吉良と同僚の奇妙な冒険 インフィニット・ジャーニー (わたっふ)
しおりを挟む

〜登場人物〜
キャラクター紹介ッ!


※イラストは公式サイトのキャラクター紹介欄やネットから拾ってきたものを参考にして描いたんだッ!
少しアレンジを加えて描いたから、見る人によっては違和感を感じるかもしれないが、そこんとこは許してくれよなッ!!
wikipedia様の説明をコピーしてるんだかしてないんだか……
多少は変更点があるが、そこは気にするな!気にするな!


【吉良の同僚】

【挿絵表示】

 

吉良吉影の勤めるカメユーデパートの同僚。

当初は、吉良に昼の誘いを断られた女性社員に、吉良の説明をする只の一般人だった。

しかしスタンドの矢に射抜かれたことにより、彼はそんな領域を超える存在となるのだった。

 

連打時の掛け声は「ドメドメドメドメドメェッ!!」

 

《スタンド:マインドクローン》

【破壊力 - B / スピード - A / 射程距離 - B / 持続力 - C / 精密動作性 - A / 成長性 - C】

 

【挿絵表示】

 

随所に交通の停止表示のデザインをあしらった長髪の人型スタンド。

甲冑のような仮面を被った中距離型のスタンドであり、接近戦の突き合いでは驚異のスピードを生かすことで、吉良吉影のキラークイーンとほぼ互角に渡り合うことが出来る。

 

《第一の能力 ストップ・ザ・アクション》

 

物語の序盤で無意識のうちに発動する。

指を指した、又は直視した相手の行動や状態の変化を一時的に止めることができる能力をもつ。

例としては『相手がその場から動くことを停止』、『自身の身体から流れ出る血を停止』、『ダメージを受けることを停止』などが挙げられる。

直接死にかかわることを止めることは出来ない上に、停止できる対象は同時に2人までではあるが、停止させようとする部位や状態は一度に何箇所でも選択可能。

そして能力発動中は、対象者に起こりうる影響を『溜めておく』という性質を持っているため、能力解除時に本来受けていたはずの影響を一度に受けてしまうという欠点も有り。

 

 

《第二の能力 ソウルフィスト》

【破壊力 - A / スピード - A / 射程距離 - C / 持続力 - E(能力効果はC) / 精密動作性 - E / 成長性 - E】

 

容姿としては、マインドクローンをそのまま逞しく筋肉質な体へと変化させ、甲冑の仮面を取り外した近距離パワー型のスタンド。

攻撃した瞬間から約5秒ほどしか発動できない欠点があるものの、攻撃した時のダメージと同じ衝撃を一定時間の間継続的に与え続ける能力を持っている。

 

 

 

 

 

 

【吉良吉影】

周りからは仕事は真面目でそつなくこなすが、これといって特徴のない影の薄い男と言われている。

しかし、その正体は生まれながらに殺人衝動を持ち、手の綺麗な女性を48人も殺してきた連続殺人鬼だった。

本編終盤、仗助たちに敗北した彼は振り返ってはいけない場所で振り返ってしまい、謎の無数の手に異空間へと引きずりこまれてしまうのだった。

 

連打時の掛け声は「シバァッ!!」

 

《スタンド:キラークイーン》

【破壊力 - A / スピード - B / 射程距離 - D / 持続力 - B / 精密動作性 - B / 成長性 - A】

 

触れたものを爆弾に変える能力をもつ近距離パワー型のスタンド。

両手の人差し指の側面には起爆用のスイッチがあり、押すと即座に対象が爆破する。

猫のような顔を持つ人型のスタンドで、ベルトのバックルをはじめ、身体の各部に猫型のドクロの紋章がある。

また爆弾を応用することで距離を置いた戦闘にも対応ができる。

爆弾という特性が、吉良の趣味である快楽殺人の後始末に適している。

吉良は殺人鬼であるが、スタンドを用いた殺しには快楽を伴わず、スタンドはドライに、証拠隠滅や口封じのために用いる。

本人は「平穏な生活を守る」と称して、スタンド能力を悪用している。

作中「矢」によって【バイツァ・ダスト】という能力を手にし更なる進化を遂げるが、異世界転移した影響からか今作ではその能力を失っている。

 

《第一の爆弾》

キラークイーンの手指で触れたあらゆる物を「爆弾」に変化させる能力。

一度に爆弾にできる物は1つだけであり、新たに別の物を爆弾化するには、対象物を起爆するか能力を解除しなければならない。

爆弾には「点火型」と「接触型」の2種類がある。

「点火型」はキラークイーンの指の点火スイッチで起爆させるタイプ。

「接触型」は地雷や機雷のようなトラップ爆弾に変化させて「触れた相手側のみ」が爆発する。

基本はこの2種類だが、かなり細かく調整することができ、触れた対象物の全体を丸ごと爆弾にして完全に消し去る・触れた一部分のみを爆弾にする・爆発力を小さく抑える・耳や手首だけを器用に残す、などができる。

いずれのタイプの爆弾も、爆発する対象物は内部から木端微塵に爆破されるため、証拠隠滅に最適な能力といえる。

爆破に伴い発生する派手な爆圧・爆風・爆炎を攻撃に用いることもできる。

その一方では、圧力や炎を抑えて、静かに消し飛ばすこともでき、こちらは隠密行動に向く。

これらの爆弾のタイプを応用的に使いこなすことで、直接的に相手を殺傷する際には「手で触れると同時に相手を丸ごと爆弾化して爆殺する、間接的には「ドアノブなどを爆弾化させることで触れた相手を爆殺するトラップとする」など多様に用いて戦う。

 

《第二の爆弾 シアーハートアタック》

【破壊力 - A / スピード - C / 射程距離 - A / 持続力 - A / 精密動作性 - E / 成長性 - A】

 

キラークイーンの左手の甲には「爆弾戦車」が装備されている。

額に剣が付いたドクロをあしらった丸い物体にキャタピラがついた形をしており、第二の爆弾と称される。

分離して動き出すため、一見それ自体が別のスタンドのようだが、あくまでスタンド「キラークイーン」のパーツである。

キラークイーンから分離して、体温を感知して自動追尾する。

その際には「コッチヲ見ロ」「今ノ爆破ハ人間ジャネェ」など機械的な音声を発する。

自爆して爆炎を放つも、シアーハートアタック自体には傷一つつかず、標的となる全ての人間を爆殺するまで止まることはない。

さらに第一の爆弾と併用することができる。

しかし自動操縦であるため、単純な動きしかできないという欠点がある。

熱感知は、熱源が複数あると標的を見失う・人間の体温よりも高い熱源があるとそちらに向かう・吉良には状況が把握できないなど、細かい調整が全くきかず大雑把。

 

 

 

 

【フィラス】

まだまだ謎が深いエルフ族の女剣士。

吉良とは冒険家ギルドで知り合い、互いに仲が非常にいい。

ダルマホタテのバター焼きが大好物であるが、吉良がホタテが苦手だとしっても堂々と横でお代わりを頼む、ちょっと酷いやつ。

同僚とは後日吉良と共に訪れた武器屋にて会い、すぐに打ち解ける。

巷によると物凄く有名な人だとか……?

 

《スタンド: ???》

【破壊力 -? / スピード -? / 射程距離 -? / 持続力 -? / 精密動作性 - ? / 成長性 -?】

 

 

 

【井茂木拓男(いもき たくお)】

同僚たちとは違う年代から迷い込んだ純日本人のぽっちゃり体型なお調子者。

普段から厨二じみた態度やら発言をするため吉良からは気味悪がられて少し避けられている。

フィラスが転移前にいた世界で推していたアニメキャラと酷似していたため、この世界での熱烈なファンになってしまった。

同僚とは何かと気が合い、彼のことをパイセンと慕うようになる。

 

《スタンド:サーチ・オブ・トゥルース》

 

【破壊力 -D / スピード -A / 射程距離 -B / 持続力 -E / 精密動作性 - C / 成長性 -D】

 

直視した相手の名前・性格・能力・生い立ちなど、様々な情報がわかる。

しかし一度に大量の情報が入ってくるので10秒もすると頭がパンクするため、短時間しか能力を使うことが出来ない。

通常時は大人体型の人型スタンド、能力発動時は自動的にスタンド像が消滅(移動)して瞳の中に入る。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【全スタンド・能力一覧】

【警告】これより先はネタバレ注意のため
黄金の精神を持たないものは読んではいけない









あなた・・・
『覚悟して来てる人』・・・・・ですよね
ネタバレを「見よう」しようとするって事は
逆に「ネタバレ」されるかもしれないという
危険を常に『覚悟して来ている人』って
わけですよね・・・


【スタンド一覧まとめ】

 

 

 

《マインドクローン ストップ・ザ・アクション》

mind(心)+clone(分身)より抜粋

 

↓↓

 

《アンプリファイド ブリーズ・アンド・ストップ》

Q-Tip: Amplified(1998)より抜粋

 

指を刺した対象の行動等を一定時間の間停止させ、能力解除後にその時間分の衝撃(影響)を一気に解放させる

 

走っている人に向かって移動することを停止させた場合、解除後には停止していた分の秒数で本来移動していたであろう場所まで一気に身体が高速移動する。

なお、物体に対して衝撃を伝えることを停止させると、解除後には停止していた分の秒数分で与えるはずだった衝撃を一気に叩き込むことができる。

 

 

破壊力 B

スピード A

精密動作性 B

持続力 C

射程距離 B

成長性 C

 

 

《アンプリファイド ザ・ウェイトアップ》

Amplified収録 Wait Upより抜粋

 

 

殴った対象に、その衝撃と同等の威力のダメージを一定時間の間継続的に与え続ける能力。

 

 

ストップ・ザ・アクションの停滞状態を改良し、解除後に累計ダメージの衝撃を継続的に与えることが可能になったことで芽生えた強化式の能力

 

 

マインドクローンが攻撃を止めた時点からカウントし、十数秒ほど効果が発揮される。

ただし連続で発動することは出来ず、必ず1日以上のインターバルが必要。

さらに反動によりマインドクローン自体も1分間程度発現できない

 

 

破壊力 A

スピード A

精密動作性 D → B

持続力 C → B

射程距離 C

成長性 D → E

 

 

↓↓

 

 

《アンプリファイド・ザ・セイクリッド》

 

森羅万象ありとあらゆるものに対する願いや思いを具現化させる

 

 

物語の終盤、バルザークの奇襲によって両目をやられた同僚。

視力がなくなった為、相手の位置がわからなくなり苦戦。

そして若返って全盛期の力を取り戻したバルザークによって仲間ものとも殺される。

しかしその後、キラークイーンに再びバイツァダストが発現し時が戻った。

バルザークの行為を真似るように、手に入れてある全てのセイクリッドジェムをマインドクローンに吸収させた際に進化を果たす。

さらにバルザーク撃破後、手に入れた残りのセイクリッドジェムを吸収して新たな能力に目覚める

 

 

 

異形化バルザークを倒した際に力を失う

 

破壊力 なし

スピード なし

精密動作性 なし

持続力 なし

射程距離 なし

成長性 なし

 

───────────────────

《キラークイーン⬇︎

キラークイーン・ザ・オーバーヘル》

Queen:killer Queen(1974)より抜粋

 

吉良が1つ目のセイクリッドジェムを獲得後、キラークイーンが成長して能力が強化された形態。

本来1つずつしか爆弾を作り出せなかったが、進化したことで1度に限りなく爆弾化させられるようになった。

地雷のように使用したり、矢や石を爆弾に変えて手榴弾みたいに投げつけるような使用方法がある

 

破壊力 A

スピード B

精密動作性 D

持続力 B

射程距離 B

成長性 C

 

 

【能力暴走時】

吉良自身の意思とは関係なく体に触れた全てのものを消滅させる

 

《キラークイーン・ザ・オーバーヘル

 第2の爆弾 シアーハートアタック》

Queen: Sheer Heart Attack(1974)より抜粋

 

シアハ自体の耐久性は著しく低下

そのかわり、1つのシアハが破壊されることで何体にも分離することができ、その一つ一つが従来のシアハ同等の破壊力を持つ

さらに吉良の指示を理解して行動する機能や、シアハ同士での連携性能、キラークイーンを介しての視界映し(キラークイーンの左手の甲上にスクリーンのように映写)が可能

 

破壊力 A

スピード C

精密動作性 B

持続力 A

射程距離 A

成長性 D

 

 

 

 

《キラークイーン・ザ・オーバーヘル

 第3の爆弾 バイツァダスト・ディサイシブ》

Queen: Another One Bites the Dust(1980)より抜粋

 

スタンドの矢を吉良自身に突き刺したことで発現した能力。

 

吉良自身を爆弾化させて発動する、文字通り最後の秘策。

その時間軸(世界線)に存在する生命体全てを例外なく爆破させ、同時に時を1時間ほど戻す。

時間が戻る前に起きた出来事は「起こりうる運命」として保存され、時間が戻った後で吉良の任意で再現するかしないかを選択することができる。(吉良自身はバイツァダスト発動時までの記憶を保ったまま過去へ飛ぶことができる)

 

 

破壊力 A

スピード B

精密動作性 A

持続力 A

射程距離 C

成長性 E(完成)

 

 

───────────────────

《ワーカホリック》

2 Unlimited: Workaholic(1992)より抜粋

 

 

周囲の生き物が現在行っている行動を、対象の意思関係なしに文字通り「終了」されるまで継続させる

なお、対象が途中で止めようとした場合、その行動は最初の段階へと移行する

 

破壊力 B

スピード A

精密動作性 C

持続力 A

射程距離 B

成長性 D

 

───────────────────

《ワン・ウェイ・システム》

ONE WAY SYSTEM(1979)より抜粋

 

触れた物の構造と扱い方を完全に理解する

 

破壊力 E

スピード B

精密動作性 A

持続力 A

射程距離 E

成長性 A

 

───────────────────

《ムーンライト・シャドー》

Mike Oldfield :Moonlight Shadow(1983)より抜粋

 

あらゆる影を操る

(対象の影に本体が触れると、その影の形を自由に操ることができる糸を生成し、それに応じて影の持ち主の形も変形する)

糸型のスタンド

 

 

夜の場合で曇りの時は影だらけなので逆に対象となる影のみを捉えることができないので不利

しかし月が出ている際は別

 

 

破壊力 B

スピード B

精密動作性 A

持続力 B

射程距離 B

成長性 E

 

───────────────────

《フラットフィート》

Sammy Masters:flat feet(1956)より抜粋

 

スタンドが触れた物の凹凸をなくす

 

破壊力 A

スピード D

精密動作性 B

持続力 C

射程距離 C

成長性 C

 

───────────────────

《ザ・フェイク》

Alexander O'Neal:fake(1987)より抜粋

 

スタンドが触れた物体の複製を一つ作り出す。

複製された物は元の物体の性質・能力を完全に再現することが可能であり、仮に人間に触れた場合は元になった人間と全く同じ自我を持ったコピー体が作り出される。

 

しかし触れた物はその状態のままでしか作り出すことが出来ず、一部分だけを作り出すことは出来ない。

 

そして2つになった物同士が触れ合うか、1時間が経過するかで複製された側の物体は消滅する。

 

破壊力 E

スピード A

精密動作性 C

持続力 B

射程距離 B

成長性 C

 

───────────────────

《チープトリック・ウィークネス》

Cheap Trick(1973)

weakness(弱体化)より抜粋

 

原作の取り憑き変える際に精気を吸い取る能力は失われ、代わりに周囲にいる生物(自身の身長より大きいものに限る)に自由に取り憑いたり離れたりすることができ、更に任意で取り憑いた対象の体調を悪化させる能力を会得。

また、チープトリック・ウィークネスに一度でも取り憑かれた対象はスタンドを視認する事が可能になる

 

 

破壊力 E

スピード E

精密動作性 D

持続力 A

射程距離 C

成長性 E

 

───────────────────

《スターチャイルド》

White Wizzard: starchild(2011)より抜粋

 

本体をあらゆる環境に適応させる、変幻自在のスタンド

水の中であれば本体をおおうように形状が変化し、両手足にカモノハシのようなヒレが生える

 

破壊力 E

スピード C

精密動作性 A

持続力 B

射程距離 E

成長性 A

 

 

 

《ホワイトウィザード》

White Wizzard(2007)より抜粋

 

対象となるスタンドの能力とは真逆の力を有する能力を使用出来る人型のスタンド。

しかしこれはオリエット自身が対となる能力を思いつかなければならないため、想定範囲外の明確な対処法等がない能力が相手の場合は全くの無力となる

 

破壊力 C ※

スピード C ※

精密動作性 C

持続力 C

射程距離 C

成長性 C

 

※変化した対象のパラメータに応じて変化

 

 

 

 

 

《ホワイトウィザード・レクイエム》WWR

 

本体と本体が仲間と認識する者に対するあらゆる敵意や災を、対象となる者・スタンドに跳ね返す

 

 

1・ホワイトウィザードの強化版として対象のスタンドの能力と同等・又は完全上位互換の能力を使用できる

2・上記の能力

 

 

 

胸部にはスタンドの矢のビジョンが描かれている

 

 

 

破壊力 なし

スピード なし

精密動作性 A

持続力 A

射程距離 A

成長性 E

 

 

 

───────────────────

《スペース・イーター》

Gamma Ray: Space eater(1995)より抜粋

 

手で触れた物を好きなタイミングで、数十秒間のみ最大10倍の大きさにまで巨大化させることができる

また、同時に物体の性能もその倍率に比例して強化される。

しかし生物には効果がない

 

破壊力 B

スピード A

精密動作性 A

持続力 C

射程距離 A

成長性 D

 

───────────────────

《グラウンド・ホッグス》

Browns: Ground Hog(1961)より抜粋

 

一定時間の間、固体を液状化、又は液体を固体化させる

 

破壊力 D

スピード B

精密動作性 C

持続力 B

射程距離 C

成長性 E

 

───────────────────

《ハートハッドウィンドーズ》

Patty Loveless: If My Heart Had Windows(1988)より抜粋

 

起こした風を増幅・拡散させる

また、風が流れる向きを変えたり、一点に集中して撃ち出すことで驚異的な貫通性を発揮する

 

破壊力 B

スピード A

精密動作性 C

持続力 C

射程距離 B

成長性 D

 

───────────────────

《フェイス・ダウン》

嵐:Face Down(2012)より抜粋

 

群体型のスタンド

対象の身体に纏わせ、本体の命令通りに取り付いた対象の行動を支配する

死体に纏うことにより、まるで生きているかのように操ることも可能

 

 

破壊力 D

スピード C

精密動作性 A

持続力 B

射程距離 D

成長性 E

 

───────────────────

《ウェイ・アウト・ウェスト》

Sonny Rollins :Way Out West(1957)より抜粋

 

対象の身体を一定時間の間その向きから動かせないようにする(物に対しても有効)

さらに歩いていた場合、対象の意思関係なく対象はその方角へと歩き続ける

 

破壊力 B

スピード D

精密動作性 D

持続力 B

射程距離 B

成長性 C

 

───────────────────

《サーチ・オブ・トゥルース》

Barry Manilow: In Search Of Love(1985)

Survivor: Moment Of Truth(1984)より抜粋

 

本体が直視した相手の名前・性格・能力など、様々な情報がわかる

しかし一度に大量の情報が入ってくるので10秒もすると頭がパンクする欠点がある

通常時は大人体型の人型スタンド、能力発動時は自動的にスタンド像が消滅(移動)して瞳の中に入る

 

 

破壊力 D

スピード A

精密動作性 C

持続力 E

射程距離 B

成長性 D

 

───────────────────

《ザ・ノイズ》

Public Enemy: Bring The Noise(1988)より抜粋

 

本体が発した「音」の大きさによって威力が変わる衝撃波を放つ

標的に聞こえる域を上回る周波の音を発し、相手に頭痛を発生させたり、暗闇等での視界が利かない場所での障害物の有無を確認するためなどにも使える

 

 

破壊力 E〜A

スピード A

精密動作性 E

持続力 D

射程距離 B

成長性 D

 

───────────────────

《スパイタル・フィールド》

Spitalfield(1998)より抜粋

 

本体の姿を直接、もしくは写真や映像などを通して目視した対象の意思を支配する

ただし完全に支配して操るには、累計で1時間以上視界に入れさせなければならない。

なお、数秒間でもアルバースの姿が視界に入った対象は『見たい』という感情が強く出る。

 

しかし支配し切れていない対象が本体の姿を1日以上見ていない状態が続くと、この能力の効果はリセットされる

 

 

破壊力 A

スピード A

精密動作性 E

持続力 C(完全に支配した対象に対しては♾)

射程距離 A

成長性 D

 

───────────────────

《サイン・オブ・ザ・タイムズ》

Prince: SIGN O' THE TIMES(1987)より抜粋

 

世の中のありさまを覆す

つまり本体が命じればどんな不可能なことも射程距離内にいる限り可能になる

 

勝てと言えば絶対にどんなことがあろうとも必ず勝つことができる

 

 

破壊力 E

スピード A

精密動作性 B

持続力 E

射程距離 B

成長性 C

 

───────────────────

《ノー・オーディナリー・メモリーズ》

Bill Anderson: No Ordinary Memory(1987)より抜粋

 

対象が過去に体験した中で1番精神的・身体的ダメージを負った出来事を思い出させる

さらに当時感じた感覚をも再現させることが可能

 

破壊力 A

スピード C

精密動作性 A

持続力 C

射程距離 C

成長性 D

 

───────────────────

《タッチ・バイ・ザ・ハンド》

New Order: Touched By The Hand Of God(1987)より抜粋

 

直前に触れた、もしくは見た機械の能力を使えるようになる

 

破壊力 E

スピード C

精密動作性 B

持続力 C

射程距離 D

成長性 B

 

───────────────────

《スプレッド・イット・オン・スィック》

Gentrys: Spread It On Thick(1966)より抜粋

 

触れたものの面の奥行きの厚さを変える

人体に使用しても生命活動には影響はない

素の厚さの10倍〜1/10までの範囲であれば自由に操作可能

 

 

破壊力 C

スピード C

精密動作性 B

持続力 B

射程距離 C

成長性 D

 

───────────────────

《フリック・オブ・ザ・スイッチ》

AC/DC: Flick Of The Switch(1983)より抜粋

 

設置式ボタン型のスタンド

 

スタンド自体は赤いボタンだが、それを設置した部屋(密閉されている空間)自体をスタンドの一部にすることができる。

能力はボタンを設置した部屋の状態を、本体が直接ボタンを取り外さない限り永久的(本体が死亡後も持続する)に保存させるというもの。

外部から持ち込まれた物は1時間が経過すると自動的に排除(消滅)し、また運び出されたものに関しては部屋の外に出てから1時間が経過すると、その物に直接触れているものを巻き込んで室内へとワープする。

ただし部屋に入ったのちに1時間が経過する前に退室することにより消滅は解除される。

 

 

破壊力 なし

スピード なし

精密動作性 A

持続力 A

射程距離 B (部屋全体の広さ分)

成長性 C

 

───────────────────

《ブライト・アイズ》

Art Garfunkel: Bright Eyes(1979)より抜粋

 

スタンドが触れた部分に2つの目を生成させ、その場から可視可能な限りの範囲内で過去に起きた出来事をスクリーンのように映像化させる

 

 

 

破壊力 D

スピード C

精密動作性 B

持続力 A

射程距離 C

成長性 C

 

───────────────────

《ザ・サウンド・オブ・サイレンス》

Simon & Garfunkel: Sound Of Silence(1966)より抜粋

 

写真や映像など、対象とする者の顔が映るものであれば発動可能

そこに映る対象にスタンドが触れる事で、その対象の身に付けている物や周囲にある「音」を発する物が騒々しく鳴り出して場所を知らせる

無生物に対しても有効ではあるが、その物体自体が複数存在している場合はそれら全てに能力が発動してしまうため厄介ではある

 

破壊力 E

スピード B

精密動作性 D

持続力 C

射程距離 A

成長性 B

 

───────────────────

《フォービドゥン・カラーズ》

Ryuichi Sakamaoto & David Sylvian: Forbidden Colours(1983)より抜粋

 

触れたものの色を変えたり、周囲の人間の色彩感覚を失わせる

 

破壊力 D

スピード B

精密動作性 B

持続力 B

射程距離 A

成長性 C

 

───────────────────

《皇帝(エンペラー)》

タロットカード:皇帝より抜粋

 

回転式拳銃とそれに装填される弾丸型のスタンド。

弾丸の軌道を自在に操る能力を持ち、弾丸もスタンドのため無制限に装填され続ける。

本編である3部終了後からの数年の鍛錬により、成長性Eながらも本来有視界内程度であった射程距離が強化され、貫通力と弾丸の届く範囲が広がった。

そしてホルホースの意思によって弾丸を透過させることが可能になったが、射撃対象と物体との間が狭いと解除するタイミングをうまく図ることができずに気付かれてしまうので、相手の位置を把握していないと暗殺には少々不向き。

 

さらに精密動作性は相変わらずであり、遠距離からの射撃となるにつれて予期せぬ弾道のズレに悩まされている様子。

 

破壊力 B

スピード B

精密動作性 E

持続力 C

射程距離 A

成長性 E

 

───────────────────

《ビューティフル・ライア》

Beyonce & Shakira: Beautiful Liar(2007)より抜粋

 

射程距離内にいる対象に幻覚を見せる

ティナー・サックスのように5感全てに対応はしておらず、さらに触れてしまえば元になった物体へと戻ってしまう

しかし無から生物の幻覚を創り出せ、自由に動かすことが可能

 

 

破壊力 E

スピード D

精密動作性 B

持続力 C

射程距離 A

成長性 E

 

───────────────────

《ブレイクアップ》

Greg Kihn:Break Up Song(1981)より抜粋

 

触れたものに浮力を与える

どんなに重いものでも浮かせることができ、逆に元から浮いているものに関しては浮力を奪うことが可能

 

 

破壊力 B

スピード C

精密動作性 D

持続力 B

射程距離 B

成長性 C

 

───────────────────

《ミューチャル・アドミレーション》

Teresa Brewer: Mutual Admiration Society(1956)より抜粋

 

スタンドが触れた物体同士の距離を操作する

スタンドが右手で触れたもの同士は距離を縮め、左手で触れたもの同士は距離を遠ざける

 

 

破壊力 C

スピード D

精密動作性 C

持続力 C

射程距離 B

成長性 B

 

───────────────────

《リプレイス・ユア・ハート》

The Wanted: Replace your heart(2013)より抜粋

 

本体の視界に入る人物1人を指定して発動する。

その者が現在行っている動作を射程距離内にいる他の人物と入れ替える

 

 

破壊力 C

スピード A

精密動作性 C

持続力 B

射程距離 B

成長性 D

 

───────────────────

《オブリヴィオン・ダスト》

OBLIVION DUST(1996)より抜粋

 

対象の頭部にスタンドが触れることで、その対象の過去の記憶を架空の出来事で上書きする事ができる

ただし記憶のみが塗り替えられるだけであるため、実際に起こってしまったものは変える事ができない

 

例として、怪我をしたという過去の記憶に対して「怪我をしてはいない」と能力を発動した場合、対象はその記憶が消失したと同時に痛感もなくなる

しかし対象は記憶が塗り替えられる前に起こった「怪我をした」という結果だけが残っている状態となり、自身がなぜ怪我をしているのか理解できない

 

 

 

破壊力 D

スピード B

精密動作性 C

持続力 A

射程距離 D

成長性 C

 

───────────────────

《ホルス神》

エジプトの太陽神ホルスより抜粋

 

チープトリックとの連携で敵陣地の偵察や通訳などチープトリックの活躍が広がり、なおかつ低酸素状態の環境でも戦闘を続行できるため、スターチャイルドとの共闘が可能。

全体的な万能性・戦闘力の高さがポイント

怒り状態になると下記のアイス・ホルアクティへと変化する

 

氷と冷気を操る。

本来のスタンド像はプテラノドンのような外観をしている。

肋骨の部分から車を爆発させるほどの氷柱のミサイルを射出したり、冷気を発して周囲を氷結させ身動きがとれないようにする事も出来る。

また自身の傷を凍結させて止血も可能であるなど、様々に応用が利く能力。

 

 

破壊力 B

スピード A

精密動作性 E

持続力 C

射程距離 D

成長性 C

 

 

 

《アイス・ホルアクティ》

ice+ラー・ホルアクティより抜粋

 

原作では精密動作性Eのため単純な攻撃しかできなかったが、本編ではその冷気で体を纏って武装した一時的な強化形態になることができる。

破壊力はもちろんのこと、防御面も大幅に強化されている。

氷の防壁の生成や巨大な氷塊による質量攻撃。

さらには常時冷気を発しているため、対象が本体に近づけば近づくほど凍傷などにより体力を削ることができる。

 

破壊力 A

スピード A

精密動作性 B

持続力 E

射程距離 C

成長性 E

 

───────────────────

《アラウンド・ミラーズ》

Lefty Frizzell: I Never Go Around Mirrors(1974)より抜粋

 

両手や背中が鏡となっているスタンド

その鏡に対象が映り込み、攻撃を仕掛けてきたら発動する

その対象と瓜二つのヴィジョンが鏡の中から現れ、攻撃(能力も)を等倍で打ち返す

また、視界に映るものであれば10数秒の間ではあるがどんなものでも鏡に変えることができ、その物体とスタンドを通してワープが可能

 

ただし鏡がない死角からの攻撃には対応できない

 

ホルホースとの連携により、エンペラーの弾丸を鏡を通して対象の死角へワープさせたりなどが可能

 

破壊力 C ※反射する攻撃により変化

スピード B

精密動作性 E

持続力 C

射程距離 B

成長性 C

 

───────────────────

《エーメン(Are You Happy?)》

Woody Herman: Amen(1942)より抜粋

 

敵キャラ

これから起こるあらゆる出来事を幸福なものへと替える

ただし幸福へと替えることのできる回数は1人につき5回までであり、それ以上替えようとすると対象はそれまでの幸福分の不幸を一度に受ける

 

 

破壊力 E

スピード E

精密動作性 E

持続力 A

射程距離 E

成長性 E

 

───────────────────

《レインボー・コネクション》

Muppets: Rainbow Connection(1979)より抜粋

 

スタンドが触れたもの同士を融合させ、それぞれの性能を合わせた別のものを創り出す

 

破壊力 C

スピード B

精密動作性 A

持続力 B

射程距離 B

成長性 D

 

───────────────────

《バーチャル・インサニティ》

Jamiroquai: Virtual Insanity(1992)より抜粋

 

指定した物体に対象が触れると、その対象に麻薬中毒末期障害の症状を発揮させ、指定した物体に対する欲求を満たすまで凶暴化させる

 

 

破壊力 B

スピード A

精密動作性 D

持続力 A(満たすまで)

射程距離 A

成長性 B

 

───────────────────

《フランティック・シチュエーション》

Afrika Bambaataa: Frantic Situation(1984)より抜粋

 

指を指した対象の人物と本体の場所を入れ替える

ひとの身になるたちばがん参考

 

 

破壊力 C

スピード B

精密動作性 D

持続力 C

射程距離 B

成長性 B

 

───────────────────

《ユナイテッド・ウィ・スタンド》

Brotherhood Of Man: United We Stand(1970)より抜粋

 

触れた対象と自身を一定時間の間、何者にも干渉出来ない虚無空間に転送させる

 

後のヴィンセント・ウォーカー氏

 

破壊力 E

スピード A

精密動作性 E

持続力 B

射程距離 E

成長性 A

 

───────────────────

《妖滅刀アヌビス神》

エジプト神話 冥界の神アヌビス神より抜粋

 

刃で負傷させた相手の異能力やスタンド能力を

コピーする(無制限)

戦った相手のスタンドパラメーターに依存して

自身のパラメーターを成長させる

 

破壊力 E

スピード E

射程距離 E

精密動作性 E

持続力 E

成長性 ∞

 

───────────────────

 

《キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン》

 

スタンド像は3人の少女のような姿をしている。

射程距離内の全ての人物と1時間のかくれんぼをし、本体を見つけられなかった場合には参加した人物それぞれから五感のうちの一つを奪う。

見つけられた場合は逆に五感を強化してくれる

 

 

破壊力 なし

スピード C

射程距離 A

精密動作性 B

持続力 A

成長性 D

 

───────────────────

 

《ザ・ウェラーマン》

 

 

 

 

破壊力

スピード

精密動作性

持続力

射程距離

成長性

 

 

 

───────────────────

 

《ザ・ウェラーマン》

 

 

 

 

破壊力

スピード

精密動作性

持続力

射程距離

成長性

 

 

 

─────────────────────

 

 

《システム・オブ・ア・ダウン》

System of a Down(1994)より抜粋

 

無限に時間を遅くする

自身に使えば老化防止、ダメージを受けた際には痛みがわずかに感じる程度にまで痛感を遅らせることが出来る

相手の反応速度等にも使用でき、脳から発した信号が伝わるのを送らせて、安易に避けることのできる攻撃等に反応できなくさせる

 

破壊力 A

スピード ♾

精密動作性 C

持続力 A

射程距離 C

成長性 B

 

 

 

 

《Bring your own bombs (B.Y.O.B)》

【爆弾は(死ぬのは)お前ら持参(自身)だ】

System of a Down : B.Y.O.B.(2005)より抜粋

 

ありとあらゆる物事に干渉して操作ができ、自身に対する全ての干渉を無効化させる。

 

破壊力 なし

スピード なし

精密動作性 なし

持続力 なし

射程距離 なし

成長性 なし

 




以上のほかにキャラ設定とか考えてたら本文全然作ってなかった((


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

〜異世界転移編〜
第1話 伝説の始まり 同僚は矢じりと惹かれ合う


何処にでもあるような平和な街《杜王町》

そんな閑静な朝の住宅街を、1人の男は歩いていた。

ボサボサの髪と、だらしない服装をしたこの男の名は【同僚】

とある事情により名前は仮名となるが、どうか許してほしい。

 

「あいつは戻ってくるんだ……無事に帰ってくるんだ……」

 

亀友チェーン店に勤めている同僚は、同期の【吉良吉影】という男を気にかけていた。

時には家に招いてゲームをしたり、またある時は会社の仲間と一緒に旅行したりもした仲だ。

だがある時を境に、それは終わりを告げてしまう。

 

それは【吉良吉影の失踪】だった。

 

彼がいなくなる前日、同僚は血まみれの吉良と会っていた。

頭から血を流しているその姿を見てすぐに救急車を呼ぼうとしたのだが、吉良は「大丈夫だ。心配いらない」の一点張り。

親友というほどの仲ではなかった為か、同僚もそれ以上吉良に対して声をかけてやれなかった。

 

「………クッ…!」

 

あの時、無理矢理にでも引き止めておけば良かったと今になって後悔している。

だが過ぎ去った過去はどうやっても変えることは出来ない。

それがこの世界の理であり、運命なのだ。

 

「おっと……そろそろ走らないとまずいな……」

 

ふと視線を上げると、小さな時計台が目に映り込んできた。

出社時間まで後10分弱しかないことに焦りを感じた同僚は、服を着直してネクタイをギュッと締め、勢いよく地面を蹴って走り出す。

 

 

と、その時だった───

 

 

「吉影ェェェエ!!!」

 

同僚が走り出した瞬間、直ぐ隣にある極普通の一軒家から誰かの断末魔が聞こえてくる。

一体何があったのだろうと、同僚は足を止めてその声が聞こえた家へ視線を移した。

 

「ど、どうし───うわっ!?」

 

そして間髪開けずに荒々しい爆発音が続き、家のあらゆる場所から黒々とした煙が立ち上る。

 

「「なんだなんだ?」」

 

「「何あれぇ〜!」」

 

先程の爆発音を聞いた近所の住民らが、次々と家から飛び出してくる。

同僚の横を通って爆発した家へと集う野次馬は、どこか楽しげにも見受けられた。

 

「こんな時に何を面白がっているんだッ……!」

 

人間というものは、無意識のうちに常日頃から何かしらの刺激を得ることで生きてきている。

退屈のない人生は、人類が夢見る境地なのだと、どこかの偉い学者が言っていたのを思い出した。

 

「早く消防車呼ばなきゃ……吉良の時と同じ失敗はしないッ!!」

 

ポケットから携帯電話を取り出した同僚は、急いで119番通報をする。

そして遠くから消防車のサイレンが近づいてくるのを聞き、同じような過ちを繰り返さなかったことに安堵した。

 

「怪我人が居なければいいんだがな……」

 

そう呟いて携帯電話をスーツのポケットにしまい込む。

 

「おっとマズイ。あと5分しかないじゃあないかッ!」

 

再び時計台を見た同僚は、目を見開いて額に大量の汗をかく。

爆発現場がどうなっているのかとても気になるが、会社に遅刻するわけにはいかない。

会社帰りにでも確認は出来る、そう結論付けて会社へと向か─────

 

「んぐッ……!?」

 

おうとした。だがッ!!

 

「な、なんだこれはッ!?」

 

味わったことのないような激痛を感じ、同僚は腹部を確認する。

すると、同僚の横腹に矢のようなものが突き刺さっていた。

その存在に気付いた同僚は何が起きたのか分からない状態でそれを見つめる。

だが湧き出す恐怖感と生命の危機に、総毛立つような顔色で矢に手を伸ばした。

しかし同時に勢いよく動き出した矢は同僚の手をすり抜け、徐々に体の中へと入り込んでくる。

ジンジンと体が熱くなるにつれ、服の下から滲みだす赤い液体は広がっていく。

 

「ぁ……ぁ…」

 

目の前に広がる景色がぐるぐると渦を巻き、同僚は堪らず膝から崩れ落ちた。

視界がゆっくりと中心へ向けて狭まっていき、それに比例するかのように周りの音が段々と遠くなっていく。

 

「(吉良………)」

 

そして目の前が完全なる闇に閉ざされる寸前、同僚の脳裏に浮かんで来たのは吉良との楽しかった思い出の日々だった─────



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 同僚は調子に乗りやすい

「………んぁ?」

 

暗闇から解放された同僚は、そうなんとも間抜けな声を上げ、ゆっくりと目を開ける。

ぼんやりとしていた視界が良好になるにつれ、今自分が立たされている状況を理解し始めた。

 

「ここは一体どこだぁ?」

 

辺りを見渡すと、見覚えのない広大な緑の大地が広がっていた。

透き通るような青い空、そしてゆったりと流れていく白い雲。

それは今いるこの世界が、意識を失う前にいたあの世界とは全くの別物であるということを訴えかけているように同僚は感じた。

 

「こんな時はまず状況判断だな。えーっと、会社に行くときに民家の爆発に気を取られて………確か変な矢が横腹に刺さったんだよな……」

 

今自分が置かれている状況を把握するために、これまでの時間を振り返る同僚。

脳内で鮮明に覚えている あの死ぬ程の激痛はいつのまにか消えており、実際に自身の横腹を確認するも、刺された筈の傷跡は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「おっかしいな。一体全体どうなってやがる……いてっ!イッテェェ!!」

 

これは夢だ。

そう思った同僚が、両手でほっぺを摘んで横へグイ〜っと引っ張ってみる。

我ながらよくこんなベタなことをしたなとは感じているが、痛みくらいでしか確認が取れないと思ってのことらしい。

そして案の定、ジンジンと痛み出したほっぺに涙を流しながら、今体験していること感じていること全てが現実のものである事を確信した同僚は、自身の安全を確保する為にと周囲の探索を始めた。

 

「それにしても、随分とファンタスティックな世界だな……これじゃあまるで───」

 

《ぽぎゅっ!》

 

「ん?何か踏ん───」

 

歩き出して僅か数歩足らず。

足裏から伝わる柔らかな感触と鳴き声を聞いた同僚は、ゆっくりと視線を地面へと向ける。

するとそこには顔を踏まれて体を激しく揺さぶる、ハリモグラと思わしき生物がいた。

 

───いや、ハリモグラにしては異常なまでに発達した両前足が目立つ。

 

「な、なんだこいつッ!?」

 

その謎の生物を目の当たりにした同僚は、素早く足を引っ込めて距離を取る。

すると頭を抑えつける足の拘束から解放された謎の生物は、全身に生えた棘を逆立てて同僚を威嚇した。

シュー、シュー、と荒い呼吸を繰り返す姿を見る限り、同僚に対して怒り……いや殺意さえ抱いているようだ。

 

「ひ、ひぃっ……!

 

目の前の脅威から感じる生命の危機に、同僚は冷や汗を流しながらゆっくりと後退る。

熊と遭遇した時などに背中を見せて逃げると良くないと聞いていたが、果たしてこの謎の生物にそれは通用するのだろうか?

逆にこの姿勢のままでは、謎の生物が襲いかかってきたら反応し切れずにザックリと逝ってしまうかもしれない。

だが相手の素早さを把握していない状態で、不用意に逃げるのは危険すぎる。

 

「(れ、冷静に考えるんだ……何事も冷静に対処すれば大丈夫なんだッ……! 落ち着け……落ち着け……ドウドウドウ……)」

 

謎の生物につられるように、ハァ…ハァ…と荒くなる同僚の呼吸。

だが着実に間合いを取っていることに、少しずつだが心は落ち着きを取り戻そうとしていた。

 

「(よし良いぞ……このまま離れていけば───)」

 

《ギュゥゥゥ……》

 

「…………」

 

だがそれを許すまいと、背後から聞き覚えのある鳴き声が聞こえてくる。

同僚はその異常事態に言葉を詰まらせ、恐る恐る顔だけを振り向かせた。

するとそこには先ほど見た謎の生物とそっくりの個体が、態勢を低くしてこちらを睨みつけていた。

 

「う、うわぁぁぁぁあ!?」

 

あまりの恐怖に声を抑えられず、同僚は叫び声をあげて尻餅をつく。

するとそれを合図とした謎の生物は、大きく口を広げて同僚の首元目掛けて飛びかかってきた。

舞い散る大量の唾液を見て、確実に自分を捕食対象としか見ていないであろう謎の生物。

こんな死に方は絶対に嫌だ。

そう思った同僚は無駄なあがきと知りながらも、目を固く閉ざして最後の抵抗と言わんばかりに両手を振り回した。

 

その時だった────

 

「!?」

 

全身に強烈な電気が走ったかと思うと、何かが地面に倒れ落ちる音がする。

そして体を震わせながら片目を開けた同僚は、そこで口から血を吹き出して絶命している謎の生物を目撃した。

その腹部には、巨大な握り拳で殴られた跡がクッキリと残っていた。

 

「な、なん……え?これ……俺がやったのか……?」

 

目をつぶっている間に何が起こったかは不明だが、これではっきりしたことがある。

1つ──今の自分は何らかの影響により、このおかしな世界に転移してしまったこと。

そしてもう1つ。

異世界転移ならではの特別な力を持っているということッ!!それだけッ!!

 

「おうおう、よくも俺をビビらせてくれたなぁハリクソモグラ野郎。痛い目に遭いたくなきゃさっさと逃げるんだなぁ〜〜?」

 

「ギ……ギギ…」

 

余裕のある顔つきで近づいてくる同僚に、もう一匹の謎の生物は態勢を低くして威嚇する。

 

「やめとけ!やめとけ!究極生命体と化した俺に、お前のチンケな攻撃は効かないんだ」

 

腰に手を当ててニヤリと笑う同僚。

そして甲高い鳴き声を発した謎の生物は、超脚力を持って天高く舞い上がり、落下スピードを駆使して上空からの攻撃を仕掛けてきた。

 

「やれやれ。言葉は通じるんだか通じないんだか……」

 

《ギッシャァァァア!!》

 

広げた前足の爪が横へと伸び、細長い刃物のようなものへと変化する。

 

「へぇ〜そんなこと出来るのか。凄いな……だが所詮、この俺の前では無力よッ!!」

 

風を切りながら迫り来る謎の生物。

だが同僚は空を見上げながら、一歩たりともその場から動こうとはしなかった。

『真っ正面からぶっ飛ばす』そう心に決めていたからだ。

 

「おおッ! なんだか演出もいい感じだなぁ!」

 

拳を引き、両手に力を込める。

すると不思議なことに、体の周りに波打つように揺れ動くオレンジ色のオーラが現れた。

 

「よぉし!異世界転移の力、見せてやるぜッ!!」

 

声高らかにそう叫び、同僚はこれから始まる異世界生活に心を弾ませる。

 

 

だが同僚はまだ知らなかった……

とある者たちにしか見えない【スタンド】という存在を────



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

〜旅立ちの町バルティアン編〜
第3話 新たなスタンド【マインドクローン】


今回は少し、ほんの少しだけ長めです。
キャラクター紹介欄に、同僚とスタンドの先行詳細を載せておきました。


「俺の拳よッ!聖なる力で敵を打ち倒せッ!」

 

自分で言ってて恥ずかしいレベルの発言だったが、今の同僚にはそんな恥じらいの気持ちを打ち消す程の心の高ぶりがあった。

何せ夢にまで見た異世界で、自身に宿った不思議な力を使ってモンスターと戦っているのだから。

 

「今だッ!喰らえッ!!」

 

敵との距離を見極め、攻撃の届く範囲内に対象が入った瞬間、同僚は力強く握りしめた拳を叩き込む。

右ストレートが謎の生物の顔面に直撃するや否や、自分の腕に重なるように半透明な腕が現れた。

何事かと驚いていると、謎の生物は体をくねらせて悲痛な鳴き声を発しながら地へと落ちて動かなくなった。

 

「な……なんだこ───あれ?」

 

撃破されて絶命した謎の生物を横目に、同僚は視線を落として両腕を確認する。

だがそこにはもう、あの不気味な腕は存在していなかった。

更にそれと連動するかのように、いつの間にか周りに漂っていたオレンジ色のオーラも消えている。

 

「………なるほど」

 

自分の身に起こった様々な異変を振り返った同僚は、とある1つの結論に至った。

それはこの力が自分自身のものではなく、先程の不気味な腕の持ち主の力であったというものだった。

異世界へと転移した衝撃で、魂を持つ何者かに取り憑かれてしまったのだろう。

ただでさえ何が起こるか分からない転生や転移だ。

こういった事例もありうるのだろう。

 

「こうか……?ふんっ」

 

再度両腕に力を込め、側にいる見えない何者かを呼び起そうとする。

すると同僚の思いに答えるかのように、周囲にオレンジ色の波打つオーラが現れた。

そして体から魂が抜けていくような感覚に襲われた直後、両腕のすぐ傍に例の不気味な腕が出現する。

それは同僚の動作に連動して、同時に同じ箇所の指を動かしている。

 

「これは凄い……試してみるか」

 

秘めたる可能性を感じた同僚は、その腕に向けて脳内で指示を出してみる。

するとその腕は同僚の指示に従い、激しい動作から繊細な動作まで難なくこなして見せた。

 

「攻撃や防御も出来る……なんだか守護霊みたいだな!」

 

自身がパワーアップした訳ではないが《不思議な力を持った》という事実が同僚を喜ばせた。

十数秒ほど見つめていると、オレンジ色のオーラは徐々に空中へと消えて行き、その腕は同僚の腕にゆっくりと吸い込まれる。

どうやら取り憑いている者が体から現れ、この世界で行動出来る時間は限られているようだ。

 

「心で通じ合う……心の分身……マインド……クローン……」

 

顎に手を当てて空を見上げる。

 

「マインドクローン!よし、お前の名前はマインドクローンだ!宜しくな!」

 

自分の腕を叩いて、これから先の生活を共に歩んでいく《相棒》とも言える存在に名前をつけた同僚。

まだ片手しか見てないが、いつかはその素顔を見せてくれるのだろうか?

そんなことも一種の楽しみとして心に抱き、同僚は気持ちを新たに歩き出そうとする。

 

「gtwp4ps!」

 

「ん?」

 

と、その時、ふいに背後から聞いたことのない声が聞こえてくる。

振り向くとそこには、1匹の大きなトカゲを引いた荷車が止まっていた。

 

「aqt4t7?」

 

「え?」

 

「…………」

 

荷車の上に胡座をかいて座っている白髪のお爺さんが、無言のまま手招きをしている。

その不気味さに少々警戒つつも、同僚は初めて出会った人間にゆっくりと近づいて行く。

 

「mpk8ai65!dpq19s8m3?」

 

目の前に来るや否や、お爺さんが興奮気味な声で同僚に問いかけてきた。

何を喋っているのかは分からないが、どうやら生き絶えた謎の生物たちの姿に対してビックリしているようだ。

 

「あ、アイドンノー、ドント スピーク イングリッシュ〜」

 

アニメや漫画等の異世界では大抵日本語が使われることが多かったが、どうやらこの世界はそうではないらしい。

ならばと思い、同僚は片言の英語でお爺さんに会話は不可能であることを告げる。

するとそれを聞いたお爺さんは、腕を組んでしばらく考え込んだ末、ポケットの中から一粒の飴を取り出して同僚に投げ渡してきた。

口の中に放り込むような仕草をするお爺さんを見て、同僚は戸惑いながらもその飴を口に含む。

 

「(ん……何ともなんないぞ……?)」

 

特にこれといった事が起こらないことに疑問を感じた同僚。

再度お爺さんの方を見てみると、何やら飲み込むような仕草をしていた。

その指示に従って同僚が飴を飲み込むと、お爺さんが何度か咳払いして話し始める。

 

「儂の言葉がわかるかの?どうじゃ?」

 

「あ……」

 

同僚の驚いた表情を見たお爺さんは、胸をなでおろして満足そうに微笑んだ。

 

「ふむ。どうやら効いておるようじゃな。ハァ……共言の飴は安くないんじゃからの」

 

「あ……ありがとう…ございます」

 

《共言の飴》と言われた飴は、どうやら飲み込むとあらゆる言語が母国語に翻訳されて聞こえるようだ。

 

「お前さんがあのグランモたちを倒したのかい? 見たところ、武器無しで戦ったように見られるが」

 

「えぇ。まぁ、そうですね (グランモというのか……あの気味の悪い生物は)」

 

20代のころに吉良と一緒に遊んでいた、とあるRPGのゲームで授かった知識を活かして会話を進める。

大抵こういう序盤の会話の流れは掴めている。

まず初めに周りの状況を判断し、次に誰でもいいから人に会い、そしてその流れで街へ向かう。

この3つが大前提であり、揺るがぬ王道なのだ。

 

「あの、お尋ねしますが……ここから一番近い街は何処にあります?」

 

「ああ、街ならここを真っ直ぐ行った所にあるぞい。今から儂もそこに行こうとしていた所なんじゃが、乗っていくかい?」

 

チュートリアルのようにすらすらと進む物語に、同僚はクスリと笑ってお爺さんの手を取る。

車輪に足をかけて荷車に乗り込むと、所狭しと積まれている薬草のようなものを見つけた。

 

「お爺さん、この草は…」

 

「ああ、儂は薬屋をやっておってなぁ。それは治癒薬用の薬草じゃ」

 

見たことのない虹色に輝くその薬草に、同僚の目は釘付けにされる。

 

「そういえばお前さん、名は?」

 

「あ、同僚です。吉良の同僚って言います」

 

「キラノ ドウリョウ? 不思議な名前じゃの……あぁ、儂のことはラヴァンとでも呼んでくれ」

 

同僚と軽く自己紹介を交わしたラヴァン爺さんは、同僚の頭の上から靴のつま先までをまじまじと見つめる。

やはりこの服装は異世界では珍しいもののようだ。

いざとなったらこの服をマニアか何かに高値で売って儲けようと、同僚は下心丸出しで不気味に笑う。

 

「さ、そろそろ出発するぞい。しっかり捕まっておれ。落ちても知らぬぞ!」

 

「あ、ちょっ!まだ体勢がぁ〜〜!!」

 

そう言い放ったお爺さんは、トカゲに鞭を打って再び荷車を走らせる。

野太い叫び声が響き渡る草原には、爽やかな風が吹いていた────



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 奇跡の再会 共に引かれ合う者たち

今回も長らくお待たせ致しました為、通常の2.5倍の長さになります。



陽光が照らす爽やかな道を、荷車に揺られながら同僚は行く。

程なくして見えてくる木で出来た橋を渡ると、ゲームで嫌というほど見てきた光景が広がる大きな街へと辿り着いた。

異世界定番の中世ヨーロッパ風の街並みに、同僚は目をキラキラと輝かせて身を乗り出す。

 

「ここに来るのは初めてのようじゃな。この街の名は『バルティアン』と言ってな、冒険家たちの旅立ちの街として有名なんじゃよ」

 

辺りを物珍しそうに見渡す同僚を見て、ラヴァン爺がそう得意げに話し出す。

【冒険家】という単語が出てきたことに少し驚いたが、辺りを見渡せばそれも納得がいく。

何せ街を行き交う人々は皆、鎧やら黒一色のローブやらと異様な出で立ちであったからだ。

獣人族と思わしき者は見受けられないが、時折耳が尖ったエルフ族と思われる者はちらほらと視界に映り込んでくる。

 

「ここでしか手に入らないアイテムも沢山あってのぉ〜遥々何千キロと遠くから来る者も多いと聞く」

 

「ひぇ〜!それは凄いなぁ……」

 

何はともあれ、異世界を冒険するスタート地点としてはうってつけの場所のようだ。

これから色んな仲間を増やして、最後にはハーレムでも築くのも悪くない。

 

「へっ……ぐへへ……」

 

「ど、どうしたんじゃ……」

 

心配そうに顔を覗き込むラヴァン爺。

同僚はそんな彼に顔色1つ変えずに不気味に笑ってみせるのだった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、着いたぞ。あいたた……荷車は腰にくるの〜」

 

巨大なトカゲの口にはめた轡に繋いである手綱を強く握り、3回手前に引いて止まらせる。

腰を抑えながらゆっくりと地面へと降りるラヴァン爺に続き、同僚も荷台から飛び降りた。

目を瞑って大きく息を吸い込み、異世界の空気というものを堪能する同僚。

その横を通って一軒の建物に入っていくラヴァン爺は、両手で荷台に乗せてあった薬草を大事そうに持ち運んでいる。

 

「ここがラヴァンさんの言っていた薬屋か。随分と古そうだな……それにしてもなんだこの文字は?」

 

同僚の背後に建つ古ぼけた建物は、壁や天井などあらゆる所に蜘蛛の巣があり、思わず入るのを躊躇ってしまう程だ。

視線を逸らしてそばに立てかけてある看板を見る同僚。

しかしそこにはカタカナを上下左右反転させたような奇妙な文字が並べられていた。

ラヴァン爺から受け取った共言の飴の効果で言語は理解することが出来たが、どうやら文字だけは勉強するしかないようだ。

 

「はい、どうぞ。これで全部ですよ」

 

わざわざ乗せてもらって何も恩返しをしないというのは、人間の道徳に反することだろう。

ならばと思い、同僚は少しでもラヴァン爺の手伝いをしようと、【マインドクローン】にも薬草を持たせて店内へと運び入れさせた。

 

「おぉ、すまないな同僚くん」

 

「いえいえ。これくらい俺にも出来ますからね〜!」

 

カウンターで何やら忙しそうに物を漁っているラヴァン爺に向けて言い、テーブルに置かれてある薬草の上に優しく重ねた。

 

「………なぁ、お前の姿と俺のこのオーラを見ても、ラヴァンさんは何も言わないよな?」

 

小声で《相棒》に語りかける同僚は、それまで不思議に思っていたことを口にする。

最初にラヴァン爺と出会った時、遠目であったとしてもハッキリと分かったはずだ。

しかしそれにも関わらず、そのことについて何も触れてこないというのはやっぱりおかしい。

他の人には見えないという仮説を立ててみるものの、未だ確信に迫るものがない。

 

「ら、ラヴァンさん!」

 

「ん?なんじゃ?」

 

それならば試してみるしかない。

引っ込んでしまった【マインドクローン】を今度はラヴァン爺さんの目の前でいきなり出現させてみる。

だが驚く様子は見せず、只々首を傾げて此方を見上げているだけだった。

 

「あ、あれ……?あのラヴァンさん、この腕とか周りにあるオーラって見えません?」

 

「どうしたんじゃ同僚くん? いきなり変な事を言い出して……すまんがちょいと席を外すよ」

 

そう言い残すと、ラヴァン爺は棚の奥から取り出した花瓶をカウンターに並べて、急ぎ足で2階へと上がっていってしまった。

心の中で作業中に悪いことをしたなと思いながら椅子に腰掛けた同僚は、先程立てた【非実体説】が正しいという事を再確認してクスリと笑う。

《相棒》やこのオーラは他人からは見えないという事実を目の当たりにし、様々な活用方法を教え始める。

しかし窃盗や腕相撲での反則行為など、思いつくのはどれも人の為になるようなものとは到底言えないことばかり。

 

「どうしたものか……」

 

頭を悩ませて立ち上がった同僚は、方向感覚を失ったかのように部屋の中をぐるぐると徘徊し始めた。

やがてその思考は壊れたラジコンのように前にも後ろにも進められなくなり、腕を組んで「ふーむ」と太い息をしたのち、これ以上考えても無駄だと判断して再び椅子に座り直す。

 

「同僚くん!そこらへんにある花瓶をカウンターに並べておいてくれんかの〜!」

 

2階から聞こえてくるラヴァン爺の声。

ふいに辺りを見渡すと、部屋の片隅や机の下、さらには待合室のソファーの上など、至る所に放り投げ出されたままの花瓶が転がっていた。

 

「あ、分かりました〜」

 

座ったばかりで立ちたくない気持ちを抱きつつも、同僚は重い体をなんとか動かして花瓶集めに駆り出す。

そして確認できる分の花瓶を回収し終えると、花瓶同士の幅が均等になるように並べていく。

 

「おお、すまんな。また働かせてしもうたわい」

 

「いえいえ、こんなもん朝飯前ですよ!」

 

ドタバタと騒がしい音を立てながら階段を下りてきたラヴァン爺は、カウンターに並べられた花瓶の中へ薬草を一本ずつ丁寧に入れていく。

 

「あの……それは一体何をしてるんです?」

 

「この薬草は水に浸けることで、その効力を高めることが出来るんじゃ。だからこうして花瓶に入れて患者さんが来た時に、いち早く対応出来るように備えておこうと思っての」

 

全ての花瓶に薬草を入れたラヴァン爺が、何かをふと思い出して手をパチンと叩く。

 

「おっと、そう言えば水道が壊れておったな……同僚くん、すまないが井戸から水を汲んできておくれ。場所は玄関を出てずっと左手に進むと共用のものがあるはずじゃ。これの半分ほど頼むぞい」

 

「そうなんですか……ならばこの同僚にお任せあれ!(水道はあるんだな。となるとある程度は自給自足の生活は送らなくて済むな)」

 

空っぽの状態の木製水汲みバケツを渡された同僚は、愛想よく返事をして早歩きで店を後にした。

勢いよく扉を開けて通りに出た同僚は、ラヴァン爺に言われた通り左へと体を向かせてひたすら歩き続ける。

周囲の人々の視線が痛いほど伝わってくる。

やはりこの世界ではスーツというものが大変珍しい衣服のようだ。

 

「ふん……」

 

ちょっとした優越感に浸った同僚は、堂々と道の真ん中へと出て態とらしくクールさを醸し出す。

そして歩くこと10数分ぐらいで、底の深い大きな井戸を見つけた。

覗き込んでみるも、太陽の光が届かないくらい深いようだ。

ポツンと置かれた紐をバケツに括り付けて井戸の中へと放り込むと、数秒後にバシャンと大きな音が鳴り響く。

そしてバケツが重くなってきたのを感じた同僚は、力一杯紐を引っ張り上げた。

なんとか汲みあげることに成功した同僚は、その鮮明な水を両手で掬って口へと運ぶ。

 

「な……なんだこれ……美味すぎるッ!!」

 

転移してから何も口に入れてなかった為か、この一杯がとても美味しく感じられた。

例えるならば、キリマンジャロ産のミネラルウォーターとでも言おうか?

 

「はっ!おっとまずい、花瓶に水を入れなくちゃあな」

 

あまりの美味しさについ我を忘れてガブ飲みしてしまっていた同僚。

腹が膨れてきたことで我に返って良かったが、このまま行けばもう一度汲み上げなくてはならない所だった。

見るとバケツの中には半量ほどの水しか残っておらず、これ以上減量してしまうと規定の量を下回ってしまう。

 

「危ねぇ……けどもう一杯……ぁぁ…やめとけ!やめとけ!ダメだダメだ……」

 

誘惑に負けてしまいそうな心に強く言い聞かせ、同僚は店で待つラヴァン爺の元へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中の水を零さないよう注意しながら足早に店の前まで帰ってきた同僚は、何やら騒がしい人々の声に顔を上げた。

すると前方に大きな人だかりが出来ており、その中心で何か叫んでいる人影が見えた。

側にいた青年に声をかけて事情を説明してもらうと、何やら大声でよく分からない言葉を発する変質者が現れたとのことだった。

教えてくれた青年に礼を言い、停めてある荷車の荷台にバケツを置いた同僚は、興味本位で人だかりに向かっていく。

するとその中にラヴァン爺の姿があり、同僚を見つけるや否や手招きをする。

 

「凄い人だかりですね。ラヴァンさん」

 

「ああ……ほれ、見てごらん……かわいそうに……精神を病んどるようじゃ…」

 

ラヴァン爺が指差す方を見てみると、頭を抑えて慌てふためくスーツ姿の男を見つける。

金髪金目のエリートっぽい気品ただよう顔と物腰をしており、首にはドクロ柄の特徴的なネクタイが巻かれていた。

 

『なんなんだお前らはッ!?』

 

「なっ!?」

 

そんな男の姿を見て目を丸くした同僚は、口を開けたまま立ち尽くす。

なぜなら、その男が今同僚が1番会いたがっていた人物と類似していたからであった。

頭から足の先、そしてその声すらも───追い求めている者にそっくりだ。

 

「な、なんであいつがここにッ!?」

 

『くそっ……!』

 

「あ、おい!待てよ!」

 

しばらくするとその男は、周囲の視線から逃げるように細い路地へと走り去ってしまった。

 

「どうしたんじゃ同僚くん。もしかして知り合いかい?」

 

「え、あ、まぁそんな感じです!ラヴァンさん、少し出かけて来ますが良いですよね!?」

 

こちらを見上げるラヴァン爺の肩を掴み、少々興奮気味で尋ねる同僚。

そんな活き活きとした表情を見て、ラヴァン爺は戸惑いながらもokサインを出す。

それを見て「すみません」と一言添えた同僚は、男を追って一目散に走り出す。

行き交う人々の間をすり抜けて路地へと駆け込む。

入り組んだ路地を右へ左へと当てもなく走り回るなか、視界の隅で壁に背中をつけて座り込んでいる男を捉えた。

 

「吉良ッ!!」

 

そう呼ばれた男は、びくりと肩を跳ね上げて声のした方へ顔を振り向かせる。

そして驚いたように目を見開き、頰についた血を手で拭いながら────

 

「同……僚……?」

 

力の無い、掠れた言葉を返してきたのだった。




次回は吉良吉影の異世界転移までの物語を書きますぞ〜!
けど一瞬で終わるんだけどね(ネタバレ)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 吉良吉影は静かに暮らせない(1)

仗助たちとのラストバトルに敗北した吉良は、現場に駆けつけた救急車に轢かれ幽霊になった。

そんな彼に杉本鈴美は「振り向いてはならない小道」で自分の背中を見せることで「振り向かせる」罠を張る。

しかし、事前に父親からその情報得ていた吉良は回避し、逆に彼女を「振り向かせ」てここでの平穏な生活を取り戻そうとする。

だがそんな吉良の行動も既に予測していた彼女は、愛犬アーノルドの奇襲で無理矢理吉良を「振り向かせ」て最後の裁きを下すのだった。

 

「何ィィィイイイイイイイイイ!?」

 

襲いかかってくる無数の黒い手に、スタンド【キラークイーン】諸共、体を鷲掴みにされた吉良。

 

「裁いてもらうがいいわッ!吉良吉影」

 

「わ、わたしは……!わたしはどこに連れていかれるんだ!?」

 

これまで感じたことのない程の恐怖に、吉良は声を震わせながら鈴美に問いかける。

 

「さぁ?でも────」

 

 

 

「安心なんて無いところよ。少なくとも」

 

 

 

鈴美がそう言い終わると同時に、吉良は未知のパワーで終わりの見えない永遠の暗闇へと引きずり込まれていく。

故に、その希望のカケラすらない一言が吉良の最期に聞いた言葉となったのだった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四方を暗闇に閉ざされた世界に吉良は立っていた。

どこまでも永遠に続く謎の空間を彷徨い続けているが、一向に出口というものは見られない。

 

「………」

 

最初の頃は独り言を呟いてなんとか耐えてきたが、何日も歩いているうちにそれさえも苦痛に感じてくるようになってきた。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

生前では考えたこともなかった【寂しさ】というものを味わい、吉良の心は段々と崩れていく。

試しに【キラークイーン】を出してみると、何時もと同じように彼は自分の側に立ってくれた。

死後の世界でもまたこうして巡り会えたのは、自分の幸運からだと吉良は考える。

 

「………?」

 

返事をする事のない彼へ一方的に語りかけながら、それからさらに数十日の時が過ぎたある日のこと。

もう口を開く事も、足を動かすことも出来ないほどに衰弱しきっていた吉良の前に、一筋の眩い光が差す。

久しぶりに見る白い光に目を輝かせ、吉良は何度も転びながら必死になってその光に手を伸ばした。

すると光に指先が触れた瞬間、吉良は視界に映り込んでくる雲1つない青空に目を眩ます。

 

「───どこだここは……?」

 

視線を落として辺りを見渡す吉良。

暗闇に閉ざされていたはずの場所に広がる景色は、中世ヨーロッパ風の町並みと異様な姿をした者たち。

それら全てが、謎の手に連れ去られていく前に居た杜王町とは真逆のものであり、吉良は心の底から溢れ出してくる不安感に冷や汗をかいた。

 

「手………ハッ!」

 

記憶を辿って自分の身に起こった惨劇を思い出し、吉良は目を見開いて辺りを警戒する。

この世界に来る直前、杉本鈴美が放った【安心なんて無いところ】という言葉。

もしそれが本当だとしたのなら、ここは吉良にとって『害』となりうる者が存在していることになる。

それも、一瞬の安心さえも感じさせないほどの者が────

 

「な、なんなんだお前らはッ!?」

 

体を震わせながら、道行く人々に指を指して叫び散らす。

そんな吉良の動向に不思議と人は集まりだし、気が付けば辺りに人だかりが出来始めていた。

彼らの発する言語は、外国語をほぼマスターしている吉良でさえ聞いた事のないようなものばかり。

そしてその容姿は普通の人間と変わらない者も居れば、ちらほらと長く尖った耳を持つ者も見受けられる。

以上の点から推測するに、吉良は異世界に迷い込んでしまった───いや、正確には『奴らに連れてこられた』ということを一瞬の内に理解した。

 

「くそっ……!」

 

無遠慮に降り注がれる大量の視線の嵐に耐えかねた吉良が、視界の隅に映った路地へと駆け出す。

いつ誰が自分を襲ってくるか分からない状況下で、無意味に目立ち過ぎてはいけないと感じてのことだった。

大通りから横へとずれ、入り組んだ細い道を進んでいくと、石造りの橋の下に流れる水路へと出た。

辺りはシーンと静まり返っており、聞こえてくるのは自分の荒い呼吸音のみ。

太陽に照らされてキラキラと煌めく水面を見つめながら、今後の生活を不安がる吉良。

と、そこへ、コツコツという足音と共に、誰かがこちらへと向かってくる気配がした。

胸を押さえて前屈みになりながら、吉良はゆっくりと振り返る。

見れば水路へと続く路地の出口に、5人の男たちが不気味な笑みを浮かべて立っていた。

見た目は皆20代前半くらいで、薄汚い服装をした悪人顔。

そしておまけに彼らの手には、小型のナイフや鉄パイプなどの凶器が握られている。

 

「なっ………」

 

やはりこの世界には、自分の追い求める『安心』は存在しないのだろうかと吉良は思った。

 

「mpgdt4h?jyqm37agg!!」

 

ネクタイを掴まれ、2人の男に服を引っ張られながら路地裏へと連れ戻される。

するとその中の1人が吉良の背中に重い蹴りを入れ、地面に倒れこんだ様を見て狂ったように笑い散らす。

それに続いて、周りの男たちも一斉に腹を抱えて吉良を嘲笑った。

 

「ぐっ………」

 

堪え難い屈辱と怒りに襲われた吉良は、懐にしまっていた財布を【キラークイーン】の能力で爆弾に変える。

そして極自然にその財布を地面に落としたかのように男たちに見せ、それに引っかかった1人の男が不思議そうに財布を手に取る。

首を傾げて周りの男たちを呼び集めた男が財布の中身を抜き出した瞬間、吉良は爆弾のスイッチを押して起爆させた。

 

「jag8p!?」

 

一瞬の出来事に、吉良の背中を蹴った男が悲鳴をあげて後ずさる。

財布を手に取った仲間が突然内側から爆発したかと思うと、次にその爆風で他の3人が上半身を吹き飛ばされてしまったからだ。

一体何が起こったのか分からない男は、あまりの恐怖に腰が抜け、無様にも地面に尻餅をつく。

 

「第1の爆弾……触れたものを爆弾に変える能力……」

 

財布を拾って懐にしまい込み、ゆっくりと立ち上がって男を睨みつける吉良。

その姿を見て短い悲鳴をあげた男は、左手に持つ小型ナイフを構える。

だがその刃は見えない謎の力によってへし折られてしまう。

 

「『勝てる』と思い込む事は、何よりも『恐ろしい』事だ。そんな道具でわたしを倒せるとでも思っているのかね?」

 

「m、mgp4tw……mpwjj!」

 

このままでは殺されてしまうことを悟ったのか、男は吉良が裾についた汚れに視線を向けた瞬間に勢いよく立ち上がって駆け出す。

 

「『キラークイーン』」

 

だが吉良のその言葉が路地裏に響くと同時に、男は両足の感覚を失って地面に倒れ落ちる。

ジンジンと熱くなっていく下半身に異変を感じた男が足を確認する。

するとそこには、膝から下を失った足の断面から止めどなく溢れ出てくる真っ赤な血溜まりが出来ていた。

 

「aaaaaa⁉︎」

 

「叫び声というのは、どの世界でも一緒みたいだね」

 

スーツに着いた汚れを払いながら近づいた吉良は、目を見開いて涙を流す男の顔面に重い一撃を叩き込む。

地面に背中を打ち付け、だらだらと口から血を吐き出す男の胸ぐらを掴んで起き上がらせる。

 

「それはそうと、君は今まさか逃げようとしたのではあるまいな?男だろ?」

 

だらし無く垂れ下がる顔を除き込み、ネットリとした口調で問いかける。

喉に血が詰まって上手く声を出せないのか、男は手足をばたつかせて必死に抵抗している。

 

「幸い、ここは入り組んだ路地裏。多少の叫び声なら他人に聞かれる心配はない。戦いの場所を選ぶには、必ず相手が優位に立った場合をも考えなければならない」

 

「──!──!!」

 

「痛みというのは苦しいものだろう? でもな、わたしもさっき君のように地面に這いつくばったんだ。だから君もわたしを見習って同じ痛みに耐えろ……」

 

「──!!────!?」

 

「わたしを見習うんだよォォオ!!!エェッ!?」

 

込み上げてくる感情に身を任せ、髪を掴みにした吉良は男の頭を地面に何度も叩きつける。

すると喉に詰まっていた血が一気に吐き出された事で言葉を発する事が可能になった男は、意識が朦朧としている中で命乞いをする。

 

「gqdj21m!!m、mtax!」

 

「もしかして『助けて』と言っているのかなぁ?フフ……だめだめだめだめだめだめだめだぁめ。君は死ななくてはならないんだ……わたしの『平穏な日々』を妨げる者は生かしておけないよ」

 

「a……aa……」

 

「おっと、君にはわたしの言葉がわからないんだったな。ならばもう用済み、という訳だな?ん?」

 

男の額に人差し指を当ててグリグリと押し付けた後に突き放し、吉良は「ふぅ」と一息付いて頭を抑えながらその場に倒れ込む。

 

「j、jpgaaa───!!」

 

「………」

 

するとその瞬間、完全なる無防備を晒した吉良に向けて男が叫ぶ。

一発逆転の大勝負に出たのだろう。

しかし、吉良はそんな男の一枚上手を行っていた。

男が側にあった折れたナイフの破片を手に持った瞬間、その体は内側からの爆発に耐えられず粉々に消え去る。

 

「ハァ…ハァ……ぐっ…頭痛がする…吐き気もだ……何故わたしがこんな目に会わなきゃならないんだ………」

 

暗闇の世界での疲れと先程受けたダメージが、一時の危機を乗り越えた吉良に束となって襲いかかる。

 

──その時だった。

 

遠くからこちらへ向かって駆けてくる足音が聞こえる。

それは段々と近づいて来て、吉良の寄りかかる壁のすぐ隣で止まった。

また敵かとため息をついて顔を上げた吉良は、そこで思いもよらぬ人物と再開することとなる。

 

『吉良ッ!!』

 

「同……僚……?」

 

ここに居るはずのないかつての友に、吉良は驚いた表情を見せて掠れた声を上げたのだった。




会社員になったので、投稿遅れます……ごめんなさい!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 吉良吉影は静かに暮らせない(2)

結構グダグダってことだけを先に言っておきます>_<
キャラ紹介のところも少々追加しておりますので、良ければ見てくださると幸いです!


小鳥のさえずりすら聞こえない静まり返った路地裏にて、行方不明となったかつての友人と再会した同僚。

その目に映るは、懐かしさの残る面影と物腰をした男。

 

「な……なぜ君がここに……」

 

「それはこっちのセリフだぞ吉良!お前も異世界転移していたなんてな……ずっと探してたんだぞ……!」

 

やっと出会えたという喜びと、突然居なくなった吉良に対しての怒りと悲しみに涙を流す。

そんな姿を見て少々引き気味な様子の吉良は、壁に手をつきながらゆっくりと腰を上げ同僚の目の前に立つ。

そして胸ポケットから何かを取り出し、同僚に差し出した。

 

「鼻水垂れてるじゃあないか。これで拭くといい」

 

「ぁぁ……すまないな……!」

 

吉良から受け取った携帯用ティッシュを全て抜き取り、ズズズッという音と共に前屈みで鼻をかむ。

 

「ハハ……いやぁ…それにしても本当に会えて嬉しいよ!これからもお前の同僚として宜しくな♪」

 

「あ……あぁ……そうだね」

 

空っぽになったティッシュの袋を押し付けられ、吉良は少し困ったような顔を見せて視線をそらす。

拳を突き出してニカッと笑って見せた同僚を横目に、吉良はツカツカと足早に歩き出した。

 

「お、おい。どこに行くんだよ?」

 

「その格好からも分かるが、恐らく君もつい最近この世界に来たばかりだろう?ならもう知っているはずさ。言葉が通じないことに」

 

立ち止まって同僚の方に顔を向けた吉良は、自分の喉に手を当てて話す。

その言葉にふと転移した当初のことを振り返った同僚は、忘れかけていた事態を思い出して短い声を上げた。

今自分がこうして普通に異世界に溶け込み始めているのは、あの時ラヴァン爺が『共言の飴』をくれ、そしてこの街に連れてきてくれたからだ。

 

だが吉良はどうだろうか?

 

元から人との付き合いが悪い吉良が、自分から他人に話しかけるなどといったことはしないはずだ。

故に迷い込んでしまった言葉の通じない世界で、異様な姿の人々に囲まれている状況を主観として考えてみると、とても冷静に居られる自信がない。

 

「そ、そうだが……だからと言って何処に行く気なんだ? 見た感じ中世だしよォ〜〜下手に動けば危険だぜ」

 

「………」

 

真っ直ぐ瞳を見つめて問いかけてくる同僚に、吉良は言葉を詰まらせて立ち尽くす。

全く知らない街で生活して行くにはハードすぎるこの状況をどうすれば乗り越えられるか?

そればかりが頭の中でぐるぐると、メリーゴーランドのように回り続けている。

しかし言葉が通じない以上どうする事も出来ないという事実を受け入れ、吉良はこれ以上無駄に考えるのをやめた。

 

「なら逆に、君はこれからどうする気なんだい?わたしたちではこの世界で生きていける確率が極めて低い。先ずは言語を理解し、金銭を稼がなくてはならない。そうだろ?」

 

「言語か……なら良い人が居るから相談してみるか!付いてきな!」

 

顎に手を当てて考え込んだ同僚が、吉良の横を通って駆け出す。

行き先は路地を抜けて、通りを挟んだ反対側にあるラヴァン爺の薬屋。

現在唯一の頼みの綱として助けを求めるなら、この人以外に居ないからだった。

 

「ここを曲がればすぐだからなっ!」

 

息を切らして同僚の背中を追いかける吉良。

すると前方を走る同僚が、曲がり角に差し掛かった時に何かにぶつかって尻餅をついた。

 

「j7tx〜(痛ぇなぁ〜)」

 

ドスの効いた声で2人の目の前に現れたのは、体長2m以上はあろうかと思われる筋肉マッチョの大男だった。

拳をポキポキと鳴らしながら近づく大男に対し、素早く立ち上がった同僚は少し距離を開けて対立した。

 

「おっと、ここに来て対人の強襲イベント発生ってわけか。始まりの街ならではって感じだな〜?」

 

「くっ……」

 

ゲーム感覚で楽しんでいる様子の同僚とは違い、身の危険を感じた吉良は【キラークイーン】を出して構える。

この世界にはあのクソッタレ仗助やその仲間たちが居ない分、スタンドを使って容易に困難に打ち勝つことが出来る。

 

 

───しかしだ。

 

 

何度も頭の中に過ぎる「安心なんてない場所」という言葉。

それが吉良から「心からの平穏」を奪っていく。

それに現状として、暗闇の世界で過ごした時間と先程の戦闘で消費したスタミナで、今の吉良はまともに戦えるか不安な状況だ。

ならば尚更、自分の脅威となる存在は速攻消さねばならない。

 

 

自分自身が貧弱であることを理解している故に───

 

 

「吉良、俺の後ろに付いてな? こいつの相手は俺1人で十分だ」

 

すると敵対する大男を見上げながら、俺の背中に着きなと語る同僚。

到底このひ弱な男では太刀打ち出来ない相手であるということはわかってる。

だがしかし、その背中からは「絶対的な自信」のようなものさえ感じられた。

 

「わ、分かった……」

 

吉良は【キラークイーン】を出したまま、同僚の言う通りに彼の背後へと体を隠す。

 

なぜそう簡単にこの男の言うことを聞くのかって?

同僚として信頼しているから?

そんなものじゃあない。

 

例えコイツがやられたとしても、その隙に【キラークイーン】で爆殺すれば良い。

異界人の戦闘能力がどれほどのものか分からない以上、下手に動いたらこちらの命が危ない。

言わば手頃な【盾】として同僚を利用すれば良いと、吉良はそう考えていた。

 

「おいお前!喧嘩吹っかけるなんてやめとけ!やめとけ!今の俺は主人公、つまりは無敵なんだ。怪我したくなかったら、回れ右してお家に帰んな」

 

「pmy46npd4njpwpjek!!(テメェがぶつかってきたんだろうが、野郎ッ!!)」

 

「やれやれ、最近の若者ってのは気性が荒いんだか……」

 

徐々にエスカレートしていく両者の言い争いを聞き、吉良は意味不明な言葉を理解している様子の同僚に違和感を覚える。

 

「一応忠告はしたからな〜?死なない程度に痛めつけてやれッ!『マインドクローン』!!」

 

大男に向けて指をさした同僚。

するとその声が路地裏に響き渡ると同時に、同僚の背中から何かが飛び出してきた。

 

「うわッ!? な、なんだッ!?」

 

突然の事態に慌てる同僚の視線の先には、どこからともなく現れた、甲冑のような面を被った筋肉質な体を持つ者がいた。

【マインドクローン】と、相棒の名を叫んだ瞬間に現れ、同僚の身を守るかのように立ち向かっていく姿。

そして見覚えのあるその腕から察するに、このビジョンは【マインドクローン】と呼んでいた謎の腕の持ち主───つまりこれこそが本来の姿であるということを、同僚は一瞬のうちに理解した。

 

「pgNn6g……m、mpdowt36K (なんだ……か、体が動かな──)」

 

【マインドクローン】の一撃が大男の顔面に直撃する。

するとその体は弧を描いて宙を舞い、煉瓦造りの壁に背中からぶつかって地面に滑り落ちた。

 

「なんとか終わっ………なッ!? なんだそれッ!?」

 

呆気なく大男を戦闘不能の状態にした同僚は【マインドクローン】を引っ込め、危険が過ぎたことを伝えるために吉良の方へと振り向く。

するとそこで【マインドクローン】と同じように、吉良の側に立つ【キラークイーン】を見つけた。

 

「フフ……まさか君もスタンド使いだったとはな……あの女の言っていた『安心なんてない』とはこの事だったのか」

 

「ど、どうしたんだよ吉良……そいつは一体なんなんだッ!?」

 

同僚の反応を見た吉良は不気味にほくそ笑みながら、両者の間合いを詰めるようにゆっくりと近づいてくる。

同僚はそんな姿を目の当たりにし、初めて吉良に対して只ならぬ恐怖というものを感じた。

 

「先程の君のスタンド……『マインドクイーン』って言ったかな〜?パワーは並よりかは上の性能らしいが、異常なまでのスピードだ。そして何より、あの空条承太郎と『同じような能力』を持っている……実に厄介な存在……というわけだ……」

 

「な、何を言ってるんだ!す、スタンド? 意味がわからない……!」

 

「わたしの平穏な日々を邪魔する奴は、誰であろうと生かしてはおけないということを説明しているのだよ。たとえそれが───」

 

 

 

 

「同僚……君だとしてもね?」

 

 

 

 

「────ッ!?」

 

耳元で囁く吉良の声と共に、同僚の脳裏には腹部が押し潰される感覚が伝わってくる。

ガクガクと震える顎により、口内に広がる血が止めどなく溢れ出す。

 

「ぁ……がっ……」

 

「残念だよ。君はわたしにとって一番気の許せる奴だったというのにね……だが、これも仕方がないのだよ」

 

ポタポタと滴り落ちる血の音が、静寂に包まれた空間の中で同僚に『死』というものを感じさせる。

それは今までに体験したことのない程の『絶望』と『悲しみ』を兼ね備えていた────



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 吉良吉影は静かに暮らせない(3)

 

「ふぅ……」

 

【キラークイーン】の拳を引き抜き、1歩2歩と後ずさる。

膝をついて力無く首を垂らす同僚を見下ろしながら、吉良は《自分を脅かす存在》であろう者をまた1人排除することが出来たことに、心からの安堵の息をもらした。

 

「わたしの『同僚』ということもあり、少々戸惑ってしまったが……最早君に対しての躊躇いは消えたよ」

 

【キラークイーン】の拳から滴り落ちる血の雫を払い退け、吉良は再び同僚の目の前に立つ。

亀友チェーン店に同期として入り、周りの人たちと違って積極的に話しかけてくれたこの男。

会社絡みの旅行は勿論のこと、プライベートで2人っきりの時間を過ごしたことも少なくはなかった。

故に吉良自身も始めのうちは無愛想に振舞ってはいたが、そのうち同僚に対する嫌悪感という物は次第に無くなっていった。

 

 

───しかし!

 

 

同僚がスタンド使いである事実と、自分にとって害である可能性がある事を知った吉良には、これまでの付き合いや関係などどうでも良かった。

自分自身の安心のために、築き上げてきた信頼を無に還す覚悟が吉良にはあったからだ。

 

「それじゃあ木っ端微塵に消し飛ばしてやるッ!!」

 

「…………っ」

 

「───ッ!?」

 

右手を振り上げた【キラークイーン】

するとその動きに反応するかの如く、俯く同僚の肩がピクリと動いたように見えた。

突然の事に動揺する吉良は、冷や汗をかきながらも最期の審判を下す。

 

「何だかわからんが───くらえッ!!」

 

「ぐっ……!!」

 

「な、何ッ!?」

 

だが次の瞬間、突如として同僚の背中から現れた【マインドクローン】が同僚を殺させまいと吉良に反撃を仕掛けてきた。

風を切って迫り来る【キラークイーン】の腕を両手で受け止め、がら空きとなった腹部へと渾身の連打蹴りを撃ち込んだ。

 

「はぐわァァァッ!!」

 

完全に勝ったと油断していた吉良は、その攻撃をまともに喰らってしまう。

ノーガードで受けたダメージは尋常ではなく、地面に叩きつけられた体は動かそうとするだけでも激痛が走る程だった。

 

「こ…こんな……こんなことが……ぁぁ…!」

 

口から溢れ出てくる血でスーツを真っ赤に染め上げた吉良は、髪を乱し、歯を食いしばりながら壁に手をつけて起き上がる。

 

「残念……だったな吉良。あいにく『マインドクローン』が……体の中でガードしてくれてな。腹は少し抉れちまったが……内臓までは届いてねぇぜ……!」

 

「ぐっ!」

 

「そして理解した……『マインドクローン』には……指を指した対象の動きを停止させる能力がある。自分の出血を止める事も容易いぜ……」

 

その言葉にふと同僚の腹部を見ると、それまで流れ出ていた血がいつの間にか止まっていた。

そんな吉良の視線に気づいたのか、同僚は荒い息を繰り返してそう告げる。

 

「なんで俺を攻撃するのかは分からないが、俺はお前を────」

 

そこまで言って、同僚は吉良から視線を外す。

目を見開いて口を開けた同僚は【マインドクローン】が殴り飛ばした大男を捉えていた。

頭から血を流し、ヨロヨロと起き上がった大男。

殺気立った顔つきで、腰につけてあった小さな2つの斧の刃先をこちらに向けた。

 

「mw…mwkpgd7……mwkpgdeaaa!!(こ…殺してやる……殺してやらァァア!!)」

 

斧を振りかざしてドスドスと迫り来る大男。

体を思うように動かせない吉良は、マズイと本能的に思った。

このままでは殺されてしまうと、何かが脳内で決定的な警報を発している。

それは同僚も同じようだ。

 

「くっ!吉良の痛みの感覚と出血を止めろォ!!『マインドクローン』ッ!!」

 

かつての同僚が殺されるかもしれないという危機感に、同僚は止む終えず吉良に【マインドクローン】の能力を使用する。

体を自由に動かせるようになった吉良は、視界に映り込む銀色に輝く凶器を目の当たりにして【キラークイーン】の攻撃対象を同僚から大男へと変更する。

 

「今は君を始末しないでおいてやるよ。いつでも殺す事は出来るからねッ!!」

 

顔面めがけて振り下ろされる斧を弾き飛ばし、仰け反り返った大男の体に【キラークイーン】の拳の連打を叩き込む。

認識できない強大な力の前に為すすべのない大男。

その手から滑り落ちる2つの斧の金属音が、悲痛な叫び声の響き渡る路地裏に反響する。

 

「こいつを爆破させたら、すぐに君も始末してやるからな」

 

「え───うぐッ!?」

 

横目で鋭い視線を飛ばす吉良。

 

──とその瞬間。

 

同僚の身に自分でも何が起きたのか分からない程の衝撃が走る。

蓄積したダメージが一気に押し寄せてくるような感覚を覚え、同僚は膝をついて口から血を吐き出した。

 

「こ、これは───」

 

同僚はすぐにその事態に察しがついた。

【マインドクローン】で停止した時間の中では、本来起きている筈の影響を『溜めておく』という性質があるのだろう。

となれば、次に起こる事にも予想がつく。

 

「吉良ッ!!気をつけろッ!!」

 

「何────グアッ!?」

 

恐怖に震える大男の頭部に【キラークイーン】の手刀を食らわせようとした瞬間だった。

同僚が感じたような激しい衝撃が、吉良の全身を駆け巡る。

一瞬の、しかも意識外からの不意の攻撃に、疲れ切っていた吉良は白目を剥いて気を失う。

 

「t…tmmm(ひ…ひぃぃぃ)!!」

 

地面に転がっている小斧には目もくれず、大男は何度も転びながらその場から逃げ出した。

そんな怯えた様子の背中を見送った同僚は、気を失った吉良の腕を自分の肩に回す。

そして力を振り絞って背中に担ぎ直し、震える足腰に鞭を打って立ち上がる。

 

「思い返せば……俺からぶつかったんだよな……素直に謝っておけば…よかった……かな…」

 

覚束ない足取りで、光が差し込む路地の出口へと向かう同僚。

ラヴァン爺の経営する薬屋まで辿り着ければ、荷車で見たあの治癒用の薬草で手当てをしてくれる筈だと。

 

「吉良……絶対に…お前を死なさない…からな……もう二度と…失うわけには……」

 

そう思っていた。

だが数歩ほど歩いた後、目の前の景色がグニャリと歪むように変形する。

頭が痛くなるような気持ち悪さと、体に溜まりに溜まった疲労感に、同僚は倒れ込むかのように再び地面に崩れ落ちた。

 

「お、おい大丈夫かい!?」

 

───とその時。

徐々に狭まっていく視界の片隅に、こちらへ向かって駆けてくる人影が映り込む。

意識が途切れる寸前に認識したその者は、焦った様子で同僚に手を差し伸べてきた。

 




1ヶ月以上も更新がなく、申し訳ないんだか……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 寂寥たる別れ

鼻をつく薬品の匂いと、どこからか聞こえてくる楽しげな笑い声に吉良は意識を取り戻す。

暗い室内には、枕元に置かれているランタンの灯りが揺らいでいた。

 

「わたしは……一体……」

 

ベッドから起き上がり、閉め切られたカーテンを開けて外の様子を伺う。

すると先程まで青々と晴れ渡っていた空は、地平線に沈み行く夕日の光に照らされてオレンジ色に染まり始めていた。

突如襲いかかってきた不意打ちを受けて気絶してしまってから、随分と長いこと眠っていたようだ。

 

「………」

 

特に何をするという訳でもなかったが、このままじっとしているというのも気がひける。

そう思って勢い良く部屋を出た吉良は、ギシギシと嫌な音を立てる薄暗い廊下を歩く。

先程から聞こえる声のする方へと向かうにつれ、その声の持ち主が同僚である事を理解した。

だがもう1つの声は聞いたことがないものであり、吉良は少々警戒しながら隙間から光が漏れ出しているドアの前に立った。

 

「ふぅ───」

 

深く深呼吸をした吉良がゆっくりとドアを開けると、そこにはデロンデロンに酔っ払った様子の同僚と見知らぬ白髪の老人がいた。

突然目の前に現れた吉良に、2人は目を丸くして少々驚いたが、直ぐに表情を和らげて話し始める。

 

「よォ〜〜吉良っ! うぇ、具合はどうだぁ? ヒック……ハァ〜まぁここ座って話しでもしようぜぇ〜〜♪」

 

敵対していた筈の者に対し、この異様なまでの自然な態度を取る同僚。

そんな彼に唖然として口を半開きにしたまま立ち尽くす吉良。

対し同僚はフラフラな足取りで近づくと、肩に手を回して強引にテーブルの方へと吉良を引き寄せた。

 

「ほぉら飲めよォォ〜〜!!美味いぜ〜これ!うっひひ〜」

 

「い、いや……わたしは……」

 

先ほどまで自分が使っていたであろう木樽を吉良の手に掴ませる同僚。

中には黄色い液体と、その上に溢れんばかりの泡が浮かんでいた。

一見ビールのようにも見える謎の液体を、半ば半強制的に口の中へと注ぎ込まれる吉良。

 

「ppmtaa〜〜〜gmwudmmb!!(いいぞォォ〜〜〜もっとやれぇぇい!!)」

 

「了解いたしやひたぁ〜〜ほれほれェ!」

 

「ぐっ……ゴボッ……や、やめ───」

 

一気に押し寄せてくる波に、喉を通れずに口から溢れ出しそうになるビールと思わしきもの。

だがそれをさせまいと、同僚はテーブルの中央に置かれている長細いパンを、悶え苦しむ吉良の口にねじ込む。

正面に座る老人は、そんな姿を見て手を叩いて面白がっていた─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人の強引なススメから解放されたのは、それから数時間ほど経った頃だった。

途中から意識がなくなっていた吉良が目を覚ますと、そこには外から差し込む月明かりに照らされた2人の姿があった。

テーブルに伏せてだらし無く涎を垂らし、大きなイビキをかきながら爆睡している。

 

「───?」

 

不意に天井を見上げた吉良の目に、木の板との間から吊り下げられた豆電球のようなものが映り込んできた。

不思議に思った吉良が近付いて中を覗くと、何処にでもあるような小さな白い石が入っている。

暫く見つめているとその石は、弱々しい光を数秒ほど放ち、やがて黒く変色してしまった。

 

「これは……」

 

会社に入社して間もない頃、同僚の家で半強制的にやらされていたファンタジーゲーム。

その中に、この石と全く同じようなものが登場していたことを吉良は思い出した。

記憶が確かであればこれは《魔石》という代物であり、海底や山などから取れる特殊な鉱石を磨く事によって光を発したり熱を持ったりするものだ。

そのような魔石の膨大なエネルギーが便利すぎる故に、科学技術が発達していない系の世界であったという作品が多い。

 

 

────そう同僚に教えられていた。

 

 

「覚えておく必要はないと思っていたが、まさかこんな形で役立つとはな……」

 

そんなことを考えつつ、窓淵に手をかけて外の景色を眺める吉良。

真っ暗な空に浮かぶまん丸とした月の光の他に、遠くに見える街の灯りが目に映った。

 

「ところで……今何時だ……?」

 

これから先の生活を考えることより、今は自身が置かれている状況を把握すべきだ。

1度に理解しようとするのではなく、1つ1つきちんと整理して考えていこう。

そう自分に言い聞かせながら、吉良は腕時計をはめている左手の袖を捲ろうとする。

 

「おっとそうだった。腕時計を胸ポケットに入れて────」

 

と、そこまで言いかけた吉良は、これと同じ言動を過去に行なっていたことを思い出して手を止める。

暗闇の世界で長いこと彷徨っていたからか、忘れかけていた「死」までの経験が、フラッシュバックするかのように脳裏に一気に流れ込んできた。

 

 

 

ただただ平穏な日々を送りたかっただけの人生。

 

 

そして不意に現れた、その願いをぶち壊そうとする東方仗助らの存在。

 

 

 

「あのクソ共が………」

 

記憶が段々と蘇ってくるにつれ、自分をこんな目に合わせた奴らへ対する底知らずの怒りが口を押し開けて外に出た。

こめかみに脈打つ血流が、憎悪という感情の色にドス黒く変色していく感覚に襲われる。

 

「ふぅぅ……はぁぁぁ……」

 

しかし吉良はそんな自分を必死に抑えるべく、壁にもたれかかって目を瞑ると、全ての感情を吐き捨てるかのように深く、長い息を吐いた。

それは奴らから逃げるためでも、どうしようもないと諦めたわけでもない。

これからこの世界で生き抜いていく為にも、余計な感情を抱いていくのは精神的に危険と判断したからだった。

 

「さてと……」

 

故にこの世界から抜け出して、また奴らに出会うような事があれば、その時こそ必ず消してやる。

そう心の中で決意した吉良は、内ポケットにしまってある携帯電話を取り出した。

すると画面には何時もの様に今日の日付と時間が表示され────

 

「………」

 

だが吉良は画面を見つめたまま何も言わず、そっと携帯電話をしまい込んだ。

 

「腕時計も携帯も使い物にならない……か。酷い話だな全く……」

 

壊れてしまったのか、それともこの世界の見えない力による影響かは定かではない。

しかし最早携帯は使い物にならないということが、画面に表示された見慣れない文字やグルグルと高速で回転する見慣れない針から痛いほど伝わってくる。

異世界とはそういう物だと言っていた昔の同僚の言葉を、こうして実際に体験してみて理解してしまっている自分が何故だか腹立たしく思える。

 

「ところで、今君を消し去ってもいいが、一応は助けてくれた恩を変えさなくっちゃあな」

 

時間については翌朝にでも街中の時計台等を探して確認すれば良いと判断し、吉良は机に伏せたままの同僚の横に着いて話始める。

 

「今回だけは見逃してやるよ。『元同僚』としての最後の情けさ……」

 

このままここに、況してや同僚というスタンド使いと居座り続けることに気が引けた吉良。

寝たままの同僚と見知らぬ老人に短い感謝の言葉を伝え、2人を起こさないように廊下を進み、薄汚れた玄関を潜り抜けて通りに出る。

右手の空を見上げると、窓から見えた煌々と照らす町の中心部の明かりが薄らと輝いていた。

 

「あそこに行けば、この世界について何かしらの情報は得られるか……」

 

そう呟いた吉良は、1歩2歩と行った所で振り返り、同僚との思い出を振り返るように目を細めて少しの笑みを溢す。

そして直ぐに何時もの気品漂う顔つきへと変わり、暗く静かな街中へと消えていった。

 




3ヶ月も更新出来ないとは作者自身も思ってなかったんだか……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 吉良とホタテと大食い少女

キャラクター紹介も更新しました!
挿絵はまだ作ってないので、この話の挿絵でご勘弁を。


日中の賑やかな雰囲気とは一変して、不気味なほどに静まり返った街中を歩く吉良。

家々の明かりも殆ど消えていて、聞こえてくるのは側を流れる小川のせせらぎだけ。

 

「そんなに遅い時間なのか……?」

 

規則正しい生活習慣により保ってきた健康的な身体。

故に自然と身体が決まった時間に休息を取るよう脳に信号を送るようになっていた。

しかし不思議なことに、見る限りに深夜としか思えない景色だと言うのに、今は眠気など一切感じられないほど目が冴えてしまっている。

 

「さっきまで寝ていたからか……意外と慣れないことにも身体はついていくものなのだな」

 

携帯の灯りで足元を照らしながら、吉良は足早に街の中心部へと向かう。

途中、ホームレスと思われるボロボロの服を着た若者が道端にチラホラと見受けられた。

ガリガリに痩せ細ったその容姿からは、暫くろくに食事を取れていないのだと察することが出来る。

少々可哀想とは思うが、今は自分のことで精一杯。

そう感じた吉良は、彼らの視線から目を逸らして歓楽街へと足を踏み入れた。

 

「これは───凄いな」

 

怪しげな雰囲気の漂う店や、多色なイルミネーションで飾られた派手な酒屋。

そこは正に『大人の世界』というものを体現したかのような佇まいで、呆気に取られた吉良の目の前に広がっていた。

そしてその中の一角、一際賑わいを見せる巨大な建物からは、周囲とはまた違った楽しげな声や音楽が聞こえてくる。

掲げられた看板に書いてある謎の文字を横目に、気が引けながらも、吉良は恐る恐る中に足を踏み入れた。

 

「ここは……」

 

建物の中は、その外見宛らの活気で満ち溢れていた。

赤い絨毯が伸びる先には沢山の窓口が横一列に並んでおり、それぞれで受付嬢と不思議な格好の者たちが話をしている。

そしてそこから視線を右へと移すと、テーブルや椅子が並ぶ先に酒場らしき場所を見つけた。

厨房から漂うガーリックオイルが焼けたような香ばしさに、口内に唾液が溜まっていくのを感じる。

 

「そういえば……何も口にしていなかったな」

 

まるで魅せられたかのように、虚な目でその匂いの元を辿っていく吉良。

左右をチラチラと覗き見ると、これまた見たことがないような物体が皿に盛られている。

こんなよく分からない物でも良いから何かしら腹を満たせればなと思いながら居ると、吉良はカウンターの椅子に体をぶつけてふと我に返った。

 

「afrbm!mpx5xtjdaj?」

 

吉良を客人と思ったのか、1人の若いウェイトレスが急ぎ足で近づいてくる。

そして左手に持ったトレーにある水が入ったコップをカウンターに置くと、メニュー表を提示してきた。

 

「ぁ……いや……」

 

戸惑う吉良を余所目に、ウェイトレスはただ愛想良くニッコリと微笑んでいる。

椅子を引き、立ち尽くす吉良を座らせ、逃げ場を塞ぐように横につく。

大体の者ならここで雰囲気に流されてしまい、やむを得なく注文をしてしまうだろう。

しかし、今の吉良にはそうしたくてもできない理由があった。

 

「(金はどうしたらいいんだ……)」

 

そう金銭のことだ。

転移前の世界では当たり前のように使われていた紙幣や硬貨だが、ここでも使えるのだろうか?

もし出来ないのであれば、食事を済ませてしまった場合に取り返しがつかない。

ならばと思った吉良は、懐から取り出した財布を開け、メニュー表の適当なやつを指差す。

そしてウェイトレスの目の前に千円札を突き出し、食べる仕草を見せる。

そんな吉良にウェイトレスは、少々困惑した表情のまま首を傾げた。

 

「ダメ……か」

 

やはり言葉が通じない限り、紙幣とジェスチャーを用いた表現方法を使用しても無駄らしい。

ここは惜しいが、無理にでも押し抜けて出て行こう。

そう思い立った吉良がカウンターに手をついた───その時だった。

 

「houmh〜!」

 

子供の歓声のような、軽く明るい声が背後から放たれる。

するとその声に振り返るよりも早く、吉良とウェイトレスとの間に1人の若い女が割り込んできた。

燃え上がるような真っ赤な髪と、宝石のように澄み切った琥珀色の瞳。

束ねた髪が被さる鎧と鎧下に着たギャンベゾン、そして腰に巻いた剣帯からは勇敢な剣士のイメージを抱かせる。

 

「ぁ………」

 

その横顔を視界に捉えた吉良の脳裏に、ほんの一瞬だけ「川尻しのぶ」の顔がチラついた。

やむを得なく《川尻浩作》として生きることになってしまった際の妻であった彼女。

初めは少々気に食わない所はあったが、それでも共に生活していく中で徐々に《魅力的な女性》として感じるようになっていた。

そんな彼女の面影がこの女と重なったことに、少しの戸惑いと共に思わず漏れ出しそうになる声を抑える。

するとウェイトレスとの会話を終えた女は、吉良の隣に座り、両手のハンドアーマーを取り外して厨房の方を真っ直ぐ見つめた。

 

「…………eq、dypjtx?」

 

そしてしばらくの沈黙の後、女は思い出したかのように吉良の方に顔を向け、腰に着けた巾着袋から一粒の飴らしき物を差し出してきた。

吉良はいきなり突き出されたそれに警戒しつつも、極度の空腹に耐えられず、思わず口に入れてしまう。

舌の上で転がすたびに感じる、なんとも言えない不思議な甘み。

それに加え、全身を駆け巡るような軽い痺れが突如として襲いかかってきた。

 

「あたしの言葉、通じるかな?」

 

「あぁ────え?」

 

ふわりと溶けた飴が喉を通るのを確認した女が、深く息を吐く吉良に話しかける。

普通に会話が成立したことに違和感を覚えた吉良には、女が放った言葉が日本語であることに数秒の時間を有した。

 

「き、君……その言葉……ッ!?」

 

「ふふ。もう大袈裟だな〜!」

 

ほっと胸を撫で下ろす女は、吉良のその反応にクスクスと笑った。

状況が上手く読み取れずにいた吉良は、女だけで無く周囲の人々の会話もいつの間にか日本語に変わっていることに気づいた。

 

「な、なぜだ。先ほどまでは異国の言語だったはず……」

 

「あれ? あんたもしかして『共言の飴』を知らないの?」

 

「きょう……げん?」

 

「飲み込むと、どんな言語でも理解できる便利な飴さ!さっきあげたやつがそうだよ」

 

同僚と出会った際に、この世界の言葉を理解しているかのような受け答えをしていたことを思い出す。

暫く疑問には思っていたが、どうやら先ほどの飴が原因のようだ。

 

「(となると文字は……)」

 

言語は理解でき、そしてこちらの言葉も通じる。

では視覚面ではどうだろうか?

そう思い立った吉良が、近くに立てかけてあるメニュー表を手に取って中身を確認した。

だが、依然変わりなく、その目に映るのは不可解な文字列だった。

 

「ねぇーちょっと聞いてる?」

 

「ぁ……すまない。ともかく助かったよ」

 

「そう言えばあんた、名前は? あたしはフィラスって言うの!」

 

「わたしの名は吉良吉影。フィラスさんか……良い名前じゃあないか」

 

「ありがと♪ キラ・ヨシカゲ……うーん。じゃあヨッシーね!よろしくぅ!」

 

「よ、ヨッシー?」

 

まるで親友のような身近さで話を進めるフィラス。

その勢いに押されながらも、なるべく愛想良く振る舞う吉良。

手の綺麗な可愛らしい女性ということもあるとは思うが、何より自分を境地から助け出してくれた恩人だ。

故に殺したいと思う気持ちが無いのが、不思議な感覚として心の中に残っている。

 

「おぉ〜来た来たぁ!これこれ!」

 

そんな他愛もない話を続けていると、先ほどのウェイトレスが何やら料理を運んできた。

 

「これは……」

 

「ダルマホタテのバター焼きさ。あたし的には世界で一番美味しいんだ〜♪」

 

コトッとフィラスの目の前に置かれた皿の上には、転移前の世界で見たことのある食材が乗せられていた。

その名前は聞いた事はないが、辺り一面に漂う匂いからも、確かに過去に嗅いだことのあるもので間違いなかった。

 

「一口食べてみる?」

 

「あ、いや……遠慮するよ。恥ずかしながらホタテは苦手でね」

 

「そう? それじゃあいただきます! ん〜♪ うひゃ……美味しぃ…」

 

「(良く食べれるものだな……うっ…見るだけでも苦し───)」

 

 

【挿絵表示】

 

 

そして思わずホタテから目を背けた瞬間だった。

低く長い腹鳴が吉良の体から発せられる。

ただでさえ人前では晒せない行為だと言うのに、それをまさか異性の前で、さらにすぐ隣と言う近距離での暴発。

これには流石の吉良も恥ずかしそうに顔を赤らめて視線を下げた。

 

「ふふ。相当お腹が空いてるようだねぇ〜。何か頼まないの?」

 

「そ…それが……金が無くてね」

 

「金欠? よぉーし! なら今日はあたしが奢っちゃうぞ〜? お近付きの印ってね♪」

 

「いや、悪いよ。遠慮させて貰う」

 

「もぉ〜そんな硬いこと言わないでさぁ〜。良心で言ってるんだから受け取りなって!」

 

そう言うとフィラスは、吉良の返答を待たずにメニュー表から適当なやつを選び、厨房にいる店長に勝手に注文してしまった。

 

「本当にいいのかい?」

 

「大丈夫大丈夫! 今日は持ち金少し余分にあるからさ!」

 

「す、すまない。ならお言葉に甘えるとするよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、フィラスは10品ほど料理を追加で注文し、難なくペロリと驚くべき速さで平らげてしまった。

勿論、頼んだのは全てダルマホタテのバター焼きだ。

隣で見ていた吉良にとってはこの上ない程の地獄を味わったことで、少々頭がぼんやりとしている。

吉良の元に運ばれてきた料理がホタテ関係ではなく、何かの肉であったことは良かったが、隣の匂いがキツすぎて何を食べたのかさっぱり不明だ。

スーツにホタテの匂いが染み付いてしまうかと思うくらいに、長時間を耐え抜いた自分が勇ましくも思える。

 

「マスター!御馳走さま〜!美味しかったよ!」

 

「あい、毎度ォ〜! いやぁ今日も良い喰いっぷりだったなフィラスちゃん」

 

「ふふん。まぁね! まだまだ行けるさ」

 

自信ありげに腰に手を当て胸を張るフィラス。

大食いだとか少食だとかで好き嫌いを決める訳ではないが、ホタテ大好き大食いっ娘だけは避けなければ命が危ないことを染み染みと感じた吉良だった。

 

「お会計、ツケ分も含めて65000ルーレになります」

 

《ツケ》

その言葉と、なんだか物凄い金額を聞いた吉良はふと意識の狭間から我に帰る。

 

「────あっやばい……」

 

さらにやや語尾の高ぶったフィラスの声を聞き、吉良の脳裏に嫌な予感が駆け巡る。

 

「……どうしたんだい?」

 

「お金…足りない……!」

 

「──え?」

 

哀しげに震える声と共に、喉奥から擦れるように出てきたその言葉。

それは吉良がもっとも危険視していたことである《金》のことであった。

 

「足りない……? フィラスさん。次回こそはちゃんとツケてきた分の全額、お支払いするって……言ってましたよね?」

 

「え、ぁ、いや──そうだったかなー?」

 

顔は笑ってはいるものの、その裏に見える強烈な圧迫感にじわりじわりと押し付けられていくフィラス。

惚け面を晒し、目の前の現実から目を背けようとする。

だが、結局ウェイトレスの無言の圧力には敵わず、フィラスは体を縮めたまま小さく弱々しい声を漏らした。

 

「あ、あのー……次回までには必ず払うから、今回もつけ───」

 

「ダメです」

 

「デスヨネー」

 

そしてフィラスの言い逃れが終わる前に、これ以上冷ややかには言えないと言うくらいの響きでウェイトレスは会話を強制終了させに出た。

これには流石にフィラスも諦めたのか、逆に清々しいほどの笑顔で対応したのだった。

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

───────────

 

 

 

─────

 

 

 

 

「ひゃぁぁあ!ち、ちょっと待っ!い、いい痛い痛いっ!強く引っ張らないでよぉ! あっヨッシー!助けっ…助けてぇぇ!!あぁぁぁぁあ!!!」

 

悲痛な断末魔を発しながら、フィラスはウェイトレスに襟を掴まれて引きずられるように厨房の奥へと消えていった。

その光景を目の当たりにし、1人茫然と立ち尽くす吉良。

 

「いつも美味しそうに食べてくれるのはええんだが、金を払わないんじゃあな。これも仕方ねぇさ。あんさんは今回はタダだぜ。フィラスちゃんに感謝しておけよ!良かったな。ハハハッ!」

 

「……………」

 

これから彼女は一体どうなってしまうのだろうか?

そして自分はこれからどう生きていけばいいのだろうか?

 

そう不安は募るばかりだった────

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 吉良の望まぬ相即不離

翌朝───

 

朝日が照らす窓際のテーブルにて、何やら騒がしい物音で目を覚ました吉良。

横にはぐったりとした表情で眠るフィラスの姿があった。

昨晩、フィラスが厨房の方へと連行されていくのを見届けた後、店主に事情を説明してこの【冒険者ギルド】と呼ばれる建物の中にある酒場に居座らせてもらっていたのを思い出す。

 

「一体何事です?」

 

「お、おぉ旅人さんかい。いやそれがな───」

 

大広間に出来た人集りの中で叫ぶ、赤く染まった包帯を巻いた男2人組。

1人は左足と右肩を、そしてもう1人は横腹に引き裂かれたような深い傷を負っている。

そんな彼らの姿を見た吉良の問いに、厨房で料理を作り続けている店主は事の成り行きを語った。

 

 

───時は遡る事1時間と少し。

酒場の開店作業を進めていた矢先に、荒い息遣いと共に駆け込んできた彼ら。

その2人は冒険者に与えられる階級で上級に位置づけされる『B+ランク』という熟練者であり、少々名の知れた者たちでもあった。

そんな彼らがこれ程の負傷を負ってしまう程の何かがあったのかと、周囲にいた別の冒険者たちが2人に質問するが

 

「知らないほうがいい」

 

と、虚脱した様子でそう繰り返し唱えているばかりだと言う。

 

「という訳で、一体何が起こったのかさっぱり分からずじまいなんだ。直前に受けていたクエストは無し。かと言って無断で危険地区に行ったとも考えられん」

 

「危険地区?」

 

「───あぁ。この街の近くのリバル山という山があるんだが……十数年前だったか。登山した人々が次々に原因不明の失踪をしてしまうという怪奇事件が起こってな」

 

店主は調理台を拭く手を止め、近くの壁にかかっていた写真を手に取りながら話す。

一層低くなる口調からは、店主の抱く怒りや悲しみといった感情を捉えることができた。

 

「当時のギルドが総力を上げて解決しようと乗り出して、数日後に山頂付近で失踪者と思わしき者の衣類を見つけたんだが……」

 

「──?」

 

と、そこで口を噤んだ店主は、何か言いたげに拳を握りしめて視線を逸らす。

その様子が大切な人を失った屋守男の様に見えて、吉良はそれ以上の追求をやめた。

そして俯いて何も喋らなくなった店主を横目に、未だ騒ぎが収まらない中央ホールを横切って吉良は足早に冒険者ギルドを後にした────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重い扉を開けると同時に、その僅かな隙間から射し込む太陽の光。

晴れ渡った雲ひとつない青空を見上げる吉良の心には、狼狽と安堵の念が渦巻いていた。

視線を下ろすと、彼らを乗せてきたであろう荷車が道端に無造作に投げられている。

薄らと血痕が浮かんでいる荷台からは、それほど遠くない所から運んできたのだと察することができた。

 

「さて、先程の件も少々気にはなるが……先ずは今日の寝床と賃金を稼ぐとするか」

 

しかし、今は他のことよりも自分の安心が優先だと考えた吉良は、通りを行き交う人々に混じり街中を歩く。

陽気な客引きたちの威勢の良い声。

それぞれが開いている出店には、見たこともないような果物や薬草を始め、食肉や生魚などが売られていた。

 

「すみません。少し尋ねたいことがあるのですが」

 

その中の一角、なんとも怪しげな雰囲気の漂う店に目をつけた吉良は、執筆中の黒いコーブに身を包んだ女性に話しかける。

 

「あ、はい?」

 

すると女性は、手に持っていた虫めがねとインクの付いた筆を置いて吉良の方へ振り返った。

そして作業中に申し訳ないと一言添え、この街で職を探すにはどうしたらいいかと言う吉良。

その問いに対し不思議そうな顔を見せた女性は、まるで何を当たり前なことをと言わんばかりの表情でただ一言───

 

「ギルドくらいですね」

 

「ふむ…」

 

そう突っぱねるように言い放った女性は、小声で吉良が客人では無かったことに悪態を吐きながら作業に戻った。

想像していた通りの回答に、渋々店を出た吉良。

やはり手っ取り早いのはギルドでの依頼だと、改めて思い知らされた。

おそらく、この町の誰に聞いても同じ答えが返ってくるだろう。

 

「さて……どうしたものか──」

 

「おいおい、そこの若いもん!ちょっとこっちに来なよ!おぉい!」

 

すると顔を上げた吉良に向かって、向かい側に立つ店の店主が大声で話しかけてきた。

何か用があるのかと不思議に思った吉良は、足早に通りを横断して反対側──海鮮類が並ぶ店の前へとやってくる。

 

「どうした深刻そうな顔して。占いで悪い結果でも出たのか? 気にすんなって! それより、ほら見てけよ。新鮮なヒシ貝とカシワメが入ったんだ。良かったら試食していくか?」

 

その言葉に、先程の店が占い屋であることを今になってようやく気付く。

あの女の態度は気に入らないが、今度は客として今後の運勢を占ってもらうのも悪くない。

そう思いながら吉良は、軽く腹を満たそうと店主にオススメされた貝と白いワカメのような見た目の食材をまじまじと見つめる。

 

「見てるだけじゃあ腹は満たされねぇだろ? 遠慮すんな」

 

「これは……」

 

ほら、と差し出された先の尖った小枝のようなものに、カシワメに包まれたヒシ貝が突き刺さっている。

それを申し訳なさそうに受け取った吉良は、躊躇うことなく口に運んだ。

 

「(悪くないな。それにしても爪楊枝か。中世の文化には無いはずだが)」

 

目を瞑りながら深く考え込む吉良の姿を見て、店主は口に合わなかったかという心労で少々心配そうだった。

そんな店主の視線に気付いた吉良は、爪楊枝を返して美味しかったよと僅かながらの笑みを浮かべた。

 

「吉良……?」

 

とその時、背後から聞き覚えのある声が投げ掛けられた。

すっかり安堵の情に包まれていた吉良の額に、不吉な予感がたんまりと溶け込んだ汗が滲み出てくる。

 

「やっぱり吉良じゃあないかッ! 全く〜〜探したぜオイ!」

 

「ど、同僚……」

 

そこにいたのは、昨日のスーツ姿のままの同僚だった。

【キラークイーン】で貫いた際の腹部の穴は、裁縫されて塞がれている。

 

「いきなり居なくなるなんてよォ〜〜せめて紙にでも行き場所は書いとけ!書いとけ!」

 

「ぐっ……」

 

少しの嫌悪感を抱いた表情を目に秘め、満面に気色を湛える同僚の顔を斜めに見返す。

相変わらずのその甲高い声に耳を痛めつつ、吉良は肩を組もうと手を伸ばしてくる同僚の手を払い除けて向かい合う。

 

「なんだよォ? 照れてんのか? らしくないぜ吉良。あっそうだ。今からラヴァンさんに教えてもらった冒険者ギルドに行くんだが、良かったらお前も来いよ〜〜ってか行こうぜぇ!」

 

息切れひとつ見せずに淡々と喋り続ける同僚。

そんな彼に圧倒されていた吉良は、不意に背後に回った同僚に急かすよう背中を押され、返事を返す間もなく半ば強引に連行される。

 

「お、おい…」

 

「良いから! たまには付き合えよなぁ〜!」

 

「また見に来てくれ。今度は買ってってくれよ〜」

 

そして案の定断りきれずに流され、吉良は再び冒険者ギルドの前の広場までやってきた。

 

「でっかいな〜! ゲームじゃあサイズ感はあんまり分からなかったが、実際に見てみると迫力あるなぁ〜!」

 

遊園地に来た子供のように目をキラキラさせる同僚。

こいつといると目立ってしょうがないと内心思いつつ、駆け足で先を行く同僚とある程度の距離を取って後を付いて行く。

そして重い扉を開けてギルドの中に入った同僚は、当然のことながら視界に映り込む負傷した冒険者の事を吉良に告げた。

 

「同僚……一つ言っておくがあんまり厄介ごとに首を突っ込むんじゃあないよ。何かしらの理由で変なことに巻き込まれでもしたら……」

 

「おぉい! 大丈夫かよあんたらァ!?」

 

「───話を聞けよ」

 

不機嫌なシワを眉間に作りつつ、吉良は深いため息とともに食堂の椅子に腰をかけた。

遠目で見る同僚の姿は、出会った頃となんら変わっていないように感じる。

10年以上の同期、そして未婚者同士という理由での日々のしつこい誘い故か。

 

「(あいつの顔も見飽きたな…)」

 

しかしこう思うのも、ほど良い関係を続けてきたからなのだろう。

吉良自身、気に喰わない奴には無理に接触することは避けていたが、あの同僚は何故か突き放す事ができずにいた。

仮に強く言って距離を取ろうとも、すぐに忘れたかのように接してくる。

だから吉良は───自然と考えるのをやめた。

 

「吉良!吉良!」

 

「え、ぁ……なんだい?」

 

ボォーっとしていた吉良は、自身を呼ぶ同僚の言葉にふと我にかえる。

こうやって気軽に話しかけてくれること自体は、どちらかと言えば嬉しい。

それに、この世界では同僚のような奴でもやはり心強く感じてしまう。

そんな自身の心に呆れ果てながら、吉良は同僚の話に耳を傾ける。

 

「あの2人に聞いても何があったか分からず仕舞いだからよォ〜〜俺たちで解決するって宣言してきた!」

 

「───は?」

 

一瞬、同僚の言った言葉が理解できなかった。

『解決』『宣言』

頭の中でぐるぐると周る単語が、吉良の思考回路を破壊しようとしている。

そしてその答えを知ろうと、同僚が指差す方向に視線を向けた。

 

 

「頼むぜあんたら!」

 

「オレっちも協力するから、この2人の仇を撃ってやろう!」

 

「私も手伝うわ。何か情報見つけ次第、掲示板に書き込んでおくよ!」

 

 

まるで油を注がれた炎のように、負傷した冒険者2人を取り囲む集団が猛々しい気勢に満ち溢れている。

そんな光景に思わず目を丸くした吉良は、奮起する同僚の顔を睨みつけて───

 

「俺たちで解決して、有名になっちまおうぜ吉良!」

 

「………(やはりこいつはいつか殺す)」

 

今までの想いを全て消し去り、同僚を始末することを心に誓ったのだった。

 




仕事が忙しすぎて手がつけられない……(泣)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 2人っきりの食事会

随分と待たせた割に少ないとか言わないで(泣)
今回は挿絵なしですん


それから数時間ほど過ぎた頃───

昼時となり、一層賑やかさを増すギルドの中で、同僚は両手に握られている1枚のカードを嬉しそうに眺めていた。

隣に座る吉良は、そんな無邪気な気色に溢れる同僚の横顔を見つめながら、鼻にシワを寄せて嫌悪感をあらわにしている。

 

「いやぁ〜それにしても、この歳で冒険者になれるとはな!小さい頃からの夢だったんだ!」

 

「そうかい。それは良かったね」

 

幸福と興奮の混じった笑顔に、吉良は突き放すような冷めた表情を見せる。

そして自身の右手に握る、同僚と同じ『ギルドカード』

それを見下ろす吉良は、自分が置かれている今の状況を再確認し、酷く沈んだ顔色で項垂れた。

 

「これから、俺たちの異世界放浪生活が始まると思うとワクワクするな!」

 

「別に……わたしは冒険者になりたいとは言っていないのだが」

 

「今更何言ってんだよォ〜〜!? もう登録も済ませたんだぜ? 駄々をこねるのはやめとけ!やめとけ!」

 

「君が勝手にしたんじゃあないか…」

 

今から少し前──

すっかり周囲の冒険者たちと打ち解けた同僚は、彼らに連れられて受付へと向かっていた。

書類の束を手にして何やら話を受ける同僚に、どことなく嫌な予感を感じた吉良だったが───

 

「呼び止めれば良かった……」

 

「はは!案外楽しいと思うぜ? 武器屋に行って色々と見て回るのもいいんじゃあないか〜?」

 

案の定、吉良の承諾も得ずに、同僚はラヴァン爺から頂いたという「ルーレ」と呼ばれる通貨で2人分の冒険者登録を済ませてしまっていたのだった。

なんとか許せる範囲内であった今までの同僚の身勝手さと比べても、類を見ないほどの異常な行為である。

もう後戻りはできそうにないという事実を受け入れ、前向きに考えようと、深いため息を着いた吉良は両手で膝を叩いて立ち上がった。

 

「ん? どこにいくんだ?」

 

「君のせいでこんな厄介ごとに巻き込まれたんだ。早く用事を済ませてしまおう」

 

「おっ!やる気になったな吉良!それじゃあ早速───」

 

珍しく自分から言ってくれたことに驚いた同僚は、跳ねるような勢いで床を蹴るように立ち上がる。

すると側でグゥーっと腹が鳴る音が聞こえた。

それが吉良のものか、それとも同僚のものだったのかは分からない。

 

「まずはアレだな」

 

「あぁ、勿論だ」

 

だが顔を見合わせた2人は、互いに何かを察したかのようにそそくさと食堂へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!テーブル席へどうぞ〜」

 

酒場へ立ち寄ると同時に、短髪赤毛のウェイトレスが出迎えてくれた。

席へ案内される中で周囲を見渡すと、そこかしこで鎧やら黒いローブを来た輩が楽しげに食事をしている。

その状況に同僚は後方を歩く吉良の方へ何度も振り返っては、キラキラした目を注ぐ。

 

「ご注文はお決まりでしたでしょうか?」

 

「そうだな〜これとこれと──これを2人分お願いするかな」

 

椅子に腰掛けると同僚は、受け渡されたメニュー表に目を通し、次々と片っ端から頼んでいく。

 

「かしこまりました〜!」

 

「お、おい同僚……君、きちんといくらぐらいするのか計算しているのか?」

 

昨日のフィラスの事を思い出した吉良は、嫌な予感が背筋を冷たく流れるのを感じた。

メニュー表をまじまじと見つめている同僚は、不安に急き立てられるように言う吉良に「大丈夫だ」と落ち着いた口調で返す。

 

「それによ───」

 

そう噤むと、同僚は懐にしまってあった巾着袋を取り出して中身をテーブルの上に広げた。

「1」「10」「100」という字が彫られた銀色のコインと「1000」「10000」という字の入った金色に輝くコイン。

 

「出店の商品で見かけたトマトやキャベツみたいなやつの値段を見てみたんだがよォ〜〜どうやら日本の相場と同じみたいなんだ」

 

「それで?」

 

「でよ〜〜ここに書かれてる数字も、500とか600くらいだろ? こっちには合計15000ルーレがあるんだ。ラヴァンさんに感謝して安心して食べようぜ!」

 

金貨と銀貨を掬い上げて言う同僚の顔に、柔らかなシワが浮かび上がる。

それはあまり品が良いとは言い難い、満ち溢れた自信から来る優越感を表していた。

 

「そうか。だから君は後先考えずに頼んだというわけかい。金遣いの荒さは相変わらずのようだね」

 

僅かに歪んだ嘲笑を見せながらも、それまでの険しい眉が少し解けた様子の吉良。

するとそんな2人の元へ、先程のウェイトレスが水の入ったコップをおぼんに乗せてやって来る。

『今しばらくお待ち下さい』と一言添えてコップを置くと、慌てた様子で足早に厨房の方へと駆けていく。

 

「やはり……不思議だ」

 

「ん?どうした?」

 

そんな彼女の後ろ姿を眺めながら、会社に勤めていた頃の自分を思い出す同僚。

するとその時、運ばれた水に口をつけた吉良がそうポツリと呟いた。

 

「街並みや施設等を一通り見たから言えるのだが、この世界はわたしたちがいた世界でいう中世ヨーロッパに当たるのだろう」

 

「お、おう。なんとなく分かってたが……で?なんだよ」

 

「わたしの記憶が確かならば、その時代の水はまともに飲めた代物じゃあなかったのさ」

 

「へぇ〜そうなのか? 随分と詳しいな吉良〜〜! もしかして異世界に興味でもあったのかぁ?」

 

「学生の頃、歴史の勉強をする過程で調べただけさ。呑気にゲームばかりやっていた君とは違うよ」

 

「ひ、酷ぇ言いようだな……」

 

自分と同類に見られたのが嫌だったのか、いつも以上に刺のある言い方をする吉良。

その疎ましい表情に同僚は、嬉しくも悲しい感情に包まれた。

 

「おまたせしました!こちらご注文のお品です」

 

するとそんな2人の間を持つかのように運ばれて来た料理が、テーブルの上にずらりと並べられていく。

そして「ごゆっくり」と、精錬されたお辞儀をしたウェイトレスは他の客の対応に向かった。

あたりに漂う、いかにも食欲をそそる海鮮の香ばしい匂いに、同僚はパチンと両手を合わせて早速食事に取り掛かる。

 

「ちょっと失礼するぜ〜」

 

すると間髪入れずに同僚のフォークが吉良の前に置かれた食器に伸びてくる。

突然のことに驚いた吉良は反応が遅れて何品か奪われてしまった。

 

「お、おい!自分のやつを食えば──」

 

「だって、お前ホタテ嫌いだろ?」

 

「───」

 

「長いこと一緒に居るんだから、それぐらいわかるさ。ほら、それ以外は食えるだろ?」

 

言われてみれば、同僚の前にある海鮮系の皿の上には例のホタテらしきものがあった。

無言のまま再び視線を手元に移すと、それぞれに吉良の好きそうなものばかりが並べられている。

 

「うぉ……これ美味いぜ!食ってみろよ!」

 

フォークとナイフを使って、まるで飢えたものが不時の食事にありつくかのように貪り喰らう同僚。

そんな彼に対して少し嬉しい気持ちに包まれた吉良は、気を緩めてゆっくりと食事に入った。

こうして誰かと一緒に食事をすることは少なかった───というか、好まないことではあった。

だがそれでも、なぜか同僚とこうして食事を共にするのは昔から不思議と抵抗がない。

 

「あれ、もしかしてあんまり空いてないのか?なんなら食べちゃおうか? いや食べてもいい? あーもう食べてやるぜ。それをよこせ吉良ッ!」

 

「待ってくれ。わたしも腹が減っているんだ。自分のペースでやらせてくれ。君みたいにガツガツとは行けないんだよ」

 

襲いくる同僚の魔の手から遠ざけるように、吉良は皿を自分の元へと引き寄せる。

そこまで格別に美味しいとは言えないものではあるけれども、他人に自分のものをみすみす奪われるのは吉良としてのプライドが許さなかった。

 

「う……」

 

───しかし、白くてブヨブヨしている不思議な物体やら、やけにテカテカと光り輝く目玉が飛び出した鮎のようなグロテスクな魚に、吉良の喉はどんどんと狭まっていくのだった。

 




何にも考えずに成り行きで作ってたのもあるし、お仕事で疲れてやる気が起きなかったんですよねぇ……
まぁ、疾走はしないんで安心して^^
許してください!何でもしますから()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 不穏な気配

あれから食事を終え、満たされた腹を抱えながら冒険者ギルドを後にした同僚は、相変わらず無愛想な吉良を連れて他の冒険者仲間から聞いたという【武器屋】へと足を運んでいた。

 

「ここかー!案外ボロっちくて汚ぇな〜売れてねぇのか?」

 

剣と盾のオブジェクトが飾られてある建物の前に立った2人。

柱の塗装は黒ずんでおり、木でできた日除屋根もあちこちが剥がれているという酷い外見をしている。

 

「失礼なことを言うのはよしたまえ」

 

無礼極まりない同僚の発言に神経質な語調で遮るように言う。

そして気を取り直し扉に手をかけたその時、店内から吉良にとって聞き覚えのある声が聞こえてきた。

その声に促された吉良の後を追い、店内へ足を踏み入れた同僚の目に映り込んだのは、整った顔立ちの赤い髪を持った女性。

 

「あっ!ヨッシーじゃん」

 

「こんな所で会うとは奇遇だね」

 

するとこちらの存在に気づいたその女性が駆け寄って来た。

親友のような気軽さで話しかける女性に対し、素っ気無いながらも、どこか優しげのある口調で返答する吉良。

そんな2人の関係に不信感を抱いた同僚は、吉良に対して女性との関係を問いただす。

 

「彼女はフィラスさんだよ。昨晩、ギルドの食堂で出会ってね。紹介するよ、こいつは……同僚だ」

 

「ドウリョウ……?珍しい名前だねぇ〜よろしくね!」

 

「あぁ宜しく!それにしてもやるじゃあないか吉良!こんな可愛い子と仲良くなるなんて〜このこの〜!」

 

「このこのぉ!」

 

同僚に連れて一緒に吉良をいじるフィラス。

そんな似た者同士の2人に多少イラッとした吉良は、白髪の店主の変なものを見るかのような目に俯き加減に視線を逸らす。

 

「あっ、そうだった!聞いてよ〜この町の武器屋を全部回って来たって言うのに、どこにも武器を置いてないっていうのさ」

 

「で、ですから、買い占められてしまいまして……」

 

その言葉に2人があたりを見渡すと、まだチラホラと武器やら防具やらが残っている。

何を言っているんだと同僚が近づいて見てみるが、それらは全て本物によく似たレプリカだった。

 

「はぁ……まいったな…」

 

おそらく、このフィラスのように沢山の人々から何度も同じ質問をされていたのだろう。

疲れ果てている様子の店主は、眉をしかめて酷く憂鬱そうな顔でため息を吐いていた。

そして一体何があったのかと投げかける吉良に対し、店主は事の発端を話し始める。

 

「昨晩、店を閉めようとしていた矢先です。数人の見慣れない兵士さんが来店しましてねぇ……店にある全ての武器・防具を買い取りたいとのことでした。他のお客様に迷惑がかかると思い、わたくしも断ったんです。しかし、言うことを聞かないとただじゃ置かないと言われて……」

 

その時の状況を思い返しながら、店主は奥からベコベコに変形した無残な姿の剣を持ってくる。

おそらく、その者たちに見せしめと言わんばかりに破壊された商品なのだろう。

 

「随分と物騒だねぇ。まさかドレグシアの奴らなんじゃ…」

 

なんて酷いことをするんだと、怒りの感情を抱く同僚の言葉に重なるようにして放たれたフィラスの言葉。

その中には聞き慣れない地名と思わしき名が混ざっていた。

 

「ドレグシア?」

 

すると同僚が言い出すよりも早く、吉良が真剣な物言いで聞き返す。

その言葉に待ってましたと言わんばかりのフィラスは、咳払いに続いて《ドレグシア》という国について話出した。

 

「ここから海を渡って山をいくつか超えたところにある帝国だよ。他国を次々と手にかけて領土を広げているのさ」

 

「ひぇ〜怖いな。あんまり関わらないほうがいいんじゃあないか?すぐにまた仕入れてくれるんだろ?」

 

「それなんですが…」

 

同僚の言葉に申し訳なさそうに身を縮めた店主は、売上表を見つめながら小さく口を開く。

1つの武具を作るのにも、原材料を仕入れ、製造し、そして一般的に販売させるまでは短くとも半月はかかるらしい。

本来、店に出している武器やら鎧等が売れた分、倉庫のほうに保管しているものを並べるという流れではあったが、それも今は不可能な状況。

故に今後のことを考えると万全な状態で再会させるにはさらに数ヶ月先、または1年以上はかかるとのことだった。

 

「はぁ!?そんなに待てるわけねぇ……吉良、殴り込みに行くぜ!」

 

「君、情緒不安定すぎじゃあないか?」

 

「うーん……やめておいた方がいいと思うよ」

 

「え、どうしてだ?」

 

「さっきも言ったけど、他の国々とは違って兵力が桁外れなの。それに現国王はあの《精霊使い》らしいのさ」

 

「精霊……使い?」

 

またもや聞き慣れないその言葉に、吉良と同僚は互いに顔を見合わせる。

 

「……新手のスタンド使いの可能性があるな」

 

吉良の口から出た『スタンド使い』という言葉に少々頭を悩ませる同僚。

が、すぐにそれは自分たちのことを指していること、そして同時にスタンドというのは『マインドクローン』や吉良の『キラークイーン』を一括りにして表した言葉だということを理解した。

 

「それなら問題ねぇな。なんたって俺らも───」

 

少々自慢げに自分たちも精霊使い、もといスタンド使いであることを公表しようとする同僚。

だがそれを遮るように吉良が親指と人差し指で同僚の頬を押し寄せ、そのままフィラスに背を向けて壁際に寄せる。

 

「いいかい同僚。こうして君を生かしているのはわたしの保険の為だと言うことを忘れてもらっては困る。先ほどの冒険者加入の件だって許してはいない」

 

「アフェ……ワ、ワニヲフルンダヨ(何をするんだよ)」

 

「君を始末するのはいつでも出来るんだ。あまり目立つようなことはしないでもらいたい。これ以上面倒ごとに巻き込むのはやめてくれ」

 

不機嫌さを凝縮し、あまつさえ凄みを感じるほどの低音だった。

その鋭利で容赦のない視線に、背中を伝う冷や汗が這いずる虫のように下り落ちる。

自分の命運はこの吉良吉影が握っているのだと、そして自分は操り人形に過ぎないのだと言うことを改めて思い知る。

 

「どうしたの?」

 

「すまない、なんでもないんだ。それよりもフィラスさんはこれからどうするんだい?」

 

同僚の頬を摘んでいた手を下ろし、表情を和らげて振り返る吉良。

するとフィラスは「うーっ」と犬みたいな唸り声の後に、吹っ切れたような短い吐息を付いた。

 

「ぐだぐだ言ってもしょうがないからねぇ。あたしはこのままギルドに向かうよ。またね!」

 

小さく手を振ったフィラスは、店主にも軽く会釈をして足早に店を出て行った。

 

「よし、俺たちも行こうぜ!なんだかあの子といると面白いことが起きそうだ!」

 

「……どうせ嫌だと言っても突っ走るんだろ」

 

「へへっまぁな!邪魔したな親父さん」

 

フィラスに続き、特に何もする事のなかった2人もその背中を追う形で武器屋を後にした。

そして店先で待ってくれていたフィラスと共に、きちんとした自己紹介を交わしながら冒険者ギルドへと向かう。

 

「ねぇあれって……」

 

「あぁ、間違いない…」

 

武器屋を出てからしつこいほどに感じる、なんだか珍しいものでも見るかのような視線。

通り過ぎた人々が必ずと言って良いほどに振り返るのを見た同僚は、まるで有名人にでもなったようだなと2人に言う。

だがそんな同僚の発言に対して「もう慣れちゃったよ」と言うフィラスの顔には苦しい微笑が凝っていた──────

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの可憐な姿…間違いなくフィラスたそだ………この世界に来てやっとどストライクな推しさんに出会えた……さんきゅーな」

 

街角の暗闇の中、不気味な笑みを浮かべる男は───

 

「【サーチ・オブ・トゥルース】」

 

そう自身の背後に立つ存在に呼びかけた。




キャラクター紹介に新キャラの詳細少し載せておくんだか……
しばらくやれてなくて申し訳ない…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 冒険者ギルド技能講習会

再び冒険者ギルドへと足を運んだ同僚たち一行。

相変わらずの賑わいを見せる広場を通り抜けて受付へと向かう2人を、その後ろを歩くフィラスが呼び止める。

 

「あ、そう言えばよっしーたちって駆け出し冒険者だよね?それならちょっと講習会に来てみない?」

 

「講習会だぁ…?」

 

突然そう言い出したフィラスに対し、同僚は眉を顰めてめんどくさげな口ぶりで答える。

話によるとモンスターの生態・ダンジョン知識・野営・探索・狩猟・採集の基礎を、冒険者技能講習などと称して新人に知識を与える場であるようだ。

常識が抜け落ちていたり、冒険者として右も左も分からない者であっても、これで最低限の冒険が出来る様になるというものらしい。

 

「それがあたしがここ、バルティアンに来た理由さ。まぁ他にもあるんだけどね」

 

そう得意げに言い終えたフィラスは1人、同僚と吉良から離れて受け付けカウンターへと駆け出す。

数分後、ここのギルドマスターらしき顎髭を生やした長身の強面な男と共にホールの中央へと戻ってくる。

その手には何やらたくさんの書類が握られていた。

するとその2人を追うような形で、ホワイトボードを引きながらあせあせと急ぎ足で駆けてくる中年のふくよかな女性。

フィラスと男はドカリと置かれたホワイトボードに、書類を磁石のようなものでペタペタと貼り付けていく。

 

「んお、人が集まってきたな!」

 

「そうだね」

 

他の業務員の方々が食堂から運んできた椅子に腰をかけながら待っていた2人の周りに、次々と比較的若い冒険者たちが押し寄せる。

 

「これからバルティアン支部主催冒険者技能講習を始めます。駆け出しの方はもちろん、Fランクの方で参加希望の方はお集まり下さい」

 

パンパンと手を鳴らした男が、ギルド内に響き渡る声で講習会開催の趣旨を伝える。

しばらく待ってから置かれた椅子が満席となると、こほんと小さく咳払いをしたのちに男はフィラスの後ろへと下がる。

 

「はいはーい!紹介に預かったフィラス・ノーズレッドだよ。みんなはあたしのこと知ってるかな?」

 

フランクに話し出したフィラスの言葉に、首を傾げる者も居れば目をキラキラとさせている者もいる。

 

「なぁあんた、フィラスって有名人なのか?」

 

同僚はその中で隣に座っている、前髪の一部分だけ赤色のメッシュが入っている真っ黒なサングラスを付けた黒髪のふくよかな男性に話しかける。

 

「フィラスたそ、めちゃめちゃ有名人っすよ。ギルド最高戦力Sランクのソードマスターなんすよ。自分も最近知ったんすよねぇ……ぱねぇ…マジ推せる」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「そうだったのか。すげぇなオイ」

 

「あ…自分、井茂木 拓男って言います。同じ駆け出しっすかね? 良ければお名前聞いちゃってもいいっすか?」

 

独特な口調に押され気味になりながらもフィラスのことについてその男【井茂木 拓男(いもき たくお】から情報を得る同僚と吉良。

どうやら自分たちが思っていた以上にフィラス・ノーズレッドという人物は高い地位に位置する存在なようだ。

 

「こいつは吉良吉影、おれはその同僚だ。ちょっと名前は諸事情で言えないんだ。すまないな」

 

「よろしく」

 

「あ、そうなんすね。全然大丈夫っすよ。よろしくオネシャス。じゃあ吉良さんと……そうっすねぇ、先輩…パイセンでいいっすか?」

 

「おう、好きなように呼んでくれて構わないぞ」

 

もはや友人感覚で話を進める2人を節目に、前へと向き直す吉良。

その瞳が映し出す先には、子供たちに話しかけるかのように楽しげにギルドのことについて語っているフィラスがいた。

ひそひそと話す2人にため息をついた吉良は、右ポケットの中から手帳とペンを取り出してスラスラと内容をメモし始める。

資料に書かれている文字は相変わらず読み取れないため、小さな紙にまとめるのも一苦労だ。

 

「───よしっと、まぁ簡単に言えばこんな感じかな。またわかんない事とかあったら受け付けのお姉さんたちに聞いてみてね」

 

2.30分ほどの短い演説を終えたのちに、ふぅと息を吐くフィラス。

彼女が言うには、一般的な同業者組合とさほど変わらないらしい。

市民の方々から受けた依頼を仲介して冒険者に受託する。

そして依頼を完了した場合は、それに応じてギルド側から冒険者に対して報酬金を支払うと言った感じらしい。

 

「フィラスさん、ためになったよ。これにはこんなに便利な機能があったんだね」

 

資料をまとめ、講義の後片付けを手伝っているフィラスのもとに歩み寄った吉良は、自身の持つギルドカードを提示しながら言う。

表面にある小さなボタンを押すと、空中にスクリーン状に自身のステータスが映し出される。

その様はなんとも不思議な感覚を吉良に植え付けさせた。

 

「ヨッシーメモしてたの分かったよ〜?きちんと内容を覚えようとしてくれて嬉しかったなぁ」

 

「当たり前じゃあないか。君の話を聞かないどこぞの馬鹿とは違うさ」

 

「なははっ!やっぱりヨッシーの言うこと棘あるけどちょっと面白い。あ、というか討伐クエストと武器の仕様複雑だったけど理解できた?」

 

クエスト依頼にて討伐モンスターを倒すごとに、そのモンスターが持つ特殊能力を1つ武器に付与できる。

それは一体につき一回有効であり、また武器保持者自身の身体に効果のある能力もあるとのことだった。

いまいちパッとはしなかったが、用はスタンドの能力のようなものが武器や自分自身にも作用するというものなのだろう。

 

「ああ、大体は理解できたよ。ありがとう」

 

「またなんか聞きたいことあったら言ってね。あっそうだった!」

 

「ん…?」

 

ニカッと笑ってみせたフィラスが、ふと何かを思い出したかのように会場から離れていく人々に向けて口を開く。

 

「ごめんみんなー!いいっ……っぐ…言い忘れてたけど…実技講習するから駆け出し冒険者の人は残ってぇぇ……!!」

 

講義で疲れ切った状態のまま声を無理やり出したせいか、一瞬裏返ってしまったことに赤面する。

そんなフィラスの姿がたまらなく愛おしく思えるのは何故なのだろうか。

これから先もその真実にはきっと辿り着くことはないのだと、吉良は微笑みながらにそう感じた。

 

「そ、それじゃあこれからエンドリフト草原に向かうから着いて来てね!遅れないでよ?」

 

腰につけた鞘の位置を整え、観光のバスガイドかのように先陣を切って歩き出す。

散り散りになっていた駆け出し冒険者たちも、その声に続いてフィラスの後を追う。

そして吉良は今もなお楽しそうに互いのことについて語り合っている同僚と拓男を無視して、ネクタイを締め直しつつ歩き出した────

 





モチベがなくて更新できませんでしたァァァァァア


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 冒険者ギルド実技講習会

 

〜エンドリフト草原〜

 

 

フィラスに連れられた同僚、吉良、拓男含む駆け出し冒険者一行は、バルティアン壁外に位置するエンドリフト草原と呼ばれる広大な土地に足を踏み入れる。

見つめる先には無限に続くとさえ思わせるほどの地平線、左右には冒険者を阻むがごとく聳り立つ山々があった。

 

「それじゃあみんなにはそれぞれ登録した時の武器と同じ武器を使って実践をしてもらうよ。それを見てあたしが評価するから、まずは自由にやってみよっか」

 

その言葉を合図に、揺れ動く草むらの中から3匹のモンスターが姿を現す。

突然目の前に現れた脅威に冒険者一行がたじろく中、同僚と拓男は歓喜の声を上げていた。

 

「大丈夫大丈夫!この子たちは変身能力を使っている冒険者くんたちだよ。襲ったりしないから安心してね」

 

ホッと安堵の息を漏らす一同。

そしてフィラスは青いブヨブヨとした物体を【スライム】

懸命に羽ばたきながらチューチューと奇妙な声を発するコウモリのような生物を【レッドバット】

猫背の小さな人間のような、緑色の肌とりっぱな棍棒を持っている者を【ゴブリン】と紹介した。

 

「まず実技の相手をしてもらうのはこのスライム君ね!この子は物理技が通用しない厄介な子なんだ〜ほいっと」

 

初めにスライムを一同の前に連れ出すと、フィラスはそう軽く前置きしてから目にも止まらぬ速さで真っ二つに斬り捨てる。

小鳥の悲鳴のような叫びをあげた数人の冒険者らは、どろりと形が崩れ落ちる無残なスライムの姿を見てたまらず口元を両手で覆い隠す。

周りの者たちも、見慣れないグロテスクな物体を目の当たりにして顔を顰めていた。

 

「へーきへーき。物理技が効かないって言うことを確かめるためさ。ほら見てて?」

 

だがそんな彼らに対し、フィラスは尚も声色を変えずに続ける。

すると不安げな空気を一掃するかのように、ドロドロに崩れた身体はまるで時を遡るがごとく元の形へと再生していく。

 

「「おぉっ!!」」

 

「「すげーっ!」」

 

興奮気味に声を震わせる一同。

よほど褒められたのが嬉しかったのか、スライムの頬に当たるかどうか怪しい部分がほんのりと赤く染まる。

 

「よしじゃあ魔導士の子、手上げて?」

 

「「「はいはーい!」」」

 

「んーじゃあそこの君!」

 

「え……あ、はい!」

 

手を挙げた魔導士職の冒険者の中から、フィラスは一番若そうな小柄な少女を選出する。

人前に出た少女はもじもじと恥ずかしそうに身体を捩りながら、見上げる姿勢のまま不安を口にする。

 

「緊張しなくても大丈夫!はい、さぁしっかりと持って?」

 

無造作に地面に置かれている木で出来た杖を拾い上げると、戸惑う少女に手渡して両手を優しく重ねる。

背後に立たれながら耳元でそれだこれだと手解きしている姿は、保育園や幼稚園の先生を彷彿とさせた。

 

「魔導士はね、杖に対してイメージを持たせてあげることが大切なの。相手にどんなことをしてやろうかっていう具体的なイメージを持つことで魔法が撃てるのさ。けれど使用者にあったダメージ上限や攻撃の規模ってのがあるから、最初からそんなに強力な攻撃は出来ないから注意してね?」

 

顔だけを振り向かせつつ、緊張感に震える少女からそっと手を離す。

しっかりと構えを整えた少女は冒険者一同が見守る中、当てやすく身体を広げて待ち構えるスライムに狙いを定める。

 

「さっ心の中でイメージするの。小さな炎をスライム君の身体に当てるイメージを湧かせてみて?」

 

「は、はいっ!」

 

威勢よく返事をした少女の目つきが変わる。

キィッと獲物を狙う虎のような鋭い視線を向けられたスライムは、プルプルと少し身体を震わせていた。

 

「ぐ───っやぁっ!」

 

溜めに溜めた声を出し上げると同時に、杖の先端に赤いオーラが纏う。

すると次の瞬間、それは火球と化してスライムに向けて放たれた。

反動で後ろへと突き飛ばされた少女を抱きかかえるフィラスは、多少大袈裟とも捉えられるほどにその功績を讃えた。

それに続いた各所からの歓声に気をよくした少女であったが、的となったスライムのメラメラと燃え上がる姿を見て不安に駆られる。

 

「ほら、まだまだこれからだよ?がんばれがんばれ!」

 

「オゴォ……ゴプッ」

 

巾着袋から青い水の入った小さな瓶を取り出したフィラスは、スライムの前にしゃがみ込んでその液体を垂らす。

焼け焦げた身体が、その炎すら取り込んでみるみるうちに再生していく。

ぴょんぴょんと元気に跳ねるスライムを見て、不安な表情の少女の顔に笑顔が戻った。

 

「さて、それじゃあ次の子やってみよっか」

 

「「俺がやる!!」」

 

「「私がやる!!」」

 

「お、おぉ……時間がないんだよなぁ……まぁ、でももう全員やっちゃおっか」

 

興味津々の冒険者たちにたじろぐフィラスは、その熱い想いに答えるべく本来の実技研修の時間を大幅に超える時間をかけてみんなに教え込んだ。

魔術士の魔法を使った戦い方には引き継ぎスライムを、弓士には対空中用にレッドバット、残った剣士・斧術士・格闘士・槍術士には基本となる対地上用の立ち回り方を事細かに伝えた。

辺りはすっかり暗くなり、街の灯りが壁の上から漏れ出してきている。

 

「ふぅ───しっかし、あの女の子が俺たちよりも相当強いって変な感じだな。ちっ……あとこれしかねぇのかよ」

 

箱の中にある残りのタバコの本数を確認し悪態をつく同僚。

人は見かけによらずとは言うが、いざ目の前にするとなかなか実感が湧かないものである。

 

「井茂木 拓男と言ったかな。間違っていなければだが、君も外からこの世界へ迷い込んだとみるが?」

 

独り言を呟く同僚を横目に、吉良は気色の悪いにやけ顔をフィラスに向ける拓男に話しかけた。

思えばこの【井茂木 拓男】という者、名前や服装から日本人であることはわかるが、それ以外のことは何も分かっていない。

素性の知らない者と一緒に居るというのはなんとも居心地の悪いものだと、新入社員のころを思い出しながら吉良は無意識に睨みを効かす。

 

「そ……そっすね。自分は2週間前……くらい…に……っすぅぅぅ」

 

「そうかい」

 

冷淡な吉良の視線を受け、蛇に睨まれた蛙のように固まる拓男。

どうも先ほどから目を合わせようとしないのが気になって仕方がない。

拒絶されることにはなんとも思わない吉良だが、出会って間もないうちにこうもあからさまにされると流石に気にしてしまうようだ。

 

「やっぱりこりゃあ俺たち、別世界に迷い込んじまったんじゃあねぇか?思えば俺も変な矢にここ貫かれて意識無くなったっけな」

 

服の上から右横腹をさする同僚。

どういう原理でこんな世界に飛ばされてしまったかは定かではなかった。

だが自身の記憶に残る最後に経験したことを同僚が告げると、それに続いて拓男がこの世界に来る前に起きた出来事を語り出す。

 

「自分の地元に、昔から伝わる噂話があったんすよ」

 

聞けば拓男の地元にはとある都市伝説があったとのこと。

病死・自殺・他殺問わず、現世に強い執着心がある者が迷い込んでしまうとされる場所があり、そこでは走ってはいけないとされていた。

とある日、運悪く強盗が自宅に押し入った際リビングにて鉢合わせし、首と腹を刺されたことにより刺殺される。

しかし意識が遠のいた後、拓男は見知らぬ路地に立っていたという。

赤黒く渦巻く空や、一部分だけ黒ずんだ大きなシミが滲んでいる壁など、非日常的な光景に涙目になりながら出口を求めて駆け出してしまう。

すると背後から「グゴゴゴ」と何かが追いかけてくる音が聞こえ、振り返るよりも前に無数の腕に全身を鷲掴みにされる。

必死に足掻くもどうしようもなく、拓男はそのまま引きずられるようにして闇の中に取り込まれてしまう。

そして再び目を開けるとこの世界に「異世界転移」なるものをしていた。

これが井茂木 拓男が体験した出来事だった。

 

「なんかすげぇ怖いな……俺ちびっちまうかもしれねぇ」

 

「ふむ…」

 

一連の拓男の話を聞き終えた吉良が、何やら深く考え込むように顎に手を当てる。

 

「どうした吉良?」

 

「ああ…いや、わたしもそれと同じようなことが起きたな、と思ってね」

 

「お前もかよ〜詳しく聞きてぇな!」

 

「いや、わたしのことはいい。話したくないのでね。それよりも───」

 

過去を話すことを強く拒否した吉良。

失踪してから一体何があったのかを問いたかった同僚は、少し不貞腐れた態度をとりつつも吉良の視線の先を追って顔を上げる。

 

「おまた〜!」

 

すると講習を終えたフィラスがこちらに駆け寄ってくるところだった。

3人の元に辿り着くと、他の駆け出し冒険者たちの特徴やらを楽しそうに語り出した。

教育者として人を観察するのが好きなようだ。

 

「あっ、ところであんた誰?」

 

「井茂木 拓男っす!よろしくオネシャス!」

 

一息ついたフィラスが、ずっとそばに居座る拓男にむけて言う。

それに対し目をきらつかせながらに答えた拓男は、興奮気味に体を震わせた。

 

「たくお…くおた……おたく…おっ!オタク!いいねぇ〜オタク!よろしくぅ〜♪」

 

「お……オタク……ダメージが……」

 

どうやら今日も、フィラスワールドは絶好調のようだった───

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 20~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。