大魔王inヒーロー学校 (ソウクイ)
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偉大なる大魔王さま

 

 

 

オレンジ色の空。世界を照らす光が地平に沈む黄昏の時、光の時が終わり闇の時が来る。普通に言えばカラスがアホーと鳴く夕暮れ時だ。

 

町の大通り。

 

駅近くのどこにでもある大通り。

 

 

歩いているのは学生服を着た高校生、ビジネススーツの会社員、主婦や老人もいる。今が買い物や帰宅の時間帯なのか多くの人が大通りを歩いている。しかし…なんだ…歩く人々が可笑しい。肉体の一部が異様、極端になると顔が猫であったり爬虫類であったり明らかに人でない。それは百鬼夜行の光景か?

 

と、そんな風に異様だと思うのは過去の感性を持っていればだ。日常的な普通の光景、今の時代では彼等は極々普通に居る様なただの一般人だ。

 

 

今の世の中、殆どの人が“個性”持ち。人々が超人や怪人になっていると考えれば良いだろう。

 

個性の影響で様々な容姿となる事がある。人とほぼ同じ場合もあるが、それこそ一昔前なら怪物や化物と呼べる容姿である者たちもいる。それでも今の世の中では一般的な人々なのだ。完全に人の姿をしてない事も多々ある世の中、容姿で騒がれることは先ず無い!

 

 

いや、普通なら無いのだ…

 

 

「「「「!!!」」」」

 

 

ある"御方"が現れると大通りに居た人々は誰もがその方に反応した。

 

 

その御方は…身分的には一般的な中学生"なので御方でなく『彼』と呼ぶ方が常識的か。しかし彼と気軽に呼ぼうなどと思える人が居るだろうか?少なくともここには居ないと断言しよう。

 

先程も語ったが過去の人間が見れば大通りの様相は百鬼夜行、姿が人類とかけ離れた姿に変わることですら常識の範疇である世の中だが、中には個性社会でも恐れられる姿になることもある。ホラーだったりグロテスクな怪物の様な容姿などだ。

 

 

別にその御方、いや此処は彼としよう。『彼』がグロテスクであったりと格段外見が恐ろしいと言う訳じゃない。

 

長身であり筋肉で覆われ鈍さや弱さを欠片も感じさせない強靭そうな肉体。三つの眼から放たれる鋭い眼光は並々なら無い知性と威厳を感じさせる。そして彼の頭の両サイドに生えた二本の立派な角は見るものに王者の冠と思わせる。それが『彼』の姿だ。

 

 

外見で言えば個性を発現する前の旧来の人との違いは、額の三番目の目と頭部から生えた二本の角ぐらい。旧来の人とは違うが差異は少ない。怪人や怪獣でも人の姿でありえる今の世では埋没する範疇の姿といっていい。『彼』より人から外れた形で外見が目だったり恐ろしい個性の持ち主は数えきれないほど多くいる。それこそこの場だけでも彼より姿だけなら怖いと思える外見の人間は何人もいる。それなのに『彼』は明らかにこの場の注目を集めていた。

 

「……」

 

彼は無言で歩いてるだけで何かをしてる訳じゃない。服装もラフなモノで極々一般的なモノであり奇抜と言う訳でもない。彼はただただ普通の人と同じ様に、普通の姿勢で普通の歩幅で普通の速さで歩いているだけ。姿も常識の範疇、行動も他と同じ。なら『彼』は普通なのかと言われれば

 

否だ!

 

普通であるとは断じて!

 

断じて言えないだろう!!

 

 

いや外見の特徴のみを言葉で伝えようとすれば普通。しかし言葉では伝えきれない非凡さがある。

 

それでも言葉にすれば………発する気や熱、殺気や威圧感等と言った目に見えないモノ、何らかの力、第六感や本能に伝わる『彼』から感じる目に見えない無形の大きな力。

恐竜の様な抗うことすらも出来ない超肉食動物を前にした様な弱者の恐怖、国民を熱狂され戦争を引き起こす独裁者が持つ怪しいカリスマ、遥か雲の上の相手を前にするような存在感。

 

原始的な生存本能から来る恐怖心、

従いたいと思わせられる不思議な魅力。

そして生き物として格上と思わされる存在感。

 

陳腐なモノだがあえて言葉にすれば、これらを合わせて極限まで濃厚にしたモノが彼から感じるものだろう。

 

 

大通りで道、『彼』の歩む先の人は老いも若きも不良だろうと道の脇によっていた。そうした後には『彼』が通りすぎるまで畏れ多いとばかりに眼を伏せ動かそうとしない。まるでかつての大名行列に出くわした庶民。臣従する家臣の様だと言っても良いだろう。

 

『彼』が通り過ぎてから安堵の息を吐く人。感情が溢れむせび泣く人、腰を抜かし立てなくなった人。熱を出した様にトロリとした目で彼を見送る人もいた。恐怖、狂気、歓喜、崇拝、信仰、彼等が思っているモノが何にしても並々ならぬ想いを持ったのは事実だろう。

 

 

 

『彼』は何処に行くのだろう。

『彼』ほどの人が何処に向かっているのか。

 

 

誰も何処なのか判らないが、少なくとも共通して行く先に平和なモノは想像できてはいないだろう。

 

もし『彼』が例えばの話だ。気紛れや少し機嫌を損ねたという理由でヒーロー、またはヴィランはたまた国を殲滅に行くつもりだと言われれば、少しは驚くだろうが素直に納得する筈だ。

 

 

『彼』が行く先にあるのは戦場ではある。他者を出し抜きその手で獲物を刈り取る。弱肉強食、勝ち取ったモノこそ正義、誰もが目を野獣の様に輝かせている。戦地になる間近だ。

 

『彼』は戦地である建物に入った。その建物の中、人が殺気だっている。まるで飢えた虎狼の様な表情を浮かべている。ゴングが鳴るのを今か今かと虎視眈々と待っていた。

 

 

時は五時半

 

遂にゴングが鳴った

 

 

 

「五時半となりました。ただいまよりタイムセールを始めます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼』が戦場にて目的を果たし家に帰る頃には日は暮れていた。彼の家は町の中心から離れた場所にある。木で奥が見えない不気味な森のような大きな庭を進むと、明らかに庶民の家でない西洋の貴族が暮らすような時代を感じさせる大きな邸宅があった。 

 

『彼』が玄関を開けると家の奥から女性が出てきた。漆黒のドレスの様な服を着た美しい女性。顔は能面の様に白い。美しすぎて不気味だ。その美貌は妖艷や傾国などの極致と言える人外染みた美しさ。容姿だけで人の人生を狂わせてきたと言われると疑問の1つもなく納得するだろう。

 

「オカエリナサイ」

 

美しい女性の声は人の背筋をゾクリとさせるモノがある。彼とは違った方向のカリスマ、不気味なカリスマを感じられた。

 

彼女の名は田中敦子、彼の母親である専業主婦。夫一筋の良妻賢母であられる。妻となる前は気弱な文学少女だった…と本人は思っている。

 

『彼』は母親の頼みで戦地に行ってきた。

 

 

『彼』はどの様な激戦を潜り抜けてきたのか服には切り跡、焼け焦げた跡がある。手には先程まで無かった袋がある。彼の身体は無傷なのに袋からはドロリとした赤いモノが滴っている。彼は赤く滴るモノが漏れでている袋を彼女に渡す。その中身を見て笑う彼女、フフフフ……と笑い、そしてこう言った。

 

 

 

 

「ケチャップがツブレテル」

 

 

 

 

『彼』のおつかいは失敗という結末を迎えた。

 

 

 

 

帰宅から数時間、食事の時間となり彼は料理をする母親から父を起こすように言われる。母の言葉に彼は頷くと彼は何故か家を出て家の裏手に向かう。そこには洞窟の入り口がある。不気味な巨大な生き物の様な入り口、洞窟は奥深く地下深くまで続き可笑しな生き物まで生息している不思議な洞窟だ。具体的にいえば本編クリア後に出てきそうな不思議な洞窟だ。

 

 

父親はこの洞窟の最深部にいる。

父親の寝床が底にあるからだ。

 

何故か地下で寝るのが『彼』の父は好きなのだ。静かな地下が好きなのだ。高いところに登るのはバカと言われるが真逆な地下なら何と言うのだろう。良い言葉が思い浮かばない。

 

因みに洞窟には不可思議な生物が生息している。その力は並みのプロヒーローを凌駕し強大な生物の居るこの洞窟の危険度はトップクラスのヒーローでも油断しなくても殉職するレベル。一般人の庭にある地下洞窟。

 

そんな生物の生息する洞窟を彼は何の問題もなくサクサクと降りて最下層。いつも通り地下深くで寝ている父親がいた。

 

『……グゴゴゴゴ』

 

エスター、ゲフン、ビルほど有りそうなモンスターにしか見えない大きな父親。あえていえば彼とは立派な角と三つ目な所は彼と似ている。彼は父親を起こそうと声をかけた。

 

 

Zzzzz

 

寝ているとメッセージが流れた気がした。

 

 

 

Zzzzz

 

強めに声をかけた。

 

 

 

Zzzzz

 

寝ている。

更につよく声をかけた。

 

 

 

 

Zzzzz

 

寝ている。

 

ゴガン!!

 

石を投げつけた。

 

目が開いた。

しかし白目だ。

 

「グゴゴゴ……誰だ?わが眠りをさまたげる者は?わが名はエス○ーク……。今はそれしか思い出せぬ……。はたして自分が善なのか悪なのか。それすらもわからぬのだ……。その私になに用だ?私をほろぼすためにやって来たのか?」  

 

起こした父親は寝ぼけている。父親の名前はエスター○でなく田中大鬼だ。エスタなんとか何て名前は掠りもしない。彼は寝惚けた父親の本当に何の脈絡もない痛い寝言を無視して起こしに来たという。

 

「我の眠りを妨げる愚か者よ。滅びろ」

 

寝ぼけて巨大な剣で攻撃してきた。彼は剣を避ける。地面にぶつかった剣は大地を割いた。そんな父親に息子は相変わらず寝相が悪いと呆れさせられた。そんな軽い反応でいいのだろうか。

 

父親は剣を振り回し吹雪を吐きや業火も吐く。激しく巨大な剣も振り回し地面に当たれば隕石が落ちたように地面を砕く。寝惚けた父とそれに困る息子、親子の交流と見ればほのぼのした光景か。身近に居れば凶悪ヴィランも逃げるだろうが

 

 

それから5分後

 

 

「……グゴゴ、むぅよくねた。夕食の時間か?」

 

眼球がある。洞窟の最下層がマグマと氷河な外観に変わった頃にようやく父親の目が覚めた。なんで洞窟が崩れなてないのだろう。彼は地上なら町が軽く滅びるほどの攻撃をされたが何時もの事なので特に気にせず、ご飯だと再度言い父親と共に地上に向かった。

 

『彼』と巨大なモンスターのような父の親子が洞窟を抜け地上に出るとゴロゴロと不安を煽る音を鳴り響かせる雷、まるで希望が消えると言いたげに空が曇り月を隠した、

 

彼と父親が外に出ると起こる気象変動。本人の意思に関係なく起きる。大体一時間もすれば天候は元に戻る。本人たちは何時もの事だと気にしない。まぁ此処から雨がふってきたりしたら気にする。洗濯物が有るなら二人で取り込まないといけないからだ。二人の容姿でその光景を想像してはいけない。

 

 

「皆揃った。じゃあイタダキマショウ」

 

 

全員が自他共に(やっぱり他を除く)平凡と認められる家族三人での普通で当たり前な夕食。父親は大きいので外での食事。家の外からでも父親の体が半分見えるが普通の一家団欒。

 

食事をしている三人の口回りに赤いモノが、赤いモノが、それはナポリタンパスタのトマトケチャップの色だ。断じて血液的なモノでない。そんな想像する理由もないが念のため。

 

「ソウイエバ」

 

食事終わりにふと母親が可笑しな事を思い出した様に笑いそうに話しだす。口調からいって語るのは日常的な会話だろう。

 

「フフ、貴方のお友達から貴方が何時世界征服をするんですかってキカレタノ、世界征服をする予定ガアルノ?』

 

『彼』は思う。一体誰だろうかそんな人聞きの悪いことを言ったのはと、平和主義な自分が世界征服なんて望むわけかない。『彼』は思う。彼にそんな疑惑を持つ友達なんて居ない。『彼』に友達が居ない訳ではない(重要)

 

 

彼は覚えは無いと伝えると母親は笑う。

 

「ソウヨネ。私もお父さんも同じ冗談を言われた事があるわ。なんで世界征服をするなんて冗談をイワレルノカシラ?」

 

「ソウダナ。なんでそんな冗談を言われるんだろうな…」

 

 

同じ様に首を傾げる三人。それは…い、一般人な彼等にはとても不可解な難問だ。

 

冗談なら冗談で返すべきだろうか。今度聞かれたら数年後の予定だと冗談を返すべきだろうか?と聞いた相手の心臓が止まりそうな事を考える。

 

 

 

今さらだが最期に『彼』の事だ。

 

 

平凡な人に成るようにと両親から願われて名付けられた名は太郎。名字は田中なので田中太郎。ありふれ過ぎて偽名にしか聞こえない名前、両親の願い通り。別世界の漫画でバーンと呼ばれる御方と姿形と能力が似てるだけのちょっと天然な極々一般的な内気でシャイな(内面は)とても普通な15の男子に成長。

 

彼の将来の夢は農業関係、趣味は太陽の下での日向ぼっことテレビゲーム、好きな言葉は世界平和。嫌いな事は暴力。座右の銘は一日一善。嫌いな食べ物はピーマン。欲しいものはフレンズ。いらないものは手下、下僕、ストーカー。

 

 

 

そんな彼の個性は『大魔王』

 

 

 

 

 



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大魔王さま勧誘される

家族構成

父、帝王(ドラゴンクエスト4)

母、

息子、大魔王(ドラゴンクエスト ダイの大冒険)

ペット、二匹


 

 

週末の日曜、まだ太陽も出てない朝。まだ暗い町中を誰か歩いている。週末と言うより終末という感じの禍々しい気配がするのは気のせいだろうか?きっと確実に恐らく気のせいだ。

 

少し黒い気配を出す中身15歳のシャイボーイが歩いている。着衣はジャージなので…あれだ。年齢から言えばジャージは普通で似合って…似合って……服は選ぶべきだろう。

 

最近の悩みは友達が少ないこと。友達が少ない理由は地味なせいかと、どうせ三年だし冒険をして教室にバーーン!と入って地味キャラを払拭しようかとテロみたいな計画をする田中太郎こと、略してバーンさま。

 

バーンさまの1日の始まりは休日でもまだ日の昇らない時間から始まる。健康志向で早寝早起きがモットーのバーンさま。顔を洗い歯磨きをしマーガリンを塗ったパンを焼いて食べもう一度歯磨きをして外に出る。登る太陽を見るのが好きで登る太陽を見るついでに朝の散歩をするのが健康的な日課だ。想像したらダメだ。

 

太陽が出てきた。

 

バーンさまは太陽が好きだ。バーンさまが太陽が好きな理由は本人にすら不明。何となくただ太陽が好きなのだ。なぜか太陽を見ていると太陽を手で握るような動作をして『くくくく……』と無意味に笑いが出てしまうのも特に意味はない。誰だ太陽を掴む動作で世界征服を企んでる何てあらぬ疑いを掛けたのは。

 

何事も起きない散歩。

町は平穏無事。

 

テレビやネットだとどんな町でも多かれ少なかれヴィランが出たと騒がせてる。しかしバーンさまの住むこの町にはヴィランは出ることなんてほぼなく毎日平穏。隣町でヴィランがよくでると言う話はあるのに、ひとつ離れたこの町だと何故か出ない。もっと言えばバーンさまの住むこの町は世界で一番平和な町らしい。バーン様が居る平和、平和って何だろう。

 

バーンさまは理由はわからないが平和なのは良いことだと特に気にしない。バーンさまは毎日日曜は平和を謳歌して朝の散歩をしている。時刻は七時過ぎ、人が出歩く時間帯だがヴィランどころか出歩く住人も何故か居ない。人が消えた町のようでホラーな感じもするが平和なのだ。

 

快晴の空が突然曇りだし雷も鳴り始めた。

先程まで雲のない快晴だったのに急激に天候が変わった。

 

高い山でも無いのに急激な天気の変化。科学全盛の時代前なら天変地異の前触れと騒がれそうな気象変化だが、この町ではよくあることなのだ。何十年も続いて既にこの町の常識。この町近隣の天気予報の的中率はお察しだろう。

 

当然この町の住民のバーンさまも何も可笑しいとは思わない。いやそもそも原因が自分も含めた身内なのだから当然か。

 

個性の影響なのかバーンさまとその家族は外に出たときに天気が崩れる。この町での大体の悪天候な理由はほぼバーンさまか両親のどちらかの外出。天候の変化はどういう訳か住民たちは危険信号としてる。

 

30分もすれば元に戻るが、そろそろ帰ろうかと散歩を止めて元来た道を戻っていくバーンさま

 

人の居ない無人に見える町を雷雲の薄暗い空の元を歩くバーン様。単なる散歩からの帰宅であられる。

 

バーンさまの家は大きな館…に見えるが父親が大きいので家が大型化してるだけで中身は一般家庭の家と変わらない。

 

「あ帰りナサイ」

 

バーンさまが散歩を終えて家に帰ると母親が出迎える。食事の準備をしてたのかエプロンをしている。きつ、とても母親らしい。ピンクのフリフリのヒヨコマーク付きのエプロン、可愛い系が好きな母親に死ぬほど似合ってない事はとても口には出せない。母親もバーンさまのジャージー姿が壮絶にあれな事を口に出さないのでお相子だろう。

 

今日のメニューは白飯におろし大根の乗った焼きサンマ、豆腐とワカメの味噌汁、小粒納豆、冷奴、これでもかと日本食だ。作った人物さえ気にしなければ可笑しくない美味しそうな朝ごはんだ。

 

何時もなら朝食に目を向けるバーンさまだが、今意識は朝食に向かってはない。玄関にあった見知らぬ靴、それに母親の持った朝食と別にお盆にお菓子とお茶が乗っていた事が気になっていた。

 

こんな朝早くにお客だろうかと予想を立てられる。しかし来客とは珍しい。何故か人が寄り付かないこの家に来客は希少なのだ。いったい両親どちらへの客だろうかと、極自然と自分を省くバーンさまに母はこう言った。

 

 

 

「あなたにお客サンヨ」

 

 

 

その時……世界に激震走る!!

 

大地は割けマグマが吹き出す、風は怪獣の叫びの様に唸り、空は悲鳴のように落雷を落とした、と、バーンさまが思わずそのような幻覚をみるほどの大きな衝撃を受けた。実際の外は天候は快晴なり小鳥がチュンチュン鳴いている。

 

『あなたにお客さん』『自分にお客さん』『お客さん』言葉の衝撃にたじろぎ。脳がその言葉をハッキリ理解するとブルリと震え口の端を持ち上げ思わず母親でさえ引いてしまう笑みを浮かべていた。悪逆無道を遂行して御満悦みたいに見えるが全く違う。

 

バーンさまにとって人生で稀な自身を目的とした来客。歴代の教師の家庭訪問さえ何が怖いのか泣いて土下座されて拒否された事で無かった来客。バーンさまはもしかしたら遊びに来た友人かクラスメイトかと天地がヒックリ返ってもあり得ない可能性に胸を高鳴らせた。

 

 

そして

 

 

来客がネズミと怪しい男×2だった事に落胆を隠せない。

 

 

 

バーンさまを心底落胆させるというある意味で偉業を成した来客は、一時間ほど前にはバーンさまの自宅近くの駅、二人と一匹の内の一人は、似合わないスーツの男は溜め息を吐いてその駅にやってきた。

 

そして一匹と合流。

 

「…お待たせしました」

 

「やぁおはよう!スマナイねイレイザー。日曜日なのに来てもらって」

 

マスコットの様な外見の生き物、ハイスペックという個性をもったネズミであり雄英の校長である根津は、似合わないスーツ姿の無精髭を生やした男にそう言った。雄英の校長、その正体は個性でネズミにみえる人でなく個性によって変化した巨大ネズミ。

 

「いえ…これも仕事ですから」

 

外見はブラック企業に勤めてそうな社畜という言葉がよくにあうが、実態は子供の憧れなプロヒーロー。個性無効化と言う鬼札に高い捕縛技術、実力は高いが露出NGな活動をしており世間的な認知度は低い。人気を切り捨てた実力派のアングラーヒーロー。雄英の教師をしている相澤消太ことイレイザーヘッド。

 

仕事と言ったが今回来たのは頼み。断ることも出来たかもしれないが相澤は校長に対して少し負い目がある。具体的にはクラス全員を除籍にした事など……いや今回の場合は元から相澤に断るつもりもなかったので関係ないか。

 

相澤がなぜ断るつもりがなかったか。

有力な中学生を雄英にスカウトするつもりだと聞いたからだ。

 

推薦を含めて受験者が全国各地から来すぎて困るような雄英、何れだけ有力な相手ならスカウトなんて事になるのか。相澤は相手が気になりどういう相手をスカウトするか聞いたが、根津は個性が凄い一般人だよと答えたのみ。

 

曖昧な返答に不穏な気配を感じた。

 

ヒーロー科のクラスは二つしかなく半分の確率で自分の生徒になる可能性もある。もし違うクラスでも関わることはある。相澤はスカウト相手を確認する為にもやって来た。

 

「もう一人も来たみたいだね。おはようマイク」

 

「……かえりてぇyo」

 

相澤と同じく来たもう一人の同行者。社畜務めのような相澤とは真逆に人生満喫してますという姿、良い歳をしてサングラスに金髪の髪を鶏冠にした髪型が特徴的。根暗そうな相澤とタイプは正反対だが相澤とは学生時代からの付き合い。山田ひざし、ヒーロー名はプレゼントマイク。第一声が可笑しい。

 

「……」

 

第一声以降が無言。喋り好きでDJの仕事をするほど喋る事が多いプレゼントマイクこと山田がだ。風邪を引いても煩そうな相手の静かな様子に相澤は不気味と感じた。顔を見ると青ざめてまるで死にかけのニワトリ……。

 

「おい具合が悪いのか?」

 

「……気分も具合も最悪に決まってるだろYOO。これから向かう先とか考えたら最悪な気分で憂鬱になるに決まってるだろ!!……てか!イレイザー!お前なんでそんな平然としてるんだ!!」

 

いきなりテンションをあげて絡んできた山田を相澤は鬱陶しそうに見返した

 

「……なんでただの学生のスカウトに動揺しなきゃいけないんだ。」

 

相澤があえてそう言うと山田は手を額に当てながら大きな身振りで言う。

 

「はぁぁあ!、ただの学生??ただの学生ぃい!?イレイザー正気か!?そんな分けないだろ!スカウト相手はかの地獄の帝王のご子息さまだZE!?」  

 

「……?」

 

相澤は言葉を理解できなかった。

…理解したくなかった。

 

「地獄の帝王ご本人もスカウトするかもとか校長が言ってたしyoooo!!!思わずバカかよって叫んだぜ!!……ホント歳で頭が野生に返ったんじゃないのか」

 

山田は嘆くように両手でオーバーなリアクションで顔を隠して、最後の言葉はガチなトーンで呟いた。

 

「マイク…酷くないかい?」

 

「は、いや、まて…まてまてまて…なんだって。地獄の帝王…それは、まさか…六年前の騒ぎの…アイツの事…か??」  

 

言葉をようやく脳が理解してしまったのか相澤は見てわかるほどに取り乱していた。 

 

「オイオイ六年前のに決まってるだろ。地獄の帝王が他に居るわけないだろHAHA……地獄の帝王が複数とか恐ろしい光景を想像しちまった」

 

冗談でなく本当に想像したのか山田の顔色は更に悪くなる。相澤も顔色が悪い。絞り出す様に声を出す。

 

「……いや…ないだろう?スカウト相手がアレの子供?……あり得ない。ありえるか!山田、おい、変な冗談はやめろ。何時もの寒い冗談だろ?そう言えよおい」 

 

長年の付き合いの相澤から見て、嘘を言ってると思えなかった。少なくとも山田本人は虚偽の発言と思ってはない。それでも冗談だと思いたい。冗談だと言う可能性は残っている。相澤は残っていると、信じたかった。

 

「……もしかして校長から聞いてなかったん?」

 

「………」

 

山田でなく聞くべき相手がいる。相澤は落ち着くように息を吐いてから校長を見た。

 

「………校長、まさか本当の事ですか?貴方が来たスカウト相手は……地獄の帝王の子供なんですか」

 

「HAHAHA、間違いないよ。これから行く所は地獄の帝王氏にその息子さんの所さ」

 

相澤は大きく目を見開き正気かと言う目で校長を見る。嘘でないという目だった。

 

「……」

 

言葉を出せば個性が劣化して獣に戻ったんですかと言っていただろう。いや、獣なら危険を避けるから獣以下か?

 

「なにかヒドイこと考えてないかな?」

 

「……当然の事しか考えてませんよ」

 

「イレイザー、スカウト相手の事を聞いてなかったん。確実に何かありそうだったろ」 

 

「…聞いたが……ただの一般人のスカウトと聞いていた……」

 

「この毛玉とんでもない嘘をついてやがったな」

 

相澤と山田は同じく上司の校長にネズミに向けるような視線を向けた。ドブと付くネズミだ。

 

「いやいや一般人なのは嘘でないよ?息子さんは勿論だけど、地獄の帝王氏も一般人じゃないか」

 

「「地獄の帝王が一般人?」」

 

二人のオッサンの声が綺麗に揃う。全くそう思わないと言う本音が声にのっていた。

 

「……アンタなにを考えてるんです。一般人?アナタの立場なら地獄の帝王が起こした六年前の事件は知ってますよね」

 

小さな上司相手に相澤の口調が荒くなっていたが、根津は気にした様子もなく平静に答えた。

 

「六年前の事件はボクは勿論知ってるさイレイザー。事件を知ってるからこそのスカウトだよ?」

 

「……」

 

相澤と山田は二人揃ってふざけんなという顔をしていた。

 

「反対なのは地獄の帝王が悪いっていう認識だからかい?そもそもの話だけど地獄の帝王が事件を起こしたと言うのは少し違うよね」

 

「………それは…」

 

二人は言葉に詰まった。

 

六年前に起きたある区画が完全に焦土と化した事件、世間的には爆発事故と片付けられた事件。実際には地獄の帝王と呼ばれる存在により焦土が生まれた。

 

その事件での地獄の帝王を分類すれば……被害者

 

「田中大鬼氏、地獄の帝王と呼ばれる彼は六年前の事件の時で言えば被害者だよね。ただ強い力を持ってたって理由で操られて結果被害がでた。まさか操られた彼が悪いと言うのかい?」 

 

客観的には間違ってないのか二人は口ごもる。しかし地獄の帝王をただの被害者という枠に入れるのに納得できていない。

 

『地獄の帝王』

 

名称は相当な大物ヴィランの名前だとしか思えないが、公式的に地獄の帝王なんて呼ばれるヴィランは居ない。地獄の帝王とは六年前の事件で地獄を見せられたヒーローが個性名『帝王』と合わせて地獄の帝王と呼んだ事から産まれた名称。

 

今から6年も昔の話だが、あるヴィランが一般人であるある人物を操ろうとし失敗しその人物は暴走状態となった。それが地獄の帝王、地獄の帝王は紛れもない被害者だ。そうなのだが被害者と言うにはやった事が大きすぎた。

 

当時暴走した帝王を止めようと数多くのプロヒーローが動いた。数は三桁近くに登ったが、その殆んどのプロヒーローを地獄の帝王は暴走した状態で打ちたおした。中には当時のトップチャートにランクされたプロヒーローが何人も…。

 

この時点でプロヒーローは惨敗といっていい敗北だが、事前に一般人もマスコミも遮断した土地に隔離されていたので、一般的には局地的な災害としか言われていない。止めるものもなく地獄の帝王は丸三日暴れた。そして暴走から三日後で相当な疲労が有るだろう状態で、まだ万全な頃のオールマイトと互角に戦い良い一撃を貰い、それでようやく正気に戻り事件は終わった。

 

事件での人的物的な被害は甚大。地獄の帝王の暴れた場所の家土地ビルは総て更地と化し焦土となっていた。事前に一般人の避難は済んでおりプロヒーローも奇跡的に死者は出なかったが大怪我をしたり精神を病んで引退をしたプロヒーローは数多く。怪我は治ったが未だに精神的な凝りを残すプロヒーローは今でも残っていた。

 

大惨事だったがあるヴィランが絡んでいる関係で事件は隠蔽をされ、地獄の帝王自身は正気に戻った後は普通に地元に。

 

それ以降地獄の帝王が何かした話はない。六年前の事件も隠蔽された。なので地獄の帝王の事は世間的にはまるで知られてない。ヒーローでも知っているのは六年前の事件に関連したヒーローぐらい。相澤と山田が何故地獄の帝王を知ってるのかといえば…まぁそう言うことか。

 

六年前の事件当時に二人とも半死半生となった。それも、不幸な事に地獄の帝王が遠くに見える様な距離で、ただの攻撃の余波で。

 

二人ともに人生をかけヒーローになるために最大限努力をしてきた。特に相澤は純粋な意味では無個性と同等の能力しかないのに、それでも雄英という最高の環境で鍛え学びプロヒーローとなった。ヒーローとして最強には程遠く勝てない相手も数多く居る。ボロ負けするときも有ることもあると覚悟はしていただろう。だが、それでも、幾らなんでも路傍の雑草が踏まれるように犬死にすら為らない状態で死ぬ覚悟がある筈もない。そして死にかけて身動きできない状態では延々と見せられた恐ろしい災害を巻き起こす地獄の帝王、幾らプロヒーローでも今だに心に残る傷となっていても仕方ない……。

 

根津は察しているのか判らないが淡々とかたる

 

「それほど不安を持たなくても大丈夫と思うよ。事前にボクは伝で警察含めて色々と調べたんだけど、地獄の帝王と呼ばれた彼にもその彼の息子にも悪い話はなかったのさ」

 

住んでいる街の”特殊さ”と不自然な程にクリーンだった事に違和感を感じたのを隠しそう言いきる根津。二人の顔から少し不安は消えたがまだまだ凝りはありそうだ。

 

根津は別方面から説得する。

 

「暴走して平和の象徴のオールマイトと戦える人物と、その力を継承した可能性のある子供を放置する方が不安じゃないかな」

 

二人は顔を渋くする。

 

「それは、まあ不安ではあるけど…」

 

「力があるから雄英でヒーローになるように教育すると?それかヴィランに利用されないように隔離目的ですか」

 

根津はこの質問に答えなかった。

しかし次の台詞で意味で実質的に答えていた。

 

「このスカウトは国の方から要請が来た話だよ」

 

「国の方からですか」

 

「親は無理でも子供の方は…ちょっと強めに頼まれたよ。対抗できるオールマイトが雄英に来るのもちょうど良いってね」

 

「はぁぁ…つまり面倒が雄英に押し付けられたって事かよ。不安だから俺達になんとかしろって無茶ぶりか、余計行きたくなくなった」

 

「同感だ。……とはいえ、校長行かないって選択肢はないんですよね」

 

「うん無いよ!」

 

二人とも溜め息を吐いて生気がない目で校長を見るしかない。校長が悪いわけでもないがとてもイラッとはくる。二人の自制心がもう少し薄ければ目上の上司を置いて帰っただろう。そんな二人の自制心と思考を計算して発言してそうなネズミは質が悪い。

 

「どうやら納得してくれたようでよかったよ。それじゃあ行こう。絶対にスカウトを成功させようか」

 

「……今さら行かないとは言いませんが、スカウトが無駄と判って行くのは非合理的ですね」

 

「どういうことだい?」

 

「勧誘相手がどう考えてもヒーローになる気が有るとは思えません」

 

相澤の台詞に根津は首を傾げた。

 

「君は地獄の帝王の息子さんを見たこと無いだろ?」

 

もっと言えば息子どころか親の地獄の帝王を見たのも六年前の一度きり、それも操られて暴走してた時だ。

 

「確かに見たことは有りませんが親をしっていれば断言できますよ」

 

「あの地獄の帝王にヒーローになるタイプの息子が居るとは思えねぇよな」

 

偏見が酷い様にしか思えない。六年前に一度だけ操られて暴走した親を見ただけで、プロヒーローとしてどうなのか?根津からすれば過剰な反応としか思えない。

 

「(だけど本気で言ってるみたいなんだよね。過去ありきの偏見な気もするけど…山田くんはともかく相澤くんまでこんな反応する何て予想外かな……資料ではわからない何かがあるのかな?)」

 

「うーん、まぁいいか。さぁ行こう」

 

説得も止めて問答無用に行くことにした畜生。憂鬱そうな二人と笑顔が張り付いた一匹がスカウト先、ご近所ではラストダンジョンと言われる田中家に向かう。

 

家が見えてきた。

大きな屋敷の様な家。

家の塀から飛び出すように見える巨体(エスタ○ク)。

 

 

六年前に見た何かが思いっきり見えて、一匹の畜生が本能的に死んだんふりをしてそんな畜生を置いて二人ほど引き返そうとした。

 

 

 

 



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記者の記録1

 

 

2×××年×月13日。

 

○県○○市○×町の取材記録。

記録者、フリーランスの記者ーーーーー

 

この記録を見ているのは私以外だろうか。もしこの記録を見てるのが私以外なら、この記録を真っ当に活用してくれる人間が見てくれている事を願う。

 

 

初めにも書いてあるが私はフリー記者のーー、

先ず初めに私について軽く書いおく事にする。つまらない話だと思うが出来れば見てほしい。

 

私は極平凡な家庭に産まれ特に才能も実績も特筆したモノはない。平凡な学生時代をすごし高卒後には何の因果か大手の出版社の記者となった。あまり真面目でない自分だったが、意外と記者として真面目に仕事をした。真面目にしてたから自粛やら規制に大体数年で嫌気がさして独立してフリー記者となった。

 

自慢ではないがそれなりにスクープを見つけたこともある。この記録から三年前の○会社とヴィランとの癒着、結構世間を騒がせた事件をスクープした記者が私だ。 記事には名前は乗ってないが本当だ。別の記者に手柄を奪われた。

 

初め激怒したが、直ぐにゾッとすることになった……スクープから数日後にスクープを奪った記者が変わり果てた姿となって発見されたからだ。

 

もし自分が記事を自分が出していれば……それから取材が恐くなった。それは三年後の今まで続いた。

 

三年前を最後にスクープは見つけていない。誰もが知らないスクープを得るには其なりに危険に入らないと不可能。三年前の事で取材が怖くなり危険を避けるようになった私がスクープを取れる訳がない。書いてて情けなくなるが、私は安全に取材した情報をさも危険に飛び込んで入手した情報のように出版社に売り込む記者擬きとなり、記者として誇れる事なんて何一つない三年を過ごした。しかし此れから先は違う…つもりだ。

 

この記録を付ける理由、三年ぶりに腐った私が記者に戻り命の危険があると思える取材をするつもりだからだ。何も残さずに終わるのだけは避けるために、この記録を後の記者の為ともしもの時の遺書と兼任するモノとして残す事にした。

 

 

この取材の目的は初めにある通り○県、○○市、○×町。

 

特筆する所はなんと言っても公式の記録として◯×町は、オールマイトが現れてから世界でトップクラスに平和な日本の中でも、犯罪率が断トツに低いとされている町だ。記録の上ではあのオールマイトやエンデヴァーが活動した場所よりも治安が良い。

 

知りたがりの記者でなくても何故平和なのか気になる。だから初めて街の事を知った私は誰かが他の人間が調べてると自分で取材しようなんて思わなかった。

 

関わる切っ掛けは知り合いの勤めてるテレビ局で、世界で一番平和な町として特集が組まれると言う話を聞いた事からか。後日、調べた限り○○町は何の変哲もない普通の町で何の面白味もないとボツになった結果を聞いた。

 

そこで可笑しいと思った。理由がない何てあり得ないと。例えば先ず考えるのはヒーローだ。オールマイトに近いヒーローが町に専属していればなんとかなるかもしれない。結論としては違う。○○町を専任としているプロヒーローは一人。町が平和で副業しかしてないが、他の町で活動してた時の評価は実力派のヒーローらしい。トップランカーに比べて二段ほど落ちる。一級クラスだがとてもオールマイト以上に平和に繋がる影響力があると思えない。他で考えて警察官か。○○町の警察には可笑しさはない、ならヴィジランテか、ヴィジランテの活動も確認されてない。

 

何もない。テレビ局の知り合いと同じ結果になる。外から記録を調べた限りでは何もない。何か治安の良さに繋がる何か、良くも悪くも何か違うところがある筈なのに記録ではなにも見付からない。今の世の中では理由のない危険はあっても理由の無い平和はない。あまりにも不自然。必ず平和なら其なりの理由があるはずなのだ。問いただすとテレビ局の知り合いも同じ疑問を感じたそうなのに、上の方から取材の取り止めが決められたそうだ。

 

私は取材しようとは思わなかった。

勘として危険だと感じたからだ。

三年前から続いて危険だから避けた。

 

しかし一緒に知り合いの話を聞いていた記者が動いた。◯◯という出版社時代からの先輩記者。私より先にフリーランスの記者となっていた尊敬する記者。この先輩の後を追ってフリーの記者となったとも言える。

 

そんな先輩が取材に出て僅か数日後に最終的な結論を出した。町が平和な理由に特別な原因は無い。そう、つまりは、たまたまその町の犯罪率が低いとした。  

 

ありえない

 

初め結果を聞いた時は混乱した。虚偽が許せず上司に楯突いて大手新聞社から首にされ、凶悪ヴィラン組織の悪行を単独スクープした事もある勇気と正義感のある先輩…。見付からなかったと言うならまだ判るが、僅か数日で取材を諦めてどう考えても間違った結論をだすってなんだ。明らかに…事実を歪めていた。

 

腐った私とは違う正真正銘の記者。そう思っていただけにショックだった。

 

それから先輩は消息をたった。

最後に目撃されたのは例の町。

 

警察には相談はしてある。先輩が消息不明になった場所がこの町だと伝えた。記者として情報の秘匿なんて事もせずこの町の異常も伝えた。異常についてどう判断されるか判らないけど、少なくとも探索願いは出したので警察も探してくれる筈。

 

最低限やれることはやった。

その上で私は件の町の取材を行うことにした。

 

どう考えても先輩が行方不明の原因は町に関係している。私より修羅場を潜り抜けてきた先輩が行方不明と言うことは、危険は相応にある事は間違いない。本音を言えば避けたい。しかし取材をしない訳にはいかない。

 

別に先輩を助けようなんて思ってない。

 

こんな商売をしていれば何時不幸に不本意に終わるかわからない。先輩とはお互いに取材で最悪な事が起きても、それを理由に取材をしないと約束をしていた。取材が仇の様なそれだと記者として客観的な視点が保たれないからだ。

 

理由は、あの町の取材に出された結論を聞いて初めは先輩に落胆した。しかし最後に目撃された場所を考えると先輩は取材を継続していた。なら何故、あんな判りやすい断念した様な取材の結果を話したのか。何故、私に可笑しいとわかる取材の結果を話したのか。

 

恐らく…先輩は自分でも避けるほど危険だと伝えて、私が万一にも取材しようなんて思わないようにするつもりだったんだろう。つまり危険と判れば私が取材を避けると思われた。気付くと…無性に腹が立った。

 

先輩に腐った記者と思われていた。

自覚があるからこそ腹が立つってヤツだ。

 

もし、もし町の取材を避けるなら、先輩に腐ってると思われた事を肯定する事になる。それは自分で腐ってると思うのとは訳が違う。自他共に腐ってる事を認めるなんて事になる。……自分でも変なプライドだと思うが、其だけは嫌だと思えた。

 

意地に面子。これが私が危険と思える取材をしに行こうと思った理由だ。町に何が隠されているのか。何が潜んでいるのか。私は絶対に暴いて見せるつもりだ……無理だった場合の記録を残しておいて何だが必ず見付ける。

 

 

取材初日

○月×日

 

外からは判らない。なら内になる現地に行かなければいけない。足で現地の情報を得る事にしした。

 

当事者の◯◯町の住民からの聞き取り調査から始める。朝から夕方まで、今日一日件の町で取材をした結果、特に情報はなかった。今日歩いた○○町は平穏そのもので一番平和な町だと言うのは間違いなさそうだ。

 

気になる事はあった。

 

何だろうか。住民の反応がすこぶる悪い。避けられてる感じだ。記者だと避けられる事はたまにある要る。しかし避ける住民ばかりなのは変だ。

 

住民が何か知ってる?まさか町ぐるみで何かを隠しているのか?流石にそれは無い…と思いたい。村社会ならともかく普通の町ではあり得ない。あり得ない筈だ。

 

一日の成果、住民からはこの町が平和な理由の有力な情報は得られなかった。先輩についても何人かは目撃したような事を言うけど、行方不明に成っていこうの手懸かりがない。町も平和なだけで特段可笑しな事はない。住民の対応が不自然だと少し感じた事ぐらい

 

明日も引き続き住民に取材をしようと思う。

 

 

取材二日目

 

 

ーー

 

 

取材三日目

 

 

今日で取材三日目。

 

今は取材をやった帰りで、初日から続いて三回目の聞き取りをしてきたが、進展がない。

 

ある意味進展があったか。

不味いというか、悪い意味で

 

どうやら私は町の住民から警戒をされはじめたようだ。二日目辺りは気のせいかと思ったが気のせいじゃない。その手の気配には敏感でないと生き残れない。だから危険の中にあるスクープを逃してきた……

 

とにかく、住民に警戒されると言うことは、町の住民が何かを隠している。初日にあり得ないと思った可能性が出てきた。目眩がしてきた。先輩も同じことに気づいて私にあんな事を。

 

何にしても不味い。先輩の事を考えて更に慎重に動かなければ、住民への聞き込みは避けることにしよう。住民がダメとなると選択肢が大分少なくなる。

 

とは言え明日は予定がある。

 

この地域を担当する唯一のプロヒーローの事務所に聞き込み。この町唯一専属のヒーロー事務所に電話して明日取材するアポは取れている。町を専任とするヒーローで重要な情報が確実にありそうだが、なるべく行きたくはなかった。

 

 

この町では副業だけでランキング、ヴィランらしい見掛けのヒーローの上位陣。顔で人を判断するのはあれだが……事務所紹介に出てる顔をみると…見た目だけの話なんだろうか…墓穴、虎穴に入るような気持ちになる。危険を覚悟で取材としても……自分から地雷を踏む様な事はしたくないだろう。

 

 

取材4日目。

 

ヒーロー事務所に行って無事に帰ってきた。

なんというのか生で見るとさらに濃い人で、やはり見掛けだけでなく本当にヒーローなのか…

 

昼頃、予定通りの時間にヒーロー事務所についた。そこで「ほっほっほっ……記者さんよく来てくれましたねぇ」とヒーロー名『ゲマ』という顔だけ出したローブを衣装を来た顔色がゾンビみたいなヒーローに挨拶をされた。

 

ヴィランみたいな見た目のこの町以外で活動してた時は実力派ヒーローとして上位。ヒーロー歴は長い大ベテラン。今は副業ぐらいで活発な活動はしてないが子供大好きな実力派ヒーローとしてそれなりに有名……私が親だとしたら子供を近づけたくないと思う。

 

サイドキックは二人ともどちらも異形系、馬と牛っぽい。…服が肌の色に近くて一瞬全裸に見えた。

 

ゲマにこの町が平和な理由を聞くと、神のお陰とか意味のわからない話を聞かされた。住民のモラルが高いとか誤魔化されると思ったのにぶっ飛んだ話を聞かされた。しかし詳しく話を聞くとただぶっ飛んだ話でなく、語っている神が聖書の神やら宗教的なモノでなく……実在する誰かの事を言ってるようだ。

 

狂信者の目、これ以上聞くのは危険だと感じゲマからの取材は簡単に済ませた。成果としては大きくあったと言える。この町に何者か…世界で一番町を平和にする様な相当な人物が居るようだ。

 

 

取材五日目

 

 

 

取材六日目

 

 

 

取材七日目

 

進展はしているが……

 

誰かに取材をせずに町を歩き回って二日目だが、住民から何度か止められたりした。恐らく件の誰かに近寄らせないように…大体暫くすれば止められる事がない。しかしある特定の場所は時間に関係なしに止められる。止められた先になにかある。記者として培ってきた危機感がこれでもかと警鐘を鳴らしていて……明日行って見ようと思う。

 

○区○番地

 

 

 

取材八日目

 

該当地区に入り、いきなり驚く相手と遭遇した。三人組で二人は知っていた。DJヒーローのプレゼントマイク、ネズミの様な特徴的な姿は雄英の校長、二人ともプロヒーロー、あと一人は誰か判らないがあの立ち振舞いは恐らく同じくプロヒーロー。三人のプロヒーローか。

 

気になりコソッリつけた。プロヒーローなら直ぐに気付くと思ったが、意外と気付かない。三人は酷くやつれた顔をしていた。会話が聞こえる範囲に近づいても何の反応もない。相当に疲れてるのだろうか?

 

 

会話内容を聞くと生徒のスカウトをしてきた帰り?雄英の直接スカウトなんて聞いたことがない。それだけスカウト相手は有望と言うことだろうか。三人が居た場所も含めて考えると…この町の秘密に関係があると思えた。

 

思いきって三人に取材をしてみた。すげなくあしらわれて、唯一ヴィラン組織が有ることは否定された。最後にスカウトした相手について聞くと、スカウトに成功してるように聞こえるんだが……なんで後悔している風だったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話

 

"個性"が殆どの人類に宿り職業としてプロヒーローが当たり前の今の世の中。

高校にはヒーロー科も当たり前のように存在する。ヒーロー科は文字通り将来ヒーローを目指すモノ達の為の科目。

 

ヒーロー科は人気がある。当然受験などでヒーロー科の倍率は軒並み高い。そんな中でも倍率300を誇る雄英高校のヒーロー科は日本で最高峰、比肩するのは士傑高校ぐらいだろう。超エリート高校。

 

難関の試験を抜けて雄英のヒーロー科に入学しても、ヒーローに相応しくないなら簡単に退学者させられることもある。1つのクラス全員が退学者になった事もあると言えば、その厳しさは少しは判るだろうか。

 

 

困難に比例して雄英ヒーロー科を卒業したヒーロー達の実力に知名度は群を抜く。雄英の卒業者は活躍し有名になるヒーローが多数。なにより不動のナンバーワンと呼ばれる現トップヒーローも雄英卒業者。 

 

ヒーローになるだけなら他の高校のヒーロー科を卒業する方が遥かに楽。しかしヒーロー飽和と言われる今の時勢、有名になれないまま消えていくヒーローは数知れず。ヒーローの中でも脚光を浴びるヒーローは極一部。ヒーロー志望なら誰もが思うだろう。ヒーローになるなら世間に名を刻むほど有名になりたい。その思いが雄英の倍率300に現れている。

 

 

雄英ヒーロー科の受験日

 

数千人のヤル気に満ちた受験生達が集まっている。ヒーローになる事を夢見るヒーロー候補者達。ヒーロー候補達が集まっている。この場の全員がヒーロー候補……

 

ヒーロー候補?

 

関係ない、とも言えない話だが、もしヒーローを別の呼び方をするとしたら英雄の他にも勇者と呼べないだろうか。とにかくヒーローを勇者と呼ぶとしてだ。

 

勇者候補として『大魔王(バーンさま)』が似合わない学生服でいたらどうだろう。周りの勇者候補の顔色がとても悪い。まるで勇者になる前に始末しに来た何て事を想像してるみたいだ。

 

 

「いやーー……場違い感が酷いね!」

 

 

何処からか覗き見していた校長がそうほざいた。

 

 

 

 

 

 

雄英実技試験会場にあるー室。雄英で教師をしている世間に名の知れたプロヒーロー達が集まっている。校長である根津が入って来た。

 

「あ、校長、探しに行こうか話していた所ですよ」

 

「ゴメンゴメン遅れてすまないね」

 

「校長どこかに寄り道でもしてたんですか?」

 

「ちょっとね。確認に行ってたのさ」

 

「確認ですか」

 

校長が直接確認するような事があったのだろうか?何を確認してきたのか聞こうとした。しかし聞く前にまたドアが開く。

 

「失礼するよ」

 

「……バアさんどうして此所に」

 

彼女はバアさん、いやリカバリーガール、希少な治癒能力の個性を持ったプロヒーローであり雄英の医療を司っている。彼女の治療なら骨折レベルの怪我でも当日に治せる。雄英高校が生徒に対し無茶が出来る理由が彼女にある。癒しの個性なのに生徒の苦難と苦痛を保証していた。

 

「バアさんじゃなくてリカバリーガールと呼びな。と、今はそんな事を言ってる場合じゃないか、校長」

 

「なんだい。緊急の用件なのかな」

 

冗談めかした問い掛けに真剣に返答した。

 

「緊急だね」

 

その言葉を聞いた瞬間に室内の全員、教員がプロヒーローとしてリカバリーガールに注目した。

 

「それは穏やかでないね。なにがあったんだい」

 

「さっきから倒れた患者が何人も来てるんだよ。運び込まれた全員が精神に異常な負担が掛かって倒れたみたいなんだ」

 

拍子抜けと言った風に顔を見合わせる。彼女の治癒には傷の耐えないプロヒーローは全員がお世話になっている。さらに年齢もヒーロー歴も断トツ、この場のヒーローの殆どが彼女に頭が上がらない者ばかり。それでもヒーローとして気後れなんて理由で判断を誤る訳にいかない。可笑しいと思った事は口に出す。

 

「それって試験の緊張のせいじゃないですか?たまに神経の細い子もヒーロー科の受験に来てますし。去年だって受験生が倒れた事はありましたよね」

 

何で高校教師として採用されたか判らない全身タイツな格好の18禁ヒーローミッドナイトが言った。年齢サンジュウ…

 

「確かに緊張でまいって倒れる受験生は毎年居るけどね…………今年はその数が例年と誤差じゃ済まないぐらい多すぎるんだよ」

 

「そんなに多いんですか」

 

「ウ~ン、今年は神経の細いヤツが多いって事ではないんです?」

 

「ないね。倒れたとされる場所はある一定の範囲内、さらに倒れた受験生は目覚めてからも何かに怯えていた。反応から言って試験での緊張とは違う原因が確実にあるね。それと」

 

「それと?」

 

 

「全員が大物のヴィランとしか言えない存在を見て体が震えたと証言してるよ」

 

教師たちは顔を見合わせた。

 

「いや、それを先に言ってください。それはもうその角のヤツが確定で黒ですね」

 

一人の教師の発言に多くの教員が頷いた。

 

「そのヴィランにしか見えないヤツに、精神に作用する系統の個性で何かされたのかな?」

 

「受験の妨害目的ですかね」

 

「受験生か。受験生に紛れたヴィランという可能性もあるか」

 

「何にしても早急にソイツを確保しないといけませんよ」

 

「下手に確保に動くと受験生を巻き込みますよ」

 

「校長、どうします?」 

 

ミッドナイトはこの場の最高責任者である校長に指示をあおいだ。

 

「…………」

 

無言だ。

 

「校長?聞こえてますよね」

 

「うん聞こえてるよ」

 

校長はそう答えた。

その続きがない事に困惑した。 

 

見掛けはアレだが、個性ハイスペックを持った根津は人間でないと言うハンデを退け雄英の校長になるほど知能が高い。見かけと違いこの場で一番頭脳的な面では上だ。 

 

その頭脳で何時もは直ぐに指示を出すのに、直ぐに指示を出さないのは変だ。根津は毛で判りにくいがよくみると汗をかいていた。それと校長の他にも約二名反応が変な教師がいる。居心地を悪そうにしたり。気まずそうにしていた。

 

大ベテランのリカバリーガールが先ず始めに気づいた。

 

「校長、心当たりがあるのかい。あとイレイザーヘッドとプレゼントマイクも何か思い当たるみたいな様子だね」

 

その発言に其々三人は注目を集めた。

居心地が悪そうだ。

 

「なにか思い当たることがあるの」

 

同僚の問い掛けにまず相澤が答えた。

 

「…いえ…確実にとは言えませんが……大物のヴィランにしか見えないって所で多大に」

 

続いてプレゼントマイクが深く頷きながら発言。

 

「あーイレイザーも同じ予想したのな。そうとしか考えられない的な感じだよな……いや!確実にそうって決まった訳じゃないけどなぁ」

 

二人が答えた後に全員が根津を見た。

 

「なんだね。二人と同じかな!あとついさっき直接みたけど…二人の予想は間違ってないと思うよ!」

 

根津の言葉にヤッパリなのかと二人は顔をしかめた。

 

「ふむ、心当たりがあって動こうとしないって事は、問題ない事なのかい?」

 

「問題がないか?問題がないって聞かれたら、うん大問題だ」

 

「しかし心当たりで間違いないなら俺達が取り締まれる問題ではないですね。……そもそも問題を呼び込んでしまったのは此方ですよ」

 

二人の目をよく見たら虚ろだ。

特に相澤の様子が可笑しい。

 

「呼び込んだ?その心当たりは…人が倒れてる理由は個性の悪用ではないんですか」

 

「個性の悪用はしてないよ。倒れるのが個性が原因だと言われたらあながち間違いかな?」

 

「倒れたのはメンタルが弱い奴だろなぁ。試験の緊張とのダブルパンチでノックアウトってところだろ」

 

「……そんな所か」

 

三人は自分達だけで納得していた。

 

「個性の悪用はしてないけど個性が原因、メンタルが弱いと倒れる……それって、もしかして見掛けがグロテスクで滅茶苦茶怖い系?」

 

「まー…うん!怖いって所はあってる」

 

「グロテスク系の怖さじゃなくて…こう!心に来る系の怖さ?」

 

「……見ると精神的に来る怖さがあると思ってください」

 

プレゼントマイクはともかく相澤のガチ目の発言にプロヒーローなのに怖くなった。

 

「いったいどんな相手なんだい。間違ってないか確認しないといけないから教えな」

 

山田と相澤は校長を見る。お前が言えよと目が訴えていた。校長は扱いが悪く成ってない?と思う。

 

「うーん…そうだね…ハッキリ言うとね。受験生として彼が来てるのさ!」

 

まったくハッキリ言わなかった。

受験生としかわからない

 

「その言い方だと私たちでも知ってるような有名な相手なのかい?」

 

「……知ってると思うよ」

 

プロヒーロー達は誰か有名人やプロヒーローの子供か?など様々な想像をした。

 

「だから誰なんだい……」

 

校長は目を泳がせ相澤に目を向けると目を伏せられ。山田に目を向けると天井をみて口笛を吹いていた。

 

ここまでは言い澱むとなるとよほどに言いにくい相手、まさか犯罪者(ヴィラン)の関係者かと悪い方向の想像をしだす。当たらずとも遠からず。

 

「だれ、なんだい」

 

強めの問い掛けに校長はしかたなさそうに言うことにした。

 

「……地獄の帝王の息子さんさ」

 

反応はスカウトに行くと聞いた相澤や山田と似たような感じだ。害獣が居ると保健所に連絡しようと思ったのは幾人か。

 

 

 

 

「まぁ、落ち着きなよ。彼の実力についてはボクもとても不安だったから、実技試験については大丈夫な様にしてあるさ!」

 

 

 

 

 

勇者の中にいる大魔王ことYouTub○でバーンザーイをして母親を呼んでる幼女をみてホッコリした田中太郎、略してバーンさま。決してロリコンではない。

 

数ヵ月前、ヒーローになる学生が目指す雄英の教師を名乗る者達が家まで来て、雄英を目指さないかとバーンさまが勧誘された。

 

バーンさまは詐欺かと考えた。

 

特段可笑しくない。例年受験の倍率が数百となる雄英は多くの人が入りたい名門校。

 

中学時代のバーンさまは何処にでもいそうな真面目で優等生な下僕は居るが平凡な生徒にしか過ぎなかった。そんな相手を名門がわざわざ勧誘すると思うだろうか。

 

なにより雄英の教師を自称する三人が…どうみても教師に見えない相手だった事も詐欺疑惑のおおきな原因か。

 

サングラスに金髪鶏冠ヘア男、

無精髭の不健康そうな男

 

「やぁはじめまして!先ずは自己紹介をさせてもらうよ。ネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は…雄英高校の校長なのさ!」

 

と、二人を盾にしながら名乗る謎の生き物と謎の言うラインナップ。

 

 

誰が雄英以前に教師と信じるだろう。特に謎の生物、雄英ほどの有名高校が謎の生物を校長にしてると思えない。何故かやって来た二人の男が頷いた。…直ぐにネット検索で出た情報を見せられ間違えようのない校長の顔が載ってるのを見せられた。あと金髪鶏冠がDJプロヒーローをしてる動画も見せられた。

 

本物であり一応は詐欺でないと納得するしかない、勧誘の理由を聞くと、父親が昔は凄かったみたいな理由らしい。父親が凄いなら子供も凄くなるみたいな理由らしい。

 

父親は昔は凄かったのが想像は出来なかったが、要は血縁的な理由の勧誘だろう。勧誘を一応は本当だと信じたバーンさま。ただ信じたからと言って特に嬉しいとも思えなかった。

 

ヒーローになるには最高なのが雄英。

 

バーンさまは現代の若者よろしく少しはヒーローに興味があったが、ヒーローに成りたいと思わないタイプ。内気で平和主義な自分だとヒーローに向かないと思っていたからだ。

 

しかしバーンさまは受験を受ける事にした。

 

"友人"が雄英の試験を受けると隠れ聞いてたので、一緒に試験を受けるのも悪くないかと考えてだ。好都合にも希望の農業高校の入試試験と被らないので、ヒーロー科の一般入試を受ける事に問題はなかった。

 

一般入試に参加すると伝えるとナゼか慌てた様子で、バーンさまは推薦枠で受験を受けられると言われた。どのみち落ちるのに推薦はアレだと遠慮して断った。

 

 

試験日。

雄英の会場の前。

 

バーンさまはどうせ落ちると気楽な気分で受験を受けにきていた。確実に落ちるという前提がありなんの気負いもない。気楽な気分なのはバーン様ぐらいだ。

 

雄英ほどの有名校の試験ピリピリしている。バーンさまの周りで何人も過呼吸で倒れる人が出ていた。

 

真剣に合格しようと思ってきた受験生の緊張はどれ程か。倒れたのは過度な緊張のせいだろう。倒れる人が多発すると不安にもなってくる。助けを求めるようにバーンさまは受験に来ている筈の友人を探すが、人が多すぎて見つからない。只でさえ友人は小さいので見付けるのが困難すぎた。

 

偶々受験生と目線があった。熊に会ったバンビの様にガタガタ震えている。同じ人見知りなんだろうとホッコリして笑うと受験生は倒れた。試験の緊張でまた一人、バーンさまは深く同情をした。

 

それから何十人もの人が倒れるのを見ていると説明会の時間となった。試験の説明会の会場、沢山の受験生がひしめくその場に……バーンさまはいない。

 

「…………」

 

何故か別室。

 

 

バーンさまのみ別室のモニターで説明会を聞かされることになる。モニターで寂しく見る勧誘にきた鶏冠男による実技試験の説明会。とても寂しい。バーンさまはスカウト枠の扱いはこうなのだろうかと広い部屋に一人で心細くなる。外から見ると全くそんな風には見えない何て事は言ってはいけない。

 

説明を終えると移動。実技試験は別の試験会場で行う。試験会場は幾つかあり受験生は試験会場までバスで移動するようだ。

 

 

受験生は先ず実技試験のために着替える。バーンさまも当然に同じ更衣室で着替えに向かう。試験の服装は自由。中学のジャージはもちろんヒーローが着るようなモノを自前で用意してもいいようだ。

 

バーンさまが着るのは自前。服は何故か下僕の様な態度を取る地元のプロヒーローから貰ったローブ。

 

バーンさまが着替えるなか、多くの受験生達が着替えると我先に更衣室から出ていった。まるでこの場に一秒でも長く居たくないみたいな青ざめてたり半泣きな受験生。バーンさまには試験にやる気を燃やした結果としか思われない。

 

 

バーンさまは周りが余りに早く居なくなるので少し急いで着替えると、ゆっくり歩き更衣室をでて指定のバスに乗るバーンさま。余裕でなくローブを踏んで転けたりするのが嫌だったからだ。

 

少し遅れたのに指定されたバスに乗るが、バスにバーンさま一人だった。間違ったバスかと思い運転手に聞いても震えた声で間違ってないですと答えられた。バスの最後尾の端に座ると目をつむるとバーンさまは実技試験について考えた。

 

実技試験の内容は説明だとロボ相手に実戦さながらの試験。1~3Pまで点数がついたロボの撃破。少し考えると可笑しい気がする。

 

試験をするのは一般の中学生。

 

当たり前だが普通の中学生が戦う事なんて経験はまずない。それに原則使用が禁じられた個性を使っての攻撃なんて初だろう。まぁ伝が有れば個性で攻撃する訓練もできるだろうか。

 

しかし訓練をした一部を除けば、この試験で一番有利なのは、普段から喧嘩をしている者や個性の不正使用をしているモノ。ヒーロー失格な行為をしてる者でないか?…と一度は考えたが、中学もそんなヒーロー失格者を雄英試験に行かせないと思うのでまったく問題ないのだろうと考えを改める。もしきてもそんなヒーロー失格者を合格させる程に雄英の眼も節穴でないだろう。…いや節穴か。バーンさまは平凡な自分をスカウトしてしまった雄英の見る目を信じるのは難しかった。

 

しかしそれでもいきなり戦闘のような試験はやはり無いと思う。本当に無いと思う。

 

穏やかで平和主義なバーンさまは勿論のこと戦闘なんて未経験、愚直に個性の使用禁止というルールを守っていてバーンさまは自身の個性の把握すらできていない。

この世界で一般的に個性はヒーローしか使ってはいけないもの。自宅内などでは使えるが別に使う必要もなかった。ヒーローになるなら練習は必要だろうがバーン様は一切使ったことがない。

 

なんで雄英ヒーロー科の試験に来たんだと言われるだろうが、そもそも来るつもりが無かった。

 

なら受験が決まった後に練習ができた。

ヤル気がなかった。

 

この試験、物見遊山気分、(何故か見つからなかったが)友人と受ける記念受験のつもり。目標は合格でなく怪我をせずに終わることぐらい。どう安全にやり過ごすか考えてるとバスが動き出した。

 

「……」

 

バーンさまはバスに一人。

とてもさみしい。

 

バスが止まると他の受験生別のバスで来てると思いすぐに降りた。

 

案の定と言うのか……誰もいない。バスもサッサと何処かに行って一人。大きな町を模した試験会場のスタート地点、人が沢山並びそうなスタートラインは有るのにバーンさまは一人。

 

試験は一人でやるということか。バーンさまは眼を逸らしてきた事にようやく目を向けた。試験の説明を一人で聞かされた時には薄々こうなる気がしていた。スカウト枠の特別扱いなんだろうか。こんな寂しい特別扱いいらなかった。イジメを受けた気分で精神に会心、いや痛恨の一撃を受けた。

 

『はいスタート』

 

スタートのアナウンス。間違えようのない金髪鶏冠男、プレゼントマイクの声。合図のあと急げなど競争相手が居る前提の言葉を発していた。一人ポツンと居るバーンさま…切実に競争相手が欲しかった。

 

始まったのに競争相手が居ない事で静かすぎて不気味な会場、ホラー系の町のようだ。奥にいけばロボが出てくるだろうか。行こうと思えない。

 

バーンさまは終わりまで此所に居ようかなと思う。試合放棄!リタイア!そんな結果でも別にいいかと思う気持ちでスタート地点で居ると説明会で1Pと説明されてたロボが自ら出てきた。ロボの形状が説明会のと少し違う気がした。全体的に分厚い。

 

『シニタクナイ。シニタクナイぃい!!』

 

と言いながらに行動は真逆で猛然と突撃してきた1Pのロボ。ぶつかると思えた瞬間にバーンさまが防御行動として腕を前に突きだすと、腕はロボの胸部の一番装甲の厚そうな所に当たり……つらぬいた。

 

『シニタク…な…い』

 

悪質な音声を残してガクリと機能停止するロボ。

 

音声の事は軽くスルーするとして、仰々しいわりに簡単に倒せたロボ。貫いた腕に残ったのはクッキーを砕いた程度の感覚。バーンさまはなるほどと思う。この試験はロボを破壊してPをとる試験。しかし受験生は戦闘をしたことがないだろう中学生、それに受験生の中には対ロボ向けでない個性の受験生もいるだろう。だから素手でも簡単に破壊できるようなロボなんだろうと納得。知った所でヤル気がないので意味がない。

 

沢山の足音、あちこちから1P2P3Pのロボが、複数飛び出てきてバーンさまを目指して突撃してきた。バーンさまは驚いた。なんであんなに、受験生に向かうように設定されてるのだろうか。受験生はバーンさま一人だから来たのか。

 

『イヤァァァ!アッチニイキタクナイ!!』

 

ロボの群れは続々来る。簡単に倒せると判明しても群れてこられたら怖い。今こそ個性を使うときだろうとバーンさまは思う。本能的にちょっと危険かな?と使ってはダメだと思う個性。使った事がない。しかし使えることに疑いはない。人が呼吸を忘れないように本能的に何時でも使える気がしていた。

 

使えると思う力は複数。

初めなのでふーーと吹くような軽い吐息の様な軽めの力を使う。

 

ギラ

 

人指し指の先に光ったようにエネルギーが収束し。高熱がレーザーの様に打ち出された。収束からレーザがでるまで、瞬きするよりも一瞬だ。人の目には一瞬赤く光ると、ロボやビルに赤い線を走らせ消えた。何の効果も無かったと一瞬思われた。

 

しかし

 

赤い線の通過したロボが前進しようと進むと…

 

ゴトッ、

 

ロボは赤い線が見えた所から切り分けられ分断される。バイオハ◯ードのレーザーのトラップに掛かったあとのようだ。生身で受ければどうなるか…その惨状を見て頷くバーンさま。二度と『ギラ』は使わないと決めた。

 

『ロボニモジンケンヲ!!ロボニモジンケンヲ!』

 

『シヌゥウウ』

 

ロボはまだきていた。

何の為にあるのか不明な音声はさらに大きくなっている。バーンさまは今度は指先でなく手のひらをロボに向けた。

 

 

『ヤッテヤルワァァ!!』

 

『オユルシクダサイ!』

 

ヤケクソなのか悲鳴なのか判らない叫びの音声を発しながらバーン様の元に向かうロボ。まるで蟻地獄に落とされるアリの様に見えたのは気のせいだろうか。バーンさまは迎撃する。もちろん危ない『ギラ』はない。今度は自身の個性のなかで最弱と思う力を

 

 

バギ

 

風の渦巻きがロボはミキサーに掛けられた様に粉々。

 

メラ

 

噴火のような火柱によりロボが溶解。

 

ヒャド

 

氷結の世界で塵の様に砕けるロボ。

 

イオ

 

大きな爆発がロボと一緒にビルもついでに飲み込んだ。

 

自分の産み出した光景に再び満足げにまた頷くと、魔法はなるべく使わないと決めた。

 

バーンさまは攻撃的な自分の個性に驚くが、よく考えたら寝ぼけた父親がもっと酷い光景を毎日作ってたなと、何だ此ぐらいなら普通だなと思う。普通の基準が可笑しい。

 

向かってくるロボは(原型も残さずに)居なくなった。これで終わりだろうか?

 

その時、地響き。ズンズンと何かが歩く地響き。そして出てきたのはビル並みに巨大なロボ。これは高校入試の試験、バーンさまは雄英は絶対に頭おかしいと確信した。よく考えると一般人の父親ぐらいのサイズだったので可笑しくないか。

 

 

試験前に説明された0ポイントだろう。倒す意味はいっさいない。(誰も居らず隠れた救助ポイントもつかないので本当に意味がない)

 

巨大ロボの歩く震動でビルの一部が崩れた。バーンさまの近くに瓦礫は落ちてくるが当たる範囲に入ってないので動かなかった。油断していた、

 

ゴツン。

 

 

ビルの破片が落ちて砕けてその破片がバーンさまの額にガツンと当たった。偶然の奇跡、拳大の瓦礫が人に致命傷を与えるのに十分なサイズと勢いだったが、砕けたのは破片の方でありバーンさまの額は無傷。

 

だが

 

バーンさまの周囲の大気が歪んだ。

 

まるで物理的な圧力のあるような歪み。画面越しに見ていた雄英のプロヒーローに息を飲ませるほど、オールマイトですら険しい顔をしていた。

 

 

バーンさまに今あるのはシンプルな思考。

 

恥ずかしい。

 

顔文字にすれば…(*/□\*) 

 

人によって恥ずかしいと思った時に恥ずかしさを誤魔化す為に叫んだり何かを殴りたいと思う事があるだろう。しかし誰かに見られて叫んだり空や適当な物を殴ろうとするのはさらに恥ずかしい。人はいないがカメラなどで試験を見てるだろうと考えると適当に発散もしづらい。

 

恥ずかしさを発散する方法。

何かを力の限りぶっ叩く。

殴っても問題ないモノはなにか。

 

視界に入ったのは恥ずかしさの元凶である0ポイントロボ。

 

 

殴る…けど近付くのは大きくて少し怖い。あ、殴る以外の方法として個性の力がある。個性で恥ずかしさを解消するために力一杯攻撃しよう。それで選んでしまったのが必殺に部類される。此処までの選択時間は一秒未満、つまり此処から先は反射的(暴走気味)な行動。

 

 

纏っていた大気の歪みが手刀の形の右手に集まっていく。何らかの力が集束したと示すように手が眩しく光を放ち床やビルのコンクリートを剥がすほどの強風が吹き荒れ、遂には何百トンあるか判らないが巨大質量の0ポイントの巨体がコンクリートを削りながら後ろに下がっていく。まだ力を放つ前の光景だ。

 

 

『やめ!!』

 

 

 

監視をしてた相澤が寒気を感じ咄嗟に中断をアナウンスしよとしたが…判断は正しいが言うのが…遅かった。

 

 

 

 

力は解き放たれた。

 

 

 

『カラミティウォール』  

 

 

 

 

必殺の技の一つにして、ある世界で世界最強の勇者パーティを一度は全滅に追い込んだ必殺の一撃。鋼鉄すら粉砕される破壊の波。

 

 

0ポイントの巨体は波に呑まれ放浪され、原型どころか部品の1つも判らないほどに砕かれ、波は通過した後には剥き出しの地面…そして目標を破壊しても衝撃波は止まらない。バーン様は止める術は知らないので見送るしかない。

 

意図せずこれから巻き込まれる会場にもしだ。感情があるなら、顔文字にするとこれだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\(^o^)/オワタ

 

 

 




ポップのギラがレーザーみたいでしたし。
バーンさまのならこうなるかなと

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四話

恐らくバーンさまも出来ること

武装付きの大船を丸ごと持ち上げて歩いて投げる。

大砲にビクともしない巨大城を真っ二つ

国一つ消し飛ばす魔法を射つ





 

バーンさま宅に1通の手紙が届いた。

雄英から届いた手紙。

中には固形物。

 

固形物はホログラムを投影する装置。

合否の通知らしい。

装置1つで幾らなのか。

なんでそんな所にお金をかけてるのか。

 

『合格おめでとう!!雄英は君が来るのを待ってるのさ!』

 

最後に何故か毛の一部が剥げた雄英の校長にホログラムで伝えられた合格通知。それを両親と見ることになったバーンさま。

 

「まさか雄英みたいな有名な所に、合格スルナンテ」

 

「まったく驚きだな」

 

自身の息子の雄英と言う超エリート高校の合格に驚く、一部で地獄の帝王と呼ばれると父と、一部で女帝と影で呼ばれる母。その二人がまるで極普通の一般人のような反応…いや一般人なのだ。例え外出する度に地震がおきたり空が曇ったり雷が出たり台風クラスの豪風まできたりしても一般人なのだ。街の住民や近隣のヒーローやヴィランからは崇拝され世界征服するとガチで思われたり公権力から監視されたりしてるが一般人なのだ。

 

極々普通な両親は喜んでいるようだが、肝心の合格した本人は腕組をして黙している。その堂々たる姿は合格は当然だという態度にみえるが、本人は合格するとは砂糖の粒子ほども思っても居なかった。それは試験で更地になった試験会場を思い出せば。

 

「……」

 

更地について合格通知で特に言及は無かった。

なんで追求は無いんだろうか?

 

ウッカリやり過ぎて町ひとつ分の会場が瓦礫と化したが、真面目に試験に取り組んだだけのバーンさまは悪いのだろうか?いやきっと悪くない!!将来のヒーローの為の試験で一般人の中学生程度に壊せる設備なのがダメでないか?雄英側もそう思ったからこそ責任追及が無かったんだろう。そう思い心の平穏を保とうとするバーンさま。

 

まぁ会場については考えても仕方ないと、思考は雄英ヒーロー科の合格の事についてになる。

 

(会場ごと)ロボを破壊して合格……合格判定がよくわからない。会場の被害があれでヒーロー的に良いんだろうか?点数のマイナスとかは無かったんだろうか。そこも考えても仕方ないなと次の事を考える。

 

目下一番考えるべき事であり大きな問題は…

雄英に合格したこと。

雄英に合格した事が問題なのだ。

 

受験は受けたが倍率300倍であったので絶対に受からないと確信し、(会場で出会えなかったが)友人と一緒に記念のつもりで受けた。不合格前提で受けていたのに合格した。バーンさまに合格がどれだけ嬉しいのですかと聞けば、挑戦気分で食べたシチュー味のガリガ○くんで当たりを引いて、同じシチュー味をもらったような気分と答えるだろう。落ちた受験生が聞けばキレ!!…無いか。バーンさまを一目見れば。

 

辞退の連絡をしようかと考える。

 

「こう言う時はお祝いか?」

 

「そうね。今日は手間をかけて豪華なのを作るわネ」

 

辞退しようと考えてる最中にお祝いをしようとする両親を見ると言い難い。試験のときに破壊した会場を思い出すとさらに言いづらい。

 

悩むバーンさまはふと同じく雄英を受験した友人がどうなったか気になる。試験に合格しただろうか。バーンさまは自分が受かったなら友人も合格しているかもと考えた。雄英に友人が合格してるなら……と考えた。

 

明日学校で聞いてみようと思う。

バーンさまの通う中学校。

友人が別の友人と会話していてちょうど聞こうとした話題が出ているようだ。

 

「は??雄英合格???」

 

「ウッソだろおい!?お前があの雄英のヒーロー科に合格したなんてありえないだろ!?どんな不正した!?」

 

泣きながら雄英に合格した事を喜んでいる友人、もうきく前に合格したとまるわかり。

 

友人の合格した喜びをの声をバーンさまは離れた所で聞いいる。一応言うがバーンさまはストーカーでも友人の前に自称もつかない。中学入学二年ぐらいに向こうから友人だと言ってきたのだ。なので間違いなく友人。ただ他の友人と居るときには行きにくいだけなのだ。

 

友人の友人に不正を疑われてるが、そんな事を気にせず涙を流して雄英合格を喜んでいる。

 

「……」

 

雄英合格に本当に嬉しそうな友人を見てると気分が切り替わる気持ちになる。成り行きでも雄英程の学校で行けるなら幸運ではないか。ヒーローに成るつもりは相変わらず無いが、別にヒーロー科に通おうとヒーロー以外の道に進んでも問題ない。

 

雄英のネームバリューはヒーロー以外の道に入ろうとも高学歴として使える。大学から農業の学校に進んでもきっと遅くない。何より数少ない友人と同じ高校なのは悪くない。気分が持ち直した所で他の友人は居るのは気まずいが頑張って、友人に同じ高校に行くと伝える事にした。

 

伝えると…

 

「!!!!!!!!??????」

 

友人は驚きすぎて椅子から転げ落ちる。白目を剥いて泡を吹いてる。相変わらず驚きのリアクションが大きい友人だとバーンさまは思う。痙攣しだした友人を他の友人の友人はスルーしたが、拾って保健室まで連れていくバーンさまは友人思いだ。

 

それから月日は流れ中学を卒業しバーンさまの雄英高校への初登校の日となった。

 

バーンさまがやってきた教室は1-A。

高校登校、初めてのクラス、

 

バーン様は朝早く一番に登校。

 

 

「「「……」」」シーン

 

痛いほど静かだ。バーンさまは自分の入るクラスでは何時もこれなのでこれが普通だと思っている。クラス内は本当に静かだ。バーンさまの方を誰も見ないようにしている、と思えば……一名不良ぽいのが睨んできていた。友人になりたいのだろうか?友人は欲しいが……不良に見える相手は苦手なのでスルーした。

 

「!!???」

 

友人が教室に何故かとても警戒したように入ってきた。そして自分を見つけた。

 

運のいい事に友人と同じクラスのようだ。バーンさまをみて『神は死んだ』という顔をした。クラスが一緒で驚いたのだろう。ヒーロー科にはAとBしかクラスはない。同じクラスになる確率は半分もある、そう考えれば相変わらず驚きかたが大袈裟過ぎると思った。

 

友人が気絶した様にポテンと倒れた。

何時ものように拾いにいくと嘘だ。嘘だと呻き声が聞こえてくる

 

指定された机に友人を運び着席される事にしたバーンさまは優しい。しかし友人がこれだと、クラスの関係は初日が大事、誰か話し掛けてくれないかと期待して待った。

 

積極的に自分から動く?バーンさまから話し掛けると大概酷いことになるので動けない。なんでか話しかけると大概怯えられるか手下になるか。

 

バーンさまは過去、なんでそんな反応をされるのか深く悩んだ。外見的には特にこれといって変な所はないとバーンさまは思う。悩めるバーンさまはネットで自分のスペックを書いて匿名でネット相談、結論として長身なのが怖いんだろうという回答を得た。まさに目から鱗の答えだった。確かに高いと怖いのは常識、なにもしてない父親はよく怖がられていた。父親が怖がられていたのも思い返せば身長が高いから……。

 

答えは得たが身長はどうにも成らない。

しかもこのクラスでもどうやら一番身長が高いのはバーンさま。

 

ヒーロー科のクラスであり、ヒーローを目指す勇気溢れるだろう生徒ばかりのクラスのはず。長身な事ぐらい気後れせずに誰かしら話し掛けてきてくれるだろう!!

 

誰も話し掛けてこない……

 

半径一メートルほどが無人。

中学と同じ光景。

 

「……」

 

いや偉大なるバーンさまはこの程度では心は折れない。バーンさまはこの高校で中学では盛大に失敗し頓挫した野望の実現を謀るつもりだ。野望は世界征服……でなく!友達百人出来るかな計画!!中学では何が間違ったのか校外も合わせて下僕千人になって失敗。

 

幸いこのクラスには既に友人は一人いる。あとたった99人、受験勉強そっちのけでネットで学んだ叡知を総動員し無謀な計画を成就させるとバーンさまはやる気に燃えている。雄英(生徒)はバーンさまに(友人候補として)狙われていた。

 

クラスは少しずつ慣れだしたのか喋る生徒が出だした。空気が緩くなった。バーンさまもまた動こうとする。きっとここの生徒なら怯えない。下僕に成ろうとしないと信じて、早速獲も、友人を手に入れる事にした。

 

誰にしようか。

静かに獲物達に視線を向ける。

風邪でも引いてるのか震えていた。

 

見回して決めた。

クラスの生徒は大なり小なり話し掛けるのに躊躇うタイプばかりだが、場違い感のあるオタクぽい少年が居た。

 

獲物は弱者を狙うべき。

友人を作ろうとするのに持って良いのか判らない理論で狙いを定めた。

 

気弱そうなオタクぽい少年を狙おうと決め動こうとした。しかし!何時のまにか起きてたバーンさまの友がコソコソと会話をしているのを見付ける!相手は金髪のチャラそうな男子。

 

恐らく友人に成ろうとしている。

友人同士の間に入るのは難易度が高い。

友人となる前なら混ざれる!

友人となった後では遅い!

この機会を逃せるものか!

 

友人と金髪の少年がビクッと震えた。

風邪だろうか。

大丈夫かと声を掛けよう。

 

バーンさまは席を立つ。

教室がざわめいた。

 

心臓をドキドキ乙女のように高鳴らせ、まるで命を刈り取る前の死神を彷彿とさせる禍々しい気配を出しながら向かおうとして……気付いた。

 

「…席につけ、ホームルームの時間だ」

 

教壇に大きな芋虫がいた。

 

芋虫、いや寝袋から出てきた勧誘にきた無精髭の男だ。女子もいる学校で地べたに寝てたんだろうか。変質者だろうか?見掛けは変質者だろう。変質者として通報されても文句は言えない。比較的に地味な女生徒が困惑した声で誰ですかといった。

 

機会を外されたバーン様が見ると視線を逸らし話し出した。

 

「このクラスの担任、思ったよりも緩い空気ではないな。お友達ごっこをしに来ているヤツはあまり居ないようだ。……よろしい。ここはヒーロー科だ常に緊張感を持つように、俺も持たざる得ないんだからな……改めて俺はこれから君達の担任になる相澤、よろしくね」

 

(友人獲得)計画の妨害になりそうなのは担任だった。お友達関係の否定ともとれる台詞、ヒーローにこそ友好関係は必要でないか?ボッチなヒーローなどヒーローに憧れる子供にはガッカリだろう。それに友人がいる社交的なヒーローとボッチなヒーロー、どちらが助けられる方も安心できるか明白。…悲しいが、友人の少ないバーンさまはもし自分が助けに行くとどんな反応をされるか想像がつくからこそ思う。

 

そもそも何故にいきなり友達ごっことか言ったのか、話の流れからしてヒーローに成るのにダメだと言いたいのか、もしや友達関係を怠惰ととらえてる?友人が居ない側の思想……バーンさまは見た目から相澤の友人の人数を察した。お友だちは虚無か空気なんだろう。

 

見掛け的に相澤は灰色青春で友達居なかったと失礼にも確信する。友達ごっことか言ったのはボッチ故の嫉妬の妨害だろう。青春灰色仲間を作りたい無精髭なんだろう。バーンさまは一人友はいる。相澤の友人は0(確信)

 

0と1の差は近そうで遠い。0の相澤と比べたらバーンさまが居る高みはマッチ箱の高さに匹敵するといっていい。バーン様は内心で相澤を(数センチぐらいの)高みから見下した。

 

謎の不快感を感じる相澤は、ジャージに着替えグラウンドに出るように指示をだし教室から出ていった。メガネの生徒に聞かれたな具体的な説明はしなかった。やはり友達が居ないだけあってコミュニケーション能力に問題がある。

先ず自己紹介とかでないか?グラウンドでするんだろうかと生徒達は疑問を感じながらも行動に移る。バーンさまも着替えた。

 

向かう先では自己紹介があるだろう。

 

バーンさまは有るだろう自己紹介の為に三日の徹夜をして挨拶を考えてきた。空気が死んでいた小中の時の失敗を繰り返さない為に気合いは十分。バーンさまは爆笑必死の事故紹介をするつもりだ。ネットでは大ウケだったから自信満々だ。

 

少しネットをしてる人なら判るだろうがネットで笑える話をリアルでやるとどうなるか。旬が過ぎて完全に腐った一発芸人の芸を現実にすると想像しよう。反応次第で、1つの可能性としてバーンさまはメガ○テを選び地図の書き換えが必要に成るだろう。

 

自分達の命の危機なんて誰も気付けるわけなくバーンさま含む全員が着替えてグラウンドにいく。バーンさまのジャージ姿にうわぁと反応した失礼なヤツはだれだ。

 

グラウンドには相澤がいた。

何かの機材がある

 

「これからテストを行う」

 

集まった生徒に言った。

生徒はざわめいた。

入学初日で挨拶すらろくになくいきなりやるのが、テスト?

 

「は!?待ってください!入学式は!?ガイダンスは!?」

 

「そんな時間はない。ヒーローになるために一分一秒も無駄には出来ない。時間は合理的に使うべきだ」

 

初っぱなから自分の持論を押し付ける。地雷教師の匂いを感じても仕方ないだろう。ヒーローとしては不明だが教師としてはダメそうだ。

 

この分だと自己紹介もない。ボッチで会話とかしてなければ自己紹介なんて時間の無駄だっただろう、とバーンさまは相澤がボッチだった前提で憤りながら哀れに思う。

 

自己紹介なんてしないようだ。

自己紹介の機会が無ければシャイなバーンさまでは事故紹介はできない。

 

流石は雄英の教師でありプロヒーロー、本人も知らないうちに自分も含め多くの人を救っていた。代償に三日考えた事故紹介を潰されたバーンさまからのヘイトが極めて高まったが。

 

結果的には多くの人を救ったという意味不明な、テスト、個性を使う個性把握テストは開始される。

 

能力をクラスに見せる。この個性把握テストが自己紹介みたいなモノかとバーンさまは思い直す。バーンさまの事故紹介分のヤル気がテストに向かう。向かってしまった。

 

先ずはデモンストレーションとしてボール投げをするようだ。やるのは実技試験二位。なんで二位なのか。一位は誰なのか。…全員の視線がチラチラと何故かバーンさまに向いていた。

 

相澤はバーンさまを見てまた目を逸らし髪がチクチクしてそうな、目付きの悪いバーンさまを教室で睨んでいた不良ぽい少年を呼んで投げさせた。しねぇ!!と、叫んで投げた。バーンさまはしねぇ!!は常識的に無いだろうと思う。

 

他のクラスメイトはまだ不明だが、それでも彼処まで酷い生徒は居ると思えない。クラス一の危険人物で問題児だとうとバーンさまは認識した。バーンさま他のクラスメイトからして危険人物の対象は…秘密としておこう

 

それはともかくドン引き必至な不良でもボールを遠くに投げると称賛されていた。つまり此所で活躍すれば自動的にクラスメイトの好感度が上がると言うことではないかとバーンさまは思う。思ってしまった。

 

此処で活躍して心を掴む。言うまでもない事だが精神的な意味の心であり物理的に心(臓)を掴むなんて事はない。何故かまるで捕食者に狙われたような悪寒にブルッと震えた生徒たち。

 

「楽しいね……よし、なら最下位は除籍だ」

 

相澤の発言がクラスを絶句させる。

そして文句が出る。

それは初日で退学は意味不明だ。

 

「ヒーローを目指すなら理不尽を越えろ」

 

文句はバッサリ切り捨てられ撤回されず。テストまではまだ良いとしても、最下位だと除籍、つまりまさかの友達候補を一人消す。もしくは自分が退学か。バーンさまのヘイトがさらに相澤に向かう。あとヒーローになるのに理不尽を越えなきゃいけないなら、只でさえ無かったヒーローに成ろうというやる気が減少した。

 

まぁしかしバーンさまは真面目な生徒だ。授業の一貫としてテストには全力で取り組むつもりだ。そうして行われるテスト…始める前に相澤はバーンさまにだけいった。

 

「……安全の範疇で、人命の被害が出ない範疇を考慮してだ」

 

バーンさまは個性把握テストは全力で……やろうとしたら、態々言う必要もない当然の事を言われた。まるで一人だけ注意しないと人命が危険だと言いたいのか。人聞きの悪い担任だった。いったいなにを根拠にそんな事を言うのかとバーンさまは……おもわない。

 

まだ個性を使った事が一度だけだが、流石に町に見えた会場を更地にした事で自分の個性が危ないと自覚したバーンさま、個性把握テストをちゃんと配慮してやるつもりだ。ちゃんと配慮するつもりだ。

 

五十メートル走。

普通に走った。

 

走った衝撃で隣のレーンの尻尾付きの少年が飛んだ。記録先が壊れる

 

記録不明

 

 

握力測定

普通に握る

握力測定器の握るところがバキンと壊れた。

 

記録カンスト

 

 

立ち幅跳び

普通に『トベルーラ』で飛んだ。

ほぼ無制限の飛行

 

記録カンスト

 

 

前屈

普通に前屈。

見てはいけないモノを見たような気分となる。

 

記録普通

 

 

反復横飛び

普通に横っ飛び。

地面が削れて深い穴が出来た。

 

記録ーーーー

 

ようやく出た記録に友人も同じ種目で良い結果を出していた。ハイタッチしようとしたら足早に離れていく。次の競技に向かっていた。競技に全力なんだろう。

 

 

ボール投げ

 

普通に投げた

ボールが空の雲を吹き飛ばし消息不明、あと投げた余波で生徒が飛んだ。

 

記録カンスト

 

ボール投げで指の骨を折ってボールを投げたモジャモジャ髪の男子にドン引きする。しかし此までの記録があれだったので最下位の可能性が高かった。始めに狙った友人候補なので嬉しい。

 

長距離走

普通にはしった

バイクは卑怯だと思う。

 

記録第一位。

 

 

記録とりが終わると不思議と何故か…グラウンドは無惨な事になっている。バーンさまの記録は、幾つか危険行為と言い掛かりをつけられ記録無しとされたが総合第一位。テストは全員が生存という平和的な結果で終了した。

 

最下位は除籍、順位の決め方が不明だが最下位は指を折った男子の可能性が高いと思えた。

 

バーン様は擁護したいと思うが……増強系の様でテストに有利な個性、肉体勝負の増強系で個性的に純粋な実力勝負しか出来ない透明女子等の生徒以下。結果を唯一出したボール投げも指を折る体たらく………公平に見てヒーロー科に入る以前の問題と思え擁護も難しい。

 

しかし最下位での除籍は嘘だと心なしかテスト前より目が死んだ相澤が爆弾発言。教師が嘘をついた事に騒ぐクラスメイトに便乗しバーンさまも非常識なと呟いた。

 

 

 

 

 

「「「「お前が言うな!!!」」」」

 

 

 

 

何故か相澤含めた全員が口調は違うが同じことを叫ぶ

 

 

 




???「不合格で野放しにするよりましだと思ったのさ!
え?親の方のスカウト?……Hahahaha」



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6話

 

雄英高校入学から2日目。

バーンさまは昨日と同じく早めに起きた。

 

朝食を食べ歯磨きなどした後に壮絶に似合わない雄英の制服を着て外に出た。だから姿を想像してはいけない。森の様な庭を抜けると玄関の門、玄関近くにまるで家みたいに大きな犬小屋と看板が立てられた小屋がある。犬小屋ポチの家と書いてあるから間違いなく犬小屋だろう。犬小屋のサイズ的に体長何mの犬か想像するのは怖い。

 

バーンさまは犬小屋を不自然に見ないようにしながら通りすぎようとした。だがバーンさまが近付くとガチャンと大きな扉が開き何かが出てきた。

 

それは金属ボディな巨漢なオッサンぽい謎の生き物。

 

「おお!おはようございますである!!バー、ゲフン!ゲフン!タロウサマ!今日も登校で有りますね!行ってらっしゃいませ!お家の防衛はこのキンg、ポチめにお任せくだされ!」

 

「…………」

 

バーンさまは無視して外に出る。あの謎の生き物、バーンさまが父親を起こす時に洞窟に入っている時に出会い、何故か主にされ庭に住み着かれ家まで建てられた。保健所に連絡したら引き取ってくれるだろうかと考えながら学校に向かった。

 

 

 

バーンさま2回目の雄英高校への登校。

 

昨日の個性テスト最期のツッコミに親しみを持たれたと期待しての登校だ。

 

バーンさまが入ると初日のようにクラスに訪れる静寂、何時もの事だとバーンさまは気にしない。気にしないったら気にしない。席につくとクラスメイトとの距離は目測およそ半径95センチ。

 

距離は95センチ、昨日は目測およそ一メートル、差し引き一日で五センチ分も親しみを持たれたという事だ!まさに快挙!一日で五センチなら10日後には50センチ、20日後には、バーンさまの明るい未来は確定ではないだろうか。

 

「……」

 

嬉しさに含み笑いをすると距離が二メートルとなった。

 

 

 

 

 

 

 

雄英高校、雄英は講師には現役のプロヒーローを雇っている。しかも実力派ばかり。今の世で実力のあるプロヒーローとはアイドルやスーパースターと同義に近い、さらに雄英は人材だけでなく設備もこの上なく充実していてる。その潤沢さは恐ろしい程だ。例えば実技試験に町一つ丸々再現した会場が複数作られ1つの会場に1台で億単位の巨大ロボを使ってると言えば少しは想像がつくだろうか。

 

今年の雄英は更にスゴい。今年度の講師にはなんと平和の象徴と呼ばれるナンバーワンヒーローもいる。絶大な人気のあるナンバーワンヒーローオールマイトが教師。

 

長年活躍している不動のナンバー1、その期間はうん十年、生徒にとっては産まれる前から今までずっと活躍してきたトップヒーロー。活躍を見て育ってきた。自分達の目指すヒーローの頂き。今日はそんなオールマイトが行う授業。

 

 

 

オールマイトの登場はまだかとソワソワする生徒達。バーンさまは一番後ろの席で腕組をし目をつむっている。まるで興味がないと言う態度。実際にはオールマイトにサイン貰えないだろうかと考えていた。

 

バーンさまは特に熱烈なファンでもないが父親が好きみたいだからだ。けして売ろうとか考えていない。…ネットオークションでサインの値段を見たりしたが本当にそんな意図はない。

 

「わたーしーがーーー……ドアから来たぁ!!」

 

ヒーローコスチュームに身を包んだ筋肉の巨漢が入ってきた。巨漢という所で勝手に住み着いたポチと名乗る謎の生き物を思い出してしまうが、流石に失礼かと思う。

 

『オールマイトきたぁ!!』

 

「すげぇ!生オールマイトだ!」 

 

「あのコスチュームはシルバーエイジのだ!」

 

1-Aのクラスに入ってきたナンバーワンの姿に歓声の様な声が上がる。ただ教師が入ってきただけなのにその熱気は下手なアイドルのコンサートにも負けないかもしれない。実際にヒーローを目指す雄英ヒーロー科生徒にとってオールマイトはアイドルと言っても間違いでない!筋肉巨漢のアイドルとは業が深い。

 

熱狂に乗りきれてないバーンさま、学校の授業でなんでヒーローコスチュームなんだろうかと空気の読めない事を思っていた。熱狂が静まるまでクラスの生徒を覚えるように見ていたオールマイトだが、バーンさまを見て止まった。

 

 

「……」

 

大魔王とナンバーワンヒーローが見つめあう形になった。

 

「「「……っ!」」」

 

 

どちらも相手に対し何も言わない。教室に確かに満たされた息苦しい重い空気。一触即発に感じる緊迫感、何分、何十分いつ終わるか判らない息苦しさを感じたのは緊張による錯覚。実際には数秒でオールマイトから目を逸らしていた。オールマイトが目をそらした瞬間に空気が弛緩し、生徒はホッと息を吐くとさっきのオールマイトは一体なんだったのか考えた。

 

終始顔だけは笑顔のオールマイトの思いは不明、しかし生徒に向ける視線ではない。いったいオールマイトは何を考えていたのだろう。因みにもう片方の当事者は特に何も考えてない。 

 

 

オールマイト登場の熱気が消えて不安そうな生徒たち。オールマイトはハッと自分のせいで微妙になったクラスの空気に気づきゴホン!!と大きく咳払い。

 

 

「HAHAHAゴメンゴメン!少し見すぎたね!君の頭にある角が立派で目が奪われてしまってたよ!」

 

((お、オールマイト!!!??))

 

バーンさまにニコヤカに謝る。しかし空気はまた凍る。喧嘩を売ってるもしくは挑発に聞こえる台詞、バーンさまは頷きオールマイトの言葉を問題にはしなかった。

 

バーンさまが気にしなかった事で空気はホッと平常に戻った。ただナンバーワンヒーローの不自然な態度は本人を除いて生徒たちの記憶に残った。 

 

当然だが見詰めていたのが角の事が理由だと信じた者は先ず居ない。よほど純粋かよほどバカでなければ信じない。当のバーンさまが普通に褒められたと信じてるのは純粋だからだ!

 

「さて!気を取り直して授業だ!初に私の授業でやることだけど、みんなにはこれから模擬戦闘をしてもらおうと思っている」

 

 

残った微妙な空気を吹っ飛ばすほどの台詞を言い放ったオールマイト。まだ入学から数日でなんの訓練も受けてない。なのにいきなりの模擬戦という事に全員が驚く。

まだ入学試験はロボ相手だったが今度は対人。個性を人に向けた事のある生徒なんてまず居ないだろう。気をつけても思わぬ事故もあり得る。生徒の能力任せで始めるというのは危険ではないだろうか。

 

「うわぁ模擬戦闘かぁ……ん?このクラスで模擬戦闘……このクラスのメンバー……で!?」

 

生徒達は有ることに気付いた。

気付いてしまった。

 

「……や、やべぇよ」

 

生徒の顔色が悪い。それをバーンさまは当然だと思う。対人戦とは戦闘だろう。手加減できるか不明な個性で攻撃される。逆でもあいてを傷付けることになる。ヒーローを志しておいてクラスメイトを傷付ける事に抵抗を感じない訳がない。それは顔色も悪くなる。

 

特に危険なのはバーンさま公認クラス一危険そうな爆発が個性の不良ぽい生徒、氷を使うツートンカラー、何を出してくるか判らない真面目そうな痴女、個性把握テスト上位陣。そんな相手との戦いが怖いのは当然だろうと。

 

そんな上位陣を突き放してトップに立ったのは誰か、バーンさまは昨日の自分のテスト結果を素で忘れ顔色が悪い生徒達に仲間意識を持った。

 

クラスメイトも仲間意識を持ったからこそバーンさまに視線を向けてくるんだろう。怯えた感じの視線を。

 

 

地獄に叩き落とされた様な空気にオールマイトは汗を垂らしたが発言は撤回しない。もとい出来なかった。少し不味いかなと思ったが新人教師に臨機応変は厳しいのだ。予定通りに進行する。

 

「そ、それじゃあ!早速だけど!コスチュームに着替えて移動してね!」

 

着替えると来たのは大きなモニターのある部屋。

 

そこでは模擬戦闘をするのに生徒達は其々の個性に合わせたコスチュームに身を包んでいる。コスチュームを見比べ楽し気なクラスメイト、全員が総じてヒーローか変態か痴女らしいと思える格好、バーンさまの格好も『大魔王』と言う個性に合わせた服装だ。とても似合っていた。……ヒーローだろうか?

 

 

黒い貴族風な服に黒いマントなんで黒ばかりなのか。カラスの様な生徒も黒ばかりだが外見と合わると黒ばかりなのは可笑しくないが、なら特に黒くないバーンさまが黒ばかりなのはなぜなのか。どう見ても悪役の衣裳。よくてダークヒーローなコスチューム。とても似合っておられる。試験の時の貰ったローブ?動きにくかったのでタンスに封印された。

 

今回其々のコスチュームはお任せも出来るが、直接業者にコスチュームの希望を述べる事ができた。因みにバーンさまは希望をしていたが、この黒い衣裳には希望が1つも当てはまっていない。

 

提案したのはふもっふか猫系の着ぐるみ衣装。可愛らしい衣装で人気間違いなしだった。何故黒い衣装に?欠片も既望にカスッてない。世界の理が消去したか。誰かに焼却処分でもされたのだろうか。

 

「みんな似合ってるじゃないか!」

 

オールマイトの似合っているという台詞には今度は逆に一人だけ誉め言葉にとれずに微妙な気分となる。偶然か自分からだいぶ離れた所にいる友みたいな愛嬌のある格好が良かったとバーンさまは思った。

 

チームの組分け。

 

ヴィランチームとヒーローチームに二人一組で別れるようだ。二人一組の決め方はクジ引き。

 

バーンさまはチーム決めがくじ引きによるランダムだった事に心底安堵した。中学は偶数のクラスなのに余った一人が何故か居らず二人一組になれなかったバーンさま。

 

他のクラスメイトからすると……この組分けでバーンさまの相棒は絶対に決まる。言い換えるとクラスの誰かが確実に犠牲になる。なんの犠牲かは知らないが。

 

「さ!くじを引いて!」

 

組分けが始まった。20数発分装填できるリボルバーに一発の実弾が入ったロシアンルーレットをするような気分での組分けが。外れ枠は不良だろうなとバーンさまは思う。

 

「こ、これは…………よっしゃぁぁ!!!」

 

「神様!仏さま!お願いします!」

 

「お、お!!生き残った!おれ生き残ったよ!」

 

「はぁ、はぁ……いやだ引きたくねぇ……こわいよ」

 

「ヒーローが逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ」

 

一部、くじを引くのに感情込めすぎでないだろうか?とはいえバーンさまも誰になるだろうかとドキドキした。彼等と同じように(?)模擬戦闘は怖い。しかし恐怖を共に乗り越え友になるのが友情の王道。バーンさまという恐怖と模擬戦闘を乗り越え友が出きるだろうか。あれ?

 

「……」

 

全ての組分けは終わった。バーンさまとコンビになった幸運な人物は誰か。

 

コンビは見えない人だった。

また一人だった訳じゃない。

エア友達の亜種でもない。

 

葉隠透という透明化という個性を持ったインビジブル少女がコンビに選ばれたのだ。

 

手袋と靴だけ見える。それしか着てない。つまり15の少女が屋外で同年代の中で真っ裸。 色付きの液体でも掛けられたら大惨事でないか?またはイレイザーの個性の無効化、能力云々でない部分でとても不安なパートナー。

 

「よ、よろしくね田中さ…くん!わ、私は葉隠透、です!見た通り、あ、見えないか。見えない通り!私の個性は透明になる事ができる個性だよ!……役に立てるかわかんないけど!パートナーだから一緒に……が、がんばろうね!……ごめんなさい!」

 

葉隠はとても元気よくバーンさまに挨拶をした。最後の謝罪はよくわからない。

 

本人が見えていたら涙目で目線が合ってない事とガクガク小鹿の様に震えてる足が見えただろう。そんな事は気付かないバーンさま、15年生きてきて初めてフレンドリー(?)に女の子に挨拶されたと思ったバーンさまは……

 

「フッ……フッフッフッフ……フハハハハハハハ!!」

 

最初は底冷えする様な小さな笑い声その次には高笑い。葉隠はなにか怒らせたのかと震えている。クラスメイトも警戒し、オールマイトは何が起きても良いように身構える。そんな中でバーンさまは高笑いを止めるとこう言った。

 

「共に全てを制そうか」

 

一緒に世界征服しようと言われた?何故かそんな言葉に聞こえた。周りにもそう聞こえた。バーンさまは一緒にがんばろう!といったつもりだ。なんでこの言葉を使ったのか本人としても謎だ。緊張して言葉の選択が混線した。まともに少女と会話をした事がない弊害ということだろう。あと好感度がやたら高くなった。ただの挨拶でバーンさまの好感度は爆上がりチョロいんだ。

 

なにか模擬戦闘の範疇を遥かに超えた重たいモノを感じた葉隠は『あの制するの、この模擬戦だけで良いからね?』と小声で言うのが精一杯。

 

 

バーンさまに友好的なパートナーができ、バーンさまの模擬戦闘へのやる気は0からスカウターがボンと爆発する位に上がっている。相乗して対戦相手の危険度も、若干、少し、跳ね上がったかもしれない。

 

 

そんなバーンさま組の対戦相手、あるかもしれない白熱した勝負による友情物語を彩る対抗相手。はたまた事故の犠牲者、対戦相手に選ばれたのは…ミッドナイト&セメントス。

 

 

 

二人とも教師、プロヒーロー、 

おいまてと思わず葉隠は言ってしまう。

 

「あのなんで教師のお二人が私たちの相手なんです!?」

 

葉隠の抗議にミッドナイトは単純明快に納得する答えを言った。    

 

「ぶっちゃけ生徒が相手なのは危な過ぎるし…」

 

「「「ああ」」」

 

納得の声が多数、バーンさまも納得した。

確かに(全裸の)葉隠は危な過ぎると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




バーンさまのコスチュームはドラクエ、ピサロ風


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7話

 

「ねぇセメントスあの子達初回にしては中々やると思わない。今年の一年生は教えがいが有りそうね」

 

「いえ、ミッドナイト、模擬戦を見るのも良いですが、そろそろ…我々の模擬戦について話しましょう」

 

「………そうね」

 

1年A組の模擬戦闘の対戦相手として呼ばれたのは、私ミッドナイトとセメントス。模擬戦の話……特別な最後にやる模擬戦、ヒーロー側が私とセメントスによるプロヒーローのコンビ、ヴィラン役側は入学したての学生チーム。

 

しかも学生チームの一人には個性の攻撃禁止というとても大きなハンデを負わせる事になっての対戦。プロヒーローでなくど素人の生徒側にハンデ。ヒーローでなくヴィランが制限されるとか現実にありえない設定、言うまでもなくプロヒーロー側が圧倒的に優位。勝てなきゃ恥なレベル。普通に見ると生徒への授業を利用した虐め。普通なら…ね。

 

セメントスは白い顔で判りにくいけど顔色は悪い。私の顔色も同じ感じって見なくてもわかる。これから私たちがする模擬戦闘……なんで、脳裏に三途の川とか棺桶とか物騒な単語がチラつくのかしらねぇ。

 

……相手が地獄の帝王の息子だからよねえええええ!!

 

あーーー…勘弁してよ。プロヒーローの私たちが最後に参加するこの模擬戦の目的は…、建前としては模擬戦の最後にプロヒーローの見本を見せるって事よ。

 

本題は確認。地獄の帝王の息子が対人戦で手加減出来るかどうか。最低でも此だけは確認しないとね。生徒じゃあぶな過ぎるから教師が相手。切実に教師の安全も考えてほしい。プロヒーローだろ?プロヒーローだからってモノにも限度があるわ!!!!

 

もうやだ。まだ20代のころに遭遇した私が知る限り災厄のヴィラン、私もイレイザーやマイクみたいに六年前に秘匿された事件に参加した当事者なのよね。

 

私は途中でリタイア、最終的に地獄の帝王は怪我のないオールマイトでようやく何とかなった相手、その息子さまはサイズ感は違うけど、試験見れば力を継承してる……つまりオールマイトクラスと想定しないといけない。

 

想定する力はオールマイトで手加減できるかとても怪しい。そんな相手と模擬戦?

 

死ねと?

確認とかしなくてもアウトじゃない?

こんなのする前に手加減の練習とかすべしよね?

 

なんで私なのよ!!

 

オールマイトは色々と問題があるから参加はダメ、分体だけなら万一の時も大丈夫なエクトプラズム先生はこんな時に別件で学校に居ない!!万一の時のストッパーになるイレイザーも試験当日には外に応援に呼ばれてる!!

 

他だと危険度が変わらない。押し付けあいになって結果公平にくじを引いた。で、私が外れの貧乏くじを引いたってこと!!

 

模擬戦日にち変えてイレイザーとかいる日にすれば良いわよね?他の生徒と分けるのがダメ?自由な校風が売りなのに融通が効かないってなに?

 

此処まで来たら逃げれない、生徒のみてるまえで逃げるわけにもいかない。勝つとか以前に生存の心配があるけど、無様な結果は避けたい。対戦までまだ時間はある。セメントスと打合せ…

 

「遺書とかいるでしょうか」

 

「打ち合わせ初っぱなの台詞がそれ!?」

 

「あ、スミマセン、実技試験の事を思い出しまして」

 

何てことを思い出させるのよ…。

 

入試の実技試験、先ず思い出すのが素手でロボを砕いていた光景。素手、あのロボって相手が相手だからただの入試用じゃなく、装甲が増築されて増強系のプロの攻撃でも其れなりに耐えれるって太鼓判があったロボットなのよね。軽く一撃で壊せるのオールマイトぐらいじゃない?

 

個性で強化と思ってたけど素の身体能力って疑惑が、サイズがダウンしてるのに地獄の帝王のパワーを引き継いでそう…怪我なしのオールマイトとマトモに殴りあってた地獄の帝王のパワー…セメントスの頑丈な身体でも砕ける。セメントスより柔い肌の乙女の私なんて言わずもがな!!

 

あと、試験ではそんな物理攻撃より恐ろしい攻撃の数々も見せられた。まぁ…だから、なんだけど、今回は用意された特別なルールもある。

 

「情けないけど向こうは攻撃禁止のルールなんだし大丈夫よ」 

 

ほんと情けないけど攻撃は禁止ってハンデを貰ってる。肝心の手加減できるか確認できない?そこはね、理不尽なルールだけどこれを守ってくれるなら最低限の安全は保証出来るって事になるから…手加減とかできるかはまた別の機会に…先ずは最低限のハードルの確認から…

 

攻撃禁止、さらにコンビは攻撃的でないタイプ、コスチュームにも攻撃を補助するモノはない。攻撃能力がほぼない二人にハンデありでプロ二人と戦う。

 

「模擬戦として成立します?」

 

たしかに根本的に模擬戦として成り立たない話に思えるけど

 

「……攻撃以外の手札もきっとありそうだし」

 

「…そう…ですね。…攻撃がないとしてどう動くでしょうか。なにをしてくるのか……」

 

「個性の名前がわかってるなら、大体どんな事ができるか判るんだけど……」

 

「わかりませんよ。彼の個性ですが……何なのでしょう。確かにそうだなと納得出来る個性名なんですが」

 

「……納得できるってのが意味不明よね…」

 

個性『大魔王』

 

なにその個性名って思うわ(白目)

 

だれが付けたのよ。幾らなんでもそんな個性名を付けるなんて無いでしょう。幾ら親がアレでも普通なら付けた側の常識疑う!…本人と、あの更地になった試験会場をみてなければね。ホント思えないわ。これ迄の経歴だと何かしたなんて事もない。直接攻撃禁止も本人は了承してくれた。

 

それでも本人知ってたら怖いわ。

攻撃禁止でもやっぱりこわい。

なにをしてくるのか

 

「情報が足りない。試験の情報以外に何かないの」

 

「あのイレイザーが用意してくれた個性把握テストの録画がありますが……見ますか?」

 

「は?そんなのあるなら早く教えてよ!」

 

まだ模擬戦まで時間が有るにしてももっと早く教えてよ!なんでこんな後に言うのよ。

 

「……いえ、その、より絶望感が増すので見ない方がいいかも…」

 

「何をいってるの。ヒーローが絶望に屈して良いわけないでしょ。まして生徒を相手にハンデを貰って教師が絶望するなんてないわ!……攻撃ありなら恥も外聞もなく模擬戦なんて拒否したけどね!」

 

本音は今でも止めたい。けど相手はどんな存在だろうとハンデ付きの生徒。そこまでされたならプロヒーローの教師はド素人の生徒相手には勝たないと…そう思いながら私は映像を見た。

 

「みなきゃよかったかも」

 

なんで個性把握するテストで戦場みたいになってるの?走る勢いだけでも攻撃に成るじゃない!これがあったから小型の帝王とかイレイザーが言ったの。これ攻撃禁止でも不味くない?攻撃するつもりがない動作の余波で下手したら死ぬわけ?対策は……兎に角、近付かないぐらい?元から近づこうと思ってなかったし意味ない。

 

「予想は出来てたけど………スピードパワー全て並外れてるわね」

 

「計測不能が多く正確には判りませんが、単純な戦闘力だと、雄英の三年生……トップクラスのプロヒーローを含めても彼以上は……」

 

それオールマイトも入ってる?とは聞けない。答えが怖いから。それと一応攻撃以外の手札は幾つか判ったけど……

 

「実技試験のも含めて個性が多彩ね……」

 

ビーム、火、氷、風、爆発、で空まで飛んでる。他に何ができるのか…本当にまさに個性名『大魔王』なんてヤバイ名前を冠せるモノだわね。私が担任でなくて心底良かったと思う。けど初めての対戦相手にされてるから運がいいとは言えない!

 

「……どうしましょう。普通に飛んでましたし。自分の個性だと空を飛べる相手はきびしいです。それに……」

 

飛ばなかったからって、セメントスのコンクリで拘束しようとしても、あれだけのパワーあったら物量で攻めても多分突破されるわよね。オールマイトクラスと思うなら、突破どころかコンクリートを跳ね返すなんて事もできそう……。技術も経験も個性も無意味にする突き抜けたパワーって酷い。オールマイトと相対したヴィランはこんな気分かしら。今回ヒーローの側なのに…

 

いえ、セメントスなら手加減抜きに殺すきでやったら何とか、って、流石に初の模擬戦の生徒相手にやったらアウトすぎるわ。殺す気でも相手が死ぬとまるで思えなくてもね!

 

セメントスが可能なのは足止めぐらいかしら、セメントスは私を見た。

私に期待してる感じの視線。

 

「ミッドナイトの個性が有効ではないですか……たしか彼の親の地獄の帝王には効いたと聞きましたが?」

 

あーそれ知ってたの、まぁ私の個性は確かに効いた。しっかりと…効いた…効いてしまった…

 

「あのどうしたんですか」

 

「私の個性はたしかに効いたわよ?だけど……ふふ」

 

「みっ、ミッドナイト?」

 

「寝惚けた状態になって攻撃がより苛烈に無差別になってね…寝てない時の方がましだったの…うふふ…うふ」

 

あの時、寝たと思ってやった!!と思ったら次の瞬間に、お空を飛んだのよねーー。

 

次に気付いたら全身打撲と骨折で入院してた。で、入院で動けない状態で教えられた。帝王が寝た後には帝王が起こしてた惨事は大惨事になってたって事をね……つまり私はヒーローなのに大惨事を引き起こしてた。

 

「ミッドナイト!?ミッドナイト!大丈夫ですか!?別の意味で顔が18禁になってますよ!?」

 

「ん、ごめんなさい。私の個性が有効かどうかよね…効くかわからないけど、効いちゃうとね…ほら、寝たら親みたいに寝ぼけて……個性攻撃の禁止なんてルールも忘れて、下手したら実技試験で使った攻撃をしてくるかも……しれないのよ……ね、だから……」

 

下手したら大惨事の二回目が雄英でリトライ!……死んでも個性なんて使えないわ。

 

「…ミッドナイトすみません。わかりました。個性の使用はしなくても良いですから。絶対に使わないで良いですから」

 

私は深く頷いた。

 

って、あれ?

 

私から個性抜いたら鞭しか無い。此でもプロヒーローだし一年生が相手なら鞭だけでも十分過ぎる。ただの一年ならね。

 

他の一年生徒が大きさが多少違うネコとしたら、一人だけライオン。大型の猛獣相手に鞭だけって感じ。本気で振った鞭が直撃してもダメージあるか怪しい。本命の武器(個性)ないと話に成らない。

 

セメトスは遠距離……必然的に私の立ち位置は中衛か前衛、近付くのはダメなのに近接か中衛、近接はダメだから鞭、私も足留め出来るかどうか。あんなの相手に足留め…鞭で足止めよね、ダメージ有るか怪しいけど、鞭で一方的に叩いて相手に直接の攻撃しないってルール守れって…確認しなきゃいけないんけど………キレそう。

 

こうなると鞭もあんまりダメね…って事になる……此方も実質的に攻撃禁止と変わんない?

 

あ、胃液が出てきそうになった。

 

「ふ、ふふふふ生徒に限界を超える要求をしてる私たち教師が簡単に諦める訳にはいかないのよね…」

 

「そ、そうですね。諦めたらダメですよね。いくら力があっても相手は入学したての生徒、戦闘技術と戦略と経験では此方が確実に上です。十分に勝ち目はあります………だから死ぬ覚悟を決めたみたいな顔をしないでください模擬戦ですから。相手は攻撃禁止ですから」

 

「…私の方も個性縛りなんだけど」

 

黙らないでよ。

 

「…いっそ直接の対峙は避けましょうか」

 

「核狙いってこと?」

 

「そうです。幸い此方はヒーロー側、核に触れるだけで勝ちが狙えます。ヴィラン役に力だけでは勝てないと見せてやりましょう」

 

戦闘を避けて核の確保、学生相手に情けないけど、学生詐欺な相手だし、マトモに撃破とか怖いし無理だろうし仕方ないんだけど、セメントスの発言に引っ掛かるモノが……

 

「…彼がヴィラン役というのは幸いなの?仮定でもやっちゃいけない感じが、しない?」

 

「……」

 

お互い無言になる。

 

 

 

 

それから淡々と作戦を練りながら他の生徒の対戦を見ながら自分達の番を待った。処刑時間を待つ囚人の気持ちがよくわかった気がする。

 

「さぁ!いよいよラストだ!セメントスにミッドナイト、葉隠少女に田中少年、準備はいいかい!」

 

いよいよ処刑、ちがった学生詐欺と透明少女VSプロヒーロー組の戦闘訓練は開始された。

 

ヴィラン役は時間内ビルの中の核設定の模型を守るかヒーローを倒せば勝ち。ヒーロー役は時間内にヴィラン役に確保テープを巻くか核の模型に触れたら勝利。ヒーローに有利なルール、触れただけで勝てるって言うのは初めだからこその甘い設定よね。

 

まぁ本当なら甘いルールでもヒーロー側が不利なんだろうけどね。ヒーロー役は勿論ヒーローとして行動しなければいけないけど、ヴィラン役はヴィラン(犯罪者)として動く事になる。ヴィラン役にやってはいけない事のルールなんてない。

 

だけどヒーロー科志望の生徒がいきなりヴィランの様な事が出来るわけがない。此れまでの模擬戦闘、一部ヴィランかもと言えない生徒が居たけど、それでも本当のヴィランと比べたらまだヒーロー側、ヒーロー候補が本気でいきなりヴィラン役に成れたらそれこそ問題がある。

 

将来的にはヴィラン対策の為にも、苛烈だったり卑劣だったりする本場のヴィランの行動をしていかなきゃいけないんけど、初っぱなからヴィランの思考なんて先ず持てるわけない。そう雄英のヒーロー科の生徒は腐ってもヒーロー候補だから

 

 

 

 

 

 

 

「ヒーローに告げる。速やかに降伏しろ。拒否するなら核を爆発させる」

 

 

 

 

 

 

 

 

ただのヴィランがいた。

 

 

 

 

 

 



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8話

 

バーンさま&葉隠チームVSプロヒーローチーム。プロヒーロー相手に攻撃不能と言うハンデまで背負った模擬戦闘の結果は……

 

バーンさまチームの完全勝利!!

 

 

なのだが……不可解、勝利してクラスメイトの所に戻ったバーンさまの心情はこれだった。

プロヒーローVS模擬戦初の素人学生という圧倒的に不利な条件での模擬戦闘。結果はバーンさまと葉隠透の素人組がプロ相手に勝利!

 

背後からの葉隠による半泣きになりながらの奇襲アタックからの拘束、反撃しようとすれば動くと核を爆発させるというありふれた脅迫、もしダメなら一般人を人質にとったという嘘も追加するつもりだったが相手は動きを止めた。ヒーローの動きを封じて、見事なコンビプレイによる勝利を飾った。

 

真っ当な脅迫をして仲間との連携による追い討ち、なんと非の打ち所のない勝利でないだろうか。ヴィランとして、もといヴィラン"役"としてほぼ完璧ではないだろうか。オマケにヒーロー、ヴィランどちらの陣営にも怪我なしときた。

 

文句なしの作戦勝ち。他の模擬戦では活躍した生徒は誉められていた。その事からバーンさまも模擬戦闘の活躍でクラスでの評価、そして親近感もうなぎ登りと予想するのも可笑しな事でない。

 

模擬戦後には友好的になってくれるクラスメイトとの会話を想像しながら、”戦友”の葉隠を脇に抱え内心ウキウキしながら他生徒の待つモニター室に戻った。

 

お通夜みたいな空気だった。

 

 

想像だにしない空気、オールマイトから模擬戦闘の評価は、ヴィランにしか見えなかったと称賛されバーンさまがMVPとされた。ナゼか誉められてる気がしない。

 

バーンさまとともに勝って特に怪我もない葉隠がなぜか心配されたり慰められていた。バーン様の所には誰も来ない。周りの反応にバーンさまはもしかして親近感が上がってないのかと察した。察してしまった。

 

 

何故なのか。

何が悪かったのだろうか。 

 

模擬戦闘内容を簡単に纏めると核を脅しに使い奇襲をしての勝ち。御互いに怪我もしてない。他と比べて尤も平和的に迅速に終わった。

 

バーンさまは最善の行動をしたと思う。

 

先ず今回の模擬戦、ただでさえプロを相手にするのに事前にバーンさまは直接攻撃をルールで禁止された。つまりハンデを負わされた。

 

ハンデがあったからこそ考えた。

 

プロでなく生徒(バーンさま)がハンデ。普通に当たり前に考えてハンデの対象が逆。そもそも攻撃禁止なんて枷がなくてもプロヒーロー相手に1年生に勝ち目があるわけない。そう考えるのは……まぁ…その…変ではない。町が平和でプロヒーローの活動を直に見る機会がなかったバーンさまは勝ち目がないと思った。

 

プロヒーローが勝って当たり前の勝負。"普通なら"勝ち目がない勝負。勝ち目が無いのだろうか?と疑問を感じた。

 

負け確定の勝負を最後にする理由がない。これは授業なのだからどこかに勝機が用意されてると考えた。勝ち目が何なのか考えた。

 

バーンさまの模擬戦は最後、何回も見ることになった他生徒の模擬戦を見てその答えを見付けた。先ずバーンさまは不思議に思った。

 

模擬戦でヴィラン役の生徒が、ヒーロー役と殆んど変わらなかった事を、ヒーロー役とヴィラン(犯罪者)役なのに、ヴィラン側が正々堂々と戦いすぎている事に疑問を感じた。

 

ヴィラン役はヴィランを想定して動かないといけないはず。なのにヴィラン役が人質、虚偽、脅迫、罠など平和主義なバーンさまでも簡単に思いつくヴィランが当然すべき事を誰もしていなかった。軽く考えても…ヴィランならビルを崩してヒーローもろとも生き埋めぐらいするだろう。核を持ってるヴィランなら毒ガスやら地雷などのブービートラップぐらい用意してるだろう。もうヴィランというよりテロリストだが。何故ヴィランとして動かないのか。答えは彼等が目指してるのはヒーローでヴィランでないからだ。

 

何よりも最初から用意されていた核設定。まるでヴィラン役が利用する為にあるとしか思えない設定。なのになんでヴィラン役が核を誰も利用しないのかバーンさまは心底不思議に感じた。

 

そこまで考えて気付いた。

プロヒーロー相手でも勝ち目は最初からあった。

 

模擬戦だからといって戦闘の必要が無い。バーンさまはヴィラン役がプロヒーロー相手に勝てる可能性とは、ヴィランとして核設定を使う事だと、幾らプロヒーローでも核を人質に取られたらどうにも成らない。核の威力なら山奥でもなければ自分の命だけでなく多数の命が人質になる。もし避難させた設定でも人質をとったなど嘘をつける。人質が嘘でも向こうは確認なんて出来ない。人質が無くてもヴィランの自爆をヒーローが認めて良いのか。

 

核と知った上でたった二人で核をどうにかしようとする事から間違い。ヴィラン側の迎撃が有ると考えるとヒーローが来てるのも気付いてる設定だろう。此処まで考えると根本的にヒーロー側が勝てる設定か怪しい。

 

甘く見ても勝てたと言えるのは、唯一核の利用なんて出来ない速攻で氷結させた生徒ぐらい。

 

更に考えるとバーンさまは攻撃禁止、相棒の葉隠の個性も透明。相手はプロヒーロー、他の生徒の様に真っ正面からだと勝てない。搦め手を使えと言ってるようなモノだ。あえて勝てないと思わせる条件にしたのはこの事を気付かせる為だと考えた。 

 

こうしてバーンさまはヴィラン役としての作戦を思い付いてしまう。

 

模擬戦前にパートナーの葉隠にも伝えると考案と作戦は葉隠から同意をえられた。その同意の声が震えていたのはプロ相手に戦う事への緊張だろうと思われた。その証拠に奇襲で半泣きになった事からもプロを恐れていたんだろうと思われる。終わった後に何度もミッドナイト達に謝っていた。

 

そう言う訳で簡単に勝利する方法に気付いたバーンさまは、見事に核の脅しと奇襲の合わせ技で勝利した。プロ二人もこれが正解だとばかりにアッサリと大人しく敗けを認めたから間違いなく正解だろう。予定通りでも負けるのは辛かったのか二人の目は相澤に似た目になっていたが。

 

しかしそうなのに……普通なら勝ち目のないプロ相手にもキチンと考えれば勝てると言う正解を引き当てての勝利なのに……なんでクラスメイトの反応が悪かったのか、バーンさまは家に帰ってからも気になった。反省会に呼ばれなかった事も含めて。

 

バーンさまは自宅に帰ってからパソコンを起動し、頼れる相手に相談した…

 

勝ち目がない設定とプロの名前など、守秘義務なんて考えないバーンさまが状況を大体纏めネットの某チャンネル経由で知り合った相手、STさんに相談した。直ぐに答えが示された。

 

プロヒーローミッドナイトの個性は眠り香、相手を眠らせる能力、そう脅されたとしても個性を使えばヒーロー側が勝っていたとネット民に推測された。勝利確定の前に二人ともミッドナイトに近づいてしまったので否定できない。つまりお情けの勝利と全員が判っていたから反応が微妙だったんだろうと言うことか。

 

バーンさまは戦闘なんてしたことがないド素人。見逃す事は仕方ないとも思うが…しかし個性を使わないと言う大きすぎる手加減までされてた事に気付かなかったのは…流石に恥ずかしいと思う。

 

相手の個性を考え速攻で無力化しないといけない相手がいる。もし同じ模擬戦があればミッドナイトは、優先的にバーンさまに狙われるだろう。因みにもうひとつの反省会に呼ばれなかった理由を聞くと………頑張れなど励ましのコメントがもらえた。

 

 

 

 

励まされたのにモヤモヤした翌日。雄英に行こうとすると雄英前がマスコミでごった返していた。バーンさまはなんだろうかと遠目に様子を観察した。

 

「雄英の生徒さんですね!インタビューお願いしまーす!!」

 

「オールマイトが雄英の教師になったというのは本当ですか!」

 

どうやらオールマイトが教師になった事で来たみたいだ。

 

マスコミが虫の様にワラワラいて邪魔だ。全く誰がオールマイトが教師になったことを漏らしたの…は?…バーンさまはふと思い出す。

 

昨日のネットでの相談にオールマイトの名前を出してたような気がした……。

 

生徒達がインタビューされて迷惑している。バーンさまは口下手でインタビューされたりするのは嫌だったが、後ろめたい事もあり他の生徒の身代わりに成ろうとマスコミの集う場所に突入する。自分の身を犠牲にしようと気合いを入れて歩くバーンさまはまさに……

 

 

バーンさまがマスコミに向かい進む。

それに気付くマスコミ。

 

 

海を裂いたモーゼの如く(マスコミが逃げて)道が開けた。

 

マスコミと一般人も一緒に逃げていく。

あと生徒の一部も…

 

「……」

 

いや、これで、マスコミをどうにかすると言う目的は達した。なにもしてないのに登校を邪魔するマスコミが居なくなる。代わりに心にダメージを負ったバーンさまは無言で校舎に入っていく。余談だが雄英にヴィランの親玉が入っていったと事実無根の通報が寄せられたとか。

 

 

学校についてホームルーム。

 

髭ぐらい剃れよと思う相澤が昨日の動画を見たと言い、危険行為をした爆豪と無茶をした緑谷に注意をした。バーンさまには何か言いたげに見ただけで何もいわない。

 

言わなかった事は昨日の詰めの甘さについての事だろうとバーンさまは予想。言わないのは勝利を単純に喜んだバーンさまに同情してだろうかと、バーンさまは昨日より深く恥ずかしくなる。さらに固く次は絶対に問答無用にミッドナイトを仕留める事を決意した。

 

それはともかく今日はクラス委員長決めがあるようだ。

 

「委員長やる!」

 

「なんの私が委員長やるよ!!」

 

「おいらのマニュフェストは女子のスカート股した30センチ!」

 

バーンさまの中学の頃は誰もなりたがらなかったクラス委員長だが、学校ぽいイベントがきたぁ!と騒いだり俺が私がなると積極的なクラスメイト達……バーンさまは不良ぽい人以外なら誰でも良いやと開始早々無関係を決め込む。そんなんだから友達が出来ない。いや関係な……クラス委員決めだ!

 

「……積極的で大変よろしいね。ただ当然だがクラス委員長はこのクラス全員に指示をしないといけないのは判っているな?全員だからな?先に言っておくが俺は色々とクラスの事を頼むぞ」

 

クラスが途端に静かになった。

 

相澤が有る角の生えた生徒の方を見て言うと半分が押し黙った。そうだろうなと相澤は思う。生徒の中にヤバイのがいるからなと、いったいヤバイのは誰のことなのだろうか。

 

「投票により公平に決めよう!!」

 

「あ、ああそれがいいな!!恨みっこなしだぜ!」

 

眼鏡の生徒の提言により委員長決めは投票で決まることになった。投票は自分に入れてもいいルール。当然委員長に成りたいと言った生徒は自分に入れると思われたが、投票の結果はゼロが多い。ゼロなのは声に出して立候補していた生徒も。つまり自分に投票する生徒は殆ど出なかったと言うことだ。立候補しても自分には入れないフェアーな生徒ばかりだったんだろう。流石はヒーロー科。

 

模擬戦闘の評価を語った事でか副委員長に痴女疑惑の少女八百万、委員長に技を出すのに骨を折るクレイジーさが目立ったのか緑谷、この二人がなることになった。二人とも予想外だったのか冷や汗を掻いて固まっていた。

 

因みにバーンさまは自分に一票あった事に驚いていた。念のために言うがバーンさまは自分以外に入れていたので自票ではない。やはり友人の票だろうか?それとも戦友か。

 

バーンさまは上機嫌のまま昼食時間を迎える。バーンさまはお弁当派だが今日は忘れたので学食に向かう。バーンさまが並ぼうとすると並んでた列が消失した。バーンさまは何時も何でこうなるのかと思いながらも邪魔になると取り敢えず麻婆丼の食券を購入。

 

 

厨房前で顔面に変なコック帽を被った学食の人から真っ赤な麻婆丼を貰う。あのコック帽で前が見えるんだろうか?と思いながら席を探す。テーブル席は誰かしら使っている。相席しかない。話す機会を自分から作っていこうと、使われてるテーブルに向かう。恐る恐る座っても良いか聞いた。

 

…ナゼかテーブルごと譲られた。

 

そしてナゼか何人も座っていたテーブル席に一人、バーンさまは何時もの事だと、高校になっても何時ものことで避けられる。友達100人計画未だに一人、計画を下降修正しようかと思い悩む。

 

学食を作っている変なコック帽の人は、クックヒーローランチラッシュというプロヒーローという話が聞こえてきた。

 

クックとは料理。ヒーローなら戦闘が本分。回復系など特殊なモノでなければ戦闘力があるはずだろう。名前と合わせて考えると敵を料理するヒーロー?丸いピンクの星の戦士のコック帽付きみたいに敵を調理するんだろうか。バーンさまに凶悪な存在だと認識される。

 

それは余談で本題は、学食とは思えないぐらい美味しいという声。声に加えて様々な匂いがバーンさまの食欲を刺激する。麻婆丼がある。食事が冷めたら勿体ないと早速食べようするバーンさま。

 

 

スピーカーから警報音

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

 

スピーカーから聞こえてきた声に食事が止まりざわつく食堂。周りの声から判断するとセキュリティ3とは侵入者が出た時の警報らしい。バーンさまが生徒手帳から事前に覚えていたセキュリティ3の内容とも一致する。他の学校なら間違って侵入するなんて事もあるだろうが雄英には防衛装置がある。防犯装置が故障でもしてない限り、侵入者は…強行に入ってきたと思われる。つまりはヴィラン。

 

他もヴィランの侵入と判断したのか生徒達が騒いでいる。それか災害の警報と誤解して逃げるのに慌ててるのか?我先に逃げようと秩序を失くして渋滞を起こしている。小中校で避難訓練をしたことがない。ヒーロー関係者を育成する高校の生徒のわりに行動が酷すぎると思う。パニックを治める側がパニックする側になっている。周りの反応があれすぎると冷静になる時もある。バーンさまの心境はまさにそれだ。

 

本来は昼食の時間。まだ一口も食べてない熱々の麻婆丼を見た。美味しそうだ。今逃げたら冷める。冷めたら美味しさが少なくなる。どうせ廊下の様子だと直ぐには逃げられない。食べようか?しかしヴィランが侵入してる時に食べるのはどうか。バーンさまは席を離れ外を見て直接確認する事にした。

 

なんと校門前から侵入して騒いでるのはマスコミだ。教師がマスコミの前に出ている様子も見えた。ヴィランでない。ヴィランじゃないんだろうか。校門の一部が壊された様に見える…マスコミがやった?校門を破壊してヴィランが侵入している?それか破壊したのもマスコミか。

 

バーンさまはマスコミだろうと言うことにして食事することにした。 

 

ドン

 

それは遠くから聞こえた小さな音だった。騒動に比べて小さすぎて普通は聞こえない音、だがバーンさまにはその音がやけにハッキリと聞こえた。

 

落ちていく丼。

 

逃げようとした誰かがバーンさまの使っていたテーブルに強く当たったのだろうか。バーンさまの使っていたテーブルから手付かずの麻婆丼が落ちていく光景が見えた。

 

 

バーンさまは無意識に手を伸ばすが、それは…

 

 

遠すぎた……

 

 

 

ガシャン

 

 

生徒たちの群れる地面に落ちてその姿は見えないが末路は判る。誰かの悲鳴が漏れた。まるでその一角だけ全員一度に冷水をかけられた様に生徒たちはたちまち静になりソソクサと離れていく。

 

残ったのは床にある残骸。

 

結局騒ぎはヴィランでなくマスコミが侵入防止の装置を破壊し侵入して起きた事らしい。昼間の騒ぎは無駄だった。つまり麻婆丼は無駄な犠牲。クラスに戻ると委員長がメガネの人、飯田という生徒に変わっていた。先程の騒ぎで活躍していたそうだ。麻婆丼を助けるのには間に合わなかったが……

 

 

バーンさまは無言で帰宅した。

 

 

 

 

 



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9話

 

麻婆丼粉砕という涙なくしては騙れない悲劇の事件が起きた翌日、今日の一のAの授業はバスに乗って行く。目的地は同じ雄英敷地内にある施設、バス移動が必要とは雄英の敷地何れだけ広いのか。

 

席を決めるときに委員長の采配により一番後ろで座ることになったバーンさまのバス移動。身長が一番高い人間が一番後ろなのは…わかる。しかし何人も座れる後部座席に一人だけと言うのはどう言うことか。

 

楽しそうな会話を後ろから見せられることになったバーンさまのバス移動。

 

バーンさまは一人むなしく外を見ているとバーンさまの中学時代からの友人がやってきた。聞けばセクハラ発言をしたという事で一番後ろバーンさまの席に移動させられたそうだ。セクハラしたから自分の隣の席への移動と言うのは引っ掛かりを覚えたが、友人が来たことで少し機嫌を良くするバーンさま。

 

ただセクハラについてはバーンさまとしても良くないと思い軽く諌め、それから救助訓練は楽しみだなと話す。

 

「ソウスネ」

 

まるで借りてきたニャンコ、または執行直前の死刑囚のようになっている友人。まさか次にセクハラしたら救助訓練で事故に見せ掛けて…なんて誤解をした訳でも有るまい。関係ないがバーンさまは猫派。担任の先生と気が合うのかもしれない。

 

バスは到着すると生徒達は大きな建物にはいる。これから行うのは災害救助訓練。災害救助、それはヒーローにとって王道の活躍の一つ。ヒーロー科は救助訓練してるのだろうが……成果があるんだろうか。

 

昨日、雄英の生徒が警報を聞いて秩序を失く混乱して醜態を晒した。混乱する生徒の騒ぎを止めたのは一年の飯田。それに同じA組の何人か。まだ雄英の教育を受けてない雄英に入ったばかりの一年だ。可笑しいだろう。

 

食堂に雄英の訓練を受けた二年三年のヒーロー科生徒が一人も居なかったのか。その他でもヒーロー科で無くても雄英の生徒なら、バーンさまの様な例外を除けば将来ヒーローの関係者になるのが目標だろう。危険と聞いて無様に混乱する関係者と言うのは……犠牲となった麻婆丼を思い出せば成果があるのか疑惑を感じるのも仕方ないことか。

 

 

訓練は必要なことだが実技試験からわかる通り雄英のやることは大きい。生徒が災害訓練をする場所もマトモでない。訓練場はまるで一つのテーマパークのような大きさの建物。雄英の予算は本当にどうなっているのだろう。施設名はU(ウソの)S(災害)J(事故ルーム) 略してUSJ 。

 

 

誰もがUSJ と聞いてあのテーマパークを脳裏に浮かべてしまう。此処からはバーンさまのみの思考で他と関係ない話しだが、連想して浮かぶテーマパークとして双璧のディ○ニーランド。親と行った夢の国、親のサイズのせいで入場不可で入れず帰った夢の国。せめて気分だけでもと買ったミッ○ーの帽子。憧れの夢の国のライバルの偽物としか思えない施設にバーンさまは何とも言えない気持ちになる。

 

USJ にいたのは宇宙服のようなモノを着たプロヒーロー13号。見かけから動きが鈍そうとわかるヒーロー。専門は戦闘でなく災害救援専門のヒーロー。個性は『ブラックホール』本物のブラックホールなら使用者が地球ごと終わるので名前が同じだけの別モノだろう。バーンさまは個性名とあと災害救助で動きにくそうな格好は不味くないかと思う。

 

「訓練の前に小言を一言、二言、三言…」

 

「増えとる!!」

 

13号が訓練の前に話したのは大体こんな感じの内容、この個性社会、個性の力は一歩誤れば人を傷つけ最悪殺してしまいます。ボクのブラックホールなどが危険の最たる例ですが、皆さんの個性も多かれ少なかれ危険というのは同じです。だからヒーローを目指す上で個性の危険性を理解して使い方には十分に注意してください。今回の授業では個性による戦闘を行った戦闘訓練から心機一転、個性を使った人命救助を学ん貰います。君達の個性は傷付ける為でなく、人を助ける為にあると思ってください。

 

最後に一礼した13号、真面目そうなメガネ生徒がブラボーといい。お人好しそうな少女は黄色い声援。しかし……個性についても重要だが、昨日の醜態については話さないのだろうか。

 

委員長たちが個性を使って人を助ける活動をした実例だろう。それと幾ら能力があっても緊急時に行動できないと意味がないという話もできる。考えてるとバーンさまは何かを感じた。

 

 

バーンさまが何となく気になる方向に目線だけ動かすと、階段下の中央に広がった黒いモヤを見付けた。何もない空間から発生して一ヶ所に留まる異質なモヤ。明らかに火事で発生するモヤと違う。

 

モヤの中から誰かが出てきた。

ゾロゾロ出てきた。

とてもモヤに隠れられる人数じゃない。

何処からかモヤを通して来てる?

 

恐らくモヤは転移系個性の産物、モヤは空間転移の出入口の様なモノらしい。出てきたのは何者だろうかとバーンさまは思う。正体不明な相手、しかしまだこの時点では特に危機感は感じてはいなかった。救助訓練に協力してくれる人員か何かだと考えた。無意味な転移での登場も合格通知を思い出せば雄英なら変な所で凝っても違和感はない。

 

「なんだあれ」

 

他の生徒もバーンさまに遅れてだが気が付いたようだ。気付いたが呑気な声を出している。危険だという懸念はないようだ。天下の雄英に堂々と危険人物が入り込んで来ることはないと油断していた。バーンさまを含め総ての生徒が危機感を感じていない。しかし一瞬の行動が命に関わる実戦を経験してきた現役のプロヒーローの教師は違う。

 

「全員一塊になって動くな!13号、生徒を守れ!!下手に動くな!…あれはヴィランだ!」

 

相澤は臨戦態勢をとる。これまで声を張り上げた事がない相澤の出した気迫の籠った声。

 

「え!ヴィラン!?」

 

まだヴィランと信じきれてない。危険だと認識できていない。階段下にいる無数のヴィラン。リーダーとしての位置にいる手をアクセサリーにした不気味な男。10代か20代の狭間ぐらいの年若い男は1-Aを見回して誰かを探した。お目当ての相手が見つからなかったのか不機嫌そうな声を出す。

 

「オールマイトどこだよ。なんだよ。せっかく大衆引き連れてきたのに………生徒を殺せば出てくるか?」

 

言葉からは隠さない悪意そして殺意、演技とは思えない悪意と殺意の言葉を向けられ多くの生徒がようやく敵(ヴィラン)だと危険だと認識した。

 

「雄英に襲撃て馬鹿かよ!」

 

「センサーが反応してねぇなら妨害をしてる個性の奴がいる。ならアイツらは馬鹿だがアホじゃねぇ。これは周到に用意された計画的な奇襲だ」

 

このクラスで根本から例外扱いな一人を除けば、ダントツの強さを見せ付けたプロヒーローの息子の発言に誰もがゴクリと息を飲んだ。

 

「13号避難開始だ!上鳴、個性で通信を試せ!!」

 

「うっす!」

 

何らかの手段で警報もスマホなどの通信は無効にされている。上鳴の個性でも通信不能、そもそも通信など器用な事が出来るのか知らないが不能。外部との連絡手段がない。なら生徒たちは自力で逃げなければいけない。生徒が逃げるまで誰かヴィランの相手をしなければいけない。抗戦すればどうなるか……相澤はチラリとバーンさまを見た。

 

相澤は視線を戻し前に出た。

下に降りて戦おうとしている。

 

「せ、先生相手は多いんです!一対一が得意な筈の先生だと危険です!」

 

「緑谷プロを甘く見るな。一芸だけじゃプロヒーローは勤まらない!13号!生徒は頼んだ!」

 

相澤は13号に後を任せ階段を降り一人ヴィランの元に突撃。緑谷は雑誌やネットの情報から相澤の個性だと複数相手は不利だと認識している。相澤の個性『抹消』相手の個性を消せると言う切り札となる強力なモノだが、純粋な意味では無個性と変わらない。無個性同士の戦闘になる。しかし個性を消せるのは目線の先だけで全員でない。なら数が多い方が有利、緑谷はそう思った。しかしその心配を払拭するように相澤は奮闘、特殊なマフラーを変幻自在に使い数のハンデを退け、個性抹消では消せない身体能力が高い異形種すらも圧倒する動きを見せた。

 

「す、スゴい!先生の本領は多対一だったのか!!」

 

その戦いぶりはヒーロー観察が趣味の緑谷に相澤の本領は多人数の乱戦なんだと゛誤認゛させるほどだ。

 

緑谷の初めの予想は間違ってなく相澤の本領は短期決戦、奇襲タイプ。正面から堂々と多人数を相手にするのは得意でない。それでも雄英の教師になれるほどの一流プロヒーローの相澤、相手が弱い三下のヴィランだけなら多人数が得意で無くても制圧仕切る強さはある。

 

しかし雄英に侵入したヴィランが弱い相手ばかりと想定出来るわけがない。相澤の目的は倒しきる事でなく足止め。生徒が逃げるまでの時間稼ぎ。それを13号だけは察した。13号は相澤の残した言葉に答え生徒を連れ避難しようとした。

 

「此処は先輩に任せ皆さんは避難を…!!」

 

黒い靄が13号たちの目の前に現れた。

ヴィラン達を運んできた存在だ。

モヤの前に人の形のようなモヤがある。

 

「始めまして。我々はヴィラン連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟である雄英に入らせていただきましたのは……平和の象徴のオールマイトを殺害するためです」

 

プロ一人と多数のヒーローの卵の前で名乗る余裕のある態度。まるで自分が圧倒的に優位にあるというようだ。実力に相当の自信が有るのだろうか。

 

転位する個性をもった黒いモヤは現状一番先に倒すべき相手といっていい。それが態々単独で来た。もし個性そのものを使えなく出来る相澤がこの場にいれば楽に無力化できた。向こうもそれが解っていたとすれば、相澤が単独行動に出たからこそ来たのか。結果論のみで厳しく言えば結果的に相澤の判断ミスと言っていい……いや間違いか?相澤はモヤが動いた場合の事も考えていたのかもしれない。

 

相手はモヤ。生徒の元に残されたのは13号、『個性ブラックホール』の持ち主、抹消ほどではないがブラックホールというのは、不定形のモヤを相手にするなら極めて有利な個性。幾ら実力に自信があるとしても単独で来たのは迂闊!! 

 

しかもだ。

 

「……!!!」

 

何故か黒いモヤはバーンさまの方を見て固まり13号に致命的な隙を見せた。

 

「隙ありです!」

 

13号は容赦なく隙をついて個性を使い靄を吸引しようとした。モヤを剥がす事が目的か。行動の妨害だけが目的か。それとも生徒を守るために殺害も覚悟の上なのか。

 

どれにしても13号がやろうとした事は邪魔をされた。他ならない守ろうとした生徒に

 

「つぶれろやくそが!!!」

 

「オラァああ!!」

 

「な!二人ともさがりなさい!!」

 

飛び出したのはツンツン頭の二人。

硬化が個性の切島と爆破が個性の爆豪の二人だ。

 

ブラックホールは強力無比な力、だがその強力さ故に弱点ともなる。生徒が前にいると巻き込んでしまうため個性が使えない。更に13号の指示を聞き逃げようとした生徒まで逃げる足を止めた。つまり二人は最悪の行動をしていた。

 

二人の攻撃は爆発で多少モヤが散ったがダメージはない。相手は本体があるのか怪しいモヤ、爆破はともかく打撃で攻撃して何とかなると思ったのか。

 

「危ない危ない。流石は雄英の金の卵…」

 

後半はともかく危ないという台詞には実感があった。それに気付けた生徒は幾人か。前半は思わず漏れた本音としたら後半は皮肉か馬鹿にしてるのか、それとも誤魔化す為の台詞か。

 

「どなたか分かりませんが、恐ろしいお方も居ますし。早々に去りたいと思いますがその前にあなた達を………散らして、なぶり、ころす」

 

高速に四方八方に拡散して生徒を飲み込もうとする黒いモヤ。相手の動きが早く有効な個性なのに生徒の近くでは13号は個性が使えない。何人もの生徒が黒いモヤに飲み込まれる。そしてバーンさまもまたただ黙ったまま黒いモヤを受け入れた。

 

黒いモヤは転移ゲート、黒いモヤに包まれた生徒は四散して施設の別々の場所に送られる。バーンさまと誰かが送られたのは災害ルームの一つ、小さな町のようだ。黒いモヤが晴れると其処は地上から数メートルの場。バーンさまは特に問題もなく落下し地面に着地。

 

バーンさまが感じたのは例えると鬱陶しいハエが近づいてくる様な感覚、バーンさまはハエを叩くように反射的に腕を動かし『何かを』弾いた。

 

弾かれた何かはまるでダンプに轢かれた様に壁に突っ込んだ。壊れた壁から赤いものが垂れてきていた。バーンさまは弾いた何かを確認しようとしたが……周りを取り囲んむ様にいる無数の誰かに気づき、弾いたモノの事について意識から消えた。

 

ヴィランという看板を掛けてそうなヴィラン、ぽい人達。そんな人達に囲まれバーンさまは…

 

 

 

 

この"訓練"をどうすれば良いのか考えた

 

 

 

 



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10話

 

雄英に襲撃、オレは有り体に言えばヴィラン、犯罪者だ。ヴィランなのは俺のせいじゃねぇ。クソヒーローのせいだ!!

 

悪い事をして誰かのせいにするのは責任転嫁っていうな…ふざけんな…。

 

俺はヴィラン扱いされる前はいわゆる優等生くんな人間だった。校則の1つもやぶった事もない真面目な生徒だった。

 

そんな真面目な俺は学生時代はあまり遊ばず頑張って勉強をして、其れなりの学校に進学して卒業して、運良く大手の会社に採用された。俺の人生は順調。順調なのは此まで積み重ねた努力のお陰だと思った。真面目にやれば報われる。努力は実るそんな事を思ってたな。

 

だからヴィランは努力しなかった不良が成るような奴等だと、その頃は思っていた。

 

 

全部一瞬で台無しになった。

 

 

入社から一年ぐらいの出勤時の話だ。ヴィランを追跡していたヒーローが後ろからぶつかってきた。俺は普通に歩いてただけで後ろからぶつけられる形、俺は吹っ飛んで地面に激突して怪我をして気絶、どう考えてもヒーローが完全の過失、ヒーローから慰謝料貰える話だ。

結構な怪我はあったけど初めはヒーローにそんなに怒りとかはなかった。ヴィランを捕まえるのに事故は仕方ないってな。俺は事故だから謝ってもらえば許すなんて…思ってたな。

 

で、どうなったと思う?

警察に俺は逮捕された。

怒りより混乱したな。

普通に歩いててヒーローが後ろからぶつかってきて気絶した。どこをどうやって俺がヴィランになるんだよってな。

 

クソヒーローが追跡してたヴィランを逃がすために俺がわざとぶつかったとか、ヴィランの共犯とか言ったんだと!!

 

初めはヒーローに怒りは感じけどそんなに慌てたりなんてしなかった。普通に考えてあんな無茶苦茶な話が信じられるなんて思わないしな。

 

なのに警察にヴィランじゃないと言っても信じて貰えない。可笑しいって思ってそうな警官もいたけど、捕まえたヒーローが其れなりに有名な奴でヒーロー側の言い分だけが採用されたんだとよ!!ふざけんな!

 

その時の罪は軽いものだった逮捕された。逮捕されたヴィランって肩書きが付いて…会社はクビになって仕事もなくして、釈放されてからは真面目に生きようと思っても逮捕されたヴィランって肩書きは重くてマトモに再就職はできなくて、ズルズルと本当にヴィランに落ちた。

 

俺は済し崩しにヴィランに成るしかなかった小者だ。俺みたいに大したこともないヴィランが集まったヴィラングループに俺はいた。昔の事を思い出す度にヒーローへの怒りと憎しみが沸いてくる。同類は集まる。グループには俺と理由は違っても相当なヒーローが嫌いなやつばかりが集まっていた。

 

相当な数が集まってた。でもヒーローをどうこうできる度胸はない。ただ愚痴を言い合うだけで不満を燻らせていた。

 

そんな時、ヴィラン同士の繋がりで雄英の襲撃をするという噂を聞いた。噂を聞いて何日かしてからその襲撃をするという別のグループから誘いを受けた。襲撃グループのリーダー格が決めた襲撃グループの名はヴィラン連合、チープな名前だ…けど…俺が!俺達が欲しかった機会だ!

 

雄英襲撃。計画とか陣容は知らないけど、くそヒーローの巣窟にデカイダメージを与えられるとも思えない。襲撃して逃げ切れるかどうか。雄英を襲えば先ず逮捕はされると俺達は思った。逮捕される覚悟でないといけない。

 

俺は行く…ヴィランの冤罪を押し付けたのも雄英の出身。あのクソヒーローの後輩になる雄英のガキに復讐できるなら逮捕されてもいい。俺だけでなく俺のいるグループは逮捕覚悟でも全員が参加することになった。

 

 

参加した後から聞いた事だけど、雄英襲撃の目的は雄英の教師なったオールマイトの殺害ときいた。アホじゃね?ヒーローは嫌いになったけど……今でもオールマイトのファンだ。けど敵なんだよな。

 

…オールマイト、敵と考えたら怖すぎるから関わりたくない。対オールマイトのヤバそうな脳味噌が出た化物が戦うそうだけど勝てると思わねぇ。どうせオールマイトに負けるだろう。

 

流石にオールマイトと戦わされるとかなら参加は止めるぞ。俺達が戦うのは別だ。襲撃場所は一年の授業中の施設。俺達が襲う相手はバラバラに黒霧の旦那に転送されてくる一年。

 

まだ入学したばかりのガキなら数で囲めば俺たちでも勝てる筈だ!ヒーローになんてなろうなんてするエリートのガキが泣き叫ぶ顔を想像したら……いいよな。もし女なら、雄英の女は可愛いらしい。他の意味でも楽しみだ…とか考えるようになった俺は完全にヴィランに成ってるな。怨むならお前等の先輩を怨め。

 

転移系の個性の黒霧の旦那のお陰で雄英の施設に簡単に大人数が侵入できた。黒霧の旦那の能力がスゴいとしても、話に聞いてたより雄英の警備大した事ないな。……態々襲撃しなくても爆発物とか仕掛けてドカンといけたんじゃないか?

 

俺達の役割は其々の施設に散らされた一年のガキを好きにして良いそうだ。送られた施設で待った。俺はどうせなら可愛い女子がこないか期待して待…ちたかった。

 

…来た意味ないかもしれない。

 

 

だってさ…同じ所で待機してるの、ニコニコ笑ってる顔がツギハギの大男、フランケン、海外から来た名の通ったヴィランだ。コイツに俺達全員がビクビクしている。そりゃ名前ありとか俺たちみたいな小者とは格が違うやつだしな。

 

殺人鬼のマスキュラー、ソイツと同じ部類のヤツだ。人を潰すのが大好きなやつで、プロヒーローを真っ正面から何人もやってるらしい。犯行がトップニュースで報道されて未だに捕まってない大物だ。何か海外から態々、世界で一番平和な町を襲いに日本に来てて、ヒーロー学校を襲うのも面白そうだってスカウトされたんだと

 

いや、なんでこんな大物が俺たちに混ざってるんだよ!!!オールマイト潰すんだろ!!?生徒なんかよりオールマイトと戦うのに使おうってなるよな!?なんでこっちにいるんだよ!! 

 

くそ!なんで混ざってるかと言えば、リーダーの死柄木のヤツがイカれてて扱いにくいって理由だとよ!手首をアクセサリーにしたやつにイカれてるって言われるヤバさ。

 

「ーーーーー♪」

 

鼻歌歌ってるよ。潰すのが大好きなヴィラン。女が出てきても俺達が楽しむ前に潰すんだろうな。男でもいたぶる前に潰しそうだ。

 

あーーくそぅ!コイツがいると俺達なにもすることない!!文句を言うとか無理、俺達に戦わせてほしいと頼んだヤツが其処の染みになってるし…。はぁ見学で終わりそう。

 

ビクビクしてたら予定の時間がきた。黒いモヤが空にでた。黒霧の旦那のモヤだ。それでモヤから出てきたのは、一人か。出てきたの男だな。後ろ向きだけど後ろ姿だけで男とわかる。男の着そうなコスチュームだし。ヒーローのコスチュームか?まぁ下手に可愛い女が来ても潰されるの勿体無いと思うしましか。

 

けど一人だけかぁ。何人かでくるとかおもってたのに。一人だとサクッとフランケンに潰されて終わりだな。逮捕覚悟で来たのにエリートをボコボコにする復讐ができないわぁ。

 

黒い服の長身で長い髪に太い腕。後ろから見ただけで強そうなヤツとわかる。顔は見えないけど絶対にイケメンぽい。学校とかでモテただろうな!ん?なんか寒気がするのなんだ?逃げた方がいい気がする??なんでだ????

 

フランケンが前に出た。あの巨体でとんでもなく早いな!あれが有名なヴィランの動きか。桁違いだな。俺達置き去りだ。雄英生徒が着地した。けどもう既に背後にはニコニコした顔で腕を振り上げるフランケン。

 

一応雄英生徒を逃がさないように囲むように動いてるけど…意味ないよなぁ。だって雄英生って言ってもヒーローの卵。プロヒーローでも正面から潰す化物の不意討ちなんてどうにも成らないだろ。

 

まったく、せっかく雄英に合格出来たのに運の悪い奴だな。悪いのか?いやどうなんだ。俺たちになぶられてボコボコにされないのは運がいいのか。一発で潰される方がマシ…か?どうでもいいか。それよりホントこれじゃなんのためにきたかわかんねぇな。こうなったらもう他の所に行く…[バチン!!]…か

 

は?

 

バゴン!!

 

 

あれ?フランケンさ、あ、アイツの後ろに居たよな。なんで目を少し逸らした間に居なくなってんだ。いや動きが素早かったけど…一瞬で消えるなんて無理だよな、なんかバチン!と言ってゴガン!!って音がしたな?…え?彼処の壁なんで崩れて瓦礫が……あ、あれ血か!?ち、血が流れてきてる!あの瓦礫から出てる腕って…フランケンの……

 

は????

 

雄英の生徒は振り向いた。

 

「……」

 

雄英の生徒が俺達をみて…雄英の生徒…せいと?

 

ち、違う!!せ、生徒なわけあるか!?あ、あんな恐ろしいのがヒーローを目指す雄英の生徒なモノかよ!?絶対にヒーローになる生徒なわけねぇよ!!誰だよこ、こい、この方は!?こんな恐ろしい威圧感、な、なんで気付かなかったんだよ……ヴィランだ。それも俺達みたいな小悪人なヴィランじゃねぇ!あの恐ろしかったフランケンより遥かに格上の超大物な御方だ! 

 

「こ、ころされる。絶対ころされる」

 

隣のやつの呟きが聞こえた。

こ、殺されるってなんだよ…

 

「誰か知ってるのか?」

 

「知らねぇよ!!け、けどフランケンの奴がやられたんだ次は俺達の番だろ!?……」

 

はぁ!!!俺達もやられるのか!?やられるってのか!?そ、そんなこと…無いと言えなねぇ威圧感をしてらっしゃる。お……おい、お、おれヒーローやらヒーローの卵相手なら捕まっても命の危険はないとおもって今回の襲撃にきたんだぞ!?死ぬとかいやだぞ!い、いやいや、ま、まてよこの方はヴィランでヒーロー関係じゃない。な、なら俺達をやる理由もないよな。フランケンの奴は攻撃しようとしたからやられただけで、すよね?な、なんで俺達をジックリと見てるんですかね?

 

「どうするか」

 

え、なんすか。どうするかって……始末するか、どうするかって悩んで??も、もしかして目撃したから、目撃者は消すみたいな。そ、そうなのか、ど、どうすりゃいいんだ…倒す?フランケンの奴がアッサリやられた相手に俺達が纏めてかかっても勝てるわけねぇだろ!?!てか!怖くて足が動かねぇんだよ…

 

足が動いたら何とか逃げ……だ、駄目だ。ここからでる出口はフランケンのヤツが崩してる。あの大馬鹿野郎が!!何が逃げないようにだ!俺達の逃げ道無くなってるじゃねぇか…

 

「まて!まってくだしゃ、さい!お待ちください!」

 

誰かが舌をもつれさせながら叫んでいた。

 

「あ、あなたさまへの攻撃は、さ、さっきのヤツが勝手にやったんです。お、オレたちはあなた様と敵対なんてするつもりなんて毛頭ないんです!」

 

「そうですぜ!!俺達はアンタと敵対するつもりなんてありません!?」

 

「……」

 

「あ!も、もちろん!た!逮捕されてもあ、あなた様の事は絶対口外しないと誓います!」

 

「……」

 

「た、助けてください」

 

「…助ければ良いのか」

 

その言葉に見逃してくれるんだとホッと仕掛けた。そして顔を見て……

 

「ひぃ!!」

 

悲鳴が漏れた。

 

ねぇよ…た、助けてくれるなんて顔じゃねぇ…よ…崖っぷちに立ってたらそのまま崖から突き落とされる…だめだ。死なせて恐怖から解放して助けてやろうって顔だ……

 

「……」

 

ち、近づいてくる…近づいてくる。

 

やだよ近づかないでくれよ…あ、足がすくんで動かない。指一本動かせない。なんでだよ動いてくれよ。目だけ少しだけ動いた。横を見ると、まるで死ぬ寸前みたいな顔をしてる奴等がいた。もう死ぬことから逃げれないって覚悟をしてしまってる顔だ。お、俺も同じ顔だろうな。

 

あぁ…いやだ…しにたくねぇよ…だれか…だれかたすけて…

 

 

「死にたくないなら手をあげて!!早く!!」

 

 

女の子の声が聞こえて俺達は全員手をあげていた。

 



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11話

大魔王に即死は効かないですよね


黒い霧に何処かの施設に飛ばされたバーンさま…それとヒッソリと葉隠もいた。飛ばされたバーンさま達はヴィランに囲まれた。

 

数分後…バーン様達を囲っていたヴィラン達が全員縛られて寝転がっていた。即落ち2コマという光景か。

 

「よ、よしこれで良いよね?い、行こう!」

 

空中で動く手袋。手袋だけなのに元気な娘とわかる葉隠、彼女の後ろを歩くバーン様は思う。縛った彼等は放置でいいんだろうか?助けて欲しいと言われたのに、ナゼか葉隠が死にたくなかったらとか言い出して縛ることになった。

 

因みにバーンさまは…未だに訓練と認識して相手が本物のヴィランだと思っておられない。助けを願う彼等の何処を見てヴィランだと思えるだろうか。本気で助けて欲しいと願ってるように見えた。演技には見えなかった。

 

これは訓練なんだろう。

 

昨日の混乱を思い出せば緊急時にどう対応するのかは大事だろう。人を個性で攻撃するという危険な模擬戦もぶっつけ本番でやった雄英……偽物のヴィランを用意しての訓練はやりそうだ。

 

まぁ訓練としても本物のヴィランとしても、どちらにしても本当にヴィランに襲撃されたという前提でどう行動するか。

 

考えた結果、脱出する事にした。

 

正当防衛は良くても自分からヴィランと戦いに行くのはダメだろう。ヴィランとの交戦をなるべく避け、外に出て救援を呼ぶというのが正解だと判断した。とても真っ当な判断をした。

 

「そ、そうだね……脱出して応援呼ぶのが正解だよね…なんだよね…」

 

葉隠も同意したので、向かうのは初めに来た正面入り口。もしもバーンさまが本当に本物のヴィランと判断していれば、出入り口を無視して一番近くの外壁を破壊して最短距離で外に出ただろう。

        

ふとバーンさまは考える。

 

バーンさまは訓練をしていると思っているがふと思った。もしこれが万一訓練でなく本物のヴィランによる襲撃だとしたらどうだろうか。昨日の、昼食時の騒ぎがタイミング的にヴィランと関係してないとは思えない。

 

思い出せばオールマイトが居ないのが可笑しいみたいな事を手を付けた男が言っていた。知っていたなら今回の襲撃の前にヴィランはオールマイトが出る授業の情報を事前に入手している事になる。どうやってその情報を入手してきたと考えれば、内部犯からの内通もあり得るがそれを隠すためのブラフで無ければ先日のマスコミ騒動の時が怪しくなる。

 

もし答えが正解なら…

 

 

各施設に飛ばされたバーン様や生徒が向かうUSJ入り口中央階段。中央に来ていた多数のヴィランが倒れていた。一人でヴィランの集団の中に突撃した相澤が倒したのだ。

 

相澤の実力の高さもあるが幾ら数が多くても生徒でも倒せる程度の相手しか居なかった事も大きい。雑魚といっていいチンピラが殆んど構成員なヴィラン連合、プロヒーローの教師どころか生徒すら倒せない戦力……目的はオールマイトの抹殺、…しかし…それが妄言でなく本当に可能と言える手札がヴィラン連合には存在した。

 

 

『脳無』

 

 

相澤は絶対絶命のピンチを迎えていた。

 

 

 

 

「ぐうぅ!」

 

中央階段では相澤は激痛に苛まれる体を動かし戦闘を続ける。

 

「ーー」

 

相澤が戦っているのはヴィラン連合の最大戦力。他の人員と比べれば小さな子供の遊びに大人が混ざってきた様な場違いな強さ。

 

脳を剥き出しにした異常と思える生き物。意思を感じない目、機械か何かのようにただ淡々と苛烈に相澤に攻撃を続けている…相澤はまるで恐ろしく強い人形と戦わされてる様な気分にさせられた。

 

相澤の力は視線さえ向ければ相手の能力を封じるという厄介極まりない個性。個性に由来した肉体の強さまでは封じられないが、この個性社会では上位に位置する個性と言ってもいい。

 

ただ相澤の力は封じる力でありそれを抜けば鍛えただけの人間。並みのヴィランでは束になっても勝てない強さを発揮するが、鍛えて恐竜に勝てるのかという話だ。

 

脳無は単純な肉体の強さだけで戦い相澤の個性が意味を成さない。脳無を相手には肉体のスペックが技術、経験で埋められる差じゃない。肉体のダメージだけが一方的に刻まれていく。ドンドンと相澤だけ動きが鈍り、相澤に勝機は欠片もなかった。

 

しかし

 

「いい加減に倒れろよ。イレイザーヘッド」

 

手をアクセサリーにしたヴィラン、死柄木が相澤に不満を漏らす。相澤は生徒が散らされた後に脳無の襲撃を受け、それからの相澤はただ手も足も出せず逃げ回っている。最初はそれを無様と笑ったが………長くなると笑えなくもなる。

 

例えれば、寝るときに現れて叩き潰せない蚊、ゲームで言えば低レベルの一撃で倒せる敵に連続で回避をされる。その内倒せるにしても無駄な抵抗に苛々が募った。

 

逃げるのが手一杯の相澤に勝ち目がない。そんな勝ち目のない戦いで相澤の顔は笑っていた。

 

「鬱陶しい。サンドバッグにされてその顔はなんだよ。殴られ過ぎて頭が可笑しくなってるのか?殴られるのが嬉しいドMの変態か?それともなにか?……ヒーローらしく勝てる大逆転の策でもあるのか」

 

死柄木は脳無に勝てる手段なんて無いと思うが、相澤の笑みに僅かに警戒もさせられた。

 

別に相澤の頭は可笑しくなってない。だからと言って勝てる作戦もない。ただの時間稼ぎ。元から単独で突撃してから相澤がやることはそれだけ、その身を盾に足止めをする事。なら相澤の浮かべる笑みは、別に相手を挑発するためのハッタリか虚勢かと言うと、そう言うわけでもない。相澤は六年前、いや七年前か、まだ若手の頃に無意味に死にかけ大きな挫折を味わった。少しづつ築き上げてきたヒーローとしての自信を一時は失った。

 

だがヒーローとは挫折すれば再び立ち上がれる者だ。折れたままの人をヒーローとは言わない。挫折が大きいほどより強くなって立ち上がるモノがヒーローだ。

 

つい最近七年前の挫折を嫌でも思い出せる生徒がやってきた。七年前と今の相手、圧倒的な強敵である事しか共通点はない。それでも相澤は脳無を相手にリベンジを果たせている気がした。

 

まだ立って戦えているだけで上等!あの時の様に無意味な雑草の様に無様に潰されてない!

 

もう相澤はボロボロの満身創痍。全身から血が垂れ骨が幾つ折れてるのか判らない。過言でなく死に体だがその目は、その立ち姿は、その笑う顔は、弱っているなんて思わせない力強さを感じさせる。七年間の挫折から折れずにヒーローを続けた相澤は今も立っていた。

 

まさに相澤はヒーロー。ヒーロー嫌いなヴィランにとってとても苛々とさせられ許せない姿だ。

 

「はぁ、もういい。メインディッシュも居るんだ。黒霧、しぶといだけの虫は脳無とオレ、黒霧の三人で速攻で潰しちまおう」

 

「わかりました死柄木」

 

黒いモヤ、黒霧は手首をアクセサリーにした男、死柄木に頷いた。明らかに他の三下ヴィランと違う二人が動く。相澤に更なる危機が迫る。

 

それでも相澤は笑う。確実に死ぬ。それがどうしたと思う。相澤には動揺も悲観もない。生徒の一人が逃げたという発言から考えてあと少しで救援は来る。もし此処で自分が死んだとしても、あと少し時間を稼げば自分が死んでも生徒は助かり自分たちが勝つと信じられた。

 

ボロボロな相澤が勝者の顔をし無傷な死柄木が悔しそうな顔をしている。勝者と敗者はどちらだろうか。しかし相澤に誤算があった。

 

守るべき生徒もまたヒーローを目指す存在だと言うことだ。

 

「相澤先生!!援護します!」

 

「潰れろや!」

 

「先生大丈夫ですか!?」

 

爆豪が問答無用で黒霧を爆破し尾白などが相澤の前に立つ。誰かのピンチ、それを見てヒーローを目指す者が動かない訳がない。相澤が時間稼ぎをしてる内に各所に散らされた生徒の何人かが戻り、戻ってきた彼等全員が相澤を助けようと動いた。弱冠一名怪しいが。

 

「あーあ戻ってきたのかよ。雄英の生徒はスゴいな。ヴィラン連合情けないな」

 

相澤はギリギリで助かった。

 

「な!お前ら避難してろ!」

 

だが相澤本人が良かったと感じてない

 

さっきほどまでどんなにボロボロでも消さなかった相澤が笑顔を消している。苦い顔を見せていた。脳が出たヴィランは生徒にどうにかなる相手じゃない。リーダーと思える手のヴィランも崩れた肘を見ると危険な相手だ。相澤は此のままだと生徒が死んでしまうと思った。自身が死ぬ覚悟はあっても生徒を死なす覚悟なんて持てるわけがない。

 

そしてヒーローの苦しみに喜ぶのがヴィラン、生徒が死なずに帰ってきた事に不快感を感じていたが、相澤のようやく見せた苦しそうな顔に機嫌を良くした。

 

「おいおい先生なのに可愛い生徒が助けに来てくれて喜ばないのかイレイザーヘッド。教師なら教え子の助けに喜べよ。あぁ喜べないか。だって……」

 

「やめろ!俺が相手だろ!!」

 

その先を察した相澤の制止の叫び。

 

「いやだ。やめない。脳無命令変更だ、死に損ないの前で生徒を潰してや………」  

 

笑いながら指示を出そうとして止まった死柄木。

 

「……なんだ」

 

何かを感じ慌てて視線を何かを感じた方向に向けた。

 

誰か来る。

 

「あ、あれは」

 

歩いてきたのは長身長髪の黒い服を着た大きな角の生えた誰か。死柄木だけでなく、その場にいたヒーローもヴィランも全員が視線を向けている。男は死柄木の元に向かっている。自分に向かってくる相手に死柄木は声をつまらせた。

 

死柄木はこの雄英の施設に来た時から息苦しさを感じていた。心が大音響の警鐘を鳴らしていた。しかし死柄木は大仕事に緊張でもしていたのだと自分を納得させてしまった。

だが目の前にして理解するしかない。息苦しさと警鐘の正体はコイツだったと。自分の格上と相対した時にある息苦しさ、死柄木の元に向かってきている。だれも動かない。何の妨害も受けず男は死柄木の近くまで歩いてきた。

 

「なんだよお前は」

 

死柄木は明らかに怯んでいた。

周りを見回して無傷の生徒と大ケガを負った相澤を見て何かを考えた。

 

「……昨日、雄英の校門で起きた騒ぎに覚えはあるか?」

 

死柄木に向けられた質問。一つ一つの文字が脳に直接入り込むような、体を縛る重石のような。聞いてる側が重圧を感じてしまう声だった。返答を間違えれば危険だと思わされた。

 

死柄木は口を開いた。

 

「雄英の門ね…あぁあれか、あの門は俺が壊したんだよ。ちょっと今日のスケジュール貰うのに騒ぎを起こしたんだ。はは、あんな簡単に入り込めると思わなかったな」

 

死柄木はプライドから素直に答える事を拒絶しようかと考えたが、雄英の無能さを吹聴するのだと考え直し正直に話すことにした。答えても特に不利益が有るとも思えなかった。

 

前提として致命的な”誤認”があった。

極自然と相手が“同じヴィラン”と言う認識…

 

「そうか……」

 

その一言から怒りを感じ体が震えた。

ただの怒りの圧力から感じたのは『死』

死柄木の生存本能が働いた。

腕だけがまるで別の生き物の様に動いた。

 

死柄木は両手で相手の腕を掴んだ。死柄木の個性である『崩壊』を発動させる条件は整った。死柄木は笑った。

 

「じゃあな」

 

個性が発動した感覚はあった。

なのになんでだ

 

「…は?」

 

死柄木は間抜けな声を出した。

 

死柄木の個性は全部壊してきた。これまで敵も知り合いも家族も例外なく全て壊れて消えていった。それなのに……

 

木の折れたようなバキッという音がした。死柄木は最初は何の音かわからなかったが、視線を落とし自身の関節とは違った場所で垂直に落ちた腕を見て理解した。灼熱の痛みがきた。

 

「!!!!??」

 

「死柄木!!」

 

焦ったこえ、黒い服の男の腕を掴んでいた死柄木の腕は折れていた。痛みに呻く死柄木。それを見て相手は腕を近付けてきた。死柄木は攻撃が来ると覚悟した。

 

『ホイミ』

 

嘘のように痛みが引いた。

折れていた腕が…正常に戻っていた。

折った本人に治療された。

何で治したのか理解できない。

理解できないことは恐怖となった

 

死柄木は叫んだ。 

 

「の、脳無やれ!!」 

 

何か大きなモノが飛んできた。黒い服の男は死柄木から離れ後方に下がる。そして爆発した。黒い服のいた場所にできたクレーター。土煙のまだ立ち上るクレーターから出てきた脳を剥き出しにした生き物、対オールマイト用ヴィラン脳無。脳無と黒い服の男、バーンさまは相対する。睨みあう両者。

 

雄英襲撃事件、最大の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

念のためにいうが、ヴィランVSヴィランでなくヴィランVS初々しいヒーローの卵。ヒーローが蚊帳の外とか思ったなら勘違いだ。

 

 

 

 



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12話

雄英施設USJに侵入したヴィラン連合と名乗るヴィランの集団。この暴挙の目的は雄英教員オールマイトの殺害と宣言。

USJに授業の為に来ていた1ーA生徒はヴィラン連合一員の黒霧のワープにより施設内に散り散りにされ、其々の施設で待機していたヴィランの集団に襲われた。

 

何らかの手段により外との通信は不能であり救援を呼べず、雄英施設内でありながら孤立化に近い危機的状況に陥った。クラスメイトを救うためにワープを免れ入口付近にいた委員長の飯田、彼は他生徒の助力を借りながら黒霧の妨害を突破し施設から外へと出て救援を呼びにいった。

 

今現在、各施設に飛ばされた生徒の多くが戻ってきている。戻ってきた生徒には目立った怪我人もなく戦闘不能者もいない。

ただ教師でありプロヒーロー二人は、13号は黒霧に宇宙服の背中を裂かれ意識どころか生死すら不明。イレイザーヘッドこと相澤は意識はあるが体はボロボロで膝をついている。精神力で辛うじて気絶してない状態で戦闘は不可能といっていい。

 

逆にヴィラン側の要員は殆んど倒されたが、悪く言えば寄せ集めの雑魚のみが戦闘不能になり最大戦力と幹部格は無傷。

 

つまりはヒーロー側は数は多いが主力は潰されている。ヴィラン側は多く倒され数は少ないが主力が残っている状態ということだ。戦力としてはヴィラン連合の方が減ってない。

しかし雄英側は飯田脱出により時間が経てば援軍が来る。比べるとヴィラン連合と雄英、双方の勝敗の天秤はまだ平坦にあると言っていいが……此れから行われる事の先の結果によって一気に天秤は傾くだろう。

 

『……』ゴクリ

 

その対峙に両陣営どちらも息をのんだ。雄英襲撃を行ったヴィラン連合と名乗るヴィランも。ヴィランを打ち倒しこの場に来たヒーローの卵達も。大怪我をしてるとはいえプロヒーローの相澤すら今は傍観者だ

 

片方は漆黒の服を着たヴィラ、生徒、

もう片方は脳が剥きだしな生き物。

 

個性抹消という個性社会では恐ろしい個性を持った実力派ヒーローであるイレイザーヘッド、相澤を圧倒したヴィラン『脳無』

 

オールマイト他にもトップクラスのプロヒーローの巣窟である雄英に侵入するという、大事件を引き起こしたヴィラン連合が対オールマイトに用意したという切り札。その力は実力派プロの相澤が圧倒された事から名ばかりの切り札とはとても言えない。 

 

ヴィランの言い分ではオールマイトに匹敵する身体能力がある。

 

だがそれだけでオールマイトを倒せるわけがない。もし身体能力が匹敵してるだけで倒せるなら、オールマイトは平和の象徴などと呼ばれない。オールマイトには膨大な経験と卓越した戦闘センスもある。脳無にはそれが有るとは思えない。

 

同じスポーツカー(身体能力)でも運転手の格が違う。つまり脳無はオールマイトに勝てない。脳無の力が純粋な身体能力だけならだが…。

 

一人につき1つの個性という常識から考えれば、脳無は身体能力だけが武器だと判断しても可笑しくはない。しかし脳無は真にオールマイトを打ち倒すために"用意された"切り札なのだ。

 

打撃を無効化するショック吸収能力、

肉体の欠損すら直す超再生力。

そしてオールマイト級の身体能力。

 

この三つが合わさってるのが対オールマイト脳無。

 

究極の脳筋と言われ攻撃が基本的に打撃しかないオールマイト、物理の天敵といっていいショック吸収。加えてオールマイト級の身体能力、さらに再生能力という保険付き。まさに脳無は文字通り対オールマイトの為にこの世にた怪物。オールマイトを倒せると言う言葉は誇張でもない。脳無はオールマイトを倒せる可能性が有る。

 

 

しかしこの場にはイレイザーヘッドがいる。脳無には手も足もでなかったがその個性は厄介。個性の抹消。視界に入っている限り発動系の個性は使えない。脳無の肉体に依存した身体能力は無理だが再生とショック吸収は無効化できる。イレイザーヘッドの個性が発揮すると脳無の能力は半減する。

 

ダメージは大きく個性を長く使えないだろうが、短時間でもイレイザーヘッドが個性が使える今この場にオールマイトが来れば脳無に勝ち目はない。それは同時にヴィラン連合の勝ち目も無いという事だ。

 

相澤だけでなく13号も個性を考えれば殺害を許容すれば脳無に勝る。

 

ただこれは無意味な仮定。

重要なのは今どうか。

 

この場にオールマイトは居ない。そして13号は生死不明、イレイザーヘッドは戦闘不能には成ってないが、動くのも困難なほど大怪我を負っている。今この時に戦えるのは生徒しかいない。

 

続々と散らされた生徒は続々と戻ってきているが、脳無はオールマイトを倒せる可能性をもった怪物、相性が良かろうが数が揃おうが生徒にどうにかなる相手ではない。

 

現時点で戦闘力のみならプロヒーローに匹敵するかもしれない轟だとしても脳無相手にはまず勝てない。生徒達と脳無にはそれほど力の差が……いやチームプレーで策を練れば何とかなるかも知れないが、連携をとれるだけのチームワークもない。

 

生徒達では勝てない。

一人を除いた場合の話だ。

 

今、脳無と対峙している漆黒の服のババーン!と登場して注目を集めている田中太郎ことバーンさま。もし第三者が居れば風格から迷わず今回の事件のヴィランの首領と思うだろうが…ヒーロー側だ。生徒だ。15才の青少年だ。

 

相澤はまだ短期間しかそのヴィ…、生徒と接してないが、その短期間でも知れた力は、過去の彼の父親から受けたトラウマを思い出させるほど。

 

脳無同様にオールマイトに劣ると思えない身体能力、一撃で町一つの会場を更地にすることが可能な攻撃、他に飛行、炎、冷凍、暴風等々を使用した万能と思える能力の数々、トラウマによる過大評価を考え見積もっても、それでも現時点で……弱体化したオールマイトよりも総合的にはスペックが高いと相澤には思えた。

 

戦闘技術や経験の差から考えれば実戦での勝敗はまた違うとは思うが……スペックだけ見ればトップヒーロー以上と言うだけでもとんでもない逸材。

 

雄英で脳無に単独で勝てると思えるのはオールマイト……それにバーンさまぐらいか、しかしバーンさまが現れてむしろ相澤の不安は増大していた。正直、相澤としては……バーンさまが現れてむしろピンチになった気がして成らなかった。

 

相澤の感じた不安は勝てる勝てないの不安じゃない。不安それは……周りへの被害。

 

いや、担任として脳無と戦うバーンさまの心配をしろと言われるかもしれないが、この場では相澤だけが知っている町ひとつある試験会場を瓦礫にした一撃。例えれば間近で戦闘でなく戦争が起きる直前という話しか

 

「な、なぁどっちが勝つと思う」

 

「さぁ、な、だが、とんでもない事になるのは確実だろ」

 

生徒たちはただ見守った。オールマイトがまだ来てない現状、実質的に両陣営最強のぶつかり合い。お互いこの場の対立戦力を蹂躙できる最強戦力同士。どちらが勝つかで一気に勝敗の天秤が傾く。にらみ会う形にある両陣営の最強。

 

にらみ合いはすぐに終わった。

先ず動き出したのは脳無。

 

「きえ、た!」

 

脳無のいた地面が陥没し土煙がのぼるとその場から脳無は消える。もちろん消えたのでない。脳無はオールマイト級の身体能力で動き出し姿を消したように見せた、その速度が見えたのは少数。殆どその場の人間には脳無が突然消えたようにしか見えないほどの超速。そして大きな打撃音とともにバーン様も消える。戦闘が始まったのだろうか。

 

違う。

 

バーンさまは動いてない。自分からは。

脳無が動き出しバーンさまを殴り飛ばしたのだ。

 

打撃音がしたと思えばほぼ同時に壁に炸裂音、壁は瓦礫となる。瓦礫の中に誰かが倒れている。バーンさまは脳無に殴られあそこまで飛ばされ……。   

 

立って居るのは脳無のみ。

 

「は、え」

 

「ま、まけた…のか」

 

この場の最強同士のぶつかり合い。あまりの呆気なさに呆然とした生徒とヴィラン。

 

「……は、はははは、な、なんだよ。簡単に倒せたじゃないか。」

 

死柄木の嘲笑うような声だけが響く。そんな死柄木の隣にいる黒霧の黒いモヤは不自然に揺れていた。まるで戸惑っているように。

 

瓦礫の山を見ればバーンさまに脳無の一撃は直撃した事はわかる…………崩れた瓦礫の山を見ればまず攻撃を受けた相手は生きてはないだろうと思わせる光景だ。そういう光景なのだ。

 

しかし

 

黒霧はヴィラン連合で真っ先に生徒を散り散りにする時にバーンさまを見た。その時……ある人物とその姿を重ねた。自身の黒いモヤよりも黒い何か、見掛けは全く似てないが醸し出す気配は同種。悪のカリスマと呼ばれた怪物と…

 

そんな怪物と同類に見えたのが一撃で?

 

ふと黒霧が隣を見ると先程まで上機嫌に見えた死柄木が不機嫌そうな顔をしていた。

 

「あーけどメインにまったく関係ないサブシナリオをクリアしただけだ…。メインは何時くるんだ。チャート外なことばかりだ。散らした生徒は集まってきてるしイレイザーヘッドも完全に潰せてない。極めつけはアイツだ。まさか他のヴィランが俺達みたいに雄英を襲撃しにきてるなんてな」

 

死柄木の言葉に黒霧は確かにと頷く。頷いた後、なんでヴィランがヒーローの卵の近くに居たんだろうと少し疑問が湧いた。まさかヒーローの教師、それかヒーローの卵、ヒーロー科の生徒?黒霧はふと考えてしまったあり得ない馬鹿馬鹿しい想像に首を降る。

 

「う、嘘だろ。一撃で」 

 

「…対オールマイトだと伊達に名乗ってないってことかよ…!!」

 

「あぁ……やった。やってくれのかよ!!?」

 

死柄木は脳無の力に震えるヒーローの卵たちをを見てわざとらしく溜め息を吐いた。

 

「はぁ~、オールマイトはまだかよ。まったく……………可愛い生徒が死体になったらくるかな?」

 

再度初めと同じ事を言う。隠れた目と口を見れば判る悪意と狂気の混ざった愉い、黒い意思が生徒たちに向けられる。相澤は相手を睨み付けヒーローの卵たちは身構えた。

 

……瓦礫の山が吹き飛んだ。

 

 

 



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13話

災害訓練用に頑丈に作られているUSJの壁の一角が崩壊している。うず高く積もった瓦礫。脳無にず殴られ瓦礫に埋もれたバーンさま。

 

オールマイト級の身体能力のあると豪語された脳無。その一撃はプロヒーローである相澤の骨を折る程。もしヒーロースーツを着てなければ骨どころか肉体が無事かどうか。

 

そんな脳無の一撃をマトモに受け瓦礫に埋もれたバーンさまは……誰もがまさか!?やられた!?やったか!!と思いバーンさまを心配しただろうが……無傷だった。

 

やっぱりとか案の定とか嘆かれた事実は…きっとない。

 

「……」

 

バーンさまは瓦礫の中で考えている。それは自分を殴った脳が剥き出しの脳無、の事ではない。脳無に殴るように指示した手男もとい死柄木について。

 

手を払っただけで腕が折れる脆さの持ち主。バーンさまも試験やら何やらで“多少”力が強い自覚は有るが…それでもヴィランを名乗るにしたら脆すぎないか。バーンさまの想定するヴィランてなんだろう。一般人の父親以上には強いのが普通じゃないかと思われている。

 

本当にヴィランなのか。

未だにしつこくまだその点で悩んでいた。

 

相手が襲ってきたヴィランなら幾らとても優しいバーンさまでも、怪我をさせても地面にいた虫を踏んだぐらいの認識になるのだが…

 

ヴィランなのかどうか。

 

送られた場所では助けてくれと願う人達しかいなかった。

 

入り口まで戻り、バーンさまも相澤が怪我をしているのを見て流石に本物のヴィランかと、死柄木の台詞にヴィラン襲撃は事実と思った。

 

そう思ったのだが…しかし…思い出せばあの場に何人も居たが相澤以外は特に怪我人がいなかった。生徒が無傷でプロヒーローである相澤だけが怪我人…生徒を相澤相手への人質にしてたようにも見えない…

 

「た、田中くん大丈夫!」

 

バーンさまが瓦礫の中で考えていると上から焦った様な心配したような葉隠の声。初めて聞く家族以外で自分を心配した声が聞こえた。

 

喜びは有るが疑問もあった。なぜ心配されているのだろう?バーンさまはそう言えば殴られ瓦礫に埋もれていたと思い出す。ちょっとバーンさまは天然気味なのだ。

 

バーンさまは上に乗った大量の瓦礫を苦もなく退かす……瓦礫が飛んだ。

 

「!?」

 

バーンさまが瓦礫を飛ばし出てくるとギョッ!とした視線が向けられた。脳内で戦慄や降臨みたいな名前の付いた危険を演出するBGMが聞こえてそうだ。いや勿論、ヴィランにとっての危険と言う意味で

 

葉隠は吹き飛んだ瓦礫の衝撃でなのか尻餅を付いていた。見えないが女の子が全裸で尻餅を付いている。瓦礫から出てきたバーンさまを見た。

 

「だ、大丈夫?…うん…心底大丈夫そうだね」

 

バーンさまが平然と服についた埃を払う姿に、バーンさまはなんのダメージも受けていない事をさとる。ヴィラン側が青ざめた顔をし一部の雄英生徒は絶望した顔をしている。なにかおかしい気がする。

 

念の為に立ち上がったバーンさまは体の調子を確認する。バーンさまの身体にはなんの異常もない。少しだけ殴られた所にスゴくは痛みがあるぐらいか。一般人の父親からの寝起きの攻撃の方が痛い。

 

「いやいやふざけるなよ。オールマイトの一撃を受けたようなモノだぞ。なんで無傷みたいなんだよ」

 

「………やはり恐ろしい御仁のようですね」

 

その台詞が聞こえてバーンさまは笑った。

 

「…………な、なにが面白い」

 

それは笑える発言だろう。オールマイトとはバーン様が産まれる前から活躍しているナンバーワンヒーロー。認識としてはアメリカンヒーローのスーパーマ○。そんなオールマイトに匹敵する一撃で殆ど痛くない何てあり得ない。相手は脳無を過大評価してるか。オールマイトを過小評価し過ぎている…とバーン様は思った。

 

「……」

 

ふと見ると相澤が険しい顔をしている。

バーンさまはその顔の意味を考えた。

 

あの顔は不満を感じている?

 

考えてみると、訓練と考えれても本物のヴィランとしても防げる攻撃を受けたりするのはダメだ。防げたのはプロなら見抜けて可笑しくない。不満を感じても仕方ない。バーン様は気を引き締める。気合いを入れる。圧力となった。

 

「……っ!!」

 

戦意も感じる圧力、ヒーロー相手には本来は感じない死の予感。バーンさまが自分達を殺すつもりだと感じた。気のせいだ。

無意識に数歩後退りしてしまう。そんな自分の行動に怒りを感じ圧力を意識から外し死柄木は思考する。

 

「まてまて……攻撃を一回受けて立っただけじゃないか。それに、そうだなんで気づかなかったんだ。脳無の一撃でノーダメージに見えるのは不自然だ。きっとバリアみたいな個性で防いだんだな。なら化けの皮を剥がしてやればいい。そうだよ。脳無が負けるわけがないんだ。何度も攻撃したらバリアも壊れるだろ」

 

首をガリガリと掻いた死柄木がブツブツと呟き結論をだし脳無を見た。

 

「待ってください死柄木」 

 

黒霧は次に出す言葉を察して慌てて止めた。

 

「なんだよ黒霧」

 

「別に彼と戦う必要はないでしょう。この時期に雄英を襲撃しているなら我々と目的は同じではないですか。狙いは十中八九オールマイト、もしくは生徒の誰か。時間もないですし一時的にでも協力するのがよろしいのでは」

 

黒霧は敵対は避けようと提案した。

 

「……黙れ。同じヴィランでも第三勢力ってのは経験値泥棒で邪魔なんだよ」

 

バーンさまは不思議な会話を聞いた。

 

まるでバーンさまがヴィランの様な扱いじゃないか。あと第3勢力で経験値泥棒と聞くと冥王と忍者を思い出すバーンさまはスパ□ボ好きだ。

 

死柄木たちの話を聞いた雄英の担任にクラスメイトは何も言わない。ナチュラルにバーンさまがヴィラン扱いされてる事に一人二人は反論してくれてもイイ気がするが何も。バーンさまがヴィランなんて突飛過ぎる話で反論の必要も感じてないんだろう。

 

何の根拠もない突然のヴィラン扱い。これを訓練とすれば模擬戦の様にバーンさまにもヴィラン役として動けと言うフリだろうかと……流石に気のせいだろうと考え直し命拾いをした。どちらがとは言うまでもない。

 

ヴィラン役でない。

なら普通にヒーロー役だ。

 

相手が本物のヴィランか訓練の為の役か今一確信は持てないが、他の生徒はヴィランと戦う様子を見せている。なら同じ様に動くべきと思い戦意を向けた。

 

「こ、殺したらダメだよ!?」

 

戦意を向けた瞬間にバーンさまは透明な少女からとても不本意な事を言われる。瓦礫に埋もれたぐらいで心配した事といい。心配性な女の子なんだろうとバーンさまは察した。安心させるように殺したりしないと言う。なぜか殺す方が慈悲がある様な…

 

 

「脳無あの黒いのをやれ」

 

死柄木は脳無に指示を出している。飛び出してくる脳無、オールマイトに匹敵する身体能力が偽りで無いと示すように、並みのプロヒーローでは対処不可能な速度で向かってくる脳無。

それに対して先程なぐり飛ばされたバーンさまは…心配性な葉隠の為にも成るべく穏便に取り押さえようと考えていた。そうして思い付いた手段…

 

「!!」

 

バーンさまを目前にして見えない壁にぶつかった様に脳無は弾かれる。数メートル後ろに下がり地面を削り着地した。

 

「弾きとばされた?」

 

「…脳無もう一度だ」

 

再度接近、今度は弾かれず脳無は直撃すれば一撃で致死する威力を秘めた拳で殴る。しかし脳無が殴ろうとしても当たらない。脳無の拳はバーンさまに当たる手前で何かを殴っている。まるでバーンさまの前に見えない壁があるかのようだ。

 

「はは、あぁやっぱりそうか」

 

死柄木はやはりバリア系の個性で攻撃を防いだのだと思う。脳無は見えない壁を大気が震える勢いで無心に殴ってる。効果が無いように見えるが死柄木は止めない。バリアなら耐久の限界もあるだろうと、殴ればバリアは限界を越えて壊れると脳無に攻撃を続けさせた。

 

脳無がバリアを壊すか。

バーンさまが耐えきるかの勝負。

そう一人を除いて誤解していた

 

「(…………化物め)」

 

死柄木は位置が悪く見えてなかったが、個性を使う為に脳無がしっかりと見える位置に移動した相澤の目には…事実が映った。

 

化物、いや自分の生徒が自分を散々に打ちのめした脳無の攻撃を受けているが、別にバリアのような壁で防いではいない。バーンさまの腕が消えるように動いてるのが見えた。そして腕の先が脳無の拳と当たっているのが見えた。

 

つまり脳無の拳に対応し手で防ぎ相殺している。死柄木の思うバリアの壁なんてモノは存在はしない。ただただ極単純に……オールマイトに匹敵するパワーの脳無の攻撃の一切が素手で防がれてるだけ……。

 

(俺はあの拳が直撃してなくてもこの有り様何だがな……)

 

あの生徒の御方の担任の相澤は他の生徒共々現在助けられてる立場だが……過去のトラウマをほじくってしまう相手の活躍を見せられ…なんで自分は形振り構わずにB組に送らなかったんだろうと考えてしまう。

 

バットの様な棒で壁など何か堅いモノを思いっきり殴った事は有るだろうか?やった事のある危険人物はわかるだろう。堅いモノをバットで殴ればその反動が自分に来る。

つまり一方的に攻撃をしているように見えて…脳無も攻撃を受けてるも同然。

 

脳無は全力で攻撃をし続けている。防がれるその反動は衝撃となるが衝撃は脳無のショック吸収能力で無効化される。一発一発が大砲を上回り兼ねない威力の衝撃を無効化している。ではそれは永遠に続くのか…死柄木の思うバリアの様な許容限界…それが脳無に無いなんて誰も言ってない。

 

「は?」

 

相澤と死柄木は同時にそう言った。

生徒たちも1拍遅れて同じ声を出した。

 

ブチり

 

脳無の太い腕が落ちた。

 

バーンさまの腕に防がれた脳無の腕がショック吸収の限界を迎え、バーンさまの腕に押される形で肩の根元から千切れる様に外れた。

 

腕が落ちた。なら防いでいたバーンさまの手はどうなる。オールマイトの攻撃を相殺するだけの力が籠った手は、バーンさまの防御していた手は勢いのまま脳無の胴体に当たる。ショック吸収は脳無自身の攻撃で許容限界を迎え機能せず肉をゾリッと削いだ。辛うじてだが人に見える生き物が致命的に削がれる光景に生徒たちは息をのむ。殺してしまったと見えた。

 

「は、ショック吸収は……」

 

死柄木からすれば攻撃をバリアでずっと防がれていた脳無が、一度殴られただけで削がれたようにしか見えない。

 

「……イレイザーヘッドが脳無のショック吸収を無効化したのでしょうか」

 

相澤が犯人だという憶測を出す。生徒もそうなのかと言う視線で相澤を見た。冤罪。いや生徒を襲うヴィランの個性を抹消して何も悪くないが。相澤はなにもしていない。

 

「………敵の敵は味方ってことか?ヒーローがヴィランの援護なんて手段選ばないなイレイザーヘッド、……………脳無はこの程度で負けないけどな」

 

脳無はどう贔屓目に見ても致命傷、死柄木の声にはまだ余裕がある。脳無がまだ戦闘不能でないという様なセリフに、相澤たちは死ぬ寸前に見える脳無を注視し、その後の光景に…驚愕した。

 

「げ!身体が再生してる!?」

 

致命傷にみえる程に砕かれていた肉体が戻っていく。ウッカリ普通なら死ぬほど相手の身体を砕いたバーンさまも化物だが、常人なら即死する様な損傷を平然と再生させる脳無も紛れもない化物。サラッととんでもない事が書かれてる気がするが気のせい…でもない。

 

「どうだ。これが対オールマイトの脳無だ。さぁ第二ラウンド。やれ脳無」

 

脳無は肉体の再生が終わると自分の身体を砕いたバーンさまに襲い掛かる。先程と速度は変わらない。完全に肉体を再生していた。

 

相手は即死する損傷でも再生して平然と動く怪物。どうにかするには再生する限度まで身体を壊し続けるか。再生する余地もない程に壊すか、再生を何らかの手段で封じるか、身動き出来ないようにするしかない。

結構対処方法があるように思えるが、これをオールマイトクラスのパワー、ショック吸収能力、再生能力を持つ相手に実行するのは難易度は果てしなく高い。

 

 

……それがバーンさまでなければの話だが

 

 

 

バーンさまは脳無が再生したのは多少はスゴいとは思ったが、むしろこれはバーンさまにとっては…朗報か。

 

極端な再生能力は”もう少し乱暴”にしても良いという安心を提供してしまっていた。

 

バーンさまは再び殴りかかってきた脳無の再生したばかりの腕を掴み、そのまま棒の様にを縦に持ち上げる。そして脳無は急速に近付く地面を見た。

 

バーンさまが脳無を地面に投げつけたのだ。

 

『『うわぁぁぁ!!!』』

 

脳無が床に投げつけられた瞬間、頑丈に作られた床はまるで駄菓子の様に簡単に割れ、建築物の床を破り土の地面にぶつかる。十メートル半径で円形に陥没。衝撃と地面の揺れで何人も倒れた。

 

そして起き上がると…脳無とバーンさまが居た地点を中心に円形に床が半分ほど無くなっている。そして床の無くなった所には大きく深い陥没、一番下にいるバーンさま、その近くには脳無の腕だけが伸びていた。 

 

バーンさまの考えた脳無への対処方法は極々単純、動けなくすればいい。埋めることで身動きを封じることにし地面に投げつけ埋め込んだ。再生という安全保障に安心して力を入れすぎて災害みたいになったが

 

誰もが唖然とする中で葉隠の居る角度からは脳無の腕の近くで蠢く黒い靄が見えた。バーンさまの後方の地面に黒い靄が出ている。脳裏に過る初めに散らされた転移。

 

「あ、あぶない!!」

 

葉隠と幾人か危ないと叫んだ。靄から片腕を無くし肉体の所々が裂けている再生途中の脳無が靄から生える様に出てきて襲い掛かってくる。黒い靄はイレイザーヘッドの抹消で途中で消えたが脳無は靄から出た後。視覚外からの奇襲。

 

脳無の視界が暗くなる。

それはバーンさまの足が脳無の頭にあったからだ。

 

脳無の頭は踏み潰される。そしてまた地面に埋められる。更に踏む。まるで巨大なハンマーが落ちてるかの様に、踏み潰すごとに穴は更に深くなる。脳無は抜け出そうとまだ動く。動こうとする足や腕を潰した。ショック吸収の限界を越えるまで踏み潰した。再生しなくなるまで踏み潰した。動けなくなるまで踏み潰した。

 

自分に敵対した相手は存在の欠片も赦さないと言うように徹底的に潰す。ショック吸収も再生も発動しなくなるまで、脳無が動かなくなるまで

 

踏まれ続けた脳無は頭部は埋まり胴体の半分ほども地面に埋まっている。痙攣したように動いている様は、大きな蜘蛛が人に踏み潰された後の光景に少し似てるだろうか。

 

ただただヴィランもヒーローもヒーローの卵たちもその光景に動けずにいた。ガタガタと震えることしか出来なかった。

 

大気が振動する衝撃と肉の潰れる音だけが鳴り響き、数十秒ほどで鳴り響く踏み潰す音が失くなった。脳無は腕だけ見える。唯一見える脳無の腕はピクリとも動かない。対オールマイトとして産み出された脳無は…誕生した意味であるオールマイトと出会う事すらなく無惨な姿を晒すことになった。脳無に殺されかけた相澤すら憐れみを感じてしまう。

 

い、いや!!バーンさまも予定では平和的に拘束しようとしていたのだ!

 

動けなくするだけのつもりだった。まさか腕がもげるまで殴ってくるとは思わなかった。その後もゾンビの様に出てきたのが悪い。ホラーが苦手な御方が驚いて蹴って地中に戻そうと過剰に蹴り続けてもしょうがない。バーンさまは悪くない。悪くないのだが……ちょっとやり過ぎたのかもと思われた。

 

バーンさまは脳無()を心配して見下ろしている。しかしその心配している心情は欠片も外には出ておらず、感情の籠っていない視線で、見るも無惨に踏み潰された憐れな怪物を見下ろす姿は外野から見れば……

 

死柄木はそれを見て決断した。

 

「……逃げるぞ」

 

オールマイトを狙いに来たのに、対オールマイトの脳無が潰されたなら此処にいる理由がない。……救いとしてはオールマイトが終わることにかわりないことか。

 

あの存在の狙いは黒霧の予想通りオールマイトだろう。オールマイト以外にあんな存在が此処に来る理由が想像できない。あの存在ならオールマイトを潰せると確信できる。敵対さえしなければオールマイトがヤられる所を見学出来たのにと今更ながら後悔していた。

 

「はい」

 

黒霧としても撤退に反論はない。むしろ言われなければ自分が提案した。ヴィラン連合の主犯二人は逃げようとした…したのだが…

 

「黒霧、なにしてる急げ」

 

「…個性が発動しません」

 

脳無を倒した相手が近づいてきている。黒霧は急いで逃げようとするが個性が発動しない。

 

黒霧を相澤が見ていた。

 

「イレイザーヘッドめ!!」

 

逃げることが出来ない。なのに脳無を倒した謎のヴィランは刻一刻と穴から登ってくる。脳無を襲わせた報復か。わざとユックリと上ってきている。そして周りの人間を見ている。ヴィランらしく獲物を恐怖させるつもりなんだろう。単に脳無をどうしようか助けを求めてるだけである。

 

登ってくる。

 

半死半生のイレイザーヘッドさえ何とか出来れば逃げれるが、イレイザーヘッドの周りには死柄木達の狙いに気づいたのか護るように生徒達が居る。プロのイレイザーヘッドが幾ら戦闘不能に近く、生徒だけとしても、個性を封じられた状態では。

 

登ってくる。

 

「彼処に!」

 

黒霧の狙いに気付き死柄木は走りだす。柱の影、イレイザーヘッドの視線から外れれば個性が使える。相澤はマトモに動ける状態じゃない。自分達の進路を邪魔する生徒もいない。まだ倒されてなかったヴィラン達がいた。死柄木と黒霧からして既にどうでもいい相手。

 

ヴィラン達は動いた。

 

「確保だ!!確保!!」

 

「おら!大人しくしろ!」

 

「な!お前ら!なにを!?」

 

「……なんだぁ……」

 

死柄木、黒霧は床に押し倒された。

 

自分達の集めたヴィランたちの残りに、三下ヴィラン相手に負けるような二人では無かったが、完全に油断をしていて不意をつかれた。二人ともまだ相澤の個性の範囲内、個性が使えない状態では三下ヴィランの拘束も抜けれない。

 

「なんのつもりだ!?」

 

死柄木は困惑し黒霧は怒鳴った

 

「へ、へへ!あの方に無謀にも敵対したの、お!お前等だ!俺達は関係ない!」

 

「巻き添えになるなんて冗談じゃねぇよ」

 

「貴様ら、まさか…私たちを売って助かる気か!」

 

「おいおい裏切りか…」

 

「うるせぇよ!!何が裏切りだ!おまえさっき俺達残して逃げようとしたろうが!」

 

仲間割れ……いや元からどちらにも仲間という意識が有るとも思えないから仲間割れというのも変か。ただ彼等は雄英襲撃というイベントの主催者と誘われ参加した参加者という関係、仲間でなければヴィランの関係は弱肉強食。強いヴィランの方に付くのも変な話でもない、寝返る相手がヒーローの卵でヴィランでないという致命的な間違いが有ることを除けば可笑しくない。

 

死柄木は手から個性を使うところを見られていたのか、腕を後ろに回され手首を抑えられている。黒霧は実体のある胴体を抑えられている。仮に押さえられてなくてもイレイザーヘッドに個性を封じられどうにも出来ない。裏切る事はありえない脳無はクレーターの中に埋まったままで、戦えるかどうか以前に生きてるかも怪しい……。

 

終わった。

 

雄英の生徒と相澤は何とも言えない表情を浮かべている。謎のヴィラン、いや雄英の生徒の視線が集まる中でバーンさまが穴から床のある所にまで上がると、ヴィラン達が低頭で出迎えている。

 

「私がき…え、なにこの状況」

 

オールマイトがやってきた。

 

 

 

 

ヒーローの勝利である!

 

 

ヒーローの勝利である…!!



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14話

 

雄英襲撃という一大イベントはバーンさまの威光とご活躍により見事に解決した!!

 

バーンさまのお陰で対オールマイトの怪人、(辛うじて生存してる)脳無の確保に成功。バーンさまのお陰でヴィラン連合の主要人員を(同士討ちで)捕縛に成功。活動限界に近いオールマイトは無理する必要も無かった(活躍が無くなった)。

USJ内に散らされた他の生徒達も自力でヴィランを倒し戻ってきた。

 

敢えて悪いことと言えば、早く終わりすぎてオールマイト含めて雄英の教師陣を事件が終わった後に到着させる事になった事か。オールマイト含めたプロヒーローである教師が出遅れてほぼ終わってから到着。

 

襲撃そのものは雄英の失態。つまり雄英の教師は自分達の失態の尻拭いを生徒達にして貰ったことになる。しかも自分達は生徒の危機に出遅れた。これを気にしないというならヒーロー以前に大人としてどうかという話。

 

生徒達が助かった事は嬉しい。しかし自分達の油断で危険を招き入れ危険にも殆んど何も出来なかった事は気にしてしまう。特に活躍した生徒が警戒していた相手だと言うのも複雑な心境になる要因か。

 

因みにその警戒された生徒のお方は…ヴィラン連合襲撃後に帰宅し…雄英へのヴィラン襲撃のテレビニュースを見てようやく本当にヴィランの襲撃があったと認識したとか…。

 

 

 

ヴィラン連合に襲撃をされた事もあり少しの休校の後、雄英は普通に再開した。生徒や親の様子を見る家庭訪問など特にはなかった。

 

ヴィラン(犯罪者)に侵入襲撃され生徒が襲われたのに酷くアッサリとした対応、ルール無用の生きるか死ぬかの戦い、相手が弱くなければ悲惨な事になる戦い。そんな戦いの後なのに生徒へのメンタルケアなどはない。

まぁヒーローを目指して居る生徒だからその程度気にしなくても良いと思ったんだろう。それに自力で乗り越えられなければヒーローに成れないと思ったんだろうか。子供が大事な親なら止めさせたいだろう。

 

 

ヴィラン襲撃が事実だと知った後、繊細なバーンさまは家庭訪問で確認がなかった事に驚かされた。バーンさまは生徒への気遣いメンタルケアは大事だと思う。少なくともバーンさまは襲撃事件により多大な精神的なダメージをおっている。バーンさまは気遣いが切実にほしい。

 

未だに地面から這い出てきたので潰した黒い男の感触が足に残っている。ゴキブリを足裏で潰した様な感触がずっと残っている。あと、何よりも、クラスでハブられてる感じなのを相談したい。ヴィラン襲撃後の登校でナゼか更に距離感が開いてる感じがした。

 

まぁしかし包帯グルグルで大怪我をしてる風な担任。そんな相澤に気遣いをして欲しいと繊細な心の持ち主の御方が頼めるわけもない。怪我が治ってないのに授業。家庭訪問が無かった事も合わせてヒーロー業のブラックさが見えてしまう。

 

「相澤先生大丈夫なんすか!?」

 

「安静にしておかなければいけないのでは」

 

包帯まみれの相澤を心配するクラスメイトの声多数。バーンさまは心配されてるのがちょっと羨ましい。そんな心配の声に相澤はバッサリと自分の怪我はどうでもいいといい。戦いは終わってないという。教室は緊迫した空気に包まれた。それは!!

 

「体育祭だ」

 

バーンさまは相澤の似合わない精一杯のギャグだろうかと思う。ギャグと言えば初日の自己紹介に使う予定だったギャグと比べると、ギャグセンスは自分の勝ちだなと確信した。特に意味はない。

 

「「「おおおおお!!!」」」

 

教室中に興奮した声がわいてでた。

バーンさまはその反応に驚かされた。

 

たかが体育祭に反応しすぎでないかと思う。雄英の体育祭は普通の体育祭ではない。雄英体育祭をある理由で見なくなったバーンさまは雄英の体育祭がどういうモノか忘れていた。

 

現代のオリンピックとまで言われる雄英の体育祭!!

 

スカウト目的でヒーローも見てる!

 

全国のテレビに放送もされる!

 

有名なヒーローを目指すなら外せないイベントだ!

 

だ、そうだ。

 

クラスメイトが興奮してる様子に体育祭の事を思い出す。最後に見たのは二年前。見るのを止めてしまう事故が起きた事を思い出す。

 

その事故は放送事故……

 

「「「……」」」

 

強制的に沈黙する教室。

 

バーンさまは普段から無意識に威圧感を出していたが、その威圧感が某魔王を自称するヴィラン並みとなると…

 

二年前の体育祭で放送されたバーンさまがみてしまったおぞましい事故。それはムキムキ男子生徒によるモーレツ全裸サービス。二年前の事なのに記憶力のあるバーンさまは克明に覚えていた。

 

全裸の男子。

画風が違うニッコリ笑顔。

バーンさまの精神を犯した。

 

バーンさまは最近見たお気に入りの猫動画を必死に思い出す。猫が戯れる記憶が全裸男子の記憶を押し退け威圧感は薄れていく。

ホッとし威圧から解放された生徒や相澤はさっきの威圧感を出した犯人は判ったが、何で威圧感を出したか気にはなるが目に見える地雷を踏みたくないのでスルーする事にした。静かになったのは都合がいいし。

 

バーンさまの威圧感からは解放され話し合いは再開する。

 

「…襲撃があった直後ですがよろしいんですか」

 

委員長から常識的な質問が飛んだ。確かに侵入された事を考えれば警備の見直しなど色々とやることが有る筈。体育祭をやる暇が有るんだろうかと普通は思う。

 

それに捕まったヴィラン連合の主犯とされるヴィランが脱走したというニュースもある。ヴィラン連合かまた何かしてくる危険がある。ヴィラン連合に限らず目立つためや面白半分に真似をするヴィランが居ないとも限らない。

 

返答として中断して雄英がヴィランに負けたと見せるわけに訳にいかない。例年の数倍の警備のプロヒーローを呼び警備を厳重にするそうだ。ヴィランに負けてない事を示すのが重要だと。

 

雄英が生徒の安全は二の次にしてる発言か。しかし当の生徒達は中止に成ってないと喜んでいた。バーン様としては体育祭はどうでも良かった。

 

ヒーローに成るなら体育祭は重要なイベントだが、バーン様にヒーローに成ろうと自主的に雄英に来ていない。一応雄英に来る事になりヒーローに成ることも候補の1つにはしていたが、ヴィラン連合襲撃後などの対応からブラックさが垣間見えるヒーローに成りたい思えるわけがない。いやそれより何よりも体育祭への思い出が放送事故…当たり前だが体育祭に参加する意欲が持てるわけがない。

 

授業は終わり帰る時間。

外が騒がしい。

他のクラスの生徒が多数1ーAのクラス前に来ていた。

 

バーンさまは脳内の全裸を追い出すために猫の動画を見ていた。猫好きが反応するのも期待していた。皆バーンさまの方を見ない。

 

「な、なんだ!なんの集まりだ」

 

人の集まりに困惑する1ーAの生徒達。

意外な相手が答えた。

 

「ハッ!敵情視察だろ」

 

爆豪はバカにするように吐き捨てた。

 

「敵情?どういうことだよ爆豪」

 

「大方!ヴィランの襲撃を跳ね返した奴等を体育祭前に見ておきたかったんだろ!は!見ても無駄だ、どけ!邪魔だモブ共!!」

 

体育祭を前にして全方位にA組の印象を悪くしていた。教室前で集まるという迷惑行為をしてる相手も悪いのだが……敵情視察か。悪く言えば事故にあった人間を見にきたゲスな野次馬か?

 

野次馬とは違う人間もいた。

 

「B組のものだけどよー!A組はえらく調子に乗ってんな」

 

「普通科はヒーロー科への編入狙ってるんだ」

 

爆豪の発言に反発するようにB組の生徒。あと顔色が悪い普通科の生徒が宣戦布告をしていった。バーンさまが見るとトーンダウン、チンピラが噛みつきそうな顔でバーンさまを見ていた。

 

そんな爆豪が公共放送される体育祭に出て大丈夫かと心配になる。炎上したら襲撃事件も合わせて教師の人は大変だ。雄英の教師達が大丈夫か心配するバーンさまは雄英にとって良い生徒だろう。

 

 

 

 

 

そんなとても良い生徒に心配される教師が集まり、体育祭についての警備諸々の話し合いをしている。

 

今の議題は…心優しいある良い生徒について

 

「彼が体育祭に出場するの…いいんですか?」

 

ミッドナイトは目下最大の問題を口に出す。プロヒーロー、教師陣は誰もが困った顔をしている。体育祭に出たら駄目そうな生徒、話題の対象は勿論チンピラ…でなくナゼか優等生のバーンさまだ。

 

「「「ウ~ム」」」

 

全員が頭を悩ませた。

 

粉砕された入学試験の会場

初日の個性テストの惨事

そしてUSJでのご活躍()

 

此までやって来たことを思い出せば体育祭の会場が無事で済むかどうか……

 

全員が沈黙。先ず初日に町規模の会場を丸ごと粉砕、個性テストで戦場跡地にした。襲撃事件では対オールマイトの(少なくともプロヒーローを圧倒する様な)怪人を身体能力だけで圧倒した。見ている側曰く未だ未だ余力がありそうに見えたという保証あり。

 

「やっぱ…大惨事になる想像しか出来ねぇかなぁ」

 

呟きに全員が頷いた。

 

「本人には悪いけど…普通に参加してもらうのは…ちょっと」

 

「…まぁそのままだと体育祭に手加減抜きの私が出る様なモノですしね」

 

トゥルーフォームのオールマイト(何十年も不動のナンバーワン)からの評価。甲子園にトップクラスの大リーグ選手が参加するのとどちらが酷いだろう。いや(怪獣の方の)ゴジ◯が乱入か?

 

「前にやった模擬戦並みの制限をつけてもらうぐらいしないと…」

 

「流石に公平性云々いってられませんよね…」

 

個性は千者万別、十人十色、どんなに能力に差があっても卑怯なんて事もないが、最低限の安全性が無いのは不味いので妥当か。ここで言う最低限のラインは命となる。

 

「仮に制限するとして…何処まで制限するんだ。模擬戦の時みたいに全面的な攻撃禁止ってのは幾らなんでも……それぐらいしなきゃダメか」

 

「…致命傷にならないぐらい」

 

「本当に最低限!?」

 

「てか、本人が手加減できんの?」

 

「襲撃したヴィランの被害は、確か半死半生な名ありヴィラン一人、腕が折られたリーダー格一人…、モザイク必至な怪人一人だっけか?…死人ゼロ!!手加減できてるな!安心だな!」

 

「それまったく安心できませんよね!?」

 

「そう言えばその腕が折れたリーダーでしたか言えば…折られたのに治されてたんでしたよねイレイザー」

 

「…ええ、何のつもりなのか自分が折った腕を短時間で治してましたね」

 

全国的に治癒個性は希少なモノ…しかしナゼか対象の生徒だと治癒出来るぐらいでは驚くのは無理だ。しかしヒーローに出来なかった場合の損失を考えると責任の重圧は更に増えた。

 

「治癒出来るからって腕を折るとかダメだろ」

 

「むしろ治癒できるから過激な事をしそうですよね」

 

「ヴィランだからでクラスメイト相手にはもう少し手加減してくれますかね…」

 

「何にしても実際に手加減出来るかどうか実地で確認するしかないのさ」

 

…誰が実地で確認をとると言うんだろうか。危険度を考えれば実地は模擬戦の様に生徒の前に教師がやらないとダメだろう。視線は一人に集まった。担任だ。

 

「担任として頑張ってくれよイレイザー!」

 

誰もが視線だけで何も言わない中で、プレゼントマイクがグッとサインでそう言った。それを受けて相澤は…

 

「くっ…」

 

「イレイザー!?」

 

相澤は突然苦しそうにし校長の方に向く。

 

「…スミマセン、怪我の容態が思わしくないようです」

 

「うん、さっきまで平然としてたよな」

 

「なので代理を山田、プレゼントマイクに…」

 

「ホワイ!?…い、いやいや!代わりとかならエクトプラズムに頼むべきだろ!?」

 

エクトプラズム、煙の様な分身を作れる。分体であれば本体さえ巻き込まれなければどんな致死的な攻撃でも受けても死ぬことはない。肉人形?ダミー人形扱いで、戦闘での安全の確認をする人材としては最適だろう。…本体ごと巻き添えにしそうな可能性は有りそうだが

 

「む、確かにワレが適役なのだろうが、すまない。他の生徒にも練習を頼まれていて体育祭までに取れる時間が…」

 

「そう言うことらしいので、やはり確認については代理としてプレゼントマイクに頼みたいと思います」

 

「ファ!?」

 

結局は山田にもどってきた。

 

「それなら仕方ないのさ!マイク頼んだよ!」

 

「有無を言わさぬ即決!?せめて誰がやるか話し合いで決めない!?」

 

山田の抗議に全員が目を逸らした。

 

「なぁ…いっそ出場を辞退して貰うのは…」

 

山田が酷いことを言い出した。

 

「は、どんな理由で…」

 

「USJでやり過ぎてたろ…あの脳無とか言うの相手に」

 

「……俺(プロヒーロー)を圧倒した対オールマイトを名乗るヴィラン相手に、(立場上は)生徒がやり過ぎたって言うのを問題にするのか」

 

脳無は担任のプロヒーローですら圧倒した化物。倒してくれていないとどうなっていたか。あの脳無と戦えばオールマイトですら危険だった可能性もある。結果だけ見れば建物の損壊だけで脳無を殺さずに拘束している。それで後からやり過ぎだと言うのは…

 

「じゃあ!…ほら…あれだ…素行に問題があるからとか?」

 

「彼の素行に問題ってなにか心当たりでも」

 

「授業態度…」

 

「授業は真面目に受けてくれてますよ。プレゼントマイクの時は違うんですか?」

 

「…うん、真面目に受けてくれてたな。あーー他の生徒となにかあったりとかは?」

 

「誰かと諍いを起こした何て話は聞いたことはないですね。 まだ入学から日にちが経っていないので確定ではありませんが…現時点での評価は」

 

「……現時点での評価は?」

 

「優等生ですね」

 

問題行動は全く確認されてないのでそう言う評価になる。素の威圧感で心身が疲弊させられるが…それは問題という事にも出来ない

 

「教師としてこう言ってはダメですが意外な程に何もしませんよね」

 

「……ほんとな…」

 

「本性を隠してるとかねぇの?」

 

「いえ、担任や同じ中学の生徒に確認を彼が中学時優等生だったと校長が話してましたし。隠している事は……校長どうしたんです」

 

根津はちょっと躊躇いがちにいった。

 

「その中学時代の事についてなんだけど、優等生だって評価は間違いないけど……実は彼には相当数の手下、下僕が居たらしいのさ」

 

優等生だったという話が根本的に可笑しくなる情報だ。

 

「校長!?聞いてませんよそれは!隠していたんですか!」

 

「隠してないのさ。ボクもちょっと前に教えられたのさ」

 

校長が何かどす黒い気配を纏っている。どうやら校長も最近聞いたようだ。今さらになって情報が来る校長の情報の確認先も気になるがそれよりも…バーンさまの事が優先だった。

 

「過去に素行に問題あったとなると…」

 

「……今は本性を隠してるだけと言う事なんですね」

 

教師達の顔に警戒心がありありと浮かんでいる。根津は慌てて補足をいれた。

 

「いやいや昔も素行には問題ないのさ。中学での評価も優等生だって言ったよね」

 

「どう言うことです。手下が居たんですよね」

 

「正確には自称の手下や配下なのさ」

 

「自称…ですか」

 

「本人は手下に成った事を承諾してないし自称手下に命令どころか干渉する事すら無いって話らしいよ」

 

全員が何か言いたい言葉を飲み込んだ顔をしてお互いに顔を見合わせた。勝手に手下になる。本来なら信じられない話だが…

 

「つい最近遭遇したあれが実例なんですかね」

 

心当たりがあった。

 

「…ヴィラン連合のチンピラが寝返った話だよな」

 

「あれと同じことが中学でもですか……」

 

ヴィラン襲撃の時に救援に向かった教師が始めに見た光景が、バーン様の配下の様に振る舞うヴィランたち。その光景に極自然と襲撃したヴィランの首領だと思った教師が居たとか……。

 

オールマイトが気まずそうな顔をしている。誤解した誰かが覚悟を決めた顔で田中と戦おうとする寸前となり、イレイザーか生徒がバーン様について証言しなければどうなっていたか。

 

「イレイザー…本当にあの時って勝手に襲撃にきたヴィランが寝返ってたの。彼が何か言ったんじゃないの」

 

現場にいた相澤に視線は向いた

 

「……田中自身はヴィランたちに一言も話し掛けたりもしていませんでした。…いきなり裏切ってましたね」

 

「……単に強い方に寝返っただけか?」

 

「それだよな。寝返ったのあの脳無ってのを倒したあとみたいだしな」

 

USJにきたヴィランは適当に集められたチンピラだと確認が取れている。そんな仲間意識のないヴィランなら、弱いヴィランより強いヴィランに付くのは極自然なことだ。……まぁ少し可笑しな点は強いヴィランと認識されたのが、ヒーロー科の生徒だったと言うことだろうか。

 

因みにちゃんと連合のヴィランたちは捕まってる。寝返ったヴィランが捕まるときにバーンさまの立場を教えられたが、信じたヴィランが居たかどうか…。

 

「前の襲撃がそれとしても中学時代はどうしてだと思う。彼は手下を作ろうなんて事はしてないのさ」

 

「それは…単純に強そうだから手下になったとか?」

 

「そう言うのなら良いんだけど、その手下の規模と数がちょっとね。多すぎるのさ。強そうだとかそう言う理由だけで手下になったと思えないのさ」

 

「校長はどうしてだと思うんですか」

 

「うん個性の影響じゃないかと思うのさ」

 

「個性の?」

 

「大魔王って個性の名前的に誰かを手下にするみたいな効果がありそうじゃない?本人の意思と関係なく」

 

「いやいや!そんなの……」

 

「無いと断言はできないよね」

 

「彼の個性届けの内容ですが、大魔王みたいな事ができるでしたよね…。大魔王と言えば自分から進んで配下になる洗脳染みたカリスマが…?」

 

「洗脳か…」

 

「手下などを本人が望んでない場合の方が怖いですね。本人の意思に関係なく発揮している洗脳能力となりますし…」

 

「本人が無意識の洗脳って最悪だな」

 

「仮に洗脳とかあったら生徒がヤバくね?」

 

「今の所は手下になった様な子は居ないわよ」

 

悲しいことにバーンさまの近くに誰も近寄ってこないので見てわかる…。

 

「時間経過で効果があるってパターンかもよ」

 

「あの洗脳は憶測ですよね?」

 

「うん邪推って言ってもいいよ」

 

「邪推!?」

 

「邪推なんだけど、少しでも洗脳染みた力がある可能性があると不安なのさ。体育祭の参加して観客とかに効果があったりするかもって考えると…」

 

「……」

 

プレゼントマイクは嬉しそうだが、他はどうするかという感じで顔を見合わせる。やはり辞退を頼むしか…だが全国に注目される雄英の体育祭、出たい大きなモノだという認識がある。出来れば本人のためにも出させたい。本来ならリスクを避けて辞退を頼むだろうが、それは酷いことではないか。バーン様に恐怖してる自覚もある。恐怖から差別してるのでないかとも思う。

 

根本の部分はお節介なまでに善人しか居ないプロヒーローの教師。なるべくなら出場辞退は避けたいと思う。先ず考えたのは洗脳疑惑についてどうにかできないか。

 

「姿を隠すと言うことでどうにか…いえ何でも無いです」

 

口に出して駄目だろうと途中でやめた。

 

「姿を?…あぁ洗脳の条件が姿で効果があると思ってですね」

 

「えぇそうですが…」

 

「ふむ仮に洗脳がある前提で考えると洗脳の条件はなんでしょうか。幾らなんでも無条件なんて事はあり得ないでしょう」

 

「目線か声で洗脳するのがメジャーだけど…イレイザー、ヴィランが手下になったときに話したりしてないのよね?」

 

「……いえ話しかけたりはしてませんでしたね」

 

「ならイレイザーみたいに目線…?」

 

「それか他の体の何処かの部位か……」

 

「さっき言ってた姿を隠す発言の意味はこれか?目を含めて姿そのものを見せなきゃ洗脳の効果が無くなるかもって事だよな」

 

「そうですが駄目ですよね」

 

「…試すぐらい良いんじゃないですか。洗脳とか抜きにも彼はそのままの姿で出るのが…その、あれですし」

 

誰も否定をしなかった。

 

「ですがジャージ以外はルール違反になりますよ」

 

「そこら辺は個性の問題だって事で特例で許可する事は出来るのさ」

 

権力者が認めるならルールという障害が無くなる。しかしそれでも大きすぎる問題は他にもある。

 

「体育祭で全身を隠すようにと誰が本人に頼むんですか」

 

そう、誰が頼むのか。

 

普通なら体育祭で一人だけ全身を隠せなんて言われれば怒るだろう。さらに理由としては疑惑をだした本人が邪推という洗脳疑惑か…姿をそのまま出すのは不味いと言うのか。バーンさまがどう反応するか。

 

幾らプロヒーローでも殺傷しそうな地雷を自分から踏むことは避けたい。

 

普通に考えて頼むのは担任か。

 

「ぐ、怪我が…」

 

「イレイザーが辛そうだしこれもマイクに頼むのさ!」

 

「ふぁ!?」

 

「…すまないが頑張ってくれよ」

 

「ひでぇよマイフレンド!!てかまた決定!?拒否権は!?てか!別に頼むのぐらいは怪我があっても問題ないだろ!?」

 

山田の事は皆がスルーして話を続ける。

 

「本人が姿を隠すことを拒否した場合は…」

 

「洗脳なんて無いことが確認出来なければ…辞退を願うしかないのさ」

 

「……その洗脳が無いかどうかも含めて全て山田に調べて貰うしかないですね」

 

「ふぁ!?」

 

「うん、プレゼントマイクには諸々、頑張ってもらうしかないのさ」

 

二人が結託して一人を貶めていた。

皆が気の毒そうに山田を見ていた。

 

「俺っち一人だと物理的に無理だかんね??俺っちもやること有るんだし」

 

 

プレゼントマイクだけでないが、プロヒーローとしての仕事、教師としての仕事、ヴィラン襲撃について警備の見直し。全国に放送される体育祭の準備もある。激務であり余裕なんてあるわけがない。其所に追加される危険な業務。時間がない。

 

「……確認する時間ある?」

 

「なんとか…なるのさ!」

 

教師達はお通夜の様な空気をだしているのを根津は気付かない、ことにした。

 

「そう言えば…全身を隠すという事になる場合は、具体的にはどんなモノで全身を隠すんです」

 

「それは全身を隠せるローブ…いえ…体育祭で動いてたら脱げそうですか」

 

「簡単に脱げないので、成るべく体育祭で浮かない格好にしないと駄目だよな」

 

「全身を隠して浮かない…フルアーマー装備?」

 

「いやヒーローコスチュームみたいなのは駄目だろ」

 

「どんな格好にするかは本人の希望次第かな。……準備したりする必要もあるから急いで確認頼むのさプレゼントマイク!」

 

「……校長、なんか俺に怨みない??」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時は流れて体育祭当日

 

最低限の手加減は可能とされた。無意識の洗脳等は…不明。しかしバーン様は体育祭に無事に出場することになった。なってしまった。

 

「おい…おい山田」

 

「ほ、本人の希望だから」

 

相澤は震えた声で山田の肩を掴んで揺さぶり山田も震えた声でそう言っていた。

 

 

雄英の1ーAが入場。

 

生徒の中に

 

禍々しい黒い空気を発した大型のマスコットの様な着ぐるみが一体いた。

 

 

 

 

 

 



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15話

 

それは猫に見えるとても可愛い造形の着ぐるみだ。場末の遊園地のマスコットぐらいにはなれそうだ。下手なゆるキャラよりも可愛い。見掛けは女性や子供に人気が出そうだ……空気が歪むほどの威圧感を発していなければ

 

 

 

『Everybody!雄英体育祭にようこそお前ら!』

 

ヴィランの襲撃があったり、襲ってきたヴィランの主犯が逃げたりしたが雄英の体育祭が開催された。

 

『さぁ!!選手達の入場だ!続々入場してくが…お待ちかね!てか!お前ら見にきたのはアレだろ!ヴィラン襲撃を見事に乗り越えた1年A組だろぉお!!』

 

他の生徒たちに続いて観客席に全国の視聴者も注目の1年A組が入場。とは言え外見では他とそんな変わらない普通の高校生。異形な姿の生徒も居るが今の世の中だと普通だ。ヒーローコスチュームは不公平だと着れない。服装は全員が同じジャージで……着ぐるみが一人いた!

 

異形で外見がギグルミに見えるんじゃない!雄英のマスコット……??いやしかしどう見ても選手の生徒たちの中にいる。只でさえ注目を集める1年A組の中、とても目立っていて観客はザワザワしていた。

 

『一人着ぐるみの御方が居るが気にするな!いや!無理だよな!バッチリ言えば個性的な問題で姿が見せられないだけ!!おっと、もしかしてあの着ぐるみがヒーローコスチュームみたいなモノで有利に成ると思って狡いと思った奴はいるか?残念!頑丈では有るけど中へのダメージの軽減はほぼない!さらにスゲー動き難いし中は暑いし!俺っち試しに着たけど二度と着たくないと思ったZE!』

 

解説が着ぐるみが問題ないと説明。

 

…着てる本人がなんでこんなの着てるんだと思ってしまう程しっかり説明してしまう。隣の同じく解説の筈の相澤は自分は関係ないというように無言でいた。

 

着ぐるみを着てるのは誰なのか。居る場所を考えると1年A組の誰かか。1年A組の中で居ない生徒は…あぁ…バーンさまがおられない。

 

そう着ぐるみを着てる御方はなんとバーンさまだ!そのお姿は…と、とても可愛くあられる!!!

 

バーンさまに着ぐるみを着せるなんてとち狂……体育祭の規範から外れた事を求めたのは誰なのか。犯人は解説したプレゼントマイクだ。

 

バーンさまに姿を隠せるようなモノを着るように頼んだ。個性的な問題とは何なのか。姿を見せると問題とはなんなのか。バーンさまの心当たりは…普通に外を出歩くと見知らぬ人に怯えられたり崇拝されたりする時があったりする事ぐらいか

 

ご本人も姿を隠す事には納得した。

ただ其所で1つ問題がでた。

 

姿を隠すことは了承した。しかし用意されてた隠すための衣装のデザインがどれもバーンさまとしては不服。暗黒騎士みたいなダークなみかけばかり。バーンさまのヒーローコスチュームをボリュームアップした様なのばかり。悪役と誤解されそうなのばかり。誤解されるようなモノばかり。大事な事なので二度

 

そこでバーンさま自ら作画し可愛い着ぐるみを求めた。

 

デザイン案を見てプレゼントマイクは先ず幻覚かと思う。幻覚でないと理解すると本当にこれで良いのかプレゼントマイクは何度も確認した。バーン様は問題ないと言うのに、本当は攻撃制限とか姿を隠せとか言われてやっぱブチキレてるんだろ!?悪いの担任のイレイザーだから!怒りを晴らすならアッチで!…とかバーンさまには理解不能な事を言ってきた。

 

いや…プレゼントマイクが怒ってると思うのも無理がないのか。会議の時は言われなかったが普通に考えてヒーローになる将来の為に顔を売るための雄英の体育祭、全身を隠せとか言われたら穏やかなタイプでもキレても可笑しくない。むしろキレないほうが可笑しい。

 

姿を隠す事だけでなくバーン様だけ競技での攻撃について、体育祭までの間に確認して認められる安全な範囲での攻撃しか出来ないと伝えられた。

 

普通は怒る…正当なる防衛でオールマイトと戦える何て豪語した相手をミンチみたいにしたバーンさまが…。怒るような事を色々と伝える役割を最終的に満場一致で押し付けられたプレゼントマイク、会議の時は怒った場合についてのことは誰もいってない。きっとキレる可能性については誰も気づいてなかったんだ!プレゼントマイクはそう思うことにした。普通は怒る可能性には気付くがそう思うことにした。

 

普通は怒ると思われていたが…

 

攻撃の制限も姿を隠すこともバーンさまは欠片もお怒りをお示しに成られてない。攻撃について元々本人も不安に思っていた。姿を隠すことについてバーン様としては別に有名になりたい訳でもない。それと着ぐるみ姿もプレゼントマイクの解説には思うところはあったが、結構気に入ってたので問題ない。このままキグルミ姿で学校生活をしても良いと思ってらっしゃるほどだ。

 

姿について他のクラスメイトからの評判も悪くない。見かけが…か、可愛い過ぎて周りのクラスメイトたちが頻繁にチラチラ見てる所を見ると触りたいのを我慢してるなと……

 

開会の挨拶。1年A組の代表が挨拶で盛大に全参加者に喧嘩を売っていた。A組の代表として1年A組もトバっちりで敵意を向けられた。視線も向ける。妙に威圧感を感じるキグルミを見てソッと視線を逸らす。

 

 

 

 

第一競技。

全クラス一斉に障害物競争。

 

40位以内で無いと次の競技には参加できない。ヒーローは現場に居なければ話にならない。ヒーローになるなら素早く現場に到着しないといけないので…遅ければ参加する資格もないとするのはヒーローを育成する高校の体育祭としては妥当か。登場キャラを選別するための競技。

 

しかし今は未成年だが、ヒーローになった後なら生身での移動力が重要か?バイクや車で移動力は確保できる。生身での移動力は其処まで重要でもないような。いやヒーローにバイクを使ってるヒーローが居るのか知らないが。ヒーローは出来高せいの個人事業、経費的な意味で車やらを使わないとするなら世知辛い。自転車…見た目的にダメそうだ。

 

 

個性という凶器を振り回す多数の未成年者が競う。しかも競技の難易度と危険度もその凶器に対抗出来るレベル。例年、死人が出ても不思議でないと思えるレベル、心配にもなる。

 

バーンさまは両親から体育祭について応援もされたが多大に心配もなされた。ヴィラン襲撃があった事も含めて雄英がとても危ない所の様だと、両親はバーンさまの身の安全をとても心配なされたのだ。

 

両親からの心配もありバーンさまは安全第一に頑張ることにしている。キグルミについてデザインが好きという理由だけでなく防御力が上がると歓迎していた。…ダメージを殆んど防げないと解説越しに今さら説明された。しかも二度と着たくない代物とか言っていた。着ぐるみの御方がプレゼントマイクの居る解説室をジッと見ていた。

 

競技がスタート。

 

一斉に走り出す生徒たち。

出遅れトテトテと最後尾を走るキグルミ。

…まるでキグルミから逃げてる様にもみえる。別にそんな事は……な、い

 

『一斉にスタート!選手たちはトンネルの中で鮨詰状態だ!』

 

観客から見れない障害物(?)を何で入れたのか。狭いトンネルの中で誰か倒れたら大惨事じゃないか?

 

まだ肉体を鍛えてそうなヒーロー科や普通科はともかく、経営科やサポート科など大丈夫か。本当にあれな事故は起きてないんだろうか。

 

大量の人が集うバーゲンセールで自分が良い商品を取ろうとする人と良く似ているか。誰もが前へ前へ進もうと必死だ。体育祭で手に入る実績や名誉を求めて必死。浅ましい姿にも見える。酷く言えば自分の為に他者を気遣わない姿とも見える。ヒーローに相応しい姿か?まぁそんな事を思うのはヒーローへの歪んだ理想でさらに体育祭でそんな話は野暮だ。

 

 

ヒーロー候補たちが競争意識剥き出しで争うトンネルの中、渋滞の上を飛んで悠々と進むキグルミの御方が一体。あと腕(?)にこんなトンネルの中だと小さい友人は潰されると友人を掴んでいる。お優しい。もう一人出来れば戦友たる葉隠も透明で危ないと助けたいとは思ったが…流石に女の子を持つのは駄目だろうと紳士としてやめていた。とても常識的であられる。

 

トンネル内を氷が覆う。逃げ場がほぼないトンネル中、氷に選手の多くが捕らわれた!あのままトンネル内にいれば……友人は助かった

 

しかし助けられた友人は正々堂々と競争をしたいんだろう。いやぁぁあ!!離してくれぇえええ!!とまるで命の危機に瀕してると思えるぐらい叫んでいた。友人は雄英のヒーロー科を受けた。自分とは違い真剣にヒーローを目指してるのだ。手助けの様な事をされるのはイヤなんだろう。

 

その真剣な気持ちに答えてトンネルを抜けると下ろす。そして正々堂々と戦いたいという気持ちに答え…此処からは敵と思って対処するとお伝えになれた。感情が見えないキグルミのお姿で…

 

爆発音、友人の顔色が青…白くなる。

 

音がした方向を見ると試験の時のロボットたちが居た。友人はあのロボットに怯えて顔色を悪くしたのかと納得された。

 

『今年のヒーロー科の入試試験を受けた奴は知ってるよな!第一の障害はこれ…ロボインフェルノ!!試験で戦った奴等が再度お前たちの前に立ち塞がる!ゼロポイントも今度は複数でカムバック!!』

 

試験の時に出てきた無数のロボット…いやバーン様が試験で見たのより明らかに装甲が薄い。スピード重視の新型か!ビルの様なゼロポイントまで複数。あのゼロポイントのロボット一機で何億とか言う話が………サポート科が造ったのか?それかロボットの宣伝みたいなモノで安く使えたのか。

 

 

生徒たちの前に立ち塞がるロボットという危険物。

 

 

体育祭が始まる前、キグルミの御方はプレゼントマイク立ち会いのもと攻撃についての安全性について確認をした。

 

初めは攻撃対象として用意されたダミー人形を塵も残さず消滅させていたが、今ではウッカリやり過ぎても体の一部が消滅する位だ。プレゼントマイクからは人への攻撃はなるべく止めてくれと懇願された。

 

プレゼントマイク監修のもと攻撃の練習をした結果、手加減込みの最低限の攻撃には制限はない。人に直接当たってなければ

 

危ないので最低限でもなるべく攻撃はするつもりはない。しかし競技で攻撃をしなければいけない場合もある。そんな時の為に少しでも人へ攻撃する場合の手加減の為の練習がしたいと思われていた。

 

そんなキグルミの御方の前にロボ(なにしても問題ない相手)がたくさん。

 

 

 

 

 

 

 

『……物は大切にすべきという教訓をロボインフェルノでお前らにお届け出来たかな!?第一の障害ロボインフェルノ!その名に偽りなく!文字通り!!ロボにとっての地獄と化したぁあ!!……キグルミにトラウマになったとか抗議ありそう…あんだよイレイザー、コッチみんなよ、担任そっちだろ…』

 

 

 



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