インフィニットオルフェンズ外伝 ~三無を束ねし、煌めきの雲海~ (IOノベライズ 制作チーム)
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#00 狡猾なる兎の魔の手(マッド・シード・プロローグ)

「……の………い…」

 

「うう……ん……」

 

今、惰眠を(むさぼ)っている僕の名前はキラ・ヤマト。

()()()()()別の世界から篠ノ之 束さん、という人に拾ってもらい、

今はこの人の研究室でお世話になっています。

 

……と言っても、束さんはとても…その…変わった人で。

 

僕がコーディネイター──遺伝子操作された人間だっていう事を初対面で見抜いたと思ったら、急に駄々をこねだして小さい子の発想のような滅茶苦茶な事を僕に頼んできたり。

あとは……まぁ、とにかく毎日色んな事をしています。

助けてもらった恩もありますし……逆らう理由も無いんですけど……。

 

昨日も遅くまでこの世界の特殊な兵器──IS(インフィニット・ストラトス)の作業をしていたので……今日はもう少し寝ていたいです。

 

このままもう少し目を閉じていたいのですが……。

 

「キラ君の……い!」

 

「んん……束、さん……?」

 

なんだか、さっきからすごく近くで束さんの声がするんです。

 

僕の寝室には、流石に束さんでも入らないように言ってるような……。

殆ど私室だから、ちょっと見られるのは恥ずかしいし……。

 

「キラ君の!ちょっ……たい!」

 

段々と大きくなる束さんの声。

どんどん距離が近くなってきて……え?

 

このままだと顔の位置は殆ど耳元くらいなんじゃ……?

何だか嫌な予感がする。

 

それになんだろう。この、敷布団の上から伝わる、柔らかい感触は。

 

とりあえず眠い身体に命令を送り、まずは重い瞼を開く。

 

束さん、一体僕の近くで何を……?

 

 

「キラ君の!ちょっといいとこ!見てみたい!

 

キラ君の!!ちょっといいとこ!!見てみたい!!

 

キ ラ 君 の !!! 」

 

「うわぁぁあああっ!!?」

 

 

目を開いてまず映ったのは、僕の顔の間近に迫る束さんの無邪気な笑顔。

次に気付いた事は束さんがベッドで寝ている僕の上で、腹ばいのような状態になって密着している事だ。

 

つまり、さっきの感触は多分束さんの……。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと!束さん!いっ一体何のつもりなんですか?!」

 

「あっ。やっと起きたー!ずーっと言ってたけどー。キラ君の、ちょっといいとこ、見てみたいなー!ってー」

 

「え…?」

 

いや、寝起きで突然言われても。

僕の上で頬杖ついて両足ぱたぱたされても。

起きれないんですけれど……。

 

 

 

「とりあえず!朝ごはん、食べよっか!」

 

「そ…そうですね…」

 

 

ようやく僕の上から降りてくれた束さんと一緒に、研究所のホールのような部屋へ移動する。

 

そこには用意された朝食と、僕と同じように束さんに拾われた、もう一人の同居人が。

 

「……おはようございます。束様。キラ様」

 

「おっはよーっ!クーちゃん!あいっ変わらずかったいなぁ~」

 

「お、おはようございます……クロエさん……」

 

束さんが「クーちゃん」と呼んでいる女の子。名前はクロエ・クロニクル。

白いセーラー服のような恰好に、銀色の長髪、いつも閉じているような目が特徴の子だ。

 

この子もたまに、束さんのお手伝いで色々な事をしているみたいだけれど、

僕とは分野が違うみたいで、何をしているのかはよく分からない。

 

生体同期型……?っていう特殊なISを持っているみたいだけれど、今の所それも見たことはない。

 

「今日は…その…言われた通り、チャーハンを作ってみたのですが……」

 

束さん同様、この子も一見すると可愛らしい女の子、なのだけれど……。

 

「へーぇ!よーっし!いっただーきまーっす!!」

 

……少し、ちょっと困った部分があるんです。

主に……食事の時なんですが……。

 

「はぁーーむっ!あむあむ!んんぅーーっ!んーー!」

 

束さんはなぜかとても美味しそうに食べるんですが……。

 

 

僕にはどう見ても、クロエさんの料理が大概、黒い塊か変な色のスライムのように見えて仕方がないんです……。

 

 

 

「んーーーっ!おっいっしぃーーーーっ!!!グゥレイトォ!」

 

「あ…あぁ…でも…」

 

「とってもおいしいよ!クーちゃん!キラ君もほらほらー!朝ごはんは大事だよー?食べなよ~?女の子の手料理を朝から頂けるなんてイケイケな男の子だねぇ~キラ君はぁ~」

 

「いえ…僕は…その……」

 

「そ、そうです…束様……」

 

本人も料理がうまくいっていないのは自覚してるのか、束さんが食べている時は、いつもすごく申し訳なさそうな顔をしてそれをずっと眺めている。

 

……とても心苦しい光景です。

 

「駄目だよキラくぅん。ちゃんと出されたものはしっかりと……」

 

「そ、それより束さん!さっき言ってた用事って何ですか?」

 

「あ。……そういえばそうだったね!」

 

ふぅ……。とりあえずこれで何とか凌げた……!

 

 

前に食べた時は半日そのまま寝込んだしなぁ……。

あの時は虹色のお好み焼きだったっけ……。あんまり思い出したくはないけれど……。

割とシンプルな鉄板料理のはずなのに、一体どうやったらあんな風になるんだろう……?

 

とりあえず頭の隅に行っていた情報をよいしょよいしょ、と引っ張り出すようにしながら、束さんはチャーハンらしきものを口へ運びつつ僕への用事を話し始めた。

 

「えっとねー?束さんはほら、天才でしょ?でもやっぱり足らない物もあるんですよー。ホラ、アレとかコレとか作ってますから?ちょっと猫ちゃんの手が欲しいかなって」

 

「ぐ…具体的には……?」

 

「え?あーっとね。無人機!前に作ったでしょ?あれの新しいの作るのにちょーっと実働データがねー。なるべくいい奴。キラ君の世界の物とか見たいなー。出来たら一番いいのはー、キラ君自身を再現したの、くらいが欲しいかなーー?」

 

「む、無人機……。え?……まさか僕が?ISを?作るんですか?!」

 

「コア以外は大体さくっと教えたでしょー?いよいよキラくんの実力テストー!どれだけできるかなーって、ワタシ楽しみだなぁー!キラくんのプログラミングなら自分の再現くらいも、お茶の子さいさいでしょ?好きに使っていいコア幾らかあげるから、それ使って思い通りの仕上げてね!」

 

一人で喋り終えると同時に朝食をすべて平らげ、そのまま束さんは自分の研究室へ走っていってしまった。

 

「はぁ……」

 

何だか、とんでもない事を、頼まれた気がする。

 

僕が、無人ISを?しかも、自分を……再現?

……確かに、この世界で必要なISの技術は、束さんから教わったから、出来なくはないけど……。

 

去り際に手渡されたコアは全部で8つ。多分、全機同じなのは求めてない。

元の世界の物が見たいって言ってたし、ISでモビルスーツを再現すればいいのかな……。

 

……でも束さんに拾われてから、どうにも元の世界の記憶があやふやなんだよね……。

 

束さんに初めて会ったのも、アスランと戦った後だっけ……。

あるいは――

 

 

ヤキンであの人と……。

 

 

いや、今は考えても仕方がない。

 

とりあえず一部は同じ機体になりそうだけど、物自体はすぐに作れそうな気がする。

 

問題は実働データ……。

どうやって取ったものか……。

 

 

 

 

──数時間後──

 

 

工房で一人、IS製作の作業をしていた時、不意に後ろから声を掛けられた。

 

「あ、実戦データ取る方法を伝え忘れちゃってたー!えへへ」

 

「うわっ?!」

 

一切の気配や音を消して近づいたのか、真後ろから話しかけてきたのは、先ほど僕にとんでもないことを頼んだ張本人。束さんだった。

 

「その辺で悩んでると思ってねー!いちおーちゃんと手は打ってあるよ!ほら、箒ちゃんにメール!昨日くらいにキラ君の端末で送っておいたから!そっちの作る期間考えて、向こうに届くのは数日後くらいかなー」

 

「そうですか……」

 

「箒ちゃん」というのはこの束さんの妹さんで、篠ノ之 箒さんという名前だ。

普段はIS学園という場所にいて、束さんから第四世代型IS『紅椿』というのを貰っている。

それを渡した時に僕も会っているんだけど、正直あんまり似ていない姉妹だった。

 

他にもIS学園には一夏さん、オルガさん、三日月さん、セシリアさん、鈴さん。

シャルロットさん、ラウラさんといった人たちがいる。

あと、少し前まで僕たちと一緒だったマクギリスさんも2学期から先生として学園に赴任するみたい。

 

オルガさん、三日月さん、マクギリスさんは僕と同じように違う世界から来た人らしいんだけど……。

多分、僕と違う世界から来たみたいだ。どんな所なんだろう。少し気になる。

 

でも、あの人達なら確かに、そういうデータ採集には適任だとは思うけど……ん?

 

さっき束さん「メール」って……!?

 

「……って!ちょっ、何してるんですか!?僕の携帯を勝手に!……ど、どんな文面で?」

 

すぐにポケットから携帯を取り出して履歴を漁る。

……あった。確かにこれは出した覚えのないメールだ。文章は……えっと……。

 

 

『ぱっぴー☆僕です。キラ・ヤマトです。

キラ・ヤマトが、12時くらいをお知らせします。

 

ぴっ

ぴっ

ぴっ

 

それでも!守りたい世界が!あるんだあああああ!

 

 

てことで、僕です。みんなが大好きな束さんの傍でお仕え出来て光栄です。

そんな愛しの束さんが僕の告白に答えてくれた特別なデートスポットを教えます。

みんなで来てください。旅費は全て僕が持ちます。お弁当も用意してください。

バナナはおやつには入りませんが、じゃ〇りこは入ります。是非来てください。

日程と場所のデータも送付しておきます。絶対にみんなで来てください。

待ってます。

 

 

それじゃあね!

 

キラ・ヤマトでした。ぱっぴー☆』

 

 

 

「…………」

 

なに これ は?

 

どう考えても僕が打ったとは思えないメールの文面。

でもなぜだか、ほのかに、これは僕だと思われそうな気がする。なんとなく。

そして内容にとても怪しさしかない。……こんなので本当に来るんだろうか?

 

そう思いながらもう一度文面を読み直してみると、引っかかる部分がすぐに出てきた。

 

「……って!お金全部僕なんですか?!」

 

「俺のおごりだー!っていうと、大体みんな喜ぶよ?」

 

「それにこんな文面で、本当にあの人達来てくれるんですか?」

 

「なんとかなるなるー!ほら、作って作ってー!何なら、パンツロボとか作ってもいーよ?」

 

「な、何ですかそれ?!そんなの作りませんよ!」

 

 

駄目だこりゃ。こうなってしまった束さんはもう何を言っても止まる事はない。

 

……これは、僕の財布の中身が全部吹っ飛ぶだろうなぁ……。

よくよく考えてみたら、この送付データにある日付までにISを仕上げないとだし……とりあえず、今から全力で取り組まないと……。

 

 

 

えーっと……基本はゴーレムIの設計を使って……。

両腕と背部の改装で十分かな……?

あ、そうなると頭部と胴体も……。

ってこれ、全面改修だ……。

 

 

 




次回は3月21日の17時に投稿予定です


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#01 サマー・エンド・ピクニック

夏休みのとある日。

 

アタシ──(ファン)鈴音(リンイン)は真っ白なスケジュール帳を眺めながら朝から食堂で、ぐったぁ~~り、としていた。

 

「はぁ~~」

 

そこに朝食を食べ終え、お盆を厨房に返したシャルロット、ラウラ、セシリアが戻ってきた。

 

「暇そうだね~鈴」

 

「シャルロットもそうでしょ~?なんか最近さ~。停滞の時期?みたいな?」

 

「あはは、確かに。近くも行き尽くしちゃって変わり映えしないし、お休みにも飽きてきちゃったよね」

 

「でも、せっかくの夏休みなんだし、このまま無駄に過ごすのは嫌なのよ~」

 

「鈴さんの言う通りですわ~」

 

「うむ~」

 

「なんっか遊びたいわよね~。あ”ぁ~!暇っ!」

 

公園もショッピングも、なんか急にイマイチになってきちゃったのよね。

 

シャルロットもそうみたいだけれど、

セシリアやラウラまで、あまりの暇さ具合に近くのテーブルでぐっでぐで。

というか、こういう枯渇ってここまで一斉になるものかしら。

 

一夏の奴を誘おうにも、こんなネタ切れじゃあどうしようもないじゃない。

 

「もう~!!何かしたいのに何も思い浮かばない……!あ~あ!こんな時、丁度いい遊びの誘いとかないかな~っ!」

 

「鈴、そんな都合のいい話そうそう……」

 

そんな時だった。携帯を握りしめた箒がとてとてとこっちに走ってきた。

……何?どうしたの?

 

「はぁはぁ……こ、こんなメールが……来たのだが……」

 

「ん?どんな?」

 

箒はアタシとシャルロットの座るテーブルの前に立つなり携帯の画面を見せる。

 

その内容は……。

 

「ホントに来たぁーーーーっ!!!」

 

まさに求めていた遊びの誘いっぽいやつ!!

 

……一瞬見えた文字だけで判断したから、全文はよくわかんなかったけど。

 

 

アタシが大声を上げたからか、箒が目を見開いて驚く。それにシャルロットがすかさずフォローを入れてくれた。

 

「うわっ!?……ど、どうした急に」

 

「丁度暇だから、お誘いがないかなーって話してたんだ」

 

「あぁ、そういうことか!なら確かに丁度いいな!一夏達も含めた全員で来いとの事だ。し、しかも、その…あの……デ、デート…スポット…らしい……」

 

その箒の言った言葉にアタシとシャルロット、そして横で魂の抜けたみたいな顔で聞いていたラウラも飛び起きて反応した。

 

「デェ!?」

 

「トッ!」

 

「スポォットォッ!だとっ!?」

 

 

 

「何ですの?騒々しい」

 

この五人の中で唯一「デート」という言葉に無関係なセシリアは放っておいて、アタシとシャルロットとラウラは箒へと詰め寄る。

 

 

「い、一体誰から?!そんな美味しい話!どっから持ってきたのよ!?」

 

「そうだよ箒!」

 

「説明を要求する!!」

 

「じ、実はだな……。姉さん……」

 

「え」

「えっ」

「む…」

 

「……の!助手の無害そうな奴だ!ほら、私の紅椿を調整していた!あのキラ・ヤマトとかいう、とにかく人畜無害そうな顔をしたアイツだ!」

 

「それなら大丈夫ね」

「なら安心かな」

「問題なさそうだ」

 

「……分かってはいたが、激しい落差だな……。ちなみに弁当持参、足代諸込みは向こう持ち、しかも自然の絶景だそうだ」

 

「うわぁ~、サイコーだね!オルガと一緒に見れたら、いいだろうなぁ~」

 

「美景か。興味はあまりないが……。嫁が気に入りそうだな…フフ…」

 

もう既にこの二人は行く気満々ね……。アタシもまぁ、異論はないけど。

 

 

「ん?お弁当?箒さん今、お弁当って言いましたか?……お弁当ならワタクシにお任せ下さい!早速準備をしなくては。

今回こそ三日月さんのお認めになるお弁当を作らなくては!」

 

セシリアも別の方向でヤル気ね……。

 

「いや、セシリアそれはいいから。……勿論アタシも行くわよ!んで?いつ?」

 

「明後日だな。しっかり一夏やオルガ、三日月にも声をかけておくんだぞ!あいつら今日はまだ三人共起きていないようだからな。……ん、一夏には私から……言っておくか……」

 

 

ああ、どおりで姿を見ないと思ったら……。男共にもこの飢餓が来てるのね……。

しかし、だからこそこのピクニックの話は絶対に乗る筈!

特に一夏なんかは、カメラ持ってくだろうから、まさにこういう時には適任よね!

 

……あ、でもカメラ担当だったらツーショットが撮れないじゃない。まぁおいおい考えるか。

 

……なんて考えてたら既に箒が割と遠くへ行っているじゃないの!

 

「っておーいっ!一夏にはアタシから伝えるのーっ!」

 

ようやく出来た会う口実!逃してなるもんですか!

 

そう思い駆け出したアタシと箒をシャルロットが制止する。

 

「二人共待ってよ!」

 

オルガなら「止まるんじゃねぇぞ……」って呟くシチュエーションね。確実に。

 

「……別に一人ずつ話さなくても、お昼ご飯の時みんなで集まって話せば良いんじゃないかな?」

 

「だな」

 

「「あっ…!」」

 

……そうよね。別にそれでいいわよね。

 

恋に焦りは禁物よ!凰鈴音!!

 

 

「まぁだが、ミカ達はそういった物はあまり経験が無いだろう。喜ぶ顔が目に浮かぶぞ!」

「うん!オルガも絶対嬉しがるだろうな~」

 

 

……ふん。ヨユーね。リア充は……。

 

 

____________________________________

 

 

 

その日の昼。食堂

 

 

俺とミカとイチカはシャルたちに誘われて一緒に昼飯を食っていた。

 

「あ~。食った食った~。シャルの弁当ももちろん旨ぇが、食堂のもやっぱ旨ぇな!」

 

「そうだね。最近はこの日本食っていうの?こういう料理にも慣れてきたし」

 

「何より大盛ランチはボリュームもあるしな!これで午後の自主連も頑張れそうだ!俺ももっと上手く白式を扱えるようにならないと!!」

 

「ねぇ、みんな!ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

 

そんな時、シャルが俺たちに来週の休みの日に遠足に行かねぇかって提案をしてきた。

シノの専用機『紅椿』を作ったタバネっていうシノの姉ちゃんの助手をしているキラってやつからの誘いらしい。

金は出すからみんなで来いとのことだ。

 

「遠足?」

 

「ふーん」

 

「ピクニックか?いいじゃんか!行く行く!」

 

「うん!景色のいいところみたいだよ!」

 

「うむ!自然に触れるというのはきっと楽しいぞ。期待に胸を躍らせるといい!」

 

「……へぇ、景色、ねぇ……。いいんじゃねぇのぉ?」

 

「うん。いいね…それ」

 

「ワタクシがお弁当を用意しますわ!」

 

「だから、セシリア……それはいいから……」

 

「ははは……そういえば、オルガって地理の授業苦手だったよね?」

 

「あぁ、地球の地理だなんだは疎くてな。まず火星にゃ森とか無ぇし」

 

「火星?」

 

「オルガ……その話はまだ……」

 

「あぁ、わかってる」

 

おっと、少し口が滑っちまった……。俺たちが異世界から来たって話もいつかはシャルたちにしなくちゃな……。

好きなやつに隠し事はいけねぇ……が、それは今じゃねぇよな。

……とは言ったもののいつ言うべきなのか俺もわかっちゃいねぇ……。

でも……いつかは言わねぇとな……。

 

「いや、なんでもねぇ。俺もミカも、あんまそういうとこに行かねぇからな。山や森やらに行ったことがない訳じゃねぇんだが、じっくり眺めた試しなんざねぇんだ」

 

「そうだね。そういえば景色を眺めるなんて事なかったかも」

 

「そっかー」

 

「でも面白そうだな!何よりシャルたちの誘いだ。ぜってー行くぜ!ミカとイチカもそれでいいよな!」

 

「いいよー」

 

「ああ、俺も大歓迎だ!渡りに船って奴だろ?実は今月ヤバくてさ、金も無くていいってのが最高だ!」

 

「一体、何にそんなに使ったんだお前は!」

 

「いや、えっと……色々だ!」

 

「色々?」

 

ん?一夏のやつ一瞬……

いや、気のせいかぁ?

 

「まぁ、一夏が何にお金を貢ぎ込んだのかは気になるところだが……キラには私から連絡しておこう」

 

「あぁ、頼む。……まぁ、あのキラって奴も苦労してるみてぇだしな。息抜きする仲間とか、欲しいんだろ。きっと」

 

シャルたちと遠足か~。楽しみだな!

明後日ってことは今日と明日中に準備しねぇとな!……山って何準備すりゃいいんだ?

 

なんてことを考えていると、隣のミカが何やら険しい顔をしていた。

 

「………」

 

「ん?ミカ、あんまり嬉しくねえのか?」

 

「……別に、でも、あの「タバネ」の助手だからフツーじゃないと思う」

 

「そうか?アイツは色々と付き合わされてる苦労人のように見えてるからよ……別にあんな変な兎じゃねえだろ?」

 

「でも」

 

「ったく……ミカも心配性だな、あんなこと(福音事件)がもう一回起こることなんてねぇだろ」

 

「……だと良いんだけどね」

 

ったく、やっぱミカは慎重派だな……。

まあ仕方ねぇが……。

 

 

──そして、当日──

 

 

シャル達に連れられ、俺たちは待ち合わせのIS学園を走るモノレールの駅にやってきた。

 

「ふんふふふーふーふー……僕のベル~が~鳴る~」

 

「お待たせしました!キラさん」

 

「……あ。お、お待ちしていました。 皆さん……お、お久しぶりですね……」

 

暇だったのか、鼻歌を歌っていた今回の主催らしいキラが俺たちの姿を見てそう挨拶をするが……。

 

「よう。……大丈夫か?随分とやつれてんな」

 

なんか……キラの奴、ずいぶんとげっそりしてるっつーか。

どういう因果か、あの胡散臭えシノの姉ちゃんの下についてんだ。

いつも相当ひでぇ目にあってんだろうな……。察するぜ。

 

「ま、まぁ……色々ありましたから……。今日の為に、急ピッチで作業してまして……」

 

「そっか……。お前も苦労してんだな。ま、今日は楽しもうや」

 

「は、はい……」

 

キラの肩に手を置き、励ましながら俺たちはモノレールへ乗り込んだ。

 

 

 

モノレールの車内でセシリアがシノにこう尋ねる。

 

「そういえば箒さん。今回行くところが自然豊かな場所なのは分かりますが、具体的にはどのようなものなんですの?」

 

「キラの言が正しければ、これから向かう場所で運が良ければ、雲海、が見られるそうだぞ」

 

その当の本人(キラ)は何やら栄養ドリンクをがぶ飲みしていた。

……相当、疲れが溜まってるんだろうな……。

 

「ああ、雲海か~!だから始発なんだね!ボクも実物は初めてだなぁ」

 

ん?ウンカイ?

ふと疑問に思ったが、俺が聞く前にラウラが同じ事を思ったらしくこうシャルたちに聞いた。

 

「ウンカイ?何だ、それは」

 

「高名なお坊さんですの?」

 

「それは空海だ」

 

「何よアンタ達。知らないの?…ならすっごくびっくりするだろうから!まあ今は特に考えなくても大丈夫よ!」

 

女子連中も盛り上がってんな。しっかりと弁当抱えて。こりゃ先が楽しみだ!

雲海ってのも気になるしな。

 

……ってセシリアも案の定弁当を持ってきてるじゃねぇか……。

きちんと味見してきたんだろうな……?

 

 

 

と、オルガが女子の会話を優しい笑顔で眺めている頃、三日月の異様な気配に気付いた一夏が彼にこう尋ねた。

 

「どうしたんだよ、ミカ?キラのほうずっと見つめて」

 

「ん、イチカか。いや、別に」

 

「ま、俺も最初は驚いたけどさ。そう気を張らなくてもいいんじゃないか?ここは戦場でもないし」

 

「…それは、どうかな」

 

「?」

 

一夏の鈍感力はこういうところでも発揮されるようだ。

 

 

____________________________________

 

 

 

そっから先は、まずモノレールからIS学園の外へ行き、その後キラがチャーターしたらしきバスへ乗り換え。あとは目的の場所までひとっとび。

 

本当に車か?ってくれぇ変な速度出してたし、運転手の姿が最後までよく分からなかったりもしたが、まあ気にしないでおくか。

 

「………」

 

ミカは相変わらず警戒したままだがよ……。

ったく、気を張りすぎると楽しめるものも楽しめなくなるぞ?

 

 

そんなこんなで目的地に到着したらしいバスから降りると太いワイヤーに吊られたでっけえ箱型の乗り物が山を上下しているとこへとやって来た。

 

「お待たせしました。後はこのロープウェイに乗って歩くだけです」

 

あの乗り物はロープウェイっつーらしい。

 

モノレールや車でがぶ飲みしていた栄養ドリンクが効いたのか、キラの調子も回復している。

鼻歌も再び歌い始めている

 

……アイツ、本当にそんな生活で大丈夫か?今日がたまたまこんなだって場合かもだが。

 

「の、乗り物の連続をこの時間帯からはキツいわね……」

 

「絶景の下、三日月さんにワタクシのお弁当を食べてもらう為ですわ……耐えるのよ……ワタクシ…!」

 

「まぁ、実際空気は都会とは全然違うから、多少休めば生き返るような気分だろうな。なんていうか、こう、いかにもマイナスイオンって感じだな!」

 

一夏の言う通り、ほんの少し前まで街にいた俺たちは今じゃ緑豊かな大自然の中。

 

 

目の前のロープウェイ乗り場とその周りの道以外は穏やかな木々が周囲を覆っていて、上の方には山が見える。

街や学園とも違う空気の味が旨ぇ。

 

 

 

そんな感想をオルガが抱いている時、箒はとある事に気付いて、他の人に気付かれないような小さな声でキラにこう質問した。

 

「……私達以外に人がいないようだが?」

 

「あぁ、まぁ……。一応、貸し切りです。観光地だから苦労しましたよ」

 

「……そうか。それは、うん。すごいな。流石は姉さんの助手、か?」

 

「僕くらいですからね……。あの人についていけるのは……」

 

「え?ん?それ…相当、希少なのではないか……?」

 

 

そして、三日月はラウラにもキラへ警戒を忠告する。

 

「……ラウラ」

 

「ん?どうした、ミカ」

 

「できる限りアイツには警戒しておいて」

 

「アイツとはキラのことか……。あぁ、わかっている。前のように嫁がやられるようなことは絶対に避けるつもりだ。ミカも気をつけてくれ」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、そろそろ乗ろっか」

 

一夏の声で全員が乗り場へと歩き出す。

奥につくと、さっきまでずっと山を上下していたロープウェイが目の前に停まっていた。

 

「……そういや、こういうモンに乗るのは初めてだな」

 

「あれ?オルガ、ISはいいけどこういうのは駄目とか?」

 

「いや、駄目とかじゃねぇ。単純に乗ったことがねぇだけだ。少なくとも酔ったりはしねぇはずだ」

 

「そっか、オルガにもまだ経験したこと無いことたくさんあるんだね」

 

「ああ……色々とな……前まではこういうのに縁はなかったしよ」

 

「そうなんだ」

 

(オルガはIS学園に来るまでは戦場とかにいたのかな……福音戦の時とか見てると戦いに慣れてるみたいだったし…)

 

(……昔のオルガ……ちょっと気になるかも)

 

「こうして平和に居られるのもあんまりなかったからよ……」

 

「オルガ………」

 

しまった、つい湿っぽい雰囲気にしちまった!

えーと…あーと…!

 

「お、おっとなんでもねえ!とにかく行くぞぉ!」

 

「う、うん!」

 

その場にいる全員がロープウェイに乗り込むと、突然シャルが近づき、耳元で

 

「横、座っても、いい?」

 

と囁いた。

 

「お、おう……!?」

 

急だったんでびっくりする俺だが、なんとか平然を装って返答をする。

 

「い、いいぜ。…窓、行けよ。こういうの、好きなんだろ?」

 

「オルガこそ窓際だよ。初めてなんでしょ?すっごくいい景色だから。僕は下りの時でいいから」

 

「そ、そうか…んじゃ、仕方ねえな……」

 

シャルに言われた通り、登りは俺が窓際に座る事にした。

すぐ隣にはシャル。やっぱり外をよく見たいのか、座るなり俺の肩に顎を乗せる。

 

「…んー?」

 

「…お、おう……」

 

 

結構近えじゃねえか……。

そ、そんなに見てえのか…?

 

数秒か、数十秒。そのまま互いを見つめ合っていると、

 

「では、そろそろ出発しますよー!」

 

キラの奴の一声とともにロープウェイは動き出した。

 

 

「おう、見ろよ箒!いい景色だよな!」

 

「そう大きな声で言わなくともわかる、全く……はしゃぎすぎだぞ一夏」

 

「おっとわりぃ……しばらく自然と触れあってなかったからついな」

 

「ふん……でも確かに綺麗な景色だな……」

 

「だろ?」

 

一夏と箒は一緒に外を眺めている

 

「………」

 

「あら、一夏さんの隣を取れずに不満ですの?」

 

「……別に」

 

一方の鈴は箒に先を越されたからか少しむくれていた

 

「……しかし何だが、ISかヘリコプターでも使って飛べばよいのでは?貸し切りで他に誰もいないのであれば問題なかろう?」

 

「ラウラ、お前は全然何もわかってないな……」

 

「そうよ!こういうのは、風情よ!風情!」

 

「……そういう物なのか?ミカ」

 

「…よく分かんないけど、とりあえず外を眺めておこう」

 

「うむ。そうしよう」

 

しばらく三日月とラウラは無言で外の景色を眺める。

とても綺麗な緑に覆われた山の斜面が見える。

 

「ほう……きっと秋になると「紅葉」とやらをしそうな木々だな」

 

「「こうよう」?」

 

「秋になると木は枯れることになるが、その時にその葉っぱの色が変わり、赤や黄色になったりするのだ」

 

「そしてそれによりこの木々に覆われている山は一面がとても綺麗な黄色や赤色になるそうだ」

 

「へー……ラウラ、詳しいね」

 

「ああ!嫁のために自然について色々と調べたからな!」

 

「クラリッサから聞こうともしたのだが…あまり詳しくは教えてくれなかったのでな…」

 

「そっか………ありがとう、ラウラ」

 

「な、なに!これくらい夫の務めだ!」

 

えっへんと胸を張るラウラ。

 

「だが……何だか、不思議な感覚だな。空を飛んでるわけでもなし。地に沿ってるわけでもなく」

 

「そうだね。……こんな風に落ち着いて上から見るなんて。バルバトスに乗ってる時もこんな感じにはならなかった…なんでだろ?」

 

「さあ……。私にもよく分からんが、いいな。こういうのは」

 

「……うん、いいね」

 

「……」

 

(アイツはどう?)

 

三日月はラウラに耳打ちをする。

 

(今の所ただ鼻歌を歌ったりしているだけで怪しい素振りは見えなかった)

 

(通信をするなどの素振りもなかったぞ)

 

(…だが、どうにもしっくりこないものだ)

 

(ん?)

 

(なぜ大した縁もない私達を急に誘ったのか……それだけがやはり気になる)

 

(オルガ団長の言う通り「息抜きする仲間が欲しい」というだけなら良いのだが……)

 

(…………)

 

 

そうして、彼らは山へと入っていった……。その先に何が待っているかも知らずに……。

 

 

 

 




次回は3月23日 17時投稿です


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#02 強襲(ストライク)

太いワイヤーに吊るされたロープウェイが俺たちを乗せ、たまに吹く風にユラユラ揺らされながら、ガタゴトと登っていく。

 

しばらく全員で風景を眺めていると、そのロープウェイが止まった。

 

「止まるんじゃねぇぞ……」

 

「いや、これ以上進めないんだけどな、これ」

 

「そうですわね」

 

「……勘弁してくれよ」

 

どうやらロープウェイは終着点へと辿り着いたようだ。

 

 

俺たち全員がロープウェイから降りるのを見計らったタイミングでキラが手を叩いてこう言った。

 

「さぁ!あと少しです!行きますよ」

 

「ええ?やっぱり山を登るんですの?!」

 

「すみません、こればかりは。それと、霧を抜けるので、視界が悪くなるかもしれません。はぐれないよう注意してください」

 

そう言って先導のつもりか、キラの奴はさっさと上に行っちまった。

へぇ、確かによく見れば上の方は随分と白い。あいつが雲海か。

上側がどうなってんのか楽しみだな。

 

「……オルガ!」

 

「ん?ど、どうした?」

 

「はぐれないように……手、つなご?」

 

「え、お、おう……!」

 

シャルは俺に手を差し出している

おそるおそると握ったシャルの手は暖かく、俺のなんかよりよっぽど柔らかい。

 

「前も思ったけど……やっぱり、手、おっきいね…オルガ…」

 

「お、おう……やっぱり合わねえんじゃ…」

 

「そんなことないよ!オルガの手、大きくてとっても暖かいから…」

 

「良い…と思うよ?」

 

「ん、あ、あぁ…。まぁな…」

 

くっ…シャルの笑顔には敵わねえ……な…

 

「ほら、いいから行くぞ……。絶景ってのが…待ってんだ…!辿り着くぞ、全員でな…!」

 

「うん!行こう!」

 

そう言って俺とシャルはしっかりと手を握りしめながら、霧の中へと入っていった。

 

 

それを見ていた三日月もラウラにこう提案する。

 

「…よし、ミカ!シャルロットとオルガ団長もああしているのだ。我々もやるぞ!」

 

「うん、いいよ」

 

ラウラが差し出した小さな手を、三日月は握る

 

「…よく見たことあんまりなかったけど、ちっちゃいね。ラウラの手」

 

「な………嫌…か?」

 

「ううん、ラウラの手は俺のより小さくて柔らかいから良いと思う」

 

「俺は好きだよ、ラウラの手」

 

「…!そ、そうか!ならば安心、だな…///」

 

軽く赤面しているラウラ

 

「……あと、まだ警戒しておいてラウラ」

 

「ああ、すでにヤツは先に行ってしまったが……とにかく、今は進むぞ。ミカは絶対に私から離れないでくれ」

 

「うん、ラウラも俺から離れないで。胸騒ぎがする」

 

「ああ」

 

警戒しながらも霧の中に入っていく三日月とラウラであった

 

 

 

 

そして、セシリアは……

 

(三日月さんとラウラさんのお邪魔をするのは不味いですわね……。前もラウラさんと二人で一緒に居たときに話しかけたら、三日月さん少し不機嫌になられましたし……。ここはオルガさんとシャルロットさんに着いていくのが正解ですわね)

 

「お待ち下さ~い。オルガさん、シャルロットさ~ん。ワタクシも行きますわ~!」

 

 

 

____________________________________

 

 

 

「一夏!その…あの…なんだ…」

 

「ん?」

 

「ん!!」

 

しばらく辺りを見渡していたら既にオルガやミカ達は歩き始めていて、残ってるのは俺と箒と鈴だけだった。

そして今、箒が何か欲しそうに俺の前に手を突き出している。

 

「…なんだ?この間借した500円返せってか?…待ってろ」

 

「ち・が・う・わ!この馬鹿者が!さっきまでの一連の流れとか、なんかその、あれだ。見てなかったのか!貴様は!」

 

言っていることがよく分からないが、オルガ達が何かやっていたのだろう。

しかしこの大自然にちょっと感動していて俺はその何かを見ていない。

よく分からないので、とりあえず……

 

「んーー…?えい、お手」

 

犬か何かがするみたいに握り拳を箒の掌に乗せてみる。

やはりまだ何か違うみたいで、そのまま俺の拳は箒に強く握られた。

 

「いでででで!なんなんだよ?!」

 

何とか振りほどくと、

 

「もう!何してんのよ!アタシが一夏と一緒に行くの!箒は一人で向かったらいいじゃない」

 

「なんだと!鈴こそ一人で向かったらどうなんだ!」

 

「分かった分かった!とりあえずこれ以上遅れると本当にはぐれる!三人で行こう!な?」

 

「「………ふん!」」

 

俺を挟んで喧嘩する箒と鈴をなんとか落ち着かせ(全く落ち着く気配はないが……)俺達も霧の中へと歩き出した。

 

はぁ……なんでこうも仲が悪いんだ?

同じ俺の幼馴染同士なんだし、仲良くしてもらいたいんだが……。

まあいつものことだからもう慣れたけどな……。

 

 

____________________________________

 

 

 

俺とシャル、それと後ろから着いてきたセシリアの三人で歩き始めて数分。

霧の中に入ってしばらく。視界はかなり悪いが一応道なりに進んでいた時だった。

 

「きゃっ!?」

 

「っ!セシリア!大丈夫?!」

 

少し後ろでセシリアの声がした。多分慣れねぇ山道で転んだんだろう。

シャルが心配して声を掛けた。

 

 

 

「……シャル。すまねぇ」

 

「うん。いいよ」

 

「ちょっと待ってろ。立てるか?手ぇ貸し……」

 

ちと名残惜しいがシャルと握っていた手を離し、セシリアの方へ駆け寄ったその時、何やら敵意のようなものを感じた。

 

空を見渡すと、遥か彼方、霧の中から一瞬、ごくごく小さな光が灯る。

 

「…ッ!セシリア!危ねぇ!」

 

「へ?」

 

俺はセシリアの元へと急いで駆けつけた。

 

「護んのは、俺の仕事だ!」

 

そして、セシリアを庇った次の瞬間。

 

「ヴヴッ!」

 

キボウノハナー

 

「だからよ…止まるんじゃねえぞ……」

 

どこから放たれた弾丸の直撃を受け、俺はワンオフアビリティ『希望の花』を発動した。

 

「助かりましたわ!オルガさん!」

 

「オルガ!大丈夫!?」

 

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞぉ……。こんくらい、なんてこたぁねぇ!」

 

「よかった……」

 

「にしても……何ですの?いきなり砲撃だなんて……?」

 

「………オルガ!セシリア!アレ!!」

 

シャルが何かに気付いて霧の向こうを指差す。

 

俺がシャルの指差した方へと目をやると、霧の向こうから、変な黒いモンが二つ。どんどんこっちへ来ているみてぇだ。

 

「あ?何なんだ、ありゃあ…?」

 

霧の向こうから二つの黒い何かの姿が近づき、だんだんと形が見えてくる。

その姿は、まるで……。

 

 

「ガンダム・フレーム…?」

 

 

後ろに背負ってるモンとか持ってるモンは違ぇが、二機とも黒…いや、()()()()()()()()()()に、四本の角のようなアンテナ、二つの目。その他センサーの配置。

 

「ガンダムって…三日月君のISもガンダムって名前があったよね?」

 

「三日月さんのは「ガンダム・バルバトス」でしたわね……オルガさん、なにか知っていらっしゃるの?」

 

「……いや、あんなもん俺は知らねぇ。……そもそも『つくり』が違ぇ」

 

「…つくり、ですの?」

 

「ああ。俺らの知っている奴は、腹の辺りが殆どシリンダーだけだ。だがあの知らねぇモビル…いやISはフレームが露出してねぇ。……多分、似てはいるが俺らの知らねぇモンだ。って、こたぁ……」

 

 

オルガは一つの真実を確信した……。

 

 

 

____________________________________

 

 

 

その頃、三日月とラウラはすでに山の頂上辺りへとやって来ていた。

 

しかし……

 

「確かに良い眺めではあるが……キラは……やはり、居ないな」

 

「……来たよ」

 

「うむ……わかっている」

 

二人はそれぞれISを起動して、臨戦態勢を整える。

 

そこへすぐさま、二つのビームが撃ち込まれた。

 

それを軽々しく避け、ビームを放ってきた二機のISを確認。

その内一機は大剣も装備しているようだ。

 

(あの大剣と大砲抱えてるやつは俺が相手しなきゃ……)

 

三日月とラウラはその二機のISに突貫する。

 

「ラウラ、そっちは任せていい?」

 

「任された!ミカも油断するなよ!」

 

「うん。……んじゃあ、行くかぁ!!」

 

(ラウラは…俺が……!)

 

三日月のバルバトスルプスは雲海の向こうへと空高く飛翔した。

 

 

 

____________________________________

 

 

 

そして、一夏達も己が対峙すべき無人機達と遭遇していた。

 

 

 

「何なの?こいつら……」

 

鈴がその三機のISの姿を見て、そう呟く。

 

坂の上に立つその三機の内、二機は同じ武装だが、真ん中の一機は少し違うようだ。

二機のISが背中に背負っている大剣とはまた違う実体剣を右手に握っている。

 

「無人機……のようだな」

 

箒の言うとおり、このISは三機とも無人機みたいだ……。

 

 

(ミカがキラを睨んでたのってもしかして……)

 

そんな俺の心の声を読むかのように、山のどこかからスピーカーの声が響いた。

 

 

≪その通りです≫

 

 

「…っ!この声、キラか!?」

 

「あぁ~、ハメられた!!よくよく考えてみたら、あの篠ノ之 束が絡んでないわけがないじゃない!!」

 

箒も鈴もこの状況を察したらしい。

俺もさすがにここまでされたら気付く。

 

キラが俺達にこの無人ISを差し向けたんだ!

 

≪皆さんの目の前にいる無人IS。それらは僕が用意したものです。騙すような事をして本当に申し訳ありません。……ですが、どうかこれと戦ってください≫

 

その声と同時に、三機の無人ISが一斉に動き出した。

 

 



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#03 戦闘開始(バトルスタート)

霧の向こうから二つの黒い何かの姿が近づき、だんだんと形が見えてくる。

その姿は、まるで……。

 

 

「ガンダム・フレーム…?」

 

 

後ろに背負ってるモンとか持ってるモンは違ぇが、二機とも黒…いや、()()()()()()()()()()に、四本の角のようなアンテナ、二つの目。その他センサーの配置。

 

「ガンダムって…三日月君のISもガンダムって名前があったよね?」

 

「三日月さんのは「ガンダム・バルバトス」でしたわね……オルガさん、なにか知っていらっしゃるの?」

 

「……いや、あんなもん俺は知らねぇ。……そもそも『つくり』が違ぇ」

 

「…つくり、ですの?」

 

「ああ。俺らの知っている奴は、腹の辺りが殆どシリンダーだけだ。だがあの知らねぇモビル…いやISはフレームが露出してねぇ。……多分、似てはいるが俺らの知らねぇモンだ。って、こたぁ……」

 

 

≪その通りです≫

 

 

スピーカー越しみてぇな音質でキラの声が響く。やっぱりコイツの仕業か。

くそっ!どこから喋ってやがる……。

 

 

≪皆さんの目の前にいる無人IS。それらは僕が用意したものです。騙すような事をして本当に申し訳ありません。……ですが、どうかこれと戦ってください≫

 

 

 

本当にすまなさそうな声でそう言うと、二機のガンダムのうち一機が速度を上げ、こちらへ迫る。

 

何のつもりだか知らねぇが、どうやら避けられる戦いじゃあねぇみてぇだ。

 

こいつらをとっとと片付けて、キラの奴にこの落とし前をキッチリつけてやんねぇとな!

 

「行くぞ、シャル!セシリア!」

 

「うん。行こう!オルガ」

 

「……え、えぇ!行きますわよ」

 

「Ride on…」

 

俺たち三人が一斉にISを展開させる。

 

 

 

そうして、新生鉄華団とキラの操る無人IS(ストライク)達による無益で無意味で無駄な争いが始まった。

 

 

 

____________________________________

 

 

 

オルガ達の前にいる二機の無人IS。その内の一機は色こそ白黒だが、オルガ達とは別世界のガンダム

 

──ストライクガンダムの各種装備の中でも機動力に重きを置いた、『エールストライク』

 

巨大なスラスターと主翼が目を引くその装備は異世界にてストライクがおそらく、最も使用したであろうストライカーパックだ。

 

そのエールストライクが右手にバズーカを左手にビームライフルを持ち、オルガ達へと向かって突撃してきた。

 

「相手は二機、でこっちは三人。数は優勢だよ。協力して倒していこう!」

 

「あぁ、そうだな!……ヴヴッ!」

 

オルガがシャルロットの提案に肯定したその瞬間、

 

もう一機の砲撃型装備のストライク──『ランチャーストライク』の肩に搭載された、

 

ガンランチャーとバルカンの一斉射撃を浴び、何度も何度もワンオフアビリティ『希望の花』を発動させてしまった。

 

キボウノハナー キボウノハナー キボウノハナー

 

「オルガッ!!?」

 

「シャルッ!…クソッ!待てって言ってんだ…ヴヴヴヴヴァアアア!!!」

 

完全に身動きができず一方的に動きを固められてしまったオルガを助けようと動くシャルロットだが、それをエールストライクが静止する。

 

「……っ!セシリア!オルガの援護を!!」

 

エールストライクに阻まれ、オルガの援護に向かえないシャルロットはセシリアへと応援を乞うが、そのセシリアは思考の沼へと沈んでいた。

 

(あの砲撃型のIS…。先ほどワタクシを狙った物とは少し違うようですわね……。あの砲撃型の持つ大砲とはまた違う超遠距離から放たれたと思しき弾丸。……レールガンかしら?)

 

「やはり…狙撃…ですわね……。申し訳ありませんが、オルガさん、シャルロットさん。どうやらワタクシのブルー・ティアーズと踊って下さる相手がいらっしゃるようですわ」

 

「まだ一機隠れてるってこと!?」

 

「えぇ、そのようですわね。……フフッ、このセリシア・オルコットとブルー・ティアーズに狙撃戦を挑むとは!なんて恐れ知らずなんですの!いい度胸ですわ。お相手してさしあげてよ!!」

 

セシリアのブルーティアーズが銃を構えた遥か先。

 

雲海の内に潜む狙撃手の名は、『ライトニングストライク』

 

装備している超遠距離狙撃用のレールガンの射程はセシリアのブルー・ティアーズのそれを上回っている。

 

(とはいえ、先ほどの狙撃……。オルガさんが庇ってくださらなければ危なかったですわ……。簡単な解析ではワタクシの最大射程よりも、さらに遠い距離からとお見受けしました。どうやらワタクシ達に対応する相手を用意してあるようですし……ワタクシのみを狙ってくるでしょう……。このブルー・ティアーズの射程内に収めようと接近してはいい的になるだけ。勝負は一瞬。カウンタースナイプ、しかもアウトレンジで挑まなくては……)

 

セシリアは相手の射撃能力がこちらを上回っている可能性に気付き、それでもなお、銃を握りしめ次の攻撃を待つ。

少しでも威力と射程を稼ぐ為ライフルに殆どのエネルギーを注ぎ込み、全てを賭けた一撃必殺の勝負にて決めるつもりのようだ。

 

「…どこ…?どこですの…?」

 

 

 

____________________________________

 

 

 

「はああっ!やあっ!」

 

箒が駆る紅椿がその左右の手にそれぞれ持つ刀の斬撃は、

 

白兵戦型のストライク──『ソードストライク』が持つストライク本体の身長に匹敵する大剣──シュベルトゲベールに防がれる。

 

性能面では流石に第四世代型ISである紅椿には劣っているのか、

このストライクは戦闘開始時からやや防戦に偏った形となっていた。

 

それでも無人機故か、遠隔操作するキラの補正か、技量までは覆せず、守りに入っているストライクにまともな一撃を加えられないまま、逆に箒はたまに見せる反撃で少しずつ確実に消耗していった。

 

「ふぅーっ…ふぅーっ…。軽装のように見えるが、堅いな……。思うように攻撃が通らない。厄介な相手を用意してくれたものだな」

 

 

「ホントそう!こいつらアタシ達と同じ土俵で戦うつもり?わざわざ戦闘スタイル同じ相手ぶつけて上位互換ぶるとか、趣味悪いわよあいつぅ!…ああもう!もどかしい!なんだってこんな!得意分野で苦戦しなきゃなんないのよ!」

 

そう叫ぶ鈴と対峙するもう一機のソードストライク。

 

一撃、二撃、三撃と振るわれるシュベルトゲベールの連撃を避け、時には甲龍の持つ大型の青龍刀──双天牙月で受け流し、大得物同士の削り合いは続く。

 

「パワーもあれもこれも向こうのが上っ!ホント面倒臭い相手!…でもっ!っぷわっ!」

 

ぶつくさと愚痴を漏らす鈴の様子などまるで伺う事なく、ストライクの横一閃が繰り出される。

 

間一髪、瞬時に上体を反らした鈴はこれを回避。

後ほんの少しのところでレーザー付きの斬撃は()()()()()()を通過した。

 

「…っぶないわねぇ!切れちゃったらどうすんのよ!私の…その…。~~~~ッ!!えーいっ!ブッ壊す!!!!今、すぐにっ!!!」

 

何かを自覚させられた鈴は目つきを変えてストライクへ突撃。

迎え撃つ大剣を双天牙月の刃を交え受け、激しく火花が飛び散る。

単純な腕力は無人機であるソードストライクが上回り、鈴は両手で青龍刀を握りしめ耐える。

 

「…やっぱきっつ……でもねぇ!!……負ける訳にはいかないのよぉぉ!!!!」

 

 

 

そして、一夏の白式が剣を向けた先。

宙に佇んでいるのはシャルロットと対峙したストライクと同じエールストライク。

シャルロットと対峙したバズーカとビームライフルを持つ射撃重視のエールストライクとは違い、一夏の前の機体は片手に大型の実体剣『グランドスラム』もう片方にシールドを装備した近接型だ。

 

 

一夏は眼前のエールストライクに雪片弐型を振るう。

 

「…がっ!ううっ!このっ!」

 

瞬時にグランドスラムでその一撃は受け止められ、続く二撃、三撃目も盾や剣で止められる。

 

 

(…一夏さんの方は……。成程、あれが白式の第二形態…『雪羅』ですか。あれのデータも一応取れ、って言われてたっけ…)

 

エールストライク「達」を遠隔操作しながらキラがそう思考する。

 

 

そんなキラの思惑など露知らず、一夏は自身の持てる力を最大限に振るう。

 

「……くそっ!なら、こいつは!」

 

一度距離を取り、今度は白式の左腕に搭載された『雪羅』を起動。

荷電粒子砲を三発ほど放つ。

 

全弾、命中。敵の無人機は爆煙に包まれる。

 

「……よし、意外となんとかなったな。って、撃ち過ぎたか?エネルギーは……ん?」

 

当たりはしたが、その予想は甘かった。

 

 

──煙の中で黄色い双眸(そうぼう)が光る。

 

その後、煙が晴れるとそこにはシールドを構えたストライクがいた。

まだ目の前に白式がいる事を確認すると、次はこちらだ、と言わんばかりに斬りかかる。

 

「くっ!やっぱこうなるかーーーっ!」

 

慌てて防御体勢を取った一夏は、重い金属音を立て、白式と灰色のエールストライクは衝突。

 

その状態で両機とも空高く飛翔し、雲海の中へと突っ込んでいった。

 

 

____________________________________

 

 

 

「はああっ!」

 

所変わって、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンと同様の砲撃機『ランチャーストライク(二機目)』の交戦ポイント。

 

互いの主武装である大型砲『ブリッツ』『アグニ』の撃ち合いは、ストライクが優勢だった。

 

(くっ…何度も撃ってはいるが、やはり敵の方が出力が上か…。AICも試みたが、奴の弾幕とあのビーム砲の前には効果が薄かった……今のままでは勝てない…。どうすれば……?)

 

 

 

 

そして、三日月の相手は……。

 

「アンタが俺の相手……でいいんだよね」

 

色こそ白黒だが、その特徴はストライクガンダムの種類の中でも、

 

『パーフェクトストライク』と呼ばれていた形態と一致している。

 

随伴しているその他『エール』『ソード』『ランチャー』全ての武装を一度に装備した、

ストライク最強の姿。マルチプルストライカー。

一撃一撃が必殺に等しいバルバトスに相応しいとの判断か。

 

(さっきの通信からして、他のみんなも今戦ってるはず……)

 

「ラウラもみんなも待ってるんだ。すぐに終わらせてやる…!」



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#04 狙撃手と狂戦士(カウンター・アンド・バーバリアン)

各々、自らの対峙すべきストライクと交戦を始める鉄華団。

 

その中で最初に勝敗が決したのは、セシリアのブルー・ティアーズとライトニングストライクの戦いだった。

 

 

 

「…どこ…?どこですの…?」

 

 

ブルー・ティアーズの主力装備であるレーザーライフル『スターライトMk-Ⅲ』のスコープを覗き、ひたすら遠方を見渡し、己の敵を探すセシリア。

 

その一見無防備な姿は、ライトニングストライクに丸見えだった。

 

「ッ!そこっ!」

 

無人機の二射目。セシリアが覗くスコープに雲海に浮かぶ小さな影が映った瞬間の事。

タッチの差でセシリアも最大出力のレーザーを発射した。

 

「ぐうっ!」

 

先に弾速・射程で勝るライトニングストライクのレールガンが届く。

それはほぼ直撃に等しかったが、射撃直後にとっさに放ったセシリアのISの名前の由来でもあるビット兵器『ブルー・ティアーズ』を盾代わりにし、そのレールガンの砲撃を防御する事に成功。

レールガンの直撃を受けたビットは至近距離で爆発したが、セシリアのIS自体は大事には至らなかった。

 

一方、スターライトMk-Ⅲから発射された最大出力のレーザーは、見事ライトニングストライクのコアを撃ち抜く。

 

「チェックメイト……ですわ」

 

そして、コアを撃ち抜かれたライトニングストライクはその機能を停止させ、静かに空の底へと墜ちて行った。

 

 

「……え?ええっ?!まずライトニングが墜とされるなんて……。アレだけは束さんに手伝ってもらった特別製だったのに……。セシリアさん、凄いですね……。これで残るは七機。まぁ、僕の負担も減るんですけど……」

 

山の頂上、バルコニー付近に隠れ潜むキラは、そう呟きながら()()()()()に簡易的な指示を送り続ける。

 

立体映像のようなコンソールに両手で忙しく入力してはいるが、無人機特有の『粗』を消す為の簡単な命令を細かく送る程度で、この状態のキラを狙った所で無人ストライク達の強さはさほど上下しない。

 

むしろ、問題はセシリアのブルー・ティアーズのエネルギー切れの方である。

「セシリア!大丈夫!?」

「返事をしろぉ!セシリア!!ヴヴッ!」

 

端から見ればレールガンの直撃を受けたようにも見えるセシリアを心配して、シャルロットとオルガが戦闘を継続しつつ、声を掛ける。

 

「ワタクシは問題ありません!…ですが、スターライトMk-Ⅲを最大出力で放ってしまったので、エネルギー切れを起こしています。もう戦えそうにありませんわ……。申し訳ございません……」

「うん、大丈夫!セシリアはキラさんを探して!多分、山の頂上にいると思うから!」

「わかりましたわ!シャルロットさんはオルガさんを!」

 

そう言って、セシリアがオルガの方を見ると……

 

「ヴヴヴヴヴァアアア!!!!」

 

キボウノハナー キボウノハナー キボウノハナー

 

オルガは相変わらずランチャーストライクの砲撃を浴びて、希望の花を咲かし続けている。

 

「任せて!オルガは必ず僕が助けるから!!」

 

(先ほど、庇ってもらった借りは必ず返しに参りますわ。どうかそれまでご武運を。オルガさん、シャルロットさん……)

 

 

 

____________________________________

 

 

 

そして、次に勝敗の決した戦いはラウラのシュヴァルツェア・レーゲンとランチャーストライクだ。

 

 

お互いに主武装である大型砲『ブリッツ』『アグニ』を撃ち合い続けているが、両者決定打にはならずにいた。

 

(やはり、普通の戦い方では埒が明かない。ならば、残る手は唯一つ…!)

 

そう判断したラウラは動きを止める。

好機と見たランチャーストライクはアグニの砲口をレーゲン本体へ向けチャージを始めた。

 

直撃を受ければ撃墜は免れない威力。

しかしラウラはそんな事は意に介さず、眼帯に手をかける。

 

≪…え?ま、まさか…≫

 

「ふっ……」

 

含み笑いをしながら、眼帯を外したラウラは、レーゲンに搭載されたあるシステムからの問いに答える。

 

『汝、力を求めるか?』

 

(ああ、よこせ。いいからよこせ!私の仲間を…友を、守る為の力を!)

 

システムの機械音声に答えた途端、レーゲンは光に包まれ、その姿を大きく変える。

 

 

 

 

 

「―――行くぞ、アインッ!!!!」

 

 

 

 

 

ええ、行きましょう!ボーデヴィッヒ特務三佐!!

 

「私はそんな階級ではないっ!…ん、三佐とは少佐の意だと?…あってはいるな」

 

シュヴァルツェア・レーゲンに搭載された『VTシステム』を発動させ、無機質な機械音声は活力溢れる男性の物へと変わり、その姿はオルガ達の知るモビルスーツ『グレイズ・アイン』の物へと変貌する。

 

かつてはその力に飲まれ、暴走していたこの形態。

福音戦にて制御下に置くことに成功したラウラは、以降滅多に使用しない奥の手として未だシステムを取り外さずに残していたのだ。

 

「この禁忌の力を以て、私は、お前をッ!」

 

あれは……!ガンダム・フレーム!忌まわしき悪魔の機体!あの野蛮な獣を討てばよろしいのですね!私の!正義の鉄槌にて裁かれろぉお!!

 

VTシステムの声は頭部の赤く大きな単眼をギョロギョロと脈動させ、敵対するガンダムを見つめる。どうやら機嫌がいいらしく、全面的に協力してくれそうだ。

 

≪ちょ、ちょっと待っ!しまった、VTシステムがあったのか!ランチャー2!回避に専念!絶対に接近を許さないで!≫

 

キラは戦闘方式が大きく変わるこの形態を失念していたらしく、一瞬、全機同時遠隔簡易操作から、ラウラの相手をしているランチャーへの集中的な指示出しに切り替える。

 

 

 

「…ッッ!?何よ、今の!」

 

その一瞬、その時の一撃のみ、ラウラのランチャー以外の全機の攻撃が異様に重くなったが、その事に気付いたのはわずかであった。

 

 

 

 

「ええい!この姿を見るなり逃げ回って!」

 

攻撃から回避に重点を置くようになった無人機の機動性は凄まじく、肩のバルカン等も併せて近寄る事は困難となった。

 

(この両手の斧さえ決まれば……。奴の動きを封じる手段は無いのか?……そうだ!今の状態で、レーゲンの武装が使えれば……!拡張領域(バススロット)周りの設定に手を加えればいけるか……?ええい!物は試しだ!)

 

とっさに幾つかの操作を試すラウラ。敵の弾幕をかいくぐりつつ、何とかすんなりとシステムを繋げることに成功。

 

空をアクロバティックに舞うグレイズアインの背から、本来はレーゲンの武装である6つのワイヤーブレードが伸びる。

 

≪え?ええ?!そんなの、聞いてないですよぉっ!?≫

 

「当たり前だ!私も出来るとは思っていなかった!だが出来たのだ!ならば…よし!捕らえたっ!」

 

VTシステムの補助により速度と威力を増したワイヤーブレードは、逃げ惑うランチャーストライクを追尾、拘束。

その巻き付けたワイヤーを手繰り、馬乗りのような形で密着する。

 

「…これでもう、逃げられまい…!」

 

お迎えに上がりました。今その罪穢れを祓いますので、どうか動かぬようにぃッ!!

 

そこから始まったのは、一方的な解体だった。

 

先ず手に持っている砲と肩のランチャー類を使えぬよう破壊。

次に左右の手にそれぞれ持った大斧を、まるで巨大な太鼓でも叩くかのように、

何度も大きな動作で降り下ろし、ストライクの全身に幾つもの深い切れ込みを入れていく。

 

(ふふっ……。まるでミカの戦い方が移ったかのようだ…!破壊の感触が直に手に伝わる…。我が嫁はいつもこのように武器を振るっていたのだな…)

 

あぁ…!分かる、私の純潔なる真理の刃によって、彼が清められていく様が!もっと…もっと叩きつけなければ…!正しさを!道徳をッ!!!粛清!粛清ィィ!!

 

打ち込まれる刃の速度は回を増すごとに速く、暴力的となり、あっという間にストライクの装甲はくまなくズタズタとなった。それでもまだ重要部分は耐えれているのか、苦し紛れに頭部から小型機関砲『イーゲルシュテルン』をグレイズアインに浴びせ、ささやかな抵抗を行う。

 

「…む。少し雑にしすぎたか。引っかかったな」

 

やがて大斧の1本が無人機の身体に食い込み取れなくなる。

 

「…ならば、これを試すしかあるまいな!」

 

仕方なく斧を手放したグレイズアインは、その手を高速で回転させ、既に甚大な破損を受けているストライクの装甲へスクリューパンチをねじ込む。

けたたましく金属の削れる音が立ち、衝撃で跳ねているのか、あるいは苦しみ悶えているのか、敵無人機はしばらく活きのいい魚のようにうねり、その後ようやく沈黙した。

 

やりました…やりましたよ!!ボーデヴィッヒ特務三佐!貴女の機体として活躍しました!ボーデヴィッヒ!!特務三佐!!!!私は、私の正しっ……!!

「ええい、うるさいっ!」

 

ランチャーストライクの撃破と同時に、

とにかく叫ぶVTシステムに耐えかね、ラウラは変身を解除。

元のレーゲンへとISを戻す。

 

「よし。他の皆の加勢に……。いや、流石に荒々しく戦い過ぎたか。エネルギーが底をついた。すまない、下がらせてもらう」

 

消耗の激しい形態の使用により、エネルギーを切らしつつあったラウラはバルコニーの付近へと引き下がる。

 

その道中──

 

「あっ」

 

「えっ?」

 

山の上に設けられた足場。その真下の骨組付近に、キラ・ヤマトは潜んでいた。

 



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#05 護るべきものの為に

砲撃型の無人ISをVTシステムを使って倒した後、私──ラウラ・ボーデヴィッヒは山の上のバルコニー付近に設けられた足場の真下の骨組で、その無人ISを操っていた張本人──キラ・ヤマトを見つけた。

 

「さて、どういうつもりなのか、吐いてもらおうか?」

 

「うぅ……」

 

とりあえずひっ捕らえたはいいが、やけにカチャカチャやっているコンソールの操作は何故か止めさせようとしたら涙目で懇願してきたので特別に見逃してやった。

実際、こうして私が拳銃を頭に押し付けている今もその作業は続いている。

 

「ワタクシたちを罠にはめようなんて、いい度胸ですわね!」

 

キラを捕らえた後、山頂にやって来たセシリアも私の横でキラを睨みつける。

 

「分かっています。元々は束さんの命令で、新型用のデータ採りなんです。それで僕も貴方達なら大丈夫だと思ったので……」

 

やはり、篠ノ之 束が絡んでいたか……。

ミカの勘の鋭さは流石だな。うむ、自慢の嫁だ。

 

 

「……成程な。よくもそんな勝手な事を、と言いたい所だが……。私達の実力を高く評価しての行い……という訳か」

 

「はい」

 

そう短く返事をしながらも、やはりコンソールを動かす手は止めない。

私はそんなキラにこう質問した。

 

「それで、銃を向けられてもなお、忙しなく続けているそれは一体何なんだ?」

 

「無人機へ命令を送っているんです。八機……いや、今は六機ですね。とにかく全機を簡易的ながら操作してる。……とでも思っていてください」

 

その説明を聞いたセシリアが驚嘆の声を上げる。

 

「はい?!そ、そんな事できるんですの……?!自律である程度動いてるのを加味しても……ISを?一人で?同時に?!」

 

「えぇ。それに、今僕を撃っても構いませんが、もし僕が死んでもあれらは止まりません」

 

…まあ、流石の私も殺すつもりはなかったんだがな……。この銃も中身も実はゴム弾だ。まぁ、言うつもりはもちろんないが……。

 

「それどころか、何が起きるか…保証できませんよ?最低でも終わるまで待ってください。お詫びならその時にいくらでも致しますから」

 

「操作しているのだろう?今すぐ電源を落とせ」

 

「無理ですよ……。アレを作ったのは僕ですが、与えられた権限が違うんです。僕にできるのはここから指示を送る程度。あのストライクは壊さない限り動き続けます」

 

「くっ……いいだろう。では私達はここでお前と共にミカたちの観戦をさせてもらうとしよう。もちろん見張りもさせてもらうから、逃げられるとは思わぬことだ」

 

「逃げませんよ…。確かに皆さんならよっぽど大丈夫とは思いましたが……」

 

キラは小さな声でこう呟く。

 

「僕だって、傷つけたくなんか…無いのに…」

 

 

____________________________________

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…まったく、どこまでもしつこいなぁ…!」

 

なるべく長く、なるべく速く。

シャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムIIは、無人機の内の一機、灰色のエールストライクとの熾烈な高機動戦闘を続けていた。

 

距離を離そうとすれば相手も速度を上げ、接近戦を試みても強烈な蹴りが待つ。

現状で出来る対策は、自らの得意な中距離を保っての撃ち合いに徹するのみであった。

 

「こっちもそうだけど…向こうも全距離対応って、やりづらいなぁ……。でもこのまま続けても終わる気配ないし、オルガが…!」

 

シャルロットの視線の先。

そこには開始から十数分経っても、未だ機銃で撃たれては蘇りを無限に繰り返すオルガの姿。

自力での脱出は様子から見て困難を極めるだろう。

 

「それにっ!結構弾丸を撒いてるのにっ!向こうは最小限で確実に撃ってくるっ!被弾もこっちばっかり…!だったらっ!」

 

既にかなりの弾薬を消費しているリヴァイヴ。一方のエールは一発一発を確実に狙い撃ち、エネルギーや武装はまだまだ余裕があるような気配を見せる。

なおかつ機体に幾つも掠り傷が重なっているシャルロットは、反撃の賭けに出た。

 

常に背後に張り付く敵の動きを逆手に取り、被弾を承知でシールドを構え転進。

エールストライクはシャルロットの想像通りビームライフルとバズーカを連射する。

全弾直撃。大きな爆発と共に呆気なくリヴァイヴの装備していたシールドは弾け飛ぶ。

 

だが、その盾の下にあるものを近づけるには十分な間だった。

 

「これでっ!僕もっ!……チェックメイトッ!!」

 

第二世代型ISの中でも最大クラスの火力を持つ武装。『盾殺し(シールド・ピアース)

爆煙の中から姿を現したリヴァイヴは盾の裏に隠していたパイルバンカーを、追撃の蹴りを避けつつエールの胴へと叩き込む。

 

両者共に決め手に欠ける武装であった事から長期化は恐らく敵の術中。

ならば多少の被弾を覚悟で己の土俵から降り、奥の手で強制的に終わらせる。

 

リヴァイヴも爆散した盾を中心とした左半身に小さくない損傷を受けたが、結果、見事にエールストライクの胴体には大穴が空き、一回だけの小さな爆発と黒煙を残して無人機はその機能を停止した。

 

「はぁ…はぁ…つ、強かった。……っ!そうだ!オルガ…!」

 

エールを撃破して数呼吸。中破した機体を引きずるように飛び、シャルロットは想い人のもとへと向かう。

 

 

 

 

シャルロットとエールストライクの決着がついた頃、キラがコンソールを操作している後ろで、ラウラがキラに銃を向けたまま、レーゲンの残りのエネルギーをセシリアのブルー・ティアーズに供給していた。

 

「ありがとうございます、ラウラさん。これでISを起動して一発撃つくらいには回復いたしましたわ……」

 

「えっ?……あ、あの、二人とも……。一応聞きますけど、何をするつもりですか……?」

 

そのキラの問いにセシリアはこう答える。

 

「フフッ……先ほど、オルガさんに庇ってもらった借りを返しに行くんですのよ」

 

「それって、オルガさんの獅電とランチャー1の戦闘に介入するってことですか!?……ちょっ、ちょっと!?待って下さい!?そんな事されたら……」

 

 

1on1にこだわってる今回の催しでそのような邪魔をされてしまったら束からどんなお仕置きを受けるかわからない……。そう思考したキラは何とかセシリアを止めようとするが、そんなキラをラウラが邪魔する。

 

ラウラは右手に持つ銃をキラの頭の上でぐりぐりと押し付けながら、左手で肩を掴み、全身を揺さぶった。

 

「貴様に自由があるとでも思っているのか!?……操作の手が停まるとマズいのだろう?やり様は幾らかあるんだぞ?」

 

「やっ……やめて下さいっ!ラウラさん!」

 

「やめて欲しければ、こちらの要求を飲んで貰おう!……そうだな、無人機の動きを鈍らせて貰おうか!それくらいならば貴様にも出来るんだろう?」

 

「やっ、やめて下さい!!……あっ、勝手にコンソール触らないでっ!!」

 

 

そんなキラとラウラの様子を片目にセシリアはブルー・ティアーズの強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備し、六基のビットをスカート状のスラスターとして使用して、一気に山を降り、オルガの獅電とランチャーストライクの戦闘空域へと全速力で向かう。

 

(オルガさん、今参りますわ……!)

 

 

 

セシリアが向かっているその戦闘空域にシャルロットが先に辿り着く。

 

「ええっと……いた!」

 

よろよろと空をただよい辿り着いた先で、シャルロットが見たものは……

 

「ヴヴッ!(♪希望の)シャルッ、俺に構わヴッ!(♪はな)止まるんじゃ(♪繋いだ)

 ねえっ(♪絆を)ぞヴヴッ!(♪力にして) だからよ…止まるんじゃねえぞ…」

 

ただひたすら希望の花を咲かし続けるオルガの姿。

そしてオルガを的確に蘇生した直後のタイミングで打ち抜くランチャーストライク。

 

(大丈夫だよ、オルガ…今、助けるから!)

 

「はああああっ!!」

 

オルガを作業的に撃ち続けるストライクに憤慨し、シャルロットは拡張領域(バススロット)からマシンガンを取り出して攻撃。

 

弾丸は当たるものの、ダメージは薄い……。

 

「くっ!……待ってて、オルガ!何とかする!必ずオルガは僕が護るから!!」

 

そう言って無用心に接近するシャルロット。彼女は想い人の窮地の前、冷静な判断が出来ていなかった……。

 

 

ランチャーストライクはそれまでオルガに対しては一切使用しなかった大型砲『アグニ』を接近してくるシャルロットのリヴァイヴへと向け──

 

「…えっ?嘘…」

 

────発射。

 

 

「おる……が………」

 

リヴァイヴは、大きな爆発の中へと消えた。

 

 

 

 

「……シャル?……シャルゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 



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#06 約束

「はああああっ!!」

 

無人機の銃撃を受け、希望の花を咲かせ続ける俺を助けるため、シャルがマシンガンを手に突撃してくる。

 

だが…ダメだ……。無人機には効いちゃいねぇ……。

 

「くっ!……待ってて、オルガ!何とかする!必ずオルガは僕が護るから!!」

 

そう言ってシャルが俺に近づいてくる。

 

来るなっ!…そう叫ぼうと口を開くより先に、ヤツはそれまで俺に対しては絶対に使おうとしなかった大型砲を接近してくるシャルのリヴァイヴへと向け──

 

(…って、おい……!何してやがる……!)

 

「…えっ?嘘…。おる……が………」

 

 

大型砲の直撃を受けたシャルのリヴァイヴは、俺の目の前で爆発し、雲海の下へと消えていった……。

 

 

「シャル?……シャルゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

俺の叫び声が響く中、誰かからの攻撃で無人機の胸に穴が空き、音もなく撃墜された。

 

その砲撃が放たれた方向を見てみると、……そこにはセシリアが見えた。 

 

「オルガさん、借りは返しましたが……マニュアル照準が間に合わず、申し訳ありません……!」

 

「くっ!……待ってろ…!シャルッ!」

 

セシリアの言葉を聞きながら、俺は即座にシャルの墜ちた先へと向かう。

 

(…俺は…また…!)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

『おい……ビスケット。返事をしろ!ビスケット!』

 

『聞こえ、ないよ……。オルガ……行か、ないと……』

 

『ビスケット!』

 

『オルガ…俺たちで……鉄華団…を……』

 

『……ビスケット?』

 

 

『ぐっ……ヴァァァァァァァァァァァァッ!!!!

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

転生する前のあの時の事。

ビスケットを失ったあの時の事。

還るべき場所へ…。そう()()したあの日、俺を庇うようにしてビスケットは……。

 

俺はその光景をフラッシュバックのように思い出す。

 

 

まだ…まだだ……!守らねぇと……!

()()を…果たさねぇと……!

 

シャルを失いたくない……ビスケットみたく…したかねぇ!

 

まだシャルとは一緒にいてぇ!二学期には学園祭だって、修学旅行だってあるんだ……。

まだ、この世界の仲間と……シャルとやりてぇ事いっぱいあんだよ!!…まだ…俺は……!!!

 

 

……だからよ。

 

 

「もっと加速しろっ!獅電っ!!」

 

そんな俺の声に応えるように獅電は一気に加速する。

なんだったか、シャルが言ってた。

確か…ISの能力の一つ……そうだ!イグニッションブースト!!

 

「頼む……間に合ってくれぇぇぇぇ!!!」

 

 

____________________________________

 

 

 

あー……。まいったなぁ、焦っちゃった。

 

あの優しそうなキラさんだから、オルガ以外にはちょっとは大丈夫かも、ってそう思ってたけど。

 

全然そんな事ないや。思いっきり撃って来るとはね……あはは……。

 

別にオルガを庇わなくても……オルガにはあの単一仕様能力(ワンオフアビリティ)があるんだから…別に大丈夫だったのに……。

 

何やってるんだろう…僕……。

 

 

でも、オルガがあのまま死に続けるのは……嫌だ……。

 

オルガにはあの単一仕様能力(ワンオフアビリティ)を使ってほしく、ないから……。

 

オルガに護られるだけの僕じゃ……嫌、だったから……。

 

オルガを…護りたかったから……。

 

 

 

背中に強く風が当たるような感覚がする。

 

怖いけど…頑張って下を見ると、そこは一面ふわふわだ。これなら落ちても大丈夫そう……。

 

 

……って、いやいや、これ雲海。やっぱダメ。

 

 

数秒後くらいに、僕を撃った無人機も墜ちてきて、先に雲の海へと沈んだ。

 

自分もああなるのかなぁ……。

そうなった後、どうなるのかぁ……。

 

 

生身で味わう空中は、正直な所、上も下もあんまりない。

 

時間の流れもすごくゆっくりだし、ただ間近に迫る雲海の距離だけが全て。

 

 

 

……せめてこうなる前に、もう少しオルガといたかったなぁ。

 

二学期には学園祭も修学旅行もある。

 

学園祭は何やるか、まだ決まってないけど…出来ればメイド喫茶とかが良かったなぁ……。

前に着れなかったメイド服…着てみたかったなぁ……。

 

修学旅行は京都だったよね……。オルガと一緒に京都の町を歩きたかったなぁ……。

 

 

そんなことを考えていたら、僕の目から涙が溢れてきた。

 

空に落ちる涙が煌めいて…とっても幻想的…キレイ……。

 

 

「………ごめんね、オルガ……」

 

 

そう誰が聞いているかもわからない声を漏らしながら、僕の体もまた雲の海に沈んだ。

 

 

雲の中では何も見えず、そしてほんのり湿っているような…不思議な感覚。

よくある漫画みたいに雲は落ちてきた僕を受け止めてはくれず……。

 

くれ…ず…?

 

 

「…ぁ…れ?」

 

 

「あやまるんじゃ、ねぇぞ…!シャル!!……ハァハァ」

 

 

それは僕が今、聞きたかった人の声……。

好きな人、愛しい人、護りたい人……僕が、「恋」をした人……。

 

 

 

「──むしろ、あやまんのは俺の方だ!……すまねぇ、何も出来なくてよ。だがな…」

 

「…ぇ」

 

 

僕の手を引くのは、その人の……獅電の腕……。

 

 

「…「約束」…守れた……ぞ………!」

 

 

そう言って、僕の手を掴んだのは僕の好きな人、愛しい人、護りたい人、そして、僕が「恋」をしたその人。

 

 

僕はその人の名前を満面の笑みで呼んだ。

 

 

「…オル…ガ…?」

 

「オルガ!!」

 

 

 

 

 

シャルロットの手を掴んで雲海を飛ぶオルガの獅電は、まるでお姫様を助ける騎士(ナイト)のようだった……。

 



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#07 乙女たちの剣舞(レッドガールズ・ブレイドダンス)

「「よかった……」」

 

ランチャー1が暴走し、アグニの直撃を受けて雲の海の中へと落ちてしまったシャルロットさんをオルガさんが助けた様子をコンソールから眺めていた僕とラウラさんは安堵の息を漏らした。

 

「ラウラさんが勝手にコンソールを触ったりするからこんなことになったんですよ」

 

「そ、それは…貴様が……!い、いや…すまなかった」

 

ラウラさんは何かを言いかけようとしたが、自分の軽率な行動のせいで友を危険に晒したのを自覚したのか、素直に謝罪を述べた。

 

「オルガさんが助けてくれたから良かったですけど……」

 

ラウラさんは言葉を失くして、俯いてしまう。……ちょっと言い過ぎたかな?

 

「まぁ、とにかく。ストライクたちが僕の操作から離れるとどうなるかは良くわかりましたよね。全空域の戦闘が終了するまでは大人しくしていて下さい。ラウラさんのISはエネルギーもないんですし……」

 

そう言いながら、コンソールを操作していると、とあることに気が付いた。

 

箒さんの紅椿とソード1の戦闘空域と鈴さんの甲龍とソード2の戦闘空域がお互いに接近しすぎていたのだ。

 

これでは1on1に持ち込めなくなる危険がある。もし箒さんと鈴さんが協力でもしたら、束さんに何を言われるか……

 

「…っ!ソード1、ソード2!距離を取って下さい!!」

 

 

____________________________________

 

 

 

「逃がすかっ!」

 

箒の紅椿が右手に持つ刀『空裂』を振るい、距離を取り始めたソードストライクへエネルギー刃を飛ばすが、それはソードストライクの大剣──シュベルトゲベールで容易く防がれてしまう。

 

「…ダメか…はぁ…はぁ……」

 

既にかなり疲労している箒は、距離が離れたこのタイミングですぐさま呼吸を整える。

それを見たストライクはその一瞬の隙をついて攻撃…することはあえてせずに、シュベルトゲベールを背中のラックに格納した。

 

(…?剣をしまった?こちらを見逃す訳ではあるまい。……何のつもりだ?)

 

不審な行動に警戒を緩めずその様子を注意深く観察する箒。

一方、ストライクはその状態で左肩へ手を伸ばし、次の瞬間──

 

肩の先端についていた()()を紅椿へ向け、投げた。

 

「っ!…んむ?外れた?」

 

投げられた()()は箒をかすめ、はるか向こうへと回転して去る。

 

「…手裏剣かなにかか。だがそのような物!当たる訳が無いだろう!」

 

大剣を格納し、肩の装備も失くした今を好機と定めた箒は二本の刀『空裂』と『雨月』を構え、突進の勢いを乗せて、斬りかかる。

 

だが、その勢いは一瞬にして消し去られた。

 

ストライクの左腕の小盾先端部から射出されたワイヤー付きのクローを見て箒は驚きの声を上げる。

 

「な、なにいっ?!」

 

そのワイヤー付きクロー『パンツァーアイゼン』により右腕を拘束され、封じられた箒は背後に接近していた物に気付かず……

 

「ぐあぁぁっ!」

 

ストライクが先程投げたビーム刃付きブーメラン『マイダスメッサー』の直撃を受けてしまった。

 

さらに追い打ちか、ストライクはマウントしたシュベルトゲベールを取り出し、大きく構える。

 

(流石にこの剣の大振りくらいは簡単に読めるぞ…)

 

そう思った箒は刀で受け流す用意をする。しかし敵はそれすらも想定内だったようで──

 

 

(……ん?)

 

構えた大剣は振るわれず──

 

代わりに柄頭からビームが発射された。

 

 

「なっ…!ごがっ!?」

 

まさかの仕込み砲をもろに受けた箒は、咆哮を上げる。

 

「お、おのれ…先程から小癪な手を!許すと、思うなぁあああっ!!

 

手始めに、左に持つ刀『雨月』で刺突攻撃の型を取り、レーザーを連続で放射。

そのレーザーは全て回避されてしまうが、それは箒の予測の範囲内。

レーザー攻撃を放った後、すぐに右腕についたワイヤーを切り落とし、ストライクへと急接近した箒の紅椿は両手に持つ二本の刀『空裂』と『雨月』を同時に降り下ろして、防御の為にストライクが突き出したシュベルトゲベールを叩き斬る。

 

そして、最後は腕を交差させてストライクの胴を貫いた。

 

さらについでで一太刀浴びせようとするも、ストライクは刺した刀を抜かれた途端、音も立てずに落下してゆき、雲の中へと沈んだ。

 

 

「……はぁ…はぁ……勝ったぞ……一夏…」

 

 

 

 

 

 

「箒も頑張ってるし、アタシも頑張らないと!」

 

箒がストライクを落としたのを横目で確認した鈴はそう言いながら、展開している甲龍の肩アーマーから『龍咆』を掃射し続ける。

 

それはストライクに難なく避けられてしまっていたが、鈴の甲龍とソードストライクの戦闘はどちらかというと鈴側に戦局が偏りつつあった。

 

鈴と対峙するソードストライクの肩には本来あるはずの『マイダスメッサー』がなくなっている。

先ほど鈴に対して投擲したそれは『龍咆』で撃ち落とされたからだ。

 

中距離武器を一つを無駄に失ったソードストライクは警戒して『パンツァーアイゼン』の使用を渋り、回避に専念していた。

 

ストライクが距離を取ったまま、回避に専念したため、鈴の甲龍とストライクの戦闘は膠着状態のまま続いていたのだ。

 

「さっきから、逃げてばっかで!アタシをおちょくってるわけぇ!!舐めんじゃないわよぉ!!」

 

(このまま鈴さんのエネルギー切れを狙ってもいいけど……まぁ、ソードストライクのデータは箒さんとの戦闘で十分取れたし、これくらいにしとこうかな)

 

そう感じたキラはこの膠着状態を脱するため、箒にも使用した『パンツァーアイゼン』を放つ。

 

「そのワイヤーは!さっきの箒の戦闘で、見てんのよぉ!!」

 

肩アーマーの武装展開を解除し、伸びてきたワイヤーを手に持つ双天牙月で斬りながら、鈴の甲龍はストライクへと急接近。途中放たれたシュベルトゲベールの柄頭からのビームも回避し、鍔迫り合いの状況にもつれ込ませる。

 

その鍔迫り合いの最中、鈴は再び甲龍の肩アーマーを展開。

 

「ゼロ距離ならっ!」

 

そして、至近距離でストライクへ向け『龍咆』を発射。砲身のないこの衝撃砲は、密着した状態でも自分に当てることなく射撃を行う事が可能である。

 

大量の衝撃波をゼロ距離で、瞬間的に叩き込まれたストライクは大きくひるむ。

 

鈴はこのタイミングを待っていた。

 

 

 

「アンタには一本しかないけど!!アタシのは、二本あんの、よぉっ!!!」

 

右手はそのまま、左手を一度放し、もう一本の双天牙月を出力。

 

がら空きの横腹に向け、思い切り刃をぶつけた。

 

「よし、入ったぁっ!このままっ!はあああああっ!!」

 

左の青龍刀の刃は見事ストライクの胴へとめり込み、さらに力を加える事で刃は進んで行く。

 

やがて鈴の刃は敵の装甲を引き裂き……

 

このストライクは胴と腰、それぞれが上下に分かれ、機能を停止し落下していった。

 

「いっ、よっしゃぁぁ!!」

 

そう言って握り拳を作る鈴をコンソールから眺めながら、キラはこう思考する。

 

(やっぱり、負けか……。でも、なんか、既視感ある光景というか。……胴と脚で真っ二つ、かぁ…。…………まるで、ブリッツの時みたいに……。いや、思い出すのはよそう。……えっと、残りは……一夏さんとのエール1と、三日月さんと戦うパーフェクトだけ……)

 

 

 

 

 

広がる雲の海。その空を裂き、幾度も交わる二つの流星──

二機のガンダムは数え切れぬほどの重い金属の衝突音をその空へと響き渡らせるが、未だ決着はつかず……。

 

「……チッ!」

 

三日月はその状態に苛つきを隠せずにいた。

 

 

そして──

 

「……さて、どうすっかな。この状況」

 

一夏は…………悩んでいた。

 



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#08 彼らのやり方

「……さて、どうすっかな。この状況」

 

一夏は、悩んでいた。

 

エールストライクに雲の中へと押し込まれ、視界の悪い中、幾度も切り結び、やがて何とか浅く一太刀浴びせたところまではよかったものの。

 

そこから始まった敵の猛攻。荒々しく繰り出される実体型の大剣『グランドスラム』の剣技。

エネルギーの消耗を抑えることを優先した一夏は、ひたすら防御と回避に専念。

 

気が付けば雲海は遥か頭上。自分は山肌に背を付け、目の前の刃を何とか受け止めていた。

いつのまにか、空高くから地面の上まで追い込まれている。

脱出しようにも、ストライクの持つ盾に押され身動きが取れない。

 

(この無人機の武装は全部実弾タイプ……。バリアも貼ってんのか?よく分からん。……多分だが、零落白夜は効果が薄い。こっちの身が削れるだけだ。だったら…)

 

「おい、無人機よぉ」

 

一夏は首を大きく左に曲げ、右手に持っていた刀剣『雪片弐型』を手放し、『グランドスラム』の刃を掴んで顔の真横の地面へと突き刺し、抑え込む。

 

そして──

 

「……この距離は、避けられないよな?」

 

突き出された盾を無理矢理押しのけ、左腕をストライクの胸へ当てる。

 

そして、白式の全エネルギーを込め、荷電粒子砲を放つ。

 

接射を受けたストライクの上半身は消し飛び、そのまま天を貫き、射線上周辺の雲は穴が空くように晴れた。

 

「これが、ミカやオルガ達から学んだ鉄華団の……いや…()()()()()だ……!」

 

 

エネルギーの尽きた白式は解除され、一夏はインナー姿で地面の上に降ろされる。

 

「ふぃー…何とかなったか……にしても…」

 

目の前にある無人機の残骸と辺り一面の風景を見た一夏は……。

 

「はぁー……山頂まで長いなぁ……。これは、戦うより疲れそうだぞ……」

 

 

 

そう呟きを漏らし、再び歩き始めた一夏が見上げた空の上では──

 

 

『バルバトスルプス』と『パーフェクトストライク』が、互角の戦いを繰り広げていた。

 

異なる世界の二機のガンダムのぶつかり合いは、ただ激しさのみが増してゆく。

 

「チッ…やっぱこいつ、一発が重い…!」

 

互いの得物を交差させていくうち、三日月は感覚的にいくつかの事に気が付いた。

顔はバルバトスをはじめとしたガンダム・フレームとはよく似ているが、その性質や特性といったものは自分たちの知っているものとはまるで違う事。

銃や砲は勿論、剣にもビームを使用している事。

 

なおIS化の影響なのか、今のバルバトスルプスには()()()()()()()()()()ようで、事実その右肩はストライクの『アグニ』が掠めた時の影響で溶け、削れ欠けている。

 

単純なパワーのみであれば三日月の方が上であるが、無人機のCPUが良いのか、遠隔操作を行うキラの入力が的確なのか、向こうは最小限のパワーで精密に狙いをつけた攻撃でルプスの姿勢を崩し、隙を突く。

 

獣のように駆け回る三日月と違い、ストライクは宙を舞うようにメイスを避け、円錐のようにぐるぐるとルプスの周囲を駆け巡り、反撃も絶妙なタイミング。荒々しさなどない、洗練された動き。

 

まさに蝶のように舞い、蜂のように刺す動き。

 

「…すごいな、あの動き……なんか、奇麗だ」

 

三日月・オーガスとは、戦い方がまるで逆。

本能に従うバルバトスと、理性を貫き通すストライク。

 

傍目には激しすぎて拮抗しているように見える戦いでも、実際の相性はかなり悪い物だった。

 

もう何十回目かにもなる交差。

大剣をメイスで受けたルプスを、視界の真下から鞭のような鋭い蹴りが襲う。

重量差か、何かの影響か。ルプスは衝撃で弾き飛ばされる。

 

よく見れば、いつの間にか灰色だったストライクには、バルバトスと似たような色がついていた。

 

「ッ!!」

 

ルプスが体勢を立て直す一瞬の間に、ストライクは大型砲を構え、直後に砲口にエネルギーが溜まってゆき──

 

 

 

 

 

ストライクの持つ『アグニ』はビームに貫かれ爆散した。

 

 

「…ッ!?」

 

 

そのビームが放たれた方向からとある男の声が聞こえる。

 

 

「…よう、ミカ。苦戦してんなぁ?」

 

 

 

「…オルガ?」

 

 

三日月が見下ろすと、そこには雲海ギリギリの場所から、ストライクの武装の筈の『アグニ』を持ったオルガの獅電の姿があった。

 

「便利そうだったからよ、地面に落ちる前にくすねてきた。それが()()()()()()……だろ?ミカ?」

 

「…そうだね…そっか…うん…!」

 

「ああ、それでいい…!」

 

 

 

そして、オルガはこう叫ぶ。

 

 

「────やっちまえ!ミカァ!!」

 

 

「あぁ、そうだね…!!」

 

 

そのオルガの叫びに答えるようにバルバトスルプスの目が瞬くように光る

 

 

「んじゃぁ、行くかぁ!!!」

 

 

先程のビーム砲で完全にエネルギーが尽き、空中で消える獅電。

三日月に向けて笑い、親指を立てながら雲の中へと落ちていくオルガ。

 

その姿を見送った後、ルプスは静観するパーフェクトストライクを睨む。

 

「…あんたのやり方がどうなのか、知らないけどさ」

 

突撃。迎撃の為ストライクは右肩からミサイルやガトリングを放つ。

しかしそんなものには全く意に介さず、なおも前進。

瞬く間に装甲は穴だらけになるが、彼は────止まらない

 

やがてストライクの間近に辿り着き、ソードメイスを降り下ろす。

瞬時にシュベルトゲベールで受けられ、また蹴りが炸裂するかに見えた。

 

だがルプスはストライクの足を左腕で受け止め、握り潰す。そして、ストライクのひしゃげた足を放し、がら空きの胴に拳を叩き込む。

 

……が、まだ浅い。

 

「チッ……これならっ!!」

 

三日月はソードメイスの向きを変えた。

 

ストライクのシュベルトゲベールは左肩であえて受け止め、今度は思い切りメイスを叩きつける。

 

そこまでやって、ようやくストライクは体勢を崩す。

 

よろめいたついでにストライクは左手にシュベルトゲベール、右手にマイダスメッサーを持ち、その両方を同時にルプスへと向けるが──

 

両腕を振り上げた瞬間、ルプスはソードメイスを投げつけ、ストライクの行動を阻害する。

 

そして、再び懐に潜り込んだルプスは腕部の砲を展開。ストライクの胴体に両手を突き刺すようにして固定し、至近距離から連射。

 

無論ストライクもそれを黙って受ける訳がない。

 

両手の大得物を手放し、腰からナイフ『アーマーシュナイダー』を取り出して、ルプスの右アンテナを裂く。

続けて肩、腕、胴を滅多刺しにして抵抗する。

 

 

密着した両者は激しく攻撃を繰り返し……。

 

お互い、瞬く間に全身に傷が増えてゆき……。

 

 

やがて内側に直接、弾丸を大量に打ち込まれたストライクは機能停止。

大きな爆発を起こして砕け散った。

 

 

「………こいつが、()()()()()()だよ」

 

 

雲の晴れた青く煌めく大空には、ボロボロとなったバルバトスルプスのみが──ただ残った。

 

 

 

 



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#09 昔の牙は抜けきらない(ドント・フォーゲット・メモリー)

「……さて、と。俺らを罠に嵌めるなんざ、どういうつもりか一応聞いておかねえとな?」

 

「本当に、申し訳ありません………」

 

俺と一夏のなっげぇ登山を終えたのち、簀巻きにされたキラの尋問を始める事にした。

当初の目的だった雲海は、俺らがてっぺんにたどり着くころにゃあ、戦闘の風圧やらビームやら爆発やらなんやらで完全に散り散り。今やただの山の風景だ。

 

とりあえずキラはミカに拳銃を向けさせてるし、もうこいつは下手な真似はできねぇ。

 

 

そんなキラにリンがこう聞く。

 

「どうせあの篠ノ之束に言われたんじゃないのー?戦ってこいって?」

 

「まあ…概ね…」

 

「素直に戦ってくれって頼みゃいいのになぁ。ま、頼まれても戦うわきゃねぇけどよぉ」

 

 

イチカもキラにこう質問する。

 

「そこまでして束さんは一体何をするつもりだったんだ?」

 

「データ収集ですよ…。実働のものが欲しいって言いまして…」

 

「ふーん…」

 

とにかく全員でキラを睨む。

……どうも本当にただおつかいを頼まれたみてぇな感触で、その後もしばらくゆすったがあまり良さそうな情報は吐かなかった。

 

 

 

「み、皆さんならお強いですし……」

 

そのキラの言葉に俺は怒りを覚える。

 

「あ?だから良いってか?冗談じゃねぇぞ……。テメェな!シャルが!危ねぇ目に遭ったんだぞ!? ……この落とし前、アンタどうつけるつもりだ?」

 

「ちょっ…オルガ…いいんだよ…。オルガのおかげで無事で済んだし…」

 

シャルはそう言うが、俺の腹の虫は収まらねぇ。ラウラも何か言いたそうな顔をしているが、俺は怒りに任せてキラにこう言う。

 

「いや、こいつはここで何とかしておかねぇと、また次もやる。そうなる前に先にやっとかねぇと、俺ら鉄華団の為にも…!」

 

「オルガっ!!」

 

「ねぇ、流石にやばいって…!」

 

シャルやリンが必死に止めようとする。

 

だが、ミカは違ったようだ……。

 

「……こいつ、撃っていいの?」

 

「ミカ!!」

 

「三日月もオルガもやめろって!!」

 

ラウラやイチカも止めに入る。

 

……が、俺たちは止まらねぇ。

 

鉄華団の邪魔をするやつは敵だ……。

 

 

俺が合図してミカにキラを撃たせようとしたその時──

 

「待ってくれ!!!」

 

シノがそう叫んだ。

 

いっつもイチカに怒るような感じの声音じゃねぇ。もっとマジの時のだ。

聞いた途端、俺やミカ、リンやイチカ達もぴたりと動きを止める。

 

「…な、何だよ…シノ…」

 

「頼む……キラを…許してやっては、くれないか……?」

 

さっきの大声とは裏腹に、今度はうつむいてぽつり、と呟いた。

その豹変ぶりに、俺はだんだんと頭に上っていた血が引いていくのを感じる。

 

「…な、何でだよ……」

 

俺がシノにそう聞く。

 

「オルガ……よく考えてみてくれ。こいつは姉さんの愛弟子だ。今回だって、姉さんに言われてした事だ」

 

「……何が言いてぇ」

 

「今ここでキラに何か起ころうと、ちょっと仕方ないとは思う」

 

「えっ…箒さん?」

 

「でも、こいつは言ったんだ。『あの人についていけるのは自分くらいだ』と。姉さんについて今まで色々言う奴はとても…多かった……。だがコイツだけはハッキリと断言したんだ!あんな人でも自分ならば傍にいられると!」

 

シノはその後もこう続ける。

 

「確かにまた私達に何かやらかすかもしれない。撃ってしまってもいいかも知れない。しかしこれは大きな借りになる。ここであえて見逃しておけばそれは恩になる。こいつは恩を仇で返すようなタイプには見えない。もしまた…いや、今度何か姉さんが、物凄くとんでもない事をしでかそうとした時、傍でこいつが、もしかしたら!止めてくれる可能性だって決して低いわけじゃない筈だ!」

 

「……成程……な…」

 

シノの必死の説得で俺の熱くなっていた頭は急激に冷やされた。

 

「だから頼む!今回はどうか!私に免じてキラを許してやってくれ!」

 

そう言ってシノは頭を下げる。

 

……だよな。そうだよな。『昔』の進み方じゃ、また最初みてぇに全部無くしちまう、か。

 

目についた邪魔な奴を片っ端からただただ潰してった先があのザマだ。

 

もう流石にあんなのは繰り返さねぇし、この世界にそういうのは似合わねぇ。

 

止まらなかった末辿り着いた、『今』の道を崩しちまうとこだったのか…俺は。

 

「……分かった。ミカ、銃を下げろ。こいつは、『許す』。イチカ達も、悪かったな。荒っぽく騒いじまってよ」

 

「…いいの?オルガ」

 

「ああ。いいんだ。…だがそのままってのもすっきりしねえなぁ…どうすっか…」

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

「皆さーん!おべんと、持ってきましたわ~!ぜえ…ぜえ…。まったく、なんでわたくしが持ってく…あぁ、自分で言ったのでした…」

 

適当に安全そうな場所へ置いてきた弁当類を抱えてセシリアがこちらへ手を振りながら走ってきた。

 

見た感じ、どうやら全部無事だったらしい。

 

…で、俺がキラへの処罰をどうすっか悩んでる横で、ミカは大量の弁当袋を提げたセシリアをじっと見つめている。

 

 

 

 

まるで何か思いついたみてぇに。

 

 

 

 

「ねぇ、セシリア」

 

「は、はいっ!なんですの?三日月さん!」

 

「セシリアの弁当、キラが食べたいって言ってるんだけど、いいかな」

 

 

 

……っ!!そういう事か…。

ミカ、お前……。

 

「む、むぅ…。本当は一夏さんや三日月さんに食べて頂きたかったのですが……。三日月さんの言う事であれば、従いましょう」

 

そう言った後、セシリアはキラの方へ向き直り、こう続ける。

 

「それに見た感じ、キラさんは働き詰めであまりお食事がとれていないご様子。ここはワタクシ!セシリア・オルコットの手料理を召し上がる栄誉をお与えいたしますわ!困っている者には分け与える!ノブリス・オブリージュの精神にのっとった清く正しい行いですわ!!」

 

自信満々に胸を張ってセシリアはキラへ弁当を渡す。

 

「え…?ほ、本当にいいんですか?!僕、皆さんにあんな酷いことを……」

 

「ああ!セシリアの飯はうまいぞ。すまねぇな、あんたも疲れたろ。遠慮なく食え!」

 

こうなりゃもう知らねぇ。とことんミカの策に乗ってやる。

当人も自信満々でキラの前で弁当開けてるし、いいだろ。合意の上だ。

 

(うわぁ…。俺、流石に知らねぇぞ…?)

 

(あーあ…。ありゃ死ぬよりひどい目に遭うわよ?止めなくてもいいの?箒)

 

(いや…まぁ…。死なれて姉さんの報復を受けるよりかは…まだ……)

 

(…あの雲、ミカに似ているなー)

 

(容赦ないなぁ…三日月も、オルガも…)

 

後ろでイチカ達が白い目で見ているが、あのまま悲劇を繰り返すのに比べりゃあ…なぁ……。

 

「うわぁ!すごい綺麗じゃないですか!美味しそうですね…!」

 

「ふふふ。そういってくれるだけでも感謝の極みですわ。ささ、どうぞどうぞ。遠慮なく召し上がってくださいな。一流の素材を厳選して作ったお弁当、堪能してくださいまし」

 

「はい!ありがとうございます!いただきます!」

 

お互い満面の笑みでセシリアは箸でキラの口へ弁当の中身を運ぶ。

ああなっちまったらもう誰にも助けられねぇ。俺らはただその様を見守るだけだ。

 

「あーん…あむ。………ッ! これ、すごくおいし…ビィッ?!」

 

「あら!それは本当ですの?!ならもっとお食べなさいな!それ、それそれ!それっ!」

 

「いやもうお腹いっぱいで…んぐっ!ぎっ!がぁっ!ごるぅぅっ!?」

 

途中から食ってる時には絶対に出ねえような悲鳴と絶叫へと変わるが、少しでもウマいといったキラの言葉がうれしすぎたのか、セシリアは一切見向きもせず、

ただひたすらに抵抗できないキラの口へと弁当の中身を押し込んでいく。

 

よく見たら結構な量だ。…やっぱ殺しといたほうが楽だったかもしれねぇな。ありゃ……。

 

 

 

 

とてもそんな、俺らでも耐えられねえようなひでぇ拷問の真後ろでメシなんか食える筈もなく。

 

やがてすすり泣く音さえも消え、おそるおそる目をやると──

 

そこには絶対にこういう顔の奴がしないような苦悶の表情で気絶しているキラの姿があった。

 

「色男になったじゃん」

 

ミカ、お前……確かにある意味色男かもしれねえけどよ……

 

そしてセシリアはその隅で独り、美味しいと言われた余韻に浸っていた。

 

一応キラは息はしているようで、多分俺らは、セシリア飯のおかげで最悪の敵を作らずに済んだらしい。

 

アイツの料理は世界を救ったのかも知れねぇ……。

 

 

 

 

そんなこんなでもうこの場所に用は無くなった。もう単なる山しか見えねぇし。

しばらくしても、更にいくら叩いてもキラは起きねぇので……。

 

「…帰るか」

 

待っていてもしゃーねぇから、そのままキラを山に放置して俺らは帰る事にした。

 

 

――――――

 

 

「……にしても、本当にみんな無事でよかったよ。オルガも、あとキラさんも」

 

「シャルは優しいな。ま、俺ももう昔の俺じゃねぇ。過ちはそう繰り返さねえよ」

 

(……オルガ、昔のことを少し話す時はどこか暗くなってる気がする。戦場に居たみたいだけど……もしかして仲間が……)

 

「シャル?」

 

「あ、うん!続けていいよ!」

 

「お、おう……今回は何とかシャルを助けることができた。だがこれから似たようなことがあっちまったら……」

 

「オルガ…」

 

「俺だけ一方的にボコられてたんだ。今のままじゃいけねえ。もっと強くなりてえ。そして力を手に入れても目的は見失わねえようにしてえ……()()だからな」

 

「…約束……うんっ!」

 

「じゃあ、オルガがもっと頑張れるよう、ISの特訓を増やすことを始めようよ!僕も付き合うから!」

 

「そうだな。ついでに獅電も強化してぇな……」

 

「強化?」

 

「ああ、あのどさくさで奪ったあの大砲、結構手に馴染んだんだ。あんな感じのモン、今度マクギリスの奴とか、整備課の腕のいい奴にでも会ったら増やせるよう、頼んでみるか」

 

「いいね、それ!僕からもお願いするよ!」

 

「助かるぜシャル」

 

「えへへ……」

 

(……僕も今のままじゃ駄目だ……僕ももっと強くならないと!)

 

 

 

 

 

「てか、結局なんだったのよ?アレ。データ収集とか言ってたけど、アタシ達、なんかヤバいもんに手ぇ貸しちゃったんじゃない?」

 

「……そいつは、よくわかんないけど」

 

「……ミカ?」

 

 

 

「あいつも、結構頑張ってたと思う。普段の俺みたいにさ。『殺さないように』」

 

 

 

 

 

その後、今回の一件で、まだ何もかも足りねぇことに気付いた俺は、ようやくこの長い下山を終え、疲れ切ったいつもの面子と共に帰路へとついた。

 

これからも、止まんねぇ限り、道は続く。

 

俺達全員で、ただ進み続ける。

 

今は…いや、これからも…。

 

ここが、俺達の辿り着く場所。

 

だからよ…止まるんじゃねぇぞ……。

 

 

 

 



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#10 彼のいる理由(デスティニー・ロング・アフター)

「た、ただいま…戻りました…」

 

如何なる手段を用いてか、すっかり満身創痍となったキラ・ヤマトはあの後、高い山の頂上で結局夜まで放置され続け、寒さで目を覚まし、ここまで手足を引きずって何とかこの場所まで帰還した。

 

「あっ、キラくん!おかえりー!ねぇねぇ、どうだった?すっごいお疲れみたいだねぇ?大丈夫?おっぱい揉む?私、箒ちゃんよりおっきいよ?」

 

「いや、そういうの…いいんで……」

 

相当弱っているのか、プルプルと震える手でキラは懐をまさぐり、データが入っているメモリを束に渡す。

 

「これを。無事……新型に活かせそうな…実働データが取れたと思います…」

 

「そっかー!そりゃよかったよかったー!ホント助かるよ~。束さんはほら、天才だけど?流石に完全にゼロからだと色々かかるもんねー」

 

 

メモリを受け取った束は、それを手元の端末に挿し、現れた立体映像のスクリーンに映る情報へと目をやる。

 

「…へぇー。私と共同で作ったやつ、真っ先に落ちたんだ。しかもえーと、何だっけ。あの高飛車な奴にか。うーん、自信作だったんだけどねー、へーぇ。流石の束さんも予想外。今度会った時はちょっと良くしたげようかな。他にはー…」

 

「ど、どうですか…?」

 

「うん!いいと思うよ?全ストライカーきっちり欲しい量よりも多いデータが採れてる!一番いいのは砲撃型かな?今度のは射撃多めにしてみよっと!肩に砲とか、ロマンだよねー。やっぱりキラ君お手製のISはいい仕事してるよ。なんたって束さんに勝るとも劣らない天才!

人の望みの集大成、()()()()()()()()()()()()()!スーパーコーディネイター!仮に束さんが天然だとしたら、キラ君は人工…うーん?養殖?野生と養殖の天才だね!」

 

ページを流し見し、次々とめくっていくように採取されたデータを閲覧する束。

しばらく結果を眺め続けていると、突如としてぴたりと指が止まる。

 

「…ところで、キラ君」

 

 

「はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんで手加減したの?」

 

 

 

「……やっぱり、気づきましたか…」

 

「そりゃあそうだよぉ。出るときもストライクは全機ディアクティブモードのまま。結局その後もあの全部乗せのストライク以外は色を付けないで、あれじゃ本来の性能の三分の一が出たか出ないか。戦闘中もオート相手にわざわざマニュアルで命令噛ませて逐次重傷は避けれるように調整。あれの搭載コンピュータじゃキラ君の単純な動きの再現はある程度できても、不殺なんて器用な事そうそうできないからねぇ」

 

束は笑みを殺しながら、こう言った…。

 

「……相当手の凝った手抜き、だね?」

 

 

「はい……」

 

「その辺がなかったらあの機体に『ゴーレムⅡ』のコードを名付けてあげてもよかったのになー」

 

 

そう拗ねる束にキラは素直に謝罪する。しかし、それでも自分の意思は貫き通す。キラ・ヤマトはそういう男だった。

 

「…すみません。でも僕はやっぱり、どうしても殺したくはなかったんです…」

 

「うんうん。いいよ。キラ君そういう子だもんね。データも充分いいものがとれてるし。っていうか、ここまでやってあれだけ苦戦するいっくん達にも問題があるよねー」

 

「彼らも、かなり頑張ってたと思います…」

 

「ま、確かに箒ちゃんはすごくがんばってたね。ほめてあげよう!うん!」

 

と、そう言った束は再び笑みを殺す。

 

「それはそれとして、データはいいけど戦闘結果に、束さんはちょっとおこ。もう少し墜とせたよね?でもキラ君は向こうでお疲れみたいなんで、今日はこれで許してあげるよーっ?」

 

「本当にごめんなさ…へ?え?」

 

そう言って、束は胸の谷間からスイッチのようなものを取り出す。

 

「すいっち~~!ぽちっと!な!」

 

勢いよくそのボタンを押すと、

 

「ぎゃああああああぁあああっ?!!」

 

キラの全身に強烈な電流が流れ出す。

かなり強めの電圧なのか、一から二分ほど流れ続けた間、キラは全身をがくがくと踊るように動かし続け、最後には力尽き果てた。

 

「ヒューッ…!ヒューッ…!ホ、ホントに…死ぬ…うぅ…」

 

「あらら!それは大変!すぐに休ませてあげなくちゃ!ほらほら、ここ。のっけていいよ!」

 

一瞬前の記憶が急に飛んだのか、あるいはわざとか。

本当に生命が危ない時の呼吸をし出したキラを見るなり束は正座し、その膝にキラの頭を乗せた。

 

「あ、ありがとう…ございます…って、束さんがやったんじゃないですか…」

 

疲れとダメージで意識も朦朧としているのか、キラもすんなり受け入れ、礼を述べる。もちろん一応反論もするが…。

 

「でもいつもよりかはお仕置き普通だったでしょ?すでにボロボロだったしー。まだまだキラ君には用事があるからねぇ。私のちょうな…うーん、なんか違うなぁ…。まぁ、可愛い弟?ってところかな?そんな感じだもん!にしてもこれはありがたーい事なんだよ?天才束さんの膝枕とか!いっくんにも体験できないからね!」

 

「はい…ありが………すぅ…すぅ…」

 

膝枕に加えて、ゆっくりと頭を撫でられた影響か、それとも疲れが溜まっていたのか、すぐにキラは眠りへと落ちた。

 

「…ふふ。大丈夫、私の想いが、あなたを守るから…だっけ、ねぇ?」

 

「…ん…くぅ…」

 

 

 

キラが寝静まってもなお、束は膝の上の頭を愛で続け、薄暗くなっていく部屋の中で独り、うつむいてささやき続ける。

 

 

「もうキラ君は安心して、ずっと私と一緒にいよう…?束さんはさぁ、キラ君を()()()()()()んだから。当然だよね。

 

 

 

だってそうでしょ?ここは私の世界みたいなものだし、あんなところとは違う。

 

 

 

 

 

優れた者が大勢作れる世の中で、それでもはびこる凡人達に踏みにじられて。

 

私がもしそこにいたら速攻でコーディネイター主導の世の中にできたのに。

 

やがてはやったやられたでずっと戦争。あいつらってほんと酷いよね。

 

それを無くそうと、無くしていこうと、世界を守ろうって、頑張ってさ……。

 

 

 

その結果が、あんなのなんておかしいよね。

 

 

 

いくらキラ君が無敵でも結局五十年は戦乱続き。

 

コーディネイターは大幅に数を減らして、環境保護団体に管理され、キラ君の戦いぶりや活躍は一切歴史に残らない。

 

守りたい世界に徹底して拒絶され消えていく。

 

そんなこの世界よりも最低な場所から助けてあげた束さんとは、ずーっとお友達でいてね?

 

私はキラ君のぜーんぶ、ちゃーんと、分かってるから…ね?……大好きだよ、キラ君」

 

 

 

 

 

 

コズミック・イラ。転生者、キラ・ヤマトの元いた世界。

そこでは数多の天才が生み出され、そして凡人達が彼らを妬む。

 

終わりの見えぬ種族間戦争に終止符を打つべく、最高の力を持った少年は戦い続け──

 

守りたいと誓った世界は、その行いを徒労に変えた。

 

その事を、『この世界の天才は』、許せなかったのだろう。

自分の半生と重ね、そして無二の友、千冬が辿っていたかもしれぬ、この運命を。

 

己の膝の上で眠るキラを束はただ、愛おしそうに眺め続けていた。

 

 

 



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