爆豪が無個性でデクが個性持ちなら (ウマい棒)
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第0章:原作開始から入学試験まで
爆豪勝己:オリジン


初投稿です!
よろしくお願いします!


「うわっ!無個性とザコ個性コンビだ!」

「無個性のクセにチョーしのんなよ!」

そんな心無い言葉が周りから向けられている。

 

「うるせェ!お前ら個性持ちなのにおれにケンカ負けるくせに!」

「止めろかっちゃん!放っておけばいいよ!」

 

ツンツンした金髪の少年が殴り掛かりに行くのを緑のボサボサした髪の少年が必死に止めようとしている。

 

「放せデク!こいつら俺の夢をバカにしたんだ!」

 

「ただ個性があるだけでオレより弱っちいのに!」

 

「だからもっかいぶっ飛ばして分からせるんだよ!」

 

そう叫ぶと、制止を振り切って相手に向かっていった。

 

「かっちゃん!待ってよかっちゃん!」

 

金髪の少年の拳が相手に届く瞬間、視界が真っ白になった。

 

-----------------------

「はっ!」

 

パッと目を覚まし周りを確認する。

そこが自分の部屋だと分かると同時にさっきは夢だったと気づく。

 

目覚まし時計を確認すると午前6時にアラーム設定している時計の針は

午前5時50分を指していた。

 

そうして自分はあの夢に起こされたのだと自覚した。

 

「・・・ちっ」

 

そう舌打ちをすると汗で湿った寝間着に

しているジャージを脱ぎ捨てた。

 

タオルで体を拭きながら洗面所に向かう。

 

まだ寝ている両親を起こさないように静かに階段を降りていく。

洗面所に着いて顔を洗おうとした時に鏡を見ると驚いた。

そこには涙の痕がくっきりと映っていた。

 

(あの夢で泣いていたのか俺は)

 

そう自覚するとさらに不快感が強まってしまった。

それをかき消すように顔を強く洗った。

 

顔を洗った後にキッチンに向かった。

 

机の上に置いてあったバナナを食べながら柔軟体操を行う。

日頃から続けているのが分かるほどその少年の体は柔らかかった。

 

柔軟体操を終えるとスポーツウェアに着替えて玄関に向かった。

 

音をたてないように外に出ると腕に着けた多機能腕時計を使って1時間半のタイマーをセットし走り出した。

 

そのスピードはおおよそジョギングというには速く、さらにスピードを保ったままで走り続けた。

 

1時間半後家に戻ると

 

「おかえり勝己」

 

という言葉がキッチンから聞こえた。

「ただいま」

 

「朝ご飯出来てるけど先にシャワー浴びてきな」

 

「おう」

と会話を交わして浴室に向かった。

 

そうしてランニングによる汗を流すと朝の不快感はすっかり消えていた。

 

 

体を拭いてキッチンに向かうとコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる父と朝食の用意をしている母がいた。

 

自分もテーブルに着こうとすると父が自分に気づいて

 

「おはよう勝己」

「おう」

「今日もランニングかい」

「ああ」

「最近体がガッチリしてきたな。日頃のトレーニングの成果だね」

「ああ」

 

言葉数は少ないが会話を交わしていく。

「ハイ、ご飯出来たよ」

 

そう言って母がトーストとベーコンエッグを運んで来た。

ランニングで空いた腹に一瞬で吸い込まれていった。

 

食後のコーヒーを飲んでいると玄関のチャイムが鳴った。

一足先に席を立っていた母が玄関に向かった。

 

玄関を開けるとそこには緑髪の少年がいた。

 

「おはようございます」

「おはよう出久くん」

「かっちゃんもう用意出来てますか?」

「もうすぐ出てくると思うわ」

 

そうやり取りをしてくると奥から

 

「来んのはええよ」

 

といいながら少年が出てきた。

 

「おはようかっちゃん」

「おう」

「それじゃ、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい。気をつけていくのよ」

「おう」

 

そういって歩いていく2人を見ながら1人呟く。

「昔じゃあ考えられないわね」

微笑みながら家に戻った。

 

——————————————————————————

 

「あ、そうだ。今日って進路相談の日だよね」

 

「デクはどこにすんだ?やっぱあそこにすんのか?」

 

「うん、雄英高校にするつもりだよ。かっちゃんは?」

 

「俺も雄英だ」

 

「一緒に受かれるように頑張ろうね!」

 

「・・・ああ」

 

「どうしたのかっちゃん」

 

「・・・ンでもねえよ」

 

「おい、学校遅れんぞ」

 

「待ってよかっちゃん!」

 

—————————————————————-

 

「えーお前らも三年ということで本格的に将来を考えていく時期だ!!

今から進路希望のプリントを配るが皆!!」

大体ヒーロー科志望だよね」

 

そう先生が言うと、皆騒ぎながら『個性』を発動する。

 

周りを見渡すと個性を発動していないのがデクと俺だけだった。

 

「うんうん、皆いい個性だ。でも校内で『個性』発動は原則禁止な!」

皆はしゃぐのはいいがどこの高校に行くかはとても大事だぞ。

だから落ち着いてって、お!やっぱり緑谷は冷静だな、

流石雄英高校を志望するだけはあるな!」

 

そういった瞬間

「「「ええええー!!!」」」とクラス全体が驚きだした。

 

「国立の?!今年偏差値79だぞ!!?」

「倍率も毎度やべーんだろ?!」

 

とクラスの視線が緑谷に向いた。

 

「まあ、模試でもA判定だったし受けるつもりだよ」

「スゲー!流石緑谷!」

「ウチの希望の星だな!」

「個性も『強個性』だしな!」

 

ガタンッ!

 

その音の方向には凄い形相の爆豪がいた。

 

「デクの個性が『強個性』だと?なんも知らねえクセに知ったような口利いてんじゃねえよ!」

 

「ど、どうしたんだよ勝己いきなり叫んで」

 

「てめぇだから「かっちゃん!」」

 

「いいんだ別に」

 

「っでも、俺は」

 

「ありがとう、けどいいんだよ」

 

微笑みながらそう言うデクを見て心が痛んだ。

(デクがどんだけ苦労したかも知らねえで!)

 

「ちっ」

 

そう舌打ちを残して席に戻った。

 

「なあ緑谷俺なんか悪いこと言った?」

 

申し訳なさそうにそう言うクラスメイトに

 

「大丈夫だよ」

 

と声を返す。

 

パンパン!

「はい注目!」

 

担任は手を叩いて生徒の視線をよんだ。

 

「さっきも言ったがこれは重要な時間だ。他人の邪魔はするんじゃないぞ」

「特に爆豪、お前雄英志望だろ?もう少し言動を考えろ」

 

そう担任が言うとまあクラスがざわつき始めた。

 

「マジか!勝己!」

「勘違いすんな。俺は・・・普通科だ」

「おい、お前ら!真面目に決めないと将来痛い目見ても知らんぞ!」

その担任の声で教室は落ち着きを取り戻す。

 

 

(かっちゃん、どうして『嘘』ついたんだよ・・・)

クラスの中で今の言葉が嘘だと知っているのは緑谷だけだった。

 

———————————————————————-

 

キーンコーンカーンコーン

 

最後のホームルームを終えるチャイムが鳴り、クラスから生徒が減っていく。

クラスから生徒が減っていく。

 

「勝己ゲーセン行かね?」

「今日はいいわ」

「そっか、緑谷は?」

「僕もいいかな、今日塾あるし」

「分かった、じゃあまた明日な」

 

 

そういってクラスメイト達は出ていった。

 

「おいデク」

 

「何、かっちゃん」

 

「なんで塾なんて嘘ついたんだ?」

 

「だって個性のトレーニングしないといけないし」

 

「ンなもん隠す事じゃねえだろ」

 

「まあそうだけど。あ、ソレよりも」

 

「なんでかっちゃん普通科なんて嘘ついたのさ?」

 

「なんでって、そりゃあ・・・」

 

「かっちゃんが『無個性』だから?」

「それは・・・」

 

「大丈夫。かっちゃんがどんなに頑張ってるか知ってる。

オマケに僕の個性の事で君は怒ってくれた。その優しさはヒーローとして大事な事だと思うし、かっちゃんが雄英目指すことはなんも恥ずかしくなんかないよ!それに昔から君は僕のヒーローなんだよ!」

 

緑髪を揺らしながら熱弁するデクを見て

 

「バーカ、誰が恥ずかしがってるかよ、隠しといてあとから知られた方がカッコイイじゃねえか」

 

と笑った。

それを見てデクは「そうだね」と微笑んだ。

 

「じゃあ帰ろうか」

「おう」

 

歩き出す緑谷の背中を眺めながら

(昔からお前に助けられてばっかだな。大丈夫、お前が応援してくれる限り諦めねえよ。)

 

そう思って照れ隠しに背中を叩いた。

 

「痛っ!何すんだよかっちゃん!」

 

「いや、叩きやすそうな背中してたからな」

 

「どんな背中だよ・・・」

 

ピーンポーンパーンポーン

(3年A組緑谷出久、校内に居ましたら職員室まで来てください)

 

「デクお前やらかしたのか?」

 

「してないよ!まあ、多分雄英のヒーロー科の話だと思う」

 

「なるほどな、待っとこうか?」

 

俺はデクに提案するが

 

「いや、時間掛かりそうだしいいよ、先帰っといて」

 

「帰りにオールマイトグッズ買いに行かないと行けないし」

 

「やっぱお前ゲーセン断ったのそれじゃねえか」

 

「そ、それは」

 

アタフタとしだすデク

 

「ハイハイ、お前のナード具合は俺がよく知ってるからな」

先帰るわじゃあな」

「分かった。バイバイ」

 

「おう」

 

「帰ったらかっちゃん家向かうよ」

 

「りょーかい」

 

職員室へ向かうデクを見送って

下駄箱に向かった。

 

——————————————————————

 

(さて、あいつが来るまでどうすっかな)

 

デクが帰ってくるまでの予定を考えながら帰路を歩いていた。

(数学の復習でもすっか、それが終わったら筋トレでもしよう)

 

「・・・よし」

 

いつものトンネルの出口に差し掛かった時

 

「Mサイズの・・・隠れミノ・・・」

 

と声が後ろから聞こえた。

 

「なんだ?」

 

振り返るとそこにはドロドロの体のヤツがいた。

 

「ヴィラン?!」

 

咄嗟にカバンを顔に投げ、前に転がった。

 

「中々・・・いい反射神経をしてるじゃないか・・・」

 

そういうヴィランの姿から視線を切らないように対峙した。

ヴィランの体にはさっき投げたカバンがズブズブと沈みこんでいた。

 

(流動体!ってことは捕まったらアウトだ!)

 

「これならいい隠れミノになりそうだ・・・!」

(考えろ考えろ考えろ!物理攻撃が効きそうにねぇ以上逃げるしかないが・・・)

 

ジリジリと詰め寄ってくるヴィランはさっきよりも大きくなっていた。

 

(ここら辺は人通りも少ない、一かバチか叫んでヒーローをよんでみるか?けど来ないなら為す術ねえぞ!)

 

必死に打開策を考えるがいい案が浮かんでこない。

 

(こんな時、デクなら・・・)

 

「お前何が目的なんだ?」

 

「ある奴に報復したいのさ。そのためにいい隠れミノを探してる」

 

「俺を乗っ取るってことか?」

 

「ああ、君ほどの反射神経があるなら『個性』次第であいつを殺せるかもしれない・・・」

 

「・・・はっ!お生憎様、俺は無個性だ。襲うなら」

 

「別に構わないさ、君を使って別のを探すだけだ・・・」

 

(まずい・・・見逃してくれそうにねぇ・・・)

 

「なあに、苦しいのは45秒ほどさ・・・すぐにラクになる・・・!」

 

瞬間、ヤツが体にまとわりついてきた。

 

(息がっ、できねぇ!)

 

必死にもがくが抜け出せない。

 

「助かるよ、君は俺のヒーローだ・・・」

 

ついさっき幼なじみに言われたことを思い出した。

 

(すまねえデク・・・)

 

意識を手放しかけたその瞬間

 

「もう大丈夫だ少年!私が来た!」

「オール・・・マ・・・ィ・・・」

 

———————————————————————-

 

「・・・ぃ・・・ヘイ!」

 

大きな声と顔をはたかれた衝撃で目が覚める。

 

「良かったー!」

 

「オールマイトォ?!」

 

「元気そうで何よりだ!

君!良いタフネスしてるね!ヒーロー志望かい?正直もう少し気絶したままかなと思ったけど杞憂だったようだな!」

 

「ヴィランは?!」

 

俺はあのヘドロヴィランの姿が見えず

オールマイトに尋ねた。

 

「それならもう大丈夫!君のおかげで詰められたよ!」

 

そう言ってペットボトルに詰まった

ヴィランを見せる。

 

「それじゃあ私は警察に届けに行くので画面の向こうでまた会おう!」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれオールマイト聞きたいことが」

 

「すまない、ヒーローは時間との戦いなのさ」

 

「それじゃ今後とも応援よろしくね!」

 

そう言うと凄まじい勢いで飛んでいった。

すぐに下に見える街が小さくなった。

 

しかし、オールマイトは左足に違和感を感じた。

そこにはさっき助けた少年がしがみついていた。

 

「コラコラ!!熱狂が過ぎるぞ!?」

 

「お、俺・・・!あんたに直接・・・!」

「オーケー分かったから口を閉じな!」

 

(この気迫・・・ただ私のファンって訳でも無さそうだな・・・)

 

そう思いながら近くの降りられそうなビルを探す。

そこで自身の口から血が出ているのに気づいた。

 

「Shit!!」

 

———————————————————-

 

「全く!!私はマジで時間がないのでコレで!!」

 

「待ってくれオールマイト!」

 

「No!!待たない」

 

「俺ヒーローになれるかな?」

 

「君ほどのタフネスなら「違うんだ」何がだい?」

 

「俺、『無個性』なんだ・・・」

 

「なるほど・・・な」

 

(さっきの必死はそれか・・・てか時間が!ホーリーシット!)

 

「だからNo.1ヒーローであるアンタにってうぉぉっ?!」

 

さっきまでオールマイトがいた場所に煙と骸骨みたいな人がいた。

 

「誰だてめェ!」

「オールマイトさ!」

「はぁ?!」

 

俺は骸骨野郎の言ってることが

理解出来なかった。

 

「信じられないかもしれないが本当だ」

 

オールマイトはため息混じりに呟いた。

 

「見られたついでだ少年。間違ってもネットに書き込むな?」

そう言ってシャツをめくった。

 

「っ?!」

 

そこには息を飲むような手術痕があった。

 

「5年前・・・敵の襲撃で負った傷だ」

 

「呼吸器半壊、胃袋全摘、今や私のヒーローとしての活動時間は1日約3時間程なのさ」

 

「5年前ったら毒々チェーンソーか?」

 

「あんなチンピラにやられはしないさ!てか詳しいね君」

 

「幼なじみがアンタの大ファンなんだよ。それでだ」

 

「そうか、まあつまり私が言いたいのは『プロはいつだって命懸け』って事さ。

個性が無くても成り立つなんてとてもじゃ無いが口に出来ない」

 

そう言うと少年は俯いてしまった。

 

(あれほどのタフネスだ。個性があったならきっとヒーローになれただろうに・・・)

 

立ち上がって扉に向かおうとした時

後ろから

 

「それでもっ!俺はヒーローを諦めねえ!」

 

聞こえた声が

オールマイトを振り向かせた。

 

「たとえNo.1ヒーローであるあんたに無理だと言われても!

応援してくれる、対等に見てくれる奴がいんだよ!

だから俺はヒーローなってあんたを見返してやる!

どんだけその道が厳しくてもだ!」

 

そう言って私を睨んでくる、その少年の目は

 

(強い・・・目をしているな)

 

「少年」

 

「なんだぁ?!」

 

明らかに敵意剥き出しと

いった感じで噛みついてきた。

 

「応援してくれるのは私のファンの子かい?」

 

「なんでそう思った?」

 

「勘・・・かな」

 

「イキナリ意味わかんねえ・・・けど当たりだ」

 

「その少年とは長い付き合いなのかい?」

 

「幼稚園からの幼なじみだ」

 

オールマイトはその少年の言葉に自身を投影する。

誰も隣に並び立つ事のない昔の自分を。

 

「少年。君は何故ヒーローになりたい?」

 

私は聞きたかった。

何故そこまでの意思を

持ち合わせているのか。

 

「そいつが『ヒーローになれる』って言ってくれたから。その約束を守るためにだ」

 

そう言い放つ少年は何故か誇らしげに笑っていた。

 

(彼になら・・・いや・・・)

 

「オールマイト?」

 

「なんでもない。では私はそろそろ行くよ」

 

少年に背を向けて言う。

 

「君へのさっきの言葉は、大人として、No.1ヒーローとしての言葉だ」

 

肩越しに少年を見て

 

「これは私個人としての言葉として受け取ってくれ

『その夢を応援している』」

 

「っ!」

 

「じゃあな少年」

 

「・・・時間取らしてすまねえオールマイト」

 

「いや、大丈夫さ。それでは私は警察にっ!?」

 

「どした!?」

 

「ヴィランのペットボトルが無い!」

 

「なんだって?!」

 

その瞬間少し離れた地点で大きな爆発音が聞こえた。

俺とオールマイトは顔を見合わせるとその地点に向かって走り出した。

 

————————————————————————-

 

爆発音がした場所はいつもの商店街だった。

そこにはやはり

 

「さっきのヘドロ野郎?!」

 

「やはり・・・か」

 

「てことは俺のせいでっ!」

 

「それは違うさ少年。悪いのはヴィランと注意を怠った私さ。それにしても・・・今はどうなってるんだ?」

 

すると近くにいた野次馬が

 

「なんか中学生が捕まってるらしいぜ」

「そいつの個性が強力でプロも迂闊に近寄れねぇらしい」

「中学生?!」

「どうしたのさ少年?」

 

「この辺で中学といやあウチしかねえはず!俺の知ってる限りあんな個性は1人しか知らねえ!」

 

「まさか・・・」

 

「さっきの話のヤツだ!てか、デクがあんなやつに捕まるはずがねえ!なんか訳があるはずだ!」

 

すると周りの野次馬が

 

「あの子が女の子を庇って捕まったって聞いたけど」

「っ!?」

 

その言葉を聞いた瞬間に俺はヴィランに向かって走り出した。

 

「待て!止まるんだ少年!」

「バカヤロー!止まれ!止まれ!」

 

オールマイトの言葉も周りの言葉も耳を向けず、ただただ体が動いた。誰かのために自分を犠牲にするお人好しでバカな幼なじみを救うために。

 

(ただ殴っても意味がねえ!なら!)

 

道端に落ちてあった消火器を拾いながらヴィランに突っ込んでいった。

 

「うおおおおぉ!」

 

そう叫びながら消火器を振り上げる。

 

(かっちゃん・・・!そいつに物理攻撃は・・・!)

 

「わぁってるよ!」

「デク目閉じろ!」

 

言うや否や消火器をぶちまけた。

 

(気管に入れば危険だがヘドロ野郎は鼻も口も塞いでる!)

 

「なんだぁ?!粉が目に・・・!」

 

「今だデク!捕まれ!」

 

そう言って手を伸ばすが

 

「よくもやりやがったなあこのクソガキがぁ!」

 

(闇雲に暴れて近づけねぇ・・・!どうすれば!)

 

「あとは任せろ少年!」

 

その声の主であるオールマイトは笑いながら言った。

 

「君の方がよっぽど私よりヒーローじゃあないか・・・!

君を応援すると言っておいて・・・己が実践しないなんて!!

『プロはいつだって命懸け!!!』

DETROIT SMASH!!!」

 

空をも割りうる一撃がヴィランを吹き飛ばした。

 

「スゲェ!オールマイト!」

「拳ひとつで天気を変えやがった!」

「オールマイト!」「オールマイト!」「オールマイト!」

 

市民達の賞賛を受けながら気絶している少年を見つめた。

 

————————————————————

 

目が覚めるとヴィランは捕まっていた。

 

「君が危険を冒す必要は無かったんだ!」

 

と俺はヒーロー達からものすごく怒られ

 

「君が庇ってくれたおかげで助かったよ!ありがとう!」

「ありがとうね!」

「君みたいないい個性の子は大歓迎だ!ぜひ将来はウチの相棒に・・・」

 

とデクは助けた人達やヒーローから賞賛の言葉を受けていた。

 

長いお小言を受け終わったらすっかり日が暮れていた。

 

(デクは先に帰ったか・・・)

(オールマイトには事務所に謝罪の手紙を送ろう・・・)

 

「バカなことしちまった・・・オールマイトがいなけりゃ・・・結局・・・」

「それは違うさゴホッ!」

「オールマイト?!」

 

取材をさっきまで受けていたはずのオールマイトが角から吐血しながら現れた。

 

「取材はどうしたんだよ」

「抜けてきた!私なら訳なゴッホァ!?」

「おわぁ!」

 

先程より大きな吐血と共に煙をたてて体が萎んだ。

 

「少年。礼と訂正・・・そして提案をしに来たんだ

君がいなければ・・・君の身の上を聞いていなければ口先だけのニセ筋になるところだった!ありがとう!」

 

「ニセ筋ってなんだよ・・・それよりそもそも俺が止めるのを振り切って向かって行ったから。『無個性』の俺がオールマイトの邪魔をしちまったんだ・・・」

 

「そうさ!!

『無個性』だが!それでもヒーローを諦めなかった君だからこそ!」

私は動かされた!!

トップヒーローは学生時から逸話を残している・・・

彼らの多くが話をこう結ぶ!!」

 

オールマイトは一息おいて言い放った。

 

「『考えるより先に体が動いていた』と!!

君もそうだったんだろう?!

親友を助けるために!」

 

「応援するだなんて言葉で濁してしまったことを許してくれ」

君は『ヒーローになれる』」

 

俺は涙を袖で乱暴に擦り、オールマイトにむかってこう言った。

 

「あたりめえだ!」

 

(その言葉をくれたのは初めてじゃねえから)

 

「フフ・・・やはり君は強いな」

 

そう優しげに呟いたオールマイトの向こうに

緑髪の少年が見えた。

 

「っ!デク?!」

「何!?まさか話を?!」

「おいデク!もしかして今の話聞いてたのか?」

 

そう言いながら詰め寄るとある事に気づいた。

 

「立ったまま気絶してる・・・」

「・・・てことは」

「ああ、アンタが萎んだのを見てショックで気絶したんだろ」

「なんてこった!どうしようどうしよう・・・」

 

とブツブツ呟く憧れのヒーローを見ながら

(俺は恵まれてるんだな・・・)と呟いた。

 

言い忘れていたがこれは俺とデクが最高のヒーローになるまでの物語だ。

 

——————————————————————

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。ハーメルンで投稿初どころか、こうやってネットで小説を書くのがはじめてなので言い回しがおかしかったり、改行のタイミングが気持ち悪かったしたと思います。そういった場合は感想でどんどん教えて貰えると幸いです!

また、デクの個性のことやかっちゃんの生い立ちや、何故2人が仲良いのに「デク呼び」しているのかとかは追々書いて行くのでよろしくお願いします。




手直ししておきました!


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ヒーローになる事とは

評価バー?がオレンジになっていました!
また、予想より多くの人に読んでいただき、さらにお気に入り登録して下さって本当に嬉しい気持ちでいっぱいです。
もっと文章を上手く書けるように努力していくので、気になる所などがあったら感想にて伝えて貰えると幸いです!
前書きはここら辺にして、本編どうぞ!


「おい!とっとと起きろデク!」

 

立ったまま気絶してる、

ある意味器用な幼なじみを

往復ビンタしながら叫ぶ。

 

「ちょ、爆豪少年!少し乱暴過ぎやしないかい?」

 

オールマイトがおれを止めようとする。

 

「俺のこと似たような感じでも起こしただろうが」

「それは・・・ほ、ほら私時間無かったしぃ」

「指ツンツンすんなオールマイト!」

 

(え、なになにオールマイトいるの?)

(嘘ぉ、マジで?!)

 

「少年!リピートアフターミー!『人違いでした!』」

 

「人違いでした!」

 

「ったく、ゆっくり話もできねぇな」

 

「確かに・・・」

 

(ふーむ・・・どうしたものか・・・)

 

「人目が気になるなら俺ん家来るか?」

 

オールマイトにそう提案するが

 

「それは厳しいな。

これから君に話すことは大いなる危険が伴う」

 

俺に背を向けて言う。

 

「体の傷のことか?」

 

「それは違う。傷による弱体化は

トップヒーロー達には知られている」

 

オールマイトは俺に向き直り、

 

「私が話すのは『私の個性の話』さ」

 

「それはぁ、ここじゃ話せねえな・・・」

 

それは間違いなく街中で

話していい内容ではない。

 

「物分かりが早くて助かるよ爆豪少年

私の足にしがみついていた

少年とはまるで別人だな!」

 

「そ、それは・・・」

 

思わず言葉に詰まる。

自分がどれだけ危険で向こう見ずな

行動をしたのか分かっていたから。

 

HAHAHAHAと笑う

オールマイトに対してこう提案した。

 

「明日以降なら、ダメか?」

 

「ふーむ、

明日の早朝なら空いているよ。

午前6時から午前8時までは何も予定が無い。」

 

「なら午前6時に近所の海岸公園で

頼むわ。あそこなら人通りが少ねぇ」

 

「了解した」

 

オールマイトが頷く。

 

「それと・・・」

 

「・・・どうしたんだい?」

 

遠慮がちに追加の用件を

伝えようとしている少年を見て

 

(おおよそ・・・)

 

「・・・デクも、連れてきていいか?」

 

「・・・理由を聞いても良いかい?

ケガのことならまだしも、

さっき言った通り、この話には

大いなる危険が伴う。君の一存で

決めていい事ではないと思うがね」

 

オールマイトは諭すように言う。

 

「わぁってるよ・・・

デクは隠し事に対して鋭い。

今隠したとしてもいつかはバレる気がする。

それも・・・あんたから」

 

「おいおい爆豪少年!ヒドイぜ!

・・・完全に否定出来ないところが辛いな」

 

頭を掻きながら参った様子の

オールマイト。

 

「て、ことで明日の午前6時に

海岸公園で。よろしくな。」

 

「ああ」

 

「じゃあ俺らは帰るわ」

 

と言うと流れるような動作で

まだ気絶している緑髪の少年を背負った。

 

「じゃあまた明日だ少年」

 

「ああ」

 

夕焼けの方へ歩いていく少年達を

見送りながら1人思う。

 

(ホントは彼に隠し事をしたくないんだろう?)

 

「フフ・・・素直じゃあ無いな・・・」

と呟きながら帰路に就いた。

 

————————————————————-

 

「やっと起きたな」

 

「かっちゃん・・・?ここは?」

 

まだ意識が覚醒していないらしい。

 

「何言ってんだ。ココはおめえの部屋だ」

 

「へ?!いつの間に!」

 

「気絶してるお前をわざわざ

運んで来てやったんだよ!」

 

「ホントに?!」

 

慌てて周りを見渡しここが

デクの部屋であることを認識したらしい。

 

「ありがとうかっちゃん。重くなかった?」

 

「礼ならいいわ。お前が気絶した原因でもあるしな」

 

「気絶?」

 

ガタンッ!と音を立ててデクが跳ね起きた。

 

「オールマイト!オールマイトは?」

 

イマイチ状況が掴めてなさそうなデクに、

何故気絶したのか説明することにした。

 

「デク」

 

「な、何かっちゃん」

 

「金髪の骸骨みたいなヤツ覚えてるか?」

 

「うん、かっちゃんの知り合い?」

 

真顔で言い放つデク。

 

(コイツ、ショックで記憶改ざんしてやがる・・・)

 

「まあ知り合いだが、お前の良く知る人だぞ?」

 

「誰?」

 

「オールマイト」

 

「は?」

 

「オールマイト」

 

「それ・・・本気で言ってる?」

 

「そんな趣味のわりぃ嘘つかねえよ」

 

「う、ウソだあああ!!」

 

「うるせえ黙れ!説明すっから!」

 

そう俺が言うと静かになったが、

デクの顔色は青く体が震えている。

(ムリもねえか・・・

憧れのオールマイトの正体がガリガリだなんて)

 

俺はまずヴィランとの話を

することにした。

 

「学校で別れた後、俺もあのヘドロ野郎に襲われたんだ」

 

「ホントに?!」

 

「ああ、そこをオールマイトに助けてもらったんだよ」

 

「オールマイトに?!」

 

「その後、捕まえたヴィランを

警察に届けに行くオールマイトに

しがみついて近くにビルに降りた。

ここまではいいか?」

 

「ず、随分無茶するね」

 

「・・・どうしても聞きたいことがあったからな」

 

少し言葉に詰まってしまった。

 

「続けるぞ。そこでオールマイトは

『活動時間』の限界がきた」

 

「活動時間?」

 

「オールマイトは5年前、

あるヴィランとの戦いで肺と胃袋を

壊してしまうほどの大怪我を負ったらしい」

 

「5年前でオールマイトと言えば、毒々チェーンソー?」

 

「やっぱお前詳しいな」

 

「まあ、大ファンだからね」

 

鼻息を荒くさせながら言う。

 

「ニヤニヤすんな気持ちわりぃ」

 

「ひどい!」

 

「まあいい話を戻す。

もちろんオールマイトは

そんなやつには負けねぇ。

もっと強大なヴィランによる傷らしい」

 

「強大な・・・ヴィラン・・・」

 

デクの顔も緊張している。

 

「そこでオールマイトは

『プロの厳しさ』を説いてきた。

無個性でヒーローは厳しいってな」

 

「まさかオールマイトがそんなことを・・・」

 

デクは信じられないといった顔だ。

無理もない、さっきから理想と

現実の違いをぶつけられているのだから。

 

だから俺が言う必要がある。

オールマイトは今も変わらず

憧れ通りのヒーローだと。

 

「オールマイトだからさ。

No.1ヒーローであるオールマイトで

さえそんな大怪我を負う。

だからこその言葉だったと思う、だが」

 

デクから目を逸らし

 

「俺には心から応援してくれる

お人好しなヤツがいる。」

 

「かっちゃん・・・!」

 

「うるせえ!嬉しそうにすんな!」

 

顔を輝かせるデクに叫ぶ。

 

「名前呼んだだけだよ!」

 

「ちっ!

・・・まあそんな話をオールマイトと

していた時、爆発音が聞こえた。それが・・・」

 

「僕だった・・・ってわけだね・・・」

 

「オールマイトは・・・

ヤツを逃がしたのは俺のせいじゃないって

言ってくれた・・・

けど!ホントは・・・!デク・・・すまねえ」

 

「かっちゃん・・・僕なら大丈夫だよ」

 

「それに・・・捕まっていた僕を助けに来てくれたじゃないか!」

 

「それは「力になれなかったなんて言わないでよ」っ!」

 

『強い』声に止められる。

 

「あの場にいたプロ達よりも、

オールマイトよりも先に

助けようとしてくれたじゃないか!」

 

(ああ・・・いつもデクはそうだ・・・)

 

「だから!かっちゃんは

やっぱり僕のヒーローだよ!」

 

(俺の後ろ向きな考えを

真っ先に否定してくれる・・・!)

 

人懐こい笑みを浮かべながら

自信をもって話す姿を見て

 

「よっぽど・・・俺の方が・・・」

 

「どしたのかっちゃん」

 

顔を覗き込んでくるが

 

「んでもねえ!」

 

また照れ隠しにデクの背中をバン!と叩く。

 

「痛いよ!かっちゃん!」

 

「いや、叩きやすそうな背中してたから・・・」

 

「また?!」

 

そう騒ぐデクを見て気づいた。

 

(そういや今日は2回目だったな)

 

似たような誤魔化しかたしか

出来てないのに気づいた。

 

「今日の出来事については大体こんな感じだ」

 

「えぇ!?まだ聞きたいこといっぱいあるのに!」

 

「だろうな。だから後は直接聞け」

 

「へ?」

 

「明日の午前6時に海岸公園で

オールマイトに会う。

お前が来る許可も貰ってるから」

 

「マジで!?やったー!「ただし!」」

 

「明日の話のメインは

オールマイトの『個性』の話だ。

オールマイト曰く、

大いなる危険が伴うらしい。

それでも来るか?」

 

「もちろん!」

 

「即答かよ・・・大体分かってたけどよ」

 

「ああ、オールマイトに会えるのか!

楽しみだなあ!」

 

「明日早いんだぞ?

ウキウキで眠れず寝坊とかやめてくれよ」

 

「もしかしてかっちゃん馬鹿にしてる?」

 

「ああ、言葉通りだ」

 

(失礼な!)とちょっと怒った

口調のデクを見ながら

 

「じゃあそろそろ帰るわ。

明日も早いし・・・何より今日は疲れた・・・」

 

「そうだね・・・じゃあまた明日!かっちゃん」

 

「おう」

 

そう言って俺はデクの部屋を出た。

 

————————————————————-

 

家に帰ってすぐ、

俺に待っていたのはおふくろから

 

バチンッ!

 

「痛ってえ!何すんだ!」

 

「それはこっちのセリフだよ!

どこほっつき歩いてんだい!」

 

腫れた目に崩れた服。

 

「警察から連絡が来てからもう2時間も経ってんだよ!」

 

「まあまあ母さん。勝己の話も聞いてやろうよ」

 

親父が間に割って入る。

 

「はあ?!

私がどんだけ心配したと

思ってるんだい!

連絡もせずにこの馬鹿息子は!」

 

親父の手から抜け出そうとするお袋。

 

「・・・勝己、

母さんが何故こんなに心配しているか、

分かるね?」

 

お袋とは違い静かに怒るタイプの親父。

 

「・・・ああ、分かってる」

 

言われたことにそう返すしかなかった。

 

「とりあえずお風呂入ってきなさい。

話はそれからで構わないから」

 

そう言うと親父はおふくろを

連れてリビングに戻った。

 

浴槽につかりながら今日の話を整理した。

オールマイトのことや、1人で

ヘドロ野郎に突っ込んだことなど、

話せないこともある。

 

その中で上手く説明出来るように考えていく。

 

(それにしても・・・

お袋の目、赤かった・・・

泣いていたんだろうか・・・)

 

いつもは強い姿しか見せないだけに

気持ちが大きく揺らされた。

 

余計な心配をかけてしまった両親に

納得してもらえるように説明しようと思った。

 

「さあ勝己。

何してたか洗いざらい吐いてもらうよ」

 

「別に隠すことじゃねえよ。

・・・捕まってたデクを送ってただけだ」

 

「それだけじゃこんなにかからないでしょ?!」

 

バッと机から身を乗り出す。

 

「少し話してたんだよ、デクと」

 

「何を?」

 

「オールマイトと・・・『ヒーロー』について」

 

俺がそう言うとお袋は大きくため息をついた。

 

「・・・勝己、あんたが今日何があったか

どうかも詳しくは知らないし

ヒーローになる為に毎日努力してるのも知ってるさ

でも・・・

ヒーローになる事で今日みたいな

日が続くなら・・・私は耐えられそうにないよ」

 

滅多に見せない弱々しい態度に

おれは少し心が傷んだ。

 

「それは父さんも一緒だ。

親としてその心配は当たり前の事なんだ。

分かってくれるかい?」

 

親父も諭す様に続く。

 

「・・・ああ・・・心配かけてすまねえ」

 

(けど・・・)

 

「でも!俺はヒーローになる事を絶対諦めねぇよ」

 

「勝己!「分かってる!」」

 

叫ぶお袋の声を更に大きな声でかき消す。

 

「『無個性』でこの夢を叶える事が

どんなに大変なのか!

俺が1番分かってる!」

 

心から叫ぶべき言葉を吐き出す。

 

(心配してくれているのは

自分が1番分かってる・・・!

それでも!胸を張って言うんだ!)

「今日さ・・・ヒーローの1人が

『君はヒーローになれる』ってさ、

言ってくれたんだ。」

 

「だから・・・なるんだヒーローに!

人の助けになれるように!」

 

そう言って親父とおふくろを見つめた。

 

「・・・約束して・・・

もうこんな心配かけないって約束して勝己」

 

お袋から出された条件は・・・

 

「母さんそれは!」

 

親父が珍しく叫ぶ。

 

 

「分かってるわよ!

ヒーロー目指すなら絶対には守れないこと!

それでもっ・・・!約束してくれないと私は・・・!」

 

顔を抑えてうずくまるおふくろと

背中をさする親父を見て

言う決心がついた。

 

「お袋、親父

・・・聞いてくれ」

 

2人の視線がこちらへ向く。

 

「そのさ、

成れるって言ってくれたヒーローってのは

『オールマイト』なんだ」

 

「「っ!!」」

 

両親が心底驚いた顔をしてこっちを見ている。

 

当たり前だ。

日本に彼を知らない人なんていないだろう。

 

「勝己それホント?」

 

信じられないといった様子で

こちらを見る。

 

「ああ本当だ」

 

「そ、それでも「分かってるさ」」

 

「だからヒーローになるとかじゃなくて、

行動が『ヒーロー』だって言ってくれたから」

 

心から言葉が続く。

 

「だからなってみせる。

心配かけないぐらい立派なヒーローに」

 

俺がそう言うとおふくろと親父は黙ってしまった。

 

「・・・おふくろ「勝己、あんたの思いは伝わったよ」」

 

お袋が俺を見ながら言う。

 

「別にオールマイトみたいな

凄いヒーローにならなくてもいい。

勝己が目指したいヒーローになって

くれるならそれで十分だよ。」

 

「そら、ケガがないのが1番なんだけどね」と笑うおふくろ。

 

「僕は勝己の意思を尊重するよ。それは昔から変わってない。

ただこの先、また心配が勝るときもあるかもしれないけど」

 

と優しく笑う親父。

 

そんな両親の姿を見て俺の言う言葉はただ1つ。

 

「ああ!絶対に!」

 

「よし!晩ご飯にしようか!

勝己は食器!父さんはサラダ盛っていって!」

 

——————————————————————

 

ご飯を食べた後、俺は早朝にデクと出かけることを伝えた。

 

「ホントに私達起きなくて良いの?」

 

「せっかくの休日だろ?それならいいよ別に」

 

「分かった。気をつけなよ!」

 

「わぁってる」

 

「何かあったらすぐヒーローを呼ぶんだぞ?」

 

「わぁってるって!気をつけるから。

・・・じゃあ明日早いしもう寝るわ」

 

「「おやすみ勝己」」

 

「ああ」

 

——————————————————————

 

布団に潜り明日のことを考えるが、

 

(明日どんな話をされるんだろうか

・・・オールマイトのこせ・・・い・・・)

 

直ぐに寝てしまった。

 

ガチャリとドアの開く音がした。

 

「まったく・・・寝顔はまだまだ可愛いのにね。

すっかりカッコよくなっちまって」

 

「子供ってのは知らないうちに成長していくんだよ。

それに・・・

勝己が立派になってくれるのが僕たちの1番の幸せさ」

 

「ホントにね・・・勝己が『無個性』って

わかったあの頃とはえらい違いだね」

 

遠い昔の様に思えるよ。と続ける。

 

「勝己の頑張りもちろん、

出久くんの存在も大きいな

『無個性』ってだけでいじめられる

この世の中であの子だけは最初から

普通に勝己に接してくれた・・・

この子が頼りにしているのも分かるよ」

 

「そうだね・・・また引子さんとこにお菓子持っていかなきゃ」

 

「そうね」

 

我が子の寝顔を眺めながら2人は微笑んでいた。

勝己の布団をかけ直し、ドアから出ていく。

 

「「おやすみ勝己」」

 

キィと音を立てて扉が閉じた。

 

夢にうなされて起きた今日朝とは違い、

爆豪勝己の寝顔はすっきりとしたものだった。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回の話のメインは両親との話し合いです。原作とは違い、爆豪と両親の関係はいたって良好です。しかし、両親は我が子の『無個性でヒーローを目指す』ということに心からは応援出来ないでいたようです。原作でもそうですがヒーローという職業には命の危険が伴います。それをただ見守るだけと言うのは母親である光己さんには酷な話しです。応援する気持ち3割、不安だからやめて欲しい気持ち7割といったところでしょうか。しかし、最期には折れて『出来るだけ心配をかけない』と約束する形で終わりました。爆豪の言動が原作よりも素直に伝えられた事が決め手となりました。
さて、次回はここまでほぼ空気の原作主人公がメインの話になるつもりです。また、次回もよろしくお願いいたします!


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ワン・フォー・オールとデクの『個性』

いつの間にかたくさんの方にお気に入り登録して頂き、
さらに感想や推薦?をいただきました。
こうやって評価していただけると、もっともっと頑張って書こうという気持ちになりました。また、アドバイスもして下さった方もいらっしゃって今回はそれを心がけで書いてみました。
まだまだ拙い文章ではございますが、楽しんで見て
いただければ幸いです!
それでは本編どうぞ!


土曜日の早朝、まだ日が昇ってすぐのこの時間に

住宅地を駆ける2人の姿があった。

 

「おら!さっさと走れデク!」

「なんだよ!遅れたのはかっちゃんじゃないか!」

「うるせえ!5分ぐらいは遅刻にならねぇんだよ!」

「無茶苦茶だ・・・」

 

言い合いをしながらとは思えないほどのスピード。

2人の少年が日頃からトレーニングをしているからこそ

成し得る速さ。

身体能力より『個性』が強力かどうかが第一に問われる今の時代にカラダを鍛えるという事は、目標への自らの強い意思が必要不可欠である。

にも関わらず、幼少期からトレーニングを続けているデクと爆豪からは『ヒーロー』への憧れの気持ちの強さが窺える。

 

「かっちゃん、いま何時?」

「5時50分、まあ大丈夫だろ」

 

—————————————————————

 

「ふう、なんとか3分前には着いたね」

腰に手をおいて呼吸を整えるデク。

20分は走り続けたのにあまり疲れたように見えない。

「ああ、そうだな・・・オールマイトはまだ来てないみたいだな」

 

当たりを見渡して見るが、早朝、オマケに土曜日である

ことも相まって人影は無かった。

 

「おいおい、オールマイト遅刻か?」

「そんなはずないよ!だってオールマイトは新幹線よりも

速く走れるんだよ?そんな彼が」

「そんなんわあっとるわ!

どこまでオールマイトが好きなんだよお前は!」

 

少しオールマイトを疑っただけなのに、猛反発するデク。

 

(コイツのナード具合は昔から重症だな・・・)

 

俺は知っている。コイツが背負っている黄色いカバンの中に

大量の色紙が入っているのを。

(危険だって話、コイツ忘れてんじゃねえか・・・?)

 

カチッ・・・ピピッピピッピピッ・・・

 

俺の携帯からアラームがなる。毎日6時に設定している

目覚ましを切り忘れていた。

アラームを解除しながらデクに話しかける。

 

「おいデク。もう6時だぞ?」

「そ、それは・・・オールマイトもきっと忙しいんだよ!

ほ、ほら彼はナチュラルボーンヒーローだから人助けをしていて遅れてるんだって!きっとそうだよ!」

していて遅れてるんだって!きっとそうだよ!」

「まあ、ありそうな話だが・・・」

 

『オールマイト』

その名を知らぬ日本人はいないであろうほどの有名人。

昨日たまたま会うことができ、話すことも出来たから

忘れていたが、彼はNo.1ヒーロー。

自由時間が人助けで削られることもあるだろう。

(気長に待つか・・・)

そう思うとデクと一緒にベンチに向かって歩き出した。

 

———————————————————

 

それから30分後・・・

 

「ごっめん遅れちゃって・・・」

「おっせぇんだよオールマイト!」

「いやさぁ?目覚ましがね?設定したのにね?」

「やっぱ寝坊じゃねえか!」

「う、ウソだァ…オールマイトが寝坊だなんて・・・」

 

巨大な体を精一杯小さくして言い訳をするオールマイト。

そのオールマイトへ叫ぶ爆豪。

青白い顔でガタガタ震えている緑谷。

そこには今から重要な話を始めるような空気は無かった。

 

————————————————————

 

「さて、まず先に・・・」

 

そう言ってデクを見るオールマイト。

さっきまでとは違い、纏う空気がヒーローになった。

 

「緑谷出久くん・・・だったね?」

「は、はひ!」

「爆豪少年から大体話は聞いていると思うが、

これから話す内容はヴィランに知られればこの日本の平和が崩れてしまうと言っても過言ではない。

だから約束して欲しい。ネットではもちろん、友人や『家族』にさえ話してはならない。いいね?」

「もちろんですオールマイト!そんなこと絶対しません!」

「よし!いい返事だ緑谷少年!それでは・・・」

 

ボフンッ!とオールマイトから煙が出た。

その中からトゥルーフォームのオールマイトが現れた。

 

「や、やっぱりかっちゃんの話、本当だったんだ・・・」

「なんだよデク、信じてなかったのかよ?」

「信じてなかったというか信じたくなかったというか・・・」

「爆豪少年から聞いている通り、私は5年前あるヴィランとの戦いによってこの傷を負った。」

 

そう言ってTシャツをめくるオールマイト。

そこにはあの時見せてもらった悲惨な手術痕があった。

 

「ひっ!?」

「緑谷少年、これが私の弱体化の原因と言うわけだ。」

「じゃ、弱体化って・・・活動時間が減っただけでは 無いんですか?」

無いんですか?」

「ああ・・・実際そう見えないだけで凶悪なヴィランと戦うとなれば、それは顕著になる。」

「じゃあ・・・平和の象徴は・・・」

「そこさ!まさに今回メインの話・・・私の『個性』に繋がる。」

「「っ!!」」

「世間じゃあ私の個性はブーストだの筋力だのと騒がれているが実際は違う!」

「そんな・・・確かにオールマイトの個性についてはインターネット上で度々話題になっていたしオールマイトの言う通り有力説は単純な増強系の個性や体をブーストさせる個性だ・・・だけどそれだけじゃオールマイトの超人的な力を説明しきれないから他にも様々な説が多く考えられていて・・・」

 

「久々に見たなデクのこれ・・・」

 

「おーい・・・緑谷少年?」

 

「無駄だオールマイト・・・

デクは自分の考えを口に出して整理するんだよ。

昔に比べりゃこれでもマシになったんだぜ?

けどまあ、大分衝撃の強い情報が入ってきたから・・・」

 

「な、なるほど・・・緑谷少年にそんな特徴が・・・

それにしても爆豪少年は冷静だね」

 

「いや、俺もクソ驚いたけど・・・それ以上にデクが驚くからアレだ、自分より怒る人がいたら怒りが冷めるあれ」

「はぁ・・・そんなもんなのか」

 

「おいデク!そろそろ終われ!」

 

そう言って俺はデクの背中をぶっ叩いた。

 

「痛っ!かっちゃん?!」

「よぉ・・・整理ついたか?またあの状態になってたぞお前」

「・・・マジかぁ、治ったと思ったのになあ・・・」

 

我に帰ったデクは申し訳なさそうに頭をかいた。

 

「ゴホン・・・そろそろいいかい二人とも」

 

「ああ・・・」「はい…」

 

「何故・・・私がインタビューを爆笑ジョークで

誤魔化してきたか・・・

それは『平和の象徴』であるオールマイトは

ナチュラルボーンヒーローである必要があったからさ・・・」

 

オールマイトは天を仰いだ。

 

「その実! 私の『個性』は聖火の如く引き継がれてきたものなんだ。」

「その名は『ワン・フォー・オール』!!」

「引き継がれてきた・・・もの?」

「そうさ!そして・・・」

 

そう言ってオールマイトは俺の方に向き直った。

 

「爆豪少年・・・君はこの力を引き継ぐに値する!

いや、『君にこそ引き継いで欲しい!!』

昨日、誰よりも先に『ヒーロー』として動いた君に!」

「オールマイト・・・」

 

「不安そうな顔をするな爆豪少年、

元々後継者は探していたんだ。」

 

優しい笑みを浮かべ、ポンと俺の肩へ手をおいた。

その手は痩けていたが、重く、そして暖かかった。

 

(俺に出来るのだろうか…)

 

デク、両親、そしてオールマイトに応援されている爆豪であるが、『ヒーロー』と『平和の象徴』が全くの別物であることは十分理解していた。

 

『緑谷出久』という例外がいたが、『無個性』という枷を背負って生きてきた爆豪に、平和の要になれる自信など無かった。

 

「別に『平和の象徴』になって欲しい訳じゃない」

 

オールマイトは爆豪の心情を察したのかそう言った。

 

「私が『平和の象徴』を目指したように、

君にも目指す『ヒーロー』の姿があるだろう?」

 

「ああ・・・!」

「ならば君は自信を持っていい!

いつの時代も目標が定まっている人間は強い・・・!

この『個性』をきっと使いこなす事が出来るはずさ!」

 

「爆豪少年・・・受け取ってくれるかい?」

「かっちゃん・・・」

 

心配そうに見つめてくるデクと

真面目な顔をしているオールマイト。

 

(ここまで言って貰えて、不安だから

断るなんてだっせぇマネ死んでも出来っかよ・・・!)

 

 

「オールマイト・・・あんたの『個性』

絶対使いこなして『ヒーロー』になってやるぜ!」

 

「よく言ってくれた爆豪少年!」

 

「うぅぅ・・・がっぢゃん・・・よかったね・・・!

ホントに・・・よがっだ・・・!!」

 

「何泣いてんだよデク!

別におめぇが泣くことなんてねえじゃねえか」

 

「だって・・・!

かっちゃんは反射神経も運動神経も凄いのに・・・

ただ『個性』が無いってだけでずっと・・・ずっと・・・!」

 

「わぁった!わぁったから!ンなに泣いてんじゃねえよ」

 

爆豪の体に『個性』が宿る。

その事に1番喜んでいるのは緑谷だった。

 

幼い頃から爆豪のセンスの高さに唯一気づき、

対等以上人間として認識してきた。

 

緑谷の涙がどう言う思いから流れているの

か多く語る必要はないであろう。

 

緑谷と爆豪の姿を見てオールマイトは1人笑う。

 

(君たちにつくづく『1人ではない』事の重要さに気づかされるな・・・)

 

オールマイトの脳裏にメガネをかけたスーツの長身の男が映る。

男が映る。

 

(たらればを考えても仕方ないか・・・)

 

ふぅと小さくため息をついた事に2人は気づかなかった。

 

「さて、爆豪少年が決意を固めてくれたけど、

大事な事を伝えなくてはならない・・・

そのために!」

「「そのために・・・?」」

「2人とも上着脱げ」

「「へっ?」」

 

———————————————————

 

「オールマイト・・・なんで」「服脱ぐ必要あんだよ・・・」

 

「あることを確認するためさ、まあいいからいいから」

 

オールマイトにそう言われて

俺とデクはしぶしぶ上の服を脱いだ。

 

「うん!2人ともよく鍛えてあるね。

このご時世に体を鍛えてるってだけで大したもんさ!」

 

「俺はそれしか無かったからな」

 

「僕も『個性』の関係で・・・」

 

「うんうん!実はね!この『ワンフォーオール』

いわば何人もの極まりし身体能力が1つに収束

されたもの!生半可な体では『受け取りきれず』

四肢がもげて爆散してしまうんだ!」

 

「四肢が?!」「爆散?!!」

「HAHAHA!いいリアクションするね君達!フン!」

「「へっ?」」

 

マッスルフォームに戻ったオールマイトの肩に

二人共担がれていた。

 

「それじゃレッツゴー!」

「「うわあああぁぁ・・・」」

 

一瞬で姿が見えなくなるほどのスピードで走り去っていった。

 

—————————————————-

 

「着いたぜ!2人とも!」

 

そう言ってオールマイトは2人を地面に下ろすが、二人共立っていられず地面に座り込んだ。

 

「・・・もしかして飛ばしすぎた?」

「ああ・・・」

「はい・・・てココは? 市内の海浜公園? なんでこんな所に・・・」

 

見渡す限りゴミの山。こんな所に連れてきたオールマイトの考えを理解出来なかった。

 

「実は爆豪少年にはここの掃除をしてもらおうと思ってね?」

「・・・まさか掃除でトレーニングか?」

「Yes‼︎だがそれだけじゃ無いのさ。」

 

と言うと巨大な冷蔵庫に手をかけた。

すると一気に押しつぶした。

 

「この区一帯の水平線を蘇らせる!!

それが君のヒーローへの第一歩だ!!」

 

「第一歩・・・!」

 

「いい顔してるぜ爆豪少年!そして!」

 

「ここの水平線が蘇ったその時、

私の『個性』を君へと渡そう! 出来そうかい?」

 

「あったりめえだ! 1ヶ月で終わらせてやるぜ!」

 

「その意気だ爆豪少年! 入口にトラックを呼んである。

そこにどんどん運び込んでいってくれ」

 

「ああ!」

 

(まず小物からいくか!)

 

目標を定めてごみの山へとむかっていった。

 

(本当は今渡しても大丈夫なんだが・・・

スグに手に入れてるのは彼自身が

許さないだろうしな・・・頑張れよ爆豪少年・・・!)

 

—————————————————————-

 

「さて緑谷少年。君には『個性』を・・・と言いたい所だが、

爆豪少年から聞いてるよ・・・中々厄介な『個性』なんだって?」

 

「はい…じゃあ見せますね…」

 

そう言うとオールマイトから距離をとった。

 

そして手のひらを地面に向けて

 

「ふっ!」

 

緑谷少年の体が中に浮かんだ。遅れて砂埃が舞いあがる。

5mほどの上昇してから、地面に降り立った。

 

「ふむ、何か空気を操る『個性』かい?」

 

「厳密にいえば違います。

空気中の『窒素』と『酸素』を集めてから

噴出の勢いを使って飛んだんです」

 

「・・・は?」

 

「そうですよね・・・僕の『個性』の説明ホントに難しくて」

 

はははと苦笑する緑谷少年。

 

「僕の『個性』の本質は引き寄せること。

これは母の個性からです。

僕の引き寄せる範囲は

『構成元素2種類までの物質全て』

です。」

 

「・・・え?ちょっと待って・・・え?」

 

「ちなみに引き寄せることの出来る重さの

「いやいや 違うんだよ緑谷少年!」」

「ど、どうしたんですかオールマイト?」

 

「引き寄せる重さとかそういうのじゃなくて・・・

君はどうやって『個性』の仕組みに気づいた?」

 

「そりゃあ・・・総当たりですよ・・・物なんてほとんど範囲から外れてしまうし、仕組みも最初はよく分からなかったので小さい頃は『ホントは無個性じゃないのか』ってよく言われましたけどね・・・」

 

はははと小さく笑う緑谷少年が今は恐ろしく見えた。

 

「・・・『個性』仕組みに気づいたのは?」

「かかった時間は4年ですね・・・小さい頃は扱いで苦労しましたよ。」

 

(緑谷少年の言う通り

『構成元素2種類までの物質全て』を

引き寄せる事が出来るならば、顔の周りに

一酸化炭素や二酸化炭素を持ってきた時点で

アウトじゃないか・・・!

それに・・・空気を集めてから噴出を推進力に

しようという発想・・・! それを成し得る体幹力!

こんな『個性』苦労したどころじゃないぞ・・・!)

 

「・・・オールマイト?大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ勿論だとも」

 

「それで僕の訓練は?」

 

「そ、それなんだけどね、思っていたよりも君の練度が高かったのと、『個性』の応用の幅が広いことを考慮して次また会う時までに君だけのプランを考えておくよ」

 

「ほ、ホントですか?!やった!オールマイトにトレーニングメニューを考えて貰えるなんて・・・!」

 

目をキラキラさせて喜んでいる緑谷少年とタイヤを運んでいる爆豪少年を見てこう思った。

 

(なるほど、方向は真逆だが、

苦労を共に乗り越えて来たからこその繋がりの強さか・・・)

 

と思いをめぐらせるが・・・

 

(ヤバい・・・! 爆豪少年はともかくとして、緑谷少年のトレーニングをどうしたらいいか全くわからん・・・! 空気を噴出して移動することをメインとするならば・・・)

 

「連絡するしかないかぁ・・・嫌だなぁ、後継者以外に秘密バラすな! って絶対怒られるよ…

後継者以外に秘密バラすな!って絶対怒られるよ…

チクショウ・・・! 足の震えが止まらない・・・!」

 

オールマイトはかつての師への連絡に恐怖していた。

 

(しかし、そうも言ってられないな・・・私も教える側になったのだから・・・!)

 

そう覚悟を決めて携帯に番号を打ちこんだ。

 

 




今回の話のメインは『ワンフォーオール』とデクの
『個性』でした。原作のデクはオールマイトから言われた
とき、即答でOKを出しましたが、今回の爆豪には
迷いが見てとれました。これはやはり『覚悟の差』だと
思います。原作のデクにとっては雲を掴むような話
だったと思うのでそれが悪いわけではないですが。
原作のデクも引き継いですぐ責任感が芽生えているので
少しの時間の差といったところですね。
デクの『個性』は本当に難産でした・・・!
本当はここで語りたいのですがスペースがないので
次回は本編ではなくデクの『個性』についての話に
したいと思っています。
それではまた次回もよろしくお願いします!


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デクの『個性』設定のお話

評価バーが赤になってる!!オマケに3メモリも!
こうやって多くの方に評価していただいて嬉しい限りです!
皆さんに喜んでいただけるように、また原作の素晴らしさを損なわないように書いていきたいと思っています。
さて、今回は本編ではなくオリジナル要素である
デクの『個性』について語っていきたいと思っています。
それではどうぞ!


はい、ということで語っていきたいのですがイマイチこういった説明メインの話になるので、ダラダラとした文になると思うので見逃してくれればありがたいです。

また、下のような形式で書いていきます。

 

その1・『個性』に入れたかった要素

やはり『デクの応用力の高さを活かすことの出来る個性』これにつきますね。前回のように推進力として使ったり、直接ぶつけたりすることも出来ます。ただしこれなら『空気を集める個性』でいいんじゃないのか?と思われる人もいると思いますが、

今後、デクがどう『個性』を使っていくのかはネタバレになるのでここではやめておきますね。

 

2つ目は『扱いが尋常ではないほど難しい個性』であること。

これは2人の過去編に直結するので多くは語れませんが、話の根幹を担う要素なのでどうしても外せませんでした。

 

3つ目は『悪用されればとんでもないことになる個性』であること。原作よりも強い意思と覚悟を持って成長してきたデクと爆豪。その心につけ込むことは容易ではありません。

となると・・・?私に語れるのはここまでです。

 

以上の3つの要素がデクの『個性』を考えていく上で重要になりました。

 

次に

その2・『個性』を作る上で気をつけたこと

前述の『入れたかった要素』とは違い、絶対に必要である要素や、個人的に気をつけた事を語っていきたいと思います。

 

1つ目は『母親の個性系統であり、なおかつあの方をパクらない使い方を出来る個性』であること。

これは、ヒロアカのssを読んでいる人ならほとんど知っている・・・このハーメルンのヒロアカジャンルの大ボスであり、私が投稿を始めるきっかけにもなった・・・はくびしん兄貴の主人公である彼女と異なる使い方が可能な『個性』にしたかったのです。

デクの個性が原作と異なるタイプのssで1番有名ですし、尊敬している方をパクリたくないというか・・・似たような個性にして逃げるのは嫌だなと思い、現在の『個性』に落ち着きました。

 

2つ目は『空中戦が得意である個性』であること。

原作で、名前が分かっているワンフォーオールの継承者である『志村菜奈』『オールマイト』『緑谷出久』この3人の相棒だった、あるいはなりうる人達の個性が『空中戦が得意』または『頭を使う』ものであり、地上で無類の強さを誇る『ワンフォーオール』をサポートや補完出来るものでもありました。

私の作品では爆豪が後継者となり、デクが相棒という立場になっています。そのデクの『個性』を原作から大きく外すことはしたくなかったのです。

私は原作のヒロアカが大好きなので、そこは譲れないポイントでした。

 

3つ目は『自由度が高い個性』であること。

原作もそうですが、成長を一緒に追っていく事が出来る、つまり伸び幅が大きい『個性』であることは必須でした。

ただでさえ、原作よりも努力してきたのでただ『引き寄せる個性』であったなら爆豪との成長具合の釣り合いがとれず、原作と同じように関係が悪化してしまうからです。

これは入れたかった要素2つ目の『扱いが難しい個性』とほぼ同じですね。

 

以上の3つがデクの『個性』を作る上で気をつけたことです。

 

—————————————————————

 

 




ということでいかがでしたでしょうか・・・?
細かい事は書くとキリが無いのでここら辺でやめておきます。
説明が拙く、分かりにくいところがあるとは思います。
詳しく聞きたい事があれば、お手数おかけしますが感想にて質問お願いします。ネタバレをしない程度に返答したいと思います。
次回からは本編に戻って修行フェイズに入ります。
それでは少年もよろしくお願いします!


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師匠として

お気に入り登録して下さった方が300人を超えました!本当にありがとうございます!
こうやって多くの方に評価していただけることに感謝しています。もっともっと良い文を書けるよう努力していきますので応援よろしくお願いします!
それでは本編どうぞ!



プルル・・・プルル・・・

廃れたビルに電話の音が鳴り響く。

人も住んで居なさそうに見えるこの場所には1人の老人が住んでいた。

 

「電話なんて久しぶりだな・・・どれどれ・・・俊典?!」

 

電話を確認した老人は電話の相手を見て驚いた。何しろ最後に連絡をとったのがいつかも思い出せないほど前だったからだ。

決してボケがきているわけではない。

ガチャ・・・

 

「もしもしグラントリノ?私で「随分と久しぶりだな俊典!」

 

携帯から怒声が響く。

 

「グ、グラントリノ?何故そこまで怒っていらっしゃるのですか?」

 

「おめえが長い間連絡よこさねえからだろうが!」

 

「も、申し訳ございません!」

 

「大体お前は・・・」

 

——————————————————-

 

「ねえかっちゃん?」

 

「なんだ?」

 

「オールマイト、誰と話してるんだろうね」

 

「さあ・・・ずっとペコペコしてるし

お偉いさんかなんかじゃねえの?」

 

「なるほどね・・・」

 

オールマイトが電話の相手にずっと謝っているのが見てとれた。膝は震え額から汗が流れる。その姿は明らかに相手を恐れている。

 

((オールマイトが恐れる相手って誰なんだろう・・・))

 

————————————————————-

 

30分後・・・

 

「・・・というわけだ俊典?分かったか?」

 

「はい・・・肝に銘じておきます・・・」

 

「よし・・・じゃあな」

 

「待ってくださいグラントリノ!本題すら伝えていません!」

 

「本題だぁ?なんか用があるなら先に言えよ」

 

「は、はい」

 

言っていることは無茶苦茶なグラントリノだが、悲しいかなオールマイトに不満を伝えるほどの勇気は無かったのである。

 

「実はですね、後継者の話で」

 

「お、雄英で探すんだろ根津から聞いてるぜ?」

 

「それなんですが・・・もう見つけたのです」

 

「・・・何?誰なんだそいつは・・・」

 

「爆豪勝己という名前の『無個性』の中学生です」

 

「・・・はあ?!正気か俊典?

まさか同情とかで選んだんじゃねえだろうな?」

 

「勿論ですグラントリノ。彼になら託してもいいと思える、

『ヒーロー』に必要な素質を持っていました。」

 

「・・・個性の譲渡は?」

 

「それはまだです。いまその彼には課題を課しておりまして、それが終わり次第と考えています」

 

「いつ頃になりそうだ?」

 

「私の見込みでは半年ほどかと・・・」

 

「・・・なるほどな。俊典、お前の決定を否定するわけじゃねえ。だがな・・・『ワンフォーオール』を持つことの重大さを、その爆豪だっけか?は持ってんのか?それが知りたいんだよ俺は」

 

「分かっておりますグラントリノ。それは私の口から説明するよりも実際に見て確かめて貰った方がよろしいかなと。」

 

「分かった・・・おめえいつ頃予定空いてんだ?」

 

「来週の日曜日の昼頃なら空いています。」

 

「よし分かった・・・じゃあそれで」

 

「あ、あのグラントリノ・・・」

 

「なんだまだなんかあんのか?」

 

「え、いやその・・・やっぱりいらっしゃった時に直接・・・」

 

「・・・なんかやべぇことじゃねえだろうな?」

 

「な、何でもないんです!失礼します!」

 

ガチャ・・・プー・・・プー・・・

電話から通話が終了した音が鳴る。

 

「あの野郎切りやがった・・・次に会った時覚えておけよ・・・しかしまあ・・・」

 

(ハッキリ自分の意見を言えるようになったじゃねえか俊典)

 

自分に怯えてばかりだった修行時代。No.1ヒーローになってからもそれは変わらず、実際長い間連絡が無かった。

 

しかし・・・

 

「あいつから連絡くるなんて意外だったな・・・しかも『後継者』を自分の意思で・・・なおかつ自信がある口調だったしな」

 

(あいつも教える側になったってか?想像つかねえよな…なあ志村?)

 

オールマイトを古くから知る、今は亡き盟友を偲びながら1人微笑む。

その表情は穏やかだった。

 

—————————————————-

 

(あああやってしまったぁ・・・!

緑谷少年のことも伝えずに、さらに誤魔化すために

電話を無理やり切ってしまったぁ・・・

次に会った時に絶対殴られるよぉ・・・)

 

一方オールマイトは顔面蒼白でガタガタ震えていた。

その姿にNo.1ヒーローの面影なんてものは無かった。

 

「オールマイト?!大丈夫ですか?!」

 

「だだだ大丈夫だ緑谷少年・・・」

 

「絶対大丈夫じゃないですよね?!」

 

「・・・なあオールマイト、電話の相手誰だったんだよ?」

 

「・・・ああ、彼は私の師匠みたいなものだよ。

その名は『グラントリノ』」

 

「グラントリノ?聞いた事ないぞ?」

 

「デクで知らねえって大概だぞ?」

 

「無理もないさ・・・彼が既に隠居していたからね。

それはそうと・・・」

 

少し顔色がマシになったオールマイトが

2人の方に向き直った。

 

「どうだい?調子は?」

 

「思ってたよりキツイかもな・・・純粋な筋力が求められるから・・・ウエイトトレーニングは高校からと思ってたからさ」

「ワンフォーオールを扱う上で筋力は重要なファクターだからね!まあ爆豪少年なら大丈夫さ!」

「おう任しとけオールマイト!スグに慣れてやるぜ!」

スグに慣れてやるぜ!」

「頼もしいな全く!緑谷少年はどうだい?」

「そうですね・・・『個性』をどう使っていくかがまだ絞り切れません・・・空中戦をメインにするのは決めてあるんですけど・・・」

「まあそう焦らないでもいい。君の『個性』は出来る事が多いからね。闇雲にやるのはいけないが縮こまり過ぎるのもいけないぞ!」

「はい!」

 

特訓の調子を聞いてそれに見合ったアドバイスをかけていく。2人にとってみたらまさに理想の師匠であることは間違いない。

 

しかし・・・彼が厄介な事を後回しにしているなんて2人は知る由もないし、オールマイトが(・・・本気で言い訳考えとかないとなぁ・・・)なんて思いながらアドバイスしているなんて2人は夢にも思っていないのである。

 

———————————————————

 

「よし、今日はここまでだな!」

「や、やっと終わった・・・」

「俺はあんまり終わらなかった・・・」

 

デクは『個性』を使って空中機動の練習、爆豪はひたすらゴミを運びながら肉体を酷使していく。

全く逆のトレーニングをしているので終わったときの感想も違うものになっていた。

 

「ウンウン!2人とも日頃から鍛えているだけあって進みが早くていいね!爆豪少年もこれなら思っていたより早く終わりそうだな!」

「ンなことねえよオールマイト。まだまだ大きなゴミは残ってるしな」

 

褒めるオールマイトだが爆豪は自分の進捗を客観的に評価している。

 

(この歳でそれが出来る子はなかなかいないだろうな・・・)

 

「デクはどうだった?上手くできてんのか?」

「うーんどうだろう?とりあえず空中で自由に動けるようになりたいかな?」

「そんな緑谷少年に朗報だ!」

 

マッスルフォームに戻りビシィ!と指を向けるオールマイト。

肝心のデクはやっぱり画風が・・・!とうわの空だが・・・。

 

「次に私がフリーになるのは来週の日曜日なんだけどね・・・その時に例のグラントリノがここに来るんだ。」

「グラントリノがですか?それが何か?」

「グラントリノの個性は『ジェット』。彼は空中戦を得意としているから何か聞きたい事があったら質問できるよ!」

「本当ですか?!」

「良かったじゃねえかデク!オールマイトの師匠だからきっとすげえぞ!」

「だがしかし!」

 

ボシュッ!と煙を立ててオールマイトは再びトゥルーフォームに戻った。

 

「彼はすごく厳しいからね・・・教えを乞うなら覚悟はしといた方がいい・・・ちくしょう!思い出したらまた膝が・・・!止まれ!止まるんだ震えよ!」

「そ、そんなに厳しいお方なんですか?」

「厳しいなんてもんじゃないさぁ・・・私が学生の時は『実践練習』といって毎日殴られてゲロ吐かされてたよ・・・」

「うわぁ・・・」

「それほんとに師匠なんか・・・?」

「まあ・・・彼が厳しいのにも理由があるからね・・・」

「オールマイト?どうした?」

「ん?いや、なんでもないよ」

 

(これを聞かせるのはもう少し先でいい・・・彼らがもっと成長してからでも遅くはないさ)

(自分のもう1人の師匠が『やつ』との戦いで命をおとしたなんて中学生には早いしな・・・無駄にプレッシャーをかけるだけだ・・・)

 

オールマイトは若かりし記憶を胸の内にしまった。

そして2人に向き直り・・・

 

「そろそろ時間だから私はもう行くよ。さっき言った通り次に会えるのは来週日曜日だ。2人とも特訓は言わなくてもすると思うが・・・勉学をないがしろにしてはいけないぞ」

 

「まさか、僕高校は絶対雄英って決めてるので」

 

「『オールマイトの出身校』だから・・・だろ?デク」

 

「くぅ!この行動派オタクめ!それで爆豪少年はどこにするつもりなんだい?まあどこにしても勉強は頑張らなきゃだけどね」

 

「俺も雄英のつもりだ」

 

「そういや、かっちゃんって昔っから雄英に行く!って言ってたよね?なんで?」

 

「そ、そんなのなんでもいいだろ?!

デクだってずっと雄英じゃねえか!」

 

「なんでキレるのさ!」

 

ギャーギャー・・・

言い合いを始めた2人を見ながら

 

(爆豪少年は『緑谷少年が行くから』かな?全く素直じゃないね!)

 

「何ニヤついてんだオールマイト!」

「なんでもないさ・・・ただ素直じゃないなって」

「ッ!」

 

顔がボッ!と赤くなる爆豪少年。

 

「ど、どうしたのかっちゃん?」

「んでもねえ!オールマイト言ったらコロス!」

「言わないさ!そこまで無粋じゃあないさ!」

 

そう言ったのにまだ爆豪少年は睨んでくる。

(そんなに恥ずかしがることかなぁ?

ずっと1人だった私にはわからないな・・・)

そう思いながら何気なしに腕時計を見ると針は7時50分を少し過ぎた辺りを指していた。

 

「やべっ!じゃあそろそろ行かないと!また日曜日に!」

「ありがとうございましたオールマイト!」

「特訓も勉強も頑張っとくわ」

「うん!じゃあね!」

 

ふんっ!というとマッスルフォームに戻ったオールマイトは凄まじいスピードで消えていった。

 

——————————————————-

 

「なあデク・・・やっぱオールマイトってスゲぇな・・・」

「そうだね・・・余りに話すぎて忘れかけてたよ・・・」

「よし・・・帰るか」

「うん、うん?何かを忘れてるような・・・?」

「なんだデクもうボケが・・・?」

「違うよ!なんか大事なことを・・・あっ!ああああああああぁぁぁ!」

 

叫びながら頭を抱えうずくまるデク。

 

「ど、どうした?」

「・・・インを・・・」

「え?」

「サインを貰うのを忘れてたぁ!」

 

その言葉を聞いてデクの頭にチョップをかましたが悪いとは微塵足りとも思わなかった。

 

「こンの生粋のオールマイトナードが!

次に会う時もらえばいいじゃねえか!」

 

「つ、次にって・・・今度会えるのは来週の日曜日なんだよ!?」

 

「だからなんだっていうんだよ!」

 

「かっちゃんには・・・!」

 

ギャーギャー!

 

———————————————————

 

「じゃあ飯食ったら家行くわ」

「うん、チャチャッと課題終わらして特訓再開だね!」

「ああ、また後でな」

「うん!」

 

こうして2人は来週の日曜日まで勉強と特訓をこなしていった。




ここまで読んでいただきありがとうございました!
今回の話のメインは2人からフェードアウトしてオールマイトに。
2人が成長していくには彼の成長も必要不可欠!ということでかつての恩師(鬼)のグラントリノに連絡をとりました。
グラントリノがどうアクションするのかはまた次回のお話ということでよろしくお願いします!

追伸
爆豪がオールマイトに指摘されて照れるシーンがありますがあれはデクに『憧れ』の感情を抱いている事がバレそうになったからであり決して┌(┌^o^)┐ではありません(真顔)


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会合:グラントリノ

おいおい、評価バーが4つ目まで赤くなってるじゃねえか・・・
お気に入りも500人を超えてちょっとやべえなって思いました。
ここに全ての方の名を挙げることは出来ませんが、
非常に感謝していますしモチベーションにもなっています!
本当にありがとうございます!
では本編どうぞ!
少し短くてすいません。


日曜日の昼下がり。

爆豪とデクは意外と住宅地を歩いていた。

 

「はぁ緊張するなぁ」

 

胸を抑えて猫背になっているデク。

 

「大丈夫だって。

多分オールマイトは頑丈だから殴られてただけで何もデクがやられると決まったわけじゃねえし。

それにもう引退してんだろ?」

「そうだよね・・・別にサイン頼んでも怒られないよね」

「え?」

「え?」

 

明らかに言っていることがおかしいのはデクなのに、

俺の方を向いてキョトンとした顔をしている。

まるで俺の方がおかしいとでも言いそうな顔だ。

 

「おめえなんの話してんだ」

「かっちゃんこそ!

サイン頼んだら殴られないかどうかの話じゃないの?」

「ちげえわ!

てゆうかなんで名前も知らねぇヒーローのサイン欲しんだよ!?

貰ってもしゃーねぇだろうが!」

「何言ってるのさ!オールマイトの師匠だった人だよ?きっと凄いヒーローだったに違いないよ!」

「・・・おめえのサイン貰う基準やっぱりよく分かんねえわ」

 

(『グラントリノ』

一体どんなヒーローだったのか・・・

気になってネットで調べてみたが全く記録が残ってなかった。)

 

それをデクに伝えたのにも関わらずまだサインを貰おうとしている。

オールマイトの師匠ってだけでちゃんとプロとして活動してきたかどうかも怪しいところである。

 

「デクよぉ・・・やっぱ殴られるかもな?」

「なんで?!」

「お前いっつもサインをもらうとき話長ぇだろ?

だから『話が長い!』とか言ってさ!」

「もうそれヒーローじゃなくてもアウトだよ・・・」

 

そんなくだらない話をしながら歩いていたらオレたちの特訓場であるまだまだゴミだらけの海浜公園が見えてきた。

そこで俺はデクにある提案をした。

 

「なあデク」

「いいよかっちゃん」

「まだなんも言ってねえが?」

「かっちゃんのことだからあそこまで競走して負けた方がジュース奢るとかでしょ。どう合ってる?」

 

自慢げに笑う幼なじみに伝える前に当てられた。

どや顔はムカついたがなんだかむず痒くて怒るのはやめた。

 

「・・・あってるよ」

「やっぱり!だてに長い間一緒にいないからね!」

「はいよぉいスタート」

「かっちゃん?!」

 

と思ったけどやっぱりムカつくからジュースを確実に取りにいく。

後ろから抗議の声が聞こえるが無視した。

 

——————————————————

 

「ぷはぁ!

やっぱタダで飲むジュースが1番うめぇわ」

「ずるいよかっちゃん。

当てられたからって拗ねてフライングするなんて」

「アホか!拗ねてねぇわ!

まあそう言いながらも奢ってくれるあたりやっぱりデクはお人好しだな」

「あれ?僕奢ったのにケンカうられてる?」

「ばぁか褒めてんだよ!」

「どこが?!」

 

俺に抗議の声を上げるデク。

コイツは自分の1番良いところが分かっていない。

『それ』は言うに易く行うは難し。

そして『ヒーロー』として大事な素質でもある。

だが昔っからデクは持っていた。

 

(分かってないならそのままでいた方がいい)

きっとコイツは否定するだろうから。

まだ不服そうな表情を浮かべるデクを見てそう思った。

 

「おーい」

「お」

 

声の聞こえた方を向くとそこにはトゥルーフォームの オールマイトがいた。

 

「ごめん遅れちゃって」

「大丈夫です!」

 

ヒョロ長い体を折って謝るオールマイトに、デクはとんでもないといった顔をしていた。

 

「ったく・・・デクはオールマイトにあめぇんだよ。

No.1ヒーローだろうが遅刻は遅刻だ」

「うぐっ!返す言葉もない・・・」

「本当に大丈夫ですよオールマイト!僕達もさっき来たばっかりですから。ね?かっちゃん?」

「まぁ、そんなには待ってねえけどよ」

 

するとデクがオールマイトに聞いた。

 

「あれ?グラントリノは一緒じゃないんですか?」

「ああ、それなんだけどね」

 

ポリポリと頭をかきながら申し訳なさそうな表情をするオールマイトを見て、だいたいこれから言うことが分かった気がした。

 

「駅まで迎えに行きますって言ったんだけどね・・・

老人扱いするなって怒られちゃって。」

 

((それ・・・別に老人扱いと関係無いんじゃ・・・))

 

「でも、もうすぐ来ると思うよ。

少し前に駅に着いたって連絡があったからね」

「じゃあ少し時間あるってことだよな?

だったら特訓の成果見てくれよ」

「ぼ、僕も見て欲しいです!」

「はは、せっかちだな2人とも!

言われなくてもって・・・ん?!」

 

オールマイトが何かに気づいたらしい。

視線の先には人がいた。

 

(ここには滅多に人がこねぇ・・・となるとあいつが)

 

その人物は顔を下げたままこちらに歩いてきた。

刹那。ボッ!と音を立てて高速でオールマイト目がけて突進してきた。

 

考える暇もなくオールマイトの前に出た。

胸に強い衝撃を受け、気を失った。

 

——————————————————

 

目を覚ますと視界にはデクとオールマイトの姿が飛び込んできた。

 

「かっちゃん!かっちゃん!」

「爆豪少年!」

「あ、れ?どうして・・・?」

 

まだ意識が朦朧としているが、頭を抱えて何とか体をおこす。

 

(変なやつを見つけて・・・それから俺は)

 

「ッ!あいつは!」

「それなら心配ない」

「心配ないって・・・ヴィランじゃなかったのか?!」

「いやぁ・・・それなんだけどね?」

 

オールマイトが背中に手をかけて体を起こすのを手伝ってくれた。そして視線の先には土下座をしている白髪の老人がいた。

 

 

「えっと、彼がグラントリノだ。」

「はぁ?」

「はは、そうなるのも無理はないか」

「爆豪勝己くん!本当に申し訳ない!」

 

土下座をしている老人から声が聞こえた。

 

「いや、いきなり謝られても困るわ」

「かっちゃん、僕が説明するよ。えっとね」

 

グラントリノがやって来た。

グラントリノは電話ブチ切りしたオールマイトに怒っていた。

オールマイトに出会い頭にグーパン決めようとした。

だが爆豪がオールマイトの前に飛び出した。

止まろうとしたけど間に合わなかった。

パンチがお腹に直撃。

そして気絶してしまった。

 

ということらしい。

 

「なるほどな、ってなるかァ!?何殴ってくれてんだ?ああ?!」

「いや、返す言葉もない」

「本当ですよグラントリノ。

彼は『ヒーロー』を目指している。

襲われたのが私であっても庇いに動いた。

これで分かってくれたでしょう?

彼には『ワンフォーオール』を託してもいいと言った理由が。」

「ああそうだな・・・」

 

弟子であるオールマイトが師匠のグラントリノに諭している。

ファーストタッチが『アレ』だったからか・・・俺にはグラントリノが本当に凄いのか分からなかった。

 

「さて爆豪くん、自己紹介が遅れた。

俺がグラントリノだ。よろしくな」

「ちっ、爆豪でいい。

なんか君付けはきもちわりぃ」

「そうか、では爆豪。

お前が『ワンフォーオール』を継ぐに相応しい奴であることは分かった」

「ったりめだタコが。

こちとらオールマイトに認められてんだよ。

今さらあんたの出る幕じゃねえ」

「しかしだな

『ワンフォーオール』を継ぐということはお前が思っているよりも危険なんだよ。

お前にそのかくご「うるせぇ!」」

 

「あんたのいう危険がどんなもんか知らねぇがな?

それもとっくに終わってんだよ!

覚悟?危険?んなもん十分わかっとるわ!

そもそも俺は『無個性』でヒーローになろうとしてたんだよ!

それより危険で覚悟いる目標あんのかよ、ああ?!」

「かっちゃん・・・」

「爆豪少年・・・」

 

ネチネチ似たようなことを繰り返すジジイ。

オマケに出会い頭にグーパンかまされたことも相まって

俺の我慢は限界だった。

 

「おい!なんか言ってみろよ!」

「いや、お前さんにはその覚悟があるって十分伝わった。」

 

(咄嗟に庇いに動ける反射神経に、

粗野だが芯の通った言動から伝わってくる負けん気

無個性なのに『ヒーロー』を諦めなかった心の強さ

なるほどな・・・俊典が自信を持っていたのもうなずける。

これが9代目継承者・・・爆豪勝己!)

 

「ジジイ!何ニヤついてやがる!」

「かっちゃんジジイはダメだよジジイは」

「じゃあなんて呼びゃあいいんだよ?!」

「グラントリノでいい」

 

(ちょっと口が悪いが・・・印象の悪さは俺のせいだからな)

 

「俊典」

「なんでしょうグラントリノ?」

「いい弟子見つけたじゃねえか」

「っ!はい!」

 

ジジイとオールマイトが盛り上がっている中、

デクは俺に話しかけてきた。

 

「ねぇかっちゃん褒められてるよ」

「うっせ!わかっとるわ!」

「何怒ってんのさ」

「ネチネチ言われた後に、いい弟子とか言われても嬉しくねぇつうの!」

「ははは・・・」

 

俺の言ったことに乾いた笑みで答えるデク。

幾らオールマイトの師匠だろうがフォローは出来ないらしい。

 

「オラ!ちゃっちゃと特訓始めんぞ!」

「うん!」

 

デクを急かしながら、

遅れた時間を取り戻すように特訓を開始した。

 

そんな2人を見てグラントリノはオールマイトに話を続けた。

 

「おまけにいいライバルもいる。

俊典・・・お前と違ってな」

「はい、羨ましい限りです。

まあ2人の関係はライバルと言うよりは相棒の方がしっくりきますね」

「ところで俊典」

「はいなんでしょう?」

「なんであの緑髪の小僧はお前をみて驚かない?」

「そっそれは?!アノデスネ・・・」

 

(コイツの慌てぶりから電話で伝えきらなかったことはこれか、

普段ならシバいていたが・・・)

 

「俊典」

「は、はい!」

「そう身構えんな。

別に怒ってるわけじゃねえ。

アイツを支え続けたのはあの小僧だろ?」

「そう、聞いております」

「なら大丈夫だ。根拠はねぇがな」

 

2人の関係は一朝一夕ではないことなんて直ぐに分かった。

隣りに立つ人がいる、それだけで違う。

自分は失った。

オールマイトはわざとつくらなかった。

老い先短い自分に出来ることは少ないかもしれない。

だが伝えよう、これまでで得た知識を。

守ろう、ほんの少し先まで。

俊典はまだまだ師として未熟なのだ。

 

(これ以上水差し野郎になんのはごめんだしな…)

 

グラントリノはそう決心したのだった。

まだまだ青い、孫弟子達の為に。




ここまで読んでいただきありがとうございました!
今回はグラントリノの回でした。
爆豪とのファーストタッチは最悪でしたが・・・
緑谷も認められたので大丈夫でしょう!
この爆豪はデクを褒められるとチョロくなりますんで、ハイ。
そしてこの次話は爆豪がゴミを片付け終えた時点まで飛びます。

理由としては、余りダラダラしていても2人の関係を掘り下げられないから、というかそれを描写するだけの力が私に無いからです。
特訓フェイズはもう少し先に書きたいと思っていますので
ご容赦ください。


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不器用な継承者

諸事情があり、投稿が滞っていました。
それも落ち着いたので次回からは
ペースを上げれると思います。
それでは本編どうぞ。


「うおおおおぉ!!」

 

まだ朝焼けが眩しい時間。

海浜公園に咆哮が響き渡る。

地平線からの陽射しが声の主を照らす。

はたから見たら少しおかしな少年であろう。

 

しかし、その水平線を蘇らせたのは他でもないこの少年である。

 

それもたった一人で。

 

先の咆哮は、

約半年に及ぶ大掃除の終わりを告げるものだった。

 

-------------------

 

オールマイトが爆豪を見ながら驚嘆する。

 

(指定した区画以外・・・

というか公園全てをチリひとつ残さず

それをたった半年で!しかし・・・)

 

オールマイトは確かに驚いた。

だが、心のどこかで思っていたのだ。

爆豪勝己という男が

自分の予想を超えてくることを。

 

爆豪がそう思わせるのか・・・

はたまた自分が過小評価していたのか・・・

 

(まあどちらにしても・・・

爆豪少年の成長が早いに越したことはないしね!)

 

オールマイトは大の字で寝転がっている爆豪の

元へ向かった。

 

---------------------

 

「ホントに良くやったよ爆豪少年!」

 

声の方を見るとオールマイトが笑っていた。

俺は身体を起こして向き直った。

 

「オールマイト

俺やったぜ・・・!これでスタートラインに立てる!」

 

拳を握りしめ、確かめるように言う。

 

「実はね爆豪少年。」

 

と言うとボンッとマッスルフォームになった。

 

「本当はここの掃除を始める前から

身体自体の器は成していたんだ。」

 

「はあ?」

 

「いやさ?

君、あのタイミングで渡すって言っても

『無償の力は受けない!』

とか言いそうだったからさ」

 

「いや・・・それは・・・」

 

HAHAHAHAと笑うオールマイトは

ウザったかったが

言ってることは自分でも予想できたので

言い返せなかった。

 

「・・・っち!わざわざンなこと

今言わなくてもいいじゃねえか!」

 

「まあまあかっかするなよ爆豪少年!

私は褒めてるんだぜ?

『施しを受けない』ということは

簡単じゃあない。

それも無個性の君が『個性』を・・・だ」

 

真面目な顔に戻って話すオールマイトに

反論しようとは思わなかった。

 

すると俺の肩に手をポンと置いて

 

「実際、私は先代・・・7代目継承者から同じように

話を持ちかけられた時に一も二もなく承諾したもんさ!」

 

「・・・そっか」

 

「だが君は違うだろ?

自身の力で!成し遂げた!

だからそんなに不安な顔をせずに!」

 

俺は下がっていた顔を上げ、オールマイトの

顔を見つめた。

 

さっきのアメリカンな笑いとは違い、

優しく微笑んでいた。

 

(コロコロと表情が変わる・・・

こういうトコ、デクとそっくりだな・・・)

 

「・・・な」

 

「ん?どうした爆豪少年?」

 

「いや、なんでもねぇ」

 

「そうか?ならいいんだが」

 

(恵まれてる・・・いや恵まれ過ぎてるなんて

昔っから分かってる。でも

口に出す事じゃねえ、『行動で返す』もんだ!)

 

「さあオールマイト!

引継ぎの何か、あんだろ?」

 

「まあそう焦るな爆豪少年!

とりあえず、緑谷少年呼んできな?

もう7時半だし彼なら起きてるだろ?」

 

「はあ?なんで俺があの『アホ』を呼びにいかねえと

いけねぇんだよ!」

 

オールマイトに噛みついた。

 

「アホっておいおい・・・

爆豪少年、まだ怒ってるのかい?」

 

困惑した表情になったオールマイト。

 

「ったりめえだ!

あの『ナード野郎』は必要ねぇんだよ!」

 

「君のボキャブラリーどうなってるんだい・・・」

 

ハアとため息をつくオールマイト。

 

「・・・とりあえず、継承の話は彼が来てからだ。

分かるだろう?彼無しで進めていいものじゃない。

このタイミングを機に仲直りしておいで」

 

「っち!」

 

オールマイトの話の正しさは分かってるし

俺も謝りたいと思ってる。

にも関わらず俺がこんな態度を取ってる

のには訳がある。

 

(デク・・・)

 

------------------

 

—半年前—-

 

俺はデクの胸ぐらを掴んで詰め寄っていた。

 

「どういう意味だデク!

同情のつもりなら3回殺す!」

 

「くっ、ぐるじぃ・・・」

 

真っ赤になったデクを地面に捨てる。

拘束から解放されたデクは咳き込んだ。

 

「ゲホッ・・・ゲホッ・・・」

 

「さあ答えろデク!

返答次第じゃあ、ただじゃおかねぇかんな!」

 

息を整えたデクはこちらを見据えた。

 

「・・・だからさっきも言った通り、

かっちゃんの掃除が終わるまで

『個性』の訓練をせずに体幹トレーニング

中心の筋トレメニューにするって。

一体何に怒ってるのさ?!」

 

「はあ?!

だからなんで『個性』の特訓しねぇんだよ!」

 

「だからそれは

空中戦に必要な体幹トレーニングを・・・」

 

「ンなもん実際にやらねぇと意味ねえだろうが!

ちげぇか?!」

 

「・・・それはそうだけど」

 

黙ったままのデク。

しかし、目だけはこちらを

しっかりと見つめている。

この目をしている時は、もうテコでも動かねぇ。

 

「はぁ・・・もういい

それがお前が取った選択ならもう口は出さねえ」

 

「かっちゃん・・・」

 

「ただし!俺が終わるまで一切話しかけるな!」

 

「ええ!?ナンデ?!」

 

慌てふためくデク。

 

「お前がそういうつもりならこっちも

そうせざるを得ねぇ!」

 

「全く意味分かんないよかっちゃん!?」

 

困惑した表情をしているデク。

 

「意味も何も

そういうことだ・・・

俺は距離を置く。」

 

俺はそう言って、海浜公園を出た。

 

その後デクがどういう考えに至ったか、

俺は知らねぇ。

 

学校でも話しかけることは無かった。

 

それにデクが同情なんてするはず無いことも

本当は分かってた。

 

ただ、今回こそはアイツの力を借りずに

成し遂げる必要がいる。

 

傍にいるだけで人の支えになれる、

そんなアイツから距離を取る必要があった。

 

ただ都合が良かったから

怒ったフリをして・・・

アイツから距離を置くことにした。

 

オールマイトやジジイにも

ケンカってことにしといた。

 

ジジイには、

『こんな時期にケンカすんな!』と

お小言を喰らったが気にしねぇ。

 

これは俺が1つ階段を登るために必要なんだ。

そう呟いた。

 

-------------------

 

あの時を思い出してたら

いつのまにかデクのマンションに着いていた。

 

重い足取りで階段を上っていく。

ほぼ自分が撒いた種なのに、

自分で決めた話なのに、

今更デクと話すことに尻込みする。

 

そんなことを思っていたら

玄関の前に着いていた。

 

「ふぅー」

 

息を大きく吐き出し、

インターフォンを押した。

 

『はーい』

 

奥から声が聞こえた。

 

「爆豪です」

『あら?勝己くん?』

 

ちょっと待ってね!という声が聞こえた後

ガチャと玄関のドアが開いた。

 

「こんにちは勝己くん。

久しぶりね。」

「ご無沙汰です。引子おばさん。」

「なあに?そんなに改まっちゃって」

 

半年ぶりに見たデクの母さん。

前までほぼ毎日訪れていたので

おばさんに会うのも久しぶりだった。

 

「まま、上がりなさいな。

こんな所じゃ話も出来ないわ」

「お邪魔します」

 

おばさんに続いて部屋に入る。

勧められたまま、机に座った。

 

おばさんはお茶を出しながら

 

「今日はどうしたの?」

 

「少し・・・デ、出久に用があって」

 

詰まりかけながらなんとか答える。

 

「そう?

その割には凄い思い詰めた顔してるわよ?」

 

(そんなにひでぇ顔してんのか俺・・・)

 

「・・・出久と何かあったんでしょ?」

 

「っ!な、なんで・・・

そう思うんですか?」

 

我ながらおかしな返答をしていると思う。

 

それに対しておばさんはクスッと笑う。

 

「ほら、言ったじゃない?

此処にくるの久しぶりだって。

半年前までほぼ毎日来てたでしょう?

そりゃあ何かあったのかなって思うわよ」

 

「そう・・・ですか」

 

「そうよ」

 

図星を喰らって俯いてしまった。

しかし、少し引っかかった事がある。

 

「出久から・・・

何か聞いてないんですか?」

 

「そりゃあ勿論聞いたわよ!

来なくなって1週間ぐらいのときかな?

勝己くん最近来てないけど、

何かあった?って」

 

「・・・それで?」

 

(気になる。

どういう反応だったのか・・・)

 

「そしたら出久。

『大丈夫。心配しないで』って」

 

「それだけ・・・ですか?」

 

「そうよ。

なあに?おばさんの言うこと

信じられない?」

 

「そういう訳じゃ・・・」

 

(おばさんのこと、やっぱ苦手だ。

自分の思ってることを

見透かされてる気分になる・・・)

 

「さ、これ以上私と話しても

仕方ないでしょう?

あとは本人と話しあって!」

 

おばさんの指差した方向には

デクがいた。

 

「デク・・・」

 

—————————————————-

 

その後、

2人で海浜公園に向かって歩いた。

2人とも黙ったままだが。

 

横目でデクを確認すると

真っ直ぐ前を見て歩いている。

 

こちらを気にしている様子も無い。

 

(クソっ!

さっさと切り出せよ俺!)

 

自分自身でも戸惑っていた。

爆豪勝己とはこんなにも

内向的だったのか。

 

(カッコわりぃ・・・)

 

「かっちゃん」

 

その一言で思考から戻る。

 

「修行終わったんでしょ?」

 

「あ、ああ」

 

「流石かっちゃん!

あの量のゴミをたった半年で

片付けちゃうんだもんね」

 

いつもと変わらない様子のデク。

だが俺には・・・

 

「それに「違う!」」

 

「俺は全然褒められるべきじゃねぇ!

1人でやり遂げるために

難癖つけてお前から離れたんだ!

しかも責任はお前にあるように言って!」

 

ずっとのしかかっていた感情を

一気に吐露する。

 

「ただ、今回はお互い1人で

頑張ろうって言えば

良かっただけなのに!」

 

自分でも不器用だと思う。

悪いのはこっちなのに

それでもまだ勝手に

感情をぶつけるだけ。

 

謝る事が出来ずに責められる

ことを望んでいる。

 

「かっちゃん」

 

声がして恐る恐る顔を上げる。

 

怒り。非難。呆れ。

どんな感情の声なのか、

10年来の幼なじみの声なのに

分からなかった。

 

「デ・・・?!」

 

それもそのはず。

デクは全くの無表情だったのだから

 

そして大きなため息を1つ吐くと

 

「こんだけ長い付き合いなのに

『かっちゃん語』が分からないと思う?」

 

「・・・はあ?」

 

(これは・・・怒ってるのか?)

 

「僕はあの時から気がついてたよ?

と言うよりかっちゃんから

距離取らせる為にわざわざ

『個性』無しの特訓の話をしたのに!

なんでかっちゃんが気にしてるのさ!」

 

鼻息荒く話すデク。

俺はまだ呑み込みきれていないのに、

次々と話が出てくる。

 

「ちょ、ちょっと待てデク!

じゃあ俺が距離を置きたがってた

事も最初っから・・・」

 

「分かってたよ」

 

当然でしょ?

と言わんばかりの言い方。

 

「だって僕から言ったらかっちゃん

どうせ『気を使うんじゃねぇ!』

とか言い出すに決まってるもん。

けどまさかそんなにかっちゃんが

気にしてたとは思わなかったけども」

 

俺は呆然と立ち尽くしていた。

そこまで計算ずくだったなんて

思いもしなかった。

 

「かっちゃんの扱いは

慣れてるからね!」

 

(あんなに気にしてたのに・・・)

 

真相が分かった途端

怒りが湧いてきた。

 

「デクてめぇ!

何が扱い慣れてるだ!

俺は猛獣か何かか!」

 

「え、違うの?」

 

「違ぇわアホ!

・・・はぁ

あんなに悩んでたのが

馬鹿らしぃわ」

 

ため息混じりで呟いた。

 

「それにしても元気なって良かった!

あんなうじうじしたかっちゃん、

痛くて見てられないし」

 

プチっ!

何かが切れる音がしたが

気のせいだろう。

何せデクは俺のことを思って・・・

 

「それにしてもかっちゃんにも

そんな一面があるだなんて

すっかり忘れてたよ!

最後に見たのなんて随分と

昔だからね!レアだよレア!」

 

プチンっ!

 

「・・・おいデク」

 

「な、なぁにかっちゃん」

 

デクはしまったという顔をしているが

もう遅い。

 

「1発殴らせてくれよ

筋トレしたんだろ?」

 

「そ、それとこれとは

関係ないんじゃないかな?!

そ、それにそんな為にかっちゃんも

鍛えた訳じゃないでしょ?」

 

と言いながらも

重心を落としていつでも

逃げられる準備をしている。

 

「ああ確かにな?

だが今回は特別だ!

待てデク!逃げんな!」

 

「逃げるに決まってるでしょ?!」

 

逃げるデクを追いかけ

海浜公園に向かう。

 

心なしか体が軽く感じた。

 

————————————————-

 

「で、ここまで来たと」

 

珍しくオールマイトが凄んでいる。

 

「「ごめんなさい・・・」」

 

俺とデクは

正座させられていた。

 

「確かにね爆豪少年。

私は緑谷少年と仲直りしてこいとは

言ったよ?でも鬼ごっこして

来いとは言ってないよね?」

 

「いやそれはデクが「Shut Up!!」」

 

そしてゲンコツを喰らった。

トゥルーフォームとはいえ大人の

マジゲンコツ、痛くないはずがなく・・・

 

「いってぇ!」

 

「いい薬だと思いな爆豪少年!

君はふざけてる暇はないんだからね!」

 

次にデクの方を向いたオールマイト

 

「緑谷少年・・・

君は止められる立場だったんじゃ

ないのかい?」

 

「・・・はい」

 

憧れのオールマイトに怒られて

しょんぼりしているデク。

 

「緑谷少年にあげる約束だった

シルバーエイジの私のフィギュア(限定)

の話は無しだ!」

 

「そ、そんなぁ!」

 

デクにはゲンコツより

こっちの方がダメージが大きい。

半年程の付き合いだがオールマイトには

分かっていた。

 

「ともかく!

二人とも休日の朝に住宅街で

叫びながら疾走なんて

ヒーローを目指す者がする事じゃ

ないだろう!」

 

「「・・・」」

 

言ってる事が尤もすぎて

返事が出来なかった。

 

「次回は無いからね!」

 

「「はい・・・」」

 

「はぁ全く・・・

子供は元気が一番だけれども!」

 

フンっ!と

マッスルフォームになるオールマイト。

 

「話が脱線し過ぎたよ。

とりあえず・・・

改めてお疲れ様爆豪少年!

コレでようやく『ワンフォーオール』を

引き継がせる事が出来るね!」

 

「あの・・・オールマイト?」

 

「どうした緑谷少年?」

 

(デクが聞こうとしていることは

おそらく・・・)

 

「『個性』の引き継ぎって

どうやるんですか?」

 

おずおずと聞いてみるデク。

 

「いい質問だね!

この『ワンフォーオール』を引き継ぐ

為にはその継承者のDNAを

取り込む必要がある!つまり!」

 

プチンと髪の毛を抜いたオールマイト。

今言った事と組み合わせると

嫌な予感がする。

 

「食え」

 

「やっぱそうなんのかよぉ!」

「思ってたのと違う・・・!」

 

「別にDNAが取り込めるならなんでも

いいんだけどね!

手っ取り早くする

なら髪の毛になるのさ!」

 

「えぇ・・・」

 

「ほら!受け取りな!」

 

ずいっと髪の毛を差し出すオールマイト。

 

渋々俺はそれを受け取った。

 

「一気にいった方が楽だぜ?」

 

「かっちゃんファイト!」

 

2人から励まし?を貰い

意を決して飲み込んだ。

 

ゴクンッ。

 

「どう・・・?かっちゃん」

 

「・・・あれ?何ともねぇぞ?」

 

体を動かしてみるが

何か変わった様子も無い。

 

「HAHA!

それはまだ使い方を知らないからさ!

いきなり個性を身につけても

直ぐに使える訳じゃ無いからね!

ただ使えるようにはなってるはずさ!」

 

オールマイトは俺の肩に手を置いて

 

「おめでとう爆豪少年。

これで君に『個性』が宿った。」

 

「ホントにおめでとう!

かっちゃん!

一緒に雄英頑張ろうね!」

 

デクが笑顔で言う。

 

「あったり前だ!

あと4ヶ月で使いこなしてやるぜ!」

 

腕に力を込めて強く手を握った。

 

すると、身体から腕にかけて

電流の様な物が流れた。

 

「オールマイト!

これが?!」

 

「ああそうさ!

それこそが君の『個性』となった

ワンフォーオールさ!」

 

力を抜くと電流の様な違和感が消えた。

 

「1度試してみるかい?」

 

そう提案するオールマイト。

 

「良いのかよ?

オールマイトの力をここで使って」

 

「人が見てたらパニックになりますよ!」

 

俺とデクが口々にそう言うが

 

「HAHA!

継承したてでそんなに力は使えないさ。

人も居ないし

海に撃てばダイジョブだって!」

 

あくまで楽観的なオールマイト。

 

俺も口では心配しているが

本心では試してみたい。

 

「オールマイトがそう言うなら・・・」

 

海に向かって立つ。

 

「爆豪少年!

『その個性』を使う時は

ケツの穴グッと引き締めて

心の中で叫べ!『SMASH!』と」

 

「ああ!」

 

オールマイトの言葉を受けて

拳を引いて海に狙いを絞る。

 

・・・これはあとからの話だが、

俺もデクも、オールマイトでさえ、

冷静じゃあなかった。

幾ら半年で修行を終えようが

身体を普段から鍛えていようが

オールマイトの100%の力に

『身体が持つはずないのに』な。

 

拳を真っ直ぐ出しながら

心の中で叫んだ。

 

『SMASH!!』

 

瞬間。

海が割れ地面が見えた。

 

顔の前にある自分の腕が

『ぐしゃぐしゃ』になっている。

 

その状態がどういった痛みを表すのか

分からないうちに俺の

記憶が途切れた。

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回は爆豪の不器用さが顕著になりました。
原作の方でも神野事件の後に
そのような爆豪の考えを溜め込む癖が描かれています。
原作より大分マシにはなっていますがそれでもって感じですね。
さて最後に力を制御出来ずに(当たり前ですが)
気絶してしまいました。
次回はそこからのスタートです。
次回もよろしくお願いします!

追伸
作中、髪の毛を食べて直ぐに
個性が発現していますが
これは原作でオールマイトが
「2、3時間後に『実感』が
湧く」と言っていて発現自体は直ぐだと筆者が
考えているからです。


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試験までの過ごし方

今回は一気に受験手前まで!
それでは本編どうぞ!


目が開くと、覚えがない

真っ白な天井が飛び込んできた。

 

「こ、ここは?」

 

朦朧とする頭を振って

体を起こそうとする。

 

しかし、上手く体が動かない。

 

唯一動く頭で辺りを見渡す。

窓の外に見える闇が今の

時間を告げる。

 

徐々に覚醒してきた意識。

 

(そっか・・・俺はあの後・・・)

 

おそらく自分は病院に運び込まれたのだろう。

 

枕の近くにナースコールを見つけ押す。

 

直ぐに看護師さんがやって来た。

 

「起きたみたいですね。

右腕に違和感無いですか?」

 

「右腕?っ!」

 

言われてみれば右腕の怪我で

ここに来たであろうのにも関わらず

右腕にはギブスさえつけられていなかった。

 

「・・・無いです」

 

疑問はあったがありのままに答えた。

 

「そうですか!よかったです!」

 

俺の言葉を受けて看護師は

紙にペンを走らせる。

 

俺は看護師に尋ねた。

 

「ここは?」

 

看護師さんはペンを置いた。

 

「ここは市内の病院です。

恐らく混乱していらっしゃると

思いますが今日はもう遅いから

お休みになってください、って

もう今は日付越えてますけどね」

 

フフッと笑う看護師さん。

それから書類を脇に抱え立ち上がった。

 

「何かあったらナースコールを

押してください。

それじゃあお休みなさい」

 

そう言って扉を閉じる。

 

(お休みって言われても・・・)

 

近くの台に置いてあった携帯を見ると

時刻は午前2時と示していた。

 

(あん時が8時位だったから、

大体16時間も寝てたわけか・・・)

 

道理で眠く無い訳である。

 

「それにしても・・・

違和感無く治るもんなんだな」

 

手を開いたり閉じたりして

動かして見るが何か変わった様子も無い。

 

『力を込めて』動かすのは流石にやめといた。

 

(とはいえ・・・暇だな)

 

眠たくないとはいえ午前2時、

誰かに連絡出来る時間でも無いし。

 

(寝るしかねぇか・・・)

 

暇を潰す物が有るでも無し。

布団に戻るしか無かった。

 

デクとオールマイト、そして親に

『起きた』とだけメッセージを

送ってから眠りについた。

 

——————————————————-

 

朝、いつも通り5時に目が覚める。

 

もう習慣なので目覚まし時計が

無くとも目が覚めるのである。

 

そしてそのままいつも通り柔軟体操。

そのままの流れで日課のランニングしに

外に出ようとした。

 

そこでめんどくさいことが起きた。

 

看護師が俺を止めようとしやがる。

大丈夫だ!って言ってんのに聞きやがらねぇ。

自分の具合は自分で分かるってのに。

 

看護師3人を引きづったまま元気さを

アピールしていた時。

 

スパァン!

 

頭に衝撃を受けた。

 

「痛ってえ!何すんだ!」

 

「あんたこそ何やってんの!

怪我したんなら大人しくしときな!」

 

声を受けた。

聞き間違えるはずもなく

母の声だとわかった。

 

「・・・親父は仕事か?」

 

「ああ、どうしても外せない会議が

あるらしいからね。晩に来るってさ。」

 

「そっか」

 

(おかしい・・・怒ってない)

 

それこそ親子でないと分からない

口調に込められた感情。

 

勿論爆豪親子もそれがある。

間違えず察する自信もある。

 

にも関わらず母の口調から

『喜び』の感情が聞きとれた。

 

(分っかんねぇ、何でた?)

 

疑問もそのはず。

爆豪勝己の母、光己は怪我をすることに

めっぽう厳しかった。

 

その理由は言うまでもなく、

我が子を心配するが故であるが。

 

じゃあ何故今回だけ例外なのか?

 

(直接聞く事でもねぇが・・・気になる。)

 

「爆豪さん?

とりあえず部屋に戻りましょう。

ご飯もまだですし、お母さんもご一緒に」

 

思考は看護師さんの声に

よって引き戻された。

 

「ありがとうございます!

面会時間外なのに申し訳ありません。」

 

お袋が余所行きの声で謝った。

 

(さっき叫んでたろうが・・・)

 

そこを指摘出来るだけの勇気は

無かった。

2発目の平手を喰らうのはごめんだった。

 

———————————————————-

 

「では7時になりましたら担当医が

詳細の説明に参ります。

その後食事を配膳ということで

よろしくお願いします。」

 

看護師は説明をして部屋を出た。

 

部屋には俺とお袋が残った。

 

「これ、プリンとゼリー

朝ごはんの後にでも食べな」

 

バックから取り出しながら話すお袋。

 

「お、おう」

 

先も変わらず『いつも通り』。

(いや、寧ろさっきよりも・・・)

 

持ってきてくれた着替えを整理している

母の背中を見て思う。

 

「ねえ勝己」

 

「どした?」

 

作業の手を止めて話しかけてきた。

 

振り返り俺と目が合う。

その目は優しい目をしていた。

 

そしていきなり目が潤んだと思うと

俺に抱きついてきた。

 

「おめでとう」

 

「えっ?」

 

「えっ、て何よ!

あんた『個性』が出たんでしょ!」

 

爆豪の言葉にハッ!とさせられた。

 

爆豪からしたらこの『個性』は突発的な

ものではなく、オールマイトから見初められて

そこから自分の力で得たもの。

 

つまり『個性』を得た事に対して

驚きの感情は無かった。

 

『個性』が出た事は隠そうとしていた

わけではないが、何しろ引き継いだ

その日は報告する事は出来なかった。

 

故に母からしたら・・・

 

(なるほどな、

お袋が知るわけねぇもんな)

 

朝から感じていた違和感の正体

に気づいた。

 

そして母の体を抱き締め返した。

少し経ってから手を緩める。

 

「母さん思うんだけどさ」

 

離れたお袋が俺を見て言う。

 

「勝己に『個性』が発現したこと・・・

100人に聞いても100人が奇跡って

言うんだろうけど、私は違うと思う。

あんたが折れずにがんばったから、

だからこそだと思うよ。」

 

母から紡がれる思いの丈。

 

「やっぱり神様ってヤツは

諦めないとこにやってくるもんよ」

 

「お袋普段、神なんて信じてねぇだろうが」

 

「そうだっけ?

じゃあ今日から信じるわ」

 

歯を見せて笑いながら話すお袋。

 

(『神様』か・・・案外的を得てるかもな)

 

実際、日本の平和の守護神である

オールマイトに会い、認められたからこそ

今こうやって笑い合うことが出来るのだから。

 

(ごめんね・・・勝己・・・ごめんね・・・!)

 

自分に『個性』が無いと分かったあの時を

笑って話せる様に『強く』なろう。

 

それこそが恵まれた事への恩返し。

 

「お袋、俺『強い』ヒーローになるよ」

 

「強いヒーローか、

まああんたらしいっちゃらしいかな」

 

「らしいってなんだよ!

俺が力こそヒーローって

言ってる様に聞こえるじゃねぇか!」

 

「今そうやって言ったじゃないの!」

 

「っち!」

 

「あ!また舌打ちした!

あんたいっつも止めろって言ってるでしょ!」

 

スパァン!

 

「痛ってぇ!何すんだババァ!」

 

ギャーギャー!

 

この息子にしてこの母あり。

 

さっきから部屋に来ていた看護師は

親子のいきなりの豹変ぶりに入って

いけないかった。

 

「さっきまでいい話してたのに・・・」

 

いつもは父・勝や緑谷といったストッパーが

いるのだか、看護師達には間に入る事は

荷が重かったようである。

 

——————————————————-

 

「という事でね、

別に今からでも動かして構わないよ。

まあ明日には退院しても良いでしょう」

 

「ありがとうございます」

 

担当医から大まかな説明を受けた。

 

「とはいえいきなり激しい運動は

くれぐれも!控えて下さいね?

ただでさえ自傷してしまう程強力な『個性』に

目覚めたのだからね。」

 

「・・・」

 

「返事は?」

 

「・・・はい」

 

「よろしい」

 

朝の一件があったからか

念入りに釘を刺された。

 

「まああの怪我で直ぐに動けるのは

近くにオールマイトが居て

運んできてくれたのと、ここに丁度

リカバリーガールがいらっしゃったことだね。」

 

ホントラッキーだったね!と笑い合う

医師と看護師とお袋。

 

実際はオールマイトがリカバリーガールに

連絡をとってから運んできたのだという事は

デクからのメッセージで知っていた。

 

ラッキーでも何でもないのである。

 

(とはいえ・・・毎回怪我する訳にもいかねぇ。)

 

テレフォンパンチ1発で気絶してしまう

様なレベルではヒーローどころか雄英すら

入れない。

 

次にオールマイトに会えた時に相談してみっか。

 

幸いあと4ヶ月もある。

俺にはオールマイトもジジイもデクもいる。

 

こんなにも周りには助けてくれる人が

居て、不安なんて物は無かった。

 

午前はほぼ検査で時間が潰れた。

まどろっこしいが文句は言えねぇ。

 

午後からは親父とデクが来た。

 

親父が心配そうな顔をしていたので

腕立て伏せをして元気をアピールしたら

デクとお袋にキレられた。

 

・・・お袋はともかく何でデクまで?

と思ったが口に出すのは止めといた。

 

とか色々していたらその日も潰れ、

次の日には退院出来た。

 

退院する時も、医者と看護師に

釘を刺された。

 

・・・もう二度と入院しねぇ。

——————————————————

 

退院してからはいつも通りの

生活に戻った。

 

・・・トレーニングも大人しく控えている。

 

激しいのはな!

ランニングは激しいに入んねぇンだよ!

 

その旨をデクに伝えると、

 

「ホント、かっちゃんって

修行の虫ダヨネ」

 

俺からしたらデクの方が間違いなく

修行バカな気がするんだが。

 

オールマイト曰くどっちもどっちだとさ。

 

・・・適当に答えてんじゃねえだろうな?

———————————————-

 

〜オールマイトの事務所〜

 

「マジでゴメン!!」

 

今、俺の眼前には大の大人が

土下座している。

 

「顔上げてくれよオールマイト。

別にアンタの責任じゃねぇって。

あん時は俺も舞い上がってたからさ」

 

オールマイトにそう声を掛ける。

 

コレで大人の土下座を見るのは

2回目になる。

 

あまりいい気分では無い。

 

「爆豪少年・・・!」

 

オールマイトは目をうるうるさせている。

 

「その目を止めろその目を!

気持ちわりぃんだよ!

それより大事な事があんだよ!」

 

「そうだね・・・本題に入ろう」

 

服に付いたホコリを払いながら

立ち上がった。

 

「さて爆豪少年、雄英高校の

入学試験日まで何日かな?」

 

「馬鹿にすんなオールマイト

あと135日だ。」

 

「そう、あと約4ヶ月だな。

つまり!あと4ヶ月である程度『個性』を

物にしなければならない!」

 

「まあそうだな」

 

「しかし!この『個性』ワンフォーオールは

筋肉量が物を言う。」

 

マッスルフォームになるオールマイト。

 

「筋肉というものは身体が成長するにつれて

詰め込める筋肉量も増えてくる。」

 

「つまり・・・使いこなすのは厳しいと

いうことですか?」

 

デクがおずおずといった感じで尋ねる。

 

「正解だ緑谷少年!

よってこれからの4ヶ月、

爆豪少年には少ない出力で精密な動きが

出来る様になって貰いたいのさ!」

 

血を吐きながらトゥルーフォームに戻り

言い放つ。

 

「それで・・・だ。

まさか爆豪少年、もう『4ヶ月』なんて

思ってないよね?」

 

ニヤリと笑うオールマイト。

 

「はっ!こちとらどんなけ不利な状態で

闘ってきたと思ってんだよ!

4ヶ月で十分だよ!

『強い個性』で温く生きてきたエリートども

なんかぶっ殺してやるぜ!」

 

「えぇ・・・」

 

(発破をかけたつもりだったんだけど・・・)

 

「オールマイト。

かっちゃんをヤル気にさせるなら

それは駄目ですよ。」

 

緑谷がオールマイトに声を掛けている。

 

オールマイトも大分扱いが上手くなったが

緑谷の様に微調整は無理な様である。

 

「かっちゃん!」

 

「なんだァ?」

 

「『僕が1位で入試を突破するから』

かっちゃんも2位でウチの中学から

ワンツーフィニッシュ頑張ろうね!」

 

「・・・あ?!」

 

(まじかい緑谷少年!

特大の爆弾発言を!)

 

爆豪の方をチラリと見ると…

青筋が浮かびまくっていた。

 

「デクてめぇ俺が「今のままならね」」

 

もう飛び出しかけている爆豪を

言葉で止める。

 

「違うでしょ?

かっちゃんなら越えてくるでしょ?

今の自分ぐらい簡単に」

 

クスッと笑う緑谷。

 

「ったりめぇだろうが!

オールマイト!サッサと

『個性』の練習始めんぞ!」

 

踵を返してトレーニングルームに

歩いていった。

 

「あ、ああ」

 

オールマイトにはやり過ぎに思えたのだが

爆豪はまんまと乗せられたようである。

 

「ね?」

 

オールマイトはウインクする

緑谷が少しだけ恐ろしく見えた。

 

「さ、オールマイト!

気を抜いたら負けるのはホントですから。

僕も負けたくないですし!

今日もよろしくお願いします!」

 

緑谷少年も爆豪少年に付いて

走っていった。

 

「はぁ・・・爆豪少年に関しては

敵わないな全く・・・」

 

苦笑を漏らし、

どっちが先に見てもらうか

揉めている2人を追いかけた。

 

—————————————————-

 

4ヶ月という時間は想像よりも

早く流れる。

 

それこそ受験ならば尚更。

 

「筆箱は?受験票もちゃんと入れた?」

 

「しつこいって!何回も確認したわ!」

 

「まあまあ、母さんも心配してるんだよ」

 

今日は国立・雄英高校の入学試験日。

 

「勝己!いってらっしゃい!」

 

「・・・いってくるわ!」

 

倍率300倍を誇る日本随一のヒーロー学校。

今日両親に見送られ、受験に向かう人達は

不安で心がいっぱいだろう。

 

だが爆豪勝己の目には不安の

色は見えなかった。

 

背負ってる物が違うから?

自分に自信があるから?

 

理由は知る由もないが恐らく

違うであろう。

 

「かっちゃんおはよう!」

 

「おう」

 

その理由は・・・恐らく・・・




読んで頂きありがとうございます!
この終わり方はわざとです、はい。
まあ皆さんには続く言葉は分かって
頂けると思っておりますので。

また今話やこれまでで何度も、
爆豪の『恵まれている描写』と
親子間、特に母親との話を繰り返しています。

そこにはこだわりを入れていますが
ここで語るには長くなるので、もし
詳しく知りたいという方がいらっしゃったら
感想で質問して下さい。
できる限りお答えします!



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試験当日

また少し期間が空いてしまい申し訳無いです!

今回は1話以来の8000文字越えになります。

それでは本編どうぞ!


窓の縁に肘をかけ、

電車の窓の外で流れる景色を眺める。

 

耳にはめられたイヤホンからは

英会話が流れている。

 

今更何をした所で学力が大幅に変わるもの

でも無し、特に勉強しようとは思わなかった。

 

しかし・・・

 

隣に座っている緑髪の少年をチラリと見る。

 

「この公式は・・・」

 

ブツブツと呟きながらノートを見ている。

 

その光景は見慣れない者からすれば

不審者ギリギリである。

 

だが、時折通る駅員も声を掛けないのは

デクが制服を着ている事と、

『この電車は雄英高校に向かっている』から

である事が大きい。

 

周りを見渡すとコイツ程に無いにしても、

熱心に単語帳などを読み込んでいる

制服の人達もかなり多い。

 

(かといって・・・

今この状態のデクと知り合いに

思われんのはゴメンだな・・・)

 

独りごちにため息を漏らす。

 

[次は雄英高校前〜次は雄英高校前〜

お出口は左側です。]

 

アナウンスと共に電車がスピードを緩める。

 

(仕方ねぇ・・・)

 

俺はデクの頭をはたく。

 

「アダッ!」

 

「もう着くぞ、人も多いんだから

サッサとノートしまえ」

 

デクの返答を聞かずに席を立つ。

 

「ちょ、ちょっと待ってかっちゃん」

 

カバンをガチャガチャさせながら隣に立つ。

 

「人・・・多いね」

 

「まあ天下の雄英様だからな」

 

デクの声に冗談交じりに返す。

 

「ははっ、そうだね」

 

そう軽く笑い返しながら視線をドアに向ける。

 

電車は駅に着いて少し時間を置いてから

プシュっと音を立てて扉が開く。

 

流れ込んできた冷たい空気が、

電車の中の人による『熱気』を解した。

 

開いたドアから人が流れ出す。

 

「いくぞ」

 

「うん」

 

——————————————————-

 

「ここが雄英か」

 

軽く見渡すと、

 

高層ビルと見紛う程に大きな校舎。

 

綺麗に整備された道の端には雄英高校出身の

歴代ヒーロー達の銅像が並べられている。

 

「ほら行くよかっちゃん」

 

デクはスタスタ歩いていく。

 

「意外だな?オールマイトの母校だとか

なんとかで騒ぐと思ってたのに」

 

俺は疑問を口に出した。

 

「いやぁ僕も写真とかも撮りたいよ?

けどそんなの他の受験者の邪魔に

なっちゃうしね、それに・・・」

 

立ち止まって拳を握るデク。

 

「『4月から何回でも見れるしね』」

 

俺に歯を見せて笑うデク。

 

(っとにコイツは・・・!)

 

タダでさえヘドロ事件でデクに注目が

集まっているのに、この発言。

 

普段、デクは周りに牽制したり

我に乗った発言をする奴じゃない。

 

にも関わらず口に出したのは

それが事実と言わんばかりの自信に

他ならない。

 

その自信は間違いなくこの中で自分が

1番努力したからであるという自信。

 

(周りの視線を受けてもその自信は、ん?)

 

なるほどな・・・。

 

「おいデク、そりゃいいんだが・・・

周り見てみろ」

 

「え、周り?」

 

デクは俺の言葉を受けて辺りを見渡す。

 

そこには殺気にも似たような視線で

睨んでくる他の受験者達。

 

デクはそれに気づき青くなっている。

 

「デクやるなぁ!

試験前に勝利宣言なんてよ!」

 

俺はわざと大声を出しながら

背中をバンバンと叩く。

 

「ちち、違うんだよ!

み、皆さん誤解です!決して

そんな感じで言ったわけじゃあ!」

 

ワタワタしながら歩くデク。

 

ガッ!

 

「「あ」」

 

不注意から足を引っ掛けて

前に倒れ・・・なかった。

 

デクはフワフワと宙に浮いていた。

 

その隣には短髪の丸顔女。

 

(・・・なるほどこいつの『個性』か)

 

デクはお陰でコケること無く地面に立った。

 

「あ、ありがと「ウチが!」へ?」

 

デクのお礼の言葉を叫んで止める。

そして丸顔はデクを睨んで言い放つ。

 

「アナタを助けたのは『私がヒーロー志望だから』

・・・気に入らへんからって助けへんわけにいかんし」

 

「あ、あの」

 

デクの制止も聞かずに玄関の方に踵を返す。

 

「・・・ウチ、絶対負けへんし」

 

そう言い放ちさっさと歩いていってしまった。

 

「・・・へぇ」

 

(重さに作用する強力な『個性』に

あの負けん気の強さ、意識してて損ねぇな)

 

「ご、誤解です。違うんです・・・」

 

orz状態のデク。

 

「俺らもさっさと行くぞ。」

 

俺はデクの言葉を待たずに歩き出した。

 

——————————————————-

 

「今日は俺のライヴにようこそー!!

エヴィバディセイヘイ!!!」

 

シーン・・・

 

「こいつぁシヴィー!!受験生のリスナー!

実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!

アーユーレディ?!」

 

『YEAHHH!!!』

 

シーン・・・

 

プロヒーローであり雄英高校の教師でもある

プレゼント・マイクの的はずれなテンションを

受け流しながら、デクを見た。

 

そしたら案の定口を抑え目を輝かせていた。

 

これ以上目立つのは嫌だったんだろうが

普通だったら今のも返してただろうな。

 

「入試要項通り!リスナーにはこの後!

10分間の『模擬市街地演習』を

行って貰うぜ!!持ち込みは自由!

プレゼン後は各自指定の演習会場へ

向かってくれよな!!!」

 

「やっぱ同校同士で協力させねぇって事か」

 

デクの会場はA、俺はEだった。

 

「そだね」

 

「演習場には仮想敵を、

3種・多数配置しておりそれぞれの

攻略難易度に応じてポイントを設けてある!

それを各々の『個性』で行動不能にし

ポイントを稼ぐのが君達の目的だ!

勿論アンチヒーローな行為はご法度だぜ?!」

 

「質問よろしいでしょうか?!」

 

いかにも真面目で固めたような奴が挙手した。

 

俺はそれを聞き流しながら机の下で

関節を解す。

 

この公の場で、あるまじき失態とか何とか

叫んでいる。

 

(何してぇんだコイツ)

 

「それに・・・そこの縮れ毛の君!」

 

声の方向がいきなりこちらへ向いた。

その視線の先には・・・

 

「へ?!僕?」

 

デクがいた。

 

「あの校門近くでの発言は何だ?!

此処に居る者全てが必死に合格を

勝ち取ろうと思っているんだ。

それを嘲るように周りを牽制して・・・!

『物見遊山』のつもりなら帰りたまえ!」

 

「なるほど・・・一理ある」

 

「かっちゃん?!」

 

デクが横で騒ぐが、言ってることに殆ど

間違いはねぇ。

 

だが・・・『物見遊山のつもり』?

 

(足元すくわれるぜ?コイツを舐めてっと)

 

確かに先の発言には殆ど間違いなかった。

 

間違いは2つ。

 

1つはコイツが周りを牽制出来るような

メンタルをしていないこと。

 

2つ目は校門前の発言に『間違いがない』こと。

此処に居る・・・全受験生の中で、

『誰よりも歩いてきた道が汗水血反吐で

汚れている奴は居ねぇ』ンだよ。

 

それをわざわざ忠告してやる程

俺はお人好しではなかった。

 

そのあとのギミックについての発言は

聞き流した。

 

「・・・ます。失礼致しました!」

 

どうやら質疑応答が終わったらしい。

 

「俺から以上だ!!最後にリスナーへ

我が校の『校訓』をプレゼントしよう

 

かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!

『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!

 

『Plus ultra!!!』

 

それでは皆良い受難を!!」

 

俺はその言葉を受けて、鼻で笑った。

 

———————————————————-

 

俺は会場に着いて辺りを見渡した。

 

(広いな・・・10分間でこの規模か)

 

まるで街、そう言っても間違いない程の規模。

そんな会場を幾つも用意出来るあたり、

雄英高校の力のでかさを確認できる。

 

軽くストレッチしつつ他の受験者を見る。

 

(どいつもこいつも自分の『個性』に

自信ありって顔してんなぁ?!)

 

頭に血が上るのに気づいて頭を振り思考を正す。

 

(それよりも・・・)

 

注意するべき奴に当たりを付けておく為に

改めて辺りを見渡した。

 

(朝の丸顔女に勘違いメガネ・・・

他にもちょいちょい居んな)

 

女の『個性』も恐らく想像通りだし

メガネの『個性』はふくらはぎから飛び出す

マフラーから脚スピード系だと思う。

 

コイツら言うだけあって集中した顔してやがる。

 

(俺もそろそろ準備しねぇとな・・・)

 

去年の誕生日に買って貰った

高性能サウナスーツを脱いで下の

タンクトップとスポーツパンツ姿になる。

 

ザワザワ・・・

 

途端、周りがざわつき始めた。

メガネも丸顔も俺の方を見ている。

 

驚きの目で。

 

俺は理由も分からなかったので

ストレッチを続けた。

 

------------------

 

「何だよあの筋肉・・・!」「そういう『個性』か?」

「いやドーピングだろ?!」「いやあれは・・・」

 

周りが彼の肉体の理由についてくだらない

論議をしている。

 

普段なら注意していただろうが今回ばかりは

そうもいかなかった。

 

自身も体を鍛えている身からして

あの肉体は積み重ねられた努力の賜物だと

一目で分かった。

 

だからこそ注目してしまったのだ。

 

(クソッ・・・)

 

試験をすぐ前にして集中していない

自分に腹が立った。

 

にも関わらず彼は注目を一身に浴びながら

我関せずと入念に準備をしている。

 

(恐らく彼は合格するのだろうな。

あれだけの鍛錬を重ねてきたのならば

勉学もハイレベルなものだろう・・・

もし僕が合格出来たなら、話かけてみよう)

 

そう思った。

 

--------------------

 

(すっごいムキムキやん・・・)

 

シンプルにそう思った。

と、同時に疑問に思った。

 

(朝のあれは何やったんやろ?)

 

朝、緑髪の地味目の子が漏らした言葉の

内容自体は見過ごせなかったが、

声は大きくなかったので偶然近くにいた人達にしか

聞こえていなかった。

しかし、彼が騒ぎを大きくして結果として

緑髪の子ばかりに注目が集まった。

 

だから私は彼も同類なのだと、あの発言を

面白おかしく扱う様な人なんだと思っていた。

 

私が睨んだ時にニヤついた顔で返されたし。

 

(けど・・・)

 

彼の姿を見てどちらが本当の彼なのか

分からなかった。

 

「アカンアカン!集中せんと!」

 

顔を両手で叩いて気合いを入れ直す。

 

(確認を取るのは終わってからでいい。)

 

そう思って彼から視線を外した。

 

---------------------

 

ストレッチも終わり、会場の方に

向き直る。

 

(天下の雄英のことだ、どっかで仕掛けて

くるだろうしそれは受験者のヒーローとしての

素質を問うものだろうな)

 

『ハイスタート〜』

 

「ほらな!」

 

言葉を聞いた瞬間駆け出す。

駆け出した先には数体のロボット。

 

(2Pが1体に1Pが3体!)

 

ロボットに向かって走りつつ思い出す。

あの地獄の4ヶ月を。

 

「使わせて貰うぜ!」

 

丹田から体全体にかけて流し込むように

『力』を込める。

 

体の表面に黄色のプラズマのような

物が流れる。

 

「いくぞぉ!」

 

『標的発見!ブッコロス!』

 

「大層なこと抜かしやがるロボットだな!」

 

脚に大きく『力』を分担し、一気にロボットの

懐に潜り込む。

 

『標的ロスト!標的ロスト!

標的ロs・・・「うるせえ!」』

 

警戒音を鳴らし機械らしからぬ感情的な

声で叫ぶポンコツの胴体に蹴り込む。

 

すると案外簡単に壊れた。

 

(ンだよ・・・遠距離武器もねぇし何より)

 

「認識がついて来れてねェな!」

 

もう一度『力』を体全体に等分し

残りの三体も攻撃を繰り出す間もなく破壊する。

 

「これで5ポイント!」

 

後方を確認すると殆どの人はまだこちらにすら

たどり着いていない。

 

その中で大きく後方を引き離し走る

2つの影が見える。

 

さっきの丸顔とメガネだった。

2人と目が合うと笑いながら手招きしておいた。

 

瞬間2人の顔が歪み更にスピードが上がった。

 

(それじゃねえと張り合いがねぇしな!)

 

俺は更なるポイントを求め脚に『力』を割き

走り出した。

 

——————————————————-

 

所変わって雄英教師達が集まるモニター室

ここで各会場の受験者の動向を伺っている、

のだがほぼ全員の教師の目は1つの会場に

向いていた。

 

「オイオイ凄イナ」

 

「くけけ・・・!まだ3分だってのにもう

19体、合計ポイント38だぞ?」

 

E会場の各モニターには黄色い跡を残しながら

物凄いスピードで駆ける姿が映っている。

 

「彼・・・もう確定じゃないですか?」

 

「受験番号6824爆豪勝己・・・見込みありだな」

 

「これでも『個性』が発現したのは中学三年生の

秋頃だったらしいから驚きですね・・・」

 

「彼にはそれだけの才能・・・いや、努力を

積んできてたのだろう。でなければ発現して

すぐの『個性』をあれだけ自信を持って

扱う事はできないだろうな。」

 

皆、口々に爆豪勝己を褒める。

 

「たっだいま〜!」

 

「うるさいのが帰ってきた・・・」

 

「イレイザー今日もキビシィ!」

 

「静かにしろマイク」

 

「だってぇ!皆俺ちゃん抜きで何か

楽しそうに話してたんだもん!」

 

プレゼント・マイクが体をくねらせて言う。

 

「お前が司会進行やりたいって言ったんだろうが・・・」

 

イレイザーヘッドが漏らすように呟く。

あえて普通に返さないのは彼なりの静かに

させ方なのだろう。

 

「てか山田帰ってくるのいつもより遅くない?」

 

「本名止めてミッドナイト先生」

 

ミッドナイトの声に真顔で返す。

 

「ハイハイ、で何で?」

 

「何でって言われると、

受験者の中に気になる子が居たからかなって・・・

引くなイレイザー!そう言う意味じゃない!」

 

声を荒らげ必死に弁明をする。

 

「えっと・・・確か緑谷、出久だったかな?彼」

 

「ああ・・・朝校門近くで騒いでいた奴か。

あんな規律を守れない奴がどうしたんだ?」

 

「あいっ変わらず厳しい言い方するねぇ!」

 

「茶化すな山田」

 

「だからぁ!はぁ・・・もういいや。続けるね?

俺ちんもさ?最初は記念受験かなって思ってたのよ

それがA会場でイチバン早くスタートに反応して!

ものっすごいスピードで消えてっちゃったのよ!」

 

イレイザーヘッドはめずらしく真面目な顔で

叫ぶプレゼント・マイクを見て少し気になった。

 

「13号、受験番号6825緑谷出久のポイントを

調べてくれ」

 

「了解しました!」

 

13号はイレイザーヘッドの言葉を受けて

パソコンに入力していく。

 

「出ました・・・何だこれ?!」

 

「どうした13号?」

 

「・・・見た方が早いです。モニターに出します。」

 

一際大きなモニターにポイントが表示されてる。

 

「行動不能にさせた数15体で・・・

ポイント『45』?!」

 

表示された情報から読み取れる事、

それは倒したロボットの全てが3ポイント。

 

「すごいね彼!どうやってその数の3ポイントを

倒したのかな?」

 

「校長・・・」

 

「3種類のロボットの中で最高のポイント。

勿論ヤワに倒せるように出来ていないし

何より数も少ない。気になるね彼の『個性』!」

 

「一応・・・届けでは『物質吸引』となっています」

 

「へ?そんな名前なの彼の『個性』?

凄かったよ?!空も飛んでたし!」

 

「分かった!とりあえずその話は後にしよう!

ポイント的にほぼ合格は確定だし、入学が

決定してから本人に聞いてみるのさ!

ささ、救助ポイントの採点に戻るよ!」

 

小さな手をぺちぺち叩いて注意を促す。

 

イレイザーヘッドは自席に戻る際

1度も発言していないにも関わらず

笑みを浮かべているオールマイトに

声をかけた。

 

「どうしましたオールマイト?」

 

「・・・いや、優秀な金の卵達を見つけると

どうも嬉しくてね!」

 

「・・・そうですか、失礼します」

 

頭を下げて席に戻った。

 

「ふう・・・」

 

2人の活躍がプロヒーローである雄英高校教師達を

唸らせている。

 

(ホントに自慢の弟子達だよ・・・まったく!)

 

モニターに映る2人の姿を見てそう思った。

 

—————————————————————-

 

「79・・・!」

 

1ポイントロボットの頭をもぎ取る。

 

(もうそろそろ10分か・・・?)

 

時間を正確に図る術を持ち合わせていないので

感覚に頼るしかない。

 

「ラストスパーt?!」

 

途端地響きと共に辺りが陰る。

 

「何だぁ?!」

 

振り返るとビル並にデカいロボットが

そこにはいた。

 

(なるほどな、コイツがギミックか)

 

ほかの受験生は背を向けて逃げ出している。

 

その中に苦い顔で走ってきたメガネと丸顔を

見つけた。

 

「おいお前ら!」

 

すると2人のみ振り返った。

俺は歩いて近づいた。

 

「何してるん?!アンタもはよ逃げんと!」

「そうだぞ!アレは「違うな」」

 

「お前らはあれから本心で逃げたいなんて

思ってねェ。

俺は『お前ら』としか言っていないのに

わざわざ振り返った・・・違うか?」

 

「「っ!」」

 

「ほらな?図星だろ?」

 

俺は笑いながら話しかける。

 

「それはそうやけど・・・」

「最後までやりきらないとポイントが・・・」

 

「その心配は要らねぇ。

メガネのポイントは54で2番目、丸顔は39で4番目だ」

 

((何でポイントを知ってるのかはこの際

聞かないでおこう・・・))

 

「それに・・・恐らくあのデカブツを叩かねぇと

全員やられて終わりだ。

分かり易く言い換えてやるよ。

お前らは自分より強いヴィランから逃げ出す奴が

ヒーローになれるって思うのか?

違うだろ?ヒーローってのは

『命懸けで綺麗事を実践する仕事』だ」

 

これは受け売りだがなと続ける。

 

「はよ決めろじゃねぇと「ウチやる!」」

「僕もだ!

そこまで言われて引き下がれるわけない!」

 

二人とも身を乗り出して叫ぶ。

 

「話がはえぇ!

丸顔!「麗日です!」

『個性』で無重力に出来んのか?」

 

「何でウチの『個性』を・・・?」

 

「見てたからに決まってんだろ?!

早く答えろ!」

 

「出来る!」

 

「よし!」

 

次に俺はメガネの方に向いた。

 

「『個性』有りで走幅跳はどんだけ跳べる?」

 

「・・・14メートル弱だ」

 

「分かった。なら作戦はこうだ」

 

俺は2人の『個性』を考慮して立てた

作戦を伝える。

 

「それ・・・作戦って言えんの?」

 

「うるせぇ!無駄口叩いてる暇ねぇんだよ!

直ぐに行く!準備は?」

 

「いける!」「ああ!」

 

「じゃあ行くぞ!」

 

(まずウチの『個性』で爆豪君の体と

飯田くんの衣服を無重力に!)

 

試験でとっくにキャパを超え、とてつもない不快感が

押し寄せてきているが気合いで抑える。

 

(そして僕がビルへ跳ぶ!)

 

背中に爆豪君を背負ってビル同士の壁を蹴って

上へ上へと昇っていく。

 

(そこから・・・)

 

全力で0ポイントロボットへ跳ぶ。

 

「いっけぇ!」

 

背中の爆豪君を勢い良くロボットへ押し出す。

 

「あとは頼んだ爆豪君!」

 

「上出来だ!丸顔!」

 

「解除!」

 

勢いはそのままロボットへ向かっていく。

 

俺は『力』を全て右腕に込める。

俺は右腕が軋む音を無視しながら

腕を振りかぶる。

 

「死ねェェ!!!」

 

拳を振り抜く。

 

瞬間、ロボットの前面が大きな音を立てて

ひしゃげた。

 

拳の勢いで前へのスピードが相殺されて

俺は真下に落下する。

 

右腕を確認すると見た目に大きな変化は無かった。

 

(けどまあ3割になると骨にダメージくんな・・・)

 

体全体に風を受けながら思う。

 

地面まで目下5メートルになった時、

メガネに抱えられ跳んできた丸顔がみえた。

 

五指が触れることが発動のキーとなるという

その『個性』を発動させるため、肌が出ている・・・

 

「ぶベラッ!」

 

顔に張り手を受けた。

『個性』が発動し、落下が止まる。

 

「良し!」

 

「良しじゃねぇわ!何してくれてんだてめぇ!」

 

俺は丸顔に叫ぶ。

 

「いや、しゃあないやん!

うちも必死やってんで!」

 

「必死にやってる事なんて別に偉くもなんとも

ねえんだよ!」

 

「はぁ?!うちが助けんかったら地面に顔面

ぶつかってたんですけど?!逆に感謝してもらわな

気ぃすまへんわ!」

 

「よしたまえ君達!試験はまだ「しゅーりょー」」

 

狙ったかの様なタイミングで試験の終了が

告げられる。

 

「「・・・」」

 

メガネの顔が赤くなっている。

 

「ンン!・・・ともかく!

今は喜び合う場面だし、何より此処は喧嘩するような

場所じゃあないだろう?!」

 

「せやな・・・!なら」

 

と言い俺に手のひらを向けてきた。

 

「・・・はあ?」

 

「ハイタッチしかないやん!」

 

「はっ・・・ねえわ」

 

アホみたいな提案は一蹴する。

 

2人に背を向けて言う。

 

「またな」

 

俺は2人の言葉を待たず歩き出す。

 

出口付近でリカバリーガールとすれ違った。

 

「腕は大丈夫なのかい?」

 

「知ってんだろ?余裕だわ」

 

右腕を振る。

 

「ホントに頑丈な子だねアンタは」

 

リカバリーガールは肩をすくめて言う。

 

「俺と喋ってる時間あるんだったら他のやつの

怪我を治してやれ。

じゃあ俺は帰るわ、またな」

 

出口の方へ歩き出す。

 

「またな・・・かい。

まああのポイントならそうなるか」

 

出口に消えていく爆豪勝己を見ながら呟いた。

 

————————————————————-

 

〜A会場〜

 

そこには根津校長とパワーローダーがいた。

そしてめのまえには動かなくなった

大量の3ポイントロボット。

 

「どうだいパワーローダー君?」

 

「くけけ・・・!

どうもこうも中身からやられています」

 

「・・・と言うと?」

 

「基盤の殆どイカれてますね。

元の位置から『引き剥がされた』様な・・・

だからこそ外傷は無くても無力化されたんでしょう。

これは直すとなると相当骨が折れますよ」

 

(『引き剥がされた』か・・・)

 

「ありがとうパワーローダー君!

詳細は後日調べようか。お疲れさん。」

 

「くけけ・・・ではお先に失礼します」

 

根津は1人A会場で1人呟いた。

 

「緑谷出久、爆豪勝己、

オールマイトが育てた金の卵・・・か

身に付けた強大な力に呑み込まれなければ

良いんだけどね。」

 

吐き出された言葉は誰かが反応するはずも無く

散っていった。

 

 




読んで頂きありがとうございます!

書きたい事を書いていたらいつの間にか
8000文字を超えていて自分でもびっくりしました。

しかし力不足から終わり方をぶつ切りに
してしまったので、書ききれなかった事は
次回以降に持ち越します。

是非宜しければ、指摘や提案、
感想などよろしくお願いします!

補足

本編で場面転換や第一者視点が変わる際に
線を使っているのですが、
---------- ←これを人が変わる時

—————————— ←これを場面が変わる時
と統一します。


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第一章:体育祭まで
入学までのあれこれ①


前話だけで80近くの人達にお気に入り登録を
して頂きました。
本当に感謝の気持ちでいっぱいです!

それでは本編どうぞ!
少し短いです。


試験後から数日。

日課のデクとのランニングから

帰ってきたら、お袋が玄関にいた。

 

「勝己!届いたよ!」

 

その手には雄英高校の印が押された手紙が

握られていた。

 

「おう、やっと届いたのか」

 

俺は手紙を受け取った。

手触り的に紙と何か丸い物が入っている。

 

「・・・何だこれ?」

 

紙は恐らく合否結果を示すものだとして

残りの物体の正体が分からなかった。

 

「とりあえず結果見るか・・・」

 

「どうする?母さん居ない方がいい?」

 

「いや、どっちでもいいけど」

 

「じゃ、じゃあやめとくね!」

 

(俺よりお袋の方が緊張してんじゃねえか)

 

声の震え具合から察したので、

自室で1人で結果を見ることにした。

 

———————————————————

 

椅子に座り封筒の封を解く。

 

『私が投影された!!』

 

「うおっ?!」

 

物体からオールマイトの大声に驚き

机の上に投げてしまった。

 

『HAHAHA!驚かせてしまったかな?』

 

「・・・」

 

録画されたであろうオールマイトに

見透かされたようで腹が立った。

 

「さっさと本題に入れよな・・・」

 

『さて私、オールマイトが何故現れたのか、

それは私も教員として雄英高校で勤めることに

なったからなんだ』

 

勿論知っている。

だが、一応形式的な感じで話しているのだろう。

 

『早速だが本題に入ろう。

君は合格だ!』

 

「ったりめぇだろうが」

 

オールマイトから告げられた結果に

驚くこともなかった。

 

試験の自己採点も合格ラインを超えていたし

実技試験でもあの会場では恐らく1位だろう。

 

だから、聞きたいことはそれじゃない。

 

「早く話してくれオールマイト。

俺は『総合何位』だった?」

 

俺が聞きたいのはそれだった。

 

『合格となれば当然気になるよね!

総合順位!勿論お伝えするがその前に

説明しなければならない事がある。

それはヴィランポイント以外にも

実技試験に関わるポイントがあったのさ!

その名も救助活動ポイント!

それも採点性!』

 

(・・・『やっぱりな』)

 

俺はそれにも驚きは無かった。

 

当たり前だがオールマイトから聞いていた

訳でもない。

 

これはデクがたてた予想が当たっていたのだ。

 

「はあ・・・これでアイツにジュース奢らねぇと

いけねえじゃねえか」

 

元よりそれは自分で言い出した事だか

いざ実際となると腹が立つ。

 

『君はそのつもりは無かったかもしれないが

あのギミックを倒した事で多くの他受験生を

救ったんだ!

久方ぶりらしいぜ!アレに向かっていって

ぶっ倒したのは!

つまり、それ相応のポイントが与えられる!

ヴィランポイント79、レスキューポイント60で

合計139ポイント!歴代記録更新だ!

やったな爆豪少年!』

 

イヤに持ち上げるオールマイトから

俺はその次に告げられる言葉が予想できた。

と、いうより知っていた。

 

『・・・と言いたいところだが、

今回の受験生の中で君のポイントを唯一超えた

者がいた。その差僅か2ポイント。

その名は・・・』

 

「デクか・・・」『緑谷出久くんだ』

 

口から漏れた言葉とオールマイトの発言が

文字通り被った。

 

『ポイントを数値として漏らす事は出来ないから

こう伝える事にする。

レスキューポイントは一緒だったよ。

つまり・・・

彼もあのギミックを倒したと言うことさ!

HAHAHA!いやあヒーローの未来は明るいね!

なんせアレをぶっ倒した卵が2人も

いるんだから!

 

片や周りの受験生を迅速に纏め、

ギミックに向かって行ける冷静さと実力を持ち、

片や誰よりも真っ先に困難に単身で向かえる

勇気と実力を持つ。

 

胸を張ってくれ爆豪少年!

これで君も雄英高校の一員だ!

春からよろしくね!』

 

プツンと音をたてて映像が消える。

 

俺は目を細めた。

 

・・・ヴィランポイントの差は仕方がない。

機動力もロボット一体を無力化するまでの速さ

アイツの方がある。

それは『個性』の話。

 

だが、レスキューポイントは違う。

 

俺はあのデカブツを倒したこと以外

誰かを助けた場面に覚えがねぇ。

 

つまりあのデカブツを倒したポイントだけで

60ポイント。

 

俺は丸顔とメガネと協力してそのポイントだった。

 

が・・・デクは『たった1人で』

あれを倒したのだ。

 

ポイントは変わらないのにも関わらず。

 

(俺も・・・)

 

俺も1人で出来たかもという甘い思考を浮かべる

頭をふって止める。

 

知っているからだ。

 

『独り』であるのと『独りでない』ことには

計り知れない違いがあること。

そして、その差は

『困難を目の当たり』にしたときに

顕著になることを。

 

ポイントには表れない大きな、差。

 

(分かってた・・・

まだまだ俺とデクは対等ではないって)

 

そうだ・・・何を気にする必要がある。

まだまだ『個性』も十分に使いこなせて

いないというのに。

もうデクに勝てるなんておこがましい。

 

と、思える様な人間だったらどんなに良かったか。

 

手が変色するまで固く握りこまれた拳が

自分の心の内を伝えてくる。

 

(悔しい・・・んだな、俺は)

 

最後に悔しいという感情なんてものを抱いたのは

いつかも思い出せない。

 

自分に『個性』が無いと分かったその時からは

『個性』にかまけた雑魚どもを見返す為に

ただひたすらに歯を食いしばって努力してきた。

 

唯一身近にいたデクも、俺と同じで

舗装されていない道を切り開いて生きてきた。

 

だからこそ、どんどんデクが『個性』を

使いこなせていって自分の届かないステージに

行ってしまっても負の感情は一切浮かんでは

こなかった。

 

しかしオールマイトに認められ、自分にも

『個性』が宿り、今までの努力のかいもあって、

今回の試験でも最高レベルの実力を発揮する

事が出来た・・・出来たからこそ!

 

プルルルルルルルル・・・

 

携帯から着信音が鳴る。

そこに表示された名は・・・

 

「デク・・・」

 

今まさにといったタイミングで連絡が来た。

 

「はいもしも『かっちゃんかっちゃん!』うるせえ!」

 

応答した途端に大声が飛び込んできた。

 

『ご、ごめん』

 

「ちっ、何かようか?」

 

『さっきオールマイトから連絡が来てると

思うんだけど、今日の9時に会えないか?って』

 

「まだ見てねぇ」

 

『そ、そっか』

 

さっきのさっきまで色々と考えを

巡らせていて、電話でもなければ気づく余裕は

無かった。

 

「で、それで?

他にもなんかあんだろ?」

 

『うん、それでね。

かっちゃんも合格したでしょ?

だから時間までウチでお祝いパーティでも

どうかなって、お母さんが。

あ、勿論光己さんと勝さんも都合が合えば

呼んでね。』

 

「・・・まだ合格したなんて言ってねえぞ」

 

『かっちゃんの成績で落とされるなら

それはもう、素行のせいだけどね』

 

クスクスと笑うデク。

 

・・・コイツはテスト当日に自分が何をやらかしたか

もう忘れたらしい。

 

「デクおま『まあ冗談だけど』あ?」

 

『そりゃそうでしょ!

僕で落とされてないんだからかっちゃんが

素行で不合格なんてなる訳ないし。』

 

「・・・確かにな、お前ほどやらかしたやつ

なんて他にいねぇだろうしな」

 

『はぁ・・・そうだよね。

なんて言って謝ろう・・・』

 

大きくため息をつくデクから

その心配が伝わってくる。

 

「まあ、そんなくだらん事はそっちで話すわ」

 

『くだらない事じゃないよ!

これからの学校生活に関わる大問題だよ!』

 

「ハイハイ、まだお袋にも合格伝えてねぇんだ。

切るな。」

 

『分かった、待ってるよ』

 

「おう」

 

通話終了のボタンを押す。

 

(デクに何か言ってやるつもりだったのにな)

 

電話はほとんどアイツからの話だけで終わった。

それが嫌とかではないが、デクと話していると

大体はペースを持っていかれる。

 

「ふう、とりあえず報告してくるか」

 

椅子から立ち上がり扉を開ける。

 

するとそこには、涙で顔がくずれたお袋がいた。

 

「うおっ?!」

 

そのお袋にいきなり抱きつかれる。

 

「聞こえてたよ!

合格おめでとう勝己!

よく頑張ったね!」

 

「お、おう」

 

「何よ!お、おうって!

まるで喜んでるのが母さんだけみたいじゃない!

嬉しくないの?!」

 

「いや、嬉しいけど・・・」

 

勿論、嬉しいのは嬉しいのだ。

ただそれに勝つ事情があっただけで。

 

「じゃあもっとシャキッとしな!ほら!」

 

「痛ってぇ!」

 

抱きつかれたまま背中を叩かれた。

 

「はな・・・」

 

「はな・・・何?」

 

「・・・いや、お袋の言うことも一理あるなって

それだけだ」

 

「でしょ?

よし!今日はパーティだね!」

 

袖を捲りながら階段を降りていくお袋。

 

(ったく切り替えのはええこったな)

 

それが母の良いところでもあり、

自分も見習わなければいけない所である。

 

(さてと・・・)

 

「お袋、さっきデクから連絡があって・・・」

 

そう言いながらお袋を追いかけ、階段を降りる。

 

俺とデクの差を埋める術は雄英高校で

学べばいい、ヒーローとして日本で最も成長出来る

場所に通う権利を勝ち取ったのだから。

 

だから両親の前では素直に喜ぶ態度を見せよう。

 

そう思った。




ここまで読んで頂きありがとうございました!
前書きの通り、とても多くの方々にお気に入り
登録して頂き、新しい方にも受け入れられている
という事は、投稿するにおいて励みになりました。

次話の投稿は早く出来ると思いますので
今度ともよろしくお願いします!

p.s.

感想欄などで、作中のわかりにくい部分などを
ご指摘頂く事で私も成長出来るので
気になる所や分からない所など
どんどん聞いて頂けると幸いです。

そしてもっと良いものを書けるように
頑張ります!


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入学までのあれこれ②

お気に入り登録が鬼の勢いで増えていくのを
ニヤニヤしながら見ていたので
投稿遅れました()
アンケの結果、今回はお話回ということでね。

それでは本編どうぞ!


俺とデクは海浜公園に向かって歩いていた。

 

「疲れた・・・」

 

「だね・・・」

 

ため息を漏らす俺にデクは苦笑で返した。

 

俺とデク、お袋と引子おばさんで行った

俺とデクの合格祝いのパーティ。

 

比較的楽しかったのだが、

 

「もうお袋に酔うまで酒は飲ませねぇわ」

 

「僕も・・・そうするかな」

 

大人2人に酒が入ってからはいけなかった。

 

お袋は俺らの合格とアルコールでテンションが

上がりに上がり、窓から合格の旨を叫ぼうとしたり、

 

引子おばさんは泣き上戸で、泣きながら

デクの話をひたすら繰り返す。

 

それを2人で今まで押さえ込んでいたのだ。

 

「急ぐぞデク、時間がねぇ」

 

腕時計の時間は8時45分を指していた。

 

「そうだね、スピードは?」

 

「全力」

 

「だと思った」

 

俺とデクは海浜公園に向かって走り出した。

 

————————————————————

 

「ふぅ・・・」「着いたっと」

 

夜の海浜公園。

俺がゴミを片付けてからというもの、

デートスポットとして有名になった。

 

が、時間もあり2、3人しか人影は無かった。

 

そして・・・

1人は金髪ガリガリの長身男。

 

「オールマっ!」

 

「おまっ?!デクてめぇ!」

 

「もがっ?!」

 

オールマイトと叫びそうになるデクの

口を手で塞ぐ。

 

チラリと近くの人の確認すると、今の声に

気づいた様子は無かった。

 

「ふぅ、危なかった・・・てめぇ何してんだ!

バレたらどうすんだよ!」

 

デクにゲンコツをかました。

 

「痛っ!ご、ごめん・・・」

 

申し訳なさそうに俯いた。

 

「ははっ、相変わらず仲がいいね君達は」

 

オールマイトが久しぶりと言いながら

近づいてきた。

 

「すいません八木さん・・・」

 

「いやいや大丈夫さ、彼みたいに

叫んでしまったわけじゃな「ぶり返すな!」」

 

俺はオールマイトを睨むが何処吹く風、

全く気にしていない様子である。

 

「ちっ!・・・サッサと用事言えや」

 

「ほんっとに口が悪いな君は!

・・・とりあえず、合格おめでとう二人とも!」

 

オールマイトが手を差し出す。

デクは笑顔で、俺は普通にハイタッチした。

 

「あ、勿論だけど君達との接点は

根津校長とリカバリーガール以外には

言っていないし私も採点はしていないよ、

爆豪少年も緑谷少年も

そういうの気にするだろ?」

 

「お気遣いありがとうございます・・・」

 

デクがペコりと返す。

 

「ま、二人ともぶっちぎりだったから

あんまり関係ないけどね。

2人が他の受験生と違う点は試験開始時の行動と

ギミックが出現した時の行動だ。」

 

俺はその言葉を聞いて顔を顰めた。

 

「2人ともスタートにいち早く反応した。

・・・まあ緑谷少年はまず上に飛んで

会場に配置していた3Pロボットに

飛んで行ったから、

早く・・・発見したになるのかな」

 

「やっぱ3Pロボットか」

 

「それが1番効率が良いと思ったのもあるし、

それが出来る試験内容と『個性』相性だし

自分を追い込む為にもね」

 

「そう、緑谷少年は空を、爆豪少年は地を

無尽に暴れ、ロボットを壊して行った。

二人とも『個性』を上手く使っていたよ」

 

オールマイトはオレ達を褒めた。

 

「上手く・・・って言われてもな、

あんまり嬉しくねえわ」

 

「僕も・・・かな」

 

デクも浮かない表情を浮かべている。

 

「何故か、聞いてもいいかな?

2人とも他を寄せ付けない圧倒的な成績を

残したじゃないか」

 

オールマイトが尋ねる様な声で言う。

それにデクは挙手で応える。

 

「それなら僕から言うよ」

 

「じゃあ緑谷少年から」

 

「僕は・・・スタミナの無さです。

前半こそ広い範囲をカバー出来たのですけど、

後半につれて、疲れと集中力が落ちてきて

ロボットをあまり倒せなかった・・・です。」

 

(デク・・・)

 

デクの思いを聞くにつれて、アイツもアイツで

悩んでいた事に気づいた。

 

「確かに普段よりも『個性』の出力を上げて

移動していたのはモニターからも見て取れたよ。

その分、いつもよりも姿勢制御に気を使うからね。

オマケに緑谷少年のロボットの倒し方にも

集中力の有無が関わっている・・・そうだろ?」

 

「はい、僕は直接ロボットを攻撃するよりも

『中身』を攻撃する方が素早くロボットを制圧

出来ると思ったので。」

 

砂浜に捨てられていたアルミ缶を手に引き寄せる。

 

「つってもロボットの部品にお前の『個性』が

使えるとこなんてことあるか?」

 

「それは私から説明しようか」

 

オールマイトが俺の疑問に答える。

 

「試験に出てきたロボットは本来は警備用で

長期間の活動と複雑な行動が求められる。

その実、中身は繊細でね。

なのでコア部品には腐食に強い金が使われているのさ」

 

「それにデクは気づいたと」

 

俺はデクをまじまじと見る。

 

「まあね。

ただ当たり前だけどかなり外側から

距離もあるし、それ相応の出力と集中力を

割かないといけなかった。

風をぶつけても3Pロボットは衝撃には

強かったからね。」

 

「そういう意味じゃあデクの『個性』も

あの試験に有利ってわけじゃねぇんだな」

 

「そうなるね爆豪少年。

緑谷少年、他にはあるかな」

 

オールマイトの声に

 

「大まかにはそれくらいです。」

 

デクはそう答えた。

 

「では次、爆豪少年だ。

君も『個性』の扱いについて賞賛されることを

良しとしなかったが、何故だい?」

 

オールマイトは俺の方に向き直り続ける

 

「ヴィランポイントも緑谷少年に続いて2位。

レスキューポイントでも、緑谷少年と並んで

トップの60Pだったじゃないか。」

 

「・・・それだよ」

 

「それ、とは?」

 

オールマイトは真面目な顔で尋ねてくる。

俺はそれに答える。

 

「・・・俺が『個性』、というよりデクとの差を

1番感じたのはレスキューポイント、ギミックに

ついてだ。」

 

「かっちゃん・・・」

 

デクが俺を見る。

 

「今俺は『ワンフォーオール』をマックスで

3割程度しか扱えねぇ、しかもそれは一部だけ。

・・・バランス良くってなると10%が関の山だ。

それ以上は身体が持たねぇしな。」

 

俺はオールマイトとデクを見て続ける。

 

「・・・けどあのデカブツをぶち壊すとなると

ピンポイント出力じゃあ届く前にやられるし、

バランス良くなら止められねぇ。

まぁ平たく言やぁ『1人では無理だった』って

こった。デクとは違ってな。」

 

「それは違うよかっちゃん!」

 

デクが身を乗り出して叫ぶ。

 

「うるせぇぞデク」

 

俺はわざとらしく耳を塞いだ。

 

「僕が1人で突っ込んたのは単に考え無しであって

かっちゃんはちゃんと周りと「わあってる」」

 

ビシッとデクに指差す。

 

「何も自分を卑下してるわけじゃねぇ。

リスク、『個性』、周りの状況、他の奴ら、

そういった環境の中で俺とデクはデカブツに

対して違う行動を取った。

お前は考え無しとか言ったが、他の受験生に

アレに向かっていった奴がいたか?」

 

俺はデクに尋ねる。

 

「・・・いなかった」

 

「・・・だろ?だから単身乗り込んだのは

絶対間違いじゃねぇ。

俺んとこにはまだアレから

逃げることを渋る奴らがいたから協力っていう

手段を取ったんだ。」

 

「僕んちで話してたあの人達だね」

 

デクはそう返してきた。

 

「そうだ、それでさっき言った俺の足りない部品を

カバー出来た。

 

だがもしも俺とデクが反対だったら?

俺は恐らく1人では解決出来なかった。

自傷覚悟の出力オーバーの突撃なら何とかなったか

としれねぇが、間違い無く再起不能になるレベルの

怪我を負う。現実ならそのまま別のヴィランに

殺られて終わり。

 

俺がさっき言った『1人では無理だった』ってのは

そういう意味だ。」

 

「・・・」

 

淡々と流れる俺の言葉にデクは何も答えなかった。

そんなデクから腕を組んで無言のままの

オールマイトに視線を移した。

 

「こんなとこだオール、八木さん」

 

オールマイトが口を開いた。

 

「1つ・・・いいかな爆豪少年」

 

「ああ、何だ?」

 

「君は緑谷少年との差の大きさ、について語ったが

それについて君自身どう感じた?」

 

「・・・質問の意味が分かんねぇぞ」

 

俺はオールマイトを睨む。

 

「何も難しいことを聞いている訳じゃないさ。

ただ、緑谷少年との差を確認してどう思ったかを

知りたいだけだ。」

 

「・・・どうもこうもデクなら仕方ないと「本当に?」」

 

オールマイトが言葉を重ねてきた。

 

「かっちゃん・・・手」

 

デクの言葉を受けて視線を自身の手に落とした。

 

そこには昨日見た様な変色するほど

握りこまれた拳。

 

「・・・ちっ」

 

俺は又、手に感情が出ていることに歯噛みし

2人から顔を背けた。

 

「私はね爆豪少年、それを見ていると君が

諦めの感情を抱いているとはとても思えないのさ。

もう一度聞くよ、君はあの時どう思った?」

 

「・・・・・・そりゃ悔し・・・いわ」

 

「なぜ?」

 

俺はバッとオールマイトを見る。

デクも驚いた表情でオールマイトを見ている。

 

「オール・・・マイト?」

 

デクがもう名前を隠さずに尋ねる。

俺もそれを咎める余裕は無かった。

 

「答えるんだ爆豪少年、なぜ悔しく思った?」

 

それでも尋ねてくるオールマイトの表情は

真剣そのものだった。

 

「それは・・・デクとの差を考えて・・・」

 

俺は絞り出した声で答える。

 

「それから?」

 

「・・・それから、その差を縮める為には

どうしたらいいか考えて・・・」

 

「どうやって超える緑谷少年を、

彼も君と同様に成長するのに?」

 

俺はオールマイトから目を背けたかった。

だが鋭い眼光がそうさせてくれない。

 

「もう止めてください!」

 

「・・・デク」

 

デクが俺とオールマイトの間に入った。

 

「これ以上何も『Shut Up!!』」

 

その声ははデクの大声よりも大きく

熱気を帯びていた。

 

「私は爆豪少年と話しているんだ。

口を挟むな緑谷少年。」

 

「・・・はい」

 

そう言ってデクが離れた。

 

「私から言わせてもらうが努力では

君の言うギミックに向かって行けるかの差は

埋まるものじゃあない・・・」

 

「それじゃあ俺はデクに一生追いつけねぇ

って言うのかよ!」

 

俺は叫んだ。

 

「・・・違う、というより元々そこに『差は無い』」

 

「差が・・・無いだって?俺とデクに?!

慰めなんて必要「違うよかっちゃん!!」」

 

予想外であるデクからの叫びに俺は驚いた。

 

「そういう事だったんですね八木さん」

 

デクは真剣な顔でオールマイトに言う。

 

「分かってくれたか緑谷少年。

すまないね叫んでしまって。」

 

「いえ、八木さんは悪くないですって」

 

「おいデク!慰めじゃねぇってどういう事だ!」

 

俺はデクに叫んだ。

それを受けて俺の方に向き直る。

 

「かっちゃんはさ、オールマイトに初めて話した

時のこと覚えてる?」

 

「当たり前だろうが・・・それが一体?」

 

「じゃあ、どうやってかっちゃんは

オールマイトに『認められたの』?」

 

「それは・・・っ?!」

 

デクは微笑んだ。

 

「思い出してくれたね、僕を助けてくれた事」

 

「あの時確かに爆豪少年には『個性』は無かった・・・

しかし、その代わりに持っていたのさ!

『向こう見ずの勇気』ってやつを!

決して褒められた事じゃ無かったが

君は間違いなくヒーローだった!」

 

手をバッと広げるオールマイト。

 

「・・・今の俺にはそれが無いと?」

 

「違うってばかっちゃん!

ホントにかっちゃんは頭が堅いなぁ」

 

「ああ?!どういう意味だ?」

 

「『向こう見ず』が取れてマジモンの

勇気になったって事さ」

 

オールマイトが続ける。

 

「けど君は緑谷少年との『違い』を『差』と

勘違いしたのさ。

自身がギミックに対して冷静に判断出来た勇気を、

緑谷少年の単身で乗り込んだ勇気より下に見た。

君は卑下してないなんて嘘ついたけども。」

 

「・・・」

 

「だがそんな事は私も緑谷少年も思ってないし、

私は2人が逆の立場でも最大限のパフォーマンスが

出来ると思う。方法は違ってもね。」

 

オールマイトは優しい目をして俺を見る。

 

「爆豪少年は『ワンフォーオール』を継いでから

本当に強くなった。

 

しかし、『個性』を身に付けて初めて目の当たりに

した緑谷少年との『個性』による『違い』は

君には『差』に映って見えたことだろう。

 

だが、君は向上心が人一倍強いからね。

君の言う差を埋めようとどんどんと成長していった。

見ていて気持ちが良かったよ。

 

が、『個性』や環境から生まれる『違い』は

努力で埋まるものではない、故に試験の結果に

君は歯噛みした。

どう努力が足りないのか分からなかったから。

そうだろう?」

 

「ああ・・・」

 

オールマイトの問いに答えた。

 

「私は、それで君が自分の良さを見失ったり、

無茶な努力を重ねるのが想像出来たからね。

早めに不安の芽を潰したかったのさ。」

 

少々不器用な方法になってしまったがね、

と苦笑するオールマイト。

 

「なるほど・・・な

俺とデクは『違う』人間だもんな」

 

(よく考えてみりゃ当たり前だが・・・

その当たり前を見失っていたからデクの言う通り、

お堅かったんだな)

 

「私から言える事は今は一つ。

特色を伸ばせ、自分だけのね。

緑谷少年も爆豪少年も、それを日本で

1番助けてくれる高校に通えるのだから」

 

「「はい!!」」

 

俺とデクは大きく返事した。

 

「なら今日は帰りなさい。

もうそろそろ補導開始の時間だ。

なんなら送っていくが?」

 

時計の時間は10時30分過ぎを示していた。

俺はデクを見合わせてから答えた。

 

「走って帰ります」、と。

 

「そうか、なら気をつけてね。

おやすみ、緑谷少年、爆豪少年」

 

「おやすみなさい!」

 

「じゃあな、あ」

 

俺は言うべき事があるのに気づいて

俺はオールマイトに向き直った。

 

「迷惑掛けて、ごめんなさい」

 

「No problem!!

なんたって師匠なんだからね!

緑谷少年もどんどん頼るんだぞ!」

 

俺はオールマイトの言葉を受けて

 

「意味わかんねぇよ」

 

2日ぶりに笑った。

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!

今回は爆豪の意識を変える+オールマイトの
師匠力アップというコンセプトにしました。

コレで爆豪に更なる強化フラグがたったので
乞うご期待!

また前書きの通り、前話も多くの方に読んで
お気に入り登録して頂いて嬉しい限りです!

感想や質問等あれば送って頂ければ
ネタバレにならない程度でできる限り
お答えします!

次回からやっと入学なのでよろしく
お願いします!


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入学日

ヒロアカ23巻明日発売日ですね!

それではどうぞ!



〜春〜

 

「勝己、あんた案外制服似合うじゃない」

 

「案外ってなんだよ!」

 

「学ランの方が似合ってるかもと

思っていたけどブレザーもってことよ」

 

お袋は真面目な顔で言う。

 

「・・・おう、もう出るぞ」

 

「ちょっと待って勝己!」

 

「なんだぁ?!」

 

俺はお袋に振り返った。

 

「行ってらっしゃい!」

 

「・・・行ってくるわ」

 

——————————————————-

 

俺は雄英高校への電車に1人で揺られていた。

まだ時間も早く電車内の客もまばらだった。

 

(ったくデクのやつ、なんで俺おいて

先に行くんだよ・・・)

 

俺は携帯に表示されているデクからの

メッセージを見て思う。

 

そこには『用事があってかなり早く家を出るから

明日の朝は一緒に行けないからよろしく』と。

 

用事は教えて貰えず、

時間を聞くとホームルーム開始1時間前には

学校に着きたいと返ってきた。

 

それを受けて俺も大分早く家を出たのである。

・・・流石に1時間早く出るのは勘弁だったが。

 

腕時計はホームルームの40分ほど前を

指し示している。

 

《次は雄英高校前〜次は雄英高校前》

 

「っと、着いたか」

 

(さっさと学校行ってデクから用事の内容を

吐かせよう)

 

そう思いながら電車のドアを出た。

 

—————————————————-

 

「学校広すぎんだろ・・・」

 

校門から教室までよもや10分もかかるとは

思わなかった。

 

(流石というか、大袈裟というか・・・)

 

改めて雄英高校のスケールのデカさには

驚かされる。

 

「あった・・・ドアもデケェのかよ、

バリアフリーってことか?」

 

俺は扉に手を掛け勢い良く開ける。

 

真っ先に目に飛び込んで来たのは・・・

直角に綺麗にお辞儀する深緑のもさ髪の少年。

 

「試験日の程は申し訳ありませんでしたー!」

 

その姿勢のまま謝る、『恐らく』俺の知り合いの

コイツを見てため息が出た。

 

「何やってんだデク・・・」

 

「か、かっちゃん?!何で?!」

 

心底驚いた様子のデク。

 

「何でって、何がだよ」

 

俺は自席にカバンを置きながら話す。

 

「時間だよ!どうしてこんなに早く?」

 

「お前が早く学校に行く理由を知りたかった・・・

っても今ので分かったけどな。」

 

「そ、そう?どうだった僕の謝罪」

 

おずおずと俺に聞いてきた。

 

「困惑しか感じなかったわタコ、もうちょい

何かあっただろうが・・・」

 

「そ、そんなぁ?!コレよりいい案なんて・・・」

 

ガラッ

 

デクの言葉は扉の開く音に遮られた。

 

俺もデクも扉の方に視線を向ける。

そこには、あん時のメガネがいた。

 

「き、君!合格していたのか?!」

 

メガネは驚いた声で叫ぶ。

 

「ったりめぇだろうが、何寝ぼけたことを」

 

俺の言葉に反応する。

 

「君じゃない!君が合格しているのは

ほぼほぼ分かっていたよ!たが・・・」

 

メガネの視線がデクへ向けられる。

 

「よもや君が合格しているとは・・・

一体どうやって「実力だよ」」

 

俺の言葉にメガネは顔に疑問が浮かぶ。

 

「なぁデク?」

 

「ここで僕に振る?はぁ・・・」

 

デクは嫌そうな様子でメガネに向き直る。

 

「んんっ!緑谷出久です。よろし「違ぇ!」」

 

「今言うべきは入試の成績だろうが!

名前なんて何時でもいいんだよ!」

 

「ぼ・・・俺も是非聞きたいな」

 

「えぇー・・・」

 

メガネも食いついてきたことに

不満の声を上げる。

 

「・・・じゃあ言うよ?」

 

「はよ言えや」

 

必要ない確認を俺に取ってくる。

 

「ヴィランP81ポイント、レスキューP60ポイント

です・・・」

 

「つまり?」

 

俺が間髪入れずに続ける。

 

「つまり・・・実技試験『首席』・・・になるかな」

 

「て事だメガネくん、凄ェだろコイツはよ」

 

俺は言いながら振り返った。

そこには口を開けたまま固まっている

メガネがいた。

 

「おーい」

 

俺は肩を叩きながら言う

 

「はっ!」

どうやら我に返ったらしい。

 

「失礼少し、驚きのあまり・・・

てっきり君がトップかと・・・」

 

「2ポイント差で俺は2位だ。

それよりお互い何か言うことあんじゃねぇの?」

 

メガネの言葉を軽く受け流し、

俺は言い放つ。

 

「そうだねかっちゃん、

とりあえず君の名前は?」

 

「飯田・・・飯田天哉だ」

 

「よろしく飯田くん。それと、

試験日の事は本当にごめんね」

 

「いや・・・謝るのは僕の方だ緑谷くん。

君の事を何も知らないのにも関わらず、

発言一つだけで『物見遊山』等と罵ってしまった。

僕はヒーロー失格だ・・・」

 

「そんな事はないよ!

あれは僕の発言が・・・」

「いや、あれは・・・」

 

俺はデクとメガネのやり取りを

椅子に座りながら見ていた。

 

(良かったなデク誤解が晴れて、

後は丸顔女か・・・)

 

がそんなに心配はしていない。

デクの性格は話していたら直ぐに分かるしな。

 

俺は2人の会話に耳を傾けた。

 

「いやはや爆豪くんには驚かされたよ!

あのギミックに向かって行くことを提案

するのだから!お陰で僕のレスキューPも

高い評価を受けていたからね」

 

「でしょ!かっちゃんは凄いんだよ!

でも少しセンチメンタルなとこがあってね。

そこを指摘するとキレるから要注意「おい」」

 

デクがギギギと音を立てて此方を見る。

 

「な、何かっちゃん?」

 

「誰がセンチメンタルだって?」

 

俺は『笑い』ながらデクに近づく。

 

「ち、違うんだよ!そこもかっちゃんの

チャームポイントだっていうのを!」

 

「死刑確定」

 

俺はデクに拳を振りかぶる。

 

デクはいつも通りノーガードで

拳を受けようとし、メガネも流石に

デクが悪いと思ったのか止めにこない。

 

「歯食いしばっとけよデク」

 

俺がデクの頭にゲンコツを振り下ろされる

その瞬間、何か柔らかいものが俺の拳と

デクの頭に挟まれた。

 

「何だこれ?」

 

よく見るとクッションだった。

 

「入学初日だと言うのに何を

しているのですか?!」

 

声の方を見ると、ポニーテールの

巨乳の女がいた。

 

所謂美人と呼ばれる顔立ちだが、

目は吊り上げられ此方を睨んでいる。

 

俺とメガネの横をすり抜けてゆき、

デクの元へと歩を進め、手を差し伸べる。

 

「大丈夫でしたか?怖かったでしょうに・・・」

 

嫌に優しい笑顔を向ける。

俺はそれに違和感を感じた。

 

「い、いや、ダイジョブだよ。」

 

デクも困惑気味だった。

 

「どうぞお使い下さいな」

 

女はそう言うと、手からハンカチが飛び出した。

 

「ありがとう・・・僕は緑谷出久、

ねぇそれって君の『個性』?」

 

「八百万百ですわ。

そうこれは私の『個性』で創り出しましたの。」

 

「創り出すって事は、どんな物でも出せるの?」

 

「生物ではなく、

なおかつ構造を知っていれば何でも」

 

『個性』の凄さを尾首にも出さず言う。

 

「す、凄いよ八百万さん!」

 

「そんな事はありませんわ。

私の『個性』も万能ではありませんもの。

誰しもがそれぞれ輝く場所がある。

それを学ぶ為にここに来た・・・筈なのに」

 

視線を俺の方に向ける。

 

「このような出会ったばかりの方に暴力を

振るおうとする野蛮な方々でも入れるとは

残念ですわ。」

 

「ひでぇ言い草」

 

「野蛮な方・・・」

 

メガネはダメージを負ったらしく、

膝から崩れ落ちていた。

 

「なぁあんた」

 

「あんたではありません。

八百万百という名前がありますもの。」

 

「ちっめんどい「何か?」何も?

・・・八百万は推薦入試でここに入ったのか?」

 

「何故そう思われたのですか?」

 

「何となくだな」

 

「理由はともかく、当たりです。

私は推薦入試で合格しました。

それが何か?」

 

気丈の態度を崩さない。

俺はその仮面を外す事にした。

 

「いや、なら知らねぇ事があるから

教えてやろうと思ってな」

 

「それは一体?」

 

「一つ、一般入試の実技試験はロボットを

ぶっ壊すものだった。」

 

俺の言葉に困惑の表情を浮かべる。

 

「それが何か?」

 

「まあ最後まで聞け。

二つ、それにはビルレベルの巨大ロボットが

現れた、0Pのギミックとしてな。

三つ、緑谷出久はそれを単身で無力化した。」

 

「えっ?!本当なのですか?」

 

驚きを孕んだ声で

デクにわざわざ確認をとる。

 

「えっと、まあ、はい」

 

「おいおいマジかよそれ!すげぇ!」

「すげぇんだなお前!」

 

デクが答えた途端、聞いていたのか

教室に生徒達が流れ込んできた。

 

「おっす!おれ切島鋭児郎!

お前みたいな熱いやつと3年間過ごせる

なんて嬉しいぜ!」

「俺は上鳴電気!よろしくな!

お前アレ倒すんなんてえぐすぎんだろ!」

「私は芦戸三奈!よろしく〜!」

「・・・」

「・・・」

 

ワラワラと入ってきた生徒達にデクが囲まれる。

 

俺はそれを横目にまだ驚いた様子の

八百万に話しかける。

 

「ほら見てみろよ。普通は『感嘆』すんだよ。

だが、お前は『驚き』だったなぁ?

ロボットの姿も見てないのに!

何故だ?」

 

「それは・・・」

 

言葉に詰まる。

 

「俺は、デクを手を差し伸べるべき存在、

つまり『格下』に見てたんだと思った。」

 

「そ、そんな『格下』だなんて!

私はそんな事は一度も!」

 

怒りの声で身を乗り出す。

 

「そうか?じゃあいいわそれで。

 

ただ状況確認もせずに間に入って己の

正義感振りかざすのは止めとけ。

 

俺と緑谷出久は幼なじみで、あれは向こうの

ちょっかいに反撃しただけ。

メガネもその場面を見ていたから止めなかった。

 

なんならメガネとデクに確認取れよ。」

 

「必要ありませんわ。

そこまで自信を持って言うなら本当でしょう。」

 

静かに話す。

 

「一つだけよろしいでしょうか?」

 

「ああ、何だ?」

 

「お名前、聞かせて頂いても?」

 

「爆豪勝己だ」

 

「爆豪さん、3年間よろしくお願いしますわ。」

 

そう言って手を出す。

 

(ここまで言われといて握手求めるとか

どんなメンタルしてんだコイツ・・・)

 

仕方なく握手を受ける。

 

「私に人を見下す面は無いことをこれから

示していければと思いますので。」

 

「へぇ楽しみにしとくわ」

 

「それじゃあ私はメガネの彼に謝って

来ますのでそれでは」

 

そう言い放つと踵を返しメガネの方へ

向かっていった。

 

瞬間、身体が浮く。

 

「・・・放せ丸顔」

 

「丸顔って呼ぶな!麗日お茶子やって!」

 

「ハイハイ、下ろせって」

 

丸顔が五指を合わせると体の浮遊感が消え

地面に降りる。

 

「合格出来たんだなお前」

 

「お陰で様で、

それより・・・また女の子に要らんこと

言ったんちゃうの?」

 

丸顔がジトっとした目で見てくる。

 

「ばぁか、向こうから突っかかってきたんだよ。

誤解生むような事すらした事ねぇわ」

 

「どの口が言うんよ・・・

それより、あのモジャ髪の子は?

やっぱり落ちたん?」

 

俺は無言でデクの方を指さす。

 

「居るやん!合格出来たん?!」

 

「出来たも何もアイツは首席だよ」

 

「しゅ、首席ぃ?!ホンマ?!」

 

叫びながら肩を掴んでくる。

 

「うるせぇ、てか離せ」

 

「ご、ごめん」

 

肩から手が離される。

 

「聞きたい事あんなら俺じゃなく直接

デクに聞けよ・・・」

 

「分かった!聞いてk「お友達ごっこしたい

なら他所へ行け」」

 

声の方を向くと寝袋に入ったオッサンがいた。

 

「ここは・・・ヒーロー科だぞ」

 

『なんかいるぅ!!』

 

その人物はのそっと寝袋から体を出した。

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。

時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

「ねぇあの人先生だよね?」

 

丸顔が小声で話しかけてくる。

 

「多分な、てことはプロヒーローなんだろうが

見たことねぇな・・・」

 

視線をくたびれたオッサンに向ける。

 

「担任の相澤消太だよろしくね」

 

『担任?!』

 

「早速だが・・・」

 

寝袋の中から体操服を出す。

 

「コレ着てグラウンドに出ろ」

 

—————————————————-

 

「「個性把握・・・テストォ?!」」

 

「入学式は?ガイダンスは?」

 

「ヒーロー目指すならそんな時間ないよ」

 

「そんなぁ・・・」

 

丸顔の嘆きを軽く流す。

 

「中学でやっただろ?

『個性』禁止の体力テスト。

緑谷、中学の時ソフトボール投げ

何メートルだった?」

 

「63メートルです」

 

「じゃあ『個性』使っていいからやってみろ

円から出なきゃ何してもいい」

 

デクにボールが投げ渡される。

 

「思いっきりな」

 

「分かりました」

 

そう言ってデクは手首の付け根を合わせ、

ボールを両手で挟み込んだ。

 

「ハンドボール投げだろ?」

「かめは〇波じゃん」

 

周りはザワつき始めた。

 

デクは腰を落として手を斜め上に向けた。

 

「はっ!!」

 

瞬間、強烈な風が辺りに吹き砂埃が舞う。

そしてボールは見えなくなった。

 

ピピッ

 

「まず自分の『最大限』を知る。

それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

そう言って見せてきた端末には『685.7m』と

示されていた。

 

「なんだコレ!すげぇ面白そう!」

「685メートルってまじかよ」

「『個性』思っきり使えるんだ!

さっすがヒーロー科!!」

 

デクの結果を受け口々に話す。

 

「・・・・・・『面白そう』か。

ヒーローになる為の3年間、

そんな腹づもりで過ごす気かい?」

 

冷たい視線と声で周りは静かになった。

 

「よし、トータル成績最下位の者は

見込み無しと判断し除籍処分としよう」

 

『はあああ?!』

 

先公の発言に驚きの声を上げる面々。

 

「生徒の如何は先生の自由、

ようこそこれが『雄英高校ヒーロー科』だ」

 

「上等・・・!!」

 

デクと目が合ってそう呟いた。

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!

急募、峰田を除籍から救う方法。

まあそれは置いといて、
デクの確執が取れたかと思いきや次は爆豪・・・。
エリート嫌いは原作より酷いですからね、彼。

勿論八百万も悪気があった訳では
ないので悪しからず。

次回は峰田を救出する方法を見つけてからの投稿に
なるので少し遅くなるかもです。


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個性把握テスト

皆様、相澤先生の発言に大して多くの
考察や助言をして頂き感謝致します。

その中で特に納得いったものを独自の
解釈として今回使用?しています。

それでは本編どうぞ!


私は先生の言葉に思わず反応した。

 

「最下位除籍って・・・!そんなの

「だぁってろ丸顔」」

 

それを爆豪くんに止められる。

私は声の方に振り返った。

 

「やから丸顔やめてって・・・」

 

途中で言葉が止まった。

 

(うわぁ・・・爆豪くん、また随分強烈な笑顔

しとるわ〜)

 

麗日お茶子は隣で凶悪な笑みを浮かべる

爆豪を見て一つの予想が立った。

 

恐らく爆豪勝己という人は『苦難』を前に

した時に笑える人なのだと。

・・・笑みがどんなものかは別にして。

 

「いきなり燃える様なシチュくれてんだからよ。

有難い限りだぜ、なぁ先生?」

 

爆豪は一歩前に出て先生に話しかける。

 

「俺の言葉に憤慨するも奮起するも結構、

だがこの程度の苦難、理不尽を乗り越える事が

出来ないならヒーローになんて

なれやしないのさ。

そういう理不尽を覆していくのが

ヒーローだからな。

だがらこれから3年間、雄英は全力で君たちに

苦難を与え続ける。

『Plus ultra』さ。全力で乗り越えてこい」

 

先生の言葉により一層空気が引き締まる

様に感じた。

 

「さてデモンストレーションは終わり。

こっからが本番だ、まずは50メートル走。

お前達の限界を見せてみろ」

 

先生は爆豪くんに負けず劣らずの凶悪な

笑みを見せてきた。

 

---------------------

 

〜50メートル走の順番待ち中〜

 

「なぁデク・・・先公の発言どう思う?」

 

「まあ十中八九ブラフだね・・・ただここは雄英、

常識で測ってたら足元掬われるかも。

僕もかっちゃんも」

 

デクは小声で返してきた。

 

「どうしたデク?俺やお前が最下位に

なるとは思えねぇけどな、このテストじゃ

『見えねぇとこも』・・・!?なるほどな」

 

俺はデクに笑いかける。

 

「そ。『最下位を除籍がブラフ』で

恐らく他に除籍処分か否かを判断するポイントが

あると思う。かっちゃんの言う通りこのテストじゃ

分からない部分だってたくさんあるしね。」

 

デクが前を見ながら言う。

 

「次、出席番号17爆豪勝己。

出席番号18緑谷出久、準備しろ。」

 

「とりあえず、全力を尽くす事が今は

最優先ってことで。

まずは50メートル走、負けないよかっちゃん!」

 

デクが俺に宣戦布告してきた。

 

「短距離なら負けるつもりはねぇぞデク!」

 

俺はデクの言葉に返した。

 

「早くしろ、時間は有限なんだ」

 

俺たちの言葉に先公が睨みをきかせる。

 

「ふぅ・・・ふん!」

 

俺は丹田に力を込め、そこから溢れる『力』を

脚へと流し込む。

 

(20%・・・!)

 

走るといった断続的な力が求められる中で

制御出来るギリギリまで『力』を込める。

 

デクをチラリと見ると鬼気迫るような表情で

前を見据え、手を後ろに構えていた。

おおよそ走る姿勢では無いが、その表情から

真剣さが見て取れる。

 

そんなデクの姿を見て俺も気合を入れ直す。

 

脚に熱が篭っていくのと同時に、

自身の鼓動を感じる。

神経が研ぎ澄まされていく様な感覚を覚えた。

 

「位置について・・・よーい」

 

パンッ!

 

音が聞こえると同時に地面を蹴り出す。

ゴールまで無心で脚を送り続ける。

 

視界にデクの頭が映る。

 

(負けねぇ!)

 

ゴールラインが見え、胸を張り突っ込む。

ゴールラインを切った途端、

ピッ!と機械が測定を終えた。

 

俺は脚で地面を抉りながらスピードを殺した。

 

「「タイムは?!」」

 

俺とデクの声が重なる。

 

「緑谷、3.18秒。爆豪3.02秒だ。」

 

「しゃあ!!」「クソっ!」

 

コンマ1秒の差でデクに勝てたことに

俺は喜びの声を上げた。

 

対照的にデクは悔しさの声を漏らし、

地面を叩く。

 

先公は俺らにマイクで話しかける。

 

「・・・2人のゴールで地面が抉れた。

スマンが軽くでいいから踏み固めてくれ。

このままだと後続のタイムに支障が出る。」

 

声を受け、ゴール付近を見ると確かに

地面が荒れていた。

 

「確かに・・・チャチャッとやるぞデク!」

 

俺はデクの背中を叩いて促す。

 

「痛っ!勝ったからって調子良いんだからもう!」

 

デクは文句を言いながら地面を踏み固めていった。

 

---------------------

 

「二人とも・・・凄い必死やったね・・・」

 

「The全力!って感じした!」

 

「ホットだネ☆」

 

誰とも無く呟く。

 

「ウチ、スピード系苦手だから他の種目の為に

手を抜いてたけど・・・なんか感じるとこあるわ」

 

「あたしもー」

 

「確かに除籍云々の前に一つ一つ本気で

やらねぇなんて男らしくねぇもんな!」

 

「いや、男らしくは意味わかんねぇけどな」

 

「いやけど俺は全力いいと思うぜ!

『個性』が不利でも!」

 

生徒達は冷たく緊張した空気から解き放たれた

様に熱を帯び始めた。

 

(そう・・・それでいい)

 

相澤はざわつき始めた生徒達を見て思う。

 

全力、本気、言葉で言うのは容易い。

しかし『個性』などというものが備わっている

中で、自身に不利な状況に対応しようとしない者も

雄英にも少なからず入学してくる。

 

所謂『見込み無し』の者達。

 

また、ヒーローみたいな常に死と隣り合わせの

職業は緊張など、文字通り命取り。

その様な場面でもどれだけ自分の限界を出せるかが

求められる。

 

緊張を振り払い、全力を尽くす。

この2つがまだ1人で出来ないなら、周りに

頼るのは決して間違いでは無い。

1人で無理を突き通すより遥かに合理的だがらだ。

だからこそのクラス制度でもある。

 

そういった意味で今、周りの空気を行動で

変えたこの2人は・・・

 

(緑谷出久に爆豪勝己・・・この2人は

台風の目になるかもな・・・)

 

相澤は自身が笑みを浮かべているのにも

気づかずにそう思った。

 

----------------------

 

『はぁ・・・はぁ・・・』

 

ほぼ全員が満身創痍といった表情。

俺もデクも例にも漏れず肩で息をしていた。

 

「ンじゃパパっと結果発表」

 

(種目の勝ち負けは俺とデクの結果は

『個性』を活かせなかった上体起こしと

長座体前屈を除いて3勝3敗の引分け・・・どうなる)

 

「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。

口頭で説明すんのは時間の無駄なんで、

一括開示する。」

 

鼓動が高鳴る。

 

(どっちだ?デクか、俺か?)

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

瞬間、空気が凍る。

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

先公がハッと笑う。

 

『『はあああ?!』』

 

一気に凍った空気が爆音で裂ける。

 

「うるせぇ!結果見えなかったじゃねぇか!」

 

「ゴーリテキキョギって何?!

ねぇ爆豪くん!」

 

丸が俺の肩をまた掴んで揺らす。

 

「俺が知るか!初めて聞いたわあんな単語!」

 

「あんなのウソに決まってるじゃない・・・

ちょっと考えればわかりますわ・・・」

 

ポニテ巨乳がさも当然の様に言う。

 

「そゆこと、これにて終わりだ。

教室にカリキュラム等の書類あるから

目ぇ通しておけ。明日から

もっと過酷な試練の目白押しだ。じゃあな。」

 

先公はそう言い残して校舎の方に歩いていった。

 

「まあとりあえず今日は引き分け・・・かな?」

 

デクが俺に話しかけてくる。

 

「そうだな・・・どうせあの先公言っても

結果見せてくれねぇだろうしな」

 

「緑谷君!爆豪君!教室に戻ろう!」

 

「うるせぇぞメガネ!言われんでも帰るわ!」

 

「む!僕の名前をもう忘れたのか?

僕の名前は「知っとるわ!」ならなんで!」

 

俺はデクと喋り、メガネをあしらいながら教室に

戻った。

 

-----------------------

 

相澤は校舎裏で1人結果を見る。

 

1八百万 百

2轟 焦凍

3緑谷 出久

4爆豪 勝己

5飯田 天哉

 

19葉隠 透

20峰田 実

 

「相澤君の嘘つき!」

 

相澤は声の主の方へと振り替える。

 

「オールマイトさん・・・見てたんですね」

 

「合理的虚偽て!オイオイ、エイプリルフールは

1週間前に終わってるぜ?

君は去年の1年生・・・1クラス全員除籍処分している。

『見込み無し』と判断すれば切り捨てる君が」

 

オールマイトは俺を見据える。

 

「だが今日それをしなかった!

そうたらしめた何かを感じたから!

そうだろう?それを何に、『誰に』感じたのかは

私の知る所ではないがね。」

 

「・・・考え過ぎですよオールマイト。

単に『ゼロ』では無かった、すくなくとも

今日に限っては誰も・・・それだけです。

見込み無しと判断すれば直ぐに切り捨てます。

半端に夢を追わせる事ほど残酷なものはない

それじゃあ失礼します」

 

---------------

 

「それも君の優しさか・・・だが

感じたはずだぜ?緑谷少年と爆豪少年に『何か』を。

君を動かす大きな物をさ・・・」

 

オールマイトは独りそう呟いた。

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!

とりあえず峰田は救われたのさ!
という事でね、ハイ。無事にA組20人揃って
学校生活を始められるのでね。
楽しみにしていてください。

ちなみにどの種目が緑谷の勝ちとかは
一応考えていますが本編には載せませんでした。
知りたい方が多ければ後述といった形で
本編にねじ込んどきます。

次回は戦闘訓練!お楽しみに!


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戦闘訓練前に

少し時間が空いたにも関わらず
今回キリよく終わるため短いです。
申し訳ない・・・!




「へぇー!2人は幼なじみなんや!」

 

「うん。僕とかっちゃんは保育園の時からの

付き合いだから」

 

「なるほど!それ故にお互い譲れない所が

個性把握テストに出たということか!」

 

俺は目の前でワイワイと騒いでるデクと

その他2名を見てため息が出た。

 

デクが丸顔との誤解を解けたことに関しちゃ

いい事だと思うが・・・

 

(それがなんで一緒に帰るになんだよ、それに・・・)

 

「ねぇねぇ爆豪くん!」

 

「ンだよ・・・」

 

「ウチもかっちゃんって読んでいい?!」

 

「黙れ丸顔、呼んでいいのはデクだけだ」

 

「えぇ!イイじゃんかぁ!」

 

丸顔が詰め寄ってくるのを、

額を手で押さえて止める。

と、まぁ何故か丸顔に懐かれている。

まだ知り合ってから2日目だぞ?

 

俺には何故こんなにも絡んでくるのか

分からなかった。

 

「てか丸顔止めてって何回も言うとるやんか!

ウチの名前はう ら ら か お ちゃ こ!」

 

「そうだぞ爆豪くん!

身体的特徴をあだ名にするのは

女性でなくても失礼だぞ!」

 

「そうかそうか、

おいメガネ、見てみろ」

 

俺はそう言って冷たい目をしている丸顔を指す。

 

「ねぇねぇ飯田くん?それってウチの顔が丸いって

言うとんのとおんなじやんなぁ?!」

 

「い、いや、

それは言葉のあやというか、すまない!」

 

「謝らんといてやぁ!ウチが惨めになるやん!」

 

丸顔の標的がメガネに行った事を確認し、

笑っているデクに話しかける。

 

「なあデク、おれが雄英にもっと激しい関係を

望んだのは間違いだったか?」

 

「んーどうだろ?

飯田くんも麗日さんもやる時はやるんでしょ?

切り替えが出来るならいいんじゃない?

あんまりお堅い人達ばっかりだったら

息も詰まっちゃうよ。だからこれくらいで

ちょうどいいんじゃない?」

 

デクは俺に笑顔で返す。

 

「ったくお前は優し過ぎんだよ!」

 

「それが僕の『良い所』なんでしょ?」

 

デクはどう?といった表情で俺を見る。

 

「・・・ちっ!サッサと帰んぞデク。

明日からもう授業始まんだからよ」

 

「フフっ、そうだね。

飯田くん!麗日さん!そろそろ!」

 

ほっときゃいいのに2人にも声を掛けるデク。

 

「・・・そういうとこだよな」

 

「ん?なんか言った?」

 

「言っとらんわ!

耳にハエでも集ってんじゃねぇか?」

 

「ハエって・・・」

 

デクは不満そうな声を上げたが無視し、

俺は恐らく赤くなった顔を見せないように

少し早く歩き出した。

 

————————————————————-

 

「わーたーしーがー!」

 

ドアが勢いよくガラッ開く。

 

「普通にドアから来た!」

 

HAHAHAHAと笑いながらオールマイトが

教室に入ってきた。

 

それに合わせて教室がザワつく。

 

俺とデクは見慣れているから騒が・・・

 

「銀時代のコスチュームだ・・・!

画風違いすぎて鳥肌が・・・!」

 

前言撤回、後ろのアホは騒いでたわ。

 

「はいお静かに!今から説明するからね!」

 

オールマイトが言うと教室は静かになった

 

「この授業はヒーロー基礎学!

ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う

科目だ!早速だが今日はコレ!

『戦闘訓練』!!!」

 

「「戦闘訓練・・・!」」

 

声が重なり、俺はその方向にいるデクを見る。

 

先程と同様に声には興奮を孕んでいたが、

目は真剣そのものだった。

 

「そしてそいつに伴って・・・こちら!」

 

教室の壁が音と同時に動き出す。

 

「入学前に送ってもらった個性届と要望に沿って

あつらえた・・・『コスチューム』!!」

 

「「「おおお!!!」」」

 

「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!」

 

オールマイトはそう言って教室を出た。

 

「いくぞデク」「うん!」

 

—————————————————————-

 

「・・・よし」

 

俺は黒色のブーツを履き終え立ち上がり、

肘や膝のサポーターを固定し動きを確認をする。

 

(すげぇな・・・)

 

ブーツもサポーターも『ワンフォーオール』の

動きに耐えれるようにかなり頑丈にと要望を

出していた。

その際多少の不便は覚悟していたのだが

まさかここまで滑らかに動かせるとは思わなかった。

 

そう思いながらグローブを填める。

 

グローブは拳を保護する為に関節部はかなりごつく

なっているが、指先は俺の趣味で開けた。

所謂、指抜きグローブってやつだ。

 

デクに見せた時に「凶悪過ぎない?」と

言われたのはムカついたが・・・。

 

「かっちゃん先行くよ!」

 

「ああ」

 

俺はアイマスクとマントを着け、

デクの後を追った。

 

—————————————————————-

 

「やっぱり着けたんだ、マント」

 

「まぁな、やっぱ俺にとってコレは

『決意』の意味でも着けるべきだと思った」

 

デクの言葉にそう返す。

 

『決意』

それは『強いヒーロー』になるという決意。

 

俺の中で、心も腕っ節も『強いヒーロー』は

マントをはためかせていたイメージがある。

オールマイトはその代表だった。

 

「そっか、にしても赤と黒って色合いは

かっちゃんらしいや、似合ってるよ」

 

デクは俺に笑う。

 

「お前もそのガ「さあ!始めようか!」

 

オールマイトの大声で掻き消される。

 

「有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!」

 

みんながオールマイトの方へ向く。

 

「良いじゃないか皆、カッコイイぜ!」

 

オールマイトのオーバーなリアクションを

見ながらストレッチをしていたら

 

「なあ?」

 

足元に視線を向けるとブドウ頭がいた。

 

「なんだ?」

 

「お前麗日のピチピチスーツどうおも「死ね」

 

そう言って会話を終わらせる。

(・・・なあデクよ、

ほんとにここはヒーロー科なのか?)

 

とりあえず対戦相手になったら殺す事だけは

心に決めて、耳をオールマイトに傾けた。

 

「先生!」

 

頭をロボットみたいな兜をつけたやつが

挙手した。

 

(ああ・・・コイツメガネか)

 

「ここは入試の演習場ですが、また市街地

演習を行うのでしょうか?!」

 

「いいや!もう二歩先に踏み込む!

屋内での対人戦闘訓練さ!

監禁・軟禁・裏商売・・・このヒーロー飽和社会

真に賢しい敵は屋内にひそむ!!」

 

(なるほどな・・・)

 

確かによくよく考えてみれば、そちらの方が

優先して訓練すべきだろう。

 

 

「君らにはこれから敵組とヒーロー組に分かれて

2対2の屋内戦を行ってもらう!

いきなり実践だと思うかもしれないが

実践からこそ学べることの方が多い!」

 

オールマイトは強い眼光を俺たちに向ける。

 

「また本番の空気を出す為に設定を用意した!」

 

そう言いながらオールマイトはポケットから

小さな紙を出した。

 

「カンペ読むんかい」「ぷっ!」

 

俺の言葉に丸顔が吹き出した。

 

「んんっ!いいかい?!

状況は敵がアジトに核兵器を隠していて、

ヒーローはそれを処理しようとしている」

 

『設定アメリカンだな!!!』

生徒達の心の声が知らず、一致した。

 

「ここからが重要だ!

ヒーローは制限時間内に『敵を捕まえる』か

『核兵器を回収すること』

敵は制限時間まで『核兵器を守る』か

『ヒーローを捕まえる事』

制限時間は10分さ!そしてコンビ及び対戦

相手は『くじ』だ!」

 

オールマイトが箱を持つ。

 

「適当なのですか?!」

 

またメガネが反応する。

が、デクが説明してくれたのでメガネは

納得したようだった。

 

クジの結果、俺はAで・・・

 

「頑張ろうね爆豪くん!」

 

丸顔とチームになった。

 

「足引っ張っんじゃねぇぞ?」

 

「勿論!バッチこいよ!」

 

丸顔は何故かドヤ顔だった。

 

(まあデクと離れただけ良いか・・・

一緒になっちゃ対戦も出来ねぇしな)

 

クラスは20人なので離れる可能性は高いが、

対戦出来る可能性も低くなる。

 

オールマイトは5つずつヒーロー、ヴィランと

書かれた箱に玉を入れた。

 

「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!」

 

(頼むぜ神様・・・!)

 

「Aコンビがヒーロー!Dコンビが敵だ!」

 

俺はばっ!とデクを見る。

デクもこちらを見ていたので必然目が合う。

俺はニヤケ顔を我慢しているデクに声を

掛ける。

 

「おい、笑ってんぞデク」

 

「かっちゃんこそ」

 

デクは俺にそう言って返す。

 

「「オールマイト!!」」

 

オールマイトは俺達の声にビクッ!となる。

 

「どうしたんだい爆豪少年に緑谷少年?」

 

「先に対戦相手発表すんのか?」

 

「う、うんそのつもりだよ。

緑谷少年は?」

 

「作戦会議の時間は設けますか?」

 

「そうだね・・・一応敵チームが入ってから

5分後にヒーローチームが潜入するから

その間にって考えているよ」

 

「つまりあまり時間は取れないんですね「んだな」?」

 

俺とデクはオールマイトの言葉に

同時に返す。

 

「そういうことになるかな!」

 

俺は勢いよく振り返った。

 

「麗日ァ!」「飯田くん!」

 

『作戦会議だ』

 

デクに背を向け麗日の方に歩く。

 

「おい、何驚いた顔してやがる。

丸い顔がさらに丸くなってんぞ」

 

「余計なお世話!って・・・ちゃうちゃう!

さっきウチの「うるせぇ時間がねェんだよ!」」

 

俺は丸顔に指指す。

 

「相手はあの『デク』だ。

キチンと策練らねぇと俺らの完封負けだ。

更にコンビはメガネ、お前の『個性』的にも

最悪の組み合わせ・・・それを覆して勝つためにゃ

俺1人じゃダメだ!お前の協力がいるんだよ!

分かるか?!」

 

「う、うん!」

 

口を真一文字に結び、両拳を胸の前で握る。

 

「よし」

 

丸顔の顔が真面目になったのを確認して頷く。

 

俺は背中越しに、メガネと話し合うデクを

一瞥してから丸顔と作戦会議を始めた。

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!

お気に入り登録も900を超え、改めて
沢山の方に読んでいただけているんだと感じ
感謝の気持ちでいっぱいです。

話変わり本編なのですが、次回キリよく
始めるためにこのような終わり方を
してしまいました。

その代わり次話の投稿は早くしたいと
思っているのでよろしくお願いします!



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戦闘訓練

お気に入りが1000超えたってマジっすか?!
本当に有難い限りです!
皆さんの応援があるからこそこうやってエタらずに
投稿を続けられるので感謝の気持ちを忘れずに
頑張って行きたいと思います!

それではどうぞ!




「ほ、ホンマに大丈夫やねんな?」

 

「うるせぇぞ、信じられねぇのは

お前の体重のせいだろが」

 

「・・・」

 

「ンだよその顔は」

 

ジトッとした目で見てくる丸顔。

 

『ヒーローチーム侵入まで30秒!』

 

インカムからオールマイトの声が聞こえる。

俺はその言葉を受け、両手を組んで腰元に落とす。

 

丸顔は俺の手に足を掛け、肩を持つ。

 

「舌、噛むなよ。そんなんで怪我されたら

作戦どころじゃねぇ」

「うん、分かっとるよ」

 

丸顔の顔が引き締まり、いや強ばっている。

 

「いや、やっぱお前がやらかしても全部

片付けるから心配すんな。遠慮なく舌噛め」

 

俺の言葉に丸顔の表情が少し緩くなる。

 

「・・・爆豪くんって不器用やねんな」

 

「なんか言ったか?」

 

「いいや、なんも?」

 

「・・・ならいいわ」

 

俺は丹田から力を込める。

体表に電気のようなものが走る。

 

『ヒーローチーム、侵入開始!』

 

「いくぞ・・・3・・・2・・・1、ふんっ!!」

 

俺は丸顔を直上へカチ上げた。

 

------------------

 

〜モニター室〜

 

「んなっ?!ブン投げた?」

「大胆ね二人とも」

 

爆豪・麗日コンビの行動に口々に話し合う。

 

オールマイトは1人モニターを見ながら思案する。

 

(恐らく爆豪少年の案だな・・・!

ビルの立てこもりに対して『挟み撃ち』だって?

それも麗日少女を5階まで投げる発想よ!

個性把握テストの時の君なら無理だったはず・・・

扱える『力』の出力は短時間で変わらないから

使い方が上手くなったんだろうね・・・。

成長速度が速いってレベルじゃないね全く!)

 

オールマイトは人知れず身震いする。

言うまでもなく、その顔は嬉しそうだった。

 

(だが、恐らく成長してるのは君だけじゃないぜ?

・・・最も、君がよく知ってるか)

 

オールマイトの視線はモニターの緑谷に向かい、

その行動に驚きの表情を見せる。

 

「なるほどね・・・」

 

「何がですの?」

 

背後から声が聞こえた。

 

「うひゃあ!って八百万少女じゃないか。

驚かさないでよもう!」

 

「驚かせたのなら申し訳ございません。」

 

腰を折り、綺麗なお辞儀を見せる。

 

「い、いやジョークだよジョーク!

そんなんで謝らなくていいよ!」

 

顔の前で手を振ると、八百万少女は頭を上げた。

 

(先生って難しいね・・・)

だが、顔に出さず笑顔に切り替える。

 

「で?どうしたんだい?」

 

「オールマイト先生がモニターを見ながら

なるほど、と仰っていたので」

 

「ああ、緑谷少年と爆豪少年の発想力の高さに

脱帽していたのさ!」

 

途端、分かりやすく顔が曇る。

が、直ぐに表情が戻る。

 

「そうですか、ありがとうございます。

質問は終わりなので失礼しますわ。」

 

「えっ、あ、ああ、うん」

 

八百万少女は踵を返し大モニターに戻って行った。

 

(なんか・・・やっちゃったのか?)

 

オールマイトは出るはずもない答えを思案するが、

まさか八百万が爆豪に反応したなどと分かる

はずも無く、今日1日頭を悩ませるのである。

 

——————————————————————

作戦会議中、

1階と5階からの同時侵入の作戦を思いついた。

 

それが5分という短い時間の中で出た案の中で

最も可能性がある案だと思った。

 

が、幾つか不安点も残る。

 

1つは5階に二人とも構えていた場合、

これは丸顔の

「いきなり侵入より窓から様子見したら

ええんとちゃう?」によりほぼ解決。

 

2つ目はどうやって丸顔を上に上げるか、だ。

 

俺が上がる手もあったが、丸顔に部屋数の多い

1階2階を任せるのは、機動力の点もあるし、

何よりこの作戦のミソである同時進行が出来ない

問題があった。

 

よって丸顔を上げることになったのだが、

取れる方法は2つ、俺が投げるか、丸顔の超必?に

よるもの。

 

コイツのいう超必とは自身を浮かすこと。

しかしデメリットが大きく、却下。

 

となると俺になるのだが・・・

 

(手だけなら力が足りず、背筋だけなら膝が

やられ、足だけなら高さが足りなく、

全身に回すなら出力不足。なら・・・)

 

「おい丸顔、体重何キロだ?」

「・・・は?」

 

—————————————————————

 

「『全部』使ゃいいだけだ!」

 

丸顔が足を掛けた瞬間、脚に『力』を送る。

そして脚を伸ばしきると、次は背筋。

腕を引っ張り上げるように『力』を込め、

そして最後に腕を振り上げる。

 

(身体は大丈夫だが、どうだ・・・?!)

 

上を見上げると、

屋上の柵に手を掛けた丸顔が見えた。

 

そしてインカムから

『ナイス爆豪くん!5階に人影無し』

と聞こえる。

 

ぶっつけ本番で『ワンフォーオール』の新しい

使いかたが成功したことに顔が緩みそうになるのを

頬を叩いて正す。

 

「なら作戦通りで行く。

俺の突入から5秒後に突入だ」

 

『了解!』

といいインカムから音が消えた。

 

俺は身体に異常が無いのを再確認してから

助走をつけて『窓をぶち破り』ながら入った。

 

--------------------

 

「む?!これはガラスが割れた音?」

 

大きな音に飯田くんが反応する。

 

「恐らくかっちゃん・・・だと思う。

僕が行く。後は作戦通りに。」

 

「ああ!核は任せておいてくれ!」

 

飯田くんがどんと自分の胸を叩く。

 

「うん!頼んだよ!」

飯田くんにそう言い残し、『個性』を使い

1階に向かう。

 

飯田は緑谷が見えなくなると、腕時計のタイマーを

セットした。

 

------------------

 

俺は割れたガラスを踏み荒らしながら歩く。

 

インカムから

『侵入成功、5階の大部屋には核無し』と入る。

 

俺は「続けろ」とだけ小声で言い、足裏に付いた

ガラスを払う。

 

(にしても人の気配がねぇな・・・)

 

俺は核を探しつつ歩く。

2階への階段に続く一際長い通路に差し掛かった時

 

「かっちゃん、そこに居るんでしょ?」

 

と声が飛んできた。

 

「隠れてコソコソなんてかっちゃんらしく無いなぁ

というより、僕の後ろ以外の上に登る階段無いし

どっちにしろ戦わないと、ね?」

 

( 挑発なのは見え見えだが、・・・デクの言う通り

なのも事実、乗るしかねぇか)

 

インカムに手を当て、

「今から緑谷出久と戦闘開始、恐らく核は

2~4階のどっかだ。」

『分かった、頑張って!』

 

丸顔に連絡を残しデクの前に出る。

 

「挑発なんてらしくねぇな?」

 

「僕は今ヴィランだよ?挑発とかもするよ」

 

「・・・確かにな」

 

俺は会話をしながら辺りを確認する。

 

(罠は恐らく無し・・・

デクは通路の真ん中に立ってて、

距離はこっから5mくらいか?

天井はそこそこ高ぇ・・・)

 

かなりデクに有利なステージだ・・・恐らく1階から

侵入された場合ここで迎え撃つ算段だったんだろう。

だが、やるしかない。

 

「ちょうどお前とサシでやりたかったんだよ」

 

丹田に力を込め、全身に流し込む。

 

「奇遇だねかっちゃん、僕もだよ」

 

デクはそう言って構える。

その時『親指が二回曲げたのを』見逃さなかった。

 

瞬間、デクが手のひらを向ける。

そこから放たれた何かを、

首を傾け紙一重で避ける。

それは壁にぶつかり、パァンと音をたてる。

 

「やっぱな・・・そのガントレットになんか

あると思ったわ」

 

デクが着けたガントレットの手のひらには

窪みがあった。

そこから『水』が滴っていた。

 

「流石かっちゃん!」

 

そう言うと両手を此方に向けた。

 

(上等・・・!)

 

俺は『力』を脚に込めた。

 

(しゃがむ・・・跳ぶ・・・跳ぶ!)

 

放たれた3発の水の弾丸を避け、壁を蹴りつつ

一気に距離を詰める。

そこはデクの頭上。

 

「死ねぇ!!」

 

その脳天に踵落としをかまそうとするが、

後ろに急発進し、紙一重で避ける。

踵が床に突き刺さる。

 

「避けんなぁ!」「避けるよ?!」

 

腰を捻り、デクの頭へ蹴りを放つ。

 

(体勢崩れてる!もらったぁ!)

 

「しっ!」

 

しかし、デクから『不可解』な加速で脚が上がり

蹴りを止められる。

 

「ちっ!」

 

お互い、バックステップで距離をとる。

 

「てめぇその靴何仕込んでやがる?」

 

俺が問いかけるがデクは笑いながら

 

「教えない、よっ!」

 

風が起こり、急スピードで突っ込んでくる。

 

(ただの突進・・・?いやデクだぞ?)

 

拳を振りかぶっているがブラフと判断。

 

俺のリーチ内に入った瞬間、手が開く。

 

「ほらなぁ!」

 

俺はデクの手を下へはたき、その反対の手で

殴り掛かる。

瞬間、ガントレットから水が下向きに噴出、

その反動でデクの身体が頭上を越える。

 

(ジジイの・・・!)

 

俺は拳が空を切ると同時に直感から

自身を前へ投げ出す。

背後で何かが空を切る音がした。

 

「避けないでよ!」「避けるわ!」

 

(あっぶねぇ・・・だが!)

 

これでデクと俺の位置取りが変わった。

俺は全身から脚へと『力』を戻す。

 

「じゃあなデク!サシはまた今度だ!」

 

「そうだね!

残念だけど『こっからは1:1じゃない』!」

 

デクの声と同時に目の前の天井の床が

音を立てて抜け土煙を上げた。

そこから人影が飛び出す。

 

「ここは通さんぞヒーロー!」

 

「じゃあぶっ潰してから通るわクソメガネ!」

 

メガネに蹴りを放とうとするが、デクから

水の弾丸が飛んでくる。

 

「ちっ!クソがっ!」

 

(しかもデクはメガネの届かない範囲に撃ち込むから

メガネに当たんのも期待出来ねぇぞ・・・どうする?)

 

メガネへの対処の為にデクに背を向けることも

出来ない。

 

だが一つだけ分かったことがある。

 

メガネは2階から落ちてきたことと、

丸顔から

『4階クリア』とさっき連絡があったこと。

この2つとメガネが核の防御係だとすれば、

核の部屋をガラ空きには出来ないはず・・・となれば!

 

「丸顔、核は2階だ!・・・麗日?」

 

インカムに叫ぶが応答がない。

 

「うららゲフンゲフン、お仲間は拘束済みだ・・・!

負けを認めろヒーロー!」

 

メガネのヴィランの真似が癪に障るが

それどころではない。

 

(丸顔が捕まったんはメガネとの相性もあるが、

俺の作戦ミスだな・・・だったらミス取り返すまでだ)

 

俺は目を伏せ、一瞬だけ『力』を丹田に戻す。

 

「観念したようだなヒーロ「気を抜かないで!」」

デクがメガネに叫ぶが遅い。

 

(持って7~8秒か・・・)

俺は丹田から『力』を放つ。

皮膚の下に火傷を負った様な感覚が全身を駆け巡る。

激痛という言葉を初めて体感した気がする程だが

この痛みが『力』の大きさを伝える。

 

俺は顔を上げた。

『やばい』

2人の思考が一致した。

 

「飯田くんっ!」

「おおお!レプシロっ!」

 

メガネのラジエーターから青い炎が上がり

脚が俺へ向かってくる。

 

それを蹴り返し、逆に吹き飛ばす。

 

「ぐはっ!・・・」

 

メガネを一瞥し俺はデクへ向・・・。

 

「来いよかっちゃん!・・・かっちゃん?」

 

『終了だ緑谷少年、爆豪少年の気絶により

戦闘可能者が居なくなったため』

「ヴィランチームの勝利だ」

 

肩に手が置かれる。

 

「オールマイト・・・かっちゃんは」

 

「気絶しているだけさ、

まあ少なくない負担が身体に掛かったから

大丈夫って訳じゃ無いがな。

無茶し過ぎだぜ全く・・・」

 

オールマイトはかっちゃんを抱えてそのまま、

飯田も抱える。

 

「搬送ロボット二人分、大至急だ。」

オールマイトはインカムにそう言うと僕に

向き直った。

 

「緑谷少年は大丈夫そうだな・・・

なら麗日少女の拘束を解いてからモニタールームに

来てくれ。ホントは総評の時間なんだが気絶してる

のが2人いたらね」

 

「分かりました」

 

僕はオールマイトの言葉を受けて歩き出す。

 

オールマイトに運ばれていくかっちゃんを見送り

2階に向かって歩き出した。

 

身体にダメージは殆どないのに、脚が何故か

重かった。

 

-------------------

 

「おい、飯田の吹っ飛び方ヤバくねぇか?

どんな勢いで蹴りゃあんなに飛ぶんだよ」

「それよりも爆豪でしょ。

完全に白目向いてたよ・・・大丈夫なのあれ?」

 

クラスが騒いでる中、1人

八百万はオールマイトに運ばれていく爆豪勝己を

見送りながら思った。

『勝てない』と、いや爆豪だけではない。

緑谷出久にも、麗日お茶子にも、飯田天哉にも

同じことを感じた。

 

(これが一般入試組だとしたら、推薦入試で

受かったなんて自慢にもなりはしませんわ!)

 

入学初日で爆豪と会った時、

まるでヒーロー志望というのもおこがましい程の

口の悪さに嫌気がした。しかし、その後の

個性把握テストではクラストップの記録を

叩き出し続けた。

しかし自分も負けてはいないと思うレベルだった。

それにまだ頭もあると。

 

だが今日、オールマイトも褒めるレベルの

作戦を立てた。

そして、あの戦いを見せられた。

爆豪勝己という人とは一体どういう人なのか

分からないままだ。

 

「・・・ちゃんとお話ししてみようかしら」

 

そう1人呟いたことに反応する者はいなかった。

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!

初めて戦闘描写を書くので分かりにくい所も
多々あると思いますが、感想欄にて質問して
頂けたらできる限りお答えさせて頂きます!

次回は総評からです!お楽しみに!


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