改心、そして更生へ (HAY)
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鴨志田編

作者の願望で出来た作品です。
設定としては、認知世界と現実世界が融合したことにより、シャドウと本人の記憶がごちゃ混ぜになっているような感じです。


「なんだ?」

 

 刑務所の運動場にいた鴨志田は、周囲の様子が明らかに異常なことに気がついた。

 

『あの空、俺の城の窓から見えた空に似ているな」

 

「⁈」

 

 突然声が聞こえ振り向くと、もう1人の鴨志田の姿があった。

 

「お前は……?」

 

『俺はお前だよ。王様の姿をしていた時もあったけどな』

 

「王様……?学校で威張り腐っていた頃のことか……?」

 

『そうだ。そしてあの空は、逃げようとした窓から見た、あの空と似ている』

 

「窓……?うっ⁈」

 

 不意に目眩が起き、奇妙な映像が頭の中に流れる。

 

 

 

 

 

—————人のこと見下してるくせによ、今お前……すげえダセぇ!

 

—————逃げたらいいじゃない……運動神経、バツグンなんでしょ?

 

 

 

 

 

「今のは………」

 

『情け無いよな』

 

「?」

 

『あの時、お前は心底ビビっていた』

 

「……ああ、怖かったよ」

 

『王冠が自分の元から無くなり、何もかも無くなる恐怖に怯えきっていた』

 

「ああ、あの王冠(メダル)は俺の全てだった」

 

『あの王冠は、いつ手に入ったんだ?』

 

「いつって、オリンピックで……いや違う、あの時はアレはただの金メダルだった。俺の実力の証だった」

 

『そうだ』

 

「メダルを獲ってから、周囲の俺を見る目は変わった……。けど、それは必ずしも良いものではなかった」

 

『運動神経がいいだけ……それなのに周囲は、それ以上のことを期待して、押し付けてきた』

 

「どういうワケか教師になって、あの学校で働き始めた」

 

『外面を良くして、立派な人間を演じて、疲れきっていたお前は、ある日誤って生徒を怪我させた』

 

「それを……知らない間に学校が隠蔽してくれていた」

 

『自分は何をしても許される、そんな考えが生まれ、金メダルは王冠に変わった』

 

「そうだ、その時から金メダルが王冠になって、学校は城になった………」

 

『生徒は自分の奴隷、何もかもかもが自分の思うがまま』

 

「ああ………」

 

『だがアイツらが来て、何もかも終わった。王冠が奪われ、何も無くなった』

 

「…………」

 

『なぜあの時、飛び降りなかった?お前の運動神経なら、逃げ切れたんじゃないか?他の場所の家来どもに助けてもらうことも、できたはずだ』

 

「……怖かった」

 

『王冠を得た実力があるのにか?』

 

「俺は……あの時俺は………」

 

『そうだ……お前は見失っていた。王冠を得た、自分の実力を』

 

「なぜだ……?あの王冠(メダル)を手に入れた実力があったハズ……。その実力があることが、誇らしかったハズだ………」

 

『守ってもらう方が楽だった。そして、守ってもらうことしか出来ない、無能に成り下がった。今もな………』

 

「そうだな……牢屋の中にいれば償える。罪悪感から、周囲の目から守ってもらえる。今もそんな風に考えて……楽な方に、逃げてるだけだ………」

 

《絶対……絶対に………》

 

「…………?」

 

《……世界を奪い取る!》

 

「怪盗団………」

 

『お前にとっての全てを奪った連中……あそこまで行くとはな………』

 

「坂本……高巻…………アイツら、すげぇな………」

 

『…………』

 

「俺みたいに証があるわけでもないのに……あんなに戦える……王冠(メダル)にすがって、楽な方に逃げてる俺とは……えらい違いだな」

 

『お前が勝てるわけ無かったな』

 

「ああ………」

 

カッ!

 

 瞬間、シャドウ鴨志田の姿が変わる。

 ただの教師でも、王様の姿でもない……胸に勲章をつけた、中世ヨーロッパの軍人のような姿に………

 

「俺も……いつまでも逃げてはいられねぇんだ。腹括らねぇとな」

 

『そうだ……誰かを使うのでもなく、誰かに守られるのでもない。自分の実力で戦い、勝つ。自分の実力こそが自分の誇りだ』

 

「ああ………。怪盗団!お前らは……お前らなら、どんな奴とでも戦える!どんなチカラにも屈しねぇ!俺も……俺も、もう逃げねぇ!だから……絶対に負けるなぁ!」

 




大衆の心に変化が起きたなら、同じ様にメメントスの牢獄にいた彼らにも、何か変化あってほしいと思い書きました。


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斑目編

2話目です。


「これは一体……?」

 

 刑務所の自分の独房で、斑目は窓から見える景色が異様なことに気付いた。

 

『風景画にでもすれば、面白いかもな……』

 

「⁈」

 

 後ろから声が聞こえ、振り返るともう1人の斑目がいる。

 

「お前は……誰だ?」

 

『ワシはお前だよ。天才画家のな………』

 

「天才画家……?何を言っている?ワシの作品は全て弟子たちの盗作で………」

 

『そうだ。その弟子たちこそがお前の作品だ。たくさん飾っていただろ』

 

「何を言って……うっ⁈」

 

 

 

 

—————有終の美くらい……せめて自分の作品で飾れ

 

 

 

 

「……祐介………」

 

『アイツの才能は本物だったな』

 

「ああ、ワシなんか足元にも及ばないほどにな………」

 

『アイツが羨ましいか?』

 

「当然だ……。アイツだけじゃない、ワシの弟子たち、全員が羨ましいさ………」

 

『そうだ。お前の弟子たちはみな、素晴らしい芸術家だ』

 

「ワシも……本当なら、自分の才能と絵で世に出たかった………」

 

『だが世の中は上手く渡った者が勝つ。お前は絵画では何も得られず、惨めだった』

 

「そして盗作に走った……。何人もの弟子を育てては、潰してきた………」

 

『全く……あの時に自分の才能と作品の価値に気付いていれば、怪盗団に狙われることもなかったろうに………」

 

「……?才能?価値?」

 

『才能があったとしても、開花できる奴が何人いる?あれだけたくさんの作品を作ったのは……間違いなくお前だ。』

 

「?…………⁈ワシの弟子たちは……ワシの作品………」

 

『そう、お前が作り上げた。お前が……完成させた。お前には、その才能があった』

 

「ワシは……ワシの作品(弟子)を誇れば良かった……?ワシの作品(弟子)たちが成功したことを………」

 

『だがお前は、画家としての成功にこだわり、盗作に走った。皮肉なものだな。お前の才能と作品の価値を、一番理解していなかったのが、お前自身だったとは』

 

「あ、あああ………」

 

《絶対に……絶対に………》

 

「?」

 

《……世界を奪い取る!》

 

「祐介………」

 

『アイツがなぜ、神に歯向かっているか、わかるか?』

 

「アイツのことだ……神の作ろうとしている世界が、アイツの美学に反するから……美しく、塗り替えようとしてるのだろう?」

 

『やはり腐っても師であり、育ての親であっただけはあるな』

 

「何を言う、ワシのどこが師だ……どこが親だ………」

 

『あんな子供から、なぜサユリのことがバレるだなど考えた?母親ごと始末すれば良かったのではないか?』

 

「…………」

 

『あばら屋での日々を、お前は本当に常に仮面を被って過ごしていたのか?』

 

「分からん……もう分からんよ………」

 

『……そう言えばアイツ、さっき牢獄の前で、ワシのことを先生と言いかけたぞ」

 

「え……?」

 

『許すつもりはいないが、憎み切れてもいない、といったところか………』

 

「そうか………」

 

『…………』

 

「弟子が作品なら、教育もまた芸術だったはず……。そんな着想が浮かばん奴が……画家になどなれるはずがないな」

 

『…………』

 

「祐介の言う通りだ。せめて最後くらい、自分で飾らんとな。いい加減、他人に頼って、他人の評価にこだわるのは止めるか」

 

カッ!

 

 その瞬間、シャドウ斑目の姿が変わる。

 ベレー帽を被り、画材道具を両手に抱え、所々絵の具で汚れた服を着たその姿は、まさに芸術家そのもの。

 

「祐介……ワシが言えた義理ではないが、必ず見せてくれ。お前が神に歯向かってまで求めた……美しい世界を……。お前の……最高傑作を!」




思えば祐介とのコミュイベントで、斑目と祐介の関係を見たのが、この作品を作るきっかけになったのかもしれません。


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金城編

3話目です


「ん?」

 

刑務所の運動場で座り込んでいた金城は、周囲が異様なことに気付いた。

 

「何だよ……これ?」

 

『ずいぶん貧乏臭い空気だな、お前』

 

「⁈」

 

いつの間にか、自分がもう1人隣に立っていた。

 

「誰だお前?」

 

『元銀行経営者のお前だよ』

 

「銀行……?うっ⁉︎」

 

—————卑怯な事しか出来ない、可哀想な人よね

 

「…………」

 

『まあ、金なら今も多少は持ってるがな』

 

そう言ってシャドウ金城は、金城の前に札束を差し出す。

思わず金城は札束を手に取るが………

 

「ニセモンじゃねェか………」

 

子供BANK 1億円札、そしてシャドウ金城が描かれたニセ札だ。

 

『お前にとっての金なんて、そんなもんだろうが』

 

「…………」

 

『お前が金を欲しがっていたのは、金で居場所が買えるからだ。いくら手元にあっても、それじゃあ意味がねェ。お前の銀行にあった金は

本物でも偽物でも、たいして変わらない』

 

「……確かに、常に使い続けないといけない。実際手元には何も残っていないも同然かもな………」

 

『金を払えねェとすぐ全部消える。何が刈り取る番だ、結局は金を貢ぐ側じゃねェか』

 

「その通りかもな………」

 

『必死に金を貢いで、それで手に入れた居場所はどうだった?』

 

「………」

 

『分かってんだろ?あの居場所は紛い物だ。いい気分には浸れるが、安心して腰を下ろすことはできねェ。実際よく揺れるから、いつ墜落するかヒヤヒヤしてたぜ』

 

「自分で自分を騙して、しかもそのために必死で金を騙し取って……卑怯で可哀想な奴……その通りだな………」

 

《絶対……絶対に………》

 

「?」

 

《……世界を奪い取る!》

 

「怪盗団………」

 

『アイツら、お前よりよっぽど欲張りだな』

 

「…………」

 

『妥協する気なんか一切ねェ。紛い物で誤魔化されずに、欲しい物を必ず手に入れようとする。手段にまでこだわってだ』

 

「ああ、俺よりずっと欲張りで……正直で……堂々とした連中だ」

 

『この牢屋つう居場所の居心地はどうだ?』

 

「悪くはねェ。ここにいる全員が同じ犯罪者ってレッテル持ちだから、見栄を張る必要はねェし、惨めな思いもしなく済む。」

 

『…………』

 

「けど……やっぱり、ここには無いものを欲しいって思っちまう」

 

『やっぱり欲しい物は欲しいか?』

 

「ああ、疲れるだけってわかってんのに……納得できてねェんだ」

 

『お前の欲深さなら当然じゃねェか』

 

「そうだな。やっぱ、ちゃんと手に入れてみてェよ。自分の欲しいものをよ」

 

『ちゃんと手に入れる……アイツらみたいに正直に、堂々と……できんのか?貧乏でブサイクでバカ……そのうえ、犯罪者まで追加されたお前に?』

 

「貧乏でブサイクでバカ……昔からよくそう言っていたな。そう言って、レッテルを言い訳にして怠けてきた………」

 

『そうだ。その怠けがお前の欲望を歪ませた』

 

カッ!

 

そしてシャドウ金城の姿が変わる。

スーツを着ているのは同じだが、以前の成金じみたものではなく、汗水流して働くサラリーマンのようだ。

 

「相手が神様だからって妥協すんな!欲しい物なら、絶対手に入れろ!」




金城だけに限らず、怪盗団のターゲット達が言っていることも一理あるんですよね。
けど、実際は正しいことを言って自分の悪事から話を逸らそうとしてるだけ。
ペルソナ4真犯人もそうですけど、自分は特別だから何をしても許される、そんな考えが強すぎただけなんでだと思います。
正しい面もあったのに、残念だと思います。


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