あいあむこうていへいか!! (たいまにんすーつきてみ隊)
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1話

私には過去の記憶がある。

大なり小なり誰にでもあるだろ。などと思われてしまうかもしれないが、私の場合は多少異なるもので、所謂前世の記憶というものがあるのだ。

前世における最期の記憶は、バスの停留所でスマホ向けソシャゲである【箱庭帝国】をプレイしていた所だ。

スマホの画面が目映い光を放ち、気付いたら今の世界に赤ん坊の姿で生まれ落ちた後だった。

最初はそりゃもう混乱した。とてもした。

何せ時分が現代日本で、【箱庭帝国】をプレイしていた以外の記憶が虫食いのように抜け落ちていたのだから。

名前や住所ならまだ可愛いもので、性別や年齢などのパーソナリティーに関わるような事までだ。これで混乱しないものがいるというのなら、是非とも私の前に連れてきて欲しい所である。

まぁ、今では自分のそんな境遇も天命だったのだろうな納得できていたりする。

というのも、私が生まれ落ちたこの世界は、現代日本とは比べ物にならないほど危険に溢れていたのだ。

巴(集落の意)の外に一歩踏み出すだけで、魔獣や野盗に襲われるし、妖術や魔法、忍術なんて摩訶不思議ファンタジーな要素までそこに含まれてくるのだから、その危険度は押して知るべしであろう。

さらに上記の力とは別に、後天的に得ることのできる技術と異なる先天的に持って生まれた特殊能力者まで存在するのだから、最早何でもありだ。

まぁ、ここまで一般人に対する脅威が多い世界でも、私が何の憂いもなく過ごせているのは一重に、私も上記に記されたような先天的能力者であるが故なのだが。

さて、賢明な読者諸君なら此処までで最早私の能力が何か理解できたのでは無いだろうか。

そう、私の能力とは『箱庭帝国』を現実に行える能力であったのだ。

マップに将を配置するタワーディフェンス的な防衛戦、将を派遣して時間経過で結果が現れる進撃、自らの箱庭に拠点を建築するシティービルディング要素、将を鍛えて国力を上げる鍛練、気に入ったキャラクターを入れて貢ぎ物で好感度をあげれる後宮、箱庭帝国の要素とは大きく分ければ以上の戦闘、育成、ビルド、恋愛に分類される。

その他にも、ガチャや皇太子育成などやれることは多いが、それは追々話していこう。

さて、ではこんな危ない世界で私が真っ先に使った力とは何なのかと言えば、拠点作成である。

ゲーム内では一定の資材とゲーム内通貨を消費する事で行われた拠点作成ではあるが、現実となった今では多少違う。

資材を消費するのは変わらないが、ゲーム内通貨を使う必要は無くなっている。その代わりに消費するのが、税という項目である。

この税とは、自らの拠点に住まわせている人物達からの感謝の感情をポイント化したものらしい。

無論、今は拠点もないのだから、税が増えることも無い筈だという諸君の疑問ももっともだ。

そこで思い出して欲しいのが私の能力の特性だ。

箱庭帝国そのものである。そして箱庭帝国とは昨今(と、いっていいかは世界が違う故に疑問だが)ありふれたソーシャルネットゲームである。

つまり実装されているのだよ、ログインボーナスが。

その内容とは一週間周期で回るものであり、税は週の始めに獲得可能である。

と言っても、最初の拠点である「おんぼろ長家」ですら税が50000必要だったから、かなり時間を浪費してしまった。

まぁおかげで拠点設置の下見と、木の伐採で出た木材も相当数集まったから、これなら今後の他の拠点設備設置も順調に行くだろう。

さて、長々と話してしまったが、つまりこれは私がこの世界で生き抜くための下地が整った話であり、時に下衆に、時に高潔に生き抜く物語の序章にも満たない話である。



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拠点設置とガチャ召喚

「おんぼろ長家」の拠点設置箇所はそれなりに悩んだ。

なにせ箱庭帝国では、重要な施設は移動不能であるうえに、ここが現実という縛りまで存在するのだから、土地の権利などを考慮すると良い立地だからといって、おいそれとは決めれなかったのだ。

というか文化水準の低いこの世界では、ハッキリ言えば領内の土地は領主のもので、民はそこに住まわせて貰っているなんて、馬鹿げた利権が認められている可能性もあったのだから。

かと言って巴の人間に聞こうにも、こんな廃れた土地に生きる農民や猟師がそんな事を知っている筈もなく、長い間ヤキモキとさせられていた。

そんな私に好機が訪れたのは今から三年ほど前であった。

ここいら一帯を納める領主様御家族御一考が、視察の名目でこの巴にやってきたのだ。

領主様と奥方、ご子息様に数名の使用人と護衛の方々は一泊した後に長の元に向かい、そこで税収や行商派遣について話し合ったと聞いている。

勿論当時未だに成人では無かった私がその話し合いに参加できる筈もなかったのだが、ご子息様の一声で私は彼に巴を案内する事となったのだ。

 

「ここの湧き水は良質でして、一番近い街にも卸しているのですよ」

 

正直過去の私は、拠点設置の件で煮詰まりストレスを溜め込んでいた事もあり、内心では『くだらない事に時間を使わせやがってこのクソ餓鬼が』とかあまり綺麗ではない罵詈雑言を吐き出したい気持ちで一杯だった。

だがどんなに生意気なクソ餓鬼でも、今は遥かに身分の高いいと尊きお方である。態度に出すような事もなく、さっさとこの面倒なお役目からの解放を願いながら巴を案内して回ったものである。

 

「そんなつまらん話しはどうでも良い」

 

更には人が折角貴重な時間を割いて案内してやっているというのにこの言いぐさである。

十にも満たないであろうこの生意気な面に拳を叩き付けたくなったのはここだけの秘密だ。

だが、ここで我慢していたお陰で私は貴重なコネクションを得ることが出来たのだ。

 

「お前能力者だろう?僕の目は少し特殊でね、そういうのが解るんだよ」

 

そこからは否定する私と指摘する彼との押し問答が続き、気付いたら彼に押し倒されていた。

まったくもって不条理だ。これだから理性の働かない子供はと呆れたものだが、どうやら彼には彼なりの理由があるらしく、私は大人の対応で彼の話を黙って聞く事にした。

 

「父上は無能ではないが有能ではない、確かに今の体制を続ければ民からの反発もないし、領地が廃れる事もなく過ごせるだろう」

 

ふむ。

 

「だが、それでは駄目なんだよ、停滞はいずれ腐敗を生む、常にとは言わないが変化が無ければ、待っているのは緩やかな衰退だ」

 

ふむふむ。

 

「隣の領地ではドワーフを呼び込み、蒸気機関なるものの開発に着手したと聞く」

 

ほおほお。

 

「更に隣の領地では、大規模な農地開拓を行い、一時は下回った税収が一気に回復したとも聞いた」

 

ふむ、なるほど。

 

「それに対して我が領地はどうだ!伝統だなんだと理由を付けて保守的になっては、他の領地に取り残されるのは明白じゃないか!」

 

ふむ、話しはだいたい読めてきた。でだ。「ご子息様よ」

 

「だからこそ僕は今のうちから有能な人材を!………なんだい?」

 

「ご高説痛み入るのですがね、それと一領民でしかない私に何の関係が?」

 

ぶっちゃけこれだ。

だって、彼の言う通りだとしても、私が彼の下につくメリットがない。

今の内からとは言うが、彼が領地を次ぐのは何年先だ?今が仮に十歳だとして、この世界の成人は十五だ。まして成人して直ぐに領地を継ぐわけでもあるまい?

更に言うなら、私は未来の身分より即物的な物が欲しい。具体的にはそれなりの広さの土地が欲しい。

拠点設置してもなお余る程の土地が必要なのだ。

この理想ばかり高いお子様にもわかるように説明してやれば、素直に諦めるかと考えていたが、どうやらこのお子様の情熱は私の想像より上にあったようだ。

 

「土地が欲しいのだな?」

 

お子様ご子息が唸るように言葉を絞り出した。

 

「ならばくれてやる、だから貴様は五年後、必ず僕の元に来い」

 

ふむ、くれると言うのであれば断る理由もない、か。

 

「解りました。五年後必ず貴方の元に参じましょう」

 

「言ったな?絶対だからな?必ず来いよ?」

 

しつこく念押ししてくるご子息様に何度も頷きながら、彼を領主様のいる長の家まで送り届ける。

ククッ所詮世間知らずのお子様だ。行くとは言ったが仕官するとは言ってないし、それだけの準備機関があれば、私の箱庭帝国ならば十分な戦力を整える事も可能だ。

五年後、約束どおり参じましょう。私の軍勢を伴ってね。

 

そんな経緯を挟んで、私は見事土地の利権をてに入れ、こうして拠点設置に挑む事が出来るようになったのです。

 

「ではやるとするか『拠点設置:おんぼろ長家』」

 

目の前の開けた土地に手をかざし、箱庭帝国を発動する。

山と積まれていた木材が目映い光を放ち、光の中からトンテンカンと、今は昔に聞いた懐かしいSEに瞳を細める。

光の上にはタイマーが現れ、それによると設置の完了までまだ六時間はかかるらしい。

これまで耐えてきた時間にすれば微々たるものであるがそれでも時間は有効に使うべきであろう。

設置の完了までにもう一つの予定していた行動を行う。

臣民の呼び込み………と言う名目のガチャである。

多くのソシャゲがそうであるように、箱庭帝国にも当然ガチャが存在していた。

ゲームオリジナルのキャラクターを召喚するガチャの他に、コラボ作品のキャラクターが手にはいるものに、キャラクターの装備品が手にはいるもの、中には施設ガチャ何てものもあったのだ。

ガチャを引くには税を払うノーマルガチャと、箱庭結晶というものを払うプレミアムガチャがあるらしい。

元々はフレンドPと課金要素立ったのだが、これも現実になって変わった所だろう。

さて、だは箱庭結晶とは何かと言えば。これは実績クリア時や週末のログボで入手できたりするもので。レア以上のガチャで三十、コラボ限定で六十必要らしい。

更に百払えばSR以上のレアリティーが確定らしいが、今は手持ちに八十しか結晶が無いのでお預けである。

では選択肢は通常プレミアムガチャと、コラボガチャになるが、どうせならばコラボガチャを引いたみたい所である。

箱庭帝国は全年齢向けであったが故にR18要素は無かったが、現実となった今なら………ククク。

なお、このコラボガチャは私が生前プレイしていた頃にコラボした作品から無制限にキャラが選ばれるらしい。

つまりどの作品のキャラクターが出るかはまったくの未知数なのだ。

もしかしたらまったくしらない作品のキャラクターとかが来るかもしれないが、むしろそれで良い。いや、それが良い!

緊張してきたが、早速引いてみよう。記念すべき一回目だ。出来れば可愛い女の子で尚且つ戦力になれば文句なしだ。

 

「いでよ!!異界の住民よ!!」

 

などと唱えたが、別にこれは必要ない、ただのかっこつけである。

拠点設置のように目映い光が溢れるように広がり、その中からザッザッザッザッザッと誰かが歩いてくるようなSEが聞こえる。

 

この時の私は失念していたのだ。ガチャを引くときに強く願うと発動する。あの現象を。

 

光から輪郭のぼやけた人型が浮かび上がる。

 

多くの廃人を悩まし、時には財布に打撃を与えたあの恐るべき現象を。

 

やがて輪郭がハッキリとしだすと、それが何者なのか理解できた。

 

そう、物欲センサーという化け物を!!

 

「よう、俺の名前はサトウカズマってんだけど、あんたが俺を読んだのか?」

 

ガッデム!!

 

 

 



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