ラブライブ!サンシャイン!!IF:黒澤家の兄がいた物語 (高月 弾)
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第0話 黒澤家の長男がいた物語

以前の作品が設定紛失により連載できなくなってしまったので心機一転して全くジャンルの違う二次創作をしてみることにしました。
更新は不定期で遅いと思いますがなにとぞよろしくお願いします。


「お兄様!」

 

3歳位の小さな女の子が、長くて綺麗な髪の毛を風になびかせながら走ってくる。

彼女が呼んだ人物は、彼女が走ってくるのを少し先で待っていた。

あたりは春の陽気に包まれていて道の端には綺麗な緑がいっぱいに広がっていた。

草原の中にまるで自分を見せつけるかのように咲くいくつかの花。

それを彼女の髪のように春の暖かい風が優しくなでる。

その風がその先で待つ小さな男の子の短い髪も揺らめかす。

その男の子の元にたどり着く小さな女の子。

身長がほとんど同じであるのを見ると二人は同い年なのだろう。

それどころか2人の顔は酷似していて、瓜二つの存在だった。

 

「走らないでください、【琥珀】お兄様!危ないですわ!」

 

そう言いながら小さな男の子を注意する。

そうすると注意を受けた男の子は、まばゆいくらいの笑顔を浮かべながら答えた。

 

「ごめんなさい、【ダイヤ】お姉様。でも、【ルビィ】の為にも早くお買い物を終わらせなくちゃ!」

 

するとすぐに歩き出そうとする男の子。

するとダイヤお姉様と呼ばれた女の子が慌てて男の子の手を握る。

 

「でも走ってはダメですわ。手をつないで一緒に行きましょう?」

 

そう言いながら、男の子にブレーキをかける。

すると男の子は少し驚いた様子を見せながらも、もう一度あのまばゆい笑顔を見せると、「うん!」と元気の良い返事を返してから2人で歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこれは、あったかもしれない可能性の物語。

黒澤家の長女【黒澤ダイヤ】にもしも、双子の兄がいたら…

そんなもしもの物語である。

 

 

 

_________________________________________________

 

 

 

 

【ピピピピッ!ピピピピッ!ピピッ…!】

 

暗い部屋に電子音が響き渡る。

その電子音は音を告げる途中で部屋の主によって遮断されてしまう。

音を止めた人物は布団から起き上がると大きく伸びをする。

腰の辺りまで伸びた綺麗で真っ直ぐな黒髪はその女性がどれほど気遣って手入れをしているかが分かる。

伸びをしたあとに窓へと歩いて行きカーテンを開く。

太陽の光が明るくその女性を照らす。

その眩しさに目を僅かに閉じるが大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

今日という一日の始まりだ。

カーテンを閉じて制服へと着替える。

その手つきはとても手慣れていて女性は数分としないうちに制服へと着替えていた。

そして部屋から出ると隣の部屋の扉へと移動する。

 

【トントン】

 

軽くノックをする。

そしてその部屋の主に朝がやってきたことを伝える。

すると中からはまだ眠たそうな返事が聞こえてくる。

それを確認すると女性はリビングへと歩いて行った。

 

「お母様おはようございます。」

 

そう言うとダイヤの母も笑顔で返事を返した。

そしてその母の正面にいる人物にも視線を向けると同様に挨拶をする。

 

「【お兄様】おはようございます。」

 

それに気づいた【兄】も食べている手を一度止めて顔をダイヤの方へと向ける。

するとどこかダイヤの母に似た笑顔をダイヤに向けると、

 

「おはよう、【ダイヤ姉さん】。」

 

そう答えた。

ダイヤも兄と同じように席に座り並べてあった朝食を食べ始める。

そんな2人の姿を見ながらでも母は【フフッ】と小さく笑う。

当の2人はそんな母がなぜ笑ったのかが分からずに首をかしげる。

 

「ダイヤは何を着ても似合うわね。3年生の制服もよく似合ってるわよ。」

 

そう、今日は新学期が始まってから初の登校日。

ダイヤも琥珀も高校3年生として初めての制服だ。

とはいえ、3年生になったからといって制服が一新されるわけでもなく、珍しいことにダイヤの通う浦の星女学院では学年ごとに決まった色のスカーフをすることになっている。

3年生になったダイヤは2年生の時の赤いスカーフではなく、落ち着きのある青緑のスカーフを身につけていた。

その姿を褒められたダイヤは少し顔を赤らめるもすぐに胸を張る。

 

「当然ですわ!私はこの黒澤家の長女なのですから、何でも着こなして見せますわ!」

 

そのダイヤの得意げな姿に琥珀は驚くこともなくまるでいつものことと言わんばかりにスルーをする。

そんな兄の姿に少しむすっとしたダイヤが琥珀の方へと視線を向けるとじっと見つめてくる。

琥珀はそれに対して少しの間無視していたがやがて無駄であることを理解すると小さなため息をつきながら、

 

「ダイヤ姉さんに落ち着いている色はよく似合ってると思うよ。」

 

そう答えた。

 

「…ため息をついたのは些か気になりますが、まぁ嘘ではなさそうですしよしとしましょう。」

 

そう言うと朝ご飯を再び食べ始める。

すると母は次に琥珀の方へと視線を向けるとこう言い放った。

 

「琥珀は、制服が丁度良い大きさになったから助かったわ~♪」

 

【ブフッ!】

 

それを言い終わると同時に琥珀の隣から何かを吹き出すような音が聞こえてくる。

が、琥珀はそんなことなど最早気にしてなどいなかった。

母の方を睨むと満面に意地の悪い笑みを浮かべながら琥珀の方を見つめていた。

そんな姿に今日早くも2回目のため息をつく琥珀。

 

(家族で女子が多いせいかうちでは男の立場が…特にオレの立場が弱い気がするなぁ…)

 

そう思いながらせめてものささやかな抵抗として

 

「本当はもっと伸びる予定だったのに、お母さんがこれが着れなくなったらまた買えば良いって言ってたのが丁度良かったらしいね。」

 

と嫌みを含めて呟いた。

もちろん母やダイヤにも聞こえるようにだ。

ダイヤは隣でいまだに咳き込んでいるが、母は「そうね~」と呟くと笑みを浮かべたまま食事に戻ってしまった。

ささやかな抵抗さえも意味をなさなかった悔しさを僅かに感じつつもすぐにそれを亡き者にして食べ終わった食器を片付け始めた。

片付け終わったタイミングで誰かがリビングへと入ってきた。

眠そうに片目をこすりながら、ふらふらと歩く赤いツインテールの女の子。

 

「おはよ~……。」

 

まだまだ眠そうなその様子からはまるで小さな子どものような印象を受けるがこれでも今年からダイヤと同じ浦の星女学院に通う新1年生だ。

 

「おはようございます、ルビィ。」

 

「おはよう、ルビィ。」

 

ダイヤと母もその挨拶に対してすぐに挨拶を返す。

琥珀は片付けを終えてすぐであったために挨拶にすぐに気づけずに2人の挨拶が聞こえて初めてルビィの存在に気がつく。

 

「あぁ、ルビィおはよう。早く顔を洗いな。水も痛いほど冷たくなんてないから。」

 

そう言って目を覚まそうと促す。

ルビィは「うゆ~…。」と何かの鳴き声かのような返事をすると洗面台へと歩いて行った。

顔を洗っている最中にも「ピギッ!?」と言った声を上げていたようだ。

 

(我が妹ながらあの鳴き声はいったい誰に似たんだろうか…あぁ、ダイヤ姉さんもたまにあんな鳴き声上げてたっけか。)

 

そう言いながら横目にダイヤを見るが、まるでダイヤはそれを予測していたかのように琥珀のことを睨んでいた。

それに驚いた琥珀はすぐにダイヤから視線を離し、何食わぬ顔で自身の部屋へと戻っていった。

荷物を確認してから、忘れ物がないことを確認すると高校へ行くときに普段から使っているリュックサックを背負うと玄関へと歩いて行く。

玄関へと着くと先ほどリビングで顔を合わせた3人が待っていた。

 

(別にわざわざ待っていなくても良かったのに…姉さんはまだしも、)

 

そう思いながらも「待たせてごめん。」と言いながら小走りで靴に履き替える。

ダイヤと琥珀が靴を履いて玄関へと立っていて、母とルビィはスリッパを履いて家の中に立っていた。

そう、今日は始業式であるため、今年から高校1年生になるルビィはまだ学校が始まってはいないのだ。

本来ならばまだ寝ていて良いはずだが、自身の姉と兄の見送りがしたいと少し早い時間に起きてきたのだ。

そして琥珀はドアノブに手を掛ける。

琥珀が振り返ると同時にダイヤも振り返り、

 

「「行ってきます。」」

 

2人同時にそう言った。

 

「「行ってらっしゃい!!」」

 

ルビィ達も2人よりもより元気に答える。

そんな元気を背中に受け止めながら2人は登校していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩くとバス停が見えてくる。

2人の学校はそれぞれ家からそれなりの距離があり、バスで通っているのだ。

そのため最寄りのバス停までは同じなのだが、

 

「でもダイヤ姉さん今日はいつもより早いね。生徒会長の仕事?」

 

そう、2人の高校への距離には大きな差があり、普段2人の出発する時間が一致することは極めて少ないのだ。

そして今日もその珍しい日のうちの一つだった。

そのために琥珀もそれを少し気にしていた。

もちろん、ダイヤが早くに着く理由など今先ほど琥珀が言った生徒会に関することであろうと思っているようだが。

 

「えぇ、その通りですわ。始業式の当日の準備も私達が行いますからね。入学式当日も早めに出ますわよ。」

 

結局返ってきた答えは琥珀の想像通りの物だった。

が、入学式当日のことまでは考えてなかった。

 

(そうか、入学式当日もダイヤ姉さんは早めに出るのか…。ルビィが早めに出るのなら皆で登校ってのもあったかも知れないけど、新入生のルビィが早く行っても暇なだけか。)

 

そう考えて小さな希望が叶わないことに少しへこむ。

そうこうしているうちにバス停へと着いていた。

 

「それでは、お兄様。行ってらっしゃい。」

 

「あぁ、ダイヤ姉さんも行ってらっしゃい。」

 

そう、このバス停でダイヤと琥珀は別れる。

ダイヤの通う高校と琥珀の通う高校では方向が真逆なのだ。

そのために乗るバス停も反対となる。

そのためここで別れることとなるのだ。

互いに手を振りながらダイヤは反対側のバス停へと移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浦の星女学院についたダイヤは教室へは向かわずに真っ先に生徒会室へと向かった。

そこで書類をまとめるとすぐに体育館へと向かっていった。

そこには数人の生徒会員が既に作業を始めていて、会場設営が進んでいた。

ダイヤが挨拶をすると作業をしていた生徒会員達が一斉に挨拶を返してくる。

その様子を見る限りダイヤへの信頼はかなり厚いようにも見える。

すぐに始業式の流れや構造を生徒会のメンバーで確認すると、後からやってくる生徒会のメンバーも含めて最終確認を行っていた。

その中で一人の生徒がダイヤに話しかけてきた。

 

「生徒会長。今日何か良いことでもあったんですか?」

 

その言葉に少し驚いて生徒を見返すダイヤ。

 

「だって生徒会長。今日はなんだか優しい顔してますよ?」

 

「あら、普段はいったいどんな顔をしているのですかね?」

 

「ひぇ…っ。」

 

口がすべったと言わんばかりにすぐに口を手でふさぐが時既に遅し。

ダイヤの冷たい笑顔を向けられて顔を引きつらせることしかできなくなっていた。

 

「全く、優しそうな顔ってなんですか。まるで普段が冷たい人のような言い方じゃありませんこと?」

 

そうため息をつきながら話す生徒会長にその生徒会員は慌てて答える。

 

「そっそんなんじゃありませんよ!?普段のキリッ!とした表情よりもなんとなくやんわりとしていたように見えたので…。」

 

そう言われたダイヤは手鏡を取り出して自身の顔を確認するが、自身の顔に全く違和感等は感じられなかった。

 

「そうですか?私にはどうも普段と違うようには見えませんが…。」

 

「あっと…あくまで雰囲気だったので根拠とかは特に…。」

 

「…そうですか。」

 

そう言うとダイヤは、全ての確認を終えたことを重ねて確認すると自身の教室へと戻っていった。

始業式も何の問題もなく進んでいた。

が、浦の星女学院は他校とは少し違う形の始業式になっていた。

先生の話は校長の話だけであり、ほとんどが生徒会の進行によって進められていく。

つまり、生徒会長のダイヤを中心として、始業式は進んでいったのだ。

…まぁ、ダイヤであれば十二分にやり遂げるので全く心配なのはいらないのだが…

始業式も終わり、教室に戻った生徒達は先生から今後の予定の連絡を受けて今日の学校は終わりとなった。

が、生徒会のメンバーと有志の人達は始業式の片付けと入学式の準備が残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、スクールアイドルをやるよ!!」

 

「へ?」




初めての日常系(?)の作品です。
ラブライブ!サンシャイン!!はとても好きなので前々からクロスを作りたいと思ってたのですが色々あってクロスが若干トラウマに…なので、普通にオリ主で作ってみました。
主人公の設定やら特徴は後々説明するか作品の中で分かってくると思うので特別枠などで用意する予定は今のところありません。
今回の作品を見てくださった方々、ありがとうございます!
日常編を書くのが苦手なのでアドバイスや感想をいただけると励みになります。是非ともお願いします。


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第1話 輝きたい!

第1話です。
前回の話はいわば琥珀の存在や関係を簡単に説明するための話なので実質これが1話です。
話の進度はかなり遅いと思ってください。



「私、スクールアイドルをやるよ!!!」

 

「へ?」

 

突然の親友の告白に戸惑う渡辺曜。

始業式が無事に終わり先生からの話も終わって、後は帰るだけとなったタイミングで放たれた衝撃の発言。

そんなことを言い始めた高海千歌に対して曜へ戸惑いながらも千歌に対して質問を投げかける。

 

「ど、どうしたの千歌ちゃん?いきなりスクールアイドルを始めたいだなんて。」

 

「だってこれを見てよ!!」

 

そう言いながらスマホを取り出して曜に突きつける。

曜はその画面を見るとそこにはとある映像が流れていた。

それは、とあるスクールアイドルの映像だった。

9人の女子高校生がステージの上で可愛らしい衣装に身を包み、歌って踊るスクールアイドルの姿であった。

もちろんその踊りも素晴らしい物だったがそれよりも曜の気持ちを魅きつけた物が別にあった。

 

「凄い…いい歌…。」

 

そう。

その曲その物だった。

まるで曜自身の心に訴えかけてくるかのようなストレートな歌詞だがその音は決して激しくなどなくまるで心を包み込むかのような暖かさに満ちていた。

その輝かしくも暖かな9人の姿に曜は一気に魅かれていった。

 

「そうだよ!このミュースってスクールアイドルが…【普通の】…同じ女子高校生なのに凄く輝いて見えるでしょ!?だから、私もスクールアイドルになりたい!!」

 

そんなに真剣に、こんなにも夢中で話す千歌を見て曜は目を丸くする。

それに千歌が【普通】と言っていたことにも何か思い当たることがあったようで、曜は少しだけ考えたてからゆっくりと顔を上げると…

 

「…わかった!千歌ちゃんが真剣にやりたいんだよね?なら私も手伝うよ!!」

 

そう言いながら満面の笑みを浮かべながら千歌の希望に対して自分も手伝うと答えた。

すると千歌も満面の笑みを浮かべながら、

 

「ありがと~!曜ちゃ~ん!!」

 

そう言いながら曜に向かって抱きついてきた。

驚いて少し声を上げながら倒れそうになるのを何とか踏ん張ると顔を少し赤く染めながら千歌をなだめる。

なだめられたことで少し落ち着いた千歌は曜と少し会話をすると、すぐに学校近くのバス停に向かって走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土曜日、日曜日と休日を過ごして月曜日…いよいよ入学式当日。

ダイヤと琥珀は始業式の時と同じように、家を同じ時間に出ようとしていた。

それを始業式の時と同じように母とルビィが玄関で見送りをする。

だが今回は以前とは少しだけ違う点がある。

それは、ルビィが高校の…浦の星女学院の制服を着ていることだ。

ダイヤとは違いである黄色のリボンを胸元に身につけていて、より可愛らしい印象になっていた。

そんなルビィの姿を見ると兄も姉も自然と笑みがこぼれてくる。

対するルビィも自身の尊敬する姉であるダイヤと同じ高校に通えることを心より楽しみにしていた。

入学式がある今日はダイヤは早くに学校へと着く必要があり、琥珀は普段からこの時間に出ている。

ルビィは一緒に登校したいと思っていたが、新入生であるが故に早く行く必要がないどころかむしろ少し遅めに登校するように指示がある。

早く行っても新入生は退屈するだけなのだ。

だから、ルビィは今回も2人の見送り役なのである。

 

「「行ってらっしゃい!!」」

 

「「行ってきます。」わ。」

 

互いが元気に挨拶を交わすと2人は登校していき、2人は入学式へ行くための準備を始めた。

今日という日のためにルビィの父も仕事を休んで入学式に参加するようにしていた。

そして、入学式に向けて…と言うよりも、今日という日に向けて準備していた物がもう2人いた。

 

【ドタンッ!!】

 

なにやらドタバタと大きな音が聞こえてくる。

その音がどこからきて、誰が出している物かをその家の持ち主達は知っていた。

2階にいる音の原因に対して聞こえるように大きな声でヤジを飛ばす。

 

「近所迷惑だよ~。シイタケも言ってやって、こんな田舎じゃ無理だって~。」

 

「バァウ!」

 

シイタケとはこの家で飼っている大きな犬である。

そう言われたであろう人物はいまだにやめることなく、2階で何かの練習を行っていた。

 

「曜ちゃん!どう?」

 

そう言われた曜はスマホに映るとある人物と見比べる。

スマホの中に映し出された人物はまるで引き込まれるような表情をしていた。

そして目の前の千歌を見る。

とてもまねをできているようには思えない。

確かに千歌も充分に可愛らしいのだが、今目の前にあるアイドルの画像と比べるととどう見ても同じには見えない。

が、

 

「え~っと、多分…できてると思う!」

 

と答えた。

正直なところ少し適当だ。

それでも千歌は喜んで次のポーズの練習に移ろうとする。

 

「千歌ちゃん、本当にスクールアイドルやるの?」

 

曜はそんな千歌に対して疑問を投げかけた。

この質問は千歌は「もちろんだよ!」と答えるとまるで昔からの夢で合ったかのように話し始めた。

そんなキラキラとした笑みを浮かべる千歌を見て、曜は千歌がどのような気持ちでスクールアイドルを始めると言ったのか理解できたような気がした。

そして、次に話したのはスクールアイドルを始めることを前提とした話だった。

 

「部員は何人いるの?」

 

千歌はそれを聞くと、曜のすぐ横に座る。

 

「まだ私だけ。」

 

落ち着いてそう答えた。

だがそれは沈んだような声ではなく、これから始めることに対して静かに考えをまとめているような、そんな静けさであった。

それからスクールアイドル部を立ち上げることや、これからやることを話し合う。

が、少し話したところでふと曜が今の時間を確認する。

 

【7:45】

 

それは学校に間に合うための【最後の】バスが来る時刻を示していた。

 

「「あぁぁ~~~~~~!!?」」

 

2人は鞄を持つと走って家を飛び出していく。

玄関を出たところで乗らなければならないバスが家ノ前を通過していった。

2人は目を丸くして、大きな声で叫んでバスに自分達が乗ることを必死に伝えながら走って行った。

バスの中でもスクールアイドルのことで2人で話していた。

千歌がスクールアイドル部の勧誘のためのチラシを作っていてそれを曜に見せたりもしていた。

曜は隠していたが実は、千歌が言葉だけでなく実際にチラシという物だったりを作っていたことに驚いていた。

何とか時間に間に合った千歌達はすぐさまとある準備を始める。

高校での一つの名物とも言える物だ。

それは…

 

「どうですか~!美術部に入って夢のような世界を描いてみませんか!」

 

「ソフトボール部です!皆で仲良く楽しくやっていきたい人達は是非ともソフトボール部へ!!」

 

「水泳部です!!大会で入賞を一緒に目指しましょう!もちろん楽しみたい方も歓迎ですよ!」

 

そう、部活動の勧誘である。

中学まではこのように生徒達が自主的に勧誘するところを見ることはない。

高校生になって初めて経験する、まさにこれが高校か!とも思えるような最初の…言ってしまえば【行事】である。

そして同時にさらに部活動を盛んにしようと在校生が新学期始まってから初めて活動する部内活動でもある。

必然的に皆がやる気を出して、それぞれの部の良さを叫び合う。

この習慣に新入生は驚くかもしれないが、高校という新しい世界に入ったという実感や、ワクワクを与えられ在校生も新学期の始めから元気を出せるという意味でもこの習慣は素晴らしい物だろう。

そんな中にやけにこじんまりとした部活動が一つだけあった。

 

「スクールアイドルやりませんか~!!!スクールアイドル!!!」

 

千歌達だった。

何かの箱の上に立って、メガホンを持ちチラシを片手に勧誘していた。

その横では曜ちゃんがチラシを配りながらその様子を見ていた。

が、チラシを曜から(断り切れずに)受け取る人はいても、千歌から受け取る物は誰もおらずに、ましてや興味を持とうとする者さえもいないようにさえ感じる。

 

「今をときめく…スクールアイドルでぇ~~す!!!」

 

いつしか千歌の叫びは悲痛な物へと変わっていた。

途中から曜ちゃんが一肌脱いで千歌とともに呼びかけるが全く人が立ち止まる様子はなく、いつの間にか2人は謎の箱の上に座り込んでしまっていた。

とうとう新入生のほとんどは自分達の教室に入ってしまい、校門付近には千歌と曜の2人だけとなってしまっていた。

さすがにこれ以上は意味がないと、2人は片付けを始めようとするがそんな時、千歌の視線がある人を捉えた。

肩よりも長い、綺麗な茶色の髪を春の暖かい風になびかせながらまるでそこだけキラキラと輝いているかのようにすら感じる美少女の姿を。

隣の可愛らしい赤い髪の女の子と話す姿はまさに絵になると言った物だった。

 

「美少女…。」

 

それを見た千歌は、チラシをもってすぐに駆けよっていく。

 

「スクールアイドルやりませんか!!」

 

「ずら!?」

 

すぐさまスクールアイドルの勧誘を始める。

もちろんそんなにいきなり詰め寄られたら驚くがそれと同じように千歌自身も彼女の発した言葉に疑問を抱く。

 

「ずら?」

 

はっとした美少女は口を両手で隠す。

そう、気になったのはそのずらという言葉である。

どこかの方言なのだろうが、聞いたことのない言葉に首をかしげる。

がそんな疑問などすぐにどこかへ投げ捨てて、美少女の勧誘へと尽力し始める。

が、勧誘の仕方がどこか怪しい商人が口にしそうな言葉が出ていることにはこの場の誰もが気づかない。

とそんなことを話していると千歌は美少女の後ろに隠れていた女の子の視線がチラシへと向けられていることに気づく。

千歌がチラシを横にずらすと赤い髪の少女も頭を横に動かし、千歌が上下に動かすと赤い髪の少女も同じく上下に頭を動かす。

まるで品定めでもするかのような目でチラシを凝視するその姿は誰がどう見ても興味を持っているようにしか見えなかった。

千歌はもちろんその少女に対して興味があるのかを問いかける。

 

「ライブとかあるんですか!!」

 

「ううん、これから始めるところなの。だから貴方みたいな可愛い子ぜひ…!」

 

そう言いながら千歌は少女の手に触れる。

それが間違いだった。

何かを察したように茶髪の美少女は両手で耳を塞ぐ。

千歌に触れられた少女はみるみる顔を青くしていき、一瞬フリーズする。

千歌はその様子に疑問を抱くがそれを散策するよりも先に…

 

「ぴぎぃあ゙ぁぁぁあああああああ!!!??」

 

「!!!?」

 

悲鳴のような叫び声なような何かが目の前の少女から放たれる。

至近距離にいた千歌は驚いて尻餅をつく。

遠くにいた曜も耳をふさぎながら何事かと、すぐに駆けよってくる。

 

「ルビィちゃんは究極の人見知りずら。」

 

花丸が困惑する先輩ふたりに対して一応説明というように呟いた。

顔を真っ赤にしながら悲鳴を上げる目の前の状況に先輩ふたりは何をすればいいのか分からずただただ困惑することしかできずにいた。

その悲鳴が叫び声からおねぇちゃんを呼ぶ声に変わり始めたこと…まぁ周りの誰もが気づけていないのではあるが、そんな時に木の上から誰かが落ちてきた。

 

【ダンッ!!!】

 

四人の少女の目の前に落ちてきた少女。

着地こそしていた物の足は相当に痛いであろうことは想像が付く。

そして、追い打ちのように落ちてきた少女の上にさらに鞄が落ちてくる。

入学式の日から…初登校日からこんなことになるとは、あまりにも不幸の連続である。

さすがに不憫に思ったのか千歌は落ちてきた少女に対して心配の声を掛ける。

すると少女は目を見開きこう答えた。

 

「もしかしてここは…地上?」

 

「ひぃっ…。」

 

大丈夫ではなかったようだ。

どうやら足から伝わった衝撃が頭まで伝わり壊れてしまっているようだった。

高校生活の始まりの日だったというのに…あまりにかわいそうである。

 

「と言うことはあなたたちは…下劣で下等な人間達。」

 

酷い言われようである。

本格的に心配するのが周りから見たら正しいのかも知れないが、目の前でこんなことをやられた千歌達は困惑するしかない。

その後も訳の分からないことを続けるが、千歌はふと先ほど着地した際の足の痛みがあるのではないかと思い出す。

心配の言葉を掛けながら落下してきた少女の足に触れる。

少女は涙目になりながらも先ほどのような話し方を続ける。

本当に病院へ行った方が良いのではないか?と思っていたが意外なところから落下してきた少女の正体が明かされる。

 

「善子ちゃん…?善子ちゃん!!!」

 

「…ずら…まる?」

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。
小説はやっていて思うのですが、アニメの1話がこちらでの数話分になるというのは中々辛いですね。
まぁ…語数を増やせばいいわけですが、そんな技術は私にはないので…
今回は千歌達が活動を開始、そして花丸と善子の登場でしたね。
前回のセリフが千歌と曜だと分かりましたかね?
分かりにくいならもっと精進していきます。
次回はいよいよ最初の壁となる人物との遭遇です。
次回【第2話 前途多難だよぉ!】
次回もよろしくお願いします。


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第2話 前途多難だよぉ!

今回オリキャラ何人か出てきます。
この作品は主要キャラである琥珀が別の高校にいる関係上、琥珀絡みの人間関係はオリキャラを使うことが多くなります。
Aさん、Bさんとかでも良かったんですが…それだとさすがに味気ないので…
ネタをぶち込みたいです。


「弓道をやってみませんか!明鏡止水!精神統一にはまさに弓道が丁度いいですよ!!」

 

「皆さん!バスケやりましょう!もっとも迫力のあり、最も楽しいスポーツはバスケですよ!!」

 

「バスケが楽しいなんて全て嘘です!!野球が本当は一番のスポーツなんです!このイケメン地球人の僕と一緒に野球をしませんか!」

 

「無☆視。」

 

「ハァ☆お~い!!」

 

「ダメだこの野球部員…早く何とかしないと…。」

 

「そこの君。オカルト研究部に入らないかい?」

 

「私は入る部活を決めてて…」

 

「兼部できるだろう。入れ。」

 

「でも…」

 

「関係ない。入れ。」

 

(訳が分からないよぉ…)

 

「お前達が柔道部に入る意思を見なければオレはこの学校を破壊し尽くすだけだぁ…!!!」

 

「お前ら人間じゃねぇ!!」

 

一部壊れている奴らもいるが、この高校でも入学式当日での部活動勧誘真っ盛りである。

様々な部活動が勧誘を行っているが、浦の星女学院と比較してみると部活動の規模が恐ろしく大きい物が多数存在する。

それほどまでに部活動が盛んなのだ。

どれだけ盛んなのかというと…

 

「皆さん!サッカー部に入りましょう!!そして我らと一緒に全国を制覇しませんかー!!」

 

そう、全国レベルの強さを誇っているのである。

それも一つ二つではなく全体的に部活動のレベルがとても高いのである。

全国大会での優勝経験のあるサッカー部と弓道部をはじめとして様々な部活動が優秀な成績を収めている。

そしてとある部活動も新入生を入部させようと勧誘を行っていた。

 

「卓球部に所属していた人!そしてこれから始めようとする人!卓球部に入りませんかー!」

 

「部活動を楽しくも真剣にやりたい人にお勧めですよ~!」

 

卓球部である。

この高校の卓球部は全国大会への常連校であるほどの実力を持っている。

これだけの実力があれば近隣からはスポーツ推薦によって入学してくる新入生達も多い。

そしてそれはこの卓球部も例外ではない。

 

「すみません。入部届って貰えますか?」

 

声のした方へと振り返ると目の前にはどこかで見た覚えのある顔があった。

 

「おぉ!奈倉唯くんか!」

 

その名前を聞いて勧誘活動していた周りの人達も思い出す。

奈倉唯とは昨年の中学校卓球大会において関東大会に出場してベスト16まで上り詰めた実力者である。

恐らく奈倉もスポーツ推薦によって入学してきた新入生の一人であろう。

数々の入部希望者が他にも卓球部のチラシを受け取ったり、入ることを宣言していった。

その中でも特に目立つ人物が最後に出てきた。

 

「黒澤琥珀さん!!!」

 

思いもよらない呼びかけに琥珀は驚いて声の方へと振り向く。

するとそこには全員に見覚えのある顔がある。

特に琥珀はその人物のことをよく知っていた。

 

「お前は…遠坂雄馬か?」

 

「えっ…覚えていたんですか?」

 

この人物は遠坂雄馬。

かつて琥珀の中学校と遠坂雄馬の中学校は教員が関係を持っていたため、練習試合で幾度となく相手をしていた経験があるのだ。

そして、なによりも遠坂雄馬は…

 

「と、遠坂っていったら…全国大会に中学1年から出場していて、しかも最後の大会ではベスト4に入ったんじゃ…」

 

まさに天才と言えるであろう実力を持つのである。

千葉県の中学校では…いや、千葉県ではまるで英雄のようにも言われているほどの持ち上がりようである。

なぜ千葉県の中学校に通っていたはずの彼がなぜ静岡県にまでわざわざ来たのかというと…

 

「そろそろ時間だから戻ろうか。」

 

少し先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式を無事に終えて、入部届を出す人など様々な人がいるが今日の部活動は全面的に認められていない。

入学式後で準備や片付けなどでどの部活も手伝いを行うからである。

今日だけでも卓球部の入部希望者が5人はいたらしい。

もちろん卓球部も手伝いをやることとなり、入部希望者も同じように手伝っていた様子を見る限りとても良い高校に見える。

その後も特に問題もあるわけはなく、学校は終わった。

琥珀はクラスメートと他愛もない世間話をしながらバスへと乗り込んだ。

そしてバス停に降りた。

が、それは家の最寄りのバス停ではなくて近くに船乗り場のあるバス停に降りた。

そして船乗り場に来たのならばもちろん船に乗る。

そして、琥珀はとある場所へと向かっていった。

 

「あれ?琥珀じゃん。今日も来てくれたんだ。」

 

「前回来たときも入学式の後も来るって言ったろ?」

 

「本当に来ると思ってなかったから。」

 

そう言いながら少しいたずらっぽい笑みを見せる。

それに対して琥珀は少し呆れたような笑みを返す。

琥珀はそのダイビングスーツを着た女性の側に移動すると、いくつかの言葉を交わした。

その後はすぐに家の中に入っていき作業を始めた。

どうやら琥珀はこの女性のことを手伝うために来たらしい。

そしてその慣れた手つきを見る限り、一度や二度ではなくもう何度も訪れていることが分かった。

お客さんが少なからずいるようで女性が片付けなどの整理を行っているときは琥珀が簡単な対応を取っていたりした。

一方、店員である女性は琥珀に比べてより効率よく作業を進めていったり、より適切にお客さんに接待している。

が、その女性は成人女性には見えず琥珀と同年代のようにも見えた。

どうやら今話しているお客さんとは顔なじみのようでとても仲よさそうに話していた。

 

「ねぇ、果南ちゃん。あの男の子初めて見たんだけど、バイトの子?」

 

「いいや。違いますよ。私と同い年なんだけど、おじいちゃんが怪我してからはよく手伝ってくれてるんです。」

 

そう、なぜ琥珀がこのお店を手伝っていたのか。

それは本来このお店のオーナーとも言える果南のお父さんが怪我をしてしまっているのを知った琥珀が女性(かなん)一人では大変だろうと手伝うようになったのだ。

が、琥珀自身も卓球部に通っているために、週1程度の頻度でしかこれないので常連の人でも中々顔を合わせることがなかったのだ。

 

「へぇ、同い年の子ねぇ…。もしかして…付き合ってるのかしら?」

 

お客さんがいたずらな笑みを満面に浮かべながら果南に質問する。

果南は驚きながら両手を横に振り、「違いますよ。」と否定する。

思ったような反応が得られなかったのかお客さんは少し果南を見つめた後に小さなため息をつきながら軽い返事を返す。

少し考えてからまた先ほどの同様の笑みを見せると、

 

「果南ちゃんもいい歳なんだからそろそろ彼氏の一人作ってみたらどうだい?果南ちゃんスタイルもいいしすぐできると思うけどね~。」

 

そう言った。

 

「ちょっと~、今はそんなことしてる余裕はないですし、変なこと言わないでくださいよ。それに女子校なんですからそんな出会いなんてないですよ。」

 

果南にそう答えられるとお客さんはチラッと琥珀の方へ視線を向けるとすぐに果南に向き直って今日のお礼を言った。

そして船に乗って帰って行った。

これが今日の最後のお客さんだった。

先のお客さんが帰ったのを確認すると果南は琥珀にそれを伝えてから二人で片付けを始めた。

空も徐々に夕焼け色に染まっていこうとしている時間帯。

この時間帯から来るお客さんはほとんどいないため、全てを片付けても問題ないと判断したのだ。

片付けを行っているとき、お店の外から果南を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「ん、この声は…。」

 

琥珀が先にその声に気づくと、果南に知らせに行く。

 

「松浦さん。多分松浦さんの幼なじみの二人が来たみたいだよ。」

 

「あれ?今日は少し遅かったね。入学式しかないと思ってたんだけど。」

 

そう言いながら酸素ボンベを持ち上げようとするがそれを琥珀が止める。

 

「待たせるのも悪いから行ってきてよ。あとは簡単な片付けしか残ってないし、俺一人でも充分終わるよ。」

 

「う~ん…なら、任せちゃおうかな。」

 

そう言うとダイビングスーツのままその幼なじみの元へと歩いて行った。

それを見届けた琥珀は酸素ボンベの片付けを再開し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったね。入学式だけじゃなかったの?」

 

「それが~色々あってねぇ。」

 

「はい!回覧板とお母さんから!」

 

そう言いながら回覧板と何かが入ったビニール袋を果南に手渡す。

千歌からそれを受け取りながら「どうせみかんでしょ?」とちょっとしたいたずらのように呟く。

その口調からするに千歌はよく果南に差し入れを持ってくるようだ。

そしてそれはほとんど毎度みかんなのであろう。

そしてそれに対して千歌は文句ならお母さんにと愚痴を言っていた。

その後立ち話じゃあ疲れるだろうからとお店の外の空いているテーブルに三人は移動した。

 

「それで、果南ちゃんは新学期から学校来れそう?」

 

「う~ん、まだ家の手伝いも結構あってね…お父さんの骨折もまだかかりそうだから。」

 

その返答を聞いた千歌達は「そっか~。」と呟きながら残念そうに顔を俯かせる。

すると果南はその後にこう続けた。

 

「だから、学校の様子とか…今の新入生の様子とか聞かせて欲しいな。」

 

それを聞いた二人はすぐに果南に今日の話をし始める。

とはいえ入学式しかなかったため話題は新入生のことばかりであった。

今年の新入生の様子や人数、そしてクラスの様子などを話していた。

クラスの数が今年も一つだという話をしたときは果南が少し暗い顔をしているようにも見えたが、2人がそれに気づくことはなかった。

 

「はぁ~。果南ちゃんも誘いたかったなぁ。」

 

そんなことを呟く千歌にもちろん何かを問う果南だったが次のセリフを聞いたとたんに果南の様子が少しだが確かに変わる。

 

「うん!私スクールアイドルやるんだ!!」

 

元気にそう言う千歌。

曜もそれを笑顔で見ている当たり賛同しているように果南には見えた。

が、果南自身はそれに対してワンテンポ置いてからこう答えた。

 

「ふ~ん。でも私は、千歌達と違って3年生だしね…。」

 

そう言いながらお店の中へと入っていく。

千歌と曜の2人が不思議そうに店の中を覗こうとするとすぐに果南が出てきて千歌の前に何かを突き出す。

千歌はそれを受け取って確認する。

 

「…またひもの~?」

 

これまたお馴染みであるらしい干物であった。

どうやらこの2人が回覧板などを渡すときはそれぞれ、みかんと干物を渡し合うらしい。

そして、

 

「文句なら母さんに言ってよ。」

 

とこれまた千歌と同じようなセリフを果南も返していた。

そんな当たり前の様子を横で見ていた曜もクスッと笑みを浮かべるいるのだった。

千歌達は話に一区切り着くとやってきた船に乗って帰って行った。

その見送りをしていた果南に後ろから声がかかる。

それに気づいて振り返ると琥珀が軽く手を振りながらこちらへと歩いてきていた。

どうやら片付けを含めて終わってしまったらしい。

 

「ごめんね、あとを全部任せちゃって。」

 

そう謝る果南だが琥珀は謝ることじゃない、と笑いながら答えた。

一応果南に片付けた物の場所などの最終確認をして貰い、正式に後片付けも終わりとなった。

次の船が来るまでまだ少し時間があるため、果南が琥珀に対してお茶やお菓子などを出して少しばかりのご褒美タイムを取っていた。

 

「浦の星の生徒数はどうだって?」

 

琥珀の口から浦の星女学院の話が出ると思ってなかったのか少し驚いたように目を丸くするがすぐに少し真剣な顔になり、今の現状を伝えた。

すると琥珀の顔は少し暗い顔になり「そうか…」と呟いた。

その後はすぐに琥珀自身が今後の手伝いの予定についてを伝えた。

それは、部活動があるが故に毎週木曜日しかこれないと言うことだった。

果南は部活動がある中で手伝いに来てくれる琥珀に感謝していたがそれと同じくらいに申し訳なくも感じていた。

琥珀の部活動の成績は知っていたからこそ断ろうとも考えた。

だがいま果南が断ったところで琥珀が次の木曜日にやってくることは目に見えていた。

もし断ってこないのであれば初めの段階で手伝いなどには来ないだろうからである。

それを分かっていた果南は潔く琥珀の手伝いに感謝して頼んだ。

その後は琥珀の学校の話に移り変わる。

 

「部活動の調子はどうなの?いい感じ?」

 

「微妙かな…新しいサーブを今練習してるんだけど、まだ安定して使えなくてね。せいぜい6割って感じかな。」

 

「えっ…もう最後の大会も近いのに今新しいサーブ?大丈夫なの?」

 

「冬の大会で使った技だけじゃ相手に対策ねられてすぐ追いつかれるよ。オレにとっては最後の大会だからこそ、やれるだけのことはやらなきゃいけないんだ。もちろん、今ある技もまだ上を目指すつもりだよ。」

 

「そっかぁ。いまのままでも充分に強いのに…やっぱり上を目指す人は違うんだなぁ。」

 

果南はそう言いながら琥珀に憧れにも似た眼差しを向ける。

だがその眼差しには憧れ以外の感情が隠れているようにも見えた。

 

「そんなことはないだろ。松浦さんだって同じ事してたじゃん。」

 

琥珀のその言葉を聞いたとたんに果南の顔には影が差し込む。

 

「違うよ…【私達】は、そこまで行けなかったから。」

 

そう呟くように言った。

琥珀には果南の表情が影に隠れていて全く見えない。

が、その声は明らかに暗かった。

その理由は…琥珀は知っている。

だが、琥珀はあえてそれには触れることなく、

 

「そっか…オレには違うようには感じなかったけど…」

 

と果南と同じく呟くように言った。

2人の間に重い空気が流れるがそのタイミングで船がやってくる。

琥珀はそれに気づくと、果南にお礼を言ってから船に向かおうとする。

が、それを果南が引き留めた。

何かと思い振り返ると果南が笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

その瞬間琥珀は何かを察した。

 

「はい、お礼。」

 

そう言いながら琥珀に何かを手渡す。

これが何かを確認するまでもなく琥珀はこれがなんなのか分かっていた。

が、本題はここではない。

果南の顔を見るとまだ意味深な笑みを浮かべていた。

 

「ねぇ琥珀。私、久しぶりになにかお魚以外の物が食べないな~?」

 

これである。

その言葉に琥珀はため息をつきながら、

 

「久しぶりって…ここ最近頻度多くない?先週も同じ事言ってなかった?」

 

と返した。

実は琥珀は一人暮らしに向けて、定期的に料理の練習を行っていたのだがそれを知った果南が食べてみたいと発言したことがきっかけで、たまに果南に料理を持ってくることがあったのだ。

…あとは果南のお母さんが海鮮料理以外が苦手という噂にも原因があるのかも知れないが…

琥珀は手で首の後ろを押さえながれ小さなため息をつく。

 

「何が食べたいの…?」

 

諦めたように呟く。

ため息こそついていた物のこうなることを予想していたのか嫌な顔をしているようにも見えなかった。

それを見た果南は少し考えてから「中華が食べたいかな?」と答えた。

 

「じゃあ次の木曜日に持ってくるよ。」

 

「ありがとう!」

 

琥珀のその答えに対して果南は満面の笑みを浮かべて感謝の言葉を伝える。

それを受け取った琥珀も微笑返す。

がすぐあとにその笑みがいたずらを含め笑みに変わる。

 

「…松浦さんも少しは料理を練習してみたら?」

 

その言葉を聞いた瞬間果南の身体が一瞬震える。

それを見た琥珀は期待通りだったのかさらにいらずらの割合が多いであろう笑みを浮かべていた。

 

「私だって少しぐらいはできるんだぞお!!」

 

そう怒って声を騰げる果南から逃げるように船に乗り込んだ琥珀はそのまま家に向かって帰って行ってしまった。

 

「…海鮮料理以外も練習するべきかなん…。」

 

 

 




無理やりネタぶち込んですみません。
カオスって憧れません?カオスって良くないですか?
個人的にカオス好きなので変なところでぶち込んでくると思います。
ネタが分からなかったらすみません。今回は一応、【ドラゴンボール】【Death note】【ジョジョ】【まどマギ】【ポケモン】のネタを使いました。
今回登場した【奈倉】と【遠坂】は登場頻度は琥珀に視点を置いた回では登場頻度は多いかも知れませんが、Apoursに視点の置かれている回では基本的には出ないキャラです。実際今のところ奈倉君達とApoursを絡ませる予定はないので…
更新遅くなってすみませんでした。
次回はもう少し早くできるように頑張ろうと思います。
今回も見ていただきありがとうございます!
次回は【第3話 許しませんわ!】
次回もよろしくお願いします!


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第3話 許しませんわ!

大分遅くなりました。
リアルがレポート増えたせいで時間なくなってきました。
そして、基本的に投稿はモチベ依存なのであまり頻度は期待してないで下さい。



「ただいま~。」

 

ドアを開けながら帰宅の挨拶をした。

すると三人の女性の声でお帰りなさい、と聞こえてきた。

3人の声が聞こえてきたと言うことは…

 

(ダイヤ姉さんも帰ってきてるのか。)

 

そんなことを思いながら自身の部屋へと入っていく。

制服から部屋着へと着替えて、明日の準備を済ませる。

そして、机に座ると近くの本の山の一番上の本を取り出す。

それは英語の単語帳だった。

その単語帳には多くの付箋が貼り付けられていて本来よりも厚くなっていた。

今年の3年生である琥珀は受験を控えている、そのために最近はずっと勉強漬けのようになっている。

もちろん今日も自身の決めた量の単語を覚えたり、確認をする。

30分ほど勉強をしていた頃だろうか、小さなため息をつきながら単語帳を閉じる。

 

「ダメだ…今日はやけに集中できないし、やる気も出ない…。」

 

首の後ろを手で押さえながら一旦動作を止める。

一瞬何かを考えると、もう一度小さなため息をつきながら一度部屋の外へと出る。

そして、別の部屋の前にと立つ。

一度ノックをして、部屋の主に入ることへの許可を取る。

すると中からは許可の出る返答が返ってくる。

それを聞いた琥珀はゆっくりと扉を開けた。

 

「お兄さま…どうかなされましたか?」

 

ダイヤは椅子をこちらへと向けて話しかけていた。

どうやらダイヤも勉強をしていたようだ。

それも当たり前である。

ダイヤと琥珀は双子の姉兄(きょうだい)であるためにダイヤもまた受験生なのだ。

が、琥珀はダイヤの物言いが僅かに乱暴であることにすぐに気が付いた。

 

「勉強中だった?ごめん姉さん。ちょっと気晴らしのつもりだったんだけど、邪魔かな?」

 

「いいえ、大丈夫ですわ。私も一度息抜きをと思ってましたので。」

 

そう言いながらペンを置く。

琥珀はそうか、と短く返すとダイヤの側に座った。

すぐ隣同士に座る姉兄(きょうだい)だが、話すタイミングを伺っているのか中々会話が始まらない。

1分ほど静寂が続いた後、ダイヤから話を切り出す。

 

「どうしたのですか?お兄さまがわたくしの部屋に来るなんて珍しいですね。」

 

「あぁ、なんだが勉強が捗らなくてね…。どうも集中できないから少し気分転換にさ。」

 

「…気分転換なら身体を動かせばいいのでは?普段のように。」

 

ダイヤのその返答に琥珀は「まぁ…うん。」と少し曖昧な返答をする。

事実、琥珀は普段勉強の調子が悪かったり、気持ちが切り替わらなかったりしたときは筋トレやランニング、ボールやラケットをいじる等身体を動かして気持ちを切り替えることがほとんどだった。

だからこそ、琥珀があえてダイヤの部屋に入ってきたことは珍しくダイヤにとっても予想外の出来事だった。

もちろんダイヤは琥珀の曖昧な返答にはっきりしてくれ、と伝える。

すると少し考えてからこう答えた。

 

「なんとなくダイヤ姉さんと話したかった。ただの気まぐれだよ。」

 

それを聞いたダイヤは少し不服そうな表情を浮かべるも小さなため息とともに肩の力を少し抜く。

 

「なぁダイヤ姉さん。学校で何かあった?」

 

その一言にダイヤは少し驚く。

目を丸くして琥珀を見つめる。

ダイヤが口を開こうとするがそれを遮るかのように琥珀が話し出す。

 

「だって少し不機嫌そうだよ。何年一緒にいると思ってるのさ、姉さんのことは一番よくわかってるよ。」

 

まるでダイヤの言いたいことが分かっているかのようにそう話した。

実際、ダイヤが話そうとしたことはなぜ分かったのか?と言うことであったためにぐうの音も出なくなる。

それを聞いて諦めたのか再び小さなため息をつくと、ゆっくりと話し始めた。

 

「…今日、入学式があったですわよね?」

 

「うん。」

 

「もちろんその中では部活動の勧誘などもあったのですが…」

 

(あぁ、それはそうだろうね。オレの学校でも…オレもやってたし。)

 

「そんな中で部活動として認証していない…ましてや申請してすらいないような部活動が勧誘をしていたのです。」

 

ダイヤはそう説明しながら頭を抱える。

琥珀でさえ思わず聞き直したくなる。

申請していない?そんな状態で自分達は部活だと言い張って勧誘をしていたのか?と琥珀自身の疑問の山のように築かれていく。

もし本当にそうなのであれば学校にとっては迷惑であることはもちろん、仮にその部活に興味を持った新入生がいればその子達にも迷惑がかかってしまう。

まさかそんなことをする生徒がいるとはさすがに琥珀も驚きを隠せなかった。

 

「それで…わたくしがその部員擬きを生徒会室に呼び出して事情を聞いたのですが…」

 

ここの流れで琥珀はさすがダイヤ姉さんだ、と感心した。

普通の生徒会長とかならばまず注意や警告などから入る者達もいるであろう。

が、ダイヤはその人達の事情から聞くことでその部に対する処分を的確に行おうとしていると感じたからである。

 

「【μ's】のことをミュースと間違えるような素人が、スクールアイドルを始めるなんて…身の程知らずもいいところですわ!!!」

 

この一言でなぜダイヤがこれほどまでに腹を立てているのかを琥珀は理解することが出来た。

ダイヤの口から出てきたμ'sというスクールアイドルの名前。

ダイヤはこう見えても大のスクールアイドル好きであり、その中でも最も好きなのがμ'sなのである。

なぜ、μ'sのことが一番好きなのであるかというと…

 

「あれほどまでに完成されたスクールアイドルを見たことがありませんわ!!なんといっても…!!!」

 

そこから30分近くμ'sの話を語られてしまうことになるとは琥珀は全く考えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そして、ついにラブライブ!で優勝を果たし、日本中を熱狂させるようなスクールアイドルにまでなったのです!!それほどまでのスクールアイドルの名前さえも理解していないような人達のスクールアイドルになりたいなどという愚かな戯れ言には全く虫唾が走りますわ!!!」

 

長く続いた熱弁もついに終わりを迎え、どれほどダイヤがスクールアイドルを愛していて、どれほどμ'sに憧れているかは誰が見ても分かるであろう。

 

(ダイヤ姉さんもドハマりすると本当に手がつけられなくなるなぁ。ルビィといいやっぱり姉妹なんだな。…まぁ、オレも例に漏れずに…姉兄【きょうだい】って言うのが分かりやすい)

 

と苦笑いをしながら考えていた。

その後は少し熱くなりすぎているダイヤを、なだめて冷静になるように促す。

ダイヤ自身も熱くなりすぎていていた自覚があったようですぐに冷静さを取り戻した。

 

「スポーツも出来て勉強も出来て、伝統文化に関しても知識も実力もある超優等生なのに、スクールアイドルに関してはヲタクみたいだよな。姉さんって。」

 

それを聞いたダイヤは顔を真っ赤にする。

 

「お…!ヲタクではありませんわ!!心からスクールアイドル、μ'sのことを愛しているだけですわ!!そんなことをいったらお兄さまだって、重度のドラゴンボ◯ルのヲタクじゃありませんこと!!」

 

「そうだな~、ドラゴン◯ールに関してはオレもヲタクだと思うよ。」

 

そうあっさりと答える琥珀に対してダイヤは呆れたように肩を落とすと大きなため息をついた。

そして10秒ほどの空白が二人の間にうまれる。

まるで空気が入れ替わるかのように。

 

「浦の星のスクールアイドルにふさわしいのは【Aqours】しかいないか?」

 

その言葉にダイヤは僅かに肩をふるわせる。

琥珀の言葉は確かにダイヤの耳へと届いているのはダイヤの反応を見ても安易に分かる。

が、ダイヤはその言葉に対して何か言葉を返そうとはしなかった。

琥珀はそこでダイヤの顔を見つめる。

その目には影が差していたが、それとは同時に…いや、それよりも大きな感情が秘められていることはすぐに分かった。

それを確認すると琥珀はゆっくりと立ち上がる。

 

「ありがとうダイヤ姉さん。少し長居しちゃったかも知れないけどいい気分転換になったよ。」

 

「そうですか。ごめんなさい、少し話しすぎましたわ。」

 

「気にする必要ないよ、気分転換になったって言ったっしょ?」

 

そう言いながらダイヤの部屋の扉に手を掛ける。

 

「明日から本格的に学校も始まるし、ルビィのことお願いな?姉さん。」

 

「もちろんですわ。この私にどーんと任せておいてください。」

 

そう微笑みながら答えた。

普段は冷静でクールなイメージのあるダイヤだが家族の前では意外と砕けたところを見せることがある。

今も自身の拳で軽く胸をたたきながら大げさに表現していたりして、琥珀に心配を掛けないように明るく振る舞っているのがその証拠だ。

こういうときのダイヤは基本的に大丈夫だと琥珀は知っていたため、頷いて返事を返すと自身の部屋へと戻っていった。

その後、ダイヤと琥珀は自身の言っていた通りに気分転換が出来たようで勉学に励むことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒澤家から少し離れた場所ではふたりの少女が海岸に座っていた。

なぜこんなことになっているのかというと時間を少し遡る。

 

「…はぁ、まずは部員かぁ。それにダイヤさん…生徒会長もどうにかしないと…」

 

そう呟きながら手に持っているポスターを見つめながら歩く千歌。

大きなため息をつきながらとぼとぼ歩いていると、一吹きの風が千歌に襲いかかりポスターを吹き飛ばそうとしてきた。

千歌はポスターを持つ手に力を込めて吹き飛ばされないようにする、それと同時に急な突風に目を閉じる。

風が弱まったのが分かりゆっくりと目を開くと、次の瞬間に風になびく何かが視界に飛び込んできた。

 

(わかめ…?)

 

千歌はそう考えるがそんなはずはなく、よく目をこらすとそれは綺麗な長い濃紅色の髪だった。

そんな髪を持つ、一人の少女が夕日の色に染まる海を真っ直ぐに見つめていた。

その様子があまりにも美しく立ち止まってその光景を見つめてしまう千歌。

が、次の瞬間にも美しいという考えは消し飛んでしまう。

少女は突如として着ていた制服を脱ぎ捨てる。

そして現れたのは美しいボディライン…ではなく競泳用のような水着だった。

なにがとは言わないが期待したわけじゃないですよ…はい。

千歌はもちろんそのいきなりのことに目を丸くして唖然とするがすぐに走り出す。

 

「嘘でしょ…まだ四月だよ!?」

 

パニックになりながらも今まさに海にでも飛び込もうとするかのような少女を止めるべく走って行く。

そんな千歌をよそに少女はかけ声をあげながら海に向かって走って行く。

そしてそのまま海へ飛び込もうとする。

が、寸前のところで千歌が少女に飛びつき取り押さえようとする。

千歌自身ももう頭がパニックになりどんな言葉を少女にかけていたのかは全く覚えていなかった。

だが、その後の少女の言葉だけははっきりと耳に残っていた。

 

「離して!私は…行かなくちゃ行けないの!!!」

 

そう叫びながら変わらず海に飛び込もうとする少女、そしてそれを必死に止める千歌。

その均衡が数秒続いた後、

 

【ズルッ】

 

「「へ?」」

 

千歌の足がすべる。

もちろんいきなり支えを失った両者はそのまま勢いよく海へと墜落していった。

 

海から出てきた二人は近くの浜辺で身体を乾かしていた。

その間に2人とも冷静さを取り戻したようでお互いの話を聞けるようになっていた。

 

「大丈夫?沖縄じゃないんだから…。海に入りたいなら、ダイビングショップだってあるんだよ?」

 

「海の音を…聴きたいの…。」

 

そう呟くように答えた。

消えそうなほど小さい声は意識していなければ海の小さなさざ波の音にさえかき消されてしまいそうなほどだった。

何かを抱えているのであることは千歌にもすぐ分かった。

だからこそ、その事に関しては深く聞き入ろうとはしなかった。

話を変えて無難に出身地の話をしたところ、その女の子は東京と答えた。

その答えを聞いた千歌は目を輝かせる。

 

「じゃあスクールアイドルって知ってる!!」

 

「す、スクールアイドル?」

 

千歌のその豹変ぶりに思わず目を丸くする女の子。

だがその驚く女の子の様子にこれまた目を丸くする千歌。

再び問を投げるが返ってくるのはまるで初めて聞いたかのような復唱だけだった。

そこで千歌はポケットからスマホを取り出して女の子の前に突きつける。

 

「何じゃこりゃ!ってなるよ!!」

 

「何じゃこりゃ?」

 

おそらくこれから女の子に見せようとしているのは、彼女が好きだと言っていたμ'sだろう。

が、普通自分の好きなものを相手に伝えるときにそんな変なセリフを使うだろうか?

それを見せられた女の子も千歌のあまりに不思議なおすすめの仕方についついお世辞などではなく素の反応を見せてしまう。

 

「何というか、【普通】?」

 

「……。」

 

相手の静寂を聞いてから女の子は自分自身が失言をしていたことに気づく。

千歌の様子を見る限りスクールアイドルが好きである可能性はあっても嫌いである可能性は全くないことは分かっていたはずなのにそれに対して【普通】と言う言葉はあまりにも失礼であることは明白だった。

 

「だよね。」

 

「え?」

 

だからこそ次に放たれた千歌(彼女)の言葉を理解することが出来なかった。

その次に聞こえてきたのは千歌(彼女)のそれまでの自身の話だった。

それまで何かに熱中できるわけでもなく、ただただ【普通】の人生を歩んできたのだと。

このままだと普通怪獣チカチーになるとも言っていた。

そんな時にであったのがスクールアイドルだった。

千歌(彼女)自身も初めに見たときは普通だと感じていたらしいが、曲を聴き始めて…彼女たちのスクールアイドルとしてのμ'sを見たときにそのイメージは覆されたようだった。

それからμ'sに火がついた。

気づいたときにはμ'sの全ての曲を聴いていたらしい。

女の子はそんな話を聞いていた。

その中で女の子も、自分が諦めかけていた夢への気持ちを思い出す。

 

(…好き【だった】。あの時の気持ちは今も覚えてる。変わらないはずなのに今は【分からない】。けど…)

 

「私も皆と何かを頑張ってみたいって…輝きたいって!!!」

 

彼女を見つめると、その瞳はどこまでも遠くを見つめて、どこまでも輝いているようにも見えた

その目がこちらへと向いた瞬間女の子は何かを感じ取った。

 

【頑張れ!!!】

 

そう言葉にして伝えられたわけではない。

だが彼女の言葉が、まるで自分の心に直接響いてきたかのような感じがした。

その輝きを秘めた瞳から目を離せなくなっていた。

少しの間、二人の間を静寂という名の音が支配する。

少しして女の子は小さく息をつくと、

 

「…頑張れって言われてる気がした。」

 

そう呟くように答えた。

すると千歌は「えへへ」と笑って見せた。

本当に応援していたのか、それが伝わったことに笑みを浮かべたのか、それとも自分の話で少し元気になった女の子に安心したのか、真意は分からないが笑っていた。

 

「ありがとう。私、もう少し頑張ってみる。」

 

そう言いながら女の子は立ち上がる。

それを見た千歌は先ほどに負けないくらい元気な声で返事をして、満面の笑みでそれに応える。

 

「うん。あ、私は高海千歌!」

 

思い出したかのように自分の名前を名乗ってから少し遠くの方を指さしながら、自身が浦の星女学院の2年生であることを説明する。

 

「じゃあ同い年だ。」

 

その言葉に千歌は少し驚いたように目を丸くする。

 

「私は桜内梨子。高校は…【音ノ木坂学院高校】。」

 

 

 

 

この出会いが千歌の…千歌達の運命を大きく変える出来事になる。

この物語の始まりは千歌がスクールアイドルを始めようとしたこと、だとするならばこの出会いはスクールアイドルへの第一歩とも言うべきであろう。

この出会いから、千歌達の運命はゆっくりと動き始める。

 

 

 

 

 




まだ話す必要ないかも知れませんが、アニメのラブライブ!サンシャイン!!では日常回があまりなかったのでスクフェスを主にして日常回とかはやっていきたいですね。
次回【第4話 転校生を追いかけろ!】
次回もよろしくお願いします。


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第4話 転校生を追いかけろ!

アニメ本編とは少しずつ流れや内容が異なりますがご了承ください。


「今日は転校生の紹介からやっていくよ~。」

 

先生の言葉に教室がざわつく。

転校生が来るというイベントは在校生にとってはまさに貴重であり、大変興味のあるものだろう。

どんな子が来るのか、可愛いのか、カッコいいのか、仲良くなれるのか、と色々な疑問が生徒達の頭を駆け巡る。

それはもちろん千歌と曜も同じだった。

どんな子が来るのかワクワクしながら待っていると、先生がついに教室の中へと転校生を呼ぶ。

扉を開けて入ってきたのは長い髪をなびかせた女の子だった。

教室はその美しい容姿に目を奪われるが、千歌だけは同じく目を丸くしていたが違う感情を抱いていた。

自己紹介をしようとする前に小さなくしゃみが女の子から聞こえてくる。

風邪でも引いているのか?その疑問の答えを知る者はこの場では本人と千歌だけであろう。

 

「東京から転校してきました。桜内梨子です。よろしくお願いします。」

 

そう。

浦の星女学院に転校してきたのはつい最近千歌がであった人物、桜内梨子だった。

思わず千歌は立ち上がり手を梨子に向かって伸ばす。

 

「奇跡だよ!!!」

 

思わずそう叫ぶと、梨子はそれに気づいて目を丸くする。

この教室で本来初対面であるはずの二人が、互いの顔を見て驚く。

まるで以前にも…つい最近にでもであったかのように。

もちろんこの後クラスメイトからの質問ラッシュが桜内さんを襲うのだが、その中には千歌との関係を迫られる物もあり千歌自身が質問攻めにも遭うような状況になっていた。

 

「ねぇねぇ千歌ちゃん。あの転校生の子と知り合いなの?」

 

曜ももちろん千歌と転校生の子との関係を不思議に思った一人である。

千歌と曜は幼なじみで小さい頃からよく一緒にいた。

だが曜は転校生である桜内梨子のことが全く記憶にはなかったため、不思議で仕方なかった。

 

「え、えっと…実は昨日たまたま海辺で梨子ちゃんと会ったんだ。まさか浦の星に来るとは思ってなかったけど。」

 

どういう経緯でであったのかを説明するのはあえて避けた。

まぁ、梨子の最初の状況はインパクトもありすぎるし言うべきではないと判断したのだろう。

その後、1時間目が終わって休憩時間に千歌は梨子に話しかけようとするも、あまりの人の大群にとても話しかけられるような状況ではなかった。

この調子だととても梨子に話しかけることなど出来ないが、3限目まで話せなかった千歌はとうとう爆発する。

 

「梨子ちゃーーーーーん!!!!」

 

授業が終わると同時に千歌は大きな声を上げながら梨子に迫ってくる。

あまりの大きさの声と突然な出来事に梨子は目を丸くし、クラスメート達の驚いて声の方を見るが、それが千歌であると分かるとまるで見慣れたかのようなため息をつく。

 

「スクールアイドルをやろうよ!!!」

 

「…え?」

 

千歌のセリフに梨子の思考は完全に停止する。

周りのクラスメート達は最近千歌がスクールアイドルにハマっていたことこそ知っていたもののまさか本人がそれをやりたいと言い出すとは思ってもみなかったためか、クラスメート達の目も丸くなっていた。

返答が返ってこない梨子の顔をのぞき込む千歌。

それに気づくとだんだんと頭が回るようになっていく。

それを確認できた千歌ももう一度さっきのセリフを言う。

 

「スクールアイドルを…やろうよ!!!!」

 

「…ごめんなさい。」

 

割と即答であった。

返答までに少しの間があったがそれはスクールアイドルをやることへの迷いではなく、千歌の言葉の意味を考えている時間だったことは誰が見ても明白だった。

 

「ええ!?」

 

千歌は大げさとも思えるくらいに驚くが普通の人から見たら断られるのが当たり前である。

梨子は現在もピアノを続けている根っからのピアノの奏者だ。

そんな彼女だが、スクールアイドルを知ったのは昨日の千歌の話を聞いてからであるのにそれをすぐにやろうとは思わないであろう。

ましてや、転校してきたばかりならなおさらすぐに部活動(スクールアイドル活動はまだ部活ではないのだが…)を決めるとはないだろう。

なんとか梨子ちゃんを説得しようと奮闘しようとするもその前にクラスメート達が梨子の周りに集まってきてしまいとても出来る物では無くなってしまった。

 

「千歌ちゃん…。」

 

その様子を曜は少し離れた距離から見つめていた。

千歌の顔が若干暗くなってしまったのを曜は見逃さなかった。

その後も何回か梨子にアタックをするも丁重にお断りされてしまいその日の授業は終わってしまった。

その放課後に千歌と曜、そして何人かのクラスメート達は梨子に校舎を案内してあげたが、その時千歌はスクールアイドルへの勧誘を行うことはなかった。

そのまま帰るのかと思っていたが梨子はすこし部活動の様子も見たいと言って学校に残っていった。

千歌と曜は家へ帰ろうと学校の最寄りのバス停でバスを待っていた。

他のクラスメート達もこのバス停を使うのだが、部活動を行っていることも多く帰る時間帯が結構ばらばらなのだ。

いま千歌といる曜も水泳部に所属しているのだが、今日は練習が休みなので千歌と一緒に帰ることが出来ているのである。

千歌は黙ったまま、いまだに一人分の名前しか書かれていない部活動の申請用紙を見つめる。

そんな時、彼女の肩を誰か叩く。

すぐに振り返るが後ろには誰の姿も見えない。

次の瞬間、千歌の手元から何かによって部活動の申請用紙が取られてしまう。

千歌は驚いて手元を確認するが、紙は既に手元には無かった。

もちろんこんなことが出来る犯人はいま千歌と一緒にいる一人の人物にしか出来ない。

 

「ちょっと!曜ちゃん!?」

 

すぐさま取り返そうと曜に振り返り、飛びつこうとするがあっさりと躱されてしまう。

もう一度振り返ろうとするがそれよりも先に曜が千歌の背中に寄りかかってくる。

 

「本気なんだよね、千歌ちゃん。」

 

「曜ちゃん?」

 

曜に対しては千歌は自分がどれだけ本気か何度も言葉にしてきた。

だからこそなぜ今改めて言われたのかが理解できなかった。

なんでそんなことを言うのかを聞こうとするがそれよりも先に曜が話し始める。

 

「私ね、ずっと千歌ちゃんとなにかを…一緒にやってみたかったったんだ。なにかを一緒に…一生懸命。」

 

曜が気持ちを話し始めると、千歌は黙って聞き始めた。

 

「だから…!」

 

そう言うと曜がいきなり寄り添うのをやめて立ち上がる。

いきなりのことで千歌は倒れそうになるがすぐにバランスを整えて曜へと振り返る。

すると曜の手元には先ほどの紙があり、こちらに向けて渡されていた。

そして眩い笑顔で、

 

「水泳部と兼部だけど!」

 

そう言った。

すると千歌の顔に満面の笑みが広がっていく。

そして思わず曜に飛びつき抱きつく。

曜はバランスを崩さないように千歌を受け止めると、何度もお礼を言う千歌を同じように抱きしめながらまんざらでもないかのように頬を掻く。

そんな二人だけの空間に一つの音が響く。

 

【ポチャン】

 

「「ん?」」

 

二人はその音が何なのかと思い下を向く。

すると足下には水たまりとその中に今にもふやけそうな部活動の申請用紙があった。

 

「「あぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」」

 

二人の叫び声が誰もいないバス停に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんですか?これは?」

 

「これで部活動としての活動を認めてください!!!」

 

少し時間がたったのだが、なぜか生徒会長であるダイヤと千歌は再び対立していた。

しかし今度は曜が扉の外ではなく、自らも生徒会長の前に立って交渉の場に参加している。

 

「一人が二人になっただけではありませんか。部活動の申請には最低でも5人必要だと言ったはずです。ましてやこんなふにゃふにゃになった用紙なんて…。」

 

ダイヤは呆れたように手渡された紙をひらひらと揺らす。

先ほど水たまりに落ちてしまったせいで紙はふやけ、文字も滲んでとても読みづらくなっていた。

本来ならばこんな状態の書類など取り扱っては貰えないだろうが千歌の最初の勧誘を見て彼女がかなりぶっ飛んでいるのを把握しているダイヤは深いため息を吐くだけでとりわけ驚いているようにも見えなかった。

 

「あの時何度持ってきてもダメだと申しましたはずですが。」

 

「すぐに5人にします!!だから…!!!」

 

「そもそも曲は作れるのですか?」

 

「曲?」

 

いきなりの問いに千歌は頭に疑問符しか浮かばなくなる。

その様子を見たダイヤは再び大きなため息をつく。

 

(そんなことも知らずに…)

 

そう声に出そうなのを必死にこらえる。

以前千歌を問い詰めたときにスクールアイドルの話になったときにダイヤはボロを出してしまった。

そんな過ちは二度も繰り返さないと自分の感情を一度落ち着かせる。

 

「…いいですか?ラブライブの参加条件にはオリジナルの楽曲でなければならないという物があります。スクールアイドルをやる以上はラブライブを目指すと言うこと。ならば千歌さん、又は曜さんのどちらかが作詞作曲が出来ると言うことですわよね?」

 

「そ、それは…。」

 

千歌はたじろぐ。

当たり前だ、普通に生活しているのならば作詞作曲をする機会などないに等しく、出来る者などそれこそ音楽に流通している者くらいだろう。

それでも何かを言い返そうとする千歌を遮ってダイヤは話を続ける。

 

「それに渡辺さんは、水泳部の有力選手であると聞いています。私の偏見を押しつけるのはあまり良くないとは思いますが、スクールアイドル部などに力を貸していてもよろしいのですか?出来るかも分からない不安定な部活動に協力するくらいなら、本職であるとも言える水泳に力を入れた方がよろしいのでは?」

 

生徒会長の言葉を聞いた瞬間千歌の肩が震える。

そうだ。

渡辺曜は幼少期からずっと飛び込みの練習をしてきているまさに熟練の選手とも言える人物である。

幼少期からずっと水の中を泳いできただけあって、曜自身の泳ぎはとても早く、水泳部の中でもトップクラスに速い。

それは生徒会長(ダイヤ)に言われなくても、千歌は充分に…いや、生徒会長以上に理解していた。

だからこそ、この言葉に千歌は不安を抱いてしまう。

曜のスゴい才能があればずっと水泳を続けていくことで全国でだって引けを取らないほどの選手となり、一番の輝きを手に入れることだって狙えるかもしれない。

その可能性をスクールアイドルに誘うことで摘んでしまうかもしれない。

そしてそれは、曜ちゃん自身の本来の夢から遠ざかってしまうのではないか、本来の望みではないのではないかと。

千歌は不安な気持ちを抱きながら曜の方へと視線を向ける。

が、次の瞬間思いもよらない答えが曜から聞こえてくる。

 

「私は、私の意思でスクールアイドル部に入ることに決めました。他の誰かに何か言われる筋合いはないと思います!!」

 

千歌は目を丸くして曜を見つめる。

それに気がついた曜は少しだけ千歌の方を見て微笑む。

すぐに生徒会長へと向き直り真剣な眼差しで続けた。

 

「それに、どっちかをやるからどっちかが疎かになるとかそんなことはないと思います!どちらも全力で取り組む…それは出来ると思います!」

 

曜の力強い言葉に千歌は心を奪われる。

生徒会長(ダイヤ)もそこまではっきりと意思を示されると思っていなかったため、一瞬目を丸くするがすぐに真剣な眼差しへと戻り再び曜に対して攻めの姿勢を作る。

 

「では水泳でも成績を残し、なおかつスクールアイドルとしても実績を残すことが貴方にならば出来る…と?」

 

その言葉の重さ、凄み、鋭さに曜は一瞬怯んでしまう。

生徒会長の鋭い視線、そしてその言葉の込められた意味が曜に対して重さとなって降りかかる。

【プレッシャー】

試合やテストなどの際に感じる重圧。

まさにそれが今曜へと降りかかる。

生徒会長をするだけあって生徒会長(ダイヤ)のカリスマ性、迫力は十二分だ。

が、曜が怯むのはほんの一時であった。

 

「出来ます。」

 

真っ直ぐな言葉。

それは逃げてるわけでもなく、やけを起こしているのでもなく、理想を語っているのでもなく、ただただ現実を見据えて放たれた言葉であったことをダイヤはすぐに把握することが出来た。

だからこそ、ダイヤは攻めの姿勢を崩す。

 

「そうですか…。どちらにせよ最低でも5人集めること、この条件を満たさない限りは部活動の申請は認められません。私もまだ仕事が残っていますので、またの機会にどうぞ。」

 

そう言って2人を生徒会室から出るように促す。

千歌と曜はそれにあらがうことはなく素直に生徒会室を出て行った。

2人の出て行った後の生徒会室ではダイヤが大きなため息をつきながら机に突っ伏していることは誰もしらなかった。

その後、再びバス停まで戻ってきた千歌達だがそのタイミングでバスが到着しており先ほどの会話の緊張感をリセットする間もなく搭乗していった。

バスの座席に腰を下ろした瞬間2人は大きなため息をつく。

先ほどの生徒会長との会話の緊張感からやっと解放され、今のため息と一緒に力も抜けていくのが千歌達には容易に分かった。

そして2人で顔を見合わせる。

正面には幼なじみの疲れ切った顔が見えた。

二人は思わず笑い出すがそんな二人の笑いもどこか力のない様子だったのは言うまでもないだろう。

 

「千歌ちゃん!!」

 

いきなりの声に千歌は驚いて声の主である曜の方を凝視する。

しかし、曜の顔を見た瞬間千歌の表情にも力がこもる。

それを見たよう自身の顔もさらに力が湧いているのが見て取れた。

 

「やろう!!千歌の家の前の砂浜で練習しよう!!曲はまだ作れないかも知れないけど…!!」

 

「ステップの練習やダンスの練習はμ'sの曲で練習できる!!!」

 

そう叫ぶ二人の目には闘志が宿っていた。

あれだけ、プレッシャーを当てられたのにも関わらず二人は微塵も諦めてはいなかった。

いや、むしろ見返してやろうと闘志の炎を燃やしていた。

その日の練習は曜が家へ帰るための最後のバスの時間ギリギリまで続いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りましたわ…。」

 

「お帰りなさ~い。」

 

ダイヤが家に帰宅すると母の声が家の中から返ってきた。

その直後に(琥珀)の声も聞こえてきた。

どうやら今日は兄の方が先に帰ってきているようだった。

 

「お兄さま。今日は早いのですわね。」

 

リビングへと歩いて行くと、琥珀が母の隣で料理を手伝っていた。

とは言えほとんど準備も終えていたため、琥珀自身も大した手伝いはしていなかった。

 

「いや、俺が早いんじゃなくて姉さんが遅いんだよ…。今日はやけに時間がかかったね。どうかしたの?」

 

「…色々あったのですわ。」

 

そう言って自分の部屋へと歩いて行く。

その様子を少し不安そうに琥珀は眺めていた。

すると隣で作業していた母が琥珀に話しかけてきた。

 

「あら、確かに琥珀の言っていた通りどこか元気がない…疲れた感じだったわね。」

 

それに琥珀は「うん。」と返事をするがそれは心のこもらない形だけの返事のようだった。

その様子を見れば琥珀がダイヤの心配をしているのは火を見るより明らかであった。

が、母はその事にはあえて一切触れずに料理をテーブルへと並べ始める。

そして準備が終わると、ダイヤとルビィを食卓に呼んだ。

 

「「「「いただきます。」」」」

 

四人が食卓に並んだところで、夕ご飯を食べ始める。

今日は父が遅くなるようなので家族四人で夕飯を食べることになった。

食卓にはおいしそうな料理が並ぶがその中で一つダイヤの目を引く物があった。

卵焼きである。

ルビィは既に手を着けておいしそうに食べている。

ダイヤが卵焼きを眺めているのを見た母が微笑みながらこう話した。

 

「今日の卵焼きは甘めに作ったのよ。琥珀のリクエストがそれだったのよ~。」

 

それを聞いたダイヤが少し驚きながら琥珀を見つめる。

琥珀はご飯をほおばって食べていたがダイヤの視線に気づくとすぐに飲み込んで、

 

「そういう気分だったんだよ。疲れてるときは甘い物が必要だろ?」

 

そう言いながらすぐに食事に戻る。

ダイヤは卵焼きを取りながら、小さな声で琥珀にお礼を言う。

そんなダイヤをルビィは不安そうな様子で眺めていた。

それぞれが食べ終わって、部屋へと戻る。

琥珀が一番に食べ終わったのため部屋に戻ろうとするが、そのタイミングでダイヤが琥珀にもう一度お礼を言う。

黒澤家で作る卵焼きには砂糖を多めに使ったものと、出汁に気を使っただし巻き卵の二つが存在する。

作る頻度としては半分より少し甘い卵焼きが多いくらいである。

それは、ダイヤとルビィが甘い卵焼きの方が好きで、琥珀がだし巻き卵の方が好きだというものだからである。

それをダイヤも知っていたからこそお礼をもう一度言ったのだ。

琥珀にその意思が伝わったかは分からないが、それに軽く頷いて返すと部屋に戻っていった。

続けてダイヤが部屋戻ろうとすると母から予想外の言葉が聞こえてきた。

 

「あぁ、そう言えば小原さんが帰ってきたみたいよ。」

 

「え?」

 




今回も本作品を閲覧していただきありがとうございます。
あれ?タイトルほど転校生を追いかけていないのでは?
次回
第5話 好きだからこそ
次回もよろしくお願いします。


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第5話 好きだからこそ

大変お待たせしました。
そろそろ就職活動等を本格的に始めなければならないので、ストックの作ってない本小説の投稿スピードはすさまじく遅いです。


「スクールアイドルやろうよ!」

 

「…ごめんなさい。」 

 

浦の星女学院2年生のクラスの中ではこのやりとりが名物になりつつある。

火曜日に転校してきた少女に対してスクールアイドルの勧誘を行う。

火曜日こそそこまで酷くは無かった物のこの二日間の勧誘は凄まじい物だった。

ほぼ常に梨子の側にいてスクールアイドルの良さについて語り、是非とも入って欲しいと勧誘を続ける。

それこそストーカーのようにも思えてくるほどのモノだった。

周りはなぜそこまで勧誘をしつこく繰り返すのかよく分からない様子で見つめ、曜に問いかけたりしていたが曜はそれに対して苦笑いを返すことしか出来なかった。

それは授業中にも行われており…

 

「ごめんなさ~い!」

 

「まってy…わぁっぷ!?」

 

千歌が梨子を追いかけようとするが足が絡まって盛大にこける。

こけた千歌に対して同情の声をかけながら、「私語は慎め!」とお叱りを飛ばす先生から逃げるように再び走り出す。

そんな様子を曜の周りで笑いながら見学する友人達。

そんなこんなで千歌の勧誘人生は一日中続いた。

基本的に千歌と一緒にいることの多い曜なのだが、あまりにしつこい勧誘に曜自身もさすがに不安に思えてきていた。

昼休みの練習の時に千歌に勧誘の手応えを聞くと、千歌自身は大丈夫!もうすこし!と言うが話を聞く限りはどうもそうは思えなかった。

そんな練習の様子をダイヤは教室の窓から品定めでもするかのような視線で眺めていた。

午後に入っても千歌の勧誘はとどまることを知らず、ついに梨子は帰りのタイミングで、まるで逃げるかのように足早に帰ってしまった。

千歌はすぐに梨子を探すがもちろん梨子の姿はそこにはない。

いないことが分かると大きなため息をつきながら机に突っ伏す。

数日前のやる気がまるで嘘のようだと周りは苦笑いをするが、曜が近づいてなにかを千歌の耳元で囁く。

すると千歌は「やめない!」とまるで自分に活を入れるようにはっきりと言い放ちながら立ち上がる。

クラスメートは曜になにを言ったのかと問うが、曜が「いつものおまじない」と答えると周りは納得したかのように頷いた。

そして二人は、いつもの中庭でステップの練習を今日も始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、練習を終えて帰ろうとバスから降りるとそこには海を眺めている梨子の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌達が練習を始めた少し後の時間帯。

果南が店の作業を行っていると一隻の船がやってくる。

お客さんが来るかもしれないのでその船の様子を眺めていると、そこから降りてきたのは見覚えのある一人の青年だった。

その青年は果南の前まで来るとあいさつをする。

 

「おはよう、松浦さん。」

 

「お~、おはよ~琥珀。」

 

そう、以前にも手伝いをしていた黒澤琥珀である。

今日は以前に約束した木曜日であるために琥珀は学校が終わるとすぐに果南の手伝いにやってきたのだ。

琥珀は果南に会うとすぐにカバンを開いてなにかを探し始める。

すると果南の顔には明るい笑みが広がっていく。

琥珀が鞄の中から取りだした大きめの巾着袋を見ると更に目を輝かせる。

 

「はい、この前の約束の。」

 

そう言いながらその巾着袋を果南に手渡す。

すると果南は満面の笑みを浮かべながら琥珀にお礼を言う。

前回の約束とは、琥珀と果南が帰り際に交わした料理の約束のことである。

果南は琥珀に中華料理が食べたいとねだり、それを琥珀が作ってくると約束をしていたものだ。

果南は受け取った料理がなんなのかを問うが琥珀はそれを「実際に見てみてのお楽しみだよ。」と軽くいなす。

少しふくれ面になるがすぐに気を取り直して仕事のモードへと切り替える。

それを察した琥珀もすぐに荷物を置いてきて、仕事が出来る格好に着替える。

とは言っても軽い運動着である。

が、生憎仕事着と言える物はウエットスーツしか存在していない。

そして、それを常に琥珀に貸し出すわけにもいかず琥珀は自前の運動着で仕事を手伝っている。

今日のお客さんはそんなに多くなく、仕事がキツいと言うことはなかった。

まぁ平日であるから当然と言えば当然なのだが。

そのため表向きの仕事はほぼ全て琥珀が担当し、裏方や事務の仕事を果南が担当していた。

事務の仕事はさすがに関係者ではない琥珀が出来るはずもないため必然的にこのような割り振りになる。

今日は特に忙しくもなく、特に問題があるわけでもなく、なんとなく時間が過ぎていった。

琥珀もそつなく仕事をこなし、なんとなく時間を確認してみればもう19:00を回ろうとしていた。

果南もほとんど同じタイミングで気がついたようで琥珀の元に小走りで駆けていた。

 

「ゴメン琥珀。もうこんな時間になっちゃってたよ。」

 

「いや、気づかなかったオレも悪いし仕方ないよ。それに今から急いで帰る支度をすればギリギリ次の船に間に合うだろうしね。」

 

そう言いながら果南に仕事の引き継ぎが出来るかを聞こうとするがそれよりも早くに果南に仕事をさらわれる。

 

「時間ギリギリなんでしょ?早く行く!」

 

そう言いながら琥珀の肩を叩く。

それを受けた琥珀は少しすまなそうな顔をしながらも「ありがとう。」とお礼を言うと、すぐに着替えて船乗り場に走って行った。

その時後ろから、「来週もお願いね~!」と果南の声が聞こえてくる。

琥珀は最初は無視しようかとも考えたが、後が怖いと悟ると左手を挙げて返答した。

琥珀には見えていなかったが、果南は満面の笑みを浮かべていた。

琥珀自身にもきっと松浦さんは後ろで満足そうにしてるんだろう、と安易に予想がついていた。

そして、琥珀は呆れたようなため息をつきながら心のなかで呟く。

 

(今週の日曜日の午後にも手伝いに来ること約束してたはずなのに、多分忘れてるな。)

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻って千歌へと。

海を眺めている梨子を見ると千歌は少し小走りで梨子の元へと駆けていく。

そして梨子の後ろへ回り込むと…

 

「ひょっとしてまた飛び込もうとしてない~?」

 

なんとスカートをめくり上げたのだ。

本人はまた下に水着を着ていないかの確認のつもりなのだろうが端から見たらただの羨ましい変態の変質者である。

 

「もう!そんなんじゃないわよ!!!」

 

当然やられた本人は怒る。

すると本人は冗談交じりのような笑顔で「良かったぁ」とそう言った。

悪気はなかったらしくまるで無自覚変態である。

が、ならばなぜ梨子はこんなところで海を眺めていたのか?

もちろん千歌はそれを梨子に問いかける。

すると梨子から返ってきた答えは前に聞いた物と全く同じだった。

 

「海の音を聴きたいの…。」

 

あの時と同じ言葉をあの時と同じくらいか細い声で話す梨子。

そこにいたのは頑張ってみると笑顔で答えた美しい少女ではなく、不安そうな目で先を見据えているか弱い少女だった。

 

「梨子ちゃん…。」

 

そんな梨子の顔を見て千歌は心配そうに呟く。

そんな千歌を見た梨子の心からは不安が堰を切ったように溢れ出てくる。

 

「楽しくなくなったの…ピアノが…音楽が…音色が…。」

 

一度話し始めたらもう止めることなど出来ない。

千歌のことなど一切考えずに梨子はあふれ出てしまった不安を止めどなく吐き出し続ける。

 

「ピアノは好きなはずなのに…練習しても…練習しても上達しない!上手くなってる実感が湧かないの…。」

 

そんな梨子の叫びを千歌は黙って梨子の目を見ながら聞き続ける。

 

「もうどうしようも無く辛くて…辛くて辛くて!!もうやめたいのに好きで仕方なくて…でも辛くて!!ピアノが好きなのに弾くのが怖くて…。」

 

そこでようやく梨子の言葉が途切れる。

梨子は俯いたままそれ以上はなそうとはしなかった。

千歌はその言葉を最後まで聞き、梨子の言葉が詰まり止まったと理解できたところでようやく口を開く。

 

「…大丈夫だよ。」

 

そんな優しい言葉が千歌の方から聞こえてきた。

だれかを思いやっている、そんな優しい言葉だがその言葉をもう梨子は何度も言われ続けてきていた。

親から、ピアノの先生から、友達から、学校の先生から…だからこそ、もうその言葉を信用することができなくなっていた。

それどころか…

 

「適当なことを言わないでよ…っ!!!なにも知らないのに!そんなこと言わないですよ!!!」

 

梨子にとっては自分のことを考えずにただただ耳に流れ込んでくる同じような単語としかとらえられなくなっていた。

 

「大丈夫だよ!!」

 

冷たく良い放つ梨子に対して千歌はまた同じ言葉を紡ぐ。

何度でも紡がれる同じ言葉、その言葉が信用ならないと梨子は体験してきたはずなのにさらに語彙を強められたその言葉に思考が一時的に停止する。

が、すぐに千歌に対して睨みを効かせようとするが、そんな暇を与えないかのように千歌は続けてこうい言った。

 

「だって、そんなにピアノのことを大切に思ってる人初めてだもん!きっと梨子ちゃんにとってピアノはすごく輝いて見えるものなんでしょ?なら大丈夫だよ!!必ず!!!」

 

なんの確証もない言葉だ。

千歌の口から出てきた輝いて見えると言う台詞。

確かにそうかもしれないが今ピアノが輝いているようには梨子は感じられなかった。

なのに目の前の少女は今の梨子に対して大切に思ってる、輝きを感じていると言うのだ。

それが理解できずにいた。

半ば放心状態の梨子にまだ千歌が続けて話す。

 

「わがままかもしれないけど、そんなに梨子ちゃんがピアノを大切にしてて輝きを見ているなら、私は聴きたいんだ。梨子ちゃんのピアノを…そのために私にも手伝わせて欲しい!」

 

そう言いながら千歌は梨子に向かって手を伸ばす。

梨子はそのまっすぐな千歌の目を見つめながら、その伸ばされた手に自然と手を伸ばす。

 

「海の音を…一緒に聴きに行こう?」

 

今まで心ここにあらずとも言える状況だった梨子の顔つきが変わる。

突然に千歌な口から出てきた魅惑的な誘い。

もちろんそれほどまでに魅力的な言葉に乗らないという手はない。

それが普通であれば。

 

「…どうせ、聴かせる代わりにスクールアイドルをやれって言うんでしょ。」

 

そう、いまのこの状況ならば交換条件として提示されてると考えるのが普通だ。

梨子は千歌に対してそういいながら伸ばしかけた手を戻す。

その行為に少し罪悪感を感じながらも、千歌の方を見る。

千歌の顔には不満など一切存在しなかった。

 

「いいよ、スクールアイドルにならなくても。梨子ちゃんが困ってるなら助けたいし…千歌は梨子ちゃんのピアノが聴きたいんだよ。」

 

「梨子ちゃんだって、【ピアノを弾きたいんでしょ?】」

 

梨子の心にあったわだかまりは砕けたような気がした。

完全になくなったわけではない。

それは、その言葉はまるで心に指す一筋の光であるかのように梨子の心を照らし、暖めていく。

たった一文の言葉であるはずなのにそれほどまでに力強い言葉が、心強い言葉があるのか。

そう思わずにはいられなかった。

いつの間にか梨子は自然と千歌の手をとり握手を交わしていた。

 

「聴きたい…行きたい、海の音を…聴かせて欲しい!」

 

千歌をまっすぐに見つめてそう答える梨子に千歌自身も満面の笑みを浮かべながら

 

「もちろん!!」

 

と答えた。

2人は次の日曜日に海に潜るために幼馴染みのやっているダイビングショップへと向かう約束をした。

その後曜がこの千歌の取り付けた約束のなかに勝手にいるものとされていたことを知るのはもう少し先の話だった。

 

 

 




改めましてお久しぶりです。高月弾です。
次回、ついに琥珀と千歌たち二年生組とが接触します。
いま黒澤ダイヤ生徒会長に部活の申請が認められていない千歌たちは琥珀に対して一体何を語るのか?
この先の投稿もいつになるか分かりませんが是非ともよろしくお願いします。


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第6話 音なき音

大変お久しぶりです皆様。
地獄のような社会をなんとか生き抜いています。
仕事を始めて時間がなくなって、趣味が消えていくいまの状況に恐怖を覚えて意地で作りました。
なんとか続くようにがんばっていきます。


「スーーーッ…フゥーーーッ。」

 

大きく深呼吸をし、息を止める。

全身の力をぬき、リラックスした状態である一点のみを見つめる。

右手に持つ力を緩めて縛っていたものを解き放つ。

するとそれはまっすぐに目の前の一点を目指して突き進んで行く。

数秒もしないうちにそれは、清々しいほどに綺麗な音を立てて的を射貫く。

的の真ん中に深々と矢が突き刺さるそれを琥珀は感情的にはならず静かに見据える。

的から視線をはずし、道場の方へと向き直り見惚れるほど綺麗な佇まいでその場に正座する。

その世界はまるで琥珀以外が消え去ってしまったかのごとく静かな、そして落ち着いた場所であった。

琥珀は再び立ち上がると先程と全く同じことを繰り返す。

足を整え、的を見据え、弓と矢を掲げ、静かにゆっくりとそれを引き絞る。

しかしそこに力みなどはなく、驚くほどに自然なその解に見ているものは目を奪われる。

そして静かな世界に響く矢が的を射貫く乾いた音。

しかし、その音はあまりにも心地よかった。

そして再び正座をする。

大きく深呼吸をしてから立ち上がると、琥珀は弓を片付け始める。

弓をしまっている途中で琥珀は入り口に誰かがいることに気がつく。

 

「ルビィか。見てたのかい?」

 

覗きがばれてしまったルビィは小さな悲鳴を上げるがすぐに扉を開けて道場の中へと入ってくる。

 

「うん。お兄ちゃんが弓道場に居るって言ってたから、見たくなっちゃって。」

 

そう言いながら、ルビィは目をキラキラと光らせる。

まるで初めておもちゃをもらった子供のようだ。

 

「それなら弓道場まで入ってくればよかったのに。」

 

「う、うゆ。でも、お兄ちゃんの邪魔をしたくなかったんだよ。」

 

琥珀がそう言うとルビィは先程のようすから一転し、おどおどと答える。

ルビィは恥ずかしがり屋であり、男性恐怖症を持っている。

そのため普段から積極的に話すことができないのである。

男性恐怖症は恥ずかしがり屋も相まって、男性とは父親と琥珀以外とはほとんど会話することすらできない。

琥珀はそんなルビィの様子を見て小さく息をつく。

そしてルビィのもとまで歩いていくと、安心させるように優しく頭を撫でる。

 

「ありがとう。ルビィ。」

 

ルビィは一瞬ビクッとするもすぐに柔らかい笑みを見せると満足そうに小さくうなずいた。

 

「どうする?もう少し弓を続けようか?」

 

「ううん、大丈夫だよ。もう十分見れたから。」

 

「そうか。」

 

短く会話を交わすと、弓道着を着たまま自分の部屋へと戻っていった。

ルビィは琥珀が部屋に戻ったあとも少しだけ弓道場の方を見つめていた。

そして小さなため息をつくと、夜風に消えてしまいそうなほど小さな声で呟く。

 

「…かっこよかったなぁ…。」

 

その後、琥珀は自室で着替えをすませるとキッチンへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまですわ。」

 

ダイヤが帰ってくる。

するとすぐに「お帰り。お姉ちゃん!」と元気な声が返ってくる。

ダイヤはその声の主をすぐに理解して笑みをこぼす。

 

「ただいまですわ、ルビィ。」

 

そう言いながらルビィのそばへと歩いていく。

ルビィはダイヤのところへと駆け寄るとすぐに今日あったことを嬉しそうにダイヤに話し始める。

ダイヤはそれをずっと頷きながら聞き入っていた。

そんな時間が流れていき、気づけば10分はたっていた。

そろそろ着替え等をすませたいと、ダイヤはルビィに一言断ってから自室へと向かっていく。

自室で鞄を机においた瞬間ダイヤの口からは大きなため息がこぼれ落ちる。

 

「…高海さんは諦めてくれたかしら?いいえ、あの様子だ当分は諦めなさそうですわね…。」

 

そう言いながらそばの壁に張られてあるポスターに目を向ける。

そこにはダイヤが尊敬してやまないスクールアイドル【μ's】の姿があった。

そして、そのとなりには小さな写真がひとつだけ添えられていた。

三人の女性が色鮮やかな衣装を身にまとっている姿だった。

その三人の姿は彼女がよくしっている姿だった。

 

(マリさん…果南さん…。)

 

そう心の中で呟くもすぐさま顔を左右に降り、邪念を振り払うかのように振る舞う。

一度目を閉じて、再び開いたその瞳には迷いなど微塵も感じられなかった。

着替えをすませるとダイヤはリビングへと降りていく。

そろそろ食事の時間だ。

黒澤一家は本日の当番である琥珀の料理を家族一団で食べた。

 

「前回も中華ではありませんでしたか?お兄様。」

 

「あれ?あぁ、確かにそういえばそうだったかもしれない…ごめんなさい。」

 

「うゆ!?ルビィは中華も好きだから全然大丈夫だよ!」

 

「味が濃い上に何度も同じようなものは飽きる。気を付けろ琥珀。」

 

「…ごめんなさい。」

 

「いいじゃないたまには♪」

 

そんな会話を交わしながら食事は進んでいく。

何気ない会話が続いていき、やがて終わりを向かえる。

みんなが食器を片付けているとき、一人だけまだ調理場に立っていた。

 

「お兄様?何をなされているのですか?」

 

声をかけられた琥珀は一瞬だけ振り替えるもすぐに手元へと視線を戻す。

 

「お菓子を久しぶりに作ってるんだ。今度手伝いにいくついでに差し入れにでもと思って。」

 

「いい考えですわね。何を作ってらっしゃるいますの?」

 

「シュークリーム。初めて作るからうまくいくかはわからないけど。」

 

「それは楽しみですわね。期待しておきますわ。」

 

さらっと自分の分も約束に取り付けるダイヤ。

意外とこういうところはちゃっかりしているのだ。

 

「まぁはじめからそのつもりだよ。姉さん。でも失敗しても文句は受け付けないよ。」

 

「ふふっ、そのときは抹茶のお菓子をいただきますわよ。」

 

「容赦は?」

 

そんな琥珀の嘆きもむなしく、ダイヤは不自然なほど優しい笑みを浮かべながら自分の部屋へと戻っていった。

そんなダイヤの様子にため息をつきながらもどこか心地よいような笑みを浮かべながら自分の手元に集中し始めた。

そんなこんなで1日が終わっていき、数日が立ち、やがて日曜日へと変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か~なんちゃ~ん!!!」

 

声に張りのある元気な叫びがダイビングショップに向けて放たれる。

その声に気がついて果南は思わず苦笑いを浮かべる。

 

「ちょっと、千歌~?もう少しボリューム下げなよ。他のお客さんもいるんだからさぁ。」

 

「え?いるの?」

 

千歌からの恐ろしく鋭い切り返し、しかし今日はその切り返しに負けじと鋭いカウンターを仕掛ける。

 

「いるから言ってるんだよ!ほら、今日はグループで来てくださってるから、あんまり邪魔にならないようにね。」

 

そう言いながら視線を奥に向ける。

すると奥では1グループに対して誰かがダイビングの説明を行っているのが見えた。

 

「あれ?果南ちゃん、バイトでも雇ったの?」

 

店の奥にいる見慣れない人物に曜が思わず疑問口に出す。

 

「あれ?そういえば2人とも会うのは初めてだっけ?あの人は時々手伝いに来てくれてるボランティアの人だよ。」

 

そう言いながら説明している人を指差す。

そしてそのまま果南は視線をある人物に向ける。

 

「そういえば初めてって言葉で思い出したんだけど、君も初めてだよね?」

 

そう言われた綺麗な長髪の女の子が慌てて自己紹介をする。

 

「わ、私!桜内梨子といいます!今日はよろしくお願いします!」

 

と深々とお辞儀をする。

そんな様子を見た果南は軽く笑いながら話しかける。

 

「そんなにかしこまらなくて大丈夫だよ。せっかくダイビングするなら緊張してじゃなくて楽しんでいきなよ。」

 

そう言いながら千歌たちに「少し待っててね」といいながら説明をされている集団の方へと歩いていった。

 

「はやく来すぎちゃったね。」

 

「そうみたいね。」

 

「じゃあゲームでもやろうよ!」

 

「さんせ~い!!」

 

はやく来すぎてしまった時間を潰すために千歌たちは適当なゲームを始める。

スマホの操作が得意なわけでもない三人は割りばしや、指スマなどで遊んでいた。

しかし、それもネタがつきて飽き始めていたころ、どこからか声をかけられる。

 

「お待たせして申し訳ありませんでした、お客様方。」

 

3人は突然のことにその声の聞こえてきた方向へと振り返る。

するとそこには先ほどグループに説明を行っていた人物が立っていた。

声からも分かることであったが目で見て改めてその人物が男性であることを確認する。

 

「あぁ~、私たちはその…予約とかしてる訳じゃないんですけど…。」

 

千歌はなんとも曖昧な返答を行う。

事実千歌達のダイビングは予約を行っているわけではなく、友人である果南の好意で例外的にダイビングを行おうとしているためそれを説明していいのかを躊躇う。

 

「…あぁ、貴女達が松浦さんのご友人方ですね。話しは伺っていますよ。」

 

それを見た琥珀は事情を察したようですぐに確認をとる。

それは合っていたようで千歌達はすぐ安心したようなリアクションをとる。

すると琥珀は3人はの元を一度はなれ、数十秒後にはお盆と紙コップを持ってきて3人の前に配る。

 

「事情は聞いていますので大丈夫ですよ。ただのお水ですがよろしければどうぞ。」

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

3人はそのコップを受けると中に入っている水を早速飲む。

その後琥珀の顔を見ながら千歌はこんなことを呟く。

 

「う~ん、貴方のことを最近どこかで見たような気がする。」

 

「?そんなことはないと思いますが?」

 

突拍子もない話しに琥珀は少し困惑しながら返答をする。

琥珀は千歌(かのじょ)のことを何度か見かけたことがある。

それは千歌は何度も果南のことを訪ねているからである。

知っているとはいえ、間近で見たわけではなく遠くから見た様子しか把握はしていない。

ましてや話したことすらない彼女と面識があるわけがなかった。

千歌を除く二人の様子を確認しても…いや、どうやら銀髪の少女の方はどこか違和感でも感じているのか千歌の言葉を聞いてから琥珀の顔を探るように確認する。

しかし、長髪の少女はあたまにはてなを浮かべた状態でそんな様子の二人を見つめる。

琥珀はそんな様子に苦笑いを浮かべるがそんな琥珀の耳元で耳障りな音が聞こえる。

かなり小さな無視が風切り音を当てながら少女に狙いを定めてその針を突き刺そうとする。

琥珀はすぐさま少女のすぐそばにいるその虫を片手でとらえる。

渡辺はいきなりすぐそばに拳を突き立てられて思わず飛び退く。

二人の少女も思わず目を見開く。

 

「申し訳ありませんでした。近くに蚊がいたものですから。」

 

そう言いながら握りしめた手を緩めて手の中を確認すると、黒いなにかを確認することができたため琥珀はティッシュペーパーを取り出して拭き取る。

その様子を見ていた千歌がいきなり声をあげる。

 

「あぁ~~~~~~!!!そうだよ!やっと分かった!!」

 

いきなりのことにその場にいる3人は驚いて千歌を見つめる。

そして千歌は琥珀を指差しながらこう言った。

 

「貴方!スッゴく【生徒会長】に似てるんだよ!!」

 

「生徒…会長?」

 

突然の台詞に琥珀は疑問を浮かべるが曜は納得がいったような声を漏らす。

 

「そうだよ!生徒会長の怖い顔の時といまそっくりだったもん!」

 

そう言い終わってからはっとして恐る恐る琥珀の顔へと視線を移す。

琥珀自身は彼女達の制服と千歌の口走った生徒会長と言う言葉で彼女達がいったい何者なのかをある程度把握する。

まさか、と思いながら琥珀は彼女達に話しかける。

 

「私は【黒澤琥珀】です。気づいてはいると思いますが、【浦の星女学園】の生徒会長【黒澤ダイヤ】の弟ですよ。」

 

ネームプレートを見せ、軽くお辞儀をする。

すると3人も慌ててお辞儀をする。

 

「生徒会長の弟ってことは、琥珀さんってもしかいて同い年!?」

 

「いいえ、私とダイヤお姉様は双子ですので私は3年生です。」

 

双子と話したことに3人の興味は一気に引き付けられる。

双子の珍しさに食いつく。

会話というよりも千歌達からの質問タイムへとなっていた。

 

(すごい子達だな…。)

 

千歌達の勢いに押されながらも質問にはしっかりと解答していく。

そんな時間は思いの外長く続いていった。

 

「でも、琥珀さんとダイヤさん。本当にそっくりですよね。」

 

梨子が学校の資料に写るダイヤと目の前の琥珀の様子を交互に見ながらそう言った。

綺麗でサラサラな黒髪、エメラルドのような深みのある碧の瞳。

そしてその言葉遣いや纏う雰囲気もダイヤに酷似していた。

どうやら琥珀曰く二人は二卵性の双子ではなく、一卵性の双子らしく、小さい頃から瓜二つだといわれて育ってきたそうだ。

そんな会話をしていたが千歌が少しだけ機嫌を悪そうに話し始める。

 

「あ~あ。浦の星の生徒会長がダイヤさんじゃなくて琥珀さんだったらこんなことにはならなかっただろうにな~。」

 

「どうして?」

 

千歌の言葉に思わず口調を変えてしまう。

荒くなったわけではないが普段の丁寧使いではなくなってしまう。

だが、そんな些細な違いは千歌達に気づかれることはなかった。

琥珀もその理由をわかっていたはずなのにダイヤ(姉さん)を悪く言われるような言葉に一瞬だが冷静さを欠いた。

 

「だって、スクールアイドル部を作るって言ったらどんどん理由つけて作らせてくれないんだよ?あんなにキラキラしてるのになんで作らせてくれないんだよう。」

 

そう言いながらブーブーと文句を言い始めた。

よくもまぁ生徒会長の家族である琥珀を目の前にこれだけのことを言えるものだ。

梨子も琥珀の方を何度も見ながら千歌をなんとかなだめようとする。

そんな様子に心の中で大きなため息をつく。

ここでこの3人をしかりつければことは済むのかもしれない。

だがそれでは関係はよくならない。

少なくとも千歌達は悪気があるわけではないのがわかるからこそ琥珀は少しだけ思考を巡らせる。

そして千歌達のと接し方を決めた。

 

「なにもお姉さまは意地をはって貴女達の活動をし否定しているわけではないですよ。」

 

今まで話をダイヤに関する聞いていただけだった琥珀が突然話し始めて千歌達は視線を向ける。

 

「まぁ、部員の人数やらは当たり前として…それでも貴女達に強く出るのはきっと、スクールアイドルがとても簡単に出来ることじゃないとわかっているからだと思いますよ。」

 

「簡単に、出来ることじゃない?」

 

その言葉に千歌達は首をかしげる。

 

「スクールアイドルにはいったいどんなものが必要だと思う?」

 

琥珀の問いかけに3人は考え始める。

 

「まずは曲でしょ?歌詞でしょ?衣装でしょ?ステージでしょ?」

 

「あとは…練習場所とか?」

 

「楽器を使うなら楽器も必要かしら?それはPCでどうにかなるのだろうけれど、詳しくないからよくは分からないけれど…。」

 

3人は思い思いに自分の考えをあげる。

3人がある程度考えを述べた時点で琥珀も話を再開する。

 

「歌、ステージ、衣装、音響、装飾、練習時間、歌いながら踊るための体力、告知をするならその広告、曲の数、他にも素人では思い付かないような問題や課題、必要なものが出てくると思いますよ。」

 

琥珀は多くのものをあげた。

しかし、それでも琥珀の素人の目線で見た必要なものでしかない。実際はもっと多くのものが必要になる可能性も十分に考えられる。

曲ひとつに関しても作詞作曲編曲と様な様な行程がありその一つひとつに専門的な知識を必要とする。

 

「それだけ多くのものが必要となる世界に、どれだけの知識や常識をもって挑むつもりですか?」

 

「そ、それは…。」

 

この言葉に千歌は言いよどむ。

普通の女の子だと思っていた人たちの影の努力とその仕事量に明らかに動揺する。

それを見てもなお琥珀は話を続ける。

 

「スクールアイドルだけじゃない、どんなことも生半可な覚悟や思いじゃ続かないですよ。」

 

「思い…。」

 

動揺してなにも反論できないでいた千歌が少しだけ反応を見せる。

琥珀はそれに気づかずに話を続けようとするがそれを遮って大きな声が響き渡る。

 

「スクールアイドルが好きだって気持ちはきっとだれにも負けないよ!!」

 

琥珀は突然の声に目を見開いて千歌の方へと視線を送る。

その視線の先には怖くなるほどまっすぐに琥珀を見つめて視線で言葉を伝える千歌の姿があった。

 

【スクールアイドルが好き】

 

その意思がはっきりと琥珀にも伝わってくる。

怖いほどはっきりと。

その目を見た琥珀のなかでなにかが変わる。

琥珀は少し考えてから次自分の語る言葉を変えた。

 

「それなら、お姉さまに示してみればいいのではないですか?」

 

「生徒会長に?」

 

「示す?」

 

琥珀の言葉に3人は?を浮かべる。

 

「あぁ、確かに5人以下では部活として認められないのかもしれません。でもスクールアイドルとして曲を、ステージの上で、歌って踊れたらそれをスクールアイドルではないとお姉さまも否定できないかもしれませんよ。」

 

琥珀がそう言うと千歌の顔色が一気に変わる。

千歌は隣の曜と梨子と目を合わせるとすぐに琥珀の方へと向き直り元気に「やるよ!」と答えた。

琥珀はその様子を見て少しだけ微笑むがすぐにもとの引き締まった表情へと戻す。

 

「容易ではないですよ、曲ひとつを仕上げるのも。」

 

「もちろんです!」

 

琥珀の言葉にもう気圧されることはない。

千歌のなかでは既に自分達のやるべきことは決まっていた。

何をいってももう決意は変わらないであろうことを悟ると琥珀は優しい顔で小さなため息をつく。

そして話を切り替える。

 

「そういえば、皆さんはどうしてダイビングに?」

 

「あぁ、それは…」

 

と千歌は梨子のことを踏まえてここに来た理由を話し始めたが、危うく梨子の話してほしくないところまで話しそうになったり、それを防ごうとする梨子の妨害などとゴタゴタな状態で話しは進んでいった。

が、なんとかその理由を理解する。

 

「海の音?」

 

「は、はい。それを聞ければなにか変わるかなって…。」

 

琥珀はそれを聞いて改めて考えるが、彼女の言う【海の音】というのがなんなのか全く分からなかった。

いや、分からないと言うのは語弊がある。

正確には、【彼女の求める海の音】がなんなのかが全く分からなかった。

彼の知る海の音は恐らく彼女の求める海の音でないことは容易に想像できた。

だがそれでも、わずかな可能性に掛けて言葉を選ぶ。

 

「海の音…僕はこの内浦で生ま育ちましたが、僕にとっての海の音はこれですよ。」

 

「これ?」

 

梨子は琥珀の答えに疑問を浮かべて答えを聞き直す。

すると琥珀は耳に手を当てながら静かに答えた。

 

「静かに耳を澄ませば色々聞こえてきますよ。」

 

そう言われた3人は耳に手を当てて耳を澄ませる。

すると梨子の耳に入ってきたのは様々な聞きなれない音の数々だった。

波の音、風の音、水しぶきの音、水鳥の声、様々な音が梨子の耳を刺激する。

梨子はその【新たな音】に耳をすませさらに聞き入ろうとする。

 

「ねぇ曜ちゃんなにか聞こえる?」

 

「ううん、波の音くらいしか聞こえないよ。」

 

現実は非情であった。

普段となにも変わらないその【音】千歌と曜は分からないと疑問を声にあげ始めた。

集中しようとしていた梨子の意識はそこで現実に引き戻される。

それを琥珀も理解していたようで2人の様子を見て小さくため息をはく。

梨子が冷めた目線を千歌と曜に送るが2人が気づくようすは全くなかった。

梨子が大きなため息をつくとようやく2人が梨子の様子を確認するが時は既に遅かった。

 

「なにかヒントにはなりましたか?」

 

琥珀が梨子に問いかけたが、梨子から返ってきた言葉は残念ながら予想していたものだった。

琥珀は梨子の返答が予想通りだったことを確認すると時計を確認して3人にあることを伝える。

 

「それではお客様。準備が整いましたので、こちらへどうぞ。」

 

_________________________________________________

 

「お待たせ。千歌、曜、桜内さん。」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

琥珀に案内されると3人は早速スーツに着替えてダイビングの準備を行う。

梨子はダイビングの経験があり道具の使い方に関しては一通りの知識を備えていた。

 

「琥珀は本当に来なくてもいいの?」

 

果南が問いかけるが琥珀は首を縦に降る。

 

「はい、僕は片付けられるものは片しておきます。」

 

「なんかごめんね、琥珀。」

 

「大丈夫ですよ。お気になさらないでください。」

 

そう言われた果南は琥珀にお礼を言うとボートにのって出発した。

ボートはある程度ショップから離れたところで停止する。

果南が指示を出すと千歌、曜、梨子の3人は自身の装備を整える。

そしてそれを確認しを得ると先には千歌と曜がボートから落ちる。

そしてそれを見た梨子が気を引き締めてから後を追うように落ちる。

【ザバン!】と音を立てて水のなかにはいるとその冷たさが身体全体を一瞬にして包み込む。

寒さなどはスーツのお陰であまり感じない。

しかしこの時期の海という先入観がそう感じさせる。

そんな不安を抱えた梨子のようすを知ってかは分からないが、千歌が彼女の手をとり「行こう!」と力強くいう。

梨子はその力強い言葉に感化され、「うん!」と同じく力強く答える。

そして、海の中へとその身体を流れ込ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 




前書きでも述べましたが、現在非常にきついです。
なんとかがんばれる理由にするためにも小説を再開しようと思います。
気力が続く限りがんばっていきますので、もし待っている人がいたらどうか長い目で見ていただけると嬉しいです。


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第7話 道

タイトルほど道を進んでいない気もする7話です。
それではどうぞ。


水の中では音を出すことが出来ない。

それゆえに話すときはハンドシグナルで話すか1度水面まで上がる必要がある。

3人の目的はもぐって魚を見ることではなく海の音を聴くこと。

そのため深くにもぐる必要はなく、会話を水面に出てから行っていた。

 

「聴こえた?」

 

千歌の問いに梨子は首を横にふる。

その反応を見た千歌と曜は梨子を連れて再び海の中へと潜る。

確かに音は聞こえる。

静かとはいえない波の音。

しかしそれだけしか聴こえてこない。

それ以上のなにかは全く感じることが出来なかった。

それが梨子(かのじょ)の求める音でないことは容易に想像することが出来た。

だからこそ再び潜る。

もう一度潜る、それでも潜る。

何度も何度も繰り返していくがそれでも求める音は全く聴こえては来なかった。

そんな様子を船の上で見ながら、果南は空模様を確認する。

既に先程まで出ていた太陽は灰色の雲におおわれて、光を届けることが出来なくなっていた。

雲行きが怪しくなっている。

 

(状況によっては切り上げて戻らないと行けないかもしれないかな…。)

 

そんな考えを巡らせながら再び視線を3人に戻す。

すると3人がちょうど再び水面に上がってきていた。

 

「聴こえた?」

 

先程の千歌と同じ質問を曜が言うが、返答は先程と全く同じものだった。

梨子の顔が暗くなる。

梨子の頭のなかである考えが浮かんでくる。

 

(やっぱり…海の音(そんなもの)聴こえないのかな…。海の音(そんなもの)無いのかな…。)

 

心に浮かんできたそんなもの(その言葉)は彼女の心に宿る暗闇を瞬く間に押し広げて塗りつぶしていく。

辛い、止めたい、逃げたい、苦しい、そんな思いをしたくない。

彼女の心を様々な感情が現れては飲み込んでいく。

そんな中突然彼女の耳になにかが響いてくる。

 

「ねえ!あれ見て!」

 

千歌の声だった。

彼女の声を生きて振り返ると千歌はどこかに向けて指を指し示していた。

その方向を見ると本のわずかに日の光が降り注いでいる場所があった。

 

「行ってみようよ!」

 

曜もその場所を見つけるとそこめがけて泳ぎ始める。

梨子もその光を見た瞬間、考えるよりもさきに体が動き出していた。

いま見えるそのわずかな光を求めて。

そこにたどり着く頃にはわずかに差し込んでいた木漏れ日は消え去ってしまっていた。

わずかに見えた光、その光にすがるような思いでたどり着いたさきには既に消え去った景色。

そんな絶望にいよいよ梨子の心は音を立てて崩れ去る。

 

「もう…いいよ…。」

 

付き合ってくれた二人に言葉を伝えようと口にするもその言葉はあまりにもか細く波の音にかき消されて届くことはなかった。

 

「もう一度!」

 

「行こうよ!」

 

千歌と曜から大きな掛け声が聞こえてくる。

彼女たちは再び海の中へと潜ろうと準備を整える。

梨子にはそれが理解できなかった。

なぜここまでやってくれるのか、なぜ自分以上に海の音を聴くことに真剣になってくれるのか。

だが、そんな二人につられて彼女ももう1度だけ潜る準備を整える。

 

(これで聴こえなかったらもう…。)

 

そう思った。

梨子(彼女)の中で決めた最後のチャンス。

これがどんな結果であれこれで最後にする。

そう思う梨子とまだ諦める気配の全く見えない2人は海の中へと潜り込んでいった。

 

【暗い】

 

日の光が差し込まずに、暗い海の中がそこには広がっていた。

耳を澄ませども梨子の求めているものはなにも聴こえてこない。

影すら見ることは叶わなかった。

それを理解できると梨子は静かに目を閉じる。

 

(そういう…ことなのね…。きっと私にはもう…続ける意味がないのかもしれない…。)

 

無駄だったと。

抱いた希望、藁にすがる思いで求めた物に手は届かない。

それが彼女に突きつけられた現実だった。

不思議と涙はでなかった。

辛く、苦しいはずのその心にはある種の安心感が潜んでいた。

 

(もう、下手に期待する必要もない…。下手な期待に裏切られることも、踊らされることも…。)

 

そう思いながら少し前を泳ぐ二人に視線を向ける。

2人はまだなにかを探すように回りを見渡しながら泳いでいた。

 

(あぁ、2人には無意味なことに付き合わせちゃった…。後でちゃんと謝らないと…。)

 

そう思いながら2人へと追い付こうと少しだけ速度を上げる。

2人に追い付いて2人の肩を叩く。

そしてハンドシグナルで上昇しようと話すが2人がそれに反応することはなかった。

梨子はなぜ反応しないのかはじめは分からなかったが、やがて2人の視線が同じ場所に向いていることに気がつく。

梨子がその視線の方向に振り向こうとした瞬間梨子に【何か】が聴こえてくる。

目を見開いて即座に振り返るとそこには先程までなかったはずの光のカーテンが出現していた。

海の中を照らす、泡沫のようなその光の幕は彼女たちの目の前を明るく染め上げていた。

3人はその光に誘われるようにその中へと進んでいく。

景色に目を奪われているのもそうだがそれ以上に彼女たちを惹き付けてしまうものがあった。

 

【~】

 

何かは分からない。

正確なことは一切分からないがそれでも彼女たちが確かに聴いていた…いや、感じていた音があった。

耳から聴こえてくるわけではない。

だが確かにその音は梨子(彼女)の心に響き渡っていた。

その景色と音に梨子は自然と手を伸ばす。

すると左右にいた2人も同じことを感じたようで光のカーテンに向かって手を伸ばす。

そこまで長くない時間のはずだったが3人にとってはその時間がとても長く感じた。

いや、正確には自分の時の流れがゆっくりになっているような感覚になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(千歌たち…遅いな。まだ見つけられないのかな?)

 

そう思いながら海を見つめていると太陽の木漏れ日が降り注ぐ場所から3人が上がってきた。

その光景はまるで木漏れ日を浴びる3人の人魚のようにすら見えてしまうほどに幻想的に見えた。

 

(…。)

 

そんな光景に思わず果南も見惚れてしまう。

するとその木漏れ日から彼女たちが興奮しながら話している声が聞こえてきた。

 

「聴こえた!?」

 

「うん!!」

 

「聴こえた!!!」

 

どうやら彼女たちの目的は達成されたようだった。それを見たかなんは安心したような笑みを浮かべながら千歌たちに声をかける。

 

「ほらー、そろそろ戻るから船に乗っちゃってよー!」

 

「あ、はーい!!」

 

千歌が大きな声で返事を返すとそれに合わせて3人は船に向かって泳いで行き、乗り込んだ。

船の上に上がった瞬間に千歌が果南に向かって大きな声を上げる。

 

「聴こえたんだよ!果南ちゃん!!」

 

「うわぁ!ちょっと千歌~。驚くからあんまり大きな声を出さないでよ。それで、聴こえたって何が?」

 

「海の音だよ!海の音!!」

 

「はい!確かに聴こえたんです!!」

 

曜と落ち着いた雰囲気を持っていたはずの梨子も興奮して話していた。

どうやら彼女たちが求めていたものは見つかったのだろうとすぐに果南にも理解できた。

 

「そっか、千歌たちも海の音が聴こえたんだ。」

 

「え?【私たち】も?ってことは!果南ちゃんも聴いたことあるの?」

 

「うん、もちろん。私は浦女の中だったら一番海に潜る経験が豊富だって自信を持ってるよ。3人が聴いたものと同じかは分からないけれど、私も海の音は聴いたことがあるよ。」

 

その言葉に3人のテンションはさらに上がる。

船が引き返し、ダイビングショップへ戻るまで海の音について4人は語り合っていた。

やがて船はダイビングショップへとたどり着くそこには既に琥珀が入口付近にたって4人の帰りを待っていた。

 

「遅くなっちゃってごめんね琥珀。時間は大丈夫そう?」

 

「大丈夫だよ。それに予定の時刻よりも早いですよ。」

 

そう言いながら道具を受けとる準備を整える。

果南もそれに合わせて船から降りるとすぐに千歌と曜の前に立って道具の受け取りをしようとする。

 

「松浦さん。僕が2人分やりますよ。松浦さんは自身のものもあるじゃないですか。」

 

そう言いながら2人から道具を受けとる。

重そうな道具は1つずつになってしまうがそれでもやはり男と言うこともあって1度に運べる量は果南に遜色ないかそれ以上であった。

 

「琥珀は私の分を持ってくれるんじゃないの?」

 

笑みを浮かべながら琥珀に問うが、琥珀はそんな果南を完全に無視をして荷物の片付けを始める。

そんな琥珀を睨み付けながら不機嫌そうな顔をするがすぐさま梨子に視線を戻すと道具を受け取って片付けを始める。

 

「ねえねえ!琥珀さん!聴こえたんだよ!海の音!!」

 

「うん!すっごくはっきりと聴こえたんですよ!!」

 

千歌と曜は興奮しながら琥珀に先程の出来事を話していく。

琥珀は自らが体験したことのない話に興味を引かれながらも片付けを終わらせて果南のことを待った。

 

「それで、日の壁みたいなのが出来たときにね!聴こえたんだよ!」

 

「へぇ、それはとても幻想的ですね。是非見てみたかったです。」

 

そんな会話をしていると果南と梨子が片付けを終えて受付の前まで戻ってくる。

 

「3人ともお待たせ。」

 

「大丈夫ですよ、僕たちもさっき来たばかりですから。」

 

「あの、琥珀さん。松浦さん。」

 

突然の梨子の切り出しに果南と琥珀の2人は目を丸くして梨子に視線を向ける。

梨子は興奮している自身を1度落ち着けるために小さく深呼吸をする。

そして、自分が伝えたい言葉を口にする。

 

「今日は無理を言ってごめんなさい。けれど、琥珀さんと松浦さんのお陰で海の音を聴くことが出来ました。本当にありがとうございます!」

 

深々と頭を下げる。

そんな様子に琥珀と果南は顔を見合わせる。

そして少し笑い合うと視線を梨子へと戻して話し始める。

 

「別に大したことはしてないよ。桜内さんが自分で見つけたんじゃん。私はただその場所を提供しただけだよ。」

 

「僕もそう思いますよ。それこそ僕はなにもしてませんからね。」

 

「いいえ!松浦さんがダイビングをやらせてくれなかったら聴こえませんでしたし、琥珀さんが海の音のヒントをくれなかったらきっと気づけませんでした。」

 

「ヒント?けれどあれは桜内さんが求める音ではなかったのでは?」

 

「はい、けれど。海の音が…色々な音が海にはあるって教えてくれたから私の聴きたかった音が聴こえてきたんだと思います。」

 

そういうと再び2人を正面から見て深々と頭を下げた。

2人はあまりに感謝を伝えられたためそれをむげにすることも出来ずに素直に受けとることにした。

3人は覚めやまぬ興奮で先程の様子を未だに語り合い続けていた。

 

「でも、桜内さんが求める音が聴こえて本当によかった。」

 

「そうだね。海の中の音、私と同じかは分からないけど同じようなものは私も聴いたことがあるよ。」

 

「そうなの?松浦さんも聴いたことがあるんだ。俺は全くないなぁ…。いつか聴いてみたいかな。」

 

「あはは、琥珀ならきっと聴けるよ。」

 

そんな談笑をしていると島から戻るための船がやってくる。

千歌たち3人と琥珀はその船に乗り込む。

やがてその船が出発すると果南は手を大きく降って4人を見送る。

4人はそれぞれ思い思いの振り方で返す。

 

「琥珀さん!本当に綺麗な!なんかこう…魅力的すぎる音だったんだよ!!」

 

千歌は感情をさらけ出して琥珀にそう告げる。

先程も聴いた話だが琥珀は優しい笑みを浮かべながらその話を聞いていた。

千歌は自分の感動を伝えるだけの言葉がうまく選び出せなかったが、それでも彼女のその喜びや感情の爆発を見ていれば彼女が梨子以上にその音に感動しているのは安易に想像することが出来た。

 

「…ふふ。なんか高海さんと琥珀さん。本当の兄妹(きょうだい)みたいね。」

 

「そうだね。琥珀さんと話してる千歌ちゃん、すごく楽しそう。」

 

琥珀は聞き上手だ。

相手の話を聞くことに非常に長けており、時おり相談に乗ったりしているくらいである。

だからこそ言葉足らずの千歌の話であろうと相手が満足できるように相づちを打ったり話を聞いたりすることが出来るのだ。

さらに千歌は姉妹のなかで末っ子であり、琥珀は長男だった。

それも大きかったのだろう。

そんな2人の会話をみていると時間はいつのまにか過ぎ去っており、気づけば港へとたどり着いていた。

3人はそれぞれの帰路へと着く。

土日はバスの本数が減っているため乗り遅れたら最後途方もない道のりを歩くことになってしまう。

それだけは避けるために少し早めに戻ってきていたため、まだ空は茜色にすら染まってはいなかった。

 

「曜ちゃん!じゃあまた明日ね!」

 

「うん!じゃあ明日ね!」

 

そういうと千歌と梨子とは逆の方向に曜は走っていった。

琥珀はというと千歌たちと同じ方向へと歩き始める。

 

「あれ?琥珀さんもこっちなんですか?」

 

千歌の質問にはいと答えると静かに歩き始める。

千歌と梨子も琥珀に合わせて歩く。

道中千歌の感想や琥珀に対する質問などで話が途切れることはなかった。

そんな様子を見ていた梨子は思わず笑みをこぼす。

 

「む、梨子ちゃんなんで笑うの~?」

 

千歌の言葉に琥珀も振り返る。

すると確かに千歌と琥珀を見てクスッと笑みを見せている梨子の姿が目に映る。

すると梨子は慌てて両手を横に振りながらこう答えた。

 

「ご、ごめんなさい。からかっているつもりとかじゃなくって本当に兄妹みたいだなって。」

 

「けいまい?」

 

「兄と妹ってことですよ。」

 

「えっ!そうかな?エヘヘ~、本当に琥珀さんみたいなお兄ちゃん欲しかったなぁ。」

 

そう言われた千歌は満更でもなさそうに照れ始める。

その様子に琥珀はついつい苦笑いする。

どういう反応を示せばいいか迷っていると再び千歌が話し始める。

 

「私の回りにお兄ちゃんがいる人ってあんまりいないんだよね~。弟くんはいる人もいるんだけどお兄ちゃんはほとんどいないから琥珀さんみたいなお兄ちゃんすごく新鮮だったんだよ!」

 

そう言いながらキラキラ輝かせた目を琥珀に向ける。

そのあまりの眩しさに思わず目を背ける。

だが千歌は続けてこう言う。

 

「それに琥珀さんは優しいし物知りだし、家のお姉ちゃんたちとは大違いだよ。」

 

千歌のお姉ちゃんという言葉に琥珀も反応する。

千歌のお姉さんがどんな人物なのかついつい気になって聞いてしまうと、千歌の口からはダイヤの時のような文句がたくさんこぼれてきた。

ほとんど美渡姉と呼ばれていたお姉さんの文句だったが。

どうやらもう一人のお姉さんとは仲良くやれているようであるが、そんな文句を言うなかでも本気でいやがっているところもあればどこか楽しんでいるところがあることを感じとることが出来た。

だからこそ琥珀はその言葉にこう答える。

 

「仲のいい姉妹なんですね。千歌さんたちは。」

 

いたってシンプルだ。

それを聞いた千歌は笑みを浮かべた直ぐ後にまた美渡姉の愚痴を言うが、それが照れ隠しであるのは直ぐに分かった。

時間がたちやがて琥珀と千歌たちは別れを告げると琥珀は家の前へとたどり着く。

既に辺りは夕日の光に染められているような時間になっていた。

琥珀が家の門をくぐり自宅へと帰ると家の中から元気な声が聞こえてくる。

 

「おかえり!お兄ちゃん!」

 

そう言いながら元気に駆け寄ってくる。

琥珀はそんなルビィの頭を撫でながら返答を返す。

 

「ただいま、ルビィ。」

 

それに対してルビィは身を任せて兄のナデナデを堪能する。

 

「お帰りなさい。お兄様。」

 

今度はその後ろから声が聞こえてくる。

 

「ただいま、ダイヤ姉さん。」

 

声の主は一瞬で分かった。

彼女の名前をいい返事を返すと彼女は琥珀のもとへとやってくる。

 

「荷物を持ちましょうか?」

 

「いいや、そこまでしなくても大丈夫だよ。」

 

そんな会話をしながら琥珀は自分の部屋に戻って荷物を整理する。

そして机に向かって学習道具を並べる。

受験勉強だ。

彼は1度勉強を始めるとすさまじい集中力ですぐさまそのテキストに取り組む。

時間がどれだけたったかは分からないが既に日は沈んで辺りか暗くなっていた。

 

 

 

 

「ルビィ~。琥珀とダイヤにお夕飯か出来たわよって教えて上げてきて~。」

 

「は~い。」

 

ルビィは母にそう言われると、駆け足で階段を上って2人のそれぞれの部屋の前へと向かっていく。

2階へと上がるとまずはダイヤの部屋の前にたつ。

 

【コンコン】

 

部屋の扉をノックすると中から返事が返ってくる。

 

「お姉ちゃん。お夕飯が出来たって。」

 

「分かりましたわ。キリのいいところまでやったらすぐに行きますわ。」

 

そんな返答を聞くとルビィは返事をして扉をゆっくりと閉める。

次は琥珀の部屋の前に立ち、同じようにノックをする。

がダイヤの時とは異なり中から声が返ってくることはなかった。

ルビィはそれに疑問と不安を感じながらゆっくりと扉を開ける。

部屋の中を除くと琥珀は机に向かって座っているのが確認できた。

どうやらルビィのノックに気づいていない様子だった。

ルビィは静かに部屋にはいると琥珀の近くまで歩いていく。

そしてそばまで寄ると肩を軽く叩きながら琥珀の名前を呼ぶ。

 

「琥珀お兄ちゃん。」

 

「おぉ!?ってルビィか。部屋のノックぐらいしてくれよ。」

 

「むぅ、したよ~。でも琥珀お兄ちゃんが全然気がつかないんだもん!」

 

あらぬ疑いをかけられたルビィは顔を膨らませる。

琥珀は自分の失言に後悔しながら謝る。

 

「それは…ごめん。俺が悪かったよ。全然気がつかなかった。」

 

「むぅ~。」

 

(あぁ、これは完全に不機嫌になっちゃったかな?)

 

「呼んでくれてありがとう。すぐに行こうか。」

 

そう言うと勉強道具をそのままにリビングへと向かおうとする。

 

「あれ、お兄ちゃん?勉強は途中でやめても大丈夫なの?」

 

「あぁ、俺はキリのいいところまでやっちゃうと続きがうまく入れなくなっちゃうからね。」

 

「へ~、そう言う勉強方法もあるんだ。」

 

そんな会話をしながらルビィと琥珀は一足先にリビングへと向かっていった。

リビングにいくと今日は母が作ってくれた料理が並んでいた。

先に食卓に着いたルビィと琥珀だが食事に手を着けることはせずに、ダイヤが降りてくるまで待っていた。

やがてダイヤが降りてくると全員で挨拶を行ってから食事を食べ始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

「梨子ちゃん…いまなんて…!?」

 

「私もスクールアイドルをやってみたいの。千歌ちゃん!」




久々の投稿です。
東京ドームのライブ素晴らしかったですね。
あのライブに感化されて小説を書くモチベが上がりました。
このモチベを維持できるといいのですが、もしよければ次回も是非見てください!


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