GATE 枢軸国軍 異世界にて、斯く戦えり (スパイス)
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プロローグ 1946年5月

 アニメ版『GATE』を見返して、思わず書きたくなった作品です。
 続くかどうかは分かりませんが、他の作品との兼ね合いを考えつつ、書いていきたいと思っています。
 よろしくお願いします!!


 1946年5月8日 午前6時

 ドイツ ベルリン

 

 

 

「あれからもう5年か……」

 

 ベルリン中心部にあるブランデンブルク門――その向こうにある青く透き通った建造物を見ながら、男はそう呟いた。

 ブランデンブルク門よりも遥かに大きい「それ」が、朝日を受けてキラキラと輝きつつそびえ立っている光景は、ベルリン市民にとって今や日常風景となっており、市民はそれを『トーア(門)』と呼んで、ベルリンの新しい象徴として受け入れている。

 今日は5年前の『ベルリン攻防戦』における犠牲者追悼式典を行うということもあってか、早朝にも関わらず多くの人々が「6月17日通り」に詰めかけていた。

 ほんの一年前であれば、この大通りには数多くの鉤十字――ナチスの象徴であるハーケンクロイツの旗がいくつも掲げられていたが、今は一枚も掲げられていない。

 それもそのはずだ、と男は思う。

 1945年に決行された反ナチクーデターの成功と、それに伴う連合国側との講和交渉成功により、ナチスとその関連組織はドイツの政権内部から一掃されたため、ハーケンクロイツを掲げることは今は禁止されているからだ。

 替わって現在翻っているのは黒赤金の三色旗――新生ドイツ連邦共和国の国旗だ。

 通りを歩いている人々の表情も戦時中と比べると随分明るくなり、活気に満ちているような気がする。

 また通りを行きかう人々の中には『向こう側の世界』から来たと思しき服装の人間や、どう見ても人間ではない種族――ワーウルフやキャットピープル等の獣人やエルフ、ドワーフなどの亜人――もちらほらと見受けられるが、彼らは市民たちに混じってお喋りしたり、或いは一緒に買い物を楽しんでいたりと、ナチス時代に比べて平和で自由な生活を楽しんでいるように感じられる。

 男がそれを見て微笑んでいると、隣にいた銀髪の少女が話しかけてきた。

 

「どうしたのハンス? 何か考え事?」

「いや、何でもないよ」

 

 ハンスと呼ばれた男はそう言って、銀髪の少女――というより既に女性といえる年齢だが――のレレイ・ラ・レレーナに向き直る。

 

「ただ……いろんなことがあったなあ、と思ってね……」

「確かにいろんなことがあった。私たちの世界にも、あなたたちの世界にも。でもそれがあったから、私は今ここにいる」

「そうだな」 

 

 レレイの言葉を聞きながら、ハンス・シュミット退役陸軍大尉はこの5年間を頭の中で思い返す。

 

 

 異世界に派兵された時の興奮と高揚感――

 異世界での初めての戦闘――

 同盟国である日本軍との炎龍討伐作戦。

 ゾルザル率いる帝国軍や抵抗組織、そして最悪の敵である「蟲獣」との激闘――

 連合国軍との死闘――

 それらの戦いにおける、数多くの戦友の死――

 そして、新たな戦友や仲間との出会い――

 

 

「本当に、いろんなことがあった……」

 

 しみじみと思い返していると、後ろから声が掛けられた。

 

「御身、遅れて参上してしまって申し訳ない。長く待ったか?」

「やあヤオ、いま来たばかりだから大丈夫だよ。君こそ迷わなかったかい?」

「いや、此の身はこっちには何度か来ていたからな。問題ない」

 

 声を掛けたダークエルフ――ヤオ・ロゥ・デュッシはそう言いながら、ハンスに歩み寄る。

 

「しっかしヤオも見違えたなぁ、特に着ているGS(国境警備隊)の軍服が似合っているよ。退役軍人の私とは大違いだ」

「か、からかうな……///」

 

 顔を赤くして照れ隠しをするヤオに、レレイは少しばかりむっとしたオーラを放つと、さり気なくハンスの手を取って歩き出す。

 

「早く行こうハンス。そろそろ式典が始まる」

「お、おいおい……そう引っ張るなよ」

 

 ハンスはレレイに引っ張られながら、ふと遠い異国に居る戦友を思い返した。

 

(そう言えば、イタミは今どうしているだろうか?)

 

__________

 

 

 同日 午後2時

 日本 東京 銀座

 

 

「うわぁ……人が多い……帰りてぇ……」

 

 ハンスの言う『イタミ』――伊丹耀司は、自身の『帰りたい』という気持ちに抗いつつため息をついた。

 今回日独合同で開催される『犠牲者追悼式典』には政府や軍のお偉方ばかりでなく、皇族の方々や各国の大使も参列する予定である。そのような場に自分だけ欠席というわけにはいかないが、伊丹はどうしても気が進まなかった。

 

「というか俺、本当に前で話をしなきゃダメですか?」

「当たり前だろう。皆君の話を聞きたがっているんだから」

 

 伊丹の言葉をバッサリと切り捨てたのは、かつていっしょに戦った戦友である柳田明だった。1945年の大戦の終結と共に陸軍を退役した伊丹とは異なり、今でも軍に残っている一人である。

 

「でも俺、もう民間人ですし……」

「ゴチャゴチャうるさいぞ。さっさと壇上に上がれ。今日の式典にはピニャ皇太女殿下も参列なさるし、それにロウリィさんやテュカさんだって来ているんだろ。彼女達に恥をかかせる気か?」

「了解です……」

 

 伊丹が観念したようにそう言うと、柳田は満足そうな表情をして式典出席者が座っている列に戻っていった。

 それを見送りつつ、ふと伊丹は思った。

 

(ドイツは今、朝の6時か……ハンスはどうしてるんだろうな?)

 

__________

 

 

 事の始まりは、五年前の1941年まで遡る――    




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第1話  ベルリン攻防戦と銀座事変

 何とか続きました。



 ここで会話の概要を

「」→ 地球の言葉
『』→ 特地(帝国)の言葉

 ということにします。

※7/7 タイトルと内容を大幅に加筆、修正


 1941年 5月8日 午前8時

 ドイツ ベルリン

 

 

 ベルリン中心部に『それ』が現れた時、最初に現場に駆け付けたのは秩序警察に所属するベルリン首都警察、その中でも交通整理に従事していた警察官達であった。

 

「何だこれは……」

 

 緑色の制服を着た警官たちはあっけにとられた表情で、突如出現した『それ』――青く透き通り、幾何学模様が表面に描かれた巨大な建造物――を見上げる。

 それは周りにいる市民たち――多くは出勤途中のベルリンにオフィスを構える会社員や労働者達だった――も同様らしく、皆驚いた表情をしていた。

 

「何だ何だ!?」

「でけえ建物だなあ……」

「おいどけよ、よく見えないぞ!」

「困るなあ、こんな所に建てられると邪魔なんだが……」

 

 市民たちはそう言いながら建造物を見上げたり、指さしたりしながら騒ぎ出す。中にはカメラで写真を撮ろうとする者や、建造物に触ろうとする者までおり、警官たちはそれを押しとどめようと懸命に努力していた。

 やがて騒ぎを聞きつけた一般親衛隊の隊員や他の警官も加わり、市民を建造物から遠ざけようと声を張り上げる。

 

「建造物から離れて! 近づかないで!!」

「こら! 近寄ったらいかん!!」

 

 騒ぎが徐々に大きくなる中、警官たちは調査を始めるべく、建造物に近寄っていく。

 

「見たところ、門のような建造物だなぁ……」 

「全く、誰がこんなものを――」

 

 警官たちがそうぼやきつつ調査を始めようとした、その時――

 

 バサバサバサッ!!

 

 羽音を響かせながら、巨大な鳥――彼らはそれが『ワイバーン』と呼ばれるものだとは思いつかなかった――の様な物体が次々と『門』から飛び出しては空に舞い上がってゆく。

 

「な、何だぁ!?」

「ド、ドラゴンのようだったが……」

「バカな! 空想上の生き物だぞ!!」

「ひ、人が乗っていたぞ! 本当にどうなっているんだ!?」

 

 警官達や市民が混乱する中、『門』からは続いて異形の軍勢が出現する。

 

 古代ローマ風の鎧を纏い、剣や槍、弓で武装した騎士や歩兵――

 童話や神話にしか出てこないようなオークやゴブリン、トロール等の怪物たち――

 獰猛そうなワイバーンに騎乗した竜騎兵――

 

 その他、名前も分からない異形の怪物たちが続々と出現し、それらは茫然としている警官達と、その場に居合わせた市民達を例外なく襲い始めた。

 

「うわぁっっ!! 助けてくれっ!!」

「きゃぁぁぁぁっ!!!」

「は、早く増援を――」

 

 市民たちは一秒でも早く軍勢から逃れようと逃げ惑い、警官や親衛隊員達は市民を逃がそうと必死に応戦を開始するが、元々の数が違いすぎたこととドイツ側が拳銃などの軽武装しか持っていなかったためにあっけなく蹴散らされた。

 異界の軍勢は情け容赦なく殺戮と強姦に勤しみ、そのため通りには老若男女様々な屍が累々と積み重なり、悲鳴が辺りにこだまする。

 やがて彼らは市民の屍を積み上げ、そうして出来た死肉の小山に漆黒の軍旗を掲げると、声高らかに彼らの言葉で宣言した。

 

『聞け! 蛮族どもよ!! 我らは皇帝モルト・ソル・アウグスタスの名において、この地の征服と領有を宣言する!!!』

 

 それは屍しか聞く者のいない、一方的な宣戦布告であった――

 

__________

 

 

 一方、ヴィルヘルム街にある総統官邸では、この国の主であるアドルフ・ヒトラー総統が不機嫌そのものの表情で怒鳴り散らしていた。

 本来であればこの時間帯はヒトラーの就寝時間であり、そんな時間に無理矢理叩き起こされたことは、時間に対して煩い彼にとって許しがたいことであった。

 

「何故襲撃の報告が遅れたのだ!!」

 

 激怒するヒトラーに対し、たまたま総統官邸にいた国内予備軍司令官のフリードリヒ・フロム上級大将と、ドイツ国防軍最高司令部総長であるヴィルヘルム・カイテル元帥は冷や汗を流しつつ首を縮めて恐縮するほかなかった。

 

「首都に敵が来襲しておきながら、報告が15分も遅れたのは何事だ! しかもその報告内容がこんなに曖昧なのはどういうことだ!! 貴様らは正確な報告さえも出来ない無能なのか!?」

 

 ヒトラーが怒りのボルテージを上げる中、執務室に入室してきたベルリン防衛軍司令官のパウル・フォン・ハーゼ中将は冷静な声でそれに応じる。

 

「ご報告が遅れ、大変申し訳ありません。しかし何分にも信じられない内容でしたので、確認作業に手間取りまして」

「言い訳はいい、それよりどうなっているのだ? 敵は何者だ? ユダヤ人か?イギリス人か?それともロシア人か?」

「そのどれでもありません、総統閣下。守備隊の報告を信じる限り、現在ベルリンを攻撃しているのは中世時代から出てきたような騎士や兵士です。

 この他、見たこともない怪物やワイバーンの存在も確認されています。私もこの目ではっきりと目撃しました」

 

 ハーゼ中将はそう言って、窓の外を指さす。

 ヒトラーや将軍達がつられて窓を見ると、確かにワイバーンが宙を舞っては人々を襲っているのがはっきりと見えた。

 もはや思考停止状態の彼らに向かって「信じて頂けたでしょうか?」とハーゼが告げると、真っ先にヒトラーが我に返り、カイテルに早口で質問した。

 

「カイテル元帥、今すぐ出せる国防軍部隊はあるかね?」

「近辺ですぐ動かせる部隊ですと、確か第67歩兵師団がベルリンの近くで演習中だったはずです。あと警察部隊もいくつかが周辺にいたはずです」

「よろしい、ではその師団と第三軍管区すべての部隊宛に緊急命令を出すのだ。『直ちにベルリンに直行し、首都を攻撃中の敵対勢力を粉砕せよ』と」

「し、しかし総統閣下。第67師団は新規編成の部隊で、練度に問題が――」

「これは総統命令だぞ。早く向かわせろ!」

「わ、分かりました。総統閣下。直ちに命令を出します」

 

 カイテルが退室すると、ヒトラーは今度はフロム上級大将に向かって言った。

 

「現在敵に応戦しているのはどこの部隊だ?」

「現在ブランデンブルク門の周辺にて首都警察が敵と交戦しておりますが、何分にも数が多いために押されております。他の警察部隊も応戦中ですが、抑えきれるかどうか五分五分というところです」

 

 フロムが汗を拭きつつ答えると、ヒトラーはじろりと将軍達を睨みつける。

 

「首都に駐留している憲兵隊はどこに行った? 武装親衛隊は何をやっているのだ?」

「現在招集中ですが、突然の襲撃でしたので編成作業に時間が掛かっておりまして……それに親衛隊はヒムラー長官の専管ですので……」

「何だと! 首都に攻撃を受けておきながら、貴様らは編成のことを気にしているのか!! 戦闘準備が出来た者を片っ端から送り込め!!」

「ですが、敵は集団で行動しており、戦力を逐次投入すればいたずらに犠牲を増やすだけです。編成作業は絶対に必要であると思われますが」

「ううむ……」

 

 ハーゼ中将の正論に、ヒトラーは唸ってあごに手をやる。

 確かに兵士を逐次投入したところで、各個撃破されるのは目に見えている。しかし、敵がベルリンに突如現れた以上、どうにかしなければならない。

 そうこうしているうちに、官邸の外からも戦闘の喧騒が聞こえ始め、それが徐々に大きくなってゆく。敵がすぐそこまで迫っている証拠であった。

 

「……分かった。時間を稼ぐために総統官邸の衛兵隊を出そう。必要ならば私の個人警護部隊(RSD)も連れていくといい。何が何でも敵を食い止めるのだ。これ以上の被害を出すことは許さん。ヒムラーには私から伝えておく」

「ありがとうございます。総統閣下」

 

 フロム上級大将とハーゼ中将が退室すると、ヒトラーの個人警護部隊隊長であるヨハン・ラッテンフーバーが小走りに寄ってきた。

 

「総統、お車の準備が出来ました。いつでも脱出可能です。敵はすぐ目の前まで迫っておりますから、ここは退避を」

「何を言っているんだ。私はここに留まる。敵を前にして最高司令官が逃げ出せるものか!」

「ですが、総統に万一のことがあっては――」

「そう、万一のことがあっては困る。だから」

 

 ヒトラーはそう言って、ラッテンフーバーの肩に手を置く。

 

「君が最後の砦だ。頼りにしているぞ」

 

_______________

 

 

 

「急げ! ここを突破されれば終わりだぞ!!」

 

 総統官邸の衛兵部隊『ライプシュタンダーテ・SS・アドルフ・ヒトラー』、並びに国防軍のベルリン衛兵隊『グロースドイッチュラント』に所属する兵士たちは手早くバリケードを築き、戦闘準備を整えてゆく。ほとんどの兵士は小銃を持っていたが、中には機関銃や3.7cm対戦車砲を引っ張り出して操作する兵士たちもいる。

 兵士たちは迫りくる敵――異界の軍勢――に対して緊張感を露にしつつ、各々が手にした武器を構え、敵を睨み据える。

 

「フォイア(撃て)!!」

 

 命令によって兵士たちが一斉に発砲すると、異界の軍勢達は何が起こったかも分からずに、絶叫を上げながらバタバタと倒れてゆく。トロールのような大型の怪異は、それらの攻撃に少しは耐えたものの、結局頭部への集中射撃や対戦車砲の直撃によって次々と討ち取られていった。

 兵士達がその光景に歓声を上げる間も無く、上空からワイバーンが次々と急降下してきてはドイツ兵を攻撃し、その体を引き裂く。

 更には投石器による攻撃も加わり、総統官邸を攻撃し始めた。

 どうやら兵士達がその建物を守るように集中していたため、重要施設と看破されたようだ。

 異世界側の将軍の一人が、官邸のバルコニーに投石が直撃したのを見て笑みを浮かべ、配下の部隊を鼓舞する。

 

『蛮族は弱っているぞ! 攻撃してあの屋敷を陥とせ!! 敵の首級を上げよ!!』

 

 配下の兵士たちが喊声を上げつつ突撃しようとしたとき――

 前方の戦列が何の前触れもなく爆発し、なぎ倒された。

 

『な、何だ!? どうなっている!!?』

 

 何が起きたのか分からず喚きたてる将軍の頭上に、たった今戦列をなぎ倒した砲弾が次々と降り注いだ――

 

__________________________________

 

「間に合った!」

 

 ドイツ国防軍陸軍第67歩兵師団、第85歩兵連隊第一大隊に所属するハンス・シュミット少尉は思わず安堵の声を上げる。

 『総統官邸を攻撃している敵を、万難を排して粉砕せよ』との命令が下ったのが二時間前であったため、それまで味方が持ちこたえてくれるか微妙なところではあったが、間一髪で間に合ったことに、この戦闘が初陣であるハンスは胸をなでおろした。

 とは言え、まだ安心は出来ない。

 既に砲兵隊は敵部隊に対し、保有するあらゆる火砲を向けて攻撃中であるものの、肝心の投石器は建物の陰に隠れており、なかなか攻撃出来ない。

 加えて地上部隊の苦戦を見て義憤に駆られたのか、ワイバーンに乗った竜騎士が急降下して攻撃しようとしてくるため、ハンスは気が抜けなかった。

 

「迫撃砲用意! 敵を殲滅せよっ!!」

 

 ハンスの号令で、部下の兵士が8cm迫撃砲をセットし、敵に照準を定める。

 

「フォイア!」

 

 ハンスの命令で迫撃砲弾が発射され、投石器を破壊してゆく。

 懸念していたワイバーンからの攻撃も、ベルリン近郊の飛行場から飛び立ったBf109の機銃掃射や、地上からの対空射撃にその数を減らしていった。

 やがて増援の警察部隊や国防軍憲兵隊、国防軍部隊や武装親衛隊の兵士たちが到着すると、形勢は一気に逆転した。

 ドイツ軍部隊は敵兵に一切の情けなく銃弾を撃ち込み、戦車や装甲車で蹂躙し、戦闘機でワイバーンを撃ち落とし、急降下爆撃機で門周辺の敵に爆弾の雨を降らせる。

 それはまるで、数時間前まで敵がやっていたことを、そっくりそのまま何十倍にもして返しているようであった。

 

『に、逃げろぉぉぉっ!!!』

『助けてくれぇぇっ!!!』

『引けえっ!! 引けええっ!!』

 

 異界の軍勢はもはや完全に戦意を喪失し、散り散りになって逃走にかかるが、それで手加減するほどドイツ軍は甘くない。

 止めとばかりに戦車を前進させ、最後の掃討戦に取り掛かる。

 

「敵は瓦解しているぞ! 進め進め!!」

「野蛮人共を粉砕せよ!!」

「敵は剣しか持ってないぞ! 恐れるなっ!!」

 

 指揮官たちがそう言ってけしかけると、ドイツ兵たちは喊声を上げながら突撃し、敵を容赦なく殲滅していった。

 敵の中には最後の一人まで抵抗するものや、捕らえた市民を人質にしようとする者もいたが、呵責ない攻撃に最後には武器を捨てて降伏した――

 

 

 こうして半日以上続いた戦闘――後に『ベルリンの戦い』と呼ばれることになる――は、完全にドイツ軍の勝利に終わり、異界の軍勢を吐き出した『門』はドイツ軍の手に落ちることとなった。

 しかし幾らかの敵兵や怪物が逃亡して、地下鉄や下水道、ベルリン郊外に逃げ込んだため、ドイツ軍はそれらを炙り出すのに一週間以上を費やすことになった。

 

 この戦いで「総統官邸を救援する」という任務を成し遂げた21歳のハンス・シュミット少尉は、ヒトラーから直々に一級十字章を受章するという栄誉に恵まれた。

 

 余談であるが、この宣戦布告無き攻撃に対してヒトラー総統は「絶対に許さん」「捕らえた野蛮人共は全て強制収容所送りにせよ!」と激怒していたという――

 

__________________

 

 同日 午後4時

 大日本帝国 帝都東京 銀座

 

 

 この日、ドイツと同盟関係にある大日本帝国、その首都である東京の銀座においても、ベルリンと同じ光景が展開されていた。

 夕方の買い物客で賑わう銀座、そのど真ん中に突如出現した『門』から沢山の怪物や軍勢がはき出され、無差別に市民を虐殺し始めたのである。

 

 壊れた建物や市民の死体を平然と踏みつけ、前進する騎兵や歩兵――

 逃げ惑う市民を容赦なく殺戮する怪異達――

 幸運にも生き残った市民―特に女性―を甚振って楽しむ兵士や怪異――

 

 この世の地獄を全て合わせたかのような光景が、そこに現出していた。

 それらから何とか逃げおおせた市民たちは、安全な場所を探して右往左往し、あるいははぐれた親類や友人を探しまわる。

 それらの光景に、帝国陸軍予備役少尉『伊丹耀司』は焦りを募らせていた。

 

「まずいな……このままでは敵が市民に追い付いてしまうぞ…」

 

 伊丹という男は正直に言って、完全に『怠け者』だ。面倒な事からはとことん逃げ、仕事に対する熱意もあまり無い性格であるため、陸軍予備士官学校でもその性格が災いして何度も鉄拳制裁をくらったことがある。それでも性格は治らなかったため、上官たちの間では悪い意味で有名人だったくらいだ。

 今回銀座に居合わせたのもたまたま偶然であり、決して国家の危急に駆け付けたからではない。

 しかしいくら伊丹であっても、目の前で恐怖に怯える市民たちを放っておくほど薄情でも、ましてや卑怯者でもなかった。

 

「皇居だ!! 皇居に避難誘導を頼む!!」

 

 彼は周囲にいる警察官や憲兵に声をかけ、皇居に市民を避難させるよう要請して回った。警官や憲兵の中には「皇居に避難させるなんて……」という声も上がったものの、大部分の者たちは了承し、皇居への誘導を始めた。

 その足で伊丹は皇居へと赴き、身分を明らかにしたうえで要請を繰り返す。

 

「皇居に市民を避難させるんだ!! そうすれば多くの命が助かる!!」

「何だと! 貴様正気か!!」

「陛下のお住まいし皇居に、民間人を入れるとは何事か!!」

「それでもだ! 早くしないと皇居前が血で染まるぞ!!」

 

 当然のことであるが、皇居を警備する皇宮警察や近衛師団は要請を拒否した。特にエリートの集まりである近衛師団の中には「予備役将校風情が偉そうな口を聞くな!」と高圧的な態度をとる者もおり、伊丹はますます焦りを募らせた。

 しかし――

 

「た、隊長! 緊急のお電話です!」

 

 連絡役の兵士が、緊張感も露にして警備隊長に受話器を渡す。いぶかしげな表情でそれを受け取った隊長の顔色が変わった。

 

「へ、陛……ハッ! 了解致しました! 直ちに門を開けます!!」

 

 しゃちほこって敬礼を繰り返す隊長に、伊丹も電話口の相手が誰であるかを察する。

 

「今のお電話って……」

「ええ……」

「……国民を最優先に、と……」

 

 直ちに門が開かれ、市民に対する避難誘導が開始される。たちまち皇居前は避難してきた市民でいっぱいになった。

 

「増援はどうした!」

「間もなく第1師団の留守部隊、並びに近衛師団の本隊が到着します!」

「よし、それまで持ちこたえるぞ!」

 

 

 ――結果的にこの時の伊丹の判断は、完全に正解であった。避難民がいる皇居に敵の本隊がとりついている間、付近の航空基地から飛び立った戦闘機部隊が帝都上空に現れて敵のワイバーンを掃討、殲滅した。

 さらに敵部隊の側面から増援の陸軍部隊が攻撃を仕掛けると、たちまち敵部隊は混乱、崩壊して各個撃破されてゆく。

 

「よし、敵は崩壊し始めたぞ!! 一気に畳みかけろ!!!」

「「「「うおおおぉぉぉっ!!!!」」」」

 

 帝国陸軍の兵士たちが雄たけびを上げながら突撃すると、敵は完全に士気を失って逃走にかかるが、それを許すほど日本軍はお人好しでも何でもなく、ある者は銃弾に倒れ、ある者は銃剣に突き刺されて絶命し、ある者は砲撃で木端微塵となった。

 結局生き長らえることができたのは、戦意を失って降伏した者、そして何とか『門』をくぐって逃亡に成功した少数の者に限られることとなった――

 

 こうして日本軍と異界の軍勢との戦いは完全に日本軍の勝利に終わり、日本も『門』を確保することに成功した。

 日本側はこの戦いを『銀座事変』と呼称し、ドイツと共に調査を開始することになる―― 

 

 




 いかがでしたでしょうか?
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第2話 ドイツの対応

 お待たせしました。
 連載再開です。


 1941年 5月15日

 ドイツ第三帝国 ベルリン郊外 ポツダム ツェツィーリエンホーフ宮殿

 

 

 ベルリン郊外に位置するポツダム、その名所の一つであるツェツィーリエンホーフ宮殿の周りには、今日に限ってものものしい警備が敷かれていた。

 全ての門や詰め所にはナチス親衛隊員が目を光らせており、庭では万が一の空襲に備えて高射砲が設置されている。また駐車場や外の道路には装甲車が待機しており、どんな事態にも対応できるようになっていた。

そのような厳戒体制の中、陸軍や海軍、空軍等の国防軍や親衛隊の所属ペナントを付けた高級乗用車が次々と宮殿の中に乗り入れてゆく。

 このような警備体制が敷かれている理由を地元住民は知らされておらず、多くの住民は不安そうな視線を兵士たちにむけていたが、一部の目ざとい人間は気が付いていた。

 『あの中で重要なことが起こっている』と。

 

__________

 

 

「つまり君はこう言いたいのか?『ベルリンのど真ん中に出現した門は、異世界への入り口である』と?」

「その通りです総統閣下。捕らえた蛮人を我が親衛隊情報部(SD)の方で丁重に『おもてなし』した結果、ドイツ語はおろか英語、フランス語、イタリア語も通用せず、中にはとても人間とは思えない種族も混じっていました。このことから見ても、連中がこの世界の人間ではないことが推測できます」

 

 ドイツ第三帝国、その総統たるアドルフ・ヒトラーに向かって自身の考えを披露しているのは、親衛隊全国指導者のハインリヒ・ヒムラーだった。

 

「総統、私もヒムラー長官と同じくそう思っています。あれは間違いなく異世界への入り口であり、我々はそれを手に入れる権利を得たのですよ!これは古代北欧神話の神々が総統閣下と我が帝国に与えられた贈り物と言ってもいいでしょう!」

 

 ヒムラーに負けず劣らずの弁舌を珍しいほど振るっているのは、副総統のルドルフ・ヘスであった。

 根っからのオカルト好きである彼らにとって、今回の『事件』はまさしく福音に等しいものであり、自分たちの持論を好きなだけ展開できる絶好の機会であったのだ。特にヘスはこれを機に総統の興味を自分に向けようと必死であり、その努力は周囲の人間をうんざりさせるほどであった。

 

「うーむ、信じられないことだが、私もこの目でドラゴンをはっきり見たからな。君たち二人の説はおそらく正しいのであろう。

諸君、私はこの際『門』の向こう側に軍を送り込み、獲得したその土地を、第二の『レーベンスラウム(民族生存圏)』にするべきであると考える。少なくとも蛮族どもの首魁に対し、我が第三帝国を敵に回せばその代償が如何に高くつくか、奴らの血をもって教育しなければならない!!」

 

ヒトラーはそう声を張り上げると、高ぶる気持ちを抑えきれずに拳でテーブルを叩いた。

脳裏には、蛮族によって破壊されたベルリン市街や総統官邸の姿が生々しく記憶に残っている。特に自ら設計したバルコニーを破壊された時には怒りの感情で頭が一杯になり、一晩中寝付けなかったものだ。

―蛮族の首領を捕らえたら、必ず一族郎党全員を強制収容所に叩き込んで、死さえも生ぬるいと思えるような屈辱と苦痛を味わわせてやる―ヒトラーはそう考えることで何とか高ぶる気持ちを落ち着かせた。

 

「しかし『もてなし』とはね…。さぞかし丁重なもてなしをしたんだろうねぇ、親衛隊長官殿?」

 

ドイツ第三帝国のNo.2として、そしてドイツ空軍のトップとして君臨しているへルマン・ゲーリング国家元帥がニヤニヤ笑いを浮かべながらヒムラーに問いかけると、ヒムラーはそれに対し、微笑みを浮かべてヒトラーに向かって言った。

 

「ええ、勿論です。彼らの大半は今頃ダッハウで、我が第三帝国式の『ご挨拶』を受けているはずです。このことに関してはハイドリヒがいい仕事をしてくれましたよ」

「そうか、奴らへの対応はそれでよい」

 

ヒトラーはそう言ってヒムラーとヘスから視線を外し、会議場の中をぐるりと見渡す。

 

「総統閣下、『門』の向こうに送り込んだ特殊部隊『ブランデンブルグ』の報告によれば、向こうの世界には未知の土地が広がっていることは確実であります。

この際、我が国防軍部隊を『門』の向こうに送り込み、周辺の地域を占領してはいかがでしょう?

連中の文明レベルはたかが知れておりますし、万一にも敗北することは無いと思われます」

「それがいいと私も思います。連中の武器を見ましたが、せいぜい剣と槍、盾ぐらいしかありません。

最新兵器と先進的戦術、戦略を保有する我が国防軍が出向いていけば、勝利は確実かと」

 

国防軍最高司令部作戦部長のアルフレート・ヨードル砲兵大将が立ち上がって意見を述べると、総長であるカイテル元帥もこれに同調する。

彼らが着席すると、外務大臣のヨアヒム・フォン・リッベントロップが代わって立ち上がった。

 

「私も派兵に賛成です。これは外務省筋の情報なのですが、同じ連中に攻撃を受けた日本側も大規模な派兵を検討中であるとのことです。

既に駐独日本大使の大島大使より、三国同盟の盟約に基づいての共同出兵の要請が来ており、同盟関係上これを無視することは出来ません」

 

リッベントロップがそう言って着席すると、他の政府、党、軍の関係者も次々と賛成意見を述べていく。

しかし、それに異を唱える者もいた。

 

「総統閣下、派兵の件に関しては、我々陸軍総司令部と参謀本部は賛同出来かねます。

我が陸軍は来月22日に開始する予定の『バルバロッサ』の準備に忙殺されており、もし『門』への派兵がなされれば、作戦開始日時は更にずらさねばならなくなりますが…」

 

陸軍総司令官のブラウヒッチュ元帥が渋い表情で慎重な意見を述べるが、ヒトラーの考えは決まっていた。

 

「では元帥、『バルバロッサ』の発動は延期することとしよう。陸軍は全ての努力を派兵に向けたまえ。これは総統命令だ」

「…ハッ、承知致しました」

 

ブラウヒッチュ元帥は表情を変えずに首肯したが、内心ではホッとしていた。

隣では、参謀総長のハルダー上級大将も安堵したような表情を浮かべている。

この二人は元々対ソ戦に消極的であり、『イギリスという背後の敵を先ず片付けるべきだ』と考えていたからであった。

出席した軍人の一部には『「門」を破壊するべきでは』との意見も出たものの、大部分の出席者が賛成したことと、ヒトラーが派兵への意思を固めていたことから、最終的には『「門」の向こう側への派兵』が決まった。

 

「よろしい。では―」

 

ヒトラーは参加者全員の顔を見回しながら、強い意思のこもった声で命令した。

 

「国防軍と武装親衛隊は直ちに部隊を選抜、『門』の向こうに軍を派遣し、存在する敵性勢力を排除せよ!

諸君の奮戦と勝利を期待する! ジーク・ハイル!!」

「「「ジーク・ハイル!! ハイル・ヒトラー!!!」」」

 

ヒトラーの魂のこもった叫びに、参加者全員がナチス式敬礼で応える。

ある者は陶酔した表情で―

ある者は満足げに―

ある者は無表情かつ事務的に―

またある者は心の中で反発しつつ―

 

それでも皆、ナチス式敬礼を行っていた。

 

_______________________________

 

ドイツ国防軍はこの会議の後、直ちに派遣部隊の選定を行った。

その結果『少しでも「門」の軍勢との交戦経験がある部隊が望ましい』との結論に達し、第67歩兵師団を派遣部隊の編成表に加えた。

その中には勿論、ハンス・シュミット少尉の名前も記載されていた―




いかがでしたでしょうか?
仕事が忙しく、とうとうこんな時期になってしまいました。
申し訳ない思いでいっぱいです。

これからは投稿を増やしていきたいので、これからも宜しくお願い致します。


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