アイドルの世界に転生したようです。 (朝霞リョウマ)
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第一章『READY!!』
Lesson01 アイドル少年


やばいよ卒研終わってないよ就職試験も目と鼻の先だよりん可愛いよりんそれが終わっても試験始まるよこんなことやってる場合じゃないよ響可愛いよ響小説書いてる暇ないよじゃあいつ小説書くの書いてる暇ないでしょいや逆に考えるんだ寧ろ今でしょ!

書いた。



※お互いに不快にならないための注意書き(2014/08/14追記)
・主人公最強モノ故のご都合展開あり(作者の自己満足)
・主人公の思考が結構変態チック(主に番外編)
・世界観にあった設定の変更があるクロスキャラ多数(本当にモブ以外のサブキャラは大抵クロス)
以上のことを不快に思われる方はご覧にならないことをお勧めします。


 少年は、気が付いたら光の中に立っていた。

 

 一体ここは何処なのかと首を傾げていると、突如として頭の中に直接声が響いてきた。それはうら若き女性の声のようにも聞こえ、しゃがれた老人の声のようにも聞こえた。

 

 曰く、声の主は神様らしい。

 

 曰く、少年は不慮の事故でその生涯を終えてしまったらしい。

 

 曰く、少年の死は神様の予定にはなかったものらしい。

 

 曰く、代わりに何でも好きな能力一つと共に別世界に生まれ変わらせてくれるらしい。

 

 そこまで聞いた少年は、なるほどと頷いた。

 

(転生モノってやつだな、それもとびっきりのテンプレの)

 

 思い出すのは生前ネットで読み耽った、オリ主(オリジナル主人公)たちが「俺TUEEEE」などと言いながら原作キャラ相手に大立ち回りを繰り広げる転生モノの二次創作小説の数々。

 

 なるほどどうやら今度は自分がそのオリ主として選ばれてしまったらしい。

 

 あれって空想の話じゃなかったんだなーと心の片隅で思いつつ、それと同時に今更ながら死の直前のことを覚えていないことに気付く。しかしその疑問は口に出す前に解消された。

 

 曰く、余りにもむごったらしい死に方をしたため、ある程度記憶に補正をかけておいてくれたらしい。

 

 ただそのおかげで生前に対する未練みたいなものまで補正をうけてしまったそうだ。道理で死んでしまったことに対して何の感慨も沸かないはずである。

 

 ならばしょうがないとある種の諦めに似た感情と共に、少年は貰う能力について考え始める。

 

 神様から貰う能力というのはオリ主にとっての最大の武器であり、オリ主がオリ主たる理由となりえるものだ。

 

 しかし、貰う能力を選ぶにしてはやや情報が足りない。

 

 例えばの話である。転生オリ主のテンプレ能力である『王の財宝(ゲートオブバビロン)』を貰ってガンダムの世界に転生したとする。確かに数多の武器を大量にばら撒けばモビルスーツは倒せるかもしれないが、超遠距離からの広範囲殲滅兵器などの対処法が思い浮かばない。

 

 逆にモビルスーツに乗りこなす才能を貰って魔法の世界に転生してしまっては宝の持ち腐れ以外の何物でもなくなってしまう。才能ではなくモビルスーツ自体を貰った場合でも同じである。

 

 となると転生先に見合った能力の選択が必要となる。

 

 そこで自分の転生先の世界の情報を貰おうと尋ねてみるが、何故か反応がなかった。

 

(これは困った)

 

 貰える能力は一つ。転生先が分からないこの状況で最善の能力は何かと考え、とある一つの考えに至る。

 

 そしてその能力を口にした瞬間、少年の意識は暗転した。

 

 少年の願いは受理され、転生が始まった。

 

 

 

 

 

 『転生する世界で最も武器となる能力』と共に……。

 

 

 

 

 

   †

 

 

 

 ――ねえねえ、リョウ君リョウ君。

 

 ――ん? 何、母さん。

 

 ――リョウ君はアイドルに興味ない?

 

 ――……は? アイドル?

 

 ――そうそう。リョウ君、歌も上手いし運動神経もいいからアイドルに向いてると思うなー。

 

 ――いやいや、それだけでなれるほどアイドルなんて甘くないんじゃ……。

 

 ――母さんの言うとおり、お前はアイドルに向いてると思うぞ!

 

 ――父さんまで……。

 

 ――しかも顔は母さんに似て美形だしな!

 

 ――やだ、あなたったらー……美形なのはあなたに似たからでしょー?

 

 ――はっはっは、照れてる母さんは可愛いなぁ!

 

 ――……あのー。

 

 

 

 

 

 スパンッ!

 

「っ!?」

 

 随分と懐かしい夢を見ていたところ、乾いた音と鼻先に走る痛みに目を覚ました。

 

 敵襲か!? おのれジュピターこないだボコボコにしてやったお礼参りに来たか!? と飛び起きるが、目を開いても辺りは完全な暗闇で何も見えない。クソッ! 非常灯まで落として夜襲とは徹底してやがる!

 

「いいだろう! ならば戦争だ! 来いよジュピター! マイクなんて捨ててかかってこい! 俺の奥義は百八式あるぞ!」

 

「アンタの奥義(笑)の数はどうでもいいからさっさとアイマスク外しなさいよ」

 

 どうやらこの暗闇は部屋の電気が消されていたからではなく俺の頭部装備がアイマスクだったからのようだ。

 

 呆れたような声に従いアイマスクを外すと、そこにいたのはジュピターと同じ三人組は三人組でも男ではなく女の三人組だった。

 

「なんだお前らか」

 

「なんだとは随分なご挨拶ね。私達の方から出向いてあげたっていうのに」

 

 ふんっと鼻を鳴らしながら三人の先頭に立つ東豪寺(とうごうじ)麗華(れいか)がそんなことを宣う。その手には丸められた雑誌が握られていた。どうやらそれで文字通り叩き起こされたらしい。

 

「この私がわざわざ起こしてあげたんだから感謝しなさい」

 

「リテイク希望。次はりんかともみが優しく揺り起してくれ」

 

 やり直しを要求し再びアイマスクを付けてソファーに横になろうとするが、ズバンという先ほどよりも重い音で引っ叩かれてアイマスクを取られてしまった。

 

「私はあと何回殴ればいい? 私はあと何回アンタの目が覚めるまで殴ればいい? 教えなさい、良太郎!」

 

「目は覚めてる。でも起こされるならおっぱい大きい女の子の方が」

 

「歯ぁ食い縛りなさい」

 

「顔は止めろよ」

 

 ボディにしなボディに、と言ったところ麗華の体重の乗ったボディブローが鳩尾に突き刺さった。こいつは俺を起こしたいんだか寝かしたい(物理)んだか。

 

 このまま意識を飛ばすとエンドレスにループしそうになるので気合を入れて体を起こす。八回も殴られたら流石に生命の危機だ。

 

 とりあえず麗華の後ろの二人に声をかける。

 

「おっす、りん、ともみ」

 

「おっす! りょーくん!」

 

「おはよう、リョウ。脂汗が酷いけど本当に大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫、汗は青春の証だから」

 

「青春の証が脂汗ってなんかヤダな……」

 

「まぁ拳で語り合うっていう点で言えば青春には間違いないかもだけど」

 

 一方的に語られただけであって俺は一切語っていないがな。

 

 麗華(小乳(しょうちち))についてきていた朝比奈(あさひな)りん(大乳(だいちち))と三条(さんじょう)ともみ(中乳(ちゅうちち))に挨拶を済ませる。三人揃って1054(トウゴウジ)プロダクション所属の『魔王エンジェル』。961(クロイ)プロダクションのジュピターと同じく日本のトップアイドルの一角である。

 

「……今物凄くイラッときたんだけど何かふざけたこと考えなかった?」

 

「そんなわけないって」

 

 小さいことは悪いことじゃない。ただ大きいことが正義なだけだ。おっぱい。

 

「っていうか兄貴は?」

 

 今回の楽屋として宛がわれた部屋をぐるりと見回すが、俺のマネージャー兼プロデューサーの兄貴の姿が見えなかった。

 

「わたし達を楽屋に入れてくれた後、ちょっとよろしくねって言って今さっき出てったよ」

 

「あ、これお兄さんからの伝言」

 

 りんから四つ折りになった小さな紙切れを受け取る。そこに書かれていたのは間違いなく兄貴の字だった。

 

 

 

『するなら避妊! これ絶対!』

 

 

 

「ねーよ」

 

 いや、避妊をしないというわけじゃなくて当然避妊を必要とするような行為をしないというわけだが。

 

 というか、マネージャーがアイドルに不純異性交遊を推奨するなという話だ。

 

「それで? りんやともみはともかく、お前がワザワザ意味も無く陣中見舞いにくるようなタマに見えないんだが」

 

 事実タマは無いという下ネタは心の中に留めておく。後ろの二人にも無いし。

 

 兄貴(ひと)のこと言えないって? 俺は気にしてないから大丈夫。

 

「当たり前よ。何で私がアンタの陣中見舞いなんかしなくちゃいけないのよ」

 

「とか何とか言いつつも、ここに麗華が用意した菓子折が」

 

「お兄さんと一緒に食べてねー!」

 

「このツンデレー」

 

「ツンデレ言うな! こ、これはアレよ! 上杉謙信が敵に塩を送ったっていう有名な話をリスペクトして……!」

 

「なるほど……それで塩大福か。洒落が利いてるな」

 

「煩い!」

 

 再び放たれた麗華の拳をひらりと避ける。

 

「まぁお茶受けもあることだし、茶でも飲んでけよ」

 

「アタシはオレンジジュースで!」

 

「……コーヒー」

 

「紅茶お願い」

 

「茶だっつってんだろ」

 

 三人娘のバラバラな要望を無視し、備え付けのポットで四人分のほうじ茶を入れる。

 

 しばし塩大福を頬張りながら一服。

 

 

 

「そういやお前らは大学行くのか?」

 

 ふとここにいる四人全員がアイドル兼高校三年生だったことを思い出してそんな話題を振ってみる。

 

「行くわ。私は会社を継がなきゃならないから、その勉強をしなくちゃいけないし」

 

「アタシは未定かなー。特にやりたいことがあるわけでもないし」

 

「わたしもりんと同じ。リョウは?」

 

「一応行こうかなとは考えてる」

 

「あれ、意外。りょーくんだったら『受験勉強? そんなことよりライブしようぜ!』とか言うと思ったんだけど」

 

「いやまぁそういう考えも無きにしも非ずなんだが」

 

「? 何か考えがあるの?」

 

「いや、何も。ただ社会人として大学ぐらい出とかないと不味いかなと思って」

 

 おバカキャラならともかく、今時高卒でアイドルは流行らないと個人的に思う。

 

「じゃあしばらく活動休止するの?」

 

「そこらへんは兄貴とか先方のお偉いさんと要相談ってところだな。まぁボチボチ決めるさ」

 

「……それ、間に合うの? 受験勉強的な意味で」

 

「大丈夫だろ。多分」

 

「精々必死に勉強することね。活動休止なんかしたらその間に全力で干してやるわ」

 

「そんなことされたら俺も覇王翔○拳を使わざるを得ない」

 

「使わざるを得ないって……何をする気よ」

 

「具体的に言うならばお前達のライブ会場の目と鼻の先で突発的ゲリラライブを――」

 

「マジで止めなさい」

 

「四年前を思い出すねー」

 

「懐かしい」

 

 まぁデビュー当時ならいざ知らず、今それをやったらマジで警察沙汰になるだろうから流石にやらんけど。

 

「って、そろそろ本題を話しとくわ」

 

「おぉ、結局何だったんだ?」

 

「これよ」

 

 麗華は先ほど俺の顔面を二回叩いた雑誌を捲ると、とあるページを指し示した。内容は三人組のとある駆け出しアイドルグループの記事である。

 

「竜宮小町、か」

 

「アンタの目から見てどうよ」

 

「……いいと思うぜ。歌も上手いしキャラも立ってる。間違いなく『持ってる』奴らだ」

 

 神様の特典の一種なのか知らないが、トップアイドルになり得る素質のある奴は何となく分かる。

 

 まぁ小乳、大乳、小乳と若干バランスは悪い気もするが。いや、寧ろ均等が取れているのか?

 

「アンタが言うからには間違いないんでしょうね。忌々しいけど、アンタの目は」

 

「イチイチ言わなくても分かってるから。で? そんな評価を聞きに来たのか?」

 

「そんな訳ないでしょ。ここよ」

 

 んー? と麗華が指差したところに目を向けると、そこにはこのアイドルグループをプロデュースしたプロデューサーの顔写真が……って。

 

「これりっちゃんか?」

 

 そこに写っていたのは俺達四人と同期の元アイドル、りっちゃんこと秋月律子の姿だった。二本のエビフライのようなお下げは無くなっているが、この眼鏡は間違いない。

 

「へー、今りっちゃんプロデューサーなんかやってるんだ」

 

「引退してそのまま765(ナムコ)プロに就職したらしいわ」

 

「りっちゃんともう一人のプロデューサーの二人で十二人のアイドルをプロデュースしてるんだってさ」

 

「何それコワイ」

 

 プロデューサーの数に対してアイドルの数が飽和しまくってるじゃないか。高木さんは何を考えてるんだ。

 

「考えも無しに片っ端からスカウトしまくったとか」

 

「『ティンと来た!』とか言ってね」

 

「ありそうで困る」

 

 しかし765プロか。りっちゃんが引退してから目立ってなかったから全然気付かなかったけど、ちゃんと活動してたんだ。

 

「……よし」

 

「何が『よし』なのよ」

 

「知り合いが頑張ってんだ。なら、することは一つだろ」

 

 激励だよ。

 

 

 

「というか、昔の知り合いが頑張ってるからってわざわざ教えに来てくれる麗華はやっぱりツンデレ。はっきりわかんだね」

 

「煩い!」

 

 

 




・『転生する世界で最も武器となる能力』
アイドルとしての才能

・いいだろう! ならば戦争だ!(ry
よくあるネタ。二次創作なら一回はお目にする鉄板ネタ。

・私はあと何回殴ればいい?
教えてくれ、ゴヒ!

・ボディにしなボディに
元ネタは某○八先生。

・魔王エンジェル
アイドル三人娘。詳しくは次回。

・覇王翔○拳を使わざるを得ない
具体的な内容はこれまた次回。

・十二人のアイドルをプロデュース
普通に考えておかしい気がする。

・はっきりわかんだね。
言及しとかないと誤解されかねないから言っとくけど作者はノンケです。
女の子のおっぱい大好きです。



色々とリアルが大変なのでストレス発散を兼ねて筆と取ったらすごい勢いでかけたから思わず投稿。タグに魔王エンジェルをつけておけばコアなファンが釣れると信じている。


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Lesson02 魔王少女

続けて二話投稿。

※注意
魔王エンジェルのキャラが違うと思いますが、この小説の彼女たちはみんな良い娘です。



 

「知り合いが頑張ってんだ。なら、することは一つだろ」

 

 そう言いながら良太郎は湯呑に口を付ける。その表情は知り合いを思い浮かべて微笑んでいる訳ではなく、何かを企むようにニヤリと笑う訳でもなく。

 

 

 

 無表情。

 

 

 

 周藤(すどう)良太郎(りょうたろう)は笑わない。まるで一切の表情を持ち合わせていないかのように、良太郎は表情を変えることがない。本人は「表情の動かし方を母親のお腹の中に忘れてきた」と言っていた。

 

 花が咲くような満面の笑み、月の光のような儚げな笑み、甘く香るような妖艶な笑み、小悪魔のような挑発的な笑み。様々な形はあれど、アイドルにとって笑顔とは大きな武器である。それが一切ないというのは、アイドルとして致命的な欠陥であると言っても過言ではない。

 

 

 

 そんな欠陥を抱えているにも関わらず、周藤良太郎は日本のアイドルの頂点に立つ存在である。

 

 

 

 一切揺るがない端正な顔立ちから紡がれる言葉は意外にも軽く、そのギャップと自分を取り繕わない素の態度が男女共に高い評価を受けている。

 

 しかしそれ以上に、周藤良太郎を語る上で欠くことができないのは歌とダンス、つまりパフォーマンスである。紡がれる歌は心を震わせ、ダンスの一挙手一投足が観客の目を捕えて離さない。

 

 まるで自ら笑わないことをハンデとして背負ってまで、アイドルになるために生まれてきたかのような存在。トップアイドルになるための努力をあざ笑うかのような才能の塊。

 

 ふざけている。全くもって腹立たしい。

 

 

 

 しかし、そんなふざけた存在に私達は救われてしまった。

 

 

 

 四年前、私達が『魔王エンジェル』ではなく、まだまだ駆け出しの『幸福(ラッキー)エンジェル』だった頃。憧れていたアイドルにテレビ出演を奪われ失意のどん底にいた私達の前に現れたのは、同じくテレビ出演を奪われた駆け出しアイドルの周藤良太郎だった。

 

「泣いている暇があったら、少しでも早く立ち上がった方がよっぽど有益だと思うぞ」

 

 私達にそう言った良太郎が取ったのは、信じられないような行動だった。本来出演する予定だった番組の収録日、収録の時間に合わせてテレビ局の近くの公園でゲリラライブを行ったのだ。

 

 ただの駆け出しアイドルのゲリラライブ。しかし多くの人が足を止め、良太郎の歌とダンスに心を奪われた。その結果、本来番組観覧に参加する予定だった客の多くがそこで足を止めてしまい、生放送だったその番組は急遽内容を変更せざるを得ない状況になってしまったのだ。

 

 実はこの方法、今から十五年前にあの伝説のアイドル日高(ひだか)(まい)が取った一種のストライキの模倣だったそうだ。『日高ジャック事件』と呼ばれており、彼女以外誰も真似することが出来なかった業界の歴史に残る大事件。それを為してしまった良太郎も「あの日高舞の再来」と一躍注目を浴び、どんな圧力にも屈することが無い不屈のアイドルとして尊敬や畏怖の対象となった。あの有名な『一文字で鬼、二文字で悪魔、三文字で日高舞』という言葉の後ろに『四文字で悪鬼羅刹、五文字で周藤良太郎』と称されるほどだ。さらに二年に一度行われる『アイドルアルティメイト』、通称『IU』にも日高舞と並ぶ高得点で優勝を果たした。

 

 

 

 『覇王』。日高舞の『オーガ』という二つ名に対して付けられた良太郎の二つ名である。

 

 

 

 そんな同期の姿に、私達は自分達の弱さを恥じた。憧れていたアイドルに裏切られ、私達はただ泣いているだけだったことに悔いた。そして二度と引かないと心に決めた。絶対に追いつく決意を込めて自分達のグループ名を『幸福エンジェル』から『魔王エンジェル』に変えた。それまで断っていた実家である東豪寺財閥からのバックアップを受けて我武者羅に走り続け、私達は日本のトップアイドルと称されるまでになった。

 

 しかし良太郎がいる場所は、あまりにも高すぎた。私達は未だに『覇王』と比較されることすら叶わないのだ。

 

 ……きっと私は、良太郎のことを尊敬している。けれどそれを認めてしまったらきっと届かない。だから私は絶対に良太郎を認めない。

 

 

 

 私、東豪寺麗華には夢がある。

 

 

 

 かつて私達を救い、目指すべき場所に居続ける周藤良太郎と肩を並べること。

 

 

 

 その日が来るまで、私は決して諦めない。

 

 

 

 

 

「んっと、そろそろ時間だな。仕度しねーと」

 

 兄貴は戻ってこねーけどというりょーくんの言葉に顔を上げると、既に三十分近くの時間が経っていた。

 

「それじゃ、そろそろ私達は帰るわ」

 

「おう、大福ご馳走さん。今度俺も差し入れ持ってくわ」

 

「アンタにお礼を言われる筋合いはないわ」

 

「んじゃ、りんとともみにすることにする」

 

 ありがとうな、とりょーくんはアタシとともみに視線を向ける。

 

「いいよ、気にしないで」

 

「そうそう! 今度美味しいケーキを差し入れてくれたらそれでいいから!」

 

 いひひっと笑いながらりょーくんの鼻先を突く。

 

「あぁ、分かった。約束する」

 

 いつもと変わらぬ無表情で、りょーくんは頷いてくれた。

 

 ……大丈夫、アタシは笑えているはず。いつも通りの朝比奈りんをふるまうことが出来ているはずだ。それでも少し不安になる。顔は赤くなってないか、バクバクという心臓の音は聞こえてしまってはいないか、緊張で指先が微かに震えていることに気付かれていないか。

 

 

 

 アタシがりょーくんに対する恋心を自覚したのは、四年前のあの日がきっかけである。

 

 

 

「泣いている暇があったら、少しでも早く立ち上がった方がよっぽど有益だと思うぞ」

 

 憧れていたアイドルに裏切られて失意の底にいたアタシ達に、りょーくんはそう声をかけてきた。その時りょーくんに対して抱いた感情は、怒りだった。自分たちと同じ立場のくせに、どうしてこいつはこう能天気なんだ。こいつは一体何様なんだと。

 

 しかし、そんな怒りも簡単に吹き飛んでしまった。

 

 りょーくんが行った突発的なゲリラライブ。本来生放送に行くはずだった観覧客達の足を止め、敵うはずが無かったテレビ局という企業に対して反抗してみせた。

 

「……どうだ? 立ち上がったら、有益なことがあったろ?」

 

 ゲリラライブを呆然と眺めていたアタシ達を見つけたりょーくんは、やはり変わらぬ無表情でそう言った。

 

 アタシが恋に落ちたのは、きっとその瞬間。笑顔を向けられた訳でも、直接慰められた訳でもない。決して屈せず立ち止まることの無かったその強い意志を好きになったのだと思う。

 

 お互い駆け出しではなくなり、頻繁にテレビ出演やライブ活動などを行うようになってからは頻繁に交流するようになった。常に変わらぬ無表情にも関わらず発言とノリは意外にも軽く、アイドルであるにも関わらずアタシ達の胸の大きさについて弄ってくることまであった。そのギャップに思わずキュンとしてしまい、胸の大きさを褒められて嬉しくなってしまう辺りアタシも相当惚れこんでしまっている。

 

 

 

 しかし、そんなりょーくんも時折寂しそうな雰囲気を醸し出すことがある。

 

 

 

 ふと気付くとボーッと空を見上げている時があるのだ。麗華は「どうせ何も考えてないわよ」と言っていたが、アタシはそうは思わない。決して変わらぬ無表情と軽い発言に隠れて気付かないだけで、人に言えない何かを抱えているような気がしてならないのだ。

 

 りょーくんの力になりたい。りょーくんの抱えているものを、アタシも一緒に抱えてあげたい。そういう関係になれることを、アタシは望んでいる。

 

 

 

 アタシ、朝比奈りんは恋をしている。

 

 

 

 憧れであり、目標である周藤良太郎という男の子に。

 

 

 

 この思いを胸に秘め、いつの日にかきっと……。

 

 

 

 

 

 バタン

 

 リョウの楽屋を後にして、わたし達は関係者以外立ち入り禁止の廊下を歩く。もちろん今のわたし達は関係者ではないので本来ならば立ち入り禁止なのだが、ここのスタッフのほとんどと知り合いの上、大体のスタッフはわたし達がリョウと交友があることを知っている。故にこうして堂々と歩いていても何も咎められないのだ。

 

「それにしても、何で言わなかったの麗華」

 

「……何のこと?」

 

「もちろん、これよ」

 

 そう言ってりんが取り出したのは、一枚のチケット。わたしと麗華も持っているそれは、今日これから行われるリョウのライブのプレミアムチケット。元々わたし達はリョウのライブの観覧が目的で今日こうしてやってきたのだ。あの菓子折りは本当に陣中見舞いのためのものであり、竜宮小町の記事の話こそがついでの話。

 

「麗華も素直に応援したらいいのに」

 

「煩いともみ! 絶対に何があろうともあいつだけは応援してやんないんだから!」

 

 我らが『魔王エンジェル』のリーダー様は頬をわずかに赤く染め、羞恥を誤魔化すように大声を出す。周りのスタッフが何事かと視線を向けてくるので、何でもないですと手を振っておく。

 

「もー、りょーくんの何が不満だって言うのよー。麗華だってりょーくんに感謝してるんでしょー?」

 

「感謝なんかしてない! アイツがいなくたって私達はここまでこれた!」

 

 麗華とりんは足を止め、額をぶつけるぐらい顔を近づけて睨みあう。廊下のど真ん中で言い争っているので、行き交うスタッフが少し邪魔そうに、それでいて触らぬ神に祟り無しと言わんばかりに避けて歩いていくので、わたしは申し訳ないですと頭を下げる。

 

 

 

 二人は隠しているつもりのようだが、わたしは二人がリョウに対して特別な感情を抱いていることに気付いている。

 

 

 

 まぁ、普段からあれだけ露骨な態度を取っているのだ。少し長い時間一緒にいるわたしが気付かないはずが無い。最も、麗華とりんはお互いに気付いていないのが若干滑稽である。

 

 わたしはというと……正直、よく分からない。

 

 元々わたしは、大きな騒ぎやらそういう事柄が苦手だ。アイドルを始めたきっかけも、幼馴染である麗華とりんに押し切られてしまった結果であり、自分から進んでなりたいと言い出したわけではない。きっと二人に誘われていなかったら、わたしは何事も無い静かな人生を過ごしていたことだろう。もちろん今では真剣にアイドルの活動を行っているし誇りもある。

 

 だから四年前のあの日、わたしは二人ほどショックを受けていなかった。元々わたしの心は他の人よりも冷たく熱くならず、リョウが行ったゲリラライブも感動はしたが、二人のように強く心を囚われた訳ではない。二人を立ち直らせてくれたことに対しては感謝しているが、それ以上の特別な感情を持ち合わせていない。

 

 

 

 けれど、わたしは四人でいる時間が心地よいと感じている。

 

 

 

 リョウが無表情に軽口を叩き、麗華が反応して怒り、それを見てりんが笑っている。そんな三人と一緒にいられるだけで、わたしは心が暖かくなる。きっとこの感情は、尊敬や恋などといったものではなく、もっと簡単で、もっと単純な原始的な感情。親しい人の側にずっといたいという、安らぎを求める動物としての本能。

 

 面倒事は遠慮したいが、それでもこの三人のためなら少し頑張ってみようと思う。

 

 

 

 わたし、三条ともみは静かに暮らしたい。

 

 

 

 けれど、今こうして四人でいる時間は悪くないと思っている。

 

 

 

 願わくば、少しでも長くこの時間が続きますように……。

 

 

 




・周藤良太郎は笑わない。
・東豪寺麗華には夢がある。
・朝比奈りんは恋をしている。
・三条ともみは静かに暮らしたい。
良太郎とりんのフレーズが先に思い浮かび、「アレ何かこれジョジョっぽい」と思ったのがきっかけ。結果、麗華・ジョバーナと吉良ともみが完成してしまった。

・「表情筋の動かし方を母親のお腹の中に忘れてきた」
それでいいのかアイドル。

・周藤良太郎は日本のアイドルの頂点に立つ存在である。
物語が始まったと思ったら既に主人公はナ○・スプリングフィールドよりもビッグネームだったでござる的な。

・『幸福エンジェル』
『魔王エンジェル』の前身。設定では憧れていた『雪月花』というグループに裏切られたことがきっかけで闇墜ちしたが、この小説では違う理由での改名。

・『日高ジャック事件』
嫌な……事件だったね……。当然オリジナル設定。舞さんだったらこれぐらい平気でやってそう。

・『一文字で鬼、二文字で(ry
実はこのフレーズが作りたいがために主人公の名前は五文字にさせられたという裏話。

・『覇王』
厨二乙。

・いひひっ
りんが「いひひっ」で伊織が「にひひっ」なので間違えないように。ここテストに出ます。

・恋する少女朝比奈りん
りんちゃんマジ乙女。腹黒なりん? りんちゃんのお腹は白くてスベスベですよ。(妄想)

・胸のサイズを弄る主人公
本当にそれでいいのかアイドル。

・時折寂しそうな雰囲気を醸し出すことがある。
(アニメの最終回見逃した上に録画してなかった……)

・元々わたしは、大きな騒ぎやらそういう事柄が苦手だ。
なんかそういうイメージ。元々CVみのりんだし。



一話二話連続投稿。ヤローが考える女の子の心理描写なんてこんなもんだよ!

とりあえず次回は765プロのアイドルが登場予定。


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Lesson03 765プロ

書きあがったので即投稿。更新ペースが早いのはきっと今だけ。
調子がいいうちに出来るだけ多くのお気に入り登録を……!!

Q 主人公の容姿はどんなの?

A 特に決まってないので、皆さんが無表情でもアイドル出来そうな顔を想像して当てはめていただけたらなと考えています。


 

 

 

 ライブは間違いなく大成功と呼べる盛り上がりを見せた。全力で歌い踊るのはやはり気持ちがいい。プレミアムチケットの席に『魔王エンジェル』の三人娘を発見した時は驚いたが、感謝を込めて投げキッスをしておいた。

 

 ライブ終了後、三人からのメールを受信していた。

 

 麗華からは『コ○ス』というシンプルな脅迫メール。ツンデレも大変結構なのだが、四年の付き合いになるんだしもうそろそろデレの部分を見せてくれてもいいんじゃないかとお兄さんは思うんですが。……ホントに嫌われてるとかはないよね? 『イキル』と返しておいた。

 

 りんからは『今度オフが重なったら遊びに行こう』というお誘いメール。俺もあいつらもなかなか忙しい身だが、その場合俺の方が都合を合わせればいい。プロダクションに所属しないフリーアイドルはこういう風に身軽な点が素晴らしい。その分兄貴が大変になるのだが。『兄貴にオフの予定を合わせてもらうからそっちのオフを教えてくれ』と返しておいた。

 

 ともみからは『次はわたし達のライブにも来てね』というりんとは別のお誘いメール。三人娘の内ともみとだけ若干の距離を感じるのだが、ライブに来てくれるしこうして向こうのライブに誘ってくれるのだから悪い仲ではないだろう。『シリアルナンバー付きプレミアムチケット手に入れて行くぜ!』と返しておいた。

 

 

 

 ちなみに後日自宅にシリアルナンバー1のプレミアムチケット(三人娘のサイン入り)が届くことになる。ファンが見たら『こ○してでも うばいとる』を選択されるんじゃなかろうかと、若干素手で触ることを躊躇ってしまったのは全くの余談である。

 

 

 

 閑話休題。

 

 とある休日の昼下がり。俺はケーキの箱を手に街を歩いていた。目的はもちろん、この前言っていたように765プロへ激励をしに行くためである。午前中のレッスンを終え、予約しておいたケーキ(人数が多いので各種二個ずつ用意)を両手に抱えて765プロを目指す。

 

 ケーキの箱を二つ抱えると言う目立つ姿で街中を歩いていれば他の人に身バレしそうだが、そこは心配無用。俺には『伊達眼鏡をかけて帽子を被ると何故か誰にもバレない』という不思議能力が備わっているのだ! ちなみに親しい人には一発でバレるのだが、そう言う人は俺に気付いても騒がないので問題ない。

 

「確認確認っと」

 

 バス停のベンチに腰を降ろし、荷物を置いて地図を書いたメモを取り出すのだが。

 

「っ!? ……あっ!?」

 

 突然吹いた風にメモを攫われてしまう。とっさに手を伸ばしたが間に合わず、メモは遠くに飛んで行ってしまう。

 

 しかし。

 

「ほっと!」

 

 突如現れた少女が、ジャンプしてメモを捕まえてくれた。

 

「はい。気をつけなきゃダメだぞ」

 

 そう言いながら俺にメモを差し出してくる少女。その姿には見覚えがあった。黒髪のポニーテールに、小麦色に焼けた健康的な肌、笑う時にチラリと覗かせる八重歯、沖縄交じりの独特なイントネーション。そして何より、小柄な体躯らしからぬ、りんには及ばないがともみには勝る見事な大乳。

 

「もしかして……我那覇(がなは)(ひびき)?」

 

 昨日予習した765プロ所属のアイドル、我那覇響だった。

 

「お! 自分のこと知ってるのか?」

 

 いやぁ自分も有名になっちゃったな~とテレテレ笑う姿が大変微笑ましくて心の中ではニヤニヤ笑いっぱなしである。こういう時自分の無表情に感謝。

 

 そんな時、心の中にヒョッコリと悪戯心が芽生えた。

 

「丁度良かった。765プロの高木社長に頼まれてケーキを届ける予定だったんだ。もしよかったら事務所まで案内してくれるかな?」

 

「ケーキ!? もちろんオッケーだぞ!」

 

 俺の脇に置かれたケーキの箱を見るなり目を輝かせ、響ちゃんは快諾してくれた。俺の言葉に全く疑いを持っていないことが若干の不安である。変な人に騙されないか心配だ。今から騙そうとしている人間の言葉じゃないが。

 

「ありがとう。それじゃあ行こうか」

 

「あ、自分も一つ持つぞ」

 

「女の子に荷物を持たせるわけにはいかないよ。大丈夫、落とさないからさ」

 

「……分かった。でも気を付けるんだぞ」

 

「了解」

 

 見ず知らずの人間にも関わらず、随分と優しい子である。改めて何でこんないい子が未だに売れてないんだろうか。

 

 てなわけで現役アイドル(俺もだが)に道案内を頼み、765プロへと向かう。

 

 

 

「それにしても凄い量のケーキだけど、何かお祝いでもするの?」

 

 途中、そんな話を振ってみる。

 

「んー、何か大事な話があるから午後は全員集合ってピヨ……事務員さんが言ってた気がするぞ」

 

 一応高木さんには今日自分が行くことを伝えておいたのだが、どうやら高木さんはそれを所属アイドルには伝えていないらしい。

 

 なるほど、これは社長公認でサプライズしろという前振りですね分かります。ならばこの周藤良太郎、全力を持ってサプライズを完遂してみせようじゃないか!(使命感)

 

「あ、竜宮小町が凄い頑張ってるから、もしかしたらそのお祝いかも!」

 

「あぁ、なるほどね。確かに、最近すごい勢いで人気が出てるみたいだし」

 

 まぁ元々頑張ってるりっちゃんや所属アイドル全員の激励が目的だから、その考えもあながち間違いとは言えない。

 

「いつか自分も、竜宮小町の三人みたいに売れっ子になるんだ。今はまだ気付かれても兄ちゃんみたいにリアクションが薄いかもしれないけど、今度会った時は無茶苦茶驚かせてやるんだからな!」

 

 タタッと小走りに前に出ると、その場でクルリとターンを決めると、ビシッと俺に人差し指を向けてきた。

 

 どうやら俺が表情を一切崩していないことが気になっていたようだ。

 

「あぁ、期待してる」

 

「むー、全然そんな顔してないぞ!」

 

「してるしてる。ちょーしてる。今の国会と同じぐらい期待してる」

 

「自分、それについてコメントしたら色々と不味い気がするぞ……」

 

 ヤダナーチョーキタイシテルヨーメッチャキタイシテルヨー。ハヤクハツデンショナントカナンナイカナー。

 

 

 

「着いたぞ!」

 

 響ちゃんの声に視線を上げる。『たるき亭』と暖簾がかかった定食屋の上、小さなビルの三階のガラスにガムテープで張られた『765』の文字。これが765プロダクションの事務所か。

 

「こんなにたくさんケーキが届くなんて知らないから、きっとみんな喜ぶぞ」

 

「それは運んできた甲斐があったね」

 

 ケーキケーキとスキップしながら階段を駆け上がる響ちゃんの後を追って階段を上がる。姿は見えないが「みんなー! ケーキが届いたぞー!」という声が聞こえてくる。

 

 階段を上りビルの二階へ。開け放たれたままの扉を潜り、俺は765プロに辿りついた。

 

 

 

 

 

「ケーキッ!?」

 

「え、ケーキ?」

 

「どうしてケーキ……?」

 

「小鳥さんが言ってた大事な話と関係あるのかな?」

 

 自分がケーキが届いたことを伝えると、事務所にいた全員が反応した。みんな嬉しそうではあるが、理由が分からず訝しげである。

 

 そうこうしている間にケーキ屋の兄ちゃんが事務所に入ってきた。

 

「こんにちはー。ご注文のケーキをお届けにあがりましたー」

 

「ひ、男の人……!?」

 

「雪歩落ち着いて、大丈夫だから」

 

 ケーキ屋の兄ちゃんに早速雪歩が怯えていた。まぁ全く表情が動かないから怖がるのも無理ないが。

 

「ケーキなんて頼んだ記憶……え?」

 

 凄く不思議がっていたピヨコだったが、何故かケーキ屋の兄ちゃんの姿を見るなり目を見開いた。

 

「ご無沙汰してます。ご注文のケーキをお届けに上がりました」

 

「……あ、あぁ~! そういうことですか! 分かりました」

 

 どうやらピヨコとケーキ屋の兄ちゃんは知り合いだったようで、ご苦労さまです、と楽しそうに話しかけていた。

 

 一方みんなは机に置いたケーキにワラワラと群がり、一体どんなケーキなんだとかどうしてケーキなんだとか話し合っている。

 

「何か、凄く高そうなケーキだけど……」

 

「プロデューサーさん、このケーキのこと知ってたんですか?」

 

「いや、俺も何も聞かされてないよ」

 

 どうやらプロデューサーも知らないらしい。

 

「いやぁ、久しぶりだね! 話はよく聞いているが、こうして元気な姿が見れて嬉しいよ!」

 

「お久しぶりです、高木社長」

 

 今度は社長がケーキ屋の兄ちゃんに話しかけていた。社長とも知り合いなのか?

 

「社長、こんな高そうなケーキ、一体どうしたんですか?」

 

「あ! もしかして竜宮小町のヒットお祝い!? 社長ってば布団腹~!」

 

「真美、それを言うなら太っ腹よ」

 

「いやいや、実はこのケーキは私が用意したものではないんだよ」

 

 え? だってさっきケーキ屋の兄ちゃんが『高木社長に頼まれて』って……。

 

 視線をケーキ屋の兄ちゃんに向けるが相変わらずの無表情でそこから何も読み取ることは出来なかった。

 

「頑張っている竜宮小町や君達を激励したいと言ってくれた知り合いがいてね。その人が頼んでくれたケーキなんだ」

 

「わ、私達もですか?」

 

「嬉しいですー!」

 

「社長、一体どなたなんですか? その知り合いって……」

 

「それは全員揃ってから……っと、帰ってきたみたいだね」

 

 社長に釣られて視線を入口に向けると、四人の声が徐々に近づいてきているのが聞こえた。

 

「ただいま戻りました~」

 

「あー疲れた」

 

「たっだいまー!」

 

「こら亜美! まだ話は終わってないわよ!」

 

 仕事から戻ってきた竜宮小町と律子の四人だった。どうやらまた亜美が何かしたらしく、随分と律子はお冠のようだ。

 

「あ、何々!? ケーキじゃん!」

 

「亜美!」

 

「まぁまぁ律子君、少し落ち着きたまえ」

 

「ですが社長! ……え?」

 

 突然律子は言葉を止めて呆気に取られたような表情になった。その視線の先には、またしてもケーキ屋の兄ちゃん。その兄ちゃんは律子の視線に気付くと右手をピッと上げた。

 

「よう、りっちゃん。おひさー」

 

「な、な、何で!?」

 

 無表情の割には随分とフランクな挨拶をするケーキ屋の兄ちゃんに、律子はひどく驚いていた。またしてもケーキ屋の兄ちゃんと知り合いのようだ。

 

「どうしたの律子さん、いきなり大声出して」

 

「あの兄ちゃんがどうしたのー?」

 

「あ! もしかしてりっちゃんの彼氏とかー?」

 

 全員の視線がケーキ屋の兄ちゃんに向けられる。……もしかして、兄ちゃんはケーキ屋の人じゃないとか?

 

「さて、全員揃ったようだね。それじゃあ紹介しようか」

 

 社長がそう言うと、兄ちゃんは付けていた眼鏡と帽子に手を掛けた。

 

 

 

「……え?」

 

 眼鏡と帽子が取り払われ、兄ちゃんの素顔が露わになる。無表情は相変わらず変わらないが、その顔はよく知っているものだった。というか、ここにいる全員が知らないわけがない顔だった。

 

 

 

「今回、765プロダクションを激励するためにわざわざやって来てくれた――」

 

 

 

 アイドルである以上、一度はその名前を聞き、一度は憧れる存在。

 

 

 

「周藤良太郎君だ」

 

 

 

 アイドル界の生きる伝説、周藤良太郎がそこにいた。

 

 

 

『えええええええええええええ!!!??』

 

 

 




・三人娘からのメール
前回に引き続き、主人公と三人の関係性を表す1シーン。

・プロダクションに所属しないフリーアイドル
オリジナルの事務所 → オリキャラが増えすぎる。
既存の事務所 → 登場キャラが偏りそう。
DSで夢子ちゃんやサイなんとかさんがフリーだったようなので採用。

・「こ○してでも うばいとる」
アイスソード

・『伊達眼鏡をかけて帽子を被ると何故か誰にもバレない』という不思議能力
たぶんアニメのはるかっかもこの能力を持ってると思う。

・我那覇響
南国動物ガール。ハム蔵はたぶん事務所にいると思う。

・りんには及ばないがともみには勝る見事な大乳
結局最後はそこに行き着く主人公マジおっぱい魔人。

・チョーキタイシテルヨー
この小説は社会派小説です(キリッ

・765プロのアイドルのみなさん
次回が765プロの紹介回になるので意図的に名前を伏せるように書いたが、ちゃんと書き分けられてるかが超不安。

・アイドル界の生きる伝説
主人公の黒歴史にまた新たな一ページ……。



765プロでの激励会のための導入部のためネタは少なめ。主人公+アイドル12人+4人を動かさなくちゃいけない次回以降が地獄やで……。


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Lesson04 765プロ 2

日間ランキング 1位
ファッ!?(驚愕)

珍しく日付が変わる前に寝たから世界線を間違えたかと思った12月2日の朝のことでした。
今までもネット小説はちょくちょく書いていましたが、ここまで評価されたのは初めてです。本当にありがとうございます。

書き忘れてましたが、現在の時間軸はアニメ第六話後の話となっております。

あと感想でご指摘を受けたのでside表記を外してみました。


 

 

 

 ドッキリ大成功! イエイ!

 

 

 

『えええええええええええええ!!!??』

 

 

 

 ……耳を塞ぎそこなったおかげで俺の鼓膜にダイレクトアタック。みんなアイドルやってるだけあって良い喉してるよ。

 

「す、周藤良太ろ、きゃあ!?」ドンガラガッシャーン

 

「……!?」

 

「え、えっと、お、お茶、お茶入れないと……!!」

 

「雪歩落ち着いて! まずは冷静にサイン貰わないと!」

 

「亜美、これ夢じゃないよね!?」

 

「真美こそ、これ夢じゃないよね!?」

 

「す、すごいです……!」

 

「ほ、本物……!?」

 

「あ、あら~……」

 

「け、ケーキ屋の兄ちゃんじゃなかったのか!?」

 

「面妖な……」

 

 以上765プロのアイドルの皆さんのリアクション。いやぁ、これだけ驚いてもらえると驚かし手として冥利に尽きるね。というか、一人何も無いところですっ転んでる子がいるけど大丈夫だろうか。……あれ? 十一人?一人足りないような気がする……。

 

 みんなが呆然としている中、いち早く立ち直ったりっちゃんが凄い剣幕で詰め寄ってきた。

 

「な、何で良太郎がここにいるのよ!?」

 

「だから激励のためだって言ったじゃないかりっちゃん」

 

「りっちゃん言うな!」

 

「トレードマークのエビフライが無くなるまで頑張ってたなんて……今まで気付いてやれなくてゴメンな」

 

「誰の頭がエビフライか!」

 

「今ではすっかりパイナップルになっちゃって……」

 

「人の頭を食べ物で例えるな!」

 

「頭? いや、今のはおっぱいの話で……」

 

「天誅!」

 

 ズドムッという音と共に重い一撃が肋骨の下から肝臓を持ち上げるように突き刺さる。一応こちらがアイドルだと言うことを考慮しての腹部への攻撃なのだろうが、その優しさがあるなら攻撃をしないという選択肢を是非とも選んでほしかった。

 

「てか、現役の頃より威力上がってないか……?」

 

「プロデューサー業もアイドルと同じぐらい大変だってことよ。そういうアンタも、何で今の一撃貰って平気そうなのよ」

 

「いや、見てよこの脂汗。今にも倒れそうなぐらい辛いんだけど」

 

 それでも辛うじて立ってられるのは麗華に殴られ慣れてるからだろう。きっと日本で一番腹パンされてるアイドルなんだろうな、俺。

 

「って律子さん何してんのさ!?」

 

「あ、相手は周藤良太郎なんだよ!?」

 

 ようやくショックから立ち直った子たちが慌てた様子で律子の両腕を抑えにかかる。

 

「あー、別に気にしなくていいよ。スキンシップの一環だから、これ」

 

「え? す、スキンシップ……ですか?」

 

「えっと、思いっきり殴られてましたよね?」

 

「世の中には肉体言語ってものがあってだな」

 

「うちのアイドルに変な言葉教えないでくれる?」

 

 

 

 そんな話し合い(物理を含む)を経て、ようやく全員落ち着いたようだ。

 

「改めて。周藤良太郎です。よろしく」

 

「以前律子君がアイドル活動をしていた時に交流があってね」

 

「今回りっちゃんがプロデュースした竜宮小町が頑張ってるって聞いて激励に来たってわけ」

 

「え、律子さんアイドルやってたんですか!?」

 

「真美達そんな話聞いてないよー!」

 

「そうだよー! しかもあの良太郎と知り合いだっての何で黙ってたのさー!」

 

「い、言う必要なかったからよ」

 

 りっちゃんの意地悪~、と双子の二人に両側からウリウリと頬をつつかれていた。

 

「ホント元気そうで何より。いきなり引退した時は心配したんだぜ?」

 

 本当にいきなりだったから逆に理由とか聞けなかったし。

 

「……何も言わなかったのは、悪かったわよ。……ごめん」

 

 ……おぉ。

 

「赤くなってるりっちゃんマジペロペロ」

 

「あんたがそんなんだから言いたくなかったのよ!!」

 

「だから律子さん落ち着いて!」

 

「仲が良いのはわかったけど周藤良太郎殴るのは不味いって!」

 

 ハッハッハ。麗華は弄りすぎて慣れちゃった感はあるけど、りっちゃんはまだまだ弄りがいがあるなぁ。

 

「まぁりっちゃん弄りはまた今度ということにしておこう。今日アイドルのみんなの激励でもあるんだから」

 

 また今度ってどういうことよ! と叫ぶりっちゃんは置いておいて、竜宮小町の三人に向き直る。

 

「竜宮小町の水瀬(みなせ)伊織(いおり)双海(ふたみ)亜美(あみ)三浦(みうら)あずささん……だね」

 

 俺が視線を向けると、三人はビクッと体を震わせて背筋を伸ばした。

 

「そんなに強ばらなくても。あずささんは年上なんですし」

 

「い、いえ~、いくら年上だからって、芸歴でも人気でも良太郎さんの方が大先輩ですし~……」

 

「基本的に年功序列がモットーなので、年上には敬語を使うだけですよ。俺は芸歴とか特に気にしないんで」

 

 だから新人が調子に乗って突っかかってきても基本的に気にしないよ? 勝手に競って勝手に打ちのめされてくだけだし。

 

「え、えっとじゃあ……良太郎くん、でいいのかしら?」

 

「もちろん。年上の綺麗で可愛いお姉さんになら大歓迎ですよ」

 

「そんな、綺麗で可愛いだなんて……!」

 

 恥ずかしそうに身を捩らせるあずささん。……写真でも見たけど、やっぱりデカイ(迫真)。他の二人が小乳だから、余計にデカく見える。これはりんをも超える大乳やでぇ……!

 

「……私も年上なんだけど」

 

「そういう説もある」

 

「事実よ!」

 

「はいはいりっちゃんは後回し後回し!」

 

「次は亜美とついでに真美の番だよー!」

 

 再び詰め寄ってこようとするりっちゃんを遮るように、二人の少女が目の前に飛び出してくる。同じ顔の二人、双海亜美と双海真美(まみ)だ。

 

「というわけで!」

 

「亜美です!」

 

「真美です!」

 

「「亜美真美でーす!!」」

 

 よろしくお願いしまーす! と二人でポーズを決める双海姉妹。アイドルの自己紹介というよりは若手芸人の挨拶のように感じてしまった。

 

「元気一杯でなによりだ」

 

「ねぇねぇ、りょーにーちゃんって呼んでいーい?」

 

「ん、好きに呼んでくれて構わないぞ」

 

 『にーちゃん』ってのはまた新鮮な呼び方だな。愛ちゃんは『りょーおにーさん』だし。

 

「じゃありょーにーちゃん、りょーにーちゃんはりっちゃんと恋人同士だったりするの?」

 

「ちょっと亜美!?」

 

 おっと、これはトンだ爆弾が飛んできたな。しかしこれぐらいの爆弾なら慣れっこさ!

 

「いやいや、俺とりっちゃんはそんな簡単な関係じゃないさ。そう……しいていうならカレーライスとらっきょうの関係!」

 

「おお! なくてはならない関係ってこと!?」

 

「ただ最近は福神漬けに走ってしまったため、りっちゃんはおざなりになってしまっていたのだよ……」

 

「そんな……可哀想だよ、らっきょうに全然会いにこないなんて!」

 

「カレーライスには絶対りっちゃんだよ!」

 

「だからこそ、今日はカレーライスにりっちゃん……いや、らっきょうに会いに来たんだ!」

 

「あんた達三人はもうちょっと自分の言葉を整理してから話しなさい!」

 

 多分この場合、福神漬けは髪の色的にも麗華に間違いない。

 

 ふむ、この双子とはなかなか波長が合う。今後とも仲良くやれそうだ。

 

(ギリギリギリ……!)

 

「わわ!? 律子さんが人様にお見せできない凄い形相に!?」

 

「落ち着いて! 三人共律子が大好きなだけだから!」

 

 さて、それじゃあ竜宮小町最後の一人かな。

 

「………………」

 

 おっと、何か既に警戒されてるご様子。ウサギのぬいぐるみを隠すようにして抱き締めながらジト目でこちらを睨んでいる。取らないって。

 

「竜宮小町のリーダーだよね。どう? 『こちら側の世界』に足を踏み入れた感想は」

 

「……っ!?」

 

 伊織ちゃんは再び体を震わせる。数瞬視線が宙を泳いだが、キッと睨むように再び視線をこちらに向ける。

 

 

 

「す、周藤良太郎だろうが何だろうが、絶対に負けないんだからっ!」

 

 

 

 そして大きく息を吸うと、叫ぶようにそう言い放った。

 

 

 

 

 

(言っちゃった……!)

 

 叫ぶように言った直後、思わずそう思ってしまった。本心に間違いはないのだが、それでも激しい後悔に苛まれる。

 

 周藤良太郎。あの伝説のアイドル日高舞の再来と称される、正真正銘のトップアイドル。テレビで初めてその姿を見て、これがアイドルなのかと感動した。アイドルを目指すようになり、いつかこうなりたいと目標にするようになった。今日実際に会ってみて、こんなのが周藤良太郎なのかと軽く失望した。

 

 そして目の前から声をかけられて……その存在に恐怖した。

 

 アイドルという同じ立場になったからこそ分かる迫力と威圧感。表情から何も読み取ることが出来ず、ただ自分を見ているという事実だけで震えが止まらない。

 

 

 

 敵わない。そう本能的に悟ってしまった。

 

 

 

(……何を考えてるの、私は!)

 

 アイドルになると決めたとき、誰にも負けないと心に誓った。

 

 『こちら側の世界』に、私はまだ足を踏み入れたばかりなのだ。こんなところで負けを認めたくない。諦めたくない。

 

 だから私は、気がついたら叫んでしまっていた。周藤良太郎に喧嘩を売ったのだ。もう後には引けない。

 

「………………」

 

 周藤良太郎は何も言わず、スッとこちらに手を伸ばしてきた。

 

「っ……!」

 

 何をされるのか分からず、反射的に目を瞑る。

 

 

 

 ポンッ

 

 

 

「……え?」

 

 そんな柔らかな衝撃に、思わず目を開く。

 

 こちらに伸ばされた周藤良太郎の右腕は、私の頭の上に乗っていた。

 

「……いい啖呵だ。その気概を忘れなきゃ、君はきっとトップアイドルになれるよ」

 

 君にはその素質がある。そう言いながら周藤良太郎は二度ポンポンっと頭を軽く叩く。

 

「っ~……!?」

 

 顔から火が出るんじゃないかと思うぐらい熱くなり、慌てて顔を俯かせる。いつもだったら手を退かそうと躍起になるが、それもできない。

 

 自分の全力の言葉をまるで子供の癇癪のように軽くあしらわれたことに腹が立つが、それ以上に嬉しかった。

 

(認められた……!)

 

 正確にいえば認められた訳じゃない。けれど、認められる位置に辿り着くことができると言われたのだ。喧嘩を売った相手に誉められて喜んでしまうとは、不覚以外の何物でもない。それでも、嬉しいと思ってしまった。

 

「あれれ~? いおりん、顔赤いよ~?」

 

「照れてるのかな~!」

 

「う、うるさいうるさいうるさ~い!!」

 

 

 

 

 

「……ありがとう」

 

「何が?」

 

「伊織、初めてのリーダーでちょっと気負ってたのよ」

 

「さてさて、何のことやら」

 

「こんな時じゃないとお礼なんか言ってやんないんだから、素直に受け取りなさい」

 

「……じゃ、お言葉に甘えて。ら……りっちゃん」

 

「あんた今らっきょうって言おうとしたわけじゃないわよね?」

 

 

 




・あれ? 十一人?
「……なの~……zzz」

・今ではすっかりパイナップル
あずささんがスイカで貴音がメロン。
千早? 板チョコじゃないっすかね。

・肋骨の下から肝臓を持ち上げるように突き刺さる。
まっくのうち! まっくのうち!

・日本で一番腹パンされてるアイドル
???「可愛いボクをお呼びですか?」

・肉体言語
由緒正しき魔法少女の言語。「サブミッションこそ王者の技よ!」

・これはりんをも超える大乳やでぇ……!
作中一のデカさ。ちょくちょく引き合いに出されるりんはそれだけ良太郎の一番身近の大乳持ちだということ。

・愛ちゃん
日高愛。DS版のアイマス『Dealy stars』のメインキャラ。セーブするよー!!
この子と知り合いということは既にあの方とも知り合いというわけで……。

・カレーライスとらっきょうの関係
「鼻水がない○ーちゃんなんて、福神漬けのないカレーライスと同じなんだぞ!」
「福神漬けがないなららっきょうを食べればいいだろ!」
という某五歳児の会話が元ネタ。
ちなみにこれを書いた日の夕飯がカレーでびっくりした。

・おっと、何か既に警戒されてるご様子。
「いおりんが こちらを ジトめでみているぞ!」
くぎゅううううううううううううううう

・水瀬伊織は恐怖する。
ちょっとしたシリアスシーン。ちなみに何故伊織だけがこんなに威圧されてしまったのかというと、最初から喰ってかかるつもりがあると、良太郎の無表情から勝手に威圧感をアイドルとしてのカリスマから感じ取ってしまうという、重要そうにも関わらずたぶん本編でそんなに使われないであろう裏設定。



とりあえずりっちゃん+竜宮小町+真美はクリア。こんな感じで各個クリアを目指していこう。


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Lesson05 765プロ 3

卒業研究発表と就職試験が(終わってないけど)終わったよー!

というわけで久々に更新。

これからはもう少し頻繁に更新……出来たらいいなぁ。


 

 

 

 伊織ちゃんは双子にからかわれ、真っ赤になりながら追いかけていってしまった。

 

 これで一先ず最初の目標だったりっちゃんと竜宮小町の激励は済んだわけだ。

 

「さぁさぁ、いつまでも立ち話もあれだろう。せっかくソファーがあるんだから、座りたまえ良太郎君。今日はゆっくり出来るのだろう?」

 

「はい。午後から一日オフなんで」

 

「みんなも良太郎君と話したいだろうが、時間はあるんだ。一息付こうじゃないか」

 

 はーい、と全員が賛成したところで音無(おとなし)小鳥(ことり)さんに背中を押される。

 

「ささ、お客様はソファーにどっかりとどうぞ!」

 

「じゃあ、お言葉に甘えまして」

 

 実はりっちゃんのレバーブローがジワジワ効いてて立ってるのが辛かったんだよね。

 

 勧められるままにソファーに向かい、座ろうとする。しかし、どうやら先客がいたようだ。

 

 

 

「……なの~……zzz」

 

 

 

「み、美希!?」

 

「大人しいと思ったら……」

 

 影になっていて気付かなかったが、ソファーでは金髪美少女が涎を滴ながら幸せそうな顔で眠っていた。

 

 765プロで金髪と言えば星井(ほしい)美希(みき)ただ一人なので彼女がそうなのだろう。本当に中学生かと疑いたくなる見事なプロポーション、大乳。ゆったりとした服の胸元から見える谷間が大変ご馳走です!

 

「……全てのおにぎりは……ミキのもの……なの……じーくおにぎり~……zzz」

 

「随分と愉快な夢を見てるみたいだな」

 

 おにぎりの独占とはなかなかの鬼畜。おにぎりが無くなったら世の小学生は遠足のお弁当に何を持っていけばいいと言うんだ!?

 

「サンドイッチとか?」

 

「普通にお弁当箱にご飯詰めればいいじゃない」

 

 それじゃあ、コロコロ転がるおにぎりを追いかけて、お池にはまってさぁ大変……あれ?

 

「混ざってる混ざってる」

 

 兎にも角にも、せっかく765のみんなと交流に来たというのに、一人だけ寝たままっていうのは寂しいものがある。独りぼっちは寂しいもんね。

 

 と言う訳で、ちょっとしたドッキリを敢行することにする。

 

 し~っとみんなに静かにしてもらい、そっと枕元に座り込んで軽く彼女の鼻先に触れる。

 

「……ん~……」

 

 美希ちゃんは軽く身動ぎするが、それでも起きる様子はない。ならば直接声をかけるまで。

 

「美希ちゃん、起きて。起きないと、美希ちゃんのケーキ食べちゃうよ」

 

「……ケーキがないなら……ババロアを食べるの……」

 

 マリー乙。じゃなくて。

 

「ババロアは無いけど、ほら、イチゴだよー」

 

 買ってきたケーキの中からイチゴのショートケーキを取り出し、上に乗っていたイチゴをつまみ上げて美希ちゃんの口元に持っていく。

 

「はい、あーん」

 

「……あ~ん……」

 

 どうやらイチゴの香りに反応したようで、口を開けた彼女の口にイチゴを放り込む。

 

「モグモグ……なの……?」

 

 あ、目が開いた。

 

 イチゴを咀嚼しながら美希ちゃんは眠たそうに目を開く。そして俺の顔を見るなりその目が徐々に大きく開かれていき、ゴクリとイチゴを飲み込んだ。どうやらしっかりと目を覚ましたようだ。顔がイチゴのように真っ赤である。

 

「おはよう。イチゴは美味しかった?」

 

「……っ~……き、きっ……!?」

 

 あ、これはマズい。

 

 

 

「キャアァァァァァァ!?」

 

 

 

 うら若き少女のつんざくような悲鳴が、至近距離から俺の耳の鼓膜を貫いた。

 

 

 

 

 

 

「嫌われちゃったかな」

 

 まだ耳は痛いものの、ソファーに座り自分で買ってきたチーズケーキをつつく。両脇は双海姉妹が陣取り、向かいのソファーには高木さんとりっちゃんとあずささんが座る。座れなかった子達も立ちながらではあるが、思い思いに各々好きなケーキに舌鼓を打っている。

 

 そんな中、美希ちゃんだけが壁の影に隠れながら、真っ赤な顔のままこちらを睨んでいた。

 

 どうやら寝顔を至近距離から覗かれていたことが相当恥ずかしかったようだ。

 

「しかもその相手が周藤良太郎なんだし、ミキミキが恥ずかしがるのも無理ないっショー」

 

「? 何で俺だと無理ないんだ?」

 

「何を隠そう! ミキミキはこの事務所で一番の周藤良太郎ファンなのだー!」

 

 え、そうなの? と視線を向けると、美希ちゃんは更に顔を壁に隠してしまった。……こう言っちゃ大変失礼だが、ああいう初心(うぶ)な反応をするキャラに全く見えなかったので意外である。

 

「りょーにーちゃんのCDは初回限定盤と通常盤の両方買ってるしー」

 

「コンサートのチケットの抽選が外れる度にチョー落ち込んでるしー」

 

「あ、りょーにーちゃんのブロマイドがお財布の中に入ってるの見たよー!」

 

 双子によって次々とバラされ美希ちゃんの顔は既に茹で蛸状態。聞かされてる俺ですら気恥ずかしいのだ、彼女からしたら相当だろう。やめたげてよー!

 

 しかし、ここまで恥ずかしがられると流石に悪いことをしたと思ってしまう。個人的にはちょっとしたジョークのつもりだったんだが。

 

「いや、美希じゃなくても良太郎さんにあんなことされたら誰だってああなると思いますけど……」

 

 そうだろうか? 以前魔王三人娘の楽屋に遊びに行った時、寝ていたりんに小さいチョコレートで似たようなことをしたことがあったが。

 

 

 

 ――も、もう一個食べさせてくれたら起きてあげる。

 

 

 

 と言って再び目を閉じられてしまったし、全員が全員こんな反応をするわけじゃないだろう。ちなみにその後もう一回やろうとしたらともみに止められ、りんは麗華に叩かれていた。

 

 そんなことより、今は美希ちゃんと仲直りすることが先決だ。仲良くなりに来たのに嫌われてちゃ話にならない。

 

「ごめんね、美希ちゃん。どうか仲直りしてもらえないかな」

 

 近寄りつつ手を伸ばす。美希ちゃんは逃げ出しはせず、まだ赤い顔のまま俺の顔と手を交互に見る。

 

「……りょーたろーさんを、嫌いになった訳じゃなくて……ちょっと驚いただけだから……」

 

 まるで小動物のようにオズオズと壁の影から出てきた美希ちゃんは。

 

「……こういうことはもうしないって約束してくれるなら……その、仲直りしてあげてもいいの」

 

 そう言って差し出した俺の手をキュッと握った。握ったと言っても、人差し指と中指に軽く手を添えるだけの、とても遠慮したような握り方だったが。

 

「ん。じゃあ仲直り。これからよろしく」

 

「よ、よろしくお願いしますなの」

 

 いやぁよかったよかった! 年下の女の子に嫌われたままとかお兄さん堪えらんないよ。

 

 また一人、765プロのアイドルと仲良くなったぞ!(テッテレー)

 

 

 

 

 

 

 美希ちゃんと仲直りしたところでケーキパーティー再開。ダメージは回復してきたのでソファーには座らず、立ったままだった子達に話しかける。

 

「えっと……剣崎(けんざき)真琴(まこと)ちゃんだっけ?」

 

「あの……菊地(きくち)(まこと)です」

 

 こいつは失敬。

 

「あの、もしよかったらサインいただけないでしょうか!?」

 

 真ちゃんは凄い勢い(風を切る音が聞こえた)で頭を下げると、色紙を差し出してきた。

 

「ん、それぐらいお安いご用だよ」

 

 何となくそんな気はしてたしねー。

 

 ならば私も私もと詰め寄ってくる少女達全員分のサインを書く。

 

「ってアンタらもかい」

 

「貰えるもんは貰えるときに貰っとく主義なのよ」

 

「今度は別バージョンをもらおうかと!」

 

「いやぁ、そう言えば貰ってなかったことに気づいてね」

 

「す、すいません」

 

 いつの間にか並んでいたりっちゃん、小鳥さん、高木さん、プロデューサーさんの四人にもサインをする。

 

「ありがとうございます! 我が家の家宝にします!」

 

 いや、アイドルのサインを勝手に家宝にしたらご家族の方々が困ると思うんだけど。

 

「ほら雪歩も! せっかく良太郎さんに会えたんだから!」

 

 真ちゃんは自分の後ろに隠れていた少女を前に出す。先ほどからズッとオドオドとしていた少女、会話の内容から萩原(はぎわら)雪歩(ゆきほ)だろう。

 

「……え、えっと……その……!」

 

 後ろ手に何かを隠しているようだが。

 

「せ、折角来て頂いた良太郎さんに……こ、これを……」

 

 お、何かな。雪歩ちゃんはお茶が好きってプロフィールに書いてあったけど……。

 

 

 

「お……お、お茶……と、焼き肉ですぅ~!!」

 

 

 

「焼き肉!?」

 

 え!? どっからこの鉄板出てきたの!?

 

「カルビロースタンハラミ各種取り揃えておりますぅ~!」

 

「ゆ、雪歩が焼き肉を出した!」

 

「し、知っているの、真!」

 

「雪歩はおもてなしにお茶を出す……けれど焼き肉はお茶以上の最高のおもてなしなんだ!」

 

 やべぇ。俺、自分がアレなキャラだってのは自覚してるけど、ここまでついていけないのは初めてだ。

 

 とりあえず焼き肉は美味しくいただきました。

 

 

 

 

 

 

「……美味い」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「よかったね雪歩!」

 

 雪歩が用意した焼肉を食べている良太郎さんから少し離れた位置で私はケーキを食べる。……何処から鉄板を出して、いつの間に用意したのかという突っ込みは止めておこう。

 

 周藤良太郎。日高舞と並んで、私、天海(あまみ)春香(はるか)がアイドルを目指すきっかけとなったアイドルの一人である。きっとこの二人に憧れてアイドルを目指した女の子は私以外にも大勢いるだろう。

 

 私が物心ついた時には既に引退してしまっていた舞さんとは違い、良太郎さんは現在進行形で私の青春を彩っているアイドルだ。デビューした時からずっと憧れていたトップアイドル。

 

 

 

 しかしこうして初めて会ってみて、抱いていたイメージはガラリと変わった。

 

 

 

 無表情から威圧感を感じてしまうが、その言動と行動は同年代の男の子と何ら変わりはなかった。冗談を言ったり、おどけてみたり。……女の子の胸に視線が行きがちだったり。まるでクラスメイトの男子生徒を見ているようだった。

 

「律子さん。良太郎さんって、昔からあんな感じだったんですか?」

 

「ん? あんな感じって? あのいい加減でふざけたむかつく態度のこと?」

 

「あ、いえ、そこまでは……」

 

 イメージが変わったと言えば、律子さんもそうだ。まさかここまで毒を吐く人だとは思いもしなかった。

 

「まぁ、そうね。初めて会った第一声が人の頭見て『いいエビフライですね』だったって言えば理解してもらえるかしら?」

 

「は、ははは……」

 

 キラキラと輝くアイドルとしての周藤良太郎像にヒビが入る。

 

 けれど、何故か幻滅したりはしなかった。寧ろ身近な存在に感じられて少し嬉しかった。

 

「……歌でも踊りでもなく、常に自然体で居続けるのが、アイツの本当の魅力なのかもしれないわね」

 

 そう呟いた律子さんは、呆れたような、嬉しそうな、それでいて寂しそうな複雑な表情をしていた。

 

「良太郎さんのこと、よくご存じなんですね」

 

「……一年以上付き合えば、アイツのことなんかすぐ分かるわよ」

 

 単純なんだから、と言った律子さんはほんの少しだけ顔を赤く染めていた。

 

 

 

「――ええ!? 律子がですか!?」

 

「うん。『次は負けないんだから!』って叫びながら顔真っ赤にしちゃってね――」

 

 

 

「……やっぱりもう一発殴る」

 

「だからダメですって律子さん! 真も話に夢中になってないで止めて!」

 

 

 

 これもきっと仲がいい証拠……だよね?

 

 

 




・本当に中学生かと疑いたくなる見事なプロポーション
冗談抜きでこの子本当に中学生なのかしら……。
巴まみ「信じられないわ」
桐ケ谷直葉「同感ね」

・ジークおにぎり
諸君、私はおにぎりが好きだ。諸君、私はおにぎりが大好きだ。梅干しのおにぎりが好きだ。鮭のおにぎりが好きだ。昆布のおにぎりが好きだ。おかかのおにぎりが大好きだ。ツナマヨのおにぎりが大好きだ。明太子のおにぎりが好きだ。(ここまで書いておにぎりの具を考えるのが面倒くさくなった)

・独りぼっちは寂しいもんね。
杏子のコスプレをした響が思い浮かんだんだが、これは髪形が一緒だったからなのか、それとも何か別のことが引っかかったからなのか……。

・マリー乙
【逆転の】パンがないならケーキ食えばいいじゃんwww【発想】

・「キャアァァァァァァ!?」
始めは「なのー!?」とかにしようかとも考えたが、こっちの方がガチっぽいからという理由で不採用となった。

・美希ちゃんだけが壁の影に隠れながら、真っ赤な顔のままこちらを睨んでいた。
こんな初な美希が見れるのはたぶんこの小説ぐらいですぜ旦那!

・も、もう一個食べさせてくれたら起きてあげる。
あざとい流石りんちゃんあざとい。

・「えっと……剣崎真琴ちゃんだっけ?」
「きゃっぴぴぴぴぴ~ん! キュアソードなりよ~!」

・「焼き肉ですぅ~!!」
雪歩の焼き肉好き設定は実はアケマスの頃から存在。それ以降ほとんど使われていなかったが『生っすかスペシャル05』にてその片鱗を再び垣間見せた。

・……女の子の胸に視線が行きがちだったり。
良太郎さん! バレてますよ!



まだまだ続く765プロ。早くりんちゃん再登場させたいお……。


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Lesson06 765プロ 4

今までちょっと真面目な主人公ばかり書いてたから今の主人公書くのが楽しすぎて困る。

ただちょっと今回は微シリアス。日本語が不自由かもしれないけど許してほしい。


 

 

 

 りっちゃんの愛が痛いなー。愛とは痛みを伴うものだって誰の言葉だっけ。

 

「それにしてもビックリしたぞ。てっきりケーキ屋の兄ちゃんなんだとばかり思ってたから」

 

 フォークをくわえながら響ちゃんが寄ってきた。

 

「そっちの方が面白いかと思ってね。ごめんごめん」

 

「まぁ、別にいいんだけどさー」

 

「響は良太郎殿をケーキ屋さんだと思っていたのですか?」

 

「だって貴音ー」

 

 ん、この銀髪の美人さんは……。

 

「ご挨拶が遅れました。四条(しじょう)貴音(たかね)と申します。以後お見知りおきを」

 

「これはこれはご丁寧に。周藤良太郎です」

 

 ふむ、これまた見事な大乳……。

 

「? あの、わたくしの胸に何か?」

 

「あ、いや、大きいおっぱいだなって思ってただけ」

 

「バカ正直に何言ってるんだ!?」

 

「そうでしたか」

 

「貴音も普通にスルーするなよ!?」

 

「どうしたの、響ちゃん」

 

「響、突然大きな声を出してはいけませんよ」

 

「自分がおかしいのか!?」

 

 貴音ちゃんと普通に会話してただけなのに何故か響ちゃんが凄い困惑していた。

 

「律子助けて! 自分じゃどうにもなんないぞ!?」

 

 響ちゃんはそう言いながら振り返るが、りっちゃんはソファーにぐったりと座り込んでいた。

 

「律子ー!?」

 

「私一人じゃ無理よ……麗華……せめてともみでもいいから……」

 

 連日のプロデューサー業の疲れが出たのだろう。今はそっとしておいてあげよう。

 

 クイクイッ

 

「ん?」

 

 服の裾を控えめに引っ張られ、振り返るとそこにはツインテールの少女が。

 

「えっと、高槻(たかつき)やよいちゃんだね」

 

「は、はい。今日はケーキを買ってきていただきありがとうございます!」

 

 頭を下げる勢いで両腕を振り上げるダイナミックなお辞儀をするやよいちゃん。うむ、元気があって大変よろしい。愛ちゃんと似たタイプだな。

 

「えっと、それでお願いがあるんですけど……私の分のケーキを持ち帰っていいですかー?」

 

「ん? そりゃもちろん構わないけど」

 

 うちに帰ってからゆっくり食べたいのかな? 体細いし、お腹いっぱいで食べきれないとか?

 

「こんなおいしいケーキは初めて食べたので、弟達にも食べさせてあげようかなーって思いまして!」

 

「………………」

 

「えっと、やっぱりダメですか……?」

 

「……ちょっと待って、お土産用に用意するから」

 

 弟達のためとか、何この天使。よーしお兄ちゃん、ポケットマネーで奮発しちゃうぞー! 支払いなら任せろー!(バリバリ)

 

「ええ!? そ、そんな、悪いですよー!?」

 

「いいからいいから。流石に同じところのは直ぐに用意出来ないけど」

 

 てなわけで知り合いのケーキ屋に頼んでケーキを用意してもらうことになった。持つべきは友人である。

 

「ほ、本当にありがとうございます!」

 

「先輩だしこれぐらいはね」

 

 お仕事沢山貰えるから貯金も結構貯まってるし。男の貯金は女の子のためにばら蒔くもんだってじいちゃんが言ってた。

 

 

 

 

 

 

「あの、少しいいでしょうか」

 

「ん?」

 

 双子にせがまれたのでりっちゃんの昔話をしていると、今度は青髪の少女が声をかけてくる。この薄いむ……線は。

 

如月(きさらぎ)千早(ちはや)ちゃんかな」

 

「はい。不躾ではあるのですが、周藤さんにお願いがあります」

 

「ふむ」

 

 俺にお願いねぇ。テレビ局やレコード会社のお偉いさんから独占契約の話とか色々あったけど、まぁいくら何でも彼女は違うだろう。

 

「とりあえず聞こうか」

 

「はい。私達のレッスンを見ていただきたいんです」

 

「……見るだけ?」

 

「見ていただいた上で、是非ご指導をいただけたらと」

 

 ご指導ね。真面目な子だなぁ。向上心があることは大変いいことだ。

 

「ごめん無理」

 

 まぁ無理なんだけど。

 

「っ……それは、私達が評価するに値しない、ということですか?」

 

 おっと、悪意的に捉えられちゃったかな。睨まれちった。

 

「勘違いしないでくれ。俺は評価できるほど君達をまだ知らない」

 

 今日訪れるにあたってある程度の予習はしてきているが、あくまでプロフィールを読んだ程度だ。

 

「それに、俺は自分の技術を他人に教えることが出来ない」

 

「どういうことですか?」

 

「そのままの意味。俺はほとんど頭で考えない。感覚だけで歌って踊るから、これを言葉にして伝えることが出来ないんだ」

 

「そう……ですか」

 

 俺がそう言うと、千早ちゃんはずいぶんと暗い表情になった。

 

「……教えることは出来ないけど、一緒のレッスンを受けさせてあげることなら出来る。そこから勝手に何かを盗めるなら……別にいいよ」

 

「! 受けます!」

 

 おおう、食い付き凄いな。

 

 じゃあ私も私もと再び群がってきた少女達相手に、今度一緒にレッスンを行う約束をする。また兄貴にスケジュール合わせて貰わないとなぁ。

 

 ……ただ、一つだけ気になることが。

 

 如月千早。なんというか……薄い。いや、胸とか体つきとかそういう物理的な意味じゃなくて。

 

 誰よりも上を目指そうとする意志は強い。想いも強い。

 

 

 

 けれど、薄い。

 

 

 

 彼女からは向上心は感じられるがその先が感じられない。彼女のように薄く『敗れて』しまった少女達は何人も見てきた。

 

「………………」

 

 はぁ、見て見ぬフリとか出来たら楽だったんだけどなぁ。

 

 気付いてしまった以上、それとなく気にかけておこう。りっちゃんの後輩なんだしね。

 

 

 

 

 

 

 あっという間に夕方となった。

 

「それじゃ、俺はそろそろ帰ります」

 

「うむ。今日は本当にありがとう。アイドルの諸君にもいい刺激になった」

 

「お土産もありがとうございます!」

 

 みんなと一緒に仕事が出来る日を楽しみにしてるよ、と言い残し、周藤良太郎君は帰っていった。

 

「いやー、ホント今日は凄かった!」

 

「まさかあの周藤良太郎と知り合いになれるなんてね!」

 

「これだけでアイドルになった価値があったね!」

 

 アイドルのみんなも随分と満足そうだ。モチベーションも上がり、本当にありがたいことだ。

 

 しかし頭の中では、別のことを考えていた。

 

 周藤良太郎。誰もが納得するトップアイドルで、アイドルを目指す全ての少年少女達の憧れ。業界人としても自分よりも大先輩。

 

 果たして、彼は一体何者なのだろうか。

 

 律子や真美達と話している時は、無表情故に分かりづらいが高校生らしい年相応の態度や喋り口調だった。しかし、時折見せる視線や雰囲気は到底高校生とは思えないようなものだった。

 

 

 

 まるで自分と同い年、いや、それ以上の大人のような。

 

 

 

「どうだったかね、良太郎君は」

 

「社長……」

 

「彼は昔から大人びた子でね……いや、子供っぽい大人だった、といった方があっているのかも知れないね」

 

「それは……」

 

 社長が言ったその両者は、似ているようで決定的に違う。大人びた子供ならそれは間違いなく子供なのだ。しかし子供っぽい大人ならば、それは『彼自身は最初から大人だった』という意味になってしまう。

 

 その言葉を選んだ意味を聞こうとして、けれど聞けずに口を閉じてしまった。

 

「他の人には見えない何かを、彼は昔から見ていたのかも知れないね」

 

「見えない何か……」

 

「これから彼と会う機会は増えていくことだろう。彼からは、我々も教わることが多い。しっかりと学んでくれたまえ」

 

 社長は、周藤良太郎に何を見たのだろうか。あの誰よりも明るく気さくで、それでいて心の内が全く見えない鉄の仮面を被った不思議な少年に。

 

「……はい」

 

 俺は、765プロのプロデューサーだ。目標は、アイドルのみんなを彼のようなトップアイドルにすること。

 

 これからも頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

おまけ1『知り合いのケーキ屋さん』

 

 

 

「ご注文のケーキと、おまけのシュークリームだ」

 

「悪いな恭也、わざわざ持ってきてもらっちまって。桃子さんにもお礼言っといてくれ」

 

「そのこと何だが、母さんから伝言だ」

 

「ん?」

 

「『どうして最初からうちのケーキを選んでくれなかったの?』だそうだ」

 

「………………」

 

「………………」

 

「……どう弁解したらいいと思う?」

 

「知らん。自分で考えろ」

 

「ちょー翠屋に行きづらい……」

 

「たまには来い。なのはが会いたがってたぞ」

 

「ぐぬぬ、なのはちゃんに言われたならば会いに行かない訳にはいかないか……」

 

「あとフィアッセが一緒にコンサートが出来る日を楽しみにしてる、と」

 

「おお、いいね。ならその時はゆうひさんも誘って盛大にやろう」

 

「……伝言を伝えた俺が言うのもあれだが、さらりと億単位の金が動くようなことを簡単に決めようとしないでくれ」

 

 

 

 

 

 

おまけ2『765プロその後』

 

 

 

「律子、大丈夫か?」

 

「……多分だけど響、これからはアンタもこの苦労を味わうことになるわよ……アンタどっちかと言うとこっち側の人間だから……」

 

「え、えぇ!?」

 

「よかったじゃない、あの周藤良太郎と親密になれるわよ……」

 

「律子の顔が土気色じゃなかったら素直に喜べたんだけど……」

 

 

 

「りょーにーちゃん次いつ来るのかなー?」

 

「来ると分かってるなら、今度はチョースペシャルなおもてなしをしないとねー!」

 

 

 

「……みんなのモチベーション的にもレッスン的にも、良太郎に来てもらわないという選択肢はほとんど無い……けど、その度に私の胃が……胃がっ……!」

 

「……えっと……」

 

「お願いだから響……少しでもいいから肩代わりして……!」

 

「ひぃ!? り、律子が怖い! た、助けてくれ貴音ー!」

 

 

 

 

 

 

おまけ3『魔王三人娘に激励報告』

 

 

 

「てな感じで、りっちゃん頑張ってるみたいだった」

 

「へー」

 

「わたし達も今度行こうかな」

 

(……何か胃に優しいものを差し入れた方がいいかもしれないわね……)

 

「あ、りっちゃん麗華に凄い会いたがってたぜ」

 

「そ、そう」

 

「麗華、律子と仲いいもんね」

 

「それより、結局あんたの評価はどうだったのよ?」

 

「ん? サイズが大きい娘はたくさんいたけど、やっぱり中学生の娘達は小ぶりな……」

 

「誰が胸の評価をしろっつったか! アイドルの評価をしろアイドルの!」

 

「いやいや、スタイルだって立派なアイドルとしての評価の一つ……あ、ごめん」

 

「今お前は私の何処を見たぁぁぁぁぁ!? 何処を見てそんな申し訳なさそうな声を出したぁぁぁぁぁ!?」

 

「落ち着けって。怒りすぎると体によくないぞ? だからその手に持った灰皿(控え室に備え付けてあった)をそっと机の上に置こう。な?」

 

「………………」

 

「大丈夫、りんの胸は確実に大きい部類に入るから」

 

「だ、だよね! 大丈夫だよね!」

 

「うん、大丈夫大丈夫」

 

「うお! 危ない! そんなもの振り回しちゃいけません! で、殿中でござる! 殿中でござる!」

 

 

 




・愛とは痛みを伴うものだって誰の言葉だっけ。
「愛することとは、いつでも痛みを伴うところまでいくのです」
マザー・テレサの言葉です。

・「大きいおっぱいだなって思ってただけ」
クソ真面目な顔でこれを言い切る主人公が果たして何人いることやら。

・「そうでしたか」
何があってもお姫ちんだけは絶対に揺るがないと思う。

・今はそっとしておいてあげよう。
もしかして:お前のせい

・頭を下げる勢いで両腕を振り上げるダイナミックなお辞儀
通称「ガルウイング」

・「弟達にも食べさせてあげようかなーって」
(なんだ天使か)

・けれど、薄い。
ちょっと真面目な主人公。何度も言うけど胸のことじゃありません。

・プロデューサー視点
アニメ順守のプロデューサー。通称「赤羽根P」。元々は中の人からついた名前だが、この小説ではそのまま本名として採用させていただく形。

・『知り合いのケーキ屋さん』
とらハ3とのクロスオーバー。リリカルなのはの元ネタとなったギャルゲ。
どの辺の時期の話なのかは恭也が高校三年生という点から逆算していただきたい。
ただし士郎さん生存ルート。

・フィアッセとゆうひ
フィアッセ・クリステラと椎名ゆうひ。共にとらハシリーズにおける世界的に有名な歌手。
「舞さんとどっちが凄いのだろうか」と考えるのは「ルフィと承太郎どっちが強いんだろう」と考えるのと同じぐらい無粋なことなのでやめましょう。

・『765プロその後』
リッチャンハクロウニンデスヨ。

・『魔王三人娘に激励報告』
麗華さんご乱心。



 ようやく765プロ訪問編が終わった……。本編が短かったのでおまけを差し込む形で水増しさせてもらいました。

 次回からがようやくアニメストーリーに突入。ある意味ここからが本番です。


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Lesson07 結婚狂詩曲

※タイトルの読み方はそのままでもいいですができれば「ウェディング・ラプソディー」で一つ。

本文が短かったからまたおまけで水増ししようと思ったら、気が付けば六千文字近くになっていた。

今回オリキャラが二名ほど追加されますが、話の展開的に必須の人物なためご了承ください。


 

 

 

 とある日の自宅での出来事である。

 

「良太郎、次の仕事決まったぞー」

 

「んー? 何ー?」

 

 ソファーに横になりながら週刊誌を捲っていると、俺のマネージャー兼プロデューサーである兄貴、周藤(すどう)幸太郎(こうたろう)が電話を終えてリビングに入ってきた。

 

「結婚雑誌のモデル」

 

「りょーかい。……ん?」

 

 今なんつった?

 

「兄貴、俺の聞き間違い? 結婚雑誌って聞こえたんだけど」

 

「合ってるぞ。結婚雑誌のモデルだ」

 

「……いや、いいの? それ」

 

「いいの、というと、何が?」

 

「何がも何も、俺が結婚雑誌のモデルやること自体がだよ」

 

 モデルの仕事は今までにも何回かやってるが、結婚雑誌は初めてだ。というか、そういうのって未成年がモデルでもいいのだろうか。

 

 そもそも、笑顔が一切作れない俺が結婚雑誌のモデルになったところで、幸福感の欠片もない写真しか撮れなさそうだが。

 

「何でも『普段クールぶってるのに緊張で強ばってる』男性のイメージらしいよ」

 

「……さいですか」

 

 なんとも重箱の隅を楊枝でつつくような采配である。

 

 まぁ、こと仕事に関しては兄貴に任せておいて失敗したことないから疑ってる訳じゃない。ただちょっと不安なだけだ。

 

「それで、他の参加者は?」

 

 結婚雑誌のモデルと言えば、主役はもちろんウェディングドレスを身に纏った花嫁さんのはずだ。まさか花婿役の俺一人という訳もあるまい。

 

「いや、決まってない」

 

「おい」

 

 花婿一人!? まさか俺が花嫁役とかふざけたことをぬかすつもりか!?

 

「それが本当にまだ決まってないんだ。今回の企画が持ち上がったときに真っ先にお前の名前が上がったらしくて」

 

「それ本当に結婚雑誌なのかよ……」

 

 メインに据えるところ間違ってんじゃねーかよ。

 

「花嫁役は当日までのお楽しみだそうだ。ま、そんな変な娘は来ないだろ」

 

「何を持って変とするのかは言及したら各方面から叩かれそうだから触れないでおくわ」

 

 っとそうだ、結婚と言えば。

 

「結局兄貴どうすんの? 結婚」

 

 今年26になる兄貴だが、なんと二人の女性から求婚されているのである。マジ爆発しろ。

 

 一人は高校と大学の後輩だった和久井(わくい)留美(るみ)さん。もう一人はなんと先日激励に行った765プロの事務員さんである音無小鳥さんだ。まだりっちゃんが現役で765プロとの交流があった時に知り合ったらしい。

 

 兄貴はこの二人に同時に求婚され、あろうことか返事を保留してる真っ最中なのだ。マジ『だいばくはつ』しろ。

 

「う……三人には悪いと思ってるんだけどね。やっぱり重要なことだし……」

 

「正直な話、兄貴も二人もいい年なんだし、長く待たせ過ぎるのは相手に対しても……ん?」

 

 

 

 チョットマテ。

 

 

 

「三人!? 増えてんじゃねーか!?」

 

 あるぇー!? こないだ聞いたときは間違いなく二人だったぞ!?

 

「それが、この間街中でばったり早苗ちゃんに会ってな。このことを相談したら『じゃあ私も』って……」

 

「早苗ねーちゃんぇ……」

 

 今度は幼馴染みの片桐(かたぎり)早苗(さなえ)ねーちゃんだった。何やってんすか現役警察官。

 

「答えはもちろん?」

 

「保留……」

 

 マジ『すいじょうきばくはつ』しろ。

 

「いや、一応理由はあるんだ。今の俺はお前のプロデューサー兼マネージャー業で精一杯で、自分の結婚のことまで考えきれないんだ」

 

 う……それとこれとは関係ないだろと言いたいところだが、これは完全に兄貴の世話になってる俺にも少しは責任があるな……。

 

「だからお前の仕事がもう少し落ち着くまで待ってもらいたい、って……」

 

「そう言ったわけか」

 

「あぁ……だから、良太郎」

 

「分かってる」

 

 兄貴はともかく、女性三人の将来がかかってるんだ。より一層頑張って兄貴の手を煩わせないように……。

 

 

 

「これからも末長く忙しいままでいてくれ」

 

「お前一回地獄に堕ちろよ」

 

 

 

 先伸ばしする気満々じゃねーか!

 

 

 

 

 

 

「それで、次の仕事なんですけど、雑誌のモデルですね」

 

 とある日のこと。事務所の一室で休憩をしながらマネージャーがわたし達にそう告げた。

 

「雑誌のモデル……ですか」

 

「そう。しかも結婚雑誌のモデルです! ウェディングドレスが着れちゃいますよ! ウェディングドレスが!」

 

「「「ふーん……」」」

 

 テンション高めなマネージャー(25歳独身女性)の言葉に、わたし達三人は生返事を返す。

 

「あ、あれ? ウェディングドレスですよ? 女の子なら興味ないですか?」

 

「私は別にって感じ」

 

「わたしもかな」

 

「アタシは興味がないわけじゃないけど、結婚の予定も無しにウェディングドレス着ると婚期遅れるっていうしー」

 

「え、えぇー……?」

 

 わたしと麗華はそもそも興味がなく、唯一興味があるりんもウェディングドレスを着ること自体に乗り気じゃないようだ。

 

 困ったようにマネージャーの眉がハの字になる。

 

「お断りするわけにはいかないし、せめて誰か一人だけでも行ってもらいたいんですけど……」

 

「えー」

 

「……じゃあ、わたしが行こうか?」

 

「え? ともみいいの?」

 

「うん」

 

 麗華も乗り気じゃなさそうだし、婚期が遅れるという噂があるのに恋する乙女であるりんに着せるのも忍びない。

 

 わたしが行くことで丸く収まるなら、これでいい。

 

「それじゃあともみちゃん、お願いできますか?」

 

「はい」

 

「アタシは知らない人の花嫁役なんてやりたくないけどなー」

 

 まぁ、りんの場合の花婿役は一人しかいないだろう。

 

「そういや、当然花婿役もいるわけよね?」

 

 麗華がコーヒーのマグカップに口を運びながら尋ねると、マネージャーはハッとした表情になって手を打った。

 

「それがですね、今回はあの周藤良太郎君が花婿役なんですよ!」

 

「ぶふぉっ!?」

 

 マネージャーから発せられた新事実に麗華は噴き出してしまった。かく言うわたしも驚いて紅茶のカップを取り落としそうになった。

 

「麗華ちゃん、大丈夫ですか?」

 

「ゲホゲホッ……なんだってあの鉄面皮が結婚雑誌のモデルなんか……」

 

 

 

 バンッ!!

 

 

 

「「「………………」」」

 

 突然机を叩きながら立ち上がったりんにわたし達三人は押し黙ってしまった。

 

「……アタシが、行くね?」

 

「「「ア、ハイ」」」

 

 満面の笑みを浮かべるりんに、ただ頷くことしか出来なかった。

 

 

 

「りょーくんの花嫁……!」

 

 遠い目をしてウットリとしているりんを横目に、麗華やマネージャーと三人で額を合わせる。

 

「ねぇ、その撮影って良太郎だけなの?」

 

「いえ、他の事務所のアイドルにも声をかけるみたいな話をしてました。初めはウチだけじゃないなら、とお断りしようかとも思ったんですが……良太郎君が一緒なら喜んでもらえると思いまして」

 

「……まぁ、結果一人大喜びなわけだけど。アイツの花嫁役の何がそんなに嬉しいんだか」

 

 ここまで露骨なのにそれに気付けない麗華はちょっとズレてるような気がする。

 

「色んな事務所にオファー出してるのも、コラボレーション的な意味合いでオリジナリティーを出したかったんだろうね」

 

 まぁ、リョウとは結構色んなところで一緒に仕事してるから今更といった感じだが。

 

「それで? 良太郎以外は誰が来るの?」

 

「えっとですね……」

 

 

 

 

 

 

「結婚雑誌のモデルですか?」

 

「ふぁ~……なの……」

 

「僕達がですか?」

 

「あぁ」

 

 竜宮小町以外の予定がまだまだ少ない事務所のホワイトボードの前。あずささん、美希、真の三人を呼び出して次の仕事を告げた。

 

「二、三人来て欲しいとのことだから、この三人で行ってもらう」

 

「あらあら、ウェディングドレスが着れちゃうのねー」

 

「フリフリのドレスが着れるんですね! へへっ、楽しみだなー!」

 

「ふーん。カワイイドレスだといいなー」

 

 ……本当は真には新婦役じゃなくて新郎役をやってもらう予定なんだけど、当日まで黙っておこう。

 

「それと、今回は凄いぞ」

 

「何が凄いんですか?」

 

「なんと! 周藤良太郎君と一緒の仕事だ!」

 

「「えぇ!?」」

 

「りょ、りょーたろーさんと!?」

 

 予想通り、良太郎君の名前に三人……特に美希は驚いていた。正直自分もこんなに早く良太郎君と一緒に仕事が出来る機会が来るとは思っていなかった。

 

「よかったわね、美希ちゃん」

 

「良太郎さんと初仕事だよ!」

 

「う、うん……だ、大丈夫かな? ミキ、変なところないかな?」

 

 美希はそわそわと自分の格好を気にしだす。

 

「大丈夫よ、いつもの可愛い美希ちゃんだから」

 

「それに今からって訳じゃないんだから、今の格好を気にしたところでどうしようもないだろ?」

 

「う……そ、それもそうなの」

 

 真に指摘されて気付いたのか、ハッとなった美希はバツが悪そうに手を止める。それでもやはり気になるのか、壁に立て掛けられた姿見をチラチラ見ながら前髪を弄る。

 

 その姿はまるで恋する乙女のようで……。

 

(……やっぱりそうなのか?)

 

 あまり恋愛の機微に詳しくない自分でも何となく分かる。美希の良太郎君への反応は、ただのファンのそれにしてはやや過剰なような気がする。

 

 うむむ、アイドルにとって恋愛はいつだってスキャンダルの種で、プラスのイメージに働くことはほとんど無い。だからと言って、まだハッキリとしてない今のタイミングで注意するのもあれだし……。

 

(とりあえず、今は様子見するしかないのかな……)

 

 再び二人に変なところがないか尋ねている美希の姿に苦笑しながら、内心少し嘆息するのだった。

 

 

 

 

 

 

 三者三様の思いが行き交いながら。

 

 

 

(大乳な人だといいなー)

 

(りょーくんの花嫁役……!)

 

(変なとこは見せられないの……!)

 

 

 

 写真撮影の当日を迎える。

 

 

 

 

 

 

おまけ『将来の義姉候補1』

 

 

 

「『早苗ねーちゃん、兄貴に求婚したって本当?』……そーしんっと……って着信早っ!? しかもこれメールじゃなくて電話だ!? も、もしもし?」

 

『やっほー良! 未来のお義姉さんよー!』

 

「えっと……久し振り、早苗ねーちゃん」

 

『テレビではよく見かけたけど、こうして話すのは久し振りねー。元気そうでお姉さん嬉しいよ』

 

「ありがと。早苗ねーちゃんも元気そうで何より。それで、今しがたしたメールの話なんだけど」

 

『あぁ、失礼な話だと思わない? 幸の奴、こーんな可愛い幼馴染みが独身のままいるっていうのに、何処の馬の骨だか判んない女に結婚申し込まれてデレデレしてるのよ?』

 

「本気なんだよね?」

 

『流石のあたしでも冗談で結婚は申し込まないわ』

 

「だよね」

 

『っていう訳で、アンタもあたしに協力しなさい。良もあたしがお義姉さんになれば嬉しいでしょ?』

 

「いや、他の二人とも面識あるから、俺は中立を貫こうかと……」

 

『協力してくれたらおっぱい揉ませてあげる』

 

「是非! 喜んで協力させていた……だ、けた、らよかったんだけどな~……!!」

 

『ちっ、釣られなかったか』

 

「あっぶねー……」

 

『まぁいいわ。あたしはあたしの実力で幸を手に入れてみせるわ。良もアイドル活動大変だろうけど頑張りなさい』

 

「うん。早苗ねーちゃんも仕事頑張って」

 

『あんまりおっぱいおっぱい言い過ぎて、アンタの手首にワッパかける日が来ないことを祈ってるわ』

 

「俺も、早苗ねーちゃんが悪酔いし過ぎて懲戒免職にならないことを祈ってるよ」

 

『……大丈夫よ』

 

「え、その間は何?」

 

 

 

 

 

 

おまけ『将来の義姉候補2』

 

 

 

「『留美さん、兄貴のお嫁さん候補が増えたことは知ってたんですか?』……そーしんっと……だから着信早いって! しかもまた電話だし……もしもし」

 

『今晩は、良太郎君』

 

「こんばんは。お久し振りです」

 

『えぇ、久し振り。相変わらず大人気みたいね』

 

「お陰さまで。まぁ、兄貴の力もありますよ」

 

『そう……やっぱり先輩は凄いわね』

 

「それで、メールの話なんですけど」

 

『幼馴染みの女性に求婚されたって話よね。当然聞いてるわ』

 

「……あんだけ優柔不断な男ですけど、諦めたりはしないんですよね?」

 

『あら、良太郎君は私が義理の姉になるのは嫌かしら?』

 

「いや、嫌ってわけじゃないんすけど……」

 

『けど?』

 

 

 

「……えっと、留美さん、961プロダクションの社員さんですよね?」

 

『えぇ。それも社長秘書よ』

 

 

 

「……やっぱり色々とアレな気がするんすけど……」

 

『何も問題ないわ。愛は所属する会社なんかに縛られたりしないの』

 

「だからって……そもそも俺、黒井社長にだいぶ嫌われてますけど」

 

『敵対することになったら、アナタ達に情報をリークすることも辞さないわ』

 

「そこはせめて辞表を出すとか言いましょうよ!? 辞めるよりずっとタチ悪いじゃないっすか!?」

 

『あら、辞表を出したらアナタ達が私を養ってくれるの?』

 

「うぐっ……いや、辞めろって言ってる訳じゃないんですけど……」

 

『ふふ、冗談よ。ごめんなさいね』

 

「……その、こっちこそごめんなさい」

 

『良太郎君は中立なのよね?』

 

「はい。三人全員と面識があるもので」

 

『じゃあ、頑張ってあなたのお義姉さんになれるように努力するわ。お仕事、頑張ってね』

 

「留美さんも、頑張ってください」

 

『えぇ、あなたの仕事の邪魔をさせないように頑張るわ』

 

「……すまん、ジュピター……」

 

 

 

 

 

 

おまけ『将来の義姉候補3』

 

 

 

「……何かもう電話した方が早いかな……とりあえずメールが先か。『小鳥さん、兄貴のお嫁さん候補が増えたことは知ってたんですか?』……そーしんっと。どうせすぐ着信が……」

 

 

 

『……はい、小鳥です』

 

「電話ないんかい!!」

 

『ピヨッ!?』

 

「あ、すみません、ゴーストが囁きました。今大丈夫でしたか?」

 

『い、いえ、今返信を打ってたところだったのでちょうどよかったです』

 

「とりあえず、先日は失礼しました」

 

『ビックリしましたよ、突然ケーキ屋さんだなんて言うから』

 

「あれは響ちゃんが勝手に間違えてくれたのを利用させてもらっただけなんですけどね」

 

『次来る時は覚悟してくださいね、亜美ちゃんと真美ちゃんが何やら企んでましたから』

 

「おっと、そいつは気を付けないと」

 

『ふふ』

 

「それで、メールは見てもらえたんですよね?」

 

『あ、はい。見ましたよ。幼馴染みさんなんですよね?』

 

「はい。……あんな優柔不断な男ですけど、小鳥さんは本当にいいんですか?」

 

『はい。優柔不断でも、ちゃんと答えを出してくれるって信じてますから』

 

「……まだ当分かかりそうですよ?」

 

『うっ……!? ……ま、待ちます! 恋する乙女は強いんです!』

 

(……乙女って歳じゃないっていうツッコミは流石に出来ねぇなぁ……)

 

『良太郎君はやっぱり中立ですか?』

 

「はい。申し訳ありませんが……」

 

『いいんですよ、良太郎君も大変なことには代わりないんですから』

 

「ありがとうございます。今765プロは大事な時期だと思いますから、頑張って下さい」

 

『はい。良太郎君も頑張って下さいね』

 

 

 

 

 

 

「……ホント、みんな兄貴には勿体ないなぁ……」

 

「ん? 何か電話してたみたいだけど友達か?」

 

「………………」

 

「おぶっ!? ちょ、おま、無言で腹パンはやめっ……!?」

 

「大丈夫、壁ドンしてるだけだから」

 

「それは壁じゃなくて俺の腹だ……!?」

 

 

 




・周藤幸太郎
オリキャラ二人目。良太郎の兄で、プロデューサー兼マネージャー。かなり敏腕で、良太郎がここまでこれたのはこいつのおかげでもある。顔は良太郎と似ている。
なんか感想でハーレム展開を期待されたので、良太郎の代わりにハーレム野郎になってもらうことになった。マジ爆発しろ。
兄貴のヒロイン候補については下で解説。

・『だいばくはつ』
ノーマル ぶつり いりょく250 めいちゅう100 PP5
防御半減が無くなりジュエルも弱体化した今どうしろっていうんだよ……。

・『すいじょうきばくはつ』
マリオRPGにおけるみんなのトラウマ。
作者的にはこの戦闘の前のスターピースを奪われる場面で、「いいえ」を選択し続けたら町長が笑わなくなったことが印象に残っている。

・魔王エンジェルのマネージャー
オリキャラ三人目。名前はまだない。展開的に必要だったため急遽誕生。
幸福エンジェルだった頃は麗華が全て管理してたけど、忙しくなったために東豪寺の方から連れてきたという設定。

・「結婚の予定も無しにウェディングドレス着ると婚期遅れるっていうしー」
でも大体の結婚雑誌のモデルさんって未婚じゃないのだろうか、と思うんだが実際どうなんだろう。

・「ぶふぉっ!?」
※トップアイドルグループ『魔王エンジェル』リーダーです。

・ただのファンのそれにしてはやや過剰なような気がする。
作者的にも少しやりすぎた気がするけど……可愛いから別にいいか。(結論)

・(大乳な人だといいなー)
流石主人公ぶれない。

・片桐早苗
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション(お酒)。
原作では28歳、この作品では現在26歳の現役警察官。
響と同じ身長にも関わらず胸はなんとあずささんを上回る92! でかい(確信)

・『協力してくれたらおっぱい揉ませてあげる』
よくぞ耐えた良太郎!

・『アンタの手首にワッパかける日が来ないことを祈ってるわ』
もっと腕にシルバー巻くとかSA!

・和久井留美
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール(愛が重い)
原作では26歳、この作品では現在24歳の社長秘書。
何となく面白そうだからというだけの理由でこの作品では961プロの社長秘書という設定になった。

・『アナタ達に情報をリークすることも辞さないわ』
ジュピターの件といい、既に961プロの敗北フラグがビンビンでございます。

・音無小鳥
言わずと知れた765プロダクションの事務員さん。
他作品では散々行き遅れだの腐ってるだの言われている彼女だが、この作品ではちょっと年上なだけの恋する乙女。是非頑張っていただきたい。
ちなみに作中では年齢不詳だが、この作品では27歳設定。



てな訳でついにアニメ本編開始&デレマスキャラの登場!
というわけでデレマスタグ入れてもいいよね? ね?


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Lesson08 結婚狂詩曲 2

予想以上に早く書きあがったぜー!
ヒャッハー! 我慢できねー! 早速投稿だー!

※今までのサブタイトルの表記を少し変更させてもらいました。


 

 

 残暑の暑さが陰り、暖かな日差しが心地よい平日の昼下がり。

 

 写真撮影の現場である教会の控え室で、俺は一人タキシードに身を包んで雑誌を捲りながら待機していた。一緒に来ていた兄貴は次の仕事の打ち合わせがあるからと言って既にここにはいない。……教会自体にあまり近寄りたがっていなかったのは多分気のせいではないだろう。全く、あんな美人三人に言い寄られて一体何が不満なんだか。

 

 コンコン

 

「はーい。どうぞー」

 

「し、失礼します!」

 

 何やら緊張した様子の声と共にドアが開かれた。

 

「本日撮影にご一緒させていただきます! 765プロダクションの菊地真です!」

 

「三浦あずさです。今日はよろしくお願いします」

 

 部屋に入ってきたのは記憶にも新しい765プロのアイドル、タキシードを着た真ちゃんとウェディングドレスを着たあずささんだった。

 

「おー、二人が参加者だったんだね。今日はよろしく。そんな固くならなくてもいいよ」

 

 何というか、真ちゃんから戦場へ赴くかの如く気迫を感じる。

 

「いえ、こういうのはしっかりとしたケジメが大事だと思いまして……」

 

「そう? まぁ、緊張してたらいい写真が撮れないから、リラックスしてね。無表情の写真は俺のだけで十分だから」

 

 それにしても、あずささん凄いな、おっぱい。清純な純白のドレスから溢れんばかりの母性に、なんか見ているだけで汚れた心が清められるような気がする。現在進行形で心が汚れているとかいうツッコミは無しの方向で。

 

 それに対して真ちゃんは……。

 

「なんでタキシードなの?」

 

「それが聞いてくださいよ! 僕も今日はフリフリなドレスが着れるって楽しみにしてたのに、来てみたら新郎役なんですよ! 酷いと思いません!?」

 

「あぁ……うん。そうだね」

 

 正直俺より似合ってる気がするから、ちょっと深く触れておくのは止めておこう。

 

「今日は二人だけ?」

 

「いえ、あと一人……」

 

「美希の奴、まだ入ってきてなかったの?」

 

 美希ちゃんも来てるの?

 

 開かれたままだった扉の方に視線を向けると、金色の髪がチラチラと見えていた。どうやらまた隠れてしまっているらしい。

 

「美希、ちゃんと挨拶しないとダメだよ。良太郎さんは先輩なんだから」

 

「大丈夫よ、美希ちゃん。折角可愛いドレスなんだから、良太郎君にも見せてあげましょう?」

 

「……うー……」

 

 二人の呼び掛けに、少しずつではあるが美希ちゃんが扉の影から姿を現した。

 

「……おぉ」

 

 純白のウェディングドレスはあずささんと変わらないが、美希ちゃんのは膝上10cmはある丈の短い今風のウェディングドレスだった。おっぱいも大変素晴らしいが、中学生の生足太ももとか最高だね!

 

「凄く可愛いよ。美希ちゃんによく似合ってる」

 

「え……ほ、ホント?」

 

「ホントホント」

 

 お兄さん、軽口は叩くけど嘘は吐かないよー。なんかこの間ケーキ屋さんのフリした気がするけどキノセイダヨー。

 

 顔はやっぱり少し赤いが、パァッと花が咲くような笑顔になり美希ちゃんはペコリと頭を下げた。

 

「あ、ありがとうございます! 今日はよろしくお願いしますなの!」

 

「うん、こちらこそよろしく」

 

 

 

 

 

 

「そろそろお願いしまーす」

 

 遅れて挨拶にやってきた765プロのプロデューサーである赤羽根(あかばね)さんも交えて話していると、スタッフさんが呼びに来た。

 

「ん、それじゃお仕事の時間だ。頑張ろうね」

 

「「はい!」」

 

「よろしくお願いしますね」

 

 スタッフの後に続き、撮影場所である聖堂へと向かう。

 

 立派な扉を潜り、広い聖堂内へと足を踏み入れたその時である。

 

 

 

「だーれだ?」

 

 

 

 ムギュ、という擬音が聞こえてきそうなぐらい柔らかな何かが背中に押し当てられると同時に視界が真っ暗になった。

 

 むむ!? この声と背中に感じる柔らかさ! 俺は、彼女を知っている!

 

「りん! 貴様、育っているな!?」

 

「えぇ!? な、何で知ってるの!?」

 

 ……なん……だと……!?

 

 視界を覆っていた手が退けられたので振り返ると、そこには顔を真っ赤にして自分の胸を隠すように抱えるりんの姿があった。隠しきれずにはみ出てるおっぱいが大変眼福です!

 

「え、マジだったの?」

 

 完全にノリで言った冗談だったのに。

 

「……えっと……春先に比べて、ちょっとだけ……」

 

 まだ……育っているというのか!? 麗華はとっくの昔に成長が止まってしまっているというのに!?(断言)

 

 具体的にどれぐらい大きくなったのか大変興味があったのだが、それ以上に気になることがあったので後回し。

 

「っていうかりん、その格好」

 

「あ、えっと……似合う、かな?」

 

 そう言いながらはにかむりんは、いつものツインテールではなく、髪を下ろしてウェディングドレスに身を包んでいた。普段の小悪魔的なイメージで言えば美希ちゃんのようなミニのドレスなのだが、今のりんはあずささんと同じような普通のタイプのウェディングドレス。しかしその清純さがいつものりんとのギャップを生み出していて素晴らしい(ベネ)! 強調すべきところ(胸)はしっかりと強調している点も大変素晴らしい(ディモールト・ベネ)!!

 

 オラ、ドキがムネムネしてきたぞ!!

 

「すげー似合ってる。髪下ろしてるのも大変ポイント高し」

 

「あ、ありがと。……も、もう、こんな可愛いりんちゃんが間近で見れるなんて、りょーくんは幸せモンだぞ! いひひっ!」

 

 うん、顔は赤いままだけど、いつものりんだな。というか、りんも今日の撮影に参加するのか。知らんかった。

 

「あ、あの―……」

 

 おっと、美希ちゃん達が置いてきぼりだった。

 

 

 

 

 

 

 突然物陰から現れて、りょーたろーさんに後ろから抱き着いた紫髪の女の子。髪形がいつもと違うようだが、彼女を知らないはずがなかった。

 

「多分みんな知ってるだろうけど、一応紹介するな。1054プロ所属、『魔王エンジェル』の朝比奈りん」

 

「いひひっ、よろしくねー!」

 

 『魔王エンジェル』。りょーたろーさんと同世代、所謂『覇王世代』を代表するトップアイドルグループ。りょーたろーさんがいなければアイドルの頂点に立っていたのではないかと言われ、駆け出しのアイドルがりょーたろーさんや日高舞の次に憧れるアイドル。

 

 765プロで一番ブレイクしている竜宮小町ですら叶わない存在が、今ミキの目の前で笑っていた。

 

「えーと、765プロ……だっけ? 竜宮小町の三浦あずさ以外は全然知らないから、自己紹介して欲しいなー?」

 

「あ、し、失礼しました! 765プロの菊地真です!」

 

「えっと、同じく三浦あずさです」

 

「……星井美希、です」

 

「今日はよろしくー! ま、これから先どうなるか分からないけどー」

 

「っ……!?」

 

「りん、あんまり意地悪な言い方するな」

 

「はーい。ゴメンねー」

 

「い、いえ……」

 

  随分とりょーたろーさんと仲がいいみたい……自然な動作で抱き付いてたし……今もすっごい近くに立ってて、りょーたろーさんもそれが普通みたいな感じだし……。

 

 むぅ……何か、ちょっとヤな感じ……。

 

 

 

 

 

 

(……ふーん……)

 

 目の前にいる少女達、765プロのアイドル達の姿を見定める。この四年間で調べたりょーくんの好みは、髪が長くて胸の大きな女の子。つまりアタシはドンピシャのはず!

 

 菊地真。えっと、タキシードを着ていて、男の子と見間違えそうになるくらいのイケメンっぷりだが女の子のはずだ。髪は短く胸も小さい……この子は問題ないわね。

 

 三浦あずさ。……ア、アタシ以上にデカイ。写真では見てたけど、こうして間近で見るとその存在感に圧倒される。……だ、大丈夫大丈夫! 髪も短いし、わ、若さでは勝ってるし! りょーくんが年上が好きかどうかは分かんないけど!

 

 問題は、こっちの子だ。

 

 星井美希。先ほどは全然知らないと言ったが、765プロで竜宮小町の次に有名であろうアイドル。顔も可愛くスタイルも抜群……これで中学生とか詐欺過ぎる。胸も大きく髪も長く、りょーくんの好みとも合致する。

 

 りょーくんに近付くアタシを険しい目付きで睨んできているし、少なからずりょーくんに特別な感情を持っている様子。

 

 今注意しなければいけないのはこの子だろう。こんなポッと出の少女に、りょーくんを盗られてたまるか!

 

 

 

 

 

 

 周藤良太郎ですが、女の子二人の雰囲気が険悪です。え、いきなり何この状況。美希ちゃんはりんのことを睨んでるし、りんはりんで美希ちゃんを見定めるような目で見てるし。

 

「……えっと、美希ちゃん、魔王エンジェルが嫌いだったりする……?」

 

「……いえ、そんなことなかったと思いますけど……」

 

「りんさんも、美希ちゃんを睨んでるように見えますけど……」

 

 真ちゃんやあずささんと額を合わせて話し合うが、どうにも答えは見えない。何だろう……二人とも虫の居所が悪いのかな?

 

「あの―……そろそろ……」

 

 おっと、忘れてた。

 

「りん、美希ちゃん、仕事仕事」

 

「「はーい!」」

 

 ……ちょっとだけ笑顔が怖かった。

 

 

 

 

 

 

おまけ『周藤幸太郎』

 

 

 

「どうもこんにちは、良太郎君。今日はよろしくね」

 

「あぁ、赤羽根さん、こちらこそよろしくお願いします」

 

「……えっと、良太郎君は一人で現場に?」

 

「いや、兄貴の送迎で。当の本人は俺を置いてさっさと逃げちゃいましたけど」

 

「逃げたって……何で?」

 

「宗教が違ったんじゃないですかね」

 

「いや、それは……」

 

「もしくは神社仏閣関連の場所にいると気分が悪くなったとか」

 

「そんな、悪魔とかじゃないんだから……」

 

(悪魔みたいに酷い理由っていう点では間違ってないけど)

 

「一度、良太郎君のお兄さんとは話してみたかったんだけどね。周藤良太郎をたった一人でここまで成長させた名プロデューサーって、業界では有名みたいだから」

 

「兄貴のおかげでここまで来れたって言うのは否定しませんよ。まぁ、兄貴のおかげというか、兄貴のせいというか……」

 

「お兄さんの、せい?」

 

「俺がアイドルを始めたきっかけは、両親が食事の席で冗談交じりに『良太郎はアイドルに向いている』って言ったからなんです。それを真に受けた兄貴が勝手に俺の写真で俺の書類作っていきなりフリーのコンテストに応募しちまったんですよ」

 

「そういえばそんなこと雑誌のインタビューで答えてたね」

 

「んで、初出場の初コンテストで初優勝。色んな事務所からオファーが来て、さあこれからどうしようってなった時に……」

 

 

 

 ――俺が書類を勝手に送ったことが原因なんだから、俺が責任を持って最後まで面倒を見ようじゃないか!

 

 

 

「んで、現在まで兄貴と二人三脚でフリーアイドルを続けてるってわけです」

 

「なるほど……お兄さんは前々からそういったことに興味が?」

 

「いえ、俺のデビューが決まって、大学を卒業してから勉強始めてました」

 

(……なるほど、方面は違えど、やっぱり兄弟だったってことか……)

 

(私生活はあんなんだけど……マジどうしてこうなったんだか)

 

 

 




・見ているだけで汚れた心が清められるような気がする。
なんかあずささんの胸は「巨乳」っていうよりも「おおきなおっぱい」っていうイメージ。何だろう、この感じ。

・美希のウェディングドレス
アニメ見て思ったが、ミニ丈とはいえここまでウェディングドレスが似合う15歳って……。

・軽口は叩くけど嘘は吐かないよー。
常に本心が口からだだ漏れなため、嘘を吐く必要がない様子。

・「貴様、育っているな!?」
(言動が常に盛ってる)モンキーなんだよぉぉぉ!!

・「春先に比べて、ちょっとだけ……」
麗華・千早「」ドンッ

・りんのウェディングドレス
みんなすまねぇ、俺の力じゃここまでしか表現できないんだ……でも、みんなならできると信じている! お前たちの妄想力で、りんの純白ウェディングドレス姿を妄想するんだ! さあ目を閉じて! 俺には見えるぞ! 髪を下ろしたりんがウェディングドレスを着てはにかんでいる姿が!!

・「りょーくんは幸せモンだぞ! いひひっ!」
ちなみにりんのCVはアスミス。

・『覇王世代』
アイドル界の世紀末。ちなみにその前には『オーガ世代』があったりする。

・「ま、これから先どうなるか分からないけどー」
原作に近いちょっと黒いりんちゃん。
アイドルに対する嫌悪からではなく、絶対的な自信から来る言動。

・りょーくんの好みは、髪が長くて胸の大きな女の子
まぁ髪はともかく、あれだけおっぱいおっぱい言ってればねぇ?

・おまけ『周藤幸太郎』
両親との会話はLesson01冒頭にて。あの後速やかに書類を作成した幸太郎がコンテストに応募したことがきっかけでアイドル『周藤良太郎』が誕生したので、ある意味生みの親。
原作タイトルである『アイドルマスター』に最も近い人物なのかもしれない。



誰か純白ウェディングドレス姿のりんちゃんを描いてくれる人いないかな~(チラッチラッ)


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Lesson09 結婚狂詩曲 3

結構定期的に更新ができてる気がする。

今さらながら、いつも皆さんご感想ありがとうございます。
寝る前に更新し、朝起きてから皆さんの感想に返事を書くのが毎朝の楽しみです。
「こんなネタ思いついた!」「ここ何か変じゃない?」といったご意見も大変参考になっております。
これからもご意見ご感想お待ちしております。


 

 

 

 という訳でようやく始まった写真撮影。とりあえず個人の撮影から始まった。

 

「ではまずは良太郎君からお願いします」

 

「やっぱりメインの据え所間違ってる気が……」

 

 不満というか釈然としないものを感じたまま、俺の撮影を開始。

 

 写真のモデル自体は既に数多くこなしてきているので問題はない。とりあえずポーズを変え続け、同じポーズを取らなければいい。俺の場合は表情が一切無いが、ポーズ自体は何も考えなくても自然と取れる。多分神様の特典のお陰だろう。

 

 今回は新郎役なのであまり大きな動作はせず、服装をチェックするような動きと新婦に向かって手を伸ばす動きを数パターン撮影する。

 

「はい! オッケーです! 流石良太郎君! バッチリでしたよ!」

 

「どもっす」

 

 てな訳で、特に問題もなく撮影終了。短い? いやいや、描写してないだけで結構撮ってたから。ヤローの撮影の描写しても面白くないでしょ。

 

「それじゃあ次も新郎役で真ちゃん!」

 

「あ、はい!」

 

 入れ替わりで撮影を行うのは、同じくタキシードに身を包んだ真ちゃん。彼女も俺と同じく新郎役なので、やはり大きな動作はない。しかし彼女の場合は表情があり、幸せに満ちた結婚式の様子がイメージ出来る。……これ、やっぱり俺はいらなかったんじゃないかな。

 

「りょーくんの新郎姿、格好良かったよ」

 

 ススッと横に寄ってきたりんが顔を覗きこんできた。

 

「ん、ありがと」

 

 何かいつもより距離が近いような気がするが、まぁ間近で大乳が拝めるし問題ないか。

 

「はい! 真ちゃんもオッケーです! 次はじゃあ……あずさちゃん、行ってみましょうか!」

 

「はい。では、お先に失礼しますね」

 

 あずささんはりんに向かって頭を下げてから真ちゃんと撮影を入れ替わった。ウェディングドレスということもあり、大きな動きは取ることが出来ない。しかしお淑やかな雰囲気があずささんの大人っぽい美しさと色気を醸し出している。あれで俺と三つしか違わないとは。性別は違えど、俺はあずささんと同じ年齢になってもあそこまで大人っぽくなれるとは到底思わない。まぁ自重はしないけどね! 折角の二度目の人生なんだから楽しまないと!

 

「やっぱりあずささん綺麗だなぁ」

 

「……りょーくんは、ああいう大人な女性が好み?」

 

 ん? どうしたんだろうかいきなり。

 

「まぁ好みというか、男だったら一度はああいうお姉さんっていう存在に憧れたりするもんなんだよ(キリッ)」

 

「そ、そう……」

 

 逆に男の八割はロリコンだって言ってる人もいるが……まぁ、結局人の好みによりけりなんだけどね。俺の場合はどっちかと言うと同年代でプラスマイナス二歳ぐらいがベストかな。

 

(……と、年の差はどうしようもないし……大人っぽく? 普段から髪を下す? でも勝手に髪型変えると麗華が怒るし……)

 

 何やらりんが悩んでいるみたいだ。こういう時はそっとしておいてあげよう。

 

「あずさちゃんもオッケーです!」

 

 そうこうしている間にあずささんの撮影も終わった。

 

「それじゃあ、次は美希ちゃん!」

 

「……はいなの!」

 

 美希ちゃんはこちらを一瞥してから、意気込んだ様子で撮影に向かった。

 

「……おぉ」

 

 おしとやかな新婦さんではなく、天真爛漫な新婦さん。少女の様に大きく動き、新婦でありながら少女というミスマッチ感がいいね。元々ファッション雑誌のモデルとしての活動を多くしていただけあって、だいぶ撮影慣れしているみたいだ。

 

 飛んだり跳ねたりすると中学生とは思えないおっぱいが揺れて、さらに丈が短いので太ももがさらにチラチラと……。

 

「子供っぽいっていうとちょっとアレかもしれないけど、美希ちゃんらしいね」

 

「……ふーん」

 

 りんは先ほどの険のあるような表情ではなく、純粋に感心したような表情だった。

 

「はい、オッケーです! 美希ちゃんも凄い良かったよー!」

 

 ん、終わったみたい。撮影する方も乗っていたみたいで、結構撮ってたな。

 

「じゃあ、別々に撮るのはこれで最後かな。りんちゃん、お願いします!」

 

「はーい。それじゃ、行ってくるね。ちゃんと見ててよー」

 

「そりゃあもう」

 

 穴が開くぐらい見させていただきましょう。

 

 撮影に向かうりんと入れ替わりで美希ちゃんが近付いてくる。

 

「りょーたろーさん! ミキ、どうだった!?」

 

「凄い可愛かったよ。思わず見惚れちゃった」

 

「ほ、ホント? え、えへへ……!」

 

 ……こう、頭を撫でたい衝動に駆られるが、女の子の頭は軽々しく触っちゃいけないって前にりんに言われたしなぁ。その後「アタシならいいけど」とも言われたけど。何かしらの条件があるのかな?

 

 そうこうしている間にりんの撮影が始まっていた。

 

 なんと言うか……凄かった。

 

 普段のりんは小悪魔みたいな笑みで周りを魅了するタイプなんだが、今日のりんからはそれが一切感じられない。代わりに感じるのは、少女が愛する男性と結ばれることに対して幸せを噛み締めている、そんな幸せそうな雰囲気。見てるこっちが幸せな気分になる、そんな微笑みだった。

 

 こういうのを見るとやっぱり笑顔ってのは大事なんだなぁ、と思う。女の子の笑顔はそれだけで人類の宝だ。

 

 やっぱり俺もアイドルとして笑顔の練習するべきかな……。いや、今更笑うようになっても逆に無表情キャラが無くなるだけか。

 

 いや、それにしても凄いなぁ……おっぱいも。まだでかくなってるって言ってたが……将来的にはあずささんクラスになるのだろうか。美希ちゃんもまだまだ成長期だろうし、ホント将来が楽しみだ! 大変胸が熱くなってくるね! 胸が厚くなるだけに!

 

 

 

 

 

 

(……凄い)

 

 素直にそう感じざるを得なかった。

 

 朝比奈りん。いつもは蠱惑的な笑みでファンを虜にする彼女だが、今日はそのイメージとは一切違った。女であるミキが見ても綺麗だと感じる幸せそうな微笑み。恋に恋する純粋な乙女。こうなれたら幸せなんだろうな、と羨ましく思ってしまう。

 

「………………」

 

 りん……さんの撮影が始まってから、りょーたろーさんはいつもと変わらぬ表情でりんさんの撮影を眺めていた。

 

 今、りんさんの撮影を見て、りょーたろーさんは一体何を思っているのだろう。やっぱり、綺麗だと思っているのだろうか。

 

 そして……ミキの撮影をどう思っていたのだろうか。

 

 りょーたろーさんは凄く可愛くて見惚れてしまったと言ってくれた。その言葉は凄い嬉しかったし、疑いたくもない。けれど、今のりんさんと比べられてしまうと自信がない。既に先程のミキの撮影なんか忘れられてしまっているのではないかと不安になってしまう。

 

(………………)

 

 今のミキは、キラキラ輝いていない。

 

 でも竜宮小町なら。今一番765プロで輝いている竜宮小町なら、キラキラ輝ける。少しでもりんさんに追い付くことが出来るはず。プロデューサーは、頑張れば竜宮小町に入れてくれると言ってくれた。なら、今は竜宮小町に入れるように頑張ろう。

 

 そしていつか、りょーたろーさんと同じステージに……。

 

 

 

 

 

 

「はい、オッケーです!」

 

 おっと、心の中でニヤニヤとしてたら撮影が終わっていた。もちろん撮影はちゃんと見てたよ。

 

「これで個人撮影は終了です! 一旦休憩に入ります!」

 

 休憩か。個人撮影終了ってことは、休憩の後はペアでの撮影かな。

 

 ……今更ながら、男女比2対3(本当は1対4だけど)でどうやってペアを組むつもりなんだろうか。同じ新郎役に別の新婦役の写真だと色々と問題があるような気がするし。

 

 まぁ、その辺はスタッフがちゃんと考えてあるだろうし、問題ないか。

 

「りょーくん、アタシに見惚れちゃったりしてなかったー?」

 

「そりゃあもう、バッチリ見惚れてた。流石りんだな」

 

 帰ってきたりんを素直に誉めると、それまで自信満々だった表情が急に赤くなった。

 

「……やっぱりここまでストレートに誉められるのは、いつまでたっても慣れない……」

 

「どうかしたか?」

 

「な、何でもないよ? それじゃ、休憩行こっか」

 

「だな。美希ちゃんも」

 

「………………」

 

「美希ちゃん?」

 

「……え? あ、はいなの!」

 

 何やらボーッとしてたみたいだけど……まさか美希ちゃんもりんに見惚れてたとか? 女の子まで魅了するとは……りん、恐ろしい子!

 

 全員でそれぞれの事務所ごとの楽屋へと向かう。まぁ俺は無所属なんだが。

 

 しばしの休憩の後、再び撮影が始まる。

 

 

 

 ……と、思っていた時期が俺にもありました。

 

「あずささんが行方不明?」

 

 休憩も終わり、さぁ撮影再開だと意気込んだ矢先の出来事である。

 

「うん。真クンとプロデューサーもあずさを探しに行っちゃって……」

 

「それで765プロは美希ちゃん一人になっちゃった訳だ」

 

 ふむ、何があったのだろうか。アイドルが行方不明とかただ事じゃないぞ。

 

「あずさ、凄い方向音痴だから……」

 

「え、そんな理由なの?」

 

 なんというか、ただ事だった。ならそんなに心配する必要ない……のかな?

 

「それより、撮影すっぽかす方が問題だと思うけどー」

 

「だからりん、あんまりトゲのある言い方するなって」

 

「りょーくん、ジュピターが撮影すっぽかしたらどうする?」

 

「ねちねちと弄る」

 

 だって男だし。これは差別ではありません、区別です。(キリッ)

 

「あれだ、男女区別ってやつ」

 

「初めて聞いたけど……」

 

 それはともかく、どうしたものか。このまま三人だけで撮影を続けるべきなんだろうけど……。

 

 果たして何処で何をしているやら。

 

 

 

 一方その頃の真ちゃん。

 

「これが僕のッ! 殺劇舞荒拳(さつげきぶこうけん)!!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 とりあえず、あずささんと真ちゃんは赤羽根さんに任せておいて、俺達三人だけで撮影を再開することに。

 

「で、俺は結局どっちと一緒に写真を撮りゃいいんですかね?」

 

 新郎一人に対して新婦二人である。さっきも言ったが、同じ新郎役に別の新婦役っていうのは色々とアレだと思う。そう考えると、ペアの写真を撮るのは一人だけだ。

 

 んで、そのことをボソリと呟いた途端。

 

 

 

「「………………」」

 

 

 

 りんと美希ちゃんの静かな睨み合いパート2である。いや、アイドルである以上、より多く写りたいと思うのは分かるけど……ここまで険悪になる必要はないんじゃないかい?

 

「ねー、美希ちゃん。ここは先輩を立てて自分は引くところじゃないかなーって思うんだけどー?」

 

「あは、同世代のりんさんとりょーたろーさんが一緒に写るより、新人アイドルのミキと一緒の方が新しさがあるとミキは思うなー」

 

 え、ナニコレ怖い。二人共スッゴい可愛い笑顔なのが余計に怖い。

 

 ちょ、スタッフ!? 俺の影に隠れるな! グイグイと背中を押すな! 俺が何とかしろってか!?

 

「……えっと、それじゃあさ、とりあえず二人と一緒に撮って、良く撮れた方を採用してもらう……って形でどうかな?」

 

 振り向いてスタッフに確認すると、スタッフ側もそれでオッケーらしい。よし、これで丸く収まっ……。

 

「りょーくん、今はそんな問題じゃないの」

 

「りょーたろーさんが、りんさんとミキのどっちを選ぶかが問題なの」

 

 あるぇー!? 収まってないどころかこっちに飛び火してきたぞ!?

 

 だからスタッフ押すんじゃない! これフリじゃねーから! 『押すなよ? 絶対押すなよ?』ってやつじゃねーから!

 

「りょーくん?」

「りょーたろーさん?」

 

 あ、無理ポ……。

 

 

 

 一方その頃の真ちゃん。

 

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ! 光になれぇぇぇ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 




・ヤローの撮影の描写しても面白くないでしょ。
そもそもこの作者が描写が苦手という説もある。

・あれで俺と三つしか違わないとは。
これでこの人普通だったら大学三年生ですよ? 皆さんの大学構内にこんな素敵な女性歩いてますかね? 少なくとも作者の大学にはいない。

・ああいうお姉さんっていう存在に憧れたりするもんなんだよ(キリッ)
完全に作者の持論。シスコンですが何か。

・「アタシならいいけど」
りんさんがちゃくちゃくと主人公攻略を進めているようです。

・無表情キャラが無くなるだけか。
残るのは爽やかおっぱいキャラ……あれ、十分濃い?

・ホント将来が楽しみだ!
あずささんクラスのりんと美希……色んな意味でもう誰も勝てないような気がする。

・りょーたろーさんは一体何を思っているのだろう。
女の子のおっぱいのことを考えて内心ニヤニヤ。この作品の「勘違い」タグはほとんどこんなことにばかり使われる模様。

・男女区別
男は萌えないゴミ。女の子は萌える宝。
男の娘? ウチの地域じゃ回収してないんだ。

・殺劇舞荒拳
テイルズシリーズにおける代表的な奥義。真はダンスをやってるからな。
「剣」は男キャラで「拳」は女キャラが使うイメージが強い。今回はTOHよりコハクverを使用。

・『押すなよ? 絶対押すなよ?』
誰もが認める伝統芸。金爆みたいに、今の若手はもっと見習うべき。

・「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ! 光になれぇぇぇ!!」
勇者王マコト。
マママッ マママッ マッコマッコリーン!
マママッ ママママッ マッコマッコリーン!



話を書くために本編を見直しているのだが、やっぱり響と美希は可愛かった。


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Lesson10 結婚狂詩曲 4

アニメ本編を見たことない人への補足を。

前話であった真の戦闘シーン。
必殺技は流石にネタですが、戦闘シーンは『ガチ』です。
アイドルのアニメでまさかのガチ戦闘。是非本編をご覧ください。


 

 

 

 平和的な話し合いの結果、結局俺が提案したようにとりあえず二人別々にペアの写真を撮ることになった。え? 話し合いの内容? 平和的だったって言ったじゃん。

 

「んじゃ、まずはりんからかな」

 

 年功序列ってことで。

 

「おっ先ー!」

 

「ぐぬぬ……!」

 

 りんが凄い余裕綽々な笑みを浮かべ、それに対して美希ちゃんは凄い苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 

「それじゃあ、まずはオーソドックスに腕でも組んでみましょうか!」

 

 ふむ、基本だな。

 

「んじゃ、ほい、りん」

 

「う、うん。し、失礼しまーす」

 

 左腕を差し出すと、遠慮がちにりんは右腕を絡めてきた。なんかこうすることで、余計にりんが本物の新婦に見えてくる。きっと新郎の視点から見ているからだろう。

 

 ……結婚かぁ。俺より兄貴の結婚の方が先なんだろうけど、いずれは俺も……出来る、よな?

 

 あ、なんかおっぱいおっぱい言い過ぎて結婚出来るビジョンが一切浮かばない。

 

「えっと、りょーくん? どうかしたの?」

 

「いや、将来本当に結婚出来るのかなーって思ってさ」

 

 なんと言うか、前世でもそうだったが売れ過ぎたアイドルは逆に恋愛面で苦労しているイメージがあるし。

 

「……えっと、その……ほ、本当に困ったら……あ、アタシが……」

 

「はい! それじゃあポーズ変えてみましょうか!」

 

 何故か顔が赤いりんが何かを言おうと顔を上げた途端、スタッフからそう声がかかった。どうやら話してる間もしっかりと写真は撮っていたようだ。さっきはあれだったが、仕事はしっかりと出来るのね。

 

「………………」

 

「ん、次のポーズと言われてもな。……りん? どうかしたか?」

 

「……何でもない」

 

「?」

 

 妙に落ち込んだ様子のりんとは対照的に、何故か美希ちゃんは笑いを堪えていた。

 

 

 

「はい! オッケーです! 流石美男美女! 凄い絵になってましたよ!」

 

「ま、当然よね」

 

 あの後しばらくテンションが低かったりんだが、実際にバージンロードを歩いてみたり、指輪交換のフリをしたりしているうちに機嫌が良くなっていた。一体何だったのかさっぱりだが、まぁ、女心と秋の空とも言うし、男の俺が考えたところで分かるはずないか。

 

「それじゃあ、今度は美希ちゃんとお願いします!」

 

 と言うわけで選手交替である。

 

「「………………」」

 

 何の言葉も交わさないまますれ違うりんと美希ちゃんが怖い。

 

「よし、それじゃあまずは腕を組んで……」

 

「あの、ミキ、撮ってもらいたいポーズがあるの」

 

 最初はやっぱり腕組みかなぁと考えていたところ、美希ちゃんからそんな提案が。

 

「おっと、どんなポーズかな?」

 

 スタッフも興味があったようで、美希ちゃんの言葉に耳を傾ける。

 

「あの、りょーたろーさん」

 

「ん?」

 

「……お、お姫様抱っこして欲しいの」

 

「……ひょ?」

 

 驚いて変な声が出てしまった。

 

「ちょ、星井美希! アンタ何言い出すのよ!」

 

「外野は黙ってて欲しいの」

 

 りんが声を荒げるが、美希ちゃんはそれを一刀両断。なんか、美希ちゃん強くなったなぁ……。

 

「おぉ! いいね、それ! 良太郎君、お願いできるかい?」

 

「いやまぁ、いいですけど」

 

 スタッフもノリノリだし、断る理由も別に無いかな。

 

「美希ちゃんもいいんだね?」

 

「お、お願いします!」

 

 ふむ、それじゃあ失礼して。

 

「よっと」

 

「!」

 

 美希ちゃんの肩を抱き、膝裏に腕を通してそのまま抱き上げる。横抱き、通称お姫様抱っこだ。

 

「……!」

 

 腕を肩に回した辺りから赤くなっていた美希ちゃんは、抱き上げると更に真っ赤になって縮こまってしまった。

 

 ちなみに美希ちゃんのドレスは肩が出ている上にミニスカートなので、俺が触れている場所は当然美希ちゃんの素肌になる。

 

(……すべすべだなぁ)

 

 だから思わずそんなことを考えてしまうのは当然のことなのだ。我ながら変態チックな思考である。

 

「おぉ! これは絵になるね! ただ、美希ちゃんにはもうちょっと明るく笑ってもらいたいかなぁ」

 

「だ、そうだよ」

 

 ……美希ちゃん?

 

「……なの~……」

 

 あれ!? なんか美希ちゃん逆上せてない!?

 

 

 

 その後、美希ちゃん復活までに五分程費やした。

 

 結局、お姫様抱っこは無くなり、ほとんどりんと同じポーズでの撮影となった。

 

 「し、試合には負けたけど、勝負には勝ったの……」とは美希ちゃんの談。りんが凄い悔しそうな顔をしていたところを見ると、りんがその勝負の敗者なのだろう。さっぱり内容は分からないが。

 

「それじゃあ、今度は場所を変えてみましょうか」

 

「場所ですか」

 

 スタッフからそんな提案が出された。ふむ、確かに今までずっと聖堂内でしか写真撮ってなかったし、シチュエーションの変更も悪くないか。

 

「あ、じゃ、じゃあ、近くの噴水があった公園がいいと思う!」

 

 ハッとしてりんが挙手をしながらそう提案する。そういえば少し歩いた先にそんな公園あったっけ。

 

「よし! じゃあそこにしよう!」

 

 りんの意見は採用され、全員で公園に向かうことに。

 

 あ、移動するならその前に……。

 

 

 

 

 

 

「お待たせ」

 

 ちょっと待っててと言っていなくなったりょーくんは、いつもの伊達眼鏡をかけて戻ってきた。

 

「? どーしてメガネかけるんですか?」

 

「これでも結構有名人だからね。これかけとかないと身バレして大変だから」

 

 星井美希の質問に、りょーくんはそう返す。

 

 何でもりょーくんは帽子と伊達眼鏡を着けることによって正体がバレなくなるらしい……何故か。以前どれぐらい効果があるのか試してみようという話になった際、装着時は街中を歩いていても一切気付かれなかったにも関わらず、途中で外してみたところあっという間に気付かれて大変な目にあっていた。

 

 その二つを着けた状態のりょーくんに気付けるのは、本当に親しい相手のみだそうだ。それを聞き、更に気付くことが出来た時は凄い嬉しかった。

 

「眼鏡だけじゃ効果は半減だけど……まぁ、この格好に帽子は合わないからね」

 

 いつもは黒い中折れ帽も一緒に着けているりょーくんだが、流石にタキシードとは合わないと判断して赤い伊達眼鏡だけだった。

 

「これだけでりょーくんのことが分からなくなるなんて、他の人はホント見る目無いよねー」

 

「あったらあったで俺は困るんだけどな」

 

 夜中にコンビニとか行けなくなるし、とりょーくん。ま、まぁ、確かにそのお陰でりょーくんと二人で買い物に行っても騒がれないしね、うん。

 

「それじゃあ出発……あれ、良太郎君?」

 

「とまぁ、こんな感じで眼鏡だけでも認識が遅れるし、じっくり見られなければバレないから」

 

 準備から戻ってきたスタッフが、眼鏡をかけたりょーくんを見て首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

「何はともあれ、出発っと」

 

「そうだね」

 

「ん?」

 

 教会を出た辺りで、りんが自然な動作でスルリと腕を絡めてきた。

 

「ほら、りょーくんは花嫁を一人で歩かせるつもり?」

 

 つまりエスコートしろ、と。

 

「ず、ズルいの! み、ミキもエスコートしてもらうの!」

 

 今度は美希ちゃんがりんとは反対の腕を絡ませて……って、美希ちゃん!? 絡ませるっていうか抱き付いてません!? 腕におっぱいが当たってるんですが!?

 

「……美希ちゃ~ん? 新郎一人に新婦二人はおかしいって、アタシ思うなー?」

 

 りんが再び素晴らしい笑顔になって俺の腕に抱き付いてきて……って、ブルータスお前もか!? おっぱい当たってるって!

 

「ミキもそう思うの。やっぱり、新郎一人に新婦二人はいらないと思うの」

 

 二人の大乳が腕にムニッとなってて大変気持ちがいいのだが、それ以上に雰囲気が酷い。可愛い女の子二人に挟まれているのに、役得感が一切感じられない。

 

 へ、ヘルプミースタッフ! って何写真撮ってんだよ! いらないよこんなシチュエーションの写真! そういうことする暇あったら速やかに俺を助けようよ!

 

 

 

「ねー、りょーくんもそう思わない?」

「りょーたろーさんは、どっちの花嫁さんがいい?」

 

 

 

 ……俺、この撮影が終わったら、あずささんの写真集買いに行くんだぁ……。

 

 

 

 

 

 

 再び平和的な話し合いにより事態は収束した。争いなんて全くありませんデシタヨー。

 

 結局二人共俺の腕に抱き付いたままだったので、開き直って二人のおっぱいの感触を楽しむことにした。雰囲気さえ気にならなければ最高だね!

 

 てな訳で、歩いて十分ほどして公園に到着。

 

 って、あれ? あそこにいるウェディングドレスはもしやあずささん?

 

「って、人違いか」

 

 ……いやいや、何でこんな公園にウェディングドレス着た女の人がいるんだよ。現在進行形で俺の両脇にもいるけど、これは写真撮影のための衣装だし。

 

 何やら誰かを探している様子だけど……。

 

「……ん? りょーくん、何か聞こえない?」

 

「え?」

 

「ホントだ。何か……近付いてくるような音が聞こえるの」

 

 花嫁二人の言葉に耳を傾けると、確かにそんなような音が……音っていうか、地鳴り? 多分大勢の人間が一斉に走るとこんな音がするんだろうな。

 

「……あのー! ……すみませーん!」

 

 あれ、今度はあずささんの声まで聞こえてきた。方向は……こっちかな。

 

 音がする方に視線を向ける。

 

 

 

 ウェディングドレス姿のあずささんを筆頭に、こちらに向かって押し寄せる人々の群れがそこにあった。

 

 

 

「何事だよ!?」

 

 なんか人間だけじゃなくてゾウとかキリンとか交ざってるんですけど!?

 

「あ……! ねぇねぇ、カメラマンさん! あれ撮って撮って!」

 

 何やら美希ちゃんがスタッフに頼んでいるが、これそれどころじゃ無いだろ。よくよく見たら真ちゃんや赤羽根さんの姿もあるし。何やってるんだか。

 

「……りょーくん、これどういうことだと思う?」

 

「さっぱり」

 

 誰か三行で教えてください。

 

 

 

 あずささんが別の花嫁と間違えられて連れ去られる。

 間違いに気付いて解放されるが、花嫁に指輪を返すためにあずささん、街をフラフラ。

 あずささんを追いかけて人々の大行進。←今ここ

 

 ……なるほど、分からん。三行にまとめきれてねーよ、これ。一番気になる最後の大行進のくだりがさっぱりだよ。

 

 とりあえず、あずささんは指輪を花嫁に返して、花嫁はアラブの石油王と結婚してめでたしめでたし……ってことでいいのかな?

 

「すみませんでした。今からでも撮影に参加出来ますか?」

 

 ようやく戻ってきたあずささんが頭を下げる。

 

「まぁ、こちらは大丈夫ですが……」

 

「俺も別に構いませんよ」

 

 スタッフがこちらを窺ってきたので、そう返す。

 

「大丈夫なの! たった今、いい写真撮れたから!」

 

「?」

 

 自信満々な美希ちゃんに、俺は首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 という訳で後日談である。

 

「この間の結婚雑誌、ヤバいぐらいの売れ行きらしいじゃないか」

 

 居間で寛いでいるところに兄貴が例の結婚雑誌を持ってきた。

 

「まぁ自分で言うのもアレだけど、周藤良太郎と魔王エンジェルのりんと竜宮小町のあずささんが揃ってるからなぁ」

 

 今更ながら凄いメンバーである。

 

「凄い話題だぞ、この写真」

 

 そう言いながら兄貴が開いたページには、大勢の人達に追われるあずささんの写真が大きく見開きになっていた。あの時美希ちゃんが指示を出して撮った写真だ。直ぐ様写真を撮れたカメラマンも凄いが、これは使えると直ぐに判断した美希ちゃんも凄い。

 

「キャッチコピーは『走る花嫁!』か」

 

「凄い人数のエキストラだけど、撮影大変だったんじゃないか?」

 

「あぁ、うん。まぁね」

 

 多くを語る必要もあるまい。説明面倒臭いし。第一、俺自身未だに把握しきれてないし。

 

「それにこっちも。お前の写真にしては珍しく男の反響の方が大きいらしいじゃないか」

 

「どう考えても主役は俺じゃなくて両側の二人だしな」

 

 ペラリと次のページを捲る。そこに写っているのは、赤い伊達眼鏡を着けているが相変わらず無表情の俺をセンターに、俺の腕を引っ張るようにくっついた二人の美少女。言わずもがな、りんと美希ちゃんである。

 

 いつ撮ったのかと振り返ってみたところ、どうやら公園に向かう際のやり取りの時のようだ。まさかあの時撮っていた写真が本当に使われるとは思いもしなかった。掲載されたキャッチコピーは『周藤良太郎もタジタジ? 貴方ならどっちの花嫁を選ぶ?』だ。

 

 この写真の俺に対する反響ってのは、多分ヤロー共の怨嗟の声がエコーかかってる的な意味合いでの反響だと思う。

 

「お前はともかく、二人共いい表情じゃないか。女の子が一人の男を取り合ってるようにはとても見えないぞ」

 

「……うん、そうだな」

 

 写真からはあの時感じた恐怖感は一切感じられなかった。これはカメラマンの腕が良いからなのか悪いからなのか。

 

「何にせよ、色々と疲れた撮影だったよ……」

 

 

 

 

 

 

「……えへへ~」

 

 幼馴染みでありグループのメンバーでもあるりんが壊れました。

 

「あの写真貰ってからずっとあの調子よ……」

 

 リーダーである麗華が思わずため息を吐いてしまうぐらい、りんの壊れっぷりは酷かった。

 

「一体なんの写真を貰ったんですか?」

 

 実物を見ていないマネージャーが首を傾げる。

 

「ウェディングドレスを着たりんがタキシードを着たリョウにお姫様抱っこされてる写真」

 

 雑誌には掲載されていないが、撮影終了後に個人的に撮ってもらったらしい。

 

 手元にそれが届いた時以来、りんは度々写真を見てはニヤついているのだ。

 

「ホント、恋する乙女じゃあるまいし」

 

 やっぱり気付かない麗華はズレてるを通り越して何かが外れている気がする。

 

「でも気持ちは分かります! いいなぁ、結婚……私もいつか……相手はまだいないけど……」

 

 余りにも物悲しすぎるマネージャーの言葉を聞かなかったことにして、わたしは紅茶のカップに手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

「……えへへ~なの~」

 

 同じ事務所の仲間である美希が壊れました。

 

「まぁ、気持ちは分かるよ。こんな写真を撮ってもらえたら、誰だってこうなるって」

 

 自分の手元にある写真に視線を落とす。そこにはウェディングドレスを着て良太郎さんにお姫様抱っこされるボクの姿が写っていた。写真撮影終了後に良太郎さんに頼み、全員でお姫様抱っこの写真を撮ってもらったのだ。しかもボクは念願だったウェディングドレスまで着させてもらうオマケ付きだ。

 

「いいなー! まこちんとあずさおねーちゃんとミキミキ!」

 

「真美達もドレス着たいー!」

 

「へっへー! いいだろー!」

 

「うふふ、年下の男の子にお姫様抱っこしてもらうなんて、貴重な経験だったわ~」

 

 熱狂的なファンである美希を含め、全員大満足で終わった写真撮影だった。

 

 

 

 

 

 

「それで? 良太郎的にはどっちが本命なのかな?」

 

「そんなこと言ってる余裕が本当に兄貴にあるのかなっと」

 

 そう言いつつ、からかってこようとした兄貴にとある冊子を押しつけるように渡す。

 

「ん? 何これ」

 

「結婚式場のパンフレット。撮影現場の教会で貰ってきた」

 

「……えっと、俺にはまだ必要ないかな~……」

 

「大丈夫、それと同じものを三人に送っといたから」

 

「……その三人ってのは……」

 

 そう言いかけた兄貴だったが、丁度良く鳴りだした携帯電話の着信音に口をつぐんでしまった。

 

「さてさて、一番乗りに電話をかけて来たのは誰だろうな?」

 

 冷や汗を流して携帯電話を取り出す兄貴を見ながら、俺は内心でほくそ笑むのだった。

 

 

 




・話し合いの内容?
実に平和的でした。(棒)

・お姫様抱っこ
正式名称は横抱き。女の子の夢……らしい。知らないけど。
結構腕の力が必要なので男の子は将来のために腕立て伏せを欠かさないように。

・……俺、この撮影が終わったら、あずささんの写真集買いに行くんだぁ……。
『三浦あずさ First写真集 黒髪乙女 定価1980円』

・「何事だよ!?」
良太郎にしてはまともなツッコミ。今回良太郎のボケどころ少ない……。

・『貴方ならどっちの花嫁を選ぶ?』
すみません、両方ともテイクアウトで。



今回、話は長めの割にネタは少なめでした。申し訳ない。
なんかりんと美希に圧倒されて良太郎にボケさせる暇がなかった。

駆け足気味ですがこれで結婚雑誌撮影編は終了。次回からは新しい話です。
というわけでちょっとやってみたかった次回予告をどうぞ。



 竜宮小町を筆頭に快進する765プロに、一通の手紙が届く!

 それは「芸能人事務所対抗運動会」への招待状だった!

 希望と期待を胸に、アイドル達は新たなるステージに挑む!

 しかし! そこに待ち受けていたのは、律子のかつての同期の姿だった!



「でも、元気そうで何よりだわ」

「おっす、りっちゃん! 久しぶり~!」



 彼女達は、敵か!? 味方か!?

 そして! ついに『オーガ』と『覇王』が動き出す!?



「あ、いいこと思いついた」

「あ、何か嫌な予感がする」



 次回! 『アイドルの世界に転生したようです。』第11話!

 『ランナーズ・ハイ』で、また会おう!!



※誇張してます。過度な期待はせずにお待ちください。


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Lesson11 ランナーズ・ハイ

俺の成績が上がらないのはどう考えてもりん(の可愛さ)が悪い。

今回から運動会編になります。年末の忙しさも相まって難産気味ですが、頑張ります。


 

 

 

 芸能人事務所対抗大運動会。年に一度行われ、テレビによる生中継も行われる一大イベント。

 

 かつては芸能人紅白対抗大運動会と言い、各事務所が入り交じってのイベントだった。しかし某アイドルが大暴れし過ぎたため、どげんかせんといかんとスタッフが取った苦肉の策『対抗を事務所ごとにする』により、フリーアイドルだった某アイドルは参加出来なくなったという裏話がある。

 

 つまり何が言いたいのかと言うと。

 

「アンタのせいで俺まで参加できないってこと分かってます?」

 

『何よー、私の華麗な応援合戦に対抗できるアイドルがいなかったせいでしょー?』

 

「加齢な応援合戦(笑)」

 

『おいぶっ飛ばすぞクソガキ』

 

 現在その某アイドルこと『オーガ』日高舞さんと電話中である。

 

 舞さんと知り合ったのはデビュー僅か一年後。番組出演のためにテレビ局へと出向いた際、俺の楽屋で待ち受けていたのが舞さんだった。道理で楽屋に向かう途中のスタッフがやたら脅えてたわけだよ。

 

 

 

 ――へぇ、こんなガキが私の再来ねぇ。

 

 ――ふぅん、伝説のアイドルも随分と年喰っちゃったもんだ。

 

 ――あ゛?

 

 ――あ゛?

 

 

 

 とまぁ、そんなやり取りがあったりなかったり。そうした経緯を経て、こうして気軽に電話する仲になったという訳である。これまでに何回か自宅に招待されたりもしている。

 

「大体、応援合戦以外にも色々やらかしてるでしょーに」

 

 出る種目全てで一位。キャラ的にも圧倒的に目立っており、他のアイドルが完全に霞んでいた。

 

「過去のVTR見せてもらいましたけど、何ですかアレ。芸能人紅白対抗運動会じゃなくて完全に日高舞オンステージじゃないですか」

 

『目立った私が悪いんじゃない。目立てない他のアイドルが悪い』

 

「ひでぇ」

 

 まぁ、俺もそこまで人のこと言えた立場じゃないが。

 

 とにかく、同じフリーアイドルである俺も舞さんのせいで運動会に出場出来ないのでした、ということだ。

 

「そんなことより、聞きましたよ。今年は愛ちゃんも参加するらしいじゃないですか」

 

 電話をかけた理由である本題を切り出す。

 

 日高(ひだか)(あい)。舞さんの一人娘で、876(バンナム)プロダクション所属の駆け出しアイドル。元気で明るく、大きな声と豊かに育ち始めたおっぱいが特徴の13歳。自宅に招かれたときに紹介されて以来懐かれてしまい、今では良き妹分である。

 

 その愛ちゃんが所属する876プロが芸能人事務所対抗大運動会に出場するという話を小耳に挟んだので、今回電話をかけた次第である。

 

『えぇ。愛ったら『テレビ出演のチャンスだー!!』ってはりきっちゃって。今も外に走りに行っちゃってるわ』

 

「道理で携帯にかけても繋がらないはずだよ……」

 

 携帯不携帯とか意味ないじゃないか。応援のメッセージでもと思ったんだけど。

 

『未だに大きな仕事が無いみたいだからね。少しでもチャンスを掴みたいみたい』

 

「でも、あの運動会で目立つのは相当難しそうですけどね」

 

 何せ出場アイドル全員が同じ考えなのだ。ちょっとやそっとのことじゃ駆け出しアイドルは目立つ機会すら掴めない。

 

『まぁ、無理に決まってるわね』

 

「少しは娘を信じてやろうぜ」

 

 この母親、初めから娘に期待してなかった。酷すぎる。

 

『あの運動会では、って話よ。だってあの子達も出るんでしょ? 1054プロの』

 

「魔王エンジェルですね。確かにあいつらが出るとなると、ちと厳しいですかね」

 

 歌や踊りのパフォーマンスもさることながら、容姿的にもキャラ的にもハイクオリティな三人だ。りんだけ運動神経は正直アレだが、それでも目立つこと間違いないだろう。

 

「加えて、今年は765プロも初参加ですしね」

 

『あら、ようやくあの子達も参加なのね』

 

「彼女達も中々濃いメンツが揃ってますから。いいダークホースになると思いますよ」

 

 何かやらかしてくれるんじゃないかと俺は信じてる。

 

『とにかく、アレは愛が駆け上がるべき舞台じゃないわ。結局駆け上がらないといけないなら、もっとデカイ舞台の方が効率いいに決まってるでしょ?』

 

「それが出来たら苦労しませんって」

 

 普通は下積みをコツコツ重ねていくものの筈だ。

 

『今回はどうせ無理なんだから、大きな仕事っていうものの雰囲気を感じられればそれで良しよ』

 

「まぁ、それはそうですね」

 

『愛が駆けあがる舞台は、私がちゃーんと考えてあげてるから……!』

 

「ナニソレ怖すぎる」

 

 え、実の娘になにする気だ? この人我が子を平気な顔で谷底に叩き付けそうだから余計に怖い。……何かあったら少しぐらいフォローしてあげるか……。

 

 それはそれとして、そろそろ次の現場だ。とりあえず愛ちゃんに応援のメッセージでも伝えてもらって……。

 

 

 

『あ、いいこと思い付いた』

 

 

 

 あ、嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

 芸能人事務所対抗大運動会当日がやって来た。

 

 これはこの世界の人間にとっては新たな活躍の場を得る格好のイベント。ここで目立てば世間の注目も集まり、人気も仕事も増えるはずだ。

 

 今までは参加出来なかったが、今年は竜宮小町が頑張ってくれたお陰で私達765プロも参加することが出来た。

 

 これは竜宮小町だけでなく、他の娘達の名を売る絶好のチャンス。全員気合いを入れて望まなければならない。

 

 ……だというのに。

 

「伊織! 真! ケンカしないの!」

 

「だって律子! 真が!」

 

「あれは伊織のせいだろ!」

 

 ホント頭が痛い。今更ながらこの二人を二人三脚のペアにしてしまったことを猛烈に後悔していた。

 

 まだ競技が始まってすらいないというのに、練習の時点で二人の息が全くあっていないことが判明。上手くいかないことを互いが互いのせいにしあって全く練習が進まない。

 

「ふ、二人とも、ケンカはよくないよー……」

 

「「雪歩は黙ってて!」」

 

「はぅ……!?」

 

「はぁ……」

 

 ホント、頭が痛い。

 

 さらに頭痛の種はもう一つ。

 

「美希! いつまでぶーたれてるの!」

 

「むー……何でアイドルの運動会なのに、りょーたろーさんがいないのー?」

 

「だーかーらー! これは事務所対抗の運動会だから、事務所に所属してないフリーの良太郎は参加出来ないの! 何回言ったら分かるのよ!」

 

 私の声に耳も貸さず、再びそっぽを向く美希。何でもアイドルの運動会と聞いて良太郎に会えるものだとばかり思っていたらしい。

 

 ウチの事務所への激励、そして結婚雑誌のモデルと二回の邂逅を経て、すっかり美希の良太郎熱が上昇してしまった。元々熱烈なファンだっただけあり良太郎と実際に会ったこと自体は良い影響になったらしく、今まで以上に仕事に気合いを入れるようになった。その点で言えば良太郎にしては珍しくグッジョブと言わざるを得ない。

 

 しかし、少々熱が強くなりすぎてしまったらしい。ことある毎に良太郎の昔の話を私にせがんでくるし、寝言でも良太郎の名前を呟くことが多くなった。ちなみにそれまでの寝言で一番多かったのはおにぎり。

 

 加えて、今回のこれである。

 

「はー……ホントにもう、アイツは居ても居なくても迷惑をかけるんだから……!」

 

「……プロデューサーになっても苦労してるみたいね」

 

 痛む頭を押さえていると、ふいに後ろから声をかけられた。聞き覚えのある懐かしい声、それでいてテレビでは何度も聞いた声だった。

 

「でも元気そうで何よりだわ」

 

「おっす、りっちゃん! 久しぶり~!」

 

 振り返った先にいたのは、アイドル時代の同期にして、現在のトップアイドルの一角、『魔王エンジェル』の麗華とりんだった。

 

「麗華!? りん!?」

 

「765プロが初参加って聞いたから、ちょっと顔でも出しといてあげようかと思ってね」

 

「……ま、魔王エンジェルの麗華さんとりんさん……!?」

 

「わわ、初めて間近で見た……!」

 

 現トップアイドルの突然の登場に、事務所のみんなも驚いていた。美希達、結婚雑誌撮影組だけはりんと会ったことがあるが、他のメンバーは初対面なので緊張した面持ちだ。

 

「わざわざありがとう。本当だったら、私達が挨拶に行かないといけないんだろうけど……」

 

「挨拶に行くべき人数が多すぎてやってらんないでしょ。気にしなくていいわ」

 

 昔のよしみだしね、と麗華は髪をかき上げる。

 

「そういえばともみは?」

 

 一人欠けていることに気付く。全くないことではないとは言え、このコンビだけというのも珍しかった。

 

「ともみだったら……」

 

 

 

『越えたー! 魔王エンジェルのともみ選手、160cmを跳びました!』

 

 

 

「競技の真っ最中よ」

 

「みたいね」

 

 というか走り高跳びで160cmって……よくまぁあんな軽々と跳べるものね。

 

「ともみは凄いなー、運動神経抜群で。アタシなんかコレが重くて運動苦手だし。スレンダーな麗華が羨ましいよ」

 

「オイコラ何が言いたい」

 

 自らの大きな胸を腕で下から持ち上げるりんに、麗華はこめかみに青筋を浮かべる。

 

「べっつにー? 細い麗華が羨ましいって話をしてるだけじゃん? ……あ、ウェストサイズはあんまり変わんなかったっけ」

 

「よしそのケンカ買った」

 

「ケンカなら余所でやって」

 

 

 

 麗華が落ち着いた辺りで、競技を終えたともみもこちらにやって来た。

 

「ブイ」

 

「さっすがともみ! ダントツで一位だったね!」

 

「うぅ、勝てなかったぞ……」

 

「それでも二位だったんだから、大健闘よ」

 

 薄い表情ながら満足そうなともみに対し、同じ走り高跳びに出場していた響が意気消沈していた。

 

「わたしは身長が高かっただけ。その身長で、しかも胸の重りまで付いてるのに155cmを跳んだ君の方がすごいよ」

 

「アンタまでそれを言うか!」

 

「?」

 

 恐らく純粋に響を慰めようと思ってかけたともみの言葉に、麗華が過剰反応する。ともみは何の話か分からず首を傾げていた。

 

「いくらなんでも気にしすぎでしょ」

 

「毎度のごとくアイツに弄られてるのに、気にしないってのが無理なのよ……!」

 

「麗華、胸を弄られてるってなんかヤらしー」

 

「うっさいわね!」

 

「……ともみのさっきの言葉もそうだったけど、アンタら良太郎に染まりすぎでしょ」

 

 もしくは毒されてると言うべきか。

 

「ホント!? アタシ、りょーくんに染まってる!?」

 

「うん、そうだね。りんはちょっと静かにしてようね?」

 

 爛々と目を輝かせるりんはともみに任せておく。

 

「何だかんだ言って既に四年の付き合いよ……何かしらの影響が出てても驚かないわ……」

 

 そんな台詞とは裏腹に、麗華は悲痛な表情を隠すように顔を手で覆う。

 

「目を付けられた以上、どうせアンタらも良太郎に染まる運命よ……」

 

「ホント!? ミキもりょーたろーさんに染まるの!?」

 

「うん、そうだな。美希はちょっとこっち来てような?」

 

 キラキラと目を輝かせる美希は響に任せておく。

 

「アイツは周りの人間に何かしらの影響を与えないと気がすまないのかしら」

 

「薬にも毒にもなる影響……いや、毒にしかならない薬ね」

 

「それ、薬は薬でも毒薬っていう劇物だぞ……」

 

 冷や汗を流す響を他所に、私と麗華は同時にため息を吐くのだった。

 

 

 

 ホント、今日は良太郎が居なくて良かったわ……。

 

 

 

(……あれ、これってフラグ?)

 

 

 




・芸能人事務所対抗大運動会
残念ながらアイドル以外の部門もあるのでポロリはありません。

・「俺まで参加できないってこと分かってます?」
まさかの主人公、運動会不参加である。

・日高舞
日高愛の母親にして伝説のアイドル。
わずか3年の活動期間で、16歳で引退したにも関わらず数々の記録を残した公式チートキャラ。
現在は13歳の娘を持つ29歳の母親。父親は明言されておらず、シングルマザー説が有力。
あまりのチート加減から、かの有名な地上最強の生物「範馬勇次郎」になぞらえて『オーガ』などと呼ばれている。

・「加齢な応援合戦(笑)」
そしてその舞さんにこんなことを言ってのける主人公もチートキャラ。
まぁ、二次創作ですし(メメタァ)

・『目立った私が悪いんじゃない。目立てない他のアイドルが悪い』
当たり前のことのはずなのに、この人に言われると何か釈然としないものを感じる。

・『あ、いいこと思い付いた』
悪 魔 の 閃 き

・「「雪歩は黙ってて!」」
鉄板のやり取り。……のはずなんだがアニメだとここ以外で見た記憶がない。

・「よしそのケンカ買った」
麗華のCVは今野宏美さん。主なキャラとしてアマガミの中多紗江……こんなところにも格差が……。

・「胸を弄られてるってなんかヤらしー」
実は第二話辺りからずっと思ってて、その表現を出来るだけ避けていたのだがネタとして採用。
今のところ良太郎のパイタッチイベントは考えておりません。

・「アタシ、りょーくんに染まってる!?」
ダメだこのりん、早くなんとかしないと。

・「ミキもりょーたろーさんに染まるの!?」
ダメだこの美希、早くなんとかしないと。

・(……あれ、これってフラグ?)
当然フラグです。



ついにみんな大好きオーガ登場。
現在どのタイミングで「ディアリースターズ」タグを入れるのか検討中。


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Lesson12 ランナーズ・ハイ 2

【悲報】主人公以外に既出キャラの出番なし


 

 

 

「……ハ……ハ……ハスターッ!」

 

 くしゃみです。誰かに噂されてるような気がする。これは知り合いの誰か、多分麗華かりっちゃん辺りだろう。

 

 現在俺は何処に居るのかと言うと、芸能人事務所対抗大運動会会場の、とある芸能人の楽屋前である。伊達眼鏡と帽子を装備中なので途中何人かのスタッフに止められたが、ちょっとお願いしたら快く通してくれた。いやー、人付き合いって大切だね。

 

 さて、この楽屋にいるのは俺の知り合いなので、激励を兼ねて今からサプライズを敢行しようと思う。別にいいよね? 答えは聞いてない!

 

 と言うわけで突貫!

 

 

 

「アァァァダァァァモォォォスゥゥゥテェェェ!!」

 

 

 

「おわぁっ!?」

 

 勢いよくドアを開けて中に入ると、驚き声と共にサプライズ対象の一人が椅子から転げ落ちた。どうやらサプライズは成功したらしい。ヤッタネ!

 

「誰だ!? って、おま、周藤良太郎!?」

 

「やぁやぁ、ジュピターのお三方、久しぶりだね」

 

 この楽屋の主こそ、現在人気うなぎ登りの男三人組ユニット、961プロの『Jupiter(ジュピター)』である。

 

「あ、りょーたろーくんじゃん。イェーイ!」

 

「おぉ、翔太。イェーイ」

 

「チャオ、良太郎君」

 

「おっす、北斗さん。今日もソフトモヒカン決まってるね」

 

 御手洗(みたらい)翔太(しょうた)とハイタッチをし、伊集院(いじゅういん)北斗(ほくと)と挨拶を交わす。何度か同じ番組で共演したこともあり、この二人とは比較的仲がいい。

 

 問題はこっちである。

 

「どうしたんだ、そんな椅子から転げ落ちたような格好で。……えっと、鬼ヶ島(おにがしま)羅刹(らせつ)

 

天ヶ瀬(あまがせ)冬馬(とうま)だ! いい加減覚えろ! 周藤良太郎!」

 

「さんを付けろよでこ助野郎。お前より年も身長も上なんだぞ」

 

「年はともかく学年は同じだし、身長も同じ175cmだろうが!」

 

「プロフィールの数字はサバ読んでるんだ。本当は182cm」

 

「オメーが北斗よりデカイ訳ねーだろ! 意味ねー嘘吐くな!」

 

 ジュピターのリーダー、天ヶ瀬冬馬。デビューした時から突っかかってくる困ったルーキー君だ。折れずに何度も噛みついてくるその姿勢は大変評価しているのだが、流石にそろそろ諦めてくれないだろうか。

 

 いや、噛みついてくること自体はいいんだよ? 麗華だって未だにヤル気満々だし。ただ、ところ構わず噛みついてくるのは少々マナー違反じゃないかとお兄さんは思うのですよ。

 

「それで、りょーたろーくんはどうしてここに?」

 

「ん? いや、暇だったから遊びにきた。知り合い沢山いるし」

 

「そんな理由かよ!?」

 

「わざわざ陣中見舞いに来たんだぞ? 早急なおもてなしを要求する。ほら、お茶くれお茶」

 

「この野郎……!」

 

 等と言いながらしっかりとお茶を用意してくれる冬馬。何だかんだ言って根は素直なんだろう。どうして俺にはこんな刺々しいんだか。

 

 冬馬が淹れてくれたお茶を飲みつつ四人で一息つく。

 

「三人は運動会自体には参加しないんだっけ?」

 

「あぁ。でもお昼のステージにゲストとして呼ばれててね」

 

「女の子達の前で歌うんだー!」

 

 大人気のジュピターなら観客や女性アイドルも大喜びだろう。

 

「本当は普通に出場する予定だったんだけど、社長の方針でこうなってね」

 

 そう苦笑いする北斗さん。

 

 ふむ、留美さんから聞いた事前情報とおんなじだな。……まさか本当に情報をリークしてくるとは思わなかったけど。なんか普通に世間話の流れで「実は社長の方針でうちのジュピターも参加せずに、ステージにだけ立つんですよ」と言われた時は思わず軽く流しかけたが、よくよく考えたらこれって結構不味いことのような気がする。これからはもう少し抑えるようにしてもらおう。

 

「俺は参加しようにもできないからなー。何処ぞの誰かさんが十年以上前にやらかしてくれたせいで、フリーアイドルには声すらかからない」

 

 出場出来たら八面六臂の大活躍間違い無しだったのに。

 

「そう言えばあんまりそういう番組に出てるの見たことないけど、りょーたろーくんって運動得意なの?」

 

「そりゃあもう。友達の家の道場で軽く剣の稽古つけてもらってたからな。体力には自信ありだ」

 

「剣だぁ?」

 

「あ、お前信じてないな。俺の友達の父親が喫茶店のマスターをやってる二刀流剣士でな……」

 

「まずその二刀流剣士っていう肩書の時点で信憑性がないんだよ!」

 

「別に二刀流剣士なんて珍しいもんじゃないだろ? なぁ、翔太」

 

「そこで僕に話を振る理由がよく分からないんだけど」

 

 え、翔太も二刀流剣士じゃなかったっけ? スターバーストなんとかっていうセリフが似合いそうな声をしてるけど。ちなみに冬馬は月まで届くパンチが撃てるロボットに乗ってそうで、北斗さんは……なんだろう、音楽教師の女性が昔ヘヴィメタルを始めるきっかけになった男の人みたいな声をしてる気がする。

 

「とにかく、剣術は教えてもらえなかったが基礎体力と基本的な剣の振り方はしっかりと身に付いたぞ」

 

 あの道場、俺以外の転生者なんじゃないかって思うぐらい身体能力がずば抜けた人達ばっかりだから、指導者に関しては一切事欠かなかった。おかげでそこら辺のダンストレーニングで得られる以上の基礎体力が付いたと思う。ついでにナイフを持った人間三人ぐらいに囲まれても対処できるぐらいにはなった。

 

 ……いや、俺もここまでする必要ないんじゃないかと思ったんだが、今の俺の立場って結構護身術重要だからね。前世にもファンに刺されてお亡くなりになられた有名人とかいたし。今となっては兄貴の方がこの護身術必要……あ、ダメだ、一人拳銃持ってる。

 

「りょーたろーくんがあれだけ激しいダンスを何曲も踊っても全然息切れしない理由はそんなところにあったのか……」

 

「まぁ、最近はあんまり行けてないんだけどな。受験勉強とかしないといけないし」

 

 結局兄貴や先方の方々と話し合った結果、出来るだけ近くてそこそこの偏差値の大学を受験することにした。おかげで受験終了までライブやツアーは一切出来なくなってしまったが。

 

「はっ、そんなことのんびりとやってたら、あっさり俺達が追い抜いちまうぜ」

 

「とーま君のこのセリフ何回目だっけ?」

 

「少なくとも十回は聞いたな」

 

「おめーらよぉ……!?」

 

 仲間からも弄られる冬馬は本当にジュピターの善きリーダーです。

 

「っていうか、お前はどうするんだよ」

 

「………………」

 

 おいこっちを見ろよ高校三年生。

 

「でもまぁ、うかうかしてられないってのは同意かな」

 

「お? ……その感じだと、新しく周藤良太郎のお眼鏡にかかった子でも現れたのかい?」

 

「まぁね。今日もこの後会いに行くつもり」

 

「もしかして『新幹少女(しんかんしょうじょ)』?」

 

「誰?」

 

「あ、うん、何でもない」

 

 聞いたことはある気がするが、いまいち記憶に残ってない。……テレビに映ってた……かな? 竜宮小町が出演する番組に変える前のチャンネルにチラッと映ってたような気がしないでもない。ダメだ、おっぱい大きな娘がいないアイドルグループは一切覚えていない。

 

「うーん、魔王エンジェルは言うまでもなく良太郎君のお気に入りだし……」

 

「他にいたか? 最近出てきた奴らでそんなの」

 

「もちろんいるさ。大粒の原石がゴロゴロと」

 

「原石ねぇ……」

 

 あ、冬馬が信じてない目をしている。

 

「いいか? 原石ってのは磨かないとただの石で、磨くと光る宝石になる」

 

 けどな。

 

「本物の原石ってのはな、宝石なんてちゃちなもんじゃねぇ。一回磨けば、後は自分の力で光り出すんだよ。周りから光を当てなくてもな」

 

 そういうの、何て言うと思う?

 

「……何だよ」

 

 

 

「……偶像(アイドル)じゃなくて、(スター)って言うんだよ」

 

 

 

 

 

 

「……勝てなかったよぉ……」

 

 気合い十分で挑んだ100m走だったが、結局三位。随分と中途半端な順位に終わってしまったため、目立つことすら出来なかった。

 

「ドンマイ、愛ちゃん」

 

「こ、声の大きさじゃ負けてなかったよ」

 

 876プロに宛がわれたスペースに戻ると水谷(みずたに)絵里(えり)さんと秋月(あきづき)(りょう)さんに出迎えられた。

 

「はぁ……少しは予想してたけど、全然テレビに映れませんね……」

 

「仕方がないよ。わたし達よりも有名なアイドルが沢山出てるんだから」

 

「出場出来たこと自体が奇跡だからね」

 

 本来、一定の知名度がなければオファーがかからないこの芸能人事務所対抗大運動会。まだまだ無名もいいところのあたし達が参加できたのは、本当に偶然参加者の空きが出来たから。社長がその枠にツテとコネを利用して無理矢理捩じ込んでくれたお陰である。

 

 社長曰く、一度くらい本物の世界を見てくるといい、とのこと。

 

 折角のチャンスに見るだけではダメだ。出るからには目立たなくては!

 

 あたしは、伝説のアイドルと呼び声高い日高舞の娘だ。とあるオーディションに行けば「あの日高舞の娘」と呼ばれ、別のオーディションに行けば「あの舞さんの娘さん」と呼ばれる。いつでもあたしにはママの名前が付きまとう。別にそれを疎ましく思っているわけじゃないが……それでも、あたしは「日高舞の娘」ではなく「日高愛」になりたいのだ。ママの名前ではなく、あたしはあたしの名前でアイドルになりたいのだ。

 

 

 

 あたしが憧れる、若き頃のママの姿。そして、尊敬するりょーおにーさんのような……。

 

 

 

 ……そう意気込んで出場したにも関わらず、結果はご覧の有り様だ。

 

「それに引き換え、765プロの皆さんは凄いなぁ……」

 

 人気上昇中の竜宮小町の三人を筆頭に、他の皆さんも最近ちょくちょくテレビや様々なメディアで見かけるようになった。この運動会でも様々な場面で目立っており、注目度はこれまた最近人気の新幹少女に負けていない。

 

「愛ちゃん、わたし達もまだまだこれからだよ」

 

「そうそう、みんなで頑張ろう」

 

「……そうですね! まだまだこれからですよね!」

 

 押してもダメなら、押し破っちゃえば何とかなる! こんなところで落ち着こむのは、あたしらしくない!

 

「それで、次の競技はなんですか!?」

 

「あ、次はチアリーディングだけど、お昼のステージの後だからしばらく休憩だね」

 

 早速出鼻を挫かれました……。

 

 

 

 

 

 

 コンコンッ

 

 一分近くジュピターの三人は黙ってしまっていたが、楽屋のドアがノックされたことにより我に返ったようだ。

 

「そろそろ準備お願いしまーす」

 

 外からそんなスタッフの声が聞こえてくる。

 

「おっと、そろそろお仕事の時間だな。是非とも頑張って来てくれ」

 

「……あ、うん。もちろんだよ」

 

「良太郎君も、よかったら僕達のステージ見ていってね」

 

 立ち上がった翔太と北斗さんに向かって手を振って見送る。

 

 しかし、何故か冬馬だけ顔を俯かせたまま立ち上がらない。

 

「どうした?」

 

「……一つ聞きたい」

 

「ん?」

 

「……お前は、どっちなんだ?」

 

 というと?

 

「お前は……アイドルか? ……それともスターか?」

 

 そう尋ねながら顔を上げた冬馬の表情は、いつのも挑戦的なものではなく、久しぶりに見た真っ直ぐで純粋な一人の少年の目だった。

 

「俺はアイドルか、スターか、ね」

 

 

 

 そんなもん、決まっている。

 

 

 

「俺は――」

 

 

 




・ハスターッ!
ここでSANチェックです。さらにアイデアロールで成功してしまうと、このくしゃみに隠された意味に気付いてしまい『一時的な狂気』に陥ってしまうのでご注意ください。

・答えは聞いてない!
この世界の良太郎には常にクライマックスなモモタロスと人の答えを聞かないリュウタロスの両方が憑依しているようです。

・「アァァァダァァァモォォォスゥゥゥテェェェ!!」
ハーニマカセ、ホニマカセー! ペイッ!

・『Jupiter』
アイマスに登場する唯一の男性アイドルグループ。
何か各キャラごとの絡みが原作ではあるみたいなんだけど、原作未プレイな作者は知らないのでそんなこと気にせず行きます。

・鬼ヶ島羅刹
公式ネタ。どう間違えたらこうなるんだか。

・182cm
具体的な数値が欲しかったので既存のモバマスキャラのものを使用。
にょわー。

・喫茶店のマスターをやってる二刀流剣士
Lesson06以来のとらハネタ。この世界の士郎さんもとりあえず強いです。

・え、翔太も二刀流剣士じゃなかったっけ?
所謂『中の人ネタ』
翔太は「ソードアート・オンライン」のキリト。
冬馬は「創聖のアクエリオン」のアポロ。
北斗は「けいおん」のさわちゃんの初恋の男子生徒。
……神原さん、俺の知ってるキャラ全然やってないんだよ。

・『新幹少女』
どうやら主人公の記憶には残っていないようです。

・偶像じゃなくて星
元ネタは「神のみぞ知るセカイ」での桂馬のセリフ。
賛否両論あるセリフだと思いますが、出来れば主人公の答えを聞いてからのご意見をお願いしたいです。

・876プロ
DS版『Dearly Stars』の舞台となるプロダクション。
この世界での愛ちゃん達の年齢は原作通りの年齢となっております。



ちょっとだけシリアスな感じ。今回の話はちっとだけ真面目なテーマで行きます。

メリークリスマス。


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Lesson13 ランナーズ・ハイ 3

難産のくせに短めでクオリティー低し。


「いいなぁ……」

 

 お昼のステージ。竜宮小町と魔王エンジェルが並んで立っていた。先ほど、108(テンハ)プロダクションの『アルトリ猫』も含めた三つのアイドルグループによるミニステージが行われ、今は三グループ並んで司会者からインタビューを受けている。

 

「魔王エンジェルの隣に並んでるってだけでも凄いのに、さらにその隣にはアルトリ猫の三人もいるよー!」

 

「えー? 私、あずささんの腕しか見えませんー!」

 

 765プロに宛がわれた位置は丁度ステージの裏側に近かったため、首を伸ばさなければステージの上の様子を覗うことが出来なかった。しかし声だけはスピーカーを通してしっかりと自分達に届いていた。

 

 

 

『あたしは運動苦手だからあんまり競技では活躍できないけどー、その分ステージも頑張ったし、後は足が速い麗華に全部お任せってことで!』

 

『アンタことあるごとにそれ言っているけど、私別にそう足が速い訳じゃないわよ?』

 

『え? でも空気抵抗は少ないでしょ? 重い荷物も持ってないし』

 

『私、さっきも言ったわよね? ケンカだったら買うって』

 

『大丈夫、麗華。胸が小さいことは悪いことじゃない』

 

『ともみアンタ言ったな!? 私のっ! 胸がっ! 小さいって言ったなぁぁぁ!?』

 

 

 

「何なんだこのコント」

 

 思わずそう呟いてしまった。先ほどもやっていた魔王エンジェル三人のやり取り。姿が見えずとも、般若の形相の麗華さんが何を怒っているのか分かっていないともみさんに詰め寄り、その様子を見てりんさんが笑っている、そんな光景が容易に予想できる。

 

 しかし会場の観客には大変受けていた。おかげで同じステージ上の竜宮小町やアルトリ猫達が若干霞んでしまっている。

 

「これが、トップアイドルの実力……!」

 

「いや、雪歩。こんなところにトップアイドルの実力を見出すのは何か間違ってると自分思うぞ」

 

 少なくとも、麗華さんは不本意以外の何物でもないだろう。

 

「しかし、観客の方々が大いに沸いているという点で見れば、雪歩の言っていることも間違ってはいないのではないでしょうか」

 

 むむ、貴音の言うことにもそれはそれで一理あるかもしれない。お高くとまっているアイドルよりも、こういうアイドルの方が確かに人気が出そうだ。というか、現に出ている訳で。

 

(……でも、こう、何か違うような気がするぞ……)

 

 これを認めてしまったら、律子や麗華さんを裏切ってしまうような、将来的に自分が割を食うような、そんな気がしてならない。

 

 その時、不意に会場の照明が暗くなった。

 

『ここで! 女性ファンに嬉しいゲスト! 『Jupiter』の三人の登場です!』

 

 次の瞬間、会場全体から黄色い声が上がる。ステージの上に現れたのは、人気急上昇中の男性アイドルグループだった。

 

「あ、ジュピターだ!」

 

「最近凄い人気だよねー」

 

「私、一回だけ会ったことあるよ」

 

「え? 春香、何処で?」

 

「えっと……テレビ局で、ちょっと」

 

 良太郎さん以外の男性アイドルにあまり縁がない765の仲間達は少し盛り上がる。

 

「……こんなアイドル出すぐらいならりょーたろーさんの方がいいの」

 

「美希、仮にもジュピター相手にこんなってのは流石に言い過ぎだと思うぞ」

 

 そしてそんなことを不満げに呟く美希は相変わらずだった。

 

 

 

 

 

 

『ジュピターのお三方、ありがとうございました! それでは――』

 

 バンッ

 

 それはジュピターのライブ終了と同時だった。突然、会場の照明が落ちたのだ。先程のジュピターの時と同じだが、全く同じ演出をするとは思えない。

 

『えっと……またしても暗くなりましたが、少々お待ちください』

 

 司会の人にも予想外の出来事だったらしく、明らかに狼狽えている。参加しているアイドルや観客もザワザワとしており、会場全体が突然の事態に混乱している様子だった。

 

 ……何だろう、自分、スッゴい嫌な予感がするぞ……。

 

 

 

 

 

 

 この時、嫌な予感がしていたのは響一人だけではなかった。

 

(((……嫌な予感……)))

 

 麗華、律子、冬馬の三人も、一抹の不安を感じていた。

 

 そして、その不安は的中することとなる。

 

 カッ

 

 スポットライトに照らされ、会場のど真ん中に一人の少年の姿が浮かび上がる。

 

 

 

『……会場の皆さん、人気急上昇中のジュピターのライブの後で既にお腹一杯かもしれませんが……』

 

 

 

「……え」

 

 それは、一体誰の呟きだったのか。

 

 

 

『デザートに、周藤良太郎はいかがですか?』

 

 

 

 そこに立っていたのは、現在の日本でアイドルの頂点に君臨する少年……周藤良太郎だった。

 

 

 

「「「何やってんだお前ぇぇぇ!?」」」

 

 

 

 三人の魂が籠った渾身の叫び声は、会場全体を包み込んだ爆発するかのような大歓声に掻き消された。

 

 

 

 

 

 

「マジ何やってんだよアイツ……!?」

 

 いつからそこにいたのか全く分からないが、良太郎が会場のど真ん中でスポットライトを浴びながら立っていた。どうやらスタッフも一切このことを知らなかったらしく、全員良太郎の登場に混乱していた。……一部の女性スタッフは我を忘れて歓喜しているようだが。

 

『どうも皆さん、突然お邪魔します。いや、本当だったら事務所に所属していないから参加出来ないんですけど、思わず来ちゃいました』

 

 マイクを通して聞こえる良太郎の声は、心なしか楽しそうに聞こえる。

 

 

 

 ――す、周藤良太郎!?

 

 ――おいマジかよ本物かよ!?

 

 ――ちょ、ちょっと私にもオペラグラス貸してよ!

 

 ――ちょ、馬鹿待て揺するなって!

 

 

 

 新幹少女を応援していた男性ファンも、俺達に色めき立っていた女性ファンも。会場に来ていた観客全員が良太郎の登場に沸き上がる。そこに年齢や性別は関係ない。勿論それはアイドル達も例外ではなく、自分達の頂点に立つ存在、憧れのトップアイドルの姿に歓喜していた。

 

 そんな周囲を他所に、混乱の張本人である良太郎はいつもと変わらぬ様子で周りに向かって手を振っている。途中、こっちに気付いてブイサインをかましてきやがった。あんにゃろう……!

 

『いやいや、飛び入り参加を許してくれたスタッフの皆さんには大変感謝してます』

 

 むしろお前は感謝だけで済ますつもりなのかと言いたい。

 

『感謝すると同時に、話をしてから十五分でここまで対応してくれたスタッフの迅速さにビックリしてます。いやぁ、随分とお仕事早いですね、ここのスタッフさんは』

 

「十五分!?」

 

「ってことは、俺達の楽屋出てから交渉始めたのかよ!?」

 

 やはりこいつ馬鹿なんじゃなかろうか。

 

『そんな優秀なスタッフさんに感謝しつつ……一曲、お付き合い願いましょうか』

 

 その良太郎の言葉に合わせるように、会場のスピーカーから音が流れ始める。

 

 

 

 その瞬間、会場は周藤良太郎に染め上げられた。

 

 

 

 曲は、良太郎の代表曲。何の才能もない少年が、生まれ変わってアイドルになる物語。話では良太郎自身が作詞したそうだ。

 

 

 

『声上げろ! Hey!』

 

『Hey!』

 

 

 

 良太郎の掛け声に合わせて会場全体が揺れる。その歌が、ダンスが、観客全員の心に叩き付けられる。

 

 照明が落ちた暗い会場で、良太郎は一人スポットライトを浴びている。

 

 それはまるで夜空に輝く(スター)のようで……。

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 ――俺は、自分にアイドルの才能があると自覚している。

 

 ――でも、持っているだけでそれ以外はそこら辺にいる人間と変わらない。表情を持ち合わせていないだけの、ただの人間。

 

 ――それでも俺が今ここにいるのは、笑顔になってくれる人がいるからだ。

 

 ――俺の歌を喜んで聞いてくれる人がいる。俺の踊りを楽しんで見てくれる人がいる。

 

 ――俺は、自分が誰かを照らしているなんて考えたことは一度も無い。

 

 ――誰かを笑顔にするために、歌う訳じゃない。

 

 ――誰かが笑顔になってくれると信じているから、歌う。

 

 ――だから、俺は偶像(アイドル)

 

 ――(ファン)に照らされて輝く、偶像(アイドル)なんだよ。

 

 

 

 

 

 

 良太郎は、会場のど真ん中で悠々と一曲を歌いきった。再び会場が大歓声に包まれる。

 

『今日は俺の我儘にお付き合いいただき、本当にありがとうございました! 急遽対応していただいたスタッフさんにも多大なる感謝を! ご来場の皆さん! そしてテレビの前の皆さん! 引き続き芸能人事務所対抗大運動会をお楽しみください! 以上、周藤良太郎でした!』

 

 割れんばかりの大歓声をその身に受けながら、良太郎は走って会場から退散していった。

 

「ホント、嵐のように去って行ったね……」

 

 ともみの言葉の通り、嵐のように現れて嵐のように去り、そしてこの会場にいる全員の心に爪痕を残していった。最近大人しかったと思ったら、こんなところでこんなでかいことを仕出かすとは……。

 

(……ん?)

 

 ふと疑問に思った。何故良太郎はこんなことを仕出かしたんだ? 「面白そうだったから」というふざけた理由も考えられるが、今回に限ってそれは無いような気がする。

 

 何故なら、この会場には駆け出しの若手アイドルが大勢いるからだ。

 

 最近の良太郎のお気に入りである765プロ。妹のように可愛がっている日高愛が所属する876プロまで参加しているこの運動会。あの周藤良太郎が飛び入りでゲリラライブなんて真似をしたら、注目を全てかっさらってしまうことはほぼ確実。そんなことをしてしまったら、他のアイドルが目立つ機会が少なくなってしまう。普段はアレだが、それが分からないほど良太郎はバカじゃないはずだ。

 

 世間では『覇王』やら『四文字で悪鬼羅刹、五文字で周藤良太郎』などといったイメージを持たれる良太郎だが、後輩アイドル達の出番をわざと奪うような真似だけは絶対にしない。

 

 なのに何故、今回このような行動に出たのだろうか。

 

「……ねぇ、どうして良太郎、こんなことしたと思う?」

 

「え? ……おもしろそうだったから?」

 

「やっぱり普通はそう考えるわよぇ……。りんはどう思う?」

 

「はぁ、りょーくん……!」

 

 あ、ダメだ、こいつまだトリップしてる。

 

「ほら、とりあえずまだ運動会は続くんだから、さっさと帰るわよ」

 

「この後は、チアリーディングだね。わたし達は参加しないけど」

 

 未だに目がハートのりんを引きずり、私達は1054プロのスペースへと帰るのだった。

 

 

 

 あ、マネージャー、携帯持ってきて、私の。

 

 

 

 えっと、『話があるから来い。逃げたらコ○ス』っと……送信。

 

 

 




・『アルトリ猫』
織香、ミシャ、シュレリアの三人で構成された108プロダクションのアイドルグループ。
ヒュムノスという特殊な言語を用いた謳を歌う。
元ネタはガストとバンダイナムコゲームスの共同開発したRPG『アルトネリコ』
数多くのアイドルキャラがいる中で、ここをチョイスしたのは完全に作者の趣味である。

・「何なんだこのコント」
良太郎がいなくても常に三人は結局この調子。麗華さんは不憫キャラで通っています。

・将来的に自分が割を食うような
※やはりフラグです。

・ジュピターのお三方、ありがとうございました!
オ ー ル カ ッ ト !

・『デザートに、周藤良太郎はいかがですか?』
晩御飯を食べたらデザートにホールケーキが一人一個出てきました的な。

・いやぁ、随分とお仕事早いですね
ジェバンニが十五分でやってくれました。

・良太郎の代表曲
ちょいとネタが仕込んであるのでここでは深く言及しません。

・俺は、偶像だ。
ようするに鶏が先か、卵が先かって話。
良太郎が輝くからファンが笑顔になるのか、ファンが笑顔になるから良太郎が輝くのか。
捉え方の違いですが、良太郎はこう考えています。

・何故、今回このような行動に出たのだろうか。
今回はちょっとシリアス続きになりそうです。

・『話があるから来い。逃げたらコ○ス』
可愛いアイドルからの呼び出しメール!
これには純情な男の子のハートも(恐怖で)ドッキドキだ!



若干遅くてクオリティが低いのはシリアス気味なせい。
ポケバンクが繋がらないことは一切関係ありません。


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Lesson14 ランナーズ・ハイ 4

まだまだ続く運動会編。ナガイナー。


 

 

 

「『だが断る』っと……送信」

 

 おぉ、直ぐ様反応があった。しかも電話だし。メールの返事に電話をかけることが最近の流行りなんだろうか。

 

 とりあえず通話っと。

 

「現在この電話は使われておりません。もしくは呼び出しに応じるつもりがありません。『ふざけんなコラ』という言葉と共に通話が終了しますので、しばらくした後にかけ直してください」

 

『ふざけんなコラ――!』

 

 ピッ

 

「さてと、これでオッケー」

 

 携帯電話の電源を落としてからポケットにしまう。後が怖いが、これでしばらくは自由だぞ。しばらくシリアスな空気とかやりたくないでござる。

 

 さてさて、現在俺は再び伊達眼鏡と帽子を装着して会場をウロウロしていた。大勢の観客がいるスタンド周りを歩いていても、相変わらず全く気付かれる様子がない。本当に便利だなこれ。

 

 売店で買ったアイスコーヒーで喉を潤しつつ、観客席側から会場のステージを見下ろす。

 

 ステージでは現在、様々な事務所のアイドル達によるチアリーディングが行われている。麗華達は参加していないが、765プロからは春香ちゃんと響ちゃん、876プロからは愛ちゃんと涼が参加している。

 

 いやはや、いいもんですなぁ、うら若き乙女達のチアリーディング。

 

 他の面子と比べてもちっちゃな響ちゃんと愛ちゃん。元気一杯にポンポンを振っている姿を見ると、保護欲が沸いてくるというか、グリグリと頭をなで回したい衝動に駆られる。あと揺れる乳とチラリと覗く太ももが堪らない。

 

 春香ちゃんも同年代の娘と比べたら結構胸ある方だと思うんだけどなぁ。……周りが化け物揃いなせいで影が薄くなりがちだが。それよりも、春香ちゃんの特徴はやっぱり笑顔だよな。なんというか、こう、正統派アイドルって感じがする。

 

 涼は……うん、たまに忘れそうになるけど、あれ男なんだよな。事前情報無かったら絶対分かんなかった。茶色のショートボブといい、ハスキーな女性のような声といい、男子校でモテモテという話も頷けるよ。微塵も羨ましくないけど。秋月家の方針だかなんだか知らないけど、りっちゃんも従弟に対して随分と酷なことするなぁ。

 

 さて、いい目の保養になったチアリーディングもそろそろ終わりだ。今から移動して、愛ちゃん達のところに顔出しに行くかな。

 

 ……って、あ! 春香ちゃんが響ちゃんを巻き込んで転んだ!

 

 チラリは!? ポロリは!?

 

 

 

 

 

 

 チラリなんてなかった。ちくせう。

 

 チアリーディングが終わり、アイドル達の昼休憩と相成った。俺も売店のホットスナックを軽く腹に入れ、愛ちゃん達876プロに宛がわれた場所へ向かう。当然関係者以外立ち入り禁止だが、堂々と歩いているため逆に怪しまれない。疚しいことがなければどうってことないさ! あ、あの娘おっぱい大きい。

 

「確かスタッフはこっちって言ってたよなー……っと、居た居た」

 

 既にチアの格好から着替えてしまっていたが、間違いなく愛ちゃんと涼だった。

 

「おーい! 愛ちゃーん! 涼ー!」

 

 手を振りながら二人の名前を呼ぶ。

 

 どうやらこちらに気付いたようだ。愛ちゃんは手にしていた大きな包みを涼に預けると、こちらに向かって満面の笑顔でダッシュしてきた。

 

 来るなら来い! 足を肩幅に開いて愛ちゃんを待ち受ける。

 

「りょーおにーさーん!!」

 

 ズドーンという擬音が聞こえてきそうな勢いで、愛ちゃんが突っ込んできた。いくら愛ちゃんがちっちゃくて軽いとはいえ、人一人が勢いよく突撃してきたらその衝撃は凄まじいものだ。

 

 だがしかし、高町ブートキャンプを乗り越えた俺に抜かりはない。衝突する軸を中心からズラし、クルリと回るように力を受け流しながら愛ちゃんを抱き抱える。

 

「りょーおにーさん久しぶりですー!!」

 

「久しぶりだねー、愛ちゃん」

 

 その場でクルクルと二回転ほどしてから愛ちゃんを下ろした。やわっこかったです。

 

「さっきのステージ格好よかったです!!」

 

「ありがと。愛ちゃんもチアリーディング可愛かったよ」

 

「ありがとうございます!!」

 

 うん、相変わらず愛ちゃんは元気がいいね。声の大きさも相変わらずだ。すぐ側にいるんだからもう少し声のボリュームを落として欲しいかなー。

 

「良太郎さん」

 

「涼も久しぶり。チアリーディング可愛かったぜ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 愛ちゃんの頭をグリグリと撫でながら、近寄ってきた涼も褒めておく。それに対して涼は苦笑い。まぁ、男だって知っててわざと言ってるからな。

 

「いきなりだったからビックリしましたよ」

 

「サプライズなんだから当たり前だろ」

 

「律子姉ちゃんも怒り心頭ですよ、きっと」

 

「……やっぱりそうかな?」

 

 麗華もぶちギレてたみたいだし。これぐらいの茶目っ気は許してもらいたいもんだ。遊び心がなくっちゃアイドルなんてやってられないって。

 

「それはもう、いきなり殴りかかってくるんじゃないですかね」

 

 ん? 何やら涼の視線が俺の後ろに……はっ!? 殺気!?

 

「チェストォォォ!」

 

R+下弾き(きんきゅうかいひ)!」

 

 慌ててその場に屈むと、俺の頭があった空間を拳が通過していった。あの勢いは確実に俺をヤるための一撃だ。

 

「りっちゃん、流石に延髄への一撃は危ないと思うんだけど」

 

「アンタが迷惑をかけた関係各所全ての怒りよ」

 

 その場に屈んだまま振り返ると、そこには鬼の形相を浮かべるりっちゃんの姿が。下から見上げるとよく分かるけど、やっぱりりっちゃんもおっぱい大きいなぁ。

 

「律子姉ちゃん」

 

「涼、ステージよかったわよ」

 

 りっちゃんも涼達の陣中見舞いかな。

 

「ちょうど良かった、今から765プロの陣中見舞いに行こうと思ってたんだ」

 

「あたし達の出番は午前中で終わりなので」

 

 なるほど、涼が抱えてる包みは765プロへの差し入れだった訳だ。

 

「大歓迎よ。あの子達も喜ぶわ」

 

「じゃあ俺もついでに一緒に」

 

「あんたは来なくていいわよ。色々と面倒臭いから」

 

「つれないこと言わないでよ律子姉ちゃん」

 

「あ、気持ち悪いからそれ止めてくれる?」

 

 真顔で拒否られると流石に堪えるんですけど。

 

「……あの、三人とも、知り合いの人?」

 

「ん?」

 

 愛ちゃん達と一緒にいた女の子が首を傾げていた。えっと、この娘は……。

 

「水谷絵理ちゃんだよね。愛ちゃんや涼からよく話は聞いてるよ」

 

 今のままじゃ分かんないだろうから、伊達眼鏡を下にずらす。

 

「初めまして、周藤良太郎です」

 

「……え?」

 

 あ、ポカンとしてる。

 

「愛ちゃん達から話聞いてない?」

 

「……えっと、仲の良い『りょうたろう』って名前のお兄さんがいるとは聞いてましたけど……ほ、本物の周藤良太郎さん?」

 

「もちろん。周藤良太郎は二人もいないよ」

 

「こんな奴が二人もいたらたまったもんじゃないわよ」

 

 まぁ、同じような系統の元アイドルならいるけど。

 

「これからもアイドルを続けるなら、いずれ一緒に仕事する機会もあるかもね。是非とも愛ちゃんや涼と一緒に頑張って」

 

「……は、はい!」

 

 うんうん、小乳だけどいい娘じゃないか。愛ちゃん達と合わせて将来に期待かな? ただ今は熟成期間ってとこか。

 

 ホント、こういう若い子達が頑張ってる姿はいいもんだ。ホント。

 

 

 

 

 

 

「……ねぇねぇにーちゃん、何で真美達のお弁当ちゃっちいのー?」

 

「えっと……け、経費削減の折でな……は、ははは」

 

 はぁ、と全員のため息が一致する。他の事務所のアイドルが豪華な仕出し弁当を食べている一方で、私達のお弁当は幾分か見劣りがするものだった。

 

 まだまだ765プロは私達竜宮小町以外の仕事が少ない。この運動会で目立つことが出来れば、もっと人気が出て仕事も増える。そうすれば、私達はこんな寂しいお弁当のような存在ではなくなるはずだ。

 

 そんな中、一人美希だけがご機嫌だった。

 

「随分と美希はご機嫌ね」

 

「だって、良太郎さんが見てくれてるの! だったら頑張らない理由がないの!」

 

「あぁ、そう……」

 

 周藤良太郎のゲリラライブが終わった直後はトリップしてこの世にいなかった美希だったが、周藤良太郎が自分達を見ているのではないかという考えに至った途端、午前中にふてくされていたのが嘘のようにハリキリ始めた。全くもって現金なものである。

 

「……何というか、貧相な弁当を食べてるわね」

 

「げ、麗華……」

 

「げ、とは随分なご挨拶ね、伊織」

 

 今朝もやってきた麗華が再びやって来て、私は思わず眉を潜めてしまった。

 

 私と麗華は年は少し離れているものの、お互いがアイドルを始める以前からの知り合い、所謂幼馴染という存在である。出会いは、とある会社で開かれたパーティー会場。私は水瀬財閥の娘として、麗華は東豪寺財閥の娘としてパーティーに参加し、そこで親同士に紹介されたのが始まりだった。

 

 

 

 ――初めまして。

 

 ――初めまして。

 

 

 

 幼馴染とは言いつつ実際はそれほど仲が良いわけではなく、出会うたびに何かしらの言い争いをしていた記憶がある。好きな色、好きな花、好きな食べ物や飲み物。様々な小さなことで衝突しあい、お互いが一歩も譲ることなく決着が付いたことは一度も無かった。

 

 たった一回を除いて。

 

 

 

 ――私、アイドルになることにしたから。

 

 

 

 突如麗華から告げられたその言葉。何をバカなことをとその場は聞き流したが、その一年後に本当にアイドルとしてテレビに出ている麗華の姿を見た時は素直に驚いてしまい、そして羨ましいと思ってしまった。

 

 当時デビューしたばかりだった周藤良太郎と共にテレビに映っている麗華の姿は、大財閥の娘としての姿ではなく、一人の少女としての姿。あの周藤良太郎と一緒のアイドルをしているというだけでなく、自分がしたいと思ったことを自由にしている姿を羨ましく感じてしまった。

 

 それが、私の敗北。本人には口が裂けても言わないが、私が麗華に感じた初めての敗北。

 

 アイドルになった以上、周藤良太郎だけでなく麗華にだって二度と負けてやるものか。

 

 そんな生涯のライバルというべき相手が、私達のところにやってきた。

 

「それで? 何の用なのよ。律子ならいないわよ」

 

「別に律子一人に用事があったわけじゃないわ。アイドルの先輩として、陣中見舞いに来てあげただけよ」

 

「大したものじゃないけど」

 

 そう言いながら、麗華と一緒にきていた三条ともみが包みを差し出してくる。

 

「えー? 何々―?」

 

「なんか美味しそうな匂いー!」

 

 双子が嬉々として包みを受け取り、早速包みを開く。

 

「おー! 唐揚げだー!」

 

「卵焼きもあるー!」

 

 包みの中身は二段重ねの重箱で、中には様々なおかずと沢山のお握りが詰められていた。

 

「どうせ大したもの食べてないんじゃないかと思って、用意しといてあげたのよ。感謝しなさい」

 

「……ありがとう」

 

 実際にお弁当が大したものじゃなかったので、この差し入れは普通に嬉しかった。あの見下した笑みは腹立つが、正直にお礼を言っておく。

 

「それじゃあ早速――」

 

 

 

「お、この卵焼き美味い。誰の手作り?」

 

 

 

「あ、わたしが……って、え?」

 

 突然聞こえてきた男の声。おかしい、この場にはプロデューサー以外の男はいなかったはずだ。

 

 しかし聞こえてきた声は間違いなく男のもので、そしてさらに先ほど聞いたばかりの声で……。

 

「りょ、良太郎!?」

 

「おっす、陣中見舞いに来たよー」

 

 どうやら、この昼休憩は休憩にはならなさそうだ……。

 

 

 




・だが断る。
この周藤良太郎が金やちやほやされるためにアイドルをやっていると思っていたのかーっ!!

・うら若き乙女達のチアリーディング
衣装っていうと健全だけど、コスプレっていうと不健全な香りがする。

・あれ男なんだよな。
作中唯一の男の娘。作者は男の娘とかTSとかはあまり好きではないのだが、涼ちんだけは許容できる。何故だろう。声?

・疚しいことがなければどうってことないさ!
そうですね。(白目)

・高町ブートキャンプ
戦闘民族高町家で行われる間違いなく強くなれる特殊訓練。地獄以上の苦しみがあるが、可愛い女の子に囲まれているため、人によっては耐えられる……かも。

・「R+下弾き!」
その場緊急回避。決まると格好いいが、横緊急回避と比べるとあまり実用性はなかったような気がする。

・伊織と麗華
一応公式で知り合いということになっているらしい。前に絡ませるのをすっかり忘れていたため、今回いおりん視点となった。



 遅くなって申し訳ない。体育会編が終わったらしばらくオリジナルストーリーが続く予定なので、頑張って今年中にあと一回は更新したい所存。


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Lesson15 ランナーズ・ハイ 5

明けましたらおめでとう。


 

 

 

 765プロのみんながいるところに来たら、何やら美味しそうなお弁当が広がっていたので一つ頂戴してみた。

 

「いや、ホント美味いなこの玉子焼き。紅しょうががいい感じのアクセントになってる」

 

「ありがとう」

 

「あ! 唐揚げ! 唐揚げは作ったのアタシだよ!」

 

「お、マジで? んじゃこれも一つ……」

 

「アンタは何をやっとるかぁぁぁ!」

 

「ごっ!?」

 

 りんが作ったという唐揚げに手を伸ばそうとすると、麗華の膝が俺のこめかみに突き刺さった。直撃の瞬間、短パンの隙間からチラリと白い布が見えたような気がするが、激しい頭痛(物理)に悶える俺にそんなことを考える余裕は無かった。

 

 おっぱいの大きな誰かの胸元に倒れこむなんて素敵なイベントは起こらず、そのままビニールシートの上に倒れ伏す。主人公補正何処いった。貰った覚えもないけど。

 

「何する! お前は気付いてなかっただけかも知れないが、ちゃんと手は洗ったし、いただきますと手も合わせたぞ!」

 

 流石にこの世の全ての食材には感謝を込めてなかったが。

 

「誰もそんなこと気にしてないわよ! アンタ何してんのよ!?」

 

「あぁ、さっきのサプライズ? どうどう? 格好よかった?」

 

「格好よかった!」

「格好よかったの!」

「格好よかったです!」

 

「はい、りんはこっち来てね」

「美希はこっちだぞー」

「愛ちゃんも、大人しくしてようねー」

 

 ともみと響ちゃんと涼に引きずられていくりんと美希ちゃんと愛ちゃんを尻目に、麗華は俺の胸ぐらを掴む。

 

「やっちゃったことはもうどうでもいいわ。アンタの我が儘を通しちゃった運営側にだって問題があるんだから」

 

「ならこの手を離してほひいかなー」

 

「口の中の物をさっさと飲み込め!」

 

 りんが作った唐揚げジューシーでとっても美味ナリ。

 

 手を離してもらい、ゴクリと飲み込む。美味しかったからもう一個と手を伸ばすが、ビシッと手を叩き落とされてしまった。

 

「ほら、そこに正座」

 

「えー」

 

「「正座っつってんだろうが」」

 

「イエスマム」

 

 麗華とりっちゃんの二人に睨まれ、仕方がないから正座する。しかしビニールシートの上に座ろうとしたら蹴り飛ばされた。シートの下ですかそうですか。

 

 愛ちゃんが持ってきた包みはエビフライが詰められた重箱だったらしく、向こうではみんなが美味しそうに食べていた。俺も食べたいんだけどなー。

 

「それで? 今回の行動の理由は?」

 

「さっさと吐いた方が身のためよ」

 

「……言わなきゃダメ?」

 

 絶対に言えない訳じゃないけど、あんまり言いたくないな。

 

「……ちゃんとした理由はあるわけね?」

 

「そりゃあもう。俺は仕事に関してだけはいつだって真面目だぞ」

 

「真面目にふざけてるのよね?」

 

「ふざけてるんじゃなくて遊び心だって」

 

「「……はぁ」」

 

 同時にため息を吐かれた。

 

「もういいわ。どうせ今さら何言ったところでアンタは変わんないだろうし」

 

「これが周藤良太郎なんでしょうね」

 

 何だろう、理解されたというか見限られたような気がする。

 

「とりあえず許されたってことで足崩していい?」

 

「「本当に反省してんの?」」

 

「もちろんです」

 

 目が光っていたのは気のせいだと思いたい。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず情状酌量の余地ありと判断されたようで、正座を崩すことが許された。

 

 またシートの上でみんなと一緒に、とも思ったのだが、女の子のアイドルの中に一人男が交じってご飯を食べてたら色々と不味い気がした。俺はバレないだろうけど、765や876や1054のみんなに変な噂が立っても困るし。

 

 今は壁際で赤羽根さんと並んで立っている。

 

「いやホント、いきなり良太郎君が出てきた時にはビックリしたよ」

 

「あれぐらいのサプライズはこの業界ではよくあることですって。いずれ765のみんなもやる機会が来ますよ」

 

「そ、その時は是非参考にさせてもらうよ」

 

 俺も舞さんのやったやつを参考にしてるんだけどね。あの人サプライズ好きだから。ドーム公演でパラグライダーで登場とか、呼ばれてない音フェスに勝手に乱入とか。

 

 ……やっぱりあの人俺以上だって。俺があの人の再来とか冗談だろ。

 

「それにしても、765のみんな大活躍じゃないですか。このまま行けば優勝もあるんじゃないですか?」

 

 電光掲示板に表示された得点を見上げると、そこには現在一位に輝く765プロダクションの名前が。二位との点差は小さいが、このまま維持できれば本当に優勝もありえる。ちなみに麗華達1054プロは五位。愛ちゃん達876プロは下から三番目だ。流石にこの二つが今から優勝を狙うのは難しいだろう。

 

 二位は……えっと、こだまプロダクション? あんまり聞いたことないんだけど、有名なアイドルグループとかいたのかな?

 

「ここで優勝出来ればきっと注目度も上がる。……最も、良太郎君が全部持ってっちゃったような気もするけど」

 

「そこら辺は心配しなくても大丈夫です。流石に考え無しにこんなことした訳じゃないですよ」

 

「……本当に?」

 

 あ、凄い訝しげな目。

 

「これはアイドルの先輩である俺から頑張ってる後輩達へのちょっとしたサービスですよ。この運動会で優勝することが出来れば、より一層の知名度を約束しましょう。周藤良太郎の名に懸けてね」

 

「……まぁ、元々優勝は目指してたからね」

 

「是非頑張って下さい」

 

 身内贔屓だけど、俺としては765か876に優勝してもらいたいかな。流石に優勝自体は自分達の力で掴んでもらわないといけないけどね。そこまではサービスしてあげられないから。

 

 しかし、まぁ。

 

(何事もなければ、だけどね)

 

 

 

 

 

 

「あの765プロとかいうプロダクション、ちょっと生意気じゃない?」

 

「ちょっとプロデューサー、あいつらなんとかしてよー」

 

「まぁまぁ、大丈夫大丈夫」

 

 ――優勝するのは、こだまプロって決まってるんだから。

 

 

 

 

 

 

 午後の競技が再開されると同時に、良太郎君は去っていった。

 

 ――イチオー部外者ですからねー。

 

 そんな今更なことを言いながら、引き止めようとする美希を華麗に躱していた。流石にファンのあしらい方は心得ているようだった。

 

 それで、良太郎君が見ているのだから頑張ろうと全員が奮起して挑んだ午後の部なのだが、ハプニングが起きた。それも良太郎君のサプライズ的な意味ではなく、本当の意味でのハプニング。

 

 二人三脚の途中、伊織と共に走っていた真が転んで膝を怪我をしてしまったのだ。応急処置は済ませたが、このままでは全員参加リレーに出場できない。果たして、一番足の速い真を欠いた状態で勝てるかどうか……。

 

「……やよい、どうしました? 先ほどから元気がないようですが……」

 

「え?」

 

 貴音の声に振り返る。確かにいつものやよいの明るさはそこになく、何かに思い悩むように顔を俯かせていた。

 

「……別に、何も……」

 

「何も無い訳ないでしょ。ずっと下向きっぱなしじゃない」

 

「やよい、何かあるなら言っていいんだよ」

 

「………………」

 

 伊織と真の言葉に促されて、やよいは躊躇いながらも口を開いた。

 

 

 

 ――ま、アンタみたいな足手まといがいたんじゃ、絶対に優勝なんてできないだろうけど。

 

 

 

 それが、やよいが新幹少女のメンバーから言われた言葉だそうだ。

 

「……765プロは絶対に優勝なんか出来ないって言われて……それで、負けたらって思ったら……」

 

 いつも笑顔のやよいの表情が悲しみに歪み、その瞳から大粒の涙が零れ落ちる。あずささんと亜美達が慰めるが、その涙は止まらない。

 

「……律子、僕も全員参加リレーに出るよ」

 

「真……」

 

 真は座っていたパイプ椅子から立ち上がる。その膝には痛々しい包帯が巻かれている。しかし、しっかりと真は立ち上がった。

 

「そんなこと言われて、黙ってられるか……!」

 

 ギリッと奥歯を噛み締める真の瞳には、見間違えようも無い怒りの炎が浮かんでいた。

 

「……律子。俺、ちょっと行ってくる。ここ任せたぞ」

 

「え? 行くって、プロデューサー、何処へ……」

 

 決まってる。

 

「ちょっと、こだまプロのところに」

 

 黙ってられないのは、俺だって同じなんだ。

 

 

 

 

 

 

「765プロさんだって、分かってるんでしょ?」

 

 こだまプロダクションのプロデューサーは、俺が765プロの人間だと分かると嫌な笑いを浮かべた。

 

「うちの新幹少女が優勝した方が、テレビ的に盛り上がるんだよ」

 

「では、ウチにわざと負けろと?」

 

「いやいやいや、そうハッキリとは言ってないよ。ちょっとだけ手を抜いてくれりゃ……ねぇ?」

 

「………………」

 

 それは、八百長をしろという簡単な話だった。より盛り上げるために、より話題になるために、より視聴率をあげるために。人気のある新幹少女を優勝させる。弱小プロダクションが、大きなプロダクションのために舞台を譲る。この世界では、暗黙のルールとされていることなのかもしれない。

 

 けれど、その場合、彼女達の頑張りはどうなる?今日まで頑張って練習してきた、彼女達の努力は一体どうなる?

 

 俺は、そんな彼女たちの努力を無駄にはしたくない。

 

「ちょっと、失礼します」

 

 けれど、俺一人の判断では無理だ。社長に話をしようと携帯電話を取り出して――。

 

 

 

「――テレビ的に盛り上がる……ねぇ?」

 

 

 

 声が、した。

 

「何か765プロの方でやよいちゃんが泣いてるみたいだったからまさかと思ってみれば、案の定だ」

 

 こだまプロのプロデューサーに連れてこられたロッカールーム。話を聞かれないために選んだ誰もいない場所だったにも関わらず、聞こえてきた第三者の声。

 

「こういう秘密の裏取引ってのは、人気の少ないところって相場が決まってるからねー。これだけ人が多い会場で人気が少ない場所ってのは少ないから、探すのは案外楽でしたよ」

 

 最近になってよく聞くその声。知らない人がいないその声。

 

 

 

「それで? テレビ的に盛り上がるってのは……この周藤良太郎のサプライズよりも盛り上がるんですかね?」

 

 

 

 先ほど分かれたばかりの良太郎君が、伊達眼鏡と帽子を外した状態でロッカールームの入口に立っていた。

 

「す、周藤良太郎っ!?」

 

「りょ、良太郎君……!?」

 

「どうも赤羽根さん、さっきぶりです。借り物競走での走り、お疲れさまでした」

 

 その口調は昼休憩の時と何ら変わらない気さくなもの。しかし、その表情はいつもの無表情ながらも、何処かプレッシャーを感じさせる、そんな雰囲気を纏っていた。

 

「それで、こだまプロさん……でしたっけ? なかなか素敵な裏取引をしていたようですね?」

 

「ふ、フリーアイドルの君が、別のプロダクションの事情に首を突っ込むつもりかい?」

 

 良太郎君の雰囲気に一瞬気圧されたこだまプロのプロデューサーだが、気丈にもそう言い返す。

 

「別に? この業界の裏側でそういったやり取りや暗黙のルールがあることぐらい、四年間もこの世界にいればいくらでも体験する話ですよ。今さらどうこういうつもりはありません」

 

「だ、だったら……!」

 

「でもね、こんな言葉聞いたことありませんか?」

 

 近寄ってきた良太郎君は、右手の銃の形にすると人差し指をこだまプロのプロデューサーの額に突き付けた。

 

「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ。……撃たれる覚悟もねぇ癖に、会社の名前なんてちゃちなもん振り回してんじゃねぇよ三下」

 

「っ……!?」

 

 その冷たい言葉に、ぞくりと背筋が震えた。

 

「とはいえ、こだまプロさんが自分の実力で優勝したっていうんだったら勿論話は別ですけどね? そんな裏取引とか一切抜きにして、正々堂々と勝負しましょう。……せっかくの運動会なんだから、ね」

 

 表情が変わらない良太郎君の声は、既にいつもの明るい暖かな声に戻っていた。

 

 

 




・紅ショウガ入りの玉子焼き
作者にとっての母の味。玉子焼きは家庭の数だけ味があるから面白い。

・激しい頭痛(物理)
所謂シャイニング・ウィザード。顔じゃないからセーフです。
しかしおかげでせっかくのパンチラチャンスを逃す羽目に……無念、良太郎。

・主人公補正何処いった。
チートの分際で何を言うか。

・この世の全ての食材に感謝を込めて
いただきます(迫真)

・りんが作った唐揚げ
実はそんなに料理が得意じゃないりんちゃん。けれど何となく良太郎が来るんじゃないかという乙女の直感を頼りに自分も料理を作るとともみに相談をし、前日から仕込みを手伝って、火傷をしそうになりながらも頑張って作った愛情唐揚げ……とここまで考えたけど、今回の話は765メインのため割愛と相成りました。だってりんと美希を押しすぎっていう声があったんだもん……。
りんちゃんにはまだデートイベントなりなんなり残っているので、りんファンはもう少し待ってね!

・俺があの人の再来とか冗談だろ。
え?(驚愕)

・撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ。
byフィリップ・マーロウ

・「撃たれる覚悟もねぇ癖に、会社の名前なんてちゃちなもん振り回してんじゃねぇよ三下」
(え、誰こいつ?)※良太郎です。
なんか銀行員のドラマでこういうスカッとする感じが流行りみたいなので。



読み返してみて前半と後半の温度差がパない。
とりあえず滑り込みで年内更新の約束は守れました。
みなさん、是非ともよいお年をお迎えください。


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Lesson16 ランナーズ・ハイ 6

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


 

 

 

「ったく」

 

 逃げるように去っていくこだまプロのプロデューサーの背中を見送る。これだけオハナシしておけば大丈夫だろう。

 

「えっと……ありがとう、良太郎君」

 

「んー?」

 

 振り返ると、赤羽根さんが頭を下げていた。

 

「別にお礼を言われるようなことじゃない……って言う場面なんでしょうけど、流石に無理があるから素直に受け取っておきますよ」

 

 頭を上げる赤羽根さんは、安堵した表情をしていた。

 

「言っておきますけど、これはあの娘達のためです。本来はプロデューサーであるあなたの役目であることをお忘れなく」

 

「っ! わ、分かってるさ!」

 

「分かっていただけているならいいんです」

 

 少しキツイ物言いかもしれないが、これだけはしっかりと言っておかなければならない。いつでも俺が彼女達を助けてあげることが出来るわけではないのだから。

 

「赤羽根さんはみんなのところに戻ってあげてください。今から頑張らないといけないのは彼女達なんですから、近くでしっかりと応援してあげてください。俺は765プロだけを応援することができませんので」

 

 麗華達や愛ちゃん達も応援してあげたいし。

 

「……あぁ。本当に、ありがとう」

 

 再び頭を下げて、赤羽根さんも足早にこの場を去って行った。ロッカールームには俺一人が残され、開け放たれたままの扉近くの壁に背中を預ける。

 

「という訳だから、あまり大きく事を荒立てるなよ?」

 

「……何でよ」

 

 誰もいないはずの空間からの返答。俺の背後の壁越しに聞こえてくる声。

 

「何でも、だよ。これで事を荒立てたら所属アイドルまで巻き込まれちまう」

 

「所属アイドルにはなんの責任も無いとでも? 私達のテレビ出演を奪ったあいつらと同じだって言うのに?」

 

 聞こえてくるその声には苛立ちが混ざっていた。きっとこのまま放っておいたら彼女は先ほどの会話を公表し、実家の力を使ってでもこだまプロを潰しにかかっていただろう。

 

「だからって、それで彼女達の未来を奪っちまったら俺達も同じ穴のムジナになっちまう。俺は、そんなお前を見たくねーな」

 

「………………」

 

 それに対する返答は無く、ただ去っていく足音だけが聞こえた。

 

「……ままならねぇなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 結果から言ってしまおう。

 

 芸能人事務所対抗大運動会のアイドル部門で優勝したのは765プロダクションだった。

 

 膝の怪我を押して全員参加リレーにアンカーとして出場した真ちゃんだったが、見事にトップを走っていた新幹少女を抜いてゴール。一位だった765プロはその順位を守りきり、見事に優勝を果たした。

 

 そして訪れた表彰式。アイドル部門優勝の765プロへ優勝トロフィーが贈られるのだが……。

 

 

 

『それでは! 見事アイドル部門で優勝を果たした765プロダクションに優勝トロフィーが……先ほどもサプライズで登場していただいた周藤良太郎君から贈られます!』

 

 

 

 ステージの上には再び俺の姿が!

 

 またスタッフさんにお願いをし、特別ゲストとしてこのトロフィー授与の役割を承ったのだ。ホント、ここのスタッフさんは優秀だわ。マジ感謝。

 

「はい、おめでとー」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 俺からトロフィーを受け取る伊織ちゃんの笑顔が引き吊っていたけど気にしない。またやりやがったなというりっちゃんや麗華の視線も気にしない。気にしないったら気にしない。

 

 何はともあれ、765プロ優勝おめでとう。

 

 

 

 

 

 

「や、ジュピターの三人もお疲れ様」

 

 運動会終了後。会場を後にしようと楽屋を出た俺達に良太郎が声をかけてきた。さっきまでステージでトロフィー授与やらコメントやら色々としていたはずなのに、随分と忙しい奴だ。

 

「ホント、やってくれたなコノヤロウ」

 

「全部りょーたろーくんがもってっちゃったねー」

 

「特別ゲストの立つ瀬がないね」

 

「いや、その点はマジでごめん。でもまぁ、君達新人じゃないし、何より男だし、ヤローだし」

 

 別にいいよな、と親指を立てる良太郎。お前が女の子至上主義なのは分かったっつーの。

 

「人聞き悪いな。フェミニストと言ってくれ」

 

「どっちでも同じだっつーの」

 

 女好きとまではいかないが、周藤良太郎は女性に甘い。例え相手が年下だろうが後輩だろうが、女性相手であればとにかく態度だけは甘い。

 

 ただいくつかの例外も存在し、良太郎を利用しようとしたり取り入ろうとしたりする奴らは何となく察知しているらしく、明らさまに避けたり遠ざけたりしている。何を基準にしているのかと以前聞いてみたところ「ゲ○以下の臭いがプンプンする」と言っていたから、どうせただの勘だろう。

 

「それで、何のようだよ」

 

「ちょっと言い忘れたことがあってな。一応言っとかないと、と思ってさ」

 

「言い忘れたこと?」

 

 わざわざこうして直接言いに来るってことは、それほど重要なことなのだろう。

 

「さっきの偶像(アイドル)(スター)の話だけどさ。俺は偶像(アイドル)が悪くて(スター)が良いって言った訳じゃないからな」

 

「……じゃあ、どういう意味だよ」

 

「俺は自分がアイドルであることを誇りに思ってる。それに――」

 

 周藤良太郎の表情は変わらない。しかし、その時は誇らしげな笑みを浮かべていたような、そんな気がした。

 

 

 

「――夜空の向こうで輝いてる(スター)より、すぐ手元で光ってる偶像(アイドル)の方が親しみ易いだろ?」

 

 

 

 ……あぁ、全く。

 

「……確かにな」

 

 ホント、コイツはスゲェよ。

 

 

 

 

 

 

『ちょっと地味だったんじゃなーい?』

 

「いやいや、結構派手にやりましたよ?」

 

 大運動会の翌日、今回の顛末の報告をするために再び舞さんに電話をかけていた。

 

『でも、とりあえず私の読み通りに事は進んだみたいね』

 

「まぁ、とりあえずそうですね」

 

 そう返事を返しながら今日の朝刊を捲る。そこには昨日の運動会の記事が二面の半分以上の面積を占めていた。これこそが、先日の舞さんの考え付いた『いい事』である。

 

 

 

 ――アンタ、ちょっと大運動会に潜りこんで盛り上げてきなさいよ。

 

 

 

 いくら芸能事務所が多く集まる大運動会とはいえ、ニュースとしてそこまで大きく取り扱われるものでもなく、大体新聞でも三面の片隅に記載されるぐらい。知名度が上がるとは言っても、所詮はその程度である。

 

 そこでこの周藤良太郎がサプライズゲストとして乱入することで無理矢理この運動会に話題性を持たせる、というのが舞さんの考えである。

 

 初めは俺も渋ったのだが「アンタが行かないなら私が行く」と脅されてしまった。引退したはずの元トップアイドルがサプライズで復活なんてことになったら流石に関係各所が大騒ぎになると引きとめ、しょうがなく俺がその役目を引き受けたのである。まぁ、やってる内に楽しくなっちゃったんだけど。

 

 結果、新聞にはサプライズライブを行った俺の写真、そして閉会式で優勝トロフィーを送る俺の写真が使われ、それに伴いアイドル部門優勝の765プロの写真も使われた。これが赤羽根さんと約束したより一層の知名度である。要するに「知名度のある俺に便乗してYOU達も知名度あげちゃいなYO!」という訳だ。

 

『それにしても、よく765プロが優勝出来たわね。私はてっきり二位のこだまプロ辺りが圧力かけてきて優勝するもんだとばかり思ってたんだけど』

 

「あれ、舞さんはそこら辺のこと気付いてたんですか?」

 

 どうやら舞さんはこだまプロのことを知っていたらしい。俺、あの時ノリで会社の名前使ってとか言っちゃったが、こだまプロって聞いても全然ピンとこなかったんだけど。

 

『当然でしょ。私が何年この世界にいると思ってるのよ』

 

「いや、当の昔に引退してるでしょ。しかも芸歴で言えば既に俺の方が上のはずですし」

 

『私は生涯現役よ』

 

「さっさと大人しく隠居しろよ」

 

 そんなのつまんないじゃーんと舞さんの軽い声。この人今でもちょくちょくテレビ局とかに顔出してるからなぁ。スタッフの皆さん、頑張ってください。この人の無茶ぶり聞いてるとその内並大抵のことじゃ動じなくなるから、いい訓練になるよ。

 

『それで? この765プロ優勝はアンタの仕業なの?』

 

「俺は上から降ってくる火の粉を振り払ってあげただけ。優勝したのは765プロのみんなの努力の結果ですよ」

 

 圧力云々を一切抜きにしてこだまプロが優勝していても、やはりその場合も俺は同じことをしたと思う。ただの身内贔屓ってのはあんまりしたくないから。どの事務所だって優勝して名を上げたいに決まっているんだ。だったら、その機会ぐらいはどのような地位にいる事務所にだって平等にあるべきだと俺は思っている。

 

「でも、やっぱりこういうのはいつまで経っても無くならないもんなんですね」

 

『当たり前よ。この世の中ってのはね、そういう権力のやりとりで溢れてるの。例えそれがアイドルっていうキラキラ輝いてないといけない職業の裏でもね』

 

 舞さんも、デビューしたばかりの頃は上からの圧力が多かったらしい。

 

『そういう権力に個人で対抗しちゃう私やアンタが異常で、普通は権力に押し潰されて涙を呑む。そんなアイドルはごまんといるわ』

 

 思い出すのは四年前。あの時の麗華達の涙を、俺は今でも忘れることが出来ない。

 

『だからこそ、私達が守ってあげないといけないのよ』

 

 舞さんは言う。

 

『権力なんていうくだらない大人の都合から、キラキラと輝く子供たちの夢を守るのが、私達『大人』の役目よ』

 

「……俺はまだ未成年なんですけどね」

 

『結婚できる年になったんだったら十分大人よ』

 

「いや、そのりくつはおかしい」

 

 それだったら既に765プロのアイドルの何人かも大人にカウントされるはずだ。いや、本当に大人にカウントされる人もいるが。あずささんとか。

 

 でもまぁ。

 

「言われなくても、最初からそのつもりですよ」

 

 俺は、頂点に立つと言われているトップアイドルだ。歌うことや踊ることだけでなく、新人アイドルを導くこともきっと俺の仕事なのだろう。

 

 君達が目指している場所は、こんなにもキラキラと輝くことが出来る場所なんだよと。

 

 君達が目指しているものは、こんなにも素晴らしいものなんだよと。

 

 

 

『頑張りなさいよ、後輩』

 

「分かってますよ、先輩」

 

 

 

 自分の意思で立ち止まらない限り、俺はみんなの目標たる偶像(アイドル)で居続けよう。

 

 

 

『……でもやっぱり私も飛び込みで参加すればよかったなぁ』

 

「止めてあげてくださいって」

 

 俺一人でもスタッフさん大変そうだったんだから。

 

 受話器の向こうで不満を垂れる舞さんに、俺は内心で苦笑するのだった。

 

 

 




・「フェミニストと言ってくれ」
女好きではないところがポイント。作者のモットー。

・「ゲ○以下の臭いがプンプンする」
おれぁ、14の時からずっと芸能界で生き、いろんな人間を見て来た。
だから悪い人間といい人間の区別は「におい」で分かる!
こいつはくせえッー! ゲ○以下の臭いがプンプンするぜッー!

・舞さんの考え付いた『いい事』
新人アイドルに目立つチャンスをあげるために考え付いた舞さんの粋な計らい。
一応自分が出張ることを自粛した辺り、彼女も大人である。

・『だからこそ、私達が守ってあげないといけないのよ』
弱きものを守ることが、強きものの責務。
本当はバトル物とかそこら辺で使うセリフを、まさかアイドルの小説で使う羽目になるとは。

・「いや、そのりくつはおかしい」
作者は大山○ぶ代世代。今のドラえもんはやはり慣れない。



というわけで長々と続いた運動会編終了です。
今回の話のテーマとしては「アイドルとは何か」でした。
良太郎は「ファンに照らされることでアイドルは輝く」と「トップアイドルである自分は他のアイドルを守ってあげないといけない」という二つの持論を持っており、この二つがアイドルとしての行動理念になっています。

……これだけ真面目なこと書いておいたんだから、当分ネタに走っても大丈夫だよね?

というわけで次回予告です。次回からはしばらくオリジナルストーリーが続く予定です。



 話は数週間前に遡る!

 良太郎が引き受けた一本の新たな仕事、それは彼の私生活を赤裸々にするものだった!



「……えっと、これはマジでやるんだよね?」

「当然。脚色なし……ってことにしておこう」

「おい」



 今、トップアイドルのプライベートが明かされる!

 次回! 『アイドルの世界に転生したようです。』第17話!

 『プライベート・タイム』で、また会おう!!



※当然の如く誇張してます。過度な期待はせずにお待ちください。


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Lesson17 プライベート・タイム

遅くなってしまい申し訳ないです。


 

 

 

 765プロが芸能人事務所対抗大運動会に優勝してから早数日が経った。

 

 運動会がもたらした反響は大きく、竜宮小町以外のアイドルの仕事も徐々に増えてきたようで、様々なメディアで見かけるようになった。中でも星井美希の活躍は目覚ましく、雑誌やテレビの出演は恐らく竜宮小町の次に多い。これは良太郎の影響も大きいのだろう。サプライズで登場した良太郎が各メディアで取り上げられ、それに便乗する形で765プロの名前もそこそこ知られるようになった。

 

 これをきっかけに、765プロは更なる躍進を遂げる。いずれ、私達1054プロの良きライバルとなるだろう。

 

 そんなとある日のことである。

 

「ただいまー!」

 

「あー、疲れた」

 

「今日も収録長かったね」

 

 歌番組の収録を終え、私達三人は東豪寺の本社に設けられた魔王エンジェル専用のレストルームに帰ってきた。この部屋は生活に必要なものは一通り揃えてあり、仮眠用のベッドも設けているためここで過ごす時間は意外と長い。今日も収録を最後に仕事は上がりなのだが、何も言わずとも三人でこの部屋に帰って来てしまった。みんな幼馴染三人で過ごすこの部屋がそれだけ気に入っているのだ。

 

「ねぇねぇ、今から二人とも何かテレビ見る?」

 

「ん? 私は別に何も無いわよ」

 

「わたしも。何か見たい番組でもあるの?」

 

 私とともみにそんなことを尋ねてきたりんは、いひひっと笑いながら鞄から一枚のDVDを取り出した。それは何のパッケージも印刷されていない全くの無地のDVDだった。

 

「何のDVDなの?」

 

「りょーくんの!」

 

 ライブのDVDということだろうか?

 

「昨日の深夜にやってた『熱情大陸』にりょーくんが出てたんだ! それの録画をDVDに焼いてきたからみんなで見ようと思って!」

 

「『熱情大陸』に?」

 

 『熱情大陸』は様々な職種の人の素顔に迫るドキュメンタリーで、多くの著名人の魅力や素顔に迫る長寿番組。つまり良太郎のプライベートということか。

 

 ……少し興味がある。プライベートでの付き合いが全くないという訳ではないが、良太郎の私生活までは流石に知らない。あの周藤良太郎がどのような環境で生活していたのかは気になる。

 

「私は別に構わないわよ。どうせ暇だし」

 

「わたしも」

 

「それじゃあ早速……」

 

「あ、じゃあお茶淹れるね」

 

 りんはいそいそと再生の用意を始め、ともみはお茶の準備をするために対面型キッチンの向こう側へ。ともみが用意するということは紅茶だろう。私はコーヒーの方がいいのだけど……まぁ、人に淹れてもらうものに文句は言うまい。

 

「準備できた!」

 

 準備を終えたりんは液晶テレビの目の前のソファーに座る。この三人掛けのソファーは左からりん、私、ともみの順番で定位置となっており、りんはいつも通り左端に座った。こういう時ぐらい真ん中に座ればいいのにと思うのだが、りんがそれでいいのならと私も自分の定位置であるソファーの真ん中に座る。

 

「ともみー! 再生するよー!」

 

「あ、うん。先に見てていいよ」

 

「それじゃあお言葉に甘えて……再生!」

 

 

 

 今夜の『熱情大陸』はトップアイドルの周藤良太郎。

 

 十四歳でアイドルデビュー。一切表情を変えないことから『鉄仮面の王子』とも呼ばれ、アイドル達の最高峰『アイドルアルティメイト』に初出場ながら最高得点で優勝を果たし、一躍世間にその名を知らしめた。

 

 十作品連続オリコン一位の記録は未だに更新され続け、その内五作品がミリオンを達成。代表曲である『Re:birthday』は昨年百五十万枚に到達した。

 

 また、表情を変えないことを逆手に取った独特のキャラクターでドラマにも出演。昨年は同名推理小説を原作としたドラマ『少年X』にて初主演を果たした。バラエティーにおいても、普段の無表情から想像し得ない陽気な性格で人気を博している。

 

 かの伝説のアイドル日高舞の再来とも称され、何人たりとも寄せ付けない圧倒的な実力は正しくキングオブアイドル。

 

 しかし、そんな彼も十八歳の少年。その日常は如何なるものか?

 

 本日は、そんなトップアイドルの素顔に迫る。

 

 

 

 ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー!

 アノノアイノノォオオオォーヤ!

 ラロラロラロリィラロロー!

 ラロラロラロリィラロ!

 ヒィーィジヤロラルリーロロロー!

 

 

 

「相変わらずこのオープニングテーマはウザいわね……特にこのギター引いてる女のキャラクター」

 

「え、そうかな? アタシは好きだよ?」

 

「良太郎がお気に入りのアンタの感性なんか当てにしてないわよ」

 

「えぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 それは、三ヶ月程前に遡る。

 

「密着取材?」

 

 いつも通り次の仕事の打ち合わせをリビングでしていると、兄貴からそんな仕事が告げられた。

 

「あぁ。いくらお前でも『熱情大陸』ぐらい聞いたことあるだろ」

 

「そりゃあ」

 

 いくら多少世間に疎い俺でも『熱情大陸』の名前ぐらいは知っている。深夜にやっているドキュメンタリー番組だ。まさか俺がそれに出演する日がやって来るとは。

 

「何でもアイドルの出演は舞さんに続いて二人目らしいよ」

 

「それは名誉なことで」

 

 アイドルの日常なんて誰もが食い付きそうなネタを何故ほとんどやらなかったのだろうか。やはりアイドルのイメージ的にNGでもあったかな? ……逆に捉えると俺ならOKということだが、まぁ別にいいか。

 

「密着ってことは、朝からってことだよな? 何時?」

 

「えっと……」

 

 兄貴に言われた日付をスケジュール帳で確認する。

 

「あれ、この日普通に学校だけど」

 

「そりゃ、素顔に迫る密着取材だからな。お前の日常を撮らないと」

 

「えー……」

 

 よりにもよってこの日かぁ……。夜まで仕事が無い日だからノンビリしようと思ってたんだけどなぁ。

 

 ……いや、日常を撮るんだから別に普通にしてればいいか。

 

 

 

 そんなことを考えて迎えた撮影当日の朝。

 

「……は? 早朝ランニング?」

 

「あぁ」

 

 いつもの起床時間よりも早く兄貴に起こされた。

 

「いや、確かに前はやってたけど、最近はほとんどやってなかったじゃん」

 

 アイドルになる前は高町道場に通ったりして体力作りに力を入れていたけど、最近は忙しくて全然である。普通逆じゃないかとも思うが、忙しくてその暇もなかったのだ。そのわりにはオフが多くないかって? 気のせいだって。

 

 しかし、兄貴は再びそれをやれと言う。

 

「……えっと、これはマジでやるんだよね?」

 

「当然。脚色なし……ってことにしておこう」

 

「おい」

 

 どう考えてもこれは俗に言う『ヤラセ』って奴ではなかろうか。素顔に迫る密着ドキュメントどうなった。

 

「今もたまにはやってるんだから完全に嘘って訳じゃないだろ。それに、お前が毎日なんの努力もしてないって知ったら怒り狂う人がきっと何人もいるぞ」

 

「さらりと人をダメ人間扱いしないでもらいたいんだが」

 

 どどど、努力してるわ!

 

 しかし兄貴の言い分も理解出来る。普段から努力しているアイドルと努力していないアイドルとではその印象はだいぶ違うだろう。

 

「今さらそれぐらいでお前のイメージが大きく変わるとも思えんが、印象は良くしておいて損はない。嘘なら嘘で将来話のネタにもなる」

 

「……そこまで言うんなら」

 

「決まりだな。ほら、既に下でスタッフさん待ってるんだから着替えてこい」

 

「りょーかい」

 

 しょうがなく納得した俺は、運動用のジャージに着替えるべく自室に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 早朝五時半。トップアイドル周藤良太郎の朝は早い。

 

 ――おはようございます。

 

「おはようございます」

 

 紺色のジャージ姿の良太郎さんが自宅マンションの玄関から現れた。

 

 ――お早いですね。

 

「えっと、今からちょっと走りに行くので」

 

 どうやら早朝からランニングを行っているらしい。

 

 ――毎日やってるんですか?

 

「えっと……毎日って訳じゃないですけどね。時間があれば、出来るだけ走るようにしてます」

 

 やはりトップアイドルは日々の努力から成り立っているらしい。

 

「ちょっとペース速いですから、付いてくるなら頑張ってくださいね」

 

 準備運動を終えた良太郎さんは、そう言ってかなりのハイペースで走り始めた。我々スタッフも二人乗りバイクで付いていく。

 

 バイクのスピードメータを見ると、時速は約二十キロメートル。マラソンの選手のスピードとそれほど変わりがない。

 

 ――いつもこんなペースでランニングを?

 

「そうですねー。結構長いことやってますんで」

 

 良太郎さんは我々の問いかけに息一つ乱さず答えてくれた。その表情はまだ余裕そうである。

 

 周藤良太郎が歌う曲はしっとりとしたバラードもあれば、激しく体を動かすダンサブルな曲も存在する。それらの曲を立て続けに踊っても全く息を切らさないことで有名な周藤良太郎だが、こんな秘密が隠れていたようだ。

 

 

 

「はっや……」

 

「確かに、りょーくんが息切らしてるところって見たことないね」

 

「お待たせ。パウンドケーキがあったからお茶請けに切ったよ」

 

「お、ありがとーともみー!」

 

(あれ、これってマネージャーが買ってきてたやつ……まぁいいか)

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「あ、おかえりーリョウ君。お風呂沸いてるからねー」

 

「うん、ありがとう母さん。それで風呂に行く前にこのテーブルの状況を聞きたいんだけど」

 

 十五分程の軽いランニングから帰ってきて俺をリビングでニコニコと出迎えてくれた母さんに、机を指差しそう尋ねる。

 

「今日はリョウ君の私生活を撮影するんでしょー? だからいつも通りの朝御飯だよー」

 

「いつもどころか一回もお目にしたことないような朝食なんだけど」

 

「お母さん頑張っちゃったー!」

 

「何で頑張っちゃうかな」

 

 テーブルの上にはいつも以上に手のかかった朝食が。この母親、いつも通りを全く理解していなかった。

 

「これ食ってるところを撮影すんのか……」

 

「えー!? リョウ君お母さんのご飯食べてくれないのー!?」

 

「いや食べるけどさ」

 

「お父さん、リョウ君がグレちゃったよー!」

 

 よよよ、と涙を流しながらリビングの一角に飾ってある父さんの写真の前に膝をつく母さん。写真の周りには花や父さんの好きなビールが備えてあり、我が家ではあの一角を『お父祭壇(とうさいだん)』と呼んでいる。

 

「けどお母さんめげないよー! もう大分立派に育ってるけど、まだまだコウ君とリョウ君はお母さんが立派に育てるから、お父さんは草葉の陰で見守っててー!」

 

「自分の旦那を勝手に殺すなよ」

 

 単身赴任中の父さんが不憫で仕方がない。

 

「というか、あれテレビの絵面的にどうよ?」

 

「変な誤解されるから当然アウトだ」

 

 という訳で撤収ー、と兄貴はお父祭壇を片付け始める。

 

「あー! コウ君、お父さんの写真片付けちゃダメー!」

 

「はいはい、後でちゃんと元に戻すから」

 

 兄貴(185cm)から父さんの写真を取り返そうと跳び跳ねる我が家のリトルマミー(150cm)、御年四十ピー歳。

 

「はぁ……」

 

 このため息はランニングの疲れかそれとも別の何かか。

 

 とりあえず風呂だとリビングを後にするのだった。

 

 

 




・『熱情大陸』
言わずもがな、情熱大陸のパロディ。

・『Re:birthday』
以前登場した良太郎の代表曲。アイドル五年目にして150万枚はちとやりすぎた感はある。

・『少年X』
様々な怪事件に「X」と呼ばれる天才的な頭脳を持つ鬼才が挑むサスペンス……という脳内妄想。
これといった元ネタがあるわけじゃないけど、イメージ的にはデスノートのLみたいな感じ。

・ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー!(ry
実は『熱情大陸』とは『情熱大陸』と『熱情の律動』の二重ネタだったりする。
気になる方は『熱情の律動 歌詞』で検索。

・『ヤラセ』って奴ではなかろうか。
ヤラセじゃないです。たまたまです。

・どどど、努力してるわ!
どどど、童t(ry

・周藤母
小柄で若く見える母親。昨今の主人公の母親のテンプレ。
名前は次話にて。

・『お父祭壇』
元ネタはWORKING!で山田が作った音尾祭壇。
ぽぷらは大乳だし出そうかなとも考えたが、よくよく考えたらワグナリアは北海道だったため断念。



というわけで密着取材編スタートです。この話は765アイドルは一切登場せず、良太郎のクラスメイトが主な登場人物になると思います。さて、どれだけカオスな顔ぶれにしてやろうか。
とりあえず新たなモバマスキャラも登場予定ですのでお楽しみに。


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Lesson18 プライベート・タイム 2

ちょっとだけだけどモバマスキャラ追加だよー!


 

 

 

 およそ十五分のランニングを終えた良太郎さんは自宅へ戻るとシャワーを浴び、その後家族揃っての朝食となった。

 

 父親、周藤(すどう)幸助(こうすけ)さんは単身赴任中で、今は自らのプロデューサー兼マネージャーの兄、周藤幸太郎さんと母親、周藤(すどう)良子(りょうこ)さんとの三人暮らしだ。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

「「いただきます」」

 

 リビングのテーブルの上には良子さんが作った朝食がところ狭しと並べられている。ご飯に味噌汁、焼き魚に煮物、卵焼きにサラダと様々。

 

 ――いつもこのような朝食を?

 

「……えっと、まぁ、そうですね。朝早いのにちゃんと朝御飯を作ってくれる母さんに感謝してます」

 

「うふふ、いっぱい食べてねー」

 

 こうした家族からの支えも、トップアイドル周藤良太郎の形作るものの一つなのだろう。

 

「今日の八時からの生放送、入りって七時でよかったっけ?」

 

「いや、段取りが少し変わって打ち合わせがしたいからちょっと早めに来てくれってさ」

 

「んじゃ、六時半ぐらいでいいか」

 

 フリーアイドルである良太郎さんは事務所を持たない。代わりに、こうして自宅で打ち合わせをすることが多いそうだ。

 

「もー、二人ともご飯の時はお仕事のこと話しちゃメッ、だよー」

 

「とは言ってもなぁ」

 

「じゃあ兄貴の結婚相手についてそろそろ本腰を入れて討論するか」

 

「カメラ止めてください」

 

 三人で仲良く朝食を取る。いつも無表情な良太郎さんも、この時ばかりは楽しそうに笑っているように我々の目には映った。

 

 

 

「相変わらず良太郎のお母さんは若いわね」

 

「身長もそうだけど、見た目もねー」

 

「この間、夜に一人で歩いてたら補導されそうになったらしいよ」

 

 

 

 

 

 

 朝食後、一息ついてもまだまだ始業時間には早いが家を出ることにした。まだ終わっていない課題があったため、学校でこなす算段である。

 

 鏡の前で赤いフレームの伊達眼鏡を着用。いつもならここに帽子を被るのだが、流石に学校に帽子は被っていけないので断念。まぁ近所だからバレたところでそう大騒ぎにはならないし。

 

「今日は帰りに翠屋に寄るつもりだから、そこから直接現場に向かうわ」

 

「了解。欠席が多い分しっかりと勉強してこい」

 

「はーい」

 

「いってらっしゃーいリョウくーん!」

 

「いってきまーす」

 

 兄貴と母さんの見送りを受け、自宅を後にした。

 

 片道十五分程度の道を歩いて登校する。しかし当然カメラも付いてくるので落ち着かない。カメラを向けられること自体は慣れているのだが、こうしたプライベートでカメラを向けられるのは違和感がある。

 

 何か、今さらになってちょっと面倒になってきた……。

 

「ん? 良太郎か。久しぶりの登校だな」

 

「おぉ、恭也。グッモーニン」

 

 曲がり角でバッタリ出くわしたのは、喫茶『翠屋』のマスターにして高町道場の主、高町(たかまち)士郎(しろう)さんの長男、高町(たかまち)恭也(きょうや)だった。小学校からの友人で、今日も相変わらずムカつくぐらいイケメンである。

 

「おはよう。……それで、後ろのカメラは何だ?」

 

「あぁ、よくある密着取材とかだから気にしなくていいぞ」

 

「いや、気にするなという方が無理なんだが」

 

「気にしない気にしない。翠屋にだって何度かテレビの取材とか来てるんだろ?」

 

 喫茶『翠屋』は知る人ぞ知る名店である。外国で武者修行をしてきた恭也の母親、高町(たかまち)桃子(ももこ)さんが作るスイーツはどれも素晴らしく、中でもシュークリームは絶品中の絶品。以前、着物を着た男性が桃子さんのシュークリームを食べるなり「うーまーいーぞぉぉぉ!!」と叫んで口から怪光線を発するという珍事件があったほどだ。

 

 また士郎さんが淹れるコーヒーも美味く、さらに美人店員が複数人とまさに至高。あの世界的に有名な歌手であるフィアッセ・クリステラさんやSEENAこと椎名ゆうひさんもコッソリ訪れるまさに隠れた名店である。

 

「いや、それは全て店に対する取材で、俺自身は一回も取材を受けたことはないんだが」

 

「お前のことだし、将来のためのいい経験になるだろ? ご令嬢との結婚報告とか」

 

「生放送ではないんだろうがそういうことをカメラの前で言うのはヤメロ」

 

 ハハッ、リア充吹き飛べよ。

 

 翠屋といえば。

 

「そうだ、今日久しぶりに翠屋に寄らせてもらうな」

 

「……そのカメラを引き連れてか?」

 

「だから士郎さん達に連絡しといて。テレビの取材付きで行きますって」

 

 この間の765プロへの差し入れの件をこれで有耶無耶にしてしまおうという作戦である。

 

「別に構わないが……覚悟はしておけよ」

 

「え、俺何されるの?」

 

 

 

 

 

 

「ところでいつもより登校するの早くない? 俺もだけど」

 

「いや、課題で少し分からないところがあってな。教えてもらう予定なんだ」

 

 こうして友人と話しながら歩いている様子を見ると、やはり良太郎さんも高校生なのだと改めて実感する。プライベートではよくかけるという赤い伊達眼鏡を付け、ブレザーを羽織ってネクタイを緩く締めている姿は正しく今時の高校生そのものだ。

 

 小学校からの友人だという彼に尋ねてみた。

 

 ――普段の良太郎さんの様子はどんな感じですか?

 

「テレビで見る良太郎とほとんど変わらないですよ。いつも無表情で、口を開けば軽口ばかりです」

 

「お前だって仏頂面なんだから大して変わらんだろ」

 

「喧しい」

 

 ――普段もやはり表情は?

 

「無いですね。これは初めて会った時からずっとです。まぁ、喜怒哀楽の内、喜と楽しかないような奴ですけど」

 

「なぁ、俺何かお前に恨まれるようなことした?」

 

「気にするな。普段に対するただの『遺恨』返しだ」

 

「遺恨あるんじゃん」

 

 普段の姿がテレビで見る周藤良太郎と同じ。つまり、トップアイドルであるということが彼の普段の姿であると言い変えることができる。

 

 やはり周藤良太郎は、トップアイドルになるために生まれてきた存在と言っても過言ではないのかもしれない。

 

 

 

「どう考えても過言でしょ」

 

「りょーくんのブレザー姿、凄い新鮮ー!」

 

(……友達の人、ちょっと格好いいかも)

 

 

 

 

 

 

 教室には既に一人の女子生徒の姿があった。

 

「あら、周藤君じゃない。久しぶりね」

 

「おぉ、月村、久しぶり。相変わらずいいおっぱいですね」

 

「これは恭也のだからダーメ」

 

「リア充爆発しろよ」

 

「トップアイドルにリア充と罵られる謂れはないぞ」

 

 彼女は月村(つきむら)(しのぶ)、クラスメイトの長い青紫髪美人さん。そして恭也のガールフレンド(仮)である。

 

「ところで、後ろのカメラは……?」

 

「ただの背景か俺の背後霊か何かだと思って気にしないことが吉」

 

「最近の背後霊は朝早い内から見える上に随分と質量があるのね」

 

 とりあえず気にしないでおくわね、と理解が早い月村さん流石です。

 

「なるほど。恭也が勉強熱心になってるのは月村が勉強を教えてくれる予定だったからか」

 

「む、俺だって勉強ぐらい人並みにだな……」

 

「恭也には私と同じ大学に行ってもらわないといけないから」

 

 ね? と月村が問いかけると、恭也は頬を掻きながら恥ずかしげに視線を反らした。これで何でガールフレンド(仮)なのかが分からん。さっさと公表して恋人同士になれよ。

 

 というか、人が課題をこなすためにわざわざ朝早く学校に来たっていうのに、何で友人二人がイチャコラしてるところを見せつけられにゃいかんのだ。

 

「こうなったら腹いせに恭也の外堀を完全に埋めてやる。スタッフさん、ここら辺全部使ってください」

 

「おいバカヤメロ」

 

「ほらほら、話してないで始めるわよ。周藤君も、分からないところがあるなら一緒に見てあげるから」

 

「マジで? 忍びねぇなぁ」

 

「気にしないで。周藤君も普段頑張ってるみたいだし」

 

 そこは「構わんよ」って返して欲しかったけど。

 

「あ、今のは『忍びねぇなぁ』と『月村忍』が掛かっててだな」

 

「早く座れ」

 

 

 

 

 

 

「……それで、π=3.14だから」

 

「パイがなんだって?」

 

「集中しろ」

 

 始業時間より早く登校した良太郎さんは、クラスメイトと一緒に終わっていなかったらしい課題を始めた。こうして朝早く来て課題を進めることは少なくないらしい。

 

 ――やっぱり、アイドル活動と学業の両立は大変ですか?

 

「そりゃあもう。学生ながらもう就職してるみたいなもんですからね」

 

 アイドルとしての活動をしながら学校を続けていけるのかと、当初は定時制の学校に通うことも視野に入れていたそうだ。

 

 ――では何故、こうして普通校に通うことを決めたのですか?

 

「簡単な話ですよ」

 

 良太郎さんは伊達眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げる。

 

「こっちの方が楽しいからです」

 

 きっと人生は終わってから後悔することばかり。ならば、今をやり直すことが出来た人生だと思い、絶対に後悔しないように楽しむ。

 

 良太郎さんは我々に向かってそう語ってくれた。

 

 

 

「りょーくんってば不思議な考え方するね」

 

「『Re:birthday』の歌詞といい、まるで本当に人生をやり直してるみたい」

 

「まさか、そんなファンタジーじゃあるまいし」

 

 

 

 

 

 

 月村が手伝ってくれたおかげで課題は思いの外早く終わった。

 

 教室に入ってくるクラスメイト達に久しぶりと挨拶をしながらHRへ。みんなカメラに対して初めは驚いていたが、俺への密着取材ということが分かると「なるほど」と納得してくれた。理解力が高いクラスメイトで助かるよ。そしてそのまま一時限目が始まったのだが……。

 

「……しょっぱなから小テストとか聞いてないよ」

 

 一時限目が終了していきなり机に突っ伏す俺の姿がそこにはあった。

 

「天下のトップアイドル様もテストの前ではお手上げか」

 

「歌とダンスだったらいくらでも満点取ってやるんだが」

 

「小学校からやり直して来い」

 

 とりあえず小テストの結果は芳しくなかったとだけ言っておこう。

 

「こんなんで大学受験本当に大丈夫なのか心配になってくるわ」

 

「あれ、結局受験することにしたんだ」

 

「イチオーね」

 

 あげる、と紙パックのジュースをくれた姫川(ひめかわ)友紀(ゆき)にサンキューユッキ、とお礼を言いながら受け取る。

 

 兄貴や母さん達と話し合った結果、多少アイドル活動を自粛してでも大学受験を進めるという形で決着が着いた。今はまだ普通に仕事しているが、年を越した辺りから少し仕事を減らすことになるだろう。

 

「大丈夫ですよ、周藤君。センター試験はマークシートなんですよ?」

 

「だからなんだってのさ」

 

 ズゴゴーっと黒豆サイダーをストローで吸い上げながらムンッと握り拳を作る鷹富士(たかふじ)茄子(かこ)に尋ねる。

 

「五択なんですから、書けば当たりますよ!」

 

「そりゃお前だけだよ幸運チート」

 

 マジなんなのこの子。十分の一を一に変える能力でも持ってるのかよ。その乳か。俺が椅子に座ってて鷹富士が立っている関係上目の前に存在するこの大乳に強運が詰まっているのか。

 

「………………」

 

「えっと、何してるんですか?」

 

「いや、拝んでおけば何か御利益があるかと思って」

 

「あ、じゃああたしも来年のキャッツのために拝んどこ」

 

「じゃあ俺も俺も」

 

「私も私も」

 

「鷹富士の胸にご利益があると聞いて」

 

 俺達の会話を聞いてぞろぞろと集まってくるクラスメイト達。

 

 

 

 数分後、二時限目の担当教諭が教室に入ってきて目にしたのは、真っ赤な顔をして涙目になる鷹富士を取り囲みながら何処の宗教だと言わんばかりに拝みまくっている生徒達の姿だった。

 

 ノリがいいこのクラスが大好きです。

 

 

 




・高町桃子
血は繋がっていないが、恭也の母親。戦闘民族高町家においてヒエラルキーのトップに立つお方。
常に笑顔だがそれが返って怖いこともある。

・「うーまーいーぞぉぉぉ!!」
ミスター味っ子の味皇様。本当は雄山にしようかとも思ったが、あの人が料理を褒めているイメージが湧かなかったので却下となった。

・(……友達の人、ちょっと格好いいかも)
深い意味はありません(意味深)

・月村忍
とらハ3におけるヒロインの一人にして公式メインヒロイン。
原作では夜の一族という吸血鬼混じりだが、この世界ではただのお嬢様です。

・ガールフレンド(仮)
検索検索アメーバで検索ぅ!

・忍びねぇなぁ 構わんよ
もしかして:スキマスイッチ(偽)

・「パイがなんだって?」
良太郎は運動会編で自重してたため、学校でのびのびとしてます。

・姫川友紀
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。サンキューユッキ。
大の野球好き少女。キャッツという球団がお気に入り。
なお作者はそこまで野球に詳しくないためそれほど野球ネタは使われない模様。

・黒豆サイダー
学園都市謹製の飲み物。ちょっと飲んでみたい気もする。

・鷹富士茄子
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
モバマス界のラッキースター。「なす」ではなく「かこ」なのでお間違えないよう。
SRのおっぱいを見て「これだ!」と思った。何がこれだったのかは作者にも分からない。

・十分の一を一に変える能力
漫画版『魔王』より安藤潤也の能力。今さらながらあの漫画はわりと良作だったと思う。

・ノリがいいクラスメイト
クラスメイト達は無名ばかりだけど大抵こんなノリ。
なお他クラスの友人の方がくせ物ぞろいの様子で……。



最近更新が遅くなってしまい申し訳ありません。学校に九時まで拘束されると流石に疲れて。
とりあえず出したかったモバマスキャラをクラスメイトに二人投入。採用理由はほぼ年齢。茄子は加えておっぱい。

次回、多重クロス注意報が発令されます。お気を付けください。


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Lesson19 プライベート・タイム 3

※多重クロス警報発令


 

 

 

 朝のホームルームも終わり、通常の授業が始まる。

 

 どうやら良太郎さんは数学が苦手らしく、小テストの結果に項垂れる場面も見受けられた。勉強に苦悩する様子は、まさに高校生らしい年相応な姿である。

 

 しかし、英語の授業にて良太郎さんの意外な一面を垣間見ることになる。

 

「それじゃあ次の文を……久しぶりにリョータロー、読んでくれますカ?」

 

「イエース」

 

 英語の教師に指名され、その場に立ち上がった良太郎さんは。

 

『――――――。――――――』

 

 驚くほど流暢な発音で英文の朗読を始めたのだった。

 

『――――――?』

 

『――。――――――』

 

 さらに教師からの英語での質問に対して英語で返していた。

 

「相変わらずキレイな発音ですネ。Thank you、リョータロー」

 

「ユアウエルカーム」

 

 授業終了後に尋ねてみた。

 

 ――英語がお得意なんですか?

 

「まぁ、得意教科ではありますね」

 

 ――これは海外進出を考えてのことですか?

 

「いや、あくまで知り合いと通訳なしで話せるように勉強したもんですから、そういうのはあんまり考えたことないですね。それはそれでありかもしれませんけど」

 

 既に海外からも『サムライアイドル』などと呼ばれ注目されている良太郎さん。今のところ海外での活動はないものの、日本のキングオブアイドルが世界に羽ばたく日は近いかもしれない。

 

 

 

「りょーくん、英会話出来たんだ」

 

「海外進出か……わたし達はまだまだかな?」

 

「するとしたらアイツを天辺から引きずり下ろしてからね」

 

 

 

 

 

 

 昼休憩となり恭也達と弁当を囲む。

 

 弁当はもちろん母さん作。以前『別に学食でもいいけど』って言ったら子供のように拗ねられてしまい、それ以来ずっと弁当である。

 

 ただお母様。

 

「ハートは止めてくれって何度言ったら分かっていただけるのか……」

 

 弁当箱を開けるとそこには鮭フレークで作られたハートの模様が。朝食に気を取られててこれをすっかり忘れてた。ここ確実に使われるんだろうなぁ……。

 

「相変わらず可愛くて愛情のこもってそうなお弁当ね、周藤君」

 

「可愛いはともかく、愛情という一点ならそっちも負けてないだろ。なぁ、恭也」

 

「………………」

 

 俺以上の無表情になりながら、恭也は月村から渡された手作り弁当を黙々と食べていた。

 

 この際彼女云々の話はいいけど、女の子からもらった弁当を何の感想も無しに食べるのは些かどうかと思うぞ。

 

「いいのよ、周藤君。いつもはちゃんと美味しいって言ってくれるから」

 

「はいはい、ご馳走さまご馳走さま」

 

 何で弁当に手をつける前にご馳走さまをせにゃならんのだと嘆息しつつ、いただきますと手を合わせるのだった。

 

 

 

「ふぅ」

 

 適当に最近のことを話し合いながら昼食を食べ終え、缶コーヒーを飲みながら一服。

 

 今現在は昼休みなので、俺が久しぶりに登校してきたという話を聞いた友人が何人か俺を訪ねてきた。

 

「おっす良太郎! 久しぶりに会えて嬉しいぜ!」

 

 その内の一人、学ラン姿のリーゼントが勢いよく教室に入ってきた。トントントンッとテンポよくお互いの拳を打ち合わせる。

 

「おう、久しぶり。仗助」

 

「ちっがう! 俺は弦太郎だっての!」

 

「あ、わり」

 

 だってお前ら格好が似すぎだし、と如月(きさらぎ)弦太朗(げんたろう)の頭を見る。

 

「おいおい、そいつは聞き捨てならねぇなぁ~?」

 

「お?」

 

「こんな奴の頭より、この俺の髪の方がずっとグレートに決まってんだろ?」

 

 噂をすれば何とやら。弦太朗と並ぶ我が校の二大学ランリーゼントの片割れ、東方(ひがしかた)仗助(じょうすけ)が、自身の髪を撫でながら教室に入り口に立っていた。あの変な立ち方、疲れないのだろうか。

 

「む、この俺の気合いの入った魂の髪型が負けてるわけないだろ!」

 

「いいぜ~? 今日こそきっちりとどっちが真の魂を持ってるかはっきりくっきりさせてやるぜ!」

 

「こっちこそ! 今日こそお前と真のダチになってやるぜ! 喧嘩は心の語り合いだ!」

 

 こいつら基本的には害のない性格してるはずなんだが、変なところで熱くなるんだよなぁ。話のベクトルは見事に噛み合っていないけど。

 

「まずは第三者の意見からだ!」

 

「良太郎! 俺と如月、どっちの髪がグレートだ!?」

 

「俺には区別がつかんってさっきから言っとろーに」

 

 人の話を聞かない奴らである。

 

「というか、鷹富士とか恐がってる奴がいるから、やるなら教室の外でやってくれ」

 

 怯えながら俺の後ろに隠れるのは可愛らしくて大変よろしいんだが、思いの外握力が強くて掴まれてる肩が痛い。なんかミシミシいってる気がする。

 

 しかし、人の話を聞かない二人は更にヒートアップ。周りからは「お前何とかしろよ」という視線を向けられる始末。え、これ俺が収拾するの?

 

(ほら、さっさとしろよ)

 

(骨は拾ってファンの子達に高く売ってあげるからねー)

 

(そこはせめて嘘でも大事にして欲しかったです)

 

 というか、こいつら久しぶりに登校してきた多忙なアイドルを労るという考えはないのか。

 

 しょうがない、二人を止めるか。とりあえず鷹富士の手を肩から離させようとすると、更に来客が現れた。

 

「喧しいぞ、貴様ら!」

 

 お前も煩いよと心の中でツッコミながら教室の入り口に目をやる。

 

「どちらの髪が優れているだのどーのこーのと……」

 

 袴を履いた和服姿のツルツル頭、天光寺(てんこうじ)輝彦(てるひこ)がそこにいた。

 

「その学ランといい、少しは学生らしい格好をしたらどうだ!」

 

「「格好云々に関してお前にだけは言われる筋合いねぇよ!」」

 

 その点に関しては全くもって同意だとばかりにクラス全員が弦太郎と丈助の言葉に頷く。

 

「何だと!? この日本男子の魂が込められた和服の何がおかしいと言うつもりだ貴様ら!」

 

「指定制服着てねぇ時点でどう考えても同類だろ!」

 

「オメーはハゲてるからこのリーゼントに込められた魂が分かんねーんだよ!」

 

「ハゲではない! 剃っているだけだ!」

 

 わー、二人でも十分厄介なのに三人になった途端にさらに厄介になった。我が校が誇る変人の内の三人が揃うとこうも面倒くさいことになるのか。

 

「四人、の間違いだろ?」

 

「恭也、自分を卑下するのはよくない。ご両親や可愛い妹二人が悲しむぞ」

 

「ほう? つまりお前は何が言いたいんだ? 理解力に乏しい俺にも分かりやすく説明してもらえるか? 特に可愛い妹二人という点を重点的に」

 

「そうやって直ぐに小太刀を突き付けるところだよシスコン!」

 

 木刀とはいえ何処から出したんだよマジで!? お前の流派が暗器を使うことは知ってるけど、小太刀まで隠し持つとかどうなってんだよ!?

 

 それ以前に妹を可愛いって言われたら素直に喜んどけよコノヤロウ!

 

「可愛い妹と聞いて!」

 

「呼んでないからさっさと帰れハゲ!」

 

「ハゲではない! 剃っているだけだと何度言ったら……!」

 

「今のはお前じゃねーよハゲ天! 言われるのがイヤならそんな変な頭するな!」

 

「今俺のこの頭のこと何つった!?」

 

「お前のことでもねーよ!」

 

 いよいよ収拾がつかなくなってきたぞコレ。何だ何だと周りのクラスから何人も様子を覗きに来てるし、これ以上人が増えたらどうしようもなくなる。テレビ的には随分と面白いんだろうけど、そろそろ何とかしないといかんな。

 

 という訳で最終手段に出ることにしよう。

 

 

 

「とりあえずお前ら、俺の歌を聴けやぁぁぁ!!」

 

 

 

「学校名物『周藤良太郎ゲリラライブ』キター!」

 

「他のクラスの奴らも呼べ! 早くしねーと先生達が来ちまうぞ!」

 

 『色々なものが混ざってカオスになったならかき乱せば混ざりきるはず理論』の下、とりあえず場をかき乱すことにした。

 

 

 

 当然先生方に関係者全員怒られました。

 

 

 

 

 

 

「いやー、やっぱり学校は楽しいな」

 

「あれだけの騒動を楽しいの一言で済ます気かお前は」

 

 授業終了後、夜からの仕事に向かう前に寄るところがあると良太郎さんは言った。

 

 ――何処へ向かっているのですか?

 

「こいつの実家がやってる喫茶店です。昔からよくお世話になってるんで、今日は久しぶりに寄ろうかと思いまして」

 

 そう言いながら向かったのは、喫茶店『翠屋』。シュークリームが人気の巷で人気の喫茶店だが、なんと良太郎さんの友人の実家だそうだ。

 

「今さらだが、学校帰りの客が多そうだな。やっぱりテレビカメラ連れてくの止めた方がよかったか?」

 

「父さん達がOKを出してたから問題ないだろう。ウチの客ならそう大した騒ぎにもなるまい」

 

「了解。それじゃあ改めて……みどりキャロットへようこそ」

 

「勝手に人の店を改名するな」

 

 カランというドアベルの音と共に開いたドアを潜り、店内へ。

 

 

 

「あ、この店、良太郎が前に差し入れしてくれたシュークリームのお店ね」

 

「へー、りょーくんの友達のお店なんだ」

 

(……今度一人で行ってみようかな)

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー。良太郎君、お久しぶりね。恭也もお帰りなさい」

 

「お久しぶりです、桃子さん」

 

「ただいま、母さん」

 

 あらかじめ連絡を入れておいたので、桃子さんは俺やスタッフ達に驚くことなく出迎えてくれた。

 

「にゃっ!? 良太郎お兄さん!? それにテレビカメラ!?」

 

 と思いきや、小さな店員さんが驚いていた。どうやら知らされていなかったらしい。

 

「やぁ、久しぶりだね、なのはちゃん」

 

「お、お久しぶりです! えっと、後ろのテレビカメラは……?」

 

「気にしなくて大丈夫だよー。なのはちゃんはお手伝い?」

 

「うん。今日は塾もなくて、アリサちゃんやすずかちゃんも習い事の日だったから」

 

「偉いなー、なのはちゃんは」

 

「にゃー!?」

 

 恭也の二人いる妹の内の一人、高町家次女の高町(たかまち)なのはちゃんの頭を撫でる。

 

「いらっしゃい、良太郎君」

 

「あ、士郎さん。今日はいきなりスミマセン、大勢で押し掛けることになっちゃいまして」

 

「別に構わないよ。いい宣伝になるし、何より良太郎君が顔を出してくれただけで満足さ」

 

 おぉ、なんやこのナイスミドル、いい男過ぎる。桃子さんみたいな美人さんと結婚出来たのも納得だ。

 

「それに、桃子も君に用事があったみたいだし」

 

「え?」

 

 唐突だが、世の中にはヒエラルキーというものが存在する。上下に序列化された組織構造を指す言葉だ。類義語にカーストというものがあるが、意味合いが若干異なるのでここではヒエラルキーを使わせてもらう。

 

 高町家のヒエラルキーのトップは当然士郎さん……と思いきや、士郎さんは上から三番目。二番目は意外にもなのはちゃん。そして頂点に君臨するのが、翠屋が誇るパティシエール、桃子さんである。簡単に言ってしまえば戦闘民族高町家のラスボス的存在だ。

 

 で、長々と語って結局何が言いたかったのかというと。

 

 

 

「良太郎君? この間の芸能事務所への差し入れの件について私とお話ししましょ?」

 

 

 

 桃子さん(ラスボス)からは、絶対に逃げられないっ……!

 

 

 




・『サムライアイドル』
あれでしょ? とりあえず日本人はサムライってつけとけばいいんでしょ?(適当)

・お弁当にハートの模様
可愛い母親がいる時点で主人公も十分リア充。

・如月弦太朗
『仮面ライダーフォーゼ』の主人公。フォーゼドライバーで変身したりしない。
短ランリーゼント姿だが好青年。学校の全員と友人になることが目標。

・東方仗助
『ジョジョの奇妙な冒険』第四部の主人公。スタンド能力は持っていない。
改造学ランリーゼント姿。頭のことをバカにされると凄い勢いでキレる。

・天光寺輝彦
『コータローまかりとおる』のメインキャラ。通称ハゲ天。
完全に作者の趣味。アイマスの二次創作でこいつが登場することはこの小説以外で未来永劫存在しないと断言できるほどドマイナーキャラ。分かる人はきっと作者とおいしいお酒が飲める。

・「可愛い妹と聞いて!」
ロリコンでハゲ → 井上準
出すつもりはなかったのだが、妹の話をしたら勝手に出てきたロリコン。執念半端ない。

・「俺の歌を聴けやぁぁぁ!!」
元ネタはバサラです。シェリルとか言うとにわか扱いされるのでお気をつけください。

・みどりキャロットへようこそ
4は……嫌な、事件だったね……。

・高町なのは
恭也の妹にして『魔法少女リリカルなのは』の主人公。決して魔王などではない。
何気にこの小説においても重要なポジションであるという伏線を張っておく。

・ラスボスからは絶対に逃げられない。
逃げるコマンドが逃げ出しました。探してください。



ハゲとリーゼントしかいませんが間違いなくアイマスの小説です。
これだけ多重クロスすることは当分ないと思います。
ただし次回は翠屋なのでリリなの小説並みの登場人物になると思いますがご了承ください。



          εεεεε ヽ( 逃げる)ノ


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Lesson20 プライベート・タイム 4

Q これはとらいあんぐるハートですか?

A いいえ、リリカルなのはです。

A 違います、アイドルマスターです。


 

 

 

「もう、どうして始めから相談してくれなかったの? 後輩の激励のためだって言ってくれたら、ちゃんと特別なケーキを用意してあげたっていうのに」

 

「いえ、その、先輩風を吹かそうと見栄を張って有名店のケーキを、と思いまして……すみません、はい」

 

 

 

 良太郎さんがカウンターの隅の席で店の人と仲良く話をしている間に、翠屋のマスターである高町さんに良太郎さんの話を聞いてみた。

 

 ――良太郎さんは昔からよくここに?

 

「そうですね、小学生の頃からになりますから……かれこれ八年以上になりますね。いつも今彼がいるカウンターに座って、コーヒーとシュークリームを注文してくれますね」

 

 ――昔からですか?

 

「えぇ。まだ小学生なのに美味しそうにコーヒーを飲んでいたのを覚えてますよ」

 

 もっとも表情は昔から変わったことがありませんが、と高町さんは笑う。

 

 ――高町さんから見た良太郎さんは、どのような人物ですか?

 

「……そうですね。少し、変わった少年です。けれど、他人のための思い遣りを持っている素晴らしい少年だと思っています」

 

 身内の恥を晒すようで恥ずかしいですが、と前置きをしてから高町さんは語り出した。

 

「四年前になりますかね。私は事故にあって、長い間意識不明の寝たきりになっていたことがありました。妻も息子達も店や私に付きっきりになってしまい、まだ幼稚園児だった末の娘をほったらかしにしてしまっていた時期があったんです」

 

 そんな時に娘さんの面倒を見てくれていたのが、良太郎さんだったそうだ。

 

「良太郎君も当時はアイドルデビューしたばかりで大変だったはずなのに、一緒に遊んでくれたり食事の面倒を見てくれたりしてくれたおかげで、娘に寂しい思いをさせずに済みました」

 

 良太郎君には感謝しきれませんよ。高町さんは、まるで自分の息子を自慢するかの様にそう語ってくれた。

 

 一切表情を変えることがないことから、『鉄仮面の王子』と称される良太郎さん。しかし、その仮面の下には人を思いやる暖かな心があることを我々は知ることとなった。

 

 

 

「……りょーくん」

 

「……ふ、ふーん、いいとこあるじゃない」

 

「助けられたって言うなら、わたし達と同じだね」

 

 

 

 

 

 

 桃子さんとの話し合いはおおよそ十五分ほどで意外に早く終わった。いや、体感時間的にはもうちょい長かったような気もするけど。

 

 お話が終わった後は、いつもの席でいつものコーヒーとシュークリームを注文。なのはちゃんや士郎さん達と談笑しながらまったりと過ごす。

 

「え、最近はなのはちゃんも道場で稽古してるの?」

 

「はい。苦手な運動を克服しようと思いまして」

 

 努力家だなぁ、なのはちゃんは。

 

「おかげでこんなことも出来るようになったんですよ!」

 

 見ててください、となのはちゃんはカウンターの上に紙コップを置いた。何も入っていないただの紙コップである。

 

 そしてティースプーンを手に取ると紙コップから少し距離を取った。左足を下げ、腰を少し落とし、右手は前に軽く持ち上げ、ティースプーンを持つ左手は後ろに引く。その立ち振舞いはまるで剣士のようで……。

 

「え、ちょ」

 

「……行きます」

 

 なのはちゃんがそう呟いた次の瞬間、スパーンッという音が響き……。

 

 

 

 ……突き出されたティースプーンが紙コップを『貫通』していた。

 

 

 

(……いやいやいやいや!?)

 

 待て待て。ティースプーンが紙コップを貫通すること自体はいいんだ。いや本当はよくないが。ティースプーンは金属で、紙コップは文字通り紙なのだから、貫通しない道理はない。物理的には。

 

 問題は『中身が何も入っておらず固定もされていない状態の紙コップを貫通した』という点だ。普通、軽い紙コップを突くだけではただ吹き飛んでしまう。それを貫通したという事実が、今の突きの鋭さを物語っていた。

 

「出来た! 良太郎お兄さん、どうですか!?」

 

「あ、あぁ、うん。凄いね、なのはちゃん。頑張ったんだね」

 

「えへへ!」

 

 褒めて褒めてと言わんばかりに寄ってくるなのはちゃんの頭を撫でる。いやー、子犬みたいでカワイイナー。

 

(おい、今のって……『射抜(いぬき)』だよな? お前らの流派の)

 

 士郎さんにも褒められているなのはちゃんを横目にこっそりと恭也に尋ねる。

 

(あぁ、その通りだ)

 

(え、何、ただの体力作りだとばかり思ってたんだけど、あんな本格的な修業してるの?)

 

 いくら何でもあの大往生レベルになのはちゃんが付いていけるはずがないと思うが。

 

 いや、と恭也は首を横に振った。

 

(……どうやら、見て覚えたらしい)

 

(……お前マジで言ってんの?)

 

 門前の小僧習わぬ経を読むってレベルじゃねーぞ。何というか、流石士郎さんの娘というか、恐るべし高町の血族というか。戦闘民族高町家ってのもいよいよ現実味を帯びてきたな。

 

「大体、なのはが体力を付けようと言い出したのは、お前が原因でもあるんだからな」

 

「俺?」

 

 新たにやってきたお客さんの接客に向かったなのはちゃんの後ろ姿を見送る。俺、なのはちゃんに影響与えるほど何かしたっけ?

 

「小さい頃からトップアイドルのお前や、世界的な歌手のフィアッセやゆうひさんを側で見てきたんだ。……憧れもするだろう」

 

 ……えっと、つまり、なんだ。

 

「なのはちゃん、コッチの仕事に興味があるってこと?」

 

「アイドルか歌手かは分からんがな」

 

 はぁー、なのはちゃんがねぇ。何というか、不思議な気分。

 

 ……もっとも、アイドルになるのに『射抜』は必要無いが。

 

(そういや、フィアッセさんは? 今日はシフト入ってないの?)

 

(テレビカメラが来ているのに表に出られるはずがないだろ。今は奥に入ってもらっている)

 

(それもそうか)

 

 歌手フィアッセ・クリステラさんは現在諸事情によりその活動を休止し、高町家に居候をしつつ翠屋で働いている。別に隠している訳ではないが、テレビに映ると面倒くさいことになるだろうから、懸命な判断ってところかな。

 

 さて、と。

 

「そろそろ時間かな」

 

「仕事か?」

 

「あぁ。八時から歌番組の生放送だ。見てくれてもいいんだぜ?」

 

「一週間前にお前が出ると知ってから、その時間のテレビの視聴権はなのはが予約済みだ」

 

「それはそれは」

 

 それじゃあ、小さなファンのために頑張ってくるとしますか。

 

 

 

 

 

 

「周藤良太郎さん、入られましたー!」

 

「お、おはようございます良太郎さん!」

 

 おはようございます、と挨拶をしながら良太郎さんが歌番組のリハーサルのためにスタジオに入ると、新人アイドルは良太郎さんに向かって頭を下げる。

 

「――それで、このタイミングでライトが点灯しますので……」

 

「この時のカメラはどっちに動いてますか?」

 

 先程まで友人と楽しそうに談笑していた良太郎さんの雰囲気はなく、真剣に段取りを確認するその姿はまさしくアーティストのそれであった。

 

 ちなみに、良太郎さんのマネージャーでもある幸太郎さんの姿はない。別の仕事があるらしく、こうして良太郎さんが一人で現場、ということも珍しくないとのことだ。

 

 全ての段取りを何の滞りもなく済ませた良太郎さんは、足早に楽屋へと戻ってしまった。

 

 ――もう戻られるのですか?

 

「えぇ、まぁ。今日は新しい子が何人もいましたし、あんまり長々と俺があそこにいたら落ち着けないでしょうから」

 

 個人的には新しい子とも仲良くやりたいんですけどね、と呟く良太郎さん。

 

 トップアイドルであるということは、我々には分からない孤独というものが存在するのかもしれない。

 

 楽屋に戻った良太郎さんに、普段の本番前の過ごし方を聞いてみた。

 

 ――本番前は楽屋で何をしていらっしゃるのですか?

 

「えっと……そうですね、そんな大したことしてないですよ。段取りをもう一回確認したり、軽く身体を動かしたり」

 

 あとは仮眠とか、と言いながらアイマスクを付けて良太郎さんはソファーで横になる。

 

「………………」

 

 ――良太郎さん?

 

「……zzz」

 

 どうやら横になってほんの数秒で本当に寝てしまったらしい。しかし、十分後に突然ムクリと起き上がった。

 

「とまぁ、こんな感じですね」

 

 ――随分と寝付くのが早いんですね。

 

「今は落ち着きましたけど、デビューしたての頃は本当に忙しかったですからね。僅かな合間を見付けては寝ている内に何処でもすぐに寝てすぐに起きれるようになりましたよ」

 

 おかげで授業中の居眠りもバッチリです、と良太郎さんはそんな冗談を言いながら親指を立てていた。

 

 

 

「……絶っ対に冗談じゃないわね」

 

「リョウのことだから、ホントに寝てるんだろうね」

 

「もう、りょーくんってばお茶目さんなんだからー!」

 

 

 

 

 

 

「間もなく本番でーす!」

 

「はーい」

 

 スタッフさんの質問に答えている内に時間になってしまった。

 

 本当は段取りとか曲とかダンスとかの確認は早々に済ませてずっと寝てるつもりだったんだが、よもや全国放送で「待ち時間はずっと寝てます」と言うわけにもいかない。流石の俺も自重した。

 

「あ、良太郎さん、本番前のこのタイミングで最後の質問いいですか?」

 

 今朝からずっと俺に質問を投げ掛けてきていたスタッフさんが、そんなことを言って俺を呼び止めた。

 

「これで最後なんですか?」

 

「はい。ここを番組の最後に持ってくる予定なので」

 

 なるほど。

 

「それでは手短に。今の良太郎さんが思うがままにお答えください。……良太郎さんにとって、アイドルとはなんですか?」

 

 ……あー、このタイミングで来るのね。いやまぁ、確かにこの手の質問は一番最後に持ってくるのが定石か。

 

 どうせ聞かれるだろうと思っていたので、特に困ることもない。

 

 その答えは、俺がアイドルになってから一度たりとも変わったことがないのだから。

 

 

 

「俺にとってのアイドルとは、ファンの笑顔で光り輝く存在。……誰かが笑顔になってくれている証明、ですかね」

 

 

 

 

 

 

『そう言い残し、良太郎さんはステージへと上がっていった。きらびやかな、アイドルという世界のステージへ』

 

『周藤良太郎。若くしてトップアイドルに登り詰めた彼は、今日もまたファンのために歌い、ファンのために踊るのであった』

 

 

 

 テーレーレレー、とエンディングテーマと共にスタッフロールが画面下部を流れる。

 

「オープニングは微妙だったけど、エンディングは相変わらず良いわね」

 

「何て曲だっけ? 何とかになりたかったペンギン、とかそんな感じの名前だったような……?」

 

「……ハシビロコウになりたかったペンギン?」

 

「少しでも空を飛びたかった気持ちは分からないでもないけど、何でよりによってそこチョイスしちゃうのよ……」

 

 ほとんど動かないじゃないのよ、あの鳥。

 

 三十分の番組を見終わり、私達三人は一斉にぐぐっと伸びをする。……上体を反らしたことにより、両脇の二人の胸が揺れて少しイラッとしたが、グッと堪える。

 

「何というか……まぁ、別段と何かがある訳でもない普通の日常って感じだったわね」

 

 クラスメイトはあんまり普通な面子ではなかったが。

 

「アタシはりょーくんの制服姿が見れただけでも満足かな」

 

「新鮮ではあったね」

 

 そう言いながらりんはニコニコと笑い、ともみは私達が使ったコップやお皿をお盆に乗せてキッチンへと持っていく。

 

「あ、片付けは私がやるわよ」

 

「大丈夫。それより、もうそろそろ遅いから帰り支度しないと」

 

 ともみに言われて時計を確認してみると、現在時刻は既に午後九時を回っていた。確かに、今日はこの辺りでお開きだ。

 

 おのおの帰り支度を終え、荷物を持つ。

 

「りょーくんのことが更に知れた有意義な時間だったなー」

 

「はいはい」

 

「電気消すよ?」

 

 パチリと部屋の灯りが消えて室内は暗闇に包まれる。

 

 まだまだ良太郎のいるところまでの道程は長い。

 

 明日もまた、頑張ろう。

 

 パタンという音と共に、ドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

おまけ『高町家長女』

 

「ただいまー! 恭ちゃん、良太郎さん来てる!?」

 

「おかえり美由希。良太郎なら、たった今帰ったぞ」

 

「えー!? 久しぶりに学校に来てたって話聞いたから、ウチにも来てるだろうと思って急いで帰ってきたのに!」

 

「残念だったな」

 

「もー! 私だって久しぶりに良太郎さんと話したかったのにー!」

 

 

 




・四年前の事故
以前士郎さんは最初から堅気だったという話をあとがきでしたが、諸事情により変更。
そっちの仕事の最中に怪我をして入院、退院後は引退して喫茶店に専念という、リリなの√を採用。

・なのはの面倒を見る良太郎
ロリコンじゃないです。おっぱいの方が大好きなんです。

・なのはの『射抜』
漫画版『魔法少女リリカルなのはINNOCENT』のワンシーン。
漫画版の経緯は分からないが、この小説のなのはちゃんは良太郎に憧れてアイドルを目指し、真面目に運動をするようになった結果こうなった。恐るべし高町の血族。
※追記
あれは射抜ではないとご指摘をいただきました。マジ未プレイにわか作者乙。

・大往生レベル
具体的には七年と五カ月かかるレベル。御神の剣はそれ以上な気もするが。

・「……zzz」
瞬間睡眠。現実世界のトップアイドルにも実際に必須のスキルだったそうなので。

・ハシビロコウになりたかったペンギン。
実際の情熱大陸のEDは『エトピリカ』。
『咲-Saki-』の作中の作品「エトピリカになりたかったペンギン」より。
ハシビロコウは各自ググってください。

・両脇の二人の胸が揺れて少しイラッとしたが、グッと堪える。
三人はこんな配置 ↓
       山 谷 山

・おまけ『高町家長女』
高町美由希。恭也の妹でなのはの姉。みつあみ眼鏡の文学系剣士。
様々なリリなの小説において不憫キャラとして扱われており、例に漏れずこの小説でも不憫だった。



というわけで密着取材編終了です。最後駆け足になった感は否めない。

次回からは本編……と思いきや、番外編です。
こんな番外編みたいなやつをやっておいてさらに番外編かよ、とお思いのそこのあなた、ご安心を。

皆さんお待ちかねのイチャラブですよイチャラブ!

ヒロインは秘密ですが、外伝として良太郎と恋人になったアイドルとの話にするつもりです。
ただ、ここで選ばれたアイドル=本編ではヒロインにならないということですのでご了承ください。

次回予告はお休みですが、適度にお待ちください。


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番外編01 もし○○と恋仲だったら

良太郎がフルスロットルです。


 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「……私は、帰ってきたー!」

 

 空港を出て、ぐぐっと大きく伸びをする。

 

「よーやっとワールドツアー終わったぜ……」

 

 いくら体力に自信があったからとはいえ、世界一周ツアーは無茶があったと今更ながら反省。しかし面白かったので後悔は一切していない。要するにいつも通りのステージをする以外は海外旅行みたいなもんだし。

 

 ただまぁ、一つ不満があるとするならば、最愛の恋人との触れ合いがお座なりになってしまっていたという点か。移動と仕事ばかりで全然会うことが出来ていないのだ。

 

「なぁ、兄貴」

 

「ダメだぞ」

 

 続いて空港から出てきた兄貴に、提案する前に却下されてしまった。

 

「せめて内容ぐらい聞いてくれよ」

 

「どうせ『このまま会いに行く』とか言うつもりだろ? 明日からオフなんだから今日ぐらいしっかり身体を休めろって」

 

「今の俺に必要なのは身体の休息じゃない、恋人との触れ合いなんだ」

 

 エロ的な意味ではなく、要するにイチャイチャしたいのである。

 

「ダメなもんはダメだ。あんまり無理を言うようだったら、お前が隠してる本のこと言っちまうぞ」

 

「既にバレてお説教を経て正式に所持を許可されているから一向に構わん」

 

「オープン過ぎるだろお前……!?」

 

 バレた時はマジで焦ったが、男だからしょうがないと許されたのだ。俺の恋人マジ寛大。おっぱいだけじゃなくて心もデカイ。

 

 ただ、その際に「あまり自分以外の女性は見ないでほしい」と可愛らしいお願いをされてしまったので、それ以来ほとんど買っていない。

 

 なお、隠してるのはグラビアの写真集であって決してR18的な物じゃナイデスヨー。

 

「というか、もうこんな時間だぞ? 今から行ったら向こうにだって迷惑がかかるだろ」

 

「む、それもそうか……」

 

 現在の時刻は既に午後九時を回っていた。言われてみれば、確かに兄貴の言う通りである。

 

「しょうがない……明日にするか……」

 

「そうしておけ」

 

 ガラガラとキャリーバッグを引っ張りながら、俺と兄貴はタクシー乗り場へと向かうのだった。

 

 

 

 タクシーで一時間弱揺られ、俺達は実家マンションへと帰ってきた。

 

「「ただいまー」」

 

「コウ君リョウ君おかえりー!」

 

「おかえりー、コウ、リョウ」

 

 玄関を潜ると我が家のミニマムマミーと、今では兄貴の嫁となった早苗姉ちゃんが娘のカナちゃんを抱き抱えながらリビングからパタパタと走ってきてお出迎えしてくれた。

 

「世界一周お疲れ様」

 

「いや、ホント疲れたよ。カナー、パパ帰ってきたよー」

 

 早苗姉ちゃんからカナちゃんを受け取ってデレッとする兄貴。すっかり父親の顔になっちゃってまぁ。

 

「お土産はー?」

 

 お母様は二言目がそれですか。

 

「土産は後日郵送されてくるから、今日は我慢してくれ」

 

 子供のようにまとわりついてくる母さんを軽くあしらいつつ、リビングの片隅のお父祭壇にて父さんに、兄貴と二人で帰宅報告をする。……父さんの写真に向かって手を合わせているが、しっかりと父さんは健在である。何というか、既に習慣である。果たして我が家の父上様はいつになったら帰ってくることやら。

 

「お風呂沸いてるよね?」

 

「沸いてるけど、リョウはまず自分の部屋に行きなさい」

 

「何ゆえ」

 

 風呂に行こうとしたら早苗姉ちゃんにストップをかけられた。早く風呂に入って寝たいんだけど。

 

「部屋でお客さんが待ってるよー」

 

「お客さん? ……っ!?」

 

 母さんの言葉にまさかと思い、急いでリビングを後にする。

 

「うんうん、愛だねー。……うわーん! お父さーん! コウ君に続いてリョウ君まで親離れしちゃって寂しいよー! 結構早い段階でしてた気もするけどー!」

 

「あぅあぅ」

 

「うぅ、おばあちゃんを慰めてくれるのー? カナちゃんは優しいねー……」

 

「……相変わらず、お義母さんの見た目でおばあちゃんってのは無理があるわね」

 

「本人はおばあちゃんってフレーズが大層気に入ってるみたいだけどな」

 

 母さんの泣き声が背後から聞こえてくるが、今はスルー。自分の部屋の前に着くと、そのまま勢いよくドアを開けた。

 

 俺の部屋の中では、一人の女性が俺のベッドに腰を掛けていた。

 

 彼女こそ、俺が今一番会いたかった女性。俺の最愛の恋人。

 

 

 

「……ただいま、貴音」

 

「お帰りなさいませ、あなた様」

 

 

 

 四条貴音が、優雅に微笑んでいた。

 

 

 

「……会いたかった貴音ー!」

 

「きゃ」

 

 なんか感動の再会的なモノローグになったが、そんなのお構いなしに荷物を放り出して貴音に抱き着く。

 

「ほふぅ、貴音ー……」

 

「ふふ、まるで甘えん坊の子供のようですね」

 

 貴音のやーらかい身体に顔をグリグリと押し付けてモフモフしていると、貴音は優しい手付きで頭を撫でてくれた。

 

 あー、癒される……。

 

「って、どうしてここに?」

 

「今日帰ってくるという話を聞いていましたから、帰ってくるあなた様をお出迎えしたいと思ったのです。それで、お母様と早苗殿にお願いをして……」

 

「俺の部屋で待っててくれた訳か」

 

 なんともまぁ可愛らしいサプライズである。今日は会えないとばかり考えていた俺には最高のサプライズだ。

 

 

 

 なお、ここまでの会話は全て貴音の胸に顔を埋めている状態で進めている。しかしエロ的な考えは一切起きず、ただただ貴音の包容力に癒されるばかりである。

 

 

 

 いつまでも押し倒している状態も辛いだろうと一旦離れ、今度は膝枕をしてもらう。貴音の大乳が間近で堪能できる素晴らしい体勢だ。思わず全国の貴音ファンに「どうだ羨ましかろう」とドヤ顔したくなる。表情はやはり動かないけど。

 

「ワールドツアー、お疲れ様でした。どうでしたか?」

 

「移動の連続で疲れたが、楽しかったぞ。貴音に会えなかったのは辛かったけど」

 

「ふふ、わたくしもです。あなた様とこうして再び触れ合える日を心待ちにしておりました」

 

 手を伸ばして貴音の頬に触れると、貴音は目を細めて俺の手を取り更に頬を刷り寄せてくる。

 

「……んっ」

 

 指先が耳に触れると貴音の身体がピクリと僅かに跳ね、大乳が目の前で揺れる。恋人同士になって知ることになった貴音のウィークポイントだ。

 

「もう、おイタはダメですよ」

 

 内心でニヤニヤしているのがバレたらしく、メッと注意と呼べない注意を受けるが一向に反省するつもりはない。

 

「……それで、あなた様。話をする時はしっかりと人の顔を見ていただきたいのですが」

 

「ちゃんと見てるぞー」

 

「先ほどから胸に視線が固定されているようですが」

 

「胸の先にある貴音の顔を見てるんだって」

 

「わたくしからはあなた様の顔が見えていると言うのに、目線が合わないのは面妖な話ですね」

 

「面妖だね」

 

 全く、と困ったように眉根を寄せる貴音。胸を見ている事に対してはお咎めはない、というか特には気にしてないみたいだ。胸を凝視されていることよりもちゃんと目を見てくれないことに拗ねている辺り、俺の恋人すげー可愛い。

 

 貴音はこういった性的な事に対する認識が少しばかりズレている。以前、ちょっと好奇心を抑えきれなくなって「おっぱい触らせてください」と素直に頭を下げたらあっさりと了承されてしまい、逆に困惑してしまった。「恋仲だから問題ない」って、いやまぁ、貴音がいいならいいけど。個人的には大変ありがたいし。

 

 とてもやーらかかったです。(キリッ)

 

 その後も見ている見ていないだのと言い合いながらイチャイチャと頬をつつき合う。これだよ、こういうイチャイチャが今の俺には必要だったんだよ。

 

「……こうしてあなた様と恋仲でいられることが、まるで夢のようです」

 

「夢じゃないさ。貴音のために頑張ったんだぜ? 俺」

 

 

 

 少しだけ、過去語りをさせてもらうことにする。

 

 恋人同士になって初めて明かされたことなのだが、貴音は母方の祖母が日本人のクォーターで、ヨーロッパのとある小国の貴族の出身らしい。直系ではないらしいが由緒正しき身分とやらだそうで、色々と決まりごとがあったらしい。しかし成人の義までは自由に過ごすという約束を取り付けて、わざわざ日本に来てアイドルをしていたそうだ。

 

 それでここからが問題なのだが、貴音には親に決められた許嫁がいたらしいのだ。今は日本で自由にしているが、いずれ貴音が帰ってしまえば俺達は別れなければならなくなる。

 

 

 

 ――俺の貴音を渡してたまるか!

 

 

 

 要するに、貴音の実家に俺がその許嫁よりも価値がある人間だと認めさせればいい訳だ。そこで俺は兄貴や知り合いと話し合って一つの結論に至った。

 

 

 

 とりあえず世界でも獲ってみるか、と。

 

 

 

 世界で活躍している友人や知り合い――フィアッセさんとティオレさんのクリステラ親子、スティーヴ・パイやカイザー・ラステーリなど――に協力してもらい、周藤良太郎海外進出計画を決めて即実行に移した。当時十九歳の話である。

 

 とりあえず持ち歌を全部五ヶ国語(英語、中国語、フランス語、ドイツ語、ロシア語)で歌い直し、各国の様々なメディアに出演して、色んなコンクールやら賞やらを総なめにしまくった結果。

 

 

 

『本年度『NMU(ナショナルミュージックアルティメイト)』アイドル部門最優秀賞は……リョウタロー・スドウ!』

 

 

 

 二年後のそこには、元気にトロフィーを受け取る俺の姿が!

 

 『NMU』。文字通り、世界一の音楽を決める式典。そこで最優秀賞を取るということは、文句なしに世界一だと認められるということだ。

 

 そのNMUに乗り込んだ俺は、日本人初にして歴代最年少で最優秀賞を勝ち取って見せた。あの日高舞ですらなし得なかったことを、ついに成し遂げたのである。(あの人の場合、活動期間が短かっただけで、普通に活動していたら分からなかったが)

 

 『He is the IDOL.』

 

 それは、世界に認められた俺への最大の賛辞。

 

 長く苦しい戦いだった……!

 

 何とか期限である貴音の成人の義に間に合わせることができたので、授賞式の帰りの足でそのまま貴音の母国へ突撃。貴音の両親に「お前らの娘寄越せやフォラァ」とトロフィーを投げ付けたのだった。

 

 すみません、意味がない嘘吐きました。帰りの足で実家に行ったことはホントだけど、普通に「娘さんをください」って頭下げました。

 

 その際、貴音の許嫁が突っかかってきたりするハプニングもあったが、誠心誠意オハナシをしたらちゃんと分かって貰えた。いやいや、イイヒトダッタナー。

 

 以上が、今に至るまでの簡単なダイジェストである。

 

 

 

 

 

 

 わたくしは、足を紐で結ばれた鳥でした。

 

 空を飛ぶことを許されても、いずれ再び鳥籠に囚われることが定められた一羽の鳥。

 

 許嫁との婚姻までの僅かな時間を自由に生きようと、祖母の故郷である日本でアイドルになりました。しかし自らに残された時間はごく僅か。

 

 そんなわたくしを救ってくださったのが、良太郎殿でした。

 

 

 

 ――俺の貴音を渡してたまるか!

 

 

 

 恋仲となった良太郎殿は宣言通りにNMUで頂点に立ち、わたくしが欲しいと言ってくださった。

 

 嬉しかった。こんなわたくしのために世界一になると言ってくれて、さらに実現してくれたことが。

 

「……貴音?」

 

 今こうして、わたくしの膝の上に頭を乗せているこの方が愛おしい。

 

 

 

 あぁ、この方を好きになって良かった。

 

 

 

「……愛しております、あなた様」

 

「……俺も愛してるよ、貴音」

 

 

 

 わたくしの頬に添えられている良太郎殿の左手に、自分の左手を重ねる。

 

 お互いの薬指にはめられた銀のリングが、カチリと音を立てた。

 

 

 




・周藤良太郎(22)
21の時にNMUアイドル部門で最優秀賞を獲得し、名実ともに「世界一のアイドル」の称号を手に入れた。良太郎が本気を出すとこうなる。全ては愛の力。
なお世界進出を決めたため、大学には行っていない。

・四条貴音(21)
三年前から突如としてその美しさが増し増しになり、文句なしにトップアイドル。今では女優としての仕事が多い。
良太郎との交際は一応秘密ということになっているが、世間を騒がす日も近い。
なお、付き合う理由は特に無し。というか考えてない。大事なのはイチャラブするっていう事実だから、そこは重要じゃないよね?(暴言)

・「……私は、帰ってきたー!」
再び貴音をモフモフする為に、貴音をクンカクンカする為に!
日本よ、私は帰って来たっ!

・「オープン過ぎるだろお前……!?」
健全な写真集なので問題はないです。(棒)

・今では兄貴の嫁となった早苗姉ちゃん
早苗さん大勝利UC。なおあくまで番外編なので、他の世界線では嫁役が変わる模様。
ちなみに娘の名前は 早苗 → 風神録 → 神奈子 という連想ゲームから。

・貴音の胸に顔を埋めている状態
・「どうだ羨ましかろう」
・「おっぱい触らせてください」
既に恋人なので自重しない良太郎。マジ炉心融解しろ。

・貴音は母方の祖母が日本人のクォーター
オリジナル設定。いくら髪色が若干おかしい世界でも、純粋な日本人があの銀髪は流石に……。
故郷に関しても当然オリジナル。別に月出身というわけではない。

・スティーヴ・パイやカイザー・ラステーリ
共に『コータローまかりとおる!』における世界的に有名なギタリスト。
クロスはお休みといった矢先のこれである。

・NMU(ナショナルミュージックアルティメイト)
オリジナルの世界大会。都合のいい大会がなかったので。

・『He is the IDOL.』
彼はアイドルであり、アイドルとは彼のことである、的な意味合いのはず。(英語弱者)

・長く苦しい戦いだった……!
この良太郎はTASではなくチートです。



というわけで、遅ればせながらの誕生日おめでとう記念的な意味も含めて番外編ヒロインのトップバッターは貴音でした。お姫ちんマジお乳ちんでお尻ちん。
主人公(作者)の言動から何となく予測してた人はいるんじゃなかろうか。なんだかんだ言って765プロの中で一番の『美人』は誰かと問われたら貴音だと思う。異論はしょうがないから認める。

ラブコメとか長らく書いてなかったからちゃんと書けてるか不安。確かこんな感じでいいはず。

次回からは今度こそ本編に戻ります。といってもアニメ本編からは外れ、様々なアイドルにスポットを当てたオリジナルの個人回になります。
てなわけで久しぶりの次回予告です。



 良太郎の下にかかってきた一本の電話!

 それは、新たな事件の幕開けだった!



「兄貴が病院に運ばれた!?」



 今、兄と弟、姉と妹の絆が試される!



「これでも、真美は亜美のおねーちゃんだしね!」



 次回! 『アイドルの世界に転生したようです。』第21話!

 『兄弟姉妹』で、また会おう!!



※若干の虚偽が含まれておりますのでご注意ください。


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Lesson21 兄弟姉妹

遅くなった言いわけは後書きにて。



「………………」

 

 ゆっくりと瞼を持ち上げる。目の前に知らない天井が広がっている訳もなく、いつも通りの見慣れた天井だった。

 

「……なんだ、ゆめか」

 

 何か凄い幸せな夢を見ていた気がする。具体的には誰か大乳な女の子とイチャイチャする夢。

 

「あんな可愛い嫁さん貰って退廃的に暮らしてみたいもんだよ」

 

 まぁ、顔は覚えていないので本当に可愛い嫁さんだったかどうかは定かではないのだが。

 

 とりあえず上体を起こし、ベッドの縁に腰を掛けて大きく欠伸をかく。

 

「……起きるか」

 

 現在時刻は午前七時過ぎ。部活も何もしていない高校生の土曜日の起床時間にしてはやや早いかもしれない。しかし俺の休日の起床時間は大体こんなもの。

 

 特に日曜日の朝は戦隊ヒーロー、ライダー、魔法少女の三連コンボを視聴するために大体この時間だ。内容や名前はやや違うが、まさか転生したこの世界でもこの番組の流れが確立しているとは思いもよらなんだ。

 

 ちなみに俺の初主演作はゴールデンタイムに放送されていた『少年X』だったが、初出演作はこっちの世界のライダーである『覆面ライダー(ドラゴン)』だ。覆面ライダー天馬(ペガサス)に変身するライバル役で、最終回直前に敵にやられて退場してしまうが、ラスボスを倒すためのヒントを主人公に残すというなかなか美味しい役どころだった。

 

 劇場版とか特別編とかでまた出番ないかなーと思いつつ、寝間着から普段着に着替えて洗面所へ向かう。

 

 ガラッ

 

「「あ」」

 

 洗面所の引き戸を開けると、そこには着替え中で上半身裸の人物が。

 

「誰得だよ」

 

「言ってる意味は分からんがさっさと閉めてくれ。寒い」

 

 まぁ、兄貴なんだが。キッチンから母さんの鼻唄が聞こえてきている時点で兄貴以外にはありえないし。

 

 兄貴はどうやら朝イチでシャワーを浴びていたらしく、バスタオルでガシガシと頭を拭いていた。

 

「ほら、洗面台前からお退きなさい。イケメンが今から顔を洗うんだから」

 

「お前と俺はほとんど瓜二つだろ」

 

「いやいや、よくよく見れば違うって。目と口と鼻の数とか」

 

「造形は違えどそこだけは基本的に変わってたまるか」

 

 などと互いに軽口を叩きながら朝の身支度を整える。

 

「というか、兄貴は今日も休日出勤?」

 

「自営業みたいなもんだからな。休日も何もないさ。お前だって同じだろ」

 

「まあな」

 

 今日は雑誌の取材と来週の番組の打合せがある。夕方からはフリーになるが、残念ながら受験生らしくお勉強である。模試の合格判定はBと上々であるが、他の奴等より勉強の時間を取れない分油断が出来ないのだ。

 

 なお、本日の恭也は月村と二人きりでお勉強だと昨日月村本人から聞いた。嬉しいのは分かったから俺に惚気るのは止めていただきたい。何かもう妬みを通り越して悲しみを背負うことが出来てしまいそうになるから。

 

「全く、たまには丸々一日休みにしてデートにでも行ってくりゃいいのに」

 

「……いや、まず誰を誘うのかという問題点があるし……」

 

「四人で行きゃいいじゃん」

 

「死ぬわ! 精神的に!」

 

 美女(一名外見美少女)を三人も侍らせてたら社会的にも死ぬかもな。もしくは物理的に。

 

「あんまりウダウダやって、いい加減刺されても知らんぞ」

 

「い、いや、あの三人はそんな性格じゃ……」

 

「別にあの三人だけだとは限らんだろ」

 

 人知れず兄貴が好きだった人とか、あの三人を好きだった人とか。

 

「まぁ、もし刺されたら枕元に菊か百合の花でも持っていってやるよ」

 

「墓前はともかく、まだ息がある状態では止めてくれ……」

 

「腹切りの後は介錯して首を落とすのが常識だろ?」

 

「今日のお前ちょっと容赦なさ過ぎやしないか!?」

 

「うるせぇ! 幼なじみが今日知り合いの女の子と二人きりでイチャコラやってるのに対して『俺って何でアイドルやってるんだろうなぁ……』とか自分の考えがブレるぐらい考えちまった俺の切なさが分かるか!」

 

 二人のギャーギャーとした喧しい言い争いは、朝食が出来たと母さんが呼びに来るまで続けられた。

 

 

 

 

 

 

 とまぁ、そんなことを話したのがつい今朝のこと。

 

「ウチの兄貴がヘタレで困ってます」

 

「奇遇ね。私も楽屋に変な奴が来てて困ってるわ」

 

 雑誌の取材が問題なく終わり、昼食を取ってから訪れたテレビ局にて竜宮小町の楽屋を発見したので遊びに来た。

 

「りっちゃんが冷たいなり」

 

「わざわざお茶淹れてあげたでしょ」

 

「りっちゃんのお茶温かいなりぃ」

 

「さっさと飲んで帰れ!」

 

 最近りっちゃんからの風当たりが厳しい気がする。解せぬ。

 

「それにしても、良太郎君は本当にお兄さんと仲良しなのね」

 

 俺の話を聞いていたあずささんが頬に片手を当ててあらあらと微笑む。

 

「まぁ、悪くはないですね。もちろん、それなりに喧嘩することもありますけど」

 

「あら、それは意外ね。何だかんだ言って仲良く二人三脚でやってるのに」

 

 まぁ、デビュー当初からずっと二人でやってここまで来たんだ。仲が悪かったら到底無理だな。

 

「二人三脚だからこそ喧嘩することもあるんだよ。それに、喧嘩しない兄弟なんぞいないだろ」

 

 ねぇ、と兄や姉がいる二人に視線を投げ掛けてみる。

 

「……まぁ、そうね。私も、時々だけどお兄様と喧嘩することあるし」

 

「亜美も、真美とおやつの取り合いで喧嘩とかよくするよー」

 

 伊織ちゃんと亜美ちゃんも同意してくれた。亜美ちゃんは何となくそんな気がしてたけど、伊織ちゃんもするんだ。まぁ、水瀬財閥の御令嬢がアイドルをやってると色々あるんだろうな。麗華もデビューしたての頃は実家と揉めてたらしいし。

 

 兄弟姉妹なんて同じ穴から産まれても結局は別人なんだから喧嘩ぐらいするさ、と言おうかと思ったけど流石にこのメンツで言うと完全にセクハラだから自重する。おっぱい発言? あれは俺なりの愛ですよ。

 

「私は一人っ子だったから、兄弟や姉妹がいる三人が羨ましいわ」

 

「分かりました。年下ですが、僭越ながら俺があずささんの兄になりましょう。『お兄ちゃん』でも『お兄様』でもお好きにどうぞ」

 

「アンタの変な趣味にあずささんを巻き込まないでくれる?」

 

「りっちゃんは『にー様』で頼む」

 

「ふんっ」

 

 立ち上がったりっちゃんから鳩尾に(ニー)様を貰ってしまった。響ちゃんの沖縄弁みたいに『にーにー』を頼んでいたら連続膝蹴りだったかもしれない。危なかった。

 

 というか、プロデューサーをやってるストレスか知らないが、アイドル時代よりもりっちゃんの手が早くなってる気がする。これもスキンシップの一貫だと考えてはいるが、物理的ダメージは普通に辛いからもう少しなんとかならんもんか。

 

「そういえば、千早達がまだなのかって焦れてたわよ」

 

「ん?」

 

 千早ちゃんが?

 

「忘れたの? ほら、一緒にレッスンするって約束してたじゃない」

 

「あぁ、あれね」

 

 何かと思えば、どうやら以前激励に行った日に約束したことだった。

 

「スケジュールの帳尻会わせが終わって、何とか765プロのみんなの仕事がない日にレッスンをねじ込めたよ」

 

 こっちの都合で多少スケジュールが弄れるのも、俺の実力と兄貴の手腕の賜物である。まぁ、元々受験勉強という名目で仕事を減らしていたからっていう理由もあるんだけど。

 

「おー! りょーにーちゃんとレッスン! いついつー?」

 

「えっと……」

 

 手帳を取り出して日付を確認する。

 

「……ついこの間、その日に仕事が入ったわ」

 

「あり?」

 

 何というバッドタイミング。売れっ子の竜宮小町はやはり忙しかったか。

 

「えー!? じゃあ亜美たちはりょーにーちゃんとレッスン出来ないのー!?」

 

「しょうがないでしょ、仕事なんだから」

 

「ぶーぶー!」

 

「あらあら~」

 

「……まぁいいわ。アンタとのレッスンなんかなくたって、元々私達は優秀なんだから」

 

「お、言ってくれるねー」

 

 個人的には竜宮小町がどんなものか直接見てみたかったんだが、それはまた別の機会に、ってとこかな。

 

「そろそろ時間ね。みんな行くわよ」

 

「「「はーい」」」

 

「んじゃ俺もそろそろ行くかな」

 

 打合せまでの暇だった時間も丁度潰せたし。

 

「お茶ご馳走さま。今度はシュークリームでも差し入れるよ」

 

「おー! この間のシュークリーム? あれ美味しかったんだよねー!」

 

「その時は是非極上のオモテナシを頼むよ」

 

「ぶぶ漬けを用意しといてあげるわ」

 

「帰す気満々ですね分かります」

 

 

 

「ん?」

 

 りっちゃん達の後に続いて楽屋を出たところで携帯電話が着信音を奏でた。

 

「失礼。……母さんか」

 

 どうせまた「今晩のおかずは何がいいー?」とか、そこら辺の用事だろ。

 

「はい、もしもし」

 

『リョウ君リョウ君!! 大変なの大変なの!!』 

 

「……っ!?」

 

 突然の大音量に思わず携帯を耳から遠ざけてしまった。あまりの音量の大きさに、りっちゃん達も何事かとこちらを見てくる。

 

「……とりあえず落ち着いて母さん。何が大変なんだ?」

 

『えっと、さっき電話がかかってきて……』

 

 

 

「……はぁ!? 兄貴が病院に運ばれた!?」

 

 

 

 涙声の母さんの口から発せられた一言は、確かに仰天するに値する一言だった。

 

 

 




・目の前に知らない天井
伝説になるかもしれないけど神話にはならない。

・「……なんだ、ゆめか」
前回からの続き。夢落ちです。

・日曜日の朝
おかげで作者は日曜日も七時半起きです。
なんだかんだ言ってキョウリュウジャーもドキプリも面白かった。
次が不安、というかハピネスは……いや、えりか臭がしておもしろそうだけどね、プリンセス。

・ラスボスを倒すためのヒントを主人公に残すというなかなか美味しい役どころ
この覆面ライダー天馬に! 精神的動揺によるミスは一切ない! と思っていただこう!

・「誰得だよ」
ホモと腐ってる乙女に媚を売っていくスタイル。

・悲しみを背負うことが出来てしまいそうになる。
「この私も心を血に染めて、悲しみを背負うことができたよ!」
byラオウ ※エキサイト再翻訳

・「腹切りの後は介錯して首を落とすのが常識だろ?」
菊は花がポトリと落ちることから「首落ちる」と縁起が悪い花です。お見舞いに持っていくと正直洒落にならないので気をつけましょう。
※追記
「首落ちる」は菊ではなく百合などの下向きに咲く花でしたので、訂正させていただきます。

・「りっちゃんのお茶温かいなりぃ」
能面ダブルピース。

・連続膝蹴り
第何回だったか忘れたけど『杉田智和のアニゲラ!ディドゥーーン』にて杉田さんが語った「響が言う『にーにー』の意味を問うクイズの選択肢に『連続膝蹴り』があった」というエピソードより。

・ぶぶ漬け
要するに「帰れ」という意思表示です。他には壁に箒を立て掛けるなど。



短い上に遅くなり申し訳ありません。しかしおかげでようやく大学卒業が確定しました。
国家試験が控えているので時間に余裕ができたわけではありませんが、肩の荷は一つ下りた感じです。

次話にてあの三人がついに初の顔合わせになります。さてどうなることやら。


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Lesson22 兄弟姉妹 2

修羅場(導入編)



 

 

 

 ――ねぇ、どうして?

 

 ――お、おい。

 

 ――ねぇ、どうしてなの? どうして貴方は私に振り向いてくれないの?

 

 ――ま、待てって。

 

 ――私はこんなにも貴方を愛しているというのに、貴方は他の女のことばかり……。

 

 ――落ち着け! 冷静に話し合おう! な!?

 

 ――でも、もういいの。貴方を私だけのアナタにする方法、思い付いちゃったから。

 

 ――ま、待てって……なぁ、頼むから……!

 

 ――大丈夫……すぐに私も行くわ。

 

 

 

 ――ダカラ、イッショニ愛死アイマショウ?

 

 

 

 

 

 

 なーんて展開があるわけもなく。

 

「全く、車に引かれそうになった子供を助けて怪我するとか、何処の転生オリ主だよ。チートな特典でも貰う気かっつーの」

 

 なぁ、と同意を求めると、目の前のつぶらな瞳は「わふっ」と小さく鳴いた。

 

「だよなー、ハナコもそう思うよなー」

 

「でも、凄いですよ。見ず知らずの他人のために道路に身を投げ出せるなんて」

 

「もちろん悪いことだったとは言わないよ。けど、やっぱり家族としては危険なことはして欲しくないんだよ」

 

 ハナコ(犬)を抱き上げ、花屋の小さな店員さんに向き直る。

 

 たった今言ったように、兄貴は女の子を助けて怪我を負った。右足を骨折して頭も少し打ったため、しばらくの入院を余儀なくされてしまったのだ。フラグ立て乙である。

 

 思わず電話で母さんに「誰に刺された!?」と聞いてしまったのも既に昨日の出来事で、日付は変わって日曜日。命の無事は昨日確認したので、今日は着替え等を兄貴のところに持っていく予定だ。

 

 それで、ついでだし見舞いの花でも買っていってやるかと、現在花屋で店員さんに見繕ってもらっている最中である。ちなみにこの花屋はいつもお父祭壇に飾る花を買っている馴染みの花屋だ。

 

 なお、母さんは一足先に病院へ向かっており、俺はスーパー戦隊、ライダー、魔法少女を視聴してからのんびりと家を出た次第である。

 

「まぁ、こう言っちゃなんだけど丁度良かったっちゃー丁度良かったんだよね」

 

「え?」

 

 俺の言葉が意外だったらしく、小さな店員さんは作業の手を止めて顔を上げた。

 

「最近兄貴あんまり休み取ってなくてさ。これ以上働いてたらどのみち過労で倒れてたね、きっと」

 

 俺達は兄貴が簡単な基本方針をいくつか提示し、俺がその方針に沿う形で動き、その後のフォローを兄貴が行うというスタンスで今までやってきた。基本方針以外は割りと自由にやらせてもらっている俺に対し、周囲との折り合いをつけている兄貴の苦労は推して知るべし。

 

 むしろ今までよく倒れずにいたものである。

 

「都合よく命に別状はないけど入院することになったし、ちょっと早い冬休みに入って貰うことにするよ」

 

 まぁ、ある程度の調整は必要だから荷物の中には仕事用のノートパソコンも入ってるんだが。それでも元々仕事は減らしてあったし、しばらくは俺一人でも何とかなるだろう。

 

「はい、出来ました」

 

「お、ありがと」

 

 話をしている間に花束が出来上がったようだ。花の名前はよく分からないが、全体的に明るく見ているだけで元気が出てくる気がする。

 

「いや、兄貴には勿体無いぐらい綺麗な花だよ。ありがとう、凛ちゃん」

 

「いえ。幸太郎さんに、お大事にって伝えてください」

 

「あぁ」

 

 お代をカウンターに置き、花束を受け取って代わりにハナコを返す。

 

「それじゃ」

 

「え? 良太郎さん、お釣り……!」

 

「家のお手伝いを頑張ってる凛ちゃんに足長お兄さんからお小遣いだよ」

 

「で、でもこれ一万円札……」

 

「翠屋っていうシュークリームが美味しい喫茶店があるから、友達を誘って行ってくるといいよ。もしくは俺の新曲のCDを買ってくれると嬉しいかな」

 

「……あ、ありがとうございます!」

 

「じゃあ凛ちゃん。ハナコもまたな」

 

「わふっ」

 

「また来てくださいね!」

 

 首元に引っ掻けておいたサングラスをかけ直してからボストンバッグを肩にかけて、花束をしっかりと手に持ち、ハナコの前足を持って一緒に手を振る店員さんに見送られながら『渋谷生花店』を後にした。

 

 

 

 

 

 

 普段あまり浪費することもない小遣いを贅沢に使ってタクシーに乗り、やって来た市民病院。サングラスを外したせいで正体が看護士さんにバレかけ、しかしその看護士さんが他の看護士さんに「あ~さ~く~ら~!」と怒られている隙に逃げ出したりと、少々ハプニングもあったが無事兄貴の病室の前まで辿り着いた。

 

 ……辿り着いた、のだが。

 

「……何か、嫌な予感」

 

 何というかこう、病室のドアの隙間か不穏な空気が廊下まで滲み出てきていた。

 

 え、何、部屋の中で黒魔術の儀式でもやってるの? レベル8をリリースして儀式召喚でもするの? 汝が我がマスターなの?

 

 非常に中に入りたくないのだが、このまま荷物を持って帰るわけにもいかないので、覚悟を決めて中に入ることにする。だ、大丈夫大丈夫。軽いノリで入っていけばいつもみたいにギャグ補正がかかるはずだから。

 

 世界の大いなる意志を信じて、ドアをノックする。

 

「はーい」

 

 聞こえてくるのは母さんの声。よし、母さんがいるならきっと大丈夫……と信じたい。

 

 意を決して、俺はドアを開けた。

 

「おーっす。現役アイドルが着替え一式をお届けに来た、ぜ……」

 

 言葉を元気よく発することが出来たのはそこまでだった。

 

 兄貴が入院する個室の中にいたのは。

 

 

 

 いつも通りのニコニコ笑顔の我が家のミニマムマミーと。

 

 昔から変わっていない快活な笑みを浮かべる早苗ねーちゃんと。

 

 相変わらずクールで大人な微笑みを浮かべる留美さんと。

 

 765プロのみんなを見るような暖かな眼差しの小鳥さんと。

 

 顔面蒼白を通り越してやや土気色になりながら冷や汗をダラダラと流す兄貴であった。

 

 

 

「……すみません、部屋間違えました」

 

「間違ってない! お前の兄貴の病室は間違いなくここだ! だから帰るな! 回れ右をするな!」

 

 素早く離脱しようとしたが兄貴に呼び止められてしまった。

 

(呼び止めないでください。私と貴方の関係はアイドルとプロデューサーです。お互いのプライベートには干渉しないと決めたじゃないですか)

 

(血の繋がりを否定するほど嫌か!? いやまぁ気持ちは分からないでもないけどお願いしますいかないでください何でもします)

 

 ん? 今何でもするって言ったよね? と返す余裕もなく、そんなアイコンタクトをしながら離脱を試みる。

 

「リョウ君ごくろーさま! 荷物持ってきてくれてありがとー!」

 

「あら良、久しぶりね」

 

「そんなところに立ってないで、入ってきたらどうですか?」

 

「荷物持ちますね?」

 

「……はい」

 

 離脱に失敗してしまった。兄貴を無視してさっさと出ていけばよかった。

 

 ニッコリと笑う小鳥さんにボストンバッグを渡し、中に入る時とは別の覚悟を決めて俺はドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

「え!? りょーたろーさんのお兄さんが事故!?」

 

「あぁ。命に別状はないらしいが、しばらく入院だそうだ」

 

「ミ、ミキもお見舞いに行った方がいいのかな!?」

 

「落ち着きなって美希」

 

 良太郎さんのお兄さんが入院したと聞き、オロオロとしだした美希の肩を春香が押さえてソファーに座らせる。

 

「まだ俺達はお兄さんの方とは直接的な面識はないんだから、いきなりお見舞いに行っても迷惑になるだけだ。だから、うちの事務所からは小鳥さんが代表してお見舞いに行ってくれている」

 

「え? なんで小鳥さんが?」

 

「何でも、律子が現役でアイドルをやっていた時からの知り合いだったらしい。今朝いきなり電話がかかってきて、お見舞いに行くから今日は午後から事務所に行くってさ」

 

「だから今日は小鳥さんの姿が見えないんですね」

 

 ただ、かかってきた電話越しに凄まじい熱意というか何というか、意気込み的な何かを感じたんだが、一体あれはなんだったのだろうか。

 

「それはそうとお前達、今日は午後からの予定じゃなかったか?」

 

「えっと、ちょっとでもテスト勉強ができたらなって思いまして……」

 

「ミキも同じくテスト勉強なの」

 

「「え」」

 

 美希の口から予想外の言葉が発せられたため、思わず声が裏返ってしまった。

 

「……二人とも、その反応はなんなの?」

 

「え? あ、ご、ごめん」

 

「ちょ、ちょっと意外だったから、つい」

 

 こう言っちゃなんだが、美希と勉強が素直には結びつかない。事務所で起きていること自体が珍しいのに、その上勉強をするというのだから、思わず耳を疑ってしまったのも無理はないはずだ。

 

「しつれーなの、二人とも。ミキだってちゃんと真面目に勉強ぐらいするの!」

 

「ご、ごめん、別にバカにするつもりはなかったんだけど……」

 

「……ん?」

 

 もしかして。

 

「美希、お前この間の『熱情大陸』を見たのか?」

 

「もちろんなの! りょーたろーさんが出てる番組を見ないという選択肢を、ミキは持っていないの!」

 

「やっぱり」

 

 どうやら『熱情大陸』で受験勉強を頑張っている良太郎君の姿を見て影響されただけらしい。

 

「それに、今度のテストで結果がよかったら次のライブのプレミアムチケットをプレゼントしてくれるって良太郎さんと約束したの!」

 

「えぇ!? 美希、いつの間に良太郎さんと!?」

 

「この間仕事の現場で同じになって、学校の話になったの。それで、次のテストで頑張ったら良太郎さんがご褒美をくれるって言うから、プレミアムチケットをお願いしてみたらオッケーだって!」

 

「い、いいなぁ! ね、ねぇ美希、それ、私の分もお願いできないかなー?」

 

「いーやーなの! 春香も自分でお願いするといいの!」

 

「仕事の現場で良太郎さんと一緒になる前にテストもライブも終わっちゃうよー!」

 

 ま、まぁ、動機は何であれ、勉強することはいいことだ。

 

 勉強の前にお茶を淹れようと席を立った春香を見送りながら、俺はホワイトボードに小鳥さんが午前中不在の旨を書き記す。その際、聞いていた病院の名前を書いたのだが、そこで一つ引っかかることがあった。

 

(……あれ?)

 

「プロデューサー、どうしたの?」

 

「いや、この病院の名前、何処かで聞いたことがあると思ってな」

 

 もちろん、そこの病院の存在自体は前々から知っていた。しかし、つい最近聞いたばかりのような気がしてならない。一体何処で聞いたのやら……。

 

「おまたせー。って、あれ? 良太郎さんのお兄さん、そこの病院に入院してるんですか?」

 

「え、春香、この病院に何かあったか?」

 

「何かあるもなにも……」

 

 春香はカチャリと人数分の湯のみが乗せられたお盆を机の上に置く。

 

「そこの市民病院って確か――」

 

 

 




・何処の転生オリ主だよ
おま言う

・「誰に刺された!?」
感想ではどちらかというと「やっぱり刺されたか」という反応の方が多かった。
兄貴は愛されてますね(棒)

・「足長お兄さんからお小遣いだよ」
後輩の女の子に物を奢るのが好きな作者。野郎? 水道水でも飲んでろよ。

・渋谷凛
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
ニュージェネレーションの一人で、最も有名なモバマスキャラと言っても過言ではない。
原作では15歳だが、この作品では何と亜美真美と同い年の13歳である。まさにロ凛ちゃん。

・「あ~さ~く~ら~!」
『ナースのお仕事』と聞いてアレな感じなものを思い浮かべてしまうのは、心が汚れている証拠。

・レベル8をリリースして儀式召喚でもするの?
『カオス -黒魔術の儀式-』
混沌の黒魔術師の帰還はよ(バンバン

・汝が我がマスターなの?
このセリフでロリロリィなセイバーがピーカブースタイルで上目遣いになっている所まで妄想した。

・SHURABA!
どうだお前ら! これか!? これがお望みだったんだろ!?

・ん? 今何でもするって言ったよね?
女性三人に求婚されているのにはっきりしない兄貴は○モ。はっきりわかんだね。

・「良太郎さんと約束したの!」
兄貴のことをどうこう言いつつ、自分は自分でちゃっかりアイドルとのフラグを立てていた模様。
結局兄弟である。

・「そこの市民病院って確か――」
次回に続く!



色々と書いてるうちに修羅場は次回になってしまった。申し訳ない。

※前回のあとがきで拾い忘れていたネタを一つ追記しました。


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Lesson23 兄弟姉妹 3

遅ればせながらハッピーバレンタイン。


 

 

 

「いやー、幸が事故に遭ったって聞いておねーさんびっくりしちゃったわよー」

 

「本当に。あまり無茶はしないでくださいね」

 

「貴方が怪我することで、悲しむ人は大勢いるんですから」

 

「あ、事故った原因は居眠り運転で、相手は全面的に非を認めてるらしいから、後処理はスムーズに進みそうよ」

 

「それはよかったです」

 

「最近先輩も忙しいみたいですし、これ以上面倒ごとが増えたら更に大変なことになっていましたからね」

 

 

 

「………………」

 

 周藤良太郎ですが、義姉候補三人の会話が和やかすぎて逆に怖いです。

 

 留美さんは兄貴の側の丸椅子に座り、小鳥さんは俺達全員にお茶を淹れ終えてからは留美さんの後ろに立っていて、早苗ねーちゃんは幼馴染みという気安さから留美さんとは兄貴を挟んで反対側のベッドの端に腰をかけていた。ちなみに俺と母さんは少し離れた位置の丸椅子に座っている。

 

 こうして会話の内容と部屋の配置を羅列すると、兄貴のことが好きな女性三人が和やかに談笑するハーレムラブコメ的な一場面に見えないことはない。見えないことはないのだが……。

 

 

 

 三人共、目が笑ってないんだって。

 

 

 

 何というか、三人共「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ」と言わんばかりに目のハイライトが無くなっていた。

 

 その真っ只中にいる兄貴本人は土気色を更に通り越してなんかもうアニメみたいな紫色をしているような気がするし。三人の会話に対しても「ハイ」とか「ウン」とか「アァ」とか片言でしか返せてない。

 

「それにしても幸、最近ずっと忙しかったらしいじゃない?」

 

「そうですね。良太郎君がもうすぐ大学受験で仕事の調整に追われているのは分かりますが」

 

「顔色悪いですよ? ちゃんとご飯食べていますか?」

 

 多分その顔色の悪さは以前からのものではなく、現在進行形で悪くなっているためだと思われます。

 

「しゃきっとしなさい! なんなら、可愛い幼馴染みがビシッと気合い入れてあげるわよ?」

 

「それより先輩には、仕事の面できちんとサポート出来る優秀な後輩が必要だと思いますよ?」

 

「幸太郎さん、料理もしっかりと出来る家庭的な女性ってどう思います?」

 

 兄貴からゴリゴリと精神が削られる音とキリキリと胃に穴が開く音が聞こえてくる気がする。かく言う、見ているだけの俺も……いあいあ……くっとぅるぅ……。

 

「はは、幸は普段からきちんと出来てるんだから、仕事のサポートなんていらないっしょ? 家庭的なって言ったって、家庭に入っちゃえばみんな家事はするわけだし」

 

「何を言っているのですか? 日常のお世話なんて誰にだって出来ます。仕事の負担を共に背負ってこそ、真のパートナーというものです」

 

「片桐さんこそ、少し具体性に欠けているんじゃないですかね?」

 

 ニコニコと素敵な笑顔で女性三人の会話は続く。

 

「いやー、ホント早苗ちゃん達は仲良いねー」

 

「ソーデスネ」

 

 しょうがない。胃潰瘍にでもなって入院期間延ばされても困るし、そろそろ助け船を出すことにしますか。

 

「あー、そう言えば兄貴、母さんに話したいことがあるって言ってたよな?」

 

 ゴホンと咳払いしてからそう言うと、全員の視線がこちらを向く。あのハイライトが無い目をこちらに向けられると凄く怖いのだが、少し我慢。

 

「少し家庭内の事情なので、お三方は俺と一緒に席を外してもらいますよ。何か飲み物でもご馳走しますから」

 

「「「………………」」」

 

 三人は互いに視線を交わす。

 

「というわけで、ちょっと俺達は出てくから、後は二人で話し合ってくれ」

 

 

 

 

 

「……で、三人共、さっきのわざとやってたでしょ?」

 

 病院内に設けられた喫茶店にて好きな飲み物を注文し、それぞれが自分の手元に来てから俺はそう切り出した。

 

「あ、バレた?」

 

「良太郎君の目は誤魔化せませんでしたか」

 

「流石ですね、良太郎君!」

 

 すると三人は目に光を戻しながらケロッと笑った。……さらっとやってるけどどうやったら目のハイライトって消せるんだろうか。

 

 まぁ簡単な話、今までのやり取りは兄貴を担ぐための演技だったというわけだ。大体、つい最近参入したばかりの早苗ねーちゃんはともかく、留美さんと小鳥さんは普通に仲良かったはずだから、いくらなんでもあそこまで険悪になるはずがない。

 

「早苗ねーちゃん、いつの間に二人と仲良くなったんだよ」

 

「この間ちょっと三人で女子会をしてねー」

 

「お母様にお願いして、早苗さんに連絡を取ってもらったんです」

 

「それで、幸太郎さんのことをアレコレ話している内に意気投合しちゃいまして」

 

「はぁ……」

 

 なんというか、なんじゃそりゃ、である。

 

 いやまぁ、三人三つ巴のキャットファイトとか見たくな……いや、ちょっとだけ見たいかもしれない、主に早苗ねーちゃんの大乳的な意味で。留美さんと小鳥さんもそこそこ……って話が逸れた。

 

 兄貴を巡って争われても困るが、だからと言って一人の男を好きになった者同士でこうも和気藹々と出来るものなのだろうか。

 

 あれか、兄貴にはハーレムラブコメ系主人公補正がかかっているとでもいうのだろうか。みんな仲良く円満に収まるように神の見えざる手が働いているとでもいうのか。

 

「今回は全然ハッキリしてくれない幸に少しお灸を据えてやろうと思ってね」

 

「最近はずっとメールでのやり取りばかりでしたから」

 

「まぁ、病院の前で偶々鉢合わせて即興で決めたことなんですけどね」

 

「ソーデスカ」

 

 兄貴にお灸って話なら納得出来ないこともないが、兄貴の忙しさの主因となっている身なので何とも言い難い。今回はこっちに被害がなかったことが唯一の救いだが。

 

「それにしても、困り顔の幸も結構可愛かったわねー」

 

「普段はしゃきっとしてますが、あの表情もなかなか……」

 

「ちょっと写真撮っておきたかったですね……」

 

 ダメだこいつら、早く何とかしないと。

 

「何はともあれ、あんまり苛めてやらんで下さい」

 

「優しいわね」

 

「あんなんでも俺の兄貴なんで」

 

 むしろ兄であること以外に庇う要素が一切無い。もし他人だったら嫉妬の炎で邪王炎殺黒龍波を放つところだ。

 

「さて、それじゃあ俺は行きますね」

 

「もう帰るんですか?」

 

「荷物を持ってくる役目は終わってますし、このまま現場に向かうことにしますよ。三人はゆっくりしていってやってください。何だかんだ言って、三人が来てくれて兄貴も喜んでるでしょうし」

 

 むしろ喜んでなかったら殴る。お見舞いに神の見えざる手(ゴッドハンドクラッシャー)をお見舞いしてくれる。

 

 机の上に置かれていた伝票を手に取って立ち上がる。

 

「あら、ホントに奢ってくれるんですか?」

 

「そんな、悪いですよ!」

 

「気にしないで下さい。どうせ俺がこの中で一番の高給取りですし」(トップアイドル)

 

「言ってくれるじゃない……」(警官)

 

「私もそれなりに貰っていますが、良太郎君と比べられては流石に……」(社長秘書)

 

「ぴよぉ……」(事務員)

 

「まぁ、美人のおねーさんのためにお金を出すのが男の役目ってことで」

 

 男は格好つける生き物なんですよー。

 

「あ、じゃあケーキ追加するからちょい待ち」

 

「では私も」

 

「モンブランが美味しそうですね」

 

「ちょ」

 

 

 

 

 

 

 お茶だけのつもりがいつの間にかケーキを追加されたでござる。いやまぁ、別にいいんだけど、最近財布の中身の減りが激しい気がする。ちと調子に乗って使いすぎたな……自重せねば。

 

 もうしばらく話をしていくと言う三人を残して、喫茶店を出た俺は病院の出口を目指す。

 

 今日は日曜日なので外来患者はおらず、院内を歩いているのは入院患者と見舞いに来た人、それに病院関係者のみ。しかし先程身バレしそうになったことを踏まえて早めにサングラスを着用する。おかげで先程の看護師さんにも気付かれず、別の人に「せ~ん~ぱ~い~!」と怒られている横を華麗にスルーすることが出来た。

 

 それじゃあ、またロータリーでタクシーを掴まえて……。

 

 

 

「ちょっとそこのおにーちゃん。もしかして、トップアイドルの周藤良太郎だったりしない?」

 

 

 

「っ!?」

 

 嘘、バレた!? この四年間一度もバレたことなかったのに!? 某夢の国で一日中遊んでても一切バレなかった俺の変装が!?

 

 一体どうして、という疑問と共に振り返る。出来るだけ穏便に、周りに騒がれないように黙っていて貰えるようにお願いしようと……。

 

「……って、君か」

 

「むー、やっぱり無ひょーじょー。りょーにーちゃんの驚いた顔は見れなかったかー」

 

「いや、滅茶苦茶驚いてるから。更なる変装の小道具に付け髭を真剣に考えるぐらい驚いたから」

 

 振り返ったそこにいたのは見知った顔。どうやら身バレしたのは知り合い補正を受けたからだったようだ。周りの人達にもバレてなかったようなので、一先ず安心する。

 

「『真美』ちゃんは、どうしてここに?」

 

「ここで働いてるパパに忘れ物を届けに来たんだー。なんと『亜美』達のパパはお医者さんなのだ!」

 

「……それは、本当のお父さんだよね?」

 

「? 本当じゃないパパっているの?」

 

「いや何でもない。戯れ言だと思って聞き流してくれ」

 

 『真美』ちゃんにパパと呼ばれてみたいと思ってしまった俺の心は穢れているのだろう。

 

「疑問に思っても決して誰か別の人に聞かないように。お兄さんとの約束だ」

 

「よく分からないけど分かったー」

 

 でないとお兄さん死んじゃうから。主に社会的に。早苗さん辺りにワッパかけられて。

 

「……って、あれ? りょーにーちゃん、今『亜美』のこと『真美』って言った?」

 

「言ったけど?」

 

 何かおかしかっただろうか。

 

「もー! やだなー、よく見てよー! 髪の毛を右に縛ってるから『亜美』だよー!」

 

 そう言いながら右側に縛った髪の毛をピコピコと動かす。

 

 いや、だから。

 

 

 

「君は『亜美ちゃんの髪型をした真美ちゃん』だろ?」

 

 

 

「……ちぇー、こっちでも驚かせられなかったかー」

 

 諦めたように縛っていた髪の毛をほどき、左側で結び直す真美ちゃん。その表情は困惑に満ちている。真美ちゃんのこの表情はだいぶレアだな。普段悪戯して困らせる側の人間が困っている表情はだいぶ新鮮だ。

 

「でもどうして分かったの?」

 

「声で」

 

「……声?」

 

「そ。普段話す時、真美ちゃんは亜美ちゃんより少しだけ声高いでしょ?」

 

「うん。だから意識的に変えてたんだけど……」

 

「その無理してる感じに違和感があってね」

 

「……すっごーい! そこで判断しちゃう人初めてだよー!」

 

「ハッハッハッ。もっと褒めてくれていいぞ」

 

 本当は亜美ちゃんより真美ちゃんの方が若干胸が大きい辺りでも気付いたんだが、そこを正面から指摘したら冗談抜きにワッパをかけられるだろうから黙っていよう。

 

「それで、亜美ちゃんの方は? 何処かで隠れてるとか?」

 

 この双子のことだし、突然現れて驚かしにくるつもりかと周りを見渡す。しかし亜美ちゃんが隠れている様子はない。

 

「……亜美は竜宮小町の仕事。今日オフなのは真美だけだよ」

 

 そう教えてくれた真美ちゃんの表情は若干の曇り模様。

 

 ……ふむ。

 

「真美ちゃん。これから時間ある?」

 

「え? えっと、家に帰るだけだけど……」

 

 

 

「よし。それじゃあ、お兄さんとデートしようぜ」

 

 

 




・深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ
「怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。」
フリードリヒ・ニーチェの『善悪の彼岸』の一節です。
漫画版『魔王』でこの言葉を知った人も多いのでは。作者もその一人。

・……いあいあ……くっとぅるぅ……。
久々のSAN値チェックです。

・ハーレムラブコメ系主人公補正
そんな「みんなで一緒に恋人になろう!」なんて都合のいい展開が本当にあると思ってんのか!(憤怒)

・ダメだこいつら、早く何とかしないと。
今さらながらデスノートはネタの宝庫。「L、知っているか」やら「ジョバンニが一晩でやってくれました」やら「計画通り……!」やら。
なお肝心の内容は何回読み直しても理解できない模様。作者はどうやってニアがキラを追い詰めたのか未だに分かっていない。

・邪王炎殺黒龍波
飛影はそんなこと言わない。

・ゴッドハンドクラッシャー
エクスカリバー「ハムドオベ怖いわー超怖いわー」
プライム「攻撃力4000を戦闘破壊しないといけないとかないわー」
ネオタキオン「出来たとしても手札消費パないわー」

・お見舞いに神の見えざる手をお見舞いしてくれる。
??「お見舞いにお見舞い……ふふっ」

・「せ~ん~ぱ~い~!」
どうやら第四期だった模様。

・「本当じゃないパパっているの?」
いるわけないじゃないですかねぇ?(目逸らし)

・亜美ちゃんの髪型をした真美ちゃん
漫画版だと亜美はウィッグをつけて真美のフリをしてたけど、逆はあれどうなってたんだろうか。

・「真美ちゃんは亜美ちゃんより少しだけ声高いでしょ?」
若干亜美の方がダミ声っぽくて低い感じ。その他に見分け方としては
「可愛い方が亜美」「可愛い方が真美」
ね? 簡単でしょ?

・「お兄さんとデートしようぜ」
リアル女子中学生をデートに誘う高校生。
早苗さん、こいつです。



凄い久しぶりの更新。ホントちょっとずつしか書けなかった。
今週末には再び時間ができると思うが……。


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Lesson24 兄弟姉妹 4

真美登場! と思いきやもう終わりでござる。


 

 

 

 中学生をデートに誘うって言葉だけで見ると何か犯罪臭しかしないけど、俺も高校生だから問題ナッシング。

 

 さてさて、真美ちゃんと一緒にタクシーに乗ってやって来たのは、テレビ局近くの公園。四年前に例の覇王翔○拳を行った、そこそこの規模を誇る公園である。

 

 えー!? デートで公園ー!? デートで公園が許されるのは小学生までだよねー! などと言うなかれ。ここに来たのは当然理由があるのだ。

 

「わ、何か人多いね」

 

 真美ちゃんが驚きの声を漏らす。公園の広場一杯に丸テーブルと椅子が並べられ、大勢の家族連れ等でごった返していた。

 

「みんなこの屋台目当てだからね」

 

「え……屋台っていうには規模が大きくない?」

 

「全国チェーンの屋台だから」

 

「屋台で全国チェーン!? どういうこと!?」

 

 というわけで、やって来たのは全国展開しているにも関わらず未だに屋台というスタンスを貫き通している拘りの中華料理屋台『超包子(チャオパオズ)』である。以前知り合いからその存在を聞いていて、一度来たいと考えていたのだ。

 

「とはいえ、流石に日曜日だけあって人が多いなぁ」

 

 丁度お昼時だし。

 

「だいじょーぶなの? りょーにーちゃん、バレたりしない?」

 

「逆にこんなところで堂々と周藤良太郎がご飯食べてるなんて誰も思わないって。ホレ」

 

「わっ」

 

 被っていたいつもの中折れ帽を真美ちゃんの頭に乗せる。

 

「真美ちゃんも一応身バレ対策しとかないと。アイドルなのは、俺や君の妹だけじゃないんだぞ?」

 

「……うん、ありがと」

 

 えへっと笑いながら頭上の帽子を押さえる真美ちゃん。

 

「帽子ブカブカー。りょーにーちゃん頭大きくない?」

 

「失敬な。いくら何でも中学生と頭のサイズが一緒なわけないだろーに」

 

 そんなことを話しながら空いたテーブルを探していると、丁度よく屋台近くのテーブルが空いたのでサッと確保する。

 

「よし、真美ちゃん何がいい?」

 

「んー……りょーにーちゃんのおまかせで!」

 

「オッケー」

 

 さてさて、何にするかなー。

 

 

 

 無難にラーメンやら青椒肉絲やら回鍋肉やらを注文し、あっという間に出てきた料理を受け取ってテーブルに戻る。

 

「おー! 美味しそー!」

 

「それじゃあ、手を合わせてー」

 

「「いただきまーす!」」

 

 二人してズルズルとラーメンを啜る。うむ、美味い。

 

「美味しー! りょーにーちゃん、ちょー美味しーよ!」

 

「ホント。なんと言うか、ラーメン屋にはないアッサリ感がいいな」

 

 他の料理もあるのでこれぐらいのアッサリが丁度いい。

 

「それで、真美ちゃんは亜美ちゃんのことで何かお悩みかな?」

 

「っ!?」

 

「はい、お水」

 

 慌てて俺の手から水の入ったコップを奪うように受け取り、一気に煽る真美ちゃん。

 

「んぐっ……ふぅ……」

 

「落ち着いた?」

 

「……りょーにーちゃん、このタイミングでそれ聞くの?」

 

「逆にこっちの方が話しやすいかなって思って」

 

 静かな落ち着いた場所で悩みなんか話しちゃうから重苦しくて変なふいんき(何故か変換できない)になっちゃうんだよ。こうやって明るくて人が大勢いるような場所で話した方が重くならずに済むんだよ。たぶん。

 

「さて、急遽開設良太郎お兄さんのお悩み相談室。本日の相談者はこちら、F・Mさん(13)です」

 

「何か真美の名前がラジオみたいになってる」

 

「双子の妹さんのA・Mさんについて何やらお悩みがあるそうで」

 

「本格的にラジオになっちゃった!? A・MじゃなくてF・Aだし、そもそもM・FとA・Fじゃない!?」

 

 とまぁ、軽いジャブはこの辺にしといて。

 

「亜美ちゃんが一歩先に進んじゃってて、悔しい?」

 

「……そーいうこと、普通真正面から聞いちゃう? しかもラーメン食べながら」

 

「だって麺が伸びちゃうし」

 

 中学生のジト目で興奮する趣味は無いので出来ればそんな目で見ないでください。

 

「……悔しいよ、やっぱり」

 

 箸を置いて俯く真美ちゃん。

 

「昔から何をやる時も一緒で。……でも、最近はずっと亜美ばっかりお仕事で。真美と亜美はマリアナ海溝よりもずっと深い絆で結ばれてるはずなのに……」

 

 喜びたい。けれど、悔しい。

 

「その気持ちは、俺もよく分かるよ」

 

「え?」

 

「俺も、兄貴に嫉妬してた時期があるから」

 

「りょーにーちゃんのにーちゃんに?」

 

「そそ」

 

 

 

 今でこそ、周藤良太郎とその兄、みたいな括り方をされることがある俺と兄貴。自慢とかではなく純然たる事実なのであしからず。

 

 しかし、俺がアイドルになる前は逆で、周藤幸太郎とその弟という括りだった。

 

 今現在病院で三人の美女に言い寄られて顔を青くしているであろう兄貴。ただのヘタレと思いきや、その正体は『天才』と称される人間である。小中とテストでは満点を取り続け、流石に高校からは満点続きとはいかなかったものの、全国模試では常に上位三人に名を連ねていた。大学も「近くて有名だから」という理由だけで選んだ東京大学の理3に難なく入学を果たしてしまうほどだ。

 

 俺自身も小学校では前世の記憶を頼りに上位の成績を取り続け、流石は周藤幸太郎の弟だと言われていた。しかし流石に中学校は覚えておらず、それでも何とか上位に食い込んでいたものの俺の成績は衰退の一途を辿る。

 

 十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人。この言葉は「神童と称される者は現時点で秀でているだけであり、ただ同年代の者よりも成長が速いだけという場合がある」という意味でできた言葉だ。まさしく俺自身のことを指し示す言葉である。

 

 片や、表情豊かな天才。片や、一切の表情を失った凡才。明晰な頭脳を持つ兄貴に対し、俺はその時未だに自分の転生特典に気付いておらずただただ迷走する日々を送っていた。これの何処に嫉妬しない要素があるというのか。

 

 

 

 

 

 

「――そんな感じで、昔の俺は劣等感の塊だったよ」

 

「………………」

 

 はっきり言って、信じられなかった。あのアイドルの頂点である周藤良太郎が、劣等感なんてものを抱いていたなんて。

 

「……でも、今は違うんだよね? ……やっぱりそれは、りょーにーちゃんがトップアイドルになったから?」

 

「別に?」

 

「え?」

 

 俯いていた顔を上げる。りょーにーちゃんはこんな話をしているのにも関わらず未だに箸を止めておらず、モシャモシャと回鍋肉を食べていた。

 

「俺がトップアイドルになったから兄貴に対する劣等感が拭えたとかそういう話じゃなくて、もっと単純で簡単な話。俺は俺で、兄貴は兄貴で、俺は兄貴の弟で、兄貴は俺の兄だった。ただそれだけの話だよ」

 

「……どういうこと?」

 

「兄貴には兄貴の進んだ世界がある。ならきっと、俺にも進むべき世界がきっとあるって、そう思ったんだ」

 

 進むべき、世界……。

 

「真美ちゃんは、亜美ちゃんのお姉ちゃんであることが嫌になった?」

 

「そんなこと――もが」

 

「はい落ち着いてー」

 

 身を乗り出して大きく口を開いたところで焼売を頬り込まれた。程よい温かさで凄く美味しかった。

 

「なら、それが答えだよ」

 

 ナプキンで口元を拭ったりょーにーちゃんは箸を置いた。

 

「きっと真美ちゃんと亜美ちゃんは双子だから、俺達以上に比べられちゃって余計に劣等感を感じちゃうのかもしれない。でも、真美ちゃんは真美ちゃんで、亜美ちゃんは亜美ちゃんだ。真美ちゃんもきっと、昔の俺みたいにあっという間に劣等感を感じなくなるところまでいけるかもしれない。だから、今はちょっとだけ我慢。美味しいもの食べて、ちょっと頭切り替えたらまた頑張ればいい」

 

 そうすれば、きっと君もいつかトップアイドルだ。

 

 頬杖をついたりょーにーちゃんは、トンっと真美のおでこを優しく突いた。

 

「……ありがと」

 

「いえいえ、どーいたしまして。ほら、料理冷めるよ?」

 

 そうだった。ラーメンが伸びちゃう、と慌てて箸を掴む。

 

(……あれ?)

 

 そこでふと気づいてしまった。

 

 さっきりょーにーちゃんが真美に焼売を食べさせてくれた時、確かにりょーにーちゃんは箸を使っていた。けれど真美の箸はしっかりとここにあり、余分の箸があるわけでもない。

 

 ということは。つまり。さっきの箸はりょーにーちゃんが使っていた箸という訳で……。

 

(か、間接キ――!?)

 

「んー、いい香りのジャスミン茶……って、真美ちゃん!? 顔真っ赤だけどどうしたの!?」

 

 

 

 

 

 

「いきなり顔真っ赤になって固まっちゃうんだから、何事かと思ったよ」

 

「え、えへへ、ごめんね」

 

 美味しい中華で腹を満たした俺達は、少し公園内を歩いていた。屋台から離れることでだいぶ喧騒からも離れることが出来た。

 

「それで、良太郎お兄さんのお悩み相談室はどうだった?」

 

「うん。ちょっち難しかったけど、何となくりょーにーちゃんが言いたいこと分かったよ」

 

「それは重畳(ちょうじょう)

 

「頂上?」

 

「『余は満足じゃ』って意味だよ」

 

「へー。うんうん! 真美もちょうじょうだよ!」

 

 二人でちょーじょーちょーじょーと言いながら、俺は真美ちゃんの頭に預けてあった帽子を自分の頭に移す。

 

「……ん? 何?」

 

 隣を歩く真美ちゃんが俺の顔を覗きこんでいたので問いかけると、彼女はえへへっと無邪気な笑みを浮かべる。

 

「真美ね、りょーにーちゃんみたいなお兄ちゃんが欲しかったんだー」

 

「俺も、真美ちゃんみたいな妹が欲しかったよ」

 

 ヤローの兄弟とかいいから、こういう可愛い妹か綺麗なお姉さまが欲しかったと切実に思う。

 

「……ねーねー、りょーにーちゃんの呼び方変えていい?」

 

「唐突だね」

 

「りょーにーちゃんだと亜美と同じっしょ? だから、真美は『りょーにぃ』って呼ぶの」

 

「おぉ、いいんじゃない?」

 

 これは新鮮な呼び方。兄の呼び方は十二種類以上あるって言うし、こういう呼ばれ方もいいかもしれない。

 

「だからりょーにぃも、いつまでもちゃん付けはブッブー! なんか他人行儀なんだよねー」

 

「君がそれで良いって言うんなら」

 

 ……何だろう、兄貴は年上のおねー様にモテているというのに、俺には年下の女の子ばかり集まっているような気がする。双海姉妹とか愛ちゃんとか凛ちゃんとかなのはちゃんとかテスタロッサ姉妹とか。

 

「何なら、ホントに俺の妹になってみる?」

 

「んー、それもいいんだけど、今はいいかな」

 

 『真美』はそう言ってにししっと笑った。

 

「これでも、真美は亜美のおねーちゃんだしね!」

 

「………………」

 

 

 

 ――これでも、俺はお前の兄貴なんだからな。

 

 

 

 ――お前は幸太郎さんの弟だ。けれど、周藤良太郎でもあるんだろ?

 

 

 

「どうしたの?」

 

「……いーや。モテモテの兄貴と幼馴染のことをちょっと思いだしてただけだよ」

 

 

 

 ……ヤローの回想で締めとかないわー。

 

 

 

 

 

 

おまけ『兄貴へのお見舞いの花は……』

 

 

 

「いやー随分と話しこんじゃったわね」

 

「幸太郎さん、ただいま戻りましたー」

 

「良太郎何処行きました!?」

 

「え?」

 

「仕事だからと言って、そのまま帰られましたよ?」

 

「何かあったの?」

 

「あいつ、見舞いの花にこんなもの仕込んでやがった」

 

「『早く怪我治して退院しろ』……普通のポストカードですね」

 

「問題は写真の方ですよ」

 

「……あれ、これって百合?」

 

「あの野郎、本当に実行しやがるとは……」

 

「何だかよく分かんないけど、あんたら兄弟も相変わらずね」

 

 

 

 

 

 

おまけ『某ネット掲示板にて』

 

 

 

【トップアイドル】公園の屋台で周藤良太郎が飯食ってた【目撃情報】

1:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

何か竜宮小町のちっちゃい子と二人だった

 

2:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

あのプライベートが一切不明なことで有名な周藤良太郎が簡単に見つかるわけないだろwww

 

3:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

嘘乙

 

4:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

りょーたんprpr

 

5:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

マジだって

こないだの熱情大陸の時にプライベートでかけてた赤い伊達眼鏡かけてたし

 

6:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

赤い伊達眼鏡かけてりゃ全員周藤良太郎かよ

 

7:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

竜宮小町のちっちゃい子っていおりん?

 

8:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

デコじゃない方

 

9:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>8 屋上

 

10:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

竜宮小町は今日テレビ局で収録だからそんなところにいるわけないだろ

 

11:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>10 何故知ってるし

 

12:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>10 お巡りさんこいつです

 

13:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>11 >>12

これぐらい765板行けばいくらでも情報あるから

 

14:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

りょーたん!りょーたん!りょーたん!りょーたんぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!りょーたんりょーたんりょーたんぅううぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん!んはぁっ!周藤良太郎たんのつやつや黒髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!ドーム公演のりょーたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!ライブDVDも良かったねりょーたん!あぁあああああ!かわいい!りょーたん!かわいい!あっああぁああ!新曲十枚目も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!ぐあああああああああああ!!!新曲なんて現実じゃない!!!!あ…ドームもライブもよく考えたら…り ょ ー た ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!東京都ぁああああ!!この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?アルバムジャケットのりょーたんが私を見てる?アルバムジャケットのりょーたんが私を見てるぞ!りょーたんが私を見てるぞ!ブロマイドのりょーたんが私を見てるぞ!!ライブのりょーたんが私に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!いやっほぉおおおおおおお!!!私にはりょーたんがいる!!やったよとーまくん!!ひとりでできるもん!!!あ、新曲のりょーたぁああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!まっまこままっままこま真様ぁあ!!ほ、ほくほく!!しょうたぁああああああん!!! ううっうぅうう!!私の想いよりょーたんへ届け!!ライブ会場のりょーたんへ届け!

 

15:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>14 りょーいん患者は鉄仮面板に帰ってどうぞ

 

16:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>14 周藤良太郎は間違いなく現実だっつーのwww

 

17:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

いや、あまりに笑わないこととプライベートで見つからないことから一時期「周藤良太郎は実在しない説」が流れてだな……

 

18:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

あぁ、「実は周藤良太郎はホログラフィーなんじゃねーか」って奴だな

 

19:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

あれ本当だよ。

だってこの間、向こう側が透けて見える周藤良太郎が俺に向かって笑顔で手振ってたから

 

20:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>19 妄想乙

 

21:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>19 残念、そいつは俺のお稲荷さんだ

 

22:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>19 また一人りょーいん患者が……

 

23:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

おいお前ら>>1の話題にもうちょい興味持ってやれよ

 

24:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>23 本人乙

 

25:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>23 本人乙

 

26:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>23 本人乙

 

 

 

「……いやまぁ、確かに本人なんだけどさぁ」

 

 スレタイの話題からドンドンと遠ざかっていくレスをスクロールしつつ、頬杖をつく。

 

「バレないことは素直に嬉しいんだが……何、俺ってそんなに現実味ねーの?」

 

 ある意味アイドルとしては正しい姿なのかもしれないが、それはそれで複雑な気分になった。

 

 

 




・覇王翔○拳
この作品でこの言葉が出たら『日高ジャック事件』のアレを指す言葉だということで一つ。

・『超包子』
「~ネ」と話す中国人中学生が経営しているとかどうとかいう噂がある中華料理屋台。
料理長まで中学生だともっぱらの噂だが眉唾ものである。

・良太郎お兄さんのお悩み相談室
主人公のポジションがポジションなだけに今後も色々なアイドルが対象に行われる可能性大。
説教フェイズとかまじ無~理~……。

・東京大学
東大出身で留美さんもそこの後輩。この設定だけで、勘のいい読者様ならば今後登場するであろう作品が思い浮かぶことでしょう。ほら、あったでしょう? 東大目指すラブコメが。

・俺は俺で、兄貴は兄貴で
A つまり何が言いたいの?
Q ちょっと作者にも分かんないですね^q^
※冗談です。まぁ個人的解釈なので、そこら辺は皆様にお任せします。

・(か、間接キ――!?)
この作品において初の良太郎との間接ちゅーを成し遂げたのは朝比奈りんでも星井美希でもない!
この双海真美だぁぁぁ!

・重畳
作者もリアルでたまに使う言葉。
わざと古臭い言葉を使いたがる辺りまだまだ作者も厨二患者。

・兄の呼び方は十二種類以上
「お兄ちゃん」「お兄ちゃま」「あにぃ」「お兄様」「おにいたま」「兄上様」「にいさま」「兄貴」「兄くん」「兄君さま」「兄チャマ」「兄や」「あんちゃん」

・テスタロッサ姉妹
リリカルなのはより名前だけ登場。果たして本編で出てくるのはいつになることやら。
一応「アイドルマスター」としての本筋の話の中でなのはと共にメインになる話を予定していることだけここに明記しておく。

・おまけ『兄貴へのお見舞いの花は……』
Lesson21での伏線回収。

・おまけ『某ネット掲示板にて』
前々からやりたかった2ちゃんネタ。本編より書いてて面白かった。

・ルイズコピペ
クンカクンカジェネレータなるものを活用させていただいて作成。
間違いなくこの話の分量が増えた原因。

・りょーいん患者
良太郎病と呼ばれる釘宮病的なものに感染した入院患者



あっけなく終わってしまいましたが、こんな感じでこの話は終了です。やめて! 石は投げないで!

次回から原作の流れを組んだオリジナルストーリーになります。
では次回予告。



 ついに良太郎と765プロアイドル達の合同レッスンが幕を上げた!

 しかしそのレッスンは少女たちの遥か斜め上を行くものだった!



「名付けて『ランニングボイスレッスン』」

「もう名前からして嫌な予感しかしないぞ!?」



 そしてそんなレッスンの最中、少女達はついに知ることとなってしまう!



「まさか、良太郎に喧嘩売ったアイドルが辞めていった理由って……!」

「……十中八九、これ以外にあり得ないわ」



 周藤良太郎が『覇王』と呼ばれる由縁となった驚愕の事実を!



 次回! 『アイドルの世界に転生したようです。』第25話!

 『地獄のレッスン!?』で、また会おう!!


 


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Lesson25 地獄のレッスン!?

遅い上に短め。


 

 

 

 それは、少し肌寒い秋晴れのとある日のことだった。

 

「何だろうね、大事な話って」

 

「さぁ?」

 

 自分達765プロ所属のアイドル全員が事務所に集められた。普段は別の仕事が多い竜宮小町の三人も一緒である。

 

 全員が何事だろうかと話し合っていると、社長室から社長達が出てきた。出てきたのは社長、プロデューサー、律子、ぴよ子の四人。四人は横に並び、自分達アイドル側と相対する形になる。

 

「おほん、今日諸君に集まってもらったのは他でもない」

 

 咳払いをしつつ社長がそう切り出すと、何事かと話していた全員が口をつぐむ。

 

 そして、社長の口から放たれた言葉に自分達は驚愕することになるのだった。

 

 

 

「この度、765プロ感謝祭のライブが決定した!」

 

『え、えぇー!!?』

 

 

 

 ライブ。それはテレビでの放送とはまた別の、アイドルとしての通過点の一つ。その舞台に、自分達も立てる日が来たのだ。

 

「メインは竜宮小町なんだが、それでも全員で挑む初めての大仕事だ!」

 

「是非とも、諸君には全力を持って挑んでほしい」

 

 社長とプロデューサーの言葉に全員のボルテージが上がる。

 

「それで、その時発表する全員の新曲も出来上がったんだが……」

 

「えー!? にーちゃんホント!?」

 

「聞かせて聞かせてー!」

 

「残念ながら、今はお預けよ」

 

「「えー!?」」

 

 律子の言葉に亜美と真美が不満そうな声を出す。声に出していないものの、他のみんなも不満そうである。かく言う自分も不満である。自分達が歌う新しい曲を、早く聞いてみたいと思うのはアイドルとして当然だ。

 

「君達が新曲に気を取られてしまうということは無いと思うが、それでも、君達には真剣に明日の予定に取り組んでもらいたくてね」

 

「明日?」

 

「明日の予定って確か……」

 

「りょーたろーさんとのレッスンなの!」

 

 何があったかと予定が書かれたホワイトボードに全員が振り向くよりも早く、美希が真っ先に反応した。美希の言葉の通り、明日は以前良太郎さんと約束した765プロ全員との合同レッスンの日だった。

 

「良太郎君とのレッスンで得られることはきっと多いだろう。諸君には存分に学んできてほしい」

 

「竜宮小町の三人は以前から言ってたように不参加だけどね」

 

 竜宮小町は番組の収録などの仕事が入っているため不在。明日のレッスンに参加するのは自分を含めて九人だ。

 

「りょーにぃってどんなレッスンやるだろうねー?」

 

「どんなレッスンって言われても、普通以外のレッスンが何なのか分からないけど……ん?」

 

 真美の言葉にそう返すが、ふと引っかかる部分があった。

 

「あれ!? 真美、何でりょーにーちゃんのこと『りょーにぃ』って呼んでるの!?」

 

 そう、そこだ。確か前までは亜美と一緒で良太郎さんのことを『りょーにーちゃん』と呼んでいたはずだ。それがいつの間にか『りょーにぃ』になっていたため引っかかったんだ。

 

 言われてみればと全員の視線が真美に集まるが、当の本人はそんな視線を気にする様子もなく自慢げに笑っていた。

 

「んっふっふ~! この間デートした時に「りょーにぃって呼んでいい?」って聞いてオッケーもらったんだー!」

 

『デート!?』

 

 これには亜美だけでなく全員が驚きの反応を見せた。特に自他ともに認める良太郎さんファンの美希は背後に雷が落ちたかのような驚愕の仕方だった。

 

「どどど、どういうことなの真美! りょーたろーさんとデートってどういうことなの!?」

 

「いーなー真美! じゃあ亜美もりょーにーちゃんのこと『りょーにぃ』って呼ぶ!」

 

「ダーメー! これは『真美』だけの呼び方! 亜美は今まで通り『りょーにーちゃん』って呼んでればいーじゃーん?」

 

「ずるーい! そっちの呼び方の方がすっごい仲良さそうじゃん!」

 

「ずるくないじゃーん?」

 

「いいから早くりょーたろーさんとのデートのことを包み隠さず一片たりとも残さず話すのー!」

 

 ヒートアップしているのは亜美と美希だけだが、何と言うか大騒ぎになってしまった。他のみんなも「良太郎さんとデートかー。いいなー」「りょーにぃって呼び方、なんかいいねー」などとキャイキャイと騒いでおり、先ほど社長から告げられた感謝祭ライブのことがすっかり頭の片隅に追いやられてしまっている様子だった。

 

「はっはっは! 随分と良太郎君は人気者だね」

 

「いえ社長、周藤良太郎が人気なのは割と昔からの話では」

 

「はぁ……社長、プロデューサー殿、今はそういう話をしている場合では」

 

「おっと、そうだったね」

 

「ほらほらアンタ達、まだ話は終わってないんだから少し静かにしなさい!」

 

 律子がパンパンと手のひらを叩いて全員の視線を集める。

 

「おっほん。という訳で、感謝祭のライブが決定した。明日は良太郎君と共にレッスンを受けて、ライブに向けて各自レベルアップしてもらいたい。良太郎君のレッスンはかなり厳しいものだと聞く。みんな、頑張って来てくれたまえ」

 

『はい!』

 

 

 

 

 

 

 その話題は兄貴への定期的な連絡中に触れられた。

 

「へー、765プロが感謝祭ライブねぇ」

 

『あぁ、小鳥さんが凄い嬉しそうに話してくれたぞ』

 

「……留美さんといい、少しは情報の漏洩について危機感を持ってもらいたいなぁ」

 

 はぁ、と思わずため息をついてしまう。普通はそんな重要な話、他のアイドルの関係者に話したりしないものなんだが。それだけ俺達が信用されているということでいいのだろうか。

 

『だから明日はしごき過ぎず、適度にレベルアップする程度のレッスンをお願いしたいそうだ』

 

「どうやったらそんな器用なレッスンが出来るんだよ」

 

 肩と頭で携帯電話を挟み、パチンパチンと足の爪を切りながらそう聞き返す。

 

「大体、俺がレッスンする訳じゃないぞ? 普段俺がしているレッスンやらトレーニングやらを一緒にやって、その中から得るものがあればいいな程度の考えなんだから」

 

『お前のレッスンは世間一般のアイドルのレッスンとは一線を画しているからな。みんなにはいい刺激になるんじゃないか? 特にトレーニングと称した地獄の所業は』

 

「俺のトレーニングが地獄なら高町ブートキャンプは大焦熱を遥かに通り越えて無間地獄を突破するんだが」

 

『お前よく生きてたな』

 

「なのはちゃんという大天使が間一髪のところで蜘蛛の糸を垂らしてくれたおかげだよ」

 

『天使なのか仏なのかどっちかにしろよ』

 

 寧ろ蜘蛛は誰だよ、という兄貴の突っ込みはスルー。

 

 あの頃は今以上になのはちゃんが俺に懐いてくれていたから、俺が恭也にしごかれているところを目撃する度に「りょうたろうさんをいじめちゃダメなのー!」とストップをかけてくれたのだ。あの子がいなかったら今頃八大地獄ライブツアーを敢行していたことだろう。

 

「とりあえず、明日はそこそこしごいて、ライブに向けての意識を高めるぐらいのことをすればいいってことだな?」

 

『そういうことだ。もちろん、将来のライバルが成長するのが嫌だって言うなら手を抜いていいんだぞ?』

 

 珍しく兄貴がそんな挑発的な言葉を向けて来た。度重なる早苗ねーちゃん達のお見舞いという名の牽制合戦にストレスでも溜まってんのかな?

 

「そんなことする訳ないだろ? 俺だって765プロのみんなのファンの一人なんだ。彼女達がレベルアップしてくれたら俺だって嬉しいさ」

 

 それに。

 

「『殻も割れていない卵』を危険視するほど怖がりじゃないよ、俺は」

 

『慢心し過ぎてると、あっという間に足元掬われるぞ』

 

 慢心せずして何が王か、ってね。

 

「慢心じゃなくて自信だよ。相手が誰であろうと、例えそれが舞さんやフィアッセさんであろうとも、俺は負けるつもりはない。もちろん、男女の違いってのはあるけどな」

 

『……デビューしたての頃の良太郎とは大違いだな。こんなに成長してくれて、ホントお兄ちゃんは嬉しいよ』

 

「やっかましいわ!」

 

 あの頃の事は今でも若干黒歴史なんだよ!

 

「とにかく、明日のことは了解した。こっちからの報告も済んだし、そろそろ母さんに代わるな?」

 

『あぁ』

 

「てな訳で、ほい」

 

「ありがとー、リョーくん!」

 

 先ほどから俺の後ろで今か今かと待ち構えていた母さんに携帯を渡すと、満面の笑みで受け取って兄貴との会話を始めた。相変わらず子離れ出来ていない母親である。

 

「コウくんどう? 元気してるー? 病気してないー? ちゃんとご飯食べてるー?」

 

 それは入院患者に対して聞くことではないという突っ込みは兄貴に任せて、俺は爪切りを片づけるためにその場を立つのだった。

 

 

 

 

 

 

おまけ『真美の秘密』

 

 

 

「なーんだ、デートって言っても二人でご飯食べただけなのね」

 

「む、それでも二人っきりでなんだから十分デートっしょー!?」

 

「ずるいの! 真美ずるいの!」

 

「それでも美希にとっては十分みたいだけど」

 

「そ、それに、か、かか、かん、間せ、かんせ……!!」

 

「わ!? 真美どうしたの!? 顔真っ赤だよ!?」

 

「……何でも無い! やっぱり言わない!」

 

「?」

 

「どうしたんだ?」

 

「むむむ……なんか真美から魔王エンジェルのりんさんみたいな雰囲気を感じるの……」

 

「何のことだ?」

 

「ふふふ、女の子には色々あるのよ、響ちゃん」

 

「いやあずさ、自分も女の子なんだけど……」

 

「亜美ー、双子のテレパシー的な何かで分からない?」

 

「流石にわかんないよー。真美ー、隠し事は無しっしょー?」

 

「これだけは絶対に誰にも言わない! 真美だけの秘密!」

 

 

 




・「俺のトレーニングが地獄なら」
八階層に分かれる地獄。ぬ~べ~読者ならば説明不要だと思われるが。
大焦熱地獄 → 絶鬼が来たところよりも深いところ
無間地獄 → 絶鬼が送り返されたところ

・蜘蛛の糸
地獄に落ちた人が依然助けた蜘蛛の糸をよじ登って地獄から出ようとするが、一緒に地獄から出ようとする人たちを蹴落としているところを見た仏様に見限られて結局地獄に落とされてしまう話。
ちょうど良くテレビで簡単に説明せよって問題が出ていたので。

・慢心せずして何が王か
良太郎もカリスマは慢心王と同じぐらいありそう。

・あの頃は今でも若干黒歴史
現在進行形で黒歴史を量産しているという説も。

・おまけ『真美の秘密』
いつもの調子で自慢しようとして自分の地雷を自分で踏みぬいちゃって真っ赤になる真美prpr



ネタ少なめですが、レッスンが始まればもう少しネタがつぎ込めると思うので今回はご勘弁を。


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番外編02 外伝嘘予告

こんなもんばっかり妄想してるから本編の執筆が進まn(ry


 

 

 

 俺は、神様から『転生する世界で最も武器となる能力』を貰って転生した転生者である。

 

 我ながら随分と曖昧な特典を貰ってしまったなぁ、と後悔したものの、その特典の内容は転生五年目にあっさりと気付くことが出来た。

 

 

 

 ――お、良太郎君も興味があるかい?

 

 ――まだ五才なのに有能だねぇ。

 

 ――それじゃあ、おじさん達と一緒に打ってみようか。

 

 

 

 俺が貰った特典は『麻雀の才能』だったようだ。

 

 五才で初めて親戚と卓を囲み、結果東三局で全員を飛ばして俺がトップとなった。これだけだったら、まぁビギナーズラックで済ませたことだろう。だが、これが十回、二十回と続けば信じざるを得ないだろう。

 

 加えて、この世界だ。

 

 

 

『中学生達の熱い夏! 全国中学生麻雀大会!』

 

 

 

 前世の世界では考えられない、この麻雀という遊戯に対する認知度と認識の違い。麻雀と言ったら大人の男性の遊戯といったイメージで、こんな中学生がインターミドルで競い合うようなものじゃなかったはずである。

 

 こんな世界なんだ、俺の『転生する世界で最も武器となる能力』が『麻雀の才能』だったとしても何の疑問もない。

 

 こんな世界でこんな能力を貰ったなら、使わない手はないだろう。

 

 

 

『決まったぁぁぁ! 男子個人戦優勝者は! 突如現れた超新星! 横浜第二中学一年! 周藤良太郎だぁぁぁ!』

 

 

 

 で、使った結果がこれである。

 

 流石に連続天和や役満連発とかは無かったものの、なんとなく次の牌が感じ取れたり、なんとなく相手の当たり牌が分かったり、『あること』をすると格段に運が良くなったり。あれよあれよと勝ち続け、気付けば男子中学生で日本一になってしまった。サクセスストーリーもあったものじゃない、ただ俺が麻雀に強かったという結果しか残らなかった。

 

 

 

 だからなのかは分からないが、『さめる』のも早かった。それが『冷める』なのか『醒める』なのかは分からないが。

 

 

 

 あぁ、自分の才能はこんなものか。こんな才能なのか。

 

 

 

『それでは! 優勝者の周藤君にインタビューをしてみたいと思います! 周藤君! 今のお気持ちは!』

 

 

 

 こんな才能のせいで『涙を流す』人がいるのか、と。

 

 

 

『……自分は』

 

 

 

 自分というイレギュラーがいるせいで、涙を流す羽目になる人がいるならば。

 

 

 

『周藤良太郎は、今日をもって普通の男の子に戻ります!』

 

『……え?』

 

 

 

 俺の才能は、もう充分だ。

 

 

 

 

 

 

 初のインターミドルで優勝を果たした俺は、両親に頼み込んで転校することにした。麻雀から離れ、普通の生活を送りたかったのだ。

 

 転校した先は、長野県の片田舎。最初こそ騒がれたものの、たった一度優勝したことがあるだけの若造は、あっという間に騒がれなくなった。ありがたいことだ。

 

 その後、何事もなく中学の三年間が終わり、俺は高校生となった。

 

 そして現在。

 

 

 

「リョーくん、はい、あーん!」

 

「あーん」

 

 周藤良太郎。リア充街道まっしぐらである。

 

 

 

「どうっすか? リョーくん」

 

「うん、旨い」

 

「へへ、頑張ったっす」

 

 テレテレと笑う美少女、東横(とうよこ)桃子(ももこ)の手作り弁当に舌鼓を打つ。色々と距離感がおかしい気がするが、これでも女友達である。

 

 何故このようなことになっているのか簡単に説明すると。

 

 

 

1.友達とどんな乳が好みかという話になる。

 

2.これだ! と思うクラスメイトの乳を話すと、誰それ? という反応をされる。

 

3.ほらここにいるだろ! と肩を叩くと、酷く驚かれ、泣かれる。

 

4.お友達になってください! と懇願され、友達になる。←今ここ

 

 

 

 3の部分が何のこっちゃといった感じだが、実際にこうだったのだから仕方がない。

 

 何でも彼女は影が薄く、周囲の人間からほとんど認識されないらしい。こんなナイスな乳を持つ美少女を認識出来ないとは、人生の八割は損してるな。

 

「リョーくん、今度一緒に遊びに行きたいっす」

 

「ん、じゃあ電車で街まで出ますか」

 

「うん!」

 

 いやぁ、友達とはいえ、こんなリア充でいいのだろうか。高校の三年も、こんな感じで過ごせたらいいなぁ。

 

 

 

 なんて考えてた時期が、俺にもありました。

 

 

 

「昼休み中失礼する。三年の加治木(かじき)だ。このクラスに、周藤良太郎という男子生徒はいるだろうか?」

 

 

 

 一度は閉じた筈の麻雀の扉は、どうやら向こう側から勝手に開けられてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

「君には、是非私達の監督になってもらいたい」

 

「学生なんですが」

 

「頑張るっすよ、リョーくん!」

 

 

 

「ワハハー、頼んだぞ、提督君」

 

「監督です。そっちはマジ門外漢なんで」

 

「……提督?」

 

 

 

「……自分も影が薄いんだが」

 

「人生相談されても……」

 

「私よりマシだと思うんすけど?」

 

 

 

「みっつずつみっつずつ……えっと、こうですか?」

 

「すごく……四暗刻(スーアンコー)です……」

 

「無知って怖いっす……」

 

 

 

 

 

 

 そして再び始まる、俺と麻雀の繋がり。

 

 

 

 

 

 

「ピンク髪に大乳……だと……!?」

 

「な、なんですか?」

 

「リョ、リョーくんは自分の胸を見てればいいっす!」

 

 

 

「リョータローリョータロー!」

 

「何? 衣先輩」

 

(リョーくんと子供がいたら、こんな感じなんすかね……)

 

 

 

「うわ、おっきいっす」

 

「周藤君、ちょーファンだよー! サイン欲しいよー!」

 

「俺のでよければ」

 

 

 

「私は高校百年生!」

 

「じゃあ俺五百年生ー」

 

(変なところで張り合うリョーくん可愛いっす)

 

 

 

「だ、大乳リアル巫女……だと……!?」

 

「?」

 

「だ、だからリョーくんは自分の胸を見てればいいっす!」

 

 

 

「乳だ!」

 

「太ももや!」

 

「不毛な言い争いっすねぇ……」

 

「ときぃ……」

 

 

 

「おねーちゃんのおもちに目を付けるとは……なかなか見所がありますね!」

 

「男として当然のことだ」

 

「……もう何も言わないっす。最後に帰ってきてくれればそれでいいっす」

 

「さむーい……」

 

 

 

「久しぶりだねぇ、良太郎。知らんけど」

 

「……知り合いの方っすか」

 

「従姉のねーちゃん」

 

 

 

「近寄らないでください。アラフォーが移ります」

 

「移らないよ!? っていうかアラサーだよ!?」

 

「……そこは否定しなくていいんすか?」

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

「良太郎も山登りに行こう!」

 

「……えっと、今から?」

 

(……あのジャージの下、本当に……履いてる……んすよね?)

 

 

 

「麻雀って楽しいよね!」

 

「……否定はしないけどさ」

 

「リョーくん……」

 

 

 

 これは転生した少年と、麻雀に青春をかける少女達の物語。

 

 

 

 

 

 

『麻雀の世界に転生したようです。』

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ、俺もちょっとだけ頑張ってみようかな」

 

「私も一緒にっすよ、リョーくん!」

 

 

 




 もちろん嘘です(キリッ

 すみません、明日には本編上げるんで今日のところはこれでご勘弁を……。

 現在更新停止中の咲小説の代わりに考えたこんな妄想ネタ。こんな感じのストーリーにすれば対局シーンを考えなくて済むのではなかろうか。

 セリフのみの場所で誰が誰なのかは皆さんで考えてみてください。何この知らない人に優しくない番外編。

 しかし、ただ番外編を上げるだけではアレなので、皆さんの感想欄で聞かれたこと+αを改めてここで記載したいと思います。



Q 主人公のプロフィールは?

A 簡単なものですが。

名前 周藤良太郎 男 AB型 18歳(Lesson25時点) 四月二日生まれ

身長 175cm 体重 未設定 体脂肪率は一桁

容姿 皆さんのご想像にお任せします。作者はギャルゲのように前髪で目が隠れた男をイメージして書いています。

裏話 最近視力が落ち気味なため、コンタクトレンズの購入を検討している。



Q 色んなアニメのキャラがいるけどなんで「転生した世界で最も武器となる能力」が「アイドルの才能」なの?

A 実は一度も「この世界はアイドルマスターの世界だ」とは言っておりません。言ってないはずです。あくまで「アニメに似たキャラがいる世界」というだけです。神様も「アニメの世界に転生させる」とは言っておりません。では何故「アイドルの才能」が最も武器となるのかというと、神様が捉えた世界とは「自分が転生した人生」という意味での世界だからです。この世界は「兄によってアイドルデビューさせられる」という世界線であったために最も武器となる能力が「アイドルとしての才能」となりました。もし「士郎や恭也と共に真剣に剣術を納める」という世界線であったら、最も武器となる能力は「剣術の才能」となっていました。つまり自分に関係する事柄にしか能力は変化せず、例え良太郎の知らない場所で異能力バトルが始まっていたとしても、良太郎が関わる世界線でない限りそれらは良太郎の世界には含まれない、ということです。

 良太郎は「物語」に転生したのではなく、「世界」に転生したのですから。



Q 普通の神様転生でよかったのに、なんでこんなめんどくさい設定にしたの?

A 主人公に「アイドルマスターの原作知識を持っていない」という設定をつぎ込むためです。「あいどるますたー? アイドルの世界かな? じゃあアイドルの才能を」という主人公にしたくなかった、という理由です。あとついでに、幼女女神や老人神様の土下座から始まるテンプレ描写を書きたくなかったというのもありました。



Q 最近クロスネタが多すぎるけど。

A 調子に乗りすぎました。すみません。ただ自分としては「折角の二次創作なんだからオリジナルキャラをあまり出しくない」と考えており、「オリジナルキャラを作るぐらいだったら既存のキャラクターをサブキャラとして採用しよう」と思い至ったためこうなりました。気になる方がいらっしゃれば全員チョイ役のオリキャラ程度の認識で読んでいただけると幸いです。



Q 更新遅くない?

A マジですみません。登校時間が無くなったことにより逆に執筆に向かう時間が減ってしまっていました。出来るだけ早い更新を心がけます。



Q 劇場版はやるの?

A 一応ストーリー上には組み込んであります。……しかし結局見に行けていなかったという罠。もし上映終了までに間に合わなかったらDVDが出る構成も出来ない状況に……。



 こんな感じですかね。他にも質問があればご感想で個別に返信しておりますのでよろしかったらどうぞ。

 先ほども書いたとおり、明日には本編を更新したいと思います。

 それでは。


 


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Lesson26 地獄のレッスン!? 2

デュエってたら遅くなったのは内緒。


 

 

 

 さて、日付が変わって今日は良太郎さんと合同レッスンの日だ。

 

「ふんふふ~ん!」

 

 なんかもう予定調和のように朝から美希がご機嫌だった。というか、現在進行形でご機嫌である。格好こそトレーニングウェアであるが、鼻唄を歌いながらレッスン場の壁の鏡に向かって髪を整えている。

 

「美希さん、すっごいご機嫌ですねー!」

 

 そんな美希にやよいが話しかける。なんとなく話しかけづらかった美希に話しかけるとは空気が読めていない……と言うには少し語弊がある気もする。

 

「当然なの! りょーたろーさんと一緒にレッスンなんだから!」

 

 うん、知ってた。というか、みんな知ってる。

 

「ねぇやよい、今日の美希どう? キラキラしてる?」

 

「はい! とっても可愛いですよ!」

 

「あはっ、ありがとー!」

 

 そんな二人のやり取りを横目に、自分達は準備運動を続ける。

 

「………………」

 

「千早、どうしたのですか? 先程から怖い顔をしていますが」

 

「四条さん……別に、何でもないです」

 

 今回の合同レッスンの発端となった張本人たる千早は随分と難しい顔をしていた。本人はボーカルレッスンを期待していたんだろうが、集合場所がダンスレッスン場と聞いてからずっとあの調子である。

 

 逆にダンスが得意な自分や真はダンスレッスンということでワクワクしていた。あの周藤良太郎に自分達のダンスを見てもらえるのだ。自信のあるダンスが周藤良太郎にどう評価されるのかとても気になる。

 

 さて、折角良太郎さんに見てもらえるんだ。美希じゃないけど、今日はいつも以上に頑張らないと。

 

 

 

 と、意気込んだのも四十分前。

 

「……りょーたろーさんが来ないの……」

 

「来ないなー……」

 

 集合時間を三十分ほど過ぎても、未だに良太郎さんがレッスン場に姿を現さなかった。

 

「美希ー、真美ー、良太郎さんから連絡来てない?」

 

「来てないのー……」

 

「んーん、来てないー」

 

 この中で唯一良太郎さんと連絡を取ることが出来る美希と真美に尋ねてみるが、どうやら二人の携帯電話にも連絡が来ていないようだ。ちなみに何故この二人だけなのかというと、美希は以前現場で一緒になった時に、真美は先日のデートの時にそれぞれちゃっかりと携帯電話の番号とアドレスを交換していたらしいのだ。その他に765プロで良太郎さんと連絡が取れるのは律子とぴよ子、それに社長だけである。

 

「何かあったのかな?」

 

「それだったら連絡があると思うけど……」

 

「もしかして事故とか?」

 

 全員で何かあったのではないかと話し合い始める。

 

「………………」

 

「? 千早?」

 

 そんな中、ずっと黙って座っていた千早が立ち上がってレッスン場の入口へと向かい始めた。

 

「……いつまでもこうしていては時間の無駄だから、私は帰るわ」

 

「ちょ、千早ちゃん!?」

 

 帰ろうとする千早を、慌てて春香が引きとめる。

 

「良太郎さんもきっと何かあったんだよ。だからもう少し待とうよ。ね? 今回のレッスンだって、私達から是非お願いしますって言って頼んだんだから」

 

「……でも」

 

「りょーたろーさんが信じられないなら、千早さんだけさっさと帰ればいいの」

 

「み、美希もそんな言い方しないの!」

 

「つーん、なの」

 

 しかも良太郎さん至上主義な美希がそんな千早に突っかかるものだから、一気にレッスン場の雰囲気は最悪なものに。特に春香と雪歩とやよいが目に見えてオロオロとしだしてしまった。

 

 その時、そんな微妙な空気になってしまったレッスン場の扉が突然開かれた。

 

 

 

「みんな、遅れてごめん!」

 

 

 

 飛び込んできたのは、たった今まで話題になっていた件の人物、周藤良太郎さんだった。

 

 

 

 

 

 

 765プロのみんなとの合同レッスン当日。約束の時間に三十分ほど遅刻して俺はレッスン場に到着した。

 

『良太郎さん!?』

 

「いや、ホントごめん、ちょっと連絡が入れられないぐらいのトラブルに巻き込まれちゃってて」

 

 途中でばったり出くわして共だって歩いていた後輩の上条(かみじょう)綾崎(あやさき)と共にトラブルに巻き込まれたというか、あいつらのトラブルに俺が巻き込まれたというか。マジ何なのあいつら。毎回毎回律儀に付き合う俺も俺だけど、もうそろそろあいつらとの距離感を考え直すべきかもしれない。

 

「大丈夫だったんですか!? け、怪我とかしてないですか!?」

 

「あぁ、うん、そこら辺は全く大丈夫。心配してくれてありがとう、美希ちゃん」

 

 しっかりと心配してくれる美希ちゃんはええ子やなー。

 

「それじゃあ、早速始めようか。ここまで走ってきたから、丁度俺の身体も温まってるし。みんなはもう準備体操終わってるよね?」

 

『はい!』

 

「オッケーオッケー。あ、千早ちゃん、ちゃんとダンスレッスンだけじゃなくてボーカルレッスンも用意してるから安心していいよ」

 

「え!? あ、えっと、その……あ、ありがとうございます」

 

 千早ちゃんは多分ボーカルレッスンを期待して俺に話を持ちかけたんだから、ちゃんとそっちもやらないとね。もちろん最初からやるつもりだったけど。

 

「ふふーんっ」

 

「……どうして美希が自慢げなの」

 

「べっつにー!」

 

 さて、始めよう!

 

 

 

「さて、それじゃあ今からみんなのレッスンを始めるんだけど、その前に何点か」

 

 ずらりと並んだみんなの前に立って少し話を始める。いやぁ、トレーニングウェアってのも新鮮でいいなぁ。

 

「感謝祭ライブの話を聞いたよ。これも、765プロのみんなが一丸となって頑張ったおかげだね」

 

 おめでとう、と素直に祝福すると、それぞれ照れたような笑みや誇らしげな笑みを浮かべる少女達。

 

「それで、これが君達の初のライブになるわけだ。ライブってのは、とにかく歌って踊り続ける体力勝負だ。当然途中途中にトークを挟んだり、君達の場合は十二人でやるわけだからその分休憩できると思うけど、それでも生半可な体力じゃ最後まで乗り切ることは出来ない」

 

 正直、高町ブートキャンプに参加していなかったら三時間の単独ライブは乗り切れなかったと思う。

 

「これは君達のトレーナーからも言われたけど、しばらくはライブに向けてのレッスンと並行して体力作りも頑張っていこうか」

 

「えっと、私達のトレーナーからもって……?」

 

「ん? あぁ、今日レッスンをするにあたって色々と話をしておいたんだよ。丁度知り合いだったし」

 

 いくら指導することが出来ないとはいえど、どんなレッスンやトレーニングをするのかということは専属のトレーナーに話しておかないと色々と支障をきたす恐れがあるからね。

 

「大丈夫! 今日やるメニューはトレーナーさんから渋い顔でオッケーサインを貰ったから」

 

「渋い顔で!?」

 

「ちょ、本当にそれ大丈夫なんですか!?」

 

「大丈夫大丈夫。俺は四年間続けてきたけど問題は一切無かったから」

 

 あと高町家での恭也や士郎さんの扱きに比べたら何でもないから。

 

「んじゃ、今度こそ始めようか!」

 

『は、はい……』

 

 アッレー? さっきと比べて元気がないぞー?

 

 

 

 

 

 

「さて、まず最初は持久力のトレーニング」

 

 普段振り付けの確認をしている部屋から場所を移して、良太郎さんに連れられてやってきたのはトレーニング機器が置いてある部屋。自分達はランニングマシーンのある一角にやってきた。

 

 まぁ、ランニングマシーンの時点で持久力関係なんだろうなということは予想がつくが。

 

「これは俺も普段からやってるトレーニングでね、名付けて『ランニングボイスレッスン』」

 

 しかし自分の予想から斜め上に吹き飛んでいた。もう名前からして嫌な予感しかしないぞ!?

 

「それでは簡単に説明します。一つ、ランニングマシーンの上に立ちます」

 

「はい」

 

「二つ、ジョグ程度のスピードで走ります」

 

「は、はい」

 

「三つ、歌います」

 

『えぇ!?』

 

 予想通りだったけど、予想以上の予想通りだったぞ!?

 

「え、えっと良太郎さん、それはちょっと、キツすぎるような……」

 

「そう? みんなもダンスをしながら歌うでしょ? 体を動かしながら歌うっていう点では一緒だし、振付に気を取られない分楽だと思うけど」

 

 そ、そう言われてみればそんな気がしないでもないけど、何かが大きく間違ってる気がするぞ……!?

 

「ランニングマシーンは五台あるから、四人と五人に分かれようか。最初は四人で、お手本を兼ねて俺も参加するから」

 

 話し合いの結果、最初は右から順に春香、真、雪歩、美希、良太郎さんの順番に走ることになった。……良太郎さんの隣になろうと美希と真美が静かに争っ(ジャンケンし)てたけど、そこまで必死になることなのか? 走ってる間は隣のことなんか気にしてる余裕なんてないはずなのに。

 

「曲はどうしよっかなー。個人の持ち歌とかじゃなくて、みんなが一緒に歌う曲がいいから……これかな。それじゃあみんな、始めるよ」

 

 良太郎さんがそれぞれのランニングマシーンの設定を行い、四人は走り始める。最初に良太郎さんが言ったように、それぞれジョグ程度のスピード……で……。

 

「え!? ちょ、良太郎さん、これ本当にジョグ程度ですか!?」

 

 慌てた様子の春香の声。それもそのはず、明らかに四人が走っているスピードは世間一般の認識のジョグと呼ばれるスピードよりも速いものだった。

 

「え? ジョグでしょ?」

 

 って、あぁ!? そう言えば良太郎さんって走るスピードかなり速かった気がするぞ!?

 

「それじゃあミュージックスタート。俺も一緒に歌うから、頑張ろー」

 

「ちょ」

 

 その焦りの声は誰のものだったのか。

 

 良太郎さんがセットしたカセットテープから流れて来た音楽、自分達が全員で歌う『ザ・ワールド・イズ・オール・ワン』と共に五人は走り始めるのだった……。

 

 

 




・空気が読めていないやよい
ちゃうねん、やよいは天使なだけやねん。

・良太郎の携帯電話の番号とアドレス
みんな恐れ多くて聞けなかった中、美希と真美だけちゃっかり入手。
こいつら……やる……!

・帰ろうとする千早
ちょっと感じ悪い感じになってしまったが、この頃の千早はまだこんな感じだった気がする。
ちゃんと改心するイベントが後であるから、作者は嫌いになってもみんなちーちゃんを嫌わないでください。

・後輩の上条と綾崎
それぞれフルネームは上条当麻と綾崎ハヤテ、共にアニメ界において最強格の不幸の塊。
巻き込まれた不幸はそれこそ単行本一冊分にもなりそうな出来事であったが、割愛。
というか、よく生きてたな良太郎。

・『ランニングボイスレッスン』
単純だが正直洒落にならないほど辛い。昔バラエティー番組で走りながらブラスバンドをするコーナーがあったのを思い出して思いついた。
※本当に効果があるかどうかは保証しません。

・『ザ・ワールド・イズ・オール・ワン』
なんか曲名を使ったらマズイとかいう話なので、表記を英語から片仮名に変更。今後も曲名は実際の曲名と何らかの変更を加えて使っていきます。



 てなわけで始まった地獄の特訓に、765プロのアイドル達はついていけるのか?

 あと前回の嘘予告が思いの他反響が良かったことに吃驚しました。しかし今はこちらを優先するため、妄想の粋を出ませんが、今後もこのような嘘予告は続けていくかもしれません。


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Lesson27 地獄のレッスン!? 3

ラブライブ見ようかなぁと考え始めた今日この頃。


 

 

 

「……一人……は、出来……こと……」

 

「……仲間……なら……る……と……」

 

「……乗り……られる……は」

 

「……ユニティー……ストレングス……」

 

「ほらほら、みんな声出てないぞ。普段のステージでもそんな声でやってるのか?」

 

「うわぁ……」

 

 思わずそんな声が出てしまう。「ちゃんと声が出てないなー、じゃあもう一回」と良太郎さんの声と共に繰り返される曲のリピートは既に三回目。一回目はまだマシだったと言えたが、二回目、三回目と回数を重ねるごとに息も絶え絶えになり歌詞も途切れ途切れになっていった。

 

 一方良太郎さんは四人よりもさらに速いペースで走りながらも普段と変わらぬ声量で歌いつつ、一切息を切らしていない。というか、自分達の『The world is all one!!』を完璧に歌えることに対しても驚いた。自分達の歌をちゃんと練習してくれたことが若干嬉しかったりする。

 

「よーし、じゃああと一曲歌ったら休憩にするよ。最後だからちゃんとお腹から声出していこう」

 

 

 

 

 

 

「四人とも、お疲れ様」

 

「「「「………………」」」」

 

 床に倒れ伏した四人から返事の言葉は無い。比較的真ちゃんはマシみたいだけど、春香ちゃんと雪歩ちゃんはもう満身創痍といった感じだ。美希ちゃんも辛そうに仰向けに倒れている。いやぁ、息が荒い女の子って何かエロいね! 呼吸に合わせて上下するおっぱいが大変眼福です。……真ちゃんはまぁ、うん。

 

「それじゃあ、次は残りの五人ね。見てたからどんな感じかは分かったよね?」

 

「は、はい……」

 

 あれー? ダンスが得意で運動も大丈夫そうな響ちゃんの顔が引きつってるぞー? 他のみんなの表情も似たり寄ったり。貴音ちゃんの苦々しい表情ってのも新鮮だな。

 

「………………」

 

「踊らなかったとしても歌うのだって体力いるし、肺活量が上がれば声量だって上がるでしょ? 千早ちゃん」

 

「っ! わ、分かっています!」

 

 そっぽを向いてランニングマシーンに向かう千早ちゃん。……個人的には気遣ってるつもりなんだけど、どうにもいい感情を持たれている感じがしない。この間のゲロゲロキッチンを見る限りでは何と言うか千早ちゃんはお堅い性格っぽいから、多分俺が遅刻して来たことに対しても内心では激おこぷんぷん丸だったんだろう。いやまぁ、表情からして凄い怖い顔してたけど。フォローしようとボイスレッスンもあることを伝えておいたけど、効果無かったみたいだし。言葉だけ聞けばツンな女の子がデレた一場面だったんだけど、実際には凄いジト目だったし。

 

 以前も言ったように、千早ちゃんは薄い。何度も言うが体つきのことではない。『歌う』ことに対して固執し過ぎているというか、まるでそれが全てみたいというか。その思いは彼女の中でとても大きいのだろう。けれど薄すぎる。多分プライベートで何かしらがあったんだろうけど、そこに踏み込む訳にはいかないし。うぅむ、こういうフォローはしたことがないから勝手が分からない。誰かに相談した方がいいんだろうか。いやでも、余計なお世話だよなぁ……。

 

(ままならねえなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 周藤良太郎。本家の歌手にも勝る歌唱力を持つ実力派アイドル。そんな彼と共にレッスンが受けられることが決まり、始めは嬉しかった。あの周藤良太郎の歌に少しでも近付くことが出来る。歌うことしか残されていない私が今一番に望むこと。

 

 けれど今日、彼に対する見方が変わった。トラブルに巻き込まれたからとはいえ、何の連絡も寄越さないまま三十分も平気で遅刻するような人だとは思わなかった。

 

 本当に、今日この合同レッスンに意味があるのだろうか……。

 

 

 

「よーし、それじゃあ後半のみんなも同じ曲で行ってみようか。ちゃんと声出てなかったらやり直しだから最初からちゃんと声出していこうねー」

 

 

 

 ……別に、今から走ることに対して文句があるわけでは、ない。

 

 

 

 

 

 

「はーい、みんなお疲れ。十分間休憩するから、しっかりと体休めてねー」

 

『………………』

 

(返事がない、ただの屍のようだ)

 

 じゃなくて。

 

 前半後半に分けて九人のランニングボイスレッスンが終了した。後半の五人も四回連続で歌い、その後今度は『GO MY WAY!!』を再び四回ずつ走りながら歌ってもらった。

 

 終わった頃には当然のように全員満身創痍を通り越して死屍累々といった感じだった。特にヤバそうなのが雪歩ちゃんとやよいちゃん。この二人だけはほんの少しだけ他のみんなよりスピードを落としてあげたけど、それでもやはりキツいものはキツかったらしい。なお俺の視覚的にヤバそうなのは美希ちゃんと貴音ちゃん。二人の呼吸に合わせて大乳が動く動く。あと貴音ちゃんの荒い呼吸エロすぎぃ!

 

 っとと、ちゃんと水分補給させなきゃいかんな。ここで用意しておいた飲み物をさっと出せたらカッコ良かったんだけど、来る途中のトラブルで買ってくる暇がなくなっちゃったし。自販機でスポーツドリンクでも買ってくるか。

 

 九人に体を冷やさないように言った後、トレーニング室を出て自販機コーナーに向かう。何か最近女の子に物を奢ってばかりのような気もするが、女の子だから問題ない。

 

「さて、スポーツドリンクを九本っと……」

 

「りょーたろーさん」

 

「ん?」

 

 財布からお札を取り出して自販機に入れたところで声を掛けられたので振りかえると、そこには笑顔の美希ちゃんがいた。汗を拭ってから来たようだが、それでも薄っすらと汗が滲んでいる。

 

「美希ちゃん、もう大丈夫なの?」

 

「はい! だからりょーたろーさんのお手伝いに来たの!」

 

「それはありがたい」

 

 よくよく考えたら九本もペットボトルを持っていくのは大変だったし。なので美希ちゃんの好意をありがたく受け取ることにする。

 

「それにしても、美希ちゃん頑張ってるね」

 

 ガコンガコンと排出されるペットボトルを取り出し口から出しては美希ちゃんに手渡していく。

 

「うん! 竜宮小町に入るために頑張ってるの!」

 

 ふーん、向上心があることはいい事……うん?

 

「竜宮小町に?」

 

「プロデューサーが、頑張ったら美希も竜宮小町に入れてくれるって約束してくれたの!」

 

「へー……」

 

 美希ちゃんを、竜宮小町に? 本当に、そんなことを約束したのだろうか?

 

 竜宮小町は今の三人で完成されているユニットだと思う。こう言ってはアレだが、あの三人の中に入れるには美希ちゃんは『色』が強すぎてバランスが悪くなる。それが分からないりっちゃんじゃないと思うんだが……。

 

「よし、人数分買えたな。美希ちゃん、ちょっとだけ先に戻ってくれる?」

 

「うん!」

 

 四つだけペットボトルを持たせて美希ちゃんを先に戻らせる。

 

「……さてと」

 

 別に美希ちゃんの言葉を疑う訳じゃないけど、少し気になったから確認を取っておこう。携帯電話を取り出して、りっちゃんに電話をかける。

 

 コールを聞きながら、先ほどのレッスンを思い出す。やよいちゃんは年齢的にまだこれからだろうが、他のみんなはもう少し体力をつけた方がいいと思う。ライブとて常に全力で動き続けるわけではないが、それでもあれだけ動いても平気な体力と根性は欲しいところである。やはりあのメンバーだと真ちゃん、響ちゃん、美希ちゃん辺りが有望だろう。こう、ダンサブルな曲が似合いそうである。特に響ちゃんと美希ちゃんの大乳! こう、リズムに合わせて……。

 

『もしもし、良太郎? 何の用よ? レッスンはちゃんと進んでるの?』

 

「大乳の縦揺れって素晴らしいよね!」

 

 あ、声に出ちった。

 

『ブツッ』

 

「あ」

 

 切られたでござる。いやまぁ当然の反応と言えば当然の反応だが。リダイヤルリダイヤル。

 

『おかけになった電話番号への通話は、お客様のご希望によりお繋ぎできません』

 

 着信拒否された!? 自業自得だとは理解してるけど対応が早いよりっちゃん!

 

 むむむ、しょうがない。りっちゃんには後で直接謝りに行こう。今回ばっかりは俺が全面的に悪いし。

 

 残りの五本のペットボトルを抱えてレッスン場へと戻る。

 

 ただ……何となく気になるんだよなぁ。りっちゃんのことだから何の考えもなしに竜宮小町に入れるって言ったわけじゃないだろうけど……大丈夫、だよな? フラグとかじゃないよな?

 

 

 

 

 

 

「ったく……」

 

「どうしたのよ律子、良太郎からの電話だったんでしょ?」

 

「口に出すのも嫌なぐらいくだらない悪戯電話だったわ」

 

「へ?」

 

 麗華にそう返しながら向かい側の椅子に座る。とりあえず着信拒否したけど、後で殴る。グーで殴る。今までの鬱憤も含めて殴る。アイドルであることを考慮して顔はやめるが、三十六連続で釘のように殴る。

 

 竜宮小町の番組収録に来たテレビ局にて、同じく収録に来ていた魔王エンジェルの三人と会った。今は空き時間なので、魔王エンジェルの控室にお邪魔して一緒に休憩中だ。私達の控室と比べるとややグレードが高い控室である。確か良太郎もいつもこのレベルの控室が宛がわれていたはず。……こんな些細なところでもトップアイドルとの違いを見せつけられた気分だ。

 

「ったく、あんな調子で本当にちゃんとしたレッスン出来てるのかしら……」

 

「ん? どういうこと?」

 

「今日、うちの事務所の他のアイドルが良太郎と合同レッスンをしてるのよ」

 

「えー! りょーくんと一緒にレッスンとかアタシもやりたかったー」

 

「また今度リョウに頼めばいいよ」

 

 ブーブーと文句を言うりんの頭をともみが撫でる。

 

「それにしても、よく駆け出しアイドルに良太郎と一緒のレッスンなんてさせる気になったわね。現役の中堅アイドルでも折れちゃうかもしれないのに」

 

「えっと……それは、良太郎のレッスンがキツイっていう意味で、よね?」

 

「……あれ、律子、あんた良太郎の『アレ』知らなかったっけ?」

 

 え?

 

「そういえば、りっちゃんは『アレ』未体験だっけ」

 

 あ、『アレ』?

 

「……律子は『アレ』の前にアイドルを辞めちゃったから」

 

「あぁ、そっか」

 

「ね、ねぇ、『アレ』って何? すっごい不安を掻き立てられるんだけど」

 

「んー……まぁ、簡単に言うと……」

 

 溜息を一つ挟んでから、麗華は言った。

 

 

 

「……私達『覇王世代』のアイドルが極端に少ない理由、かしらね」

 

 

 




・『The world is all one!!』
前回のラストに出た曲の正式名称。何やら曲名だったら大丈夫みたいだったので。その代わり歌詞は途切れ途切れにして対策させていただきました。

・呼吸に合わせて上下するおっぱいが大変眼福です。
81あるのに自分のことをちんちくりんと称す雪歩は他の小さな子を侮辱しています(憤慨)

・千早の心情
今回で一番頭を使った場面。こんなの千早じゃないという声も聞こえてきそうですが、そこら辺はご容赦ください。

・『GO MY WAY!!』
ノンストップで行ってみましょう(物理)

・あと貴音ちゃんの荒い呼吸エロすぎぃ!
はらみーはエロイ(確信)

・「大乳の縦揺れって素晴らしいよね!」
口から欲望が漏れ出てしまった図。

・着信拒否された!?
ある意味当然の結果である。しかしそのためりっちゃんに伝えることができず、良太郎の予想通りフラグになりました。

・三十六連続で釘のように殴る。
置鮎さん、ぬ~べ~役も一緒にJスターズビクトリーバーサスにご出演おめでとうございます。



 前話の投稿した後に劇場版を見に行きました。公開終了間際の滑り込みセーフでした。感想は活動報告で書きましたので省きますが、おかげで劇場版編の構成が練れそうです。アニメ本編終了後の話になりますが、そこまでは絶対に書きたいと思います。


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Lesson28 地獄のレッスン!? 4

謎の腹痛と吐き気に苛まれながらも何とか更新。


 

 

 

「はぁ……」

 

「ようやく体が起こせるようになったぞ……」

 

 スポーツドリンクをみんなに配って十五分ほどしてようやく床に倒れ伏していたみんなが体を起こした。平気そうにお手伝いに来ていた美希ちゃんも、先ほどからずっと腰を降ろしているところを見ると少し無理をしていたようだ。流石に今の状態のみんなに「それじゃあそろそろ次のトレーニングに移ろうか」と言うほど鬼畜なつもりはない。

 

 ……ふむ、ならば久しぶりに『アレ』をすることにしよう。『アレ』を見せるだけなら休憩しながらでも出来るし、彼女達の参考になれば万々歳だ。何より、今のところ一番距離がある千早ちゃんともう少し仲良くなれるかもしれないし。

 

「それじゃあみんなの休憩中に一つ、俺の独自のレッスンを見せようかな」

 

「良太郎さんの独自のレッスン……ですか?」

 

「うん。とりあえず、レッスン場に戻ろうか。みんな立てる?」

 

「りょーにぃー! 真美疲れて立てないから抱っこー!」

 

「な!? 美希の目が黒いうちはそんなことさせないの!」

 

「流石にしないから。ほらほら、流石に移動するぐらいなら出来るでしょ?」

 

 ペタンと座り込んだ状態からこちらに向かって両腕を広げて抱えるようにせがんでくる真美の額を軽く小突く。ここにいる全員を抱えて往復するぐらいだったら全然余裕だが、流石に色々と不味いと思うし。第一、運動した直後の女の子には不用意に近付き過ぎるなと以前麗華やりんからお説教(物理を含む)されたことがあるから今でも若干距離を取っている。げに難しきは女心かな。

 

 よろよろと立ち上がる少女達と共に、レッスン場へと移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

「……えっと、麗華? それだと微妙に分かりづらいんだけど……」

 

「う、そうね……。じゃあ、一から説明するわ。その前に質問。アンタ達は、どうして私達『覇王世代』が少ないと思う?」

 

 麗華は姿勢を正すと、私達に向かってそんなことを尋ねて来た。他のことをしながら耳だけをこちらに傾けていたあずささんや亜美、伊織もそれぞれの手を止めてこちらを向く。

 

「んー、りょーにーちゃんと同期のアイドルが、ってことだよね?」

 

「言われてみれば、少ないわねぇ」

 

「ふん、周藤良太郎に気圧された臆病者が多かったってだけでしょ?」

 

「ちょっと伊織、言葉が過ぎるわよ」

 

 あまりな伊織の言い草を咎める。

 

「まぁ、あながち間違いではないわ」

 

 しかし、麗華はその言葉を肯定した。

 

「良太郎がその一因となったことは間違いないと思っているわ。けれど疑問に思わない? 一体周藤良太郎の何を恐れ、アイドル達は辞めていったのかって」

 

「それは……」

 

 言われてみれば、確かにそうである。周藤良太郎が他の追随を許さないトップアイドルだからとは言え、あくまで他のアイドルは他のアイドル。そんな良太郎と同期だからとはいえ、いくらなんでも辞める理由としては些か弱すぎる。

 

「しかし現に多くのアイドルが良太郎を恐れて辞めていった。その原因と言っていい『アレ』は、良太郎の特技なのよ」

 

「特技?」

 

「ええ。それで、その特技っていうのが――」

 

 

 

 

 

 

「よし、それじゃあ始めようかな」

 

「あの、結局何をするんですか?」

 

 目の前で他の少女達と横並びになりながら体育座りをする真ちゃんが控えめに手を上げる。

 

「まぁ、俺独自のレッスンでね、他人の歌を歌うっていうのがあるんだ」

 

「他人の歌を、ですか?」

 

「うん。俺は見ての通り表情による感情表現が苦手でね。曲に込められた感情を歌とダンスで表現するしかないんだ」

 

 普通のアイドル、というか歌手は表情によっても曲に込められた感情を表現する。しかし俺は生まれつき表情が無いので、それ以外のもので表現するしかないのだ。

 

「そんなわけで、他の人の曲を歌うことで感情表現のレッスン、というか訓練をしている訳なんだよ」

 

「はぁ~」

 

 数人の子が感心した様子の声を出してくれる。ええ子達やなぁ。

 

「てなわけで、今から千早ちゃんの『蒼い鳥』を歌わせてもらおうと思います! ごめんね千早ちゃん、歌借りるよ?」

 

「……別にいいですけど」

 

 わぁ、凄いジト目。く、この余興を兼ねた特訓で千早ちゃんの興味を引ければいいんだが。

 

「という訳で、歌わせていただきます」

 

 

 

 

 

 

「……え」

 

 それは、誰の声だったのか。誰かが私を見ているような、私を呼んでいるような気がする。

 

 しかし、今の私にそんなことを気にしている暇はなかった。

 

 あの周藤良太郎に自分の歌を歌われて嬉しいような、こんな人に歌われて不快なような、複雑な気分だった。

 

 しかし、アカペラで歌い始めた途端、そんなものは全て吹き飛んでしまった。

 

 私の目の前には、あの周藤良太郎がいる。大勢の人を惹き付けるトップアイドルが。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 その口から紡がれる声は。今、私の鼓膜を震わすその声は。

 

 

 

「……わ、たし……?」

 

 

 

 紛れもなく、『私』の声だった。

 

 

 

 

 

 

「――か、『完全声帯模写』!?」

 

「そう。アイツは、一度でも聞いたことがある声だったら老若男女問わず完璧に模写することが出来るのよ」

 

 麗華から明かされた衝撃の事実に開いた口が塞がらなかった。今さら何があっても驚かないと思っていたのに、再び驚かされることになるとは思いもよらなかった。

 

「あ、あいつはホント何でもありね……」

 

「何か昔に知り合った黒羽とかいう奇術師からコツを教わったとか言ってたわ」

 

「良太郎も良太郎だけど、その奇術師も何なのよ一体……」

 

 あいつの周囲にはクセがある人間しか集まらないというのか。

 

「それで? 結局何でその特技が原因で辞めることになるのよ?」

 

「よく考えてみなさい」

 

「……完全声帯模写……他のアイドルが辞める理由……」

 

 まさか。

 

 考え付いてしまったのは、あまりにも恐ろしい事実。

 

 

 

「そう。周藤良太郎は『他人の歌』を『他人の声』で歌えるのよ」

 

 

 

 本来、他人と比べた歌の評価というものは出来ない。何故なら、例え同じ歌を歌ったとしても『声』そのものが違う為、直接的に比べることが出来ないのだから。

 

 しかし、周藤良太郎の前ではそれすら言い訳にならない。何故なら『同じ声』で『同じ歌』を歌うことが出来てしまうのだから。

 

「あいつは表情がない分、それ以外のことでの感情表現が他のアイドルよりも長けている。例えその曲が、他人が歌うことを前提に作られていたとしても、あいつは本人以上のクオリティで歌ってしまうのよ」

 

 あの本家の歌手にも勝る周藤良太郎の前では、同期のアイドルなど相手にもならなかったのだろう。

 

「おかげで心折れたアイドルが激増しちゃってさー。ダンスメインの奴らはともかく、歌メインの奴らは特に」

 

「例え心が折れなくても、自分が周藤良太郎に劣っているということに気付くことすら出来なかったアイドルは遅かれ早かれフェードアウトしていった」

 

「そ、そんな話一度も聞いたことないわよ!」

 

「当たり前よ。良太郎自身はただの一発芸程度にしか考えてないし、実際にアレをやられた人物は思い出したくもないとばかりに口を閉ざすのがほとんど。進んで話したがらない連中ばっかりよ」

 

「「「………………」」」

 

 あまりの事実に、伊織達は言葉を失ってしまった。

 

「あ、アンタ達は大丈夫だったの?」

 

「ん? 私達? まぁ、大丈夫ではなかったけど」

 

「あの頃のアタシ達は一回心折れたところをりょーくんに助けられたところだったからねぇ。思ったよりダメージは少なかったよ」

 

「それでも、三人分を別バージョンで歌われた時はかなりショックだったけどね……」

 

 そう言った三人の顔は暗い。ギリギリトラウマにはなっていないものの、それでもあまり思い出したくない様子だった。

 

「覇王世代のアイドルで心が折れなかったのは、そうね。私達を除けば、水蓮寺(すいれんじ)ルカや沖野(おきの)ヨーコ。良太郎でも真似では上回ることが出来なかったフィアッセ・クリステラやSEENA、佐野(さの)美心(みこころ)……ぐらいね。あと、世代は下になるけどジュピターも大丈夫だったって聞いたわ」

 

「んー? 沖野ヨーコちゃんって女優さんじゃなかったっけー?」

 

「ヨーコお姉ちゃんは昔は地球的淑女隊(アースレディース)っていうアイドルグループで活動してたのよ~」

 

「へー……って、ヨーコお姉ちゃん?」

 

「うふふ、実は実家が近所で、昔はよく遊んでもらってたの」

 

「あら意外な接点……じゃなくて! そ、それじゃあ今レッスンしてる連中が危ないじゃない!」

 

 バンッと机を叩きながら立ち上がる伊織。しかし麗華は落ち着いた様子で紅茶のカップを持ち上げる。既に湯気が立たないほど冷めてしまっているが、麗華は紅茶の表面を揺らすようにしてカップを回す。

 

「それで心折れてしまったのならば……そのアイドルは所詮そこまでの存在だった、ということよ」

 

 

 

 

 

 

「――はい、ご清聴ありがとうございました」

 

 いやー、やっぱり女の子の声を真似るってのは難しいな。特に千早ちゃんは新人アイドルの中でも格段に歌が上手いから。

 

「千早ちゃん、どうだった?」

 

 今回こうして千早ちゃん本人の前で歌ったのは、もちろん俺のレッスンも兼ねていたのだが、千早ちゃんのためでもある。俺が聞く限りでは千早ちゃんの『蒼い鳥』は幾つかの修正点がある。しかし俺は直接どこをどうすればいいといった指導が出来ないので、こうして実際に聞いてもらって何処を修正すればいいのかを気付いてもらいたかったのだ。まぁ、千早ちゃんのレベルならば問題無く気付いてくれるだろう。

 

 ……というか、何故にみんな黙っていらっしゃるのでしょうか?

 

 何か全員呆けた様子でこちらを見ているし、春香ちゃんは千早ちゃんを心配そうに見ているし、千早ちゃん自身は顔を俯けているし。……何かマズイことしたのだろうか。

 

「えっと……ち、千早ちゃん?」

 

 恐る恐る声をかける。アカン、何が悪かったのかが分からない。よかれと思ってやったのだが、千早ちゃんはお気に召さなかったのだろうか。

 

 内心オロオロとしていると、無言のまま千早ちゃんはすくっと立ち上がった。

 

「ち、千早ちゃん……?」

 

 春香ちゃんが声をかけるも、千早ちゃんは一歩前に出てくる。俯いたままなので表情が見えず、思わず一歩後ずさりしてしまう。

 

「ど、どうしたのかな、千早ちゃん……」

 

「………………」

 

 バッと勢いよく顔を上げた千早ちゃんは、先ほどよりも険しい表情をしていて――。

 

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 ――そしてそのまま、勢いよく頭を下げた。

 

「大変参考になりました! それと、これまで失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした!」

 

「……えっと、別に気にしてないよ。参考になって良かったよ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 お、おう、千早ちゃんが熱い。まさかここまで気にいってもらえるとは思いもよらなんだ。

 

 ば、万事オッケー……かな?

 

 

 

 




・げに難しきは女心かな。
前回の美希はちゃんと汗を拭いて制汗スプレーを使ってから手伝いに来ていました。

・『蒼い鳥』
千早の代表曲。第四話のエンディング曲としても使われたが、あのテレビアレンジはある意味衝撃的だった。
なお春閣下が歌うREM@STER-Aは……。

・『完全声帯模写』
後付けとかじゃないよ! ちゃんと最初から考えてた奴だから!

・黒羽とかいう奇術師
フルネームは黒羽盗一。『まじっく快斗』の主人公、怪盗キッドこと黒羽快斗の実父にして、先代怪盗1412号の正体。
なお『名探偵コナン』本編においてシャロンと有希子に変装術を教えた張本人である。

・水蓮寺ルカ
『ハヤテのごとく!』に登場する、1億5千万の借金を抱えるアイドル。
なおこの作品では借金もなく、最初から親子仲は良好な模様。

・沖野ヨーコ
『名探偵コナン』に登場する、元アイドルの女優。毛利小五郎が彼女の熱烈なファン。
調べてみてこの人が22歳だったことに吃驚した。

・佐野美心
元はアケマスに登場する、魔王エンジェルよりも手ごわい(場合もある)最強のCPU。
この作品でもDNAプロダクションに所属し、麗華達とも普通に交流している。

・よかれと思って
「ジャンジャジャ~ン! 今明かされる衝撃の真実ゥ!」

・「ありがとうございます!」
ちーちゃんの心境は次回で。



 本当だったら終わる予定が、予想外に長引いてしまったため次回に続きます。


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Lesson29 地獄のレッスン!? 5

ご愛読、ありがとうございました!(4月1日)


 

 

 

 休憩時間が終わり、魔王エンジェルの三人と共にスタジオへ向かう。

 

「でも、やっぱり少し可哀想じゃないかしら」

 

 眉根を潜め、あずささんは頬に手を当てる。先ほど話に上がった心折れてしまったアイドルのことを言っているのだろう。

 

「そうは言うけどね、三浦あずさ。アイドルとして大切なものに気付けなかったから心折れたわけであって、それに気付けない時点でアイドルとしては赤点なのよ」

 

「アイドルとして大切なもの?」

 

「まぁ簡単に言うと、自分自身の『売り』ね」

 

「『売り』?」

 

「例えば、水蓮寺ルカ。身軽なあの子はライブやコンサートにバック宙みたいなアクロバティックなパフォーマンスを取り入れてる。もちろん、バック宙ぐらいだったら良太郎でも軽く出来るでしょうけど、男の良太郎と女のルカがやるのでは意味合いや反応が変わるのは当然。これが水蓮寺ルカの『売り』よ」

 

「あと沖野ヨーコの場合はー……笑顔、になるのかな? 歌やダンスは二流でも、見てるだけで癒される笑顔って奴? 声や身振りだけの感情表現だって限界があるし、やっぱり見て分かりやすい表情での感情表現の方が評価されるんだよ?」

 

「リョウは笑顔がないっていうアイドルとして致命的な欠陥を抱えている。良太郎が持っていないものを持っているアイドルなんて、それこそいくらでもいる」

 

「アンタ達だって、笑顔だったら良太郎に勝ってるでしょ?」

 

 確かに、言われてみればそうだ。言い方はアレかもしれないが、アイドルはファンに笑顔を向けることも重要なことだ。技術だけでなく、存在そのものがアイドルの魅力の一つなのだから。

 

「そんな簡単なことに気付かずに、ただ歌やダンスが敵わないってだけで辞めていくなら、所詮アイドルとして大成しないわよ。アンタらは歌手にでもなりに来たのかっつーの」

 

 ふん、と麗華は鼻を鳴らす。

 

「そもそも、良太郎がアレをやらなくても律子みたいに辞めていったアイドルだっていくらでもいるわ。理由なんてそこら辺にいくらでも転がってるんだから」

 

 ――そろそろ、アンタ達の事務所でも出始めたりするんじゃない? 辞めたいって言いだす奴。

 

「………………」

 

 そんな奴私達の事務所にいる訳ないじゃない! と麗華に反論する伊織を余所に。

 

 私は、麗華のその言葉が心の何処かに引っかかったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 周藤良太郎。遅刻や軽い言動とは裏腹に、その実力はやはりアイドルの頂点の名に恥じぬものだった。

 

 その口から紡がれた私の歌。それは今の私には届くことができない領域。しかし私に新たな可能性を教えてくれた。

 

 自分の声で自分以上の技量で歌われたことは確かにショックではあったが、それ以上に得られることがあるならば私はそれを喜んで受け入れよう。それは私の歌が成長する可能性があると言うことなのだから。

 

 そう、だから――。

 

「……例えここで倒れようとも……私に、悔いは……ガクッ」

 

「ち、千早ちゃんが自分で『ガクッ』って言いながら倒れた!? し、しっかりして千早ちゃん! 傷は浅いよ!」

 

「んー、歌メインの千早ちゃんにはダンスレッスンはきつかったかな?」

 

「……あの、僕や響にも十分きついんですけど……」

 

「その割には雪歩ちゃんとやよいちゃんは随分と余裕そうだけど」

 

「え? 本当に……って、あ、あれ、雪歩? やよい?」

 

「ち、違う! 意識が朦朧とし過ぎてて表情が動かなくなってるだけだ!」

 

 あぁ、春香……時が見える……。

 

「千早ちゃーん!?」

 

 

 

 

 

 

「――とまぁ、そんな感じで昨日のレッスンは概ね予定通りに終わったよ」

 

『今朝小鳥さんから焦った声で電話がかかってきた時は何事かと思ったぞ。ほどほどにって言っただろーが』

 

「ギリギリを攻めたつもりなんだけどなぁ……こう、インベタの更にインをつく空中に描くライン的な感じで」

 

『お前は何処を走っているんだよ』

 

「じゃあ複線ドリフトで」

 

『泣き別れっつー事故だからな、それ』

 

 今日も今日とて兄貴との定期連絡である。

 

 昨日の個人レッスンは、竜宮小町以外の765プロのみんなの実力を見ることが出来たので個人的には大変有意義なものだった。やはり歌唱力では千早ちゃんが頭一つ抜き出ており、続いて貴音ちゃんや雪歩ちゃんが優秀。しかし雪歩ちゃんとやよいちゃんは体力の無さがネックで、ダンスは響ちゃんと真ちゃんが秀でている。そして全てをひっくるめた総合的な評価で言うと、美希ちゃん。そして後一人、今後が凄く楽しみな少女が一人……。

 

『あと、律子ちゃんがえらくご立腹だったそうだけど、またお前何かしたんだろ』

 

「凄いナチュラルに俺の責任だって断言されたな」

 

 いやまぁ、俺なんだけど。

 

「今回は間違いなく俺が悪いから、りっちゃんには直接謝るつもりだよ」

 

『お前が悪くなかったこと何てなかっただろーが』

 

「失敬な。りっちゃんのライブで一番前の席になったのは俺じゃなくて高木社長の手引きだぞ。俺は並んでチケット買うって言ったのに向こうから送られて来たんだから」

 

『そこで他の律子ちゃんファンと意気投合してしっかりと振り付けをしてなかったら律子ちゃんも怒ってなかったと思うぞ』

 

「同じりっちゃんファンと仲良くなって何が悪いのか」

 

 というか、素直に応援していたのに怒られた俺は本当に悪くないと思う。

 

『とにかく、しっかりと謝ること。いいな?』

 

「了解」

 

 話は変わって。

 

「765の感謝祭ライブの日はオフってことでいいんだよな?」

 

『いや、残念ながら午後から収録だ』

 

「えー」

 

『えー、じゃない。結構無理してオフにした日の代償みたいなもんなんだからな』

 

 結構無理して? ……あ、りんと出かける日の話か。だいぶ前に話をしていたのだが、なかなか予定が噛み合わずここまでズルズルと来てしまっていたのだけれど、おかげで二人とも一日オフの日を合わせることが出来た。女の子と二人でお出かけとかテンション上がるね!

 

 話を765感謝祭ライブ当日のことに戻す。

 

「ライブの時間には間に合うのか?」

 

『そこはお前の頑張り次第だな』

 

 確か感謝祭ライブは夕方からだから……まぁ、何とかなるかな。

 

『というか、気付かれないように気をつけろよ? りんちゃんとのデート』

 

「大丈夫だって」

 

『お前は大丈夫かもしれんが、りんちゃんの方が普通に気付かれる可能性があるんだからな?』

 

 確かにそっちの可能性はあるわけだ。

 

「そこはほら、補正的なアレで」

 

『ギャグ補正か』

 

「ギャルゲ的主人公補正持ちの兄貴には負けるけどな」

 

 母さんが風呂から上がってくるまでずっとくだらない話題を続けるのだった。

 

 

 

「リョウくーん、お風呂上がったよー! あ、コウ君から電話ー!?」

 

「うん。あー、まだ頭乾いてないじゃねーか。ほら、乾かすからここ座って」

 

『……相変わらず、母親というか妹というか』

 

「今さらだよ」

 

 

 

 

 

 

「1! 2! 3! 4!」

 

「へぇ……」

 

 良太郎との合同レッスンから三日。果たしてみんなにどのような影響を与えたのかと気になったので、全員のレッスンの様子を見に来た。丁度感謝祭ライブでお披露目予定の新曲のダンスの練習をしていたのだが、全員しっかりと出来ていた。真や響はともかく、雪歩ややよいは厳しいレッスンに音を上げているかと思っていたのだが、全員しっかりと付いていけている様子だった。

 

「随分と頑張ってるじゃない。こう言っちゃなんだけど、何人か音を上げてる子がいるかと思ってたわ」

 

 トレーナーからオッケーを貰い、休憩しているみんなに話しかける。

 

「これぐらいなら全然大丈夫です~!」

 

「はい!」

 

 懸念していた雪歩とやよいから頼もしい返事が返ってきた。

 

『何より、良太郎さんのレッスンと比べたらどうってことないですし』

 

「……そ、そう」

 

 一言一句違わずに揃った全員の声に、思わず頬が引きつるのが分かった。何か得るものがあればと思って受けさせた良太郎との合同レッスンだったが、どうやら厳しいレッスンに対する『根性』を得て来たようだった。何人か目のハイライトが消えているような気もしたが、そこら辺は気にしないことにする。厳しいレッスンをモノともしないということは大変良イコトダ、ウン。

 

 とにかく、良太郎のレッスンから帰ってきた次の日は全員顔色が悪かったから何事かと思ったが、この調子なら大丈夫そうね。

 

 プロデューサーにこの場を任せ、私は竜宮小町のレッスンに戻る。

 

「律子……さん!」

 

 するとその途中、美希に呼び止められた。

 

「ミキのダンス、見てくれた!?」

 

「えぇ、頑張ってるじゃない」

 

 まるで子供が親に褒めてもらいたがっているような様子に内心苦笑しつつ、しかし口にした言葉は本心である。

 

 最近の美希の成長は目まぐるしいものがある。良太郎とのレッスンで気合が入ったのか、もしくは元々良太郎の影響を受けていたのか。間違いなく765プロの中でもトップクラスの実力を得たと言っても過言ではない。

 

 

 

 ――この時のことを、今になって思い返す。

 

 

「私達竜宮小町も、うかうかしてられない――」

 

 

 

 ――あの時、良太郎の電話を切らずに話を聞いていたら。

 

 

 

「それじゃあ! 今のミキなら竜宮小町に入れてくれるよね!?」

 

 

 

 ――何か変わっていたのだろうか、と。

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 ――しかし今となっては、意味のない例え話であるのだけれど。

 

 

 




・『売り』
例えば、リアルで関∞がコントやパフォーマンスを多く取り入れているように、ただ歌って踊るだけがアイドルではないと麗華さんは言いたい。アイマス世界だとVi(ヴィジュアル)Vo(ヴォーカル)Da(ダンス)で評価されるため、ある意味革新的な考えなんじゃないかと。

・「傷は浅いよ!」
元ネタを調べていたら何やら演劇の題目が出てきたんだが、これじゃない感が。

・……時が見える……。
春香「千早ちゃんは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ」

・『お前は何処を走ってるんだよ』
いろは坂だと思われます。

・複線ドリフト
『電車でD』で検索。ネタ自体はハヤテのごとくでも使用された。

・今後が凄く楽しみな少女が一人……。
ナイショ。

・りんとのお出かけ
Lesson03参照。

・シリアス……?
ヒント:投稿の日付



 前書きはもちろん嘘です。4月1日なので。

 今回の次回予告は短縮版になります。



 ようやく実現した良太郎とりんのお出かけ。

 しかしのんびりしている暇はない!

 一人の少女のアイドル人生が、お前たちに託されたのだから!



「……ミキは……もう……」

「アンタそれ本気で言ってんならマジでぶっ飛ばすわよ」



 次回! 『アイドルの世界に転生したようです。』第30話!

 『キラキラ』で、また会おう!



※果たして嘘か本当か?


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Lesson30 キラキラ

全国一億五千万(独自調べ)のりんファンのみんなお待たせ!
ようやくりんとのデート回だよ!


 

 

 

 快晴である。ものの見事に雲一つ無い秋晴れの空である。風は秋らしく冷たいが降り注ぐ日光は暖かく、今日は厚手の上着が必要なさそうだった。そんな快晴の日曜日は絶好のお出かけ日和であり、駅前の広場は多くの人々が行き交っていた。家族連れやカップル、友達同士のグループなど、様々な人間模様が見て取れる。

 

 しかし駅前のベンチに座り、絶賛待ち合わせ中の俺にかかってきた電話は何やら雲行きが怪しかった。

 

「美希ちゃんが練習に来てない?」

 

『えぇ……』

 

 謝りに行く機会がなかなか訪れず今度直接事務所に謝りに行こうと考えていたりっちゃんからかかってきた久しぶりの電話は、先日合同レッスンを行った一人の少女についてだった。

 

『念のためアンタにも連絡したんだけど、美希から何か連絡が来てたりしない?』

 

「残念ながら来てないよ。……美希ちゃんが来なくなった理由に何か心当たりは?」

 

『それがあの子、頑張れば自分も竜宮小町に入れると思っていたみたいで、その勘違いに気付いたことが原因なんじゃないかと思うんだけど……』

 

「あー……やっぱり勘違いだったんだ」

 

『? やっぱりってどういうことよ』

 

 簡潔に、合同レッスンの時の美希ちゃんとの会話の内容を説明する。

 

「――で、俺も少し変だなと思ってりっちゃんに確認取ろうと連絡したんだけど……」

 

『一体それがどうなったらあんな悪戯電話になるのよ……』

 

「いや、アレはマジごめん。直前まで考えてたことが思わずポロっと口から零れ出ちゃって」

 

 人の口に戸は立てられないって言うし! とか普段なら言うところだが、今回は自重する。たった今目の前をナイスな大乳のお姉さんが通って行ったが、当然こちらに集中する。

 

『私もすぐに切っちゃったし、おあいこってことにしといてあげるわ』

 

「面目ねえっす」

 

 ともあれ。

 

「俺からも連絡取ってみるし、見かけたら声かけてそっちに連絡入れるよ」

 

『悪いけど、お願いするわ』

 

 りっちゃんとの通話を終了し、携帯電話をパタンと閉じる。……昨今スマートフォンやらタブレット型端末などが流行っている中、現在俺が使用しているのは俗に言うガラケーである。もうそろそろ契約期間が終わるし、これを期に買い替えてもいいかもしれない。今日ついでに見に行ってみようか。

 

 まぁそれはともかく。

 

「……美希ちゃんが、ねぇ」

 

 俺の目から見た美希ちゃんは、非常にやる気に満ち溢れた子だった。自惚れる訳ではないが、それが俺に対する憧れから来るものだということは何となく理解している。そしてその実力は765プロダクションの中でもトップクラスで竜宮小町にだって負けていない。

 

 それなのに、どうして美希ちゃんは竜宮小町に対する強い思い入れがあるのだろうか。何か竜宮小町に入らなければならない理由があったのだろうか。そんなこと、俺は星井美希じゃないので分かるはずが無いのだが。

 

 竜宮小町のことを楽しそうに語る彼女の笑顔が、何か引っかかった。

 

 

 

(……頭を切り替えよう)

 

 もちろん美希ちゃんのことは気がかりだが、その事ばかりを考えていたらわざわざ一日のオフを使って俺を誘ってくれた相手に失礼だ。とりあえず、今はそれらのことは頭の片隅に保留しておく。

 

 さて、今日は一体何なのかというと以前から話していたりんとのお出かけである。夏の終わり頃に誘われて以来ずっと二人のオフが重ならず、今回ようやく実現したのだ。いやマジ長かった。あと仕事の現場で顔を合わせる度にそわそわといつ頃になりそうかと尋ねてくるのが非常に心苦しかった。これも全部周藤幸太郎って奴の仕業なんだ。もしくはゴルゴムかディケイドのせい。

 

 という訳で、いつもの伊達眼鏡と帽子を着用した状態で待ち合わせ時間の三十分前から待機中である。女の子を待たせるとどうなるかは幼少の頃の兄貴と早苗ねーちゃんのやり取りを見ているので、女の子だけは待たせてはいけないというのがポリシーである。まぁ、合同トレーニングの時はアレだったけど。

 

 チラリと腕時計を除くと既に待ち合わせ時間の五分前になっていた。もうそろそろ来てもいい頃ではないかと、今まで背を向けていた駅の入口に向かってベンチに座ったまま振り返る。

 

「え?」

 

「あ」

 

 振り返ったその先、というかすぐ背後にりんがいた。以前の結婚雑誌の撮影の時と同じツインテールを降ろした髪。真っ白なワンピースに上着を羽織り、ショルダーバックを肩に下げた姿はまるで良家の令嬢のようにも見える。

 

 そんなりんが何故後ろから静かに近寄って来ていたのかと考えて、以前背後から目隠しをされたことを思い出した。恐らく今回も同じことをしようとしたのだろう。しかしあと一歩というタイミングで俺が振り返ってしまった、と。……つまり前回みたいに「背中にムギュ」があったかもしれないと……何で振り返ったんだよ俺のバカ!

 

「「………………」」

 

 お互いにどうしたものかと微妙な空気が流れる。こういう場合どう反応したのものか……。

 

「え、えい!」

 

 反応に困っているとりんがそんな掛け声と共に両手で俺の両目を覆い隠した。

 

「だ~れだ?」

 

 真っ暗になった視界で、まるで何事も無かったかのようなりんの声が聞こえてきた。

 

 

 

(……何この可愛い子お持ち帰りしたい!)

 

 

 

 じゃなくて。

 

 あまりにも可愛い反応に一瞬思考が飛んだ。割と普段からぶっ飛んでいる思考だが今のは間違いなく飛んだ。

 

 さて、こんな可愛い反応をされてしまったのだから、俺も紳士的な対応をしなければならない。

 

 

 

「この背中に広がる柔らかさは、りんだな!」

 

「今回は当たってないよ!?」

 

 

 

 しかし口から出た言葉は願望を含んだ妄想的な何かだった。りっちゃんとの電話での反省が全く生かされていなかった。何と言うか、これはもはや呪いなんじゃなかろうか。もしくは兄貴が言っていたギャグ補正がかかった作為的な何か。

 

 ぱっと手を離したりんはずさーっと後ずさる。その顔は真っ赤に染まり、胸を隠そうとしているのだろうが当然のごとくはみ出ている。眼福眼福。

 

「よっ、りん。おはよう」

 

「お、おはよう。……何事もなかったかのように話進めちゃうんだ……もう、女の子に向かってそういうこと本当は言っちゃダメなんだからね?」

 

「おう、大丈夫大丈夫」

 

「凄い目線泳いでるけど」

 

 心当たりがありすぎてどうにも……。

 

 何はともあれ、仕切り直すことにする。

 

「改めておはよう、りょーくん。ゴメンね、待たせちゃった?」

 

「全然。りんとデート出来るならこれぐらい安いもんだよ」

 

 世の中には車を売ってでもりんとデートしたいと思う野郎はいくらでもいるだろうし。

 

「えへへ、ありがとう。それじゃあ、今日は一日よろしくお願いします」

 

「おう、任せておけ」

 

 りんと並んで駅前の商店街を歩き始める。俺達のデートは、これからだ!

 

 

 

 とまぁ、そんな変な打ち切りフラグはともかくとして、デートである。

 

 本日の予定としてはまず映画を見に行き、昼食を食べた後にりんの秋冬物の服を見に行くというのが簡単な流れである。そして先ほども少し触れたが俺が買い替えるスマートフォンを見に行く予定も追加された。ここまでくれば相手の自分に対する好感度がどうであれ十二分にデートと呼んで差し支えないだろう。流石にここまで来てこれをただのお出かけ呼ばわりするつもりはないぞ。月村とのデートを「デート? いや、ただ一緒に買い物に行っただけだ」などと抜かしおる二年前の鈍感野郎とは違うのだよ! 鈍感野郎とは!

 

 なお好感度云々に関しては、高いことは何となく分かるのだがイマイチその方向性は分からない。多分、仲のいい男友達ぐらいだとは思うのだが。

 

「……ん? 何? アタシの顔に何か付いてる?」

 

「あ、いや、何でもない」

 

「ふーん? それで、今日は何の映画見に行くの?」

 

「『紅の翼(アラ・ルブラ)戦記(サーガ)』って奴。知ってるだろ?」

 

「スプリングフィールド夫妻が主演のアレ? 丁度見たかったんだよねー!」

 

 俳優のナギ・スプリングフィールドと女優のアリカ・スプリングフィールドのハリウッド夫妻が主演のこの映画は以前から話題になっていた。俺も以前来日時の先行上映の時に本人から誘われていたのだが、仕事の都合で行けなかったため今回丁度いいと見に行くことにしたのだ。

 

 その事をりんに話すと、酷く驚かれた。どのくらい驚いたのかというと、コーヒーショップで買ったカフェラテを危うく噴き出す寸前だったぐらいだ。こらこら、美少女がはしたない。

 

「え!? りょーくん、スプリングフィールド夫妻と知り合いだったの!?」

 

「俺だけじゃなくて、麗華もだぞ。ほら、だいぶ前の何とかっていうパーティーだし、知り合ったの」

 

 何のパーティーだったかは覚えていないが、世界中のセレブや芸能人が一堂に会する集まりで知り合いの社長に招待されたのがきっかけだった。そこで社長令嬢として参加していた麗華と会い、スプリングフィールド夫妻や様々な有名人と知り合いになったのだ。

 

「そ、そうだったんだ、りょーくんもあのパーティーに行ってたんだ。……聞いてないわよ、麗華」

 

「っ!?」

 

 一瞬りんの方から凄く低く冷たい呟きが聞こえて来たような気がしたが、当のりんはニッコリと笑顔だったので気のせいだったということにする。たまには「え? 何だって?」という鈍感野郎でもいいと思いました。

 

 

 

 

 

 

おまけ『ともみさんが行く!』

 

 

 

「っ!?」

 

「? どうしたの、麗華」

 

「い、いや、ちょっと寒気がしただけよ。それより、今日はりんの奴、良太郎と出かけてるんだっけ?」

 

「うん。昨日散々楽しそうに話してたし」

 

「全く、あいつらはホントにアイドルとしての自覚があるのかしらね」

 

「あの二人ほどアイドルとしての自覚があるアイドルはいないと思うけど」

 

「それで? 完全オフの日にアンタは何で本社のレストルームにいるのよ。何処か出かけたりしないの?」

 

「今から出かけるつもり。リョウがよく差し入れに持ってきてくれたシュークリームを売ってる『翠屋』っていう喫茶店に行ってみる。麗華も行く?」

 

「私は午後から用事があるから遠慮しておくわ。でもお土産のシュークリームだけはお願いしておくわ」

 

「分かった」

 

「でも急ね。何かあったの?」

 

「……別に」

 

「?」

 

 つづく……?

 

 

 




・ものの見事に雲一つ無い秋晴れの空
ちょっとプロットを見直していたら季節が完全に間違っていたことが判明。でもまぁ直すのもアレなのでこのまま行きます。サザエさん時空的なアレだということでよろしくお願いします。

・昨今スマートフォンやらタブレット型端末などが流行っている中
アニマス放送時は既にスマフォが普及していた、というか作者もスマフォだった。なのに全員ガラケーだったのは何故だろうかというちょっとした疑問。

・これも全部周藤幸太郎って奴の仕業なんだ。
「何だって! それは本当かい!?」
なお本編でそんな言葉は一度もなかった模様。

・もしくはゴルゴムかディケイドのせい。
「おのれゴルゴム……ゆ”る”ざん”!」
「おのれディケイドォォォ!」

・(……何この可愛い子お持ち帰りしたい!)
非売品です。みんなで愛でましょう。

・「この背中に広がる柔らかさは、りんだな!」
紳士的対応()

・世の中には車を売ってでも
売っちゃったホンダのオデッセイ

・「デート? いや、ただ一緒に買い物に行っただけだ」
鈍感系主人公のテンプレの反応。ナ、ナルシストでもない限り普通こういう反応ですし(震え声)

・多分、仲のいい男友達ぐらいだとは思うのだが。
良太郎は好感度は分かるけどそれがライクなのかラブなのかの区別がついていません。

・スプリングフィールド夫妻
ナギ・スプリングフィールドとアリカ・アナルキア・エンテオフュシア。『魔法先生ネギま!』の主人公ネギ・スプリングフィールドの両親で、最強の英雄と亡国の王女。
この世界ではイギリスが生んだ超大物俳優と女優。一人息子もちゃんといる模様。

・「え? 何だって?」
難聴兄貴おっすおっす。

・おまけ『ともみさんが行く!』
つづく(続くとは言っていない)



 ついにやってきたデート編です。満足いってもらえるように頑張ります。

 あと全くの余談ですが、先日仮面ライダーとプリキュアの映画を見に行ってきました。一人で。……なんかもう、この年になると割と色々吹っ切れますね。久しぶりに喋る六花たんが見れて大満足でした(小並感)。自分もフランケンシュタイナーがされたかったです(願望)。


 


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Lesson31 キラキラ 2

まるでラブコメのようだ……(驚愕)


 

 

 

 

 

 

『フフ……フはは、ははははは! 私を倒すか人間!! それもよかろう!』

 

『だが、ゆめ忘れるな!』

 

『世界が滅びゆくことに変わりはない! いずれ彼らにも絶望の帳が下りる!』

 

『それは、貴様とて例外ではない――!』

 

 

 

「グダグダうるせぇえええ!!」

 

 

 

「たとえ明日世界が滅ぶと知ろうとも、諦めねぇのが人間ってモンだろうが!」

 

 

 

「人! 間! を!」

 

 

 

 ――なめんじゃねぇえええー!!

 

 

 

 

 

 

「「満足!」」

 

 三時間に及ぶ大作映画を見終わり、丁度いい時間なので昼食を取ろうと近くのファーストフード店に入った俺とりん。

 

「いやぁ、流石ハリウッド。CGといいキャストといい、お金の掛け方のスケールが違うね」

 

「ハリウッド一仲がいいって言われる夫婦が演じる大英雄と王女の仄かな恋。あぁ、あの二人どうなるだろー?」

 

「二部構成みたいだし、そっちの方で掘り下げていくんだろうなぁ」

 

 何かまだまだ伏線が残ってたみたいだし、と言いながらフライドポテトを摘む。

 

 結論から言って、今回の映画は前評判通りに大当たりだった。まぁあの二人が主演なんだから、よっぽどストーリーが悪くない限りこうなることは予想されていた結果であるのだが。

 

「そう言えば、りょーくんってドラマには結構出てるけど映画には全然出てないよね」

 

 ちゅーっとイチゴシェイクをストローで飲みながらりんが上目遣いにそんなことを尋ねて来た。

 

「別に何かこだわりがある訳じゃないぞ? たまたま予定が噛み合わなかったから出てなかっただけで、オファー自体は何回かあった」

 

 しかし、それらオファーがあった映画はいざ公開されてみたらイマイチな評価を受けるものばかりだった。これはそういう映画を回避した俺の危機回避能力的なものなのか、それとも俺が出演しなかったから評価が振るわなかったのか、どちらなんだろうか。

 

「まぁぶっちゃけると映画の出演は決定したんだけど」

 

「え!? 初耳だけど!?」

 

「一般にはまだ出回らないようにしてる話だからな」

 

 だからりんもオフレコで頼むと人差し指を立てる。

 

 ちなみにオファーを受けた映画は二本。一本は俺の初出演作品である覆面ライダーの劇場版で、後輩ライダーに力を貸す先輩ライダーというポジションになる。もう一本はなんとあの竜宮小町との共演、俺の初主演作品である『少年X』と竜宮小町の初主演作品である『美人姉妹探偵団』との奇跡のコラボレーションだ。正直自分でもどんな作品になるのか分からないのでちょっとワクワクしている。

 

「そういうお前らはどうなんだ? ドラマとか映画とかそういう話全く聞かないけど、あんまり興味無い感じ?」

 

 魔王エンジェルは歌番組やライブ、コンサートに重点を置いて活動するアイドルであり、その点は俺も同じだ。とはいえ、それにしたってこいつらは俺以上に演技関係の話を聞かない。

 

「んー、あたしは別にどっちでもいいんだけど、麗華とともみがあんまりいい顔しないんだよねー」

 

「あら」

 

「二人とも猫被るのはそれなりに上手だけど、演技となるとあんまり得意じゃないみたいで」

 

「最近完全にその猫が剥がれてるみたいなんだが」

 

「それは間違いなくりょーくんのせいだから」

 

 俺のせいかどうかはともかくとして、確かに幸福エンジェルだった頃は麗華やともみもアイドルらしく愛想良かったからなぁ。最近では、麗華は毒舌キャラに見せかけた弄られキャラ、ともみは表情に乏しいクールっ娘っていうイメージで定着してるし。ちなみにりんも今では猫が若干はがれて腹黒キャラが見え隠れしているとファンの間でもっぱらの噂である。

 

「また詳しい話決まったら教えてね?」

 

「あぁ。つっても、正式な発表や撮影は来年の四月になってからになるだろうなぁ。受験あるし」

 

「そういえばりょーくんにはまだ言ってなかったけど、あたしも大学受験することにしたよ」

 

「あ、そうなん?」

 

 以前聞いた時はまだ悩んでたみたいだけど、ついに決めたのか。

 

「何処受けるの?」

 

「いひひっ」

 

 頬杖をついて実に楽しそうにはぐらかされてしまった。むぅ、秘密って奴か。ただ、何となく麗華と同じ大学を選択するんじゃないかと思う。なんだかんだいって古くからの仲良し三人組みたいだし。

 

「しかし、これからはオフの日は勉強せにゃならんのだよなぁ」

 

 何度も言うようであるが、俺は受験生である。「あれ何呑気にアイドルとデートしてるの?」とか突っ込まれたらぐうの音も出ないが、紛れもなく受験生である。本来ならば今日の一日オフも勉強に当てるべきなのだろう。ただでさえ勉強に割いている時間が少ないと言うのに。

 

「あ! じゃあじゃあ! 今度一緒に勉強会しようよ!」

 

「勉強会?」

 

「うんうん! 一人でするより絶対いいよ!」

 

「今のセリフもう一回お願い」

 

「え? ……一人でするより絶対いいよ?」

 

「ありがとうございます」

 

 もう一度言ってもらったことに深い意味なんてありません。

 

「で、一緒に勉強か。いいかもしれんな」

 

「でしょでしょ? 勉強のためだったらあたしももう少し時間取れると思うし」

 

 ふむ、確かに。

 

「じゃあまた予定合わせるか」

 

「うん!」

 

 ついでだし、恭也や月村の勉強会に交ざってもいいかもしれんな。何と言うか……りんを含め、魔王エンジェルの三人って友達少なそうだし。

 

「りょーくん、今何か失礼なこと考えなかった?」

 

「気ノセイデス」

 

 

 

 

 

 

 昼食を終えた俺達はりんの服や俺の携帯電話を見るために街を歩く。当然休日の今日は駅前並みに人が多いために俺はもちろんのこと、りんも伊達眼鏡と帽子を被って絶賛変装中である。最も、現在のりんはいつのもツインテールではないのでそうそう身バレはしないだろうけど。

 

「どっちから見に行く?」

 

「服はゆっくり見たいだろうから、俺の方から済ました方がいいだろ」

 

 という訳で家電量販店へ。

 

 携帯電話を取り扱っている一角に向かうと、そこには様々な会社が発売しているスマートフォンが並べてあった。

 

「うわぁ、今スマートフォンってこんなに出てるんだね」

 

「りんもまだガラケーだよな?」

 

「うん。契約もまだ続くから、今日はりょーくんと一緒に予習ってところかな」

 

 実際に手に取ってみたりしながら各社のスマートフォンを見ていく。ふむ、携帯電話というよりは小型のパソコンっていった感じかなー。

 

「見て見てー、このスマートフォン上の所に動物の顔が付いてるー。……これ、何の動物なんだろ?」

 

「なんか変身出来そうなスマフォだな」

 

 なんともラブリンクしそうである。

 

 さてさてどんな機種にするかと悩んでいると、背後から店員さんに声を掛けられた。

 

「スマートフォンをお探しですかー?」

 

「ええ、まぁ」

 

「……(チッ)、お隣の方は彼女さんですかー?」

 

「おい今舌打ちしたよなアンタ」

 

「今ならラブラブ定額プランなどがありますがー?」

 

「話聞けよこの野郎」

 

 いや女だけど。

 

 とりあえず彼女じゃないことを告げると再び舌打ちした店員(女)は後からやってきた店員(女)に連れていかれた。

 

「一体なんだったんだあの店員……」

 

 全てのカップルを呪っているかのような負のオーラを身に纏わせていたが。

 

「それで? どうして君は不服そうな表情をしているのかな?」

 

「……べっつにー?」

 

 カップルを否定した辺りからりんは口を尖らせて拗ねたような表情を見せていた。いや、違うものは違うんだし、しっかりと否定しておかないと向こう側に迷惑がかかるだろう。

 

「もー、女心は複雑なの! 埋め合わせに、美味しいスウィーツを所望します!」

 

「む、イマイチ理解できないけど了解」

 

 それぐらいで許されるならいいけど、そんなに安くていいのか女心。

 

 結局今日のところは見に来ただけだったので、ある程度の目星をつけて家電量販店を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

「んー! カスタードクリームとイチゴがオイシー!」

 

「お気に召してくれたようでなによりだよ」

 

「りょーくんのは何だっけ?」

 

「ゴーヤクレープ」

 

「……美味しいの?」

 

「もはや珍味のレベルかな」

 

 りょーくんに買ってもらったクレープを食べながら、二人並んで街を歩く。こんな人ごみの中をりょーくんのような(ついでにあたしも)トップアイドルが歩いていたらあっという間に取り囲まれて身動きが取れなくなりそうなものだが、そんなことが起きる様子は一切ない。やっぱりこの変装のおかげで誰もりょーくんだと認識できていないのだろう。

 

 チラリと隣を歩くりょーくんの姿を見る。黒のプリントTシャツに白いジャケット、下はジーパンにブーツ。長財布ぐらいしか入らなさそうな小さな斜めがけバックを背負ったその姿は、ステージの上に立つ煌びやかなアイドルではなく普通の男の子。そんなりょーくんの隣をごく自然に歩けている現状に対して、自然と笑みが零れそうになる。

 

「ん? そんなにそのクレープ美味しかったの?」

 

 どうやら零れそうではなくしっかりと零れてしまっていたようだ。

 

「ううん、こうしてりょーくんと一緒にデートできるのが嬉しいだけだよ」

 

「……そう言ってもらえるのは大変光栄だね」

 

 表情こそ変わらないが、内心では少し照れているんじゃないかと思うと今のりょーくんが凄く可愛く思えた。

 

 結婚雑誌の撮影の時のように腕を組もうと右手を持ち上げ――。

 

「………………」

 

 ――そのまま手を下げ、りょーくんの左手を握った。

 

「へ?」

 

 無表情のまま、りょーくんが驚いた声を出してこちらを見てくる。

 

「デートなんだもん、これぐらい当然だよね?」

 

「あ、うん、ちょっと驚いただけ」

 

(あーもー! 今日のりょーくんカワイー!)

 

 りょーくんの暖かい左手を握りつつ、内心キュンキュンするのだった。

 

 

 

 

 

 

おまけ『ともみさんが行く! だぶる!』

 

 

 

「ここが翠屋……」

 

「いらっしゃいませー! お一人様ですか?」

 

「………………」

 

「え!? な、何で撫でるんですか!?」

 

「あ、ごめん思わず」

 

「……あ!? も、もしかして……『魔王エンジェル』の三条ともみさんですか……!?」

 

「うん、そうだよ。初めまして、三条ともみです。今日はリョウ――周藤良太郎にお勧めされたから来ました」

 

「良太郎お兄さんのですか!?」

 

「んー? なのは、どうしたのー? 良太郎さんがどうかしたのー?」

 

「あ、お姉ちゃん」

 

「って! もしかして三条とも――もが!?」

 

「だ、ダメだよお姉ちゃん! 騒ぎになっちゃうから!」

 

(既に大事になってる気が……)

 

 ほんとうにつづく……?

 

 

 




・『人間をなめんじゃねぇえええー!!』
『魔法先生ネギま』29巻参照。なお多少の改変を加えております。

・伏線が残ってたみたいだし
全部の伏線がUQで回収されると信じています。
ちなみに良太郎がこの世界のアニメキャラに気付いているのかいないのかはご想像にお任せします。

・美人姉妹探偵団
アニマス9話冒頭の劇中劇。オチがオチだったのでちょっと難しいが、ある程度ネタは固まっているので劇中内で予告編とかはやるかもしれない。

・「一人でするより絶対いいよ!」
72をするんですかねぇ……。

・ラブリンクしそうなスマートフォン
きゅぴらっぱ~!

・舌打ちした店員(女)
オリキャラのモブ、と思いきやまさかの元ネタ有。
『WORKING!!』でたまに出てくる携帯電話販売員で、佐藤と轟(犬組)や足立や村主(猫組)などの男女の組み合わせを見るとカップルと決めつけ舌打ちをする。
なお同棲中の彼氏がいる模様(元ネタ)

・「女心は複雑なの!」
デートテンプレ展開
 済 「だーれだ?」
 済 とりあえず映画
 済 カップルを否定すると不機嫌
 未 「はい、あーん」で間接キス
 未 下着売り場に連れ込まれる
 未 夕暮れの観覧車

・ゴーヤクレープ
またまたネギまネタ。この際今回の話のネタはネギまを主に固めていこうか。

・りんちゃん(デート中)
これはめいんひろいんですわぁ……。

・おまけ『ともみさんが行く! だぶる!』
「セカンド」や「ドス」とどちらがいいか悩んだ結果こうなった。



 最近ラブライブに流されそうで怖い。誰か俺をアイマスに引き留めtにっこにっこにー!


 


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Lesson32 キラキラ 3

厄払いと温泉で色々落として清々しく更新。


 

 

 

 普段と少し違うりんの態度に困惑してしまった周藤良太郎です。いや、腕を組んでくることは前にも何回かあったんだけど、ああして手を握られることはほとんど無かったから驚いちゃって。でもまぁ、腕組むより手をつなぐ方が親密度は高い気がするし(個人的解釈)、りんと仲良くなれてるってことで全然オッケーだな!

 

 てな訳で、クレープを食べ終えた俺達はりんの服を見ていく。たまに俺の意見も求められるので自分の好みに若干誘導しつつ買い物を進める。本当はホットパンツとかでりんの太ももとか拝みたかったのだが、時期が時期だし寒いだろうと思って自重しておいた。寒くなるとヤダね。女の子の肌色の面積が減るから。

 

(いや待てよ、胸元を押し上げる縦セタもなかなか……)

 

(りょーくん、アタシの服を真剣に考えてくれてる……!)

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 購入する服が決まり、さぁ会計へ向かおうとした矢先のことである。何やら店の外が騒がしいというか、野次馬が揃っていた。

 

「何だありゃ」

 

「も、もしかしてアタシ達のことがバレたとか……!?」

 

 りんは若干緊張した面持ちで可愛らしく俺の服の裾を摘んでいるが、多分それは無いと思う。野次馬は店の外にいる誰かを取り囲んでいて、店内を覗いている様子はない。俺達以外の芸能人でもいたのだろうか?

 

 一先ず会計を済ませ、店を出る。ちなみにまたしても俺が金を出した。最近出費が多すぎるのでマジで自重しなければと考えつつも、やはり女の子に出させるのは忍びないというか何と言うか。まぁ二次元の女の子にお金掛けるよりはマシだよね! と不特定多数の人間にケンカを売ってみる。

 

 店の外にいたのはテレビクルー。どうやら誰かの取材をしているようなのだが……。

 

 

 

「もしかして、モデルかアイドル?」

 

「うん。ミキ、アイドルだよ」

 

 

 

 聞き覚えのある声で、そんな一人称が聞こえてきた。

 

「りょーくん、アレって……」

 

「……美希ちゃん、だね」

 

 今朝りっちゃんから練習に来なくなったと話を聞いたばかりの星井美希ちゃん本人が、楽しそうな様子でテレビの取材を受けていた。どうやら街頭インタビューでたまたま美希ちゃんが対象になっただけのようだ。だが運動会でテレビに映っていたはずの美希ちゃんを知らないって。あのリポーター、モグリなんじゃなかろうか。

 

 しかしなるほど、これが野次馬の原因か。すれ違えば九割近くが振り返るであろう金髪美少女がテレビの取材を受けてれば、そりゃあ野次馬の十人や二十人簡単に集まるだろう。男女比が6対4を軽く超えて33対4みたいな訳のわからない比率になっているのも頷ける。

 

 さてさて、どうしたものか。りっちゃんには見かけたら声をかけて連絡を入れるとは言ったものの、今この状況の美希ちゃんの声をかけたらあのテレビカメラ他大勢の野次馬までこちらを向いてしまってマズイ。第一、女の子とのデート中に別の女の子に声をかけるってのもどうなのだろうか。

 

「りょーくん、女の子とのデート中に他の子のことを考えるのはマナー違反だよ」

 

 案の定、りんからお咎めを受けてしまった。

 

「ごめん、ちょっと美希ちゃんを見かけたら連絡してくれってりっちゃんに言われてて」

 

「りっちゃんに?」

 

「うん。てなわけでちょっと待ってて」

 

 携帯電話を取り出して着信履歴からりっちゃんの番号を選択する。そのまま通話ボタンを押そうとして……美希ちゃんがこっちに向かって手を振っているのが見えてしまった。

 

 気付かれたー!? このタイミングで!?

 

 当然周りの人間の視線もこちらを向くため、咄嗟にりんを自分の背後に隠すように半歩前に出る。りんも俺の意図が分かってくれたようで、さっと背後を向いて俺に背中を預けるように姿を隠す。伊達眼鏡と帽子を装着中の俺よりもりんの方が身バレの可能性が高いため正しい判断だ。

 

 とりあえず何の反応も返さないのは逆に不自然なので一応手を振り返しておく。

 

「ミキちゃんの知り合い?」

 

「うん」

 

 ――アイドルの知り合いってことは、もしかして芸能人かな?

 

 ――そんな、帽子に眼鏡だからって変装してるわけじゃあるまいし。

 

 こ れ は マ ズ イ !

 

 素早くりんの手を取ると反対方向へと早足で離脱する。りんはやや踵が高いため歩きづらそうであるが、何とか頑張ってもらう。

 

「あ、りょーたろーさん!」

 

(だから名前で呼ばないで!)

 

 心の中で悲鳴を上げながら、俺達はその場を離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……危機一髪……」

 

「……だね……」

 

 テレビカメラや野次馬から逃げて来たアタシとりょーくんは適当な喫茶店に入って一息つくことになった。荷物こそりょーくんが持ってくれたものの、ヒールでの小走りは流石に疲れた。りょーくんも走ったこと自体は苦になっていないだろうが、精神疲労的な意味で疲れた様子だった。

 

 全く、普通あそこでこっちに手を振るだろうか。明らかにプライベートなりょーくんにテレビカメラが向くことの可能性を考えなかったのか。変装のせいで隣のアタシに気付かなかったのだろうけど、だからといって普通女の子と二人で歩いていたらそこは見て見ぬフリをするものだ。

 

 ……気付いてたからこそ邪魔したとか……?

 

(だとしたらマジで今度シメてやろうかしら……!)

 

「りん、怖い怖い。笑顔はいつも通りとってもキュートだけど、雰囲気が怖い。なんか黒いオーラが出て髪が蠢いてるような気がするんだけど」

 

「気のせいだよー?」

 

 りょーくんってば、こんなに可愛い女の子からそんな暗黒瘴気がにじみ出る訳ないのに、ねぇ?

 

「あの、ご注文は……?」

 

「ホットコーヒー。りんは?」

 

「メロンソーダで」

 

 注文を済ませ、改めて一息つくアタシとりょーくん。

 

「いやー、アイドルってのはこんな風に身バレの危機と戦ってるんだな」

 

「トップアイドル代表格のセリフじゃないよ、それ」

 

 ある意味りょーくん以上にアイドルとしての意識が低いアイドルもいない気がする。昔から伊達眼鏡と帽子さえ身に着けていれば決して身バレしたことが無いりょーくんだからこそ言えるセリフである。

 

「それで? りっちゃんに連絡するんじゃなかったの?」

 

「おっとそうだった」

 

 いいか? と携帯電話を取り出したりょーくんにどーぞと手で促す。デート中なんだけどなーと少し嫌な気分になってしまうが、まぁ向こうも向こうで何やら事情があるようだし我慢する。

 

「………………」

 

 しかし、りょーくんは携帯電話を取り出したまま動きが止まっていた。表情は変わらないものの、何やら頭が痛そうに目を閉じてこめかみを人差し指で押さえていた。

 

「どうしたの?」

 

「……窓の外」

 

「? 窓の外?」

 

 店内中央付近の席なので少し首を伸ばさないと窓は見えない。アタシは背後の席との衝立から顔を覗かせるようにして窓の外、店の外の通りを見た。

 

 するとそこには、星井美希と三人の男がいた。迷惑そうな表情の星井美希は街路樹に背を預けるようにして立っており、その周りを男達が取り囲んでいる。恐らく、というか十中八九ナンパだろう。どう見ても星井美希は拒絶の反応をしているのだが、男達が引く様子もない。見た目的には高校生でも通用する容姿なので分からないのだろうが、知っているアタシからしてみれば中学生をナンパしているトンだロリコン集団だ。

 

 何と言うか、もう色々とアレだ。偶然だとは思うのだが、星井美希は何処までアタシ達のデートを邪魔すれば気が済むのだろうか。怒りを通り越して呆れてくる。

 

「……このまま見て見ぬフリするわけにもいかないし、ちょっと行ってくる」

 

 りんはここで待っててくれ、とりょーくんは席を立って店を出ていった。

 

 ……何事も無ければいいけど。

 

 

 

 

 

 

 店の外に出ると、予想通りのやり取りが聞こえて来た。

 

「だから、ミキはキョーミないの」

 

「そんなこと言わずにさー?」

 

「ほら、何でも奢っちゃうからさ?」

 

「美味しいものでも食べにいこーよー?」

 

 完全に誘拐犯のやり方である。今時食べ物で釣られる子がいるとでも思っているんだろうか。

 

「悪いんだけど、その子俺の知り合いなんだ。嫌がってるのに無理矢理に連れていくのは勘弁してもらいたいね」

 

 とっとと事を済まそうと声をかけると、全員の視線がこちらを向く。……ん? この男達、何処かで見覚えが……?

 

「りょーたろーさん!」

 

 こちらに気付いて笑顔になった美希ちゃんが俺の背後に隠れる。

 

「あぁん? 何だテメー、野郎は引っ込んで……って、あぁ!?」

 

「テメーは!?」

 

 あ、あれ? 俺のこの変装状態で見覚えがあるの? やっぱり何処かで……?

 

 

 

「テメー、この間『幸薄そうな女顔』や『トゲトゲ頭』と一緒にいた奴だろ!」

 

 

 

(……あ、綾崎と上条のことかー!?)

 

 って、あぁ!? 思い出した! この間、合同レッスンの日に綾崎や上条と一緒にハプニングに巻き込まれた原因になった三人組じゃないか! いらないから! そんな伏線回収いらないから! もっと回収すべき伏線あるだろ!? どうしてここ拾っちゃうんだよ!

 

 神様は一体何を考えているんだと嘆きつつ、この場の収拾方法に頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

おまけ『ともみさんが行く! とりぷる!』

 

 

 

「いやぁ、うちの娘達がお騒がせして申し訳ないね」

 

「いえ、大丈夫です。ある程度は慣れてますから」

 

「良太郎君からの紹介って言ってたけど、仲がいいんだね?」

 

「はい。所属は違いますが、リョウはわたし達『魔王エンジェル』の恩人で、目指すべき目標です」

 

「はは、そうか。はい、ご注文のコーヒーとシュークリームだ」

 

「ありがとうございます」

 

「……もしよかったら、同じアイドルから見た良太郎君の話を聞かせてもらえないかな?」

 

「? 別にいいですけど」

 

「うちに来てくれている良太郎君はあくまでも周藤良太郎で、アイドルとしての彼はやっぱりテレビの中の存在でね。一度第三者からの話を聞いてみたかったんだ」

 

「わたしの主観の話でよかったら、いくらでも」

 

「ありがとう、三条さん」

 

「……リョウのこと、随分と気にかけていらっしゃるんですね」

 

「当然さ。彼は自分のもう一人の息子みたいなものなんだからね」

 

「……ふふ」

 

 まだつづく……?

 

 

 




・(縦セタもなかなか……)
趣味丸出しである。

・不特定多数の人間にケンカを売ってみる。
作者にもブーメランだった。

・33対4
な阪関無

・(だとしたらマジで今度シメてやろうかしら……!)
暗黒りんちゃん。

・そんな伏線回収いらないから!
不良に絡まれる女の子を助けるのもデートイベントの必須イベントかと思いまして……。

・おまけ『ともみさんが行く! とりぷる!』
起承転結構成で次回はオチになる予定です。



 ネタや内容は薄めの薄味構成。次回が説教回になるため時間をかけて取り組みたいと思います。


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Lesson33 キラキラ 4

今回のオチ。


 

 

 

 改めて状況確認。目の前にいるのは暫定的に敵対勢力であるガタイのいい男三人組。背後には救助対象者である美希ちゃん。服の裾を摘まれているため若干動きに支障が来す可能性があるが、今はまだ問題ないだろう。

 

 さてさて、どうしたらこの場を穏便に済ますことが出来るだろうか。ナイフぐらいなら持ちだされても対応できるけど、警察沙汰は避けたいしなぁ。

 

「テメーらのせいであの後大変だったんだぞ!」

 

「いや、割とこっちも大変だったんだけど」

 

「つべこべうるせぇ! 一発殴らせろ!」

 

 言うが早いか、一人の男が殴りかかってきた。狙いは恐らく顔面。こちとらアイドル故、顔に傷を負う訳にはいかないので避けようかと考えた。しかし下手に避けると後ろの美希ちゃんに当たる可能性があり、何より素直に殴られておいた方が相手の気も済むだろう。

 

 ここまでの思考一秒未満である。

 

 ゴッ!

 

「「イッテー!?」」

 

 殴った男は拳を、殴られた俺は額を押さえて同時に叫ぶ。ちょ、こいつ本気で振り抜きやがった。

 

「りょーたろーさん!」

 

「ちょ、たっくん大丈夫!?」

 

「おいテメェ! 今何しやがった!」

 

「見ての通り殴られただけですが……」

 

 まぁ、ヒットする箇所はこちらで決めさせていただきましたが。相手の拳をおでこで受け止める、所謂『額受け』。頭部を殴られているため当然自分も痛いが、殴ったたっくん(仮)も随分と痛そうである。

 

「この野郎……調子乗りやがって……!」

 

 素直に殴られたが、やはりというか何というか相手方の気は晴れなかったようだ。

 

「この野郎――!」

 

 今度は三人がかりで詰め寄ってくる。これはちとヤバいか?

 

 

 

「おっと、そこまでだぜ」

 

 

 

 しかし、男達三人の動きは背後から近寄って来ていた二人の男の手が肩に置かれたことにより止められた。

 

 

 

「そいつぁ俺らのダチでよぉ、ちょーっと事情があって喧嘩できねーんだわ」

 

「だからよぉ……そんなに喧嘩したいんなら、俺達が相手になってやるぜぇ?」

 

 

 

「仗助! 億泰!」

 

 見覚えのある二人組。俺達に絡んできた三人組より若干人相が悪い二人組。というか、同級生の東方仗助と虹村(にじむら)億泰(おくやす)だった。

 

「よぉ良太郎、随分とかわいこちゃん連れてんじゃねーか」

 

「なんだデートかぁ? いい御身分だなぁ、おい」

 

「お前ら――なんで休日なのに学ランなんだ!?」

 

「「真っ先に触れるところがそこかよ!?」

 

 いやだって、こんな休日の真昼間に友人二人が学ラン着てたら普通に疑問に思うだろ。改造学ランが命だってのは前々から聞いているが、休日ぐらい普通に私服着ろよ。

 

「わぁ……変なあた――」

 

「美希ちゃん、それ以上はいけない」

 

 仗助の頭を見て何事かを言おうとした美希ちゃんの口を塞ぐ。また面倒くさいことになるから黙ってて。

 

「まぁいいぜ。こいつらの相手は俺らがしといてやるよ」

 

「ぐおっ!?」

 

「は、外れねぇ……!?」

 

「な、何だこいつら……!?」

 

 いつの間にか仗助が二人に、億泰が一人にヘッドロックを決めていた。バカ力二人の拘束は男達がいくらもがいてもビクともせず、全く外れる気配が無かった。

 

「え? いや……いいのか?」

 

「いーんだよ。オメーを面倒事から遠ざけるってのは学校全体の暗黙のルールだからな」

 

 学校では割と見捨てられることが多い気がしないでもないが。

 

「まぁ、上条と綾崎にはちーとばっかし話を聞かなきゃならんみてーだがなぁ」

 

 すまん、上条に綾崎、近い内に怖ーい先輩二人が事情聴取に向かうみたいだ。頑張って逃げ切ってくれ。でもまぁ、成功したかどうかはともかくあいつらはあいつらなりに俺を逃がそうとしてくれたし、後で多少フォローは入れておこう。

 

「んじゃ、俺らは行くぜ」

 

「貸し一だからなー」

 

「分かった。すまんな」

 

 ズルズルと大の男三人を引きずっていく仗助と億泰を見送る。しかし人目につき過ぎたため俺達も早急にこの場を離れる必要があり、喫茶店内のりんを呼んで迅速に場所移動をするのだった。コーヒー飲んでなかったのに……。

 

 

 

 

 

 

「全く、今度から気を付けてよ、美希ちゃん」

 

「はーいなの!」

 

「ほんっと、何でこうなるのよ……」

 

「ごめんりん、今日のところは俺の顔に免じて許してくれ」

 

「……貸し一だよ」

 

 今日は借りが増える日だこと……。

 

 街中を離れた俺とりん、そして美希ちゃんの三人は歩いて数分のところにあった公園にやって来た。街中ほど人がいないここなら、さっきよりは身バレの危険性は少ないだろう。

 

「それにしてもりんさん、りょーたろーさんとデートなんてずるいの!」

 

「何がずるいのよ。アタシとりょーくんの関係ならこれぐらい自然なことよ」

 

 不満そうな顔の美希ちゃんと余裕そうな顔のりん。なんかこの二人、似てるような気がするなぁ。

 

 それはともかく、本題に入ることにしよう。

 

「美希ちゃん、今日はレッスンだったんじゃないの?」

 

「………………」

 

 美希ちゃんからの返答は無く、美希ちゃんはスッと視線を逸らした。

 

「りっちゃんも心配してた。戻らなくていいの?」

 

「……ミキのパパとママはね、ミキに『美希のしたいことをしなさい』って言ってくれるんだ」

 

 大きな公園の池に作られた柵に肘を突き、こちらに背を向けたまま美希ちゃんはそう話しだした。

 

「だから、ミキはミキのしたいこと――ドキドキワクワクすることがしたかった。いつもミキをドキドキワクワクさせてくれてるりょーたろーさんと同じアイドルになれば、もっとドキドキワクワクできると思ったんだ」

 

「そいつは光栄だね」

 

 美希ちゃんと並ぶように俺も柵にもたれかかり、りんもその横に並ぶ。

 

「それで、アイドルになってみてどうだった?」

 

「すっごいドキドキワクワクで、すっごいキラキラだった!」

 

 ギュッと拳を握り楽しそうに笑う美希ちゃん。しかし、力無く拳を解くとまた視線を下げてしまう。

 

「……でも、もっともっとキラキラになりたかった。りょーたろーさんみたいに、眩しいぐらいのキラキラになりたかった。ミキも竜宮小町になれれば、もっとキラキラになれると思ったんだ」

 

 ……キラキラ、ね。それが美希ちゃんが竜宮小町に拘っていた理由ってことか。

 

「だけど、律子には竜宮小町には入れないって言われちゃった。……だから、ミキはもう……」

 

 違う。美希ちゃんは勘違いしてる。

 

 だから「それは違う」と口にしようとして――。

 

 

 

「アンタそれ本気で言ってんならマジでぶっ飛ばすわよ」

 

 

 

 ――しかし、それはりんから発せられた言葉によってかき消されてしまった。

 

「さっきから黙って聞いてたら、何を訳分かんないこと言ってんのよ」

 

「あ、あの、りんさん?」

 

「りょーくんはちょっと黙ってて」

 

「はい」

 

 大人しく黙る。決してりんの剣幕に気圧されたからではない。

 

「竜宮小町になれないからキラキラになれない? 竜宮小町になれないからりょーくんみたいになれない? ハッ、たかが竜宮小町ぐらいでりょーくんと同等になれるとでも思ってんの?」

 

「ちょ!?」

 

 りんさん!? あなたすげーこと言っちゃってるよ!? りっちゃんが頑張ってプロデュースしてる竜宮小町のことをたかが呼ばわりはちょっとアレじゃないですかね!?

 

「何? 竜宮小町がアンタの中での一番のアイドルなの? それとも竜宮小町ぐらいだったら自分でもなれるお手軽アイドルだとでも思ったの?」

 

 バカなの? 死ぬの? と言わんばかりに捲し立てるりんが怖い。思わず視線を虚空に向けてしまうぐらい怖い。

 

「大体、竜宮小町になったところでアンタが輝く訳じゃないってこと自体に気付いてないの? 竜宮小町だから輝くんじゃなくて、水瀬伊織達三人は『輝いていたから』竜宮小町として認められたに決まってるでしょ」

 

 卵か先か、鶏が先か。彼女達は竜宮小町というユニットを形成したからこそ注目され始めたというのは間違いないだろう。けれど、それは元々彼女達が『持っていた』からこそのことである。そこら辺はりんと同意見。

 

「輝く輝かないってのは本人自身の問題。アンタが輝けないっていうならそれはユニットに入れなかったからじゃなくてアンタ自身の問題よ。それでアイドル辞めるっていうんなら――」

 

「え?」

 

「「え?」」

 

 りんの言葉に美希ちゃんが驚いた声を出し、その言葉に対して俺とりんが驚いた声を出してしまった。

 

 

 

「えっと……ミキ、アイドル辞めるつもりないよ?」

 

 

 

「「……えっ!?」」

 

 その答えは予想外だった。予想外すぎた。この流れは「キラキラになれないならアイドル辞める」とかそういう感じになるものだとばかり思っていた。りんもそういう流れだとばかり思っていたからそういう話をしていたはずなのに。

 

「確かに、竜宮小町になりたかった。竜宮小町になれば少しでもりょーたろーさんに近付くことが出来ると思ってた。だから竜宮小町に入れないって律子から聞いた時は結構ショックだったけど、アイドルを辞めようとは思わなかったの」

 

「えっと、じゃあ何でレッスンに……?」

 

「竜宮小町になれなくてショックだったのは本当だから、ミキなりのストライキなの。自主練習はちゃんとしてたし、明日にはちゃんと連絡するつもりだったんだよ?」

 

「じゃ、じゃあ、さっきの『ミキは、もう……』の後は何て言おうとしてたの?」

 

「『ミキは、もう竜宮小町に入ることは諦める』って言おうとしただけだよ? 竜宮小町じゃなくて、ミキはミキとして頑張るの!」

 

 りょーたろーさんに憧れてる気持ちは本気だから、と笑う美希ちゃん。そ、そう、だったらよかったんだけど……。

 

 ちらりと隣を見る。

 

「………………」

 

「りんさんどうしたの?」

 

「今は触れないであげて」

 

 そこにはその場にしゃがみ込んで顔を伏せるりんがいた。表情は見えないが耳が真っ赤になっている。相当恥ずかしいんだろうなぁ、あんなに色々と言ったにも関わらず全部勘違いだったんだから。しかしりんが言わなかったら俺が言っちゃってただろうし、身代わり感謝。

 

 ……しかし、そうか。俺達が心配しなくても美希ちゃんは大丈夫だったのか。ちょっと過小評価し過ぎてたみたいだな。

 

「……ミキちゃんは、キラキラになりたいんだよね?」

 

「うん! りょーたろーさんみたいなキラキラに!」

 

「ちっち、甘いよ美希ちゃん。俺やりん達がいるここからはね……輝き(キラキラ)の向こう側が見えるんだ」

 

輝き(キラキラ)の、向こう側……?」

 

「そ。眩しい光のその向こう。ここに立ったアイドルにしか見えない絶景」

 

 きっと、美希ちゃんならば辿りつける。美希ちゃん達ならば辿りつける。

 

「きっと感謝祭ライブが、美希ちゃんにとっての向こう側への第一歩になる。だから、頑張ってね」

 

「……はいなの!」

 

 美希ちゃんは、そう、満面の笑みで頷いた。

 

 

 

「まずは、ちゃんとりっちゃんやプロデューサーに謝らないとね」

 

「……は、はいなの……」

 

 

 

 

 

 

「りん、大丈夫?」

 

「……恥ずかしくて死にそう……」

 

 美希ちゃんが帰り、俺とりんは公園のベンチに並んで座っていた。先ほどよりはだいぶマシになったが、それでもりんの顔は未だに真っ赤だった。俺が買ってきた缶ジュースを頬に当てて熱を取ろうと頑張っている。

 

「それにしても意外だったな。りんがあんなに熱くなるなんて」

 

 ああいう時、りんだったらずっと傍観してると思ってたんだけど。

 

「……別に理由なんてないよ。星井美希の態度がムカついただけ」

 

 まぁ、そういうことにしておこう。

 

 さて、もう夕方だ。

 

「色々とハプニングがあったけど、今日は何だかんだで楽しかったな」

 

「……ちゃんと最後まで二人きりがよかったけど」

 

 はぁ、と溜息を吐くりん。確かに、途中から他の女の子と一緒だったからなぁ。デートとしてはアレだったかもしれない。

 

「……でも……うん、楽しかったよ」

 

「それは良かった」

 

 こうして、アイドル二人のお忍びデートは幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

おまけ「ともみさんが行く! くあどらぷる!」

 

 

 

「……ほっぺにチューぐらいすればよかった……アタシのバカ……」

 

「……りんはどうしたの?」

 

「さぁ? 帰って来てからずっとあんな感じ」

 

「ふーん。あ、翠屋のシュークリーム買ってきたよ」

 

「お、ありがとー。やっぱりここのシュークリームは最高ね」

 

「うん。コーヒーも美味しかったし、マスターもいい人だったよ」

 

「そういえば、アンタ何か用事があって翠屋に行ったんじゃなかったっけ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「………………」

 

「………………」

 

「……何でだっけ?」

 

「いや、私に聞かれても……」

 

 どっとはらい!

 

 

 




・『額受け』
『脛受け』はコータローでももちゃんがやってたけど、額はどの漫画で読んだんだっけなぁ?

・虹村億泰
ジョジョ四部『ダイヤモンドは砕けない』の主要キャラ。
絡まれた不良を他人任せにするのは主人公としてどうかとも考えたが、良太郎に喧嘩させるのもまずいかと考えたためこうなりました。

・「アンタそれ本気で言ってんならマジでぶっ飛ばすわよ」
りんちゃん熱血モード。
今回最も書くのに時間がかかったシーン。やはり説教は難しい。

・「えっと……ミキ、アイドル辞めるつもりないよ?」
しかし真面目に語った結果がこの仕打ちである。

・相当恥ずかしいんだろうなぁ
ここまで全部がりんを赤面させるための布石だったと誰が予想しようか。

・輝きの向こう側
劇場版のタイトル。劇場版編はだいぶ先になりますので気長にお待ちください。

・おまけ「ともみさんが行く! くあどらぷる!」
フ ラ グ な ん て な か っ た !
ともみの態度を疑問に思われる方はLesson02を読み直してみることをお勧めします。

・どっとはらい
東北地方で「おしまい」「めでたしめでたし」という意味の慣用句。



 以上、この小説における美希騒動の結末でした。

 この世界の美希はアニメの美希とアイドルを始めた理由も続ける理由も全く異なると考えたためこのような結果になりました。「これはねぇわ」と思われる方もいるでしょうが、反対意見が出ることを承知の上で、このような結末にさせていただきました。

 ヤメテ! 石を投げないで!



 さて次回はいよいよ感謝祭ライブ編……ではなく、番外編『もし○○と恋仲だったら』の第二弾となります。果たして誰がヒロインになるのか? またしばらくお待ちください。


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番外編03 もし○○と恋仲だったら 2

続編ではなく別バージョンです。


 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

【そして】周藤良太郎NMUアイドル部門最優秀賞受賞【伝説へ……】

1:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

ついにこの時が来たな…

 

2:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

あぁ…

 

3:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

案外時間かかったな

 

4:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

もっと早く受賞しても良かったと思うけど

 

5:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

デビュー8年目で受賞なら十分速いだろ

 

6:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

良太郎ならデビュー5年目ぐらいで取るものだとばかり思ってた

 

7:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>6 そんぐらい誤差だろw

 

8:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

また一つ良太郎の伝説が刻まれた訳だ

 

9:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

誰かコピペはよ

 

10:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

 

全盛期の良太郎伝説

・1ライブ3アンコールは当たり前、1ライブ5アンコールも

・限定アルバムが前日完売

・限定アルバムが前日ミリオンも日常茶飯事

・音源無し、スタッフ無しの状況でライブ成功

・一人で歌っているのにボイスパーカッションとハモリも担当

・鼻歌でミリオンヒット

・ステージに立つだけで共演するアイドルが泣いて謝った、心臓発作を起こすアイドルも

・ミリオンヒットでも納得いかなければ印税を受け取らない

・あまりに需要が多すぎるから試聴版でも有料

・その試聴版もミリオンヒット

・マイクに向かって咳払いをしただけでスタンディングオベーション

・ライブの無い休養日でも2アンコール

・マイクを使わずに地声で歌ったことも

・その場で作詞作曲した曲をサプライズで発表

・そして翌日には当然ミリオン

・アリーナ席一ヶ月待ちなんてザラ、二ヶ月待ちも

・自宅のトイレでヒット曲を作った

・手を振られて感動し卒倒したファンと、それを助けようとした周りのファン、会場スタッフ、救急隊員共々卒倒して病院送りにした

・ファンにお礼の言葉を述べながらサビを歌う

・グッとガッツポーズしただけで百万枚ぐらいシングルが売れた

・ターンでハリケーンが起きたことは有名

・湾岸戦争が始まったきっかけは良太郎のライブのプレミアムチケット争奪戦

・舞台袖の奥から観客席一番奥のファンに返事をした

・自分の歌声に飛び乗って客席まで行くというファンサービス

・世界最高峰の音楽の祭典で最優秀賞 ←New

 

足してみた

 

11:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>10 うぽつ

 

12:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>10 これも懐かしいな

 

13:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>10 事実を混ぜたのにも関わらず違和感がない件

 

14:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

良太郎伝説の何が凄いのかって、何個か真実が混ざってることなんだよなぁ

 

15:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>14 どれがホントなのかなんて一目で分かるだろ。あからさまな奴がいくつかあるし

 

16:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>15 お前絶対分かってない

 

だって話によると三分の一がホントらしいから

 

17:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>16 !?

 

18:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>16 !?

 

19:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>16 ふぁ!?

 

20:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>16 おいおいこんなにあって三分の一もホントとかマジもんで化け物かよ…

 

21:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

結論:やはり周藤良太郎は実在しない

 

22:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

やはりホログラフィーだったか…

 

23:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

俺は未来から来たアイドル型ターミネーター説を推すね

 

24:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

お前らおr良太郎さんの存在を否定するのはやめろよ!

 

25:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>24 本人乙

 

26:以下、名無しにかわりまして72がお送りします

>>24 本人乙

 

 

 

「いやだから何ですぐバレるんですかねぇ……」

 

 スマフォの画面をスクロールさせながら独りごちる。画面にはその後も周藤良太郎についての好き勝手な考察が述べられていく。相変わらず荒唐無稽な俺の正体に苦笑しか浮かばない。いや、表情は変わらないんだけど。

 

 NMU受賞が確定となり世間に公表されたのは既に一週間前のこと。それでも未だにスレッドがこうして立ち続けているところから、いかにみんながこの話題に興味を持ってくれているかが窺える。いやいや、ありがたいことだ。

 

 本来ならば俺も様々なテレビやラジオの番組に引っ張りだこでまだまだ忙しい時期だ。

 

 しかし、そんなことよりも大切なことで俺は忙しいのだ。

 

 

 

「あ、こら動くな。危ないぞ」

 

「すまんすまん」

 

 

 

 そう、恋人である我那覇響とイチャイチャすることで忙しいのだ。

 

 

 

 現在膝枕で耳掃除をしてもらっている真っ最中。響の部屋の床に敷いたカーペットの上に女の子座りをしてもらい、その太ももの上に頭を置いている。いやぁ相変わらずいいなぁ響の太もも。響は普段からホットパンツを着用することが多い。要するに今俺の頬に当たっているのは響の生太ももなのだ。すべすべの肌に程よい弾力、俺の耳の穴の奥を見ようと前屈みになることによって後頭部にふにふにと当たる大乳!

 

「いやもう本当にご馳走様です」

 

「? 何か食べてたのか?」

 

「何でもない」

 

 無意識で全く気付いてなくて首を傾げる響可愛い。

 

「よし、こっちは終わったぞ。良太郎、反対」

 

「おk」

 

「ってちょ!? 何してるんだ!?」

 

「言われた通りに反対側の耳を差し出しただけだが?」

 

「反対側に回れって意味だぞ! 顔をこっちに向けるな!」

 

「嫌だ! 俺は膝枕をしてもらいながら響のシャツの隙間から見える可愛いおへそをガン見するんだ!」

 

「この変態!」

 

「ありがとうございます!」

 

 ゴロンと寝返りを打って顔を響側に向けようとする俺と、顔を真っ赤にしながら頭と肩を押さえて必死に抵抗する響。負けられない戦いが、そこにはあった。

 

「うぐぐ、こうなったら……! みんな! 良太郎を引き剥がしてくれ!」

 

 男女の力の差で自分が不利であることを察した響は、自らの家族に助けを求める。すなわち、現在響が自室で一緒に暮らしている動物達、ハムスターのハム蔵、蛇のへび香、シマリスのシマ男、オウムのオウ助、うさぎのうさ江、ねこのねこ吉、ワニのワニ子、豚のブタ太、犬のいぬ美、モモンガのモモ次郎だ。何やら危険動物の名前が入っていたような気もするが、ここ我那覇王国のみんなは基本的に大人しくて人の言うことをよく聞くので問題ない。むしろ言うことを聞く分、その動物のパワーを持ってかかってこられたらこちらが不利になることは間違いない。

 

 

 

 ただし、全員が『響の』言うことを聞けば、の話であるが。

 

 

 

「うぎゃ!? って、ちょ、みんな!? 良太郎を引き剥がしてって言ったんだぞ!? どうして自分を押さえにかかってくるんだ!?」

 

 ワニ子にポニーテールを後ろから引っ張られ、両腕は他のみんなによって押さえこまれる響。

 

「我那覇王国のみんなは俺特製の手作りご飯によって既に買収済みだ! 残念だったな響! この場にお前の味方は一匹(ひとり)もいないぞ!」

 

「なぁ!? ひ、酷いぞみんな! ご飯なんかで自分を売るのか!?」

 

 くくく、勝負が始まる前から決着が付いている、これぞコ○ミエフェクト作戦! 戦わずして勝つのが戦いの本質さ!

 

 

 

 そして五分後。

 

 

 

「むふー」

 

「うぅ~……!」

 

 そこには響のお腹に顔を埋める(へんたい)と、顔を真っ赤にしながら耳かきをする(びしょうじょ)の姿があった。恥ずかしがりながらもしっかりと耳掃除をしてくれる響さんマジ天使。流石に何か悪戯をすると自分の耳の穴が危険なので今回ばかりは自重する。ただ先ほどの宣言通り響のおへそは堪能させてもらうが。あと、微妙に見えそうで見えないホットパンツの隙間からの……。

 

「そこまでは許してない!」

 

 スパンッと頭を引っ叩かれてしまった。しっかりと耳かきを離してから叩いている部分に優しさを感じる。

 

「ここしばらくずっと海外での仕事ばかりだったから、こうして響と一緒にいられてホント幸せだよ」

 

「なんでこのタイミングで言うんだぞ……そういうことをちゃんと最初に言ってくれたら、自分だって……」

 

「ぺろぺろも解禁された?」

 

「しない! ほら、終わったぞ!」

 

「もうちょっとだけー」

 

「あ、こら!」

 

 ごろりと再び寝返りを打ち、後頭部を響の太ももの間に収めるようなポジションに移動する。響のお腹とホットパンツしか見えていなかった視界が広がり、天井を背景にした響の顔と大乳がよく見えるようになった。響も口では怒りながらも、顔を赤くしつつ額を優しく撫でてくれる。

 

 響は基本的に恥ずかしがり屋であるが、こちらの要望に対しては大抵受け入れてくれる。ちなみにこちらばかりでは不平等なのでお返しに膝枕をしてあげることもあるのだが、当然その時も響は真っ赤になっている。そろそろ慣れてくれてもいいんじゃなかろうか。

 

 ……しかし昼下がりのこの時間にこうしていると眠くなってくるな。俺達の周りにもみんなが集まって来て、響の近くで丸くなったり俺の体を枕にしたりして各々くつろいだ様子である。こいつら、周藤良太郎を枕にするとは贅沢な。だがこうして心を許してくれているところや先ほどみたいにある程度言うことを聞いてくれるところから、きっと俺も家族として迎え入れられているのだと思う。

 

 ………………。

 

「なぁ、響」

 

「んー? 何だ?」

 

「今度の休みに沖縄行くか」

 

「沖縄か!?」

 

 俺がそう提案すると、響は目を輝かせた。

 

「何だかんだで一度も良太郎と沖縄行ったことなかったから大歓迎だぞ! よーし! じゃあ沖縄の良さをしっかりと良太郎に――!」

 

「んで、響の実家に行く」

 

「……え?」

 

「響の実家に行って、響の両親に頭下げる」

 

「はぁ!? な、何で!?」

 

「そりゃーお前――」

 

 

 

 ――娘さんと結婚させてくださいって言うからに決まってるだろ。

 

 

 

「………………。……っ!?」

 

 三拍程間を置いてから響の顔が真っ赤になった。先ほどお腹に顔を埋めていた時よりも真っ赤である。ちなみにお腹に顔を埋めていたのに何故顔の赤さが分かったのかというと、単純に横目で響の表情を見ていたからだ。

 

「そっ、そっ、そそそそれはまだ早くないか!?」

 

「……いや、まだ早いってお前」

 

 ムクリと体を起こして胡坐をかき、響と真正面から向かい合うように座る。俺達の周りにいたみんなはこの話が始まった辺りでソロソロ移動し始め、部屋の隅に固まってじっとこちらの様子を窺っている。いやホントにみんな頭いいな。空気読み過ぎだろ。

 

「ちょっと一から確認していこうか。お互いの認識にズレがあるといけないし」

 

「そ、そうだな」

 

 

 

「周藤良太郎と我那覇響は交際しています」

 

「う、うん」

 

「キスも済ませました」

 

「っ!? う、うん……」

 

「誕生日に指輪を贈ってプロポーズをし、君は受けてくれました」

 

「……うん……」

 

「しっかりと愛の契りも済ませました」

 

「な、何言ってんだ変態!」

 

「でも事実だろ」

 

「………………」

 

 完熟トマトのように真っ赤な顔で俯く響。沈黙は肯定と見なします。

 

 しかしどうやら二人の認識にズレは無いようだ。

 

 

 

「文字通り何からナニまで済ませたってのに何が早いんだよ!?」

 

「ナニって言うなぁぁぁ!」

 

 いや、響だって言ってるじゃないか。

 

「響」

 

「う……」

 

 真正面から目を覗きこむと、響は言葉を詰まらせて視線を逸らす。

 

 やがて俺の視線に耐えきれなくなったのか、堪忍したように響はチラチラとこちらを見つつ指先を弄りながら呟くように言葉を紡いだ。

 

 

 

「えと……ち、誓いのキス、とか……?」

 

「よし分かった今からしよう覚悟しろよこの野郎可愛すぎるわ」

 

「えっ!? ちょ、良太ろ――!」

 

 

 

 そして五分後。

 

 

 

「………………」

 

「ゴメン、ちょっと理性飛んでた」

 

 そこには壁に向かって体育座りをする(ひがいしゃ)と、きちんと正座して土下座を敢行する(かがいしゃ)の姿があった。響の周りにはみんなが慰めるようにすり寄っており、いぬ美は「反省しろ」と言うかのようにペシペシと前足で俺の頭を叩いていた。

 

 信じられるか……この二人、世間一般ではトップアイドルとして認識されてて、片や今では世界レベルのアイドルなんだぜ……?

 

 とまぁ冗談はさておき。

 

「俺は本気でプロポーズした。これから先の人生を響と共に過ごしたいと真剣に思って結婚を申し込んだ」

 

「……そこを疑ったことは……ないぞ。嬉しかったし、自分も良太郎と一緒にいたいって思った」

 

 じゃあなんで、と聞こうとした言葉は響によって遮られた。

 

「でも……不安なんだ」

 

 

 

 

 

 

 自分は地元の島歌ちゅらさんコンテストで優勝して上京してきた。ダンスも、地元のダンススクールでトップの成績だったので自分だったら簡単にトップアイドルになれると考えて来た。

 

 だが現実はそんなに甘くなく、自分は東京で『本物』に出会ってしまった。

 

 周藤良太郎。キングオブアイドルとも呼ばれるアイドルの頂点。

 

 それまで自分の中にあった自信は打ち砕かれ、それ以上に自分の中に芽生えたのはこんなアイドルになりたいという憧れ。

 

 そんな良太郎と今では恋人同士になり、求婚までされている。もちろん涙が出るぐらい嬉しいし、自分も結婚したいと思っている。

 

 しかし、胸に浮かぶのは一抹の不安。本当に、自分が周藤良太郎と結婚してもいいのかという不安。自分は本当に良太郎と一緒になっていいのかという不安。

 

 

 

 『完璧』な自分は、『完璧以上』の良太郎みたいにはなれない。

 

 

 

「……響」

 

 背後から聞こえてくる自分を呼ぶ声。自分の視界に影が映り、気が付けば自分は後ろから良太郎に抱っこされていた。首元に巻かれた腕と背中から感じる胸板から良太郎の暖かさを感じる。

 

「俺だって不安だ。お前の両親に反対されないかとか、これからの活動にどう影響があるのかとか、ファン達に受け入れてもらえるのかとか」

 

 でも、と抱きすくめる良太郎の腕の力が強くなる。

 

「それでも俺は響と居たい。そのために、出来ることは全部してきたつもりだ。だから、自信を持って俺は響の両親に頭を下げる。娘さんを下さいって、どれだけだって頭を下げる」

 

「……自信を持って頭を下げるってのも変な話だぞ」

 

 思わず笑顔がこぼれる。

 

「大丈夫だ響。『なんくるないさ』、だろ?」

 

 

 

 なんくるないさ。それは、琉球方言で「何とかなるさ」という意味の言葉。しかしその言葉に含まれる本当の意味は楽観的な意味合いではない。

 

 正しくは『(まくとぅ)そーけーなんくるないさ』。「正しい行いをしていれば、自然になるようになる」という意味。

 

 つまり『人事を尽くして天命を待つ』。

 

 

 

 もしかしたら、アイドルになって頑張ってきた今までは、こうして良太郎と一緒になるためだったのかもしれない。

 

 そう考えてしまうほど、今が幸せだ。

 

 

 

「改めて言わせてくれ、響」

 

 顔を覗きこんでくる良太郎と、しっかりと視線を合わせる。

 

 

 

「愛してる」

 

「……そこは『かなさんどー』って言って欲しかったぞ」

 

「ちょっと使い古されすぎてるかなって思って」

 

 

 

 もう、不安なんて何処にも無かった。

 

 

 




・周藤良太郎(22)
番外編01より一年遅い22でNMUアイドル部門最優秀賞を獲得。
恋人である響の家によく出入りするため、響の家族(ペット)達には大変懐かれている。

・我那覇響(20)
現役アイドル。星井美希、四条貴音と共に組んできたフェアリーは既に解散しており動物番組などのバラエティーでの仕事が多い半面、その実力が認められ今では文句なしのトップアイドル。
少し調子に乗りやすい性格のため、良太郎との交際がばれそうになることもしばしば。

・掲示板ネタ
二回目の掲示板ネタ。以前のものを流用しています。リサイクルですよリサイクル。

・全盛期の良太郎伝説
もちろん元ネタは『全盛期のイチロー伝説』。コピペしてきてから改変して使用しました。
なおこの中には「事実にする予定」のものもいくつか。

・膝枕で耳かき
また膝枕かよと思われるかもしれませんが、響を語る上であの健康的な太ももを外すわけにはいかなかった。あと耳かきの店が流行っているそうなので。

・「この変態!」
いおりんの「バカ犬!」もいいけど響の「変態!」もぐっと来るものがありますね。

・響の家族
何気にこの小説内でハム蔵初登場。文章だけであのキャラを書くのが思いのほか難しいので、本当に必要な場面じゃない限り今後も登場しない模様。

・コ○ミエフェクト
某サッカーゲームでは試合が始まる前に勝敗が確定し、負けが決まったチームはミスが多くなるという噂のこと。信じるか信じないかはあなた次第。

・何からナニまで
一体72をしたんですかねぇ……。

・なんくるないさ
※ニコニコ大百科より抜粋

・かなさんどー
言われたい(血涙)



 というわけで恋仲○○シリーズ第二弾ヒロインは我那覇響でした。響ちゃんまじミニマムグラマラス。公式だとバストサイズが減っているが、この小説ではそんなことなく現在でも増し増しな模様。そして良太郎の変態成分も増し増し。実は貴音編でもまだ自重してた方だったという。

 ちょいと原稿が遅れていたが何とか予定通りの更新ができた。なお遅れた理由はサーリャとティアモとセルジュの誰と結婚しようか悩んでいたため。悩んだ結果、ルキナと結婚することにしました。

 さて次回こそ感謝祭ライブ編がスタートします。

 今回も次回予告はありませんが、どうぞ次回の更新をお待ちください。


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Lesson34 Are you ready?

第一章クライマックスの開始です。


 

 

 

 その日は、朝から見事な晴天だった。気温も低くなく日差しも暖かい。

 

「まさに絶好のアイドル日和!」

 

 いやまぁ、アイドル日和が何なのかは自分でもよく分からないのだが。

 

 今日は待ちに待った765プロダクション初の単独感謝祭ライブ当日である。人気急上昇中の竜宮小町をメインに据えることで多くのファンを引き付け、これを期に所属する他のアイドルのことも知ってもらおうという思惑が強いだろうが。それでも、765プロのみんなにとっては初のドームライブだ。天気がいいと気分がいいし幸先もいい。

 

 ただ。

 

「台風が接近中、か……」

 

 フカフカソファーに身を沈めて優雅にコーヒーを飲み(マンダムし)つつ、朝の情報番組に意識を傾ける。どうやら南のお国からやってきた台風が日本に接近しているらしい。進路的には直撃せず日本を掠めていくようにして逸れるらしいのだが、夕方から夜にかけて強い雨と風に見舞われるとのことだ。

 

「今はこんなに晴れてるのになぁ」

 

「あの子達も災難だな」

 

 対面に座る兄貴がバサリと朝刊を捲る。

 

「まぁ、全天候型ドームでのライブだから天気はさほど問題もないだろ」

 

 交通機関に影響が出て観客が来れないっていうことも考えられるが、入場の時間の関係からそれもないだろうし。

 

「えー? 台風来てるのー?」

 

 洗い物を終えた我が家のミニマムマミーが手を拭きながらやってくる。

 

「あぁ、逸れるから心配ないと思うけど、一応用心はしてくれよ?」

 

「大丈夫だよー! 床上浸水の対策もバッチリだから!」

 

「いやあの、ここマンションの八階なんですけど……」

 

 この部屋が床上浸水する事態になったらもう逃げ場ほとんど無いっすわ。

 

「あ! お父さんの写真も避難袋の中に入れておかないと!」

 

「いやだから……もういいや」

 

「おいツッコミ放棄するなよ」

 

 いや元々これは兄貴の仕事だし。

 

 いそいそとお父祭壇の写真を片付ける母親の後ろ姿をとりあえずスルーすることにする。するって何回言うんだか。

 

「それで? 午前中は時間があるみたいだが、様子でも見に行くか?」

 

 今日の仕事は午後からのため、午前中は丸々時間が空いている。だからその時間を利用してライブ前の激励に行くこともできる。しかし俺は兄貴のその提案に対して首を横に振った。

 

「午前中は大人しく勉強してるよ。模試も近いし」

 

「今まで散々激励だの応援だのしてきたのに、ライブ当日になっていきなり冷たいんじゃないか?」

 

「いやいや、確かに今まで散々好き勝手に干渉してきたけど、俺は俺なりにタイミングを考えてるんだ」

 

 初ライブ前の緊張している時に先輩が顔を出しに行っても余計に緊張させるだけだ。

 

「それに、今日のあの子達と俺はただのアイドルとただのファン。ライブ前の裏側を覗かないのはファンとしてお約束だよ」

 

「それもそうだな」

 

 別にライブ前の楽屋に激励に行くことを否定している訳ではなく、個人的にはそう考えている。

 

 

 

 まぁ、やることは既にやってあるし。765ファンの大きなお兄さんから、ちょっとしたサプライズだ。

 

 

 

「んじゃ、勉強してくるかな」

 

「おう、頑張れよ。分からないところがあったら俺に聞け。何でも教えてやるからな」

 

「じゃあ聞きたいんだけど……『二軍のファンタジスタ』って何?」

 

「お前そんなことばっかり考えてるから成績が良くならないんじゃないよな?」

 

 はは、まさかそんな。

 

 

 

 

 

 

 ついに迎えた765プロ感謝祭ライブの当日。幸いなことに朝から晴天となり、絶好のライブ日和である。台風は接近中とのことだが、さほど問題は無いだろう。

 

 ライブは夕方からだが、全員午前中から会場入りして今は準備中。俺も会場スタッフとの打ち合わせをしつつ、今はみんなが歌う会場を見て回っている。

 

「美希?」

 

 舞台袖から会場を眺めている美希の後ろ姿を見つけた。

 

「プロデューサー」

 

「どうしたんだ、ぼんやりして」

 

「ううん、してないよ」

 

「そうか」

 

 声をかけると一度美希はこちらを振り返ったが、再び前を向いてしまった。俺も美希の横に立って会場を眺める。

 

「……ようやくここまで来たんだなーって、考えてたの」

 

「そうだな。ようやくこんな大きな会場でのライブに漕ぎつけて――」

 

「違うの」

 

 え、と美希を見ると、美希は首を振りつつ視線は観客席に釘づけのままだった。

 

「ようやく、ミキは『一歩』を踏み出せるの」

 

「……それは」

 

 思わず聞き返しそうになったが、すぐにその意味に思い至った。

 

「竜宮小町のオマケでも、これでようやく一歩。りょーたろーさんに追いつくための第一歩なの」

 

 周藤良太郎に追いつく。言葉にしてみれば随分と簡単なことだが、それは容易いことではない。今まで数多の少年少女達が夢に見て、そして敗れ去っていったこのアイドルという世界の中で、その頂点に立つ存在。

 

 自分はこのライブを成功させることだけを考えていた。しかし、美希は既にその先を見ていたのだ。

 

「だから、ミキは今のミキの全力でキラキラ輝くの」

 

「……大丈夫さ。今の美希なら」

 

「ふーん? ホントかなー? 嘘つきプロデューサーの言うことは信じられないの」

 

「うっ……!?」

 

 美希のジト目が痛い。

 

 先日の美希が練習に来なかった騒動の原因は、図らずも自分が美希に対して嘘の約束をしてしまったためであった。練習に来なかったのは俺に対する当てつけのようなもので、自主練習はキチンとしていたため俺も律子も強く言うことが出来ず、美希も合わせて三人で要反省という結果に相成った。

 

「……でも、今回は信じてあげるの。今日は頑張ろうね、プロデューサー」

 

「……あぁ!」

 

 笑顔の美希に返事を返す。

 

 丁度その時、胸ポケットに入れてあった携帯電話から着信音が鳴った。会場スタッフに話しかけに行った美希の後ろ姿を見送りつつ、携帯電話を取り出す。液晶画面に表示された名前は、竜宮小町と共に収録に出ていた律子のものだった。

 

「はい、もしもし」

 

 

 

 律子からかかってきたその電話が、ハプニングの始まりだった。

 

 

 

 竜宮小町が遅れる。

 

 元々接近する予定だった台風がその速度を急速に上げて日本に接近。収録のために遠出していた律子と竜宮小町の三人が乗るはずだった新幹線が運休になってしまい、会場への到着が遅れることになってしまった。それでも律子達は動いている電車を乗り継ぎ、リハーサルまでには間に合わせると言っていた。

 

 しかし、ハプニングは続く。

 

 台風が接近してくる影響で雨と風はドンドン強くなり、ついに全ての電車が運休になってしまった。レンタカーを借りてこちらに向かおうとするも、今度はそのタイヤがパンク。リハーサルには間に合いそうにないらしい。

 

 間に合わなくても、無事こちらに辿りついてくれるのならばそれでいい。

 

 辿りついてくれるのであれば……。

 

(………………)

 

 一抹の不安が頭を過る。しかし今は自分が出来ることをしよう。

 

 

 

 

 

 

 朝の快晴がものの見事に吹き飛んだ曇り空な午後。ライブの準備は果たしてどうなっているかりっちゃんや美希ちゃんや真美にメールで聞いてみたくなったが我慢我慢。今日の俺は先輩アイドルではなくただのファンだ。今は我慢しよう。

 

 さてさて、俺は兄貴の送迎によって訪れたテレビ局にて、同じ番組に出演するジュピターの三人に遭遇した。

 

「よお、ジュピターの諸君。大運動会以来だな」

 

「何言ってんだお前」

 

「この間も番組で一緒になったでしょ?」

 

「そうだっけ?」

 

 悪いが行間、というか話と話の間のことまでイチイチ把握できない。お前らがそう言うからにはきっとそんなことがあったのだろう、記憶に残っていないだけで。まぁ例え外伝があろうとも回収されることもない話だろうから気にしないでおこう。メメタァ。

 

「よう翔太。美人で天才な妹さんは元気か?」

 

「いや、僕一人っ子だけど」

 

「そうだっけ?」

 

 元から発育の良いエルフな剣道少女が妹にいたような気がしたんだが、さらに天才ゲーマーな引きこもり少女が妹になったような気がした。また電波か? 伊織ちゃんが神様になったような気がしたし、やっぱり電波か。

 

「相変わらずお前はマイペースというか、どんな時もぶれないと言うか……」

 

「失敬な。今日の俺はやる気に満ち溢れているぞ」

 

「無表情だからわかんねーよ」

 

「俺の体から漂うオーラで察してくれ」

 

「察せねーよ」

 

 どうやら冬馬は俺の言っていることを冗談と捉えているようだが、生憎今日の俺は真剣(マジ)なのだ。

 

 真正面からガシッと冬馬の肩を掴む。

 

「冬馬、実は俺今日の夕方から用事があるんだ」

 

「え? あ、あぁ……」

 

「しかしながら今から番組の収録だ。一応問題なく収録が進めばその夕方からの用事に間に合う。しかし収録が長引けばその用事に間に合わなくなってしまうんだ」

 

 だから、とちょっとだけ冬馬の肩を掴む力を強める。

 

「俺はいつも以上の全力を出すから、お前らも全力で収録に臨め。な? もしNGなんか出して収録長引かせたら……『分かってるよな?』」

 

「分かった! 分かったからそれやめろ! マジでやめろ! 俺の声を使うな!」

 

「久々に聞いたね、良太郎君のコレ……」

 

「僕、未だにあの時のこと夢にみることがあるよ……」

 

 ちょーっと冬馬の声を使ってお願いしたら快く承諾してくれた。いやー、アリガタイデスネ。

 

「んじゃ、今からちょっと挨拶回りしてくるから」

 

「お、おう……」

 

「い、いってらっしゃい……」

 

「きょ、今日は頑張ろうねー……」

 

 何故か若干引き攣った表情を浮かべる三人と別れ、俺は番組スタッフや他の共演者の皆様に挨拶をしに行くのだった。

 

 

 

「……あいつ、目がマジでガチだった……」

 

「今日の良太郎君はアグレッシブだね……」

 

「用事って何なんだろうね……?」

 

 

 




・「台風が接近中、か……」
原作アニメを見直して、それぐらい把握しとけよバネPって思わず突っ込んでしまった。

コーヒーを飲み(マンダムし)つつ
なんかこれだけでも世代がばれそうな。うーん、マンダム。

・二軍のファンタジスタ
じーじぇーぶ。
アニメ化前からファンでした。原作完結おめでとうございます。

・ジュピターの諸君
久々の登場。劇場版でもちゃんと出番があってよかったです。

・発育の良いエルフな剣道少女が妹
以前も触れた声優ネタ。OVAは大変楽しませていただきました。

・天才ゲーマーな引きこもり少女が妹
今期アニメの声優ネタ。松岡君演技してください。

・伊織ちゃんが神様
上記アニメネタ。伊織ちゃんマジラスボス。



 ついに始まった感謝祭ライブです。アニメ一期のラストであり、一つ目の山場でもあります。765プロの単独ライブなので良太郎を関わらせるのが大変難しいですが、アニメとは別の道を歩んだ765プロのライブの模様を描きたいです。それでは。


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Lesson35 Are you ready? 2

進展しない二話目。


 

 

 

「開場しましたー! お客さん、いっぱいですよー!」

 

 ガチャリと扉を開けて首を覗かせた小鳥さんの言葉を聞き、アイドル全員に喜びと緊張が走ったのが感じ取れた。

 

「うわ、もう開場しちゃったよ……」

 

「お、お客さんいっぱいだって!」

 

「うぅ、緊張してきました……!」

 

「大丈夫だよ、ゆきぴょん! まだあわてるような時間じゃないよ!」

 

「そ、そうだね真美ちゃん、ま、まだあわわわ……!?」

 

「すっごい慌ててるよ!?」

 

「落ち着いて雪歩!?」

 

 ……目がグルグルになって真と真美に支えられている雪歩は若干心配だが、それ以外のみんなはまだ落ち着いていた。というか雪歩の慌てっぷりを見て逆に冷静になったと言うべきか。

 

(………………)

 

 チラリと腕時計を覗く。既に開場し、開演まで後一時間。

 

「プロデューサー! 伊織達、まだなんですか?」

 

「ねぇ、でこちゃん達、出られないの?」

 

 顔を上げると、心配そうな表情でこちらを見るアイドル達。

 

 やはり、言わざるを得ないか……。

 

「……竜宮小町は、本番までに間に合いそうにないんだ」

 

『えぇ!?』

 

 先ほど律子からかかってきた電話。パンクしたレンタカーの代わりに別のレンタカーを借りてこちらに向かっているそうなのだが、今度は事故による渋滞に巻き込まれてしまったらしいのだ。その結果、本番までに竜宮小町が到着することはほぼ絶望的になった。

 

「ねぇねぇ、どうするの? 竜宮小町がいなかったら、拙いんでしょ?」

 

 いつもの自信満々な表情を曇らせ、響がそう尋ねてくる。

 

 今回のライブ、765プロ感謝祭ライブと銘打っているものの、実際のメインは竜宮小町。今日来る観客の多くは竜宮小町のファンであることは間違いないのだ。

 

「お客さん、がっかりしちゃいますよね……」

 

「ねぇ、にーちゃん、まさかライブ中止にするんじゃ……」

 

 悲しげな表情の少女達。竜宮小町がいないことで悲しむファンもいる、それは否定できないし否定しない。

 

 けれど、ライブが中止になることで悲しむのはこの子(アイドル)達だって一緒なんだ。

 

「……中止にはしない。律子達が来るまで、俺達で何とかしよう!」

 

 ポツリ、ポツリと。

 

 会場の外でも、雨が降り出していた。

 

 

 

 

 

 

 ――物販の方はこちらからお並びくださーい!

 

 ――ファンレターの受け付けはこちらになっておりまーす!

 

 

 

「うわぁ……!!」

 

「盛り上がってるねー」

 

「大盛況?」

 

 愛ちゃんが感嘆の声を上げ、絵理がいつもの調子の疑問符口調で首を傾げる。

 

 765プロの皆さんからチケットをいただき、僕達876プロ所属の三人は揃って感謝祭ライブへとやってきた。本当は律子姉ちゃんから貰ったチケットで個人的に来るつもりだったのだが、愛ちゃんに誘われたので絵理ちゃんと共に来ることになったのだ。おかげで今日も女の子の格好なのだが……まぁ、今さらということで諦めよう。

 

 開演一時間前に開場となり先頭集団から十分ほど遅れて入場する。関係各所から送られてきた花輪が飾られた会場は既に多くのファンでごった返していた。

 

「涼さん!! 絵理さん!! 物販ですよ物販!!」

 

「分かったから愛ちゃん落ち着いて」

 

 ぶんぶんと全力で手を振る愛ちゃんに苦笑しつつ、僕と絵理ちゃんも物販コーナーへと足を向ける。物販コーナーではライブのパンフレットや竜宮小町のグッズ、サイリウムなどを取り扱っていた。

 

 そこでとあることに気付いた愛ちゃんが眉根を寄せる。

 

「……竜宮小町のグッズばかりですね……」

 

 春香さんのキーホルダーが欲しかったのに……と漏らす愛ちゃん。その言葉の通り、物販コーナーで取り扱っているグッズの大半が竜宮小町の三人のもので、他の皆さんのグッズは数えるほどしかなかった。

 

「しょうがないよ。竜宮小町の皆さんと比べちゃったら、無名扱いされてもおかしくないもん」

 

「春香さん達が無名だったら、あたし達はどうなっちゃうんでしょう……?」

 

「……アイドルですらない?」

 

「一応大運動会にアイドル部門で出場したのにですか!!?」

 

「まぁ、こうして騒いでいても一切気付かれないし、あながち間違ってもいなさそうだね……」

 

 普通アイドルがこれだけ騒いでいたらあっという間にバレて取り囲まれそうなものだが、周りの人たちが騒ぐようなことは一切ない。というか、ここにいる人達は竜宮小町にしか目がいってなさそうな感じだが。

 

(もしここにいるのが、良太郎さんみたいなトップアイドルだったら……)

 

 ……いや、あの人はそもそもプライベートで見つかるようなヘマはしないし、例え騒いでいたところで気付かれることもないだろうから無意味な考察だ。

 

 とりあえず三人ともサイリウム(竜宮小町セットと通常セットの両方)を、愛ちゃんは竜宮小町全員分のキーホルダーも一緒に購入して物販コーナーから離れる。

 

「おや、876のみんなじゃないか」

 

 唐突にそう声を掛けられた。まさか僕達がアイドルだと分かる人がいた!? と驚愕しつつ振り返る。

 

「あ、高木社長」

 

「こんにちはー!!」

 

 そこにいたのは、765プロの高木社長だった。どうやら飾られた花輪を見に来ていたようだ。

 

「高木社長、本日はお招きいただきありがとうございます」

 

 ホッとしたようなガッカリしたような、そんな複雑な気持ちになったがまずはチケットを送ってくださったことに対してお礼を述べる。僕が頭を下げると、両脇の愛ちゃんと絵理ちゃんも一緒に頭を下げた。

 

「何、今日は是非楽しんでいってくれたまえ」

 

「「「はい!」」」

 

 するとその時、チャイムの音と共にアナウンスの声が流れて来た。聞いたことのあるその声は、765プロの事務員である小鳥さんのものだった。

 

 

 

『ご来場の皆様にお知らせいたします。本来予定しておりました開演時間を三十分遅らせ、十八時三十分からの開演とさせていただきます』

 

 

 

「……え?」

 

「何かあったんですか?」

 

「……いや、きっと些細なトラブルだろう。君達は、気にせずに楽しんでいってくれたまえ」

 

 そう言い残し、一緒にいた眼鏡の男性に一言かけてから高木社長は早足になってバックヤードへと向かってしまった。

 

「……どうしたんですかね?」

 

「台風の影響?」

 

「ドームライブで台風の影響が出るとも思えないんだけど……」

 

 予想を立てたところでどうしようもないのだが、それでも考えられずにはいられないのは人の(さが)か。

 

「まぁ、高木社長の言う通り、僕達が気にしてもしょうがないよ」

 

「そ、そうですね」

 

「楽しむこと優先?」

 

 春香さん達765プロの皆さんならきっと大丈夫だ。特に根拠があるわけではないのだが、何となくそう感じた。

 

「でも、開演時間が延びて時間が出来た?」

 

「あ!! それじゃあ何か食べませんか!!? 大声で応援できるようにエネルギーをチャージしませんと!!」

 

「愛ちゃんは普段からエネルギーが有り余ってるような気もするけど……」

 

「むしろエネルギー過多?」

 

 しかし確かに小腹は空いていたので、軽食を買うことが出来る売店に向かうことにするのだった。

 

 

 

 ――これすげぇな、おい。

 

 ――ホントにな。どんだけコアなファンなんだか……。

 

 

 

「……?」

 

「涼さーん!! こっちですよー!!」

 

「あ、うん。今行くよ」

 

 不意に聞こえてきたそんなやり取りは、すぐに僕の記憶の中から薄れていった。

 

 

 

 

 

 

「呼ばれた気がした」

 

「誰も呼んでねーよ」

 

 ガタッと立ち上がった途端、冬馬にツッコミを入れられてしまった。

 

 番組収録の合間の休憩時間。ジュピターの楽屋にお邪魔して一緒に休憩中……と思いきや。

 

「あ、良太郎君、そこ間違ってるよ」

 

「え、マジで?」

 

「ハッ、天下の周藤良太郎様が形無しだな?」

 

「そう言う冬馬も間違ってるよ」

 

「げ」

 

 なんと勉強中である。と言うのも、冬馬は俺と同じく高校三年生で受験生。既に夏が過ぎてしまったこの時期は僅かな時間があれば少しでも勉強するのが吉。なので現役大学生で意外にも成績優秀な北斗さんを教師役に据えての勉強タイム、ということだ。

 

「うー……なんで僕まで……」

 

 なお、中学二年で受験とは一切関係のない翔太も道づれで勉強中である。

 

「翔太、早いうちからしっかりと勉強しておけば今の冬馬みたいな目に遭わなくて済むぞ」

 

「ちょ、なんで俺だけなんだよ!? 良太郎だって同じ状況だろ!?」

 

「良太郎君の場合、基礎はしっかりと出来てて後は応用問題に慣れるだけ。基礎すら穴がある冬馬とは違うんだよ」

 

「………………」

 

「うわ、こいつ表情変わらねーくせに内心で『ドヤァ』って言ってるのが丸分かりな目ぇしてやがる」

 

 全く、女の子成分が一切ない勉強シーンとかマジ誰得だよ。

 

 というわけでカットカット。

 

 

 

「よし、これぐらいにしておこうか」

 

 撮影の休憩時間も残り僅かとなったので勉強を終了し、お茶を飲みつつ本当に休憩する。

 

「休憩時間なんだからちゃんと休憩しようよー……」

 

 巻き添えで勉強をすることになっていた翔太が机の上に突っ伏しながら愚痴を溢す。

 

「どうせここにいる全員今日の収録ぐらい楽勝なんだから別にいいだろ」

 

「いやまぁそうだけど……」

 

「収録と言えば良太郎君、本当に今日は色々と本気みたいだね」

 

 そういえば、と北斗さん。

 

「そうそう、どうしたのりょーたろーくん」

 

「おめーの雰囲気に他の共演者全員びびっちゃってるじゃねーか」

 

「いくら何でもそれは言いすぎでしょ」

 

「いや割とマジなんだが……」

 

 そんな漫画じゃないんだから、雰囲気で人がびびるとかあるわけないじゃないか。いくら覇王って呼ばれてるからってそんな色の覇気は出せませんよ。

 

「まぁ、本気なのはマジだよ。さっきも言ったように早く終わらせたいのは本当だからな」

 

 さっさと終わらせて765プロの感謝祭ライブに行きたいのですよ。

 

 楽しみにしているのも本音。しかし、それ以上に彼女達が『昇る』瞬間に立ち会いたいというのがそれ以上の本音である。

 

 すると何故か憮然とした表情の冬馬。

 

「……なんだよそれ。アイドルの仕事より大切なのかよ」

 

 ……んー?

 

「おやおや、冬馬くーん。拗ねてるんですかー? 俺が他のことの気を取られて拗ねてるんですかー?」

 

「○ね」

 

 おっとそれはアイドルが使っちゃいけない言葉ですよ。

 

 さて、トークメインだった前半戦と違い後半戦は歌メインだ。

 

 張り切っていきましょうかね。

 

 

 




・まだあわてるような時間じゃない
「俺を倒すつもりなら死ぬほど練習してこい」

・876三人娘
久々に登場。一人染色体XYが混じってますが通常三人娘で括ります。

・「物販見に行きましょう物販!!」
愛ちゃん、それは春香さんの芸風です。
ちなみにお気づきの方もいらっしゃるでしょうが、愛ちゃんのセリフは他のキャラと違い感嘆符を二つ付けています。

・男だらけの勉強会
マジ誰得。俺も何故こんなシーンを書いたのか……。

・そんな色の覇気
「最近漫画読んでいなかったから映画で何故ルフィが睨んだだけで海軍がバタバタ倒れたのか分からなかった」とは作者姉の談。



 進展がない二話目でしたが、次回辺りから第一章最終話っぽくなると思いたい(願望)


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Lesson36 Are you ready? 3

日曜日に起きた某アイドルの事件を、思わずネタに使えると考えてしまい反省。

どうかお大事にしてください。


 

 

 

『ジュピターの三人、ありがとうございました!』

 

 歌い終えたジュピターがステージから降り、観覧客の黄色い声援に応えて手を振り返しながらトークセット内に設けられた自分達の席に戻る。俺が釘を刺したからなのか元々の実力なのかは置いておいて、一切のミス無く完璧にパフォーマンスを行った三人は流石期待のルーキーと言ったところか。

 

 さて、ジュピターの番が終わり、次がいよいよ俺の番である。

 

『それでは本日のオオトリは周藤良太郎さん。歌ってくださる曲は『頑張る君に捧ぐ歌』です。良太郎さん、最新曲ではなく9thシングルであるこちらを歌われるのは、何か理由があるのですか?』

 

 司会者がそう言いながらこちらに話題を振ってくる。自分に寄せてきているカメラをチラリと横目で確認しつつ、手にしたマイクを口元に寄せる。

 

「今回この曲を選んだのは、ちょっと個人的な理由です。最近頑張ってる知り合いと、あとついでに今年受験生の自分に向けた応援ということで、この曲を選ばせてもらいました。テレビの前の俺と同じ受験生、ちゃんとこの番組見終わったら勉強するんだぞ。もう年末なんだから」

 

 ピッと寄って来ていたカメラに向かって「お兄さんとの約束だ」と人差し指を立てる。

 

『なるほど、受験生に向けての応援歌ですか』

 

「もちろん、頑張っている人たち全員に向けての応援歌ですから」

 

 この『頑張る君に捧ぐ歌』は元々夏の大会に向けて頑張っていた我が校の各部の生徒達を見ていて思いついた曲だ。夏の甲子園をイメージして作ったため若干今の時期にそぐわない爽やかさが溢れる曲だが、それでもこの曲を今日歌おうと決めた。

 

 もちろん、『今日』頑張っている彼女達のためにだ。

 

 ディレクターからは最新曲もしくは『Re:birthday』を歌って欲しいと言われたのだが、結構なゴリ押しでこの曲を歌わせてもらうことに成功した。ホント感謝感謝。ディレクターさんの娘さんが俺のファンだって言ってくれてたし、今度お礼に誕生日祝いでもさせてもらおう。

 

『それでは良太郎さん、準備の方をよろしくお願いします』

 

「はい」

 

 司会者に促され、他の共演者の拍手を背中に受けつつステージへと向かう。しかし今の自分に準備なんていらない。いつでも全力を出せる。

 

 その場で軽くターンをし、それを合図にイントロが流れ出す。観覧客が歓声を上げて『舞台』が完成する。

 

 自分が歌詞を考え、作曲の先生がその骨組みに肉付けをしてくれた曲。三三七拍子をイメージした頑張る人を応援するための曲。

 

「勉強! 仕事! 遊び! 恋愛! 現在進行形で頑張ってる君と今テレビの前で頑張ってる君のために! 明日に向かって全力で頑張る君のために!」

 

 

 

 これは『アイドル』周藤良太郎としてではなく。

 

 ただの『ファン』周藤良太郎として。

 

 届くことはないと分かっていても、この曲を彼女達のために歌おう。

 

 

 

「活力剤に、周藤良太郎はいかがですか?」

 

 

 

 

 

 

 午後六時三十分。本来予定していた時間よりも三十分遅れて765プロダクション感謝祭ライブは開演した。

 

 竜宮小町を除く九人全員で歌う『THE iDOLM@STER』から始まったライブ。舞台裏では衣装の一部が見当たらない、衣装が濡れる、ファスナーが壊れるなど大小様々なトラブルが発生していたが、舞台上では今のところ何のトラブルも発生せずに進行することが出来ていた。

 

 しかし、観客のテンションは徐々に、しかし確実に下がり始めていた。原因はもちろん、竜宮小町が未だに姿を現わしていないからだろう。

 

 今回の感謝祭ライブの観客の大半は竜宮小町を目当てに訪れたファンが多い。それにもかかわらず、竜宮小町がいないことに対して、少しずつ不満を覚えるファンが増え始めているのだ。現に振られるサイリウムの数も徐々に減り始めている。

 

 

 

「大変ですプロデューサー!」

 

 そんなとき、また新たなトラブルが発生することとなる。

 

 

 

「美希の『Day of the Future』の後に、また美希の『マリオネットの心』が来てるんですよ!」

 

「いくら美希でも、こんなダンサブルな曲を二曲続けては無理だぞ!」

 

 真と響が指差す進行表を見ると、確かにその二曲が連続した構成になっていた。この二曲は踊りがアップテンポで、歌いながら踊るには相当な体力が必要となる。良太郎君とのレッスンで歌いながら動く練習をしたらしいが、彼女達にとっては所詮付け焼刃。

 

「……くそっ」

 

 アイドル達の前だと言うのに、思わずそんな言葉を口にしてしまった。しかし悪態を吐いたところで、曲の入れ替えが出来るわけではないのだ。

 

「二曲とも、美希しかボーカル練習してない曲なんです」

 

 つまり誰か代わりにという代替案も使えない、ということだ。

 

 ……仕方ない。

 

「竜宮小町までの繋ぎを考えると厳しいが、ここは曲を飛ばして――」

 

 

 

「え? 飛ばすの?」

 

 

 

 しかしその俺の決断を遮ったのは、あまりにも軽い美希の声だった。

 

「み、美希!?」

 

 振り返えると、そこにはきょとんとした表情の美希が立っていた。まるで自分が二曲続けて歌うことに対して何の疑いも持っていなかったかのようだった。

 

「ほ、本気で言ってるのか!?」

 

「む、無茶苦茶きついぞ!?」

 

「うん、大変なのは分かってるよ」

 

 俺と響の言葉に対して何の躊躇いも無く頷く美希。

 

「でも、これぐらいで音を上げてたら良太郎さんには追いつけないの。だから――」

 

 

 

「――なんだよ、それ!」

 

 

 

 バンッ、という大きな音。

 

「ま、真?」

 

それは、真が机に自身の掌を叩きつけた音だった。

 

「なんだよそれ! 人が心配してるってのに、美希はいつもいつも二言目には『良太郎さん』『良太郎さん』って! 美希はお客さんのために歌ってるんじゃないのかよ!?」

 

「……ミキは」

 

 真の言葉を受け、美希はそれまでの表情を変え、真剣な面持ちで応える。

 

「ミキは、自分のために歌ってるの」

 

「……っ!?」

 

 その言葉に対して真が美希に飛びかかろうとし、俺と響がそれを押さえようとし、しかしそれより先に続けて美希の口から発せられた言葉によって真は動きを止めた。

 

 

 

「ミキが自分のために全力で歌えば、お客さんも満足してくれるって信じてるから」

 

 

 

「……え」

 

「今日来てくれてるお客さんのほとんどは竜宮小町の三人が目当てなんでしょ? こういう言い方は悪いかもしれないけど、そんな人たちに対して『あなた達のために歌います!』って言っても、多分それはお門違いだと思うの」

 

 でもね、と美希は目を瞑り、胸に手を当てる。

 

「きっとミキが全力で歌って踊れば、お客さんは『こっちを向いてくれる』と思うの。『お客さんのために』じゃなくて、『自分のために』の延長線上でお客さんが笑顔になってくれるはずだから」

 

 思い出すのは、以前放送された良太郎君のドキュメンタリー番組。

 

 

 

 ――俺に取ってアイドルとは、ファンの笑顔で光り輝く存在。

 

 ――誰かが笑顔になってくれている証明、ですかね。

 

 

 

 それは、自身が頑張れば結果が後から付いてくるという良太郎君の言葉。

 

 ファンのために輝くのではなく。

 

 自身が頑張ってきた結果として輝く。

 

「だから、良太郎さんに頑張れって言ってもらった『星井美希』のため。そのためだったら、例えダンサブルな曲が二曲続いてもへっちゃらなの!」

 

 ニコッと、それはもう素敵な笑みで美希は笑った。

 

「……もちろん、美希君だけではなく、良太郎君は765プロのアイドル全員を応援してくれているよ」

 

「しゃ、社長?」

 

 社長がいつの間にか控室にやって来ていた。現在休憩時間中のため、観客席からこちらに来ていたようだ。

 

「君達は、今回のライブのために送られてきていた沢山の花輪を見て来たかね?」

 

「は、はい」

 

「ほとんど竜宮小町宛でしたけど……」

 

「あ、でも『765プロアイドル全員へ』っていう花輪も沢山ありましたよね!」

 

 やよいが言う通り、ほとんど竜宮小町宛の花輪の中にアイドル全員に向けての花輪は確かにあった。

 

 それはなんと個人からによるものだったのだ。

 

「誰なんでしょうね? 『匿名希望のR』さんって」

 

 ……ん? 『R』さん?

 

「えっと、社長、もしかして……!」

 

 今の会話の流れからして、その答えは一つしか考えられない。

 

 本人には黙っていてくれと頼まれていたのだがね、と前置きしてから社長はそれを言葉にした。

 

 

 

「今回送られてきた花輪の四割を占める『765プロアイドル全員へ』の花輪は、全て周藤良太郎君が個人的に送って来てくれたものなのだよ」

 

 

 

『!?』

 

 本来、花輪は団体で一括りとして一つ送ってくる。しかし、良太郎君は個人で、それほど大量の花輪を贈ってくれたということだ。

 

 しかも、『アイドル』としてではなく『ただのファン』として。

 

「君達は既にこれだけ熱烈なファンを持っているのだ。自信を持ちたまえ」

 

 

 

 ――君達は、周藤良太郎に応援されているのだよ。

 

 

 

「……真君、響、サポートお願いしていい?」

 

「……あぁ、もちろんだ!」

 

「自分達に任せるさー!」

 

 美希はもちろんのこと。真の目にも、響の目にも。

 

 迷いなんか一切無かった。

 

 

 

 

 

 

「結局間に合って無い件について」

 

「しょうがないだろ、機材トラブルを挟んでるんだから。それでも一時間押しで済んでよかったじゃないか」

 

「間に合って無い件について」

 

「この野郎……!」

 

 番組の収録を一時間押しで終えた俺は、再び兄貴の車に乗って765プロ感謝祭ライブの会場へと向かっていた。

 

 厚い雲に覆われて太陽は見えないが既に日暮れ。日中激しかった雨もスッカリ小雨となっている。

 

「そういえば高木社長に聞いたぞ。個人的に花輪を贈ったそうじゃないか、それも大量に」

 

 チラリと横目にこちらを見る兄貴はニヤッと笑っていた。む、高木社長、秘密にしておいてくれって言ったのに……あ、そういえば765プロのみんなには秘密って言ったけどその他の人に関しては何も言ってなかった。

 

「まぁ、ね。今回俺はただのファンなわけだし。出来ることなら精一杯応援してあげたかったわけだよ」

 

 もちろん他のファンレターに周藤良太郎名義の物を紛れ込ましても面白かったかもしれないが。

 

 今回は彼女達の門出になるのだ。それはもう盛大にお祝いしてあげたかったのだ。

 

「そんな大量の発注何処に頼んだんだよ」

 

「本当は凛ちゃんの渋谷生花店に頼もうかとも思ったんだけど、流石に量が多すぎて断られちゃったから知り合いの生花店を紹介してもらった」

 

 普通の花輪だったら何とかなったみたいなのだが、流石に町のお花屋さんには無理があったようだ。

 

「ちなみに、いくらぐらいかかったんだ?」

 

「……今回の番組収録はボランティアということになりました」

 

「おまっ!?」

 

「だ、大丈夫。兄貴の分には手ぇ付けてないから」

 

「当たり前だ! ったく、本当に最近金掛け過ぎなんじゃないか?」

 

「しばらく楽屋に設置された茶菓子で腹を満たそうかと……」

 

 当分マジで厳しい。本格的に翠屋でのアルバイトを考えなければならないかもしれない。

 

「言ってくれりゃあ、連名にして俺も半分出してやったのに」

 

「……いいよ別に。俺が出したかったから出しただけだし」

 

 快調に走る車は、もうすぐ会場に到着しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

「みんなー! 盛り上がってるー!?」

 

 舞台上から、マイクを使い観客席に向かって問いかける。しかし、帰って来た返答は薄い。

 

「んー、みんな竜宮小町が出てこないから退屈になってるって感じだねー?」

 

 その言葉は軽く口にすることが出来たものの、やはり少しだけ心がチクリとする。

 

「あのね、実は台風の影響で竜宮小町の三人はここに来るのが遅れちゃってるんだ」

 

 今まで黙っていたことをここで告げる。

 

 ――え、マジかよ?

 

 ――竜宮小町は、今日は来れないの?

 

 そんな言葉が観客席から聞こえて来た。

 

「ブッブー! でもちゃーんと来るから心配ないの!」

 

 そう、彼女達は必ず来る。

 

「それまでは、ミキ達で同じくらい……ううん、それ以上に盛り上げるから――」

 

 だから、それまでは。

 

 

 

「――星井美希を召し上がれ、なの!」

 

 

 




・『頑張る君に捧ぐ歌』
オリジナル楽曲。作者のネーミングセンスの無さが異常。当然の如く歌詞なんて考えてない。

・夏の大会に向けて頑張っていた我が校の各部の生徒達
と、今後何かしらの運動系のキャラを出すことができる準備だけしておく。

・「周藤良太郎はいかがですか?」
以前運動会にて使用した良太郎の一言。なんとなく気に入ったので決めセリフ的なものとして今後も使用していく予定。

・ファスナーが壊れる
雪歩のスカートのファスナーが壊れる……(ゴクリ)

・『Day of the Future』と『マリオネットの心』
とってもだんさぶるなきょく。

・「――なんだよ、それ!」
大変でちょっとだけイライラしちゃったまこまこりん。普段の彼女はとってもいい子なんです。

・『匿名希望のR』さんからの花輪
今回のサプライズ的なもの。費用に関しては特に設定しているわけではないのだが、大体一つ一万円からぐらいのはず。

・「――星井美希を召し上がれ、なの!」
良太郎の決めセリフ的な何かに対して思いついた美希の決めセリフ的な何か。
けっしてprprが許可されたわけではないので席をお立ちにならないようお願いします。



 こいつ主人公のくせして応援しかしてねぇ!?

 だ、第一章は765のみんなの成長の物語なのでしょうがないですよね?(震え声)

 なお原作での春香さんのいい話はなかったことになりますた()

 ごめんね春香さん! 第二章ではちゃんと活躍するよ! のワの



 次回、第一章最終話。


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Lesson37 Are you ready? 4

第一章最終話になります。

しかし山無しオチ無しであるのは伏線のみ。
ネタ小説としての自覚がまるで足りていませんね。


 

 

 

「……すっげ」

 

 思わず零れ出たその言葉は、たった一人の少女に対して向けられたものだった。

 

 星井美希。長い金髪と年不相応なプロポーション故に日本人離れした風貌をした僅か中学二年生の少女。

 

 元々才能はあると思っていた。少し気分屋の嫌い(傾向の意味)が見られたが、練習に真面目に取り組む努力家な面も見て取れた。彼女ならいつか開花すると少なからず確信があった。

 

「まさか、こんなに早く開花するとはねぇ……」

 

 歓声。ライブ会場であるドーム全体を覆い尽くす大歓声。それが彼女一人のために注がれていた。

 

 

 

 俺がドームに到着してライブ会場に滑り込んだのは、丁度美希ちゃんが曲の前にMCをしている時だった。

 

『星井美希を召し上がれ、なの!』

 

 その言葉を聞き思わずガタッと席を立とうとし、しかしそもそも席に座ってすらいなかったという自分でもちょっと何言ってるのか分からない状態になったのも束の間。

 

 美希ちゃんが歌い始めた。曲は『Day of the Future』。

 

「……ふむ」

 

 上から目線上等で評価させてもらうと、『優』といったところか。この間の特訓の成果……とは一日しかやってないので流石に言えないが。それでも、俺自身が今の美希ちゃんに期待する最高のパフォーマンスだったと言える。

 

 しかし、俺が驚いたのは歌い終わった後だった。

 

(……ん?)

 

 歌い終わった直後に照明が暗くなり、ステージ中央で待機する美希ちゃんの後ろにステージ両脇から二人(暗くて個人特定不可)が出て来た。

 

 そしてそのままイントロが流れ始めたのだ。

 

(二曲続けて……?)

 

 曲は『マリオネットの心』。バックダンサーとして真ちゃんと響ちゃん(ライトが付いたことにより特定)を据え、再び美希ちゃんがメインボーカルだった。

 

 これには流石に驚いた。ぶっちゃけ今の美希ちゃんにこれだけ振りが激しい曲を二曲続けて歌えるとは思わなかったのだ。

 

 しかし。

 

 

 

 ――また会ってくれますか?

 

 

 

 それは、悲壮に満ちた失恋の曲。恋に苦悩する少女の思いを悲痛な面持ちで歌う美希ちゃん。それはただダンスがキツくてゆがんだ訳ではない、彼女の実力故の表現。俺には決してできない『表情』という領域の話。

 

(……予想外だった)

 

 どうやら俺は美希ちゃんを過小評価していたようだ。

 

 

 

 曲が終わり手を振りながらステージ脇へと帰っていく美希ちゃんに、観客達は黄色とピンクのサイリウムを振りながら歓声を上げる。

 

「こりゃ俺の応援はいらなかったかなぁ……」

 

「そんなことないさ」

 

「ん?」

 

 それはひとり言のつもりだったが、何故か返答があった。

 

 声のした方に振り返ってみると、そこにいたのは様々な色のサイリウムを一度に振っている高木さんだった。

 

「高木さん」

 

「来てくれてありがとう、良太郎君」

 

「いえ、俺も楽しみにしてましたから」

 

 数歩後退し、高木さんと肩を並べるように壁にもたれかかり、高木さんの反対側に並んでいた男性に声をかける。

 

善澤(よしざわ)さんも、お久しぶりです」

 

「久しぶり、良太郎君」

 

 変装状態の俺を認知できるこの人は、芸能記者の善澤さん。見た目何処にでもいそうなおじさんだがその実とても優秀な記者で、新曲発売やミリオン達成の時などで俺も度々お世話になっている人だ。

 

「聞いたよ、何でも今回のライブのために大量の花輪を贈ったそうじゃないか」

 

「……高木さん……」

 

「いやーすまない、思わずね」

 

「……まぁ、アイドルのみんなに言って無けりゃあ――」

 

「そっちにも既に話してしまったよ」

 

「言いましたよね? 俺確かに黙っててくださいって言いましたよね? 俺の勘違いとかじゃないですよね?」

 

 黙ってて欲しいって言ったのに何でこんなに筒抜け状態なんだよ。

 

「良太郎君からの贈り物に、みんな喜んでいたよ」

 

「……それが聞けたからまぁ良しとします」

 

 本当は良くないけどね! だって後になって冷静になってみたら一人でウン十万払うとかストーカーみたいじゃねとか思っちゃったし! しかし喜んでくれたなら良し。

 

「どうやら良太郎君は765プロのアイドル達にだいぶご執心のようだね。記事に書いてもいいかな? 周藤良太郎一押しアイドル、って」

 

 俺と高木さんのやり取りに苦笑しつつ、善澤さんはそんなことを聞いてきた。

 

「ご執心ではありますが、流石にそれは勘弁してください」

 

 少し高木さんには悪いとは思うがそう言った類の話は今まで全て伏せてきた。気にし過ぎとか自意識過剰とか言われるかもしれないが、周藤良太郎の名前の影響力は小さくない。『あの周藤良太郎が注目!』とか記事に書かれようものならば、実力云々は置いておいてまず注目されることは間違いなく、個人的に「それズルじゃん!」のような気がするのだ。

 

 そんな個人的事情から、あくまで『周藤良太郎』が765プロのアイドルのファンなのであって『アイドル周藤良太郎』がファンだと公言することを避けて来た。

 

 でもまぁ。

 

「明日にはそんなことを書く必要もなくなると思いますけどね」

 

「……なるほど。良太郎君は、今回のライブをそう評価する訳だね」

 

 善澤さんの目がスッと細くなる。

 

「まだ終わってないライブの評価は出来ませんよ」

 

「ご尤も」

 

 ステージでは、千早ちゃんの『目が逢う瞬間』が始まっていた。

 

 

 

 

 

 

「美希、これ」

 

「……あ、春香……ありがとうなの」

 

 舞台裏。パイプ椅子に座り息も絶え絶えといった様子の美希に携帯酸素ボンベを手渡した。

 

 口元に酸素ボンベを宛がい大きく深呼吸する美希の横に、私も腰を降ろす。

 

「……アイドルって凄いね、春香」

 

 胸に手を当てて、まるでその時の情景を思い出して噛み締めるように美希は言う。

 

「ステージの上から見る景色って、すっごいキラキラで、胸の中がわーって熱くなって……」

 

「……うん」

 

「でもね、まだまだこんなものじゃないんだって」

 

「え?」

 

「りょーたろーさんが言ってたんだ。トップアイドルになると……りょーたろーさん達みたいなアイドルになると、そのキラキラの向こう側が見えるんだって」

 

「キラキラの向こう側……」

 

 呟き、想像し、しかし私には思い描くことが出来なかった。

 

 ステージの上から見える観客席はサイリウムに埋め尽くされ、まるでそこが光の海のようだと私は思った。そこは正しく、美希の言う『キラキラ』な世界。

 

 そんなキラキラの向こう側があるとしたら、果たしてそこはどんな景色なんだろう。

 

「いつか、ミキ達も辿りつけるよね」

 

「美希……」

 

 美希は笑っていた。良太郎さんのことを話す時のような花の咲く笑顔ではなく、好物のお握りを頬張っている時のような満足げな笑顔でもなく。

 

「……うん! 次はいよいよ新曲だよ! 大丈夫?」

 

「もっちろんなの!」

 

 その笑顔は、希望と信頼に満ち溢れた自信の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

「みんな、いい?」

 

「竜宮小町が!」

 

「来るまで!」

 

「私達!」

 

「歌って!」

 

「踊って!」

 

「最後まで!」

 

「力いっぱい!」

 

「頑張るの!」

 

「いくよー!? 765プロ~……!」

 

 

 

 ――ファイトー!!

 

 

 

 

 

 

 感謝祭ライブが終了し、その帰りの電車に僕達は揺られていた。

 

「凄かったですねー!!」

 

「うん。流石良太郎さん一押し?」

 

「そうだね。でも愛ちゃん、もう少し声のボリュームを抑えて抑えて」

 

 おっと、と自分の口を自分で塞ぐ愛ちゃんに苦笑する。

 

 しかし、周りの乗客もライブ帰りのお客さんばかりで大声の愛ちゃんを咎めようとする人は一人もおらず、少々マナー違反のような気もするが口々に先ほどのライブの感想を述べ合っていた。

 

 

 

 ――竜宮小町もいいけど、他のアイドルもなかなか良かったな。

 

 ――俺はあの子、センターの天海春香が気に入った!

 

 ――僕は如月千早ちゃんかなぁ。

 

 ――やよいちゃんハァハァ。

 

 ――お巡りさんこいつです。

 

 

 

 それまで765プロダクションの話題と言えば竜宮小町、ごくたまに美希さんの名前を聞く程度だった。しかしこうして他の皆さんの名前を聞くと、まるで自分のことのように嬉しくなってくる。

 

「今度は、あたし達の番ですね!!」

 

「……まずはCDデビューから?」

 

「道のりは険しいねぇ……」

 

 けれど。

 

 いつかは、765プロのような、良太郎さんのような……。

 

 

 

 

 

 

「……もしかして、これかなぁ?」

 

「ん? どうした?」

 

 事務所でのミーティングを終えて最寄り駅までの送迎の車内にて、翔太がスマホを弄りながらポツリと呟いた。

 

「いや、りょーたろーくん、何か用事があるって言ってたでしょ? それで、何かイベントでもあったのかなぁって調べてみたら……これ」

 

 そう言ってこちらに向けて来た画面を俺と北斗が覗きこむ。

 

 そこには『竜宮小町も登場! 765プロダクション初の感謝祭ライブ!』の文字が表示されていた。

 

「765プロ?」

 

「竜宮小町って、所詮あの色物だろ? 歌もダンスも二流の奴らのライブにわざわざ良太郎が行ったって言うのかよ」

 

「でも、この765プロもこの間の大運動会に出場してるんだよね。ほら、りょーたろーくん言ってたじゃん、気になる子達がいるって」

 

「それがこいつらだって言いてーのか?」

 

「絶対そうだとは言い切れないけど、ライブの開始時間と収録の終了予定時間がぴったりだし」

 

「確かにね」

 

「………………」

 

 じっと画面を見る。そこに映っているのは、知名度でも実力でもまだ俺達にも及ばない奴らがこちらに向かって笑顔を向けている画像。

 

「……ふん」

 

 くだらねぇ。

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 自室のベッドの上。買い替えると意気込んだものの結局未だに買い替えれていないガラケーをポチポチと操作しながら美希ちゃんと真美に送るメールを作成する。何故この二人なのかというと、単純に他の人のアドレスを知らないからである。

 

 メールではなく直接お疲れ様を言いに行くという考えもあったのだが、多分みんなお疲れだろうし、今日一日はファンというスタンスを崩さないためにも他のファンと同じようにライブ終了と同時に帰って来た次第である。

 

 ちなみに兄貴は用事があり俺をライブ会場に置いた後すぐに行ってしまい、帰りは普通に電車に乗った。隣の車両に愛ちゃん達876三人組を見かけたような気がしたが、オーラゼロで乗車してたので多分気付かれてないだろう。

 

「『お疲れ様。最初からはちょっと見れなかったけど、凄く良いものを見させてもらったよ』……っと」

 

 765プロ初の感謝祭ライブは、大成功という結果で幕を閉じた。接近していた台風の影響で竜宮小町の到着が遅れるというハプニングがあったらしいのだが、他のアイドルの頑張りのおかげで観客全員の心をしっかりと捉えたようだった。俺? 最初から765ファンだから既に捉えられています。メロメロですよメロメロ。

 

「さて、と」

 

 メールを送信し終え、パタンと携帯電話と閉じる。

 

 今回のライブを期に、765プロは大きく飛躍する。途中からだが最後まで見ていた俺と最初から見ていた善澤さんはそう確信した。個人個人の評価はまた別にしておいて。本来竜宮小町を目的として来た多くのファンの心には765プロのアイドル達が刻まれたはずだ。

 

「とりあえず、おめでとう、だな」

 

 彼女達はようやく殻が破れたといったところか。多くの人々の記憶に刻まれ、彼女達はようやく『アイドル』となった。

 

 つまり、ようやくここがスタート地点だ。

 

 これまでの彼女達は、何処からも目を向けられていなかった。それはいい意味でも悪い意味でもだ。

 

 名が売れると言うことは、それだけ多くの人々の様々な思惑を持った視線に晒されるということだ。以前の大運動会でのそれは全くの序の口。未遂で終わったものの、本当にただの嫌がらせだ。本物の悪意というものは、その昔、俺や魔王エンジェルの三人が体験したような……。

 

 

 

 ――だからこそ、私達が守ってあげないといけないのよ。

 

 ――権力なんていうくだらない大人の都合から、キラキラと輝く子供たちの夢を守るのが、私達『大人』の役目よ。

 

 

 

 思い出すのは、以前の舞さんとの会話。

 

 生まれたばかりの雛である彼女たちを守るのが役目だと言うのならば。

 

「……まぁ、頑張りましょうか」

 

 

 

 ――覚悟はいいか(アーユーレディ)

 

 

 

俺は出来てる(アイムレディ)

 

 

 

 なんてな。

 

 

 

 

 

 

 アイドルの世界に転生したようです。

 

 第一章『READY!!』 了

 

 

 

 

 

 




・ガタッと席を立とうとし
どんな感じだったかは「外人四コマ」で検索。

・善澤さん
今後重要になってくるであろうキャラ。
貴重な第三者視点でアイドルたちを見る存在。

・「それズルじゃん!」
第二話というかなりの初期段階での名言ということでゼアルの「出た! シャークさんのマジックコンボだ!」を彷彿とさせますね。
類義語としては「インチキ効果もいい加減にしろ!」「まるで意味がわからんぞ!」など。

・お巡りさんこいつです。
気を付けてください。ほら、あなたの後ろにも……手錠を手にした国家権力の狗が!(キャー)
なおこの直前のセリフに関しては今さらなので触れません。

・歌もダンスも二流の奴ら
コミカライズ版での冬馬君の発言。人気急上昇中ではありますが、まぁ現段階で良太郎や魔王エンジェルに近い彼らからすればこのぐらいの評価に疑問は無いかと。

・「覚悟はいいか?」「俺は出来てる」
良太郎「『人気を保つ』『後輩も守る』。「両方」やらなくっちゃあならないってのが「トップアイドル」の辛いところだな」
本文を書くために見直したアニマスで、OPの冒頭部を何度も聞いているうちに思いついた。
文法や翻訳云々に関してのマジレスは受け付けておりません。ニュアンスですニュアンス。



 とりあえず様式美として。



 勝ったっ! 第一部完!

良太郎「ほーお、それで次回からは誰がこの周藤良太郎の代わりをつとめるんだ?」

 いつからお前が主人公だと錯覚していた……?

良太郎「なん……だと……!?」

※応援しかしてないですが紛れもなく主人公です。主人公も良太郎のままです。



 というわけで第一章、別名「アニメ一期編」終了です。

 書き始めたのが十一月だったので、大体半年かけて一章がようやく終わりました。劇場版編は遠いお……。

 まぁ作品自体に何かしらの変化があるわけではなく、二章からもこれまで通り良太郎の適当なアイドル生活を描くだけの自称ネタ小説です。中途半端なネタ成分シリアス成分が入り混じっておりますが、どうかこれからもよろしくしていただけたら幸いです。

 今後の活動予定ですが、これからも毎週火曜日の深夜零時更新を目途に週一で更新していくつもりです。

 ただ来週は諸事情+作者取材(笑)のため本編更新の予定はありません。ストックにある番外編や嘘予告など何かしらの更新はしたいと思います。

 第二章の更新は二週間後になると思いますが、それまでどうぞお待ちください。

 それでは。






 それは、変わった日々と変わらない思い。



「目指せ! トップアイドル!」



 それは、変わった日常と変わらない決意。



「それじゃあ教えちゃおうかな」



「俺が『アイドルを始めるきっかけ』でも『アイドルを続ける理由』でもなく」



 ――周藤良太郎が『アイドルになろうと決意』した話を。



 アイドルの世界に転生したようです。

 第二章『CHANGE!!!!』

 coming soon…


 


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番外編04 外伝嘘予告 2

よし! 間に合って……ない、遅れましたスミマセンはい。

嘘予告と言いつつ長すぎて嘘プロローグレベル。


 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

 俺、周藤良太郎(21)はアイドルである。それもただのアイドルではなく『アイドルの頂点に立つ』とまで称されるトップアイドルである。生まれついて表情が動かないと言うアイドルとして致命的な欠陥を抱えているにものの、新曲を出せばたちまちミリオンヒット、ライブを開催すればチケット即日完売というレベルのトップアイドルなのである。

 

 さらに俺には前世の記憶があり、トップアイドルになったのも転生した際の神様からの特典のおかげとかそういう言う話もあるのだが。

 

 今はそんなことどうでもいい。

 

 日本一のアイドルを決めるアイドルアルティメイトというイベントを三回連続で優勝して殿堂入りを果たしたとか、世界一の音楽の祭典であるナショナルミュージックアルティメイトアイドル部門にノミネートされたとか、兄貴が設立したシンデレラプロダクションというアイドル事務所の副社長に就任したとか。

 

 そんなことはどうだっていいのだ。

 

 今重要なことは、ただ一つ。

 

 

 

 周藤良太郎は、一人の少女に恋をしたということなのだ。

 

 

 

 

 

 

 それはほんの一週間前のことだった。

 

 伊達眼鏡と帽子を装着すると何故か身バレしないという不思議スキルをいかんなく発揮しながら街中を歩いていた俺は、交差点で偶然すれ違ったのだ。

 

 

 

「えっと、アルフ、頼まれてたものはこれで全部だよね?」

 

「大丈夫だよフェイト! 早く帰ろう!」

 

 

 

「っ!?」

 

 それは、今まで感じたこともないような衝撃だった。目を見開き、思わず息をすることも忘れてしまう。表情は相変わらず変わらない。しかし心臓の鼓動が急速に速くなっていくのを感じた。経験したことが無い、しかしなんとなくこの感情の正体を理解した。

 

 あぁ、これが恋なのか、と。

 

 少女の姿をもう一度見ようと、足を止めて振り返ってしまう。しかし、振り返った時には既にその少女は人混みの中に消えてしまっていた。思わず追いかけようとも思ったのだが、丁度信号が赤に変わってしまって後を追うことすらできなかった。

 

 それはほんの一瞬の邂逅。分かったのは名前と、日本ではやや目立つ髪色をしていたということだけ。

 

 それでも、諦めたくないと強く心から思ってしまうほど。

 

 俺は、彼女に恋をしてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

「それで? どうしたんだいきなり」

 

「周藤君から話があるなんて珍しいわね」

 

 大学内のカフェテリア。俺と忍は古くからの友人である周藤良太郎に呼び出された。今は講義中なので自分達と同じように講義を取っていない生徒しかおらず、しかしそれでも用心が必要で良太郎はいつもの伊達眼鏡と帽子を装着していた。

 

「悪い。どうしても相談したいことがあって」

 

「……相談したいこと?」

 

「私達に?」

 

「あぁ」

 

 表情が変わらない良太郎の顔からその心情を読み取ることは難しい。しかしその目はいつにも増して真剣なものなので、本当に相談があるのだろう。

 

「俺達でよければいくらでも相談に乗ろう」

 

「そうよ。周藤君には私と恭也の間を取り持ってくれた恩もあるんだし」

 

「いや、お前らに関してはなるようになったと言うか、俺が関与する余地が無かったと言うか、勝手にくっついてイチャイチャしやがってこの野郎と言うか」

 

 まぁこの際どうでもいいや、と良太郎は自販機で購入した紙コップのコーヒーを一口飲む。

 

「実は好きな人が出来たんだ」

 

「「ぶふぅっ!?」」

 

「うお汚っ!? 美少女の口から出たものでも流石にご褒美とは思えないぞ!?」

 

 思わず口から霧吹きのように飲んでいたものを噴き出してしまう俺と忍。忍は女なんだからその反応はダメだろうと注意したかったが、自分も噴き出している上に気になる言葉が良太郎の口から聞こえてきたため今はそれどころじゃなかった。

 

「りょ、良太郎、お前今何て言った……!?」

 

「き、聞き間違い? す、好きな人って言った……!?」

 

「? 間違いなく言ったが」

 

 どうやら聞き間違いでも幻聴でもなく、良太郎は『好きな人が出来た』と言ったらしい。

 

 本来ならば友人としてどんな女性なのかという話題に発展していくのだが、相手が問題だった。

 

 周藤良太郎。日本のアイドル界を牽引するトップアイドルの中のトップアイドル。『キングオブアイドル』『アイドルの頂点』『覇王』『鉄仮面の王子』など呼び名には事欠かず、『He is the IDOL.』とまで称された正真正銘世界から認められたアイドルである。

 

 そんな周藤良太郎に出来た『好きな人』だ。これはもうスキャンダルどころの話ではない。今まで浮いた話を一つも聞いたことが無かったため尚更である。

 

「そんなに驚くことか?」

 

「驚くに決まってるでしょ!?」

 

 バンッと机を叩きながら忍が立ち上がる。

 

「だってあの周藤良太郎に好――!?」

 

「待て忍!」

 

 咄嗟に忍の口を抑えるが、どうやら遅かったようだ。

 

 いくら講義中で人気が少ないカフェテリアとはいえ、決して人がいない訳ではない。そんな中で周藤良太郎の名前を叫んでしまえば……。 

 

 

 

 ――え、周藤良太郎?

 

 ――そういえばこの大学に在籍してるって話だけど……?

 

 

 

 当然、こうなってしまう訳だ。

 

「……場所変えるか」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「全く……」

 

 注目が集まりすぎ、いくらなんでもこんな中で出来る相談ごとでも無かったため俺達は場所を移すことにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって近所の公園。

 

「月村、いくら恋バナに敏感な女の子だからって少しは落ち着こうな」

 

「いや、多分この話を持ちかけられたのが周藤君じゃなかったらここまで驚かなかったわ」

 

「そうか?」

 

「そうよ」

 

 先ほどまで飲んでいたものは見事に噴き出してしまったので新たに自販機で買い直してベンチに座る。俺の隣に忍が座り、良太郎は目の前に立っている。

 

「それで好きな人って誰? 私も知ってる人? アイドルの誰か?」

 

 周りに人がいなくなったことで自重する必要が無くなり、改めてテンションが上がっている忍が目を輝かせながら良太郎に尋ねる。

 

「あ! もしかして『魔王エンジェル』の朝比奈りん!? 一時期噂があったけど!?」

 

「いや、違う。相手は街中ですれ違っただけの女の子なんだ」

 

「って、一目惚れってこと!?」

 

「あぁ。あれは運命だと思った」

 

 キャーキャー言いながら俺の肩をバシバシと叩いてくる忍。興奮しているのか、一族の力が籠ってて痛い痛い。

 

「しかしながらすれ違っただけ故に見た目と名前以外が一切分からなくてな」

 

「あ、名前は分かったんだ」

 

「聞こえて来た会話からな」

 

 何となく話が見えて来たな。

 

「つまりその相手を探してほしいと?」

 

「そこまでは言わんが、聞き覚えが無いか聞きたくてな。珍しい髪の毛の色と名前だったから」

 

 そういうことか。

 

「それで? 肝心の名前は?」

 

「あぁ、名前なんだが――」

 

 良太郎の口からその女性の名前が発せられるその直前、その動きが固まった。

 

「? 周藤君?」

 

「どうかしたのか?」

 

 表情は依然変わらず、しかし視線はどこか別の場所に固定されたまま一切動いていない。

 

 一体何を見ているのかと首を動かすと、そこには公園に入ってくる一人の少女と子犬の姿があった。

 

 

 

「いい天気だね、アルフ」

 

「ワンッ!」

 

 

 

 金色の髪を二つに結び、黒いワンピースを着た少女。我が家の末妹であるなのはの友人、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンだった。確か今日は小学校が創立記念日で休みとか言っていたが、どうやらアルフと一緒に散歩に来たようだ。

 

「あら、フェイトちゃんね」

 

「お前も知り合いだったのか? 良太郎――?」

 

 

 

「……見つけた」

 

 

 

「「え?」」

 

 良太郎は目を爛々と輝かせながら右手を強く握りしめていた。

 

「ついに見つけた……俺の運命の相手……!」

 

「えぇ!? 周藤君の一目惚れした相手って……!?」

 

 フェ、フェイトちゃんのことだったのか!?

 

「よし、早速行ってくる」

 

「「待て待て待て!?」」

 

 意気揚々とフェイトちゃんに近づこうとする良太郎の肩を忍と二人でガッチリと抑える。

 

「ちょ、落ち着け良太郎! どれだけ年の差があると思ってるんだ!?」

 

「年の差など問題ではない。そこに愛があるか否かが問題なのだ!」

 

「いやいや流石に犯罪だよ!?」

 

 俺達の説得に一切耳を貸そうとしない良太郎。俺と忍が二人がかりで抑えているにも関わらず何故かその動きを止めることが出来ない。

 

「……? あ、恭也さん、忍さん、こんにちは」

 

 この騒ぎに流石に気付いたフェイトちゃんが挨拶をしながらこちらに寄ってくる。

 

「ダメ! フェイトちゃん今はこっちに来ちゃダメ!?」

 

「え?」

 

「い、いいから今は向こうに行っててくれないか? 詳しい説明はまた今度するから」

 

「お前ら!? 邪魔をするのか!?」

 

 邪魔ではない! 友人を犯罪者にしないための優しさだ!

 

「は、はぁ、分かりました……?」

 

 フェイトちゃんはイマイチ状況を理解できていなかった様子だったが、今は理解しなくても大丈夫だ。

 

 首を傾げながらもアルフを連れて去っていくフェイトちゃん。

 

 しかしその後ろ姿に良太郎が声をかける。

 

「あぁ! 待ってくれ! せめて話だけでも聞いてくれ! そこの――!」

 

 

 

 ――オレンジ色のお嬢さん!

 

 

 

「「「……えっ?」」」

 

 

 

 

 

 

 それは、とある少年の人生の一片の物語。

 

 

 

「な、何でアルフのことが!?」

 

「あ、アンタ何者だい!?」

 

「何故分かったかって……? もちろん、愛の力に決まっている!」

 

「そっかーあいならしかたないなー」

 

「待て忍諦めるな投げ出すんじゃない」

 

 

 

「にゃー!? 良太郎さんがアルフさんに!?」

 

「い、イヤー!? 良太郎さんがアルフに寝○られたー!?」

 

「ちょ、美由希落ち着け!?」

 

 

 

「しかしアルフがフェイトちゃんの使い魔だというのなら、頂いてしまうのは忍びないな……」

 

「おい誰が頂かれるって?」

 

「代わりに俺がフェイトちゃんの使い魔になろう! 首輪でも何でも付けるぞご主人様!」

 

「……いいかも」

 

「フェイト!?」

 

 

 

「幸太郎、良太郎、今まで黙ってたが……実は父さんの単身赴任先は魔法世界『ミッドチルダ』だったのだよ!」

 

「「ナ、ナンダッテー!?」」

 

 

 

「アルフがフェイトちゃんと一緒に向こうの世界に行くって言うのなら、当然俺も行こうじゃないか」

 

「りょ、リョウタロー……!?」

 

「それに――魔法世界進出ってのも、悪くないんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 これは、一人の少年が魔法に出会い、そして新たな世界へと旅立つ物語。

 

 

 

「あたしは……あたしは、使い魔だ! 狼で、人間じゃなくて……一度、死んでて……!」

 

「それがどうした!」

 

 

 

 しかし。

 

 

 

「俺は! アルフを、君を、君自身を好きになった!」

 

 

 

 それ以上に大切なことは。

 

 

 

「それ以外に! 必要なことは何も無いんだ!!」

 

 

 

 これは、一人の少年と一匹の狼の恋の物語である、ということだ。

 

 

 

 

 

 

『狼少女に恋をしました。』

 

 

 

 

 

 

「好きだ、アルフ」

 

「……リョウタロー……」

 

 

 




 ネタ倉庫の中に埋もれていたものを加筆修正してみました。

 使い魔組の中でアルフヒロインポジの小説があまりにも少なかったため思いついたお話。あのむちむち太ももホットパンツとばいんばいんなスタイルに加えて少々ガサツな性格、姉御肌。何故流行らないのか分からない。

 本編が「イノセント混じりのとらハ世界」であるのに対してこちらは「リリなの世界」となっているため魔法が存在する世界となっております。時系列的にはAs終了後空白期スタートとなります。良太郎は魔法が使えないので、バトル要素はほぼ皆無になると思われます。

 展開的にはアルフにぞっこんの良太郎をめぐりシグナムやシャマルその他のキャラが良太郎に好意を向けるラブコメ的になるかと。

 まぁ連載する予定はないんですけどね!

 来週には本編を再開しますのでそれまでどうかお待ちください。


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第二章『CHANGE!!!!』
Lesson38 変わるもの、変わらぬもの


また遅刻ンゴ……。

幸先よろしくないですが、第二章スタートです。


 

 

 

 曇天の空から雨が降り注ぐとある都市の一角。煌びやかに栄えた大都会の片隅の暗闇。

 

「………………」

 

 そこに俺は傘も差さずに立っていた。周りを取り囲むのは、三人の屈強な男達。全員黒いスーツとサングラスを付け、その素性は一切分からない。しかし俺に向けられている敵意だけはひしひしと感じ取ることが出来る。

 

 初めに動いたのは、俺の背後に位置する男だった。大きく振りかぶられた拳が俺の不意を狙う。しかし地面に出来た水溜まりを踏む音により俺はそれを察知する。チラリと背後を見つつその場で大きく身を屈めて拳を避ける。男の拳が俺の頭があった位置を勢いよく空振りするのと同時に、俺の足が男の足を払う。

 

 身を屈めた俺に対し好機と見た別の男が鉄パイプを俺に向かって振り降ろしてくる。鉄パイプはリーチがあるため後ろに下がっても直撃してしまう。ならば横に避けるべきか。否、俺は迫る凶器に対して逆に接近する選択を取った。鉄パイプは硬く、ガードしようものならば腕がやられてしまう。ならばその攻撃の出だしを抑えてしまえばいい。左手を伸ばして鉄パイプを握る腕を止め、がら空きになったボディーに対して掌底(しょうてい)を叩きこむ。男はそのまま後ろに吹き飛ばされ、ゴミ捨て場におかれたポリバケツにぶつかった。

 

 あと一人と思い立ち上がると最初に倒れた男に右足を掴まれた。身動きが取れない状況で三人目の男がこちらに向かって殴りかかってくる。突き出された拳は真正面から俺を狙っているが、軌道が単調すぎた。その右腕を取り、そのまま背負い投げる。受身は取ったようだが、かはっという肺の空気が抜ける声が聞こえた。右足を掴んでいた男は背負い投げる時に振り上げた足でついでにノックアウトしていたので、これで終了である。

 

 振り続ける雨の中、倒れこむ三人の男とただ一人立っている俺。

 

 そんな俺に、それは投げ込まれた。一体誰が投げたのかも分からないが、俺はそれを右手で受け取る。

 

 それは一本のペットボトルだった。既に封が切ってあるそれの中身を呷り、ぷはっと一息ついてペットボトルを前に掲げる。

 

 

 

『今を闘う男のスポーツ飲料、ポカエリアス』

 

 

 

「はいカットー!」

 

 

 

 

 

 

 第二章になって作風が変わったと思った? 残念! CM撮影でした!

 

「さっすが良太郎君! 一発オッケーだよ!」

 

「ありがとうございます」

 

 周りのスタッフが撤収作業をする中、タオルで濡れた体を拭いていると監督からお褒めの言葉をいただいた。

 

「いやー、こんなアクションをスタント無しでやってくれるのは良太郎君ぐらいなもんだよ」

 

 先ほどの撮影は監督の言葉通り、スタント無しでの撮影だった。いや、俺以外の三人はスタントの人なのでスタント無しの撮影というには語弊があるのだが。

 

 高町家での体力作りはこうしたCMやドラマでのアクションシーンでも有効活用されている。例えば俺のデビュー作である『覆面ライダー(ドラゴン)』では覆面ライダー天馬(ペガサス)に変身する前の状態での戦闘シーンは全てスタントを用いずに行い、投げ出された赤ん坊を助けるためにビルの二階から飛び出すシーンの撮影では本当に投げ出された赤ん坊の人形をビルから飛び出し空中で抱きかかえた。当然下にはマットを敷いていたが。

 

「これぐらいのアクションシーンなら多分765プロの菊地真ちゃんも出来ると思いますよ」

 

「お、ホントに? 765プロは最近人気急上昇中だし、それはいいことを聞いたね」

 

 今度は二人の共演でよろしくねー、という監督の言葉に会釈をして応じてから俺は着替えを行う為に設けられたテントへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 765プロ感謝祭ライブから早一週間が経とうとしていた。

 

 あの台風の中行われたライブは多くの人の記憶に765プロダクションの名を刻み、そして世間からの注目度も激増することとなった。人々の口コミによるものもあるが、善澤さんが書いたライブ成功の記事もそれに大きく貢献しているだろう。ちなみにライブの時に話していた周藤良太郎一押しの記述は無かったが、まぁあってもなくても変わらなかっただろう。

 

 細かい話はどうでもよくて、要するに765プロ所属の子達はようやく人気アイドルとして認知され始めた、ということだ。

 

『それでね! 今日も沢山の人に道で声かけられちゃったの! 765プロの星井美希ちゃんですかって!』

 

「おー、凄いじゃん。美希ちゃんもすっかりアイドルらしくなっちゃったね」

 

 次の仕事へ向かう車の中。かかって来た電話は美希ちゃんからのものだった。彼女はメールだけでなく最近ではこうして電話でも近況報告や何気ない世間話を持ちかけてくる。頻度的には減少しているのが彼女も忙しくなっている証拠である。

 

「じゃあ美希ちゃんも俺みたいに変装用の小道具を使わないとね」

 

『あ! じゃあミキもりょーたろーさんみたいな伊達眼鏡つけてみようかな』

 

「あー、いいかもね。美希ちゃんの金髪だったら赤い縁の眼鏡は似合いそうだ」

 

 頭の中の美希ちゃんに赤い眼鏡を掛けさせながらそう答える。変装用の眼鏡をかけさせるだけのはずなのにも関わらず頭の中の美希ちゃんは何故か白い水着のようなチアガール姿で頭にはサンバイザーを付けていた。そして何故かその脇には似たような格好をしたあずささんと黒髪の女の子の姿……誰だこれ。果たして俺は一体何の電波を受信したんだか。

 

 

 

 個人的に765プロで大きく変わったのは美希ちゃんだと思う。それは内面的な意味と外見的な意味の両方でだ。

 

 何となくではあるのだが、少し落ち着いたような気がする。以前は良くも悪くもキャピキャピした現役女子中学生といった雰囲気だったのだが、今ではすっかりアイドルとしての貫録が出始めているような気がするのだ。別に言動や行動が直接変わった訳ではないので俺の勘違いや見方が変わっただけという考えもあるが。

 

 そして次に変わったのが髪型である。とは言っても別にあの金髪をバッサリと切って茶髪に染め直したというそんな大きな変化がある訳ではない。というかアイドルがそこまで大きく髪型を変えたらダメなような気がしないでもない。では何が変わったのかと言うと、今まで外に撥ねるようにかかっていたパーマが少し内側に巻き込むようなパーマになったのだ。前述の雰囲気の変化はきっとこの髪型の変化も関係しているだろう。

 

 変えた理由に関しては特に深い理由がある訳でもなく「何となくイメチェン」と彼女は語っていた。美希ちゃんはあの感謝祭ライブで何かしら思うことがきっとあったのだろう。そして内面に変化があったことで外見も無意識的に影響を受けてしまったのではないかと考えている。

 

 まぁどっちでも可愛いから無問題なんだけどね!

 

 

 

『でも、ホワイトボードがいっぱいになるぐらいお仕事が入るようになったのは嬉しいけど、時間が取られ過ぎるのも不満なの』

 

「あぁ、やっぱり自由な時間がまだ欲しいよね」

 

『うー、キラキラの向こう側もすっごく見たいけど、ぶらぶらと歩きながら服も見たいし、何よりりょーたろーさんのライブだって見に行きたいの』

 

 まぁ、彼女だってまだまだ女子中学生だ。アイドルとしての仕事以外にやりたいことはたくさんあることだろう。俺もアイドルになったのは今の美希ちゃんと同じ中学二年の頃。友達と遊びにだって行きたかったしゲームだってしたかった。

 

『りょーたろーさんは、そういうのないの? アイドル以外にやりたいことってないの?』

 

「んー? そりゃあ当然あるよ。俺だってまだまだ華の高校生だ」

 

 出来るのならば遊びにだって行きたいし、積んであるゲームだって崩したい。

 

 でも。

 

「今の俺は、アイドルをしている時が一番『楽しい』って感じるからね」

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 これからファッション雑誌の撮影があるという美希ちゃんとの通話を終了し、携帯電話を閉じる。

 

「……アイドルをしている時が一番楽しい、ね。結構なことじゃないか」

 

 でもな、と運転席から声を掛けられた。

 

「お前のアイドルとしての活動は『仕事』でもあるということを忘れるんじゃないぞ。自分の好きなことを仕事としてやれるってのは、それはそれで素晴らしいことだ。でもお前のそれは既に個人の趣味や楽しみだけで納まる問題じゃない」

 

 お前を望む人たちに対する義務が発生しているのだ、と。

 

 静まり返り、カチカチとウインカーの音だけが響く車内。

 

「……兄貴……」

 

 それを破ったのは、俺の少し震えるような声だった。

 

 

 

「……いつの間に退院してたんだ?」

 

「一体いつの話してんだよ!?」

 

 

 

 俺の疑問に対し、兄貴が驚愕の声を上げながらこちらを向いた。ちょ、余所見運転ダメ絶対。

 

「感謝祭ライブの当日に送り迎えしてやってるんだからそれより前にはちゃんと退院してたわ!」

 

「え、だってあれだけ入院に話使ったのに退院の描写一切なかったじゃないか」

 

「喧しい! 『あ、普通に出してたけどそういやこいつ入院してたんだった……まぁいいか、退院してたってことにしよう』って言われた俺の悲しみがお前に分かるのか!?」

 

 運転しながらもギャーギャーとここにいない誰かに対する文句(メメタァ)を叫ぶ兄貴。全く、計画性の無さは今に始まった話じゃないってのに。

 

「そんなことより」

 

「そんなことより!?」

 

 ほらほら、ギャグパートは終わりだって。

 

「俺には義務があるって話だっけ? 残念だけど俺には関係ない話だよ」

 

 未だに不服そうに睨んでくる兄貴の視線を受け流し、助手席の窓枠に肘を突く。

 

 

 

「アイドルを続けようと心に決めたその日から、俺の気持ちは何一つとして変わってないからな」

 

 

 

 きっとこれは、変わりゆくアイドルと変わらぬアイドルのプロローグ的な何か。

 

 

 




・戦闘シーン
やはり不慣れ。こんな技量ではきっと恭也の戦闘シーンとか絶対無理ぽ。

・ポカエリアス
有名なスポーツドリンク二つの名前を混ぜてみたら、すっごい何かしらをやらかしてしまいそうな名前になった。

・投げ出された赤ん坊を助けるためにビルの二階から飛び出すシーン
ちょうど先日『Monsterz』を見てきたので、PVにもなってたシーンをイメージしてみた。
感想としては藤原さんの眼力がすごかったです。

・一体何の電波を受信したんだか
出所は作者の手元にあるローソンのクリアファイル。
どうして貴音は一人だけこんなにエロいんですかねぇ……。

・美希の髪型の変化
実は今までの美希の髪型はアニマス版ではなくゲーム版だったのだよ!
 Ω ΩΩ < ナ、ナンダッテー!?
本当は茶髪版覚醒美希にでもしようと思ってたのですが、アニマスから大きく離れすぎるために不採用となりました。

・「……何時の間に退院してたんだ?」
作者の本音。きっと皆さんの中にも何人か思った人がいるはず。
気付いた時はリアルで「やべ」って言っちゃいました。

・「俺の気持ちは何一つとして変わってないからな」
もちろん向上心はある。
しかし、変わらぬ思いは果たして美徳か停滞か。



 というわけで始まりました第二章です。ただアニメ二期の部分に入ったというだけで特に大きく変わる点はありません。

 これからもどうかよろしくお願いします。


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Lesson39 HENSHIN!

このお話はアニマス13話と14話の間、所謂空白期のお話となります。

REX版の漫画アイマスを参考にして書いておりますので、是非そちらも読んでみてください(ステマ)


 

 

 

 あの忘れられない感謝祭ライブからしばらく経ち、私達に対する世間の注目度がだいぶ変わった。その変化は街中など様々なところで窺うことが出来た。

 

 例えば、お店の窓ガラスに私達のポスター(しかも個人別の物)が貼られていたり。

 

 例えば、テレビやラジオで最近活躍しているアイドルとして取り上げられたり。

 

 そして最も顕著なのが……。

 

「え? 春香も?」

 

「も? ってことは、やっぱり真も?」

 

「うん、握手求められたりサイン求められたり……」

 

 そう、周囲の人間の私達に対する反応である。以前までは普通に街を歩いていて声を掛けられるなんてことはほとんど皆無に等しかったというのに、あの感謝祭ライブが終わってからは街中で度々声を掛けられるようになったのだ。昨日も学校帰りに友人二人と歩いていたところ、他の学校の男子学生に握手を求められてしまった。

 

 ちなみにその時「握手ぐらいなら」と私は考えていたのだが「あんたはアイドルとしての自覚を持ちなさい!」と友人に怒鳴られてしまった。律子さんみたいなことを言うなぁと思ったが、確かに意識が薄かったかと少し反省。

 

「だから僕はこうやって帽子を深くかぶって来たんだけど……」

 

 そう言いながら真は帽子を目深に被る。目元を隠した真は、着ている服も相まって男の子のようだった。

 

「私も帽子被ったりマスクしたりしてるよ」

 

「雪歩も?」

 

「うん。普通にマスクしている人も多いから目立たないし」

 

「うーん、やっぱり顔バレしないように気をつけなきゃ駄目かなぁ」

 

 ファンの人に声を掛けられること自体は大変喜ばしいことではあるのだが、騒がれて周りの人に迷惑をかける訳にはいかない。

 

「千早ちゃんはどうしてるの?」

 

「私?」

 

 向かいのソファーに座る千早ちゃんに問いかけると、千早ちゃんは読んでいた雑誌から顔を上げた。

 

「私は特に何もしてないけど」

 

「え?」

 

「握手やサイン求められたりしないの?」

 

「いえ、されるわ。今日も……えっと、三人ほど」

 

「お、男の人に……!?」

 

 未だにプロデューサー以外の男の人に慣れていない雪歩が声を震わしながら千早ちゃんに尋ねる。

 

「ええ。でも普通のことでしょ? 隠す必要無いと思うわ」

 

「む、無理ですー!」

 

 まぁ、男の人か女の人かという点は置いておいて。

 

「でも、今後はみんなますます知名度も上がっていくだろうし、何か対策が必要かもしれないわね」

 

 ホワイトボードにみんなの予定を書き込んでいた小鳥さんが会話に参加してくる。いつも真っ白だったホワイトボードは、あの感謝祭ライブ以降急激に増えた仕事が書き込まれたおかげで今では白いところの方が少なくなってしまっていた。

 

「ただいまー!」

 

「ただいまなのー」

 

「ふひぃ~、クタクタだぞ……」

 

 ホワイトボードに書かれた仕事の量に改めて驚いていると、雑誌撮影に出ていた真美、美希、響、プロデューサーが帰って来た。

 

「って、アレ? 美希、その眼鏡どうしたの?」

 

 美希は以前かけていなかった赤い眼鏡をかけていた。

 

「ふっふーん! りょーたろーさんとお揃いの赤い伊達眼鏡なの!」

 

 そう言いつつ美希は自慢げに眼鏡のつるを指で押し上げる。赤色が美希の金色の髪と良く合っていた。

 

「りょーたろーさんに変装の小道具に赤い伊達眼鏡がきっと似合うって言われたから早速買って来たの!」

 

 なるほど、良太郎さん直々に勧められたのであれば美希が上機嫌なのも頷ける。

 

「もー、ミキミキってば撮影の間ずっとそのこと自慢してくるんだよー!?」

 

 ぷーっと頬を膨らませて怒りを表しながら美希を睨む真美。

 

 そういえば変わったことと言えばもう一点。これは感謝祭ライブとは関係なく、むしろそれ以前からの話になるのだが、真美がすっかり良太郎さんファンになったということだ。別に今まで良太郎さんに興味がなかったというわけではないのだが、美希に続く良太郎さんファン、とでも言えばいいのだろうか。よく二人で良太郎さんの話をしている光景を見るようになった。直接本人に出会って話をして更に携帯電話の番号まで交換して、何か思うところがあったのだろう。

 

「マミもりょーにぃに何が似合うか聞こうと思ったら電話出ないしー……!」

 

 うーん、やっぱり私も変装用の小道具、何か考えないとなぁ……。

 

 

 

 

 

 

「うんうん、注目してた子達がこうして売れていくのを見るとやっぱり自分のことのように嬉しくなるね」

 

 765プロの特集が組まれた雑誌のページを捲りながら独りごちる。

 

「へー、良太郎の一押しだったんだ。わたしも気になってたんだよ?」

 

「お、フィアッセさんのお眼鏡にかなう子がいましたか?」

 

「うん、如月千早っていう凄い歌が上手な子」

 

「あー、なるほど。やっぱり歌手としてはそっちに目が行きますか」

 

「……そろそろ突っ込んでいいか?」

 

「ん?」

 

 喫茶『翠屋』の店内。諸事情により歌手業を休止して翠屋の店員をしつつ日本に滞在中のフィアッセ・クリステラさんと765プロのことについて話していると、何故か恭也が目を瞑ってこめかみを人差し指で抑えていた。

 

「どうした恭也、頭でも痛いか?」

 

「そうなの? 恭也、無理しないで休んでた方がいいよ?」

 

「いや、違う、そうじゃないんだ」

 

 フィアッセさんの優しい言葉に首を振り、恭也は改めて視線をこちらに戻すと一拍置いてから再び口を開いた。

 

「良太郎、お前のその格好は何だ?」

 

「? 見て分からないか?」

 

 何やら俺が今着ている服の名前が分からなかったらしい恭也のために、その場でくるりとターンを決めてから右手を後頭部に、左手を腰に当ててポーズを決める。

 

 

 

「メイド服に決まってるじゃないか」

 

 

 

「……そんな当たり前のように言われても俺が困るんだが」

 

「それに対して俺もどう返答していいのか分からないが」

 

 とりあえず言っておくが、断じて女装趣味に目覚めた訳ではないということだけ明言しておく。

 

 今回メイド服を着ることになったのは、765プロ感謝祭で送った大量の花輪が原因である。

 

 以前早苗ねーちゃん達に向かって自分は高給取りであると言ったが、実際のギャラ全てが俺の懐に入る訳ではない。俺が仕事で稼いだお金は全て兄貴が管理しており、そこから月給と言う形で俺に支給されるという形式になっている。これは一般的な事務所に所属するアイドルと同じはずだ。つまり一ヶ月に使用することが出来るお金は常に一定となっており、それ以上の金額を使用しようとすると貯金を切り崩すしかないのだ。当然貯金はそれなりに貯まっているものの、前世の記憶が庶民的だったためか知らないがあまりそこら辺に頼った生活をしたくない。そこで考えた独自のルールが『一定以上の金額を使用する場合、別途何らかの方法で金銭を稼ぐ』というもの。

 

 まぁ要するに『不足分はアルバイトして稼ぐ』ということだ。

 

 しかしそこで問題になってくるのは『果たして周藤良太郎がアルバイト出来る場所があるのか』ということだ。それは『アルバイトをする能力のある無し』ではなく『周藤良太郎としてアルバイトをした場合に生じる問題』と言う意味である。何度も言うようだが俺はトップアイドルである。老若男女問わず人気のある俺が近所のコンビニでアルバイトすることが出来ようか? 否、出来ない(反語)。

 

 つまり俺がアルバイトをする場合『周藤良太郎を快く受け入れてくれるアルバイト先があるか』という問題と『周藤良太郎としてバレない方法があるか』という問題の二つが挙げられる訳だ。

 

 一つ目は簡単に解決。昔から馴染みのある翠屋に頼めばいいのだ。まだアイドルとして有名になる前からちょいちょいアルバイトをしていたため勝手は知っている。士郎さんと桃子さんに頼んだら二つ返事でOKを貰うことが出来た。いやぁマジ感謝。

 

 そして二つ目の問題。これも当初はいつもの帽子と眼鏡を装着することで解決しようと考えていたのだが、店内で帽子を被るのもどうだろうか。いやまぁこの翠屋の常連さんは俺が良く来ることを知ってるし、別にバレても問題ないといえば問題ないのだが。

 

 

 

「そこでこのメイド服だよ」

 

「話が飛躍しすぎて何が『そこで』なのかが一切分からんぞ」

 

 

 

 もっと行間を読ませろと恭也は愚痴る。

 

 半袖にロングスカートのエプロンドレス、胸元にはさりげなく赤いリボン。黒髪の長いかつらを被り、その上には純白のカチューシャ。本来ならこれは作業中に髪が邪魔にならないように抑えつけるのが目的なので意味がないのだが、そこら辺はご愛敬。さらに桃子さんによって薄く施されたメイクにより見た目は完璧美少女(自画自賛)。常に無表情で笑顔がないのがマイナスポイントだが、それを差し引いてもクールビューティーメイドの誕生だ。

 

 『女装』も十分に変装の一種である。これにより周藤良太郎だとバレずにアルバイトが可能となったのだ。

 

「大体、何処からそのメイド服を持って来たんだ」

 

「いや、この服持ってきたの桃子さんだけど」

 

「母さん……」

 

「さらに言うと本当だったら恭也に着せるつもりだったとも言っていた」

 

「母さんっ!?」

 

 悲鳴のような声を上げて驚愕する恭也がカウンターの向こうの桃子さんに振り向くが、当の桃子さんは「うふふ」とただ笑うだけだった。

 

 なおこのメイド服、本来は高町家長女の美由希ちゃんに着せるつもりで買ってきたがサイズが大きすぎたからサイズを合わせるための手直し待ちだったものらしい。美由希ちゃんの分はまた後日買ってくるとか。美由希ちゃんのメイド服が見れる日も近いな。

 

 ちなみにその美由希ちゃんは友人と遊びに行っているため不在。なんか最近タイミングが合わずに全然会っていない気がするが、気のせいだろうか。

 

「フィアッセはおかしいと思わないのか!?」

 

「似合ってるよねー、良太郎のメイド服」

 

「俺だけか!? 俺だけがこの状況をおかしいと思っているのか!?」

 

 クールな恭也にしては珍しく頭を抱えてうがーっと吠える。

 

「良太郎お兄さん、とっても綺麗です!」

 

「ありがとー、なのはちゃん。でも今はお兄さんだとアレだから『リョウお姉さん』って呼んでくれ」

 

「はい! リョウお姉さん!」

 

 グリグリと頭を撫でると、髪がぐしゃぐしゃになっちゃうよーと言いつつも満更でもない表情で目を細める翠屋の小さな店員さん(俺とお揃いのエプロンドレス着用)。

 

 

 

「……俺に、味方はいないのか」

 

 

 

 というわけで、本日の周藤良太郎は『メイド』として翠屋でアルバイトである。

 

 さ、張り切って働いていこう!

 

 

 




・フィアッセ・クリステラ
以前から名前だけ出ていたとらハ世界の歌姫がようやく登場。しかし原作未プレイの作者の情報源は他の二次創作作品のみ。これでちゃんとフィアッセさんになっているのかが大変不安である。

・「メイド服に決まってるじゃないか」
以前からご要望があった女装ネタ。
第二章開始早々この主人公は一体何をしているんだ(呆れ)

・アルバイトをする理由
感想で何人かの読者に「これだけ売れてるアイドルがそれぐらいで金欠になるのは疑問だ」と言われたので辻褄を合せてみた()

・美由希は不在
やはり不憫だった。

・「良太郎お兄さん、とっても綺麗です!」
純粋なのはちゃんマジ天使。ちなみに何気にメイド服着用。



 前書きでも書いたように、14話までの空白期はREX版の漫画を参考にさせていただいております。

 ちなみに漫画版は他に「The world is all one」「カラフルデイズ」「眠り姫」を既読済み。魔王エンジェルをタグ登録してプッシュしているくせに実は「relations」は読んだことがないという……。


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Lesson40 HENSHIN! 2

ラブライブ終わってしまいましたね……。

最近はラブライブメドレーを聞きながら執筆作業をしております。

……何かおかしいこと言いましたかね?


 

 

 

「いらっしゃいませー。四名様ですか? こちらのテーブル席へどうぞ」

 

 接客なう。

 

 完全武装メイド姿でホールスタッフとして現在労働中である。中学生の頃に軽いお手伝い(バイトだと法律的にアウトのため)をしていたので接客はお手のもの。他にもオーダー取りテーブルセッティングレジ打ちなんでもござれだ!

 

「あれ、お姉さん新しいバイト?」

 

「はい。今日だけ臨時でアルバイトに入った周藤良子です。よろしくお願いします」

 

 常連さんの奥様に声を掛けられ、無表情のまま挨拶をする。接客として笑顔がないのは若干アレかもしれないが、そこはキャラということで。

 

「へぇ、周藤良太郎君と随分と似た名前なのね」

 

「よく言われます」

 

 この常連さんは俺とも顔見知りのはずなのだが、一切気付く様子が無い。

 

 ちなみに周藤良子は母さんの名前である。周藤ハーマイオニーとでも名乗ろうかとも思ったのだが、別の女装男子の名前と被るのでやめておいた。さらにあんまり使われることがない完全声帯模写の特技を駆使して声も母さんのものにしてあるため、これで俺が男だとばれることはほぼ無いはずだ。もしばれたら多分その人は無意識的に女性を避ける人物か人を疑うことしかできない人物だろう。

 

 さぁ、本日の翠屋は美人美少女店員三人組(+イケメン親子+美人人妻)でお送りするぞ! 来いよお客さん! 財布の紐なんか投げ捨ててかかってこい!

 

 

 

「ふふ、ホント昔から良子ちゃんは働き者ね」

 

「……母さん、さも当たり前のようにアイツを良子呼びするのはやめてくれ。アイツの性別が分からなくなる」

 

「良子ちゃーん、これ運んでくれー」

 

「はーい!」

 

「父さん……」

 

「良子ー、レジ代わってくれるー?」

 

「フィアッセまで!?」

 

「リョウお姉さーん!」

 

「なのは!?」

 

 

 

「どうした恭也、さっきから。しっかりと仕事しろ」

 

「喧しい!」

 

「?」

 

 何故怒鳴られたのだろう……解せぬ。

 

 

 

 

 

 

「えっと、こっち……だよね」

 

「うん、道は合ってるみたいだよ」

 

 午前中の仕事が終わり、私と千早ちゃん、真、雪歩の四人はとある場所に向かって歩いていた。

 

 本日の仕事はこのメンバーでの雑誌の写真撮影だった。全員で制服に着替えての撮影で、普段着ている制服がセーラー服なのでブレザーの制服は新鮮だった。なお、真が一人だけ男子生徒の制服だったのはもはや予定調和だったので(真を含め)誰も何も言わなかった。本人も諦めたのか、ふっきれたのか、それとも自然過ぎて気が付かなかったのか。

 

 さて、それで私達が何処に向かっているのかというと、喫茶『翠屋』である。

 

 喫茶『翠屋』。良太郎さんが差し入れに持って来てくれたシュークリームの箱に書いてあったその名前を調べてみたところ、どうやらテレビの取材も訪れるほどの名店だったらしい。あの美味しかったシュークリームをもう一度食べたくなり、幸い四人とも夕方まで空き時間があるため、ならば四人で行ってみようという話になったのだ。

 

『そうか、楽しんでこい。ただ、四人とも身バレには気を付けてくれよ? しっかりと自分がアイドルだという自覚を持ってくれ』

 

 翠屋に行くと伝え撮影現場で分かれたプロデューサーさんの言葉である。

 

 先日のこともあり、身バレについて多少は気にかけているつもりではある。一応、私と雪歩はマスクを、千早ちゃんと真は帽子を被っている(千早ちゃんは帽子を被って来ていなかったので真が予備に持っていたものを借りた)。傍から見ると若干怪しい四人組にも見えない気がしないでもないが、流石に不審者として通報されることは無いだろう。正体がバレないことが最優先である。

 

「あ、見えてきた! たぶんあれだよ!」

 

 真が指差すその先に、その店はあった。店名と同じ緑色の看板を掲げた喫茶店、翠屋である。

 

「わー! 可愛いお店だね!」

 

「早く入ろう!」

 

「そ、そうね」

 

 あまり喫茶店やケーキ屋さんには入らないと言っていた千早ちゃんの背中を押しながら、入口へと向かう。

 

 そして扉の取っ手に伸ばした私の右手が、横から伸ばされた別の人物の手に触れた。

 

「あ、ごめんなさい」

 

「こっちこそごめんなさい……って、あれ?」

 

 横から同時に手を伸ばしたその女性が私達の姿を見て首を傾げるのを見て、慌てて私達は顔を逸らす。

 

(も、もしかしてバレちゃった……!?)

 

 しかし、その不安は杞憂に終わることとなる。

 

 

 

「久しぶり。765プロの……天海春香、だよね?」

 

 

 

「え?」

 

 久しぶり、という言葉に引っかかって顔を上げる。

 

 そこにいたのはサングラスをかけた女性。初めは誰だか分からなかったが、サングラスを外したその姿は確かに久しぶりと言う言葉が正しい人物、しかし個人的にはテレビで何度も見た人物であった。

 

「さ、三条ともみさん!?」

 

 1054プロダクションに所属するトップアイドルグループ『魔王エンジェル』の三条ともみさんだった。テレビで何度も見かけたが、こうして直接会うのはあの大運動会以来である。

 

「お、お久しぶりです!」

 

 別事務所とはいえ業界で言えば私たちではまだまだ足元にも及ばない大先輩との突然の邂逅に、私達は変装のために付けていたマスクや帽子を外して挨拶をする。

 

「そんなにかしこまらなくていい。わたしもあなた達もオフなんだし。そういうことに関しては、わたしは律子みたいに厳しくするつもりはないから」

 

 ね、と微笑むともみさん。なんとも優しい態度……確かに常日頃から上下関係に厳しい律子さんとは大違いの態度である。

 

「そういえば聞いたよ。初の感謝祭ライブ大成功おめでとう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「本当は行きたかったんだけど、お仕事があって行けなかったんだ」

 

「い、いえ、お気持ちだけで十分ですよ!」

 

「お、お心遣いありがとうございますぅ~!」

 

 ぶんぶんと手を振るが、しかしその言葉はとても嬉しかった。感謝祭ライブのことは実際に会場に来てくれた良太郎さんからも称賛の言葉を貰い、嬉しかったり恥ずかしかったり。当然あのライブを自分で卑下するつもりはないし、自分でも最高のライブだったと胸を張れる。だがこうしてトップアイドルの皆さんから褒められるとやはり嬉しいのだ。

 

「あ……こうしてお店の前にいたら邪魔になっちゃうから」

 

「あ、はい」

 

 入ろうか、と言うともみさんの言葉に頷く。ともみさんが扉の取っ手に手を伸ばしたので、私達は慌てて再びマスクや帽子を装着しようとするが、そんな私達の様子を見て再びともみさんは言う。

 

「そんなに気にしなくても大丈夫」

 

 ……えっと、それはまだ私達が身バレを気にするほど有名になっていないと言っているのだろうか。

 

「このお店はリョウがデビュー前から通ってて、店員さんはもちろん、お客さんもアイドルぐらいで騒ぐ人はそうそういないから。特に昼過ぎのこの時間は」

 

 わたしも何度か変装無しで来てるし、とともみさん。なるほど、良太郎さんに慣れている店員さんにお客さんだったらつい最近有名になりだした私達程度では動揺しないと言うことか。……それはそれで、寂しいような悔しいような。

 

「それじゃあ改めて」

 

 ガチャリと扉を開けて、私達は店内へと足を踏み入れた。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 そんな私達を出迎えてくれたのは、なんとメイド服を着た美人のお姉さんだった。可愛らしいソプラノボイス、千早ちゃんのように真っ直ぐ綺麗に伸びた黒髪、すらっと伸びた長身、可愛いと言うよりはカッコいい美人。私もアイドルなのである程度自分の容姿に自信があるのだが、それでも思わず羨んでしまうぐらいの美人だった。しかしその表情は何故か無表情。これでニコリと笑ってくれたらとても絵になったのだが。

 

「って、あれ、もしかして……『魔王エンジェル』の三条ともみちゃん? それに、えっと……765プロの天海春香ちゃんに、如月千早ちゃん、菊地真ちゃん、萩原雪歩ちゃんですか?」

 

 私達の顔を確認するなり驚いたといったリアクションを取るお姉さん。しかしその表情は一切変わらずに無表情なので本当に驚いているのかどうかの判断が出来なかった。

 

「え、えっと……」

 

 正直に頷いていいものかと逡巡するが、私達が反応する前にお姉さんは一人納得したようにパチリと手を合わせた。

 

「マスターからこのお店は芸能人の方が何人も訪れるって話を聞いていたのですけど、まさかアルバイト初日で会えるとは思っていませんでした」

 

 それじゃあお席の方に案内しますね、と言うお姉さんに案内されて私達はテーブル席へ。

 

「あれ? ともみさん、どうかしたんですか?」

 

 振り返ると、何故かともみさんが眉根を潜めてお姉さんをじっと見ていた。

 

「……あの無表情具合が良太郎に似すぎてて……」

 

「確かに、言われてみればそうですね」

 

 真もともみさんに同調しながら頷く。確かにどんな時も崩れることがない無表情は良太郎さんそっくりだ。

 

「御親戚の方ですかね?」

 

「言われてみれば、少し面影が……」

 

 お絞りと水の入ったグラスをテーブル席に置き、ご注文が決まりましたらお声をおかけくださいと言ってお姉さんは業務へと戻っていった。というか、ナチュラルにともみさんと同席することになってしまったが、ともみさんは何も言わないし個人的にもう少し話をしたかったので私も特に何も言わない。

 

「良子ちゃん、これお願いね」

 

「はーい」

 

 マスターらしき男性(かなりのイケメン)から受け取ったコーヒーを別のテーブルのお客さんに運ぶお姉さん。

 

「……良子、ねぇ……それにあの声……」

 

 先ほどよりも目が細くなっていくともみさん。ジトーッという擬音が聞こえてきそうなぐらい、もはや睨むようにお姉さんを見ている。

 

「もちろんシュークリームは頼むとして……あとはコーヒーが有名みたいだよ」

 

「千早ちゃんはどうする?」

 

「えっと……それじゃあ、私も同じもので」

 

 真たちはそうこうしている間に早々と注文を決めたようだ。もちろん私もみんなと同じものだ。

 

「ともみさんはどうしますか?」

 

「わたしも決まってる」

 

「それじゃあ……」

 

 すみませーん、と真が手を上げると、お姉さんが伝票を片手にやってきた。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「えっと、シュークリーム四つにオリジナルブレンド四つ。……ともみさんは?」

 

 真に問われ、未だにお姉さんを見ていたともみさんはポツリと呟いた。

 

 

 

「……33-4」

 

「なんでや! 阪神関係ないやろ! ……はっ!?」

 

 

 

 !?

 

「い、今の声……!?」

 

「も、もしかして……!?」

 

「……何故バレたし」

 

「流石に良子さんと同じ名前と声を使っていれば不審に思う」

 

 はぁ、と溜息を吐いたお姉さん(?)が発した声は、紛れもなく聞き覚えのある『男性』の声だった。

 

 

 

「で? どういうつもり、良太郎」

 

「まぁ、色々あってな」

 

 

 

「「「「~っ!!?」」」」

 

 

 

 ここで叫ばなかったことに対して、私は自分で私達を褒めたいと思った。

 

 

 




・周藤ハーマイオニー
某魔法使い少女……ではなく、この小説で既に登場済みの某執事。女装した時の名前としてぱっとこれが思いついた。

・無意識的に女性を避ける人物
某覚醒する炎の紋章に登場する剣士さん、もしくは妖精尻尾クロニクルの主人公さん。
両者とも、避けるというか拒絶というか……しかし高性能セレナのため、剣士さんにはティアモを娶ってもらわねばならぬのだ……(血涙)

・財布の紐なんか投げ捨ててかかってこい!
野郎オブクラッシャー!(女の子大歓迎的な意味で)

・自然過ぎて気が付かなかったのか。
凛ちゃんはあんなにもスカートが似合ったというのに……。

・なんとメイド服を着た美人のお姉さんだった。
※だが男だ。

・「なんでや! 阪神関係ないやろ!」
没ネタ「すっきりさわやか?」「マダゼスチンサイダー!」
※後に本編で美希がそのCM撮影する予定なので時系列を合わせた結果没に。



『どうでもいい小話』
 最近のお気に入りキャラをまとめてみた。

 星井美希(アイドルマスター)
 朝比奈りん(アイドルマスター)
 西木野真姫(ラブライブ)
 乾梓(辻堂さんの純愛ロード)
 キリエ・フローリアン(リリカルなのはAsGOD)
 新子憧(咲阿知賀編)

 友人「ビッ○っぽいのばっかりだな」
 作者「ぶっとばすぞ貴様」

 どうしてこうなった。


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Lesson41 HENSHIN! 3

活動報告に書いたようにPCが壊れたのですが……。

「土曜日」PC不調。立ち上がらずセーフモードすら起動しない。

「日曜日」修理に持っていくも「データは諦めてください」と言われ、「じゃあいいです」と新型ノートPCを購入&お持ち帰り。

「月曜日」執筆&投稿。

……自分で言うのもあれだが、PCが壊れてから復帰ってこんなに早いものだっけ……?
(とりあえず小説のデータは別保存してあったので無事でした)


 

 

 

 ある時は、ただの男子高校生……。

 

 またある時は、謎の美少女メイド……。

 

 かくしてその正体は……!

 

 

 

 ――世間を賑わすトップアイドル、周藤良太郎だったのだ!

 

 

 

「とりあえずご注文を繰り返させていただきます」

 

「あ、はい」

 

 

 

 

 

 

 シュークリームが美味しいという話で有名な喫茶店を訪れたら、そこの美人メイドさんが日本のトップアイドル(男)だったというちょっと何を言っているのか分からない状況にともみさん以外の全員が混乱すること約二分。「……あれで男……じゃあ僕って一体……」と暗黒面(ダークサイド)に落ちかけた真を光明面(ライトサイド)に呼び戻すこと約五分。全員の注文したものが再び美人メイド(男)さんに届けられた辺りで全員がようやく回復した。

 

「お待たせしました。シュークリームとオリジナルブレンドになります」

 

 相変わらずの無表情ながらその美貌で女性の声を出されると、その正体を知っていてなお男の人とは思えない。一体どんな声帯をしているのだろうか。

 

「えっと、聞いていいんですかね……?」

 

「ん? あぁ、大丈夫だよ。今はお客さん少ないし、マスターも大丈夫だって言ってるし」

 

 いつもの声に戻り良太郎さんは頷く。カウンターの向こうを見ると、マスターさんが笑顔でこちらに手を振っていた。

 

「というか、その格好で普通に男の人の声を使われると大変な違和感しかないのですが」

 

「というかキモイ」

 

「ともみさんがひどいっす」

 

 じゃあ女の子バージョンでいくよ、と再び蕩けるような甘い声に変わった。後で聞いた話によると良太郎さんのお母さんの声らしい。これが二児(二十六歳と十八歳)を持つ母親の声だと……!?

 

 良太郎さん……ええい、見た目とのギャップが酷いからもうこの格好の場合は良子さんに統一しちゃえ。良子さんの話では最近大きくお金を使うことがあったらしく、その分の埋め合わせをするためにこうしてアルバイトをしているらしい。まさかトップアイドルがこうして喫茶店でアルバイトをしているとは夢にも思わないだろう。

 

 というか、恐らくその最近あった大きくお金を使うこととは感謝祭ライブで私たちに贈ってくれた多数の花輪のことだろう。詳しい金額を詮索するのは野暮だし何より失礼だろうと思って調べることはしなかったのだが、それが膨大な金額になることぐらいは容易に想像することができた。

 

 私たち四人の顔色が変わったことに気付いたのか、良子さんは気にしないでと手を振った。

 

「あれは私が自分で勝手にしたことだから、君たちが気にすることじゃないよ。アルバイトだって楽しく働かせてもらってるわけだし、大変ってわけじゃないから」

 

「……ありがとうございます」

 

 感謝祭ライブが終わった後に765プロの全員でお礼を言いに行ったのだが、改めてこの場で私たち四人は揃って頭を下げた。

 

「アルバイトの理由は分かった。それで? そのメイド服の理由は?」

 

 私たちの話がひと段落したところで、ともみさんが最も聞きたかった重要な疑問点を聞いてくれた。

 

「ここでアルバイトをする上での変装の代わりみたいなものよ。ほら、いくらここの常連さんと顔なじみだからって堂々とアルバイトしてるのもアレでしょ?」

 

「いつもみたいに眼鏡と帽子でいいじゃない」

 

「室内で、しかも接客中に制服でもないのに帽子被ってるのはどうかと思うんだ」

 

「メイド服はどうかと思わなかったの?」

 

「そりゃあ変だとも思ったけど、よく見てよ」

 

 そう言うと良子さんはその場でクルリとターンを決めた。ひらりとロングスカートが膝の辺りまでめくれ上がる。ちらりと見えた足はしっかりとムダ毛の処理がしてあり、本当に性別が分からなくなるほど綺麗な足で、左手でスカートを軽く持ち上げ、右手を頭の後ろに添えるそのポーズも何故か堂に入っていた。

 

「似合ってるでしょ?」

 

「いや、まぁ」

 

 女としての自信にひびが入りそうになるぐらいには。これは真じゃなくても十分に落ち込むレベル。

 

「普通、男の人ってそういう女の人の格好をするのを嫌がると思うんですけど……」

 

 その言葉に、ポーズを取ったまま堂々と良子さんは言い切った。

 

 

 

「似合っているならそれでいいのよ!」

 

 

 

「「「「……えぇー……」」」」

 

 まさかそこを言い切るとは思わなかった。四人が引き気味に声を揃える。

 

 ……ん? 四人?

 

「ですよね!」

 

「ゆ、雪歩!?」

 

 突然、目を輝かせた雪歩がその場で立ち上がった。その目は何故かキラキラを通り越してギラギラと怪しい光を灯していたような気がした。

 

 

 

「似合っていれば『女の子が男の子の服を着ても』何の問題もないですよね!」

 

 

 

「えぇ、そうよ雪歩ちゃん。問題ないの」

 

「良子さん……!」

 

 何故か感激した様子の雪歩と良子さんがガシッと握手を交わしていた。

 

「あぁ、雪歩が男の人の手を握ってる……成長したんだね、雪歩……!」

 

 そして何故か真が感極まっていた。いや、確かにあの雪歩がいくら顔見知りの男性だからといって手を握ることが出来たことに対しては驚きだが。しかしこれは見た目が完全に女性だから可能だっただけなような気がする。

 

 でも、何だろう、雪歩の成長に真が感激してるけど……将来的に真が割を食うことになるような気がするのは気のせいだろうか。……気のせいだろう、真が男の子の格好をしているのなんて割とよくある話だった。

 

「どうぞ」

 

「え?」

 

 良子さんと雪歩のやり取りを微妙な気分で見ていると、別の女性の店員さんが私たちのテーブルにイチゴのショートケーキを人数分置き始めた。

 

「えっと、私たち頼んでないですけど……」

 

「良子のお知り合いの方のようですので、マスターからのサービスです」

 

 にっこりと笑顔を見せる店員さんはこれまたすごい美人だった。亜麻色の髪に碧眼の日本人離れした美人。これでまた良子さんみたいに性別が違うなどと言われたらもう私は女としての自信を喪失すると共に人を信じることが出来なくなるだろう。

 

 ……って、あれ? この人、どこかで見たことあるような……。

 

「……え!? も、ももも、もしかして……!?」

 

 誰だっただろうかと考えていると、突然千早ちゃんが狼狽しながら立ち上がった。

 

「ふぃふぃふぃ、フィアッセ・クリステラさん、ですか……!?」

 

「あら、バレちゃった?」

 

 フィアッセ・クリステラ!? イギリスが誇る世界の歌姫が何でこんなところに!?

 

「あ、あの、わわわ、私、貴方の大ファンで、えっと、その……!」

 

 お、おぉ、あの千早ちゃんが初めて良太郎さんと対面した時の美希みたいになってる。美希にとっての良太郎さんみたいに、歌メインの千早ちゃんはフィアッセさんに強い憧れを持っているのだろうと容易に想像できた。しかしまさか千早ちゃんがこんな風になっちゃうとは。

 

「あら嬉しい。私も貴方のファンだったのよ? 如月千早」

 

「え、えぇ!?」

 

 フィアッセさんの突然の告白に顔を真っ赤にして驚く千早ちゃん。余りにもレア過ぎるその表情を思わず写メしておきたかったが、流石に空気を読んで携帯電話は仕舞っておく。

 

「今はちょっとお仕事をお休みしてるところだけど、いつか機会があったら同じステージで歌えるといいわね」

 

「あ、あ、ありがとうございます!」

 

 差し出されたフィアッセさんの手を両手で包み込むようにして握る千早ちゃんはとても興奮しつつも凄く嬉しそうだった。

 

「………………」

 

 それにしても、と我に返る。

 

 女性店員二人と握手を交わす二人と、感極まっている一人。そんな三人が同席するテーブルで、なんか逆に私だけが浮いているような気がしてならなかった。いくらお客さんが少なくても当然いないわけではないので多くの視線は向けられており、それが暖かく見守るような視線なのが余計に恥ずかしくて……。

 

「えっと、ともみさん……」

 

「頑張って」

 

「まだ何も言ってませんよ!?」

 

 いつの間にか自分のシュークリームを頬張っていたともみさんに、相談する前から見放された。どうやら一切関与するつもりはないらしい。

 

(変装、しておけばよかった……)

 

 顔が若干熱くなるのを感じながら、入店する前に外してしまったマスクをぎゅっと握りしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 良太郎とフィアッセさんが業務に戻ったところで全員が落ち着き、シュークリームとショートケーキとコーヒーに舌鼓を打つ。

 

「うぅ、疲れた身体にシュークリームとショートケーキの甘さが染み渡るよ……」

 

「どうしたの春香?」

 

「ううん、何でもないよ千早ちゃん……」

 

 天海春香が一人だけ疲れた様子だったが、今後のことを考えると頑張ってもらいたいところだ。

 

「それにしても、変装、変装かぁ……」

 

「真ちゃん?」

 

 カチャカチャとティースプーンでコーヒーをかき混ぜながら菊地真が唸る。

 

「流石に良太郎さんみたいに性別まで偽って、とは言わないけどさ。僕たちも周りの人たちにバレないように気を付けないといけないわけだよね」

 

「うーん……」

 

「いつも普通に通っていたお店とか、普段の姿で行って騒がれでもしたら迷惑かかっちゃうし……」

 

「確かにそうだね……」

 

 ここに入る時もそうだったが、どうやら彼女たちは有名になったことによる弊害の一つである身バレについて悩んでいる様子だった。

 

「………………」

 

 わたしは、麗華やりんみたいに先輩風を吹かせるつもりは一切なかった。彼女たちもアイドルになった以上、時に一緒に頑張り時に競い合う、そんな関係であればいいと考えていた。

 

 

 

 しかしそんな彼女たちを見て。

 

 

 

 ……少しだけ、意地悪がしたくなった。

 

 

 

 

 

 

おまけ『ニアミス』

 

「そういえば、今日は麗華やりんは一緒じゃないんだな」

 

「うん、二人で買い物に行くって言ってた」

 

「ふーん……」

 

 

 

 

 

 

「……りょーくんとニアミスした気がする!?」

「……良太郎さんとニアミスした気がする!?」

 

 

 

「「……ん?」」

 

 

 

 某ショッピングモールにて。

 

 同じアイドルメンバーと共に買い物に来ていたツインテール少女と、兄の恋人と共に買い物に来ていた三つ編み眼鏡少女の叫びが重なったとか重ならなかったとか。

 

 

 




・ちょっと何を言っているのか分からない
度々使用しているが、今更ながら補足するとサンドウィッチマンネタ。
最近ネタ番組本当に減ったなぁ……。

・暗黒面と光明面
帝王○ーグ「お前の父は私だ」
バ○「嘘だぁぁぁ!?」

・雪歩と良子さんがガシッと握手を交わしていた。
生っすかへの布石と共にここにキマシタワーを建てよう(提案)

・千早とフィアッセ
相変わらずちゃんとフィアッセさんになってるかどうかはまぁ別として。
普段クールなちーちゃんはこういう風に尊敬している人に対してはミーハーになるんじゃないかと妄想してみる。

・おまけ『ニアミス』
しかし片やヒロイン級、片や不憫担当。
……全ては髪型が作者のストライクに入るか入らないかが決め手であった。
あとおっぱい。



 PCが新しくなり、気分も一新!

 ……アイチューンズの中身が全部飛んだけど小説が無事ならそれでいいし(涙声)


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Lesson42 HENSHIN! 4

注意!
シリアスもどき、説教もどき、いい話のなり損ない的なものが多く含まれております。
ネタも少なめで今回は個人的にもネタ小説にあるまじき姿になっております。


 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 蕩けるような甘々ボイスでお客さんの背中を見送り、一息吐く。というか、本当に我が母親の声ながら凄まじい声だ。これで本当に四十ピー歳かよ。

 

 お客さんが帰った後のテーブルの片づけをしてからカウンターに戻ると、コーヒーカップを拭いていた士郎さんに話しかけられた。

 

「お疲れ様、良子ちゃん。そろそろ休憩に入ってくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 ようやく休憩である。昼食も食べずに働いていたからクタクタだ。

 

「リョウお姉さん、お疲れ様なの!」

 

「ん、なのはちゃんもお疲れ様ー」

 

 とてとてと近寄ってきた小さなメイドちゃんの頭を撫でる。

 

「なのはちゃんもお手伝い終わり?」

 

「はい! この後アリサちゃんのお家にお呼ばれしてるので!」

 

「そっか。楽しんでおいで」

 

「はい!」

 

 着替えるためにお店の裏に入っていったなのはちゃんの背中を見送る。さて、俺も着替えて昼飯だ……と、その前に。

 

 ちらり、と翠屋にやってきた五人のアイドル集団のテーブルに目を向ける。先ほどから何やら雰囲気がおかしいが……。

 

 あいつら、何を話してるんだ?

 

 

 

 

 

 

「ちょっといい?」

 

 それは、それまで黙ってコーヒーを飲んでいたともみさんの声だった。

 

「みんな、顔を隠すことで悩んでるんだ」

 

「はい、最近色々な人に顔を覚えてもらって、それで街中で声をかけられることが多くなって……」

 

「それで、何かバレないようにする方法を考えていたんです」

 

「そう……」

 

 真と雪歩が答えるとともみさんはそっと目を閉じた。その姿はまるで何かを考えているようで、何かの言葉を探しているようで……。

 

「……えっと、ともみさ――」

 

 

 

「君たちは、どうして顔を隠すの?」

 

 

 

「……え?」

 

 唐突に、それを尋ねられた。

 

「わたしたちはアイドルで、顔を見てもらうことがお仕事の一つ。なのに、どうして顔を隠すの?」

 

「えっと……それは、周りの人に迷惑がかからないように……」

 

「どう迷惑がかかるの? 迷惑がかからなければ隠さないの?」

 

「だから、それは――!」

 

 真が反論しようとするが、それを遮るようにともみさんはさらに言葉を紡ぐ。

 

「知られてしまった自分の顔を隠すの? でもそれは貴方たちの顔。普段の顔を隠す?」

 

 

 

 ――アイドルとして舞台に立つときが貴方たちの顔?

 

 

 

 ――それじゃあ、普段の貴方たちの顔は、誰の顔?

 

 

 

 ――アイドルとして以外の貴方たちの顔は、何処?

 

 

 

 それはただの屁理屈だ。言っていることが滅茶苦茶だ。そう反論したかった。

 

「………………」

 

 しかし、何故か私の口はそれらの言葉を発することが出来なかった。

 

 私たちは、自分の顔を隠すことしか考えていなかった。自分が天海春香だとバレないようにすることばかり考えていた。

 

 でも、それはもしかして普段の自分(あまみはるか)を否定しているのではないだろうか。

 

 私は、天海春香で、天海春香はアイドルで、テレビの向こうで私は笑ってて、それはアイドルの笑顔で。

 

 

 

 ソレジャア、私ノ笑顔ハ何処ニアルノ?

 

 

 

「クルルァ(巻き舌)」

 

「!?」

 

 グルグルと回り始めていた思考の渦から私を呼び戻したのは、パンッという乾いた音だった。

 

「お前はなに後輩苛めてるんだ?」

 

「痛い……」

 

 それは良太郎さんがともみさんの頭を叩いた音だった。いつの間にかともみさんの背後に立っていた良太郎さん(私服)がメニューをともみさんの頭頂に振り下ろしたようで、ともみさんは少し眉根を寄せて頭を押さえていた。

 

「そういう苛めっ子ポジはお前じゃなくて麗華やりんの役目だろ。どういう心境の変化だよ」

 

 似合ってねーぞ、と良太郎は呆れたようにポンポンとともみさんの頭を叩く。

 

「……ちょっとした悪戯心。みんなごめんね、変なこと言っちゃって」

 

「え、いや、その……」

 

 ともみさんはあっさりと私たちに向かって頭を下げた。しかし私を含め、真も雪歩も千早ちゃんも未だに戸惑ったままである。

 

 そんな私たちの様子を見て良太郎さんはふむ、と腕組みをする。

 

「まぁ、深く考えない方がいい……とは言わない。ちょっとだけ考えてみてくれ」

 

「……私たちの顔が何処にあるのか……ですか?」

 

「そんな哲学的なことじゃないさ。ゆっくりでいい、答えが出なくてもいい。それでも考えてみてくれ。アイドルじゃない自分がいる場所を」

 

 きっと、身近なところだからさ、と。

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

「……ったく、何を考えてるんだよお前は」

 

 来た時とはだいぶ違うテンションで帰って行った四人を見送りつつ、隣のともみを軽く睨む。ちなみに裏で着替えてきているので既に良子ちゃんではなく100%周藤良太郎である。

 

「ちょっとした悪戯心で苛めてみたくなっただけ」

 

「悪戯心って……苛めてみたくなったって……」

 

 貴方の顔は何処にあるのって、ちょっとしたサスペンスかホラーだぞ。これそういう作風じゃないから。そういうのはラノベの中だけで十分だって。

 

「……あの子たちに期待しているのはリョウだけじゃない」

 

「ん?」

 

「わたしも、765プロのあの子たちには期待してる」

 

「……へぇ」

 

 意外だった。魔王の三人の中でも控えめというか、麗華とりんの三歩後ろから見守る立場を一貫してたともみが他のアイドルのことを気にかけるとは。

 

 麗華も竜宮小町やりっちゃんを、りんも美希ちゃんを気にかけてるみたいだし……765プロも魔王エンジェルの三人にしっかりと認識されたってことかな。

 

「それじゃあ、私は帰る」

 

「ん、そうか」

 

 いつの間にかともみはしっかりとお土産のシュークリームの箱を片手にしていた。

 

 ちなみに春香ちゃんたちにも変なことを考えさせてしまったお詫びとしてシュークリームをそれぞれお土産に持たせている。……なお、俺の自腹である。ここで思わず財布の紐を緩めてしまうから今回アルバイトをする羽目になったというのに全く懲りていなかった。思わずぢっと手を見て考えてしまった。

 

「……最後に聞いてみたいんだけど」

 

「ん?」

 

「リョウの顔は何処にあるの?」

 

 それは、先ほど春香ちゃんたちに問いかけていたものと同じものだった。

 

 ……そうだな、俺の『顔』が何処にあるのかというならば。

 

「……前に言ったことあるだろ?」

 

 

 

 ――母親のお腹の中に忘れてきた、って。

 

 

 

 それが、その問いかけに対する『周藤良太郎』の答えである。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 今日の仕事を全て終え、私は地元の商店街を一人歩いていた。

 

 今日一日ともみさんや良太郎さんに色々と言われたことを考えていたが、結局よく分からなかった。

 

 ただの言葉遊びだとも、それとも個人の解釈で私とは関係ないと割り切ることも当然できたはずだ。

 

 しかし、何故かそれが出来なかった。

 

 

 

 ――あんたはアイドルとしての自覚を持ちなさい!

 

 

 

 ――しっかりと自分がアイドルだという自覚を持ってくれ。

 

 

 

 友達とプロデューサーさんの言葉を思い出す。普段からアイドルとしての自覚をもって、普段からアイドルとして生活して……。私がアイドルであることを否定したいわけではない。アイドルである以上自由は減ってしまうことも理解している。

 

 でも。けれど。それでも。

 

 今までの普段の私は、一体何処に行ってしまったのだろう。

 

 

 

 明日は平日なので学校があるため、明日の昼食として持っていくパンを買うために商店街のパン屋さんに寄ることにした。今までは当然普段の格好で利用していたのだが、何故か今日は雪歩から借りたままだったマスクを付けて顔を隠してしまった。

 

 いつものように代金を払い、紙袋を受け取ろうと手を伸ばす。

 

 その時だった。

 

 

 

「顔色悪いけど、大丈夫かい? 春香ちゃん」

 

 

 

「っ!」

 

 昔から利用するパン屋の店長さんからの言葉。何度か話をしたことがあり、お互いに顔見知り。声をかけられることは何も不思議なことではない。

 

 それでも私は、思わず俯き自分の顔を隠そうとしてしまった。

 

 

 

 ――それじゃあ、普段の貴方たちの顔は、誰の顔?

 

 

 

 昼間のともみさんの言葉がリフレインする。

 

 怖くなり、視界が僅かに滲む。

 

 しかし、そんな私に投げかけられたのは、優しい店長の声だった。

 

 

 

「ははは、そんなに隠れようとしてもすぐわかるよ。顔馴染みの春香ちゃんを見間違えたりするもんか」

 

 

 

「え……」

 

 顔を上げる。店長さんは、いつもと変わらぬニッコリとした笑みを私に――天海春香に向けてくれていた。

 

「確かに春香ちゃんはアイドルとして有名になって、これからは大変なのかもしれない。それでも、この商店街ぐらいは自分を隠さずに堂々としていればいいさ」

 

 

 

 ――この商店街のみんなは、春香ちゃんの大ファンなんだから。

 

 

 

「……っ!」

 

「昔からの春香ちゃんの顔が見れないと、みんな悲しむからね。元気な春香ちゃんの笑顔が大好きなんだから」

 

「……はい」

 

 マスクを取り、まっすぐと店長さんと顔を合わせる。

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 私は天海春香で、アイドル。アイドル天海春香。それでも、テレビの向こう以外の天海春香も確かにここにいた。

 

 良太郎さんが言っていた言葉の意味が、少しだけ理解できたような気がした。

 

 

 

 

 

 

おまけ『ニアミス そのに』

 

 

 

「ねぇ恭ちゃん、さっきなんか常連のおば様に『今日はこの間のバイトの子いないの?』って聞かれたんだけど、私がいなかった日に誰かバイト来てたの?」

 

「あ、あぁ。一日だけ、臨時でな」

 

「無表情だけどすっごい美人だったらしいね。うーん、私も会ってみたかったなぁ。またバイトに来たりしないの?」

 

「……ほ、本人はまたお世話になりたいとは言っていたが……」

 

「そうなんだ! じゃあ今度は一緒に働けるといいなー!」

 

「……そうだな」

 

 

 

「? 恭也が変な顔をしてるね」

 

「ああいう顔を『苦虫を噛み潰したような顔』って言うんだって先生に教わったよ!」

 

「そうなの、なのはは物知りね」

 

「えへへ」

 

 

 




・ともみさんのおはなし。
イイハナシニシタカッター
今回で本当に自分にシリアスの才能がないことに気が付いた。言いたいことがきちんと伝わるかどうか。
当然みなさん「それは違うよ!」とお思いでしょうが、どうかヒートアップせず。最近暑くなってきましたし。

・思わずぢっと手を見て考えてしまった。
はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざり
作者の教養の良さが滲み出ていますね()

・パン屋さん
REX版でのワンシーン。アイドルは何処で顔を隠し、そして何処でその素顔の晒せばファンは受け入れてくれるのか……的なことをこの辺を読んで思ったのがこの話のきっかけ。



 今回は試験的なシリアス話になりました。本当ならば「アイドルは笑顔という仮面をどうだのこうだの」「良太郎は笑顔がないから仮面を被っていないどうだのこうだの」を書きたかったのですが、書いている途中に「これはアカン」と諦めました。

 今後予想される原作の流れのシリアスはもう少し頑張ります。



 さて次回は最近頻度が増えてきている番外編、何度か要望があった「ぷちます編」です。今回がアレだったのシリアスなしネタのみで構成できるように頑張ります。


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番外編05 ぷちますの世界に転生したようです?

前回がシリアル()だった反動でこうなった。


 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「お届け物でーす!」

 

「はーい!」

 

 それはとある日のことだった。

 

「え!? ちょ、ちょっとプロデューサーさん、手伝ってください!」

 

「え? あ、はい」

 

 宅配便の応対に向かった小鳥さんの焦ったような声が聞こえ、それに応えてプロデューサーが事務所の入り口に向かった。どうやらかなり大きな荷物が届けられたらしく、プロデューサーの「え!?」という驚いた声が聞こえてきた。

 

 小鳥さんの「頑張ってください!」という応援の言葉と共にプロデューサーが持ってきたその荷物は、冷蔵庫でも入っているんじゃないかと思ってしまうほど大きな段ボール。それほどまで大きい段ボールをプロデューサーが一人で持ち上げていたのだ。

 

「お、重くないんですか? そんな大きな段ボール……」

 

 必死な表情ではある。しかし到底一人で持てるような大きさではないそれをしっかりと運ぶことが出来ていた。

 

 えっちらおっちらとやや覚束ない足取りで事務所の中に段ボールを運び終えると、プロデューサーは大きく息を吐いた。

 

「いや、確かに重いことには重いんだが、見た目ほどの重さはないんだよ」

 

「えー? にーちゃんなになにー?」

 

「わ、大きな段ボールですね」

 

 珍しく事務所には全員が揃っていたので、物珍しげに運び込まれた大きな荷物に集まってくる。

 

「誰からの荷物なんですか?」

 

「えっと……え?」

 

 宛名と差出人を見た小鳥さんが、こっちを見た。

 

「……良太郎君から、ですね」

 

「……良太郎、から……?」

 

 トップアイドル周藤良太郎からの贈り物。これだけを聞くと相当凄いことに聞こえる。現に良太郎のファンである美希と真美は先ほどから後ろで「りょーたろーさんから!?」「りょーにぃから!?」と歓喜の表情を浮かべている。

 

 しかしその性格を痛いほどよく知っている身としては怪しまざるを得ない。しかも真面目な荷物であれば以前のように匿名や偽名などを使う面倒くさい奴がわざわざ本名で送ってくる辺りがますます怪しい。

 

「あいつ、今度は何を企んでる……!?」

 

 考えれば考えるほど届けられたこの大きな段ボールから胡散臭さが漂っているような気がしてならなかった。

 

「りっちゃんりっちゃん! 早く開けてみようよー!」

 

「そうなの! りょーたろーさんからの贈り物なの!」

 

「えー……?」

 

 真美と美希が肩を揺すってせがんでくる。本当は開けたくないが、しかしこのままこの荷物を放置しておくわけにはいかないので、気乗りしないものの開封することに。

 

「プロデューサー、お願いします」

 

「……まぁ、別にいいんだけど……は、離れすぎじゃないか?」

 

 荷物を開ける役目をプロデューサーに任せ、三メートルほど後ろに下がり衝立の影に隠れる。

 

「お気になさらず」

 

「……分かったよ」

 

 どうぞどうぞと手で促すと、プロデューサーは少し納得してないような表情で段ボールに封をするガムテープに手をかける。

 

 そして、ビリビリとガムテープを剥がし――。

 

 

 

「かっかー!」「くー!」「ぽえー」「うっうー!」「めっ!」「あら~」「キー!」「ヤー!」「とかー!」「ちー!」「なのー!」「だぞ!」「しじょ!」「ぴっ!」

 

 

 

 ――唐突に『それ』は飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

 ピリリリリリ ガチャ

 

「良太郎おおおおおお!!」

 

『やあ、りっちゃん。そろそろ電話がかかってくる頃だと思ってたよ』

 

 電話に出た良太郎はまるでこうなることを予想していたように平然とした様子で、その態度が余計に私の神経を逆撫でした。

 

「一体『アレ』は何なのよ!?」

 

 電話越しの良太郎には見えていないと理解しつつも、『それ』を指さしつつ叫ぶ。

 

 

 

「かっかー!」

「な、なんか私たちに似てるような……?」

 

「だぞ! だぞ!」

「な、何なんだこの子達……?」

 

「とかー!」

「ちー!」

「うっうー!」

「ふ、ふふ、なんと可愛らしい……!」

 

 

 

 小動物化した私たち、という表現が一番合っていると思う。体長三十センチほどの大きさにデフォルメされた私たちが事務所内を駆け回っていた。春香モドキと真モドキが追いかけっこをし、美希モドキと雪歩モドキがそれぞれソファーと段ボール内で昼寝をし、千早モドキが千早の頭の上に乗ってペシペシと頭を叩いたり、てんやわんや。自分達に似たその存在にみんなが混乱していた。

 

『プレゼントだよ、プレゼント』

 

「そうじゃなくてあの小動物が何なのかっていう説明をしろっつってんのよ!」

 

『あぁ、あれは『チヴィット』っていうんだ』

 

「ち、ちびっと?」

 

『び、じゃなくてヴィ、な。biじゃなくてviだ。ちゃんと下唇を噛んで――』

 

「発音はどうでもいい!」

 

『分かった分かった』

 

 どーどーと私を宥めるように良太郎は話し始めた。

 

『チヴィットはグランツ研究所ってところが開発した愛玩用自立ロボットだ』

 

「ロボット!? あれがロボットだっていうの!?」

 

『あぁ。なんでも最新鋭の高性能AIを積んでるらしいんだ』

 

 ちらり、と背後を振り返る。まるで生き物のように声を発し飛び回るその様子はとてもロボットのようには見えなかった。

 

「日本の技術は世界一ってよく聞くけど……」と思わず呆然としてしまったが、ふと我に返る。

 

「そんな最新鋭のロボットを何であんたが送ってくるのよ。しかもこんなに大量に」

 

『実はそこの所長さんと知り合いでな。モニターとして貰った』

 

 こいつの交友関係が本当に分からない。その内、どっかの国の王様とか紹介されそうで怖い。それだけならいいが「実は私は……」とか言って吸血鬼とか宇宙人とか狼男とかを友達だと紹介されるのではないかと戦々恐々としている。

 

「……私たちに似てる理由は?」

 

『姿形を自由に指定できるって話だったから、765プロのみんなの写真渡して作ってもらった。鳴き声の設定もわざわざデータ渡して弄ってもらったんだぜ?』

 

 どやぁ、と表情が変わらないはずの良太郎が自慢げに話している様子が目に浮かび、ますますイラッときた。

 

「はぁ……」

 

「ぴっ!」

 

「あぁ、ありがとう……」

 

 いつの間にか近づいてきていた小鳥さんモドキに差し出された湯呑を受け取る。なんかもう色々と疲れて喉が渇いていたところだった。

 

 フワフワと浮かびながら去っていく小鳥さんモドキの後姿を眺めつつズズッとお茶を口に含み――。

 

 

 

「ぶふぅー!?」

 

 

 

 ――目の前の光景に驚き、思わずお茶を噴き出してしまった。

 

『ん? どうしたりっちゃん、女の子からは聞こえてきちゃいけない音が聞こえてきた気がするんだけど』

 

「ちゅ、ちゅちゅ、宙に、う、浮いて……!?」

 

『あぁ、小鳥さんモデルのことか。あれは第二世代型だからな』

 

 なんでも、最新鋭の小型反重力力場発生装置が搭載されているとかいないとか。枕詞に最新鋭って付けとけば済むと思っているのかと声を大にして言いたかったが、そこ以外に気になる場所があった。

 

「だ、第二世代型ってことは、第一世代型もあるってことよね?」

 

『察しがいいね。そのとーり。ついでに第三世代型もあるよ。第一世代型と第三世代型はそれぞれ宙に浮けないんだけど、第三世代型はその代わりに様々な能力を持ってんだよ』

 

「なによ能力って……」

 

 もう本当に頭が痛かった。

 

『とりあえず、詳しい説明もしたいから、今そっちに向かうよ』

 

「……だったらこんな風に宅配便で送ってこなくて最初からあんたが持ってこればよかったじゃない」

 

『いやだって、その場に俺が立ち会ってたらりっちゃん殴ってきたでしょ?』

 

「なに当たり前なこと聞いてるのよ」

 

 BB↓←→Bのコマンドと共に私のガッツなストレートが三連続で飛んでいたことだろう。

 

 とにかく、この子達の説明をしに良太郎がこちらの事務所に来ることになった。

 

『あ、そういえば一人だけ取扱い注意な子がいるんだった』

 

「もう面倒くさいから『なんでそんな子を送ってくるんだ』っていう突っ込みはしないわよ」

 

『春香ちゃんモデルのチヴィットには気を付けといてくれ』

 

「春香の?」

 

 事務所を見渡し何処にいるかと探すと、春香本人が可愛がり撫でているのを発見した。

 

「あぁ、なんか自分の妹が出来たみたいで可愛いなー!」

 

「かっかー!」

 

 真美モドキと亜美モドキとやよいモドキを抱えて満足そうな貴音ほどではないが、本人は大変お気に召しているようだった。

 

「あの子の何処に注意しないといけないのよ」

 

『春香ちゃんモデルは個別の能力を持ってる第三世代型でな、あの子は――』

 

 

 

「喉が渇いたからちょっとお水を……あ」

 

「かっかー」

 

 パシャ

 

 

 

『――水をかけると増殖するらしいんだ』

 

「「「「「かっかー!」」」」」

 

「もっと早く言いなさいよぉぉぉ!?」

 

 

 

 そこには、春香が飲もうとして零したペットボトルの水が頭にかかって五人に増殖した春香モドキの姿があった。

 

「きゃー!?」

 

「ふ、増えたー!?」

 

「ちょ、これどうなってるのよ!? 何でロボットが増殖するのよ!?」

 

『そりゃあもちろん最新鋭の――』

 

「それはもういいっつーの!」

 

 しかも五人に留まらず、なおも増殖を続ける春香モドキ。

 

「ちょ、これどうやったら戻るのよ!?」

 

『Ctrl+Z』

 

undo(アンドゥ)出来るんならまずキーボード持ってこんかい!」

 

『どーどー』

 

 戻し方は口で説明しづらいらしく、直接良太郎が戻すことになった。

 

「ってことは、あんたがこっちに来るまでこのままなの!?」

 

『大丈夫大丈夫、すぐ着くから』

 

「え? あんた近くにいるの?」

 

『いや、自宅だけど。ちょっとそこにあずささんモデルのチヴィット連れてきてくれ』

 

「あずささんモデル……?」

 

「あら~?」こたぷ~ん

 

 そんな間延びした声が足元から聞こえてきたので下を向くと、そこにはあずささんモドキの姿があった。ニコニコぽわぽわとした雰囲気があずささんそっくりで、私を見上げながら首を傾げていた。ちなみに何やら変な擬音が聞こえたような気がするが無視する。

 

「すぐ近くにいるけど……」

 

『んじゃ俺の顔を思い浮かべながら手ぇ叩いてくれ』

 

「……ダメ。今私の頭の中だとアンタの顔ボコボコで上手く思い浮かべれない」

 

『大丈夫かー!? りっちゃんの脳内の俺ー!?』

 

 何とか頑張って良太郎のまともな顔を思い浮かべる。

 

「それで? 手を叩けばいいんだっけ?」

 

『おう、あずささんモデルの目の前でな』

 

「それじゃあ……」

 

 えい、とあずささんモドキの目の前で手を叩く。パンッという乾いた音が響き、驚いた様子のあずささんモドキが目を見開き――。

 

 ヒュン

 

 ――次の瞬間、あずささんモドキの姿が消えた。

 

「……消えたんだけど……」

 

 呆然としていると。

 

『大丈夫、ちゃんとこっちに来たから』

 

『あら~』

 

 ……受話器越しに、良太郎の声に続いてあずささんモドキの声が聞こえてきた。

 

「……どうなってんのよ」

 

『あずささんモデルの中には最新鋭のテレポート機能が内蔵されててな』

 

「だからそれはもういいっつーの!」

 

 最新鋭っていう言葉だけで全てが済むと思ったら大間違いだ。

 

『大きな音で驚かせることで起動して、近くにいる人の思い描いたところにテレポートさせてくれるんだよ。だからこうすれば――』

 

 パンッという音が受話器越しから聞こえてきたかと思うと――。

 

「こうやって、こっちに来れるっていうことだ」

 

 ――目の前には、右手に携帯電話を、左手にあずささんモドキを装備した良太郎の姿があった。

 

 とりあえず。

 

「燃え上がれ私のコスモォォォ!!」

 

「ぐふぉあ!?」

 

 良太郎の腹部に渾身の右ストレートを叩きこんだ私を責めることは誰にもできないはずだ。

 

 

 

 この時、私は良太郎本人に気を取られていて。

 

 その頭の上に乗っていた存在に気が付かなかったのだが――。

 

 

 

「……りょー」

 

 

 

 ――それはまた、別のお話。

 

 

 

 ……つづく?

 

 

 




・ぷちます!
ゲーム「アイドルマスター」を元に連載しているスピンオフ(?)作品。ぷちどると呼ばれる謎生物を中心に繰り広げられるコメディ作品。
「こちらを先に見てから本編を見たので逆に戸惑ってしまった」という声を多数耳にします。ですので視聴の際は順番にご注意ください。

・「あいつ、今度は何を企んでる……!?」
信頼度ゼロ系主人公。

・チヴィット
元ネタは『魔法少女リリカルなのはINNOCENT』。
仮想空間内で行われるブレイブデュエルのサポートキャラ『チヴィーズ』を現実世界で行動させるために作成された小型ロボット。なんとなくぷちどるに似ていた気がしたのでこの作品ではこのようにさせてもらいました。

・「実は私は……」
最近お気に入りの漫画タイトル。
白神さんマジうっかり吸血鬼。

・第二世代型
以下勝手に設定。
第一世代型 特殊能力なし。多少の外見変化がある。例:ちひゃー、ゆきぽetc
第二世代型 飛行能力あり。例:ぴよぴよ (イノセント本編のチヴィットはココ)
第三世代型 特殊能力あり。例:はるかさん、みうらさんetc

・私のガッツなストレート
ロックマンエグゼ3のバトルチップ。
ちなみに最近友人と対戦したところボコボコにされた作者。プラントマンとフラッシュマン禁止だからってウイルスチップでドリームモス目押しは勘弁してください……。

・はるかさん
天海春香似のぷちどるの名前。増殖、巨大化、暗黒化と謎多きぷちどる。

・Ctrl+Z
物書きの御用達の操作。作者もたびたび使用する。

・みうらさん
三浦あずさ似のぷちどる。テレポーテーション能力を持つ。

・こたぷ~ん
みうらさんの擬音。あずささんが「どたぷ~ん」
あずさ + みうらさん = どこたぷ~ん
いおり + みうらさん = こたちょーん
などと変化する。

・りっちゃんの脳内の良太郎
ねねちゃんのママのウサギのぬいぐるみ並にボコボコな模様。

・「燃え上がれ私のコスモォォォ!!」
当然聖闘士星矢ネタ。銀魂ネタではないのでご注意を。
……余談だが「せいんとせいや」と入力して一発で変換できたのでびっくりした。

・「……りょー」
もしかして……?



 というわけで番外編のぷちます編。「ぷちます世界」というより「ぷちますが入ったアニマス世界」なので、当然プロデューサーはPヘッドではなく赤羽根Pです。ひとりぼっちの歌なんて歌いません。コブクロの歌は歌ったりします。

 りっちゃんとの会話が楽しすぎて一話に収まりきらなかった。いずれまた続きを書きますが、今回の番外編はここまでです。

 次回は本編に戻りますので、次回もよろしくお願いします。


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Lesson43 恋と演技と苦手なもの

アイマス劇場版のDVDの予約がアマゾンで始まっていましたね。
なんと約三割引きで購入できるそうなので、これは是非予約せねば(ステマ)


 

 

 

「――ふーん、真と雪歩と千早が悩んでたのは、そういう経緯があったのね」

 

「たぶんね」

 

 先日のアルバイトから数日。たまたまテレビ局で出くわしたりっちゃんと何となく連れ立って歩いていると、三人がとあることで悩んでいたという話題になった。恐らく、というかその三人が悩んでいたという点で考えると原因はともみの『意地悪』だろう。

 

 

 

 ――貴方たちの顔は何処にあるの?

 

 

 

「ったく、ともみもまた余計なことしてくれたわね。そんなの個人の解釈の違いの問題だっていうのに」

 

「まぁ、真ちゃん達にとっては大先輩からの言葉だから、深く捉えちゃうのは当然だって」

 

 そこに考えが至らなければ何の問題もない問題。しかし気付き考えてしまえば思考の渦に巻き込まれる面倒な問題。それに気付かせるためのともみの質問。

 

 まぁ、だからこそ『意地悪』だったのだが。

 

 しかし、りっちゃんは『悩んでいた』とそれを過去形で表現した。加えてそのメンバーの中に春香ちゃんの名前を出さなかった。つまり春香ちゃんはその日の内に、他の三人も少ししてから何かしらの回答を見つけ出したということだろう。

 

 だからこそ、りっちゃんがこの話題を出したのは事後報告をするためであり、自分の事務所のアイドルが一皮剥けた自慢話兼俺に対する嫌味だったということだ。「全くこいつは……」という態度から垣間見えるやや誇らしげなりっちゃんの表情が何とも微笑ましかった。

 

 最近はレギュラーの生放送が始まったり、美希ちゃん響ちゃん貴音ちゃんの三人組ユニットのCMが大好評だったり、765プロにとっていい話題ばかりだったから、りっちゃんも思わず誰かに自慢したくてしょうがなかったのだろう。

 

「ちなみに私はアンタからも促されたって聞いたけど?」

 

「お、りっちゃんアレアレ、千早ちゃんのポスター」

 

「廊下の壁しか見えないわよ」

 

 さりげない話題逸らしに失敗し、肝臓を持ち上げるような抉りこむボディーを脇腹に喰らい悶絶。俺の呼吸が戻ったあたりで閑話休題。

 

「……そうだ、一応アンタからの意見も聞いてみようかしら」

 

「ん?」

 

「あんたの目には『我那覇響』ってどんなイメージで映ってる?」

 

「響ちゃん?」

 

 んー、そうだな……やっぱりおっ――。

 

「あ、身体的特徴は求めてないから」

 

 ちっ、先にネタ潰しをされてしまった。

 

「そうだなぁ……やっぱり明るくて元気で活発で……」

 

 脳内に浮かぶ響ちゃんは、元気に手を振り上げて「はいさーい!」と挨拶をしていたり、満面の笑みを浮かべながら「なんくるないさー!」と言っていたり、やはりそういうイメージである。

 

「やっぱり、そう見えるわよね……」

 

「あとツッコミ体質で若干の被虐()寄り――」

 

「誰もそんなこと聞いとらんわ」

 

 はぁ、とため息を吐くりっちゃん。結局その質問の意図は教えてもらえなかったのだが。

 

 その翌日にあっさりと知ることになる。

 

 

 

「あとさっきの千早のポスター発言は本人に報告しておくから」

 

 あとついでに激おこ千早(ちー)ちゃんが確定することになる。

 

 

 

 

 

 

 テレビ局でりっちゃんと話した翌日。午前中の仕事が終わり、次の仕事まで時間があったのでたまには歩くかと徒歩で移動中。トップアイドルとしては不用心のような気がしないでもないが、どうせバレることもないので問題ない。なんか発言がフラグっぽいけど問題ない。

 

 近道ということで途中公園の中を抜ける。休日だったが珍しく公園内は人が少なく、これだったら変装を解いても身バレしなかったかもしれない。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、芝生の広場辺りから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

 

 ――頑張れ雪歩!

 

 ――ほ、本当に大丈夫……?

 

 ――大丈夫、いぬ美は大人しいぞ!

 

 

 

「この声は……」

 

 聞こえてきた方に視線をやると、そこには想像通りの三人が。

 

「ううぅ……!」

 

「もうちょっとだぞ!」

 

「ほらファイト!」

 

 一匹の大きなセントバーナードにフルフルと震えながら手を伸ばす雪歩ちゃんと、そんな雪歩ちゃんを後ろから応援している響ちゃんと真ちゃんだった。怖々としながらも少しづつセントバーナードに手を伸ばし、あと少しで触れそうになるところでビクッとなってしまい目を瞑って手を引く姿が何とも保護欲を掻き立てられるのだが……本当に何やってるんだろうか。

 

「……え、えい!」

 

 そしてついに決心したのか、掛け声と共に雪歩ちゃんは手を伸ばしてついにセントバーナードの頭に触れた。もっとも掛け声の勢いとは裏腹にそっと手を乗せるだけだったが。触れられているセントバーナードは随分と慣れたもので、雪歩ちゃんに触れられても一切動じることなくゆっくりと左右に振られる尻尾以外はピクリとも動いていなかった。人慣れしている……というよりは、元々の気性の話だろうか。

 

「触れた、触れたよ雪歩!」

 

「やったな雪歩!」

 

「やった……やったよ真ちゃん! 響ちゃん!」

 

 ……一体この状況は何なのだろうか。なんか三人とも凄い感動的な雰囲気を醸し出してるんだけど、事情を知らずに途中から見ている身としてはこの状況がさっぱり読めない。

 

 たぶん感動的な場面なのだろうと当たりを付け、とりあえず拍手をしておくことにした。

 

 この拍手に気付き、振り向いた三人が「良太郎さん!?」と俺に気付くのはこの後すぐのことである。

 

 

 

「へー、雪歩ちゃん、犬が苦手だったんだ」

 

「はい……」

 

「それで、響が飼ってるいぬ美に協力してもらって克服するための特訓をしようって話になったんです」

 

「いぬ美は賢くて大人しいからな!」

 

 賢い・大人しい・イヌミーチカ(KOI)と申すか。

 

 確かにいぬ美は大人しく、全く見ず知らずのはずの俺が撫でても全く動じることがなかった。元々大型犬は優しい性格をしているっていうが、この子は人一倍(犬一倍?)大人しい気がする。

 

 三人の輪に加わり、四人で芝生の上に腰を下ろす。

 

「そういえば、この間はともみと一緒に変なこと言っちゃって悪かったね。ごめん」

 

 真ちゃんと雪歩ちゃんに対して頭を下げる。

 

「い、いえ、そんな……」

 

「僕たちも色々と考えるきっかけになりましたし」

 

 何よりもう済んだ話だと二人は笑って許してくれた。そんな真ちゃんと雪歩ちゃんはそれぞれ帽子と伊達眼鏡を付けて軽い変装をしている。どんな経緯があったかは知らないが、二人とも変装をして身バレを防ぐことに対して忌避はないみたいだ。これで変なトラウマやらなんやらを抱えてしまっていたら土下座では済まない事態になっていたところだ。

 

 ……しかし、ともみが言い出したことなのに何故俺がここまでアフターフォローせにゃならんのだろうか。確かに助長らしきことはしたが……。

 

「? 何の話だ?」

 

「いや、こっちの話だよ」

 

 疑問符を頭上に浮かべながら首を傾げる響ちゃん。そんな彼女はいつものポニーテールではなく、長い髪を左肩から前に流してリボンで纏めている。快活な彼女のイメージが薄れてお淑やかな雰囲気を醸し出しており、顔を隠してはいないものの十分に身バレ対策にはなっているようだった。

 

「そういえば、良太郎さんは何か苦手なものってあるんですか?」

 

「ん? 俺?」

 

「はい。僕たちからしてみたら良太郎さんは、なんというか完璧超人みたいな雰囲気で、そういうのってあるのかなーって……」

 

 完璧超人って。

 

「そうだなぁ……しいて言うなら『ここらで一杯お茶が怖い』かな」

 

「えぇ!? りょ、良太郎さんお茶が苦手だったんですか!?」

 

「あ、いやそうじゃなくて」

 

「雪歩、古典的なネタだぞ」

 

 も、もしかしてこの間お出ししたお茶も迷惑だったんじゃ……!? と顔を青ざめる雪歩ちゃんに響ちゃんがフォローを入れる。むむ、純粋な子に対してネタ発言は本気にとられてしまってボケ殺しされるなぁ。

 

「真面目に話をすると……ホテルが苦手かなぁ」

 

「ホテル、ですか?」

 

「うん。昔からああいった宿泊施設を利用する機会が全く無くてさ、チェックインとアウトの時間とかカードキーの使い方とかが難しくて」

 

「あー、何となく分かります」

 

「慣れてないと分かりづらいですもんね」

 

「自分も本州に来るまで電車の乗り方知らなかったぞ」

 

 ちなみにこの宿泊施設を利用する機会というのは前世を含めての話である。……なんかすっごく久しぶりに自分が転生者だって話をしたような気がする。

 

「ライブツアーとかでホテルを利用するようになったけど、その時も大変だったよ」

 

 高校の修学旅行でホテル利用経験があった兄貴がいたおかげで何とかなったが。

 

「家族旅行で利用したりしなかったんですか?」

 

「うーん、家族旅行自体は昔よく行ったけど、だいたい日帰り旅行だったからなぁ」

 

「え? どうしてですか?」

 

 

 

「ちょっと糠漬けがね」

 

「「「ぬ、糠漬け?」」」

 

「うん、糠漬け」

 

 

 

 糠漬けは文字通り糠に野菜を漬けて作る漬物である。しかしこの糠というものが厄介で、腐敗やカビの増殖を防ぐために毎日かき混ぜなくてはならない。一応、長期間手入れができない場合は塩を振って冷蔵庫に入れておくといった手段があるらしいのだが……。

 

「うちにある糠床っていうのが、母さんが大好きだったお婆ちゃんの大切な形見らしくてさ。毎日ちゃんと自分の手で手入れをしないと気が済まないらしいんだ」

 

 ゆえに母さんが長時間家を空けるのを嫌がり、母さんが嫌がることを絶対にするはずがない父さんが一泊以上の家族旅行をしなかった、というわけである。

 

 ちなみに、母さんが父さんの海外への長期出張に付いていかなかった理由でもある。本来ならば既にアイドルとそのマネージャーという仕事がある俺たち兄弟を置いて夫婦二人で仲好く海外生活をするつもりだったらしいのだが、検疫で引っかかる恐れがあったため断念したそうだ。仕事の関係で家を離れることがある俺たちに糠床を預けるということも出来ず、何よりやっぱり自分の手で手入れをしたいとは母さんの言葉。

 

 結果、父さんは一人寂しく単身赴任することになったという我が家の裏話である。

 

「そんなわけで、俺が苦手なのはホテルということで」

 

「は、はぁ……」

 

 昼過ぎだし、今頃我が家では母さんが鼻歌交じりに糠をかき混ぜている頃だろう。

 

 

 

 

 

 

「ふふふ~ん! いつも頑張ってるコウ君とリョウ君のために、美味しくなってねー! 糠漬けちゃん!」

 

 

 




・最近はレギュラーの生放送が始まったり
さらっと流しましたが既に生っすかサンデーが始まっている時系列です。そこら辺の話はもう少し後になります。

・「お、りっちゃんアレアレ、千早ちゃんのポスター」
千早「……(ビキビキ)」

・いぬ美
本編初登場の響の家族。ハム蔵? ……本当に出るのかなぁ?

・賢い・大人しい・イヌミーチカ(KOI)
一期と二期で若干言動に食い違いがあるポンコツチカ可愛いチカ。

・『ここらで一杯お茶が怖い』
割と有名な古典落語ネタ。知らない人は「饅頭怖い」で検索してみよう。

・「自分も本州に来るまで電車の乗り方知らなかったぞ」
響の設定にあった「電車に乗るのが苦手で基本的に移動は徒歩」という設定を若干アレンジ。
しかし、よくよく考えてみたら彼女が初登場したアイドルマスターSPの時点で既に沖縄にはモノレールがあったので、この発言は若干あれかもしれないけど気にしないことにする。

・糠漬け
父親が単身赴任をしているまさかの理由。ちなみに作者はそんなに好きじゃない。
検疫に関しても詳しく調べれなかったのでまぁそうだったということで一つ。



 糠漬けの話で終わってしまいましたがちゃんと次回に続きます。このまま終わったらサブタイトル詐欺もいいところなので。


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Lesson44 恋と演技と苦手なもの 2

一昨日の日曜日にいつもの日朝を見ようとしたら別番組でorzってなりましたが作者は夏バテなどせず至って健康です。
暑い日が続きますが、皆さんお体にお気を付けください。


 

 

 

「そうだ響。アレ、良太郎さんにも聞いてみたら?」

 

「え、えぇ!?」

 

 いぬ美とあっち向いてホイ(こっ