真・恋姫無双~黒狼伝~ (ランダムエラー)
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第1章~出会い編~
第1話


初めまして、ランダムエラーと申します。


大昔、まだモバゲーの小説がエブリスタになる前に物書きをしていました。

その頃の作品はエタってしまいましたが、インターネット環境を整えて再復帰。
恋姫が一番好きなので、恋姫の二次創作を書きたいために甦りました。

誤字、脱字報告は心よりお待ちしております。
でも、誹謗中傷はヤメテクダサイ、心が死んで終います。


では、どうぞ


この世には常識や想像の範囲外の出来事が起こりうるのであろう。

 

 

俗に言われる神様転生と言われるものだろう……しかし、自分は神様にも出会ってなければ、死んだ時の記憶もない。

 

 

では、何故転生したと断言出来るのか、簡単である。ヒトでないからだ…

 

 

 

我輩は狼である。名前はまだ無い…ふっっっっっざけんなっっ!!

 

 

 

 

何が嫌で人間から狼にならねばならないのだ…最初は夢だと思った、自分よりも体躯の大きい狼が二匹…何故かすぐに自分の親であると直感できた。

 

更に周りには自分と同じくらいの大きさであろう仔犬が三匹居た、これまた直ぐに弟妹逹であると認識した。人間の頃は一人っ子だった筈なのに…

 

 

夢だ…動物になった夢を見ているのだ…そうに違いない…

 

しかし、寝て醒めても何もかわらない、それどころか腹が減ってきた。

 

周りを見れば兄弟逹は我先にと母親の乳を飲んでいる、流石に絶句した。

五分程、思考が止まっていた気がする。母親の心配そうな呼び声で我に返った。

 

恐る恐る足を動かす。犬の前足が見えた…自分の思い通りに動かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを理解した。俺はぎゃん泣きした。小学生の頃、親父にゲンコツをもらって叱られた時以上に泣いた。

もう、ゲームをする事もアニメを見る事もネットでコメント書き込みながら実況動画を楽しむ事もできないのだ………

 

これを絶望と呼ばずなんと言う、今までやってきた娯楽が二度と出来ない…況してやこれからやる予定だった事、友人逹、先輩逹、家族とも二度と会う事もないだろう。

 

こんな状況を神様転生出来たヤッター等と間抜けな程、楽観視出来る訳がない。

神様の大バカ野郎、なんで…なんで俺なんだ…こんなトバッチリは”アイツ”の専売特許だろうに…

 

いや、ダメだな錯乱の余り親友を犠牲するのは良くない…きっと神様という奴が居たら「だからお前にしたんだよ」と悪態をつかれそうだな…そうなる前に殺してやるがな……

 

 

一通り泣いた俺は母親がすりよってあやしてくれている事に気がついた。

いつの間にか帰ってきた父親も仕止めたエモノを捨てて俺の側で心配そうな声をあげている。

 

申し訳無いことした…精神年齢だけなら高校生にもなる俺が泣き喚いて親兄弟を心配させたことが、数少ない俺の良心を攻め立てる。

 

 

とりあえず、これ以上心配を掛けない為にも<ゴハン>にありつく事にした。

 

 

畜生…神様絶対に許さないからな………せめて、味覚も狼にしてくれよぉ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、月日は流れ…三年が過ぎた。

兄弟はあれからもっと増え、巣穴が狭いと感じた頃に俺は巣立ちをした。

兄弟の中にも残るもの、巣立つものが出てきた頃に漸く狼という生き物を理解した。

どうやら、俺は人間で言うところのニートだったらしい。

 

流石に迷惑だろうし、巣立ちを行い、番いを見つけて幸せな家族を築いた。

元より、人間だった俺からすれば他の仲間逹には想像すら付かない知識量を誇る、狩り、獲物の仕留め方、病気、怪我の処置…手が無いのが不便だが何とか出来ている。薬草毒草を見分ければ自己治療も然程難しくは無い。

 

今日も今日とて狩りに出る、生きる為に…家族を養う為に…

 

しかし、そろそろ巣穴を変えた方がいいかもしれない…最近、ニンゲンの出入りが活発になってきた。

今住んで居る山は俺の縄張りである。安全な寝床、水源、狩り場、薬草の群生地、少し離れた所にニンゲンの集落が在るが、余程、狩りが失敗続きでは無い限り家畜は襲わない用にしている。

“元ニンゲン”だったから分かる。奴等の怖さは…

 

唯一の救いは、この世界が俺がニンゲンだった世界より大昔で有ること。

流石に動物の狩り方やニンゲンより誇る俊敏性や嗅覚、鋭い牙や爪、他の狼逹では傷つけられない頑丈な体毛や筋肉が有ろうと、猟銃で撃たれれば怪我もするし、最悪死ぬであろう。

 

ニンゲンと敵対する事を覚悟で家畜を狙いに行くと、俺の世界からすれば教科書、若しくは参考書で載ってそうな服装…おおよそ現代に似つかわしくないライフライン…そして杜撰な家畜の飼育方…虎視眈々と偵察していた俺は絶句した。

動物になっただけでなく、時代すら遡っていたとは…

 

ニンゲンの話を聞く限り、今は漢王朝らしい。

ふざけんな、三国志じゃねぇーか…俺、よく今まで虎と出くわさ無かったな…

 

 

等々、色々な考察をしたりもしたが、そもそも、ニンゲンの集落付近に虎が出れば退治されるし、俺たちはまだ討伐の対象になる程、人里に出入りしていない。

 

嫁と乳離れしてない子供逹だけだ、鶏を四羽も盗れば暫く寄らない。

 

 

 

 

ニンゲン逹の出入りは増えたが、引っ越す程切羽詰まってもいない。

まだ…もう暫くは大丈夫だろう…”俺は姿を見られて無いし”…家族の為にももう少し…

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、忘れていた。狩り場に向かう途中、武器を持ったニンゲン逹を目撃した事を…

 

 

 

 

 

 

何時もより遅くなった、その程度の認識しかなかった。

 

大きな鹿を仕留めて、帰っている途中、急に濃くなる血の臭い…

獲物の方からじゃない…”我が家”の方から臭いがする。

ニンゲンと血の臭い…

 

 

 

 

 

俺は無意識に獲物を捨てて走っていた。物事の”最悪”を想定して。

 

 

 

おかしい……気のせいだ……偶然だ……間違いない…あり得ない……

 

 

 

何かの間違えであって欲しかった、俺と言う人格が狼になった時よりも…今まで生きてきた中で一番泣いた。

 

 

泣いて。

 

泣いて。

 

泣き疲れて。

 

落ち着いて。

 

考えて。

 

怒りを覚え。

 

憎悪を感じた。

 

 

ヤることは決まった。

 

躊躇いは無かった。

 

弔う。ただ、それだけの為に……”全員”殺してやる…

 

 

 




あれ?原作キャラが一人も出てねぇや…

そして、おもいのまま書いていたらのっけからシリアス…

どうしてこうなった…


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第2話

2話目です。
余談ですが、シリアスパートがある程度続く私が先に死にます。

だから、エタるんだよなぁ…


「華琳様、急ぎのご報告があります。」

 

私が県令になって間もなく、付近の賊退治を終えた秋蘭が険しい顔しながら、私の執務室に入ってきた。

 

 

 

様子を伺うに、秋蘭の独断では対処しきれない問題なのだろう。

 

賊の規模が拡大したか、近隣で飢饉でも起きたか、若しくは其に伴う一揆か…

 

「いったい何があったの?」

 

「此方を」

 

 

手渡された竹簡には太守の印と獣退治の内容…獣退治?

思わず、はぁ?と、間抜けな声を上げてしまった。

 

それくらいどうでもいい内容だ…

高々、獣退治に太守からの命令?

 

遂に上の連中は気でも触れたか…

 

目くじらを揉みほぐしながら呆れていると、秋蘭から更なる追い討ちを喰らうことになった。

 

 

 

「ご心中お察しします。ですが、既に邑一つと隣の県の駐屯兵120名程が犠牲に」

 

「なんですって?……質の悪い冗談よね?」

 

 

「私が討伐に赴いた邑の付近になります。なんでもその付近の県令は其の獣討伐に出た所、多くの兵を失い獣すら討伐出来ないと士気が下がった所を賊に突かれた模様です。」

 

 

「なるほどね…獣の討伐すら満足に出来ず、賊の発生も討伐も出来ない奴の尻拭いを近所の私がね…」

 

 

全く…頭が痛くなってくる…

幾ら無能な役人だろうと、これは余りに酷すぎる…しかし

 

 

 

「気のせいかしら、この竹簡には獣一匹と書かれている気がするのだけど?」

 

 

 

「私が近寄った邑にも聞き込みましたが、その情報確かなようです。」

 

 

「尚、質が悪いわ…妖の類いかしらね」

 

 

「かも知れません、邑の裏山に出没する狼退治を行った晩に現れたとのこと」

 

 

「祟りにでも触れたんじゃないの?……いいわ、春蘭が戻り次第、出立の準備をして頂戴」

 

 

「御意」

 

 

 

 

上の連中はこんな報告を受けてもマトモに取り次がないのであろう…しかし、実際に死人が出てる上に県の駐屯兵にも犠牲が出ているのだ。

 

領地内の異変を対処しなければならない…しかし、内容が余りに現実味が無い。

だから、私なのだろう…洛陽北部尉から”異例の昇進”をした私が…

 

 

 

程なくして春蘭が帰ってきた、妖怪退治に行くと説明すると少し嫌そうな顔をするものの、「華琳様自ら行くのならば何処までもお供します!」と言い切った。

「ありがとう」と言い、頬を撫でると途端に顔が恍惚の表情を浮かべている。全く…可愛らしいわね…

 

 

そして、”少々遊んで”居ると、秋蘭が入ってきた、支度が終わったのだろう。

 

「華琳様、出立の準備が整……姉者、抜け駆けはズルいぞ」

 

「しゅ、しゅうらん…」

 

「あら、私が望んでシテいるのよ…ふふっ、全ての報告が終わったら貴女もするのよ?」

 

「御意に…では、先ず人員から…歩兵100名、騎馬40名、補給隊が60名程です。兵糧は将兵が誰一人欠ける事なくとも5日は持ちます。隣県まで一日で着くので十二分にあるかと」

 

「完璧よ、秋蘭」

 

「華琳様…その、妖怪退治にそこまでの人数がいるのですか?」

 

 

「良い質問ね、春蘭。簡単なことよ、此だけの私兵を動かせば無能な太守とて妖の知らせが本当であったと思い込む…本当は只の獣、若しくは”そういう風に見せかけた”誰かの仕業だとしてもね」

 

 

「此度の討伐は妖怪の仕業では無いと?」

 

 

 

「どちらでも良いのよ、妖にしろ、獣にしろ、人に仇為すモノは討伐する。仮に話が通じる相手ならば、捕らえてみるだけよ」

 

 

「御意。出立の時刻はいかがされます?」

 

「明日の昼には出るわ、日の出と共に攻め入り日が沈む前にケリを着けるわよ…だから、まだまだ時間は有るわよ?」

 

 

 

「ふふっ、仰せのままに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当初の予定通り、日が昇る頃には例の邑にたどり着いた。

 

遠目から見ても人の気配が無い、仄かに血の残滓が感じられる。

野党や飢饉に見舞われた、荒廃した集落そのものである様に感じられた。

今の時世では少なからず見受けられるもの、国の腐敗が進み、民が貧困に喘ぎ、ヒト以下の魑魅魍魎が跋扈する今の世では”こうなった”邑は少なからず存在し続ける。

 

 

「春蘭、騎馬20を率いて辺りを偵察して頂戴…相手の得体が分からない以上、無闇な戦闘は避けるべきよ。」

 

 

「はっ!」

 

 

「華琳様、相手が獣、若しくは徒党ならば余りに偵察の数が少ないのでは?」

 

 

「えぇ、生き物相手ならね…でも、見るからにあの邑には気配が無さすぎるわ。考えたくは無いのだけれど、妖怪相手ならば刺激しない方が良いわ」

 

 

 

あくまでも杞憂であって欲しいけどね、と付け足す。

 

其ほどに、この邑はオカシイ…

徒党が居るのであれば、邑の入り口や高い建物に見張りがいる筈だ。

獣の群れが居るのであれば、少なからず鳴き声や、気配、食べかすが転がっている筈。

 

遠目から見るだけだと、どう見ても”血の香り”が残っている静かな邑だ。

 

日は出ている。雲一つない。

妖の類いが居るのであれば、濃霧が立ち込めていても、なんら不思議ではない。

 

 

 

程なくして、春蘭が戻ってきた。

 

「華琳様、敵影は見当たりませんが…そのぉ…」

 

 

「薄気味悪いのでしょう?それは私も同じよ。」

 

 

困った。せめて敵影でも有れば、全て杞憂で終わったのに…

しかし、春蘭を責める訳にもいかない。全軍抜刀し周囲を警戒しながら、邑に入って行く。

 

これで何も居なければ、隣県の奴は気でも触れたと報告しておこう。

 

 

入って直ぐ、緊張が走る。死体だ。

刀傷で刺されたモノ、切られたモノ、断たれたモノ……どれも力任せに振るわれたであろうもので、武人が振るう魅了するような太刀筋のものは一つもない。

 

これだけならば野党の仕業と断定できる。

 

しかし、よく見れば腹を食いちぎられたモノ、喉を爪で裂かれたモノ、頭を噛み砕かれたであろうモノ……どれも人より大きい獣だけが振るう事のできる理不尽な暴力である。

 

虎か…若しくは其に準ずる獣か…

惜しくも、被害に合った村人達に生き残りは居ない。

大人、子供、老人、女、男…家畜の一匹ですら、等しく死んでいる。

 

ワカラナイ…言い得ぬ不安だけが立ち込める。

今まで見てきたどんな凄惨な邑も、此処よりマシに思えてならない。

 

 

田畑に転がる”子供だったモノ”を見て思わず顔がしかめっ面になる。

両足を食いちぎられ逃げ切れず死んだのだろう。

 

他の将兵にも不安や嫌悪感が伝播する。

 

 

さっさと見つけて退治しよう。

人であれ、獣であれ、若しくは”ソレ以外”であれ、退治しなければ被害が増える。其だけは確信できた。

 

 

 

「華琳様、お待ちください」

 

手合図だけで行軍を停止させると、秋蘭が指さすほうに何か居た。

 

「虎…かしら?」

 

一等高い家の屋根にソレは居た。遠目から見る限り、虎に見えるソレは踞って寝ている様にも見える。

 

「秋蘭、此処から射れる?」

 

 

「華琳様のお望みとあらば」

 

恐らく体躯が10尺はあるであろう虎が握りこぶし程にしか見えない距離。

先制を取るには弓による長距離射撃が必要だろう。

 

「なあ、秋蘭…あれは本当に虎なのか?妖怪とかじゃ無いよな?」

 

「ふっ、姉者は心配性だな。この距離程度なら造作もない」

 

秋蘭が静かに弓を番える。

 

「そうよ、春蘭。秋蘭が外す事も無いし、例え妖の類いであっても夏候妙才の矢を受けて無事なモノがある筈ないわ」

 

 

「そう言う事だ、姉者。今の私なら龍すら仕留められそうだ」

 

秋蘭が弓を引き絞る、大弓、餓狼爪がしなる。

二人が私に仕えた時に一流職人に作らせた秋蘭の武器、春蘭の大剣、七星餓狼と対を為す秋蘭の宝物。

 

「それもそうだな、”何か視線を感じた”が気のせいだろう…いっけぇぇえ!秋蘭!!」

 

 

「はぁぁっ!!」

 

 

引き絞った弦から矢が放たれる。

 

 

 

 

”何か見逃している”

 

頭の中で思考が駆け巡る。

これは何の討伐だ?…只の獣退治だ。事の発端は何だ?…狼の子供と親を退治した夜からだ。

今までに何人死んだ?…兵士を合わせて200人近くは死んでいる。

 

 

不意に昔、父親と狩りに出掛けた事を思い出した。

 

父曰く、『狼を狩る時は一匹も逃してはならない。奴等は集団で行動し、知恵が回り、狡猾だ。生き残りが居れば必ず復讐に来る。』

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、しまった…」

 

呟いた時には矢じりは虎のようなモノに命中し、下に落ちた。

沢山、積まれた木桶の上に…

 

 

「これは罠よ!!!」

 

 

後ろを振り返り、全軍に合図をだそうとすると、そこにソレは居た。

 

 

 

軍の最後尾、民家の上に、黒い毛に覆われた狼が…口に剣を携え、私の事見つめて居た。

 

死者の顔の如く、一切の表情が死んでる様にも見える狼は体躯が10尺をゆうに超える大きさを誇りながら、誰にも悟られず…恰も最初から其処に居たように、虎視眈々と見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

………私の首だけを…

 

 

 

「全軍撤退!!!」

 




漸く、オリ主と華琳様が会合しました。

見事なまでに敵対関係ですよね(笑)


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第3話

なんてこったい、時間が足りない。




漆黒の体毛に金色の双眸、まるで死者の使いのような出で立ちだ。

 

私の号令と共に、黒い体躯が動き出す。

大きい…10尺はあるのであろう体躯は馬よりも速い。

 

その駆け足は疾風の如く。障害になる兵士だけを切り裂きながら私のもとに駆けよって来る。

 

 

「華琳様!お下がり下さい!!」

 

「姉者!援護する!!」

 

私の号令とほぼ同時に異変を察知した春蘭が私の前に立ち、大狼目掛け走り出す。

秋蘭も兵士や春蘭の隙間を縫うように、大狼を追い詰めるべく弓矢を放つ。

 

咄嗟の出来事だが、我に返るには十分な時間だった。

馬上では不利だ…狼は馬と同じ速度で走れる…ましてやあの体躯だ。

補食者が近くに居るせいか、馬たちにも落ち着きが無い。

 

 

「陣を組め!!方円を組み、隙を作るな!」

 

兵を円に為るように配置し、四方八方の隙を無くす。

仮に一点を破られても、単騎駆けならば袋の鼠だ。

 

既に何人か犠牲が出ては居るが、憂いている暇は無い。

完全に奇襲が成功している。虚構を突かれた兵士達はされるがままである。

 

こうなったら、指揮官が常に状況を把握し逐一、適切な指示を出さなければ此方が殺られる。

 

直ぐ様私の兵士達は方円陣を組む、兵士を円形に配置したこの陣の良いところは死角が無い所。

 

数で勝る方が組み上げれば、ソレを崩すには単騎では不可能である。

案の定、方円の中に入ってしまった大狼は一瞬止まるが、直ぐ様私達に向かって駆け出す。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 

ガキィィン!と高い金属音が響く。

まさかと思えば、春蘭が大狼と打ち合っている。

普通の狼であれば、人が作った剣の使い方など分かる訳がない…しかし、あの大狼は剣の使い方を、どうやって使うかを”知っている”…

 

口に咥えた剣を全身で振りかざし、春蘭の太刀筋を止めた。

1合ならば偶然だろう…2合、3合すれば、互角に戦っている様に見えてくる。

 

口に咥えているのは粗末な剣だが、春欄の一太刀を”受け流す”には十分な強度を持っていた。

 

春蘭の体勢が崩れた一瞬を突き、得物を捨て此方に向かってくる。

秋蘭が一呼吸の内に4射もの鏃を放つが、必要最低限の動きで避けている。

包囲した中でも、秋蘭の弓が鈍る事は無い。囲い込んだ兵に当たらぬ様に、大狼の足を止めようと射るが、黒く覆われた体毛が鏃を裁いている。…私と秋蘭の側まで後、15歩と言った所か…

 

 

「ちぃぃ!!」

 

 

矢が通らないと分かると、秋蘭は顔を中心に射るが流石に不味いと判断した大狼は直ぐ様身を翻し、近くの兵士に飛びかかった。

 

 

流石に秋蘭も味方が邪魔で射る事が出来ない。

春蘭が急ぎ戻るも、既に襲われた兵士は首元を爪で切られていた。

人間の動脈がある部分を”的確”に…その兵士から奪った剣で再び春欄と打ち合う。

 

 

まるで悪い夢を見ているようだ。兵を引き連れ討伐に来れば、春蘭や秋蘭と殆ど対等に渡り合っている大狼が居るではないか…

 

…欲しい…こんなときに、そう思ってしまうのは私の性である。

 

 

幾度か打ち合うと、大狼に少し疲れが見えてきた。

その時、大狼は地面に剣を突き刺すと、ソレを足場として民家の屋根伝いに隠れてしまった。

 

 

「あの化け犬めっ!!」

 

 

「待て、姉者!追うな!」

 

 

「秋蘭のいう通りよ、春蘭。今は体勢を建て直しつつ撤退するわよ」

 

 

 

今、あの大狼の姿は見えない。

きっとどこかで、私達の隙を伺って居るのだろう。

何とも狡猾で利口な狼だ…この私を嵌めるなんて…

 

 

「各員、衝軛陣にしつつこの邑から撤退するぞ!!」

 

「「「応」」」

 

 

本来、衝軛は山岳等で使う陣だが、奇襲の対応には優れている。

 

私、春蘭秋蘭を先頭に急いで、退却を始めた。その時である。

 

 

 

”矢”が飛んできた。

 

 

大した速度も無く、雑に狙われた矢は武器を振るえば簡単に地に落ちた。

咄嗟の出来事に全軍の足が止まる。今はしてやられた気分だ。

 

「華琳様!?ご無事ですか?」

 

「弓矢だと!?一体何処から…」

 

 

「彼処よ…もう彼処まで移動したみたいね…最悪だわ。」

 

指差す方に、商家がある…左手の三軒先だ。

その二階、そこの軒先には縛りつけられた弓が在った。

飛んできた射角からみても、間違い無いだろう。

 

その隣には、あの大狼が此方を見つめている。

まるで《生きて帰れると思うな》と、言うように…此方を見続けている。

 

 

「死ぬがいい!!」

 

秋蘭が直ぐに射るも、中に入り消えてしまった。

 

「春蘭、秋蘭…駆け抜けるわよ。アレと同じ仕掛けが”一つとは限らない”」

 

聞いた瞬間に、二人の表情が変わる。自分達の置かれて居る状況を理解したのだ。

 

 

此では伏兵に囲まれて居るのと同義だ。

何処に居るかも分からない敵に、何処から飛んでくるかも分からない弓矢…最悪もいいところだ。

 

「走れ!!」

 

 

駆け出す。止まったら思う壺だ。焦燥感が伝わって行く。背筋に悪寒が走る。

 

後ろで兵士の悲鳴が聞こえた。足を射られたようだ。

 

「止まるな走れ!止まれば死ぬぞ!出口まで走れ!!」

 

今度は右手、次は左…四方八方から矢が飛んで来る。

大狼の姿は見えない、しかし確実に此方の移動先から…時には、後ろから。

当てることを想定してないのだ。

見えない所から攻撃されている。それだけで、人に恐怖は与えられる。

当たれば御の字、当たらずとも見せつければ良い。

 

”この邑全体が奴の狩り場だったのだ”

 

奇襲、伏兵、強襲、全て行える絶好の狩り場。

人を狩る為に作られた。最高の狩り場だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「春蘭…被害はどれくらいい?」

 

 

「はっ、騎馬、歩兵含め20人程です。…ですが…」

 

 

「分かってるわよ…士気はこれ以上ないくらいに最悪ね。全く、冗談じゃないわ…」

 

 

逃げ切った。邑から離れ一里先の野原で夜営を広げる。

死者、負傷者は多くない…しかし、大敗した兵士の士気は地の底だ。

 

討伐しに来ただけなのだ。そういう考えがいけなかった。

敵は強い。武だけ見ても春蘭や秋蘭に引けを取らない。

そして、なによりあの頭脳。一介の獣が持ち得る頭脳では無い。

軍の参謀に値する。2手3手先の事まで計画された罠だ。

これなら、自軍の3倍の賊を相手取るほうがマシだ。

 

 

「一応、夜襲に注意して。火を絶やさぬように、普段の倍は篝を使いなさい」

 

 

「夜襲をしてくるでしょうか?」

 

「あの大狼が人程の知能を持っているなら…ね?私ならそうするわ」

 

 

「御意」

 

 

 

春蘭が出ていったのを確認してため息を吐き出す。

疲れた…慢心しすぎて手痛い目にあった。

早く休もう…私の杞憂じゃなければ大狼は必ず現れる。獣は火を怖がるが、それは本能で恐れているからだ。

理性ある獣がそうとは限らない…

 

天幕の隙間風が妙に冷える。春先だというのに夜はまだまだ冷えるな。

横になって目を瞑る…もしかしたら……もしかしたら…

 

 

 

 

 

 

”もうすぐ其処に居るかも知れない。”




いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌!

はい、ふざけました。

時間が足りません。
何方かザ・ワールドか咲夜さん紹介してくれませんか?


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第4話

大変お待たせしました。
1ページ仕上げるのに10時間は使ってるな…1万字書く人達の執筆速度は一体…

補足程度に主人公の説明を書きます。
体長3M程、体高130cm程、体重110kg程です。
基本的には馬程度に押さえました。

流石にシフやモロサイズにすると戦略級兵器になり兼ねないので…


俺は間違っているのだろうか…

あの日、あの晩、邑を襲った日から永遠と同じ事を考えている気がする。

考えに考え抜いた結果の蹂躙劇、理性で考えるよりも本能に従った夜。

 

殺した。誰一人残さず、誰一人許さず。恐らく、関係ない女子供でも等しく殺した。

 

犯人は直ぐに分かった。”嗅ぎ慣れた臭い”を体に纏わり付けて居たからだ。

そいつらを消すのに邪魔な者を先ずコロシタ。見つかって騒ぎ始めたからコロシタ。

隠れていても見つけてコロシタ。必死の形相で逃げていた奴もコロシタ。

犯行を見られたからコロシタ。異変に気がついたからコロシタ。

立ち向かう奴もコロシタ。命乞いをする奴も当然、コロシタ。

 

 

子供だけはと懇願する母が居た。まだ乳離れも出来ないだろう赤子を抱いて震えて居た。

 

その時からの記憶が曖昧なんだ…何故、何故と…

 

 

 

 

”オレノカゾクダッテオナジコトヲシタハズダ”

ダカラ、コロシタ。

 

 

 

 

 

 

命が宿るモノ全てを蹂躙し終わった後、血の臭いだけがする邑には俺しか居なかった。

 

終わった…やり遂げた…感情の赴くままに復讐を果たしたのだ。

 

達成感、高揚感、多幸感が溢れ出る。

同時に罪悪感、虚無感、嫌悪感が俺を攻める。

 

人を殺した。それも一人では無く、大勢の人を…

人を殺した。明日を生きる為では無く、私怨を晴らす為…

 

俺は間違っているのだろうか…

その言葉が脳裏に過る…次第に膨らんでいって埋め尽くす。

 

分からない…解らない…ワカラナイ…

 

答えが見つからない。そもそも、答えが有るのかも分からない。

 

 

考えて、至った結果は一つだけあった。

 

”ヒトに生まれるべきでは無かった”

 

ふと過った言葉…妙に腑に落ちた言葉だった。

 

 

ヒトの素晴らしさ、ヒトの価値観、ヒトの感情、ヒトの思考。

これが俺を苦しめる。何故、俺はヒトに生まれた事を覚えているのだろうか。

こんな記憶さえ無ければ、本能だけに従い、今を苦しむ事も無いのに…

 

胡蝶の夢…そんな話があった気がする。

俺はヒトになった夢をみていたんだ…そう思い込まないと、きっと俺は俺を許せない。

 

誰でもいい、誰か俺を裁いてくれ…

自分で自分を罰するにも、本能がソレを認めない。

 

もし、これから先…俺を裁いてくれる奴が居るのなら…どんな罰でも受け入れる。

 

 

 

 

それから、二日程経った正午頃。

鎧を着込んだニンゲンが十人程現れた。

 

”きっとコイツらが俺を裁いてくれる”

 

そんな勝手な期待を抱きながら、敢えて裁かれる為に身を晒した。

驚き慌てふためきながらも武器を構えて襲いかかるニンゲン共。

 

”あぁ、やっぱり俺が間違っていたのか”

 

死を覚悟し、受け入れる。此で苦しみが無くなる。

 

 

眼前に迫る刃を見据えて、来るであろう痛みを想像した。

 

 

 

 

 

 

”イヤダ、シニタクナイ”

 

 

 

 

無意識の内に襲いかかる”テキ”の首を咬み千切っていた。

 

”マダ、シニタクナイ”

 

呆気にとられた”テキ”の喉を切り裂く。

 

”ナニモワカラナイママ、シニタクナイ!”

 

剣を奪い、薙ぐ様に断ち切る。

 

あぁ、なんだ…俺はまだ死にたく無いのか…

 

 

理性と本能が同じ答えを出した時、体が羽の様に軽くなった。

 

俺の殺そうとするなら殺してやる!

 

”一人を残し”皆殺しにした。わざと逃がしてもっと噂が広がれば、答えが見つかるかもしれない。

 

自責の念は俺を許してはくれない。本能や理性がシニタクナイと願っても、罪の意識が消えた訳では無い。

 

 

赦されたいのか…はたまた、裁かれたいのかは今は分からない。

でも、答えが見つかるまで…シニタクナイ。

 

 

 

保留、その選択肢が僅かに心を軽くした。

 

”今は次の攻撃に備えるべきだ”

仲間を殺したのだ、復讐に来ない訳が無い。相手が殺す気で来るのであれば、此方も全力で殺しに掛かるだけだ。

殺し殺されの中に、卑怯も糞も無い。生きて居なければ意味がないのだ。

 

地形を把握する。罠を仕掛ける。作戦を練る。

どうすれば死なないか。どうすれば生き残れるか。どうすれば逃げれるか。どうすれば攻められるか。

 

他には無い、自分だけの知恵という武器を全力で使う。

 

 

死体の位置を変える。俺の邪魔にならない位置に、敵の邪魔になる位置に。

弓を仕掛ける。手が無くとも紐を結べたのは不幸中の幸いだ。

経路を作る。最短で敵の前に行ける様に、気づかれず後ろに行ける様に。

囮を作る。身代わりになる様に、注意を引ける様に。

武器を選ぶ。爪や牙は俺の持ち得る最強の武器になるが、相手はニンゲンだ。

鉄で身を固め、鉄の武器を振りかざす。囲まれれば一溜まりもない。屈強な体を持っていようが、所詮、生き物は金属には強度で勝てない。

 

口に咥え振りかざす。返す刀で振り抜く。咬む力を調節し構えを変える。自分が出せる限界を知らなければ、なにもできずに死んでしまう。

 

弓を射る。どうやったら飛ばせるか、どうやったら当てられるか。

 

敵が来る。それれまでに身体に染み付ける。

生き抜いて答えを得る為に…

 

 

 

 

鎧を着たニンゲン共を殺してから四日が過ぎ、遂に現れた。

 

鎧を着込んだ”軍団”がこの邑の近くに居る。

 

ざっと100人以上は居るだろう。途端に恐怖と焦燥感が思考を支配する。

 

やれる事は全てやり尽くした。今からヤるのは狩りでは無い。復讐でもなければ、一方的な殺戮でも無い。

 

コロシアイだ、気を抜いた方が死ぬ。運が無ければ死ぬ。弱ければ死ぬ。

奴等を殺す算段はある…だからこそ、俺が死ぬことも大いにあり得る。

 

気配を殺す。敵の後ろを陣取り、機会を伺う。チャンスは二度も無い。一度きりだ。

 

一度の失敗で俺は死ぬ。圧倒的な兵力差だ。姿を晒せば、数多の槍、剣、矢が俺を串刺しにするだろう。

 

先頭に立つ男が辺りに指示を飛ばしている。あれが大将か…弱そうだな…覇気が無い。

 

 

近寄る…肉球が足音を消すから意外とバレない…

大将のすぐ真横にある民家の屋根に移る。動く気配は無い。部下の知らせを待って居るのだろう。

 

剣を力いっぱい噛み締める。警戒している奴は居ない…今しかない!

 

俺は屋根から飛び降り、重力に身を任せ、剣を振り抜く。

 

鮮血が舞い、ニンゲンだったモノに成り果てる…奇襲は成功した。

怒号、悲鳴、混乱、恐怖。ニンゲン達の表情は千差万別に写り変わる。

逃げる者、立ち尽くす者、襲いかかる者、代わりに指示を出す者、指示を求めて戸惑う者。

 

…なんて容易い…ニンゲンとはこんなものか…

襲いかかる者を直ぐ様切り伏せ、次々に襲う。

切り伏せる…次。爪で裂く…次。同士討ちさせる…次。淡々と近くの者から殺して行く。

 

狼は良い、その気になれば360度見渡せる視野が有る。

狼は良い、気配だけで生き物か骸か分かる。

狼は良い、臭いで周りの動きが分かる。

 

”それに比べてニンゲンは…ちっぽけな生き物だな。”

 

蹂躙を続けると、戦況が動いた。ニンゲンは蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのだ。

 

呼吸を整えながら考える。全身のあらゆる気管を使い邑全体に集中する。

狙うは一つ…はぐれた者から消して行く。

駆ける。一人なら容易い…二人なら簡単だ…三人なら注意する…四人以上ならば”後回しにする”

一人…また一人と、邑全体を東奔西走する。じわじわと…しかし確実に弱らせながら消してまわる。

 

気がつけば、日が暮れようとしていた。夕日が赤い。きっと今の俺も返り血でアノように赤くなって居るのだろう。

 

纏わりついた血で鼻が鈍るが、もう殆ど意味はない。

 

”此処が最後だ。”

 

邑から少し離れた農家に立つ納屋。此処からニンゲンの臭いがする。

五人…いや、四人か…一人はもう死んでいる。

体当たりをするが、中からしっかりと閉ざされている。さて…どうやって殺すか…

 

出ないなら…出たくなるようにするか…そうか…そうしよう。

 

 

 

 

「な…なんか、やけに静かになったな」

 

やはり、この身体だとかってが違うな…

 

「しっ!!あの化け犬に聞かれたらどうする!?」

 

道具は…あった。

 

「でも、どうするよ…外は化け犬が居るし納屋には食料は無いし…」

 

賑やかな連中だ、聞こえているとも知らずに…

 

「暫くやり過ごすしかないだろう!?もうじき奴も腹が減って寝床に帰るさ」

 

それは無いな、狼は腹持ちが良いんだ。

 

「しかし、暑くねぇか…納屋は風も入って来ねぇのか?」

 

漸く気がついたか…

 

「いや…待て、嘘だろ…煙が上がってるぞ!!」

 

もう、遅い。手遅れだ。

ゆっくりと立ち上がった”火の手が上がる。”

すっかり暗くなった辺りを照らし、黒煙が立ち上がる。既に夜、この煙に気づく者も居ないだろう。

 

納屋の喧騒が激しくなり始めた。仲間割れでもしたのだろう。

 

出ようとする者、出ようとするものを止める者、消火する者、祈る者。

 

どうでもいい、殺すことは決まっている。

殺そうとしたんだ、自分は殺されないなんておかしいだろ?

卑怯なんて言わせない、そちらの人数は多いのだから。

罵倒なんて受け付けない、生きねば意味など無いのだから。

生かせば殺されるかも知れない、なら殺すだけだ。

 

扉を壊して出てくる。煙を吸い込んで、噎せ返っている。…隙だらけだ。さようなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

長い一日が終わった。何人殺したかは覚えてない。僅かだが、生き残りは居るだろう。

 

結局、答えを探すのは忘れていた。あの指揮官を見たとき、なんてつまらないニンゲンなんだと思ったからだろう。

 

でも、もしそうだとしたら…きっと俺は…”敗北を望んでいるのだろうか?”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女を見たとき、生まれて初めて負けるかもしれないと思った。

人には気配がある。いや、動物には皆持っている。違いすぎる、なんてデタラメな少女だ。

 

”きっとコレが本当の覇気なんだろう”まだ成人してるかも怪しい身なりの少女。

金の髪に青い瞳、甘噛みすれば砕けそうな華奢な身体。

けれども纏う覇気は見た目に似つかわしく無いほど強烈だった。

従えている二人も只者では無いが、比較するのが馬鹿らしくなる。

王…いや、覇王か…その言葉が一番相応しい。

 

今は囮に夢中だ…今しかないか。

狙うは大将首一つ、他は後で考える。少し遠い…ちっ…間合いを見誤ったか…だが機会は他に無い。

 

ふと少女の言葉に違和感を覚えた…夏候妙才…どこかで聞き覚えがあるような…どこだ?

 

一瞬、考え込んでしまった時に矢が放たれる。

同時に彼女が振り返る。目と目が合う。…俺と彼女が動いたのは同時だった。

 

奇襲は…失敗だ…彼女の元に辿り着く前に兵士は足並みを揃え始めた。

強い…生まれて初めて自分の予想を越える”人”が目の前に居る。

赤い服の女も強い、俺の太刀を初めて受け止めた”人”だ。

青い服の女も強い、射る弓では俺の動きが制限される。”こんな人たち初めて見た。”

 

後、十歩…もう少し…

 

飛来する矢の隙間を縫いながら大将だけを執拗に狙う。

直前、”彼女は笑った。”

口角が上がり、好奇心に満ちた目で俺を見た。

 

 

死。

 

 

直感的に悟った俺は、来る二人を往なして一目散に屋根まで逃げる。

 

言い得ぬ恐怖の正体は彼女に有った。二人の女に襲わせて俺の視界から隠していた大鎌。

後、一歩踏み込んで居たら…俺が襲う前に彼女が俺の首を跳ねて居ただろう。

 

少しだけ残念そうな顔をする彼女を見て、俺は認識を改める。

勝てない、俺一人では出し抜けない。

 

勝てなくとも…全力を出さずに引けない。

弓を射る為の準備に入る。気配を殺し、自分の出せる限界速度を維持して駆け抜ける。

これで仕留められなかったら…俺の敗けだな…不思議と心が軽い。

今までで、この姿になって、”今が一番楽しいかも知れない”

一方的な狩りや蹂躙では無い。互いの持てる全てを一秒も無い一瞬に掛ける。

力、知恵、運、自分が持てる全てを出して命を掛ける。

死にたくないから全力になる。当たり前だ…しかし、今も”昔も”コレほど全力になったのは初めてだろう。

 

息を潜め、矢を咬わえ、弓を引き絞る。狙いは一つ彼女の頭。

手早く兵隊達を纏め上げ、出口に向かわんと動き始めた。

”不意にまた彼女が笑う”欲しいものを見つけた時の無邪気な子供の様に…

 

毒気を抜かれたと言うべきか、それとも見惚れたと言うべきか…言い訳はどうにでもなる。力を抜いてしまった。

 

少し頼りなく飛ぶ矢はいとも容易く彼女に払われてしまう。

 

彼女と視線が合う。自信に満ちたその表情は勝ちを確信した様にも、獲物を狙う様にも伺えた。

 

まだだ、まだ出しきって無い!確実に仕留める!

 

四方八方から矢を浴びせる。両足が千切れるほど痛い。呼吸が落ち着かない。弦を引く度、歯茎が切れそうだ。

後ろや上、虚構を交えながらも、執拗に狙う。自分の全てを掛けて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

負けた…完敗だ。万策尽きた。呼吸は何時まで経っても落ち着かず、口の中は切れ血の味がするし、足は棒のようになって走る体力も無い。

 

生まれて初めて…いや、俺と言う自我が記憶する限り初めての完敗だった。

 

 

後悔も未練も無い。俺は仕留められなかったのだ。明日、彼女は俺を仕留めに来るだろう。

確信とも言えるが、彼女に同じでは通じない。このままここに居れば、俺は録な抵抗も出来ずに死ぬだろう。

 

彼女が…彼女だけが俺を裁ける。罪を重ね続ける俺に止めを刺してくれる。

 

終わらせてくれる…どうしようもない俺を…

 

 

いや、我が儘だろうが…出来れば今日、死にたい。

この全力を尽くした達成感を抱いたまま死にたい。

こんな我が儘を彼女は許してくれるだろうか?しかし、思い立ったら身体は動いていた。

彼女の臭いを辿って…

 




暗いよぉ!!!なんで恋姫なのにこんな重いんだよぉ!!?

こんな調子でfateとか手出したらHELLSING並みにに死人が出るな…いや、zeroならあんま変わんねぇか…



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第5話

想像以上に高評価で手汗が止まりません。

執筆時間を確保する為にスマホでも執筆を開始しました。
これで30分くらい短縮できる筈…

余談ですが、活動報告に近況等書いてますので…暇があった時にでも覗いて下さい、殆ど本作には関係無い事ばかりだと思いますがね…

これから少しずつ、ほんわかしてきます。
そして今回は短めです。


”もしかしてそこに居るのでは?”

 

 

不意に襲って来る、悪寒。私の精鋭達に誰一人気づかれずに後ろを取ったあの大狼が、寝込みを襲わないのはあり得ない。

 

不自然だ…天幕は県令になった時に新品に変えた。冷たい風が入ってくる筈が無い。

 

そして何より…視線を感じる。

 

 

「…っっっ!!?」

 

飛び起きて周囲を見回すと、そこに彼は居た。

恰も最初から居たように、私を見つめて居た。

天幕の隅で腰を下ろして、金の双眸がこちらをずっと見ている。

 

 

声にならない悲鳴が出る。この世に生を受けてから、尤も恐怖と言うものを感じた。

刺客や賊など可愛らしいものだ。彼ほど気配というものを消せないのだから。

 

この曹孟徳が恐怖を感じている!?

 

 

その誇示だけで立ち直る。伊達に魔境の洛陽でのしあがった訳ではない。

 

直ぐ様、絶を手に取り、刃向ける。彼は一向に動かない。

 

「……何が望み?」

 

 

理解出来るかすら分からないが、思わず口にしていた。

寝込みを襲うなら既に私は噛み砕かれて居ただろう…

此方が武器を構えても、向こうは一向に襲いかかる気配が無い。

いや、昼間のよう明確な害意や殺気と呼ばれるモノが無い。

 

暫くの沈黙の後、ゆっくりと動いた。絶を握る力が強くなる。

 

しかし、彼は座った姿勢から前足を伸ばし伏せの姿勢になった。…本当に訳が分からない…

 

 

「大狼よ…言葉は分かるのでしょう?何が望みなの?」

 

 

敢えて武器を下ろして隙を晒す。しかし彼は反応しない…いや、正確には反応しているのかもしれない。

伏せた姿勢の彼をよく観察すると、頭は下がり、耳は後ろに向いている。

不安…?いや、これは…

 

「服従…いえ、降参すると言うの?」

 

<…クゥゥン>

 

鳴いた。今、確実に鳴いた。返事をした。

仕草と鳴き声から察するに、降伏に来たことで間違いないだろう。

勝った?あれだけ何も出来ずに居たのに?

 

「にわかには信じ難いはね…」

 

そう呟くと彼はコロっと転がり腹を晒してきた。

やはり言葉は理解している。私が疑えば、自らの弱点を晒して”好きなようにしろ”と言わんばかりに無抵抗だ。

 

恐る恐る近寄って、触ってみる…抵抗はしなかった。

と言うより、思った以上にもふもふしている。

もっと固いと思っていた。…毛の密度が濃いから移動速度と合わさって矢を弾いているように見えたのか…

 

彼はなんで撫でられているのだろう…と、不思議そうな表情をしている。

彼はかなり表情に出やすい、表情をしっかり見ていれば考えている事が手に取る様に分かる。

 

「降伏…に来たのよね?」

 

<…クゥゥン…>

 

服従…いや、高い知性を持つものが、おいそれとそんな事をする訳が無い。

考えろ…彼の心を…彼は言葉は交わせずとも同等の知能を持ち合わせている。…同等?

 

「あっ…」

 

全ての謎が氷解した。

彼が高い知性を持っているなら、そもそも人を敵に回す理由が無い。

仮に人にバレたなら、広がる前にソイツを消す、だがそれは最適解では無い。

自分達が消えれば争いは起きない。巣穴を変えるだけで争いは起きない。

争いが起きればどちらかが死ぬ、狼も人も他の動物だって仲間意識はある。

やられたら、やり返す。人が人である前から変わらない一つの本能。

では、仲間を守るには何が一番最適か…そんなの決まってる。

外敵が居なければ…お互いに干渉しあわなければ…悲劇になることは無かった。

 

狼だ。家畜を襲う害獣だ。人にはその認識が当たり前だ。

人だ。縄張りを犯す侵略者だ。獣にはそれが当たり前だ。

 

「悲しい…事があったの…ね」

 

彼は何も言わない、言えない。けど、今にも溢れ落ちそうな涙で自分の推理が確信に変わる。

仲間…いや、彼からすれば家族が殺されたのだ。”人に見つかっただけで。”

自分が帰って来たら家族が皆死んでいるのだ。私だって復讐心で壊れてしまう。

 

それで殺して、殺して…一人になって、どうしたらいいか分からなくなって…

やってしまった後悔とやり遂げた充実感。どちらも本物でどちらも切り離せない。

もし、私がそうなったら…春蘭や秋蘭が私の預かり知らぬ所で、彼と同じことをされたら…

 

私は彼を否定出来ない。私がそうなったら天子の首でも刎ねる。

彼女達は私の従者であり、恋人であり、親友であり、姉なのだ。

 

私は彼を肯定出来ない。彼の行ったことは決して美徳では無い。

感情に身を任せる事は、”人”のやってはいけない事だ。行えば人は獣に成り下がる。

 

この問いに答えは無い。

”そんな事、やった本人が一番分かってる。”

 

だからきっと…彼は死に場所を求めて、自分を倒せる者を引き寄せる為にわざと…悪行を重ねたのだろう。

 

殺して、復讐に来た者も殺して、いつか倒されるその日まで…

 

「…なにもかも忘れて逃げればよかったじゃない」

 

彼は静かに首を振る。分かっているのだ。人を敵に回せば、この大陸中…何処に居ても変わらない。

一度犯した罪は消えない。村を滅ぼした化け犬…この烙印は彼が死ぬまで消えないだろう。

仮に安住の地が在るとして、これほど知能を持った彼が家族を忘れてのうのうと後生を過ごせる訳が無い。

 

だから、私なんだろう…彼が初めて仕留められ無かった獲物は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、ダメよ」

 

彼は飛び起き、驚愕の表情に染まる。

”何故、どうして”と言わんばかりに目を見開いている。

 

「簡単なことよ、別に私は勝っても無いし貴方も勝って無い…両者引き分けじゃない」

 

”納得出来ない”…そんな表情だ。

 

「そんな事、此方だって知らないわよ…勝手に負けたと決めつけて、勝手に裁かれるのを望んでるだけじゃない」

 

”ぐぬぬ”と、苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。…本当に表情に出やすい子だ。

 

「簡単な勝負をしましょう。明日、貴方を探しに行く。貴方は私に見つからなければ貴方の勝ちどんな望みだろうと叶えてあげるわ」

 

彼から表情が消える。…きっと、これが考え事をしている時だろう。

 

「但し、もし私に見つかったら一生私に従って貰うわよ?」

 

”なんて横暴な”とでも言いたげだ。

 

 

「理解したなら行きなさい、明日の日の出と共に全軍を挙げて貴方を探すわよ」

 

<ワン!>

 

 

此方を振り返る事無く、天幕内から出ていく。何気にしっかりと彼の声を聞いたのは、今が初めてかもしれない。

 

 

 

 

「華琳様!今此方で獣の鳴き声がしませんでしたか!?」

 

「あら、春蘭、丁度今出ていったわよ?」

 

「あの化け犬め!!寝込みを襲うとは卑怯な!警邏の連中は何をしていた!!?」

 

「落ち着きなさい、それと、急いで準備して欲しいものが二つあるのだけれど…」

 

「え?あっ…はい、分かりました」

 

 

「明日の日の出にはもう一度あの邑に行くわよ…ふふっ、待っていなさい、直ぐ捕まえてあげるわ…」

 

 




黒狼「クンクン…彼女の天幕は此方か…あっ、警邏さんお疲れさまです」(無意識、気配遮断A+++)

警邏「ん?今何か通ったような…」


だいたい、こんなレベル。


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第6話

前回は描写が少なかったと反省しています…
違うんや!徹夜明けで仕上げたのがいけないんや!!
(今回もそんな多くねぇんだよな…)

それと読みやすくする為に、ワンコ君の鳴き声は< >表示します。

今回は曹魏以外の重要キャラが出ます。


夜明けか…まさか、対決する羽目になるとはな…

 

 

彼女が…華琳だったか?…あんな負けず嫌いとは思わなかった。

しかし、どうしたものか…俺が勝った所で正直、何を願えば良いのやら…

 

ここは敢えて見つかるべきか?いや、そうしたら彼女は、失望してしまうか…

あくまでも勝負…其処に手加減等あってはならない。

そうした上で、彼女は俺から勝ちたいのだろう。

なら、隠れる所は決まっている…

 

 

 

邑から少し離れた山に俺の住みかがある。

其処で一日待つとしよう…彼女の課したルールは破って無いし、何より皆が死んでから立ち寄って無い…

 

既に五日…いや、もっとだろうか…考えて寝て、考えて殺して…そんな日々しか送ってない。

 

せめて、墓くらい拵えてあげなきゃ…

 

 

 

 

 

 

日が真上に昇り始めた頃、漸く埋葬が終わった。

大きさの違う石を家族の分だけ積み重ねる。

安易的な土葬、今の俺に出来る最大限の罪滅ぼし。

 

もし、ニンゲンを恐れてもっと早く引っ越していたら…

もし、すれ違ったニンゲンを殺していたら…

もし、俺が此処を住みかとしなかったら…

 

もし……もし……いや、やめよう。こんな事は”もう考え尽くした。”

 

後悔しても家族は帰ってこない…

後悔しても殺した奴等は甦らない…

 

そう結論付けて、考える事を止めた。多分、彼女ですらこの問いに答えられないだろう。

 

感情に従って復讐を果たした事が是なのか非なのか…

そんなの俺の居た時代でも答えなんて千差万別だろう。

是というニンゲンも居れば、非と叫ぶニンゲンも居る。

 

俺の…俺の?

 

 

 

”俺は誰だ?”

 

…俺は…狼だ…俺は…人…だったのか?…

 

俺は最初から狼で…夢で人になってただけなのでは?

 

おかしい…少し前まで人であった記憶が鮮明にあった筈なのに…

 

ショックによる記憶障害?…いや、そんな事を狼の俺が知るよしも無いか…

 

分からない…今が悪い夢で、人が俺なのか…人として過ごした事が夢だったのか…

 

人だった頃の家族、他の人たちの顔、俺の名前…今、思いだそうとしても出来ない。

 

 

気が狂いそうだ…吐き気が込み上げる…

 

昨日見た夢が思い出せないように、他愛のない会話が思い出せないように…

”俺は俺を思い出せなくなっている”

 

全く…神様とやらが居るのなら、とことん俺の事が嫌いなんだろうな…

 

糞が…もし、俺の前に出てきたら殺してやる…ん?

 

 

 

なんだ?誰か近くに居る?

臭いが…しない?…だが、それとなく気配がある。

 

恐る恐る後ろを振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見たことの無い”筋肉達磨”が拳を振りかざす光景を最後に、俺の記憶は途切れた。

 

 

「ごめんなさいね、ーーちゃん…ご主人様と出会う前に貴方の想い出を全部無くさないといけないの……」

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、側に華琳が居た。空を見上げれば夕日が見える。

辺りに視線を動かしても華琳と俺の二人きりのようだ。

何時まで寝ていたのだろう…なんで寝てしまったのか…まぁ、いいか…

 

「あら、漸く目が覚めたのね」

 

起きた俺に気づいたようだ。この勝負は俺の負けだな…

 

家族の墓に白い花束が添えられている。きっと華琳が添えてくれたのだろう。

 

「大変だったのよ?山に詳しい猟師に狼の寝床に適した場所を聞いたり、墓に添える花束を早急に用意するのは」

 

別に東奔西走したのは君では無いだろう…春蘭か秋蘭だろうに。

 

「何?何か文句でも?」

 

イエ、ナンデモゴザイマセン。…くそ、本当に考えを読まれてる…

 

「何で寝ていたとか聞きたい事はあるけど…勝負は勝負よ、私の勝ちで良いかしら?」

 

あぁ、依存は無い。俺の敗けだ、好きにしろ。

 

「ならば、この曹孟徳に仕えてもらうわ。貴方の命が尽きるその時まで、我が覇道を支えてもらうわよ」

 

覇道…王になるつもりか?

 

「えぇ、私はこの大陸を統べ、天下の覇者となる」

 

…俺を殺さないのか?

 

「なんでそんな勿体ないことをしなきゃならないのよ、貴方が思っている以上に貴方には価値があるわ」

 

そうか…いや、いい…敗者は勝者に従うのが道理だ。申し出を受けよう。

 

「そう、なら名前が必要ね…貴方は今日から”黒曜”よ、良いかしら?」

 

黒曜…良い名だ。由来はなんだ?

 

「読んで字の如く、黒曜石からよ…貴方の漆黒の体のよく合うと思わない?」

 

かもな…確と承った。

 

「…他にもあるけどね…」

 

ん?何か言ったか?小声で聞き取れなかった。

 

「気にしなくていいわ…それより、別れが済んだら行くわよ」

 

あぁ…少し待ってくれ。

 

 

 

 

 

すまない、お前達…俺はまだ、お前達の下に行くことは出来ない…

お前達が死ぬことになったのは俺の責任だ。恨んでくれて良い…

俺はニンゲンに仕える事になった。お前達を殺したニンゲンとは異なる奴だ…

こんな不甲斐ない長を赦してくれ。呪ってくれても構わない…

さよならだ…今までありがとう…

 

 

 

少しだけ、肩の荷が降りた気がした。

今日、今この時より俺は黒曜だ。

 

一介の獣から、王となるべき主を支える狼になったのだ。

我が主、華琳。その覇道を約束しよう。

道が無ければ切り開く、敵は全て食いちぎる。

華琳の敵は俺の敵だ。邪魔立ては世界が許しても俺が許さない。

この命が朽ち果てる、その時まで…

 

 

 

 

「…別れは済んだかしら?」

 

あぁ、すまない、遅くなった。

 

「なら、帰るわよ…私達の家へ」

 

<ワン!!>

 

 

 

返事をして共に帰路に着く。気がつけば日は沈みきっていた。

 

 

 

 

 

「華琳さまぁーー!!!」

 

少し遠くで春蘭と呼ばれた女が叫んでいる。近くには秋蘭と呼ばれた者も居た。

 

 

 

「…そういえば、日が沈んでも帰って来ないようなら貴方を殺す様に頼んでおいたのを忘れていたわ」

 

 

前言撤回、俺は仕える主を間違えた。




気になった人は参考までに「オブシディアン」で調べて貰えると助かります。

前回の後書きで思い付いた小ネタです。
本作には関係ありません。

クラス・アサシン
真名・黒曜
属性・中立、善
筋力A+、耐久D+、敏捷A++、魔力E-、幸運D-、宝具A++
クラス別スキル・気配遮断A+++
保有スキル・直感C+、怪力D、カリスマC-、狂化E-
<詳細>
曹魏の霊獣、曹操の忠犬。
曹操が県令になった時から、乱世で戦い抜いたと言われる狼。
その体躯から妖怪と恐れられて居たが、魏に住む人達は皆これを否定したと言う。
人の言葉を理解し、策の要を担うこともあった。
誰一人気づかれる事無く近寄り、気がつけば四肢を食いちぎられたと言う逸話が多く見られる。
曹操が赤壁で戦った後、戦場でその名が見られることは無くなったが、魏書などでは度々名前が出てくる。
出生と晩年が不明で一部の人には未だに生きていると言われている。


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第7話

大変お待たせしました。


難しい…描写とはこんなに難しかったのか…


この話で第一章終了となります。
次回から、黄巾党編になります。




まったく…コイツらはどうにも癖のある連中だ。

 

コイツらと過ごすようになり、既に半年は過ぎた。華琳はあっという間に昇進し陳留の刺史となった。

なかなかの出世だ…華琳が優秀なのもあるが、それ以前に他者が無能だ。

 

何故、百から先が数えられない様な無能が役職に着ける…全くニンゲンは度し難い…

 

 

華琳は”困った性癖”さえ除けば完璧だ。

初めて見た時は絶句した。獣の俺としては理解し難いが…まぁ、本人達が幸せそうなので不干渉に徹した。

何処かに良い番は居ないものか…

 

 

 

次に秋蘭…春蘭と似ていたが、まさか姉妹とは思わなかった。

コイツも一見普通だが、常軌を逸した姉バカだ。

しかも、姉が現在進行形で”バカ”してるのに止めずに終息不可直前まで傍観してやがる。

 

 

そして、一番の問題児が「おい!黒曜!こんな所で書なんか読んでないで鍛練に付き合え!」

 

 

”コイツである。”

 

姓は夏候、名は惇、字は元譲…真名を春蘭…俺から安息を奪う者だ…

 

 

有無を言わさず目と目が合った瞬間、首根っこを捕まれズルズルと拉致される。

書庫の文官達は見慣れた光景になったのか哀れみの視線を向けてくる様になっていた。

 

 

訓練場まで無理矢理連れて来られた俺の前に剣を置かれる。

「さあ、勝負だ!!」

既にこのやり取りは華琳の下に来て二日に一回はやってる。

 

休みが欲しい…切実に…

 

力なく剣を咬え、『本当にするのか?』と目線で訴える。

 

「よし、準備は出来たな!」

 

違う、そうじゃない。

 

 

なんでコイツは自分の良いように解釈するんだ…覇気もやる気も出してないぞ…

 

この光景を他二人が見た時は”黙認”である。お陰さまで読書も儘ならない。

 

しかも、コイツが兵士達の長である。当然ながら、訓練場は兵士の為にあるから止める者は居ない。

 

 

「いくぞ!!」

来ないで下さい。

 

真っ向からの降り下ろし、咬えた剣でわざとに当てる。 当てた時に僅かに力を弱めて剣撃を逃がす。

俺の癖…というか、技の一つ。

剣撃を真っ向から受けなければいけない規則等無い。

だったら、わざと衝撃を逃がせば良い。 此を行うとニンゲンは嫌がるのを俺は知っている。

 

 

華琳曰く「剣と剣がぶつかる衝撃は武器を持った人間誰しも知っている感覚…その先入観を故意に崩されるのは、敵対する者に焦燥感と不快感を与えるでしょうね…」

 

よく分からないが『ニンゲンが嫌がる戦法』として多用している。

 

「ちぃっ!!」

 

横凪ぎが迫る。ニンゲンと違って、俺は構えを変える事は出来ない。 出来て右か左かの違いだ。

 

当たる訳にもいかないし、かといって受けるのは姿勢が崩れる。

だったら、避けるまで。 その場に伏せて、剣が真上を過ぎてから後ろに飛び退く。

 

着地前に体を捻らせて、後ろ足で土を掛けてやる。戦場に卑怯も糞もない。

前はこの戦法で春蘭を苦戦させた。

 

「猪口才な!!」

 

流石に効かないか…ならせめてもの意趣返しに実験させて貰おう。

剣を確りと咬み絞め全身に力を加えて、跳躍する。狙うは足、ニンゲンは自分の目線より下に行けば行く程、注意が疎かになる。

斬れれば重畳、抜ければ成功、止められれば失敗。

春蘭はその場から飛び上がることで刃を躱し、俺は背後に抜けた。

 

「くっ!?」

 

春蘭を一つの円として、跳躍による斬撃を加え続ける。

跳躍。斬撃。着地。跳躍…この過程を絶え間なく続ける。時折、着地した後に一歩二歩前後にずらし次の狙いどころを悟らせない。

狙いも頭、首、胴、肩、脚。一つでは無く跳躍した時に狙いやすい位置を判断するだけ。

本来は一対多数の戦に於いて俺が複数を相手取る為に考えた戦法だが、余りに理にかなっていた故一対一でも通用するかの実験だ。

これは使える…春蘭を防戦一方に追い込めれば、成果としては重畳だろう。

 

 

…相手が春蘭程の猛者じゃなければな……

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 

後方からの胴狙いを見切られ、春蘭の振り抜いた剣が俺の剣と交わる。

訓練用とは言え、俺は力任せに振るうだけ。春蘭の用に洗礼された太刀筋は見事に俺の剣を叩き切った。

 

刀身は折れ、咬み絞めて居たために顎が痺れた。…これだから嫌なんだ。

春蘭と試合を行う時は俺は爪や牙を使ってはいけない。華琳が定めた事だ…俺が持つ爪や牙はどうしても加減が出来ない。

故に剣が折れるかどちらかに降参させる迄勝負を続ける。…なんとも俺に優しくない。

 

 

「ふぅ…今日はここまでか。やはり専用の武具を作ったらどうなんだ?」

 

<ワン!>

 

要らないな、俺には爪や牙がある、ニンゲンを殺すのなら充分過ぎる凶器だ。

 

「むぅ…あればもう少し戦って居られるのだが…」

 

だったら余計に要らねぇよ…というか意思が理解出来るのなら連れてくるな。

 

言葉が通じるのならば、小一時間程説教をしてやりたい。

こんなやり取りをしている間に秋蘭が歩いてきた。

 

「ここに居たのか、姉者。華琳様がお呼びだ…あと黒曜もだ」

 

このバカをなんとかしろと秋蘭に訴えるが微笑んで「諦めろ」としか言わない…解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「華琳様、姉者と黒曜をお連れいたしました。」

 

「ありがとう、秋蘭。春蘭、近隣の賊が馬を盗みを働いて逃亡しているのを確認したらしいわ。急ぎ兵を編成して出るわよ」

 

「はっ!!」

 

「今回は黒曜、貴方も出るのよ」

 

<フンッ>

 

鼻を鳴らすだけの返事、大体の感情は読めるのだからこんなもんだ。

そもそも乗り気では無い、賊の討伐なら余程の規模で無い限り春蘭一人で事が終わるだろう。

俺が出向く必要もない。

 

 

「残念だけど、今回は捕縛よ。貴方には立派なお鼻があるでしょう」

 

追跡係りかよ…めんどくせぇ…

 

 

「それに今し方、賊が逃げた方角に星が落ちたのよ」

 

「星が…ですか?」

 

 

秋蘭が俺と同じ疑問を口にする。俺としてはどうでもいい限りである。星が落ちようと天下が乱れようと華琳という長が健在ならどうでもいい。

 

 

「巷の占い通りと?」

 

「もし本当なら利用しない手はないわ。私の覇道に協力してもらうし、もし魑魅魍魎の類いならば黒曜が倒すでしょう?」

 

成る程、化け物には化け犬か…ハハハッ…長じゃなかったら噛み殺すぞ。

意地の悪い笑顔でニヤニヤと…良い性格してやがる…

 

「それは冗談として、黒曜…貴方は人で無いから用兵は出来ないじゃない?かといってその身体は文官をさせるには強靭すぎる…故に貴方には私が出陣するときは必ず同伴しなさい、良いわね?」

 

致し方ないさ…それが命ならば従うのみ。

現に俺の正確な役職は無い…当然と言えば当然だが、役職が無いことはつまり仕事がない。

華琳は兵力の一旦として迎え入れたが、結局ニンゲンの住みかに居場所なんて無かった。

街に出れば阿鼻叫喚、訓練所ではそもそも鍛練する必要があまり無いし、春蘭や秋蘭以外相手にならない。

文字を覚えて文官の仕事は覚えたが、別に政務に差し支えがあるほど人手不足でも無い。

暇な時に草案や春蘭の仕事の一部が回って来るくらいだ。

 

だから結局、書庫に籠って知識を深めるしかすることが無い。…その知識も使う機会がそもそも無さそうだがな…

 

「分かってくれれば良いのよ…さあ、行くわよ」

 

 

ん?華琳が出陣する時は強制だろ?もしかしてそれ以外にも命令によっては出陣か?…嵌められた、殆ど毎回じゃないか…糞が…

 

書庫番をしている”猫耳ちゃん”には暫く会えないな…びくびくしていて見てて面白かったのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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賊を追っては居たが、結局収穫は無かった。

 

いや、一つだけあった”北郷一刀”という変わったニンゲンを拾った。

 

此方を見るなり驚いたかと思えば泣きそうな顔になったりよく分からない奴だ。

 

悪意は感じない…けど、”何か隠している”…そんな感じがする。

 

別に華琳が保護するならそれで良い。危害を加えようなら殺すだけだ。

 

自己紹介やらなんやらが終わった後、北郷が去り際に「すまない…」って謝って来たが…あれは何だったのだろうか?

 

どうでもいいか…俺が覚えている限り、”俺は華琳達以外のニンゲンと関わった覚えがない”

 

華琳が俺の全てだ。彼女が良いならそれで良い。

 

 

 

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「貂蝉か…」

 

 

「ごぉぉぉぉぉしゅぅぅぅぅじぃぃぃぃんさぁぁぁまぁああ!!!!」

 

 

「うるさいぞ!!?華琳達にバレたらどうする気だよ?!後、こっちに来るな!!?」

 

 

「だぁぁあぁれが視界に納めたくない程気持ち悪いですってえぇえ!?」

 

 

「そこまで言ってないだろ?!…まったく、何処に居ても変わらないな」

 

 

「こぉれがあたしだからねん」

 

 

「ハハッ、だよな…悪い忘れてた」

 

 

「全部覚えてる訳じゃあないのね…」

 

 

「あぁ、貂蝉を覚えていたのは不幸中の幸いだったよ…でも、”アイツは”…」

 

 

「其処までよ、時間切れだわ。今から記憶を無くすわよ?」

 

「そうか…そうだな、頼む」

 

 

「ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「え、マジでグーで」バキッッッ!!!

 

 

 

「ごめんなさいね、ご主人様…幸運を祈ってるわよ…」




感想を見ていて「あ、これエンディング知らねえと理解出来ない描写だわ」と今更気がつきました。
今回で少しは謎が溶けたでしょう。え?増えた?
それは知らないなぁ(暗黒微笑)


余談ですが、真恋天下で双葉欲しさに5連爆死しました。


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第2章~黄巾の乱~
幕間~黒曜と覇王~


既に分かっていらっしゃるかも知れませんが…

多機能フォームの使い方がイマイチ分かりません。
今回はそんな中試しに使ってみます。読み辛かったら申し訳有りません。


俺は華琳の下に来てから時折考える…『俺は本当に此処に居て良いのだろうか』と…

 

 

最初に街に入った時、それはそれは酷い有り様だった。

俺の姿を見て悲鳴を上げる者や恐れ慄くニンゲン達。 しょうがないと言えばそれで片付くだろうが”理解は出来ても納得は出来ないのだろう”…

華琳が軍の中で演説し俺を紹介した時も、街中で民衆に語り聞かせた時も、結局”害は無い”と言われた所で俺を知らない者からすれば”所詮、狼である”…

 

 

一人で街を歩こうならば、ニンゲンは皆隠れ、番兵達は遠巻きから俺を監視し続けている。

それは二週間を過ぎても変わることは無く、俺は外を歩く事を辞めた。

 

華琳から自室…もとい、立派な犬小屋を貰ったが、一日此処でぐうたらしているのは性に合わない。

昔は狩りをしながら一日一日を一生懸命生きて居たのだ。

 

時折、春蘭や秋蘭が手合わせに来るが生憎と俺には爪や牙が使えない戦いでは不完全燃焼もいいところである。

運動にはなるかも知れないが、狩りや殺し合い程の”緊張感”が足りない。 やっていて全く面白くないのである。

 

ニンゲンはそもそも戦う身体を有して居ない…代わりに他の獣とはかけ離れた知能と器用さを誇るのだ。

故にニンゲンは鍛練という事を続けなければ、”殺し合い”という獣の本質が日に日に劣ってしまう。

 

何とも度し難い…

 

結局の所、華琳の下で罪滅ぼしを予てニンゲンに従う事にはなったが…何もすることがないとはな…大規模な反乱でも起きないかな…

 

 

そうして、今日も現実逃避を予て書を漁る。

文字は一通り覚えたのだから、「次はニンゲンだけが有する知識でも覗いてやろうかな」…と思ったのがいけなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

想像以上に面白いのである!!

特に孫子!これを書いた奴は天才だ!

これを覚えればもう狩りは失敗しない…あぁ、やっぱり大乱でも起きないかな…

 

俺は外に出歩けない。悔やしい限りだが致し方ない。

毎日毎日、妄想だけで我慢する。

街から出れば、俺を見たことの無いニンゲンと出くわすだろう。

そうするとどうなるか、簡単である。殺し合いが始まる。

 

ニンゲンからすれば俺は化け物だ…戦うか逃げるかの2択だろう。

逃げる分には構わない…が、結局は駐屯兵や番兵に知らせが届いて騒ぎになり、華琳の耳に入る。

逆に襲い掛かってくれたら躊躇わず殺すが「曹操の化け犬が民を殺した」と騒ぎになるだろう…

どちらに転んでも俺に利が無い…全く度し難い…

 

仮に殺さないとしよう、「曹操の化け犬が逃げた」と騒ぎになる…結局華琳の耳に入る。

仮に誰とも出会わないとしよう華琳から「何処に行っていたの?」と聞かれて「近くの野山まで一狩り行って来ました」とでも答えるか?無理だな…首輪を付けられ縄に繋がれるだろう。

奴ならそうする。絶対そうする。むしろ喜んでそうする。

嫌だ…それだけは嫌だ…長とも認めよう、命令にも従おう…だが、”ニンゲンに飼われているように見える”のだけは嫌だ。

唯一、俺に残っている”狼”としての誇示なのだ…”俺は元より野生の狼なのだ”。

 

華琳に嘘をつく…そんな事が出来る奴がこの世に居るのか?

 

ふぅ…妄想も疲れたな…しかし、今日は一段と暇だな…春蘭は警邏だし、秋蘭は北郷に字を教えているし、書庫番の娘も今日は居ないし…やっぱり戦争でも起きないかな…

 

 

「あら、やっぱり此処に居たのね」

 

ふと、声がした入り口の方を見れば華琳が居た。おかしいな政務の筈だが…

 

「もう昼時よ、それに引きこもりの顔を見たくなってね?」

 

あぁ、そうかい…

 

一瞥してから窓から外を覗けば、日は天高く昇っていた。気がつけばそんな時間か…

 

「街に出るわよ。貴方の武器を買いに行くわよ」

 

いや、必要無いだろう。爪や牙があればニンゲンは殺せる

 

「ダメよ、例え地を裂き岩を砕く爪や牙が在ろうとも、貴方は生身じゃない」

 

待て、お前らも大差無いぞ。あれの何処に防御を施す部分がある?

 

「私たちはどちらかと言うと、己を鼓舞したり相手に印象付けたりする為よ」

 

そんなものなのか?

 

「そんなものよ…さぁ、行くわよ」

 

読書の途中だが…まぁいい、丁度飽きていた所だ

 

「そう?それにしては嬉しそうね?」

 

……なんのことだか…

 

「尻尾」

 

 

 

尻尾なんて気にした事も無かった。最初から身体に在るものだし、自分で任意に動かした所で何が変わる訳でもない。

首だけ後ろを見れば尻尾が左右に降れている。傍から見れば「ものすごく嬉しい」と言わんばかりに…

 

 

 

止まれ…えぇい、止まらぬか!!

 

噛みつかんで止めようと試みるも身体が一回転しただけで終わる。

ダメだ…止まらない…いっそ千切るか?…はっ!

 

 

 

恐る恐る華琳の方に向き直れば、口許を手で押さえ笑いを堪えてやがる…

「…ぷっ、あはははははははっ!」

目と目が合った瞬間、決壊した。

大声で笑う華琳、俺は俺で大切な”ナニか”が音を立てて崩れていく気がする…

 

 

ぐぅぅ…なんなんだこの羞恥心は!!何故俺の尻尾は止まらんのだ!?

 

「はぁ…あぁ、可笑しかった…お腹痛い…」

 

ダレカ オレヲ コロシテクレ

 

「ふぅ…冗談はそこまでにしてそろそろ行くわよ?」

 

分かっている!行けば良いんだろう!?

 

「あら、嬉しいのでしょう?」

 

ぐぬぅぅ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全く…本当に“いい性格”してやがる…いつか覚えていろ、ネタがあったら弄り倒してやる…

 

あれから武具屋に着くまでニヤニヤし続けた華琳は非常にご機嫌だ。

もし、この事が他の奴に知られれば…あぁ、憂鬱になってきた。コイツならやりかねない…

きっと、一同揃った面前でやるだろう…コイツならそうする。

 

「ほら、コレが貴方の新しい牙よ」

 

華琳が手にしているのは鈍い鉛色に淡く光る一つの鎧だった。

頭と前足さえ通せば装着が出来る胴部しか守られない安易な鎧。

しかし、よく観察すれば春蘭や秋蘭の用に金の意匠が施されており、薄いのに丈夫そうである。

そして、極めつけに両肩に備わっている二本の剣。

春蘭の七星餓狼のような漆黒の刀身。然れど、形状はどちらかと言うと柳葉刀に近い。

持ち手は小さく、実に咬えやすい大きさだ。刀身自体は一般的な兵士の剣より短めだ。

恐らく撫でる用に切り刻む為の武器である事が伺える。気になることがあるとすれば二本と言う事だけだ。

 

「あぁ、これはこうするのよ」

 

華琳が二つの剣の柄同士を合わせるとカチッという音と共に一つの剣となった。

また、外す時は片側を固定し、もう片方を斜め上に引くと外れる設計だ。

装着も取り外しも、俺の首が回る範囲内に納められている。片割れを抜き、反対の片割れに繋げられる。

外す時は片側を先に納め、首を回せば外れる。そのまま片割れも納刀できる。

コイツは凄いと観察を終え、実際に咬えてみる。なんと言う事か、両方の剣の重量に差異が無い。

訓練中に何度か兵士達の剣を咬えたが、形が同じ成れど重さが若干違う物が多かった。

コレは違う。完全に同じ重さだ。抜刀、納刀も首の回すだけの簡単な動作。

 

これが俺の…俺だけの武器…

 

「銘を流星餓狼…春蘭、秋蘭。そして私の武器を作ってくれた鍛冶師に作ってもらったのよ」

 

竈の近くに居るがたいの良い老人に礼を込めて頭を下げる。

老人は片手を上げ返事をすると、満足そうに店の裏手に入っていった。

 

「気に入ったかしら?春蘭や秋蘭に聞いたのよ、貴方の戦い方からして尤も貴方に合う武器を考案してくれたのよ。後で礼を言いなさい」

 

あぁ、そうさせてもらうよ

 

 

「さぁ、用も済んだし帰りましょうか」

 

 

<ワン>(ありがとう)




やれるだけのことはやりました。(達成感)

余談ですが黄巾~官渡の戦い迄少しだけ駆け足気味です。


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第8話

長らくお待たせ致しました。

第2章より幕間を開始前と後に1話ずつ追加する方針です。
基本的には黒曜との絡みになります。



「全く…切りがないわね…」

 

執務室で華琳が溜め息混じりに呟く。

かれこれ、賊の活動が頻繁になってきた。 規模は小さいものの春蘭や秋蘭は討伐に向かう回数が増え、かといって政務を疎かには出来ないので俺も政務に駆り出される始末だ。

 

筆は咬えれば良いので不自由は無い…しかし、ニンゲンの様にテキパキと出来る訳では無いが背に腹は変えられないらしい。

北郷に字を教えるにしても、秋蘭か華琳でなくては効率が悪い。 …俺が教えようとも他の三人の様に俺の考えが伝わる様な質では無いしな…

 

結局の所、北郷は“天の御使い”とか言うよく分からん御輿の様なモノと認識した。

最初に出会ったころよりか随分と気さくに接して来るから本当に同一人物か疑ったが、臭いも変わらないし姿形も変わりはしていなかった。

「勘が鈍ったか?」とも考えたが、話を聞けば気がついたらこの国に居たらしいし、動揺していたから雰囲気が変わったのだと結論付けた。

 

別段悪い奴では無さそうだしな…

 

 

「…考え事なら終わらせてからにしてくれないかしら?」

 

はっ…気がつけば筆が止まって居たらしい。 いかんいかん、与えられた役割くらい全うせねば…

 

「まぁ、いいわよ…無理に貴方の手も借りないと行けない程、人手不足なのは事実だしね」

 

 

少し休憩しましょうかと呟いて、背伸びし始めた。 確かに窓から空を見上げれば日は空高く昇っている…二刻はたったか…

 

「何処かに良い人材居ないかしら…って、貴方が知る由もないか…」

 

ふむ、一人だけ知っているぞ?

 

「そうよね知らないわ…えっ?」

 

一人、書庫番をしている娘が居るのだが、兵法や儒教の知識がある良い人材だ。

 

「はぁ?何でそんな貴重な人材が書庫番なんかしてるのよ…」

 

俺が頻繁に出入りするから前任が新人に押し付けたらしいぞ。

 

「そういう大事な事はもっと早く伝えなさい!!行くわよ!」

 

…いきなり怒鳴られてもな…

 

華琳はさっさと立ち上がり書庫に出向いてしまった。 仕方がない俺も行くか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

 

「はぁ…なんで備蓄の管理から書庫番に回されなきゃならないのよ…こんな暇な仕事必要無いんじゃないかしら…」

 

 

元書庫番の奴が無駄に位が上なのがいけなかった…いつもみたく男を軽くあしらったら、いつの間にか書庫番に左遷される様だ…

不甲斐ないったらありゃしない…直訴しようにも自分はまだ新入りだし何も功績を挙げてない。

袁紹の下に居た時も無駄に回りに無能が居たし、曹操様の下に来てもこんな目に合うなど散々だ…

 

唯一の頼みは曹操様の大狼だけだ…動物に頼むのも何だが、今の私と曹操様を繋げられるのはあの狼しか居ない。

 

最初に出会った頃はいつ牙を見せて襲い掛かって来るかと怯えたが、三日を過ぎてから杞憂だったと思い知らされた。

 

此方が身構えようと見向きもせずに読書ばかりしているからだ。 獣が読書…知らない人に言ったら嘲笑いそうな内容だが、此が事実だから質が悪い。

しかも、確りと内容を理解しているようだし、必ず続きを選んでいる所を見ると間違いないだろう。

 

勇気を振り絞って「勤勉ね…」と呟けば<ワン>と返事をするし、何と言っているのかは分からないが少なくとも“理解はしている。”

 

これには驚いた…人の言葉を理解するだけなら躾られた犬でも出来るだろう。 しかし、人が話す言葉を理解し、人の記した文字を読み取り知識として蓄えるのは最早、犬畜生では到底辿り着けない“理性”を持ち合わせている。

 

それを理解した時、既に恐怖心より好奇心の方が勝って居た。

物は試しに孫子の内容を問いに出せば、何巻の何項かを当ててみせた。

 

それから時折、読書の最中に出題するが、彼は唸りを上げて怒る事も無く直ぐに当てて見せては誇らしげな顔をする。

 

此が他の男なら調子に乗るなと罵倒する所だが、彼は狼だ。 盛りの着いた他の男よりもよっぽど理性的で利口な狼だと思って、つい撫でてしまった。

 

彼は「撫でるな」と言いたげな表情だったけど、尻尾を見る限り照れ隠しの様にも見えるし、意外と素直じゃない性格のようだった。 …ちょっとだけだが可愛げがある性格で好感は持てた。

 

しかし、書庫はあの狼が出入りするせいか実質、他に出入りする人間は居ない。

時折、夏候惇と思われる猪女が狼を拉致しに来るくらいで非常に暇だ。

 

「…明日にでも仕官先でも変えようかしら」

 

非常に…非常に不本意ではあるが、このままでは先の時代で己の力を試す機会を失うだろう。

それはダメだ、今まで学んで来た意味が無い。

 

「ここに書庫番は居るかしら?」

 

「えっ?はい、私で…って曹操様!!?」

 

えっ!?なんで此処に曹操様が?! いや、混乱している場合じゃない!直訴するなら今しかない!!

 

「そう、貴女がね…黒曜から聞いたのだけれど、軍略や政治にも精通しているそうね。なんで、書庫番をしているのよ?」

 

「はい、恐れながら申し上げます。前任の書庫番が備蓄の管理を行っていた私に横暴な態度で左遷命令を行ってきました。私は仕官してから日が浅く他の文官とも付き合いが無い為に致し方なく…」

 

「申し訳なかったわね…この通り謝罪させて頂戴」

 

そう仰って頭を下げてくる。あぁ…やはり仕える主はこのお方しか居ない。

 

「頭をお上げ下さい!私なんかの為に恐れ多い!」

 

「ありがとう、名を聞かせて貰えるかしら?」

 

「はい!姓は荀、名はイク、字は文若、真名は桂花と申します」

 

「えぇ、だけど真名を呼ぶには貴女の力を試させてもらうわよ?」

 

「はい、御望みとあらば如何様に申し付け下さい」

 

「では次の戦でその才を振るって見せなさい」

 

「御意に」

 

「それと、黒曜にも礼を言って起きなさい。貴女の事を推薦してくれたのは彼よ」

 

書庫の入り口には黒曜と呼ばれたあの狼が居た。 そうか、彼は曹操様達と意思疏通が出来るから私の事を推薦してくれたのね…

 

「ありがとうね、黒曜」

 

そう言って頭を撫でてあげようとして…

 

カプッ

 

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!!??何するのよこのバカ犬!?」

 

噛みつかれた、歯は立てられてないがヨダレでベタベタだ。 訳がわからない、何で甘噛みするのよ!?

 

 

「あら、随分と気に入られてるのね」

 

「どこがですか?!」

 

「甘噛みなんて、私を含めて他の人にしたことないんだもの。仲が良いのね」

 

<フン>(やっぱり弄り甲斐がある)

 

「なんだか、バカにされてる気がするのですが…」

 

少し気を許したら調子に乗って!もう!!

 

 

「なんだか悲鳴が聞こえたと思ったら華琳達か…ちょうど良かった、秋蘭が探してたぞ?」

 

「ちょっとなんでアンタみたいなブ男が曹操様の真名を気安く呼んでいるのよ?!バカなんじゃないの!?アンタみたいなバカは馬に蹴られて死んで豚の餌になるがいいわ!!」

 

「うおっ?!なんかスゴいのと一緒に居るな、誰だ?」

 

「いやぁ!!?こっち見ないで妊娠するぅ!!!!」

 

「随分とひでぇな…」

 

<ハッ>(コイツら面白いな)

 

「はいはい、そこまで。ほら、秋蘭が待っているのだから行くわよ。そこで自己紹介しなさい」




やっぱり桂花が一番難しいですね。
でも、書いていて一番楽しいキャラですわ(笑)

黒曜とは仲睦まじくなりますよ、色々と考えた時にあくまでも人間の男にしか罵声を浴びせて無いですしね。

後、ちょっとだけデレる桂花が書きたかった。反省も後悔もしていない。


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第9話

7話から8話投稿するまでに10日もかかってしまった…




あの後、俺たちは広間に来て秋蘭からの報告を受けた。

 

「以上がこの度のご報告になります」

 

「そう…賊が皆黄色い布を…」

 

秋蘭の報告によると、此処最近の盗賊が皆一様に黄色い布を体に身に付けてるらしい。

 

所詮、賊は賊だから幾ら出てこようと大差は無い…しかし、もし秋蘭の報告通り賊が皆黄色い布を身に付け始めたとしたら…単なる偶然か或いは必然か。

 

「偶然にしては妙ね…」

 

「黄巾党か…」

 

北郷が微かに呟いた声を俺や華琳は聞き逃さなかった。

 

「黄巾党?」

 

「あ、あぁ…俺の居た国の歴史ではそう呼んでた」

 

「ふぅん、そう…まぁ、いずれにせよ呼び名が必要になるならば黄巾党としましょう」

 

黄巾党か…もし、無数の賊を纏め上げたとするならば、規模はこの国中に及ぶだろうな…

戦の続く日々が来る。 華琳から聞かされて居たが、既にこの国は終わっている。

自分の体が腐っていることに気づいて無いのだ。

 

書物を読んでニンゲン達の思想や国の在り方、はたまた歴史等も少しかじったが…ニンゲンも狼も大して変わらない。

 

ニンゲンの組織や群れを成す狼は山と一緒だ。 纏め上げる者が頂点に立ち、その下に多くの者が着く。

獣とニンゲンの違いなど、規模くらいなモノだろう。 狼は多い所で10頭も居ない、対してニンゲンは数十万…いや、もっと大きい規模なのだ。

 

上に立つ者が暗愚では、その下に皺寄せがくる…末端は堪ったものではない筈だ。

そして民が暴徒に成り、賊に成る。 実に簡単な構図だな。

 

もし、この暴徒が大陸中に広がれば…上に立つ暗愚では対処出来ないだろう。

そうすれば、華琳や他の有力者が持つ独自の自治権がより力を増す。

後は大義名分さえあれば他の土地に攻め入ろうとも、上の暗愚達はどうすることも出来ない。

大陸中を巻き込んだ戦争の始まりだ。

 

華琳は此を機にこの大陸の覇王になるだろう。 邪魔する奴は俺が倒す。

 

「曹操様に急ぎのご報告があります!!」

 

思案に耽っていると兵士が慌ただしく入ってくる。 何か良くない事でも起きたに違いない。

 

「何事だ!」

 

「ご報告申し上げます!夏候惇将軍が退けた賊が、他の賊と合流した模様!規模はおおよそ千!至急増援願うとの事!」

 

「秋蘭!春蘭の兵は!?」

 

「はっ!騎兵200名になります」

 

「総員、出るわよ!お前は後続の兵糧隊と共に後から続け!」

 

「はっ!!」

 

命令された兵士は直ぐに動いた。 春蘭なら五倍くらい物ともしないだろうが、殺し合いに絶対は無い。

それに、確か春蘭が向かった方には近隣に邑が在った筈だ。 騎馬で邑を守りながら戦うのは無理がある。

 

 

「曹操様、ご提案が御座います」

 

「聞きましょう」

 

「黒曜に策を書いた竹簡を持たせて先行させ、夏候惇将軍に行ってもらう必要が在りますが、成されれば此方が着く頃には半数は減らせるかと…」

 

「分かったわ、私の命で従わせれば良いのね」

 

「はい」

 

「ならば、直ぐに纏め上げなさい。時間は待ってくれないわ」

 

「御意」

 

「秋蘭、準備が出来た部隊から出陣させなさい。一刀、黒曜に武器を」

 

「はっ!」 「分かった!」

 

「黒曜、呉々も無茶しないでね?」

 

<ワン>(分かってる)

 

北郷が鎧…元い俺の新しい牙を取ってきた。 この武器を実戦で使うのは今回が初めてだな…

 

「待たせたな、黒曜。…コレ20kgくらい有りそうだけど平気か?」

 

<フン>(大した事はない)

 

時折、コイツは知らない言葉を使う。 会話から察するに重さの事だろう。

天の国だかなんだか知らないが、日常会話で使う程には文化や知識として当たり前の事なのだろう。

交わす言葉が違うせいか、コイツとの会話は成立し難い。 華琳達と違って表情だけで読み取る力もない様だし…いや、華琳達が異常か…

 

「その様子だと大丈夫そうだな」

 

少しは理解出来ているようだな。 されるがまま流星餓狼を付けられていく。

コイツの欠点としては一人で付けられない事だけだ…まぁ、無くても戦えるのだがな…

そうこうしている間に桂花と言った猫耳は竹簡を書き上げたようだ。

 

「黒曜、この竹簡を必ず夏候惇に届けてね。策事態は夏候惇が無難にやってくれる筈よ…貴方は出来るだけ回りの動きに合わせて」

 

<ワン>(了解した)

 

「貴方がどれ程戦えるのかは私は知らないけど、曹操様がただ賢い狼を配下にすることは無いと思ってる。直ぐに向かうから待ってなさいよ?」

 

<フン>(分かった。じゃあな)

 

 

竹簡を咬えて、城を出る。

 

春蘭の所まで30里程だろう。 久しぶりに本気で駆けるとしよう…

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「急げ!!防柵を作れ!戦えないものは邑の中央へ!賊は待ってはくれないぞ!本隊が着く迄堪えろ!!!」

 

「春蘭さま!ボク達も戦うよ!」

 

「おぉ、季衣に流流か!有り難い申し出だが二人は邑に残って民の近くで守ってほしい」

 

「そんな!だって、数が違いすぎるよ!?いくら春蘭さまでも無謀だよ!!」

 

「季衣の言う通りですよ!向こうは千人近く居るじゃないですか!」

 

「確かにそうだが、邑の中で戦うには分が悪い。二人が邑を守って居てくれたら心置きなく戦えるんだ」

 

「だけど!」

 

 

見えた、良かったまだ戦ってない。

 

「狼が出たぞーーー!!」 「化け犬だぁぁあ!!」 「逃げろぉぉお!!」

 

ったく、勝手に化け犬だの何だの怯えやがって。 やっぱり、知らないニンゲンの前に姿を晒すのは良くないな…

邑の中に居た春蘭に近寄って竹簡を渡してやる。 見知らぬ子供が二人居るが、見たところ他の兵士よりかは戦えそうだな…

 

「黒曜!!来てくれたか!!」

 

「わぁ…でっかい狼」

 

「味方…なんですか?」

 

「あぁ、頼もしい味方だ!」

 

<フン>(そうかい…敵は?)

 

「邑から10里先まで追い詰めたんだが、他の賊らしき奴等と合流されてな…一先ずこの邑まで戻って防戦の準備をしている所だ」

 

という事は、多く見積もって後1刻か…邑の外で戦うなら今すぐ出るべきだな。

 

「ふむ?…これは…そうか!誰かある!!」

 

「はっ!!」

 

「曹操様からの策だ、隊を二つに分ける。この二人にも馬を用意してやれ!」

 

「了解しました!」

 

「ボク達も一緒に戦えるんですね!」

 

「そうだ、私が半数を率いて正面から迎撃する。その間に二人は後ろに回って、後ろから攻めてくれ。賊の群れに入り過ぎずに4、50人位削って一度離れ、もう一度…その繰り返しで賊は浮き足立つ筈だ」

 

「分かりました!!」 「がんばります!!」

 

「黒曜は私と共に正面からたった後、敵陣を掻き乱してくれ。出来るか?」

 

<ワン>(任せろ)

 

「よし!皆の者、準備は良いか!?行くぞぉぉぉぉぉお!!!!」




ひどく、どうでもいい話ですが…

新元号の話題でぶらばん!が出できて腹筋崩壊しました。
これを機にゆずソフトの知名度がっ…!! …いや、もう充分あるか…


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第10話

私は帰って来たぁぁぁぁ!!!!


春蘭の号令と共に最後尾を駆ける。

厩舎で馬相手に外敵では無いと刷り込ませようとは試みたが、やはり牙を見せたりするとどうしても怖がる為に俺は最後尾に着く。 

一度先頭を走ってみたが、馬は俺より先に進もうとしない様で騎馬を用いた時は最後尾を駆ける。

 

…若干、何時もより馬達の速度が早いのは気のせいだろう。

 

不意に人の臭いが増える。 直ぐ側に敵が居る。 馬、ニンゲン…生き物なら大抵は臭いと言うものは似ているが若干違う。

本当に些細な違いだが、俺にはその違いが分かる。 犬や狼の特権だろうな…

 

<ワン!>敵が近いぞ!

 

速度を上げて先陣を切る春蘭に追い付くと確りと聞こえていたらしい。 先頭から見ると前方に豆粒程度だがニンゲンの集団らしきモノが見える。

春蘭は直ぐに声を張り上げて全軍に号令を掛けていた。

 

「愚かな賊共に我々の恐ろしさを刻み付けるぞ!!全軍!とつげきぃぃぃぃい!!!!」

 

「「「「おおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

 

此方の雄叫びで流石に感づいたようだ。 黄色い布を身に付けた奴等も此方に向かって駆け始めてきた。

 

<ワン!!>先行させて貰うぞ!!

 

「仕方ない、任せるぞ!」

 

こういう鉄火場での春蘭は話が早くて助かるな…  俺は身体中に力を込めて全力で駆け抜ける。

両肩の得物を抜き、力一杯咬み絞める…あと九十歩…

 

先陣を切る理由は色々あるが、一つは馬が俺より遅いこと…もう一つは…

 

 

 

「化け犬だぁ!!?」  「狼だぞ!?気を付けろ!!」

 

こんな具合に錯乱して足を止めてくれるからだ。

おおよそ、俺を初めて見るニンゲン共は動揺する。 此は戦の最中だろうと関係ない、ニンゲンは理解出来ないモノを見ると動きが止まるのだ。

 

実に隙だらけだ…死ね。

 

先陣を切っていたニンゲンの首を跳ね、勢いを落とさずに群れの中へ中へと食い込む。

賊共を切り裂きながらも思考と足は止めない。 殺し合いの最中に考え事をする余裕が有るほどにコイツらは弱いが、足を止めては囲まれる。

 

しかし、馬鹿だコイツら…槍を持つ奴、剣を持つ奴、弓を持つ奴、鍬を持つ奴、包丁を持つ奴…皆、武器事に整列等していない。

此では、お互いの得物の得意な距離がバラバラではないか…雑魚も同然か…

 

「怯えるなぁ!!狼如き、囲んで殺せ!!」

 

威勢良く仲間を鼓舞するのは良いが所詮は烏合の集なんだろう。悲鳴を上げて逃げ腰の者も居れば、怯えて立ち尽くす者も居る。

殺すのなら大将首…此だけの数が居るのだから、何処かに纏め上げる大将が居る筈だ。

 

「この…ぎゃあぁぁあああ!!!」 死ね。

 

威勢のいい奴、歯向かう奴を重点的に殺す。 味方を鼓舞する奴も殺しておけば、後は勝手に混乱してくれる。

 

剣を振るう奴は振り上げた腕を絶ち切ってやる。 槍で突く奴には身を交わし、腹を裂いてやる。

弓を番える奴は放つ前に両足を落としてやる。 鍬なんて構える奴は大抵逃げ出したな…

 

狩りと一緒だ。 俺は逃げられなくすればいい←戦えなくすればいい

 

「はあぁぁあ!!!」

 

たった一太刀で二人の首を跳ねる。流石、春蘭だ。

俺が開けた穴から、春蘭達が流れ込む。 浮き足だった賊は手も足も出ずに殺されていく。

 

そして、人の感情とは他のニンゲンに移りやすいものだ…先頭が成す術無く死に絶えると、後続のニンゲン共は恐怖に支配される。

 

されど、その膨大な数全員に伝播するには俺たちの人数は余りにも少ない。

 

「黒曜!季衣と流流は見えるか!?」

 

全力で跳躍したら後方に砂塵を確認出来たから、季衣や流流達も上手くやってくれているだろう。

…着地する時に踏み潰すのも忘れない。 この体躯だ、自分で思うのもなんだがニンゲンからしたら相当重いだろう。

 

案の定、声も出せずに絶命している。 

 

<ガウ> 居たぞ

 

「ならば、二人の事を頼めるか!お前のお陰で敵は浮き足立っている。後方の奴等にもお前の牙を見せつけてやれ!!」

 

口に剣を咬えているせいで上手く喋れなかったが、ちゃんとに伝わったようだ。

確かに此処ではこれ以上の混乱は望めないだろう…一度、賊達の薄い所を食い破り、群れから出ると真っ直ぐ季衣達が居るであろう陣を目指す。

 

 

見当たらない?あぁ…クソッタレめ…返り血で鼻が鈍くなってきた…あの娘っ子達はは何処だ?

 

 

「でやぁぁぁぁああ!!」 「はぁぁあああ!!」

 

少し先でニンゲン共が“飛び上がった”。

 

いや…確かに声は同じだが…

雑兵を掻い潜り進むと、彼女達は身の丈とは不釣り合いな武器を振るうのが見えた。

 

おかしいな…見るからに牛より重たそうなのだが…

季衣はトゲのついた鉄球を自在に振り回し、流琉は巨大な円盤(?)を振り回し次々と敵兵を吹き飛ばして行く。

 

あぁ、これが俗に言う“規格外”か…

妙に納得出来た所で、向こうも此方に気づいたようだ。

 

 

「あっ!黒曜…さん?」

 

季衣が首を傾げながら不思議そうな顔をする。

 

敬称は要らないぞ、ニンゲンと年齢で比べるとややこしいしな。

 

「呼びやすいですし、黒曜さんでも良いですか?」

 

好きに呼んでくれ、そろそろ引き返すぞ。

 

「じゃあ、ワンちゃんで!」

 

却下だ! はぁ、行くぞ春蘭が策を忘れる前にな…

 

 




前回の更新から一年近く経過してるってマ?


ごめんなさいです。他に言葉が思い浮かばないです…
詳しい近況報告は書きますので、箸休めにご覧ください。


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