水艦を作りたい」

 

アッガイは小型とは言えMSだ。自力での航行能力を有しているし、動力は核反応。水中ならば冷却の問題も無いから電力は使いたい放題だ。ここに2~3人の居住空間と物資と魚雷発射管をくっつければ即席の潜水艦だ。

 

「現状一から潜水艦のクルーを養成するのは難しい。だが水陸両用のパイロットならそれなりの数が居ます。彼らが船団襲撃に加われば今より大分楽になる」

 

黙って聞いていたヨハン氏が初めて口角をつり上げた。

 

「我が社の理念はご存知で?」

 

「確か、『夢を形に』でしたかな?技術者らしい理念だと思いますよ」

 

そう返すと、ヨハン氏は今度こそ解りやすく笑顔になった。

 

「正直、協力する気は無かったのです。現実に即した、と言えば聞こえは良いが、クベ大佐の提案はどれも面白みに欠けましたから。ですが、気が変わりました。MSを使った潜水艦、中々に無茶苦茶だ、実に面白い」

 

はっはっは、褒められてると受け取っておこう。

 

「聞けば霊長類最強は達成したそうじゃないですか、ならばついでに海洋生物最強も頂いておきましょう」

 

そう言って俺たちはモニター越しに乾杯したのだった。




ごめんなさい、紅茶飲んでマーマイト食ってるネヴィルが書きたかっただけです。


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第五十四話:0079/08/25 マ・クベ(偽)とV作戦

今月最後の投稿です、ちょっと短め。


「よく来てくれた、ハン博士」

 

席を立って迎え入れてくれるレイ大尉に対し、モスク・ハンはぎこちない敬礼をする。技術者だからなどと言い訳せずに少しは練習しておくのだったな、などとレイ大尉の答礼を見ながら少し後悔しながら口を開く。

 

「こちらこそお会いできて光栄です、レイ大尉」

 

続くオーガスタから脱出できた研究員達も次々と挨拶を交わす。それが終わると、各人の仕事道具が次々と運び込まれる。港湾区画に置かれたこのオフィスは建前上コロニー建設用重機の管理、整備用と言うことになっているため、遠慮無くコンピューターだけでなくCAMシステムまで持ち込まれる。流石に工作機械類は隣の部屋に移されたが、それでもメンバー分のコンピューターと資料だけで部屋はあっと言う間に手狭になった。

 

「本当は歓迎会の一つもしてやりたいんだが、生憎上にせっつかれていてね。早速で悪いが皆にはこいつを仕上げてもらいたい」

 

そう言ってレイ大尉が壁掛けの大画面モニターへ映し出したのはモスク達も見慣れた機体だった。

 

「これは?大尉、どういう事ですか。我々はRX-78…、ガンダムを超えるMSを造りに来たはずですが」

 

モスクの言葉も無理はない。なぜならモニターに映っているのはジャブローでも見慣れた機体。RGM-79、ジムだったからである。同じ感想を抱いたのか、他の連中も周囲と話し始め、部屋は途端に騒がしくなる。その様子をモニターの横で眺めていたレイ大尉が、まるで見るに堪えないと言う風に溜息を吐いた。

 

「成程、君達の意見は良く解った。ではその上で聞くが、君達の言うガンダムを超えるとは何だ?」

 

レイ大尉の言葉にモスクは内心首をかしげた。

 

「あらゆるスペックで優越する機体を開発する。それ以外に何があるというのですか?」

 

オーガスタ組の一人が口を開く。モスクも同意見だが、その一方で違う答えにたどり着いているであろう目の前の男の回答が気になった。

 

「技術者としてならばその意見は賛成する。だが、兵器開発者としてならば落第だ」

 

大尉はそう切り捨てると手元にあった端末を操作し、今度はガンダムのパラメータと、その横に何か別のパラメータを並べて表示した。

 

「これはオーガスタでの戦闘画像から解析したガンダムの実働パラメータだ」

 

モスクを含め、その場に居た全員が息を呑んだ。何故ならそこに表示されている数値はカタログスペックを大幅に割り込んでいるどころか、ジムのカタログスペックにすら届いて居なかったからだ。

 

「そもそもガンダムの役割は何か、ジオンのMSより優れていること?違う、断じて違う。我々はMSでお人形遊びをしているのでは無い、ガンダムの役割はジオンに勝つことだ」

 

最早誰も口を開かず、ただレイ大尉の話に聞き入っている。

 

「確かに機体が優秀であることは重要だ。だがMSにおいてはその性能を引き出すためのファクターにおいて、パイロットの技量に対する依存度が極めて高い。この部分を是正するためにガンダムには学習型コンピューターを搭載したが、今回はこれが裏目に出てしまった」

 

最高の機体に自ら進化し続ける制御系。最適解に見えたそれはしかし、莫大な製造コストを要求することとなり、結果満足な学習をする間もなく数に押しつぶされた。しかも敵に鹵獲された現状では、こちらの手の内を完全に晒してしまったに等しい。

 

「もう裏道は使えない。ここからは正攻法で連中を打倒しなければならん」

 

「つまり、最初に拝見したアレが正攻法の答えだと?」

 

思わず口にしたモスクの言葉にレイ大尉は頷くと、軍人から技術者の顔になり説明を始める。

 

「そうだ、ハン博士。学習型コンピューターの優位性が失われる以上、我々も優秀なパイロットを生み出さねばならん。それもジオンより短時間で、大量に。故に我々が造るべき機体はパイロットを生還させる事を第一としたものだ」

 

その言葉と共にモニターの映像は最初のものに切り替わった。

 

「コックピットにオーガスタで研究していた脱出ポッドを採用する事で、コアファイターより機体容積を確保しつつ撃破された際の生残性を維持する。加えてコックピットハッチを含むバイタル部に部分的にルナチタニウム合金を採用し対弾性能を向上、ジェネレーターは防護隔壁で独立させ、緊急時には排出可能にする」

 

「仰ることは理に適っていると考えますが大尉。何故ベースをジムに?今後を考えればガンダムをベースにすべきでは?」

 

そう質問が発せられると、そちらの方向を一瞥しレイ大尉が答えた。

 

「繰り返すが軍が必要としているのはサラブレッドではなくワークホースだ。タフで従順、多少の損傷もすぐ直して戦線に復帰する。その為には高品質が要求される部品構成はむしろ害悪にしかならん。それに現状ガンダムの性能は完全に過大だ、使いこなせないカタログスペックなど絵に描いた餅と同義だろう」

 

よってパイロットが扱える水準まで機体性能を落とし、その余裕で部品の選定基準を緩和する。理想は町工場で作ったような部品でも問題無く組み込めるMSだ。そう言い切るレイ大尉に別の研究者がさらに質問を投げた。

 

「ですが、ガンダムならば元々高い仕様要求に応えるためにかなり余裕があるのでは?」

 

「ガンダムの余裕は構成される素材に依存したものだ。むしろ構造が簡略化された分内部容積に関して言えばジムの方が広い。加えて知っているかね?ガンダム1機の建造費でジムは20機造れる」

 

兵の多寡はそのまま戦局に直結する重要なファクターだ。

 

「さらに言えば、あの様な実働性能でもガンダムは敵MSを最低3機は撃破している。つまりジオンのMSはビーム兵器が運用出来ればその程度の機体でも十分対応可能な機体性能と言うことだ」

 

「ですが、それでは上層部の提示している条件をクリアできません」

 

他の技師が困惑を混ぜ込んだ声音で反論すると、レイ大尉が悪い笑みを浮かべた。

 

「この機体にはガンダムと同様のジェネレーターを搭載する。その上で重量は5%削減、更にスラスターもガンダムと同一のものにする。つまり出力で同等、加速性能では優越した機体になるな」

 

その言葉にモスクは詐欺だと内心で叫んだ。確かに同一のジェネレーターを搭載すれば見かけの出力は同じになる。だが実際には駆動するフィールドモーターの変換効率が関わってくるためジェネレーターの出力が同じならば同じトルクが出るという訳ではない。事実ガンダムとジムの出力差は10%程度だが、実効トルクにおいては倍以上の差が出てしまう。その事が顔に出ていたのであろう、レイ大尉はお前の懸念は解るとでも言うように笑顔を向け口を開く。

 

「当然のことだが、採用しているフィールドモーターの性能上ガンダムと同じトルクを出すことは不可能だ。だがその点に関して言えば、ここに居るハン博士が打開策を持っている」

 

突然の指名にモスクが固まっている間に話は進む。

 

「彼が研究しているマグネットコーティング理論は素晴らしいものだ。これを使えば低出力のフィールドモーターでも十分なトルクが得られる」

 

「い、いや。あの理論は反応速度を向上させるものであって…」

 

モスクの小声の反論は当然のように無視されレイ大尉の熱弁は続く。

 

「表題は反応速度の向上とあるが、ここで注目すべきは摩擦抵抗の低減だ。駆動時の抵抗を減らすことで必要なトルクを減らすことが出来る。射撃時は関節部に瞬間的なロック機構を追加すれば保持の問題は解決できる。これだけでコストの大半を抑えることが出来るのだ。正にこの機体の成否はハン博士に掛かっていると言っても過言ではないだろう」

 

降って湧いた重責に声ならぬ声で悲鳴を上げるが、乗りに乗ったレイ大尉は止まらない。

 

「この機体に求められる性質上学習型コンピューターの搭載は必須だが、ガンダムのものは複雑な上にコストも高い。そこでこの機体にはデータ収集機能だけを付与した簡易版を搭載する。データは随伴する中継機に送られ、これを各基地のサーバーで統合、最適化し前線へとフィードバックする。こうすることで万一機体が失われてもパイロットが生きていればすぐに同じ戦力として再投入が可能だ」

 

聴き入っているオーガスタ組の中には興奮して頬を紅潮させている者までいる。モスクもその気持ちは良く解った。ここに来るまで新型機開発という漠然とした指示に期待を膨らませる一方で多くの不安があったことも事実だ。だが、強力にリーダーシップを発揮しているレイ大尉を見ていると、これならばやれる、この人となら造り上げることが出来るという自信とでも言うべきものが湧いてくるのを感じた。

 

「さあ、諸君。議論は尽きないだろうが残念ながら時間は有限だ。今はまずコイツを造り上げる。そこから始めよう」

 

後にモスクはこの頃の自分たちを振り返り自伝にこう記している。

我々は正に狂奔の中であれらを生み出していった、と。




うわテムつよい。


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第五十五話:0079/08/26 マ・クベ(偽)の休日

感想4000件有り難うございます投稿。



徹夜明けのコーヒーを啜りながら最後の報告書にサインをした後、抜けるように青い空を窓から見上げて唐突に気付いてしまった。

 

「俺、最近休んでねぇな」

 

人間の体とは不思議なもので、あれこれやっている間は気にならないが、一度気がついてしまうと色々と押し寄せてきてしまう。具体的に言えば疲労とか、戯れたいという衝動とかだ。そして矮小な俺はそうなった時、自身を奮い立たせるより言い訳を見つけるタイプの弱い人間だ。

例えば、今日中に出さなきゃならない書類は終わってるよな、とか。

例えば、原作開始まであと一ヶ月切って、ここで休まんともう休んでる暇無いよな、とか。

…例えば、こんなに海の近くに居るのに、海水浴は愚かビーチでのんびり日光浴すら楽しまずに夏が終わるじゃねえか!とかである。

まって、解る。基地司令だし?大佐ですし?自分で言っちゃいますけど、マ、この基地の最高責任者だから?簡単には休めないよね?

 

「そんな訳ですので休みを頂きたい」

 

「早朝にたたき起こしておいて言う事はそれだけか、大佐」

 

ベッドから直行したのだろう、ナイトガウンに制服の上着という斬新なコーディネイトに寝起きで二割増しワイルドさの増したヘアスタイルを秘書官に直されながらユーリ少将が画面越しに溜息を吐いた。なんだよ、休みたいから上司に報告って当たり前じゃんかよ。

 

「いつも俺の頭を越えて地球方面軍司令や突撃軍司令にアポイント取ってる大佐が居るんだが知らないか?」

 

そいつぁ随分勇気のある野郎だね、とても俺には真似できないぜ的な事を丁寧に言ったんだけど、何故か秘書官の人からすら冷たい視線を向けられた、解せぬ。

 

「まあ、まあいい。それで?休みだったか?」

 

「はい、一週間ほど…」

 

「一週間!?」

 

「と言いたいところですが、そこまで強欲ではありません。今日明日の二日ほど頂きたい」

 

それだけあれば取り敢えず夏の楽しみを一周位できるだろう。ふふふ、浜茶屋の微妙な焼きそばが俺を呼んでいるぜ!

 

「無理だ、諦めろ」

 

「え?」

 

いまなんとおっしゃいました?

 

「無理だと言った。お前さんのことだ、イスタンブール辺りにでも繰り出して骨董品でも買いあさるつもりだろう?はっきり言って2日もお前を守るために兵は動かせん」

 

「は?いえ、ごく私的な行動ですので護衛などは必要ありませんが?」

 

俺がそう言うと呆れた表情でユーリ少将が深々と溜息を吐いた。なんだよそのバカかコイツはとでもいう態度は。

 

「バカか、お前は」

 

おっと口に出しやがりましたよ。

 

「いえ、当然ボディーガードには付いてきて貰いますよ?」

 

一応それなりに偉い立場だからね、従卒としてウラガンにもお供して貰うつもりだし。流石に俺だってそこまで不用心じゃありませんわー。

 

「おい、シンシア。ヤバイぞこの大佐、本格的にバカかもしれん」

 

こっちを指さしながら秘書官にそんなことを口にするユーリ少将、なんだよ!バカって言う方がバカなんだぞバカー!

 

「日数の問題ですか?ならばせめて今日一日でも良いのですが」

 

俺がそう提案すると今度は悲しそうな顔で秘書官の方を向くユーリ少将、ちなみに秘書官の人も痛ましい表情で首を横に振っている。なんだよそのコント、面白くねえぞ。

 

「バカで立場の解っていない大佐殿に俺が優しく教えてやろう。いいか?今お前は間違いなく連邦軍のぶっ殺したい奴リストのトップに居る」

 

はっはっは、ナイスジョーク。

 

「冗談じゃねえよ、ここの所欧州のスパイ関連の検挙数はオデッサ周辺が一番だ。つまり連中躍起になってお前さんの情報を収集している訳だ。情報部を悪く言うつもりは無いがスパイの検挙だって絶対じゃない。お前がその穴蔵から出て来たなんて知れてみろ、下手すりゃ行った町ごと吹き飛ばしに掛かってくるぞ」

 

自国民ごと吹っ飛ばしたいって俺どんだけ恨まれてるんだよ。そもそもそんなに恨まれるようなことしたか?…したか。

 

「あー、つまり」

 

「そうだ、休むのは許せるが基地から出ることは断じて許可できん。骨董市は終戦まで諦めろ」

 

すげなく言われると通信が切れた。がーん、ショックだ…なんていうと思ったか!一日休みの言質は取ったし基地内に居れば良いと言ったな?ふふふ、これは海水浴で決まりだぜ!

 

「何が、決まりなのでしょうか?」

 

ウッキウキで準備を始めようとしたら後ろから氷点下の声がした。振り向かなくても解る。ウチの副官様だ。

 

「…お早うウラガン。随分と早いじゃないか、朝食までまだ時間があると思うが?」

 

「そろそろ仕事が一息つく頃だと思いまして。差し出がましいようですが軽食をお持ちしました。…それで?何が決まりなのです?」

 

嘘を言ったら殺す、誤魔化しても殺す、素直に吐いたら考えてやる。そういう凄みを感じる声で問いただしてくるウラガン。嘘みたいだろ?俺の方が偉いんだぜ?

 

「あー、ウラガン…」

 

素直に謝ろうと思いかけたところで、俺は思い至ってしまった。いや、俺何も悪くないよな?偉い人も言っていた、すぐ謝るのが日本人の悪い癖だと、いや、マさんが何人か良く解んねぇけど。悪くないのだから自分の要求を堂々と言えばいいのだ。第一俺基地司令だし!繰り返すけどこの基地でいっちゃん偉いし!

 

「済まないが疲労が溜まっていてな、今日一日休みを貰うことにした」

 

俺のターン!正当な権利を主張!さあ、どう出るウラガン!?

 

「左様ですか、承知致しました」

 

あっれぇ?荒ぶる鷲のポーズで思わず固まってしまった俺を見てウラガンが怪訝な表情を作る。

 

「大佐?どうされましたか?」

 

「あ、ああ。いや、うん。そういう訳で、休むぞ?」

 

「はい、確認頂きました書類はこちらで処理しておきます。では、ごゆっくりお休みください」

 

そう言って一礼するとウラガンは部屋から出て行こうとする。なんだよー驚かせてさー。さて、PXに水着ってあったかな?なんて考えていたら、扉が開くと同時に思い出したかのようにウラガンが喋った。

 

「ああ、言うまでも無いことですが。休むのですからしっかりとお休みください。近くの骨董市などに出かけたら…解っていますね?」

 

「あ、はい」

 

俺、この基地で一番偉い、偉いんだけど…ちょっと自信無くなってきた。

 

 

「はっはっは!それで基地の中を散歩している訳ですか」

 

あの後PX行ったんだけど水着無いか聞いたらイタリア系の酒保担当者に、

 

「そんなもの、無いよ」

 

って言われたので、仕方なく海水浴は諦めて基地を散策することにした。いや、部屋で寛ごうとも思ったんだけど、部屋にいるといつの間にか一心不乱に壺磨いちゃうんだよな。なので一人の時はなるべく寝る時だけ私室に入ることにしている。んで気の向くままにエレカを走らせていたら、何やら木材をがっつんがっつんやってる音がしたもんで気になって近づいて見れば、古き良きテキサス親父スタイルのフラナガン博士が斧で丸太と格闘してた。因みに施設のお子さん達が窓から心配そうにこちらを見ている。

 

「間抜けな話です、いざ休もうと思うと休み方が解らないとは。大人失格ですな。それで、博士は何を?」

 

傍目からは木材を殴打してるだけに見えるんだけど。

 

「ああ、子供達にブランコを作ってあげようかと。少々手間取っておりますがね」

 

どう見てもウッドチップを量産しているだけだがそれは言わぬが花だろう。子供達もああしているところを見ると随分打ち解けているようだ。

 

「どうですか、彼らは?」

 

そう聞けば木材から視線をそらさないまま博士が答える。

 

「順調ですよ。幸い後催眠処置はされていませんでしたし、薬物汚染も軽度でしたから後遺症などはないでしょう。ただ…」

 

「ただ?」

 

「コロニー落としの精神的衝撃…言ってしまえばトラウマですな。それはどうにもなりませんし、負ってしまった記憶障害はどうにもなりません」

 

だからせめて楽しい記憶を。偽善だと自覚していても何かやらずにはいられなかったと博士は自嘲気味に笑った。

 

「良い思い出ですか、でしたら良い案があります。君達!」

 

窓から窺っていた子供達に声を掛ける。はっはっは、滅茶苦茶びびってるぜ。だがこのマ、容赦せん!

 

「ブランコを作りたいのだがね!生憎博士も私も不器用なんだ!手伝ってくれないかね?」

 

「た、大佐?」

 

何を驚いているのやら。あんな話されて放置できるほど俺はドライじゃねえよ?

 

「まあ、こんな休みも良いでしょう」

 

そう言って俺は腕をまくる。建物の方へ視線を向ければ恐る恐るといった雰囲気で子供達がこちらへ向かってきていた。さて、大工仕事なんて中学の図工以来だけどなんとかなるだろうか?そんなことを思いながら俺もノコギリを手に取った。

 

「さて、どうせならでっかい奴を作りましょう。皆で乗れるようなでっかい奴をね」

 

「それは些か手に余るのでは?大佐」

 

なーに、こういうのは志が重要なんだよ。

結局途中で見ていられなくなった設営隊の皆が乱入してきて、大騒ぎをしながら作っていたら、あっと言う間に日が暮れてしまった。設営隊の頑張りもあってブランコ以外もかなりの遊具が施設の一角に設置されたが、ブランコはいつも順番待ちが出来ていたことをここに記しておく。




真面目な話なんて何話も書けるか!


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第五十六話:0079/08/29 マ・クベ(偽)と牙無しの魔獣-前編

今月分です。



「つまり、サイド7で連邦がMSの開発を行なっていると?」

 

送った資料を見ながらそう確認してきたキシリア様に首肯しながら口を開く。

 

「信用出来る情報筋ですので間違いないでしょう。ついでに資料として納品しているフィールドモーターも譲渡したいと」

 

「グラナダへ入ることは許可できんが取引は前向きに検討する。それにしてもルナリアンと言うのは抜け目のない連中だな」

 

そう言ってキシリア様は鼻を鳴らした。それ、全く褒めてませんよね。

 

「つきましては、こちらでも研究用に幾つかフィールドモーターを送って頂きたいのです。それからフラナガン機関…失礼、フラナガン医療センターに入院しております娘を一人、寄こして欲しいのですが」

 

「…娘?」

 

怪訝そうに眉を顰めるキシリア様に経緯を話す。

 

「先日、基地におりますフラナガン博士から推薦がありまして。何でも機械構造に類い稀な才覚を示す娘だそうで。是非オデッサで学ばせたいとの事です」

 

「ふん…確かに学ぶなら貴様の所が好都合か。宜しい、手配しておく。他は?」

 

顎に手をやって考えるポーズを維持したまま聞いてくるキシリア様。今回はすんなり許可出たなぁ。

 

「はい、いいえキシリア様、申し上げたい内容は以上であります」

 

「うん、ではこの件はドズル兄上にも伝えておく。ああ、ガルマが何やらMSの件で相談したいと言っていたぞ。後で連絡しておけ、以上だ」

 

欧州方面軍の定例会議でついV作戦の事を喋ったら、そんな情報こっちに上がってきてねえぞ、キリキリ吐けとキシリア様からお叱り頂いた。俺はもう少し沈黙の価値を知った方が良いと思う。

 

「まあ、あのルナリアン達のことだ。どうせ連邦からも毟っているだろうな」

 

ジオン軍の攻撃で各サイドが壊滅している現在、月面都市の存在はジオン、連邦双方に大きな影響を与えている。連邦にしてみれば地球で精製、製造できない工業部品や合金の貴重な入手元だし、ジオンにしてみれば軍需優先のために不足しがちな民需物資の供給源だ。この戦争が長引けば長引くだけ儲かり、双方が消耗すればするほど立場が上がる。だとすれば連中のことだ、なるだけ戦争が長引くよう立ち回ることだろう。

 

「大方、作業機械あたりにでもフィールドモーターを民生品としてくくりつけて送っているかな?」

 

資材運搬用のトレーラーまでサイド6で流石に止めないだろうし。いや、下手すると独自の航路を使って送っている可能性もあるか。何せ宇宙世紀以前からの老舗だしなぁ。悪巧みさせたら文字通り天下一だろう。

 

「ひぃっ!た、大佐!?」

 

そんなことをつらつら考えていたのが悪かったのか、小腹が空いたので食堂へふらふらと向かっていたら通路で誰かとぶつかった。

おっとごめんよ、無事かい?なんて紳士に脳内で考えながら手を差し伸べたら悲鳴を上げられたでござる。

 

「…怪我はないかね?伍長」

 

「はい、大佐殿!問題ありません!」

 

お、おう。元気良いな。速攻で立ち上がって不動の敬礼をしてくる伍長を眺めていたら、なんか一緒にいた連中が距離を取りつつコントを始めた。

 

「リベリオ…良い奴だったのに…」

 

「諦めろ。奴は運がなかったのさ…」

 

まったく、上官からかうのは良いけどちゃんと相手見てやれよ?世の中には融通のきかん奴だっているんだからな?…いやまて、もしかして俺もダグ大尉みたいに甘えられちゃってる?マ、舐められちゃってます?いかん、それはいかんよチミィ。

 

「…ふむ、どうやら教育が足りなかったようだな?」

 

俺の言葉に固まるマルコシアス君達、だが残念、ちょっと遅かったなぁ!

 

「丁度良い、食事前に少しレクリエーションといこうじゃないか」

 

 

「それで、何で俺たちが呼ばれてるんで?旦那」

 

「私はこれでも部下思いでね。折角だから本当の敵の実力を教えてやろうと言う訳さ」

 

研究用と称して引っ張ってきた陸戦型ガンダムのコックピットを模倣したシミュレーターを前に苦々しい表情のスレイブレイスの面々に悪い笑顔でそう返す。

 

「つか、何でこんなもんがあるんだ?」

 

「色々とあるのさ、色々とね」

 

不思議そうに首をかしげるフレッド君にそう笑いながら答える。相手の装備を十全に動かせる潜入工作員とか、どっかのジェームス君も真っ青じゃない?

 

「ついでに真面目に働いている君へのサービスさ、トラヴィス中尉。ほら、モニターの左から二番目、どことなく面影が残っていると思わんかね?」

 

近づいて小声でそう告げてやると、完全に人殺しの目で睨み付けられた。ふふふ、4月頃だったらちびってたな。

 

「しっかりと敵の怖さを教えてやりたまえ」

 

そう言って今度は別室で待機していたマルコシアス隊のメンバーの所へ向かう。

 

「さて、待たせたね諸君。今日のお相手は特別なのを用意したぞ?」

 

「特別…でありますか?」

 

代表して答えるダグ大尉に笑顔で答えてやる。

 

「ああ。先日連邦から亡命した義勇兵が今日の君達の相手だ。と言っても人数が少ないからね。小隊同士でやり合って貰うが残っている連中は私が面倒を見てやろう。心配するな、今日はこちらも小隊でやる」

 

ウラガンにちょっとマルコシアス君達と遊んでくるわって連絡したらでっかい溜息を吐かれて、お守りをつけられた。前回やった訓練後の執務で疲れて居眠りしたのが不味かったな。

 

「エリオラ・イグナチェフ大尉であります。本日は大佐の僚機を務めさせて頂きます」

 

「エイミー・パーシング少尉であります!同じく大佐の僚機を務めます!宜しくお願いします!」

 

流石ウラガン。俺に対してえげつない面子を寄こしてくる。ちなみにエリオラ大尉MS乗れたんだ?なんて言ったら、

 

「淑女の嗜み程度には」

 

なんて笑顔で返された。なに、サイド3の女学園にはMS道みたいな選択科目でもあんの?特殊なカーボンで安全なの?是非欲しいからあったらその技術ください。エイミー少尉もいつの間にって聞いたら、

 

「大丈夫です!大佐のデータは全て閲覧済みです!」

 

とか、実に不安を煽る発言をかましてくれた。うん、何が大丈夫なんだろうね?

 

「宜しい、即興ではあるが我々はチームだ。よろしく頼む」

 

そう言って俺はシミュレーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

「…これが、敵のMS!」

 

ヴィンセント・グライスナー曹長はシミュレーションとは言え初めて遭遇する人型の敵に言いようのない恐怖を覚えた。

既に連邦がMSの開発に成功し実戦投入している。その事自体は前線に伝わってはいたものの、遭遇報告はごく稀、しかも大半はグフⅡに搭乗したベテランが対応していたためヴィンセント自身が正面から対峙する機会は今までなかったのだ。

 

「大丈夫だ、ヴィンス。ありゃ大佐よりは弱そうだ」

 

僚機のリベリオがそう軽口を叩いた。

 

「それって比較になるのかよ?」

 

シュナイド隊長まで含めての文字通りマルコシアス隊全員で挑んで見事に返り討ちにあった記憶は新しい。

 

「シミュレーションだからと気を抜くなリベリオ伍長!来るぞ!」

 

シュナイド隊長の叱責と共に敵機が動いた。カーキとオレンジに塗られたMSはジオンの機体に比べると直線的なシルエットで構成されている。こちらと同じ3機で編成された敵部隊は、それぞれ違った獲物を握っていた。

 

「…コイツは!ヴィンセント!盾持ちを牽制しろ!リベリオは後ろのバズーカ持ちだ!無理に撃破を狙わず射撃を妨害しろ!二丁持ちを俺が片付ける!」

 

「「了解!」」

 

言葉と同時、ヴィンセント達は散開する。ザクとは比べものにならない加速を見せる乗機に軽い興奮を覚えながら、こまめなステップを挟みつつ近づいてくる盾持ちへ向けてマシンガンを放つ。しかしそれはサイドステップで躱されてしまった。

 

「っ!上手い!だが運動性はこちらが上だ!」

 

そう言って追撃を仕掛けようとした瞬間、リベリオが鋭く叫んだ。

 

「ヴィンス!」

 

その声を聞いたヴィンセントは咄嗟に機体の進路を強引に変えた。おかげで追撃の機会は失われたが、同時に自分が居た進路上をバズーカがかすめていくのを目にし、自分が盾持ちにまんまと誘われたことを理解した。

 

「腕はほぼ同じ、機体性能はこちらが上…連携は圧倒的に向こうが上か」

 

苦々しく思いながらもヴィンセントはそれを認める。部隊の中では比較的連携の取れているヴィンセントの小隊ではあったが、その多くはシュナイド隊長のフォローに頼っている部分が大きい。結果、要の隊長が拘束された途端部隊としての機能は著しく低下してしまい、交戦から数分と経たずにヴィンセント達は全員仲良く戦死判定を貰ったのだった。




ちょっと長くなったので前後編にしてみました。


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第五十七話:0079/08/29 マ・クベ(偽)と牙無しの魔獣-後編

年間ランキング2位有り難うございます投稿。
執筆速度が足りんのです!


『畜生!来るな!来るなぁ!?』

 

通信越しに相手の絶叫が聞こえる。スレイブレイス達との訓練がメインなので、俺とマルコシアス君達とは教習モード、つまり通信チャンネルが全員繋がった状態でやっている。

 

「よそ見は感心しませんね?」

 

接近する俺に気を取られて動きが単調になったドムをエリオラ大尉が175ミリで正確に撃ち抜く。さっきからこの人コックピットを一撃ばっかりしてるんだけど殺意高すぎませんかね?

 

「わっわっわ!なぁんとぉぉ!」

 

一方残りの一機を抑えているエイミー少尉は愉快なかけ声と共にチャンバラに勤しんでいる。射撃が素直すぎてバズーカを早々に撃ち切ってしまったからだ。これも性格なんだろうなあ。

 

『ああ、ジャン!くそっどけぇ!』

 

「うわっととと!?」

 

エイミー少尉の機体を強引に押し飛ばして、ドムがエリオラ大尉に迫る。だがそれはあまりにも無謀な選択だ。

 

「そう言う時は身を隠すんです」

 

どっかで聞いたような台詞を吐きながら狙撃砲を投げ捨てるやエリオラ大尉は、突っ込んできたドムの顔面に綺麗なストレートをぶち込み転倒させると、コックピットへヒートサーベルを突き刺した。こう、突き刺した後ゴリゴリネジネジ入念に潰してるんですけどエリオラ大尉マルコシアス君達に何か恨みでもあるんですかね?

 

「トドメはきっちりと。生き返られても困りますから」

 

それを笑顔で言える貴女が俺はとても怖いです。

 

 

 

 

撃墜され、ブラックアウトしたモニターを眺めながらセベロ・オズワルド曹長は溜息を吐いた。セベロは隊の中でも最も成績が優秀なメンバーで構成されたA小隊を率いている。つまりダグ大尉を除けば、部隊で一番腕が立つパイロットと言うことだ。だが、そんな自負や自尊心などここでは何の役にも立たないことを着任から数日で痛いほど思い知らされた。

 

「話にならん。君達は本当に軍人かね?」

 

21対1という、勝っても負けても恥をさらす戦いに見事敗北した後、対戦相手だった大佐から放たれた言葉だ。当初セベロは、自分たちの練度の低さを指摘されたと考え、その上で何も言い返せないと口を噤んだ。確かに大佐は新型機であるドムに乗っていたが、そんなことはあの物量差の前では些細すぎる違いだ。加えて大佐は落ち込むセベロ達に追い打ちをかけてきた。

 

「現時刻をもってマルコシアス隊は解散とする。特別競合についても即時廃止だ」

 

隊の何人かはその言葉に怒りをあらわにしたが、セベロはむしろ納得してしまった。本物のエースと自分の実力差を痛感してしまったからだ。同時に肩に乗っていた重しが取れたような感覚をセベロは味わっていた。部隊で最も優秀という事は、つまり常に追われる側であるという事だ。戦場でも、基地でも気を抜けない。追い落とされない為に常に走り続けていたセベロにとって、特別競合の廃止はそうした緊張の糸を切る意味を持っていたのだ。その事に彼は思わず自嘲してしまう。栄達の道が閉ざされたというのに、それに安堵するとは。祖国の独立に殉ずる覚悟は出来ていたつもりだが、思っていたよりも自分は弱い人間だったようだ。

 

「クソ!…すまん、セベロ」

 

「あ、ああ。いや、こちらのカバーが足りなかった。数的不利になった時点で仕切り直すべきだったよ。こちらこそすまない」

 

通信越しに聞こえてきたジャン・ルイ伍長の声で現実に引き戻されたセベロは、互いに自然と謝罪の言葉が出たことに密かに驚いていた。ジャンは総合成績では中の上と言った所だが、パイロットとしての技量はセベロとほぼ変わらない。以前であれば謝罪では無く援護が無かった事への不満を口にし、こちらの指示通りに動かなかったとセベロも言い返していただろう。

 

「それを言ったら私こそごめんなさい、あんなに簡単に墜とされなきゃ…」

 

そう言って最初に撃墜されたカルメン伍長が落ち込む。だが、セベロに言わせれば大佐を一人で抑えるべく戦っていたカルメンはむしろ良く持ちこたえた方だ。むしろその間に他の機体を落とせなかった自分たちが責められる事はあれど、カルメンに責任を求めるのは筋違いだろう。

 

『ドムはザクに比べ高速な分距離が離れやすい、その点に留意して早めに指示を出すと良い』

 

落ち込む二人にどう言葉を掛けるべきか悩んでいると、何処か気の抜けた声が通信に混ざった。

 

「た、大佐!?」

 

『三人とも既にドムの操作は掴めている。後はそれに合わせた戦術を覚えるだけだな』

 

流石は選別されるだけのことはある。そんな数日前とは真逆の評価に戸惑っていると大佐は笑いながら続けた。

 

『次にやる時はより手強くなっていることを期待する。では交代だ、曹長』

 

 

 

 

いやあ、A小隊のメンバーは中々やるじゃない。思わず興奮して声かけちゃったよ。技量や経験に関して言えばまだまだだけど、あの着任したての頃の破落戸みたいな戦い方に比べたら雲泥の差だ。さっきの戦いだってしっかりと作戦を立てて、お互いにフォローしあって戦っていた。元々選抜されるくらいだから技量は確かだし、これで連携の経験が増えれば一人前の部隊として戦えるだろう。やっぱり競合とかで変にライバル心が刺激されてそれが悪い方向に出てたんだろうなぁ。

 

「お優しいのですね、大佐」

 

「部下にやる気を出させるのも上司の務めだろう。それに彼らが強くなれば私にもリターンがある、サービスくらいするさ」

 

部隊が強くなればなるだけ全体の生存率が上がる。俺の目的を達成するにはこれ程価値のある事もあるまい。そんな事を考えながら通信チャンネルを弄る。G小隊とレイス達の模擬戦も終わったようであれこれ話している。なんか原作みたくトラヴィス中尉とヴィンセント曹長が何か探り探り喋ってて微笑ましい。あとフレッド君とダグ大尉は随分馬が合ったのか何か強敵と書いて友と読む的な雰囲気を出している。で、それ見てお互い苦労するといった苦笑を交えて射撃についてマーヴィン君とリベリオ伍長が話している。中々良い雰囲気だ。

…でもちゃんと躾はせんといかんよなぁ?

 

「さて、エリオラ大尉、エイミー少尉。そろそろ次の模擬戦に移るぞ」

 

「はい、大佐」

 

「りょ、了解です!」

 

うん、ちょっとエイミー少尉が疲れているかな?でもやるっつったからにはちゃんとやって貰う。

 

「エイミー少尉、疲れているな?君の操縦は常に全力を出しすぎている。もっと途中で休憩を挟みたまえ」

 

「はい!申し訳ありません!」

 

これはもう性格なんだろうなぁ。

 

「エイミー少尉、意地を見せるのは結構だが己の限界を見誤るな。むしろ抱え込み自滅する事を恐れたまえ」

 

この手の連中はどうも誰かの手を借りることを甘えや相手に迷惑をかけると考えている。

無論何でもかんでも手伝わせていればそうだろうが、自分に出来ない事を抱え込んでも同じ思考で乗り切ろうとしてしまう。学生の勉強ならそれもまた良いだろうが、残念ながらここは軍隊で、我々は兵士だ。己の成長も大事だが、それより先に問題の解決を優先しなければならない。そうしなければ死ぬからだ。

 

「しかし、それでは大佐達のご負担に」

 

「君の見ていた大佐とやらは部下のフォローもできんほど頼り無かったか。それはすまなかった。では、頼りない大佐のために口に出して教えてくれんかね?」

 

と言うか口に出して貰わんとこっちでも把握しきれない。この辺はソロプレイが多い俺の落ち度だよなぁ、むしろ隊の指揮は後方で射撃に専念しているエリオラ大尉に任せた方がいいかもしんない。

 

「私の能力不足だ。君達の状況を完全に把握しながら戦うのは難しい。そうだな、エリオラ大尉、悪いが次の模擬戦では指揮を頼む。後方に配置出来る分私よりマシだろう」

 

俺の言葉に息を呑む二人。何さ。

 

「…私が大佐に指示を?」

 

「指示通りに出来る保証はしかねるが、期待に添うよう努力しよう」

 

俺の言葉に一瞬間が空いた後、堪えきれないように笑い出す二人。だから何なのさ。

 

「了解しました。エリオラ・イグナチェフ大尉。本小隊の指揮を預かります」

 

「よろしく頼む。さて、まだ5戦も残っているんだ。テンポ良く行こう」

 

この日の模擬戦は前回と同様マルコシアス隊が全敗という記録だったが、終わった後の表情は前回とは全く違っていたと見た者達は語っている。




魔獣の調教無事完了


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第五十八話:0079/09/01 マ・クベ(偽)と赤い彗星

今週分です。
いよいよ奴が登場ですよ!


「大佐の送ってくれた新型ギャロップは中々好評だぞ」

 

上機嫌にそう言うのはガルマ様だ。北欧の攻略にガウを都合して貰った分、中米地域の火力支援にでもと先日完成した改良型のギャロップを送ったのだ。まあ、あれをギャロップの改良と言って良いかは微妙だが。

 

「いえ、ガルマ様にも随分と骨を折って頂いておりますので。少しでもお返しになったのなら幸いです」

 

北米の各都市を恭順させてくれたおかげで工業製品や民需物資なんかの確保がかなり楽になっている。特に北米に拠点を置いていた所謂中小企業の技術者や作業員をこちらに引き入れられたのは大きい。鹵獲していた連邦軍の装備、特に後方で運用するトラックや四駆などの軽車両を補修可能になったから、これらを一気に補充できたため補給面はかなり楽になった。更に割り振っていた生産のリソースを武器に使えるのも有り難い。

 

「しかし、最初は驚いたよ。改良されたら主砲が無くなっているんだからな!受領した補給担当の困り顔は今でも思い出せるぞ?」

 

ですよねー。でもしょうが無かったんだ。色々弄って貰ったんだけど、タカミ中尉以外全員がどう考えてもこの主砲ジャマって答えしか出さねえんだもん。そんで俺が火力は上げたいよねって言ったもんだから、皆困って迷走して危うくホバー式ダブデで良いんじゃねなんて結論にたどり着こうとしてたから慌てて突っ込んだのだ。

 

「いや、カーゴに積めば良いだろう?」

 

なんせギャロップ、本体がほぼ格納庫で埋まっているから移動拠点として使うにはカーゴを装備することが前提になる。そして忘れられがちなのだが、こいつ元々カーゴ牽引用として設計されていたから、複数のカーゴを連結・牽引出来る出力があるのだ。

 

「砲戦用カーゴという文字をリストで見た時は私も目を疑ったがね」

 

見てて、これ基本的にはホバーになった装甲列車だよなぁって思ったらつい口にしちゃったんだよ。それをガチで使える兵器にしちゃう我がオデッサ技術部の皆さんはちょっと練度が上がりすぎている気がする。いいぞもっとやれ。

 

「ビッター少将は後2ヶ月早く欲しかったとぼやいていたがね。…さて、話したいことは幾らでもあるが、本題に入ろう。赤い彗星は知っているかな?」

 

「…面識はありませんが。彼が何か?」

 

いきなり名前が出てきておもわず固まっちまった。

 

「先日情報部が大佐の情報を基に精査した結果、連邦がV作戦なる計画を進めていることが確定した」

 

判明、じゃなく確定か。こりゃ結構情報集めてたな?

 

「つまりサイド7がその計画の中心だと?」

 

「そこまでは解らん。しかし少なくとも有力な拠点である事は間違いないだろう。ドズル兄さんは、赤い彗星に潜入調査を命じたそうだ」

 

その言葉に嫌な汗が流れるのを感じる。おいおい、なんでこんな所で原作に忠実なイベントが発生してんだよ?

 

「…成程。しかし潜入ですか」

 

「うん?何か問題か?」

 

怪訝そうな表情を浮かべる。同期だし親友だしで彼の腕を疑っていない故の言動だろう。

 

「彼の技量を疑う訳ではないのです。ただ、潜入となれば個々の技量もですがそれ以上に部下の統率が重要になりましょう」

 

原作ではそこで失敗している訳だし。つうか、あいつパイロットに拘りすぎてると思うんだよね。アレでどうザビ家に復讐するつもりだったんだろう?俺ならもっと部隊を動かす立場になって同志を集めて反乱とか計画するけど。結局の所担がれるのも嫌だ、ザビ家も嫌だでやることが半端なんだよなあ。

 

「…確かに。幾らシャアが優秀でも周りが下手を打てば意味が無いか。人員の選定についてもう一度精査するよう兄さんに進言してみよう。やはり大佐に話して正解だな、これからもよろしく頼む」

 

そう笑顔で言うガルマ様を見て、俺は机の下で握った拳に力を込めた。頼むから、厄介なことになってくれるなよ?

 

 

 

 

「出撃中止命令だと?一体どうしたと言うのだ?」

 

補給を済ませ、いざ艦を発進させようと管制に連絡した矢先の命令にシャア・アズナブル少佐は首をかしげた。事前に知らされている内容からすれば、既にサイド7で宇宙用MSが開発されている事は明白だ。だとすれば出撃を繰り上げられることはあれど、遅らせる理由など無いように思えるが。

 

「はい、部隊編成について再考するため暫し待て。とのことです」

 

「兵は拙速を尊ぶと言うが…命令では致し方ないか」

 

手渡された命令書を読みつつ溜息を吐く。仕方が無いとは口にしたものの、シャアは内心安堵していた。潜入作戦と言う事で全員分のS型が支給されたものの、それ以外は既存の部隊と何ら変わらない編成だ。しかも現在部下として与えられているメンバーはお世辞にも練度が高いとは言い難い。特に新入りのジーン伍長はパイロットとしての技量は高いが、その分周囲の指示や忠告を軽んじるきらいがある。ベテランのデニム曹長はともかくスレンダー軍曹もよく言えば慎重、正直に言えば臆病で戦力として頼りないと言うのが本音だ。無論情報収集活動であるから戦闘にはならないとは思う反面、不測の事態への対処能力に乏しいというのは心許ない。ドズル中将にそれだけ信頼されている証と考えられもするが。

 

「しかしここまで来ての待機とは、ドズル閣下にしては珍しいな」

 

作戦開始前はあれこれと悩むタイプだが、いざ始まれば即断即決を絵に描いたような指揮をするドズル中将にしては珍しいタイミングに思えそう口にすると、事情をある程度収集していたのか副官のドレン少尉が口を開いた。

 

「何でもガルマ大佐から忠告があったとか。大佐は例の北米基地で手痛い思いをしていますから、それで我々の戦力に不安を持ったのではないか、という噂ですな」

 

「ほう、ガルマ大佐がね…いつまでもお坊ちゃんではない、と言うことかな?」

 

シャアがそう言うとドレン少尉は何とも言えない表情を作った。己の失言に気付き笑いながらドレン少尉の肩を叩く。

 

「いかんな、学生気分が抜けていないのは私も同様なようだ。すまないが聞かなかったことにしてくれ」

 

その言葉に安堵の笑みを浮かべつつドレン少尉は無言で敬礼を返してきた。その仕草に肩をすくめているとオペレーターが正式に出撃中止の指令書を手渡して来た。

 

「ふむ、これは今日明日では動けんな。ドレン、腕が鈍らんように訓練を行なう。10分後にMSハンガーへ集合するようデニム達に伝えろ」

 

そう言うと自身もハンガーへ向かうべくブリッジを出る。人通りの少ない通路を進みながらシャアは考えた。

 

(あのガルマが献策とは。…ここの所聞く評判も以前のようなお飾りというわけでは無い)

 

「…迷っているというのか。何を今更」

 

ザビ家への復讐。その為に最早救えない過ちすら犯した自分が今更躊躇してどうする。そう思うと同時に、スペースノイド、否人類のこの先を憂うなら私心を捨ててジオンの勝利に身を捧げるべきでは無いかという思いも確かに存在している。

 

「一度見極めねばならんか」

 

それは同時に、自らの行いを過ちであると認めるに等しい行為だ。

 

「ガルマ、君は良い友人止まりか?…それとも」

 

自らが本当に望むものはなんなのか。明確な答えを出せぬまま、シャアはハンガーへと入っていった。

 

 

 

 

「まあ、そうなるな」

 

大量に積み上げられた報告書という名の苦情の山を前に溜息を吐く。先日連邦の新兵器ゲシュペンストの対策として技術本部から装備が回されてきたんだけど。

 

「火炎放射器付き爆撃機って、何だ?」

 

頬を引きつらせながらそうユーリ少将が聞いてきたけど、そんなん俺に聞かれても困る。なんでこんなの送ってきた!?何でだ!?言え!って連絡したら、曰くゲシュペンストの正体を見破った上での対抗兵器だと返ってきた。え、解ったの?マジで?慌てて詳細聞いたら、何と連中歩兵でビーム兵器を運用してやがるとのこと。おいおい、連邦さんチートすぎんよー。エネルギーCAP出来てまだ一ヶ月じゃん、何歩兵がビーム撃ってくるとか。星戦争やヤ○トじゃねえんだから勘弁してくれよ。んで、歩兵は解ったけど何で火炎放射器?

 

「開発者曰く、状況からして運用状況は待ち伏せである事から高度に隠蔽、陣地構築を行なっている可能性が高く、通常の爆撃では効果が見込めない。また非誘導の燃焼弾頭では確実性に欠ける事から火炎放射器を選定した。とのことです」

 

ナルホドネー。実に天才な発想だね。所でその高度に隠蔽された歩兵をどう正確に見つけて炎を噴射するつもりだったか是非実践して頂きたい。

 

「どうします?これ」

 

ハンガーを占領する勢いで運び込まれたド・ダイGA型を前に頭をかいていたシゲル中尉に溜息を吐きながら答える。

 

「全部外して換わりに気化爆弾でも詰めといてくれ。目標の位置が特定できん以上面で制圧する方が現実的だ」

 

そもそもこれ、撃たれた後の対処であってこっちの損害が減らせねえじゃねぇか。いや、まあ、いずれ歩兵が全滅すれば被害は減るだろうけど、それまでMS部隊に撃たれ続けろとか温厚なデル軍曹でもダッシュで殴りかかってくるぞ?

 

「これは一度話さねばならんかもしれんなぁ」

 

俺の言葉に横に居たジョーイ君が震えた気がした。何だったんだろう?




イケメン仮面さんは難しい(色々な意味で)


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第五十九話:0079/09/04 マ・クベ(偽)とネヴィル

夏休み!


「これはこれは、誰かと思えばあのオデッサ基地司令殿ですか。随分と多忙と聞き及んでおりましたが、態々私ごときに時間を割いて頂けるとは光栄の極みであります」

 

通信に出たと思ったら何か早口で皮肉られたでござる。え、そもそもアポイントメント取ったの俺だよね?3回も拒否られたけど。

 

「初めましてネヴィル大佐。本日はお忙しい所を…」

 

「ええ全くです。時間は非常に貴重だ。大佐も同意見とはとても喜ばしいことです」

 

そう言って態々こちらの言葉を遮ってくるネヴィルさん。はっはっは、そっちがその気ならおいちゃんも考えがあるぞう?

 

「では、率直に。使い道の無い駄作はもう結構なので使える装備を送って頂きたい。ああ、あれこれ考えて頂かなくて結構ですよ。欲しいものはこちらで纏めてお送りしますから。あなた方は私たちが欲しいと言うものを黙って造っていれば宜しい」

 

俺の言葉に余裕たっぷりといった姿勢でカップを口に運んでいたネヴィル大佐が固まり、表情の抜け落ちた顔でこちらを見てくる。何だよ、そっちに合わせてやったんだぜ?煽り合いはここからだろうが。

 

「駄作…ですか。我々の作品が無ければ戦えもしないくせに大きく出る」

 

「確かに武器無しで戦えなどとは将として言えませんな。しかしまさか貴方のアレが武器だと仰るので?これは驚いた。是非とも前線で使い方を教示して頂きたい。何分前衛的すぎて誰も理解できませんでな。ところでド・ダイ以外は何をお造りになられたのです?」

 

因みにネヴィルさんの代表作はキュイだ。正直あれもどうかと思う、あとマゼラアタック。加えてあのアッグシリーズも手がけたらしいのでこのおっさんの脳味噌は絶対変色していると思う。

 

「おやおや、自身の無能を兵器のせいにするとは。流石は戦争屋ですなあ?道具の使い方も知らんとは」

 

余裕の笑みを浮かべているが残念、目が笑えてないよ。

 

「おや、ご存じないのですか?誰も使えないものは道具では無くガラクタと呼ぶのですよ。ああ、誰が使っても駄目なものも同じように呼ぶようですが。そう言えば先日正式にマゼラアタックの生産が中止になりましたな」

 

俺の言葉に口元に運んでいたカップをゆっくりとソーサーに戻すネヴィルさん。感情が抑えきれていないのか、はたまたそう言ったご病気なのか手が震えてカップとソーサーがガチガチと不協和音を奏でている。うんうん、こうかはばつぐんだ!

 

「…話がそれてしまっていましたな。それで、今日はどう言った御用向きですかな?」

 

二度ほど紅茶を一気飲みしたネヴィルさんがそう笑顔で聞いてきた。先ほどまでの会話は無かったことにするらしい。中々に紳士である。

 

「実はゲシュペンストに関する開発依頼なのですが」

 

俺も倣って笑顔でそう切り出すとネヴィルさんは眉間にしわを寄せた。

 

「アレでしたら先日対応する兵器をお送りしたかと。お気に召されなかったようですが」

 

お気に召さなかったと言うか。

 

「我々としてはまずMSの生残性を確保したいと考えております。ネヴィル大佐のおっしゃる通りでしたら、ビーム兵器さえ無力化できればMSで十分対処可能でしょう」

 

俺の言葉に考え込むネヴィルさん。流石技術将校、そっち方面の話になった途端表情が変わった。俺が黙ってみていると、考えがまとまったのか重々しい口調で確認してきた。

 

「つまり、MSに搭載可能なIフィールドジェネレーターを造れという事ですな?」

 

ちげえよ!いや、違くねえけど!

 

「出来るのですか?」

 

「MSのサイズが現在の3倍程度に出来れば可能です」

 

一瞬期待して聞き返してみたけど、やっぱり愉快な回答が返ってきた。3倍とかビグ・ザム並みじゃねえか!

 

「我々が欲しいのは現在運用しているMSに搭載可能な対ビーム装備です。安価で改造が容易であれば尚よい」

 

「…つまり、安価で取り付けやすい小型Iフィールドジェネレーターですか」

 

「出来るのですか?」

 

「今から研究すれば恐らく…10年後くらいには」

 

戦争終わってるよ!つうかそんなに戦ってたら人類滅ぶわ!

 

「一旦Iフィールドから離れましょう。対策は早急に行いたいのです。残念ながら10年は待てません。…そうですな、熱吸収率の高い物質を機体表面に塗布するとか、そう言った手軽な方法はありませんか?」

 

確かゲルググのシールドに耐ビームコーティング技術が使われてるとかいないとか、どっかで読んだ気がする。

 

「確かMIP社がそのような技術を開発していましたな。しかしアレは時間稼ぎにもならんでしょう」

 

曰く、先日鹵獲したビーム兵器と同等の出力のビームが直撃した場合、現状塗布されている塗料と同程度ではほぼ効果が無いとのこと。んじゃ、どんくらい塗れば良いの?って聞いたら。

 

「照射時間にもよりますが、最低でも20ミリ。複数回の射撃に耐えたいならその倍は必要でしょう」

 

そしてゲシュペンストに耐えるだけなら20ミリでも大丈夫かもしれないが、実機の数値が解らない以上確約は出来ないと言うのがネヴィルさんの意見だ。

 

「ついでに言えば現地での塗布処理もペンキを塗るようにはいきませんからな。専用の設備が必要です。簡単にはいきません」

 

異物が入っちゃうと途端に性能が下がるらしい。だもんで、企業側も使う場合は予め塗布して被弾したら丸ごと取り替える、あるいは最初から使い捨てる前提の盾に塗布する事を考えているのだそうな。ぬう、そう上手くはいかないか。

 

「難しいですな…、やはりミサイルの時のようにはいきませんか」

 

ミノフスキー粒子みたいなチートアイテムほいほい出て来たら苦労しないか。

 

「…今なんと言った?」

 

俺の言葉に、いきなりネヴィルさんが身を乗り出してきた。え、なになに、なにさ。

 

「いや、簡単にいけば苦労しないと」

 

「その前だ、なんと言った?」

 

ええと。

 

「ミサイルの時のようにはいかない。…でしたかな?」

 

そう俺が言うと、何故か考える人のポーズになって何やらブツブツ始めるネヴィルさん。おいおい、どうした。

 

「…大佐。急用が出来たから失礼させて頂く。ああ、先ほど言った対ビーム用の防御装置の件はこちらに上げておいてくれますかな?では」

 

そう言って席を立つや通信を切ってしまうネヴィルさん。多分何かを思いついたんだろう。大学の頃世話になった研究の教授がろくでもないことし始める時と同じ雰囲気だったし。

…出来れば今度はまともなのが良いなあ。

 

 

 

 

大佐の放った何気ない言葉にネヴィルは正に天啓を感じた。言った本人はそこに何も感じられていなかったようだが仕方が無い。口は多少回るようだし、戦争屋にしてみれば勉強している方ではあるが、それでもやはり天才である自分とは違うのだから。

 

「ふふん、だが素直に懇願してくるだけの可愛げはある」

 

そう、結局の所幾ら噛みつこうとも最終的にはこのネヴィルを頼らざるを得ないのだ。そう思えばあの態度も反抗期の子供のようなものに思えてなんとなし、微笑ましくも思えてくるから不思議なものだ。

 

「安価な対ビーム用装備、あるじゃないか」

 

そう言ってネヴィルはほくそ笑む。ミサイル、そしてそれを無力化したミノフスキー粒子。そのキーワードから彼の頭に浮かんでいたのは艦艇用の装備として配備されているビーム攪乱幕の存在だった。一定濃度さえ保てれば要塞砲クラスのメガ粒子砲すら減衰可能なこの装備を転用すればゲシュペンストの無力化など容易いことではないか。

従来のものは宇宙空間という360度、しかも防御目標が艦艇と巨大であるため相応の範囲をカバーする必要性から大型弾頭に搭載されているが、防衛対象がMSサイズ、それも防ぐのが艦砲より威力が低いビームなのだから散布濃度も大幅に下げることが出来る。つまり装置の小型化、ペイロードの確保も容易と言うことだ。後は撃たれたらそれを感知して適正な方向へ散布するシステムさえ組み込めば良く、そんなものはセンサーを機体に追加するだけでどうとでもなる。つまり対ビーム用のAPSを搭載してしまえば良いのだ。

 

「さあ、忙しくなるぞ」

 

ネヴィルは力強くオフィスへ向かう。さあ、今日も祖国に貢献だ。そしてこの戦いが終わった後には自伝を書こう。この戦争を勝利へと導いた英雄の記録を人々が記憶しないなど、人類にとっての損失に他ならないのだから。

 

 

後日、完成した防御装備を送りつけたところ、現地ではビーム攪乱幕を封入した増加装甲を独自に開発、配備していたため、

 

「は?撃たれたら即散布?こっちのビーム兵器も無力化されるじゃねえか」

 

とか、

 

「増加装甲じゃ関節保護できんだろ、アホか」

 

と言った意見で両大佐の意図しないところで代理戦争が勃発することになるのだが、それはまた別の話である。




今回はマーマイト少なめです。
じゃ、遊びに行ってきます!(投稿しない言い訳


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第六十話:0079/09/10 マ・クベ(偽)と別れ

何がとは言いませんがまた欧州行きらしいですね。
資源備蓄しなきゃ。そんな訳で今週分です。



鋭く突き出された光刃を無理矢理機体を捻って躱す。視界がレッドアウトしかけるが、そんなことに構っている余裕はない。舌打ちをしながらサブアームに装備した90ミリをばらまきつつ後退、何とか距離を取った瞬間、機体を今度は光条がかすめた。あっぶねぇ!乱数回避してなかったら直撃してたぞ!?

 

『アレを避ける!?相変わらず厄介な!』

 

向こうも驚いているようだが俺の方が驚きだ。今までなら得意な距離で戦おうと強引に距離を詰めてきたのに、今では当たり前のように射撃戦に移行してくる。

 

「いつの間に射撃を訓練したのかね。全く、ウチの連中は手加減を知らん!」

 

デスクワークばっかの大佐相手に酷い仕打ちだよ。

 

『その言葉そっくり返させて頂きます。さあ、今日こそその首もらい受ける!』

 

サブアームにビームが当たり、90ミリが吹き飛ぶ。既に反対側のアームに装備していたバズーカは撃ち切ってパージしている。こちらの射撃武装が無くなったのを好機とみたのだろう。残弾の少なくなったビームライフルを投げ捨て、シン大尉は再びサーベルを発振させながら肉薄してきた。

 

「詰めが甘いな、大尉」

 

だが褒めてやろう!この奥の手を使わせたことを!なんてノリノリで機体の胸を反らし、マルチランチャーを向ける。必殺!ドムフラッシュ!(実弾)

 

『なぁ!?』

 

撃ち出されたスタングレネードが最短距離で突っ込んできていたシン大尉の機体直前で炸裂し、メインカメラをほんの数秒だけ焼き付かせる。そしてその数秒は俺には十分な時間だった。

 

「切り札を使うなら奥の手も用意しておきたまえ、次までの宿題にしておこう」

 

オートバランスだけで突っ込んでくる機体にシールドバッシュをかまして倒し、コックピットへヒートソードを突き立てる。同時にシミュレーターが終了を告げてきた。

 

「やれやれ、最後くらい花を持たせてくれても良いでしょう?」

 

そんなことをぼやきながらシミュレーターから降りてくるシン大尉にドヤ顔で言い返してやる。

 

「大尉のようなエース相手に手を抜くなど、そちらの方が余程失礼だろう?」

 

俺の言葉に一瞬呆けた顔になった後、苦笑しながらシン大尉は肯定の返事をしてきた。そして感触を思い出すように手を閉じたり開いたりしながらシミュレーターを振り返った。

 

「しかし、R-2は素晴らしい機体ですな。汎用機であそこまでやれるとは」

 

そう、先ほどまで戦っていたのはジオニックがビーム兵器対応及び宇宙、地上両用機として制作したザクⅡR型の改良機、通称R-2型だ。今は地上でのデータ収集という名目で試作機一機とそのシミュレーターデータがオデッサに回されている。

 

「ああ、ジオニックも良い仕事をする。アレが量産されれば宇宙での我が軍の優勢は盤石な物になるだろう」

 

そう肯定すれば大尉も力強く頷いた。何だかんだでやっぱりパイロットの性分なのだろう。その顔はどこか少年のように輝いている。まあ、量産されないんだけどね!

何せコイツ本命のゲルググの為にビーム兵器と対ビームコーティングの性能を調べるためのテストベッドだし。おかげでR型の方は史実より増産されたけど、こっちは試作4機で終了予定だ。ただ、今後の部品供給を考えて消耗部品の多くをゲルググと共有する試験も兼ねていて、上手くいけば今のR型を順次このR-2モドキに更新していくらしい。折角だったんで、バックパックにドロップタンク追加したら?って言ったら、設計チームが何で最初に言ってくれない!?って発狂したらしい。ごめん、その頃まだ俺インストールされてなかったんだわ。

ちなみになんでウチで試験なんかしてるかと言えば、どうも連邦は躍起になってオデッサから情報を引き抜こうとしているから、ならオデッサで秘密っぽくテストしてりゃ本命のゲルググから目をそらせるんじゃね?という安直な考えらしい。あと、ジオニック社から直々にどうせデータ取るなら是非オデッサがいい!なんて要望もあったそうな。まあ、ウチの皆は腕が立つからね。

 

「宇宙…早いものです。先日こちらに来たばかりだと思っていましたが」

 

そう言ってちょっと寂しそうな表情になるシン大尉。そう、シン大尉とアナベル大尉は2ヶ月の研修を終えて今週末の定期便で宇宙へ帰る。戻り次第彼らは少佐に昇進しそれぞれの艦隊を与えられる予定だ。ちなみに彼らと交換で突撃機動軍からはキリング中佐とマレット大尉のイロモノコンビが送られており。体育会系なマレット大尉はそれなりに上手くやっていたらしいが、キリング中佐の方はあんまりにアレな発言をしまくったせいで、指導官だったコンスコン少将に顔の形が変わるくらい修正されたらしい。以前に比べれば男ぶりが上がったなんてキシリア様が愉快そうに言っていた。容赦ねえな。

 

「今よりちょっとばかり会うのが手間になる。それだけのことだよ大尉」

 

なんかしんみりしそうだったから、努めて軽く言う。今生の別れみたいに言うなよ。お互い兵隊なんだし縁起悪ぃだろ。

 

「はっはっは!ちょっとの手間と来ましたか。では、次の模擬戦まで精々腕を磨いておきましょう。ところで大佐、基地外の者が撃墜してもM資金は頂けるんですかな?」

 

は?なんぞそれ?

 

「おや?ご存じなかったので?ではあっちのレースも…これはまだまだアナベル大尉に頑張って貰わねば」

 

だから何だよレースって!?

 

「問題ありません。大佐の未来に少しばかり関係あることです」

 

その物言いで無視できる奴とか神経疑うんですけど!?笑いながら逃げるシン大尉を追いかけたが見事振り切られてしまい、一週間見事に逃げ切られアナベル大尉と二人仲良く宇宙へと帰っていくシン大尉をモヤモヤした気持ちで見送ることになった。ヤロウ今度職権乱用して呼び出しちゃるからな!

さて、そんなことがあった今週だが、それ以外大きな変化も無く基地は少し静かに…

 

「嘘は止めて頂きたい」

 

皆さんこんにちは、本日もオデッサはマの執務室からお送りしています。ただいまの発言は向かって左斜め前に増設された机に座る仏頂面、ウラガン大尉の発言です。おろしたての制服にキズ一つないピカピカの階級章という実にスタンダートなコーディネイト。全て無改造なのでマの改造制服が実に悪目立ちしますね。空気読んで肩にトゲくらい生やしてこい。

 

「ほらほら大佐。午後はアタシらと模擬戦なんでしょう?ちゃっちゃと済ませなさいな」

 

こちらは逆サイドに置かれた応接セットでのんびりお茶してらっしゃるシーマ中佐の発言。中佐になったのでちゃんと制服が届きました。普通に見慣れたあのSSっぽい服かなーと思ったら、またしても秘書官や本国の女性将校に大人気?のレディスーツタイプ。ヒールは低めだけどパンプスなんか履いちゃって、落ち着いた色のストッキングがこれでもかと強調されております。俺によーし。

 

「…ほほう、模擬戦ですか。ではそれまでにこちらの書類も処理してください。准将」

 

「……」

 

無言で対抗してみたら何故か良い笑顔になるウラガン。

 

「良い度胸です。そこだけは褒めておきましょう」

 

そう言って掴んでいた書類の束を倍プッシュ。俺は黙って席から立ち、ウラガンの前で土下座を敢行する。

 

「謝るくらいなら素直に最初から負けを認めりゃいいのに」

 

そう言って笑うのはデメジエール中佐だ。そう、何を隠そう我々、遂に昇進しちゃったのである。ウラガンに至っては何と二階級特進だ!まあ、申請したの俺だけど。ちなみに俺も晴れて准将になった訳だが。

 

「「なんか准将って呼び名、弱そう」」

 

なんて良く解らん理由で少佐ズ改め中佐ズにはいまだに大佐呼びされている。これ、混乱しませんかね?

 

「TPOは准将より弁えていらっしゃいますから問題無いでしょう」

 

うちの副官が辛辣な件。

そういや何処から知ったのかハマーンちゃんからもお祝いの連絡が来たんだよな。珍しくメールじゃなくて通信で。以前に比べるとかなり表情も明るく豊かになっておいちゃんほっこりしてしまいました。

 

 

 

 

「んっふふふふ~」

 

個人端末に移して貰ったデータを再生し、ハマーンはにんまりと相好を崩す。内容は3日程前に特別に許可のでたおじ様との通話ログだ。

 

「お久しぶりです、大佐!…あ、今は准将なのですよね、ご昇進おめでとうございます!」

 

「ありがとう、少し見ないうちに随分と綺麗になった。その服も似合っているよ、ハマーンさん」

 

穏やかに笑う大佐もとい准将は、ハマーンの、否この施設に居た全員の救世主だ。本人に言えば大げさだと笑うかもしれないが、少なくともハマーンはそう確信しているし、ほとんどの人間は賛同するだろう。今褒めてくれた服だって、以前だったら手に入れるどころか存在を知っていたかすら怪しい。週末に姉妹や親しい友人とウィンドウショッピングが出来るなんて、あの頃なら考えられない事だったからだ。

社交辞令が多分に含まれている、そう自分に言い聞かせても、頬が熱くなるのと鼓動が速まるのをハマーンは押さえられなかった。同年代の子達はアイドルの誰が良いとか素敵だと言うけれど、画面の中で当たり障りのない優しい言葉を紡ぐ男より、まず行動で示してくれた准将の方がずっと格好いいとハマーンは思う。少し目つきは鋭いけれど。

 

「それで、マレーネ姉様ったら食べ過ぎちゃったから試験の内容を増やして欲しいなんて言うんですよ?職員さんも困ってしまって。横で見ていて私、思わず笑ってしまって」

 

一方的に話し続けても、嫌な顔一つせず聞いてくれる准将。かといって適当に聞き流している訳でも無く、時折細かく内容を尋ねたり、自分の意見も述べてくれる。一人の人間として対等に接してくれているというのがよく伝わり、それが余計にハマーンを饒舌にさせる。そうなれば決められていた時間が経つのなど、正にあっと言う間だった。

 

「あ…。もう、時間」

 

「おや、そうなのかい?楽しい時間は過ぎるのが早いな」

 

その言葉が本心から発せられていると解ってしまうから、ハマーンの鼓動は益々高まる。故についそれが口から出たのは無理からぬ事だった。

 

「本当はもっと准将のお側でお話したいのですけれど」

 

その言葉に准将は困った顔になる。無理もない、今この人は地球で戦っているのだから。

 

「お願いを聞いてあげたいのだけれどね。ここはあまり安全じゃ無いんだ。私も長くは空けられないしね。けれど状況が落ち着いたら改めてこちらから伺うよ、約束だハマーンさん」

 

「…解りました。あの、准将。もう一つだけ、お願いしても良いですか」

 

「何かな?」

 

「ハマーンと呼び捨てて頂けませんか?さん付けはなんだか距離があって嫌です」

 

精一杯の言葉に准将は一瞬呆けた後、穏やかな笑みを浮かべ口を開く。

 

「解った。ハマーン、会える日を楽しみにしている」

 

この日を境に全力運転を始めた乙女心は、ハマーンのあらゆる能力を最大限に発揮させることになった。その結果、後日ハマーンはオデッサに降り立つ事に見事成功し大騒動となるのだが、そんな未来など知らぬ少女は無邪気に笑うのだった。




アクト・ザクは犠牲になったのだ…。


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第六十一話:0079/09/18 マ・クベ(偽)とガンダム

さあ今週も頑張らずに行ってみよう。


改めてV作戦調査のために招集されたシャアはソロモンの会議室の一つで顔合わせをしていた。入室し敬礼すると、既に到着していた相手が口を開く。

 

「ご苦労、シャア少佐。お互い上司の無茶振りで大変だな!」

 

快活に笑いながら返礼すると親しげに近寄ってきて肩を叩く男に、シャアは頬が引きつりそうになるのを必死に隠しながら返事をする。

 

「はい、いいえ少将殿。このような任務を与えて頂き光栄であります」

 

そう言うとコンスコン少将は一瞬目を丸くした後、声を上げて笑った。

 

「はっはっは!若いのに勤勉だな!その歳で少佐なのも頷ける。支援はこちらでやるから存分に暴れてこい…おっと潜入作戦で暴れるのはマズイか?」

 

以前見た時とのあまりのギャップに面を喰らいながら、シャアは曖昧な笑みを返した。以前の少将はどちらかと言えば慎重で消極的、よく言えば堅実な人柄だったが。

 

「とは言え、若い連中だけに苦労を掛けるのもマズイだろうと思ってな。心強い助っ人も連れてきた、大尉!」

 

その声に何処か憮然とした態度を崩さないまま、壮年の男が部屋に入ってくる。

 

「久し振りだな…、いや今は上官だったか。久し振りですな、赤い彗星。こうして会うのは月以来ですかな?ルウムでは部下が世話になったとか。おかげで皆無事に帰ってきました。感謝しとります」

 

形だけの敬礼をするのはランバ・ラル大尉だ。一週間戦争の際、ドズル中将と口論になって以降、勤務態度が悪いと閑職に回されていた筈だが。

 

「潜入ともなれば、相応に腕が立つ部隊が要るだろう。少佐の腕は信頼しているが、如何せんお前さんの部下は若すぎる。気分は良くないだろうがここは年寄りの老婆心と思って呑んでくれんか?」

 

この二週間の訓練でもあまり改善が見られない部下たちの顔を思い出し、シャアは素直に溜息を吐いた後、笑顔で答えた。

 

「とんでもありません、少将殿。おっしゃる通り我が隊はまだまだ未熟であります。大尉のようなベテランにフォローして貰えるならこれ程心強い事はありません」

 

「だ、そうだぞ、大尉。いい加減貴様も大人を見せろ」

 

そう少将が言えば、大尉は決まりの悪い顔になって鼻を鳴らした。

 

「最善は尽くしますが、何せ相手は未知数だ。確約は出来ません」

 

「なに、危険であればさっさとずらかるだけだ。その為の少数部隊なのだからな」

 

そう言って少将は端末を点ける。

 

「少佐の方がムサイ1隻にザク…S型が4機、こちらがチベ1隻にムサイが1隻。ルナツーの警戒網をすり抜けるならこの位が限界だろう。ここの所また連中の動きが活発化しているからな。MSはラル大尉の小隊にS型が3機、それから艦隊の守備にR型が6機とザクレロを1機都合した。ただ隠密行動のために補給が受けられんから、物資を積んだ都合上予備機はR型が1機だけだ。少佐の方は?」

 

「こちらは予備機がありません。補修パーツのみであります」

 

そう返せば大尉がうなり声を上げた。

 

「相手はMSなのでしょう?予備機が無いのは心もとないですな」

 

そう言う大尉に少将はかぶりを振る。

 

「いや、MS部隊に損害が出ている時点で作戦は失敗だ。その場合は先ほども言った通り即座に撤収する」

 

その言葉にシャアは確認を込めて発言する。

 

「露見した場合、戦力の多寡にかかわらず攻撃は行なわないのですね?」

 

「そうだ。何しろ俺たちはばれた後にもう一度ソロモンまで戻らなくちゃいかん。無理は出来んよ。他に質問が無ければ大まかな予定を決めてしまおう」

 

二人が頷くと、今度はコロニーの見取り図を映し出しながら少将が続ける。

 

「まず、貨物ゲート…ここではA2と書かれたゲートだな、ここからザク6機を送り込む。1機を残してゲートを確保。その後残りの機体でコロニー内を捜索する。俺のプランとしてはこうだ」

 

そう言って少将はザクを2機ずつに分け、港湾区、工業区、そして商業区へ割り振る。

 

「作業機械や部品製造を考えれば最有力候補は港湾区、次いで工業区だろう。最悪こちらに露見しても運び出すのも容易だからな。よってここにそれぞれ2機ずつ、恐らく無いだろうが万一のため残りの1機で商業区と居住区の偵察を行なう」

 

「MSを降りずにやるのですか?」

 

ラル大尉の意見はもっともだとシャアは感じた。潜入であるから、港湾区で全員MSから降りて生身で行なうと自然に考えていたからだ。

 

「隠蔽を考えればそうなるが。ラル大尉、君の部下で専門に生身での潜入訓練を受けた者は?」

 

「…私を含め居りません」

 

「シャア少佐の方も同じだろう?だが確かパイロット課程ではMSの隠蔽については学んでいるはずだな?」

 

その確認にシャアは黙って頷いた。確か4月の終わり頃だっただろうか?地球方面軍からの要請で、MSパイロットの教習課程に遮蔽物やカモフラージュ用の装備を用いたMSの隠蔽、隠匿に関する項目が加わったのだ。宇宙空間という遮蔽物の乏しい環境で戦うことに慣れているMSパイロットはそうした面に疎く、地上で容易に発見され空爆されたためだと聞いた。

まさか既存部隊のパイロットまで再講習になるとは思わなかったが。

 

「つまり降りて半端な知識で隠れるより、最低でも学んだ内容を活かせる状況で、と言う訳ですか。しかしそうなりますと施設に近づくのが骨ですが?」

 

「その辺りも考えてある」

 

そう聞き返す大尉に、悪戯の成功した子供のような顔で少将が答えた。次いで端末に映されたのは見慣れない装備だった。

 

「少将殿、これは?」

 

「偵察型のザクが装備しているカメラ・ガンという装備だ。視認範囲をこちらが手動制御してやる必要はあるが、ザクのモノアイの凡そ5~6倍の解像度がある」

 

問題は施設内に秘匿されていた場合確認出来ないことだが、そんな状況であればまだ生産数は大したことが無いと言う事だし、そもそも今回の人員では施設内への侵入は無理なのだから諦めるしかないと少将は言う。

 

「そうなればもう俺たちの手には負えん。スパイ活動は情報部の領域だからな…ただ、今回の件に総帥やキシリア少将が絡んでこないところを見れば、ドズル中将に一任された事に裏の意味があるんじゃ無いかと俺は思う」

 

「裏の意味…でありますか?」

 

シャアの返事に少将は重々しく頷く。

 

「既にガルマ大佐が連邦製MSのサンプルを確保しているからな。今更少数で潜入して情報収集をする事自体に意味は薄い、だから恐らく中将は我々に敵MSの撃破を望んでおられる」

 

敵の撃破という不穏なキーワードに思わずシャアは大尉と顔を見合わせた。

 

「ここの所宇宙軍は活躍していないからな。ここらで目立った功績が欲しいのだろう。実際最初は俺の艦隊の半数を送るつもりだったらしいしな」

 

少将の言葉にシャアは思い返す。コンスコン少将に話が行ったのは自分の偵察任務が中止になった後だろう。だとすれば本当に最初の命令が撤回された後、大きな心境の変化が起こったという事だ。

 

「だとすれば、今回の派遣で戦わないのは不味いのでは?」

 

大尉の疑問に追認するようにシャアも頷く。少将は先ほど戦力の多寡に関わらず偵察のみで交戦しないと明言したからだ。つまりドズル中将の思惑から外れた行動を取ることになる。

 

「兵の損耗を考慮しないなら戦えるがね。あるいはコロニーごと吹き飛ばすとかな」

 

その言葉に大尉が顔をゆがめる。情に厚く、軍人としてはあまりにも常識人な大尉にはどちらも許容し難い内容なのだから無理はないが。

 

「先ほども少し言ったが、ルナツーの動きが活発化している。だとすればサイド7は囮の可能性だってある。だから偵察はするが、恐らく連中の本命はルナツーだろう」

 

普通に考えれば幾ら自分の裏庭だからといって、満足に戦力を置いていないサイド7で自軍の命運を決める兵器の開発などしないだろうと言うのが少将の意見だ。

 

「しかし、だとしたら情報部が掴んだというV作戦は何なのです?MS開発用の物資も運び込まれていると聞きましたが?」

 

シャアが疑問を口にすれば面白く無さそうに少将は鼻を鳴らした。

 

「ルナリアン達の儲けの種だろう。ここの所我が軍は順調に勝ち進んでいるからな。このまま行けば年内にも戦争は終わる。大方そうならんよう連邦にてこ入れをしているんだろうさ」

 

つまり今回の情報でこちらの戦力をサイド7へ分散させ、消耗させるのが狙いであろうと少将は語る。第一ルナツーには工廠があるのだ。態々月から買い付けなくとも部品の調達が出来る。

 

「戦力が回復したとは言え、宇宙軍のみでルナツー攻略はまだ難しい。連中が戦力を増強しているなら尚更な。だからこんな所で不用意に兵を失う訳にはいかんのだ。特に貴様らのようなエースはな」

 

「…でしたら、潜入部隊に私も参加します。そうすればコロニー内を捜索を全てロッテで行えますから」

 

その言葉に少将は一度頷くと口を開く。

 

「解った、そうしよう。1時間後にブリーフィングを行い、その後1700標準時をもって出撃する。他に何かあるか?」

 

沈黙する二人を見てコンスコン少将はゆっくりと息を吸い太い笑みを作る。

 

「宜しい。では、かかるぞ」




サブタイの双方が出ていない件、酷いタイトル詐欺ですよこれは!
原作に比べコンスコン少将が男前なのは、指導官に選ばれて自身が認められていることを認識できているのと、シャアがほいほい大佐に昇進する前だからです。
有能じゃない人が少将になんてなれませんよね!(フラグ


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第六十二話:0079/09/20 マ・クベ(偽)と大地に立つ-Ⅰ-

いよいよ本編始動です。


「なあ、准将。グフとかもう要らないんじゃないか?」

 

真剣な顔でそう聞いてくるガルマ様に思わず固まってしまう俺。え、いきなりなんぞ?

 

「前々から話したいと思っていたんだ。前回はV作戦の件で言えずじまいだったがね」

 

重力戦線が安定してきている中、発展性に乏しいグフは生産数を絞っていくべきでは無いかという事らしい。

 

「例の機体のロールアウトも間近だろう?いっそグフのパイロットはそちらに移したらどうかと考えている」

 

例の機体というのはゲルググの事だ。正直劣勢になっていないからゲルググはもっと後になるか、最悪生まれてこないかと思っていた。ところがそれどころか一ヶ月近く早くロールアウトする見込みだ。不思議に思ってジオニックの技術者に聞いたら、ゴッグの一件以降3社の業務提携が進んで、結果史実では開発の遅延していたMS-11が順調に完成したらしい。この機体は既に多くの機種が投入されている現状を鑑みて設計されており、特に推進器関係や駆動関係の多くを既存の機体と共有しているのが特徴だ。しかも多くの部品をユニット化しているため、汎用機でありながら、地上・宇宙専用機と同様の構成に短時間で換装出来る。正に戦場の優等生、どっかのちょび髭伍長に見せれば、これだ!これが欲しかったんだ!と叫ぶこと請け合いのMSに仕上がっている。

 

「確かに、アレと入れ替えならばジオニックもそれ程煩くならないでしょう。ただ時期の見極めが重要ですな」

 

何せ地球全土にめっちゃ配備されてるからな、グフ。欧州と東アジアはウチのせいでドムが主力だけど他の地域はグフの方が多い。それにザクだってまだまだ元気に動いている。その点で見ると、補給の多くを宇宙に頼っているオーストラリアやアフリカなんかでは、ザクと部品が共用できるグフの方がゲルググより維持しやすかったりするのだ。

 

「さしあたって北米から順次入れ替え、余剰機体は暫くオーストラリアやアフリカへ回そうと思う。キリマンジャロの戦力化はまだかかりそうだしね」

 

何せ最後に自爆しやがったからなぁ、キリマンジャロ。ノイエン少将が半泣きでユーリ少将に工兵隊貸してくれって頼んでたし。おかげでキリマンジャロでは空前のアッグブームが起きているとかいないとか。

 

「まだ時間はこちらの味方です、焦らずに行きましょう」

 

先日の捕虜交換でレイスの皆も送り込んだしね。上手くいけば向こうのオデッサ作戦より先にジャブロー殴れるかもしれん。俺はこの時、まだそんな感じで悠長に構えていた。そう、正に慢心していたんだ。

 

 

 

 

漆黒の中を光一つ発さずにザクが泳いでいく。サイド7のある宙域はルナツーに近く、そのため頻繁にミノフスキー粒子による電波障害が起きる。それでも可能な限り発見されないよう母艦どころか僚機との無線すら封止されている。加えて発熱を限界まで押さえる為にジェネレーターも最低限まで絞っているため、コックピットの中も暗く、温度は氷点付近まで下がっている。パイロットスーツが無ければ皆凍えているだろう。既に最低限の航行システムのみで1時間。何もやることがない…出来ないコックピットの中でジーン伍長は溜息を吐いた。

 

「ったく、お偉いさんは何を考えているのかね?あんなコロニーさっさと吹き飛ばしちまえば早ええのに」

 

ジーンが不満を漏らすのは退屈なだけでなく、出撃前のブリーフィングの一件も含めてだ。

 

「今回の潜入は以上の通り変則であるがロッテで行なう。ラル大尉にはスレンダー、貴様が付いていけ」

 

そう言い渡され、デニム曹長とシャア少佐がロッテを組む事になる。つまりジーンは退路の確保という名の留守番だ。

 

「冗談じゃねえよ、敵を倒さなきゃ功績も何もあったもんじゃねえ」

 

エースであるシャア少佐の隊に配属されるだけあり、ジーンは新兵ながら腕が立つ方だ。しかし彼は兵士としてはあまりにも視野が狭かった。故に伍長でくすぶっているのだが、本人はそれを功績を挙げるチャンスがなかったからだと思い込んでいた。

陰鬱な環境に置かれ続けると人間はネガティブな方へと思考が偏る。モニターに映る代わり映えの無い宇宙空間、最低限の光源だけのコックピット、誰の声も聞こえず、発する声に返事は無い。否定も肯定も無い中で自らの口から発せられる言葉は、何処か呪詛のように暗くジーンの精神を苛んで行く。

 

「大体、何でスレンダーの野郎が選ばれるんだよ。あのチキンじゃ偵察どころか敵の近くに行っただけで動けなくなるに決まってる。シャア少佐はそんなことも解ってないのかよ?」

 

吐き出される不平不満がとうとうドズル中将にまで行ったところで機体に小さな接触音が響いた。

 

「全機聞こえているな?突入前に最終確認をしておく。何度も言うが今回の作戦目的は偵察だ。敵との交戦は避け情報収集に徹しろ」

 

少佐の物言いに先ほどまでの自身の思考を否定されたように思えて、ジーンは小さく舌打ちした。幸い少佐には聞こえておらず説明を続けている。

 

(やれやれ、この少佐殿は同じ話を何度すれば気が済むのかね?)

 

そう言えば少佐は良く三倍の速度で機体を操ると言われている。事実模擬戦では同じ機体とは思えない速度で動き回っていた。もしかしたらその速度に肉体がついて行けず脳に何か障害が出ているのかもしれない。俺とそう変わらない歳だろうに可哀想に、などと本人に聞かれたら殴られそうな事を考えている内に有り難い説明は終わったらしく、通信終了が告げられモニターに目標のコロニーがしっかりと視認できる位置まで近づいていた。

 

(要するに戦果を上げる。シンプルな理屈だ)

 

そして戦果は目の前に迫っていた。

 

 

 

 

鈍い眠気を感じ、テム・レイは時計を見た。

 

「ああ、こんな時間か…」

 

時刻は既に深夜と言って良い時間であり、部屋に居るのはテムだけだ。固まった肩をほぐすために伸びをすると目の前にマグカップが差し出された。

 

「少し休まれたらどうです?大尉」

 

眉間に皺を寄せながらそう言うのはモスク・ハン博士だ。確か少し前に帰っていたと思ったが。

 

「有り難う博士。だが今が正念場なんだ。おいそれと休んでは居られないよ」

 

「正念場ですか。…大尉、我々の機体は連邦を救えるでしょうか?」

 

各サイドが壊滅し、月面都市やサイド6は中立を表明しているため宇宙の拠点と呼べるのはルナツーのみ。地上も北米に続きハワイ、欧州、東アジア、アフリカが陥落、辛うじてブリテン島とスカンジナビア半島が残っているがこちらも海上封鎖が本格化したことで先行きは暗い。残存している拠点はインド亜大陸、南米、東南アジアと中央ロシア、そしてオーストラリアだが、南米とインド亜大陸以外は単独で拠点を維持できない所まですり減らされている。とても楽観できる状況では無いが、未だに連邦議会も軍も足並みが揃えられていない。不安になるのは無理からぬ事であるが、関わった以上やり遂げて貰わねば困る。

 

「救わねばならん。だから君達にはジャブローへアレと一緒に戻って貰う」

 

アレとは昨日入港した軍の新型艦のことだ。あれを無事にたどり着かせるためにルナツーの戦力の大半を使い派手に陽動を掛けたというのだから宇宙軍の本気具合がうかがえる。ハン博士を含む開発スタッフは一緒にジャブローへ戻らせて新型機の改善に従事して貰う予定だ。

 

「それに悲観しすぎることは無い。確かに我が軍の方が領土は少ないが、生産能力で言えばまだまだ互角だ」

 

開戦初頭のコロニー落としで太平洋沿岸は大きな被害を受けているし、欧州は元々製造拠点を持っていない。唯一ブリテン島が例外だが、あそこはこちらの勢力圏だ。北米の失陥は痛いが、こちらのゲリラやスパイを考えればキャリフォルニア以外で軍需物資の生産は難しいだろう。それらを考慮すればジャブローの生産能力だけでもまだまだやり合えるだけの力がある。何より今回開発した新型機は現存するどの拠点でも生産可能なように設計されている。性能を維持するためジムに比べれば倍以上の高コストになってしまったが、それでもカタログスペックだけはガンダム並みの機体を一割程度の調達価格に抑えたのだから上出来だろう。

 

「既に設計データは各拠点に送っているから、早晩量産が開始される。そうなればこの劣勢も覆るだろう」

 

間違っても容易になどとは言えないが、そう胸中で付け加えながら。

 

「そして戦力が均衡した後、如何に早く次の一手が打てるかが重要だ」

 

そう言って書き上がったデータを保存すると、送信の準備に入る。書き上げたのは高機動化と重火力化の設計案だ。更に入手していたアナハイム製のフィールドモーターの図面データもついでに送付する。

 

「さて、そういう訳で博士はもう寝た方が良い。明日はハードになるからね。コーヒーありがとう」

 

そう言って博士を部屋の外へ送り出すと、テムは再び机へと向かった。




宇宙の話になると主人公が全然絡んできませんね!
ごめんなさい暫くこんな話が続きます。


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第六十三話:0079/09/20 マ・クベ(偽)と大地に立つ-Ⅱ-

今回ちょっと短いです


「やはり、そう簡単には見つからんか」

 

カメラ・ガン越しの映像を確認しつつシャアはそう呟いた。時間は既に深夜でありコロニー内も殆どが闇に閉ざされている。

 

「こちらは空振りかもしれませんな。他の連中は上手くやっているでしょうか?」

 

コロニーに侵入したシャア達は事前の決定通りロッテ3組に分かれ偵察していた。シャアの隊は侵入した港から最も離れているが、一番確率が低いと目されている居住区であったため、僚機のデニム曹長もどちらかと言えば他の隊が気になっているようだった。

 

「ラル大尉はベテランであるし、部下達も同様だ。我々が心配するようなヘマはせんさ」

 

そう言いながらカメラ・ガンを今度は商業区へ向ける。まだ営業している店が幾つかあるのか、居住区に比べれば灯りはあるものの、やはりシャア達が望んでいる物は無さそうだ。

 

「しかし、考えましたな」

 

最低限のAMBACで姿勢を制御しつつデニム曹長が口を開く。コンスコン少将の考えた計画への称賛だ。

 

「コロニーの中央は無重力だから、ここならばコロニーの奥までMSで侵入できる。夜間を狙っていけばほぼ見つからんだろう、コロニー内をレーダー探査していなければな」

 

少将の言葉通り、障害らしい物は一切受けず最深部までたどり着いていた。恐らく他の隊も同じ状況だろう。

 

「だが、目的の物が見つけられんでは徒労だ。何か成果があると良いのだが…」

 

そう言って今一度索敵をしようとしたところで、遠方で何かが瞬いた。続いてセンサーが僅かに届いた空気の振動を検知する。それは、兵士には見慣れたものだが、ここではあってはならないものだった。

 

「爆発!?」

 

「しくじったのか!?」

 

最悪の状況を想定して姿勢を変えつつ手にしたカメラ・ガンを発光のあった方向へ向ける。瞬きは断続的に起こっており、それが攻撃であろう事は間違い無い。

 

「港湾区!?アコース少尉とコズン少尉が見つかったのか!?デニム曹長、残念だが作戦は失敗だ。戻るぞ!」

 

最早隠れる必要は無いとシャアはバーニアを吹かす。一拍遅れてデニム曹長の機体も了解の声と共に加速を始めた。大気をものともせずに来た行程の十分の一以下の時間で駆け抜ければ、問題の元凶が眼前に映った。

 

「ジーン伍長!何をしている!!」

 

港湾区に向けて攻撃を行なっていたのは、潜入した二人では無く退路を確保していたはずのジーン伍長のザクⅡだった。

 

「敵です少佐ァ!奴らのMSです!」

 

その言葉に釣られて射線の先へ目を向ければ、確かに人型であったであろう残骸が転がっていた。だが、それよりもシャアの頭の中では別の問題が警鐘を鳴らしていた。

あの機体はどれも搬入用のトレーラーに寝かされていて、ここは港湾区だ。そこから導き出される答えに背筋が粟立つ。

 

「止せジーン!作戦は失敗だ!味方と合流し撤退するぞ!」

 

思考にとらわれている一瞬の間に、ジーンの機体を取り押さえようとデニム曹長が接近する。

 

「何を言ってるんです!ここで見逃せば連中はつけあがる!アースノイド共にはMSは過ぎた玩具…」

 

「っ!避けろデニム!」

 

シャアの言葉にデニム曹長が反応できたのは奇跡に近かった。咄嗟に飛び退いたその装甲を掠めるように赤熱した光条が地面をえぐる。だが、それはデニム機を狙ったものでは無く、考え無しに足を止めて射撃を行なっていた、もう一機のザクから逸れたものだった。

数発の光条にコックピットを貫かれたジーンのザクが搭乗者の言葉が終わるより早く脱力し、バックパックの推進剤が誘爆し上半身を吹き飛ばした。

 

「ジ、ジーン!?」

 

唐突な仲間の死に混乱したデニム曹長が動きを止める。そしてそれは彼の人生を終わらせるのに十分な時間だった。

 

「デニム!動けデニム!!」

 

敵が居るであろう辺りへ向けて射撃を行ないつつシャアが叫ぶが、奇跡に二度は無い。先ほどより数は減ったが、それでも数条の光に貫かれたデニムのザクが、ジーン機の後を追うように爆発した。

 

「…やってくれる!」

 

そしてシャアが敵を眼前に捉えた頃、他の隊もまた危機的状況にあった。

 

 

「クソ!冗談じゃねえぞ!?」

 

最後のマガジンに取り替えながらコズン少尉が毒づく。偵察初期の段階で船舶用ベイに何か進入していることを確認した二人は、より正確に情報を得るべくベイに進入したのだが、それが敵の新造艦である事を確認した矢先に戦闘が始まってしまった。そして当然ながら戦闘が始まると敵が索敵を行なったために潜伏していた二人もあっさりと見つかってしまい、濃密な防御砲火に晒されている。逃げようにも艦内に収容されていたMSが展開し包囲してきているため迂闊に動けば蜂の巣だ。

 

「…こりゃ、覚悟を決めるしか無いかね?」

 

ミノフスキー粒子が散布されていないため、使えている通信機からアコース少尉の声が聞こえた。

 

「バカ言うな」

 

傍受されることを警戒して短く返事をする。投降して捕虜になるにせよ、ここで死ぬにせよ、せめて大尉が離脱するまでの時間は稼がねばならない。それにもしかすれば他の隊が救援に来てくれるかもしれない。そう考えていた矢先、外から爆発音が響く。どうやらまだ運は尽きていないようだ。

 

 

「爆発!?た、大尉殿、どうすれば…」

 

「狼狽えるな軍曹。作戦は失敗だ。貴様は全速で進入口へ戻って退路を確保しろ」

 

爆発した地点から即座に状況を察したランバ・ラルは僚機のスレンダー軍曹にそう指示する。コズン少尉は好戦的ではあるが、潜入作戦で不用意に攻撃するようなバカではない。同行しているアコース少尉が慎重な性格であるし、間違い無くあの攻撃は退路確保のために残してきた伍長だろう。

 

「た、大尉はどうされるのでありますか?」

 

一人で戻らされるのが不安なのかそんなことを聞いてくる軍曹に兵の質の低下を感じながら答えてやる。

 

「工業区画でひと暴れして陽動をかける。心配するな、進入口にまだ敵は気付いていないから安全なはずだ。だがお前さんの働きが俺たちの命綱だ、頼むぞ」

 

「っ!了解しました!」

 

そう応えて元来た方向へ加速していくザクを見送ると、ランバは慎重に機体を降下させる。

 

「120ミリを持ってくれば良かったな」

 

90ミリは初速と貫通力に優れる一方、遠距離での速度減衰が激しく長距離射撃に向かない上、弾頭の炸薬量も少ないため固定目標の破壊活動には向かないからだ。最も今回は偵察の筈だったのでそれで十分だったのだが。

 

「まあコイツならコロニーの壁に穴は開くまい。恨んでくれるなよ?戦争だからな」

 

そう言うとランバは敢えて速度を殺しきらずに着地する。派手に巻き上がった埃と飛び散った瓦礫の中でゆっくり立ち上がりながら手近な倉庫へ発砲すると、近くに設置されていたタンクが可燃物であったのか派手に誘爆し辺りをオレンジ色に染め上げた。

 

「さて、上手くいくと良いが」




ちなみにジーンが撃っていたのは分隊支援火器として配備されている120ミリのヘビーバレルモデルです。威力も弾速も優秀ですが宇宙で連射するには反動がでかくて不便という脳内設定です。


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第六十四話:0079/09/20 マ・クベ(偽)と大地に立つ-Ⅲ-

ジーン大人気ですね。もっと活躍させてあげたかった(棒)


突然の襲撃に連邦軍の指揮所は正しく蜂の巣を突いたような騒ぎだった。深夜であったことに加え、襲撃が指揮所にほど近い港湾区の集積所であったことも災いし、極秘裏に配備していた武装車両の大半を初撃で喪失してしまったのだ。

 

「お忙しい所失礼します、大尉。シェルターへご避難ください」

 

「解っている。だがせめてここの資料は破棄できるように準備させてくれ」

 

「は?いえ、大尉。既に迎撃部隊が出ております。そのようなことは…」

 

「迎撃部隊が負けたらどうする?敵の規模は?今居るだけだと考えた根拠は?軍人ならば君も最悪も想定して行動したまえ」

 

苛立たしくまくし立ててから相手を見ると、そこには年若い少尉が困惑した顔で立っていた。

 

「いや、すまんな。少し冷静さを欠いていた。それで悪いのだが人手が欲しい。手伝ってはくれないかね、少尉」

 

「あ、は、はい。お手伝いします!」

 

そう言って手近な資料を纏めて鞄に放り込む少尉を見て、テムは暗鬱とした気持ちになる。英国系の顔立ちの少尉は年の頃20と言ったところだろう。テムの息子とそう変らない年齢だ。そんな少年と言っても良いような者まで戦場に駆り出さねばならぬほど連邦は追い詰められているという事か。

そんなことを考えている間に、今一度大きな爆発が起こり、さらに数分後には慌ただしく廊下を兵士達が行き来を始めた。

 

「…状況が変ったか?君!」

 

「は?はい!大尉殿、何でありましょう!?」

 

走っていた下士官を呼び止めて事情を聞くと、襲撃してきたザクをMS部隊が2機撃破したものの残りの3機に翻弄されており1機が大破、更に工業区画に新たなザクが現れ破壊活動をしているとのことだった。

 

「工業区画だと!?」

 

「た、大尉?」

 

「…すまん少尉。やらねばならんことが出来た。シェルターへは行けない」

 

「そんな!」

 

「それより誰かパイロットを連れてきてくれ。私は工業区へ行かねばならん」

 

工業区にはMS増産のために製造設備を増設しており、製造中の部品どころか、製造用の設計データがそっくり残っている。プロテクトは掛けてあるが、最悪MSならば設備ごと奪っていくことだって出来てしまう。

 

「多機能CAMが仇になったな」

 

苦い表情になりながらテムは駐車スペースへ急ぐ。流石に全ての部品のデータを入力した装置は無いはずだが、それでも材料選定用のマテリアルデータや入力済みの部品からこちらの機体性能を類推するのは難しくない。

 

「それに、あそこにはあれがある」

 

データ収集後上層部の興味が新型に移ったために放置され、倉庫で置物になっているはずのガンダムが。

 

「流石に無傷で渡す訳にはいかん」

 

「大尉!こちらです!大尉!」

 

駐車場に着けば、野戦服を着た下士官が手を振って呼んでくれた。

 

「助かる。曹長、しかしもう少し良い車があれば良かったが」

 

「装甲車はみんな出払っていますよ。MS相手じゃコイツでも大差ありません」

 

そう言ってボンネットを叩かれた車両は市内でもよく見かけるエレカを軍用にリペイントしただけのものだ。

 

「確かにな。…後はパイロットだが」

 

「遅くなりました!」

 

そう言って駆け寄ってきたのは見慣れない顔の兵長だった。

 

「君がパイロットか?兵長」

 

「はい、大尉殿。ダニエル・シェーンベルク兵長であります。大尉の下へ向かうよう指示を受けました!」

 

先ほどの少尉より更に年若い兵長を見て、不安からつい口を開く。

 

「他の者は?戦闘中か?」

 

「はい、いいえ大尉殿。初撃で兵舎が攻撃を受けたため、現在安否確認中であります」

 

安否確認、などと言ったが絶望的なのだろう。握りしめられた拳が震えているのを見てテムは自らの失言に気付く。

 

「っ!そうか、すまん。兵長、RX-78…ああ、ガンダムの操縦経験は?」

 

乗車を促しながらそう聞けば、兵長は眉間に皺を寄せた。

 

「はい、いいえ大尉殿。自分は後発組でしたのでジムの操縦経験しかありません」

 

「だろうな、悪いが目的地に着くまでに出来る限り頭に入れておいてくれ。基本的にジムと変らんが幾つかレイアウトが違うものがある」

 

特にジムではオミットされた為にコアファイターと共用化されていたペダルやスティックの位置が変っている点に注意するよう言いながらガンダムの操縦マニュアルを手渡す。

 

「では、行きます」

 

そう曹長が告げると車は蹴飛ばされたように加速し工業区へと走り出した。

 

「間に合ってくれよ…」

 

科学者として恥じ入る事かもしれないが、この時ばかりはテムは神に祈らざるをえなかった。

 

 

 

 

「そろそろ限界か」

 

コックピット内に響くアラームを聞き、ランバはそう呟いた。アラームは日の出2時間前を知らせるもので、本来ならこれを合図に全機が帰投する予定だったのだが。

 

「さて、あの怖がり軍曹がちゃんと確保出来ていれば良いが」

 

そう言いながら果敢にミサイルを撃ってきたバギーへ向けて容赦なく射撃を加える。カメラを向ければ未だに港湾区の方は断続的に発光が確認出来た。

 

「せめて一機くらい釣れるかと思ったが。上手くいかんものだな」

 

かなりの数の装甲車は破壊したが、本命であるMSは遂に現れなかった。これならば自分も向こうに加勢するべきだったかと悔やんだが後の祭りである。

 

「だが、成果もあった。コイツは良い土産になる」

 

破壊した工場の一部にあったCAMシステムを腕に抱えさせてランバはそう笑う。同じく破壊した倉庫に積まれていた部品からしても、コイツが連邦のMSを製造していたのは間違い無いだろう。これを持ち帰れば連中のMSを丸裸に出来るかもしれない。

支援出来なかっただけの価値はあったと確信しランバは機体を港湾区へ向ける。さて、ここからだとジャンプを含めても20分は掛かる。出来るだけ急がなければと考えたところで、不意の振動をランバの機体が拾った。

 

「爆発ではない?何だ?」

 

怪訝に思い振動の方向へ機体を向け直す。そこには爆発の煽りを受けて半壊した倉庫があった。

 

「センサーはダメか。ならば」

 

周囲の炎や爆発でサーマルも音響センサーも当てにならないため、ランバは最も簡単な確認手段として、倉庫へマシンガンを叩き込んだ。特に何の反応も返ってこないことに安堵しつつ、ランバは自分も少しナーバスになっていると考え、大きく息を吐くべく口を開いた瞬間、それは轟音と共に飛び出した。

 

「なんだと!?」

 

飛び出してきたのはブリーフィングで確認した連邦製MS、その指揮官用とおぼしき機体だった。データとは違い炎に照らされる装甲はくすんだグレーで統一されており、何処か無機質で冷たい雰囲気をまとっている。そしてその手に握られているものが自身に向けられていると自覚した瞬間、ランバは考えるより早くフットペダルを蹴りつけていた。

連邦は既にMSに搭載可能なビーム兵器を完成させていて、その威力は艦砲と同等である。

技術部の報告を思い出しながら、ランバは敢えて片足を倉庫へ引っかけて転ぶように建物の陰へ機体を滑り込ませた。しかしそれは失策である事をすぐに知ることとなる。倉庫を貫いた光条がザクの左腕を吹き飛ばしたからだ。報告通りの性能にランバは戦慄しながらも強引に機体を立て直し、着地寸前の敵機に対し90ミリをありったけ叩き込む。

 

「馬鹿な!直撃の筈だ!?」

 

左腕の喪失でバランサーに悪影響が出ているのか弾はややばらけたとは言え十発以上が確実に着弾したにもかかわらず、グレーのMSは平然と姿勢を正しこちらへ銃口を向けてきた。

ランバは舌打ちをしつつ銃口が向ききるより早く機体を後ろへとジャンプさせた。途中こまめにアポジモーターを吹かせて動きが直線的にならないよう細心の注意を払う。既に彼の中では、この機体を如何に打倒するかでは無く、どのようにして逃げ延びるかに思考は切り替わっている。スラスターによるジャンプが頂点にさしかかった時、赤熱したビームがランバのザクを掠めた。

 

「な!?コロニーの中だぞ!?」

 

自機に向けて躊躇いなく放たれたビームに思わずランバは叫んでしまう。自分たちが戦端を開いてしまったこととは言え、艦砲並みの威力を持つ兵器を躊躇いなくコロニー内で使用する連邦軍の行動に決して解り合えない思考の隔たりを感じ、そして今までの己は何だったのだと言う後悔の念が胸に湧き上がる。ランバは武人としても自尊心はあれどリアリストだ。故にダイクン派が失脚しようと、旧友にザビ家の狗と蔑まれても、最後にスペースノイドの独立が勝ち取れるならば、それを飲み込むつもりだった。あの一方的な、虐殺と言っても過言でない戦闘に、軍民を問わないコロニーへの攻撃を行なった一週間戦争までは。あの時コロニーを懸命に守ろうとする連邦軍をなぎ倒し、コロニーへ核を撃ち込む味方を見た瞬間、自身の中にあったほんの僅かな正義が完全に打ち砕かれた。だから自分はこの戦争から降りたのだ。不幸だったのは戦う以外の飯の食い方を知らなかったことと、自身が思っている以上に名が轟いていたこと、そしてドズル中将がそんな自分でも未だに手元に置いておきたいと考えていたことだ。それに何より自分に付いてこんな地獄まで来てしまった部下達の事がある。アコースは先日二人目の子供が出来たばかりだ。コズンには年老いた母がいる。クランプの妹は先端医療を受けなければ生きていくことが難しい。他にも色々と訳ありの連中がランバの部下には多くいる。そいつらはとてもでは無いが尉官や下士官の退役年金では食っていけない。今回の任務を受けたのは、偵察という直接手を下さないですむ内容であったのと、自身が上手くやれば民間への被害も抑えられるという自負からだった。

 

「引くも地獄、進むも地獄…か」

 

周囲への被害を全く考慮していない先ほどの攻撃で、ランバは痛いほど痛感してしまった。結局の所、連邦もスペースノイドを守っていた訳ではないのだ。コロニーを守っていたのも、敵に奪われまいとしてであり、スペースノイドの生命や財産を守るべく我々の前に立ち塞がったのでは無い。

だとしたならばこの戦争の正義などは無く、あるのは己の道理を通すという意地の張り合いだ。そして、連邦の道理が通った先にスペースノイドの独立は恐らく存在しないだろう。

 

「どうせ落ちる地獄ならば、せめて独立の一つも貰わねば割に合わん」

 

撃ち切ったマシンガンを投げ捨て少しでも機体を軽くする。グレーのMSは工業区を確保するのが狙いだったのだろう。二度目のジャンプをした時には追撃も射撃も行なわず、ただこちらを見送っていた。

 

「覚えておけよ。この借り、必ず返させて貰う」

 

その為に今はまずソロモンへ生きて帰ること。その為にはあらゆる手段をとる覚悟をしつつ、ランバは機体を港湾区へと走らせた。




ダニエル兵長の名誉のために書きますと、ここで使用されているビーム兵器は改良型のスプレーガンです。なので上空へ向けて射撃しても反対側に到達する前に拡散してしまいます。前話での射撃も同様ですからコロニーに被害は出ていません(ちょっと地面が削れましたが)。
ラルさんはこの事を知らないので以前鹵獲したガンダムのビームライフルで撃たれていると考えていたため、作中のような発言をしています。


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第六十五話:0079/09/20 マ・クベ(偽)と大地に立つ-Ⅳ-

今月分です。


「逃げた…いや、無理をせず引いたと言うべきか」

 

倉庫に駆け込み機体を起動させたとほぼ同時に砲弾を撃ち込まれた時はもうダメかと思ったが、終わってみればほぼ満点に近い結果だ。生産施設は損壊してしまったが、データが残っているから復旧は可能だし、2機あったガンダムも両方無事だ。コマンドの存在を警戒していた曹長も安堵の溜息を吐きながら銃を下ろす。

 

「ご苦労だった、兵長怪我は無いか?」

 

『はっはい、大尉殿。機体も自分も問題ありません…その、凄いですね、ガンダムは!』

 

「ああ、有り難う。すまないがそのまま警戒を頼む」

 

興奮した口調で返ってくる了解の返事にテムも漸く大きく息を吐いた。

ジムの演習で得られたデータを基にガンダムの学習コンピュータもアップデートを続けておいて正解だったと人知れず冷や汗を拭いながら、その実今回は運が良かっただけであるとも感じていた。何故なら相手はマシンガンのみの軽装で、その上CAMシステムを強奪しようとしていたために格闘戦に入る前に機体を損傷させていたからだ。

機体の動作からしてあのザクを動かしていたパイロットはかなりMSの操縦に長けた者だろう。仮に白兵用の装備を持っていてそのつもりがあればダニエル兵長の技量と今のガンダムでは撃破されていてもおかしくなかった。

 

「大尉、港湾区の指揮所からです」

 

そう言って曹長が通信機を渡してくる。どうやら敵はミノフスキー粒子を散布していなかったらしく、おかげで通信はクリアーだ。

 

『大尉、無事か?そちらの状況は?』

 

連絡をしてきたのは何故か入港していたペガサス級、ホワイトベースの艦長であるパオロ中佐だった。

 

「はい、中佐。工業区に侵入しましたザクは1機でありました、緊急措置としてガンダム3号機を起動、迎撃に当たらせました。設備の奪取は阻止しましたが敵機は逃走、詳細は不明ですが生産設備も被害を受けております」

 

『こちらは、サイド7守備隊を指揮していたディエゴ少佐が戦死したため臨時で指揮を預かっている。港湾区に侵入したザクは恐らく5機、4機は撃墜したが一機には逃げられた、こちらも詳細はまだ不明だが、積み込み済みだった第一、第二小隊のジムの内2機が大破、第三、第四小隊の機体は恐らく全機大破だろうとのことだ』

 

つまり少なくとも2機のザクが撤退に成功したと言うことだ。この事実にテムの思考は激しい警鐘を鳴らしていた。

 

「中佐、出来ればパイロットを一人寄こして欲しいのですが」

 

『残念だがそれは無理だ、大尉。正規のパイロットは全員警戒中か治療中、候補生の方はそこのダニエル兵長以外安否不明だ。寝ていた兵舎に敵の攻撃が直撃してな…運が悪かったとしか言えん』

 

「では、現場判断で民間人の徴発をご許可頂けませんか?」

 

『待て、待ってくれ大尉。一体何を焦っている?』

 

熟練の中佐とは思えない発言に舌打ちをしかけ、懸命に自制する。

 

「敵は既にこちらの戦力を確認したのですよ?もう一度コロニー内で仕掛けられたら次は守れません」

 

ベイに停泊している艦船などMSの格好の的だろう。

 

『だが敵は既に4機のザクを失っているのだぞ?』

 

「お尋ねしますがその内バズーカあるいはグレネードを装備した機体は何機おりましたか?」

 

『確認出来ているのは最初の1機だけだ』

 

「こちらに来たザクもマシンガンのみの軽装でした。その上で攻撃を仕掛けてきたという事は間違い無く威力偵察でしょう。むしろ本番はこれからだと」

 

その言葉に押し黙ってしまう中佐、一秒でも惜しいテムはダメ押しの一言を放つ。

 

「連中はコロニーに核を撃つ輩です。このままではコロニーごと吹き飛ばされかねません。中佐!」

 

無論南極条約はある。だがMSは核で動いているのだ。不幸な事故は起きないと言い切れないし、それを上手く言い訳にすることだって出来る。何せ敵にも味方にもMSはたっぷりとあるのだから。

 

『解った。すぐに出港の準備に入る、それと民間人の避難指示だ、現時刻をもってサイド7の生産拠点並びに軍施設を放棄する。大尉、そちらは任せるがくれぐれも無茶はするなよ?』

 

「はっ!了解しました!」

 

こちらの返事とほぼ同時に通信が切れる。何せ1日以上繰り上げての出港だ。クルーには負担を掛けることになるが死ぬよりはマシだと諦めて貰うほかあるまい。

 

「ダニエル兵長!すまないが2号機を倉庫から運び出してくれ!それからなるべく無事なコンテナをトレーラーへ!曹長、何度も悪いが今度は居住区へ向かってくれないか?」

 

「はい、大尉。しかし居住区でどうなさるのです?」

 

「私の住んでいる地区にはここの労働者もそれなりに居るから、トレーラーの運転手くらい見つけられるだろう…それと、足りないパイロットのアテがあってね」

 

そう言えば曹長は眉間に皺を寄せた。軍事機密であるMSのパイロットをどうして民間人から確保出来るのかという顔だ。もしテムも普通の軍人で、良識のある親であるのならそんな選択肢は浮かびもしなかっただろう。だが彼はとうの昔にそうしたものを捨てていた。

 

「何処にでもどうしようも無い悪ガキというのはいるものさ…例えば、親のPCを勝手に覗く馬鹿息子とかね」

 

「た、大尉まさか…」

 

「さあ、時間が無い。向かってくれ、曹長」

 

 

 

 

「おーい、アムロォ。誰か来たぞぉ?」

 

乱雑なノックと眠気の混ざった声に起こされたアムロは時計を見て溜息を吐く。時間は朝6時、今日が休日と言うこともあって昨夜は友人達と遅くまでゲームで遊んでいたのだ。ちなみに声を掛けているのはそのままリビングで寝ていたカイさんだろう。一月程前にコンボイレーサーの試合だかなんだかで怪我をしたメカニックの代理として呼び出されて以来、何が気に入ったのか良く家に遊びに来るようになったのだ。ちなみに真面目で付き合いの良い近所のハヤトもよく巻き込まれて遊んでいる。

 

「どうせフラウですよ、カイさん出といて下さい」

 

そう言って毛布を被り直すが、カイは食い下がってくる。

 

「いやぁ、どうも委員長ちゃんじゃねえみたい…だぜ?」

 

おびえを含んだカイの声を不審に思い、目をこすりながらドアを空ければそこには何故か武装した連邦兵に銃を突きつけられているカイの姿があった。

 

「な、何ですか貴方は!?」

 

「…アムロ・レイ君だね?私は連邦宇宙軍第4軍サイド7守備隊隷下第38パトロール小隊のリュウジ・サカタ曹長だ。君のお父さんであるレイ大尉より君を連れて来るよう頼まれたんだが…彼は?」

 

「へへ…あ、アムロ君のご学友のカイ・シデンです、はい」

 

卑屈に笑いながらそう告げるカイを一瞥した後視線で確認してくる曹長に肯定を告げると、曹長はゆっくりと銃を下ろし安全装置を掛けた。

 

「解った。カイ君だったね?すまないが君にも来て貰う…他にこの家に良く来る友人は居るのかな?」

 

何と答えるべきか迷っている内に事態は更に転じていく。玄関のチャイムが鳴り、若い男女が言い争う声が響いてきたからだ。こちらが何かを言う前に玄関へ向かってしまう曹長をカイと二人頭を押さえながら見送ること僅か2分。小柄な少年と勝ち気な少女が曹長に連れられてアムロ達の前に立たされていた。

 

「彼らは?」

 

「隣に住んでいるボウさんと近所に住んでいるコバヤシ君です」

 

結局都合の良い言い訳など思いつくはずも無く苦し紛れに最低限の内容を伝えると、曹長は肩をすくめた後、まるで世間話をするようにフラウとハヤトへ話し始める。

 

「怖がらせてすまないね、実はアムロ君をお父さんのレイ大尉から連れてくるように頼まれてね、ほら、今朝方騒ぎがあっただろう?」

 

「ええと、工業区で事故があったって、あと港湾区でしたっけ?」

 

「うん、それでちょっと荷物を届けて欲しいらしくてね、アムロ君に聞けば解るそうなんだが…」

 

「どんなものでしょう?私良くこの家の掃除をしてますから解るかもしれません」

 

「ちょっと!フラウ・ボウ!」

 

アムロとカイの雰囲気から何かを悟ったハヤトがそう割って入るが、その時には曹長は元の軍人の顔に戻っていた。

 

「…どうも君達にも来て貰わなければならないみたいだ。ハヤト君だったかな?君も彼らとやっていたんだろう?アレを」

 

射貫くような曹長の視線にハヤトが首をすくめる。アレ、という言葉に心当たりがあるからだ。

 

「待って下さい!誘ったのは僕です!彼らは関係ないでしょう!?」

 

慌てて止めようとするが、返ってきたのは冷たい返事だった。

 

「軍事機密を覗いた挙句、それを私的に使用していて無関係は難しいと思わないかい?むしろ関係ないなら彼らは拘束しなければならないんだが?」

 

「そ、そんな重要なものだなんて知らなくて!」

 

「普段から立ち入りを禁止されているロックのかかった部屋に侵入し、プロテクトされているPCの中身を引きずり出しておいてその言い草は厳しいんじゃないか?悪いが諦めて貰う。こちらとしても手荒なことはしたくない」

 

その最後通牒に言い訳など出来るはずも無く、アムロ達は曹長と父であるテム・レイのもとへ向かうのであった。




何時からテムが無事ならアムロはガンダムに乗らないと錯覚していた?


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第六十六話:0079/09/20 マ・クベ(偽)と大地に立つ-Ⅴ-

イベントです。
つまり筆が進む(人これを現実逃避という)


アムロ達の連れて行かれた先は、未だ煙の燻る工業区だった。大音量でゲームをやっていたアムロとカイは知らなかったが、昨夜自宅での待機命令がサイド7行政区から出ていたそうだ。もっとも、実情が全く異なることを残された弾痕や、起立するグレーのMSから察した。

 

「ええ、ええはい。お嬢さんの安全は間違い無く私が保証します。お二人もなるべく早くシェルターへ、いえ、簡易のものでは無く災害用の方へ…」

 

「とう…親父!」

 

何やら話しながら近づいてくるテムに対してアムロはつい声を上げてしまう。その声に気付いたテムが複雑な表情で近づいてきた。

 

「アムロ、お前が私のPCで何をしていたかは大凡知っている。だから私は今からお前に親としてでは無く、軍人として接する。アムロ・レイ、君は軍の秘匿していた情報を私的に閲覧、利用していた。本来であればスパイ容疑で拘禁となるのだが、軍には君と取引をする用意がある」

 

「と、父さん!?」

 

「良いから聞け!お前が軍属として今後連邦軍に参加し、責務を果たせばこの件については不問になる。そこの友人二人も同じだ。どうするね?」

 

「あ、あのー。アムロのお父さん?その、責務って…」

 

おずおずと手を挙げながらそう聞くハヤトにテムが黙ってMSを指さした。つまり、自分たちにアレに乗れと言っているんだろう。何しろアムロ達はテムのPCに残っていたMSのシミュレーターをリアルなゲームとして玩具にしていたからだ。

 

「無茶だ!僕らは子供だよ!?MSなんて操縦できる訳が無いじゃないか!」

 

そう言えば顔を強ばらせたテムが突然胸ぐらを掴み、頬を張ってきた。記憶にある限り初めて父に手を上げられた事への混乱や、自身に起きたことへの理不尽に混乱しながら涙目でにらみ返せば、そこには怒気を発した父の顔があった。

 

「良いかアムロ、私は出来るかどうかなど聞いていない。乗るか、捕まるか選べと言っている。解らなければいい、お前を拘禁するだけだ」

 

そう言って控えていたサカタ曹長を呼ぼうとする前に成り行きを見ていたカイが声を発した。

 

「お、俺、軍に入る!入ります!」

 

「カイさん!?」

 

思わず叫んだアムロにカイは涙目で応える。

 

「軍で拘禁されるって何年だ?一年?二年か?犯罪者になったら学校は退学だし、シャバに出たら前科者のジュニアハイなんて働く場所だってねえ!な、なら軍人になった方がまだマシだ!」

 

「戦争なんですよ!?死ぬかもしれないんですよ!?」

 

悲鳴のような声音で反論するが、今度は隣から静かに紡がれた言葉に制される。

 

「ぼ、僕も入ります!」

 

「ハヤト!?」

 

「僕が犯罪者になったら、父さん達にも迷惑がかかる。そ、それは出来ない」

 

拳を振るわせながら俯く友人を見て、アムロはもう一度テムを睨み付けた。

 

「解った、解ったよ!乗るよ僕が乗る!だから二人は良いだろう!?」

 

だが返ってきたのは無慈悲な言葉だった。

 

「残念だがアレを見ている以上二人をそのまま帰す訳にはいかん。だが、お前が頑張れば後方任務に就けるくらいは出来るかもしれん」

 

どうせ員数外の人間だしな、などとテムは耳元で付け足す。その言葉に思わず奥歯を噛みしめるが、残念ながらアムロに選択の余地は無かった。

 

「…解ったよ。それで何をすれば良いの?」

 

「助かる。まずは2号機…あっちのトレーラーに積んである青い機体だ、アレを立ち上げてくれ。その後はダニエル兵長の指示に従え、私はまだやらねばならんことがある。曹長!」

 

そう言って持っていたファイルを押しつけてくると、親父は周囲を警戒していたサカタ曹長に声を掛けた。

 

「すまんがそこの二人の面倒を頼む、適当に雑用をさせて構わん」

 

「了解しました!二人ともこっちだ。運び出さなきゃならんファイルが山ほどあるぞ!」

 

呼ばれて慌てて走って行く二人の背中から視線を移してファイルを開く。あのシミュレーターでは大凡ザクの倍程度の性能に設定されていたが、そこに書かれている数値はそれらを圧倒的に凌駕していた。

 

「すごい…親父が夢中になるわけだ…」

 

『アムロ君だったね?悪いが早めに手伝って欲しいんだが』

 

渡されたマニュアルを読み込んでいると、ダニエル兵長が申し訳なさそうにそう言ってきた。

 

「あ、はい。すみません!」

 

やっぱり親子だな、という呟きに見送られながら教えられたトレーラーへ向かうと、そこにはカラフルに塗装されたダニエル兵長の機体と同じMSが載せられていた。既に開いていたコックピットへ潜り込み、コックピットの中を見回す。レイアウトなどはPCにあったシミュレーターとほぼ同じであったため淀みなく起動できた。

 

「凄い、動きが滑らかだ。それにトルクも…」

 

搭載されている推進剤やジェネレーターのエネルギー容量に至ってはザクの5倍近くある。これなら補給なしでも1~2ヶ月は動けるだろう。

 

『起動できたみたいだな。大したもんだ、俺たちだって下手な奴なら3分はかかるんだが』

 

「あ、いえ、その…有り難うございます?」

 

『そんなに畏まるなよ。今からお前さんも戦友なんだ、よろしく頼むぜ…といっても、俺は臨時だから、この任務が終わった後はコイツに乗れるか解らんのだけどな』

 

そう言って笑うダニエル兵長にアムロは緊張感が薄れるのを感じた。軍人と言えば父かその近くに居た人間しか見ていなかったアムロにとって、高圧的でも威圧するでも無い軍人というのは酷く新鮮に見えた。

 

「あの、僕は何をしたら?」

 

『ああ、取り敢えずトレーラーに物資を積んでくれ、壊れていないコンテナがあるだろ?それを片っ端から積めばいい』

 

「解りました、やってみます」

 

慎重にペダルを踏み機体を前へ進める。そう言えば親父は何をしているのだろう?

 

 

 

 

「我々を見捨てるのですか!?」

 

行政区から来た事務官がパオロへ食って掛かるのを左右に居た警備兵が慌てて止める。彼の言いたいことも解るしパオロとしても何とかしたい思いはあるが、現実問題としてホワイトベースの収容能力でサイド7の住人全てを避難させるのは現実的では無い。仮に積み荷を全て放棄したとしても乗れて1万人が精々だろう。当然食料も施設も整っていない状況でそんなことをすれば悲惨な航海になることは火を見るより明らかだ。

 

「そうは言っておりません。直ぐにルナツーから支援が来ます」

 

「地球に逃げられないのですか?我々は今現在も連邦へ忠節を果たしているというのに、この扱いはあんまりではないですか!」

 

「無茶を言わないで頂きたい。500万近い人間を運ぶなどこの艦にはとても出来ません。先ほども申し上げたがルナツーから迎えの艦が来ます。それで月かサイド6へ避難するのが現実的です」

 

その言葉に事務官は苦虫をかみ潰した顔になり、俯きながら声を絞りだす。

 

「…せめて迎えの船が来るまで留まって頂く訳にはいきませんか?」

 

それで座してジオンになぶり殺しにされろというのか?その言葉が喉まで出かかるが、理性で押しとどめる。

 

「残念に思います。しかし今の我々にジオンを止める力が無い以上、ここに残っていても意味がありません。それにまだ時間はあるのです、出来る限りの私財を持ち出せるよう取り計らいます。どうかご容赦願いたい」

 

パオロの言葉に事務官は力なく笑うとゆっくりと踵を返した。その落ち込んだ背中にどう声を掛けるか迷っている間に、事務官は扉にたどり着き、振り返りながら口を開く。

 

「…連邦軍は、連邦市民の生命と財産を守るべく存在しているらしいですな。どうやら我々は連邦市民では無いようだ」

 

パオロが返事をする前に事務官は扉をくぐってしまう。何も言葉を返せずパオロは大きく溜息を吐くと、背もたれへ身を預けた。

 

「何のための連邦軍、否定出来んな」

 

守るべき国民を守れず、どころか彼らを置いて自分たちは逃げ出すのだ。無論それが任務である事は理解できている。だが、理解と納得は別の問題だ。

 

「中佐…」

 

「すまんな、年寄りのセンチメンタルだ。物資の搬入状況と兵の収容はどうなっている?」

 

パオロの言葉に顔を歪ませる真面目な少尉に詫びながら確認する。

 

「はい、中佐。港湾区に残っていました無事なMSのパーツは全て搬入が終わりました。残念ながら積み込み準備中であった6機は全て大破とのことです。兵士については緊急処置の必要な者は全員行政区にある中央病院へ搬送済みです。しかし負傷者が多く衛生兵のみでは対応出来ないため、現在行政区より派遣されております医療スタッフを加えて基地内に野戦病院を設置、治療に当たっています」

 

「無事な人員はどの程度かね?」

 

「ホワイトベースのクルーについては艦内待機であったため、ほぼ被害は出ておりません。パイロットについては、第三小隊メンバー全員の死亡が確認されました。第四小隊は全員の生存が確認されております。候補生は3名が生存を確認、14名が戦死、8名がMIAです。…基地守備隊に関してはまだ詳細が上がってきていませんが、大凡6割が戦死あるいはMIAとのことです」

 

目を覆いたくなるとは正にこの事だとパオロは思わず唸ってしまう。サイド7守備隊は800名の増強大隊ではあったが、あくまで歩兵が主体だった。しかも宇宙軍ではMSに注力した分他の装備は遅れており、陸軍のラーティのようなMSに対抗出来る装備も無かった。

 

「慢心のツケだな。無事な人員と負傷兵の収容を急がせてくれ。大尉の予想が正しければあまり時間は無い」

 

生産設備は惜しいがここに軍が留まればコロニーが再び戦場になってしまう。そして先ほどの事務官の態度からすれば最悪民間人が敵になりかねない。負傷兵も動かせないような者以外は出来る限り収容しルナツーへ預けるのが良いだろう。

 

「急ごう、敵は待ってくれはせんだろうからな」




サイド7の人数について。
一応建設中のコロニーなので定数以下かつ軍の人間が入り込んでも溶け込めるだけの経済基盤及び施設が運営出来る人数と言うことでかなり盛っています。
普通にホワイトベースに乗るきるような人数(それが全住民の数%としても)で社会が十全に回せるとは考えられないからです。


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第六十七話:0079/09/21 マ・クベ(偽)と頭上の悪魔

よし、ガンダム大地に立った。
次いくよー。


夕方のスコールが嘘のように、雲一つ無い星空が広がっている。コジマ大隊の駐屯しているダレイビル基地から北におよそ20キロ、旧パックク・タイガー保護区に仮設されている監視基地に勤務しているイ・スンウ軍曹は横で勤務中だというのにヘッドホンを外さない同僚に苦言を呈した。

 

「ホセ、真面目にやれ。いい加減隊長から殴られるぞ?」

 

東南アジア戦線は、4月頃の攻勢が嘘のようにここ数ヶ月は小康状態に陥っており、兵士の士気は非常に低くなっていた。

 

「はっ!勤務中に商売女を連れ込んでる隊長がなんだってんだよ」

 

そう言って取り出したガムを口に放り込むとホセは帽子を目深に被り直して居眠りの姿勢をとる。職務放棄甚だしい隊の連中に諦めの溜息を吐きながら、イ軍曹が監視用のスコープを操作していると、モニター横に設置されている音響センサーに微細な反応があった。

 

「ん?なんだ?」

 

ジオンの航空機は速度が音速を超えているため音響センサーの相手は主にヘリやホバー機だ。しかしセンサーの画面に表示されている数値は高度8000m、一瞬ガウかと背筋を凍らせるが、それにしては反応が微弱だし何より速度が遅すぎる。

 

「おい、おいホセ!ちょっと見てくれ!」

 

分析官としての才能を持った同僚に声を掛けると、億劫そうに起き上がったホセ軍曹は、何故かこちらを見て驚愕の表情を浮かべた。

 

「ホセ?」

 

その様子を訝しみ、振り向いたイが最後に見たものはモニターに映った空に浮かぶ幾つものモノアイの光と、そこから放たれた極大の光条だった。

 

 

 

 

今生において、今日という日は絶対に忘れられない日になると思う。ガルマ様経由で届いた報告を見て思わずガッデム!って叫んでしまい、ウラガンに可哀想な奴を見る目で見られたが俺は悪くない。いやね?だって、君が言った通り戦力増やして偵察したよ!増やした倍以上の敵MSが出て来てたこ殴りにされちゃったけど!なんて報告をどう処理しろと言うのか。

え、何、何なの?倍以上ってどういう事?しかも90ミリが効かなかったって、それってつまりガンダムをガチ量産してるって事?何だよそれ、ジオン脅威のメカニズムも裸足で逃げ出す悪夢なんですけど。

 

「敵新型艦はコロニーを出港。追跡するもルナツーに入港したため追跡を断念…か。赤い彗星も貧乏クジを引いたな」

 

「それにしてもこの報告は何です?宇宙軍はボーイスカウトでも雇っているんで?」

 

横から報告をのぞき込んでいたシーマ中佐が呆れた声を出す。指導員の言いつけを守れるボーイスカウトに失礼だろうなんて思いながら、ドズル中将の名誉のために口を開く。

 

「宇宙軍は先日漸く定数を揃えたばかりだからな、質の向上はこれからだったんだろう。実にタイミングの悪い事だがこればかりは仕方が無いな」

 

戦争だからね、全部こっちの都合でどうこうは出来ないよ。しかしこれちょっと不味いなぁ。

 

「報告が確かならコロニーの被害は軽微、だとするとこの新型艦を逃したのは危険かもしれん」

 

「どういう事です?」

 

「連中はあそこでV作戦とやらをしていた。これがMSの開発計画なら、この艦にはそれを造った連中も乗っていると言うことじゃないかね?」

 

もちろん最初の襲撃で死んでくれている可能性も無い訳ではないが、楽観は良くない。

 

「つまり、MSより厄介な荷物がその艦には積まれていると。しかしそうしますと不味いですね…」

 

「そうだな」

 

シーマ中佐の言葉に俺も同意する。ルナツーに逃げ込まれた以上簡単には手が出せない。それに地球に降りるにしても新造艦…恐らくホワイトベースだろう艦を使わなくてもいい。最悪複数の艦艇に分乗したりホワイトベースを囮にして自分たちはシャトルで移動、なんて方法だってある。ただ、読んだ限り普通に迎撃されたっぽいから、最悪の事態であるキリングマシーン入り白い奴は生まれていない。ならまだやりようはあるだろう。

 

「だがまだやりようはある。こちらは軌道上を押さえているからな。そこで待ち伏せすれば高確率で発見できるだろう」

 

報告を見る限り民間人も乗せていないだろうし、ここは景気よくでっかい流れ星になって頂こうじゃないか。

 

「衛星軌道…大気圏突入のタイミングで仕掛けると?かなりリスクの高い攻撃になりますね」

 

今の所大気圏突入能力のあるMSは無いからね。

 

「余計な事をして取り逃がしたのはあちらの失態だからな。そのくらいのリスクは承知して貰わねば困るよ。それに何も無策でやれと言う訳じゃ無い」

 

「そりゃまたどんな魔法を使うんで?」

 

魔法なんて大したもんじゃないよ。てか何で皆俺が何か言うと魔法魔法言うかね?…はっ!まさか30超えて清い体だとという都市伝説のせいか!?ど、どどどうていちゃうわ!

 

「単に近くに回収用のコムサイか何か、突入能力があってある程度荷物が運べる、連邦軍も使っている連絡艇があるだろう?あのあたりを先行させておいて攻撃後回収すればいい」

 

名付けてなんちゃってフライングアーマー作戦。ただし一回やると敵にも真似されて大気圏突入のリスクが跳ね上がる諸刃の剣、素人にはお勧めできないとか凄腕スナイパーが言ってくれるかもしれない。因みに聞いたシーマ中佐はドン引きしている。

 

「何というかジブラルタルの時も思いましたが…。大佐は頭のネジが幾つか無くなっていますなぁ」

 

はっはっは、褒めても何も出ないぞう?

 

「問題は現状衛星軌道に展開している部隊がMA主体である事だな」

 

流石にザクレロは回収出来ん。ついでにここで失敗するともう打つ手が無い。ジャブロー上空の制空権は連邦に握られているから大規模な迎撃部隊なんて送り込めんし、ジャブローへのハラスメントもガウでなくアッザムでやっているから爆撃していた頃に比べると対空システムがかなり復旧してるっぽいんだよね。ガルマ様からヴェルナー中尉貸してくんない?って何度も言われてるし。

 

「一度ガルマ様に話してみるか」

 

そう言った矢先にエイミー少尉が入室し、元気な声で報告をした。

 

「失礼致します!ラサ基地のサハリン少将より連絡が入っております!」

 

おや、またなんかあったんけ?まあ、通信室には行く予定だし丁度いいや。

 

「解った。ウラガン」

 

「はい、ガルマ様にアポイントメントをとっておきます」

 

「頼んだ、ではエイミー少尉、行こうか」

 

 

「お久しぶりです、准将。昇進の時はお祝いの連絡も出来ず申し訳ない」

 

前と顔色は余り変らないが、疲労を感じさせない口調でギニアス少将がそう切り出した。

 

「気にしないで下さい。そちらも開発が佳境だったのでしょう?アレの完成に比べれば私の昇進など些事に過ぎません」

 

「そう言って貰えるなら幸いです。今日連絡しましたのは、その不義理分を取り返そうと思いまして」

 

「取り返す…まさか!?」

 

「はい、まだ手直ししたい部分は多々あるのですが…完成です。今朝方全てのテストを終了し正式にアプサラスの完成報告を致しました」

 

まじかー。いや、ほんとまじか。だってまだ9月だよ?そら月の終盤だけど、それでも史実より2ヶ月近く早いじゃん。それも突貫工事じゃなくて、少なくともギニアス君が完成と言えるレベルの出来映えなんでしょ?これは正に天佑じゃなかろうか。

 

「おめでとうございます少将。遂に本懐を遂げられたのですね」

 

「有り難うございます、准将。約束通り、1号機はそちらに送らせて頂きます。…それと実はもう一件お話がありまして」

 

「はい、何でしょう?」

 

「実は、近々本国へ戻ることになります。アプサラスの改善と製造については引き続きラサのスタッフがやってくれますが、残念ながら私の戦争はここまでのようです」

 

その言葉に内心が表情に出てしまったんだろう、モニター越しのギニアス少将が慌てて言いつのる。

 

「ああ、勘違いしないで下さい。今日明日死ぬ訳ではありません…むしろこの先を生きるために私は本国へ帰るのですよ」

 

どうもアプサラスが完成したので本格的に本国で治療に専念するとのことだ。宇宙線被曝はスペースノイドにとって実はかなり身近な事だ。ギニアス君くらい重度になった人は少ないが、案外軽度の被曝だと薬の服用と遺伝子治療なんかで完治しちゃったりする。そもそも重度に被曝したギニアス君がここまで生きているくらいなんで、その医療レベルは油断したら人類をコーディネイト出来てしまうレベルやもしれん。なんか大人になった赤いのが議長とかになって全人類ニュータイプに改造します!これぞディスティニー計画!とか言い出しそうで怖い。

 

「そうですか、寂しくなりますが仕方ありませんな」

 

少将の命には代えられないもんね。

 

「後任はノリス・パッカード大佐にして貰う予定です。それでオデッサへのアプサラスの移動についてなのですが」

 

そう言われて俺はちょっとしたイタズラを思いついた。これ、もしかしなくても使えるんじゃね?

 

「ギニアス少将。つかぬ事をお聞きしますが、例のブースターも完成しているのですかな?」

 

「ん?ええ、所詮ただの化学ロケットですから。むしろ本体より先に完成していますよ」

 

「Iフィールドの搭載は?」

 

「そちらも完了しています。ただ冷却の問題から連続運転は10分です、その後は3分ほどのクールタイムが必要です」

 

成程、成程ね…。

 

「少将。申し訳ありませんが、オデッサへ送って頂く前に一度やって頂きたいことが」

 

「やって欲しい事…。准将のお願いなら断れません。一体何をすれば良いのですか?」

 

そう言う少将に俺は笑顔でこう告げた。

 

「ちょっとジャブローへ挨拶に行って頂きたい」




アプサラス本作のについて。
原作と同様のザク頭一つでマルチロック(つまり複数目標を追尾し続ける)が実現出来ずギニアス君が悩んでいたので、どっかの基地司令が
「1個で出来ないなら沢山付ければ良いんじゃね?」
などと言った結果、全身に多数のモノアイを持つイロモノMAになりました。
イメージは百々目。
モノアイレールの都合上、原作より装甲が弱くなっているという脳内設定です。


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第六十八話:0079/09/22 マ・クベ(偽)と追撃

たまぎれー


「こうも早く汚名返上の機会が頂けるとは思いませんでした」

 

大急ぎで補給が行なわれているファルメルを見ながらシャアはそうコンスコン少将に告げた。コロニー脱出後、機体は放棄したがパイロットは無事だったラル大尉の部隊に無傷だったシャアとスレンダーのS型と予備のR型を渡し、ラル隊は新造艦の監視に残り他の隊は全速でソロモンへ戻ったのだ。

 

「新兵の質の低下はお前さんだけのせいでは無いからな。ドズル閣下も強くは言えんさ。それに今回の作戦指揮官は俺だからな。責任があるとすればジーン伍長を外さなかった俺にもある」

 

これ以上は不毛な謝罪合戦になると察したシャアは話題を変えるべくもう一度ファルメルに視線を戻した。

 

「しかしとんでもない事を思いついてくれるものです。大気圏突入のタイミングで攻撃を掛けろとは」

 

そう口に出せば、コンスコン少将は鼻を鳴らした。

 

「サイド7の偵察情報からすればルナツー内の工廠はまだ十分に揃っていないのだろう。だとすれば開発者達がジャブローに逃げ込む可能性は大いにある。そして現状最もたどり着ける可能性が高いのがMSを搭載したあの新型艦だ。だからあの艦が出港するのをみすみす見逃す訳にはいかんよ。まあ我々からすればルナツーに引き籠もられるのが一番厄介だがね。少佐もそう思うからR型を強請ったんだろう?」

 

そう言う少将にシャアは肩をすくめて見せた。

 

「生憎R型は頂けませんでしたが」

 

「ルナツーの動きに釣られたのが痛かったな。予備機が全て出払うほどとは…しかしあれは大丈夫なのか?」

 

あれとは今まさに積み込もうとしている試作機の事だろう。最悪地上に降りる必要があることから汎用機、それもR型以上の機体をとドズル中将が用意してくれたのだが。

 

「カタログスペックは間違い無くR型より上ですし、何よりビームに対応しているとのことですから。まあ、以前の醜聞が払拭されていることを祈ります。それに地上でR型が厳しいのも事実ですから」

 

現状のR型は宇宙専用機として制御プログラムも専用の物になっている。このため重力下では満足に動けない。かといってS型では重力にひかれながらの軌道上での戦闘はリスクが高すぎる。推力不足が否めないからだ。当然だがF型に至っては論外だ。

 

「まあ、乗る本人が納得しているなら俺から言うことは無い。だが無理はしてくれるなよ?少佐にはまだまだ働いて貰わにゃならんことが幾らでもあるんだ」

 

そう少将が溜息交じりに言う。今回の作戦は試作機のテストパイロット達が参加してくれるが、その後に補充が予定されている兵士達はジーンより若い上に技量も低いらしい。配属前に貰ったプロフィールを見たドレンが思わず唸ったほどだから正直頭が痛いことになりそうだ。

 

「失礼します。ジャン・リュック・デュバル少佐であります。着任の挨拶に参りました」

 

そんなことを考えているとドアがノックされ、金髪をオールバックにした何処か几帳面さを感じさせる少佐が入室してきた。

 

「うん。この臨編艦隊を預かっているコンスコン・バルツァ少将だ。貴官の働きに期待する」

 

「シャア・アズナブル少佐であります。宜しくお願いします」

 

「おお、あの赤い彗星と轡を並べられるとは光栄です。こちらこそ宜しく」

 

ジャン少佐はそう笑って答礼の後握手を求めてきた。悪い人物では無さそうだと思いつつシャアは手を握り返す。

 

「早速で申し訳ないのですがデュバル少佐、機体についてご教示頂けますか?マニュアルだけではどうにも限界がある」

 

「問題ありません。バルツァ少将、宜しいでしょうか?」

 

「ああ、構わんよ。時間が無くて悪いが出来る限り頼む」

 

「承知しました、最善を尽くします」

 

コンスコンの言葉にシャアも敬礼をしジャン少佐と共に部屋を出る。

 

「せめて部下の敵くらいはとらせて貰うぞ。連邦のMS」

 

 

 

 

アプサラスでジャブローをノックしてもしもし作戦をガルマ様に伝えたら、お前は一体なにを言ってるんだって顔された。

いや考えてるんだって。端的に言ってしまえばコムサイがジャブロー上空に落下してしまった場合の保険にしたいのだ。無論コムサイには大気圏飛行能力があるから普通に行けば問題無いが、予想外のことは起きるものとシーマ様も言っていた。

流石にこちらから提案した作戦である以上、尻持ちくらいしなければ寝覚めが悪い。

 

「何事も無ければ飛ばさずに置けば良い訳です。まあ、準備してくれる兵には苦労を掛けますが」

 

「その位なら問題無いだろう。元々アプサラス1号機の運用はオデッサに任せる方針だったしね」

 

そう言えば普通にギニアス君にアゲルヨーって言われたからモラウヨーってしたけど、こんな戦略級の兵器基地司令同士の口約束で動かして良いもんじゃないよな。え、でも上で話ついてるとか初耳だし、他の方面の人達嫌な顔しなかったの?

 

「むしろ准将のところを経由しないで来る新型の方が嫌がられると思うぞ?」

 

そりゃ随分な高評価。

 

「有り難うございます。これも優秀なスタッフを集めて頂いたおかげです」

 

そう俺が言うとガルマ様は変な顔をした後、何故か苦笑した。

 

「君はそう言う奴だったな。そうそう、話は変るがMS-11、正式に名前が決まったな。ゲルググだそうだ」

 

「開発中のペットネームをそのままですか。ジオニックの自信が窺えますな」

 

「本国の生産はこちらへ全てシフトするそうだ。姉上からキャリフォルニアでも生産ライン立ち上げ準備に入るよう打診があった。そちらには来ていないか?」

 

オデッサは抱え込んでるからなぁ。

 

「まだ来ておりません。ですがそう言う事なら時間の問題でしょう。またスペースを確保しなければなりませんな」

 

今の内にジオニックの技術者経由で組立マニュアル入手してグフとザクのラインあたりに配布しとこう。どうせどっちか閉じなきゃ作業者確保できん。そうなるとスペースもそこでいいのかなぁ?ああ、でもゲルググってザクよりでかいんだっけ?ダメだ、情報が足らん。

 

「こちらでも行うが、恐らくゲルググの重力下仕様のフィッティングは准将のところがメインになるだろう。ああ、もしかしてあの件も込みで通達があるのかもしれないな?」

 

あの件?

 

「おっといかん。まだ軍機だった、忘れてくれ准将。はあ、私もまだまだだな」

 

すっげえ気になるんですけど!?しかし軍機と言われれば逆らえぬ、哀しきは宮仕えよ。その後2~3適当な世間話をした後通信を終える。エッシェンバッハ氏からの婚約発表まだですかオーラが凄まじいとかガルマ様の恋路は順調のようだ。幸せになって欲しいものである。そんなことを考えつつ、その一方でどうにも拭えない不安を俺は感じていた。

サイド7の偵察から始まった一連の物語。それと報告書に書かれた、新兵の暴走による偵察の失敗と新型艦のサイド7脱出。日付も装備も変ったというのに何故こうも同じ事象が起きるのか。歴史の修正力?冗談じゃない、ここは良く似た別の世界だろう?そう自分に言い聞かせても不安は拭い去れない。だったらするべき事は決まっている。

 

「不安を拭う方法はただ一つ。対策し行動する、それだけだ」

 

 

 

 

「殺人的な加速だな!これは!」

 

出航直前に、一度くらい実機を動かしてみるべきだというコンスコン少将の忠告に従いソロモンの演習宙域で模擬戦をする事になったのだが、機体を加速させたシャアの最初の感想はそれだった。ルナチタニウムを惜しみなく使い強度を引き上げつつ軽量化を果たしたヅダの加速は正しく規格外であり、何時もの調子でパイロットスーツを着ずに出たシャアはその事を若干後悔した。しかし相手はそんなことはお構いなしにこちらへ照準してくる。

 

「ちぃっ!」

 

機体をバレルロールさせ射線から逃れるが、今度はその回転Gで視界がブラックアウトしかける。そしてそのせいで動きが直線的になり、バレルロールからほんの数秒でシャアは撃墜されるという不名誉を賜った。

 

『ですからパイロットスーツを着るべきだと言いました』

 

「申し訳ありません。デュバル少佐」

 

若干呆れを含んだ声音がスピーカー越しに流れる。その声にシャアは何故か懐かしさを感じ、疑問に思った。ジャン少佐とは今回が初めての出会いであるし、彼の声が誰かに似ていると感じた訳では無かったからだ。

 

『とにかく一旦戻りましょう。これでは訓練にならない』

 

「はい、お手数をお掛けします」

 

そう言って戻るジャン少佐のヅダの背中を見てシャアは得心した。

ああ、そうか。誰かに注意されるなど、何時以来の事だろう。

元々何においても優秀な部類だったシャアは注意を受ける事が幼少期から少なかった。それが地球に亡命してからはより顕著だったように思う。義理の両親は逃れてきた幼子を温かく迎えてくれたが、あまり怒るという事は無かったし、自称後見人だったあの歪な妄念に駆られた老人の叱責はシャアの心に何ら響くことは無かったからだ。身分を偽って軍に入った後も成績優秀な自分は称賛こそ受けたが、誰かにその身を案じて注意を受けるという事には終ぞ会わなかった。そうしてみると、自身が反省し注意を真摯に受け止めるべきだと感じたのは何時かと思い返せば、幼少の頃庭の木に登り見事に落ちて危うく怪我をする所だったのを、ラル家の青年に助けられ思い切り怒られた時しか思い出せず、思わずシャアは吹き出してしまった。

 

『アズナブル少佐?』

 

「ああ、いえ、申し訳ありません。少しむせてしまいまして」

 

『体調が優れないなら一度医師の診察を受けた方が良いのでは?』

 

「有り難うございます。ですが問題ありません、パイロットスーツを着たら直ぐ再開して下さい」

 

そう言ってシートに身を沈めると、シャアはゆっくりと息を吐いた。我ながら随分と歪に育ったものだ。こんな自分を母も妹も許さないだろうし、間違っても人の上に立つべき存在ではないだろう。誰からも教えられず、導かれなかった者が、どうして人を導けるというのだ。

だがそれでいい、自分はただ自分の思いを遂げられればそれでいい。それで人類がどうなろうが知ったことではないからだ。

 

「愚かな復讐者、私にはその位がお似合いだ」

 

格納庫は目前に迫っていた。




嘘みたいだろ?この数話で2日しか進んでないんだぜ?


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第六十九話:0079/09/23 マ・クベ(偽)と衛星軌道

通算UA3000K突破記念。
頑張ったよ…俺…。
イベント?知らない子ですね?


「護衛も無しに地球へ降りろだなどと…ルナツーの引きこもり共は本艦の重要性が理解できていないのではありませんか?」

 

出港以来何度目になるか解らない副長の不満声にパオロは溜息を吐きながら同じく何度目になるか解らないセリフを返す。

 

「無茶を言うな、アンドリュー大尉。ワッケイン少将はよくやってくれている。それにこの件については話し合った結果だろう?隠密性を考えれば単艦での行動の方が察知されにくい」

 

「小官は一般論を申した上げただけであります。それを少将個人への誹謗と捉えられるのは心外です」

 

大尉の物言いに腹部が重くなるのを感じながらパオロは考える。そもそも攻撃があるとすればMSの襲撃になるだろう。そうなった時にサラミスやマゼランがどれだけ頼りになるかと言われれば正直疑問だ。特にルナツーに残っている艦艇は大戦前に建造された艦ばかりだから、防空の大部分をミサイルに依存しており、ミノフスキー粒子下の戦闘ではその性能を大幅に落としてしまっている。

 

「しかし的が増えれば本艦への攻撃も相対的に減少します、どうせまともに戦えない旧式などいっその事…」

 

「大尉!」

 

「本艦の重要性に比べればそのような旧式艦の損害など考慮に値しません!小官の言うところは誤っておりましょうか!?」

 

「大尉!!」

 

味方を平然と捨て駒扱いする副長に頭痛を覚えながらそれ以上言わせないために声を上げる。この大尉は士官学校を首席で卒業したらしいのだが、人格、能力面に些かどころではない問題を抱えているようにパオロは思う。訓練や慣熟航海の際に問題を起こさなかったために認識できていなかったが、その思考は柔軟性に欠け自己中心的発言が目立つ。典型的な勉強だけ出来るタイプの軍人だ。こんなのが首席とは士官学校の質も随分落ちた、などと密かに溜息を吐きながらパオロはせめてブリッジの気まずい空気を変えるために大尉に命じた。

 

「…レイ大尉と打ち合わせをしたい。悪いが呼んできてくれ」

 

「そのような些事に小官が携わる価値があるのでしょうか?それよりも通信機の使用を許可頂きたい。小官が説得すれば頑迷なるルナツー司令部の敗残兵達も必ずや我が崇高なる使命に感涙し、その命を悉く捧げることでしょう!」

 

頭痛を通り越し目眩を覚え始めたパオロ艦長は、必死で体を支えながら言葉を絞り出す。

 

「残念だが敵に発見される恐れがあるので通信機の使用は許可できない。それよりも君には重要な任務がある。大尉を呼ぶのと一緒に艦内の被害状況や兵の様子を確認して欲しいのだ。こんな事は優秀で職務に誠実な副長である君にしか頼めん」

 

そう言ってやれば、先ほどまでの不機嫌が嘘のように大尉は上機嫌で敬礼すると周りの雰囲気など気にもとめずにブリッジから出て行った。

 

「寒い時代か、少将の言う通りだな」

 

 

「曹長!伍長!貴様らさっきの動きは何だ!」

 

テム大尉を呼ぶために格納庫へやって来たアンドリューが見たのは据え付けられた鉄パイプを掴み足を必死に回す--所謂自転車漕ぎと呼ばれるシゴキ--パイロット達の姿だった。あれは確か第一小隊の隊長のブルース・ブレイクウッド中尉だ。先の戦闘で部下2名が負傷しその乗機も大破したため、候補生でありながら実戦でザクを撃退したシェーンベルク兵長を戦時昇進で伍長に、更に以前からレイ大尉の下でシミュレーターのサンプルデータ作成に携わっていたという子息のアムロ・レイ曹長の2人と倉庫で埃を被っていた試作機を与えられていた。陸軍上がりの典型的な脳筋的行動をとる中尉の行動に蔑んだ視線を送った後、周囲を見回せば、件の試作機に張り付いて何やら忙しげに動いているレイ大尉を見つけた。

 

「レイ大尉、艦長がお呼びです。ブリッジへ上がって下さい」

 

そう近づいて声を掛けると、レイ大尉は振り向きもせず応えた。

 

「すまんがガンダムの整備が難航していて手が離せん。艦内通信で良いだろうか?」

 

その如何にも技術屋らしい物言いに内心溜息を吐きながら、鋼の自制心でそれを表に出さず、アンドリューは口を開く。

 

「承知しました、では可及的速やかに対応をお願いします。小官にはまだ任務がありますのでこれで失礼します」

 

そう言って踵を返す。途中艦内の様子を見たが艦の損傷はともかく兵の状況はかなり悪い。皆自身がどれだけ重要な任務に就いているかまるで理解が出来ていない。

この艦の命運は自身の双肩にかかっている。アンドリューはそれを確信しつつ足早に視察を続けるのだった。

 

 

 

 

「何とか間に合いそうですな」

 

「ええ、ですがかなりシビアな戦いになるでしょう」

 

シャアの返事にジャン少佐は黙って頷いた。装備の慣熟こそパイロットの才覚から短時間で完了したが、戦力としては軽巡洋艦2隻にMSが2個小隊、現地で合流できる艦艇も精々軽巡2隻にMAが2機、そしてMSが1個小隊だ。この内こちらのMS1個小隊と合流する部隊はR型であるから敵が降下を開始したら戦闘には参加できない。艦艇数では上回っているが大気圏突入能力の無いムサイを低軌道まで進出させるのはリスクが高すぎる。おまけに敵は最低でも5機のMSを搭載しているらしいので数的有利で戦える時間は限りなく短くなる。

 

「おまけに90ミリの効かないバケモノMSですか、頭の痛いことです」

 

装弾数も多く高初速な90ミリは対戦闘機や対空火器を潰すには極めて有効であったが、今回の件で威力不足が懸念される事になった。

 

「開発部もまさかザクの倍近い装甲厚は想定して居なかったのでしょうな」

 

実際90ミリはジオンのMSであれば全ての機体を1000mにて貫通可能だ。報告によればそのMSは200mでも貫通出来なかったというのだからその装甲は驚嘆に値する。

 

「用意出来たビームライフルは1挺。それも試作型で装弾数は10発、残りの者はバズーカで対応するしかありませんね」

 

現状提案されているプランはこうだ。まずMA2機による高速一撃離脱を実施する。ここで仕留められれば良いが、仕損じた場合R型の2個小隊、そしてムサイ4隻を持って敵MS部隊を誘引。この際ヅダの内ビームライフルを装備したシャア機もこちらに参加し、出撃してくるであろう敵指揮官型を処理する。この間にバズーカを装備した残りのヅダとMAで敵艦を攻撃、撃沈を狙う。これでも敵艦が仕留められなかった場合、ムサイ及びMAは離脱、コムサイを降下させ低軌道においてMSによる最終攻撃を行なう。撃沈が理想だが、不可能と判断した場合、味方占領地域へ降下ポイントをずらすことでジャブローへの降下を阻止する。これを僅か30分でやれというのだから、どれだけタイミングがシビアか解るだろう。

 

「あの時仕留められていれば…」

 

サイド7から出港する直後、ランバ大尉だけを残さず残存戦力全てで攻撃していたならあるいは。そう考えながら、恐らくそれは困難であっただろうとシャアは思う。あの時残存していたMSは3個小隊、MAも1機あったが武装面ではかなり貧相だったのだ。バズーカは2挺だったし、他の機体は全て90ミリで武装していたから指揮官機の対応にバズーカを振り分ける必要があった。しかもその指揮官機のパイロットはあの青い巨星に手傷を負わせるだけの技量があったのだ。その上量産機でさえこちらの機体を一撃で撃破出来る火力を有しているとなれば、あの新型艦を沈めるために、恐らく部隊は全滅していただろう。

 

「済んでしまったことは仕方ないでしょう。それに軌道パトロール艦隊は精鋭揃いと聞きます。技量で言えばそれ程分の悪い賭けにもならんでしょう」

 

確かに軌道パトロール艦隊に所属するパイロットは、その任務の性質上現在の宇宙軍の中でも最も実戦経験が豊富な連中だ。だがそれは対艦対戦闘機に関してであり、対MSについては正直未知数だ。それにあくまで彼らは打ち上がってきた敵艦を仕留めているのであって降りようとしている艦との交戦経験は無い。

 

「嫌な気分ですな、戦場の霧に包まれた中での戦闘とは」

 

ルウムで初めてミノフスキー粒子下での戦闘を経験した連邦兵も同じ事を考えたのだろうか?そんな答えのない疑問にシャアは思考を飛ばしながら、近づいてくる友軍艦艇を見つめていた。

 

 

 

 

「難しいでしょう、ジムに大気圏突入能力はありません」

 

パオロ中佐の問いにテムは顔をゆがめながら答えた。当初機体の整備状況や損傷機体の復旧状況を聞かれていたのだが、声を潜めたパオロ中佐が唐突に聞いてきたのだ。

こちらのMSは大気圏に突入しながら戦えるか?

無茶苦茶を言ってくれる。テムは内心で頭をかきむしった。確かにガンダムには開発時に単独での大気圏突入能力の付与という馬鹿げた要求を満たすための装備がある。しかし当然であるがそれは単に突入できる能力であって、戦いながら突入出来る能力ではない。加えてジムはコスト削減のため装甲材をダウングレードしたので同じ装備では当然ながら大気圏突入は出来ない、なのでそれならばと装備その物を取り外してしまっている。

 

「つまり突入中はこちらのMSは無力化される訳だな大尉?」

 

「はい、ですが我が方のMSはジオンのMSよりも耐熱性において優越しております。こちらが手を出せない状況ならばあちらも手を出せないのでは?」

 

「普通に考えればそうだ。だがな大尉、襲撃してきた敵機に赤い機体が居たという報告があった」

 

「赤い機体?」

 

「聞いたことがあるだろう、赤い彗星だ。ルウムでの戦闘記録を見たがあれは普通の相手ではない。あれはこちらの常識の裏を掻くタイプの人間だ。つまり我々が大気圏突入時に攻撃は無いと考えているなら、奴は確実にこのタイミングで仕掛けてくるだろう」

 

何故そこまで確信できるのか。それが表情に出ていたのだろう、パオロ中佐は説明を付け加えた。

 

「ルナツーを出た際にサイド7から追跡していた敵艦の反応が消えた。つまり今連中は我々の位置が解らん。仮に宙域の何処かで仕掛けるつもりなら、私なら接触を絶たん。ならば確実に捉えられる、我々が絶対に現れる位置で待ち伏せをしていると考えるべきだろう」

 

「では突入先を変えるのはどうでしょう?マドラスや東南アジアならばまだこちらの勢力圏では?」

 

「残念だがそちらを選択しても数分の時間稼ぎにしかならん。そして衛星軌道上にはアレが居る」

 

「…あのグレムリンですか」

 

グレムリンとはジオンが2ヶ月ほど前から投入してきた大型兵器で、あちらではMAと呼ばれているものだ。

軌道上には艦を墜とす悪魔が棲んでいる。

誰が言い出したか知らないが、事実打ち上げられる艦艇や護衛の高高度迎撃機を、一切の区別無くたたき墜とすその所業は正しくグレムリンの名に相応しい。

 

「時間を掛ければ掛けるだけ我々は不利になる。そしてどのみち戦わずに地球へは降りられんだろう。すまんがMSの準備は万全で頼む」

 

「…技術大尉として確約は出来かねます。ですが最善は尽くします」

 

「すまんな」

 

その言葉を最後に通信が切れる。テムは大きく溜息を吐くと、小隊長にしごか