ロキファミリアにコミュ障の少年が居るは間違っているだろうか? (モフモフ毛玉)
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プロローグ

【ロキ・ファミリア】

 

 それは世界の中心と言われる、迷宮都市オラリオの中にあるファミリアの中でもトップクラスの強さと規模を誇るファミリアである。しかしそんなロキ・ファミリアには噂があった。

 

『ロキ・ファミリアには亡霊がいる』と

 

 

その噂はこんな物だ。

 

 

夜になるとロキ・ファミリアから見たこともない少年が出て来る。しかも髪も肌も真っ白で生きているようには見えなかった。

 

夜のダンジョンで一人で歩く子供が居た。しかもモンスター達が子供が通った直後に魂を抜かれたように崩れ落ちた。

 

夜店を閉めようとしたらいつから居たのか少年が店の前に居た。何かと思って出るとペコペコと頭を下げながら残った商品を指差した。その手にお金を握っており、商品を渡すとお金を置いて走って行った。

 

など数えるとキリがない。

 

 

しかし実態は

 

 

「なぁ、ムイたん。まだファミリアのみんなに会うの怖いんか?」

 

「……うん」

 

「なんだかんだで長い事ウチや幹部のみんなと居るけど、やっぱり慣れないんか?」

 

ムイと呼ばれた少年はコクリと頷く。

 

日の光が少し差すだけの暗い部屋の中、ロキ・ファミリアの主神であるロキは優しく言った。

 

「そうか…まぁゆっくりいこうな?頑張り過ぎてもいかんし、まだ慣れない事もあるもんな。それに最近は夜に外に出とるやないか、成長したな!」

 

そう言って嬉しそうに頭を撫でるロキ

 

「頑張って、買った」

 

そう言うと林檎を紙袋から取り出してロキに渡す。

 

「ん、ありがとな。みんなで食べるわ」

 

大事そうに林檎を受け取るロキ。

 

「それじゃあ、またな?ちゃんと寝なあかんよ?リヴェリアに前怒られたもんな?」

 

「……う」

 

ムイが夜外に出ようと階段を降りようとして足を滑らせ転がり落ち、リヴェリアが血相を変えて飛んで来た時は驚いたなとムイは思い出す。原因が睡眠不足と知るや否やリヴェリアに部屋まで付き添われ、寝るまでずっと見られた事は記憶に新しい。

 

「……分かった」

 

「ん、ほなおやすみ」

 

「……おやすみ…ロキ」

 

 

そしてその日の夜、ムイは目を覚まし、すっぽりと体を覆うローブを着込むとゆっくりと扉を開ける。

 

キョロキョロと周りを見渡し、誰も起きてない事を確認すると階段をゆっくりと音を立てずに降りると玄関の鍵を開けて外へ出る。

 

再び外から鍵を締め直し、夜のオラリオへと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

そして歩き始めて少しすると酒場が見えてきた。『豊穣の女主人』というオラリオで有名な酒場である。ムイがここに来た目的は簡単な事である。『頑張って商品を注文して食べる』事だ。

 

ムイは自分が人との関わりが苦手な事を自覚しており、こうして人が少ない時間である夜に外に出てなんとか克服しようと頑張っているのである。

 

 

「いらっしゃいませにゃー!」

 

「……っ!?」

 

どう入ろうかとオロオロしていると店員である猫人に声をかけられ、酒を飲んでいた冒険者達がなんだと振り返ってムイを見る。

 

「あ!噂の亡霊じゃねぇか!」

 

「本当に居たんだな…」

 

奇異の目で見て来る冒険者達。

 

「……ぅ、ぅぅ…」

 

冒険者達の目線に耐えかねたムイは帰ろうと決めると店員である猫人に頭を下げ、振り返って走り出した。

 

「なんだよ…亡霊って言うから怖いイメージあったけどなんだ、ただの怖がりだったみたいだな!」

 

「そうだな!亡霊も俺たちの威圧感に耐えかねたみたいだな!はははは!」

 

ムイを酒の肴にして話をする冒険者達。

 

 

そんな彼らの笑い声を聞きながらムイは静かに泣きながら走ってロキ・ファミリアに帰ると、騒音を気にせずに部屋へ戻り布団へと潜ると一晩中泣いた。

 

 

余談であるが騒音を聞いて何事!?と出てきたロキがムイが泣く姿を見て『ウチのムイたん泣かしたの誰やぁぁ!』とロキが暴れたが、リヴェリアとアイズに抑え込まれた。

 



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リトライ『豊穣の女主人』

今回は少し雑です…それでもいいのであればどうぞ


 

ムイが泣き、ロキが暴れた夜から経った翌日。

 

「なー、ムイたん。誰に泣かされたんや?怖がらんとウチに言うてみ?」

 

ロキが優しくムイに問う。

 

「酒場…でね」

 

「うん、酒場で何があったんや?」

 

ロキは酒場と言われて『豊穣の女主人』を思い浮かべる。ムイが酒場として行きそうな場所はそこしかない。

 

「亡霊だ、とか、言われて、ジッと見られて」

 

「うんうん」

 

「それで…耐え切れなくて、店員さんに頭を下げて、帰って」

 

「うん」

 

「それで…酒場の人達が僕の事で笑いながらお酒飲んでた」

 

「うん、よく話してくれたな。偉いで」

 

ロキはムイの頭を優しく撫でる。

 

「それじゃあウチはやる事あるからな、今日はゆっくり休みな」

 

「うん」

 

ロキはムイの部屋から出ると

 

「よし、『豊穣の女主人』に行ってウチの可愛いムイたんを笑ったヤツ全員のファミリアに戦争遊戯(ウォー・ゲーム)仕掛けるで」

 

ロキの目はマジだった。

 

「アイズ、止めてくれ」

 

頭に手を当てながらリヴェリアはアイズにそう言う。

 

「ん、分かった」

 

そのまま他のファミリアにカチコミに行きそうになっていたロキはアイズによって止められた。

 

「なんでや!ムイたんを笑い者にされるとかウチ許さんで!」

 

「ああ、私だって許さない。だから今日のムイの外出について行こうと思うんだ」

 

「リヴェリア…私も行く」

 

「なら任せとくわ。……ムイたん泣かせたやつは倒してええで?責任はウチが取る」

 

『ムイたん泣かしたやつマジ許さん』と据わった目でリヴェリアとアイズを見るロキ

 

「やらないから安心してくれ」

 

「大丈夫、ムイを笑ったヤツは全員倒すから」

 

ふんすと気合入れてそう言うアイズにリヴェリアは

 

「せめて威圧程度に済ませてくれよ…」

 

と苦笑いでアイズに言った。

 

「分かってる」

 

 

 

 

 

その日の夜、ムイは目を覚ますと黒いローブを身に纏うとドアを開けて周りの確認をしようとして

 

「ムイ、今日は私たちも一緒に行くからな」

 

「安心してね」

 

扉を開けたらリヴェリアとアイズが居た。

 

「……うぇ?」

 

ムイはフリーズした。

 

 

 

 

「……」

 

「ムイ、大丈夫だからな」

 

「…ん、安心して」

 

いつもは一人で夜のオラリオに出ているが、今日はリヴェリアとアイズという有名人がいるのもあってかなんだなんだと周りが見てくる

 

「……ぅ」

 

ムイは小さな体を精一杯縮ませてなんとか見てくる人々の目線に入らないようにしようとするが

 

「どうした?寒いのか?」

 

リヴェリアが寒さで縮ませていると解釈して自分の上着を掛けようとする。

 

リヴェリアとアイズに気に掛けられながらムイはやっと『豊穣の女主人』に着いた。

 

「あ、いらっしゃいませにゃー!3名様かにゃー?」

 

先日の店員の猫人がムイ達に近づく

 

「あぁ」

 

「うん」

 

ムイの代わりに答える二人

 

そして店員の声を聞きなんだと振り返る冒険者達

 

(け、【剣姫】!?)

 

(【九魔姫(ナイン・ヘル)】!?)

 

ムイを見てニヤリと笑った冒険者達は両脇にアイズとリヴェリアが居るとわかるや否やサッとムイから目線を外して食事や酒を飲む。

 

「それじゃあ三名様ご案内にゃー!」

 

そうして中へと案内する店員。

 

「さ、行くぞ。ムイ」

 

「……うん」

 

店員はムイの事を気遣ってか先程の冒険者達から見えない場所に案内してくれた。

 

「さてと、ムイ。何を食べたい?」

 

「えっ、と」

 

ムイはメニューを見ながら悩んでいた。どれもこれも美味しそうであるが、自分の財布の中身はそれほどある訳ではない

 

「じゃあ、これ」

 

ムイは比較的安い料理を指差す

 

「あぁ、お金を気にしているのか?大丈夫だ。今日は私が払っておくからな。好きなものを食べていいぞ?」

 

リヴェリアはそう言ってムイを優しい目で見る

 

「あり、がとう」

 

ムイは感謝を述べつつ頭を下げる

 

「……!アイズ、今、今ムイがありがとう、と…!」

 

「…うん、可愛い」

 

その後気を良くしたリヴェリアとアイズは景気良く注文し、ズラリと並ぶ料理を見て戦慄する事になるのだが……それはまた別の話だ。

 

「……♪」

 

お腹いっぱい食べたムイは嬉しそうにしていた。ムイの周りにはその小さな体のどこに入るのかと言うぐらいの皿の山が連なっており、給仕をする店員もギョッとした目で見ていた。

 

「喜んでくれて嬉しいよ」

 

「うん、私も嬉しい」

 

そんなムイを撫でるリヴェリアとアイズ。

 

「……」

 

すると眠くなったのかウトウトし始めたムイ

 

「眠くなったんだな。よし、帰るか」

 

「…ん」

 

アイズはウトウトと船を漕ぎ始めたムイを背負う。

 

「お会計はこちらですにゃ!」

 

ズラッと並ぶゼロの数。

 

「ムイが楽しんでくれたなら安いモノだな」

 

そしてそんな額をポンと払うリヴェリア

 

「またのご来店をお待ちしておりますにゃー!」

 

店員の嬉しそうな声を聞きながらリヴェリアとアイズ、そしてアイズに背負われたムイはホームへと帰った。

 

なお、ムニャムニャと自室で眠るムイを見て頬を緩ませている主神(親バカ)と剣姫、そしてそれを見てやれやれと肩を落とすリヴェリアが居たとか居ないとか、

 



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ムイの挑戦 訓練編

ふと気付いたらお気に入りがいつのまにか100件突破…びっくりです


ムイがお腹いっぱい食べた翌日。ロキは珍しくムイから呼ばれた。

 

「ムイたん?どうしたんや?ムイたんから呼ぶなんて珍しいな?」

 

「ロキ……僕、訓練、したい」

 

「よーし、ちょっと待ってな」

 

ロキはムイの部屋を出ると

 

「アイズたん、みんなを集めてや、緊急会議や」

 

「うん」

 

 

 

 

 

「それで、なんで僕らが呼ばれたんだい?ロキ」

 

ロキファミリアの会議室にて幹部である団長フィン、アイズ、リヴェリア、ガレス、ベート、ティオネ、ティオナが集まっていた。

 

「みんな知っとるムイたんがな、訓練したいって言ったんや」

 

「ムイが…?」

 

「へっ、やっとか」

 

「ムイ君が?」

 

「へぇ、ムイ君がねぇ…」

 

幹部達にとってムイは弟のような団員であり、団長であるフィンにとってはもはや息子同然だった。そんなムイが訓練したいと言い出したのだ。

 

「それでな、誰がムイと訓練するか決めなあかん」

 

「……」

 

すると皆の目の色が変わった。

 

「なら俺だな、ムイは力が強い訳じゃねぇ。身のこなしの軽さを生かした戦い方を教えられる」

 

ベートがそう言うと

 

「……私が教える、ムイの戦い方を教えるのは私…!」

 

アイズが負けじと答える。

 

フィンは

 

「うーん、僕も教えたい事は山々だけど、ここに居るみんなが全員教えられるほど時間に余裕が無いし」

 

そう言うとティオネが

 

「あ、そうだ。ティオナが教えなさいよ」

 

「えぇ!?」

 

「大丈夫だって、ティオナなら戦い方もよく教えられるでしょ?」

 

「え、えーっと」

 

ギギギとティオナが振り返るとニコニコと笑う姉の奥でベートとアイズが睨んでいた。

 

「あ、やっぱり辞退します」

 

ティオナは負けた。

 

その後、儂が私がと立候補し『君らには仕事があるじゃないか』というフィンの一撃に沈む者が出る中で

 

「うーん、そうなるとなぁ…」

 

ロキが悩んでいた、すると会議室の扉を叩く音が

 

「うん?誰や?」

 

ロキが開けると

 

「教える人、決まった?」

 

ムイが居た。

 

「ムイたんか…今決めとる所や。まぁムイたんの意見も聞きたかったからちょうどええな、入りや」

 

ロキがムイを会議室に入れると真っ先にベートとアイズが来た。

 

「なぁ、ムイ、どっちに教えて欲しいんだ」

 

「私…でしょ?」

 

ムイをガッチリと掴む二人に対してムイは

 

 

 

「どっちも…って、だめ?」

 

 

 

と上目遣いで返した。

 

「「いい(ぞ)」」

 

即答だった。そして二人とも笑顔だった。

 

「よし!決まったな!」

 

ロキは訓練の相手が決まったからホッとしていた。

 

 

 

そしてその日の昼からアイズとベートの二人から戦い方を教わるムイ

 

「ほらどうしたぁ!横がガラ空きだぞ!」

 

「っ!っ!」

 

 

 

「敵が上から来たら、剣で相手の動きに沿うように払う」

 

「…うん」

 

「少し違う、もう少し力を抜いて、こう」

 

ベートは対戦式で教え、アイズはムイに動き方をレクチャーしながら教えていた。

 

「はぁ…はぁ…二人とも…凄い」

 

「そりゃそうだ。でもここまで付いて来れるムイも十分凄いからな?」

 

「うん」

 

ベートが笑い、アイズが撫でる。そんな二人に対してムイは

 

「これからも、教えて、下さい」

 

「おう」

 

「いいよ、色々、教える」

 

これ以降、お昼からはべートとアイズの稽古という新しい日課が出来た。

 

「……むむ、私も何か教えれるはず…魔法について教えるか…?」

 

そんな三人を物陰から見つつ、リヴェリアは羨ましいと思いながら見ていた。

 

その日の夜、ムイの部屋にリヴェリアが来て

 

「ムイ、魔法に興味はあるか?」

 

「うん」

 

「それじゃあ、私が魔法について教えてあげようか?」

 

「お願いします」

 

「それじゃあ次の日の朝、私の部屋に来てくれ」

 

「うん」

 

その日の夜は外に出ずに眠りにつき、次の日の朝、リヴェリアの部屋に行って魔法について教わった、その日から朝リヴェリアの部屋に行き魔法についての授業を受けるという日課が出来た。

 



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ムイの挑戦 ダンジョン編 前編

今回は分けます


 

ベートやアイズと訓練し、リヴェリアに魔法について教わる事一週間。ムイはロキにお願いをした。

 

「……ダンジョンに行ってみたい」

 

「……そうか」

 

ロキは渋い顔で頭に手をやる。確かにムイは『初めてここに来た頃』と比べれば活発になったし、身のこなしもいい、ダンジョンの一層から三層まで難なく行ける戦闘能力はあるだろう。しかしモンスターと対峙して戦えるかは未知数だ。しかもムイは夜に活動する事が多い為、都合が合う人が居ない。ロキは唯一ダンジョンに同行できる人物としてアイズを思い浮かべた。アイズであれば安心出来るだろうし、たとえ外に出ても他の団員から怪しまれない。

 

「……無理?」

 

「無理やないで、大丈夫や」

 

心配そうにロキを見るムイの頭を撫でるロキ。すると部屋の扉が開かれた。

 

「誰や」

 

ロキは鋭い声と共に振り返った。

 

さて、ここで明かされるがムイの部屋は他の団員と接触する事に怯えるムイの為にロキとリヴェリアそしてフィンが話し合って決めた部屋であり、幹部以外の人物はまず発見できないようにジャミングが施されている。

 

「私が一緒に行く」

 

入って来たのはアイズだった。

 

「なんや、アイズたんやったんか。丁度良かったわ。話聞いたったんか?」

 

「全部聴いてた。ムイはダンジョン行ってみたいの?」

 

「うん。行ってみたい」

 

「そっか…!」

 

どことなく嬉しそうなアイズ。

 

「じゃあ、アイズたん。ムイたんの事任せるで」

 

「分かった、ムイ。行こう」

 

「う、うん」

 

そう言うとアイズはひょいとムイを持ち上げる。そのまま行く気なのだろうか。

 

「あ、待ってや、ムイは装備持っとらへんよ?」

 

「……そうだった」

 

「僕、そもそも武器も防具も持ってなかった…」

 

「それじゃあ、明日アイズたんと買っておいで」

 

そう言ってロキは服のポケットからお金の詰まった小袋を取り出す

 

「え、それロキのお金でしょ?」

 

「ええよ、ムイたんのダンジョンデビューやこれくらいの出費はしても怒られん」

 

翌日、ギルドのお金が少なくなっている事に気付いたリヴェリアに説教されている主神が居た。

 

「それじゃあ、明日買う」

 

「うん、そうしや。それじゃあ今日も遅いからアイズたんもムイたんも寝なかんよ?」

 

「うん」

 

「……ムイと一緒に寝てもいい?」

 

「アイズたんそれはいかん」

 

布団に入ったムイを見てアイズがポツリと呟くがロキに引きずられて退出する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ムイは朝目を覚まして、毎日の日課となっているリヴェリアの魔法についての授業を受けにリヴェリアの部屋へと行くが

 

「……?」

 

いくら扉を叩いてもリヴェリアが出て来ない

 

「あれ?」

 

するとベートがそんなムイを見つける。

 

「おい、ムイ。リヴェリアに用か?」

 

「うん」

 

「リヴェリアなら説教してるぜ、ロキがギルド資金をちょろまかしたらしくてな」

 

「…え」

 

ムイは昨日渡された小袋を見る。

 

「……僕、リヴェリアの所行ってくる」

 

「あ、おい!……行っちまった…」

 

「……ベート、ムイに何かした?」

 

「あ、アイズ、いや俺は何もしてないぞ!?」

 

ゴゴゴ…という凄みを出しながらベートを見るアイズ。

 

「そう、後ベート。私、今日ムイの装備を見に行くから」

 

「ムイの装備をか?」

 

「うん、だからムイの訓練メニューを変える」

 

「俺もムイの装備を見たいんだがいいか?」

 

「ベートは別に来なくていい、私が見るから」

 

「そ、そうか…」

 

アイズにバッサリと切り捨てられたベートであった。

 

 

ロキ・ファミリアには説教部屋が存在する。ダンジョンでのマナー違反や冒険者間でのいざこざなどで問題を起こした団員はここでリヴェリアからの説教を受けるのだ。

 

「……」

 

扉の前に居ても分かるほどリヴェリアの怒声が響いている。ムイはかけなしの勇気を振り絞って扉を開けた。

 

「リヴェリアお姉ちゃん!」

 

「……ムイか、どうしたんだ?」

 

扉を開けるとほぼ同時にリヴェリアに抱き上げられたムイ。

 

「ロキは悪くないよ、そのお金もここにあるからロキを許して」

 

「……どういう事だ?」

 

ムイはリヴェリアに昨日会った事を説明した。

 

「なるほどな…なぜ私に言わなかったんだ。そのくらいのお金なら二つ返事で出したぞ」

 

「すまん!サプライズしたかったんや」

 

リヴェリアに土下座するロキ。

 

「まぁ、ムイに免じて許そう。悪気も無かったしな」

 

そう言ってムイを抱きしめるリヴェリア。すると

 

「リヴェリア、ムイの訓練があるから早く離して」

 

ムスッとした顔でリヴェリアを見るアイズ

 

「む、もうそんな時間か…訓練が終わったら私の部屋に来るんだぞ」

 

「うん」

 

そう言ってムイを離すリヴェリア

 

「それじゃあ、訓練、しよっか」

 

「うん」

 

そしてアイズとベートとの訓練、そしてリヴェリアの授業を終えたムイは服装についてロキに相談する事にした。

 

「ロキ、服装ってどうすればいいの?」

 

「そうやな、初めて昼のオラリオに出るもんな。ウチらに任せとき!」

 

ドンと胸を叩きながらグイグイと部屋へと入れるロキ

 

「せや、なんなら他の子達にも手伝って貰わんとな」

 

「任せろ!」

 

バン!と扉を開けてリヴェリアが現れる。その手にはいつ購入したのか服の山が

 

「さぁ、ムイ…」

 

「リヴェリアお姉ちゃんなんか怖いよ…」

 

 

 

そして1時間ほどムイは着せ替え人形にされた。

 

 

 

 

「うんうん、やっぱりムイたんの服はこれやな!」

 

ムイの姿を見て頬を緩ませるロキ

 

「う、変じゃない?」

 

恥ずかしそうにするムイ

 

「うん、いいな……」

 

満足そうにムイを見るリヴェリア

 

「ロキ、ぐっじょぶ」

 

ロキに親指を立てるアイズ。

 

 

(ムイの服装は皆さんのご想像にお任せします)

 

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

「……うぅ…」

 

「うん、行ってきや」

 

こうしてムイは新たな服装を恥ずかしがりながら昼のオラリオへとアイズと共に歩き始めた

 



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ムイの挑戦 ダンジョン編 中編

ムイはアイズに引っ張られながら昼のオラリオを歩く

 

「うぅ…」

 

周りを見れば沢山の人、しかも自分の容姿そして『ロキ・ファミリア』の【剣姫】であるアイズと共に居る事もあり、ジロジロと見られる。

 

「…もう少しだから頑張って」

 

「…うん」

 

周りの人からの目線に耐えながら、ムイはアイズについて行く。

 

すると並ぶ露店の一つから声をかけられる

 

「もし、武器をお探しですか?」

 

その人物は珍しかった。狐人(ルナール)鍛治師(スミス)だった。そもそも鍛治師(スミス)はヒューマンやドワーフが多い。獣人の鍛治師(スミス)は見かける事はあるがそれでもごく一部である。

 

「うん」

 

「ちょうど良かった。私も一昨日からここに露店を出したばかりで無名でして…宜しければ私が作った武器を見ていきませんか?」

 

アイズはムイを見ながら問いかける

 

「どうする?ここの武器見る?」

 

「…うん」

 

すると狐人(ルナール)はチラリとムイを見た。

 

「なるほど、将来性は高いですね…」

 

「……?」

 

ポツリと呟いたがムイには聞こえなかった。

 

「そう言えば貴方、名前は?」

 

狐人(ルナール)に名を問うアイズ

 

「あぁ、申し遅れました。私は宵月(ヨズキ)、【ヘファイストス・ファミリア】所属の鍛治師(スミス)です」

 

そう言って頭を下げる宵月。

 

「それではご要望はお有りですか?」

 

「うーん…アイズお姉ちゃん、僕ってどんな武器がいいと思う?」

 

「…ナイフがいいと思うよ」

 

「ナイフですか…残念ながらナイフは扱ってませんね…代わりに小太刀なら置いてありますが…」

 

「見せてくれる?」

 

「ええ、分かりました」

 

そう言うと宵月は露店奥へ引っ込んだ。

 

そして数十秒後

 

「これですね」

 

そう言って宵月は鞘に納められた小太刀をムイに渡す

 

「……」

 

ムイは恐る恐る小太刀を受け取る。

 

「抜いてもらってもいいですよ」

 

ムイは言われるがままに抜く

 

「……わぁ」

 

その刀身は美しく、艶やかな光沢を持っていた。その美しさにムイはジッと小太刀を見ていた。

 

しかしその小太刀は大きさが通常よりも一回り小さかった。小人族(パルゥム)専用の刀と言われればしっくり来る大きさである。

 

宵月はムイに問う。

 

「ムイさん、持ってみてどうですか?」

 

「軽い…それに手によく馴染む…」

 

そう言って微笑むムイに宵月は問う。

 

「そうですか…ナイフと扱いは違いますが振れますか?」

 

「多分振れると思う…」

 

「そうですか」

 

「ムイ、その小太刀気に入った?」

 

「うん」

 

「…そう」

 

しかし喜ぶムイとは裏腹にアイズは少し嫌そうであった。

 

「……ふむ」

 

宵月はそんなアイズを見た後にムイを見た。すると

 

「しかし気に入ったとは言え扱えるかどうかは別です。私としてもキチンと扱えるかどうか見ないと売れませんので」

 

「…?」

 

キョトンとした顔で宵月を見るムイ。

 

「ダンジョンへ向かいましょう。そこで貴方がその小太刀を扱うに相応しいかどうかを決めさせてもらいます…と言いたい所ですが防具も無しでダンジョンに潜るのは危険ですし…」

 

そう言ってまた露店の奥へ引っ込む宵月。

 

「これを使って下さい。私が使っていた物ですが…」

 

それは皮鎧と楔帷子だった。

 

「…え?」

 

「…いいの?」

 

「処分に困っていましたし、もう使わない物ですから。あぁ、キチンとメンテナンスはしてますから安心して下さい」

 

「ありがとう、ございます…」

 

「いえいえ」

 

そう言うと宵月は再び露店の奥へ引っ込むと一振りの刀を腰に挿して戻って来た。

 

「それではダンジョンへ向かいましょう」

 

「……店はいいの?」

 

「ええ、ファミリアに作品の大半は置いてますし、ここにある武器を盗もうとする輩は居ないでしょう。まぁ仮に盗もうとしても無理ですが」

 

「…そう」

 

「ダンジョン…」

 

「おや?ダンジョンに潜るのは初めてですか?」

 

「うん…」

 

「そうですか…私が見た所、貴方は戦えると思いますよ」

 

「そうかな?」

 

「ええ」

 

「…ムイ、早く行こう」

 

不機嫌な顔のアイズはそのままムイを背負うと走り出した

 

「にゃぁ…!?」

 

ムイの悲鳴が聞こえたが風に掻き消された。

 

「…【剣姫】と呼ばれている人でもやはり人ですね」

 

苦笑いを浮かべながら宵月は二人を追いかけた。



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ムイの挑戦 ダンジョン編 後編

長い間更新出来ず申し訳ありません。また少しづつ更新して行きます


アイズに背負われたムイは風を受けて暴れまくる自身の髪に顔面をペシペシと叩かれながら耐えていると風が止んだ。

 

「う…」

 

「大丈夫?」

 

アイズにゆっくりと降ろされたムイは今一度辺りを見渡す。ゴツゴツとした岩肌で覆われた洞窟といった感じだ

 

「ここが……ダンジョン?」

 

「そうだよ、ここがダンジョン…」

 

すると後ろからタッタッタッと規則的なリズムで走って来る気配が

 

「いやぁ…流石【剣姫】と呼ばれるだけはありますね、追いつくのに時間がかかります…」

 

宵月だった。アイズは少々驚いた。自分もそこそこ速い速度で走っていたにもかかわらず、誤差の範囲で来たのだ。

 

「貴方、何者…?」

 

「ただの鍛冶師(スミス)ですよ。まぁ、最初の頃は自分で潜ってましたからね、技量はそこそこありますから」

 

そう言ってニコリと笑う宵月。

 

「さぁ、ムイさん。貴方がその小太刀を扱うに足るかどうか、定めさせて貰いますよ」

 

宵月がそう言うとほぼ同時に岩肌をバキバキと壊しながら緑の小鬼……名をゴブリン…初心者冒険者にとって始めの難敵とも呼べるモンスターである。小柄な体格から放たれる棍棒による一撃は侮れない

 

「「「グギャギャギャ!」」」

 

ゴブリンの数は三体、ムイ一人には少々荷が重い。

 

「さて、ムイさん。ゴブリン相手ですが、やれますか?」

 

「が、頑張ります…」

 

ゴブリンの醜悪な顔を怯えながらも、ムイは小太刀を抜いた。

 

「グギャァァ!」

 

するとゴブリンの一体が雄叫びをあげながらムイへ飛びかかった。

 

「……っ、ふっ!」

 

ムイは冷静に棍棒を小太刀の鞘で撫でるようにズラすとそのまま体勢を崩したゴブリンの無防備な腹を小太刀で貫く。

 

「ギッ…!?」

 

突き刺したまま小太刀を振るとそのままゴブリンはすっぽ抜けて岩肌に叩きつけられるとそのままピクリとも動かなくなった。

 

「ギャ、ギャキャ…」

 

「グギャ!グギャガ!」

 

残りのゴブリンはこんな簡単に仲間を倒されるとは思っていなかったのか困惑していた。

 

「あれ、僕こんなに動けたんだ……」

 

自分がここまでやれる事に驚くムイ

 

「ええ、実戦でなければ分からない事もありますよ」

 

宵月は腰の刀に手を置きながらムイを見ていた。

 

「グギャ、ギャキャ」

 

「グギ?ギャギャ!」

 

そうしているうちにゴブリン達もどうするか決まったらしい、そのまま二手に分かれると一体がムイの脇腹を狙って棍棒を振った。

 

「っ!」

 

ムイは小太刀の鞘で受け止めようとするが押し負けて後ろに飛ぶ

 

「グキャギャ!」

 

待ってましたと言わんばかりに棍棒を構えるゴブリン、しかし

 

「ふっ!」

 

アイズに切り飛ばされた。

 

「ニャブッ!?」

 

「ムイ、大丈夫?」

 

そのままアイズは飛ばされたムイを優しく受け止めると、そのまま抱きしめた。

 

「あのー、まだ一体残ってますが?」

 

宵月はポツリと残ったゴブリンを指差す

 

「ムイ、やれる?」

 

ムイを優しく撫でながら問う。

 

「うん」

 

そう答えるとムイはアイズから離れると小太刀を構え直す、そして残ったゴブリンへ迫った。

 

「ギャッ!?」

 

「ふっ!」

 

そのままゴブリンを一刀両断し、血を払う。

 

「お見事でした」

 

「あの、これで僕はこの小太刀を扱うに値するんでしょうか?」

 

「ええ、貴方はその小太刀を所持するに値しますよ。……ん」

 

優しくそう言うと急に張り詰めた表情になり、腰の刀を手を添える。

 

「アイズさん、ムイさんを…」

 

「分かってる」

 

するとベキベキという音と共に岩肌が剥がれ、大きな腕が現れる。そのまま岩肌が大きく崩れるとそのモンスターの全貌が見えた。

 

「ブルル……ブモォォォォ!」

 

ミノタウルス……本来ならこんな浅い層に居るはずのないモンスターだった。

 

「ひっ…」

 

ミノタウルスに気迫を当てられたムイは顔を青くした。

 

「大丈夫、ムイは私が絶対に守るから」

 

アイズはムイを自分後ろにやると武器を構えた。

 

「…アイズさん手助けは?」

 

宵月は腰の刀を少し抜いてアイズに問う

 

「要らない」

 

「…まぁ、そうですよね」

 

すると岩肌がまた崩れ落ちる

 

「「ブモォォォ!」」

 

先程のゴブリンのようにミノタウルスが三体となった。

 

「一応、お願い」

 

「あ、分かりました」

 

そう言うと宵月は腰の刀を抜く

 

「……さて、久々に戦いましょうか」

 

そして刀を構えると近くのミノタウルスの腕を斬り飛ばした。

 



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『意思を持つ武器』

連続投稿です。


 

「ブルモォォ!?」

 

宵月に斬り飛ばされたミノタウルスはその激痛に悶える。

 

「ふっ」

 

そのまま宵月が刀を振るうとミノタウルスの首が飛ぶ

 

「…ふむ、久々でしたが鈍ってはいないようですね。刀の調子もいいようですし」

 

そう言って刀に付いた血を払う。

 

「ブルモォォ!」

 

もう一体のミノタウルスが潰さんと斧を振りかぶった。

 

「さてと『後は頼みましたよ』」

 

そう呟くと宵月の持つ刀が浮かんだ。

 

「えっ?」

 

刀が浮くというあり得ない状況にムイは驚く。

 

すると浮かんでいた刀はクルリを回ってミノタウルスの腕を斬り飛ばした。

 

「……何あれ」

 

既にミノタウルスを倒していたアイズはその光景をただジッと見ていた。

 

「サクッとやって下さいね『睦月』」

 

宵月がそう言うと『睦月』と呼ばれた刀は腕を斬られた痛みに悶えるミノタウルスの首を斬り落とし、クルッと回って血を払うと宵月の腰の鞘へ帰った。

 

「……貴方の武器、どうなってるの?」

 

ジト目で宵月を見るアイズ

 

「あー…私のスキルによる物ですね、自分で武器を作っていると稀に出来るんですよ。『意思を持つ』武器が」

 

「武器が……意思を持つ?」

 

「ええ、自分としても不思議ですが…とりあえずもうダンジョンを出ましょう。またモンスターが発生するかも知れませんし」

 

「ムイ、行くよ」

 

「う、うん…」

 

ムイは思った。『アイズお姉ちゃんみたいなカッコいい人になれるように頑張ろう』と

 

 

そしてダンジョンを出ると既に夜になっていた。

 

「おや、どうやら夜までダンジョンに潜ってたみたいですね」

 

そう言って笑う宵月

 

「一日って早いんだね…」

 

夜に動く事の多いムイは時間の早さに驚き

 

「うん、早いよ。私もよくダンジョンに行って帰って来たら夜だった事沢山あるし」

 

「じゃあもしかして、僕が夜外に出てる事も…?」

 

「たまに見たよ」

 

「うぅ…」

 

自分が頑張っている事を見ていたという嬉しさともしかしたらカッコ悪い所を見られたかもしれないという恥ずかしさに縮こまるムイ

 

「ふむ、それではお別れとしましょうか、ムイさんその小太刀、大切に使って下さいね。もし、メンテナンスが必要になったらまた露店に来て下さいね。それでは」

 

そう言うと宵月は人混みの中へ消えて行った。

 

「じゃあ、帰ろっか。ムイ」

 

「うん」

 

そうして帰ったムイを待ち受けていたのは

 

「ムイたぁぁぁん!アイズたん!心配したんやでぇぇ!」

 

寝ずに待っていたロキと

 

「アイズ、ムイ。無事で何よりだ」

 

暖かく迎えるリヴェリアだった。

 

その後、疲れて眠るムイを見て頬を緩ませるロキ(親バカ)。そしてそんなムイを優しく撫でるアイズとリヴェリアが居た。

 



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ステータス更新

お久しぶりです、やっと書き終わりました…

2/20追記 呪詛効果を変更しました。


「ムイたんムイたん」

 

「…んにゅ…何…ロキ」

 

迷宮から帰った次の日の朝、ムイはロキに起こされた

 

 

「ムイたん迷宮から帰って来たやろ?ついでにステータスの更新しよかって思ってな?」

 

「すてーたす…こうしん…?」

 

いまいちよく分からないムイにロキは優しく説明した

 

「ムイたん強くなれるんやで?アイズたんとかみーんなと並んで戦えるようになるんよ?」

 

「…それ、痛くない…?」

 

ステータス更新を痛い事と思ったムイはうるうると涙目に…

 

「ムイが泣いている気配がするぞ!!」

 

バンッ!と扉を開けながら入って来たのはリヴァリアだった。

 

「ほわっ!?びっくりしたわ!?」

 

「あ、リヴェリアお姉ちゃん」

 

勢い良く入って来たリヴェリアは涙目のムイをみて

 

「ロキ……泣かせたな?」

 

「ちゃうちゃう!?不可抗力や!!」

 

ロキがリヴェリアに説明する事数分

 

「なるほどな……ムイ、ステータス更新は痛くないぞ…?」

 

優しく撫でながらリヴェリアはムイにそう言った。

 

「ぅん…」

 

涙目なのは変わらないがカッコ悪い…と袖でゴシゴシと拭く

 

「じゃあちゃっちゃと始めよか?ムイたんもパパッと終わらせたいやろ?」

 

「うん…」

 

「よし来た!ムイたんベットでうつ伏せになってな?背中見えるようにやで?」

 

「うん…」

 

言われた通りにベットにうつ伏せになるムイ

 

「私は外に出ておくからな」

 

リヴェリアはそう言うと退室した。

 

「くすぐったいかも知れんけど我慢してな?」

 

「うん……んっ…」

 

ツーと背中に指を這わされる感覚に少し声が漏れるムイ

 

(ムイたん可愛いムイたん可愛いムイたん可愛いムイたん可愛いムイたん可愛いムイたんたん可愛いムイたん可愛いムイたん可愛いムイたん…)

 

ロキの心は盛大に乱れていたが何とか終わらせた

 

そして…

 

これがムイのステータスである

 

ムイ 

 

Lv.1

力:I5→I19

耐久:I14→I17

器用:I19→I26

敏捷:I19→I28

魔力:I1→I4

 

呪詛(カース)

【罪人への手向け】

・罪を犯した者、もしくはしかけた者への因果干渉

・使用すると対象へ不幸をもたらす、その不幸は罪の重さに比例する。効果時間が長くなる程徐々に強くなっていく

・一線を越えた時、断罪を以って許される。

 

・詠唱式【哀れな者よ、苦しみを知るがいい】

・解除式【悔い改めよ】

 

《スキル》

【無為】

その者の起こす行動全ては因果の関係を離れ、生滅変化しない永遠絶対の真実となる。

 

【無意の反撃】

無意識時に自動発動、致命的な攻撃を躱し、最小限の動きで相手にそれ以上の致命傷を与える

 

 

「やったなぁムイたん!ステータス上がったで!」

 

「ホント…!?」

 

ステータスが上がったという事実に目を輝かせるムイ、ロキはその姿を見て和むも

 

(しかし…この呪詛(カース)ホントになんや…?ムイたんがここに来た頃からあったし…あの頃のムイたんはヒトを寄せ付けない空気やったからだれも聞けなかったしなぁ…今でもムイたんは過去を語らんし…何があってこんなもんが…)

 

少し思考を巡らすが答えが出ず、いずれムイが答えるだろうと、ロキは目を離した。

 

……その《呪詛》があの重大な事件を引き起こしてしまうのだが…今となればこの時ムイに呪詛(カース)について教えていれば良かったのかもしれない…



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ムイ、初めてのソロ

長らく更新出来ずすみません…また少しづつ更新していきます。


ステータスが更新された後もムイの生活は大きくは変わらなかった。朝にはリヴェリアの講座を受け、その後に昼までアイズとベートの戦闘指南。そしてお昼を挟んでアイズと一緒にダンジョンへ行き。夜になったら戻って眠り、夜中にいつも通りオラリオの街へ繰り出す。

 

そしてそこから一週間が経ち、ムイは一人でダンジョンに潜りたいと申し出た。

 

勿論ロキを始めとする保護者組は猛反対した。

 

しかしアイズからの最近のダンジョンでの動きを説明され、更にフィンが『三層までなら一人で行ける実力はあるから大丈夫』の一言でとりあえずは納得し、ムイも無茶をしないとロキに約束した為、渋々ではあるが了承した。

 

そしてその日の夜。

リヴェリアからポーションを沢山貰い、アイズやベートがムイを捕まえて着ようとした防具を剥ぎ取ると、真新しい装備をスポッと着せられた。

 

そしていざダンジョンへ行かんと玄関に手をかけたムイは浮遊感を覚えた。何故と上を見ればロキがボロボロと涙を流していた。

 

「い"や"や"ぁ"!ムイたんが心配なんやぁぁぁ!」

 

「う〜…」

 

ムイはこねてるロキを見た後目線を動かせば、右の方にはそれを見て頭を抱えているリヴェリア、左を見ればあわあわと手を動かすアイズ。

 

助けられる人は居なかった。

 

 

その後何とかロキから抜け出してダンジョンへと走った。

 

後ろから『ムイたんまっ…アイタァ!?』という声がしたがムイは気にしない事にした。

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

そのままムイは1人、ダンジョンで黙々とモンスターを倒した。

 

最初の頃は苦戦したゴブリンも今では三体までなら一人で何とかなる。

コボルトもすばしっこいが1匹づつ仕留める事を心がければ大丈夫な相手だ。

 

そのままモンスターを倒して魔石を回収するのを繰り返し、カバンがそこそこな重さになった頃、ムイは自分が今どの辺りに居るのかという事を把握して居なかったのを思い出す。

 

周りを見れば冒険者が居らず、モンスターも居ない。嫌な静けさが広がっていた。

 

すると視界の少し先、ボロボロな外套を纏った少女がパンパンに膨れたカバンを肩にかけ、ふらふらとこちらへ歩いて来て居た。

 

少女には所々に傷があり、更に手には折れたナイフ、戦闘した後だという事がはっきりと分かる。

 

すると奥からドタドタと男が三人走って来ていた。

 

男達の1人が少女のカバンの紐をを掴むと、そのまま無造作に己の方へと引き込んだ。

 

少女はバランスが取れずに倒れ込む。

 

「へへ…こんなパンパンのカバンを持ってるのは獲物にしかならねぇんだぜ」

 

そう言って少女が持つカバンを取り上げ、中身を物色し始めた。

 

少女は折れたナイフを振おうとするも、もう1人の男に羽交い締めにされる。

 

「く…この…返して!」

 

「へへへ…ダンジョンに安全なんてのは…ねぇんだよ!」

 

そう言って少女を羽交い締めにしていた男が無造作に壁へ少女を投げる。

受け身が取れなかった少女はそのまま肺から空気が抜け、咳き込む。

 

「へぇ…状態の良い魔石にナイフにポーション、良い収穫だな…」

 

「しかもコイツ、結構可愛いじゃねぇか…」

 

「へへへ、やっちゃいますか?」

 

そう言う男達を、ムイは見ていた。

 

 

 

ズキリ…と頭が痛む。

 

 

 

思い出すのは■■■■■の記憶。

 

自分の■が笑いかける記憶

 

オラリオから流れて来た■■■が自分と■の住む村を■■する記憶。

 

嘲笑い、■を■して笑い、そして■した■■■。

 

自分の無力さを呪い、叫んだ自分が見たのは

 

一瞬にして■■った■と

 

それを呆然と見つめる自分に優しく語りかける神々しさすら感じる■■だった。

 

 

ーーーアレは何だろうか

 

ーーーアレは哀れな者だ

 

ーーー哀れな者には何をすれば良い?

 

『哀れな者には苦しみを与えなさい、その罪の重さを知らしめなさい』

 

懐かしい言葉を思い出す

 

…ムイの行動は決まった。

 

ゆっくりと、ゆっくりと顔を上げる。

 

「【哀れな者よ、苦しみを知るがいい】」

 

そう呟いたムイの言葉は

 

…モンスターの生まれる音の前に搔き消えた。

 



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その罪の重さは

今回は少しグロいです…ご注意を


 

バキバキと音を立てて出て来たのは一匹のゴブリンだった。

 

ムイの丁度真横に居るゴブリンは、ムイを見てもまるで興味が無いように目線を男達へ向ける。

 

「ギギ…グギギャァァ!」

 

そう叫び声をあげて男達へ飛びかかる

 

「ちっ邪魔すんな雑魚が!」

 

手の空いていた男の斧で頭をかち割られ、呆気なくゴブリンは死んだ。

 

またバキバキと音が鳴る。…今度は男達の近くで

 

またしても生まれたのはゴブリンだった。そのまま男達へ飛びかかり、そして呆気なく殺される。

 

男達は薄気味悪さを覚えた。

 

この少女を襲おうとした瞬間に何故、モンスターが産まれているのだ。と

 

目線を辺りへ向ければ、少し先に真新しい装備に身を包んだ少年が居た。

 

その少年は髪が白く、肌も色白だ。ダンジョンという過酷な場所に居るにも関わらず、怪我も無く、ただじっと…こちらを琥珀色の目で見ていた。

 

男の1人が寒気を感じた。

 

このままではいずれ死んでしまう、と

 

どうすると男は思考する。

そして一つの結論に辿り着いた。

 

次にモンスターが出て来た時はこの少女を生贄にして退散しよう、と

 

男達は小さな声で相談し、そう決めた。

 

少女は未だ壁に打ち付けられたダメージが抜けず、ろくに動けもしない。これなら簡単にモンスター達の生贄に出来るだろう。

 

またモンスターが生まれる。

 

次はコボルトとゴブリンだった。

 

男達は抵抗しようとする少女を、モンスター達の方へ投げ込む。

 

しかしモンスターは少女を避けた。

 

モンスターが冒険者を避けるという事実に驚いたのも束の間、

 

反応が遅れた男の腕にコボルトの1匹が噛み付く。

 

痛みに顔を顰めれば、複数のゴブリンが体当たりをして男を倒す。

 

そのまま餌に群がるアリのように、男はあっという間にモンスターの山に消えた。

 

生き残った男の1人が叫び声をあげて逃げる。そのままもう1人の男も後を追う。

 

そのままムイの間を通り抜けて、男2人は仲間を置き去りにして去った。

 

嫌な音をたてて、時折うめき声やたすけてと声がした。

 

しかし助けられる存在は居ない。

 

少女は目の前の惨事に身体が震え動けない。

 

ムイはその場を動かずに見ていた。

 

そしてしばらくすれば、モンスター達がゆっくりと離れ始めた。

 

男は装備がボロボロになり、顔や体は引っ掻き傷や打撲でいっぱいだ。

 

モンスター達はそのままゾロゾロと男から離れると

 

うめき声をあげて爆ぜた。

 

そのまま血は飛び散り、肉が辺りに散乱する。

 

魔石が血溜まりに落ちたのが、現実であるという事を教えてくれる。

 

そしてその血溜まりを踏みしめて、ムイはズタボロな男と震える少女へ近付いた。

 

 

ーーーーーーーー

 

ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!

 

仲間を置いて逃げ出した男の心境は悔しさ以外になかった。

 

何故自分があんな目に遭わなければならない

 

それもこれもあの少年だ、あの少年が悪いんだ。俺たちの邪魔をしたあの少年が悪いんだ!

 

男は偶々居合せただけの少年を原因と決め付けた。…実際にはそうなのだが

 

殺す、殺す、必ず殺してやる!

 

ここを抜け出して殺してやる!

 

仲間である男は待ってくれと男を呼ぶ

 

「うるせぇ!テメェもさっさと走れよ!」

 

幸いにも男達が居た場所は二層だ、少し登れば出られる。

 

一層へ登る階段を見つけた。

 

あぁ、ここを登ればあと少し…

 

そう思った男は

 

後ろからのグチャという音に意識を掻き乱された。

 

なんだと思いチラリと目を向ければ

 

足を斬られ、腹を貫かれて叫ぶ仲間と

 

その仲間に剣を突き刺している真っ黒な騎士だった。

 

その騎士の見た目は異様としか言えない。

 

暗い場所に居れば分からないと確信出来るほどその鎧や兜は黒く、仲間の返り血を浴びても赤くはならなかった。

顔も覆われており目しか確認する事が出来ない。

そしてその目も紫色に輝いているのみで、中身が人ではないという事が理解出来た。

 

男は仲間を見捨てて走る。

 

なんだあの騎士は

 

ちくしょう、後少しなのに

 

あと少し、あと少し

 

そして一層へ続く階段に足を置いた時

 

男の視界はクルクルと回った。

 

 

 

ーーーーー

 

 

「【悔い改めよ】」

 

そうムイは小さく呟く。

 

そのままムイは落ちていた少女のカバンに散乱したナイフと魔石を詰めた。

ポーションは割れており、中身はもう地面に染み込んでいた。

 

そのまま震える少女にさっとカバンを渡す。

 

未だ震えが止まらない少女はおずおずと受け取った。

 

そして呻く男を一瞥して、ムイは少女に手を貸した。

 

少女はおずおずと手を借りて立つとありがとうと礼を言う。

 

そのままムイは少女にポーションを渡し、確認も無しに背負った。

 

ひゃっ…!?という声は気にする事もなく、呻く男を置いてきぼりにしてムイはその場を去った。

 

そしてこの次の日、ムイはロキに呼ばれる事になる

 



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過ちには償いを

お気に入りが400件越えててびっくり…何かコーナー作ろうかな…


 

翌日、ムイはロキに説教部屋へと呼ばれた。

 

「…ムイたん、分かっとるやろ」

 

そう問われたムイはふと昨日の事を思い出す。

 

男達が嗤って少女を取り囲んだ所から記憶はプツリと途切れていた。

次に思い出したのは血塗れの地面とボロボロの男、そしてこちらを化け物を見るような目で見ていた少女だった。

 

「…昨日の事なら…よく…覚えてない…」

 

するとロキは少し頭に手を当てて溜息を吐き、少し質問を変える事にした。

 

「なぁムイたん、この呪詛(カース)に覚えはあるか?」

 

そう言ってステータスの写しをムイに見せる。

 

ムイは首を横に振り、マジマジと呪詛(カース)の項目を見ていた。

 

そして暫く見た後にポツリと呟いた

 

「…神父様の…教え…」

 

その言葉にロキはピクと眉を上げた。

 

ロキはその神父の事を聞こうと口を開く

 

「なぁ…ムイたん。その神父様ってのは誰なんや?」

 

するとムイはキョトンとした顔でこう返した

 

「神父様は、神父様だよ…?」

 

ロキは寒気を覚えた、勿論ムイが怖いと思った訳ではない。寒気を覚えたのは、その目だ。

 

ムイの目が、ムイの琥珀色の目が一瞬だけ紅くなった(・・・・・)のだ。

 

ロキ自身、ムイについてはまだ知らない事の方が多い。

 

そもそもムイが自分の意思でロキ・ファミリアに入団した訳ではない。

ムイはロキ・ファミリアに保護された(・・・・・)のだ。

 

神父の情報をムイから得られる事はないとロキは理解しつつ、頭の中に危険人物としてマークした。

 

「実はな、その呪詛(カース)でとは言っとらんけど、被害を受けたって言うとるファミリアがあるんよ。後で一緒に謝りに行こうな…」

 

「…うん」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

その頃、オラリオの入り口にて

 

「…教え通りオラリオに来ているとは…やはりあの子は良い子ですね……行く道中がとても心配になりましたが、良い神に拾わて本当に良かった」

 

何故か誰も居ない入り口に男が立って居た。

 

ふふ、と男は笑う。

その姿は少し変わっていた。着ている物は下半身は神官服のようなもの、上半身は神父服のようなものでチグハグだ。ただ共通点としては蒼い線が所々にあるという事のみ。髪は銀のようにも見える白、目は蒼く陽射しを受けて少し細めていた。

 

男は手に白い宝石が嵌められた本を持ちつつ、オラリオに足を踏み入れた。

 

「しかし…ここに来るのも久しぶりですが…はてさて…この広いオラリオであの子と『彼女』に会えるでしょうか…」

 

男はそう言って、辺りを見渡しつつゆっくりと歩き始めた。

 

…男の歩いた道に、薄く氷が張って居たのを知る者は誰も居らず、人々が行き交う頃には無くなっていた。

 



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幕間 〜ダンジョンの異変〜

だいぶお久しぶりの更新です。
長々とお待たせしてすいません


迷宮(ダンジョン)中層、最初の死線(ファーストライン)

 

17層『嘆きの大壁』

 

階層主ゴライアスが出現するその場所で、とあるファミリア同士が協力関係を結び、ゴライアスを倒す為に入念な準備をした上で足を踏み入れた。

 

バキバキ…バキバキ…

 

そんな音と共に、ゴライアスは壁の中から出現した。

 

雄叫びを上げたゴライアスは、手始めにとその腕を振り上げた。

 

冒険者達は手筈通りのフォーメーションを組み、迎え撃たんと武器を構えた。

 

しかし、ゴライアスの腕が振り下ろされる事は無かった。

 

ダンジョンの壁から腕が生えたからだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「オォォ…!?」

 

「なんだありゃ…!?」

 

その腕は『見た目が真っ暗』な点を除けばただの人程度の大きさの腕でしかなかった。ゴライアスにとっては少し体を動かせば振り解ける程だ。

 

しかし、問題はその数の多さと長さだ。

壁から無数と言える程の数であり、更に長さは人のそれではない、例えるならば先端が手の形になっているとても不恰好なロープという具合だ。

 

その腕は生きてるかのようにゴライアスの振り上げた腕を掴み、足を掴み、首を掴んだ。

 

冒険者達は動く事すら出来なかった。その腕が自分達に危害を加えるかも知れない、という恐怖心があったからだ。

 

そのまま腕はゴライアスの頭部を包むように、ワラワラと囲み始めた。ゴライアスは抵抗しようと四肢を動かす。腕は呆気なく千切れるが、まるで予定してあったかのように千切れた先が地面や壁の近くに行けばピタリと張り付き動きを制限し、壁に残された腕は千切れた箇所からまた手を生やして、ゴライアスへと向かう

 

そうして、ゴライアスは叫び声を上げながら頭部全てを腕に包まれた。

 

ゴキリ

 

そんな音と共に、腕に包まれたゴライアスの頭部は首の可動域を超えて曲がった。

 

そのままズシン…と首から離れた(・・・・・・)ゴライアスの巨体が冒険者達の方へと倒れて来る。

 

「退避ぃぃ!!」

 

冒険者達は何とか回避するも警戒するように『宙に浮かんだままの首』と『その身体』を交互に見つめる

 

しかしその身体はピクリとも動かない

 

その事に安堵した冒険家達は『壁や地面に残っている腕』に警戒しつつ、早くこの階層から抜け出そうと18層へ続く方へと歩き始めた。

 

すると首を持っていた腕が、興味を無くしたようにパッと消える。

 

そのまま苦悶の表情のままのゴライアスの首が、降って来た。

 

「お前ら走れぇぇぇぇ!!!」

 

冒険者達はギリギリ、ゴライアスの首に潰されて死ぬ。という事を回避した。

 

しかし落ちたゴライアスの目から、黒くてドロっとしたタールのようなものが溢れ出す

 

『ソレ』はゴライアスの目だけではなく、口や千切れた首、巨体からもドクドクと血のように湧き出す。

 

「に、逃げるぞ!こんな所に居てたまるか!!」

 

そんな1人の声を聞き、我先にと18層へと続く方へと走り出す

 

しかし、その目前という所で先頭を走っていた冒険者が見えない壁があるかのようにバン!という音と共に後ろに倒れた。

 

「なんでだよ、なんで進めねぇんだ!」

 

「それは貴方達を逃してしまうとこちらが困るからです」

 

その罵倒に対して透き通るような美声が答えた。

 

冒険者達は反射的に振り返る。

 

そこには美しく長い銀髪に黄金の瞳、そして絶世と呼べる程の美しさの少女が、薄い外套一つで佇んでいた。外套がはためけば、白い素肌がチラチラと見える。

 

男性冒険者は興奮により息を荒げて頬を染め、女性冒険者はそんな彼らに侮蔑の目を送る。

 

「我らが主は贄を求めています。貴方達はそれに選ばれたのです…とても、とても喜ばしい…」

 

ニコリと少女は笑いながら、パチパチと手を叩く。

 

すると溢れていた黒いタールのようなモノが意思を持つように冒険者達へと波を起こしながら迫った。

 

うわぁぁぁぁぁぁ!?

 

そんな叫び声が、冒険者達の最期の声だった。

 

冒険者が対抗する間も無く飲み込んだタールのようなモノはゴポゴポと泡を立てて、その場に留まる。

 

少女はニコニコと笑いながら、まるで指揮者のように指を動かす。

 

「さぁ起きなさい、骸達。我らが主が貴方達の無念を晴らす機会をお与えになったのです。そして主の為にも、地上へ向かうのです…」

 

すると、ゴポゴポと音を立てていたタールのようなモノから様々な者達の腕が生えて来る。

 

『それら』は続々と腕を出し、もがくように空を切る

 

そして、ズルズルとタールのようなモノから『それら』は這い出て来た。

 

『オォ…ァァ…』

 

『コロス…コロス…』

 

『アイツガ…アノガキガァ…!』

 

死んだはずのダンジョンのモンスター、またそのモンスターに殺された冒険者。あるいは仲間によって、またあるいは誰かの手によって理不尽に殺された冒険者。それらがタールの中から無尽蔵に溢れ出す。

 

その肉体は所々腐敗し、武器はボロボロ、正しく『動く死体』と呼べるそれらは怨嗟の声を上げながら少女の言葉を待つようにその場で止まった。

 

「さぁ、貴方達は今から『死の濁流』となるのです。全てを呑み込み、その全てを同胞(どうほう)にしなさい。そして地上に出るのです。あの忌々しい…」

 

苦虫を噛み潰したような表情になった少女は吐き捨てるようにこう言った。

 

「我らが主を見放した、神々どもを…殺すのです!」

 

オォァァァァ…!!!

 

その少女の一言を皮切りに『死の濁流』は17層から上へ向かう場所へと殺到した。

 

前にある誰かを潰し、あるいは引き千切り、我先にと『死の濁流』は血肉を撒き散らしなから階段を登って行く

 

そんな姿を見た少女は、口が裂けそうな程に口角をあげて笑い声を上げる

 

「あぁ!主よ!今は眠りし我らが主よ!必ず!あの忌々しい神々を殺してみせます!そして、貴方様を必ず…目覚めさせますから…!」

 

カラカラと笑う少女は笑顔のまま、タールへと沈んだ。

 

そして少女が沈んだ後、17層には何も残らなかった。

 

神々がこのダンジョンの異変に気付くのは、この事態が発生した2週間後の事だった。

 



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