ロマン兵器乱用国家、異世界でもロマン兵器を乱用する模様 (ELDIAN)
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異世界への国家転移
第1話:異世界への国家転移(修正済み)
以前投稿した3〜10話は、話が詰まってきたので一旦非公開とさせていただきます。申し訳ない……。
_____
それは2356年、お昼時に、突如として発生した。
_エルディアン共和国首都エルディアン、大統領府 12:07 某日
「……うん?」
世界でもトップクラスの強国、エルディアン共和国。その国のトップの行政機関と言わせる大統領府。そこで休憩時間を過ごしていた大統領補佐官は、椅子に座ってに暇つぶしで開いたネットの海外サイトを見て困惑する。
「……繋がらんな……」
画面いっぱいに堂々と表示される、『OFFLINE』と書かれた文字。普段ならこの時間帯、接続が混んで多少ロードが遅くなったりはするが、回線落ちなんて滅多に起こらない。
「まさか……回線工事中?」
それならありえるかもしれない。念のため、部下に今日ここで回線工事が行われているか確認させる。
「どうやら、回線工事中ではないそうです」
イカしたグラサンをかけたスーツ姿の部下は言う。
「そうか……」
大統領補佐官は少し脳内で考えてみる。
「太陽フレア……か!?」
最悪国家の電子機器を死滅させるほどの脅威となりうる太陽フレア。それが起こった可能性がある。大統領補佐官はガバッと椅子から立ち上がると、大統領執務室へと大急ぎで向かった。
_大統領執務室
プルルルル...
「な……なんだよこれ……なんだよこれッ!?」
大統領は次から次へとなりまくるうるさい電話の着信音__それも、各国大使館からのものに、困惑を隠せないでいた。彼らの言い分要約すると、『本国との連絡が届かねぇよ!!どうしてくれるんだ!!』とのことだ。
「わ、私もまだ状況を把握しておらず……はい、はい、わかりました。各機関に全力で対処させます」
大統領の額に、暑さからなのか過度の緊張からなのかはわからないが、汗が浮き上がる。ひとまず目先の電話先からのクレームに対処すると、つかの間の休息に入る。
「ふぅ……一体何が起こっているんだ?」
大統領は席を立つと、無意識に窓の方向へと向かい、ブラインダーを上げる。徐々に体に当たっていく太陽光がなんとも暖かい。
「……今日は、一段と忙しくなりそうだな。補佐官……早くこねぇかなぁ……」
外に所狭しと建ち並ぶ摩天楼を見てそっと呟く。
_ガチャッ
「失礼します。緊急の報告があって参りました」
大統領執務室のドアから入ってきた大統領補佐官は深々と一礼すると、右手に持つメモをめくる。
「待っていたよ。話の内容は大体察しがつくが……」
大統領は大統領補佐官が各国との連絡が途絶したことを伝える様子を思い浮かべる。
「勘がいいことで。はい、通信障害についてです」
大統領が『えっ』と言う。
「何、今通信障害起こってんの?」
大統領のその質問に、大統領補佐官は驚いた様子だ。
「ご、ご存知ないので……?」
大統領補佐官は胸ポケットから取り出した電源の入ったスマホを、そっと大統領に見せる。デカデカと海外サイトに書かれた『OFFLINE』の文字は、大統領からすればとてもインパクトが強いだろう。
「海外サイトが全て死にました。はい、文字どおり全滅です。世界の終わりですもう生きていけませんどうしたらいいでしょう?」
大統領補佐官は若干壊れ、どんどん早口になっていく。同時に、大統領はそれを聞いて、徐々に顔色が悪くなっていく。
「そ、それって動画サイトもか!?」
「はい、海外に本社を置く名だたる動画運営サイトもことごとく全滅しました。本人が確認したのです。間違いありません」
大統領補佐官の断言を聞いて体が脱力し、大統領は顔が真っ青な状態で『ドサッ』と言う音を立てて執務椅子に座る。
「で……でも一応国内に支部を置く動画サイトだけは死んでないんだな?」
「ま……まぁ、死んではいませんが……」
「いや……それだけ聞けただけでも十分だ」
大統領補佐官は何か言いたげな様子だ。大統領はしばらく頭を抱えた後、本題に戻る。
「それで……一体何が起きたんだ?」
「はい、これは推測なのですが……太陽フレアが発生したんじゃないでしょうか?」
大統領はそれを聞いて、ため息をつく。
「あのな……太陽フレアだと電子機器がお釈迦になると思うが……。だがほれ、見てみろ」
大統領はグイグイと人差し指で、天井で燦々と照りかがやく蛍光灯を指差す。
「あいつ、ピンピンしてるじゃないか」
「そ、それもそうですね……ははは」
大統領補佐官はその指摘に、『それを忘れてました』と言わんばかりの声で目をそらす。
「__まぁとにかく、だ。各担当府に連絡だ。いったい現在の状況がどうなっているのか知りたい。各国大使館への連絡も……必要だからな」
「わかりました。各担当府への現在この国が陥っている状況報告書を提出させればいいんですね?」
「そうだ。頼んだぞ」
「まっかせて下さい!」
大統領補佐官はそう言うと、スキップの要領で軽やかに大統領執務室を退出していった。
プルルルル...
「あーもう!またかよ!」
大統領はただただ、各国大使館への対応でその日の午後の執務時間の大半を消費したのだった。
_同国同首都 大統領府の記者会見場では 午後19:15
「えーはいはい、マイテスマイテス」
周辺にずらっと記者たちが並ぶ中、大統領はこれから演説を始めると言うのになぜかマイクテストを始める。
「はいはい、OKOK__」
大統領はマイテスを一通り終えると、ネクタイをきちっと閉める。
「はい、それではこれより今回起きた謎の通信障害について、政府より発表申し上げます」
大統領が言った瞬間、記者たちが次々とシャッターを切りまばゆい光があたりを何度も明るく照らす。
「まず、今回の謎の通信障害。これによる我が国一番の損失は何と言っても、国民的娯楽__海外の名だたる海外サイトが全て文字どおり消滅したことでしょう」
居合わせた職員、警備員、果ては記者までもがウンウンと頷く。
「また、各国大使館の報告によると、他国との通信が途絶。現状はまだなんとも言えませんが___核戦争並みの危機が我々に訪れたことは間違いありません」
記者たちは一言一句漏らすことなく続々とメモに書き記していく。
「現状確認のため、先ほど空軍を概要に派遣。現在調査を行なっているところです。この際判明した物は、何であれ逐次国民の皆様に伝えさせていただきます」
記者たちがシャッター音を次々と鳴らし、メモへと書き記していく。
「そして、海外輸入品__主に砂糖類や米類、カカオなどの海外輸入に依存してきた全ての製品を一旦流通制限させていただきます」
記者会見場に居並ぶ職員や記者たちは皆揃って『えぇぇぇぇぇぇっ!?』と叫ぶ。
「さて、次なのですが……」
この会見は夜遅くまで続き、翌朝町中に出された新聞の大見出しには堂々と『大統領、まさかの砂糖独占か!?』と書かれていた。
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第2話:テイク・オフ
_東部方面地方軍基地、滑走路 20:00
滑走路のいたるところに設置された誘導灯。赤や緑色で激しく光るライトの光に照らされる一機の迷彩柄の航空機の姿があった。
そのシルエットは、一言で言えば『輸送機』である。小柄な機体にT字尾翼、2基のターボファンエンジンという堅実な設計で作られた偵察機。その名前を、『RP-51』と言う。
「スクランブルかと思えば……いきなり偵察とはなぁ……」
RP-5の機長、セルヒオはため息まじりに呟く。
『本来なら俺たち偵察科は非番なはずなんだがなぁ……』と呟く。だが、司令部からの話ではなんとこれは大統領府からの直々の命令らしいのだ。いざ大統領府からの命令となると、司令部はいつも以上に張り切り、偵察科の中でもトップクラスの腕利きであるセルヒオなどを指名して偵察任務を遂行するように指示してきた。
本来なら非番であったはずのセルヒオは、何かの冗談かと思い何度も聞き返したほどだった。せっかくの非番をダメにしないでくれ、と思いながらも現在はこうして機体に乗り込んでいる。
「……仕方ないですよ。こんな状態じゃ誰だって……」
一切通信が繋がらないGPSを見つめながら副機長のダビは呟く。機器の故障では無いらしいのだが、先ほどからなぜかGPS衛星などを使用する機器の応答が一切ない。これを見た整備士も何が何だかさっぱり、と言いたげな様子だった。
「何はともあれ離陸だ離陸。管制塔、応答願う」
『こちら管制塔、どうぞ』
「これより本機は離陸体制に入る。繰り返す、離陸体制に入る。他の機を離陸させないでおくれよ」
『わかってますって』
ガチャッ
機長は管制塔との通信を終え無線を置くと、離陸体制へと移った。
_数時間後、ムベガンド王国南東30キロ、シルヴィア海上空
「うー……さぶ」
はるか上で見守るように浮遊する巨大な赤い星《つき》。その下にある南方海域の一つ、シルヴィア海の上を悠々と飛翔する一匹のドラゴンと、一人の男の姿があった。
季節が冬である今、それも夜中に哨戒飛行をさせる軍部は頭がおかしいのか、と思う人物の名はアローウィ。ムベガンド王立空軍第二飛行隊に所属する生粋の航空兵である。
彼の所属する第二飛行隊は、ここ最近国家間での緊張が高まったダーダネルス帝国の来訪に備えるべく24時間体制での過酷な哨戒任務を任されており、今日の当直は運悪くアローウィで、いつもよりやけに寒いこのシルヴィア海上空を飛行する羽目になってしまった。
「ったくよ……なんでこんな寒いんだ」
翼竜の毛皮でできたコートを深々と来ているにもかかわらず、その温度は全く変化がない。
確かにこの付近の空域・海域は寒いことで有名だが、何もここまで寒くはなかったはずだ。
「てかさ……第一、ここまで遠回りで艦隊が来るわけないだろ……」
アローウィはブツブツと独り言を呟く。ダーダネルス帝国は彼が現在飛翔中のシルヴィア海域とは真反対、南西に位置し、普通に考えれば来る可能性は低いだろう、とルーサは客観的に見ていた。
だが、彼の予想をはるかに超えたものが、眼前に現れることとなる。
「……んぅ……?なんだぁ、あれ?」
彼の眼前に現れたのは、赤と緑色の光だ。それも今夜空満点に広がる星々と違い、規則的に点滅している。
なんだなんだと目を凝らしてその点滅を見つめる。
「……神の乗る……浮舟……」
彼はふと、ひと昔前に読んだことがある聖書に乗っていた神の乗る浮舟を思い出す。その記述では『神の乗る浮舟の放つ光は点滅し、速度は音を軽く超える』と書かれてあったはずだ。
「物は試しだ!近づいてみるか!」
彼は好奇心につられ、任務も忘れて点滅する光へと飛ぶよう愛騎に指示する。
『す、すまんが何か嫌な予感がする。勘だが……行きたく無い』
対する愛騎は怯えた声で、ただただそう答える。いつもはあんなに好奇心が強いのに珍しい。だがドラゴンの感はよく当たる、と空軍ではもっぱらの噂だ。実際、ドラゴンの勘で命を救われた者は大勢いる。もし愛騎の言うことが正しいなら、近づくのは止しといたほうがいいだろう。
「そ、そうか……」
個人的にはあの光がなんなのか知りたいが、そのためだけに命をかける必要はない。哨戒任務を再開しよう__そう思った時だった。
ゴォォォォォォォォォォォッ……
彼の背後から、謎の轟音が鳴り響いているのがわかる。アローウィは危機を感じてとっさに愛騎に回避軌道を取らせる。
グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!
「な、なんだぁっ!?」
回避機動を取った後すぐに発生した衝撃波により愛騎は姿勢を崩しそうになるが、なんとか姿勢を直す。
アローウィはとっさに周囲を確認すると、轟音を放つ物体が目に入った。
「なんだよ……!?なんだあれぇっ!?」
彼は自分の目を疑った。轟音を放ちながら上空を飛翔するそれ。翼は羽ばたいておらず、胴体は円形。翼についた卵をそのまま大きくしたようなものからは火が出ている。目測で見ても明らかに愛騎よりも大きい。下手をすれば、海竜類並のサイズはあるだろうか。それが、自分よりも早く飛んでいる。
「は、早く司令部に報告だッ!」
アローウィは若干パニックになりながらも、積み込んでいた拳サイズの魔導電信機を手に取り、回線を司令部につなげる。
「し、司令部ッ!司令部ッ!こちら第二飛行隊所属…アローウィッ!応答願う!」
『__こちら司令部。アローウィ、どうした?』
「げ、現在未確認飛行物体を追跡中!!そ、その形は……我々の既知のものとは……全く違う!」
アローウィが精一杯の声で司令部にそう伝えたが、相手からの返答は最悪な者だった。
『__俺たち司令部をバカにしないでくれよ……頼むから。ただでさえ、俺たちはダーダネルス帝国に対する対策で大忙しなんだ。わかるだろ?』
呑気に語り出す司令部に、アローウィは若干の苛立ちを覚え、これならどうだと言わんばかりの声で再度司令部に対して言う。
「これを!これを聞いても……そんなことが……言えるのかッ!」
魔導電信機を勢い良く轟音を発する物体の方向へと向け、音量を最大にして司令部に対して送り届ける。
『う、うるさぁぁぁぁぁぁい!わかった!わかったからやめてくれ!』
音量を元に戻し、魔導電信機を口元へと動かす。
「と、とにかく!今すぐにでも基地で待機中の部隊を!」
『りょ、了解した!すぐに増援を送る!』
「__ッ!感謝する!」
アローウィはすべきことはやったと判断すると、覚悟を決めて未だ観察するかのように飛翔している未確認飛行物体へと向かう。
「__ッ!は、速いッ!?」
だが、現実は非情だった。その未確認飛行物体の速度は、愛騎の速度をはるかに凌駕し、気づけば彼の視界から、未確認飛行物体の姿は無くなっていた。
_____
RP-51の元ネタ:X-55
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第3話:会議は踊る、そして進む
_転移から数時間後、日を跨いだ頃 異世界歴14598年、2月5日 エルディアン共和国首都エルディアン、大統領府 午前01:15
普段滅多に使われない、大統領府の会議室。まだ夜も開けていないにもかかわらず、そこには各担当府の大臣、そして大統領が重々しい雰囲気を醸《かも》し出して椅子に座り込んでいた。用事でもあるのか、なんの連絡もせずに欠席している気象担当大臣の姿が見えない以外、そこにはほとんどの担当府の大臣が揃っていた。
「……仕方ありませんね。これより、国家緊急報告会を開始させていただきます」
時間は一刻を争う。それを承知している司会は、気象担当大臣は一旦無視し重々しい口調で『国家緊急報告会』と名付けられた会議を始める。
「まずはそれぞれ、報告といきましょうか」
司会は側に立つ部下に目配せをすると、部屋の片隅からプロジェクターとパソコン1台ずつを持って来させる。
「これはどうぞご自由に使ってもらって構いません」
司会が一通り話しを終えると、側に置いてあった椅子に静かに座り込む。
「……それでは、まず産業経済担当府から報告を」
先に名乗りを上げたのは産業経済担当大臣だった。
「まず、現在我が国が置かれている状況ですが……一言で言えば『最悪』となります」
血相を変えて言う産業経済担当大臣に、その場にいた大臣は固唾を飲む。
「まず第一の問題として、様々な分野での機能不全が発生していると言う点にあります。彼らの言い分では『原因不明の通信障害が発生してる』とのことですが……」
経済産業担当大臣は、パソコンにUSBを差し込見ながら言う。
「そんなことは、まずありえない……と言えたら、どれほど良かったことか」
そう言うと、産業経済担当大臣は力強くエンターキーを押し込んだ。
「これは、現在の衛星管理センターの映像ですね」
産業経済担当大臣が言うには、衛星管理センターの真正面に設置された巨大な液晶版には普段各通信衛星との通信状況が表示されているらしい。
「……まぁ、ご覧の通り通信衛星との通信状況はどれも壊滅的。現在復旧作業中ですが……まるで、
大臣たちは頭を抱える。
「これ以外にも、様々な問題が発生しておりますが、残りは全てみなさんのお手元に配りました資料に書かれてあります。どうぞご自由にご覧ください」
産業経済担当大臣は話を切り上げると、あとはすでに部下が配り終えた資料に託す。
産業経済担当大臣の話を聞き終えた大臣らは目の前にある楕円形の机に置かれた資料を我先にと取り、それぞれが自分のペースで内容を読み進める。中には驚愕したのだろうか、顔を真っ青にして資料を読むのをやめた大臣も数人いる。
「間髪入れて申し訳ないが、今度はエネルギー資源担当府からの報告をさせてもらう!」
逼迫した状況なのか、エネルギー資源担当大臣はそれだけ言うと大急ぎでパソコンにしがみついた。
「な、何から説明したらいいか……とにかく我が府はもっとも忙しい状況にあると言えます」
『カタカタ』と言うタイプ音が会議室に大きく鳴り響く中、エネルギー資源担当大臣はポケットに入っていたUSBをパソコンに差し込み、プロジェクターから壁に数個の棒グラフが表示される。
「まずこれは現在の風力・波力発電の発電状況ですねはい。まぁ……見たらわかると思いますが、実質ゼロに近い数値です」
そのグラフには、それぞれ『水力』や『太陽光』、『水素』、『火力』、『バイオ』、『地熱』といった各発電施設の発電状況が示されている。その中でも目を引いた発電施設__それが、『風力』と『波力』だった。
「原因としては__4年前に行われた『国家発電施設大変更計画』ですね。これが、仇《あだ》となりました」
『国家発電施設大変更計画』。今まで火力発電や原子力発電に頼ってきたものを他の発電方法__太陽光や水力、風力、地熱、波力発電により賄うと言う計画で、結果として国家の発電量の約80%を先ほどの発電方法などで補うことに成功した。
当時は『世界で初めて環境問題に真面目に取り組んだ国』とニュースで言われていたほど、大胆な計画だった。それが仇となったとは、一体どう言うことなのだろう。
「本来であれば、気象担当大臣から説明をいただきたかったのですが……とにかく、現在我々が把握しているのは『全体で40%以上を占める波力・風力発電が原因不明の問題により使用不可となったこと』のみです。」
なぜ波力・風力発電が占める割合が多いのか。それには、地形的な理由が含まれている。付近には暖流や寒流などが多く、同時にそれを利用して海岸沿いの港湾都市は発展してきた。風力もまた然りで、メンテナンスと騒音問題に目をつむれば自然に対する影響が少ない(と思っているだけ)ため採用された。
「波力は海流を用いた型で、風力はその通り、風を使用していますが、発電ができなくなる事態は
と、ここで今まで聞くだけだった大統領が初めて口を開いた。
「……君たちの話を聞く限りなのだが……『超常的な現象がこの国の各地で発生している』と言いたいのかね?」
産業経済担当大臣とエネルギー資源担当大臣は深く頷く。
「……だが、発電施設の不調も、衛星もの通信途絶も単なる不具合の可能性もある。今我々に必要なのは、目で見ることができる確固たる証拠だ。そう……例えば……」
大統領がそう言おうとした時だった。
ガチャンッ!
「お、遅くなって申し訳ありませんっ!資料の制作に時間がかかったもので……」
会議中にもかかわらず、ノックをせずに入室したのは、うら若き女性__もとい、気象担当大臣だった。彼女は両手で抱えていたあふれんばかりのファイルや書類等々を机の上に置くと、額に浮き出た汗をぬぐい司会と大臣、大統領らに謝辞する。
「い、一体どうしたのだね……?」
「それはすぐに説明いたします!」
『すいません』と一言つけてエネルギー資源担当大臣が使用していたパソコンを奪うと、ポケットにしまっていたUSBを震えた手で差し込んだ。
「ま、まずは……これです!」
そう言ってスクリーンで映し出したのは、『赤い』月だった。それは我々の知っている月よりもはるかにクレーターが多く、そして、大きい。さらに赤く光っているとくれば、これは何かのフィクションだとしか思えない。
「気象担当大臣……これは何かの冗談かね?」
一同は幾ら何でも信じられない、と言いたげな顔で気象担当大臣を見つめている。
今回の報告会で発電所の機能が死んだり衛星との通信が途絶したりと言う話はされたが、幾ら何でも気象担当大臣の繰り出した内容は信ぴょう性に欠ける。
「し、信じて……もらえない……?」
気象担当大臣は一瞬俯《うつむ》くが、すぐに顔を上げる。
「__なら、外を見て下さいよ!」
彼女はそう言うと、スッとした指で窓を指差した。
「そう言うのであれば……見てみよう」
大臣らはぞろぞろと窓そのそばへと寄ると、ガラス越しに月を探す。
「……」
そして、大臣らは目が点になった。満天の星空が広がる夜空には、確かにほんのりと光る赤い月が鎮座しているのだから。
「そして次ですッ!」
気象担当大臣は、ファイルを突っ立った状態の大臣らに配った。なんだなんだとその紙を凝視すると、そのファイルにはどでかく『酸素濃度の変化(20%→30%)』と書いてある。
「こ……これは?」
「酸素濃度の変化についてです!まずはご覧ください!」
大臣らは流されるようにページをペラペラとめくり、読み進めていく。中には『酸素濃度の変化(20%→30%)』による影響__鉄の酸化が早まる、炎の燃焼スピードは格段に早くなる、酸素摂取能力の低下(適応)__やその対策が記されている。
「……はて?一体赤い月と酸素濃度の変化にどんな関係……んぅ!?んんんんん!?」
大臣らは最後のページを見た時、驚愕した。
「『これらは全て、事実に基づいて作成されています』ゥッ!?」
なんと言うことだ。ファイルの内容が正しければ、この内容は事実だと言うことになる。そんなこと、あってたまるか。
「みなさん……色々言いたいことはあるとは思いますが、これは事実です。実際に__」
コンコン
「失礼します!」
大臣らはまたか誰か来たのか、と思いながらも会議室に入って来た人物__迷彩服を着た軍人を見る。
「さ、先ほど調査中だった調査隊より連絡が入りました!__『本国より北西900キロ先、未知の大陸を発見』とのことです!」
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第4話:遭遇−1
ゲームに浮気していました……許して下さい!なんでもしますから!(なんでもするとは言っていない)
___
「さ、先ほど調査中だった調査隊より連絡が入りました!__『本国より北西900キロ先、未知の大陸を発見』とのことです!」
一同は顔を見合わせ、軍人から告げられた言葉を脳内で何度もリピート再生する。
確かに、軍人は『北西900キロ先に陸地を発見』と言った。だが、ここで一つの疑問が生じる。なにせ、
「それは事実なのかね?」
大臣の一人が、その場にいる誰もが思っていることを言う。
「はい!
「へー、そうなのか。じゃぁそれを早速見せてくれるかな?」
「はい、こちらに」
調査隊からの報告はその後も述べられたが、何と言っても衝撃的だったのは『北西900キロ先に陸地を発見した』と言う点と、『未確認生物に騎乗する謎の人型物体を発見』した点だった。
「大統領!もし調査隊からの報告が事実なら……今すぐにでも本格的な調査隊を派遣、陸地を調査すべきです!」
産業経済担当府やエネルギー資源担当府からの報告だけでも、現在国内で起きていることが異常なのは十分わかる。更に北西に存在しないはずの陸地が突如として降って沸いたともなれば、今すぐにでも調査隊を派遣すべきなのは言うまでもない。
国内のゴタゴタをなんとかする必要はもちろんあるが、同時に何が起きているのかを調べなければならない。そう言う意味では……おそらく幸運なのだろう。きっと。
「そうだな…軍務担当大臣。派遣隊を編成、調査をすることは可能か?」
「んーっと…」
軍務担当大臣は部下を呼び、確認させる。
「はい、ある程度でしたら可能です」
「それならすぐにでも派遣隊を編成、陸地を調査してくれ」
「よろしいのですか……?国会の許可もなしに」
「一刻を争う事態だ。今回は大統領権限ということで……なんとかする。__まぁ、マスコミは『独裁政権だ!云々』って言いそうだがな」
「そう言うことでしたら……。早急に派遣隊を編成、即日中に派遣いたします」
「頼んだ」
大統領は会話をすませると、気象担当大臣から手渡された資料を未だに手に掴み、唖然とする大臣らを見渡し、口を開いた。
「さ、報告会を続けようか」
_約3時間後、北部のとある軍港 午前4:22
霧が立ち込める北部の軍港の一つ。そこには、強襲揚陸艦2隻、ドック型揚陸艦3隻、その他支援艦艇や護衛艦艇・1個空母打撃群を含む総勢30隻近い艦艇が集結、今か今かと出港を待つ状態下に置かれていた。
「司令官!強襲揚陸艦及び護衛艦、本艦への揚陸部隊及び燃料・弾薬の収容終了しました!」
そう言いながら部下から手渡された書類を司令官は一通り目に通すと、上機嫌な声で部下に言う。
「わかった。全艦に連絡、出港準備を開始しろ!」
「了解!」
船員はそう言うと、艦長から戻された書類片手に駆け足でその場を去って行った。
「……」
艦長はそれを見送ると、艦外の甲板に並べられ、布の被された複数の『何か』を見つめる。
「何が起こるやら……」
司令官から伝えられた言葉を思い出す。彼は、『これからは、
「……無駄な詮索はやめよう。俺は……国家に尽くすだけだ」
艦長はそう呟くと、机にポツンと置かれた艦帽を手に取り作業を開始するのだった。
_その頃、ムベガンド王国王都ムディーラ、王城ピオニーア 会議室
数世紀前より交通の要所として栄え、その人口は300万と言う第三文明国屈指の内陸部に建設された王都ムディーラ。それを象徴するかのように整備された煉瓦造りの上下水道や街道、立ち並ぶ煉瓦造りの家々は、そこに訪れた第三、四、五文明国民を圧倒する。
朝早く、日が昇っていないにもかかわらず、その中心に高々とそびえる王城ピオニーアの中では、重要な会議が、執り行われていた。
「むぅ……」
しかめっ面で椅子に深々と座る国王クセナキス8世。彼はこのムベガンド王国15代目の国王で、齢25歳と非常に若いにもかかわらず奴隷制度の廃止や国内のインフラ整備を的確に行うと言うその手腕は、国外でも高く評価されている。
だが、いつも冷静な彼は、突如として執り行われることとなった会議の内容に動揺を隠せないでいた。
「軍事大臣。何度も聞いてすまないが……それは、本当なのかね?」
クセナキス8世の眼前に堂々と置かれた円形の机。その周りを取り囲むきらびやかな服__ではなく寝間着姿の大臣たちの一人、軍事大臣のデュカキスは緊張した面でゆっくりと口を開く。
「はい、国王陛下。哨戒騎によれば、これは嘘偽りのない……事実、だそうです」
国王はあまりのショックに、深々とうなだれる。ただでさえ現在は、ダーダネルス帝国との関係で国内が忙しいのだ。そんな時期に更に面倒ごとがやってくるなど、悪夢以外の何物でもない。
「もし……もし、伝承が本当なら……」
国務大臣が小声でボソボソと呟く。
デュカキスは落ち着いて下さいと言わんばかりの表情で続ける。
「と、とにかく現在各地方に防衛部隊を展開中なので……おそらく心配はないかと……」
軍事大臣の弱々しい自信のない声が、余計大臣らの心配を掻き立てる。
「……何日、持つだろうか……」
その後も会議は続いたが、結局結論は『徹底抗戦』へとたどり着くのだった。
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第5話:遭遇−2
_ほぼ1日(21時間)後、ムベガンド王国沖(エルディアン共和国呼称:ピオネロ)100キロ地点
ムベガンド王国側から見れば、南東に位置するシルヴィア海。その上を、波を切り裂くように突き進む輪形陣を組んだ巨大な鉄の塊たちの姿があった。
エルディアン共和国が謎の陸地の調査のために派遣した調査部隊……通称『大一上陸部隊』である。
第一上陸部隊の任務は、大きく分けて2つ。『陸地』の調査と『現地人』の発見である。未知の細菌や放射線がそこら中にいてはたまったものでは無いので、最悪の事態を想定して上陸部隊全員に対NBC(Nucler(核兵器)Bio(生物兵器)Chemical(化学兵器)の略 )防御兵器が支給されている。
そんな危険な先遣隊を指揮する、ビガス・ルナの艦長はタバコをふかしながら、時計を眺めていた。
「そろそろ作戦開始時間か……」
艦長はそう呟くと、ふと下を見渡す。
眼下に広がる巨大な飛行甲板では、早朝__というよりもほとんど夜中のにもかかわらずせっせと動き回る様々なカラーの甲板要員、そして、それら甲板要員により布を剥がれ離陸準備を整えている最中の『機械』の姿があった。
「あれが……司令官の言っていた『機械』……」
艦長がそう呟きながら見る『機械』__NRL-10。実用の目処が立ち、先月よりやっと配備が開始された無人偵察機、UAVの一種である。
『安い!使い捨て可能!小型!』と言うコンセプトの名の下設計・開発がなされたこの機体の性能は、ただただ『普通』だ。
まず偵察のみでの運用を想定・設計されているため搭載しているのは機体下部の回転式の偵察カメラ1基のみ、長距離飛行及び滞空可能時間12時間を超えるよう設計されたため、燃費の良いターボファンエンジン一基を搭載。武装もオプションパーツも一切搭載することができない。
汎用性のかけらもないことに関してはこの機体を設計・開発した技術本部も理解しているようで、現在は武装の搭載できるタイプが現在進行形で開発を進められている。
機体形状はステルス性を意識したのであろう全翼機……のようなもの。胴体が円形なのに対し円形胴体後部よりニュッと生えた2枚の直線翼には、ラダーやフラップなどが所狭しと並んでいる。いくら機械制御とは言え、なんとも安定性に対する不安が出てきてしまう。機体に対する安定性云々に関してはいささかこの機体に対する疑問を抱いていた軍部ですら太鼓判を押すほどの試験を行ったらしいので、安心していいだろう。……たぶん。
飛行方法は衛星や無線を介しての手動操縦、もしくは完全な自律飛行が可能となっている……が、衛星からの通信が途絶えている上に先ほど述べた自律飛行は付近の地形情報を得て初めて利用できるものなので、今回は全手動で操縦が行われる予定だ。実践運用試験も兼ねた試験を行いたいタイミングに、こんな面倒ごとがやってきたと言うわけだ。
「艦長、ピオネロまでの距離100キロを切りました。無人偵察機を発艦させますか?」
先ほどまで作業をこなしていた副長からの問いに、艦長は答える。
「よし、わかった。無人偵察機を発艦させて上陸予定地点の確認を頼む。写真に写ったものはたとえ何であれ、見逃すなよ。何が待ち受けているか全然見当がつかん」
「了解」
副長は敬礼すると、静かにその場を去っていった。
_数十分後 ムベガンド王国南東海岸 急ごしらえの防御陣地の1つ 午前1:54(異世界歴17789年 2月21日)
もともと国土がそこまで広いわけでもなく、ゲリラ戦で有利な森林も数が少ないムベガンド王国。ムベガンド王国の所有する軍隊__ムベガンド王立軍が本土防衛策としてとったのは、主に『水際防衛』であった。
どちらにせよ一度後退してしまえばゲリラ戦を展開することができない島国である以上、できる限り海戦で同国ご自慢の海軍を用い全滅……とまではいかないが、上陸を中断に至らしめる程度の被害を与えなければ勝ち目はない。『上陸させないこと』。これが全ての大前提であった。
そのため海岸部には半分地面に埋まったかのような防御陣地がいくつも建設され、数時間のローテーションで24時間体制での海岸部監視を行っていた。
「交代の時間だ。ご苦労さん」
火が灯ったランプを片手に持った交代要員が、半分土に埋まった小さな防御陣地の中でコートを深く羽織りうずくまる要員に声をかける。
真冬ということもあり気温はとても低く、特に夜間はよく冷える。防御陣地に勤務する要員たちからは『よほどの変人じゃ無いと耐えれない仕事』と言うほどだ。
「お、おう。が、がんばれよ……」
鼻水を鼻から垂らした要員は、それだけ言うと駆け足で防御陣地から飛び出て行き、暖炉が効いた丸太小屋へと向かって行った。
「さて……」
交代要員は椅子に腰掛けると、フックにかけられた単眼鏡を手に取り監視を開始する。
「暇だなぁ……」
交代要員がため息交じりにつぶやく。
「何か……起きねぇかなぁ」
交代要員としてもこのまま平和のままなのが一番なのは承知している。承知している__のだが、あまりにも暇すぎる。二人での勤務ならトランプでもできるんだけどなぁ……と思いながら単眼鏡を覗く。
「今日も水平線の先は異常なし……っと」
異常なしであることを確認すると、いつものようにメモ帳を取り時刻や状況を書き記していく。司令部へ提出するためだ。
「さぁて……これから30分、どうやって時間を潰す」
交代要員はそう呟き、水平線のはるか先を見る。
「かな……って……うん?」
一瞬、視界にゴマのようなものが数個眼に入った気がした。交代要員はなんだろうと思い思わず二度見する。
「あ……あれは……」
空にポツンと浮かぶ、数個のゴマのような黒い何か。ドラゴンんおような気もするが……今の時間帯は、付近を哨戒騎は飛行していなかったはずだ。
凝視してみると、どうやらそれは次第にこちらへと近づいていることがわかった。もしかすると、軍部から報告のあった『未確認飛行物体』だろうか。
一応記録すべきだろう、と思いメモ帳に手をかけようとした__その時、突如として頭上で巨大な爆音が鳴り響く。
「なっ!?は、速いッ!」
彼が哨戒騎か何かだと思っていたもの。それの速度は、彼の知る翼竜種や竜種の全てを軽々と凌駕していた。しかも、そんな速度であるにもかかわらず謎の物体数機は一糸乱れぬ動きで編隊飛行を行いまるで偵察をするかのような動きで上空でゆっくりと旋回する。
「……ってぇ!?ななななななななんだあの見た目ぇッ!?」
そして、何より彼を驚愕させたもの。それは、謎の飛行物体の『見た目』であった。
円形のボディに後部からスッと生えた不動の羽ばたかぬ翼。そして時々翼の先より放たれる、赤と緑の光。
あれは__ドラゴンなんて生易しいものでは無い。もっと恐ろしい……何かだ。軍部の言っていた……『未確認飛行物体』なんてものじゃ無い。そう、例えるなら……。
「神の乗る浮舟だ!」
おそらく、軍部は信じてくれないだろう。だが、伝えるしか無い。一刻も早く、この事を。交代要員は、未だキテレツなボディを見た衝撃が残っているにもかかわらず魔導電信機の置かれた丸太小屋へと、一直線に向かって行った。
____
今回の元ネタ
NRL-10の元ネタ:RQ-3 ダークスター(DarkStar)
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第6話:遭遇−3
修正バージョンです。
_________
_第一上陸部隊 旗艦ビガス・ルナ級原子力航空母艦 CDC(空母版CIC)
CDCで勤務する要員らは、今固唾を飲んで正面にデカデカと置かれた液晶版を見つめていた。
「上陸地予定地点付近の写真……来ます!」
要員の一人がそう叫んだ瞬間、液晶版に大きな写真が映し出される。
「おお!」
それは、一言で言うなら『大』がつく程巨大な、ビーチだった。
海岸線には細々としたヤシの木が所々に点在し、時折海面から反射される『赤い月』の放つ光はほんのりとビーチを照らす。
その風景は『赤い月』の放つ光を無視すれば、南国の島々にありそうな夜のビーチの風景だった。
「まるで南国に観光しに来たみたいだな……」
幹部の一人が、冗談交じりにつぶやく。
「それで問題は……人らしきものを確認したかどうか、だ。その点についてはどうなんだ?」
作戦司令官からの問いに、CDC要員は素早く
「解析してみます」
と答え、液晶版を操作する。
やがて解析を終えた要員は、顔を上げると作戦司令官に対して告げた。
「人型の物体を……1つ。それと、木造建築物……おそらく丸太小屋ですね。それ以外には全く何も」
要員は落ち着いた口調でそう言うと、再び液晶版を操作する。
「そうか……」
自分の放った言葉で全てが変わる。上陸するか、否か。
この選択にしばらく悩んだ様子を見せた作戦司令官は、やがて覚悟を決めたような顔で口を開く。
「全部隊に対して上陸準備を通達。上陸予定地点3キロ地点まで接近したのち上陸部隊第一波を出撃させてくれ。もちろん、その間もUAVを用いた陸地の調査は絶やすなよ」
「了解」
作戦司令官からの一言を持って、ついにピオネロに対する上陸準備が開始された。
_一方その頃、ムベガンド王立軍総司令部では
各方面からの魔導電信文が集結するムベガンド王立軍総司令部。大小様々な魔導電信機がひしめくそこでは、何やら不穏な空気が漂っていた。
「司令官!南東部第五即興防御陣地より連絡!急電です!」
「何ッ!?内容は?」
「『神の乗る浮舟に遭遇。現在防御陣地周辺空域を飛行中』とのことです!」
「何ィッ!?神の乗る浮舟だとォ!?」
司令官は思わずど肝を抜かれたかのような声を出す。
軍上層部から『うちの哨戒騎が未確認飛行物体みたいなの見つけたらしいから注意してね』とは言われていたが何かの冗談だと思っていた。いや、冗談でなければ間違いなく、この国にとって危機となる。『あの神話』にある話を完全無視した行動に出られるなど……あってはならないことだ。
いやいやいくらなんでも、と思った司令官は念のため通信員に確認させる。
「それは本当か?間違い無いんだな?」
司令官は慌てて、机の上にポツンと置かれた資料を手に取る。それら資料には『未確認飛行物体』の情報及び、想定される姿などが事細かに記されていた。
現在開発中の映像送信機能付き魔導電信機が完成・配備されていたらなぁ、と内心思う。もし配備されていたら、それが本当かどうか確認できるのだが。
「……はい、本当に、『神の乗る浮舟』が飛んでいるとのことです」
司令官は誰にもわからない音で舌打ちする。いくらなんでも、『神の乗る浮舟が突然やって来ました』なんて報告、軍上層部にしたら即刻クビだ。
緊張した空気が漂う中、ある一人の通信員が口を開く。
「……我々の神は我々を手駒にし、遊ばれているようですね」
確かリベリア教に入信したと聞いていたが……まさか本当だったとは。
リベリア教。かつて我々の住む星に住み、我々__いや、この星に住む全ての生物を生み出したと言われる古代リベリア人を神とする宗教である。その規模は未だかつて無いほど巨大で、噂では亜人などを含めるとこの世界の総人口の6割を占めると言う。
その一方古代リベリア人を崇めない他宗教に対する行動は目立つものがあり、影では『頭のおかしい宗教』だとか『絶対入っちゃダメな宗教』だとか言われている。
当然それだけの入信者がいるとなれば、軍部にも一人や二人は混じっているわけで、通信要員も典型的なその一人だった。
「まぁこいつのことは置いておいて……もしかすると新手の竜種かもしれんな。ダーダネルス帝国海軍かもしれん。念のため海軍の哨戒船を向かわせろ。確か近場に哨戒中の哨戒船が数隻いたはずだ」
「了解しました」
司令官からの指令を受け取った通信員はそれだけ答えると、付近を哨戒中の哨戒船に連絡を取る。
「第15哨戒船。応答せよ」
『こちら第15哨戒船。どうされましたか?』
「現在南東部第五即興防御陣地上空で自称『神の乗る浮舟』が飛び交っているとの連絡があった。ダーダネルス帝国海軍が飛ばした新型竜種である可能性もあるのですぐに周辺海域に向かって欲しい」
『了解しました』
「よし、その調子で他の騎も向かわせてくれ」
司令官は通信員にそう伝えると、部屋の後ろにある机の上目一杯に海図を広げる。
「そうだな……あり得るのは、この辺りか?」
司令官がそう呟き、南東海岸から60キロ南東にある海域を指差す。
噂ではダーダネルス帝国海軍竜母艦の放つ海兵竜騎たちの限界飛翔距離は約130キロらしい。ならばこの辺りだろう、と目星をつけたのがそこであった。
「了解しました。すぐにその海域へ向かわせます」
「頼んだぞ」
司令官は内心、ダーダネルス帝国海軍でないことを願うのだった。
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第7話:遭遇−4
戦闘シーンをいい加減入れたほうがいいのはわかっているのになぜか毎度毎度細かい描写ばかり入れてあまり進展がないのはどうしたものか(白目)。
あと軍団とか師団とか大隊とか小隊とか分隊とか編成がむつかちい……。これって何か覚えやすい方法ってあるんですかね?←今まで珍兵器にしか目がいってなかった人
______
_第一上陸部隊 午前3:24
『上陸作戦発令、繰り返す、上陸作戦発令。各員は速やかに指定の位置へと向かえ』
うっすらと島影__ピオネロの姿が見えるようになった頃、第一上陸部隊に編入された強襲揚陸艦や輸送艦では、目下上陸準備が開始されていた。
上陸準備の開始を伝えるアナウンスがけたたましい音とともに艦内に鳴り響くマヌエル・アサーニャ級強襲揚陸艦もその一つだ。
「__よって、貴隊の任務は4:00時に先立って上陸、及び放射線濃度や各化学兵器・生物兵器検出、及びその報告だ。お前ら、わかったな?」
「イェッサー!」
「よし、ならとっとと仕事に取りかかれ!」
ブリーフィングを終えた第3防疫大隊の幹部らは、扉を勢いよく開けるとそれぞれの持ち場へと艦内通路を通り向かっていく。幹部の一人、マルク・ジューリア大尉もその一人だ。
彼は艦内通路を伝いウェルドックに出ると、第5防疫小隊の乗るLCACへと向かう。
「第5防疫小隊の諸君!対NBC兵器は持ったな!?」
「持ってますぜ!」
LCACに乗り込んだ十数名の自給式加圧服(いわゆる防護服)を着込んだ第5防疫小隊の隊員たちは、LCACの上で整列し今か今かと出撃を待っている様子で大尉からの問いに答える。
「よし、出撃まで待機!出発予定時刻は3:35時だ!」
『了解!』
大尉自身も自給式加圧服を着込むと、アサルトライフルを手に取りLCACへと乗り込んだ。
「放射線濃度測定器に異常はないな?」
「はい、バッチリ稼働しています」
「そんでこっちも……大丈夫か」
ビィィィィィィッ!
荷物の最終チェック及びシーツをかぶせる作業を終えた後、ちょうど良いタイミングで出発を知らすブザーがウェルドックいっぱいに鳴り響く。
マルク大尉やその他隊員は大急ぎでアサルトライフルや装備品を抱え、兵員待機室に駆け込んだ。
「もうそんな時間か……」
マルク大尉は手に抱えた装備品を下ろしながら呟く。
「大尉は……大尉は、今回のこの上陸作戦をどう思われますか?」
マルク大尉が荷物を全て下ろしたのを見計らって隊員が尋ねる。
「お前はどう思っているんだ?」
「……私は今回の作戦、なんだか嫌な予感がするんです」
「ほー、嫌な予感か。どんな予感だ?」
「……こう、なんて言えばいいんでしょうか。我々の想像を遥かに超えるものがいる……そんな感じです」
「想像を遥かに超えるもの……ねぇ」
マルク大尉は、ふとブリーフィングで指揮官より伝えられた一つの情報を思い出す。曰く、『酸素濃度が30%』らしい。ブリーフィングを実施していた時はそこまで気に留めなかったが……。この謎に関して本国ではあらゆる科学分野の学者がこぞって論争をおっぱじめている頃だろう。
温暖化対策に奔走した各国が原発や再生可能エネルギーを使用した発電に切り替えようやく酸素の量が右肩上がりになったとは言え、いきなりぐんっと酸素量が増えるようなものだろうか?……もしそんなことが起こるなら、『温暖化』なんてキーワードが頻発するようなことは起こらないはずだ。
「……まぁ、恐れていちゃ何も始まらない。どちらにせよ、誰かは絶対に『ピオネロ』に上陸する必要がある」
マルク大尉は『それに』と付け加える。
「聞いた話じゃ、偵察機が人のようなものを発見、それ以前にこの陸地を発見した時にも未確認生物とそれに乗る人のようなものも確認されているらしい。これは全将校が知っている。もしかしたら俺たちは歴史的な場面に遭遇するかもしれないんだ。そう考えれば……いくらか楽になるだろ?」
「……そうですね」
会話を終えた後しばらくし、LCACはスターンゲートが解放されたウェルドックから勢い良く飛び出した。
彼らを乗せた1隻のLCACは、2基のエンジンとシャフトの放つ轟音、そして波しぶきをあげながら任務遂行のため第五防疫小隊を乗せてピオネロへと向かう進路を取るのだった。
_ムベガンド王国 南東第五即興防御陣地
「と、とにかく今はあの『神の乗る浮舟』の動向を知る必要があるな……」
丸太小屋に備え付けられた魔導電信機。それを片手に室内で呟く。
総司令部への連絡は終えた。あとはあちらがなんとかやってくれるだろう。我々が今できるのは、上空を飛び交う『神の乗る浮舟』を監視することのみだ。
窓から時折見える『神の乗る浮舟』は、未だ空域から離脱する気配はない。
「おい、起きろ!」
魔導電信機を机に置くと、彼はベッドの上で深い眠りにつく要員をさする。
「んぅ……?何だぁ……」
要員《かれ》は目をさますと、ベッドから起き上がり背伸びをする。
十分に体が温まった後、彼は先程から室内に響く爆音妙にうるさい音に疑問を持つ。
「これ……妙にうるさいが……何事だ?」
「お前も気づいたか……聞いて驚け……!」
いきなり交代要員が真剣な顔になったので、要員《かれ》は思わず構える。
「ついに俺……いや、俺達は、『神の乗る浮舟』に出会ったんだ!」
あまりにも突拍子なことに、要員《かれ》は思わず目を丸くする。
「お前は何を言っているんだ?」
ため息をつくと続ける。
「幾ら何でも『神の乗る浮舟』なんて」
要員《かれ》がベッドから起き上がり、そう言いかけた瞬間、交代要員の背後にある窓に違和感を感じる。
「なぁ……あれ」
「ん?」
要員《かれ》はスッと、人差し指を立てて交代要員の背後を指差す。
一体どうした、と言いたげな表情で見つめる交代要員は、彼の指差す方向を見る。
「んんんんん?」
目を凝らして見つめる先__はるか先、水平線。
__そこには、不規則にチカチカと光り、動く数個の光が点在していた。水平線上に点在するそれらは、そら満点の星の放つにも似つかない光を放ち、微小な動きを繰り返している。まるで波に揺られているように。
「……まさか、ダーダネルス帝国海軍か?」
いや、ありえない。第5−4文明大陸《あそこ》からここまで、何キロ離れていると思っているんだ。いくら第3文明相当の力を持つあの帝国とは言え、たかだか帆船、それも陸軍国家の帆船がここまでやって来れるわけがない。
だが、そうでなければ一体どこの国だというのだ。
「おい、単眼鏡貸してくれ」
「あいよ」
要員《かれ》は交代要員に、単眼鏡を投げ渡す。
「お見事」
交代要員は単眼鏡を手に持つと、丸太小屋の外へと出る。夜明けを待つ明けにもいかないので水平線が見える適当な場所を見つけ、そこに立つ。
「んーっと……どれどれ」
未だ水平線の上で揺らめく光向けて単眼鏡を構える。と言ってもまだ夜明け前。周囲は暗いのでせいぜい確認できるのはシルエットくらいだろう。そう思い単眼鏡の先を揺らぐ光に向けた。
「ぅ〜ん?」
時折戦列艦ではないシルエットが見えるが、一体何なのか見当もつかない。新種の海棲竜種だろうか?それともリヴァイアサンか?期待と不安を胸に秘めてじっとそれを見つめる。
気づけば彼は、空中から彼を観察する未確認飛行物体《NRL-10》に気づくこともなく、揺らぐ光に夢中で食いついていたのだった。
______
ここ最近投稿休止中の例のアレを投稿再開しようかなと思う今日この頃。
感想なりなんなり、思ったこと書いてあげてください。辛辣なコメントは……メンタルが崩壊しない程度で。
マヌエル・アサーニャ級強襲揚陸艦の元ネタ:タラワ級強襲揚陸艦
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