Modern Pokemon (名無しの権左衛門)
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1:始動

 ポケットモンスター 侵食される現代世界
 ポケットモンスターJ
 架空の現代にポケモンが出現したら
 なんか選ばれたらしいから自由にやってみる。 等

 ポケモン現代を描くハーメルンの先駆者様に、多大なる感謝を……。

 


 

 

 突然だけど……皆は、世界融合っていう話を聞いたことがあるかい?

 お前何言ってんの?、と思われるかもしれない。

でもこれは紛れもない事実であり、現実になってしまった事なんだ。

 

 理由はわからない。

 

 でも突然天啓のように、夢の中で神様と呼ばれる至高の存在が僕らに語り掛けてきたんだ。

 

 なんでも世界の整理をする際に、とある世界と僕らが住んでいる世界が融合してしまったんだという。

そのとある世界というのが、ポケットモンスターの世界。

 ははは、そんなエイプリルフールかよ……って、思ってしまったんだけれども

彼らの雰囲気を見るとそうでもないらしい。

だからいったん真に受けて、この夢の中に召集された選ばれし人たちと協議することになったんだ。

 

 普通選ばれし者として、国家の代表が選ばれるのが普通じゃないのか、と思ってしまう。

 しかしそんな表に出ていない質問でも、至高の存在である神様は読み取って返答するんだ。

 

”国家の長を選べば、国家の重圧が激しくなり自由がなくなってしまう。

それだと融合してしまった世界の者たちと融和できなくなる。

彼らはバカではない。一度敵対してしまえば、人類は……地球生物はたちまちこの世から消えてしまう”

 

 と言った。

 

 僕ら地球人は国家や人種を問わずにブーイングするけれど、僕を含めて少数派はむしろ、

このように安全に対処法を与えてくれるだけ良心的だと思った。

 なぜなら本当の神は、何もしないただの妄想でしかないからだ。

 

”何故一般人に?”

 

”君たちは最終的な決定権を持つ側だ。ポケモンは従うことはできるが、従わせるほどの能力はない”

 

 神様は実際に被害を受ける僕らを最優先にして、なおかつバックアップできる力も与えてくれるんだとか。

ただのその力は、二世代に受け継がれることはないという。

理由として、特殊な力があれば無駄な争いになることが明白だからだ。

 そんなわけで僕らが死ぬ前に、地球生物とポケモン世界の生物の共存ができるようにしなければならなくなった。

 それでもポケモンが何かを知っているものは、私利私欲を胸に抱いているころあいだろう。

 

”それとポケモンに関するすべての情報や事柄は、君たちの記憶を除いて消去させてもらう。

情報は君たちだけが持っていることは、平等でもフェアでもない。

彼らは君たちを全然しらないのだ。

ゲーム感覚で、命を安易に考えてもらっては困るのだよ”

 

 そんなわけでみんなのポケモンに関する記憶は、完全に今あるもので固定され忘れられることはできなくなった。ただし地球に存在するポケモンに関するすべてが、消去されてしまう。

だがそれによって得た利益が、まったくの無意味でも帳消しになってしまうことはない。

 これから販売元の任天堂や開発会社のゲームフリークは、どうやって存続するんだろうな?

 

 

”君たちに付与される能力は色々ある。また、君たちが思っている事もすべて総計して、君たちの世界とポケモンの世界を調整しよう。アイテムの有無・能力差・生き様・初期ポケモン・地球生物とのすり合わせ等……”

 

 そんなこんなで、僕らは神様に謝罪と感謝とこれからの人生に幸あらんことを願われて、夢から覚めたんだ。

 

 




色々ガバガバガバナンスですが、見逃してください。


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2:目覚めてから

短編だからといって、一話で終わるわけがない。
一話で終わるのは、単編だと思いたい。


 

 ……ああ、変な夢だった。

 

 あまりの突拍子な出来事に、頭をやられたんじゃないかって思って、夢から覚めたかった。

だからガバッと起きた時に、めまいがしてしまった。

 

 頭がくらくらするけれど、枕元に収容箱があることを確認して姿勢を変える。

 

 季節は初夏。

活動するにはちょうど良い暑さだ。

 

 おっと、自己紹介がまだだった。

 僕の名前は、佐藤芳樹。

そこら辺にいる高校生さ。今は大学の推薦テストを受けて帰ってきたところ。

受かるために、万全を尽くした後さ。

 あとはもう天命を待つだけ。

 

 え、初夏なのに大学受験って、季節がおかしいって?

大丈夫。第一次選考みたいなものだから。

通常試験よりも早めにやってるだけ。

 まあ、高校生が落第回避のために、何校も受験していいんだったらほかのところも受験するよ?

 でもなぜか日本じゃ、何校も受けられないじゃないか。

 

 そんなわけで、後顧の憂いは早めに絶った。

早く結果でないかな?

 落第だと分かれば、ほかのところに行けるのに。

 

 

 っとそんなことよりも、この早朝6時に確認しておかないとな!

 

 まずは何が入っているかな?

 

 

………………

 

 

 

 やっべぇ、空気圧で全然開かないぞ。

でもかどっこを徐々にずり上げていくことで開けることができた。

なんて面倒な箱なんだ。

 

 もっと簡単な箱でいいと思った。

 

 はてさて、中身を確認してみよう。

 

・ポケモンフォン(ポケホ)*1

・モンスターボール*1

・ハイパーボール*2

・トレーナースキル枠+1*1

・生き様枠+1*1

・きのみの湧き水*1

・マスターボール*1

 

 

 

 え、これだけ?

 

 何度探っても、何度確認してもこれだけだった。

ポケモンは?

 

 と思ったら、最初のモンスターボールが、最初のランダムポケモンの一匹みたいだ。

 

 ポケモンは後にして、いろんなアイテムを見ていこうと思う。

 

 最初のポケモンフォン。略してポケホ。

なんだかスマートフォンみたいだけど、そのとおりらしい。

ただ普通のスマホと違って、ポケモン関連に特化した性能を持っているようだ。

 そして自分自身が触らないと、絶対に起動しないようになってる。

 試しにタッチペンでやっても、反応どころか電源がOFFになった。

 

 再度起動してみてみると、ポケモン図書館という項目がある。

そこを押すと、ポケモンに関する情報がずらーっと並んであるんだけどヘルプを押すと、

この図書館は現在のポケホの所有者の脳内記憶を介して内容を反映しているんだとか。

 だからか非常に詳しい。

なんせ寝るまで、ポケモンの四天王を倒したり伝説のポケモンをゲットするために、いろんなサイトをみて回っていたからな!

 

 

 さて、ポケモン図書館は後にして、履歴や世界情勢といったものもある。

 履歴は最新の僕の状況について記されたもの。

基本的に拾ったもの・使ったもの・使用したアプリやサイトを表示してくれる。

 多分遭遇したポケモンや育てて拾ったきのみも、ここに反映されるとおもう。

 

 次に世界情勢。

 これはポケモンに関するニュースを、自国に関係するものだけピックアップして知らせてくれるもの。

 

 で、これを見たんだけど、混乱っぷりがはんぱじゃない。

なんせ緊急ログが、数千万件あって随時数百件も更新してんだもの。

こんなの相手にできないから、ロックをかけてインフラ関係のものばかりにした。

 まあ、世界中大騒ぎってなかんじらしい。

 TPPや米中会議も、すべてが中止?!中止!!中止!!!

 

 さすがにほかにいるであろう日本人ポケモントレーナーの情報は、入ってきていないようだ。

 

 ポケホはここまでにしよう。

まだ解禁されていない機能があるからね。

 

 さて、次に確認すべきなのが……。

 

 トレーナースキル枠。

 

 僕のトレーナースキル枠なんだけれど、念じなくてもポケホにプロフィールがあってそこを閲覧すればいい。

 

 僕のスキルは、『限界を超えろ!!』。

内容は、能力上昇系の効果が上昇・レベル上限+10・全ステータス*1.1・覚える技+2。

 ちなみに技の命中率が90から非常に当たりにくくなってくる。

もしも影分身をやれば、ぐーんとあがるだけで5割は回避できてしまうだろう。

 

 まあ、このスキル……超強いことがうかがえると思う。というか、チートだ。

 それなのに、枠が増やせるんだぜ?

やばいな。

つーか、これより強いスキルあるのかって思うほど。

 

 

 それで、もう一つの生き様なんだけど、ただのトレーナースキルの上位版らしい。

日ごろの行動が生き様の変化につながる。だから、生き様の効能は非常に高い。

 

 生き様は、『トレジャーハンター』。

 これになる条件は、珍しいアイテムを拾うことか使うことのどちらかが、通常アイテムより多いこと。

 

 効果は、アイテムを拾うと珍しいアイテムを追加で手に入れることがある。

 

 

 さて、ここからどうしようか。

やっぱり使いたいよな、この二つの権利。

 

 

じゃあ、使ってみようか!




主人公贔屓の場面です。


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3:与えられた権利

 

・トレーナースキル枠+1*1

・生き様枠+1*1

 

 ほかのアイテムは無視して、生き様が変わる前に使ってしまいたいと思う。

 

 最初に生き様かな?いや、スキルか?

 

 まあ、権利の券を使っても、スキルを選択しなければ券は手元に残ったままだから、二つを照らし合わせられるね。

 

 で、どんなかんじなのか、探してみようと思う。

 

 

 一時間くらい経過。

ふふふ、今日は休みなのだよ。

両親は働きに行っていて、妹たちは学校だ!

 

 さて、僕が選んだスキルなんだけど……。

 

1

:

2

:

3

:

:

:

・『廃人』:何らかの手段で手に入れたポケモン全て、6V+ポケルス付与、レベル1、卵技などを覚えるなど。

 

 トレーナーの能力だから、そりゃ廃人はスキルだよな!

ってなわけで、廃人になりました。

 因みにほかにも効果があって、性格や個性がすべて最終進化のための理想個体になっているというもの。

つまり捕まえた人間の意志が、反映されてしまうという超絶チートスキルさ!

 

 次に使うのは、生き様。

で、選んだのは……。

 

1

:

2

:

3

:

:

:

・『きんのたまおじさん』:通常アイテムが発見しづらく、貴重なアイテムを多く目に する。

 条件:純真無垢できれいなきんのたまをおじさんから見せてもらう。

 

 

 きもい。

でも、これ、変化不可の固定なんだよな。

だから選ばずにはいられない。

そしていつか、金の玉を拾って金閣寺を作るんだ。

 でも貴金属買取店に、どうやって説明しようか……。

 延べ棒にすればいけるのかな?

 

 つーか、こんな条件どうやって取得するんだよ……。

取得できても、すぐに違う生き様になる気がする。

 

 とにかく、これでなんとかすることができた。

 

 つぎにかくにんするのは、マスターボールだ。

 

 まあ、先ほどまでに比べたら、色々インパクトがないよな。

でも、生き様のせいで、普通のアイテムはほとんどなくなるんだ。

だから貴重なアイテムなのは、この先も変わらないと思う。

 

 ちなみに僕はエリクサー保全主義だ。

 

 

 次!

 

 次は、きのみの湧き水だ。

これはポケモン世界のきのみに関するもの。

きのみを育成させられる土をつくり、きのみの育成速度が上昇しできるきのみも多くなる。

 ちなみに小さな噴水のようで、持ち運びが可能。

ただし設置するとたちまち間欠泉のように水を噴射したあと、土づくりの水を湧き出し始める。

 

 そして噴水に触ると、ルギア爆誕の生命の水のように、噴水の効果によって変化した土の範囲が緑の光によってわかる。

 持ち上げると噴水が止まるんだ。

 

 さっき庭でやったんだけど、近所の干してある洗濯物が濡れた。

でもすぐに乾いたんだよね。

すごいけど栄養豊富そうだから、虫なんかがよってこないかな。

 そうそう、ポケモンはいなかった。

 鳴き声はスバメとかポッポとかの声は聞こえたけれど、間欠泉を発生させたら逃げ帰った。

 

 本当にポケモンの世界と融合したんだ!とか感動したんだけど、

色々と凄まじい衝撃あるものを取得してしまった。

だからそんなに衝撃的でもなかった。

 うん。すごいよ。

すごいけど、遅い感動だったよ。うん。

 

 

 あ、そうだ。

そろそろ、僕のポケモンとご対面だよ!

さあ、びしょ濡れの僕と対面しようか!

 

あー、でも体面もいるかな?

 

 

 そんなわけで、服は全部洗濯機に裏返して突っ込んでから新しい服に着替えた。

 

 さあ、ご対面の時間だ。

待ってろ、僕のポケモン!

 



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4:僕のポケモン

 

 どんなポケモンかわからないから、庭先でやってみようと思う。

庭の真ん中に、きのみの湧き水を置いている。

 一応ほのおタイプのために、ある程度距離を置いて縁側で出そう。

 

「出てくるんだ!」

 

 モンスターボールを真上に放り投げ、運動エネルギーが位置エネルギーに変わるところでボールが開き中から光を出す。

その光は僕の目の前まで伸びていき、縁側の床の上で半球状になる。

 役目を終えたボールは一つになって、僕の手の上に戻ってくる。

 

 半球状の光は、徐々にその形を整えていく。

 特徴的な音を発しながら、その体躯を小さなものに変えていく。

 

「ニン!」

 

「ツチニンか! 僕は、佐藤芳樹。よろしくな!」

 

「ニン!」

 

 

 えーと、ハイパーボールがあるから、ヌケニンご招待の準備はできているな。

よかった。

 

 僕はツチニンの前足の片方ずつを握るように片手ずつで持つ。

そして上下に揺らして、自分でも自覚できる興奮と高揚のなか自己紹介して終わる。

 

 

 能力を見てみると、レベル1で初期値としては高い気がする。

多分6V になったんだろうなぁ。

 

技は、ひっかく・かたくなる・にほんばれ・ソーラービーム・こらえる・れんぞくぎり。

特性は、複眼。

 

 大きさは50センチぐらい。でも、そんなに大きくないぞ?

 

「よーし、修行に行こうか」

「ニン?」

 

 僕はニュースとかに関心を持たず、すぐにうっそうとした近くの森に向かうことにした。やっぱり、暗がりが好きなツチニンにとって、炎天下に近い昼間の中で戦闘するのは煉獄のようだ。

 

いや、戦闘はしていないんだけど、日向にいこうとしない。

大きく渋ってる。

 無理やり行かせようとは思っていないけれど、こうもなると早く20にしたいよね。

 でもレベルキャップでいうと、総計は60万だが最初期に必要な経験値は高かったはず。

 

 まあいっか。

楽しくできれば。

 

 僕はツチニンをボールにしまって、駐車場においてある通学に使っている自転車に乗る。そしてそのまま近くの森に漕ぎだした。

 行く途中人の姿は見えないけれど、ところかしこに確認できる鳥系ポケモンたち。

ほかにもゲームの序盤で見つけられるノーマル・虫タイプのポケモンが、

そこら中に跳梁跋扈している。

 

 本来ならば興奮できるんだけれども、残念ながらここは現実世界。

 アナフィラキシーショックを受けてしまうような奴が出てもおかしくない。

もしもそんな人が出てしまえば、ポケモン毒を解毒できる薬や技が必要になるのかもしれない。

 

 あんまり考えたくもないけれど、きっと世界中の株価は急落し大恐慌になるかもしれない。

もしもそんなことが起こってしまえば、世界中はポケモンと融和できなくなってしまう。

そうなってしまえば、僕らポケモンを持つものは異端とみなされるか新たな兵器開発への道筋にされそうだ。

 でもそううだぐだ言っているけれど、個人でどうにかできるもんじゃない。

 だから今できるのは、今持っているポケモンをなるべく強くしてほかの事態に対処できるようにすることだ。

今現在ポケモンにも人にも対処できるのは、ポケモントレーナーだけだから。

 

「うわあ!!」

「あ、あっちいけよ、しっしっ!」

 

 男の子の声が閑静な住宅街に響く。

すぐに僕は進路を変えてそちらへ全力で漕ぎ出した。

もしもここで何か起こってしまえば、もう一人の子に責任が行ってしまう。

 本来ならば、僕が行く必要はない。

 でも混乱している中で、無意味に人を増やしてしまえば……。

 

 最悪の事態しか思いつかない。

 

 僕は叫び続けている少年たちのところへ行く。

 

 そして見つけた。

そこにいたのは大きなケムッソ。

どうあがいても要注意生物だ!

 

「ち、近寄るな!」

 

 おびえている少年と勇敢な少年が釣り竿を持っている。

 かえってケムッソは、そんな彼らに怒り心頭なようでにらみつけながらにじり寄っている。そして二つの毒針がある後部を持ち上げ、威嚇状態に移行していった。

 

「まずいっ! いけっ、ツチニン!」

 

「ニンッ!」

 

 ボールから延びる白い光線が、少年とケムッソの間に割れこむように向かう。

そして少年を守るようにツチニンが、その白い半球状の光の中から出現する。

 

「な、なんだこいつ!?」

「ま、待った待った!君たち、家に帰ったほうがいい!ここは引き受けるよ!」

「あん!?」

「あ、あの人に任せて帰ろうよ……!」

「え、あ、ちょ」

 

 急に出現したツチニンに驚いたのか、敵愾心をみせつける。

それに僕は自転車で急いで追いつき、急ブレーキして後輪をドリフトさせて急停止し少年たちに話しかけた。ガンをつけられたけど、勇敢な少年の後ろにいた少年が気弱で慎重なおかげで強引に連れて行ってくれた。

ナイス根性!

 

「ケム!」

「ニン!」

 

 っと、安心してる場合じゃないな。

 少年たちの逃げる背中を見送っていたら、ケムッソが”無視すんじゃねぇぞ、ゴルァ!”ってな感じで吠えた。

それにツチニンも吠える。

僕はすぐにケムッソの方へ向きかえって、初めての戦闘をする。

 

 僕はすぐにツチニンを拾って、後部に乗せる。

 

「ニンッ!?」

「ケムッ!?ケムケムッ!」

 

 いきなりのことに驚愕とともに怒るケムッソ。

ツチニンも驚いているけれど、戦術的撤退をしているだけだから大丈夫。

しっかりと攻勢に移るさ。

 

 なんておもっていたけれど……。

 

「ニン!」

「え、ええっ!?ツチニン、連続切りで糸を切るんだ!」

「ニンッ!」

 

 ツチニンの爪が光って、逃げる僕らをとらえようと発してきたケムッソの糸を切り裂いていく。

 糸が尽きるのと同時に、切り刻む音も聞こえなくなる。

 

「ツチニン、日本晴れ!」

「ニンニン!」

 

 日差しが強くなって、初夏の11時頃は真夏ぐらいの厳しい昼になった。

僕は腕で額の汗をぬぐって、すぐに反転。

ツチニンを前かごに乗せる。

 

「ケムゥッ!」

 

 その時だった、後部の光る二本の毒針をもたげて、紫色の細切れな光線を複数放ってきた。

 どう見ても毒針なので、僕はツチニンに迎撃に出てもらう。

 

「ツチニン、ソーラービーム!」

 

 日差しが強いおかげで、すぐに最大出力で放たれる。

大してケムッソは射撃体勢なので、回避に移れない。

少々動いても、トレーナースキルと特性のおかげで、奴は逃げられない。

 

 毒針をソーラービームで弾き飛ばして無効にしつつ、僕は立ちこぎで近づく。

 

 

 そしてケムッソの脇を通り過ぎるその直前。

 

「ツチニン、降下してれんぞくぎりだ!」

「ニィン!!」

 

 前かごから飛び降りたツチニンは、ケムッソの脇を通り抜ける僕を乗り捨ててソーラービームの直撃にひるむケムッソを連続で切り裂いた。

 

「ケムゥ!!」

 

 そしてケムッソは、その場から逃げ出した。

 

「ニンニン!」

「状況終了かな?」

 

 勝利を示すかのようにツチニンは、二つの爪を頭上に挙げた。

威嚇なのか挑発なのかよくわからないけれど、終わったことだしいいか。

 

「ってか、日本晴れなのにツチニンは平気なんだな」

「ニンッ!?ニン~」

 

 戦闘が終わると日差しが弱くなったが、ツチニンはアイスのように溶けて弱る。

 

「お前さんの強さはよくわからんよ」

「ニン~」

 

 ボールに戻して、近くの森に行くことにした。

 




そういえば、相互確証破壊は、ポケモンにも通用するのだろうか。


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5:森の宝庫

 今僕は近くの森に来ている。

 ここまでで人っ子一人見なかったし、戦闘するほどポケモンが気性荒く襲い掛かってきたこともなかった。

一番きつかったのは、初夏の日差しと坂道ぐらい。

 

 一番近い森は椚の森。ここにはいろんなどんぐりの木が生えていて、一番多いどんぐりは椚。

椚は暗殺教室とか料理ものの資料を見ればわかる通り、ほかのどんぐりよりずんぐりむっくりとしている。

 

 え、何か意味があるのかって?別にないかな?

 

 あーでも、タネボーがそこらへんにいるのが、大きな特徴だったりする。

 

「タネタネ」

 

 木にぶら下がって光合成をしているようだ。

 僕は彼らをしり目に、ポケホにあるダウジングマシンの劣化版を使って、アイテムを探していく。

ただ生き様のおかげで、全然見つからない。

普通ならば見つかっているんだろうなぁ。

 

「タネッ!?タネタネッ!」

 

 うん?

 何やらタネボーの様子がおかしい。

そう思ったら、タネボーが地上に降りてきて道をふさいできた。

 

「いけっツチニン、連続切りでタネボーをすべて倒すんだ!」

「ニンッ!」

 

 ありがとうタネボー、こっちから仕掛けたわけじゃないから宣戦布告事由を得られたよ。おかげで周囲のポケモンの敵にならなくて済んだ。

ゲームだと呼ばれたりするけど、ポケモンが加勢することなんてなかった。

 だけど現実だとどうなるのだろうか?

もし普通の野生ポケモンに攻撃を加えると、ポケモンを守るために加勢しにくるのではないか?

なんて気遣ってしまう。

 

 そんなわけで数の有利と質の有利を覆されないようにしていたんだ。

 いや、ツチニンが強いわけじゃない。負けない戦いをするために仕組んだだけだよ。

 

「ニンッ!」

「タネエッ!」

 

 戦闘によってタネボー以外が逃げ帰って、次々に落ちてくるタネボー。

逃げたタネボーだけがいいタネボーだ!

 そんなわけで着地の隙を狙って連続切りで切り伏せていく。

 そして連続切りと特性・スキルのおかげで、連続切りは外れることなくあたっていく。

おかげで威力が最大の160くらいになっているはず。

 

 あとはもう質の暴力だ。

 いや、ツチニンのレベルは上がっていない。

ポケホで見たけれど、戦闘が継続されているみたいだ。

 でも連続切りの補正のおかげで、タネボーは単純にやられていった。

 たまにコノハナもまざっていたりするが、くさとあくはむしタイプに4倍になる。

急所やタイプ一致、威力によって一撃で落ちているのは幸いというべきだろう。

 

「タネッ」

「コノハッ」

「ニンッ!ニンッ!!」

 

 やられた奴は脱兎のごとく。

 

 そうして30分ぐらい続いた戦闘は、やっとのこさ終わりを告げたんだ。

 

「よくやったな、ツチニン」

「ニンニン!」

 

 前足を頭上に持ち上げて喜んでいる。

僕もツチニンの頭をなでてほめる。そして僕はツチニンをボールの中で休ませることにして、収納の後に再探索を開始した。

 

 いろいろ探してみると、レーダーに多くの光点が出現する。

その光点は、最初は白だったが近づいていくと、レア度が高い虹色に変化していく。

レアリティ色は、白が未確認で赤・緑・青・虹と変化する。

 マスターボールは虹色。ほかの道具も虹色だったりする。

 そしてポケホアプリに映し出される多くの光点は、虹や青だったりする。

きっと生き様は青や虹色のアイテムに関係するんだと思う。

 

 かなり貴重な虹や青なのに、こんなにたくさんあって大丈夫なのだろうか?

 

 ま、いいや。もらえるものはもらっておこう。

 

 ピーピーマックスや元気の塊・回復の薬は、青色。

 

 元気の飴やせいなるはい、謎の実・スターの実は虹。

 

 そういえば聖なる灰って、戦闘中使用不可で手持ちすべての瀕死を回復する程度だったような……。

ポケホで調べてみるとあら不思議、いつでも使える元気の塊・回復の薬・PPMAX・全体効果の合わせ技だ。何故こうなったんだろう?

 ヘルプを確認してみると、現実世界に即していない効果を持つアイテムはいつでも使えるようにし、一部のアイテムは制限なしで使えるようになっている、とか。

 非常に強力かもしれないが、その分手に入りづらくなっているらしい。

 

 ただ、このヘルプの説明は、僕にまったく当てはまらない。

 なんせ普通のアイテムのほうが、手に入らないからだ。

おかげで戦術的な戦闘がなかなかできないっていう、結構な苦悩もあるんだがね。

 

 僕はこの後ツチニンと一緒に、タネボーを狩りながらアイテムを探していった。

 

 

 そして夕日が差し掛かったころ、タネボーの特攻ポイントを255くらい得てしまったツチニンをボールに戻して帰宅したんだ。

 初日はこんなにも濃いもので、まったく飽きなかった。

 ただ問題があるとすれば、僕らポケモントレーナーは正式にちゃんとした形で表に出られるのだろうか?

 




最短の戦争は、48分だったと思う。
最長は有名な100年戦争。
ただ、なかには宣戦布告を属国としてさせられ、
相手側に周知されないまま継戦状態の国が最近まであったらしい。


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6:これから大変だなぁ

 初お気に入りの感謝で、1話投稿します。
 
 お断りの言葉ですが、希望を感じられないだけで希望も絶望もありますこと、どうぞご了承くださいませ。


 夜。

 

「あ~大変だったぁ~」

「あ、お帰りなさい」

「ただいま、芳樹」

 

 お母さんが帰ってきた。

そして妹や弟、お父さんも普段よりも早めに帰ってきたんだ。

 

「ずっと家に閉じこもってたけど、どうしたの?」

「え、お兄ちゃん、テレビ見てないの!?」

「寝てた」

「芳樹、お前はもっと社会を見るべきだ」

 

 妹に呆れられ、お父さんに詰られた。

でもそれは合っているから仕方がない。ポケホの方も、新たなアプリが解放されたようで、通知アイコンや音がうるさくてたまらない。

 

「いいなぁ、兄貴」

「へっへっへ、窓の外が異世界だったから夢を見ているのかと思ったんだぜ」

「外のことは知ってたんだ」

「そりゃぁもう」

 

 弟は今日休みな僕を羨み、お母さんは世間に後れを取っている僕になんか安心したかのような言葉を選ぶ。

 さすがに奇々怪々な声が響けば、いやでも起きるもんさ。

 

 そしてそこからはみんなの不幸自慢だ。

話が盛り上がっていて、比較的田舎なこの県でも結構な混乱が見て取れたのがよくわかる。自国に関する履歴が、数千万件もあればそりゃこの県で家族に影響が出るのもよくわかるよ。

 しかも今少しでも情報を得ようと、テレビをつけている。

 さすがに食事中のテレビ閲覧はだめだろう、と今までの方針に反したもので驚いた。

まあ重要な情報を逃せば、今後にかかわるだろうから……。

 

 で、自国に関することだけれども、ポケモンによってインフラ系に異常が起こっていることがよく分かった。

さらに山奥で人が比較的多い県だと、アナフィラキシーショックなどで病院のベッドが満載になりほかの病院へたらいまわしにあっている現状が流されている。

 政府は超法規的措置を取らざるを得なくなってしまい、外遊は中止。

早急に事態の収拾にあたっているみたいだ。

 

 ちなみに山奥の線路がポケモンによって遮断されていて、そのまま轢いて都内まで全力で走ったことも追記されている。

しかもトンネルが崩されたりして、被害が尋常じゃない。

すぐにポケモン嫌気性物質を含んだもので、建物を建立しなければならないことを示唆されている。

 

 この生物がUMAであることを前提にしており、周辺各国はこの生物を一瞬にして出現させたことや放したことを否定している。

 また生物学会は彼らに関する緊急の研究を行うことも発表している。

 医学界もUMAの毒に関する血清や薬を作ることを、いろんな分野をまたいで行うことを決定した。

今現在暴動は発生していないが、国家機能がまともに機能していないことに未曾有の危機と恐怖を感じてしまう。

 

 もしも、このまま伝説のポケモンが出現してしまえば……。

 

 日本終わりかもしれない。

 フィリピン海プレートの流れを変えられると、日本は風雨によって削られて沈んでしまう。それだけはやめていただきたい。

 

「日本がこれだったら、世界は酷いことになってそうだなぁ」

「きっと暴動やテロで、国家崩壊級の災害になっているだろうな」

 

 食事をしながら皆テレビに夢中だ。

 というかTVクルーも、突然出現した怒るマンキーにけたぐりされて下半身骨折で緊急搬送されてる。

またとあるドローン空撮では、エンテイが吠えているところも確認されている。

おかげで小笠原諸島付近は、海底火山が活発になり西ノ島以外にも新しい島が形成されて行っていた。

 フィリピン海プレートと太平洋プレートがせめぎあっている場所だから、作られるのは当然か。

 

 でもこれで、日本の領海が増えるのか……。

 

 排他的経済水域とか、大変そうだ。

 

 停電・火災、色々と大変な場所もある。

うちはまだ安全で安定しているんだな、と変に安心してしまった。

だがライフラインは無事じゃなかったりするかもしれない。

 

 食事が終わった後、僕はしばらくテレビを見ていた。

 

 すると突然画面が変わった。

アナウンサーと背後のテレビ局内の雑多ぶりが、いかに混乱がひどいかわからせてくれる。

 

「緊急速報です! 猛烈な強さを持つ台風2号が、急速に北上してきています!

周辺住民の方々は、政府や自治体の指示に従って行動してください!」

 

 画面が変わって、即席の説明欄が出てくる。

 その気圧、790hPa。

 速度は、一時間に50キロ。

 進行方向は、沖縄を経過してから西北西に向かうようだ。

 

 いろいろと聞いているとすぐに場面が切り替わり、台本?の交換がされていた。

 

「政府より緊急報道です!」

 

 そういって早口と焦りの口調で、官邸の方へカメラが移動する。

 そこでは官房長官が、冷静かつしっかりとした口調で正気の沙汰とは思えない発言をした。

 

「我々は事態収束に向けて、彼ら未確認生命体をポケットモンスター、ポケモンと名付けました。

名付けた意味として、彼らを使役する者が彼らを収容するものをポケットにしまえるほどの収容性を持つ事から来ました。

 またアメリカより情報提供がありまして、ポケットモンスターを使役するポケモントレーナーは、住んでいる都道府県の市役所に申し出てください。

我々はポケモントレーナーの保護とポケモンによる被害を抑えることを急務としています。

どうか我々日本国民のため、日本存続のため申し出ていただきたい」

 

「長官!ポケモントレーナーとは、どんな存在なのでしょうか!?」

 

「その名の通り、彼らを使役し味方としてくれる救世主です」

 

「使役!?こんな災害を起こしている彼らをですか!?」

 

「アメリカの大統領が、真剣に電話対談において仰っていました。

信憑性は折り紙付きです」

 

 そんな時、テレビ局側が証拠のビデオを、国よりもらったということで再生することになった。

そこにはポケモンを使役し、未曾有の被害を食い止めているアメリカのポケモントレーナーの映像が流された。

 

「俺はポケモンを操るポケモントレーナーだ!俺の命とポケモンの命、家族の命を保証してくれるなら、俺がアメリカの救世主になってやる!」

 

 苦々しい表情で、後ろからきた黒服の奴らに説明していた。

もちろん駆け付けた軽装備なテレビクルーにもだ。

 

「デルビル、かみつく!」

「ガルァ!」

 

 散乱した商品にかじりついているコラッタにかみついて、さっさと撤退させていった。

 

 信じがたいと思うだろうが、これは真実だ。

 

 弟は、これは何かの演出みたいなことを言っている。

でもそれはすぐにお父さんによって否定されている。

そりゃそうだ。こんなこと、嘘でも真でも流せば世界が驚愕にまみれてしまう。

そもそも大統領が証拠として、関係国家に渡しているんだ。信憑性は確実にあるだろう。

 

「これから大変ねぇ」

「他人事じゃないよ、お母さん。みんな大変だよ」

 

 僕自身も含めてな。

 

 本当にばからしい絵空事にしか思えない今の状況。

それでも真摯に立ち向かわなければならない。人命がかかっているんだから。

 まあ僕はしばらく市役所にはいかない。

まだレベリングが済んでいないんだ。レベルを上げて、そしていろんな事実や証拠を手に入れないといけない。

きっと証明とかこれからポケモントレーナーを増やしていくには、説明文を作らなきゃいけない場面が出てくると思う。

 えーと、プレゼンテーションだっけ。

 とにかくそんな企画力なんてもってないし、そもそも研修なんて受けていないからこれからやっていかないといけない。

 

 別に誰かに委任することもできるだろうが、情報のすり合わせが面倒だから直に任せてくるんだろうな。

 

 そんなわけで僕は、目先の利益に取りつかれて未来の心配事を放置する超法規的措置をとるよ。

まあ、可及的速やかにレベリングして、市役所に行くさ。

 

 さて、風呂とかも済ませて、二階へいってアイテムの確認をしようか。

 




 ほとんどの作品では、首相がポケモンを固定名称にしましたがここでは違います。
理由は後程。
それとポケモンは法律上、通勤災害には含まれません。
通常通り、通勤通学はさせられます。


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7:アイテム確認と今後の指針

 さ、帰ってきました、僕の部屋。

いろんなアイテムを出していこうか。

もしも家族に見つかってもいいように、箱は机の中。

アイテムは扉から入ってきた人にとっての死角に置く。

 

 えーと、バッグから色々出すけど、なんか色々あるなぁ。

 

 

 

例:ポケホ*(1)0 ――()内は使用中

 

・ポケモンフォン*(1)0

・モンスターボール*(1:ツチニン)0

・ハイパーボール*2

・きのみの湧き水*(1)0

・マスターボール*2

・ピーピーマックス

・げんきのアメ*1 ・ちからのアメ*1 ・まもりのアメ*1 ・ちしきのアメ*1 

・こころのアメ*1 ・はやさのアメ*1

・かいふくのくすり*1 ・スターのみ*1 ・せいなるはい*1 ・ポイントマックス*1

・げんきのかたまり*1 ・ナゾのみ*1

 

 本当にいろいろだ。

きんのたまは全く出てこなかったよ。

 

 さて、このアメなんだが、明日ツチニンにあげようとおもう。

 説明文には、覚醒値という値で、能力値にそのまま加算されるというもの。

しかもそれぞれの能力に+だ。

 努力値だと最大72くらいしか上がらない。

そう考えると、非常に強力だといえる。

 

 最大加算値200。

レベル100のテッカニンだと、体力や攻撃が400になり速度が500以上になるというもの。

あれ、やっぱりバランスブレイカーになるな。

 まあ今回は仕方ないんじゃないかな?

 いつ伝説のポケモンが出てきてもおかしくない。

それに異世界のポケモンも、出現する可能性がある。

心配事を少しでもなくすために、これは必要なことである。

 

 次にきのみなんだが、このスターとナゾは庭の一部を借りて育ててみようと思う。

 

 許可はまだもらっていないけど、明日もらうつもりだ。

 

 

 最後に、生き様によって得られた特殊なアイテムを確認しよう。

 

・ジガルデキューブ[0]

 

 

 複数手に入れられないからか、個数は表示されないらしい。

ただこの括弧は、集めたジガルデセル・ジガルデコアを表記するものだと思われる。

つーか透明な彼らを、どうやって見つけられればいいんだ?

何気に面倒な要素だよ、まったく。

 

 さて次だ。

 

 次は指針である。

 

 たぶん生き様の効果のおかげで、いろんなアイテムを拾えると思う。

そこでZクリスタルやメガストーンを手に入れられる可能性を含めて、

今後のポケモン入手戦略を考えていこうと思う。

 僕は今後のポケモンは飛行能力があるポケモンを入手していこうと思う。

もちろん力仕事も必要だから、ワンリキーの入手は必須。

 

 次に近接攻撃に特化できそうなポケモン、ヒトカゲを入手したい。

メガリザードンXにさせて、かたいツメによる攻撃特化を目指す。

 

 次。遅くて攻撃が高いトーチカポケモンを育てたい。

ヒトツキを入手しよう。ただし、場所は不明。

 

 

 さて……なぜ彼らを選んだのか。

理由は簡単で、被害を出させないためだ。

 

 空中戦ならば、落下物に気を付ければいいだけで、比較的被害が少ない。

また近接が多く攻撃力がたかければ、被害の増大を防ぐ前に制圧できるからだ。

よし……、この案で行こう。

 ただヒトツキって、どこにいるんだろうか。

 そん時はその時で考えようか。

 

 いや、学校に行けばいるかもしれない。

例えば道場とか。

 

 うーん……。

 

「芳樹ー!学校から、明日休みだってー!」

「わかったー!」

 

 ドアを通り抜けてお母さんの声が聞こえた。

僕は全力で叫んで返事をする。

 しかしちょうどいいくらいに用事が重なるもんなんだな。

 

 これで予定は決まった。

ツチニンを少しレベ上げして、人が少ない昼時を狙っていってくるか!

 




新元号が【令和】になりましたね。
この世界も【令和】にしたいです。


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8:道場への道

 

「お父さん、ちょっと木を育てたいんだけどいいかな?」

「どんなのなんだ?」

「これ」

「なんだこれ?育つのか?」

「うん」

「わかった、飽きるなよ?」

「ありがとう!」

 

 言質はとったぞ!

 

 早速庭の端っこの方に、きのみの湧き水を移動させてスターのみとナゾのみを植えた。

これで定期的に見たり、音楽を流せばいけるのかな?

 ちなみにくさタイプを捕獲して、バクスター効果を用いた信号ネットワークを作ろうと思っていた時があったりする。

 

 さて畝を作った鍬・スコップやシャベルを納屋にしまって、外出準備をする。

 お父さんやお母さんはお仕事に行ったけれど、弟と妹は学校休み。

だから遅くまで寝ている。

そんなわけで全員が、僕の出陣の様子を見ていない今が好機なのだ!

 

 うーん、電信柱に居座っているヤヤコマ……。

ボックスシステムがあれば、捕まえたかった。

はやてのつばさが、すんごく有用でなぁ。

 

「まあ、ボックスシステム云々は、後々……」

 

 全員とらえるまでは、絶対にほかのものをとらえるわけにはいかない。

伝説のポケモンは別だがな!

 

 

 さぁ、道具とかいろいろ外出荷物を入れたリュックサックを背負い、登校自転車を使って近くの森に向かう。

 

 森に向かったら、アイテムとともにコノハナやタネボーの相手をして、ツチニンのレベルを上げていく。

 

「ニン!」

 

技:ひっかく・きゅうけつ・にほんばれ・ソーラービーム・こらえる・れんぞくぎり。

特性:複眼。

 

 お、かたくなるが消えて、きゅうけつを新たに覚えたみたいだ。

 

「タネッ!」

 

 タネボーが目を閉じて、体を光らせてくる。

せいちょうを使っているらしい。そのすきに連続切りの餌食だ。

ここらへんはもう、相手にならない感じかな?

 

 よし、探索をしよう。

 たまにジグザグマやコラッタと遭遇するけれど、ツチニンにとってすでに雑魚になっている。

簡単に追い払った後、アイテムを入手していく。

アイテムを拾っていったんだが、そのアイテムには再びめずらしいボールがあった。

 青のプレミアボール・ゴージャスボール。

 虹のプレシャスボール。

そしてたくさんのアメ類。

 

 あ、思い出した。アメを上げないと。

 手に入れたアメをすべてツチニンに与えて、一の位を強化した。

 

 

 で、色々とアイテムを集めて、4時間後。

 

 

 どんなにタネボー達を撃破しても、ツチニンに連続切り以外の何かを使わせているから

PP切れなんて状況が起こらない。

以前も起こっていたんだろうけれど、そんな現象……兆候なんてものも発生しなかった。

 そんなわけで今現在、PP残量をポケホで確認中。

 

 確認して分かったのは、PPが小数点以下で減っている事だった。

 PPは現在値と最大値が表示される。

その現在値と最大値は、自然数で描写されるので小数点以下は表示されない。

そのはずなのに、はっきりとツチニンのPPは小数点以下を表示していた。

 なんというか、力の込め方とかそこらへんで変わっているのかもしれない。

 

 もう時間なので、学校の方へ走っていくが向かう途中もポケホのダウジングアプリに反応があったら、森や古道の先に行ってみようと思う。

 

 

 自転車を漕いで30分。

 学校に到着した。

 さすがに誰もおらず、すべての門の鍵がかかっていた。

そこで僕は近くにある公園の駐輪場に、二重施錠をかけて駐輪した。

 すぐに僕は学校の側にある土手から塀と溝を飛び越えて、中に不法侵入する。

 

「不法侵入ではない。ポケモンによる脅威から身を守るため、これ以上の回避方法がないが故の行動だ。僕の行動は保証されるべき……! よって、不法侵入ではない」

 

 ほかの方法による解決措置が採れないので、不法侵入は脱法である!

よし違法行動への正当化完了だ。

 

 えーと、道場はっと。

あったあった。

 老朽化による改装のおかげで、色々と防犯機能が杜撰な今が行動可能な時期。

 僕は道場に入ると、周囲を見渡した。

 

「ツキ!」

「っと!?」

 

 いきなりの不意打ちを受けてしまった!

 体が少し痛むが、ツチニンを出せないほどやわではない……!

 

「いけツチニン!」

「ニン!」

「連続切りだ!」

 

 レベルが上がったことと飴のおかげで、ツチニンが通常よりも強くなっている。

そんなわけで、ヒトツキの攻撃を受けつつも確実なダメージを与えている。

なんというか、ツチニンの前足でヒトツキの攻撃をはじいて、ソーラービームで追撃して

戦術的にも圧倒的優勢になっている。

 日本晴れはすでに使用していたようで、溜めなしの最大出力光線をうけただけでヒトツキは逃げようとしている。

 

「だが、逃さない! 日本のために、仲間になれ!」

 

 そんなわけで、逃げるヒトツキをプレシャスボールでゲットしてやった。

 

 ヒトツキ

技:たいあたり・つるぎのまい・でんげきは・みちづれ・ラスターカノン・かげぶんしん

特性:ノーガード

 

 

「出てこい、ヒトツキ」

「ツキッ!」

 

 ガシッ

 

「ッキ!?」

「たいあたり!」

 

 バゴッ

 

「ニンッ!?」

「よし!」

 

 僕はヒトツキの特性ノーガードを利用して、柄の部分を掴んで戦闘によって崩れた改築の残骸をヒトツキの体当たり効果を使用して突破してやった。

このことにヒトツキとツチニンは、ただただ驚いている。

 

「二人とも戻るんだ」

 

 ボールに二匹戻して、すぐにここから出る。

 そしてそのまま県庁付近まで行くことにした。

 

 いや、別に市役所に行くわけじゃない。

ただ単にポケモンの被害が増えていないか見るだけだ。

 

 県庁に近づくたび、人通りが増えてくる。

しかしみんな何かを警戒するように動いている。

車はほぼ見かけず、バスが運行しているぐらいだ。

そしてその肝心のバスが、空気輸送をしている。

 田舎とは言っても、インフラが集中している場所じゃ被害が増えることは警戒しないといけないよな。

 

「キャアッ!」

「うわああっ!!」

 

 近くで悲鳴が街中に響く。

その方角をみると、たくさんのコラッタやミネズミが街角から大通りへ出てきていた。

さすがにこの数は引くわ。

 

 僕は人がいないことを確認して前かごにツチニンを出す。

そして日本晴れを自己判断で準備させた後、ソーラービームで薙ぎ払った。

 

「薙ぎ払え!」

 

キュイイイイイイィィン!!!

 

「「コラアッ!?」」

「「ネズウッ!?」」

 

「ふはははは、ネズミがどぶのようだ!」

 

 大量ノックアウトして、大量の経験値と素早さの努力値がツチニンに入る。

 

 そして、すぐにツチニンをボールにしまって、人通りの少ないわき道に入って帰ることにした。

 ただいろんなところでポケホのアプリが、アイテムを見つけてしまったりするので

色々より道をしてしまった。

おかげで色々といいものを手に入れたんだ。

 ああ、もちろんレアリティ青か虹だけだぞ。

 緑や赤、全然見つからないんだぞ……。

 

 

 帰っているときなんだが、道が変に渋滞していることに気づいてしまったんだ。

それで何があったのか見てみると、ダゲキがタンクローリーを正面から受け止めている場面だった。

 考えなくてもダゲキを撃破すべしってことで、ヒトツキとツチニンの遠距離攻撃で始末した。ダゲキはすぐに轢かれて死んでしまったが、人間をばかにするとこうなることを知らなかった罰だ。

それにこの世界はポケモンのための世界ではないということを、再認識してくれたら何よりなんだが……。

 

 まあこれは地球は人間だけのものじゃないということを、ポケモンが知らしめてくれるちょうどいい方法かもしれない。

 ただ行き過ぎると、ちょっとまずいことになるかもしれないね?

 

 そう、ポケモントレーナーがいない国のことだよ。

小国の皆さん?

 

 

 

 

「ただいまー」

「あっ、お兄ちゃんどこいってたの!?」

「飯を食いに外行ってたんだよ」

「そんなのんきな……あ、それよりも、来て! 大変なことになってる!」

「は?」

 

 妹と僕がちょうど玄関で出合い頭になったら、ものすごい剣幕で僕をリビングに連れて行った。

靴は脱げているけど、もうちょっとゆっくりさせてもらいたかった。

 それでリビングに来ると、弟が神妙な顔でテレビを見ているんだ。

何かなと思ってTVを見たら……。

 

 

カッ―――!

 

ォォォオオオオオオ――――ドガッ!

 

 なんてきれいなきのこのくも。

 

 

 ニュースによると、ポケモンによる被害(通称:ポケモンショック)が中東やアフリカで大流行。経済的な混乱が相次いで、政府の対応が全く追いつかず国民性や宗教関連で、暴動が勃発。

 結局軍隊を出動させるも、ポケモンの圧倒的な力によって電子機器はもちろん、単純な質量兵器も無意味になった。

そこで最終手段として原子爆弾を起動させることになったんだとか。

 さすがにポケモントレーナーがいるゆとりある先進国家は、批判どころじゃない騒ぎになった。

 それでも一度ポケモンを敵に回した国家は、王蟲の大海嘯のごとく全国土を掌握されていった。

さすがにそのままポケモンをのさぼらせておくのは、国王・首相としても立場がない。

よって多数の反対派を押し切り、強行発動したとのこと。

 

 ポケモンの9割は、放射能による症状や衝撃波・熱で倒れたが、生き残った1割が死んでいないポケモンを全回復させて再侵攻していった。

 

 そう、放射能汚染をアロマセラピーや癒しの鈴で治し、いやしのはどうなどで肉体損傷をも回復させたのだ。

 ゾンビを上回るポケモンパンデミックは、その国をたった13時間で制圧してしまった。

そして衛星写真でみると、制圧したポケモンは世界中でみられるあのネズミたちと見知らぬポケモンたちだった。

 

 うーん。

 フェアリーやエスパーも出現しているのか……。

あっちは修羅の国になっているっぽいな。

 しかしまぁ……。

 

 

 

 テラキオン……。

お前が先陣をつかさどっているなんて、まったく聞いていないんだけど。




国を形作る為政者に真の友人はいない。
ましてや友を作るのならば、それは政治的な利用価値があるからだ。
弱みを見せれば、社会的信用を失い命を無くすまで、利用されるだろう。


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9:戦利品確認

 

 いろいろと各国は激動の時代を迎えているみたいだ。

ポケモンの世界と融合して二日目でこれなんだ。

世界の混乱は、まだ序の口と見れるだろう。

 

 パソコンで色々と情報を仕入れているんだけれども、日本のポケモントレーナーの確認

が全くできていない。

TVも政府も声明をだしていなくて、足跡をたどれないんだ。

 2チャンネルなどのネット上の掲示板、SNSを見て回るがどこもかしこもポケモンだらけ。あの夢の中では日本語を話すポケモントレーナーが、10人くらいいたような気がする。それなのに2チャンネルでまったく話題になっていない。

 

 みんな、こわいのか?

 

 いや、そんなことはないだろ。

 

 

 

 ……消されていないよな?そうだよね?

 

 怖いんだけど。

 

 

 あ、そうだ。ジガルデの枠なんだけど、どうせ見つかるのが遅いのならば、カリキリを仲間にしようと思う。

理由は簡単で、日本晴れパーティーなんだよ、僕のポケモン組みは。

そういうわけで、明日は花畑が有名なまんのう公園に行こうと思う。

 え、公渕公園も素敵だって?

 いやぁ、うん。そうだね。

でも公渕公園は、春と秋のソメイヨシノとコスモスが有名なだけで……。

 

 

 あ、マリーゴールドもやってんだ。しらなかったよ。

 

 カリキリは、ハナカマキリが由来だから花畑にいるはずだ。

しかもポケモンショックのおかげで、あまり人が外に出ていないから今がチャンスってなわけ。

でもどうやってそんな南の遠いところまで行けばいいのか。

 

 それは今日見つけてきたアイテムにある!

 

・プレミアボール*1 ・ゴージャスボール*1 ・GSボール*1

・ウルトラボール*1 ・ドリームボール*1

・各種覚醒のアメ ・通信ケーブル*1 ・きんのたま*1

・マッハじてんしゃ ・きんのはっぱ*1 ・おうごんのみ*1

・いかずちプレート*1

 

 

 御覧の通り、マッハ自転車だ!

 カゼノがたくさんテーピングされてるぞ!

 

 つまるところ、こいつを使ってロードバイク以上の速度でそこにいくのだ。

明日は早くなるぞぉ。

因みに、明日も学校が休み。

というか、臨時休校らしい。

 ただあまりにも打開がなければ、警察が派遣されて現場対応しながらの登校になるんだと。

 まあこの案が発動されるのは6日後だ。その日までなんとかしよう。

 

 さて、色々とみてみようか。

GSボールとかの説明を見ても、ポケモンを捕まえるためのボールとしか書かれていない。

 通信ケーブルは、通信交換して進化するポケモンに持たせてレベルを上げると進化できるアイテム。

 金の葉っぱ、換金アイテム。

 黄金の実、ポケモンに持たせるとHPを1/3回復する。

 いかずちプレート、電気タイプのポケモンの能力が1.2倍になる。

 

 いかずちプレートの説明がおかしい?

大丈夫、正常だから。

 ほら、タイルみたいなもんだと思うじゃん?

 DPの地下探検で掘るとき、みんな直で見たでしょう?

そうそうあんな感じかと思っちゃうじゃん。でも、違うじゃんよ。

 

「ふんっぬ」

 

 僕は家族に見つからないように、縁側に立てかけてあったプレートを持ってくる。

 くっそ重い稲妻の力が宿っているアルセウスのプレート。

映画に出てくるダモスさん、さすがの農夫だわ。まじ筋肉マン。

体感15キロあるんだけど。

 ってか、これからこれどうしよう。

 納屋にいれさせてもらおうかな?

 

 いかずちプレートの下位は、きっとかけらとかだと思う。

 

 あ……技マシン手に入れてないじゃん。

まさかとおもうけど、ずっと手に入れられないのか?

それはまずいって……!

 

 仕方がない。それは後々考えることにしよう。

 

 まずはヒトツキとツチニンの確認。

まあ簡単にいうと、進化するにはまだ遠いということ。

ツチニンが吸血を覚えるのに結構かかった。

 もしも経験値がゲームよりも取得値が低く、レベルアップまでの値が高い場合、

人間側が非常に不利になってしまうんだけど大丈夫かね?

 

 これも考えるのは保留にしようか。

 

 さぁ、明日も早いんだし、寝よう。

 



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10:公園へ!

HDにOSを入れなおしてました。実質三度目のHDD故障です。
小説を書いている主PCで発生していませんので、ダメージは軽いです。



「ニュースです。昨日未明、高松東高等学校において改築中の道場が、何者かにより破壊されていると近隣住民から110番通報がありました」

 

「おはよー」

「おっはー」

「お、仁(ひとし)、早いじゃん」

「兄貴こそ早いじゃないか。またなんかあったらしいぞ」

「目的不明な不法侵入だなぁ」

「そだなー」

 

 お互いにパンを牛乳に浸して食べる。

 食べていると先に終わった仁は、自分の部屋に戻ってった。

 

「緊急速報です!日本のポケモントレーナーの所在地が判明いたしました!」

 

 突然の速報に驚いて、TV画面を凝視する。

 いろいろと説明しながら、図を持ってくる。

日本列島と左上の枠に入った沖縄、右下の枠に小笠原諸島。

その日本国内で、黄色に塗られた場所がポケモントレーナーがいる場所だ。

 場所は北海道・沖縄・茨城・佐賀・鹿児島・佐渡だ。

 

 ……佐渡!?

 あ、でも、北海道と沖縄か。

国防の観念からいえば、非常にいい位置にいるよな。

 

「各地のポケモントレーナーが言うところによりますと、あと1名いらっしゃるようです。逝去してしまった場合、そのような情報が入ってくると知らせていただきました。

最後のポケモントレーナーの方、日本のためそしてご自分のために市役所へお越しください。よろしくお願いします」

 

 頭を下げて次のニュースへ入る。

 

 次のニュースは、魚肉・牛肉・鶏肉などにかんするニュースだった。

 

 僕は食事を終えた後、すぐに用意して外出の準備を済ませる。

 そしてニュースを見ると、家畜への被害が少なく業務再開の目途が立っているが、

シーレーンが崩壊しているので石油高になっており同じくすべての輸入製品や加工製品がインフレをおこしている。

そんな重要なニュースを得た。

 

「猫に小判は、焼け石に水かな。いや、育てられるなら、育ててみようか」

 

 ただ、今は公園へ向かわないといけない。

さあ、行こうか。

 

 

 行く前に庭のスターとナゾの木を確認する。

 確認したら、見事に大きな木になっていて、花をつけていた。

如雨露で水、土壌の栄養価を高める肥料などをあげる必要がないから、非常に便利。

 今ではこんなに育っちゃってまぁ。

 

 まだきのみは黄金の実くらいかな……。

 こいつも庭の端っこに埋めておこう。

 

 

 じゃ、行こうかな。

 

 

 

 は、速いよおおおおおおお!!!?!?

 

 

 今信号無視しちまった!?

交通量が普段より9倍少ないからいいものの、これは事故の起因ですわ!

やっべえ!

 

 

 マッハ自転車が凄く速いおかげで、たった1時間でたどり着いちゃったよ。

 そう、公渕公園。

こっちなら人もこないし、ポケモンの楽園のなか人は来ないでしょ。

 まあ実際に入園したけれど、人っ子一人いないわ。

 

 そうとう嫌われたもんだ。

 今が季節の花にとって、盛りとなっている時期なのに。

 

 そんなことは別にいいんだ。

僕が探しているポケモンは、周辺に数少ないがいる。

よし、すぐに入手してこよう。

 

「出てこい、ヒトツキ!ツチニン!」

「ツキッ!」

「ニン!」

 

 さあ、バトルだ。花園のポケモンたちよ!




そういえば、ポケリアル世界の主人公達は、よく怪我しませんね。
作者に愛されているのか。そうでなければ、夕立のような突発的な事象に
対処できませんよね。


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11:ハナカリキリ

 

「どわあ!? ヒトツキ、影分身!」

「ッキ!」

 

「ニンニン!」

 

シュゴオオオオオ!!!

 

「ナイス、ツチニン!ヒトツキ、ラスターカノン!」

「ツキ!!」

 

シュゥ――ゴッ ドドンッ

 

「キィ……」

「今だ、マスターボール!」

 

 シュゥ――ポンッ

 

「カリキリ、ゲットだぜ!」

「ニーンニンッ!」

「ッキ!ツキイッ!」

 

 さてと……花園の戦闘は、骨が折れる面倒さだった。

 

 カリキリと戦闘するとミツハニーやビードルが襲い掛かってきて、それにツチニンやヒトツキをけしかけて吹き飛ばした。

そのあとカリキリを追い詰めて、適当にバッグをあさって出てきたボールをぶつけたんだ。

まさかマスターボールとは……。

 

 

 カリキリ

技:れんぞくぎり・ウェザーボール・ギガドレイン・どくづき・ソーラービーム・

ダブルチョップ

特性:リーフガード 

 

 

「出てこい、カリキリ!」

 

 マスターボールから紫色の閃光とともに出てくるカリキリ。

 カリキリは目を閉じていて、しばらくすると開眼。

左右の状況を見てから、僕を飼い主と認識したと思う。

 

「キリ!」

 

 片方の前足を挙げて挨拶してくる。

僕はカリキリの前足を手のひらでタッチして、挨拶する。

 

「よろしく、カリキリ。さあ、僕の友達を紹介しよう!」

 

 僕はツチニンとヒトツキを紹介した。

 三人ともそれぞれの反応をして、仲間として認識しあっているみたいだ。

 

 休憩を少し挟んだら、ここに群がるポケモンを倒していこう。

虐殺ではない。ポケモンバトルのように、瀕死状態になって逃げた奴は今までと同じ放置だ。間違っても、逃走中の奴を攻撃してはいけない。

 

 

 

 よし、作戦開始だ。

まずはツチニンに日本晴れをさせて、ツチニンとカリキリのソーラービームで広範囲殲滅する。そして撃破できなかったうち漏らしを、ヒトツキのでんげきはで撃墜する。

 また花畑のほかにも、池や木があるのでそこにいるポケモンも撃破して、努力値を荒稼ぎする。

 それに努力値も、マトマのみなどが発見されるだろうから、そいつを大量に使って調整するさ。

 

「ニンッ!」

「キリッ!」

 

シュゴオオオオオ!!!

 

「ツキ!」

 

ジジ……バリバリバリバリバリ!!!

 

 効果的というか、比較的効率がいい経験値の貯め方だと思う。

 今はポケモン勝負なんて文化がないから、必然的に野生ポケモンが相手になる。

だから経験値なんて、まとめて一気にやったほうがいいんだ。

 

 え、なんでそんなに焦っているんだって?

 

 当たり前だろう?

 

 今のご時世外出するだけで目にかけられるんだ。

しかも街中には防犯カメラが仕掛けられていて、すぐに誰が何をしているのかわかってしまう。さらに無人ドローンもあるときた。

 これにより、僕がポケモントレーナーだとばれる可能性が高くなり、自由にポケモンを育成する時間が皆無になってしまう。

本来ならば市役所に行かなければならないと思うが、申し訳ないがポケモンを強くしておかないと有事の時に動けないし対処しようがない。

 だから今は警察の皆さんに丸投げして、僕はポケモンのみんなとレベルを上げて強くなるんだよ。

 もちろんアメの収集も忘れない。

 

 公渕公園は比較的広いから、いろんなところをポケモンを倒しながら観光していく。

 

 そして僕はたくさんのアイテムを手に入れたんだ。

 

 

「こんなもんかな。よし、帰ろうか」

 

 僕は三人をボールに戻して、ポケモンの声が聞こえなくなった公渕公園から自宅へ帰った。

 ちなみに……帰るときは商業施設や公共施設の近くを通らないように注意しながら、猛スピードで帰路についた。

先述の通り、僕に関する情報を少しでもなくすためだ。感づかれたら、一貫の終わり。

 

 

 

 嗚呼、やっとのこさついた。

さっさとこの荷物を降ろして、アイテム確認をしよう……。




外国の様子を描くには、丁度いい場所がありますね。
山と山と山と半分海に囲まれた内海の孤島。
しかもガチガチの保守な場所。一般界隈では軟派なのに、心の奥底では
硬派なんですね。



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12:旧暦でいうに一日の始まり

 

「あー、くそ重い」

 

 僕はプレートなどの重いものを納屋にしまって、家に入る。

 

「ただいまー」

 

 家は暗い。

寝ているのかな?

 

 今日は両親共に仕事で、きょうだいは部屋にこもっている。

 そのはずだから、僕は手洗いうがいして自室に戻る。

 

「さぁて、今日のアイテムはー?」

 

・あなぬけのたま ・あおいグミ ・カイスのみ ・パークボール 

・プレミアボール ・ウルトラボール

・マスターボール ・各種アメ ・ガルーラナイト2 ・きのみブレンダー 

・キーストーン*2

・せいなるはい ・かいふくのくすり ・ポイントマックス ・でかいきんのたま

・古代の金貨 ・みどりのプレート ・げんきのかたまり ・おまもりこばん

 

 

 見てわかると思うが、ポロックが作れるんだよな。

 でも、残念ながら、きのみを育てる場所がないから意味がないんだよ。

 

……あ、埋める場所あるわ。

 

 今家には松竹梅と植えられている中で、果樹も植えている。

その中でサクランボだったか?そのサクランボの根が、ダンゴムシと土壌にやられちまって先週引っこ抜いたばかりなんだ。

 そんなわけで、カイスを植えてみようと思う。

 これは地球生物と地球の土壌に、ポケモン世界の植物が適応するかの実験だ。

 

 

 

 すでにきのみの湧き水で、土壌は改変されているんだけどな。

 

 

 次。

 

 えーと、突っ込みどころといえば、ポケモンダンジョンという二次創作に出てくるアイテムかな。

 

 あなぬけのたまは、あなぬけひもと同じような効果を持っている。

ただ効果は違うようで、その場半径5M以内の使用者と同じ種族であり、そのものが持つポケモンを安全地帯へ移動させるものだ。

 あおいグミは、おなかを回復させる効果はなくて回復効果だけ。

 かしこさが上がるらしいが、すごく賢くなってそこらへんの壁を破壊して移動するのはやめていただきたい。

 

 パークボール。

 これの効果は、逃がされたポケモンを確実にとらえるボール。

ほかのポケモンだと、モンスターボールと同じ効果のようだ。

 

 キーストーン。

 なぜか二つも手に入ったが、使うのはリザードンのみ。

それ以外のポケモンは、進展次第で考えよう。

 

 ガルーラナイト2。

 普通のガルーラナイトよりも力強く輝いていて、ガルーラの潜在能力を引き出すらしい。

 

 でかいきんのたまと古代の金貨。

 握って親指と中指が、あともうちょっとでくっつくくらい大きい。

純金製なので、ポケモンの世界よりも売れるだろう。

 古代の金貨も同じく比較的大きく、しっかりとした印字なのでマニアに見せれば言い値で買ってくれるだろう。

 

 お守り小判。

 戦闘勝利時、賞金が二倍になるらしい。

これで給料も増えないかな?ちょっと試してみよう。

 

 

 最後はみどりのプレートなんだけど。

 

 こいつは外で確認しようか。

 

 

 僕はサンダルを縁側で履いて外に出る。

そして納屋の重い戸を開けて、中身を確認する。

そこにはいかずちプレートとみどりのプレートが、それぞれのタイプの色に淡く発光しながら壁に立てかけてあった。

 鎮座しているというか、くそ重いからここに置いてあるだけなんだよなぁ。

 しかしこれで二種類だ。

あとは14種類。

 

 このまま集めても何にもならないと思うんだけど。

 

 さすがにアルセウスがけしかけてくるなんて、ありえない夢物語だ。

 でもアイテムコレクター精神で語れば貴重なアイテムの一つだから、無碍にできない。

 

 あー、色々と確認したなぁ。

 

 

 ……今思ったんだけど、初夏の6時30分頃は夕焼け小焼けで日が暮れる頃合いなんだよ。

 普通はどこもかしこも、蛍光灯やLED・フィラメント球がついているはず。

なのに街灯はもちろん、住宅地や押し釦信号の光が灯っていない。

それに今日、踏切の音は聞こえたのか?

 

 まさかと思うが……。

 

 僕は納屋にプレートを片付けたら、すぐに自室に戻って本棚の上にある四国電力主催のイベントでつくった手回しラジオを数年ぶりに使う。

 モーターを回して電気を発生させて、FMなど周波数を合わせる。

 するとそこからとんでもない情報が入ってきた。

 

「こちら伊方原発です! 御覧ください、コイルといわれるポケモンとその同種族がたくさん集まっています。

ポケモントレーナーの情報によりますと、彼らは電気を食料としているらしく大容量発電施設である原発にたくさん集まり、電気を生み出した直前に食べられることで大規模停電に陥りました!

 現在、水力・火力・風力・波力で、随時発電しているとのことですが回復の見込みはないと発表されています!」

 

 

 まずい……。

 

 

「今私たちは徳島県に来ています。この場所に来たのは、今後においてより深刻な被害になる問題を、皆様に公表するためです。

 この徳島県は電化されておらず、非電化の汽車が走っています。

 これらの汽車は重く、線路に重圧をかけておりメンテナンスをかかせば、すぐに膨張や縮小による金属疲労で軌道が破損してしまう可能性があります。

 しかし問題はこれだけではありません。

山奥ではココドラ・コドラというポケモンが、線路を含めた鉄分を含むものをむさぼっているのです。

結果線路の枕と砂利が残るだけの廃線風景が、一面に広がってしまいます。

 

 現在この風景が日本のいたるところで確認されており、国の対応が急がれます」

 

 たしか、ポケモンが来てから三日だよな。

 うん、腹が減っているだろうから、大量に食われるよな。

食われた鉄はどこに行くのか。きっと酸化鉄として排出されるんじゃないかな?

 

 とにかくこのままだと、鉄道大国日本のインフラは大打撃を受けて、倒産する会社が出てくるだろう。

 警察や国家は、非常に鈍足だから実力行使ができるポケモントレーナーが現場に行くしかない。

しかし相手は自然だ。絶対にあきらめざるを得ない状況が発生してしまうだろう。

 国鉄として、国営化するか地方鉄道への援助資金を頼るしかないな。

つーか僕も、県からの補正予算を考えないあたり、人口減少と経済低迷にもだえ苦しむこの県に愛想を尽かせているなぁ。

 

 

 ブー。ブー。

 

 ん? 僕のスマホがバイブレーションで揺れているな。

 誰からの電話だろうか?

 

 手に取って出てみた。

 

「お兄……兄貴、今どこいんの!?」

「え? 家だけど」

「今までどこ行ってたんだよ……お母さんが兄貴を探してるよ!」

「そもそも、みんなどこにいったんだ?」

「小学校に避難してんだよ!」

 

 あー。避難勧告が出てたかぁ。

 そりゃそうか。でも公共施設だったら、プライベートを犠牲にすれば

一人当たりに必要な電力は減少するから、比較的住居効率はいいよな?

 でもその分精神的なダメージが増えて、集団ヒステリーになりやすい。

しかも集団感染とかもあるから、ほかの面でみるとはるかに良くない。

 

 うーん。

 

 よし、夏季と冬季のバイトで作らざるを得なかった口座を使って、原発へ遠征しよう。

電車だけじゃなく列車や旧型電車を持っているJR四国なら、少々ダイヤが乱れるだろうが自転車を漕いでいくよりか楽な移動ができると思う。

 

 実際、JR四国の線路で見かける車両には、うずしおやワンマンカーといった汽車ばかり。旧型の爆音もいるしなぁ。

 でもマリンライナーといった電車もいる。

 あ、貨物列車も走っているんだよなぁ。

幼いころに瀬戸大橋記念公園から見上げた時、その長蛇の列が見えたことがあるし

列車の整備工場より西へ十キロぐらいに貨物積降・積載所がある。

 

「うん、わかった。あとで行くわ」

「ちょっと待って、どこかわかって――」

 

プッ

 

 電子音を鳴らして通信拒絶っと。

 

 次に深夜23時まで運行しているJR高松駅へ、超速自転車で10分かけていく。

その途中で何円か積み下ろしておいて、グーグルマップやYahooJapanの鉄道乗換案内を確認。

伊方原発に一番近い路線を確認する。

 

 これ……時速計算なんぼだ?

 よくわからないけれど、3時間12分の219kmだ。

 

 マッハ自転車は最高速度、65km/hだ。

で、簡易に計算すると、219÷3=73。

途中のこともあるから、自動車のほうが速い。

 しかし深夜帰宅のこともあるから、なるべく脚は休ませておきたい。

 そういうわけで、3時間かけて松山市に行って22時くらいで着く。

そこから73.2kmを65km/hで走り抜けて、伊方原発へ向かう。

 

 本来ならば市役所に行って申請すればいいんだろうけど、

こんな面倒な事態になるとポケモントレーナーが過労死してしまう。

まあ希少な存在だから、あるていど生命の維持や確保はしてくれるだろう。

ま、割に合わないから、市役所に行かないんだけどね。

 

 そんなことをするのならば、ポケモンを育てるほうが楽しい。

 

 さて、行く前に携帯の電源を回復するために、電池とそのためのソケットを買っておかないと。

来る前にもいろんなスーパーやコンビニ・電機店に、たくさんの人が来ていた。

 なんかもう、すごかった。

 ダイエーなんて、発電機を購入して軽トラックに積み上げているところを見てしまったくらいだ。

 

 あとはYahooトピックやMSN(Microsoft news)で、薪・木炭・石炭・石油などの電気に変換できる燃料の購入が活発化し、シーレーン崩壊に伴う価格高騰で都心ではすでに1リットルあたりの値段が、目も当てられないことになっているとか。

 あ、中韓や違法滞在者による国内の略奪が起こってる。

 国内でこれなんだから、外国はもっとひどそうだ。

 

 でも自然豊かなところは、あまり関係なさそう。

 

「いしづち23号 特急 松山行き 7番ホーム まもなく発車いたします」

 

「やっべ」

 

 すぐに乗り込んだ。

 

 誰もいないんだよなぁ。

僕が乗り込むのを確認すると、車掌さんも車内に乗り込んだのかすぐに扉が閉まり車内放送が始まる。

 

「特急いしづち23号にご乗車いただきまして、誠にありがとうございます。

この電車は現在、社内における非常電源で動いております。

出力の関係で到着時刻が遅れますこと、お客様のご理解の下ご了承くださいませ……」

 

 電車内のポケモンによる被害が深刻なことが分かってしまう。

 

 そしてたまに……。

 

 

 ドドンッ!

 

「わあっ!?」

「のわあ!」

 

 ほかの駅から入ってきたお客さんが、合計3人になったとき突然の衝撃!

理由はすぐに分かった。

線路わきに2体のニドランが、肉体を欠損してくたばっていた。

 

「ポケモン……か」

 

 お客さんの一人がつぶやく。

 本来ならば運行してはいけないが、相手も結局は動物。

特別に強い力を持っただけの動物だ。

机上でいえば、運行停止は認められない。

 

 だが現場でいえば、くそったれ!だろう。

 

 僕も……よくわかったよ。

 

 たまに?

いや、自然が増えれば増えるほど、衝突回数が増えていく。

 

そしてしまいには……止まってしまうわけだ。

 

 

「走行不能!」

 

 切られているはずのマイクが切れていない。

そのせいで、乗客総勢二人に衝撃が走る!

もちろんそのままの意味で。

 

ドスン!

 

「ってえ!?」

 

 衝撃が電車の進行方向からあった。

たぶんこれは、ココドラの上位であるコドラの可能性しかないと思う。

窓際からちらほら見えてたんだよ。

 サイドンの可能性を考えろ?

脱線して死んでるな。

 

 僕は最前列車両に走って、窓を開けたあと外へ体を乗り出しそのまま前転の容量で外へ出ていく。

となりのトトロでさつきちゃんが、三輪トラックから降りた時にやったあれだよ。

乗客の一人はおびえたように自己保身してる。

 目撃者が少なくなったから、非常にありがたい。

 

 さて、状況なんだけれど、まあ安心だ。

コドラ1匹とココドラ5匹が、倒れたココドラ2匹を守るためにせめぎあっているというところだ。

 

「出てこい、カリキリ・ツチニン!」

「キリ!」

「ニン!」

 

 ボールエフェクトをまき散らしながら二匹は出てくる。

そしてツチニンが出てきた瞬間、雲に隠れた上弦の月が夜天を照らし始めた。

きっと日本晴れの夜においての効果なんだろうな。

 効果範囲もわかるくらいだ。

 星が分からないくらい雲に覆われていたが、500mくらいだろうか?

それくらいの穴が雲の中にできて、遠方からはきっと月による光の階段ができているだろう。満月は昼と同じであるのならば、上弦であれば夕方くらいだろう。

 

 おかげで真夜中でもはっきりとコドラたちを視認できる!

 

 新月?   

 

 

 気にするな!

そもそも現代人がそんな中で活動するなら、光源をもつだろう?

現に電車のヘッドライトが前方を照らしている。

 ただし電車のバンパーに値する場所くらいしか高さがないコドラたちを

照らして、情報を得ることはできないがな!

 

「奴らは頑丈だ! 時間差ソーラービーム!」

「キ……リイィィィ!」

「チ……ニン!」

 

 二つの光線は、収束させず時間差で射撃。

現在も駆動させている電車の勢いを殺そうとしているコドラたちは、

僕らの攻撃を受け流せずそのままはじけ飛んだ。

 すると圧力から解放された電車が勢いよく発車。

そのままココドラ一匹が、車輪に押しつぶされ二分割するが何も問題はない。

 

 電車は数十メートル行って停車し、誰かが下りてきた。

まあ、車掌さんなんだけど。

 

 まだ上弦の月が照らしているから、僕の存在もわかるだろう。

 

「ポケモントレーナーの方でしたか!」

 

 駆け寄ってきて喜色の面で対応してくる。

 

「はい。用があって愛媛へ行っているところだったんです」

「……そうですか。とにかく、ありがとうございます。扉を開けましたので、ご乗車ください」

「わかりました」

 

 彼の表情は訝しんでいるといっても過言ではない。

そもそも、四国に用があって足を運ぶポケモントレーナーなどいないだろう。

基本的に生まれ故郷を最優先に行動させるだろう。

 なのにここにポケモントレーナーがいる。

 

 初老の車掌さんは、与えられた仕事だけに専念するのか詮索はしてこなかった。

 

 

 この後も、僕は何度かポケモンの襲撃を遠距離で妨害して、電車の運行を妨げないようにした。乗客は寝ていた。

 

「あ、お客さん」

「え、あ、はい?」

「ポケモントレーナーからもらった薬です。やけど・まひ・毒に効きます。

不安でしたら病院で、この薬の薬効を調べてもらってください」

「そ、そっか。あんたが……まだ若いだろうに……」

「ありがとうございます。ですが、今も苦しんでいる人たちがいます。

僕も決心がつきました」

「え?」

 

 そして扉はしまった。

 

 僕が彼に渡したのは、なんでもなおし*5。

                      ・    ・

 余談だけど、いままでばんのうごなのことを、ばん の うごな とよんでた。

本当は万能粉だったんだね。アクセントを二か所つけてた。

 

 

 

 そして最後の着駅を経過し、終着駅に到着した。

時間は駅の消灯時間と同時刻ぐらいになってた。

すでに最低限のLEDしか点灯していない。

 

「……よし、行くぞ」

 

 閑静で真っ暗な現代都市である松山市。

松山駅はもちろん、周辺に光はほとんどない。

自動車は1台くらい。それでもトラックは複数台走っている。

 

 僕はすぐに自転車を出して、そのまま70分かけて伊方原発へ向かう。

 

 途中困難はあったけれど、車掌さんのポケモントレーナーへの安心感は異常だった。

 宗教ならこんな状態でも、夢想していれば心でつくった有象無象に助けてもらうだろう。だが現実主義者だったり、資本主義にいきる僕らは心のよりどころは金しかないと思う。

 

 家族?論外だ、バカもの。

 

 

 ……ポケモントレーナーとして選ばれたのならば、やってやるよ。

 




現代ポケモンのテンプレで、面白さが減衰するだろう。
というか、政治が絡むと法律・地政学・確執関連で面倒になって、やる気が減退するんですが……。


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13:復旧作業(物理)

一部不適切な表現があります。


 さて……目下の目標は、伊方原発に巣食うポケモンの手から救うことだ。

戦い方は奴らの足元を掬うくらいしかやれることがない。

 

 沿岸街道を通って、徐々に山道になる県道を全力で走っていく。

補正があるのは把握済みで、上り下りでそれぞれのきつさや快適さがないかわりスタミナや速度維持がされるということだ。

もちろん追い風や向かい風もない。

 

 道路左側通行で、グーグルマップの案内を受けながら走行している。

 途中にポケモンを見かけることがあったが、それらすべて無視した。

いちいち構っていられないんでね。

 

 そういえば、グーグルマップでの総評で2.6だったな、伊方原発。

 

 原子力の影響は、放射能・放射線による遺伝子破壊や健康被害にとどまらず環境破壊につながる。

国民感情論でいけば、たしかに停止したほうがいいのかもしれない。

そう言葉で言えるのは、この国がいかに表現に対して法律で範囲を決めてくれているおかげだと思う。

 もしもそうじゃなければ、国益に反するだろうからさらし首にされていただろうな。

 そして今がその状況。

こんな状況でも原発停止を訴えているのならば、そいつはマスコミによって付け込まれ思考停止したただのバカか日和見の阿呆だ。救う価値すらない。

 

 広島高裁が停めてくれたとか言っているが、現状動いているということはそういうことだろう。

つまりここがとまっても、原発にいた奴が火力発電所や変電所に散らばるだけで変わりはしない。むしろ原発は一定出力で水を一瞬で気化できるほどの熱を出すから、水の量を増やすだけで電力が増える。

 しかし火力発電所は水が増えたらその分だけ、通水管が冷却されてしまう。

結果、火力を増すためにさらに石油・石炭を投じなければならなくなる。

これだと効率が悪い。

 

 取水できる場所……海辺でなければ、排水と取水を行えない。

これらの水を水道で得るには、効率もそうだが飲料水を使うなんてもったいない。

ならば常飲できない海水を使うのは当然だろう。

 

 え、擁護しているように見える?

もちろん擁護してるけど、何?

文句ある?

文句あるなら憲法を改正しようか。

 ほら、すぐに100万以上払って、愚かな多数派(老人)にきれいごとを言って宗教団体に頭下げて、政権を牛耳って真実(インターネット産)を知る若者に保守と愛国を語るんだよ、あくしろよ。

大丈夫、労働者には消費税に代わる代替案を出す出す詐欺して、生かさず殺さず家畜のように働かせたらいいんだよ。

自転車操業のように馬車馬、火の車のようにすんだよ。

 

 太った男が吐く息は、周辺を汚染し長い間住民の体から腐臭が消えなかった。

だが昨今の彼の同類は、肺活量を高めつつあるが周辺住民への被害は強力かつ短期間になった。

科学技術が発達したおかげで、効率性が増したからだ。

そしてそれのおかげで、我々は制御できるようになった。

 肥満だった彼は、いろんな技術により痩せていき最終的には

その有り余る力を使って違う能力をつけた。

それが発電だ。

 ほかのものだとスロースターターで、プロテインを飲まないとやってられない。

しかし彼の場合だと最初から全力疾走なのに、疲れる様子もなく機械が壊れるまで

同じ感覚・速度で走り続けるのだ。

 壊れてしまった機械や彼が使った道具は、全く使えないのでどこかに収容してしまおう。

 ほかのものだと再利用できるが、その効率と威力は魅力的だ。

問題は山積しているが、人間が住む必要がない砂漠に埋めてしまえばいいだろう。

 

 よし、ゴビ砂漠に埋めようぜ!

アフリカの方は、その乾燥性から太陽光発電の効率がいいからだめだ。

また南米の高原は、空気が澄んでいるから宇宙観測に必要だからダメ!

 

 

 と、まあ、冗談で適当にボケとツッコミを独り言で言ってたら、到着した。

 

 そこは伊方原発。

稼働中らしく、騒音が聞こえるがほかの音も聞こえる。

 いや、それは本当に音なのか?

むしろこれは何かの声じゃないのだろうか。

例えばクジラのようなものとか。

 

 なんてバカみたいなことを言っているけれど、現在の原発に群がっているのは

コイルとビリリダマだ。

奴らは電気を食べる習性がある。

 現代人にとって生命線となっているエネルギーだ。

そんなエネルギーをどうやって守るのか。

その方法は簡単さ。

 

 奴らを殺して採取した体から得た鉄分を使用して、再度同じ施設を作ればいい。

 さすがにポケモン成分50%以上だと、同族殺しとして奴らが報復しにくるだろう。

だから混入や合成は微弱にして、ポケモンが同族と思いつつそうでないかもしれないという懸念を抱かせられるようにしなければならない。

 そもそも神自体に責任がある。

まあ、ポケモン世界との融合は勿論だけど、彼らの世界と同じ共に歩んできた人類だということを、ポケモンどもの遺伝子に残しておいてほしかった。

 

 そうすれば、ポケモン資料にあった”草むらに入ってきた人間は、我々ポケモンの力を求めている”という設定が生きるのに。

 

「ラクライ・カラカラ・サイホーンはいないな」

 

 避雷針持ちのポケモンはいないようだ。

ほかに持つものもいるけれど、出現ポケモンがカントーがおおい。

このラランテス・ツチニン・ヒトツキは、ポケモントレーナーがいるから出現したようなもんだ。

ポケモントレーナーがいない地域は、原作の制作分布または日本だけ特殊な出現条件のもとランダムに出現しているようだ。

 まあ、まだ検証すらしていなから、想像の範疇をでないけどさ。

 

「撃てばわかるか。よし、出てこい、ツチニン・ヒトツキ・カリキリ!」

「ニンッ!」

「ッキ!」

「キリィッ!」

 

 再度曇っていた空を晴れ模様にして、上弦の月が顔を見せた。

 

「ツチニン・カリキリ、ソーラービーム!ヒトツキ、でんげきは!」

 

「ニン……ニイイィィン!!」

「キィィィリイイイ!!」

「ト……ツキィッ!!」

 

 太陽光線と電撃波が、途中にある電線などの障害物を蒸発させて目的である

電気ポケモンに直撃した。

いずれも効果今一つ。

 そのため射撃地点に向けて、多数のポケモンが向かってきた。

一部はスパークを身にまとっている。

 

「カリキリ、コイルに向かってウェザーボール!」

「キリッ!」

 

 両鎌の間に炎の玉を作って、向かってくるコイルに向かって放つ。

またツチニンにはソーラービームを、ヒトツキにはラスターカノンを使わせる。

 そうすることによって、アウトレンジの有利を最終局面まで守ることができた。

さらに一時的ではあるが、ポケモンを原子力発電所から引きはがすことができた。

 

 

 これにより街灯に電気が流れ始める。

 ここから少し行った先にある信号も、点灯し始める。

 

 効果抜群なコイルをあらかた殲滅した後、残ったビリリダマを撃破していく。

文明の光が灯火を取り戻していくたびに、スマホの通知バイブレーションが鳴り響く。

ポケホの方でも、四国電力の電力供給量が安全領域になったことが分かった。

 数時間戦闘をしたら、さっさと切り上げる。

 本当はもっと近くに行って、残った勢力を倒したかったんだ。

でも警察車両の音や多数の業務車両のエンジン音が聞こえたから、すぐにみんなをボールに戻してマッハ自転車で走り去った。

 

 もちろん鉢合わせしないように、違うルートで向かう。

 

「皆、よくやったな。……くああぁ……眠い……」

 

 すでに深夜1時を過ぎている。

 夜型の僕でも、連続で活動していたらさすがに眠い。

あくびと背伸びをして、再びハンドルを握って自宅への道を進む。

四捨五入4時間の片道走行はきついから、途中寄り道をしてリュックサックにアイテムを入れていく。

 

 集めているのはよかったが、結局眠たくなったので人気のない道の駅の屋内で仮眠することにした。

 初夏だからこそできる芸当で、そうでなければ寒暖が酷くて長時間待機なんてできないだろうな。

 

 

……

 

 そして、空腹とともに迎える朝。

 晩御飯食べてないし、そもそも電気がないからそこらへんの外食産業は閉店してたから、何もできなかった。

そんなわけで、もったいないが元気のアメをなめておく。

 

「なんか、みなぎってくる……こういう使い方もありなんだな……」

 

 さすがに心が燃えるほど漲ってくるわけじゃなかった。

筋肉が力を持て余しているという感じで、力いっぱい漕ぎたいという思い。

それとおなかが減ったという思いから、ゆっくりとあしを進めていくしかなかった。

 途中コンビニエンスストアが開いていたので、大きなほうのトイレと飲食物を購入して

おなかと喉の渇きを癒す。

やっぱコンビニって、人類最高のサービスだわ。

 

 途中でヤヤコマやチルットをみかけた。

 

 あー、はやてのつばさが惜しい。

いつでもゲットできるけど、ボックス機能について不明だから何にもできない。

 

 いや……むしろ、6匹以上捕まえたらその機能が、ポケホで増えるのでは?

なければそれはそれで困るから、可能性はあるはず。

あーでも、賭けだよな。

 そもそも現実である今、アニメのサトシのように何十年も放置されてて懐かれている保証もない。

だから少数精鋭は現実的だ。

しかも現代兵器がはびこっている中、専守防衛や積極的防衛による先制攻撃のために遠距離攻撃を採択するのは、間違った判断じゃないはず。

 

「いけっ、ヒトツキ!でんげきは!」

「トツキッ!」

 

 雷撃が波状攻撃を仕掛け、複数いる鳥ポケモンに直撃する。

一部の電線に攻撃がいっているが、雷みたいなことになるのだろうか?

もしそうならば、コラテラルダメージということで我慢していただきたい。

 

「ヤコッ!?」

「チルッ!」

 

 地上にぼとぼと落ちる。

その中から適当にヤヤコマを見繕って、拾ったウルトラボールを当てる。

瀕死状態だからか、一度もボールは揺れずゲットしてしまう。

 

 ヤヤコマ

技:たいあたり なきごえ はねやすめ いばる つるぎのまい とんぼがえり 

特性:はやてのつばさ

 

 ふむ……。

これでバトンタッチできないのは痛いなぁ。

 それでも特性が強い!

特性の効果は、飛行タイプの技を優先度+1で実行できる、というもの。

ゲームでいえば、電光石火や神速のような技と同じ扱いになる。

ただまもるとか猫だまし等、攻撃に対して何等かの効果をもたらすものは、

これらの先制技よりも速く行動できてしまう。

 ここら辺はゲーム順序だ。

 しかしゲームではない現実ならばどうなるのだろうか。

きっと何事にも早く行動できるから、伝説系に対して優位に立てるだろう。

 

 僕はこのヤヤコマにげんきのかたまりを使用して、元気を取り戻してもらう。

 今後、どのようにしていくか……。

そこらはあまり考えていないけれど、伝説のポケモンが出てきて未曾有の大災害になったときのため、万が一の手札として育てておいたほうがいいと考えたんだ。

 ヒトカゲとか惜しいけど、火山地帯が身近にないならしかたがない。

 

 うん、そうやって納得しよう。

 

 さて……帰るか。

 




最高の小説よりも、最新作を常に出したいです。
(小説の続きを書くわけではありません。)


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14:偶然というなのめぐりあわせ

 僕は今、どこにいるでしょうか!

そう……今僕は、予讃線に乗っているんだ。

 

 なんでJRに乗っているのかというと、簡単に言えば疲れたから。

そしてこれから向かうのが、鳥羽動物園。

そう愛媛県の。

 理由はまあ、色々あるんだ。

 

 

 実はポケホで世界に存在するポケモントレーナーが、ポケモン所持数を6体超えたことで、ボックス機能が追加されたんだ。

これに関しては神に選ばれたポケモントレーナーのみで、ほかの一般トレーナーは過剰なポケモンをどこかへ預けることは不可能。

 ちなみに預けられるのは、75体まで。

 結構預けられるんだ。

 

 で、なんで僕が鳥羽動物園に行っているのか。

 理由は簡単で、動物園にいた動物の2割がポケモンになってしまって、それらが檻を破壊して逃げてしまったから。

それと四国内の動物園で唯一カンガルーを飼育しているから。

 コアラはネッコアラ。ほかの有袋類であるカンガルーは、きっとガルーラになっているとおもう。

いや動物がポケモンに変態したことは、あまり聞いていない。

それでもラジオで中国から借りているパンダが、ヤンチャムへ変化していることは

頭数を調べれば容易に判明したことだ。

 

 で、鳥羽動物園のポケモンや動物が逃げたということは、ポケモンに関して言えば所属不明で話が通る。きっと管理や維持をしている飼育員さんも、この混乱で地球産生物への対応に追われているだろう。

だから僕が現地へ行って、ポケモンの騒動を横目にみながらガルーラをゲットするんだ。

 え、助けるべきだ?

 申し訳ないが、そこまで余裕がないし先の見通しが甘くない。

だからまだ何も起こっていない今こそ、レベル上げや厳選を行うべきなんだ。

そもそも僕が市役所に行っていないのは、現状大量のポケモンをただの人間がどうかしようなんて不可能だと思っているからだ。

 

 介入するのならば、知識を持っているとしても覚悟や経験等、現場の雰囲気や空気を体験しておかないといけない。

そうでなければ、相手に威勢ごと呑まれてしまう。

こうなっては自分のペースを崩されるから、継戦活動は続く。もちろん不利な状況で。

 

 わかってくれたかな?

 

 さて……乗り継ぎ乗り継ぎっと。

バス停の場所へ向かっているが、人はまばらだ。

どこもかしこも。

 そしてそこらにいる人はみんな、きょろきょろと周囲を警戒するように見渡して移動している。

 やはり、ポケモンだろうな。

 

 そう思っていると、近くで爆発があった。

 

 みんなパニックに陥ってしまったようで、騒ぎに騒いで一応復活した信号を無視して横断し、車にひかれる人もいた。

右往左往している。

 で、僕はというと、現場に野次馬根性で行ってみた。

ほかにも野次馬根性な人間が、三人いるがすぐに二人逃げた。

なんでそんなに血相変えて逃げたんだと思ったんだ。

 

 でも僕はそいつを見て確信した。

 

 なんて幸運で偶然で必然的な出会いなんだろうって。

 

 事故にあった方には悪いけれど、FRLG的にこの出会いは最高の思い出になるよ。

 

 そう、僕らの目の前には、動物園から逃れたと思われるガルーラがいるんだ。

何故わかるか。

それは動物園で飼育されている動物は、番号札がつけられているから。

 ガルーラは左腕に巻きつけているようだ。

 そんな感じでじっくり見ていると、突然ガルーラが予備動作を行う。

 

 僕は何をするかわかったので、物陰に隠れに全力で走る。

また周辺の人も、僕の行動を見て一拍おいて行動する。

だが遅い。

 頑丈そうなレンガと盛られた土・そこに生えている低木の陰に隠れた瞬間だ。

すぐに豪快な破砕音が、周辺に響き周囲にその破片や衝撃波が飛び散った。

またこの時、いやな音が何回か聞こえる。

 

「うああああアアッ!!」

「ひぐっ!?」

「いでえええ!!!」

「ギャッ」

 

 興味を持った彼らは、その命と引き換えの片道切符のようで、死傷から重症を負う。

 もちろんこの騒動に、すぐに何とかしようとして携帯電話を使って警察や消防を呼んだ。場所や状況、人数とそのケガの状況等。

話しながらガルーラの様子を見る。

 まずおなかの袋に子供がいないこと。

 次に足元を攻撃し、下のほうにある隙間を覗いている事。

つまり子供があの隙間に入っていって、そのあと戻ってこないか帰ってこれなくなったか、だ。

 

 

「出てこい、ツチニン」

「ニン!」

 

 キリッとした表情で出てくる。

任務はわかっているみたいだ。

 

「あの隙間を通って、ガルーラの子供を助けてきて。できるだけはやく」

「ニンニンッ!」

 

 ガルーラの地団駄を避けつつ、隙間の奥に入っていくツチニン。

 そしてガルーラが三回破砕している間、日和見な人や遠巻きに見ている人に叫んで救護を手伝ってもらった。

 また駅員さんにも協力してもらって、出血を止めるための布や縛るための縄を用意してもらう。

次に行うのは協力者の目を盗んで、ポケモンのアイテムを使うこと。

 

 元気の塊を何もせず、そのまま死傷している人にふれさせる。

ああ、死傷とはいってもまだ心臓は動いているよ。微動だけど。

 で、塊を使ったら、塊が白く輝いてその肉体に沈み込んでいった。

そしてその白い光が全身へいきわたっていき、出血とかなくなってある程度の傷が治った状態で、死傷した人が軽傷者になった。

 

 このことに僕は心底驚いて、みんなの目を盗んで満タンの薬や回復の薬を使った。

 

 スプレーという霧吹きなので、霧状の液体を肉体に直接当てた。

 軽症者はただの健常者になり、重傷者は軽症者になる。

満タンの薬は、血肉を再生させる効果がある。

回復の薬は血肉の再生といろんな効果を除く効果があった。

 ただ万能粉やなんでも直しという専門特化ではないらしく、一部の症状が残ってしまう。

 この症状というのは、にきびとかそういうたぐい。

 

 なんというか、回復の薬は満タンの薬の上位互換。

ただ専門には負けるという印象。

 

 そんなわけで、一人はおばさんで他は若い男性の二人に、なんでも直し等の実験台になってもらったんだ。

 彼らの犠牲のおかげで、またアイテムの効能を知れた。

君たちは英雄だよ。科学の進歩にギセイは必要なのデス。

 ちなみにおばさんの方は、目の下のクマとか垂れた皮とかシミ・老化した肌・ほくろ・にきび等、女性にとっての敵すべてを解消できて、すべてが終わった後”誰?”って思った。

 

これは売れる。

 

 そういえば、なんで人が破片で重症から死傷しているのに、平気なのか言っておこうか。

 

 

 他人なんて、どうでもいいからだよ。

今はガルーラだ!

 

 

 そんなわけで、傍目から見てツチニンがガルーラの子を救助しているのを確認する。

 僕はパトカーのサイレン音をBGMにしながら、ガルーラに近寄る。

 

 ガルーラは子供を笑顔でおなかの袋に収める。

ツチニンも嬉しそうに笑顔だ。

 

「よくやったな、ツチニン」

「ニン!」

 

 手の甲を挙げられるツチニンの左前足に当てる。

次に僕はガルーラの方を見る。

 

「ケガないか?」

「ガルァ」

「ふむ。一応、これでもかけとくか」

 

 ケガやにじみ出る血が見える子に、満タンの薬をかける。

すると体からエフェクトがでて、ケガがすべてきれいさっぱり消えてなくなる。

 

「どうだ?」

「ルーラ、ラァ!」

 

 子供がはしゃいでいる。それを見て、母親ガルーラは子供をしかりつける。

でも怒っているわけじゃない。しょんぼりする子供を、母親は次はやらないように諭しているんだろうか。

次はやらない、みたいな感じのやりとりをしているように見える。

 

「なあ、ガルーラ」

「ガル?」

 

 少し警戒を解いてくれているのか、意見は言えそうだ。

ツチニンは出したままだ。

 

「今ここにいても、お前と子供は無事に済まないと思う。

君は人間に危害を与えてしまったんだ。故意じゃないのはわかる。

でも、ここは人間の領域だ。君たちは邪険に扱われる」

「……」

 

 静かに僕を見ている。

 

 僕はGSボールを取り出す。

適当に仕舞っていたのを、丸いからという理由で手探りから手でつかんだんだ。

 

「ここで子供と死にたいのなら、別にいい。

でも子供が立派になるのを見たいのならば、僕とともに来てほしい」

 

 GSボールを地面に置く。

 

「これは君の人生で、君の選択だ。僕とともに来てくれるなら、この中心にある釦を押してくれ」

 

 僕は別に何もしていないけれど、ツチニンという救世主を導いたのは僕だ。

だから最終的な帰結は、僕にあると思われる。

そんなわけで、あとは任せる。

 ポケモンは聡明だ。意図は容易に分かってくれる。

正直そこらへんの泡沫で末端な人間よりも、有能だ。

 

 

 警察車両が奏でる鐘の音がとまり、救急車の緊急走行音もうるさくなってから治まった。

 きっとガルーラは後ろにいる人々の様子を見たんだろう。

 入らなければ殺されるという感じの危機感を抱くほどに。

ガルーラの表情はかわりないが、視線を横にずらした。

 そして彼女は前に歩み、ボールの釦を押して自ら捕獲されにいった。

 

 僕はゆっくりとボールに近づいて、手に取る。

 

「ありがとう、ガルーラ」

 

 よっしゃ! ガルーラゲットだぜ!

でも展開はよくないんだよなぁ。

僕は後ろを振り返らずに、前に進みツチニンと一緒にその場から抜け出そうとした。

 

「待て」

「なんでしょうか」

 

 自転車を取り出したところで、低いトーンの男性の声が耳に入る。

 

「君はポケモントレーナーか?」

「それがなにか」

「国内ではポケモントレーナーは6人と聞いている。それぞれ県内で、ポケモンショックへの対応をしていると聞いている」

 

 そりゃそうだろうね?

 たった6人に、一億二千万人の期待がのっかってんだ。

最初の起点として、故郷を重点的にやるだろう。

わからなくもないさ。

 

 でもさ、それが如何に自分たちじゃ収拾付けられないからって、銃口を向けて降伏を勧めてくるなんて、正気の沙汰じゃない。

 

「巡査長!?」

「黙れ。今はこれしかないんだ」

 

「私の人権を無視するのが、警察の役目なんですかね?」

 

「国家存亡の危機に、たかが人間一人の命を天秤にかける前提なんぞない」

 

「交渉は不可能ですかね?」

「不可能だ。即刻、上申する」

 

 香川県なんだけど、四国はJRのおかげで一応環状線として機能しているから、

四国の要石にするだろう。

ははは、笑えない。

 

 せっかくガルーラを育てられると思ったのにな。

 

 僕は愛媛県警察本部に、任意同行(強制)となった。

 

 でも僕はあきらめないよ。

ガルーラと仲良くなって、メガシンカしてやる。

 

絶対にだ!




ポケモンに罪はない。なぜなら、法の適用外だからだ。


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15:国家権力への加担

難産でした。


 

「さて……我が愛媛県、しいては日本の危機が差し迫っている。

だが、この未曾有の危機に対応できるのは、老若男女合計7人。

この一億二千万人国家の重責や期待を、その双肩にかけるには重すぎる。

 そういうわけで、まずは故郷や周辺地域で活動してもらい、雑事等になれてもらう。

 幸いここ四国はJRを使えば、4県すべてに行ける。

さらに隣県への移動手段は多数ある。

そう考えると、一番行動アドバンテージを持つのが、君だ。

 

 香川県出身の佐藤芳樹君」

 

 愛媛県警察本部愛媛県警察協会のお偉いさん方に、

一番の上座に座らされて無言と視線の重責を向けてくる。

無責任な期待に、僕の心はボロボロだ。

 

「国家の未曾有の危機において、個人の人権などおがくず同然ですか」

「その通りだ。超法規的措置として、君を公務員にする。

そしてメディアでもよく報道しているように、『ポケモンショック』の名を借り、

『ポケモンショック対策委員会』を設置することになる。

 この委員会の管理権はここの協会の者にしてもらうが、実際の行動や命令権は、

君に託されることになる。

 

 また、君は香川県を中心に、活動することになる。

しかし隣の県から、どうしようもないことが発生すれば、知恵または知識を借りることになる。

さらに本当にどうしようもなければ、君に出撃してもらうことにもなる。

その際、君にはその県や故郷の香川県、君の活動や活躍により評価が上がれば、

四国すべての警察・消防・救急・医療・公共交通機関・自衛隊の出動命令権を与えられる」

 

 

 一言一言が、非常に重い。

 

 さらに立て続けに言われるのが、今までの被害だ。

 

 初日。

高校へ行った二日目。

公渕公園と原発へ行った三日目。

そして、今日の四日目。

 

 少子高齢社会にとって、痛ましい事件が多数発生していた。

病院は解毒できないアナフィラキシーショックであふれた病人がベッドを占有し、

本来必要とする患者にいきわたらなかった。

 別の公共施設を仮設病院にして、そこで処置を行うが……。

その例の毒によって、多くの死者を出している。

すでに1000人は出ている。

 

 経済被害、人的被害。

 非常に痛ましい。

 

 汽車であの乗客や初老の車掌さんの希望を見るような目。

やっと見えた光明をとらえたそれに、訝しみの表情をもって迎えられた。

 表情は晴れやかではなかったが、言葉に語気が含まれ想像以上に救世主を求めていた。

だから僕は決心したんだろう?

 

 確かに他人なんてどうでもいいし、ポケモンのレベリングのほうが好きだ。

でもそれをほかのポケモントレーナーから見たらどうなる?

 

 僕の家族だって、他人だろう?

ならば、積極的平和主義として、率先して守らなければならない。

今までお世話になっているんだ。子供として、恩人として、仇を返してはならない。

 だから、ついでとして、みんなを守ることにする。

それが個人や末端を守ることになるんだから。

 

 

 それでも怖い。

 

 

 今後のための話し合いが終わった後、僕は寝不足で護送車の中で爆睡した。

別に帰らせてもらっているわけじゃない。

この後向かうのは、香川県の総合体育館だ。

 なんでも今後の僕の処遇について、周辺県の長と話し合うらしい。

都市機能は麻痺し、都市中央は非常に危険となった今比較的集まりやすい場所……。

かつ、危険性や安全面を鑑みた結果の会議場所となった。

 坂出は工業地帯のガスタンクの爆発で壊滅・炎上中らしいし、僕の出身地としても配慮してくれたのかもしれない。

 まあ、そんなことないだろうけど。

 

 

 早朝から昼にかけて移動。

高速道路は山中のトンネルが崩落していたり、香川県と愛媛県の高速自動車道の崩落もあったりして使えない。

今はたった一本の国道が、生命線なんだ。

 この国道は愛媛県と香川県による共同再開発計画により、拡張工事を行っている。

だけどポケモンのせいで、あまり多く進まない。

 

「……ああ。……で……る。 すまないが……」

「……どうしました?」

 

 姿勢を崩してしまったことで、目が覚める。

ずいぶんと瞼が軽くなった。

でも、脚はまだ痛い。

 

「ポケモンが出現しました」

「僕が行きます」

 

 即答だ。

 

 行かなくてもいいらしいけど、試したいことがあるんだ。

実は探索中にいいアイテムをゲットしたんだ。

これを使えば、きっと作業がはかどるに違いない。

 でも、通常アイテムだから、この二本しかない。

 よって一本しか渡せないから、何かするんだったら早急にしてほしいな。

 

 隣に座っている人に、運転手へ言伝をしてもらって僕を外へ出してくれるようにする。

外に出ると濁っていた視界がクリアになる。

 ああ、やっぱりこの香りが、僕にあう。

 

 それは磯の香り。

 海のにおいと潮風が、鼻腔をつく。

意識も共に明瞭になる。

 路側帯に入って、現場に向かって走る。

また護送車の後方にいる黒い車から、スーツを着た人が出てくる。

 

「あなたは?」

 

 走りながらなので、短くしか聞けない。

 

「佐藤様の護衛を承りました、加賀と申します」

「ご存知……の通り、佐藤です……」

 

 軽く挨拶して現場に来る。

そこは酷いもんだった。

工事に使われる重機が横転していて、その上や周辺にゴローンやイシツブテがいる。

 しかも重機のほかにも乗用車があって、中には……。

 

「っ」

 

 僕は凄惨な車内を見ないように、腕で隠して動悸も過呼吸でおさめることにした。

実際吐き気がすごい。

あの破砕によるケガは、当たり所が悪いだけのものだったから、外傷はともかく

裂傷ものでほとんどが服につつまれていた。

 だが今回は違う。

服なんて意味がなくて、もろともだ。

 

「ラッシャイ、ラッシャイ!」

「ゴローン!」

 

 奴らの気性が荒いのは、ただたんに転がって移動しているときに重機にぶつかって行動を阻止されたからだろう。

そして仲間を呼んで、重機を倒しついでに周囲も巻き込んだみたいだ。

 

「やっぱり、サイホーンと同じ類か」

 

 ついでてしまう。

 単細胞だという結論。

 

 スーパーコンピュータ並みの頭脳を持つ非常に聡明な個体から、

ただの生物としていきながらも凶悪な個体。

いろんなポケモンがいるが、これは寝耳に水だ。

 もうね、色々起きてストレス超過で、苛ついてんだよな。

 

「出てこい、ガルーラ!!」

「ガルアアア!!」

 

 僕の気持ちを知ってか知らずか、ガルーラは吠える。

 

ガルーラ

技:れんぞくパンチ にらみつける かいりき かみなり ドレインパンチ カウンター

特性:きもったま

 

 また吠えたことにより、ゴローンたちはガルーラに注目する。

 

「にらみつけろ!」

「ルァ!」

 

 注目したことが仇となったな、この石野郎!

するとゴローンやイシツブテが、腕を体に巻き付けていっている。

なるほど、転がるか。

 

「ガルーラ、カウンター!」

「ガル!」

 

 そう指示すると同時に転がってくる。

 

「ラッシャイ!」

「ゴロゴローン!」

 

 道路のアスファルトをへこませ、えぐり、地ならしし肉体となっている石で轍[わだち]をつくりながら、ガルーラに向かって転がってくる。

 

「出てこい、ヒトツキ!」

「ツキ!」

「ガルーラがカウンターしたイシツブテたちに、ラスターカノンを追撃!」

「ッキ!」

 

 その瞬間、ガルーラに向かってゴローンが肉薄する。

そして隙をみて、ガルーラがカウンターをする。

 

「ガルァアア!!」

「ゴロッ!?」

 

 空中に投げ出されるゴローンやイシツブテ。

その表情はあっけらかんとしており、驚愕といったものだ。

そんな奴らに、泣きっ面のラスターカノンをヒトツキがぶつけていく。

偏差射撃がほぼ不可能なことでも、ノーガードの前では塵にも等しい。

 次々とラスターカノンがぶつかっていき、ガルーラに追撃のドレインパンチをお見舞いさせる。

 

 目を回したポケモンたちは、しばらくしてから目を開けてすぐに山へ帰っていった。

 

 戦闘に集中していたのか、すでに緊急車両が来ており道路整理とともに流れをもとに戻していた。

まあ、この場にいるのは4台程度の乗用車とそれを超える護送バスと護衛のパトカーだ。

そんなに変わらない。

ああ、それと工事をしている人たちかな。

 

「すみません、ありがとうございます」

「いえ、仕事ですので」

 

 加賀さんは僕の左後方に位置して、いつでも身を挺して守れるようにしていたみたいだ。僕が声をかけるまで、動きがなかったから声をかけた次第。

因みに確認中は、ガルーラとヒトツキをなでてお互いに紹介させてた。

 ほかにもいるけど、緊急事態だから色々ことが終わってから紹介するようにしたんだ。

 そうじゃないと、ゆっくりすることすらできない。

 

「じゃ、二人とも、ボールに戻って」

「ガルッ」

「ツキ」

 

 二匹ともボールに戻ってもらって、作業をし始める作業員のところへ行く。

 

「すみません、ちょっといいですか?」

「ん、なんだ?」

 

 語気が強くいらいらしているようだ。

当たり前だろう。仕事仲間が、重症を負って病院へ送られたんだから。

しかも今回の計画の要だったんだろうな。

 あの重機は、アスファルト上部を引っぺがす役目だったんだろう。

 今回のゴローンのせいで、全体を破壊されたから一から道路を作らざるを得なくなった。工費の増大や納期が延長になり、ここの監督官はストレスではげそうだ。

 

「今研究所で開発中のポケモン嫌気性スプレーです」

「ほう?」

「効果は750M分の行動まで、ポケモンが直径1メートルまで近寄ってきません」

 

 僕は普通のアイテムであるゴールドスプレーを使うことにした。

中身は100人分のポケモン嫌気性物質を含んだ溶液。

効果は750Mを移動するまで、ポケモンを一定範囲内に近寄らせない。

消滅条件は、100人に使うか、使って一分経過すると透明になって消える。

しかも効果消失は、使われたポケモンや人が、750M分移動するか使用から二時間経過することだ。

 

 いつ試したかって?

 

 大丈夫。この効果は、むしよけスプレーを偶然手に入れた時に検証した奴だから。

それをゴールドスプレーの効果と重ねただけ。

 いろいろ危ないけれど、端折ったから口頭に出した説明で事足りると思う。

 

「最低二時間はポケモンがやってきませんので」

「それでも二時間か」

「すみません」

 

 こころにも思ってないことを言う。

 

「いや、ありがてぇよ」

 

 そういって彼はスプレーをもって現場に戻る。

そしてそのスプレーを全員に振りまいて、最後にはスプレーが消え去る。

このことに驚いているが、まあ別に使用したから消えただけだからなぁ。

最初は驚くかもしれないけれど、処理とかそこらへんが省略されるだけなので、

環境を考えれば非常にいいことだろうと思う。

 というかゲームのアイテムが現実に残って、環境を汚染しているとか考えたくない。

 

 僕はその様子を見ながら、護衛の加賀さんとともに護送車に戻る。

現場のことは、現場慣れしているプロに任せることにした。

そうして僕らは、香川県に向かって二時間ほどかけていく。

 ただこの二時間というのは推定で、途中のこともある。

 そう、途中……信号機とか渋滞のことだったりするんだ。

残念ながら、ポケモンによるインフラ破壊で遠回りをしなければならず、二時間三十分で高松市総合体育館に到着してしまった。

 

 

「そういえば、なぜ総合体育館なんですか?

県立図書館の隣くらいに大きな駐車場や大きな施設がありますよ?」

 

 隣に座っている高官の人に聞いてみる。

すると意外な返答が帰ってきた。

 

「駐車場は今ヘリポートになっている。ポケモンに関しての研究が、迅速に周辺県や国に伝わるように、研究施設の方針を変更し拡張開発。それとともに防衛設備の増強も行っている。

そのため県立図書館や研究施設等の周辺は、立ち入り禁止になっている」

 

 いつの間にか香川県の知識人が集まる研究施設群が、四国一の重要施設として認識されるようになってた。

 

 僕にとって驚愕でしかない事実だ。

四国は四方八方を海・川・山に囲まれているせいで、帰属意識みたいなものがない。

つまりこの4県は、まとまりがないんだ。

 そのせいで中央都市みたいなものがないし、JRや国道といった物理的なインフラのつながりだけで、郷土だったり文化的・経済的な協力といったものがない。

だからこの4県が独立して、それぞれ勝手にやっている状況なんだ。

 東京の真逆と考えてもらってもいい。

 あそこは色々周辺地域に負担してもらっている。

水道・電力・住宅地・公共機関等。河川に一本かかっている電線が切れて、周辺住宅が大規模停電になるくらい。

そりゃあもう、提携しなけりゃ生きていけない。

 

 さすがにそこまで依存するわけじゃないけど、ポケモンによって4県がまとまる可能性が高まったのはいいと思う。

四国の可能性は、この見ている方向性が違うだけで今まで発揮されてきた。

 でも今回の件で、一つの方向に向かうのだとすれば、非常に大きな力を発揮できると思う。

 

「それと、突然で申し訳ないが、着任挨拶を頼む」

「……いきなりですね」

 

 すでに総合体育館の南にある無駄に勾配がきつい橋にたどり着いている。

……ありきたりな挨拶でいいかな。

 

「着任挨拶のマニュアルは用意しておいた」

「え?」

 

 高官の人が脚の上に置いてある手提げバッグから、書類を一枚出して渡してくる。

 

「変な発言をしても、混乱しかうまないのでこれを見て挨拶をしてくれ」

「……こんなに短くていいんですか?」

「一応の建前だ。それに、どこで盗聴されているかわからんからな」

 

 まだ着任というか、公務員にもなっていないから、高官の人は当然の口調で言ってくる。そして突然の盗聴疑惑。

 やっぱり内憂外患じゃないか。情報秘匿を命じていても、結局相手は人間だからなぁ。

スパイ法案をつくってくれよ。

 

 書類に書いてあるのは、本当にありきたりな挨拶だ。

 

「えーと……今日より『ポケモンショック対策委員会』に配属されました、佐藤芳樹です。奮励努力し事態の収拾に取り組む次第です。皆様、どうぞよろしくお願い致します……ね」

「なるべく大声で、はきはきと」

「はい」

 

 護送車が体育館の裏側に停車する。

ここは雨除けがあって、傘を差さなくても降りられる。

 

 心臓が高鳴ってきた。

 無性にトイレに行きたくもなるし、呼吸が荒れてくる。

胸が締め付けられる思いだ。

こんなに緊張したのは、大学入試や面接のときくらい。

 

……いやそんなレベルじゃない。

 

 周囲には愛媛・香川・徳島・高知の県知事や警察や消防といったお偉いさん方が、スーツや仕事着を着て現場に到着していた。

一瞬だけ見えたけれど、はしご車や救急車もいた。

 さらに上空にはヘリコプターが、爆音でポケモンを退避させながら飛んでいる。

 

 そして護送車の前後に着けられた車から、スーツを着用したSPが出てくる。

 

 僕は体育館の中へ案内されていく。

途中トイレに行ったんだけど、加賀さんを含めた護衛の人の一部がついてきた。

終わらせたら、喉も乾いてきたしお腹もへってきたのを実感する。

 でもそんなこと言っていられない。

 隣に座っていた高官の人が近づいてきて、僕に耳打ちする。

 

「顔を上げるんだ。せめて俯くんじゃない。ほかの奴が見ている」

「……はい」

 

 高官の人は僕から離れていく。

 そして僕は彼の背中を見送って、脚を進めながら周囲を見る。

 

 みんな表情が引き締められている。

警察官や消防官も、着の身着のまま来ているらしく格好いい。

 

 

 初夏の昼。

 ここは冷房もつけられて、比較的快適な様子だ。

 一面にはパイプ椅子……赤い直線じゅうたんが中央のステージに向かって、入り口から敷かれている。

あのロールのやつな。

 ただ座るのはここではなく、この多くのパイプ椅子と対面するように配置されている場所。つまりお偉いさんが座っているような場所だ。

 

 僕は案内役の高官というか役人に、座るべき席に導かれてそこへ座る。

ただその場所がステージ上で、一番中央に近い場所だったりする。

目の前に水がはいったペットボトルがある。

 

 空気が厳かに張りつめていき、少しの音でも発すれば極度の殺気が満ちた目を向けられるだろう。

 

 国や県の重役が、この二時間程度で集まれるなんて思っていなかった。

徳島や香川はともかく、高知県・岡山県・大阪市の重役も来ているという。

市政も大事だが、ポケモントレーナーがどれだけ重要なのかよくわかってしまう。

 

 香川県の役人が立ち上がり、今日の会議に関することを発言する。

 

「今日本は未曾有の危機に陥っています。

この危機に直面する我が国を救うことができるのは、6人のポケモントレーナーだけだと思われていました。

しかし今日の早朝、新たなポケモントレーナー……テレビ放送でも発表されていました、最後の一人を発見いたしました」

 

 そこから熱くなっていく言葉。

その言葉を聞くほどに、頭痛もそうだけどめまいがしてくる。

 冷や汗も背中に流れるのを感じながら、眼下に望む僕よりも努力している手の届かない方々を見る。

 真剣で刺してくるような視線を、僕は浴びてしまう。

頑張って視線を下げたりしないようにする。

 

「彼は今日までポケモンに関して自己研鑽を積んでおりました。

その知識や知恵は、我々では到底至らぬものでございます。

このように祖国を救うには、申し分ない人物だということが散見されます」

 

 いったん持ち上げて、僕の紹介場面に移る。

 

 自己紹介をお願いします、と隣の人から耳打ちされた。

それと同時に司会の人も、自己紹介とこれからのことについて語ってもらうと言った。

すぐに僕は不安とともに、いっている事が違うと食いついた。

 全然情報がまとまっていない!

 まさか、恥をかかせるつもりなのか!?

 

 確かに僕は愛媛県にいたし、その発見は愛媛県だ。

だからといってこれから協力する仲となるのに、発見した愛媛県が愚か者を連れてきたと思わせようとしてるのか!

 

 隣の人は困惑している。

そのことから容易にわかってしまう。

 

「自己紹介をお願いします」

 

 すがすがしいほどの司会の笑顔。

仕組んでやがったなこの野郎!

ポケモントレーナーとかいう意味不明で若輩な輩が、自分たちの頭にたつなんて許せないと思うだろうが、結局しごとだろうが! 分別つけろ!

 

 僕は重々しい腰を上げて、緊張に震える体に鞭打ってステージ中央前方に来てマイクスタンドの前に立つ。

 

 くっ、こんな前で話すのか。

こんなのを何度も繰り返している奴らと違って、僕はほぼ初めてなんだぞ!

 

 悪態をついていても、時間は進められる。

 

 周囲に味方はいない。

どいつもこいつも厳しい目ばかりで、クソが……!

 

 僕は口を開いて、さっき覚えたはずのカンペを思い出す。

でも、そんなことできなくて、この緊張のせいで頭が真っ白になってしまった。

開いたはずの口を閉じてしまう。

 

 何を言えばいいのかわからなくなってしまう。

 

 今こうしている間にも、いろんな人が被害にあっている。

そしてここにいる人がいれば、容易に片付いてしまうことが無駄に拡大し尋常じゃない被害になっているかもしれない。

考えたくないけど、考えてしまう。

 

……僕はこの場面で、一番言ってはいけないことを思いついてしまう。

でも今この一瞬、すぐにでも終わらせたい。

 

 

 

「私は―――」

 

 そう言いかけた時、突然サイレンが鳴り響いた。

 

「何だ!?」

「いったい何が起きた!」

 

 僕の決心は一瞬にして砕かれて、緊張の糸が切れたことと次に巻き起こる事件にどうすればいいかわからなくなった。

普通の住民ならば右往左往して、狂気と絶叫にまみれる。

でもここにいる人たちは、まずは状況把握といって無線やら電話やらで情報を集めていった。

 

<皆様落ち着いてください。官邸・内閣府おいては消防庁より、J-ALERTの発令です。

緊急会議は一時中断し、各持ち場へ戻ってください。

また本日14時に置きまして、北朝鮮が韓国やその同盟国に対して停戦協定を破棄、宣戦布告しました>

 




調べていくたびに飽きていく。
EU諸国の国民性格を考えないと……。


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16:核攻撃

 

 北朝鮮の宣戦布告。

 

 

 は?

 

 

 わけがかわらない。

 

 放心しながら、遠方から響いた爆発音により覚醒。

すぐに建物の外に出ず、なるべく遮蔽物が多いところへ隠れる。

さらにSPや加賀さんたち、護衛の人が駆け付けてきた。

 

「落ち着いていますね」

 

 意外。

 

 とでもいうような彼らの表情と態度。

 

「心外です。それに、今僕ができることなんてないでしょう?」

「はい。NBC攻撃のために、今は物陰にいてください」

「わかりました」

 

 警報が鳴りやまぬまま、何かできないかと思う。

 

 ポケホ?

 僕はそいつが伝えてくる履歴が何を発表しているか、みたくない。

見たくない。

でも、見なければ……。

 

「テレビはありませんか?」

「こんなこともあろうかと、プロジェクターを用意させました」

 

 

 県知事の一人が聞くと、その部下が行動する。

そしてステージに白の投射幕が降ろされ、ステージ側の証明を落とす。

 プロジェクターが映像を投射し、とある番組を映す。

 そこには地獄絵図が繰り広げられていた。

簡単に言うと、弾道ミサイルによる二次被害で大規模な事故が発生していたのだ。

 

 対馬沿岸に建設されている監視望遠カメラで、韓国側を撮影していると大規模な爆発の炎や光が確認できた。

 また各所空港や航空自衛隊・在日米軍基地が空中を観察していると、

北朝鮮のミサイルが空中を飛んでいるポケモンにあたって誤爆。

大きな被害を抑えることになったが、そいつによって発生した衝撃波が地上を襲うことになった。

勿論地上軍だって何かしようとした。

 でもPACとかSAMとかで攻撃しようにも、ポケモンにあたってしまう確率が高すぎてどうにもできない。

 この攻撃を充てるには視認から急接近して、そこからQAAMのような行動をさせればいけなくもない。

 

 もっとも画像認識だろうと、撃墜できるような攻撃力を持たせられないという。

 

 

<こちら関西国際空港です。

今日も大変混雑しておりますが、ポケモンショックの影響で混乱に変わってしまっているようです>

 

 生放送のようで、いろんな視点のカメラが画面切り替えで、いろんな場面を映していく。

 

<日本を含む世界に出現したポケモンによる影響は、国民の生活に影響を与えその範囲は甚大な被害を齎してます。

ここ関西国際空港では、全ての航空便が欠航しており、外国人観光客や国内観光客に混乱が広がっています。

 また食料品にかんしてですが、まだたくわえがあり高騰化している中でも比較的安定した価格で、提供できていると関係者は仰っていました。

 ですが見通しはまったくつかず、お先真っ暗との意見も多数見られました。

ここ一週間が、政府の対応により国民の皆様の生活に左右される期間にんsちmsづ――>

 

「ん?」

 

 音声と画像が乱れる。

 ここに待機している役人が沈黙をやぶって、訝しんだり唸る。

突然画面が、というよりカメラが飛ばされて回転する。

カメラのレンズには血が一部張り付き、ガラスか何かがカメラレンズを傷つけていた。

 そしてカメラが映すのは、真昼間なのに上空が輝き地上のものをひれ伏させる何かを放った事実だ。

 周辺には多数の人が倒れている。

 

 すぐに映像が……切れなかった。

 

 なにも反応がない。

 

 突然体育館の扉に、スーツを乱して人が入って来る。

 

「き、緊急通達!」

「何事だ!」

「大阪府上空に気化弾頭! 衝撃波と熱、酸素が奪われて、急速な酸素欠乏により外出している市民が……! とにかく、事態確認とともに、応援を!」

「わかった。至急、大阪府に救援を――」

 

 僕はみんなが騒然としている間、スマホを見る。

 

「何?」

 

 ポケホを間違って見てしまったが、偶然左手の親指が触ったところが履歴だった。

その履歴はほとんど触っていないため、トップの日本関連情報の場所になっている。

 

 そこにあるのは―――

 

 

 

『北朝鮮、東京へ戦略核弾頭発射』

 

 

 

 

―――!

 

 

「け、県知事!! 東京に、核爆弾が!!」

「何! スマホはまだ機能しているのか!?」

 

 僕は焦ってしまって、大声で言ってしまった。

そして香川県知事は、僕が手にもつものをみてスマホだと勘違いしたらしい。

 

 

 カチッ

 

 軽い電子音で手のひらの中にあるポケホが震える。

何事だと思って、ポケホを見るとそこには驚愕の事実が待っていた。

 

 

 

『戦略核弾頭、レックウザにより破壊。EMP効果なし』

 

 

「え? あ……え……?」

「どうした?」

 

 みんなが訝しんだ顔を向けてくる。

僕は唐突な情報更新に唖然として、声を詰まらせてしまった。

だから返答なんて、いきなりできるわけじゃなくて。

でも言わないと混乱してしまう。

 

「ポケモンが核弾頭を破壊しました!」

「「な!?」」

 

 知事がいるため大はしゃぎできないが、小さなガッツポーズやほほを緩ませる人が数少なくいた。

 

 ただ、宣戦布告からまだ30分も経過していない。

国が戦時体制に移行する前に、どうにかなりそうな気がする。

でも、戦後元に戻るとは思わない。

 大阪があんなことになったんだ。

 きっと戦後賠償は酷いものになると思う。

 

「君。スマートフォンを持っているかね?」

「はい」

「今回の情報源は、どこのかわかるか」

「いえ。Yahooニュースや国からの緊急速報もありません」

 

 知事が配下や自衛隊の情報を扱う人と会話している。

 わかっていたことだけど、ポケホを見せるしかない。

ただその効果は、身をもって知ってもらうことになるけれど。

 

「佐藤君。君のスマホは、どこのものだね?」

「これはスマホではありません。ポケモンのスマートフォン、通称ポケホです。

申し訳ございませんが、これはポケモントレーナーしか使えません」

 

 そういうわけで譲渡もそうだが、接触させられない。

しかし僕の護衛についているSPや加賀さん以外の人が、僕のポケホを奪い取る。

 するとすぐに画面が真っ黒になって、電源も切れてしまった。

 非常に苛ついたけど、これはいい感じに仕返しできた。

 

「やはり彼が言ったことは嘘のようです。これを見てください。何も映っていません」

 

 んだと、こいつ!

 

 こいつがポケホの操作をしようとした瞬間、バチッという音が聞こえた。

するとこの男が腕全体を振動させて、ポケホを地面に落としたんだ。

きっと感電したんだろうな。

 僕はこの機会を逃さずすぐに取り戻して、電源を入れて見せる。

うん、不具合なくちゃんと起動する。

 

「私でなければ、こいつは作動しません。指紋認証・体温認証・遺伝子認証等、

ありとあらゆる情報を瞬時に取得し、最初の作動時に登録した情報と合致しなければ絶対に電源すら入りません」

 

 僕からポケホを奪った乱暴な奴は、怒った様子もなくしびれる腕をもう片手で握っている。

 

「なるほど。ならば、そのポケホを渡しなさい。四国技術研究所で解析し、下位互換のものを配給し、生活を安定させる」

「残念ですが、これ一つしかありません。ポケモントレーナーは、ポケモンと意思疎通ができるだけの一般人です。

ですので確実な情報端末が必要です」

「だが国民を救うにはそれしかないのだ。たしか7人か。ならば7人を招集し、一台を分けて使えばいいだろう。

残り6台を使えば、情報も研究も進む」

 

 こいつの目や口調が、徐々に笑みやら饒舌になり始めている。

 この香川県は、ほかの奴らを出し抜こうっていう魂胆か。

それとも開発できたら、主導権や既得権益を握るつもりなのか?

香川県知事は、自民党だ。

 派閥は違えど、党は同じ。

 非常に面倒な!

 

「ふむ……話は聞かせてもらったが、性急じゃないか香川県知事殿?」

 

 そういって僕ら香川県民の内ゲバに絡んでくる人がいた。

 その人は若干恰幅がいい人で、今までの役人よりも知的な姿をしている。

というかこの人、よくメディアで見たんだけどいつのまにか消えてたなぁ。

 お、この人が県知事に絡むと、いやな顔をよそへ向けてしたあとすぐに笑顔になって向き合った。

 

「おはようございます、松井大阪府知事。

この度は香川県のポケモントレーナーを拝見するため、ご足労遥々――」

「事態は急変しています、今は悠長なことを言っていられないのではありませんか?」

 

 あれ、大阪府長?市長はどこだろう?

 

「それもそうです。しかし体裁はございますので。そういえば、大阪市長殿はどちらに?」

「今日は忙しいとのことで、公民党大会を市役所で行うとのことです」

「なんと!? このような事態に、ポケモントレーナーと親睦を交わさないとは。

ポケモンよりも市民を考えるとは、なかなか頑強な御仁ですな」

「真に」

 

 お互いに笑いあっている。

 いやいやいや、なんという皮肉のいいあいだよ!?

たしか大阪って二重行政で……。あ、市長って大阪市内にいるんでしょ?

気化爆弾で関西国際空港周辺がやられているから、そろそろまずいんじゃないの?

さすがに核シェルターくらいは持っているかー。

 

 ちなみに香川県に気化爆弾は来てない。

 その代わり瀬戸大橋上空でポケモンに衝突し、そのままロープや鉄橋を熱と衝撃波で老朽化を進行させたんだ。

まじ、FUCK。

これで岡山県知事帰れなくなったんじゃないか?

 

「たしか……佐藤芳樹君だね?」

 

「あ、は、はい」

 

 唐突に話を振られてびっくりした。

プロジェクターが投射してあるステージ上から、いまはパイプ椅子がある程度片付けられた体育館後方にいる。

投射の光量から照明を少なくしているので、この薄暗い中で挨拶をしなければならない。

今もこのプロジェクターは、日本国内の惨状を伝えるニュースをしている。

 そして松井大阪府知事は、僕の方に来て目線を合わせてくる。

後ろの方には、護衛の方や役人・高官の方々がいらっしゃる。

すごく怖い。

 

「そう緊張しなくていいよ。これから私たちは、協力し合わないとこの未曾有の危機に立ち向かえないんだ。

私は松井一郎。大阪府知事という大阪府を導くしがないおっさんだ。

君の友人であり仲間でありたいんだ」

 

 そういって手を差し出してくる。

 

 僕はそれに視線を集中した後、周囲を見てしまった。

やってはいけないということなのに。

 もちろん周囲の視線は、ほぼ無表情の視線ばかりだ。

 この無言の圧力は、あの檀上で浴びた無責任な重責と同等の威圧感だ。

僕は彼らの無言の圧力と目に耐えられない。

 

 どんな思想や思惑を抱いていようが、僕という未知のポケモントレーナーに体裁であっても整え、仲間として引き入れる。

そんな懐の広い人物の傘下に入っていたい。

 そもそも経済力が違うし、これから大阪府は壊滅するんだ。

 だったらポケモンを流用した抜本的な改革を成せるだろうし、二重政治もなくなると思う。

 

「……」

 

「……」

 

 猜疑の視線を送るが、彼ははりついた笑顔を崩さない。

これがこの世界のプロだ。

抗えるわけがない。そもそもただの高校生に、権力者に立ち向かえるわけがない。

 

「……私は佐藤芳樹です。ご期待に副えるかどうかわかりませんが、

やるだけやって……あぁ、いや、粉骨砕身、奮励努力……します。

よろしくお願いします」

 

 希望的観測の言葉は、彼らにとって必要ないって思った。

やるしかないんだ、彼らにとって。

やらないと自分たちの命が危ないし、税金すら入ってこない。

さらに求心力は低下して、彼らの明治維新からもじったその政党名とその矜持が妥協をも許さないだろう。

 

 手?

 

 僕ごときがとれるとでも?

だからと言ってここで手を取らないと、僕が大阪府知事と結託したとは思われないだろう。

よって手を取ることにした。

 

「よろしく、佐藤君。さて、私たちはしがらみのない運営をしよう、という心持があるんだけど……。

君にはこれから、私たちに光明を見せてくれないか?」

 

 は?

 

 唐突な提案に僕の頭は、再び混乱に陥った。

あの檀上で指示されたアレと同じことじゃないか!

くっそ、めんどうな!

 

「今、この世界に存在するポケモンたちがどうなるのかは、君の言葉ですべてが決まる」

「そんな……!」

 

 あまりの重圧に耐えきれず、言葉が出てしまう。

中身のない無意味な言葉。

 

「現状そうなってしまっているんだ。

君には悪いが、ほかのポケモントレーナーを待っていられるほど我々に残された時間はないのだよ。

 ポケモントレーナーはポケモンとの共存・融和を唱えている。

しかし彼らがいない我々は、文明レベルが大正時代よりも悪化する可能性がある。

そうなると我々は、ポケモンを排除することになってしまう」

 

 排除……。

 あの放送で核放射やミサイルが効くことは、通常の生物よりも頑丈だけれども死に追い詰めることは可能だと発表されている。

そして府知事の表情は、険しいといって過言ではない。

 実際この4日間、人口が集中し多くのならず者がいる大阪府にとってこの状況は不利益しかないと思う。

 だからポケモンを早く掌握したんだろう。

わかるけど。それじゃだめなんだよ。

 

 

 

「ポケモンはただの生物じゃない」

 

 

「感情も知識もあり、思考ができる。

人間の言葉を解することができる。

彼らは人間に従えるが、従わすことはできない。

ただ彼らは本能的に、手助けをしたいだけなんだ」

 

 

「なるほど、君の言いたいことはわかった」

 

「え!?」

 

 口に出てたのか!?

 やっべ、やっべ、どうしよどうしよおおおおお!!?!?

 

 焦りで何を考えていたのかもすら忘れてしまう。

そして僕が混乱しているさなか、目の前の府知事は落ち着いていう。

 

「関西集中審議を行いたいが……よろしいかな?」

 

 僕が混乱している中、大阪府知事が周囲の意見を纏め上げていく。

彼らの様子を見て少し気を落ち着かせることができたので、周囲を視認してみんなの表情をみてみた。

皆神妙な表情をしているが、ときたま衝撃波がこの体育館まで届いている。

 この度にみんなが表情を暗くしていき、最後に高知県知事が口を開いたんだ。

 

「かまいませんが、7月27日と28日に行われる全国知事会議はいかがしましょうか?」

 

「……5月31日に、【日本創生のための将来世代応援知事同盟サミット】を仙台で行うらしいじゃないか。

現在茨城には、関東地方をまとめて面倒見ているポケモントレーナーがいる。

我々大阪はそのサミットを利用し、茨城や東京と掛け合うことにしよう」

 

「松井知事、それはなりません。市長や周囲の邪魔ものどもが、あなたを妨害してきます」

 

 側近の人がそう諫言すると。大阪府知事は腕を組んで考え、言を発する。

 

「……外は音と熱で満たされ、ある程度の核放射がある。ここで全てを決めよう」

 

 大阪府知事松井一郎氏は、集まった都道府県知事の中で一番のGDPを誇るがため司会として音頭を取る。

そして周囲にいる役員や立場上従わざるを得ない人たちが、プロジェクターはそのままに

椅子や机を倉庫やステージ下の格納庫から取り出して簡易な会議場を作り出す。

 ときたま窓の外から閃光と爆発音が聞こえる。

 そしてそのたびに県知事やその役職員の携帯バイブレーションが、今いる空間に響く。

この度に僕は恐怖と緊張で、完全に直立不動になってしまった。

 

 

「佐藤様、こちらへ」

 

 加賀さんが僕の近くによって、背中に手を回しもう片腕で席まで案内される。

 場所は大阪府知事の隣だ。

ただ僕のさらに右隣には、香川県知事の浜田恵造氏がいる。

勿論右手後方には、書記の方がいらっしゃって会話内容を独特の記号で書いていっている。

 

「加賀さん、ありがとうございます」

「仕事ですので」

 

 席に座ったら、加賀さんも後ろの方へ下がる。

 

「これより、関西圏集中審議を行う」

 

 大阪府知事が、そう切り出した。

 

 



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17:大同盟

 会議が発動されるのとともに、照明が明るくされた。

プロジェクターも移動されたけれど、報道を流し続けるままだ。

報道内容に気が向けられがちだが、手元に資料を置く役員を見てすぐに視線を戻す。

 

「短時間で仕上げましたので、少々荒がありますがご了承ください」

 

 そう耳打ちしてくる。

 ご了承とか言っているけど、むしろどこで書類をまとめていたのか聞きたいよ。

 

「さて、お手元の資料を順次見ていただきたい。

基本的な進行もあるが、大阪府より危機管理監の大江さんから報告を」

 

 そういって視線が向けられるのは、大阪府の災害・危機管理・治安維持に関する安定と安全その維持を担う危機管理の長、大江 桂子氏。

彼女は毅然とした態度で手元の資料を一瞥し、その場に立ち上がる。

 

「率直に申し上げますと、異例の事態によりマニュアルが役に立っていません。

現状役に立っていますのは、渇水・断水時の行動等でしょうか。

とにかく、ポケモンによる被害は大なり小なり、幅広いので手を付けるにも一度被害を総括しなければなりません」

 

「どんな被害がある?」

 

 そういうと彼女は胸元から手帳を取り出す。

それを見たかと思うと、言葉を羅列し始める。

 

「電気の収奪、金属製物品の浸蝕、路面液状化・インフラ断絶・ビル倒壊・ライフライン断絶、ポケモンによる死傷者・漁業や農業等食料自給率の一時的ゼロ・一級河川へのダム建築・石油資源や輸入製品の高騰・トンネル崩落・高速自動車道崩壊・身体異常者の急増・帰宅困難者の増加等。ほかにも多数あります」

 

 うへぇ。

 

 これだけでもかなり来るのに、消防・治安維持・健康医療・インフラ・ライフライン・鉄道・教育・都市整備・商工労働等、いろんな課や部より報告が相次ぐ。

この情報が大阪府だけのことだというと、かなりきついんだけど。

 

「次にポケモン対策として、ポケモン対策課を立ち上げそれぞれの問題に立ち向かうわけですが……。

このポケモンに関して、意見のある方お願いします」

 

 そういうと全員の目が、僕に向けられてくる。

 

 ビクッと体が強張ってしまって、心臓の鼓動が跳ね上がる。

何を使用にも、緊張してしまって立ち上がることも、何か言おうとしてもつぶやくだけで

全然できない。

 すると左肩に何か暖かいものが置かれた。

 

 手だ。

 

「大丈夫。私語でいいし、目を閉じて独り言でもいい。私たちに、君のポケモンへの夢を、教えてほしいんだ」

 

「……っ、わかりました……」

 

 僕は深呼吸して目を閉じる。

 

「ポケットモンスター。ちぢめて、ポケモン。

この不思議な生物は、世界に100、200、300、それ以上が出現しています。

森に、野原に、海に、噴煙たなびく火の山にも。さらに、大都会や土の中にもいます。

彼らはとても賢く、とても無垢です。善悪関係なく、人を助けようとする本能があります。

彼ら一匹一匹は、とても弱いですが結託されると、天変地異を巻き起こします。

しかも感情や心もあるので、取り扱いには十分注意が必要です。ペットではありません。

人生を共にするパートナーです。

 私たちが未曾有の危機に陥っているのは、ポケモンたちが地球に慣れていないからであり、この地球になじんでもらうには人がポケモンと手を取り合い、寄り添っていかなければなりません。

もしも現状維持を貫くならば、文明は大きく後退し地球生物は絶滅の憂き目を見るでしょう―――」

 

 僕は色々話した後、”最後にポケモンとともに歩めば、現代社会は次の段階に行けます。

そしてなにより、人手不足が解消します。”と言った。

そしたら商工労働関係者が、唸り考えるそぶりを見せた。

 

「彼の言うことを真実だとうのみにして、研究は独自に行いましょう。

さて、次にポケモンをどのようにして利用するのか。

教えてくれるかな?」

 

「……加賀さん、僕の荷物どこですか?」

「持ってきます」

 

 僕の右手後方に控えている加賀さんが、僕のリュックサックが持ってきてくれる。

 

「ありがとうございます」

 

 受け取ったら中を開けて、そこから偶然拾ったモンスターボールを取り出す。

 

「この紅白のボール。モンスターボールと言いまして、ポケモンを捕まえる道具です」

 

 釦を押して、収縮状態から通常状態へ戻す。

するとおおっ、と会議場の皆さんが声をあげた。

まあ、気持ちはわからなくもないよ。

 

「オーバーテクノロジーなのは、この際無視していただけるとありがたいです」

 

 一度話すと緊張が取れて、驚くぐらい饒舌になっちゃった。

雰囲気に馴染んだっていうのかな?

でも表情筋は死んだままで話す。

 

 たまに噛んでしまったり、お医者さんをお医者しゃんと読んでしまったりするのは許して。

 

「さて、この中にポケモンが入る機構を、簡単にご説明します」

 

 モンスターボールを開いて、中の機構が見えるようにする。

遠くの人は申し訳ない。

プロジェクターを使えば行けるけど、そんなカメラと配線を持ってきている人はいないようだ。

しかたないね。

 

「といっても大半が企業秘密らしいので、詳しくは言えませんが。

まずこのボールは、第三世代のボールです。

初代はポケモンのネットを使ったもの。

そして二世代はガンテツと言うボール職人がつくった球体状のものに、ネットを張り付けたガンテツボール。

最後の三世代目は、ポケモンの特性を生かしそれを突いて収納可能にした電子ボールです。

 ポケットモンスターは、いわば情報生物です。

 いや、既存の生命体は遺伝子情報でできた生物ですが、ポケモンたちはそのはるか上位にいます。

 実はポケモンたちは、大昔人が馬を飼育するような方法で管理されてきました。

そして一部の資産家は、マイクロ波を放つ宝玉をもってポケモンを所有していました。

 

 大昔は群雄割拠による戦争が相次いでいたので、その飼育方法でよかったのですが

時代が移り変わってくるとコストパフォーマンス等が問題になってきます。

敷地の問題や地価の問題もありますし、時代の流れ的に当然の風潮でした。

 

 これらの動きによってポケモンをどうにかして、狭い土地で有効活用したいとして発見されたのが、ポケモンの収縮性です。

研究者は彼らを狭い空間、そう人間なら発狂する狭い空間に閉じ込めそこからさらに狭めたのです。

物理的に。

 そうするとどうでしょう、彼らは体を丸めちいさくなったではありませんか。

 これでお分かりだと思いますが、ポケモンにはポケモンの素材というわけで、

ポケモンから取得した木材にポケモンの粘着性の高いネットを使って、

高速度の拘束で狭い空間にポケモンを押し込めました。

 

 ポケモンはネットに引っかかると、手のひらに収まるくらいに収縮し、小さくなります。

勿論出すときは、ネットからはじき出すのです。

するとポケモンは大きくなります。

 そんなこんなで時代は変化し、ポケモンのネットは電子光線に変化しました」

 

 話を締めくくるとネットから光線になったことに、頭を抱える人がいた。

実際赤い光線を見せると、喜怒哀楽する大人たちが見えた。

 

「うっそだろ……?」

「ポケモンすごいな……」

 

 

 観点が違う気がするけど、まあいっか。

 

「これは面白い。ポケモンの制御方法の一つが分かったが、そのボールはどこにあるんだい?」

 

 浜田恵造氏が興味津々に声を弾ませて聞いてくる。

まあ当然といや当然の疑問だよなぁ。

 

「既存のものでいくらか持っていますが、絶対数が足りません。

後日ポケモントレーナーとやり取りできないか、探ってみます」

 

 じつはポケホの機能を全く使っていないんだ。

使ったのは日本に関する世界情勢や履歴、ポケモン図書館の項目・ダウジングアプリくらい。

電話は僕のスマホでもできるし、ポケモン図鑑のかわりとして機能するはずのポケホを使っていないことは、当然のごとく大問題だった。

 ほかにも機能が解禁されていたらいいな。

 

「次にポケモンの有用性について、話してもらいたい」

「はい」

 

 まず羅列するのは……。

 

「最初に労働者の埋め合わせについてです。

やっちゃいけないこともここで暴露しますので、ご了承ください」

「む……」

 

 ここだけ笑顔にできた。

そのおかげで、わくわくしていた人たちに緊張の色が出た。

 

「ポケモンのことについては、そのままうのみしてください。

質疑応答はこの後受け付けますので。いいですよね、大阪府知事松井さん?」

 

 すんごい無礼者だよな、僕。

驕る愚か者にしか見えないから、今後は戒めておきます。

 

「構わん。たっぷりと言ってくれ」

 

「では。ウルトラホールを使って、異世界の物品を輸出入しほか惑星との異文化交流を図れます。

これによりワームホールも光量子宇宙船もいらないので、簡単に移民や危機回避を行うことができます」

 

 真顔でいうと、周囲の方は”は?”という表情だ。

 

「次にエスパータイプのポケモンの中で限定的に覚える、テレポートという技を使えば、

一度見たところへ何度でも転移できます。そう、一瞬で。

これにより、宅配業者は勿論、移動インフラへの革命が発生します。

またこのテレポートを科学的に解明できれば、人の時代はゼロ距離革命が発生し

きっとテロも増えるでしょう」

 

「体温一万度のポケモンもいますが、大気や周辺物質による冷却で周辺気温が低下していますが、そのものを集め地熱発電や火力発電を行えば、ごみ問題やエネルギー問題が簡単に解決します」

 

「飛行タイプは風おこしから暴風を発生させられます。風力発電が捗りますね」

 

「ポケモンは雨・あられ・砂嵐・日照り・一斉発芽・一帯の電子発生・台風等天変地異を起こせます」

 

「ポケモンはたまごグループという、子孫を残せるくくりがあります。

例えば空を飛んでいる燕と北海道にいる鶴は、どちらかが雄か雌であるなら、

雌の子を卵として産めます。明らかに人っぽいポケモンも、すべて卵生です。

胎生ではありません」

 

「ポケモンは、タイプというもので分けられます。

ノーマル・ほのお・みず・くさ・でんき・こおり・かくとう・どく・じめん・ひこう・エスパー・むし・いわ・ゴースト・ドラゴン・あく・はがね・フェアリーです。彼らは単一のタイプか、二種のタイプを持つ複合種がいます」

 

「ポケモンは成長し進化します。生物の万年単位の進化とは違いますが、意味合いとしては進化が相応しいかと。

この進化のほかにも、ある一定の条件下で肉体や能力の一部が変化します。

またポケモンも一般のものから、伝説のポケモン・幻のポケモンというものが存在します。

さらに異世界のポケモンも存在します。

 異世界のポケモンもそうですが、彼ら別分類のポケモンは惑星全体へなんらかの影響を及ぼすことが確認されています。

 

 たとえばグラードンというポケモン。

高さは3.5M、重さは約1トン。タイプは地面で、特性はひでりです。

分類は伝説のポケモンです。

 そのものは、大雨に苦しむ地方に出現し雲を追い払ったり、大地よりまぐまを呼び寄せ大陸を増やしたりしました。

またグラードンが齎す日照りは、数時間で旱魃になるほどの日射量になります。

長袖が必要ですね。

 ただ彼はそれだけにとどまらず、ゲンシカイキという状態になると海を蒸発させ、すべてのものを水蒸気化させます。

かなり優しめに申しましたが、もしもそのものが出現するとなると緊急事態宣言をしなければならないでしょう」

 

 いろいろと知っている事を羅列して、人にとって有害なこと利益になることを交互に言っていく。

そして10分ほど喋ったら、ストップをかけさせられる。

 

「わかったわかった。もういい……頭が痛くなる」

 

 総評。

 

 ポケモンと共存しよう、です。

 

 緊急の議会だが、ここにいる人たちは偉い人ばかり。

一般ではなくクレムリンが知っている事こそが重要と言っていた。

つまり政策を行う人が知っていると、解決策を見出せ公務員を動かせるので

迅速な対応が可能になるということだ。

 

 

「……次に行うのは、佐藤芳樹君の配属先だ。君はどこがいい?」

 

 いきなり話を振られた。

 

 僕は思案する。

 

 普通に香川県がいいよね。

だってほかの県もそうだし。

でもそうするとほかの県のことも放っておくことになってしまう。

そうすると経済危機もあるし、ネットがあるとは言っても対応できるのは相当先になってしまう。

 そんなことをすると経済力が低下してしまうし、貯金していない人は真っ先に金欠になってしまう。

 だから香川県だけにいるのは、僕のわがままでしかない。

さらに言うとこの先香川県が、経済的優位になれるとは思わない。

 

 だから大阪を中心にして、いろんなところに行けたらと思う。

 そうすれば明石大橋や新幹線・在来線を使って、周辺区域にいける。

 

「あの……ポケモントレーナーは各県にいないので、有事は私が向かうことになるのは、

承知しています。ですが、すべてを回ると、過労死します。

今はポケモン対策のマニュアルを、これから作られるであろう同盟か何かの

サイトに作っていただけないかと……」

 

「ほう、君は同盟をお望みか?」

 

 岡山県知事がにらみつけてくる。

 

「あのですね、各県のホームページにポケモンマニュアルなんて作ってみたら、整合性に欠けます!逐次更新するよう努めますが、現状ポケモントレーナーは北東と南西に固まっているんです!言っておきますけど、ポケモンの力を舐めないで下さい!

沖縄は琉球・北海道はアイヌとして共和国を建国し独立できる可能性があるんですよ!?」

 

「我が高知県では、黄色い象が子供を多数さらう事件がありました。

救出しようにも頑なに固辞され、剰え警官にかみつく子供もいました。

つまりそういうことでは?」

 

 高知県や愛媛県の知事は、四国の統治者として自称する岡山県知事をにらみつける。

それを香川県知事は心配そうにしている。

徳島県は大阪と近いからか、そんなに気にしてないみたいだ。

 

 力関係がよくわかるなぁ。しかも愛媛は広島と近いし、そこからもあるんだろうなぁ。

 

 僕は啖呵を切ってしまってそれに便乗した三県の動きに、あたふたしてしまった。

 

「まあ座りなさい、佐藤君。皆様もお手元の綾鷹を飲むことをお勧めします」

「選ばれたのは綾鷹か……」

「液体なら同等の力を分配できる。ならば、同盟という入れ物を作り、同じ力を分配できるようにすればいいのです」

 

 

 そこからは大阪府知事が、のちの根回しも含めて今はこの6県で同盟を組もうと話を切り出すことにした。

この同盟は基本的にポケモン対策のため、ポケモン災害への迅速な対応をするためのものとして、ここに設立される。

 岡山県や香川県の関係者は、苦々しい表情を作る。

 だが岡山県は四国から人口を吸うための瀬戸大橋の復旧、香川県は

地盤が緩い三角州に経済圏が集中していることからこの同盟に入らなければ、

恩恵を受けることはほぼ不可能であることを知っている。

そもそも県民が許さないだろう。

 

 というわけで、署名することにはしたんだけれども……。

 

「まずはポケモントレーナーを増やすことを急務とする。

これは佐藤君と大阪府等各都道府県の企画課に任せればいいだろう。

そして各分野にポケモントレーナーを、最低10人は各県で充足することだ」

「モンスターボールは、早めに準備させていただきます」

 

 

 そんなこんなで話がまとまるが、重要な奴を決めていない。

 

「名前は?」

「ああ、名前か。君が付けるかい?」

「関西広域連合」

 

 全員の目が驚愕の目で、僕を見てくる。

さすがに何度も緊張してたら、脳が麻痺したのかあまり緊張しなくなった。

その目は猜疑とともに敵愾心もあるのかな。

でも、最終的には、地方分権もしてほしいよね。

 

 いつかは来る、地震テロのためにも……。

 

「たしか今、総理はアラブ首長国連邦にいるんですよね?

まあ、物理的に帰ってこれないですし、電子メールも無理ですね。

ヤフーとか国内の一部にしかつながりませんし……。

 国の連絡手段がどうなっているかは不明ですが、一週間は無理でしょう。

そういうわけで国が動いていない中、私たちで国の代わりに動かなくてはなりません。

官房長官もいらっしゃるようですが、東京ほど外国人がいる場所はそうそうありません。

茨城のポケモントレーナーは大変でしょうね。

 そういうわけで、大阪府による道州制と地方分権で管理の単純化とポケモンテロへの対策として、これをお勧めします」

 

 僕が自分のポケモンの意見を申し立てた時以外、会議は踊ったがあんまり進まなかった。

みんな政党が中道。だからこそどうにかなるかと思えば、自分が持つ改革のせいで、全然進まなかった。

多分一番ポケモンに対して真摯なのは、高知県だと思う。

流石は薩長土肥の国。政治への取り組み方が違うと感じた。

 

 

「佐藤君。君はどこまで広げたいんだい?」

「山口は佐賀と福岡でつながると思いますので、広島州と大阪州で分けましょう。

茨城は名古屋州を。佐渡は仙台州。北海道はそのままで、福岡州は佐賀と鹿児島が、

沖縄は沖縄でいいでしょう。どうです?」

「……ずいぶんと肝が据わったな。いいだろう。君のポケモン連合に、

関西広域連合を組み込もうじゃないか」

 

 大阪府知事がそう口約束をすると、大阪府の役人たちが頭を抱えた。

企画課の人や総務部は机に突っ伏した。

 

が、頑張れ~。

 

 

「さて……帰ろうにも帰れないからなぁ。府県知事以外で、意見のあるものは手を挙げてください」

「……」

「ではあなた」

「はい。愛媛県の地域活性化委員会の森田です。現在日本はシーレーンがやられていますが、畜産農業等資材や食糧等今後どうするのでしょうか」

「つまりそれは、ポケモンを飲食に適用できるかどうか……ということですね」

 

 府知事が取り仕切る。

そして意見を周囲の人に聞きながら、ほかの県知事は自分の領域の人と話して話をまとめている。

発言権が高い僕らの話に、まだついてこれていないからいったん周囲の人へ話を向け、

時間を稼ぎつつ手持ち無沙汰をごまかす方法だ。

 その意見の中には、当然のごとくポケモンを飲食に転用できるかというものだった。

 この世界にいるポケモントレーナーの絶対数は、限りなく少ない。

すでに戦争とかで死んでいる可能性もある。

だから今でも減っていると考えられる。

 

 しかもこの地球において、ポケモンの知識がある人はポケモントレーナーとその周囲だけ。

だから元の世界に存在するポケモンプレイヤーたちによる忌避感は、

ほとんど存在しないといっていい。

彼らは不思議な形をしていれど、ただの生物なのだから。

 

「食料ですね?まず、闘牛はケンタロス、乳牛のミルタンク、

ミツバチはミツハニーやビークイン、クジラ肉はホエルコとホエルオー、

花粉団子を作るアブリー、魚肉であるヨワシとバスラオ、卵そのもののタマタマ、

バナナなトロピウス、種によるが果実栽培のドダイトス、サクランボはチェリンボ、

甘味料なヤドンのしっぽ、クラブのはさみ、ラッキーやハピナスの卵、

果物であるアマカジ、甘い蜜を集めるクサイハナ、

氷菓子を実らせるユキカブリ、マケンカニ・ウデッポウ・ブロスターのはさみ、

育ちで臭みが変わるコイキング、サメハダーのフカヒレ等ですね」

 

「ポケモンの総数は?」

「確認されている中で800はいきますね」

「うむ……少ないな……」

 

 やはりそこか。

 

 800という数を誇るけれど、そこまで食用のポケモンはいない。

ほとんどが複合タイプで、毒を持っている生物が多くいる。

さらに現実の生命体では考えもしないような器官を、ポケモンは当然のように保有している。

 

 例えば電気袋。

 

 デンキナマズや電気ウナギ……有名どころだとこんな感じ。

他は超音波を発生したり静電気とか高圧縮ガスとかもあるだろう。

それでもポケモンたちにはかなわない。

 とあるポケモンなんざ、自前のジェットエンジンもってるからな。

 おかげで周辺にEMP被害が多発する事態に陥ってしまうだろう。

 

 うん……こりゃ大変だ。

 

 

……

 

 

「時刻は17時を回りました。今日のところは……」

 

 そのように大阪府知事が締めくくろうとしたとき、迷彩服を着た人が音を立てて

体育館の中に入ってくる。

 

「何事か!」

「会議中失礼いたします! 本日15時にて、北朝鮮にクーデターが発生しました!

彼らは金総書記や先軍政治を取り仕切る者を逮捕。

また処刑は18時に行い、新たな国を建国する旨を発表しました!」

「何だと!?」

 

 

 僕は今トイレ休憩から帰ってきたんだけど、ものすごいことになってしまった。

ポケホでも見てみたんだけど、クーデターの朝鮮人民軍が韓国や中国など全世界に向けて終戦宣言をした。

また此度の世界アルマゲドン計画、ICBM乱射についての責任は総書記が負う。

そのため最も苦しい処罰を与え、無期限強制労働刑に処し、一生その肉体と命で

世界の安寧を償ってもらうことになった。

 

 宣戦布告から半日も経過していないけれど、米国を含めた遠い国々はそれを了承した。

理由はポケモンによってそっちにいけないのと、核兵器以上にポケモン被害が深刻化していること。

よって北朝鮮に関しては、ほぼ放置されることになる。

 まあアメリカに関して言えば、日本の第七艦隊や韓国にいる在韓米軍に指揮を任せようとしたが、北朝鮮の宣戦布告同時攻撃のせいで70%以上が壊滅し、バンカーバスターや穴を掘るで地下指揮所も破壊された。

結果韓国は北朝鮮が優位のまま終戦することになった。

さらにこの戦争は、初めて人間がポケモンを使った戦争として記憶されることになる。

 

 そう、最前線にはてきおうりょくを持っていると思われるポリゴンZが、

破壊光線を無反動で乱射していたんだ。

しかも頭にはこだわりハチマキだ。

 戦争の様子をポケホの中継機能でみていたが、ミサイルや銃弾・マイクロ波による熱波をリフレクターで防ぎ、破壊光線等で連鎖爆破する様は巨神兵を思わせる。

というか、まじで”薙ぎ払え!”だ。

 

 たった一匹のポケモンが、電磁浮遊で上空を闊歩し電撃波で空中兵器を爆散させ、

破壊光線で市街地を無慈悲に破壊の限りを尽くし、サイコキネシスでビルの残骸を投げつけた。

さらにこのポリゴンZは、ポケモントレーナーのものと判明した。

理由は、自己再生をつかったからだ。

つまり、スキルか生き様で、技を拡張しているということだ。

 世界はまだこの情報を知ることはできないだろう。

それでもポケホを持った人物が、周知してしまえば世界は……。

 

 

 相互確証破壊が、無効化されてしまう危険性もある。

テレポートからの地震・暴風・大爆発・波乗り・雷・噴火等は、危険極まりない。

勿論マグニチュード9なんて起こしてみろ。国が亡びるわ!

 さらにこれをポケモントレーナーや伝説のポケモンが、相乗して事に当たれば

僕たちは対処のしようがない。

 

 そして数分後……この終戦宣言とともに、生き残っている偵察衛星によって北朝鮮によるミサイル攻撃等、全ての戦闘行為が終結したことが判明したんだ。

 

 これにより各府県知事は、それぞれの持ち場に帰ることになった。

 

 僕はというと、加賀さん等護衛の人やあの高官の人と共に、自宅に送られることになったんだ。

警察車両は勿論、自衛隊のジープっぽい機械化歩兵の方々もついてきた。

道は閑散としているけれど、ところどころ轍やへこみ・液状化現象が垣間見える。

 また道中で背中側に”く”の字に折れ曲がっている死体もあったりして、帰宅するのが非常に遅れた。

 偶然救急車両が後ろにいてよかった。

 

「脈拍は!?」

「ダメです、もう体が……」

 

 失禁していることから、だいぶ経っているんだと思う。

とりあえず合掌だけして、この場を去ることにした。

後片付けは警察に任せることになる。

 そして僕の乗る護送車は、自宅の前に停車した。

 加賀さんが外に出て周囲を見て安全を確認するのを見届けて、僕もドアを開けようとした。

だけど高官の人がそれを拒んだ。

 

「佐藤君。君は要人保護の観点から、扱いは重要人物になった。

だから君は周囲の安全を護衛の者に任せておけばいい」

「え、はい。 ん? 家までついてくるのですか?」

「君の処遇について、ご両親に話をつける必要があります」

 

 そういって手提げバッグを見せてくる。

ああ、なるほど。

書類を見せるのね。

 ああ、と納得していると加賀さんが、外から車のドアを開けてくれた。

会釈して外に出る。

 

「どうもすみません」

「いえ、仕事ですので」

 

 

 身の丈に合わない待遇に顔が引きつってしまうけれど、これからの日本のためにも

絶対にケガ等させないという意気込みが伝わってくる。

そして僕はインターホンを押して、お父さんたちに帰ってきたことを知らせる。

 するとどたばたと家の中がうるさくなって、玄関がガラガラと開いた。

 

「芳樹!」

「は、はい」

 

 敷地に入っているから、お父さんが直で来た。

後ろの人たちのことなんて気にせず、一直線だ。

しかも予想外の剣幕に、僕はたじろぐしかない。

 

 だって、こんな声色は初めてなんだもん。

 

「どこに行っていたんだ! なんで電話に出ないんだ!」

「電池切れてたから……」

「じゃあなぜすぐに帰ってこない!」

「電気がないと困るし」

「何故一人で行ったんだ!」

「だって停電で避難してるだなんて思ってもなかったし」

 

 がみがみと心にもないことを言われ、だんだん頭にくる。

自分のことが一番のくせに、僕に対して何か言えるもんでもないだろうに。

 

「……芳樹。そんなにお父さんたちのことが嫌いか?」

「え、そんなわけないでしょ! 生活インフラがないと困るから、原因を排除しに行ってたんだよ!

まさかこんなことになるとは思わなかったけどさ」

「そうか。とにかく、芳樹が無事でよかった。次からはお父さんたちを頼りなさい」

「うん」

 

 僕は心や感情を空っぽにして対応した。

 

 

 気を遣ってみんなの家族の輪が壊れないように、言葉を選んだ。

 

「次から気を付けるよ。それとね、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」

 

 僕はこの話題を終わらせて、本題に入る。

さすがにこれを捨ておくのは不可能だから。

でも高官の人が話していくと、厚い封筒を取り出してお父さんに渡したんだ。

 

は?って思ったけど、お父さんもそれを見て目を白黒させていた。

 

 中身は……結構大金っぽいよね。

 

「お子さんの情報提供料の前払いです。

のちに国より納めますが、佐藤君のおかげで関西がまとまり一筋の光明が雲間から差し込んできました。

この道をすがって、多くの人が彼のもとに集まるでしょう。

 その経済効果等を考えるととてもとても、支払えるような金額ではありません。

そこで分割して徐々に払わせていただきます。

 

 ぜひとも、今後関西広域連合をよろしくお願いを申し上げるとともに、佐藤芳樹君を

支えてください。彼は今後、なくてはならない存在です」

 

 お父さんは渡された札束を強く握りしめ、僕を見てきた。

僕もお父さんに対して、ちゃんと成し遂げる旨を伝える。

 

「やり遂げるよ」

 

 

 

 

「そうか」

 

 

 お父さんは僕の方を見て納得したのか、今度は高官の方を見て強く言う。

 

「息子を、どうかよろしくお願いします」

「はい。お任せください!」

 

 お父さんがお辞儀をして、高官の方や後ろの加賀さんら護衛の方、そして周辺を警戒している警官の方も……。

お父さんに向かって返礼をする。

それぞれの役職に則った、最大の敬意の払い方をしたんだ。

 

「今日と明日、佐藤君には身支度をしっかりしてほしい。

そして、あさっての早朝6時に、要人保護プログラムに則り君を迎えに来るよ。

我々は公務員であり、一致団結して事に当たらなければならない。

 だからといって格式に拘れば、有事の際間に合わないことがあるかもしれない。

我々は垣根を超えた友人であり、隣人でもあるんだ。

臆さず言葉に出してほしい。それが、我々の君への願いだ」

 

 そして高官の人は、僕にGPSや発信機等の機能がついた腕輪を渡した。

この二日間行方不明にならないように、しっかりとした予防対策を立ててくれたみたいだ。 

 

「では、失礼いたします」

「お疲れ様です」

 

 僕はそう言って、公務員の方々を見送ったんだ。

そして僕は、お父さんより先に家に入る。

靴は靴箱に置いて、長い廊下を歩いてリビングへ。

 

「ただいまー」

「「「おかえりー」」」

 

 家族のみんなが、僕に返答してくれた。

 

 もう、足の裏が痛いし、色々気疲れしてしまった。

さっさとご飯を食べて、風呂に入って寝よう。

 

 僕は今日の出来事を頭の中で思い出して、今後どうするかあいまいに構成してみた。

でもこんな疲れた脳に、優秀な結果を期待できない。

今夜は満月の光でも浴びながら、ゆったりしようじゃないか。

 



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18:久々の帰宅で確認作業!

 

 

「おはよー」

「おはーって、珍しいことしてんね」

 

 朝8:30。

 かなり深い眠りだったと思うよ、ほんと。

で、僕は今妹に奇異の目で見られていた。

まあ仕方のないことだと思う。

今やっていることは、ここ数年間やってなかったことだからさ。

 

「まあ、願掛けみたいなもんさ」

「えーと、御霊に神さんに仏さんでしょ?」

「そうそう。神仏習合っていつ起こったっけ」

「すでに神仏分離してる」

「そっかぁ」

 

 今僕がいる場所は床の間がある和室。

ひな人形のケースと台座の上に、お内裏様とお雛様の代わりにマリオとピーチ姫のamiiboを置いてある。

更にその周辺にじいちゃんが書いたり、絵で稼いで購入された高価な絵巻や風景画がある。

そしてそれらの上に、左から神道の神棚、天理教の御霊というか神様が宿る神棚、流産した子を祀る仏棚がある。

格式も左から上だ。

 そして僕は天理教以外は合掌と黙祷で済ませて、天理教は三拝一礼三拝する。

 ただし方向は御霊さんを奉る儀式をした場所。つまりは、教祖[おやがみ]様がいらっしゃる本尊に向かって行為を行うんだ。

因みに僕が知っているのは、讃東分教会のしきたりだけ。

他はあまり知らないや。

 

 ちなみに僕も幼いころは、熱心な信者だったじいちゃんやじいちゃんの兄弟、息子であるおっちゃんと一緒に、お勤め参りしたんだよなぁ。

信者ではないけれど、そこの取り締まり役の人が天理教の心を教えてくれて心服したことがある。

みんな親切だったり優しかったりするのは、それが教祖様への恩返しみたいなやつらしい。

 まあここに所属してる人たちみんな優しかったし、周辺住民がだいたい天理教信者だし。

 過激派は見なかったけど、自分勝手というか妥協を許さず、ボランティア精神たっぷりな人がいて怖かった思い出がある。

 

 別の宗派なのに、親切に対応や儀式の手取りをしてもらった。

 まあ、お金は取られるんだけどさ。

 

 いやぁ、感傷に浸ってしまったよ。

 

「お兄ちゃん、リビングいかないの? 寒いよ?」

「もちっと涼んでからいくよ」

「えー、寒いって」

 

 妹は先にリビングに向かっていった。

僕も少ししてから、朝食のために向かった。

 

 

 さて、今日はなにをするのか。

 

 もちろん僕の手持ちのポケモンたちの顔合わせだよ。

そして探索をしたりポケホの機能を見たりしないといけない。

そもそもモンスターボールをどうにかしないと、今後の展開が拡張されないんだよね。

 

 自室に戻ったらバッグの整理をして、いらないものは部屋に置いておく。

もう隠す必要性はないんだよなぁ。

でも何かされたら困るわけだし、一部危ないものは隠すことに決めたんだ。

それと消費物もジャンルや効能に合わせて、本棚の一部を使って色々詰め込んだんだ。

 こうやってわけておくことで、僕以外の人でも何かあれば使うことができる。

ただし泥棒はお断りだ!

 

「出てきて、ツチニン」

 

「ニンッ!」

「うおー、久しぶりじゃー!」

「ニニニニニニニニニニニ――」

 

 抱き上げて滅茶苦茶体表をなでまくった。

そして撫で終わったら、道中で大量に拾ったレア度虹のアメをツチニンに丸ごとあげる。

これはテッカニンとヌケニンに分かれる前に、すべてのステータスをカンストまであげておきたいからやってること。

理由は簡単で、手間が半分になるから。

 まあ、憶測なんだけれども、ヌケニンのHPが1でなくなる可能性がある。

 1に修正される可能性もあるけれど、ほかの能力は普通に上がるんだ。

だからレベル20になるまでに、あげまくる。

 

 そうそう、アメだからって舐めるだけじゃない。

 

「チュー」

 

 このアメ……なんと、ポケモンに合わせて様態を変化させるのだ。

訳が分からないよ。

 

 さて、ツチニンがアメを吸っている間に、愛媛からこっちに帰ってくるまでに取得した

アイテムを整理してみよう。

どさーっと中身を、床にぶちまけてみた。

そしたら虹ものが大量にあるわあるわ。

 こんなのみたら、普通のトレーナーは失神するんじゃないか?

そうおもえるような桃源郷が、目の前に広がっている。

 

 

【虹・青】

・ウルトラボール ・マスターボール ・パークボール ・プレシャスボール 

・ハイパーボール・GSボール ・せいなるはい ・各種覚醒アメ 

・古代のタネ ・とくせいカプセル ・ポイントマックス ・PPMAX

・カテキン ・みとおしメガネ ・ボールカプセル ・なんでもなおし

・まんたんのくすり ・げんきのかたまり ・ブーカのみ ・トポのみ

・イバンのみ ・かいふくのくすり

 

【赤・緑】

・スーパーボール ・カイスのみ ・ミックスオレ ・ゴールドスプレー

 

【たいせつなもの】

・ジガルデセル→ジガルデキューブ[1]

・おちゃ

 

 相も変わらず、レア度の低いアイテムは見つからないようだ。

でもそれ以上のものが手に入っているから、文句はいえない……。

 

 そうだとしても、戦術的な動きがなかなかできない。

ほら、こだわりハチマキとか、そういうやつのことだよ。

これらがないと戦闘を優位にできない。

こういうアイテムは、トレーナーが入手しやすいように下位のところに存在していると思うんだ。

 

 よって僕は、このポケホに存在するアプリを利用して、今後に生かすわけなんだけれど……。

 

 散らばったアイテムを片付けて、アメが溶けた水溶液を吸いまくるツチニンを後目にポケホを操る。

 

<ポケモンフォンに、新たな機能が追加されました!>

 

 黒の背景に白字の主文。

再度クリックすると、メインメニューが解放されてその解禁されたメニューをクローズアップしたり、メインカメラが動いてそのアプリの場所まで移動する。

 

<世界のポケモントレーナーが一人目覚めました!>

 

『PokeLINeK』:国内のポケモントレーナーとコメント欄で話せます。

 

 スマホの緑アイコンアプリのLINEとつながるLinkが混ざった感じだ。

 

<ポケモントレーナー五十人の手持ちがいっぱいになりました!>

 

『PokemonBoxx』:ポケモンの預かり管理システム。何人もこれに介入・改竄できない。100匹まで預けられる。

 

 ポケモンは不思議いっぱいだけど、パンドラの箱は流石にないだろー。

 

<ポケモントレーナー同士がアイテムを物々交換しました!>

 

『PokeCom』:掲示板で国内外のトレーナーとアイテム等を交換する場。

 

 条件掲示だけでなく、オークション形式から個人取引のものもあったらいいなぁ。

 

<ポケモントレーナー同士が会話しました!>

 

『LiveCaster』:電話音声やAR空間での面談が可能。電子的な妨害など決して行えない。

 

 へぇ、UI技術とプロジェクションマッピング、Cicret Braceletの究極みたいなもんか。

NECか富士通が、壁などにスマホ画面を投射し、直感的操作や部屋全体のデジタル化をする技術を開発してたな。

 

 

 そんなわけで、すぐに『PokeCom』をクリック!

他はまだいいや。

とにかく、今はモンスターボールの確保をしなければならない!

 

 中身を見てみると、掲示板のようになっていた。

各国人が表題に、モンスターボールと何かを交換して!という文面がある。

でもさおいしい水10個を、ハイパーボール1個と交換してっていうのは……。

 

「お? この交換の場を開いて、約三日。やっと来てくれましたね、救世主」

 

 開きました。だって、おいしい水ほしいもの。

問題のハイパーボールはめっちゃ持ってるから余裕だぞ。

それに会話がすべて日本語だから、日本人だろ多分。

 もしも外国人であっても大丈夫だ。

なんせ文字と文字で対話するもののほかに、音声同士・実物を確認するため、『LiveCaster』へのリンクがある。

 

 こいつを使えばどうにでもなるさ!

 

「おはようございます。えーと、日本で暮らしている日本人の佐藤です」

 

 日本の佐藤は多いから探しにくい。よって、苗字は公開することにした。

まあTV放送とかTwitter等、SNSの猛威を振るわれるからこの程度で大丈夫だろう。

 

「おお! 原作の国の人か、それは頼もしい! お願いだ、『LiveCaster』してくれ!」

「え。すみません。いま国家関係の休憩の間を利用して、開いただけなんです」

「何ぃ!? やはり君も国家に重要参考人兼重要人物として、ポケモン対策課に保護されているのかね!」

「アッハイ」

 

 この人会話文だけなのに、ずいぶんぐいぐいくるなあ。

そもそもあなたの名前と出身国知らないんだけど。

 

「えーと、あなたの名前と出身国家は?」

「ヤー忘れてたぜ! 俺はなぜか格闘王をしている、ドイツのレオン=フォン・ヴェバーレンだ!」

「よろしくお願いします」

「よろしくな!」

 

 なんと明るいことか。

それにvonって、ドイツ人の苗字を検索してた時、名家だとかなんとか書いてたような……。

ポケモンに関する救世主だし、仕方ないのか?

 

「うーん。『LiveCaster』します?」

「是非お願いする!」

 

 そして安易に『LiveCaster』をしてしまったことを、僕は盛大に後悔した。

その理由はやはり国家関係の休憩間だということだ。

彼が今いる空間をみれば、その今いる空間に重要人物を召喚できると考えたのだろう。

 

 そうだ。

 

 彼とARをやった瞬間のことだ。

ポケホから光がまばゆく周辺を白く染め上げ、AR空間を作り出したんだ。

僕の左右上下後方は僕が今いる空間になり、前方のすべては今レオンがいるらしき場所だ。

 その場所は閉塞感満載であり、誰かに何かを気取られるとまずいと言わせるような場所だ。

 いかにもきな臭いが、話しかけてしまった身。

っていうか、おいしい水案件でこんな地雷があるなんて考えられるかっつーの!

 

「……佐藤。君の部屋は本当は、国家機関のものじゃないね?」

「だからなんだ」

「ククク、いや? 本場だからこそこちらに引き込めると思ったんだけど。当てが外れたか」

 

 なんか読めたぞ、こいつの安い行動。

 比較的近くにあるマーク。ありゃ、難民出ていけっていうやつだな?

完全にスラブ諸国のマークだし、EU諸国は大打撃を被っているから、間違いはないと思う。

そして彼の後ろには、多くの老いた人たち。

 その死んだ目から伺えるのは、政治的駆け引きを行おうという無感情のものだ。

 先ほど香川県知事にその目を見せられたから、強烈な印象を抱いているよ。

 とにかく大阪府程度の有力者がいる場所でなくてよかった。

こんな腹黒い集団の坩堝に放り込んだら、容易に言質を取られて日本と僕の命が危うくなってたところだ。

 

「―――聞いているかね?」

「視聴してますよ、レオンさん」

 

 観衆目線に彼の表情がゆがむが、彼の言うことは荒唐無稽も甚だしい。

  

 なんかポケモンを使い、多くを我々で導きEUをあるべき姿に戻しイタリアや周辺各国と連携し、更に原作の日本と協定を結べば経済安定・企業誘致ができ、お互いの国家を次の段階に進めるのではないか?とか。

 申し訳ないが他国であっても、戦争やテロに関する準備罪があるし、そもそも決闘罪・機密保護法・第九条が存在するのでそのたくらみに参戦することは不可能だ。

 

「そんなことよりも、ユーゴスラビアで核戦争起きてますが鎮圧とともに、それを使ってヘイトスピーチすればいいんじゃないですか?」

「それは無論やっているさ。だがフランスがフランスであれば、我々も我々が大事だ。

あんな小国程度消えても、なんの発破にもならん」

 

 これはひどいもんだ。

 

「ああ、それと。すでに日本には、我々のポケモンへの協力要請を叩き込んでおいた。

これを承諾しなければ、EU全体が日本から手を引く」

 

 また壮言吐いてるな。今現在北朝鮮のおかげで、絶賛鎖国状態だ。

そもそもポケモンのせいで、エネルギー資源がなくて再生可能エネルギーの普及がとどまらないんだ。

おかげで徐々に外国への依存率が低下してきているんだ。

だからそれを変に加速させないでくれ、国内のレアメタルが足りなくなる。

 そもそもレアメタルを含めた採算の取れない資源なら、そこら中に埋まってるけどな。

例えば人形峠然り夕張市然り。

 

「そんな力持ってるんですか?」

「ポケモントレーナーへの個人崇拝をなめるなよ、無神論者日本人」

「大人が作った妄想小説を現実に起こったことだと信じてるだなんて、

本当に幸せだよねクライスト」

 

「んだと?」

 

 その言葉の直前日本語訳されたドイツ語が、僕の耳に大量に入ってくる。

相手がバカにしてきたことを許せないみたいだ。

でもさ、宗教布教の自由を謳っていても高校の門前で、キリスト教本を配る信者がいてクソうざかったんだよ。

信者ではなくて、どこにそんな信じる要素があるのか見てみたけど、最初の文で咳こんだわ。

 こんなくだらない妄想を他人に吹き込んで何が楽しいんだ?と。

こちとら毎日勉強に勤しんでいるんだから、そんな金にもならないことを押し付けてくんな、いらねぇんだよ。

 

 さすがに苛立ってきた。次からは警察に頼んで、相手の言葉の録音をしようと思う。

こっちの会話文も筒抜けだと思うけど、そこは仕方ないよね。

 

 いろいろ文句の応酬があったので、このまま会話をシャットアウト。

ブラックリストにいれてやった。

勿論名前を入力して、入手した情報も付属した。

こいつの情報は、ドイツ中枢部に教えてやる。メルケル首相、覚悟しとけよ。

ついでに斜方形ジェスチャーで、盛大に皮肉ってたことも暴露してやる。

 

 さて、次だ。

 

「ニンッニンッ」

「ん? ああ、体力のアメ食べたの?

じゃあ、次は攻撃のアメだよ。どうぞ、召し上がれ」

 

 前足で僕の右足をつついてきたから何かと思えば、120もとけたアメを飲み干したとのこと。そういうわけで、次は攻撃力を上げるアメだ。これは130位ある。

今までも上げているから、そんなに上げなくていいはず。

 そもそも記録取ってないからなあ。

だから次からは200たまったら上げることにしてる。

 

 まあ、ポケホの預かりシステムで、ポケモンの能力を閲覧したとき強化値が見えるんだけどね。

面倒だから見ないってだけでさ。

 

 

 気を取り直して『PokeCom』を見てみる。

あ、先ほどの人は消しているみたいだ。

よかったよかった、あいつの毒牙にかかる人がいなくなった。

まあ歯牙にもかけない人が大半だろうけどさ。

 それでほかの掲示板を見直して、何かないか調べてみた。

基本的にパッとしないものばかりで、交換内容もレア度赤や緑と青や虹のアイテムと交換するものばかり。

 そうでなくとも、目的がはっきりとしないものまである。

 

 こういうのが変な勧誘等の罠掲示板なんだろうなぁ。

 

 それでも今はモンスターボールの安定供給のための行動を起こさなくてはならない。

どこかに生き様かトレーナースキルで、モンスターボールの生産ができるような人いないかなぁ?

 

 ずいぶんと更新したりいろんなタグで検索してみた。

 最後にモンスターボールの素材である、ぼんぐりをタグ検索。

すると最後の一件が僕の理想と重なり合ったんだ。

一考することもなく、すぐにクリックして掲示板に入る。

 するとすぐに相手から反応があった。

 

「ようやく来てくれましたね!

案件にあるように、木の実やぼんぐりをボールにすることができます。

あなたが提示するのは木の実またはぼんぐりの二つです。

一つは依頼料として私に、もう一つは依頼品納入としてあなたに、です」

「わかりました」

 

 そういうわけで、まずは収穫しておいたナゾのみとスターの実を二つずつ渡す。

譲渡する方法は、物品をポケホに直接接触させるか転送ゾーンを指定してそこから送る。

今回はたった4つの木の実なので、接触で渡すことにした。

あ、そうだ。ボールに変化する過程を見ておきたいな。

 

「すみませんが、そのボールを作る過程を見せていただけませんか?」

「企業秘密ですので」

 

 そうきたか。

ならば……。

 

「見せられないのでしたら、この交渉は白紙にします。では」

 

「ああっ、ま、待ってください! わかりました!『LiveCaster』を開きましょう!」

 

 危なかった。

 

 こいつが長時間誰とも契約してないおかげで、この人の焦りを引き出すことができた。

もしもそのまま引き受けていたら、木の実だけを袖の下に潜ませて、ボールは探索で拾ったやつとして、

僕に渡されるかもしれなかった。

 そう一息つくと、ポケホからまばゆい光が部屋の隅々まで注がれ、相手の空間とつながる。つながった瞬間、奴がいる部屋の雰囲気が僕の部屋の品格を庶民とは思えないものになる。

なぜなら眼前にいる金髪碧眼の美男子が彼のいる部屋と調和して、雰囲気や空気を含めて上品にしたのだ。

 ひな人形ならばケースと人形、それぞれが別の商品だ。

だがこの状況は、お互いがお互いを引き立て限界値を突破した産物。

 

「どうもすみません」

 

 ドイツ野郎の時も思ったんだけど、日本語じゃなくて本来は外国語なんだよな?

そうかんがえると、このポケモン関連による和訳等翻訳能力が高すぎることが分かる。

いや、まあ、高くないと誰もかれもが、外国と連携できないからむしろありがたいと思うよ。

そもそもポケモンの世界自体が、一つの言語に収まっている感じがするしなぁ。

 

「私の名前は、アーロン=オーデン。しがないボール職人です」

 

 アーロンさんはAR空間に具現化すると、僕と木の実の交換契約を交わしたいらしく、

生き様ボール職人についてやある程度ポケモンの情報を渡してきた。

なるほど、これが譲歩ってやつかー。

でもあいにく、その情報は既知なんだよ。

 

「ポケモンはモンスターボールのビームに当てることで捕獲出来ているんじゃないんです。

あのビームがポケモンを情報生物にして、二進数情報としてモンスターボール内に収めることができるんです。

そして情報の書き換えや更新が速く、安定性が保たれないとなると外に吐き出されるんですよ」

 

 それも知ってる。ビームで一時的な圧力を加えることで、相手を一時的に縮小させられる。

 

「また私はポケモンを捕獲するために必要な、ネットも作ることができます。

これは今現在に於いて、私しかできない唯一無二の技術です」

 

 お、条件とかそこらへんの露骨な提案が出てきた。

ある種の脅しみたいなもの。事実をぶつけて相手の根を折ることが目的だと思う。

だからといってそこまで言わせるのも、今後の協力関係を考えたら遠慮すべきか?

 うーん、わからないなー。

 ま、これからがその時だし、やってみっか。

 

「――です。どうか、私にボールを作らせていただけませんか?」

「アーロンさんの熱い思い、確かに受け取りました」

「では……!」

「まずはこの謎の実で試してみましょう」

 

 謎の実を二つ送り付けた。

 

 アーロンさんは、その木の実をなんらかの力で目に見える形で隠さず、そのまま自分の生き様を使ってボールを作り始めた。

ただたんに手のひらの上に木の実を置くだけなんだけど、その木の実が発光しその光がやんだらボールが出現するんだ。

 

「おお……!」

 

 僕は言われた通りボールがモニター越しでありながらも、眼前で作られることに興奮を覚えた。

だってあの技術的によくわからないボールが、確実に使える形ででてきたんだぞ?

興奮しないわけがない。

 謎の実で作られたボールが完成したら、一つを僕の方に再転送する。

これでお互い信用が取れたな。

 

「えーと、今後も私のところで、ボールを作らせていただけませんか?」

「はい。ぜひ作っていただきたいです。ただ少し問題がありまして」

「それはいったいなんでしょう?」

 

 僕は木の実を育てられるアイテムで、ある一定の敷地内に木の実を植えられることを告げる。

このことにアーロンさんは、ひどく驚愕するけれどそれだけじゃ終わらない。

僕は自分の生き様を少々改悪して伝える。

 それは自分が拾うアイテムがなぜか木の実はほとんどないというもの。

 だからそちらで木の実を見つけていただいて、こちらに譲ってほしいという旨を伝える。

流石にそれだけだと僕に有利なため、何か有益な情報かアイテムを交換しなければならない。

 

 そもそもポケモントレーナー以外が、ポケモン関連のアイテムを拾えるわけがないから

これも彼の行動次第だろう。

 

「何も私たち最初のポケモントレーナーだけが、ポケモンアイテムを拾えるわけじゃないんですよ?」

「まあ、それは、な……」

 

 おっと相手に有益な情報であることを気取られてはならない。

同調しお互いに情報を照らし合わせる感じに、路線を協調すればおのずと相手が答えを言ってくれる。

 この場合だと彼は、木の実を使ってボールをたくさん作ったろうから、ポケモントレーナーの量産に成功しているはず。

それに最初のポケモントレーナーと言った。ならば、ポケモンを捕まえて、名実ともにポケモントレーナーになれば、

生き様はともかくアイテムを拾えるほど視覚化されるんだな?

 

「ほかの人もポケモンを捕まえたら、アイテムが取れるんだっけ?」

「そうなんですよ! あなたの国も二代目のポケモントレーナーがいらっしゃるんですね!」

「ええ。ですがボールが全く足りないんです。そういうわけで、話をもっと拡張させたいと思ったんですが」

 

 なんか個人別荘みたいな雰囲気だ。こう、政治的なインテリアじゃねぇや。

まあ日本と外国では美的感覚が違うから……。

 そう思慮にふけっていると、彼が何やら考えるしぐさをやる。

そして僕に断りを入れて、席を一時的に立った。

どうしたのだろうと思っていると、彼が立ち去った方向からなにやら外国語が聞こえる。

聞き取りやすい……英語かこれ?

 

 うん、これイギリス英語だ。

 言葉を明瞭に判断できる位わかりやすく単語単位で、文章を紡ぎあげる。

これがイギリス英語だ。

アメリカ英語はいわば、関西弁だ。言葉と言葉のつなぎを混ぜすぎて、何を言っているのかわからないやつだ。

 

 例を挙げれば――、

 

 イギリス英語は、”なんということだ”という。

 アメリカ英語は、”なんちゅーこっちゃ”という。

 

――そんな感じじゃな。

 

 ついでにスラングがクッソ汚いことも有名。ああ、アメリカ英語ね。

 

 画面に映らないツチニンと遊んでいると、ドアの開閉音がなる。

すぐに身だしなみを整えて、正面を向く。

 すると画面に出てきたのは、アーロンさんと……誰?

すごく政治臭いけど、まあ、ありがたいんだけどさ。

 

「やあ、君の望む人を連れてきたよ!」

 

 息が上がってるけど、遠くまで行ってたなこりゃ。

 

「へ?」

 

 わざとらしくまぬけに振舞ってみる。

 

「アーロン君がいうには、君は我が国との懸け橋になるといったが本当かね?」

 

 英語が和訳されて聞こえてくる。

 僕は彼の言い分に、首を縦に振って肯定する。

とても渋い声でダンディズムにあふれているよ。

 

「はい。今私の国では、ボールが非常に欠乏しています。さらに言えば材料である木の実も、ほとんど手に入りません。

しかし私どもには、木の実を半永久的に育成できる生き様がございます。

上の方からもポケモントレーナーを増やしたいという願望がありまして、こうして彼と大口契約を結びたいのです」

 

 そう伝えると雰囲気が違う男性の目の色が変わった。 

獰猛な猛禽類のように、眼光が鋭くなる。といえば、どれくらいかわかると思う。

え、わからない? 

うーん、政治家の取引みたら、ある程度分かると思うんだけど。

 そもそも西洋はリアクションがすごいからわかりやすいんだよ。

ついでにその腹黒さもひどいんだよなぁ、欧州情勢複雑怪奇の一因でもあるんだよなぁ。

 

「ふむ。確かにそれは非常に魅力的だ。だが君の国の内部安定はされているのかね?」

 

「はい。といっても、西側部分だけですが。現状国全体では、長が直接指導できない場所にいらっしゃるので、州が別々に動いている感じですね」

 

「国ではないのか?」

「ポケモンに国境はありません。大なり小なりポケモンが身近にいます。

そして彼らは一匹だけでも相当な災害になります。そうとなれば、国を待っていられるほど我々も暇ではありません」

 

 実際に余裕はないけれど、今日だけは関西広域連合で協力して事に当たってもらっているはず。

まあ岡山と香川の反応は微妙だけどな。

大阪からかなり近いのに、影響力が低くなるっておかしくないか?

今はネットとかあるから、距離はほぼゼロなんだから影響力が低下するのはおかしいと思うんだけど。

 

「そういえば、アーロンさんには名乗っていませんでしたね」

「あ」

 

 少々法螺吹くか。まあ、事実無根ではないから、いけるかな?

多少の問題は明日提案して解決しよう。

 

 アーロンさん……もっと早くに気づきましょうよ。

やっちまったみたいな微妙な表情と頭をかくしぐさ。

これは演技じゃないな。本当にやらかした感じっぽい。

 というか相手がどこかわからないのに、契約結ぶなって感じだろうな。

まあこっちはこっちで、ポケモンに関してこれから言質を獲得して信用を重ねるから。

 

「私は、佐藤芳樹と申します。日本のフォッサマグナ以西における、関西広域連合にて

ポケモンショック対策課の総長をやっております」

 

 実際は違うんだけど、現状の最高責任者は僕だからまあ間違いではないよね。

嘘ではない。嘘ではないんだから、仕方ない。よし、正当化完了。

 

「に、日本!? ポケモンの本場じゃないか!?

あ、ああ……私はなんて偉そうに……」

 

 本場だからってポケモンに詳しいわけじゃないんだけれど、ここでは如何にポケモンに関して詳しいかまたは関係しているかで評価や全体的な優位性を高めることができるらしい。

よってこれを利用して、海外勢と協力関係を煽ることが今後可能な政治的カードだと思う。

 

「今本場である日本は、壊滅的状況にあります。

もともとが北は亜寒帯、南は熱帯とつながっております。おかげで、多民族性が極まり、

現在に至ってはそれが足かせになっております。

 すでに各都道府県は、政府の力及ばず戦国時代並みに乱世乱世しております。

よって現状国としての日本は、まったく効力がありません。

しかしそれ以上または同等の勢力を誇っているところがあります。

それが私が所属する関西広域連合です。

 

 日本は政治的な足かせがあり、思うように動かせません。

しかし関西広域連合はポケモントレーナーと州長がほぼ同等にあるおかげで、

全体を統括することができます。

 よって我々と組んでいただけましたら、ボールに関する貿易だけでなくポケモントレーナー同士の親睦やポケモンテロへの対策としてポケモンバトルといった娯楽を提供・開催することができます」

 

 僕は相手が示した自国の弱点とかも譲歩で言っていたので、

僕もお返しに譲歩として情報提示することにした。

これで五分みたいなところはあるけれど、相手は三枚舌で有名で世界中の紛争の元凶といわしめる、悪の帝国だ。

 まあだからといって、僕が折れるわけにはいかない。

そしてこの会談を一考に値すると思わせればいい。

後はポケモントレーナーが、背中を押してくれるだろう。

 

 もしもそれがなければ、貴国は滅びるのを待つだけになるだろう。

 そもそも島国だから、島国同士仲よくしようってのもあるんだけどな?

 

「我が国、イングランド及びアイルランド連合王国は、貴国と同等のことが起こっていると散見できる。

ポケモントレーナーに差はあれど、現状陥っていることに関しての解決マニュアルの

応用が利くようではある。

 そうだな……。

 このことは議題にあげよう。

今後の英国のためには必要であり、このポケモンに関して一番の叡智を誇る日本国のポケモントレーナーと誼を結べるのであれば、悪くない同盟である。

 

 そもそも経済の停滞はこちらも心配していた、きっとこの議論は可決の方向に向いていくと思われる。

 

 このレオン=ベイカーの名において、『日英ポケモン同盟』を可決させることをここに誓おう」

 

「ベイカーさん!」

 

 めっちゃ喜んでるよ。

よかったね、すごく偉そうな人の色眼鏡に叶ったね。

 

「ご無礼ながらお聞きします。レオン=ベイカーさんは、どのような役職で?」

「副首相だ」

 

 よく捕まえられたな、こんな偉い人。

 

 

 そして僕は今後についてある程度聞くことにした。

まずはお気に入り登録して、電話や『LiveCaster』ができるようにする。

次の日程を聞いて、木の実の培養やボール制作方法についてある程度研究しおえたら、

再度連絡されることになった。

 木の実の培養というのは、ほかの方法がないかというのとともに多数の木の実を取得するための時間がほしいからだ。

流石にそこまで無碍にはできないし、率先して取得しづらいきのみを見つけていただけるんだ。

まあ、貸しを作ってしまうことになるけれど、EUの無許可脱退以外はうまい口で世間をだましてきたんだ。

だから彼らが味方であるうちは、此方に被害が直接飛んでくることはないだろう。

 

 まあ、近攻遠交ともいうし、戦略的に理に適っているでしょ。

 

「では、よろしくお願いします」

「ああ、いい結果を伝えられるよう尽力しよう」

「佐藤君、またね!」

「はい、オーデンさん、また連絡してください」

 

 僕は『LiveCaster』を切ったあと、ベッドに寝っ転がる。

ふいに時計を見上げた。

時刻はすでに正午を回っている。

 

 なんか小腹がすくなあとはおもっていたけれど、本当に話し込んでいたみたいだ。

 

 午後は何するかなぁ。

そうだ。ポケモンたちの顔合わせと木の様子を見ないと。

先ほど交渉に出した謎の実は、整理の時に判明した拾った木の実だ。

本当に通常の木の実が見られないんだよなぁ。

 あ、そうだ。

あの古代のタネも育てないといけないな。

 

 

 そしてポケモンたちの顔合わせもしないといけない。

僕はツチニンのアメが溶けた水溶液を更に足しながら、次の行動を考えることにした。

機会は今日しかない。やろうか。

 

 




飽きた。


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19:久しぶり、僕のポケモンたち

 

 初夏の日が頂点から少し過ぎた時間。

お昼はちゃんと食べて、一時間程度のお昼寝も済ませた。

食後に寝ると太るらしいが、あいにく午後にはポケモンたちの顔合わせと

実力を図るための近隣へ出立し戦力を向上させるレベリングがある。

 

 よってこの程度の内臓脂肪は、すぐに消化されるのだあ!

 

 そんなに気合を入れる場所でもなかったが、これからはカロリーを必要とされる。

時代の流れにそぐわない最悪なものではあるけれど、インフラ関係が死んでいる以上足となるポケモンに乗馬できるほど鍛えておかないと何事も果たせなくなろう。

 そう思案していると、僕のおなかの上にツチニンが乗ってきた。

 彼らポケモンは恒温動物なのか、虫だろうが剣だろうがほのかなぬくもりがある。

不注意にも接触して、肉体が凍らされるとか考えたくもない。

だがしかしレジアイスとかアマルコ等の氷タイプのポケモンは、例外にかなり冷たい生命体になるんだろうなぁ。

 

「気持ちいいかー?」

「ニィィィイン♪」

 

 おなかにずっしりとした感覚。

それでも重すぎない重量で、両手で抱えられるくらいのもの。

そんなツチニンをなでては、反応をうかがいつつなでまくる。

彼は目を細めて、非常に気持ちよさそうに喉?を転がしている。

 最初の未進化ポケモンは、ミニマムでかわいらしい。

これが進化していって凶悪・強暴・強面[こわもて]、そして強烈な進化ポケモンに変態する。

 

 ツチニンの場合、しのびポケモンのテッカニンとぬけがらポケモンのヌケニンに進化する。強暴で凶悪で強面ではないけれど、知っている限りこの二匹は非常にはた迷惑な存在になる。

ただポケモンのほぼすべてが、彼らポケモンの飼い主である人間が愛情を注いでいればそんな悪影響など皆無になって、普通の人畜無害な生命体になる……なんて甘い現実があるわけないだろう。

 だから今のうちに彼と仲良くなり早急に進化させて、結果を見なくちゃならない。

もしも悪影響があるならば……。

ずっとボールの中で待機しててもらうつもりだ。

 

 そしてこれからのポケモン育成も、図鑑にあるような気難しい性格のポケモンを育てることはいったんやめようと思う。

あの人からのポケモンであるヒトカゲのように、進化すれば性格が変化する可能性があるんだ。

だからピカチュウのように、進化をその段階で止めておき最高の状態を引き出せるようにしたい。

進化こそが、ポケモンの可能性とは思いたくはないんだ。

 

 また突発的で予想外な進化が発生してしまった場合、身を守るために手持ちのポケモンたちと親交をしておかないといけない。

何故なら心を開いてもらっていないと、友人や仲間だとか思ってくれない。

これは人間を手助けするという本能を刺激するためでもある。

 これらの条件を満たしていれば、万が一の時ボールからポケモンたちが自発的に出てきて攻撃等の被害を防いでくれるようになるはず。

 

 よし、休憩というか癒しの時間を切り上げて、体を起こす。

ツチニンを抱き上げてそのまま地面に降ろして、部屋の外へ出ていく。

勿論ツチニンもついてくるように指示しておく。

そうしないといつまでたっても下に降りてこないだろう。きっと。

 ああ、僕がいたのは二階の自室さ。

 だから今いるのは一階のリビング。

 

「お母さん、ちょっと外行ってくるね」

「気を付けていってらっしゃい」

「芳樹、暗くなる前に帰ってくるんだぞ?」

「わかってるって」

 

 お父さんとお母さんに断ってから、外出するようにした。

このご時世だからこそ、こういう許可申請はすべきだと思う。

 今日は平日だけど、みんな休日みたいだ。

 妹と弟は自室で友人と遊んでいるようだな。

妹は友人と電子メールや撮影した写真をデコレートし、弟はsteamのゲームで友人とオンラインプレイをしているようだ。

やることは大概一緒だけど、僕は違う。

 

 ネットはネットでも、ポケホの機能で全世界と会話できる。

更に外出してポケモンを発見しなければならないので、普通のネットよりも健康的だとおもうぞ。

 そういえばポケモンが出現しだしてからは、PCをいじる機会がなくなってしまったなぁ。でも現状のポケモンを育てるほうが楽しいし、別にいいかなと思っている。

 

 玄関に来て靴を履いていると、ツチニンは縁側に通じる障子の隙間に爪をはめ込み隙間を作って両爪で開け、そのまま庭の方に出ていった。

なんて奔放なっておもったけれど、なんで鍵しめてないんですかねぇ。

 

 

 

 さて、気を取り直して、ポケモンたちを出していこう。

まあすでに出しているポケモンは省こう。ツチニンだけしかいないけどな!

 

ツチニン

技:ひっかく・きゅうけつ・にほんばれ・ソーラービーム・こらえる・れんぞくぎり。

特性:複眼。

 

 結構戦闘したと思うんだけど、ほとんど変化がない。

ポケホのあずかりシステムから閲覧すればわかるんだけど、レベルがすごく上がっている。

あのタネボー大量撃破時は、素で彼らの経験値が少なかっただけみたいだ。

原発での掃討戦以降、レベルがちゃんと上昇している。

 それを考えるとあの公渕公園のポケモンのレベルも、かなり低かったと見えるよ。

 場所によって、レベル差があるらしい。

これは些細なことではない。重要な情報だ。これからのレベ上げもあるけれど、彼ら野生ポケモンのレベルが徐々に上昇していき最終的に野生のポケモンに最終進化ポケモンが出現するようになるんだ。

 

 もしもギャラドスやほかのあくタイプ・ドラゴンタイプが、最終進化まで行ってしまったら……。

少なくともギャラドスとバンギラスで一つの国が消えるな。

 まだ海のポケモンの調査をしていないけれど、今後やっていく必要がありそうだ。

 そして危険状態になる前に、マナフィを探して日本国を滅ぼさないよう説得しなければ……。

 

 先が長いなぁ。

 

「ニン?」

 

 ツチニンはそんな僕のため息姿を見て、不思議そうに首をかしげている。

 

「なんでもないよ。ほら、みんな出てきてっ!」

 

 僕はみんなの状態が、あまり変化ないため一気に出てきてもらうことにした。

変化があったら、一匹ずつ入念にいじくりまわそうと思っていたんだけど、今思い返すと

そんなに戦闘してないんだよね。

だからレベルもそんなに上がっていない。

 まあ、公渕公園・JR電車外・伊方原発・帰宅中・移送中という、数少ない戦闘で

確実にレベルを上げているから、不満足というわけでもない。

それに今後戦闘機会も増えるだろうし、嘆く理由もない。

 

 僕の投げた5つのボールが空中で止まり、その封を開いてボールエフェクトを瞬かせて

眼前にポケモンたちが出現する。

庭先に収まる小さなポケモンたち。

 

 

「キリッ!」

 

 カリキリ:マスターボール

技:れんぞくぎり・ウェザーボール・ギガドレイン・どくづき・ソーラービーム・ダブルチョップ

特性:リーフガード 

 

 公渕公園で捕らえた。

 

「ツキッ!」

 

 ヒトツキ:プレシャスボール

技:たいあたり・つるぎのまい・でんげきは・みちづれ・ラスターカノン・かげぶんしん

特性:ノーガード

 

 高松東高等学校の道場で捕まえた。

 

「ヤコッ!」

 

 ヤヤコマ:ウルトラボール

技:たいあたり なきごえ はねやすめ いばる つるぎのまい とんぼがえり 

特性:はやてのつばさ

 

 伊方原発から帰るとき、特性の有用性を見て捕まえた。

 

「ガル!」

 

 ガルーラ:GSボール

技:れんぞくパンチ にらみつける かいりき かみなり ドレインパンチ カウンター

特性:きもったま

 

 捕まえないとお互いにひどい目に合うため、今後のために捕まえた。

 

「皆、時間が取れなくてごめんね。今日本は未曾有の危機に陥ってる。

僕とここにいるみんなが、この国を救うことになる。

だから今ここで、自己紹介していこうか」

 

 そういうとみんなそれぞれうなずいてくれた。

言い出しっぺの僕から紹介していく。

そしてそこから捕まえた順に、ポケモン語で紹介してもらった。

 

「これで全員かな? じゃ、少し遊んでて。あ、でも、家とか木とか壊したらだめだよ?」

 

 庭でやることがあるから、ポケモンたちには少しの間遊んでいてもらうことにした。

念のためにくぎを刺しておいたから、最低限のことは遵守してくれるだろう。

その間に僕はナゾのみとスターのみが生えている、庭の端っこに来る。

 きのみの湧き水のおかげか、きのみを収穫しても、灰になって崩れ落ちることはなかった。

しかし果実になっているものがかなり少ない。

 

 あ、そうだ。香川県知事に脅しという名のお願いで、土地を格安で売ってもらおうかな?

圧倒的な越権と職権乱用だ。そもそも香川県は過疎化が進んでいるし、そこらの山間とか放置田畑を使えばなんとでもなるか。

後顧の憂いは、府知事に提案して対処してもらおう。

 で、何をしようとしたのか。

 僕は古代のタネを埋めようとしたんだ。

一つしかないけれど、ポケモンのように復活の遺伝子たっぷりだろうから、

このきのみの湧き水があれば勝手に分解されて萌え木となるだろう。

 

「キリ?」

 

 カリキリが僕の隣に来て、古代のタネを植えようとするところを見る。

 

「これを植えるんだよ。奇跡のタネじゃないから、持たせられないんだ」

 

 説明を見る限り、ただのタネっぽい。

残念ながら、おなかを5回復させる効果もない。

そういうわけで、普通に植えることにした。

 手持ちスコップをもって、木の実の湧き水の効果範囲内に植えこむ。

 効果範囲は意外と広いから、庭の中であればどこでもいいんだけどお母さんたちが入り込まないように、柵で囲ってある中じゃないといけない。

白い柵の内側でタネを植えようとすると、いきなり化石のような米粒の形をした古代のタネが周辺から生気っぽいものを吸い取っていく。

 そして吸い取ったと思ったら、灰色の外郭をポロポロはがれ落として緑の生気に満ち溢れたタネになり、地面に水の波紋を広げてポチャンという音を鳴らしてしみ込んだ。

 

 わけのわからなさに、僕は茫然とするだけだった。

 

「……Oh」

 

 地面に空けたはずの穴はいつの間にか埋まっていて、どこに植えたのかさえもわからなくなってしまった。

仕方ないとあきらめつつ、白い柵で囲った領域から出る。

勿論出る前に、ナゾのみとスターのみを採取し、カイスのみ・ブーカのみ・トポのみ・イバンのみを植えた。

 こいつら普通の実は視認できるのに、タネはわからない。

まったく、困った植物だ。

 

 

 

 さて……ポケモンたちと少し遊んでから、ボールに戻ってもらった。

この後僕は海にすむポケモンたちを見に行くため、みどりのプレートをカリキリに持たせることにした。

こうすることで、カリキリの能力が1.2倍になる。

更に僕のトレーナースキルのおかげで、合計1.44倍に上昇する。

上昇能力の小数点以下は切り捨てだろうか?

 どんな結果であろうと、1.5倍に近くなるんだ。

 そう考えると、破格の能力上昇なんだろう。

普通のポケモンじゃ絶対に味わえない、絶対的な強さと安定感を手に入れることになる。

しかしこれが本当の安寧ではない。

 これからが真の地獄の始まりだよ。

そしてその地獄が始まる前に僕は、このポケモンたちとともにもっと前に進んでいなくちゃいけない。

最低でも30匹は、レベルを50にしていないと伝説のポケモンと張り合えないと思うんだ。

 

 そのためには外国との協定とポケモンの捕獲、そしてポケモンについて色々広報しないといけない。

でなければ、善悪関係なく人が死んでしまい、日本は滅んでしまう。

簡単に亡びるか!だなんて思うかもしれないけれど、日本の地政学的な立ち位置を見れば

ポーランド以上の地獄だぞ?

 あそこは内地だし、もっと周囲を見ればオーストリアやルーマニアと同盟できた。

 まあ欧州情勢複雑怪奇だから仕方ないし、島国と内陸国じゃ融通に格差があるから、

一辺倒にこれだ、とかなんとかいいがかりで処理することはできない。

ただ日本はプレートテクトニクスを無視できるほど、強靭な地盤でできちゃいない。

 

 今後ポケモンが地球に影響を与えるような存在になれば、処理できるようになっておかないと……。

 

 僕は心持を一新して、自転車にまたがる。

午後2時ぐらいに埋立地の港湾公園に向かう。

 途中でポケモンたちの行動を見たが、野生動物のなりをするだけで別段問題を発生させることはなくなっているみたいだ。以前みたいに、ケムッソ等の虫ポケモンが道路を闊歩して、一般市民に危害を加えるなんてことは、移動中全くなかった。

人がいないというものあると思う。

 でも本当にそれが理由なんだろうか?

 こう……唐突に鎮静化すると、何が発生したのか知りたくなってしまう。

そしてそこから最悪な事態が進行中なんてこともあるから、早めに理由を知りたい。

ただポケホの履歴を見ても、ある程度関係ない物ばかり。

 

 今のうちにポケモントレーナーたちと親睦を深めておくべきと思ったけれど、

ポケモンや各都道府県の長によって特別措置の権力とともに増長しているトレーナーがいるはず。

そんな人と会話なんてすれば、簡単なすれ違いで地域紛争が勃発するかもしれない。

そんな面倒なことが起きてしまうのならば、ポケモントレーナーがいないところで

県知事らによる話し合いやら会合やらで、けりをつけてしまえばいいこと。

 ポケモントレーナーとは言っても、ちょっとした一般人でしかない。

 だから政争能力なんてないから、その能力に長けた人に任せるほうがいいだろう。

僕もあの体育館で力関係を理解したし、お互いの立場っていうものも判明した。

 

 まあ、これ以上かかわりたくはないけれど。

 

 でもポケモントレーナーという、外交においての発言権の上昇は政治家にとって最高の道具だろうなあ。

 

 いろいろと思案していると、港湾公園に自然と到着する。

意図しない行動で公園に来れるほど、ポケモンの人への妨害はなかった。

 

 

 で、公園に来たんだけど……。

 

「ポウ……」

「なーんで水揚げされてんですかねー?」

 

 ウデッポウが、水たまりに水揚げされてた。

 この港湾公園の北側外周部分は、トッピングがある歩道と松や休憩所が設けられている。

また内陸部分はちょっとした広場があり、サッカーゴールや防球網が設置されている。

南側の外周部分は漁船の停泊場になっており、カキの養殖用の物品やブイ・その他磯臭いものが放置されている。

 で問題の水たまりは、内陸の東側だ。ここはまだ砂利山がたまっておりその根元には、広大な水たまり区域がある。

 ミズゴケや蚊の幼虫・ヤゴの繁殖区域になっていて、最近降水量が多い香川県では水が存在している期間が、かなり長期になってしまっている。

 

 で、このウデッポウがいるのは、この水たまりがある部分。

 

 僕はこの若干衰弱したかのように見えるウデッポウをどうするのか。

まあ捕まえるよな。こんな機会、わざわざ逃す理由なんざないからね。

リュックサックに手を突っ込んで、適当にボールを手に持つ。

そのボールの名前は、パークボールだ。

 弱っているからか、簡単に捕獲することができた。

 

ボォン

 

「よし。家に帰ったら診てやる」

 

 ウデッポウが入ったモンスターボールをもって、縮小させたあとに上着のポケットに突っ込む。

 

 残念ながら今日は水ポケモンを見たいだけだったから、かいふくのくすりなんて持っていないんだ。

さらにいうと木の実類も、ドーピング確定判定をくらうものだけなんだよな。

謎の実なんて回復するが、味がなぁ。激辛だから食わすのも、ちょっとまずいかなって思ったんだ。

 とりあえずポケモンの今を見なければならない。

 現状のレベルを見れば、どれだけ猶予があるかどうかわかるし瀬戸内海に、どんなポケモンがいるかわかる。

まあ眼前にあるのは相引川の河口部分なんだけどな。残念ながら汽水域じゃないから、生態系の差はわからん。

 

 僕は北側に移動して、護岸の岩に乗って海を望む。

 

 

 しばらく陽気の中で潮風を浴びて思考をリセットしていた。

 で、何か眼下で光ったような気がしたから、足元に見える海原を見てみた。

するとそこだけ墨汁を落としたかのように黒かった。

 

 ……ここ、そんなに海底に海藻生えてたっけな?

 

 干潮の時を思い返してみたが、そうでもないような気がする。

色々していると海中で赤い光が揺らめいだ。

これを視認したら何か嫌な予感しかしなかったので、後ずさらず全力で後退してやった。

 

 ゴッ ドッシャアアアアン

 

「ひっ」

 

 土を踏みしめた瞬間巨大な海水の柱が出現した。

また、その水柱が発生した余波で、周囲にあった護岸用の岩も爆散して吹き飛ばされた。

 

ドッ ゴッ ダッパアァン

 

 すぐに上を見て吹き飛んだ岩の軌跡を見たけれど、僕に影響を及ぼすようなものはなかった。

でも着弾後の軌道が怖いから、なるべく水柱に近いところに移動した。

これがいい判断かどうかっていわれたら、いいわけじゃないんだろうけどさ。

 整然と並べられていた護岸の岩が、4割ほどえぐり取られていた。

 そして岩が吹っ飛んだあとに振ってくるのは、海水だ。

僕の服は水しぶきでずぶぬれになる。もちろん勢いある水が痛いんだけど、回避しようがない!

 

 歯を食いしばって我慢しながら、モンスターボールからカリキリを出す。

 

「キリッ!」

 

 水柱から何者が出現するかわからないけれど、きっと高レベルのポケモンだろう。

 

 カリキリは緑プレートからエネルギーをもらって、覇気のようなものを身にまとっている。

本人のやる気もいっぱいみたいだ。両手の鎌を挙げて威嚇している。

ツチニンも出して、日本晴れでもしておこうか?

よし、ツチニンも……

 

 

「ギャオオオオオオ!!!!」

 

 ツチニンが入っているボールを取り出そうとすると、水柱から雄たけびが聞こえ空間を震わせた。

腹にその重低音が響き、鼓膜も震え甲高い音も頭に入ってくる。あまりにもうるさいから、両手で耳をふさいだ。

 しかしそれと同時に、どこから来るか視線を張り巡らす。

勿論上空から降ってくるに一票。

そういうわけでさっさとカリキリを抱えて、この場から逃げ出してやった!

 

シュッ

 

 嫌な音が背後から聞こえた瞬間、後方から爆発音。

そしてわき腹に鈍痛。

 

「キィィィリイイイ!!」

 

 カリキリが僕を跳ね飛ばしたのと同時に、ソーラービームを打ち出した。

 

「ぐ……ふっ……」

 

 で弾き飛ばされた僕は、とっさに受け身が取れずに上着やズボン、皮膚をトッピングで削ってしまう。

ガリガリザザザとゴムと砂利で、体が痛めつけられて地面にうつぶせになったままだ。

痛すぎて起き上がれない。起き上がろうとしても、膝や腕が痛すぎて起き上がれないんだ。

それにわき腹を殴られたから、呼吸するのもつらい。

 首だけは動かせたから見てみたけれど、雄たけびを上げていたのはギャラドスだった。

 もうね、ここだけでも驚けるんだけれど、奴は足元の土台を破壊して水を確保していた。

さらにその作られた穴から一直線上に走る破壊痕がある。

あれを回避させるために、カリキリに突き飛ばされたみたいだ。

 

「……」

 

 四の五の言ってられねえ!

 

 左腕が痛くないからこっちを動かして、ポケット内に入れてあるボールを放って全員を出してやった。

ただしウデッポウ、お前だけはだめだ。

 

「ニンッ!」

「ッキ!」

「ヤコッ!」

「ルラアッ!」

 

「ガルーラ、僕を抱えて遠くまで逃げて! ツチニン、ソーラービーム! ヒトツキ、でんげきは!ヤヤコマ、いばってから鳴き声! カリキリはどくづき!」

 

 

 みんなうなずいて行動を開始する。

 

「ギャアアアアアア!!!」

 

 ギャラドスの……アクアテールとりゅうのいかりか?、とにかくそれを使って周囲を攻撃している。

僕はその被害から逃れるべく遠くまで離れたけれど、奴はそんなのおかまいなしに強襲しにきそうだ。

 

「ツキッ!」

 

 ヒトツキがでんげきはを放つ。一直線に放たれた雷撃は、逃れようと体躯を曲げるギャラドスに直撃する。

だが効果がないのか全く叫び声をあげず、行動を鈍らせることすらできないで反撃の手を許してしまう。

 ギャラドスは雄たけびをあげて、海中よりしっぽを海上に出してその巨躯ごとしっぽを回し飛ばしてきた。

回し蹴りの要領なのか、威力が著しく上昇したそのしっぽの攻撃は近くにいたカリキリに当たらず、かなり後方に当たった。

攻撃を加えられた場所は、水を爆散させて地面を陥没させたりアスファルト等を粉々に砕いていった。

 

「ギャアアアア!!」

 

 今度は何かと観察していると、草木が風に揺られ最終的には折れそうなくらいに揺らいでいく。

何をしているのか、まったく不可視で不明だったのが、瞬きを挟んだ瞬間巨大な竜巻として襲ってきたんだ。

 

「ルァガ……ラアッ!!」

 

 僕を両腕で抱えるガルーラは、気合を入れて片足を地面にたたきつける。

渾身の踏み込みは、ふみつけという技を覚えていないガルーラにとってどんな技になるのか。興味はあったけど、どんな技なのかすぐに分かった。

 ガルーラが踏みつけると地面が割れ、一気に隆起しギャラドスが放った竜巻を減衰させたんだ。

 かなり大きな岩塊で、4Mはあると思う。これほど大きいと、岩塊ができたその場所は大規模な補修工事が必要になるだろうなぁ。

ああ、また県の予算が削れる……。

 

 まあ、知ったこっちゃないけどな!

 

「ガルゥゥウラァアア!!」

 

 ガルーラはそのまま意気を込めて、片足を眼前の岩塊にぶつけてサッカーボールのように飛ばした。

その岩塊はみんなの支援の中、確実にギャラドスにぶつけられる。

酷く鈍い音が鳴ってそのままギャラドスの長躯を、海中に沈めこんでいく。

 青い竜は痛みに苦しみ叫びながら、海面下に没したようだ。

 だからと言って、油断はしないよ。

 

 しばらく待機していると、水面に赤いものが浮かんできて海原を朱に染めていく。

 

 死んだか。

 

 別に罪悪感は湧かない。

むしろ日常茶飯事だ。

 人間がゴキブリや不快害虫を殺したり、ネズミやブラックバス等指定外来生物を殺処分するのと同じさ。

 だから僕は何も思わない。

 

「ごめんガルーラ。歩けないから、家まで負ぶっていってもらえるかな?」

「ガルッ」

 

 なぜか笑顔なガルーラ。

そういえば雌固定だ。ということは、これがガルーラの甲斐性! 

女性だったら惚れたんだろうか? 申し訳ないけど、萌えモンとか擬人化は興味対象外です。

 

 僕は皆を外に出したまま、帰路につくことにした。

帰ったら黄金の実を使って、体中の痛みを取ってから家に入ろうと思う。

 しかしまあ、この公園は酷いことになったもんだ。

 そこら中に岩塊があるし、破壊痕だったり地盤から覆されていたりしている。

停泊中の船舶も、奇跡的に一隻だけ爆破炎上しているだけだ。

周囲への延焼問題もあるから、沈めておこうかな。

 

 いや、もしもこの場面を誰かに見られたら、確実に賠償問題に発展する。

だからここは見なかったことにしよう。

そうしないと第三者にすらなれない。

 

 このまま僕は家まで安全にたどり着くことができた。

 そして庭に生えている黄金の実の木から、黄金の実を採取して体の擦り傷や裂傷に果汁をかけてやった。

効果は即効性で段階的に見る見るうちに回復していった。

この効果は圧倒的で、やはり医療関係に革命を与える可能性がある。

さらにこの効能を研究し、いつでも治療可能な麻薬すら作れてしまえそうだ。

 そう、廃人にならず段階を決定できる快楽を追及する麻薬とかさ……。

今はまだ作られていないけれど、皆無ということはないだろうと思う。

 

 そういえばこれらきのみに、中毒になる摂取量ってどれくらいなんだろうか?

技マシンも併せて、ここら辺の解明をすべきだと思う。

そうしないときのみ治療も、確信をもって治療行為に用いることができない。

水中毒のような理論上可能でも、実際問題不可能な中毒現象ならいいんだけどさ。

 

 さて……と、ウデッポウを回復させないと。

 

 家に入る前に服に付いている砂ぼこりをできる限り払い落として入る。

また、若干べたつくけど我慢しよう。

 

「ただいまー」

 

 って言っても、今日はお母さんたちは買い出しに行ってる。

リビングにあるマルナカ・マルヨシ・ムーミー・エブリィ・ラムー・キムラのチラシをペラペラめくってみたけれど、キャベツ一玉198円は高いよなぁ。

これがお買い得なんだから、世も末だ。

 一応自給自足はできているようだけれど、この約一億二千万人の食欲を確保できるほどの余剰はないと思う。

JAや市場の倉庫や冷凍食品の在庫を切り崩して、約半年が目途かな。

 

 ああ、こんなことなら水ポケモンを大量に捕獲して、アメリカ合衆国と話をつければよかった……。

いや、ここは茨城のトレーナーに望みを託したい。

もしもダメだったら、水産資源に頼るしかないな。

 もちろん食料の話さ。

一級河川の米どころ岡山も、大阪の大人口を維持するためのリソースにされるだろうしな。

それか県主導の大規模開墾と農家抜擢で、不必要になった会社や駐車場・耕地を田畑にして、安定的な二毛作や二期作を行えばいいんじゃないだろうか。

 でもそうすると土地がやせてしまって、一年ごとに畑を放置しなければいけないし、レンゲやスタンガン等で窒素固定もしなければならない。

キノコ類も体積なら生物中最大なのに、見てくれは小さいんだよなぁ。

 

 

 そういえばニュースもそうだけど、神様は畜産等人間や既存の生物がいきなり絶滅しないよう、生物全体のバランスは整えてくれていることを思い出した。

これならば、牛・羊・イノシシ・鳥・豚等が、畜産業として残っているはず。

そこにケンタロスやミルタンクが加われば、必須たんぱく質は安定して取得できると思う。

 うーん、懸念すべき事項がありすぎて、一般市民の僕の知識じゃここが限界だ。

後は任せるしかないし、何かあれば提案もしてもらわないといけないな……。

 

 僕は手洗いうがいをして尿素を捨ててから、自室に戻ってなんでも直しやげんきのかたまり等をリュックに詰めて近くにある防波堤の向こうにある護岸の岩のところに行く。

 なんで風呂場で行わないのかわかるか?

 まあ不測の事態もそうだけど、風呂場がもしも壊されたらたまらないからだよ。

それにこの時刻だとちょうど岩の隙間に、塩水が入ってきて疑似的なタイドプールが発生するんだ。

そこにウデッポウを出して、元気の塊をあてがう。

 

 元気の塊はウデッポウに接触した瞬間、本体とともに輝きウデッポウの肉体へ溶けていった。

 

「ウ……」

 

「おーい、無事かい?」

 

「デッポー」

 

 目が半分しか開いていないけれど、これは体力とは別のスタミナの概念かな?

今のポケモンにそんな機能はないけれど、現実に即した生物の動きをしているから不自然に思えない。

いい塩梅だと思うよ。

 

「君が心配だったから一度保護させてもらったけど、元気がでたなら解放するけど……。

どうするー?」

 

 若干深い穴を岩に座ってからのぞき込んで、ウデッポウの出方を見る。

するとウデッポウはしばらく俯いてから、僕に両腕を伸ばす。

 

「デーデッポウ!」

 

 元気があるわけではないけれど、やる気はあるみたいだ。

よし、君を仲間に加えよう。

 

「よろしく、ウデッポウ。僕は佐藤芳樹だよ、よろしくね」

「デッポ!」

 

 

 

 

 ザパァン

 

 

 僕はウデッポウに両腕を伸ばした時、不自然な水の音を聞いた。

だから僕は顔を少し上げて、視界に水色が見えた瞬間西に向かって走り出したんだ。

 

「ウデッポウ、逃げろ!」

「ッポ!?」

 

 

 直後僕がいた場所の護岸の岩と防波堤のコンクリート・土台の土と防風林を、

ギャラドスのアクアテールが粉砕した。

頭や背中に石や砂、葉っぱなどが当たるけれど気にしていられない。

ここで戦えば、宅地に被害が出てしまう。

すぐに戦場を変更して、あの港湾公園で戦闘しないといけない。

 僕はヤヤコマが入ったボールを手に取り、空中に放り投げる。

 

「援護してくれ、ヤヤコマ!」

「ヤコッ! ヤーコッ!」

 

 ボールエフェクトを巻き上げながら剣の舞を踊り、体当たりをギャラドスに仕掛けにいく。背後を気にしていられない。

すぐに漁船が停泊している場所に来てしまった。

このうん千万もする固定資産を破壊させるわけにはいかない。

 すぐに防波堤に仕掛けられロープで頑丈に固定されている脚立のはしごを駆け上がって、道路から防波堤に出るための防風林の分け目に入った。

そして防風林へ入ることを禁止する黄色い看板をわき目に、金属の柵を左足の土ふまずで踏み越しながらリュックサックからマッハ自転車を取り出す。

 

 緑地公園と化した港湾公園に行く途中、片手運転しながらポケホの預かりシステムでウデッポウの情報を閲覧する。

 

 

ウデッポウ:パークボール

技:あまごい いやしのはどう あくのはどう みずのはどう りゅうのはどう 

  はどうだん

特性:メガランチャー

 

 なるほどと納得した。この戦闘は勝利することが可能だと確信する。

 万が一のため、大量の回復アイテムや回復きのみを持ってきておいて正解だった。

天変地異が起きても、僕が無事だったら基本的に大丈夫になる。

 

 緑地公園に向かう途中、ギャラドスが幾度となく竜巻を放ってきたがリュックサックから頭を出すツチニンの日本晴れと前かごに出したカリキリのウェザーボールで、竜巻に上昇気流を与え不安定にさせて崩壊させた。

またこっちにりゅうのいかりを放ってくる前に、ウデッポウの波動技やヤヤコマのいばる→鳴き声コンボで、混乱させて妨害してもらっている。

 

「再戦だ、ギャラドス!!」

「ルァギャアアアア!!!」

 

「行け、ガルーラ! 地面を引っぺがして、かいりきだ!」

 

「ガルーラ!」

 

 ガルーラをすぐに出して、マッハ自転車で逃げる。

 別にガルーラを置いてけぼりにしたわけじゃない。

奴の攻撃予備動作を見たからに過ぎない。

すぐに緑地公園の道路を走って、竜巻やアクアテールの水圧から逃げる。

 あの一撃一撃が人間の命を容易に奪い取るものだと理解しているさ。

 だから足がすくむことがある……わけがない。

どんなに危険であっても、結局は戦闘でしかないからなぁ。

 

 ギャラドスは南側の海辺から動いていない。

 

「ここからやるか、カリキリ・ツチニン。ソーラービーム!」

「ニン!」

「キリィッ!」

 

 二つの太陽光線がまとめて、ギャラドスに向かう。

そして奴に当たるのと同時に、ガルーラが怪力で破損した電柱を抜いて投擲する。

ソーラービーム二本と悪の波動、電柱で攻撃されてはさすがのギャラドスもお手上げか?

 警戒はしているけれど、このまま終わればいい。

そうでなければ最後の切り札で終わらせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

「ギャアアアアア!!!!」

 

 

 

 それは悲鳴。苦痛と怒りが伴った逆鱗の叫び。

 

 

 ギャラドスは赤い稲妻と暗黒の怒気に包まれ、そのまま上空に飛び立つ。

僕はその光景に呆然としてしまって、行動が遅れてしまった。

奴はそのまま西側の海へ落ち、大きな水しぶきをあげながら着水。

すぐに頭をこちらに向けて、大きな口から何かが放たれた。

 

「い、ゴボッ」

 

 

 いつの間にか、僕は後方にあった柵に当たっていた。

後頭部や背中に鈍痛が響き、背中が圧迫されて肺の空気が強制放出させられ、呼吸ができなくなる。

そして喉かどこかに傷が入ったのか、口中に広がる血の味。

眼下には血に染まる自分の服がある。

 そういえばなぜか視界の左側に鼻が見え、右の耳だけ音が聞こえる。

なぜ左側の五感がなくて、右の五感だけが正常なんだ……?

 

 

 まさか……。

僕は頭の左側が徐々に炎にあぶられるがごとくの痛みを味わいながら、意識が遠くなっていった。

 

 




途中から指示だしを忘れ、上司に相談しない青二才。
こいつはそこまでの人間だったというわけだ。


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20:救急医療

 

「あああ、心配だ……」

「その心配はよくわかる。だから、いつでも出せるように」

「「はい!」」

 

 私は救急救命士の渡辺です。

今私はこの牟礼の消防署三階の屋上西側より、とある方を迅速に救助できるよう監視しています。

本来ならばほかの方がやるのですが、今現在消防本部や警察本部より消防隊への火災対処や救命救急のため、

優先して出動しております。

 そういう私たち本職である救急救命士は、いつでも専門的な機械が付属している救急車を駆って

彼を助けなければなりません。

 

 ほかの市民よりも個人を優先して、救急車を駆り出さなければならない。

 

 その個人の名前は、佐藤芳樹君。

彼は世界的にも注目されている初代ポケモントレーナーの一人です。

いや、初代というのは少しおかしいでしょうか。

 ですが上よりポケモントレーナーには、誰でもなれるといわれていますので初代でもよろしいかも……と。

 とにかく私たちは、署長と残った救命士中隊とともに緑地公園で、謎の青い竜と戦っている彼を監視し続けました。

 

 本来ならばこんな状態はあり得ません。

常に出動できるよう防火服を身に着け、高規格救急自動車に乗れるようドアを開けてそのそばで待機しています。

私たちが出動できなければ、ほかの医師や看護師の方々に救命活動を託さなければなりません。

 出動できないことを心の中で謝罪しつつ、業務に集中するだけです。

 

 こうして数分経過。

 

 彼は一度緑地公園から離れ、どこかへ行きました。

 

 そして私たちはその公園の惨状を再確認します。

 

「……」

「これから俺たちは、生きていけるのか?」

「上は共存するみたいなことを言っているが、あのポケモンを従属させないといけないんだろ?」

「無理だって。あんな奴がうじゃうじゃいるんだぜ?」

 

 私も救命士の中道さんと同じ考えだ。

どう考えても彼らとの友好なんて……。

 少なくとも彼らが使っているボールみたいなのを手に入れなければ、私たちは共存共栄を図ることなんてできません。

 せめて今月中には、彼からの指導があってほしいものです。

とても若くその身に、県民の命を預けるのはかなりの重責ですが頼らざるを得ません。

申し訳ありませんが、私たちは佐藤君を援護するしかできません。

 

 彼を含むポケモントレーナーには、目の前のことに集中できるよう大人がしっかりと支えなければ……。

 

 そう思っていると、巨大な水柱が沿岸部に出現。

更にその沿岸となっている護岸の岩の上に、佐藤君がいつの間にかいたのです。

そして海に没したはずの青い竜が出現し、佐藤君を攻撃!

 私はその戦闘の様子を食いるように見ます。

あの水を発するしっぽでの攻撃で、護岸の岩が粉砕されてしまい護岸コンクリートもボロボロになっていました。

 

 佐藤君はすぐににげたようで、水しぶきや砂埃が落ち着いた時には誰もいませんでした。

しかし青い竜が先ほどの緑地公園に移動するのを確認。これで、佐藤君が緑地公園に向かったことが分かります。

彼がなぜあの緑地公園で戦うのか、あまりよくわかりません。

 高台に移動し、先ほどから見えている光線や炎の玉で攻撃すればいいのではないでしょうか?

なにせあの青い竜は、しっぽでの攻撃ばかりじゃないですか。

たまに竜巻のようなものも見えましたが、無条件化の竜巻なんてすぐに収まります。

 

 私はポケモンが起こす事象に、科学的な根拠を当てはめていると、青い竜が突然稲光を発し始めます。

竜は海上に上半身を出現させるだけで、まったく竜らしくなかったのです。

しかしあの竜は全身を真っ黒なもやと稲光で、全身を包んだかと思うと空を飛び東から西へ移動しました。

巨大な雄たけびに耳が一時的な難聴に陥る中、署長たちと戦闘を監視し続けます。

 

 ですがまさか、こんなことが起こるとは思いませんでした。

 

 私は今まで思っていました。佐藤君のようなポケモンに熟知したトレーナーなら、

どんなことでもなしてしまうと。

 彼がどんなことをしてきたのかは、ある程度入ってきます。

それを見ると佐藤君なら、どうとでもしてしまえるんじゃないかと思ってしまいました。

つまり、油断です。

 

 監視はつらくありませんし、観察にもなります。

ですが青い竜の強さというもの、ポケモンの真の恐ろしさというものを垣間見ました。

きっと佐藤君も思っているでしょう。

 

 まさか、あれが遊びだったなんて。

 

 

 

―――――リリリリリリリ

 

 

 

「――――っ!」

 

 

 誰……?

 

 

「――――ろっ!――――!」

 

 

 全身が痛いです……。動きたくありません……。

 

 

「わ――――きろっ! 起きろ、救急救命士渡辺隊長!」

 

「っ!?!!?」

 

 私はまどろみの状態から、突発的な刺激を肩からうけ起き上がります。

そして私の視界には、絶望が広がっていました。

 

「しょ、署長!? いづっ……!」

 

「私は大丈夫だ。それよりも要救護対象者のGPS反応が消失した。至急現場に向かってほしい!

消防署はなんとかしておくっ、だから、はやく行け―――!」

 

 私は……背中やわき腹に崩落したコンクリートがぶつけられ、打ち身になっていました。

そして私の眼前には、頭から血を流す署長がいました。

署長はこの燃え盛り屋根がなくなり空が見える消防署を捨て置き、すぐに佐藤君を救助するように命令しました。

私はほかの救命士が、消火活動や署長の手当てをし始めるのを後目に、隊員と機関士と合流。

 

「田尻さん、後藤さん、ご無事でしたか!」

「はい。救急車は無事です。へこんだり高輝度赤色LEDがぶっ壊れてますが、内部機器はなんともなっていません」

「わかりました。確認手順はすでに完了しているものとして、省略。すぐに緑地公園へ出動です!」

「「はい!」」

 

 私は助手席へ、田尻隊員は護送室で待機、後藤機関士は運転席に。

手順は可能な限り省略し、救急サイレンを最大限に鳴らして出動させます。

 

 出動させると一度西に向かって進みます。

この時何が起こったのか、ある程度予測がつきました。

何故なら消防署から南東へ一直線上に立つ民家や樹木等が、木っ端みじんに破壊されたり炎上していました。

 これはあの青い竜が、佐藤君が持つポケモンと同じように何らかの光線を放ったのだと思います。

そうでなければ、五剣山の一角が崩落するだなんてありえませんし、岩肌がむき出しになっている特産品でもある牟礼の庵治石の掘削現場を崩落させることも非現実的です。

 

 私たちは戦闘の余波のおかげで、まったくポケモンがいない中橋をわたり、だるまやを横切り北へ進路を取ります。

そこから時速100キロで走行し、緑地公園に向かいます。

そして屋島東小学校の正門で立ち止まる人たちに、長波を当て押し釦信号を通過。

 

 

 ドドン――ッ ドンッ ―――パアアァァン!!

 

 

 道路のアスファルトに凸凹や亀裂ができるほど、激しい戦闘を行っているようです。

あの青い竜はいまだに佐藤君のポケモンと戦闘しているようです。

私たちは緑地公園に侵入して、最後に佐藤君を見た場所まで移動します。

 

「つかまっていてください! ドリフトして、後部を要救護対象に向けます」

「わかりました。ドリフト後、バックドアを開けますので田尻さんはバックボードを積載した担架をもって佐藤君のところへ!」

「はい!」

 

 

 本来ならばコンクリやアスファルトでドリフトはなかなか難しい。

ですが今は地面が若干傾斜していますし、地面には破砕されたコンクリや散乱した枝葉や砂利が散乱しています。

これなら不安定ながらも、地面とタイヤの隙間を利用して滑らせられるでしょう!

 

 キキ――――ッ!

 

 バックドア、開け!

 

 後部より担架がレールより降ろされ、地面の砂利を踏む音が聞こえる。

私もすぐに、シートベルトを外して降ります。

その時あの青い竜と目が合ってしまいました。

 

 そう、この場所は戦場です。少しの緊張と恐怖で……死を味わってしまう場所です。

 

 私はあの青い竜に口を向けられてしまいました。

あのなんでも食みそうな巨大で奥が見えない口。

私は無視して走りだそうとしたとき、地面が揺れてこけてしまいます。

 

「ぐあっ!?」

「うわあああ!!」

「このおっ!」

 

 佐藤君の近くに行っている田尻さんは、前のめりになってしまいます。

担架が倒れていないならよし!

更にこの時青い竜は、佐藤君のポケモン達の必死の攻撃にさらされ私たちへ攻撃をする機会を失ったようです。

 すぐに向かうにも、田尻さんが地面に座ったまま動かないでいます。

 私は青い竜に視線を奪われていましたが、田尻さんを確認したらすぐに佐藤君に視線を移します。

 

「え……」

 

「香川は……終わりだ……」

 

 私の唖然とした声に、田尻さんは絶望の声を発します。

何故なら、彼は……お腹から上部、左半身が消失していました。

更に服が破れ皮膚に裂傷とともに、大量の血液が外部に出ていました。

 

 

「あ、ああ……嘘だろ、嘘だろ!!?」

 

 後藤さんもポケモンの戦闘の余波を受けてよろめきながら、表情を絶望に満ち溢れさせ慟哭します。

 

「と、とにかく、遺体だけでも……たしか、ポケモンに関する木の実は……」

「死者に効果があると思いますか!?」

「搬送だ。とにかく、搬送を……!」

 

 私たちが動こうとしたとき、何やら水がかかってきました。

何かと思って顔を上げると、そこには青い竜がいました。

 

「っ!?」

 

 息が詰まり、作業が滞ってしまいます。

 

「ニイイイイイイイン!!」

 

 その時雄たけびを上げながら、白く輝くポケモンが青い竜に向かっていきました。

 

 そしてそのポケモンは青い竜に攻撃を加えた後、空中で二つに分裂しました。

白く輝いていたポケモンは、その光を納めさせます。

すると光輝いていたポケモンは、どこからどう見てもセミと抜け殻になっていました。

 その二匹のポケモンのうち抜け殻は、瞬時にどこかへ消えます。

 更にセミも青い竜に切りかかった後、青い竜の陰になっている部分から抜け殻が出てきて切りかかっていました。

 

 そして最後には、上空の積雲より青い竜に落雷が何度も発生し、青い竜が黒焦げになった後セミと抜け殻が4枚卸しにしました。

竜だったものは緑地公園に倒れこみます。

 この後佐藤君のポケモンたちが、炭化したポケモンを無視してこの場にやってきました。

あまりにも派手な戦闘に魅入られてしまい、救助がそっちのけでしたが振動で動けなかったので、ある程度態勢の言い訳になりましょうか。

 

「ガールァ」

「?」

 

 怪獣っぽいポケモンが話しかけてきました。

私たちは困惑して、どうしようか迷っていましたがそんなことをする必要はなかったようです。

 

《トレーナーの安全とポケモンの安全、ほか救助者の確認ができました。

これよりポケモントレーナー救命作業を行います。

またこの行動は、特定のアイテムがないかぎり確定で失敗しますので、ご了承ください》

 

 そんな声が佐藤君の右ポケットから聞こえました。

 

 私たちは何事かと思って、田尻さんに取り出してもらいます。

それは上から説明のあったポケモンフォンでした。

そのポケモンフォンは、画面に情報を載せながら私たちに説明を行います。

 

《手順1。トレーナーのバッグの中から、『せいなるはい』を取り出してください》

 

「『せいなるはい』?」

 

 佐藤君の遺体の態勢を崩さないように、背中に押しつぶされているリュックサックのチャックを開けます。

そしてそこからめぼしい物を取り出しますと、ポケモンフォンより『せいなるはい』の画像が出てきます。

通告の遅さに、私は若干苛立ちを覚えます。この作業は私がやることにしました。

 

《手順2。『せいなるはい』の袋を開け、灰を患部へ振りかけてください。

また『せいなるはい』は量に関係なく、周辺の患部を癒す効果があります。

よって限られた量を考えて、回復させたい場所に振ってください》

 

 見た限りですと、この手のひらに収まる灰色の袋に白銀の灰が入っていまして、

この灰自体かなり希少かつ内容量が少ないことを確認しました。

私はこの限られた量を遺体を運ぶ際に難度が高くなる場所を中心に振りかけていきます。

このポケモンフォンの説明や『せいなるはい』の効能は、少なく見積もって流れ出る血液を凝固させる程度でしか考えていません。

 もしも、本当に回復させたとして、佐藤君が生き返るだなんてありえません。

よって私は輸送中にちぎれたら困る場所を重点して、振りかけるのです。

 

《『せいなるはい』の使用を確認できました。

手順3。『いやしのはどう』等、他者を回復する技を持つポケモンに、トレーナーへ技を

使わせてください》

 

「デッポウ!」

 

 ここは沿岸で、海に人が落ちないようにするための柵が設置してあります。

この柵に要介護対象の佐藤君がもたれかかっています。

そういえば、佐藤君の左方にある柵やコンクリ等も、えぐれるように消えています。

さらにそこから仰角低めに薙ぎ払ったのでしょうか、私たちの消防署に命中しました。

 

ああ、署長や皆さん、早く病院に向かわせていて下さるといいのですが……。

 

「ッポウ!」

 

 マイケルジャクソンさんが大元になったゲーム並みにうるさい青いエビが、

桃色の波状光線を出します。

 

 すると患部に振った『せいなるはい』が輝きだし、更に患部や周辺の肉体……最終的に全身を光が覆いつくしました……!

 

「おぉ」

「……」

 

 後藤さんはその光景に目を奪われますが、田尻さんは死んだ目でにらみつけています。

私もこの光景は神秘的なものがありますが、過剰演出のような気もします。

 

 その光は佐藤君の現状の形を映し出すと同時に、徐々に左半身が生えてきました。

そう、どういうわけか光は患部を治すどころか、対照的になるように肉体を……え、はあ!?

 い、今、光が……光から、骨が生えてきて、そこから神経・血管・筋肉等が交互に生えてきます。

そして手を作ったと思ったら骨芽細胞や皮下脂肪、最終的に皮や毛を再生しました。

頭に至っては、脳漿が蠢き増殖し組織液で満たされたと思えば、頭蓋骨で覆われ頭皮や頭髪が生えてきました!

 ほかの部分もいつのまにか黒ずんでいたところが健康的な肉体となり、そこが断面図として生々しく見えます。

そこから内部の臓器や血液が増殖し、最終的に皮や毛まで回復します。

 

 ありえない光景に、いつの間にか涙が出てしまいました。

ですがこれはただ肉体の損傷を治しただけです。

命までは戻りません。戻ったとしても、植物人間のままでしょう……。

 

 私は光が収まるまで待ちます。後藤さんや田尻さんも、その場に座って佐藤君の行く末を見守ります。

 

 ……45分ほどでしょうか、部分的に光が収まってきます。

空は夕焼け小焼けの時刻になってしまいました。搬送先は赤十字病院です。

今後のことも頭で整理しながら、完了を待ちます。

きっと終了の合図も、このポケモンフォンが音声を出力してくれるでしょう。

 

《処置が完了しました。

手順4。トレーナーを安静に安全なところまで運んでください。

これにて救命救急シークエンスを終了します。ありがとうございました》

 

 ポケモンフォンの電源はOFFになり、画面を黒くします。

私はこれを見て、佐藤君の脈拍を図ります。

心臓は動いていますし、脈拍はいたって正常です。

 しかし当の本人は、命を失ってから数分かかっています。

きっと植物状態でしょう。

ですが植物状態だとしても、私たちの任務は彼を病院につれていくことです。

どんな状態であろうと運ぶのは、私たちの仕事でもあります。

 

「田尻さん、ストレッチャーに乗せます! 後藤さんは、病院に連絡を!」

「「はい!」」

 

「ニン!」

「――!」

 

 彼を運ぼうと近寄ると、セミと抜け殻が彼の前に仁王立ちします。

あまりの速度に驚きましたが、笑顔で対応します。

 

「今から彼を、人間の病院に連れていきます。任意同行してください」

 

 二匹はうなずくと私たちに道を開けます。

そしてその二匹は、青いエビや怪獣のようなカンガルー、赤い鳥、ハナカマキリに話しかけていました。

この間に私たちは佐藤君をバックボードという固定器に固定し二次外傷を防ぎ、ストレッチャーという担架に乗せ高規格救急自動車に積みます。

 

「病院に一緒に行きたい方は乗ってください!」

 

 車内処置を田尻さんに任せます。後藤さんは出発準備を完了したようで、運転席から後方を見ています。

そして私がポケモンたちに促すと、青いエビとハナカマキリが乗り込んできます。

怪獣のようなカンガルーは首を横に振り、鳥とセミと抜け殻は空中を移動し救急車の前方や上部に移動します。

なるほど、移動中のポケモン被害を考えているようですね。

 私はこの意図を考え、後藤さんにバックドアを閉めさせます。

そしてすぐに助手席に乗り込み、サイレンを高らかにならして赤十字病院に向かいます!

 

 市道から国道11号線へ。

そこから西に向かってひたすらに走っていきます。

この間にもポケモンが立ちふさがってきますが、佐藤君のポケモンたちの援護攻撃によって道が切り開かれて行きます。

交通量が少ないことも、時短の要因になります。

 おかげで15分以内に病院へ搬入できたことは、佐藤君の回復したばかりの肉体の疲労を最小限にできました。

 あとは回復することを願うだけです。

それと病院のスタッフに、佐藤君のポケモンのことも伝えておかなくてはなりません。

これも現場で働く私たちの使命です。

 

 

「……ふむ。事件発生時刻と搬入時刻。さらに加えて佐藤さんの容体も鑑みますと、訝しく思わざるをえない点がいくつかございますな」

「それについては私から説明いたします」

 

 私は今回の件で主治医となった外科の一橋さんに、此度の事件のことを包み隠さずすべてお伝えしました。

ただ、やはり『せいなるはい』による死者蘇生は、医療関係者にとって無視できないものらしいです。

 

「左半身と頭部の三分の二が欠損し、更に多数の裂傷と失血におけるショック死からの回復……。信じられませんが、この佐藤さんの肉体の皮膚の継ぎ接ぎ感は、これが原因のようですな。

信じがたいが……信じなくてはならないようですな……」

 

「ん……うぅっ、ハンバーグ……押しつぶさないでくれ……」

 

 様々な処置を部下にやらせていると、そんな呻き声ににた寝言を佐藤君が発する。

このあとポケモンたちと共に、個室へ移動しました

 

「「……」確か貴方は植物状態の可能性が高いと仰いましたね?」

「はい」

「『せいなるはい』というものは、すぐに手に入るものなのでしょうか?」

「それはわかりません。彼が覚醒したときに質問してみてはいかがでしょう」

 

 一度この手の話は終わらせました。彼の搬入が済めば、私たち救急隊は救助に参加しなければなりません。

そのためすぐに消防署に戻らなければいけません。

 

「そうですな。では、もう一つ。これを救急隊の方々は知っていますか?」

 

 主治医の方は私に、黄色く手のひら大の木の実を見せてきました。

何のことかわかりませんが、最近の資料にポケモンの木の実の効能や研究による結果次第で、これらの果汁をうすめたものを点滴として処置し、容体を安定させるという報告がありました。

 

「これはオボンのみです。つまりポケモンのきのみです」

「これが……」

 

 この後のことを頭から追いやって、目の前にある技術的転換点を注視します。

 

「そしてこれのほかにも、オレンのみといったものがありますがその木の実は軽い裂傷を瞬く間に治します」

「!?」

 

 軽い裂傷を瞬く間に治す!?

 

「このオボンのみは、皮を皮膚になめせばそばかす・ニキビ・ほくろ・皮膚炎が癒え、果汁を飲めば食道がんや胃炎を治し、

果実を食めば虫歯や鼻炎・肉体の大体の損傷を癒します。しかし、根本的な異常を治すことはありません。

しかし、この上位版であるラムのみやかいふくのくすりといった幻の道具を使えば、

人間は病院いらずになるでしょう。そして先ほど出てきた『せいなるはい』は、もしかすると人類の歴史を変えるかもしれません」

 

 今はまだ主なる救急医療を行う病院にしか通知されていないと仰いましたが、もしもこの『せいなるはい』が国内……最終的に国外でも発見されてしまえば、この薬……いや、真の不老不死の薬を求め世界中で争いが起こるでしょう。

国は知っているのでしょうか?

 

「これは報告するのですか?」

「我々医者の悲願です、当然でしょう!!」

 

 主治医の方は、わなわなと震えている。私も目から流れ出していた汗を腕でぬぐい取ります。

 

「こ、これで……あの人もあの子もあの方も……!」

 

 話を聞いて分かったことは、ポケモンの木の実の回復性能は驚愕ばかりだけれども、根本を治し正常化しかしないことです。

しかし『せいなるはい』は、肉体欠損を治すようです。ですが肉体の欠損を治したのは、本当に『せいなるはい』なのでしょうか?

あの青いエビが放った桃色の波状光線があったからこそ、欠損を治すことができたのではないのでしょうか?

私は緊急入電があったことを後藤さんから知らされ、主治医の方に敬礼しすぐに現場に向かうことにしました。

ただ体が痛かったので、目の前で妄想に入っている主治医の隣にいた部下の人に、オレンの実がないか確認しました。

 するとあったようなので、5粒の中の一つを実験の名目でいただきました。

そもそもこの果実はどこで栽培されているのでしょうか?

 

「新潟県佐渡市産です」

「たしかポケモントレーナーがいる場所ですね?」

「はいそうです」

「ありがとうございます、失礼します」

 

 質問への答弁があったのでそれに関する感謝をして、私たち救急隊はこの病院から去りました。

そして渡されたオレンの実を、ハンマーで砕いて三人で食べました。

凄く複雑な味でした……。

 

「早く俺たちにもポケモン講習が来るといいですね」

「はい。ポケモントレーナーの方々の負担を減らし、市民の皆様を守れるようにならなければ」

「その前に佐藤さんが目覚めなければいけませんが」

 

 後藤さんも田尻さんも佐藤君が、苦しそうな寝言をしたのを知りません。

一応変に希望を持たせてはいけないので、ここは黙っておきましょう。

それがきっと賢明な判断だと思われます。

 私たちはこの道を得意としています。私たちなりに、ポケモンに関して調べておきましょう。

そのほうがきっと最終的な判断が鈍らずに済むと思いますから。

 

 

 

 この日の深夜0時。

私たちは市から用意された仮屋であるプレハブに寝泊まりすることになりました。

消防署は残骸になっていますが、消防車は外出していましたので大きな被害はありませんでした。

ただ救急隊に軽症の者がおり、救急能力が低下してしまいました。

 しかしその療養期間中に、ポケモンやポケモンの木の実に関する情報を集め、今後発生する膨大な情報をさばけるように予習復習をしておきたいと思います。

ああ、私も軽症者になりました。

 ですが命に別状はありませんので、情報収集に明け暮れましょう。

まあそんな元気があるなら、出動しろって話ですが。

ただ足の骨折ですので、そんなことは不可能って話です。

 

 そして私は今回のことを署長に話して、もっとポケモンについて知らなければならないことを伝えました。

しかし変に動いてもケガする可能性が高まり、上から文句を言われるので情報収集のみに努めるようくぎを刺されました。

 

「くぎをさされても、更新される報告書だけは律儀なんですよね……」

 

 救急隊や医療に関する情報がメールで届けられます。

これを最近の新聞代わりに楽しんでいますが、その内容はちゃんと勉強をしていなければ

理解できないものばかり。だからといって、複雑でも煩雑なのは少々困ります。

書類や情報整理したら仮眠します。

 幸いにもあの竜のおかげで、ポケモンの陰が高松市と牟礼町を中心に薄くなったので応援以外に駆り出されることはなくなりました。

今日は十分な睡眠をとれるでしょう……。




佐藤君が、右利きでよかったですね。


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21:偶像、時代の荒波に立つ

掲示板を作っているときの気晴らしに書いてました。


P PP PPP PPPP PPPP PPPP PPPPPPPP……

 

「煩い……」

 

 私は重い瞼の上を指でこねくり回しながら、目覚まし機能を発揮するiPhoneを止める。

まだ外は太陽すら昇っていない時刻4:00の早朝。

なんでこんな朝っぱらから私のような就労年齢に届いていない女の子が、眠気を飛ばして起き上がるのか。

 

 いろいろ不満はあるけれど、これからこれ以上悲惨な事態に進展してしまうことを考えると、仕方のないことなのかなと思ってしまう。

 だっていまは、官房長官が仰ったポケモンという存在がこの地球全体に蔓延っていて、加工貿易でなりたっている日本が窮地に立たされている。さらに言うと私は、この日本でアイドルをしていて、稽古場までかなり距離がある。

現状電車は動いていないから自動車で行こうにも、燃料は青天井を突破してしまってどうしようもできない。

露西亜から天然ガスのパイプが海中を通ってきているといっても、液体化石燃料車が多い日本において個人的な車両はほぼすべてに出禁になっている。

 電気自動車という秘訣も存在しているけれど、残念ながらリソースをすべて東京のために取られていて茨城県民に使える電気はこれっぽっちもない。

今日も今日とて、計画停電だ。

 

 で、またこの状況下。ガスで動く都市バスは運行本数を劇的に減らしての運行だ。

しかも水素で動く警察車両が周囲を固めて、だ。

後方は自衛隊の機械化兵士が、ジープに乗って周囲を警戒しながらついてくる。

もしもポケモンが近寄ってきたら、空砲などで脅かして退散させている。

 こんな息が詰まるような日々、私たちが満足して生きれる空間や時間はない。

 事務仕事や電気を大量に消費する加工工場は、全面的に停止。

それらすべてをインフラ維持に使われている。

上下水道・電話回線・公共電気系統・都市ガス・病院施設への供給……。

 

 

「はぁ……」

 

 

 毎日のストレスでやつれた顔を化粧棚にある鏡で見る。

化粧水や保水パックで維持される不自然な私の肌は、鈍く光っている。

 

 そもそも私はなんでこんな情報をしっているのか。

インターネットなんてできず、冷凍庫も使い物にならない。保冷パックで保存されている冷気で、冷蔵庫として使えているだけだ。

iPhoneも充電できない。それでもできる理由……。

 

 

「おはよ、ミク」

「ラル……!」

 

 そう、私はポケモントレーナー。

 

 日本に7人いるらしいけど、『PokeLINeK』じゃ6人までしか確認できなかった。

もしも死んでしまえば、掲示板にあるように勝手に最大人数が減るだけっていう、かなりむなしい仕様になってる。

 化粧台の机の上に置かれているポケモンフォンの電源を入れて、『PokeLINeK』の最大人数を確認してみる。

きょうも7人だ。私は日本のトレーナーの数的有利が覆っていないことに安心する。

ポケホの履歴だったり掲示板を見るところ、世界中で紛争や戦争が過激になってきていて、その戦禍や立場作りに巻き込まれてしまって命を落としている人も多いという。

 

 私も仕事柄上、立場作りのために派閥争いや勢いを付かせるために、色々活動をしていた。

でも命を懸けることまではしてない。この仕事は簡単に死ねないものだから。

勿論ポケモントレーナーということじゃなくて、本職のほうね。

さっき就労年齢だなんて言ってたけど、そんなの完全に無視できる子供を売り物にして金と飯のタネにする仕事に就職してる。

 まあ年齢を取れば、自然とこんな界隈から去ることになるから今のうちに、ポケモンを使って足場づくりをしている最中だ。

 まだまだ駆け出しだけど。

 

コンコンコンッ

 

「何?」

「お嬢様、時間です」

「わかった」

 

 私はラルトスのミクが使うフラッシュに照らされる部屋で、仕事に向かう準備を行う。

派手でも清廉なものでもない。動きやすく体を軽いケガから守れる服装。

 

 これから私は、ポケモントレーナーの一環として、漁船に乗って漁をしてくる。

そのあとは昨日のこともやらないと……。はぁ、疲れる……。

てか、小池知事もいい加減希望の党の統率をちゃんとしてほしい。

なんで民進党と一緒になって騒ぐの……?

 

「ラルーラ……」

「いっそ皆を催眠術で操れたらね……」

「ルラッ!?」

「冗談よ」

「……」

 

 私は未来を掴むため、ミクと名付けた彼女の頭を撫でてからボールに戻した。

キョトンとした表情をしていたけど、私はいざ知らず。

 

「行きましょう」

「畏まりました」

 

 気合を入れたんだけれど、いきなりリムジンが玄関前に鎮座しているところに遭遇。

私の気合が削がれる形になる。今から生存戦略を成し遂げに行くのに、こんなもので行く必要があるのか。

これを用意した人物であろう左手後方にいる人物を凝視する。

 

「国家のためです」

「家の見栄のためでしょ」

「お嬢様のためです」

「口八丁手八丁もお見事だわ」

 

 ただお辞儀する彼を一瞥して、後部座席への道を歩む。

開けられたドアから中に入り、奥に詰めようともだれも隣に乗ろうとしない。

乗っているのは運転手と助手席にいる護衛だけ。

 そしてこの車に三台の護衛がつけられている。

 

 はあ、今日も一人か……。

 

 私は表情を殺して心の中で、独りごちた。

 

 信号と一部の建築物以外の証明が落ちている中、貴重な燃料で動くこの車は護衛に安全確認をさせて進んでいく。

 

 

<前方100Mの道路上に大量の火の玉が見えます>

「お嬢様、お願いします」

「わかった」

 

 大量の火の玉。ポケホで登録したんだけれど、ヒトモシって名前だってさ。

ゴースト・ほのおタイプ。このタイプで群れるなら、同レベルで低レベルのはず。

私はこの子で対抗することにした。

 

「出てきて、レイ」

「ゴース!」

「前方75M先に火の玉がいるから、驚かしてきて。歯向かってきたら、ナイトヘッド」

「ゴス!」

 

 ゴースは開けたリムジンの車窓から、闇夜に溶けていったのと同時に火の玉が揺らぐ。

三秒後には火の玉が消えて、ゴースが私の目の前に参上した。

 

「ゴスゴスゴース!」

 

 愉快そうに笑顔で飛び回るゴース。きっとたくさん驚かせて、たくさんの生気を吸い取れたからうれしいんだと思う。

 

「おいしかった?」

「ゴース!」

「ありがと。またお願いね」

 

 私はゴースのレイを撫で褒めてから、モンスターボールに戻す。

……撫でる手が透けた。まだゴースに触れないみたいだ。もっと信頼関係が良好になったら、触ることができるのかな?

 

 

 しばらくして茨城県の東湾漁場に到着する。

雑多に車を配置するのは、護衛の関係かこの場所に訪れる車両はこれ以上ないからかもしれない。

 車両から降りて、周囲を護衛の人に固められる中波止場までやってくる。

そこにはまだ健在している漁船と行灯により照らされる漁師さんたちがいた。

彼らは腕組し、談笑しつつ出港準備を完了しているようだった。

 

 そしてそこに護衛の人が一人彼らのところに先行し、漁師さんに取りつないでいるようだ。

私は事前に電話をしてもらっていて、ともに行くことを伝えている。

このことは都庁や市役所も一枚噛んでいるから、子供の戯言ではすまない事態となってる。

だから漁師さんはこれを無視することは、社会的責任を負わせられることになるから無碍にできないはず。

 しかしこの国は民意を重んじているから、彼らの心中とかまで屈服させられるわけじゃない。

だから何かしら裏取引としていると思うんだけど。

 

「前に話したと思うが、俺たちの仕事は重労働だ。いかに軽くったって、重油は金がかかる。ましてやこの状況じゃ受けるわけにはいかねえ。

だがこれは俺たちにとって契機なんだ。今回のポケモンの捕獲で、俺たちの今後がかかっている。

だからお前たちに協力してやっているということをわかっていてほしい」

「それは勿論です」

 

 静かな夜。彼らの会話が聞こえてくる。

もしもあの神様がいうことが本当だったら、マグロ業やサンゴ漁に勤しむ彼らは経済的破綻が目に見えると思う。

だからその代替が必要。でも未知なる生物であるポケモンに、深い手傷を負わせられる可能性のほうが高い。

そんな無茶をするなら、別の仕事を探すことになるだろう。

 今までとは違う不安定な状況だからこそ、今まで培ってきたノウハウを活かせられる仕事を存続させることが第一目標だと思ってる。

よってこの私たちのお願いを受けてくれたんだ、とそう思いたい。

 

「おお、巷でニュースになってるポケモントレーナーか。えらいべっぴんさんだな!」

「ありがとうございます。乗せていただくからには、ポケモンと一緒に漁を一助させていただきます」

「おう、頼むぜ。よし行くぞ、乗れ!」

「はい!」

 

 私は力仕事ができる護衛の人を携えて、中型漁船に乗り込む。

この漁船は急速冷凍が可能な船。もしものことがあったら、この装置を使って安全に運ぶことができるようにするんだ。

ここで入手したポケモンは、つくば市の学園南に存在する草原に急遽建設されたポケモン研究所に運ばれる手筈になっている。

 しばらくの間足の裏に響く重厚なエンジン音を聞きながら、沖合へ向かっていった。

今回行う漁は、網を使用しない一本釣りの方法。

もともとはカツオだったりイカに使用するものらしいけど、ポケモン世界では30M級のホエルオーですら吊り上げるのが、一般的だからポケモンを入手しやすくするために釣ることを選んだ。

 残念だけどボールは使用しない。

だってご飯等にするための研究だから、ボールを使って変に期待させることはしない。

 

「いつもの漁ポイントに到着! そもそも遊泳するポケモンがいるかどうかすらわからんがな!」

 

 そういえばマグロやハマチのような遊泳魚、鮭のような汽水魚なんていないなぁ。

そもそも水ポケモンは、水であれば弱酸性弱アルカリ性のどちらでもお構いなしみたいだし。

場所によって名前が変化するわけじゃないし、大きさではなくて見た目で名前が変化するから、ハマチやブリの間柄じゃない。

 

「一本釣り漁を始めるぞ!」

 

 釣りあげられるポケモンは場所ごとに決まっていて、昼夜関係ない。

勿論季節ごとでもない。

でも今は現実的な状況だから、その季節や昼夜も変化するだろうし深さも関係があると思う。

たしか200M以下から深海だっけ?

 深海魚であるハンテール・サクラビス・ジーランスは、海底にある海藻から出現する。

そこら辺の設定は不明瞭だから、沖合の海の海底ならどこでもいけそうだ。

つまり硫化物をえさにする海底噴出孔付近に生息する生物は、もれなく全滅しているっていうことになるのかな?

 

 あれ、ポケモンに関係がない生物はどうなっているんだろう?

ここはしんかい6500に期待かな。

 

「来た、かかったぞ!」

 

 色々思案していると、若い男性が大きくしなる釣り竿を持ち踏ん張って大声を上げた。

皆彼の方を見た。私もすぐに近寄って、ミクに出てきてもらう。

 

「ラルッ」

 

「宮本さん、釣り上げる時思いっきり上に引き上げてください!

その時ミクが攻撃しますので!」

「おう、わかった!」

 

 地球の常識だと生物は急速冷凍すれば、鮮度が保たれる死体になる。

でもポケモンの場合、水タイプに氷タイプは効果が今一つ。

つまり急速冷凍しても、死体になる可能性は低いと思われる。

 理由として絶対零度で一撃瀕死でも、冷凍ビームで芯から氷漬けになったばあい氷状態で凍傷にもならず、ただそのままの意味で凍った状態になるだけだからだ。

 

 そう考えると現代の利器である急速冷凍庫に入れる前に、ミクが持つ十万ボルトでできる限り体力を減らして抗う力を奪ったほうがいくらか安全だ。

 

「来た来た……ぉぉおおおおお!!!」

 

 ザッパアアァァ!

 

 盛大な水しぶきを上げて空中に飛び出るポケモン。

それが何なのか確認する前に、ミクに十万ボルトを放ってもらう。

元気なままで水中に没したら、男性が水中に引きずり込まれる可能性がある。

こればかりは阻止しなければならない。

 一応私は国の公務員だから。

よって失態につながる行為は慎まなければならない。ポケモンたちと無事に過ごせる時代を作れるまで、頑張らないと。

 

「ミク、十万ボルト!」

「ラルラル……ルゥラアアア!!」

 

 

 強力な電撃が水しぶきで視界不明瞭を演出しているポケモンに直撃する。

 空中に投げ出されていたポケモンは、空中で受けた十万ボルトでしびれた後甲板にボトリと落ちる。

何なのか私はミクと一緒に見た。

 

「―――」

 

ピコンピコンピコン―――

 

 ヒトデマンだ!?

 

 ウルトラマン三分間クッキングでお世話になる警告音!

中央の赤い結晶は、瀕死状態だということを視聴覚に訴えてくれる。

生物的に見ても瀕死なのが分かったからか、屈強な漁師が片腕で持ち上げて冷凍室に放り込んだ。

 

「一匹目! じゃんじゃか釣るぞ!」

「「「応!!」」」

 

 私と護衛の方もうなずいて、この漁を手伝った。

できることはポケモンの瀕死状態化。

後は鍛えられた演技で、皆のやる気を維持するところかな。

 

 

 

 

 約一時間の一本釣り漁をしたら、冷凍室がいっぱいになった。

これ以上の漁は意味のないものとして、撤退することになる。

 なぜか私にも許可を求めてきたけれど、すぐに帰港してほしいと返事した。

冷凍庫がいっぱいになったとかじゃなくて、ミクの十万ボルトのPPが0になったから。

30分前から念力やマジカルリーフで、HPを削って瀕死状態にしてた。

 

 ゲーム上ではすぐに釣れていたけど、現実では一時間以上経過してもすぐに釣れないはず。

生物なのだから、そんな人が垂らした糸に速攻でかかるわけがないだろうと思ってた。

だからPPが15しかない十万ボルトで、水産資源の確保と調査のため寄港し漁船に乗ってほしい、という市と国の要請に応えたんだ。

 それがなんだ。イワシ等の魚群を作っているわけでもないのに、単体でポケモンがたくさん釣れた。

基本的に魚型。そこに甲殻類が偶に釣れた。

 

 ヒトデマンとか軟体動物は、偶然だったようでアレ以降釣れていない。

 

 ナマコブシは外見上気持ち悪いから、釣れなくてよかった。

もしもとびでるはらわたなんてされたら、ミクを回復する手段が見つかっていない現状

どうしようもなくなっちゃう。

 

「帰港したらこのポケモンどもは、ちくば市からきた研究者に引き継げばいいのか?」

 

 船長から言伝をもらったらしい若者が私たちに言ってくる。

事前に伝えている筈だけど、これは再確認みたいなものかな。

私じゃなくて護衛の方が、彼に返答する。

 

「いえ、水揚げした後、研究者とともにポケモンを捌いていただきたいのです。

そこで食用ポケモンの検討をつけたいのです」

 

 事前会議で私は、『PoKeLINeK』で食用ポケモンについて情報共有したその内容を伝えた。

会議では食用ポケモンがかぎりなく少ないことに言及された。

そこはどうしようもないことで、今からこの世界の人間にとって食用になるポケモンを探さないといけない。

 色々と議論を交わした結果、陸は外国人や毒タイプのポケモン等の問題で山積しているから、周囲にある海産物に活路を見出した。

 

 今のところ一番解決したい問題が海にある。

 ポケモンのなわばりだったり、航路や交易路を交えたシーレーンの確保等。

これを解決するため海に住むポケモンを捕獲し、解剖や実験や検証を行うことで生物の特性を掴む。

現在必要な回路は中国とつなげること。

 ぼったくりレートでも、ほぼすべての資源を賄える中国と貿易できれば

全国に仕事ができる可能性が出てくる。

まだ中国に関しての情報は、国に伝えていない。

 

 ポケホで簡単に世界の情報を知ることは可能なんだけれど、今世界で発生している事態を伝えてしまうと国や市の目標や指針が変化してしまう。

 主に韓国。あの国が敗北して北朝鮮に併合され、それと同時に国名を『朝鮮民主主義人民調和国』に変更。

通称は朝鮮国となり、自国の政治方針に反する者を再教育している。

またそれを行った末、朝鮮国に不利益を齎す者は一族郎党処刑したとのこと。

これを嫌ってか韓国から難民や亡命が発生し、周辺国に違法入国してでも逃亡している。

 

 ほかにも色々あるんだけど、思慮にふけっている合間に漁港に到着した。

私と護衛の人は先に降りて、漁港にいる協力者の方々が私たちが捕獲してきたポケモンたちを水揚げしているのを観察する。

種類は様々。先ほど説明したけれど、大きさはメートル級ばかりでイワシのような数センチのものがかなり少ない。

中型漁船だったのが幸いして一時間は健闘できたし、これがポケモンの真相を追及し食料に転換できるか研究することもできる。

 

「オーライオーライ! ぬおっ!? でっけえな!」

「これが海のポケモンか! こりゃトロが楽しみだ!」

「いやいやコストが見合うのかよこれ!? 数万匹が数百匹だぞ! こんなの大赤字だ!」

 

 うん。

 

 そうなんだよ。

 

 私も懸念してたけど、ポケモンが食べられてもコストに見合うのかということ。

今の日本の状況もそうなんだけど、もしもポケモンが食べられるとなってもその凶暴性や大きさから重油は勿論、生活費やメンテナンス等の保守コスト等固定された費用を賄えない可能性が高い。

 

 依然としてポケモンを操れるのは、神様に選定されたポケモントレーナーだけ。

 ポケモントレーナーを増員するように言われてボール探しに勤しんでいるんだけど、全然全くみつからないんだ。

砂浜を探しても山林を駆けずり回らせても、一般人である自衛隊や警察に探索させても一向に見つからなかった。

一応私がスーパーボールを持っていたから、これを警護隊の隊長に渡して一緒にポケモン育成したんだけど……。

 でも私たちが持つポケホや生き様・スキルがないから、育成がかなり遅いらしく私のポケホで隊長のポケモンを照射検査してもそれほど強くならなかった。

隊長のポケモンは、警察や自衛隊の柔道の達人に指南してもらったり街中のポケモンをなぎ倒している。

結局ポケモンを倒したほうが経験値がよく入ったんだ。

 

「お嬢様」

 

 私が水揚げから屋内に運び込む作業を見ていると、執事が後ろから話しかけてきた。

護衛の人は少しばかり離れる。何の話なのか分からないけれど、ポケモンの世界と融合し始めるその日からおかしな話が舞い込んできている。きっとその話かもしれない。

 

「何?」

「本家よりお嬢様のポケモントレーナーとしての活動を補佐したいと……」

「政治的発言力を高めたいため、ポケモントレーナーに接触を図る。良い手だけど、

すでに私には国と県がついてる。だからその湧いた親戚に、援助は今後一切必要ないって伝えて頂戴」

「畏まりました」

 

 この話が終わったとき丁度現場に到着した数人の研究員が、漁師さんやその港湾労働者の方々に施設へ案内されているのを確認。

暗い話を切り上げて、彼らのところへ向かう。

 ワンリキーを出している警ら隊のまとめ役である隊長は、すぐに護衛の方とともに私の周囲を固める。

 私はこういうことを日常でされていた。

こんな堅苦しい空気が嫌だから、アイドルに入ってはっちゃけたのに、結局元に戻ってしまった。

刀は鞘に戻ることが宿命の様だ。

 

「藤原様、此方が水揚げしたポケモンです」

「……」

「どんな名前かどんな特徴を持っているか、知っている限りで構いませんので仰ってください」

 

 漁港にある屋根付きの大きな広場に、大雑把に敷かれたブルーシートに死んだポケモンがある程度綺麗に置かれている。

アニメやゲームで見たポケモンが、現実世界に生物として登場してその命を奪って私たちの糧になる。

その姿に私は寒気を覚える。

 

 若干気持ち悪くなるけれど、私を含めた日本の人たちの食糧事情を解決するためだから仕方がない。

 



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