西住しほの妹、その名はりほ (G大佐)
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西住しほの妹、その名はりほ

 まだ一回しか観ていませんが、書きたくなったので書いてみました。「キャラの口調違う」といった事もあると思います。


 『戦車道』。それは、古くから乙女の嗜みとされている武道である。武道であるため、当然のことながら多くの流派がある。そして、戦車道に携わる者に聞けば、必ずといって良いほど挙げられる流派がある。

 『西住流』と『島田流』。戦車道の二大流派とも言えるだろう。

 

 その内の一つ、西住流。その本邸の居間に二人の女性がいた。

 

 一人は黒いスーツを着ていて、黒い長髪の女性。ピンと姿勢を正して正座をしているが、その表情は優れない。まるで、何か悩みを抱えているようだ。

 もう一人はジーンズに白いTシャツというラフな格好をしている。同じ黒髪だが、この女性はボブカットだ。

 どれほど黙っていたのか。すっかり空気が重くなった室内で、正座をしている女性……西住しほが口を開いた。

 

「りほ……。私はどうしたら良いの?」

「いきなりぶっ飛び過ぎてるぜ、姉さん」

 

 りほと呼ばれた女性は、腕組みをして壁に背を預けながら立っていた。しほの問いに、質問の意図が分からないと返す。

 

「みほの行動に対して、私は西住流として接しなければいけないの? それとも母親として?」

 

 それは、今日行われた、戦車道全国大会についてだった。

 

 しほには、二人の娘がいる。姉のまほと、妹のみほだ。彼女たちは、ドイツ戦車を使う黒森峰女学園の生徒で、それぞれ隊長と副隊長を務めるほどの実力者だ。

 今回の大会は、黒森峰の十連覇をかけた戦いだった。しかし、天候が悪化していたこと。そこへ対戦相手のプラウダ高校からの砲撃。そして足場が崩れた事による、Ⅲ号戦車の転落。誰が悪いとも言えない不運な事故が起きてしまった。

 このⅢ号の後ろに居たのが、副隊長でありフラッグ車の車長を担当していた、みほだった。

 彼女は見捨てることが出来なかった。砲弾が飛び交う中戦車から降り、増水した川へ飛び込んで仲間を助けた。

 しかし、その間に担当していた戦車は、相手からの砲撃を受けて撃破されてしまった。

 

 西住流の娘が戦車を放り出し、その結果十連覇を逃す。この事に、黒森峰のOGは酷く憤慨した。

 西住流師範として、教えに反してしまった娘を叱責すべきか。しかし娘は責任を感じやすい子だ。自分が叱責することで追い討ちをかけ、戦車に対してトラウマを持ってほしくない。

 西住流師範と一人の母親。板挟みの状態に、さすがのしほも精神的に疲れてしまった。

 そこで、戦車道以外の世界も見てきた、妹のりほに助けを求めたのだ。

 

「母親として褒めてあげたい。でも……」

「なぁ。何で選択肢が2つなんだよ?」

「……え?」

「師範として言葉を送ってから、姉さんとしての言葉を送るって手もあるんじゃねえの?」

「っ!」

 

 長時間の悩みを、目の前の妹はあっさりと解決してしまった。

 りほは、口調が少し男っぽいものの、独特の考え方で人を引っ張ってきた。現に、大会では黒森峰の整備班班長を務め、Ⅲ号戦車が転落したと報告を受けたときは速やかに救助班を向かわせ、自らも回収車に乗った。その時も多くの人間が彼女の指示に従い、迅速な行動をしている。それだけ、彼女には人を惹き付ける『何か』があった。

 

『連盟から指示が出てないだぁ? 馬鹿野郎! モタモタして人が溺れるのを黙って見てろってのか!』

 

『責任は全てアタシが背負ってやる! とっとと救助に向かえ! モタモタするなら、ケツにドライバーねじ込むぞ!』

 

 選択肢は1つではない。どちらかを選んでBetterを取るよりも、2つとも選んでBestを取った方が良い。

 

「……ありがとう、りほ。心が軽くなったわ」

「あんま具体的な答えを言えてねえんだけどなぁ……」

「ヒントから答えを見つけれたのよ」

「そうかい。……そろそろ2人が帰って来る頃だな」

「えぇ……」

「アタシは、部屋に居るよ。何かあったら……」

「分かってるわ。……ありがとう。本当に」

「……よせやい。あんまり言われると、照れる」

 

 りほは頬を少し赤くして、出ていった。それからしばらくして、2人の娘が入ってくる。

 2人が座ると、しほは、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 桜が咲く季節。りほは、自身の住む()()()マンションの居間で、受話器を耳に当てて、その話を聞いていた。

 

「アタシのこと、よく知ったねぇ。ま、みほちゃんの転校書類に、保護者代わりとして書かれてるから当然か」

《お願いします。私たちの戦車を復活させるには、貴女の力も必要なんです》

「帰ってきた時のみほちゃんね、随分と弱っていたよ。何故だか分かるかい? 戦車道に関わってない人間に、『黒森峰が負けたのはお前のせいだ』って、周りから責められたトラウマがあるからだ」

《……知っています》

「知っていながら追い詰めるのが、あんた達生徒会のやり方なのかい」

《そう言われるのも覚悟の上です。ですが、私たちが憎まれようとも、西住の力が必要なんです!》

「なぜそこまで必死なんだい? あんたの声、随分と追い詰められてる声だ」

《それ、は…………》

「……今は言えない、か」

《……すいません》

「……はぁ」

 

 その声を聞いた相手は、戸惑った。不機嫌にさせてしまったのではないかと。

 りほが次に発したのは……明るい言葉だった。

 

「ま、理由はどうあれアタシに任せな!」

《……………………へ?》

「引き受けるよ。お宅の依頼」

《い、良いんですか!?》

「当たり前さ! 戦車があるところにアタシは行く! フリーの整備士である、この西住りほさんに任せな!」

《あ、ありがとうございます!》

「どういたしまして。じゃあ、詳しい話はまた後でね、河嶋さん」

《はいっ! 本当にありがとうございます!》

 

 電話を切ると、ドアが開く音がした。

 

「りほお姉ちゃん、ただいまー」

「おう、お帰りー」

 

 一緒に住んでいる姪が帰ってくると、こんな事を閃いた。

 

「(アタシが大洗女子学園戦車道チームの整備士になった事は、みほちゃんには黙っとくかね。サプライズさ、サプライズ)」

「りほお姉ちゃん、どうしたの?」

「何でもないよ。さ、テレビでも見てて。夕飯作るから」

「はーい!」

 

 ボコボコにされる熊のアニメを観ている姪に苦笑しながらも、夕飯作りにとりかかった。

 

 

 

 

 

 

 夜。夕飯時に学校の事を楽しく話していたみほは、すっかり眠ってしまった。その様子にクスリと微笑むと、みほの部屋の扉をそっと閉めた。

 缶ビールを開けて、クイッと一口。その後に自分の携帯を開く。

 

「もしもし? お疲れ、姉さん。うん、楽しくやってるみたいだよ。今も自分のベッドでぐっすりさ」

 

 電話の向こうから安堵のため息が漏れたのを、聞き逃さなかった。

 

「そうそう。みほちゃん、やっぱり戦車道をやるみたいだよ。……そうなんだよ。突然『やる』ってことになったらしい。アタシも整備士の依頼が来た。え? もちろん引き受けたよ。良いことじゃないか、戦車道がより広まる事になるんだから」

 

 戦車道から離れそうだった娘が続けることに驚いたのだろう。滅多に聞くことのない姉の驚きの声に笑いをこらえながら、自分の思いを告げる。

 

「姉さん。暗黙のルールになってる『強豪だけが参加を許される』ってのは、もう時代遅れだ。これからは沢山の学校が、戦車が大会に出るべきなのさ。……やっぱり、姉さんもそう思うんだね。良かったよ。

 じゃあ、もう遅いしそろそろ切るよ。え? 姉さんは間違ってないよ。みほちゃん喜んでたよ。『お母さんが褒めてくれた』ってね。まほちゃんもね。そうだ、まほちゃんとか、よく彼女の側にいたエリカって子は元気かい? ……そうか。なら安心かな。きっと、全国大会の抽選会の時なんかに会うかもね。

 じゃあね、姉さん。忙しいのは分かるけど、たまには休んだ方が良いよ? それじゃあ、おやすみー」

 

 携帯を閉じると、ふと窓を見る。雲もない夜空に満月が浮かんでいた。

 

「今年は、今まで以上に面白いことになりそうだ」

 

 そう呟くと、再びビールを飲んだ。




 読んでくださり、ありがとうございました


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りほと戦友

つ、通算UA1800件越えに、短編日間ランキング入り!? ありがとうございます!
お気に入り登録をしてくれた方々、評価をしてくださった方々も本当にありがとうございます!

今回は少し短めです。時系列としては、サンダース戦です。


 サンダース大学付属高校。そこは、生徒数がとても多いマンモス校であり、戦車の保有数全国一を誇る学校である。生徒たちはとてもフレンドリーで、使っている戦車も相まって、アメリカンスタイルな学校とも言えるだろう。

 そんなサンダースの生徒の間で、誰もが必ず訪れるというホットドック屋がある。

 挟んでいるのはソーセージのみというシンプルなホットドックで、ケチャップとマスタードはセルフサービス。ドリンクはコーラかマウンテン〇ューの二つで、サイズは基本的に日本サイズのS~Lだが、言ってくれればアメリカンサイズにしてくれるというサービス付きだ。

 

 そんなホットドック屋の店主は、今日も上機嫌に鼻歌を歌いながら、移動販売車にホットドック用のパンを積み込む。

 

「~♪ ~~♪」

 

 しかし、彼女が歌っているのは『アメリカ野砲隊マーチ』でも『リパブリック讃歌』でも、ましてや『ジョニーが凱旋するとき』でも『星条旗よ永遠なれ』でもない。

 ドイツ軍歌の『パンツァー・リート』である。

 

「「「「待てぇぇぇぇぇ!!」」」」

「んぁ?」

 

 複数の生徒の声が聞こえ、思わず振り返る。その瞬間、癖毛のある生徒とぶつかりそうになる。

 

「うおっ、とっとっ!?」

「す、すいませーん!」

 

 転ばないように動いたため、茶色いお下げが揺れる。

 何とかバランスを取れた頃には、サンダースの制服を着た癖毛の生徒はそのまま走り去ってしまった。思わずポカンとなる。

 

「何だったんだい、あれは……」

「逃がすなぁ!」

「追えー!」

「あっ」

 

 先程の女子を追っているであろう複数の生徒が走ってきた。しかし、タイミングが悪かった。思いっきりぶつかり、ぶちまけられるパン。生徒たちは通り過ぎようとするが、何かにぶつかった事に気付いて一旦止まり、恐る恐る振り返る。

 

 そこには、怒髪天を衝くという言葉がふさわしい程に怒っている店主の姿があった。生徒たちの顔が青ざめる。

 

「テメエらぁぁぁぁぁぁ!!」

「「「「ヒィィィィィ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 第63回全国戦車道高校生大会。サンダース大学付属高校と県立大洗女子学園との戦い。試合会場の観客席に、2人の女子がいた。2人とも黒森峰女学園の制服を着ている。

 

「サンダースが10両に対して、大洗は5両……。隊長。副隊ちょ……みほは勝てるでしょうか」

「大多数の者がサンダースの勝利を予想してるだろう。だが、全国大会ではフラッグ戦だ。逆転もあり得る」

 

 みほが勝てるのかと尋ねた女子は、逸見エリカ。黒森峰の副隊長だ。それに答えたのは西住まほ。黒森峰の隊長であり、みほの姉である。

 

「大洗に転校したときは戦車道を止めてしまうのかと心配しましたが、続けてくれて何よりです」

「そうだな。戦車喫茶で見かけたが、友人たちと仲良くやれているようだ」

「もっとも、りほさんまで大洗にいるとは思いませんでしたが」

「……そうだな」

 

 抽選会の後、まほ達は息抜きもかねて戦車喫茶ルクレールへ訪れていた。そこで偶然にも妹を見かけたのだが、チームメイトと思われる数名と楽しげに話をしていたので、声をかけることを止めたのだ。

 実は、りほも大洗にいるという事を、まほは知っていた。母から教えてもらい、その時にみほが戦車道を続けている事も知ったのだ。エリカは、大洗戦車道チームの整備班の名簿を見て、ようやくりほの事を知ったようだが。

 

「りほ姉さんは、どんな相手でも戦車を万全な状態にする。例え相手に身内が居ようとも、贔屓しないで整備をする」

「だからこそ、多くの高校から依頼が来るんですね。去年私たちの所に来てくれたのは、本当に幸運でした」

 

 エリカの言葉にまほは頷くと、2人は試合の開始時間を待った。

 

 

 

 

 

 

 その頃、試合会場の近くで、サンダースの店主はホットドックを売っていた。

 店を訪れる生徒や観客の数が減ってきたので、試合開始が近いのだろう。そろそろ閉めるかと思い始めた、その時だった。

 

「ホットドック一本おくれ。ドリンクはコーラのSサイズ」

 

 その声に、驚いて振り返った。そこには、かつての「戦友」がいたからだ。

 

「りほ!?」

「や、ミチコ」

 

 ふと、店主ミチコの脳裏に、青春の日々が思い浮かんだ。

 荒んでいた高校時代。日頃の鬱憤を、りほと「アイツ」と一緒に戦車を乗り回して晴らしていた。とても短い間だったが、本当に楽しかった。

 卒業してからの進路で、自分は「黒森峰のソーセージをもっと広める!」と意気込んでいた。今ではこうやって、ホットドック屋の店主になっている。だが、自分の店を持つことで忙しくなり、交換した連絡先へ電話をかけることは全く無かった。

 だからこそ、目の前の戦友が来てくれた事が嬉しい。

 

「あんた、大洗に居たのかい……」

「専属って訳ではないさ。大洗を優先するだけで、他校からのメンテナンスの依頼とかにも行っているよ」

 

 ミチコは、黒森峰のソーセージを焼きながら、あの癖毛生徒を思い出していた。なるほど。どうやらあの子は潜入して情報収集をしていたようだ。おおかた、潜入がバレて他の生徒に追いかけられていたのだろう。思わずクスクスと笑ってしまう。

 

「どうしたんだい?」

「いや、思い出し笑いさ」

 

 良い具合に焼けたら、パンに挟む。我ながら良い出来だ。

 

「はい、300円だよ」

「相変わらずホットドック作るのが上手いな」

「だろぉ? ケチャップはアンツィオ高校の物を使ってるんだぜ?」

「そいつぁ、ますます美味そうだ」

 

 100円玉を三枚渡すと、りほは自分の場所へ向かって歩き出す。ミチコは店を閉める準備をする。

 ふと、ミチコはりほに向かって大声で叫んだ。

 

「りほぉ! サンダースの生徒は、私にとって娘みたいなもんだ! だから言う! うちの娘たちは強いぜ!」

 

 歩みを止めると、りほは振り返って叫んだ。

 

「大洗も、いい子たちばかりだよ! 今年は面白くなるぞ!」

 

 2人同時に不敵な笑みを浮かべると、再び自分の場所へ歩き始めた。

 お互いに、あの頃の性格は変わってないようだ。




読んでくださり、ありがとうございます。

次回も投稿するかは、まだ未定です。


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りほの拍手

沢山の方々に読んでいただき、本当にありがとうございます!

前回のサンダース戦から一気にとんで、黒森峰戦のラストになります。アニメでの最終話になるので、まだガルパンを見たことが無い方はネタバレ注意です。


 ふと、夏の日の事を思い出す。

 あれは、まほとみほがまだ幼かった頃だ。永遠に続くのではと思うほどの青空の下を、自身が操縦するケッテンクラートで駆けていた。後ろにみほとまほを乗せて。

 時々ガタンっ!と大きく揺れると、その度にみほは大きな声を出して驚いて、まほは「あうっ」と可愛い声を出していた。

 

『もうちょっとで、駄菓子屋さんだよ』

『私アイス食べたーい!』

『私も』

『はいはい。じゃあ、しっかり掴まってな!』

『『うひゃあ~!』』

 

 姉が多忙なため、少しでも寂しい思いをさせまいと、あの頃は頻繁に外出していた。そして、2人のその笑顔にとても癒されていたものだ。

 

 駄菓子屋のベンチに座る2人は、ソーダ味のアイスを美味しそうに食べる。自分はオレンジ味だ。するとみほの嬉しそうな声が聞こえた。見れば、彼女の手には「当たり」の文字が入ったアイスの棒が。

 

『りほお姉ちゃん! 当たった~!』

『ラッキーじゃないか! 交換しに行ってきな』

『うん!』

 

 みほが嬉しそうに駄菓子屋のおばちゃんの所に行く。一方のまほは、残念そうなシュンとした顔をしていた。

 

『外れだった……』

『ありゃりゃ……。残念だったねぇ』

 

 そこへみほが戻ってきて、まほの前にアイスを差し出す。

 

『お姉ちゃん。半分こしよ!』

『し、しょうがないな』

 

 嬉しそうな顔をしておきながら、しょうがないと言うまほ。彼女は意外と負けず嫌いなのだ。

 2人で一本のアイスを食べる光景に、りほは笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 まほの乗るティーガーⅠと、みほの乗るⅣ号戦車が一騎討ちをする。その様子を、りほはモニター越しにハラハラと見守る。

 

「頑張れ……頑張れ……!」

 

 どちらか一方を応援している訳ではない。彼女の応援には、「2人ともベストを尽くせ」という思いが込められていた。

 みほが勝たなければ、大洗女子学園は廃校になる。それでもりほは、2人を応援していた。

 

 

 

 決勝戦前の事だった。生徒会長の杏に呼び出しを受けたりほは、衝撃の事実を知った。

 学園艦の統廃合政策。学園艦を解体して数を減らすことにより、経費を削減するという政策。その対象として、大洗女子学園が選ばれていたのだ。

 学園艦の解体とは、事実上の廃校を意味する。その事に気付かない程、りほも馬鹿ではない。

 

『免れる条件は、戦車道全国大会で優勝することか……』

『黙っていて申し訳ありません。ですが、生徒たちにプレッシャーを与えたく無かったんです』

 

 杏が頭を下げ、続くように副会長の小山柚子と広報の河嶋桃が頭を下げた。

 りほは、三人を責めなかった。「どうして早く言わなかった」と言っても、既に過去の事だ。責めるよりも受け入れて、大会に臨んだ方が良い。

 

『事情はよく分かった。安心しな! アタシが持ってる技術を全部使って、戦車たちを万全な状態にしといてやるよ!』

『本当に……ありがとうございます……!』

 

 3人が再び頭を下げる。りほは、「こりゃ忙しくなるな」と心の中で苦笑しつつも、より気合いを入れた。

 

 

 

 モニターの中ではティーガーⅠとⅣ号戦車による激しい攻防が繰り広げられ、整備班と回収班がいるこの場所も、スタッフ全員が固唾を飲んで見守っていた。

 そして……砲撃の音と煙が、2両を包み込んで見えなくさせる。

 

「どっちだ!?」

 

 班の誰かがそう言った。りほは黙ってモニターを見つめる。

 

 煙が晴れると、ティーガーⅠから、撃破判定の白旗が上がっていた。

 

《黒森峰女学園、フラッグ車、行動不能!》

 

《大洗女子学園の勝利!!》

 

 一瞬の沈黙、そして観客からの大歓声。

 スタッフ達も歓声を上げる中、りほだけは呆然としていた。

 

「は……え、あ……?」

「姐さん、やったッス! 大洗女子学園の優勝ッスよ!」

 

 姐さんと呼ぶ後輩が、りほの手をとってブンブンと大きく振る。

 この時に初めてりほは、大洗が、みほが勝ったのだと理解した。

 

「は、ははは……勝ったのか……勝ったのかぁ……!」

 

 笑いと共に、涙が溢れ出す。その様子を見た後輩が、彼女を一人にさせる。

 

「みほもまほも……本当によく頑張った……! 本当に、大きくなったんだねぇ……」

 

 自分の中では、2人はまだ幼いつもりだった。

 だが、今は違う。まほは西住の名を背負う者として成長し、みほは己の戦車道を見つけた。

 2人は、十分に成長している。そしてこれからも成長し続けるだろう。

 

「……おめでとう。2人とも」

 

 りほは涙を流しながらも、2人に拍手を送った。




読んでいただき、ありがとうございました。

次回から劇場版に入る予定です。


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劇場版 りほの戦い

お気に入り登録数が、60件越え……! 本当にありがとうございます!

今回から劇場版です。アニメ本編、および劇場版のネタバレが含まれますので、ご注意下さい。


 夕焼けの中、りほは笑顔で生徒たちを見送る。

 

「西住整備長! 今回は我々の戦車にも修理を施してくださり、ありがとうございました!」

 

 ハキハキとした声で頭を勢い良く下げる生徒は、知波単学園の隊長である西 絹代。頭を下げる彼女に、りほは苦笑しながら頭を上げるように言う。

 

「良いって良いって。大洗の子達との共闘なんだから、派遣整備士のアタシが協力するのは当たり前だよ。出来れば突撃を控えてくれると、スタッフ達も駆け回らないんだがねぇ」

「うぅ……。申し訳ありません……」

「まぁ、今回学んだことを次に活かせば良いさ。頑張りな」

「はいっ!」

 

 絹代を見送った後、りほは道具の片付けに入る。

 

 今回は大忙しだった。大洗女子学園の優勝を記念して、エキシビションマッチが開催されたのだ。聖グロリアーナ女学院とプラウダ高校の2校と、大洗と知波単学園の2校。それぞれがタッグを組んでの戦いは、それは激しいものだった。

 特に知波単学園の戦車は、伝統である突撃をかましてくるものだから、撃破される度に回収班を出さないといけない。さすがのりほも、てんてこ舞いだった。

 

 だが、連盟から派遣された多くのスタッフの協力もあり、どの学校の戦車も無事に帰す事が出来た。

 愛用の工具箱に道具を入れ終えて、作業着から着替え終わった。その時だった。携帯が鳴ったのは。

 

「もしもし? ……あぁみほちゃん。どうしたの? そろそろアタシも帰るけど」

《りほお姉ちゃん……どうしよう……!》

「……何があったんだい?」

 

 みほが泣きそうな声をしていた。すぐに表情を切り替える。周りのスタッフ達も怪訝な顔になった。

 

《大洗女子学園の…………廃校が決まったって……》

「なにっ!?」

 

 そこから、りほは詳しく話を聞く。しばらくしてから電話を切った。

 

「姐さん。何があったんスか?」

「……大洗の廃校が決まり、学園が封鎖されてるそうだ」

「えっ!?」

 

 周りが騒がしくなる。

 

「おかしいじゃないっスか! 確か、全国大会で優勝すれば存続になるはずでしょう!?」

「……口約束は、確約に入らないってよ」

「何だよそれ……! クソが!」

 

 この場にいる全員が怒りを(あらわ)にしていた。

 

「カチコミ行きましょう、姐さん!」

「そうですよ! こんなの、許されるはずがねぇ!」

「姐さんの敵は、私たちの敵っス!」

 

 男女構わず、多くのスタッフが工具などを手にする。

 

「止めな!!」

 

 だが、それはりほの声で制止される。

 

「姐さん……」

「もし変な行動を起こせば、学園艦の住人の再就職は斡旋しないそうだ」

「なっ……!」

「脅迫かよ!」

「そこへ戦車道連盟に所属してるアタシたちが大規模な行動を起こせば、間違いなく巻き添えが起こる! ……今は大人しく従うしか無い」

 

 普段は勝ち気なりほにしては珍しい、弱気な態度だった。

 

「……姐さんは、どうするんですか」

「荷造りをして、翌日には荷物を残して退艦だそうだ。戦車も、文科省の預かりになる」

「あの子たちから、何もかも奪うってのかよ! クソッタレ!」

「だから、アタシも退去の準備をしないといけない。……ごめんよ。先に行かせてもらう」

 

 スタッフ達が見る先輩の後ろ姿は、とても寂しい姿だった。

 

 

 

 

 

 

「これで良し、と」

「りほお姉ちゃん。こっちも終わったよ」

「お疲れ様。少し休憩しよっか」

「うん」

 

 みほと生活を共にしてきた部屋には、段ボールの山が出来ている。2人で笑いながらご飯を食べた部屋も、今は殺風景なものになっていた。

 

「本当に……無くなっちゃうんだね」

「そのようだね……」

 

 部屋を見渡すみほが、寂しげに呟く。すると、りほに抱きついてきた。

 

「嫌だよぉ……。みんなの場所が無くなるなんて、嫌だよぉ……!」

 

 肩を震わせて、泣いていた。無理もない。今までの頑張りを否定されたのだ。仲間との居場所を守るために戦ったというのに、大人げない理由で無かったことにされたのだから。

 りほは、大洗に来てから泣くことの無かったみほの頭を撫でながら、もう片方の手で抱き寄せて、存分に泣かせてやる。

 だが、その心は、文科省に対しての激しい怒りに満ちていた。

 

 泣き止んだ後、りほは姪の背中を押した。

 

「折角だ。戦車たちに挨拶してきな」

「りほお姉ちゃん……」

「アタシは、段ボールに入れてない物が無かったか確かめてから、戦車たちの様子を見に行くよ。ほら、行っておいで!」

「……ありがとう!」

 

 みほは急いで学園の方へ向かった。それを見届けたりほは、携帯を手にする。

 

「遅くなって悪いね。立て込んでてさ」

《ようやく出やがったな! 大洗での件は、もうネット上で大騒ぎになってるよ》

「で、何度も電話をかけてきて何の用だい、ミチコ」

 

 電話の相手は、サンダースでホットドック屋をやっている元戦友のミチコだ。

 りほの口は、獰猛な笑みを浮かべている。

 

《そちらの戦車を、サンダースで預かることにした!》

「へえ? そりゃ大胆なことするねぇ。誰の考えだい?」

《向こうの生徒会長さんだ。こっちの隊長は、張り切ってスーパーギャラクシーの手配をしている》

「……やっべ。もしかしたら姪を慰めてる間に通知来てたかもしれねぇな」

 

 実際に、ミチコから来た複数の通知のうち数件は、生徒会からの物が混じっていた。

 

《今そっちに向かってる! 早く学園に来な!》

「……あ? ミチコが向かってるってどういう事だ! おい! ……切りやがった」

 

 りほの返事を待つこともなく、電話は切られる。首を傾げながらも、学園の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 大洗女子学園の校庭。りほがそこへ向かうと、カメさんチームを除くメンバーが集まっていた。

 

「あ、班長さん!」

 

 ウサギさんチームの車長である梓が、りほに気付いて声をかける。気付いた他の生徒たちも、りほに駆け寄る。

 

「みんなも集まってたんだね」

「班長さん。やっぱり、私たちの戦車は無くなっちゃうんですか?」

 

 カモさんチームのみどり子が、心配そうな顔をしている。周りは寂しげな雰囲気に包まれていた。

 

「そんな訳無いだろ!」

「……え?」

「アタシの仲間がやって来るさ! 空を見な!」

 

 みほ達が空を見上げると……巨大な輸送機がこちらに向かっていた。

 

「C-5Mスーパーギャラクシーですよ!」

 

 優花里が興奮気味に、その輸送機の名前を言う。

 着陸したスーパーギャラクシーには、サンダースの文字があった。

 りほは、学園へ向かう途中、生徒会からのメールを読んでいた。文科省には紛失届を出し、戦車はサンダースに預けるという内容である。ミチコの言った通りだった。

 

 すると、スーパーギャラクシーから、戦車道チームの隊長のケイが降りてきた。しかし、どこか不思議そうな顔をして。

 

「何でホットドックショップのお姉さんまで?」

「大洗には戦友がいるからねぇ」

「戦友、ですか?」

 

 ナオミやアリサも不思議そうな顔をする中、ミチコだけが戦友に手を振って駆け寄る。

 

「りほ! 来てやったぜ!」

「ミチコぉ! まさか本当に来るとはなぁ!」

 

 2人してハイタッチするのを、一同はポカンと見ている。

 

「あの人って、大会の時にいたメカニックよね?」

「お知り合い、でしょうか」

 

 サンダースの3人が不思議そうに見て、

 

「あの人、ホットドッグ売ってた人じゃない?」

「でも、何でホットドッグ屋さんと班長さんが?」

 

 大洗の生徒たちも、不思議そうに見ていた。

 

「にしてもお前、その格好……」

 

 ミチコの服装は、いつもの料理エプロンを着けた姿では無かった。

 彼女が着ているのは……黒森峰のパンツァージャケットだったのである。

 

「大洗廃校の件について、色んな所から怒りの声が上がってる。だったら戦ってやろうって、『リーダー』が言ったのさ!」

「リーダーが!?」

「あんたの分もあるよ! ほら!」

 

 ミチコが投げ渡したのは、りほもかつて着ていたパンツァージャケット。背中には、空を羽ばたくハヤブサの姿が描かれている。わざわざ作り直したのだろう。サイズもぴったりだった。

 

「……まさか、また着ることになるとはねぇ」

 

 ジャケットを着る。その仕草に、周りから「おおっ!」と声が出る。

 パンツァージャケットを着たりほは、一段と凛々しく見えた。彼女は、未だにポカンとしているみほを見る。

 

「みほちゃん」

「りほお姉ちゃん、戦車道はやったこと無いって言ってたよね……?」

「ごめんよ。嘘ついてて」

「……りほお姉ちゃんも、戦うの?」

「大人の戦い、かな。このハヤブサは、気合い入れるためさ」

「りほお姉ちゃん……」

「……アタシが居なくても、大丈夫だね?」

「……うん! 私には、みんながいるから!」

「よく言った! それでこそだ!」

 

 ギューッ!とみほを抱きしめると、すぐに解放する。

 

「さぁ、みんな! 急いで積み込みな! 向こうでアタシがしっかり見といてやるからね!」

『『『『『はいっ!!』』』』』

 

 戦車が次々とスーパーギャラクシーに積み込まれていく。ミチコとりほが監督として見守りながら、話し合う。

 

「聖グロの隊長さん、確かダージリンだっけ? 彼女が何かをしようとしているそうだ」

「へぇ、彼女が……。リーダーからの情報かい?」

「あぁ。リーダーは今、継続にいるみたいだよ」

「さっすが改造屋、足が速い。あらゆる場所を旅してるだけあるよ」

 

 戦車が全て積み込まれた。スーパーギャラクシーに、りほも乗り込む。

 

「すぐにお届けするから、待ってておくれよ!」

「移動先が分かったら、教えてね!」

「しっかり届けてあげるから」

「ありがとうございます!」

 

 スーパーギャラクシーが離陸する。その後ろ姿を見つめながら、みほは一人呟いた。

 

「あのハヤブサのマーク……ひょっとして…………」

 




ありがとうございました。

次回の投稿がいつになるか未定ですが、内容としては、りほの過去にしようかと思います。


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りほの過去

い、一気にお気に入り登録数が80件越え……! 評価バーにも色が付いてる……!
本当に、ありがとうございます!

今回はサブタイトルの通り、りほの過去です。戦車知識が無いに等しいため、おかしい点があると思います。指摘してくだされば幸いです。


 歌声が聞こえたら、無線を切れ

 

 ハヤブサが見えたら、すぐ逃げろ

 

 軍歌を響かせ、奴らは来る

 

 奴らの名前はハヤブサ隊

 

 黒森峰の、はぐれ者

 

 

 

 

 

 

 熊本県、某所。セミの鳴き声が響く中、みほは地元に来ていた。転校手続きの書類に、親からの判子が必要だからだ。

 さすが西住流と言わんばかりの豪邸の門前で、みほは中に入るのを躊躇っていた。何せ急に廃校が決まり、急に転校手続きの書類を書かなければいけないのだ。母親に連絡を入れる暇すら無かった。

 

「(連絡もなしに急に来たんじゃ、ビックリするかな……)」

「みほ」

 

 なかなか決心がつかないでいた所へ、声をかけられた。

 そこには、夏休みで帰省していた姉の姿があった。

 

「お姉ちゃん」

「突然来るなんて何かあったのか? それに、りほ姉さんはどうした?」

「う、うん。あのね……」

「お嬢様?」

 

 みほが理由を話そうとしたとき、女性の声が聞こえた。

 彼女の名前は菊代。西住家の家政婦である。

 

「お帰りなさいませ」

「……うん。ただいま、菊代さん」

 

 ペコリと頭を下げる彼女に、みほは微笑みながら、そう返した。

 

 

 

 

 

 

「大洗が廃校……。口約束は確約ではない……」

 

 居間に、重苦しい空気が流れている。まほとみほは冷や汗をダラダラと流す。

 2人の目の前には、背筋をピンと伸ばして正座をしているしほの姿があった。最初こそ突然の帰省に驚かれたものの、優しい笑みで「お帰りなさい」と言ってくれた。だが、帰省の根本的な理由を知った途端に今のような空気になった。

 怒ってる。絶対に怒ってる。2人は早く逃げ出したかった。

 

「……ひとまず、この書類に私の名前を書いて、判子を押せば良いのね」

「う、うん。ごめんなさいお母さん。突然こんな……」

「謝らなくて良いわ。それにしても、戦車道プロリーグを考えている文科省が優勝校を廃校にするなど、何て愚かな……」

 

 いつも書類作業をしてるからなのか、慣れた手付きで記名場所にしほの名前を書き、ポンと判子を押した。

 

「あの、お母さん」

「何かしら? まだ必要な書類があるの?」

「ううん、そうじゃないの。りほお姉ちゃんについてなんだけど……」

「りほの事?」

「りほお姉ちゃん、黒森峰のパンツァージャケットを着たの」

「っ!?」

 

 しほが、目を見開いて驚く。指の力が抜け、ペンが音を立てて倒れた。

 

「りほ姉さんが? りほ姉さんは戦車道をやってない筈だぞ?」

「私もそう思ってた。でも、サンダースの人から渡されたのを、りほお姉ちゃんは着たの。『久しぶりだ』って言いながら」

「みほ。そのジャケットは、まさか……」

「うん。ハヤブサのマークだった」

 

 しほの問いに答えるみほ。その瞬間、まほも驚いたような顔になる。

 

「まさか……りほ姉さんが、そんな……!」

「お母さん。りほお姉ちゃんって……」

 

 

 ハヤブサ隊なの?

 

 

「……………………」

 

 しほは目を瞑って、黙りこむ。しばらくして、目を開けた。

 

「話したら、りほは嫌がるかもしれないと思って、ずっと話さないでいた。けれど、貴女たちなら話しても大丈夫かもしれないわね」

 

 しほの口から、りほの過去が語られた。

 

 

 

 

 

 

 それは、しほが黒森峰女学園の二年生になる年だった。一つ年下の妹も、姉の姿を追うかのように入学してきた。彼女は戦車が好きな女の子だった。戦車道チームに入るのは、しほにとっては予想通りだった。

 

 黒森峰は、西住流の影響を強く受けている。その戦い方は力強いものがあるが、一方で想定外の事が起こると一気に崩れてしまう脆さがあった。

 りほは、縛られるのを嫌った。Ⅲ号戦車に乗っていた他の4人も、同じような人間だった。

 だから彼女たちは、事あるごとに当時の三年生隊長に意見を具申していた。だが、当時はまだ生徒間の上下関係が厳しかった時代。受け入れられる筈が無かった。

 それ故か、彼女たちは独断行動を繰り返した。無線を繋げば、返ってくるのは『パンツァー・リート』の大合唱。ドイツ戦車でどうやってるんだと聞きたくなるほどの大爆走。隊長の指示を無視しての、相手への奇襲攻撃。他のチームメイトが混乱することも、多々あった。

 

 だが、相手からすれば、今までの黒森峰の動きと全く違う。黒森峰への対策プランが一気に崩れてしまい、立ち直ろうとした隙を突かれて撃破されるなんて事もあった。当時の相手チームからしたら、りほたちのハヤブサマークは恐怖の対象だった。

 

 

 だからこそ、彼女たちは恐れられたのだ。『ハヤブサ隊』と……。

 

 

 しかし、いくら相手を撃破しているとは言え、チームワークを乱し指示も無視するというのは、問題行動でしか無かった。

 

 故に彼女たちは、一年にも満たず除隊処分となった。

 

 それだけでは無い。りほは、当時の家元(まほとみほにとって祖母にあたる人物)から呼び出しを受けた。

 

『お前を西住流から破門する。戦車に乗って戦うことは、二度と許さない』

 

 勘当とならなかっただけ、まだマシだったかもしれない。しかし、りほは二度と戦場に戻る事は無かった。

 

 

 

 

 

 

「私は、りほを庇うことで自分も破門されるのではと恐れていた……。私は、妹を守れなかった、駄目な姉なの……」

 

 まほとみほは、言葉が出なかった。黒森峰でのハヤブサ隊とはチームワークを乱すという意味合いが強く、2人は反面教師として覚えていたのだ。

 まさか、叔母がそのメンバーだったとは、信じられなかった。

 

「だけれど、この話には続きがあるの」

「「え?」」

 

 

 

 

 

 

 しほは、りほにすがり付き泣いていた。口から出るのは謝罪の言葉ばかり。

 

『ごめんなさい……! 本当にごめんなさい、りほ……!』

『止めてくれよ姉さん、かえって惨めになっちまう』

『それでもお願い……謝らせて…………お願いよ……!』

 

 りほの制服を掴む力が強くなり、床にはポタポタと涙が落ちる。

 

『私は貴女から戦車を奪った……! 戦車が好きな貴女から奪ってしまった……!』

『いや、これは自業自得だよ。……うん。今思えば、アタシは馬鹿だった』

 

 しほが謝罪すれば、りほは遠回しに『姉さんは悪くない』と返す。2人の会話は押し問答と化していた。

 これに折れたのは、りほである。

 

『だぁぁもう! 分かったから! 分かったから離してくれ! もう夜遅いんだし!』

 

 無理やり引き剥がされるような形で、2人は別れてしまった。それ以降の数日間、しほは気まずくて彼女に声をかけることが出来なかった。

 

 しかし、ある日の事。隊長から整備班の紹介があった。戦車も多く保有している黒森峰では、整備班として戦車道チームに所属している者もいる。

 たが、時期としては少々遅い気がした。心なしか隊長も疲れているような顔をしている。

 

『あー……。今日から新しく整備班に編入された生徒たちを紹介する』

『…………っ!?』

 

 何と、そこに並んでいたのは、ハヤブサ隊の5人だったのだ。

 全員が驚く中、5人の自己紹介が進み、それが終わると彼女たちは整備班の場所へ走っていった。

 最初こそ、除隊された恨みとしてわざと戦車を整備不良にするのではと恐れられたが、その心配はむしろ不要だった。

 

『りほぉ! ドライバー持ってこい!』

『はい!』

『ミチコぉ! テメェはバールとレンチの区別もつかねぇのか!』

『すいません! すぐに取り替えます!』

 

 黒森峰の整備班たちは、「己の整備が黒森峰の勝敗に掛かっている」という責任を持っている。その理念を叩き込むためか、りほたちは厳しく指導を受けていた。

 今のりほの整備へのこだわりは、実はこの指導から来ているのだ。

 

 練習を終えて解散となった時間帯に、しほはりほの元へ訪れた。なぜ整備班として戻ってきたのか。戦車に乗ることは許さないと言われたはずだ(整備を終えた後、調子を確かめるために試運転をする事があるのだ)。

 そう問い詰めると、彼女はニカッと笑ってこう言った。

 

『母さんは、戦車に乗って戦うことを許さないって言ったんだろ? だったら、()()()()()()()()()()

 

 しほは唖然とした。言葉の隙を突いて、妹は戦車を取り戻したのだ。普通ならば除隊や破門が立て続けに起こり、立ち直るのは難しい筈。だというのにどれほど強靭な精神なのか。

 

「(りほ……。強靭な精神を持つ貴女こそ、西住流にふさわしいのかもしれない……)」

 

 後にハヤブサ隊のメンバーは、優秀な整備員として、新たに加入してくる整備員たちにとって憧れの存在となった。

 例え戦いにおいての汚名が残ったとしても、彼女たちは笑って受け流し、最後はそれぞれの道を歩んでいったのだ。

 

 

 

 

 

 

「そして、りほは今、戦車道連盟所属の派遣整備士を勤めているの」

「す、凄い……! りほ姉さんの見る目が変わりそうだ!」

 

 まほが目を輝かせている間、みほはふと思い出した。

 りほが言っていた「大人の戦い」。戦車に乗って戦う事では無いだろう。では、何か?

 

「(分からない。分からないけど、ハヤブサ隊の人たちが集まりそうな予感がする……!)」

 

 厳しい境遇を乗り越えたハヤブサ隊。りほと、ミチコと呼ばれた女性は判った。

 残り3人は一体どんな人なのか。みほは気になって仕方がなかった。




読んでくださり、ありがとうございました。

次回は、残りのハヤブサ隊メンバーを出す予定です。


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りほの逆鱗

とうとう、お気に入り件数が90件突破……! ここまで急激に伸びるとは思いませんでした。
本当にありがとうございます!

今回は、りほの仲間たちが登場します。
時系列としては、みほ達が殲滅戦を告げられる前のあたりです。


 りほは、車を走らせて試合会場へ向かっていた。と言うのも、大洗存続を賭けた試合が決まったからだ。

 

「まさか、大学選抜チームと試合とはねぇ」

 

 助手席に座るのは、かつて『ハヤブサ隊』で砲手を務めていたミチコだ。預かっていた戦車をりほと共に大洗戦車道チームへ返した後、残りのメンバーとも合流し、共に行動している。

 

「しかも隊長は島田流の娘。つまりこの試合は、西住流との対決になる」

 

 りほの後ろの席から声をかけた女性は、メンバーの中で一番小柄だ。少し淡々とした喋り方をするこの女性の名は、ユキ。『ハヤブサ隊』では通信手を担当していた。

 

「だけど、相手が何であろうとウチたちが出来ることをする! そうだろう、リーダー?」

 

 後ろの席のうち中央に座る女性。ユキが最も小柄ならば、彼女は最も大柄だ。彼女の名前はカナエ。『ハヤブサ隊』では装填手を担当。チームでは、ミチコと並んでムードメーカーでもある。

 

「そうだな。昔はバカをやりまくった私たちだが……大人となった以上、私たちに出来る戦いをしよう」

 

 ミチコの後ろの席に座る、リーダーと呼ばれている女性。彼女が『ハヤブサ隊』の車長。名はアイコ。今回の件でメンバーを集合させた人物でもある。

 

「今回ばかりは、アタシの特権を使わせてもらったよ。リーダー達も会場のスタッフとして働けるように、頼んでおいた」

「ありがとう、りほ。だが良いのか? 私たちは連盟のスタッフの仕事に関しては素人だぞ」

「心配すんなリーダー。それぞれに出来る仕事が必ずあるからね。それに、ほんの少し年月経ったからってそう簡単にチームワークが崩れないのが、アタシ達『ハヤブサ隊』だろ?」

「ふっ、そうだったな」

 

 彼女たちの戦い。それは、政府に対してカチコミを行うことではない。

 

「黒森峰、サンダース、プラウダ、聖グロリアーナ、アンツィオ、継続に知波単……。これらの精鋭が今、大洗への短期転校手続きを済ませて、会場に向かっている」

「ウチらは、連盟のスタッフと共にみんなのサポート。そうだろう?」

「そうだ。しかも、プロリーグの戦いに合わせて、30両の戦車で戦うことになる」

「私たちはもう、直接戦車で戦うことは無い。だけど子供たちを支える行動自体が、私たちにとっての戦いになる。そうだろ、りほ?」

「そうさ。だけど、最初に考えたのはリーダーさ。褒めるならリーダーだよ。こうやって、また集まることも出来たんだからね」

 

 自分たちの戦いは、戦車に乗る少女たちを支えることである。りほがそう言うと、アイコ達は笑った。

 

 思えば、昔は「全てが敵」と言わんばかりの目付きをしていた。そんな自分たちが、今では後輩たちに笑みを浮かべ、様々な側面から支える立場になるとは思いもしなかった。

 

「私たちも、少しは変われてるって事かな」

 

 アイコのそんな呟きをよそに、りほの運転する車は会場へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 会場の中に設けられた、整備班・回収班の控え室。そこは今、騒がしくなっていた。

 

「殲滅戦、だと!?」

 

 カナエが、文科省役人と戦車道連盟理事長から告げられた試合内容に驚く。

 

 戦車道での戦いには、2つの試合形式かある。1つは全国大会でのルールにもなっている『フラッグ戦』。これは、フラッグ車となった戦車を撃破すれば勝ちというルールだ。これの面白い所は、他の車両を撃破する必要が無いため、逆転劇が起こる事が多いのだ。実際に、大洗女子学園はその逆転劇を多く見せてきた。

 一方で『殲滅戦』とは、名前の通り全ての戦車を撃破しないといけない。1両で複数撃破する実力であれば、逆転も狙えるだろう。だが、まだ他校からの援軍が来てない大洗からすれば、このルールはあまりにも厳しすぎるのだ。

 

「既にプロリーグの基本ルールが、30両の殲滅戦に固まりつつあるらしい……」

 

 理事長の児玉 七郎が、申し訳なさそうな顔で理由を告げる。

 

「貴様、その事を大洗に伝えたのだろうな?」

 

 アイコが、掴みかからんとする勢いで役人に詰め寄る。

 

「これから伝えます。まずはスタッフの皆さんに伝えるべきかと思いまして」

「今更あの子達に伝えるってのか!? ふざけんじゃねえ!」

 

 ミチコが怒鳴る。周りからも批難の声が上がるが、役人は気にも留めない。

 

「プロリーグの基本ルールに合わせると言ったのは、大洗の生徒会長です。書類にもサインをもらっています」

「くそっ……!」

「では、我々は試合ルールを大洗の皆さんにも伝えてきますので、失礼します。……あぁ、そうそう」

 

 出ていこうとした役人は、りほを見て告げる。

 

「間違っても、相手チームが不利になるような整備はしないでくださいよ?」

 

 その瞬間、役人の体が持ち上がった。りほが彼の胸倉を掴んだからだ。

 

「テメエ、今なんて言った……? 選抜チームが不利になるような整備をするな、だと……?」

 

 

「ふざけんじゃねえぞ!!!」

 

 

 空気がビリビリと震える。彼は今、りほの逆鱗に触れたのだ。

 

「アタシ達は、戦車に乗る多くの人間の期待を背負ってる! 確かに姪っ子達が心配さ。だけどね! それでアタシが贔屓すると言ったら大間違いだ! どんな奴が乗ってる戦車だろうが、完璧に動かせるように整備する! それがアタシ達の信条ってもんだ!」

 

 乱暴に役人を解放する。彼は咳き込んで少し息を整えた後に何か言い返そうとしたが、出来なかった。スタッフたちの気迫に圧されていたからである。

 

 カナエが口を開く。

 

「お偉いさんよぉ……。ここでは口の利き方に気を付けな」

 

 カナエを始め、多くの人間が拳の骨を鳴らしたり、工具を片手にいつでもリンチ出来る態勢になっていた。

 その様子に冷や汗をダラダラと流しながら、彼は控え室から逃げるように退室した。他のスタッフ達は彼の背中を見送りつつ、中指を立てていた。

 

「……すまない。何も力になれなくて」

 

 七郎が、りほに深く頭を下げる。りほはその姿に慌ててしまう。

 

「い、いや、謝らないでくださいよ! むしろアタシは感謝しかありません! 昔の仲間をボランティアスタッフとして認めてくれて」

「いや、私も理事長としてもっと強く出るべきだった……。大洗の子達には、申し訳ない事をした……」

「……大丈夫です、理事長」

「え?」

「彼女たちには、大会や練習試合を通じて得た仲間たちがいますから!」

 

 りほのその笑みは、大洗の生徒たちを信じて疑わない、輝かしいものだった。




読んでいただき、ありがとうございます。
一応、ここにハヤブサ隊のメンバーをまとめておきます。

車長:アイコ
装填手:カナエ
砲手:ミチコ
通信手:ユキ
操縦手:りほ

この5人が、ハヤブサ隊のメンバーです。


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真・りほの戦い

この小説を投稿して、約1ヶ月。まさかこんなに沢山の方々に読んでいただけるとは思いもしませんでした。本当に、感謝しかありません。

前半は、少し賛否両論となるシーンがあります。


 大洗戦車道チームの乗る船が、到着したらしい。だがスタッフ控え室では、騒ぎが絶えていなかった。

 

「おいおいおい……! 何なんだよこの編成!」

 

 ミチコが、他のスタッフから渡された大学選抜チームの編成を見て声を荒げる。

 

「センチュリオンとT-28重戦車がそれぞれ1両ずつ、チャーフィー3両、パーシング24両は分かる。でも……」

 

 ユキが、眉間に皺を寄せる。残りの1両が問題なのだ。

 

「カール自走臼砲を入れるなんて何考えてやがる! あれはオープントップだから、戦車道の対象外のはずだ!」

 

 他のスタッフが顔をしかめる中、アイコだけは顔を青くしていた。

 

「まさか、そんな……」

「……リーダー。何か知ってるのか?」

 

 りほがいち早く気付き、アイコに問いかける。アイコは一度俯くと、意を決した表情で真実を告げた。

 

「あれは……私が改造したものだ」

『『『なにっ!?』』』

 

 スタッフ一同が驚く。まさか、こんな身近に反則とも言える車両を改造した人物がいるとは思わなかった。

 

「リーダー! どういうことだ!」

 

 カナエがアイコの胸倉を掴んで持ち上げる。

 

「言い訳にしか聞こえないかもしれないが、私もこのような形で使われるとは思わなかった」

 

 アイコの口から語られたのは、以下のことだった。

 オープントップの車両も戦車道に使えないかという話を、文科省から持ちかけられたこと。その一環で、誰も使わずにいたカール自走臼砲の改造も引き受けたそうだ。

 

「本当に、申し訳ない……」

 

 アイコが深く頭を下げる。最初は彼女を睨んでいたスタッフ達も、その態度に戸惑っていた。責めるのは簡単だが、だからと言って編成から外すことは、もう出来ないのだ。

 

「……リーダー。カールの弱点はどこだ」

「りほ?」

「ハヤブサ隊のリーダーが、頭を下げんじゃねえ。昔のあんたは、どんな奴にも不敵な笑みを絶やさなかったぜ」

 

 その言葉に少しだけ目を見開くアイコ。クスリと笑みをこぼすと、かつての目つきになる。

 

「カールの脅威は、その大口径だ。狙うとしたらそこだろう。改造したのは、乗員が剥き出しになる部分と自動装填システムだけだ」

「……うしっ! いけるぞテメエら!」

 

 笑顔を見せるりほに、スタッフだけでなく4人も驚く。

 カール自走臼砲は、600ミリの砲弾を飛ばすのだ。なぜ笑ってられるのか。

 

「りほ。いくら何でも無理がある。砲口の中を狙うというのは、言うのは簡単でも実践するのは難しい」

「あんたの言う通りさ、ユキ。でもね、だからこそだよ」

「……? 理由が分からない」

 

 首を傾げるユキに、りほは苦笑する。彼女は冷静に分析をする分、不可能な事は不可能とバッサリと言ってのける女だ。

 そんな彼女も、何であれ理由を教えれば納得してくれる。

 

「あんた達は忘れちまったのかい? 黒森峰での戦いを。大洗の子達は、あのマウスを撃破したんだよ!」

『『『………………あぁぁぁっ!?』』』

 

 思い出したように声が大きくなる一同。アイコも、ミチコも、ユキもカナエも、あの戦いをテレビや観客席で見ていたのだ。

 

「あの子達なら、アタシたちが予想もしないような、奇想天外なアイデアで乗り越えられる! そうだろう?」

 

 りほの言葉に、多くの人間が頷く。そうだ。だからこそ大洗女子学園は優勝できたじゃないか。彼女たちなら、カールだろうがラーテだろうが撃破できるはずだ!

 スタッフ達の中から、不安という物は無くなっていた。今あるのは、自分たちに与えられた任務を果たすという心のみ。

 

「班長。そろそろ、各チームの隊長同士が挨拶する。私たちの指示を頼む」

 

 アイコの言葉に、ユキ、カナエ、ミチコが頷く。それを見てりほは、その役割を発表する。

 

「ユキとカナエは、撃破された戦車と乗組員の回収班をサポートしてくれ! 特殊カーボンで安全とはいえ、激しい横転で打撲とかしててもおかしくない。場合によっては応急手当も頼むよ!」

「了解」

「任せな! そう言うのは大の得意だぜ!」

 

 ユキが頷き、カナエは左腕をグルグルと回してから力こぶを作る。

 

「ミチコ! あんたは飲み物の配布を頼む! 一時的に雨が降る予報だが、今日は気温が高い! 熱中症予防のためにも、観客やスタッフ、回収された生徒の様子を常に見といてくれ!」

「任されたよ! 大勢のサンダース生徒を相手にしてきたホットドッグ屋をなめるなってんだ!」

 

 ミチコはニコッと笑みを浮かべ、頼もしい言葉で返事をする。

 

「リーダーはアタシと同じ整備班だけど、カール自走臼砲が撃破されたら、回収と整備に向かってくれないかい?」

「喜んで引き受けるよ。あれを改造した以上、最後まで責任取らないとね」

 

 アイコは、目をそらすことも俯くことも無く返事する。

 すると……

 

 

「待ったぁー!!」

 

 

 りほにとって聞きなれた、もう一人の姪の声が聞こえた。スタッフ達が、何事かと外へ出る。

 

「お、おぉ……!」

 

 その光景に声を漏らしたのは誰だったか。

 

 黒森峰が

 サンダースが

 プラウダが

 聖グロリアーナが

 アンツィオが

 継続が

 知波単が

 

 強豪と謳われている隊長と副隊長、そして戦車たちがやって来たのだ!

 

「はい……分かりました。大学選抜チームの隊長が、大洗女子学園の増援を認めたぞ!」

『『『よっしゃあぁぁぁ!!』』』

「さっそく、知波単学園の待機する戦車16両を回収せよとのご命令だ! お前ら! 準備は良いかぁ!」

『『『おうっ!』』』

 

 りほの掛け声に、この場にいる人間たちが威勢良く吠える。

 

「お前らぁ! いくぞぉぉぉぉ!」

『『『おぉぉぉぉぉぉぉっ!!』』』

 

 その雄たけびは、この場にいる者たちを奮い立たせるには、十分すぎるものだった。

 




ありがとうございました。

次回で劇場版は最後、つまり最終回の予定です。


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ハヤブサ隊の戦場

通算UAが1万越え……! それだけでも驚きなのに、お気に入り登録数や評価がえらいことになってますが!? 本当に「感謝」という言葉しか出てきません……!

ですが、今回はお詫びがあります。前回の後書きで『次は最終回の予定です』と言っていましたが、書きたいものを色々詰め込んだ結果、エピローグは次回になります。予告詐欺になってしまい、本当に申し訳ありません……。

今回は、今まで以上の独自設定があります。また、劇場版での激しい戦闘シーンは殆どありません。ご了承ください。


 撃破判定を受けたIS-2の中で、プラウダ高校の副隊長であるノンナは、静かに回収班を待っていた。雨が装甲を打つ音が車内に響く。

 彼女は大洗連合チームの『ひまわり中隊』に配属されていたのだが、カール自走臼砲の砲撃による陣形の崩壊と、大学選抜チームの戦車であるパーシングの猛攻を受けた。その時に、『ひまわり中隊』の副隊長を務めるカチューシャが危機に陥ってしまった。

 自身の高校では隊長であるカチューシャ。自分が最も信頼している彼女を、撃破されるわけにはいかない。だから、クラーラも含めた多くの同志たちが囮になった。……自分自身も。

 

「カチューシャ隊長は、上手く逃げ切れたでしょうか……」

 

 通信手を務める生徒が、心配そうな声で呟く。案じているのは逃がした隊長たちのこと。プラウダ高校の戦車はもう、カチューシャの乗るT-34/85しか居ないのだ。

 

「大丈夫です。カチューシャには、私たち以外にも頼れる仲間がいます。何せ、カチューシャ本人が認めている方々です。私たちは、今はただ信じましょう」

「はいっ! ……あ、戦車道連盟の方から、通信です」

 

 ちょうど良いタイミングで、回収班からの通信が届いた。

 

≪こちら、戦車道連盟回収スタッフです。そちらに怪我をした選手は居ますか?≫

「こちらはIS-2。えっと、こちらに怪我人は……」

「大丈夫です。全員、打撲もしてません」

「はい、全員怪我はありません」

≪了解しました。戦車を回収しますので、直ちに降車をお願いします≫

「分かりました。さぁ、皆さん。降りましょう。雨具をしっかり着てください」

 

 ノンナが、戦車内に常備されている雨合羽を全員に渡す。全員が着込んだのを確認すると、戦車から降りた。

 

 降りて見てみると、自分が撃破した大学選抜チームの選手も、連盟スタッフの指示を受けながら選手用の回収車へ乗り込んでいる。ノンナも乗り込むと、トラックの中にはクラーラやニーナと言った同志が、先に座っていた。

 

「副隊長、こっちさどうぞ」

「ありがとうございます、ニーナさん」

 

 少しだけ詰めて座る分を確保してくれた、KV-2の搭乗員であるニーナに礼を言いつつ、彼女の隣に座った。

 すると、ある人物がトラックに入ってくる。

 

「お疲れ様、みんな」

 

 それは、カナエと共に回収班を任されていたユキだった。手に持っているお盆には沢山の紙コップがあり、その中にホットココアが注がれている。雨で冷えた体には丁度良いだろう。

 だが、彼女がどういう人物かを知っているが故に、クールな性格であるノンナも驚きを隠せなかった。

 

「寮長さん! なしてここに!?」

 

 自分の言いたいことを、ニーナが代弁してくれた。

 そう。ユキは、プラウダ高校の学生寮の寮長なのだ。ノンナも入学したばかりの頃はお世話になったし、今でもお世話になっている。

 

「寮長さん。それは黒森峰のパンツァージャケットですよね? 何で……」

「私の母校は、元々は黒森峰。このジャケットは、気合いを入れるため」

 

 淡々と答えながらも、生徒たちにココアを配るユキ。選手たちは礼を言いながらも、どこか緊張している。

 無理もない。自分達の住む寮の管理人が、まさかボランティアスタッフとして参加してるとは思わなかったのだから。

 

「みんな、よく頑張った。普通なら混乱して壊滅してもおかしくなかったのを、貴女たちは防いだ」

「寮長さん……」

 

 ノンナは、言葉にこそしていなかったが、内心は悔しさで一杯だった。まだまだカチューシャを支えられたのではないか。最善の方法があったのではないか。そのような気持ちが心を満たしていた。

 だが、目の前の小柄な寮長は、自分達の行動を褒めてくれた。普通なら、戦力が激減したことに対して叱責を受けても仕方がないというのに。

 

「ユキ。戦車の回収、完了したぜ。そっちはどうだ?」

「ん。選手全員、負傷無し。こっちも移動できる」

「分かった。本部の方に伝えといてくれ。ウチは先に戦車を運ぶから」

「分かった。……それじゃ、みんな。観客席で隊長たちを見守ってて。本当に、お疲れ様」

 

 そう告げると、ユキは降りて行ってしまった。その様子を見届けると、クラーラが声をかけてきた。

 

「寮長が来てるのは、予想外でした」

「そうですね……。落ち着いたら、お礼をしなければ」

 

 そう言うと、ノンナはココアを口にする。

 体にも、悔しかった心にも染み渡る温かさだった。

 

 

 

 

 

 

 石橋付近で、アイコは目の前の『作品』を見上げる。

 カール自走臼砲。自分自身が手掛け、そして大洗連合チームを苦しませてしまった元凶。

 

「まさか、本当に撃破するとはな……」

 

 その元凶が、今は撃破判定の白旗を上げている。撃破したのは、大洗連合『どんぐり小隊』のヘッツァーだ。アンツィオ高校の豆戦車であるC.V.33 カルロ・ベローチェに乗り上げて、そのままジャンプ。カールの砲口に一撃を叩き込んで撃破したのだ。その戦法に、アイコは思わず唖然としたものだ。

 

「アイコさん。カールが大きすぎて、回収ができません!」

 

 スタッフの一人が声をあげる。その巨大さ故に、普段は戦車を乗せているトレーラーに乗せることは出来ない。牽引車も今回は持ってきていなかった。

 

「分かった。じゃあ、移動できる程度まで修理しよう」

「えっ!? ここで、ですか!?」

「幸い、大きな破損は無い。中身を直せばすぐに動かせる。そっちの、BT-42を頼むよ」

「了解です!」

 

 他のスタッフが駆け回る中、アイコは工具を手に修理を始める。本当は装填システム等の動作不良も確かめるべきだが、今はこのデカブツを移動させるのが優先だ。

 

「しかし、奇怪な運命というのがあるものだな」

 

 速く、それでいて正確な作業をしながら呟く。思い浮かぶのは、履帯が無くなっても走り続け、片輪走行までやってのけたBT-42。継続高校の保有戦車だ。

 実は、あの戦車も彼女が手掛けた『作品』だ。クリスティー式サスペンションは、本来は長時間かけて行われるものだが、短時間で出来るように施したのだ。

 

 彼女の仕事は改造屋。だからこそ、俗に言う「魔改造」というのもお手の物なのである。

 

「よし、動かせるな。こっちはOKだ!」

「こちらも戦車と選手、どちらも回収完了です!」

「カールは私が動かす。トラックの方を頼む」

「分かりました!」

 

 カールを動かしながら、アイコはポツリと呟く。

 

「……回収に手間が掛かるとなると、カール自走臼砲は戦車道では使えないな」

 

 戦車道連盟と文科省に、そのような内容の報告書を送ろう。アイコはそう思いながらカールを動かした。

 

 

 

 

 

 

「ポルシェティーガー、回収しました!」

「そのパーシング整備終わったか!? 終わったなら移動してくれ!」

「誰か手を貸してくれ! こいつ派手に損傷してやがる!」

 

 試合が後半戦になりつつある頃、整備スタッフたちの間では大声での掛け合いが行われていた。

 いくら社会人チームを撃破している大学選抜チームとは言え、大洗連合は強豪校の集まり。選抜チームも多くの戦車が撃破されていた。

 

「クッソォ! フラッグ戦なら楽なのに!」

「文句言うな! アタシ達の仕事は、戦車たちを直してやることだ! 口よりも手を動かせ!」

「これ程ゴタゴタしてたら口数も多くなりますよ、姐さん!」

 

 殲滅戦というルールに対して文句を吐きつつも、りほ達は手を動かすのを止めない。

 今回は、どちらかのチームが全滅するまで終わらない。両チーム合わせて60両もあり、最高59両もの戦車をスタッフ達は直さないといけないのだ。

 

「しかし、さすが愛理寿ちゃんだ。あっという間に撃破車両を増やすとはね……」

 

 西住流と肩を並べる流派、島田流。その娘である島田 愛理寿は、13歳でありながら大学選抜チームの隊長なのだ。

 りほ自身も、派遣整備士として、そして西住流と島田流との付き合いの関係で彼女に会ったことがある。と言っても、最初の出会いは愛理寿が赤ん坊の頃だ。整備に訪れたとしても顔を合わせる事が少ないため、とうの本人は覚えていないだろう。

 

「負けてらんないよ! お前ら! 整備士としての意地を見せてやれ!」

『『『『はいっ!!』』』』

 

 どんな戦車も完璧な状態にする。それが彼女たちの信念だ。だから腕が疲れようが、足がガクガクと震えようが、りほ達は手を動かし、整備エリア内を走り回る。

 

 そんな時だ。回収された選手たちに飲み物を配布していたミチコが、慌てて整備エリアに入ってきた。走ってきたのか、息が荒い。

 

「りほ! た、大変だよ!」

「どうしたんだいミチコ。まずは息を整えな」

「そんな暇があるか! 残りの戦車は大洗連合が2両、選抜チームが4両だ! しかも、一気に勝負を決めるみたいだぜ!」

「何っ!?」

 

 いよいよ最終局面に入ったようだ。一瞬、まだ撃破されていない姪たちのことが頭に浮かんだ。だが……

 

「……いや、アタシはここにいる」

「はぁっ!? 何言ってんだよ! あんたの姪が戦ってるんだぞ!?」

「だからこそだ! ここが今のアタシの戦場だ! ……二人が戦ってるのに、アタシが抜けられるかよ」

「でも!」

「くどいぞミチコ! テメェはそれでもハヤブサ隊かぁ!!」

 

 りほの怒号に、ミチコは体が竦む。そして理解した。りほは本当は応援に向かいたいのだ。現に、整備を続ける彼女は工具を持つ手を動かしながら、口も小さく動かしてブツブツと呟いている。

 

「頑張れ、まほちゃん……。頑張れ、みほちゃん……。頑張れ……!」

 

 ミチコはその様子に涙ぐみそうになりながらも、すぐに顔を振って表情を戻す。

 

「……分かった。私は選手の飲み物の補充に行ってくる!」

 

 いつもの大声でりほにそう伝えると、ミチコは整備エリアから走って出て行った。

 

 

 

 

 

 

 まほの乗るティーガーⅠが、みほの乗るⅣ号戦車を撃つ。しかし、それは実弾ではない。

 

「っ! 空砲!」

 

 愛理寿が気付いた時にはもう遅い。彼女のセンチュリオンが砲撃するも、Ⅳ号の履帯に命中。その間にⅣ号が、激突と同時に砲撃する。

 一瞬訪れる沈黙。ほぼ同時に上がる、撃破判定である白旗。審判は残存車両の確認に入る。

 

《大学選抜チーム、残存数0! 大洗女子学園チーム、残存数1!》

 

《よって、大洗女子学園チームの勝利!》

 

 その音声に、りほ達の動きが止まる。状況を理解するのに数秒。そして……

 

 

『『『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!』』』

 

 

 整備エリア内は、顔が油まみれであるにも関わらずハグをする者、手を取り合って喜ぶ者であふれ返った。

 

「りほ」

「リーダー……」

 

 りほが振り返ると、そこにはアイコを始めとするハヤブサ隊の仲間たちがいた。

 

「やったな、りほ!」

 

 ミチコが眩しいほどの笑みを見せる。その目尻にはうっすらと涙が。

 

「高校生のみんな、とても良い戦いをしていた」

 

 ユキは相変わらず淡々とした喋り方だが、声のトーンと表情から、喜びの感情が見て取れる。

 

「最高だったぜ! ウチ、今日ここに来て良かったよ!」

 

 カナエも、ミチコと同じくらい眩しい笑みを浮かべている。白い歯が見えるその笑みが、彼女の喜びや楽しさを表現していた。

 

「今年は全国大会といい、今回といい、素晴らしい戦いばかりだな」

 

 アイコはクールな笑みを浮かべながらも、戦いを賞賛する。

 

 そんなメンバーの様子にりほは笑う。そして、パンパンと大きく手を鳴らした。

 

「さぁ、みんな! 残りの戦車も回収して、とっとと直すよ! 中途半端な仕事は許さないからね!」

『『『『はいっ!!』』』』

 

 スタッフたちが笑顔で、片手に持った工具を掲げて返事する。

 りほは、みほ達に会いに行きたい衝動を抑えつつ、最後の仕事にとりかかった。

 




読んでいただき、ありがとうございました。

次回こそ、エピローグです。


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エピローグ

最初は、本当に一話だけ書いて終わるつもりでした。

それが、1ヶ月とはいえここまで読んでくださる方がいた事に、感謝感激です。本当にありがとうございました!


 フェリー『さんふらわあ』。大学選抜チームとの戦いを終えた大洗女子学園戦車道チームは、そこで戦いの疲れを癒していた。

 

 しかし、隊長であるみほは船内を歩いていた。あんこうチームの優花里、沙織、麻子、華も一緒である。

 

「りほお姉ちゃん、どこ行ったんだろう……」

「確かに、班長殿は乗船したんですよね?」

「うん。戦車を搬入するときに一緒に乗ったはずなんだけど……」

 

 ハヤブサ隊のメンバーは、試合が終わった後それぞれ違う帰路を取った。カナエは黒森峰の飛行船『グラーフ・ツェッペリン号』に、ミチコはサンダースの『スーパーギャラクシー』に、ユキはプラウダの船に乗って帰っていった。アイコだけは各地を放浪するとのことで、バイクで去っていった。

 そしてりほはと言うと、みほたちと共に、この『さんふらわあ』に乗ったのだ。みほは今回の件についてお礼を言いたかった為、こうして探している。しかし見つからない。

 

「戦車と一緒に乗ったのなら、そこで整備してるんじゃないか?」

 

 麻子が場所を推察する。確かに、『りほ=戦車の整備』というイメージがある。しかし、沙織がそれを否定した。

 

「うーん、レオポンさんチームにメールで聞いてみたけど、居ないって」

「それなら、お風呂じゃないでしょうか? きっと班長さんも今日の汗を流していると思いますよ」

 

 今度は華が推察する。大破状態と化したⅣ号戦車を、りほは直してくれたのだ。その時はりほだけでなく、他のハヤブサ隊のメンバーや連盟スタッフも汗だくだったのを覚えている。

 華の言葉にみほ達は頷くと、大浴場へと向かった。

 

 

 

 大浴場へ着くかと思われたその時、声をかけられた。

 

「あ、西住隊長!」

「西住さん達も、お風呂かにゃ?」

 

 声をかけたのはアヒルさんチームの磯部 典子。その隣にはアリクイさんチームの「ねこにゃー」こと猫田もいた。二人は風呂から上がったからなのか、髪がしっとりとしている。

 

「えっと、りほお姉ちゃ……班長さんを探しているんですけど……」

「班長さんですか? それなら、私たちが上がろうとした時に、お風呂に入ってきましたよ?」

「さすがです、五十鈴殿。当たっていましたよ!」

「でも、ボクが見たときには首にタオル巻いてたにゃ。多分、もう上がってると思うにゃ……」

「やれやれ、すれ違いになったか」

「ねこにゃーさん、班長さんはどこに行きましたか?」

「えっと、確か就寝スペースの方かな……。ウサギさんチームの人たちが居るところだったと思うにゃ」

「みぽりん、行ってみようよ! まだ寝てないかも!」

「い、良いのかな……。もう寝てるかもしれないよ……」

 

 沙織の提案に、みほは戸惑う。就寝スペースに向かったということは、すでに寝てる可能性もあるのだ。さすがに寝てるのを邪魔するわけにはいかない。

 

「それなら、寝てるかどうか見に行くだけでも良いのではないでしょうか?」

「華さん……」

「もしお休み中だったのであれば、明日改めてお礼を言いましょう」

「優花里さん……」

「少しは、我が儘になっても良いと思う。私は五十鈴さんの意見に賛成だ」

「麻子さん……」

 

 みほは目を閉じて、一瞬だけ考える。そして決めた。

 

「うん。……行ってみよう」

 

 

 

 就寝スペースへ向かうと、ウサギさんチームの6人が寝ていた。穏やかな寝息を立てて眠るその姿に、ホッコリさせられる。

 そんな就寝スペースの端に、一人の女性が眠っていた。

 

「あ、班長殿です」

「一足遅かったか……」

 

 麻子の言う通り、りほは既に寝ていた。

 

「班長さんって、イメージ通りというか何というか……」

「雑魚寝って言うんでしょうか、寝相が凄いですね……」

 

 沙織と華が彼女の寝相に苦笑いしていた。りほの今の姿は、シャツが捲れてヘソが見えている。タオルケットは申し訳程度に被さっていて、時々ボリボリと無防備な腹を掻いている。イビキをかいて無いとは言え、その姿はまるでオッサンだ。

 

「もう、りほお姉ちゃんったら……。相変わらず寝相だけは残念なんだから……」

 

 困ったような顔でりほのシャツを正し、タオルケットを掛け直す。手慣れた様子を感じさせるあたり、家ではよくある光景なのだろう。

 

「でも、私たちがこうして勝てたのは、ダージリンさん達だけじゃなくて、班長さん達の助けもあったからなんだよね」

「サンダースに預けてる間に、班長殿が整備してくれたそうですしね」

「戦いが終わっても、班長さん達のおかげですっかり元通りですからね」

「私たちは、周りの人たちに助けられてばかりだな」

 

 あんこうチームを始めとした大洗女子学園の戦車道チームは、りほに対して感謝の念が尽きない。沙織たちは、静かに寝ている彼女に、静かに頭を下げた。

 

「本当にありがとう、りほお姉ちゃん……」

 

 みほが頭をそっと撫でる。彼女からすれば、幼い頃から母や父と共に面倒を見てくれた叔母。派遣整備士としての仕事で忙しいだろうに、大洗の戦車たちを修理・整備して、時には模擬戦や訓練のアドバイスもしてくれた。

 今回の戦いは特に忙しかったはずだ。59両もの戦車の整備を、他のスタッフたちに指示を与えつつやってのけたのだから。

 

「明日、改めてお礼を言うね? 本当に……お疲れ様」

 

 最後にりほの頭を一撫ですると、みほ達は退室した。

 

 りほは寝ている。だが、みほ達の言葉が届いたのか、その口元は優しい笑みを浮かべていた。




これにて、『西住しほの妹、その名はりほ』は一旦完結になります。

はい、「一旦」です。詳しくは活動報告にてお知らせします。


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番外編 りほと聖女

こちらの投稿は久しぶりになりますね。ですが、パッと思い付いた話なので、とても短いです。

またもやオリキャラ登場になります。

今回の話は、最終章の前の話になります。若干のネタバレを含みますので、最終章の1話をまだ観てない方はご注意ください。

あと遅れましたが、オレンジペコちゃん、誕生日おめでとう!


 季節は秋。風も冷たく感じ始める頃、りほは戦車喫茶『ルクレール』でコーヒーを飲んでいた。

 しかし、着ているのはいつもの作業着ではない。黒い女性用のスーツだ。

 

「ふぅ……」

 

 手元に置いてあった書類を手にする。そこには『無限軌道杯の開催について』と書かれていた。

 

 無限軌道杯とは、簡単に言えば戦車道の冬季大会である。しかし毎年行われてるわけでは無く、今回はなんと20年ぶりの復活となるのだ。文科省が戦車道のプロリーグ開催などに躍起になってる上、今年は大洗女子学園の活躍もあって、マイナーな競技と言われていた戦車道はメジャーになりつつある。冬季大会の開催は当然なのかもしれない。

 

 りほは、戦車道連盟所属の派遣整備士である。どのような学校であれ、依頼があればその学校の戦車の修理や整備へ駆け付けるのが仕事だ。さらに、大会スタッフとして参加校の戦車を整備する仕事もある。だから彼女も、無限軌道杯に関する会議に出席したのだ。

 

「相席、よろしいかしら?」

「ん?」

 

 ふと女性の声が聞こえたので顔を上げると、高級そうなコートに身を包んだ美しい女性がいた。彼女のことを見た瞬間、りほは思い出した。

 

「おやおや、『聖女』さまじゃないか」

「その呼び方は止めてくださる? 私にはマリアという名前があるのよ」

「そうだったのかい? まぁ座りなよ」

 

 りほと向かい合うように座るマリア。彼女は紅茶と戦車の形をしたショートケーキを頼んだ。りほはコーヒーのお代わりを頼む。

 

「『あの時』以来ね。ハヤブサ隊のりほ」

「そうだな」

「私が隊長になった年から、貴女たちは戦場に現れなくなった。一年間、黒森峰と戦ったチームを恐れさせたハヤブサ隊……。どうして一年でいなくなったの?」

「当時の隊長からの命令だったのさ。チームワークを乱すだけじゃなく指示も聞かないなら戦わせないって。母さんにも破門を言い渡されたしな」

「そんな! 貴女たちのハヤブサは、描かれていた翼は、自由を求める翼でしょう!?」

「おいおい、BC自由学園のOGがそんな口調で良いのかい?」

 

 りほは思い出す。雨の中、自分たちを取り囲む戦車たち。その中心に立ってこちらを狩人の目で見つめるマリアを。

 

 マリアも思い出す。5両以上の戦車に囲まれてるにも関わらず、狂犬のような目つきでこちらを睨むハヤブサ隊の5人を。

 

「伝統や教えは大切だ。だが度が過ぎれば足枷になっちまう。……それと同じだよ。自由も度が過ぎれば無法になっちまう。あたし達は……無法になっちまった。だから翼を失った。自業自得さ」

「……貴女はそれで良いの?」

「今はそれぞれの道を歩んでる。みんな、満足してるさ。それに……あの大学選抜との戦いで、あたし達の翼は『導く翼』になれた。そう思ってるよ」

 

 大洗の存続を賭けた、大学選抜チームとの戦い。その時は多くの高校生たちが不安を見せていた。だが自分たちがハヤブサ隊のパンツァージャケットを着たことで、自分だけでなく他の人々にも気合を入れられたと、りほは思っている。

 

「……そう。弱くなったと思い込んでいたけれど、それは間違いだったようね。変わってない、いや、自身の役目を見つけて強くなってるわ」

「そう見えてるなら、素直に嬉しいねぇ」

「……今年の無限軌道杯、娘も出るわ。もしかしたら、大洗と戦うかもしれないわね」

「その娘さんは隊長かい?」

「えぇ。自慢の娘よ」

「ふふっ、そうかい」

 

 コーヒーを飲み終える。そろそろ学園艦への定期便に乗らないといけない。

 

「じゃあ、また会えたらな。マリア」

「えぇ、またどこかで。りほさん」

 

 互いに名前で呼び、別れる。

 

 BC自由学園OG、マリア。旧BC高校と旧自由学園の対立が始まったばかりの頃、「ハヤブサ隊こそが共通の敵」と叫び、協同作戦を成功させた『聖女』。そして、りほ達ハヤブサ隊に、初めて黒星を与えた人物である。




読んでいただき、ありがとうございました。


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