されど太陽は幾度も登る (ファ○通の攻略本)
しおりを挟む

始まりに目を開く

万物斉同、無為自然


遥か遠い残響に耳をすました。

その暖かな名残りは海のように、空のように広がる心の中の繋がりはか細くなってはいたが、その響きは、確かに心を震わせる。

 

「………」

 

足元は覚束ないように感じた。だが、自分はここにいてしっかりと地面を踏みしめていた。瞼の裏に色彩をそっとしまいこんで、決意は決まった。別れを告げた手のひらを曲げて握りしめて。

……ああ、そこで決意を決めたはずだが、どうしてもそこを動きたくなくてそっと背後に腰掛けた。半分、腰が抜けたとも言える。当然だ。先程まで、戦い続きだったのだから。

 

目を開いた。

冷たく風は止まり、柔らかな音はもう聞こえない。音という振動がないこの場所では耳鳴りが痛いほどに刺さる。僅かに首を動かすと、さらりと流れた髪からの音が聞こえた。

夢はもう終わったのだから、とゆるく笑う。柔らかに、口角を上げ、噛みしめるように………

 

だが、頬の筋肉は動かなかった。

 

アラヤ神社。

 

昔、自分達が小さい頃に遊び場にしていた古びた神社。人々の営みを見守り、存在し得ぬ奇跡への信仰の場。煌びやかな提灯の灯りで彩られた中祭りが行われたりと、賑やかで、されどいつも清潔で、神聖だったその場所が。

雑草が生い茂り、木造の建築物は灰色に。いつの間にやら古ぼけて半壊していた。荒れに荒れた世界は己を見下ろす。本来なら世界を見下ろす場所は、そこから自分を覗き込んでいた。

鼻にツンと来るような腐臭が飛び込む。

 

「タッちゃん」「情人」「達哉」「達哉クン」

 

違う。

違うんだ。

 

唇の裏側を噛みしめる。その声は、言葉は、此処にはもう無いものだ。

自分の事を呼ぶ声が聞こえたように思え、しかし、此処には自分以外の「人」はおらず、視線が合わなくなっている、そんな気がした。震えそうになるのを抑えて、息を慎重に吐きながら、そちらを向いた。

 

 

………なんとなく、あちら側で考えていた。もし、あちら側に精神を送りだした人々は、その肉体は、どのようになるのか。

ずっと覚めることの無い微睡みに浸る彼ら。

その肉体もまた、目覚める事はあり得ず。人としての生命活動を行わず、人としての生命活動を不要とせず。完全なものとなったイデアリアンは果たしてそこに底があるのだろうかと。

終わりがないのだ。其処など、ある訳もないのだ。

 

ほんの少し見覚えのある緑と黒と、薄ぼけた色。からからの手は重なり合って、冷たい骸は咎めるように濁った瞳で此方を見つめていた。

だが、そこに瞳などある訳もなく、見つめるものもなく。ただ、虚の奥を自分が覗き込んでいるだけにしかすぎない。

抜け殻には自然のままにそこにあるという存在のみが与えられた。苦悩もなく、絶望もない。それは、幸福というものの1つの形となり得るだろうか。

腰掛けていた賽銭箱から、地面に降りると敷石と靴がぶつかり硬い音を鳴らす。脚が酷く疲れたようにしびれを訴え、腹の奥から何かが手を伸ばしている感覚がしたが、頭は其れを肯定せずに口から声でもない音を漏らしていた。

 

 

まず、自分が帰ってきてから真っ先に行うべき事は1つだった。

 

古ぼけた錆だらけの倉庫をこじ開けて、錆まみれの手でスコップを持ち出すと、また本堂まで戻り、その骸に手を合わせてから、1つ、また1つと持ち出す事にした。

汚れなど、匂いなど、気にしようとも思わなかった。

ああ。これは、自己満足でしかない。自分勝手で、何処までも、傲慢で、やるべきじゃあない行動なのだろう。それでも俺はそれをせずには居られなかった。ごめん。

神社のその裏に大きな穴を掘っていく。人が、何人も入れそうなほどの穴を掘って、掘って、掘って……

額から汗が流れた。そこには、きっと別のものも混ざっていたかもしれない。けれど、それに関してを今は深く考える暇もない程に心の中が苦しくて仕方なかった。

 

そうして掘り出した後に、自分が穴から出る手段を考えていなかった事に気がつき途方に暮れた。

 

「レッツ、ポジティブシンキング!」

 

ああ、此処で何故その言葉を思い出すんだ。後を考えない自分に、うっかり思い出した自分に涙が出てきそうになる。不甲斐ない自分にまっさらな右手を左手で掴み、ゆっくりと灯火を灯す。

 

そして、ペルソナに自分の身体を持ち上げさせてようやっと、穴から這い出て来た。

そうして、自分の肉体相手にしたのと同じように、されどその動きはやさしく。その骸を慎重に持ち上げる。

……その服から、物を漁って取り出す事も出来ただろう。今となっては追い剥ぎなどしたところで、それを咎める者は自分以外居ない。

 

それでも。

 

歯を、食いしばる。この約束を踏み躙るにはあまりにも罪を背負いすぎていた。

 

その腕にひっそりとあった見覚えのある時計から目を逸らして穴の底へ横たえた。

……暗い穴の中は、もう見えない。

そうやって、同じように穴の中へ手を持っていき、その焔を落とす。空は、本来ならば夜になって…暗くなって居たのだろうが。もう、明るいも暗いも、よくわからない。画一化された世界は終わりを示している。

豪炎が空高くまで立ち昇る。

黒と赤の二重の螺旋。灰色を描きその海へと立ち上る。静かだった世界に弾ける音が混ざり独唱が奏でられた。

 

自身のペルソナ_____アポロの最大出力で焚き上げたのだ。その熱量は凄まじく、そこにはもう骨すらも残らなかった。太陽の焔だ。暖かいと同時に、その身は、あまりにも巨大な焼きごてでしかすぎない。

自分が出した焔の余波で暑い、と思いながら空を見上げて、明るい夜空の星々を見る。奇妙な事に、空には星々が常にあった。月は大きく、枯れ果てた花などもう思い出せなくなった。

 

「舞耶ねぇは、みんなは、もう……」

 

もう、彼女は、みんなはこの町に、方舟に帰ることはない。戻るべき身体も、既に自然のままに抉られ捨てられたのだった。死者に口は無い。何故ならその躯自体が無くなっているのだから。

そして、他の皆も。剪定された箱には約束の通り、戻る事も無いだろう。

頭を振り、手水舎の水を掬って顔を濡らす。残骸のような石屑。其処にまだ残ってたその水は、濁っていたが今の自分には冷たく心地がよかった。

 

………[恐らくは]

[恐らくは、此処でイデアリアンとなった人も、イデアリアンとしての進化を拒絶し生きてる人がいるだろう]

 

………探して、みよう。

 

町にもきっと、あちら側に移った後の人らがいるかもしれないから、その人らの身体もせめて火葬をしてあげなくては。多分、腐ったままほっとくのは彼らの為にならないし、ほっといてそのまま、なんてことしてはいけないと思う。なんて。目的もなくまずは贖罪ですらなく、惰性のままの行動だったのかもしれない。

 

だが、この現状は自分が、自分達が招いたのだからと。

 

石段を降りていく。目覚めた目はまだ覚めきっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2

時たま変な夢を見ながらも、それに惑わされながら自分が行い、すべき事を自力で果たして行った。ただし、夜は深く眠れそうにない。言葉が自分の耳元を通り抜けるからだ。

 

最初は、穴を掘ってそこで焚き上げていた。なんとなく、穴の中の方がいいらしい、と聞いたからだ。熱がどうこうとか、聞いた覚えがある。半分うろ覚えだからそのうちに日記を書き、その日の出来事をまとめる事をするようになってきてはいたのだが、当初はそれをする余裕もなかったから今となっては詳しい理由はわからないが……最初はそのような理由だった筈だ。

だがそのうちにその骸が持ち上げる事も困難なものになるうちに穴へわざわざ放り込む事をやめた。そのまま、燃やした方が損傷が少ないと思ったからだ。

 

この世界で生活するにあたり、まず最初に困ったのは食糧だった。食材は、空腹を訴える肉体に耐えきれずにまだ食べられそうな缶詰などを求め、家へと帰宅するその前にスーパーへ潜り込んだ時にどういうわけか電気、水道、ガスといった生活に欠かせないライフラインが通っているのに気がつき、それからは冷凍の食品を優先して食べる事にした。缶詰は、後のことを考えても残しておきたかった。

 

それでもやはり、地域によっては悪魔にそれらが食べられている事もあり、場合によっては悪魔の血肉を文字通りに啜る事もどうしても必要となり、やがてその舌に悪魔の味を覚えた。悪魔を食用にするのを前提とした戦闘など行ったことは無く、ミンチにされた悪魔を空腹に耐えきれずに啜り喰らった。初めて食べた悪魔の味は鉄錆と粘土が混ざったような味がした。

どの悪魔が食用に適しているのか。どの部位が食べられるのか。消毒の方法は。料理などあまりしたことのない自分だが、そういう事は自然と覚えていくようになった。手加減は出来る範囲で行うが、加工できるほどの肉を剥ぎ取れるのは本当に少しだけだった。その上、最初のうちは体が痺れたり体調を崩したりもしており、本が大量に残っていたのが幸いだったと言えるだろう。兎に角、調理については早期に学べたのだ。

これでは栄養が偏りそうであると思い悩んだが、そもそも悪魔の栄養なんて身体にいいのか判断がつかない。しかし、空腹には抗い難かった。この空腹は、忘れられなかった。

そのうちに、野菜の種の存在を知り柔らかな土を見つけては植物を育ててみるのも試してみた。ためしに種を持ってきては土の中に埋め、育ててみることにした。種は発芽しないものもあったがたしかに発芽し、かつて売られていたような物のように綺麗ではなく土まみれで、虫がいて食われてて、時たま病に侵されたりもしたが収穫もできた。達成感があった。

しかし、たまに葉などを悪魔に食われていたりするし、畑に悪魔が混ざっていたり、野菜を余計に作りすぎたりもしてしまう。野菜を作りすぎた時は漬物に加工する事で長期の保存を試みたり、悪魔との交渉材料にして畑の管理を願ったりした。

 

腐臭はようやく、なくなってきた。最初に戻った時とは違って随分とマシになった。ただ、風景は前の様に寂れたままだった。

 

……どうしようもなく酷く、疲れていた。

人は何処にも居ない。この世界を見下ろせば、遥か遠くの地球は灰を被ってしまっていた。人はもう生きていない。そう結論を出すのは早かった。

 

たしかに、神社から降りてからは、骸以外の人も見つけた。だがそれらは、みんな人だったものだった。

 

イデアリアン。

 

その人が願った噂は世界に残っていた人を侵食し、ただの人形に変幻させた。その体には何かを生み出し変える腕など無く。脚も、地面を踏みしめる事無く。息をして、何かを聞いて、発して、見て、嗅いで、触れて。考える事も出来ないであろう無機物。

何もかもが出来ない球体状の紅い結晶がふわふわと浮いていた。それが、人に許された幸福な人の形だった。

 

始めに彼らと出会ったのは、家に帰ってからだった。

初めはその奇妙な物体が何なのかわからなかった。無人の家にひとつ、ぽっかりと浮き上がる赤色以外に母親の姿などもなく。そうして家の中を見回し、あの几帳面な兄にしては随分と杜撰に脱ぎ捨てられたスーツをその物体の下に見つけ、しかし、そのスーツが脱ぎ捨てられたのではなく下に崩れ落ちるように重なっているのを見て、スーツの山からサングラスが出てきたのを握りしめて、それを見つめ直した。

何も言わずにただ立ち尽くすソレに言葉を失った。歯の奥からカチリ、と音がする。震える手を伸ばしてその輪郭に触れた。その手が何かを押して力を込めているのは脳が理解したが、その指は何かに触れていると理解していなかった。ただ其処にいるのは、どうしようもなく誰かに似ていた。

その日、この世界に戻って初めて吐いた。

 

 

人類の深層が考え抜き産み出した、邪悪の概念、ニャルラトホテプ。奴はあちら側では確かに撃退できた。奴を直視した上で足掻き切れたのだ。人の輝きがあり、其処に願いから繋がれた意思が届いて、だからこそ、奴の干渉の手は遠ざかり、荒れた心の海は静謐な状態に戻ったのだ。

しかし此方側では、その心の海自体がこの方舟と半分繋がっているのだ。奇妙なことに、この船は海を渡り彷徨う亡霊船だったようだ。

こうして、アラヤ神社を通して、人の感情のエネルギーが迸って。人が人でなくなっても世界の常識は未だ、かつてと同じ状態だった。悪魔が大量に顕現して、悪魔同士で憎み合い、喰らい合い、白痴の王すら見放す煉獄にて秩序的な混沌の争いを続けていた。

微睡んでいるとはいえ、人の形をとれてないとはいえ。こちら側の人の心はまだ少しながら生きている。だからこそこうして今も、噂の効果が続いてしまってるのだろうと、今の自分は信じたかった。

 

イデアリアンとなった彼らはどうしたらいいのか、始めは途方に暮れた。死も、生も、それすら拭い去った存在だ。しかも、彼らは悪魔同士の戦争において重要な存在であり、奪い合いが続いているらしい。悩みに悩んでから……神社まで連れて、そこでひとまず眠らせておく事にした。神社には紅い玉が大量に浮かんでいる。一気に神聖な雰囲気であるべき神社が禍々しくなったなと感じたが、そもそもが荒廃しきっているのでむしろ違和感を感じないだろう。

いや、ニャルラトホテプの事やらを考えると前から禍々しさも、おぞましさも感じてはいたが。

どうやらイデアリアンである彼らは悪魔にとっては無限に増え続けるご馳走、のようなものらしい。何故か、神社に悪魔が近寄る事は無いのでそこまで持っていけばまず安全だと思った。

……わかっている。知性も、感情も。鈍くしか感じられない彼らがそういうことを望んでいるのかすら自分にはそうわからない事も。馬鹿げた行いを、と顔の無い悪意は嗤うだろう。それでも悪魔に搾取されているのはきっと、正しい在り方ではないはずだ。

こうむしゃくしゃした時はたまに、町の端まで行っては地球を見下ろしてみる。

地球は荒廃して、厚い雲に覆われていてよくわからなかった。多分、地球は生物が生きられる環境などではないのだろう。知識に疎い自分ですらなんとなく、そう感じた。ただ、地球を見ているとかつてを思い出すからそうしている。

 

夢を見る、夢を見る。かつての誰かの夢を見る。翠の燐光が数滴の雫を流し、緑の目は其れを見向きをせずにいた。

 

誰もいない家で目を覚ました。いつもの通りに夢を見て。今日の朝ごはんは冷凍の卵焼きと残っていたお米を炊いたご飯である。眩しい光に右手で影を作りながらも席に着く。

まさか、食事をすることにこんなにもありがたみを感じるなんてな、と思うと不思議と少し笑えた。

 

………さぁ、行くとしよう。大きめの黒いリュックサックを背負う。……軽く保護色になってるなと右腕に、背負ったそれを見て苦笑した。だが、何か物を見つけた時に入れる用のソレは容量も大きく、個人的にデザインがよくお気に入りなのでいつもコレしか使っていない。

鍵を持って扉から家を出た。外から見た家の窓は割れている。習慣のままに鍵を閉めた。まぁ、中に時折悪魔が侵入することもあるからしておいた方が良いだろう。窓は内側から塞いだので恐らくは悪魔が侵入したりはしない筈だ。隙間という隙間も埋めて定期的に鼠の様な悪魔を駆除している。

 

アスファルトの上を踏みしめて、黒い跡の残る道を見ながらバイクに跨った。

今日もまた、慣れ親しんだ、成れ果てた町を探索する。其処にはきっと、何処かに人が居ると信じて。軽く速度を出すだけで交通のルールなんざ守らない法外速度で駆けるバイクを吹き鳴らす。改造に改造を重ねたこのモンスターバイクは木っ端悪魔なら轢き逃げが可能だ。モンスター喰らいは得意なようだ。

……轢き逃げの技術が発達したなど、あの兄にはとても言えはしないな。ましてや、こちら側の兄がそれを知ったらどんな反応をするか。

しょっぱい味がした。

 

ふと。別の区に向かう前に別の場所へ向かった。家庭菜園……というには、土地も広く、農具も色々揃えたそこへ向かう。大きな建物が取り囲むように浮かんだ其処は学校だ。

学校なら土地もあるし、戦時中は畑を耕してたなんて事を学んだ記憶がある。ならば、此処で作物を作れば良いのではという結論に至ったのだ。

……いやアレは、国会での事だったか?ああ、いや、後で教科書見返そう。暇があるのならだが。

肥料のタブレットを植物の根の先端が伸びているであろうあたりに置いてから、ホースを取り出した。水を思い切り解放して、ホースの先端を指で潰す。こうして、遠くから水をやれば楽なのだと気がついた。これは、水やりをするときにやっていい事なのかなどはわからないが、広範囲に水が行くので楽だし、と水を噴出する。

もうじきトマトの収穫が出来るだろう。種も回収して、次に備えければ。そう考える自分が不思議と年寄りっぽく思えた。

蛇口をひねって水を止める。

ホースを巻き直して、バイクの方へと戻った。明日は何を食べようか。ああ、魚が無性に恋しい、こういう時が苦痛になる。

 

君、は 生きているのか?

 

複数に重なった音ではない。これは、酷くしゃがれていて、聞き取るのが難しかったが、この声を聞いて驚愕に心臓が飛び跳ねた。

 

人の、声が聞こえた。

これは、悪魔のものなんかではなく、紛れもなく人のものであると確信した。




誤字報告ありがとうございます!……ただ、今後の伏線に関わる内容が色々含まれるのでそこらへんの修正は勘弁してくださいm(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



貌を剥いだ誰かの追憶


1回目の黄泉孵りは困惑から始まった。

 

そりゃあそうだ。天上で足掻いた末が、うまく天使どもを利用できなかった末が、このもう一度の特典だ。何処かの神が利用しようとしているのか、とふつふつとこみ上げた怒りと憎悪に小さな身体は反応する。*1目をぎょろりと動かして自分を見れば、倒れ込んでいた身体は小さくみすぼらしかった。生存本能の芽生えた死にぞこなった小さな身体で、孤独に飢えながら何のために生きているのかも解らずに地面を這いずり回る。訳もわからず駅を転がり、誰にも見向きもされず隅の隅に行ったとしても、呼吸の音は小さく、虫の息のまま。

何故こうして生きているのかわからなかった。駅のホームの隅、薄汚れた肉体で血の色が染みついた壁にもたれた。

 

「……!オヤジ!あの子!!」

「は———」

 

子供の声。元気いっぱいのそれが、緊張感に溢れて、張り上げたような声でうるさく、なんとなくいやだと思った。キンキンとしていて、死にかけの自分と対照的だとうるさかったのが半分、何も知らず、覚えずに生きている者に対する嫉妬が半分あったのかもしれない。

動くのも億劫だが、目を向けた。それをした理由はわからなかったが、この声が優しい思い出を思い出させてくれるようで、なんとなく、聞いたことがある気がした。

 

 

ああ。

 

 

———あの人に会った。それは紛れもなくあの人で、でもあの人ではなかった。だが、この髪は、あの目は。老いたかつての今でも記憶の中にあった。声からまず忘れたが、その面影までは忘れた訳ではなかったのだ。

当然だった。あの人は天使から救う為に天使を襲った、その時の自分には救う手段が一切無く、そのまま繭の中で息絶えてしまったのだから。その繭の中には悪魔の因子が混ざっていて、あの人の肉体はその因子に耐えきれず熟れ落ちていた。外道種、ならまだよかったのだろう。だが、悪魔にすらなれず、孵化もする事なく眠っていた。

なら目の前の彼女はきっとあの人ではない。姉さんではなく、きっと、自分のようにまた生まれ直して自分とは違って記憶を持たないで生まれた別人なのだろう。

 

ねえさん(アサヒ)

 

姉として見るのをやめた。

その子供はきらきらと輝いていた。親からの愛を一身に受けとめ、こんな状況下でも可愛がられてきたのだろうというのがその振る舞いから伝わる。

自分へと差し伸べられた小さく、暖かな人の手に力の入らない腕を上げて、その柔らかな掌に救われた。

 

あの人。姉さん……いいや、あいつ、アサヒは親父さんと一緒に暮らしているらしい。何よりだと思った。前は、家族はみんな悪魔の腹のなかだったから。あるいは繭の中か。なんだっていい。どっちだって同じでしかない。どうだってよくなった。

 

ああ、きっと、自分はアサヒに関わるべきではないだろう。当然だ。仲間に希望を持たせるだけ持たせながら、道半ばで殺された愚者。その旅は世界へと至らず、審判など迎えようもなかった。*2

なによりもう、身近な家族があんな風になるのを見たくはない。自分といたらまた、天使に、あるいは悪魔に。攫われて、殺されてしまう。自分は悪魔との戦いをやめて、後方でのうのうと生きる気はしなかった。

……歳をとって、変に臆病になったのだろうか。自分ではアサヒを守れないだろう、など。今思い返すと不思議な気分になる。ああ、しかし自分が言っていたコレは正しかった。

 

ただ、その時の自分にわかるのは世界に定められたかのように俺はあいつと居なければならない、という事だけだった。そして、喪失も同じくであるということだろうと誤認していた。拾われた自分は同じように育ち、そして今。血まみれの状態で横に倒れてる。極彩色の悪魔が命を弄び、こちらを見下す。

耳は鼓膜がもう機能していない。耳鳴りが鈍い痛みと共に乱反射する。目の前は白くチカチカしているようで、グラグラ世界が揺れていた。

 

自分は悔いるべき事を考えていた。

『一緒に逝けるのなら、また生を掴んだ意味がある』、と。

……あの時は疲れ果てていた。自分がして来たことの無意味さを。東京の、現状に。焔が身体を溶かして、燃やして、黒焦げの物質にして。懇願するような想いを叶えるかのように身体の全体が痛みを訴えた。

昏い底へ落とされる。それはかつてと似ている。

 

黄泉路を渡り、改札を通る。

紡ぐべき事はもう、ない。ないんだ。蘇りなど、今まで殉職してきた者らへの冒涜だ。だから、もういいだろう。行かせてくれ。物言いたげな魔神の横を通り過ぎる。どうしようもなく臆病な自分は逃げたかった。

中庸の道など、既に破棄された。人々は秩序に従い、混沌に蹂躙され、今あるのは混沌と秩序の入り乱れた世界でしかない。

 

———でもこんなの、いやだ。こうして逃げる自分なんて、自分ではない。

 

*3

 

 

黄泉孵りは疑問から始まった。

否定した選択肢を掴めと言わんばかりの世界。体を無理やり立たされたかのようで不快だった。ぐわんぐわんと腹のなかが揺れ動き、手をばたつかせても世界への拒絶の手ははたき落とされた。

同じ言葉、同じ瞳。

 

「ナナシー?何見てるの?」

「アサヒ、やっと来たのか……朝早くに起きたんだろうに、なってねぇな」

「む、女の子には用意に時間がかかるものなんですー。

…ああ、フリンの動画見てたの?凄いよね、仲魔と一緒にこんな戦って………

でもさ、フリンももう少し装備は考えるべきだと思うの」

「おいちょっと待てデモニカスーツを愚弄するなよ」

「えー、デモニカスーツ可愛くないじゃあん」

「え?」

「え?」

「……ナナシのこのセンスは一体何処から来たんだ……?」

 

それらは、どうやらよほどの事でもないと変わる事がないらしい。よほどの事とやらには一度も出会った事が無いから、実質変わらないのと同じだ。いくら繰り返しても、その形は、ありようは。むーと頬を膨らませるアサヒのその頬を軽く摘む。柔らかく伸びた頬を見ながらゆるりと笑う。

自分にはどれもがデジャヴを感じるもので、選択を変えても同じように続く世界に偽りすら覚えた。それでもこの世界は何処までも現実で、いつまでも地獄だった。

 

……魔神の声がする。

黄泉より帰る、その甘言が心を揺さぶる。

もし、此処で。違う選択をしたならば。続きを選んだなら。

 

……アサヒと、あの子と生きたら。どうなるのだろうか。

 

差し伸べられてもいない、手のひらを幻視した。男の、戦う人の手だった。

*1
何処かの神などという歪んだ信仰による自然現象が原因ならまだ良かったのだろう。ただ一つ、言える事としては私には何もしようがなかった。

*2
彼にはその未来がなかっただけだった。そう、世界は決まっている。今まで見てきた光景から僕は知っていた

*3
本当ならば逃げても良かったのだ。そう私が言えたらどれだけの慰めになるのか。逃げても、どうにもならないのだが。




誰かの呟きが聴こえる。
その呟きは、聞き逃してはならないだろう。
繰り返し見た夢の内容を思い出しながら、夢の内容に対して誰かがつぶやいていた事を日記の端に書きとめる事にした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

承継するもの

未来の話


人がいた。

 

此処には、自分以外の人がまだ生きていたのだ。

 

いや、それは人、というには少し混ざってはいたが。顔の頬から顎の下にかけてが紅く、結晶のようなものに変質していたし、身体も背が高い割には身体が酷くほっそりしていて、着ている白衣はもはや被っているのに近い。場所が場所なら悪魔なのではと見間違いしそうなさまだが、それでも、不思議な程に人らしく感じたのだ。

冴えない顔の中年男性は、フラフラと、心配になりそうになるほど遅くだがこちらに歩み寄り、手を此方へと伸ばす動きをしながら此方へ歩み寄る。

赤茶色に変色しきった白衣。白色はもう、ほとんどない。

ガサガサの唇が震え、ヒューヒューと風のようにか細く、無理やり声にしているような声が溢れた。

 

「そん な……馬鹿な、奇跡 など 、ほんとウだったのか」

 

身体の一部が退化し無くなったその肉体を無理に動かしながらもその右手が伸ばされた。爪は丸い形をしておらず、爪の下の肉の色はもはや判別がつかない。親指が両側にあるように見えたが、違かった。その手の指は4本しか無く、薬指と小指がくっついてしまっている。

その手をとり、握りしめると「あ、あ」男は無表情だったその顔を僅かに歪めた。目から涙が流れる。その雫は頬を伝い、地面に落ちる…その筈、だったのだろう。紅く変形したその身は、流れ落ちる雫の水分をも内部へと取り込んだ。

 

「良かっ た……君は、やはり、生きて るんだね……」

 

あたたかい。

そう、手のひらの温もりを感じて目からはらはらと雫を垂らす彼の手は、少しひんやりとしていた。その手を引っ張られ……そこで、彼の左腕が無いことに気がついた。引っ張られるままに身体をついて行く。そのまま身体を硬直させて、動かないでいると自分がそこに立ち尽くしている力に耐えきれずに彼の身体が砕けそうだと錯覚したのだ。

 

「貴方は……」

「僕は なんとか、生き延びてしまった 半端者だ、よ。他はもう あの玉になってしまった、けどもね」

 

彼はきっと笑いかけている、のだろう。口の端がひくりひくりと痙攣していて、格好がついてはいない。

しかし、その目は此方を覗き込んでいた。人を案じて、此方を気遣いながら手を引く彼の、優しい輝き。その輝きはただ、自身を安心させようとしていることがわかった。

 

「ああ でもよかった

これで、地球に世界樹を植えて 地球を再生させる意味が、あった。光は、あったん、だね」

 

君が此処にいるのなら、人はまだまだ捨てたものでもなく、これからもまた繁栄できると、にじり歩きながら自分を引っ張る彼はひどく安堵していた。

 

地球の、再生。

 

……もし、あそこで絶望から逃れる、忘却の選択を選んでいなかったら。地球は、また再生されてたかもしれなかったのか?心臓が音を立てる。

 

「人は あんな姿になっても肉体だけ、は再生できた

それだけで は不十分だと思って、いたから君にこれか らを託す事ができるよ」

 

彼はたどたどしく言葉を紡いだ。

ほんの少し和らいだ顔で、しかし感情のよくわからない顔で説明をした。赤い皮膚がテラテラと光を反射する。

なんでも彼は、彼らは地球がまた青色に満ちた星となり、自分達の故郷がそうであった頃のようにまた命に溢れてほしいと、頭の中がどんどん霞んで行く中必死で同じように生き延びてしまった同胞らを保護し、あるいは共に研究を重ねてきたそうだ。そうして、人類の延命措置は執り行われた。

理論上は、人類か生き延びていけるのはたしかであり、悪魔や、それに連なる細胞を流用された生物が地上に蔓延る可能性が高いが、人類には「力」があるからなんとかやっていけるはずだ、と可能性に賭ける事としたそうだ。

 

故郷で、生きたい。

 

その壊れた故郷の現状から逃げて、昔へと逃げながらも、その故郷を懐かしみ罪を犯した自分にふと後ろめたい恥ずかしさを覚えた。

彼らは、故郷に縋らないと人としての形を保てなかったろくでなし、などと自身を言うが、とんでもない。逃げの選択をしておきながら、喪われるものに駄々をこねた自分と比べても、どん詰まりの中で足掻いた彼らの事がとても素晴らしく思える。自分がやったのは、単なる逃げでしかなかった。

 

「ああ、地球を再生しても一人 と。もう何も無い、のではなんて 思っていたが、人がいた。生きていたんだ。この思いは 無意味では なかった」

 

祈るようなその言葉に心を刺されるような思いだった。と、そのタイミングで言葉が発せられた。

 

「ありがと ウ 。君は、この世界で生きてくれたんだね。大人達がどうも デきなかったこの世界を」

 

「大人は子供の尻拭いをするもの」

あちら側の世界にいた、長髪の大人の後ろ姿と被った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2

彼が引っ張っていった先にあったのは、壊れかけの古家があった。みすぼらしい其処は一見汚そうで、劣化が激しいかのように思えたが外側の補修をしていないだけで中側は板が抜けているなども特に無く、酷く清潔だった。研究をしていたそうだし、当然だろう。

生活スペース、なのだろう場所まで案内される。其処は机と椅子が居心地悪そうにして置かれ、大量の本棚と本のタワーに囲まれていた。本から逃れるような隅にひっそりと布団が巣のように丸まっている。おそらくアレの中で泥のように眠ってはまた覚醒して、そうして疲れ果てるまで机に齧りついては、再び隅に逃げ込み眠って……そうして、研究を重ね続けたのだろう。

 

「あ、安心して 。此処には特殊な 生体マグネタイトを集める瓶があるから。悪魔はまず此処まで来れない」

 

木でできた椅子へ促されてようやく座った。椅子は手作りなのか、頑丈にできてはいるが高さがそれぞれ合っていなくて酷くガタガタだ。

彼は「お茶でもどうぞ」と、奥の方へと消えていく。中身のない左腕の裾がひらりと舞った。………あの様子でお茶など、大丈夫だろうか。心配だが待つ事にした。

そうなってくると暇になるので、彼がどのようにして地球を救う手立てを考えていたのかを、本を雪崩させないように気を配りながらどのような本があるのか確認をする。さまざまな分野がごった返したその本らは、植物の培養から始まり分子や原子について、動物の細胞についてから汚染物質についてなどの科学的な事象に関するものが多かったが、その次に多かったのはオカルトものの本だった。

まぁ、オカルトものの本が多くなるのも無理はないだろう。事実、目の前でオカルトのような事が起こっているのだから。悪魔召喚?とやらについて書かれた本があったが、その表紙はやけに不安になるような革で出来ていた。

一角には実験の経過を記録したレポートがあり、その隅にはひっそりと合同の日記のようなものが置かれていた。

……恐らくは、彼とその仲間たちによるものなのだろう。

その本を読んでいいのか、悪いのか。

そっと、目を向けてそして——

 

「や。おまたせ」

 

戻ってきた。伸ばしかけた手を降ろす。

片腕が無いままでお盆などを持っていくことは無理だからか、お茶やお茶菓子はコロコロとサービングカーに載せて押してくる。

お茶は、温かい緑茶だった。お茶菓子として金平糖が添えられている。

 

「日持ちするもの、はあまりなくて。

すまないね こんなものしか、出せなくて」

「……いや、貴方が謝る事じゃない」

 

むしろ、勝手に本を読もうと思ってしまった此方も悪い気がする。

湯気を立てるお茶を両手で持つと、とても温かかった。自分の知っている味というものが素晴らしかった。

ちびちびと冷ましながらお茶を飲み、彼から話を聞く。

 

なんでも、地上の汚染を浄化できる生物の遺伝情報、悪魔の細胞や生体マグネタイト?を、移植して作られた植物である世界樹が、呼吸をする事により空気中の汚染物質を浄化し、地表の汚染も少しずつではあるが確実に除染が可能、なんだとか。

そうすればまた生命活動が可能な状態にまでなる筈だと笑った。

 

彼は、かつて新宿があった場所に植えようと定めてるそうだ。其処は幸い汚染が少ないようで、植えに行っても身体が暫く保つらしい。

世界樹を植えればそれだけで、準備は万端。勝手に汚染物質を吸い寄せてそのうち、世界樹は肥大化していき、その中に詰まった汚染物質は浄化が終わり次第、世界樹がストックを消費していって無くなり、やがて内部が空洞になり死を迎えるだろうとの事だ。

 

そして、嗚呼。困った事に。

中枢部にはブレインの役割を果たす事ができる肉体を器官という扱いとしてそのまま身体丸ごと、生きた状態のものを提供しなくてはならなかったそうだ。そうしなくては世界樹に異常が起きた時に上手く対応が出来ないらしい。抗体や免疫などの機能はまだあまりリソースが足りないからそれこそ外付けがなければどうにもならない。

 

世界樹との同化。

それを果たしたら、少なくとももう人としての真っ当な人生を終える事が無いだろうと続けて……だからこそ、君に会えて良かった、と彼は笑ってきたのだ。

わからなかった。自分が生きる為に、うまく見捨てられそうなものがちょうど目の前に現れたというのに。それでも彼はそれをやめないと言うのだ。自分の身を使う事を決定事項であるとした彼に対し、疑問が口から出た。

 

「……何故?俺を、その世界樹の同化に使えばよかっただろう」

「これは若い子がやるべきものじゃあないよ。大人達に任せなさい。この汚染の尻拭いは、どうにかしないと。」

 

その言葉はあちら側の大人達も言っていた事で、やはり息を呑んだ。ふいに彼らのペルソナの共鳴の震えを思い出した。心の海がさざなみで満たされる。

うまく笑えない彼は、笑おうとして、変に歯を見せたりしては閉じてを繰り返し……結局諦めたのだろう、スン。と素の真顔に戻った。

 

「此処と地球と、では色々と時間 の流れが違うようだ。此処な ら数年程度の、時間経過だから、あともう少しだけ 待ってくれないかい。」

「貴方はっ、それで_____」

「いい んだよ。」

 

立ち上がりかけた自分を片腕で引き留められる。3回ほど肩を叩かれ、歪な口元をそのままに首を横に振られた。

 

「僕たち、は君たちがあの黒い影に ニャルラトホテプに足掻いていたのに、何もできなかったんだ。どうかその後始末だけは 手伝わせてくれ。」

「_________」

 

最低最悪の存在の名前を出されてギョッとした。アレのことを知っているなんて、当時では敵側か、自分達くらいだったのにと目を白黒させる。ニャルラトホテプの存在を、なんで。戦いの事を、どうして。

何故、どうして知っているんだ。

その疑問に答えるかのように彼は続けた。

 

「此処は心の深層と 半分同化してるだろ?だから、聞こえたんだ。あちら側の戦いのことが。」

「あちら側の………まさか、そんな事が」

「僕たちみんな、君たちのような子供、や若い女性に押し付ける形になっていたのが、悔しかった よ。

そして、あちら側の君たちを見ているうちにね 目的が、繁栄の為などではなく ただ君たち、 子供のために、とみんなで研究をしたんだ。」

 

口の中でジャリジャリと音を立てる、欠けらの残骸が酷く不快だった。湯気を立てる、湯飲みの中の緑は濃くなって、その深層で固まっている。

………恐ろしく、衝撃的な告白に心が固まった。

 

「君は確かに、僕たちの太陽 だった。君がいたから 、戦い続けて、足掻き続けたから、希望を持てた。こんな、壊れ損ないの無力な自分達でも さ。」

 

今度は、彼が立ち上がった。

ボロボロの顔から、紅く変色した目がチラリと覗く。歯が少しギザギザとしている、歯並びの悪さが変な愛嬌を彼に持たせた。

 

「最後にさ 君の名前を、君から 教えてくれないかい?」

「………周防、周防達哉、」

 

……答えるしかなかった。

此処まで、自分を見て、同じように此方で大いなる流れに足掻いた彼に。

おそらく彼は、自分の名前を知っているだろう。だが、だが。彼にちゃんと、自分から伝えるのは必要なもので、大切なことだと理解していた。

 

「——ありがとう。僕たちの太陽、達哉くん。君から教えられた 名前を刻んで、冥土までの土産とするよ

………この場所は好きに、使ってほしいかな。色々、集めている から何かの役にたつと思う。」

 

白い爪の目立つ手で頭を撫でられた。こんな時に自分は一体、どんな顔をすべきなのだろうか。どんな顔になってるのかもわからない。

背中を向いた彼は何処かへ……無論、外へ、地球へ向かうのだろう、歩いていく。白衣からは不思議な事に、ついさっき出たかのような鮮血の臭いが鼻に刺さった、気がした。

 

「待ってくれ!」

「………行くなと言っても止まらないよ。僕たちは このために縋り付いてきたのだ、から」

「あ………ありがとう!」

「………へ?」

 

振り返った彼の目は、驚きと困惑に少し大きく開かれていた。口を半開きにして、目をパチパチと瞬きさせる。

これが最後。きっと、自分が彼の人の覚悟を否定する事は出来ないだろう。

最後だからこそ、せめて別れは言わずに、感謝をと思ったのだ。

 

「この町に残って、地球を救おうとして………ずっと、人として足掻いて、くれてありがとう…お疲れ、様」

 

声が尻すぼみになる。勢いで声に出したはいいが、果たしてこれで良いのかと思ってしまうのだ。

暫く此方を見つめ……最後に、何かに至ったのか。

始まりは、口から溢れた音だった。こひゅーこひゅー、と喘息の時に出すような音。それは次第に大きくなり、笑い声として周囲に響き出した。

 

彼は、その顔をくしゃくしゃに歪めて子供のように笑っていた。

笑って、笑って、笑って。途中で噎せたのか咳き込みながらも、笑い続けた。

 

「はは、はははは!そんな、ありがとうなん てむず痒いなぁ…うん、此方こそ 人類の悪性に立ち向かってくれて、ありがとう僕たちの神さま。君の事は、必ず記録する。忘れなんて してなるものか。」

 

久しぶりに笑った、とちゃんと自然に顔を綻ばせた彼は、草臥れた顔でありながらも確かに希望を見出していた。

彼は顔を前に戻して、今度は背をしゃんと伸ばして。何処かへと去っていく。

その背中を最後まで見つめてから……残っていた緑茶を全て胃の中へ流し入れた。頭を上へ上げて。目尻に感じた冷たいそれを押し留めた。

 

酷く熱を持って、熱かったはずの緑茶は温くなって、ちょうど飲みやすい温度だった。

目を閉じて横になる。

 

誰かが語りかけてきたそれをゆっくりと飲み込むように、夢の中へと落ちていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

願望夢

貌を剥いだ誰かの追憶


1回めの黄泉帰りはただただキツかった。

あの、髑髏の鼻を持った人牛一体の悪魔は自分の横にいない。ちらりと目を周囲ににうろつかせてから、かつての相方のいないスマホ画面を見て少し寂しさを感じた。

縁により喚びだされた一対単独の馬と共に悪魔どもを薙ぎ払い、震える手でスマホを握りしめるアサヒの姿が目に映った。必死であの子を助ける。

 

「ナナシっ?!」

 

驚いたように此方を見る目。ただがむしゃらに鈍らの支給品を振り回した。かつて愛用していたデモニカスーツをしっかりと着て、ロケットランチャーを両手にとにかく乱発しては銃反射の仲魔と共に戦場を撹乱していた時代を思い其処で、ようやっとかつての自分の願いを思い出した。

 

………もし。出来るのだろうかと。今の自分は文字通り子供の身ではあるが、本当の子供のように未来の絵空事を回想する。

人が人として生きられる道。善ではなく、悪でもなく。秩序の維持など捨て去り、力を望む変幻など握りつぶし。

人が手を繋ぎあえるという幻想へもう一度手を出してみようかな、なんて。年甲斐にも無く思ってしまった。

それが自分のはじまりだった。

 

それを決意したのが、自分が生きる理由だった。昔も今も、きっとそうなのだろう。そうして自分は再び武器を手にした。懐かしのランチャーに緊縛弾。あと必要なのは手際とドスの効いた声。かつてのカツアゲの師である先輩のように前線に殴りこみを入れた。*1

アサヒは何故か顔が引き攣っていた。

 

殺して生きて生まれて死んで。

此岸と彼岸を螺旋しては眼前の悪魔へと武器を振るい、その首を刈る。死んでも生きろとかさてはスパルタか。おじさんには辛い。とてもキツく、苦しかった。なんせ、はじめのうちは肉体が強化されていたとしてもその後には信仰による力の強い悪魔ばかりだ。

 

不意をうたれて心臓を抉られた。目覚めた時にオヤジが作ってくれた装備に穴が空いていて半泣きしながら必死で血塗れのソレを洗って繕った。

頭から殴られて中身が四散した。怯えた様にその場で崩れ落ちたアサヒが確かめる様に何度も頭を触っては腕の中にしっかりと閉じ込めたのが、凄く忘れがたい。

 

真理の雷で動きを止められてそのままビリビリと電流を流された。身体がビクビクと勝手に動いて、筋肉が緩んで漏れてはいけないものが漏れてしまっていたのはバレていないと信じたい。

ブフーラで身体の全てを凍らされた。蘇生した後も身体の内側がまだ冷えていて、身体を暖めもせず、ソレを無理に動かして悪魔と戦うのはダメだと身をもって学んだ。*2

 

ゾンビに近いような存在である己といえど、痛みだって感じる。それでも、自身は武器を剣に、槍に、刀に……その手に握りしめる獲物を変えてはもう片手から鉛玉を打ち出し、悪魔に抗い続けた。

 

人間はやはり悪魔にどこまでも利用しながらも、利用される存在で悪魔からうまく利用されてる、としか言いようがなかった。己も皆も。ツギさん、いや、ツギハギも。フジワラさんも。いや、さんではなく、ああとにかく。

自分自身も、かの魔神の目的の為に馬車馬のように無理やり働かされた。この無理やり、とは比喩などではなく、本当に身体を操られては苦い思いをした。本当に腹がたつといったら。

最初のうちはあいつに抗ってた。何か言っても「お前も似たようなことをやってよくもまぁ」やら、「お前じゃい!」とか、ぎゃあぎゃあ喚いていた。子供か、という亡霊の視線にはその魅惑の割れた緑の肉に合わせた人差し指で応えた。そんなプリケツ出してたらカンチョーしたって仕方ない。俺は勿論やる。きっとキヨさんもソレに応える。

………キヨさん、どうしているのだろうか。半狂乱になりながら悪魔に突っ込んで千切っては投げを繰り返していた彼を思い出すと、恐らくはもう生きていないのだろうが、なんとなく、思った。

 

……思考が肉体に引っ張られてる気がする。すごくムカムカして仕方ない。自分自身でこんなに短気だったかと少し気にするほどだ。*3

まぁ、それでも、とにかくまずは生き延びることが大切だ。あの子の為にも、東京の為にも、約束の為にも頑張ることにした。まずは仲魔を増やす。

馬と魔神だけだったスマホの中には天使や堕天使、子供から獣、皆それはもうさまざまな仲魔が増えた。

最終的には合体を繰り返してあの憎たらしいクソッタレ魔神も喚び出せた。一瞬で合体材料にしてやった。このヤロウ。大体こいつがあの中で厄介ったらありゃしなかった。こいつが原因だったし。黄色いのも緑のもピンクのも全部合体だ合体。

……その結果白い翼の天使に青い翼の後輩ができた。技があまりにも物理特化で教える事があまり無いと初期からの仲魔である彼女は唖然としていた。正直すまなかったと思っている。

 

そうしてるうちに、仲間も随分と増えた。

 

自分にずっと憑いてまわって、いつしか相棒のような気の知れる仲になった亡霊、ナバールに最年長として(本人にそれを言うのはデリカシーが無いので言わないでおくが)パーティーを纏めるノゾミ。

この東京ではきっと、ああ、始めての友達、なんて、言えそうな半魔の少年ハレルヤに、天上から派遣されたサムライ、パーティーの兄役ガストン。(……少し、猪突猛進で戦闘中など迷惑ではあるが。)

天上から同じくやって来たサムライのイザボーに、我欲を持って自分に、自惚れなどではなくて彼女の意思で色々とモーションを純粋ながらかけてくるトキ。

そして、いつも、一緒にいて、笑って泣いて隣に居続けて。……自分が止めることも出来なかった、アサヒ。

 

……楽しかった。俺自身、彼らのことが好きだった。だからこそ、悪魔に振り回される世界を壊したいと望んだ。今はもううろ覚えな、人がごちゃごちゃと地上をひしめく東京の日常をと望んだのだ。

だからこそ、あの人の喪失には言葉を喪った。

今でも思い出す。燃えるような赤から緑の身を纏い、這い寄りその大口を広げた大蛇。

______自分は、あの人を、救えない。

 

………己の助けとなった、とも言え、全ての元凶になった、とも言える魔神を還す。自分自身、やはり嫌ってはいたが憎みきれず。彼を否定しきることはできなかった。その言ってる事は、割と共感が出来てしまった。

いつも周囲の者同志で縛って。天使も悪魔も、人間も。それが時たま嫌になる。

 

悍ましい卵を破却して、色とりどりの魂を解放した。その胎には一体何人もの魂を溜め込んでいたのだろう。具体的な数はわからないが、その中から1つの魂を見つけ出して、掬い上げられた。

………アサヒ。

 

アサヒとまた話せたのは本当に、涙が溢れた。今度こそ助け出せたのだから。こうして生きてる。ちゃんと、話してるんだ。

自分は間に合わない事が多かったが、確かに、助けられたのだ。*4

 

長い、永い回廊を歩み、燐也さん……いや、フリンと一緒に世界の海の真ん中へと堕ちていく。

その先にはかつての同僚の生まれ変わりの、その成れの果てとも言える2つの姿があった。人を誘惑し、誘い込む2つの蜜。どこまでも誰かならざる者に縛られていたからくり人形。違法改造の末に創造主へと刃向かう。どちらの毒も混ざれば大きな薬となった、という事だ。

名前にとらわれなかった言葉の神すらも批判して、貶めて、陵辱して、ドロドロのぐちゃぐちゃにして。人を惑わし利用せねば存在出来ないほどに落とし込めたその神性そのものを断つ。

 

全てが終わった頃に浴びた、あの朝日は、嗚呼————

確かに、美しかった。

 

そして、洛陽は訪れる。

*1
僕はそんなに立派でもなかったと思うけど。

*2
はたして、神殺しとして使役されていた彼は悪魔と一体、何が違かったのだろうか。人である、とは信じたいが。

*3
肉体に思考を引っ張られている以上に、まだ現実を理解しきれていなかったというのもあるだろう。

*4
それが救いとして彼の心の中に在り続けてしまった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

転がり落ちるように

深淵を覗き込む者


終わりのないような長い夢を見ていたようだ。机に突っ伏し、眠りについていた事を認識して起き上がった。寝癖のついた髪をかきながら、シワをつけてしまった紙のしわを伸ばした。

 

あの後、自分は彼が残していったオンボロ小屋でただひたすらに彼らの研究結果である本らを読み耽っていた。家にはたまに戻ったり、畑の様子を見たりしてはいるが青い部屋、ベルベットルームへ行くような暇はない。

細胞と悪魔及びペルソナの回復魔法の関係、悪魔の肉体の出所、悪魔及びペルソナの顕現に必要なエネルギーたる生体磁気と人間の無意識集合体の関係性。そういった、悪魔に関する興味深い資料から『科学者流悪魔血抜き術~生体マグネタイトはフォークで抜ける!~』などの生活の向上のために書いたのであろう、と思えるような資料が発掘され、一通りを確認しなければならなかったからだ。

ご丁寧に表紙が作られていた、無駄に豪華なこの科学者流悪魔血抜き(MAG)術に関する資料は……複雑なことに、なんだかんだで参考になってしまった。今ではリュックの中にはいつでもフォークが常備されている。

本当に、さまざまな資料があった。どれも皆、戦うだけで悪魔について、ペルソナについてあまり理解しようとしてこなかった身としてはとても興味深い事である。

悪魔召喚と認識による観測の関係、という題目の資料を閉じる。

 

悪魔召喚と、ペルソナ。その両者は似ているようで原理が大きく異なるとされた。

悪魔召喚は悪魔が偏在する場所、つまり人の無意識から人があらゆる現象を観測し、かつてソレに名前や形をつけたものを自然現象のエネルギーに観測という皮を被せて生体マグネタイトを対価に具現化させるもの。誰でも形作る為のその人間が位置付けた形を図に描いたソレと対価さえ有れば呼び出せる。

 

此方は悪魔自体に意思があり、今この町にいる悪魔はおおよそ悪魔召喚の原理で喚び出されたソレらだそうだ。ニャルラトホテプの影響で、ニャルラトホテプという存在が召喚式となり、人間が存在していれば喚び出されるようにされている、らしい。あいつが、自然現象に紐付けられた想像を釣り上げる悪魔召喚の陣の役割を果たしているそうだ。他には魔界という観測という概念から産まれた別世界から汲みあげるように召喚を、という例がかつてあったらしい。

 

………どうやら、あいつの定義によるとイデアリアンになった人だった者らは一応人間に部類されるらしい。

あの様な形で、在り方で、尚も人であると定義される、とは。

 

………話を、戻そう。

 

対してペルソナはと言うと、自然現象に紐付けられた想像を、個人の心理に被せている。

その心の一部から生み出される生体マグネタイトを掻き集めて自然に具現されたもの、それがペルソナ。

 

ペルソナには相性がある、というのはその人間が観測したものと、心のありようがうまく噛み合うか否かによるものらしい。自然というものは変幻自在だが、人は自由に変われはしない。

ただ、例外的に基本的に誰にでも相性がいいケルベロスなんかは、無意識の方を観測して見たところ、ケルベロスという概念そのものの観測に物理的ななにかが混じっていた、などと書かれていた。

 

物理的な何か、というのは物質として存在していた生物であろうという考察が書き込まれていた。

 

ソレは、うまく観測は出来ず朧げなものであったらしいが………不思議なことに青い一匹のシベリアンハスキーが青年と思われる、誰かに擦り寄っていく姿が見られたらしい。だが、見る者によってソレは、ただの犬だったり白い影、ケルベロスの姿だったり、あるいは本来の犬からかけ離れた硬い装甲を身に纏う三眼の猛犬だったりした。

……悪魔召喚は、悪魔の概念を混ぜる事でまた異なる悪魔を呼び出せる事が可能であると記述があった。それは……、生きているもの、無機物のものでも同じように混ぜる事が出来たらしい。それこそ人であれ、最後には悪魔側に寄り悪魔の概念に食われてしまうそうだが、その経験、その証は受け継げられる。

誰か、悪魔召喚に頼るデビルサマナーが悪魔を合体させる時にその犬と悪魔を合体させ…奇跡的な程、その犬とケルベロスの波長が合い今もその名残が遺されてるのだろう、という考察の域を出ない話であったが、なんとなく思い浮かぶ事もあった。悪魔召喚士で、かつては人だったらしい、とある悪魔との再会を願い戦う探偵事務所の女性がいたな、と。

……紙をめくる。

 

ああ、何よりもペルソナと悪魔召喚の違う点があるらしい。

ペルソナには、悪魔召喚によって喚び出された悪魔とは違い意識が無い、とはっきり明記されていた。

………確かに、何かしらの返事や反応は見せる。だが、それは設定された通りに返事をしているのみの、生きた誰かとは異なる哲学的ゾンビであると定義付けられていた。

もし、ペルソナと会話をしていたりするのならばそれはあくまで一人で行う三文芝居。機械相手にそのような受け答え、馬鹿馬鹿しい行為であるという記述に顔がこわばる。ペルソナと掛け合いをして、モノマネやらしていたリサや自分達とは。いや、悪かったな。本当に。

……しかし、ペルソナがもし意識に目覚めたなら。それは、誰かの心の形そのものであり、文字通りの誰かのドッペルゲンガーであるだろうと言われていた。……きっと、あのペルソナらはそういうタイプだ。それぞれの人物限定で顕現可能なタイプのペルソナらは。ならアレは三文芝居などではないだろう、きっと。風呂場でペルソナを洗いっこしていたのも、そんなものではないはずだ。ヴォルカヌスの炎を消されて力が抜けたりもしたし。

 

……ニャルラトホテプ。人類の悪性そのものの意識集合体。

無意識から生まれた存在でありながら、奴は意識というものを持って此方を見据え、自分達を試し続けていた。奴はそのドッペルゲンガーなのだろうか。だとすれば……奴が被る誰かとは、一体誰の事を指し示すのだろうか。

人から生まれるのがペルソナなら、誰の、どのような面からできたのか。そも、奴は一体、何時ごろから人類に這い寄っていた?その悪意は何時から芽生えた?

 

「_________」

 

壁に掛けられた時計を見た。

今が何年なのかなども書かれたそのデジタル時計に目を通す。見下ろした下の事を思い出しながら、漸く片付けに乗り出した。

行くべき場所に、するべき事が決まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2

自身が一番最初に目覚めた場所、アラヤ神社。全てが始まり、全てが終わった起点にして終着点。

今も荒廃しきったままの其処は、多少自分も手を加えたとはいえ雑草が生い茂り、周囲に赤い玉が無数に浮かんでと異様な風貌である。

本殿の残骸の中央には異常な光景が広がるそのさまは、かつての人で賑わっていた光景を思い出せないほどだ。あちら側のような清浄な雰囲気などもうほとんどない。そこにいるのは人だけれども、人として生きる事が出来ない人々しかいないのだから。

 

……ソレが、前に来た時のイメージである。

宙に留まっていた紅はもう無く。

ただ寂しくなったその場所にただ一つ、虚ろに黒の影がいる。

自分と同じ顔。今はもう着ることも無くなったセブンスの制服で。悪意に黄色く彩られた瞳は此方を今も嘲り続ける。

唯一前と違うのは自分は髪が伸びて、後ろで纏められているという事だろうか。あちら側へと行くその前の、罪の姿と今の自分はひどく対照的だ。

右の腕が熱くなる。

 

「———遅かったな、特異点」

 

奴の周囲には紅い玉が、彼らが転がっていた。空へと浮かび上がっていたその身をごろり、と力無く横たわっている。

 

「いつだってそうだったな、お前は、間に合う事など無かった。

1人では何もでき得ぬ孤独な太陽。照らすべき月も、ぬくもりを与える星すら無いお前にはただ周囲にあるものを熱量で破壊することしかできない!」

「……何故お前が、此処にいる」

 

予想外だった。奴が。

 

——ニャルラトホテプが心の海から出てきて此処に居るなど。

 

何回も此処には、神社には様子見を兼ねて訪れていた。それは何回も。彼らが心配だった、というのもあるし、心の海を見に行く目的もあり、地球の色を静観する必要もあったからだ。

その時はやはり、この神社の周囲には不自然なように悪魔も見えず、敵といえるような存在が感知される事は無かった。心の海もまた、凪いだままだった。

だが、どうだ。目の前には今、人類の影そのものである奴が居るではないか。

神社の周囲には、念には念を入れて悪魔が入り込まないようかつて、世界にあったとされる結界に利用されていた賢瓶を置いていたから余計に悪魔は顕現していられない筈だ。

自分自身も周囲に集められ、満ちた生体マグネタイト———欲望の色に侵される影響でペルソナが暴走しやすい。

 

(いや、だからこそ此処に居るのか、此奴は。人類の欲望から生まれたのに近いような、奴は)

 

だからこそ、此処で力を増幅し、存在している。

 

「わざと、あの賢瓶を用意しておいたのか——こうなると予想できていたからこそ、否、仕組んだからこそ」

「二度あることは三度ある、そうだろう特異点。いつ、何時であれ世界を引っ掻き回す災厄の焔!」

 

会話は不要だ。

刀を引き抜く。

 

「いいだろう、愚かな太陽!もう十分だ、果実は熟れた!貴様のその命も利用してくれる!」

「何を企んでいるのかは知らないが——その人達を利用しようとでもいうのか!」

 

背後に見知った気配を感じる。

そのまま背後の気配……彼女は、その豊満な肉体を絡ませる。

柔らかな腕が首元を掠めた。その肉体が妖艶にくねると身体の奥から力が湧き上がるのを感じた。

女教皇、ラクシュミ。天女のような服を纏う彼女の勇奮の舞は、あちら側や、かつてのように仲間と共に戦っていた今とは異なる現状、かつて以上に頼りになるものだ。

一歩踏み込み、刀を正面に構えて降り出す。

 

手応えはあった。そのまま斬り込み、残った下の部分が蠢いたのを確認したと共にそれを蹴り、遠くへ弾く。

先程は人型であったソレは不気味な黒と緑色の、顔が浮き上がった触手でしかない。

一瞬のうちに階段の方へ跳んだ奴は宙から黒々と輝く自身の分身を此方へと幾つも飛ばした。

 

背後の気配は切り替わる。その気配は酷く頼もしい、力の象徴。大きな意思による精神の高揚が感じられた。

飛来する刹那五月雨撃に対し背後の四本腕の青い魔神——シヴァはその腕の武具でもって受け流してみせる。

利剣乱舞。先程の勇奮の舞の影響で威力が増したソレは飛来する触手の一撃を弾く所か、一部切断した。

 

(————)

 

疑問を感じた。だが、目の前の奴は尚も嘲る声でもって貌を歪めながら、闇を吐き出す。

 

「なんとも忌々しい事だ、特異点———人というどこまでも哀れなものに縋り付き、孤独になろうとも尚足掻こうと言うのか!何という献身、何という悪逆!!

お前の自己満足にすら行き届かない我儘など、無意味でしかないッ!!」

 

再びうねる脚が地を叩く。簡単に脆く崩れる石の破片が周囲に飛び散った。此方を呪わしいほどに見つめる黄色が見上げていた。

そうして目の前が歪んだかと思うと、世界にヒビを入れそうだと錯覚する程の力の磁場が襲いかかった。重いほどの力が世界を歪める。

その力は身体を抑えにかかるかのように上から下へ流れ落ち、身体の内側をミシリと軋ませた。

それでも、と。前へ飛び出せば背後のペルソナはその意思に応じて刃を振りかざす。プララヤは大きな威圧感とわずかな違和感を抱かせる触手を3つ、根元から断絶する。

 

まただ。違和感は止まらない。

 

「お前は——何をしようというつもりだ!」

「忘れたか、特異点」

 

下から上へ、左切り上げがすんなりと入る。黒い血が噴き出す訳もなく、ごぽごぽとただただ漏れ出しているのを意に介さずニャルラトホテプは此方の頬を恋人へするかのように優しく撫ぜる。口元から覗く歪な歯。嫌悪感が勝った。

 

「私は人類の進化を促し、より高みへと、自立した種へ向かわせる存在。それが、私の存在理由だ。

 

ならば……地上が浄化されたのならば新たな人類を選定し再度人類の進化を図るのが道理だろう?成長をしておきながらも、人から脱却出来ないなりそこないよ」

「________」

 

至近距離まで顔を近づける奴にジオダインを与えてからもう一度斬りつけた。だが、その前にするりと手を離した奴は空へと向かい、刀から逃れる。

 

「ふざけるな」

 

刀を握る手に力が篭る。酷く腹立たしくて仕方がなかった。

背後が怒りに合わせてチリチリと燃えているのが感じられる。招んでいたシヴァはいつのまにか、アポロにチェンジしていた。

核が産み出す熱を孕んでか、掌が熱くなる。

 

「お前はまだ、人間を玩ぶというのかニャルラトホテプッ———!!」

「フハ、フハハハハハハハ!!!そうだ!!!怒るが良い特異点!!!!その怒りが、我が存在を確立させる!!」

 

(存在を確立———)

 

確かに。自分は、怒っていた。腑が煮えくりかえるようにも感じていた。だが、酷く冷静だった。

だからこそ全てを理解した。

 

背中のアポロがその右手からノヴァサイザーを飛ばした。太陽からの核熱は時を越えてその肉体を握り潰さんと飛来し、奴はそれを堂々と受け、肉が焦げるような臭いがしながらも尚、その醜い様を曝け出しながら嗤いつづけた。

そうして嗤ってられるのも、今のうちだ。背中のアポロの腕へと一度跳んでから、そのままアポロに自分をニャルラトホテプの元へと投げ飛ばす。

黒煙の中から見えた奴は驚愕に目を丸めた。

 

「な、」

 

当然だろう。こんな熱い中、核による熱が今も残っているというのに突撃してくるなど正気の沙汰ではない。

だが、今降ろして居るのはSUNのアルカナを担う、アポロ。

自分の産み出した焔で羽根が溶け落ちるような……蝋の羽根など、生憎持ち合わせては居なかった。

後ろに限界まで振り絞った拳をその顔に叩き込む。

強烈なその一撃は、慢心しきった奴を墜とすには充分すぎた。鳥居の真ん中部分をへし折り、階段の石段を打ち砕き、勢いのまま砂埃を上げて、下へ下へと滑り落ちる。

階段の途中で、漸く勢いが止まった。

 

「………」

 

怒りがようやっと収まってから。その黄金の目を覗き込みながら。

放心した顔から再び悪意に満ちた表情を取り戻した奴は悔しげに顔を歪める。

 

「何故だ」

 

ポツリと溢れる音。

 

「何故、お前は尚も人間であり続ける、特異点」

「俺が……そう、決めたからだ。」

 

人を辞める気など毛頭無い。そのような事があったら、そこにいるそれはもう、自分では無く自分から派生した別の存在だ。

そう告げた己に、誰かを貶めるしか役割を果たせない者、ニャルラトホテプは威嚇するように歯を見せつけるような嗤いを返す。

 

「そのような形でか?わかって居るだろう特異点。お前のその肉体、有りよう、もう既にその身に降ろしているものは人間のものではない、という事……その右手が証明して居るだろう!」

 

ああ。

その通りだ。

 

今の自分の右手にはかつての無貌の神の執着の証などは無くなっていた。だが、今。自分のぽっかりと何からの呪いも無いはずの右腕は黒く染まっていた。

最初は手のひらの内側から広がるように。次第に右腕を侵食していったその暗闇の海は指先から、肩までに到達していた。手の甲から広がる、赤いラインが浮き出たその手でニャルラトホテプの胸倉を掴んだ。

 

「人が人で居ることを、お前が望んだんじゃないのか」

「———は?」

 

ずっと、名前を聞きそびれた彼と、彼らの遺した贈り物を漁って読み続ける度にその疑問は強くなっていた。

可笑しいと思ったのだ。意識を持った、人間の無意識集合体という存在そのものが。原則、ペルソナは1人の人間に降ろされるもの。だからこそ、意識を持ちその場に独立した存在というのは己のシャドウ、心の影であった存在などならばまだ納得は行くが、不特定多数の人間から生まれて、しかも自意識を持っているというのが大きな違和感を感じさせた。

 

不特定多数の人間から生まれたのなら…少なくとも、対面する人のあり方によってその行動は大きく異なるのではないだろうか。

人の悪の側面たるニャルラトホテプ。人によってその悪の在り方とは様々であり、その貌は、何者でないからこそ何者でもないのだ。誰かの貌にあった貌に変質するのが通り。その筈が、常に奴は其々の悪意に合わせた姿に変質していた。欲望に合わせた型に自らを流し込むように、役割を果たすように。役割を演じる役者として振舞う様がおかしいのだ。

そも、人の無意識から生まれたネガティブそのものの具現である奴が求めるものは本来ならば人類の進化などとは全くの別物、刻限が前提とした命故の、死滅願望による無への回帰が道理である。

だが、もし————もしも。異なる何かが奥底にあったのだとすれば。

ニャルラトホテプ、及びそれに連なる存在であるフィレモン。

奴らが生まれたきっかけは、それは——

 

「お前は、」

始まりは一人の人間という箱であった、という事なのではないだろうか。

 

「お前は誰だ」

 

顔の無い王は此方を覗く。色の無い目は焦点が合ってない。

常に深淵を、人を覗き続けた悪魔に1人の人間は覗き返す。深淵を覗き込めば、深淵に覗き返される。それは、逆を言うならば、深淵が覗き込んだら、人が覗き返しているという事なのだ。

もし。こいつが、こいつらが顔が無いというのなら。誰かという存在であり、もうとある人という個人ではないというのならば。きっと、元となった誰かはもう既にいなくなっているのだろう。

何時頃からいたのかわからない何者か。元となった誰かの名前は……それはきっと、自分も知る、顔すら知らない誰かの名前だ。

でも、その名前はきっともう、無くなっている。

其処で_______奴はようやく笑う。

 

誰かを嘲る為ではなく。

 

誰かを指差すものではなく。

 

その笑いは悲嘆に満ちたものだった。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

 

もう、遅い。未だ人に縋り付いていた、別の己に気がついた誰かの顔はもう見知らぬものとなって。

 

刀を自分から奪い取り、そのままそれで首を切り裂いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪夢

貌を剥いだ誰かの追憶


願望が叶ってからの展開はあまりにも急激で、その終わり方も唐突だった。

 

世界の何もかもが無へ帰った。

 

天と地、人々手を取り合うには価値観が程遠く、悪魔らが共にあるには人の先入観が邪魔となり。人間は再び三つ巴となり、名前の無い神による存在意義から解放された悪魔らがそれを己の為に利用し世界はまた血塗れになった。

全ての悪魔を利用しつくした、神が消えたからこそ。ルールに縛られてた彼らは解き放たれ、パーソナリティーから解放され心境や目的を変えては再び人間を駒として扱う。*1

 

秩序でぬるま湯に浸かりたいと、血の池に浸かりながら天上の天使を見下す者がいた。ハレルヤは阿修羅会内での暴動を抑えきれずに最後にはナイフを隠し持っていた子供に刺され絶望の中死んだ。ノゾミさんも、妖精が謀反を企だて、復興されてきていた妖精の森で炎に包まれて逝った。

 

混沌に全て思い通りにしたいと、這いながらもケガレを憎み牙を剥く者がいた。ガストンは同僚に対して必死に説得を行っていたが、不意打ちに撃たれた。致命傷だった。トキも、ミカド国の上位の立場に就いていた者が俺達を殺そうと刺客を差し向けた時、それに真っ先に気がついたトキが一人で奮闘していたようで、気がついた時には相打ちとなって血の中に埋もれて言葉を発さなくなっていた。

 

中庸の道で共に歩もうと差し伸べられたあの手のひらはもう無い。フリンも、イザボーも、アサヒもみんな、とっくの昔に泥塊へと沈んでいた。ナバールは行き着く先も見当たらずに、側で「すまない」と繰り返すばかり。*2

 

死の荒野、などと言えるものではない。これはもう、血の原だ。其処で_____脳裏に狂った東の都、その成れの果て。東狂という言葉が浮かぶ。

人の思念、懇願が狂い狂わされた果ての場所。救済のラッパは悲鳴の形で既に空高くへと鳴らされた。此処にあるのは、絶対の女王の蹂躙である。

もう、人の世は終わりを迎えていた。救いは無く、あるのは無による眠りだけだ。ナバールはもう、小刀で自分を刺し貫いていた。自分も耐えきれなかった。

錆びついた小刀を震えた手で握る。

 

ゆっくりと、深呼吸をする。

首を斬った。

 

3回めの黄泉孵りは絶望を孕んでいた。

中庸の道を選んでも、結局はコレなのだから。

人は弱い。そう。あの名前のない神性も人類の事をそう捉えていた。

人は、簡単に繋いだ縁を断ち切りその爪を立てる。

人を揺さぶる能に長けた者らがそれを行わせるのは造作もなかったのだろう。

ただ………唯一、此処で救いとなったのは相棒だった緑の亡霊が自身と同じように記憶を持っていた事だった。

だが、もう。やる気はそう起きなかった。あの成れの果てを見れば。

人を救えるわけもないと悟るのも当然だ。

 

2回めの黄泉帰りを得て、何も起こりえない秩序の維持を求めれば人々の狂乱は起こり得ないのではと微かな思考で思い至った。人々の安寧を、自分の安らぎを求めてゆったり微笑んだ。

神の戦車の羽に包まれゆらりと笑う。亡霊はその光に人の生を懇願する。だが、己が人として生きる事なんて、もうできそうになかった。

世界は光に満ち、選ばれた一握りの人間だけが残される。

其処に、人としての存在意義などはあり得ず。

秩序の果てには何もなく、変質する事のない完結し、夢の中に終わる世界のただ後味の悪さのみが遺された。人々はゆっくりと悪魔と変わり、消えてゆく。

 

身体を抱くような光が悍ましかった。

 

4回めの黄泉孵りはもう疲れ果てた。秩序だって、世界にもたらすものは緩やかな死である。

わかっていたとも。でも、信じたかったのだ。世界の安寧を。あの、この世の地獄などにはなり得ない世界を。

その結果がこれだ。そんな意味ない。

 

ああ、わかっていたとも。

この世は元から地獄だという事など。

 

「ナナシ、君は……何故、そんな風に、笑っているんだ…泣きながらそんな顔で…」

 

柔らかな手で顔を突かれ、頬を引っ張られる。覗き込んでくる小さな顔は恐怖で歪みながらも此方をしっかりと見据えて、無事かを確認してくる。

慰めるように自分の頬の涙を拭う緑の冷たい、小さな手が今は心地よかった。*3

 

 

3回めの黄泉帰りを得て、力を元に世界を変え続ける、あるがままの世界ならと怯え、名案なのではと笑った。

悪魔王の腕に抱かれうっそりと嗤う。

亡霊はあの地獄よりはまだ残るものがあってほしいと願う。

世界は炎に包まれ、得るものも失うものもほとんどない欲望の世界で一握りの人間は家畜として利用された。

其処に、人としての価値などはあり得ず。

混沌の底には浚えるものもなく、ドブの臭いに満たされた。其処に、己として考えられる人間は居なくて、人口が次第に減っていくと、悪魔もいなくなっていき、最後には何も残りはしなかった。

 

身体を締め付ける闇が疎ましかった。

*1
誰か一人のために演じるのならいい話だった。己の身のために振舞う様が見えてからは遅かったのだ。

*2
謝るだけではどうにもならなかったな。

*3
僕はただそれを見つめ続けた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



握りしめた


首からは泥のように血が溢れ出る。目の前で自害をした見知らぬ、顔すらわからない誰かは泥となってずぶずぶずぶずぶと地面へとシミになりながら消えていく。

 

ああ あ ああ!!!なんて とだ!

よりに よって、剥いだも が遺ってい など!

 

哄笑する男の瞳は澄んだ金色で、瞳の奥を覗き込むと緑色が映っていた。ああ、そしてまた顔がわからなくなっていく。女の赤い口紅に彩られた唇、形の不揃いな歯。少し高めの鼻に、尖った耳に。肌の色が黒から白に、黄色にと。

誰のものかはわからない誰かのパーツが浮かんでは消えていく。誰かのものだったバラバラのパーツはどれも、何かに充ちていた。

 

「————ああ、ほんとうに。なんて———」

 

………。

その顔が浮かぶ前に、目を瞑った。彼のその後悔を見てしまっていいのは、己ではない事くらい悟っている。本来は、かつてそうなる前に動くべきだった誰かのみであろうと。情けになるのか、自己満足になるのかはわからないが、その顔を正面から見るべきは俺ではない。それは、他の誰かが背負い支えるべきだった孤独な誰かの弱みだ。

甲高い笑い声がふと、止まった。

 

ああ、本当に、申し訳ない

 

肩を叩かれて目を開く。どうやら、もう終わったようだ。其処には一人の子供の/老いた男の顔があった。

意思の強そうな眉、傷の出来た顔。地獄として在り続ける人の世に愛を捧げ、獣のように何もかもを荒らし尽くす事に行き着いた、救世主の果ての形。

なにかを食いしばってから、どうしようもなくまた笑い……倒れている彼の上に覆い被さる自分の背後を指差した。

鳥居の先、人だった彼らが集まる場所。ポンと頭に、何か感触がしてから、目を戻すと……其処には誰もいない、空白が残された。

右手には何も掴まれていない。

なにかを斬ったという痕跡だけが残る刀がごろりと転がっていて、其処に誰かがいた証を物語っていた。

頭の、シロツメクサで編まれた花輪を掴んで——やめた。

 

其処には何もない。

立ち上がると、誰かが指差した方向へと戻る事にした。

完全に崩れた石段をこれ以上無様な形にしないように、崩れ形になっていない階段を慎重に進む。

先程の戦闘、ともいえない八つ当たりに身体が痛んだ。

だが、ソレをペルソナで治す気にはとてもなれなかった。

———それにその行為に意味は無いのだから。

 

半ば壊れた鳥居をくぐる。

そうすれば、自分が意図的に見ていなかった、この場所の本来の姿を初めて認識した。

其処に、神社の欠けらなどは無く。在るのはかつてあった人の育みの残骸である。

もう、彼らは形を保っていられないのか、半分くらいは白色の花に覆われている。

 

自身が此方側に戻ってきてから。一体幾度太陽の巡りを見届けたのか。それがわからないほど、時間を過ごすこととなった。

 

正の字が73個と、棒が1つ。滅びの魔王の予言はある意味合ってはいたなと苦笑した。

正の字が146個と棒が1つ。あちら側では今、どうなっているのかと気になった。

正の字が178個と棒が4つ。白衣の彼が残したものを利用してからは、正の字で時を把握する必要がなくなった。

———21年。

それが、今まで過ぎてきた時の流れだ。

実際に下に、地球に行くと、更に時は過ぎているのかもしれない。21年と表記されていたが、実際はもっと年月が経っていると可能性すらある。ただ、地球が経過してきた年月は1000年、2000年はザラでも無いだろう。

少しずつ黒みがなくなっていった其処を見下ろしては、何度も葛藤した。

葛藤しては時間を費やし、時の流れは世界を1へ戻すのも早かった。

 

未だにしおれることも無く若々しくあり続ける手を見つめては、黒に染まり赤を書き込まれた腕の意味を知りながらも、たしかに人であった彼らのようにただただ一つの目的の為に必死になった。

それは、贖罪だったのだろう。

残骸の中央には一つ。巨大な王座が聳え立つ。酷く肉肉しい、グロテスクな王座が。

 

黄金の蝶という仮面は今、脱がされた。

目の前には黒い長髪を持った、青年がいる。

 

「………酷い話、ではあるけども。これは真実自業自得だったのかな。人間をより高みになんて言いながら、結局は自分自身の望みしか考えて無かったんだから。」

「お前が、見せてきたのか。フィレモン、いや_________フリン、と呼んだらいいのか」

「其処らへんは自由に呼んでくれても構わない。もうこうなっては個人を識別する記号なんて意味を成さないに近い。」

 

答え合わせと行こう。

この世界は、かつて他の世界があった時間軸から魂などの全てのリソースを再利用することで作り出した、今までとは全くもって別のあり方で世界の法則を組み込まれた世界だ。

異なる世界によるとそれは、『人理焼却』、などと言われているらしいが———あくまでそれに近いのみであって、過去には確かに東京という街があり、悪魔と殺し合っていたという事実は観測宇宙に残っている。

そして目の前にいる男は、フリンはその旧世界からいまだ存在する旧型最後にして、原初の人間だ。

 

かつて、世界のやり直しを行った。

先程の誰かは人としての顔を失い、世界の抑止力となる事でかつての世界と同じようにならないように言葉すらなりえぬ何者ならざる神として動いてきた。

だが————残るものを残してしまったのが、異なるものに手を差し伸べたのが最大の悪手となってしまった。人と人ならざるものはけしてわかりあう事はない。そんな事知れていたというのに。

故に、かつての神はもう殺されこの座に座るべき王はいなくなり、血濡れの戴冠式の日付を取り決めなければならなくなった。

最後に亡くなった孤独な誰かが最期に何を思ったのか。それは解りはしない。

ただ、最初に神になったその理由、願望はあまりにも強いもので———棄てられたはずの顔にその願いが込められてしまった。

 

其処からはもう早かったのだろう。顔のない誰か達の欲が詰まりに詰まって、顔を持つ筈なのに顔が無い、誰か/自分が意思を持って動きだした。

それがかのもの、ニャルラトホテプ。

盲目にして白痴の人類に仕える、たった一人の神であったものが醜く足掻いた成れの果て。

 

それを、ただ横で見ているだけの者なんていなかった。魂を循環させる女神が、人の意識そのものに干渉して、その混沌とした無意識を一つの黒い本とした。そして、その混沌を歩む為の航海書として赤い本を書き記した。それを本当に理解して扱えるのは、座に座る権利を持つ者として。かつての友を掬い上げるその力となって欲しいと願った。

或いは、ただ唯一の神殺しは旧世界の存在としてはただ一人だけ、己の仮面を認知した。闇の中に光として佇む、今となっては名前もわからない救世主としての仮面を被り、ただ己の願いのため再び人の利用を選び取った。

 

黒の本はその右腕の内に。赤の本はその右腕を抑え扱う紋章として。されどその腕は掴み取れたはずのものをその掌から離した。

かつての先代に選ばれた証、シロツメクサの王冠はその頭上に。

 

「……なんて、事があまりにも遅すぎたのかな。女神の意思はもう遍在しきってしまって、その意識は薄く濁った。彼の名前ももう、砂塵となり掴める手も雲散する始末だ。」

 

そう。

もう、名前がわからない誰かは何処かへと去っていった。故に、その存在の再定義は拒まれたのだ。

彼はそもそも、それを望んではいなかったのだろう。それを願ったのはあくまで、彼ら達だけだ。

バラバラになった彼は何処かへと風のように向かった。その先が何処なのか、彼は、彼としているのか、そもそも誰なのか、知る者は誰もいない。

 

「さぁ、君は権利を得た。

どうする?世界をどうするのも自由だ。神と崇められる愉悦に浸るのも、人々の終わらない平穏を実現させるのも、悪意をもって人を弄ぶのも。それこそ君の選択次第だ、大いなる神、黒き太陽。誰か1つの存在を救いすらしなかった君はなんだってできる。」

 

その瞳は此方を咎めるように見つめる。

誰かに手を求めた結果に目を濁らせた救世主が其処にいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明晰夢

貌を剥いだ誰かの追憶


5回めの黄泉孵りはただただ呆然としていた。

もう、何も信じられなかった。自分ではこれからどうすべきなのか、何を考えるべきなのか、もう、いっぱいいっぱいだった。もう、何をしたところで意味はないと、そう思い込むのも時間の問題でしかない。この世界は結局は、滅びるのみとでもいうのか。

 

神、悪魔。

 

奴らを利用したとして、行き着く先は行き止まりでしかないのか。仲間達と彼らを打倒しながら足掻いた先は最悪だった。彼らを利用すれば、人々を打倒する敵となり、得られるものなど何もなかった。

緑の亡霊は、ナバールは結局は人間が人間として残り続ける事など無いのだなと嗤う自分にもうやめるんだ、逃げてもいいだろうと叫ぶ。

もう、俺も。ナバールも。壊れたくて仕方なかった。

 

もう、何が悪かったのか、何がいいのか。信じられない。人も、誰もかも。

横から聞こえる声がとても耳障りだった。

誰を信じても自分は誰も守れないし救えない。世界に美しい朝日が差し込んでも、最後にはその太陽は地平線の彼方へ沈むのだ。

 

『嗚呼……きっと、この世界の在り方があなたを追いこみ続けるのでしょう。

そして、人に救いはなく。停滞した未来しか示されない。

……何故あなたはそれでも諦めながら足掻くのですか?壊れたらいいでしょう。なにもかも放棄すればいいでしょう。それこそ、別の人に任せっきりにすればいいものを。

 

………

 

………、それでもあなたは、人の救い手であるのでしょうね。』

 

翼の白い天使は諦めたように呟く。

翼が青い頃から共に仲魔としてあり、今も繰り返し続けながらも横に並ぶ彼女の言葉に、それを思い浮かべたのが自身の最大最悪の罪だったのだろう。

自分は救世主などではない。

 

(なら、いっそ悪の化身にでもなってしまおうか)

 

もし、利用する材料が足りないのなら。それは———人間なのではないか。

喉を優しく撫でる女の手の感覚。

世界を変えるには、人間すら利用すべきなのではと笑う幼子の声が心に響き渡る。

 

(ああ、でもナバールは此処まで至る事は無いのだろう。あいつは臆病だから。壊れる事すらも遠い理性が許さない程の臆病者には、こうして人としての道は踏み外せない。

でも———そうでいてほしいと願う自分がいた。)

 

3回の洛陽を迎えて己は。

洛陽を望み得ぬ世界を作ろうと、人間が烏滸がましくも考えてしまったのだ。

 

4回めの黄泉帰りはただただ惰性のままその半分を歩んだ。

もっともらしく言って、最適を歩もうにも魔神がいるし、周囲がそれを望まないから。結局は自分はアサヒを救いだす事なんて出来はしないのだ。人形、など。まったくもって同意する。何かを楽しませるためにあり続ける、同じ動作しか出来ない不出来な木偶の坊。なにかを救う道具にもなり得ない不出来な人形め、と嘲笑した。

かつての頃を、今は遠き喧騒をそっと思い出して。もう、懐古に意味は無いと彼らをそっと突き放した。亡霊は、きっと。自分の目指す道が逸れていったのに気がついていたのだろう。力なく項垂れていた。

 

刃を向けた。

 

自身を糾弾する最年長の声に心を抉られながら彼女の今までの苦労を労った。刃は銃弾を弾いて心臓へ突き刺さった。

 

今まで取り憑いて、確かに救いであった亡霊の罪悪感に満ちた声に心を揺るがされる。友へ精一杯の笑顔を手向けとし、刃はその半透明の身体を掻き消した。

 

確かに、自分の友達だった半魔の少年の後悔の呟きに心が磨耗する。せめて別れだけ、彼に届くだろう最期の言葉を口にする。刃は彼を物言わぬ盲目とした。

 

戦友であり好敵手であった聖槍のサムライの覚悟の言葉に心が軋む。その覚悟に、在り方に。せめてもの感謝を込めた。刃はその手から槍を離させた。

 

天上から強力な共闘相手であったサムライからの憎悪の言葉に心が割れる。その嫌悪に、自身の怠惰を悔いた。刃は彼女の背を貫いた。

 

最後にただの少女が残された。これも悪くないと好意を示す言葉に心が折れる。震える手で優しく撫ぜる。刃はその首を断った。

 

その刃は最後に何もかもを破却した。

此処にはもう、アキュラ王も、ハンターたるナナシも居ない。

もう、此処に居る人間は救世主などではない。救世主はいつかの神のための神殺しの刃と成り果てる。では、自分は。誰なのだろうか。こうして、誰かを利用して縛り付ける自分は。

 

死から生を汲み上げる女神として亡霊を選んだ。

わかって居るとも。これが、裏切りにしかならない事など。全てを悟り謝罪に満ちた瞳から、自分はただ目を逸らした。

 

ただ。その目的の為に、悪魔や、天使だけでなく人すらも利用するようになった自分はツギさんらにとっては裏切りに近かったのだろう。

ああ、言ったでしょう。何でも、利用してみせると。

———どうぞ、俺を呪ってください。ごめんなさい、もう疲れたのです。

 

此処に、胎の中で受胎した卵は完成する。それを奪った無辜の怪物が果たす事は1つ。

全てのリソースを回収してもうこんな事が二度と起こらないよう、世界の抑制に徹する何かとなればいい。アキラとしての自己は、顔は不要だ。人としての神殺しすら断ち切って、未練もなく名前のない怪物は神の座まで喰らい潰す。

コレはもう、災厄の座に座る威光にあらず。

 

獣のままに世界をがんじがらめに捉えた愚か者の末路である。

 




僕には彼は救えない。私には彼を止められない。なら、別の誰かがどうにかしてくれるとでも?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夢の終わり

誰かを待ち続ける誰かの望郷


音もなく、黒に染まった邪神はかき消える。そこに居たはずの誰か達はドロドロに溶かされて命としての形を失った。

用意された血濡れの王座に深く腰掛ける。魔神との契約は此処に完了し、死人の緑はいとも容易く拭い取られた。

 

「………フリン」

「どうなされましたか、主殿。さては持病の花粉症でも患いましたか。」

「………いや鼻水は垂らしてない、垂らしてはいな

 

いやそれはこっちの台詞だ、何そんな涙我慢して鼻水ダラダラ垂らしてるんですかもう」

「そ、それは私にも言える事だがな……わたしにも、その気の使い方を、ずびっ」

 

白く、美しい花と化した魂が揺れる淵の底。緑の亡霊と黒の男、そして、小さな子供は泣きじゃくりそうな顔で、しかし涙を出さないように堪え、そので損ねた涙が鼻水として溢れて皆一様に醜い様を見せていた。

どこからともなくティッシュを取り出せば、皆それで鼻をかむ。

しばらく、雑音が響いた。

 

「…あー………鼻に優しいやつにすればよかった」

「むぐっ……」

 

呆れたような風が吹いた。

物理法則は基本的に、歪められてはいない。世界はまだまっさらな初期の状態、かつての世界と同じまま働いている。ちん、と鼻をすする音。

 

「主殿」

「ん?」

「これより、どうなさいましょうか」

 

しばらく涙目のまま唸りもあげず、放心しているナバールの後ろ姿を見ていると、思いついた、というよりは。それをずっと考えていたかのように口に出した。

 

「法則を、力を、歪めたいんだ。

今わかった。人が、人としていると、観測の力は必ず産まれる副産物的なものらしい。俺は、ただ、みんなに、人として生きてほしい。

だから……その観測の力に制限を課したい。」

「———制限?」

 

共にあり続けた緑の亡霊がその言葉に疑問を口にする。

 

「ああ。観測対象に、その観測の結果を受け入れるのかの選択肢を与えるんだ。そうすれば悪魔になる、ならないが委ねられる。自由にその権利が齎される。

……ダグザみたいに、悪魔になりたくなかった存在だってもしかしたらいるだろうからさ。

 

そして、悪魔が基本的に現実に顕現できないようにマグネタイトの入手手段は人間からの承認が前提とする。そうして、心の底から現実に這い出れるようにすればいい。

そうすれば、まず……こういうことには、悪魔が人を振り回すようにはならない筈だから。」

「主殿、それは…」

「はは、わかってるよフリン。俺がやってるコレは、結局は問題の後回しに近い。もし、力を抑制してる俺が居なくなれば、制限はなくとも、人間そのものの、大きな意思達が暴走して……最悪、世界に悪魔が再び蘇る。

そして俺は、かつての神性にその首を狙われているとも。」

 

それに何か、納得したように、ずっと側で憑いてきたからこそその苦悩と方向性の違いを知り、その上でこの地獄の連鎖を最後まで見届けると誓った彼は、ナバールは言う。

 

「……フリン、それでも彼は、……ナナシは夢見たかったのだよ。悪魔がもし居ないならの、世界を。悪魔と本当の意味で寄り添うことの出来る、どちらもとれてどちらもとれない道を。こんな形になっても、心が、折れても。

……ナナシ、私は……」

 

此方へ伸ばされた小さな手のひらから目を背けた。強引に、話を逸らして、自らの罪に、己の後悔に目を背ける。

 

「……フリン、いや———不動燐也さん。本当は俺、恨んでるんですよ」

 

向き合ってから、カラカラと恨んでなさそうな笑いで、口にする。

本当は笑えもしないくせに。

 

「わかってましたよ。貴方がずっと、記録を持ってた事も。

この黄泉孵りは、元いた枝のあった座標に俺たちの意志の欠片を飛ばし、元いた世界を無に還して擬似的な世界のリセットを行なっていた、ということくらい。……貴方が、かつて虚無を望んだ貴方の後悔の思念が、世界の停滞を観測した事で抗えぬ滅びを確立させた事も。」

 

わかっていたのだ。最初に出会い、共にあった友は、仲間は、もう居ないと。

彼らは、かつての夢に似た別の夢であったと。

目の前の彼は、ソレを行った彼自身ではなくとも。その恨みを誰かにぶつけたかった。

それなのになんなのだろう、この虚無感は。

 

「……それでもですね、燐也さん。俺は、貴方を否定はしない。それはきっと、俺もやっていたでしょうから。こんなの認めないと、無意味に繰り返していたでしょうから。」

「……アキラ

 

彼、フリンは———不動燐也は、彼の名前を呟いて、呼ぼうとして、そこで名前が最早彼を縛り付ける鎖ではなくなった事に気がつく。

目の前にいる彼は正真正銘の言葉そのもの。言葉でありながら、言葉に縛られる事の無い本物の神性へ至ったのだと。

黄金に輝く目から、人としての名残は見られない。もう、それすらも放棄する道を選択させてしまったのだ、と。

口の中がカラカラに乾いて仕方ない。

 

「……断ち切られた因縁も、元に戻しました。もう、主従の関係などではないです。

………俺を、殺しますか?」

「なっ、ナナシ?!」

「……それを僕に聞くのかい」

 

目を閉じた。

自分がやった所業は、あの幼い子を、まだ少年の彼を大人として歩ませるような事だったのだろう、と。今も、かつても。全て自分がきっかけであったのだと、噛み締める。

 

「酷い事を、まぁ……いや、僕が先にやったのか。殺しなんて、しないさ。コレも、僕の罪で、罰なんだから。わかるだろう?

最後までどうか共に付き合わせてくれ、———。」

 

そう。

コレは罰だ。

本来起き得ぬやり直しを求め全てを犠牲にした傲慢さ。自分が、世界の創世をしたかったという、嫉妬のなり損ない。

自分は、此処で、終わりを見届けて……また次に来る者のために備えなければならない。

 

「……本当に、貴方も酷い人ですよ。」

 

わかっているとも。これが、罰とは言い難いものという事など。

結局はこれも皆自己満足。残ったとしても、これは、彼へ対する冒涜にしかならない。

だがしかし、止められなかった。止まらなかったのだ。

あの時と同じように、手を差し伸べた。歪な椅子の上、永劫に孤独な子どもに、うまくできてるかはわからないが笑いかけた。かつてのように、されど、致命的な程の立場の差がありながら。

虚ろな口から息が溢れる。

 

「行こう、ナナシ。」

 

——ああ、もし。世界に滅びが来ないように人がもっと強ければ。

——自分達が強くあれるのなら。

 

強くなりたい。

 

 

 

その手は、背中は、いつだって彼の希望だった。

己すら無くした彼は手を掴む。

 

 

 

そうして世界は再び巡り出した。

それは、本来あった形とは異なる形。別世界の後悔を産みながら神は殺されるのか。ただ一人の絶望に俯瞰されながら消えゆくのか。

なんであれ、その最期は訪れる事になる。




小さな世界に花は光り輝く。
その花の群れの中に、小さな黄金の蛹はあった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

解答

「いい加減にしろ」

 

ポツリ、と呟いたはずの言葉が響き渡る。

 

「お前ッ、散々何も告げずに人を利用して自分から動きもしなかったというのに、自分が望んだものを実現させられなかったからなど八つ当たりして———!!」

 

右手を引きしぼり、強烈な一撃を殴り込む。

うまくきまった。

いったが不思議と未だに怒りは収まらない。もう一発ぶん殴ってやろうか此奴。大体こんな自己中心的な奴が救世主だなんてかつての世界に生きていた人は絶対に馬鹿だった、そうに違いない。こんな強欲になんでも望んで傲慢にも自分には何もできないと項垂れてる様なんて、ヒーローだとか救世主だとかの姿ではないだろう。

 

「大体、そうやって誰もいなくなった玉座を見つめて座れるものを探してって、お前が其処に座って彼を探しでもすればよかっただろう!!なんでわざわざ他の人を探す必要があったんだ、アンタも———」

 

言葉に詰まる。でも、口に出した。

 

「人だろう!!!」

「————」

 

神々の運命とやらを自由に引っ掻き回せる存在、救世主。神にもなれてしまう実力を持つ、絶対の人たるもの。

運命なんてくそったれたものに引っ張り回される前に、引っ掻き回すことくらいできただろうに。怒りが収まらないのでその横っ面に1つ張り手を食らわせる。

 

「そうなってしまったのはまぁ、俺だってそういうやらかす事はやってしまったし、其処から逃げ出したりもした、更なる罪を作ったりもした!!!でも、お前は、その罪に向き合ったのか!!!!!」

「そ……それはそうだが、僕にそんな権利はなかった!!僕は、彼に何もかもを……って待ってくれその拳を振り上げないでくれ!!ダグッ、ダグザ殿もそんな笑って………」

 

容赦なくぶん殴ってやろうか、という思いをぐっと堪えて拳を下ろした。本当はまだ殴り足りない。実に。

こんな事の為に何度も何度も人間を巻き込んできたのか、馬鹿馬鹿しい。悪魔に感化されたやり方じゃないか。人間だというのに。

 

「ホラ」

 

立ち上がらせてから、別の方向を指差した。青い海。何処かへと繋がり、何処へでも繋がる広大な海が黒く広がる。

風は何処かへと吹きすさんだ。……あの救世主も、また何かしらに巻き込まれてしまうとはと思うとなんとも言い難い。

 

「その風、……ダグザ?がきっとあの人が去った、いや、連れてかれた先を知ってるはずだから早く迎えに行ってやれ」

「は、」

 

呆けた顔をしてる男から目を逸らして、地面に転がる人達を拾い集める。球の形だというのに、重量は無駄に人の頃と同じな彼らを集めていけば自然と左腕の筋肉もついていったので、拾い上げるのはたやすい事である。利き腕に黒と赤が宿り何でもかんでも悪魔をミンチよりひどい状態にする力が宿ったのは食糧を得る時や日常生活にはかなりの苦労を与えてきたが、こういう時はかなり役立つ。

神社の、本来は裏側だっただろう場所へ行くと、そこには地面が無くなっておりその代わりに地球が見えた。

 

地球は—————青かった。

 

綺麗な青。緑と土の色とが混ざるソレは、地球儀などでよく見るような大陸の形状ではなく、かつて見た形はしていない。

なら、ここはもう地球ではない別の惑星である。そう定義付けし、腕の中の彼らを地球へと落とした。

 

「な、バッ———」

 

背後の焦るような声。凍りついてる様子を尻目に拾っては投げ、拾っては投げとどんどん落としていった。生命が住めるだろう星へと。大丈夫大丈夫、星に着いたら人になってるさ、多分。なんかすごいんだから着地の時はふわっと浮くはずだ。神だとか言ってたし。

割と大雑把である。

 

「わ、わかってるのかい?!星を人が住む星である地球と定義付けしないでそんな、人の命を落とすなんて、命の循環も正常に起こせないんだぞ?!そんな、神の手があえて届かなくなるように、なんて、事、を………?」

「命の循環だの、変に当てはめてるから悪いんだ。あるべき姿に戻るべきだ、自然も、人間も。」

 

離れて行く。

人の海から。微睡みの地から。

その紅い球は徐々に膨らんで行くと、噂の効力も消えうせて元の人の形へと戻っていく。

 

「ああ、確かに人の命などの権利を管理する者が手放せば、地上がどうなるのかなんてわかりきった事だ。人が人を、魂を利用したりなんて事も起こるだろうし、循環なんて無いから最初は大変な事になるだろうさ。

だが、かつて人の子であった人間が、女神として魂を回していたのなら————人だけでも、命の循環の輪を自然に作る事は容易い筈だろ?」

「あ、ああ、あー……」

 

空中に手を掻いて、複雑そうな顔で手を降ろした。なんて雑な。なんてことを。

此処まで漕ぎつけるのに一体どれほどの苦労があったと。そういった顔で此方を見つめる。

其処で、その事実に気がついたのか目を丸くさせた。

 

「は?待てよ、人の海、黒の書から手の届かない所にいるのなら、物理的にも悪魔が生み出されることが———」

「此処からは人の話、俺だって人とはいえ他人の生き様にちょっかいなんて出したりしない」

 

振り向きざまに、自分を呼ぶ兄の声が聞こえた気がして含み笑いをした。いや、というより思い切り叫んでいるのが僅かに聞こえた。

そうだ。アンタはなんでか、イデアリアンになってまで俺を待ってたもんな。デジャヴを感じる声に耳を傾けないで複雑そうな顔をする彼に目を向ける。

 

「……まさか、どこまで察しが?」

「残されたものを使えば、殆どは。後は、誰かさんが何回も心の海でボソボソ呟いてくるんだ、そんなの嫌でもわかる。半分神に近づいていたからか証拠を集めるのも容易かったしな。後はあっちで世界樹として世界の浄化を行ってたあの人の頑張りが報われるまで待つだけだった」

 

ともあれ、名前もわからない誰かが顔ごと何処かに連れ去られるのは予想外だったが、と続けてからニヤリと笑ってやる。

 

「知らなかったのか?この長い年月で俺だって悟るものも悟るさ、俺の肌年齢は若いままだが俺自身は何歳だと思ってるんだ」

「………だから途中からベルベットルームに来なくなったのか!!」

 

そりゃあバレたらおしまいなのだから。バレたら確実に、阻止されそうな事を行なっていたのだもの。神としてありながら、神の全権を放棄する行為。今は居ない顔も知らない前任に笑顔で託されたモノを「こんなものいるか」と投げ捨てやがってと助走をつけてドロップキックされても仕方ない。

 

「この、なんて……とんだ太陽だな、周防達哉という、救世主は、僕の目は間違っていたのか………」

「ははは。ホラ、いい加減に早くいったらどうなんだ、というか正直邪魔」

「邪魔?!」

 

其処でまた、周防達哉、と名前が浮かんで出てきた事に対し驚愕の表情を見せる彼に笑いながら、「もう一人の幽霊の方もちゃんと探しだしておくから、早く行け」とその背中を押した。自分の事を神として信仰されたとしても、彼処からはずっと遠いどこかに行くつもりだから神に至る事は決してない。そも、みんなそんな事考えはしないだろう。

………彼らには、同じように物事を背負ってくれる誰かがあまりにも少なすぎた。なら、誰かを思う為に不要な邪魔なものを背負ってやるのみが自分にできる事だ。

 

痺れを切らしたのか、暴風が吹き荒れると、其処にはもう誰もいなかった。

覚悟は出来ているとも。もう、誰とも話をすることが叶わないのに、人として、自分を保つという決意は。

人々のうちにその海は確かにある。ただ、そこのさざ波を聞くだけで、其処のうちに手を伸ばせなくなるだけ。

誰かの為に生きた人々にだって報いがあってもいいはず。その手の内に、ささやかな幸せが舞い降りてもいいだろう。

巨大な王座に腰掛けて、目を瞑った。心の海の中、確かに聞こえる人々へエールを。心の海から外れた旧き救世主に、祈りを。心の海を揺蕩う女神に希望を。

さざなみの音は何処までも、何処までも、響いていた。




玉座に腰掛けて音を聴く青年の頬に涙が伝う。
その近くには、三つ葉のクローバーが揺れていた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あとがき

加筆・修正無事に終わった……いえ、そんなに変わってないような気がしなくもないですけどもそういう事は置いといて。

罰の達っちゃんがこの先大人になったら、罰の大人達みたいに誰かを助けてほしいなー、という考えで書いた結果が「おい待て達哉チートになっとんぞオオン?!」という。なんだこれはたまげたなぁ。

真4f組の話は儀典女神転生の「なんだかんだでいい感じに終わったけど、この後みんな流されるのよね……」みたいなノリ半分に作っています。よくよく見ると希望が無いのがメガテンの基本(尚真2ニュートラル、真3先生エンド、真4ニュートラル(真))なんて言っておきながら最近は希望まみれですけどもね……

 

とはいえ。メガテンは鬱みがあってこそのメガテンじゃない?って気持ちが半分あったのでウルトラハードモード(周回要素有!)となって地獄を見続けた真4f勢もちゃんと救いがあってほしいなと思い最後はあの形になりました。顔が無かった誰かを引っ張り上げたのは、腰巾着のようにくっつき続けてたとある少女が必死で手を伸ばしたんでしょう。

しかし改めて書き直してもよくわかんねーなこりゃ………(困惑)

 

細かい設定に関してQ&Aをpixivの方に転がしていますが、よくわからないから置いてくれたらありがたい!という声が出ましたらこちらにも掲載いたします。

また、pixivのこぼれ話もそのうち書くかも?です。

しかしマイナー作品ですが、UAが地道に入ってきているとは。本当に嬉しいです。そろそろ布教の為にもペルソナ1、2組が出るゲーム新しく発売されないかなぁ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 

以下人物設定

 

 

周防達哉

 

罪世界に戻った達ちゃんが年をとって(肉体年齢は年をとってない)達観した末に誰かの為に手を差し伸べる事をしたパーフェクト太陽。YHVH的な立ち位置なのに、自分の名前を自分で認識し、観測して「人である」と自分を定義してるからぶっちゃけ神の力なんてほとんどない。でも都合が悪い時だけ神様ムーブをする。これからも悪魔やらに人々が縛られないように心の海のさざめきを聴きながら箱舟でフラフラしてる。色々察した上で色々怒ってた。

ちなみに夢やらあの人が遺したものを考察して頑張って考えてた計画の半分くらいは若い頃の自分のせいで台無しになってる模様。本当はニャルラトホテプの皮を無理矢理襲ってからどっかに居るだろう魂を探しだす筈だったけど若い自分がうっかり呼び出しちゃったから倒さざるを得なかった。観測するだけでアウトとかなんだこれは……

でも事前に心の海経由でナナシの仲間であっただろう人から過去について聞いていたので敢えて揺さぶりをかける事で魂を誘い出した。

さりげなく「過去の因果なんでこっち側の世界の過去の話だろ」と考えたりしちゃってたから真4組も全員顔を合わせて再会が可能。尚本人はその事に気がついていない模様。

 

達哉くん落ち着いたら策士的な事も出来ると思うんだ、光と影である淳でさえあれなんだし。ペルソナの主人公はハイスペック学生、コレはっきりわかんだね。

やってる事は秩序的な方に近くて、メンタル的には混沌的な方に近い人。でも勿論中庸。

 

ナナシ(アキラ)

 

ゲームのあの行動とかどういう事なんだろうなとループ組み込みながら考えてしまった結果の被害者1。引っ張られた理由はきっと、何も出来なかった誰かが行動を起こしたんでしょう。ずっと隣で腰巾着の様に立ち続けようとした、一人の少女が。人としてこれから頑張れ。

やってる事は混沌的な方に近くて、メンタル的には秩序的な方に近い人。でも勿論中庸。

 

フリン

 

大体ホワイトメンの誘惑のせいで色々引き起こしてしまった元凶でもあり被害者でもある人。真4の虚無ルートがだいたい悪い。ある意味複雑な立ち位置。この後自然現象に戻ったダグザのお節介によりにナナシくんを迎えに行きます。頑張れ。

やってる事も、メンタルもどれも中途半端な中立中庸。

元ネタでも言われてるじゃん?中庸はどっちつかずの中途半端野郎って。え?言ってない?

でもこの中では一番救世主に近い存在だったりする。ちゃんとナナシが居なくなった後の玉座に座っていれば過去の因果はどうにかならなくても、ちゃんと引っ張りあげる事位は出来たはずだった。

 

ナバール

 

俺はナバール派だ!!(意味も無い叫び)

緑色のボディとか、なんかこう、ありそうじゃないかな?……ない?って設定をこねくり回された結果の被害者3。この後遍在したナバールを集めてる達ちゃんの元に弟が殴り込みに来てナバールは罵倒と謝罪を受けた末に回収されます。

やってる事は中庸で、メンタルも中庸。この中では一番人らしい人みたいな感じです。ナバールが居たから新世界の創造が出来てしまった。ある意味救いでもあったけど、絶望まで道を舗装していったのもナバールの存在があったからとも言える。

 

名前もない科学者

 

世界樹で言う某ヴィ汁。わかんないって人はネタバレになるからゲームをやってね!やったけどわかんないって人は5層ボスを思い浮かべてね!

たどたどしい言葉を話してるのは中途半端にイデアリアンになってるって感じ。文字はこちらのfont:341、略しすぎフォントさんを使用させていただきました。

この後空から大量に降って来た人間にムッチャビビる。

この後頑張って人類の人口を増やすのとか頑張るんだろうけど、その後は世界樹に呑まれてしまうんやろなぁ……

罪世界の地球はこれから世界樹次元として進行していくので、救済策は残念ながら……()

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Q&A

お久しぶりに反応いただけたので掲載。


Q.要所要所にある斜めになってる文字列って何?変換ミス?

A.違います(震え声)

アレは、たっちゃんのうっかり観測です。無意識に「そうだ」と思い込む事で事実にすり替わりました。すり替えておいたのさ!

あの観測があったからあの世界で誰かが生き延びることが出来ると確立されてしまった。だからこそ、本編の通りに地球復興の可能性が芽生えることができた。

時系列のツッコミに関しては原作の辰之進やら関係でも言えるから深く突っ込まないで()

ニャルが沸いた理由もこれが理由。名前を出したから出てこれた。

 

「特異点が呼んだな。よし早速特異点の事イジメにちょっと徒歩で行ってくる」

「アラヤ神社まで歩いていくのか……ラスダンを徒歩でって結構長いものだろう……」

 

Q.4fの話が途切れ途切れに入って来るのなんなん?読みにくくない?

A.す ま ん。

たっちゃんが誰かから受信した夢、みたいな感じだったんだ。時系列順に夢の内容が無いのはホラ、早くにネタバラシしたらつまらないというか()

 

たっちゃんが一体誰からこの夢を教えられていたのかはわかりません。最初に存在してて、かつ、最後の人間であった神殺しがどうにかして欲しかったのか。はたまた、女神に選ばれた幽霊が懺悔として零したのか。ご想像にお任せします。

 

Q.ケルベロスの物理的な何かが混ざった観測ってどういう事?物理的?というか、観測が異なるってのは?

A.別の世界線で起こったことは他の世界線に影響する事があるんやで!詳しくは4fのダウンロードコンテンツのハンターメモ参照な!

 

『パスカル』という一匹の犬がいた。その影響がケルベロスの観測結果に混ざった。その犬は、人の守護者として在り続けた。

厳密に言えば、影響を起こしたその『パスカル』の記憶ではなく宇宙の可能性として遍在する『パスカル』という存在を覗き込んでしまっただけであり、他の悪魔は基本それらしいことは無いと思います。

例外の代表格としてはアリスちゃんなんかを覗きこんだ場合はライドウからペルソナ、女神転生まで世界線は様々に覗き込めます。アリスちゃんという存在が遍在するようになっちゃったから。

 

まぁわかりやすくいうと、パスカルを合体させた人とかさせなかった人とか、グレートパスカルたんhshsとか人によって変わるんでない?みたいな感じです

 

Q.てことは、ifに出てくるあの悪魔も………

A.勿論、最後には悪魔に成り果ててはいたけども『彼』という存在は今もあるし、『彼』の影響でちょっと人らしくなってたりするでしょう。喚び出す人によっては、ifの時代そっくりそのまま現在まで彼処で居続けた悪魔しか喚べなかったりと影響があります

 

……ただし、そういう人相手の召喚に応えるのかと問われると否だったりする。

たまきちゃんが彼に会おうとしても、彼自身が拒む。会うならきっと、もう一度彼が残った場所へ戻って連れ出す必要があるし、召喚陣を契約して手に入れても緊急事態でも無いとどうせ喚び出されやしない。

管に無理やりぶち込んだら物理的な調伏をされてるのでどうしようもなくなります。

 

ちなみにアキラくんと一応隠しキャラ的なアレなので名前を伏せてる例の彼の関係は無いはずです。多分。きっと。

 

Q.かつての先輩のようにカツアゲって?

A.小ネタですが……

当時天井を張る前、メシアコンビは「2人はチンピラマックスバインド」と呼ばれていました。

その後は1人になったらなったで「緑のゼニ悪魔」と言われてました。なんででしょう。(すっとぼけ)

 

悪魔をカツアゲして平気なの?と問われて悪魔をふん縛ってマッカを奪えと返され、更にそれを有言実行したのは古参のハンターらには有名な話。

 

Q.あれ?なんでナナシくんとナバールは記憶を持ち越せてるの?

A.持ち越せてる、ていうよりはその世界軸にいた彼ら自体が他の世界軸の彼らに影響し、影響どころか融合しているので持ち越せちゃってる。

 

ナナシ、ナバールは死人、元死人、と言った具合に魂が割とアッパラパーなくらいには死後も意識を保て、かつ現実に留まれてたり留められてたりしたからちょっとやそっとでは消滅しないし、強制的な消滅からも一時的になら抗える。だからこその世界線持ち越し融合が出来た。

……ちなみにいうと、彼らの言う前回の世界は虚無に還っており、その前回の世界があった座標にまた流れは同じだけどちょっと違うタイムラインが再形成されてるので戻ることは原則不可能。

 

例外なのは東狂となったルートのもので、東狂になった事でタイムラインが独立しているので一応戻れる。ただ、世界が変質して軽くなった結果浮き上がり、そこに何も無くなったからタイムラインがまた再形成されてるので浮き上がった東狂というその世界には過去も未来も無く、あるのは今もなお滅びを再現し続ける悪魔の宴のみである。

永劫のトーラス持ってかないと(使命感)

 

Q.そういや、4にいた白男達って旧人類とか言ってて、フリンは5人目とか言ってたけどこの作品においてはなんか考察ありゅ?

A.ありゅ。

旧人類って、皆殺しルートで犠牲になった人なんじゃね?的な。かつての世界でいろんな世界線の記録を持ってしまった人が旧人類みたいな感じじゃないかなぁ。

 

となると、この作品のナナシくんは6人目なのかもしれない。あるいは、1人目かもしれない。

皆殺しで犠牲になり、他のタイムラインを覗いて後悔のままどっかに飛んだ傍迷惑な存在が彼らじゃないかな。特に後悔したのは、4fの仲間達とか。

4のダウソコンテンツあたりで判明する4回絶滅したってやつはと皆殺しルートと今作の絆からの東狂ルートと4での砂漠世界→毒で死滅ルートと爆炎世界→全人類悪魔化ルートの4つと解釈。

砂漠世界と爆炎世界は実際にあって、本来はフリンみたいな救世主が迷いこむ事が無かったんじゃないかな。

 

……あれ?つまり、こうなるのは、皆殺し前提、てことは皆殺しの果ては既に観測されてて確定事項だったんじゃないか、と。

でも、皆殺しでペルソナのルートに行く(ネタ倉庫2参照)のはこれが初めてみたいな感じやない?

いやでも、もっと別の場所に観測する事が出来る存在が居るじゃん?

画面の前で悪魔殺しを操ってるゲームをしている人が。「あれ?最終的にはこうなるんじゃね?」と想像を巡らせて観測を固定させた誰かが。そう。

 

そう!俺たちだよ!!!!

 

……卵が先か鶏が先かみたいな感じになるよね。世界にいる人らとしては。正直こじつけすぎじゃね?てのは言わないでください。

しかも、「4が先に出てるんだからホワイトメンが確立されてたらそれはそれでおかしいだろ、アトラスはそこまで考えてシナリオを作成していたのか…?」とか、割とガバガバな考察だなとか突っ込むのはやめようね!そもそもホワイトメンは神智学云々どうこうみたいな存在だとか言われても割と頭バグるからね!

あ、観測で確定云々とか言われて「なーに言ってんだ、こいつ?」と思った方は型月wikiでクォンタムタイムロックについて調べてくれればと。この考察の半分は型月ワールドの民による想像で出来ています。

 

ちなみに、ネタ倉庫2の皆殺し→ペルソナルートに関しては、ナナシくんの消滅の時期とICBM投下、ifのルート選択によっては真1→2ルートをとったりもする。その時のYHVHはフリンの成れの果てかもしれないし、あらゆる貌が暴走した結果やもしれない。

 

Q.達ちゃんよくそんな事考えたな

A.「悪魔なんて人間の無意識が産み出す存在、んなの存在したってどうあがいても人間と仲違いするってはっきりわかんだね」(達哉並感)

なので、前任であったナナシくんがあえて悪魔と共に生きられる手段をとったとしても、人間と悪魔の間に干渉が取れない形をとります。慈悲はない。

 

Q.■■さんって誰?フリンの前世?

A.いずれわかるさ…いずれな…



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。