FLOWER KNIGHT GIRL -運命の赤き翼- (シビリアン)
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騎士団長、シン・アスカ

メサイア攻防戦。それぞれの明日を懸けた最後の戦い。片方はギルバート・デュランダルが提唱したデスティニー・プランで縛られる世界を否定するため、片方はデスティニー・プランで示される争いのない世界の為、己の信念、正義を示すために刃を向け合う。

 

オーブ、連合、ザフトのモビルスーツ、戦艦が繰り広げている戦場で、数あるうちの1つの因縁が決着をつけようとしていた…。

 

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「シン!もうやめろ!お前は自分達が一体何を守ろうとしているのか分かっているのか!」

 

「分かってるさ、そんなことは!でもあれは戦争のない世界を創るために必要な力なんだよ!デスティニープランを実現するために!」

 

皆の未来を賭けた最後の戦い、俺の目の前に立ちはだかるのは巨大な高機動ユニット、ミーティアを装備している深紅の機体ジャスティス。

 

それに乗っているのは俺達を裏切った男、アスラン・ザラ。

 

いつも馬が合わず衝突してばかりだったけど、何だかんだ言って俺を気にかけてくれたこの人を俺は嫌いになることはできなかった。

 

だから俺達を裏切ったとき、とても許せなかった。そして、とても悲しかった。

 

最初はどうして裏切ったのか、何で脱走なんて真似をしたのかを知りたかった。

 

でも今更ここまで来てそんな言葉は聞くつもりはない。俺達の邪魔をするのなら全力で迎え撃つまでだ。

 

 

「そんなのは間違っている!何もかもが強制された世界で…人は本当に幸せになれると思うか!?」

 

何もかもが強制された世界…確かにそうかもしれない。

 

デスティニープランによって自分がやりたいことより自分に合ったことを優先される…それは即ち自身の自由を失ってしまうかもしれないと言うことだ。

 

故にアスランの言い分も間違ってはいない。そんなことは俺だって分かってる。でも、それでも!

 

 

「だったらどうすれば良いっていうんだ!?議長が示したデスティニープランより、アンタらの理想ってヤツでこの戦争を止められるのかよ!?」

 

「シン…!」

 

「地球とプラント間で何回も戦争が起きたこの世界で…戦いの無い世界以上に、平和な世界なんて…あるはずがない!」

 

全てが平和になる世界なんて何処にもない。それはそうだ、世の中にはロゴスのように反コーディネーターの民衆や軍人を煽って戦いを誘発させ、平和な筈だった世界がいとも簡単に壊されてしまう。

 

ごく普通の暮らしをしてきた人達も巻き込まれ、犠牲になっていく。

 

戦争があるから平和は壊され、本来流れる筈ではなかった多くの血が流れてしまう。

 

ならその連鎖の根元を断ち切るしかない。これ以上悲しみを生み出さないためにも!

 

 

「だから、俺はぁっ!」

 

デスティニーの操縦桿を握る力が自然と強くなっていく。今の俺には議長からの期待、仲間からの信頼、俺を待ってくれる人達の思いを背負っている。

 

それを無駄にしない為にも、俺は戦う。戦って、大切なもの全てを、守って見せる!今度こそ!

 

 

「はああああああっ!!」

 

デスティニーのヴォワチュール・リュミエール、光の翼を展開させ、アスランのジャスティスに接近する。

 

アスランも此方に対応すべく行動を起こそうとするが、そうはさせない!光の翼で機動性が上がったデスティニーに着いてこれる機体は相手側のフリーダムくらいだろう。

アスランのジャスティスにはヴォワチュール・リュミエールユニットは付いていない。

 

装備しているミーティアも巨大であるが故に小回りが効かないため今のデスティニーに対応は出来ない筈。速度なら此方が上だ!

 

 

「ぐっ、早いっ!?」

 

アスランのジャスティスにアロンダイトで何度も肉薄し、ジャスティスのミーティアユニット、左腕を破壊する。

 

 

「これが、デスティニーの力だ!」

 

怯んだジャスティスを確認すると、俺はデスティニーの光の翼を一度切る。これは以前フリーダムとの戦闘で光の翼を使いすぎてエネルギー切れを起こしてしまったことを踏まえての行動だ。

 

あの戦闘以降、デスティニーはあまりエネルギー切れを起こさないように調整、改良はされたらしいがもしものことがある。

 

光の翼を切ったことにより先程のような高機動戦闘は出来ないが、この状態でもジャスティスとは渡り合える筈だ。俺だって以前の戦いで何も学ばなかったわけではないのだ。そう簡単にやられはしない!

 

態勢を立て直したジャスティスが接近してくる。俺はアロンダイトと一旦戻し、左肩のフラッシュエッジ2を取り出し、ビームサーベルを展開して迎え撃つ。

 

俺のデスティニーとアスランのジャスティスのぶつかり合いは暫く続いた。

 

 

 

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「何故だ…」

 

あれからどれくらい時間が経っただろうか、正確な時間は数えてないがかなり経ったと思う。

アスランと交戦している時、アスランの動きに違和感を感じた。以前戦ったときと違い、まるで本気を出していないかのような動きだった。

 

 

「何で本気を出さない…アスラン!」

 

アスランが今本気を出してないことくらい分かる。一体何のつもりだろうか。何か罠があるのか、それとも俺を舐めているのか、まるで分からない。

そんなことを考えていると、アスランから思っても見ない言葉が返って来た。

 

 

「…それは、今のお前の姿がかつての俺と似ているからだ」

 

「…え?」

 

思いもよらなかったアスランの言葉を聞いて俺は唖然としてしまう。かつてのアスランの姿に似ている?俺が?何故?そんな俺の考えをよそにアスランは言葉を続ける。

 

 

「俺はかつて、ユニウスセブンにいた母が殺され、父上と同じようにナチュラルへの怒りと悲しみ、憎しみだけで戦いに身を投じていた。ナチュラルを全て滅ぼせば、戦争は失くなると、父上のその言葉を信じて…その結果、大切な友人や仲間、唯一無二の父親さえも失ってしまったんだ…」

 

「…!」

 

アスランのその言葉を聞き、俺は更に驚いてしまう。…それじゃあまるで、今の俺と同じ…?

瞬間、死んだ父さんや母さん、マユが無惨に焼け死んでいる姿、俺を庇って死んでしまったハイネ、守ると約束したのに守れず、俺の腕の中で息を引き取ったステラの姿が俺の頭の中に浮かんではまた消えていく。

 

 

「だから分かる、今だから分かる!お前の気持ちが、お前の悲しみが!」

 

「あ…」

 

「だがなシン!その先には何もないんだ!そんな気持ちで戦い続けても心はずっと救われはしない!たとえ全てが終わったとしても、虚しさだけが残るだけだぞ!」

 

アスランの言葉を聞き、俺はかつてフリーダムを撃墜した時のことを思い出す。

 

ステラの仇を取れた、俺が討ったんだ、この手で…撃墜した直後はそんな気持ちでいっぱいだったが、それもつかの間、俺の中には虚しさだけが残っていた。

 

こんなことしても、ステラが戻ってくるわけでもない…そう考えた瞬間、俺の中は空っぽになっていた。議長からデスティニーを授与される際、議長の言葉を聞くまでは。

 

 

「お前には、そうなって欲しくない…!だから過去にだけ捕らわれ続けるのはやめろ!その後ろを向いている目を明日に、未来に向けるんだ…!」

 

未来に目を向ける、その言葉を聞いた瞬間、俺の心の揺らぎが強くなっていく。過去に捕らわれる、確かにそうだったのだろう。

 

家族を失い、軍に入って人を守れる力を持った筈だった。でも俺はミネルバの仲間、ステラを失い、更に力を求めるようになった。

 

アスランの今の言葉で気づいてしまった。そう、俺は過去にしか目を向けず、都合のいい言葉に乗せられ続けていたんだと。そう思った瞬間、俺の全てが否定されたような気がした。

 

じゃあ自分がこれまでしてきたことは何だったのだろう。俺が今この場で戦い続けているのは何のためだ?過去の懺悔?だとしたら俺は本当に何も…

 

 

『シン、お前が変えるんだ。今まで変えれなかったこの世界を、議長と共に』

 

何も見えなくなりそうになったその時、出撃前に話をしたレイの言葉が頭をよぎった。

 

 

『過去があるから明日を願える。これ以上同じ悲しみを増やさないために。その明日を、お前の力で守るんだ、シン』

 

…そうだ、そんな悲しい過去があるから俺は未来を願うんだ。未来を願うから戦えるんだ!

 

 

「…明日を見ろ、か。確かにそうだよアスラン」

 

「…!シン!」

 

「でも、明日を見る以前に、過去を見るのはそんなにいけないことなのかよ!?父さんや母さん、マユ、ハイネ、ステラを失った過去があるから、俺はこれ以上悲しみを増やさないために戦い続けれるんだ!それにっ!」

 

再びデスティニーの操縦桿に入れる力を強くする。

 

 

「俺は決めたんだ!この道を!誰かに誘導されてとかじゃない!俺自身の意思で!今更変えれるわけないだろ!」

 

「シン…!」

 

俺はもう迷わない。自分で決めた道は最後まで走り抜く。例えそれが茨の道だとしても、俺は自分の信念を貫く!誰かの為じゃない、自分の為に!

 

 

「それでも…俺達のやろうとしていることが間違いで、アンタらが正しいって思うのなら、俺に勝って見せろっ!」

 

瞬間、俺の中で何かが弾けるような感覚が走る。この感覚を俺は知っている。戦闘中、何度かこの感覚を経験しており、視界、頭の中がクリアになる。

 

『S,E,E,D』、レイから名前を聞いた程度の知識しかないが、俺が今まで幾多の修羅場を乗り越えられたのはこの力のおかげでもある。

 

――――――この力があれば、行けるっ!俺はデスティニーのヴォワチュール・リュミエールユニットを再度起動させ、ジャスティスに一気に接近。そしてデスティニーの掌部の武装、パルマ・フィオキーナをジャスティスに目掛けて放つ。

 

それに対しアスランはジャスティスの脚部のビームサーベルを展開し、パルマ・フィオキーナを受け止める。

が、それは悪手だ。パルマ・フィオキーナは出力を自在に変更できるビーム兵器、故に出力を最大にすれば相手のビームサーベルを押し切ることだってできる。

 

目論み通り、パルマ・フィオキーナの出力を上げたデスティニーは、ジャスティスの右脚を破壊することに成功する。そしてそのままジャスティスの腹部に蹴りを入れてジャスティスを月面に叩き落とす。

 

 

「ぐっ!シン…!」

 

「ハァッ…ハァッ…!」

 

月面に叩き落としたジャスティスをモニター越しに見据える。かつて何かにすがり付いてばかりだった自分との決別、そして戦争が起こらない世界を創るために、俺はアスラン…アンタを討つ!今日、ここでっ…!

 

 

「これでようやく終わるんだ…この戦争も…俺の戦いも!全てがっ!だからっ!」

 

デスティニーの背部からアロンダイトを抜刀し、ジャスティスに刃先を向け、急加速させる。

 

 

「…!まだだっ!」

 

瞬間、月面のジャスティスが行動を起こす。…背後のリフターだけを飛ばした…?俺はジャスティスのリフターの方に思わず目を向けてしまう。それが失態だった。

 

コックピット内に警告を知らせるアラートが鳴り響く。その音にハッとした時には遅かった。

 

 

「まだ終わらないっ!」

 

ジャスティスが残っている左脚のビームサーベルでデスティニーの右腕ごとアロンダイトを破壊した。

 

 

「なっ…!」

 

「…お前が譲れないものがあるように、俺にも譲れないものがある。だから俺も負けるわけにはいかない!」

 

「…っ!くそっ!」

 

ジャスティスに反撃しようとしたその時、背後から先にアスランが飛ばしたリフターが接近し、デスティニーの左側のウイングユニット、両脚部が破壊される。

 

 

「ぐっ…!まだだ…っ!まだ終わってたまるかっ!」

 

先程の攻撃でコックピット内に警報音が鳴り響く。右腕、左ウイング、両脚が破壊されたことにより機体ダメージが大きくなっていた。

 

だがまだだ、最後まで諦めてなるものか。自分の信念を貫き通すために、俺は負けるわけにはいかない。

 

 

「こんなところで…終わるわけに行くかああああっ!!」

 

右ウイングのヴォワチュール・リュミエールを展開。機体に無理な動きをさせたためか駆動系の警報音もコックピット内で鳴り出す。

 

―――デスティニーももう限界だ、これ以上動かしたら機体の制御が効かなくなるだろう。なら次の一撃で決めるしかない。ここまで来たら今更後戻りなどするつもりなどない。たとえ悪足掻きだとしても俺は最後まで戦い抜く!

 

左腕のパルマ・フィオキーナも起動させジャスティスに一気に接近する。狙うは胴体、この一撃で仕留める!

 

そしてパルマ・フィオキーナを撃ち出そうとした瞬間だった。

 

 

「あ――――」

 

アラート音と共にコックピット内に桃色の光の刃が貫き、その際に破損した機体の破片が身体中に突き刺さってきた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

負けてしまった。あれだけアスランに強気に言い放って挑んだ挙げ句、ジャスティスを大破させることもなく無惨に負けてしまった。

 

所々破損したモニターで確認できるのはビームサーベルを構えてなぜか呆然と停止しているようなジャスティスの姿だった。

 

 

「あ…あぁ…っ!シン…っ!」

 

ノイズ混じりだがアスランの声がコックピット内に響く。…なんて声出してんだよアンタは。そもそも敵に対して出す声じゃないぞ…。ホントワケわかんない人だな…。

 

 

「アス…ラン…」

 

腹部を中心に体のあちこちに破片が刺さっている。そして刺さった破片の隙間から赤黒い液体が大きな水溜まりのようになって宙に溢れ出す。

 

あまりの激痛に顔を歪めるが、時間が経つにつれ徐々に薄れていくようにも感じる。

 

「やっぱ…アンタ強いな…最後まで…敵わなかったや…ごふっ…!」

 

「…っ!シン!俺は…っ!」

 

肺から込み上げてきた空気と一緒に赤黒いものも吐き出される。血だ。口の中に鉄のような味が広がってまずい。これが死ぬってことなのだろうか。

 

そんなことを考えてると、コックピット内の計器のスパークがどんどん激しくなっていく。

 

 

「…何…やってん…ですか…アンタ…は…早く…デスティニーから…離…れろよ…爆発に…巻き込…まれるぞ…」

 

未だに動かないアスランに向かって振り絞りながらそう言う。何やらアスランが叫んでいるがもう意識が朦朧としていて何を言っているのか聞き取れない。

 

先程まで激痛に感じていた痛みが無くなっていく。それと同時に何も見えなくなり、聞こえなくなり、何も感じなくなっていく。

 

俺はもうここまでのようだ。最後の戦いで負けてしまい、無惨に死んでゆく。

 

―――レイ、ごめん。俺、負けちまったよ…。ごめんな、ルナ。出撃前に交わした生きて帰るって約束守れないな…。

 

戦いが終わったら伝えたいことがあるって言ってたけど何だったんだろうか。

 

もし重要なことだったら、俺は大事な約束も守れない情けない男だ…。

 

 

「レイ…ルナ…ご…めん…」

 

もう意識が保てなくなりそうな時、機体が大きく揺れるように感じた。恐らく機体の所々で小爆発が起きているようだ。あれだけ無茶をさせてしまったから当然だろう。

 

デスティニー、議長より授与されたインパルスに次ぐ俺の最期の機体。たとえレクイエムのような殺戮兵器と同じような存在だとしても、俺にとってデスティニーは過酷な戦場を共に駆け巡った愛機であり最大の相棒だった。最後までこんな俺に付き合ってくれてありがとな…。

 

―――もし死んだ先にあの世があるなら、お父さんやお母さん、マユ、ハイネ、ステラに…会えるのだろうか…

 

次の瞬間、辺りは真っ白の光に包まれ、その中で誰かが自分の名前を叫ぶ声が聞こえたような気がした。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「…ん、朝か…」

 

目を開け、窓の方を向くとカーテンの隙間から部屋に一筋の光が指すのが見える。時刻を確認するとまだ早朝のようだ。それに何だか夢見が悪かったのか目覚めが悪い。

 

何の夢を見ていたのかはあまり覚えていないが、昔のことの夢を見ていたという認識はある。

 

 

すこし気だるげな体を起こし、部屋のカーテンを開け、日の光を十分浴び眠気を覚ます。今日は良い天気だ。

 

 

「まだ朝食には早いし…外に出て散歩でもするか」

 

そう思いベッドを整え、部屋着から普段来ている服、団長の服に着替えて、俺…シン・アスカは部屋を後にする。出ていった部屋には執務室と書かれている看板がぶら下がっている。

 

 

「戦線に出て戦うだけだった俺が団長だなんて…改めて考えると変な感じだな」

 

苦笑いを浮かべながら俺はそう呟く。そう、俺は今兵士ではなく花騎士と呼ばれる少女たちを指揮する騎士団の団長になっていた。

 

あのメサイアの戦いの後、デスティニーの爆発の中で死んだ筈の俺は何故かあのコズミック・イラと呼ばれた世界とは違う全く別の世界、スプリングガーデンで目を覚ました。

 

この世界には害虫と呼ばれる脅威が存在し、普通の人間じゃ対抗できず、害虫に一方的に襲われるだけかと思われたが、そんな害虫に唯一対抗できる存在が居る。それが世界花の加護を受けた少女達、通称花騎士(フラワーナイト)だ。

 

彼女たちの活躍により世界は脅威から守られていると言っても過言ではない。

 

ただ花騎士と言ってもやはり一人の人間、自分の力だけではたかが知れ、指揮するものがいないと纏まったフォーメーションが取れず、それが敗北に繋がり下手をすれば死を招くことだってある。

 

そこで出てきたのが彼女らが所属する騎士団、そしてそれを指揮する人間、騎士団長だ。

騎士団長になるには専門の学校を卒業し、更にその後試験を受け資格を得たものだけが初めて団長になれる。

更に言えばソーラードライブという力を発揮できる者であれば真っ先に推薦され、流石に他同様に専門学校でカリキュラムを積まなければならないけど、待遇は良くなるとのことだ。

 

俺もその一人である。というのも最初この世界に来たときは瀕死の状態だったらしかった俺は、傭兵団と呼ばれる組織の人達に助けられ、右も左も分からなかった俺はその傭兵団でお世話になり、そこでおもしろおかしく、時には厳しくされたが、傭兵団の人達は俺に良くしてくれた。

 

傭兵団に入って1年ほど経ち、ある仕事をしていたとき、たまたまソーラードライブを撃てることが判明し、俺は傭兵団の人達に騎士団長になるための学校に通うことを薦められ、返しきれないほどの恩を受けながらも学校に行き、そこで数年ほどで卒業、団長の資格を取り、今に至るというわけだ。

 

いろいろ厳しかったけど、俺に良くしてくれた傭兵団の人達にはかなりお世話になったのでいつか恩返しをするつもりだ。あの人達には感謝しきれない。

 

この世界に来てはや6年、俺はもう22歳になり、背もあの頃より伸びている。ここに至るまでいろんなことがあったがどれも自分にとって大切な出来事だった。

 

 

「あ、おはよう。貴方は今日も早いね」

 

思い出に浸りながら廊下を歩いていると正面に一人の少女の姿が目に入る。

紫色の髪を腰まで伸ばし、おとなしめな雰囲気の少女、アネモネだ。彼女は害虫に対抗できる存在、花騎士の一人だ。

 

 

「おはようアネモネ。アネモネこそ早いじゃないか」

 

「うん、何か今日は早く起きすぎちゃって寝ようにも寝れなかったから」

 

アネモネは薄い笑みを浮かべながらそう答える。俺と同じような感じか。

以前までアネモネはとある過去が原因で他人を信じられなくなったらしく、この騎士団に入った時はあまり人と接することが少なかった。

でもこの騎士団で過ごしている内にだんだんとそれは無くなっていき、今では初対面はまだ少し難しいと言っていたがそれなりに人と接する機会が増えていった。

 

そう考えるとアネモネとの付き合いもかなりなんだなと実感させられる。

 

 

「…どうしたの?そんなにじっと見つめられると流石に恥ずかしいよ…」

 

そんなことを考えているとアネモネが頬を少し赤く染め、恥ずかしそうに言う。

 

 

「ん、ああごめん。いや、ただアネモネもここに来た時と比べると随分変わったよなって思ってただけだよ」

 

「…私が変われたのはこの騎士団の花騎士達と貴方のおかげだよ。貴方がいなければ私は変われなかった。貴方が私に信じさせてくれたおかげだから」

 

アネモネはそんなことを言うが俺はそうではないと思う。確かに人と接する機会を増やそうとしたのは俺だけど、そこからはアネモネが自分でもなんとかしようと頑張ったから変われたんだ。

 

それに元々掃除好きの彼女は、掃除の際俺達が見落としている所もちゃんと指摘してくれたり、アドバイスとかもしてくれるおかげで此方側も大いに助かっており、それで他の綺麗好きの花騎士との交友も深めていったのだからそれは間違いなくアネモネ自身の力だ。

 

 

「そんなことはないさ。アネモネが変われたのは間違いなく自分の力だよ。俺達はそれの後押しをしてただけだ。だからアネモネが自分で自分を変えたんだ」

 

「そう…かな。でもそう言って貰えると嬉しい。ありがとう」

 

そう言ってアネモネは笑顔になる。俺もそれに釣られて自然と笑みを浮かべる。

 

 

「そういえば貴方は今からどこに行くの?」

 

「ああ、ちょっと散歩しようと思ってな。天気も良いし今んとこは他に何もすることはないから」

 

「…それじゃあ私も一緒に行ってもいいかな?朝食までまだだし外の空気も吸いたいから」

 

「いいよ。行くなら一人より二人が楽しいしな」

 

「…じゃあご一緒させて貰おうかな」

 

一緒に行くことに肯定の返事をするとアネモネは明るい笑顔を浮かべる。そんな彼女に見とれて一瞬ドキッとしてしまった。

 

その後俺はアネモネと朝食の時間になるまで外で他愛ないような、でも楽しげに話をした。

 

――――――――――――――――――――――

 

「シン、此方の書類の整理は終わらせておいたぞ」

 

朝食後、溜まっていた書類の整理をそれなりに進めている途中、脇の方から声を掛けられる。

 

 

「ああ、サンキュな。…レイ」

 

「お前の補佐としてこれくらいのことは当然だ。気にすることはない」

 

俺の目先に居る一人の男…団長になった俺の補佐で親友のレイは、そう頼りになる言葉を返して再び仕事に戻る。

レイと再会したのは騎士団の専門学校だった。最初出会ったときはお互い泣きながら再会を喜んだ。まさかこの世界で俺と同じ世界の人間、しかも親友と出会えるなんて思いもしなかった。

そのときの周囲の視線が生暖かかったからその後恥ずかしさで顔が熱くなってしまったが。

 

再会してからレイに俺があの世界で死んでから何が起こったのかを説明してくれた。俺が敗れた後、メサイアはエターナル、フリーダムによって沈められたこと、レクイエムは破壊されオーブは討たれなかったこと、そしてレイが議長とメサイアの中で運命を共にしたこと、それを聞いて俺は何も言えなくなってしまった。

 

俺達ザフトは負け、俺達の目指した戦争のない世界が否定された。当時は悔しさでどうにかなりそうになった。

 

 

『シン、すまなかった』

 

『え?な、なんだよ急に謝り出して?』

 

そんなことで頭をいっぱいにしていたら、いきなりレイが謝り出したから驚いてしまった。むしろ謝んなきゃならないのは俺の方だ。ザフトが負けてしまったのは俺が負けたせいでもあるのだから。

 

 

『俺は議長の…ギルの目指す世界を実現させるために都合の良い言葉を並べてお前を利用してきたんだ。お前がどんなに苦しい気持ちになっていたのかも考えずに…その結果お前を死なせてしまった。だから本当にすまなかった』

 

『レイ…』

 

『何なら殴ってくれても構わない。それでお前の気が晴れるのなら』

 

突然の告白に俺は更に驚いたが、それは違う。俺も自分の意思で最後まで戦ったんだ。誰かに誘導されたとかじゃない、だからレイが謝るのは間違いだと、それに共に戦った戦友であり親友であるレイを殴るなんてできない、そう伝えるとレイは何故か驚いた表情をした。

 

 

『…お前は、俺のことを…親友と、呼んでくれるのか…?』

 

『当たり前だろ?俺にとってレイは大切な仲間で大切な友達なんだから。少なくとも俺はそう思ってるよ』

 

その伝えると、レイが涙を流し出したから突然のことで俺は困惑してしまい、レイが落ち着くまで待つしかできなかった。

 

閑話休題。

 

後、レイのテロメアについてだが、この世界でテロメアをどうにかできる方法があったらしく、今レイの体の老化は俺達と同じくらいになったらしい。つまりテロメアによる短命は克服されたということだ。

 

どうやらこの世界にレイの体をどうにかできる特効薬があったらしいとのとこだが、そこらへんの知識は浅い為、俺にはよく分からなかった。

 

話を戻すがレイは俺と同じく専門学校を俺より良い成績で卒業した。だから団長になるのだろうと思っていたのだが、なぜか団長ではなく俺の補佐ということになってしまっている。

 

俺の補佐になるくらいなら副団長でも良かったのではと思ったが、騎士団の副団長は花騎士がするということになっているらしい。

 

 

「でもあれだよな、今更だけどレイの方が俺より学校では成績良かったんだしレイが団長になっても良かったんじゃないのか?」

 

「何を言っている。確かに成績では俺の方が上だったがお前も対して俺と差がなかっただろう。それにお前の方が人望が厚い。なら団長になるにはお前が適任だ」

 

俺の質問に対しレイはそう饒舌に答える。俺の方が人望が厚いか…そうかな?レイも専門学校ではそれなりに人望が厚かった気がするんだけど…

 

「何にせよ、今のお前は団長で、俺はそれを支える補佐だ。何かあったときは俺がお前を後ろからサポートする。だからお前は団長らしく堂々としていれば良い」

 

…レイにそこまで言われちゃ俺は団長としてしっかりしないとな。何やら知らずの内に自分にはやはり向いてないのではないかと弱気になっていたようだ。

 

 

「…ありがとな、レイ。何だか情けないとこ見せてしまったな」

 

「フッ、気にするな。俺は気にしない」

 

改めて俺を励ましてくれたレイに感謝の言葉を伝える。

レイと話をして止まっていた手を動かそうと書類整理の続きを始めたときだ。

執務室の扉にノックがかかり、俺は入るよう指示を出した。

 

 

「し、失礼します団長!」

 

「チョコレートコスモス、どうしたそんなに慌てて?」

 

執務室に入ってきたのは赤茶色の短い髪をした花騎士の少女、チョコレートコスモスだった。何やら慌てている様子だ。そんな様子の彼女に先程まで緩んでいた気を硬くする。

 

 

「とある町の付近に多くの害虫が攻め混んできたということで、至急現場に向かってほしいとのことです!」

 

「っ!レイ、俺はいまから花騎士達を連れて現地に向かう!後は任せられるか?」

 

「了解した。町周辺に迫ってきてる害虫の詳細を確認後、一番近くにいる救助隊と他の騎士団に応援要請を出しておこう。後、通信を介して状況を伝える準備もしておく」

 

「頼む!チョコレートコスモス、俺達は準備が出来次第すぐに現場に向かうぞ!」

 

「はい!分かりました!」

 

そう言うとチョコレートコスモスは失礼しましたと告げてから、急ぎめに執務室を後にする。恐らく他の花騎士に今のことを伝えるのだろう。

 

 

「シン」

 

「ん?」

 

俺も準備を整え、執務室を出ようとしたときだった。レイに声を掛けられる。

 

 

「無事に帰ってこい」

 

「…ああ!花騎士も町の人達も、誰一人欠けさせない!」

 

レイにそう告げると今度こそ執務室を後にした。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「レイ!町の方の状況は分かるか!?」

 

『ああ、既に救助隊と他の騎士団によって住民の避難は大方完了しているとのことだ。ただ害虫があまりにも多過ぎて対応が厳しいようだ。害虫は東と西を中心に、南側からもやって来ている』

 

「分かった!聞いたな皆、俺達はもうすぐ救援があった町の方に着く!予想以上の害虫の数だそうだから何手かに分けようかと思う!」

 

俺の言葉に花騎士たちはそれぞれ肯定の返事をする。

 

報告によると害虫はそれぞれ町の南、西、東から攻めてきているとのとこだ。主に東と西が集中しているとのこと。

 

俺は西側と東側を花騎士たちに任せ、俺は単独で南の方から接近してきている害虫を迎え撃つということを伝える。

 

 

「団長。団長は、一人で大丈夫なの?」

 

すると花騎士の一人である黒髪のツインテールをした赤い瞳の可憐な幼い少女、トリカブトが疑問の声を上げる。

 

…まあ確かに普通に考えれば害虫相手に一人で、しかもそれが団長となると無理にも程。というより団長が前線に立つということがそもそもおかしいんだが、俺の場合は少し特殊なんだ。

 

 

「団長なら恐らく大丈夫ですよ。団長には"アレ"があるので、まあ一人でって言うのはおかしいですが傭兵団にいた頃に実力は見せてもらってますので無問題です」

 

「それは私も分かってるけど、でも…」

 

その疑問に答えるように薄い桃色の髪を長く伸ばしている花騎士の少女、エノテラは告げるが、それでもトリカブトはあまり納得してなく、徐々に表情を曇らせる。

 

今回の害虫は東と西に多く集中しているため、戦力の分断はこれ以上はできない。それにエノテラも言っていたが俺には"アレ"がある。

 

だがいくら"アレ"があるからと言って、一人で行くということは判断力が問われるということにもなり、少しの判断ミスで死に直結する。

だからトリカブトは表情を曇らせているのかもしれない。

 

 

「心配してくれてありがとな、トリカブト。でも大丈夫だ。慢心してるって訳じゃないけど俺もそれなりには戦えるつもりだから」

 

「団長…」

 

「だからそんな暗い顔しないで、俺を信じてくれ」

 

「…うん、団長を信じる。だから絶対に死なないで欲しいの…」

 

「ああ」

 

トリカブトの頭を撫でながら問題ないことを伝える。トリカブトはまだどこか心配そうな表情をしているが一応は納得したらしい。

 

彼女は過去に友人と家族を一緒に失い、その後も辛い状況下で生きてきたらしく、初めて出会った頃はあまり心を開いてくれなかったが、騎士団で過ごしていく内に少しずつ心を開いてくれた。

 

そんな過去を持つこの子だから、また自分の知ってる人間が死んでしまったら幼いトリカブトは下手をしたら心を壊してしまうかもしれない。

 

だから俺はそんな彼女を、彼女だけでない。騎士団の皆を悲しませないようにしなければならない。力を持っても大切な人を守れなかった俺のようになって欲しくないから。

 

 

「それじゃあ通信機はそれぞれ持ったな!何か状況の変化や、ピンチになったときはこれで知らせてくれ!分かったな!」

 

トリカブトを安心させて頭から手を離し、他の花騎士にそう伝えると、全員頷き、それぞれ向かうべき場所に駆け出す。

一呼吸置き、町の南の方を見据え、俺も害虫のいる場所に向かい出す。

 

 

 

 

「…行くぞ、デスティニー!」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

町の南の方角、既に町から視界に入る距離に数多くの影が押し寄せようとしている。

それはそれぞれ赤、青、緑等、様々な色をしているが、それらには共通点があった。

 

蟲のような巨大な足、ギラついた巨大な眼、粘液が伸びている鋭い牙を持つ…そう、人類の天敵、害虫だ。

 

西と東側は害虫の天敵である花騎士が対応している。害虫たちもそれを仲間の知らせで知っている。

 

だが此方側は花騎士どころか武器を持った人間すらいない。害虫はこれを好機と見て一気に町に接近する。

 

今の状況は害虫達にとって優位でしかない。もし仮に武器を持った人間や花騎士がいたとしても、数は此方が上、数で圧倒できるだろう。そう思い込んで真っ直ぐに町に向かい出す。

 

そう油断していたからだろう、突如空から赤い光線が害虫達を貫き、消滅させていく。

 

一体何事か、一番前側に出た害虫はいきなりのことに足を止める。だがそれが命取りとなった。

 

何かが高速で此方に接近し、眩い光を此方に放たれる。

 

その害虫が最期に見たのは、虹色の膜を張った赤い翼を広げた血涙を流しているような鋼の人型だった。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「よし、次っ!」

 

俺は嘗てコズミック・イラと呼ばれた時代で共に戦った愛機、デスティニーを身に纏い、害虫の数を減らしていく。

なぜデスティニーがパワードスーツっぽくなっているのかは正直分からない。だが使えるというならば多少疑問はあるけれど問題ない。細かいことはあまり考えないようにする。

 

思考を別の害虫へと向け、腰にマウントしているビームライフルを取り出し、害虫を撃つ。

 

何度か射つと弾が切れたため、ビームライフルを戻した後、肩のフラッシュエッジ2を両方取り出し、害虫に接近していく。

 

 

「そこだっ!」

 

害虫も行動を起こすが速さでは此方が上、小型の害虫を2刀のフラッシュエッジで何体も切り裂いていく。

 

害虫の数をどんどん減らし、残るは巨大な角を持っている巨体の害虫のみ。

この害虫は他の個体とは別格のため、今のような戦い方は通じない。

 

巨体の害虫がこちらに速度を上げ、大きな足音を立てながら接近してくる。害虫の重圧感と、いきなりの行動で少し驚いたが、俺はそれを横にずれることで回避する。

 

がら空きになった背中にビームライフルを射ち込むが大したダメージが入っていない。

 

どうやら全身が硬い甲殻で覆われている為あまりダメージが入らないようだ。

だが此方にはそれを貫く程の質量を持った武器がある。

 

MMI-714 アロンダイトビームソード。ソードインパルスのエクスカリバーレーザー対艦刀を改良し、エクスカリバー譲りの破壊力を持つ巨大な剣。

元々は戦艦や巨大MAの相手をする為に造られた武装だから、硬い装甲はこいつで叩き斬ることができる。

 

俺の方を向いた害虫が再び同じ行動を起こそうとする。だがそうはさせない!

 

 

「デスティニーなら、こういう戦い方もできる!」

 

弾が補充されたビームライフルを何発も射ち、動きを遅くしてから高出力ビーム砲を射ち込んで動きを止める。

 

 

「次はこいつを食らえっ!」

 

大型対艦刀アロンダイトを構え、背部のヴォワチュール・リュミエールユニットを起動させて一気に害虫に接近し、害虫の硬い甲殻を何度も切り裂いていく。

 

 

「■■■■■■■■■■―――!?!?!?」

 

予想通りアロンダイトで害虫の甲殻はいとも簡単に裂かれていく。痛みで悲鳴を上げるしか出来ない害虫にアロンダイトを奥まで突き刺す。

 

 

「これでとどめだっ!!」

 

アロンダイトでそのまま下に切り落とし、とどめに突き刺した部位に掌部のパルマ・フィオキーナを出力最大にして害虫の体に放つ。

 

 

「■■■■■■■■■■――!!!」

 

最後の一撃で目の前の害虫はもがきながら悲鳴を上げ、巨体が地面に崩れ落ち、そのまま絶命した。

 

 

 

「ふう…」

 

害虫を倒したことを確認しデスティニーの状態を解き、周囲を見渡すと、小型から中型の害虫の死骸が無惨に広がっている。

中には親子の害虫もいる。親が子を守るように庇っているが、どちらも絶命している。

 

それを見て何だか変な気持ちになるもすぐに気を切り替える。以前の俺なら動揺してたかもしれないがそこは割り切らないとこの世界では生きていけない。…まるで戦争みたいだな…。

 

 

『こちらアネモネ、東側の害虫は全て倒したよ』

 

『こちらエノテラ、此方側も全部ブチ転がしました』

 

そんなことを考えてると持っていた通信機から報告が伝わってきた。アネモネとエノテラだ。どうやらあちらの方も無事に終わったようだ。俺はその報告に安堵した後、それに返事をするべく通信機のボタンを押す。

 

 

「分かった。部隊の状況は?」

 

『此方は大丈夫、負傷者はいないよ』

 

『此方側も負傷者はいません。疲労者はいますが』

 

「そっか、お疲れ。じゃあ今から指定する場所に集合してくれ。…」

 

冗談混じりのエノテラの通信に苦笑いを浮かべながらアネモネとエノテラに集合地点を伝えると了解の返事が返ってくる。

俺も先程伝えた集合地点に向かうべく、害虫の死骸を背にこの場所を後にした。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

かつてコズミック・イラと呼ばれた時代で戦士として戦い続けた少年は、スプリングガーデンで花騎士と呼ばれた少女達と団長として害虫との戦いに身を投じる。

 

 

この世界に住む人達を、害虫の危機から"守る"為に…

 

 

 




お疲れ様でした。後3年間もハーメルンでの投稿をほったらかしにしてしまい大変申し訳ございませんでした!

一時期仕事のストレス、鬱で中々執筆が進まず、終いにはSAO Dの最新話の文章が消えてしまいそこからモチベーションが上がらなくなってしまい今の今までずっと放置してしまいました…。

本当に申し訳ございません!

今回は3年間空けてしまったので、リハビリ用として投稿をしました。相変わらず拙い文章力ですみません。
続くかどうかは未定ですが、好評なら続きを書こうと思っています。

SAO Dの方に関しましても、時間を見つけての執筆となるのでいつ投稿できるかは未定ですが、頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。

では、次に本作のシンとデスティニーの設定です。


シン・アスカ

年齢 22歳

性別 男

所属 ザフト軍(コズミック・イラ)→傭兵団(スプリングガーデン)→花騎士の騎士団長(スプリングガーデン)

コズミック・イラ73年、メサイア攻防戦でアスラン・ザラとの戦いに敗れ、戦死してしまうが、スプリングガーデンという花の世界に降り立ち、既に瀕死状態だった所を傭兵団と呼ばれる組織に拾われ、命を救われる。

その後傭兵団で活動してる際、任務で害虫と戦っているとき、ソーラードライブと呼ばれる力を放てることが判明し、傭兵団の勧めもあって花騎士の団長になるべく、騎士団の専門学校に入学、卒業し、今現在は花騎士の騎士団長として活躍中である。

尚、今作のシンはボンボン版基準という設定のため、シンにとってルナマリアは同期で友人という感じなので、ルナマリアとは恋人関係ではない。

デスティニーガンダム

嘗て数多の戦場を駆け抜けたシンの愛機がスプリングガーデンでパワードスーツモドキとなった。
イメージはISやソリッドアーマーに近い感じ。

大まかにはこんな感じです。雑になってしまい申し訳ございません。

それでは最後に、ご清覧いただき、ありがとうございました!


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騎士団での日常

花騎士×SEED DESTINY、続きが読みたいと言う声を頂きましたので、書きました!
相変わらず拙い文章力ですが、読んで頂けたなら幸いです。


それではどうぞ!



スプリングガーデン、それは命の根源である世界花によって支えられた人間達の母なる大地が広がる世界。

 

この世界にはそれぞれの方角に世界花が存在し、そこを中心に国家が出来上がっていた。

 

――気候が安定し、スプリングガーデンの中で最も栄えており、原初の花騎士であるフォスが生まれたとされる国家ブロッサムヒル。

 

――自然と共存するという思想を掲げ、森を切り拓いてではなく、森の中に街が造られている、スプリングガーデンの中でもっとも歴史が長い国家リリィウッド。

 

――三方の海に囲まれ、とても活気に溢れており、他国の人間も容易に受け入れ、観光地としてもかなり有名な常夏の国家、バナナオーシャン。

 

――急な渓谷に囲まれ、生活するのにそのままではとても厳しい為、その為に生まれた高度な技術を使い、発展させていった国家、ベルガモットバレー。

 

――どの国家よりも過酷な気候で、人が暮らすにはそれなりの覚悟を試させる、スプリングガーデンの最北端に位置する常冬の国家、ウィンターローズ。

 

――国土の殆どが水で覆われ、世界花の加護によって水上と水中に国が分けられ、資源の供給が厳しいが害虫の被害が少ない為に他国の力を借りる必要もないと判断し、近年まで厳しい鎖国政策を敷いていた国家、ロータスレイク。

 

それぞれ人々の長年の知恵を絞り、発展させていった世界。世界があり、そこに人がいるから、世界の均衡は保たれている。だが、それを崩すかのように現れたのが、害虫である。

 

元々害虫はかつて益虫と呼ばれ、人間と共生する家畜やペットといった種族が違う良き友のような存在だったが、スプリングガーデンの外側からやって来たとされる、"死にゆく世界の支配者"という存在の呪いによって変貌し、人々を襲う存在へと化してしまった。

 

死にゆく世界の支配者は原初の花騎士たちによって既に討ち倒されているが、それが残した呪いは強力で、今でもなお存在し続けている。

 

そして、その害虫の犠牲となった国家が1つだけ存在した。

 

それはかつてどの国家よりも先に害虫が発生し、害虫によって成す術もなく滅ぼされ、世界花も害虫によって汚染されて枯れ果て、人が住める環境でなくなった国家、コダイバナだ。

 

その国のように世界花が害虫によって汚染されてしまえば、人間の居場所は潰され、滅亡の一途を辿ってしまう。

 

それを防ぐために花騎士、そしてそれを統べる団長の存在は必要不可欠だった。

 

その花騎士の団長の一人である青年、シン・アスカはブロッサムヒルにある騎士団の団長執務室で書類整理に追われていた。

 

 

「えっと、これはこの前の任務の結果報告で、これがあの時の探索の結果、これが他の騎士団との合同演習の時の報告で…だぁーっ!くそっ!いくらなんでも書類多すぎだろっ!」

 

「仕方ないだろう。組織が大きくなればなるほど以前よりも仕事が増える、それはどの職務でも同じことだ」

 

 

シンが整理する書類の多さに毒づいていると、隣で彼と同じく書類整理をしている彼の補佐であり親友でもある金髪の青年、レイが手を止めずに淡々とそう口にする。

 

 

「いや、それは分かってるけどさぁ…。…議長や艦長もこれを何度も経験してたってことだよな。今になってその大変さが分かったよ…」

 

「そうだな、俺達は元々は戦士として戦っているだけだったから、こう言ったものには縁がなかったも当然だった。まあ書類を書くことは前からもあったが、せいぜいレポートぐらいだな」

 

そう言いながらも書類整理を着実に進めているレイを見て、やっぱり凄いよなレイは、とシンは感心する。

 

こんなこと考えてて手を止めてたらいつまで経っても終わんなくなってしまうと思ったシンは再び山のようにある書類と向き合って書類整理を再開する。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

「や…やっと終わった…」

 

「ご苦労だったな、シン」

 

「ああ、レイこそお疲れ」

 

あれから3時間程経っただろうか、書類に向き合って集中しながら整理をし、間違いやミスがないことも二人で確認して、何とか書類整理を終わらせることができた。

 

もし自分一人だけだったら、絶対長々と持ち越しになっていただろうから、正直レイがいてくれて助かった。

 

 

「よし、ではこの書類は俺が上に出しておこう。お前はここでゆっくり休んでおけ」

 

「えっ、いいよそこまで。この騎士団の団長は俺なんだから俺が持って行くよ」

 

そんなことを考えているとレイが纏め終わった書類を持ちそう言うが、それをするのは俺の役目だからとレイを止めようとする。だけどレイは首を横に降った。

 

 

 

「いや、俺が持っていこう。お前は団長として戦場で花騎士達を指揮するだけでなく、自らも戦うんだろう?ならいつでも備えれるよう万全な状態でなくてはならない」

 

「いや、確かにそうだし、レイの厚意はありがたいけどさ、でも流石にそこまでしてもらうのは…」

 

「気にするな、俺がしたくてやるだけだ。…俺がお前のためにできることはこれくらいだからな」

 

こうも言うということは意地でも自分で持っていくつもりなんだろう。変なとこに頑なになっているレイに俺は溜め息をついてしまう。

 

レイは昔から良い奴で、アカデミー時代にもわからない教科があるとき、呆れられながらも何度も教えてくれたりもした。時には俺が起こしてしまった厄介事も庇ってくれたり、自分は関係ないはずなのに、負担してくれたときもあった。

 

それ以外にもいろいろ迷惑を掛けてしまったレイには申し訳ない気持ちしかないから、レイにあまり負担を掛けないようにしているんだけど、レイがこの通りだから俺は苦笑いを浮かべてしまう。

 

 

「…分かったよ。じゃあお願いしてもいいか?」

 

「ああ、任せろ。お前はゆっくり休んでいるんだ」

 

「ありがとな、レイ。でもお前もちゃんと休めよ?お前だって自分の仕事があるんだし、あまり俺の仕事取りすぎて体調不良なんてされたら困るからな?」

 

「大丈夫だ。少なくともお前よりは無茶はしてないし、体調管理もちゃんとできているつもりだ」

 

「なっ…」

 

「では失礼する」

 

書類を持って退室するレイから皮肉げにそう言われ、俺はカッとなったが、レイから言われた事に思い当たる節しかなかったから言い返すことができなかった。

 

 

 

「…やっぱりレイには敵わないな」

 

レイが出ていった執務室の扉を見て、俺はそう呟くしかなかった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「…て言ったものの、何もすることなくて暇だ…。やっぱり俺が持っていけば良かったかな…」

 

レイに言われた通り休んでいたシンだったが、忙しかった先程とは打って変わって何もすることがなくなった為、暇を持て余していた。

 

先程は仕事の多さに毒づいていたというのに今は退屈と言うもんだから、全く持って贅沢な青年である。

 

 

 

「…何かすげーメタクソ言われたような気がするんだけど」

 

恐らく気のせいだ。きっとまだ疲れが残っているのだろう。

シンが執務室で暇を持て余していると、部屋の扉がノックされ、シンは中に入って良いと許可すると、開かれた扉の先には紫色の髪をした少女、アネモネが立っていた。

 

 

「仕事お疲れ様、貴方」

 

「ああ、ありがとう。…それで、どうしたんだ?」

 

「今レイさんが書類持っていくのを見たから仕事終わったのかなって思って、ケーキ用意したんだけど…一緒にどうかな?勿論、手作りだよ」

 

そう言うアネモネの手にはケーキが入っていると思わしきバスケットがあった。

彼女が持ってきたケーキは店で売っているものではなく、手作りだとのことだ。

 

 

「ケーキか、丁度今甘い物食べたかったんだ。サンキューな、アネモネ。じゃあ俺紅茶用意するからそこの席に座っててくれるか?」

 

シンはわざわざケーキを持ってきてくれた彼女に感謝して空いている席にアネモネを座るよう言うと、シンは棚からティーポット、茶葉、ティーカップを用意し、手慣れた手つきでポットに茶葉、お湯を注ぎ、二人分のティーカップに紅茶を淹れ、カップの1つをアネモネの前に置く。

 

 

「ありがとう。…この紅茶、いい香りだね」

 

「それは良かった。この前買い物に行った時にたまたま買った茶葉だったから、俺は好きな香りだけどアネモネにはどうかなって少し不安になってたんだ」

 

「そうなんだ。…あ、じゃあケーキ用意するね」

 

そう言うとアネモネは持ってきたバスケットから二人分のチーズケーキを取り出し、シンが紅茶セットと一緒に用意した皿の上に崩れないよう綺麗に乗せていく。

 

 

 

「うわぁ、凄いなこのチーズケーキ。手作りなんだろ?…あれ、でもアネモネって甘いの苦手じゃなかったっけ?」

 

「あ…うん、そうだね。私は甘い物は好きな方じゃないけど…貴方に、その…食べてもらいたかったから…」

 

「え、あ、ありがとう…じゃあ頂こうかな」

 

「うん、召し上がれ」

 

自分の為に、そう言われたシンは気恥ずかしくなりながらもアネモネが作ったチーズケーキをフォークで一口サイズに切り、口に運ぶ。

 

 

 

「…美味い」

 

「…本当?」

 

「うん、美味いよ。このチーズケーキ、凄く美味い!」

 

シンの心からの感想にアネモネは安心すると同時に、嬉しい気持ちで心が満たされた。

 

 

「良かった。パウンドケーキは何度も作ってるから慣れてるんだけど、チーズケーキは初の試みだったの。だから上手く作れてるかどうか不安だったから…」

 

「えっ、これ初めて作ったのか!?」

 

アネモネの言葉にシンは驚く。初めて作ったにしてはとても美味しく、ケーキの形もしっかりしていたからシンは信じられないといった感じだった。

 

 

 

「そうだよ。だから気に入ってもらえて良かった。もしまた食べたかったら作るよ?」

 

「じゃあまた機会があったらお願いしようかな。…と、紅茶の方も飲まなきゃな、冷めちまう」

 

「うん、頂きます」

 

そう言って二人はティーカップの紅茶を口にする。紅茶特有の仄かに甘い香りが鼻孔を擽り、お湯の程よい温度と紅茶のほろ苦く、甘い風味が心を穏やかにさせる。

 

 

「…あ、この紅茶美味しい。私の好みかも」

 

「そりゃ良かった。紅茶って色んな種類があるから、口に合わなかったらどうしようかって思ってたからさ」

 

「私は好きだよ、この味。…貴方が選んだ、って言うのもあるから」

 

不意打ちに少し頬を染めながら笑顔で言うアネモネにシンの頬も赤くなってしまう。

シンから見てアネモネは美人の類に入り、そんな彼女に真正面からそんな事を言われてしまったらどんなに鈍くても意識してしまうのだ。

 

 

 

「団長とアネモネさんが何やらいい雰囲気っぽくなっててエノテラ、嫉妬の炎でメラメラ燃やし尽くしてしまいそうです」

 

「エ、エノテラ!?」

 

「エノテラさん?」

 

お互い何やら気恥ずかしくなっていると突然執務室の入り口から声がし、振り向いてみるとそこには薄い桃色の髪を長く伸ばしているスレンダーな体型の少女、エノテラが面白くないような顔をしてそこに立っていた。

 

 

「入るのは別に構わないけど、せめてノックくらいしろって!」

 

「おや、そう言えば忘れてました。ですがもう過ぎたことなのでどうしようもありません。それにそんなに対して重要なことでもありません」

 

「いきなり入ってくるのはどうかと思うけど…」

 

 

相変わらずフリーダム思考なエノテラにシンとアネモネは呆れたような感じになる。だがそんなこと関係なしにとエノテラは執務室の中に入り、団長席、正しくはシンがいる席に近づいていく。

 

 

「団長、エノテラを放っておいてアネモネさんと優雅にティータイムですか。一番付き合いが長いのはエノテラだというのに。シクシク、エノテラは悲しいです。この気持ちをどうしてくれましょう」

 

 

エノテラはそう言いながらもシンに顔を近づけてくる。

エノテラの言うとおり、シンとエノテラは傭兵団の頃からの知り合いで、他の花騎士よりも付き合いが長いのだ。

 

 

「いや、別に放っておいたって訳じゃないんだけど…ってか顔近い!顔近いぞエノテラ!」

 

「エノテラ的にはまだ遠いです。という訳で団長、エノテラは団長との時間を所望します。今すぐです」

 

「ちょ、いいから離れろって!」

 

「エノテラさん、その辺にした方が…」

 

アネモネの制止を無視してシンに顔を更に近づけるエノテラに、エノテラの整った容姿で迫られるシンは必死になっていると言うのもあり、顔を赤くしながら離れるよう言いながら、後ろに体を下げようとする。

 

 

「う、うわぁっ!?」

 

「あ、貴方!?」

 

 

すると突然、椅子のバランスが崩れ、そのまま椅子と共に後ろに倒れそうになる。それを止めようとアネモネが動いて支えようとするが時既に遅し、椅子は壊れこそしなかったがひっくり返り、シンは床に倒され、側に来たアネモネも巻き添え食らってシンと共に倒れる。

 

 

「いてて…ったくもう…」

 

「だ…大丈夫…?」

 

「あ、ああ…俺は大丈夫だ…。アネモネこそ大丈夫か?何か巻き込んじゃって…」

 

「あ…うん、大丈夫だけど、その…」

 

「?」

 

シンが床に倒れ、アネモネがその上に被さるように倒れてしまった為、無事かどうかの確認をシンはするが、アネモネのどぎまぎしたような答えが帰って来た為、シンは頭に疑問符を浮かべる。

 

 

「…ん、何だ、これ…何か柔らかいものが…」

 

「あっ…ん…っ」

 

「えっ?」

 

手に触れている物を確認するため深く考えず本能的に動かしてしまうシンだったが、アネモネのどこか艶っぽい声を聞いて何故か嫌な予感がして、まさかと思い手元を見るとシンの片方の手がアネモネの豊富な胸に触れていたのだ。

 

 

 

「うわあああああっ!?ご、ごめんアネモネ!」

 

自分が何をやってしまったかに気づいて慌てふためいたシンは直ぐ様アネモネの胸元から手を退ける。

 

 

 

「…いやらしい…」

 

「うっ…」

 

倒れた状態から元の姿勢に戻ったアネモネは胸を隠すよう両腕を抱き、顔を赤くしながらそう言う。

それを終始見ていたエノテラはつい耐えられなくなり、突然シンを床に押し倒した。

 

 

 

「ぐあっ!今度は何なんだよ!?」

 

「エノテラの目の前で他の花騎士にラッキースケベとは、いい度胸です団長。そんな団長にはエノテラ流の修正をしなければならないようです」

 

「な、何だよエノテラ流の修正って!?」

 

「それはエノテラのみが知っています。…さあ団長、お覚悟を」

 

「ちょっ、おま、何するんだ!やめろよこの馬鹿っ!」

 

そう言ってエノテラはシンの服に手を掛けようとし、嫌な予感がしたシンはエノテラを止めようとするが、そこはエノテラ、変なところで計算済みで腕を動かせないよう床に押し倒した時から既に足で押さえつけ、力もそれならに入っているため動かそうにも動かせない。

 

エノテラとは長い付き合いの為これから何をしようとするのかシンは何となく察し、やめるよう言うがそれで止まるエノテラではない。

 

シンの服にエノテラの手が掛かったその時だった。

 

 

 

「…何をしている?お前たち」

 

書類の提出から帰って来たレイが、シンとエノテラをどこか冷めたような視線で見下ろしていた。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「散々な目にあった…」

 

あの後、書類の提出から帰って来たレイに俺とエノテラはこっぴどく叱られた。

アネモネは巻き込まれたって感じだったから不問にされた。

 

…アネモネが執務室から出ていくまで目を合わせる度にお互い顔赤くして気恥ずかしそうにしてしまった。

 

エノテラに関してはレイの説教で反省はしていたが、あの様子だと後で何かされそうだな…。全く持って不幸だ…。

 

 

 

「…団長?」

 

そんなこんなで俺は外の広い庭で溜め息をつきながらゆっくりしていると、後ろから不意に声を掛けられる。

 

誰だろうと振り向いてみると、水色のショートヘアーに深い青色の瞳をした小柄な少女が立っていた。

 

 

「こんなところでそんな無防備な状態にしてたら、以前のわたしなら後ろから刺してたよ?」

 

「ははっ、そうだな。…でも今は違う、だろ?イフェイオン」

 

 

その少女…イフェイオンに返事をすると彼女は頷く。

 

 

「わたしは団長を殺さない。…団長が両親の本当の仇じゃないって分かったから。でもこの気持ちが…復讐するって気持ちが消えた訳じゃない…」

 

「…」

 

淡々とそう言うイフェイオンに俺は何も答えられなかった。

 

イフェイオンはごく普通に平穏に暮らしていた少女だったが、自分達の住んでいる町に害虫が押し寄せ、その時に両親を失ったそうだ。

 

しかもその害虫は何処かの団長が害虫討伐の作戦中に逃がしてしまった害虫だったらしく、彼女はその作戦の指揮をしていた団長を憎み、あらゆる手段を使って花騎士になり、復讐を果たそうとしていたのだ。

 

 

当初イフェイオンからその団長が俺だと聞いたときは雷が打たれたような衝撃を受けた。

 

自分のせいで平穏に暮らしていた一人の少女を巻き込んでしまったことに俺はどうすればいいか分からなかった。

 

 

『もしもあの時力があったなら、誰だってそう思うときはあるさ、多分…。でも、力を手にしたその日から、今度は自分が誰かを傷つけることになる。それだけは、忘れるなよ』

 

『組織の正義が通用するのは組織の中だけだ。奪われた悲しみの前では、自分のやったことは全て自分自身にのしかかってくる。それが銃の重みだ。お前は強い、だから絶対に忘れるなよ…』

 

かつてアスランが俺に言った言葉が深く突き刺さる。力を振るうということはそういうことなんだと、その時に初めて思い知らされた。

 

だから俺は彼女のその想いを否定せず、もし殺されても自分はそれだけのことをしてしまったのだから俺はそれを受け止めようとした。

 

けど後日になって書類を調べたとき、偶々イフェイオンの家族が巻き込まれた時の作戦の報告書が見つかり、その時の作戦を受けたのが自分ではないことを知り、それをイフェイオンが知ったとき、彼女は酷く困惑していた。

 

 

 

『そんな…だって、わたし、今まで貴方に復讐するために今まで生きていたのに、今更そんなこと言われたって…』

 

『イフェイオン…』

 

『どうして…わたしは、貴方に酷いこと言って、今まで貴方を殺すことばかり考えていた筈なのに、仇じゃないってわかって、安心している自分がいるの…』

 

『でも、それじゃわたしは今まで何のために…わたしは…わたしは…あ、うああああああっ!!』

 

ぐちゃぐちゃになった感情をどうすればいいか分からなくなったイフェイオンは遂にその場で泣き出してしまい、俺はそんな彼女を放っておけず、優しく抱きしめた。

 

俺には彼女のその気持ちが痛いほど分かる。俺もかつて戦争で家族を失い、力を求めて軍に入り、誰かを守れる力を手に入れたと思った。

 

だけど力を手に入れたのに、大切な一人の女の子…ステラを守れず奪われ、奪われた悲しみを怒りと憎しみに変え、ステラを殺した奴…フリーダムへの復讐を心に決め、如何なる手段を使ってでも奴を撃つと思っていた時期があった。

 

もし自分がイフェイオンと同じ立場だったら、彼女のように感情が複雑になってどうすればいいか分からなくなっていたかもしれない。

 

イフェイオンとは和解はできたが、それでも彼女を不幸にしてしまったのは俺達騎士団長にあるも当然だから、彼女のような人間をこれ以上出さないために、俺は戦い続け、平穏に暮らしている人々を守って見せると改めて心に誓った。

 

 

 

「それでどうしたの?こんな所で溜め息ついて、何かあったの?」

 

「ん、ああそうだな…」

 

イフェイオンの質問に答えるように俺は先程の事をそのまま話すとイフェイオンは途中ジト目で俺を睨み付け、話を終えた後呆れた顔で溜め息をついた。

 

 

 

「…何やってるの団長…。それはレイさんに怒られて当然だよ」

 

「う…俺もそう思ってるよ…」

 

「それにアネモネさんにそんなことして…わたしにだって、前にあったことあるのに…」

 

「あ、あの時は悪かったってホントに!」

 

そう言いながら顔を若干赤くするイフェイオンに俺は改めて謝罪をする。

 

あの時…まだイフェイオンが俺を憎んでたとき、書類の提出がギリギリで急いで終わらせ、提出しに向かっているとき前をよく見ていなかったんだろう、俺は通路の曲がり角の先にいたイフェイオンにぶつかり、そのままイフェイオンを押し倒すという形になって彼女のその…胸元に手を当ててしまい、彼女に思いっきり顔を赤くされながら睨まれた時があった。

 

 

「団長ってよくそんなこと起こすけど…わざとなの?」

 

「んなわけないだろ!?俺だって本当はそんなことしたい訳じゃないんだよ!」

 

「それはそれでたちが悪いね」

 

「うっ…」

 

イフェイオンのその一言で何も言えなくなってしまう。何であれしてしまったのは自分だから見苦しい弁解なんて無意味だ。

 

 

「ふふっ…冗談だよ。団長が嬉々とそんなことする人じゃないって分かってるし、何より団長は優しいから、そんな気も起こす筈もないしそんな勇気なんてないと思うから」

 

「褒められてんのか馬鹿にされてんのか分かんないなそれ…」

 

「あ、いや、別に馬鹿にしてる訳じゃないよ?ただ本当に悪くない人だって言いたくて…」

 

「ははっ、冗談だよ」

 

俺の言葉にちょっと戸惑いを見せるイフェイオン。冗談だと言うと、イフェイオンはジト目になる。さっきの仕返しだよ。

 

 

 

「…団長の意地悪」

 

「お互い様だろ?」

 

「…うん。…ねえ、団長」

 

「ん?何だ?」

 

イフェイオンはそう言うと俺の隣に座り、その小柄な体を俺の肩に預ける。

 

 

「わたしは本当にここにいていいのかな?ここに来るまで、わたしは私以外に花騎士になる筈だった子達を蹴落として、卑劣な手段を使って花騎士になって、団長に復讐するために酷いこと言って、命も奪おうとして、そんなわたしがこの騎士団にいる資格なんて…」

 

「イフェイオン」

 

段々と自分を責めるイフェイオンに、俺は言葉を止めさせ、イフェイオンに真正面に向かい合う。

突然の事に困惑するイフェイオンをよそに俺は言葉を続ける。

 

 

「気にするな、俺は別に気にしてなんかない。人は形がどうあれ間違いは起こしてしまうものなんだよ。俺だってそうだ、自分が正しいと思っていたことが本当は間違っていたことも今まで沢山あった。だけどその間違いは自分を変えるチャンスでもあるんだ。前がこうだったら次はこうしようって、変えれるんだよ。それが許される生き物なんだ、俺達は」

 

「団長…」

 

「間違いは間違いって認めて、変わればいいんだ、少しずつでも。それにもしお前が困っていたら俺が助ける。俺だけじゃない、レイや他の花騎士だって同じ筈だ。だからそんなことは言うな、イフェイオン」

 

 

そう言うとイフェイオンは顔を俯かせてしまった。…説教臭くなってしまったかな、俺が言える立場でもない筈なのにな…。

そんなことを考えていると急にイフェイオンが俺の胸元に顔を埋め、俺はイフェイオンに抱きしめられる形になった。

イフェイオンの急な行動に戸惑い、どうしたのかと聞こうとする。すると彼女は俺の胸元でその小柄な体を震わせていた。

 

 

「…ずるいよ団長は。そんなこと言われたらわたし、団長に縋り付いちゃうかもしれないよ…?」

 

「イフェイオン…」

 

「わたし、本当は団長から離れたくない…ずっと団長と一緒にいたいよ…!」

 

「…ああ、俺もだ。君を一人になんてしたくない。君にこれ以上寂しい思いはして欲しくない」

 

俺の胸元で絞り出すように言うイフェイオンに優しくそう語りかけながら彼女の体を抱きしめる。するとイフェイオンは抱きしめる力を先程より強め、嗚咽を漏らし始めた。

 

 

彼女は巻き込まれた少女だ。本来はきっと優しい性格で、争い事なんて好まない子だったかもしれない。

 

君の姿は、かつての俺に…僕に似ている。だから初めて会ったその日から、君を放っておくことができなかったんだ。

 

俺は願う、どうか彼女がいつか、本当に幸せになれる日が来ることを、心の底から願った――――

 

 




お疲れ様でした。

次回もいつ投稿するかは未定ですが、書く予定ですので、その時もこの花騎士×SEED DESTINYをよろしくお願いいたします!

それではまたどこかでお会いしましょう!


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