ハイスクールD×D 学級崩壊のデビルマン (赤土)
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人間界

 

冥界、天界に対し便宜上こう呼称する。

本来、悪魔や天使などと言った超常の存在は公になることなく

その存在を知る者は限られていたが

フューラー・アドルフによる演説――フューラー演説によって存在が明るみに出ている。

 

そのため、人外の存在とのコネクションに関してはひた隠しにされるどころか

ここぞとばかりに公言化されるか、人外の存在への差別・迫害の加速と言った形で

二極化しつつある。

 

 

駒王町(くおうちょう)

 

かつてクレーリア・ベリアルが治め、ついこの間までリアス・グレモリーの管理下にあった。

しかし、かねてから「悪魔による人間界の都市の管理」という姿勢そのものに対して

疑問視する声が日本神話勢を始めとして上がっていたため、リアスは管理者の座を追われている。

加えて、今までのはぐれ悪魔の活動やコカビエルの襲撃などにより

フューラー演説の影響を強く受ける形となってしまい、悪魔排斥運動が激化したことで

日本国内において一番人間と悪魔――並びに三大勢力――の衝突が激しい区域になっている。

 

現在は前町長が悪魔との癒着などの不正を暴かれ失脚させられた上に

混乱に乗じて町長の座を乗っ取ろうとした指定暴力団組織「曲津組(まがつぐみ)」が弱体化したため

日本国が直接インフラの維持を行っている。

そのため、かつて駒王町で運営されていた公的組織は現在国の直属となっている。

しかし、それでも満足な町政運営が行われているとは言い難く

フューラー演説に乗じて動き出したテロ組織やアインスト、インベスと言った怪物軍団。

そして火事場泥棒を働くはぐれ悪魔等のお陰で治安はすこぶる悪い。

 

世界各地に現れた謎の環状建造物「クロスゲート」の現出した区域の一つ。

観測区域は駒王町の一角。

 

 

沢芽市(ざわめし)

 

現代日本では珍しいタイプの計画都市であり

世界的大企業「ユグドラシル・コーポレーション」の企業城下町とも言える都市である。

そのため都市計画にはユグドラシルの意向が多分に入っており

本業である医療分野のみならず、景観や学問、治安などにおいてもその影響は計り知れない。

ユグドラシル無くして沢芽市は成り立たない、と言ってもいいほど

沢芽市の都市運営はユグドラシルに依存している。

 

社ビルであるユグドラシルタワーそのものが一種のランドマークとなっている他

沢芽市を中心に活動するストリートダンサー「ビートライダーズ」によるパフォーマンス。

フランスで修業を積んだパティシエによるスイーツが好評の「シャルモン」など

観光や名物も意外と取り揃えている。

 

しかしながら、既存の地球上の生物のどれにも属さない謎の敵対的生物「インベス」の跋扈や

その対策のための「アーマードライダー」、そしてそれを運用する民間警備会社など

治安は駒王町に匹敵しかねない程悪い一面もある。

 

世界各地に現れた謎の環状建造物「クロスゲート」の現出した区域の一つ。

観測区域はユグドラシルタワー上空。尚、現在はタワーの装置により隠蔽されている。

 

 

珠閒瑠市(すまるし)

 

中心部を環状に走る川が特徴の某県政令指定都市。

10年程前に世間を騒がせた「JOKER呪い」という噂の発祥の地とも言われ

今となってはその時の騒動などどこ吹く風とばかりに

穏やかながらも都市としてはありふれた変遷を遂げている。

 

洗脳ソングで一世を風靡した「サトミタダシ」が多く展開している事でも有名。

 

当時悪魔が現れたという噂もあったが、冥界の公式記録には

10年前珠閒瑠市に大々的な干渉をした記録は無く

今回の事件とも何ら関係は無い地域……と、思われていたのだが……

 

世界各地に現れた謎の環状建造物「クロスゲート」の現出した区域の一つ。

観測区域はアラヤ神社。御影町に存在する同名の神社との関係は不明。

 

因みに、以上に述べた三都市間は現実的な所要時間で

特急列車による行き来ができる程度の距離。

 

 

冥界

 

悪魔と堕天使が拠点としている世界。地表面積は日本国土の優に数倍を誇るが

それにも関わらず悪魔が人間界の都市の管理を行っていたりする理由は

(人間の側からは)定かでは無いとされている。

日光や魔除けの類を苦手とする悪魔が過ごしやすい環境という事で

空は紫色をしており、空気成分も人間界と大差は無いものの

通常の人間が長時間滞在するには適さない環境となっている。

 

人間界との行き来は通常、冥界側から引いている専用の列車を使うことになっているが

空間超越が可能な環状建造物「クロスゲート」とそこから出現する「アインスト」。

また同様のファスナー状の空間の裂け目から出現する「インベス」の存在により

外部からの侵略に対し絶対安全の空間では無くなっている。

 

この外部からの敵性体の侵攻の影響で、冥界で生活している悪魔に

少なくないストレスがかかっている。その抑圧された感情の行き先は……

 

因みに、冥界では首都リリスにおいてクロスゲートが観測された。

 

 

天界

 

反対に、天使が拠点とする天上の世界。

人間や悪魔と違い、精神的に成熟した天使が棲息しているためか

その環境は平穏の一言に尽きる。しかし、精神的な成熟とは感情の起伏の欠損にも繋がっており

それが彼らにとって致命的な事態を引き起こすことにも繋がりかねない。

 

現在、天界は他のあらゆる勢力との連絡、交流を断ち音信不通の状態となっている。

 

この世界においても「クロスゲート」は観測されている。

観測場所は第七天。ここにはクロスゲートの他にも「あるもの」が鎮座しているが

それを知る者はミカエルただ一人であり、彼もそれを決して明かすことは無いだろう。



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登場人物紹介 その1

宮本成二(みやもとせいじ)

 

駒王学園二年生。

中学時代友人と培った精神のお陰か、いつの間にか体躯も相俟って

「駒王番長」というあだ名がついていた。

元浜をカツアゲから救ったのをきっかけに、松田や一誠とも接触することになり

問題児のフォローに追われることとなる。

 

しかし、ある日兵藤のデートプランを提案し、心配し様子を見に行った時……

……そこから、全てが始まった。

 

 

レイナーレに襲われた一誠を庇い瀕死の重傷を負った際に魂だけが一誠に憑依。

そのまま悪魔転生に巻き込まれる形となってしまい

なし崩しで歩藤誠二(ふどうせいじ)の名を与えられリアス・グレモリーの「兵士(ポーン)」となる。

初めこそ関係は良好であったものの、次第に霊体や悪魔の特性による不便さに加え

一向に取り戻せない己の肉体や、それに対するリアスの態度や対応に関して対立が激化。

特に一誠やドライグとの関係は悪化の一途を辿り

ついにはドライグに一誠の強化と言う形で切り捨てられ、その際に飛ばされた次元の狭間で

ある通りすがりの思念と持っていた赤龍帝の力の破片と

飛ばされる寸前に奪った白龍皇の力の破片を結合させ

紫紅帝龍フリッケンとして自らの体内に宿す。

 

それに前後して駒王警察署(現・警視庁)超常事件特命捜査課(通称・超特捜課)と

足並みをそろえ始め、はぐれ悪魔や出没し始めていたインベスから

人間を守るために行動を始めるが、リアスらオカルト研究部との対立の溝は埋まることが無く

ついにはレーティングゲームの体とは言え、リアスに対し反旗を翻し

オカルト研究部と表向きには訣別。その後紆余曲折を経て冥界の勇者・アモンの魂と邂逅。

彼の協力を得て肉体の奪還に成功し、悪魔の霊魂から人間へと戻ることが出来た

(アモンは引き続き憑依しているが)。

 

以後宮本成二として活動するようになることに伴い

本格的に超特捜課の一員(特別課員として、ではあるが)として活動を行う事となる。

 

 

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)

 

成二が所有している神器(セイクリッド・ギア)。左手に具現化する。

見たもの、受けたものを記録し再現することが出来る。

受けたものはともかく、見たものは主観が入るために完全再現には至らないことも少なくない。

悪魔時代に有していた魔力による物質変換能力と組み合わせて、実体化させた武器を変化させたり

フリッケンの力を借りて二枚のカードを組み合わせて効果を発動させることも可能。

これ自体が高性能なデータベースや記録媒体になっているため、検索や果ては偵察も可能。

推奨はされないが、緊急時には小型の盾や鈍器としても使用可能。本の角は痛い。

 

現在は手札が増えてきたこともあり、能力記録はあまり積極的には行っていない。

また、物質変換による武器変化も物質変換そのものができなくなったことや

手札の過剰増加は却って判断が鈍るとの理由から、手札増強は以前ほど積極的に行ってはいない。

 

 

無限大百科事典(インフィニティ・アーカイヴス)

 

記録再生大図鑑の禁手化(バランスブレイク)。能力や武器のコピーが主流だった記録再生大図鑑に対し

こちらはそれに加えその大元の所有者のモーションごとコピーが可能。

また、一応効果発動には制約がかかっていたが、禁手化に伴いその制約が全て取り払われている。

神器自体の強化と言うよりは、後述のフリッケンの能力と組み合わせることで

真価を発揮するタイプの強化。

 

 

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)

 

フリッケンの能力を行使するためのデバイス。主に右手に具現化する。

かつて所持していたドライグの力の欠片「龍帝の義肢(イミテーション・ギア)」の純然たる強化バージョン。

一回ずつだが倍加と半減を行うことが出来

それを活用することで無限に分身を生み出すことも可能。

この分身は各々が自分の意思で動くことが出来るが、消耗度合やダメージも共有されるため

一人でも倒されれば全滅してしまうし

一網打尽されれば許容以上のダメージを受けることになってしまう。

 

成二の身体能力そのものは人間に毛が生えた程度しかないため

半減させ奪った能力を倍加させることで

能力差を埋める、なんてことにも使われる。

基となった能力の関係上、神器と言っても差し支えない性能を持っているが

製造に聖書の神は関わっていないため分類上、神器とは呼べない。異能には違いないが。

 

 

紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)フリッケン

 

次元の狭間を漂っていたとある通りすがりの残留思念に

ドライグとアルビオンの力の欠片を合成させた存在。

異次元に飛ばされてもなお戦いの場に戻ろうとする成二に、次元の狭間に住まう存在が

手土産とばかりに授けた力。

ドライグと同様に、内側から外部を観測することも可能で、必要に応じて成二の力を増したり

逆に力を抑えたりすることも可能。

記録再生大図鑑との親和性が高く、大掛かりな検索を行う際には並列作業を担う事も。

なお紫紅帝龍と名付けられ、具現化した際にはドラゴンのような姿をとるものの

その姿は力に引っ張られたものであり、彼自身がドラゴンと言う訳ではない。

 

紫紅帝とは始皇帝に因み、紫紅→紅紫 とはマゼンタの意。

通りすがりでマゼンタ。即ち彼の正体は……

 

 

アモン

 

かつて冥界にて勇者と呼ばれた悪魔。

しかし、同時に現在では裏切り者としても言い伝えられている。

聖書の神との戦いにおいても、思想の相違から率先して戦いを挑み

その後の冥界の内乱においても義に拠りてサーゼクスに協力する。

……のだが、それが彼の運の尽きだった。

 

その後現悪魔政府が和平路線をとった事で、内戦の戦功者を蔑ろにする政策を取り始めたことで

アモンは不服を訴えたが、その不平を黙殺する形で現政府はアモンの肉体を消失させた上で投獄。

ずっと魂だけの存在となって漂っていたが、似たような境遇の成二とふとしたことで邂逅。

彼の肉体奪還に協力する形で、半ば強引に契約を取り付け、成二の身体に憑依することとなる。

 

アモンが表意識に出ることで、成二はアモンの力――悪魔の力を揮うことが出来るようになる。

超音波の矢、地獄耳、飛行能力、熱光線。

強化された身体能力、透視、岩をも砕く真空の刃……等々。

だがそれを行使する成二の肉体は人間のものであるため

アモンも気兼ねなく暴れられるわけではないし

悪魔の弱点はそのまま表に出てしまう上に、神器も使えなくなる

(と同時に神器に紐づけされているような状態のフリッケンの能力も)。

 

悪魔はその存在を魂や思念に依存しているために

肉体の有無は問題ではない(その気になれば作れる)が

アモンの場合は滅びの力も加えられたために、成二の身体を使わざるを得ない状態となり

アモンの目的――サーゼクスへの復讐――と同時に

成二を目的達成までは少なくとも守らなくてはならなくなったのだ。

 

 

兵藤一誠(ひょうどういっせい)

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)所有者であり、当代の赤龍帝――と言われている。

兵士(ポーン)」への悪魔転生の際に巻き込まれた成二と言うセコンドを得たことで強化されたかと思いきや

彼とは主であるリアス・グレモリーへの対応を巡り対立が激化。

レーティングゲームにおいてとは言え殺し合いにまで発展してしまう程にまで関係が悪化。

しかしそれでも、成二が憑依していた間に使用していた武器や能力は(ドライグが半ば強引に、と言う形ではあるが)

再現可能となっており、禁手(バランスブレイカー)の発動も自分の意思で可能となっている。

 

一方、その激情に駆られやすくその場の勢いで行動する性格から暴走し

覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)となってしまった際には、駒王町に少なくない被害を齎してしまった。

 

その騒動と前後する当たりから、異性含む交友関係においては翳りが見え始めており

松田や元浜とは悪魔であることを理由に疎遠となり

アーシアや小猫からは不信感を抱かれ、成二とは思想や方針上とは言え真っ向から対立。

ひいては、リアスとも一向に進展していない。

 

中学時代、珠閒瑠市(すまるし)に住んでいた事がありそこでもセクハラ三昧の学生生活を送っていたが

それを苦に不登校になった女生徒とその友人から恨みを買い

復讐として被害者の女生徒の友人と契約したレイナーレに襲われている。

ふとしたことからそのレイナーレを嗾けた女生徒を殺害してしまい、一度は警察に逮捕。

その後誤認逮捕と言う形で釈放されるも、先の暴走の件も相俟って両親から勘当され

駒王学園も退学扱いとされてしまっている。

現在はアンティークショップ・時間城の雇われ店主である布袋芙ナイアに保護され

以後、彼女の庇護の下グレモリー家に部屋を借りて生活している。

 

ナイアとは肉体関係すら結んでおり、彼の夢であるハーレムを影に陽に応援されているが

その肉体関係が足枷となり、今度は本命であるはずの

リアスとの関係にも暗雲が立ち込め始めている……

 

そのナイアから

「ハーレム王として大成し、冥界を治める魔王となった自分」の歴史や未来も聞かされており

突き付けられている現実とのギャップから

「今の世界は間違いではないか」「こんな世界よりもっと素晴らしい世界があるはずだ」

とも考え始めている。

 

 

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)ドライグ

 

一誠の神滅具(ロンギヌス)・赤龍帝の籠手に宿ったドラゴン。

ふとしたことから一誠に宿ってしまった成二にも力を分け与えるが

それはあくまでも一誠や自身にとっての保険に過ぎず

成二が消滅しかかった際には切り捨てようとした。

しかし、その結果成二に力の一片とは言え持ち逃げされる結果を迎えてしまう。

 

一誠の側も、自力で禁手に至れる他成二が憑依していた間に得た能力の一部を使用可能になるなど

ドライグの想定とは異なってはいるものの、力を得てはいる。

 

そんな彼の目的は、あくまでも「白龍皇(バニシング・ドラゴン)との絶えなき闘争」であり

そのために歴代の所有者、ひいては一誠を巻き込んでいる形になっているため

その事もあってか成二からはある意味悪魔以上に危険視されている。

 

 

リアス・グレモリー

 

グレモリー家次期当主。死の間際に召喚した一誠を復活させた際に

偶然一誠に憑依していた成二の魂までも悪魔に転生させてしまい

それが発覚した際には成二に強い恨みを抱かれてしまう

(一応、重篤状態の成二の身体は救急車を呼んで対応している)。

 

ライザー・フェニックスとの婚姻騒動においては、成二の機転により

見事レーティングゲームで勝利を収めるも

(彼としては善意だったが)その形振り構わないやり方から

フェニックス家から強い非難を受けてしまう。

その事がレーティングゲームに対し純粋な競技と思っていた彼女に迷いを植え付け

後に成二から反旗を翻された時も、形こそレーティングゲームではあったが

その実は成二からの三行半に近いものであったことを、表面上は否定しつつも

内心では認めざるを得ないほどに追い詰められていた。

 

当初は人間界でも奔放に振舞っていたが、フューラー演説によって

悪魔の悪行が白日の下に晒されたことをきっかけに日常は一変。

二大お姉さま、などと慕われていたリアスはどこにもおらず

ただ生徒の生活の困窮をぶつけるサンドバッグと成り果てたリアスがそこにいたのみであった。

 

現在駒王町の管理者の座は追われているが

代わりに駒王町のクロスゲート監視任務を魔王から受け、その名目で駒王町に滞在している。

 

本人は日本びいきであり人間の味方として振舞っているつもりだが

事あるごとに言動の食い違いを指摘されている。

日本びいきを自称してはいるものの、日本の世俗や風習、言い回しには微妙に疎く

翻訳魔術で誤魔化しが効く国語と違い、日本史の成績は下から数えた方が早かったりする。

 

 

アーシア・アルジェント

 

オカルト研究部に籍を置きながら、ベビーシッターのアルバイトをしている。

兵藤家に下宿しているため、その家賃の支払いのためでもあるようだ。

アルバイト先の元教会の戦士家族や、ゼノヴィアとの交流から

「今の自分が成すべきこと」と「自分の中の信仰とは何か」について考えており

後者は「神を忘れぬ事」として、悪魔になった事で生じている神への祈祷の際の

痛みさえも、神との絆としてそのままにしてある。

 

戦いにおいては自らの無力を自覚し、蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)に頼り切りではあるが

それが却って彼との絆を強めている結果となっており、戦い以外においても

蒼雷龍の力を行使することもあるようだ。

 

僧侶(ビショップ)」として悪魔に転生しながらも確固たる信念の下信仰を捧げており

成二とは信仰の違いから齟齬こそあるものの、それでも険悪になることは無く

彼女が怒るとするならばそれは懸命に生きているものを不当に貶めるような輩が現れた際だろう。

彼女のこの方針は悪魔からは快く思われていないが

かつて邂逅した異界のシスターとの交流を経て、自分の道が間違っていないものである。

と結論付けるに至った。

 

悪魔転生のお陰で言語翻訳が流暢になっており

それを活用して日本語の覚束ないゼノヴィアに日本語をレクチャーしている。

 

 

木場祐斗(きばゆうと)

 

一誠が駒王学園を退学となったため

外見的にはオカルト研究部の黒一点の「騎士(ナイト)」と言える駒王学園二年生。

コカビエル襲来の際に発生した聖剣騒動の際に、当時霊体であった成二の協力を得て

聖剣計画の犠牲者とのコンタクトを取ることが出来て以来、成二とは協力関係になり

彼がオカルト研究部から離反した今も良好な関係は保てている。

 

現在は弱いながらも主であるリアスのストッパー役を担う事もあり

彼の影の活躍でオカルト研究部は辛うじて空中分解を避けているような状態ともいえる。

そんな彼でも一誠のストッパーにはなれなかったが

もしなれていたら成二が更生に奔走していなかっただろう。

 

端正な顔はコンプレックスでは無いが

このために男子からは疎まれ女子からは彼個人を見られないという

ある意味リアスにも通ずる悩みを抱えていた。

そしてそれは、フューラー演説を経て主リアスと同様の展開を迎えることとなる……

 

そんな中でも友人たろうとした成二の他松田、元浜との交流は

女所帯のオカルト研究部にいることの多い彼にとってはある種の清涼剤とも言えた。

ゼノヴィアとは扱う剣の傾向が異なるが

同じ剣士として高みに至るために時には刃を交えることも。

 

 

ギャスパー・ヴラディ

 

リアス・グレモリーの「僧侶(ビショップ)」である駒王学園一年生。

封印されていたが、反抗的な成二との交換と言う形で封印を解除。

以後少しずつ外に慣れようとしていたが、その矢先にフューラー演説を受けてしまい

再び引きこもり生活に逆戻りしてしまっている。

一応、部活動にはテレビ電話と言う形で参加しているが。

 

そのため、拠点が冥界のグレモリー家にあるため

事ある度にリアスの甥であるミリキャスの遊び相手になっていたり

勉強を教えたりしているようだ。

自身の格好は、服飾デザイナー志望の一環と言う「噂もある」。

 

事情を知らない成二に入っていた棺桶ごとモーフィングされてしまい

ハンマーとして振り回された事がある。

 

 

姫島朱乃(ひめじまあけの)

 

リアス・グレモリーの「女王(クィーン)」にして駒王学園三年生……なのだが

リアスの補佐と言うよりは、リアスと共に(騒動が激化しない程度ではあるが)

奔放に振舞っていたり、リアスの目の届かないところでは

彼女以上の振る舞いもしている……と「噂されている」。

特にリアス眷属の男子には一通り粉をかけており、反応が薄い木場や邪険にされた成二と違い

リアクション目当てでギャスパーや一誠には今尚ちょっかいをかけている。

 

その行動は彼女のある感情からの反動とも言えるが……

 

 

白音(しろね)

 

元リアス・グレモリーの「戦車(ルーク)」である駒王学園一年生。その際の名前は塔城小猫(とうじょうこねこ)

成二の協力で姉の黒歌をはぐれ悪魔の呪縛から解放出来て以来

成二に対し感謝と好意を抱くようになった。

その際に成二の思想に感化されたこと、黒歌の証言や彼女を取り巻く境遇などから

悪魔――悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に対し懐疑的になり、リアスの眷属からの脱退を申し出る。

それ自体は普通に果たされ、現在は黒歌共々宮本家に転がり込み

宮本家のエンゲル係数を上げる一因を担っている。

 

戦車の性質が使えなくなったことで怪力や頑強さは無くなったものの

黒歌の手ほどきで仙術や気功を用いた体術を駆使して戦う。

 

なお「この世界の」彼女は白子症(アルビノ)であり、その影響で瞳は紅く

生まれもっての体質は病弱な方であり

体の気の流れの制御も未成熟であることを抜きにしても不安定である。

それを補うためにリアスは戦車の駒を用い肉体の強化を試み

黒歌は仙術で彼女の気の流れの制御を試みていた。

 

その甲斐あってか、現在では短時間ではあるが気の流れを応用して

彼女が理想とする肉体を再現させたり、技に流用したりすることもできる。

それでも彼女の気の力は器に対して大きすぎるため、外部――主に成二を利用して

定期的に暴走しないような気の流れを作る必要がある。

 

因みに、成二からは猫扱いされており

隙あらば猫の姿になっているところをもふられそうになっているとか、いないとか。

 

 

黒歌(くろか)

 

白音の姉にして、元S級はぐれ悪魔。

黒猫に化けて潜伏しているときに偶然成二に見つかった事で

その存在が白音にも早期に露見することとなった。

そのため成二は白音の依頼も受けて彼女の身柄の確保と同時に

彼女をはぐれ悪魔足らしめている原因の悪魔の駒を「物理的に」摘出したことで

現在ははぐれ悪魔としてではなく元の猫魈(ねこしょう)として過ごしている。

白音共々宮本家に入り浸り、成二や白音をからかったり享楽的に過ごしている。

 

……元々はぐれ悪魔として生きながらえていた時も生活の種と称して

路地裏などで体を張ったりすることも少なくは無かったが

「白音に合わせる顔が無くなる」として

テロ行為――禍の団(カオス・ブリゲート)への合流にだけは手を染めなかった。

 

冥界での指名手配は取り消されているが、その代償として死亡扱いになっているため

いずれにせよ、大っぴらに冥界を歩ける立場にはいない。

 

白音に気功術を教授したり、肉体を取り戻した後の成二の霊力制御の手ほどきをしたりと

軽いノリながらも面倒見はよい部分がある。

……が、その一環で成二と白音に粘膜接触を推奨するなど悪乗りも少なくない。

(粘膜接触自体は気の循環効率などの観点から優秀ではあるのだが)

 

やはり、成二からは猫扱いされている。

彼の就寝時に同嚢を試みることも少なくないが、「猫状態なら許す」と譲らない。



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登場人物紹介 その2

蔵王丸漸貴(ざおうまるざんき)

 

警視庁超常事件特命捜査課課長。階級は警部。

奈良県警からの栄転で現在の役職に就いているベテラン。

前課長であったテリー柳警視の左遷に伴う人事であり

超特捜課の解散を防ぐために本郷警視総監が何とかねじ込むことに成功した

半ば強引な人事であるともいえる。

 

神器(セイクリッド・ギア)などの異能を持たないが、「鬼警部」とも言われており

平均年齢が警察組織にしてはやや若めの超特捜課において

「おやっさん」とも呼べる立ち位置となっている。

 

趣味はギター。

 

 

氷上涼(ひかみりょう)

 

超特捜課所属の巡査。

駒王警察署からの継続人事で、成二が一年の頃にも面識がある。

彼も神器などの異能を持たないが、その正義感と根性は人間の至れる強さの極致であるとも言え

対異能用に開発された装備の数々を使いこなし、神器持ちにも引けを取らない実力を発揮する。

 

……のだが、私生活では少々不器用。

 

 

安玖信吾(あんくしんご)

 

超特捜課所属の巡査。警視庁からの移転組で、再編に伴い古巣に戻ったとも言える。

警官らしからぬ派手な格好(テリー前課長にも言えることだが)に

少々粗暴な言動が目立ち、蔵王丸警部から釘を刺されることもしばしば。

 

神器「欲望掴む王の右手(メダル・オブ・グリード)」の力で異能と戦うのだが

この神器は「財産――特に貨幣を消費する」という特性があるため

神器の使用に関してはシビアでドライな態度を取ることが少なくない。

 

好物はアイス。ケーキ好きの自衛官の兄がいる。

 

 

霧島詩子(きりしまうたこ)

 

超特捜課所属の巡査。捜査一課からの移転組。

主に後方支援などを担当しているが、有事の際には彼女も装備を持ち出して戦う。

と言うより、後方支援が勿体ないほどの実力を有しており

その足技は装備によるアシストこそ必要だが、並の悪魔でさえも蹴散らすことが出来る。

 

生真面目な性格で、安玖の制止役を担ったり

駒王町に着任した際に閲覧した駒王学園における例の三人組の問題行動に眉を顰めたりしていた。

捜査一課時代に同僚に勧められたミルクキャンディを常時忍ばせているとか。

 

薮田直人(やぶたなおと)

 

警視庁超特捜課装備開発担当部門の外部協力者にして、駒王学園生徒会顧問教師。

複数の博士号を持つ人間・薮田直人として各地に名を馳せているが

その正体は聖書の神の影武者・ヤルダバオト。

 

悪魔、天使、堕天使の人間に対する処遇を見て、人間の立場から三大勢力を監視。

駒王学園で行われた三大勢力の会談の場に日本神話と日本の仏教勢力からなる

「神仏同盟」を同席させ、日本における彼らの行いの現状を突きつけ

浮足立った和平路線に異を唱えた。

その後も人間を守るために装備開発などの形でサポートしている。

 

 

ゼノヴィア

 

現在のフルネームはゼノヴィア・伊草(いくさ)

聖剣騒動の際に来日したが、その際に超特捜課と遭遇。

公務執行妨害で現行犯逮捕されてしまう。

その後教会本部からの横槍で紫藤イリナを身元引受人として釈放されたが

神の消失を知ったイリナが失踪。路頭に迷う形となったところを

NPO法人・蒼穹会に所属する元教会の戦士である伊草慧介(いくさけいすけ)・めぐ夫妻に引き取られる。

その後慧介の下で修業をし直し、改めて「自分が何のために剣を振るか」という事を見つめ直し

悪魔のみならずアインストやインベスなどと言った人類の敵との戦いに臨んでいく。

 

……しかし「人類の敵」は、広義では天使も含まれているのだった……

 

 

呉島貴虎(くれしまたかとら)

 

沢芽市(ざわめし)を牛耳るユグドラシル・コーポレーションの研究部門主任。

重役の息子と言う縁故ではあるものの

采配も戦闘力もその立場を裏付けて余りあるものを誇っている。

過去、様々な地域で起きた大規模な事件事故に対応すべく

様々な計画を立案・指揮する立場でありながら、自身もアーマードライダー・斬月(ざんげつ)を用い

前線に立つことを厭わない、「ノブレス・オブリージュ」を体現した人物。

 

後学のために弟の光実を自身の補佐として置いている。

このことから、「かつて観測された世界(鎧武原作)」とは異なり

兄弟間の関係はそこまで拗れていない様子である。

 

 

呉島光実(くれしまみつざね)

 

ユグドラシル・コーポレーションの研究部門主任である呉島貴虎の弟。

兄の補佐をする傍ら、現役の高校生であるため学生生活も(彼なりに)送っている。

その結果、ユグドラシルに対する不平不満を抱えたビートライダーズとの接点も生まれてしまい

さながらスパイのような立場になってしまっている。

 

しかし彼自身の思想はどちらかと言えばユグドラシル(と言うか、兄)寄りであり

非常時の備えとして兄の許可を得た上でアーマードライダー・龍玄(りゅうげん)を所持している。

 

「かつて観測された世界」ほど、一見心に闇を抱えていない風には見えるものの……

 

 

周防達哉(すおうたつや)

 

警視庁公安部所属の白バイ刑事。

十年前、珠閒瑠市(すまるし)で起きた事件において定着した「ペルソナ」能力を使い

超特捜課とは別口で怪異事件の担当を勤めている。

現在は怪異事件が多発している京都府警に異動となっている。

 

珠閒瑠市の事件(ペルソナ2原作)」においては不可解な点が多数あり

当事者である彼の証言とも辻褄が合わない点が見受けられるため

珠閒瑠市の事件そのものは解決したとはいえ、真相は闇に葬られている。

 

 

周防克哉(すおうかつや)

 

警視庁公安部所属の警部。

周防達哉の実兄で、彼もまた「ペルソナ」能力を用いて怪異事件を追う傍ら

敏腕ぶりを買われ、捜査一課の応援などもこなしている。

 

現在は古巣である珠閒瑠市港南警察署に異動している。

彼もまた左遷を疑われているが、珠閒瑠市に流れる不穏な「噂」への対策として

異動となっている。

 

 

バオクゥ

 

番外の悪魔(エキストラ・デーモン)」の一族、アバオアクーに連なる悪魔の少女。

かつてインターネット黎明期に名をはせた盗聴バスター、パオフゥに興味を抱き

押しかけ同然に彼の下へと行き、弟子を自称し名前も彼に肖り名乗っている。

 

好奇心の塊のような性格で、あらゆることに首を突っ込みたがる性格のため

そこを肉体を失い進退窮まった成二に(win-winの関係とは言え)利用されたこともある。

 

 

オーフィス

 

世界的テロ組織「禍の団(カオス・ブリゲート)」首魁。

彼自身はかつては組織運営には全く関与していなかったが

ある時、次元の狭間にて遭遇した「アインスト」と接触したことにより

その目的が合致したことから彼らの協力を受ける……が

それはその意識をアインストに乗っ取られることと同義であり

その影響を強く受けたシャルバ・ベルゼブブを中心とした旧魔王派や

一部の英雄派もアインストの影響下に置かれてしまう。

その際に組織内において粛清も行われたようだ。

 

程なくしてオーフィス改め「ウンエントリヒ・レジセイア」と化し

アインストを中心とした群体を用いて転移による侵攻を行い

その侵略力はかつての禍の団を遥かに上回る勢いとなり

全世界の神話勢力や国連軍が対応に追われている。

 

彼が率いるアインストの大きさは基本的に「エンドレス・フロンティア」において

観測された個体に近いが、彼自身はその世界において肉体が朽ち果てていた

「アインストレジセイア」とほぼ同程度の大きさを誇る。

クロスゲートのある場所には必ずと言っていいほどアインストが現れるが

彼らがクロスゲートを掌握しているかどうかは不明。

 

 

ギレーズマ・サタナキア

 

魔王直属部隊「イェッツト・トイフェル」司令を務める

「番外の悪魔」サタナキアの一族。

軍部所属という事で、直属の上司は軍事担当のファルビウム・アスモデウスになるが

実際のところは四大魔王いずれの命令でも任務を遂行する。

 

彼らのような軍隊が必要ないほど四大魔王の眷属は優秀であったのだが

サーゼクスの眷属ベオウルフがアインストとの接触によりアインスト、即ちはぐれ悪魔化。

それにより眷属の監視をしなければならなくなった関係上

必然的に彼らが表舞台に立つことが増え、その実力と実績で着実に支持を集めている。

 

 

戦極凌馬(せんごくりょうま)

 

ユグドラシル・コーポレーション研究部門所属開発者。

天才的頭脳で戦極ドライバーや一連の関連システムの開発を一手に担い

呉島貴虎とも(彼なりに、ではあるが)友情を培っている。

その頭脳は程なくして人間以外の存在を感知させることに繋がり

四大魔王の技術担当、アジュカ・ベルゼブブとの接触にも成功。

彼らの技術も用いて戦極ドライバーやロックシードは完成を見たのだった。

 

しかし、天才肌ではあるがそれが故に人の心の機敏に疎いところがあり

結局「自分の頭脳と開発したものだけが全て」であるため

そのためにどれだけの犠牲が払われようとも意にも介さない。

そんな冷酷さを包み隠す「仮面(ペルソナ)」であるかどうかは定かでは無いが

普段の彼は飄々としており、むしろフランクであるとさえ言える。

 

新型ロックシードやドライバーのアップデートの傍ら

謎の建造物「クロスゲート」の研究も行っており

そのためにかつて存在した企業「セベク」が開発した

とあるシステムに関心を抱いている。

 

 

フューラー・アドルフ

 

かつて世界を震撼させた第二次世界大戦におけるナチス・ドイツの指導者――

によく似た風貌の謎の人物。

 

当人であるとするならば老け具合などから説明がつかない部分が多々あるため

別人と考えるのが妥当ではあるが、その立ち振る舞いは凡そ「大衆が周知している」

かの第三帝国総統と大差がない。

 

コカビエルが持ち込んだケルベロス(と、弟のオルトロス)の映像を持ち出し

これを証拠に駒王町の数々の怪事件を引き合いに出す形で

悪魔・堕天使・天使の三大勢力が人類に仇成す存在である、と公言した

通称「フューラー演説」を全世界の電波やネットワークをジャックして広めた張本人。

 

現在は禍の団・英雄派を率いるものと公言しているが

その割には首魁であるオーフィスが率いているはずのアインストとも交戦しており

その行動は「聖槍を探し求めている」一点を除いて謎に包まれている。

 

かつてドイツ軍が使用したであろう兵器の数々を近代化改修したものを運用する兵団を率いており

ダウンサイジングした戦艦の艤装を装備した仮面の集団「聖槍騎士団」は

その名の通り殺傷力をオミットしたデッドコピーである聖槍を装備している。

 

人類に仇成す存在と戦っている、と言う意味では超特捜課と変わらないはずなのだが

彼らが齎す被害は甚大であり、人類を脅威から守るというお題目を掲げた

テロ行為と言っても差し障り無い。

 

 

布袋芙(ほていふ)ナイア

 

アンティークショップ「時間城(じかんじょう)」の雇われ店主。

勘当された一誠の人間界での後見人となり、彼の活動を支援するほか

グレモリー家に口利きし、一誠の冥界での活動にも不自由が無いように手配した。

見目麗しく一誠好みのプロポーションを誇っているが

性格の面では一切の掴みどころがなく、一誠に取り入るためにその身体すら張った。

 

その他天界に反旗を翻し、禍の団に身を窶し行き場を失った

紫藤イリナも同様に保護している。

一連の彼女の挙動に一誠も疑問を抱いたが

その疑問は彼女の身体でかき消えてしまったようだ。



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社会見学のユグドラシル
Will1. 仮初の日常


俺は宮本成二。
春先に美人局に捕まったクラスメート、兵藤一誠を助けるために
奴のデートに乱入した俺だったが、その相手は人ならざるものであり
俺は返り討ちにあって瀕死の重傷を負い、駒王町を統括していたという
リアス・グレモリーという悪魔によって兵藤のついでのような形で悪魔として復活させられた。
しかし、その際の俺は肉体がない、幽霊のようなものだった。

それから俺はリアス・グレモリーの私兵として戦わせられるが
自分の肉体の手掛かりを得たこと、そしてその肉体が長く持たないことを知り
リアス・グレモリーの下から離反、自分の肉体を取り戻すために戦った。
その後、現魔王サーゼクス・ルシファーと因縁のあるという悪魔、アモンの力を借り
俺は己の肉体を取り戻すことに成功した。

そんな俺の前に広がっていたのは、戦乱に包まれていた駒王町――
いや、数多の世界だった……


宮本家。

ここに俺は母親と、さる事情から転がり込んできた猫魈(ねこしょう)の姉妹

黒歌さんと白音……さんと一緒に住んでいる。

この二人が来る前、うちには猫もいたのだが

俺が体を取り戻しようやく帰って来たのと同時に他界した。

そのことを思うと、やはり寂しいものはある。

とは言え、今はそれ以上に二匹の猫が騒がしいのだが……

 

……ん、いや「二人」と言うべきなのかもしれないが……

 

「セージ、また難しい顔してるにゃん。朝っぱらからしんどくないの?」

 

「……考え事だ、癖みたいなもんだよ。ほら、俺の神器ってああだろ?」

 

俺の神器(セイクリッド・ギア)記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)は様々な事柄を調べたり

相手の能力を記録、再現できる神器だ。

その影響かどうかは知らないが、俺は肉体労働よりどちらかと言えば

頭脳労働の方が得意なのかもしれない。学校の成績はまあ中の上ってとこなんだが。

ともかく、朝食の最中にしていい顔では無かったらしく

(一応言っておくが、顔は既に洗っている)黒歌さんに突っ込まれてしまった。

まぁ、言いたいことはわかるが……

 

「癖ならそういう事にしといてやるにゃん。私としては昨日の夜私らをひいひい言わせ……

 

 ……ふぎゃっ!? し、白音あんた脛蹴らないでよ!? 普通に痛いわよ!?」

 

「……姉様がそういう事言うのが悪いんです」

 

顔を真っ赤にして白音さんが黒歌さんの脛を思いっきり蹴飛ばしていた。

挨拶をかわそうと声をかけたが、顔を真っ赤にしてそっぽを向かれてしまった。

 

……実のところ、俺も白音さんにどう声をかけていいのかわかってない部分がある。

何せ、昨日の夜黒歌さんが言うようなことが起きたかどうかはともかくとして

白音さんに「治療」を施したのは間違いない。その際に……まぁ、うん。色々あったんだ。

 

いつぞや、俺がリアス・グレモリーに明確に反旗を翻した時に

白音さんの気の流れが暴走したことがある。

その時に近い症状が出たことと、黒歌さん曰くの「猫魈の発情期」が重なってしまったことが

白音さんの体調悪化に繋がってしまったのだ。放置すれば、白音さんの体内を流れる気が

暴発してしまい、最悪身体ごと自壊してしまうらしいのだ。

 

流石にそれはまずい。俺としても白音さんを助けたいし

黒歌さんも俺に協力してほしいと言ってきたので、俺は黒歌さんの教えに従うことにした。

曰く、気の流れが正常化すれば白音さんにかかる負荷は無くなる。

それと同時に、発情期の周期のコントロールもできるようにする、そうだ。

発情期に入ると、子を成すためなのか気の流れが活発化するらしい。

それが白音さんの未熟かつやや弱い体には毒になってしまっているのだ。

そのため、外部要因を用いてでも気の流れを正常化させる必要がある、らしいのだ。

で、その外部要因……ってのが俺、と言う事らしい。

暴発しそうなほど溢れている白音さんの気を、俺に肩代わりさせるって事だ。

 

黒歌さんがやればいいじゃないか、って思いもしたが

それだとうまくいかないらしい。種族云々じゃなく、性別的な意味だという事だ。

その話を聞いて、妙に納得できてしまったが……心情的にはともかく。

 

なので、他に方法がなく急を要する事態だったんだから俺は気にしてない。

とは言え俺も憧れの――と言うか、諦めきれてない姉さんのことがあるから

「まったく気にしない」ってのは難しいが。

 

なので、白音さんにしたってあんまり意識されたり気にされたりしてもやり辛い。

いや、普通に振舞え、ってのも難しいとは思うし、そもそも無茶ぶりだと思うが……

 

「……あ、あの……セージ先輩。き、昨日の事……なん、ですけど……」

 

「あ、ああ」

 

かなりぎこちない様子で、白音さんが俺に話を振ってくる。

俺の方も、ややもするとさっきとは違う意味で

あまり朝にすべきではない顔をしているかもしれない。

 

……正直に言うと、俺は「そういう意味」で白音さんの身体を見ることが出来ない。

そりゃあ、場の空気に呑まれれば保証はしかねるが。実際昨夜は……いや、よそう。

とにかく、俺にとって二人は「異性」と言うよりは「家族」として見ているつもりだった。

流石に「ペット」となるとまた違った意味合いが生じかねないのと

それじゃリアス・グレモリーと変わらないという意味で

そういう見方はしないようにしていたつもりだ。

 

「せ、セージ先輩……さえ、よかったら……

 

 ……あ、な、なんでもないです。忘れてください」

 

一方的に話を切り上げて、白音さんは朝飯を食べ始める。

普段の彼女に比べると、食べる量が格段に少ない。本当に後遺症とか出てないんだろうな?

黒歌さんは「健康面での後遺症は出にくい」方法だと言っていたが……

これ、どう見ても精神面での後遺症出まくってないか?

かくいう俺も、実際のところは動揺している。

まあ……動揺するなっていう方が無理な話かもしれないのだが。

 

「おんやぁ? 二人とも顔赤くしてどうしたのかにゃん?

 ねぇセージ、白音は確かにまだきついけど、私なら言ってくれればいつでも……」

 

「朝っぱらからする話じゃないでしょう。そもそも、俺はそういう目的で

 二人をここに連れてきたわけじゃない。そこは事前にちゃんと説明したはずだし

 まだ白音さんはともかく、黒歌さんは知りあってそれほど時間経ってないでしょうが。

 行きずりの女性と関係持つほど、無節操な振る舞いはしてないつもりなんですがね。

 そもそも、あんまり俺もくどく言いたくはないけど

 俺の心にはまだ姉さんがいる手前、妙な真似はしたくないんですよ。

 昨日のアレだって、救命行為ってことで納得してる部分ありますし」

 

その一方で、俺達にこの話を振った黒歌さんは状況を楽しんでいるかのように

あっけらかんとしている。そう思うと、悩んでるのがばからしく思えると同時に

「この駄猫」とも思えてならない。白音さんが一命をとりとめたのは事実だし

白音さん絡みで黒歌さんは嘘はつかない――ダシにされた気はするが――ので

あまり黒歌さんを責めることもできない。俺を狙っていたのだとしても

白音さんが危ないって時にそこまでふざけている様子もなかったし。

 

白音さんが助かったのはいい。今後定期的に

気の流れを吸収してやらないといけない事態ではあるものの、とりあえずはいい。

 

……ただ、どうしても姉さんのことが頭にちらついてしまう。

施術中は、なるべく考えないようにはしていたが……

事が済めば、こうしてどうしても頭をよぎる。

俺が今しがた難しい顔をしていたのも、本を質せばそういう事だ。

 

「……でもセージ、どっかでその牧村明日香(姉さん)って人の事を踏ん切りつけないと

 痛い目見るのはセージなのよ……?」

 

黒歌さんがぽつりとつぶやいた言葉は、出発時刻を告げるアラームにかき消され

俺にはよく聞こえなかった。

 

――――

 

食事を終え、通学用品を持って俺は学校に行く準備をする。

その後ろでは母さんがこれまた出勤の支度をしている。

 

白音さんは後遺症からか、今日は休みだ。

看病には黒歌さんがつくことになっている、心配はいらないだろう。

 

「……一応、お母さんにはこれ渡しておくにゃん。

 もしアインストとか禍の団(カオス・ブリゲート)とかに襲われそうになったら

 それを使えば時間が稼げるし、私やセージに連絡がいくようになってるにゃん」

 

「ありがとね。黒歌ちゃんもそうだけど、セージもあんた

 怪物を倒す側が、怪物にならないように気をつけなさいよ?」

 

母さんは、よく俺にこうして深いことを言う。

まあ、普段を見ていると「それっぽいことを言っているが、実は何も考えていない」

と言うのが混じっていたりするから性質悪いんだが。

 

『怪物……か。俺はどうなんだろうな、セージ?』

 

「……今はノーコメントにさせてくれ、アモン」

 

霊体になった俺が肉体を取り戻すきっかけを与えてくれた悪魔、アモン。

彼もまた、己の肉体を失い封印されていたところを

紆余曲折を経て、俺に憑依する形で自由を手に入れている。

俺は肉体を取り戻すため、アモンは自分がこうなる原因を作った

サーゼクス・ルシファーに復讐するために。

利害が一部とはいえ一致したことと、その時の俺がかなり切羽詰まっていた状態だったため

俺はアモンの要求をのんだ。

 

これから現四大魔王と戦わなければならないことを考えると頭が痛いが

それでも、俺はこの選択を後悔したわけではない。

俺もあのサーゼクスってのは信用ならない部分があると思っているからだ。

 

そもそも、本を質せば俺が霊体になったのだって

悪魔政府のせいなんだから、アモンに協力する理由は十分ある。

理想はもう悪魔の世界と関わり合いになりたくないことだが、ここまで来てそれもできまい。

 

……そういえば、俺はアモンとサーゼクスの間の確執について詳しいことをまだ聞いてないな。

今度、暇なときにアモンに聞いてみるか。

 

『セージ、俺はいつでもいけるが、今日はバイク通学しないのか?』

 

「……昨日、あまり眠れなくてな。

 運転してれば風で目は覚めるかもしれんが、不安要素があるから今日は普通に通学する」

 

そして、アモンと同じく俺に宿る魂――フリッケン。

彼もまた、どこか遠い世界から来た「通りすがり」で、俺が消滅の危機に瀕した時

これまたどこか遠い世界で俺を助けてくれた白金龍(プラチナム・ドラゴン)と言う存在が

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)白龍皇(バニシング・ドラゴン)の欠片を組み合わせて生まれた力――

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)を行使するための存在として、俺につけてくれた。

即ち、フリッケンの存在そのものはPCで言えばOSに過ぎない。だが重要だ。

いわば、明確な個性と人格を有した補助OSである。

と言うのも「俺はフリッケンの本体に会ったことがない」から

フリッケンが本来どういう存在かは、フリッケン自身が語るところでしか知らない。

そもそも、フリッケンって名前だってその場ででっち上げた偽名に過ぎない。

 

アモンは文献が極僅かながらに残っていることと

本人が経緯を明確に記憶しているため、人となり(悪魔だが)は知ることが容易だ。

だがフリッケンにはそれらのバックボーンが無い。そのため、下手をすれば

 

――赤龍帝と白龍皇の力を極わずかに扱うことが出来、しかも作戦立案の意見交換もできるOS

 

と言う身も蓋もない扱いが出来ないこともない。あれ? こんな存在、どこかにいたな。

……いや、あれは或いはもっと酷いか。

 

ともかく、俺は昨日の出来事のせいであまり眠れていない。

そんな状態でバイクを運転して事故っては事だ。

つまらない理由で、せっかく苦労して取った二輪免許を失いたくない。

そんなわけで、俺は徒歩で駒王学園に向かうことにした。

 

「それじゃ母さん、白音さん、黒歌さん、行ってくるから。

 

 ……その、白音さん。お大事に」

 

「……あ、は、はい」

 

結局、俺が家を出るまで白音さんは顔を赤くしてしどろもどろなままだったな。

……ま、あんな事があったんじゃ仕方ない事かもしれないが……

 

参ったな。悪い方向に転がらなければいいんだけど。

俺は来週には神仏同盟(しんぶつどうめい)の神仏の皆さんや北欧の神々の護衛のために沢芽市(ざわめし)に行くし

その間白音さんにはこっちで頑張ってもらいたいところだしな……

 

――――

 

さて、色々てんやわんやして家を出た今日の通学についてだが。

結論から言おう。途中でズルをした。

何せ、朝黒歌さんとのやり取りで時間を食ってしまったことと

最近バイク――マシンキャバリアーで通学しているものだから

バイク通学に時間感覚が慣れていた。

そのため、遅刻しそうになったため半ば強引にアモンの力を使い、空から行こうとしたが

 

『バカか。俺がそんなことに力を貸すわけがないだろうが。

 そもそも遅刻しそうなのはてめぇの責任でてめぇの都合だから、俺は関係ねぇ。

 だから力は貸さねぇ。俺は間違ったことは言ってねぇつもりだがな?』

 

と、至極尤もな意見を受けてしまい

記録再生大図鑑を駆使してショートカットを敢行、辛うじて遅刻せずに済んだのだ。

やれやれ、これでは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を私利私欲に使っている兵藤の事を言えないな。

 

「あれ? セージ君、今日はギリギリな上にバイクじゃないんだね?」

 

「……昨日、あまり寝られなくてな。事故防止のためにバイクは自粛した」

 

余裕綽々で校門の内側で待ち受けていた祐斗の言葉に

「神器は使ったがな」と付け加えながら返す。

かつてはこの駒王学園ではそのルックスから大人気だった祐斗だが

以前行われた禍の団の英雄派に属しているフューラー・アドルフと言う男によって行われた

フューラー演説によって、その行いから人類の敵であるとしか言いようがない

天使・悪魔・堕天使と言った聖書三大勢力の存在が明るみに出てしまい、そのあおりを受けてか

生まれながらの悪魔ではないにせよ、悪魔である祐斗に対する風当たりはいいものとは言えない。

 

勿論、俺はその程度の事で祐斗に対する認識を改めることは無いし

彼の持つ聖剣絡みのごたごたは俺が率先して解決したようなものだ。

俺には、こいつのアフターケアをする義務……とまではいわないにせよ

やるべきだと思っている。

そうでなくとも、あのリアス・グレモリーの下にいるってだけでストレス事案だと思うので

話はなるべく耳を傾けるようにしている。俺達に回ってこない情報を知る意味でも重要だ。

 

「寝られない……ふん……ふんふん……」

 

「……なんだ?」

 

ふと、祐斗が妙ににやついた顔をしながら俺の顔を覗き込んでくる。

いつもの爽やかスマイルとはどこか違う、「男同士の話をするときの顔」で話を振って来たのだ。

こういう顔には覚えがある。松田と元浜だ。あいつらほど下卑た顔はしてないが。

 

「君は確か、白音さんと黒歌さんと同じ屋根の下に住んでいたよね?」

 

「ああ。寮住まい出来ないこともない白音さんはともかく

 黒歌さんを野晒にするわけにはいかんだろ」

 

「……なるほどね。君が眠れなかった理由がわかったよ。

 君にしては意外だな、白音さんをそういう風に見ているとは思わなかったけど。

 黒歌さんの方はともかくとして。

 いつかやると思ったよ。おめでとうと言うべきかな、セージ君?」

 

「お前ガチでしばくぞ」

 

……朝、黒歌さんに言われたようなことをここでも聞く羽目になった。

かなりとんでもない誤解をされているようなので、俺は仕方なく祐斗に顛末を説明する。

……少し、いやかなり説明がめんどくさいし、疲れるが仕方ない。

 

「……と、言うわけだ。一応親と住んでんだぞ? 治療中も親にばれないかひやひやした……

 ってそんなことはどうでもいいんだよ。そういうわけで、今日白音さんは休みだ。

 体調不良で禍の団やアインストとぶつかっても困るからな」

 

「まぁ、それはそうなんだけど……っと。そろそろ授業が始まるね。

 それじゃセージ君、また後で」

 

うまい具合に話を切り上げる口実が出来たことと、大急ぎで教室に向かわなければならない

吉報と凶報の両方を告げるチャイムが鳴り響いた辺りで、俺達は教室へと向かった。

 

――――

 

今日は体調面から使わなかったが、マシンキャバリアーによる通学を開始してからというもの

駒王番長の面目躍如と言わんばかりに変な噂が出るようになった。

 

・あの派手なバイクで警察相手にもブイブイ言わせている。

 しかもバイクは知らない間にどっか行ってる。

 

・小猫ちゃんが宮本と一緒に通学するようになったのは

 学校でいじめられているのを助けられたからだ。

 

金座(かねざ)出素戸炉井(ですとろい)が大人しくなったのは、宮本成二が幅を利かせているからだ。

 

……等々。

ちなみに白音さんはまだ、学校では塔城小猫名義だ。白音はハンドルネームとか渾名とか

そういう事にして通してある。

俺個人としては彼女を「小猫」ではなく「白音」として呼びたいからだ。

名前の変更については戸籍の問題があるため、簡単に変えることは難しいらしい。

黒歌さん共々、近々届け出を行うらしいが……現状の混乱では難しいと思う。

 

で、噂についてだが……驚いたことに、大体当たっている。

バイクがどっか行くのは、都度フリッケンの実体化を解いているからだ。

一応、車両登録は済ませているがあんな悪目立ちするものを

馬鹿正直に駐車させるわけにもいかない。

ゴテゴテしたマゼンタ色のサイドカーとか、目立って仕方がない。

痛車もかくやと言わんばかりだ。

 

白音さんも、悪魔であることは知れ渡っていたためいじめの標的になりかけた。

だが、彼女の背格好的にいじめの対象とするのはあまりにも……絵面がよろしくない。

故に、ほかのメンバーには悪いが積極的に庇った部分はある。

まぁ、小さいころから猫と過ごしてた手前

「猫をいじめるなど許せん!」と言う気持ちも大きいが。

 

因みに、今の彼女からは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が取り除かれているため、正真正銘猫魈だ。

この辺は、はぐれ悪魔認定され、現在は紆余曲折を経て死亡した扱いになっている

黒歌さんとの兼ね合いだ。白音さんは、リアス・グレモリーよりも自分の姉を取ったという事だ。

なので、白音さんが悪魔だという理由でいじめられるのは見当違い甚だしいし

オカ研に所属しているからってのも、彼女は既に部を退部しているため、理由にならない。

まさかとは思うが、人間以外の種族は全部攻撃対象とかそんなことは無いだろうな?

だとしたら、それはちょっと思考がヤバい方向に転がってる気がする。

いくら同じ穴の狢とは言え天使でさえ攻撃対象なフューラー演説の事を考えると

そう言った発想もあり得そうなのが怖いところだ。

 

金座や出素戸炉井。後者は駒王では知らぬ者はいないほどの札付きのワル学校だが

前者は表向き有名進学校。この二つが同列に語られているのは

金座はその実績と対外的評価とは裏腹に出素戸炉井以上の悪辣さを発揮し

しかも警察の追求すら逃れるというとんでもないワルだ。

暴力団――曲津組(まがつぐみ)との接点があるという話も、さもありなん。

 

で、この二つだが……本当に最近大人しい。

まぁ、町がこんなだからそれどころじゃないんだろうが。

或いは、関連してるという曲津組が壊滅したから勢力が弱まったのかもしれない。

いずれにせよ、俺は直接金座をつぶしてない。何でもかんでも俺に結び付けるのはやめろ。

面ドライバーの昔のシリーズにそんな扱いを受けてる組織があった気がするが。

 

ともあれ、これが話に聞いた、珠閒瑠市(すまるし)で十年前に起きたという

「噂が現実になる」のメカニズムではなかろうかと思った。

周防(すおう)巡査か警部辺りに聞けば、もっと詳しく聞けるのだろうか。

 

噂が本当か嘘かはどうでもいいとして、俺が目を光らせている間は

悪魔に対するいじめ問題はある程度抑えられている。

だがある程度だ。根絶なんて俺にもできないし

そんな方法があったら世界中の学校や会社はもっと平和だ。

駒王学園のケースで言えば、俺がフォローしきれるのはオカ研関係者だけで

生徒会まではフォローしきれない。

何せ人となりをろくすっぽ知らないし、どういう経緯で悪魔になったのかすら知らない。

そんな奴をフォローするほど、俺だって甘くない。

 

言っちゃ悪いが、自分の意思で悪魔になった奴に関しては

今回の扱いは「起こり得た未来」と言うことで受け入れるべきだとさえ思っている。

人間同士でさえ争いが絶えないのに、こんな侵略じみた方法で

悪魔が人間社会に来られても混乱を招くだけだ。

交流を持つなら、それ相応の方法と過程ってものがある。

それをガン無視されちゃ、たまったもんじゃない。

そういう意味で、俺は現悪魔政権は全く信用できない。

 

今回の件に関しては、俺はぶっちゃけた話加害者の気持ちは痛いほどわかる。

よくいじめには「いじめられる側に原因がある」などという

加害者の言い逃れにしか聞こえない理屈があるが

今回に限って言えば、あながち間違いでもないというかある程度自業自得な部分はあると思う。

完全に自業自得だなどとは、俺も思っちゃいないが。

あのリアス・グレモリーにしたって、育ち方でああなったのは想像に難くないから

そういう意味では彼女も被害者だ。同情する気はないが。

 

……と言うか、特にリアス・グレモリーや姫島朱乃がいじめの対象としてよく狙われている。

以前は学園の二大お姉さまなどと言われていたのが

今や「男子生徒の欲望の掃きだめ」と言われているとか、いないとか。

そういう対象として見られるのはある意味凄いというか、兵藤の事言えるのか? と言うか。

……正直、身体だけ見れば俺も人の事を言えたかどうか怪しい部分はあるが。

 

凄く疲れる噂について情報をまとめていると、世界史の担当で生徒会の顧問を務めている

薮田直人(やぶたなおと)先生から声をかけられる。

はて。学校絡みで俺は何かやらかした記憶がないんだが。

それとも、装備開発と言う形で協力している超特捜課(ちょうとくそうか)絡みか?

 

「宮本君。ちょっと君の神器で見てもらいたいものがありましてね」

 

「俺に? なんです?」

 

その言葉に促されるように校庭の片隅に来ると、そこには謎の石柱が二つ、鎮座していた。

俺は言われるがままに、記録再生大図鑑を向けてみる。

 

COMMON-SCANNING!!

 

「……『比麗文(ひれもん)石』に『鳴羅門(なるらと)石』。

 岩質は……サマタイト。磁気異常が確認される。

 これらの石の起源は……駒王学園建設の際に当時駒王町の管理者だった

 クレーリア・ベリアルと八重垣正臣(やえがきまさおみ)が、虚空より飛来した怪異に対抗する際

 かつての高僧比麗文上人(ひれもんしょうにん)と、邪鬼鳴羅門火手怖(なるらとほてふ)の力を借り戦った。

 その記念碑として、サマタイトで出来たこの石碑を残すものとする……

 

 先生、ここに書いてある以上の事は読み取れないです」

 

俺の言葉に、薮田先生は納得したように頷く。

それはそうと……サマタイト? 聞いたことがない鉱石だな?

再度サマタイトについて検索しようとすると、薮田先生から待ったがかかった。

 

「サマタイト……仏教ではサマタ、と言う『止観』……

 すなわち、一切の妄念を止め、正しい知恵で対象を観察することを指します。

 要するに、仏教の瞑想ですね。

 ここに大日如来さんがいれば、話は早かったのかもしれませんが……

 今はあまり関係ありませんね」

 

「……うちは曹洞宗だから、道理でピンとこなかったわけだ……

 って、そんなことよりも。先生、何故そんなものがここに?

 俺の記憶の限りじゃ、学校にこんなもの無かったと思うんですが」

 

「コカビエルとの戦い、アインストレヴィアタンとの戦いに先日の覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)との戦いと

 駒王学園はこの短い間に様々な戦いの舞台となり

 都度復旧工事が行われていたのは宮本君もご存知ですよね?

 その際に、発見されたものです。よく無事だったとは、私も思いますが。

 私もここに赴任してそれほど時間がたってませんからね」

 

俺も二年なので、あまり昔のことは知らないが

駒王学園って、旧校舎が存在する程度には歴史のある学校のはずだ。

それなのに、今頃建設記念碑ともいうべき石碑が出土したりするものか?

あの旧校舎が悪魔が活動するためのカモフラージュと言われてしまえば、それまでだが。

 

「いつこの石碑が建てられた、ってのも書いてないですね。

 意図的な消去の可能性もありますが、現状得られる情報では駒王学園建設と共に

 この石碑が建てられた。そう考えて間違いなさそうです」

 

戦いの影響で、埋もれていたのが出土したとか、そういう感じなんだろうか。

別段おかしなことは無いと思い、俺は質問を切り上げる。

それにしても、なんだろう。ものすごく嫌な予感がする。

 

虚空からの怪異、ってのもそうだし……

鳴羅門火手怖、って名前の邪鬼。これも何かすごく嫌な感じだ。

周防巡査から聞いた、ニャルラトホテプって名前の邪神。

 

……まさか、ね。

 

「……それより宮本君。ここに来てからと言うもの、顔色が優れないようですが?」

 

「……すみません。ちと寒気はしますが、言うほどではないです。大丈夫です」

 

あの二つの石碑に近づいてから、妙に背筋が寒い。

何か、ここには人の意思だの思念だの、そういった「気」に等しいものが漂っているみたいだ。

この場所と言うよりは、あの石に込められているっぽいが……

あまり、長居して気分のいいものじゃないのは事実だ。逆パワースポットか?

 

これ以上、この二つの石碑から得られる情報は無さそうだ。

一応、文化財と言うことで保護すべきだろうということで

薮田先生は職員会議にかけあうみたいだ。

 

話がまとまり、戻ろうとした矢先に生徒が駆け込んでくる。

名前は忘れたが、生徒会役員……つまり、ソーナ・シトリーの眷属だ。

 

「先生! 校門の前に、近隣住民の皆さんが……」

 

「ソーナ君ではなく私に話が来るということは……そういう事ですね?

 宮本君、君は彼女を連れて校舎に戻ってください。

 

 ……おそらく、彼らの狙いは悪魔である生徒の皆さんでしょうから。

 なに、生徒の身を守るのも教師の役目ですよ」

 

薮田先生を見送り、俺はこの女子生徒を連れて校舎に戻ることにした。

薮田先生の言う事は……多分、悪魔に関するトラブル、だろう。

敵から身を守ったり、町を守ったりはある程度出来ても傷ついた心を癒すのは容易い事じゃない。

 

果たして、何を思って先代の管理者サマはあの石碑を建てたんだろうな。

悪魔と人間の現状を顧みて、そう思わずにはいられなかった。




気合、入れて、やり過ぎました。
……と言うわけで久々の1万超えでした。

因みに今回からのサブタイ番号はWill(意思)で行きます。
拙作は「己が意思で生きる人々の物語」で通したく思いますので。

さて。
今回、最初からクライマックスです。
説明的な文章が多いのは地続きの続編の第一話と言うことでご勘弁を。

>白音
プルガトリオでイッセーが童貞卒業したと思しき描写がありましたが
彼女は彼女でセージと「そういう交渉」をしたのか、そうでないのか。

ただ、「猫魈の発情期」と「気の暴走」が重なったとあるので
治療のためにセージが身体張った可能性は大です。あと態度。

なお、拙作の白音は目が赤い(アルビノ)なので、体が弱いという設定があります。
そのため、原作以上にヤバいことになっていたので黒歌もセージも
治療に関しては真面目にやってました。
なので「そういう事」はしたかもしれないけど「最後までヤった」かどうかは
おそらく違うと思います。あと黒歌の意味深な発言。

>黒歌
彼女なりのやり方で妹やセージを気にかけてます。問題は多々あると思いますが。
因みに拙作の彼女は「はぐれ悪魔時代に生きるために色々やった」みたいです。

>祐斗
イッセーハーレムにちょっかいかけないどころか、イッセーそのものを狙ってる節があるから
勘違いされそうですが、彼ノンケのはずですよね?
と言うわけで、セージにそういう話題を振ってからかってます。

>駒王学園
割と平常運転に戻りつつありますが、時折こうして近隣住民が押し掛けてきます。
だって悪魔のせいでテロ起きたし、今まで悪魔がやって来たことを考えると……
因みに、拙作では旧校舎の存在から「それなりに創立から時間がたっている」
としてあります。

>クレーリアと八重垣
管理者のくせに駆け落ちしてる、ってのが引っかかりましたので
表向きには八重垣が先代町長で、クレーリアが駒王町で悪魔ビジネスやってました。
なので、この二人は原作同様の道を歩んでません。
先述の駒王学園創立時期との兼ね合い上
八重垣とイリナパパとの接点は拙作ではありません。
一応人間が噛んでいるから悪いようにはしなかったのか
人間公認で悪魔の土地にさせられたのか、今となってはわかりませんが。

>石碑二つ
それぞれ「女神異聞録ペルソナ」と「ペルソナ2」に登場したものです。
始終フィレモンに導かれていた異聞録では比麗文石
ニャル様の独壇場なペルソナ2では鳴羅門石と、構成物質は同じながらも
その冠する名前は大きく異なってました。

さて、拙作ではそれらが二つ同時に出土するという事態が。
過去いずれも学校に存在していたということで、拙作でも駒王学園に用意しました。

……ニャル様こういうことしそうな気もします。


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Will2. 「人らしさ」とは

この作品は「ハイスクールD×D」の二次創作作品ですが
「ハイスクールD×D」ではありません。
前作「ゴースト」から実しやかに囁かれ、テーマでもあった
「人間」への焦点。そこを重視していきます。
故に、上記の結論とさせていただきました。

さて。
クライマックスは続くよ当分は。
と言うわけで、可能な限り「ゴースト」時代同様の定時投稿を心がけます。


比麗文(ひれもん)石に鳴羅門(なるらと)石と言う、二つの石碑を調べた俺と薮田(やぶた)先生の下に

生徒会の役員がやって来る。聞けば、近隣住民が押し掛けてきたそうだ。

その対応をするために、薮田先生は彼らの下に向かい

俺は薮田先生に言われるがまま、昇降口から生徒会の役員――要するに、転生悪魔である

ソーナ・シトリーの眷属を引き連れて、校舎の中に戻った。

その途中で、どうしてもやって来たという近隣住民の声は聞こえてくる。

 

「何でお前ら悪魔が我が物顔でこの町に住んでるんだよ!?」

 

「悪魔は出ていけ! お前らのせいで俺たちの家が、町が滅茶苦茶になったんだ!」

 

「戦争がしたいなら魔界でも何でも自分たちの世界でやれ! 俺達を巻き込むな!」

 

……うげ。うるさいけど、正論過ぎる。反論する気もないが。

ただ、転生悪魔な眷属軍団はともかく、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーにとっては

少々、かわいそうな現状であるとは思わずにはいられなかった。

だからって、必要以上に俺が彼女らを庇う理由なんかどこにもないんだが。

 

その一方で、それに対する薮田先生の反論も聞こえてきたので

俺はこの場にとどまり、一部始終を見ていくことにした。

勿論、この場にいてもいいことのないであろう生徒会の役員には先に行ってもらったが。

向こうだって、生徒会の仕事とかあるだろう。

 

「……仰りたいことはわかりますが、だからと言って学び舎に武器や争いを持ち込むような真似は

 看過できかねますね。ここは悪魔の息がかかっているとは言っても

 普通の人間の生徒も数多く通う、普通の私立校なのですよ?」

 

「その悪魔の息が問題だっつってんだ! 前途有望な若者を、悪魔の教育に染め上げるなんて

 もってのほかだ! 文化侵略だ!」

 

「そうよ! しかもこの町を牛耳ってた悪魔はこの学校に通っていたって話じゃない!」

 

「つまりガキを俺達の管理にあてがってたわけだ! 管理されるってだけでも我慢ならねぇのに

 お遊戯に付き合わされる方の身にもなりやがれってんだ!」

 

「こちとら毎日一所懸命に生きてるのに、それを戯れで管理されたり

 死ぬような思いをするって一体何なの!? 何の権限があってそういう事するの!?」

 

うわぁ……これ、この場にリアス・グレモリーがいなくてよかったよ。

最近はしおらしい風にも見えるが、絶対逆切れして出ていきかねない。

兵藤は……まぁ、退学させられたんだからいいか。

 

兵藤……生徒会……あっ。

 

今、一瞬ヤな奴の事が頭をよぎったが……

どうしようか。黙っておくべきだろうか。

などと考えていたら……時すでに遅し、か。

 

「さっきからうるせぇよ! てめぇらこそ、俺の弟や妹に石ぶつけてるんじゃねぇよ!

 悪魔に反撃されるのが怖いからって、力のない、関係のない奴狙うとか卑怯じゃねぇか!」

 

……匙元士郎。ソーナ・シトリーの「兵士(ポーン)」。生徒会の中では新入りに属するらしく

一応、シトリー眷属における兵藤みたいな立ち位置……らしい。

以前、奴の考えていることを覗いたときにあまりにも看過できかねることがあったので

感情に任せてボコボコにしてしまったが、あの様子ではあまり変わってないみたいだ。

別に更生を期待してたわけでもないけどな。

 

……だが、奴は気になることを言っていた。

「弟や妹が石をぶつけられた」と。

もしそれが本当だとしたら……

 

……事態は、俺が思っている以上にヤバいかもしれない。

 

「匙君。あなたに支取君は何と言いましたか? 下がりなさい」

 

「会長は関係ねぇ! 俺はこの弱くて卑怯な奴らが許せねぇんだ!

 先生こそどいてろ! 俺がこの力で……」

 

顧問である薮田先生すら押しのけながらも、匙は自分の意見を通そうとする。

感情に任せて飛び込み、事態を悪化させる。

剣呑な空気の流れている中で、そういう行為がどういう結果をもたらすか……

 

……言うまでも、なかろうよ。

 

「ほら見ろ! やっぱり悪魔は凶悪じゃないか!」

 

「悪魔の教育を受けた子は、みんなこうなるっていうの!?」

 

「暴力で解決するってのが悪魔のやり方なんだろ!?

 そういうやり方はお前たちの世界だけでやってくれ! 迷惑なんだよ!」

 

「さっきからうるせぇ! 黙りやがれ!」

 

熱量を増していく悪魔へのヤジ。

それに耐えかねたのか、匙はなんと神器(セイクリッド・ギア)である黒い龍脈(アブソーブション・ライン)を発動。

勿論、相手はそこにいる……一般人だ。

 

止めるべきだった! 今の俺の位置からじゃ、どうあがいても攻撃の発動は止められない!

また、天野さんの時みたいな事態が起きるのか!?

 

AKASHIC RE-WRITER SET UP!!

 

俺は思わず目を閉じたが、少しの悲鳴が上がった程度で大きな衝撃などは来ていない。

何かが着弾したような音はしたが、匙の放った一撃が弱すぎたのか、あるいは別の要因か。

俺が思った以上に、響いては来なかった。

恐る恐る目を開けると、薮田先生が……何かしたのか。

匙の攻撃は確かに門の前にいた彼らに向けられていたが、攻撃が着弾したのは

全く明後日の方角である誰もいない校庭だった。

 

「……匙君。頭を冷やしなさい。あなたがどういう思想を支持するのか、までは問いません。

 ですが、今あなたがやろうとしたことは立派な傷害未遂です。

 そうなれば、兵藤君の代わりにあなたが刑務所に送られることになりますよ。

 支取君はもとより、あなたの兄弟の事を考えればどうすべきか……

 ……わからないとは、言わせませんよ」

 

「……く、くそっ!」

 

薮田先生の冷たい目に睨まれ走り去っていく匙を

俺はただ黙って見送ることしかできなかった。

別に、あいつを慰めるとかどうこうするつもりは全くないし

寧ろ頭を冷やすでもブタ箱に行けばいいとさえ思えるのは……俺も良くも悪くも人間なんだろう。

 

匙と入れ替わるような形で、騒ぎを聞きつけたのか警察の人が来たみたいだ。

見た感じ、超特捜課(ちょうとくそうか)の人では無さそうだ。

察するに、駒王学園前で騒動が起きているから誰かが警察に通報して

手の空いている警官が来た、と言ったところか。

超特捜課が動くような事態には、幸いにしてならなかったしな。

 

そうなれば、後はもう大人の――薮田先生の仕事だ。

俺がここにいても仕方ない。一度教室に戻ろう。

 

――――

 

「……『また』、か。もうあいつがいない以上、ここにいる悪魔の生徒で

 近隣住民に迷惑をかける奴はいないと思うんだが……」

 

その日の授業は無事終わり、困った様子でゼノヴィアさんが俺に話を振って来た。

ゼノヴィアさんの言う「あいつ」とは、言わずもがな兵藤一誠の事である。

覗きに始まり、TPOを弁えない猥談で周囲に不快感を与えるハラスメント行為を働き

この学校のほぼ全ての女子生徒及び大半の男子生徒の敵として名高く

松田や元浜とつるんでは、そうした行為に毎日のように及んでいた――のは今は昔。

 

……兵藤一誠は、性犯罪のみならず殺人も犯したため、駒王学園を退学処分となっている。

また、確認の取れていない情報だが勘当もさせられたというらしい。

しかもその殺した相手と言うのが、堕天使レイナーレと契約し

兵藤が犯した性犯罪の報復を試みた少女――天野夕麻と言う、なんとも因果なものである。

 

因みに兵藤だが、殺人犯(と一般的に出所後の再犯率が半端ない性犯罪者)と言うことで

塀の中にいれば万々歳なのだが、そうはなっていない。

事もあろうに、証拠不十分の誤認逮捕と言う形で釈放されたのだ。

しかも、それに伴って責任を取らされる形で警視庁超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)の課長だった

テリー(やなぎ)警視が左遷。現在は蔵王丸慚愧(ざおうまるざんき)警部を後任に据える形で活動できているが

柳警視の左遷に伴って駒王町の治安が一時的にヤバいことになった。

 

勿論、兵藤の誤認逮捕なんてのは嘘っぱちのでっち上げだ。

奴が天野さんを殺害する瞬間を他ならぬ俺が見ている。

リアス・グレモリーもその場に居合わせて目撃していたはずなのだが

どうも彼女の証言も、俺の証言も握りつぶされたらしい。

 

どうやら、この事件の背後にはとんでもない黒幕が潜んでいるみたいだ。

須丸清蔵(すまるせいぞう)と言う国会議員が怪しいらしいが……

これはどういうわけだか俺も神器で調べられない。薮田先生、って前例はあるが

あの人はそもそも正体が……だ。そう考えると、須丸清蔵もそのクチかもしれない。

ともあれ、神器が使えない以上流石に素の人間の力で永田町を相手にするのは無理だ。

なので、兵藤については俺も手が出せない状態だ。

 

「……現状を招いたのはあのフューラーの発言だけどさ。

 三大勢力に疚しいところが無かったら、みんな彼の話を信じなかったと思うんだ。

 こうなったのは、自己責任かもしれないね……」

 

「フューラーか。確かにあれの狙いは俺にも読めないところがある。

 三大勢力と敵対しているのは確かだし、攻撃対象は三大勢力と関わりのある区域ばかりだ。

 しかも、あれは自分の軍も確かに動かしているが、それ以上に民衆を動かしてやがる。

 

 ……こいつ、見てみな」

 

別の教室から顔を出しに来た祐斗が神妙な顔でフューラーの名前を出したので

俺もフューラーに関する情報を出してみることにする。

おもむろに、スマホから見られるニュースサイトの見出しを見せた。

そこには、フューラーの活躍を大々的に取り上げる情報が並んでいたのだ。

勿論、駒王町爆撃などではない、悪魔をはじめとした三大勢力との戦闘の様子だ。

駒王町以外の場所においても、フューラーの軍勢は三大勢力と戦っている。

一応、禍の団(カオス・ブリゲート)と三大勢力の争いと言う体裁はとれているのだから恐ろしいものだ。

 

「ば、バカな!? 奴は大々的にナチズムを掲げていないとは言っても

 ハーケンクロイツを徽章に据えるような軍団が、何故こうも英雄視されるんだ!?

 あのヒトラーの、ナチスの関係者だってのは見ればわかるだろう!?」

 

「セージ君……これ、一応確認するけど……

 君の知り合いのマスコミの記事じゃないよね?」

 

「ああ。全部人間社会の出版社が発行元だ。

 大は嫁売新聞、小はキスメット出版。ネット上でもOREジャーナル。

 皮肉なもんだよ。諍いの絶えない人間が、三大勢力って共通の敵が出てきたもんだから

 あちこちで意見の統一が始まってる。

 日本でも、防衛省や外務省から対三大勢力法案の草案が出たとか、出ないとかだ。

 ……ま、流石にテロ組織である禍の団を支援する、なんて言ってる国は今のところないけどな」

 

俺が三大勢力を「人類共通の敵」と表現したことに対して

ゼノヴィアさんは少し苦い顔をした。しまった、彼女一応追放されたとはいえ教会の所属だった。

アーシアさんにしても、三大勢力と人類が手を取り合えるように動いているんだから

俺のこの発言は、些か失言だったやもしれん。

 

「……なあセージ。いま私達の敵は禍の団、そしてそれに追随する形で現れる

 アインストやインベスの方ではないのか?

 私達人間と三大勢力が争っても、得なことは無いと思うのだが……」

 

「それに、三大勢力の皆さんの処遇を巡って、人間同士でも諍いが起きているみたいです。

 私達のせいで、人間同士が争うようなことになってしまったら……!」

 

「……順当に考えれば、それがフューラーの狙いかもな。

 三大勢力……下手すれば、それ以外の神話体系でさえ奴にしてみれば排除対象だ。

 彼らを人間を使って排除させて、その後で何をするつもりなのかまでは、わからんけどな」

 

ゼノヴィアさんとアーシアさんの問いかけに、俺は今までの状況から推測できる事を

包み隠さず話した。どう考えてもフューラー演説そのものが、三大勢力の瓦解と

彼らに対する求心力の喪失を狙ってのことだ。

困ったことに、三大勢力のその所業のせいでフューラー演説の内容が人類にとって

正当性を与えていたのだ。これでは、義憤にかられた人間が暴走しかねない。

実際、そういう人間はこの駒王町だけ見ても数多い。いや、駒王町だからかもしれないが。

 

「なーにしけた面してんだよ! そりゃフューラーの言ってることは無茶苦茶だけど

 俺達だって、アーシアちゃんを見捨てるほど薄情じゃないぜ。木場はともかく」

 

「そうそう、それよりこれ見てみなよ。

 ユグドラシル、今度はオンラインゲームに手を出すんだってな。

 製薬会社だってのに、本当に幅広いよな」

 

神妙な顔をしていた俺達に、松田と元浜が話を振ってくる。

悪魔バレはしているものの、祐斗やアーシアさんとは

変わらぬ対応をしてくれているのはありがたい。

距離感がなせる業だろうか。リアス・グレモリーやソーナ・シトリーに対しては

少々、冷たい態度をとることが増えたようだが。兵藤? それ以前の問題だ。

そんな二人が、話題を変えるように今度出ると言われている

オンラインゲームの話題を振ってくる。

 

さて。

ユグドラシル・コーポレーション。沢芽市に拠点を構える、世界有数の医療・福祉系企業だ。

実は俺の母さんの職場も、ユグドラシル系列の訪問介護ステーションだ。

その流れからか、俺もユグドラシルは進路の一つとして見据えていたんだが……

 

……なんでユグドラシルがオンラインゲームを?

幻夢コーポレーションとかならわかるが。

 

「『ベルゼビュート』ってどっかの国のプログラマーが

 幻夢コーポレーションに持ち込んだ企画らしいんだけど

 それが通らなかったらしくって、ユグドラシルが拾って開発に至ったらしいぜ?」

 

「何で知ってんだよ元浜……」

 

ベルゼビュート。聞きなれない名前だが

ゼノヴィアさんとアーシアさんはその名前を聞いて苦い顔をする。

まさか……悪魔関係か?

 

検索をかけるのもできるが、そこまでやることでもないだろうし

仮に悪魔絡みだとして、まさかこっちでレーティングゲームを流行らせるつもりではなかろう。

そもそも、成り立ちを考えるとこっちでレーティングゲームをやる意味がない。

 

「キャッチコピーは『全ての者に冒険と未来を』。

 ARMMOとVRMMOのいいとこどりみたいな、そんなゲームらしいぜ。

 しかも基本無料と来た! いやぁ、ユグドラシルって太っ腹だよな!」

 

「……ユグドラシルの回し者みたいに聞こえるぞ」

 

「ほんとだよ」

 

俺の言ったことは松田も思っていたらしく、元浜のユグドラシルのゲームの語りっぷりは

まるで元浜がユグドラシルに金を積まれて宣伝しているようにも聞こえた。

まぁ、口コミで商品宣伝するって方法は昔からある方法だから

それ自体はさしたる問題ではないんだが……

 

「そうじゃねぇって。ただ申し込んだβテスト落ちちまったからさ。

 こうして口に出してプレイしてるような気分だけでもって……」

 

ストレス発散かよ。まぁ、誰かに迷惑かける分でないなら、問題はないか。

以前のこいつらならば、犯罪行為を行っていたかもしれない。

そのことを思えば、環境は人を成長させるというのも強ち間違いでもないだろう。

 

「元浜君。そのゲームの名前はなんていうんだい?」

 

「『D×D』って名前だけど、製品版は『D×C』って名前になるらしいぜ?

 どういう意味なのかは分からないけど、キャッチコピー的に

 それぞれで意味を考えてくれ、って事なのかもしれないな」

 

「『D×D』……か。どこかで……いや、気のせいだね。

 とにかく教えてくれてありがとう、元浜君」

 

D×Dという名前に、祐斗、アーシアさん、ゼノヴィアさんが反応する。

この三人の共通点って……天界関係者、か?

いや、そうだとしても若干弱い。アーシアさんと祐斗ならオカ研。

アーシアさんとゼノヴィアさんならクロスゲートを通って来たあのシスターさん繋がり。

祐斗とゼノヴィアさんなら聖剣繋がり。

三人同時の接点ってのが、今一つ浮かばない。それなのに、なんでそろって反応するんだ?

 

情報が少なすぎて、検索かけるにも絞り切れない。プライベートな事情含むならなおさらだ。

記録再生大図鑑は、プライベートも読もうと思えば読めるが、ロックの解除がめんどくさい。

それに大した用もないのにプライベートを読むのは憚られる。

なので、俺はD×Dと言うものについて調べるのはやめにした。

元浜がさっきべらべら喋ってくれたおかげで概要はつかめたし。

そもそも、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べ物をすること自体はともかく

そこに至る情報が少なすぎれば、疲れる。今回はそのケースかつどうしても必要な話でもないので

調べないことにしたのだ。

 

「あ……! ごめんなさい、今日私ベビーシッターのバイトが入ってたんでした!

 すみません、先に帰ります。部長さんには祐斗さんから伝えてください」

 

「よし、ならば私も付き添おう。どうせ行く先は同じだしな。

 それに……さっきの輩がまだいないとも限らない。護衛役は必要だろう?

 まさか、蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)に人間を襲わせるわけにもいくまい」

 

アーシアさんはベビーシッターのバイトをしている。行っている家は元教会の戦士の家で

ゼノヴィアさんも下宿しているところらしい。そのため、いろいろな事情はすべて把握したうえで

アーシアさんを雇っているようである。俺自身、その家の人と顔を突き合わせたことはあるが……

変人だが、腕はたつし本質は悪人ではない。人間としては、十分に信用できる相手だ。

 

俺は当初、マシンキャバリアーにアーシアさんを乗せて帰路につこうかとも思っていたが

ゼノヴィアさんがいるなら、特に必要ないだろう。

そうなれば、俺は一人で帰ればいい。眠気も覚めたし、帰りにバイクを操縦すること自体は

何ら問題ではない。祐斗は部活だし、松田と元浜はマシンキャバリアーには乗せられない。

頑張れば三人乗りできないこともないが、道交法的にどうなんだと言わざるを得ない。

 

それに、白音さんの事も気がかりだ。超特捜課からの招集も来ていないし

俺は今日はまっすぐ家に帰ることにした。

流石に「白音さんが心配だから帰る」とは言えないが。

言ったら、元浜あたりに因縁つけられかねない。

 

「それじゃ、俺も帰る。ちょいと野暮用があるんでな。

 松田、元浜。お前らも気をつけろよ、怪物軍団に襲われたらただじゃすまないからな」

 

「……ああ、学校帰りにエロ本……なんて、言ってられる状況でもないしな」

 

最近、駒王町の復興もそれなりの速度で進んでいるからか

住民にもそこそこの余裕が生まれているみたいだ。

それが、元浜の話したD×Dとかいうゲームだったり、松田の今の発言だったりだ。

 

……まぁ、三大欲求大事だしな。俺もその点に関しては全否定する気は無いし。

時間と場所を弁えなヨー、とはどこかの英国生まれの帰国子女が言った言葉らしいが

その通りだとは思う。

そんなわけで、俺は松田の発言を聞き流しつつ学校の駐輪場に向かい

人に見つからないようにしながらマシンキャバリアーを実体化させた。

 

――――

 

マシンキャバリアーを走らせながら、駒王町の街並みを眺める。

一時は焼け野原同然になったこの町だが、今ではここに出店してきたショッピングモール

ジュネスが営業再開する程度には復興している。今なお避難所生活の人も少なくはないが。

 

俺も以前はジュネスでバイトしていたが、今は行っていない。

一応、超特捜課の協力者になったことをバイト先に伝えたし

バイト先からは「学校もあるし、このご時世だから警察の方を優先してくれ」

……と、言ってはくれたが。

 

……明日香(あすか)姉さんは、この町を出たので当然もうジュネスは辞めている。

つまり、バイト先に行ったところで顔を合わせることはもう二度とないという事だろう。

それがいいことなのかどうかは、わからないが。

 

『セージ。あまり考え事をしながら運転するな。事故るぞ』

 

「……っと、すまない。今ジュネスの前を通ったもんだからな、つい」

 

フリッケンの警告を聞き流しながら、俺は運転に意識を向けなおす。

改めて思いなおすと、確かに危険だ。一応法定速度は遵守しているつもりだが

こんなごついサイドカーで事故なんぞ起こした日には

せっかく復興した町に要らん被害を出してしまう。

 

そんなことは、俺の本意ではないし免許が失効してしまう。そんな阿呆な結末があってたまるか。

そうして、家に向かう道をひたすら走り続けていると――

 

『……セージ。見たこともない連中が来てるぞ。

 いや、もしかすると俺は見たことがあるかもしれないが……

 少なくとも、この世界では見たことがない』

 

「なに?」

 

フリッケンのいまいち要領を得ない言葉でミラーを確認した俺の目に映ったのは

タンポポの花が象られた模様の入ったエアバイクらしき乗り物。

それに乗っているのは、全身黒ずくめの足軽兵の鎧のような「何者か」。

 

「…………超特捜課の新装備、って感じじゃなさそうだな」

 

俺は超特捜課に顔を出した際には、いろいろな情報を集めている。

その中には、当然装備カタログとかもあるのだが……

 

……あんな装備は、見たことがない。

俺が知らないだけで導入されたものなのかもしれないが

開発するにしたってそれなりの期間はかかる。

だがそれは、超特捜課に限った話だ。これが自衛隊だの、国連だのが絡んでくれば話が違う。

超特捜課とは別の開発ルートで作られたものと言う事も、大いにありうるからだ。

 

しかしさっきから普通の公道をあんなエアバイクで、あんな目立つ格好で走っていることは

俺も気になったため、スピードを落とし記録再生大図鑑で調べようとするが――

 

『――!!

 ロックオンされてるぞ、セージ!!』

 

「はぁ!? ……クッ、こうなりゃ進路変更だ!

 なるべく住宅街以外の場所で迎え撃つ! こんなところで砲撃戦が出来るか!

 フリッケン! 進路割り出し頼む!」

 

次の瞬間、エアバイクは砲撃してきた。

乗り物で移動中に襲撃を受けるとか、まるであの日のようだと思いながら

俺は、正体不明の相手とバイクチェイスと言う名の砲撃戦を繰り広げることになったのだ。




>近隣住民
以前生徒会とトラブルを起こした人達とはまた別です。
一般人が超常バトルに巻き込まれればどうなるか。
彼らが言っていることは、ごく当たり前のことなのです。

そして、彼らこそが集団を、国を、世界を動かすピース。
そんな彼らをおざなりに扱う世界に、未来はありません。
あったとしても、歪み切った未来です。

>D×D
まさかの虚憶案件。
この場に白音がいたらさらに強く反応するんでしょうが
昨夜セージとおたのしみだったため不参加。
何かが働いたのかもしれません。
因みに、この感覚の正体が虚憶と言う事はこの場にいる全員、知りません。
開発者のベルゼビュートと言い、原作既読の方には引っかかる場面でもあります。

そして、一度形だけでも幻夢コーポレーションに持ち込んでいる辺り
「あれ」を意識している部分はあります。
製品版のタイトル「D×C」はまさに……

>エアバイクと襲撃者
一撃! イン・ザ・シャドウ!


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Will3. にじり寄る黒影と白猫の気持ち

斬月の舞台の感想は活動報告に挙げてあります。
結構マジで拙作で拾える設定がありすぎて驚きですよいやほんと。

……流石にセージをトルキア共和国に送るのは難しいと思いますが。
パスポート作らないといけませんし。


エアバイクの追撃を振り切りながら、俺はマシンキャバリアーの後部についている

連装砲で反撃を試みる。勿論、郊外に出てから発砲しているが。

だが、向こうの速度は飛行していることもあってか

マシンキャバリアーとほぼ同等のスピードで迫ってきている。

ここが公道なので、こちらも全速力を出せないって事情もあるんだが。

 

『セージ、先に開けた場所がある、そこで一旦迎え撃つぞ』

 

「わかった!」

 

フリッケンに促されるまま、俺はマシンキャバリアーを走らせる。

言われた通りの開けた場所に出た時、マシンキャバリアーから降りて

待ち伏せの戦法に出たのだ。

 

SOLID-FEELER!!

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

多少の自立稼働が出来る触手砲を展開させ、追撃してくるであろうエアバイクに備える。

待つこと数刻、俺を追ってきた謎のエアバイク軍団は上空から砲撃してきた。

それを迎え撃つように、触手砲がしなり、ビームで反撃する。

傍から見れば、ロボットアニメのワンシーンっぽく見えるが

当事者としてはそれどころじゃない。

いくら触手砲がある程度自律で動くとは言っても、コントロールフリーではないのだ。

おまけに、エアバイクは空から攻撃してくるため、全周囲に気を配らなければならない。

まぁ、レーダーは稼働させているからその辺は抜かりない、はずだが。

 

思惑通り、突っ込んできたエアバイクに対して触手砲の迎撃が作動する。

勝手に迎撃してくれるとは言っても、それなりに意識は向けてないといけないので

見当違いの行動をとるわけにはいかないのが辛いところだが。ある程度数を減らさないと

相手の検索もできやしない。

 

『調べずに叩き潰してもいいんじゃないか?』

 

「いくら何でもそれはまずいだろ。正体不明の装備で挑んできている以上

 相手の手が読めないのは単純に脅威だし、同じのが複数出ているってことは

 相手は量産型ってのは容易に想像がつく。正体不明の装備かつ量産型ってのは

 早めに調べておいて手を打てるようにしておきたいんだよ」

 

アモンの脳筋な提案を蹴っ飛ばし、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で実体化させたディフェンダーを使いながら

触手砲の迎撃を掻い潜り迫ってくるエアバイクや黒い足軽兵のような鎧の相手をする。

戦いながら記録再生大図鑑を動作させてもいいのだが

それをやるにはエアバイクの足が速すぎるし、相手の持っている長槍のリーチが長い。

長槍の相手自体は経験があるのだが。

 

しかし、相手取っているうちに手の内はある程度読めてきた。

エアバイクは機首部分のビーム砲以外に目ぼしい兵装は無く

操縦者の黒鎧も長槍以外に武装は無さそうだ。

 

それよりも、俺は相手の話している言語が気になった。

 

对方强大(奴は強いぞ)!」

 

围住、攻击(取り囲んで攻撃だ)!」

 

……イントネーションから、中国語らしいって事はわかるんだが。

中国語は俺も授業で習ってない。それを言ったら聖槍騎士団のドイツ語もなんだが。

そういえば、あいつらドイツ由来の軍団の癖に日本語話してることが多いような?

とにかく、今の俺には悪魔の駒(イーヴィル・ピース)による言語翻訳機能は備わっていない。

こればかりは便利だと思うが、これのために人間やめるかと言われると……

 

『……気をつけろ。あいつら、こっちを包囲するつもりだぞ』

 

「翻訳ありがとうよ、アモン」

 

悪魔の駒による言語翻訳機能こそ無いが、憑いているアモンにしてみれば

言語翻訳など造作もないらしい。便利なものだと思いながらも迎撃を続行する。

だが……見るからに戦国時代の足軽な鎧なのに、喋っている言語は中国語?

その噛み合わなさが、俺に妙な違和感を覚えさせた。

まさか、アレが中国産なわけがなかろう。中国産ならもっと妙に派手派手しい外見のはずだ。

……と言うのは、偏見だろうか。

 

EFFECT-INVISIBLE!!

 

相手が包囲網を敷くというのなら、こっちは姿を消して応対だ。

見えない相手を取り囲むことは出来まい。

十分に引き付けたタイミングでINVISIBLEのカードを発動させ、姿を消す。

そのまま包囲網を脱出し、包囲の手薄な場所の背面に回り込み、攻撃を加える。

 

不看得见敌人(相手が見えない)!?」

 

对方去了哪里(奴はどこに行った)!?」

 

言ってることはわからんが、混乱しているのはわかる。

その隙を見逃さず、触手砲の火力を一点に集中させ

エアバイクに乗った黒い足軽鎧の集団の数を一気に減らすことに成功した。

 

『セージ、あれを見ろ』

 

「なに……?」

 

フリッケンに指し示された方角を見ると、倒れた足軽鎧の鎧が解除され、中から人間が出てきた。

と言うよりは、変身が解除されたような印象を受ける。

まるで、面ドライバーで攻撃を受けて変身が解除されたような、そんな感じだ。

ともあれ攻撃も止んだので、こいつらの正体や装備の出所等を

記録再生大図鑑で調べてみることにした。

変身の解けていない鎧も倒れたまま動く気配がないので、まずこちらからだ。

 

「……アーマードライダー黒影(くろかげ)。ユグドラシル・コーポレーションが開発した

 量産型のアーマードライダーシステム。警視庁や自衛隊の装備よりも高性能で

 身体能力の強化に加え、軽量・強固なマツボックリアームズの鎧と

 長槍・影松(かげまつ)を用いた近~中距離戦を得意とする……

 

 ってユグドラシル!? オンラインゲーム出すってだけでも驚きなのに

 なんだってこんなもん作ってるんだよ!? あそこ医療・福祉の企業じゃないのか!?」

 

『人間の会社の事まで俺は詳しくないが、この数はつい最近製造開始したもんじゃないぞ』

 

『だな。セージ、もう少し奴らを調べてみるぞ』

 

アモンの言う通りだ。一体どんな技術でこれを作っているのかは知らないが

超特捜課(ちょうとくそうか)の装備だって、こっちに回っているのは先行試作品と言う扱いだ。

アインストとの戦いで活躍したナイトファウルだって

今はメンテのために警視庁に戻されている。それ位、装備の正式配備には時間がかかるはずだ。

だというのに目の前の黒影は量産され、しかもそれがこうして

徒党が組める程度に配備されているのだ。

かなり前から、このアーマードライダーシステムってのは開発・配備がされていたに違いない。

 

それに、だ。これが量産型と言う事は試作型も当然存在するだろう。

試作型のデータ集めと、量産型へのフィードバックの事を考えれば

下手すれば年単位前の時期からこんなものを製造していた可能性が高い。

冥界や天界由来なら「奴らならやりかねない」で済ませられるが

これを作ったのはおそらくだが人間だ。

……俺は、ユグドラシルと言う企業が少し怖くなった。

 

COMMON-SCANNING!!

 

恐怖心を抑えながら、俺はもう一度記録再生大図鑑を向ける。

 

「……天道連(ティエンタオレン)。十年前に珠閒瑠(すまる)の事件で暗躍していた台湾マフィア。

 須藤竜蔵(すどうたつぞう)に利用され、口封じのために主要人物である殺し屋、云豹(ユンパオ)が殺害されたことで

 日本から手を引き、台湾に潜伏していた……

 

 ……うっ、かなりヤバい相手じゃないか。とにかく警察に連絡しないと……」

 

地面に突っ伏した天道連の連中を触手で縛り上げながら、俺は警察に連絡を入れた。

こういう時、超特捜課の特別課員と言う肩書は便利だが……

……今回、それ適用されるか?

 

いくら相手が台湾マフィアで得体のしれない装備を使っていたって言っても

相手が人間であることに変わりはない。人間相手で、特に超常的な力のない場合

超特捜課の出る幕ではないはずだ。どこの担当になるんだ?

 

頭を抱えているうちに、警察の人間がやって来た。

案の定、超特捜課の人間ではない……が、確認のために蔵王丸(ざおうまる)警部が来てくれた。

蔵王丸警部との付き合いは短いが、顔見知りが来たというのはそれだけでもありがたい。

蔵王丸警部を通して、俺は警察に天道連がアーマードライダーシステムを使って

下校途中の俺を狙ってきた、と言う事を伝えることにした。

 

「……わざわざお前をか? いくら移動に目立つバイクを使っていたって言っても

 それだけの理由で天道連がお前を襲撃するとは思えない。

 しかも、自分たちだってそれ以上に目立ちかねないエアバイクや鎧を使っているんだ。

 宮本。お前天道連に狙われるような身に覚えがあるか?」

 

「あるわけないでしょう。冥界じゃ一部地域で指名手配受けてますけど

 こっちでは超特捜課に協力している以外は

 一応普通の高校生で通してるつもりなんですよ、警部」

 

何で俺が台湾マフィアなんぞに狙われなけりゃならないんだ。

台湾マフィアに喧嘩売るようなことをした覚えはない。

三大勢力相手なら、いくらでも心当たりがあるというのが我ながら恐ろしいところだが。

 

「警部殿。こいつらはいわゆる実行部隊――鉄砲玉ってところですね。

 とりあえず連行した上で吐かせますが……

 自分も、なんで今時分天道連が活動を、しかも日本でってのは気になりますね」

 

「全く……三大勢力や国際テロ組織だけでも厄介だというのに

 そのうえ今度は台湾マフィアか。人間同士の内ゲバをやっとる場合でもないと思うんだがな」

 

肩を竦め嘆息する蔵王丸警部に、向こうからやって来た警官が何かを伝えに来た。

話の内容までは聞こえなかったが、何かマズいことが起きてるような気もする。

 

「……宮本。お前帰れ。こっから先は警察の――大人の仕事だ。

 なに、これから相手取る奴は三大勢力や禍の団(カオス・ブリゲート)でも神器(セイクリッド・ギア)持ちでも

 ましてやアインストでもインベスでもねぇ。

 ガキが争いごとに首突っ込むのだけでも論外だが、それが人間同士となっちゃもってのほかだ。

 さっさと帰って、明日の学校の支度でもしとけ」

 

蔵王丸警部は俺を追い立てるようにこの場から帰そうとする。むぅ。

一応は上に立つ人なので、訳もなく逆らうのはまずい。

そうでなくとも、警察ってのは縦社会だ。俺は好きじゃないがそうも言ってられない。

ここで蔵王丸警部の意向を無視して捜査に付き合うのもなんか違う気がするし

そもそも俺は追われてこんなところにやって来たのだという事を思い出し

言われた通り、俺は家路につくことにした。

 

――――

 

家につき、テレビをつけるとニュースで指定暴力団組織曲津組(まがつぐみ)の後継組織――

八十曲津組(やそまがつぐみ)の事を言っていた。

もしかすると、これの相手のために蔵王丸警部は俺を帰したのかもしれない。

ディオドラとの戦いのときは有耶無耶になっていたが

俺が直接曲津組と戦った記憶はそういえば、無い。

まぁ、高校生が暴力団の逮捕に関わるってのもなんか違う気がするし。

 

目ぼしいニュースを見終えて、晩飯の支度を始める。母さんの帰りは今日は遅い。

そうなると……台所に一人で立っていると黒歌さん(うるさいの)が来るのが最近の常なのだが

そのうるさいのも看病についているのだろうか。静かだ。

 

蓮根や椎茸、人参、鶏肉を入れて筑前煮を作る。

調味料は目分量だが、大体うまくいく。まぁ今回は病人がいるからやや薄味にしているが。

味見をしながら出来具合を確認し、「ここだ」と思った段階で火を止める。

最初は鶏肉のを親子丼にしようかと思ったが、玉ねぎがネックになるのでやめた。

火を通せば問題ないらしいが、やはり猫魈(ねこしょう)にネギはキツイらしい。

そもそも猫魈じゃない、普通のネコにネギはダメだ。これは火を通してもダメだ。

俺はネギ属の野菜は大体好きなので、食べ物の好みではその点でずれが生じてしまっている。

そんなわけで、白音さんの体調が優れない今ネギを用いた料理は避けたのだ。

 

おかずは出来た。あとはご飯が炊けるまで待つだけだが……

まだおかゆを作るべきだろうか。その確認だけ白音さんに取ろうと思ったが……

 

ちょっと、迂闊だった。

 

「……俺がこうして仰向けになって寝ている理由を教えてもらえないか?」

 

白音さんの部屋に入るなり、誰かに押し倒されるような形で仰向けになり

俺は天井を見上げていたのだ。

一瞬の事だったので、俺も応対が出来なかった。

まさか、自宅でフリッケンやアモンの力をフル稼働させて行動するような愚は犯したくない。

 

「……ごめんなさい、セージ先輩。でも、でも、私……

 姉様も席を外している今だから……」

 

ん? 黒歌さんがいない? 看病ほっぽり出してどこ行ったんだ?

などと言う思考を遮るように、上気しきった表情で俺の顔を覗き込んでくる白音さん。

昨日の今日でこれか? いや、流石に昨日一晩アレしたくらいでどうにかなるほど

簡単な問題でもないと思ってたし、体格差と耐久力の問題から根本的解決は避けたんだった。

 

……黒歌さんが言うには、こっちも心身ともに白音さんの行為を受け入れない事には

気の吸収がうまくいかないとのことだ。いや、今手は空いているけど

いつ母さんが帰ってくるか……

そんな心配をよそに、と言うかする間もなく白音さんは俺の服を脱がせにかかってくる。

 

……これは、昨日の続きをしろって事か。

なるべく白音さんの眼を見ながら、俺は白音さんが服を脱がせようとするなら

やりやすいように体をよじる。一応制服は帰って来た時に脱いで部屋着に着替えていたので

多少しわになろうが知ったことではない。

粗方脱がし終えたところで白音さんも自分のキャミソールを脱ごうとする。

いつぞや使い魔の森で事故的に見てしまった水玉模様のそれとは違い

黒に白のフリルが入ったやや透け感のある薄手の生地、ともすればセクシーさの入ったデザイン。

なんつーか……結構、理性的な意味でヤバい。特にキャミソールからのびる細身の手足と

俺にもたれ掛かろうとしてくる小さな体。

 

……あれ? 昨日見た時に比べて、心なしか肉付きがよくなったような……わけないか。

 

「……そんなに食い入るように見て……気に入ったんですか?

 でも、恥ずかしいので……あまりじろじろ見ないでください……」

 

そう言われて、俺は思わず目を背けた。

そんなにガン見してたのか、俺。こっちも少し恥ずかしくなった。

反射的に目を背けたのは、多分図星ってのもあるんだと思う。

すると、白音さんはキャミソールを脱ごうとしていた手を止め、俺の胸に顔を埋めて来る。

う……っ、息遣いが、結構……いや、昨日も体験したんだが……

 

「……あのさ。着替えはしたけど、シャワーとか浴びてないしさ……

 一応外でドンパチもしたし、さっきまで手は洗ったけど飯は作ってたしで……」

 

「……いいんです。この方が、匂いと温もりをしっかり感じられて、落ち着きますから」

 

そう言われて、俺はまた顔が熱くなるのを感じた。

どう見ても素面で言っている言葉じゃないのはわかる。まぁ、素面じゃないなら……

それなりに、付き合うべきだろう。どの道放置すると体に悪いんだ。

なので、俺は顔を埋めている白音さんの頭を撫でてやることにした。

文字通りの猫撫で声をあげながら、彼女は体をよじる。

そうなれば、太腿が俺の身体にも触れて……くすぐったい。

 

「……あ」

 

いつの間にか、俺の両手は白音さんを抱き寄せていた。

多分、本能的な行動だろう。知識があろうがなかろうが、本能である程度カバーが出来る。

……身に覚えが、あるような気がする。

なるべく肌を触れ合わせ、甘く、引き寄せられるような匂いを吸い込む。

これが発情期特有のフェロモン的な何かなのかどうかはわからない。

だが、俺の側も彼女の匂いと温もりが、悪いものではないと脳が身体に訴えていた。

寧ろ、もっと要求しているようにさえ思えた。

そんな俺の心を見透かしてか、白音さんの側も俺に体を預けて来る。

 

……時計を見る。まだ母さんが帰ってくるまでは大丈夫そうだ。

黒歌さんもどういうわけだか見当たらない。アモンとフリッケンは黙ってろ。

まぁ、昨日も黙っていてくれたが。

 

……つまり、正真正銘、ここには俺と白音さんしかいない。

これが治療行為であるという事は、もしかすると俺の頭から飛んでいるかもしれなかった。

最悪、姉さんの事さえも頭から掻き消えていたかもしれない。

 

けれど、目の前の少女が何を望んでいるか。

そのことを考えると、俺が四の五の言っていられる状況は当の昔に通り過ぎた。

俺がやらなければ、どうにもならないという事態だろう。

 

「……白音」

 

「……セージ、さん」

 

……なら、俺にできることならば全力で当たるだけだ。

 

――――

 

……そこから先の事は、思い出すだけで顔が熱くなる。

最後に、白音さんが赤い瞳で妖しく微笑んだのははっきり覚えているが。

多分、朝の事を顧みるに向こうも顔が熱くなるのは同じだと思う。

 

「……タオル、用意しておかないとな。その後でシャワーか」

 

微睡んでいる白音さんを布団に寝かせ、清拭用のタオルを用意しに風呂場に向かう。

一応病人の白音さんを無理にシャワーを浴びせるわけにもいかない。

なので、温めたタオルで体を拭ってやり汗を拭きとり、寝間着に着替えさせる。

……母さんが持ってる、介護マニュアルの見様見真似だ。

 

「……あ、セージ先輩。ごめんなさい、私……」

 

「いい。体の具合はどうだ? 辛いようなら、飯はお粥にするが……

 そろそろ母さんも帰ってくる頃だろうし、俺も飯にするが……降りてきて喰うか?

 それともまだ寝るか?」

 

俺の問いに、白音さんは首を横に振る。目の焦点もはっきりしている。

さっきまで、やや焦点が合っていない部分はあったことを考えると少し良くなったんだろう。

あんな方法でも、治療にはなるんだな……マジかよ。

正直、黒歌さんに話を聞いても半信半疑だった。

 

「……ご飯は、普通に食べます。今日は何ですか?」

 

「筑前煮だ。口に合えばいいが」

 

嬉しそうな顔をして、白音さんは布団から起き上がろうとする。

手を取り、白音さんを立たせてやって部屋の外に出ようとした矢先で黒歌さんと出会う。

いや、どこ行ってたんだよ。妹の看病ほっぽり出して。

 

「ん、その様子じゃ白音も落ち着きつつあるみたいね」

 

「……妹の看病ほっぽり出してどこ行ってたんですか」

 

「怖い顔しないでほしいにゃん。白音の治療にはセージが必要不可欠って話はしたじゃん?

 で、治療に集中できるようにお膳立てして私はちょっと陰に隠れてたってわけ。

 勿論、一部始終は見てたけど……まあまあ良くやった、65点ってとこかにゃん」

 

思わずぶん殴りたくなるのをこらえて、俺は黒歌さんを睨みつけていた。

白音さんも冷たい目で見ているように見えた。まあ、アレを一部始終覗かれてたってのは……

 

家族でさえこれなんだ。あのバカのやらかしたことはどれだけだよ。

いや、家族だからこそダメージあるのかもしれないけど。

 

「にゃん、だから怖い顔しないでほしいにゃん二人とも。

 それよりそろそろお母さん帰ってくる頃だし、ご飯も炊けたにゃん。

 おなかすいてると思うから、配膳は……」

 

「俺がやります。またせっかく作った飯を台無しにされたら困る。

 そうでなくとも今日は俺がそれなりに本気で作ったってのに」

 

その言葉に目を輝かせる白音さん。どうやら、いくらかよくなったのは間違いなさそうだ。

黒歌さんは納得いかない顔をしているようだが、知ったことか。

けしかけたのはあんたでしょうが。それに配膳だって

どういうわけだか黒歌さんがやったら爆発したし。

その日の晩飯がカップ麺に化ける程度には被害が出たし。

 

結局、その日は無事に家族四人で晩飯をとることが出来た。

なお、夜寝ようとした矢先に黒歌さんが布団に潜り込んできたのはまた別の話だし

これについてはなるべくなら話したくないことも付け加えておく。




【朗報】まだ平和

「ゴースト」時代が嘘みたいにイチャコラしてます。
こいつ本当にセージか?

>黒影
斬月の舞台では終ぞ出番のなかった黒影。仕方ないね。
拙作では量産型が天道連に横流しされ、こうして戦力として運用されてます。
台湾マフィアがアーマードライダーの力を使う……ヤベーイ!

>天道連・八十曲津組
原作では絶対に相手しないような軍団だと思います、マフィアや暴力団なんて。
大体裏に悪魔がいて、その裏で糸引いてる悪魔倒して終わり、な予感。
もしくは関与さえしない。まぁ「ゴースト」の時もそんなノリでしたが。

蔵王丸警部の言う通り「人間の、しかも高校生が暴力団絡みの事件に首突っ込むな」
ここに帰結すると思うんです。セージはなんだかんだ言っても神器持ってるだけの
ただの人間ですし。なおアモン。

>帰宅後のセージの動向
大体こんな感じ。白音絡みが無かったら、別の事やってたと思います。
夜は夜で黒歌に言い寄られている模様。こんな生活、いつまで続くやら。


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Will4. 彼らは何を思い動くのか

……注意事項がガチガチになってしまい申し訳ありません。
ですが、タグによる注意喚起を無視したであろう行いが目に余ったものでして
このような措置をとらせていただきました。

見解は、すべて活動報告にて述べさせていただいていますが
本来なら、作品で語るべきことなんですよね……

いやはや、力不足を痛感しております。

閑話休題
風邪でぶっ倒れてましたが、どうぞ。


……遠くでアラームの音が鳴り響く。

止めようと右手を伸ばすが、妙に重く動かない。

また猫二匹が乗っているのかと今度は動いた左手を別の方向に伸ばすが

特有のもふもふ感が無い。

だというのに何故体が動かない。金縛りか? 霊体でいた期間が長かったから後遺症か?

……そうだとしても、なんか妙に体がスース―するような、それでいて暖かいような。

そして何より決定的なのが。

 

……猫二匹が乗っているにしては、異様な重みを感じる。

まるで、誰かに頭を預けられたような……

 

「……何でこんなところで寝てるんですか」

 

思い切って掛け布団をずらすと、いつの間にか潜り込んでいた黒歌さんと目が合う。

肌のぬくもりが存在感を訴えていたので、何者かの確認だけだったが

案の定、というわけだ。

 

「ここが一番落ち着いて寝られるにゃん」

 

いつもの調子で言ってのける黒歌さんに、俺は反論する気もわかなかった。

声を張り上げ、暫くしたら起きる旨を母さんに伝えておく。

公然の秘密になっているかもしれないが、かと言ってこの状況をみられるのは気恥ずかしい。

 

「いきなり近くで怒鳴らないでほしいにゃん!」

 

「だったらそんな恰好で俺の布団に潜り込まんでください」

 

恰好。

俺の目線からだと、俺の胸に押し付けられた黒歌さんの

大きくて柔らかいのが存在を主張している。

申し訳程度の黒い肩紐が、黒歌さんが裸でないことを証明しているが……

肌ざわりから、薄手の下着一枚だろう。こんなの、ほとんど裸同然だ。

だから、こんな恰好で潜り込むなって言ってるのに。

 

「……だってさ、白音。私らは良かれと思ってやってるのに酷い話にゃん」

 

どこが、と思いながらも顔を右腕の方に向けてみると穏やかな顔で寝息を立てている白音さん。

しかも、黒歌さんと遜色ない恰好……つまり、ほぼ全裸だ。

強いて違いを言うなら、黒歌さんが黒の下着(だと思う、肩紐しか確認できなかったが)

なのに対して、白音さんは白の薄手のキャミソールだってことくらいだ。

色しか変わらないじゃないか。

……なーんか、うちに来た最初に比べて白音さんの服チョイスが変わってる気がする。

肌着下着はともかく、私服は眼福なのもあるのでどうこう言う気はないが。

それに、どこかで稼いだであろう自分の金で買ってるみたいだし。

 

「……ぅん? セージ先輩、おはようございます……」

 

寝惚けた赤い眼で、こちらを見ながら挨拶してくる白音さん。

ああ、この状態だから俺は動けなかったのか……つかよく寝られたな俺。

そして、現状を把握したところで間の悪いことに俺の身体が反応してしまい……

 

「にゃんっ!? うんうん、元気なのはいいことだにゃんセージ」

 

蕩けた表情と声で、納得したように俺の眼を見ながら黒歌さんが呟く。

くっ、ちっ、違っ……これは……っ!!

朝だからしょうがないだろ!? と、大声を張り上げずに目で抗議する。

 

「んふふー、一回くらいなら時間余裕あるわよね? ヤれる時にヤっとく、それが私だにゃん。

 白音の方はおかげさまで落ち着いたから、今度は私の番だにゃん」

 

だがそんな抗議も完全に流されてしまう。

く……っ! 完全に勘違いしてやがる!

この体勢じゃ抜け出せないし、下手に騒げば母さんがこっちに来る!

こっちがそうなったのは黒歌さん関係なく生理的な意味だってのに、この駄猫は!

 

そもそも、白音さんの時とは違って完全に「ソレ」が目的だ!

今の段階でも姉さんに合わせる顔がないってのに、これ以上となったら……!

 

「しっ、白音さん、悪いけど黒歌さん剥がすの手伝ってくれないか……?」

 

「……んー……? セージ先輩、あったかいし、いい匂いですから……

 もう少し……」

 

……ダメだ。というか白音さん、朝弱かったんだっけ?

うぐぐ。まさかこんなことに記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を使うのは憚られる。

こんなことに使うなら、雑学王選手権に出るのに使った方がまだましかもしれない。

だが、そうも言ってられない。何故なら今日は俺が沢芽(ざわめ)市に入る初日。

一応、氷上(ひかみ)さんらとは別ルートで沢芽市入りすることになっているが

遅刻するわけにはいかない。何せ、要人警護が俺の役目なのだから。

隙を見て、俺は記録再生大図鑑を実体化させようとするが……

 

その左手は、黒歌さんの右手に押さえつけられた。

 

「はい。無粋なもん使わないの。だったら……そういう事考えられないようにしてやるにゃん」

 

――!?

 

黒歌さんの唇が、俺の唇に触れたと同時に、生暖かく、そして柔らかく

口の中にぬるりとしたものが入り込んでくる。

それが黒歌さんの舌であるという事を認識したのはその直後だった。

……ぐ、ザラ付き具合がちと痛いが、顔にかかる荒い鼻息が俺の思考を鈍らせて来る。

け、けれど……ここで流されたら……!

なんとか耐えようと体を強張らせるが、それが無駄なあがきだってのはすぐに思い知らされた。

 

「強情なのも嫌いじゃないにゃん。えいっ!」

 

「――――っ!?」

 

思わず、変な声が漏れ出た。黒歌さんが、尻尾も交えて俺の全身をくまなく撫で回し始めたのだ。

うぐぐ、いつぞや姫島朱乃にも言われたことだが、俺は肌の感度が高い。

そう、今の状態はかなりくすぐったい。ちょっとどころじゃない。

感触から逃れようと辛うじて声を抑えながら身をよじっているが、白音さんが起きる気配はない。

まぁ、今日「学校は」休みだからいいんだが。だが俺は外に出る用事があるのでそうもいかない。

とは言え、このままでは埒が明かない。明らかに俺は不利だ。有利不利の話じゃない気もするが。

 

この状態で、黒歌さんを引きはがす方法。それは一つしか思い浮かばなかった。

……なるべくなら、この方法はとりたくなかったがそうも言ってられないようだ。

その方法とは、つまり――

 

「にゃんっ! ふふっ、そっちもその気になってくれて嬉しいにゃん!」

 

右手は白音さんが枕に使っているため動かせない。左手は黒歌さんの手が離れたことで動かせる。

なので、俺は左手を主に使って黒歌さんの柔肌を撫で回す。

 

――相手が満足すれば、離れるだろう。

 

要求をのむことによるデメリットは、時間の消費とこちらの貞操観念だけだ。

時間の消費はもしかすると軽減できるかもしれないし。

そうなれば……

 

……ごめん、白音さん。姉さん。

 

……手や体に伝わってくる温もりや匂いは、その罪悪感を打ち消すには至らなかった。

俺は、少しだけ……いや、割と自分が嫌になった。

 

兵藤じゃないから作る気もないが、俺にハーレムは向いてないな……

と、胸の奥にこみあげてくる罪悪感が訴えていた。

 

――――

 

……寝汗をかいたというもっともらしい理由をつけてシャワーを浴びながら顔を洗う。

黒歌さんも入ってこようとしたが流石に断った。これ以上は本気で時間的な問題含めヤバい。

なので、別々にシャワーを浴びた後で朝食を済ませ出発の準備を終える。

今日は外に出るのは俺だけらしい。まぁ、落ち着いたとはいえまだ予断を許さない状況だから

不用意に外に出てほしくはないんだが。

 

「それじゃ、暫くの間行ってくる」

 

「行ってらっしゃい、お土産はざわ(めし)かユグドラ(シル)辺りをお願いね?」

 

遊びに行ってくるんじゃないんだが。

そう、これから一週間俺は向こうで寝泊まりすることになっている。

学校絡みは警察から連絡が行っている。

いくら義務教育じゃないからって、学生がこういうのはどうかと思わないでもないが……

 

ともかく、黒歌さんと白音さんがこっちに残ってくれるのは護衛という意味ではありがたい。

俺が留守中に母さんが狙われたらと思うと、どうしてもな。

 

「……そういうわけだにゃん、だから今朝のこ……むぐぐっ!?」

 

慌てて、俺は黒歌さんの口をふさぐ。

バレてるかもしれないが、大っぴらに言われるのはちょっと、困る。

 

「……? 行ってらっしゃい、セージ先輩。留守番は任せてください」

 

白音さんは首をかしげている。朝、それなりに体を動かしていたが結局起きなかったらしい。

ほっとしたような、胸が締め付けられるような。

……今までそれなりに真面目に対応していたつもりだったが

実際はすごくだらしない自分が嫌になる。

いつぞやとは違う意味で、目を合わせづらかったが――

 

ぽふっ、とまるでネコの肉球で叩かれたような感触に、俺は思わず反応する。

見ると、白音さんが俺の身体に身を預けていた。

……どうしたんだ? 急に?

 

「……一週間」

 

「うん?」

 

「一週間分の前借です。セージ先輩、いい枕ですから」

 

枕かよ。安眠寝具かよ。

……まぁ、どんな形であれ必要とされる分には悪い気はしない。

俺自身を見てくれているのならば、の話ではあるが。

この二人は、俺を代用品や付属品としてではなく俺自身として見てくれているし

今の俺は誰の代用品でも付属品でもない。宮本成二その人だ。

だからこそ、その大胆な行為にも俺は頭を撫でることで返答とした。

 

「……ふにゃあ」

 

「んふふー、白音もやるようになったにゃん。じゃあ私も――」

 

「調子に乗らんでください」

 

文字通りの猫撫で声をあげている白音さんを抱えたまま

おもむろに抱き着いてこようとする黒歌さんを躱す。

あんたそもそも朝好き勝手してでしょうが。この欲張りめ。

躱すのに思わず、白音さんを抱えたまま動いてしまったが。

 

「うーっ、セージのバカ、いけず、ロリコン!」

 

「……姉様」

 

俺から離れた白音さんが、黒歌さんを睨んでいる。

ロリコン――即ち、ロリキャラ扱いされたことに腹を立てたみたいだ。

……この件に関しては、ノーコメントとさせてほしい。

とは言え最近、俺に新しい性癖が目覚めそうになってるのも否定はしきれないが。

こんな形で自分の中の何かが目覚めたくないわ。

 

そんなこんなでしっちゃかめっちゃかになりつつあった玄関先は

母さんの一言で落ち着きを取り戻す。

 

「ほらほら、遊んでないでセージを見送るわよ」

 

「わかったにゃん」

 

「……はい。セージ先輩、必ず帰ってきてください」

 

……大げさだな。俺は要人警護に出るだけだぞ?

とは言っても、この世界情勢ではそれこそ危険かもしれない。

俺を襲ってきた黒影(くろかげ)の存在もそうだし、何より禍の団(カオス・ブリゲート)は解散していないどころか

アインストやインベスは健在だ。

なにこの世界、と思えてならないが……だからと言って戦わない理由にはならない。

生きることとは戦うこと。だから、俺は生きたい。

 

「大丈夫、来週には帰ってくるから――行ってきます」

 

マシンキャバリアーを顕現させて、マシンキャバリアーを共に顕現した軽鎧を纏い、跨る。

握ったアクセルから伝わる振動。いつもの事ながら火は、入っている。

 

「……行ってらっしゃい」

 

その言葉を背に、マシンキャバリアーは走り出す。

 

――――

 

……きちんと道理を弁えた、出掛の挨拶。

きちんと戻ってこれる場所のあることの証。

それだけでも、今の俺には十分すぎるほどの力をもたらしてくれる。

あの日とは、違うのだ。

 

マシンキャバリアーに搭載された、通信機を使って氷上さんに一報を入れる。

今、家を出たところだと。

 

『わかりました。こちらも予定通りのコースで沢芽市入りします。

 何事も無ければ、現地で合流しましょう。合流先はホテル・ユグドラシルですよ』

 

「了解しました。くれぐれも黒影や禍の団などにはお気をつけて」

 

要人警護部隊の全滅を避けるため、超特捜課(ちょうとくそうか)は二手に分かれたのだ。

もう一つの理由としては、移動中のパトロールも兼ねている。

平時ならばまとまって移動するのもありだろうが、今は戦時と言っていい。

そして相手はテロリストだったり突然現れる得体のしれない怪物だったり。

そうなれば、パトロールの目を広範囲に光らせるにはこれしかない。

 

……実際、家を出てから今までに道すがらアインストを数体倒しているし

沢芽市に入ったらインベスや黒影の襲撃頻度が増してきた。

あれから黒影を詳しく調べてみたが、本来は対インベス用の装備だというのに

その黒影がインベスと共に襲い掛かってくるのは洒落になってない。

中身は台湾マフィアの天道連(ティエンタオレン)であることを考えると、完全な内ゲバだ。バカなのか。

ゼノヴィアさんも言ってたことだが、今は人間同士で争ってる場合じゃ無かろうに。

 

マシンキャバリアーに接続している記録再生大図鑑をナビ代わりにして

ホテル・ユグドラシルへの進路を割り出し、走らせつつ遠目に沢芽市の様子を眺める。

 

町の広場でストリートダンスに興じる連中。

行列の出来ているスイーツショップ。

若者の集まっているフルーツパーラー。

 

……そして、巨大な塔、ユグドラシルタワー。

 

だが、俺はユグドラシルタワーの上空の景色に違和感を覚えた。

何か……「あるはずのものがない」、そんな違和感を。

 

『……セージ。空間偽装されてるぞ、あの塔の上』

 

「空間偽装だって? 誰がそんなことを……?」

 

『そこまでは知らねぇ。だが、その向こうにあるものを考えれば

 隠蔽したくなる気もわからんでもないけどな』

 

アモンが言うには、ユグドラシルタワー上空は何者かの手によって偽装されているという。

誰の仕業によるものなのかまではアモンにはわからなかったそうだが

その理由を聞いて俺は納得した……いや、せざるを得なかった。

 

――クロスゲート(地獄門)

 

異なる世界、異なる時間を結ぶ門。

その向こう側に何があるのか、俺はもとより神々も知らない。

そんなものが上空にあるとなれば、そりゃあ隠蔽したくなる……って。

 

「おい。じゃあこの措置をしたのは、クロスゲートの存在と効能を知っている奴に限られるぞ?

 アモン、お前から見てそのクロスゲートは『動いている』か?」

 

『……「動いている」な。こんなところで会談やるとか正気か?

 いや、あるいはこんなところだからこそやるつもりなのかもしれねぇけどよ』

 

動いている。つまり、あのクロスゲートはすぐにも異界と繋がったり

あそこからアインストが沸いてくるという事を意味していた。

今まで出くわさなかったのは、運がいいというべきか悪いというべきか。

 

「……報告事案が増えたな。下手したら、警護スケジュールも変わるかもしれない。

 だが、情報が入ったのはありがたい」

 

『……スケジュール決めるのはお前じゃないだろ?』

 

アモンの言う通りだ。そういうのは、氷上さんとか指揮官の仕事だ。

今回の俺は、あくまでも一介の警備員に過ぎない。

……と言うか、今まで指揮官じみたことをやってたのが異常で、これが普通なのかもしれないが。

 

時間が許す限りクロスゲートを監視していたが、稼働している割には変化が見受けられず

傍から見たら派手なバイクを停めて空を見上げている、アンニュイな奴に見えたのかもしれない。

 

……なのだが、腐ってもクロスゲート。

その時の俺が気付かなかっただけで、それが稼働しているという意味は

しっかりと沢芽市を蝕んでおり、沢芽市に滞在する期間は

俺がそれを知るには十分すぎる時間であることを思い知ることとなる――

 

――――

 

「宮本君、長旅お疲れ様です。部屋に荷物を置き次第、ミーティングを行いますので

 一階の大ホールまで来てください」

 

――ホテル・ユグドラシル。

 

氷上巡査に迎えられ、超特捜課をはじめとした警護メンバーの宿舎として

ユグドラシル・コーポレーションが手配したホテルだ。

元々はホテルサーゼクスとか言ってたらしいが

ユグドラシルがこのホテルを買収したことに伴い、名前も変更したらしい。

凄くどうでもいい話だが、アモンがこの件を聞いたら腹を抱えて笑っていた。

いや、アモンは俺には直接見えないがそんな感じがした。

 

『調度品に悪魔絡みのものがあったのは変だと思ったが

 サーゼクスの奴が絡んでいたとなると合点がいくな』

 

『買収したのもつい最近の事みたいだな。だからそうした品を引き取る暇がなかったという事か』

 

「……なぁアモン。お前とサーゼクスの間に、いったい何があったんだ?」

 

アモンからサーゼクスの名前が出た。これはある意味好機だ。

寄越された鍵で客室に入り、荷物を置きながら俺はかねてから気になっていた

アモンとサーゼクスの間に何があったのかを聞くことにした。

 

『……ま、隠すようなことじゃねぇしな。単純だ。

 俺達悪魔は聖書の神に喧嘩売った話は知ってるよな?

 その時に俺とルシファー軍についていたサーゼクスは組んで戦ったんだよ。

 その戦いは二天龍の介入で混沌を極めた……ってのも知ってるよな?

 ……その時に色々あって、俺とサーゼクスは言わば戦友とも言える関係だった……

 

 ……あの時まではな』

 

聖書の神に喧嘩を売った話……即ち、聖書の神が消滅し前の魔王が死んだとされる戦いの事か。

俺には何となく実感が沸かなかった話だが。

なんというか、荒唐無稽というか、よその世界の話というか。

いや、状況証拠とかから事実なんだろうとは思っちゃいるが、それにしたって。

 

……そして、アモンの言う「あの時」とは――

 

『サーゼクスが今の政権握る時も、俺はサーゼクスについた。流れ的には当然だな。

 で、サーゼクスは晴れて新政権を獲得した。ここまでは知ってるよな?』

 

「ああ。今に直接つながってるからな」

 

『……その時だ。奴は魔王の座に就いた途端、掌を返したように俺を追放処分にしやがったんだ。

 「これからは武力ではなく平和の時代」だとかぬかしてな。

 いや、言ってること自体は間違っちゃいねぇ。だが、俺としてはそれまでを蔑ろにしやがった

 サーゼクスの野郎をはじめとした四大魔王、そして奴らを魔王に推したゼクラム・バアルは

 何があったって許しちゃおけねぇ存在になった。聖書の神との戦いのときも、内戦の時も

 俺は一番槍でサーゼクスと共に戦ったってのにだ!』

 

『……大体わかった。それで「勇者」って評価と『裏切者』って評価が二分してるわけか。

 おそらくだが、お前の追放の他にも戦争に関する資料や記録なんかは

 都合の悪い資料として処分されてる可能性があるな。

 ……あるいは、歪められて伝わっているか』

 

納得したように、俺と共に話を聞いていたフリッケンが呟く。

アモンは冥界の勇者と言われていた存在だが、同時に政府からすれば裏切者であった。

俺はアモンの話を聞いたうえで、一つ気になったことが出来た。

 

「……一つ聞きたい、アモン。お前は……なんでサーゼクスと共に戦ったんだ?」

 

『……初めは義侠心だった。聖書の神の横暴に、俺達悪魔は耐えかねていたからな。

 教化の名のもとに、人間を支配しようとする姿勢は

 人間の欲望を糧とする悪魔と反りあいが致命的に悪い。

 教化された人間は、その対象を崇拝することしか頭になくなっちまうからな』

 

うん? 聞きなれない言葉が出てきたな。キョウカ? 強化? ……いやなんか違うな。

気が向いたら記録再生大図鑑で調べてみるか。

 

『とにかくだ。そんな聖書の神をぶっ飛ばすために

 先代のルシファーに続く形でサーゼクスが行こうとしたんだ。

 だが、当時のサーゼクスは今と比べてへっぽこもいいとこだった。

 聖書の神との戦いに出たら潰れちまう。「滅びの力」なんて負念もいいとこだ。

 歪んだ形だが正念を操る聖書の神との相性は最悪だ。

 だから黙って見過ごせなくてよ、俺もサーゼクスに協力する形で聖書の神に挑んだんだ。

 俺自身が聖書の神ってのを気に入らないのもあるけどな。あ、薮田(やぶた)は別だぞ?』

 

そうだ。聖書の神と言えば薮田先生――ヤルダバオトに影武者をさせて

消滅したということになっている。そして薮田先生が言うところのスタンスでは

「人類は既に神の手を離れるところにまで来た」らしい。

だが、アモンの言う聖書の神は「キョウカ」とやらで人類を言いなりにして縛る存在みたいだ。

先の戦いを経て考えが変わったのか、あるいは……

 

「宮本君、そろそろミーティングを始めますよ」

 

アモンが次の話をしようというところで、部屋を出るのが遅かったのか

氷上さんがこっちを迎えに来ていた。そんなに長話していたっけか。

 

『……っと。こっから先はまた今度話すことにするわ。思いのほか長話だしな……セージ』

 

「なんだ?」

 

『これだけは言っておく。俺は魔王になろうとかそういうつもりで

 サーゼクスについたんじゃない。実際戦争が終わったら前線は退くつもりだったしな。

 ただ、今までの事を否定するかのように厄介者扱いされたことが我慢ならなかっただけの事だ。

 俺がサーゼクスを、現政権をつぶしたいのは……それだけの理由だ』

 

『……在り方の否定か。復讐は何も生まないとか陳腐なことを言う気はないし

 契約上セージを巻き込んでるのも、それはセージの事情だからある程度仕方ない。

 国のために、世界のために戦った奴が否定されるってのは

 当事者にしたら堪らないって奴か……』

 

フリッケンが、妙にしんみりした様子でアモンの戦う理由に同意していた。

ある意味アモン以上にわからないフリッケンだが、言いたいことは何となくわかった。

多分……あれだ。敗戦国の、戦勝国の都合のために貶められた英雄。

アモンは、それに近いものなのかもしれない。

 

アモンは復讐。俺は人間の尊厳を守るため。今はそれでいいことにしよう。

まずは、この沢芽市に来るっていう神仏同盟の方々と北欧神話の神々の護衛だな。




アモンが聖書の神絡みでとんでもない爆弾発言噛ましてる件について。

>黒歌

……原作からしてあんな恰好なので拙作ではそれなりの……です。
白音が反面教師にする位にはアレだそうなので。

え? 黒歌が仲間入りするころには誰も彼も似たようなもの?
そう言われると返す言葉がないですが。

>セージ

こいつ本当にセージか?(二度目)
黒歌にとってはいいストレス発散の相手にされてたり
白音の安眠枕にされてたり。
なお微妙に純情にヒビが入っている模様。
黒歌は青少年には毒だと思うんです。
セージが純情な青少年かと言うと、疑問符が残……おっと。
(人妻に告ったりしてる時点で……)

今回、ようやくまともに裏社会絡みで家を出ることが出来ました。
そして、アモンからとんでもないことを聞かされてます。
ヤルダバオトの語る聖書の神の意見と、アモンの語る聖書の神の意見の齟齬。
教化という単語が出ているという事は……

>ホテル・ユグドラシル

京都にあった魔王の名を冠したホテルネタをこっちで回収してます。
ああ、勿論拙作であんなギャグが罷り通るわけないじゃないですか。
経済と政治の関連を考えたら、ギャグにしたって笑えませんよ。

……うちはそういうリアリティある見方をするのが芸風ですからね。今のところは。

>アモン

この辺の件はデビルマン原作やら原典のアモンやらその辺混ぜ混ぜして
HSDDの史実をちょこっと混ぜた感じです。
やっぱどう考えても、ゼクラムが覇権握るために四大魔王焚きつけた風にしか
見えない感じですねぇ、これ……
で、旧魔王派とかクリフォトとか台頭させてりゃ世話ないですよ。
話すタイミングが無かったですが、彼も聖書の神絡みの事は知ってます。

>フリッケン

「世界の破壊者」としてある意味正しく評価されない彼が語るのは
現代日本でも時折言われる「英霊の毀損」です。
今でこそある程度再評価されてますが、戦犯扱いされた旧日本軍軍人の多さたるや……
(ただし牟田口てめーはダメだ)
アモンは、そうして歪められた英雄としての一面も持っています。

歪められた英雄……英雄派はどうなるんでしょうねぇ。


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Will5. ミスター・デンジャラス

表題通りです。

……だけというのも味気ないので、少しばかりアンケートを掲載させていただきました。
既にご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが。
よろしければ、ご協力お願いします。


11:30 A.M.

沢芽(ざわめ)

ホテル・ユグドラシル 大ホール。

 

俺達超特捜課(ちょうとくそうか)ユグドラシル民間警備会社(YGDPMSC)、自衛隊員と言った

要人警護のために集まったメンバーが、一堂に会している。

 

警備スケジュールや配置の段取りを決める流れになっていたが

俺はここに来る前に見たクロスゲートの事を、超特捜課組の指揮官である

氷上さんに伝え、アインストの襲来をはじめとした非常事態を想定してもらうように伝えた。

 

「……またクロスゲートですか。私たちが見た時には確認できませんでしたが……

 宮本君、それは本当なのですか?」

 

「俺というか、アモンが見た情報ですが。ユグドラシルタワーの上空に

 クロスゲートが『稼働状態』で健在です」

 

一瞬、ユグドラシル民間警備会社の隊長格が苦い顔をしたような?

そりゃまぁ、本丸の上にとんでもないものがあるんだからなぁ……

うん? って事は隊長さんはクロスゲートについて知ってるって事か?

……まぁ、黒影の事とかユグドラシルって会社自体が何かきな臭いが……

今、ここで言っても仕方がない。言うなら氷上さんと霧島さんに留めておくべきだ。

万が一にもユグドラシル民間警備会社との歩調が合わなくなるのはまずい。

 

……そりゃあ、彼らだって使っている黒影が

なんで台湾マフィアの天道連(ティエンタオレン)に渡っているのかってのは気になるが。

 

「わかりました。クロスゲートの事は、自衛隊の皆さんや

 ユグドラシルの皆さんとも協議したうえで会議当日に備えましょう。

 ほかに何か気になった点はありますか?」

 

「……いえ」

 

うん、嘘ついた。黒影の事とかツッコミたい。

まぁ、黒影に関してだけ言えば氷上さんだって知ってるはずだから氷上さんが言うだろうし

ここでいう事でもないか。

 

「警視庁側からの話が終わったのなら、こちらからも補充要員の通達がある。

 凰蓮(おうれん)軍曹、こちらへ」

 

警備会社の隊長格の人に案内される形で、入って来たのは……

やけにガタイのいい、ターバンを巻いたつけまつげの……男? だった。

 

Bonjour, tout le monde.(こんにちは、皆さん)

 ワテクシがご紹介に与りました凰蓮・ピエール・アルフォンゾですわ。

 皆さん、どうぞよろしくお願いしますわ」

 

「凰蓮軍曹はフランス外人部隊に従軍された経験がある。

 今回の作戦において、とても心強い戦力となってくれるはずだ」

 

……そっち系か。

まぁ、ここで調べるよりも後で調べておくか。

隊長格の人の言葉が正しければ、こういう場では心強いだろう。

そう俺が考えていると、凰蓮軍曹は集まった人たちをじっくりと見定めながら

部屋の中を一周するように歩いていた。

 

「フン……フンフン……

 自衛隊の皆さんは合格、警視庁の皆さんも合格。

 

 ……けれどアータは不合格!」

 

「……えっ!?」

 

凰蓮軍曹は俺を指さすなり、失格と言ってのけたのだ。いきなりなんだよ!?

 

「ワテクシの目はごまかせなくってよ!

 アータ、どこからどう見てもただの高校生じゃない!

 その制服がどこのものかは知らないけれど

 高校生が要人警護なんて甘く見ないでほしいわね!」

 

……言い返せない。それに関しては俺もそう思ってるから言い返せない。

俺が押し黙っていると、氷上さんが俺のフォローに入ってくれた。

 

「あ、お言葉ですが凰蓮軍曹……宮本君は今までに

 禍の団(カオス・ブリゲート)との戦いにおいても実績を上げてますし、怪物退治の経験もあります!

 何より彼の持つ神器(セイクリッド・ギア)悪魔(アモン)の力は有用かと……」

 

Tais - toi(黙りなさい) !!

 高校生が命を懸けた戦いの場にいること自体が問題だと言っているの!

 そもそも少年兵は国際法で禁止されているのよ! お分かり!?」

 

……完っ全に忘れてた……

普通にリアス・グレモリーやらなんやらが戦いに首突っ込んでたから忘れてたが

俺、高校生じゃん。テロ対策とか乗り出すのはまずい年齢じゃん。

ゼノヴィアさんとか蒼穹会(そうきゅうかい)に所属してたからつい忘れてたけど

これ引き合いに出しても全然事態は好転しない奴だ。

 

もっと言えば、拳銃やらなんやらで俺も銃刀法思いっきり違反してるけど……

絶対、今言わないでおこう。

 

「……ま、いいわ。けれど、相手が法に則らない存在だからって

 こちらが法を破っていい道理はなくてよ?

 最低限の法は守る。人が人らしくあるために必要な事よ」

 

「……いち警察官として、心得てはおります」

 

凰蓮軍曹の正論に、氷上さんも言い返せなくなってしまう。そりゃそうだ。

氷上さんには悪いが、俺だって多分凰蓮軍曹の肩を持つと思う。

……いるはずがないが、この場にリアス・グレモリーとか兵藤一誠とかいなくてよかったと思う。

絶対凰蓮軍曹と言い争いになって事態が無茶苦茶になっていただろうから。

 

「……そうね、けれど神様の警護なんてワテクシも初めての経験ですもの。

 今までの常識が通じないという事態も往々にして起こりうるわ。

 

 ……なので、ワテクシのポリシーには反しますけ・れ・ど!

 そこのボウヤがワテクシ顔負けのプロ根性を見せてくれるのなら、認めてあげてもよくってよ。

 真のプロフェッショナルに、年齢は関係ありませんもの」

 

『……なるほどな。このオカマ、喋りと恰好はふざけてるが生粋のプロフェッショナルだ。

 軍曹って言ってるし、何より見ろよセージ、あの勲章。

 ありゃあ、かなりの紛争地帯を渡り歩いた凄腕だぜ。

 下手すれば、神器があろうがなかろうが負ける。

 人間って括りで見たら、かなり上位に食い込むだろうな』

 

色々な意味でどストレートなアモンの推察に、俺は同意する。

確かにそういう気概の人ならば、他者にもそれなりのものを要求するかもしれない。

まして、今回は失敗が許されない要人警護だ。凰蓮軍曹の言う事も、納得できる。

 

「と、言うわけで!

 氷上巡査、これから当日までの間、このボウヤをお借りしてもよろしいかしら!?」

 

「……えっ」

 

いきなり凰蓮軍曹に腕を掴まれる。何か物凄く嫌な予感がする!

……いや、そっちの意味じゃなくて。

 

「スケジュールと配置は後でワテクシに伝えていただければ結構よ。

 ワテクシ、ちょっとこの子を鍛えて来るわ!」

 

「えっ……ちょっ……」

 

周囲の人間が呆気にとられる中、俺達はホールを出ることとなった……

 

――――

 

有無を言わせず、凰蓮軍曹に引っ張られる形で出てきたのは沢芽市の公園。

公園だけ見れば、駒王町のそれとそう大差ない。

 

「さあ、本番まで一週間を切っているから巻きで行くわよ!

 まずはこれに着替えて頂戴。それから両手両足にこれをつけなさい」

 

そう言って、寄越されたのは訓練用に使うのであろうスポーツウェア。

そして、割と重量のあるリストバンドだ。

ここで突っぱねても話がこじれそうなので、俺は凰蓮軍曹の指示に従うことにした。

 

「着替えたわね。アータ、体格がいいからワテクシのお下がりで間に合って助かったわ。

 あ、きちんとクリーニングはしてあるから心配いらないわよ。

 

 ……さ、これからフランス外人部隊仕込みのトレーニングを開始するわ!

 いいこと? アータみたいなアマチュアが要人警護なんて通常あり得ないの。

 けれど、今は日本どころか世界中でも人間一人一人の力が要求される時代。

 だからアータはプロフェッショナルになりなさい。このワテクシが鍛えてあげるのだから

 一週間でモノにして見せなさい!」

 

――それから、俺は凰蓮軍曹にみっちりしごかれた。

 

公園の走り込みから基礎的な筋トレ、そして態々氷上さんから取り寄せたという

俺に関する資料を基にした戦闘トレーニングまで入って居たのだ。

とは言え、その内容たるや――

 

「アータ、神器に頼るのはアマチュアの悪い癖よ!

 アマチュアはね、強い力を手に入れたら嬉々としてそれを使いたがる!

 それが強ければ強いほど、猶更よ!

 そしてそれが齎す結果を見ようともしない! 責任感がないのよ、アマチュアってのには!

 だから本物なら、己の体一つでこの事態を切り抜けて見せなさい!

 勿論、悪魔の力なんてもってのほかよ!」

 

……口には出さなかったが、心の中で反抗してたと思う。

とは言え目的がはっきりしてる分、リアス・グレモリーの態度に比べればよほど説得力があるし

神器封じの聖槍を持つ聖槍騎士団(ロンギヌス13)って前例がある以上

神器頼りの戦いをするわけにもいかないのも事実だ。

そうでなくとも、凰蓮軍曹の言っていることはそれほど間違いだとは思わない。

 

ところで、この人は神器持ちと接触したことがあるのか?

……ここまで俺にしごきを仕掛けてくるのなら、却って人となりが気になるところだ。

一刻も早く蹴りをつけて、問いただしてやる!

 

そう意気込むと、気合が入った。だが両手両足につけたバンドが重い。

それにも負けず走り込みや筋トレを続けた俺に待ち受けていたのは。

 

凰蓮軍曹がどこかから仕入れた、訓練用のドローンを相手に素手による戦闘訓練だ。

ドローンの相手なら、過去にやったことがある。あの時は神器使ったが。

神器使えない、アモン交代不可、重石付きというハンデはあるが

やってやれないことは無い内容だった……のだが。

 

……流石に、20セットとなるとかなりヤバい。

 

「はぁっ……はぁっ……ひゅーっ……ひゅーっ……」

 

「……初日ならこんなものね。今日はこれでおしまい!

 明日は倍の40セットに増やすわよ!」

 

大の字で仰向けになって倒れこんだ俺に、凰蓮軍曹はとんでもないことを言ってのけた。

お陰で一瞬、目の前が真っ暗になった。

いや、要人警護に来たのだから沢芽市の観光に来たわけじゃないんだが……それにしたって。

その日その日を生き延びるのに、精一杯になりそうだ。

……まぁ、違う意味で明日をも知れない状況に立たされたことはあるけどさ。

 

這う這うの体でホテル・ユグドラシルまで戻り、部屋に戻ってシャワーを浴びる。

こういう時、温泉旅館じゃないのが惜しまれる。まぁ、要人警護の警備員の宿が温泉旅館ってのも

あまり聞かない話ではあるが、風呂派の俺にしてみると物足りなさを覚えるのも事実だ。

 

「~~~~~~~っ」

 

身体を拭き、バスローブを纏って軋む体をだましだまし動かしつつ、ベッドに倒れこむ。

リアス・グレモリーの兵藤に対する特訓メニューが確か大体こんな感じだった。

だが、今回はトレーナーが従軍経験者という事もあり

春先のライザー対策の特訓の時よりも、洒落にならないハードワークであると思う。

そもそも、俺あの時霊体だったし。

 

一応、今は自由時間という事で割り振られているが

今日は沢芽市の見物をする気にはなれなかった。

情報収集のためにラジオをつけるが「ビートライダーズホットライン」という番組の

音声を聞いている途中で、舟をこぎだしてしまう。

 

……遠くに、チームプリズムリバーというどこかで聞いたような名前だけが聞こえたが……

……その顛末を、俺ははっきりと聞く前に意識を手放してしまった。

 

――――

 

――起っきなさぁぁぁぁぁぁぁい!!

 

……何かが頭の上に落ちてくる衝撃で目が覚める。

猫から解放されたと思ったら、とんでもない起こされ方をしたものだ。

目を開けると、枕元に金ダライがあった。まさか、これ落ちてきたのか?

だとしたら、いったい誰が……

 

その答えは、ベッドの横に腕を組んで仁王立ちしているガタイのいいつけまつげが物語っていた。

 

「いつまで寝ているの! もう総員起こしの時間は過ぎていてよ!」

 

「え? 凰蓮軍曹……というか総員起こしは海上保安庁の話で

 フランス外人部隊は関係ないんじゃ……」

 

「口答えしない! 支度したら朝のトレーニングから始めるわよ! 40秒で支度なさい!」

 

どこかの冒険活劇のようなことを言われながら、急ピッチで支度する。

……なのだが、着衣と洗顔、そもそも歯磨きまで入れれば

1分は余裕で超えそうな気がするんだが。特に歯磨き。

おまけに、ヒゲの問題もあるし……

 

「……2分40秒。まぁ40秒は言葉の綾だからとりあえずは許してあげるわ。

 けれど総員起こしの時間を過ぎているのは本当よ!

 ホテルを出たら昨日の公園までダッシュなさい!

 ホテルもエレベーターなんて使わないで、階段で降りてきなさい、いいわね!?」

 

因みに、俺の部屋は6階である。

そりゃあ、ダッシュすればエレベーターより早く降りられるが

この早朝にホテルの階段をダッシュで降りていいものか?

 

いや、考えていても仕方ない。

非常階段を使う事も考えたが、非常階段を伝う足音が聞こえたら

安眠妨害どころの騒ぎではない。なので、俺は普通に階段を駆け下りた。

 

そうしてホテルのロビーを抜けて、昨日の公園に向けて一目散に走りだす。

辿り着いた先では、既に凰蓮軍曹が待ち構えていた。

 

「さあ、遅れた分を取り戻すわよ!

 遅れた分はリストバンド追加! 朝食まで時間がないから今回も巻きで行くわよ!」

 

その日も、凰蓮軍曹によるしごきは苛烈を極めた。

稀にではあるが、インベスも襲ってくる中でのトレーニングだ。

しかし、インベスが襲って来ようとも俺は神器も、アモンとの交代も許されなかった。

……おいおい、マジで死ぬ奴じゃねぇか!

 

「凰蓮軍曹! 流石にインベス相手は万が一のことを考えて……」

 

Tais - toi(黙りなさい) !!

 戦場では、相手はこちらの都合なんて考えてくれないのよ!

 力が使えない? こちらの予想外? だから何!?

 そんなものは、アマチュアの言い訳でしかないの!

 プロフェッショナルなら、常に最善のコンディションを保ち

 その上で不測の事態にも対処できるように日頃から鍛えておきなさい! 行くわよ!」

 

やべぇ。スパルタってレベルじゃない。霊体になれるのならインベスの毒は回避しやすいが

肉体がある以上、霊体時のようなよけ方は出来ない。

異能に拠らず、生き延びる術を確立すること。

それが凰蓮軍曹の狙いなのかもしれないが、それにしたって。

 

俺は、死に物狂いでインベスと戦った。

正直、神器やアモンの力を使えば余裕で倒せる相手ではある。

神器も、アモンもダメというならばそのどちらにも属さないフリッケン由来の力である

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)を使えばいいんじゃね? と思ったが、やめた。

凰蓮軍曹の性格的に、そんな屁理屈じみた抜け道で解決したら

後で何倍にもなって返ってきそうな気がしたから。

 

とにかく、そんなわけで完全に異能抜きでインベスの相手をすることになった。

調べによれば相手は初級インベス、つまりそれほど強くないインベスなのだが

それでもドラゴンアップルを繁殖させる毒は健在であり

俺が危惧していた最大の理由はそれである。

 

もし感染したら、治療の方法を知らない以上どうにもならない。

だから、そうならないように全力で相手をする羽目になった。

 

――――

 

「ぜぇっ……ぜぇっ……」

 

Super(上出来よ).

 巷に聞く神器使いは、皆神器の異能に頼って戦いの基礎を疎かにしているわ。

 そんなアマチュア丸出しの戦い、美しくも無いしやがて限度が来るわ。

 だから、ボウヤには神器に頼らない戦い方を学んでほしかったの。

 勿論、必要とあらば神器は使いなさい。得た力をどう使うかは、アータ自身が決めるのよ」

 

……そうだ。神器は所詮、力でしかない。その人間を構成する要素の一つに過ぎない。

神器がメインじゃない、その持ち主がメインなんだ。

そのことを忘れれば、それは人の皮を被った何か悍ましい存在に成り下がることだろう。

死線を潜り抜けてきただけあってか、凰蓮軍曹の言う事は一々苛烈だが、筋が通っている。

 

「さ、今日はこれでおしまい。休めるときには休んでおきなさい。

 有事に備えて体を休めるのも、プロフェッショナルの仕事よ」

 

凰蓮軍曹に促され、俺はホテルに戻ることにした……のだが。

 

その途中、どうしても寄ってみたい場所があったのだ。

凰蓮軍曹曰く「アマチュアがこぞってだべっているだけのお遊戯会、行くだけ無駄」と評した

「ビートライダーズ」とやらのパフォーマンス会場。

日も暮れていたのでさっさとホテルに帰るべきだったのだが

俺はふと気になったのと誰かが読んだ気がして

話のタネに少し見学していくことにした……のだが。

 

そこで踊っているのは、どう見ても人間じゃない。

これを人間と呼ぶならば、一度眼科に行けというか

お前は何を以て人間を人間として見ているのかと問い質したくなるソレだった。

何というか、サルが服着たような奴とか河童がリズムに合わせて踊っていたりとか

後は……豚? イノシシ? それっぽいのとか、蛇とか、虎とか、そんな感じ。

 

……そのシュールな光景に呆気に取られて忘れていたが、こいつら悪魔……じゃなさそうだしな。

だとしても、こんな奴らが堂々と踊っているってこと自体が衝撃的だった。

フューラー演説、ここでは効果ないのか?

そして、こいつらが踊っている曲もどこかで聞いたような曲調だ。

目を凝らしてみると、表で踊っている妖怪軍団の後ろで

ギターやトランペット、キーボードが舞っている。

声楽まで混じっているとなると……これは……マジか。

 

ちらほらといる観客を押しのけながら、俺は最前列に躍り出てみた。

妖怪軍団の後ろでは、見覚えのある赤や藤色、黒、そして新調したと思しき

スポーティーなツーピース。くっきりと見えるわけじゃないが、彼女らを見間違うはずがない。

俺がまだ悪魔だったころ、最初の契約者として色々世話になった虹川(にじかわ)姉妹だ。

 

「えっ!? うそっ、セージ!?」

 

「えっ!? あ、ほんとだ! セージも沢芽市に来たんだね!」

 

三女の莉々(りり)と次女の芽瑠(める)が俺に手を振ってくるので、俺も手を振り返す。

その動きに、向こうは面食らったみたいだが……あ、そうか。

向こうが駒王町を出る少し前、即ち俺が肉体を取り戻したあたりでは

彼女らの姿は見えなくなってたんだったっけ。

黒歌さんとの特訓の成果、こんなに早く出るものなのか?

 

折角なので、そのままダンスパフォーマンスと演奏を聴いていくことにした。

虹川姉妹からは、こっちでの情報を持っているなら欲しいところだし

久々と言うほど時間が経っているわけでもないが、積もる話もある。

それも含めて、俺はパフォーマンスを最後まで観ていくことにしたのだ。

 

――パフォーマンス終了後。

 

明日もあるから、あまり長居は出来ないことを伝えつつ

俺は久々に虹川姉妹と会話することにした。

その前に、前で踊っていた妖怪軍団――チーム魍魎の紹介をされたが。

なんでも、元々はチーム鵺と名乗っていたらしいが

河童のサラマンダー富田とかいう奴と意気投合。

そのまま、チーム魍魎と名前を変えて今に至るらしい。

 

聞けば、妖怪勢力の重鎮が神仏同盟への当てつけのように三大勢力――特に悪魔と歩調を合わせ

お陰で東西妖怪勢力が対立するほどの騒ぎになってしまっているらしい。

あえて言おう。アホか。まぁ、人間でも須丸清蔵(すまるせいぞう)みたいなやつがいるし

確かレイヴェルさんのとこには永遠の命を求めて眷属になった弁護士ってのもいたはずだ。

そのことを考えると、悪魔と手を結ぼうと考える輩は出てきてもおかしくないか。

俺に理解できないだけで、すべての人間が俺と同じ思想なんてありえないし、あってほしくない。

 

「それより、本当にセージさんから私たちが見えるの?」

 

「ああ、流石に霊体時代ほどじゃないけど」

 

四女の(れい)が改めて、俺に自分たちが見えるかと聞いてくる。

彼女らは幽霊なのだから、霊感のある人間か霊的な存在でないと見えない。

それは肉体を持った悪魔にも見えないらしく、それでいつぞや祐斗が一悶着あった。

なので、当時の俺としても相手にしても、普通に会話できる貴重な存在であったのは確かだ。

……いや、変な意味じゃなく。

 

「……いくらあの黒猫の腕がいいとしても

 この短期間でセージさんが私達を認識できるようになるなんて」

 

「ああ、自分でもびっくりだ」

 

長女の瑠奈(るな)が驚いたように、感心したように呟く。

こういうのって、大体数か月単位でかかりそうなものだと思っていたんだが。

 

ふと、瑠奈がすっ、と手を差し出す。思わず反射的に握手し返しそうになるが

俺の手は、瑠奈の白い手をすり抜けてしまった。まぁ、そりゃそうか。

 

「うわ、姉さん大胆」

 

「あー、やっぱダメかぁ。私は久々にセージに会えたから思わず抱き着いてやろうと思ったけど

 触れないんじゃね、しょうがないわね」

 

「……それをいいことに変な事しちゃだめよ、芽瑠」

 

瑠奈の行動に、末っ子を除いてわいのわいのと盛り上がる。

うちでも最近よく見かけるのに似た光景だ。

ただ、末っ子の玲は首を傾げていたので「そのうちわかる」とだけ言っておいた。

……幽霊に成長の概念ってあるのかどうか知らないけど。俺も俺で、結構無責任だなおい。

 

「へぇ、面の割には色男じゃねぇか兄ちゃん」

 

面は余計だ、とサラマンダー富田に返しながら俺は妖怪軍団とも話をする。

実質真っ二つに割れてしまった妖怪勢力。東のぬらりひょんと、西の八坂。

この二つに分かれていたところ、三大勢力が日本に侵略。

対抗する形で神仏同盟(しんぶつどうめい)が結成されたが、これが決め手となってぬらりひょんが離反。

八坂も三大勢力との和平は相手方のその素行から疑問視していたところ

スタンスが分かれてしまい、そのままずるずると妖怪勢力は二分割してしまっているらしい。

 

……これ、変に意地張らないで神仏同盟と合流するなりした方がいいんじゃないか?

俺はその事を富田に振ってみたが

 

「俺に言われたって困るぜ。俺だって実家逃げだしてきたんだからよ。

 ……ま、ただ逃げてきたわけじゃないぜ。実家がきゅうり農家なんだけどよ。

 妖怪式農法だけじゃ限界だと思うわけよ。そこで、偶々人間のテレビ番組見たら

 アイドルがきゅうり育ててるじゃねぇか! これ見て俺はピンと来たね!

 だからよ、俺はあと3人くらい仲間を集めてきゅうりに限らず

 でっかい農園を作るのが夢なんだよ!」

 

今ここにはいないが、イラストレーター兼声優という妙な肩書の河童

オオヒガシとかいう河童と一緒に

実家を飛び出したらしく、後3人ほど必要らしい。チーム魍魎に参加しているのは

そのメンバー集めも兼ねての事らしい。逞しいな。

余談だが、オオヒガシとかいうイラストレーター、船これで聞いたことがある様な?

 

……なあ。それはそうとそのグループ、農園どころか村

終いには島開拓まで始めたりしないだろうな?

 

『セージ。そろそろ戻らねぇと明日がきついぞ』

 

「おっと、もうそんな時間か。それじゃ、俺はあと5日は沢芽市にいるから」

 

「うん、また来てね!」

 

幽霊姉妹と妖怪軍団に見送られる形で、俺はホテルへと戻ることにした。

当然、部屋に戻るなり爆睡することになったのだが。




魔を断つ剣とのコネがありそうなパティシエ参戦です。
(プルガトリオ時代からいましたけどね)

そう言えば、HSDD原作には「導く大人」って要素が薄いと思うんです。
アザゼルくらいしか思い浮かびませんし、そのアザゼルもふざけが過ぎる気がしますので……

なので、HSDDから師匠キャラを引っ張ってこようと思っても来れないんです。
師匠キャラに仕立て上げてもいいのかもしれませんが
「体と技の師匠」はいても「心の師匠」がいない気がしまして。
今回、凰蓮さんに出張ってもらったのも
師匠としては割といい仕事してくれそうな人だからでした。

無論、私のチェック不足もあり得ますのでもしいたら教えてください。
あと「敵ながら天晴」と呼べる決して味方に回らない敵キャラ。
ライダーで言えばグラファイト、FFで言えばルビカンテみたいなの。
ギルガメッシュは味方になること多いし、ゴル兄さんはそもそもが……

>虹川姉妹
意外と早い再合流。
それに浮かれて、インベスの毒が霊体にも感染する事態の報告を忘れてしまってます。

それより、やけにセージが彼女らを視認できるようになるのが早すぎませんか……?
一応、セージもセクハラされまくってる後ろで霊感鍛える特訓はしてました。

>サラマンダー富田
原作チョイ役がこんなところで。意外と拾えるネタあったのでご登場願いました。
うちこんなんばっかやな。
拙作では目指す方向がTOKIOというおかしなことになってますが。
なお一緒に出てきた河童のオオヒガシの元ネタは金剛型他の絵師さんから。

>妖怪勢力
原作とは真逆の思想。八坂が三大勢力の素行を目の当たりにして和平に後ろ向きになった他
ぬらりひょんが神仏同盟に対する嫌がらせで三大勢力と組もうとしたり。
なお、神仏同盟に嫌がらせするのが目的なので三大勢力と本心で組みたいとは思ってない模様。


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Sword6. 遅れてきた「コモン」 Aパート

アンケートご協力ありがとうございました。
早速ご意見を反映させていただきたいと思います。
また折を見て行わせていただくと思いますので、その時はよろしくお願いします。

……やっぱり今まで長すぎたみたいですね。
「ゴースト」終盤が割とちょうどよかった感じでしょうか。

それに伴い、今回から投稿方式を変更します。
長引きそうな場合には、Aパート、Bパートに分割して投稿いたします。
以前もセージ復活回にて似たような方式をとりましたが
今回は別の日に分けて投稿する予定です。

今回はセージ視点から離れて祐斗視点。
セージが沢芽市でフランス外人部隊仕込みのトレーニングを受けている最中
駒王町では……


駒王学園。

ここは生徒会長である支取蒼那――ソーナ・シトリーや

オカルト研究部部長、リアス・グレモリーをはじめとした悪魔が数多く通う学校。

悪魔のみならず、人間においても異能を持った人間や

怪異の存在に近しい人物も多く通っている。

 

かくいう僕、木場祐斗も神器(セイクリッド・ギア)魔剣創造(ソード・バース)を持っているばかりか

先述のリアス部長の眷属にして転生悪魔だ。

そんな僕の学校生活は充実しているかと言えば……

 

 

……最近は、そうでもなかったりする。

 

 

事の発端は梅雨明け頃に行われた駒王町に対する大々的なテロ活動と

それに伴う禍の団(カオス・ブリゲート)に所属するフューラー・アドルフという人物の演説だ。

彼が僕ら悪魔や、天使、堕天使と言った三大勢力の存在とその所業を公のものにしたばかりか

聖書の神の否定まで行った上に、それに伴う証拠まで突き付けてきたんだ。

 

一体どこでそんなものを手に入れたか、今となってはそれを気に留める人なんて誰もいない。

唯々、普通に駒王町で暮らしていた人たちはそれを機に三大勢力を敵視するようになり

僕自身、学校でも今までの扱いが嘘みたいなことになっている。

言いたいことはわからなくもないけど、掌返しが酷いとは思うね……

 

この件について、可哀想だと思うのはアーシアさんと、ギャスパー君だ。

アーシアさんは今なお懸命に奉仕活動を行ている。彼女も転生悪魔だというのに、だ。

彼女の神器・聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は確かにテロや災害に遭ったときとかにはうってつけだろう。

だが、聞いた話ではその能力故に疎まれたこともあったという。

その事についての是非を僕は問えないが、そうした経験がありながらも

それでも神器を交えた奉仕活動を行うアーシアさんは素直に凄いと思える。

 

 

――彼女が「(キング)」だったらいいのに――

 

 

……おっと。僕もここ最近の空気に滅入っているのかな。

浮かんだ考えを打ち払いながら、僕は松田君や元浜君

そしてアーシアさんやゼノヴィアさんと話をしている。

本当なら、僕は別のクラスなんだけど……

テロのお陰で疎開した人もいれば、犠牲になった人もいる。

そのおかげで、生徒数がガクッと減ってしまったのだ。

 

中には、ギャスパー君みたく引きこもってしまい出てこられない人だっている。

そのせいかどうかは知らないが、クラス統合が行われたんだ。

お陰で、今こうしてアーシアさんやゼノヴィアさんのみならず

松田君や元浜君とも何気なく話が出来ている。今の僕の数少ない心休まる時間だ。

……まぁ、昔ほどじゃないとは言っても松田君と元浜君はちょっとアレなところもあるけどね。

この辺は、更生に尽力してくれたセージ君に感謝かな。

 

ゼノヴィアさんは、聖剣を巡る騒動の時に来日してきた聖剣使いだ。

本当は相方の紫藤イリナって子が一緒にいたらしいんだけど、彼女は紆余曲折を経て

テロ組織である禍の団に入ってしまった。

なので、ゼノヴィアさんは天涯孤独かというと、そうでもない。

こっち側で、下宿先を見つけ修行も兼ねてそこの世話になっているそうだ。

勿論、イリナを探すって目的もあるそうだけど。

その下宿先にちなんで、今は「ゼノヴィア・伊草(いくさ)」と名乗っているらしい。

 

なにはともあれ。

テロによって一度は荒廃しながらも、復興の兆しを見せ始めている駒王町。

そして、そこに住む人達の一角である松田君や元浜君達とこうして話せるのは

ここ最近、心が荒みがちだった僕にとってはとてもありがたいことだった。

 

……ただ、もう取り戻せないものもある。

それは松田君や元浜君達と一緒にいた、桐生藍華さんだ。

彼女はテロの起きた初日に、召喚された悪魔によって強姦されてしまい

そのショックから、ほぼ寝たきりの状態になってしまっているそうだ。

松田君が幾度かお見舞いに行っているみたいだけど……

 

……「男だから」という理由から拒絶されているそうだ。

 

まぁ、理由は何となくわかる。

それでもめげずに桐生さんのお見舞いに行っている松田君は

ともすれば見ていられないレベルだ。

彼がセクハラじみた言動をしなくなったのは、そういう事情もあるのかもしれない。

「諦めることも肝心だ」などとは、僕も軽々しくは言えないかな。言うべきかもだけど。

 

「アーシア、そろそろ部活の時間じゃないか?」

 

「あ、もうそんな時間ですか? わかりました、行きましょう祐斗さん」

 

「……そうだね。それじゃみんな、また明日」

 

ゼノヴィアさんの指摘で、僕とアーシアさんは部室に向かうべく

皆に挨拶を済ませ、部室へと足を進める。

正直言って、僕は最近のオカ研の空気が好きじゃない。

お姉さんと住むという口実から退部した白音さんの判断も、ある意味正しいかもしれない。

そうなったある意味の原因のセージ君は当然、退部しているけれども。

……ま、彼の場合強引に出したところで

 

「こんな奴がいたら、場の空気を穢すだけだ。

 無理に俺を出したところで、誰も得しないだろうが」

 

……とか言って、抜け出そうとするだろうけど。

セージ君はセージ君で、頑固なところがあるのは僕も認める。

ただ、色々な情報をそろえて、客観的に見るとそれほど間違ってもないんだよね……

 

特に、セージ君を「人間の味方」として見た場合。

イッセー君に巻き込まれる形で転生悪魔になった時から

セージ君の身体の事情を抜きにしても、彼は人間の味方たろうとした。

部長に力を捧げるのではなく、自分の信じる正義のために戦っていたんだと思う。

眷属としては間違ってると思うけど、個人としてはセージ君の在り方は正しいだろう。

僕も、聖剣絡みでは私情を優先させたし。当のセージ君には釘を刺されたけどね。

……彼にだけは言われたくなかった。

 

……そこを踏まえた上でも、僕はどうだったろうかとふと思う。

神器を持っているってことは、もともと僕は人間だったってのは間違いない。

その人生が碌なものじゃなかったってのはあるけれど

だからって悪魔に心酔してしまえるものだろうか。

……いや、部長に拾われてから、セージ君と深く関わるまでの僕も

「悪魔は素晴らしい」って思想だったとは思う。

 

けれど、今冷静になって振り返ってみると色々不自然だ。

白音さんのお姉さんの事だって一方的な話だし

イッセー君を助けるだけなら病院でもよかったと思う。現にセージ君は病院に搬送されたし。

今の医療技術は、相当レベルが高いというし。

イッセー君が悪魔にならなかったら、セージ君はそもそも僕らに関わってない……

ってのは言い過ぎか。

 

この件はセージ君だったら

 

「『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』かどうかはともかく、レアな神器目当てに引き抜いた」

 

位は言いそうだし、実際そんなようなニュアンスの事を言ったって

前にイッセー君から聞いた気がする。

 

……やはり、悪魔って……

 

「……祐斗、祐斗!」

 

「……えっ、あ、はい」

 

考え事をしていたら、部長の声に呼び戻された。

今日は生徒会主催の部活動報告の日、らしい。それに部長と副部長が出ていたんだけど……

 

……まぁ、学校がこのありさまだから存続しているだけでも御の字、なのかな。

だけど……

 

「……困ったことが起きたわ。部費が下りないかもしれないの」

 

部長の言葉に、アーシアさんが心配そうな顔をしている。

テレビ電話越しに話を聞いているギャスパー君も、どうしたらいいのかわからない様子だ。

 

「部費が下りないって……どうしてですか? もしかして、私が活動を疎かにしてるから……」

 

恐る恐る、ベビーシッターと二足の草鞋を履いているアーシアさんが部長に尋ねている。

うーん。僕にはそれ以外の原因に思えるんだけどね。

実際、部長の話はアーシアさんの活動とは何も関係が無かった。

 

「活動報告の結果自体に問題はないの。ただ……セージ、小猫、イッセーと

 部員の数がごっそり減ったじゃない?

 それに加えて、今までは形だけの顧問を立ててやってきていたけど

 その顧問の先生も疎開の引率に回されちゃったのよ。

 今のオカ研は、部員も少ない、顧問もいないと『部としての体裁』を保てない状態なのよ。

 だから、部費が下りないってわけ」

 

「……最悪、同好会に格下げになるどころか解体も免れない状態ですわね」

 

部として学校に認められるには、それ相応に条件がある。

今のオカ研は、それすら満足に満たせる状態ではなくなってしまったという事だ。

そのことについて、僕は衝撃を受けこそしなかったものの、寂しさは覚えた。

……イッセー君とセージ君が入る前、その頃のオカ研を知っているとどうしても、ね。

 

『か、解体ですかぁ……?』

 

テレビ電話の向こうで、ギャスパー君が不安そうに声をあげる。

学校には出てきていないが、オカ研にはこうして顔を出している。

テレビ電話での会話が顔を出している、の範疇に入るのかどうかは微妙だけど。

……まぁ、ギャスパー君は頭もいいしなんだかんだで要領の良さは持っているから

学校に通わなくても何とかなってそうなんだけどね。

 

「勿論、そんなことはさせないわよ」

 

「けれど部長、そうは言っても具体的にはどうするつもりですの?」

 

部員を集める? いや、既に部長の駒王学園における求心力はゼロに近い。

セージ君に聞いた話だけど、かなり陰湿ないじめもあったらしい。最近は知らないけど。

そんな部長が声をかけたところで、来やしないだろう。

まして、一学期ならともかく二学期で、かついろいろ忙しい時期に部員が来るわけがない。

その忙しさの原因たる粗方の行事は中止が決定したそうだけど。

 

とにかく。今オカ研に追加部員が来るなんて事は絶望的だ。

幽霊部員でもいいから増やすべきなのだろうか。

幽霊部員ならセージ君や白音さん、ゼノヴィアさん辺りに協力を……ダメかな、やっぱ。

ダメもとで、提案してみることにはするけど。

 

「部長、この際幽霊部員でも……」

 

「……それしかないのかしらね。祐斗、当てはあるの?」

 

僕は正直に、セージ君達の名前を使わせてもらう事を提案した。

僕も、これくらいしか思い浮かばないからだ。

松田君なら来てくれる……と思ったのは昔の話だ。

彼は悪魔に対する悪感情が強すぎる。こっちに来るべきじゃない。

元浜君も白音さんって餌が無い以上、来やしないだろう。

……それに、白音さんはどうもセージ君に……おっと、下世話か。

 

「説得は僕かアーシアさんから頼んでみます」

 

「小猫はともかく、セージはその方がよさそうね。

 ゼノヴィアもアーシアの頼みならそう無碍にはしないと思うし……」

 

「そうなれば、今度は顧問の先生の問題ですわね」

 

部員の問題はセージ君達には悪いけどちょっと協力してもらおう。

別に顔を出せって言ってるわけじゃないし、いいよね……多分。

まぁ、何かあったら僕が動くつもりだし。それは負うべき責任だ。

それに、セージ君達だって自分の都合で動いているんだ。

ちょっとくらい、こっちの都合に合わせてくれてもいいじゃないか……ってのは

意地悪な考え方だろうか。でもやるけど。

 

部員問題が片付いても、もう一つ問題があった。

顧問の先生の問題は、少なくとも僕にはどうにもならない。

オカ研の事情――即ち、僕らの正体を知っており、かつ協力してくれそうな存在が

薮田(やぶた)先生位しかいない。しかし薮田先生は生徒会の顧問だ。

それ以外にも仕事を抱えているようだし、これ以上の掛け持ちはしてくれないだろう。

 

「そればかりは……どうしたものかしらね……」

 

頭を抱える部長。僕も、他のみんなもどう声をかけていいのかわからない。

こればかりは、解決方法が思い浮かばないのだ。

みんなして頭を抱えているとき、部室のドアをノックする音が響く。

 

「朱乃、今日誰か来る手筈になっていたかしら?」

 

「いえ、特に聞いてはいませんけど……」

 

予期せぬ客人、か。一体誰だろうね?

疑問に思っていると、部長は外の主に対して入室を促す。

さて、どんな人がやって来るのか。

 

……敵じゃないと、いいんだけどね。

 

「失礼するよ。君がリアス・グレモリー君だね? 兵藤君から話は聞いているよ。

 僕は布袋芙(ほていふ)ナイア。今度、駒王学園に赴任することになった古文の教師だ。

 よろしく頼むよ」

 

「イッセーから? それはそうと、その古文の先生がオカルト研究部に何の用かしら?」

 

「フフッ、言わずともわかると思ったけど……まぁいいや。

 単刀直入に言おう。僕はオカルト研究部の顧問になりに来たんだ。

 兵藤君のきっての頼みでもあるからね。部長の力になってほしい、って」

 

目の前に現れたのは、紫色のパンツルックのスーツに身を包んだ

部長もかくやと言わんばかりのスタイルを誇り、かつそれを強調している黒髪の女性。

イッセー君がこの場に居たら、絶対に食いつきそうなタイプだ。

 

……あれ? でもこの人、イッセー君とは知りあいみたいだけど……?

 

「そういえば、うちにイッセーの部屋を用意してくれって

 お父様に頼み込んだ人間がいたって聞いたけど……あなたの事ね。

 それにしてもイッセーったら、退学になっても私の心配だなんて……」

 

「人間界じゃ後ろ指さされる存在になってしまったけれど、冥界じゃそんなことは無いしね。

 退学という結果は残念だけれども、彼の意思は間違いなく僕が継いでいるよ。

 ……ああ、知っていると思うけど彼は無事だからね?」

 

……うん? いくらイッセー君でも、未成年という事で実名報道はされてないはずだけど?

なのに、なんでこの人はイッセー君の顛末を見てきたことのように知ってるんだ?

イッセー君ならスルーしかねないけど、この人……なんだか胡散臭いな……

 

「僕としては、学校を追い出されてしまった兵藤君に、学校の様子を伝えられる。

 君達は、僕という顧問教師を手に入れられる。どうだい? 悪くない提案だと思うけど」

 

嘘か真か、目の前の女性はオカ研の顧問になると言っている。

いくらイッセー君との接点があるって言ったって、いきなり出てこられても……ねぇ?

 

しかし、それどころかこの女性はさらにとんでもないことを言ってのけたのだ。

僕も、流石に耳を疑った。

 

「それでも信用ならないというのなら、僕を眷属にするといい。

 これでも、ちょっとした神器を持っているし、君より長生きしているんだ。

 力でも、知恵でも君の役に立てると思うよ?」

 

「……これは驚いたわ。自ら悪魔の眷属になりたいだなんて、物好きもいたものね」

 

僕もそう思う。けれど、セージ君に言わせれば「そう仕向けているのはお前達だろうが!」

位は言いそうなのが、なんともね。

 

「で、僕を眷属にするのかい? しないのかい?

 僕を眷属にすれば、オカ研の立ち回りの工面をしてあげることくらいは造作も無いよ?

 神器は……そうだね、ここで披露すると色々とうるさいから、後で開けたところに行こう。

 そこで、僕の実力をお見せしようじゃないか」

 

「……ふーん。中々の自信じゃない、あなた。それに、説明の手間が省けて助かるわ。

 いいわ。ちょうど私も顧問の先生が欲しかったところなの。

 眷属はあなたの力を見極めさせてもらってからにしてもらってもいいかしら?」

 

部長の言葉に、布袋芙ナイアと名乗った女性は首肯する。

ただ、その時の彼女の金色の瞳は……

 

 

……途轍もなく悍ましく、邪悪なものに僕には思えた。




これでも本文6000文字ちょいです。
多少のオーバーはご容赦のほどを……

>白音が触れられてないけど
下級生なので、そういう意味では接点が薄いです。ギャスパーは引きこもってますし。
一応「マスコット枠をいじめるとか許されざるよ」という意見も少なくないです。
今でこそ安住の地を得ていますが、セージと黒歌がいなかったら
ギャスパーどころか今のリアス、イッセー以上に悲惨なことになってたと思います。

>ナイアさん活躍しすぎ問題
……実は、別キャラを派遣しようとも思いましたが
適任が思い浮かばなかったのでナイアさんに出張ってもらうことになりました。
とばっちりで店番に返り咲きさせられた伯爵は泣いていい。

因みに候補として挙がっていたのは黒衣の男。
モチーフを考えたら和平結んでるわけでもない拙作で
ナイ神父をオカ研の顧問にするのは無茶があると思いましたので。

……「虚憶」の再現という意味ではこちらの方がよかったかもしれませんが。
ナイアさんでもイッセー周りなら「虚憶」に近づけることは可能かもしれませんが。
異性関係的な意味で。

つまり、イッセーだけでなくオカ研そのものにニャル様が関与するのは
不可避の状態でした。これも兵藤一誠って奴の仕業なんだ。割とマジで。


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Sword6. 遅れてきた「コモン」 Bパート

Bパートです。
今後、長くなった場合はこのように週二回に分けて投稿していこうと思います。
長くならなかったら……今まで通りで。

一応、パート分けの有無はサブタイに載せてはありますが。


ある日、オカ研の顧問になるといって部室を訪ねてきた女性、布袋芙(ほていふ)ナイア。

彼女は顧問になるばかりか、部長であるリアス・グレモリーの

眷属になることも辞さない覚悟でやって来たのだ。

そんな彼女の実力を確かめるべく、人間界ではなく冥界にある部長の家にやって来たのだ。

家にいたギャスパー君やイッセー君が布袋芙先生の存在に驚いて、表まで出てきたみたいだけど。

 

「そういえばイッセー君。君は彼女――布袋芙先生の事を知っているのかい?」

 

「知ってるも何も、俺がここに居られるのはあの人のおかげなんだ。

 けどナイアさん神器(セイクリッド・ギア)も持ってたのか。初めて知ったぜ」

 

なるほど。布袋芙先生がイッセー君をここに住めるように手回ししたのか。

となると、部長のお父さんにも顔が利く程度には冥界の事情に詳しいのだろうか?

 

……まぁ、娘には甘いって専らの評判のジオティクス氏が部長を引き合いに出されて

首を縦に振った、って可能性も十分ありえそうだけど。

 

「イッセー。あなたも彼女の実力は知らないの?」

 

「俺もナイアさんが神器持ちだってのは今初めて聞いたっす」

 

部長の質問に、イッセー君も戸惑った様子で返している。

僕らよりも布袋芙先生と接している期間が長いと思われるイッセー君でも知らなかった。

という事はつまり、全く未知数の力を秘めているわけか。

セージ君なら、調べられるのかもしれないけれど……

冥界には本人が来たがらないだろうし

今は沢芽(ざわめ)市に警察の手伝いで向かっているから来れないはずだ。

 

「……ああ。一誠君に見せるのも初めてだったね。

 じゃあ、君のためにも気合を入れてお見せしないといけないね。

 行くよ……これが僕の神器――『群像の追憶(マス・レガシー)』!」

 

一瞬、布袋芙先生の周囲の景色が歪む。ノイズが走っているような錯覚さえ覚える。

だけど、そのノイズは収まるどころか酷くなっていき、僕以外の皆にも認識できるほどだった。

そのノイズはやがて人型を成していくが……

 

「闇」と形容できるほどの真っ黒な風体に、全身から触手を生やし、その触手には

蛸の吸盤の如く、無数の仮面が並んでいる。

僕はそれを見た時、恥ずかしい話だが「この世ならざる者(名状しがたきもの)」を目の当たりにした感覚に陥った。

……悪魔稼業もそれなりにしており、怪異にはそれなりに慣れている僕が、だ。

そんな僕をもってしても、「アレ」は異質だった。

 

その感想は、その場にいた全員が抱いていたものと同じであろうと推測出来た。

何故なら、皆布袋芙先生の「影」を目の当たりにして、怯えにも似た表情を浮かべていたからだ。

 

部長は驚いて、その蒼い眼が見開いている。

一応悪魔の中ではそれなりの実力を持っている部長をしてここまで驚かせる辺り

布袋芙先生の力は本物なんだろう。

 

副部長は笑みを浮かべている……風に見えるが、その笑顔は張り付いており

よく見ると、頬が引きつっているのがわかる。

 

アーシアさんも、しっかりと布袋芙先生を見据えてはいるけれど

震えているのか、いつの間にか呼び出していたラッセー君を抱えており

その抱える手には、力が込められているように見えた。

 

ギャスパー君に至っては、いつの間にか用意していた段ボールに引っ込んでしまった。

 

……だけど変だ。この場にいるみんな悪魔だというのに、なんで「影」や「闇」を恐れるんだ?

そうした性質に強いのが、悪魔のはずだ。

かく言う僕も、この沸きあがる恐怖心とも、不快感とも言える感情がうまく説明できない。

心の奥底から、わけもわからず湧き上がって来る。そう感じてならないんだ。

 

……まぁ、一人例外もいる。イッセー君だ。

彼の目はギラついているが、目線の先にあるものが……だ。

その根性は立派なものだと思うけど、危機感という意味ではどうなのさ。

 

「……おや。これからだというのに、もう怯えていては話にならないよ?

 仕方ないな。ではこうして……」

 

布袋芙先生の背後の影に、再びノイズが走る。

ノイズに影が掻き消えたかと思うと、影は姿を変えていた。

 

再び姿を現した影は、灰黒い学ランに、赤と黒の仮面を被った怪人とも呼べる人型。

その周囲には、トランプの札と切り花が浮いている。

僕の知っている悪魔に、あんなものはいない。

……そもそも、あれは悪魔なんかじゃない。

悪魔だとしたら、布袋芙先生が部長の眷属になる必要が無いのだから。

 

影が姿を変えた途端、影から発せられていた得体の知れなさ、底知れぬ闇と言った

悍ましさは成りを潜めた。パワーセーブしたって事かな。

……つまり、制御しなかった場合とんでもないことになるって事か。

 

イッセー君の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)と言い、ギャスパー君の停止世界の魔眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)と言い

本気を出したらとんでもないって神器が僕の周り、というかオカ研には多すぎる気がする。

布袋芙先生のは、そこからさらに押し進めて制御を可能にしているってところか。

……神器の制御、確かに命題かもしれない。ギャスパー君にしても、イッセー君にしても。

勿論、禁手(バランスブレイカー)に至った僕のもそうなんだけど。

 

「その影、姿を変えられるのね?」

 

「そうさ。けれどこれは僕の神器の力の一片に過ぎない。

 だけど、君達に協力するうえではこれでも十分すぎる位だと思うよ。

 勿論、お望みとあらばこれ以上のものを披露するけどね」

 

布袋芙先生の言葉に、イッセー君が生唾をのむ。

何を考えてるのか察しはついたけど……そういうとこだよ?

 

一方、部長も納得したのか強く頷いていたけど、僕は正直言って……怖かった。

あんな恐ろしいものが、本当に神が作ったっていう神器なのか。

よく、表現しきれないものに対して「名状しがたいもの」という表現を使うけれど

今僕が目の当たりにした布袋芙先生の後ろにあった「影」はまさしくそれに思えた。

出来ることなら、僕もギャスパー君みたく逃げ出したいくらいだった。

 

そんな布袋芙先生の力を揮う先は、グレモリー領に現れたアインスト。

最近、冥界におけるアインスト出現の頻度は増加傾向にある。

その都度、冥界に入り浸っているイッセー君やギャスパー君が迎撃に出ているから

結果として、グレモリー領は安全地帯になっている。

 

……ただ、イッセー君が暴れすぎるものだから戦闘による被害が大きく

冥界でも安全な方とは言え、グレモリー領に入ってくる悪魔の数は多くない。

つまり、グレモリー家の税収は減りはしないが、増えてもいない。財政難のままだ。

 

最近、イッセー君が力を増したと聞いたけれども、今日は見られそうにないな。

代わりに、布袋芙先生の神器の力をこの目で目の当たりにすることになった。

 

 

……だから、僕は「恐ろしい」という感情が芽生えたんだ。

 

 

――――

 

 

布袋芙先生の神器が生み出した影は

瞬く間にグレモリー領に侵入してきたアインストを撃退した。

それを使役した布袋芙先生自身も、息一つ切らしていない。本当に何者なんだ、この人。

イッセー君の話だと、時間城(じかんじょう)とかいうアンティークショップの主人らしいけど……

そんな人が、駒王学園の教師になったのか?

 

「イッセー君、布袋芙先生、駒王学園の教師になるって言ってるけど

 お店の方は大丈夫なのかい? 時間城とかいう古道具屋さんをやってたんだろ?」

 

「ああ、ナイアさんは店主って言っても雇われ店主みたいなものらしいんだ。

 で、本当の店主が戻って来たから、時間が空いたナイアさんに

 オカ研の顧問になってもらうように頼んだんだ。

 ……ほら、俺学校退学になっちまっただろ? せめて情報が欲しくてさ。

 冥界じゃ部長の家に住まわせてもらってるけど、最近色々やることがあってさ……」

 

そう言うイッセー君の態度は、妙に余所余所しい。

部長の家に居候させてもらっていることに、負い目を感じているのだろうか。

ギャスパー君だって住んでるわけだし、今更な気もするけど。

 

……あと。女の人をいやらしい目で見るのは相変わらずだけど

そこについて、ギラついた中にも落ち着きを感じるようになったのは気のせいだろうか。

……慣れた? って事はつまり……いや、まさかね……

いくらイッセー君が布袋芙先生とやけに親しげ――それも部長以上に――だからって

穿った見方をし過ぎだろう。

そういう事を隠そうともしない黒歌さんを同じ家に住まわせているセージ君も大概だけど。

本人は隠してるつもりなんだろうけど、ちょっと注意深く見ればわかるよ、セージ君……

 

もしそうだとしたら、僕だけが水をあけられた感じがして少し悔しい。

特にイッセー君に負けたのは少し、いや意外とショックかも。

ま、セージ君はともかくイッセー君は僕の憶測にすぎないけどね。

 

あれこれ考えていると、部長と布袋芙先生の話が終わったみたいだ。

この場にいた全員、部長の下に集められる。

 

「みんな、これでオカ研の存続に当たっての問題はある程度クリアできそうよ。

 従って活動は今まで通り行うわ」

 

「……リアス君。ちょっと待ってくれ。僕も顧問として参加する以上

 君の好き勝手を一から十まで黙認することはできない。

 ただ、可能な限り便宜は図らせてもらうけどね」

 

布袋芙先生がどう関与してくるのか、僕には全く読めなかった。

そもそも、彼女がオカ研に来た経緯すらわからない。

あれほどの神器を持っている人がノーマークなんて、堕天使も相当ザルだ。

 

……まさかと思うけど、薮田先生みたいなことは無いよね?

 

「そうだ、二、三年生は四日後に社会見学……と言うか企業見学があるんじゃなかったかい?」

 

「そうよ。私は進学希望だから興味はないのだけど」

 

「私も進学希望ですわ」

 

部長も副部長も、進学希望だ。

夢も希望もないことを言うようだけど、面接で落とされそうな気がしてならない。

それを言ったら就職もおんなじだけど。

部長クラスの悪魔になると、功績よりも悪名の方が知れ渡ってしまっている。

今まで通りに、人間界で活動することは無理だろう。

 

……思い切って、駒王町以外の場所に行けばあるいは何とかなるかもしれないけれど。

 

「だけど、見聞を広めることは大事さ。勉学だと思って、参加するといいよ。

 ……と言うか、もう参加申請は出してしまったよ? オカ研の皆の分については」

 

布袋芙先生のこの行動に、部長は案の定怒り出す。

いや、僕も勝手にやられたことに思うところが無いわけでもないんだけどさ。

そういえば、告知のプリントにはいくつか候補があったっけ。

 

南条(なんじょう)コンツェルン、桐条(きりじょう)グループ、鴻上(こうがみ)ファウンデーションと言った大企業グループ。

そして……セージ君が向かった沢芽市にもあるというユグドラシル・コーポレーション。

他にもジュネスみたいな大型ショッピングモールを展開している会社や

幻夢(げんむ)コーポレーションみたいな大手ゲームサードパーティーもあったはずだ。

 

……まぁ、悪魔の息がかかった学校とは言え学校に違いはないからこうした企画も通るんだろう。

 

「……はぁ。先生、今度から一応私達にも確認取ってから行動してくれると嬉しいわ」

 

「それはすまなかったね。ただ、『思い立ったが吉日』とか『兵は拙速を尊ぶ』とか言うしね。

 君だって、思い当たる節はあるだろう?」

 

意地悪そうな顔をして、形だけ謝っているけど悪びれる様子もなく

布袋芙先生は言ってのけていた。

……確かに布袋芙先生の言う通り、部長もこっちの意見を聞かずに行動することも少なくない。

だけど、その行動の癖を何で布袋芙先生は知ってるんだ?

まるで、僕たちの事を全部見透かしているような……まさか、ね。

 

「……まぁいいわ。で、私達はどの企業の見学に参加すればいいの?」

 

進学希望の部長と副部長はご愁傷様と言うべきかもしれないけど

僕もそろそろ進路を真剣に考えた方がいいのかもしれない。僕の進路は……どうなんだろう。

などと悩んでいる僕をよそに、布袋芙先生は僕らが行くべき企業の名前を挙げる。

その名前を聞いて、僕は唯々驚くことしかできなかった。なにせ――

 

「沢芽市のユグドラシル・コーポレーションさ。

 日程と前後する形で、現地では神仏同盟と北欧神話の会談も行われる。

 君達には、そっちの方が本題なのかもしれないね」

 

まさか、こんな形でセージ君と合流することになろうとは。

それよりなにより、神仏同盟と北欧神話の二大組織の会談の場に

三大勢力の一つ、悪魔の首魁の妹が現れる。

 

 

……これは、何か起こしてくれって言ってるようなものだね……




……誰こいつ。

いや、原作における木場のムーブを考えたら本当に誰こいつ。
ヒロインはもとより、味方がみんな太鼓持ちってかなりヤバいと思うんです。
道を間違えずに進める保証なんて、どこにもないんですから。

迷い、足掻き、それでも進む。
人間に、いや全ての命に許された行いでありましょう。

>群像の追憶
実は神器持ってました! なナイアの神器。
現れた影は「ペルソナ2」よりニャルラトホテプ(最終形態)とJOKER。
いきなり最終形態お披露目するとか加減してません。ちょっとした悪戯心だろうけど。

具体的な描写はされてませんが、能力的にはP3以降のワイルド能力に近いものがあります。
なので、事前の記録を必要としない記録再生大図鑑という使い方もできなくないです。

……どうでもいいけどまた異聞録と罪罰ハブられる(スマブラ感)。
外部コラボの展開上3以降のが都合いいのはわかるけど、たまにはさぁ……
いや、ギンコの中の人問題とかアヤセ今出してもネタ的にきついとかわかるけどさ。


話は飛びますが、原作の熱血要素をみて思うのがこの一言。

「熱血とは、盲信にあらず!」

……かれこれ20年位前(HSDD連載開始から換算しても10年位前)に
既に言われてるんですよね。
そしてこの言葉が出た作品には、日本的な要素(いろいろな意味で、本当に)を冠した名前が
少なくない。何の因果やら。

……そしてこの作品、ギャグでカバーされているけど本質がドシリアスで
続編の映画はシリアス極振り。なんかどっかで見たような関連性……


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Melon7. 閉ざす者の問いかけ Aパート

まさかの貴虎ニーサン視点。サブタイが出オチ。
「ゴースト」時代も名g……伊草さん視点ありましたけどね。


神仏同盟と北欧神話の会談を翌々日に控えたその日。

私、呉島貴虎(くれしまたかとら)の下にもその話は当然の事ながら、来ていた。

少し前の私ならば、神の存在など一笑に伏していたのかもしれない。

あのフューラー演説も、ヤラセなどではない事実であると証明されているが

今なお真実味を帯びない話でもある。

一昔前の私ならば「疲れているのか」と相手にしなかっただろう。

 

……いや、あの日私と弟の光実(みつざね)の前に現れた天照大神は紛れもない本物であろう。

私はオカルトには造詣が深くないが、あの佇まいは神というものが本当にあるのならば

本物と言わざるを得ないだろう。そんな神々が、人間の世界で会談を行う。

普通に考えれば、それこそ「疲れているのか」で終わってしまう話だが

先述のフューラー演説以降、そうも言えなくなった。

聞けば、日本には五大宗家とかヤタガラスとか、蒼穹会(そうきゅうかい)とかいう怪異に強い組織もあるそうだ。

どう考えても、彼らの管轄だろう。何故我々ユグドラシルに?

 

その事を私の同胞にして友人の戦極凌馬(せんごくりょうま)に話したところ、何故だか彼は一部始終を知っていた。

彼の知識は私も頼りにしているが、時折こうして得体のしれないところが垣間見れる。

……ユグドラシルの、人類の危害にならないうちは私がとやかく言う事ではないだろうが。

 

「それは簡単な事だよ貴虎。

 あちら――北欧のオーディン神が、ユグドラシルに興味を持ったのさ。

 知ってるかもしれないが、北欧神話の世界はユグドラシルという世界樹があり

 その樹を中心に成り立っている世界だ。

 だからこそ、同じ名を冠するここに興味を持ったんだろうね。

 ま、実際はウチのお偉いさんが北欧神話に肖って命名したってのが真相だろうけどね」

 

凌馬の蘊蓄に相槌を打ちながら、私は当日のプランを考える。

要するに、諸外国のVIPが来日するようなものだろう。

似たような事は、先日北欧からユグドラシルの見学のために来日したハールバルズ氏。

 

――これも後で凌馬に聞かされたのだが、かの御仁こそ北欧の主神オーディンであるそうだ――

 

彼がまた来るという事か。一度話した相手ならば、いくらか対応は出来るだろう。

簡単などとは言わないが。

 

そうなれば、対応の諸々を考えなければならない。

身辺警護は、ユグドラシル民間警備会社(YGDPMSC)に任せていいだろう。

言っては何だが、いくら私が斬月(ざんげつ)を所持しているからと言っても

私は研究部門のプロジェクトリーダーであって、営業部門ではない。

前回は彼がユグドラシルの技術見学の名目で来社したため、私が応対したが

今回は話が変わってくるだろう。

そもそも、今回は話を聞く限りではユグドラシルタワーを会場として貸し出すだけのようだ。

とは言え、私が何も関与しないわけにもいかないだろう。

事が起きてからでは遅いのだ。事が起きないよう、最善の手を尽くすべきだ。

 

……しかし、何故ここなのだ?

日本神話縁の地とされる出雲とか、伊勢神宮、明治神宮など

神として迎え入れるのならば適した場所が他にあると思うのだが。

日本神話が有利になりすぎるという観点から、避けているのだろうか。

 

……そういえば、確かこのユグドラシルタワーが建つ前、ここには巨大なご神木が生えていたか。

このタワーを建設するにあたって、あっさりと切り倒してしまったが。

あれは……確か、10年程度前の話だったか。

あの頃は私も若かったから、気にも留めなかったが……

いま改めて考えてみると、随分と罰当たりな事をしたものだ、親父も。

もしこの件について追及されれば、ユグドラシルが日本神話の標的となるやもしれんな。

 

「ああ、それと貴虎。すまないが当日私は別件で手が離せなくなる。

 君も聞いているかもしれないが、駒王学園という高校が企業見学にうちを訪ねるらしくてね。

 私はその対応に出ようと思うんだ。

 私と……そうだな、同じ高校生として光実君を当日は借りたいのだが、いいかい?」

 

凌馬の言う通り、私も当日の予定については聞いていた。

どちらがねじ込まれた予定かはわからないが、ブッキングするにしても程度があるだろうと

思わずにはいられなかった。

方や国際会議、方や学生の企業見学である。何をどうすればこういうスケジュールが組めるのだ。

担当には、一度私の方から釘を刺しておかなければならないかもしれないな。

 

「光実を? ……まぁ、よその高校の生徒と接触するのはあいつのためにもなるだろう。

 そういう事なら構わない。光実をよろしく頼むぞ、凌馬」

 

「代わりに、当日の君の補佐には湊君を派遣しよう。

 神仏同盟に北欧神話と、神々が一堂に集うんだ。

 警備会社に回してある黒影(くろかげ)では力不足に陥るかもしれない。

 君の斬月と……湊君にも、新型のドライバーと

 それに対応した新型のロックシードを持たせてある。

 君用のもできているが……必要になる事態が来ないことを祈るばかりだよ」

 

新型のドライバー? それにロックシードとは……相変わらず、凌馬の仕事は早いな。

とは言え、まるで何かが起こるような物言いだけはどうかと思うが。

私も事なかれ主義というわけではないが、起きないに越したことは無い。

まして、今は情勢が不安定なのだ。タワーの上空の建造物――クロスゲート、と言ったか。

件の建造物に関する情報も、インベスの棲む世界に繋がっているクラックみたいなもので

違いと言えば、クロスゲートからはインベスのみならず

アインストも現れるという事しか聞いていない。それだけでも十分に危険な話だが。

 

肝心のクロスゲートは、間違いなく光学迷彩装置で隠蔽されているだろう。

余計な混乱を与える位ならば、そうした方がいいのだろうが……

 

「当日は忙しくなりそうだねぇ、貴虎」

 

「全くだ……っとすまない、電話だ。

 

 ――私だ。なに? 北欧から神が来た、と?

 会場入りは明日のはずだったが……間違いはないのか?

 ……わかった、私が出迎えよう。すぐに向かう。

 

 ……どうやら、既に忙しくなったみたいだ。

 先ほどの件、私からも光実に伝えておく。よろしく頼むぞ」

 

「ああ、任せてくれ。新型のアーマードライダーについては湊君にマニュアルを持たせたから

 後で彼女から受け取りたまえ。では、私は当日の準備と研究に戻るとするよ」

 

言い残して、凌馬は研究室がある方へと歩いて行ってしまった。

さて、私も来たという神のもとに向かわねばなるまい。

 

――――

 

応接間に居たのは、黒いローブを纏った私と同じくらいの年齢の男性。

オーディン殿が老人の姿であったこと、そして神と言えば年老いた男性か

若い女性のイメージがあったため、目の前の男性をすぐに神だと認識できなかった。

応対していたスタッフから引継ぎを行い、居住まいを正す。

 

「主任、こちらが……」

 

「オーディンと対話したというのは貴公だな? 我はロキ。北欧に名を連ねる神である――

 

 ――が、別に人間の世界をどうこうしに来たわけではない。それも北欧諸国ならいざ知らず

 極東の島国の人間になど、我は興味がない」

 

……高圧的な物言いに、思うところが無いわけでもない。

だが、事を荒立てぬように私は事務的に対応する。

 

「ユグドラシル・コーポレーション開発主任呉島貴虎です。

 遠路はるばる、お疲れさまでした。お早いご到着ですが、此度はどのようなご用件で?」

 

「隠しておいてよく言うな。知っているだろう? クロスゲートと名付けられた

 お前たちの塔の上空にも存在している、環状の建造物についてだ。それの事を知りたくてな」

 

クロスゲートについて調べに来たのか。隠蔽はあくまでも一般市民への混乱を抑止するためだから

神々に通用するわけがないのは織り込み済みだが……いきなりか。

凌馬ならともかく、私はクロスゲートについては碌な事を知らないんだがな……

 

「その件については、私よりも詳しいものがおります。そのものに確認をとりますので……」

 

「いや。クロスゲートがどういうものかは既に日本神話の神に確認をとった。

 よって、かの門が持つ性質などについて我に教授する必要はない。

 その方向ではなく、それが存在するという事実について

 貴公が抱くクロスゲートに関する感想を伺いたい」

 

……むぅ。私個人の意見を聞きたいのか?

それともまさかとは思うが、人類の総意を聞きたいのか?

いや、こんな非公式の場で後者というのは考えにくいが……

質問に質問で返すのは無礼であることは承知ではあるが、不用意に答えるわけにはいかない。

無礼を承知で、私は先方に尋ねてみることにした。

 

「それは個人としての意見ですか? それとも総意としての感想ですか?

 質問に質問で返すようで、無礼ではありますが」

 

「フッ、言わずともわかると思ったがな。

 いいか、人の子よ。当日は我ら神々の取り決めを交わす時だ。

 その場において、人が割って入る隙などあると思うか?

 だが、我は人の意見も耳に入れておきたい。

 そうなれば、会議とは関係のない場において問うのが筋というものであろう?」

 

傲慢不遜という言葉を体現したかのような身振り手振りを交え、ロキと名乗った神は語る。

なるほど、語ることの内容自体におかしなところはない。

だがそうなると、何故人間の意見を耳にしたいのか。何故私なのか。

そうした部分が、気になってしまう。

 

「……私はあれについて、異界から怪物を呼び込む門であるという事しか聞いておりません。

 そしてそれは、人類に、世界にとって害悪である――そう、私は認識しております」

 

「そうか、それが貴公の考えか。その異界から怪物を呼び込む門……

 ……それはつまり、この建物の地下にも存在する裂け目もそういう事になるのかな?」

 

――何っ!? この神はクラックの事も知っているのか!?

ならば、インベスの事も知っていると考えるのが自然か……

これは、ユグドラシルの情報管理ももう少ししっかりせねばなるまいな……

 

「方や、災いを呼び込む呪いの門。方や、その力を利用した資源。

 だがその実は、侵略を是とする外来の異物。

 我が眼には、さして変わらぬように映るがな?

 

 ……ああ、別にその裂け目を閉じろといっているわけではない。

 さっきも言ったが、我は極東の島国の人間の動向などに興味はない。

 ただ、貴公らが抱えている矛盾について、どう考えているのかを知りたいだけだ。

 なに、ただの意地の悪い神の好奇心だと思えばいい」

 

「……インベスもアインストも、あなたの仰る通りその本質は変わらないのかもしれません。

 そして、門から生まれ出づる力も、我々人類には過ぎたるものかもしれません。

 ですが、それは平時においての事。今はアインストやインベスという脅威が人の住処を脅かし

 禍の団(カオス・ブリゲート)なるテロ組織も活動している状態。なれば、呪いの門の力と言えども

 人を守るための力に昇華できるのならば、揮うべきであると考えております」

 

……嘘は、吐いていない。そもそもアーマードライダーの力の源たるロックシードは

インベスが生育させている果実から作られているのだ。

私は凌馬ではないから原理までは知らないが、ただ斬月として形を成した力。

友から託された、人類を守るための力。それは強大であるが故に、向け方を誤ってはならない。

 

「模範的な回答だな。オーディンやその付き人ならばともかく

 我としてはそのような凡庸な答えは些か肩透かし気味だが……

 我が嗜好など、どうでもいい事だ。

 

 ……人の子よ。北欧のトリックスターとも称されし我から一つ忠告だ。

 『崇高な志があれど、人は矛盾を孕んで生きるもの』だ。

 如何な人間と言えど、この定めからは逃れられん。

 精々、己が矛盾に押し潰されないようにすることだな」

 

……矛盾、か。まさかあの神は凍結した「プロジェクト・アーク」の事も知っているのか?

 

割に合わないという尤もらしい理由で凍結となった、人類の存続のために人類を間引く計画。

それがプロジェクト・アークの全貌……だった。

初めは確認されたインベスによる被害への対策から広がっていった話ではあるものの

それが凍結に至った経緯がとても俗的なもので思い出すのも嫌になるが……

プロジェクトを主導していた私にしてみれば、情けない話だが肩の荷が下りたのも事実だ。

人類のおよそ85%を間引くなど、現実的ではなさすぎる。

いくら人類が存続するためとはいえ、だ。

 

だが、せざるを得ない環境だったならば

私は躊躇わずに85%を間引く計画を推進できただろうか。

いや、今私がすべきことは最善を尽くし

凍結した85%の間引きを、再開させるような事態を招かないことだ。

その為ならば――

 

「いや、大変結構。オーディンと邂逅したという人の子の意見、参考にさせてもらった。

 今この世界は、先ほど話したように異界からの怪異が押し寄せるのみならず

 混沌によって覆われようとしているからな。それにどう立ち向かうか。

 神の視点から、人間の立ち振る舞いを観察しようと思ってな。

 貴公らがどう思おうが、我ら神々にとって人間の一挙手一投足は大変興味深いのだ。

 敢えて露悪的に言えば……モルモットだな」

 

……やはり、我々人類の力など、強大な力の前には吹けば飛ぶ程度の影響しか齎せないのか。

ロキの言う「モルモット」とは、そういうことかもしれない。

行動を起こして結果を齎す。当事者には必死でも、観察者には片手間だ。

凌馬の仕事ぶりを見ていたからこそ、わかってしまう。

 

……プロジェクト・アーク推進の際には、非合法すれすれな方法ながらも

多数のモルモットを用意したが……私もまた、モルモットだったという事か……

 

「貴公がオーディンと何を話したのかまでは知らぬ。

 だが、如何に人に寄り添う神と言えども、その本質は神であるという事だ。

 神は神であり、人ではない。人が神になれぬように、神もまた、人にはなれん。

 ……所詮、オーディンや彼奴等の為していることは人間の真似事……遊戯よ」

 

「……は」

 

思わず、生返事を返してしまった。

オーディン殿の第一印象は好々爺と言うべきものであったが

この神の印象は……超然めいている。神とはかくあるべきなのかもしれないが……

私には、よくわからない。

 

「さて、話し込んでしまったな。

 オーディンが語っていた人間、どれほどのものかと思ったが……まぁ、及第点としよう。

 

 では、さらばだ呉島貴虎。努々、使命感に押し潰されないようにすることだな」

 

ロキが黒いローブを翻すと、その姿は初めからそこになかったかのように消え去っていた。

確か……ロキは北欧神話では悪神と言われているが

それだけにとどまらない性質を持っている、だったな。

 

……人間もそんなものだ。純粋な人間も、悪事を犯す。

悪漢と呼ばれるものにも、正義や信念はある。

オーディン殿と言い、ロキ殿と言い。そして我が国の天照大神と言い。

私が出会った神は、人とそう変わらぬ心を持っているのやもしれんな。




【朗報】プロジェクト・アーク凍結済み

三大勢力のやらかしがあったりしてますが、侵食という意味では
鎧武原作ほどやばい事態じゃないので、早急な対応も言うほど必要ではないため
プロジェクト・アークは凍結と相成りました。
計算すると本文で触れてる通り85%間引きになりますからね。
割に合わないです。人類の存続がかかってるとは言え。

あと、三大勢力的にもプロジェクト・アークは死活問題なので
そっちの方面からも圧力がかかった可能性もあります。
お前らが言うな、って話ですが。

現在進行形でヤバい事態ですが
今更プロジェクト・アークを再始動させてもどうにもならない、ってのが
お偉いさんの意見。事前準備でどうにかなるレベル超えてますからね。

>ヤタガラス
葛葉ライドウより。戦後解体してそうな組織ではありますが。
(あの世界で史実通り世界大戦が起こったかどうかってのは別として)
ただ、現存していればとてつもなく頼りになる組織って気はします。

>新型ロックシードとドライバー
拙作では斬月のロールアウトからそれほど経ってないはずなのにもう完成。
ユグドラシル驚異の技術力です。ソーダァ。

>光実
一応、貴虎の手伝いの他に天樹高校に通学しています。
学校生活は鎧武原作同様なのでアレですが……

でも駒王学園への転校は嫌がるだろうなぁ。

>貴虎
いや、フューラー演説無かったらこの世界でも悪魔だの神器だのの話出しても
「疲れているのか?」案件だったとは思うんです。
今回、思いっきりロキと問答繰り広げてますけど。

因みに光実にまた重要な仕事を振ってますが
拙作では兄弟仲は今のところこじれてません。やったね。

……その分、凌馬がアレなことになってますけど。


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Melon7. 閉ざす者の問いかけ Bパート

Bパートです。
今回は貴虎ニーサンのプライベート。
なのでかなり拙作独自設定を交えてます。

設定の擦り合わせを考えるのは難しいけどたーのしー


――07:26 P.M.

  呉島(くれしま)家・屋敷

 

「兄さん、北欧の神に会ったんだって?」

 

「ああ。大した話はしてないがな」

 

その日の仕事を終え、家で光実(みつざね)とその日に起きたことの情報交換を行う。

その最大の原因は、タワー上空のクロスゲートというのが何とも言えないが

光実と面と向かって話す機会は、最近でこそ出来てきたが

今まで確保できていたかどうかと言われると怪しい。

ただ、今こうして話しているのも内容が内容なだけに

仕事の延長線上になってしまわないかが心配だが。

 

「光実の方は学校はどうだったんだ?」

 

「……平和だよ。他所の――特に、駒王町の有様と比べたら同じ日本なのかって位には平和だよ。

 町には頻繁ではないにせよインベスやアインストが目撃されてるってのに」

 

光実の言う通り、沢芽(ざわめ)市は駒王町と比べれば平和だ。

いや、あの町が特別おかしいレベルであるのは国会でも指摘される規模ではあるが。

だが、だからって沢芽市の防衛を疎かにしていい理由にはならない。

何せ、もう2日後には会談を控えているのだ。警備は厳重にすべきだろう。

 

「そうだ。凌馬(りょうま)から話があったかもしれないが

 明後日の神仏同盟と北欧神話の会談に重なる形で駒王学園から企業見学の学生が来る。

 光実には凌馬と共に案内に回ってほしい」

 

「……わかったよ」

 

……む? 随分と不機嫌そうだな?

駒王学園の生徒の相手をするのが嫌なのか、凌馬と組むのが嫌なのか。

まぁ、凌馬は性格の癖が強すぎるのは私も認めるが……

 

「……不服か?」

 

「兄さんがやれって言うんならやるけど……

 正直言って、駒王学園の生徒ってあまりいい噂を聞かないんだ。

 こういう事は言いたくないけど……あんなクズの相手をするんなら

 新型ロックシードのテストに参加した方が、よほどためになるんじゃないかって気はするよ」

 

「……光実。今のは本当に失言だぞ。

 ノブレス・オブリージュ、お前も知らないわけではあるまい?」

 

高貴なるものには、高貴なる責務が伴う。それは決して、他者を見下す理由にはならないし

理由にしてはならない。私もそう思っていたが……プロジェクト・アークの件を顧みたり

ロキに指摘されたことを思い返せば、見下していたのは私だったのかもしれないな……

 

「……わかったよ。ただ、ロックシードとドライバーは持っていくよ。

 そのやって来る駒王学園の生徒が悪魔だったりしたら、生身じゃ太刀打ちできないしね。

 駒王学園にはいるらしいんだ、人間界に紛れ込んだ悪魔が」

 

光実の提案を受理する。光実が言うには、駒王学園という学校は悪魔の勢力下にある学校らしい。

そうなれば、学校内に悪魔が巣食っている可能性は高いだろう。

そして、その悪魔が人間に危害を加えるタイプの悪魔ならば……

アーマードライダーの力は必要だ。

 

そういえば、悪魔についてロキは何も言っていなかったな。

という事は、フューラー演説で語られた以上の情報は提供する気はないという事か

或いは、フューラー演説の内容は事実と相違ないという事だろう。

 

その事を考えれば、光実をこの件に回したのは失敗だったかもしれん。

だが、私が出向いてどうなるというのだ。ここは……光実に頼るとするか。

光実にも龍玄(りゅうげん)がある以上、下手な悪魔に後れをとることは無いと思うが……

一応、凌馬にもこの件は話しておくか。

 

「悪魔が出向いてくるとなると、話は変わって来るな。

 私の方からも凌馬には話しておくが、万が一にも会談に影響が出ては拙い。

 こちらでも最善は尽くすが、光実もくれぐれも気を付けてくれ」

 

……そうだ。何が来ようとも、我々のやることは変わらない。

世界を取り巻いている悪意から、人類を守ること。

それが力を持つ呉島の――私の為すべきことだ。

 

貴虎(たかとら)お坊ちゃま、アップルパイが焼きあがりました」

 

「……フッ、あの『不味い』アップルパイか。楽しみだな。

 それと藤果(とうか)。前にも言ったがお坊ちゃまはやめてくれ。私ももうそんな年じゃないし

 光実が見ているんだぞ。やめてくれないか」

 

私達に声をかけてくるのは呉島家に仕える使用人、朱月(あかつき)藤果。

私にとっては幼いころから共に過ごしてきた、家族のようなものだ。

私も光実も、それぞれ職務や勉学に務めているため

その間の家事全般を彼女に一任している形だ。

その腕は料理においてもそつなく奮われるが……何故だか、アップルパイだけはやたらと不味い。

私も仕事柄、シャルモンの洋菓子を食す事はあるが……

それと比較することが、何かの間違いだというレベルで酷いのだ。

 

……だが、私はこの「不味い」アップルパイが嫌いではない。

確かにシャルモンの洋菓子は「美味い」が、「美味い」以上の付加価値がない。

良くも悪くもプロの仕事だ。

 

対して、件のアップルパイは同じ洋菓子とは言えないレベルで「不味い」。

だが、それでもそのアップルパイを藤果と、光実と一緒に食す時間は……

私にとっては、かけがえのない時間だ。

だから、私はシャルモンでアップルパイだけは頼んだことがない。

藤果の「不味い」アップルパイ以上のものは、如何にシャルモンと言えど

用意できないだろうと思っているからだ。

 

「フフッ、僕は席を外した方がいいかい? アップルパイは部屋で食べるし。

 それに、兄さんだって逆におっさんって言う年でもないだろう?」

 

「生意気を言うな光実。態々部屋で食わずとも、ここで食べていけ」

 

……全く、光実め。要らんところが子供らしくないな。

いや、あいつも高校生だ。子供ではあるが、いうほど子供でもあるまい。

だからこそ私はあいつに仕事の手伝いを可能な限りさせているのだ。

 

それに、今この世界を取り巻いている情勢は、一言では言い表せない状態だ。

昼間、ロキ殿が言っていた事にも関連するのだろうが、だとしても我々人類がなすことは

人らしくありつつ、懸命に生きるまでだ。その導となるのが、呉島のやるべきこと……

 

……そう、親父はそう言っていたがな。

私は言うほど、人類は呉島が先導すべきだとは思っていない。

人が押し付けた考えなど、長続きするわけがない。

そんな脆いもので人がまとまるかと言われれば、否だ。

だからこそ、私は親父とは別のノブリス・オブリージュを実践したいのだが……

 

「難しい顔をされては、不味いアップルパイがさらに不味くなりますよ?」

 

「……む、あれ以上不味くなられては食えたものではなくなるな。

 そうだな、一息付けよう。お茶も頼めるか?」

 

私の問いかけに、藤果は二つ返事で了承したかと思えば

瞬く間に人数分のティーセットが出てきた。彼女の手際の良さは、昔からよく知っている。

そんな実力を持った彼女だからこそ、我々は期待に応えなければならない。

それは凌馬の知識にも言えることだ。

まぁ尤も、こちらに関しては向こうはどこ吹く風なのだろうが。

 

少なくとも私は、そうありたい。

光実もできればそうして欲しいが、光実にも光実の生き方がある。

実際に決めるのは光実自身だが、私がその手本になれればそれに越したことは無い。

そこまで考えたところで、私は頭を切り替えて不味いアップルパイを一同で食べることにした。

 

――――

 

夜。

私は当日に備え、警備員用の見取り図を更新したり

企業見学に参加する生徒の名簿を作ったりしていた。

この程度なら、片手間で出来る以上空き時間に速やかに済ませてしまいたい。

そう考え、作業をしていた。

 

駒王学園の生徒名簿を作ろうというところで……不意に視線を感じた。

振り返ると、藤果がお茶を用意して立っていたのだ。

 

「すみません、ノックしたのですが返事が無かったもので……」

 

「いや、私の不注意だ。お茶はありがたくいただこう」

 

お茶を飲みながら、名簿作成を仕上げる。本当にこの程度は片手間の仕事だ。

……なので、当日が円滑に進むように少し生徒の情報を見ることにする。

その情報を見た時、私は何かしらの違和感を覚えた。

 

――これは作られたデータ、あるいは改竄が加えられている、と。

何のために? 考えられるのは、身分を偽る必要がある時くらいか。

まぁ、それを暴いたところで高校生に何ができるというのだ。

だが……グレモリー、グレモリーか……どこかで聞いた気がするが……

 

 

……思い出した。トルキア共和国だ。中東某所にあるこの国は

国一つ単位でユグドラシルの研究施設である。

困窮していた国を経済支援の名目でユグドラシルが出資。

その代価としてユグドラシルの研究に全面協力させたという経緯がある。

 

その国で、72近い家があり、家同士で何やらやっているらしい。

私ではなく鎮宮(しずみや)家が陣頭指揮を執っているため、詳しくは知らないが……

確かその72近い家の中に、グレモリーというのがあったはずだ。

 

最初そこの出身かと思ったが、このリアス・グレモリーという少女は

どちらかと言えば欧米系の顔立ちだ。中東に位置するトルキアの人種とは微妙に噛み合わない。

まぁあの国はアジア系の人種が多いのだが、そうだとしても噛み合わない。

まぁ、海外からやってきている以上は出稼ぎか、良家の子女と言ったところか。

前者ならともかく、後者が出先の国でもめ事を起こすとは考えにくい。

国際問題になりかねないからだ。

そう考え、私はこの少女については最低限の情報を閲覧するに留める。

そうしてある程度読み進めたところで、後ろに立っている藤果の視線を感じた。

 

「……藤果。君は口が堅いから心配してないが、これは一応仕事の資料だ。

 盗み見は感心しかねるぞ」

 

「あ、申し訳ありません! ですが、この少女の名前に見覚えが……」

 

そう言って藤果が指さしたのは、姫島朱乃という黒髪の少女であった。

藤果は確か孤児院出身だったと思うが……その時の知り合いか?

だが、彼女の経歴も見ると姫島家という五大宗家の一つの跡取りだったが

ある時、姫島家は宗主である姫島朱璃が謎の怪死を遂げたことで実質の断絶状態になっている。

この朱乃を次期宗主に据えることなく、だ。

当時彼女が幼かったというのもあるのかもしれんが……

強引にでも、宗主を据えるべきだったのではないか? まぁ、私が関与すべきことではないか。

 

それより。何故藤果が姫島の跡取りの名前を? 私には、その方が気になった。

 

「藤果、何故彼女の名前に見覚えが?」

 

「いえ……初めてお話しますが、私のいた家、朱月家は姫島の分家だったのです。

 ですがある時、朱月家は姫島家によって滅ぼされてしまいました。

 その時に両親を失い、私は沢芽児童保育館に引き取られました。

 後の事は、お坊ちゃまもご存じのとおりです。

 ……最も、朱月が姫島に滅ぼされたという事実を知ったのは最近の事ですが」

 

分家が本家に滅ぼされる、か。跡取り問題でもあったのだろうか。

そうなれば、藤果にとって姫島は親の仇の一族というわけか。

何かしらの問題が起こるというわけではないだろうが……

全く、面倒な生徒がやってきてくれたものだな。

 

「藤果。態々言う事でもないと思うが……変な気は起こすな。

 お前に何かあれば、光実も、私も悲しむ。当日はいつも通り我が家の留守を頼むぞ」

 

「……はい」

 

茶器を藤果に返し、私は明日に備えて眠ることにした。

会談も、企業見学も一筋縄ではいかなさそうだ。そんな気がしてならない。




色々独自設定交えてます。

>朱月藤果
鎧武Vシネより。
拙作では存命ですが、沢芽児童保育館出身というところは変わってません。
また、拙作設定として実家が姫島の分家ということになってます。
名字とは言え「朱」の文字を冠している事と
朱乃絡みというか姫島家のエピソードの補強(出来たら)の予定です。

……あと、堕天の狗神の設定を拙作では碌に拾えないので。
(拙作時間軸では幾瀬鳶雄が過去に死んでますし)

>姫島家
いや、朱璃殺したりした件を被害者側の言い分だけを真に受けたら
こういうことしてもおかしくないと思うんです。
要は、朱月家(分家)が姫島家(本家)よりも強い力を持っていた。
だから、邪魔になった姫島家が朱月家を滅ぼした。
藤果はその悲劇を運よく(?)回避して現在に至る、と。
そういえば呉島と姫島も似てますしね(島しかあってない)。

>トルキア共和国
舞台斬月より。
設定はほぼ舞台斬月と同じですが
こちらでは作中72柱の名前がちょくちょく出ていたことを拾ってます。
それ故に、貴虎ニーサンが勘違いする羽目に。

>光実
今のところ黒化フラグは立ってません。兄弟仲も悪くないですし。
全く違う要因で黒化しそうな気配はありますが。

……ほら、シャドウとか顕現する下地はこれでもかって整ってますし?


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Will8. セージ沢芽市を歩く Aパート

気付けば元号が変わってますね。
前回がパート跨ぎで元号変更と相成りましたが
それほど話が進んでないという……

かと言ってブレンほどネタに振り切ったわけでもなく。
というか誰が想像できるんですか数年前のエイプリルフールが実現するなんて。


……最近、エイプリルフールって嘘企画を当日に出しておいて
それを実現させてサプラーイするための企画になってません?

いや、どことは言いませんよ? 戦後70年以上経って1/1瑞雲作ったり
スケート界の重鎮やらロックバンドメンバーやら呼んだり
今度シャア専用よろしく車作ろうとしてるところなんて知りませんよ?


今日は、凰蓮(おうれん)軍曹による訓練は無いそうだ。聞けば――

 

「いいこと? 明日はいよいよ本番よ。だから今日はコンディションを整えなさい。

 明日本調子でなかったら、今までの訓練は全て無駄になってしまうわ。

 そういうわけで今日の訓練は行わないけど、羽目を外し過ぎないように。いいわね?」

 

凰蓮軍曹にそう言われたこともあり、そして当の本人が勧めて来る洋菓子店があるという事なので

今日はそれに付き合う事にする。

 

――シャルモン。それがその洋菓子店の名前である。

開店前という事で、他にお客さんは見当たらない。

聞いた話だと、結構な有名店らしいのでそりゃあ普通の営業時間に入るわけにはいかないか。

 

ともかく、俺は凰蓮軍曹に案内されて店内に入る。

流石に厨房には入れなかったが、中では俺より少し年上の男性二人が菓子作りにいそしんでいた。

凰蓮軍曹が何か語っている辺り、店員――それも、凰蓮軍曹のパティシエとしての

弟子かなにかだろうか。

本人から聞いた話だが、凰蓮軍曹はフランス外人部隊出身という一面の他に

世界でも有数の腕を持つパティシエであるという。

その経営している店が沢芽市にある、シャルモンだとか。

話を円滑に進めるため、俺はこっそり記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を起動させた。

 

――いや、お前は何をこの一週間弱で特訓してたんだって話もあるかもしれない。

だが、屁理屈だが今は戦闘中じゃない。凰蓮軍曹に語ったら鼻で笑われそうだが

神器(セイクリッド・ギア)は何も軍事利用するだけのものじゃない。

その代替案がこうしてプライバシー侵害とカンニングってのは些か、アレだが。

 

……ふむ、粗暴な感じの方が初瀬亮二(はせりょうじ)さん、眼鏡の方が城乃内秀保(じょうのうちひでやす)さんか。

二人とも、このシャルモンでパティシエの修行をしているらしい。

そして、軍人としての訓練も同時に受けているとのことなので、考え方によっちゃ

この二人は俺の兄弟子という事になるのか。

 

水を飲みながら待っていると、奥からシュークリームを持って凰蓮軍曹がやって来た。

見た目だけなら、コンビニのそれとそう大差ないが……これは口に出さない方がいいだろう。

 

Je t'ai fait attendre(お待たせ), 特製のシュークリームよ。

 今日は特別におごりという事にしておくわ」

 

「いただきます……これは、うん、うまい」

 

思わず声が漏れた。そういえば大日如来様――天道寛(てんどうひろ)

デザートはあまり作らないイメージがある。

彼にゴチになったのは鯖味噌やカレーと言った料理だ。

それでも料理人としての腕は確かだし、料理評論家もしていたはずなので

凰蓮軍曹と料理対決とかしたら集客効果が見込めそうだ、と

テレビ局関係者みたいなことを思いながら、シュークリームに舌鼓を打つ。

 

「そういえば、沢芽(ざわめ)市にはユグドラシル以外で何か観光名所的なものってあります?」

 

「ユグドラシル以外……となると難しいわね。

 何せこの町はユグドラシルの企業都市みたいなものだし。

 ワテクシも普段はお店が忙しいから観光までは手付かずなのよ。ごめんなさいね」

 

凰蓮軍曹はパティシエで元軍人だ。沢芽市にいるのだって成り行き上だろう。

さて、そうなると沢芽市について知ってそうな人となると……

 

シュークリームについていた紅茶を飲みながら考えていると、厨房から二人の男性が顔を出す。

城乃内さんと初瀬さん、だったか。

 

「だったらドルーパーズってところに行ってみたらどうだ?

 また甘いもので被っちまうけど、果物とパフェならうちにも引けを取らないぜ?」

 

「……そうね、確かにあそこの果物とパフェに関して『だけ』は

 ワテクシも認めてあげてもよくってよ。

 けれど! ケーキに関してはうちの方が上手よ! それはお客様が証明してくださってるわ!」

 

初瀬さんの提案に、凰蓮軍曹は難しい顔をしながらも同意していた。

あー……こっちはケーキ、そっちはパフェとスイーツで被ってるもんな。

そりゃあ、多少は意識するか。凰蓮軍曹も大人げなく張り合っている。

 

「俺らもビートライダーズやってた頃は世話になったしな、あの店。

 そういう意味では客層もうちとはちょっと違うんじゃないかな。

 他のお客さんは凰蓮さんの方がうまいって言ってるけど

 お前もそうなのかどうかは食べてみてから決めてもいいんじゃないか? なぁ弟弟子君?」

 

眼鏡を直しながら、城乃内さんがドルーパーズを勧めて来る。

なるほど、客層の話か。それなら、沢芽市って場所を把握するにはいいかもしれない。

それに、食べ比べは非常に興味がある。

よし、では折角提案されたことだし、ドルーパーズに行ってみるとしよう。

 

「ありがとうございます。では凰蓮軍曹、また明日に」

 

Au revoir(またね). 明日は訓練の成果を存分に見せてやりなさい」

 

それは立ち振る舞いの意味だろう、と自分に言い聞かせた。

腕っぷしの意味で成果を披露するって事は、即ち問題が起きたという事だ。

そんな事態、起きないに越したことは無い。

……んだけど、クロスゲートってもんがある以上なぁ……

こうして沢芽市観光する上でも、警戒はしておくべきか。

 

とりあえず、今はドルーパーズだ。

凰蓮軍曹や初瀬さん、城乃内さんに別れを告げて、俺は沢芽市の市街地に繰り出した。

 

――――

 

……結論から言おう。軽く迷った。

 

店の名前は聞いたが、場所を聞きそびれたのだ。

そしてさらに土地勘のない沢芽市。迂闊にバイクを出したら悪目立ちすると考え

徒歩で移動したのも仇になった。ひたすらうろうろ似たような場所を歩き回っていたのだ。

 

ある程度歩いたところで、諦めて記録再生大図鑑をナビにして移動することにした。

聞き込みを行ってもよかったが、ビートライダーズのたまり場って聞いてからは

この町におけるビートライダーズの立ち位置を考えると、少々躊躇われた。

なにせ、「カラーギャングの拠点のお店を教えてくれ」なんて言ってるようなものだ。

流石にそれは問題があると思い、聞き込みは控えた。

 

……たとえ、ビートライダーズの事情を詳しく知らない外部出身とは言え、だ。

 

そうこうしているうちに、ドルーパーズに到着。

朝早く出た割には、もう営業していた。それだけ道に迷ったのか。

俺は決して方向音痴ではないと思うが……まぁ、いいか。

 

店内で目を引いたのは、うず高く積まれた果物の塔。

いや、この店がフルーツパーラーだってのは聞いてたけど、それにしたって。

早速注文を……と思ったら、でかでかと張られている写真に目が行った。

 

――「世界の破壊者」パフェ、挑戦者求ム。

 

なんだこれ。話のタネに頼んでみるか。

俺はさっそく勤務態度の無茶苦茶悪い店員さんに注文をする。

奥にいるマスターらしき人はいい人に見えるのに

なんでこの人はこんなに勤務態度が悪いんだろうか。

 

パフェが出てくるまでの間、俺は水を飲みながら歩き疲れた足を投げ出しながら寛いでいた。

すると、今までいろいろな理由で黙っていたフリッケンが口を開く。

 

『あのパフェ、何かすっごく見覚えがあるんだが……』

 

お前もそう思うか。以前見たお前の風貌に似てるっちゃ似てるんだよな。

でも俺以外にフリッケンを目視した奴なんてそれこそフリッケンのある意味生みの親な

異世界の龍、白金龍(プラチナム・ドラゴン)以外にいないはずだしな?

マシンキャバリアーや俺の昇格した際の装備は、面影を残すだけでそれそのものではない。

だから偶然だろう、で済ませることにした。変な偶然だが、説明がつかない。

 

『……それより。窓側の席見てみろよ』

 

今度はアモンが店の片隅にある窓側の席を指し示し――頭の中に情報が入ってくるのだ――

注視するように促される。すると、そこには髭の生えた男がアタッシュケースを片手に

何やら商談をしている。

この時、悪魔だったならば話している内容を聞き取る位は出来たのかもしれないが

今の俺にそれは出来ないし、別段悪魔でないことに後悔はしてない。

 

「……見るからに怪しい商談だが、アレがどうしたんだ?」

 

『あの男が持ってるの、インベス呼び出す奴じゃないか?』

 

何っ!? そんな危険なものを往来で取引していいのか!?

俺は思わず立ち上がったが、さっきの勤務態度が無茶苦茶悪い店員さんに制止させられた。

 

「店内での揉め事はご法度なんで」

 

……それもそうか。すみませんでした。謝った後、俺は改めて着席する。

だが、目の前でインベス呼び出す道具の取引が行われているというのに

何もできないのもな……クソッ。

 

歯噛みしていると、注文した「世界の破壊者」パフェが出てきた。

てんこ盛りの苺にバーコードのように並んだチョコ、それに緑色の……ライムか?

縦に切れ目の入ったライムが2個飾られた、やはり何かの顔にも見えるパフェ。

 

……それにしてもでかい。世界じゃなくて胃袋の破壊者じゃないかこれ?

これは、今度白音さんを連れてくるといいかもしれな……

 

……べっ、別にデートしたいとかそういう意味じゃなく!

いつぞやのケーキバイキングみたくこういうの興味ありそうだからと思っただけで!

 

『……何も言ってないぞ、セージ』

 

……ぐぬぬ。

こういう時に心を読み透かすのはやめてくれないか。フリッケンも、アモンも。

出てきたパフェと格闘している間に、例の男はどこかに行ってしまったらしい。

味は確かにシャルモンの方が客観的に見て上だが

ボリュームと店のとっつき易さではドルーパーズに軍配が上がる……かもしれない。

まぁ、接客もシャルモンに軍配が上がるが。

 

……世界の破壊者パフェ。

辛うじて完食できたが、暫くその場から動けなかった。

そして、何故だかこう叫びたくなった。

 

――おのれ〇。〇〇〇!!

 

声にならない叫びを心の中で上げながら、俺は店内を眺めていた。




……すみません。
今回あまり筆が乗ってません。
なので一際短いです。

>木の実組
城乃内が指摘するように、セージは彼らの弟弟子です。
パティシエではありませんが。
プルガトリオで軽く触れたかもしれませんが、初瀬ちゃんも存命です。
さながら鎧武劇場版みたいなことになってますが。

因みに、パティシエ修行が忙しすぎてビートライダーズ活動に関してはほぼ休止状態です。
一応、顔はききますが。

>ドルーパーズ
出てきたパフェは映画「仮面ライダー大戦」からディケイドの顔したあのパフェ。
セージは一応一人で完食している辺り
士と同程度の胃袋は持っていることになります。
規模から白音の名前を出してますが、考え方によっちゃちと失礼なセージ。
白音=大食いなイメージが確立しつつあります。姉に比べたら有情かもしれませんが。

……それより堂々とロックシードの取引やってる辺り
鎧武原作より店内治安悪くなってるかも……?


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Will8. セージ沢芽市を歩く Bパート

今度は長めです。
ちょっと配分ミスったかもしれません。

……実のところは筆のノリ具合に斑があっただけなんですけどね。


腹が落ち着くまでの間、ぼんやりと店内を眺めていた。

さっき見かけた怪しい売人はもういない。客と思しき人物も、同じく。

まばらな客を眺めながら、満腹で頭がぼんやりしているところにマスターから話を振られた。

 

「いやぁ、びっくりしちゃったよ。まさか午前中で『世界の破壊者』パフェが

 2つも出るなんてさ。おまけに2つとも完食だもんね。君フードファイターか何か?」

 

「……や、違いますよ?」

 

それなりに健啖ではあると思っているが、フードファイターやってる気はない。

他の同年代に比べたら、普通かちょっとよく食べる程度だと思ってる。

白音さん基準を、俺に当てはめたらそりゃあフードファイターやれるかもしれないが。

 

ふと、気になったので俺はそのパフェを完食したもう一人について聞いてみると

マスターはあっさりと向こうの席の人、と教えてくれた。

振り返ってみると……

 

 

…………!?

 

 

「あっ、あまっ、あっ……!!」

 

声にならない声を上げる俺の下に、旧海軍将校の軍服を着た男性がやってきて口を押さえる。

もごっ、苦しい。腹は落ち着いてきたが、違う意味で苦しい。

 

「……お静かに。ここにはお忍びですが、一応皇室関係者でもありますので

 不要な騒ぎは起こさないようにお願いします」

 

皇室関係者がなんでカラーギャングのたまり場にいるんだよ!? と思いもしたが

それについて突っ込むのも野暮かもしれない。

そういえば、皇室関係者でやたらと大食いなのは……

 

……あのお方を皇室関係者というのは、いやそうなのかもしれないけど……

 

「あっ、あなたは……あ、楽にしてください。

 公の場ならともかく、ここで畏まられても困りますし」

 

……天照様。いつぞやの会談の時のような着物ではなく

リブ生地のニットにアイボリーのジーンズという

ラフな出で立ちでこの店に来ていた。そのラフな格好が

余計に付き人の格好と比較して浮いてしまっているが。

彼女こそ、明日の会談に俺に警護に入るよう指名された一柱でもあらせられる。

俺の記憶では、天照様は白音さんと互角かそれ以上の健啖家だったはずだ。

そんな彼女ならば、あの「世界の破壊者」パフェを完食していても不思議ではない。

 

「……つかぬことをお聞きしますが、何故このような場所に?」

 

「駒王町でも国民の皆様の生活を体験していたんですよ?

 ……あまり参考になりませんでしたが。

 そこで、今度は沢芽(ざわめ)市でも市民の皆様がどういう生活をなさっているのか、興味がありまして」

 

素性を知っている――いや、知ってしまっているというべきだろうか――俺は声を抑えながら

天照様に何故このような下々の場所におわせられるのかとお尋ねする。

そして答えられた内容は、まるでどこかの八代将軍みたいなお答えだった。

駒王町の次は沢芽市か。この分だと珠閒瑠(すまる)市にも行きそうだなこのお方。

いや、或いはもう行ったのかもしれないが。

 

それにしても、言い伝えにあるのとはまるで合致しないな。

不敬罪もいいところなので口には出せないが、どちらかと言えばインドア派だったと思うのだが。

まぁ、あまりインドアされても太陽が無くなってしまうのでこれくらいがいいのかもしれないが。

 

「今回は北欧の皆様とお話させていただくにあたりまして

 我が方からも前回来ていない者をお呼びしております。

 ここは私の私的な用事ですので同伴してはおりませんが

 今回は我が弟も同時に呼んでおります」

 

天照様の弟……月読様? それとも須佐之男様?

須佐之男様だと要らん騒ぎが起こりそうな……

い、いや三大勢力が関わってない以上それは無いか。多分。

 

俺も今回は前回みたく針の筵に立たされることも無いだろう。というか前回が頭おかしすぎる。

いや、三大勢力には俺は言いたいことは山ほどあるし、多分今もあると思う。

だけど、それを公の場に立たせて俺の口から言わせるってかなり無謀だったと思う。

別に三大勢力と仲良くする気は無いが

あの件で特にサーゼクス辺りにはかなり敵視されてると思う、俺。

まさかあの件の当てつけであの事件が起きた……いや、いくら何でも考えすぎか。

 

「天照様。念のため申し上げておきますが、今回自分は警護のために参加した身です。

 それに、三大勢力ならばいざ知らず北欧神話に対し物申すようなことは現状一切ございません。

 従いまして、今回の会談への自分の参加は……」

 

「くすっ……あ、ごめんなさい。

 心配せずとも、今回は本当にあなたの実力を見越して招集させていただいただけです。

 会談で発言してもらおうとは、考えていませんよ?」

 

実力……ねぇ。天照様はそう仰るが、俺としては凰蓮(おうれん)軍曹の意見の方が納得できる。

いくら腕っぷしが強かろうが、所詮は未成年だ。公の場に表立って出るのは何か間違っている。

いや、裏ならいいってわけじゃなく。寧ろ裏こそ本当にマズい気もするが。

だがここで俺が辞退しては、天照様の顔に泥を塗ることにもなる。

 

……今思ったが、中々面倒な事やらかしてくれてない? この神様。

 

「『何で自分が』とお考えでしたら、そうですね……

 怪異に対して私が信頼を置ける者である、としておいてください。

 超特捜課の皆さんではやはり万が一に際して力不足は否めませんから。

 本来なら、ヤタガラスというれっきとしたこういう場に適した組織があるのですが

 ヤタガラスは終戦を機に規模を大きく縮小されてしまいまして……

 ヤタガラスが全盛期ほどの勢力を持っていれば

 あなたにこんな苦労をさせずに済んだのですが」

 

ヤタガラス? 聞き覚えのないその組織の名前に、付き人の方が説明を補足してくださった。

いや、八咫烏って鳥がこの国にとって重要な鳥ってのは知ってるけど。

 

「『超國家機関ヤタガラス』。かつて大正の時代には、この国の霊的防衛を担い

 百鬼(なきり)、姫島、真羅、櫛橋、童門の五大宗家を束ねたともされる葛葉(くずのは)が代表を務めていました。

 ですが、先の世界大戦で日本はその国力を大きく衰退させ、GHQに接収されました。

 ここは学校で学んでいるでしょうから詳細は省きますが、その際に葛葉も解体され

 今は末裔が探偵をやっているという噂を耳にする程度です。

 それに伴いまして、五大宗家もばらばらとなり、葛葉を併せヤタガラスを形成する

 六歌仙とも呼ばれていましたが、現在ではその力を大きく削がれています。

 

 ……これは私見にすぎませんが、こうなることを見越して

 GHQはヤタガラスの力を削いだのかもしれませんね。

 勿論、GHQと三大勢力が繋がっているってトンデモな仮説が前提ですから

 与太として聞いていただくべき話ですが」

 

……ちょ、ちょっと待ってくれ!

私見とは言え、皇室関係者がそれ言っちゃっていいのかよ!?

日本が戦争に負けたから霊的防衛力が落ちて、その結果三大勢力が跋扈するようになったって!

いや、今の俺に「日本が戦争に負けなかったら」なんて

仮説を持ち出されてもピンとこないけどさ……

戦争に負けた後の価値観で育ってきた俺にしてみたら、ちと受け入れがたい話でもあった。

 

「そこまでにしましょう。戦争の勝ち負けがどうこうよりも、今あることが全てです。

 何もセージさんにヤタガラスの役割の全てを押し付けるつもりはありませんし

 そこまでヤタガラスは安い組織でもありません。

 ただ、あなたの心の赴くままにその力を揮ってほしいのです」

 

「私としては、ヤタガラス再興に力を貸していただければありがたいのですが。

 『ヤタガラスさえあれば』と思った事は、過去幾度かありますので。

 ……それも、三大勢力絡みで」

 

……あー、そういう事か。まぁ、何かしら目的があって俺を呼んだって打ち明けられる方が

こちらとしても信用できる。しかし、国の霊的防衛機関の再興か……

 

「……それ、公務員扱いになりますか?」

 

「表向き存在しない組織なので、よくてNPO法人扱いですね」

 

……チッ。

公務員ならかなり心が揺れ動いたんだが、NPO法人じゃなぁ……進路的にはちょっと。

などと現金な事を考えながら、俺はヤタガラスへの協力に関しては保留とすることにした。

 

理由はいくつかあるが、まず警察とヤタガラスの関連性が見えない。

国の機関である以上、警察と敵対する組織ではないと思うが

警察は説明できる組織であるのに対し、ヤタガラスは説明が困難だ。

今と同じように周囲に話すわけにはいかない。

つまり、訳の分からないNPO法人に加入するってのは色々と、マズい。

それが本当は国営の機関だったとしても。

 

……いや、これが無いから三大勢力が蔓延った、などと考えると

ヤタガラスに手を貸すのは吝かではないんだが……

 

「今はそれで結構ですよ。万物は時代とともに移ろうものですから。

 それに、今の五大宗家や葛葉の事を考えると、前のままヤタガラスを復興させるのは

 最悪ヤタガラスが三大勢力――特に冥界に乗っ取られかねませんからね」

 

「……それもそうですね。出過ぎたことを言いました。

 それより、そろそろお時間が……」

 

俺がヤタガラスへの参加を後ろ向きに考えていると、向こう側からこの話を取り下げてきた。

確かに、姫島と……真羅も、だったっけ。悪魔の手に落ちている。

ここで五大宗家にその力を左右される国防組織を復興させるのはマズいかもしれない。

国防組織が外部勢力に乗っ取られるとか、笑い話にもならない。

 

「あら、もうそんな時間でしたか。ではセージさん、明日はよろしくお願いしますね」

 

付き人に手を引かれながら、天照様はドルーパーズを後にする。

今の話の一部分を聞いていたのか、マスターが俺に

「今のどこかのお偉い人? それともやんごとなきお方!?」とか言ってきたので

俺は笑ってごまかしたが。

 

……言えるわけないだろ、本当の事。フューラー演説抜きにしたって。

 

 

――――

 

 

それから、俺は腹ごなしにビートライダーズのステージを眺めていた。

来る途中、周防巡査が話していた青い部屋――ベルベットルームの扉らしきものが見えたが

どう頑張っても開けられなかったので、結局無視した。

札も出ていないので営業中かどうかさえわからない。

いや、そもそも店なのか? ベルベットルームって。

 

とにかく、そんなわけなのでここでビートライダーズのダンスを眺めていたのだ。

チーム魍魎、チームプリズムリバーは日中のこの時間は活動していないので

城乃内(じょうのうち)さんがこっそり推薦したチームインヴィット。

初瀬(はせ)さんが同じく推薦したチームレイドワイルド。

それから有名なチーム鎧武にチームバロンと、有名どころばかりを眺めていた。

それと、今日はビートライダーズホットラインの公開録音があったらしく

それも併せてステージ前は人でごった返していた。

 

……だからだろうか。俺がここで「ありえない人」を見かけたのは。

 

「――姉さん!?」

 

人混みから離れるように、亜麻色の長い髪の女性が離れていくのを見た。

あの後ろ姿、俺の見間違いでなければ――明日香姉さんだ!!

俺は思わず、後を追いかけた。フリッケンとアモンが何か言ってた気もするが、聞こえなかった。

こんなところで会えるなんて! 俺は、どうしても姉さんに会って話したいことがあった。

そして、言わなければならないことも。

それを言わなければ、どうしても姉さんに伝えなければ。

それだけを考えていたため、俺は周囲の情報収集を完全に怠ってしまっていた。

 

 

――姉さんが歩いて行ったのは、ステージとは全然違う裏路地。

けれど、その先で俺は姉さんを見失ってしまう。

ここまで来ておいて、姉さんを見失うなんて!

 

『……見間違いじゃなかったのか? いや、駒王町を出たって話だから

 沢芽市にいたっておかしくはないだろうけどよ』

 

「あれは確かに姉さんだった! ……だけど、言う通り見間違いだったのかもしれないな……」

 

アモンの指摘に、俺はそう思わざるを得なくなってしまった。

何せ、確かに駒王町で姉さんを見かけるよりは説得力があるが

姉さんが沢芽市に来たという情報など、俺は全く知らない以上

今見たのが姉さんだと断言することが出来ないのだ。

 

ぬか喜びに肩を落としていると、背後から声をかけられる。

どこかで聞いたような声だが……

 

「よう、その様子じゃ尋ね人はいなかったみたいだな?

 だが、俺としちゃお前に用があるからラッキーなんだがな」

 

振り返ると、DJスタイルのややガタイのいい男性が立っていた。

この男は確か……ビートライダーズホットラインのパーソナリティーをやっている――

 

「俺はDJサガラ……って、知ってるかな?

 お前は……警察で噂になってるぜ。超特捜課の高校生特別課員、宮本成二」

 

「番組は聴いたことが……

 って、俺そういう方面で噂になってるんですか」

 

そう。DJサガラ本人だ。だが、今公開録音をやってるはずじゃ……?

それより、嘘か真か俺は警察で噂になってるのかよ。

ガタイのいいオネエと公園で謎の特訓をしている高校生、ならわからなくもないけどさ。

 

「俺も職業柄、色々な情報は集めてるんだよ。

 番組なら、今はニュースの時間だとよ。

 駒王町ほどじゃねぇが、沢芽市も治安はよくねぇからな。

 そういう不安定な環境でも、逞しく生きようと足掻いている

 ビートライダーズの連中には頭が下がるぜ」

 

しがないDJにも治安が悪いといわれるほどなのか、沢芽市は。

となると、よくこんなところで会談をやろうって気になったよな……

十中八九、クロスゲート絡みだろうが。

 

「ところで、俺に用事ってのは?」

 

「……これからの戦い、お前さんにはこの部屋に行ってもらいたい。

 『太陽』の特異点から渡されたんだろ? 『無地のタロットカード』をよ」

 

…………太陽の特異点? なんのこっちゃ?

無地のタロットカードは……周防(すおう)巡査からもらったフリータロット、か?

けれど、なんでそれをDJサガラが?

 

「……持っていたとしたら、なんなんですか」

 

「別になんもしねぇよ。俺としては、お前に神器(セイクリッド・ギア)の可能性を広げてもらいたいんだ。

 この部屋は、本来ならペルソナっつー力を専門に扱うところだが

 ペルソナも神器も発現は心に左右される。そういう意味では同質の力だ」

 

周防巡査に聞いた覚えがある。ペルソナも神器も性質は近い、と。

だから俺にフリータロットを託した、と。

そのため、俺はそのフリータロットを活用すべく偶々見かけたベルベットルームに入ろうとしたが

ここのベルベットルームは鍵がかかってて……現在に至るってわけだ。

 

神器についても詳しそうだけど……神器はフューラー演説でも多少触れたしな。

とは言え、DJサガラはそれ以上に知ってそうだが、今はそれどころじゃないか。

 

「あん? お前、ベルベットルームの『鍵』は貰ってねぇのか。

 ……あー、あいつらはフィレモンから直接だったからな。鍵って概念が薄いか。

 

 ベルベットルームはな、一応資格――ま、ペルソナ能力か、神器適正だわな。

 そうした力が無ければ入れねぇ。まぁ、会員制クラブみたいに入る権利を有している奴と

 一緒に行けば、そうした力が無くとも入れるが……」

 

「いや、俺は神器だったら目覚めているし、禁手(バランスブレイカー)にも……」

 

反論する俺を、DJサガラは指を振って制止する。

神器や、ペルソナ能力に覚醒するだけでは、ベルベットルームには入れないのか?

 

「『鍵』がいるんだよ。ベルベットルームは夢と現実、精神と物質の狭間にあるとされる場所。

 そこには強大な力が渦巻いているからな。ただペルソナや神器の力を手に入れただけじゃ

 その扉をたたくことは出来ねぇ。入れるのは『鍵』を持っている奴か

 普遍的無意識のポジティブマインドに直接認められた奴位だな」

 

つまり、迂闊に強大な力に触れないようにするためのセーフティーってわけか。

そのセーフティーを解かなきゃならない事態って、今それほどの事態……だわな。

クロスゲートの戦力は、はっきり言って測定できないし。

 

「前置きが長くなっちまったが、こいつがベルベットルームの鍵だ。受け取りな」

 

そう言って、DJサガラは俺に黄色の蝶が象られた鍵を手渡した。

受け取った鍵は、握りしめるとスッ、と消えてしまった。

 

「それでいいのさ。それで、ベルベットルームに自由に入れるはずだ。

 さっきも言ったが、ベルベットルームは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所だ。

 思いがけない場所に、入り口があるかもしれないぜ。例えば……夢の中とか」

 

今一要領を得ないが、DJサガラは俺がベルベットルームに入れるようにして

一体何を狙っているのだろうか。

 

「……何が目的なんです?」

 

「俺か? 俺はただ見守るだけだ。世界を大きく変えるはずだった赤龍帝は

 お前の活躍でこっち側での社会的地位を失墜させたからな。

 今度は、お前が世界を大きく変える番だ。

 

 ……もう一つ、その失墜した赤龍帝に、化身の一つがちょっかいをかけてるからな。

 俺としちゃ、それが気に入らねぇ。ただの化身の分際で、まるで本物みたいに振舞ってやがる。

 お前がまた赤龍帝の鼻を明かしてくれれば、俺としちゃ胸のすく思いなのさ」

 

……????

いまいちよくわからない。わからないが、こいつはリー以上に危険なにおいがする。

いや、比べ物にならないレベルだ!

ベルベットルームに入れるようになったのは感謝すべきかもしれないが

こいつは…………味方だと言い切れない!!

 

「さて。そろそろ俺も収録に戻るとするかな。

 ビートライダーズの活躍も、お前の活躍も、俺はこの沢芽市から見守らせてもらうぜ」

 

立ち去っていくDJサガラの後姿を、俺はただ黙って見送った。

心にざわつくものを感じながら、会談前日の一日は過ぎていくのだった……




天照様がディケイドパフェを食べ、DJサガラがベルベットルームの鍵を寄越す。
一体全体何が起きてるんだよ!?

>ヤタガラス
デビルサマナー(葛葉ライドウ)より。
戦後(あの世界でWW2が起きたかどうかはともかく)どうなったかは不明ですが
この手の戦前活躍していた組織って
戦後軒並み解体されてるイメージですので拙作においても弱体化。
そしてそれが原因で三大勢力が蔓延ることに……

心情的にも、能力的にもセージがヤタガラスに入るのはありなんです。
やるかどうかは別として。
因みに、ゼノヴィアが参加し伊草さんが所属している蒼穹会も
元々はヤタガラスの支援組織って裏設定があったりなかったり。
葛葉と五大宗家の関係も、独自設定ですよ?

>DJサガラ
ぐっさん。
ヘルヘイムというよりは、ニャルラトホテプの化身の一人かもしれません。
目が金色かどうか……それは、どうなんでしょうね。

>ベルベットルーム
P3以降は鍵が必要ですが、拙作ではP2設定ですので。でも鍵出してます。
デザインはP3のものとは違い、フィレモンを意識してます。
中にいるのは画家とピアノマンとオペラ歌手。
エレベーターガール? ドアボーイ? 秘書? 双子の看守? 知らない人たちですね。


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Will9. 全ての「人」の魂の詩 Aパート

サブタイの癖にあの部屋出てきません。
Bパートをお待ちください。


DJサガラに怪しげな鍵を貰った俺は、その後はどっと疲れたのもあってホテルに直帰していた。

もう一つ、祐斗が送って来たメールで気になることがあったので

腰を据えて祐斗と話しておかなければならないと思ったのだ。曰く――

 

 

――明日、オカ研の2、3年がユグドラシルタワーに社会見学に来る。

 

 

どういうことだ。明日ユグドラシルタワーは神仏同盟と北欧神話の会談が行われるんだぞ。

そのタイミングでユグドラシルに社会見学か。よく許可が通ったな。

推測だが、部署が違うという雑な理由で通された可能性が一番高い。

企業の在り方というものを、俺は全く知らないので完全な推測だが。

 

とにかくだ。オカ研の2、3年が来るという事は……「あの」グレモリー軍団が来るという事だ。

そしてあの過保護で有名な兄や父の事を思えば、何らかの干渉もあり得る。

そこで俺は、ぎりぎりまで祐斗に様子を見てもらい、得られるだけの情報を得た上で

それを警護班に伝えることにしたのだ。一応、このことは氷上さんに話してある。

伝える情報を収集するため、俺は部屋でスマホを弄っていた。

 

「……本当、君は部長に対する風当たりが強いよね。言いたいことはわからなくもないけど」

 

「下手すれば国際問題になりかねないんだから神経すり減らすさ。

 自国内だけの問題ならいざ知らず、よその国を巻き込めば

 取り返しがつかないことになるってのをどうして理解しないのかねぇ。

 グレモリーってところは。特にあの兄妹」

 

「……部長のお母上の事は勘弁してあげてくれないかい? 聞けば、お父上や魔王様を止めるのに

 必死になったってそうだから」

 

祐斗がリアス・グレモリーの母、ヴェネラナ・グレモリーの事を庇い立てるが……

俺は正直言って、ここ最近の出来事で、そんなのどうでもよくなっていた。

所詮、人間と悪魔では価値観が違う。まぁ利害の一致から手を組むことはあるだろう。

だが、それだけだ。人は人の領域に、悪魔は悪魔の領域にそれぞれあるべきなんだ。

そうでなくとも、ここ一週間凰蓮(おうれん)軍曹の特訓でへとへとだし

今日は今日でDJサガラに変なものを寄越された。肉体的にも、精神的にもさっさと休みたい。

 

……別に、姉さんに会えなかったショックで不貞腐れてるわけじゃない。

 

「……こっちから世間話振っておいてなんだが、そろそろ本題に移らないか?」

 

先述と矛盾するようだが、俺は祐斗を悪魔とは見做していない。

少なくは無い(と思う)が、多くもない、俺の友人の一人として見ている。

そんな祐斗と話すのはまだいいが、それ以上に疲れていた。

凰蓮軍曹に忠告されたのもあるが、明日の事を考えたらなるべく休みたい。

 

「……そうだね。そっちに行くのは朝の10時頃。移動は電車になるね。

 ユグドラシルタワーで、ユグドラシル・コーポレーションの企業見学をする……

 

 ……ってのは名目上で、もう既に皆――イッセー君も含めてだろうけど――

 神仏同盟と、北欧神話の会談の事は知っているよ。

 ああ、イッセー君は来ないと思うよ。多分、だけど」

 

そう言えば、兵藤は退学だったな。そりゃあ、学校行事に来るわけがないか。

ただそれよりも、会談の事を知ってるってのか気になった。

いくら怪異に精通しているオカ研っつったって

国家同士の重要な会談の情報が伝わるのがおかしいし

まるで知ってて来たようなタイミングだ。偶然にしては、出来過ぎてる。

俺はメモを取りながら、祐斗の話に耳を傾けていた。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を使わなかったのは、単純に疲れていたからだ。

神器(セイクリッド・ギア)を使うのは疲れる。結構疲れている手前

手動で出来ることは手動でやりたかった。

 

「2、3年だったな。って事はグレモリー先輩、姫島先輩、アーシアさんに祐斗……

 このメンツでいいんだな?」

 

「そうだね。あと引率として布袋芙(ほていふ)先生が来るかな」

 

……聞かない名前が出てきた。いや、厳密には事前に貰ったメールで

情報だけは受け取っていたが、それ以外の情報が無い。

曰く、オカ研に新しい顧問が来て、それが神器持ちで

かつグレモリー先輩の「戦車(ルーク)」になったという、出来過ぎていて俄かに信じられない話だった。

駒は2個使ったらしいが、それにしたって。

 

「……祐斗。俺は今オカ研離れてるから無責任なことを言うようだけどな……

 

 ……その先生、気をつけろ。話のムシが良すぎる。

 何か良くない事が起こる前触れかもしれない。

 俺に気力があれば、検索かけることもできたんだが……」

 

情けない話だが、ここ連日凰蓮軍曹のシゴキでへとへとになっており

今日にいたるまで碌に神器を使う気力が無かった。

布袋芙ナイアという名前だけは聞いたが、それを調べる余裕が無かったのだ。

因みに、記録再生大図鑑と全然関係ない俺の記憶を探ってみたが、そんな名前に聞き覚えは無い。

 

 

……「ニャルラトホテプ」、って単語が頭を掠めはしたが……

 

 

「いや、セージ君の意見は正しいと思うよ。僕もこのタイミングで顧問の先生が来るってのは

 何かおかしいと思う。ただ、誰が何のためにオカ研に新しい顧問を寄越したかってのは

 まるで分らないんだけどね……一応怪しいのはジオティクス氏とサーゼクス様だけど」

 

ああ、あの過保護で有名な父親と兄上か。もし彼らの差し金だとしたら

意外とグレモリー当主に魔王陛下も甘いようで。

まぁ、あれらの考えそうなことと言ったら、状況打開のために戦力を投入したって事だろうか。

何に対する戦力かは知らんが……頼むからアインストや禍の団(カオス・ブリゲート)相手の戦力であってほしい。

あんなとは言え、一応明確に禍の団やアインストと敵対しているグループだ。

同盟は風評被害が及びかねないので避けたいが、共同戦線程度は応じるべきだと思う。

 

「……話戻すぞ。その新しい顧問の先生が引率役で来るって事だな。

 そう言えば、オカ研とはあまり関係ないがゼノヴィアさんはどうだ? 彼女も2年だが」

 

「彼女は……ごめん、参加か不参加かまでは覚えてないや。

 それと生徒会は確か駒王町の警護担当になってるはずだから

 今回は沢芽(ざわめ)市には来ないはずだよ」

 

それはここに来る前に警察で聞いた、と伝えながら相槌を打った。

正直、シトリー会長は後方支援の方がいい活躍をしてくれそうだと思う。

言っちゃなんだが、今のオカ研と同等か、それ以下だろう。

兵数はともかく、場数が足りなさすぎる。フューラーの軍勢と戦ったって話も聞いてない。

本当に俺が知らないだけかもしれないが。

 

「……今俺が考え得るリスクとしては、以下が挙げられる。

 一つ、オカ研が抜けて手薄になった駒王町でテロが多発する。

 二つ、魔王にかなり近しいリアス・グレモリーがやって来ることで、会談に悪影響が出る。

 そして三つ、これはお前たちがこっちに来るのはあまり関係ないんだが

 『今沢芽市のクロスゲートは動いている』状態なんだ。何が起こるか想像がつかない」

 

「なんだって! それは本当かい!?

 クロスゲートが動いているとなると

 猶更僕たちがそっちに行くのはマズいかもしれないね……」

 

正直、俺だってかなりクロスゲートは警戒している。

ここでオーフィスなんぞに出張られたら俺達の全滅どころか

沢芽市が地図から消える、なんて事態も想像できる。

これは最悪の事態としても、そういう可能性だってゼロじゃないんだ。

 

「……や、ここは前向きに考えよう。

 『もしクロスゲートから上位種のアインストが出てきても

  お前たちが来てくれるお陰で戦力は追加できる』と。

 それ位には、お前達を戦力として計上できると踏んでいるが……買い被りか?」

 

「……そう言ってもらえるのなら、微力を尽くすまでだよ」

 

……俺はかなりえげつないことを考えている。

人間を守るために、怪異の存在を鉄砲玉に仕立て上げようとしているのだ。

いや、そりゃあ協力はするし守ったりは可能な限りするつもりだ……利害関係があるなら。

だから、祐斗を見殺しにする気はない……リアス・グレモリーや姫島朱乃は割と怪しいが。

 

だが、それが無いのならば優先順位は人間の、何も関わっていない市民の安全だ。

とは言え、今となってはそんな人間が珍しくなりつつあるんだが。

フューラー演説のお陰で、各地では住民による悪魔、天使、堕天使と言った三大勢力に対する

排斥運動が活発化している。

 

そして、これは最近知ったことなのだがそれを扇動している組織があるという。

その正体まではまだわからないが、反社会的組織がそれに一枚かんでいるという噂さえある。

全く現金な話だ。それが曲津組(まがつぐみ)だとしたら悪魔の甘い汁を吸っていたくせに

状況が変わればすぐに掌を返す。

 

まぁ、ある意味ビジネスライクでドライな関係だが。相互に同意があるなら、それでもいい。

そう言う関係は、俺も理解はできる。どこぞの魔王陛下には理解でき無さそうだとは思うが。

 

「……クロスゲートについては、一応こっちの警備担当にも話は通してある。

 だから、そうそう手薄にはならないと思うが……如何せん、相手が相手だ。

 何事もないことを願いたいが、万が一の事態だけは常に想定していてくれ」

 

「わかったよ。因みにセージ君、当日空き時間はあるかい?」

 

「……残念だが無いと思う。俺がどこの警備に回されるかは明日になってみないとわからないし

 あまり俺と話すとグレモリー先輩に睨まれないか?」

 

会って情報交換をしよう、あわよくば口裏を合わせて行動しよう、って事なんだろう。わかる。

だが、それをやるには俺の側に自由が無いし、向こうだって自由に動けるとは思ってない。

俺の側から、ユグドラシルの企業見学に関する情報を集められればと思ったが……無理だ。

凰蓮軍曹のシゴキで動けなかったのもあるが

それ以前にそもそも俺はユグドラシルに顔が利くわけではない。

 

ここに来たのだって、あくまでもいち警備員としてだ。身分こそ学生だが、やることは警備員だ。

そんな身分で、企業のイベントの情報を引き出すというのはなかなか厳しい。

いくら企業見学で訪れる駒王学園の生徒だって言っても、だ。

 

「部長はなんとかするとしても……困ったね。いざって時に連携が取れないのは痛くないかい?」

 

「それはごもっともだが……悪ぃ祐斗。

 そっちで何とかグレモリー先輩をうまく誘導してくれないか?

 俺は立場上、あんまり持ち場離れられないと思うから。

 逆に言えば、そっちからこっちに入ってくるようなことがあれば問答無用に押し返せるがな」

 

そう。

警備員ならば、怪しい奴は通さないという不文律が確定する。仕事の一環だ。

だから、下手にリアス・グレモリーに干渉される前に追い返すという事は出来るのだ。

というか、恐らくだがそのために俺が呼ばれたのだろう。

……まさかリアス・グレモリーが会談の会場にマジでやって来るとは思わなかったが。

それでも、サーゼクスやセラフォルー辺りよりはマシだろうか。

 

「じゃ、明日の警備頑張ってね」

 

「そっちも気をつけてな。最近、怪しい黒い足軽が駒王町を中心に出没してるらしいからな」

 

黒影(くろかげ)の事だ。

ユグドラシル製のものが、何故台湾マフィアである天道連(ティエンタオレン)に運用されているのか。

そして、天道連が何でこっちを襲ってくるのか。

俺は警察関係者って言い訳もある程度は効くが……

しかも聞けば、祐斗らオカ研も黒影に狙われたそうじゃないか。

そうなると、まるで奴らの狙いが読めない。

だがこれも、出所がユグドラシルである以上今騒ぎ立てるとマズいしなぁ……

 

因みに、オカ研の面々には黒影がユグドラシル製という事は知られていない。

俺は先述の通り知っているが、今これは提示すべき情報じゃない気がした。

 

……絶対、一悶着起こりそうな気がしたから。

警備って神経すり減らす仕事をするのに、さらに爆弾増やすとかバカのやることだ。

 

挨拶を終えた俺は、急激に襲ってきた眠気に耐え切れず

シャワーを浴びるのも忘れてベッドに突っ伏してしまった……

 

 

――そこで、俺は蝶になった夢を見た……かもしれない。




※来週は作者取材(という名のレッパラ・八景島巡り)のため休載です。

祐斗からセージの下に情報が流れます。
騎士なのにやってることがコウモリだよ!

そしてセージからは完全にモンペ扱いされてるジオティクスと
ダメなシスコン扱いされてるサーゼクス。
そう言えば敵役を輩出しなかった方(サーゼクス、セラフォルー)ともに
ドン引きするレベルのシスコンですが……
これ、何か薄ら寒いものを感じます。うまく説明できませんが。

……そして、ドン引きするレベルのシスコンと言えば某ルキフグスがいましたが
彼についても拙作ではちょっとしたことが起こる……かもしれません。
セージもシスコンっちゃシスコンですし。

>リアスの眷属事情
結局ナイアさんは「戦車」2個で眷属になりました。
現状、これで残るリアスの駒は「騎士」が1個のみです。

……一応、以前駒を奪われた際のペナルティはもう期限切れとなってます。
さて。「戦車」をここで全部使ったという事は、あの人は……


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Will9. 全ての「人」の魂の詩 Bパート

お待たせしました、いよいよあの部屋とあの人が登場です。

……「まだ」殴らないでくださいね?



ある時、私は蝶になった夢を見た。
私は蝶になりきっていたらしく、それが自分の夢だと自覚できなかったが、
ふと目が覚めてみれば、まぎれもなく私は私であって蝶ではない。
蝶になった夢を私が見ていたのか。
私になった夢を蝶が見ているのか。
きっと私と蝶との間には区別があっても絶対的な違いと呼べるものではなく
そこに因果の関係は成立しないのだろう。

~荘子~


気が付くと、俺は輝く黄色の床に、蝶の意匠が象られた部屋――部屋?

壁のある所には、星空……いや、宇宙?

宇宙だとしたらおかしい。息が出来ている。

一体、ここは何処なんだ……? 近いのは、いつぞや訪れた白金龍(プラチナム・ドラゴン)の世界だが……

 

 

――ようこそ、意識と無意識の狭間の世界へ。

 

 

声がした方を振り向くと、そこには黄色い蝶が漂っていた。

蝶は光り輝くと、蝶を模したオペラマスクをした男の姿になった。

こいつは……?

 

「私の名はフィレモン。この普遍的無意識に住まう存在だ。

 今、君がその力を使う必要はない。答えられることならば、私が全て答えよう」

 

……うん? この人(?)は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の事を知っているのか?

というか、なんで俺の事を知ってるんだ?

この不思議な空間と言い、わからないことが多すぎる。

 

……いや、フィレモン……フィレモン……どこかで聞いたな……

 

「……すみません。何から聞いたらいいものか……」

 

「ふむ。君の疑問も尤もだ。

 だが、私は君にこの普遍的無意識の世界のありようについて話すため

 君をこの地に招いたわけではない。

 

 君はこれから、過去と対峙することとなるだろう。

 地獄門が開き、かつて噂が現実となった都市、人を蝕む理由なき悪意に覆われし都市。

 そして、見えざる力で無理に仕立て上げられた英雄が顕現する都市。

 これらの地は悪意の跋扈する異界と化した。

 

 君はその意思と絆の力をもって、地獄門より出でし悪意に立ち向かい

 己の存在と未来を掴み取らなければならない。

 今までの戦いは、その前哨戦に過ぎないのだ」

 

地獄門……クロスゲートか。

噂が現実になった都市は……珠閒瑠(すまる)市か。あとは……?

 

……ダメだ、特定するには情報が無さすぎる。

それより、今までの戦いが前哨戦って……

いや、確かに禍の団(カオス・ブリゲート)とは幾度となく戦っているが

言われてみれば、オーフィスともフューラーとも直接対決はしていない。

禍の団って組織だって、そもそも壊滅していない。

 

……これが本当に俺が勝てる相手かどうかは、さておいて。

 

「……ふむ。私はかつて君に、『ある力』を授けたが……

 どうやら、それは違う形となって顕現したみたいだ。

 だが、どんな形であれ力は力。心の海より出でし力は、これからも君の助けとなるだろう。

 

 神のように、慈愛に満ちた自分。悪魔のように、残酷な自分。

 人は様々な仮面をつけて生きるもの。今の君の姿も、無数の仮面の一つに過ぎない。

 それは、努々覚えておいてくれたまえ」

 

抽象的過ぎて、よくわからない。

というか、この世界に来てからというもの……頭がよく回らない。

夢なのか、と言えるくらいに。

しかしこの話ぶりだとかつて俺はこの人に会ったことになる。

だが……記憶が無い。

 

「では……かつて問うたが、今一度君に問おう。

 この地を踏みしめた上で、君は自分の名を名乗ることが出来るかね?」

 

「宮本成二、宮本成二だ」

 

「……結構だ。ここを訪れ、その上で己が名前を名乗れるものは極僅かだ。

 やはり、君は合格のようだ」

 

仮面の下の表情を伺い知ることはできないが、満足げに頷いたように見える。

……さっきから気になってるんだが、俺はこの男と前に会ったことがあるのか?

向こうは、まるでこっちの事を前から知っているような口ぶりだが。

この場所と言い、目の前の存在と言い、言ってることと言い……

 

……ダメだ。さっぱりわからん。夢と認識するのが一番近いのだろうか、これ。

だとしたら物凄い明晰夢だが。

 

「どうやら、行くべき時が来たようだ。さあ、その青い扉を開けるのだ。

 そこには、君の心の力の支えになるものがあるだろう。

 そして心したまえ。この先の道は、君が想像するよりも遥かに険しく

 過酷なものであることを……」

 

フィレモンが手をかざすと、俺の右隣に突如として青い扉が現れる。

……うん? この扉、どこかで見たような……?

他に進むべき道も無いので、俺はフィレモンに促されるままに青い扉を開ける。

扉を開けた途端、黄色い蝶が目の前を横切り、さらに扉の向こうからまばゆい光が射してきて――

 

 

――――

 

 

気がつけば、また別の場所にいた。

今度は一面青の部屋。どことなく、駒王学園の教室と、学園祭で行った事のある

大那美(だいなみ)高校の教室の雰囲気がごっちゃになった感じだが……

 

ピアノがあることから、音楽室かと思ったが……

それと対面するように置かれているイーゼルが、その答えを否定する。

音楽室にイーゼルは無い。まして、キャンパスの乗ったイーゼルなど。

そう言うところも、何か不自然さが際立っているような。

 

「ようこそ、ベルベットルームへ」

 

声がした方を振り向くと、そこには独特な風貌の黒いスーツを纏った老人が腰かけていた。

独特な風貌……特に細身の身体とアンバランスな大きな目と濃い眉毛、そして何より長い鼻。

 

「私はイゴール……我が主、フィレモン様の命により我らは貴方様の力となりましょう」

 

そう言ってイゴールと名乗った老人が指し示した先には、2人の男性と1人の女性がいた。

目隠しをした男性曰く

 

「俺はナナシ……閉ざされし、心の扉を開くピアノ弾き……」

 

オペラ歌手のような風貌の女性曰く

 

「私はベラドンナ~♪ 己という魔物に挑む、もののふ称える歌歌い~♪」

 

そして、ニット帽にサングラスをかけた男性曰く

 

「僕は悪魔絵師。人の内に住まう、神と悪魔を描く絵師」

 

「我ら4人、人の心の海に眠る力を呼び覚ます手助けをするよう、仰せつかっております。

 以後、お見知りおきを……」

 

ベルベットルーム……ベルベットルーム……

 

……そうだ! 周防(すおう)巡査が言っていたのって、ここの事か!

ちょっと、周防巡査に聞いた話と微妙に違っているところはあるが……

中に入れたのも、DJサガラに鍵を貰ったからで……

 

……また、わからないことが増えた。

とりあえず、何を聞こうか……

 

……まず、周防巡査に貰ったフリータロットについて聞くか。

 

「……すみません。ではまず、これについてなんですが……」

 

俺は懐から、周防巡査に貰ったフリータロットを出す。

イゴールがそれを受け取り、真剣な表情で眺めている。

 

「……聞いた話では、貴方様はペルソナではなく、別なる心の力をお持ちとのこと。

 ですがこれは、ペルソナを召喚するのに必要なカード。

 このカードは、どこで手に入れられましたかな?」

 

俺は正直に、周防巡査からもらったことを話した。

嘘をついても仕方が無いし、何より俺より彼らの方がこの道具について詳しそうだ。

 

「……左様でございますか。絆とは、時を経ても連綿と受け継がれてゆくもの。

 貴方様がそれを持ち、そしてこの部屋を訪れたのも絆の導き……

 いや、或いは必然なのかもしれませんな。

 

 さて、件のカードについてですが……ふむ、ふむ……」

 

言葉を交わしたのち、改めてイゴールはカードに目を通す。

はて。あれは無地のカードだったはずだが……?

 

「どうやら、半数以上のカードから力を感じられます。

 このカードは、貴方様の築き上げた絆の力そのもの。

 今はまだ、微弱な力ながらもこれから先、強い力になる可能性は大いに秘めております。

 特に『13』――死神のカードに秘められた力は、とても大きなものを感じます。

 ですが……」

 

「死神」か……いいのか悪いのか、判断に困るな。

タロットなんて原則「塔」以外どっちとも取れるが。

考え込んでいる俺をよそに、イゴールは俺に2枚のカードを寄越してきた。

そこには、「3」「4」とナンバリングされたカードがあった。

タロットカードの3と4って、確か……?

 

「この2枚に関しましては、どうやら停滞が起きているご様子。

 このままでは、ただの紙切れ以上の力は発揮いたしませんな。

 特に『4』――皇帝につきましては、停滞どころか破局に至っている危険性もございます」

 

……他に言及しないって事は、この2枚だけ特別マズい状態ってことか。

解決方法、わからないけど。

 

「……絆、つまり人間関係的なものがそのカードの力になる、って事は

 逆に言えば、それが力を発揮しないって事は人間関係がマズくなってるってことですか?」

 

「まぁ、そうなりますな。心当たりはおありですかな?」

 

……2人、うち1人が壊滅的な状態の俺の人間関係……

 

……あいつら、しかないよなぁ……

 

「……力を取り戻すも、別なる絆を紡ぐも貴方様次第。

 ですがお節介を言わせていただきますと、元に戻した方がよろしいですな。

 力のために別なる絆を紡ぐのも一つの答えではありますが」

 

イゴールの言いたいことはわかる。

だが、俺にはどうしてもあいつともう一度仲良くするってのは出来ない。

少なくとも、今のあいつとは。出来ないものは出来ない。逃げかもしれないが。

 

「……一考しておきます」

 

その答えに、イゴールは「左様でございますか」と答えたっきり、何も語らなかった。

そこで、俺は他の人にも聞いてみることにしたが……

 

あまり、俺の中の答えは変わらなかった。俺の意思が強いのか、それとも……?

だが、悪魔絵師にも話を聞いてみたが妙な事を聞いた。

 

「今現世を騒がせているあの地獄門、僕はあれをどこかで見た気がする。

 あれは……そう、銀河の終焉の地だったか?

 零にして霊なる皇帝と、黒き銃神が刃を交える、鋼の巨人達が集う世界……

 ただ、あの時に見たそれとは、あり方が違って見える気もするが……」

 

まさかここでクロスゲートについて話が聞けるとは思わなかった。

試しに他の人にも聞いてみたが、要領を得る答えは返ってこなかった。

ここも、何か不思議な場所だ。さっきの……あれ? はっきり思い出せないが……

さっきいた場所よりは、はっきり自分の意思で動けるが……

 

「そうそう。そこ――銀河の終焉の地で、こんなものを貰ったんだ。

 絵のアイデアになるかと思ったけれど、僕が持っているよりは君が持っていた方が良さそうだ。

 『審判の火(ディーン・レヴ)』というらしいが……」

 

そう言って寄越されたものは……何かの火を象っているのか、握るとほのかに暖かい。

だが……これは今まで俺が受け取ったものの中でもトップクラスに危険な予感がする。

言葉にできないが……何か、とんでもない力の奔流を感じるとともに……

 

「この世にあってはならないもの」というイメージが、何故か沸いた。

本能が、記録再生大図鑑や無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)での検索を避けた。

きっと、須丸清蔵(すまるせいぞう)を検索した時以上に酷いことになる。

知ってはいけないことを、知ってしまうような。

身震いしていると、俺のそんな様子を察したのか悪魔絵師は話題を変えて来た。

 

「それとタロットについてだが、カードに力が真に宿った時、僕がそのタロットに絵を描こう。

 だが……愚者のカードだけは、僕には描けない。

 あの日から、様々な世界を渡り歩いたが……未だに描けないよ。

 絵の道は、かくも険しいものという事か……」

 

それは特に問題ないだろう。今イゴールに見立ててもらった限りだと

「0」……愚者のカードは、無かったはずだ。

 

その後も一頻り対話をしていると、イゴールに呼び止められた。

 

「……どうやら、お時間のようです。

 ここは意識と無意識の狭間をたゆたう部屋。感性豊かな者のみが、ここへの扉を見出すのです。

 貴方様は鍵を手にし、その扉を開きましたが、貴方様のお仲間であるのならば

 きっと、この部屋に立ち入ることも叶いましょう。

 

 では、新たな絆を紡ぐまでの間、しばしの別れですな……」

 

ふと、目の前が歪んでいく。

立っていられないほどではないが、感覚がぼやけていく。

最後に見たのは、ベルベットルームに入った青い扉だった……

 

 

――――

 

 

気が付くと、俺は制服のままベッドに突っ伏していた。

時計を見ると、もう日付変更が目前だった。

 

……その後、俺は慌てて着替えたりシャワーを浴びたり……

 

……する前に、氷上さんに祐斗から聞いた情報を伝えた。

時間が時間だから、かなりぎりぎりになってしまい

有効活用できるかどうかは微妙になってしまったが。

 

 

そして、改めてベッドで横になる。

いよいよ、明日は会談当日。神仏同盟の皆様と、北欧の神様が一堂に会するとされる会議。

何を話すのか、までは俺は知らない。だが、この無茶苦茶な世界に対し

何か行動を起こすためのものだろう。

 

その無茶苦茶な世界を演出している装置の一つであるクロスゲートは、俺が眠っている最中も

怪しい光を放ちながらタワーの上空に鎮座していたという……




※来週は作者取材
(という名の東山奈央嬢ステージ観覧&新種のボクカワウソ発見ツアー)のため休載です。

ベルベットルームはP2方式と、P3以降の法則を一部交えてます。
なので、セージが入ったら文化部の教室になりました。
一応、これには(メタ的要素含め)理由がありまして

・ペルソナ主人公's(舞耶姉以外)に比べると、セージはジュブナイル感が薄い
・原作()のハイスクール要素の補強のため、ベルベットルームが学校施設になった
・P2のベルベットルーム面子的に、適切なのは文化部教室では?
・セージの爺さんの晩年が酒浸りだったので酒関係にあまりいい印象が無い

以上の観点から、こうなりました。

>フィレモン
PQ2にも絡んでた疑惑のあるお方。
罰と違い、ぴんぴんしてます。白スーツの肩幅紳士か
全身黒タイツのぶん殴りたくなるあいつかはお任せします。

話ぶりから、過去セージにペルソナ能力を授けようとしていた様子。
セージは全然覚えてませんが、時を経てそのペルソナ能力が
記録再生大図鑑に変異した可能性は、大いにあります。

>悪魔絵師
あの人だからこのネタは入れたかった。
語っているのは「第三次スーパーロボット大戦α」の世界。
公式認定されたかどうかは微妙ですがMX→αなので
MXについても言及させようかと思いましたが
悪魔絵師が関わってるのがサルファだけなのでこうなりました。
時系列的には当然P2本編→サルファ→現在 です。
以前達ちゃんが「いない」と言っていたのはサルファの世界に行ってた可能性があります。
ですがこの旅をもってしても「愚者」を描くには至れなかった模様。

……で、なんてもの持ってるんですか金子さん!?
(サイズは当然オリジナルではありませんが)

>フリータロット
P3以降よろしく、各アルカナ(愚者以外)にコミュ(コープ)が割り当てられています。
「死神」「女帝」「皇帝」についてはかなり大きなヒントが出ていると思います。
(原作では恋愛コミュじゃないとブロークンまでは至りませんでしたが、まぁそれはそれ)
そして「死神」は何気に今後を暗示していたり……


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Will10. 世界の樹に神仏は集う

……活動報告ではイベントレポートはかなりきついですね。
まさかイベントレポートと称して艦これ二次創作するのも……
いや、リプレイという体にすればありか?

あ、ちなみにイベントはまだE1です。目途は立ってますけどね。

閑話休題。

フィレモンと、そしてイゴールと出会ったセージ。
さらなる試練を突き付けられつつ、悪魔絵師からは
ただならぬ気配を漂わせた「ディーンの火」なるものを受け取るのだった……


いよいよ、会談の当日がやって来た。

凰蓮(おうれん)軍曹のタライが降って来る前に身支度を済ませ、いつでも出られるようにしている。

これも訓練の賜物かと思うと、少し微妙だが……まぁ、いいか。

 

今日は本番という事で、出し惜しみなしの体勢をとれとも言われている。

つまり、神器(セイクリッド・ギア)だろうがアモンだろうがフリッケンだろうが自由に使える。

勿論、TPOを弁えた上で、だが。

 

クロスゲートがある以上、何が起きてもおかしくない。

警備には、万全を期して皆が臨んでいる。

物々しい警備体制、そんな中で……

 

……本当に、企業見学なんてやるのか?

 

「……駒王学園が、今日企業見学を……ねぇ」

 

「何事も無ければいいんですが」

 

氷上さんに報告をするが、聞いた氷上さんも半信半疑だ。

俺だって何の冗談だよ、と思いたい。

しかも来るのはオカ研の面々。話が出来過ぎているにも程がある。

そのせいかどうかはわからないが、俺はタワー内部の警備に回されることになった。

こっちならば、駒王学園の生徒が迷い込んできても対応しやすいだろうという事だ。

……正直、出来ることなら関わり合いになりたくないのだが

事が起きてはマズい。わがままを言っている場合ではないだろう。

 

Bonjour(おはよう). 皆さん、今日の準備はよろしくて?」

 

タワー前に集まった俺達の前に、凰蓮軍曹が現れる。

身なりも、普段のパティシエルックとは違う、フランス外人部隊にいた時のような服装だ。

……あれ? そう言えば、警官や自衛隊はともかく、ユグドラシルの人間って

銃を携行してていいのか? 銃刀法とか……今更な気がするが。

 

「神器を持っていない皆さんには、既に超特捜課から

 銃と専用の弾丸が支給されているはずですわ。

 勿論、これらは万が一に備えた抑止力。不用意に発砲してはNon, Non, Non. ですわよ?」

 

何というか、言ってることはすごく真面目なんだけど風貌と口調がミスマッチで凄いカオスだ。

タワー正門を自衛隊を中心とした部隊、両翼に警官隊。

そして裏口をユグドラシル民間警備会社が警備するようだ。

これは日本という国が霊的な国防にも力を入れている事のアピールも含まれているのだと

宮内庁の人の言っていたことを加味すると、俺には何となくそう思えた。

 

凰蓮軍曹はユグドラシル民間警備会社の雇われだが、通訳として自衛隊に同行するらしい。

タワー内部はフロアごとに自衛隊と警官隊とで担当フロアが異なっている。

俺は研究室のあるフロアに回されることになった。ここが例の企業見学の会場とのことだが……

幸いにして、会議の会場とはフロアが異なっている。

そうそう問題は起きないだろう……起きてたまるか。

 

「先方は転移魔法陣で来られるそうですわ。既に予定の場所には自衛隊員が待機していてよ。

 そこからは車でこのタワーまで移動。今日はまっすぐ会場入りよ」

 

本当に要神待遇だな。魔法陣で移動してくることを除けば

それこそ大統領とかと変わらない印象を受ける。

魔法陣なのは、空路も海路も封鎖されているからだろう。

インベスはともかく、アインストは転移してくるからあんまり関係ない気もするが。

 

とにかく、後は神仏同盟と北欧神話の会場入りを待つのみだ。

それまでの間、俺はタワー内部で監視に入ることにした。

 

……のだが、割と暇なのも事実。

こっそりと、分身を利用してユグドラシルタワーの内部を調べてみることにした。

 

そもそも、俺はユグドラシルという企業に対して疑念を抱いている。

黒影とかいうシステムにしたってそうだし、それが台湾マフィアに流れている時点でクロだ。

まぁ……マフィアに転売した連中がいるって考えるのが自然なのだろうが……

それがユグドラシルの人間じゃないって保証は、どこにもない。

 

『……セージ。こんなことしてていいのか?』

 

「侵入経路の確保だ。想定されるコースを可能な限り押さえておけば、対処しやすいだろ」

 

嘘だ。そもそもアインストは転移してくるから

通常のコース確保が意味が無いという事は、さっき自分で思った。

因みに見つかっても面倒なので、行動する分身には

予めINVISIBLEのカードで姿を消してもらっている。

こういう余計な行動を出来る分には、体力は有り余っていた。

勿論、これが特訓の成果などと言うつもりもないが。

 

『ユグドラシルが怪しいのは俺も同意するけどな……いや、ちょっと待て。

 なんで俺はユグドラシルが怪しい、なんて思ったんだ……?

 そもそも、ユグドラシルにしたって、あの黒影にしたって俺は何か知ってる気がする……』

 

『またそれかピンクの。この企業がヘンテコなものを作ってるってのは事実だとしても

 そんなのは日本の企業にはよくあることじゃねぇのか?』

 

まただ。どうも最近――ユグドラシル絡みの話に首を突っ込んでからというもの――

フリッケンの様子がおかしい。

 

アモンはアモンで、日本という国に関してあらぬ誤解を抱いているし。

いや、ある意味間違っちゃいないけどさ。

 

『ピンクじゃないマゼンタだ……だが、俺もその理由がわからない。

 「ユグドラシルを危険だと」知っている理由。それを「何故知っているかは覚えていない」。

 ただ、知識として有しているに過ぎない』

 

『ハッ。そんなあやふやな話で大丈夫なんだろうな?』

 

お前ら……俺の頭の中で喧嘩するのはやめてくれないか?

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)でみっちりとユグドラシルの事を調べるのもアリなんだろうが

今それやって本番で動けなくなるのもマズい。

なので、俺は分身にユグドラシル社内の様子を見てもらうことにしたのだ。

 

――――

 

……と、言うわけで俺は持ち場を離れてタワー内部をうろうろしている。

いや、「本体」は持ち場にいるから持ち場を離れた訳ではないのだが……

見回すと、物々しい警備態勢で警官や自衛隊員が立っている。

俺はというと、姿を消しているので見つかる心配はないのだが。

 

そんな俺が向かう先、それは研究室。

今日、オカ研が企業見学でやって来る手筈になっている場所だ。

 

別にもう俺がオカ研、もっと言えばリアス・グレモリーのために

何かをする義理など持ち合わせてはいない。

だが、よりにもよってこんな時期にオカ研がユグドラシルにやって来るというのが気になった。

オカ研が、リアス・グレモリーがわざわざ出向くようなものが

このユグドラシルにはあるという事か?

 

……最悪は、今日の会談にちょっかいかけられることだが。

まぁ、これは俺の権限で追い払えるだろう。

その為の俺なのだと、思う事にはしている。

 

ふと、向こうから歩いてくる白衣を纏った白メッシュの男性がいる。

まぁ、こっちは姿を消しているから見つかる心配はしてないが……反射的に隠れてしまった。

 

「フンフフフ~ン、今日はいい実験日和だ。そう思わないかい、湊……ああいや、光実(みつざね)君」

 

「……わかりません」

 

付き従っているのは、少々幼めな顔立ちながらも、俺とそう年は変わらなさそうな少年。

着ているのは普通にスーツなので、駒王学園の生徒とかでは無さそうだ。

 

「恰好の実験日和だよ。何せ何もしないでも向こうからモルモットがやって来てくれるんだし

 日本や北欧の神々に、インベスの力と私の発明の力を知らしめてやりたいからね!」

 

「……はぁ」

 

テンションの高い科学者風の男に、スーツの少年は興味無さそうに相槌を打っている。

姿を隠しているなら……これが使えるか。

 

COMMON-LIBRALY!!

 

科学者風の男は戦極凌馬(せんごくりょうま)、それにつき従っているのは呉島(くれしま)光実……

戦極凌馬はユグドラシルきっての科学者、呉島光実はここの開発主任の血縁者……

光実はともかく、戦極凌馬ってのは相当問題がある風に見受けられるが……

 

「光実君には特別に見せてあげよう、このスイカロックシード!

 以前駒王町で確認されたという大型のアインストや巨大怪獣。それにも対応できるように

 従来のものよりもアームズを大型化させたんだ。それに伴って生産性は落ちてしまったが……

 これが量産された暁には、アインストだろうとインベスだろうとあっという間さ!

 

 ……あ、そうなると新型のドライバーの出番が無くなってしまうかい?」

 

嬉々として語る凌馬を他所に、光実は冷めた様子で応対していた。

このやり取りだけで、人となりが何となく見えて来るな……

 

「新型のドライバーやロックシードは、貴虎や湊君に渡してしまったからな……

 君の分は確保してないんだよ。

 すまないね光実君! 新型のゲネシスドライバーは三人分なんだよ! ハハッ!」

 

……多分、俺はあの光実って少年と同じことを思っていると思う。

 

――ウザい。

 

それ以外の感想が、浮かんでこなかった。

だが、俺はこの手合いをどこかで見た気がする。はて何処だったか?

 

「それより、今日来るって言う駒王学園の生徒達への案内はどうするんですか?」

 

「決まってるさ! 私の発明のいくつかを見てもらって、必要とあらば持って帰ってもらう。

 未来を担う若者ならば、私の発明がきっと必要になるはずだからね!」

 

あ。光実が呆れたような顔で凌馬を見ている。

自分が作ったものに絶対の自信を持ち、それが正しいと盲目的に信じて疑わない。

 

……やはり、どこかで見たような気がするな……

それも、昔の話じゃない。

 

「さて。光実君、そろそろ時間だろうから彼らを迎えに行ってくれたまえ。

 沢芽駅に来ているはずだから、よろしく頼むよ。

 ああ、君なら大丈夫だと思うけど、今日来る生徒は私の知己の友人の妹だ。

 粗相のないように……とは言わないが、それ相応の対応を頼むよ?」

 

……あん? 来るのは間違いなくオカ研で、リアス・グレモリーと金魚のフンだ。

そして彼奴は魔王の妹で、その魔王は身内人事を敷いている。

そしてここでそういう形でリアス・グレモリーの事が示唆された。

……つまりだ。この戦極凌馬って奴……

 

 

……魔王に繋がっている!!

 

 

俺は慌てて、「本体」と「本体」にいるアモンに連絡を取ることにした。

 

――――

 

「……アモン。俺の予想の斜め向こう側にビンゴだった」

 

『今こっちでも聞いたぜ。まさか魔王とここのえらい人間が繋がってやがったとはな』

 

このまま会談が行われたら、とんでもないことになりかねない!

三大勢力の、悪魔の勢力下ではないという事で選ばれたであろう

このユグドラシルタワーは、思いもよらぬ形で悪魔の手に落ちていたのだ。

 

『……おい、セージ。そろそろ時間だぞ。身なりを整えろ』

 

フリッケンに促され、俺は背筋を正す。

向こうから歩いてくるのは着物の女性に僧衣を纏った男性――天照様に大日如来様。

そして、並び立つように帽子をかぶった老人と、フードの男がいた。

 

代表として、まずこの4柱が先に会場入りされるという事か。

一応、この場には警官の一人として来ているので警官式の敬礼をしながら

やって来た神様(と仏様)に対し、無礼のないように振舞う。

うまくできているか、わからないけど。

 

その後にやってこられたのは、見るからに力自慢な方々。

そして、銀髪の鎧を纏った女性達。

後になってわかったことだが、神仏同盟から須佐之男様、不動明王様。

北欧神話からトール様、そしてヴァルキリー隊の皆様とのことだ。

戦力、という意味では過剰気味な気がするが、ここに戦争しに来たわけではないんだし。

対話のテーブルに立つには思兼様とかそのあたりの神様の方が適任かもしれないが……

俺が口を出す事ではないだろう。

 

その後もぞろぞろと、神様や仏様が入ってくる様は

ユグドラシルタワーの近未来的な風景には似つかわしくなく

その光景自体が非現実感を漂わせていた。

 

暫くして、会場の扉の前に物々しい結界が張られるのが見えた。

後は、この場に近づくものがいないように見張るのが俺達の仕事だ。

 

……なのだが、俺にはもう一つ仕事が出来てしまった。

祐斗に忠告しなければならない。

 

 

――ユグドラシルの戦極凌馬は、魔王に繋がっている――

 

 

と。




今回Bパートは無しです。

会議がいよいよ始まりますが、セージの特訓の成果はまだ発揮されてません。
それ以上に不穏な空気ばかりが漂ってますが。

>フリッケン
いつもに増してディケイド要素が強まってます。
「何故知っているかは覚えていない」は、かつてガンバライドで一世を風靡した
あの悪魔ディケイドのスキルから。

……小説版には出てますけど、ジオウの時みたく直接関与はしてないんですよね。
鎧武の世界には。

>戦極凌馬
ウザさ増量中。
ロックシードの開発経緯が順不同になったので、ゲネシスと同時開発で
スイカが出るというちとちぐはぐなことに。
本編で言及している通り、対巨大戦力用という要素もありますけどね、スイカ。

>光実
今のところ黒化要素は無いです。
いい具合に凌馬が反面教師になってますからね。
ただ、今から合流するであろうのがアレなのばっかなので
「黙ってろよクズが」状態には、内心なるかもしれません。


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Gods talk Aパート

お待たせいたしました。
遠征の疲れと仕事の多忙と諸々重なって
持病が悪化しとりました……


なのでまだE2です。
八景島も横須賀も鳶にさらわれることは無かったですがこっちは痛いです。
石垣ツモでしたけど。


というわけで(?)
日本と北欧の会談が始まろうとしているところからです。


「ようこそおいでくださいました。神仏同盟、日本神話が主神

 天照大神の名において、北欧神話の皆様を心から歓迎いたします」

 

「同じく神仏同盟、仏教が仏の一人大日如来だ。

 今日この出会いと対話の場を設けられたことを、御仏とそれぞれの神に感謝する」

 

「ご丁寧に痛み入る。わしは北欧神話体系の代表を務めるオーディン。

 今日は皆のもの、よろしく頼むぞ」

 

ユグドラシルタワー内に設けられた、神仏同盟と北欧神話の神々との会議室。

ここでは、既に代表たる天照と大日如来、そしてオーディンによる挨拶が交わされていた。

オーディンも、フィールドワークの時に見せたラフな雰囲気は一切漂わせていない。

オーディンの背後には、ロスヴァイセを筆頭としたヴァルキリー隊が控えており

対峙する天照や大日如来にも、須佐之男命や四天王と言った神仏が控えている。

 

「フッ、天照よ。駒王町で会って以来だな」

 

「そうですね、ロキ様。あれからクロスゲートについては、何かお分かりになりましたか?」

 

挨拶もそこそこに、オーディンの傍に控えていたロキが天照に話しかける。

オーディンがフィールドワークと称して沢芽市に来ていた頃

ロキもまた駒王町に出向いていたのだ。

人間界で神々が知る限り、最初にクロスゲートが確認された地として

何かあるのではないかと思い。

 

――その思惑は、残念ながら外れる形となってしまったが。

 

そのロキの下手をすれば慇懃無礼とも取れる態度にも

天照は眉一つ動かさず、笑顔のまま応対していた。

……その内容こそ、笑顔で語れるものでは決してなかったが。

 

クロスゲート。

今や各世界の神話体系の神々や悪魔が、その存在に注視している異様な建造物。

世界の在り方を大きく変えたそれは、世界を陰から見守っていた神々にとっても

無視できるものではなかったのだ。

 

「今以上の情報は無いという事がわかった。

 だが、これを悪用しない輩がいないとは限らんからな。

 出来るものならば、後顧の憂いを断つためにも破壊してしまいたいところだよ」

 

そのともすれば乱暴とも取れるロキの言い分であるが

それに対しては意外なほど反対意見が出なかった。

同席していた天照の弟、須佐之男命もそうした粗暴な性質を持ち合わせているのもあるのだが。

この場でこそ正装という事で旧陸軍の軍服をモチーフとした服を纏い

そのやや太めな体躯は、日本の国技である相撲の力士を思わせる出で立ちでもあった。

 

「ロキの旦那、そいつは中々難しいぜ。オイラもそれを試してみたんだけどよ

 今オイラが持ってる武器じゃ傷一つつかなかったんだよ。

 叢雲があれば、話は違ったかもしれねぇんだけど……

 そういや姉ちゃん、叢雲どこにやったっけ?」

 

「スサノオ、公では天照様と言いなさいといつも言っているでしょう?」

 

「たはは、悪ぃ悪ぃ姉ちゃ……天照様」

 

普通の姉弟のようなやり取りを交わす天照と須佐之男命。

しかし、その対話の内容はただならぬ事態を予感させていた。

 

(けれど変ね……言われてみれば、伊勢の八咫鏡(やたのかがみ)、皇居の八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

 私もちゃんと見たけれど……私もここ十数年、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)――草薙剣は見ていないわね。

 一度、熱田の分霊に確認をとってみる必要があるわね)

 

「素戔嗚よ、天照様に対する態度もだが、ここは我らのみの地ではないのだぞ。

 来賓の神々や、我ら天津・国津双方の神の盟友たる

 仏の面々もおられるという事を、努々忘れるな」

 

須佐之男命の口走ったことに、同じく会議参加者であり須佐之男命の兄弟神でもある

月読が苦言を呈す。月読に見えないところで須佐之男命は舌を出しながら反発しているが

知ってか知らずか、月読は意に介さない。

だが月読の言っている通り、この場で三種の神器たる天叢雲剣が

紛失している可能性があると知られるのは、北欧神話体系に対して悪印象を与えかねない。

それを月読や天照は危惧していたのだ。

 

(オーディン殿はともかく、ロキ殿に我らが三種の神器の一つの紛失を知られるのは危険だ。

 噂だが、ロキ殿はたいそうな野心家。隙を見せては万が一という事も起きかねんからな。

 ……今はまだ、クロスゲートやアインストという共通の敵がいる以上

 北欧の神の力が我らに向けられるという事態は避けられているが……)

 

月読が物思いにふけっていると、スーツの男とお茶菓子を乗せた台車を押すスーツの女が

それぞれ会議室に入って来た。呉島貴虎(くれしまたかとら)湊耀子(みなとようこ)だ。

 

「皆様お揃いですね? お口に合うかどうかはわかりませんが

 お茶をご用意させていただきました」

 

貴虎の指示で、耀子が神々にお茶を提供する。

些かシュールではあるものの、ただの水を出すのも憚られる。難しいものだ。

 

「今回、立ち合いを行わせていただく呉島貴虎です。

 私は基本的に会議の内容に口をはさむことは致しません。

 ですが、ここは人の住まう世界であり、生活を営む場所でもあります。

 ここで狼藉を働くようなことがあれば、如何に神様と言えども我らは立ち向かいます」

 

(……ほう。前回話した時は及第点に達するかどうかといった程度の男だったが

 この神々が集う席でこれほどまでの事を言ってのけるとはな。

 これは、我もこの男に対する評価を改めねばならんか)

 

ドライバーやロックシードこそ見せなかったものの、貴虎は毅然とした態度で

神々に対し「人に仇成すのであれば、立ち向かう」と言い放ったのだ。

その態度には神々も意見が分かれたが、さしたる問題もなく話は進んだ。

口上を述べると、貴虎は天照に対しマイクを渡す。

今まで自分が使っていたものではなく、全く新しい別のマイクを。

 

そして、今度は天照によって今回の会議の注意事項などがアナウンスされた。

 

「……また、今回の会議は担当スタッフによる録音・記録が行われます。

 よって、この場で発言したことには責任が発生いたしますので

 皆様、ご承知おきください。

 それに伴いまして、入場前にマスコミからインタビューを受けたかと思われますが

 終了後も記者会見が行われる予定です。ご了承くださいませ」

 

貴虎からマイクを受け取った天照が告げた通り、会議のテーブルの周りには

書記官と思しき職の神が待機しており、今回の会議の議事録をまとめておくつもりのようだ。

また、結界を兼ねた扉の外にはマスコミが待機しており

会議終了後に記者クラブによる会見も行われる予定のようだ。

勿論、人間向けのマスコミではなく日本神話、仏教、北欧神話をはじめとした

各勢力向けの報道機関ではあるが……

 

その中に、リー・バーチが混じっているのはご愛嬌だろうか。

 

また人間のマスコミもいるにはいるが、オカルト雑誌として名高い

月刊メ―を擁するキスメット出版だ。

フューラー演説を経てもなお、人間の神や悪魔に対する認識の根底は昔と変わっていない。

ここに大手新聞社が来ていないことが、その証左とも言える。

神仏同盟も、北欧神話も別に人間の報道陣の取材を禁止してはいない。

フューラー演説で明るみに出てしまった以上、下手に隠し立てしても意味が無いと認識したのだ。

神々の側はそうした態度を示しているが、人間の側がまだ応対しきれていないのが現状だ。

 

「皆様、ご準備はよろしいでしょうか。

 ではこれより、神仏同盟と北欧神話、双方による日欧神話会談を執り行いたいと思います」

 

天照のこの一言に、会場は拍手に包まれた後

厳粛な空気が場を支配するのだった。




本番はBパートで。
CM明けの「最初に言っておく」みたいになってますが。

>スサノオ
デザインモチーフはゲッターロボの巴武蔵。これは天照との兼ね合い。
天照が大和だから素戔嗚は武蔵(実際艦内神社にはスサノオが祭られていたそうです)

でも明確に男神として語られている素戔嗚なのでそのまま持ってこられない

武蔵つながりでドワォ

言動はアニメ版っぽいですが、何かの間違いでクローン武蔵しそうなのが怖いところ。

>叢雲
日本神話ブチ切れフラグがさらに1個立ちました。
え? なに? 国宝借りパク? うそでしょ?
というかそんなあっさり折れる剣なの?
メガテン並みにしろとは言わないけど、ちょっと自国の神的文化蔑ろにしすぎでしょ……

ちなみに、聖剣絡みの上層部は拙作では教化されてますので
マジもんの借りパク。無事に戻ってきたら御の字レベル。

……直しゃいいってもんじゃねぇんだよ!!

>ロキ
月読に警戒されている点が申し訳程度に原作の悪役ムーブをなぞってます。
警戒されてますが、以前言った通り「島国に興味ない」のが拙作ロキなので
これに関しては月読の杞憂。


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Gods talk Bパート

会議開始です。
本当の会議はもっと段取りを立てて、厳粛に進められるのでしょうが
少々そういうイメージとはずれてるかもしれません、


「ではまず、わしから話させてもらおうかの。

 これは先日わしがこの沢芽(ざわめ)市に来た時に発見したのじゃが

 インベスの毒について、血清が作れることが判明しての。ここにそれがある。エイル!」

 

「ご紹介に賜りましたヴァルキリーが一人、エイルでございます。

 まず、インベスが持っている毒――これはドラゴンアップルを生物、非生物を問わず

 育成させる性質がありますが、そもそもそのドラゴンアップルという果実は

 我ら北欧神話が領域の一つであるニブルヘイム――ヘルヘイムに生育する果実と

 ほぼ同質のものであります」

 

ヴァルキリー・エイルの発言に、日本側が少しざわめく。

ドラゴンアップルを栽培しているという冥界からの報告では、それは冥界にしか成らないと

神仏同盟は報告を受けていたのだ。しかし、現実は北欧のニブルヘイムにも生育しているという。

 

「……とはいえ、我がヘルヘイムと悪魔の棲む冥界は気候などの条件が似通っているのは

 我々の調査で既に結果が出ております。それが故に、似通った環境である冥界と、ヘルヘイムで

 同一の植物が生育するのは何らおかしなことではないと思う次第であります」

 

「……となると、黄泉比良坂やこちらの地獄では育たないのは気候の影響か?」

 

エイルの見立てに、大日如来が見解を述べるが、結論から言えばそれは少し違っていた。

何故ならば、北欧系のヘルヘイムと聖書勢力の悪魔・堕天使が棲む冥界は気候が似通っていたが

日本・アジア系の黄泉比良坂や地獄では、同じような性質の環境とは言え

気候が異なっていたのだ。日本国内でも、栽培に適した野菜は地域によって大きく異なる。

それと同じだ。

 

「自然環境は専門外ですので何とも申し上げられませんが、やはり私共のヘルヘイムは

 そちらの地獄や黄泉比良坂とは異なる、北欧系の気候ですので……」

 

「まぁ、確かに日本は湿度が高いのう。カレンダーでは秋頃だというのにまだ暑いわい」

 

天候の問題は、実は神々も気を使っている。

特に太陽を司っている天照や大日如来は死活問題であるし

天候の神など日本にはごまんといる。北欧にしたって、トールという雷の神様がいるのだから

似たようなものである。

 

ちなみに、今年が暑いのは天照や大日如来の活動が増えているというのも

ある程度は影響しているが、それでも天動説など何世紀も前の戯言というのが

神々の間でも現在の定説であり、未だに天動説を信じている神など

少なくとも神仏同盟と北欧神話体系にはいない。

つまり、今年が暑いのは本当に天候と、温暖化の影響によるものである。

いくら何でも、これにクロスゲートは関わっていない。

 

……クロスゲートが現れたおかげで、太陽の化身たる天照と大日如来の活動が

活発になったという意味では、クロスゲートが温暖化に影響を及ぼしていると

いえなくもないのだが。

 

「気候については、善処させていただきます。農家の皆さんにも直接かかわることですしね。

 それはともかく、そちらでドラゴンアップルが採取できるという事で

 ドラゴンアップルを育成させる毒に対する血清の製造技術が

 確立しつつあるという事でよいのですね?」

 

「はい。既に投与、効果を発揮している情報もありますが、如何せん件数が少ないことと……

 その際の被験者が、実体を持たず既に死亡した幽霊であることも

 まだ血清を正規に量産する体制に踏み切れない状態なのです」

 

そうなのだ。直近の事例でエイルが用いた血清を打った相手は、虹川姉妹の次女、芽瑠(める)

彼女は既に死んだ少女の幽霊であり、言わば死人だ。

そんな相手に効いた血清が、生きた者に対して効果を発揮するかと言われれば……疑問だ。

そもそも、ヘルヘイムは死者の女王・ヘルが治める北欧の死者の世界。

そんなところで採れたものなのだから、死者に有効なのは道理が叶っているが

生者に対して有効とは言い難い。まさか、殺して血清を打ったのでは本末転倒甚だしい。

死体さえも媒介にするドラゴンアップルの感染力を考えれば、それも一つの手なのかもしれないが

それではただの防疫である。治療とは言わない。

 

「死人相手に効く血清では、あまり意味がありませんね……」

 

「なので、現在我々どもでは生者にも効くインベスの毒に対する血清を開発中です。

 つきましては、現在オーディン様の名のもとに各神話体系にも協力を仰いでおりまして

 あなた方神仏同盟にもお力添えをいただきたいのです。

 既にギリシャのハーデス様、アスクレピオス様。

 ならびにエジプトのアヌビス様、ヒンドゥーのヤマ様には賛同をいただいております。

 こちらはその連判の署名になります」

 

エイルが差し出した書類には、確かにハーデスとアスクレピオス、アヌビス

そしてヤマの署名が入っていた。

ギリシャにはオルフェウスの、日本には伊邪那岐(いざなぎ)

それぞれ生者と死者の交流に関する記録がある。

エイルはその記録を基に、現在死者にしか作用していないインベスの毒の血清を

生者にも効くようにする研究を進めていたのだ。

 

「どれ……ふむ、あの堅物のハーデスがよく許可を出したものだな。

 天照様、こちらでもインベスの毒はわが国民を苦しめる要因の一つとなっております。

 それを解決する手段があるのであれば、活用しない手はないかと」

 

「それは尤もなのですが……お母様……伊邪那美(いざなみ)様が首を縦に振るかどうか」

 

日本の多くの神の母たる伊邪那美命。

諸般の事情で黄泉比良坂に籠りっきりであるのはご存知の通りであろう。

また、伊邪那岐とのやり取りを経てからというもの、少々気難しくなったきらいもある。

それが故に、月読の進言に対しても天照も伊邪那美の協力を仰げるかどうかはわからず

頭を抱えていたのだった。

 

「……あのお方の事だ、悪いようにはしないと思いたいところではあるが……

 ま、まあ私からも何とかしてみよう。

 大日如来殿。そちらの方ではこの件についてはどうですかな?

 我々日本神話としては、エイル殿の意見に賛同したく思うのだが。

 

 ……とはいえ、ヤマ殿が署名されている以上、言わずもがなというべきなのでしょうが」

 

「ああ、特にヤマ――地蔵菩薩はそういう事には乗り気だろうな。こちらとしても、異論はない。

 ドラゴンアップル――ヘルヘイムの果実による被害で地獄に来た者も少なくない、と

 地獄の者共の間では話題になっているそうだからな」

 

冥界でドラゴンアップルを育成している魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)タンニーンの与り知らぬところで

話は膨れ上がっていた。

タンニーンは、ドラゴンの食糧を確保するために悪魔の軍門に下った経歴を持つが

そのドラゴンの食糧こそが、他の生物にとっては猛毒で

唯一ドラゴン以外にそれを主食とするインベスは

その毒を以てドラゴンアップルを他の生物に寄生培養させる

媒介害虫としての側面も持っていたのだ。当事者にしてみれば受粉なのかもしれないが。

 

故に、タンニーンはインベスの駆除に躍起になっていたが

冥界政府はドラゴンアップルによる利益――ドラゴンの懐柔のためにそれを抑止。

結果、冥界でのドラゴンアップル育成速度は早まったが

それと比例して、インベスも増殖しその一部は人間界などにも進出を始めていたのだ。

 

「そう言えば、インベスは北欧では発生しなかったのか?」

 

「それが不思議なことに『初めからおらんかった』んじゃよ。

 じゃが、諜報によれば冥界で生み出されたという『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』なる道具の被験者の中に

 インベスに変貌を遂げた者がおるという情報があるのじゃ。

 その情報だけを鵜呑みにすれば、わしもインベスは冥界の負の遺産が生み出した犠牲者という

 結論を導き出したのかもしれんが……」

 

「全く違うルートから、インベスが発生したのだ。我々はそれを『クラック』と呼んでいる。

 そして、悪魔の駒で生まれたインベスと対比してみたところ

 悪魔としての性質を持たないこと以外、全く同じ性質をそのインベスは持っていたのだ」

 

ロキからクラックの名前が飛び出したことに

立会人である呉島貴虎(くれしまたかとら)湊耀子(みなとようこ)は驚きを隠せなかった。

その次元の裂け目の名前は、ユグドラシルの中でもトップシークレットなのだ。

それを神とは言え部外者が知っていることに

開発主任の貴虎も研究の第一人者の秘書を務める耀子も

驚かずにはいられなかったのだ。

 

「ああ、クラックとはクロスゲートとは少し異なるが、大体似通った性質を持った

 『異世界への門』だ。外見は大きなファスナーのようなものであるがな。

 クロスゲートとの唯一にして最大の違いは、広大な森にしか繋がっていないことくらいか。

 我々はそれを『ヘルヘイムの森』と呼んでいるが」

 

ロキの口から出た言葉に、またしても驚く貴虎と耀子。

耀子にいたっては「この場にプロフェッサーがいなくてよかった」と

言わんばかりの狼狽えっぷりである。

流石に、怪しまれると見た貴虎が耀子に落ち着くよう水をすすめていたが。

 

「『ヘルヘイムの森』と命名した理由だが、気候が我々の世界の地獄――

 ヘルヘイムに近いこともあったが、何よりドラゴンアップルが生育していたのが大きな理由だ。

 あれは我らの世界でも、ヘルヘイムにしか育たないからな」

 

「故に、わしらはドラゴンアップルの事を『ヘルヘイムの果実』と呼んでおるのじゃ」

 

北欧の神々から語られた、神仏同盟が知り得なかったインベスの新たな側面。

冥界のみならず、異界からも現れるインベスの齎す災害は

確実に人を、人を取り巻く全てのものを蝕む。

それは人の信仰によって成り立つ神も例外ではない。

 

「我としては、これ以上あのような害虫如きでヘルヘイムの名を穢してほしくない。

 ただでさえ、悪魔の駒などという生死の理を覆した命を冒涜する代物のお陰で

 ヘルヘイムは困窮しているのだ。生に固執する醜い人間のせいで、死を歪められた……と

 ヘルは言っていたがな。ヘルからの又聞きだが、他所の死の神も同じような事を言っていたぞ」

 

「地獄でも、閻魔もだが鬼の連中がぼやいていたな……

 『堕天使や悪魔、天使の関係者に殺された人間が多すぎる』だの

 『来るはずの人間が来ない』だの、な。

 死があるからこそ、すべての生き物は生を正しく認識できると思うのだがな」

 

誕生がスタートであるなら、死はゴールである。

ゴールのない命など、血を吐いても終わらない

悲しいを通り越してやる意味のない虚しいマラソンであると言えよう。

死者にも悪魔としての生を与え、そのゴールを取り上げる悪魔の駒という道具は

死を司る神からすれば、死への冒涜であり、存在意義の否定でもある。

故に、死に特別な価値を見出す多神教の殆どが三大勢力――特に悪魔を快く思っていない。

彼ら聖書三大勢力は、過去多神教の神の大多数を悪魔に貶めた事も、決して無関係ではない。

 

以前、その事を神仏同盟は三大勢力に対し糾弾したが

北欧神話もまた、その点に関しては神仏同盟と同意見であった。

 

「いくら人類の総人口の大半から信仰を集めておるからと言っても

 何をしても許されるわけではないという事……彼奴等はわかっておるのかのう……?

 

 ……っと、わしらは愚痴を言い合いに来たわけではないのだったな。いかんいかん」

 

「そうでした。話が逸れてしまい、申し訳ありません。

 ヴァルキリー・エイルの提案については、後日正式に返答を申し上げる形と

 させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

天照の提案に、エイルは首肯する。

これにより、インベスの毒に対する血清の完成の実現に一歩近づいたであろう。

怪異の、それも未知の毒であるのならば神々の力で解毒できないか。

それが出来ずして、何が神か。

そんな矜持も込めて、神々はインベスの毒に対し手を取り合う姿勢を見せていた。

脅威に対して、手を取り合い対処する。その行いは、人も神もさほど変わらない様子である。

 

「インベスに関しては、まとまったようじゃの。吉報を期待するぞい。

 じゃが三大勢力の行いに対しても、近々他神話も交えた上で正式に追及すべきかもしれんのう。

 アザゼルはまだしも、サーゼクスとかいう若造は世界を正しく見ていない節があるからのう。

 若さゆえの過ち……かもしれんが、上に立つものがそれでは困るわい」

 

「……となると、天界の動きにも注意すべきだろうな。

 天照よ、天界との連絡が途絶し、今なお復旧はしていないのだな?

 その話を聞き我らのところも天界に伝令を送ったが、その伝令との連絡すらつかん」

 

天界との連絡は、ある日を境に途絶えていた。

事の発端は、駒王町のクロスゲート監視の持ち回りに、天界から派遣されてくるはずの

天使やエクソシストと言った教会の戦力が来なかったことに発する。

訝しんだ天照は、その事を天界に訴えたが何の返答も無かったのだ。

ちょうど、沢芽市にフィールドワークに来ていたオーディンの耳にはその時すでに入っていたため

北欧神話も、天界の不穏な動きは既に察知していた。

その為、伝令を送るなどして様子を見ていたが――

 

「……言いたくはないが、天界は何やら企んでおると見るのが妥当じゃの。

 各地の聖剣をはじめとした聖遺物を神器(セイクリッド・ギア)などと称し我が物として徴収するばかりでなく

 我ら地方の神々に対しても、言いがかりをつけてくる始末。

 それによって存在を貶められた神も少なくはあるまい。

 そういう意味では、悪魔が人間に対する毒であるならば彼奴等は我ら神々に対する毒じゃな」

 

「オーディンよ。些か情報が古いようだな。

 天界の連中は、その傲慢さが故に人間を下等なものとして見做しているようだ。

 聖剣を使える者の育成機関もあると聞くが、その実態は広大な人体実験場だったり

 下手をすれば人間牧場だったりだ。まぁ我らも名誉の戦死を遂げた戦士を

 エインヘリャルとして徴収させているがな」

 

ロキの言うエインヘリャルは、生前強い力を持った戦士――

単純な力のみに非ず、心の強さも問われる――の魂を

ヴァルキリーに勧誘させ、ヴァルハラに集めさせた存在である。

思想だけ言うならば、悪魔の掲げる悪魔転生や堕天使の掲げる神器使いの保護。

そして天使の掲げる教会の戦士と然程変わらないが、ある一点において決定的な差異が存在する。

 

――既に、死亡した存在でその魂のみを勧誘する。勿論、自由意志で。

 

性質の悪いヴァルキリーが、強引に連れ去ることもあるかもしれないが

そもそもヴァルキリーとて半神とは言え神に名を連ねる存在である。

ロスヴァイセをはじめとして、実際には結構俗物も多いが

それでも神として振舞うべきルールやマナーなどは叩き込まれている。

 

「オーディン様。数年ほど前ですがヴァルハラに来たではありませんか。

 フィンランド出身の凄腕のスナイパーが」

 

「おお、そうじゃったそうじゃった。確かシモ……」

 

先の世界大戦後、エインヘリャルは確かに減った。

だが、その大戦を生き延び天寿を全うした者が魂の存在となったことで老いから解放され

北欧の地を守る戦士として再び戦いに赴くことは、何ら珍しい事ではない。

そういう意味でも、エインヘリャルは絶滅していないし

ヴァルキリーが閑職になることも無い……はずなのであるが。

 

ロスヴァイセのため息が絶えないのは、恐らく違う要因なのだろう。

 

「戦いで功績を収め、人でありながら信仰心を集めた者が死後英霊となり

 神に名を連ねるのは別段珍しい話でもありませんからね。

 我が国を護る道真(みちざね)公や将門(まさかど)公も、そうした貴族や武将でしたからね」

 

ヴァルハラのシステムに関して、天照は好意的に述べている。

日本においても、功績を収めた人物が神仏となる例は枚挙に暇がないからだ。

 

「だからこそ、人間の世界を脅かす源であるインベスやクロスゲート

 そして……言いたくはないのじゃが三大勢力は早急に何とかすべきじゃな」

 

オーディンの発言に、会議に参加している神仏の意見は一致していた。

そのまま、三大勢力対策が次の議題として確定しようとしていた時――

 

 

――事件は、起きたのだ。

 

 

駆け込んできた仏の一人が、大日如来に耳打ちをする。

その言葉を聞いた大日如来が、重い口を開く。

 

「……日本神話の神々に、北欧神話の神々の皆に告げる。

 我ら仏教には、北欧で言う『ユグドラシル』のような重要な要素を持った樹として

 『菩提樹(ぼだいじゅ)』がある。昨今、人間界でその菩提樹の名を冠した新興宗教組織が確認されてな。

 我ら仏教勢力としては、その動向を追っていたのだが……

 

 ……最悪の形で、それは我らが菩提樹の名を使っていたようだ」

 

先刻、伝えられた言葉の内容。それは――

 

 

――「黒の菩提樹」なる組織が、ユグドラシルタワーで自爆テロを敢行しようとしたのだ。




またアンバランスですが今回は仕方ないです、多分。

>タンニーン
北欧行けばよかったんじゃね? 案件。
拙作では北欧でも普通にドラゴンアップル採れるので
タンニーンは悪魔になり損という何とも言えない結果に。

>ヴァルハラ
別に今の時代にエインヘリャルがいない(少ない)なんてのは先入観と
武力でしかものを見られない証左だと思うんです。
功績を成した人間なら、死後エインヘリャルとして
ヴァルハラにお誘いされてもいいと思うんです。
原作はペンは剣よりも強しという名台詞を知らないのかよ

……あ、因みにヴァルハラに英国で生まれた帰国子女はいませんよ? 当たり前ですけど。

作中言及されたエインヘリャルは……まぁ、お察しの通りですが
こちらは別に登場予定はありません。いくらルーデルモドキがスマブラの勇者よろしく
参戦フラグ立ててるからって。

>悪魔の駒
数多のご都合主義の一つに過ぎないとはいえ、死者蘇生能力はつけるべきではなかったと思います。
その時点で死の冒涜=死神の役割の全否定 に繋がりますからね。
死神や冥府神は悪神じゃないんですよ? 割とマジで。
創作ハーデスが善玉の作品、本当にあったら教えてほしいレベルですよ……
(パンツ番長のペルソナから目をそらしつつ)

>黒の菩提樹
天道連かと思った? 残念黒の菩提樹でした!

……いやほんとすみません。ぽっと出の新興宗教出しちゃいまして。
鎧武原作で自爆テロやった実績があるってのと、国賓招いた場所へのテロは王道だよね
ってのと、ユグドラシルという神話に絡む樹に関連しているもの同士って事で。

因みに、狗道供界は「いません」。
なので、本当に正体不明、教祖不明の新興宗教。一体誰が立ち上げたのか……


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Sour grapes Aパート

黒の菩提樹が自爆テロを敢行する少し前。
駒王町から沢芽市へと移動する場面です。

サブタイは「酸っぱい葡萄」。イソップ寓話のアレですね。
転じて「負け惜しみ」。
拙作では、この言葉が似合う輩が多すぎる気がします。


あ、因みに今のところE3です。
矢矧、朝霜、沖波と来ました。
たしゅけるのはこれから……だといいなぁ。


――全く、なんで僕がこんなクズどもの相手を……

 

呉島光実(くれしまみつざね)は、辟易としていた。

この日訪ねて来た駒王学園の生徒に対してである。

顧問の教師もいるという事なのだが、それでも一部生徒の態度は

光実にとってはあまり喜ばしいものではなかったのだ。

 

特に、胸に無駄な栄養を集めた赤い髪の生徒。

光実の好みとも全然違うし、何より彼女を見ていると――

 

――自分の中のどす黒いものを、見せつけられているような嫌な気分に陥る。

 

 

――――

 

 

駒王町から沢芽市(ざわめし)へと移動する電車の中。

リアス・グレモリーは鬱屈していた。

自分達は悪魔でありながらも、人間の世界の平和を守るために戦っていると

一応は自負しているつもりだった。

 

それなのに、評価されるのは人間の作り出した装備や組織。

冥界においても、評価されるのはサイラオーグ・バアルやレイヴェル・フェニックスのような

明確に成果を上げた者たち。

 

リアスは、何ら評価を――称賛をされていなかったのだ。

寧ろ、駒王町に関して言えば「騒動を持ち込んだ厄介者」扱いされているとさえ言える。

流石にクロスゲートなどに関してはお門違いであり、リアスが非難される謂れはないのだが

それまでに起きていた連続猟奇殺人事件や、オルトロス騒動などはリアスが噛んでいる。

そうした「前科」があるため、人間界におけるリアスの評価はだだ下がりなのであった。

そんな現状に、リアスは不満を抱いていた。蝶よ花よと育てられた彼女にとって

現在の彼女を取り巻く状況は、劣悪と言わざるを得ない。

 

確かに中には劣悪と言っていいものもあるが、中には「贅沢を言い過ぎだ」という意見もある。

そうでなくとも、浪費を是とする価値観を持った彼女は日本的な「質素」だの「詫び寂び」は

根本的に合わないといわざるを得ない。だというのに彼女は親日を自称している。

一体日本の何を見ているのか、と神仏同盟ならば言ったかもしれないが。

 

「……はぁ。クロスゲートにアインストに問題は山積みだってのに、一体何してるのかしら」

 

「あらあら、もう電車は出発したんですからぼやいても始まりませんわよ?」

 

零すリアスを隣の席に座った朱乃が窘める。

二人のスタイルの良さから、駒王町を出るにしたがってちらちらと視線が集まる。

駒王町では悪名高いリアスとその眷属だが、ひとたび駒王町の外に出れば

その高校生らしからぬスタイルは注目の的である。良くも悪くも。

今回は、悪い方向に向かったようだ。

 

「ねぇねぇ、君らこの辺じゃ見ない制服だけど、どこの子?」

 

「次の駅で降りね? いい店知ってるんだけどさ?」

 

この場に兵藤一誠がいなかったことは、幸運であり、不運であった。

見るからにいかがわしい行為が目的であるような面構えをした男が二人

リアスと朱乃に声をかけた。

この場に一誠がいれば(その行動による別のトラブルの発生の懸念は大いにあるにしても)

こうした存在に対する忌避剤ないし案山子にはなったかもしれない。

 

ため息をつきながら、リアスは男二人を無視する。朱乃も同様だ。

そもそも、リアスも朱乃も男というものに対して好感情を抱いていない。

それが透けて見えたのか、学校では「男に興味ない癖に男子や教師に媚び売って地位を得ている」

と女生徒に誤解され、いじめの標的になったことさえある。

これは悪名高い兵藤一誠を必要以上に庇護したことも大きな要因でもあるのだが

なんだかんだで「赤龍帝」としての側面でしか一誠を見ていない

リアスがその事に気づくことは、まずない。

 

「つれないなぁ、どこ行くの? 疎開?」

 

「……疎開、ですって?」

 

疎開。リアスの耳には聞きなれぬ言葉だが、意味することは分かる。

だが、何故守護者たる自分たちが疎開などしなければならないのか?

そこだけは、リアスの常識で図れる価値観では理解できない事だった。

 

「知らないの? 一部都市圏じゃ疎開が始まってるって。

 俺らは幸い指定区域外だったからこうしていられるけどさ。

 ま、大変だよなー、あいつらも」

 

「そうそう、アインストとか? 禍の団(カオス・ブリゲート)とか? 他所でやれよっての」

 

自分たちは関係ない、と言わんばかりの男たちの発言であるが

そうした態度も、リアスにとっては辟易とさせるものだった。

「自分達さえよければそれでいい」「問題は他の誰かが片付けてくれるだろう」

その態度は、曲がりなりにも力を持ったリアスにとっては

受け入れ難い思想に基づくものであった。

 

だが、目の前の男二人は何の力も持たない、ただの人間である。無論、神器(セイクリッド・ギア)などもない。

そんな彼らに、アインストやフューラーの部隊と戦えというのはあまりにも酷である。

それでも現状に不満は抱いているのだから、取れる手段は「人任せ」しか存在しないのだ。

 

リアスは自覚していない事だったが、彼女はそうした「人任せ」で

すべて解決しようとする者を見下していた。

そう。イザイヤ――木場にせよ、朱乃にせよ、アーシアにせよ、そして一誠にせよ

神器なり、特異能力があるなりしていたからこそ彼女の眷属となった側面が間違いなく存在する。

力を持たない人間など、自分の眷属には相応しくない。寧ろ自分が守り導くべき有象無象である。

 

だがそんな考えで動いた結果が駒王町で起きた連続猟奇殺人事件であり、セージの反乱であった。

 

「で、悪魔とか天使とかがこれ幸いとばかりに俺ら人間にちょっかいかけてるんだよな?」

 

「ああ、ナチスの連中に頼るのはヤベーって気がするけどよ、だからって

 人間を食い物としか見てない悪魔や天使に頼るのはもっとヤバくね?

 つーかさ、なんでこの期に及んで人間にちょっかいかけて来るんだろうな?

 戦争したいならよそでやってくれよな」

 

「わかる! バケモノ風情が人間の世界に来るなっつーの!

 なぁ、悪魔とかキモイよな? 後からしゃしゃり出てきたくせに我が物顔するとか

 マジウゼェって奴?」

 

殺人事件はもとより、セージの反乱も初めはただ一人の

成り損ないの転生悪魔が歯向かっただけの事。

だがその後、セージは着実に自らの足場を固めていき、今では超特捜課という後ろ盾を得

仲間こそ少ないものの、若手悪魔四天王(ルーキーズ・フォー)にも勝るとも劣らない総合力を持っている。

リアスは、己の価値観に固執するあまり自らライバルとも言えない

不倶戴天の敵を生み出してしまったのだ。

その事は、リアスに自覚しないストレスを与え続けていた。

さらにダメ押しとばかりに目の前の男二人は純血悪魔であるリアスを前に

悪魔ディスを始めたのだ。無論、二人はリアスが悪魔であることなど

全然知らないからこそできたのだが。

 

「…………るさいわよ」

 

「うん?」

 

「うるさいっつってんのよ、このクズ!」

 

リアスの怒号が電車内に響く。

男を無視して考え事をして、それで勝手に思考の袋小路に嵌っていたことを考えると

リアスの行いは完全な八つ当たりであり

一誠と同等の下心丸出しでリアスらに声をかけた二人だったが

滅びの力を向けかねないリアスの態度に、男たちは震えあがっていた。

腐っても上級悪魔であるリアスの殺気に対して

どこにでもいる一般市民の男が立ち向かえるわけがない。

すっかり震え上がる男二人を前にして、リアスはさらに腹を立て、朱乃は笑みを崩さない。

朱乃の性格上、震えあがる男を見るのが楽しいというのもあるのかもしれないが。

 

……だが、ここは貸し切り車両ではない。他の乗客もいるのだ。

そんなところで大声を張り上げるのみならず、滅びの力を行使するという事が

どういう事になるのか。同乗していた木場もアーシアも、よくわかっていたが

リアスの剣幕に押され、ただでさえ主と眷属という力関係のはっきりした関係にある以上

強く出られず、それがますますリアスを増長させる結果になる……かと思われたが。

 

「そこまでにするんだ、リアス君」

 

「……っ! ナイア先生、けれど……!」

 

「彼らの態度は確かに褒められたものではないかもしれない。

 だが、公共の場、しかも人間が大多数を占める場所で

 君が悪魔の、滅びの力を行使するという事がどういう結末を招くか

 聡明な君なら知らないわけではないだろう?

 

 それに朱乃君も、見ていないで止めてもらえないか?

 君は一応『女王(クィーン)』、『(キング)』に最も近しい眷属だろう?

 ああ、今のは『戦車(ルーク)』としてではなく

 教師として君の行いを注意したという事は理解しておくれ。

 何でもかんでも自分の力で思い通りにできるものじゃない。

 社会というのは、そういうものだよ?」

 

見かねたナイアが、リアスの滅びの力を打ち消す。

その事にリアスが抗議しようとするが、ナイアは眷属であると同時に顧問教師。

いくらリアスが我儘放題だからとはいえ、教師に面と向かって逆らうほどではない。

もう一つの要因として、ナイアの神器である「群衆の追憶(マス・レガシー)」が発動していたのもあるが。

 

「……二人とも、うちの生徒がすまなかったね。

 お詫びをしたいから、連絡先を教えてくれないかい?」

 

「……そこまでしなくていいっての。白けたから行こうぜ?」

 

「あ、ああ……」

 

ナイアに仲裁されたことで、男二人も興醒めしたのかすごすごと車両を変える。

周りの乗客も、リアスの大声に反応して別の車両に移ってしまっていた。

ナイアもリアスや朱乃と同等以上のプロポーションを誇っており

声をかけた当初ならば男たちも乗り気でSNSのアドレス交換をしただろう。

だが、リアスの覇気に圧されてそんな気は失せてしまっていたのだ。

 

「……よく見ておくんだ、リアス君、朱乃君。

 欲望のままに力を揮った結果がこれだ。君の周りには、誰もいない。

 そんな状態で称賛を得たとして、それは彼らの本心からの称賛かな?

 ただ実を伴わない称賛が得たいだけなら、僕は止めはしないけどね」

 

(……誰もいない? そんなわけないじゃない。私には朱乃が、祐斗が、ギャスパーが

 それにアーシア、イッセーだっているのよ? 私は紅髪の滅殺姫(ルインプリンセス)とも呼ばれたのよ?

 私の愛する下僕達――特にイッセーさえいれば、後はどうなったって……)

 

ナイアがそう思うように仕向けたのかどうかはわからないが

リアスの心に渦巻くものは、決して明るくはない、昏いものであった。

愛情深い性格が、完全に裏目に出てしまっていたのだ。

彼女が向ける愛情は、愛玩動物に対するそれである。

それは「相手は自分に対し無償で尽くすべきだ」

「自分は相手に対し世話をしなければならない」という、完全に上から目線の繋がりである。

彼女もまた、知らず知らずのうちに「歪んだノブレス・オブリージュ」を会得していたのだ。

 

そして何より「自分が必要とされなくなった場合の事」を一切頭から外している。

逆はあったとしても。

最悪、一番目にかけている一誠でさえも「飽きが来たらおざなりになる」事もあり得るのだ。

そして、その一誠も最近はナイアに傾きつつある。

それもまた、リアスのストレスを無意識に加算させていたのだ。

 

「……祐斗さん、部長さん、本当に余裕がなさそうですね」

 

「……言っちゃ悪いけど仕方ないよ。僕らに何ができるって言うんだい?

 気休めを言って、現実から目を背けさせる? 僕はそれが解決法だとは思わないけど。

 かと言って、今の部長が真実に耐え得るとは思わない。

 聞く耳持たないんじゃ、言ってもなぁ……」

 

少し離れた席で、アーシアと木場が相談している。

心を蝕む現実から目を背けたところで、事態は何も解決しない。

かと言って事実を伝えても、それはリアスを追い詰めるだけだ。

 

心身共に、リアスを支える存在が必要なのだろう。

だがそれには、「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」によって半強制的に与えられた

主と眷属という関係が邪魔をしていた。

一誠でさえ、立場の差は理解していたため

 

――本人に一線を越える度胸がまるでないというのもあるが――

 

リアスは名前呼びしてほしいにもかかわらず

一誠の側からは今に至るまでずっと役職呼びである。

これなら、敵愾心すら持っているかどうか怪しいセージの名字呼びの方が親近感がある。

言ってる本人に言わせれば「名前で呼ぶほど親しみ持てるわけないだろ」

という即答が返ってきそうだが。

リアスが思い描いていた「素晴らしい王と、それに傅く眷属たち」という理想像は

ここに来て、彼女を蝕む毒となっていたのだ。

 

……果たして、そんな状態で沢芽市への遠征がうまくいくかどうか。

そして、何故ナイアはそんなリアスを企業見学にかこつけて沢芽市に連れていくのか。

 

(……おやおや。これは予想以上に追い詰められてるね。

 大人しくしていればそれでよし、先方に迷惑を掛けたらサーゼクス辺りに問題を押し付ければいい。

 そのためにユグドラシルを指定したんだからね。

 

 それにしても、イッセー君のハーレムを増強するのはいいけど

 あんまり心をへし折った女の子ばかり集めてもねぇ。

 心をへし折った女の子なんて既に一人当てがあるし、もう一人くらいは増えそうだしね……

 アーシア君が見込みがない以上、せめてリアス君は健康な心のまま

 イッセー君のハーレムに入ってもらいたいからね。

 全く、イッセー君も何を尻込みしているんだか。僕相手に自信をつけたんじゃなかったのかな)

 

ナイアがその金色の瞳の奥に何か途轍もなく昏いものを秘めながら

引率しているリアス、朱乃、木場、アーシアの様子を見る。

引率の教師という立場上、別段生徒の動向に目を光らせるのはおかしなことではないし

それが寧ろ普通である。ただ、何を考えているのかが全然読めないだけで。

 

そんな彼女らの行く末を暗示するかのように、電車から見えるユグドラシルタワーの上空にある

光学迷彩で隠されたクロスゲートは、不気味な光を発していた……




リアス、追い詰められているの巻。
自業自得な部分も少なくは無いですが。

色々「一誠に都合のいい設定ばかり取ってつけたおかげで価値が暴落した」って考えると
冗談抜きで犠牲者だと思います。

「男に興味が無い」ってのも鞘当てを回避するためにつけた設定にしか見えませんし
まさかバトルだけじゃなく恋愛でもライバル()とは恐れ入りました。
今話題のNTR対策にしても杜撰が過ぎると思います。
つーか一誠がむしろオーラ()でヒロインを寝取る下衆野郎にしか見えないんですがそれは。

作中言及はされてませんが、拙作でも虚憶を通じてそういう力があると
ナイアに吹き込まれてますけどね(なおヤバいフラグになる模様)。

思い返してみると、原作ハーレムメンバーってみんな初恋(免疫が無い)だと思います。
そりゃあ、オーラ()関係なく変なのに引っ掛かりますわ……
……初恋って成就しないからこそ美しいものだと思ってます。
そのオーラ()の発生源というか端末も初恋で殺されたはずなんですけどね……

……あ、免疫つけたらオーラ()なんぞ跳ね除けるか。拙作白音みたく。
黒歌は……ビッチぞろいの原作でも輪をかけてビッチ(ある意味誉め言葉)だから
まぁ……


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Sour grapes Bパート

お待たせしました、Bパートです。
思ったほど進まなくて、タワーに行けるかと思ったけど
行けてないのも全部私のせいだ!


……ほっぽ妹から漂うヤベーイ臭。
何で「妹属性」と「ヤベーイ」のは累乗するんですかね。
どっかの吸血鬼とか、どっかのドラマCDとか。古いですけど。


その後、他の乗客が皆別の車両に移ったのもあってか

静かな電車の旅を満喫したオカ研一同。

リアスが余計な事をしたからなのだが、別段他の乗客と何かを話そうとは

誰も思っていなかったため、大きな損害とはならなかった。

 

ただ、腫物を触られるような扱いには変わらず、魔女として虐げられた経験のあるアーシアは

「またか」といった思いもまた去来していた。

結局、悪魔となっても扱いはかつて魔女と虐げられたころと変わらない。

彼女が強くあれるのは、単に「経験したことだから、心をどう持つべきか」という対処法を

既に知っているからに過ぎない。要は、リアスと比べて遥かに打たれ強いのだ。

 

木場に関しては、打たれ強さ云々というよりは「諦観している」と言った方がいいかもしれない。

確かに、彼はリアスに拾われて現在の地位を得ている。

だが、その後自分の置かれている立場を「外から」見た際に

如何にとんでもない場所に立っているのか、を気付かされたのだ。

今彼は、自分を拾い上げた恩人と、自分自身の進路の狭間で苦悩しているのだ。

 

そんな彼らの心を知らず、いや知ろうともせずに

リアス・グレモリーは今後について音頭を執っていた。

 

「みんな。企業見学という事でユグドラシル・コーポレーションってところを

 訪ねるわけだけど……ナイア先生、ここって何の会社だったかしら?」

 

「……前もってパンフレットを渡しておいただろう?

 朱乃君も黙ってないでアシストしてくれないかい? まぁいいけどさ。

 一応、ユグドラシル・コーポレーションは医療・福祉を中心に多角経営を行っている

 大企業として、日本のみならず全国にその拠点を構える大企業さ。

 日本における拠点が、これから向かう沢芽(ざわめ)市というわけさ」

 

興味が無く、かつ半強制的に予定を組まれた企業見学とはいえ

曲がりなりにも学校行事であるそれに対して、リアスの態度はあまりにもいい加減であった。

教師として、ナイアは嘆息しながらも説明をしている。

だが、同時にこうも思っていた。

 

――彼女は、人間の文化を本気で学ぶ気があるのか?

 

と。

 

顧問に就いてから、眷属になってからまだ日は浅いが

彼女がどのような態度で学校生活に、そして部活動に臨んでいたかは

副部長である朱乃や他の部員たち、そしてナイアが懇意にしている――

というよりはいいように扱っている一誠からも聞いている。

そのうえでナイアがリアスに対し下した評価は――

 

――人間社会にその身をおいても、悪魔貴族としての暮らしの習慣から抜け出せていない。

 

その代表例が、旧校舎の私物化、有力貴族との婚約の強引な破棄に

自己の矜持を優先した報告すべき事柄の黙殺や根拠のない自信に基づく行動によって

機密漏洩を起こしているなど、枚挙に暇がない。

出来るものならば、冥界に強制送還させてもいいのではないか。とナイアは思っていた。

……あくまでも、教師としては。

 

(ま、これ位単純でわかりやすい方がイッセー君にとっては都合がいいだろうねぇ。

 彼女はへし折らずともハーレムの一員になってくれそうだけど……

 

 ……愛情深いという事は、同時に嫉妬深くもある。

 今の彼女をイッセー君のハーレムに入れるわけにはいかないね。

 いや、そもそも彼女は「自分『だけ』を見てほしい」タイプだ。とてもハーレム向きじゃない。

 なんだ、結局へし折るしかないのかな?

 

 ……全く。心をへし折った、従順な相手だけを囲ったハーレムがお望みだなんて

 イッセー君も相当屈折した性癖の持ち主だねぇ……僕に他人の事は言えないけどさ)

 

ナイアは、教師として、そしてリアスの眷属の一人としての貌の他に、別の貌も持っていた。

しかし、その貌は決してリアスにも、一誠にも見せることは無い。

何故ならその貌は、あまりにも混沌としており、直視しようものならば

間違いなく狂ってしまいかねないからだ。

そんな狂気も秘めた謎の女性、それが布袋芙(ほていふ)ナイアという女性の個性……なのだが

一応の主でもあるリアスは、ナイアの持つ神器(セイクリッド・ギア)にしか目が行っていないため

注意すべき彼女の裏の貌に気付かない。

この場にいない一誠もまた、ナイアのリアスにも勝るとも劣らない

プロポーションにしか目が行っておらず、ナイアという女性の本質をまるで知らない。

彼女が神器持ちであることを知ったのも、知り合って暫く経ってからの話だ。

 

「ナイア先生、医療・福祉という事は病院ともつながりがあるって事ですか?」

 

「いい質問だよアーシア君。確かに、ユグドラシルは傘下の病院を多数抱えている。

 駒王総合病院にも、ユグドラシル製の医療機器があったはずさ。だよね、リアス君?」

 

ここで、ナイアがリアスに対し意地悪な質問をする。

今でこそ管理者の立場を追われているが、かつて駒王町の管理者だったリアスに

駒王町の施設に関することを質問しているのだ。

答えられないようならば、沽券にかかわる。

 

「え? ええ、そうよ。病院の設備はユグドラシルのものを使っているわ」

 

リアスの回答は、事実を言い当てるという意味では正解だが

ナイアが意図した質問として言うならば不正解だ。

ナイアは「リアスがきちんと駒王町の管理者としてふさわしい仕事をしていたかどうか」

という点について問うたため、確かに駒王総合病院にユグドラシル製の医療機器は

導入されていたが、実際のところリアスはそこまで知らなかった。あてずっぽうで答えたのだ。

よって、正解こそ言い当てたものの、リアスはナイアの質問には

満足に答えられなかったという事になる。

 

管理者、などと一言で言うのは容易い。

だが、その役割は途轍もなく多く、一介の学生が学業の片手間に出来るようなものではない。

それを補うために通常は部下――この場合は使い魔など――を総動員するのだが

それは果たして「リアス・グレモリーが管理する」駒王町と言えるのだろうか。

実際に町の管理運営の仕事をしているのは使い魔であったり、町の役所の人間であったりする。

リアスは、ただ指示だけ出して高級な椅子にふんぞり返っていただけに過ぎない。

 

(彼女の心はへし折るのは容易いけど……それはイッセー君も表向きは望まないだろうしね。

 まぁ、完膚なきまでに叩き壊したうえで肉人形に仕立てた上で

 イッセー君の玩具に宛がうのも一興ではあるけれど。

 虚憶の一部にそういう世界もあっただろうから、今度打診してみようかな……?)

 

自分が一誠の邪な欲望の対象であることを知ってか知らずか

リアスは一誠を猫かわいがりしていた。

だが、リアスは一誠に対して「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の保有者」かつ

「自分に従順な下僕」以上のものは求めておらず

一誠もまたリアスに対して「何があっても自分を庇護してくれる主人」かつ

「自覚せず屈折したリビドーの対象」としてしか見ておらず

互いに見事に食い違った見方をしていたのだ。

 

そんな状況は、ナイアにとって格好の遊び場だった。

初めに一誠と接触したナイアがさらにリアスにお接触したのは、一誠に頼まれたからというよりは

自らがリアスを焚きつけ、諸共にどう転がるかを見届けるためでもあった。

そういう意味では、リアスと一誠は似た者主従であり、同じ混沌の哀れな玩具だ。

 

――まもなく、沢芽シティ駅、沢芽シティ駅。お出口は――

 

「おっと。どうやら目的の駅に着きそうだ。忘れ物のないようにね。

 それと最後にもう一度注意しておくけど、沢芽市では魔力や使い魔や

 神器なんかの行使は極力控えるように。

 駒王町と違って、怪異に対する免疫が薄いからね。

 フューラー演説で辛うじて悪魔の存在は知れ渡ったけれど

 それでも住民の半数は眉唾程度の認識だそうだ。

 だからこそ、君達も活動しやすいかもしれないけどね。

 

 ……特にリアス君、朱乃君。さっきみたいなことはしないようにしてくれよ?」

 

到着を告げるアナウンスを合図に、改めてナイアが注意喚起を行う。

その腹の内は混沌に満ちていても、教師としての仕事は全うしているのだ。

先刻騒動を起こしたリアスと、それを止めなかった朱乃に対して釘を刺しつつ

ナイアの先導で駅に降り立った。

 

――沢芽シティ駅、沢芽シティ駅。ご乗車、ありがとうございます。

  本日もユグドラシル鉄道をご利用いただき、ありがとうございます。

  2番線より発車の列車は、巌戸台(いわとだい)珠閒瑠(すまる)八十稲羽(やそいなば)経由の特急、御影町(みかげちょう)行きです。

  次は、東沢芽に停まります。まもなく発車します、閉まるドアにご注意ください――

 

ホームドアが閉まり、ナイア達を乗せてきた列車が発車する。

沢芽市。駒王町とはまるで違った発展を遂げた、ユグドラシルを抱えた企業都市。

改札をくぐった先には、スーツに身を包みながらも年のほどはリアスらとそう変わらない少年が

黒服の男を従えて立っていた。

 

「駒王学園の生徒の皆さまですね? 本日案内をさせていただく呉島光実(くれしまみつざね)です。

 ユグドラシルタワーまでお送りいたしますので、お車までご案内いたします」

 

「ご丁寧にどうも、引率の布袋芙ナイアだ。今日はうちの生徒達が迷惑をかけるかもしれないが

 よろしく頼むよ」

 

光実と握手を交わすナイア。ナイアの底知れなさに光実は背筋に寒気を覚え

ナイアもまた、光実の心の奥に潜んだ影を見抜いていた。

 

(この先生……何だって言うんだ!? 僕の……僕の中を見透かしたような目をして……っ!!

 今ここに兄さんの代わりで立っているって立場でなかったら、こいつを……!!

 

 !? ぼ、僕は今何を考えていたんだ……?)

 

(フフッ、なるほどね。やはり外にも出てみるものだね。

 ここにも運命に囚われた昏い影の持ち主がいたか。

 けれど……いや、気のせいか? 誰しもが持っている「影」と、この少年の「影」は

 何かが違うように思えるな……)

 

光実の手の中には、いつの間にかブドウロックシードが握られていた。

それはつまり、すぐにでも龍玄に変身して事を起こすつもりだったのだろう。

勿論、こんな人通りの多い場所でアーマードライダーの力を行使すればとんでもないことになる。

それは奇しくも、先刻車内で滅びの力を発現しかけたリアスに近いものであった。

 

「ふむ。君は見たところまだ学生だろう? だのに会社の手伝いとは殊勝だね。

 今日はうちの生徒達とも、仲良くしてやってくれると嬉しいかな」

 

「……わかりました」

 

先ほどの感覚があり、光実も身の入った返事が出来ずにいたが

ナイアがそれに対して咎めたりする様子は無かった。

従えている黒服――光実が免許を持っていないことに因む運転手――も

空気を読んでか、光実の異変を口に出すことはしなかった。

 

ただ一人、空気を読まないことに定評のあるものを除いては。

 

「案内を買って出てくれるのはありがたいのだけど、そんな様子で大丈夫なのかしら?」

 

「……見苦しいところをお見せして、申し訳ありません。

 さておき、これから私共ユグドラシルの概要と沿革についてご説明いたしますが

 そちらにつきましては、資料をお渡しいたしますので車内でご説明させていただきます。

 社屋であるユグドラシルタワーに到着後、我が社の研究者である戦極凌馬(せんごくりょうま)による

 開発品の解説と実践を行わせていただく予定です」

 

リアスの指摘に、光実は反論したくなるのを抑えながらその日のカリキュラムについて説明していた。

ユグドラシルタワーにて、凌馬の製作したものの解説と実践を行い

それを以て、ユグドラシルという会社の説明とするつもりのようだ。

 

「開発品? やはり、医療機器なんかですか?」

 

「それもありますが、昨今のテロ騒動や怪物騒動などで被災した地域向けの

 重機やドローン、パワードスーツなども開発しております。

 我がユグドラシルは、多角経営を掲げておりますので」

 

アーシアの質問に、光実ははきはきと答える。

光実の回答に、今度は木場が疑問を抱いた。

 

「多角経営……とは言っても、医療・福祉に重きを置くユグドラシルが

 重機やパワードスーツを? 一体どうしてだい?」

 

「先ほどもお話した通り、被災地向けの開発品になります。

 また、パワードスーツにつきましても、被災地向けのみならず

 将来的な介護福祉の現場の一助となるよう、開発が進められております」

 

パワードスーツと介護福祉、一見噛み合わない要素に思えるが

介護の現場は毎年人が減っており、要介護者とは反比例している形だ。

それを補うべく、機械を導入しているところは枚挙に暇がない。

そうした介護用ロボットの延長線上であると、光実は説明していた。

 

(セージ君のお母さんが、介護の現場で働いていたっけ。

 そうした人たちの一助になるのなら、ロボットの導入は強ち間違いでもないのかもね)

 

だが、光実の説明に今一つ要領を得ない者がいた。

リアス・グレモリーである。

 

しかしその件に関して、彼女を責めるのは些か酷であろう。

何故ならば、悪魔の世界において「介護」という概念は極めて希薄である。

魔力という概念が存在しているため、年老いた悪魔も若い悪魔も

肉体能力が人間ほど重要視されない。

酷いケースだと、魔力で肉体年齢を偽ることだって可能であるし

魔力を持たないなどの要素が無い限り、身体障碍とも無縁である。

そうなれば、「介護」という要素や概念など学びようがない。

その為、リアスにしてみれば光実の話はこの上なく退屈なものなのであった。

 

「そんなことより、ユグドラシルという名前の由来を知りたいのだけど。

 これは北欧に伝わる世界樹の名前よ?

 どうして日本の企業がその名前を使っているのかしら?」

 

 

――だから呉島光実は、辟易としていた。

 

目の前の生徒――特に胸の大きい赤い髪の生徒――はまるでこっちの話を聞いていない。

いや、そもそも興味すらない様子だ。なら何で企業見学に来たのかと問いたい。

やる気のないものは去れ、とはどこかの企業の社訓らしい。ユグドラシルではないが。

だが今、それがそのまま当てはまっている状況にしか思えない。

答える気も失せた光実は、ただ「僕にはわかりません」とだけ答えたのだった。

 

 

――リアス・グレモリーは、鬱屈としていた。

 

何故自分が人間の企業の見学をしなければならないのか。

そもそも、自分は人間の学校に通うために駒王町に来たはずだ。

卒業後も、大学にそのまま行くつもりだった。就職など、するつもりは毛頭ない。

もっと言えば、何故自分が働かなければならないのか。

当然、アルバイトなんてこともやったことは無い。悪魔契約ならともかく。

つまり、「人間の」社会に出るつもりはないのだ。

それなのに、目の前のどこか陰鬱とした小僧――自分と年はそう変わらないのだが――の

企業説明と銘打ったつまらない話を延々と聞かされるのだ。

周りを見渡すと、姿勢だけでも聞いている顧問教師と、割と真面目に聞いている眷属二人。

側近の女王は、張り付いた笑顔を崩していない。

 

自分の価値観がおかしいのだろうか? 否、自分は曲がりなりにも貴族悪魔として育ち

それなりの教育を受けてきたつもりだ。そんな自分の価値観が間違っているはずがない。

だから自分は正しいのだ。自分の行いは、正義であるべきなのだ。

グレモリー次期当主として、誰に与え、誰から奪うのか。

それを決める力を持てる立場に立つはずなのだ。

 

 

……その力の名は、権力。

だが、権力のみならず歪んだ心で望んだ力は、どうあがいても破滅しかもたらさない……




今回書くに当たって、「リアスって結局学校行って何したいの?」って点が気になりました。
人間社会で働きたい、って風には全然見えないですし
かといって人間社会の在り方は態々冥界に持ち込まなくても既に体現されてる(悪い意味で)

家の意向に逆らってまで、人間の高校・大学と行った理由がまるで分らないんです。
人間でさえ大学行くならそれなりの理由が必要ですし。結果はどうあれ。
(今のご時世、就職目当ての大卒もそこまで価値があるかどうか……)

また、悪魔社会って絶対「介護」とか全然発達してないよね、とは思います。
身体障碍、精神障碍問わず悪魔に対するヘルパーとかそういう概念はゼロと思ってます。
(悪魔契約でヘルパーっぽいことはしてるっぽいですが、悪魔契約とヘルパーの仕事は
一緒にしてほしくないというか、何というか)
故に、医療系にも精通しているユグドラシルの表側の話は
リアスにとっては途轍もなく退屈と解釈しました。

そして色々ちりばめられてる黒ミッチフラグ。
ミッチ本人もさることながら、リアスが黒ミッチ的な道を進みかねないのもまた……

そういえば、今回電車で移動してますが鎧武の同期の戦隊はトッキュウジャーでしたね。
なので、一応駅名とか拾ってます。
因みに駒王町→沢芽市→巌戸台→珠閒瑠市→八十稲羽市→御影町と路線が繋がっているイメージ。
因みに劇中の列車は、珠閒瑠で特急から普通に変わります。


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Incredible Ryouma Aパート

お待たせしました。
ある程度立ち直れました。

ご迷惑をおかけしております、すみません。


ユグドラシルタワー。

ユグドラシル・コーポレーション沢芽支社のオフィスビルであり

沢芽市随一のランドマーク。

その存在感は、沢芽市外にも知れ渡っている。

 

しかし、その有名なタワーと、ユグドラシルが掲げる医療・福祉のモットーの裏に潜んだ

その悪意を知るものは、数えるほどしかいない。

桜の樹の下に死体が埋まっているように、世界樹の根元には悪意が埋められていたのだ――

 

 

――――

 

 

光実(みつざね)に案内され、ナイアが引率する駒王学園オカルト研究部の二・三年は

ユグドラシルタワーの前に来ていた。

塔を見上げる一同は、各々感想を漏らしていた。

 

「うわあ、おっきな塔ですね……」

 

「駒王町にはこうしたランドマークは誘致されていなかったからね。

 アーシアさんにしたら、珍しいんじゃないかな?」

 

実際、欧州の片田舎で育ったアーシアは、先進国の中でも有数の巨大施設である

ユグドラシルタワーは物珍しい。

大きな建物、という意味でならリアスの実家であるグレモリー邸もあるのだが

それとは規模もだが意味合いも違う。個人所有の邸宅と

公共施設――ユグドラシルタワーは社ビルだが――では

大きいといっても規模が違うのだ。

 

ましてや、グレモリー邸は貧困のお陰で抵当に入れられている家財道具が少なくなかった。

しかし、ユグドラシルタワーには当然そんなものは無い。

アーシアは、グレモリー邸を見た時以上に衝撃を隠せていなかった。

 

そうなると面白くないのはリアスだ。

アーシアのその態度に、顔を顰めている。

ただでさえ、寵愛を注ぎ、その相手から称賛されることを好む傾向のあるリアスにとって

自分以上に周囲の人物の注目を集めるユグドラシルタワーは、彼女にとって面白くない。

 

(……何よ。グレモリー領だってその気になればランドマークの一つや二つ、簡単に作れるわ。

 私の嫌いなラクダモチーフになりかねないってのだけアレだけど

 こんな塔以上のものを作ることくらい朝飯前のはずよ)

 

その態度が顔に出ていたのか、早速やって来たユグドラシルの研究者・戦極凌馬(せんごくりょうま)

リアスの考えは見透かされてしまった。

 

「でかいだろう? 何せ私の研究の粋を集めて建設した塔だからね。いいだろ?

 だがただでかいだけの塔じゃないよ? 内緒の話だが、テロリストやアインストのような

 外敵から防衛するための装置も搭載しているし、いざって時は……」

 

「凌馬さん、まず自己紹介から入ってください」

 

ユグドラシルタワーについて、機密に抵触していたり

していなかったりする程度に解説を始める凌馬を光実が宥める。

結果として、リアスは聞きたくもないであろう

凌馬の長ったらしい自慢話から解放されることになった。

 

「これは失礼、ついつい話し込んでしまうところだった。ナイスフォローだ光実君。

 来る途中に光実君から聞いたかもしれないが、改めて自己紹介しよう。

 私がこのユグドラシル・コーポレーションで様々な機器を開発している戦極凌馬だ。

 今日は、君達駒王学園の生徒諸君に、じっくりと私の最高傑作をご覧いただこうじゃないか」

 

凌馬はオーバーアクションを取りながら、引率のナイアをユグドラシルタワーの中に案内する。

そこには、相手の話を聞かない一方的な凌馬の性格が滲み出ていた。

そんな様子を見た光実は、殿で嘆息していた。

 

(……どっちもどっち、か。いや確かに凌馬さんは龍玄の件とかで世話になってるけどさ……

 この勝手な振る舞いはあの女生徒とどっこいって気がしてならないね。

 

 それに……あの引率の先生、彼女は絶対に只者じゃない。インベスや、アインストとかとは

 当然違うんだけど……ただの人間と言い切るには、絶対何かがおかしい。

 噂で聞くオーバーロードって奴か……?)

 

そんな光実の様子に気付いた木場が、思わず光実に声をかける。

赤の他人である木場から見ても、光実は色々悩んでいる風に見えたのだ。

 

「……何か、あったのかい?

 ああ、さっき車に乗る前にも軽く名乗ったけど僕は木場祐斗。

 見ての通り、オカルト研究部の黒一点さ……今日のところはね」

 

「今日のところは……って事は、一年には男子がいるんですか?」

 

軽い世間話だが、光実の気を紛らわすには適切だ。

実際のところは、木場自身も気を紛らわしたい節があるのだが。

今のオカルト研究部は、明確に男子と言えるのは木場位なものである。

ギャスパーは……かなり、判断に迷う部分がある。外見的な意味で。

勿論、生物学上でも、遺伝子的にも男子と言って全く差し障りないのだが。

 

移動中にも凌馬の講義は続いていたので、その合間を縫っての雑談だが

主の性格と、周囲の環境からセージ以外まともな同性の友人がいない木場にとって

光実は貴重な話し相手と言えたのだ。

 

 

――実際のところ、異性と話すというのはこの多感な時期においては神経をすり減らす。

駒王学園という環境は、そういう意味で木場に見えない形でストレスをかけていた。

いくらイケメンだ王子だなどと持て囃されても、それは「友人」として彼を見ているはずもなく

「偶像」、酷く言えば「好奇」としての視線だ。当然、対応もそれに伴う。

 

まして、駒王学園では変態三人衆のお陰で彼以外の男子の評価は底値を割っていた。

セージでさえ、男子の地位向上のために動いていた節がある位だ。

そうなれば、彼(と、よくてセージ)以外の男子のヒエラルキーなどあったものではない。

そんな中で女子から――他の生徒から扱われれば、余程心を鍛えていない限り

どこかに無理が生じてしまう。

そういう経験をしてきたからこそ、セージとは早めに打ち解けたし

イッセーもその長所が磨き上げられれば友人たり得たのかもしれない。結果はこのざまだが。

 

 

以前、セージは木場にこの悩みを打ち明けられたときにこう思ったという。

 

――よく持て囃されて天狗にならずに自分を保てていたな――と。

 

 

悪い言い方をすれば、木場の悩みなど光実には全く関係が無い。

だが、居心地の悪さを感じるというのは光実にはどこかシンパシーを感じるものがあったのだ。

呉島光実は、確かに呉島貴虎の弟として、その補佐を務めることが多い。

だがその一方で、ビートライダーズ「チーム鎧武」の一員でもあるのだ。

光実は、沢芽市の光と影の二足の草鞋を履いていたのだ。

 

そのことについて、兄である貴虎は見て見ぬふりをしていた。

実際のところ、ビートライダーズの軌道調整をするのに意識調査をするのは大事だ。

光実は、図らずもその役割を果たしていたのだ。

ユグドラシルは沢芽市の治安を、ビートライダーズは娯楽を。

それぞれ手に入れているのだから、見方によっては相互に利益を得ているのかもしれない。

 

しかしビートライダーズの原動力は「行政、ユグドラシルに対する不満」であるため

そのユグドラシル関係者である光実がビートライダーズに加担するというのは

裏切り行為を強く意識させるのだった。

光実はどちらの言い分も正しい部分があると思っている。故に、その裏切りという行為は

片方だけでなく、両方に対しての裏切り行為に感じられて

光実の心に重圧を課していたのだ。

 

ところがここでまたシンパシーを感じるものがいる。木場だ。

彼もまた、主であるリアスに忠誠を誓いながらも

明確に反旗を翻し、一部眷属の引き抜きまで行ったセージと協力関係にある。

その関係は、先述の光実のそれに近い。

相違点があるとすれば、光実はユグドラシルとビートライダーズ

そのどちらの言い分も正しいと思っていたが

木場はリアスの側の主張にはあまり賛同していない点が挙げられる。

 

集団の中の裏切り者、というあまり喜ばしくない共通点ではあるものの

木場と光実は共感するものを得ていた。

 

そんな意気投合している二人を他所に、一同は目的地にたどり着いた。

 

「光実君、話し込むのはいいが案内もきちんとしてもらわないと困るよ?

 まぁ、私が語る機会が増えるのは喜ばしい事ではあるがね」

 

「……すみません、凌馬さん、皆さん」

 

おどけた様子で光実を窘める凌馬だが、そこには叱責の感情はまるで込められていなかった。

光実に対して、「仕事しないならしないで別にいい」という

無関心――投げやりとも言える態度をとっていたのだ。

ただ、リアスだけはその光実の態度に対して思うところがあったのか、強く当たりそうだったが

それはナイアによって制止させられていた。

今までのリアスの言動の起因がほぼ八つ当たりに発していることから

これ以上リアスの勝手にさせては場の空気が悪くなりかねないと判断したことによる。

 

そもそも、リアスはこの企業見学そのものが乗り気ではない。

彼女の思い描いているスクールライフないしキャンパスライフとは大きくかけ離れているからだ。

尤も、この企業見学を抜きにしても彼女の理想像と現実は大きくかけ離れてしまっているのだが。

 

 

一体、何が間違っていたというのか。

愛を注いだ眷属はバラバラになり、己の愛を否定され反旗を翻され、離れていく眷属。

気にかけていた眷属の一人は、誤認逮捕という形にはなったが、逮捕歴がついた。

自分自身さえ、紅髪の滅殺姫などと持て囃されたのが嘘のような境遇だ。

これは悪い夢ではないか、最近リアスはそう考えることも少なくない。

 

「そこの赤い髪の子は退屈そうだね。だがそんな君にこそ見てもらいたいものがあってね。

 例えばこの……ロックシードなんてのはどうだい?」

 

(おやおや。いきなり本題突入か。まぁリアス君の態度を見るに

 食いつきの良さそうな話題から入るのは大事だけどね。

 だけど、悪魔がアーマードライダーシステムを? 宝の持ち腐れだと思うけどねぇ……

 

 ……それともまさか、インベス召喚能力について語るつもりなのかな?)

 

凌馬が差し出したのはリアスの髪同様の赤い果実を模した錠前――ロックシード。

その中でも、ザクロロックシードと呼ばれるものだ。

 

(……ま、これは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を作ろうとして失敗した言わば欠陥品もいいとこだけど

 本職の悪魔に見せれば、何かしら反応を示してくれるだろ)

 

リアスは、確かにこのユグドラシルの企業見学に乗り気ではなかった。

だが、彼女の意図に関係なく戦極凌馬という男もまた、この企業見学に対して

「純粋に前途有望な若者に対する講義」として扱っていなかった。

 

彼は、自分の研究とそれが齎す成果にしか興味がない。

そこには、人も、悪魔も関係なかったのだ。




黒の菩提樹が出たことはご存知の通りですが、ザクロロックシードもこんな形で出ました。
ここも原作からかなり改変かけてます。

……だって原作だったら「三流」の作ったものだしねぇ。
拙作ではその三流がいないのでこうなりました。

リアスの態度もアレだけど、それ以上に不誠実な凌馬。
原作通りとはいえ、若者に対する世間ないし大人の態度がひどすぎるよこの世界。

……こんなもんかもしれないけど。

そして何気に共通点多かった拙作木場と光実。
木場は環境でこうなったクチですが、光実は割と原作仕様。
黒化してないだけましかもしれませんが……


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Incredible Ryouma Bパート

最近かなり筆のノリが悪いです……

九州地方の方のご無事をお祈りいたします。


凌馬の作ったロックシードの一つ、ザクロロックシード。

このロックシードは単体ではアーマードライダーへの変身機能を持たないため

ロックシードという括りで見れば欠陥品である。

だが、凌馬はこれに「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」と同様の性質を持たせようとしていた。

悪魔の駒は、冥界においては(生産地を押さえているから可能なのであるが)大量生産され

転生悪魔を多く生み出すきっかけとなっている。

 

その生産性と機能に目を付けた凌馬は、まず最下級ランクのヒマワリロックシードを基に

ザクロロックシードの試作品を作った。

だが、これは数ばかり多い欠陥品で、悪魔の駒の性能の一割も発揮できない代物だった。

その後改良を加えながら生産性と悪魔の駒が持つ(転生悪魔化に起因する)身体能力の強化と

精神操作機能を加え、言わば「人造悪魔の駒」として開発したものだが

当然そんなものが表向きに出回ることは無い。

 

例えこれに悪魔化の機能がないものだとしても、精神操作は極めて危険なものであるため

本来ならば、厳重に封印されてしかるべきものである……はずだった。

 

しかし、かねてから香港マフィアの天道連(ティエン・タオ・レン)へのロックシードや

戦極ドライバー横流しの容認を行っていた凌馬であるがゆえに

そうした事態には結果以外、無頓着をつらぬいていた。

ただ、「欠陥品」であるザクロロックシードを「完成品」として扱われることは

彼のプライドが許さなかったらしく、意図的に流出させようとはしていなかったが

現実問題既に出回っている。

 

――黒の菩提樹。

 

それが、出回った未完成品のザクロロックシードを運用している組織であった。

彼らがどのような経緯でザクロロックシードを入手したのかは定かではないが

新興宗教である黒の菩提樹の信徒には、何故かザクロロックシードが渡されていたのだ。

 

「どうだい、リアス君? これは人間が悪魔に敬意を表して作ろうとしているものさ。

 ま、これはまだ未完成なんだけどね。完成品はこっちさ」

 

そう言って凌馬が出したのは、スイカ、キウイ、イチゴ、ドングリ、クルミ。

そして色こそついていないがマスカットの絵柄が描かれたロックシード。

完成品とは言っても、いずれもアーマードライダー用の代物であるため

戦極ドライバー無しの単体ではやはりインベス召喚しかできない。

 

「こんな玩具がどうして……って、なんであなたは悪魔の事を知っているのかしら?」

 

「ふっふっふっ、大人を甘く見ない方がいいよリアス君。

 そもそも、フューラー演説で公表されている存在じゃないか。

 まぁ私はその前から知っていたがね。

 ……ところで君は『悪魔の駒』というものを知っているかい?」

 

その単語を聞いたとき、リアスは顔を顰めた。

悪魔の事を知っているのはまだいい。フューラーにバラされた上、彼が本当に天才だとしたら

悪魔の事を独学で学んでいる可能性だってあるからだ。

だが悪魔の駒ともなれば、悪魔に関してもかなり深いところまで知っていることになる。

少なくとも、上辺だけを知っていたり、ただの契約者だったりしたら知り得ない情報だ。

 

「ま、知ってるものという前提で進めるよ。

 あの道具はあらゆる生物――ま、流石に神なんかは対象外らしいけど。

 それを悪魔に作り変えてしまう、物凄い効果を持った道具らしい。

 私はそれに目をつけてね、人間に悪魔の能力を持たせられないか、と色々考慮した末に

 このロックシードを作ることが出来たんだ」

 

嘘はついていない。

実際、ザクロロックシードはその思想の下に作られたものだ。

しかし、それ以外のロックシードは寧ろ悪魔に対抗するために作られたような節がある。

アーマードライダーシステムなど、その最たるものだ。

 

(フューラーはちょっと言い出すのが遅かったね。私はそれより前から知っていたさ。

 だからこうしてアーマードライダーシステムを作ったんだ。

 貴虎の目指していたプロジェクト・アークじゃない、私なりのプロジェクト・アーク。

 アジュカみたいな奴がいるって事は、それに対抗する術は持つべきだからね)

 

(……悪魔の駒の事を知っている、それに悪魔の駒を参考に作ったというこの錠前。

 確か、これは前に私達を襲ってきた黒い足軽兵のベルトについていたものに似ているわね……

 

 ……と言う事は!)

 

リアスらは、この企業見学の前に駒王町で天道連が変身した黒影に襲撃されていた。

その際に、戦極ドライバーは回収できなかったものの

ロックシードについてはその大まかな要素を知ることが出来ていたのだ。

それが故に、リアスは凌馬に対する疑惑をさらに強めることとなったのだ。

 

「……その前に、一つ聞きたいことがあるわ」

 

「なんだい? 私に答えられることならなんでも答えよう。

 ああ、因みに収録してある音声は私の趣味だ、いいだろ?」

 

聞いてない、と返しながらリアスは凌馬を問い詰める。

その顔には、ただの女学生ではなく元駒王町領主としての面影さえあった。

だが、それでも所詮は学生。悪意において、凌馬に翻弄されるしかなかったのだ。

 

「私達は、以前あなたの作ったその錠前をつけた奴に襲われたわ。

 それは、貴方の差し金なのかしら?」

 

「そんなわけないだろう。私はここでロックシードなんかを開発しているにすぎないよ?

 なんで態々君達を襲わなければならないんだい?

 それに、君のその言い分だとまるで銃の製造工場の人間も悪人であるという風に聞こえるよ?」

 

凌馬は確かに天道連へのロックシード横流しを黙認している。

だが、その流通したロックシードをどう使うかなど、そこまでいけばそれは天道連の責任になる。

凌馬は只力を提供しているに過ぎない。得た力をどう使うか。そこまで、凌馬は関与しないのだ。

 

(……やはり思った通り、天道連は少し過激すぎるきらいがあるな……

 ま、こっちから冥界に攻め込むルートが確立していない以上こっちにいる悪魔を叩くより他

 仕方ないってのはわかるけど……

 

 それに、やはり黒影じゃリアス・グレモリーを倒すことはできないか。

 それならそれでデュークのテスト相手に相応しい相手と言えるだけだ。

 頃合いを見て、仕掛けるとしようか。

 貴虎や湊君のエナジーロックシードからもデータは得られるけれど

 サンプルは多い方がいいからね)

 

凌馬の後ろ手には、レモンの絵柄が象られたクリアブルーの錠前が握られていた。

 

 

――――

 

 

凌馬によるユグドラシルの企業説明は、その後驚くほどスムーズに運んでいた。

というよりは、ロックシードを解説して以降は悪く言えば投げやりに近い態度で

凌馬は開発した製品を紹介していたのだ。

 

何せ、中には凌馬が開発したものでは無いものも含まれていたのだから。

現在警察――超特捜課で運用されているものの中には

確かにユグドラシルで製造されたものもあるが、その開発に凌馬は関わっていない。

特殊強化スーツのコンペに、黒影は間に合わなかった――というのもあるのだが

マフィアにも横流ししている都合上、凌馬がコンペに出すことを渋ったのだ。

 

それは別に警察の面子を立てるとかそんな殊勝な理由ではなく

現状維持の方がアーマードライダーシステムの使用者が確保できるという

そういう理由に過ぎない。要は、モルモットを確保したいのだ。

 

凌馬は色々な意味で天才であるため

被験者の量より質を重視する警察の特殊強化スーツコンペより

数を確保できるシステムの横流しを選んだのだ。

有象無象の対象だが、それでも数が確保できれば強い。

足りない部分は、斬月や龍玄を使えばいい。そう考えていたのだ。

 

そのおかげか、アーマードライダーシステムの開発は順調に進み

バージョンアップしたモデルの開発も成功したのだ。

既にロールアウトしたメロン、ピーチのエナジーロックシード。

自身がデータ取り用に持っているレモンエナジーロックシード。

まもなく完成するチェリーエナジーロックシード。

これら、新世代のアーマードライダーシステムで悪魔やアインストに対抗するつもりなのだろう。

 

「さて、長話に付き合ってもらって疲れただろう?

 少し休憩を挟むとしよう、光実(みつざね)君」

 

「ええ、お昼を持ってきますね」

 

光実が席を外した少し後、凌馬も席を外してしまう。

残されたのは、オカ研メンバーのみだ。

 

「……朱乃、どう見る?」

 

「完全に私達悪魔や三大勢力を意識した設計ですわね。

 悪魔の駒の構造を人間の技術力で真似られるとは思えませんけど

 違うアプローチから攻められたら、わからないですわね」

 

リアスは、完全にロックシードというアイテムに危機感を抱いていた。

以前自分たちを襲った黒影のコアとも言える装置であるため無理もないのだが。

 

だがその襲ってきた黒影とのつながりは

確かにここで作られたものだということくらいしかわからなかった。

それどころか、その黒影よりも高性能らしきものが次々開発されているという。

量産はされていないようだが、リアスにしてみれば気が気でなかった。

 

「そのアーマードライダーとやらが人間を襲っていない以上、狙ってるのは悪魔……

 何よこれ! 完全に人間の悪魔に対する宣戦布告みたいなものじゃない!」

 

(……宣戦布告は言い過ぎだよ。政府で運用しているわけじゃないんだしさ。

 フューラー演説に端を発した反悪魔感情が、こういう形で表れているだけじゃないのかな?)

 

アーマードライダーの作られたであろう理由の推測に、リアスは激昂する。

そんなリアスを冷ややかな目で見ている木場だが、その目の冷ややかさには

本人でさえも気付いていなかった。

 

「で、でもさっき会社の人に聞きましたけど

 他にもインベスやアインストと言った怪物相手にも戦ってくださってるみたいですし……」

 

「何よそれ! 私達悪魔はインベスやアインストと同じ穴の狢って言いたいわけ!?」

 

アーシアのフォローにも、リアスは当たり散らしていた。

昨今の悪魔に対する迫害とも言える対応は、確かに純血悪魔であるリアスにしてみれば

許しがたいものがあったのだろう。だがここは人間界だ。

領域を侵してくる悪魔に対して、対策を練るのは何らおかしなことではない。

自分の身を護る、ただそれを純粋に行っているのだ。建前上は。

 

「よしなよ、リアス君。人間にちょっかいをかけてきたのは悪魔が先だろう?

 彼らが悪魔を拉致監禁するとか不当に扱っているならともかく

 そうでないなら、国交も交わしていない相手がいること自体が問題さ」

 

ナイアにも窘められ、リアスは黙り込んでしまう。

この時代は、悪魔にとってとても過ごしづらいのかもしれない。

リアスは、現状を時代のせいにしていた。実際は因果応報という言葉がふさわしいのだが。

ナイアの言う通り、実際には悪魔が人間や他の種族を悪魔の駒を用いて

半ば強引に拉致紛いの事をしている。

そう考えれば、過激ながらもアーマードライダーシステムは

民間が悪魔に対抗する術を得たという事の証左であった。

そしてそれは、悪魔にとっては望ましくない話とも言える。

 

(……とはいえ、アジュカは何処までこの事を知ってるんだろうねぇ。

 いつまで凌馬の好きにさせておくつもりなのかな?

 

 ……それとも、「アレ」に夢中で後の事はどうなってもいいのかな……?)

 

ナイアが思いをはせていると、外が急に騒がしくなる。

緊張が走るオカ研のメンバーの下に、光実が走りこんできた。

 

「皆さん、落ち着いて行動してください。タワーで爆発事故が起きました。

 これから外まで誘導しますので、僕についてきてください」

 

オカ研のメンバーは知らない事だったが、この爆発事故こそが

黒の菩提樹が起こした自爆テロであった。

 

彼らの手には、凌馬が作るだけ作って放置したザクロロックシードの初期型が握られていた。

彼らはうつろな目でこう呟き――

 

 

――救済を。

 

――我らが主をこの地に。

 

――忌まわしき邪悪な世界樹を焼き払い、真なる統馭者を再臨させん。

 

 

ザクロロックシードが赤く輝き、タワー内部に爆炎が広がっていった。




いくらかロックシードが作られてますが、やはりオレンジとバナナはありません。
ドリアンは言及されてませんがあります。この場にないだけで。

マスカットはオリジナル。色がついていないので、まだ未完成品。


黒の菩提樹の背後にいるのは……
「統馭者」という単語がヒント。

一応、既に出ている奴ですよ?

テロが起きたので、次回以降いよいよ戦闘パート……?


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Will11. ざわめき出した世界樹

お待たせしました。
何とかキリのいいところまで書けたので投下します。

次回は再び未定となります、ご了承ください。


『タワー内部の全警備員に告ぐ!

 現在、ユグドラシルタワー内部の多数のフロアで爆発による火災が発生!

 被害、負傷者の有無は未だ不明、各警備員は負傷者の保護、並びに

 社員の避難誘導にあたれ!

 

 なお、錠前を持った不審人物が数名確認されている!

 繰り返す! 現在、ユグドラシルタワー内部の多数のフロアで――』

 

爆発が起きた。

正直言って、どこかを見落としてないかと何度も思い返した。

だが、何も思い浮かばなかった。

 

『今はごちゃごちゃ考えている場合か、被害状況を確かめるぞ』

 

フリッケンに促され、俺は分身を総動員してタワー内の状況の把握に努めた。

だが、不審人物はいなかったはずだ……

……アインストみたく転移してきたのならば、そりゃあ打つ手も無いが。

だが、そういう情報は入っていないし、分身もアインストを見ていない。

精神支配を受けた、とかなら見落としもあるかもしれないが、考えだしたらキリがない。

 

そんな中、会議室周辺を警護している分身から情報が入る。

どうやら、会議室周辺は今のところ無事らしい。よかった。

――ならば、他のところはどうだ? 俺は必死に情報を集めようとした……その時だった。

 

突如として、アモンに体の支配を奪われた。

そして俺が立っていた場所には、鉄パイプが振り下ろされていたのだ。

 

「我らが主の世界のために……救済を……」

 

「ぼさっとしすぎだぞセージ。俺がいなかったら、どうなっていた事か」

 

アモンの言う通りだ。俺自身の身の安全の確保をすっかり忘れていた。

凰蓮(おうれん)さんにも注意されたことだというのに、俺も迂闊だった。

 

鉄パイプを振り下ろした主は……ユグドラシルの社員だった。

どういうことだ!? 下手人は、ユグドラシルの社内にいたって言う事か!?

それに鉄パイプが振り下ろされ、叩きつけられた床を見ると

とても人間の力で叩きつけられたものとは思えないクレーターが出来上がっていた。

 

まさか……悪魔の駒(イーヴィル・ピース)か!?

ユグドラシル、ひいては沢芽(ざわめ)市には悪魔の手があまり伸びていないって話だったはずだが……

 

「いや、こいつは悪魔じゃねぇ。悪魔特有のにおいがしやがらねぇ」

 

俺の仮説は、アモンによって否定された。悪魔であるアモンが言うのならば、信憑性もある。

だが……だとするとこいつは一体何なんだ?

ただの人間に、ここまでの力が発揮できるとは考えにくい。

何らかのドーピングが施されているとしか考えられないが……

 

『アモン、代わってくれ! 奴らの力の正体を探る!』

 

「そうしたいのは山々だけどよ……囲まれてるぜ、俺ら」

 

そう。アモンに交代したという事はフリッケンの力を維持できなくなるという事。

そうなれば、フリッケンの力で現出させていた分身はすべて消える。

分身が押さえていた下手人が、一気にこっちにやって来てしまったのだ。

 

「主の教えを受け入れぬ者に……鉄槌を……」

 

虚ろな目で、こっちを狙っているユグドラシル社員。

悪魔の駒もない、普通の人間だったらこれは下手に手が出せない。

 

『アモン、何とか殺さずに切り抜けられないか?』

 

「甘っちょろいこと言ってるなお前。言いたいことはわかるがよ、それが通るような状況か?」

 

ぐ……アモンの言いたいことはわかる。だが、ここで殺人を犯してしまうと

後が面倒というのもあるし、要らぬ問題に発展しないだろうか。

だが、状況はアモンの言う通りにしかならなかった。

 

振り下ろされる鉄パイプを躱しながら、アモンは反撃を加えている。

一応、超音波の矢や熱光線、空気の刃と言った殺傷力の高い特殊能力は使ってないみたいだが。

しかし、いくらアモンの力があるとはいえ、相手も強化されているのに

そんなちまちました戦い方をしていては、事態は好転しないのは必然と言えた。

 

「どうすんだよセージ。これじゃキリねぇぞ?」

 

『くっ……』

 

囲まれた時の定番としては、通路に誘い込んで

一度に相手する数を物理的に減らすことが挙げられるが

この状況では誘い込むのも難しそうだ。なにせここはそれほど天井が高くないので、飛べない。

 

さらに包囲網の手薄なところを狙うにしても

その隙を作らせてくれない位に次から次に湧いてくる。

自我が無いようなリアクションしかしていないが、それだけに統率されているという事だろうか。

 

……やりにくい。

 

――Se coucher(伏せなさい)!!

 

声と同時に伏せると、眩い光と轟音が辺りを包んだ。

いつの間にか、アモンから体の支配権は戻っていた。

って事はさっきの光と言い、閃光弾を誰かが使ったみたいだ。

そして聞きなれない言葉って事は、まさか――

 

「バッカモーン! 何をしているの!

 ワテクシは肝心な時に手を抜けなんて教えた覚えはなくてよ!」

 

視線の先には、ベレー帽に迷彩服の所謂アーミールックの偉丈夫がいた。

凰蓮軍曹だ。どうやらフラッシュグレネードで事態を解決したみたいだ。

ああ、それでアモンが引っ込んだわけか……

 

「凰蓮軍曹! すみません、ですが相手は人間――」

 

Tais - toi(黙りなさい)!!

 いくら相手が人間だといっても、相手はこっちを殺しにかかってきているのよ。

 そうなれば、手を抜けば殺されるのはアータよ!

 

 いいこと? 戦場において相手の命の心配をするような浮ついた考えで動くのは

 アマチュアのやる不完全な仕事、それも何も知らない、知ろうともしない素人よ!

 プロフェッショナルなら、まず何としても自分が生き残る道を探しなさい。

 相手を生け捕りにするのは、それからでも遅くはなくてよ!」

 

過剰防衛は適用されないのだろうか、と気になったが言ってる場合でもない。

アモンに交代しているならともかく、鉄パイプの直撃なんぞを脳天に食らったら

俺の身体の方はただでは済まないだろう。折角取り戻したのに、それは困る。

 

「それよりボウヤ。アータ、神器(セイクリッド・ギア)を使ったわね?」

 

「す、すみません」

 

凰蓮軍曹の突然の指摘に思わず狼狽え、平謝りしてしまう。

だが、その後に続いた言葉は叱責の言葉ではなかった。

 

「ワテクシは力は使うべきところでは使いなさいとも言ったわよ。

 それで、今起きている事態の情報収集はどれほど進んでいるのかしら?」

 

「それなら――」

 

俺は凰蓮軍曹に今までの経緯を説明した。

タワーで爆発が起きた事、タワー内部を分身を使って調べてみたが特に異常は無かった事。

爆発は、本当に前触れもなく起きた事。分身から得られた情報は、本当にそれ位だ。

 

「ふーむ……確かにワテクシが鎮圧したのもユグドラシルの社員だったわね。

 内部から情報が洩れている危険性もあり得るわ。そこはワテクシが突き止めるから

 ボウヤは避難誘導に回りなさい」

 

記録再生大図鑑を使えば、そっちを調べるのは容易い。

だが、その後俺でうまく立ち回れるか? 相手は大企業も大企業、ユグドラシルだぞ?

その事を考えれば、俺が行くよりは凰蓮軍曹に頼んだ方がいいかもしれない。

大人のやり取りを、俺がうまくできるとは思えないし。情報収集ならともかく。

そう考え、俺は今後を凰蓮軍曹に頼むことにした。

 

「わかりました、凰蓮軍曹も気を付けて」

 

Au revoir.(またね) ボウヤも気をつけなさい」

 

凰蓮軍曹を見送りながら、俺も避難誘導に回る。

こうなった以上、タワー内部は危険だ。となると外に出るしかないが……

 

……うん? 外? 外って言えば……!

 

俺は慌てて、レーダーを起動させた。

この状況で、クロスゲートからアインストが出てきたりしたら厄介だ。

外に避難させた人達を一網打尽にされるわけにはいかない。

幸い、今のところ外にそういった気配はないが……

動いている以上、いつそうなったっておかしくない。

 

警戒しながら外への道を確保しようと歩き出した矢先――

 

目标发现(標的発見)!」

 

击败目标(標的を倒す)!」

 

目の前に現れたのは黒い足軽の鎧に中国語……天道連(ティエンタオレン)黒影(くろかげ)だ!

タワー内部の混乱に乗じて仕掛けてきたか!

放置していたら道を確保できない、ここは……戦うべきか!

 

SOLID-SWING EDGE!!

 

刃のついた触手を実体化させ、黒影に立ち向かう。

やはり黒影の鎧部分には、これではダメージは与えられないみたいだが

あまり派手な攻撃も避けたい。瓦礫で避難経路を潰すわけにもいかない。

槍よりリーチは長いから、その点で優位に立てるか……?

 

『セージ! あいつら槍以外に武器は無い、槍を奪え!』

 

フリッケンのアドバイス通り、黒影の槍――影松(かげまつ)を奪い、相手の戦闘能力を低下させる。

相手の武器を奪う、その点においても触手の実体化は有効だった。

触手で影松を奪い取り、逆にベルトのバックル部分を影松で破壊する。

このアーマードライダーシステムの弱点は、既に検索済みだ。

どんなに優秀な装備でも、心臓部を破壊すれば機能停止できる!

ただ、そうすると影松も消滅してしまうがこれは仕方がない。

変身の解けたマフィアは適当に締め上げて、その辺に放り投げる。

 

襲撃してきた黒影は、粗方倒せた。しかし……

 

……ユグドラシルって会社と、台湾マフィアである天道連の接点が、今一思い浮かばない。

黒影そのものはユグドラシルが作ったものだとしても、だ。

どっかで天道連とユグドラシルが繋がってるんだろうが……わからん。

 

それにしたって、ユグドラシルの方の様子がおかしすぎる。

明らかに正気じゃない言動に、尋常じゃない力。

悪魔の駒じゃないとしたら、一体何なんだ?

そもそも、ユグドラシルって会社自体がかなり怪しいが……

 

……今考えていても仕方がない、無事な人を集めて外に逃がさないと。

そう決断し、俺はさらに移動を開始した。

 

――――

 

移動の途中、俺はオカ研の連中……と言うか祐斗の事を思い出した。

あいつらもここに来ているという事は、この騒動に間違いなく巻き込まれているだろう。

悪魔の駒があるなりグレモリー眷属だったりしたなら

魔法とかで連絡を取る方法はあったんだろうが、今の俺にはそんな便利機能は無い。

故に、人間の方法で連絡を取る。つまりスマホだ。

混線している様子もなく、あっさり祐斗に……

 

……繋がらなかった。

 

ただならぬものを感じた俺は、十数コールを何度かしつこくかけた。

それが三回目程度で祐斗が出たが……

 

『ごめんセージ君! 今戦闘中なんだ! 青くてレモンの鎧を着た黒影の仲間みたいな奴に……

 ……うわっ! くっ、こっちは何とかするけど、後でかけ直すよ!』

 

「お、おい祐斗!?」

 

そう言うなり、電話は一方的に切られた。

状況はよく把握できなかったが、取込み中でかつ危険な状態に間違いはない。

 

しかし……青くてレモンの鎧? なんのこっちゃ? まぁ黒影も黒いマツボックリの鎧だったしなぁ……

装備のイメージが今一湧かないが、電話の後ろでは結構やばげな様子だった。これは祐斗の加勢に行くべきか?

その事で逡巡していると、俺のスマホの方に連絡が来た。祐斗……ではなく、氷上さんだ。一体何が?

 

『宮本君、不味いことになった! 天道連がユグドラシルタワーに押し寄せてきた!』

 

「氷上巡査、天道連はこちらでも確認しました。

 それに、奴らが使用している装備はユグドラシルのものです」

 

『やはりか……あっ、すまない、少し待ってくれ…………

 

 

 …………宮本君、大変だ! 外にアインストが現れたという報告が入った!』

 

アインスト!? やはり現れたか! これは……恐れていたことが現実になったな。

こうなった以上、祐斗の加勢に向かってる場合じゃない。

外のアインストを何とかして食い止めないと!

それより、この事態は前に経験したことがある。

以前五大勢力会談が駒王学園で行われた時、禍の団(カオス・ブリゲート)が襲撃してきた時だ。

 

あの時は、会場にアインストが攻撃を仕掛けてきて、外堀を禍の団の協力組織である

日本の指定暴力団、曲津組(まがつぐみ)が埋めていた状態だ。

今回は天道連が会場を襲撃し、アインストが周囲に現れて外堀を埋めるという逆パターンだが

人的被害を考えたら、住宅街にアインストが現れる方が格段にマズい。

何より、今のプランでは正気を保っているタワー内部の人達を外に逃がす手筈になっている。

その外に出た時に、アインストにやられてはおしまいだ。

そうならないために、ここは俺が行く。

 

「氷上巡査、アインストは俺が何とかします! そちらで避難経路の確保を願います!

 外の安全確保は、俺がやります!」

 

『……くっ、確かに神器やアモンの力のある宮本君ならば……

 わかった、なるべく手早く済ませるから、無理だけはしないように!』

 

氷上巡査にタワー内部の安全確保を頼み、俺は一路外へと駆け出す。

上空を見上げると、何もない――実際には光学迷彩でクロスゲートが隠されている――から

光が降り注ぎ、アインストが地上に降り立つ。

その様子を眺めている沢芽市民も、インベスは見慣れていても

アインストには驚きを隠せていないようだ。俺に言わせば似たようなもんなんだけど。

そのせいか、逃亡の足が少し鈍い。こりゃまずいな。

 

――被害を広げないためにも、ここは何としてもアインストを食い止めないと!




ザクロ持った社員は、黒の菩提樹の信者です、念のため。
セージはその情報を知らないので今回描写してませんが。

そしてオカ研を襲撃した青くてレモンの鎧を着た何者か。
一体何ュークなんだ……

次回はオカ研視点になる予定です。
それまで、またしばしお待ちください……


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Sword11. 「公爵」 Aパート

艦これの方はいまいちですが、こっちの筆は意外に乗ってます。
やっぱり動かしていて楽しいキャラの話は
筆が乗りやすいんでしょうねぇ。

そのキャラの善悪はこの際不問としますが。
(あと、暗にHSDD原作の一部味方勢ディスってるのにも触れないでください)

ナンバリングが被っているのは、セージが動いている裏の時間軸と言う事で。


それは、突然の出来事だった。

タワーで爆発が起こったらしく、避難誘導を進めるアナウンスがひっきりなしに流れ

警備についていたであろう警察や、自衛隊までもが避難誘導に当たっていた。

 

僕らも彼らの指示に従うべきなのかもしれないが――

 

「爆発事故……もしかして爆破テロ!?

 まさかここにいる神仏同盟や北欧神話を狙って禍の団(カオス・ブリゲート)が……」

 

「まぁ、そんなところだろうね。とは言え、今僕達は一誠君を欠いている。

 もし敵が本隊で攻めてきたとするならば、太刀打ちは難しいかもね。

 ここは光実(みつざね)君の言う通り、避難した方がいいかもね」

 

布袋芙(ほていふ)先生はこの状況を「禍の団」によるテロだと見たようだ。

実際、セージ君の話じゃ外にクロスゲートがあるらしいから

そこからアインストが攻めてきたって話でも別におかしくはないけど……

アインストが攻めてきたにしては、なんだか人間臭い気がする。

アインストの攻撃というよりは、人間――もしくはそれに近しいものの手による攻撃だ。

 

「では、僕が安全な場所まで誘導します。こちらに……」

 

光実君の誘導で、僕らも避難することになったが……うん? 戦極(せんごく)博士は?

さっきまでここで僕達に講義を行っていた戦極博士がいない。

気になったので、僕は光実君に聞いてみることにしたが……

 

「光実君、戦極博士は?」

 

「えっ? ……い、いない?」

 

光実君も知らなかったのか……一体いつの間に?

というか、仮にも悪魔である僕らに勘付かれずに離れられるって大したものだと思う。

部長は訝しんでいたけど、確かにある意味危険な人かもしれないね。

 

「困ったな……とにかく皆さんを安全な場所まで誘導します、ついてきてください」

 

今いない人の事を気にしても仕方ない、確かに光実君の判断は正しいか。

戦極博士が姿を消したタイミングは……間違いなく、爆発事故が起きたあたりだ。

まるで混乱に乗じて姿を消したみたいで、何か怪しいものを感じてしまえるけど……

ユグドラシルの人間でもある光実君の前で言うのは止しておこう。

 

……それにしても、一体何でこのタイミングでこんな事件が……?

禍の団にも、神仏同盟と北欧神話の会談の情報が漏れていたのかな?

だとすると、誰が……?

 

などと考えていると、目の前にユグドラシルの社員と思しき人が現れた。

僕らと同じ、事故に巻き込まれた人かな?

 

「社員の人ですね。ここは危険ですから、僕が外まで……」

 

光実君が声をかけようとしたその時。社員と思しき人が持っていた錠前が怪しい光を発した。

あれは……さっき話してた戦極博士が作ったものに似ているけど……

……って、そんなこと考えてる場合じゃない!

 

「光実君、危ない!」

 

「……えっ?」

 

僕は咄嗟に、「騎士(ナイト)」の力で光実君を抱えながら、社員から飛びのいた。

社員の人がいた場所には、大きなクレーターが出来ていた。

そして、何かが焦げるような臭いと黒い煙が立ち込めている。

 

「……ひ、ひどい……」

 

その臭いと、事態からアーシアさんが顔を顰める。

今の社員の人は、まるで自身が爆弾であるかのように爆発した。

まるで、テロリストが使うような自爆テロ……それも、人間爆弾って下劣な奴だ。

 

「みんな、怪我はない?」

 

「ええ、無事ですわ。アーシアちゃんも」

 

「こっちも、光実君も大丈夫です」

 

「僕も平気さ。それより……これは手慣れたテロ組織の手口だね。

 それこそ、禍の団なんかよりもよっぽど。

 超常的なあの組織に、こんな人間臭い手口は使えないよ」

 

部長の呼びかけに答えながら、僕は光実君を下ろして態勢を立て直していた。

その一方で淡々と状況分析をしている布袋芙先生だが

僕にはこの状況で淡々と状況を纏められる彼女が一番信用ならない。

いくら部長の眷属になったからって、あまりにも感性が人間離れしすぎてる。

……僕も、他人の事は言えないかもしれないけど。

 

――我が主の教えを貶める者に、制裁を――

 

――教化に従わぬ愚劣なる者に、死罪を――

 

すると、錠前を持った社員は今度はゴルフクラブや鉄パイプなど、思い思いの得物を手に

揺らめきながら僕達の前に立ちはだかって来た。

間違いない、こいつらは僕達を狙っている!

 

「何のつもりかしら、これは?」

 

「僕に言われても困りますよ。と言うか僕も狙われてますね、これは」

 

相手がユグドラシルの社員と言う事もあり、暗に光実君を責めている部長。

まぁ、部長の言わんとすることはわかるけど……

僕らと知り合って間もない光実君が、ここまで手の込んだことをするかな……?

 

「仕方ないわね……みんな、彼らを黙らせるわよ!

 特に朱乃、勢い余って殺さないようにね。相手は人間なのだから」

 

「あらあら、心配しなくてもそんなことしませんわよ?」

 

相手が人間だからか、部長は余裕綽々だ。

だけど、さっきの自爆と言い今漂っている雰囲気と言い、明らかに普通の人間じゃない。

魔法使いとかそういう類とも、また別なのは間違いないけど。

……と言うか、相手の強さが全然わからない。

セージ君がいれば楽なんだけど、いない以上は実際に戦って確かめるしかないか。

 

仕方なく、僕の神器(セイクリッド・ギア)である魔剣創造(ソード・バース)で剣を実体化させて

鉄パイプを持った社員と切り結ぶ。

だけど、次の瞬間僕は自分の迂闊さを大いに後悔した。

 

「……くっ!?」

 

「我らが主の力を悪用する者……赦してはならない」

 

人間にしてはあり得ない力で、僕を押してきた。

いや、僕は確かにイッセー君やセージ君なんかに比べたら力は弱い。

だけど、普通の人間に負けるようなことは無いと思っていた。

それなのに、今僕はこうして完全に押されている。このままじゃ……!

 

「吹き荒べ!」

 

風の魔剣で、どうにか体勢を立て直す。

だが、それさえもその場しのぎにしかなっておらず

僕の攻撃を意に介さずに彼はゆっくりと鉄パイプを引きずりながら迫ってくる。

 

「祐斗!」

 

「大丈夫です、こっちは何とか食い止めます。

 それより光実君やアーシアさんを!」

 

そうだ。この数だと自衛が出来る僕はまだいい。

だが、光実君やアーシアさんはマズいことになるだろう。

特にただの人間に過ぎない光実君は、自衛の手段が無いようなものだ。

何とかして、光実君から彼らを引きはがさないと!

 

「光実君、ここは僕達が戦うから、君は早く安全な場所へ!」

 

「……大丈夫です。本当に使う事になるとは思ってませんでしたが、僕にだって力はあります!」

 

〈ブドウ〉

 

〈ロック・オン!〉

 

「変身!」

 

光実君の腰には、黒影(くろかげ)のものと同じバックルが装着されていた。

もしかして光実君も、黒影に変身できるのか!?

だが、光実君が持っていた錠前は、マツボックリではなくブドウの絵が描かれていた。

 

〈ハイーッ!〉

 

〈ブドウアームズ! 龍・砲! ハッハッハッ!〉

 

二胡と銅鑼の音色に合わせ、光実君が腰のバックルに錠前を装填し、ギミックを作動させると

緑色のスーツを纏った彼の頭上からブドウが降って来た。

 

……絵面のインパクトは、ある意味イッセー君の変な技以上だと思う。

だけど、そこから発せられる彼の声は勇ましく

ブドウというファンシーなモチーフからは想像もつかない

中国武将のような鎧を纏い、右手には銃が握られていた。

 

「この姿はアーマードライダー龍玄(りゅうげん)、皆さんを援護します!」

 

龍玄。つくづく、僕らはドラゴンに縁があるらしい。

黒影と同じシステムを使っているのは気になるけど、今助けてもらえるのはありがたい。

彼の持つ銃――後で聞いたが、ブドウ龍砲と言うらしい――による射撃で

正気を失った社員の足を止め、そこを僕や副部長の攻撃で気絶させていった。

光実君のあの姿は、色こそ違うけどイッセー君の禁手(バランスブレイカー)にどことなく似ているものを感じた。

……と言うよりは、黒影と同系統なんだからそっちに近いのだろうけど。

 

龍玄となった光実君の協力もあり

僕らはなんとか襲ってくる社員の人たちを鎮圧することに成功した。

そう言えば、彼らは一向にロックシードで変身するそぶりを見せなかったけど……

ロックシードには変身できるものと、出来ないものがあるのかな?

僕にはさっぱりわからないし、あそこで変身されたら

もっと危険なことになっていたのは間違いない。

 

「とりあえず安全は確保できましたね……皆さん、怪我はありませんか?」

 

光実君が変身を解き、僕らの下に駆け寄ってくる。

とりあえず、彼に敵意が無いのは間違いない事だけど……

部長が、なんか訝しんでいる。

 

「おかげさまでね。けれどあなた、その力をどこで手に入れたのかしら?

 私達は、あなたのその変身した姿によく似た奴に何度か襲われているのだけれど?」

 

黒影の事だ。確かに、何度かセージ君のいないときに襲われている。

都度撃退は出来ているけど、結局正体はわからずじまいだった。

セージ君は知ってるようなニュアンスの事を言っていたけど。

 

「僕はユグドラシルの人間ですよ?

 ユグドラシルで開発したアーマードライダーシステムを持っていても

 別におかしなことは無いと思いますけど」

 

やはり、取り付く島もない。

だけど、光実君の言い分だと僕らがユグドラシルに狙われる理由があるって事になる。

全く心当たりがないんだけど……いくら僕達が悪魔だからって、それだけの理由で

態々沢芽(ざわめ)市から離れている駒王町に兵力を派遣したりするだろうか?

 

「ふざけないで! だったらユグドラシルが私達を狙ってきたって話になるじゃない!

 それに、その話じゃさっきの戦極凌馬って男の話とも矛盾するわよ!」

 

確かに。戦極博士は黒影が僕らを襲う理由を知らないと言った。

だが同じアーマードライダーシステムを使う光実君は僕らを攻撃するどころか

手助けをしてくれた。何かが食い違っている。

 

「……ま、黒影がよくない組織に横流しされてる、ってのが一番考えられる理由だろうね。

 あ、僕も今思い浮かんだだけだからそれがどこか、までは知らないよ。

 強いて言うなら、禍の団はあれを運用する理由が無い、って事くらいか」

 

確かに、布袋芙先生の言う通り禍の団がわざわざ人間の装備を使うとは考えにくい。

あそこにいるのは旧魔王派や堕天使、それにアインストやフューラーの部隊だ。

彼らには、どう考えても必要ない。

 

「禍の団やユグドラシル以外で私達を狙う……それもおそらく人間……

 ……止しましょう。この話は考えると頭が痛くなるわ。

 さ、気を取り直して行くわよ」

 

光実君が小声で「引っ掻き回したのは自分じゃないか」と言ったのは

僕は聞かなかったことにした。

部長も悪魔だから、聞こえている可能性も無きにしも非ずだけど……

 

まぁ、部長の言う事もわからなくはないかな。

悪魔になって時間こそ経っているけど、それでも人間に敵視されるのは辛い。

そういう時、まだ僕には人間としての心があるのかな、とも思えたりする。

 

……根拠もないし、儚い夢想だろうけど。

 

 

――――

 

 

その後光実君の案内で、外に通じる非常口まで案内された僕達。

光実君には連絡が入ったのか、僕らをここまで送り届けると

急いで別の場所に向かっていったようだ。

彼も大変だな……僕らとそう大差ない年齢なのに、大企業で働いているのだから。

 

そう考えると、僕は一体何をしているのかと疑問に思った。

ぶっちゃけた話、グレモリー家に未来の見通しはかなり暗い。

僕はこのまま、部長に仕えるだけの悪魔でいいのだろうか。

 

アーシアさんみたく、自分の道を見つけるべきなんだろうけれど。

もっと突き詰めれば、白音さんやセージ君みたいに。

仮にセージ君が正規の眷属だったとしても、彼ならばあっさりと切り捨てるのだろうか。

彼結構ドライな雰囲気だし。

 

「部長、このまま外に出ます? まだ中には神仏同盟と北欧神話の神々がいると思いますけれど」

 

「……それは私も思っていたわ。だけど、駒王町の領主でもない私が

 今回の会談に顔を出すのは何か違うと思うの。

 それにここは駒王町じゃなくて沢芽市だし、冥界は今回の会談には関わっていないわ」

 

今回の件に自分たちは無関係、だから撤退する。

まぁ、そりゃ確かにその通りだ。テロを引き起こしたのも禍の団じゃないっぽいし。

そうなれば、僕らがここにいる理由はない、はずなんだけど……

 

「僕は君の判断を尊重する……と言いたいとこだけど

 どうやら出られない理由が出来たようだよ?」

 

布袋芙先生が指し示した先には、さっき光実君が変身した龍玄のような――

つまり、アーマードライダーが佇んでいた。

その姿は鮮やかな青のスーツに、右肩と胸を覆う明るい黄色の防具。

そして同色のマントを纏っている。

よく見ると、光実君の龍玄とはベルトのバックルの形状がだいぶ違うようだけど……

 

「まだ君達をここから出すわけにはいかない。しばしの間、私に付き合ってくれたまえ。

 私はアーマードライダーデューク。一手手合わせ願おうか。

 心配せずとも、露払いは済ませてある。さあ見せてくれ、君達の力を!」

 

公爵(デューク)とは大きく出たわね。だけど我がグレモリーも公爵家!

 その次期当主リアス・グレモリーと、我が眷属を以てその申し出に全力で受けて立つわ!」

 

ボイスチェンジャーの声で、デュークと名乗った目の前のアーマードライダーは

左手に持った赤い弓を構える。

その弓から放たれたのは実体のある矢……ではなく、エネルギーの矢。

これは、さっきの龍玄と同じタイプの戦士だろうか……って考えてる場合じゃない!

 

公爵(デューク)を名乗るだけあって、彼は強い。

弓手と思い、僕は接近戦を挑もうとしたが僕の剣はデュークの赤い弓に凌がれてしまう。

しかも、その弓はアーマードライダーの鎧と同じ素材で出来ているのか、硬い。

 

「何っ!?」

 

「私が弓だけの戦士と思わない方がいい。それに君は私と戦うには……

 ……些か、不足のようだね!」

 

鍔迫り合いの隙を突かれ、僕の鳩尾にデュークのキックが入ってしまう。

こみ上げてくるものを堪えながら、僕はデュークを見据える。

痛みを堪え、僕は騎士としての速さを活かしてデュークの死角から攻撃を試みる。

イッセー君や部長に比べたら一撃は弱いけれど、僕には僕の戦い方がある!

 

「おっと、この狭い通路でよくこれだけの動きが出来るね。

 これは私も手が出せないな……」

 

デュークの反撃を躱しながら、僕はフェイントを織り交ぜながら攻撃を加える。

確かに手ごたえとしては弱いが、これは相手が鎧を纏っていることと

そもそもの僕の力不足だから、致し方ない。

だから、一撃で確実に急所を狙えるように僕はスピードを落とさない。

 

そして、デュークの弓の薙ぎ払いを避け、懐に飛び込む。

セージ君から聞いた情報が正しければ、アーマードライダーはベルトが弱点。

形が違っても、それは有効なはずだ!

 

「……ふっ!」

 

だが、僕の剣の切先がベルトを捉えることは無かった。

 

「……そこを狙うとは、どこでその情報を手に入れたんだい?

 だが、後半少し動きが単調になっていたよ。翻弄するなら、そこも気を付けた方がいい」

 

剣をへし折られ、返す手でそのままデュークに僕は投げ飛ばされてしまった。

何とか着地するが、相手が僕の動きを完全に見ていたというのが、唯々衝撃的だった。

 

「ああ、『なんで自分の動きを読まれていたか』って言いたげだね。

 簡単な事さ。このユグドラシルタワーには無数の監視カメラがある。

 その画像データを掌握するサーバーにちょっとアクセスさせてもらっただけさ。

 ……まさか、『転生悪魔の、それも「騎士」の速さが監視カメラに捉えられるはずがない』

 なんて思っていたりしないだろうね? だとしたら、それは人間を甘く見過ぎだよ」

 

〈レモンエナジー!〉

 

デュークは錠前を弓に装填し、引き絞る。

そこから放たれた矢は、闇や風を切り裂く勢いで僕らを狙ってきた。

 

「次は耐久テストだ、耐えてみせてくれたまえ」

 

――こんなのが直撃したら、ひとたまりもない!




龍玄VSデュークなんてやったら、それただのガンバライジングかMOVIE大戦ですので。
セージが裏でアインスト襲来の情報を聞く少し前の時間帯ですが
こちらでデュークが名乗っているにもかかわらず、木場が説明してないのは
「セージがデュークってアーマードライダーを知らない」と判断したことによります。

>社員
隠れ信者がこんなにいたんかい、って程うろついてますが……
実際のカルト宗教も、隠れ信者って意外といたりしません?
今回はザクロのせいで暴走してる感じですが。

彼らに既に人格は無く、ただ教祖(?)の言葉を伝えるための端末に成り下がってます。

>龍玄
同伴者が悪魔(転生悪魔)ばかりなのでどうしても変身せざるを得ませんでした。
相手がインベスやアインストでないので、ちょっとしょっぱい活躍かもしれませんが。

>デューク
レモンアームズではなく、以前示した通りレモンエナジー師匠。
しかも当然戦極凌馬専用ゲネシスドライバーですので……
木場の動きを完全に見切ったのも、その賜物であり凌馬が超人というわけではありません。

原作では木場とかが「もしかすると副部長クラスには達したかもしれない」と言及していた時期に
こうしてデュークに手も足も出ない状態ですので……

ボイスチェンジャー使ってますが、対悪魔にも適用できる凌馬謹製のものですので
リアスらはデュークが凌馬だとは今のところ気づいてません。


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Sword11. 「公爵」 Bパート

体調の維持と、引っ越しの準備と、普段の仕事と、その他諸々

……この所、ちと気が休まってない気がしますが
何とかできましたので投稿します。


……あ、リシュリュー来ました。
この世界にもパリコレモデルとしているかもしれません。
……たぶん。


〈レモンエナジー!〉

 

目の前の青いスーツに明るい黄色の鎧とマントを纏ったアーマードライダー――デュークは

レモンの描かれた水色の錠前を左手の赤い弓に装填し、引き絞る。

そこから放たれた矢は、闇や風を切り裂く勢いで僕らを狙ってきた。

 

「次は耐久テストだ、耐えてみせてくれたまえ」

 

――こんなのが直撃したら、ひとたまりもない!

 

デュークの弓から放たれた光の矢が、闇や風を切り裂きながら僕らを射抜こうとした時

布袋芙(ほていふ)先生の神器(セイクリッド・ギア)から生まれた影が、僕らを攻撃から防いだ。

 

「先生!」

 

「一応、僕はリアス君の眷属であり君達の顧問教師だよ。

 だから、僕には君達を守る義務がある。さて……デューク、と言ったね。

 今ここで僕らが戦う理由は無いに等しい。手を引いてもらえないかい?」

 

布袋芙先生がデュークを止めようとするが、彼は先生の言葉に耳を傾けようともしない。

彼も結構勝手な理屈で動いていないか……?

 

「それは出来ないな。タワー襲撃犯対策は警察や自衛隊が動いている。

 外の警護にも、他のアーマードライダーが向かっている。

 それより、君達が悪魔である以上、我ら人間にいつ害を成すか分かったものじゃないからね。

 故に、君達の力は私が試させてもらっている。

 ここで私一人に斃されるならばそれは安泰、そうでなければユグドラシルの全力を挙げて

 悪魔――三大勢力対策を成さなければならないからね」

 

完全に、デュークは僕ら悪魔を人類の敵として見做している。

アーマードライダーシステムが悪魔対策として作られたとは、僕も薄々勘付いていたが

ここで当のアーマードライダー本人から言質が取れるとは思わなかった。

 

……うん? じゃあ光実(みつざね)君は?

そう考えると、アーマードライダーってのは完全に一枚岩じゃない。

まあ、得てしてそんなものではあるし、彼は僕らが悪魔だって事を知らないかもしれない。

だとしたら、騙してるみたいで気分が悪いかな……

 

「ふざけないで! 私達がいつ人間に害を成したというの!?

 憶測で被害妄想を広げている暇があるなら、あなたも仲間のアーマードライダーの下に

 向かうべきじゃないのかしら!?」

 

部長の激昂にも、デュークはどこ吹く風と言った態度だ。

僕らは人間に害を成してないかもしれないけれど

はぐれ悪魔の事を考えたら、とてもそうは言えないような……

 

少しの沈黙の後、堰を切ったようにデュークのボイスチェンジャー越しの笑い声が木霊した。

 

「フッ……クククッ……アーッハッハッハッハッハッ!!」

 

「……何がおかしいの!」

 

「いや、ここまで君が情勢が読めてないとは思わなかったからね。いや失敬失敬。

 アーマードライダーシステムは確かにインベスのような未知の脅威に対する

 抑止力――自衛の手段として開発されている。しかし……」

 

一呼吸置いた後のデュークの発した言葉。

それは、僕や或いはセージ君ならば想像に難くなかったことだろうが

部長には、少々受け入れ難いものだったようだ。

 

「その未知の脅威ってのには、君達悪魔も含まれているという事は自覚した方がいい。

 ああ、神器の有無如何で無差別に人を殺して回る堕天使や、人を洗脳して私兵にする天使も

 未知の脅威には含まれているから、安心してくれたまえ」

 

デュークの言っていることは、ほぼフューラー演説のそれと変わらなかった。

彼がユグドラシルの関係者だとするならば、ユグドラシルのような大企業でさえ

フューラー演説の言う事を真に受けてる――言い方は悪いけど――って事になる。

 

「まるでフューラーの言ってることじゃない。あんなでまかせに踊らされるなんて

 貴方も公爵(デューク)を名乗る割には大したことないのね」

 

部長もデュークが言っていることはフューラーのでまかせであると、虚勢を張っている。

本人は虚勢のつもりはないのだろうけれど、僕には悪いけど虚勢にしか見えない。

 

「……本当に、そう言い切れるかな?

 君は悪魔として、人間に貢献してこられたかな?

 力や技術ってのは、人に、社会に、世界に貢献するためにある。

 ……戦極凌馬(せんごくりょうま)の研究だって、その力を以てして世界を救済するためのものだ。

 君が、悪魔が果たして世界に貢献してこられたかな?

 ああ、君らの世界である冥界の事なんか知らないよ? あくまでも、この人間の世界での話だ」

 

……冥界ならば、いや冥界であろうとも部長の評価は芳しくない。

悪魔ならば、人間と契約をして利益を上げるのが定石なんだけど

僕らの契約者はテロの被害に遭って軒並み殺されたり、疎開したりしてしまっている上に

フューラー演説が後追いとなって新規顧客を得ることも難しい状態だ。

こんな状況で、人間に、社会に貢献しているなどとどうして言えようか。

 

「ぐっ……! 禍の団(カオス・ブリゲート)が、フューラーが余計な事さえ言わなければ……!」

 

「なあグレモリーのお嬢さん、サーゼクスに教わらなかったのか?

 貴族がノブレス・オブリージュを遵守する、その理由を。

 無責任、独り善がり……そういう振る舞いこそ

 民衆に反乱されるダメな貴族のそれだからさ!

 

 まぁ、君達は兄妹そろって似たような振る舞いをしているから

 あの兄にしてこの妹ありって所かな、アッハハハハハハハハッ!!」

 

デュークによる追い打ちが、言葉と、行動で行われる。

ボディブローを受けよろめいた部長の背を踏みつけ、地面に這い蹲らせるとそのまま

部長を踏みつけ始めた、流石にこれ以上は黙ってみていられない!

僕が先陣を切る形で、デュークに一斉攻撃をかける。

 

「これ以上はやらせない、双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)!」

 

「雷よ!」

 

「ラッセー君、お願いします!」

 

実力で敵うとかどうとかじゃない、これ以上は見ていられない。

デュークの暴行を止めなければならない、ただそう思っただけだ。

 

……だが、デュークの力は身体能力だけではなかった。

僕の剣戟を弓で往なすと、そのまま姿を消してしまう。

 

「ハッハッハッ、偽りとは言え麗しい愛情だねぇ。

 だが、仲良しごっこで私に勝とうとは嘗められたものだ。

 ここは……もう少し、お灸を据えなければならないね!」

 

姿を消したまま、デュークは出てこない。

回復のチャンスと見たアーシアさんが部長に駆け寄り、「聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」で回復させる。

 

「今治しますね、部長さん」

 

「……心配には及ばないわアーシア。

 けれどあいつもまた言いたいことだけ言って消えていったわね……

 この所戦う相手には、こんなのしかいないのかしら。

 喋らないインベスやアインストの方が、余程やりやすいわ」

 

言いたいことはわかる。だけど、それってどうなんだろう。

彼らの訴えている事――まぁ、禍の団に同情の余地は多分ないと思うけど――に耳を貸さずに

一方的に断罪することが、果たして正しい事なのかどうか。僕にはわからない。

少なくとも、はぐれ悪魔に関しては一方的な断罪が出来るとは思えない。

黒歌さんの例があるし、セージ君だってある意味どころかほとんどはぐれ悪魔だ。

彼は事故で転生悪魔になっただけで、今は悪魔じゃないけど。

 

「あらあら、私としては悲鳴も上げてくれないアインストの相手は退屈ですけど。

 インベスも私の聞きたい悲鳴ではないですし……」

 

「……みんな、おしゃべりはそこまでだ。次が来る、注意しておくれよ」

 

布袋芙先生に促され、通路の奥を見張ると

そこにいたのは――デュークだった。

それも……一人じゃない、二人、三人……四人はいる!

 

「ハッハッハッ、逃げなかったことは褒めてあげよう」

 

「だが、蛮勇も貴族の姿勢としては正しくないことを覚えておきたまえ」

 

「それとも、そういう風に力押しでなければ権威を維持できないのかい?」

 

「ならば私を倒し、君の力を証明するがいい……できるものならね」

 

完全に挑発している、しかも分身した上でだ。

こうなれば、言葉が反響するものだから……

 

案の定、部長の滅びの魔力がタワー内部で炸裂した。

僕らがタワー崩壊させてどうするんだよ……

 

「クッ、ちょこまかと……!」

 

実際、部長の滅びの魔力は弾速が遅いので、素早い相手には向かない。

ともすれば、僕でも封殺できるかもしれないくらいだ。

だけど、少し違和感がある。セージ君ならばああなった時には分身を消して加速するだろうけれど

デュークは分身を消していない。

 

同じく分身を活用するセージ君は「分身全部に当たり判定があり、かつダメージを共有する」から

部長の滅びの魔力みたいに広範囲を攻撃する技は苦手としている。

だが、デュークは何事もなかったかのように振舞っている。これって……

 

「フフフフッ、どうした? 紅髪の滅殺姫(ルインプリンセス)の力はそんなものか?

 眷属……特に赤龍帝がいなければ、君は何もできないのかい?」

 

「……言わせておけばァ!!」

 

「部長、落ち着いてください! このまま力を使ったらタワーに影響が!」

 

僕とアーシアさんで必死に部長を止めるけど、まるで聞く耳を持ってくれない。

布袋芙先生は部長へのデュークの攻撃を逸らしているのに集中しているらしく

こっちには声をかけない。だからもう一押しは副部長が必要なんだけど……

 

「姫島朱乃、君の事もよく知っているよ。

 忌み子、父親に愛されなかった子、母を守れなかった子。

 その薄汚い羽根は、悪魔になっても消えなかったようだねぇ」

 

「……ッ!!!

 そんなに私を怒らせて、どうなっても知りませんわよ……!」

 

デュークは副部長まで挑発している。この二人が挑発に乗りやすいのを知っているかのようだ。

部長を止めるべき副部長が、そろって挑発に乗ってしまっている。これじゃあ……

怒りに任せた滅びの魔力や魔力雷が唸るが、肝心のデュークは息一つ切らしていない。

一方、魔力をこれでもかとつぎ込んだ部長や副部長の方が、息切れを起こしている。

通路を崩落させるほどの攻撃を繰り出したにもかかわらず、何も好転していなかった。

 

その一方でデュークは攻撃を仕掛けて来るが

その攻撃もこちらを確実に仕留めるものというよりは

完全に様子見のジャブ程度のものしか繰り出さなくなっている。

相手が四人いるから、結構やりにくい。

 

おまけに、このタイミングでセージ君から電話がかかって来るし……

応援を呼ぼうかとも思ったけど、通路が塞がってしまっているから呼ぶことさえできない。

セージ君を呼べれば、事態は好転したかもしれないけど……物理的に呼べないんじゃなぁ。

 

『繋がった! 祐斗、事故が起きたがそっちは大丈夫か!?』

 

「ごめんセージ君! 今戦闘中なんだ! 青くてレモンの鎧を着た黒影の仲間みたいな奴に……

 

 ……うわっ! くっ、こっちは何とかするけど、後でかけ直すよ!」

 

『お、おい祐斗――!!』

 

デュークの攻撃を躱しながらなので、結構必死だった。何せ、こちらのスピードや動きを読んで

弓で狙ってくるものだから、やりにくいことこの上ない。

せめてもの救いは、四人いる割には攻撃は四方向同時から来ない事くらいか。

 

……えっ? これってもしかして……

 

「君達はここを壊したいのか? 私としても無用な破壊は避けたいから

 それが目的の場合、全力で排除しなければならなくなるが……

 それにそうだとしたら、禍の団を糾弾している君達が禍の団と似たようなことをするなんて

 それは何の冗談だい? こういうのは私のセンスには合わないが」

 

「いっ、言わせておけば……!」

 

どこまでも、デュークは部長を挑発している。完全に遊んでいるようだ。

これは、どんなに頑張ってもここで僕達がデュークを倒すのは無理だろう。

消耗しきった部長や副部長に、決定打に欠ける僕に、攻撃力のないアーシアさん。

布袋芙先生なら、何とか出来るかもしれないけど……不確定すぎて頼りにできない。

 

好転するための手を考えていたが、そうしている間にデュークの方から終了宣言が出された。

ここまで一方的に戦闘を繰り広げておいて、ここで終わらせるなんて何を考えているんだ?

 

「おっと、すまないが時間のようだ。まあ及第点程度のデータは取れたからよしとしよう」

 

「ど、どこまでも人をおちょくって――ッ!!」

 

部長の最大出力の滅びの魔力がデュークに向けて放たれようとしていたが

流石にあんなものを放てば、デュークは倒せるかもしれないけれど

タワー自体が倒壊する、そうなったら僕らが本当に犯人扱いされてしまう。

 

「そこまでだリアス君。そんなものをここで放てば、タワー自体が倒壊する。

 そうなれば、僕らはたちまち禍の団と同じ、テロ組織の仲間入りだ。

 君のお父上や兄上の面子もある手前、これ以上は止してもらえないかい?」

 

渋々と言った様子で、部長が攻撃を取りやめる。

小声で「お父様やお兄様は関係ないじゃない……!」って言ってたのが聞こえたけど

魔王様の妹でもある部長が人間界で大都市のランドマークタワーを倒壊させたとなったら

ただ事では済まないと思うんだけど……

でも、もっと早く止めてほしかった。布袋芙先生も何考えているか分かったもんじゃない。

 

「感謝するよ。あんなものを受けては、折角のゲネシスドライバーが破壊されてしまうからね。

 そうなったら、せっかく集めたデータもパーだ。それじゃあ私はこの辺で失礼するけど……

 

 ……いい事を教えてあげよう。外には今、アインストの大群が現れている」

 

「!!!」

 

アインスト!? セージ君がクロスゲートが動いてるから注意しろって言ってたのはこの事か!

と言うか、デュークはアインストが現れているのにこんなところにいたって言うのか!?

しかも、僕らを相手に遊んでいたって事か!?

 

「だったら、貴方も外に行くべきじゃない!」

 

「フッ、態々私が出向くまでもない。

 私が信頼するアーマードライダーが二人……いやそれ以上か。

 既に外で戦っているからね。だからこうして安心して私は私のやることが出来たって訳さ。

 ともあれ、付き合ってくれたお礼にもう一ついい事を教えてあげよう。

 

 ――アインストの中には、堕天使もいたね。その顔は……姫島朱乃。君によく似ていた」

 

デュークのその言葉を聞いた瞬間、副部長はさっきまでの息切れを忘れたかのように外に飛び出した。

外ではアーマードライダーとアインストが戦っているっていうのに、そんな中に飛び出すなんて!

確かに副部長は堕天使絡みで不穏な態度を見せていたけれど……!

 

「うん? 彼女を追いかけないのかい?」

 

「……朱乃本人の問題よ」

 

苦々しく答える部長に、デュークは嘆息しながら付け加えた。

ボイスチェンジャーの声は、明らかに呆れている声だ。

 

「……まぁ、相談に乗るべき君がその態度なら、ああなるのも致し方なしか。

 普通の親子関係ならば、口を挟むのも野暮だろう……だが。

 

 ……父親が正気を失っている――アインストの支配下に置かれている、となれば

 事態は君が思っている以上に深刻だと思うんだがね。まぁ精々頑張りたまえ。

 バラキエル――アインストバルディエルを活かすも殺すも、君達が決めればいい。

 君達には、その権利がある……だが。

 

 権利や自由には、責任が付きまとうという事は覚えておきたまえ。

 では、後は頼んだよ。ハッハッハッ、すまないね」

 

姿を消し、デュークはそのままどこかに行ってしまったようだ。

仲間であろうアーマードライダーが外で戦っているというのに、薄情な奴だとは思う。

だが、堕天使幹部がアインスト? あの時――アインストを初めて見た五大勢力会談では

アザゼルは、そんなこと一言も言ってなかったはずだけど……

旧四大魔王の血を引くカテレアがアインストになった以外、そういう話は何も聞いていない。

 

「彼の言っていることが事実なら、外はまた大変なことになっているだろうね。

 僕が安全を確保しつつ朱乃君を連れ戻すから、君達は中で待機しているんだ」

 

消耗の少ない様子の布袋芙先生も副部長を追って外に飛び出した。

デュークとの戦いは勝ったとも言えない結末で、外にはアインストの大群。

 

……僕らは、餌に釣られてきた魚だとでもいうのだろうか。




ちょっと詰め込み過ぎたかもしれません。

>デューク
ちょっと名言出し過ぎたかもしれません。
なあグレモリーのお嬢ちゃんはデューク――凌馬に言わせたかった台詞。
原作でそれを言い放った相手の光実は今のところ黒化してませんし。

でも無責任も独り善がりもブーメランなんですよね。
嘘つき、卑怯者もですが。

ええとこなしで決着がついてしまいましたが、リアス、朱乃、アーシア、木場で
ボスクラスと戦おうって方が無謀です。いくらナイアって援軍がいるとはいえ。
(おまけにナイア本気出してませんし)

>タワー通路への攻撃
原作ソーナ戦で危惧されたことですが、今回は挑発で冷静な判断力を失わせた上で
わざと撃たせてますので……(実はナイアも積極的には止めてない。倒壊レベルは流石に止めたけど)
これで罪の擦り付けフラグが立ってしまいました。
メインをやったのは黒の菩提樹ですが、悪魔――リアスらも
タワー事故に参加したって名目がこれで出来てしまいましたので。しかも監視カメラの映像付き。
これが無ければセージを呼べたかもしれないという意味でも大ポカ。

>アインスト
Will11. でも言及されてますが、ここで新たに堕天使型アインストにも言及。
親子の感動の対面だぞさあ喜べよ、とはペルソナ2罪でニャル様が本当にやったことですが
ここでもやることになりそうです。


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Will12. 「かつて」に挑む「創世」 Aパート

ご無沙汰してます。
引っ越しが完全未定になり、それに伴って持病も悪化と
どん底では無いものの低空飛行が続いてますが、なんとかやれてます。

ジョンストンとの再会こそ叶いませんでしたが
御蔵以外の主だった子はお迎え出来ましたし。

呉行きを控えながら(なおライブのチケットは取れなかった模様)
ゼロワンもちらほら見ながら
そんな感じで物凄くゆっくりと執筆している次第です。


外にアインストがいる。

こうなった以上、即座に外に出るべきだが……

 

そう言えば、祐斗との電話の後またものすごい音が聞こえてきたが……大丈夫なんだろうな?

まぁ、腐っても悪魔だから丈夫さに関して言えば心配無用だが……

何か別の、よからぬ問題が起きてないかって事は心配だ。

まかり間違って神仏同盟や北欧神話の一団と遭遇しようものなら……頭が痛い。

 

まぁ、向こうは気にしても仕方がない。俺にできることはとうに超えてしまっている。

祐斗には気の毒だが、俺にだってできない事はある。

だから、今なすべき事――アインストの撃退をすべく、俺は外に出ようとしたが

その間際、俺は凰蓮(おうれん)軍曹に呼び止められた。

 

Excusez-moi.(ちょっといいかしら?) ここを襲ってきた連中から、こんなものを分捕ったのだけど……

 あと、これは落ちていたから拾ったの。ここのものかしら?」

 

凰蓮軍曹の手には、黒影(くろかげ)のベルトのバックル――戦極(せんごく)ドライバーと

ドリアン? が描かれたロックシードが握られていた。

使い方は恐らく黒影の例を考えれば同様の仕組みだろう。

こんな珍妙なデザインの代物をユグドラシル以外が作ってるとは考えたくないのもあるが。

 

「恐らくはそうかと……使うつもりですか?」

 

non, non(まさか). 公的機関で解析できないかと思っただけよ。

 これを作ったのはユグドラシルなんでしょう?

 だったらユグドラシルにデータを渡してもらうってのが筋なんでしょうけど……

 

 ワテクシの見立てではこの会社、優良企業とは言い難いわね。

 雇用体系の白黒までは、わからないけれど」

 

ふむ。凰蓮軍曹もこのユグドラシルって会社の怪しさを見抜いていたのか。

そもそも、なんでユグドラシル製の道具を使ってる天道連がユグドラシルを襲うんだ。

狙いはユグドラシルそのものじゃなくて、会談の方だって考えるのが妥当かもしれないけど

それにしたって、それに伴う被害に目が行ってなさすぎる。

安全装置的なもので止められたらどうするつもりなんだ。

何と言うか、天道連の動きはまるでヤクザの鉄砲玉どころか、それより酷い気がする。

まるで、使い捨てを前提にしているみたいで……

 

考えがまとまりつつある中で、再び衝撃音が走る。

誰かが強引にドアなり外壁なりを破ったか!?

内側からならともかく、外側からそれをやられたとなると危険すぎる!

 

「凰蓮軍曹!」

 

「もう避難誘導は終わっているわ。だからボウヤは急いで外に出なさい。

 ワテクシは逃げ遅れた人がいないかどうか見て回るわ。

 けれどいいこと? ボウヤもいつでも逃げられる準備だけはしておきなさい。

 戦場で最も優秀な兵士は、生き残る兵士よ。comprendre(お分かり)?」

 

いうや否や、凰蓮軍曹は駆け出してしまう。

避難誘導が終わっているのならば、外のアインストにさえ注意すれば何とかなるか?

いずれにせよ、外に出なけらばならないことに変わりはない。

祐斗が気になりはするが、アインストが中に入ってこられたらそれこそ手に負えなくなる。

このタワーがアインストの支配下に置かれたら

沢芽(ざわめ)市全体がアインストの影響下に置かれることになりかねない。

アインストにそんな能力があるかどうかはわからないが

割と何でも影響下に置いてしまう連中だ、このタワーだってやりかねない。

本当に、インベス並みに性質が悪い!

外の被害が大きくならないうちに、俺は外に駆け出すことにした。

 

――――

 

ユグドラシルタワー前。

そこには、予想通りアインストの大群が空から降りて来ていた。

陸にいるのは蔦で全体を覆ったアインストグリート。

そして確か冥界にも現れた紫の鎧のアインスト、アインストゲミュート。

しかもよく見ると剣や弓で武装している。つまり、強化されてるって訳か。

おまけに、空には骨だけの翼でどうやって飛んでいるのかわからないが

骨のアインスト、アインストクノッヘンが骨だけの翼を広げ飛んでいる。

だが、アインストが相手ならアレが使えるはずだ。

 

SOLID-NIGHT FAUL!!

 

ナイトファウル。対アインスト用弾丸、アルギュロスやアントラクスを運用する

多目的銃剣として試製モデルがディオドラとの戦いの際に投入された。

今俺が実体化させたのは、そのコピーだ。

クロスゲートが稼働している=アインスト出現の恐れがあるという事で

量産に成功したアルギュロスの方を携行していたのだ。

これをアインストのコアに叩き込めば――!

 

アルギュロスを装填し、ナイトファウルを手にアインストに突撃する。

だが――

 

『セージ、蔦が!』

 

フリッケンの指摘と同時にアインストグリートの蔦の先端が開き

そこから細いビームが何条も撃ち出される。

なまじ分散している分、回避は難しい。

被弾は避けたいため、慌てて俺は着弾予測地点から飛び退く。

 

「くっ、これじゃ近づけないな……」

 

『今度は矢が飛んでくるぞ!』

 

しかも飛び退いた先には、アインストゲミュートが弓で狙いをつけてきていた。

これでは思うように近づけない、どうすればいい?

まず数を減らすことだ、ゲミュートの方は中身が無い癖に硬いし剣を持った奴が控えている。

無策の接近戦は危険だ。となると、一番最初に対処すべきはグリートか。

ディフェンダーで弾きながら、接近して攻撃するのがよさそうだ。ならば――

 

EFFECT-HIGH SPEED!!

 

加速して突っ込む。単純だが、効果的な攻撃だろう。

相手の数を考えれば、分身して各個撃破も考えたが

クロスゲートが稼働中という事は、アインストはまだ後詰めがいる可能性がある。

そうなると、あまり激しく消耗する分身を濫用することはできない。

アモンにやってもらうのも考えたが、アインスト相手ではアモンは決定打に欠ける。

不可能ではないだろうが、結局アモンに無駄な力を使わせることになる。

フリッケンの力も、アモンの力も無駄に使うわけにはいかない。

 

(やはり、一人でこのアインストの軍勢を相手にするには限界があるか。

 だが、応援が来るまでに何とか抑えなければならないし

 警察や自衛隊の装備でもきついのは事実。

 祐斗らは足止めを食ってる……やるしかないか!)

 

コカビエルとの戦いでやったように、相手のビームをディフェンダーで弾きながら突撃。

ビームによる攻撃から蔦による攻撃に変わった段階で、ディフェンダーを横薙ぎにして蔦を斬る。

そのままスピードを殺さず、懐に潜り込みナイトファウルをコアに突き立てる。

銃剣を突き立てたアインストグリートに向かって、容赦なくナイトファウルの引鉄を引き

アルギュロスの弾着の衝撃が伝わると同時に、アインストグリートは塵となった。

だが、無数にいるアインストの一体を潰したに過ぎない。

そんな俺の不意を打とうと、空からアインストクノッヘンが突撃して来た。

不意打ちの回避には成功するが、空を切った爪が肌を掠める。

 

「……くっ」

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

FEELER(触手)GUN()で触手砲を生成、空を飛ぶクノッヘンに対抗する。

飛行能力に限って言えば、霊体だったり悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だのが必要になるが

別に人間は飛べないのが当たり前だ。無いものねだりをする気はない。

……今は飛ぶのならアモンというズルが使えるが。

 

触手砲は攻撃の角度を自在に変えられるが、触手の動き自体はそれほど速くない。

故に、触手で縛り上げて撃つというのは素早い相手には向かない。

まして、飛ぶ相手ならなおさらだ。なので縛り上げて動きを封じて撃つ、ではなく

相手の軌道に合わせて触手を動かし、狙いを定める。

クノッヘンを触手砲が封じている間、俺はゲミュートの方に向き直る。

正直言って、こいつはかなり厄介だ。装甲が厚いという点なら冥界で出くわした

赤いアインスト、アインストアイゼンも大概だがこっちも硬い。

おまけに中身が無いから神経断裂弾で動きを止めることもできない。

コアに対するアルギュロスやアントラクスの特効は生きているが

逆に言えばそれ以外の有効打が無い。

兵藤の神器(セイクリッド・ギア)ならば、力で突破できるのかもしれないが……これこそ無いものねだりだ。

 

……うん? そう言えば、あのゲミュートの持っている剣、鎧と同じ材質か?

同じ材質ならば、力次第では或いは……!

 

SPOIL

 

SOLID-SWING EDGE!!

 

クノッヘンを粗方片付けたことを確認した後、俺はゲミュートの剣を奪うべく触手を伸ばす。

矢を払えるよう、刃を持たせた上で。

しかし当然、簡単に盗めるようなもんじゃない。いくらアインストに人格らしきものが全然見られないと言っても

それは機械的に動いているのとはわけが違う。そんな奴が敵が武器を奪おうと仕掛けてくるのだ。

そんなもん、抵抗するに決まってる。

 

『遠くから横着しようったって無理じゃないか?』

 

……だよな。

フリッケンの至極尤もなツッコミに意を決して、俺はゲミュートの懐に潜り込むことにした。

攻撃の一点集中を避けるため、やむなく分身を一体生成した上で。

 

分身にゲミュートの矢とグリートのビームと言った飛び道具を防がせ

俺は(どっちも俺だが)グリートの剣を奪うべく接近戦を仕掛ける。

至近距離ならナイトファウルよりは……これだ!

 

SOLID-PLASMA FIST!!

 

プラズマフィスト。超特捜課が初期に開発したナックル型の装備。

最大5億ボルトの電圧を発生させることが出来るため、人外の存在にも高い威力を発揮できる。

ノウハウのない時期に作られたもののため、少々オーバースペック気味かもしれないが

元々人間と比較してオーバースペックな連中を相手取るんだから、丁度いいだろう。

 

「フリッケン、頼む!」

 

『ああ、大体わかった』

 

BOOST!!

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ラ・イ・ズ・アッ・プ

 

プラズマフィストがゲミュートの右腕に接触した瞬間

俺は紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)を発動させた上でプラズマフィストのグリップを思いっきり握る。

電流による攻撃だが、そもそもゲミュートには中身が無いため感電による麻痺は狙えない。

単純に、電気エネルギーによる攻撃だ。それも魔力雷じゃない、物理的な雷だ。

 

右腕の装甲がエネルギーに耐え切れなくなったのか、破裂を起こし一瞬だが右腕部分の鎧が外れる。

右腕の欠けた鎧になっただけだが、俺の狙いはそれじゃない。

 

「取った!」

 

鎧の右腕部分が外れた拍子に、ゲミュートが右手に握っていた剣を奪い取り

自分の右手に握る。さらに――

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE DRAW!!

 

COLOSSION SWORD-DEFENDER!!

 

ディフェンダーの刃先に腐食剣の特性を持たせた。

お陰で、ディフェンダー自体の防御性能は落ちているが右手にゲミュートの剣を持っている以上

左手でも難なく扱えるのはこれしかない。俺は二刀流は学んでない。

 

……そういや、これは記録されなかったな。単純な属性の付加は記録されないのだろうか。

我が神器ながら、今一特性が把握しきれん。

 

だが、今そんなことはどうでもいい。

ゲミュートの鎧を腐食させた上で、同じ材質の剣で叩けばただでは済まないはずだ。

出来ればこれを解析したいところだが、アインストは倒せば塵になる。無理だろう。

それに、まだ続々とアインストが来ている以上、そんな悠長なことは言えない。

 

「だあああああああっ!!」

 

左手のディフェンダーで薙ぎ払いながら、腐食した部分をゲミュートの剣で叩き切る。

同じ材質ならば、腐食作用のあるディフェンダーで殴った方は脆くなる。

そこを元来の強度を持つ剣で叩けば、崩れるという寸法だ。

 

……腐食剣で叩いた後に普通に殴れば済む話だったかもしれないが。

だが、この戦法は硬いゲミュートには有効だったらしく、優位に戦いを運ぶことが出来た。

 

……空のアインストに増援が来るまでは。

 

『セージ、ロックされた! 上だ!』

 

「上!?」

 

フリッケンのアドバイスに従い、その場から飛び退く。

上を見上げると、灰色の蝙蝠の翼を生やした騎士のようなアインスト――

アインストリッターがいた。

奴が持つ槍のような銃、シュペーアカノーネから放たれるのは実弾とビームの複合弾。

……ダメだ、今持っている武器じゃ空の敵は相性が悪すぎる!

ディフェンダーで防ごうにも、そのディフェンダーの防御能力は

腐食剣を合成させたことで犠牲になっている。ままならんものだ。

ここは、とにかく下がるしかないか!

 

飛び退きながら攻撃を何とか躱していくが、相手の機動力はかなり高いために

あっという間に壁際に追い詰められてしまう。

壁とはもちろん、ユグドラシルタワーの外壁。これを下手に避ければ、被害が出かねない。

仕方なく、焼け石に水と感じながらも紫紅帝の龍魂でディフェンダーの性能を倍加させ

防御能力の向上を図る。こうすることで、攻撃に耐えながらアインストリッターに接近し

再度実体化させるつもりの触手で空の相手を引きずり下ろす腹だ。

 

……だが、劣化したディフェンダーはいくら倍加をかけようとも

シュペーアカノーネの最大出力の攻撃に耐えうることはできなかった。

 

「うぐぁっ!?」

 

強力なビームにディフェンダーを弾かれ、そのまま勢いで壁に叩きつけられ、地に伏してしまう。

その衝撃で、意識が飛びかけた……ま、マズい……!

 

『セージ、起きろ! ロックされてるぞ!』

 

「ぐ……!」

 

フリッケンが必死に呼びかけるが、俺の身体の方が動かない。

動かなきゃいけないのはわかってるんだが、動いちゃくれない。

 

『こうなったら……アモン、いいからセージの身体を動かせ!』

 

『しかねぇな、文句言うなよセージ!』

 

遠のきつつある意識の中、アモンが俺の身体を勝手に動かそうとするが……

それとは別に、アインストに何かが当たって落ちるような音が聞こえた。

 

〈メロンエナジー!〉

 

〈ピーチエナジー!〉

 

これは……戦極ドライバーの……?

でも、何か……違う……ような……

 

不可思議な音声が、俺が最後に聞こえた音だった。




ゲネシスが既に少数生産されてる件について。
まぁ、原作斬月も登場してまもなく上位モデルが出ましたけど
(こっちは後に再登場しましたと言うか斬月・真が斬月・偽になる始末)

>ドリアンロックシード
ドサマギで凰蓮軍曹が拾ったようです。ベルトは以前予想のあった通り
天道連に渡ったものを回収して使う形になりそうです。

……今回触れてませんが、これも仄かにこの世界(特に鎧武関連)の根幹にかかわる暗示が……

>セージ
いや、チートスペックには違いないんです。
無制限に武器増やせてしかもアレンジもできる自由度の高すぎるロックマンですから。
ただ、それを揮う本体が普通の人間に毛の生えた程度なので
ひとたび異形の軍勢に攻勢に出られると雲行きが怪しくなります。
なので、戦闘をイッセーに任せてセージはそのアシストをするという
当初のリアスの目論見はそれほど間違ってないんです。

……それ以前の価値観とかを完全に読み違えたが故にここまで拗れましたが。

>アインスト
今回この場にアイゼンがいなくてよかったね、としか。
ダウンした時点でランページ・ネクロム食らってたら間違いなく即死事案なので……


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Will12. 「かつて」に挑む「創世」 Bパート

間が空いて申し訳ありません。
諸々は先送りにするなどして安定してますが、筆のノリとはまた話が……


と、ここで一つ言っておきます(改めて活動報告でも声明出しますが)

昨今、twitter等で少年漫画等の性的描写を過剰に規制しようとする輩が散見されますが
当方としましては「言いたいことはわかるが、支持はしない」スタンスです。

そもそも、この作品のアンチ・ヘイト描写も「しでかしたことに対する制裁が少なすぎる」とか
「自分たちの悪事はいい悪事、寧ろ悪事を悪事と思っていないのでは?」という
個人的不平から生まれたアンチ・ヘイト描写ですので
別に性的描写そのものを否定したりすることはありません。
悪事にはそれ相応の制裁が加えられる、を是としておりますので。
因果応報、信賞必罰。この精神を大事にしていきたい所存です。

……twitterの垢でも呟いたことですけどね。


「――……る、湊はその少年を」

 

「わかりました、主任」

 

遠くで聞こえていた声が、段々とはっきり聞こえてくる。

はっきりとしない意識も、徐々に戻ってきている。

 

……まいったな、行動を起こす前に気絶してたのか。

アモンも行動を起こさなかったのか? 動けない事情でもあったのかもしれないが。

 

ふと、腰――と言うか、腹のあたりに何かを巻きつけられる感じがした。

何を、しようというんだ……?

 

〈ロックオン!〉

 

これは……ロックシードを嵌めた音……?

何か、動かした音がするが……

 

回らない頭で考えていたが、急激に体の奥から力が戻ってくる感覚に襲われた。

一体、俺の身体に何が起きたって言うんだ?

 

(アモン、もしくはフリッケン。何かしたか?)

 

『やってねぇ。俺が身体を動かしてるときは神器(セイクリッド・ギア)使えねぇのは知ってるだろ。

 いや、俺が主導権握って体勢を立て直そうとも思ったんだが……

 見かけないアーマードライダーが二人やって来てな』

 

『で、そのアーマードライダーがアインストを蹴散らした後

 お前に戦極(せんごく)ドライバーを巻きつけてロックシードを開錠させはしたが』

 

おい!? それってかなり大事じゃないか!

となると俺はアーマードライダーに変身……

 

 

……してないな。

傍らに立っているアーマードライダーを一瞥した後

自分の両手を見てみるが、特に変化はない。

と言うか、そのアーマードライダーが桃みたいな頭で

鎧やスーツもどピンクで派手派手しいという印象が強く

正確な現状把握が出来てないのもあるが。

 

『……セージ。何考えたのか知らないが、俺はピンクじゃなくてマゼンタだぞ』

 

何も言ってない。体を起こし、そのピンクのアーマードライダーに礼を述べた後

状況の説明を求めることにした。きちんと答えてくれるか?

 

俺のその心配は杞憂だったらしく、アーマードライダーはロックシードを外しながら

俺に説明をしてくれた。のだが……

 

「社外秘ではあるのだけど、応急処置として使わせてもらったわ。

 そのベルトには、その取り付けた錠前の力で体を回復させる作用があるの。

 あなたも今日見学できた駒王学園の生徒なら、プロフェッサーから聞いていない?」

 

あ、これ勘違いしてる奴だ。

俺は超特捜課での外部活動を行う際には、身分証明の制服と言う事で

駒王学園の制服をそのまま着用している。

ところが、今回はそれが仇になったようだ。

目の前のアーマードライダーは、俺の事を企業見学に来た生徒だと勘違いしてる。

説明めんどくさいが、これは説明した方がいいかもしれないな。

 

……まさか警察の制服着るわけにもいかないし。

 

「申し遅れました。俺は今回警備のために警視庁超特捜課から来た

 宮本成二と言います。駒王学園の生徒には、違いありませんけど」

 

「警備の? 確かに今日会談の警備のために警察が来るという話は

 呉島主任から聞いていたけれど……まさか高校生が来るとは、思わなかったわね」

 

目の前のアーマードライダーの女性(だと思う、凰蓮(おうれん)軍曹と違って声がきちんと女性のそれだし)は

至極当然の感想を述べ、俺からおもむろに戦極ドライバーを外そうとする。

 

「おわっ」

 

「身体に異常は無さそうね。このまま下がって、この医療機関で検査を受けなさい」

 

……取り付く島も無さそうだな。だが、命令系統外から指示されてもなぁ……

それに、向こうで戦っているような音が聞こえるという事は

まだアインストの侵攻は止んでないという事だ。その状況で、戦える状態で撤退ってのもなぁ。

 

「すみません。一応、上官に確認を取りたいのですが」

 

「……仕方ないわね。警視庁の担当に言えばいいのかしら」

 

目の前のアーマードライダーは、左耳に手を当てて通信を行っているようだ。

便利なもんだな、アーマードライダーシステムってのも。

等と考えていると、話が終わったようだ。

 

「……あなた、神器持ちだったのね。事情は分かったわ。

 出来れば今検査を受けてもらいたいところだけど……

 

 見ての通り、黒影以外のアーマードライダーが私を入れて三人いても

 アインストの侵攻を防げるかどうかって状態なの。

 それに、クラ……インベスも現れ始めたわ。人手は全然足りない状態。

 病み上がりで悪いのだけど、手を貸してもらえない?」

 

目の前のアーマードライダー――マリカの示す通り、アインストの数は一向に減らないし

地上にはアインストに混じってインベスも来てるし

アインストがインベスの出したドラゴンアップルを食って強化されてる。

どう考えなくても、ヤバい。

 

「わかりました。手薄なところを防ぐ形でいいです?」

 

「そうね、現地の人の支援をお願いするわ。

 大物は私や呉島(くれしま)主任が何とかするから

 タワーにアインストやインベスを入れないようにだけ注意して」

 

勿論、そのつもりだ。俺は改めてマリカに頭を下げ、指し示された方角へと向かう。

そこには、上空から次々とアインストが現れていた。

俺が相手取っていた奴なんて、氷山の一角にも満たないと思い知らされた。

現地の黒影(くろかげ)と協力し、アインストを相手取ることとなった。

 

……ついこの間戦った相手と協力する、ってのもこのご時世よくあることなのかもしれないが。

ま、この黒影は中身が違うけど。

 

黒影との共同戦線は、思いのほかうまくいっていた。

こっちに黒影のデータがあるって事と、黒影自体の拡張性の高さだ。

長槍、影松による接近戦が主体だが、火炎放射器など携行武器も問題なく運用できる。

 

ナイトファウルを複製して運用してもらおうと思ったが

そもそもナイトファウルは初見で使うには難しいし

ナイトファウル本体ではなく装填している弾丸であるアルギュロスの方が

アインスト特効なので、あまり意味がない。

弾丸の複製は出来ないし、数もあまり持ってないし、アモンでモーフィングするにも

アモンによるモーフィングでアルギュロスの精製には成功したことが無い。

以上の観点から、携行武器については現状維持としてもらう事にした。

 

「二時方角からクノッヘンタイプ、数は5!

 上空から来るので、対空警戒を厳となしてください!

 

 ……次、9時方角からグリートの砲撃! 散開してください!

 グリートの攻撃の着弾後にゲミュートが来ます、警戒を!」

 

……数が多いって事は、レーダー手に回らざるを得ないって事だ。

幸い、アインストも記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)のレーダーに映る。今のところは。

今後、進化してレーダーに映らない奴とか来るかもしれないが……

いや、今後を気に掛けるよりも今襲ってくる奴だ!

 

ひっきりなしに襲ってくるアインストの大群。

上空からはクノッヘンに加えてアインストリッターが出現。

それに呼応するように、地上にはアインストアイゼンが現れた。

 

……マズい! この二体に連携させたらマズい!

 

「灰色の奴と赤い奴には気を付けて! 連携攻撃を仕掛けてきます!」

 

ナイトファウルで援護射撃をしながら、前線で戦っている黒影隊に指示を飛ばす。

だが、黒影隊の展開も限界があるのか徐々にアインストの軍勢に押され始めてきた。

特にアインストアイゼンの突破力は、黒影の得物とは相性が悪いみたいだ。

仕方ない、こうなったら分身出して援護に回るか!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

分身を出したはいいが、アインストアイゼンの装甲を突破するには威力が足りない。

辛うじて、ギャスパニッシャーでダメージは与えられているようだが。

それでも、怯ませられる程度だ。トドメを刺すには一撃何かが足りない。

 

(こういう時、兵藤みたく一撃が重い奴は楽なんだろうけれど……!)

 

無いわけではない。コピーした滅びの力とか、分身総がかりでの集中攻撃とか。

だが、相手が大軍である以上集中攻撃はなかなか難しい。

おまけにそうやって倒したとしても、すぐに次がやって来る。キリがない。

 

 

……はっきり言おう。黒影では数はともかく

個々の力でアインストに対抗するにはやや不足気味だ。

いや、無尽蔵に出てくることを考えると数でも不利だ。

こうなれば、個々の質に期待するしか……どうやって?

 

〈ブドウスカッシュ!〉

 

〈メロンエナジー!〉

 

悩んでいると、オレンジ色と紫色のエネルギーがアインストの集団に撃ち込まれる。

この攻撃は……?

 

「主任だ、主任が来てくれたぞ!」

 

光実(みつざね)ぼっちゃんも一緒だ!」

 

どうやら、ユグドラシルのお偉いさんが来たようだ。

ふと見ると、さっきのマリカに近い弓手風の鎧を着た白いアーマードライダーと

緑色の中華風の鎧を着たアーマードライダーがそれぞれ弓や銃を構えていた。

あの武器、相当な威力があるな……記録は出来ないみたいだけど。

 

『……セージ。恐らくだが、アーマードライダーの武器や鎧は記録できないぞ。

 原理は不明だが、コピープロテクトみたいなものがかけられている。

 

 にしても……やっぱりあのアーマードライダー、どこかで見たぞ……?』

 

フリッケンの言葉に引っ掛かるものを感じたが、今はそれよりアインストだ。

 

「皆、よく持ち応えた。既に他のエリアに出現したアインストは撃退した。

 インベスも現れ始めているが、警察や自衛隊との協力、そして……」

 

Bonjour.(御機嫌よう) 流石はユグドラシルの装備と言ったところかしらね。

 ボウヤも、あれだけの戦力比の中でよく持ち応えたわ。そこは認めてあげてもよくってよ」

 

その緑色のとげとげモヒカンな鎧を纏ったアーマードライダーからは、凰蓮軍曹の声がした。

い、いつ凰蓮軍曹が変身したんだ!?

 

「凰蓮軍曹!? その恰好は……」

 

「ああ、気になるわよね。

 ワテクシも、使い慣れない装備をぶっつけ本番で実践投入なんて

 アマチュアの考える下手な作戦以下の仕事だと思ってるわ。

 

 ……けれど妙なのよ。このアーマードライダー――ブラーボの事は

 ワテクシ、よく知っている気がするの。

 実際、変身してからすぐにワテクシの身体に馴染んだしね。

 おかげで、インベスやアインストに引けを取ることなく戦えたわ」

 

そう言って、凰蓮軍曹はくるくると小型ののこぎりのような剣を振り回していた。危なっかしい。

しかし、これだけ援軍が来たのならば、ここの守りも確実なものになるだろう。

そう思い、俺は場所を移動しようと提案しようとしたが――

 

――けたたましく、展開しているレーダーが鳴り響いた。

 

上空を見ると、クノッヘンやリッターの他に……黒い翼を生やしたアインスト……?

 

……い、いや! あれは堕天使だ! 何で堕天使がここにいるんだ!?

しかもあの様子は、クロスゲートから出てきた風にも見える! なんでだ!?

 

『堕天使だぁ? 一体どうなってやがんだ? クロスゲートから出てきたようにも見えるが』

 

『……大体わかった。あれは堕天使であって堕天使じゃない』

 

フリッケンの言葉が、それこそ大体わかった。

……うん? だが以前アザゼルは、アインストは初めて見るみたいなことを言ってた気が?

まぁ、堕天使領に襲撃してきたアインストの影響を受けたって考えるのが妥当か。

 

……だが、それに加えて!

 

『セージ。地上も見てみな。インベスだ。しかも生やした実をアインストが取り込んでやがる』

 

アモンの指摘に、今度は地平線を注視するとそこにはインベスの大群がいた。

インベスも、最近は灰色の甲虫みたいな奴に限らず鹿みたいな角を生やした奴に

ライオンみたいな顔をした赤い奴など、様々に種類が増えている。

しかも総じて、甲虫型よりも能力が高いと来た。

その上奴らが繁殖させたドラゴンアップルを、アインストがコアに取り込んでいる。

そうなれば、アインストは強化されさらに手ごわくなる。

 

「……心しろ! このエリアに来た敵の勢力は、今までとは比べ物にならないぞ!」

 

nous faisons!(上等じゃない) 民間人を守るのが軍人の役目よ!

 メロンの君、ワテクシは最後まで戦い抜きますわ!」

 

「僕も、こんなところで負けるわけにはいかないね」

 

やって来たアーマードライダー達の戦意は高い。

それに呼応するように、黒影も劣勢でありながら士気は衰えていない。

 

……ならば、俺も!

 

「ボウヤは帰りなさい……って言いたいとこだけど、敵の数が半端じゃないわ。

 ワテクシ達の背中、預けてもEst-ce que je peux(よろしくて)?」

 

俺は力強く頷き返す。

インベス・アインスト連合軍と、アーマードライダー軍団の総力戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

……だからこそ、俺は注意が逸れていた部分もあった。

高揚していた気分で、堕天使の側への注意が僅かに逸れていたのだ。

この時、後方にいた堕天使の相手に向かっていれば。

 

 

 

――姫島朱乃が、あんなことにならずには済んだのかもしれなかったのに。




というわけで遅れましたがBパートも完了です。
本当はブラーボ初変身は別のエピソードでしっかり描こうかと思いましたが……

>ブラーボ
感想欄でご指摘された通り、凰蓮軍曹の性格上「慣れない武器は使わない」と思います
(劇中慣れないロックシードでインベス出したはいいけど暴走させましたしね)

ですが今回は「妙に馴染んだ」のですんなり進んでます
さてこれは「虚憶」なのかそれとも……

>マリカ
冒頭にセージを治療した後どっか行きました
ドサマギでプロフェッサーに合流しているのでしょうけれど。
或いは、別のところで黒影隊の援護をしているか。

余談ですが、登場当初の湊さんを見て「プロフェッサーの指示が無いと何もできない人」と感想を抱いてました。
終盤はまた別の印象が生まれましたが。
別にその観念が反映されては無いと思います。

>戦極ドライバー
これも劇中主任が回復した機能の拡大解釈。
拙作風に言うなら「治療系神器のデータを基に、ロックシードに反映させた」ってとこでしょうか。
つまり黒影トルーパーは回復アイテム対応です。この辺警視庁開発装備にはない強み。
アインストに苦戦してるのは回復量以上のダメージ受けてるとかそんな感じ。

>〆のモノローグ
原作時系列ではバラキエルと和解出来たあたりですが
拙作では和解フラグ全然立ってませんからね。
クロスゲートがあって、アインストがやって来て、這い寄る混沌が現れても
異界の神である乳神の顕現は期待できません。寧ろいります?


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Invitation of the evil god Aパート

筆が進んだと思ったらPC異常。
びくびくしながら書いてます。


ユグドラシルタワー・会議室。

 

日本神話と仏教からなる神仏同盟と北欧神話体系の会談が行われていたが

その最中、黒の菩提樹による自爆テロが発生、会談は中断を余儀なくされた。

さらに畳みかけるように、ユグドラシルタワー上空に現出したクロスゲートより

アインストとインベスが出現。それに立ち向かうべくユグドラシル社の

アーマードライダー部隊が出撃、警備についていた警視庁、自衛隊と共に

アインスト・インベス軍団との戦いが繰り広げられ

会談に来ていた神仏たちは迂闊に動けない状況に陥ってしまったのだった。

 

彼らの力ならば、この場にいるアインストやインベスを一掃することは容易い。

だが、それではユグドラシルタワーの、ひいては沢芽(ざわめ)市の人間を巻き込みかねない。

そのため、超常の力を不用意に行使することはできないのだ。

その上、ユグドラシルタワー内部には会談そのものを快く思わない天道連(ティエンタオレン)が侵入している。

会議室から外に出ることは、戦場を広げてしまう事にもつながりかねないのだ。

 

「我としては、このタワーごとアインストやインベスを蹴散らしても構わんが。

 あと我らに歯向かう身の程知らずな賊共もな」

 

「滅多なことを言うでないわロキ。名前こそ同じじゃが

 ここは我らのユグドラシルではないのじゃぞ」

 

過激な事を言うロキを、オーディンが窘めている。

しかし、手早く片付けるのならばロキの意見も尤もである。

それ自体は日本神話の須佐之男命も同意しているが

こちらもまた姉である天照や兄弟神の月読に窘められていた。

 

「そうは言うけどよ月読、じゃあどうやってこの事態を収拾つけるんだよ?」

 

「……人々を信じるより他なかろう」

 

月読の言う通り、ユグドラシルには人間が開発したアーマードライダーシステムがあり

また今回の会談に合わせ警視庁や自衛隊が対怪異用の装備を持参した上で警備についていた。

これらならば、確かに出来るかもしれないが。

 

「人の力……ですか。恐れながらツクヨミ様。

 私には、あのような面妖な鎧でアインストやインベスを

 どうにかできるとは考えにくいのですが……」

 

「口を慎まぬかロスヴァイセ。お主もヴァルキリーの端くれならば、人間の力こそが

 エインヘリャルにとって重要なものであると共に

 わしら神々をも打ち破るやもしれんのじゃぞ。

 

 ……現にあの白い鎧、呉島貴虎(くれしまたかとら)を見てみよ。

 統率を執り、アインストやインベスの軍勢にも一歩も引かぬではないか。

 お主、ヴァルキリーとしてはまだまだじゃな」

 

ロスヴァイセの疑問は、貴虎という明確な反論が存在することで拭い去られた。

人の世界は、人の手で守らなければならない。

そのために使う力が、異質なものであったとしても。

 

(フン。セラフォルー辺りは何というだろうな。

 人間どもは自分達の世界を自分達で守っているだけで

 別に貴様ら悪魔を否定してはいないはずなんだがな……

 これもフューラーが現れてから、微妙になりはしたがな)

 

外の喧騒を他所に思案に耽るロキだが、そうも言っていられない事態が起きた。

結界を張っているはずの会議室に、天道連と黒の菩提樹の信者が入り込んできたのだ。

 

「神は……唯一の存在があればいい……」

 

人類敵人、死了(人類の敵め、死ね)!」

 

天道連は外で戦っているものと同型のアーマードライダーシステム、黒影(くろかげ)を用いており

黒の菩提樹の信者も傍目にはユグドラシルの社員にしか見えない。

このちぐはぐさは、この場にいる神々全員が感じ取った。

 

黒の菩提樹は何者か知らぬ神を崇め、異教の神である神仏同盟や北欧神話の神々を否定している。

菩提樹という単語から、仏教勢力の一部かとも思われたが

大日如来もいるこの場に襲い掛かってくる時点で違う。

そして天道連はこの場にいる神々全てを人類の敵と見做し襲い掛かってくる。

ここにいる神仏を打ち倒す。それだけならば、利害が一致していると言えよう。

 

……だが、それにしては腑に落ちない点が多すぎる。

何故天道連が黒影を使っているのか。何故黒の菩提樹がこのタイミングで蜂起したのか。

これでは、まるで禍の団(カオス・ブリゲート)ではないか。

 

彼らの統率のとれなさは各神話体系や、今となっては国連も知るところではあるが

目の前の者たちの行動原理は、極めて禍の団に近いものであったのだ。

 

「お釈迦様は言っていた――

 

 『まず、自分を正しく整えてから他人に指摘しなさい。

  そして、他人に指摘したことは、自分も実行しなければなりません』

 

 ――とな。盗んだ力を我が物と錯覚したり、己を見失っていながら他者を責めるお前達に

 俺達を倒すことはできない」

 

大日如来の言葉は、そのまま旧来の禍の団にも言えた事である。

だが、大日如来も、この場にいる神々も知らない。

 

――既に旧魔王派をはじめとした禍の団は、アインストによって統率されていることを。

 

 

――――

 

 

会議室になだれ込んだ天道連や黒の菩提樹の信徒が、神仏に返り討ちにあっている頃

アインスト・インベス連合軍の本隊から離れた位置に、駒王学園の生徒が数名いた。

飛び出した姫島朱乃を追いかける形で出てきたリアスらだ。

幸か不幸か、ほとんどのアインストやインベスは斬月(ざんげつ)・真らユグドラシルの本隊に向かっており

リアスらを足止めするアインストも、インベスもほとんどいなかった。

それは逆に、飛び出した朱乃を止めるものが誰もいなかったことも意味していたが。

 

「……どうやら、相当な勢いで飛び出したみたいだね。僕と祐斗君で先行して彼女を探そう。

 祐斗君、二手に分かれることになるけれどいいかい?」

 

「敵の数も少ないですし、その方が良さそうですね。

 部長、僕と布袋芙(ほていふ)先生で副部長を探します。部長はアーシアさんを」

 

「……そうね。先生、祐斗。朱乃をお願いね」

 

スピードに優れる木場と、応用力の高いナイアが朱乃の捜索に出る。

単純に、リアスは索敵能力がそれほど高くなく

その上でアーシアという戦力面ハンデを負った状態では

この二人が中心となって動かざるを得ないという状況でもあるのだが。

ともあれ、戦力的にも重要な二人を欠いた状態でリアスはユグドラシルタワー前で待機する……

いや、せざるを得ない状態になったのだった。

 

「副部長さん、無事だといいですけれど……」

 

「大丈夫よ。朱乃は私の『女王(クィーン)』。アインストやインベスはおろか

 堕天使相手にも引けをとることは無いわ」

 

いつの間にか呼び出していた蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)を抱えながら、不安げに漏らすアーシア。

リアスはその不安をかき消さんと自信満々に答えるが

その言葉を裏付けるには実証が足らなさ過ぎた。

 

まず、朱乃は禍の団英雄派を率いるフューラーの精鋭、聖槍騎士団を前に

なすすべもなく敗れたことがある。

その時には「自身の持つ力の全てを出さなかったが故に敗れた」と指摘されたが

今回もそうなるのであろうか。その答えを、少なくともアーシアは知らない。

 

(……襲ってきたのは堕天使。けれど妙ね、アインストやインベスばかりだというのに

 何でそこに堕天使が来るのかしら? アザゼル――シェムハザは何も言ってきていない。

 だとするとこれは堕天使の独断かしら?

 

 ……いえ、そもそも堕天使と悪魔は和平にこぎつけていない。

 私達に関係なくここに来たっておかしくはない。

 でも、なんでこのタイミングで? クロスゲート絡みだとでもいうのかしら?)

 

思案を巡らせるリアスだったが、その答えが出ることは無かった。

ただ、その暗雲の向こうでは彼女の腹心の心情を示すかのように雷鳴が轟くばかりであった。

 

 

――――

 

 

「――バラキエルぅぅぅぅぅぅっ!!!」

 

憤怒の形相で、堕天使の軍団へと突っ込んでいく朱乃。

彼女に生えた翼は悪魔と堕天使のそれが対になっている。

彼女の出生を物語るそれは、同時に彼女の価値観への楔となっていたのだった。

 

「母様を、姫島の皆を殺し、どの面を下げて私の前に現れたぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

慟哭と共に、稲妻が堕天使の集団を襲う。

散り散りになる堕天使だが、その黒い翼からは緑色の触手が生え

心臓部分には赤い宝玉がその存在を主張している――そう。

 

――彼らは既に、堕天使であり、アインストである存在なのだ。

 

バラキエルの黒い鎧にはアインストリッターを思わせる宝玉が点在し

バラキエルの精悍な顔には、不可思議な紋様が彩られ

その瞳から光は喪われ、ただ敵を駆逐せんとする獰猛さのみを物語っていた。

 

「彼らは……純粋たる……存在では……無かった……

 故に……排除……そう……お前も……純粋たる……存在では……無い……!」

 

朱乃の稲妻がバラキエルを捉えることは無く、バラキエルから放たれた雷が逆に朱乃を襲う。

その力は、朱乃のそれとは比べるべくもない。

アインストと化したことでリミッターが外れていれば、猶更だ。

 

――母の仇に、バラキエルに、勝てない。倒せない。殺せない。

 

雷に撃ち落とされた朱乃は、天に手を伸ばし、ただ怨嗟の声を上げていた。

 

「バラキエル……母の仇、私を苦しめた元凶、全ての不幸の源

 存在が許せない、憎い、母様を裏切った愚かな男――

 

 ――殺す、殺す、殺す、殺す、死ね、死ね、死ね、死ねシネシネシネシネシネシネシネ――」

 

闇雲に稲妻を放つ朱乃。もはや、その眼には何も見えていない。

憎悪のみに囚われた、哀れな人形。

 

 

――さて。『君達』はこんな存在を……どこかで見たことはあるだろう?

  そう、この『歪んで作られた世界』で。

 

 

誰に語り掛けるでもなく、ただ独り言を呟きながら布袋芙ナイアが朱乃に加勢しようとする。

しかし、今の朱乃が加勢を素直に受けるだろうか。答えは否である。

 

 

――姫島朱乃。君の『お仲間』をここに呼んでおいてあげたよ。

  『御同輩』同士、仲良く戦いなよ。

  僕と、僕の求める『英雄』のためにね……フフフフフフ。

 

 

稲妻に割り込む形で投擲された剣。それは、アインストと化した堕天使を易々と貫き

そのまま地面に突き刺さる。その突然の出来事に、朱乃がふと我に返る。

 

「……!? わ、私は……

 

 ……こ、これはアスカロン!? どうしてここに……」

 

――そんなの、決まってるじゃない。私がここにいるからよ。

 

堕天使を蹴散らしながら朱乃の下に歩いてくるのは、赤と黒で彩られた

艶めかしいボンデージスーツとも言うべき服に身を包んだ――

 

――紫藤イリナであった。

 

彼女の身を包むボンデージスーツは、かつて教会で支給されていた

戦闘服の面影を僅かに残しながら、まるで赤龍帝の鎧のような意匠を埋め込まれた上に

高校生が着るには些か扇情的過ぎるデザインであった。

その血のせいか規格外とも言える朱乃はともかく、彼女のかつての同僚であったゼノヴィアにも

勝るとも劣らないプロポーションを誇っているのだから

その破壊力は推して知るべし、と言ったところか。

 

「ああ、これ? ダーリンの見立てなの。いいでしょ?

 これ着ちゃったら、あんなダッサイ教会の服なんか着られないわよ。

 それにこれ着てると、いつでもダーリンに抱かれてるみたいですっごくいいのよ。

 

 ……あ、わかんないかもしんないけど」

 

紅潮させながら語るイリナに、さっきまでの暴走も忘れて朱乃も呆気に取られていた。

死地において、イリナは半ば性的興奮までも覚えているのだ。

 

「な……な……」

 

「……ねえ。私としてはあんたなんかどうでもいいんだけどさ。

 ダーリンが『あんたを助けろ』って言うんだから、助太刀に来たの。

 さっさとこんな奴ら殺すわよ。

 出来れば、ダーリンが来る前に。あ、それともあんたもダーリンに会いたいの?

 いいけど、私からダーリン取らないでね? ダーリンに限ってそんな心配いらないけれど」

 

言うだけ言って、イリナは突き刺さったアスカロンを乱雑に引っこ抜き

アインストと化した堕天使を次々と切り裂いていく。

 

かつて、アスカロンは龍殺しの聖剣として伝わっていた。

しかし、神の消滅とその隠蔽の事実を知り

天界と信じていたものに裏切られ絶望したイリナが暴走。

ミカエルをアスカロンで突き刺すという凶行に走る。

 

それ以降、アスカロンには龍の他に天使をも殺す

「聖魔剣」としての性質も加味されることとなったのだ。

 

アインストと化したとはいえ、堕天使。即ち、かつて天使であった存在であるならば

アスカロンの特効からは逃れられない。

アインストへの特効ではなく、天使――堕天使への特効として

アスカロンは有効に振るわれていたのだ。

 

しかも、イリナは持ち逃げした擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)までも活用している。

擬態の聖剣を用いて作った盾で、アインストと化した堕天使の光の槍を弾いているのだ。

 

この目の前の事態を、まだ朱乃は呑み込めていない。

イリナの話は聞いていた。だが、その彼女が目の前に豹変した姿で現れて

アインスト相手に一方的な戦いを繰り広げているのだ。

 

 

――いいのかい? このままだと、君が殺すべき相手を彼女に取られてしまうよ?

 

 

朱乃の耳に、ふと「何者か」の声が響く。

それは、耳を傾けてはならない、深淵からの囁き。

悪魔が悪魔の囁きに耳を傾ける。

当然の事なのかもしれないが、皮肉めいたものも確かに存在していた。

 

 

「……そうだ。目の前に母様を殺した憎い奴がいる。この手で殺したいほどに憎い奴がいる。

 私が殺すんだ。私が、この手で……」

 

イリナの加勢のお陰で、バラキエル――アインストバルディエルの取り巻きの堕天使は

軒並み倒されていた。そのお陰か、朱乃の攻撃も一直線にアインストバルディエルを捉えたのだ。

 

 

――もう一歩を、僕が背中を押してあげよう。

 

 

さらに、回避させまいとアインストバルディエルの影から伸びた手が、動きを抑え込む。

ナイアの神器(セイクリッド・ギア)、「群像の追憶(マス・レガシー)」によるものだ。

 

朱乃の稲妻がアインストバルディエルのコアが存在する胸を貫いた瞬間。

 

 

――あ、け、の……

 

 

その瞳には、今までのものとは違う光が確かに宿っていたのだった。

しかしそれを、朱乃が知ることは無い。

 

――アインストバルディエル、いやバラキエルの自我は

彼に埋め込まれたアインストのコアが打ち砕かれた瞬間、確かに戻ったのだ。

 

だが、それではあまりにも遅すぎた。そう、彼は理解してしまったのだ。

 

異界から現れた異形の怪物に不覚を取った事。

そして自分が最愛の妻を殺してしまった事。

最愛の娘に憎しみを向けられた事。

 

 

――家族と分かり合う機会を、永遠に喪ってしまいそうな事。

 

 

――わ、私は……しね、ない……

  あけ、の……の……ため……にも……

 

 

娘の稲妻に貫かれ、そのまま地に墜ちたバラキエル。

今まで自分を構築していたコアを失った影響は大きく、五感を著しく衰えさせた彼の下には

幸か不幸か、仇を討ち狂気の笑みを浮かべる娘の姿や声は入ってこない。

朱乃のいる方角に、手を伸ばそうとするも……

 

 

――困るんだよ。君にこれ以上生きていてもらわれると。

 

 

その手を、ナイアの黒いパンプスが踏みつける。

理解できぬまま、手に走る激痛に声を上げるバラキエル。

アインストの再生能力は、すでに失われている。

コアが破壊されたことで奇跡的に自我を取り戻したが

今回は、それが彼を苦しめる毒と化すのだった。

 

 

そして、毒は致死量となって彼の身体の隅々まで既に渡ろうとしていた。




朱乃の妙なフラグ回収のカウントダウン、はっじまっるよー
なお、次回はそう遠くないうちに投稿できる予定です


>イリナ
最後に連れ去ったのが聖槍騎士団なので、そこ経由でナイアが引き取りました。
(もう隠す気が無い敵とのずぶずぶな癒着)
で、心の安定は得たのですが……

ヒントはペルソナ2罪の杏奈(ユッキー廃人ルート)

>バラキエル
本当はもう少しアインストとして暴れさせる予定だったんですが……
朱乃との確執の方が大事だと判断してこんな形に。

えっと。次回、マジで可哀想なことになります。一体彼が何をしたって言うんだ!
ネタバレはしたくないのですが、NTR要素を含むだろうため次回閲覧の際にはご注意を。

>木場
彼も朱乃の援護に向かったのですが、ナイアに擦り付けられるような形で
アインストやインベスの妨害を受けました。

……まあ、彼が向かったところで結果はあまり変わらなかったかもしれませんが。


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Invitation of the evil god Bパート

思ったより長引いてしまいました、すみません。
短いですがBパートです、お待たせしました。


――わ、私は……しね、ない……

  あけ、の……の……ため……にも……

 

 

己を只只管に憎む娘・姫島朱乃の稲妻に貫かれ、そのまま地に墜ちたバラキエル。

今までアインストへと変異していた自分を構築していたコアを失った影響は大きく

そのために五感を著しく衰えさせた彼の下には幸か不幸か

殺された母の仇を討ち狂気の笑みを浮かべる娘の姿や声は入ってこない。

 

アインストと化したことで、朧気な自我で妻や娘の下に戻ったバラキエルだったが

彼を突き動かしたのは、アインストとしての役割――静寂を乱す、不完全な生命体――

 

――即ち、人間。ひいては己の妻とその一族の排除だった。

 

幸いにして、娘である朱乃はその惨劇を逃れることが出来たが

彼女にとって父は母や姫島の一族を皆殺しにした憎むべき存在として

その日以来、彼女の心の中に巣食っていたのだ。

 

紆余曲折を経て、リアスの下に転がり込んだのも悪魔となることで

自分に流れている堕天使の血を少しでも薄めるため。

父を処罰することなく「なかったもの」として扱った堕天使に彼女は失望したのだ。

そして、己に流れる堕天使の血にも絶望した。故に、自ら悪魔となることを選んだ。

もう半分の人間の血を顧みることなく、堕天使の血を薄めるために悪魔になった朱乃。

 

しかし、結果は人間としての血が薄まるだけで、堕天使の力は消えることが無かった。

その事実に、彼女はさらなる絶望に叩き落された。

仕方なく、自ら堕天使の光の力を封印。何があろうと二度と揮うことは無く。

それが結果としてかつて堕天使が行った「なかったものにする」と遜色ない行為だったとしても。

彼女には、もうこれしか心の平静を保つ術は無かったのだ。

 

それ以来、姫島朱乃はリアス・グレモリーの腹心として振舞い。

駒王学園でもその存在感を確立し。

その一方で、自暴自棄で自堕落な影の面をリアスにはひた隠しにしつつ。

兵藤一誠や宮本成二に粉をかけていたのだ。

 

それが、姫島朱乃という少女が持つ不安定さであり、その不安定を放置した上で

敵と目するバラキエルを前にしたのだ。暴走しない方がおかしい。

そして、外的要因が入ったとはいえ敵討ちは成し遂げられたのだ。

 

――あ、け、の……

 

彼女の心も露知らず、バラキエルは朱乃のいる方角に手を伸ばそうとするも……

 

 

――困るんだよ。君にこれ以上生きていてもらわれると。

 

 

その手を、黒いパンプスが踏みつける。駒王学園オカルト研究部の顧問として

ユグドラシル・コーポレーションの企業見学にやって来ていた、布袋芙(ほていふ)ナイアだ。

ナイアのパンプスに手を踏みつけられているという状況を理解できぬまま

手に走る激痛に声を上げるバラキエル。アインストの再生能力は、すでに失われている。

アインストのコアが破壊されたことで、バラキエルの自我は奇跡的に戻ったのだが

今回は、それが彼を苦しめる毒と化したのだ。

 

「君の役目は終わりだ。『彼』の虚憶の向こうでは、『彼』の子供の師匠としての

 役割が君にはあるらしいけれど……

 正直、そんなのは『退場すべき脇役に、適当に宛がわれた役目』に過ぎないと思うんだ。

 そうでなくとも、君の存在は『彼』の思い描く世界には邪魔なんだ。そう――

 

 ――『彼』と君の娘の愛を阻むものは、たとえ実父だろうと排除するよ」

 

ナイアの姿が黒い影に包まれたと同時に、その姿は赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

酷似したものへと変化していく。

違いと言えば、目の部分や宝玉の部分が緑色から金色へと変化している事くらいか。

 

 

「そ、その姿は……赤龍……帝……!?」

 

姿が変異したと同時に、遠くにいたボンデージ姿のイリナが駆け寄ってくる。

しなだれかかるイリナの腰を、赤龍帝の鎧は抱き寄せる。

 

「お待たせダーリンっ、邪魔なゴミは粗方片付けたわよ?

 でも……ごめんね? それだけは、あいつに任せたからちょっと汚いままで……」

 

バラキエルを指さし、嘲笑を浮かべるイリナ。

その一方では、赤龍帝の鎧に対し潤んだ熱い目線を向けている。

 

「『ああ、気にすることは無いよイリナ。

  こいつにはまだやってもらわないといけないことがあるからさ。

 

  ……さ、ご褒美だ』」

 

赤龍帝の鎧はイリナをさらに強く抱き寄せ、バラキエルがいるというのに

お構いなくイリナの臀部を撫で回し、それに応えるようにイリナもまた

程よく肉のついた太腿を赤龍帝の鎧に絡みつける。

そして、まるで鎧の持ち主の意思と言わんばかりに

イリナの太腿同様に程よく発達した乳房を揉みしだく。

イリナのあげる甘美な声と、朱乃の狂った笑いが木霊する、異様な光景。

 

イリナのあげる声が一際高まったと同時に、朱乃の笑い声も収まる。

我に返った朱乃が見たのは、己の仇を見下ろす可愛い後輩と

それにしなだれかかる墜ちた教会の戦士。

 

「……あら。あらあらあらイッセー君。どうしてここに?」

 

「『心配だから来ちゃいましたよ、朱乃さん。アインストやインベスだけでなく

  堕天使まで来てるんですから。けれど、俺が来たからにはもう大丈夫っすよ!』」

 

赤龍帝の鎧は、朱乃に向けガッツポーズをとる。

呼吸を整えたイリナが、その様子に不平を漏らす。

 

「もーぅ、ダーリンってば私の事はスルー?」

 

「『そんな事ないよ、イリナはよく頑張ってくれてるじゃないか。俺を信じてくれてるんなら

  俺もイリナに応えないといけないからさ』」

 

尤もらしいことを言っているが、「何かが歪だ」。

目の前の赤龍帝の鎧は「本当に兵藤一誠なのか?」

朱乃が疑問に思うが、次の瞬間その疑問は消え失せた。

 

「『堕天使はイリナのアスカロンで、アインストやインベスは来る途中に俺が片付けました!

  後はこの堕天使ですけど……』」

 

「……そうね、イッセー君。この堕天使だけは、私が、この手で、殺さなければならないの」

 

朱乃の右手に、再び稲妻が走る。バラキエルの五感は衰えているが、殺気には反応していた。

身構えようとするも、コアを失ったダメージで身体は言う事を聞かない。

 

「『わかりました。なら、俺は全力でそれを応援します!』」

 

TRANSFER!!

 

赤龍帝の「譲渡(ブーステッド・ギア・ギフト)」が朱乃に贈られる。

それを受けた朱乃の稲妻は、普段彼女が使うそれよりも遥かに強く

彼女一人で生み出せる力を優に超えていた。

 

「うふふ、イッセー君がいてくれるのなら心強いわ――

 

 ――そう、私に必要なのはイッセー君。母様も、私も顧みない堕天使なんかじゃない。

 イッセー君さえいればいい。イッセー君を愛してあげたいの。イッセー君に愛されたいの。

 ああ、なんで今まで気づかなかったのかしら。こんなにも素敵な子がいるなんて。

 イッセー君がいれば何でも手に入る。私を包んでくれる大きな暖かいもの、それがイッセー君」

 

 

――イッセー君は、私の弟で、恋人で、夫になるべき人で、そして――

 

 

――お父様。パパ。

 

 

「…………ッッッ!!!」

 

 

朱乃が発した言葉に、バラキエルは己の心が砕け散る音が聞こえたような気がした。

姫島朱乃。彼女は父性を求めていた。しかし本来父性を与えるべき存在であるバラキエルは

彼女が幼い頃にアインストと化してしまい、父性の対象足り得なかった。

それ以来、彼女は異性に対し無意識に父性を求めていた。

故に、とてもではないが父性の対象足り得ない同級生や同年代は異性として見做せなかった。

 

これが、彼女の男嫌いの真相であった。

 

そして今、対象は何であれ父性の象徴が手の届く位置にいる。

彼女にとって、それは心を満たすのに十分すぎるほどであった。

そうなれば、もう目の前の崩れ落ちた堕天使など必要ない。

 

 

「うふふ、ありがとうイッセー君。イッセー君がいれば、何も怖いものなんかないわ」

 

「でしょ? あ、でもダーリンは私のだからね?」

 

険悪にならない一歩手前程度に、赤龍帝の鎧の腕に抱き着いたままイリナが朱乃を牽制する。

それを見ても、朱乃は笑みを崩さない。

その様は、かつてイッセーやセージがオカ研に入部する前のそれに近く

兵藤一誠の虚憶の中に映っていた、姫島朱乃の表情にも近かった。

 

「『さ、朱乃さん……やっちゃってください!』」

 

「そうね、二度と私の目の前に現れないで。『薄汚い堕天使風情が』」

 

遠回しに彼女自身も否定しているが、その事に朱乃は気付かない。

ただ、目の前の存在に対する憎悪と、愛を向けている存在が自分を見てくれている事への高揚感。

それだけに支配された彼女にとって、もはや実父であろうとも父性の対象足り得ないバラキエルなど

不要な存在でしかなかったのだ。

 

彼女でも扱える程度の強さで極限まで倍加された稲妻が、バラキエルを叩きつける。

 

 

断末魔の叫びと共に、バラキエルは雷に打たれ、一瞬のうちに炭化した。

かつての輝かしい戦績は、アインストへと変異したことによって「無かったもの」として扱われ。

自我を取り戻した死に際にも確かに彼が愛した妻と娘への謝罪さえも許されず

娘からはその存在の一切を否定され。

 

神を見張る者(グリゴリ)有数の戦士であったバラキエルは、その魂に晴らしきれない無念を抱いたまま

炭と化した黒い羽根と共に消え去ったのだった……

 

「ふぅん、やるじゃない。ダーリンほどじゃないけど」

 

「『流石です、朱乃さん!』」

 

一方、まるでバラキエルなどいなかったかのように盛り上がる赤龍帝の鎧と二人の少女。

朱乃の足はバラキエルだったものがあった場所を足蹴にしているが、その事を誰も気に留めない。

イリナも、朱乃も赤龍帝の鎧しか目に映っていないのだ。

二人の少女の腰に、赤龍帝の鎧の手が伸びる。その瞬間、少女達からは歓喜の声が漏れる。

否。その声は少女のものではなく、既に「女」足り得ようとしていた声であった。

 

「むーっ、ダーリン取らないでって言ったじゃない」

 

「あらあら、私は二号さんでも別に構いませんわよ? 寧ろその方が燃え上がりますもの」

 

イリナという存在がいようがいまいが、朱乃は赤龍帝の鎧の傍を離れるつもりなどなかった。

赤龍帝の鎧のヘルメットに白く細い指が伸び、ある時は啄み、ある時は貪るように

朱乃の唇と舌が赤龍帝の鎧に触れる。負けじとイリナも体を摺り寄せている。

三人での行い、と言う点を除けばそれはまるで恋人同士の睦事に近いものがあった。

 

――当たり前のように行われているそれは、とても歪なようにも映っていた。

しかしそれを、当事者は確認する術を持たない。

 

 

もっと言えば、抜け殻の鎧を相手に自分を慰めているだけなのかもしれないのだ――




……うん、拙作でエロ描写したらこうなるよね……

というわけでバラキエルさん、無念の退場です……
いやマジホントごめんなさい。
一応原作では性癖がアレなだけで(多分)真面目にお父さんしてますから!
真面目過ぎるかもしれないけど。

狂った最中殺されたバルパーや断末魔すら上げさせてもらえず死んだディオドラとは
別ベクトルで無念の退場と相成りました。
これでも番外編でこっそり死んだことが示唆された幾瀬よりマシだって言う……
最期にナイア先生に踏んづけてもらってるけど、ご褒美でも何でもないよねこれ……

>イリナ
何気にハーレムの立ち位置としてはリアスに近くなってます。
朱乃と恋の鞘当てする位には。幼馴染の面目躍如? いえいえ、これは……

>朱乃
とうとうやってしまいました、父殺し。
「親殺しは石ノ森作品に不可欠」って訳じゃありませんが。
その点では、とんでもない改悪だと思います……が。

彼女はどうもバラキエルとの確執を顧みるに
父性を(も?)求めていたのではないかと思ってます。
そして、父の愛を与えてくれないバラキエルに逆切れと言うか癇癪を起していた。
結局これだけの話に帰結するのではないかと思うのです。
で、今回はこの癇癪が拗れに拗れた、と。

悪魔になった理由も拙作では「堕天使の血を薄めるため」というとんでもない理由。
堕天使憎しでこれ位やってもおかしくは無い、と思いこんな理由を付けました。
無論、より力の弱い人間の血が駆逐される結果になりましたが。

因みに、彼女がリアスに勝っている点があります。バストサイズ以外で。

「己の目的のために、家をかなぐり捨てた」点です。
グレモリーのしがらみから結局逃げられなかったリアスと違い
この世界の朱乃は姫島をほぼ捨ててます。
彼女が子供を成せば、再興はあり得ますが。

……ただ、親に愛されなかった子が、子を愛せるかと言うと……

>赤龍帝の鎧
一貫してイッセー名義ではありません。ここミソ。
そもそもナイアが化けてますし。本物は時間城かグレモリー家にいます。
イメージとしてはペルソナ2罪の「淳の理想のパパ」。
この場合、「イリナの理想のイッセー」が形を成したものでしょうか。
なので、包容力や甲斐性が本物と比べ物になりません。

……おかげで薄気味悪いなろう系主人公みたいなムーブを……


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Evil omen

恐らく今年最後の投稿です
年明けは諸々で忙しいのでちとままならないかもしれませんが……

何とか、続けられればと思ってます


「うわっ、あちっ、あちちちちっ!?」

 

戦闘中。セージの懐にしまっていたディーン・レヴが突如として熱を発した。

それはアインストバルディエル――否、バラキエルが討たれた頃とほぼ時を同じくする。

まるで、バラキエルの無念の魂が吸い込まれていったかのように。

 

qu'est-ce qui se passe(どうしたの)?」

 

「そ、それが……俺が持っていた道具が、突然熱を発して……」

 

アーマードライダーブラーボ――凰蓮(おうれん)・ピエール・アルフォンゾからの問いかけに

セージは慌てた様子で答える。高熱を発したため、思わず懐から取り出したディーン・レヴが

戦場に斃れているアーマードライダーや殉職したと思しき自衛隊、警察官らから発せられた

光のようなものを集め始めたのだ。

 

「アータ、制御できない道具を持ち込んでいたの!?」

 

「いや、今まで一度も動かなかったんですよこれ! ましてや高熱を発するなんて!

 俺にだって何が起きているのだか……

 

 ……そ、そうだ! 記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)なら!」

 

言い訳だと思いながらも、セージは凰蓮に返答する。

ベルベットルームでディーン・レヴを受け取って以来、それは一度たりとも動かなかった。

しかし、今ここで激戦に応えるかのように――あるいは、バラキエルの非業の死に呼応してか

突如としてディーン・レヴは動き出したのだ。

 

また、ディーン・レヴが高熱を発するのに併せて、セージの側にも異変が起きていた。

記録再生大図鑑を起動させ、何が起きているのかを調べようとした矢先である。

これによって、記録再生大図鑑の起動に失敗、調べ損ねたのだ。

 

「ちょ、ちょっと!? 大丈夫なの!?

 メロンの君! 少しの間前線をお願いできないかしら!?

 ワテクシ、この子を一旦下げますわ!」

 

「了解した。敵の波は落ち着いてきている、大丈夫とは思うが落ち着いて行動してくれ」

 

(……ぐっ!? なんだ、この感覚……

 何か、冷たくて、嫌な感覚のものが俺の中に流れ込んでくるような……

 心の中がざわつくような、表現し難い、この感覚は……

 白音さんから気を吸った時とはまるっきり逆の……!)

 

戦いの中で死した者達の霊魂、思念がセージの中に流れ込んできているのだろうか。

異変の正体もわからぬまま、セージはただ己の身体に起きた異変と

持ち込んでいた道具の異変に翻弄されるばかりだった。

お陰で、後ろにいる凰蓮の声も届いていない。

戦線は斬月・真(ざんげつ・しん)の指揮の下維持されているが、セージのアシストを失い

ブラーボという前線の戦力を欠いたためやや乱れてはいるが。

 

『セージ! しっかりしろ!

 動けるなら一度その手に持ってるのを敵に向けて投げろ!

 まだエネルギーが膨れ上がってやがる! このままじゃ自爆しちまう!』

 

「……ぐっ、マジか……!? ええい……ままよ!」

 

セージはフリッケンの器である紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)を展開した上で

ディーン・レヴを持っていたが、それ越しでもディーン・レヴの熱は防げなかった。

アモンのアドバイス通り、セージはやむなくディーン・レヴを投擲武器として

アインストの軍勢に向けて投げる。

 

そして、ディーン・レヴはアインストの頭上でさらに超エネルギーを発し

そこから繰り出されたエネルギー弾が地上に着弾。

更なるエネルギーを生み出しアインストとインベスの軍勢を飲み込んだ。

 

「何事だ!? クッ、総員後退し衝撃に備えろ!」

 

Comment ça se fait(どうなっているの)!?」

 

斬月・真が後退を指示し、前線の黒影(くろかげ)や戦線復帰したブラーボを下げる。

ディーン・レヴから放たれたエネルギー弾は、凄まじい衝撃と共に

アインストやインベスを消し去り、地表にクレーターを作ってしまったのだった。

 

C’est pas vrai(なんてこと)……!」

 

「な、なんて威力だ……アインストやインベスの軍勢を、あっという間に……!」

 

「バックスにいた僕らにまで衝撃が伝わって来た……一体、今のは……」

 

斬月・真やブラーボはもとより、後方から援護射撃を行っていた

龍玄(りゅうげん)でさえも驚きを隠せないディーン・レヴからのエネルギー。

それを発した後に、当のディーン・レヴは何事もなかったかのようにセージの手元に戻っていた。

その頃には、既に高熱は下がっており辛うじて手で持てる程度の温度にはなっていた。

しかし、起こしたことが起こしたことなだけに、ディーン・レヴを持つセージの手は震えている。

 

(……これは、ベルベットルームで悪魔絵師に貰ったものだ。

 彼もこれについてそれほど多くを知っている風には見えなかった。

 だが、今の挙動は明らかに異常だ。

 今のはドライグの力の暴走か、あるいはそれ以上の規模だ……

 もしかすると、リアス・グレモリー……いや、サーゼクス・ルシファーの持っている

 滅びの力を突き詰めるとあんな風に……うん?)

 

セージの左手の記録再生大図鑑が、カタカタと音を立てている。

この神器がこの挙動をするパターンを、セージはよく知っている。

だが、これほどまでに時間をかけるのは記録再生大図鑑を使い始めた頃

リアスの滅びの力や朱乃の雷魔法を記録した時以来だ。

その頃よりセージは明らかに強くなっているし、記録再生大図鑑そのものの許容量も増している。

それでも、使い始めの頃のような挙動をするという事は――

 

MEMORISE!!

 

(……記録した!? まさか――)

 

 

――AXION BUSTER

 

 

何度か見た滅びの力とは似ていて、また別なる力によるもの。

そのカードには「アキシオン・バスター」と記されていた。

その威力は今しがた証明され、迂闊に使う事は出来ないであろうことをセージは直感していた。

尤も、それ以前に――

 

『……セージ。浮かれてないとは思うが、このカードは禁手化(バランスブレイク)しなければ使えないぞ。

 知ってると思うが無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)は記録再生大図鑑における

 カードの消費コストを無視して運用できる。

 つまり、普段使いする分には制限に引っ掛かるって事だ。

 そしてもし仮に禁手(バランスブレイカー)状態で使うにしても

 普段制限に引っ掛かるものを使うって事は相応に反動が来る。

 出来ることなら、その力は使わない方がいいだろうな。

 

 ……オーフィスとかとガチでやりあうってんなら、話は変わるかもしれないが』

 

フリッケンの解析に、セージの背筋に冷たいものが走る。

通常使えない代物。それほどまでのものなのか。以前の滅びの力も面食らったが

今やそれは一応ではあるが、使える。

だというのに、このカードは制約がかかっている。滅びの力と言うか、何と言うか。

セージの直感が「これは滅びの力なんかではない」と告げていた。

 

『やってることは滅びの力とそう変わらんぞ。

 まぁ……お前の言う通り「力の源」って点に関して言えば全然違うのは正解だな。

 これは俺の見立てだが、滅びの力は文字通り「滅ぼす」力だが

 今のアレはどっちかっつーと……「既に滅びた」力だな』

 

そもそも、アインストに滅びの力は効きが悪い。同質の力を持っているからなのだが。

それなのに、アキシオン・バスターはインベス諸共アインストを吹き飛ばした。

その時点で、アキシオン・バスターは滅びの力ではないと言えよう。

では、一体何の力だというのか。アモンは「既に滅びた」力と評しているが。

 

『それこそ、悪魔絵師に聞くべきだな。確かに多くを知ってはいなさそうだが

 少なくとも今の俺らよりは知っているはずだ。落ち着いたら、ベルベットルームだな』

 

フリッケンやアモンと問答を繰り広げているセージだが、その思考は

ブラーボ――凰蓮・ピエール・アルフォンゾの一喝によって現実へと引き戻されたのだ。

 

「……ぶぁっかもぉぉぉぉん!!!」

 

「……っ!?」

 

「素人がわけのわからないトンデモ兵器を使うってだけでも論外なのに

 その威力に呆気に取られて我を忘れてるんじゃないわよ!

 まだインベスやアインストの残党は残っていてよ!」

 

主力を撃退し、またアインストバルディエル――バラキエルが討たれたことで

アインスト・インベス連合軍の動きは鈍っていた。

今は、アーマードライダー軍団による追撃が行われている。

だが、既に斬月・真の統率でどうにかできる範囲でもあるのではないか。

そうセージが思った矢先――

 

 

――セージの視界が、一瞬歪んだ。

 

 

「――っ!?」

 

「……とは言え。あとはワテクシ達に任せなさい。

 さっきからアータ、酷い汗かいてるし顔色も優れないわよ。

 体調不良の人間を先頭に駆り出さなきゃならないほど、ワテクシ達は困窮してなくてよ。

 そ・れ・に! やはりアータまだまだね。肝心な時に全力を出せないなんて、プロ失格よ!

 次にワテクシ達と共に戦う時には、その欠点を改善しておきなさい! これは課題よ!」

 

凰蓮の叱責に、セージはただ謝ることしかできなかった。

なにせ、不確定な要素を持ち込んだ上にそのために自身の調子を乱したのだ。

しかも、下手をすれば味方にまで害が及んでいたかもしれないのだ。

こればかりは、セージに反論の余地は無い。

しかもちゃっかり、課題まで出されている。

 

「その件なんだが、さっき湊――桃色のアーマードライダーからも聞いたかもしれんが

 病院で検査を受けてくれ。沢芽(ざわめ)市民病院で、呉島貴虎(くれしまたかとら)の紹介と言えば通るはずだ。

 どの道、今のお前の状態では満足に戦えそうではないしな。

 戦闘の影響なら心配するな。既にユグドラシルが先手を打って病院や避難所近辺は

 重点的に警備するように手を打ってある。

 銃後の守り……と言うわけではないが、その桃色のアーマードライダー――マリカには

 後方がやられないように守備に就いてもらった。彼女と合流してくれ。場所は……」

 

白いアーマードライダー、斬月・真――呉島貴虎からの指示にも、素直に従うより他なかった。

彼の指摘通り、今のセージの状態では記録再生大図鑑によるアシストも

満足に行えるかどうか怪しいものだ。

 

合流地点を確認し、セージは離脱準備にかかっていた。

 

「……わかりました。すみませんが、後は頼みます」

 

『セージ。俺に代われば……』

 

(言いたいことはわかるがアモン。ちょっとキツイかも。

 さっきからどうも戦闘のダメージ以外の要因で、本調子じゃない。

 体が全体的に重くて、何か幻聴か耳鳴りかわからんが、聞こえるんだよな……)

 

確かにアモンに体の主導権を渡せば、挽回は出来るだろう。

だが、それではセージの身体のダメージは回復しない上に本人が精神的に来ている様子だ。

これに関してはフリッケンも珍しいと思い、セージ自身も「らしくない」と言いながらも

半ばにして撤退の決断を下したのだ。

 

――逆に言えば、それ位の異変がセージに起きているとも言える。

眩暈などの身体の異常ならば、病院で対応できるかもしれないが

ディーン・レヴの突然の稼働に合わせて起きたセージの異変については

果たして病院で対応できるものなのかどうか。

 

『幻聴だぁ? おいピンク、また口やかましく言ってるんじゃないだろうな?』

 

『マゼンタだ。お前こそ吠えてないだろうな?』

 

(お前ら頼むから黙っててくれ。割とマジなんだ、幻聴。

 病院でどうにかなるかどうかわからんが行くしかないだろ。

 バイク……はちょっと危険だからこのまま退くしかないな。

 

 ……あ。祐斗にも連絡しないといけないな)

 

セージの木場への連絡という心配は、龍玄――呉島光実(みつざね)がこの場にいることで

杞憂となったのだ。セージが駒王学園の制服を着ていたことで、先ほどは湊に誤解を与えて

事態をややこしくしたが、今回は光実が気を利かせてくれたのだ。

 

「そうだ。あなたもどうやら駒王学園の生徒みたいですね。

 もし友人の方が今日の見学に来ているようでしたら

 僕の方から連絡しておきましょうか?」

 

「助かります。木場祐斗って奴にだけ『宮本成二は先に帰った』とだけ連絡してもらえれば

 通じると思いますので。彼の連絡先は――」

 

「奇遇ですね。僕も彼とは連絡先を交換したんですよ。では彼に『宮本成二は先に帰った』と

 伝えておきますね」

 

木場がセージの存在をリアスに言及したかどうか、セージはまだ知らない。

だが、もし木場がリアスに自分ががここにいることを伝えていなかったとしても

撤退を選んだ今、態々リアスに自分の存在を知らせる必要はないだろう。

そう考え、セージは木場にだけ言伝るよう、光実に頼んだのだ。

幸いにして、木場と光実は意気投合し連絡先を交換していたため

伝達についてはほぼ問題なかった。

 

「よし、ここから先は掃討戦になる! 各員、最後まで気を引き締めてかかれ!」

 

セージが下がる後ろで、斬月・真の号令がかかる。

 

バラキエル――アインストバルディエルが倒されたことで堕天使型のアインストは総崩れとなり

他のアインストやインベスも、増援が現れなくなったことから斬月らアーマードライダー軍団と

警察・自衛隊の混成軍の働きによって押し切ることが出来たのだ。

超特捜課の開発した装備と、ユグドラシルで作られたアーマードライダーシステム。

これは人外の脅威に、人類が人外の力をほぼ用いることなく勝利を収めた明確な一手となったのだ。

 

これはセージが戦線を離脱して、程なくの出来事であった。

 

 

――――

 

 

(……やはり、まだ聞こえるな)

 

戦場から離れた場所、沢芽市民病院。

ここも沢芽市の施設の多分に漏れずユグドラシルの息がかかった病院である。

戦極ドライバーとロックシードによる治療を受けたセージが

当初検査のためにアーマードライダーマリカ――湊耀子から向かうよう指示された病院だ。

貴虎が指定したのは「確実性」と「自身が知っている中で、信頼のおける医療施設」

という理由であり、別に貴虎と湊が示し合わせていたわけではない。

 

 

病院に向かうその道中、セージの耳鳴りや幻聴は止むことが無かった。

その多くは苦悶の声や断末魔の叫びであり、聞いていて気分のいいものではない。

それもあって、セージのメンタルは想定以上に消耗していたのだ。

戦闘については既に動員していた黒影部隊や警察、自衛隊が動いたのか起きていない。

 

(何とかついたか……ん? あの人が……?)

 

「来たわね。話は通しておいたから、まずは診察を受けて頂戴」

 

入り口を入ってすぐに立っていたスーツ姿の女性――湊耀子から

診察室へと向かうように促され、セージはそのまま診察を受ける。

だがセージに対して行われたその診察は、明らかに通常行われる程度の診察の域を越していた。

 

触診、心音、脈拍程度なら普通にあることだが

採血、レントゲン、CTスキャンなど明らかに診察どころか検査であった。

 

『セージ、大丈夫か?』

 

(耳鳴りや幻聴は聞こえなくなったが……違う意味で疲れた)

 

さっきまで戦っていて、しかもその後原因不明の不調を訴えたセージに

ここまで本格的な検査は心身ともに堪えたのだ。

駒王総合病院にいた時は魂が抜けていたため実感はなく(アモンに肉体を持ち出された後遺症はあったが)

セージにしてみれば珍しい体験であるという事も、拍車をかけていた。

一頻りの検査が終わるころには、セージもへとへとで待合室のソファに身体を投げ出していた。

 

『おいセージ。気持ちはわかるがこんなところで寝るな』

 

「ふがっ? ……船を漕いでいたか?」

 

朦朧とした意識の中、アモンに呼び起されて辛うじて覚醒している状態のセージ。

それを見かねてか、湊が病室のベッドを手配してくれたようだ。

 

「お疲れのようね。病室のベッドに一つ空きがあるみたいだから、そこで休んでいなさい」

 

「……そうさせてもらいます」

 

促される形で、セージは病室のベッドに入り込む。

外の喧騒もいつの間にか収まっており、駒王町が襲撃された時のような野戦病院じみた喧噪もない。

それもあってか、病院の硬いベッドではあるもののセージはすぐに寝入ってしまったのだ。

 

 

そして、夢の中で青い扉にたどり着くのにそう時間はかからなかった……




またヤベーイもん実装しちゃってまぁ……(これがサブタイの意図するものでもあります)
とりあえず、拙作ではオーフィスだのトライヘキサだのどうすんの、って問いに対する
アンサーも兼ねてのものです。
原作は(いい悪いは別として)これらは力業以外の方法でどうにかしてますが……

ただ、あのクラスを力業でどうにかするってのはそれこそ
人間界含めた全世界の被害避けられないので
そう言う意味では原作のやり方は正しいんですよね。そういう意味では。

>ディーン・レヴ
今回見せた挙動は既にディス・レヴのそれに近いです。
これ未だによくわからんのですよね、後継機のディス・レヴは類似品出る程度には有名なのに。

……OGでアンサー出してもらえるといいんですけど、昨今の情勢見るに期待薄ですね……

しかもセージ自身もよく見るとディス・レヴ(或いはリチュオルコンバーター)らしい事やってるし。

形状については炎状の石みたいなものを思っていただければ。
これは「ディーンの火」からの連想ですが。

>アキシオン・バスター
原作では単体攻撃だったけど拙作ではALL攻撃に。
ディストラのメス・アッシャーがALL攻撃かつエフェクトがアキシオン・バスターを踏襲してるっぽい(と言うかエメト・アッシャーとの混成?)ので
もしかするとメス・アッシャーかも。

フリッケンが危惧してる通り燃費問題で使えたもんじゃないですが。
立ち位置としては「ゴースト」最序盤で記録した滅びの力みたいなもの。

>凰蓮軍曹
お怒りはごもっともですが、原作でロックシード暴走させたあんたが言うな、って部分も。
こちらブラーボの使い方を虚憶(?)で学習したのにすっかり抜け落ちてます。
まあユーゼスもそんなようなもんでしたし。
因みに、課題出す程度にはセージに期待してます。

>病院の検査
ロックシード治療の結果の検査も兼ねてですが、実はセージは入院中寝たきり状態だったので
検査らしい検査は受けてませんでした。故にへとへと。


次回またあの部屋の出番かも。


※19/12/27編集
二重表現があったため訂正。


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Will13. 示唆された「影」

あけましておめでとうございます。
Toshlがパワーアップしてました。

引っ越し控えてますが、こちらも徐行運転ながら続けられればと思います。


「またお会いしましたな」

 

気が付くと、そこは一面青で彩られたイーゼルの置かれた音楽室……

つまり、ベルベットルームだ。

そしてその次に飛び込んできたのが、ぎょろりとした目玉の鼻の長い爺さんだったので

思わず俺は飛び起きてしまった。

 

「おわっ!?」

 

「失礼、驚かせてしまいましたな。さて、どうやら貴方様は第一の試練を突破したご様子。

 その証拠に……先日お持ちいただいたフリータロット、今一度見せていただけますかな?」

 

爺さん――イゴールの要望に応え、俺はフリータロットを取り出す。

それにしても、この個性的な顔は寝起きに見るもんじゃないな。

……寝起きと言えば、寝起きも最近は騒々しくないな。

少し寂しい気もするが……って、んな事考えてる場合じゃない。

 

取り出したフリータロットを、俺はイゴールに見せることにした。

床からせり上がって来た机の上に並べられたそれを、イゴールはまじまじと見つめている。

 

「ふむ。以前よりも力を増したカードがございますな。新たに生まれた絆もあるご様子。

 『7』番――戦車のカードから、新たに強い力を感じます」

 

新たに……? 確かこのタロットの力の源は絆とかの人間関係だったはず。

となると、思い当たる節は凰蓮(おうれん)軍曹位だが。

だが正直、俺にはこの「絆の力」とやらがピンと来ない。

そもそも、いくら神器(セイクリッド・ギア)とペルソナが根源を同じくする力だと言っても

俺が使っているのは神器であって、ペルソナじゃない。

それなのに、ペルソナの力を向上させてどうするってんだ?

少なくとも、先日のアキシオン・バスターみたく目立った成果は出ていない。

 

 

……アキシオン・バスター……そうだ!!

 

 

「貴方様が新たな力を得られ……おっと」

 

「すまない! 話は後にしてくれ!」

 

俺はイゴールからフリータロットをひったくるようにして回収し

踵を返してイーゼルの前で絵筆をとっている悪魔絵師の下に駆け寄った。

ニットキャップとサングラスの風貌からは、驚いた様子はあまり見られない。

 

「タロットは心の雛形だ。心が人の運命を……っと、随分と血相を変えているな。

 おそらくだが、この間渡した『アレ』――ディーン・レヴについて聞きたいんじゃないかな?」

 

「!! 知ってるなら教えてくれ! 俺はあれで、危機を脱しもしたし危ない目にも遭った!

 あれは一体、なんだっていうんだ!?」

 

思わず、俺は悪魔絵師に食って掛かってしまった。

俺の中に、得体のしれないものがあるという事がそもそも気に入らない。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)はもとより、フリッケンやアモンでさえここ最近で

ようやくある程度理解出来てきたところだというのに。

これ以上、俺に危険物を持たせて一体何がしたい、やらせたいって言うんだ!?

 

「……すまないが、僕も君が期待している答えの全てを述べることはできない。

 だが、僕の知る世界ではそのディーン・レヴにまつわるこんな言い伝えがある。

 

 『ディーンの火が、ディスの目覚めを促す』

 

 ……とね」

 

ディス? 通常ディスってのは否定を意味する言葉だが……

何を否定するって言うんだ? 否定の目覚めってなんだ?

記録再生大図鑑で調べようとした矢先、俺の内側から声が聞こえてきた。

 

『ディス……俺も話に聞いたレベルだが、悪魔王だの冥府の神だのそういう意味合いもあるぜ。

 だが、それをセージに持たせた理由がわからねえ。

 そんな悪魔に連なる危険物を、どうして持たせた?』

 

アモンの知識が、俺の足らない知識を補う。

悪魔の王だの冥府の神だの、なんでそんな代物が出て来るんだ。

悪魔の王。それは俺にとっても、アモンにとってもあまり好ましくないワードだ。

少なくとも、今ある知識の中では。

 

確かにあのアキシオン・バスターはサーゼクスの力に近いものはあった。

だが、それだけで悪魔王と繋げるには、些か乱暴な意見ではあると思うし

そもそも奴は冥府の神なんかじゃない。アモンが言うには、でっち上げられた魔王らしいが。

それに、まだ俺にこのディーン・レヴを渡した理由がわからない。

 

「……アモンの言う通りだ。そんなものを、何故俺に渡したんです?」

 

「……君の疑問も尤もだ。以前僕は確かに『僕が持っていても仕方がない』とは言った。

 だが、君がそれをどう使うかまでは無責任かもしれないが、僕の関与するところじゃない。

 僕らは確かに君に力を貸すが、その力を君がどう使うかまで

 僕らは何も口出しできない。しないんだ。僕らは、心の海の中の住人だからね。

 

 だが、心の海から生まれた力。それは現世においてもある一定以上の力を発揮できる。

 だから、君はその力で現世の全てを支配ないし破壊することだってできるんだ。

 ペルソナはもとより、ディーン・レヴ……ディス・レヴにはそれが出来る可能性がある」

 

ディーン・レヴもだが……ペルソナって周防(すおう)巡査とかが使ってる力だろ?

あれのどこに、そんな力があるって言うんだ……

 

「人の心には、世界を変えうる力が眠っている……と、僕は聞いたことがある。

 ペルソナは、そんな人の心が神や悪魔の雛形を用いて具現化した姿だ。

 だからあの彼が使っているペルソナ――アポロと、実在するアポロン神に因果関係は無いね。

 

 そしてここからが重要だが、今君が立ち向かおうとしている相手は

 その世界を思うがままに改竄することが出来る相手だ。

 それに対抗するには、君もまた世界を変えうる力を持たなければならない」

 

禍の団(カオス・ブリゲート)……いや、アインストが?」

 

アインストは確かにその感染力や単純な戦力がヤバい。あり得る。

だが、言っては何だが禍の団にそんな世界をどうこうできるほどの危険性は感じない。

元々が自分らの政治的不満をぶつけるための集まりだ。フューラーだってその辺は変わらない。

 

いつぞや遠目に見たオーフィスクラスならいざ知らず、そのオーフィス――アインストの力に

いいように使われているカテレアみたいなのが幹部クラスって時点で程度が知れている。

フューラーも魔法使い派閥を取り込んでいるとはいえ、主力は人間が使う近現代軍事兵器だ。

人間の力で拮抗、うまくすれば余裕で勝てるだろう……聖槍騎士団以外は。

人間の力で対抗できる相手が世界をどうこうできるなんて考えられない。

つまり、それ以上の敵――黒幕的な何かがいるって事か? オーフィスでなく?

 

「アインストも、そのアプローチの一つに過ぎない。

 とは言え彼らも、『奴』が生み出した存在とまでは言い切れない部分もあるけどね。

 今僕が話したのは、その『奴』だ。『奴』は、その気になれば世界さえも破壊できる」

 

……なに?

今の言い草だと、まるで一度は世界を破壊したことがあるような……!

それが出来るような奴、そんな存在……

 

「『奴』に打ち克つには、君自身も強くならなければならない。

 それは物理的な強さや、強い魔力を持つことじゃない。

 君自身の、心の――ペルソナの強さだ。

 それには力を行使することはあっても、力に流されるようなことがあってはならない」

 

『……そのために、こいつにディーン・レヴを持たせたのか?』

 

アモンの問いかけに、悪魔絵師は黙って首を縦に振る。

そして、すっと俺の目の前にラフスケッチを出してきた。

 

「既に君も体験したかもしれないが、これは霊魂――特に怨念を吸収して、その力に変える。

 その力はディス・レヴとしての生を受けてから発現したものだと記憶しているが……

 霊魂――霊的な力を取り扱ったり、死の渦巻く場所に行く際には気を付けた方がいい。

 君自身にも、その性質が転移しかねないからね」

 

俺が……霊魂の吸収を? 力の吸収と言えば、白音さん相手に

そんなようなことをやる羽目になったが……

間違いなく、ここで言っているそれはあんな生易しいものじゃない。

いや、あれもある意味生易しくないが。

 

そんな俺の考えを知ってか知らずか、悪魔絵師本人は言いたいことを言い終えたのか

挨拶もそこそこに再びイーゼルに向き直ってしまったようだ。

 

「君のフリータロットに絵を描こうと思ったが……まだそこまでには至れていないか。

 いや、絆の力は一朝一夕で強くなる簡単なものじゃない。

 君の歩いた道が、そのまま力になるのだからね。慌てずに正しいと思う道を進めばいいさ。

 それに……僕はいつでもここにいる。気が向いたらまた立ち寄るといい。

 ここでは、時間は意味をなさないからな」

 

新たな疑問が生まれた。アインストさえも超えかねない「奴」って何なんだ?

一番心当たりがあるのは、かつて周防巡査らが戦ったって言う「ニャルラトホテプ」だが……

要領を得ない俺は、他の二人――ナナシとベラドンナにも聞いてみることにした。

 

「……その名も、彼らが戦ったとされるものも、あれが持つ無数の名前、姿に過ぎない。

 人の業が形成したる存在。俺に答えられるのは、それ位だな。

 人を形成したるものが一つだけでないように、あれもまた幾千幾万の人の上に成り立っている」

 

ピアノを奏でながら、俺の質問に答える盲目のピアニスト。

言っては何だが、随分と器用だ。

音楽家に限らず、芸術家というのは何らかの障害を抱えているとは聞くが

どうも、俺が知っているそれとは違う気がしてならない。

 

「俺の事よりも、あれの事よりも、まずお前自身に向き合うべきだな。

 お前自身が気付かない、お前の知らない……いや、そうしたいと願っているお前自身と。

 お前が現世に生を受けて、六千二十八ほどの夜を迎えながら培ってきた

 お前自身と向き合う時。その時は近い……俺には、そう思えてならんのだ」

 

「俺……自身……」

 

相変わらず、ここの人の言う事は一々抽象的だ。

以前であった、フィレモンほどではないにせよ。

そう考えれば、まだ理解できる範囲の話だ。夢かもしれないけど。

 

「私は、『夢』を見ません~♪ 過去を疑わず~♪ 未来を恐れぬから~♪」

 

まるで夢物語、と呟いた俺の言葉にベラドンナが反応した。

……おい。この人耳聞こえないんじゃなかったんだっけか?

まぁ、これだけ不可思議な場所だと何が起きてもおかしくは無いが……

 

「だけどあなたは違う~♪ 背負った過去、超えるも潰されるもあなた次第~♪

 罪の記憶は何より重く~♪ あなたを蝕む毒となる~♪」

 

「…………っ!!」

 

――今、なんで「昔の明日香姉さん」が頭をよぎったんだ。

 

確かに、俺がしたことは…………

 

「毒と薬は裏表、人もまた同じ~♪ 受け入れ方、向き合い方で違う姿を見せるそれは~♪

 まるで水面に映したあなた自身~♪」

 

……歌声で、はっと我に返る。

今までここの三人に言われたことを統括すると――

 

 

――まるで、俺自身が敵になって出てきかねない

 

 

そう、言われている気がしてならない。

 

だが、そんなことはあるのか?

アインストが似ても似つかない模造品や複製品を作り出すって話は

以前聞いたことがある――そもそも、今やたら出て来てるアインストアイゼンや

アインストリッターだって、元は冥界のアルトアイゼンやヴァイスリッターだ。

 

しかし、今聞いた話はそんな出来の悪い模造品なんかじゃない。

俺自身が立ちはだかるといったような話。俄かには信じがたい。

 

 

結局、ディーン・レヴに関しては悪魔絵師の一存による部分は多分にあるとはいえ

これから来るであろう脅威に対し、周防巡査から渡されたフリータロットと同じく

立ち向かうための力であるという事しかわからなかった……

説明が正しければ、過剰戦力って気もするが。

 

「……すみませんが、今一度タロットを見せていただけますかな?」

 

「あっとと……」

 

イゴールに促され、再びテーブルの上にフリータロットを並べる。

聞いた話だと「7」――戦車のカードから、新たな力を感じるというらしい。

 

「他には……少しではありますが、『5』――教皇のカードから感じられる力が増してますな。

 後は私の予想ではありますが、『6』――恋人と、『10』――運命のカードの力が

 向上する……そんな予感がいたします」

 

カードで言われても、誰だかわからん。

まぁ、こういうのは変に意識するよりは普段通りに振舞う方が結果的にうまくいくか……

 

「ですがお気を付けください。フィレモン様より伝えられたことと思いますが

 貴方様の今後は、より一層厳しいものになるであろうという事を。

 そして、たとえ目をそらしても心の中に確かに眠る自分自身の影からは

 決して逃れられぬことをどうか、お忘れなきよう……」

 

「自分自身の、影……」

 

「左様でございます。こちらから見させていただいたところ、既に影に囚われてしまい

 己を失ってしまった方が二人……いえ、三人ほどいらっしゃいます。

 影は、弱き心の者を奈落へと誘うためにその手を伸ばしてきます。

 彼らは、どうやらその誘惑に抗えなかったようですな」

 

影……もしや、それは……

俺がはっと気づき、声を出そうとした瞬間

その言葉は、イゴールに遮られた。

 

「彼らが特別弱かったわけではございません。

 全ての人が等しく、影との対面は避けては通れぬものです。

 もし、その影との対面を拒んだり、消すなどして強引に避けようとした場合……

 

 ……たちまち、その者は自我を失ってしまう事でしょう。

 影は消すことはできません。大事なのは、向き合い方でございます。

 貴方様も例外ではございません。どうか、己を見失わないよう……」

 

……なんだか、ディーン・レヴの話をしに来たつもりが

俺の影について延々と聞かされる羽目になってしまった。

結局、これの使い方とかはよくわからない。

ただ、霊魂――霊力の取扱、吸収などについては気をつけろと釘を刺されただけだ。

 

俺の影、か。正直、実感が沸かないが……

 

「……どうやら、お時間のようです。

 では、新たな絆を紡ぐまでの間、しばしの別れですな……」

 

以前来た時と同じ、目の前が歪み、青い扉が開くのが見えた次の瞬間――

 

 

 

――俺は、意識を失った。




ベルベットルーム再び。
だけどペルソナが無い以上、ここに来てもこういう事しか……
ちなみにタロットは「2」仕様なので「3」以降とはちと違います。
アルカナの振り分けとか。

>ディーン・レヴ
ディス・レヴでもないのに霊魂吸収能力があることには
悪魔絵師もやや首を傾げてます。
類似品に触発されたのかもしれません。

>ナナシ、ベラドンナ
3以降とんと見ないお二方。
近代風アレンジするなら青ずくめの金目プラチナブロンド髪の女教師が
全書片手に出てくるのが相応しいのかもしれませんが
一応、2仕様ですので……
なので、語っていることは2の時間軸以降を意識してます。
ベルベットルームに時間の概念はありませんが。

>イゴール
いや、寝起きであの顔はヤバいでしょう。
触れているのは勿論彼(彼女)らのこと。
自我を失った~とありますが、これはハーレム加入後のムーブも意識してます。
いや、だって……ねぇ?
ハーレム主にしても、自分の意思で動いているとは俄かには思えない部分がありますので……>原作

>アルカナ
……戦車はともかく、それ以外をここで言い当てたら凄いと思います。
言い当ててもおめでとうの一言しかいいませんが。


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Will14. 世界樹が生み出す影 Aパート

短編のネタが浮かんだのですが、今後のネタバレ含んでいたので泣く泣く中断

腹いせ含めて書きましたが、今回Aパートという事もあり短めです


病室のベッドを借りて眠っていたが、目が覚めたら既に陽は傾いていた。

どうやら、相当眠っていたらしい。

 

『相当疲れていたようだな』

 

「……ああ。にしても、俺の影か……」

 

フリッケンに指摘された通り、憑かれていたのはあると思う。

だがそれよりも、ベルベットルームで言われたことがまだ引っかかっている。

正直、アキシオン・バスターの件よりもよほどでかい。

しかも、ただ力でねじ伏せればいいってもんじゃないらしい。

言っては何だが兵藤とかは力はともかく戦術でどうにかできないことも無いレベル。

だが、自分が相手となれば戦術なんて何の役にも立たないだろう。

今まで神器(セイクリッド・ギア)の性質上、似たような能力持ちとは幾度となく戦っているが

それはこちらが猿真似しているだけだ。向こうが猿真似するパターンなど、未体験だ。

 

『それは後で考えろ。それより時間が経っているから、また状況が変わったかもしれんぞ。

 いったん外に出て調べてみたらどうだ?』

 

アモンのアドバイス通り、俺はベッドから体を起こし病室を出ることにした。

慌ただしく看護師さんが動いているようだが、別段騒がしいって程には見えない。

俺が歩いていても、別段不思議には思われていない。

まあ、アモンが表に出てきたら話は別かもしれないが。

 

『出てやろうか?』

 

「やめろ」

 

冥界でもなければ、緊急事態でもない。アモンに代わる理由がない。

自分の意思で一挙手一投足出来るってのがこれほどありがたいとは

去年の俺なら思いもしなかっただろう。たとえ変な力があっても、俺は俺だ。

わけもわからず忠誠を誓わされたり、自由意志以外で誰かの玩具になる気はない。

 

 

……それにしても、ここまで悪魔の存在が明るみに出るってあり得るのか?

フューラーが露呈させたのは間違いないんだが、それに対してサーゼクスが

何のアクションも示していないのは気になる。

普通有事に備えて予防線の一つくらいは張るだろうに。

 

或いは、事を荒立てぬために魔王クラスは動けないのかもしれないが……

不祥事が起きた時、責任者が出て来て説明ないし謝罪を行うのが少なくとも人間の筋だ。

悪魔にそれを期待するのが間違いなのかもしれないが、だったら人間に関わってほしくない。

結局、耳障りのいいことだけ言って人間を引きずり込んで、それ以外の事には目を向けない。

それが連中のやり方なのか。はっきり言って、付き合いきれない。

 

『……ん? おいセージ、前見ろ前!』

 

「え……うわっ!?」

 

考え事をしていた俺は、アモンの警告に対しても反応が少し遅れてしまった。

その結果として曲がり角に差し掛かった時、駆け寄ってきていた白衣の男とぶつかってしまった。

病院内で走るのはマズいと内心悪態をつきつつも、考え事しながら歩いてた自分も大概だ。

自分で言うのもなんだが運動部では無い癖にガタイはいい。

そのお陰か、俺はよろめきはしたものの突き飛ばされずに済んだ。

向こうはしりもちをついてしまったようだが。

 

ぶつかった拍子に、相手が持っていたと思しき書類が宙を舞って散乱してしまっている。

俺のせいでもあるし、書類を拾うのを手伝う事にした。

 

 

……なのだが、それは後になって思うにやってはいけなかったのかもしれない。

 

 

「――――!?」

 

「!! すみません、部外秘の書類なので!」

 

「おい、何をやっている! 早くしろ!」

 

俺が思わず読んでしまった書類を白衣の男にひったくられ、奥にいた同僚か上司に呼ばれるままに

書類をかき集めてこの場を走り去る白衣の男。

その間は十秒程度とあっという間だったが、俺にとってその十秒は果てしなく長く思えた。

いや、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)に記録してある力を使ったとかじゃない。完全に自分の体感だ。

 

『どうした、セージ』

 

アモンに呼び掛けられるも、俺の中では書かれていたことが見間違いではないかという疑念と

あの時見たのは見間違いではなかったのではないかという疑念。

様々な思いが複雑に絡み合い、満足な返答が出来ずにいた。

 

「…………んで」

 

『あん?』

 

「……なんで、なんで姉さんの名前がユグドラシルの名簿に載っているんだよ!?」

 

――――そう。

 

俺が目にした書類は、ユグドラシルの試薬被験者の名簿。

詳しくは読めなかったが、他にも十数名の名前が載っていて、間違いなく

 

 

牧村明日香(まきむらあすか)

 

 

と記された欄があったのだ。

 

確かに姉さんは駒王町を出た。その後、沢芽(ざわめ)市に来ていたっておかしくは無い。

そこで生活費を稼ぐためにユグドラシルの試薬モニターに応募した……

なるほど、辻褄は合う。

 

『セージ。これを言っていいのかどうかはわからんが、お前はそいつに……』

 

「わかってる、わかってるよ! けれどな、俺は……俺は……っ!!」

 

なんで、なんでだよ!

忘れたくても、忘れられない。

そんな俺の気持ちを分かっているかのように、姉さんは俺の行く先々にその姿をちらつかせる。

まるで、俺は姉さんからは離れられない、忘れてはならないと言っているかのように。

 

……忘れるつもりは、ないけれど。

 

 

『……感傷に浸ってるところ悪いが、ここ一応病院だぞ?』

 

「…………」

 

 

フリッケンの至極当然なツッコミに、俺は我に返ると同時に顔から火が出る思いだった。

余りの出来事に、思わず声が出てしまっていたのだ。

牧村明日香。俺にとっては忘れ得ぬ唯一無二の大切な人である。

彼女から手紙で実質上の別れを告げられたが、それなのにこうして俺の目の前を過ぎっていく。

見ないふりをするのが正しいのかもしれないが、それが出来るほど向き合えていない。

 

……まさか、俺の前に立ちはだかる影ってのは……

 

偶然見つけてしまった記録。

それが物語っていたのは、いつぞや見かけた後姿は見間違いじゃない、本物だったという事実。

 

今の俺にできるのは、ユグドラシルという不審な点の多い企業の試薬モニターという

とんでもない不審の山積みの中、姉さんが無事であってほしいと願うことくらいだろうか。

 

『深呼吸でもして落ち着け。折角寝て休んでたのが元の木阿弥は洒落にならんだろ。

 流石にもうこれ以上寝る時間は無いと思うぞ。寝られないとも思うが』

 

フリッケンに言われた通り、深呼吸を済ませる。

そうだ。俺がここで狼狽えたところで姉さんの動向が変わるわけじゃないし

そもそも今姉さんがどこにいるのかなんてわからない。

無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)を使えばわかるかもしれないが。

 

須丸清蔵(すまるせいぞう)の前例があるんだ。無限大百科事典での検索は許可しないといったぞ』

 

考えてたことが筒抜けだったのか、フリッケンに釘を刺された。

無限大百科事典は記録再生大図鑑よりも少ない単語や情報での検索でもデータが出せる。

だが、それだけ負荷も大きい。それが原因で一度意識を飛ばしたことだってある。

フリッケンの意見は正しい。心に靄を感じながらも、俺は忠告に従うことにした。

 

となれば、後は病院を出て超特捜課(ちょうとくそうか)なり凰蓮(おうれん)軍曹なりに合流すべきだが……

こういうものの検査結果は、すぐに出るわけでもないだろうし。

やることも無くなってしまったので、俺はとりあえず待合室に向かう事にした。




なんでセージの人間関係はこう……
未練がましく追ってるセージも大概ですが。

ええ、DJサガラに会う前に見つけた後姿は本物でした。
そしてユグドラシルの試薬モニターとか胡散臭さMAXの被検体に参加。

もう嫌なフラグしか立ってませんね。
幸い現時点でレデュエがいないので、変な機械に繋がれる事は無いと思います(無いとは言ってない)


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Will14. 世界樹が生み出す影 Bパート

筆が進んだのと、Aパートが異様に短かったので。



待合室には、既に湊さんはいなかった。

色々と忙しい身の上と聞いているので、俺が寝ている間に別の仕事に移ったのだろう。

外の喧騒が無くなっているので、戦闘もおそらくは終わっているだろう。

こっそりと記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)のレーダーを起動させ、周辺を探ってみたが

特にアインストやインベスの気配はない……が、悪魔の気配がする。

……悪魔? と思い見回してみるとそこには祐斗とアーシアさんがいた。

 

「だいぶお疲れのようだったみたいだね、セージ君」

 

「落ち着いたので来ちゃいました、大丈夫ですか?」

 

普段と変わらない様子で、二人がやって来ていた。

流石にただの病院だからか、アーシアさんは使い魔の蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)を連れては無いようだが。

 

「二人とも、どうして……ああ、龍玄(りゅうげん)ってアーマードライダーに聞いたのか。

 とりあえず、俺については無事だ。ちょっとした疲れみたいなものらしくて

 寝てたら治った。だから心配は無用だ」

 

「それならよかったです、セージさんも聞いた話だと色々大変そうですし……」

 

「龍玄……光実(みつざね)君の事か。うん、彼に君がここに来ていると聞いてね。

 とりあえず、僕らはそれほど激しい戦いに巻き込まれなかったけれど

 ユグドラシルにいるアインストやインベスは片付いたみたいだよ」

 

激しい戦い……そうだ。祐斗達はアインストではなくレモンの鎧を着た

アーマードライダーに襲われたって聞いた。その件についてはどうなんだ?

 

「俺は大丈夫だ、アーシアさん。それより祐斗、そう言えば電話口で話してた……」

 

「ああ、アーマードライダーデュークの事か。

 してやられたよ。完全に動きを読まれていたし、建物の中だから

 部長の滅びの力なんて満足に使えない。

 その挙句僕らを見逃すように退いて行ったよ」

 

かなりの実力者らしいな、そのアーマードライダーは。

だが、一つ解せない。あの場では黒影(くろかげ)も総動員して

アインストやインベスの進撃に備えていたのに、その黒影よりも聞いた話かなり強い

デュークはなんでタワー内で祐斗らと戦ってたんだ?

神話対談の護衛のために中にいたのだとしても、不自然極まりない。

オカ研が神仏同盟(しんぶつどうめい)か北欧神話に喧嘩売ったってんなら、話は別だが。

 

「……念のため聞くが、別に神仏同盟や北欧神話に喧嘩売ってないよな?」

 

「それは無いよ。だって僕ら今回は神仏同盟も北欧神話もその関係者を見てないし。

 デュークは『僕らの力を試す』みたいなことは言ってたけどね。

 

 ……それにしても、アーマードライダーって軍団は解せないね。

 龍玄みたいに僕らを助けてくれるのもいれば、デュークみたいに戦いを挑んでくるのもいる。

 黒影に至っては、僕らを狙ってきたかと思えばアインストやインベスから市民を守っている。

 

 ……黒影に関しては、中身が別って考えれば辻褄が合うけど」

 

その通りだ。黙っていても仕方ないので、俺は黒影の中身には少なくとも二種類いると

祐斗とアーシアさんの二人に伝えた。ユグドラシルの社員か民間警備会社と

台湾マフィアの天道連(ティエンタオレン)だ。黒影は所詮ガワに過ぎない。どう動くかなんて中身次第だ。

 

 

それにしても、オカ研が神仏同盟や北欧神話に喧嘩を売ってなくて助かった。

神仏同盟は俺も個人的協力を結んでいるようなものだからフォローは困難だし

北欧神話はもしかしなくても国際問題だ。結果として神仏同盟に皺寄せがくる。

兵藤がいないことが、いい方向に転がってくれたか。

 

「……兵藤がいなくて助かったな、こういう言い方は何だが」

 

「ん? ちょっと待ってくれ、それじゃセージ君もイッセー君を

 こっちで見ていないって事でいいんだよね?」

 

……なに?

俺は祐斗の発した言葉に、耳を疑った。

まるで、兵藤がこっちに来たみたいな言い草だ。

退学になっている奴が、なんで学校行事に参加するんだ?

 

「いや……副部長が『イッセー君に助けられた』って言ってるんだ。

 だけど、イッセー君は知っての通り今回の企業見学には参加していない。

 別口で沢芽市に来たのなら、そうなるとセージ君なら何か知っているかと思ったんだけど……」

 

「知っているはずがないだろう。警察ももう奴をマークしてない、出来ないしな。

 保護観察ですらない、冤罪って事に世間ではなっているんだ。

 一応冤罪の奴を、警察がどうこうしたら問題だろ。だから超特捜課(ちょうとくそうか)絡みでは情報が入らないし

 俺だって一々兵藤の奴の情報を集めてはいない。

 今のところ、奴が表向き何かやらかしてるわけでもないしな。俺が知らんだけかもしれんが」

 

兵藤に助けられただと? だとしたらレーダーに反応があるはずだが

或いは、俺がダウンした矢先の事か? ならばわからないのも道理だが

それにしても、何だって兵藤が? ……わからん。

 

「……まるでわからんな。他に何か言っていたか?

 それ次第では、姫島朱乃が虚言を弄した可能性も出て来る。理由はわからんが」

 

「そう言えば、イリナさんが来ていたとも言ってましたね」

 

なに? 俺はアーシアさんの言葉に思わずオウム返しをしてしまう。

何せ、もっと不可解な奴の名前が出てきたんだ。

紫藤イリナは兵藤と違って、禍の団(カオス・ブリゲート)に所属している本物のテロリストだ。

冤罪なんかじゃない。超特捜課にも回って来た禍の団の構成員リストにも

きちんと名前が載っていた。つまり、それなりに警察もマークしているはずだ。

なのに、超特捜課にも自衛隊にも奴が沢芽市に来たという連絡が来ていない。

 

「……すまん、少し席を外す。テロリストがこっちに来たってのはかなりヤバい事態だ。

 その情報の真偽を確かめる意味でも、警察に一報入れなきゃならないが、いいな?」

 

「そうだね、失念していたよ。セージ君より先にそっちに言うべきだったか」

 

連絡の順序が違ったことに申し訳なさそうにするアーシアさんに

俺は気にするなと声をかけた上で、氷上さんに一報を入れることにした。

どの道、俺が病院に来た経過報告はしなきゃならなかったんだ。

通話ブースに移り、俺はスマホで氷上さんに連絡を試みる。

 

氷上(ひかみ)さん、俺です。宮本です。俺は無事なんですが、そちらは大丈夫ですか?」

 

『こっちも大丈夫です。自衛隊やユグドラシルの部隊と協力して

 被害は最小限に食い止められました。それより宮本君、今本庁の蔵王丸(ざおうまる)警部から

 連絡が来たんですが……紫藤イリナが、こっちに向かっていると』

 

あっちゃー……ビンゴか。

これで、イリナがいたという事に関しては嘘はついてないことになった。

となると、兵藤に関しても嘘ではない可能性があるが……

 

「ええ、こっちもその情報を確認しました。情報の出所はユグドラシルに企業見学に来ていた

 駒王学園の生徒ですが」

 

兵藤に関しては、言おうかどうしようか悩んだが結局言わないことにした。

言ったところで、どうにもならないからだ。事実はどうあれ、世間じゃ冤罪だ。

警察――特に超特捜課は兵藤が冤罪じゃない事を知っているが、司法が無罪を言ったのだ。

無罪のものを警察が捕らえるわけにはいかない。超特捜課は警察であり、警察は公的機関。

その公的機関が暴走するなど、あってはならない事だ。

 

『被害は……無い、或いはあったとしてもアインストやインベスの影に隠れてしまったのでしょうか。

 それで、動向まではわかりますか?』

 

俺は改めてアーシアさんに聞いてみたが、要領を得ない。

どうやら「イリナがいる」ということまでは姫島朱乃は喋ったようだが

その後イリナがどこに行ったのか、とかイリナが何をしていたのか、までは聞いていないようだ。

まあ、話の流れからアインストの相手をしていたという推測までは出来るが。

だがそうなると、アインストが首魁みたいな禍の団に所属しているはずの

イリナが何でアインストに危害を加えるのか、が説明できない。

ヴァーリみたく裏切ったのか? だとしても理由がわからんが。

 

「いえ、こちらもそこまでは……」

 

『わかりました、では合流を……と言いたいところですが、今そちらの病院から連絡がありまして

 「三日間ほどの検査入院」が必要だとのことです。手続きはしておきましたので

 安静にしていてください』

 

……は? この上入院だと?

別に何処も異常は無いんだが。と言うか、今まで寝たきり――自覚は無いが――だったから

動けるなら少しでも動いておきたいのに、入院とはこれ如何に。

気が滅入る報告を受けながらも、俺は通話を切り上げて祐斗に向き直す。

 

「どうしたんだい?」

 

「……検査入院だとよ。ご丁寧に手続きは既に行われている。

 誰が言い出したのか知らんが、心配性な事で……」

 

辟易としながら、俺は祐斗に答える。まあ、考えてみたらロックシードで回復したのだから

それによる影響がないかどうか確かめるのは道理ではある。

兵藤夫妻もアインストの影響下から解放された際に検査入院をしている。

兵藤夫妻はアインスト因子の人間に与える影響の検査。

俺の場合はロックシードで回復させた経過観察。一応、理にはかなってる。

 

ロックシードによる回復……まるで、アーシアさんの聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)みたいだが……

ロックシードやアーマードライダーシステムは

神器(セイクリッド・ギア)を模倣なり参考にするなりして作ったのか? だとしたら……

 

 

……そうだ! 重要な事を伝えていなかった!

俺は周囲を見渡し、なるべく人が少ないところに二人を誘導する。

 

「フリッケン、監視カメラの死角にはなっているな?」

 

『大体問題ない。それよりセージ、あの事をこの二人に伝えてどうするって言うんだ?

 知れば知るほど、要らん心労をかけることにならないか?』

 

『概ね同意だな。現魔王の鼻を明かせるならとは思うが、こいつら巻き込んでいいか?』

 

……確かに。ユグドラシルの重要な役職の人間が魔王――おそらくサーゼクスと繋がっているのは

俺が聞いた通りだが、それをここでこの二人に話すべきか?

黒影はともかく、デュークという謎のアーマードライダーに襲われているんだ。

話したら、とんでもない火種を蒔くことになりかねない気もするが……

 

「何か、重要な話なんですか?」

 

「……これは、俺も証拠を押さえていない、立ち聞きで仕入れた程度のレベルの情報だ。

 ユグドラシルの……戦極凌馬(せんごくりょうま)って男は、恐らくだがサーゼクス・ルシファーと繋がっている。

 記録再生大図鑑で裏を取ろうと思えば取れるが……」

 

俺が意を決して話した内容を聞いた二人――特に祐斗は

「やっぱりか」という表情を浮かべていた。どういうことだ?

 

「僕らはその戦極凌馬って人に色々案内されたんだ。

 ただ、話を聞いていた時からどうも不可解でね……

 彼は悪魔の事はともかく『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』についても知っている風な感じだった。

 アーマードライダーシステムも、まるで悪魔――三大勢力に対抗するために

 作ったような口ぶりだったね」

 

「でも、そうなると何で魔王様と繋がってる人が

 悪魔に対抗するための道具なんか作るんです?」

 

アーシアさんの疑問も尤もだ。だが、人間が悪魔と肩を並べるための装備と解釈できなくもない。

黒影はともかく、その他のアーマードライダーに関しては下手な神器持ちよりはよほど強い。

アーマードライダーシステムで齎される身体能力も、下手な悪魔より上だ。

その事を考えれば、アーマードライダーシステムの製作については合点がいく。

超特捜課の装備とも開発系譜が違うようだし、な。

ただ、怪異と戦う人間の専門とも言える超特捜課の装備より強いってのが

どうにも引っかかるが……

 

「恐らくだが、人間でも悪魔と同等に渡り合えるという証拠として作っているんだろう。

 廉価版に正式版、それに聞いた話では改良試作版モデルもあるらしいしな。

 耳の痛い話かもしれんが、悪魔をはじめとした三大勢力に対する悪感情は

 日増しに強くなっている。フューラーみたいなのに煽られてるのが、その証拠だと思うがな」

 

「……でも、戦うための装備なんですよね……

 あの人は『災害救助にも応用できる』なんて言ってましたけど……」

 

耳の痛い話と前置きしたが、やはりアーシアさんにはつらい話みたいだ。

まあ、人間の側から悪魔を攻撃してる、とも取れる流れだからな。

俺にしてみれば被害者面するなと言いたいところだが

そう言い切るにはユグドラシルは怪しすぎる。

 

……人間の側のやらかし案件ではないかと、俺は思えてならない。

別に、いつまでも人間に被害者ぶれって言うつもりはない。

だが、仕返しにしてもやり方ってもんがあるんじゃないかとは思えてならない。

 

「ただ、この推測には一応根拠はある。俺の思い込みだがな。それは

 

『どこからアーマードライダーシステムやロックシードを作るためのデータを持ってきたか』だ。

 

 人間だけの力で作るには、不足してる部分が少なくない。

 となれば補うためのデータなりなんなりがいるが……

 その出所が、人間社会の中だけで完結させるには足りないんだ。

 アーマードライダーシステムは、特に龍玄や聞いた話のデュークは

 明らかに超特捜課の装備よりオーバースペックだ。

 加えて、俺がロックシードと戦極ドライバーで不可解な回復をしただろ?

 ……そのお陰で検査入院する羽目にもなってるが」

 

「それは……確かにそうだ。冥界の技術が、ユグドラシルに流れているのかもしれないね。

 その出所が魔王様と言うには、少し短絡的かもだけど……

 今ある情報だけじゃ、そう認識できるか」

 

俺の言わんとすることを理解したらしく、祐斗は頷いている。

アーシアさんも困惑こそしているようだが、見た感じは平静だ。

 

アーシアさんの言いたいこともわかる。流出した技術が、自分達の首を絞める縄になるんだ。

その事を冥界はきちんと認識しているのかまでは知らないが、もしアーマードライダーシステムが

一般販売されるようなことになれば、最悪一億ないし六十億総アーマードライダー……

三大勢力相手に一切引けを取らないどころか、下手をすれば勝ちかねない戦力が形成されるが……

それは即ち、全面戦争だ。

 

そこまで考えて、俺は背筋が寒くなった。既にその片鱗は見えている、天道連だ。

何を思って天道連なんぞにアーマードライダーシステムが横流しされているのかは知らないが

これが今考えた人類総アーマードライダーの布石だとしたら……

 

……マジで、人間は三大勢力に対し戦争を吹っ掛けるつもりなのか?

いや、これはまだ俺の憶測にすぎない。今言うべきではないな。情報も足りてないし。

 

「……ユグドラシルの動向は、注意した方がいいかもしれないな。

 下手をすれば、禍の団以上に危険だ。

 それより、そろそろ戻った方がよくないか? 俺は入院が決まったから、ここに残るが……」

 

「もうそんな時間か。それじゃセージ君、また学校で」

 

「お大事にしてくださいね、セージさん」

 

病院を後にする二人を見送った後、俺は受付で自分の病室を確かめ、病室に戻ることにした。

検査入院するならするって、先に言ってくれ……

 

なお、一応検査入院で家に帰るのが遅くなる旨を家に電話で伝えたが

電話の後ろから白音さんと黒歌さんが思いっきり不貞腐れた様子で

にゃーにゃー言ってるのが聞こえてきた。

 

 

……こりゃ、帰る時覚悟しないとな。シャルモンのお菓子だけで土産足りるかな……




戦いも一応終結したので、セージサイドと祐斗サイド(オカ研サイドではなく)の情報交換でした。

一応戦極ドライバーには生産数の限度があるのでセージが危惧してることにはならないんですが
その事を知らないので、最悪の事態を想定してます。
ただ、人類が開発した対怪異装備って戦極ドライバーだけじゃないのでやろうと思えば
三大勢力対人間って構図もできちゃうんですよね。

原作英雄派は「搾取されるだけの人間の味方」足り得たら厄介な敵になれたと思うんです。
実際?知らない子ですね。人間はいつまでたっても搾取されるだけ。
知らなければいいことは多々ありますが
だからって好き放題していい理由にはならないんですよね。
そのせいか拙作ではネオナチ対三大勢力ってちょっとわけわかんない構図。
そして全ての知的生命体を狙ってる異世界生命体と
その混沌を外から嗤ってる全人類のシャドウ。
これもうブラッド族割り込んできてもわかんないレベルの混沌だな……

因みに、ユグドラシルの動向には注意した方がいい、って言ってますが
ユグドラシルもユグドラシルで対外工作はしてるのであまり意味が無かったり。
拙作のユグドラシルは全人類巻き込んだパンデミッククソゲー出そうとしてますが。


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Return to Kuou city. Aパート

少し間が空きましたが、投稿させていただきます。

私事(引っ越し)が間近のため、戦々恐々としております。
……データ、飛ばなきゃいいなぁ……


ユグドラシルで行われた神仏同盟と北欧神話の会談は、途中怪生物の妨害が入るも

ユグドラシルで開発されたアーマードライダーと、警察、自衛隊の活躍により

妨害を排斥、無事に終了することが出来た。

 

会議の議事録には、こう記されていた。

 

――クロスゲート、未だその全貌は明らかにならず。されどここより出ずる生命体、危険なり。

  禍の団(カオス・ブリゲート)、これを力の源とし移動手段として用いている様子が見受けられる。

  早急な対処を行うべきであり、可能であれば破壊も辞さない。

 

世界各地に現れた謎の環状建造物、クロスゲート。

異なる時間、異なる世界を繋げる門とも呼ばれるそれは

不定期に開閉を繰り返し、その門を通りアインストと呼ばれる怪物が現れる。

 

現在、三大勢力のみならず各国の神話体系はもとより

人類も軍や警察も挙げての防衛を行っている。

そのお陰か、一応の平穏は保たれてはいるのだが……

 

 

――――

 

 

――AM 10:26

  沢芽(ざわめ)市・洋菓子店シャルモン

 

 

検査入院を終え病院を出たセージは、帰宅の支度をしつつシャルモンでケーキを眺めていた。

その眼差しは、戦いの時とは違う意味で真剣であった。

 

「災難だったなぁ、入院なんてよ。体は大丈夫なのか?」

 

少々やんちゃな雰囲気の青年――初瀬(はせ)がケーキを物色しているセージに話しかける。

彼はここシャルモンのパティシエ見習い。オーナーである凰蓮(おうれん)・ピエール・アルフォンゾに

師事しており、セージにとってはある意味の兄弟子である。

 

「ただの検査入院ですので……チョコの無い奴でお勧めってあります? 出来ればフルーツ系」

 

「まあ、大事に至ってないようで何よりだよ……クルミとフルーツのタルト。

 秋も近いからおすすめだぜ?」

 

眼鏡の青年、城乃内(じょうのうち)から季節のおすすめを紹介され、セージがそれを選ぼうとする。

しかし、彼が食べるためではない。お土産だ。チョコが苦手な同居人――同居ネコ?――のために

チョコのなるべく使っていないものを選んでいたのだ。

 

「色々ありましたけど……凰蓮軍曹やお二人には、色々お世話になりました。

 ……あ、フルーツって言っても柑橘系は無しでお願いします」

 

「凰蓮さんほど俺ら何もしてねぇよ……にしても注文多いな。

 城乃内、他になんかいいの無いか?」

 

「メロン系は予算的に辛いだろ? だったら用意できるのってさっきの奴しか無いって」

 

世間話をしながら、ケーキを物色している姿はいかにも一般市民である。

ここが高級洋菓子店であることを加味すれば、さながら金回りのいい

いいところのボンボンにも見えるだろう……少々、ボンボンにしてはガタイはよいが。

 

そして、ガタイのいいのはここのオーナーも同じであった。

 

Chut(静かに)! お客様への応対中に、無駄口をたたかない!

 ボウヤは確かにワテクシの弟子だけれど、今はこのシャルモンのお客様として来ているのよ!」

 

凰蓮の叱責で、少々緩い雰囲気だった初瀬と城乃内はプロとしての表情に戻る。

彼らもシャルモンで凰蓮に鍛えられている……のだが

何故だかパティシエになってしまっている。精神修行の一環、らしいのだが。

 

「……なぁ城乃内。俺達、パティシエ修行初めてそこそこ経つけどよ。

 本当にこれでいいのかよ?」

 

「いいも何も無いって初瀬ちゃん。

 凰蓮さんの言う通り、手に職つけた方が色々いいのは事実だしさ。

 そりゃまあ、チームのみんなが気にならないわけでも無いけどさ……」

 

初瀬と城乃内の二人は、元々ビートライダーズとしてストリートダンスに明け暮れていた。

そこを凰蓮に半ば強引に弟子にさせられた形だ。

その為、言うなればパティシエとビートライダーズの二足の草鞋に近い状態である。

とは言え、凰蓮のシゴキは厳しく、ビートライダーズの情報を集められる状態にはいない。

少なからず、それは彼らにとってフラストレーションとなっていた。

 

「……ふぅ。あの子たちにも困ったものね。あんなアマチュアの遊びのどこがいいんだか。

 またみっちりしごいてやる必要があるわね。

 

 ……にしても、ちょっと惜しいわね。ボウヤも今日駒王町に帰るんでしょう?

 明日はお店がお休みだから、あの子たちのスペシャルメニューに

 ボウヤも参加させてあげたかったんだけど……仕方ないわね」

 

そう言って凰蓮がセージに寄越したメモには、トレーニングメニューが記されていた。

中身は、セージがこの一週間凰蓮軍曹に叩き込まれたメニューである。

 

「メニューを書いておいたわ。駒王町に帰っても、サボるんじゃないわよ」

 

「……あ、ありがとうございます」

 

少々顔を引きつらせながら、セージはメモを受け取った。

中身は基礎訓練ばかりであるが、プロでありフランス外人部隊所属経験のある

凰蓮が記したものであるため、その効果は期待できるものであった。

ただし、セージ向けに記されているためこれを他の者に適用させるのは

少々厳しいものがあるかもしれない。

 

「念のため言っとくけど、そのメニューはボウヤ向けのものよ。

 お友達とかが同じメニューをやったところで、効果が出るとは思わない方がいいわ。

 と言うか、止めときなさい」

 

「……あの、俺より華奢で体力が少なめの人……っつーか、悪魔向けのは……」

 

「あのね。ワテクシはパティシエであって、ジムのインストラクターでは無くてよ?

 誰だかわからない相手のために、トレーニングメニューなんて立てられないわよ。

 そ・れ・に。ワテクシがプロフェッショナルだという事を忘れてなくて?

 プロはいい加減な仕事をしないものよ。

 どうしても欲しければ、その子をワテクシの前に連れてきなさい。話はそれからよ」

 

戦力の底上げのために、セージは木場を鍛えようと思い

木場用のトレーニングメニューが作れないかを凰蓮に聞いたが、その返答は素っ気なかった。

 

しかし、筋は通っている。凰蓮はパティシエとしても、軍人としてもプロフェッショナルだ。

そんな彼が、見ず知らずの木場のためにトレーニングメニューを作ることは無いだろう。

そもそも、見ず知らずの相手のトレーニングメニューは、合理的とは言い難い。

 

「……すみませんでした、忘れてください」

 

「……まあ、ボウヤ自身だけが強くなるんじゃなくて

 チームで強くなろうという気持ちは大事よ。

 

 ただ、ボウヤは後ろで指示を出したり情報を纏めるのは得意みたいだけれども

 前線で誰かと協力して戦うのは不得手みたいね。この間の戦いで、そんな感じがしたわ」

 

図星であった。実のところ、確かにセージは神器(セイクリッド・ギア)のお陰で

情報をまとめ上げるのには長けている。それを活用して指示を出す

所謂司令塔的な役割には向いている。

 

だが、前線で協力して戦うのは、どちらかと言えば不得手――慣れていないのだ。

なまじ分身に頼ってしまっているために、意思疎通の楽な自分との協力に慣れてしまい

他人と協力プレイをするという事態に慣れていないのだ。

 

事実、先日のアーマードライダー部隊との共同戦線はセージの指示自体は的確だったものの

黒影(くろかげ)はおろか、代表である斬月・真(ざんげつ・しん)にも「確かなのだな?」と

何度も念を押されてしまっていた。

 

とは言えこれは、まだ未成年であり実績の少ないセージなのだから

ある意味仕方のないことではあるのだが。

 

(……参ったな。そういや誰かと協力して事に当たるってのは苦手なんだよな……

 今までがうまく行き過ぎていたけれど、今後それが通用する保証は無いしな……

 多分うまく回せそうなのは白音さんや祐斗位か。神器が便利すぎるのも考え物だな……)

 

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)

この二つが噛み合い、途轍もない拡張性を実現させているが

それはあくまでも自分一人での力――フリッケンという外部要素はあるが――だ。

アモンというもう一つの要素もあるが、彼は先述の二つの力と

競合関係にあるため今回は考慮しないものとする。

 

「そうね、追記事項が出来たわ。ボウヤはチームプレイの特訓もしなさい。

 スタンドアローンの兵士にどうにかできるほど、今回の件は甘くは無いわね。

 だからこそ、特訓しなさい。ボウヤの苦手分野は間違いなくそこよ。

 ……勿論、神器とかは禁止よ。最初に言ったと思うけど

 力を使って楽しようなんて考えは捨てなさい」

 

見透かされていた。なまじセージに分身などの能力が備わっているのだから

セージはそれを多用し、賄ってしまっているのだ。

だが、いざそれが使えなくなったとしたら。そうなれば、単独行動していない限りは

チームプレイでの戦いを余儀なくされる。その時に、苦手だからという言い訳は通らない。

 

「わかりました。当てはあるので、何とかやってみます」

 

Faites de votre mieux(頑張りなさい). さてと、注文のケーキが用意できたわ。

 ……ってOh là là(あらやだ). ワテクシとしたことが、無駄口を注意しておいて

 自分が余計なおしゃべりをしてしまったわ」

 

代金を支払い、ケーキを受け取るセージ。

その後ろでは、城乃内と初瀬が微妙な顔をして凰蓮を見ていた。

 

Oh, mince(ああもう)! アータ達、手が止まっていてよ!

 明日の特訓は厳しくいくから、覚悟なさい!」

 

「「ちょっ、そりゃないっすよ凰蓮さん!?」」

 

チームシャルモンの平和な日常。だが、そこにはちょっとした喧騒もあった。

その喧騒に巻き込まれてはかなわないと思ったセージは

買ったケーキを手にそそくさと店を後にするのだった。

 

 

――――

 

 

 

――AM 11:24

  沢芽市・ビートライダーズダンスステージ

 

セージはここで、ビートライダーズの様子をスマホのカメラで記録していた。

連絡先を交換した、城乃内と初瀬に送るためである。

 

(そういや、ここで姉さん見かけたんだよな……)

 

DJサガラに出くわす前、セージはここで憧れの人であり

実質想いを寄せているに等しい存在である女性、牧村明日香の後姿を見た。

見かけたのは後姿であり、顔を確認したわけではないのだが

その後、その後姿が彼女自身のものであるという確証に近い証拠を見つけている。

沢芽市にいれば、彼女にまた会えるのではないか。わずかだがセージはそうも考えていた。

 

だが、その後彼女には会っていない。

発見した証拠によれば、彼女はユグドラシルの試薬モニターに参加している。

試薬モニターとは言っても、入院の必要があるものではなかったのだろう。

だから、入院していたセージと出会うことは無かったのだと、セージ本人は思っている。

……あるいは、別の施設でモニターが行われるため

彼女はそっちに移動しているのかもしれないが。

 

(……姉さん、無事だといいけど……うん?)

 

物思いに耽りながら、撮影をしているセージにふと背後から肩を叩かれる。

振り向いた時そこにいたのは俳優の天道寛(てんどうひろ)――神仏同盟の大日如来と、天照大神であった。

 

「うぇええ!? だっだだだだ……」

 

「静かにしろ、騒ぎになっては敵わん。一応、俳優業としてここに来ることにはなっているから

 そっち方面でごまかしが効くと言えば効くがな。

 

 ……だが、今話したいのはそこじゃない」

 

「私達から、あなたに聞きたいことがあるんです。場所を移動しませんか?」

 

話がある。そう促され、セージは二柱と共に

フルーツパーラー、ドルーパーズへと向かう事となったのだ。




思ったより長くなりましたが、まあCパートまではやらないです。
ただ、タイトルに反してセージが帰るのが遅くなりそうな感じはしてますが。

久々の日常パートに近い流れが出来ました。
この世界では初瀬ちゃんはヘル実食ってないですし、イナゴ怪人もとりあえずいません。

>木場のトレーニング計画
打診しますが、至極当然の理由から却下されてます。プロは技術を安売りしません。
まあ、セージが心配してますが彼らとて特訓していないことは無い……はず……

……仕方のないことなんですが、イチャコラしてる場面しか見えないので
訓練とかどうしてんの? って気になっちゃいます。

木場やギャスパーと言った面子ばっかり特訓して、当のイッセーはイチャコラばっか……
なんて、ゲスの所業も勘ぐれてしまうのは……うーん


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Return to Kuou city. Bパート

お待たせしました、長くなりましたがBパートです。

引っ越し作業が佳境に入ってきているため、また暫く投稿が止まります。
とは言っても、今までとそう大差ないと思いますが。


沢芽(ざわめ)市を中心に活動するストリートダンサー、ビートライダーズのダンスステージ。

セージはここで彼らの活動の様子を撮影していた。

そんな中、神仏同盟の大日如来と天照大神の二柱に声をかけられる。

 

――話がある、とのことでやって来たのはフルーツパーラー、ドルーパーズ。

セージもこの二柱に話があると言われれば従わざるを得ない。

重要な話をするには向かないような場所ではあるが、他に行けそうな場所は無い。

ベルベットルームもセージの頭の中にあったが、あの場所にこの二柱を招き入れるのは憚られた。

何故だかわからないが、セージはそんな気がしたのだ。

 

――AM 11:42

  沢芽市・フルーツパーラー・ドルーパーズ

 

「……単刀直入に聞く。お前、あの場で何を使った?」

 

大日如来が指し示しているのは、アキシオン・バスターの事であろうか。

神妙な面持ちの大日如来に、セージは思わず畏まってしまう。

そうでなくとも、日本に在る神仏の中ではメジャーであり、高位の存在である二柱が

目の前に鎮座しているという現実に、セージはプレッシャーを感じていたのだった。

 

「…………これです。これから、凄まじいエネルギーの奔流が…………」

 

震える手で、セージは懐からディーン・レヴを取り出す。

またあの時のようなことにならないか、それが気がかりでセージの手は震え

掌の汗は止まるところを知らなかった。

 

「……これは? 少なくとも、俺は見たことが無いが?」

 

「俺もそれが何処から齎されたのかはわかりません。ただ、ディーン・レヴと呼ばれ

 『ディーンの火が、ディスの目覚めを促す』という言葉もあるそうです。

 何の事だか、俺にもさっぱりわかりません……

 ディスは、冥府神だとか悪魔王だとか言われているらしいですが」

 

セージの言葉に、しばし考え込む大日如来。

神器(セイクリッド・ギア)の特性上、調べ物が得意な彼をして正体不明というのだから

ただならぬものであることはすぐに理解できた。

そして数刻の後、合点が言ったような表情を浮かべるのだった。

 

「なるほど。俺の推測は半分当たりで半分外れと言ったところか。

 いや、俺はあの場にヤマ――閻魔だな。閻魔が来たのかと錯覚したんだが……」

 

「閻魔大王という事は地獄……つまり、死後の世界のお話ですね。

 私共の方では、伊邪那美――お母様の管轄の話になります。

 ですが閻魔大王も、お母様もこちらに来たという話は聞いておりませんし

 その確認もしておりません。

 

 宮本さん。その力は、決して軽率に使わないでください。

 これは死――穢れを嫌う我々日本の神として言っているのではありません。

 この死の力は、この世の理をも捻じ曲げかねない、危険な力です。

 可能ならば、使用の際には私共の承認を得てからにしてほしいのですが……」

 

天照の相槌にも、セージは寧ろ直ちにロックしてほしい、とさえ思っていた。

ただでさえ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)にさえ難色を示していたのだ。過剰な力は持つべきではない。

それがセージの主張であり、持論だった。

 

故にセージは言葉を待たずしてディーン・レヴのロックを二柱に頼み込んだ。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)でさえ持て余し気味だというのに、ただ力があればいいってものじゃない。

 

「わかった。だが、俺達が知らないという事は勝手のわからないものに封印を施すことになる。

 もし封印が何らかの形で解けた場合、どうなるかはわからんという事だけは覚えておいてくれ」

 

「……申し訳ありません。それが死の力を司るものである以上、我々ではお母様――伊邪那美様か

 その眷属の方位しか、我々の方では協力できそうもないです……」

 

当然である。ディーン・レヴが死霊を集め力を発揮したという事は

これは死と密接な関係にある。

そんなものを、死を穢れとする領域に持ち込むことなどできない。

 

「だが知っているかもしれないが、黄泉平坂は地獄――あいつらの言い方では冥界だな。

 冥界のような環境にある。俺達も、お前もおいそれと入れる場所ではない」

 

「……冥界と同じ……? では、アモンなら」

 

『ま、行けないことはねぇだろうな……だがな。一つ言わせてもらうぞ。

 俺はそのディーン・レヴの封印には反対だ。だから、封印のために黄泉平坂とやらに行くのは

 俺は協力しない。わかったか』

 

悪魔であるアモンならば、冥界や黄泉平坂と言った負念の渦巻く環境にも適応できる。

だが、ここに来てアモンがディーン・レヴの封印に反対したのだ。

 

確かに危険な力だが、オーフィスやサーゼクスとの戦いにおいては決定打になるし

力を重視する現悪魔政権に対する交渉の切り札や抑止力になる。

それらの観点から、アモンはディーン・レヴの封印に反対したのだ。

 

『そもそも、お前あの一撃記録したろうが。それはつまり、たとえディーン・レヴを封印しようが

 その気になればお前の一存で封印は破れる――無意味なものにできるって意味だ。

 そんなガバガバな封印、してもしなくても同じだ』

 

「確かにな。マスターを抑えても、コピーを抑えなければ流出は止まらない。

 人間の間で流行っているSNSだって理屈は一緒だろう。

 少年を信用しないわけじゃないが、一人の人間――それも子供が

 危険物を持っているという事態はあまり芳しくは無いな。

 しかも一存でそれを動かせる上に暴走の危険性も考慮に入れれば……」

 

途端に、大日如来の顔が険しくなる。発せられる気も、剣呑なものであった。

場合によっては、セージを始末する。そう言いたげだ。

火に油を注いだアモンは我関せずといった感じであるが、セージは完全に委縮してしまっている。

 

「大日如来様、お戯れはそのくらいに……」

 

「すまん。だが、最悪戯れでは済まない事態を引き起こしかねないという事だけは理解してくれ。

 先の赤龍帝の暴走事故と似たような事例を、また起こすわけにはいかないからな」

 

「……心得てます」

 

すっかり意気消沈したセージであったが、それほどまでにアキシオン・バスターは

神仏同盟から見ても危険な一撃だったのだ。

人間界はおろか、冥界などにおいても死霊から力を集めて放つ一撃が

どんな影響を齎すかわからない。

この一撃は、セージを虐殺者にしかねない一撃だ。

その警告として、神仏同盟は国防の意味も兼ねて看過できなかったのだ。

 

「もし、その力で悩むようなことがあれば俺達も及ばずながら力になろう。

 俺達にとってもそのディーン・レヴとやらは未知の存在だが、超常の力という意味では

 お前より心得があることは自負している。

 重荷に感じるようなことがあれば、いつでも言ってくれ。

 天照共々、悪いようにはしない。お前が、正しい心でその力と向き合う限りはな」

 

「望まぬ力を得て、困難に曝される心情はお察しいたします。

 ですが、苦難に立ち向かう者の心の拠り所となるのも我ら神仏の役割。

 大日如来様共々、私達も力をお貸しします」

 

セージも、実際に二柱に何かをしてもらえるという期待はしていない。

だが、それでも神仏同盟の言葉はセージに安堵の感情を齎していた。

アインストやインベスを瞬く間に壊滅させた、アキシオン・バスター。

局地的、瞬間的ではあるがその力はかの覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)にも匹敵しかねなかったのだ。

セージには、あんなことをしでかして正気を保てる自信は無かった。

それ故に、アキシオン・バスターの引鉄は出来るならもう引きたくないし

神仏同盟の言葉には心の底から安堵していたのだ。

 

「下手に抱えて潰れられても困るしな。さて、この話はここまでとして……

 改めて、一つ聞きたいことがある。

 

 ……お前、『黒の菩提樹』って組織は知っているか?

 いや、神器で調べなくともいい。お前自身が遭遇したかどうか、それを知りたい」

 

アキシオン・バスターとディーン・レヴの話が一段落し、さらなる話が続く。

 

黒の菩提樹。沢芽市を中心に勢力を拡大し始めた新興宗教。

天使、悪魔、神の実在が謳われたこのご時世において、新興宗教など淘汰されるか

或いはもっと過激な存在になるかの二通りしかなかった。

黒の菩提樹は、後者であると言えよう。

 

「……記録再生大図鑑を使わないのならば、聞いたことは無いはずですが、それが何か?」

 

「そうか。ならば情報統制が行われているのか、あるいは……

 いや、ユグドラシルタワーの爆破事件の犯人だが……俺はその黒の菩提樹であると見ている。

 証拠は掴んでないがな。と言うか、証拠を隠滅されたといった方が正しいか。

 黒い足軽兵――マスクドライダー、いやアーマードライダーと言ったか?

 その軍団と共に、俺達に襲撃をかけてきた」

 

神仏同盟と北欧神話の会議の最中、神仏は黒の菩提樹と黒影(くろかげ)に襲われたのだ。

その時の事情までセージは知り得ていなかったため、大日如来の証言に衝撃を受けていた。

 

「黒いアーマードライダー……俺の思い当たる限りでは数が多ければ黒影ですが……

 待ってください、黒影の部隊は外でアインストやインベスと……

 ……ま、まさかその黒影は……!」

 

「そう言えば、彼らは中国系の言葉でやり取りをしていましたね。

 念のために中国神話にも確認を取りましたが、こちらに来ているという情報はありませんでした」

 

「……間違いない、天道連(ティエンタオレン)……! ああ、天道連ってのは……」

 

セージはよく知っていた。黒影にはユグドラシルで運用されているものと

横流しされ、台湾マフィアである天道連で利用されているものとがあることを。

間違いなく、神仏同盟や北欧神話の神々を襲ったのは天道連だろう。

セージは二柱に、台湾マフィアである天道連について自身が知っていることを語る。

それは、他国とは言え人間が明確に神仏を害しようとしたことに他ならない。

他国の神、他宗教の神やそれに属するものならばいくらでも害してもいい。

そう考える者は少なくないのだが。

 

「台湾マフィアの動向なんてわかりませんが、カルト宗教と組んでまで

 日本から神仏を追い出したいものなんですかね……」

 

「……俺達神仏ってのは多かれ少なかれ人間から恨みを抱いてるもんだ。それこそ悪魔以上にな。

 それは土着信仰に根付くもんじゃない。もっと大きな、戦争にも発展しかねない

 そういう大きな思惑があるんだ。俺達を追放したいって考えている奴は

 人間にこそ多いのかもしれないな」

 

しみじみとした様子で、大日如来は言葉を紡いでいた。

実際、人間による開発が古くからある信仰の源を破壊した例は枚挙に暇がない。

もっと酷い時は、戦争で容赦なく破壊されるのだ。

それはセージにとって容易に想像できるものであると同時に、受け入れ難いものであった。

古くからの言い伝えや縁の地が時の流れとともに風化する。

洋の東西を問わず、珍しいものでもないからだ。

 

「そう言えば、タワーの爆破そのものに天道連は絡んでいたのですか?」

 

「天照の分霊が調べているようだが、どうやら天道連自体は

 混乱に乗じて俺達を襲っただけみたいだ。ユグドラシルの装備を使って

 俺達と北欧神話の関係に皹を入れるつもりだったのかもしれないが……

 それにしては、色々とぼろが出過ぎている。黒の菩提樹という要因を加味してもだ」

 

ユグドラシルタワーの爆発は、まだ爆発が起きたという事実しか報道されていない。

警察は、事件・事故双方の観点から捜査しているというサスペンスなどではお決まりの展開だ。

これはセージも超特捜課に聞いたから知っている。

だが、セージはもう一つここに来る前シャルモンで初瀬(はせ)城乃内(じょうのうち)から聞いたことがあった。

 

――ユグドラシルタワー爆発事件はテロ行為、犯人は五人組のテロリスト――と。

 

その事も、セージは二柱に伝えることにした。裏付けの取れていない情報ではあるが。

 

「テロリスト、か。マフィアもそう大差ないと思うがな。

 だが少年、その情報の裏付けは取れているのか?

 裏付けの取れていない情報を、あまり安易に流すのは感心しかねるな」

 

「他所に喋ったのは俺は今が初めてです。

 俺だってそんないい加減なマスコミみたいな真似しませんよ。

 ただ、どうもこの五人組のテロリストってのが引っかかるんですよね。

 ユグドラシルに企業見学にやって来ていたオカルト研究部のメンバーが丁度五人。

 彼らをテロリストと勘違いしたのではないか……って見方もできますし。

 まあ、憶測にすぎませんけどね」

 

木場曰く、危うく本当にリアスがユグドラシルタワーを倒壊させかねない事態になったらしい。

その記録映像が流れない限りは、五人組のテロリストなど世論が混乱しているときに飛び交う

ただのデマの一種に過ぎないだろう。

そう考え、セージも木場に聞いたタワー内部で起きていた事態については

初瀬や城乃内に伝えることは避け、テロリストの話も話半分にしか聞いていなかった。

 

そもそも、セージの憶測にしたって彼らがタワーに入った際には

案内役である光実(みつざね)も同行している。彼がカウントされないのは不自然だ。

 

「そう言えば、北欧神話の神々との話はどうなったんです?」

 

「とりあえず、クロスゲートの監視強化と三大勢力への警戒強化という事で話はまとまりました。

 また、今回を試験ケースとしまして今後ギリシャ、エジプト、中国に

 バビロニア、インドと言った世界各地の神話体系との情報共有を目指していく方向です。

 その際には、また自衛隊や警察の皆さんに警護をお願いする形になると思います」

 

天照の口から語られたのは、今なお様々な形で語り継がれる各世界の神話体系。

不審な動きを見せる三大勢力への警戒、そして地上に顕現したクロスゲート。

いずれも規模の大きな話であるため、それに対抗して必然的に規模が大きくなっていったのだ。

 

本来ならば、こういう場には人間社会向けの組織である警察や自衛隊が参加するよりは

神仏、怪異などを専門に取り扱う組織が当たるべきである……のだが、日本のそうした組織は

世界大戦を経た後に解体ないし弱体化の憂き目にあっている。

また、構成員や跡取りが転生悪魔になってしまった問題も同時に発生しており

人手不足という深刻な問題も同時に抱えてしまっているのだ。

それが、警察や自衛隊に対怪異用の装備を配備させる遠因となってしまっている。

 

「それと……黒の菩提樹とは関係ないのですが……天叢雲剣について、お聞きしたいことが……」

 

「天叢雲剣……って、あの? 熱田神宮にあるんじゃないんですか?」

 

黒の菩提樹のついでとばかりに、天照も天叢雲剣の所在をセージに問う。

だが、黒の菩提樹以上にセージが知っているはずもない情報ではあった。

所在のわからない国宝、日本という国の神器。諸外国に知られれば、大問題だ。

 

「え、ええ……そうなんですが……」

 

「天照、そのくらいにしておけ。この会話が漏れでもしていたら大事だ」

 

「……何かあったんですね。無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)で調べます?」

 

その言葉を口に出した途端、セージは内側からフリッケンに殴られた感覚に襲われた。

散々口酸っぱく禁手(バランスブレイカー)である無限大百科事典による検索は禁止しているのだ。

物理的にではないにせよ、手が出てもおかしくは無い。

 

『やめろっつったぞ。出来もしないことを言うな。

 それに、ここで迂闊に喋るのはマズいと思うぞ』

 

(ま、まぁそれもそうか……ここも貸し切りじゃないしな)

 

『ピンクのの意見があろうがなかろうが、あのオカマの軍曹も言ってただろ。

 必要以上に力に頼るな、って』

 

アモンからもダメ出しが出てしまい、セージは検索をあきらめざるを得なかった。

記録再生大図鑑で、三種の神器の所在を調べるのは困難である。

伊勢神宮の鏡、皇居の勾玉、そして熱田神宮の剣。これ以上の情報は得られない。

当然である。人間にとっての国の機密が国防関係の情報なら

これら三種の神器は日本神話にとっての重要事項である。

国が、国の神が管理しなければならないものだ。

 

「そうですね、ごめんなさい。神の問題は、神が解決すべきことです。

 そうでなくとも国民の皆様には要らぬ不安を与えている状況だというのに

 これ以上不安を与えるようなことはいけませんね。大変失礼しました」

 

深々と頭を下げる天照に、セージはただ恐縮していた。

これも当然である。相手は日本の主神であり、皇室の御先祖とも言われる存在だ。

皇室がどういう存在か把握しているセージにとって、あまりにも畏れ多いのだ。

 

硬直して畏まっているセージを他所に、天照の付き人がそっと天照に耳打ちをする。

その瞬間、天照の表情が一瞬だが、変わったのだった。

セージがそれに気づくことは無かったが。

 

「……そろそろ時間ですね。私達もあまり長い間顕現しているわけにもいきませんので。

 では宮本さん、ご健勝で」

 

「勢いは衰えつつあるとはいえ、神社仏閣から俺達に声を伝えることはまだできる。

 何かあったら、神社仏閣を訪ねるといい」

 

まだ硬直しているセージを他所に、声をかけながら二柱の神仏はドルーパーズを後にした。

セージが我に返ったのは、天照の付き人が海軍式敬礼をして

レジで会計を済ませた少し後の事であった。

 

『おい、いつまで固まってるんだ』

 

「……はっ!? お、俺は一体……」

 

「あ、兄ちゃんの分の会計はもう済んでるから。どうする? おかわりするかい?」

 

フリッケンに叩き起こされるのとドルーパーズの店長に声をかけられるのは

ほぼ同じタイミングだった。起きたことがことなので

空腹感は既にどこかに飛んでしまっていた。

一礼し、セージもドルーパーズを後にすることにしたのだった。




実は黒の菩提樹(と神器の失踪事件)にだけ焦点を当てていて
アキシオン・バスターについては急遽ねじ込んだ形……
でも寧ろ突っ込まない方がおかしいですよね。ご指摘感謝です。

>ディーン・レヴ
サルファ世界から持ち込んだと思しきものなので、当然大日如来も知りません。
よく知らないものに封印を施そうとするとか結構危ない事やりかけてました。
抑止力として運用させようとするアモンも大概ですが。
立ち位置としてはイッセーにおける覇龍とかになってると思います。

>セージの持論
「ゴースト」からそれほどブレては無いつもりです。
いやまあ、バトルもの少年漫画のノリだったら白けそうな事言ってると思います。
だけど、そのノリで周囲を滅茶苦茶にした事例を目の当たりにしてれば……
多分、原作通り覇龍が冥界(レーティングゲーム会場)で起きても意見は変わらないと思いますし
そもそもそれ以前にコカビエルの際(地上)もセージは霊体ながら現場にいましたし。

>五人組のテロリスト
またナイア先生が裏で糸引いてそうな話の流れ……
これが話題になるのはペルソナ2罪ですが、こちらではシャドウの下地になってましたね。
さて、拙作でこの噂はどうなることやら。
あ、言うまでもなく五人のうち四人はリアス・朱乃・木場・アーシアです。
五人目がナイアか光実かはわかりませんが。イッセーやイリナはタワーには入ってませんし。


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Will15. 境界線上の遭遇戦 Aパート

引っ越しは無事に終わりました
twitterでは毒吐きまくってます

ゲームは嫌いじゃないけど、プレイヤーが本当に嫌いすぎる
リアイベ行けばそんなプレイヤーと嫌でも顔を合わせることになる
でもリアイベは金の許す限り行きたい

ままならぬものですな


大日如来様、天照様の二柱から声をかけられた俺は、沢芽市のフルーツパーラー、ドルーパーズにいた。

そこで俺はアキシオン・バスターの危険性と黒の菩提樹についての情報を聞くこととなった。

世界には、今なお暗雲が立ち込めている。

 

ドルーパーズを後にした俺の下に、霧島巡査から電話がかかって来た。

そう言えば、あの人も同伴していたはずなんだが配置場所の都合上

会う機会が無かったな。一体今頃なんだろうか?

 

『宮本君? まだ沢芽(ざわめ)市にいるの?』

 

「え? ええ、もうじき駒王町に戻りますが……」

 

『今すぐ戻ってきて! 駒王町のクロスゲートが動き出したの!

 私達と神仏同盟、駒王学園の生徒で対処に当たっているけれど

 クロスゲートのアインストの他にも、見た事のない悪魔が出て来て……!』

 

電話越しの声は、かなり切迫していた。

クロスゲートが動いたというのも大事だが、それ以上に見たことも無い悪魔とは何だろうか?

俺の知っている限りでは、悪魔と人間の見た目の差は殆どないように思えるが……

 

そりゃあ、わかりやすくデフォルメすれば人間とはかけ離れた姿になる事例もあるが

そういうのは、大体はぐれ悪魔だ。

いくら何でも、はぐれ悪魔を未確認の悪魔なんて言うまい。

 

『……まさか、アーキタイプの悪魔……「デーモン族」じゃねえだろうな?』

 

「デーモン族?」

 

アモンが聞きなれない単語を発した。

デーモン族? はて、俺も悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の調査のついでにいくらかの冥界の、悪魔の歴史は調べたが

デーモン族なるものについては一切触れられていなかったが……

 

『ぶっちゃければデーモン族も悪魔も同じだ。人間に類人猿、原人とかがあるように

 悪魔にとっての原人がデーモン族って訳さ。俺も分類上はデーモン族になるな。

 ああ、サーゼクスの野郎は違うけどな』

 

「ちょっと待てアモン。今の人類の直接の祖先は既に地球上から姿を消している。

 悪魔は、祖先に当たる存在がまだ生き残っているのか?」

 

人間を基準にするなら、当然の疑問を俺はアモンに問いかけた。

ヒトにせよ、その他の生物にせよ今に至るまでの進化途上の生物は現存していない。

アンモナイトだの言った深海甲殻類の類が生きた化石と言われる所以は

そこにあると思っているのだが。

 

『悪魔ってのは存外進化を是としない生き物だ。

 今の時勢はどうだか知らんが、ゼクラム・バアルって奴の

 シンパにはデーモン族に近い悪魔も少なくなかったはずだぜ』

 

バアル……サイラオーグさんの親戚筋か?

ともかく、意外とデーモン族ってタイプの悪魔は多いのだろう。

そのあたりは、寿命の違いだとかそういう問題が浮き彫りになっている感じだな。

 

『だが、俺も今憶測でものを言ってるからな。駒王町に出たって言う、見慣れない悪魔が

 デーモン族かどうかの判断はまだしかねる』

 

『同族だろう、戦えるのか?』

 

もし駒王町に出たって悪魔がデーモン族だった場合、一番肝要な問題だ。

フリッケンが単刀直入にアモンに聞いていた。

 

『デーモン族ってのは共食いだろうとやってのける種族だ。今更デーモン族同士で争ったところで

 何ら問題にもなりゃしねぇよ……だから滅亡の危機に瀕して

 今の悪魔が生まれるきっかけにもなったんだがな。

 つーかよ、それは人間に一番突き刺さる話じゃねぇのかよピンクの』

 

一説には、原人も食人習慣はあったらしいしカニバリズム習慣は今でもある場所にはある。

その事を考えれば、デーモン族に共食いの習慣があること自体は何ら不思議でもない。

それに、アモンが言う通り同族争いは人間の十八番だと言えるくらいには

人間同士の争いに関しては枚挙に暇がない。

 

……ここまで話を聞いて、俺はデーモン族に近しい存在を思い出した。

 

――はぐれ悪魔。

 

その姿形、習性などは話に聞いたデーモン族と極めて酷似している。

そこに、悪魔の駒の性質だ。これは……

 

『セージ。今はデーモン族についてあれこれ考えるより駒王町に急いだほうがよくないか?』

 

「確かに。土産も買ってあるし、あとは帰るだけだ。頼むぞフリッケン!」

 

PROMOTION-KNIGHT!!

 

騎士(ナイト)」のカードで悪魔の駒の騎士の力を行使し、フリッケンを召喚、バイクに変形させる。

本家本元の悪魔の駒にそんな力はないらしいので

これは俺がフリッケンと共に編み出した力といえる。

ともあれ、これのおかげで長距離移動もできるし

免許もとったからこっちでの移動も十分できる。

 

フリッケンが変形したバイク――マシンキャバリア―で、俺は一路駒王町へと急ぐのだった。

 

 

――――

 

 

沢芽市を出ようと、橋のあたりに差し掛かった際にレーダーに反応が出る。

このレーダーは、悪魔だの神器(セイクリッド・ギア)持ちだのと言った怪異に対して反応する。

勿論、交戦経験のあるアインストやインベスといった怪異や

一部のアーマードライダーさえもレーダーの認識対象として登録されている。

そのレーダーに反応する、ということは……

 

『寄っていく時間は……微妙だな』

 

「だが、背後から撃たれる危険性も生じる以上はここで始末した方がいい気もするが……」

 

そう遠くない場所なので、寄ろうと思えば寄れる場所だ。

だが、今は急ぎだ。なるべく寄り道は避けたいところではある。

しかし、急いで背後から奇襲を受けては元も子もない。

 

『現着と同時に分身を展開して一気にケリをつける方向で行くぞ』

 

「それがよさそうだ、行くぞフリッケン!」

 

マシンキャバリア―を横道に走らせ、レーダーに反応があった地点へと急ぐ。

遠目に見えるのは……あいつは確かフリードと、錠前ディーラーか!

こりゃあ、こっちに寄ったのは正解だったか?

 

SOLID-SWING EDGE!!

 

奇襲を仕掛けるにはマシンキャバリア―はエンジン音的な意味で向かない。

そのため、俺は出会い頭の攻撃を繰り出すために刃付きの触手をいつでも出せるようにする。

マシンキャバリア―に積んでいる単装砲を撃ちたくなったが、道交法の都合上出来ない。

使えないものは仕方がないので、すれ違いざまにこれで切り裂く算段だ。

 

「テロリストにかける情けなんかない、ふん縛って連行するぞ、フリード!」

 

「いきなり出てきてなんなんだよ!?」

 

触手を使ったのは、相手を捕縛できるメリットも兼ねてだ。

刃付きになったことで、精密作業には向かなくなったが縛るくらいはできる。

まして、丁寧に扱わなくてもいいフリードが相手だ。乱暴に扱っても問題あるまい。

元々射殺許可出てるって話らしいし。

 

「……けどな大事なこと忘れてねぇかクソ悪霊よ?

 初っ端の必殺技は失敗フラグだってなぁ!」

 

別に必殺技のつもりはないが、フリードの言う通り触手は奴の召喚した魔獣に

あっさりと千切られてしまった。

おまけに展開した分身も、残り二体の魔獣に抑えられてしまっている。

仕方なく、俺は分身を消して攻撃を仕切りなおすことにした。

向こうもいきなり三体同時召喚とか、大盤振る舞いだな。

短期決戦なら、望むところだが。

 

「久々に随分な挨拶をかましてくれた礼によ、俺も面白いものを見せてやるぜぇ……?

 来いよ菫の猛毒蛇(パーピュア・サイドワインダー)鈍色の鋼皮角(アイゼン・シュラオペ)朱の空泳魚(ロッソ・スティングレイ)!」

 

フリードの号令で、奴の魔獣が集結する。

こいつら、気のせいか戦うたびに連携が取れてきているような気がする。

このままでは……まずいかもしれない。

こいつらも、なるべく早いうちに処理しておかなければならないかもしれないが……!

 

「見せてやるよ……こいつらの新しい力をなぁ!」

 

フリードの号令で、三体の魔獣が光り輝く。

次の瞬間、その三体が……

 

……合体、したようだ。

 

鈍色の鋼皮角(アイゼン・シュラオペ)の胴体に角、朱の空泳魚(ロッソ・スティングレイ)の鰭を翼にし菫の猛毒蛇(パーピュア・サイドワインダー)の尾と頭。

合成獣(キメラ)。この単語が一番ふさわしい相手だろう。

 

帰結する殺戮者(ユナイト・ジェノサイダー)……ってところだな。こいつの力、とくと味わいやがれ!」

 

今度の大型魔獣、動きは鈍重だがパワーもリーチも今までの比じゃない。

幸い、エイヒレの羽は飾り以上の意味をなしていないようだが……

そもそも、こんなのがついているんじゃ本体たるフリードをまともに攻撃できない。

大型魔獣が、うまい具合にフリードの攻撃を防いでいるのだ。

 

魔獣製造(アナイアレイション・メーカー)もいい仕事しやがるな。これだけの戦力が手に入るなんてよ!

 これさえあればヴァーリやイリナの抜けた穴が十分に埋められるぜ! それに加えて……」

 

〈コネクティング〉

 

フリードの持っていたロックシードが起動すると同時に、どこからともなく緑色の鎧武者のような巨大ロボや

二足歩行の大型マシンなどが群れを成してやってきた。

ロックシードで起動させたってことは……インベス、いやロックビークルか!?

 

『数が多い、分身しろセージ!』

 

「ああ!」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

分身を生成し、数に対処できるように立ち回ろうとする。

のだが、相手がザコばかりならばいざ知らず、初見の大型魔獣や

それなりに腕の立つフリードもいる。

こうなると、立ち回りは慎重にいかなければならない。

手札を活用し、かけられるだけの手札バフをかけた上で切り込むが

やはりというか、なんというか鎧武者や大型魔獣の装甲は厚い。攻撃が通りにくい。

 

〈ジャイロモード〉

 

おまけに鎧武者は変形して空まで飛んでくる始末。

一体にかかる費用が半端なさそうだが

これを量産するとかユグドラシルは本当に何考えてるんだ!?

インベスやアインスト対策だと思いたいところだが……

そもそも国の、防衛省の許可は下りたのかよ!?

 

「おうおう、景気よくぶっ放してるねぇ……

 お得意さんなら、俺もサービスさせてもらうかな、っと!」

 

さらに、フリードと話していた錠前ディーラーもその手にロックシードを握っていた。

黒影とは違うタイプのベルトを着けて。あれは……

 

……斬月・真と同じタイプのベルトだ!

 

〈チェリーエナジー〉

 

「変身!」

 

〈ロック・オン! ソーダァ……〉

 

〈チェリーエナジーアームズ!〉

 

錠前ディーラーがサクランボを被って変身した姿は、北欧のバイキングを思わせる角兜に毛皮。

左側を重点的に防護した赤い鎧を纏ったアーマードライダー。

得物として斬月・真と同じ弓を携えている。

中身はともかく、外側のスペックは斬月・真と遜色ないとみるのが自然だろう。

つまり、手ごわい。

 

「プロフェッサーはこれの事をアーマードライダー・シグルドなんて呼んでたなぁ。

 俺がシドって呼ばれてるからって名付けたんじゃないだろうな?

 ま、なんにしてもてめぇも運がなかったな。取引現場を見なかったことにしてれば

 命だけは助けてやってもよかったんだがよ」

 

「……気に入らねぇ名前だな。俺はディーラーの旦那と違って、生かして返すつもりは無いぜ」

 

「……まぁそういうこった。運がなかったと思って諦めなクソガキ!」

 

囲まれた上に、相手はそのほとんどが初見だ。

これは、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)では苦しい展開になるかもしれない……!




シド参戦。
シグルドって名前にフリードが反応しているのは原作ネタ。

ジェノサイダーとゲネシスライダー、無人スイカアームズの同時相手とか
なんでこうセージの前には強敵かついやらしい組み合わせばかり出てくるん?

>フリードの魔獣
あれだけ王蛇ネタ使えば、合体させないわけにもいきますまい。
というかフリード自身がよく無事に帰ってこられたような。

原作ではキメラにされたフリードですが、こちらではキメラを使役する側です。
この辺も意識しておりました。

>フリードの言及していたこと
イリナは既にイッセー(というかナイア)の手に堕ちているため
もう禍の団も天使もどうでもいい状態です。
イッセー(というかナイア)を妄信した狂信者となり果ててしまってますので
今時分テロリストに手を貸すなんてこともないでしょう。

ヴァーリは……原作以上に迷走してるかも、こいつ。
いやだってセージとは全然因縁ないし。
家庭の事情持ち出されても「知るかボケ」で一蹴されそうな世界ですし。

>シド
何気に台湾マフィアだけじゃなくてテロリストとも取引してることが発覚。
グレーどころか真っ黒ですが、ユグドラシルが既に……なので。


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Will15. 境界線上の遭遇戦 Bパート

前回のあらすじ

多勢に無勢、しかも各々の戦闘力は高め


〈チェリーエナジー〉

 

「変身!」

 

〈ロック・オン! ソーダァ……〉

 

〈チェリーエナジーアームズ!〉

 

錠前ディーラーが赤いバックルのベルトにロックシードを装填。

空から現れたサクランボを被って変身した姿は、北欧のバイキングを思わせる角兜に毛皮。

左側を重点的に防護した赤い鎧を纏ったアーマードライダー。

得物として斬月・真と同じ弓を携えている。

中身はともかく、外側のスペックは斬月・真と遜色ないとみるのが自然だろう。

つまり、手ごわい。

 

「プロフェッサーはこれの事をアーマードライダー・シグルドなんて呼んでたなぁ。

 俺がシドって呼ばれてるからって名付けたんじゃないだろうな?

 ま、なんにしてもてめぇも運がなかったな。取引現場を見なかったことにしてれば

 命だけは助けてやってもよかったんだがよ」

 

「……気に入らねぇ名前だな。俺はディーラーの旦那と違って、生かして返すつもりは無いぜ」

 

「……まぁそういうこった。運がなかったと思って諦めなクソガキ!」

 

クッ、相手の戦力がわからない以上は下手に仕掛けられない!

この状況を打開するには……

 

……いや、アキシオン・バスターはいくら何でも過剰すぎる。

周辺地域の被害を考えたら、避難勧告もなしに撃っていいものじゃない。

となると、禁手(バランスブレイカー)しかないか。

 

無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)を使って打開を試みる、いいな?)

 

『しかなさそうだな。だがアキシオン・バスターは撃つなよ』

 

INFINITY-ARCHIVES DISCLOSURE!!

 

(アキシオン・バスターは撃たねぇよ。だがフリッケン、ちょっと手を――頭を貸してくれ)

 

『ああ、そういうことか。大体わかった』

 

COMMON-LIBRARY!!

FULL-SCAN!!

 

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)禁手化(バランスブレイク)させ、禁手である無限大百科事典を展開する。

これによる調べ物は、以前痛い目にあったが今は使わざるを得ないと判断した。

何せ、初見の相手が複数いる上に悠長に戦いながら調べている余裕なんざない。

アインストやインベスの大群を相手にするのとは、また違った意味でつらい展開だ。

 

そこで俺が打った手は、検索を一気に終わらせる方法だ。

記録容量は大幅に増しているが、処理能力――要は俺の脳みそに

えらく負担がかかる方法なので、多用はできない。

そもそも、前回痛い目にあったのだって処理能力を大幅に超えたから起きた事態だ。

で、今回はどうしたかというと――

 

『ピンクの。お前本当にうまい具合に回るな。全部わかって動いてないか?』

 

『いいや? 大体は大体だ。あとピンクじゃなくてマゼンタだ、何度も言わすな』

 

そう。フリッケンを補助CPUというか、フリッケンと組んで並列処理する形で

処理を加速させたのだ。別に俺は一人で戦ってる気はないしな。

誰かと組んで戦うのが苦手なだけで。

で、検索した結果だが――

 

まず大型魔獣、帰結する殺戮者(ユナイト・ジェノサイダー)。確かにパワーは其々のものよりも大幅に増しているが

機動性はサイの奴――鈍色の鋼角皮(アイゼン・シュラオペ)と同程度しかない。

が、菫色の猛毒蛇(パーピュア・サイドワインダー)の尾があるためそこでフォローされている。厄介な。

そして何より、腹部にブラックホールを生成することができるらしく

そこに吸い込まれたら間違いなくアウトだろう。逆に言えば、腹が弱点の可能性もあるが。

 

次に、大型の鎧――スイカアームズ。

これは元来アーマードライダーのロックシードだが

無人で稼働できるようにシステムを調整されたものらしい。

こんなもん無人で複数稼働させるなっつーの。

守りに秀でた大玉モード、空も飛べる上に機動力の高いジャイロモード。

そしてスイカ双刃刀と呼ばれる切り身のスイカを模した両刃剣を操るヨロイモード。

数が多い分、大型魔獣よりも厄介かもしれない。

 

それを補佐するように、チューリップホッパーと呼ばれるロックビークルも控えている。

こちらはジャンプによる立体的な起動と機銃による武装。

これもアーマードライダーの移動補助が元来の運用方法だが

こいつらも無人稼働できるようにシステムが調整されている。

これ、超特捜課に回されないかな?

これだけあればインベスはおろかアインストや悪魔軍団にも勝てそうだが。

 

最後にアーマードライダー、シグルド。

新型のドライバー、ゲネシスドライバーにチェリーエナジーロックシードを装填して変身した

新世代型アーマードライダー。

武器である創世弓ソニックアローは接近戦にも耐えうる刃を持ち、エネルギーの矢を放つ。

ゲネシスライダーはスペックは高いが、ロックシードによる拡張性はほぼ失われており

ソニックアローによる攻撃力を除き、その他に特筆すべき能力はない。

 

……つまり、中身次第では斬月・真よりは戦いやすい相手かもしれないってことか。

何の気休めにもならないけど。

フリードに関しては検索をかけたが、特別変化があるわけでもないので割愛とする。

まあ、エクスカリバーはあの時回収されてるから持ってないだろうし

精々今受け取ったであろうロックシードでインベスを出してくる位か?

スイカアームズを出してきたのはあいつだし、それくらいは警戒しておいた方がいいか。

寧ろ、大型魔獣との連携が気にかかるな。

 

さて。分身して各個撃破するのが定石かもしれないが、流石に初見相手にそれはリスクが高い。

そもそも分身しての戦闘自体、リスクと隣り合わせなのだ。

こっちが各個撃破される可能性だってあるのだ。下手は打てない。

 

EFFECT-CHARGE UP!!

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

SOLID-GYASPUNISHER!!

 

だが、手数は増やす。バフをかけた上で触手砲で手数を補い

接近してギャスパニッシャーを叩きつける。

これで各個撃破していくのがよさそうだ。というか、ほかに戦法が思いつかない。

 

触手砲でチューリップホッパーの足をもつれさせ、同士討ちさせながら

ギャスパニッシャーを大型魔獣に叩きつける。

その間、シグルド、スイカアームズ、フリードの十字砲火を掻い潜りながらだ。

もう国際指名手配犯になって開き直ったからか、フリードが持っている銃は

普通に実弾が入っていた。生きた心地がしない。かと言ってアモンに代われば

その瞬間フリードは祓魔装備に切り替えてくるだろう。油断も隙も無い。

つまり、結果として俺の手札はかなり制約されてしまった形だ。

 

「どうしたよ!? 多勢に無勢だなぁ、クソ悪霊よ!」

 

「聞いたぜ? ガキの癖にこの間のユグドラシルタワーの警備にいたんだってな?

 ……ガキが大人の職場に首つっこむんじゃねぇよ!」

 

シグルドのソニックアローから放たれた光の矢が、こちらを狙ってくる。

回避しきれず、無限大百科事典で受ける形になったが……

これは、もしかしなくともかなりヤバい。

とにかく、相手の手数を減らさないことには。奴の言う通り、多勢に無勢過ぎる。

 

……そういえば、フリードの魔獣。あれは魔獣製造(アナイアレイション・メーカー)って神器(セイクリッド・ギア)で作ってるって

奴自分が自慢してたな。もしかすると……

 

『ダメだ、セージ。フリード自身が魔獣製造を持っているわけじゃない。

 聖槍のコピーで消そうと思ってるんだろうが、フリード自身を攻撃したって意味がなさそうだ』

 

……チッ。聖槍で魔獣を消せればと思ったが、どうもダメみたいだ。

魔獣そのものを聖槍で攻撃しても、魔獣は一個の生命として存在しているため

異能とは見做されない。つまり、聖槍――コピーだが――の持つ異能封じは

今回の戦いに際して有効に働かないということだ。なんてことだ。

となれば、今ここに聖槍で動きを封じられる相手はいない。

アーマードライダーシステムは異能ではなく道具としてみなされるため、対象外だ。

 

今までの戦果は、チューリップホッパーを破壊できたことだが……

これは正直言って、大勢に影響を及ぼしたとは言い難い。

主力たるスイカアームズは健在だし、それ以外にも大型魔獣、シグルド、フリードと控えている。

……さて、どうしたもんか。

 

というか、作戦を練る暇がない。今だってスイカアームズのスイカ双刃刀を

ギャスパニッシャーで往なしつつ、大型魔獣の尾の攻撃を回避しながらも

回避した先にはシグルドのソニックアローの矢が待ち構えていて

受け身をとれずに吹っ飛ばされた俺の頭を、フリードが踏みつけている。

 

「ぐ……っ!」

 

「ざまぁねぇなクソ悪霊! 本物の悪霊にしてやるよ!」

 

冗談じゃない。俺は今、色々な理由から簡単には死ねないんだ。

帰ると約束した家もだし、姉さんのことを詳しく知りたい。

これらをどうにかするまで、おいそれと死ねるものかよ!

 

EFFECT-INVISIBLE!!

 

触手砲でフリードが怯み、足を離した隙に俺は透明化。

何とか抜け出すことに成功した……のだが。

 

〈ジャイロモード!〉

 

変形したスイカアームズが、こちらに狙いを定めている。

まさかとは思うが……確かにこのカードで消せるのは姿だけで、気配やらなにやらはそのままだ。

当然、位置さえわかれば相手から触れることだってできる。

となれば、相手が何らかの高感度センサーを搭載していた場合

姿を消すという行為は必ずしも優位に立てないのだ。

今までが優位に立ち過ぎていただけかもしれないが。

 

『避けろセージ!』

 

「避けろったって!」

 

SOLID-DEFENDER!!

 

ディフェンダーを生成し、スイカアームズからの攻撃を受ける。

ダメージこそ受けなかったが、これでは姿を消したドサマギで逃げるって手も使えない。

どうするんだよ、これ!

 

ふと、シグルドは誰かと話している様子だった。相手まではわからない。

だが、淡々と答え終わったシグルドは改めてソニックアローをこちらに向けてくる。

 

〈ロック・オン!〉

 

〈チェリーエナジー!〉

 

サクランボのついた光の矢(!)が飛んでくる。避けられないと判断した俺は

ディフェンダーで防ごうと試みるも、矢自体は防げたが……

アメリカンクラッカーの要領で攻めてくるサクランボのエネルギー体の直撃までは防げなかった。

二段構えの攻撃、だと……!

 

「ぐあ……っ!」

 

ダメージが大きすぎて、禁手を維持できない。分身をしまったのは正解だったかもしれない。

これだけのダメージを受けては、全滅は免れない……!

 

「……ああ、悪ぃ悪ぃ。俺としたことがムキになっちまったぜ」

 

「てめぇ、ただのディーラーじゃねぇな? こんなもん隠し持ってやがったなんてよ」

 

「こいつは非売品でな、悪く思わないでくれよ」

 

頭の上で談笑するフリードとシグルド。そう遠くにいないはずなのに声が遠くに聞こえる。

くっ……このままじゃ……

 

『チッ、セージ! 俺に代われ!』

 

『やめろアモン。お前が表に出た瞬間、今度はフリードがお前を狙ってくるぞ』

 

ダメージで神器は使えない。アモンは出られない。フリッケンも俺がこのざまでは……

つまり、万事休すだ。

俺がこの状態だからか、上で話している二人も俺より話に夢中になっているようだ。

 

「悪いついでにな、こいつの身柄を俺によこしちゃもらえねぇか?」

 

「はぁ? そりゃこっちのセリフだっつの」

 

「勘弁してくれよフリードさんよ。俺にだって事情――特別な依頼が入っちまったんだ。

 『宮本誠二ってやつの身柄を確保しろ』ってな」

 

……なんだ? フリードとシグルドの対話の雲行きが怪しくなってきたぞ?

うまく同士討ちしてくれれば、その隙に逃げられるかもしれないが……

だが今、回復させて動き出せば間違いなく集中砲火だ。しばらくは死んだふりか……

 

「……っざけんなよ! 俺ぁこいつに散々煮え湯飲まされたんだ!

 この手でボコボコにしてやらなきゃ気が済まねぇんだよ!

 なんでてめぇにこのクソ悪霊の身柄渡さなきゃならねぇんだよ!」

 

「……いきがるなよガキが! 大体そのロックシード、俺が寄越したもんだってこと

 忘れてねぇだろうな!? そっちのでかいバケモノはともかく

 てめぇ自身は俺に手も足も出ねぇだろうが!

 ロックシードのアクセス権限、初期化させる位わけねぇんだぞ!」

 

そう言うや、シグルドはスイカアームズの機能を停止させたようだ。状況を遠目に見る限りには

大きな緑色の鎧は掻き消え、ロックシードだけがぽとりと落ちた風に見える。

 

……ん? これって……

 

「てめぇっ!? 折角高い金出して買ったロックシードを!

 もの売っておいてこれはねぇだろうがよ! 不良品売りつけやがって!」

 

「言いがかりはよしてくれや。さっきまであれだけ活躍してただろうが。

 それに元々スイカロックシードは燃費が悪いんだ。

 あれだけ長いこと稼働させていれば、機能不全も起こすっつーの」

 

「…………チッ!」

 

いいことを聞いた。やはりあれだけの大型を維持するのは燃費が悪いらしい。

出来ればもっと早く知りたかったが。

 

「なぁ、大人になろうやフリードさんよ? 俺を敵に回したっていいことなんざ無いぜ?

 お前はロックシードの力が欲しい。俺はお前ってお得意さんがいて嬉しい。

 これ以上にいい関係なんざないと思うがねぇ? 賢明な判断を期待するぜ?」

 

はっきりとは見えないが、悔しそうにしているフリードが見える。

さっき言った通り、スイカアームズが起動する様子はない。

スイカアームズの件も含め、奴らの戦力はダウンしてるな?

よくわからないが、好機だ。だがこのまま奴らが同士討ちしてくれればというのは

さすがに楽観が過ぎるか。

 

「……いいや? よく考えれば、金なんざこれからケツ拭く紙が精々だってのに

 金にこだわる必要もねぇな。となれば答えは一つだ。

 てめぇを殺して、そのベルトごとロックシードを奪ってやる!」

 

「……そうかい。なら仕方ねぇなぁ……

 

 ――俺をなめるなクソガキが! 下手に出てれば付け上がりやがって!

 そもそも、ロックシードの扱いにはこっちに一日の長があるんだよ!

 大人に逆らったらどうなるか、徹底的に叩き込む必要がありそうだなぁ?

 危なっかしいテロリストを警察に突き出すのも、善良な市民の役割だからな!」

 

フリードの怒号に応えるように、シグルドも身構えたようだ。

しめた! 同士討ちに入ってくれた!

このまま戦況を見計らって、疲弊したところを隙を見て逃げる算段で行くか!

よし、流れが向いてきてくれたぞ……!

 

だが、これこそが俺の楽観であり、慢心であったことをすぐに思い知ることとなる。

その証拠は、空から聞こえてくるエンジンの駆動音が物語っていた。

遠目に見える青いスーツに黄色の鎧……まさか、あれは祐斗が言っていた

アーマードライダー、デュークではないか?

 

「そこまでだ。君たち二人が争っても何にもならないだろう?」

 

同士討ちを狙う俺を嘲笑うかのように、デュークは仲裁に入る。

まあ、とどめを前に同士討ちするのは三流のやることだから、仕方がないが……

 

状況を好転させる手札が、また無くなってしまった。




思った以上に長引いてしまいましたので、Cパートまで行かせていただきます。
と同時に、社会見学のユグドラシル編は次回Cパートで終わりになります

>フリード
長期連載の弊害には違いないんですが、登場当初シグルド機関の設定ってあったんですかねぇ?
ジークフリートを悪者っぽく、ってのがフリードの命名由来らしいですが……

宇門大介さんが何か言いたそうに見てる気がしますが、気のせいですよね

>シド
彼にかかればセージもフリードもガキ扱いなんですが
テロリストを突き出すって点に関してはマジでおまいう案件。
波岡氏には申し訳ないんですが、やはり個人的見解ですが小悪党が似合ってしまうんです。
でも、鎧武に味方するライダーの一人として活躍する場面もあるんです……

>デューク
ダンデライナーで飛んできました。

次回、オリジナルロックシードを出す予定です。

ヒント:レジェンドロックシード
    クロスゲートの反則技

    鋼のムーンサルト(あ、答え言っちゃったわ)


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Will15. 境界線上の遭遇戦 Cパート

長引いてしまったのでCパートです
そして、社会見学のユグドラシル編終了です


「そこまでだ。君たち二人が争っても何にもならないだろう?」

 

空からやってきた青いスーツに黄色の鎧を纏ったアーマードライダー。

祐斗の話が正しければ、デュークというとんでもなく強い奴らしい。

スイカアームズが無くなったというのに、また新手か。

これは、一体どうすればいいんだろうな。

 

「プロフェッサーか? チッ、なんだよわざわざこっちに来て。

 俺の仕事を取りに来たって言ったなら、流石に怒るぞ?」

 

不機嫌そうに戦闘態勢を解く二人。

……この時点で俺の目論見が外れたって事で雲行きがまた怪しくなったのに

祐斗の話ではデュークはかなり手ごわい相手だという。

スイカアームズが抜けて、デュークが来た。

数は兎も角、あまり状況は変わってない気がしてならない。

 

「君とは初めましてだね、フリード・セルゼン君。私は戦極凌馬(せんごくりょうま)

 ユグドラシル・コーポレーションでロックシードの開発をしている。

 君が使ったロックシードは、全部私の製作で、私の趣味だ。いいだろう?」

 

「けっ。初めましてならその面妖なマスクを取りやがれってんだ」

 

「これはすまない。だが、この辺りで不穏な反応が検出されたからね。

 万が一にも備えて、防護服という意味でも

 アーマードライダーシステムは使っておきたかったのさ」

 

フリード。こいつは言動こそエキセントリックだが時折こうして真っ当なことを言いやがる。

もしかして、環境がアレだったこうなっただけで、元来の性質は……

いや、それよりも今デュークが気になることを言っていた。

不穏な反応? 俺のディーン・レヴのことだろうか?

 

「で、シド。私はそこに転がっている宮本誠二の身柄拘束を依頼したはずだがね?」

 

「仕方ねぇだろ。そこにいるフリードが邪魔しやがったんだからよ」

 

「……チッ!」

 

ばつが悪そうにフリードが舌打ちしている。流石に状況は読めるらしい。

だが、俺の状況は一転どころか悪化した気がする。

スペックがシグルドと同等で、祐斗の話によれば特殊能力持ち。

人間の道具だから聖槍で封じることもできない。

 

……あ、これダメな奴かも。

 

「まぁいいさ。私自身彼――と言うか、彼の神器(セイクリッド・ギア)

 彼に憑いているもの(フリッケンとアモン)には興味があるがね。

 私の友人が『こいつを引き渡せ』って煩くてねぇ。引き渡す前に実験くらいはできるだろうから

 一刻も早くデータを取っておきたいんだよ」

 

戦極凌馬……確か、魔王とつながりのある人物だったはずだ。

となると、この場合引き渡す相手ってのは間違いなく、魔王絡みだろう。

そうなれば、当然俺は生きては帰れまい。ここでつかまるのは、終わりを意味する。

 

……だが、この戦力差をどう覆す?

 

『万事休すか。だが……

 

 ……セージ! 気をつけろ、何かが来るぞ!』

 

アモンの呼びかけに何かってなんだよ? と疑問に思う間もなく

俺達の背後に現れたのはクロスゲート。

ユグドラシルタワーの上空にあるんじゃなかったのか!?

しかも、稼働している……!

 

いや、確かにクロスゲートは自律移動の可能な建造物ではあるが――!

 

「ビンゴだ! やはり私の見立ては間違っていなかった!

 このクロスゲート、過去に御影町(みかげちょう)で作られたという『デヴァ・システム』との類似性がある!

 クラックとも違う次元転移装置と聞いて、私が目を付けたのはデヴァ・システム!

 これだ! これならば、クロスゲートの研究も大きく進む!

 やはり私の見立てに間違いはなかった! 私の研究こそが、世界を大きく変えるんだ!」

 

デヴァ・システム? 聞いたことのない装置だが……それ以上に!

クロスゲートが現出した以上、いつアインストかラマリスが出てきてもおかしくない!

状況を顧みず、俺は思わず立ち上がった。

フリードやシグルドは、面食らっているようだが……好都合!

 

「クソ悪霊! てめっ、まだ生きてやがったのか!?」

 

「今はお前らに構ってる暇はない!

 アインストかラマリスが出てくる前に、クロスゲートを何とかしないと!」

 

フリードを無視し、俺はクロスゲートに向き直る。

後ろではシドがデュークに詰めているが……相手している暇もない。

 

「どういうことだよプロフェッサー! これ、一体何なんだよ!?

 クラックとはどう違うってんだよ!?」

 

「まあまあ落ち着き給え。クロスゲートはあらゆる次元、時空をつなげる門。

 ヘルヘイムの森にしか繋がらないクラックよりも、より多くの可能性を秘めたものさ。

 そこから生まれる力は、クラックの、インベスのものとは

 多様性という意味で比べ物にならない。

 

 私はゆくゆくは、このクロスゲートの力を用いたロックシードを開発しようと思っているのさ。

 その試作品、ぶっつけ本番だが試してみるとしようか」

 

そう言うと、デュークはゲネシスドライバーを外し変身を解除する。

そこに現れたのは、白いメッシュの入った白衣に黒いパンツを履いた長身痩躯の男。

こいつが、戦極凌馬か!

 

「旧式の戦極ドライバー対応のロックシードでしか性能を発揮しきれないのは

 今後の研究課題だが……まあ、いずれ改良すればいいことだ」

 

〈ビルド!〉

 

〈ロック・オン!〉

 

「変身!」

 

空に開いたファスナーから現れたのは果物――ではなく

ウサギと戦車を象った眼をした赤と青の頭。

頭が落ちてくるってのはかなりシュールだが……

なんだか、どこか面ドライバーに似てる気がする。あるいは、アーマードライダーの頭とか。

 

〈カモン! ビルドアームズ!〉

 

〈ボトル・オブ・ジーニアース!〉

 

「クロスゲートから得た力で生成したロックシード。その名もビルドアームズ。

 知ってるとは思うが、ビルドとは『作る、創造する』という意味のビルドだ。

 どうだい、私にふさわしいだろ?

 即ちこれは、アーマードライダーデューク・ビルドアームズってところだね」

 

「……見てくれは変だが、自分から身体張るなんざいい度胸してやがるぜ。

 少なくとも、実験用の人間を集めるだけだったバルパーのクソジジイや

 教会のクソッタレどもに比べれば好感は持てるぜ、てめぇ」

 

ハンドサインでフリードの口の悪い賞賛に答えながら、デューク・ビルドアームズは

ドリルを模した剣でこちらを狙ってくる。くそっ、やっぱり狙いはこっちか!

相手は試作品とはいえ万全、こっちは満身創痍。正直どう考えなくとも不利だ。

辛うじて、回復のカードを切ることで態勢の立て直しは図れているが。

 

というか、クロスゲートから何かが出てくるかもしれないって時に

何考えてるんだ、こいつらは!

斬りかかってくるデューク・ビルドアームズの攻撃を往なすが

俺は逃げるので手一杯だった。そもそも、クロスゲートが稼働状態であること自体

好ましい状態とは言えない。どうすればいいんだ!?

 

「ハハハハハハッ! どうやら、フリード君やシドとの戦いで相当消耗したようだね。

 これでは私の満足いくデータ収集はできそうにないな?

 まだ、リアス・グレモリー君の方が頑張ってくれていたよ?」

 

クッ、祐斗の話は本当だったか。別に疑っちゃいなかったが……これは。

しかも悪いことに、デュークの力は祐斗に聞いていたからある程度検索しなくともわかるが

こいつは……わからん。ダメもとで検索をかけてみるか!

 

ERROR!!

 

――検索できない!? 検索できないほどに消耗しているつもりは無いが……っ!

無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)なら検索できるのだろうが、既に禁手(バランスブレイカー)は一度使っている。

二度目はあるまい。

 

『恐らくだが、あのロックシード……クロスゲートの向こう側の力で作られている。

 いつぞやのシスターと同じだ。クロスゲートの向こう側の存在は

 記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)では検索できないだろう?』

 

あの人と? ならば合点は行くが……

うん? となるとアインストは? あれもクロスゲートの向こう側から来たんじゃないのか?

過去アインストは何とか検索出来ていたはずだが。

もしかして、アインストって本当は……

 

「さて、こっちも長い間の変身は機材に負荷がかかるのでね。これで終わりにさせてもらうよ!」

 

〈ビルドスパーキング!〉

 

複雑な数式の嵐と共に、こちらに攻撃を仕掛けてくるビルドアームズ。

流れてくる数式は正直よくわからないが、それより攻撃がヤバそうだ。

これしかないと判断し、カードをリロードしてディフェンダーを再生成したが

当然、ガードは遅れるわけで……

 

「はっ!」

 

「うわあああああああっ!!」

 

――クロスゲートの手前まで吹っ飛ばされた。ディフェンダーも取り落とした。

ダメージが大きすぎて、うまく動けない。次の攻撃は恐らくまともに避けられないだろう。

こ、今度こそ本当にダメか……!?

 

「んー、やっぱ調整が甘いな。狙いが僅かにずれてしまったよ。

 ま、クロスゲートの研究はあてができたからゆっくり進めればいいか」

 

「プロフェッサー、いつの間にこんなロックシードを作ったんだよ?」

 

変身を解いた戦極凌馬と、シドがなにやら話している。

フリードだけは俺を睨みつけているので、隙を突くのも難しい。

 

『セージ。俺に代われ。この場を突破する方法ならある』

 

(アモン、お前に代わったらフリードが……)

 

『俺の魔力ならたんまりある。モーフィングはできるだろう?

 モーフィングで隙を突くくらいはできるはずだ。フリード一人くらいならな』

 

そうか、モーフィングで煙幕なりなんなり焚いて、その隙に逃げるわけだな。

よし、なら早速アモンに代わろう、頼むぞアモン!

 

「……ふぅ。やっと俺の出番か。逃げるだけってのが引っかかるが

 俺もこいつもここでやられるわけにはいかねぇからな……っと!」

 

「あっ! てめぇ!」

 

モーフィングで砂煙を煙幕切り替え、それに気づいたシドと凌馬が反応するも、時すでに遅し。

いち早く反応したフリードも、煙幕に視界が遮られている。

ここさえ振り切れば、何とかなる。

 

……だがアモン、どこから逃げるつもりだ?

 

「よし、ここを通って逃げるぞ!」

 

そう言ってアモンが突っ走ってる先は――クロスゲート。

ま、まさかここから逃げるってのか!? 無茶が過ぎる!

 

(無茶だ! どこに出るのかもわからないルートを通るなんて!)

 

「正攻法じゃ奴らは振り切れねぇ! 飛んだところでフリードに撃たれる!

 ならこっちから逃げた方がいい!」

 

『……大体わかった。セージ、腹くくれ』

 

フリッケンは納得している。おい、俺は納得してないぞ!

だが、アモンの言うことも一理あるといえばある。逃走ルート確保してないし。

まして相手が本気で狙ってきてる――少なくとも、俺にはそう見えた――以上

正攻法の逃走を図るのは正直無理だろう。

それに、シグルドやデュークまで追跡に来られたら、まず間違いなく勝てない。

 

……やるしか、ないのか!

 

「……まさか! フリード君、シド、奴を逃がすな!

 奴め、クロスゲートから逃走を図ろうとしている!

 クロスゲートから逃げられたら、追跡は不可能だ!」

 

「逃がすかよ、クソ悪霊!」

 

シドがけしかけたインベスや、フリードの銃撃を掻い潜りながら

俺たちはクロスゲートに突っ込む形になる。

輪をくぐった時点で、景色が大きく歪む。

まるで、果てのない大きな穴に落ちたように。

これに似た感覚は、過去体験している。

 

白金龍と出会う、その少し前に次元のはざまに落ちた時だ。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

「野郎っ!」

 

後ろの方で声が聞こえる。フリードの叫び声と、諦観したような凌馬の声。

だが振り返っても、顔を見ることはかなわない。なぜなら――

 

身体の自由が利かず、ただ自由落下に任せている形だからだ。

 

――――

 

「無茶させちまったな……悪ぃ」

 

(全くだ。ここからどうやって出るんだ)

 

『彷徨っているうちに出口には出るだろう。あれだけクロスゲートが開いているんだ。

 どこかしらには出られるはずだ』

 

事態は、とんでもない方向に進んだとしか思えない。

だがあのまま捕まっていれば戦極凌馬のモルモットにされた後

魔王に身柄を引き渡されていた。

そうでなくとも、フリードの私刑を受けてただでは済まなかっただろう。

そういう意味では、まだ未来に進む道があるだけマシということか。

 

 

――だが、それは俺の大きな楽観視だった。

 

 

クロスゲートに漂っているものが、ディーン・レヴに大きく影響を与えていることを。

そして、俺自身や、アモンにも影響を及ぼしていることを。

 

 

その時の俺たちは、知る由もなかったのだ――




逃走にクロスゲート使うとか確か第三次αかムゲフロであったような、なかったような……
今回はOG設定兼ねてるのでえらいことになってると思います。

>ビルドアームズ
都合上レジェンドロックシードはドライブまでしかありませんでしたが
ゴースト、エグゼイド、ビルドとそれ以降のロックシードがあれば
こうなったかな、というifの産物です。
音声は洋風音声(レモンアームズが洋風音声なので)です。
二人とも天才だけどベクトルは全然違いますよね(同じだと困るけど)。
必殺技はボルテックフィニッシュ風。ジオウビルドアーマーみたく
「よくわかんない数式」にはなってません。セージが変身した場合なるかもしれませんが。
(というかソウゴが特別アレでなくとも、戦兎クラスを高校生でってのは色々無茶が……)

>クロスゲートとデヴァ・システムの繋がり
強ち的外れでもないと思ってます。
どちらも強い念に影響を受けるようですし。
デヴァ・システムはお粗末とはいえ世界一個作れるほどヤベー代物です。
一応、作ったのは(ニャル様の入れ知恵があった可能性は高いですが)人間ですし
これで人間側からクロスゲートへの干渉のカギがこれで出ましたが
見つけたのがよりにもよって凌馬である以上、ろくなことにならなさそうな……

でも各神話勢力・三大勢力共にクロスゲートへの有効な対処法がまだない以上
これで人間リードしちゃうんですよね……
それが後々酷いことにならなきゃいいんですが。

>クロスゲートの中に漂っているもの
OGMDでは、これでサイバスターがえらいことになったりしてますが
(より正しくは積んでるもののせいですが)
今のセージもこれに近い状態ではあります。


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合同学習のプレアデス
One week ago.


筆のノリがいいですねぇ、すごいですねぇ
※今回三人称視点とは言えイッセーパート含んでます


セージが入院の話を聞かされた後――

 

 

―駒王町・宮本家―

 

 

「おっそいにゃんセージ! 女を待たせるとかそれだけで減点対象にゃん!」

 

「姉様、セージ先輩は急な入院で帰ってくるのが遅くなるって言ってましたから……」

 

「それも問題にゃん! 人に心配かけるとかそれこそ減点だにゃん!

 そもそも白音だって不調を訴えてるにゃん!

 セージ一人何呑気に病院のベッドで寝てるにゃん!

 私も入れてほしいにゃん!」

 

紆余曲折で帰るのが一週間も伸びてしまったセージに対し

これまた諸般の事情から宮本家に居候している猫魈(ねこしょう)の姉妹の姉である黒歌は

毎日のように管をまいていた。

 

「……私はまだ大丈夫ですから……というかそれが本音ですか」

 

さりげなく同衾を訴えているあたり、自分は出汁にされているのかと黒歌を白眼視する妹の白音。

その際「……自分だって我慢してるのに」とぼそりと呟いたかどうかは、定かではない。

 

白音は体質的に、体を流れる気の力がうまくコントロールできない。

最近でこそ、ある程度制御できるようになったがそもそも気の量が器に対して多すぎるのだ。

器が小さい、とも言えなくもないが。いろいろな意味で。

そのため、定期的に気の吸収を行う必要がある。その担当が、セージだったのだが。

 

今はまだ周期的に白音の気の吸収はまだやらなくてもいいはずなのだが

白音が最近体の不調を訴えている。

それを回復する役のセージがいないことが、黒歌には不服らしい。

同衾(どうきん)相手がいないことへの不服もあるが。

 

なお、黒歌はしきりにセージに同衾をせがんでいるが

セージの答えは「猫状態なら許す」の一点張りである。

これは白音相手でも同じである。セージの男子高校生特有とも言える心情もあるのだが

この意見に対しては姉妹共々難色を示している。

なぜなら猫状態で布団にもぐった際「セージが寝返りを打った際に潰されかけたから」だ。

これにはいくら猫魈といえどもたまったものではない。

詫びとしてその次の晩以降はなし崩し的に同衾が認められているが

セージとしてはたまったものではない。

 

喧々囂々と姉妹でまくし立てているところに、ニュースが入る。

セージが向かった先であるユグドラシルタワーが映ったことに気づいた白音が

黒歌を宥めすかす。

 

「……続いては、先週起きました沢芽(ざわめ)市のユグドラシルタワー爆破事件に関する続報です。

 捜査の結果、『D×D』を名乗る集団から沢芽市およびユグドラシル・コーポレーションに対し

 声明があったことが明らかになりました」

 

「…………!?」

 

アナウンサーの読み上げた「D×D」という単語に、極端に反応を示す白音。

しかし、黒歌は何のことだかわからずに首を傾げるばかりだ。

 

「白音、聞いたことあるの? 『D×D』って」

 

「い、いえ……無いはずなんですけど……

 なぜだか……『よく知っている』ような気がして……」

 

デジャヴ。そうとしか言えない白音の反応。しかし、そもそもD×Dとは一体何なのだ。

白音も黒歌も、そこの部分は全くわからない。

新手のテロ組織だろうか。話の流れからして、そうとしか思えない。

 

「本日はコメンテーターとしてフリージャーナリストの李覇池(リー・バーチ)さんをお迎えしております。

 李さん、本日はよろしくお願いします」

 

「あーっ! あいつこんなところにいたのかにゃん! 最近見かけないと思ったら!

 って言うか、あいつ悪魔じゃないの! 悪魔が何食わぬ顔で

 人間のTVに出ていいとでも思ってるのかにゃん!?」

 

リー・バーチ。セージも世話になった、冥界のフリージャーナリストだ。

彼の活動範囲は幅広く、魔王直属部隊イェッツト・トイフェルお抱えになった現在もこうして

人間界に情報を拡散していた。

 

「俺もまだ確かなことは言えないんですがね。フューラー演説があったじゃないですか。

 それに対抗する形で、『反禍の団(アンチ・カオス・ブリゲート)』とも言える集団がちらほら出ているって噂ですよ。

 自分らはテロ対策組織だなんて名乗ってますがね……

 武力を用いてる時点でテロリストですよ、テロリスト。

 きちんと統制の取れた、信頼のおける武力組織――軍隊とか、この国なら自衛隊ですね。

 それ以外の武力組織なんて危なっかしいことこの上ないですよ。

 私設武力集団なんて、俺に言わせればテロリストと大差ないですね」

 

「つまり、『D×D』とはテロ対策組織を自称する私設武装集団ということで

 間違いないのでしょうか?」

 

「そうですね。もっと言えば、テロリスト予備軍と言えるかもしれません」

 

リーの一方的な、しかし確たる情報がない上での情報提供に、アナウンサーも目を白黒させながら

リーに対し確認を取っていた。

 

「まぁ……リーの言いたいこともわからんでもないわね。

 大方、国が信用できないからって自分らで禍の団(カオス・ブリゲート)をどうにかしようって

 血気に逸って蜂起したんだろうけど。

 弱い奴、何も知らない奴に出しゃばられてもはっきり言って邪魔なのよね……

 

 ……白音? 白音?」

 

「…………ちが……っ……D×Dは……そんな……組織じゃ…………」

 

一方、白音は元々は綺麗であろう色白の肌が青褪めるように酷い顔色をしていた。

それは、D×Dなる組織に対する悪意とも取れる放送での発言に対してだった。

しかし、白音はD×Dの事を知らないと言っているのに、うわごとではあるが

放送の内容を否定するかのような発言をしている。

あからさまにおかしい白音の様子に、黒歌はテレビを消し、自分の気を白音にやっていた。

 

「大丈夫、落ち着きなさい白音。お姉ちゃんがついてるにゃん」

 

「はぁっ……はぁっ……違うんです……ごめんなさい姉様……」

 

白音の頭を撫でながら、黒歌は白音をベッドまで運んで行った。

――D×D。自分はもとより、白音も知らないはずの名前。

それなのに、何でこうして白音は反応を示しているのか。

まるで、何かの呪いであるかのように。

 

(D×D……セージが帰ってきたら、まず聞いてみるべきね。

 私の知らないところで、白音が参加していたのかもしれないし。

 けれど、私の知らない白音の交友関係なんてリアス・グレモリー絡みしか無いはずだけど……

 そのリアス・グレモリーとも、縁は切れてる。

 ここ最近にできたらしいD×Dとは繋がらないわ。

 

 ……あーもう! 私は頭使うのは苦手だにゃん!

 この知恵熱はセージに全部吸い取ってもらうにゃん!

 だから早く帰ってきてー!)

 

実際のところ、家事はセージの母が仕事帰りにやっているのだが

ピンポイントでも担当していたセージが抜けたため

宮本家の中のありさまはそこそこ酷いことになっている。

家事能力が致命的に無い黒歌は、そういう意味でもセージの帰りを心待ちにしていたのだ。

 

 

――――

 

 

――時間城・駒王町支店――

 

「――なぁるほどねぇ……そういう方向で来たか……」

 

店番をしながら、TVを眺めていた店主・布袋芙(ほていふ)ナイアがぽつりと呟く。

その呟きに、この店に――ナイアに引き取られた兵藤一誠が反応する。

 

「TVの話っすか? そういや、『D×D』ってどこかで聞いたような……」

 

一誠のどこかとぼけた反応に、思わずナイアは苦笑する。

傍から見れば、仲の良い姉弟にも近い風にも見えるのだが。

 

「忘れてしまったのかい? 珠閒瑠(すまる)市のアラヤ神社、その裏の岩戸山にあった

 『鏡の泉』で見た君の『虚億(きょおく)』の中にあっただろう。

 三大勢力トップの後援を受け、禍の団を始めとしたテロ組織に対抗するべく結成されたチーム。

 悪魔・天使・堕天使の垣根の存在しない、夢のチームだったじゃないか」

 

「わ、忘れてないっすよ! た、ただそれ以上の事があって……」

 

耳まで顔を赤くしながら、ナイアに反論する一誠。

D×Dに関する説明はナイアのもので合っているが、一誠の記憶からは抜けていた。

「虚億」には間違いなく存在していたのだが、「この世界の兵藤一誠」に

D×Dに関する記憶はないし、そもそもこの世界のD×D結成に一誠は関わっていない。

 

「ぷっ……あはははははっ! 本当に君は可愛いなぁ。

 もしかしてあの時の事を思い出したのかい?」

 

ナイアの指摘に、さらに顔を赤くし前屈みになる一誠。

鏡の泉での出来事を、鮮明に思い出してしまっていたのだ。

話の内容は忘れているのに、そこで起きた出来事は鮮明に思い出せるのは

彼が兵藤一誠であるから――というより、これくらいの年代の少年ならば

無理からぬことではあるのだが。

 

「思い出させてしまったお詫びに、その熱の源を鎮めてあげようか?

 なに、お店なら心配ない。最悪イリナ君にでも店番させておけばいいさ」

 

「えっ!? いやっ、それは……イリナに悪いし……」

 

一誠を自分の胸元に抱き寄せ、頬を指で撫でながら耳元で囁くナイア。

どう見ても、誘っている言動であり、しかもイリナに店番を押し付けるという

恐ろしい提案まで持ち出している。

一誠が優柔不断であるが故か、その提案は却下されることとなったが。

 

「そうだね。じゃあ、イリナ君も仲間に入れるかい?

 君が言えば、彼女はなんだってするんじゃないかな?」

 

「いやっ、そ、それはっ!? 不誠実って言うか、なんていうか……」

 

ナイアの豊満な肢体と、イリナの健康的で瑞々しい肢体。

その二つが自分の身体に絡みつく、その様を想像した一誠は即座に興奮状態に陥るも

ギリギリのところで理性を保っていた。鏡で見れば、酷い顔であるが。

 

(……な、何の冗談だいそれは! 君が、性欲魔人たる君が!

 誠実かそうでないかを判断材料にするなんて! 笑いすぎて死にそうだよ!

 

 ……っとと、あまり笑ってはいけないな。

 イッセー君は真剣なんだ、それを笑ってはいけないな)

 

ナイアもまた、一誠のある意味無意味な抵抗に笑いを禁じえなかった。

顔に出ないようにしていたのは、彼女も同じだったのだ。

 

「ただいまー……あらあら、お二人とも仲良しですわね。私も仲間に入れてくれないかしら?」

 

学校から帰ってきた朱乃が、ナイアと一誠の間に割って入る。

一誠はちょうど、朱乃とナイアのボリューミーな柔肉に包まれる形となっていた。

 

「ふぉ、ふぉふぁへりなふぁいふぁふぇのふぁん……」

 

「あんっ、イッセー君ったらくすぐったいですわ」

 

返事をする一誠だが、その口や鼻の位置は丁度朱乃にとっても敏感な場所であるため

一誠の呼吸で生じる空気の流れがこそばゆかったのだ。そのため、つい声が出てしまう。

 

「……朱乃君。僕は今日は非番とはいえ一応教師なんだ。

 その教師の目の前で、不純異性交遊はいかがなものと思うけどね」

 

「あらあら、先生こそイッセー君を真昼間から誑し込もうとしていたじゃないですか、うふふ」

 

「……ああ、それもそうか。なに、教師らしい事を言ってみただけさ。ふふっ」

 

イッセーのみならず、朱乃さえもおちょくって遊んでいるナイア。

本物の大人の余裕だろうか、対する朱乃の方もナイアに対して

ギスギスとした感情は向けていなかった。だが――

 

「ダーリン、店長、掃除終わった……ってこら堕天使!

 何勝手にダーリンにくっついてんのよ!」

 

「おや、ご苦労様イリナ君。お茶でも……」

 

「ふぃ、ふぃりな! ふぉふぉであふぁれたらおふぃふぇのなふぁふぁ!」

 

イリナを制止しようとする一誠だが、4つもの乳房に包まれた状態では何の説得力もない。

むしろ見苦しい。しかも一誠を包み込んでいるそれは、いずれもイリナよりも大きい。

ナイアはまだいい。名実ともに自分より年上の大人であるから。だが朱乃はなんだ。

自分とそう大差ないのに、なんでこんなにでかいのだ。そこもイリナにとっては不服だった。

 

「ごめんなさいねイリナちゃん。このイッセー君、二人乗りなのよ」

 

「どっかの金持ちのボンボンみたいなわけのわからない言い訳するな!」

 

完全におちょくっている朱乃に対し、ころころと表情を変える形で噛みつくイリナ。

しかし、イリナ当人も気づいていないことだが、朱乃を堕天使呼ばわりしているが

朱乃に対し種族としてのヘイトは向けていないのだ。女としてのヘイトは向けているが。

朱乃もまた、堕天使と呼ばれても流している。かつてあれほど堕天使を嫌悪していたのに。

 

これだけ見れば、彼女たちは過去の楔から解き放たれたようにも見える。

しかし…………

 

 

…………問題対処の方法は、何も立ち向かう、受け入れるだけではないのだということもまた

彼ら、彼女らは知らされていないのだった。

 

 

唯一知る存在は、この光景を心のどこかで嘲笑いながら眺めている。

自分自身もまた、騒動の渦中に身を窶しその混沌を楽しみながら。




原作イッセーよりは恵まれてないかもですが、現状はそれなりにおいしい思いしてます
……まあ、釣り針ももれなくついてますがね

>猫姉妹
寝返りで潰しかけたってのは多分赤土ってやつの実話
上には乗れど、頑なに布団の中には入ってきませんでしたから
自分だけ布団の中に入ってる、は割とありましたが

黒歌が割とポンコツお姉ちゃん化してる気がする
これ多分赤土ってやつの性癖

>リー・バーチ
こいつ機動力考えたら使い勝手いいんですよね……
お抱えの癖に割と自由に動ける。しかも元ネタキャラ的に割とマスゴミ行為も遠慮なくできますし
(バオクゥにマスゴミやらせるのはちと抵抗が……元ネタと師事的な意味で)

>D×D
今回の虚億案件
名付け親である白音はかなり反応しました、案の定
虚億の中では掛け値なしにイッセーハーレムの一員ですが
拙作ではんなこと無いので虚億と実億の差が酷いことに。
イッセーもある意味酷いんですがね。

なお、テロ対策組織の原作に対し、テロ組織一歩手前認定されてるのは例によって皮肉です

イッセーらが関わる前に設立されたことと、ナイアの発言から
このD×Dは……

>ナイア
どこまで本心か、どこまで戯れか
彼女は間違いなく身を滅ぼすタイプの毒婦だと思います、正体の話抜きにしても
しかも男(イッセー)だけでなく女(朱乃、イリナ)も滅亡コースに
正体考えたら両刀でも何ら問題ないですがというか多分赤土ってやつの性癖

>イッセー
D×Dが声明を上げたのに、こんなところでスケベに注力してていいのでしょうか
いいんです、なぜなら彼はイッセー
順番が違っても、最終的にハーレム王になれさえすればいい
というのが最近のイッセーの指針になってる気がします(ナイアの誘導もあるでしょうが)

>朱乃とイリナ
多分色々な意味で原作と遜色なくなっちゃった人ら
まあ、イリナは御使い化してないって違いはありますが
(どうでもいいけど、御使いって聞くと第三次Zのあのクソ集団思い出してちょっと)

お色気もできて、戦闘もできる、それでいて忠実
……本当、都合のいい存在だこと


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Grape transferee

筆は乗るんですが、セージが出てきません
まぁ、前作・前々作共にそういう場面は少なくなかったですが


 

――駒王学園――

 

 

セージはまだ、沢芽(ざわめ)市の病院に入院中である。

しかし、学園生活はセージの動向とは関係なく進んでいく。

今回取り決められるイベントもまた、その一つであった。

 

「――というわけで、昨今の世情を顧みた上で今年の修学旅行は中止。

 代わりに、珠閒瑠(すまる)市にある七姉妹学園(ななしまいがくえん)との合同学習会とする」

 

七姉妹学園――通称セブンス。

10年前、珠閒瑠市では当時の流行の先端を行く高校であったが

今はありふれた高校にまで落ち着いている。

当時のセブンスが特別だったというか、同じく珠閒瑠市にある春日山(かすがやま)高校――カス高が

共学化で目覚ましい発展を遂げた比較で、そう見えてしまっていただけかもしれないが。

 

さて、修学旅行の代わりに合同学習会と称しセブンスに向かうという

この教師の発言には、生徒からは非難轟々であった。

修学旅行ともなれば、学生のメインイベント。

それが取りやめられ、合同学習会になったと言うのだ。

さる田舎の高校では、これが常時実際に行われているという噂もあるが。

 

「静かに! そもそも京都は無理だ。京都府知事が非常事態宣言を発令し

 外部から京都へ入ることはできなくなっているんだ。

 それに伴って、新幹線も米原と新大阪で折り返しになっているし、高速道路も不通だ。

 それもあって、珠閒瑠市側からの提案もあり今回の形になったんだ」

 

事実である。この日の朝、京都府は非常事態宣言を発令。

京都駅の封鎖、各ICの封鎖など陸路をシャットアウトしたのだ。

これはテロリスト対策ではあるのだが、転移のできるアインストやインベスに対しては

あまり対策になっていない。こちらは、京都にある神仏同盟の部隊や

隣の奈良からの応援である蒼穹会(そうきゅうかい)が当たっている形だ。

 

これは、京都に限った形ではない。

日本国内においても、非常事態宣言を発令する道府県は増加の一途にある。

軍事施設の多い沖縄、日本海側を守護し、かつ神仏同盟の拠点の一つである島根。

太平洋の守りの要になりうる神奈川も、近々非常事態宣言が発令されることになるだろう。

 

すでに大規模な攻撃を受けた北海道、福島などもある。

決して、夢物語などではないのだ。

 

「寧ろ、こんな状態でよく修学旅行とやらに行けるな」

 

ゼノヴィアが率直な感想を口にする。彼女は学生生活というものを経験していないため

修学旅行というものを理解していないため、口に出たのだが

そんな彼女の意見こそ、駒王学園の大半を占める生徒の中では異端なのだ。

 

「いや、修学旅行っつったら俺らの一生もんの思い出だよ!?

 そりゃ今のご時世酷いもんだけどさ、行けるもんなら行きたいじゃんか!」

 

「そうだって。ゼノヴィアさんが前どこの学校にいたのか知らないけどさ

 小学校、中学校と修学旅行は経験してるはずだろ?」

 

元浜の意見は日本人ならば義務教育の関係上当然かつ平凡なものであった。

だが、ゼノヴィアはそもそも日本人ではない。学校にしたって、教会の教育機関につきっきりだ。

当然、修学旅行などという習慣はない。

松田と元浜の言葉にも、ゼノヴィアはただ首を傾げるだけだった。

 

「とにかく! 急な話で悪いが、京都への修学旅行は無理だ。

 ほかの地域も今からじゃ宿が取れない。

 珠閒瑠市が辛うじて、名乗り出てくれたんだ。

 七姉妹学園の生徒に笑われないように振舞えよ、いいな?」

 

言うだけ言って、教師は教室を後にする。少し早いが、HRの時間の終わりである。

非常事態宣言発令自体が急なため、駒王学園側としても対応に苦慮していたのだ。

そこに珠閒瑠市からの申し出があり、駒王学園は渡りに船という形で

今回の提案に乗ったことになる。

 

この場にいる誰もが知らないことだが、珠閒瑠市がこの提案を出したのは

珠閒瑠市出身の議員、須丸清蔵(すまるせいぞう)の影響によるものが大きい。

一介の国会議員に過ぎないが、彼の影響力は底知れない。

 

「珠閒瑠市か……どんなところなんだろうな」

 

「私も駒王町以外のところはよく知らないので……」

 

「イッセーの奴が昔珠閒瑠市にいたって話は聞いたけれどな」

 

兵藤一誠が昔珠閒瑠市にいた。これはアーシアもゼノヴィアも知り得ている

というか共有する形になった情報だ。

兵藤一誠と天野夕麻の因果関係を調査する際、一誠の過去と夕麻の交友関係などを洗った結果

一誠が中学時代に起こした同級生に対するセクハラ行為によりその生徒が不登校になり

夕麻はその復讐のためにレイナーレと契約し、レイナーレに協力していた。

しかし、それが遠因となり夕麻は一誠に殺される形になったのだ。

殺害事件を引き起こしたことで一度は逮捕された一誠だが

現在は証拠不十分ということで釈放されている。

これにも、須丸清蔵――より正しくは須丸清蔵と契約しているサーゼクス・ルシファーだが――が

絡んでいる形だ。

 

その前からも紆余曲折で駒王学園から孤立していった一誠だが

今は時間城でナイア、イリナ、朱乃と暮らしている。

どちらが幸せかを語るのは、野暮にすぎないだろう。

彼にとっては、駒王学園での生活よりも

時間城で美女美少女に囲まれる生活の方が充実しているのだ。

 

――例え、親元を勘当されたとしても。

 

「はぁ……あれの事だ。どうせいたとしてもろくな話はないだろう」

 

「まぁな。いろいろあってこっちに来たって本人は言ってたが、今思えば察しはつくさ」

 

元浜も直接聞いていないが、顛末は想像がつくと言っていた。

ただ、彼らは天野夕麻殺害との因果関係にまではたどり着いていないが。

一誠は、悪魔の側に寄り過ぎた。それはこの場にいる全員が思っていることであった。

そう、自身も悪魔となったアーシアでさえも。

 

 

――――

 

 

翌日。先日の修学旅行の件とはまた別の件で教室は騒がしかった。

このクラスに、転入生が来るというのだ。

このタイミングで? と思いながらも松田と元浜は転入生が美少女だと勝手に思い込んでいる。

こういうところは、前と変わらない。

 

教師の案内で入ってきたのは、残念ながら男。

だが、どちらかと言えば中性的な雰囲気であるが、男である。

少なくとも、ギャスパーよりは男よりの顔立ちである。

 

呉島光実(くれしまみつざね)です。よろしくお願いします」

 

「……あっ! 光実さん!」

 

転入生とは、ユグドラシル・コーポレーション開発主任である呉島貴虎(たかとら)の弟にして

自身もユグドラシルの手伝いをしている光実。

そして、オカ研の企業見学の際に案内をしていたのだ。

 

「なにぃ!? アーシアちゃん知ってるのか!?」

 

「企業見学があったじゃないですか。その時に……」

 

「静かにしろ。光実君、君の席はあそこの……」

 

興奮する松田を注意し、席に着くように促す教師。

その席は、アーシアの後ろであった。

 

「光実さん、よろしくお願いしますね」

 

「あ、うん……よろしく頼むよ」

 

見知った顔がいたことに複雑な顔を見せる光実だが、その表情はさらに変わることとなった。

松田と元浜が因縁をかけてきたのだ。

 

「おい新入り、アーシアちゃんに色目使うんじゃねぇぞ」

 

「そうだぞ、あとゼノヴィアさんと小猫ちゃんにもな」

 

初対面にもかかわらず突っかかってくる松田と元浜に、光実は辟易としていた。

光実にとって、関わり合いになりたくない部類の人間であるのも大きい。

 

(……黙ってろよ、クズが。

 全く、いくら兄さんの指示だからってなんで僕がこんなところに来なきゃいけないんだ。

 駒王町の実情調査ってのはわかるけれどもさ……)

 

内心で暴言を吐きながら、光実は自分がここにいることを苦々しく思っていた。

だが渡りに船はあるもので、光実に対し暴言を吐いた松田と元浜はゼノヴィアを始めとした

クラスの女子中から非難を浴びることとなった。

まだ駒王学園は女子の比率が高いため、これには松田と元浜は分が悪い。

そうでなくとも、かつては一誠と組んでやんちゃをしていたのだ。そもそもの評価が低い。

 

だが、ゼノヴィアを除いたその攻撃たるや

心の中で暴言を吐いた光実がドン引きするレベルで酷いものだった。

人格否定は当たり前、かつての悪事をねちっこく責め立て、反論さえも許さない。

しかも教師は我関せずとばかりに無視を決め込んでいる。

 

(なんだよこれ……聞いてた以上に酷いところじゃないか。

 この世に理由のない悪意は数知れないって兄さんは口癖のように言っていたけれど

 ここにあるのは……まさしくそれじゃないか!)

 

「やめないか! 確かにミツザネに喧嘩を売ったのはこいつらだ。

 だが、だからって今関係ないことを持ち出す必要はないだろう?」

 

「で、でもこいつら……本性を現した風で……」

 

ゼノヴィアの制止に、片瀬と村山が消え入るような声で反論する。

被害者の筆頭である彼女らだが、その反動か松田と元浜に対しては

かなり懐疑的な目を向けていたのだ。

学園のプリンスである木場も悪魔だからという理由で懐疑的な目を向け

ここに来て「人間のイケメン」である光実が来たことで

舞い上がっていた部分もあった(光実が悪魔でないと証明されたわけではないが)。

そんな光実に攻撃的な態度をとったのだ。彼女らにしてみれば格好の攻撃の口実になった形だ。

 

「私は過去のこいつらをよく知らない。だから今の行いだけで評価する。

 それは君たちも一緒だ。悪いことは悪い、良いことは良い。それで十分じゃないか。

 なあ、ミツザネ?」

 

「変な騒ぎが起きなければ、僕としても問題ないですよ」

 

毒気を抜かれたように、騒ぎが収まる教室。

ゼノヴィアの態度は間違っていないが、部外者視点の発言でもあった。

彼女は、松田と元浜の被害を受けていないと言い切っていい

(実際には元浜に変な目を向けられたが)。

そして、現状の平和な日常とは程遠い中での学校生活だ。

不要な騒ぎは起こすべきでもないし、諍いの元など無いに越したことはない。

故に、ゼノヴィアは松田と元浜を許しているが――被害者はそうもいかない。

例え、彼らが改心し更生したとしても、罪が消えるわけではないのだ。

 

ただ、今回は当事者である光実が深く追求しない態度をとっているため

松田と元浜を攻撃する口実がない。そのために矛を収めたといっても良いだろう。

 

「……いいか? 授業を始めるぞ?

 昨日やったところからだが……光実は隣の……あ、疎開でいなくなってたか……

 じゃあ宮本……もいなかったな。仕方ない、アーシア。光実に教科書を見せてあげなさい」

 

「はい!」

 

さっきまでの喧騒が嘘のように、アーシアは普段と変わらぬ態度をとっていた。

それは彼女にとって光実がどうでもいい存在だから、という意味ではない。

 

(ごめんなさいね、あとであの人たちには「言って聞かせ」ますから)

 

「…………え?」

 

光実は、小声で話しかけてきたアーシアの真意が読めなかった。

ただ一つ言えるのは、必要以上に暴言を吐いた女子生徒がこぞって謎の感電をし

痺れるような痛みを訴えたということである。

 

 

――――

 

 

「……そうですか、珠閒瑠市ですか」

 

「光実君は、珠閒瑠市は行ったことがあるのかい?」

 

昼休み。話す機会のなかった木場とも対話する光実。

この場にいるのは光実と木場以外にはアーシア、ゼノヴィア、白音、松田、元浜。

割と普段のメンバーである。朱乃はナイアに呼び出されているらしく、この場にはいない。

 

「いえ。僕は基本的に沢芽市からは出ませんし。今回の転入だって急に決まって……」

 

「それで合同学習会だから、慌ただしいよな。ま、駒王町に観光スポットなんかないけどな」

 

松田の言う通り、慌ただしい。

駒王町に来たと思ったら、今度は学校行事で珠閒瑠市だ。

ハードワークはユグドラシル手伝いで慣れているとはいえ

慣れない環境に、めまぐるしく変わる環境は負荷が大きい。

 

(調査というから一応ドライバーとロックシードは持ってきたけど……

 駒王町は兎も角、珠閒瑠市の情報なんて無いぞ? 臨機応変に行動するのも大切か……)

 

「……セージ先輩がいれば、わかったかもしれませんけど」

 

白音の違う意味も含んだかのような声色の提案に、アーシアらは納得したように頷く。

松田と元浜もまた、何か勘違いしながらも頷いていた。

光実も一瞬考えこんだ後に「ああ」と納得していた。

彼の場合、アーシアらと同じ理由で納得したようだが。

 

「あれで色々博識だからな、セージ。つか、あいつ本当に高校生?」

 

「言えてる。実は3回位ダブってたりし……あだっ!?」

 

茶化す松田と元浜を、不機嫌そうな眼をした白音がどつく。

勿論、セージに留年の事実はない。そもそもどちらかと言えば貧乏な彼の家で

留年は死活問題だ、学費的な意味で。

それが馬鹿にされたと取れてしまったのか、白音は不機嫌そうであった。

 

「悪かったよ小猫ちゃん……っつかさ、なんか小猫ちゃん、セージに対して……」

 

「なにぃ!? どう見たって犯罪だろ!? こんな愛らしい小猫ちゃんと

 あんなでかいセージが一緒にいるなん……あだっ、あだだっ!?」

 

「……君たち、懲りるということを勉強した方がよくないか?」

 

照れ隠しが大半を占める勢いで繰り出された一撃は、無遠慮であった。

その光景には、ゼノヴィアも呆れることしかできなかった。

苦笑いを浮かべながら眺めるアーシアに木場。

 

――対して光実は、冷めた様子でその光景を眺めていたのだった。

 

 

束の間の平穏な学生生活。

しかし、そんなものはあっという間に掻き消える環境にいることを、一瞬たりとも彼らは忘れてしまっていた。

それを物語るように、空を暗雲が覆い、得体のしれない怪物が現れる。

 

「あ、あれは……?」

 

「はぐれ悪魔……いや、討伐依頼は来てないはず……!」

 

「討伐依頼より先に、奴らが動き出したということか?」

 

「…………悪魔のにおいがします。でも、今までの悪魔とは少し違う……?」

 

アーシア、木場、ゼノヴィア、白音がこぞって反応する。

悪魔の存在は公のものとなっているが、それでも大規模な行動は今のところ、無い。

だが、今はどうだ。空を覆う飛翔体の群れは、アインストやインベスとは違う。

異形の存在という意味では、さして変わりはないが。

 

「と、とにかく急いで避難しないと!」

 

「そ、そうだな。光実、お前も避難す――」

 

差し伸べられた松田の手を、光実は拒んだ。

払いのけたとか、険悪なものではない。その目は、戦場に向かう戦士の目であった。

 

「僕は大丈夫です。戦うための力なら、ありますから」

 

「そうだったね。光実君、君の力を貸してくれ。

 アーシアさんは二人をお願い、ゼノヴィアさんと白音さんも僕に続いてくれ」

 

朱乃がいない以上、木場が陣頭指揮を執ることが多くなった。

本来眷属という立場でとるべき行動は、主であるリアスの指示を待つことだが

そもそもリアスの指揮下にいないゼノヴィアや白音、光実にしてみれば

その行動は悪手もいいところだ。

彼らの心情を考慮すれば、先行することもあながち間違いではない。

 

(ふう、僕は別に前線指揮官向きとは思ってないんだけどね……

 まあいいや。相手の戦力がわからないから下手を打てないけれど

 被害が出る前に、やるしかない!)

 

駒王町にやって来た呉島光実。

彼の駒王町での初陣は、思いのほか早く行われることとなる。

駒王町に現れた謎の飛翔体。その正体は、何者なのか――




ミッチ駒王町に来る。
そして修学旅行ですが、ペルソナ4方式をとることにしました。

……いや、アインストだのインベスだのクロスゲートだの出てきておいて
そこに付け加えてある意味原作以上に禍の団が暴れてる。
とてもじゃないですが修学旅行やってる場合じゃないです。
(構成自体は前から練ってたんですが、リアルがこんな有様なのは完全に想定外)

京都府は妖怪勢力とも口裏を合わせ、緊急事態宣言を発令しました。
よって、修学旅行イベントは大幅に変更がかかります。

>アーシア
原作とは違う意味で「黒さ」が目立ち始めました。
普通に蒼雷龍けしかけてます。もちろん微弱な電流ですが。
本人自覚してませんが、悪魔の駒の影響かもしれません。

>松田と元浜
残念ながら、少しでも隙を見せればこうして袋叩きです。
しかもイッセーがいないからヘイトが集中、庇い立てするセージがいないと
逆風拭いてる状態でした。ゼノヴィアいなかったらどうなっていたか。
まあ、人は簡単には変われませんし。

>ミッチ
内心では黒化フラグが少しずつ立ってますが……彼もどうなることやら。
因みに持っているのは戦極ドライバー、ブドウロックシード、キウイロックシード、ローズアタッカー。
そしてもう一つ、ロックシードを持っています(オリジナルです)。

>討伐依頼より先に動いた~
ゼノヴィアが指摘してますが、これ以前にも普通にありうるレベルだと思うんです。
まさか、常に先手を打って討伐依頼が出されていたわけでもないでしょうし
討伐依頼と実行のタイムラグは大きなものと認識してます。


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Failure of Demon's regulations

まだこうして不安定気味な投稿ペースです
申し訳ありません


駒王駅前広場。

テロによる攻撃から復興が始まりつつあるこの地においても、戦闘は行われていた。

駒王学園の生徒たちと、謎の異形。この二つがぶつかり合っていた。

 

「こいつら……やっぱりはぐれ悪魔!?」

 

その異形は、彼らの知る言葉で言うならばはぐれ悪魔。

悪魔の唱える法を破り、放逐された転生悪魔の成れの果て――と言われているが

実際のところは不明である。

むしろ、口封じのために体よく反逆者の名を宛がわれただけというケースも少なくない。

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の功罪の罪のうち、その大きなものの一つである。

 

「……でも、はぐれ悪魔とはどこか、何か違う……」

 

悪魔生活が比較的長かった木場と白音――白音はもう悪魔ではないが――が

目の前の存在が、はぐれ悪魔だとは言い切れない何かを訴えていた。

しかし、それを立証するものがない。

 

「なんでもいい、人に害をなすならば倒すまでだ!」

 

デュランダルで異形を薙ぎ払うゼノヴィア。

スタンスはまるで変わらないが、刃を交えるその相手が

今までの悪魔とは違うということもまた、彼女は感じ取っていた。

 

(話に聞いていた悪魔とは違う。まるで、かすかに理性のあるインベスのような……)

 

アーマードライダー龍玄(りゅうげん)に変身した光実(みつざね)。彼もまた異形と対峙するが

沢芽(ざわめ)市を中心に現れ、今や全国規模で出現しているインベスと比較し

目の前の異形に対処していた。自身が感染能力を持たないという一点において

目の前の異形はインベスではないということは立証できる。

 

龍玄のブドウ龍砲、白音の妖力による援護に合わせ

木場の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)とゼノヴィアのデュランダルが謎の悪魔軍団を蹴散らす。

謎の悪魔軍団の強さは、今の彼らの戦力で十分に対処可能な範囲であった。

 

――しかし、なぜ彼らが現れたのかという情報はわからずじまいであった。

遅れて駆け付けたリアス・グレモリーに情報を渡しても

彼女もまた、要領を得ない返答を返すのみであった。

 

「――はぐれ悪魔ではないというのは、間違いないのよね?」

 

「ええ。大公家から討伐依頼も出ていませんよね?」

 

木場の問いかけに、リアスは出ていないとばかりにジェスチャーを示す。

すでにリアスは駒王町の管理から外されているが、駒王町への滞在と言い

実質的な冥界からの権限としては、今までとさほど変わらなかったりする。

対外的には管理者を解任し、土地勘を活かしクロスゲート監視役として割り振った形だが

そんなものはただの口実で、実際には今までとそう変わらない状態だったりする。

 

そもそも、はぐれ悪魔討伐は基本的に大公家から討伐依頼が出された後に行われるものだ。

だが、それはあくまでも悪魔の事情。すでに実害が出ている時には、駒王町の場合だが

超特捜課による捜査、対応がなされる場合もある。

 

それを示すように、今度はパトカーがサイレンを鳴らしながらやって来たのだ。

 

「呑気なもんだな。討伐依頼が出てようやく害獣駆除か。警察の俺が言うのもなんだが

 そんなお役所仕事で、被害に対処できるのか?」

 

パトカーから降りた超特捜課の安玖(あんく)巡査。

彼もまた、先般の異形に対処するために出動していた形だ。

発足から数か月ではあるが、その間に様々な事件が起きたために

駒王町に展開している超特捜課は、限定的ではあるが今やソーナ・シトリーの一派をも

上回る戦果を挙げている。

 

「悪魔には悪魔のやり方があるの。口を挟まないで頂戴」

 

「はっ! この町は悪魔のもんじゃねぇってのによく言うぜ。

 そうでなくとも、今はもう悪魔だなんだって言ってる状況を通り越してるだろうがよ。

 そもそも、今出てきたあいつらはアインストでもインベスでもねぇ。

 となると、お前らの仲間だって思われても不思議じゃないんだぜ?」

 

安玖の挑発じみた発言に、リアスはいちいち乗ってしまう。

安玖の発言も公僕としては問題のあるものだが、仮にも統治者としての経験があるリアスの態度は

彼女の精神が幼いとしても、感情的過ぎた。

 

「冗談言わないで頂戴! あんなバケモノ、はぐれ悪魔ぐらいでしか

 見たことも聞いたこともないわ! はぐれ悪魔とつるむほど、落ちぶれてはいないわ!」

 

「どうだかな。はぐれだろうと悪魔っつー位だから

 お前らと大差ねぇって見るのが普通だろうが。俺らは兎も角、住民はそう見るぜ」

 

「安玖、子供相手に喧嘩売るのもその位にしておけ。

 だが嬢ちゃんも嬢ちゃんだ。いちいち売り言葉を買うな。

 それに安玖の言う事も言い方は兎も角一理ある。

 住民にとってみれば、はぐれ悪魔もお前たち悪魔も変わらない。違いが判らないんだ」

 

右手でじゃらじゃらとメダルを転がしながら、リアスの言葉に耳を傾ける安玖。

安玖の言う通り、はぐれ悪魔とは言え悪魔。その悪魔が人を害している以上

警察は動かざるを得ないし、故にリアス統治時代に超特捜課が発足された。

安玖はその超特捜課の一人であり、駒王町を、日本を守るという意味では

立派に警官の職務を果たしている。

だが如何せん、態度が悪い。今もこうして上司である蔵王丸(ざおうまる)警部が間に入る形で宥められている。

 

「これは私たちの問題よ。警察の人達に迷惑はかけられないわ」

 

「嬢ちゃん。俺ら人間はな、人間なりのやり方で人間の、自分たちの身を守ってるだけだ。

 そっちにそっちのやり方があるようにな、俺らにも俺らのやり方がある。

 そしてここには多くの人間が住んでるんだ。そこは忘れてくれるなよ」

 

「それに俺に言わせばな、実害出てる時点で警察の手間かけさせてんだよ」

 

それはリアスにしてみれば屈辱的なものでもあったのだが

蔵王丸の言う通り、人間にしてみれば自衛行為だ。

誹りを受ける謂れなど、どこにもありはしない。

生物が自分の命を自分で守ろうとする行為は全く以て自然なものなのだ。

自分の命も自分で守れない生物など、生物として欠陥品もいいところだ。

 

警察に迷惑をかけないためにリアスは色々と手を打っていたのだが

実害が出ていては、結局警察の手を煩わせている。

もし、ここで認識阻害などしようものならば。

 

原因不明の事故に対し警察は二手三手遅れている。それは警官の士気にもかかわるし

住民の警察に対する信頼を損なう結果となる。

信頼を損なった警察は抑止力としての効力を発揮しなくなり、結果犯罪が増える。

 

その穴をリアスらが埋める? ナンセンスだ。使い魔を総動員しようとも

警察の仕事の全てを賄えるほど、日本の警察機関は単純じゃない。

 

つまり、どう考えても警察の手を煩わせることはおろか、最悪警察の解体にも繋がりかねない。

結局、記憶改竄や認識阻害で住民の平和を維持するという事は

こういう形で綻びを生む。

 

結局、超常の脅威に対しても超常に頼り切ることなく

人間は人間自らの手で住処を守らなければならないのだ。

自分たちのコミュニティを自分たちで守れないのは、有体に言って欠陥もいいところだ。

 

「そもそもだ。はぐれ悪魔ってお前らは言うが、それを決める基準はなんだよ。

 お前ら純正悪魔が、お前らの都合で差別して

 大義名分を括り付けてそれっぽく処分してるだけじゃねぇだろうな?」

 

「ぜっ、全然違うわよ! 私は純血悪魔、はぐれ悪魔は転生悪魔、これだけでも大きく違う――」

 

言いかけて、リアスは自分が興奮するあまり自分の口走った内容の悍ましさに気が付いた。

はぐれ悪魔は転生悪魔しかなりようがない。

これは悪魔の駒による転生儀式に端を発するものなのだが、安玖はそこまでは知らない。

 

だが主となる悪魔を裏切った転生悪魔がはぐれ悪魔となるのだから

転生悪魔しかはぐれ悪魔になれない。純血悪魔は前提条件を満たさないのだ。

例外を認めるならば、それはただの国家反逆罪だ。

 

そして、リアスは今自分が純血悪魔だからはぐれ悪魔にはならない。

そう言った旨の事を口走ったのだ。これでは、露骨な転生悪魔差別思想である。

情愛の悪魔と知られ、眷属に対し情を以て接することを是とするグレモリー、その長女として

あるまじき思想である。それが首を(もた)げたというのだ。

 

幸いにして、木場やアーシア、白音といったリアスと付き合いの比較的長いメンバーは

リアスのその言葉をはっきり聞いていなかった。

 

だが、光実とゼノヴィアはそれを冷めた目で――光実は龍玄のマスク越しだが――で

リアスを見ていた。態度にこそ示していないが、犯罪や欲望の臭いをかぎ分けるのに特化している

安玖ならば、一発で見抜ける程度だ。特にゼノヴィアのそれは。

 

(やはり……悪魔は悪魔に過ぎないということか。

 人間の真似事をしたところで、悪魔の域は超えられんか。

 アーシア……君はああ言うが、私はやはり悪魔を信じる気にはなれんよ)

 

(兄さんならこれを見て何て言うだろうな。高貴なる者は高貴なる責務を負わねばならない。

 けれど、これではね……僕も、こうはなりたくないものだね)

 

「……ああ、言わんとすることはわかったからそれ以上言わなくていい。

 今のは聞かなかったことにしてやるよ」

 

「――――ッ!!」

 

建前上は、現在先進国においては存在しない差別。

それを体現する言葉を口走りかけたリアスに対し、安玖の向ける視線には憐憫の情も含まれていた。

彼女の精神が未完成であるが故のものである、そう判断したのだ。

反論しようとするリアスだったが、自分の発言を反芻した結果錯乱してしまい

二の句が継げなかった。

 

唯々、唇を血が滲むほど噛み締めるばかりだった。

 

「それより、お前のその装備――ユグドラシルのアーマードライダーシステムだろ?」

 

「え? ええ、そうですけど」

 

リアスを追求することなく、安玖はリアスに冷めた目を向けていた光実に話を振りなおす。

警察において、アーマードライダーシステムは採用されていない。

そのため、安玖にとって龍玄は物珍しさもあったのだ。

 

「聞いた話だが……ユグドラシルから警察への本格的な技術供与があったそうだな?

 お前がここにいるのも、その一環か?」

 

「いえ。僕はまた別件ですが……

 (技術供与があった? 確かに警察の装備の一部を

 ユグドラシルが生産していたことはあったけど……)」

 

安玖の質問に、光実は腑に落ちないものを感じ取った。

警察の一部装備は、確かにユグドラシルが作っている。だが、主戦力足りうるロックビークルや

アーマードライダーシステムだけは、警察で導入されることは無かったのだ。

 

しかしここに来て、ユグドラシルが警察に技術供与をしたという話が出た。

まさか、装備のライセンス生産の事ではあるまい。

警察がアーマードライダーシステムを採用したという話を

光実は聞いていないし、ニュースにもなっていない。

何の技術なのか。異形の正体もだが、光実にはそちらも気がかりであった……




前作「ゴースト」から散々突っ込まれてるはぐれ悪魔問題。
今回も可能な限り触れますとも。

>討伐依頼が下るまで
まあ、わかりやすくクエスト的な方法を示したんでしょうけれど。

……ちょっと考えてみてください。既に(一応)悪魔が統治してる場所に
どうやってはぐれ悪魔がいるって情報が伝わるんです?
はぐれになろうとも悪魔の駒が抜けていないと仮定するなら、説明はつきます。
この場合、GPSを体内に埋め込むのに等しい行いをしているわけですが。
それが許可されるのは法律上物品扱いされるペット位なもんです。
今やスマホがある意味代わりになってますし、徘徊老人や行方不明者の捜索という意味では
人間にもGPS埋め込むのも一つの手ではあるかもしれませんが……

大公から依頼が出て~って流れも、本文中で指摘している通り
お役所仕事が過ぎます。統治区域外に逃げ込んだとかならいざ知らず
原作中、少なくともバイサーに関しては依頼が出る→討伐の流れで
既にバイサーは殺傷事件を起こしています。
つまり、大公と言えども対処が後手に回ってるわけです。
勝手に討伐しないのははぐれ悪魔の権利を守った結果なのか、それとも。

また、はぐれ悪魔に至る基準も問題です。黒歌みたく明確に反旗を翻した
(ただしこれはほぼ完全に黒歌の正当防衛、罪状ついたとしても過剰防衛が精々かと)
以外には木場が反抗的な態度をとっただけではぐれをちらつかされる始末。
はぐれ化もその個々の事情に耳を傾けることなく、一概に力に溺れたとかそんな感じ。
一番力に溺れそうな筆頭格がそれ言ってるんですからお笑いですよ。

……よく界隈ではホワイトと言われるグレモリー眷属ですが、本当にそうなのかな……

そして、はぐれ悪魔は黒歌という例外を除いて軒並み即殺って対処なのも問題です。
法を破ったから処罰される、それはわかります。

ですが、その法の正しさは誰が証明するんです?
法を盲信するばかりでは、何も変えられないと思うんですがね。

結論:
今回セージこっちにいなくてよかったね

>人間の自衛

ちょっと赤土って奴の政治的思想混じっちゃったかもしれません、すみません。
ですがこの世界に照らし合わせると、間違ったこと言って無い風に思えてしまうのがなんとも。
人間が自分の身を守るための力を手に入れて何が悪い?
自衛はすべての生命に認められた生きる権利じゃないんですかね?

原作においては警察の役割をリアスやイッセーらに持たせてるってことなんでしょうが
警察の役割って学生の片手間にできることなんですか?
学園都市みたいな特殊な環境とかならいざ知らず。

そういう世界、って言ってしまえばそれまでなんですが
それはそれで、ディストピアを想起させられます。


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Archetype

あんまり強くなってる気がしない超特捜課の強化パートですが
ここ強化パートばっかりやな

まるで原作みたいな強化の仕方だ
あんまり強化されてる気がしない点と言い、事あるごとに強化されてる点と言い


――駒王警察署。

 

ユグドラシルの技術供与の結果完成した新型特殊装備――を転送させるための

パーソナル転送システムが超特捜課に優先的に配備されていた。

既に超特捜課はちょっとした治安部隊並みの戦力を保持していた。

それほどまでに、禍の団(カオス・ブリゲート)からの攻撃は激化の一途をたどっていたのだ。

 

「……すみません、我々としたことがしくじりましてね。

 転送システムは完成したんですが、肝要の装備――『G』はまだ未完成なんですよ。

 特殊強化スーツのデータ取り自体は、うまくいっているのですが……」

 

ばつが悪そうに超特捜課の装備開発を担っている薮田(やぶた)博士が告げる。

曰く、特殊強化スーツの問題点であった装着の手間と、取り回しやすさを解決させるため

転送システムを採用することとなり、その結果運搬の手間がクリアできるという事から

パワードスーツ型を採用したのだが……動力の問題がクリアできていないのだ。

転送の際に、ユグドラシル製作のアーマードライダーシステムの技術が応用されており

安玖が光実に話した一件は、ここに起因する。

 

「薮田博士。自分にはこの装備は過剰だと思うのですが……」

 

「私もそう思いますよ。ですが、禍の団の聖槍騎士団。

 彼女らの艤装の威力を目の当たりにした議員が、こぞって軍拡を推し進めたのですよ。

 普段理由をつけて軍拡反対と言っている人らがですよ?

 マキ博士は知りませんが、私も過剰装備という事で反対したんですがね。

 ですが、採用の賛成の声が多くて……正直、『G』1機配備するより

 特殊強化スーツの配備数を増やした方がいいと思うのですがね」

 

氷上(ひかみ)巡査の疑問に、薮田が賛同する形で答える。

実際、「G」1機のコストで特殊強化スーツが10着は配備できるのだ。

これだけあればかなり変わるというのが、薮田の見解だ。

 

「薮田博士。『G』の開発は、どれくらい遅れているのですか?」

 

「実のところ、OSや装備、外装は全部クリアしているんです。

 動力問題さえクリアできれば、すぐに稼働させられる状態なんですが……

 特殊強化スーツと違い、パワードスーツ型ですので動力がないと動かせません。

 その動力の問題が、いまだにクリアできないんです」

 

蔵王丸(ざおうまる)警部の質問に対しての薮田の答えは

未完成と言っていいものかどうか判断に迷うものだった。

だが、動力の無い機械――それも重機クラスの代物――を人力で動かすのは酷な話だ。

古代文明方式でピラミッドを作るのとは、わけが違う。

 

「動かすのに日本中の電力が入用になるとかそういう代物なのかよ?」

 

「巨大怪獣を撃退するならいざ知らず、等身大の装備を稼働させるのに

 そこまで大それたエネルギーはいりませんよ。

 ですが、100%で稼働させるのならば電気自動車の何十倍もの電力は必要ですね」

 

「それだけの電力、一体何に使うんですか……」

 

安玖(あんく)巡査の質問に対する薮田博士の答えに対し、霧島(きりしま)巡査が疑問を呈する。

等身大のパワードスーツならば、大きさ自体は一般的なフォークリフトと同じくらいか

それよりやや大きくなるはずだ。開発に携わった薮田の言では、3メートルクラスという。

それなのに、電気自動車の何十倍の電力――バッテリー。一体何に使うというのだ。

 

「駆動補助と、フィット性能向上のための所謂OSの補助が一つ。

 それに加えて内臓兵装のエネルギーですが……むしろ、ほとんどこれに割いてる形ですね」

 

「ならそれ止めりゃいいじゃねぇかよ」

 

半ば呆れた様子で、安玖が改善策を提案する。

薮田の言葉では、内臓兵装を止めれば動力問題が解決するかもしれないのだ。

しかし、そうもいかない事情があった。

 

「……それなんですがね。内臓兵装の無い『G』は精々現行の特殊強化スーツの

 2割増し程度の性能しか発揮できません。

 動かすことはできますが、聖槍騎士団と正面切って戦うには、些か力不足と私は見ますね。

 聖槍騎士団の相手を、宮本君らに任せるというのであればこの案も通しますが……

 我々は良くても、議員の皆さんは納得しないでしょうね。

 宮本君とて、彼の本職は学生。つまり、非公式の非常勤扱いですから」

 

「……あいつが活躍するのを、快く思わない連中もいるって事か。ま、いて当たり前か」

 

薮田の答えた理由に、蔵王丸が納得する。

警察上層部。彼らにしてみれば、超特捜課のお陰で面子は保てているものの

その活躍の大半は非常勤である宮本成二によるものである。つまり、正規の職員ではない。

そんなセージの活躍が成果の大半を占めては、超特捜課の存在意義が危ぶまれてしまう。

本郷警視総監や薮田博士らの口添えで不自由は起きない程度には動けているが

その地盤が危ぶまれたのが、先の兵藤一誠による天野夕麻殺害事件絡みだ。

 

この時、セージが「犯人は兵藤一誠」と名指ししてしまったため

証言の握り潰しと同時に、名誉棄損が発生してしまったのだ。それを庇い立てるために

本郷警視総監も地位が危ぶまれ、実際に超特捜課の前任課長だったテリー(やなぎ)警視が

左遷された形となっている。

 

セージに悪気はないし、むしろセージは真実を話しているのだが

こうして真実が容易く捻じ曲げられてしまうのも往々にしてある話である。

それ以外にも、超特捜課がセージにおんぶにだっこというわけにもいかない事情がある。

いくらセージが多芸とは言っても、一人の少年にできることなどたかが知れている。

それをフォローするための戦力として、「G」ないし特殊強化スーツの量産は命題だったのだ。

 

「蔵王丸警部がここに配属になったのがその証明ですしね。

 宮本君の神器(セイクリッド・ギア)は確かに強力ではありますが、あれでも完全無欠の万能ではありません。

 これは彼の神器に限った話でもないのですが。

 そのフォローのためにも、やはり力は必要ってことになりますね。

 私個人としては、些か納得はしかねる部分もありますが……個人的な感情ですので。

 

 ……ああ、話は変わりますがこれからパーソナル転送システムの稼働テストを行います。

 ご覧になりますか?」

 

一通り話し終えた薮田は、おもむろに表の開けた場所に出る。

それについていく形で超特捜課の主だったメンバーは全員薮田について行くことにした。

 

 

――――

 

 

薮田の左手首に装着されているもの。よく見ると、それは腕時計ではなく、何かの端末であった。

コンソールが開き、そこに向かって薮田が話しかける。音声認識のようだ。

 

「……コード・クリア。メインタームアクセス……

 モード・アクティブ!」

 

コンソールが緑色に輝き、小さな文字が打ち出される。記された文字は――

 

 

――CODENAME[G] IS GREEN――

 

――SHOUT NOW!――

 

 

「コール! 『G』!」

 

 

薮田の背後に、光と共に3メートル級の黒いロボットが現れる。

ユグドラシルが開発した、クラックを利用した転送システム。

この応用で作られた、転送システム。これがパーソナル転送システムの正体である。

 

「……どうやら、転送システムは正常に稼働するみたいですね。

 見ての通り、『G』に関してはまだ改善の余地がありますが」

 

薮田が指し示した3メートル級の黒いロボット――「G」は

ただ薮田の背後で静かに佇むのみであり、動く気配がない。

元々パワードスーツであり、人が入らなければ動かないのだが

「G」はそもそも動力炉に必要なエネルギーがが無い状態なので

仮に人が入ったとしても動かないだろう。

 

「改善の余地どころか……これだけのもん、いつの間に作りやがった?

 少なくとも、まだ特殊強化スーツが出来てそんなに経ってないだろう?

 データ取りが順調ってだけじゃ、説明がつかねぇぜ?」

 

「おや。流石家電オタクとでも言うべきでしょうか、安玖巡査。

 ええ、いくら私やマキ博士、ユグドラシルのプロフェッサー凌馬(りょうま)が総力を挙げたと言っても

 設計図のないものをこの短期間で作ることなど不可能ですよ」

 

さらりと家電オタクであることをばらされてしまった安玖の質問に対し

薮田は元々「G」の設計図があったことをあっさりとばらす。

設計図があったからこそ、短期間での製作が可能であったのだろうが――

 

「設計図……ナイトファウル同様、クロスゲートから得たのですか?」

 

「いえ。あなた方が戦ったアインストの中に、赤い角つきのアインストと

 灰色の蝙蝠の羽を付けたアインストがいたでしょう?

 あれらは、元々冥界で悪魔と堕天使が作っていた式典用のハリボテロボットが原型でした。

 外装に関しては、その設計図を応用させてもらった形ですよ。

 

 ……入手ルートについては、『伝手があった』とだけ言っておきますよ。

 少なくとも、人類が不利益を被るような取引はしていませんし

 万一不利益が生じた場合は『私』が動きます」

 

アルトアイゼンとヴァイスリッター。

冥界で悪魔と堕天使の和平のために作られるはずだった二体のロボット。

今やアインストの尖兵と成り下がってしまったそれらの設計図を薮田が入手したのだ。

この2枚の設計図から、華美な装飾や趣味的なデザインを撤廃し

それでいて求心力を最低限維持できるようなデザイン。

その平均値を導き出した結果が「G」のデザインコンセプトとなったのだった。

 

「おいおい、ハリボテを新型装備に使うつもりだったのかよ?」

 

「デザインの問題ですよ。最低限の兵装は完成していますので

 やろうと思えば動かせるだけの火を入れればすぐにでも稼働させられますよ。

 ですが何度も申し上げた通り、それでは万全な性能を発揮できません。

 カタログスペック上は、現時点での稼働率でも今まで確認できたアインストとは

 五分にに戦えるとみていますが」

 

「五分、つまり現行の装備とほぼ同等の性能ですか……

 それではあまり投入の意味がないんじゃないんですか?」

 

氷上の疑問通り、今までのアインストと五分五分程度では特殊強化スーツと大差ない。

これでは、コストパフォーマンスに見合わない。つまり、投入の意味があまりない。

氷上や霧島は生還を果たしているが、それはあくまでも彼らの身体スペックの問題だ。

シミュレーション上の数値では、薮田の話した通りである。

 

「予算は無限ではないですからね。作っておいて言うのもなんですが

 また国会が混乱することにならなければいいのですが」

 

「……全くだ。超特捜課だけでどれだけの税金吹っ飛ばしてるんだか。

 また国家公安委員会がうるせぇことにならなきゃいいがな」

 

超特捜課の装備は、過去導入例があり長野県警を中心に全国の警察に配備された実績のある

神経断裂弾(しんけいだんれつだん)を除き、きわめて高価である(神経断裂弾も決して安価ではないが)。

アーマードライダーシステムの導入の見送りも、本をただせば予算の問題に起因する。

アーマードライダーよりも安価なドローンを作ったり、特殊強化スーツを開発したのも

全て少ない予算で回すための苦肉の策であった。

 

しかし、敵性集団の戦力を目の当たりにした政府は、超特捜課の装備だけでは不足と判断。

自衛隊の動員や、公安警察のフル稼働などして当たっていたが

ここに来て、限界が生じ始めたのだ。

何せ、オカルトもフルに投入し近代化改修を終えたナチスの軍隊や

未知の要素の多い人類にとっての敵性生命体。

これらを相手にするには、如何に警察や自衛隊の練度が優秀と言えども限度がある。

 

(……アーマードライダーを使えないのは、既に横流しされた製品だからでしょうね。

 まさか、正規の国防や治安維持を担う部隊が

 既に反社組織で使われている装備を使うわけにはいかないでしょう。

 ユグドラシル……獅子身中の虫にならなければいいのですが)

 

暗雲は未だ晴れず。されど平和は人の手で掴み、守らねばならない。

そこに異議はないのだが、薮田はふと思う。

 

――己の行いは、さらなる災厄を招いているのではないか。

 

――これでは、無節操に神器を撒いていた聖書の神と同じではないか?

 

今はまだ、炉が未完成であるため動かない「G」。

炉が完成した暁には、今までにない戦力になるであろうと同時に

人類の、行き過ぎた発展を促すのに過ぎないのではないか。

 

だが、異界からの侵略者や人類を支配下に置かんとする神話勢力を抑止するためにも

力を示さなければならないのも事実。

現に、神器持ちを悪魔に作り替える技術は完成し、導入されているのだ。

 

「『G』に関しては、私も手を打ちます。ですが……努々、忘れないでください。

 力とは、それを扱う者の心次第で如何様にでも変わるものであるという事を。

 誤った方向に向けられた力は、その大小の如何を問わず、破滅を招くという事を。

 

 ……そして、身の丈も知らずに闇雲に力を求めても、滅びを早めるだけだという事を」

 

薮田の懸念は、心からのものであった。

いつからか、聖書の神が齎した神器は争いの道具に成り果てていた。

人の可能性として託したそれは、三大勢力に体よく使われるだけの道具に成り下がっていた。

人のために、神器は揮われない。恩恵を得ているのは、三大勢力だけだ。

むしろ神器があるからこそ、人は三大勢力に狙われるようになったとさえ言える。

力が無ければ、三大勢力が態々人間を狙う理由を作らなければ

こんな悲劇は起きなかったのではないか。

薮田は、そうも考えていた。

 

既に起きた事象は、神とて変える術を持たない。

薮田はただ、今作っている装備が神器の二の舞にならないことを切に願うばかりであった。




G……もう、おわかりですよね
本当に「なんでゴーストの時に出さなかったんだよ」ってお叱りもらっても仕方ないレベルです、はい
そんなわけで今更感がありますが……
燃料がないという一点がものすごく不穏なフラグですが

そういえば警察で採用されてるアレもGシリーズでしたね
自衛隊……はGフォースでしたっけ


>設計図
原作ではアルトアイゼンとヴァイスリッターは一つの機体から生まれ、機体シリーズの一機として有名ですが
拙作ではそれを逆手に取り、逆にたどることでGが生まれたとしてあります。

この2枚の設計図を薮田博士は「伝手」で手に入れたと言ってますが
シーグヴァイラはアルトやヴァイスの設計図をどこで手に入れたんでしょうね

……あるいは、偶々得たインスピレーションがアルトやヴァイスのものだった?
まさかそんな偶然……

>神器問題
……いや、神器持ちの転生悪魔だの神器持ってるからって堕天使に殺される人間だの見ていれば
何のために神器撒いたんだよ、としか思えてなりません
特に神器持ちの転生悪魔、これって悪魔が神器を不正利用していることになる気がするんですが
(悪魔は神器を使えない→半悪魔か転生悪魔なら使える→不正利用?)
抜け穴というか、ガバというか、悪魔にばかり都合がよすぎる気がしてならんのですよね
少なくとも、人間のまま神器使いであるメリットがほぼ無いってのは如何なものかと


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"D"AMON Aパート

お待たせしました。
さて、そろそろセージが帰ってこないと
いい加減gdgdしますね……


セージが入院してから一週間。

今日、セージは検査入院を終え、退院し駒王町に戻ってくる予定である。

そのせいか、朝から黒歌と白音はそわそわしていた。

 

「白音、あんた体調大丈夫なの? 私の思ってたのより周期が短いみたいだけど……

 あんた、無茶してんじゃないでしょうね?」

 

「……大丈夫です。確かにアインストともインベスとも違う

 見たこともない怪物の相手で妖力の流れが狂った部分はありますけど、大丈夫です」

 

朝っぱらから頬を紅潮させた様子で白音が答える。

白音の額に手を添える黒歌だが、熱の程度は微熱といったところだ。

 

「そう……学校行くときも気をつけなさいよ。私もお母さんの護衛で

 あんたまで気が回らないけれど、無茶だけはするんじゃないわよ。

 

 ……本当、平和な日常ってのが恋しく思えてしょうがないわ」

 

一応、宮本家をはじめ駒王町ではある程度の外出自粛要請こそあるものの

教育機関などは平時と同じように稼働していた。

介護であるセージの母の仕事となれば、なおのことだ。

 

黒歌がぼやくように、平和な日常というものは今の駒王町、いや世界のどこを探しても

中々見つけられるものではないだろう。

それほどまでに、禍の団の、アインストの爪痕は大きいのだ。

そこに、新たな怪物の影も見え隠れしている。

神の実在を暴かれつつも、世間では終末思想のカルト宗教が流行り始めている。

あるいは、現実逃避をするかの如く自ら命を絶つものも少なくない。

 

「……ったく。じーさんどもの機嫌とるのも楽じゃないにゃん。

 そう何度も乳揉ませるわけにもいかないし。

 不安を払拭させられればいいけど、それをするためのものが全然足りてない。

 痛し痒しよねぇ……」

 

歪んだ世情は、住まう者の心を等しく歪めていく。

それは、老人の相手をしている黒歌も肌身で感じていたことだ。

老い先短い老人でさえなのだから、将来のある若者ならばどうなるか。

 

その答えは――

 

 

――――

 

 

A.M. 10:40

駒王学園

 

「聞いたか!? いよいよユグドラシルのゲームの発売日が決まったんだってよ!」

 

「このご時世によく出せたよな、やっぱユグドラシルすげぇな!」

 

昨今の若者の話題は、ユグドラシルが販売する予定のARMMOに集約されていた。

これはARMMOでありながら、VRMMOとしての側面も併せ持った

体験型ゲームとしては最高峰の性質をもったゲームである。

 

――ディアボロス×クロニクル。

 

通称「D×C」と名付けられたそれは、当初ディアボロス×デスティニー。

通称「D×D」となるはずが、同名のテロ組織が登場したために

改名を余儀なくされた背景がある。

しかし、そんなことは些細な問題であったらしく

予定通りに販売するとニュースで発表されたのだ。

 

「…………」

 

沸き立つ中、一人だけ剣呑な表情を浮かべている者がいた。βテストに落ちた元浜だ。

 

「どした元浜? 楽しみにしてたゲームだろ?」

 

「いや、そうなんだけどよ……実は、妙な噂を聞いたんだよ。

 『ディアボロス×クロニクル』のβテストに参加したプレイヤーが

 こぞって謎の失踪を遂げていたり、変死体で見つかったりとかさ。

 俺も最初は無関係と思いたかったけどよ……これ見てみろよ」

 

元浜が見せたスマホの画面には「嵯峨マンサーチャー事務所」と書かれた

インターネットのサイトが表示されていた。

その名の通り人探しを行う珠閒瑠市の事務所だが、問題なのはそこの掲示板だ。

本来依頼はSNSではなくDMで行われる――個人情報の問題もあるため――のだが

SNSには「うちの子供を探してください!」だの「婚約者を探してください!」だの

「彼女が消えたんです!」といった声が数多く寄せられている。

そのすべてが、事務所の公式アカウントが

ディアボロス×クロニクルについて触れたところに書き込まれている。

どう考えても、関連性は高いだろう。

 

「偶然、にしちゃ怖いくらいの声だな……

 ゲームからログアウトできなくなってプレイヤーが次々変死を遂げる

 MMOのアニメがあったけどよ」

 

「いや、実はゲームは病原菌を感染させるための媒体で

 全プレイヤーにプレイさせてパンデミック起こさせようとしたって作品もあったぞ」

 

「それなら、実はゲーム世界はどこか別の世界で、自分の世界の存続のために

 他所の世界から人や物を取り込んで浸食、肥大化して存続を続けるって作品も……」

 

今上がったのはすべてフィクションである。

しかし、嵯峨マンサーチャー事務所に寄せられた声はノンフィクションだ。

この現状を、元浜以外の人間が知らないはずがないのだが……

 

ディアボロス×クロニクル。

この驚天動地、前代未聞、空前絶後、荒唐無稽のタイミングで発表。

発売されることが決まったゲーム。

このゲームが世界を席巻するのは、もう暫く先の話である――

 

 

――――

 

 

P.M. 15:30

駒王学園旧校舎跡 オカルト研究部仮部室

 

 

「……リアス君。実は困ったことになってね……」

 

「どうしたのかしら、先生?」

 

あまり困った素振りを見せないながらも、オカ研の顧問であるナイアがリアスに話を振る。

その手には、人間世界の週刊誌が握られていた。

 

「これを見ておくれ。顔ははっきり写ってないけれど、沢芽(ざわめ)市に現れたという

 五人組のテロリスト――『D×D』。これが、君達じゃないかって噂が流れているんだ」

 

見開きには、白黒写真で顔ははっきりと映っていないが

駒王学園の制服を着た男女4人と、スーツ姿の少年1人が映っていた。

リアス、朱乃、木場、アーシア、そしてオカ研を案内していた光実(みつざね)であった。

 

「あらあら。テロ行為をした身に覚えはありませんけれど……」

 

「勿論さ。それは僕が証人だからね。だけど、今日実は学校にマスコミが来たんだ。

 君らに接触する前に僕が追い返したけどね」

 

嘘か真かわかりにくいナイアの言葉だが、実際にリアスら生徒にマスコミは接触していない。

一応、教師として生徒を守ったことになるのだろう。

高校生テロリスト。日本ではなじみが全くないが

海外――情勢が不安定な地域ならば少年兵という概念がある。

そのことを思えば、世界的には何ら珍しくはない。無くすべき概念ではあるが。

 

ただ、今の時勢ではそれに等しい問題もあるが。

 

「……僕らは言っちゃなんだけど悪魔だからね。目の敵にもされるさ。

 けれど、光実君……だよね? これは。彼は、完全なとばっちりかもね」

 

「悪魔だから仕方ない」その木場の言葉は、リアスにとっては受け入れ難いものだった。

 

「祐斗! それ本気で言っているの!? 『悪魔だから仕方ない』って……

 悪魔はここにいてはいけないと言いたいの!?

 人間と争うつもりもないのに、ここにいてはいけないの!?」

 

それはリアスの本音であった。

自分はただ、人間の生きる世界に憧れていた。

だから、人間の世界に無理を押してやって来たし、人間の学校にも強引に通っている。

だが、人間の側はそれを快く受け入れようとしない。

何故、人間はこうも狭量なのだ、と。

悲痛で、どこか見当違いな思いが彼女の心に渦巻いていた。

 

「そこまでだ、リアス君。癇癪を起こす暇があったら、警備の段取りでも立てたらどうだい?

 模範となるべき君が、我儘三昧ではついてくるものもついてこないよ?

 ……そう、イッセー君とかね」

 

ナイアのどこか微妙にずれたアドバイスを聞き届け、リアスは平静を取り戻す。

その様子を、木場とアーシアは複雑な心境で眺めていた。

 

(リアスには悪いですけれど……イッセー君は私……とナイア先生のものですわ。

 今日も帰ったらめいっぱい可愛がってあげませんと。学校にも行けず、外も歩けずで

 イッセー君は欲求不満ですもの。欲望を叶えてあげることこそ、悪魔の本懐ではないかしら……うふふ)

 

仕えるべき主に対し、不遜な思いを抱きどこか黒い笑みを浮かべる朱乃。

そんな彼女からは、自分がテロリストになっているかもしれないという危機感はまるでなかった。

本物のテロリストとなってしまった紫藤イリナと同居しているせいもあるのかもしれないが。

 

一時からは考えられないほど針の筵と化したオカルト研究部。

一人グレモリー家の自室からパソコンで参加しているが故に

場の空気を感じ取っていないギャスパーはある意味、幸せなのかもしれない。

 

その時、そんな針の筵な空気を壊す一報が入った。

 

――クロスゲートから、また謎の怪物軍団が現れた、と。

 

 

――――

 

 

P.M. 16:20

駒王駅前広場

 

駒王町のクロスゲートは、時折移動していた。

移動による影響はないものと思われているが、実際のところどうなのかは全く以て不明だ。

そもそも、いまだクロスゲートというものを解明できていない。

デヴァ・システムという似たような装置が、かつて作られたことくらいしか判明していない。

 

「そういえば、この駅前広場……この間、何か変な集団がいたんだ」

 

「変な集団? 一体それは何なの?」

 

思い出したように口を開く木場に、リアスが問いかける。

変な集団。自分たちもある意味そうなのではあるが、それよりも変な集団となると一体何なのか。

 

「怪しげな宗教団体が、ビラを配っていたり祈りのようなものを捧げていたりしてたね。

 詳しく調べるべきだったのかもしれないけれど、近くに寄っただけで背筋が寒くなって……

 部長、申し訳ありません」

 

「絡まれなかっただけ良しとするべきかしらね。祐斗が無事で何よりだわ。

 もうこれ以上、私の大事な下僕は失いたくないもの。

 

 ……で、今日はその集団はいるのかしら?」

 

リアスの問いに、木場は首を横に振る。実際、駅前広場に人の気配はない。

別に木場は自分がリアスの下僕であることに不満は抱いていないが

リアスのその態度が反乱を招いたのだという事もまた、同時に理解していた。

眷属の主従関係は悪魔の価値観においてのみ適用される。

少なくとも、日本で育ち通常の義務教育を終えた高校生には

一部受け入れ難いものはあるだろう。

反乱を起こした者が、特別反骨心が強かったというのもあるかもしれないが。

 

「……いや。人の気配はないが、人の思念は残っているみたいだ。

 『群像の追憶(マス・レガシー)』なら読み取れるが……どうする?」

 

ナイアの神器「群像の追憶」が、駅前広場に残った人の思念を読み取った。

態々言ってくるあたり、あまりいいものではないのかもしれない。

 木場の証言を合わせても、不穏なものは隠し切れない。

 

「……確かめるわ。先生、お願い」

 

意を決して、リアスがナイアに解読を依頼する。

ナイアから現れた黒い影が、空中に映像を映し出す。

そこには――

 

 

――我らは、救済を齎すもの。

 

――巨人は、菩提樹に降り立った。

 

――我らの主の、教化を受けるのです。

 

――この荒れ果てた世界、我らの主こそが救済を齎すのです。

 

ザクロロックシードを持った宣教者らしき人間が、演説をしていた。

世界の混乱に乗じた、カルト宗教の集客に他ならない。

誰もがそう思っていたが、宣教者の目つきや行動は

それがただのカルト宗教の暴走ではないと証明していた。

 

何せ、宣教者に近づいた通行人の頭に翳された手が光ったと同時に

その通行人も瞬く間に同じようなことを口走り始めたのだ。

その異様さは、宣教者と信者仲間の勢いに押され、誰もが遠巻きに眺めるだけである。

時折、空気に呑まれ宣教者らの集団に近づくように足を運ぶ者がいるだけで

それを止める者は、誰もいなかったのだ。

 

「な……あからさまな営業妨害じゃない!

 私達の営業を停止させておいて、こんなのを許可するなんて!」

 

「……それより、警察が動いてないのが気がかりだね。

 こんなカルト宗教の演説なんか許可が……」

 

悪魔の視点からリアスが、人間の視点からナイアがそれぞれ疑問を述べるが

ナイアの言う通り、警察が動いていないのは不可解だ。

リアスに言わせば、出しゃばりと言わんばかりに出てくる超特捜課(ちょうとくそうか)

一向に出てくる気配がないのだ。

 

「恐らくだけど、人間相手だからだろうね。管轄が違うのさ。

 言うなれば、交通課に捜査一課の仕事をさせるようなもの。

 超特捜課が来ないのも、ある意味必然かもね。

 

 ただ……この通行人の豹変っぷりは、超特捜課案件って気はするけどね」

 

ナイアから見ても、通行人の豹変っぷりは異常だった。

それなのに、超常事件に対応する超特捜課が一向に出てこない。

一体、どういうことなのか。とリアスが言いかけたその時である。

 

「――憎キ神ノ気配ヲ追ッテヤッテ来テミレバ……ナニモノダ、オ前達?」

 

逆立った蛸のような頭に、乳房らしき部分からは触手を生やした

有体に言って異形そのものの存在。

 

次々と、女性の頭だけの怪物、どちらかというと二足歩行の獣のような怪物。

少なくとも、地球上に存在するどの生物とも合致しない。

今は悪魔が全国的に知れ渡っているから悪魔と見做されているだけで

もしかしたら宇宙人と見做されていたかもしれない、そんな存在。

 

「それはこっちのセリフだわ。あなたたち……はぐれ悪魔でもなさそうね。何なのかしら?」

 

「……ウン? オ前、我ラトオナジ悪魔ノ臭イガスルゾ?

 ……アア、ソウカ。『デキソコナイ』ノ放カ。人間ゴトキヲ模倣シタデキソコナイガ

 我ラト対話スルコトヲ赦サレルトデモ思ッテイルノカ?」

 

かみ合わない。目の前の異形は、自分たちが悪魔であると言い、リアスらを指して

「人間をまねた出来損ない」と言っている。少なくとも、リアスはこの格好で生まれているし

両親も知っている限りでは二本足の人間に近い姿形だ。

悪魔の中には魔力で姿形を自在に変えられるものもいるが

ここまで露骨に人間態から離れたものは、少ない。

 

「その言い分だとあなたたちも悪魔ね。なら知らないのかしら?『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』たる

 このリアス・グレモリーを!」

 

「知ラン。チョット強イ魔力ハアルミタイダカラ、神ヲ倒スタメノ腹ノ足シニハナルダロウ。

 デキソコナイ故、マズソウダガナ」

 

リアスのどこかずれた自己紹介も意に介さず

自分たちの意見だけを押し通そうとする自称悪魔の異形達。

明らかに自分たちを害しようとしているその態度に、リアスらも応戦を決意する。

 

「いちいち余計なことを言う……誰かを思い出して腹が立つわ!」

 

(セージ君今関係ないのに……)

 

挑発に乗ったリアスが滅びの魔力を放つが、その魔力は異形によって「喰われ」たのだ。

木場は以前この異形の悪魔と戦っていたが、その際に敵の全てを知ったわけではない。

他のメンバーは初戦みたいなものだ。敵のデータなど、ほとんどない。

 

「魔力を……食べた!?」

 

「……ウン。ヤハリデキソコナイノ魔力ダカラ、マズイナ。

 ダガ腹持チハヨサソウダ、直接喰ラウノデハナク、別ノ方法デ喰ラウトシヨウ」

 

魔力を喰らう異形。

アインストにも滅びの力が通らなかった前例はあるが、これは通る通らないの問題ではなく

魔力そのものを「喰った」のだ。

 

魔力を喰らう異形。

悪魔のアドバンテージを否定する、悪魔を名乗る異形。

 

平穏が戻ろうとしていた駒王町。

だが、その陰ではこうして不穏な影が蠢いていたのだ。




前書きで言ってたくせにセージが出てこない。
Bパートをお待ちください()

……えっと。今更ですしくどいようですが

「この作品はフィクションです。実際の人物、地名、出来事とは一切関係ありません」

昨今の世情を見るとどうしても、ですね

>ディアボロス×クロニクル
ついに正式タイトル発表です。
本文中にある通り話題になるのはもっと先ですが。

因みに一応会話の中に出てきたゲームは元ネタがあります。
1つ目は私がうろ覚え、2つ目はすぐお判りでしょうが
3つ目がすぐにわかった方。探さないでください。
そこに私はいません。

変死体が出たり行方不明者が出たり、元ネタ通りに不穏な空気マシマシですが
アジュカのゲームも、神器所有者発見するのはいいとして
その後どうするつもりだったんですかねぇ……?

>5人組のテロリスト
シャドウご指名入りましたー

ただ、既に影に堕ちた朱乃のシャドウに出番があるかというと……?
(なんか、拙作の朱乃ってやっぱり扱い悪いなぁ……)

この場にはナイアもいたはずですが、ちゃっかり写真からは外れてます。

それに、出そうと思えばこの場にいないゼノヴィアのシャドウも出せますからね。
セージも言わずもがな。

>黒の菩提樹
駒王駅前で勧誘活動行うという不敵行為。
警察機能が低下している証左ですね。
リアスに対する当てつけも含んでいるかもしれません。当事者にそんな意図はないでしょうが。

教化という単語がありますが……まあ、そういう事です。

>異形の悪魔
今回断言してませんが、デーモン族っぽい連中。
DD悪魔とデーモン族、全然違うけれど同じ悪魔として扱ってます。
まあ、それ言ったらメガテン悪魔とDD悪魔もまるで違う存在なんですけどね。

三大勢力共通認識である神の消滅を知らなかったり、黒の菩提樹を追って神を探していたり
この辺りで既に認識の齟齬が発生してます。

>リアス
……いつものことですが、本当に形無し。
事あるごとにセージを意識した発言しているあたり、もしかしてもしかすると?


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"D"AMON Bパート

お待たせしました。
今回、またきわどい描写があります。

原作再現かもしれませんが、下品ながらもライトな描写だった原作に比べれば
本当にダークだと思います、うちの作風。


クロスゲートから謎の怪物が現れたという報せを受け、リアスらは駒王駅前広場へとやって来た。

そこには、黒の菩提樹を名乗る集団が勧誘を行っていた名残や残留思念が残っており

その気配を追って現れたのは、例の謎の怪物の集団。

女性の頭だけの怪物、逆立った蛸のような頭をしたピンク色の軟体動物を思わせる女性のような見た目の怪物。

そして、穴だらけの甲羅をした亀のような怪物といった、アインストともインベスとも特徴が似通らぬ

まさしく、異形と呼ぶべき集団がそこにいた。

しいて共通する特徴を挙げるとするならば、二足歩行の獣と表現するのが適切か。

 

彼らは己を「悪魔」と呼称したが、リアスの知る悪魔とはまるで違い過ぎている。

対して、彼らはリアスを「出来損ない」と評し、敵意をむき出しにしていた。

 

その挑発ともいえる評価に対し、リアスが滅びの魔力を放つ。

だがその魔力は異形によって「喰われ」たのだ。

木場は以前この異形の悪魔と戦っていたが、その際に敵の全てを知ったわけではない。

他のメンバーは初戦みたいなものだ。敵のデータなど、ほとんどない。

 

「魔力を……食べた!?」

 

「……ウン。ヤハリデキソコナイノ魔力ダカラ、マズイナ。

 ダガ腹持チハヨサソウダ、直接喰ラウノデハナク、別ノ方法デ喰ラウトシヨウ」

 

「別の……?」

 

魔力を「喰う」。悪魔契約において、人間の欲望を叶える代わりに魂から対価を得る悪魔であり

接触によって魔力の譲渡を行うこともできる。だが、それをして「捕食」「被食」という表現はされない。

そのため、リアスは「喰う」という表現に対し、反応が遅れた。

 

その隙を逃がさず、異形の伸ばした触手が、リアスの身体を縛り上げる。

そのまま、粘液を滴らせた触手の一本をリアスの口腔に無慈悲に突っ込ませた。

 

「むっ!? むぐっ、んんんっ!?」

 

「悪魔ヲ騙ル癖ニ知ランノカ? コレハオ前ノ『マグネタイト』ヲ頂イテイルノダ。

 人間型ハコウスルト『マグネタイト』ヲ効率ヨク吸収デキルカラナ。

 コチラハ腹ヲ満タセル、人間ノ側モ癖ニナル、ドチラモ得ヲスル善イ方法デハナイカ」

 

「んんっ、んっ、んんんんーっ!!」

 

口に触手を突っ込まれているため、反論の言葉を発せられないリアス。

それどころか、行為はエスカレートしていき触手のお陰で制服は乱れ

紫色のランジェリーが露になってしまっている。この場にいるのはオカ研の面子だけだが

それでも白日の下に下着をさらすというのは生娘たるリアスにしては抵抗が強かった。

下僕たる眷属に肌をさらすことを何とも思わないリアスではあるが

それ以外の存在に対しては、やはり抵抗が強いのだ。

 

勿論、そこで縛り上げた触手の動きが止まるはずがない。脇腹、内股、臀部と

リアスの体中を嘗め回すようにはい回る触手の感触に、くぐもった声を上げてしまう。

実際には口の中にも触手を入れられているため、声になることは無いが。

 

「くっ、部長!」

 

主を助けんと木場が駆け寄ろうとするが、亀のような異形に阻まれ、接近ができない。

その甲羅は穴だらけであるが、まるでデスマスクを飾れるような大きさの穴ばかりである。

彼ら異形の見た目の不気味さは、アインストやインベス以上だ。

さらに得体のしれない攻撃、これが木場の攻撃の手を緩めさせてしまっていたのだ。

 

「ワカル、ワカルゾ。オ前ノ感情ガ。

 オ前は怯エテイル。我々ニ、我々ノ力ニ怯エテイルノダ」

 

「くっ……そんなはずは!」

 

「ナラ刃ヲ通シテミルガイイ。ソノ竦ンダ足デ、出来ルモノナラナ!」

 

異形の側からは、リアスに対して強姦紛いの攻撃を仕掛けている以外はそれほど積極的な攻撃はない。

にもかかわらず、木場は怖気づいて攻撃できないのだ。

アインストやインベスとも違う、禍々しさ。

かつてナイアの見せた影ともまた違う、異質な存在。

それが己を悪魔と嘯く。自らと同じ存在であると。

自分は奴らと同じ異形であるのか、禍々しいものであるのか。

恐れと混乱から、木場の剣は驚くほどに鈍っていた。

 

「コイツ、悪魔ノ臭イト天使ノ臭イガシヤガル! 珍シイ、俺ガ喰ッテヤル!」

 

「アオーン! ヌケガケ、ヨクナイ! オレサマモ、コイツ、マルカジリ!」

 

「……しまっ……あんっ!

 魔力が……吸われて……んんっ……そんな……とこっ……」

 

木場が竦んでいる一方、一瞬の隙を突かれ

朱乃もまた獣のような異形に集られるような形で組み敷かれてしまう。

危機的状態とは裏腹に艶のある声が漏れているが。

 

自身の戦闘力の低いアーシアは、ナイアに守られながらのため下手に身動きが取れない。

ナイアもまた、「群像の追憶(マス・レガシー)」で自身とアーシアを守るのが手一杯といった動きである。

 

「……オ前、本当ニ悪魔カ? 悪魔ノ臭イハスルノニ、悪魔ノ力ヲ感ジナイ。

 マダソコノ矮小ナ生物ヲ抱エタ悪魔ノ方ガ、悪魔トイウ説得力ガアル。オ前、何者ダ?」

 

「……君に教える義理はないし、知るべきじゃない……よ!」

 

「群像の追憶」の影から放たれた光が、異形を消し飛ばす。

だが、それはナイアにとっても消耗の激しい一撃だったらしく、息切れを起こしてしまう。

 

「……まいったね。アーシア君一人ならなんとかできるけれど、他のみんなまでとなると……」

 

珍しくナイアが弱音を吐いたところに、白猫と黒猫が飛び込んでくる。

的確に異形の目を狙った猫パンチが炸裂したと同時に、白猫は小柄な美少女の姿に

黒猫は妖艶な美女の姿に変化した。

 

「またこのわけのわからないバケモノね、白音、あんたはそのシスターの援護してなさい!

 バケモノは私が何とかするわ!」

 

「……姉様、気を付けて。アーシア先輩は私が守ります。

 それに、そのうちセージ先輩が来ると思いますし」

 

白音がここで妙なことを口走った。

 

 

――セージが来る

 

 

セージが一週間駒王町に戻るのが遅れるというのは伝わっていた。

だが、具体的な時間や駒王町のどこに戻ってくるかまではわかっていない。

それなのに、白音はセージが来るといったのだ。

勿論、個人的にやり取りしていたというわけではない。

 

だが、猫姉妹の応援を待ってましたとばかりに異形はその数を増やす。

どこに隠れていたのか、と言わんばかりの数だ。

アインストならクロスゲート、インベスならクラックという主たる移動手段はあるが

この異形は、そのいずれも使っている風には見えない。

まるで「初めからそこにいたかのように」次々に沸いてくるのだ。

 

「こいつら、どっから出てくるにゃん!? これじゃ捌ききれないにゃん!

 リアス・グレモリー! そこでよがってる暇があったら、こいつら捌くの手伝うにゃん!」

 

触手を振りほどけないリアスに対し、無理難題(?)を吹っ掛ける黒歌。

彼女は知らないことだが、リアスは魔力の源たるマグネタイトを吸われ続けているため

満足に滅びの力を行使できない。抵抗できないように縛られ、辱められているというのもあるが。

実際、黒歌のヤジに対するリアスの反応で

黒歌はリアスに起きていることを初めて知ることになる。

 

(こいつ! まさか魔力……いや、気を吸っているっていうの!?

 もし悪魔の癖にそんな芸当をこなす奴がいるとするなら、こいつらはもしかして……!

 で、でも「デーモン族」はとっくの昔に冥界から放逐されたって聞いたのに!

 現に私も冥界ではデーモン族を一度も見なかった!

 もしデーモン族だとしたら……ちょっとヤバいかもしれないにゃん!)

 

他所事を考えた黒歌の隙を、リアスを縛っていた触手とは別の触手が捕らえる。

着崩した丈の短い着物の隙間から、黒歌の肌を撫でまわすように触手は黒歌を縛り上げる。

 

「ふにゃっ!? ネコは優しく捕まえるにゃん!

 それに、そもそも触り方もセージの方がよっぽど……

 

 ちょっ!? 尻尾、尻尾はだめぇっ!?」

 

黒歌の二本の尻尾を擦り上げるように触手が蠢くと同時に甲高い声を上げる黒歌。

声を上げると同時に、黒歌も自身の妖力が抜けていくのを感じていた。

 

(やばっ……こいつら、やっぱ「マグネタイト」食べてるわ!

 喰われたマグネタイトは喰った奴倒せばある程度は回収できるかもだけど……

 

 こりゃ、セージにまたマグネタイト分けてもらわないとこれ以上は……!)

 

脱出と、消耗を抑えるために黒歌は猫の姿に戻るが、その動きは弱弱しい。

アーシアが派遣した蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)に回収されて、白音の元に戻る。

 

「ごめん白音、大口叩いてやられちゃったにゃん……」

 

「姉様、今のは気を、力を吸われたように見えましたけど……」

 

相手の正体を知っている風な素振りを見せる黒歌に対し、白音は相手の事を知らない。

ただ、以前交戦した正体不明の敵、その同類であることしか。

 

そんな中、木場からさらなる凶報が告げられる。

 

「……やりにくい相手だけど、僕らだけでやるしかない!

 超特捜課や光実(みつざね)君、ゼノヴィアさんは警察署前に現れた敵と戦っている!

 彼らの応援は期待できそうもない。今、光実君から連絡が来たんだ……」

 

(……参ったね。まさか現状でイッセー君を呼ぶわけにもいかないし。

 ここは、ちょっと本気を出すべきかな……?)

 

(……セージ先輩)

 

木場の報告に、危機感を募らせる白音とアーシア。

ナイアも表情こそ変えないものの、切り札を切る算段を立てていた。

初手でリアスと朱乃という、オカ研の主力二人が封じられたのがここに来て効いてきたのだ。

 

ナイアが再び「群像の追憶」の影の形を変えようとした時。

突如として、周囲の空間が歪み始める。

そのただならぬ気配に戸惑いを見せるのは、リアスら相手にワンサイドゲームを繰り広げいていた

デーモン族と呼ばれた異形の集団であった。

 

「――コレハ!」

 

「『異界ノ門』ガ開クトイウノカ!」

 

「神ノ現レタアノ忌々シキ門ガ!?」

 

「神ガ現レルトデモ言ウノカ!?」

 

顕現するクロスゲート。

青白い光と共に、空間を捻じ曲げて現れたのは――

 

 

――真紅の鋭利な翼を生やした、駒王学園の制服を着た少年だった。

 

 

(……ここは? 異空間は抜け出せたようだが)

 

『俺にもちっともわからん。一難去って何とやらというより、これじゃ渡る世間は何とやらだな。

 セージ、検索かけてみたらどうだ? そもそも、ここが何処かすらわからん』

 

現れた少年は、ここにいる者がよく知る少年に相違なかった。

だが、当人は事態が全く読めておらず、ただ空中で静観しているのみだった。

 

 

(……おい、アモン、アモン! 聞いてるのか!?

 

 ……どういうわけだ?

 さっきから……まるでアモンの声が聞こえない……?

 

 いや……聞こえないというか……遠い?

 ここが何処だかわからんし、とにかく情報を集めないとどうにもならんな)

 

左手の辞書を構えながら、少年は事態の把握に努めている。

そんな中、デーモン族の一体が少年に強い敵意をむき出しにしていた。

 

「――神カト思ッタラ……マサカ、ココデ逢エルトハ思ワナカッタゾ、アモン!

 相変ワラズ、人間ノ肩ヲ持ッテイルカ……ダガ、ソレハ今ハドウデモイイ。

 我ラト共ニ、忌々シキ神ヲ滅スルカ? ソレトモ、ココデ我ラノ糧トナルカ?」

 

「……アモンを知っている? お前は……まさか!?」

 

少年が気付いたのと、デーモン族が仕掛けたのは同時だった。

勧誘をし、協力を持ちかけてはいたものの

はなっからデーモン族の側は少年を生かすつもりは無かったのだ。

 

『アモンが言ってたデーモン族ってのは、こいつらの事か。大体わかった』

 

「いや、こっちは全然わからん。検索と周囲の状況を見た結果

 俺の知ってる駒王町っぽい場所に出たのは間違いないが。

 ……だが、一つだけはっきりしてることがある。

 

 ――ディーン・レヴが、さっきから物凄いエネルギーを発している。

 この間ほどじゃないが、うまく発散させながら戦わないとまた暴発しかねない。

 悪いがフリッケン、飛ばすぞ」

 

 

その時、少年――宮本誠二は全く自覚していなかった。

背中の翼と言い、溢れる力と言い自身の身体が「悪魔」に近づいていることを。




セージ戦線復帰。
と同時にまた変なフラグ引っ提げてます。こいつ前作からこんなんばっかやな。
あ、記憶いじられてるとかそういうのは無いです。たぶん。

>リアス
今回のセクハラ被害者その1。
見る分にはいいけど、実際蛸とかウナギとかナメクジとか身体を這いずり回ったら
きついと思うんです。肌が敏感だと特に。

……ここで最後までと少しだけ思いましたが、流石にそこまで畜生にはなれません。

>朱乃
今回のセクハラ被害者その2。
こっちはリアスと違って愉しんでる節があります。
Sなのは周知のとおりですが、父親がああですからMの資質もあるかと。

……主人共々異種(?)姦ですがね!

>木場
某木偶の坊にはなれなかった今回の不遇枠。
まああの坊さんが無駄に優秀過ぎるぞなもし。よって木場の今回の処遇はやむなし。
相手がジンメンなのもありますしね。人質使ってませんが。

>アーシア
木場とは違う意味で今回の不遇枠。
そろそろ蒼雷龍進化させてもいいんじゃよ?

……ちなみに、お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが
最近全然ラッセー呼びしてません、少なくとも地の文では。
こちら一応あるネタと、あるべき世界線からの訣別のための前振りだったりします。

>ナイア
正体を考えれば舐めプもいいところですが……
ここでイッセー呼んでもしょうがないのはまあ、その通りかと。
ギャスパーはダイナミックの凄みに耐えられるかどうか怪しい部分がありますし
イリナは協力プレイ無理ですし。

>黒歌
セクハラ被害者その3。
ねこの尻尾は性感帯になってること、多いと思います。
実際ねこは尻尾で色々訴えてきますからね。
付け根はマジで性感帯らしいですが。

セージの元に転がり込んだのはマグネタイトの安定供給も目的でした。
(番外編のネタ拾い兼ねて)
一応、拙作においてマグネタイトは色々な呼び方で存在する設定にはなってます。

>白音
ちょっと今回電波受信しちゃってます。電波。
こっちはマグネタイトの事はよく知ってません。
黒歌からレクチャー受けた際にもマグネタイトの事は半分伏せられてましたし。

>セージ
一応生物学上は「まだ」人間です。たぶん。
本人気づいてませんが、「アモンの翼を生やした状態で記録再生大図鑑を使っている」という
今までのセージではできないことをやってのけているバグが初っ端から発生してます。

>デーモン族
セクハラ攻撃全振りでトラウマ攻撃はかなり控えめです、少なくとも今回は。
いや、いきなりデスマスクフル装備のジンメンとかトラウマ通り越しますよ……
因みに、メガテン悪魔が紛れ込んでいるのは「仕様」です。
アモンの証言通りなら、性的な意味ではなく物理的な意味でもリアスらを「喰う」気満々です。

そして、こいつらもクロスゲートは知っています。
何せ「聖書の神」がそれ使って出てきてますからね(アモンの証言より)


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Will16. 地獄門からの帰還 Aパート

お待たせしました
思いのほか難産になってしまいまして、と言い訳をしたところで

実に久方ぶりのセージ一人称です



 

 

 

――長い長いトンネルを抜けると、そこは見知った町だった。昏い空が青くなった。

 

 

 

――

 

『セージ。何小説家を気取ってるんだ。小説家になるつもりか?』

 

「いや? 現状に相応しいのは笛吹きのほうかもな……

 そんなことより、また見たこともない奴がいるな。

 それに、さっきからディーン・レヴからすごいエネルギーを感じてる。

 いつぞやほど、扱いきれないほどじゃあないが」

 

別に小説家を気取っていた気はない。ただ、頭にふと浮かんだワードがそれだった。

正直、あの重苦しい空間を抜けられた解放感もある。少しは軽口を叩きたい気もあった。

自分ではうまいことを言ったつもりだが、こういう時のフリッケンの審査は辛口だ。

 

まあ、現状でそういう事言ってる場合でもないしな。

何せ、わけのわからない怪物が、よく見知った町によく似た場所で闊歩しているのだ。

おまけにこっちは、危険物を危険な状態で保持している。

あまり悠長にも構えてはいられないかもしれない。そう――

 

 

――俺達が通って来たのはクロスゲート。異なる世界、時間を繋げる、地獄の門。

 

 

抜けた先が、どこに出るのかは全く見当もついていなかった。

最悪、全然知らない場所に飛ばされることも覚悟はしていた。

そう、かつて俺達の世界に迷い込んだシスターのように、どこか別の世界の迷子になるか。

 

正直、ここだって俺の知っている駒王町だと断言できる要素がない。

見知らぬバケモノの存在もさることながら、先述のシスターの例を顧みるに

よく似た別世界、なんて枚挙に暇がないからだ。

 

そう考え、俺は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で周辺の検索、およびバケモノについての情報を集めている。

こればかりは、アモンに任せるわけにも……

 

 

…………アモン?

 

 

そういえば、こっちに来る前アモンが気になることを言っていたな。

デーモン族がどうたらとか。確か、悪魔にとっての原人ともいえる、前世代の悪魔。

アモンなら、何か知っているかもしれない。

検索の手は止めずに、アモンに聞いてみることにした。

 

(アモン。あのバケモノ、見覚えがあるか?)

 

――反応がない? 意思疎通の齟齬が生じたことはあったが、無反応は初めてだ。

もう一度、アモンに聞いてみる。

 

(アモン。聞こえないのか? アモン!)

 

『――……いねぇ――……れは…………ーモン…………なぜ…………

 

 ――……い、きこ…………いて…………ージ…………!』

 

なんだ? 無茶苦茶遠いぞ? ともかく、これじゃアモンに聞くのも無理だし

こんな状態でアモンに交代……交代?

 

ここに来て、今俺が置かれている状況を冷静に判断するだけの余裕が出てきた。

足元を見ると、やけに高いし、すーすーする。

 

 

「うおわぁっ!? お、お、おちおちおちっ…………あれ?」

 

 

下に下がっていく、スピードの速い下りエレベーターに乗った時のような下降感がない。

まさか、また霊体になってしまったのか!?

 

慌てて、俺は必死で自分の身体をペタペタと触る。

感触はある。まあ、自分の身体だからあまり意味はないかもしれないが。

 

『落ち着け、セージ。

 俺の推測だが、お前の力とアモンの力が混ざった状態なんだろう。

 何せ、俺達はクロスゲートを抜けてきたんだ。何が起きたっておかしくはない。

 いつも通り、大体わかっただけだがな』

 

え、えーと。

つまり今の俺は、神器(セイクリッド・ギア)が使えて、アモンの力が使える……

 

 

……それって、転生悪魔状態じゃないか! なんだってこんなことに!

せっかく、せっかく人間に戻れたと思ったのに!

なんでこんな……こんな……!

 

『だから落ち着けセージ。塩でも舐めたらどうだ。つかいいから舐めろ。塩飴でいい』

 

なんだってこんな時に……と思いながら、俺は忍ばせていた塩飴を口に放り込む。

……少し溶けてべたつきはしたが、別に普通の塩飴だ。これが一体どうしたんだよ?

 

『気づかないか? 転生悪魔になったなら、清めの役割を持つものが軒並みアウトになるだろ。

 だから塩もアウトになるはずだ。だが今のお前はそういう兆候が出ていない。

 これでも信じられなかったら、適当な神仏に祈ってみろ。何だっていい』

 

……あいつら飯とかどうしてるんだよ、と思ってはいたが

魔力で強引に何かやってるのだろう、と適当な理由をつけていた、塩の問題。

確かに塩を清めに使うことは多い。

塩飴だって、飴とはいえ塩分補給用の飴だ、塩は入っている。

それを摂取しても、特に異常はない。

 

ならばと試しに、適当な神仏……神仏同盟の二柱――この方々を適当呼ばわりは失礼だが――に

差し障り無い程度のお祈りをしてみる。別段、呼んで如何こうしてもらうつもりもないし。

 

……頭が痛くならない。ならば確定だ。まだ俺は人間だ。

では何故、アモンの力が人間のまま使えるんだ?

 

『俺が知るか。アモンに聞いても知らん、と答えるだろうけどな。

 だがそれについての検索は後にしろ、まずはあのバケモノをどうにかするぞ。

 俺の勘だが……あいつらが、アモンの言ってた「デーモン族」に違いない』

 

デーモン族。つまり、生物学的には悪魔と同類だろう。つまり、悪魔特効の攻撃が通るはずだ。

ならば――

 

SOLID - LIGHT SWORD!!

 

SOLID - REMOTE GUN!!

 

EFFECT - CHARGE UP!!

 

地面に降り、悪魔特効を持つ光力で攻撃する光剣と触手砲を出す。

やはり足を地面につけていた方が、何かとやりやすい。気分的な話だが。

 

そういや、兵藤の奴もほとんど飛んでいなかった気がするが……

まあ、どうでもいいし今は特に関係ないな。

 

触手砲に中~遠距離のフォローをさせ、俺が直接切り込む形。補助としてバフをかける。

王道の攻略法だが、果たして通じるか。

 

「オ前、アモンカ? ソレトモ人間カ? 人間ナラ……殺ス!」

 

「――人間だよっ!」

 

逆さの蛸みたいな頭をしたデーモン族――記録再生大図鑑によれば、テキスクと言うらしいが

これが個体名なのかどうかまではわからなかった――の伸ばしてきた触手を、光剣で切り裂く。

触手砲をぶつけたら絡まる恐れもあった。

以前、アインスト相手にやらかした失敗だ。一応反省点は活かしているつもりだ。

背後から頭に手と下半身の生えたデーモン族――

こいつはサイコジェニー、とか言ったか――が襲撃をかけてくるが

この襲撃自体が罠だった。振り向いた俺は、奴の目をもろに見る形になってしまった。

 

「くっ!?」

 

「人間、苦シメ。人間ノ苦シミノ感情コソガ、我ラノ糧トナル。

 我ラニ捧ゲヨ、マグネタイトヲ!」

 

マグネタイト? 聞きなれない言葉だが……くっ。

今、奴は何をした? 頭がうまく回らない……

思わず光剣を取り落としそうになるが、内側からフリッケンに力を入れられる。

そういやこいつ、俺の力を入れたり抜いたりできたんだっけ。

 

「うおっ」

 

『しっかりしろ。単純な催眠術だ。次からは奴の目に気を付けるんだな』

 

「ホウ。ドウヤラ貴様、タダノ人間デハナイラシイナ。

 アモン以外ニモ、別ノモノヲ内包シテイル」

 

「忌々シイ神ノチカラ、ダガソレソノモノデハナイ。ワカラヌガ……喰エバ同ジ事ヨ!」

 

交渉は無理そうだ。

アインストやインベスとは別の意味で交渉のできそうな相手ではないと思っていたが。

完全にこっちを食糧だと思っている。くそっ、どいつもこいつも悪魔って奴は!

 

さて。こっちに来る前にアモンに頼んだモーフィングだが

今アモン抜きで飛べたってことは、もしかして……

試しに俺は、地面の砂を掴んでデーモン族に投げつける寸前で

魔力(じゃないが、それに近い何かエネルギー)を込めてみる。

 

「ヌウッ!?」

 

するとどうだ。投げた砂がちょっとした砂煙になった。

ダメ元のモーフィングだったが、うまくいった。いってしまった。

一体何をエネルギーに使ったのかとか色々気になることはあるが

今はここにいるデーモン族を倒すことが先決だ。

奴らの大目的はわからないが、少なくとも放置したら自分が危ない。

それだけで迎撃、戦闘を行うには十分すぎる理由だ。

 

砂煙で生じた隙を突いて、サイコジェニーの眉間に光剣を突き立てる。

身体能力はバフをかけているので判断しかねるが

少なくとも今目の前にいるデーモン族相手に立ち回れる程度は確保できているか。

 

「キ、貴様……グ、エ、餌ノ……分際デ……人間……如キガ……!」

 

「……どうやら常識も古臭いアーキタイプらしいな。人間を嘗めるな、冥界の先住民!」

 

光剣の光力がサイコジェニーの体内で炸裂し、サイコジェニーは淡い光を放ちながら四散した。

この光がマグネタイトって奴か? わからんが。

すると、穴の開いた甲羅を背負った亀――ジンメン、と言うらしい――が

サイコジェニーから放たれた光を取り込む。

すると、背中の甲羅が気色悪く変化したと思ったら

サイコジェニーのでかい顔が甲羅に浮かび上がる。

有体に言って、キモい。キモいが……これ、最悪のパターンが考えられる。

 

アインストは変異能力、インベスは感染力と

それぞれただの悪魔や堕天使等とは違う特性を持っていた。

その特性を、デーモン族も持っていることになる。進化の過程で悪魔が失った能力か何かか?

対象を捕食し、その能力や特性を会得する。そういう体質を持っているのか?

検索範囲を広げたことで、絞り込んだ検索を行わなかったのが仇になったか、クッ……

 

「カカカカカカッ。古臭イアーキタイプダカラコソ、デキル事ガアルノダ」

 

見た目で惑わされるのは良くないが、見るからにこれで攻撃してくれって言わんばかりの風体。

俺は迷わず、光剣をしまい次の武器を取り出すことにした。

 

SOLID - GYASPUNISHER!!

 

妙にフリフリながらも、その威力は凶悪な鎚、ギャスパニッシャー。

相手が硬いのならば、これはかなり有効な武器になるはずだ。

それに正直、特殊能力も相俟ってこの武器使いやすいんだよな。重いのが難点だが。

デザインに目を瞑る必要が少なからずあるのも欠点か。

 

 

――さて。今俺はデーモン族に囲まれている状態だ。

12時方向にはサイコジェニーを喰ったジンメン。4時方向にテキスク。

その他、7時と10時に如何にもって感じの獣じみた風体のデーモン族。

これらはそれほど距離が離れていない。対して、距離の離れた場所には駒王学園の制服を着た集団。

――どう見ても、オカ研の面々なんだが――がいる。いるんだが……

 

 

……ここにいるオカ研の面々、そして白音さんや黒歌さんは

俺の知っているのと同一の存在なのか?

なまじクロスゲートなんぞ通って来たものだから

「別世界の同一人物」の可能性が否定しきれない。

この駒王町の荒れ具合は、俺の良く知っている駒王町に近いが……証拠が乏しい。

 

なので、ここは彼らと合流する手が取りづらいのはある。

さっきまで戦っていた様子はあるのだから、向こうもデーモン族は敵って解釈でいいんだろうが

じゃあ俺はどうなる?

俺だって、クロスゲートから出てきたアンノウンと見做されたっておかしくはない。

今のところ攻撃されてないのだって、デーモン族と戦っているからって考えは容易に浮かぶ。

 

……なので、あまり積極的に関われない。彼らの事よりも、デーモン族の方が先だ。

明らかに人間に害をなそうとしている存在であり、放置できない。

まずはこいつらを倒すのが先決だ。そう決意を新たにし、俺はギャスパニッシャーを握り直す。

 

「アオーン! アオーン!」

 

「…………っ!」

 

しまった! ギャスパニッシャーを持ったことで、動きが若干鈍っていた。

その鈍ったところを、獣じみたデーモン族の瞬発力に押されてしまったのだ。

カウンターで停止世界の魔眼(フローズン・グローバルパニッシャー)を発動させれば何とかなったかもしれないが

あれだって事前準備がいる。

ジンメンにばかり気を取られ過ぎて、こっちが疎かになっていたか! なんて初歩的なミス!

 

 

……を犯さないために、触手砲は地面に埋めていたんだよな、これが。

 

「ギャッ!?」

 

地面から鎌首を擡げ、レーザーを発射する触手砲。

ちょうど、俺目掛けてとびかかって来た獣じみたデーモン族のどてっぱらを撃ち抜くような形で

見事なカウンターが入った。

崩れ落ちたデーモン族からは、マグネタイトらしき光が放たれたが

そのマグネタイトはすぐさま捕らえられる。捕らえたのは――テキスクの触手だ。

 

「我ガ糧トナルガイイ! 道半バニ斃レタ同胞ヨ!」

 

マグネタイトを取り込んだテキスクは、その下半身を獣のような姿に変え

さらに触手の先端にも犬のような頭が現れる。

身体も全体的に大きくなっている、あからさまに強化されているな、これ!

触手砲で動きを封じようとしたが、その触手を犬頭の触手に喰われてしまう。

くっ、しかも生成した触手からもマグネタイトを喰っているのか、こいつ!?

 

――ならば!

 

SOLID - SWING EDGE!!

 

今度は喰われまいと、触手に刃をつける。

絡まる危険性もあるが、それならそれで相手の手札を一つ封じられる。

牽制しあっている隙を突いて、俺は本体にギャスパニッシャーを叩きつけることにした。

だが、思ったより相手の身体は柔らかい。これではギャスパニッシャーの通りが悪い。

おまけに勢いあまって敵の懐に飛び込み過ぎてしまった。

 

「なっ!?」

 

「自ラ喰ワレニ来ルトハ、殊勝ナ奴!」

 

飛び込んでしまった俺の首筋を、テキスクの牙が喰いちぎろうとしてくる。

慣性で突っ込んでいるので、回避が間に合わない。ダメか!

歯を食いしばり、せめて痛みを堪えようと構えることにした。

 

「うぐ……うっ!」

 

「……フム。キサマ、本当ニ人間カ? イクラアモンモ得テイルトハイエ、人間ノ味ガ薄イゾ?」

 

……何を言っている? まるで、俺が人間じゃないみたいな口ぶりだな。失礼な奴!

痛みを堪え反論しつつ、俺は今度はナイトファウルを実体化させる。

銃がこういう相手に効くかどうかは、まだわからないが。

 

SOLID - NIGHT FAUL!!

 

「自分では人間のつもりだ!」

 

ナイトファウルの銃剣で牽制しつつ、発砲する。

いくらかは効いてるみたいだが、やはり効きが悪い。

物理的な攻撃は効きが悪い、って奴か? それならそれで厄介な!

俺が使える魔力的な攻撃は……雷撃と、爆発と……滅びの力。

あとはアキシオン・バスターだが……ちょっと避難勧告なしで撃つのは……

 

アキシオン・バスター含め、失敗はそう何度もできない。

改めて、俺はテキスクを調べてみることにした。

 

COMMON - SCANNING!!

 

とにかく弱点だ。光属性、悪魔祓い以外の弱点。

調べてみてはいるのだが……どうにも、返答があやふやである。

何か混じり気のあるものを調べているような……そういう反応の返し方だ。

恐らくだが、さっき他のデーモン族を取り込んだせいか?

くっ、これだったら無限大百科事典(インフィニティ・アーカイヴス)でさらに深く調べるべきだったか? それとも……

 

……一応使えるから、ごり押しで仕掛けるか。

 

決心を固め、俺はナイトファウルの銃剣をテキスクに向けたまま、突撃を敢行する。

撃ってはいるが、これも牽制程度の役割に過ぎない。

 

「気デモ違エタカ? マタ自ラ喰ワレニクルトハナ!」

 

「ああ、食わせてやるよ――

 

 

 ――こいつをな!」

 

ナイトファウルの銃剣を突き刺し、腹にあたる部分に貫手をかましながら

記録再生大図鑑のカードを一枚、抜く。

勿論、使うのは――

 

EFFECT - RUIN MAGIC!!

 

滅びの力。結局これに頼るのはバカっぽくてなんだが、単純なのはそれなりに信頼がおける。

相手の弱点がわかりにくい場合だと、こういうのが却って早い。

外からでは阻害される恐れがある――魔力を喰う、という記述があるのが読めた――ので

内側から滅びの魔力を叩きこんでやれば、大丈夫だろうと踏んだのだ。

 

植物だって、水を吸うのに根の外側から吸う。内側から摂取するというのは、既に消化の段階だ。

消化をするにあたって、消化の悪いものを与え続ければどうなるか。無論、食あたりだ。

その要領で、俺はテキスクの内側から滅びの魔力を叩きこんでみたのだ。

 

「コ、コイツハサッキノ出来損ナイノ……ナゼ、キサマガ……!?」

 

「悪いな。俺は大体のものは真似できるんだ。本家がどういう使い方したかは知らんが

 俺は俺のやり方で力を使う。悪く思うなよ」

 

内側から滅ぼされ、テキスクは消え去った。

その瞬間、光がディーン・レヴに吸い込まれた風にも見えたが……なんだろうな。

 

もしや、ディーン・レヴはマグネタイトを吸って動いているのか?

いずれにせよ、何故かチャージされたディーン・レヴと言い、状況がわからなさすぎる。

ここにいる駒王学園の生徒だって、俺の知っているのと同一存在かどうか……

 

 

思案を巡らせていたこの時、俺は完全に失念していた。

攻撃に割り込まれたことで割り込んできたテキスクにばかり意識を向けていたことで

最初に対峙していたジンメンに対する意識がまるっきり飛んでいたのだ。

 

周囲の景色が歪む。

これは……サイコジェニーの力か!?

先手を打たれる形になった……まずいことにならなきゃいいが!




ちょっと勘が鈍って来たかもしれません。
セージ無双になってしまってますが……
昔から割とそうでしたっけ。

>他人の空似を警戒している訳
「ゴースト」特別編参照。
知っている人がいても、それが自分の知っている人と同一存在である保証がない、の
前例を知ってしまっているが故に……

>デーモン族
マグネタイト喰って任意で能力や特性を取り入れられる、としています。
ジンメンの背中のアレもそういう解釈してます。
人間にも微量ながらマグネタイトはありますし。
今回はサイコジェニー喰いましたが。

一応原作ではそれなりに強キャラだったサイコジェニーですが、今回は……
ま、まあ原作とは別存在という事でひとつ。

>マグネタイト
生体エネルギー、ですが割とこれも何でもありになってるような。
悪魔の魔力も天使の光力も妖怪の妖力もこれが根幹にある、というつもりではあります。


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Will16. 地獄門からの帰還 Bパート

お待たせしました。
この先は色々ネタが出て来るんですが、そこに至るまでが……


「コ、コイツハサッキノ出来損ナイノ……ナゼ、キサマガ……!?」

 

「悪いな。俺は大体のものは真似できるんだ。本家がどういう使い方したかは知らんが

 俺は俺のやり方で力を使う。悪く思うなよ」

 

内側から滅びの力を叩きこまれる形で、テキスクは消え去った。

その瞬間、消え去ったテキスクから生じた光がディーン・レヴに吸い込まれた風にも見えたが……

これは一体、なんだろうな。これがマグネタイトとか言うやつか?

 

だとすると、ディーン・レヴはマグネタイトを吸って動いているのか?

いずれにせよ、クロスゲートを潜っただけで何故かチャージされたことと言い

状況がわからなさすぎる。今回の件で、クロスゲート、そしてディーン・レヴについて

わからないことが増えた気がする。

 

クロスゲートと言えば、ここにいる駒王学園の生徒だって

俺の知っているのと同一存在かどうか……

こっちに仕掛けてこないのは、おそらくは様子見だろうとは思うが。

 

 

思案を巡らせていたこの時、俺は完全に失念していた。

攻撃に割り込まれたことで割り込んできたテキスクにばかり意識を向けていたことで

最初に対峙していたジンメンに対する意識がまるっきり飛んでいたのだ。

チッ、結局初歩的なミスしてるじゃないか!

 

周囲の景色が歪む。

これは……サイコジェニーの力か!?

先手を打たれる形になった……まずいことにならなきゃいいが!

 

怯んだ隙に、ギャスパニッシャーを取り落としてしまう。

サイコジェニーの頭が、こっちに向かって突っ込んでくる。

辛うじて受け身は取れたが、やはり生身でデーモン族の攻撃を受けるのは痛い。

 

「が……っ!?」

 

「サア、大人シク喰ワレルガイイ。ナアニ安心シロ、喰ワレタトテ死ニハシナイ。

 コノ甲羅ノ中デ、我ラト共ニ永遠ニ生キ続ケルノダ。

 尤モ、オ前ノ時間ハ死ヌ瞬間カラ永劫ニ進ミハシナイガナ」

 

倒れこんだ俺を喰おうと、ジンメンがのしかかってくる。

生で生きた人間を喰おうなんざ、悪食もいいとこだ!

 

……ふと、俺はかつて対峙したはぐれ悪魔の事を思い出す。

初めて記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を起動させたときに戦った蜘蛛みたいな奴。

オカ研面子のはぐれ悪魔狩りに付き合わされる形で同伴した、バイサー。

その他にも、ここに来るまでに様々なはぐれ悪魔と戦った。

 

まあ中には、結局インベスみたいなもんだったドラゴンアップルの害虫と化した

元妖怪のはぐれ悪魔や、黒歌さんみたいなケースもあったりするから

全部が全部人食いの生物ってわけじゃないだろうが

インベスは主食を獲物を使って栽培する性質があるから長い目で見れば人食いの一種だし

黒歌さんだってあのまま放置してたら間違いなく食人行為を行っていただろう。

 

とにかく、ここで喰われるわけにはいかない。

何とかして引きはがそうとはするのだが、力が強すぎる。

一応バフかけてるとはいえ、元が人間ではこういう時仕方がない部分はあるのか……!

勿論、相手がパワーに長けているって部分もあるのは事実なのかもしれないが。

いずれにせよ、現状では相手を調べられない。動きを完全に封じられた。

 

「ぐぐ……っ……!」

 

周囲に注意が向いていない。これは先刻の俺もだが、今のジンメンも同じだったらしく。

どうやらサイコジェニーの頭が背中から生えたとは言っても

その頭についている目に視認能力はなく、ただ催眠術や超能力といった能力を

行使するための器官だったらしく。

 

「……隙ありです!」

 

背中のサイコジェニーの目に、ジンメンから見て背後から攻撃が加えられる。

どうやら、俺にかまけているうちにオカ研の面々に対する注意が逸れたみたいだ。

アーシアさんの蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)の雷撃や、白音さんや黒歌さんの妖力の塊。

致命的なダメージにはなっていないが、サイコジェニーの結界を破るには十分だった。

 

「ヌウッ!? 我ガ空間ガ……!」

 

拘束が緩む。抜け出して反撃するなら今だ!

 

「おい、俺を喰いたいって言ってたな?

 ……そんなに喰いたきゃ、これをくらえ!」

 

ディーン・レヴに蓄えられたエネルギーを、ジンメンに直接送り込む。

さっきからエネルギーが暴発しそうでマズかったので、どこかで放出しないといけなかった。

これが送り先としては適切……かどうかはわからないが。

風船みたいに、破裂してくれればいいが……

 

「オゴッ!? オゴゴゴッ!?」

 

目論見通り、ジンメンの内側からエネルギーが暴発を始める。

このままいけば、倒せるかもしれないが――!

 

「伏せなさい!」

 

遠くから聞こえた声に、俺は思わず身構える。

これはまずい、と慌ててディフェンダーを実体化させた。

 

SOLID - DEFENDER!!

 

「二段構エ……コンナ……出来損ナイノ悪魔如キニ……!」

 

ディーン・レヴの力で動きが鈍っていたジンメンに、遠くから魔力がぶつけられた。滅びの力か。

となると……

 

振り向いた先には、赤い髪を靡かせてやたら自己主張の激しい胸を張りながら

胸同様に自己主張しながら偉そうに立っていた。

 

……とはいえ、今日は助けてもらったのは事実だし礼は言わないと。

 

「セージ! あなたセージで間違いないのよね?

 本当にあなた一体何処から出てきて……」

 

「セージ! おかえりなさい、待ってたにゃん!」

 

リアス・グレモリーを押しのける形で黒歌さんが飛びついてくる。

ほんのごく僅かにリアス・グレモリーに同情したが、黒歌さんがすりすりごろにゃん始めるので

たちまちそれどころではなくなってしまった。

すりすりごろにゃんするのは構わないけど、猫の姿でやってくださいと

家に招き入れた時から何度も言ってるでしょうが。

とにかく、このままでは身動きもとれないし話が進まないので一度黒歌さんを引きはがさないと。

 

「……相手はうちに帰ったらしますから、今はとりあえず離れてもらえます?」

 

「言質取ったにゃん! あとで覚えてないとか言うんじゃにゃいわよ!

 今までの分構ってもらうから覚悟するにゃん!」

 

……安請け合いしたかも。だがこの場を収めるにはこれしかない、と判断した以上仕方ない。

レーダーで周囲を調べたが、デーモン族の反応はない。

とりあえず、この近辺は大丈夫という事か。

となると……と、話を進めようと思ったら今度は白音さんの視線が痛い。

 

「…………おかえりなさい、セージ先輩」

 

「……みなまで言わなくていい、俺は贔屓は嫌いな主義だし」

 

言わんとすることを察してしまった。姉がこの様子では色々苦労するだろうなあ。

猫の相手なのか、そうじゃないものの相手なのかいまいちわからん部分もあるが

それは考えるのはよそう。疲れてるときに考え事はするもんじゃない。

当初の予定より帰るの遅くなったし、このリアクションは不謹慎だが嬉しくもある。

 

……ん? 当初の予定? 今いつだ?

 

「……なあ。変なこと聞くが、今は俺が出てからどれだけ経った?」

 

「……セージ先輩が出てから、ちょうど3週間です。聞いてた話より少し早いくらいです」

 

少し早い? やはり、クロスゲートで沢芽市からこっちに飛んできたおかげで時間が狂ったか?

というか、物凄いドンピシャで来られたもんだな。

もっととんでもない場所に飛ばされるとは覚悟してたが。

別の世界に迷い込んだ様子もなさそうだし。こんなところで強運を発揮したか?

 

「おかえり……と言うより、何ともないのかい?

 だってセージ君、今どう見てもクロスゲートから出てきた風にしか見えないし……

 それに、もう転生悪魔じゃないはずなのに普通にアモンの翼で空飛んでた上に

 その状態で神器(セイクリッド・ギア)使ってた風に見えたし……」

 

そこだ。祐斗にも突っ込まれる程度には、今の俺の状態はかなり怪しい。

戦力という意味では間違いないが、状況という意味では分からないことが多すぎる。

デーモン族が突如動き出したって点にしても、だ。

 

「セージ。まさかとは思うけれど、あなた別の悪魔の眷属に……」

 

「……助けてもらったことには感謝しますが

 あんた俺がそういう決断を下すはずがないって発想はないんですか?

 とりあえず、話がしたいなら一度休めるところでお願いしたいんですが。

 俺もそれなりに疲れ……っと失礼、電話なので」

 

グレモリー先輩の見当違い甚だしい意見をあしらっていると、スマホに着信が入る。

相手は――霧島巡査?

そういや、霧島巡査の呼び出しで沢芽(ざわめ)市からこっちに向かう途中で

フリードや向こうのアーマードライダーに襲われて、クロスゲートに飛び込んだんだっけか。

 

『宮本君、何度もごめんなさい! 警察署の前に正体不明の悪魔が――』

 

「警察署……駒王警察署ですよね? 駒王町で活動している超特捜課の拠点が置いてある」

 

霧島巡査が言ってくるってことは、おそらく駒王警察署で間違いはないと思うが

念のため聞いてみる。今話しているオカ研面子や猫姉妹が俺の知っているのと

限りなく同一存在に近いから間違いはないと思うが、念のためだ。

 

その返答は「何言ってるんだこいつ」的な反応が見え隠れしていたが

確信とまでは至らないにせよ、8割くらいの確率で

ここが俺の知っている駒王町であることを示す証拠になり得た。

今の白音さんらとの対話でも確信は得ていたが、もう一つ証拠が欲しかったのだ。

 

霧島巡査。超特捜課。駒王警察署。俺の知っている単語がピンポイントでそろいすぎている。

残りの2割は偶然の一致の賜物だろうが、その偶然の一致をそろえる方が大変だ。

まあいずれにせよ、警察が襲われているのだったら応援に向かうのが道理だ。

 

飛べるのだから有効活用しよう、とばかりにアモンの翼を開こうとした矢先

背後から再び声をかけられる。

 

「セージ、どこ行くの!?」

 

「警察。救援要請蹴るわけにもいかないでしょうが。

 それと、消耗激しいから分身にどっちか片方の相手を……ってのは無しで頼みます。

 あれホイホイ使ってる風に見えますが、実際結構疲れるので……今回の警備で骨身に沁みました。

 それに、警察を襲っているのがさっきまで俺らと戦っていたデーモン族の仲間なら猶更ですな。

 アインストやインベス、もっと言えば禍の団(カオス・ブリゲート)でも一緒ですがね」

 

……面倒くせぇ。こっちは暇じゃないってのに。

話し相手が欲しければ自分の眷属に頼めばいいだろう。

こっちだって状況の把握は完全じゃないんだ。

不完全な情報をべらべら言ったら、混乱の原因になるだろうが。

 

「待って! あなたに聞きたいことが色々とあるのよ! なぜクロスゲートから出てきたの?

 こいつらは一体何? 祐斗も言ったけど、どうしてアモンの力と神器を同時に使っているの?」

 

しかも答えづらい質問までしてきやがる。本当に面倒だな。兵藤がついてないだけマシだが。

答えるのは礼儀っちゃ礼儀だが、こっちはそれより急ぎの用があるんだ。

 

「こいつらはデーモン族。あんた悪魔なのに聞いたこと無いので?

 アモンに言わせば悪魔の先祖みたいなもんらしいですがね?

 そして俺は今言った通り急いでるので。話なら俺の用事が終わってからで頼みます。

 具体的には明日……いや、明後日の夜ですね。

 話をするにしても、こっちも情報を纏める猶予と、体力回復させる猶予が欲しいです。

 俺は今そっちの眷属じゃないですが、まさか他人にブラック企業待遇を

 強要したりはしないでしょう?」

 

「……わかったわ。明後日の夜ね。絶対来なさいよ」

 

アモンの真紅の翼を広げ、俺はリアス・グレモリーを尻目に飛び去る。

その刹那、猫に化けた白音さんと黒歌さんが両肩に乗ってくるので

二人がうまく乗れるように肩を動かす。

そのまま二人を肩に捕まらせたまま、俺はこの場を後にすることにした。

これ以上の相手をするのが面倒というのもあるが、相手がデーモン族であるとなると……

急いだほうがいいかもしれない。何故だか、そんな気がしてならなかった。

 

――アインストやインベスと違い、心を喰って力を得ているような奴らだ。

俺の記憶では警察署は避難所として開放されていた。

そういう意味でそこが襲撃されるというのは、よろしくない。

グレモリー先輩の話も完全無視を決め込んでもよかったが

デーモン族と現代の悪魔の関係については、今の冥界の住人に聞いた方が早いかもしれない。

そういう思いもあったのだ。あの反応では俺の思い違いの可能性は極めて高いが。

 

「……セージ。ちょっとリアス・グレモリーに甘くないかにゃん?」

 

「デーモン族なんてもろに悪魔と深い関わりのある奴らが出てきた以上

 悪魔の意見は聞くべきだと思ったんですが……ありゃ、知らなさそうですね。

 まさかアモンより知ってる情報が無いとは思わなかった。

 そのアモンもさっきからだんまりですし」

 

「デーモン族なら、あたしも知ってるにゃん。でも、絶滅したとばっかり思ってたにゃん……」

 

黒歌さんも、デーモン族については知っているらしい。

絶滅した、という意味ではアモンとほぼ同等程度の知識量と思うべきか。

しかし、そうなると解せないのはグレモリー先輩の反応だ。

悪魔の癖に、デーモン族を知らないというリアクションを取った……どういう事だ?

冥界の情報統制を懸念しつつ、俺は警察への空路を急ぐのだった。

 

 

 

……その急いでいる後ろで、眼鏡をかけた黒髪の女性――布袋芙(ほていふ)ナイアが

不敵な笑みを浮かべていたのには、俺は気づくことはなかった。




>デーモン族の捕食合体バフ
感覚器官として使うか、能力行使の器官として使うかは任意です。
この辺、なんでもありすぎますね……

>オカ研の参戦
オカ研らしからぬハイエナプレイですが、敵が未知の存在であり
搦め手多彩で危険な相手であること、そして何より突撃バカの割合が減っているので
こういうプレイもありかな、とは……

と思ったけれどリアスは割と最序盤から脳筋プレイでしたわ……
イッセー比較で頭使ってる風に見えてただけで

>リアス
リアスに限らずなんですが、どうしても他人を測る時には自己の測りに当てはめてしまいがちです。
故に、今回セージが呆れてます(勿論、セージも自分の測りで当てはめてる罠があったり)。
そして、彼女がデーモン族を知らないという事は悪魔の歴史において地味に重要なフラグだったり。
彼女に学がないという話ではありません。悪魔絡み、神器絡みに関してはそれなりの知識は有してますしね。
そんな彼女がデーモン族の事をまるで知らない、これはつまり……?
この件についてはセージも想定外だったらしく、素で呆れてます。
一応リアスがデーモン族の事を知らないのには理由がありますが、知ったこっちゃないですので。

>猫姉妹
猫ムーブしてない、と思われるかもしれませんが、猫によっては普通にこういうことします(ソース:故・うちの猫)
ちゅーるでもやったのかってくらいに懐かれてますが……本当になんででしょう。
いくら何でもやり過ぎたかもしれません……

ちなみにセージがピンポイントで飛んでこれた理由、それについてはナイア先生がほくそ笑んでますので……


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Will17. 暴かれつつある虚憶 Aパート

かなり、お待たせしました。
思いのほか多忙でして……

https://twitter.com/deep_sea60/status/1277574356491624448?s=20

ペル2罰20周年を祝うタグでなぜか石踏氏の垢が。
関係ないでしょお!?


駒王警察署に現れたデーモン族。

奴らが狙っていたのは、案の定避難所の人達だった。

辛うじて、待機していた超特捜課の人達と、援護にやって来たゼノヴィアさんと光実(みつざね)のお陰で

撃退することができた……うん? 光実?

 

そういえば戦っている最中、アモンの力が抜けて危うく墜落しそうになったが

反対にアモンの声は聞こえるようになった。一体何なんだ。

これは暫く、アモンの力を使うのは様子を見ながらの方がいいかもしれないな。

一時的なものかどうかさえ分からない。本番で不具合起こされても困る。

ディーン・レヴじゃあるまいし。

 

考えを纏めていると、俺を呼び寄せた霧島巡査が驚きを隠せない様子で俺に問いかけてきた。

おいおい、呼んだのはそっちだろうが。

 

……だが、その驚きの理由を考えれば納得がいく。沢芽(ざわめ)市から駒王町は

あ嚢な限りのショートカット、法定速度ギリギリといった道交法を遵守した上で

バイクで一時間以上はかかる。高速道路は封鎖されていて、使えないし。

 

こんなに早く、しかも別の場所からバイクも使わずに駆けつけてくるはずがないというのだ。

いや、飛んではきたが。しかしそれも、駒王駅前で既にデーモン族と一戦交えた上での話だ。

それは向こうだって知っている。長々と語ったが、要するに時間が合わないのだ。

 

「宮本君、確か連絡を入れてから一時間するかしないかの時間しか経ってませんが

 本当に沢芽市からどうやって帰って来たんですか?」

 

……どう考えなくても、クロスゲート潜って来た影響だよな……

隠してもしょうがないので、俺はその件に関しても包み隠さず話すことにする。

 

「戻る途中、ユグドラシルのアーマードライダーに襲われましてね。それとフリード。

 それで死に物狂いで逃げる際に、無我夢中で飛び込んだ先がクロスゲートで……

 気づけば、駒王駅前でした。それがついさっきの出来事です」

 

俺の話した内容に、その場にいた全員がざわめく。

俺の身の安否を気にかけて来るのはもとより、ユグドラシルのアーマードライダーの件に

クロスゲートを生身で突破して、かつドンピシャでこっちに来た件。

時間のずれがある以上、完全なドンピシャとは言い難い気もするが。

 

「……確かに人間が生身でクロスゲートを通った、というケースについては前例を聞いているが。

 その……大丈夫なのか? 後遺症とか」

 

蔵王丸(ざおうまる)警部もあからさまに腑に落ちない感じで、俺に質問攻めをしてくる。

あの、それなりに俺疲れてるんですが。

とはいえ、一応の上司なので無碍にもできない。いくら外部協力者とはいえ、こればかりは。

 

「時差ぼけについては何とも言えないですね。体調面については……

 自覚範囲の中では、特に何も」

 

自覚している限りでは、わからんのだ。ディーン・レヴの異常反応とかはあるが

超特捜課にもまだディーン・レヴについては話していない。

ここから話すとなると、少し面倒だ。

怒られるかもしれないが、こうなったら……

 

「警部、すみませんが俺も長旅で疲れてます。後日リアス・グレモリーらにも

 今回俺が得た情報を伝える予定ですので、その際に一緒に説明したいのですが、いいですか?」

 

「それはいいが、予定はいつだ?」

 

「明後日です、学校があるので、その後になりますが」

 

俺が取った方法。それは、超特捜課にも俺が得た情報を話し

グレモリー先輩らとの情報の共有を図るというものだ。

デーモン族などという、悪魔と切っても切れない関係にある相手が出てきた以上

少なくともグレモリー先輩とは情報を共有すべきと思ったが……

向こうの保有している情報が少なすぎる――寧ろ、ない――ので

結局俺が一方的に話すことになるかもしれないが。

 

「しょっちゅう呼んでおいて言うのもなんだが、お前も忙しいな。

 わかった、今日明日は休んどけ。警備については俺らが何とかする。あてもあるしな」

 

蔵王丸警部との話にケリがついたと思ったら、後ろから光実に声をかけられる。

……う、さっきアーマードライダーの話を出したのが仇になったか……?

 

「成二さん、さっきアーマードライダーに襲われたって……それは本当なんですか?」

 

「残念だけど、事実だった。国際指名手配犯のフリード・セルゼンと組んで俺を狙ってきた。

 後は……信じられないかもしれないが、戦極凌馬(せんごくりょうま)っていうユグドラシルの偉い人らしいのも

 俺――というか、俺に憑いているもの(フリッケンやアモン)を狙ってきた。聞いたことあるか? 戦極凌馬って名前」

 

俺の発言に、光実は明らかに顔色が変わった。

少なくとも、俺を狙ってきたアーマードライダーは、タワー前で攻防戦に参加していた

アーマードライダーじゃなかった。光実にとっても、やはりアーマードライダーってのは

一枚岩どころかかなり分かれている存在みたいだ。

 

「聞いたも何も、アーマードライダーシステムを作った張本人ですよ。

 僕の龍玄(りゅうげん)も、貴虎(たかとら)兄さんの斬月(ざんげつ)や斬月・真も、ひいては黒影(くろかげ)

 全部彼の製作です。彼専用のロックシードがあるって噂には聞いてましたが、本当でしたか……

 しかし、それより解せないのは国際指名手配犯と行動を共にしていたって点ですね。

 正直、戦極凌馬って人間には不可解な点も数多くありますが

 国際指名手配犯とつるんでいるってのは、殊更に不可解ですね」

 

国際指名手配犯とつるむ奴なんて、そうそういない。

というか、そもそも黒影は台湾マフィアである天道連(ティエンタオレン)に横流しされている。

そのことを考えれば、戦極凌馬がフリードと繋がっていても別段不思議ではないが……

とはいえあれは寧ろ、戦極凌馬と繋がっていたというよりは

ディーラーのシドのつながりと言った方が正しい気がするが。

 

「僕も聞いたことはあります。アーマードライダーシステムの不正利用の件については。

 しかし、性質の悪いことに量産型の黒影を使用しているため、足取りが追えなかったんです」

 

なに? おいおい、それが本当なら相当なザルか、意図的に情報を隠蔽されているかだな。

俺でさえ既に黒影が天道連に利用されているという事を知っているというのに。

或いは、内側だとわからないこともあるという事か?

これは隠すべき情報ではないと思い、俺は光実に黒影の行方を話すことにした。

 

「黒影が……台湾マフィアに? 本当だとしたら由々しき事態ですね。

 わかりました、この件は僕の方から兄さん――呉島(くれしま)主任に伝えておきます」

 

「そのことなんだが、俺達警察のお墨付きも加えていいか?

 沢芽市の警察が何やっているのかは情けない話だが知らんが

 少なくとも俺ら駒王警察署……っつーか警視庁だな。

 俺達は天道連が特別な装備を運用していることを知っている。

 その件について、ユグドラシルに事情聴取を行いたいからな」

 

蔵王丸警部からのお墨付きも出てしまった。確かに大企業の開発したものが

反社会組織に横流しされ、運用されているというのはよろしくない事態だ。

というか、あれだけの事態が起きていてまだ事情聴取すら

満足に行われていなかったことの方が驚きだが。

ユグドラシル、やっぱ色々とヤバくない?

 

「……警察に支援に来ていて言うのもなんだが、私はあまり警察にいい思い出がないな……

 いや、今にして思えば自業自得なのはわかるんだが」

 

「ああ、そういやお前は公務執行妨害でしょっ引かれたんだったな?

 せっかくだからこの光実ってガキに語ってやれ、お前の武勇伝を」

 

一方、警察に来ていたゼノヴィアさんだが

以前やったことがやったことなだけに肩身が狭そうだ。

安定して安玖(あんく)巡査が煽ってるし……おまけに振られた光実もリアクションに困ってるし。

 

「よさないか安玖。今のは普通に訓戒ものだぞ」

 

蔵王丸警部の注意が入る程度には、やはりまずかったらしい。

悪びれる様子もなくアイス齧ってる安玖巡査もだが、この人本当に警官なのか? と気にはなる。

ただ、言っちゃなんだがこれも超特捜課の日常っぽく思えて、ある意味落ち着く。

こういうやり取りで平穏を感じるってのも、どうかと思うが。

 

ふと、警らに出ていたと思しき警官がやってきて蔵王丸警部と何か話している。

俺は確かに警察協力者だが、それは超特捜課絡みの件のみだ。

通常の警察業務に関しては、俺の立場は一般市民のそれと変わらない。

なので、足早に出て行った蔵王丸警部が何の用事で出て行ったかはよくわからない。

 

……が、おそらくは以前裏道使ってイギリスから来たルフェイとかいう子に関してだろう。

そういや、あの一件どうなったんだろうな。

沢芽市じゃアーサーって奴の話は聞かなかったし、聞くにしてもなんだかんだで

俺は会場でも北欧神話の神々とは対話していない。話したのはお忍びの天照様くらいか。

偶然出くわしたような天照様は兎も角、北欧の神々は俺が関われる相手じゃない気もするが。

アーサーとか言う英雄派に出奔した男の話を思い出していると、また別の警官が駆け込んできた。

 

「警部! 大変です!」

 

「タイミング悪ぃな。蔵王丸のおっさんならさっき出て行ったぞ。

 只事じゃなさそうだが、何があった?」

 

この場にいない警部に代わり、安玖巡査がぶっきらぼうながらも応対をしている。

促される形で答える警官によれば、テレビでなにやら大変なニュースを流しているとのことだが……

話を聞いた俺達は、部屋にあるテレビをつけてみることにした。

 

『――沢芽市のユグドラシルタワー爆破事件に関する続報です。

 

 ユグドラシル・コーポレーションは、先の事件に際し実行犯と目される

 自称テロ対策チーム『D×D』メンバーの映像、顔写真を公表しました。

 また、犯行の瞬間の映像がこちらになります。ショッキングな映像を含んでおりますので

 視聴の際には、十分なご配慮をお願いいたします』

 

そうして流された映像。ユグドラシルタワーの監視カメラであると明記されている。

映像は白黒で不鮮明だが……確かに、魔力のようなエネルギー的なもので

タワー内部で破壊活動を行っている風に見える。

 

だが、この服は……パッと見、駒王学園の制服のようにも見える。

それに、女子の制服だ。これ、もしかしなくても……

 

そもそも、駒王学園の女子で、直近にユグドラシルタワーに行った奴なんて限られてる。

このタイミングでとなればほぼ確定だろう。

ここから導き出される情報は――

 

 

――リアス・グレモリーらこそがD×Dであり、テロリストであるかもしれない――

 

 

「マジかよ……これ、駒王学園の……!」

 

「ああ……間違いない。リアス・グレモリーだ」

 

「場所もユグドラシルタワー内部で合ってますね。

 まさか、僕があそこで戦っていた裏でこんなことを……!!」

 

当たり前だが、見知った者がテロ行為を働いている、その映像にはショックを隠し切れずにいた。

特に光実はショックが酷いようで、酷く動揺している様子が見て取れる。

その衝撃は、次に公開された顔写真でさらに加速度的に増すのだった。

 

『続きまして、ユグドラシル・コーポレーションが監視カメラに収めた映像から割り出された

 D×D構成員の顔写真になります』

 

『これは……みんな少年少女じゃないですか。

 少年兵によるテロリズムとは、到底許せるものではありませんね。

 以前お話していた李氏の懸念が、的中してしまった形になるのでしょうか』

 

コメンテーターが何か言っているみたいだが、正直俺の耳にはあまり入ってこなかったし

ゼノヴィアさんや光実の狼狽具合が酷く、そっちの方が気がかりだった。何せ――

 

 

リアス・グレモリー

 

姫島朱乃

 

アーシア・アルジェント

 

木場祐斗

 

そして……呉島光実

 

彼らの写真が、D×D構成員として公表されてしまったのだ。

実際のところ、犯行現場に光実は映っていなかった。

しかし、その前に他の4人と行動を共にしていたところを目撃されていた。

それが決定打となり、D×D構成員と見做されてしまったようだ。

 

「バカな……僕が……テロリスト……!?

 しかも、ユグドラシルが僕を……!?」

 

「アーシア……いや、アーシアがテロリズムに身を窶すとは思えん。これは何かの間違いだ。

 ミツザネ、お前の写真も何かの間違いだろう。私には、そうとしか思えん。

 

 ……リアス・グレモリーと姫島朱乃については、私も擁護できんがな……」

 

ゼノヴィアさんの意見には同意だ。擁護できない点も含めて。

付け加えるなら、祐斗もテロリストに加担するとは思えない。

それくらい、この報道には違和感を覚えてならないのだ。

 

『……セージ、これは何か恣意的なものを感じるぞ』

 

『俺も同意見だ。いくら民衆が仮想敵が欲しいっつったって、チョイスが限定的過ぎる。

 まるで、こいつらを陥れるために誰かが仕向けたか

 あるいはサーゼクスの野郎を煽ってるとしか思えんな』

 

さっきまでの穏やかな雰囲気が一転してどよめく超特捜課内部。

そんな中、光実のスマホに通話が入ったみたいだ。

 

「もしもし……兄さん!? ……うん、僕は今のところ無事だよ。

 ああ、僕はそんなことをしていないし彼らと関わったのだってあくまでも企業見学の体だ。

 それ以上は何も関わっていない。

 幸いにして、こっちの警察は話が通じそうだからね……

 

 ええっ!? 沢芽市は今そんな状態に……?

 ……となると、今僕が沢芽市に戻るのはあまり得策じゃないか……

 大丈夫、僕だって呉島の男だ。これ位の逆境は乗り越えて見せるさ……うん。

 兄さんも気を付けて。藤果(とうか)さんにもよろしくね。それじゃ……

 

 ……兄さん――呉島主任からだ。

 さっきの報道で、沢芽市は少なくない混乱が起きているみたいだ。

 何せ、ユグドラシルの関係者が自社ビルを爆破する手引きをしたようなものだからね」

 

今の報道で、期待の新人が一転してテロリスト扱いになったってわけか。

その辺は、何か冥界でも似たような事例が起きているような……?

その冥界の期待の新人(?)に関しても、続く報道でついに語られることとなった。

 

『そして、こちらが「D×D」の首謀者と思しき者の写真です。

 赤い鎧に身を包み、その素顔は今もって不明のままです……』

 

『おや? これは……かつて駒王町で暴れまわった赤い怪獣に酷似しておりますね?

 あれも「D×D」の送り込んだ生物兵器的な何かなのでしょうか?』

 

……確かに、あの赤い鎧は「赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)」に酷似している。

だが、あれの宝玉は緑だったはずだ。金色じゃない。

しかし、それに気づくのは精々実際に戦った俺らだけだろう。

おまけに、大々的な騒動を起こした覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)と結び付けられようとしている。

そうなってしまったら、少なくとも一般向けに説明するのは難しいんじゃないか?

 

――報道されたD×D首魁と、兵藤一誠が同一人物とは限らない――なんて。

 

これは、かなりマズいかもしれない。

この場合、兵藤が動くパターンはおおよそ三通り考えられる。

 

一つ。我武者羅に報道を否定する。

 

二つ。報道に我関せずの態度を通す。

 

そして三つ。開き直り、テロリスト紛いの行いに走る。

 

どう動くにせよ、気を付けなければならないかもしれない。

なまじ、力だけは強いのだ。それが何の制御、統制もされてないとなると……

安全装置のない核兵器みたいなものだ。

兵藤を殺すとかじゃなく、ドライグの力だけ引っこ抜くとか出来ればいいんだが……

今俺ができる方法じゃ、兵藤ごと殺しかねない方法だけだ。

命に別状なく、神器(セイクリッド・ギア)だけを引き抜く方法なんてものは、無い。

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)ならいざ知らず。

 

全く、D×Dか……面倒なものが出てきてくれたもんだ……




警察署のデーモン族はダイジェストにすらなりませんでしたが
概ね前回戦ったのと同じです。
避難所の住民のMAG吸おうとしてました、そういう意味では前回よりヤバいです。

>セージ過労気味
そりゃ退院して襲撃されてクロスゲート潜ったらデーモン族と戦って……
ちょっとブラックじゃないですかね?

>ザルドラシル
割と原作再現でもあります。
泳がせてたビートライダーズから機密漏れてるなんて茶飯事ですからね。
アングラから軍事機密が漏れるとは言われますが、それにしたって。
あと沢芽市警とも普通にずぶずぶでしょう。

>D×D
ついに顔写真発表されました。前回は名前だけ出ただけですが
とうとう顔写真と映像の公表。しかもユグドラシルから。
警察ではなくユグドラシルがやったというあたりが……

そして首魁として公表されたのは偽(?)イッセー。
完全にこれ狙ってますよね。何する(させる)つもりなのやら。


※7/1追記
アモンの状態について追記しました。ご指摘ありがとうございます。
それとタイトル誤字修正。辞書登録すべきかな……

>アモン
作中通り、元に(?)戻ってます。
表に出ることは可能ですが、どうなるかわからない状態なので様子見、といったところです。


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Will17. 暴かれつつある虚憶 Bパート

Bパートです。
やや短い(?)です。


報道されたD×D首魁とされる人物の写真。

それはどう見ても「赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)」であり

即ち兵藤一誠であると思われた……ある一点を除いては。

 

そのある一点、それは「宝玉の色が緑ではなく、金色である」点のみであり

これを証拠とするには、些か弱い気がする。

さらに悪いことに、覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)とのデザイン上の類似点も指摘されている。

覇龍と兵藤の関連性は、実しやかに囁かれている。

そうでなくとも、駒王町の住民の間では公然の秘密みたいなものだ。

 

つまり、だ。

この報道を以て、駒王町の住民の間には

「兵藤一誠がテロ対策チームを自称するテロ集団のリーダー」

という不文律が生まれかねない。

どう見たって、これは追い打ちというか死体蹴りだ。

まるで、この人間社会から兵藤一誠という存在を締め出そうとしているかのような報道だ。

今までのあいつの行動から顧みても、露骨すぎる。

ここまでする必要があるのか、と思えてならない。

 

これは、かなりマズいかもしれない。

もしかしなくても、追い詰められた奴がどう出るかはまるで読めない。

性的衝動以外はまるで読めないあいつのことだから、なおさらだ。

それでも絞り込んだとして、兵藤が動くパターンはおおよそ三通り考えられる。

 

一つ。我武者羅に報道を否定する。

 

二つ。報道に我関せずの態度を通す。

 

そして三つ。開き直り、テロリスト紛いの行いに走る。

 

どう動くにせよ、気を付けなければならないかもしれない。

なまじ、力だけは強いのだ。それが何の制御、統制もされてないとなると……

安全装置のない核兵器みたいなものだ。

爆弾の信管だけ取り除くみたいに、兵藤を殺すとかじゃなく

ドライグの力だけ引っこ抜くとか出来ればいいんだが……

 

今俺ができる方法はどれも、兵藤ごと殺しかねない方法だけだ。

命に別状なく、神器(セイクリッド・ギア)だけを引き抜く方法なんてものは、無い。

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だけを引っこ抜くのならいざ知らず。

 

全く、D×Dか……面倒なものが出てきてくれたもんだ……うん?

俺についてきていた黒歌さんが、何か言いたげな顔をしてのぞき込んでくる。

なんなんだ、一体?

 

「セージ。その様子だとD×Dって……知らなさそうね。

 いや、前にテレビでやってた時、D×Dって単語に白音が尋常じゃないリアクションしたのよ。

 それで、あんたなら何か知らないかと思って。

 なんでも……『D×Dはテロ集団なんかじゃない』みたいなことを口走ってたわね」

 

「ユグドラシルが出すゲームがそういう名前だったらしいってことまでは知ってます。

 しかし今話していたのはゲームじゃなくてテロ組織の名前ですしね。

 そういや……ゼノヴィアさんも知ってそうな素振りを見せてましたね。中身は知りませんが。

 

 ……しかし白音さんもか。本当に解せないな。それに報道と真逆の事を言っている……

 あの時は調べなかったけど、やっぱ調べてみるべきか」

 

「……ごめんなさい、セージ先輩。疲れているところに」

 

BOOT!!

 

肩を叩き白音さんを宥めつつ、俺は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を展開する。

検索キーワードは……「D×D」……だけだと、ゲームの方もヒットしてしまうか。

ならば除外キーワード……「ゲーム」「ユグドラシル」。これでどうだ?

 

……ダメだ。いまいち絞れないな。

というより、要領を得ないな。テロ組織、って記述が大半だが

テロ対策チーム、って記述もちらほら見受けられるな。

閲覧権限が無いから、無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)を出さないと読めないものばかりだが。

 

……うん? 無限大百科事典でないと読めない方に、テロ対策って記述?

今読める方にテロ組織であるD×Dの記述があるのは、不思議じゃない。

どんな形であれ、実際にタワーを爆破して声明を出している。

それが直近の出来事であったとしても、記録再生大図鑑のサーバーに上げられていたってことだ。

 

ところが、テロ対策チームとしてのD×Dは、記録再生大図鑑じゃ読めない。

それはつまり……「この世界にはテロ対策チームとしてのD×Dは存在しない」ってことになる。

記録再生大図鑑で読めなくて、無限大百科事典で読めるってのは、そういう事だ。

 

記録再生大図鑑の禁手(バランスブレイカー)たる無限大百科事典は、別の世界の事柄も精度は兎も角調べられる。

対して、記録再生大図鑑は別世界のものは調べられない。それが答えを導き出している。

 

……ってことは、白音さんの反応は……

 

「……大体わかった。というより、報道の言っていることが正解というべきか。

 白音さんの言ってたことについても、記録自体はあった。

 ただ……『記録再生大図鑑では読めず、無限大百科事典を要求された』。

 

 つまり、白音さんの思い描いたD×Dってのは……何かしらのデジャヴみたいなもんだと思う。

 少なくとも、残念ながらこの世界のD×Dはテロ集団と見て間違いないってのが俺の見解だ。

 無限大百科事典でしか読めない事柄ってのは、そういう事になる」

 

「……そう、ですか……」

 

落胆したように、白音さんが返答を返す。

D×Dという単語に反応していたゼノヴィアさんも、俺の話を興味深そうに聞いていた。

その上で、ゼノヴィアさんからも質問が飛んできた。

 

「デジャヴか……そこの白猫妖怪がどんなものを思い描いたのかは知らんが

 私が思ったのもデジャヴという事になるのか?

 もっとも、私はD×Dについては『聞き覚えのある単語』程度にしか思わなかったが……

 

 ……テロ対策チーム、そういわれるとなんだかそんな気がしないでもないな。

 勿論、今報道にあったD×Dと、私が思い描いているそれが同一だと言うつもりはないが。

 それにそもそも、構成員が違う。私の頭を過ぎったD×Dに、ミツザネはいなかった。

 いずれにせよ、ミツザネがテロリストだというつもりも無いがな」

 

アーシアはいたが、と小声で付け足しながらゼノヴィアさんが見解を述べる。

アーシアさんねぇ……アーシアさん……アーシアさん!?

 

……ちょっと待て。もう一度公表されたメンバーを思い返してみよう。

 

リアス・グレモリー

 

姫島朱乃

 

木場祐斗

 

アーシア・アルジェント

 

呉島光実

 

そして……兵藤一誠らしきもの。

 

光実の代わりに白音さんを入れれば、俺らが入ったころのオカ研――ギャスパーを除く――と

驚くほどに酷似する。ブローどころか、ヒットが多数入っている状態だ。

まるで、それを見透かしているような感じがしてならない。

というか、ピンポイント過ぎる。何故駒王学園オカルト研究部が?

 

いや、そうじゃない。何故リアス・グレモリーとその眷属が?

もう一度、構成員について調べてみよう。キーワードは……「D×D」「構成員」。

 

……ダメだ。報道されたもの以外は載っていない。

デジャヴの向こう側を調べれば……いや、デジャヴはあくまでもデジャヴか。

光実の存在と言い、何から何まであてになるわけじゃないし、余計な先入観が生まれかねない。

向こう側のD×Dの事については、これ以上は調べるのはよそう。

 

……多分、あまり関係ないと思う。

考えがまとまったところで、左頬に冷たいものが押し付けられる。

思わず声を上げながら当たってきたものの正体を見ると

黒歌さんが買ってきてくれた缶コーヒーが差し出されていた。

 

「やっぱセージいい声出すにゃん。ほら、お疲れ様にゃん」

 

「ありがとうございます……てか、普通に渡してください」

 

銘柄はこだわらないが、比較的好きな奴だ。ありがたい。

思わず出た声に恥ずかしがりながら、俺は照れ隠しに缶を開封し、コーヒーをあおる。

 

次の瞬間、不意打ちで黒歌さんが後ろから抱き着いて腕を前に回す形で胸元に指を這わせる。

こっちはコーヒー飲んでるのに、そんなことしたら……

 

……当然。咽る。苦くて咽るんじゃなくて、驚いて咽る。

 

「!? ……げほっ、げほっ、げほっ!」

 

「……姉様」

 

じと目で黒歌さんを睨んでる白音さん。そりゃそうだよな。そうでなくともここ警察だし。

今回はやられたってことを考慮に入れなくても黒歌さんを擁護する気は全くない。

家に帰ったらどついてやろうか。このクソ猫。人のコーヒータイム邪魔しやがって。

 

「警察ではめ外すとはいい度胸だな? セージ?」

 

「……す、すんません……」

 

案の定、安玖(あんく)巡査に怒られた。理不尽だが、仕方がない。

俺も警察でいちゃつくのはマズいと思うし。

TPO弁えられるように、一度叩き直してやる必要があるだろうか。

なんにせよ、話もまとまったところで一度家に帰るべきか。疲れたし。

 

「さて……それじゃ俺達はそろそろ帰ります。話す予定だったことについてはまた明後日に」

 

「そうですね。D×Dとか想定外の事態が起きましたけれど、また明後日にお願いします。

 僕の方も、沢芽市絡みで何か起きたらすぐ伝えに来ますので」

 

「私も、帰らせてもらおう。あの報道で、アーシアが心配だ。

 慧介にも話は伝わっているとは思うが、慧介とも協力しないとこれはまずそうだ……

 ただでさえ、アーシアはヘイトを稼いでいるんだ。

 アーシアが暴行の対象になって、それであいつが暴れだしでもしたら……!」

 

ゼノヴィアさんの言う通りだ。彼女、戦い方こそ力任せだが

状況を把握する力はそれなりにあるんじゃないか?

彼女の言う通り、アーシアさんが対悪魔の暴動の標的となり、最悪の事態になったら

また兵藤が暴れだしかねない。アレをまたやるのは御免被る。

アーシアさん絡みは、ゼノヴィアさんに任せるべきか。

俺とてそこまで手が回るとは思えん。

 

沢芽市での戦いを無事終えたのもつかの間。

突然の襲撃から逃げるように駒王町に戻ってきた俺を待っていたのは

デーモン族の襲来と、正体を現したD×Dというテロ対策チームを名乗るテロ組織。

そして、そのD×Dが晒した正体が齎すであろう、混乱が待ち受けているのだった。




完全にミッチはとばっちり。
オカ研がかなり疫病神じみた扱いになってますねこれ。

>D×D
これをこの扱いにしたのは、この一連の作品の方向性を決めた(「ゴースト」連載開始後少ししてから)後の話です。
原作のノリだと、スパロボ自軍のイメージなんでしょうが
それにしては各方面との折り合いのつけ方が杜撰な気がしますし
後ろ盾がまともに政治的な話してるとは思えないですし

とはいえ後ろ盾の話にリソース割いたOGMDがあまり……だったので(私は好きですが)
そんなんやってられるか、ってのが今の受け手側の心情なんでしょうね。

とどのつまり、個人的には原作D×Dって何がしたいの? に帰結してしまうんです。
全世界を巻き込んだ正義の味方ごっこだとしたら、とんでもない話ですし。

拙作でD×Dがテロ対策チーム気取りのテロ組織、としてあるのは完全に嫌味というか皮肉というか、ですが
これって寧ろ原作英雄派じゃね? とも少し思ったり。

寧ろ、スパロボ自軍というかソレスタルビーイングとかラクシズとかそういう色が濃いかも……
ソレスタルビーイングにせよスパロボ自軍(一部除く)にせよある程度は批判的な語られ方もしてるのに対して
ラクシズや原作D×Dは……ですから。
アンティラス隊みたく開き直るのも一つの手かもしれませんけどね。
(正直、数あるスパロボ自軍の中でもアンティラス隊は戦力は兎も角運営方針としてはかなり……だと思ってます)

>オカ研
今回それほど触れてませんが、完全に当てつけな公表ですので
セージは一誠の暴走を危惧してましたが
寧ろリアスのが暴走の危険性あるのでは? とか思ったり
で、発表したのはユグドラシル、リアスが何言っても知らぬ存ぜぬ。
本当にミッチカワイソス。貴虎ニーサンの胃も大変だ。


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What the press has done for them Aパート

お待たせしました。
いや、リアルがあれからマジヤベーイ事になりまして。

痛風発作で踵に激痛が走り松葉杖生活

松葉杖が取れるも右肩から右手の痛みが激しくMRI検査実施

頸椎症性神経根症と診断、現在も痛み引かずリハビリ生活中←今ここ

何とか形にはなりましたので、投稿させていただきます。


テロ対策チームを騙るテロリストとして報道されたD×D。

その構成員の写真が公表され、世間は、冥界は混乱に陥っていた。

 

「何かの間違いだ! リーアたんが、リーアたんが禍の団(カオス・ブリゲート)のような

 テロリストであるはずがない!」

 

「あなた! 落ち着いてください!」

 

グレモリー邸。

人間界の情報を得た当主、ジオティクス・グレモリーが半狂乱になりながら

娘リアスがテロリストとして公表されている報道を否定する。

ともすれば、名誉毀損を口実に人間界に攻め込みかねない勢いだ。

妻であるヴェネラナや、今なお付き従っているグレイフィアなどが制止に入っている。

 

「人間の目がここまで節穴であるとは思わなかった! 何故リーアたんがテロリストなのだ!

 リーアたんは立派に禍の団と戦っているではないか! それが何故……!!」

 

「旦那様。今回の件につきましては、魔王様から神仏同盟並びに人間界に対し

 異議を申し立てるそうです。

 サーゼクス様も、この報道については納得していないご様子でしたので」

 

グレイフィア自身がどう思っているかは定かではないが

彼女の夫であり、主であり、リアスの兄でもある

サーゼクスもまた、ジオティクスと意見を同じくしていた。

彼は自らの魔王としての立場も活用し、リアスがテロリストである、という報道に対して

異議を申し立てる方針を立てたのだ。

この方針は、四大魔王の賛成2、反対1、棄権1という票数を以て可決された。

 

賛成は言わずもがなサーゼクスと、明日は我が身とばかりに賛成したセラフォルー。

反対はファルビウム……ではなく、ディアボロス・クロニクルの販売を前に

主要マーケット市場である日本ともめ事を起こしたくないアジュカであった。

棄権はファルビウム。いつも通り、我関せずといったところだ。

 

因みに、貴族議員もファルビウム同様この報道に対しては我関せずを貫き通している。

たかだか地方貴族――それも没落気味――の次期当主に過ぎない

リアスとその眷属が人間界でテロリスト扱いされたことに対して

何ら興味を示すことはなかったのだ。たとえリアスが、魔王の妹であったとしてもである。

リアス以外の報道された人物――呉島光実を除く――にしても同じか

それ以上に興味を示すことはなかった。

 

何せ、彼らは皆一様に転生悪魔――純血悪魔ではないのだから。

それは、D×Dの首魁として報道された赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)に対しても同じであった。

如何に赤龍帝と言えども、転生悪魔に過ぎない。

それが、貴族悪魔の腰を重くし続けている一因であった。

 

 

――――

 

 

一方、イェッツト・トイフェルもこの件については静観を貫き通している。

今回の報道は、人間が自らの意思で行ったことであり、悪魔の意思は何一つ介在していないのだ。

それが故に、悪魔であるジオティクスやサーゼクスの怒りを買ったとも言えるが。

 

「呑気な話ですな。国内では未だアインストやドラゴンアップルの害虫、禍の団に加えて

 最近ではJOKERなる怪人の噂で混乱しているというのに、妹君のご心配とは」

 

「……君に言われたくはないよ。まさかとは思うが、リー……リアスのスキャンダル。

 君達がでっち上げた話じゃないだろうね?

 聞けば、ハマリアとリアスは以前もめ事を起こしたそうじゃないか」

 

暗に「身内の心配より自国の心配をしろ」と釘を刺したイェッツト・トイフェル司令

ギレーズマ・サタナキアの言葉に対しても、サーゼクスは過去のリアスと

イェッツト・トイフェルのやり取りから、彼らがスキャンダルとして

情報を横流したと疑惑の目を向けている。

妹可愛さとは言え、上に立つ者としては褒められた行いではない。疑心暗鬼の振る舞いもである。

 

「これは異なことを。我らにそのようなことをするメリットも、余裕もありません。

 あなた方魔王の眷属にも、国防には手伝っていただきたいのですがね。

 まあ、突然アインスト化して後ろから撃たれても困りますがね。

 

 ……しかし貴族は仕事をしない、魔王は身内の心配、働くのは未熟な若者ばかり。

 このような有様では、我ら悪魔の未来などあって無きが如くですな」

 

「……眷属を国防に派遣しようとしたのを止めたのは、君達じゃないか……!」

 

ギレーズマの嫌味に、サーゼクスは拳を握りしめて反論する。

実際、魔王眷属の国防参加に待ったをかけるよう働きかけたのはイェッツト・トイフェルである。

しかし、アインスト化したベオウルフという前例があっての事なので

別段彼らが間違っているとは言い切れない。

それが後々にイェッツト・トイフェルの首まで絞め始めたのは皮肉な話ではあるが。

 

「ええそれが何か? 我々は素性の知れないものとは組めませんのでな。

 組むにしても、経歴家族構成その他諸々きちんと調べ上げた上で

 協力を仰ぐ形しかとっておりません。

 どこぞの誰かのように、街頭スカウトみたいな形でコレクション感覚で

 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を配り歩いたり、悪魔の数を増やすという名目の悪魔の駒を

 事もあろうに純血悪魔に使うという本末転倒な事をしている者の眷属など

 たかが知れている、と言いたいのですよ」

 

「……ッ! グレイフィアは関係ないだろうッ!!」

 

ギレーズマの嫌味に、思わず激昂するサーゼクス。

彼にしてみれば、曲がりなりにも愛する妻を愚弄されたのだ。

ちなみにこのケース、少なくとも他にライザーにも当てはまるのだが

ギレーズマは彼の事を考慮に入れていないし

そもそもギレーズマとライザーでは地力が違いすぎる。

既にドロップアウトした悪魔の事など、彼は気にも留めていないのだ。

 

……最も、ライザーが悪魔の駒を使った相手である純血悪魔はレイヴェルであり

既に彼女は新たな「(キング)」となったため実質無効化しているようなものだが。

 

「誰とは申し上げておりませんが、そこでそのように怒鳴り散らすという事は

 心当たりがおありと見てよろしいですな。

 まして名前まで出しては、自分がそうであると認めているという事。

 サーゼクス様。もう少し、腹芸というものを身に着けた方がよいですな。

 グレイフィア嬢、ひいてはミリキャス坊のためにも」

 

「……家族は、家族は関係ないと言った!

 私に対する愚弄なら甘んじて受けよう、だが家族を愚弄することは――」

 

「そこです。あなたは何者ですか。サーゼクス・グレモリーならばそれでもかまいませんよ。

 私もたかだか一悪魔の思想にケチをつけるほど、暇ではないのでしてな。

 ですがあなたは魔王。それも筆頭たるルシファー。

 身内の情、一時の情に流されて下すべき判断が下せない。

 そんな魔王など、民草の不安を徒に煽り、国に混沌を齎します。

 私は軍人として、混沌とした国で軍を動かしたくない。

 そういう観点でものを申しておるのですよ。

 

 ……その点において、カテレア嬢の他者を見る目は確かでしたが……

 ああなってしまった時点で、彼女に正義などありはしない。

 悪魔の名を穢すだけ穢した、無粋なテロリストでしたな」

 

サーゼクスのみならず、彼にとっての政敵のカテレアでさえも愚弄する。

全方位に喧嘩を売るような言動を繰り返すギレーズマ。

一体、何が彼に――イェッツト・トイフェルにとっての敵なのか。

しかしその亡者をも愚弄するギレーズマの言動は、サーゼクスにとっては

グレイフィアを愚弄されたとき程ではないにせよ不快なものであった。

 

「……君は、死者に対して弔いの意を示したりはしないのか?」

 

「死者が全て英雄や、それに等しく称えられるべきという

 甘ったれた思想は持ち合わせておりませんのでな。

 まして、カテレア・レヴィアタンはレヴィアタンの名を持ちながら

 アインストなどという異形の力に頼り、短絡的なテロリズムに走り

 その結果悪魔の顔に泥を塗ったのです。

 それは全ての今を生きる悪魔に対する侮辱であり、彼女が残した呪いですよ。

 だから、私にとって彼女は敢えて言わずともカスなのですよ」

 

冷たく言い放つギレーズマを、サーゼクスは何も言い返すことはできなかった。

カテレアがテロリズムに加担し、あまつさえ異形に成り果てたことで

悪魔の顔に泥を塗ったのは事実である。

それ以外の要因は多分にあれど、過日駒王学園で行われた三大――五大勢力会談が破綻したのも

カテレアの横槍による部分も少なくはないのだ。

 

「私の厭味に目くじらを立てている暇があるのでしたら、陛下と意見を異にしている

 貴族悪魔へのアフターフォローや、他勢力からの苦情に真摯に向き合っては如何ですかな。

 そもそも、カテレア嬢がああなったのも本をただせば旧魔王派を放逐したあなた方が

 まともなアフターケアもせずに僻地に追いやり、彼らの全てを否定したからでしょう。

 存在を全否定されれば歯向かってくることくらい、少し考えればわかるものでしょうに。

 

 ……おっと。小言が増えていけませんな。

 私もあなたの言う『時代を作る若者の邪魔をする年寄り』に

 近いという事ですかな。私も、若くはないつもりですのでな」

 

ギレーズマのわざとらしい言葉にも、サーゼクスは沈黙を返す。

実際ギレーズマは人間でいえばサーゼクスよりは年上の分類だが

貴族悪魔や大王派の大半を占める悪魔程年寄りではない。

そのため、ギレーズマの態度は大人げないとも言えるのだが

彼をそうさせるほどにサーゼクスの為政能力はギレーズマに言わせれば低いと言えたのだ。

 

「そんなことは……」

 

「私に愛想をまくよりも、国民……いえ、ゼクラム大王でしたかな。

 彼に愛想をまいてはどうです? 噂されていますよ。

 『戦争後、ゼクラム大王に取り入って今の地位を得た』……とね」

 

厭味ったらしくギレーズマが揶揄するが、噂はそれほど広がっていはいないものの

アングラでは実しやかに囁かれる程度には言われていた。

何せ、サーゼクス就役後、大王派の勢力が大きくなっているうえに

サーゼクスらは大王派の台頭に対し何ら手を打っていないのだ。

いや、打っていたとしても効果が弱すぎる。

そもそもが、サーゼクスの魔王就任はゼクラム・バアルの人事であるのだから

そこに根差した噂であるともいえる。

 

さて、噂と言えば。冥界においてJOKERなる怪人は「噂から生まれた」とされている。

まるで「噂が現実になった」かのように。

勿論、そんなことがあるはずがないというのが、冥界に住む悪魔の常識だが――

 

 

――仮に、噂が現実になるようなことがあるとするならば。

 

 

ゼクラムに取り入って魔王になったサーゼクス、という仮説も成り立ってしまう。

一応発表の上では、旧魔王派との内乱を治めた後、活躍したサーゼクスに

ゼクラムがルシファーの戴冠を行うよう頼んだというのが公式記録として残されてはいる。

つまりこれも、見方によってはゼクラムと癒着の末に魔王の座についた。

そう見ることもできるのだ。

公式記録など、体制側がいくらでも改竄できるのだから。

 

「……私は、ルシファーとしての地位や名誉に拘っているわけではない。

 だが、今ここで私達が退任すれば冥界は魔王――指導者不在となってしまう。

 それだけは避けなければならない」

 

「一理ありますな。ですが、混沌しか齎さないような王であれば、無理に居座ってもらわずとも

 民衆は自らの手で、足で立ち上がるでしょうな。人間ならいざ知らず、我らは悪魔。

 苦難を跳ね除け、自ら立ち上がる。その程度のポテンシャルは、秘めていましょう」

 

ギレーズマの悪魔に対する評価に、サーゼクスは危機感を覚えていた。

悪魔は、そこまで万能な種族ではない。そのため、他の種族の力を得ようと悪魔の駒を用いて

悪魔を増やすこと・他種族の力を得ることの一挙両得を目指していたのだ。

結果は確かにあがっていたが、同時に問題点も多数あがっていた。

ギレーズマの意見、サーゼクスの意見。どちらも正しく、間違っていた。

 

(わかっていないのか、ギレーズマ? 我ら悪魔は、既に種としての限界を迎えつつある。

 だからこそ、悪魔の駒は必要不可欠だというのに……)

 

(悪魔でありながら、悪魔の可能性を信じないとは……

 それでも未来を担うと持て囃された若手魔王か。

 我ら優良種たる悪魔に、余計な血筋など必要ないのだよ。

 フッ……所詮は夢想に浸る腑抜けた若者に過ぎんという事か。

 

 ゼクラムも当てが外れたようだな。

 せっかく飾り立てた偶像が、よもやサンドバッグにさえならんとはな。

 サーゼクスとは言え今となっては所詮過去の英雄。

 過去を思いやったとて、未来どころか現在すら変えられんぞ)

 

互いに相容れられぬ思惑を抱えながら

サーゼクスとギレーズマは各々の持ち場へと戻ったのだった。




今回は特に解説は無いです。
親(兄)馬鹿の過ぎた二人がアレなだけで。

しいて言うならギレーズマ。
一応ザビ家男衆(デギン、サスロ除く)とトレーズが名前元ですが
振り返ってみるとほぼギレン。
名前だけパクリな原作に対して、元ネタ意識した言動が強すぎる気はしますが。

解説なしなので、気になることございましたら感想欄にどうぞ。


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What the press has done for them Bパート

お待たせしました、Bパートです。
手を加えていたらこんな時間に……


時間が無いのを言い訳にはしたくない。
のですがねぇ……ままならぬものです。

因みに感想への返答は今しばらくお待ちください。


――シトリー邸。

 

駒王学園と珠閒瑠(すまる)市にある七姉妹学園(ななしまいがくえん)の合同学習会を前に

ソーナ・シトリーら駒王学園生徒会はシトリー邸に集まり計画を練っていた。

ここに集まっているのは、単に駒王町の近隣住民とのトラブル回避のためである。

既にリアスらが沢芽(ざわめ)市への企業見学会から戻ってきているため

ソーナらの守備範囲は駒王学園内に戻っている。リアスらにあらぬ疑いこそかけられてはいるが。

そしてソーナらが守っている駒王学園も、戦略的価値が無くなったのか

積極的な攻撃には晒されていない。最初から戦略的価値などなかったかもしれないが。

超特捜課や自衛隊による警らだけでも、十分に守れる状態だ。

事実、散発的に禍の団(カオス・ブリゲート)――というかアインスト――やインベスが現れたり

人外勢力を快く思わない天道連(ティエン・タオ・レン)の襲撃位なもので

フリードなどの大物が現れることは、無い。故に超特捜課や自衛隊のみで守ることができ

出動によって住民との軋轢を生みかねないリアスらオカルト研究部は干されている状態だ。

 

そんなリアスらでさえ干されている現状、遠回しにソーナらは戦力外通知を受けているのだが

ソーナ自身は眷属が守れることに安堵していた。

……もう一つ、眷属の一人である匙元士郎の言動による

近隣住民とのトラブル回避という意味でも安堵していたが。

そんな匙の家族だが、冥界に転居してきている。

以前、匙の家族が狙われたことを受けての対応だが当事者は人間界と冥界の違いに

強いカルチャーギャップを覚えているため、ストレスのかかり具合という意味では大差がない。

ただ目に見えた被害が無くなったことで、匙は手放しで喜んでいるが。

 

そんな彼女等も、リアスらにかけられたあらぬ疑いの元凶たるD×Dの報道については

冥界で放送されている人間界のTV――余談だが、国がかりでの立派な不正視聴である――で

当然知ることとなった。

 

「リアス達が……テロリスト!?」

 

「それにイッセーの奴がグループの首魁だって!?

 リアス先輩ならともかく、何であいつがてっぺんなんだよ!?」

 

メンバーを見て、驚きを隠せない一同。ソーナとリアスは旧知の仲であり

とても信じられない風にソーナは驚いていた。

表向き平静を装うが、その指先は震え、額には汗が滲んでいる。

 

「会長、このメンバーなんですが……オカルト研究部とほぼ一致します。

 この呉島光実(くれしまみつざね)という者についてはわかりかねますが……

 小猫ちゃんも、歩藤――宮本君もオカルト研究部を退部していますし

 ギャスパー君はこのところ学校に……グレモリー邸から外に出ていないとのことです。

 このことも考えれば……」

 

副会長であり「女王(クイーン)」の真羅椿姫(しんらつばき)の見立てと進言に、ソーナは合点がいったように息をのむ。

しかしそれは同時に「オカルト研究部――リアスとその眷属こそがテロリストである」と

ピンポイントな報道をされていることになるのだ。

 

「そんな……リアスが、オカルト研究部がテロリストだなんて……!」

 

「な、何かの間違いですよ会長! イッセーはともかく

 リアス先輩やアーシアちゃんがそんなことするはずが無いですって!

 イッセーはともかく!」

 

感情的になりながらも、匙がソーナや椿姫の出した結論を否定する。

そしてそれは、思いもよらぬところから同意が得られることになったのだ。

 

「匙君の言う通りですよ。今回の報道、全てとは言いませんが

 ある程度歪められた報道ではありますね」

 

「薮田先生!?」

 

シトリー邸に現れたのは、生徒会の顧問教師でもある薮田直人(やぶたなおと)

しかし彼は同時に聖書の神の影武者たるヤルダバオトとしての貌も持っており

おいそれと冥界――悪魔領に入れる身分ではないはずなのだ。

 

「私がここにいることの疑問を聞く前に、あなた方……

 特にソーナ君は自分の胸に聞いてみてはどうです?

 私にその質問をするという事は、つまりそういう事ですよ」

 

「……それもそうですね」

 

薮田の先制に、納得したかのように答えるソーナ。

匙はわからなかった様子で食ってかかっているが、即座にソーナに窘められている。

 

「……こんなようなやり取りを、リアス君はおろか魔王(サーゼクス)熾天使(ミカエル)堕天使総督(アザゼル)にもしたのも

 ついこの間の話のように思えますよ。しかし、私はその話をしに来たわけではありません。

 顧問としてあなた方の活動を見に来たのもありますが……先ほど匙君が話した通り

 例のD×Dとやらに関する報道について、私の所見を述べに来たのですよ。

 ソーナ君。君とて友人がテロリスト疑惑をかけられていては、やりづらいでしょう?

 明日は我が身、という言葉もありますし」

 

「おい! そりゃどういう意味だよ!?」

 

明日は我が身。それはつまり、リアスらだけでなく

ソーナらもテロリスト認定される可能性があるという事。

薮田のその指摘に、匙は相手が教師であることも忘れて食ってかかっていた。

 

「やめなさい。先生、先生の所見をお聞かせください」

 

「いいでしょう。私はこのD×Dに関する報道については、悪魔……

 特にリアス君らに関わりの強いサーゼクス・ルシファー周りの炙り出しや

 挑発を狙っているものと見ています。

 映像の出所は沢芽市にあるユグドラシル・コーポレーションという会社の社ビル

 ユグドラシルタワーの映像に違いはありません。

 オカルト研究部はそこに企業見学に行っていますからね」

 

「ユグドラシル、ですか。聞いたことがあります。

 確か医療や福祉に重きを置いた世界規模の製薬会社だとか……

 ですが何故、オカ研がユグドラシルの見学に?

 私には、リアス様がそのような場所に興味を抱くとは思えないのですが」

 

ソーナの希望通りに、見解を述べ始める薮田。

そこに出たユグドラシルという名前に、聞き覚えのあった椿姫が指摘を入れるが

それは薮田も同様に感じていたことであった。

 

「そこです。私も、言っては何ですが彼女がユグドラシルに興味を抱くとは思えません。

 強いて言うならば、北欧神話の世界樹と同名であり

 当日ユグドラシルタワーでは神仏同盟と北欧神話の対談も行われていましたが

 それを理由にユグドラシルタワーに赴くのは、些か理由づけとしては甘い気がしますね」

 

「確かに、その程度の理由でリアスがそういう所に行くとは考えにくいですね。

 では、一体何故リアスはそのような場所に?」

 

ソーナには、どうしても腑に落ちなかった。

リアスがユグドラシルに向かう理由が、どうしても説明出来ない上に、思い浮かばないのだ。

薮田もまた、リアスの今までの振る舞いを顧みても

彼女がユグドラシルに行くとは思えなかったのだ。

 

「……一つだけ、思い当たる節があります。と言いますか、これしか考えられないでしょう。

 

 布袋芙(ほていふ)ナイア。オカルト研究部の顧問にして、リアス君の新しい『戦車(ルーク)』。

 彼女が引率としてオカルト研究部をユグドラシルに案内しています。

 彼女が何らかの思惑を以て、リアス君らをユグドラシルに招いた。

 私にも、彼女が何故そんなことをしたのかは推測しかねますが……

 

 この一連の報道と、リアス君らをユグドラシルに招いた布袋芙ナイア。

 この二つには、何らかの関連性があると私は見ていますね」

 

「じゃ、じゃあナイア先生がリアス先輩らをテロリストに仕立て上げたって事かよ!?」

 

「そこまでは。ですが職員会議で顔を合わせた時にも感じましたが

 彼女からは、得体の知れない何かを感じます。オカルト研究部の顧問だからと言っても

 くれぐれも、油断しないようにお願いしますよ。

 何せ、彼女の素性を調べてみたのですが……どれもでたらめな個人情報でしたから」

 

薮田も万物の知識を得ることのできる「創世の目録(アカシック・リライター)」という神器(セイクリッド・ギア)を持っているし

それでなくとも全能の神の影武者である。

オカルト研究部の顧問一人調べ上げることなど造作もない。

 

……はずなのだが、彼を以てしても布袋芙ナイアの素性は謎に包まれていた。

これでは、彼女が一連の報道の裏にいるという疑惑も頷ける。

だが、証拠がない。ただの個人的な憶測だけで話は進められない。

 

布袋芙ナイア。オカ研の顧問として、駒王学園の教師としてソーナも、眷属らも

彼女と少々の会話は交わしたことがある。

しかし、今回ナイアの得体の知れなさが露呈したことで一際声が震えている者がいた。

 

「匙君……どうしたの? 顔色が悪いよ?」

 

「や、な……何でもねぇ……何でもねぇんだ……」

 

匙元士郎。ここに来る前、彼は個人的にナイアと接触していた。

正しくは、向こうからコンタクトを取ってきたと言った方がいいか。

用件は――

 

(ま、まさかナイア先生……俺の神器を強化するなんて言ってたけれど……

 その見返りとして、俺にテロリストをやらせようってんじゃねぇだろうな……!?

 

 け、けれどナイア先生が言うには俺の神器の龍――黒邪の龍王(ヴリトラ)は分割させられている状態。

 それを集めれば俺だってイッセー位、いやそれ以上にだってなれるかもしれないんだ。

 ナイア先生の提案は魅力的だ……俺は、ナイア先生の提案に乗っかる!

 会長を、ソーナ会長を守るために!)

 

布袋芙ナイア。混沌を体現したかのような彼女の振る舞い。

ここに来て黒邪の龍王を復元しようとする、その目的は何なのか。

 

そしてその思惑は、ソーナにも、他の眷属にも知られること無く

ただ、匙の胸の奥深くしまわれてしまったのだった。

 

 

――――

 

 

「納得できません! この期に及んでこのような作品を発信するなんて

 世情が読めてなさすぎます!」

 

冥界のテレビ局。かつてサーゼクスが持ち込んだ企画を蹴った課長が怒号を上げている。

それもそのはず、自分が蹴ったはずの企画が、なんと通ってしまったばかりか

冥界全国ネット放送まで行われることとなったのだ。

 

「しかしだね君、今冥界は疲弊している。

 そんな時だからこそ、夢や希望を与えるものは必須なのだよ」

 

「それはわかりますが、だからと言ってこんなふざけた番組を流すことはないでしょう!」

 

番組の内容は、悪魔に転生した少年が、秘められた力を使い強敵を倒し

多くのヒロインを娶っていく、人間世界においては粗製濫造された作品の

テンプレートをなぞった作品そのものであった。

しいて個性を挙げるなら、主人公の強化パターンがヒロインの乳首を押すこと……という

何とも不条理なものであることくらいか。

 

「それにだね。私はこれからは転生悪魔の時代だと考えている。

 悪魔もまた、新しい在り方を模索してもいいのではないのかね?

 現に今、冥界ではJOKERが受け入れられている。

 あれもまた、悪魔の新しい形だと私は思うよ。

 

 悪魔は確かに超常の力を以て願いをかなえる存在。ではその悪魔の願いをかなえるのに

 JOKERなる超常の力を用いたとて、何らおかしな点は無いと思うがね。

 人間は我ら悪魔と契約したり悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を用いる。

 悪魔は契約した人間を扱うか、JOKERに願うか。

 それに人間は我ら悪魔以外にも、占い等と言った自分の力以外のものに縋る。

 自力で願いをかなえる人間など、一握りに過ぎないよ。

 

 だったら悪魔が他力に頼っても、それをやってはならない道理はないであろう?

 無論、我ら悪魔は人間を使役する側なのだから、人間よりうまく使えばいいだけの話だよ」

 

「これは夢や希望を与え、可能性を示すものではありません! ただの現実逃避の推奨です!」

 

なおも上層部の悪魔に食いつく課長だが、取り付く島もない。

まるで、何か強い力で強引に推し進められた、いわばゴリ押しの企画である風にも見えてしまう。

 

「とにかくそういうわけだから、放送に向けてのスケジュールとかよろしくね。

 もう主演俳優とかはオーディション済ませてあるから」

 

一方的に用件だけ伝える形となった上層部の悪魔の背中に対し

課長はただ毒づくことしかできなかった。

 

(既にオーディションまで……? まるで、あの時企画が持ち込まれた時点で

 制作や放映まで既に決定していたようなものだ。

 いや、それでもこんなに早く番組制作どころか放映まで決まるとは思えない。

 まるで、何か超常的な願い……まさか、JOKER呪い!?)

 

はたと気づいた課長は、ジャケットを担ぎ忙しなく社屋を後にしようとする。

そんな課長に、以前立ち会った若手の悪魔が声をかける。

 

「課長、どちらに!?」

 

「JOKER呪いに関する取材だ。

 暫く取材で席外すから、後のことはお前らで何とかしろ、わかったか?

 

 ……それと、この間グレイフィア様が来られた時のテープと、あの後で来たリーの原稿は

 金庫の中にしまってある。何か起きたら、それを出して公表しろ。

 今の冥界でどれだけの効果があるか、わからんがな」

 

JOKER呪いの取材と銘打って、飛び出した課長。

この時、若手悪魔には嫌な予感がしていた。

 

 

――JOKER呪いで呼び出されるJOKERには、殺しを何とも思わない黒JOKERがいる

 

 

人間にとっての非日常である悪魔もまた、彼らにとっての非日常であるJOKERに

彼らの日常は翻弄されつつあったのだ――




今回は解説ありです。

>匙の家族
設定変更疑惑があるんですよね。まあ、その程度の価値なんでしょうけど。
拙作風に言えば、噂で書き換えられたんでしょう。実際それくらいできますし、噂。

さておき。
今回冥界に越してきた(これも確か原作同様)んですが、環境がなじめるとは思えないんですよね。
まず悪魔と人間の価値観の相違、水や食べ物などの問題、日照、空気などの天候。
思いつく限りこれだけ問題あるのに、人間引っ越させていいとは思えません。
拙作では序盤でセージが露骨に冥界の空気に嫌悪感示してましたが。

>テレビの不正視聴
拙作における須丸清蔵か、駒王町長みたくおえら方から番組輸出されてるのが真相でしょうが
どうやって人間界のTVの文化を学んだのか、そう考えるとちょっと。
まさか魔王ともあろうお方が人間界にお忍びで……くるわ、あいつらなら。

>匙
ナイア先生八面六臂ね。多分匙も食ってる。別にイッセー以外とヤらないなんて
先生一言も言って無いですし。で、ナイア先生がやるんだから
ヴリトラの神器の集め方が碌な方法にならなさそうな予感。
で、結局原作でこの問題どうしたんでしたっけ?
神器は引っこ抜いたりしたら死ぬはずなんですがね。

>薮田先生
まさかのナイア先生に黒星つけられることに
聖書の神の影武者と人類の悪意の集合体(の化身)の戦いは後者に軍配が上がりました。
生徒会に忠告をしますが、時すでに時間切れ。
ソーナ眷属は匙から瓦解していくことになるんでしょうか。

>テレビ局の課長
「プルガトリオ」から久々の登場。まさか蹴ったはずの企画が通ってるどころか
既にオーディションどころか撮影も始まってて放映秒読み段階という
ポルナレフもびっくりの状態。

ネタバラシしますとこの事件、睨んだ通りJOKER絡んでますが……
地味に死亡フラグ立ててる危なっかしい課長。

因みに話してた相手はフェニックス家の方ではありません。

>おっぱいドラゴン
というわけで「非常に不本意ですが」拙作でも放映されることに。
これもn……おっと、これは少し、ネタバレになる情報でしたね。

この本によれば、「レッツ・ポジティブ・シンキング!」なる謎の単語が
深くかかわっているようですが……


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Will18. 珠閒瑠の予習

お待たせしました。
今回、昨年ハワイで失踪したジョンストンが小笠原諸島で発見されました
同様にかねてから捜索していたタシュケントが千鳥列島で
サラトガと天照……じゃなくて大和が沖縄で
五島列島沖で伊14で
それぞれ発見できました。

これで執筆に専念できる……とはいかず
今度はリアルで住民トラブル発生。
私の平穏な暮らしはいずこ。


駒王学園は、今ちょっとした騒ぎになっている。

何せ、生徒からテロリストが輩出されたかもしれないと報道されているからだ。

冤罪扱いになったとはいえ殺人犯が出て、退学処分になったのもついこの間の話だろうに。

 

……だが正直、俺自身としてはこの報道に疑問を抱いている。

いや、動かぬ証拠を突き付けられている以上、フューラー演説の時同様信じざるを得ないのだが。

兵藤の時みたくもみ消すにしたって、映像が出ている以上はそうもいかないだろう。

 

それからもう一つ、オカ研関係でまた別の噂も聞いている。

 

 

――巨大生物オルトロスや、赤い怪獣から駒王町を守ったのも駒王学園のオカルト研究部――と。

 

 

これは完璧なマッチポンプだろと突っ込まざるを得ない。

そもそも、オカ研が戦ったのは結界内のケルベロスの方で

オルトロスを倒したのは確か超特捜課(ちょうとくそうか)だ。

おそらくは対抗神話として持ち出したつもりなんだろうが、いくらなんでも弱すぎる。

そう思うのは、俺が実情を知っているからなのかもしれないが。

何も知らない人からすれば、一応そう見ることもできるのかもしれないし。

だが、嘘をついてまで対抗神話を広めようというのは相当焦っている証拠か?

それともわざとぼろが出るように仕組まれたか? わからん。

 

報道のお陰で、オカ研は自宅待機が命じられている。

にもかかわらず、珠閒瑠(すまる)市への合同学習会は参加する方針らしいが……無茶しやがる。

と言うかだ。このおかげで

「事件や騒動が起きないよう、オカ研の顧問教師共々監視についてくれ」と

蔵王丸(ざおうまる)警部から申し訳なさそうに依頼されてしまった。

そりゃまあ、確かに正式に駒王学園の籍がある俺や白音さんは

今回の話にはうってつけではあるが。

 

「……大変なことになりましたね」

 

「だな。それより白音さん、体の方はいいのか?」

 

今は休み時間。喧騒を離れるのと、こういう聞かれると面倒な話をするために

俺と白音さんは校舎裏で飯を食っていた。

祐斗やアーシアさんらがいない以上、こうせざるを得ない。

ゼノヴィアさんや光実(みつざね)には悪いが、囮になってもらった。

それでも一応、ばらばらで合流するようにはしている。

元浜を始めとしたほかの生徒に目を付けられると面倒臭そうだからだ。

 

「……おかげさまで大丈夫です。それよりセージ先輩、体のことはあまり学校では……」

 

「あっと。デリカシーを欠いたか。悪かった」

 

白音さんの体――すなわち、気の流れの方だが、おかげさまで安定傾向だ。

必要以上に接触しなくて済むのは、ある意味ありがたいような、心なしか寂しいような。

だがこれに関して、黒歌さんが気になることを言っていた。

 

 

――俺の気の性質が、変わったような気がする――と。

 

 

一応、心当たりはある。クロスゲートを潜った時

アモンに代わることなくアモンの力を使えた時だ。

俺自身に思い当たる不調は無かったが、黒歌さんに言わせば変化したらしい。

……あまり考えたくは無いが、嫌な予感もするな……

 

「……あの、セージ先輩」

 

「ん……なんだ?」

 

神妙な顔をして考え込んでいたのか、白音さんが俺の顔を覗き込んでくる。

……こそばゆいような、気まずいような。俺の考え事は癖みたいなもんなんだが。

 

「前も似たようなことを言ったかもしれませんけど

 どうなってもセージさんはセージさんですから」

 

「…………そっか。ありがとう」

 

顔に出ていたか、としか言いようがない。

何せ、今俺が悩んでいたことは

「折角人間に戻れたのに、また悪魔になってしまったのか」なのだから。

しかも今度は原因がつかめていないと来た。難しい。

とりあえず、神様――日本のだが――に祈りを捧げたり

試しにあの後アーシアさんに聖水を貰って手をつけたり飲んでみたりしたが異常はなかった。

つまり、俺は悪魔になったわけではないらしい。

付け加えるなら、一時聞こえなくなったアモンの声もまた聞こえるようになったため

これらの症状は一時的なものだろうという事にしておくことにした。実際、今は自力で飛べない。

 

……原因については、やはりさっぱりわからんが。

クロスゲートが怪しいのはわかるが、やっぱり推測に過ぎない。

そもそもあれだって、わかってないことが多すぎる。そもそも――

 

「……ジ先輩、セージ先輩」

 

 

――であるからして、つまるところ――

 

 

「セージ先輩っ!」

 

「おわっ!?」

 

……驚いた。白音さんはあまり大声を出さないイメージだったので

急に近くで大声を出されたこともあり、素で驚いた。

 

「……お弁当。食べないならください」

 

「ダメだ。これは俺の分だ。俺に昼飯抜きで過ごせってのか」

 

食べ物に関しては、白音さんとは割とガチで戦争になることがある。

晩飯のおかずの多い少ないは、なるべく均等になるように盛り付けているが

どうしてもなってしまう事がある。そうなると、後は骨肉の争いだ。

しかも気を抜くと食いさしでさえ遠慮なく掻っ攫おうとする。

これは黒歌さんもやることだが。

もっとも彼女の場合、わざとコップの口をつけた側を嘗め回してくるので

違う意味で口がつけられなくなる。どっちも厄介だ。

 

……まあ、こういうトラブルも織り込み済みで家に招いたわけではあるけれど。

とにかく、俺の昼飯を取られてはかなわない。

むせない程度にかっ込みながら俺は昼飯を済ませることにした。

 

「……セージ先輩。ご飯はちゃんと噛んで食べてください」

 

誰のせいだ、誰の。

 

 

――――

 

 

その日も一日恙なく終え、自宅で寛いでいる。

俺は自室で珠閒瑠市について調べるため、動画サイトで予習することにした。

すると、おもむろに白音さんが膝の上に座ってくる。見づらい。

 

「……珠閒瑠市の予習ですか? 私にも見せてください。

 合同学習会、一応疎開の名目もあるとのことで1年も対象ですから」

 

「……構わないけど、俺が見づらい。椅子持ってきて座るのはダメなのか?」

 

「ここが一番座り心地いいですから」

 

尻尾で俺の脇腹を叩きながら、意地でも俺の膝から退こうとしない。

いや、だから見づらいんだってば。

仕方ないのでこのまま俺は珠閒瑠市について調べるために

動画サイトにアクセスすることにした。

SUMARU-TUBE。地方局の珠閒瑠TVで放映されている番組を

アーカイブ配信している、珠閒瑠TVの公式サイトである。

結構幅広く配信されているらしく、中には10年前のアニメだったり

ゲームクリエイターのインタビュー番組だったり本当に色々配信しているようだ。

だが今の目当てはそれではない。

 

「……この芸人、結構長いんですよ。珠閒瑠TVの番組でブレイクしたらしいんですけど」

 

白音さんが指し示した先には、茶髪のベテラン芸人が映っていた。

ブラウンこと上杉秀彦(うえすぎひでひこ)。デビュー当初はその名前の由来や

年齢らしからぬ親父ギャグで攻めていたが

最近はそのトーク力を武器に振舞っており、白音さんに言わせば芸人仲間や共演タレントからは

慕われているとのことらしい。俺は知らないが。

 

とりあえず、せっかく白音さんがそう言うのでこの芸人が出ている動画から

珠閒瑠市を紹介する動画を探してみることにする。

ローカルだと、意外と地元の名物・名所を紹介する番組は多いらしい。

駒王町ではあまり見かけないのは不思議なもんだが。

そういえば美術館とか郷土資料館とかあってもよさそうなもんだが。

 

……まさか、グレモリー先輩か、あるいはクレーリアとやらが全部ぶっ壊したか?

とは言えそれはいくら何でも考え過ぎだろうと、動画探しをしつつ考えていたら

おあつらえ向きの動画を見つけた。

数年前から放映開始したらしい、珠閒瑠ジャーニーと言う動画だ。

 

この中の珠閒瑠市特集を見つけ、再生してみることにする。

 

「あ! りせちーですよりせちー!

 久慈川(くじかわ)りせ、一時は引退かと噂されてましたけれど

 最近また活動再開したアイドルなんですよ、セージさん、知ってます?」

 

「…………あー……」

 

目を輝かせて共演のアイドルに食いつく白音さん。

だが申し訳ない、俺は芸能関係は疎いんだ。

いつぞやグラビアアイドルに化けたレイナーレを探すのもそれで手こずった位だし。

しかし白音さん、こういうアイドルは守備範囲内なんだな。

まあ、グラビアアイドルに食いつくというのもあまり考えにくいっちゃにくいけど。

 

 

…………にしても。

 

 

「……セージさん。ちょっとは面ドライバー関係以外の芸能関係も勉強した方がいいですよ。

 アルテルマンとか、フェザーマンとか屁理屈もダメです」

 

「……ぜ、善処する」

 

 

さっきから俺の答えが歯切れ悪いのは、図星を突かれたからというのもあるのだが

それ以上に…………

 

 

まず、今の俺と白音さんの状況について語らねばなるまい。

お互い、風呂上がりでパソコンの前に向かっているのでそれなりにラフな格好だ。

多少肌寒くなったとはいえ、家の中で厚着をするのは正直、主義ではない。

対する白音さんも同様なのか、俺に対して肌を見せることに抵抗が無くなっているのか

彼女もまた、ラフな格好である。自重してほしいような、そうでもないような。

 

で、そんな彼女が俺の膝に乗っている。しかも、尻尾を出した状態で。

尻尾を出すのに不自由しないような扇情的な格好はしてないので

結果としてボトムスがずり下がった、いわゆるローライズスタイルである。

そんな状態で俺に対し背後を見せていて、しかも座っている。となれば……

 

「…………まだまだりせちーには及ばないですか。もっと牛乳飲まなきゃ。

 セージさんは、りせちーみたいな子はタイプなんですか?」

 

「…………よく、わからん」

 

よくわからない納得を一人でしている白音さんをよそに、俺は結構平静を装うのに苦労している。

そういう滾りとして言うならば、黒歌さんの方がよほど危険――

彼女の場合、それ以外の言動がアレだが――だし

必要でない限りそういう事はするべきではないと思っている。いるんだが――

 

「……んしょ」

 

「…………!!」

 

深く座りこまれた。こうなると何が問題かというと、彼女がさらに接近することになる。

しかもシャンプーの匂いは来るわ、来た時に比べると柔らかくなった気がする

彼女の体が、より密接する形になるのだ。

 

「うん、やっぱりこのくらいの方がいいです」

 

俺はよくない、が口にも出せないので必死で平静を装うことにした。

下腹部辺りが結構悲鳴を上げてる気がしたが、とにかく必死で黙らせることにした。

 

 

――結局、動画の内容はほとんど入ってこなかった。

幸いダウンロードはしてあるので、後で改めて見ておくことにしよう……

 

俺が眠れたのはその二時間くらい後だったが

夜の警邏を兼ねて走り込みをしたり色々した結果であった。

 

 

――――

 

 

翌朝。

既にどこかに行った白音さんと、まだ寝ている母を他所に俺と黒歌さんは

朝飯を食っていた。

 

「セージ、色々な意味で溜め込むのはよくないにゃん。白音みたく暴発しちゃうにゃん。

 ただでさえあんた気の質が変わってるんだから――」

 

「……何のことだか返答に困りますな」

 

こればかりは放っておいてくれ。それに気の質が変わってるなら

それに慣らす訓練も必要だろう。走り込みはその一環だと一応の言い訳をした。

警邏は完全に後付けの理由だが、結果としてインベス数体やアインスト数体

それに不審な動きをしている黒影(くろかげ)を倒せたんだ。大勢には影響がないだろうが

目先の平和はとりあえず守れた、と俺は思っている。

 

「…………ふーん。そう言って、ごまかすにゃん?」

 

「気の使い方に慣れろっつったのはそっちでしょうが」

 

白音さん同様、俺も魔力が無いのでそれに代わる力を行使する必要があった。

ディーン・レヴにばかり頼ってもいられないし。

そのため、人間と猫魈(ねこしょう)で違いがあるかもしれないが気の力を使うことにしたのだ。

 

――俺の場合、霊体だけで動いていた時期がそこそこあったせいか

霊力的な何かも複合されているらしい、とは黒歌さんの弁だが。

形はどうあれ、気の性質を読み取ることに長けている

黒歌さんの言い分なのだから、そこは正しいのだろう。

そのことを考えるとよくもまあさっきは屁理屈を言ってのけたもんだと思うが。

 

「ま、いつでもヤれるからそういう事にしといてやるにゃん」

 

「そうしてください。そういや、白音さんはどこに?」

 

「なんだ、聞いてなかったのかにゃん? 白音、今バイトしてんのよ」

 

そりゃ初耳だ。どこでバイトしてるんだろうか。

というか、こんなご時世でバイト雇う余裕なんかあるんだな。

事情がまるで異なるとはいえ、俺だってバイトほぼ辞めたようなもんだってのに。

超特捜課(ちょうとくそうか)は非常勤扱いだけど、あれをバイトと呼ぶのは憚られる。

 

「へぇ。一体どこで?」

 

「この近くに四川料理屋があったでしょ? そこでバイトしてんのよ。

 そこのオーナーがなんたら不敗だか言う拳法の達人で、拳法と気は密接な関係にあるし。

 白音、リアスのところにいた時は近接戦担当だったでしょ?

 その時の癖が抜けないならいっそ、って思って紹介したにゃん」

 

俺も知っている。四川料理だからなのだが、中々に辛口な料理を出す店だ。

俺も危うくダウンしかけたことがある。

しかしあそこのオーナー……十文字修司(じゅうもんじしゅうじ)とか言ったっけ。

老けて見えるが、気配が四川料理屋のオーナーにしては堅気じゃないとは思ってたが。

 

まあ、黒歌さんにしては的確な理由だ。やっぱ妹のこととなるとマジなんだな。

なら、俺も何とか頑張らないとな。

 

「……それからセージ。見られるとまずいものの隠し場所はもっと考えておくべきにゃん。

 私が白音にそのバイト先紹介した理由、もう一つあるのよね。

 

 …………制服、セージ好みだと思うにゃん」

 

そう言って黒歌さんが俺の目の前に突き付けたのは、以前付き合いで買った本。

その付き合った相手が松田や元浜なので、内容は推して知るべしだ。

表紙には、チャイナドレス姿の扇情的な女性がでかでかと写っている。

 

「スタイルは将来有望なのは確約してるにゃん。セージ、ここは先行投資と思って……」

 

「返してくださいつか返せ。

 他人に見せるのを憚られるものだけど私物なんだ、勝手に持ち出すな」

 

行儀が悪いと思いながらも飯を一気にかき込み

朝っぱらから黒歌さんと追いかけっこをする羽目になった。

 

 

――そして、寝ぼけ眼の母に二人そろって怒られたのは言うまでもない。




あれ? 日常パートだ()

>対抗神話
罪であった「5人組は仮面党から街を守るヒーロー」的な対抗神話です。
拙作の場合、嘘じゃないけどマッチポンプだろ的な背景があるので
中々浸透してません。噂広めるのに有効なオカ研の契約先の人々は軒並み死亡ないし行方不明ですからね。

>校舎裏、二人きりで飯
ゼノヴィアを囮にするあたり、やっぱりセージはセージだった。
この間ゼノヴィアは松田、元浜、光実と飯食ってます。
エンゲル係数上げるほどの白音のお弁当に対し、セージは普通(ただし、一般男子高校生のそれ)だったりします。

>考え込む癖
過去何度か披露してますと同時に、記録再生大図鑑を使う上では重要になったり、足かせになったり。
この時聖水について触れてますが、初期案では飲み干そうとしたけど
それは流石にアウトだった場合とんでもないことになると考え、表現をマイルドに。

>食べ物の競争
健啖家が二人もいればそうなるよね。
因みにうちでも刺身食う時はねこに狙われました。喰われたことも。

>珠閒瑠TV
原作同様ですが、時世を考えオンデマンド配信も行ってます。
DD原作当時はオンデマンド配信は盛んではなかったですがまあそれはそれ。
因みに配信番組でセージが地の文で触れているのはPS版罰の特典ディスクのムービー。

>ブラウン
異聞録からもう25年近いのに、彼のスタンスは今でも通じると思うんです。
マークやアヤセとは違う意味で等身大の高校生。というか、周りがアク強すぎます。
拙作では流石にP2からも時間を経ているという事でベテラン芸人枠。
親父ギャグは色々笑えなくなってきたけれど、トークでつなぐという
割と生々しい芸人ムーブかましてます。

>りせちー
まさかのP4からの参戦。原作では引退状態でしたが、拙作では普通に芸能活動してます。
拙作時系列的にはタルタロスかマヨナカテレビ辺りに当てはまるはずなんですが
彼女はバリバリの現役です。さてこれが意味するところは……
(※本編にはあまり関与しないお話です)

>積極的な白音
血は争えない部分というか、なんというか。
黒歌と違って無自覚ですが余計性質が悪い。
ちなみにこの時セージが地の文でやけに冷静なのは「作っている」からです。これも一種のペルソナ。

因みに、白音がサブカルに精通しているという事はりせちーも知ってるだろうという事で
若干ドルオタじみた言動してますが、単にかわいいもの好きなだけです。
どっかの心火を燃やして推しと付き合いそうなドルオタじゃないんですから。

>霊的な力とか
魔力が使えないなら、別のものを使えばいいじゃないという事で。
ディーン・レヴは危なっかしすぎますし。
そう言う意味でもセージの指南役としても黒歌は適任でした。

>白音のバイト先
ウォルベンさん逃げて―!
というわけでつべでGガン見てたら無性に出したくなった方。
いつぞや、白音強化案として感想欄でソウルゲインが挙げられましたが
まさかの流派東方不敗。これは私でも予想だにしなんだというか過剰パワーアップ。

十文字→クロス 修司→シュウジ

というわけでシュウジ・クロスです。
ただ、彼が四川料理を得意とし詩を嗜むって設定は新スパロボの図鑑(当時のスパロボの図鑑の正確性は……)なので
wikiにも載ってないことですが、そこはそれという事で。

>セージが隠していた本
薄くはないです。無いですが、完全にセージ(と赤土)の好みが出てしまってます。

※09/05修正
オカ研戦ってたのはケルベロスやん……
読者に指摘されるとかまるで初期ドラゴンボール……
クオリティは雲泥の差ですが。


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Will19. 駒王学園珠閒瑠市へ

活動報告とかで荒れていて申し訳ありません。
作品ですべてを語れないのは私の至らなさです。


少し予定を変更して本編投稿させていただきます。
(実はセージがダウンロードした動画の内容を番外編に投稿するつもりでした)

また、アンケートを再び取らせていただきます。
概要は活動報告
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=245950&uid=87099

にある通りです、ご協力いただけると幸いです。


いよいよ、珠閒瑠(すまる)市の七姉妹学園(ななしまいがくえん)との合同学習会の時が来た。

ほぼ全員が参加するという事で、バスの量も半端ない……

 

……かと思いきや、思ったほどではなかった。

俺達が知らなかっただけで、実際にはかなりの被害が出ていたのだ。

そう、とても遠距離移動に耐えうる状態ではないという。

 

インベスにドラゴンアップルを植え付けられたもの

アインストの支配下に置かれ、やむなく昏睡状態にさせられたもの

デーモン族にマグネタイトを吸われたもの

そして、混乱に乗じて火事場泥棒を働いているはぐれ悪魔や純血悪魔と

その契約者の人間や眷属の転生悪魔の毒牙にかかったもの

 

これら被害者の数は、思った以上に多かったのだ。

当たり前だ。超特捜課だって展開には限界がある。

自衛隊だって四六時中駒王町内を回っているわけにはいかないし

さっき挙げた連中は世界各地どこにでも現れている。日本も例外じゃない。

 

「……これだけの人数だから珠閒瑠市も受け入れできた、ってのは考え過ぎか」

 

「……わかりません。ですが最近また襲撃の頻度が酷くなってる気がします。

 セージ先輩のお母さんは姉様に任せましたけど、やはり心配です」

 

デーモン族が出てきた辺りから、俺にかかるスクランブルも増えていた。

幸か不幸か天道連(ティエンタオレン)が潰しあいをしてくれているので、さほど負荷は無いが……

それでも白音さんの言う通り、母さんは心配だ。

一応2泊3日――これ以上は向こうの宿泊施設が確保できなかったらしい――で

こっちに戻ってくる予定は立てているのだが。

 

生徒たちを乗せたバスが出発する。途中まで自衛隊の車が随伴するそうだ。

ご時世的に仕方ないよな。

で、それなのに何で俺達はこんなところにいるかというと――

 

「セージ先輩、来ました。オカ研のマイクロバスです」

 

「わかった。白音さんもいつでも乗れるようにしてくれ」

 

そう。オカ研も今回の合同学習会に参加するのだ。

しかしオカ研は全国ネットで顔出し――それもテロリストとして――されているため

混乱を避けるため、別ルートで珠閒瑠市入りすることになっている。

なんだか、この間の沢芽(ざわめ)市入りを思い出すシチュエーションだ。

 

そしてもう一台、バラを象った意匠の入ったバイクが別の方向からやって来た。

あれは確か……

 

「セージさん、白音さん。お待たせしました」

 

呉島光実(くれしまみつざね)。沢芽市の天樹高校から駒王学園に転入してきた、ユグドラシルの主任の弟だそうだ。

俺はあまり面識が多いとは言えないが

祐斗が割と親しげに話しているところを度々見かけている。

確か、オカ研の企業見学の際にガイド役を担ったらしいが、そのせいで彼も……

 

「おはよう光実、今しがたオカ研のバスも来たみたいだ。同乗するのか?」

 

「……一応、そういう風に言われてますからね」

 

不服そうだ。そりゃそうか。俺も多分同じような境遇になったら同じようなことを言う。

光実は乗ってきたバイク――ローズアタッカーをロックシードに戻し、しまい込む。

そして開いた扉から、光実は渋々といった感じで乗り込んでいった。

沢芽市から来たと思ったらこれだ。難儀ではあるよな。

まあ今は世界中どこもかしこもこんな感じかもしれないが。

 

ふと、オカ研のマイクロバスと一緒に来た車のドアが開いたことに気づく。

また誰か来たのか? と思ったら、そこにいたのは奈良だったか京都だったかに

配属になっているはずの、周防克哉(すおうかつや)警部だった。

 

「周防警部? こっちに来てたんですか?」

 

「ああ。珠閒瑠市は僕が巡査部長していたころに配属になっていたからね。

 その縁もあって、今回の監視は僕がやることになった。よろしく頼む。

 ところで、そこの女の子は?」

 

「……白音です。よろしくお願いします」

 

その名前を聞いた途端、驚いたような表情を一瞬見せた周防警部だったが

すぐに納得したようにサングラスを直した。あ、そういえば。

 

「宮本君。君もなかなか悪魔に好かれる体質みたいだね」

 

「……一応、彼女は猫魈(ねこしょう)ですが。まあ人外って括りじゃそうかもしれませんね。

 なんだかんだで、人外の知人も多いですし」

 

「君の肝が据わっている理由がわかったよ。じゃあ、そろそろ出発だ。

 僕がバスの前を走るから、宮本君はバスの後ろから来てくれ」

 

配置を話し合い、周防警部は車へと戻り

俺は展開させておいたマシンキャバリア―の横車部分に白音さんを乗せ、跨った。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)も良好に稼働している。マシンキャバリア―の計器もすべて良好だ。

白音さんを乗せている都合上、単装砲は使えないがどの道だ。

発進前に、マイクのテストだけ行っておくことにする。

 

「こちら宮本。周防警部、聞こえますか?」

 

『周防だ。聞こえているよ、宮本君』

 

「了解です。それではこちら宮本、バス聞こえますか?」

 

『こちらバスの運転手の布袋芙(ほていふ)ナイアだ。聞こえているよ。

 通信で失礼するよ。初めまして宮本君、僕がオカ研の顧問の布袋芙ナイアだ。

 よろしくお願いするよ』

 

マイク越しに聞こえる声に、何か背筋が凍るものを感じながらも俺は受け答えをすることにする。

しかしこの布袋芙ナイア、どっかで……? いや、そんなはずはないか……

 

「よろしくお願いします。ではそろそろ出発しましょう。周防警部、お願いします」

 

『了解した。僕が先導し、宮本君が殿を務める。珠閒瑠市までの間、よろしく頼む』

 

3つのエンジンの音が、駒王学園を後にする。

バックミラーに映るのは、静寂に包まれた駒王学園。

そして静まり返った駒王学園の校庭に、2つの要石は太陽の光を反射して佇んでいた。

 

比麗文(ひれもん)石と鳴羅門(なるらと)石。

それぞれ御影(みかげ)町の聖エルミン学園と、珠閒瑠市の七姉妹学園に存在したものと

同じものと思われるそうだ。検証に立ち会った薮田(やぶた)先生は確かそう言っていた。

 

この2つの石は、まるでこれからを暗示するかのようにただ静かに太陽の光を受け輝いていた。

それは輝かしい未来か、はたまた絶望への斜陽か。

あたかも嵐の前の静けさのように、駒王学園は静寂に支配されていた――

 

 

――――

 

 

珠閒瑠市までの道。高速道路は主に自衛隊などの物資輸送専用として割り振られているため

こうした状況においても一般には開放されていない。仕方ないと言えば、仕方ないが。

一般のバスから離れた俺達は、なるべく目立たないように……とはいうものの

マシンキャバリア―はどうしても目立って仕方がない。これ以上は無理だ。

 

「セージ先輩、やっぱりマシンキャバリア―で隠密は無理があるんじゃ……」

 

「そうは言うけどさ。緊急事態に即座に対応できるのがこれなんだよ」

 

信号待ちの時に、白音さんが俺に聞いてくる。ごもっともな疑問だよ。そう、これがあるのだ。

別行動と言えば聞こえはいいが、要は体のいい護送だ。マイクロバスは言うなれば護送車である。

そして俺達はその護送車の警備。事態が起きないように行動する必要がある。

その行動をするにあたって、性能はともかくマシンキャバリア―は車体の色と言い

備え付けの武器――記録再生大図鑑から出してるものだが――と言い

あまり警備には向かない。姿は一応消せるが根本的解決じゃないし

貰い事故を防ぐためにもそれはできない。

 

『宮本君、あまり派手に落とし過ぎない方がいい。いざとなれば僕がペルソナで対応する。

 両手がふさがっていても、ペルソナは使えるからね』

 

「すみません。ですがお互い安全運転で行きましょう。

 警察関係者が交通違反とか洒落になりません」

 

『そうだな、赤色灯もつけていない以上はな。お互い気をつけよう。

 ――よし、青になったから進むぞ』

 

周防警部の発進に合わせ、マイクロバスと俺も発進する。

珠閒瑠市は、まだしばらくかかりそうだ。

レーダーも反応が無い。あまりにも暇なので、どうしたものかと思ったら

急にマイクから音声が入る。マイクロバスからだ。

 

『暇そうだね、セージ君。せっかくだから僕がバスの中の様子を教えてあげようと思ってね』

 

「勘違いされてるかもしれませんが先生、俺一応仕事中なんですけど」

 

『そう堅いことを言うなよセージ君。生徒同士の交流も健全な高校生活には必要さ』

 

「白音さん同乗させてるので間に合ってます」

 

我ながらけんもほろろな対応だと思うが、こっちも遊びでやってるわけじゃない。

一応警察から手当ては貰ってるんだ。いい加減なことはできない。

そりゃまあ、バスの中の様子が気にならないと言えばうそになるが。

特に光実や祐斗、アーシアさんの心配という意味で。

 

「今思い出したが白音さん、ギャスパーは来たのか?」

 

「……いえ。でもかえって安全だったかもしれません。今にして思えば」

 

確かに、アインストだインベスだって禍の団(カオス・ブリゲート)よりもある意味危険なものがうろついている以上

グレモリー邸で引きこもっている方が安全なのか?

いや、だが聞けば冥界は冥界でアインストが出るらしいし……

ま、今いない奴の事を気にしても仕方がないか。

珠閒瑠市、か。確かバオクゥが向かった先でもあったな。

事前情報を調べる一環で連絡を取ってみたが

どうやら立て込んでいるみたいだったのが気にかかる。

どうして立て込んでいたかってのは、確か…………

 

 

…………あ。

 

 

「周防警部! 緊急です! 珠閒瑠市ですが、クロスゲートが顕現しています!

 場所は蓮華台のアラヤ神社境内!

 自分が情報を仕入れた段階では稼働しておりませんでしたが、現状では全く分かりません!」

 

「ええっ!? セージ先輩、それは本当なんですか!?」

 

『なんだと!? わかった、直ちに港南警察署に連絡を入れる!』

 

 

とんでもないことを思い出した俺は、思わずマシンキャバリア―を路肩に止める。

俺の状況を察して、周防警部も車を路肩に止め

つられる形でマイクロバスも路肩に止まる。

 

バカバカバカバカ! 俺のバカ!

なんでこんな肝心なことを忘れていたんだ! しかもクロスゲート絡みは前にやらかしてるだろ!

俺が沢芽市に行く前にバオクゥから連絡が来たじゃないか!

 

 

――珠閒瑠市にも、クロスゲートが顕現した、と。

 

 

『宮本君、そのクロスゲートの情報を得たのは何時頃だい?』

 

「……お恥ずかしながら、自分が沢芽市に向かう前……

 つまり、一月近く前になります」

 

……自分の連絡ミスとは言え、これは……

俺の連絡に、白音さんも祐斗みたいな驚き方してるし。

これは、ちょっと洒落にならんポカだ。

疎開先でクロスゲートが稼働していて行ったらアインストの巣でした、は最悪だ。

 

『……そうか。それなら、まだ恐らく珠閒瑠市は無事なはずだ。

 僕も昨日、現地にいる知り合いに連絡を取ったんだ。

 その時、普通に連絡が通じたからね。その知り合いも、クロスゲートの事は知っていたらしく

 アラヤ神社に不穏な動きは見られない、ってさ』

 

「……そ、そうですか……

 連絡が遅れてしまい、すみません……」

 

周防警部が言うには、現地は無事らしい。

だがクロスゲートがある以上、いつ何時何が起こるかわからない。

現に沢芽市のクロスゲートは稼働し、インベスに加えてアインストが現れたんだ。

 

……そういや、あの時現れた堕天使って……

 

『あまり気に病むな。だが、珠閒瑠市にクロスゲートがあることは間違いないだろう。

 となると、珠閒瑠市も決して安全とは言えなくなった。

 いや、今や世界中のどこにも安全な場所なんてないのかもしれないが……

 宮本君、大変かもしれないがどうか挫けないでほしい』

 

「……わかりました」

 

さっきから俺達は路肩に寄せたまま全然進んでいない。

そして緊急連絡という事もあり、しばらく止まらざるを得ない状況であった。

そんな状況に痺れを切らしたのか、マイクロバスから連絡が来た。

マイクロバスには、どうして止まっているかの理由は話していないし。

 

『……セージ君。そろそろいいかい? どうやら立て込んでいたようだけれども』

 

「すみません、お騒がせしました。詳細は現地で話します。行きましょう」

 

『そうだな、それでは車を出そう。布袋芙先生、お願いします』

 

なんか色々申し訳なくなったので、唯々謝ることしかできなかった。

とりあえず、今回の合同学習会が無事に終わってくれることを祈るしかない。

そのために、俺は少し「駒王学園生徒の宮本成二」から「警視庁超特捜課特別課員の宮本成二」

になる必要がありそうだが。

 

『ああ……ふふふ、またあの地で物語が紡がれるか。

 面白そうだ、実に面白そうだ。やはりここに来て正解だったよ……

 

 ……さあ、出発だ。待たせてしまったね皆。バスを出すよ』

 

マイク越しの布袋芙先生の声は、何か不敵な含み笑いを含んでいるように、俺には聞こえた。

そして、ここからではマイクロバスの中の様子も、周防警部の顔色もうかがい知ることはできない。

 

クロスゲート。それは沢芽市の時と同様、災厄を齎すのか。あるいは……

現地のバオクゥについたら改めて連絡を取ろうと決心し

俺達は着々と珠閒瑠市へと近づいていくのだった。




最近セージポカ多くない?

>現状
いやだって。
テロ行為ってだけでも大変なのに、そこに普通に人間襲う怪物が3種類
いや4種類もいれば……ねえ。

>ミッチ
今回別にミッチ悪いことしてないのになぜか黒フラグが立ちかねない扱い。
祐斗と仲良くなってるのがせめてもの救い……救い?
ヒロインと違ってイッセーの影響受けにくいのがここに来て功を奏した?

>周防兄
弟は別件です。
何気に怨敵とニアミス、でも今回その怨敵保護者役だしなあ。
保護者の皮被った前例はあるけれど。
連絡とった知り合いは想像通りという事で。
より詳しくは番外編のプルガトリオ参照。

>ナイア先生
その怨敵。
本当に何でもできるけれど、薮田先生をして「個人情報改竄されてた」と言わしめたくらい
混沌の塊なのでさもありなん。


ところで、本文中ではセージが確認取らなかったので触れてませんが
マイクロバスには運転手含めて「7人」乗っています。
そしてギャスパーはいませんし、ゼノヴィアは一般のバスに乗ってます。
白音はサイドカーですし、となると……


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筆が乗ったのでというのと
以前触れた「情報提供」の場面を一切飛ばして珠閒瑠市に行こうとしてたので
急遽ねじ込む形になりました。すみません。

で、その程度なら番外編回しにしようと思ったら
劇中アモンがとんでもない事言いやがりましたので
本編に載せることにします(キャラクターのせいにするのもどうかと思いますがマジで勝手に動かれたので、アモンに)。


※警告!
今回「も」重大な設定改変があります!


駒王学園合同学習会のために珠閒瑠(すまる)市に向かうマイクロバスの中。

オカルト研究部は先の報道のためにテロリスト疑惑が向けられており

このように他の生徒とは別行動で向かう事となったのだ。

 

つまり、ここに乗っているのは冥界に篭りきりになっているギャスパーを除いた

オカルト研究部と、外部の人間でありながらテロリストの仲間と報道されてしまった

呉島光実(くれしまみつざね)のみである。

 

そんな中、リアスは以前セージに呼ばれて集まった時のことを思い返していた――

 

 

――――

 

 

駒王警察署。

セージの発案により、ここで一度情報を纏めることになった超特捜課とオカルト研究部。

思想については反目することも少なくない両者だが、現状においては

人々を守るという目的は一応、合致している。

その点を踏まえれば、情報の共有は何らおかしなことではない。

 

「……けど、やっぱ納得いかないわねえ」

 

「しかし部長、彼らだって駒王町や人々を守ってるんです。

 無論、僕らもです。最低限情報は共有した方がいいと思います」

 

木場に進言されて、ため息を吐くリアス。

彼女の中には、こんな感情も渦巻いていた。

 

 

――イッセーが、朱乃が、そしてナイアが自分の思い通りに動いてくれれば――

 

 

ナイアが来てからというもののイッセーが。

そして企業見学会を終えてからこの方朱乃が。

どうも自分の方針に反目することが増えてきているような感じを受けてならないのだ。

 

眷属であると同時に教師としての側面も持ち合わせるナイアはある意味、仕方がない。

しかしそうした要素のないイッセーが自分の言う事に従わない面を見せるのは

彼女には不思議でならなかった。

いや、厳密には当然表向きに反旗を翻しているわけではない。セージではないのだから。

しかし、プライベートな呼び出しに理由をつけて現れなくなったりすることが増えてきている。

 

朱乃に至っては、昔からリアス眷属の中では唯一面と向かって意見を言えた立場だから

彼女もまた、ナイア同様仕方のない部分はある。

しかし彼女もまた、プライベート――特にイッセー絡み――では

目に見えて反逆してくることが増えた気がする。

態々リアスの目の前でイッセーにちょっかいを出したり

リアスを出し抜くような言動をしたり、だ。

 

「……大変そうですね、祐斗さんも」

 

「アーシアも大丈夫か? 八つ当たりとかで何もされてないだろうな?」

 

そんなボロボロ状態のオカ研に残留する形となった木場やアーシアも

沢芽(ざわめ)市から転入してきた光実や紆余曲折を経て友人となったゼノヴィアに心配されていた。

リアスもだが、彼らにかかるストレスも決して小さくはないのだ。

 

「……」

 

「白音、言いたいことはわかるけどここは黙っておくにゃん。

 半分はあいつの自業自得なんだから。

 血のつながった家族でさえうまくいかないもんなんだから

 家族ごっこがうまくいくわけないにゃん」

 

妙に含みのある黒歌の言葉に、白音はただ黙って頷くことしかできなかった。

まだ幼かった白音は知る由もないが、黒歌には家族絡みで相当なトラウマがあったのだ。

――よく宮本家に転がり込めたものでもあるが。

 

「――遅くなってすまない。資料がまとまったので、話を始めようか」

 

「ぎにゃっ!? せ、セージ今の聞いてたにゃん!?」

 

学生らしい――内容はちっとも学生らしいものではないが――喧騒を終わらせるかのように

部屋の扉が開き、セージや蔵王丸(ざおうまる)警部と言った超特捜課の面々が入ってくる。

そこには、時間が取れたのか薮田直人(やぶたなおと)も顔を出していた。

 

しかし、ノックはされたとはいえ突然入ってきたセージに黒歌は思わず驚く。

家族ごっこという言葉を使ったが、それはあくまでもリアスらの事を揶揄したものであり

自分の現状を言ったことではない、と言おうとしたのだが――

 

「何の話ですか? それより話始めるんで静かにしてください」

 

資料を机の上に並べながら、セージは黒歌の耳元で当人にのみ聞こえる程度の声で

こうも言っていたのだが。

 

――そっちがどう思おうが勝手だけど、俺は「ごっこ遊び」のつもりはしてないから。

 

何事もなかったかのように、資料配りを再開するセージ。

呆気に取られていたが、白音に着席を促されたことと

セージの話が始まってしまったこともあってこの言葉の真意を問いただすことはできなかった。

 

 

――――

 

 

全員の着席を確認し、話を始めるセージ。

沢芽市で自分に起きたこと、ディーン・レヴとベルベットルーム。そしてクロスゲート。

加えるならば、アモンが知りうる限りのデーモン族に関する話もここで語られたのだ。

 

「なんだって!? それは……ってレベル超えてるよ、もう。

 本当によく無事に戻ってこられたね、セージ君」

 

「クロスゲートについてはユグドラシルの戦極凌馬(せんごくりょうま)が研究を進めていますが

 僕から確認を取ることはまずできないですね……

 彼が秘密主義的なところもあるのですが、テロリスト扱いされている以上

 僕からユグドラシルにコンタクトを取れるとは思えません」

 

「それにデーモン族……確かに、私達悪魔の先祖については謎が多かったわ。

 お父様やお母様より前の世代の事なんて、私は一度も聞かされなかったもの」

 

セージの語った話は、そのほとんどが穴を埋めるかのように伝わっていった。

全てを埋めるには至らなかったが、それほどまでにセージが

沢芽市の往復で得た情報の量は多大だったのだ。

 

「セージの気の質が変わった理由、わかった気がしたにゃん。

 確かクロスゲート自体が負念で汚染されてて、セージの持ってる

 ディーン・レヴだっけ? それが負念とか吸ってるんでしょ?

 で、白音を助ける一環でセージも気やそういった性質のものを吸い取れる力を持った。

 たとえ吸い取る力が弱くても、長い事負念に曝されていたらそりゃ変調きたすにゃん。

 

 ……ねえセージ。本当に、何ともないのよね?」

 

べたべたとここぞとばかりにセージの体を触りながら、黒歌が問いかける。

事情が事情なのでセージも邪険にはせず、質問にだけ答えていた。

 

「今のところは、としか言えませんよ。とりあえず、味覚は無事ってのは知ってるでしょう。

 飯が作れるんですから。味覚死んでたら作れないでしょう」

 

「うっ……それはそうだけど……」

 

「…………でも、心配は心配です」

 

心配そうにセージを眺める猫姉妹を宥めながら、セージが質問に答えていく。

セージに答えるのが難しい、デーモン族絡みの質問はアモンが代わりに答えている形だ。

そんな中、リアスが手を挙げる。

 

「……そうだ、聞きたかったのだけれど。アモン、いいかしら?」

 

『なんだ、サーゼクスの妹』

 

「アモン、あなたもデーモン族に分類されるのよね?

 だけど、お兄様はおろかお母様もお父様もデーモン族ではない。

 この二つの違いは、何なのかしら?

 私やお兄様がデーモン族でない理由の説明は、出来るのだけれど」

 

リアス直々にサーゼクスについて質問を受けたアモン。

確かに、アモンはデーモン族だが、サーゼクスはデーモン族には分類されていない。

それが、リアスには不思議だったのだ。単純に非デーモン族のサーゼクスと

デーモン族のアモンが戦友だっただけ、の話でもあるが。

 

『ま、デーモン族じゃない両親からデーモン族は普通、生まれないわな。

 ……だがサーゼクスの妹。お前は一つ、思い違いをしている。サーゼクスについてだ。

 こいつは黙っておこうかと思ったが、もうあいつに義理立てする必要もないしな。

 ついでに教えてやるが……喚き散らすなよ』

 

「しないわよ。それより、お兄様について私が思い違いをしているって

 一体どういうことなのかしら?」

 

その次に語ったアモンの言葉の内容に、一同は絶句せざるを得なかった。

それほどまでに、衝撃的だったのだ。

 

 

『サーゼクスは、デーモン族どころか……「悪魔ですらない」。

 奴は悪魔としてもイレギュラー。滅びの力が悪魔を象った存在だ。

 ご丁寧に、悪魔の肉体まで使ってな』

 

「魔王様が!?」

 

「サーゼクスに、そんな秘密が……!?」

 

『大体わかった……じゃ、済まされないなこれは』

 

 

(……アモン。それを、今ここで言いますか)

 

 

その発言に、オカ研の面子と猫姉妹、セージ(とセージに憑いているフリッケン)は

驚きを隠せなかった。

その驚き具合につられて驚いているのがゼノヴィアや光実、超特捜課と言った人間の面々。

 

ただ一人、いや一柱か。薮田直人だけが平静な顔でその話を聞いていた。

 

「そんな!? お兄様は確かに私のお兄様で、お母様から産まれたと……」

 

『喚くなっつったぞ、サーゼクスの妹。そうだな……俺もこれをどう説明していいのかわからんが

 サーゼクスは確かにお前の母でもあるヴェネラナ・グレモリーから産まれた……

 

 「はずだった」』

 

「『はずだった』!? それって、どういう……」

 

『……これは俺が現役時代、っつか封印される前に聞いた話なんだが

 冥界じゃ周期的に妊娠した悪魔が罹患する流行り病があってな。今もあるかどうかは知らん。

 これも悪魔の少子化の一因を担ってるんだが、今はこれは置いておく。

 お前の母ヴェネラナもな、その病に罹ったそうなんだ。そんな中、ヴェネラナは出産した』

 

「そんなことが……確かに、話には聞いたことがあるけれど……

 他の深刻な病を合併症で引き起こしたり、産み落とした子供にも影響が出たりとかで

 それなりの社会問題にはなっていたけれど、確か対策は遅々として進んでいなかったわ。

 症例は眠り病を合併させたり、生まれた子供の魔力に異常が出たり。

 それこそ、酷いときには全く無くなるそうよ」

 

(魔力が無い!? まるで、サイラオーグさんのような……)

 

冥界の流行病。症状からセージの脳裏に過ぎったのはバアル家の長男、サイラオーグ。

人間においても出産はデリケートな問題であり、妊婦へのアルコール摂取が忌避されたり

乳児に蜂蜜は与えてはならないといった事例も、近いものはある。

悪魔にそう言った流行病があっても、何ら不思議ではないだろう。

 

『らしいな。で、話に戻るが出産は母子共に健康どころか、ヴェネラナが産み落としたのは

 悪魔の赤ん坊ではなく、「滅びの力そのもの」だったんだ。

 もちろんそんなものが母体にあって無事なわけがないし

 そんなものを出産しようものならショックは通常の妊娠とは比べ物にならんはずだ。

 妊娠中の負荷に辛うじて耐えてきて出産に臨めこそしたものの

 ヴェネラナはその滅びの力に耐えられずに死亡。

 

 それでも収まらない滅びの力から病院を守るために、病院は措置として

 ヴェネラナが産み落とした滅びの力に悪魔の肉体を定着させて制御を試みた。

 ……それが、サーゼクス・グレモリーってわけだ』

 

アモンから語られたのは、サーゼクス出生の秘密。

デーモン族の話が、まさか自分の兄の出生の秘密にまで話が発展してしまったことに

リアスは少なからず混乱するが、そもそもサーゼクスらが魔王就任前に起きた内乱では

まだデーモン族と今世代悪魔は共存していた。それが何故デーモン族は語られなくなったのか。

何故デーモン族は冥界から姿を消したのか。

そこにたどり着く前の話として、引き合いに出したサーゼクスに

とんでもない地雷が埋められていた。それだけの話だ。

 

「ちょっと待って!? その時にお母様が死んだって……じゃ、じゃあ私はどうやって!?

 そもそも、今もお母様は健在……」

 

『あるだろうが。死人だろうと蘇らせることのできる都合のいいマジックアイテムがよ。

 ま、その当時はアジュカ・アスタロトの作った試作品ではあったがな。

 被検体が悪魔だったからあいつの望んでたデータは取れなかったらしいが

 それこそ今この件には一切関係ないことだし俺もアジュカの顛末は知らんから触れんぞ。

 その後のグレモリー家に関する経緯も俺は知らねえし、封印されて知りようがなかったからな。

 その点については報道以上のことは知らんぞ』

 

「『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』……!!

 そんな、それじゃもしかしてお母様はお父様の『女王(クィーン)』ってことに……!?」

 

アモンが忌々しそうに語ったのは、悪魔の駒。

死したものにさえも悪魔としての生を与え、転生悪魔として蘇らせることができる。

そうして生を受けたのがここにいるアーシアをはじめ、枚挙に暇がない。

(キング)」と「女王」の婚姻も別段珍しい話ではないし、そもそも一夫一妻制ではない冥界において

主と眷属の婚姻は寧ろ黙認ないし奨励さえされている風潮すらあるのだ。

 

しかし、既に結婚している者が実は悪魔の駒で転生させられたものだとしたら、となると

また話が変わってくる。是非ではなく、秘匿性についてだ。

 

『俺が封印されるには、それ相応の口封じの理由があったって事だ。

 あとサーゼクスの妹。自分の家壊したくなかったらこれは今はまだ言うな。

 お前にこの事を一切言わないのは、それ相応の理由があるからだろう、中身までは知らんがな。

 サーゼクスがお前に言わなかったのは、単純に知らなかったからだとは思うがな。

 お前に言わなかったことを、サーゼクスに言うとも思えん。

 ましてジオティクスにとってサーゼクスは当事者だ、猶更言わんだろうよ』

 

期せずして両親の、家族の秘密を知ったリアス。

アモンの言葉通りならば、サーゼクスは自分の正体も知らずに魔王どころか

悪魔を演じていることになる。だとすると、なんと滑稽な話であろうか。

そして、ジオティクスが悪魔の駒に肯定的であることの理由でもある。

何せ、自分の妻を救い家族の崩壊を防いだ奇跡の道具なのだから。

後に、その弊害は数多く生まれることになるが

そんなことはジオティクスにとっては「関与しないこと」である。

ジオティクスにとって、悪魔の駒は悪魔にとっての救世主でなければならないのである。

 

『それと、あの口の軽そうな赤龍帝にも言うなよ。口の軽い奴に言うってことは

 そこから情報ってのは簡単に漏れる。脆弱性って奴だな』

 

「……言わないし、言えないわよ……」

 

「この場にバオクゥはともかくリーがいないのは助かったな。

 フリッケン、盗聴器とかは無いよな?」

 

『無いし、あればアモンも口を割らんだろ』

 

セージが得たアモンの力。

それは、ただ武力のみではない。

埋められた、忌まわしき黒い歴史とも言うべき情報の生き証人。

当事者が証言するというそれは、ある意味武力を大幅に上回り

滅びの力も、赤龍帝としての力さえも意に介さないほどに強力であった。

 

 

(……なるほど。まあ暫くは、あの魔王に泳がせておいた方が都合がいいか……

 となると、クーデターには失敗してもらわないと困るな。

 では、次の冥界の目標は……)

 

 

一人、交代で入ってきた警官の内面など誰も知らない。

ただ、交代した警官がその警官の瞳がやけに薄気味悪く

金色に輝いていたことを知るのみであった。




やりました(やっちゃいました)。

まさかのヴェネラナ眷属悪魔。
時期的に試製悪魔の駒でしょうが、既に死者蘇生能力は実装されていたことに。
これらは
(ピロロロロロ…アイガッタビリィー リアス・グレモリィ!!)
・何故サーゼクスが滅びの力そのものなのに、ヴェネラナから産まれることができたのか
・何故そんなものを産み落としてヴェネラナが無事だったのか
・何故ジオティクスが悪魔の駒を推奨ないし黙認しているのか

これらに私なりに答えを出した結果です。
冥界の流行病は、眠り病とかの事を考えればあってもおかしくないですし
ならばいっそとサイラオーグも先天性のものですしバアル関係者なので関連付けることに。


そして盗聴の心配がないことを安堵した矢先になんかとんでもない警官入ってきてる件


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珠閒瑠市に行かないで何してるんだろう、って位に長引いてます。
しかもまだ終わりません。

それだけ振り返ったら問題だらけだった、とも言えますが。
どないせいと。


悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の背景、サーゼクス出生の秘密などショッキングなことが次々に語られる中

一息入れるために配られていた茶に各々が口をつける中

セージはまた別の資料を纏めていた。本題のデーモン族に関してだ。

そもそも、今アモン越しに語ったのはサーゼクス出生で、話が逸れていた。

逸れた話がまた大事だったためにこうなっていただけで、本題はデーモン族についてだ。

 

『話が逸れちまったな。デーモン族に関してだったか』

 

「逸れた先の話が本題かって位に大事過ぎるわよ……

 まさかこんなところでお兄様の秘密を知ることになるなんて思いもよらなかったわ」

 

『そりゃ悪かったな。しかしくどく聞くようだがサーゼクスの妹。

 お前、本当にデーモン族に関して何も知らない、聞かされていないのか?

 悪魔の歴史について、学校で教わらなかったのか?

 他の人間や転生悪魔どもが知らないのはわからんでもないが

 お前が知らないというのはどうにも解せん。

 

 ……いや。ある一つの可能性を除いて、だが』

 

神妙な口ぶりで語るアモン――語っているのはセージの肉体だが。

そのアモンが想定した可能性。それは、デーモン族である彼にとっては到底受け入れ難く

そして現在の悪魔の在り方を嘆くのに値する、そうしたものであった。

 

「――焚書。情報統制。歴史の捏造。こういったところだろ、アモン」

 

『さすが記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)使うだけあって頭の回転は速いな、セージ。

 そうだ。何せサーゼクスらは「平和の時代」だと抜かして俺達デーモン族を迫害した。

 昨日まで手を取り合って戦ってた奴が、いきなり掌返して矛先向けてきやがったんだ。

 如何にデーモン族が武芸に秀でたと言っても、限度がある』

 

「そんな!? まるで人間の行っている差別じゃ――」

 

リアスがアモンの言葉に反応して反論しようとした矢先

セージからドスの利いた声で制止が入る。

話の内容が、あまりにもお粗末――というか、決して他人のことは言えないものであったからだ。

 

「あんたが言わないでくれ。いや、リアス・グレモリー個人としては差別はしてない。

 ……と、いう事にしておいてはやるけど、じゃあ転生悪魔問題は一体何なんだよ。

 どうして黒歌さんははぐれ悪魔になったんだよ。

 どうしていつぞやの集まりの時にシトリー会長の兵士(ポーン)がブチ切れかましたんだよ。

 どうして俺はあんたの――いや、これは私怨か。今は置いておく」

 

「うっ……というかセージ、あなた仮にも後輩……」

 

「だったら手本になれるように振舞ってくれ。

 取ってつけた上っ面だけの評判なんて要らないんだよ。

 まるで自分の落ち度を覆い隠すような、な」

 

セージの知りうる、転生悪魔を取り巻く問題を並べ立ててリアスへの返答としていた。

申し訳程度に「リアスはそういう考えではない」とはしてあるものの

それはリアスが例外であり、悪魔社会の世間一般では

セージが挙げたような事例の方が通例なのだと。

それに、リアスにしても無意識でそうした差別意識は向けている。

暗にセージはそう言っていた。

 

「セージ君、その辺にしておいてあげてくれないかい?」

 

「……わかった。これで言うの何度目だよ、って気もしてきたけど

 今本題はアモンの話だからな。悪いアモン、続けてくれ」

 

『応。で、お前ら若手の悪魔が俺達デーモン族の事を知らない――知ってたとしても朧気なのは

 俺が思うに、今の政府がデーモン族に関する情報を一切黙殺ないし

 悪し様にしか語ってないからだろうな。

 セージの記憶もちょいと覗かせてもらったがな、お前らの言うはぐれ悪魔?

 

 あいつらな、似てるんだよ――デーモン族にな』

 

はぐれ悪魔。悪魔の駒によって転生した、させられた悪魔が反逆の末に変わり果てる存在。

それは自発的な反逆のみならず、陥れることによってもはぐれとして成り立ってしまう

対等な契約とは程遠い、転生悪魔にとっては首に爆弾を括り付けられるようなものであった。

 

「はぐれ悪魔と、デーモン族が?」

 

『こいつの記憶にあったバイサーって奴を筆頭にな。

 そういう意味ではインベスもある種デーモン族だ』

 

「……ぞっとしない話にゃん」

 

紆余曲折を経て悪魔の駒を物理的に抜かれることではぐれ悪魔から元に戻れた黒歌は

自分が辿ったかもしれない末路を想像して身震いしていた。

セージにせよ、もしかすると木場もなっていた可能性もある。

はぐれ悪魔とはそれほどまでにあやふやで、危険な存在と言えた。

 

『現にお前ら、はぐれ悪魔はそれっぽい理由をつけて問答無用でぶっ殺してるだろうが』

 

「それは! はぐれ悪魔が悪魔のルールを破るから……」

 

「家族守るための正当防衛まで犯罪扱いされたんじゃ、たまったもんじゃないわ。

 悪魔の法律でも過剰防衛って制度は認められてるみたいだけど

 それはあくまで純血悪魔同士の話。私らみたいな『転生悪魔』には適用されない話よ。

 ね? この時点で既に差別って行われてるのよ。わかった? 無駄乳悪魔。

 

 ……ま、私はもう悪魔じゃないから関係ないけど」

 

アモンの指摘に、リアスが反論しようとするがそれを黒歌が無駄に煽りながら封殺する。

セージ――というか人間目線――で見た場合、彼が黒歌と懇意にしているという点を抜きにしても

共感できるのは黒歌の方であろう。

少なくとも、セージが受けてきた義務教育と高校一年程度の教育では

そう言う価値観が植え付けられているのだ。

 

『そう言う事だ。はぐれ悪魔は極めてデーモン族に近い性質を持っている。

 まあ細かく言えば別物だろうけどな。

 で、政府の側としてはさっき言った通りデーモン族は排除しなければならない存在だ。

 となれば、適当な理由つけて駆除するのが一番手っ取り早いだろ。

 まあ当然、中にはお前の言うように

 「本当に太平の世を良しとせず挙兵した」奴もいるかもしれんが

 それと同時にこの猫のねーちゃんみたいに家族を守る行為で陥れられた、なんて事例もある。

 セージだって、そこの色男だってなりかけたんだ。

 現代にも息づいてる、体のいいデーモン族狩りだな』

 

アモンの指摘に、リアスは言葉を失ってしまった。

今まで自分が正義と信じて行っていた行為が、他ならぬ差別への加担であったことを

被差別者という当事者から突き付けられたのだ。

しかしこれは逆に言えば、それにショックを受ける程度には

まだリアスには良識があることの証左でもあった。

 

『――言う事が矛盾するようだがな。

 別に平和の世を無闇に脅かそうとする奴は処分されて当たり前だ。漸く落ち着いたんだからな。

 だから、お前らがやってたはぐれ悪魔狩りとやらもすんなり受け入れられたんだろうし

 俺だってそういうやつが殺される分に文句を言う気はねえ。

 これからは平和の時代、ってサーゼクスの言葉「だけ」は認めてるからな。

 

 ……ま、結果はこれだが』

 

「……じゃあ、じゃあ私たちはどうすればよかったのよ!?

 あなたの話だと、デーモン族は今の悪魔以上に武力を、力を尊び

 他の生物との永遠の闘争も辞さない、戦争ありきの生物じゃない!

 私は御免だわ! そんな生き方は!」

 

デーモン族であるアモンに向かって、面と向かってデーモン族を批難するリアス。

確かにリアスの語るデーモン族の在り方は

アモンをして「その通り」と言わしめるものであった。

だがそれは、あくまでもデーモン族の一面に過ぎない。デーモン族の全てではないのだ。

その決めつけこそが、デーモン族に対する、ひいてははぐれ悪魔――転生悪魔に対する

差別の温床であることを、リアスはまだ気づいていなかった。

 

『いいんだよそれで。現にお前はデーモン族じゃないだろうが。

 ましてや、滅びの力に仮初の肉体をくっつけた不安定な存在でもない。

 デーモン族の生き方なんか、無理して真似る必要なんざねえんだよ。

 ……それとこいつは年長者として釘刺しとくがな、自分だけは見失うなよ。難しい話だがな。

 

 じゃ、質問がねえならデーモン族に関する話は終わりだ』

 

(――セージにだって、それは出来てるとは言い難い部分はあるからな。

 出来なくったって、恥じることでも何でもねえよ。

 人間も悪魔も、あるいは天使だって自分のことを正しく認識できてるやつがどれだけいるか。

 俺だって――)

 

リアスの相手が面倒になったのか、アモンは煙に巻くようにセージの奥に引っ込んでしまう。

奔放なアモンではあるが、セージと結んでいるのは主従関係ではない。あくまでも対等な話だ。

主導権こそセージにあるが、こうして強硬手段をとる必要がないときは強硬な態度を取らない。

単純に地力で負けることと、アモンの力はなんだかんだで有用なのだ。

無論、この力とは知識も含む。

 

アモンの話が終わるなり、今度は蔵王丸(ざおうまる)警部が現状を纏めようと話を振る。

こういう場で対立組織を纏めておかないといけないほど、敵は多大なのだ。

 

「セージ。少し纏めさせてくれ。今俺達が相対しているのは

 

 巨大生命体オーフィスを首魁とする、クロスゲートから通ってきた――

 だがセージの見立てではそうではないかもしれないという『アインスト及び禍の団(カオス・ブリゲート)本派』

 

 人間をも媒介にしてドラゴンアップルを世界的に蔓延させ

 クラックという独自の空間転移能力を持つ『インベス』

 

 教化という洗脳を行い、巨人なるものをご神体に世界各地で信者を集めている『黒の菩提樹』

 

 フューラー・アドルフが率いる聖槍騎士団を擁する『禍の団英雄派』

 

 八十曲津(やそまがつ)組・天道連(ティエンタオレン)と言った反社会的勢力の集まりである『反社連合』

 

 ……そして天使・堕天使・悪魔ら『三大勢力』

 

 で、いいんだな? そしてこいつらは、それぞれ手を組んだりすることは基本的に無く

 各々が各々の目的のために人間――民衆に被害をもたらしている、と」

 

「ですね。そのうち反社連合にはユグドラシルが手を回していますし

 三大勢力はそれぞれは相互不干渉で反社連合みたく連携して人を襲ったりはしてないですね。

 それに、三大勢力のうち天使を擁する天界は俺の聞いた話だと――」

 

「三大勢力って! それは私に対する当てつけかしら?

 私が悪魔の代表なんて大それたことを言うつもりは無いけれど

 少なくとも魔王様は平和を望んでおられるわ!」

 

人類――というか超特捜課の戦う相手は今蔵王丸警部が大まかに挙げた六勢力である。

そのうち禍の団と三大勢力は敵対し、禍の団は本派と英雄派に分かれて行動している。

反社連合は黒の菩提樹以外の全てと敵対していると言える状態にある。

そして彼らのバックにはセージの言う通りユグドラシル・コーポレーションがついている。

現に天道連はユグドラシルの装備を使っているのだ。

 

そんな中、セージの発言を遮るようにリアスが反論する。

その反論で、セージが言おうとしていた大事なことは言うタイミングを失ってしまった形だ。

 

(アレを聞いてなお魔王を、兄を信用しようとするか。

 そりゃ親族の情には篤いってのがグレモリーなんだからそうもなるか……ただな。

 

 庇いたてすりゃいいってもんでも、ねぇと思うがな)

 

「少し黙ってろ。私だって三大勢力――特に天使が人類の敵って風潮には思うところはあるんだ。

 だが現に悪魔は火事場泥棒じみたことをしているし、なにより天使は援軍を寄越してこない。

 相対的に堕天使が一番まともに思えてくる位さ。

 

 ……それに、発端は言いがかりに近いものとはいえ

 根も葉もないことを言われたわけじゃないんだ。

 世論が三大勢力を敵視しているのは、なるべくしてなった結果だと私は思うぞ。

 それを言ったのがハーケンクロイツを徽章にする連中だってのは、殊更に気に入らないけどな」

 

違う立場でありながらも三大勢力――天使だけだが――を支持している

ゼノヴィアから制止されてしまう。

まだゼノヴィアは知らないことだが、天界は援軍を派遣できる状態にはいないのだ。

そしてその理由は、セージから明かされることとなる。

ユグドラシルについて思惑を秘めながらも、光実(みつざね)がセージに話の続きを依頼した。

 

「セージさん、話を続けてください。

 (彼がいれば、ユグドラシルの秘密が明かされてしまうのも時間の問題か。

  下手に僕が否定しても、事態は変わらないだろうしここは黙っておこうか)」

 

「……あ、ああ。その三大勢力のうち天使は表立った動きを見せていない――

 というか、天界との連絡が途絶していると以前大日如来様と天照様が仰ってました」

 

「何ですって!? それは本当なのセージ!?」

 

(てめえで話の腰折っておいてよく言うぜ)

 

木場の台詞を横取りするような形でセージに問い質すリアス。

彼女にとっても、天界との連絡が途絶したというのは衝撃的な話だったのだ。

 

他方、案外落ち着いているのがゼノヴィア。天界との連絡が途絶したと言うのに

一切狼狽える様子を見せていないのだ。

それどころか、納得したような素振りさえ見せている。

 

「なるほど、合点がいったよ。そりゃ援軍なんか寄越してくるはずがないか。

 まさか天界がこの大事な時期に音信不通になっているとは思い至らなかった。

 ……考えたくはなかったが、やはり天使――天界にとって

 私達人間はどうでもいい存在なんだろうな」

 

「ええ、彼の言う事は事実ですよ。私が保証します。

 天界の現状ですが、あまり芳しい状態ではないとだけ言っておきましょうか。

 ですが、全ての天使が人間を放置している、というわけではないという事は

 一応、言っておきますよ。これも楽観論かもしれませんがね」

 

「……あなたに言われちゃ、認めざるを得ないわね」

 

薮田の言葉に、平静を取り戻すリアス。

この関連性に薮田の正体を知らない超特捜課の面々は首を傾げるが

うまく言いくるめられている。

いくら何でも、聖書の神――の影武者――が普通に警察や学校に紛れ込んでいるというのは

衝撃が大きすぎる。神の不在が公言されている以上、なおさらだ。

 

「天界が音信不通……ミカエル様と何か関係があるのでしょうか?」

 

「詳しいことは私も調べていませんのでわかりませんが、四大熾天使のうち

 ガブリエルを除く三人と全く連絡が取れません。

 残るガブリエルですが……これは私の独自の情報網からの情報ですがね。

 天界を追放された『元』大天使メタトロンと行動を共にして、現在潜伏しています」

 

薮田の話もまた、天界の事をそれなりに知る者にとっては衝撃的な話だったのだ。

メタトロンは四大熾天使に並ぶ位の天使である。それが堕天したというのだ。

その人格を知るものはここには薮田位しかいないが、それでもおいそれと堕天するとは思えない。

これにはさすがに、アーシアも驚きを隠せなかった。

 

「メタトロン様とガブリエル様が!?

 では、残りの熾天使の方々は……

 それに、『元』大天使って……!!」

 

「言葉通りですよ。他ならぬ、本人からの供述を得ています。

 気になる方は録音データがありますので、後でそちらを各自聞いてください。

 残り三人の熾天使は、まだ連絡の途絶えた天界にいると私は見ています。

 

 それと潜伏した二人の潜伏先ですが

 私も知りませんし知ってたとしても言うわけにはいきませんよ。

 何分、天界と日本政府ないし神仏同盟の間には同盟も国交もありません。

 そんな身分の者の所在を、私の一存で明かして問題になってはいけませんからね。

 まして、江戸時代の頃に天界は宗教絡みで当時の政府――幕府ですね。

 彼らと問題を起こしていますから。

 ある意味、悪魔や堕天使以上に天使は日本政府や神仏同盟にとって

 やりにくい相手かもしれませんよ」

 

天界の異常事態。

それはセージの言葉から、薮田の裏付けを経て

超特捜課協力者やオカ研の面々に知れ渡ることとなった。

悪魔の首魁の衝撃的な事実、アインストに侵食されつつある堕天使に音信不通の天使。

フューラーの与り知らぬところで、三大勢力は自壊しつつあったのだ。




劇中で薮田先生が言った音声データはこちらから()
https://syosetu.org/novel/95124/30.html

>はぐれ悪魔とデーモン族
バイサーなんてもろにデーモン族的な悪魔だと思うんですよ。
そこからの着想に過ぎませんが。

で、原作劇中のはぐれ悪魔に対する異様なまでの敵視とか
拙作のデーモン族狩りに当てはめたら箇条書きマジックとは言えはまるはまる。

被差別属としてデーモン族を描いてますが、もしデーモン族が政権握ってたら
多分逆なことになったんだろうなあ、とも。


薮田先生、よく五体満足でいられるな。


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Providing Information Cパート

アンケートご協力ありがとうございました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=246959&uid=87099

上記触れている通り、現状維持でこのまま進め
R-18該当シーンにつきましては、街頭描写を加筆した分を
改めて年齢制限版に投稿させていただく形とします。


さて、急遽ねじ込んだ話もここで終結。
今回、少し嫌なフラグが立ちますが……


「……改めて言われると、とんでもない状態だよね」

 

「全くだ。おい、お前魔王の妹だろ。大人しくしろって進言出来ねえのかよ」

 

「そんな権限無いわよ」

 

超特捜課と三大勢力は表向きには大規模な戦闘を起こしていないが

はぐれ悪魔や末端となると話は別だ。小競り合い程度ではあるものの、争いは絶えない。

その現状に辟易としている安玖(あんく)がリアスに愚痴るが、あしらわれてしまう。

リアスの側も、由々しき事態とは思っているようだが反サーゼクス派の悪魔が暴れているので

サーゼクスが抑止力足り得ないのだ。

それがはぐれ悪魔やデーモン族ともなれば、猶更だ。

 

そもそも、アインストやインベスと言った怪物やテロで混乱している世情に加え

JOKER呪いも流行っているような冥界において、暴徒化しない悪魔が出ない方が難しい。

 

「しかし現実問題、冥界の悪魔の精神状態は極限ではあると思いますよ。

 僕もJOKER呪いは噂でしか聞いてませんが、相当流行ってるみたいですし」

 

「それについては、魔王様が対策を練っていらっしゃるわ。

 なんでも、近々大がかりなレーティングゲームの大会を行うそうよ」

 

木場の疑問に対しリアスが揚々と答えるが、その内容についても木場は

「この期に及んでそれか……」と思ったとか、思わなかったとか。

 

「そう言えば、堕天使はどうしているんだ?

 まさかこんな時に神器(セイクリッド・ギア)狩りしているとは考えにくいが……」

 

「天使や堕天使は確認してませんね。今まで自分達が戦った相手のほとんどが

 アインストやインベス、それに悪魔やデーモン族……でしたっけ。それらになります」

 

無論、超特捜課も出動記録など事細かに記録されている。

それに伴う資料も、既に纏められていて今回の対話の際に提出されていた形だ。

資料を確認し、氷上が天使や堕天使を最近駒王町でほとんど見かけないことを証言した。

 

「……で、お前らんとこはどうなんだよ?

 個人で出てるようなゼノヴィアや光実(みつざね)はまあ、仕方ないにしてもだ。

 セージだって超特捜課からの指令なら、こっちに情報がまとまってる。

 お前らの出動記録。あんだろ? 出せよ」

 

「そ、それは……」

 

実は、細かな書類作業はリアスは使い魔に全部丸投げしていたのだ。

しかし先のフューラーらによる襲撃やアインストの攻撃で使い魔の大半を失い

書類作業を行う使い魔もその半数以上を失ってしまっていたのだ。

資料こそ散乱しなかったものの、それをまとめ上げる技術を持ったものがオカ研に

なによりリアスの身の回りにいなかったのだ。

日頃から書類作業に忙殺されているソーナであれば陥らなかった状態であろうが

細かな作業を苦手とし、良くも悪くも大らかなリアスにはそうした点が欠けていたのだ。

 

(俺がいれば、マシにはなったかもしれんが……そう言う問題じゃないだろうな)

 

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)による検索・入出力を始めとし

そもそも事務作業にもある程度の資質を持っている

セージがオカ研に在籍したままであれば、何とかなったかもしれないが。

当のセージ本人もそれは思っていたようだが、口には出していない。

 

「チッ。まあガキのごっこ遊びにそこまで要求すんのも酷か。

 だが、どういう連中と戦ったのか。それくらいは覚えてるだろ?」

 

「凡そはそっちと同じよ。ただ、私たちの場合は冥界の悪魔の代わりに

 黒影(くろかげ)……だったかしら。黒い鎧の。彼らと戦う事が多かったわ」

 

遠回しに安玖が「管理職追われてよかったな」と嫌味を交えながらも会話を続けている。

リアスらも当然、駒王町を襲撃してくるアインストやインベスなどと戦っている。

ただ、彼女等は悪魔であるため、人外勢力を優先的に狙う反社同盟や

フューラー英雄派の標的となっており、そうした意味では超特捜課より消耗が激しかったのだ。

それなのに平然としていられる理由。それは――

 

「けれど私達だけの力じゃないわ。イッ――いえ、何でも無いわ。忘れてちょうだい」

 

(……うん? 今イッセーと言おうとしたか?

 いや、兵藤の奴をグレモリー先輩が使役することに何の問題も無いが……何故伏せる?

 一応、ここが警察だからか? そりゃまあ、確かに警察からの心象は色々な意味で悪いが……

 伏せるほどの事か? この非常事態で)

 

何故か、イッセーについて言及することを避けたリアス。セージには思い当たる節がない。

しかし、それはまるで口止めされているかのような避け方であったために

誰かが緘口令を敷いたのかもしれないが、その誰かまではわからない。

 

「……なんにしても、これだけの敵がいる以上

 僕らで争う事は本当にバカげてますよね。

 ああ、黒影の事は僕も頭を悩ませてますよ。何せ反社会勢力に横流しされてるんですから。

 しかし、出所をまるで掴めないんです。お恥ずかしい話ですが」

 

光実が申し訳なさそうに語る。実際ユグドラシルから

戦極(せんごく)ドライバーやロックシードと言った装備が、反社同盟に流れているのは事実だ。

今でこそほとんどは対人外勢力に使われているが、運用組織の都合上

それがいつ人間に牙を剥かないかわからない。

そんな組織に超常の力に匹敵する装備を運用させるわけにはいかない。

 

「そこについては心配すんな。捜査のメスは入れてるからよ。

 じゃあ、今後俺達超特捜課と、お前達駒王学園オカルト研究部。

 並びに各々の協力者は共同戦線を張るとまでは言わなくとも

 互いに邪魔をしないってことでいいな?

 

 だが流石に俺達も、表立ってテロ組織報道されてる連中と組むのはリスキーだ。

 残念だが、お前達を無罪だと証明できる証拠が無いどころか

 アリバイもないし、テロ行為を働いた証拠もある。

 そこだけは、力になれなくてすまんな。俺個人としても、あの報道は疑っちゃいるんだが」

 

「それだけ聞ければ十分よ。

 ……誤解を解くことについても、もとより期待はしていなかったし」

 

事ここに至って、ようやくオカ研――リアスの一味と

超特捜課は歩調が合い始めていた……のだが。

この決定に事もあろうにセージが待ったをかける。

言いにくそうではあるが、言葉の内容自体は真っ当だ。

 

「あー……そのことなんですがね。いや、俺もその方針自体に反対はしませんよ。

 ただ……神仏同盟が何と言うか。発言権は、彼らにも等しくあると思うのですがね。

 

 ……あ、俺に聞いても無駄ですよ。

 別に俺は神仏同盟のメッセンジャーやってるわけじゃないので。

 いくら家に仏壇飾ってるっつっても、それとこれとは話が別ですし」

 

「……相変わらずいいところで水を差してくれるわね、セージ」

 

「確かに、そういう意味では俺らも全面協力してくださってる神仏の方々を蔑ろには出来んな。

 お伺いは、俺らの方から立てておく。お前らが行くよりは、平和的だろう?

 

 つまり、だ。俺達自身はお前らと歩調を合わせることに前向きってわけだ」

 

蔵王丸(ざおうまる)警部の提案に、リアスも首肯せざるを得なかった。

自分たちが行くよりは、純日本人であり、現在進行形で日本を守っている人間である

超特捜課が行く方が、よっぽど理にかなっている。

 

「だがよ、これだけは忘れるな。

 俺達と歩調を合わせるという事は、日本国の法律や憲法には従ってもらうって事だ。

 今はある程度超法規的措置って事で目を瞑ってやるが

 目に余る行為はテロ容疑関係なくしょっ引くからな。

 セージ、これはお前にも言えることだ」

 

「……改めて、肝に銘じておきます」

 

「……わかったわよ」

 

蔵王丸警部の厳しい口調に、セージもリアスも静かに答えることしかできなかった。

いくら強い力を持っているとは言っても、彼らはやはり高校生である。

強い力を持った若者の暴走を止めることが、大人の役割である以上、仕方がない。

なにより、既に前例がいる以上詭弁でも何でもないのだ。

 

「嘘だとか出まかせだとか思わない方がいいぞ。私も鉄の輪を手首にかけられたからな」

 

「そう言う事だ。特にお前のところの茶髪のガキにはよく言っとけ。

 俺達は敵を倒すために戦ってるんじゃない、人を守るために戦ってるんだってな。

 そうでなくともあいつは自分の欲望に呑まれ過ぎだ。

 あのままじゃそう遠くないうちに自分の欲望で溺死するぞ」

 

「……わかったわ。私も、ちょっと気にはなっていたもの。注意しておくわ」

 

ゼノヴィアが経験を交えた話をしたために、説得力がこの上ないものとなってしまい

その上に安玖からダメ押しとばかりに加えられる。

その中にはイッセーに対する忠告も含まれていたが、リアスが珍しく素直に聞き入れていた。

 

(あるいは……欲望でもっと別の何かに変貌するか、だな。

 あいつに接触した機会なんざほとんど無いが

 あいつの欲望は底なしで、何かどす黒いものも感じた。

 いや、底なしっつーか……「欲望の器に穴をあけられた」感じだな。

 助けてやる義理も何もねぇが……

 ま、ああは言ったがあいつ、ろくな死に方しねぇだろうな。

 欲望の器に開いた穴塞がない限りはな)

 

「安玖巡査、どうしました?」

 

珍しく考え込む安玖に、氷上が声をかける。

イッセーの欲望。それは欲望に敏感な「欲望掴む王の右手(メダル・オブ・グリード)」という神器を持つ安玖から見たら

「穴の開いた器に注ぎ込まれる液体」という評価だったのだ。

当然、そんなものが満たされるはずがない。

その危険性を指摘しようとしたが、この場に本人がいない以上言うべきことでもないとも考え

この場では語られなかった。

 

「なんでもねぇよ」

 

「……他にないな? ならば、今日のところは解散にしよう。くれぐれもよろしく頼むぞ。

 

 ――セージ、それから超特捜課の連中は後でちょっと来い」

 

情報交換を終え、超特捜課とオカ研の無用な衝突が避けられそうという

双方にとって願ってもない状況になろうとしていた。

手を取り合えば、駒王町の平和は今よりも守れるかもしれない。

 

少なくとも、オカ研の面々やゼノヴィア、白音はそう考えていた。

 

(……あれ? 姉様は? またどっかにもぐりこんだ……?

 全く、姉様の奔放っぷりにも困ったわ……)

 

黒歌がいないことを訝しんだ白音だが、今日の食事当番という事もあり

セージが残る以上、これ以上は残れないと判断し白音も先に帰ることとなった。

 

 

――――

 

 

警察関係者と、セージのみが残った会議室。

そこで蔵王丸警部から語られた言葉は、衝撃的なものだった。

 

「……あいつらにはああ言ったがな。正直、今警察でかなり不穏な動きが起きている。

 場合によっちゃ、警察の指揮系統が滅茶苦茶になりかねないほどの事態が、な」

 

「おい!? そんな状況であいつらにあんな事言ったのかよ!?」

 

「そうですよ! 指揮系統の変更なんて、却って混乱してしまいます!」

 

蔵王丸警部の発言に、安玖と霧島がそろって反論する。

その反論は至って正論であり、蔵王丸もそれは見越していた。

 

「だからだ。少なくとも、今の俺達はあいつらと歩調を合わせようとは思っている。

 できれば、あの場に神仏同盟の誰かに同席してもらいたかったが。

 俺があいつらと歩調を合わせようとしているのは、敢えてあいつらを監視下に置くことで

 無実を証明しようと思ってるんだ。

 流石に嫌疑濃厚とは言え確保してない奴を保護観察には出来んからな」

 

先ほどはいい話でまとまりかけていたが、オカ研――リアス眷属と光実には

テロリスト容疑がかけられている。

そのため、多少強引ながらも接点が比較的多くなるであろう超特捜課(とセージ)で

疑似的に保護観察下に置くことで、動向を見張ろうというのもあるのだ。

 

「そうしておけば、いざ何かが起きた時に俺らで先手を打ちやすくなる。

 あいつらが無実ならそれでよし、本当にテロリストなら……」

 

「……後ろから確保、ってわけか。オッサン、中々食えねえな」

 

「それだけじゃないぞ。俺達の側に何かあった時――今はこれが一番危険性が高いがな。

 その時も事前に動けば、最悪の事態は避けられるはずだ。

 

 もしそうなったら……セージ。その時は俺達の指示じゃなく、自分の判断で敵を見定めろ。

 いいか、お前は超特捜課の――警察の正規の警察官じゃないんだ。

 俺達と違って、警察上層部の言う事を無理に聞く必要はない」

 

あまりにも突然な蔵王丸の発言に、セージも呆気に取られていた。

まるで、今後何かが超特捜課に起こるのではないか。

蔵王丸の口ぶりでは、そうとしか取れないのだ。

 

「なに、俺だって(やなぎ)から超特捜課を預かってるんだ。

 本郷警視総監が立ち上げ、柳が育てた超特捜課を、俺が潰すわけにゃいかねぇからな。

 そんな事態、起きねぇに越したことは無いが、万が一……だ。

 それに、俺達みたいな組織――部署は、何かと睨まれやすいからな。

 何か起きる前に、潰しておきたい奴らもいるのさ」

 

「こ、こんな世界が切迫してるときに!?」

 

セージには理解できなかった。ようやく警察や自衛隊が怪異から人間を守れる力を得ようとしているところで

それに逆行するような行動をするような人物が。

いや、思い当たる節はいるが、そう考えたくなかったのだ。

 

「……お前が思ってるほど、人間ってのは綺麗なもんじゃないぜ。

 こんなご時世だってのに、いやこんなご時世だからこそとち狂ったことをやりやがる。

 近代史で習わなかったか? 須藤竜蔵(すどうたつぞう)の顛末を」

 

須藤竜蔵。かつて珠閒瑠(すまる)市を混沌に陥れた張本人であり、一説には世界崩壊まで招いたともされる

日本の政界の大物であった。

セージもそれは知っていた。知っていたが、見たくない人間の負の一面として見做して

目を背けていた部分はあるし、教科書にも彼の悪行全てを載せるのは憚れるものがあったのだ。

説明の難しい新世塾の一連の事件を抜きにしても。

具体的な事例がある以上、セージは黙り込んでしまったのだ。

 

「悔しいが、俺達は公僕だ。政府の意向には逆らえないし、逆らっちゃならない。

 俺達が政府に逆らったら、警察が警察として機能しなくなるからな。

 

 ……だからセージ。少しばかり重い荷物だが、俺達が『超特捜課の理念』に従えなくなった時は

 お前が『超特捜課の理念』を引き継げ。人間の世界を守るのは、人間だ。頼んだぞ。

 なに心配するな、蒼穹会(そうきゅうかい)薮田(やぶた)博士だっているし

 人間って枠に囚われなければ神仏同盟もある。お前一人だけで背負う必要なんざねえ」

 

「警部! いきなり話が急すぎます!」

 

「じゃ、そういう事だ。話は終わりだ、解散!」

 

一方的な話にセージは蔵王丸に抗議するが、聞く耳持たないとばかりに

蔵王丸は話を打ち切ってしまう。そして、そのまま部屋を後にしたため

必然的に解散になってしまったのだ。

 

「……今の話、まるで超特捜課が誰かに乗っ取られるみたいな話じゃないか。

 そりゃあ、須丸清蔵(すまるせいぞう)みたいなのが幅を利かせていたら

 いつかは起こりうる話かもしれないけれど……

 

 ……俺に、超特捜課の理念だなんて……警部、勝手すぎないか……」

 

いきなり押し付けられた重責に、取り残されたセージはため息を吐くしかできなかった。

その衝撃の展開に、彼のカバンがもぞもぞ動いているのには終ぞ気づくことは無かった。

 

 

――警察組織改編に関する法案が可決されたのは、この少し後の事であった。




超特捜課が正規の組織である以上避けては通れない道です。
まして、政府に敵(竜蔵互換)がいる以上。
獅童がいなくてよかった? 似たようなのが既にいる以上何の解決にもなってません。

>超特捜課とオカ研の歩調合せ
そりゃあ、全面的に超特捜課がテロリスト疑惑のある人員を支援したら問題です。
なので、かち合わないように情報共有しましょうとかその程度のお話です。
本心は蔵王丸警部が言っている通り無実ならよし、本当にテロリストなら隙を見て確保、ですが。

>大々的なレーティングゲーム
お流れになってた原作のレーティングゲームです。
ん? 人間世界で「ディアボロスクロニクル」展開しようとしてるのに
まだレーティングゲームやるのかって? そこはまあ追々。

>活動記録
いや、原作でもソーナにつつかれるまでオカ研活動記録を出してなかったっぽいですし。
それにリアスって書類作業が得意な風には全然見えないですし。
ギャスパーがやってたかもしれませんが、それにしたって。

>ブレーキ役の大人
HSDD原作に全然足りなかったであろうもの。
サーゼクスは放任が過ぎますし、アザゼルは純粋に味方と言えない部分があり過ぎて(味方なんだけど)
要らん疑惑を抱きながら接さなきゃならないって時点で既に。
師匠()はいくらかいますが、抑止力が全然いないのは本当に……

で、拙作は超特捜課が名乗り出てます。遅きに失した状態ですが。

>安玖とイッセーの接点
ほぼ無いです。無いですが安玖の神器が意味深な反応を示しました。
お陰でイッセーが性欲に関してグリードみたいな有様に。やなグリードだ()

>世界が切迫してるときにバカやる人間
あらゆる作品のシチュエーションですが。
ほぼ誰ぞの世界で終わった異聞録はともかく、噂が加速した2にせよ
変な宗教にめり込んだ3にせよ。
スパロボもそうですし、ライダーも広義では。
拙作でもHSDDは悪魔とドラゴンの物語であるにもかかわらず、この定めからは逃れられず。


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Will20. プレアデスの星を分かち

早いですねー
艦これのモチベをコストに、執筆速度を増加!
ってなノリです。

……いずれは、艦これの二次もやりたいんですけどね。
この宮本成二の物語を一区切りつけないと、おちおち書けないと思いますので。
完結がいつになるかわかりませんが……

(思ったより長引きそう)


珠閒瑠(すまる)市・鳴海(なるみ)区。

俺達の駒王町からの長い旅も、ようやく終わりを迎えた。

幸いにして、道中天道連(ティエンタオレン)などの反社同盟や

アインストやインベスなどの襲撃もほとんど無かった。

本命のバスの方も、無事に到着したらしい。

 

そして、今俺達がいるのは鳴海区にあるホテル・プレアデス正面玄関前。

本命のバスとは時間差で到着した形で周防(すおう)警部ももう港南警察署に向かった後なんだが――

 

あからさまに、光実(みつざね)の機嫌が悪い。割とポーカーフェイスな奴だと思っていたが

その彼をしてここまでとは、マイクロバスの中で何かあったな?

 

……まあ、想像はつくが。

 

「……なんだかごめんね、光実君」

 

「いや、祐斗さんが謝ることじゃないよ。僕が軽率だった」

 

光実は(恐らく機嫌が悪くなった原因であろう)兵藤に対して

もう既に目で「黙ってろよクズが」と言ってそうな表情を向けていた。

十中八九、兵藤が祐斗か光実に喧嘩を売ったのだろう。或いは、流れでそうなったか。

 

「――けッ。誰が乗ってくるのかと思って期待してたら

 いけ好かねえイケメンだったとか何の罰ゲームだよ。

 ナイア先生は運転で手が離せないし、アーシアは話しかけても素っ気ない態度取るし。

 イリナもなんか上の空みたいな態度取ってたしさ。

 あれ? でもイリナこっち来て大丈夫なのか?」

 

「もうダーリンたら、私置いてくとか酷いわよ!

 ……ってのもあるんだけど、今私は店長の使い魔みたいなものなのよ。

 ほら、店長は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)持ってないじゃない? だから代わりにって事で。

 

 ……本当は悪魔の駒なんて死んでも御免だし、使い魔って呼び方も気に入らないんだけど。

 そうねえ……御使いとか、使徒とか、そういう呼び方ならまたマシかな?」

 

光実に突っかかる兵藤に対し、図らずも止めに入る紫藤イリナ。

ん? こいつは冤罪扱いになった兵藤と違って正真正銘じゃなかったか?

認識阻害の魔法でも使ってるのか? そんな馬鹿な。

 

「ちょ、ちょっと! バスの中でも言ったけど先生!

 イッセーはまだいいわ。だけど何でこいつがいるのよ!?」

 

「落ち着き給えよリアス君。さっきイリナ君本人が言ったじゃないか。

 彼女は僕の使い魔――まあ、彼女の意向に合わせて『使徒』とでも呼んでおこうか。

 眷属悪魔の僕が『使徒』を使役するのもなんか変な話だけどね」

 

バスの中の様子はわからなかったが、案の定騒いでいたか。

そりゃあ、光実が機嫌悪くなるわけだ。だがグレモリー先輩の言う事も尤もだ。

何が何でどうして紫藤イリナがここにいる?

その疑問の答えは、とんでもないものだった。

 

――まさか、人間を使い魔にするとは。

 

精霊ってケースもあったし、別に非人型でなければならないって制約はないだろう。

姫島先輩の小鬼だって広義の人型だし。

しかし、兵藤ほどじゃないがチョイスの趣味が悪いな。

これじゃ転生悪魔とほとんど変わらないじゃないか。

 

「け、けれど! イリナは人間よ!? 人間を使い魔にするなんて――

 それに、人間を使い魔にするには……」

 

「おやおや。そもそも、君の使い魔の蝙蝠は人型に変身できる。

 蝙蝠が正体か、人間が正体か些細なことだと思うよ。

 だったら、初めから人間を使い魔にしてもいいじゃないか。

 少なくとも、冥界の使い魔に関する法規には

 『人間を使い魔にしてはならない』なんて法律は無かったと思うよ」

 

布袋芙先生の口ぶりだと、知ってて禁止されていたとしても律儀に守りそうにない。

何故だか、そんな気がしたが……なるほど、監視下に置くには確かにいい手段ではある。

人道的な意味ではまあ、ともかくとしてだ。

しかし使い魔という事は召喚できるんだよな?

なのに態々連れてきたのか? 混乱の恐れがあるのに。

 

「……それはそうだけれど、人間を使い魔にするメリットが無いわよ」

 

「そうでも無いさ。人間ってのは君が考えている以上に異能に秀でている。

 今回の例で言ったらイリナ君は聖剣の因子を持っていて

 龍殺しの聖魔剣(アスカロン)やエクスカリバーを使える。

 ましてエクスカリバーは変幻自在な『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』だ。

 使い魔――使徒として、この上ない逸材だと思うよ?」

 

布袋芙(ほていふ)先生が紫藤の頭を撫でながら説明しているが、まあ確かにそりゃあな。

神器(セイクリッド・ギア)なんて異能の最たるものだし、この場にはいないがペルソナ使いだっている。

外部アイテム使ってるアーマードライダーは流石に違うだろうが

白音さんのお師匠さんだって聞いた話じゃとんでもない達人らしいし。

なんでも、神器持ちと勘違いした堕天使が襲ってきたが

それを軒並み返り討ちにしたって話だ。それで俺らの3倍近い年なんだから大したもんだ。

 

……ん? ちょっと待て。だったら、何で態々悪魔の駒なんてまどろっこしいアイテム使うんだ?

制約上の問題とか、生物学上悪魔にするのが目的だから使っているとか、か?

そりゃあ、兵藤やアーシアさんみたいなケースもありうるが……

どうも、悪魔は悪魔なりに使い魔と転生悪魔を使い分けているようだな。

悪魔の駒もどうも無限じゃないみたいだし。

 

……全く。他種族への侵略と言う意味ではある意味人間以上に発達した種族だよ。

 

「へっへーん! だから店長やダーリンと一緒にいるのは当然の事であり義務なのよ!」

 

「あらあら、誰か忘れていませんか? イリナちゃん?」

 

おもむろに布袋芙先生を交えながら兵藤にいちゃつき始める紫藤。

そこに強引に割り込む姫島先輩。おい、これなんか嫌な予感がするぞ……

 

「……朱乃。誰に断ってイッセーに触っているのかしら。

 ナイア先生も自分の使い魔の面倒はきちんと見てください」

 

「あらあらあら。いつイッセー君に触るのにあなたの許可がいるようになったのかしら?

 確かにイッセー君はあなたの眷属だけれども

 眷属だったらどう扱ってもいいってわけじゃない。

 そう常日頃から言ってるのは他ならぬ、あなたじゃなかったかしら?

 だから、私達がイッセー君を可愛がってもそれは正当な権利ですわ」

 

……チッ。案の定だ。兵藤はこの状況でヘラヘラしてやがる。

いつぞや、パソコンでバオクゥと話していた裏で黒歌さんや白音さんに絡まれたことを思い出して

体が熱く……じゃない、胃が痛くなってきた。

兵藤に止める気が無い以上、巻き込まれても敵わん。

祐斗や光実、アーシアさんに声をかけ、俺は白音さんを引き連れて先にロビーに入ることにした。

 

「……じゃ、俺らは先にロビーに入る。

 布袋芙先生も引率なんですからあまり羽目外さんでください」

 

「そうだね。僕らがここにいてもいいことはなさそうだ。行こうか、光実君、アーシアさん」

 

――実際、俺らがロビーに入った直後に外ですごい音がした。普通に近所迷惑だ。

俺もまさかこんなところで超特捜課(ちょうとくそうか)特権使いたくはない。

何が悲しくて痴話喧嘩に介入せにゃならんのだ。

民事不介入の原則だ。俺にそれが適用されるのかどうかは知らんが。

もう知らん。勝手に話を進めてやる。

 

「……すみません、駒王学園オカルト研究部の者ですが」

 

「すみません、引率の先生はお見えになりますか?」

 

ほら来た。やっぱりこういう場面だと大人がいないと話にならない。

だがその大人は外で大人げなく痴話喧嘩の最中だ。やってられない。

そこで俺は仕方なく、特別仕様の警察手帳を出すことにした。

超特捜課の特別課員になった際に拝領した、一応正規の身分証明書だ。

こういう場面だと、生徒手帳以上の効果を発揮できる……かもしれない。

 

「……と言うのは建前で、自分は警視庁超常事件特別捜査課

 特別課員の宮本成二と言いまして……」

 

「し、失礼しました! オカルト研究部の皆様のお部屋ですね、しばらくお待ちください!」

 

ダメもとで出したが覿面だ。流石桜の代紋。

あと、これなら万が一事件が起きた時に俺は動きやすいし、超特捜課への連絡もスムーズだ。

反面、職権濫用にもつながりかねないのであんまり使いたくないのも事実だが……

話をスムーズに進めるためだ、いいだろ。

 

「こちらが男子生徒用、こちらが女子生徒用、こちらが先生用のお部屋の鍵となっております」

 

そう言って渡されたのは俺、祐斗、光実、兵藤の四人が泊まる用の部屋の鍵が2つ。

グレモリー先輩、姫島先輩、アーシアさん、白音さんの四人が泊まる用の鍵が2つ。

そして布袋芙先生の部屋の鍵。紫藤も多分ここだろ。

 

俺はフロントに礼を言い、鍵を受け取ることにした。

 

「で、部屋割りだが……」

 

「男性陣は僕がイッセー君と同室にするよ。彼は嫌がるかもしれないけどね。

 光実君をイッセー君と同室にするのは避けた方がいいと思うんだ。

 バスの中でも思ったけど、折り合いがいいとは言えなくて……」

 

「当たり前ですよ。あんなクズと同じ部屋で寝るなら、こっちの警察にテロリストとして出頭して

 身柄を確保してもらった方がましです」

 

言いたいことはわからんでもないのがアレだが、いきなり過激だな。

余程、腹に据えかねることがあったのか? こんな様子じゃ聞くのも憚られるが。

となると、光実と兵藤の同室は無理そうだ。

 

「いや、俺が兵藤と同室にしよう。特に奴は監視下に置いておきたい。それに……」

 

光実に聞かれるのもちょっと気恥ずかしいので、俺は祐斗に耳打ちする。

――いくらか打ち解けているようだし、光実のメンタルケアも頼めないか?――と。

初っ端からこの様子では、ちょっといくら何でも酷だ。

 

「わかった。そういう事ならイッセー君は任せるよ。光実君とは話したかったし」

 

「助かる。じゃあ俺らの部屋割りは決まりだな。奴の意見は聞いてないが……

 参加しない方が悪いし、グレモリー先輩と同室にしろって騒ぐに決まってる。

 どう転んでも飲めない相談だな」

 

決めつけではあるが、ありありと想像できたのか祐斗が乾いた笑いを浮かべている。

光実も、移動中に兵藤の人となりをさわりだけ知ったのか同意している風に見えた。

部屋割りが決まったことで、俺は白音さんとアーシアさんに鍵を渡すことにした。

幸い、彼女等も部屋割りを決めていたようだ。

 

「……アーシア先輩と私、リアス先輩と朱乃先輩でいいと思います」

 

「ま、そっちにゃ口出さないさ。ほら、鍵」

 

女子組の部屋割りに口出す権限なんざあるわけがない。

鍵だけ渡して、まだ痴話喧嘩しているであろう玄関組の様子を見に行くことにした。

 

 

「……布袋芙先生。いい加減収集付けてください。もう部屋割りも決めましたよ。

 それとこれ、先生の部屋の鍵です。グレモリー先輩らはアーシアさんに鍵貰ってください。

 アーシアさんに鍵預けてるので」

 

「おやおや。セージ君に押し付けてしまったみたいですまなかったね」

 

「おいセージ! 俺はぶ……ナイア先生と同室を希望するからな!」

 

 

「…………っ!!」

 

 

…………は?

おい、俺の聞き間違いじゃなかったら布袋芙先生と同室、だと? グレモリー先輩じゃなくてか?

思わず、俺は聞き返してしまった。

 

「布袋芙先生? グレモリー先輩じゃなくてか?」

 

「え? あ、それは……」

 

「ごめんよイッセー君。僕も君と同じ部屋にしたいのは山々だけれども……」

 

「…………先生! 不純異性交遊はやめてください!」

 

あからさまに不機嫌そうに訴えるグレモリー先輩だが、あんたがそれを言うな。

婚約拒否をこじらせて、出会って間もない奴に夜這いかけたり

人がシャワー浴びてるときに入り込んできたのはどこの誰だよ。

それ以外にも、姫島先輩程じゃないがあんただって兵藤にちょっかいかけてただろうが。

 

……ん? となると、兵藤の奴。こいつ…………

 

「心配すんな兵藤。お前は俺と同室だ……不本意だがな」

 

「俺だって不本意だよ! なんでてめぇなんかと同じ部屋なんだよ!

 部長か朱乃さん、アーシアかイリナ、ナイア先生……百歩譲って小猫ちゃん!

 この誰かと同室じゃなきゃヤダヤダヤダ!」

 

「おい百歩譲ってってどういう意味だ」

 

……なんか知らんが腹が立った。

今までの事を顧みても、衝動的に殴らなかった俺を誰かほめて欲しい。

場所が場所だから、俺も乱暴は働きたくないし、警察手帳出した手前そういう事は避けたい。

自分でもわからずに腹が立ったことと、意外と冷静なことに驚きながらも息を整えて

もう一度兵藤の奴の話を聞く。

 

「そりゃおめぇ、おっぱいの事に決まってんだろ!」

 

「だとは思った。じゃあ部屋に荷物置きに行こうか」

 

「セージ。イッセーの首根っこよく掴んでおきなさい」

 

おや珍しい。まさかグレモリー先輩からゴーサインが出るとは。

だが、一応の上司からお墨付き貰ったんだ。嫌とは言わせんぞ、兵藤。

だが……

 

「あらあらセージ君、お手柔らかにお願いしますわよ?」

 

「フフッ、部屋の鍵は開けておくから、いつでも遊びに来てもいいんだよ?

 セージ君もどうだい?」

 

……あん? こいつら、何言ってるんだ?

布袋芙先生のこっちを見る目が少し、ねっとりと纏わりつくようで妙な不快感を覚えたが

姫島先輩の発言と言い、どうも兵藤の周りの人間関係が変化してるように思える。

 

そりゃまあ、しばらく兵藤はノーマークだったが。

だがこの兵藤が、まさかグレモリー先輩を蔑ろにするような発言をするとは少し驚きだ。

 

視線に対し睨み返すふりをしながら、布袋芙先生を少し見定める。

あんまり好きじゃないが、こういうのは。

 

……努めて冷静に評価を下すなら、グレモリー先輩とスタイルは大差ない。

一応成人女性の布袋芙先生。その中でもまあ黒歌さんと同格と言えるだろう。

お陰で、グレモリー先輩と同時に姫島先輩が色々規格外って事を思い知ることになったが。

 

ついでに言うと、黒歌さんはいちいち薄着で布団に入り込んでくるので要らん事を思い出した。

最近少し冷えてきたんだから、普通に寝間着着ればいいのに。

 

「……フフッ、セージ君も僕に興味があるのかい?」

 

「あっ! おいセージ! なにナイア先生に色目使ってるんだよ!」

 

やめてくれ。俺は大振りに肩を竦め、掌を上に向け、首を横に振る。

まだ年上の女性にはいろいろあるんだよ。冗談でもやめてくれ。

黒歌さんだって正直……流されてる部分が大きいけど、言いたい事無いわけじゃないし。

 

「食われるのも食うのも御免です。既に食い散らかした奴のことまでは知りませんが」

 

「君は年上好みだと思ったけど……残念」

 

「な、なななななな……!?」

 

食う食わないの件は冗談で言ったのに、兵藤が尋常じゃない驚き方をしている。

ま、まさかこいつ……!!

 

……い、いや、ここで言うのはマズい。

察してはいるかもしれないが、万が一だった場合グレモリー先輩へのダメージが計り知れない。

それに、この様子じゃ紫藤や姫島先輩もグルって可能性もある。だとしたらとんでもない話だが。

 

ま、まさか……いやそんな……

 

「イッセー! セージ! さっさと中に入るわよ!

 ナイア先生も私の下僕や後輩をおちょくらないでください!

 部屋割りは……そうね、朱乃か、或いはアーシアと同室かしら。と言うか、そうしたいわ」

 

「あらあら。私は別にリアスをひいひい言わせてもいいのだけれども」

 

「……アーシアと同室にするわ。朱乃、小猫をよろしく頼むわよ」

 

何かよからぬ想像したのか、兵藤が前屈みになっている。

気持ちはわからんでもないが、みっともないぞ。

全く、こいつらといると色々よからぬ方向に頭が働く。

後で水でも飲んでおかないとやってられんな。

 

と言うか、これは白音さんの心配をすることになりそうだ。

 

……にしても。

これは、色々とデータの更新がめんどくさそうだ。




これでも一応原作のラブコメ要素意識してますが、もうドロドロを隠す気がありません。
原作もそれなりにリアスとイッセーはすれ違いがありましたが
拙作だと実質イッセー「が」NTRれてますからね。

>リアス
愛情深いってのは、同時に嫉妬深いって事でもあると思うので。
あれ? だとするとこいつレヴィアタンじゃね?
嫉妬って感情とハーレムは両立が至難の業だと思うんですが、本当にどうやって調整してるのやら。
金払って遊ぶとかなら、ともかく。
イッセー絡みで朱乃と険悪になるのは原作でも一部見受けられましたが
拙作だと割と、洒落になんないよなあ……

>イッセー
原作ではそれなりにイベントこなしてたんでしょうけれど
拙作では結果だけ齎されたのでヒロイン達が険悪ムードになってもヘラヘラしてます。
リアスはともかく、朱乃イリナはナイアって抑止力があるからって理由もあるんですが
下手するとこの二人イッセーじゃなくてナイアに心酔してる可能性も無きにしも。
せめて自分の意志で口説いたり娶ろうとする意志を見せたのならともかく
原作でも割とドラゴンオーラでなあなあにされてるような。
(2巻のあれも娶るっつーか、ヤりたいだよなあ……ヤる=結婚ならともかく、それだと案外古臭い考え方ね)
こんなん拙作の混沌仕込みとどう違うの? とか思ったり。

>セージ
暫く見ない間に変貌した元ダチとか諸々に戸惑ってます。
ナイア先生の誘惑を振り切ってますが、これは黒歌の賜物もありますが
本人かなり無理してます。原作イッセーとは違う意味で問題抱えてますので。

何気に白音が蔑ろにされてることに不快感を示す程度には白音に対する好感度高かったり。

>イリナ
使い魔絡みは独自設定ですが、「やれるならできてもおかしくないよね?」事から。
ナイア先生が言ってる通り人間は人間で異能に溢れてますし。
それとも冥界生物じゃないとだめでしたっけ?
ま、それならそれで拙作にはとある背景が……(重大ネタバレにつき検閲)

悪魔に対する価値観は変わってないので、使い魔と呼ばれることは露骨に嫌がってます。


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Will21. 自由行動へ

思ったより時間かかってしまいました。
近々、アンケートを採った部分に関しても公開したいと思います。


ホテル・プレアデス。

珠閒瑠(すまる)鳴海(なるみ)区にあるこの高級ホテル。

到底、たかだか学生の修学旅行に相当するイベントで部屋を借りれるほど安い宿ではない。

 

なんでも、一連の事件でビジネス客も富裕層もこぞってキャンセルしたため

予約やらなんやら宙ぶらりん、そこを駒王学園が利用したってのが

今回俺達がこんなところに寝泊まりできる真相……らしい。

 

ただ、一部フロアは避難場所としても公開されているらしく

所謂高級ホテルの客、ってのはあまり見かけないけれど。

 

そこに出入りしている人から聞いたが、10年前珠閒瑠市は町中に殺人鬼が溢れかえったり

私設軍が闊歩するような緊急事態になったりした経験があるからか

今回のような事態でも早めに避難しようとする人がいるみたいだ。

……こっちには今のところフューラーの軍隊はそれほど来てないみたいだし。

 

それに中に入っている店にしたってそうだ。

ほとんど大人向けの高級店ばかりで、教師連中これが目当てでここにしたんじゃなかろうな?

と言うのはもっぱらの噂だ。

 

「……心外ですねぇ宮本君。確かにエボニーにせよクレール・ド・リュンヌにせよ

 こういう時でもない限りめったに来られない場所ではありますが。

 少なくとも私は、そんな俗な理由で来たりしませんよ」

 

声に出ていたか、薮田(やぶた)先生が俺の心を見透かしたようなツッコミを入れてくる。

そりゃまあ、駒王学園の行事なんだからこの人がいてもおかしくはないけど。

でも正体考えるとなあ。こっちの神の方がよほど俗じゃないかって気はする。

 

「……とはいえ、俗な方が神というものも信仰を集めやすいのかもしれませんがね。

 ですが今この時代に神を望むのであれば、それは親しみやすい俗的なものではなく

 都合のいい英雄――機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)、のようなものでしょうね。

 私はそんなものになるのは真っ平御免ですし他人にもお勧めしません。

 宮本君も、そこは気を付けるべきですよ。

 人助けは結構ですが、いいように利用されては人のためにはなりませんからね。

 徒に自分を傷つけるだけですよ」

 

妙に説得力のある薮田先生の話に俺は実感がわかなかったのか、生返事を返してしまう。

その程度で気を悪くする人(神だけど)じゃないのは知っているつもりだが

やはり教師相手にとる態度ではないので、慌てて取り繕った。

 

「フッ……その程度で眉を顰めたりしませんよ。

 では私も明日以降の準備がありますのでこれにて。

 

 ……そうだ、宮本君。色々と大変なことを押し付けられてしまっているようですが

 その中でも、須丸清蔵(すまるせいぞう)はもとより布袋芙(ほていふ)先生にも注意した方がいいですよ。

 

 ――ニャルラトホテプ(這い寄る混沌)。宇宙の外から来たともいわれるこの神の名を

 よく覚えておいてください。

 超特捜課を覆わんとしている黒雲も、かの神から因果が紡がれている……とも言えますからね。

 私が知り得たのは、今はまだここまでです。いいですか、忠告はしましたからね。

 私がここまで話す理由、理解していただけますね? では失礼しますよ」

 

言うだけ言って、薮田先生は教師の集まりがあるのかどこかに行ってしまった。

周防(すおう)巡査も言っていた、ニャルラトホテプ。

同じ名前が出たという事は、薮田先生もかなり近い結論にたどり着いたって事か?

 

しかし、薮田先生がここまで俺に話す理由……なんだ?

俺の神器(セイクリッド・ギア)の都合上、わざわざ言わなくともいいのは知ってるはずだが……

 

『相変わらず肝心なところをはぐらかす神だな』

 

『神なんざそんなもんだ。だが、調べる手間は省けたんじゃないか?』

 

調べる……手間……調べる……

ま、まさか!

 

(なあフリッケン、アモン。以前俺が無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)で検索して

 そのまんまぶっ倒れたのは知ってるだろ?

 その時に調べたのが須丸清蔵。そして出た「這い寄る混沌」って単語。

 周防巡査はこれに「ニャルラトホテプ」って名前を付けていた。つまり……)

 

『須丸清蔵、布袋芙ナイア。これらは全て「ニャルラトホテプ」って存在と同一か

 あるいは、それを起源とする存在って事になるわけか』

 

『後、聖槍騎士団の連中もな。あの時あのメッティ刑事はそう言ってやがったぞ』

 

フリッケンもアモンも、大体考えていることは同じだった。

この間話していた敵のほかに、考え方によっちゃ元締めともいえるかもしれない存在か。

元締めと言うか、裏で糸引いているというか、後に控えているというか。

 

にしても、異世界からの侵略者の次は宇宙の神か。

今更だけど、スケールがでかすぎる。

そういや、冥界だの天界だのって一応地球上ないし地球圏内にあるって解釈でいいんだよな?

昔やったゲームの地底世界は、一応地球の存在に変わりは無いから

地球そのものがしっちゃかめっちゃかになったら、大損害喰らったって話が出たが

フィクションを当てはめても、ナンセンスだよなあ。いくら今が現実離れしすぎてるからって。

 

……悪魔だの堕天使だのを、現実の範疇に含んだとしても。

 

(布袋芙ナイア……俺の考えてることが正しければ、兵藤……

 お前、本当に取り返しのつかないことになるぞ……

 罪を償って更生するとか、悪魔として新たな人生を謳歌するとか

 そういう次元の話じゃなくなるぞ……!)

 

最も、宇宙の神と人の心の悪意の集合体がどう結びつくのか、まではわからなかったが。

 

 

――――

 

 

別ルートでホテル入りした俺達だが、ここまで来ればテロ容疑の関係ない

松田や元浜、ゼノヴィアさんらと合流することもできる。

逆に兵藤と紫藤はホテルにカンヅメになっているが……

この二人は特に監視下には置いておきたいが、こればかりは無理だ。俺だって学校行事がある。

そこで、事情を知っている周防警部が俺が学校行事に参加している間

張り込んでくれることになった。

顔を合わせる機会があれば、薮田先生が話していたことを言うべきかもしれない。

これで目下の心配事は無くなったのだが、気が気でない様子なのが姫島先輩。あのさあ……

 

……そりゃ、俺だって兵藤の監視の名目で兵藤と行動を共にしている以上

布袋芙先生の部屋に行くと言い放った兵藤について行ってみたら

まさか部屋であんなもの見せつけられりゃな。

その割には、姫島先輩の顔はまともに見られるんだが。

少なくとも、白音さんや黒歌さんの時ほどの気まずさは一切感じない。それもどうかと思うけど。

 

とりあえず、自由行動という事で俺はオカ研と共に蝸牛(かたつむり)山に行くことになった。と言うのも――

 

「蝸牛山の頂上に、クロスゲートを制御できる遺跡?」

 

「この地方に伝わる話よ。本当だったら、あの厄介な建造物に対して

 こちらから攻勢に打って出られるわ。これは是が非でも調査の必要があるものよ!」

 

あり得ない。クロスゲートなんてついこの間存在を確認したものじゃないか。

それがどうして言い伝えの中に出て来るんだ。突っ込むのもバカバカしい。

グレモリー先輩が我儘で部員や眷属を振り回すのは今に始まった事じゃないが

今学校行事でこっち来てるけど、一応いつ何時何が起きてもおかしくないって事は

理解してるんだろうか?

 

「……一応聞くけど、確かな情報なのか?」

 

「……まさか。この地方の出版社が出してる『メー』って雑誌の受け売りだよ。

 部長も読んだことあるはずなんだけど。

 なんでも、この珠閒瑠市の地下には『シバルバー』って宇宙船が眠っていて

 この間顕現したクロスゲートはそのシバルバーにそっくりなんだって。

 

 ……あれ? 『アメノトリフネ』だったかな? ごめん、覚えてないや」

 

俺は小声で祐斗に確認を取った。が、帰ってきた返事は案の定だ。

祐斗が行くなら、という事で――他にも理由があるっぽいが――光実(みつざね)も同行している。

なので俺はなるべく光実のフォローに祐斗共々入っている。

幸い、アーシアさんや白音さんもいるから気分転換には事欠かないだろうけれど。

 

「じゃセージ。検索しなさい。蝸牛山で」

 

「はぁ!?」

 

おい。俺は観光ガイドブックじゃねぇんだぞ。

俺も珠閒瑠市の見どころは気になってたから文句こそ言いはしたが、やるけど。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の使い方としては何ら問題ないのがまた、なあ。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

 

――蝸牛山。

珠閒瑠市の外れに位置する、自然豊かな山地。

山の中には豪傑寺という猿田彦に連なる寺……ん? ああ、神仏習合の一環か……があり

健脚を維持しようとハイキングがてら訪れる観光客も多い。

 

山林に囲まれた立地は、心療にも効果があるとされ森本病院と言う精神病院も建立されていたが

10年前の火災で焼け落ちて以来、廃墟となり悪魔が現れると噂されるようになってしまった。

 

……ん? この部分、深く検索できそうだけど……いらんな。次。

 

山頂には遺跡とも噂される謎の建造物があり

満天の星空が見られることと相まって有数のフォトスポットとなっている。

夜間の登山にも対応できるよう、ロープウェイが稼働しており麓と山頂を結んでいる。

山道はやや入り組んでおり、豪傑寺に行く場合でも無い限りは

ロープウェイでの登山が推奨されている――

 

 

「……だそうですよ。行くならロープウェイ一択ですかね。

 他の場所も回るのなら、そうしないと時間足りませんよ。

 あ、飛ぶとか普通に論外なんで。俺はアモンの力使わないと飛べないですし

 そもそも光実はどう転んでも飛べません」

 

何か言いたそうに光実がこっちを見ていたが

まあ正真正銘普通の人間な光実が飛べる道理なんか無い。

俺みたいに悪魔が憑いてるわけでも、悪魔に転生したわけでもない。

飛べることを前提にスケジュールを組まれると、こういう時困る。

 

「……彼は置いて行ってもいいのだけれど? オカ研の部員でもなければ私の眷属でもないし」

 

「そうも行きませんよ。班分けでは一緒なんですから。

 一人だけ別行動って訳にも行かないでしょう」

 

光実はオカ研メンバー、俺、白音さん、ゼノヴィアさんと同じ班という事になっている。

勿論、超特捜課の横槍でこうなった形だ。

松田と元浜には悪いが、あいつらがこっちにいないことには安堵している。

何処をどう見繕っても一般人なあいつらを、怪異に極めて近いどころか

怪異そのものな俺らと行動を共にさせるわけにはいかない。

 

それに無実だとは思うが、オカ研面子にテロ容疑がかけられている以上

監視しないわけにもいかない。

で、監視員はこの俺だ。ホテルにカンヅメなはずの兵藤と同じ側に置く?

それこそナンセンスだ。

表向き退学になってないのに、学校行事に参加できないってのはいくら何でも、だ。

……外との接点が俺や白音さん、ゼノヴィアさん位しかいないのは……まあ、アレだが。

 

「はぁ……仕方ないわね。まあ、飛んでも悪目立ちするし

 ロープウェイもそれはそれで悪くないわね」

 

嘆息しながら、グレモリー先輩はロープウェイの利用に賛同した。

人間は飛ばないのが普通なんだが。そしてここは人間の世界。

出来ないことを出来るのは持て囃される一因だが

それを生来の技能に基づくとなれば……うーむ。

やはり、本当にグレモリー先輩は人間と言うものを理解する気があるのか?

と首を傾げたくなる。

俺の記憶では1年半はこっちにいるはずなんだが。俺が駒王学園に入る前の事は知らんが。

 

「……セージさん。彼女がリーダーで本当に大丈夫なんですか?」

 

「……不安要素しかない」

 

そんなだから、ロックシードを持っている以外は完全に普通の人間である

光実の愚痴にも付き合うことにした、勿論小声で。俺も同じこと思ってるし。

 

まあ、このパープリンセスに付き合うのも久々だ。

珠閒瑠市の心証が悪くならない程度に立ち回るとしよう。

……そういや、兵藤にとって珠閒瑠市は古巣なんだよな。名所とか聞いてないのか?

奴の意見とは言え貴重だ。そう思い、聞いてみることにしたのだが……

 

「そういやグレモリー先輩に姫島先輩。兵藤の奴は以前珠閒瑠市に住んでたと聞いてますが

 奴から穴場とかそういう情報は聞いてないんですか?」

 

「……朱乃、どうなの?」

 

「いいえ、そういう話は全然。イッセー君も珠閒瑠市に行くことは聞いてたはずなんですけど」

 

ダメか。住んでた人間の声を聞きたかったが、無いなら仕方がない。

無いなら無いで別に構わない話だったのでそこは別にいいのだが……

 

 

……一瞬、兵藤の名前を出した時にグレモリー先輩の表情が険しくなった気がした。

 

 

姫島先輩は光実以上にポーカーフェイスだから表情から心情を察するのは難しい。

一度激昂すると手に負えないのはある意味、グレモリー先輩以上だと思うが。

 

「……私は『しらいし』に行ってみたいです。抹茶あんこタンメンバナナマシマシ」

 

後ろで白音さんが不穏なメニューを挙げていたのは、敢えて聞かなかったことにする。

あの時、色々と気が気でなかったが白音さん自身は結構楽しんでたからな、あの動画。

 

取り立てて反対意見も出ていないので、蝸牛山の後はしらいしに行くことが決まってしまった。

なにこれ。食わなきゃいけない流れ? イチゴ餃子とかあんこタンメンとかそういう系。

自分では健啖家と自負できる程度には食えるけど、別にゲテモノ食いじゃないんだけどな……

財布的にはがってん寿司って言われるよりよほど楽だけど。

そんな微妙な顔をしている俺を見て何かを察したのか

祐斗や光実、アーシアさんが声をかけてくる。

 

「セージ君、リサーチ不足で申し訳ないんだけどさ……

 『しらいし』ってそんなにヤバいお店なの?」

 

「……普通のラーメン屋兼飲み屋、のはずだ。ただ……メニューが……」

 

俺が述べたメニューに、一同は目を白黒させていた。そりゃそうだわな。

だがそれに関するクレームは俺は聞かん。店主のおばちゃんに言ってくれ。

 

ところが、場所を変えようという流れには意外とならなかった。

好奇心か? 好奇心は猫を殺すというが。

 

ともあれ、俺達は一先ず蝸牛山に向かうことになった。

……どうせ、収穫はゼロだと思うが。




セージニャルの秘密に一歩近づくの巻。
ほんとこの作品原作の敵を先取りしすぎですわ。
E×E:アインスト、巨人族、インベス
リゼヴィム:聖槍騎士団
いつSCP由来の怪異が来てもおかしくないですね(ヒント:噂悪魔)。
とりあえずサメでも殴っておきますか?

>蝸牛山に向かった理由
罪で存在したカラコルの事を指してますが、そもそもあれも噂でああなった臭いので
その辺ほぼ無効化された現在の珠閒瑠市でそれが適用されるかどうか。
情報源がトンデモオカルト雑誌ってのがまた。

>豪傑寺
原作ママ。リメイクで陰陽師が出て来るかと思ったけどそんなことは無かったぜ。
アラヤ神社と言い神仏習合なネタ多いですね。拙作独自設定とは言え。
流石メガテンの系譜。

>しらいし
噂で女スパイにされたおばちゃんが経営するラーメン屋(赤提灯)
彼女も広義のニャルの被害者ですわな。ゲテモノ料理を普通にメニューとして並べ……
あれ? 栄吉の証言だとほら吹きは元々だったような?

財布的にがってん寿司でなくてよかった、とセージが述べてますが
罰で公僕の克哉兄から指摘されたり(雑誌記者ってそんなに給料いいの?)
やり手のサラリーマンが昼間っからエンガワ食ってたりの世界なのに
よく罪で高校生が入り浸れたなぁ……栄吉のお陰か。

>セージが触れている動画
こちら参照。
https://syosetu.org/novel/95124/8.html


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Will22. 紅い悪魔と黒い堕天使の確執

リンクは張りませんが、R-18も掲載しました。
興味のある18歳以上の方は私のマイページから飛んでください。

今回、一応そこを踏まえた描写もありますが
見て無くても問題ない程度には押さえてある……つもりです。


俺は宮本成二。

駒王学園の2年生になって以降、色々と大変なことが起きた。

今思い返しても吐き気がするほどめまぐるしいことこの上ない展開の連続で、今なお続いているが

ここに来てようやく高校生らしいことができるようになった。

 

今俺達がいるところは珠閒瑠(すまる)市。駒王町から離れた、政令指定都市だ。

俺達は今、修学旅行の互換として七姉妹学園の生徒と合同学習会――と言う名の疎開で来ている。

疎開と言っても、2泊3日位のスケジュールのため本格的なものではない。

合同学習会は合同学習会であり、疎開ではないのだ。

 

今日は自由行動という事で、グレモリー先輩の我儘で蝸牛(かたつむり)山に行くことになった……のだが。

 

 

――――

 

 

「何も無いってどう言う事よ!?」

 

「はい、到着しましたよー。てっぺんですよー。偉い偉い。

 よかったですねー、グレモリー先輩」

 

ありったけの嫌味を言ってやることにした。

これが「クロスゲートを制御するための遺跡があるから調査しよう」じゃなくて

「折角だから山登りをしよう」だったら俺もここまでは言わない。

まさか、こんな荒唐無稽にもほどがある話に弄ばれて山登りをするとはあまりにも、だ。

そこに山があるから登るのだ、の方が余程納得できる。

 

そもそもさっき俺が検索した時にカラコルなんて建造物は全然ヒットしなかったのだ。

一応、それっぽいものが見えるが……これ、どう見ても……

 

「むかっ……セージ! あれを調べなさい! 出来るでしょ!?

 あれこそ『カラコル』の入り口に違いないわ!」

 

「はいはい。まあ、調べるまでもないと思いますがね……」

 

COMMON-SCANNING!!

 

一応、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べる。

そこにあったのは……なんと!!

 

 

……なーんてことは無く、本当にただのコンクリートで作ったそれっぽいドーム状のオブジェだ。

公園によくある奴、と言えばわかりやすいか。それをご丁寧にそれっぽく塗っただけの……

 

(……なあフリッケン、アモン。グレモリー先輩、さっきからめっちゃくちゃ

 このありふれたオブジェをキラキラした目で見てるんだけどさ)

 

『……本当の事言わなきゃ始まらないだろ。言え』

 

『真実は得てして残酷なものだが……こりゃ真実と言うか事実だしな……』

 

凄くめんどくさそうだが、言わないわけにもいかない。

白音さんの相手してる方が余程……

 

……っとと。なんでここで白音さんが出て来るんだよ、まったく。

とにかく、咳払いをして俺は記録再生大図鑑で得た情報を出力させながら伝えることにした。

 

「……グレモリー先輩。浮かれてるところ悪いんだが、検索の結果……」

 

 

「……わかってるわよ。わかってるわよ!

 私だって伊達や酔狂でオカルト研究部の部長名乗ってないわよ!

 『メー』だって毎月部費で購読してるわよ!

 クロスゲートの成り立ちと矛盾していることくらいわかってるわよ!

 けれど……けれど! 未知の場所に思いを馳せたいわよ! この目でしかと見たいわよ!

 そうでなくとも珠閒瑠市は『メー』で特集組まれたときから行ってみたいと思ってたのよ!

 

 ムー大陸のムッシー! 廃工場のタンスばばあ! この山にもいるっていう200kmじじい!

 こんな荒唐無稽な妖怪がいるのは日本狭しと言えどここだけよ!」

 

堰を切ったように、思いの丈を吐き出すグレモリー先輩。

俺はアイコンタクトでアーシアさんやゼノヴィアさん、光実(みつざね)、白音さんを

先にロープウェイ乗り場まで行かせることにした。

今いるのはグレモリー先輩以外は俺と祐斗、姫島先輩だ。

 

「リアス……そこまで思い詰めていたなんて、ごめんなさい。気づいてあげられなくて……」

 

激昂するグレモリー先輩を、姫島先輩が宥めようと抱き寄せようとするが

グレモリー先輩はその手を払いのけたのだった。

これには、俺も祐斗も驚きを隠せなかった。

 

「リアス……!?」

 

「あなたはいいわよね朱乃! イッセーの寵愛をどんな形でも受けられて!

 私が気付いていないとでも思ったの!?

 ナイア先生が来て、沢芽(ざわめ)市に行って以降のあなたの様子がおかしかった。

 極めつけはナイア先生と一緒にいたイリナよ! 彼女を見て私の疑惑は確信へと変わったわ!

 私をのけ者にして楽しいの!?」

 

……おい、どこで知ったんだ!?

確かに兵藤は見方によっちゃグレモリー先輩を蔑ろに

それこそのけ者にしている素振りが最近見受けられる。

それは兵藤に入れ込んでいるグレモリー先輩からしたら、面白くないことくらい俺だってわかる。

だが、今姫島先輩は本気でグレモリー先輩を心配してる風に見えた。それを……!

 

「……どう言う事なんだい、セージ君」

 

「グレモリー先輩が何処で情報を手に入れたかは知らん。

 だが、彼女が言っていることは大体事実だ。詳しくはここで言いづらい話もあるから後で話す。

 今回は、ちょっと俺も知らぬ存ぜぬはできないかもな……」

 

多分、今俺は物凄い苦い顔をしていると思う。

祐斗も困惑しているし、姫島先輩も驚きを隠せていない。あのポーカーフェイスの彼女がだ。

 

……あれ? 姫島先輩の瞳、あんなに赤かったっけ……?

それに、さっきからなんか部屋でヤってた姫島先輩と

全然雰囲気が違う気がするような、しないような……

 

そんな俺の疑惑をさらに深める事態になったのは、次の姫島先輩の行動を見た瞬間だった。

 

「……ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 私、リアスに負けたくない一心で……!

 それで、リアスを裏切って、イッセー君と……! ごめんなさい!

 リアスのイッセー君を……ごめんなさい!」

 

……なんだよ、これ。

その言葉しか、出てこない。

姫島先輩は、額を土に擦り付け、グレモリー先輩に向けて膝をついて謝っていた。

しかし、この言動は俺の中ではあまりにも違和感があった。

 

 

――あんなに嬉々として兵藤と盛っておいて、ここで土下座か?

 

 

いや、涙声で明らかに平静じゃない声色だからこの土下座が芝居じゃない、とは思うんだが……

と言うか、俺にちょっかいをかけてきていた姫島先輩とも違いすぎる。これは一体……

 

「眷属から除外してもいい! はぐれにしてもらってもいい!

 もう一度堕天使に堕ちても構わない!

 リアスの宝物で勝手に遊んで、リアスの心を傷つけて……私、私……!

 あなたの眷属として、友達として、私、許されないことをした……!」

 

「部長……」

 

そのあまりの行動に、祐斗も思わず声が出てしまっているようだ。

俺も、俺の記憶にある姫島先輩と、目の前の土下座している姫島先輩が

同一人物だとは、とても思えなかった。

いや、身体の特徴とかは一致してるんだが。瞳以外。

 

……まあ、なんというか。見てられない。

この姫島先輩が本物か偽物か、この言動が本心か演技か。そんなのは後で判断すればいい。

そう思い、俺は前に出ることにした。

 

堕天使が泣き落としをはかるのはレイナーレって前例があるから何とも言えんが。

 

「……姫島先輩、頭を上げてください。

 いきなり言われても、多分グレモリー先輩も困惑している」

 

「うっ……ううっ……セージ君……私、私……!」

 

泣き顔を見せたくないのか、俯いたまま姫島先輩は辛うじて俺に返事をする。

だめだ、こりゃ話せそうにない。

にしてもグレモリー先輩がキレたと思ったら、姫島先輩が泣きじゃくるとか……

世情的なものもあるとはいえ、かなり追い詰められすぎだろ……

 

 

「……朱乃。駒は取らないわ。だけど……」

 

 

絞るように声を出すグレモリー先輩。この先に言わんとする言葉を察した俺は

その言葉を遮ろうとするが、それより一瞬早く、祐斗が喋り出した。

 

「部長、副部長。ラーメンを食べに行きましょう。

 大丈夫、部長も、副部長も本気でお互いを憎んではいないと僕は思ってます。

 副部長も、部長を心から心配しているからこそ言おうと思っていたんだと思いますし

 部長が指摘されたことは、僕にはわかりませんが

 副部長が本気で悪いと思っていることくらいは、僕にだってわかります」

 

ナイス! 俺の言いたい事、ほとんど言ってくれた! ナイスだ祐斗!

でもバナナチャーシューとかは勘弁な。

 

「……祐斗の言う通りだ。ここはレーティングゲームの会場でもないし

 今は互いに敵同士じゃなく、駒王学園の2年と3年だ。俺達に刃を交える理由が無い。

 

 ……つまり、だ。たまには……皆で食事をするのも、悪くないのではないかと思って。

 はっきり言って、俺から見ても今のあんた達2人は心配だ。

 ことグレモリー先輩に関しては、俺のせいもあるかもしれないしな」

 

だが眷属に戻るのは無しな、と付け加えて俺達は2人を食事に誘う。

無論、先にロープウェイ乗り場に向かったチームと合流するためだ。

 

「……そうね。セージにはいつも、取り乱したところを見られているものね。

 あなたのせいもあるのだから、ラーメンの1杯くらいは奢ってもらわないとね。

 超特捜課の手当、そこそこあるのでしょう? 期待しているわよ」

 

……案の定、たかるつもりか。まあいいが。白音さんほどじゃあるまい。

グレモリー先輩は、飯で釣った形にもなるがとりあえずは持ち直してくれた。後は……

 

そのもう1人の方には、グレモリー先輩が歩み寄っていた。

 

「……朱乃。私の方こそ、ごめんなさい。

 あなたの気持ちも知らないで、私の事ばかり……

 ……いいえ、考えてみたらあなただけじゃないわね。アーシア、ギャスパー、祐斗。

 それに小猫、セージ……そして、イッセー」

 

グレモリー先輩もまた膝をつき、姫島先輩に対し頭を下げる。

どうやら、とりあえずは一安心……か。

 

「考えてみれば、私はイッセーに対してきちんとそういう事を言ったことが無いわね。

 あっても未遂だし。それだったら、朱乃に先を越されても仕方が無いわね。

 ……でもそれはやっぱり悔しいわ。

 

 あ、だからって別に朱乃を恨んだりはしないわよ。

 そうね……今度、聞かせてちょうだい。イッセーのどこを気に入ったのか。

 あなたは手を出したんですものね。きっと、面白い意見が聞けると思うわ」

 

「うふふ……ええ。そういうお話なら、いくらでも致しますわ」

 

ガールズトークが始まろうとしていた。

何にせよ、落ち着いて仲直りも出来たみたいでよかった。

 

……ただ……

 

(……今はこれでいいかもしれんが、兵藤の奴少なくとも紫藤にも手は出してるんだよな……

 そこを当事者の姫島先輩はともかく、グレモリー先輩が許容できるかどうかだが……

 なんか、問題の先送りをしただけのような気がしてならんぞ)

 

『気がするっつーか、そのものだろうな。

 まあこの場に当事者がいない以上、どうにもならんがな』

 

……俺、やっぱり面倒な問題に首突っ込んだ気がする。アモンの指摘も尤もだが、こればかりは。

兵藤のの側に問題があり過ぎる気がするので、素直に2人を応援できない。

姫島先輩だって、兵藤とヤってた姫島先輩とは人となりが違いすぎる。別人かって位に。

だが、全くの別人とも言い切れないんだよなあ……

 

軽くため息をつきながら祐斗の様子を見ると

心なしかニヤニヤしているような気がした。なんだよ。

 

「フフフ、たまにはセージ君にも僕の役割を代わってもらおうかと思って。

 いいだろ別に。さっき話を纏めておいたんだし

 セージ君にも少しは僕の苦労を知ってもらいたいからね」

 

……ぐっ。色々オカ研関係で無理難題吹っ掛けてるから強気に出られん。

ツケを溜め込み過ぎたか……不覚。

等と俺達もふざけ始めたところ、ガールズトークの花が咲き乱れていた。

興味はあるが、これ以上花を咲かされても困る。興味はあるが……こういうのは男子禁制だろう。

 

そのため、またしても俺は咳払いで2人に移動を促す。

 

「……こほん。話中すまないが、そろそろ……」

 

「あら、それもそうね。それじゃセージ、『しらいし』ってラーメン屋だったわよね。

 そうね……あなたのおすすめを聞いてみたいところだわ」

 

「うふふ、私も興味がありますわ。確かみんな待っているはずですから、行きましょう」

 

ご機嫌取りに奔走した気もするが、不必要に悪感情のまま動き回るのもよくないし

3年という事は学校行事も残りわずかだ。それではいくら何でも……だ。

確かに俺はリアス・グレモリーと言う存在に対してあまりいい感情を持っていないが

だからって必要以上に露悪的に接する必要もあるまい。場の空気を悪くするよりマシだ。

完全なとばっちりな光実って例もあるんだし。

 

 

……あまりいい感情じゃない、っつーか……世話が焼ける、になってる気がするんだよなあ……

 

 

その後、無事に先行してロープウェイ乗り場に向かったチームと合流し

収穫があったのかどうかわからない蝸牛山を後にし、珠閒瑠市は平坂(ひらさか)区へと向かうことになった。

 

一応、移動中もグレモリー先輩と姫島先輩――特に姫島先輩――を注意して観察していたが

別段、おかしなそぶりは見せていない。何だかんだで他人をいい意味で(?)甘やかしたり

面倒見のいいところはあるから、そういう振舞いする分には

別段平常運転のはずなんだよなあ……

 

……まさかと思うが、兵藤とヤってた姫島先輩の方が?

 

ちなみにこの時、あまりにも注意深く観察しすぎたせいで2人に会釈を返されたのはいいんだが

その際に白音さんにあらぬ疑いを持たれたようで

彼女の分のラーメンも奢ることになってしまった。何故だ。

 

――これは、サングラスをつけて活動すべきかな。ガラが悪くなりそうだけど。

と言うか、これではあまり兵藤の事を言えないな……

 

 

そしてたどり着いた平坂区にあるラーメン屋「しらいし」では

俺達はある驚くべき人物と遭遇することとなったのだった。




―ベルベットルーム―

「おや……? どうやら、タロットに動きがあるようですな。
 『女帝』のカード……なるほど。そういう道を選ばれましたか。
 しかし人生において、ずっと平坦な道など存在いたしませぬ。
 この選択が、どのような変化をもたらすか。
 私にもわかりかねますが……その旅が良いものであることを願うばかりでございます」


――――


と言うわけで蝸牛山には何もありませんでした。
ですが山に登ったら叫びましょうという事でリアスと朱乃が叫びました。
違う、って? いやいやまさか。

>リアス
原作では伊達や酔狂でオカ研部長名乗ってそうですが、まあ。
イッセーにはあまり構ってもらえない。朱乃は行動が不審。
そこで朱乃に激励されても……という事で激昂。

ただ、自分が悪いという事はある程度認識を始めたようです。
悪魔の価値観だけはまだどうにもなりませんが。

>セージ
少しずつリアスに対して当たりが甘くなってます。
何せ「ゴースト」時代の枷や因縁はもう全部取っ払ってますから。
(ただし仕打ちも忘れてないのでそこで悪印象、お互い様だけど)
オカ研の部員でも、眷属でもないのでそういう飾り気なく
「リアス・グレモリー」を個人として見られる貴重なキャラになったような。

「ゴースト」とは違う意味で女難の相が出始めてますが
ここからが匙加減の難しいところ。凡百なハーレム主人公なんて望むところではありませんし。

>朱乃
さて、この豹変ぶりはどうしたことか(棒)

……まあ、ペルソナ(特に1・2)履修者は恐らく察しがついたと思われますが。
木場は困惑しセージも芝居を一瞬疑いましたが、目薬用意したりする暇なさそうなので
芝居の線は速攻で打ち消してます。つまり本気の土下座。
ただし錯乱していたとはいえイッセーとヤったと暴露。おいおい。

原作を考えると、微塵も悪いと思ってなさそうなムーブかましてそうなのがアレなんですが……

>木場
ある意味セージ以上においしいところ持って行った。
いや、これ位の気配りスキルはあって然るべきかと。こと拙作ではセージに諸々無茶振りされてますし。

>しらいしで遭遇した人物
ヒント1:HSDDから
ヒント2:ラーメン屋
ヒント3:過去登場済み


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Will23. 意外な邂逅 Aパート

Ⅾ×Ⅾ原作キャラの動きがちょっと読めなくなってきてます。
一応、まだ制御出来てる範囲ですが
創作でキャラが制御不能になるのは珍しくもなんともないですからね……
商業においてもそうなんですから。

え? 制御出来ててこのざま? それを言われると。


……にしてもとうとう公式でもライチアームズ出ましたか。
てっきり中華系になるかと思ってましたが、まさかのグリドン強化。
本当に中華系ロックシード少ないですね。
(ブドウ、キウイ、変則でヨモツヘグリ。レジェンドは考慮しないとしても)

龍玄強化案で出そうと思ってたんですが、これはちと無理臭いので
まあ、別の方法で。


P.M. 13:24

珠閒瑠(すまる)市・平坂(ひらさか)

 

ややシャッターの目立つ商店街・カメヤ横丁にて

俺達は目当てのラーメン屋を見つけることができた。

 

――「しらいし」

 

地元の人には有名な、独創的なメニューの数々は

準トップアイドルの久慈川(くじかわ)りせをして「ハイカラ」と言わしめた、らしい。

そんなハイカラなメニューに、俺達は何故だか挑むことになった……のだが。

 

 

「…………」

 

 

おもむろに、俺は財布の中身を調べる。

一応、万札が2~3枚は確保されているが

果たしてこれで足りるかどうか。ここが高級中華料理店じゃないのは

内装を見ても明らかなんだ。高級中華料理店なら、そりゃあ万札が飛んでもおかしくないが

そうでもないのに万札が飛ぶってどういう事なんだ。

 

目線の先には、満悦の表情ではふはふと猫舌故の熱さに苦戦しながら

ラーメン――甘口抹茶タンメンバナナマシマシを頬張っている白音さんがいる。

いや、この表情を見られるのは悪い気はしないのだけど。

彼女のテーブルには、他にもあんこ餃子や小倉抹茶チャーハンと言った

それこそハイカラ(?)なメニューが並んでいる。

 

そして、別のテーブルではグレモリー先輩や姫島先輩がラーメンをすすっている。

物は試しとイチゴタンメンを頼んで、撃沈しかけたので2人で分担する作戦をとったらしい。

賢明だと思う。人に奢らせておいてお残しは許しまへんで?

 

さらに、また別のテーブルでは祐斗、光実、ゼノヴィアさん、アーシアさんの4人が

普通のラーメンセットを頼んでいた。

何故この4人かと言うと、白音さんの頼んだ量が半端なさ過ぎて食べるスペースがなくなり

止む無くテーブルを移動させたという事だ。

 

因みに、俺は白音さんの向かいに座っている。

1人で、ってのも少し気の毒に思えたからだ。

 

「……セージ先輩、お腹の調子、悪いんですか?」

 

見てて腹いっぱいだよ。とはいえ、俺も何も食わないのはちときつい。

財布の中身と相談しながら、俺は普通のラーメンを頼むことにした。

 

「何にしようか迷ってただけだよ。店長さん、ネギラーメン1つ」

 

「あいよ~。でも兄ちゃん、本当に全部兄ちゃんが払うのかい~?」

 

そうなのだ。当初の予定ではグレモリー先輩と姫島先輩。

そして移動中に何故だか加わってしまった白音さんの分――これが一番のネックだが――だけ

奢る話になっていたのだが、あれよあれよという間に全員分奢ることになってしまった。

 

流石に8人分(実際には白音さんが2人分以上食べているので10人分近いが)出すのは想定外だ。

なので、俺はさっきから財布の中身が気がかりで仕方がないのだ。

 

「ま、アタシはちゃんとお金出してくれれば何でもいいけどね~。

 にしても、そこの嬢ちゃんはよく食べるねえ~。

 そこのカウンターの人と同じくらいだねえ~」

 

カウンターの人……? と思って見遣ったその先には

忘れもしない、沢芽(ざわめ)市のフルーツパーラー・ドルーパーズで特盛パフェである

「世界の破壊者パフェ」を完食して見せたやんごとなきお方――のご先祖様ともいわれるお方が

食事をされていたのだ。

 

「あら、皆さんお揃いで。こんにちは」

 

「あ、あま、あ――!?」

 

山盛りのラーメンどんぶりを抱え込みながら、こちらに向けて会釈する様は

まごうこと無き、この日本の主神たる天照様であった。

 

思わず名前を出しそうになったが、ふと沢芽市でのことを思い出す。

あの時と同じ感覚で来られているのならば、ここはお忍びだ。

名前を出すのはマズい。

俺は白音さんに席を外す旨を告げ、いそいそと天照様に小声でお伺いを立てる。

ちょっとどころかかなり失礼な気もするが。

 

(――またお忍びですか?)

 

「ええ、ちょっとここのラーメン屋が気になってしまいまして」

 

あのですね天照様。今日本大変なことになってるんですけど。

その大変なことの一環で俺らも雁首揃えてここにいるんですけど。

 

(――と言うのは表向きの理由です。本題はもちろん、ここのクロスゲートのお話と……

 

 これは私の分霊からも聞いた話なのですが、今人間の――警察の間で不穏な動きがみられます。

 私は人間の営みに口は出せませんが、そのあおりを直に受けるのはあなた達です。

 くれぐれも気を付けてください、と警告を発することしか出来ないことを

 私としましても心苦しく思います……)

 

気にかけてくださっているだけで十分だ、俺はそう思う。

人間の問題は人間が解決すべきだ。今はその境目が無茶苦茶になってしまっているから

それどころではない気はするが……それでも、だ。

人間の世界は、人間の手で守るべきだと、俺は常に思っている。

 

「…………セージ先輩。いつまで話しているんですか。ネギラーメンのびますよ。食べますよ」

 

「あっ、こら俺のだ、食うな。そもそもネギダメだろ。で、では天照様、この辺りで……」

 

「ええ、私も食べ終わったところですので。すみません、お会計を」

 

天照様も食べ終わったのか会計を済ませ、店を後にする。

まあ、神様なのだから人間と同じ尺度で胃の作りを考えるのはナンセンスだし

それならむしろ白音さんの方がよほど、だ。あの体のどこに入るんだ。言うのは憚られるが。

 

「あいよォ~ また来てちょうだいねェ~」

 

店長さんの声を背に、店を後にする天照様。食べ物あるところどこにでも現れてません?

割とフリーダムな感じがするけれど、神様って案外そんなもんかもしれない。

ある意味神の筆頭格ともいえる薮田(やぶた)先生なんか教師やってるし。

 

しかし、さっき天照様を相手にレジ打ちしていた店員がぽつりと呟いた。

 

 

「――天照、だと?」

 

 

呟いたその名前に、俺は思わず店員の顔を二度見した。銀髪の店員。

あれ? こいつどこかで…………

 

 

…………って!!

 

 

「ヴァーリ・ルシファー!?」

 

紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)!? 貴様もいたのか!?」

 

 

おいおいおいおいおいおいおいおい。

このラーメン屋はメニューだけじゃなくて客や店員もハイカラなのかよ。

 

……ん? つかお前、今の今まで天照様が客として来られていたことに気づいてなかったのか?

そうでなかったら割とこいつ……いや、言うまいが。

 

今はどうだか知らないが、こいつは記憶の限りでは愛想をつかしているとはいえ

禍の団(カオス・ブリゲート)に所属しており、こいつ自身も闘争を良しとする割と危険思想の持ち主だ。

こんなところでドンパチするわけにもいかない。

俺はなるべく穏便に、ヴァーリにも話を振ってみることにする。

 

「……何をしているんだ」

 

「……美候にな、教えてもらった。ここの店がいい、とな」

 

……話が読めない。赤龍帝――兵藤に喧嘩売るのが、こいつの目的じゃないのか?

いや、ヴァーリはともかく、アルビオンはいいのか?

 

「何の話だ」

 

「…………ラーメンだ。美候――当代の孫悟空は

 アインストに支配された禍の団と合流することを良しとせず

 地元でラーメンの修行をしているらしい。あまりにもしつこいので、俺も食ってみて、な」

 

それでハマったのか。ラーメン、ハマるくらいうまいからな。

健康を害しかねない程度にはやべーもんだよ。

しかし白龍皇がラーメンとは……スケベの赤龍帝と言い、宿主に恵まれてないこと無い?

 

『……まさか俺もラーメン調理に俺の力を使われるとは思わなかったぞ。

 まあ、赤いのの事を思えば、俺はまだマシかもしれんがな』

 

え? 白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)をラーメン作るのに使ってるの? 器用というか、ズルいというか……

まさか、今出してる奴って……

 

「安心しろ。貴様らが食ってるのは店長が作った奴だ。

 俺はまだあの域には達することができない。

 バナナチャーシューやイチゴタンメンに挑んではいるが、客に出せるレベルじゃないらしい」

 

「当たり前じゃな~い。あれらはウチの看板メニューなんだから

 最近入ったばかりの子に作らせるほど、アタシだって耄碌してないわよォ~?」

 

……ツッコミが追いつかねえ。美候だってまさかヴァーリが

こんなゲテモノラーメンを作ってるとは思うまいて?

俺は美候との面識が無いからどういうやつかは知らんけど。

そしてこのバナナチャーシューとかって、やっぱ素で作ってるものなのね。

寧ろそれが作れるレベルって逆にすごい気がするんだが。

……グレモリー先輩らが苦戦してるところを見るに、味は……みたいだが。

 

だが、その健啖っぷりをいかんなく発揮している一人は気にも留めない様子で流し込んでいる。

天照様もまさか……ね。

 

「……しかし。貴様の顔を見て思い出したぞ、紫紅帝龍。

 かつて覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)騒動の際、貴様に力を貸す代償に

 貴様との戦いを望むと俺は言ったはずだが」

 

「…………んな事言ったっけ?」

 

『確かに聞いたぞ。ヴァーリだけじゃなく、俺も聞いている。

 有耶無耶にしようとしてもそうはいかんぞ』

 

…………チッ。

なあなあで済ますつもりだったが、思い出されたんじゃ仕方がない。

どの道、こいつと顔合わせた以上こうなる可能性はあった。

それが今このタイミングってのは、ちょっと……だが。

 

 

「……わかったよ。だがちょっと待ってろ。そう言う事ならこっちにだって考えがある。

 ……店長さん! 餃子1皿追加で!」

 

「貴様ッ!? 俺との戦いを前に何を悠長な……」

 

「あいよ~。喧嘩は止めないけど、やるなら他所でやってちょうだいよォ~?」

 

悔いは残したくない。なので俺はいっそ餃子も食べることにした。

別にこんなフリッケンに曰くアホロートルに負けるつもりは無い、無いが

腐ってもニ天龍と呼ばれた存在を宿す奴だ。もしもに備えてだ。

それよりなにより、俺は飯を邪魔されるのが嫌いなんだ。出直せ。

或いはせめて喰い終わるまで待て。別に餃子頼んだのは時間稼ぎのつもりじゃないが。

 

……いや、ちょっとは時間稼ぎの意味もあるけど。

 

「……食事中のセージ先輩に用事を振ったって、塩対応されるだけですから。

 姉様が散々それやられてましたし。私も似たようなものですが」

 

「ヴァーリ、諦めなさい。セージはこういうところあるから。

 ……私だって散々おざなりな扱い受けてきたんだから……!!」

 

「リアス、どうどう」

 

俺はヴァーリや周りのヤジを気にせず、やって来た餃子をおもむろに食べ始める。いただきます。

やはりラーメンには餃子がいい。唐揚げでもいいが、ちとこの後暴れることを考えると脂っこい。

しっかり食べるのは大事だが、リバースはしたくない。

あんこ餃子も少しだけ考えたが、こんなものを食べて本調子が出せずにヴァーリに負けました、は

いくら何でもマヌケすぎる。それくらいの羞恥心は持ってるつもりだ。

 

まあ、何が言いたいかと言うと。

飯位、ゆっくり食わせろ。

 

 

――生徒一同食事中...

 

 

「……紫紅帝龍。食事は済んだか?」

 

「…………んくっ、ごくっ。ふはぁ。

 ああ、待たせたな、ヴァーリ。だがその前に会計だ。ほらよ」

 

水を飲み終え、俺は伝票と万札をヴァーリによこす。まさか本当に万札が飛ぶとは。

だがここで「無しよ」とも言えない。男の意地だ。

 

「レジ位打てるだろ」

 

「当たり前だ」

 

ここで万札が2枚もいることになるとは思わなかったが。

(一応、2枚目の万札で釣りは来ているが)

まあいい。土産をダウングレードさせれば済む話だ。

 

ヴァーリからレシートと釣りを受け取り、荷物を纏めることにする。

それと同時に、俺はアーシアさんに一つ頼みごとをすることにした。

 

「ところでアーシアさん。ちょっとこのバカ懲らしめることにするから

 すまないが、ホテルに戻ったら薮田先生にこのことを伝えてほしい。

 ヴァーリ絡みで話が一番通じるのは、薮田先生だ。頼めるかな。

 

 ……と、言うわけで俺は後からホテルに戻るよ。ああ言った手前で悪いけどさ」

 

「薮田先生ですね、わかりました」

 

アーシアさんが一番薮田先生との話がスムーズに進んでくれるだろう。

そのことを考え、俺はアーシアさんに薮田先生に伝えてくれるように頼むことにした。

 

「セージ。怒られても、私はあなたを庇わないわよ」

 

「ああ。今回は自分でも悪いと思ってる独断だからそれでいいさ。

 こいつにここで駄々こねられて、暴れられても困る。

 だから、そっちも駄々こねて暴れてくれないでくださいよ?」

 

「私が見張っておきますから大丈夫ですわ、セージ君」

 

グレモリー先輩にも釘を刺されるが、まあ今回ばかりはグレモリー先輩の言う事が正しい。

俺だって、何で折角の珠閒瑠市観光を

こんな奴に邪魔されなきゃならないんだって気がしてならない。

会計を済ませた途端に剣呑な空気になるが

そこに割って入るように突如として奇声が発せられたのだ。

 

「ホォォォォォウ! ここ平坂区は、ボクのホームプレイスさ!

 そこで喧嘩とあっちゃ、黙って見過ごせるわけにはいかないねぇ。ヤングメェーン?」

 

その奇声を発したのは、ギターケースを抱えた青い頭に白い顔のあからさまなⅤ系の男だ。

年のほどは顔のせいでわかりにくいが、多分周防巡査と同じくらいだろう。

突然のことに、俺達は呆気に取られていた。




ラーメンネタと来れば。
やはりヴァーリって扱いにくいです。
そもそもイッセーとの因縁があるかどうか怪しい(あくまでも赤龍帝と白龍皇の因縁なのでイッセー個人とヴァーリ個人にあるとは思えない)ので
赤龍帝は欠片しか持ってないセージにあるはずもなく。

かと言って(一応)原作ライバルポジなのであまりおざなりにも扱えないし。
ライバルムーブしてるかどうかって言うと、かなり微妙なんですが。
なので拙作ではどういうわけだか天然ラーメンバカに。
スイッチ姫命名と言い美候って変なところでファインプレーしてるような。

……そういや、セージってあまり因縁のある敵いないですね。
精々イッセー?

最後のⅤ系の男はきれいなテレッテことあの人。
罪を経由してるか罰を経由してるかで大きく変わってしまいますが。


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Will23. 意外な邂逅 Bパート

お待たせしました。
久々にヴァーリ動かしてるので「誰てめえ」感が出ないように意識はしてるつもりですが……




珠閒瑠(すまる)市・平坂区にあるラーメン店兼居酒屋、しらいし。

そこでハイカラなラーメンを食されていた天照様と思わぬ謁見をしたと思えば

さらに驚くことに、ここではあのヴァーリ・ルシファーが働いていたのだ。

曰く、ラーメンに嵌ったらしいのだが……

 

しかし、間の悪いことに俺と出くわしたことでかつての約束――俺との戦いを思い出し

俺に対し勝負を挑んできた。

そんな一触即発の状態の中、険悪な空気を切り裂く奇声が木霊した。

 

「ホォォォォォウ! ここ平坂区は、ボクのホームプレイスさ!

 そこで喧嘩とあっちゃ、黙って見過ごせるわけにはいかないねぇ。ヤングメェーン?」

 

その奇声を発したのは、青い頭に白い顔のあからさまなⅤ系の男だ。

年のほどは顔のせいでわかりにくいが、多分周防巡査と同じくらいだろう。

 

「栄吉ィ、喧嘩の仲裁でもしてくれるのか~い?」

 

「あのさオバチャン、俺もミッシェルって名前でそれなりに売れてきてるから

 この格好の時はそっちの名前で呼んでくんない?

 

 ……っとと、待たせちまったな。喧嘩の審判ならこのミッシェル様がやらせてもらうよ?

 近くに坂上ビルって廃ビルがあるから、やるならそこでやんな。警察には連絡しとくからよ。

 こう見えてボク、警察にはコネが……」

 

「あ、周防警部ですか? 宮本です。

 すみません、平坂区の坂上ビルって廃ビルの辺りの道路封鎖をお願いしたいんですけど……

 ええ、ええ……白龍皇と遭遇してしまいまして。

 珠閒瑠市ではどこで戦っても被害が免れないと思いまして。蝸牛山まで移送しようにも

 今自分らがいるところが平坂区なので……はい、はい。

 それならいっそ、道路封鎖なりなんなりかけた方が……と思いまして。

 なので急ですみませんが、よろしくお願いします」

 

彼の言葉を待たずして、俺の方から周防警部に話を振ることにした。

話を遮られたこのミッシェルとか言う化粧の濃いバンドマンは……何者なんだろう。

 

「ちょっ、ボクが話しようと思ってたのに……

 ……って周防? キミ、あの周防警部と知り合いなのかい?」

 

「ええ、一応。警察に道路封鎖もお願いしたので、これで大丈夫なはずです」

 

「…………そうかい。世間は広いようで狭いもんだねぇ……

 って、感傷に浸ってる場合じゃなかったな。ヘイ、エブリバデ! ついてきな!」

 

 

――――

 

 

栄吉と呼ばれた、自称ミッシェルと言うバンドマンの案内に従い

俺達は平坂区の外れにある坂上ビルと言う廃ビルまでやってきていた。

ここなら、多少暴れてもいいだろうという事らしいが。

 

「ここは近々解体が入るって話らしいからねぇ。

 遠慮なくやっちゃってくれ、アンダスタァン?」

 

「そう言う事か。それは願ってもないことだ、感謝するぞ!」

 

……あのさ。俺ら解体業者じゃないんだけど。

まあ言っても仕方ない、奴の気が済むまで暴れさせてやるか!

ぶっちゃけ、そのエネルギーはアインストやインベスと戦うのに向けて欲しい気はするけどな!

 

『セージ、代ろうか?』

 

「いや、一応向こうは俺……とフリッケンがご指名らしい。

 気は進まないが、付き合ってやらないとな」

 

『ああ、全く面倒な話だ』

 

BOOT!!

 

左手に記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)、右手に紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)を実体化。

いきなり禁手(バランスブレイカー)で飛ばそうかとも思ったが、前に戦ってから時間が経っている。

ある程度検索かけながら戦った方がよさそうだ。

 

「それじゃあ、用意はいいかいヤングメン!

 

 …………3、2、1…………」

 

 

――アアアアアアアアオゥ!!

 

 

奇声をゴングに、俺は突撃をかけるが、ヴァーリは白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)で飛び上がる。

屋内とは言え、天井が高かったが故に上を抑えるのは有効打と言えるだろう。

だが、この程度は予測の範囲内だ。

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

俺自身は明後日の方角を向いているが、触手砲はヴァーリを狙っている。

いくら天井が高いって言ったって、屋内で縦横無尽に飛べるかと言うとそうではあるまい?

 

「小癪な!」

 

まして触手砲は悪魔特効。半分とは言え悪魔のヴァーリには、効果覿面だろう。

そうなれば――

 

「俺に『白龍皇(ディバイン・ディバイディング)の鎧(・スケイルメイル)』を使わせるつもりだろうが、そうはいかんぞ!

 舞え! 『白龍皇の光羽(ディバイディング・フェアリー・ドラゴン)』!」

 

くっ、新手か!

ヴァーリは背中の白龍皇の光翼から白い羽根を撒き散らしたと思ったら

その白い羽根は小型の白い竜へと姿を変える。竜型のエネルギー砲的なもの……じゃない!!

 

白い小型竜の砲撃から身を守るべく、俺はディフェンダーの実体化が間に合わないと判断し

記録再生大図鑑を盾替わりに防御に徹した。のだが――

 

『セージ! 敵機直上、急降下!』

 

「上――!?」

 

フリッケンの警告に上を向いた俺の眼に映ったのは

こっちに真っすぐ向かってくる小さな白い竜。

その顎には、青白いエネルギーが蓄えられている。これが意味するものは――

 

――間に合わない!!

 

ビルの床をぶち抜くんじゃないかって位の威力で放たれたエネルギーブレス。

その直撃をもろに受けることになった俺は、敢え無く吹っ飛ばされてしまう。

屋内にも埃が舞っており、周囲の視界は悪い。

 

ふとミッシェルさんの方を見ると、その背後には三角柱の頭をし、盾らしきものを掲げた異形が

煙を打ち払っているのが見えるが、あれってもしかしてペルソナ……?

 

――って! ミッシェルさんの事は後回しにしないと!

ヴァーリの新手の攻撃「白龍皇の光羽」は小さな飛竜を複数召喚し

こちらにアウトレンジ攻撃を仕掛けてくるもの、みたいだ。

 

……あれ? これって前に……

 

MEMORISE!!

 

記録した? さっきの飛竜か? ぶっつけ本番だが、やってみるか!

そう思い、俺はカードを出してみることにしたのだが――

 

 

――あ、あれ?

 

『セージ、ぼさっとするな!』

 

「わかってる! だけどさっき記録したカード、何も描いてないんだよ!」

 

記録エラーか? 白紙カードが何の効力も発揮しないのは知っている。

だが、記録しておいて白紙ってのは初めてだ。

ここに来て記録エラーが起きたのだろうか。わからん。

この期に及んで、使えない手札を寄越されても……まして、強敵相手の時に!

 

「どうした紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)! 貴様の力、こんなものか!」

 

――好き勝手言ってくれる。こっちは予定にないアクションだってのに!

とは言え、どこかでこいつとも戦わなきゃならなかったことを考えると

問題の前倒しと言ったところか。やらなければならないのならば、やるしかない、か!

 

 

――――ぞくり。

 

 

なんだ? 背筋と言うか、俺の内側から何か薄ら寒い、何か嫌な感覚が……

ふと、右手にある白紙のカードを見ると、そこには禍々しいデザインの

白骨でできた鳥を思わせる飛行機――戦闘機? が描かれていた。

 

嫌な予感がするが……打開策になるのならば!

 

 

『…………おい、セージ。この力、あまり使うな。天照や大日如来が危惧した力そのものだ』

 

やはり。あの寒気、そっち由来のものか。アモンは察したようだが。

しかし天照様や大日如来様が危惧したという事は言うまでもない……ディーン・レヴか!

そう言えば、沢芽市からクロスゲートで逃げてきてから以来

ディーン・レヴから薄ら寒い気配を感じてはいたが……もしや。

 

クロスゲートで、何か嫌なものを拾ったか……?

 

「考え事か、紫紅帝龍!」

 

『セージ、奴の言う通りだ! 考え事なんかしている暇は無いぞ!』

 

そうだ。考え込んでる場合じゃない。

危険な力だが、ヴァーリの猛攻を凌ぐには今はこれしかない!

意を決して、俺は白骨を思わせる戦闘機の描かれたカードをかざした。

 

 

SOLID-GUN LEGION!!

 

 

普段の音声とはまるで違う、音割れの酷い音声ガイダンスと共に

俺の中――と言うよりは、ディーン・レヴの力を使いそれは顕現した。

 

――ガン・レギオン。

 

俺の中から浮かび上がった赤黒い光は、散らばっている瓦礫を媒介に

白骨化した鳥を思わせる姿を象り、赤黒い光を纏いながらヴァーリの呼び出した竜と

空中戦を繰り広げていた。

 

「この力……貴様、どこでこんな力を!?」

 

「言う気はないし、言う意味もないな」

 

飛竜と俺の呼び出した骨の鳥が空中戦を繰り広げる下、俺達は接近戦にもつれ込んでいた。

だが奴に接触は禁じ手だ。一度半減されたら、勝ち筋が見えなくなる。

そのため、俺はギャスパニッシャーを用いて武器を使った接近戦を挑んでいる。

 

確か奴の効果の発動は向こうからの接触がフラグだから、こっちから接触する分には

何ら問題は無いはずだが、カウンター喰らったら目も当てられない。

案の定ギャスパニッシャーでも時間を止められない相手なので、ほぼ単純な質量武器だ。

 

……それに、俺は兵藤やこいつと違って徒手空拳それほど得意じゃないし。

中~遠距離で戦うか。幸いさっきの竜はガン・レギオンが押さえてくれている!

 

「だああああああっ!!」

 

「ぬんっ!」

 

――っ!? なんて奴!

こっちが倍加していないことを考えると、地力はやはり兵藤以上か!

ギャスパニッシャーを真っ向から受け止めたか!

ならば、ここはこうだ!

 

SOLID-FEELER!!

 

ヴァーリの足元に触手を巻きつかせ、転倒させることを試みる。

しかし、一気に攻勢に出ることを狙って仕掛けたこの一撃だったが、完全に悪手だった。

何故なら、バランスを崩したヴァーリが倒れまいと俺につかみかかってきたのだから。

 

「抜かったな紫紅帝龍、取ったぞ!」

 

DIVIDE!!

 

――やられた!

だが、一度の半減ならこれで!

 

BOOST!!

 

倍加をかけ、力を元に戻したと同時に俺は俺を掴んでいるヴァーリの手に

霊力を集めた手を伸ばし、スタンガンの代わりにする。

その刺すような痛みに、ヴァーリは一瞬顔を歪め俺から手を放す。

こんなのが有効打にはなるまいが、俺の目的は果たせた。よし!

いつぞやと違って、今度は本気だ。ヴァーリの手が外れさえすればいい。

捕まれたままだと、次の半減を喰らったら本当にアウトだからな。

 

『残機1……ってか』

 

「喰らっても打開が難しくなるだけで死ぬわけじゃないけどな。

 それにしても、こいつに決定打――」

 

『一応言っとく。アキシオン・バスターは使うなよ』

 

廃ビルとは言え外は普通に市街地だ。ぶっ放せるか。

しかし、そうなると本当に決定打が無い。白龍皇の鎧を使う前に、戦闘不能にできればいいが

それが罷り通る相手でもあるまい。至近距離から滅びの魔力でも当てるか?

 

……しか、なさそうだな。

 

SOLID-DEFENDER!!

 

「ぬぅん!」

 

ディフェンダーを実体化させ、おもむろに唐竹割りの要領で振り下ろす。

当然、こんな大振りの攻撃なんてヴァーリには避けられるが。

 

「そんな攻撃が当たるか!」

 

「――そこだ!」

 

避けた先に、俺はディフェンダーを投げつける。

案の定、これもヴァーリに躱される。だがそんなのは想定済みだ。

明後日の方角に飛んでいくディフェンダーを見ながら、ヴァーリは勝ち誇っているようだが。

 

「俺の見込み違いか紫紅帝龍。戦い方もまるでなっちゃいない!

 あの骨の鳥を生み出せたのは驚いたが、それが精いっぱいのようだな!

 出し惜しみをしているのならば、遠慮せずに出したらどうだ!」

 

――お前だって、禁手を出し惜しみしているだろうが!

 

その明後日の方角に飛んで行く投げつけたディフェンダーを、触手を使ってつかみ取る。

そのままヨーヨーや鎖分銅の要領で振り回し、ヴァーリにディフェンダーをヒットさせた。

この変則的な動きには、対応できなかったようだ。

 

「うぐっ……!」

 

「どうだ!」

 

しかもうまい具合に、光力を帯びた刃の部分が当たってくれた。

悪魔でもあるヴァーリには、いくらか効いているみたいだ。

 

だがこの戦法、広範囲を薙ぎ払うという関係上

ビルの方にも被害を及ぼしてしまったのだった。

そうなれば、ビルの構造上……

 

「オゥ、ジーザス! 柱を巻き込むとか正気かい!?

 そりゃ喧嘩なんてバーリ・トゥード(何でもあり)だけどさ!」

 

「派手にやってくれるな、紫紅帝龍! 自ら用意した舞台を崩すとは!」

 

ただでさえ脆くなっていた廃ビルの天井は、呆気なく崩落した。

俺達は落ちてくる瓦礫に飛び乗りながら、2階の床部分に穴をあけ

そこから2階へと移動することとなった。

俺が柱を崩したことで、ビルそのものが崩落しやすくなっている。この床だっていつ抜けるか。

そんな不安定な場所で、俺たちの戦いは第二ラウンドへと移行するのだった。




Cパートに続きます。

>霊撃スタンガン
R-18パートでちら見せしたものの逆輸入。
あちらでは比較的平和的な使い方(?)してましたが
今回は手加減の理由が無いのでガチ。相手が相手なのでスタンガン以上の威力はやはり出せませんが。

>白龍皇の光羽
本来ならばイッセーが発現させるはずだった「白龍皇の妖精達」が
ヴァーリが発現させた形になります。
パワーソース考えれば出来ないことではないでしょう、と。

ただ、現状立ち位置としては以前戦ったルーデル閣下もどきとほぼ変わらない
(セージがほぼ言及してる)のが……
イッセーが出したやつがリフレクタービットに対して、こっちは完全にファンネルですし。
スツーカがキュベレイ位の威力に対して、こちらはα・アジールやνガンダム位の威力と位置付けてはいますが。

>ガン・レギオン
で、それをセージがコピーしてディーン・レヴをパワーソースにして出したものがこちら。
名前元ネタはベルグバウやディストラ(とR-GUNリヴァーレ)のガン・スレイブ。
現時点ではご存じの通りセージはゴーストではありませんが、パワーソースがパワーソースなのでレギオン(悪霊)です。
レギオン(兵団)とのダブルミーニング。
デザイン元ネタは深海棲艦艦載機。お陰でガメラのレギオンにも近くなってしまったような。

なんか、ディーン・レヴと銘打ってますがかなりディス・レヴに近くなってますねこれ……
あるいは浄化前のリチュオルコンバーター。


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Will23. 意外な邂逅 Cパート

珠閒瑠(すまる)市・平坂(ひらさか)区にある坂上ビル。

俺とヴァーリの戦いで倒壊が始まり、天井からもパラパラと細かな石が落ちてきている。

にもかかわらず、俺やヴァーリはおろか、審判をしているミッシェルさんも動じていない。

俺の見間違いでなければ、彼もペルソナを持っているようなのでその関係とは思うが。

 

「ヘイ! 言っとくが、このビルが倒壊したらその時点で喧嘩は終わりだぜ?

 外に被害を出した場合、その時点でも終わり。やらかした奴の負けって審判下すからな?」

 

「当然。テロリスト倒してる側が破壊行為を働くなんて、洒落にならんですよ」

 

「被害を出さずに紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)を倒す、か。ちょうどいい縛りだ!」

 

再びヴァーリは白龍皇の光羽(ディバイディング・フェアリー・ドラゴン)を出し

俺もそれを迎撃する形でガン・レギオンを召喚する。

床に瓦礫が落ちてきているというのは、ある意味ありがたい。

何せ、モーフィングの材料には事欠かない。アモンに交代しなくても魔力を行使するはずの

モーフィングが使えるというのはやはり引っかかるが

アモンに交代する隙ができないのは好都合。

手こずりはしたものの神経断裂弾をモーフィングで生成し、予め実体化させた銃に込める。

 

兵藤に向けて撃ったのには幾許かの罪悪感や後悔があるが

こいつにはそんなものはあまり感じない。

言っては何だが、しつこく付きまとうって点に関して言えば排除対象だ。

おまけにテロリスト。排除しない理由が無い。

 

 

――しつこく付きまとうから排除、か。お前にそれが言えたのかねぇ……?

 

 

……何っ!? 誰だ、今言ったのは……

フリッケン、でもないしアモンでもなさそうだ。しかし言った言葉の意味は……

とにかく、今は考え事をしている場合じゃない。こいつで一気に終わらせる!

 

白龍皇の光羽とガン・レギオンの航空戦を脇目に、俺はヴァーリに接近し

神経断裂弾を込めた銃の引鉄を引こうとする。

しかし、兵藤よりも戦い慣れしているヴァーリが

俺ごときの単純な戦法に引っかかるはずもなく。

魔力弾で弾幕を張られ、思うように接近できない。

 

『当てさえすりゃあ、致命傷を狙えるんだがな』

 

『あの弾幕をどうにかしないと、攻撃も接近も出来んだろ』

 

弾幕を散らすなら……攻撃に使うつもりだったが、贅沢言って戦える相手じゃないか!

意を決して、俺は1枚のカードを引く。

 

EFFECT-RUIN MAGIC!!

 

滅びの魔力。俺の行使するそれはコピー元であるグレモリー先輩との撃ち合いをしたら

確実に負ける程度の規模しかないが、それでも性質は滅びの魔力だ。

ヴァーリの撃ちだした魔力弾を相殺し、俺がヴァーリまで接近するルートの確保には成功した。

しかしそれは、相手にとっても同じ条件なわけで。それが意味するものは――

 

「取ったぞ、紫紅帝龍! 『禁手化(バランスブレイク)』!!」

 

Vanishing Dragon Balance Breaker!!

 

――しまった! 先手を打たれた!

白龍皇(ディバイン・ディバイディング)の鎧(・スケイルメイル)の半減は、本当に致命的だ。

接触される前に、俺は慌てて二枚目のカードを引く。ダメージが通るかどうかはどうでもいい。

今はとにかく、目晦ましにさえなれば!

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

雷の魔法。これまた威力は姫島先輩と同程度行けばいい方で、俺としては目晦ましか

或いは避雷針を併用した攻撃にしか使わない。

今回は指向性を加えヴァーリに集中させるように放ったので

雷のダメージよりは稲光による足止めが目的だ。

そもそも、雷のダメージを通したければプラズマフィストを使うし。

 

『勝負を仕掛けてきたのは、向こうだったな』

 

「……だな。フリッケン、こっちも使うか。コスト辛くなってきたし」

 

INFINITY-ARCHIVES DISCLOSURE!!

 

無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)。これはヴァーリには見せてないはずだ。初見殺しの本領発揮と行こうか!

カードコストも無制限になり、この状態ならアキシオン・バスターも撃てる。

やるやらないは別として。

それに、この禁手(バランスブレイカー)にはモーショントレース能力もある。おまけに一部能力も再現できる。

聖槍コピーで一気に終わらせようかとも思ったが、接近の必要がある以上迂闊に使えない。

投槍みたく使うか、さっきのディフェンダーヨーヨーみたいにするなら話は別だが。

そう考え、俺はこの人のモーションをトレースすることにした。

 

MOTION!!

 

「――――!!」

 

周防巡査。近接戦闘よりもペルソナ「アポロ」による魔法や特殊攻撃に期待してのチョイスだ。

ただ、俺から出てきたであろうアポロは、周防巡査のアポロとは所々違っている。

赤い仮面は変わらないが、黒を基調とした体に白いマントに身を包み

デフォルメされた太陽のような円形のこぎり型の盾や銃を持っている。

使い勝手に変わりはないと思いたいが。

俺がアポロの「アギダイン」をヴァーリにかまそうと思った矢先

まさかのミッシェルさんから待ったがかかった。

……え? 何? レギュレーション違反? 反則スレスレの自覚はあるけど。

 

「二人とも、ウェイト・ア・ミニッツ! な、なあミスター宮本?

 俺、お前の力にすっごく覚えがあるんだが……気のせいだよな?」

 

「そりゃ、誰かの力を真似してやってますからね。

 そのコピー元とお知り合いでしたら、そうなるでしょう」

 

「…………や、悪ぃ。多分俺の勘違いだ。そんなわけがねぇ。ありゃ夢の話だ。

 邪魔して悪かったな二人とも、再開してくれ! ファイッ!!」

 

気を取り直して、俺はアポロ――オルタ・アポロとしておこう。

オルタ・アポロで「アギダイン」や「マハラギダイン」など火炎魔法で弾幕を張りつつ攻撃するが

炎はヴァーリの「半減」の影響をもろに受けてしまっている。

しかし、当然この程度は想定の範囲内だ。

 

「紫紅帝龍! その力はなんだ!? 貴様、いつの間に神器(セイクリッド・ギア)をそんなに……」

 

「神器にゃ似てるが、神器じゃない!

 お前が相手にしているのは、俺とフリッケンだけじゃないって事だ!」

 

オルタ・アポロの盾がブーメランのように舞う。さっきの俺のディフェンダーみたいだ。

ヴァーリの白龍皇の光羽を落としながら、ヴァーリ本体に対しては

右手の銃による射撃も併せて攻撃している。

オルタ・アポロの猛攻は確実にヴァーリを押していた。

 

「これならいける! ノヴァ――」

 

「そうは行くか!」

 

Half Dimension!!

 

しまった! 大技を出そうとした瞬間を狙っていたか!

ノヴァサイザーを繰り出す寸前でオルタ・アポロも

坂上ビルの空間や俺達の間合いも半減されてしまい

俺の方はオルタ・アポロを維持できなくなってしまった。

そのことで体勢を崩してしまい、ヴァーリの連撃を受けて吹っ飛ばされてしまった。

ご丁寧に、耐久力まで半減させられているので結構痛い。

 

「知ってるぞ紫紅帝龍。貴様、そのカードは無限では無いだろう。

 知ってるとは思うが、この『Half Dimension』はあらゆるものを半減させることができる。

 貴様のカードも、例外ではないという事だ」

 

したり顔で言うヴァーリだが、些か情報が古かったな。

そもそも、この状態になれば無制限でカードは使えるし。

召喚したアポロが変異したのは想定外だったが。

だから俺は、笑いながらカードを引くことにした。この間合いなら!

 

「……フッ」

 

「何がおかしい? そうか、まだ勝負はついていないという事か。面白い!」

 

MOTION!!

 

聖槍騎士団のシルエットが俺の中に消えていったと同時に

俺の右手には聖槍のコピーが生成される。

艤装についてはこんな場所で使えるものじゃないので、一部以外再現しない。

そもそも俺の狙いはこの槍。この間合いならば、十分に届く。

大技を出す瞬間は油断しやすい。その通りだ。

 

だが、もう一つ油断しやすい瞬間があるよな?

 

「――はっ!」

 

聖槍のコピーが、白龍皇の鎧の宝玉を穿つ。殺傷力などまるでないこの槍だが

この槍の真価は、その特異性にある。

 

 

――すべての異能を打ち消す。

 

 

「血迷ったか。そんななまくらの槍――き、貴様! それは聖槍!

 一体、どこでそれを――」

 

「企業秘密だ。それより、さっき俺が突いたところをよく見たらどうだ?」

 

「なに…………っ!?」

 

俺が穿った場所から消えていく白龍皇の鎧。

これこそがこの聖槍が持つ「異能を打ち消す力」である。神器、聖剣、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)

果てはペルソナ。

後天的な異能はこれによって全て無効化されるのだ。俺もこれには苦汁をなめさせられた。

 

「その聖槍……曹操が持っていたのではなかったのか! 貴様、どこで曹操から!?」

 

「曹操ってあの孟徳か? だとしたら知らん。俺は以前聖槍のコピーを使う相手と戦った。

 ちょうど以前お前と会う前の話だったな。

 

 ……ん? ちょっと待て。俺が対峙した聖槍騎士団は

 聖槍のオリジナルを探しているって話だったが。

 だとすると、その聖槍の持ち主とやらはマズくないか?

 そいつが持ってるのがオリジナルと仮定しての話だが。

 聖槍騎士団がそいつを狙っていることになるぞ」

 

「英雄派の聖槍騎士団が、英雄派の曹操を狙う? 仲間割れか?

 ……だが、俺には関係ない! 白龍皇を封じられようとも、俺の魔力は健在だ!」

 

そうだった。こいつ生まれついての半悪魔だったから、魔力は聖槍で消せないんだ。

だが、これで大幅に弱体化出来た。今なら……

聖槍騎士団の艤装のうち、一部分だけ再現した主砲。これを思い切ってぶちかます。

 

――当然、崩れかかっている坂上ビルはさらに倒壊を始めることになるわけだが

禁止事項は外への破壊活動。このビル内は多少崩れたところで。

 

『おい! やり過ぎだ! 天井が!』

 

「……いや、これでいい! アルテルサイクロン!」

 

吹っ飛んだヴァーリを、触手で簀巻きにする。

後は、崩れた天井から見える空に向けて、放り投げる。

白龍皇の力を無効化されたことで、鎧も半減も出来ないヴァーリ。

魔力で向かってくるが、それを上回る力を使えば!

 

「屋上に出るぞ!」

 

『屋上……まさかお前!』

 

触手で自分を放り上げるように、俺達も屋上に出る。

空には、悪魔の翼を広げているヴァーリがいる。急がないと!

 

――意を決し、俺はとうとうこのカードを引く。

神経断裂弾。滅びの魔力。聖槍騎士団の主砲、SKC34。

ヴァーリを倒せるであろう手段はいくらかあるが

確実性を増すならば、オーバーキルになるかもしれんが!

 

 

EFFECT-AXION BUSTER!!

 

 

俺のディーン・レヴが確かに動く。

俺の中に流れ込んでくるのは、背筋が凍るような悍ましい感覚。

耳を傾けると、流れ込んでくる声は全て

知的生命体の痛み、苦しみ、悲しみ、憎しみ、蔑み、妬み、怒り。

それらを具現化したものであった。

 

 

――ディーンの火が、ディスの目覚めを促す――

 

 

かつて悪魔絵師が話した言葉が、俺の中で木霊する。

確かにアモンの言う通り、この力を使い続けるのは危険だ。だが赤龍帝のあの有様。

その片割れである白龍皇も、ああならない保証はない。寧ろその危険性を秘めている。

ならば……

 

 

「アキシオン・バスター……デッド・エンド・シュート!!」

 

 

滅びの魔力に酷似した、だがそれよりも負念に包まれたエネルギーがヴァーリに命中。

空に発生したワームホールと超重力による衝撃と爆発。

明らかに生身に対する攻撃としてはオーバーキルだが、相手は半分とは言え悪魔だ。

悪魔を殺して平気なの? とは言われそうだが、それはそれ。

俺も奴を逐一相手するのは面倒だし

どこかで奴の心をへし折ってもいいくらいに思っていたりもする。

 

「……アンビリーバボー……」

 

……そりゃまあ、上空に向けて撃ったとはいえ

アキシオン・バスターはやり過ぎたかもしれんけど。

平坂区には局地的に突風が起きて看板や街路樹が揺れたり

改装工事中のスマイル平坂に影響が出たりしたが

後で聞いた話だと、幸い人的被害は無かったそうだ。

 

『だから撃つなっつったろうが。カバーストーリーどうすんだこれ』

 

そりゃあ、いきなり予報にない突風やらなんやら起きたら異常気象だ。

それに対する言い訳は、何も考えていなかった。うかつだった。

だが、アキシオン・バスターを撃ったという事は俺の側も……

 

「うっ…………」

 

『そっちの意味でもな。禁手を解け。いくらか楽にはなるはずだ』

 

フリッケンに言われるまでもなく、禁手化が解ける。維持できなくなったのだ。

本当に一発芸だな、アキシオン・バスターは。

まああんなもの連射出来たら地球が終わりかねないが。

へたり込んだ俺に、ミッシェルさんが駆け寄ってくる。

 

「大丈夫か?……なあ。それもだが一体全体今何が起きてるんだい? お前のその力と言い

 さっきの喧嘩相手と言い。見覚えのあるナチスかぶれの演説以来

 珠閒瑠市でも変な事件は耳にしてるけどよ……今、お前らの喧嘩見て確信したぜ」

 

俺はミッシェルさんに聞かれるがまま

今地上で起きている事件のあらましについて話すことにした。

いくら普通のバンドマン――見てくれは全然普通じゃないが――だとしても

この人もまたペルソナを持っている。戦力として期待するかどうかはともかくとして

知っておくべきではないかと、俺は思ったのだ。

松田や元浜、甲次郎らみたく力が無いのに、って訳でもなさそうだし。

 

流石に、直接関係ない冥界で起きてる事件については黙っておいたが。

 

「…………うーん。夢だとばかり思ってたが、やはり何かあるみてぇだな。

 よし、珠閒瑠市はこのミッシェル様に任せてくれたまえ。その超特捜課……だっけ?

 そっちに合流しようにも、ボクもバンド活動とかあるからねぇ。

 

 ……ん? ちょっと待て。とすると……もしかして……

 元セブンスの金髪生徒に俺のカス高時代の先輩も……

 それに……タッちゃ……ううっ、頭が…………っ!」

 

「ちょっと!? 大丈夫ですか!?」

 

突然、頭を抱えて苦しみだすミッシェルさん。

俺は慌てて、ミッシェルさんを抱えたまま触手を使って坂上ビルの屋上から飛び降りて

救急車を呼ぶことにした。

その際に、近くに倒れていたヴァーリも見て見ぬふりは出来ぬと同時に運ぼうとしたが

間際で白龍皇の力が戻ったらしく。

 

「ぐ……その力、危険だが……見事だ紫紅帝龍。

 愉しませてもらった礼に一ついいことを教えてやろう。

 今ここ珠閒瑠市には、禍の団(カオス・ブリゲート)の英雄派が来ている。

 曹操率いる一派を、ここに来る前に見かけた。

 まあ、俺が奴らに力を貸す道理はどこにも無いがな。

 貴様の言う通り、聖槍騎士団が聖槍のオリジナルを狙っているというのならば

 奴らの動向にも気をつけろ。俺から言えるのは、それだけだ。

 

 ……そして次こそ、俺が貴様を倒してやる! 赤龍帝共々だ!」

 

それだけ言い残して、救急隊員を突き飛ばすような形でヴァーリはどこかに飛び去ってしまった。

まあ、人間の病院で半悪魔のヴァーリが診られるかと言うと怪しいもんだし、な。

 

それはそうと俺やフリッケン、ついでに兵藤を巻き込むな。ラーメン作ってればいいだろ。

赤と白の喧嘩なんざ、ドライグとアルビオンだけでやってろ。はた迷惑な。

フリッケンはともかく、俺と兵藤はほぼ関係ないだろ。フリッケンもあまり関係ないと思うが。

 

……しかし、禍の団もここにいるってのか。

これは、些かマズいことになるかもしれないな……




色々詰め込み過ぎましたが、セージ白星です。
と言うかいくらヴァーリが原作強キャラでも現時点のセージに負ける要素があまり……
強化しすぎたかも。

>オルタ・アポロ
アポロの変異種。ペルソナって人によって違うので
(3以降顕著、淳のヘルメスと順平のヘルメスは全然違うし、進化先も違う)
セージが強引にアポロ出したという事でこうなりました。
どっかの英霊みたいな呼称ですが、アナザーとすると違うもの出てきそうですし
(一応ネタバレのため自粛、ネタ拾う予定あり)なので。
デザインはアポロガイスト。因みにオリジナルのアポロもアポロガイストがデザインモチーフにあるそうです。悪魔絵師曰く。
当初はゲシュペンストRVとかXNガイストとかも考えたけれど……ゲシュペンスト既にあるし。
アポロ「ガイスト」も幽霊繋がり? いやいやそんな。

>聖槍騎士団の主砲
最近デザイン元ネタの方が影が薄いドイツ艦(追加待ってるよー)。
何にせよ屋内でぶっ放すもんじゃないです。
セージが使ってると艦娘と言うかスナイプLv50にしかならない罠。
ちなみに聖槍を遠慮なくぶちかませたのは半減で距離詰めたのが仇になった感じです。

>アルテルサイクロン
元ネタは帰ってきたウルトラマンより、ウルトラハリケーン。
この世界ではウルトラマン≒アルテルマンですので、必然的に。
空に放り投げて必殺技を当てるという一連の流れも、オリジナルの使い方を意識してます。

>アキシオン・バスター
やっぱこれディーン・レヴじゃなくてリチュオルコンバーターじゃ……
それもイミテイションの方。
都合上ヴァーリにとどめを刺すには至りませんでしたが、スパロボ描写なら確実にHP0にしてます。

>禍の団
学校にテロリスト、そういう妄想はある種のお約束ですが……
おっと、ここから先は、少し未来の話でしたね。


>ミッシェルの記憶
……もしかすると、セージとんでもない地雷踏み抜いたかもしれない。
周防達哉らが戦っていたころ(=HSDD原作開始前)、何が起きていたか。
ペルソナ2原作とは全く同一ではありませんが、もしかすると……


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JOKER Aパート

セージがヴァーリと戦っているその一方で。


余談ですが。
時系列上ライチやキングドリアン、シルフィーは出すのがちと難しいんですよね。
クロスゲートって裏技が無くもないんですが、クロスゲート産ロックシードは
レジェンド枠でやっちゃってるので……
開発の前倒しとかならワンチャン? 斬月カチドキとは訳が違うからそれもなぁ。


珠閒瑠(すまる)市。

10年前、この町ではある「噂」が広まっていた。

 

自分の携帯電話から、自分の携帯電話にかけると

ジョーカー様(JOKER)」なる存在が現れ

 

 

――願いをかなえてくれる(殺人を依頼することができる)

 

 

時を経て、その噂は風化していった。一説には「ストク様」と名を変えて

暫くは語られていたらしいが、それすらも今となっては痕跡が残っていない。

それほどまでに、人間の世界においては「JOKER」なる存在は過去のものであった。

 

…………それなのに。

 

 

「……一体、何のつもりなのかしら?」

 

珠閒瑠市・平坂(ひらさか)区。

改装中の駅ビル「スマイル平坂」を避けて駅前へと移動しようとしている途中の

リアス・グレモリーらの前に、それはいた。

 

赤と黒で彩られた、顔部分が真っ黒の仮面。しかしその口に当たる部分には

白い歯を不気味に輝かせ、血のような赤い唇をした意匠が象られている。

そんな不気味な存在が纏うのは、灰色の学ランに仮面と同配色の道化師を思わせる靴。

 

そんな存在が、リアスらに付きまとっていたのだ。有体に言えば、不審者である。

 

「だろうなァ? 俺に殺されるやつはみぃーんな、そう言った。

 俺に殺しを依頼するって事は、即ち恨みを抱いているって事だ。

 そして恨まれる奴ってのは、恨んでいる奴の事なんか

 これっぽっちも考えたりしちゃいねぇもんだ」

 

風貌からは想像もつかない、音割れしたような声色で、どこか狂気を孕んだ口調。

それはリアスのよく知る悪魔とも、リアスが少ししか知らないデーモン族とも違う。

 

「私を殺す……禍の団(カオス・ブリゲート)あたりの刺客かしら?」

 

「依頼人の秘密は厳守だ。それに俺がてめぇを殺すのは『噂』で決まってるんだ。

 何故かって? そいつぁな……

 

 俺こそが願いを叶える怪人『JOKER』なんだよ! ヒャーッハッハッハッハッハ!!」

 

狂ったような笑い声を上げながら、抜身の刀を振り回す怪人。

気づけば、似たような怪人はさらに増えていた。

しかし、それはまるで廉価量産型のように、頭の仮面は安っぽい紙袋に

同じような口の意匠を描いただけと言う

安っぽさの中にある種の不気味さを孕んだものであった。

 

「姫島朱乃、木場祐斗、それにアーシア・アルジェント。

 てめぇらも殺してくれって願い、理想ってのがあってなァ?

 俺はてめぇらに恨みはねぇんだが、これも『噂』で決まってるんだ。悪く思うなよォ?」

 

まるで映画館のサラウンド音声のように響き渡るJOKERの声。

個人的な殺意によるものではない、淡々と告げられる死刑宣告。

意思のほとんどないはぐれ悪魔の相手が殆どだったとはいえ

戦闘経験も少なくない朱乃や木場はともかく

アーシアはまだそこまでの敵意を向けられることには慣れてはいなかった。

 

「わ、私を……!?」

 

「私はもとより、朱乃や祐斗、ひいてはアーシアまで殺そうっていうの!?

 あなた、一体どういうつもりなのよ!?」

 

「言ったろ、『噂』でそう決まってるってな。てめぇらも可哀想になぁ。

 なまじてめぇらの『死』を望む奴らがいるもんだから、俺が来る羽目になっちまったんだ。

 恨むなら、てめぇらの『死』を望んだ奴を恨むんだなァ?

 俺は『噂』に従ってそいつらの『願い』を叶えてやってるだけだ」

 

噂などと言う、リアスにとっては不確定要素に他ならない要因だけで

自分たちを殺そうとするJOKERに、リアスは呆れると同時に闘志に火が付いた。

JOKERのその気配は、明らかに人間ではない。いや、人間であったとしても

自分たちに害をなす神器(セイクリッド・ギア)持ちや聖剣使い、祓魔師と言った人種であると判断したのだ。

見てくれはともかく。

 

「そんなふざけた理由で、私の朱乃や祐斗、アーシアを殺させはしないわ!」

 

「失礼なガキだな、俺はふざけちゃなんかいねェよ。

 てめぇらへの殺意、それは紛れもねぇ本物だ。聞かせてやろうか?」

 

JOKERが右手を翳すと、そこから無数の怨嗟の声が聞こえてきた。

 

 

――何でこんな奴が。

 

――こいつのせいで、私たちは苦しい生活をしている。

 

――何がグレモリーだ。何が領主だ。私たちは苦しんでいるのに、助けてくれないじゃないか!

 

――グレモリーなら助けろ! 情愛の悪魔だろう!?

 

 

流れ込んできたのは、グレモリー領に住む悪魔達の怨嗟の声。

彼らのうち、誰がJOKER呪いをしたのかはわからない。或いは、全員がやったのかさえも。

そこは頑なにJOKERは口を割らなかった。

 

ただ一つ言えるのは、今リアスと対峙しているJOKERは、一人だけの願いではなく

多くの願いが一つに集まって顕現しているという事である。

取り囲んでいる量産型のJOKERにしても、対象がリアス以外になったというだけで

ただ一人の願いから成り立っている存在などではない、という事は確かに言えるのだった。

 

 

――汚らわしい。その体で男子を誑かして地位を得ているんでしょう?

 

――なんでこんな奴が学園で人気なのよ。私の方が……!

 

――先生にも色目を使っているんですって? なんてふしだらな!

 

――何で? 兵藤なんかのどこがいいの? 特別扱いするなら他に……

 

 

「これは……私、そんなことは……そんなつもりじゃ……!!」

 

「朱乃、しっかりしなさい! こんな雑音は――」

 

 

――いけすかねぇ。てめぇに優しくされるだけで、俺は惨めになるんだよ!

 

――どうせてめぇ以外の男なんかここじゃクズなんだ。

  てめぇと宮本だけ助かろうったってそうはいくか!

 

――如何にも自分は関係ないみたいなそのすかした態度、気に入らねぇんだよ!

 

――宮本が兵藤達を制裁しても、てめぇがいる限り俺達に明日はこねぇんだよ!

  俺達男子はこの学校にいる限り永遠に女子の奴隷だ! てめぇだけ生き残ろうったって!

 

 

「これは……まさか、駒王学園の……!?」

 

 

――聖女ぶってるくせに、悪魔なんだって……?

 

――なーんか、まるで色々な男に色目使ってるあばずれみたいよね。

 

――聖女様でございって面してても、結局あいつらと同じ悪魔なのよね。それに……

 

――天使だろうと悪魔だろうと、結局人間を食い物にしてるじゃねぇか。

  どっちにもおべっか使って、そこまでして生き延びたいのか?

 

 

「違います! 私は、私は……!」

 

 

JOKERが流した声には痛み、苦しみ、悲しみ、憎しみ、蔑み、妬み、怒りと言った負念が

これでもかと込められていた。それはJOKERが願いを叶える際に生じたエネルギー。

そのエネルギーで、JOKERは具現化している。

そう言う意味では、かつてJOKERを指し示したように罪が形を成したる存在と言えるだろう。

 

「違わねェよ。今のぜェんぶ、俺にてめぇらの殺しを願った連中の、心の声なんだぜ?

 俺は『噂』で『願いをかなえる怪人』って風に決まってるからよォ。

 心の声を聴くことくらい、余裕で出来るんだ。

 でなきゃ、本当に願ってることなんざ叶えられねぇからな」

 

リアスら悪魔も、人の願いを叶える。だが彼女等は、人の心の声など聞かないし、聞けない。

その点においてはJOKERが上手と言えるが、本当に上手と言い切れるかは疑わしい。

人の心を聞いたとて、それが「本当に望んだこと」かどうかは話が別だ。

心の声の一部分を拡大解釈して、JOKERに都合よく解釈された上で願いを叶えられたのでは

それは本当に望んだことを叶えてもらったとは言い切れないのだ。

 

ただ、悪魔が「命は等価値ではない」を合言葉に願いの履行を拒否することがあるのに対して

JOKERは一切そのようなことをしない。本当にどんな願いも叶えてしまうのだ。

ただし、願いを言えなかった者や分不相応な願いを告げた者は

「叶わぬ夢なら見ない方がまし」とばかりに夢見る心ないし

生きる意志を奪い取り、廃人にしてしまう。そういう意味では、悪魔とは一長一短だ。

 

「許せない……! 願いを叶えるなんて言っておいて、こんな邪な……!」

 

「ヒャハ? おいおい、てめぇがそれを言うかァ? 願いに清純も邪もねぇだろうが。

 ただあるのは、その願いに対する『情熱』や『純粋さ』だけだぜ。

 『一念岩をも通す』、って言葉があるんだが……知ってるか?」

 

JOKERの言葉に、リアスは押し黙る。

実際に言葉を知らなかったのもあるのだが、JOKERの例えには心当たりがあったのだ。

兵藤一誠。彼こそ邪な願いと情熱や純粋さを兼ね備えている好例だったのだ。

 

「てめぇが俺を糾弾するのは勝手だ。だがなァ、そいつは他でもない『矛盾』だぞ?

 忘れるなよ。てめぇが願いを叶えようとしてる奴もまた、俺に願いを言う奴の同類なんだよ。

 てめぇが俺を、俺に願った奴らを糾弾するって事はな

 てめぇに願った奴への糾弾でもあるんだよ!」

 

抜身の刀を振りかざし、JOKERが吠える。

リアスにも、多少なりとも願いを叶えるものと言う矜持はあった。

しかしそれは、目の前のよくわからない同業者に否定されていた。

目の前の不審者の言葉を違うというのは簡単だ。だが、その言葉に真実味があるかどうか。

そこまでとなると、話は別だ。

 

「さて、御託は終わりだ。そろそろ願いを叶えさせてもらうとするか。

 

 ……ヒ……ィハ……ヒャァーッハッハッハッハッハッハ!!」

 

JOKERの振り回した抜身の刀の刃から、光が放たれる。

その光は周囲を巻き込み、建物への被害もお構いなしにリアスらを狙う。

 

その事態に、このままでは危険だと判断したアーシアは咄嗟に魔力で壁を作るが

その壁さえも、光は容易く崩してしまう。

 

「きゃあっ!」

 

「アーシア!」

 

JOKERが放った光。リアスらが知る魔法の体系とはまた異なる異能。

――メギド。イスラエルの丘と同じ名を冠するその魔法は、あらゆる存在に対し

魔法の力で攻撃することができる。

それを防ぐには、魔法そのものから身を守るすべがなければ話にならない。

おまけに、威力も相応にある。故に、アーシアの防護魔法を容易く貫いたのだ。

 

「くっ、こうなったら……」

 

「リアス、ここで戦っては被害が大きくなりすぎますわ。

 何とかして、被害を広げないようにしないと……!」

 

JOKERを迎え撃とうとするリアスだったが、それは朱乃によって制止される。

今リアスらが対峙しているのは駅の近く。それも無人駅じゃない、相応に人の往来のある場所だ。

既に人だかりは出来ており、通行人は無責任にもリアスらやJOKERに対して

スマホを向けている。既にSNSにアップされていることを、リアスらは知る由もない。

 

(なんて無責任な! ここにいたら、巻き込まれるかもしれないってのに!)

 

ふと目に入ったその通行人の態度に、リアスは内心歯噛みする。

多少は「あなた達がいるから私達が戦えない」という思いもあったかもしれないが

損害を大きくしたくない、と言う思いも確かにあった。

 

「けれどバリアは容易く破ってくる……仕方ないわね、私が奴の魔法を打ち消すわ。

 小猫と光実(みつざね)、ゼノヴィアが別行動なのはいいのか悪いのか……わからないわね」

 

偶々この場にいなかった白音、ゼノヴィア、光実がJOKERの標的かどうかは、わからない。

だがJOKERの性質上、邪魔をするのであれば排除にかかるだろう。

遠くに見える廃ビルが揺れているのが、リアスの青い眼に映った。

そこではセージがヴァーリと戦っている。場所を変えるにもあの廃ビルに行くわけにはいかない。

そもそも、自分たちは珠閒瑠市の土地勘が無い。

昔珠閒瑠市に住んでいた一誠がいたならばともかく。

 

「諦めて殺される気になったかァ?」

 

「冗談! あんたみたいな奴に殺されてたまるもんですか!」

 

衆人環視の中、あからさまな不審者を相手に、リアスは戦う決心をする。しかし――

 

「おい、あいつテロリストって報道された……」

 

「本当! なんでテロリストがこんなところにいるのよ!」

 

「逃げろ! ここにいたら巻き込まれるぞ!」

 

リアスの思惑とは全く違うが、蜘蛛の子を散らしたようにばらばらと散っていく野次馬。

そんな彼らの言い分は悪く言えば勝手なものであり、中にはリアスらに対する罵声も紛れていた。

 

「なァ? これでもてめぇらに『死んでくれ』って望んでる奴がいるって話、信じられねぇか?

 ま、無理もねぇがな。俺も手心を加えるなんてことはしねぇし。

 かわいそうになァ、折角だから一思いに殺してやるぜ……ヒャアーッハッハッハッハ!!」

 

振り下ろされた刀は、舗装された地面を容易く砕いていた。

いくらリアスが悪魔で人間より多少頑丈とは言え、この一撃を受けて無傷とはいかない。

JOKERは、間違いなく口先だけの意味ではなく「悪魔をも殺せる」存在なのだ。

 

かつて珠閒瑠市を震撼させた殺人鬼は、ここに「悪魔を殺す存在」として復活を遂げた。

当時を知らぬものは「テロリストを狩る存在」として。

当時を知るものは「いつその刃が自分たちに向けられるか」に怯えながら。

 

珠閒瑠市や、その外部で実しやかに囁かれていた「JOKER復活」の噂は

今ここに実現したのだ。




JOKER!? 冥界にいたはずじゃ……

>JOKER
噂で生まれた実体を持たない存在なので、無数に存在します。
罰では「JOKER呪いをしたものはJOKERになる」と言われてましたが
現状では「JOKERは特定の一人を指すものではない」程度にしか言われてません。

最早淳でも須藤でもなく、「JOKER」と言う存在が独り歩きしているだけのただの怪人です。
中身のない噂から産まれた存在ですからね。

今のところ抜身の刀とメギド位しか使ってませんが、初見殺しのあの技も実装されてます。

>願いを叶えるメカニズム
言いたいことはわからんでもないんですが「命は等価値ではない」って言葉、やはり引っかかるんですよね。
命は生まれた瞬間からそこにあるんですから価値の差もへったくれもない、と自分は思ってます。
それを等価値ではない、なんて言ったら……

この世に生まれたことが消えない罪だとでも?
なら生きることは背負いし罰なんでしょうかね?

理解は辛うじてできても、納得も同意も出来ませんね。
何を思ってそんなことをのたまったのやら。

>JOKERを顕現させるエネルギー
罰にてJOKERは「罪が形を成したるペルソナ」と呼ばれてました。
拙作JOKERは、「願いを叶える」罪ジョーカーと
「殺しを依頼される」罰JOKERの折半として意識しています。
故に、殺人と言う「罪」で怪人体を顕現させる必要があると考え
願いに負念の要素を混ぜ込み、こうなりました。

>邪な、でも純粋な願い
この戦いに正義は無い……は別の話ですが。
この一点はイッセーもブレないと思うんです。邪だけど、純粋。
邪だけど純粋な願いって、方向性変わったら浅倉(ライダーバトルの永遠の存続)も一緒なんですがね……

>JOKERにリアスらの殺害を依頼した人ら
リアスはグレモリー領の住民悪魔で確定ですが、朱乃や祐斗、アーシアは一体。
駒王学園の生徒には違いないんですが……どこからJOKER呪いを?


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JOKER Bパート

丁度いい区切りが無いので長くなりました&眠い頭で仕上げたのであれですが。


「電波だァ!」

 

JOKERが発した魔力の波動は、リアスの頭をかき乱す。

それは認識できない言葉の羅列――言葉のサラダを無理に押し付けられた感覚。

リアスは知る由もないことだが、それはかつて須藤竜也(すどうたつや)と言う

精神疾患を患った青年の頭にこびりついていたもの。

そして宮本成二が不用意な検索をかけた際に流れ込んでくるもの。

何の防護策も持たずに臨めば、発狂は免れないものだ。前述の須藤竜也のように。

 

頭に走る激痛に耐え切れず、金切り声を上げるリアス。

こんな状態では滅びの魔力を行使するどころか、普通に動くことさえままならない。

 

「この程度で壊れてんじゃねぇぞ。

 てめぇらに食い物にされて、苦しめられた奴らはもっといるんだ。

 今送った電波はなぁ、俺に依頼してきた奴のたった1割程度だ。

 だが安心しろ。残りの9割を一気に送るなんてことはしねぇ。

 てめぇにゃ『何で自分が殺されるのか』をはっきり分からせてやる。

 一思いに殺してやるのは、それからだ」

 

さらにJOKERは掌で転がしていた小物を放り投げる。

小物からは光が放たれ、それと同時に空間にファスナーのついた穴――クラックが開く。

それは、インベスの出現兆候と全く同じものだった。

そして、JOKERがクラックにあるものを放り投げる。

 

「なにも俺がこの手で殺す必要はねぇしな。さあ、精々逃げ惑いな!

 悪魔をけしかけてやろうかとも思ったが、悪魔に悪魔をけしかけてもつまらねぇしな。

 だから、てめぇらに相応しいもんを用意してやったぜ。

 さあ選べ。そいつらの餌になるか、その餌の苗床になるかをなァ!」

 

JOKERが呼び出したもの。それはインベス。

アインストと同じく、異界から現れる意思疎通の図れない侵略者。

初めから異界に存在するものと、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に適合できなかった

転生悪魔の成れの果てと二種類いるが、この両者は収斂進化の果てに

ほぼ同一の存在となったという見方がなされている。

違いと言えば、後者は曲がりなりにも悪魔であるため、悪魔特効が有効であることくらいか。

 

しかも、JOKERは同時にヘルヘイムの果実――ドラゴンアップルも投げ込んでいる。

これはインベスの主食でもあり、これを摂取したインベスはさらなる力を得る。

摂取量や質など、条件が整えば初級インベスと呼ばれる灰色の外殻に覆われた姿から

動植物、果ては幻獣を思わせる姿をした所謂「上級インベス」へと進化を遂げる。

当然、その力は初級インベスとは比べ物にならず、中には巨大化するものもいるという。

 

「リアスは……駄目ね、まだ戦える状態じゃない。

 アーシアちゃん、部長をお願いね。祐斗君、戦える?」

 

「勿論です。今光実君達にも連絡したところです。

 出来ればセージ君にも来てほしいところですけど、今は……

 布袋芙先生にでも来てもらいます?」

 

彼我戦力差。これは実際のところ、あまりにも悪すぎる。

リアスや朱乃を2ないし3としても、JOKERが一人当たり少なく見積もったとしても

同等にある。そして今しがたJOKERはインベスを召喚した。

このインベスも上級であるため1と計算するには些か無理がある。

そもそも、リアスは戦える状態に無いため戦力として計上できない。アーシアもだ。

単純に考えて、朱乃と木場で対処せねばならず

とてもじゃないが戦線維持が出来れば御の字と言ったところだ。

 

「そう思って、私も先生を呼んでみたんですけれども、応答が無くて……

 ならばとイッセー君に呼び掛けてみたんですけど、こちらも応答が無くて……」

 

「何ですって、それは本当ですか!?」

 

朱乃から突き付けられた非情な宣告。応援が来ない。

 

布袋芙(ほていふ)ナイア、兵藤一誠――応答がない。

 

紫藤イリナ――ナイアと繋がらない以上、呼び掛ける術がない。

 

宮本成二――ヴァーリと戦闘中。

 

「……そうだ! ギャスパー君! 彼ならば!

 副部長、ギャスパー君を呼んでください!

 こっちに来ていないですけれど、もうこうなったら……!」

 

ギャスパー・ヴラディ。

リアスの眷属で、「僧侶(ビショップ)」。引きこもりがちなダンピールでもあり

一時は引きこもりは改善傾向にあったが、昨今の悪魔に対する風当たりから

引きこもりが再発。今はグレモリー邸の自室に引きこもっており

殆どミリキャスやその母グレイフィアとしか話していない。

 

彼もまたリアスの眷属であり、ダンピールであるのだから

それなりの力は持っている。そして、今や彼の力にも頼らざるを得ない状態だ。

 

「そうですわね。私がなんとか呼んでみますから、祐斗君は敵を!」

 

使い魔も用いた総力戦、と言いたいところだが直接戦闘が得意な使い魔は

アーシアの蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)位しかいない。朱乃の小鬼も、木場の小鳥も

直接戦闘ではてんでダメである。初級インベスにさえも歯が立たないレベルだ。

上級インベス相手では何をかいわんや。

魔力さえあれば復活できるが、デコイにするのも憚られる。

そこは彼らの美徳であり、甘さであった。

 

「……お願いします!」

 

「――鳴り響け!」

 

蒼雷龍の電撃と、木場の雷の剣。

二つの相乗効果で、インベスはどうにかできている。しかし、JOKERとなると話が別だ。

振り回す刀を木場が凌ぎ、そこに蒼雷龍の雷が放たれるが

これはJOKERに対する決定打にはまるでなっていないのだ。

殲滅戦には向くが、大物狩りには蒼雷龍は力不足であった。

 

「そういや『白』い方の俺の管轄だがよォ、マッサージしてほしい、なんて奴もいたなァ。

 電気マッサージがご所望でな。今の喰らって思い出したぜ」

 

「……その君に願いを言った人は、どうなったんだい?」

 

「さァ? 今言ったが、それは『白』い方の俺の管轄だ。俺は知らねぇよ。

 ただ、JOKERってのは願いを叶えるもんだ。悪いようにはしてねぇさ。

 

 ……満足できなくなって、中毒か依存症起こしてるかもしれねぇけどな!

 ヒャハハハハハハッ!!」

 

JOKERが口を割らなかったために朱乃が知ることは無かったが

このマッサージを願った人物こそ、かつて駒王町が襲撃を受けた際に難を逃れた

朱乃の契約者であった社長であった。

 

「……いいや? 依存症は起こしてねぇな。何せ電気マッサージ受けたのをいいことに

 調子が戻ったのか、事業の立て直し図ったらしいがうまくいかなくてな。

 また『白』い方の俺に願ったんだ。『会社を元通りにしてくれ』ってな。

 勿論、そいつも叶えてやったさ。JOKERにできねぇことは無い。

 『噂』でそう決まってるからよォ。会社も無事立てなおってめでたしめでたし。

 

 …………じゃねぇんだよ!

 願いを叶えるには代償ってもんがいるよな?

 てめぇらが命の価値で叶える願い決めてるみたいによォ!

 JOKERだってタダで願い叶えてるわけじゃねぇんだぞ!」

 

「…………ま、まさか…………!!」

 

これまた朱乃の知らないことであったが、JOKER呪いをした結果

その社長は人が変わったようになり、マッサージと称して命に係わるレベルの

電気ショックを社員に与える、さながらホラー映画の追跡者のような存在となり

JOKER――怪異が絡んだことにより超特捜課によって社長――元社長は逮捕。

会社は当然のことながら倒産している。

 

「代償が払えなければ、願いは御破算だ。そして願いを叶えるにあたって

 一人一枚の切り札を二枚も使う不正を働いた。罪には、罰を与えなきゃあな?

 イカサマはバレなきゃいいとは言うけどよ……

 ディーラーは『黙って見過ごしてやってる』んだぜ?

 そして頃合いを見計らって不正を暴く。そこまで含めて駆け引きだ。

 不正を働いたプレイヤーには、退場してもらわないと不公平だもんなァ?」

 

JOKERはここまで、一言も件の元社長が朱乃の契約者であることを話していない。

そこは個人情報の守秘義務として頑なに言わないのだ。

曰く「今はコンプライアンスがうるせぇからよ」とのことだが。

 

「殺人鬼でもコンプライアンスを気にするんですのね」

 

「殺人鬼だからこそさ。非合法組織程、そういう取り決めには厳しいもんだろ。

 そういや電波が言ってたなァ……てめぇらのところもホワイト企業だってよ」

 

ホワイト企業。通常ならば誉め言葉だが、JOKERの言うそれは

全くほめている風に聞こえない。寧ろ、その温さを批判しているようだ。

 

「褒められても、嬉しくありませんわね!」

 

「だろうなァ。俺も褒めてねぇしよ。なんでこれから殺す奴褒めなきゃならないんだ?」

 

JOKERと対峙しながらも、余裕の態度を崩さない朱乃。

しかし、それははったりであることをJOKERには見透かされていた。

朱乃が繰り出す雷の魔法も、JOKERには有効打になっていない。

それどころか、JOKERが呼び出したインベスの一撃を喰らってしまう。

そこまで注意が働いていなかった朱乃は、直撃を受ける形になってしまった。

 

「ヒャハ? おいおい、脆過ぎるだろ? まさか敵が棒立ちで攻撃受けてくれると思ったのか?

 攻撃に対する備え位、しておけってんだ。

 おっと伏兵仕込んでおいて、なんて言うなよ? こっちは命取るつもりで来てるんだ。

 殺すために伏兵仕込むくらい当然のことだろうが。

 

 ……それとも。まさかてめぇ『自分たちは殺されない』なんて

 生温い考えで戦ってたんじゃねぇだろうなァ?」

 

 

――図星だった。

 

朱乃も、リアスも、もっと言えばリアスの眷属全員

戦いにおいては命の危機とは程遠い環境にいたのだ。

精々、コカビエルとの戦い位であろう。レイナーレは当時のイッセー以外相手が格下であったし

ライザーはレーティングゲームと言う「命の安全が保障された環境での戦い」。

リアスが人質に取られた会議の襲撃も人質と言う性質上

命の安全自体はある意味保証されていたのだ。

 

アインストもインベスも、意思疎通ができないという一点においてはぐれ悪魔の延長線上であり

無意識のうちに格下に見ていた。覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)騒動の際も

相手がイッセーと言うただ一点において、命のやり取りと言う意識が欠落していたのだ。

唯一命の危機に晒されたのは、聖槍騎士団との戦いくらいだろう。

その聖槍騎士団にしたって、手心を加えられていたのだ。

実際には朱乃が堕天使に由来する光の力を行使しなかったことで

聖槍騎士団の側も命までは取らなかっただけの話だが。

 

「ヒャハァ! それだそれだよ! 俺に願った奴らが口を揃えて言ってやがった!

 『自分たちはお前達とは違う』ってなァ! それが気に入らないから奴らは俺に願ったんだ!

 誰しも持ってる『優越感』『選民思想』! 隠してるつもりかもしれねぇが

 そうすることで却って透けて見えてんだよ!

 溜飲を下げるためにそうだなぁ……てめぇらのスナッフフィルムでも

 動画サイトにばら撒いてやろうかァ?」

 

かつて珠閒瑠市で流行したJOKER呪いと、冥界で流行したJOKER呪いには

伝搬に大きな違いがあった。動画サイトの存在である。

そこに突然、JOKER呪いの標的になった者の末路を映した映像がアップされるのだ。

それは冥界のネットのみならず、人間界のネットにも上げられていた。

当然、処理される内容なのだが、それが却って噂の伝搬を早め

JOKER呪いの流行やJOKER復活説の後押しとなったのだ。

 

「『白い』俺には悪いがよォ……てめぇらみたいな『自分たちは周りとは違う』と

 信じて疑わない連中や、それを取り巻く『底辺共の歪んだ向上心』。

 てめぇら悪魔が向上心をダシに契約取るのと何が違うんだ?

 そんな燻った感情、夢ばっか追い求めてる『白い』俺より俺が来る方が道理だろ?

 ま、てめぇらも『白い』俺の同類みてぇなもんだがな」

 

「!! 私達は、あなたのような殺人鬼とは違いますわ!」

 

「『白い』俺だっつったぞ。『白い』俺は殺しをしねぇ。

 逆らう奴や契約の不履行、違反に制裁をしたりはするがな。

 それでも命までは奪わねぇ。ただ、夢見る心を奪うだけだ。

 夢も満足に持てねぇ奴が夢見る心なんか持ってても宝の持ち腐れだろ。

 しかも俺は命や魂を全て平等に扱う。てめぇらみたいに価値もねぇなどと一蹴したりもしねぇ。

 てめぇらの願いを叶えるなんて口上はな、結局ただの自己満足なんだよ!」

 

刀の切っ先を眉間に突きつけながら、JOKERが吠える。

そのまま朱乃の顔を両断しようと刀が振り下ろされようとするが、そこに割って入った者がいた。

 

赤い血の代わりに、赤い髪がはらりと宙を舞っていた。

 

「リアス!?」

 

「……っ、はあっ、はあっ……さっきから聞いていれば、勝手な事ばかり……!」

 

肩で息をしながら、滅びの魔力で刀の切っ先を逸らしたリアス。

しかし、完全に逸らすには至らずに、自分の髪の一部分を切り裂かれている。

しばらくして、頬にも微かに赤い糸が走り、血が滴る。

 

「……ふーむ。ま、電波超える位はやってもらわな興醒めだわな。

 やっぱあっちの刀持ってくるべきだったか。

 あれじゃ一発で終わっちまうからつまらねぇんだがな」

 

仮面で顔は見えないが、息を切らしたリアスに対し余裕綽々のJOKER。

しかも口ぶりから、本気でないことが窺える。

JOKERにしても、殺す前の余興と言ったところでリアスらの相手をしていたにすぎず

本気で殺すつもりならば、もう少し場所やシチュエーションを選んでいた可能性もある。

その証拠に――

 

「ぶ、部長! 助けに来ました!」

 

グレモリーの魔法陣が展開され、中から少女の如き姿の少年――ギャスパーが現れ

即座に視界に入ったインベスの動きを神器を用い、止める。

 

〈ブドウスカッシュ!〉

 

そのインベスの背後には、紫色のエネルギー弾が直撃し

JOKERが召喚したインベスは爆発四散した。

別行動をとっていた光実(みつざね)――アーマードライダー龍玄の攻撃だ。

 

「ギャスパー! 光実!」

 

「白音さんは避難誘導も兼ねて廃ビルの方に行きました。

 後はインベスとこの怪人を撃退すれば良さそうですね」

 

セージへのメッセンジャーとして坂上ビルへと向かっていった白音。

しかし、別動隊にはもう一人いた。それこそが――

 

「――だああああああっ!!」

 

「――チィッ!!」

 

大剣・デュランダルを上段から振り下ろしながらJOKERの頭を狙ったゼノヴィア。

しかし、その攻撃はぎりぎりで躱され、JOKERに一撃を加えるには至らなかった。

精々、JOKERの刀をへし折り仮面に罅を入れた位だ。

 

「ゼノヴィアさん!」

 

「すまん、手ごたえは無かった……」

 

JOKERの持っていた刀の切っ先が地面に突き刺さり

ここにイッセー、ナイア以外のリアス眷属とゼノヴィア、光実が集結する。

インベスもギャスパーや光実の加勢で撃退され、形勢は逆転した。

 

「……ほーぉ。やるじゃねぇか。ま、インベス如きやった程度でいい気になられても困るけどな。

 だが俺の顔に傷つけたことだけは褒めてやるよ…………

 

 

 …………なんて言うとでも思ったかァ!? よくも俺の貌に傷をつけてくれたなァ!?

 ゼノヴィア・クァルタ!! てめぇの依頼は受けてねぇが、ついでにてめぇも殺してやる!

 覚えとけ!!」

 

「クァルタ……だと……?」

 

ゼノヴィアは入国の際に、パスポートの都合上で母国で世話になっていた

シスター・グリゼルダから許可を得て、クァルタ姓を名乗りはした。

だが、それ以降は下宿先の伊草姓を名乗っているし、行政に申請しているのも伊草姓だ。

したがって、「この世界に」ゼノヴィア・クァルタは存在しないことになる。

 

それなのに、JOKERはゼノヴィアの事をクァルタと呼んだのだ。

 

「待ちなさい! ただでここから帰れると思っているの!?」

 

「笑わせんなリアス・グレモリー! どの道てめぇらは殺す……殺されることになってんだ。

 精々JOKERに狙われているという事実に震えながら過ごしやがれ……

 

 ヒ……ィハ……ヒャハ…………

 

 …………ヒャーッハッハッハッハッハッハ!!」

 

捻じ曲がった空間の向こうへと消えていくJOKER。

紙袋のJOKERも、いつの間にか消えていた。

消える瞬間、JOKERの仮面が崩れ落ちたが、その中にあったものは

全くの無の中に浮かび上がる、赤い唇に白い歯を輝かせた、不気味な笑い。

ただその口唇のみが無の中に浮かび上がっている、不気味なものであった。

それは、仮面の下の貌を持たない聖槍騎士団を彷彿とさせる不気味さであった。

そして、消える間際にJOKERは造花を投げ寄越してきた。

 

「これは……造花? ロベリアに……」

 

「タンジーに、オレンジ色のユリ……ですわね。

 JOKERのチョイスだとしたら、趣味の悪い花ですわ」

 

「ロベリアが『悪意』、タンジーが『宣戦布告』だったかしら。

 そしてオレンジ色のユリは『憎悪』。

 

 ……本当に、私達も恨まれたものね」

 

駆けつけたギャスパーだったが、花言葉で突き付けられた言葉には怯んでいる。

しかしそれでも、インベスを倒すために尽力したのは間違いないので

そこは呼び出した祐斗や朱乃らや、インベスにとどめを刺した光実が賞賛していた。

図らずも合流する形になったギャスパー。

しかし、JOKERに狙われているという事実だけは覆せない。

そして、何故JOKERはゼノヴィアをクァルタ姓で呼んだのか。

謎を抱えたまま、リアスらはホテル・プレアデスへと戻るのだった……

 

 

――その一方。光実らがリアスの元へと向かっている頃。

白猫の姿で坂上ビルへと向かっている白音を目で追っている影があった。

その影は、コートのように改造した駒王学園のブレザーを纏い

左手には、辞書のようなものを携えていた。

その体躯は長身で、大柄とも言える影――少年の眼は――

 

 

――血のように真紅で、邪悪な笑みを浮かべていた。




途中から朱乃も戦線に加わっているのは召喚までの時間稼ぎです。

>JOKER
はい、お察しの通り聖槍騎士団と同じで中身空っぽです。
淳はなりっこないし、須藤も故人。不特定多数の誰かって事もあり得ますが
今回のJOKERはマジで聖槍騎士団と同一の根源です。
なので「何で知ってるの?」なことも知ってます。

>上級インベス
ただの強い雑魚。一応ライオンとかその辺想定してますが。
罰ではヘルハウンド、ミノタウロス、シャックス等召喚してましたが
本文中で触れてる通り悪魔に悪魔けしかけても……ですし
デーモン族使役もなぁ、と思いインベスを。流石ザルドラシル。

>社長
朱乃の顧客。森沢さんと同じく殺されてた方がましだったかもしれない末路。
JOKERの影響で人格が変化してホラー映画の殺人鬼みたいなことになってしまいました。
超特捜課に逮捕されましたが、その後収監された際に影人間化。
看守からも認識されなくなりましたが、行動不能と同義ですので当然脱獄不可どころか
釈放さえもされなくなるという……
拙作でもモブキャラに厳しいじゃないですかやだー!

……そういや、原作でも収監の際に影人間になった人間当然いるんだろうなぁ。
中盤で警察爆破されるけど。

>クァルタ姓
拙作では最初入国の際にパスポート問題で名乗っただけですが
何故その名前がここで出て来るのか。JOKERの出自を考えると
「向こう側」をにおわせているかもしれませんが拙作での「向こう側」って……

>造花
JOKERが混じった結果、黒にも白の影響が、白にも黒の影響が。
須藤は須藤で花言葉にも造詣が深い可能性がありますが
このJOKERは須藤の個性をエミュレートしてますが須藤じゃないです。
花言葉は一応調べてますが、諸説あるのでそこはご容赦を……

>白音を狙う影
凄く、どこかで見たことのあるような特徴です……


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Will24. ディスの兆し Aパート

近況
少し糸が切れています。


珠閒瑠(すまる)市・平坂(ひらさか)区。

ここのラーメン屋で食事をとっていた俺達の前に現れたのは、なんとそこでバイトをしていた

ヴァーリ・ルシファーだった。

 

偶然にも出会ったヴァーリからの挑戦を受けることになった俺は

辛うじて、この挑戦を退けることができた。

 

 

……しかし、そのために俺は禁じ手ともいえる

アキシオン・バスターを使用してしまったがために……

 

 

――――

 

 

P.M. 15:22

平坂区・カメヤ横丁 コーヒーショップ

 

 

「何故私達に呼び出されたかわかっていますね?」

 

「…………はい」

 

店の一角で、俺は天照様と大日如来様に詰められていた。

圧がすごすぎる。いつぞやの会談の時なんて比べ物にならない程に圧がすごい。

 

「使う時には私か大日如来様に出来うる限り承認を得て欲しいとも言いましたよね?」

 

「…………はい」

 

天照様の顔は笑っているけれど、和気藹々なんて空気は何一つとしてない。

俗にいう圧迫面接って、こういうものの事を言うのか?

 

「私共は何一つとしてあの力が揮われるという話は伺っておりませんが?」

 

「…………はい」

 

震えが止まらない。歯がカチカチ鳴っている。

生きている心地がしない。神の怒りを買ったのだ。どうなることか。

しかも向こうの言っていることは何一つ間違っていない。

無断で力を行使した俺が悪いのだ。相手がああだとしても。

 

「では何故、あの力を行使したのですか?」

 

「…………それは、あの後白龍皇と戦う話になってしまい

 あの力を使わなければ対応できないと判断したために…………」

 

しまった! 何を言っても言い訳にしかならないけれど、これじゃ本当に言い訳だ!

事実だけど、言い訳にしかなってないぞこれ!

我ながら何という失態、やらかしにも程がある!

 

……しかし実際、アキシオン・バスターやガン・レギオン抜きで

ヴァーリが倒せたかと言うと、怪しい。

被害を出さないようには工夫したつもりだけれど、足らなかったという事なのだろう。

 

「私共は起きてしまったことを責めているのではありません。

 あなたが軽率にあの力を使ったわけではないという事も理解しています。

 

 ……ですが、あの力で死者を出してからでは取り返しがつかないことになります。

 あの後、お母様や閻魔様にも協力していただいて、あの力の性質を調べたのですが

 あの力は――」

 

「――あの力の根源は『死』だ。いや、厳密には『死』そのものでは無いが

 極めて限りなくそれに近いと言える。それもただの『死』ではない。

 少し話が脱線するが少年。お前は死生観についてどういう風に理解している?」

 

へ? 死生観? 生きて終いにゃ死ぬってあの死生観?

あまり深く考えたことは無いのだけれども……

 

「生物学的な意味で生きて死ぬってのは大体理解してますが

 死んでからどうなるとか、そういう宗教やスピリチュアル的な意味は全く……」

 

「ま、そうだろうな。と言うか、この日本ならばお前のような考えの人間が大半だろうし

 それはそれでいいと思っている。少なくとも、お前が生きた20年弱でそう学べる程度には

 そういう観点が文化として根付いているって事だ。

 それに、同じ仏教でも宗派によって教えが違うなんてざらだ。

 だからお前のその意見は正しいし、そもそも死生観に明確な正解なんてものは無い」

 

「あの、大日如来様……その話は、長くなるといけませんから要点だけで……」

 

説法が始まりそうになったのを、天照様が制止にかかっている。

それはそれで聞いてみたい気がするのだけれども、あまり話がおして時間を喰うのもなあ。

なるべく早く白音さん達と合流したいし。

 

「む、確かにそうだな。では要点だけ話そう。輪廻転生と言う単語は聞いたことがあるか?」

 

「死んだ後、何かしらに生まれ変わるってアレですよね?

 最近じゃ、転生ってところを拡大解釈した読み物が多く出回っているようですが」

 

そういや、兵藤に勧められたラノベがもろにそういう話だったな。

事故で死んだ主人公が、転生して何かとんでもない力を手に入れる話。

俺の肌には全く合わなかったが、兵藤は挿絵が気に入っていたようだが。

まあ、ラノベなんて挿絵で9割位決まる部分があるとは聞くが……

 

「……一応言っておく。全く違う。そんな都合よく人間は死なないし

 何故死んだ人間に力を寄越さなきゃならないんだ。

 それに魂は人間の特権ではない。『一寸の虫にも五分の魂』など文字通りの意味だ。

 あんなのが罷り通るなら、人間以上に理不尽に死んでいる

 動物や虫、植物なんかどうなるというんだ。

 それに転生は閻魔の正当な裁きを以て……」

 

「大日如来様、また外れてます。おっしゃりたいことはわかりますが……」

 

天照様の冷静なツッコミに、咳払いを返す大日如来様。

いくらか、さっきまでのピリピリした空気は成りを潜めはしてくれたのが助かるが。

しかし天照様もああいうラノベには物申したいのね。そこは不敬ながら安堵。

 

「こほん……すまん。とにかくだ。死んだ後、魂は閻魔の裁きを以て転生の手続きを踏む。

 ……と言う風に、うちではなっているな。つまり、よほどのことが無い限り魂は転生できる。

 生まれてばかりでは世界は腐り落ちるばかりだし、かと言って生まれなければ世界は滅ぶ。

 転生と言うのは、そのバランスを担っている面もあるんだ」

 

「ですが……あなたの持つそのディーン・レヴ。その力の性質を調べさせていただいたところ

 その性質はあまりにも強く『死』に偏り過ぎています。

 それこそ、取り込まれた魂が正しく転生できなくなってしまう程度には」

 

正しく転生できなくなる魂? そう言えば聞いたことがあるような。

そう言う魂は輪廻転生の道から外れた、要するに怨念にしかならなくなるって……

 

 

…………え。ま、まさかそれって…………

 

 

「魂が本来あるべき道から外れるんだ。よくハーデスに目をつけられなかったものだな。

 まあ、こっちもお前の力の話を閻魔や伊邪那美に振ったらいい顔をされなかったがな」

 

「言うなれば、悪魔の駒などで強引に生かしている魂と同じって事になります。

 あれは悪魔の性質を加えることで安定を図っていると推測していますが

 あなたの持つディーン・レヴ。それに取り込まれた魂は

 そういう安定化が一切されていないようなので……」

 

その話を聞いた途端、俺は多分顔面蒼白になっていたと思う。

それに合わせるかのように、背筋はさっきから寒くて仕方がないし

さっきとは別の意味で震えが止まらない。

 

……そりゃあ、ガン・レギオンがあんな禍々しい姿をするはずだし

アキシオン・バスターも撃つときにも物凄い嫌な感じがした。

凰蓮(おうれん)軍曹の言っていたことも、事実とはかけ離れていたけれど

本質として強ち間違いじゃなかったって事か。

 

「もう一度聞くが、お前それをどこで手に入れた?

 それは、俺が思うにこの世に……いや、この世界にあってはならない物だぞ」

 

「ベルベットルームにいる、悪魔絵師です。

 彼もまた、別の世界でこれを手に入れたと話していましたが」

 

「その方から『ディーンの火が、ディスの目覚めを促す』と言う言葉をお聞きになったのでしたね。

 恐らくですが、既にそのディス……そうですね。『ディス・レヴ』としましょうか。

 その兆候は、既に表れているのではないかと思っています。切欠まではわかりませんが」

 

ディス……アモンが言うには、死の神の事だったか。

そう言えば昔、暴走した時にグレモリー先輩に「そのままじゃ怨念になる」等とは言われたが……

まさか、怨念を行使する側になろうとはね。とは言え、話を聞いてる感じでは俺も危ういが。

 

「……悪魔絵師に、これを返しましょうか?」

 

「いや……もうここまで来た以上は引き続き持っていてくれ。対策は俺達も何とか考える。

 前にアモンが触れていたと思うが、もうこの力を記録しているのだろう?

 ただ、これだけは言っておく。その力に依らないお前の力を、なるべく早くものにするんだ。

 そのディーン・レヴとやらが、さらなる進化をするとなれば

 その時こそ、お前の手にも負えなくなる危険性は高い。その抑止力も兼ねてだ」

 

ちょっ……何気に無茶振りしてません大日如来様!?

今の俺の力で、ディーン・レヴ以上を地力で持てだなんて!

思い当たる節は……外的要因の力だけか。精々、白音さんや黒歌さんに教わってる

霊力コントロールが軌道に乗ってくれれば……ってところだが

これでも赤龍帝に勝てるかどうか怪しい代物なのに

それ以上はありそうなディス・レヴ対策になるかと言うと……

 

『セージ。一応言っておくが、俺でも現時点でギリギリだ。

 天照の言うディス・レヴとやらになったら、俺でも対処できるかどうかはわからんぞ。

 

 ……そうなったらフリッケン。お前が何とかしやがれ』

 

『お前も無茶振りするな。だが、大体わかった』

 

急遽呼び出された俺に突き付けられたのは、ディーン・レヴの使用に関する釘刺しと

ディスの目覚めが近いという推測だった。

この状況の打開の一案として、俺はある一つの事を試してみることにした。

 

「そうだ。お二方にお越しいただきたい場所があるのですが」

 

「はい、何処でしょう?」

 

俺は、二柱をベルベットルームに同伴させてみることにした。

ここに来る途中、ベルベットルームの扉が見えたのだ。

確か、俺がいれば鍵のないものでも同伴は可能だったはずだ。

そこで、俺はディーン・レヴの取り扱いについて改めて悪魔絵師に問い質したい。

 

そう思い、ベルベットルームの扉を叩くことにしたのだ。




切りがいいところですので短めです。
次回も多分短いです。

>コーヒーショップ
少なくとも罪罰原作の時点ではない(行けない)お店です。
イメージとしてはド〇ールみたいな場所を想定してます。
なので2000年前後の罪罰時点じゃなくても当たり前。

何故ス〇バじゃなくドト〇ルか、ですって?
スタ〇でこういう話は普通にしづらいかと。〇トールも大概ですが。

>死生観
主観入ってますが、こういう認識で話を進めています。

>転生
セージが触れてるのは、まあ、言わずもがな。
ここでイッセーが悪魔転生に抵抗が無い下地としてこういう話を。
一応パチモンボール以外にもサブカルは広く浅く触ってる感じですし。
現実世界の技術や文化に合わせて原作(特にHSDD)を改変している部分がありますので
HSDD序盤頃に異世界転生が流行っていたら取り入れられていたかもしれませんね。

……やたら無節操にパロの多い原作ですが、ここに来てヒットしてるからって鬼滅パロ入れたら
流石にドン引きするかも……
あれ明らかにHSDDとは真逆の作風だと思いますし。

因みにまた異世界転生に対して思う所は大日如来様に代言させてしまってます。
異世界召喚に対するシラカワ博士の言葉は是非頭の片隅に入れていただきたく。

>ディス・レヴ
偶然の一致ですが名前出ました。
まだディス・レヴそのものでは無く、クロスゲートで負念取り入れた結果
疑似ディス・レヴになった程度ですが危険性に変わりはなく。
HSDDがやたら神器関係でヤバさを謳ってますが、こっちも対抗策としてヤバいものが続々と。
図らずも、血を吐きながら続けるマラソンになってしまってる気はします。

一応セージの修行の促しもありますが、この辺マジで匙加減難しい。
あんまり強化しすぎて原作イッセーみたいにするのも不本意ですし。
一応白音とミッチは強化フラグ立ってますけれど。

……セージの味方にアタッカー少なすぎる問題。
なんで指揮官役がアタッカー兼任してるんですかね。

……比較対象が赤龍帝って時点で、色々おかしいかもしれませんが。


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Will24. ディスの兆し Bパート

お待たせしました。
ちょっと最近何事にもモチベが上がらない状態ですが
ロシアの戦艦とドイツの重巡とイタリアの駆逐艦は来ました。


「ようこそ、ベルベットルームへ……」

 

鼻の長い主人との挨拶もそこそこに、俺は悪魔絵師に話を聞いてみることにした。

そう言えば、女教皇のカードがやけに力を帯びているような気がするが……

 

あれ? そう言えば天照様と大日如来様は?

などと思う間もなく、悪魔絵師の話は始まったが。

 

「……そうか。やはり、ディスは目覚めようとしているか。

 僕の知っている話では、それは黒き銃神の力の源だった。

 確かに、ディス・レヴは輪廻から落ちた魂――まつろわぬ霊の力を基に動く。

 より正確には、魂が輪廻から外れる際に生じる力を変換しているらしいが。

 ああ、らしいというのは僕もメカニズムはわからないからね。

 言い伝えは聞いていても、メカニズムは僕の専門外さ」

 

「魂そのものを力にしている訳じゃない……?

 しかし、俺はこれを使った際に言いようもない不快感を覚えたのですが。

 それこそ、物凄い負念に支配されてしまいそうな」

 

俺の言葉を聞いて、悪魔絵師のサングラスの奥の眼の色が変わった……気がした。

口元も、普段のクールな笑みを崩してやや真剣な表情に変わった風にも思える。

 

「もしかしてだが……君、あの地獄門(クロスゲート)を通らなかったか?

 僕もあの地獄門を詳しく知っている訳じゃないが、あの中には負念が渦巻いているらしい。

 最も、僕の知るものとは違っているようではあるけれどもね」

 

「入りましたが……何か、それが原因で不具合でも起きましたか?」

 

俺の答えに、確信を得たかのように悪魔絵師は頷いていた。

不可抗力とは言え、やっぱクロスゲート入ったのはマズかったか……?

 

「僕もここで聞いた噂に過ぎないが、ディス・レヴには類似した性質を持つものがあるらしい。

 それは別なる世界で生み出されたものだが、かなり近い世界でもある。

 その近い性質を持った物と、惹かれ合ったのかもしれないな。

 また、黒き銃神は様々な世界を渡り歩く。君に宿るマゼンタの光のようにね」

 

『…………世界の通りすがりか、或いは因果律の番人か』

 

黒き銃神とその操者がこの世界に顕現するには因子が全く足りていないようだが。

と付け加えた上で悪魔絵師は話していた。

フリッケンとも関連があるかのような話しぶりだが、これは多分フリッケンそのものじゃなくて

フリッケンの在り方についての関連性だろう。

フリッケンも「自分は通りすがりだ」って言ってるし。

 

「だが、君がディーン・レヴをディス・レヴにすることで

 君はその黒き銃神の代行者となる資格を得ることになる。

 彼の者が顕現できずとも君が近い力を揮う事は、出来るはずだよ」

 

「……力を得られたのはありがたいのですが、俺はそこまで大それたことは……」

 

嘘偽りのない本音だ。正直、無限大百科事典(インフィニティ・アーカイヴス)でさえ持て余し気味だというのに

これ以上の力をどうしろと言うのだ。そりゃまあ、オーフィスとかと戦うのなら

必要な力かもしれないが……オーフィスを、俺に如何こうできるとは思えないし

そもそも、そこはもう俺の出る幕ではないような気もする。

 

「で、話を戻すがそれは恐らく地獄門に漂う負念を多く取り込んだが故に起きた事象だろうね。

 それによって、まだ目覚めこそしてないが今のディーン・レヴは

 限りなくディス・レヴに近い性質を得てしまっている。

 今取り込んでいる力を出し切れば元に戻るかもしれないが、それでも浄化は必要だろうね」

 

浄化? 出来るのか? 確かにあんな危険なものをそのまま扱うよりは

安全性を増して使う方がいいに決まっている。結果威力が落ちても、安全性には代えられない。

危険な力で暴走して自滅するだけならまだしも、それで周囲を巻き込んでは洒落にならない。

そう考えていると、後ろから声をかけられた。

 

「少しよろしいですかな? 力とは、心があって初めてその真価を発揮するものです。

 あなた様が思っておられるほど、力とは恐ろしいものではありません。

 ですがその慎重さは、あなた様がこれから手にするであろう力を扱う際には

 必要になることかもしれませんな」

 

慎重……じゃないと思う。かなり思い切った事をしたし。しかもついさっき。

俺の力……俺だけが強くなっても仕方ないだろう。

それに、ただ力を手に入れただけで強くなるんだったら苦労はしない。

俺は単純に機能拡張すれば利便性を増す道具じゃないんだ。

それをどう使うか、そこまで含めての力だろう。

 

「さて、それはそうと。少し女教皇のカードを見せてはくれないか?」

 

「え? あ、はい」

 

悪魔絵師に言われるがまま、俺は絵柄のない、番号だけが振られた女教皇のタロットを差し出す。

まじまじとそれを眺める悪魔絵師。一体何だろう。

 

「なるほど。真なる絆を得たというわけではないけれど、力の方向性は決まったようだね。

 ラフでよければ、このカードに絵をかかせてもらってもいいかな?

 完成させるには、まだ少しばかり力が足りないみたいだ。

 

 ……それに、この絆の力はもしかするとディス・レヴへのカウンターにもなるかもしれない。

 そのためにも、僕としてはラフで申し訳ないけれど一度絵を描かせてもらいたいのだが」

 

ディス・レヴへのカウンター……本当になるかどうかはわからないが……

物は試し、か。やってみよう。

 

……にしても、本当に天照様と大日如来様はどこに?

 

「わかりました、お願いします……しかし、このカードは貴重なのでは?」

 

「心配はいらない。昔は何百枚と同じものがあったし、何百枚と描いたこともあるからね。

 そのことを思えば、簡単なものさ。だから、僕の保管用と合わせて2枚描くことになるけれど。

 ああ、僕の保管用は僕のフリータロットを使うから、安心してくれ」

 

女教皇のカードを悪魔絵師に渡すと、彼はそのカードをキャンパスに見立て、絵を描いていく。

手際の良さは、まるでどこかのイラストレーターのようだ。

瞬く間にカードに全体像が浮かび上がった……

のだが、それはモノクロのラフスケッチだ。完成には程遠い。

 

確か記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)によると、女教皇のカードのモデルは実在したローマ教皇、ヨハンナ。

しかし、そこに描かれていたのはまるで違う。

太陽を象った冠をつけたポニーテールの女性が天を指差している。

この顔つきはアジア系のそれだ。ヨーロッパ系のヨハンナとは全然違う。

 

……あれ? この絵のモデルに、ポーズのモデルって……

 

「これは驚いたな。これならば、このカードを媒介にして俺達の力を行使できる」

 

「そうですね。些か、私の力の方が強く出てしまっていますが……」

 

そうなのだ。このカードの絵のモデルは天照様。

ポーズは恐らく、事あるたびに天を指し「お釈迦様は言っていた――」と仰っていた

大日如来様のものだろう。

 

……って、突然した声に驚く。お二方今までどこに?

 

「お二方? 今どちらに?」

 

「……案内してもらって悪いんだが、どうも俺達はこの空間じゃうまく顕現できないらしい。

 今はこのカードがあるお陰でお前と意思疎通が図れるようだが」

 

ベルベットルームでは顕現できない?

まあ、この部屋自体かなり不可思議な場所ではあるし……そういうもんか。

納得している俺に、悪魔絵師が語り掛けてくる。絆……か。

正直、未だにピンと来ていない。

 

「絆は、特定の個人にだけ生じるものじゃない。集団に対する関連性もまた、絆の一種だ。

 絆は得てして不可視のもの。それを具現化し、力に変える手助けを僕らは執り行っている。

 イゴール老人から、説明があったとは思うけれどね」

 

つまり、今回は集団――神仏同盟を代表して天照様をモデルに。

そこに大日如来様の要素が加わった感じか。

確か、神仏習合で同一視されてもいたんだっけか。

 

「出来れば、真なる絆を以て完成させたいところだったけれど

 今の君のディーン・レヴの様子を見ていると、そう悠長なことを言っていられないようだしね。

 ただし、何度も言うがそれはあくまでも未完成品だ。僕にも絵師としてのプライドがあるし

 是非、そのカードを完成させるためにももう一度ここを訪れてほしい。

 なに、気長に待たせてもらうよ。ここでは、時間は意味を成さないからね」

 

俺はラフの描かれた女教皇のカードを受け取り、改めて記録再生大図鑑にセットし直す。

少し、力が強くなった感じはするが……今一よくわからない。

回復(HEALING)」のカードと「時間(TIME)」のカードに何か影響があるようだ。

ここで試すわけにもいかないが。特に後者。

 

「さて。そちらの用事が一段落してすぐで恐縮ではございますが……

 改めまして、カードを拝見させていただいてもよろしいですかな?」

 

「あ、どうぞ」

 

改めて、俺はイゴールにフリータロットを提示する。

確か前回は女帝と皇帝……あいつらに関する絆が絶たれているような事を言われたんだっけか。

 

「ふむ……やはり。人は生きる上で、様々な絆を紡いでいきます。

 それは積み上げられ、時には崩れ、その繰り返しで大きく広がっていくものでございます。

 さて、今のあなた様のご様子は……

 

 ……『3』番――女帝のカードに力が戻ったようでございますな。

 後はご存じのように『2』番――女教皇。そして『5』番――法王、『11』番――正義。

 さらに『8』番――力に進展を感じます。ですが……

 

 ……『4番』――皇帝は変化が無く、『10』番――運命も

 いずれ大きな分岐点を迎えるやもしれません」

 

……察しのついた女帝と皇帝、今回判明した女教皇以外はほんっとうにわからないなこれ。

まあわかったらわかったで、力目当てに人付き合いをするって事になりかねないから

それは人付き合いとして何かおかしい気がするし。

 

しかし……女帝、つまりグレモリー先輩との関係が改善された?

そりゃまあ、昔ほどの嫌悪感は感じなくはなったけれども。

だからって別に仲良くするつもりは無いんだけどな。

 

……そもそも、住む世界も、何もかも違う。白音さんや黒歌さんにも言えることなんだが。

 

「ふむ。改善に思う所がおありのご様子。それも無理からぬことですな。

 しかし絆とは、何も近くにいなければ育まれるものではありませぬ。

 絆の形は千差万別。連綿と続く心こそが、絆を体現するのでございます」

 

……うん。俺も記録再生大図鑑使ってる関係上頭は自分で言うのも烏滸がましいが

悪くはない、寧ろいい方だとは思ってる。だけどこの爺さんの言う事はやはりよくわからん!

 

「今、現世を覆わんとしている昏い影は、一人一人の影や悪意そのものの雛型ともいえる存在。

 それに立ち向かうには、誰か一人の力ではどうにもなりませぬ。

 あなたにおかれましても、一人で戦っているわけではないという事を

 努々、お忘れなきよう……」

 

……なるほど。ディーン・レヴにせよ、ペルソナにせよ

積極的に力を集めているのはニャルラトホテプを相手にすることを想定しているな。

俺に言わせば、力で制圧されるのも、内側から制圧されるのもどっちもヤバいと思うが

内側はまあ、対処が難しいだろうしな。だが、内側――ニャルラトホテプを相手取るのに

ディーン・レヴみたいな単純な力でどうにかなるものなのか?

 

「強い力を、正しく扱えてこそ強い心は育まれます。

 強い心が無ければ、強い力は扱えませぬし、そもそも力を持つ前に

 その強い力に己が取り込まれてしまうでしょうな。

 荒療治かもしれませぬが、かの悪意に一度は膝を屈した前例を我々は知っております故

 此度はこうした荒療治を執り行わせております」

 

なに? ニャルラトホテプに……負けた?

よくこの世界は何事もなかったもんだ。或いは、もう既に何か起きているのか?

 

……いや、そりゃ起こり過ぎてるくらい色々起きているが

周防巡査が言うにはニャルラトホテプと戦ったのは軽く見積もっても十年前には一度あった事柄。

イゴールの言う事が事実だとすると、その時に負けた? だが、周防巡査は現に健在だし

この世界だって別段どうかなったわけでもなく、そもそも十年前は俺とて生まれてる。

そんな世界的大事件があった記憶はない。ない……はずだ。

まあニャルラトホテプの不滅性を考えるとそれ以前に起きた話という仮説が十分成り立つし

今回その件について考えるのはやめよう。

そもそも、周防巡査はニャルラトホテプに勝ってるんだ。

 

「では、その荒療治の一環として俺にディーン・レヴを?」

 

「そうなりますな。しかし現時点でこれほどまでとは我々としましても想定外。

 今後とも、出来うる限りのサポートはさせていただく次第でございますので

 以後よしなに……」

 

納得はいくけどさ……なんで俺なんだ、って疑問は未だにある。

とは言えそれを気にしてもどうにかなるものでもないし

まかり間違って兵藤とかにディーン・レヴが渡ったらそれこそとんでもない話だ。

持たされたからには、責任持たなきゃなるまい。それが勝手な期待だとしてもだ。

 

「さて……前回ナナシとベラドンナが忠告しておりましたが

 いよいよあなた様も大きな試練を迎える時が来たようです。

 油断されることの無いよう、お気を付けくださいませ……」

 

前の忠告……「俺が敵として俺の前に現れる」だったか?

前は眉唾物だと思っていたが、再度こうして言われるとなると……

 

…………マジ、なんだろうな。

 

どう、戦えばいいのか。

自分の手札はわかっているから、そこを把握すれば……だろうが

ここで態々忠告されるって事は、そう言うただの戦いではあるまい。

まあ、不安にばかりなって尻込みしていても仕方がないし、そんな暇もあるまい。

無意識で俺は左手を擦りながら、イゴールの言葉に耳を傾けていた。

 

「さて……そろそろお時間のご様子。

 では、また新たな絆を育むまでの間、しばしの別れですな……」

 

目の前の空間が歪み、青い扉が開いたと同時に、俺は外に放り出されていた。

今回は直接来たからか、意識を飛ばすようなことは無かった。

一応両手の掌を見ながら無事を確認したり、周囲を見回しているが

ここは確かにカメヤ横丁だ。後ろの扉は、綺麗さっぱり消えているが。

 

念のため、俺は記録再生大図鑑に収納されているフリータロットから一枚抜いてみる。

女教皇のカードだ。

 

確かに、ここには今までなかったラフスケッチが描かれている。

これだけで、実際に起きた出来事であるという事の証左となるはずだ。

つまり、あの警告も本当の事なんだろう。手の打ちようが無いが、今更だ。

 

「セージ! ここにいたのね!」

 

声のした方を振り向くと、グレモリー先輩が駆け寄ってきていた。

他に誰もつれていないところを見ると、一人で来たのか?

あんた顔写真付きで報道されてたのに、よくそういうことするよな。

今回ばかりは認識阻害魔法も大目に見るけどさ。

 

……しかし、やけに慌てた様子だな。何かあったのか?

 

「……何かあったので?」

 

「やはり。その様子じゃ、小猫――白音には会っていないようね」

 

は? 俺はヴァーリとの戦いの後に神仏同盟のお二方に呼び出し喰らって

その後ベルベットルームに入って、今出てきたところだ。

この一連の流れの中で、白音さんも白猫も見てない。

 

「白音さんがどうしたので?

 ……もしかして、俺を迎えに来ていたとか?」

 

「そうよ。事態が落ち着いたからあなたを迎えに行ったはずなんだけど……

 だけど入れ違いになったとしても、帰ってくるのが遅すぎるわ。

 いくら土地勘のない珠閒瑠(すまる)市だからって……」

 

「……ちょっと、由々しき事態ですな。

 グレモリー先輩は先にホテルに帰っててください。俺が探してきます。

 いくら認識阻害魔法使ってるだろうからって、あまり動かれても目立ちますんで。

 市民はともかく、禍の団(カオス・ブリゲート)とかその辺には」

 

その見てくれのせいでな、とはさすがに言わないでおいた。

それに、探し物なら俺の得意分野だ。俺も土地勘は無いけど。

そのこともあって、俺は念のために周防警部にも連絡を入れておいた。

 

 

……しかし、その結果は手掛かりゼロ。

日も暮れてホテルに戻った俺を待っていたのは、白音さんがまだ帰ってきていないという

事実の突き付けだった……




ほらフラグ回収しちゃう。

>ディーン・レヴに近いもの
魔装機神Fより、リチュオルコンバーター。
或いはスパロボOGMDより、イミテイション・リチュオルコンバーター。
セージの現状的には後者のが性質は近いです。

>因子が足りない
来なくていいです。

のはさておき、いくら何でもこの世界にバルシェムもイングラムもユーゼスもアストラナガンも持ってくるのは……

なので来なくていいです。たぶん。

>負念の浄化
これが無いと感想欄で指摘のあったセージ闇堕ちフラグになりかねないのがまた。
返答では無いと言いましたが、フラグになりそうな要素は結構あるんですよね……

>フリータロット
罪罰原作とは仕様が異なってます。
既に魔術師~世界の番号は振られている仕様で、セージの行動に応じて力が集まっていく仕様です。
で、それに合わせて悪魔絵師が絵を描いて完成。こんな流れです。

……原作で場合によっちゃ一度に何百枚と描いた金k……悪魔絵師マジスゲー。
4コマでもネタにされてたけど。

>女教皇
天照様はいいんですが、大日如来様は絶対違うアルカナなのはわかってますが
神仏同盟って括りで見ると……
多分今後こういうのが出てくると思います、悪しからず。
現時点では能力ブースト(パッシブ)とカード能力強化(パッシブ)って感じですかね。
あとクロックアップ。

>イゴールの言ってること
まあ、P5みたく……ってなことはありませんので。
彼に限らずなんですが、ベルベットルームの住人の言葉は大体抽象的過ぎて。
3以降の力の管理者組もぶっ飛びすぎですし。ドアボーイの弟が良心位ですかねあれ。

>ニャルに負けた?
P2履修済みならば言わんとすることはお判りでしょうが
この世界でそれが起きたかどうかと言うと……?
だけど、世界はこうして存在しているし、セージもそんな記憶はない。
だけどナチスが昔来た話もあるし……
セージは「それよりもっと前」と解釈しているようですが
それでもニャルに負けた=世界滅亡となると矛盾が。

>シャドウ
一応認識はしてますが、正体もわからない、ただ漠然とあるという事だけしか教わってません。
これだけでもかなり大きなヒント貰ってるんですが……

>曹操英雄派
触れてませんが、遠回しに警告してます。
あの場で「曹操英雄派が潜伏してる」なんて言っても
リアスが興奮する可能性があったので。敢えて遠回しにしか言ってません。


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Will25. 帰らぬ白猫

そろそろ書きたい場面に近づいてきたので一度筆が乗りさえすれば


「……そんなガキは見てねぇ。とっとと帰んな」

 

「白髪の女子? それがし、とんと見てござらぬが」

 

「おうっ、悪いねぇ兄ちゃん。そんな子はうちには来なかったぜ」

 

…………珠閒瑠市をくまなく探したが、白音さんの行方は全くつかめなかった。

これ以上は集合時間もあるので、先生や警察に任せるよりほか仕方がない。

異郷の地で迷子になる。その心細さに思うところはあるが……くそっ。

 

 

――――

 

 

P.M. 08:44

珠閒瑠(すまる)市鳴海区 ホテルプレアデス・ロビー

 

 

「まだ戻ってきていない!?」

 

「そうなんだ……警察にも話は伝わっているからすぐに見つかるとは思うけど」

 

夜、ホテルのロビーに戻ってきた俺を待っていたのは

白音さんが戻ってきていないという事実だった。

この時間になっても戻ってきていないとなると、確かにただの入れ違いではあるまい。

事件性も、考えうる可能性としては否定しきれまい…………チッ。

 

――次の瞬間。俺の左頬に拳が突き刺さった。

事態を把握するのに少し時間がかかったが、犯人はすぐにわかった。

 

「セージてめぇ! てめぇがいながら小猫ちゃんが誘拐されるなんてどういう事だ!」

 

……参ったな。言い返せない。

まだ厳密には誘拐されたって決まったわけじゃないが

この状況では誘拐されたって考えるのも無理はない。

俺だってその可能性が高いと見てるし。

 

……俺がいながらこのザマってのは、本当だよ。

 

「やめなさいイッセー。まだ小猫が誘拐されたって決まったわけじゃないわ」

 

「だけど部長! 現に小猫ちゃんは帰ってきてないし!」

 

「……誘拐は断言できないにしても、俺がいながらっていう意味では

 兵藤は然程間違ったことは言って無い。その件については面目次第もないな……すまん」

 

まさかグレモリー先輩に助け船を出されるとは思わなかったが

兵藤の言う事もそれほど間違いじゃない。

そりゃまあ、どう注意しろって話はあるにしてもだ。

ヴァーリとの戦いで、注意が散漫になっていたのかもしれないし。

それにヴァーリが言うには禍の団(カオス・ブリゲート)がこっちに来ている。

奴らが白音さんを誘拐するという事は考えうる話だ。

簡単に手に落ちる、ってのもそれはそれで考えにくいが。

だが聖槍騎士団はともかく、他の英雄派はその構成員をほとんど知らない。

能力的に相性が悪ければ起こりうるか。

 

「……ヴァーリの挑発に乗らなければ、こうはならなかったろうな。

 その点において俺の判断ミスだ。すまない」

 

「謝る相手が違うよ、セージ君。その言葉は白音さんに取っておくといい」

 

俺の謝罪は、祐斗に窘められた。これもまた祐斗の言う事が正しい。

まあ、仲間を危険な目に合わせてしまったという事でここの皆に謝るのも道理だとは思うが。

……まあ、案の定と言うか兵藤はさっきから俺を睨んでいるが。

 

「言い合いはその位にするんだ、君達。

 特にイッセー君は手を上げたことについてはセージ君に謝るべきだね。

 夜も警察が捜索を続けてくれるそうだ。

 だから明日の七姉妹学園(セブンス)での授業については予定通り出てくれ。

 心情的にそれどころじゃないかもしれないけれど、学生として果たすべき役割は果たしてくれ」

 

「うっ……だけど先生……」

 

何か言いたそうにする兵藤を、目力だけで黙らせる布袋芙(ほていふ)先生。

一応、兵藤から心のこもってない形だけの謝罪は受け取ったので

こっちも相応の態度で返すことにしたが。

それに、布袋芙先生の言う通り今回は一応合同学習会と言う名目だ。

それをサボるわけにもいくまい。

 

……学籍のない兵藤は、ともかくとして。

 

「それじゃあ、そろそろ消灯時間だ。各自部屋に戻るように、いいね?」

 

布袋芙先生の号令で、俺達はバラバラとそれぞれの部屋に戻ることになった。

俺も、同室の兵藤を見張る形で部屋に戻る。相変わらず、向こうはいやな顔を見せているが。

 

部屋に戻るなり、兵藤は部屋を出ようとしたが流石にそこは俺が止めた。

グレモリー部長の部屋にでも夜這いに行こうとしたんだろ。させるか。

 

……などと思っていたら、まさかその逆でグレモリー先輩が俺達の部屋に来た。

おい待て。本当に何考えてやがる、どいつもこいつも。

 

「イッセー、セージ。起きてた?」

 

「ぶ、部長!? お、起きてましたとも!」

 

「……疲れてるはずなんですが、寝付けなくて。何ですかね?

 白音さんを探しに行くというなら、悪いですがお断りさせていただきます。

 現状でまともに動けないのに、万が一返り討ちに遭うような事態は避けたいですし。

 それにさっき祐斗に聞きましたよ。また変な奴らと遭遇戦したそうですね。

 そいつらが出てこないとも限りませんし」

 

我ながら薄情だが、さっきからどうも本調子じゃない。ディーン・レヴの影響だろうか?

皆目見当もつかんが、そんな状態で出歩くのはリスクが高い。まして、禍の団もいるってのに。

 

「セージ! てめぇ小猫ちゃんが心配じゃないのかよ!?」

 

「消灯時間だ、声がでかい」

 

「てめぇっ……!!」

 

また殴られそうになるのを覚悟するが、それをグレモリー先輩が制止する。

妙にグレモリー先輩の物分かりがいいな。失礼かもだが偽物じゃあるまいな?

 

「やめなさい。セージの言う事も一理あるわ。

 セージが来てくれれば心強いは心強いのだけど

 本人にその気がないのを押し切るわけにはいかないわ。特にセージはね」

 

「フン! こんな奴がいなくても俺がいれば……」

 

やけに物分かりがいいな、グレモリー先輩。

話が早いのはこっちとしても助かるからいいが。

それにな、俺だって一刻も早く白音さんは助け出したいんだよ。

手掛かりゼロで闇雲に動いてもしょうがないからじっとしてるだけだ。

 

「まあ、小猫の件は話半分だから気にしないで頂戴。

 探しに行けるに越したことは無かったのだけど。

 それよりイッセー。あなたに聞きたいことがあるの」

 

俺が首を縦に振らなかったから話がぽしゃったか。それはちと悪いことをしたかもな。

だが、ミイラ取りがミイラになる様な事態は今は特に避けたい。

一応夕方に探しているときにレーダーで探知は試みたが、全然反応示さなかったし。

 

……いや、これだけでかなり事件性疑えるよな。

事件性疑えるからこそ、慎重にならざるを得ないというのもあるが。

ヴァーリの証言とか色々考慮に入れると、最悪禍の団と真っ向勝負、それも人質付き

なんて事態が起こりうる。

 

だがそれよりも、俺はグレモリー先輩が兵藤に聞きたいことがあるという

その内容の方が気になった。

 

「…………?」

 

「あなた、朱乃の呼び出しに答えなかったそうね? 一体どういう事かしら?

 あなたには言ってないけれど、確かに私はおざなりにされることに怒りはしたわ。

 だけど、朱乃の呼び出しを無碍にしていいとは言って無いわ。

 答えなさい。場合によっては、然るべき対応を取らざるを得ないわ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ部長!? 俺、こっちで朱乃さんと一緒にいたんですよ!?

 俺、てっきり朱乃さんの呼び出しってその件だと思って……」

 

なに? こいつが嘘をついていないとなると姫島先輩が二人いるって事になるのか?

俺はその大変な場所に居合わせてはいなかったが、話が全く噛み合って無いぞ。

 

「おい兵藤。俺はヴァーリと戦っていたから姫島先輩の動向までは知らんが

 お前、ホテルで姫島先輩と何やって……ま、まさか……!」

 

「そ、そ、そんなわけねーだろ!?」

 

ビンゴかよ。しかしそうなるとますます解せん。少なくとも今日行動を共にした姫島先輩は

こいつとヤることに後ろめたさを覚えていたはずだ。だのにここでヤったと?

 

「……イッセー。嘘ならもっとマシな嘘を……」

 

「嘘じゃないっすよ!? 俺は間違いなくここで姫島先輩と…………その…………」

 

「や、言いたくないなら無理に言うな兵藤。

 お前は間違いなく、姫島先輩といたんだな?」

 

俺の予想なら、無理に聞き出したら聞き出したでまた不具合が起きそうだ。

だったら、いっそ伏せておいた方がいいだろう。

出来れば姫島先輩といたって確かな証拠が欲しいが、ちと無理臭いな、これ。

今日一緒にいた姫島先輩はやけに瞳の色が赤かったが

まさか兵藤がそんな細かなところ見てるとは思えないし。

 

俺の記憶では、姫島先輩の瞳は赤くなかった気がするが……これだってうろ覚えだ。

どっちの姫島先輩が本物か、立証できない以上平行線で話を進めるよりほかない。

 

 

……もう一つの可能性として、もう一人の俺がいるであろうように

もう一人の姫島先輩がいる、って事だがこれだって推測に過ぎない。断言ができない。

そもそも、もう一人の――だってそれによる弊害がまるで分らんし。

 

 

「そう言ってるだろ。とにかく、俺は朱乃さんといたんですよ」

 

「……はぁ。私だって朱乃といたし、ラーメン屋に入るまではセージも一緒にいたわ。

 そういう意味ではアリバイを証明できるって点において私が優位よ」

 

「じゃ、じゃあナイア先生に聞いてくださいよ!

 先生なら俺が朱乃さんと一緒にいたところを知ってるはずですし!」

 

布袋芙先生の名前が出た途端、またグレモリー先輩の表情が険しくなる。

しかし、すぐに表面上は平静を取り戻して念話で布袋芙先生に問い質しているようだ。

 

 

「…………疑ってごめんなさい、イッセー。

 確かにナイア先生もあなたが朱乃といるところを見たと言っていたわ。

 だけどそうなるとおかしいのよ。私達も朱乃と行動を共にしていたし」

 

「ああ、それは途中までだが俺がグレモリー先輩の証人になれてしまう。

 俺がその点において嘘を吐くメリットも理由もない。

 いや、俺でなくとも祐斗や光実、アーシアさんやゼノヴィアさんが証人になれる。

 

 ……腑に落ちんが、今は兵藤も俺達も姫島先輩と行動を共にしていた。

 とするより他仕方ないな。グレモリー先輩。難しいかもしれませんが

 今後兵藤を呼び出す際には姫島先輩以外が行っては?

 またこんなおかしなことになりかねない」

 

俺の提案に、グレモリー先輩も黙って頷く。その方がいいだろ。

今回、何故か二人いる姫島先輩が呼び出したもんだから混乱の原因になったみたいだし。

 

……本物がどっちかを見つけ出すのも、重要になるって事か?

 

「……ふぅ。ちょっと疲れちゃったわ。さっきナイア先生に念話使ったことで

 私がこっちにいる……と言うか、部屋の外に出てるのがバレちゃったし。

 セージ、私達の部屋に来て肩もみなさい」

 

「お断りします。兵藤に頼めばいいでしょう。それに俺も疲れてるんだ」

 

グレモリー先輩の要求に対して、俺は秒で即答した。

相変わらず過剰なスキンシップを持ち出してくるな。肩もみがそうだとは……難しいところだが。

そしてそういうのは兵藤に…………

 

…………といつもの癖で言ってしまったが、こいつは確か…………

しかし一度発した言葉を飲み込むこともできないし、撤回するのも変な話になってしまう。

案の定、兵藤はやる気になっている。のだが。

 

「あら残念。ならいいわ。アーシアにでも頼むから」

 

「え……っ。そんなぁ~」

 

一瞬驚いた表情を見せた兵藤だが、すぐにいつもの調子に戻る。

触れないことに駄々をこねてる様子だが

お前、姫島先輩や紫藤に肩もみどころかもっと凄いことしておいて今更だぞ……?

あとグレモリー先輩。兵藤への当てつけか何か知りませんが俺を巻き込まないでくれ。

 

投げキスをして、俺達の部屋を後にするグレモリー先輩の背中を、俺達はただ見送った。

兵藤が部屋まで送ろうとしていたが、消灯時間後という事と

俺の監視から外れる事は認められない事と、まさかとは思うが送り狼になられても困るので

当然のことながら制止した。

 

「なあセージ。俺、部長に何か悪い事したか?」

 

「一番大きな心当たりはあるがな。言ったところでお前止めないだろ」

 

言うまでもない、俺も立ち会う羽目になった姫島先輩や紫藤との一件の事だ。

まさかと思うが、布袋芙先生まで……となると本当にこいつは

よくそんな態度でグレモリー先輩に対して気があるような素振りができるもんだ。

スケベとは思っていたが、よもやここまでとは思わなんだ。

 

……これ、グレモリー先輩は諦めた方がよくないか? 姫島先輩や紫藤とヤりまくっておいて

その上グレモリー先輩とヤるなんて、虫が良すぎるだろ。

ヤることを目的としないプラトニックなお話なんて、こいつにできるとは思えないし。

 

ま、だからって俺がグレモリー先輩と……なんて、世界が滅亡してもあり得ん話だが。

 

「け、けどそれは部長とのために!」

 

今思わず兵藤の顔面をグーでぶん殴ろうとした。

殴らなかった俺をマジで褒めてもらいたいもんだ。

流石に、これはグレモリー先輩が可哀想になってきた。

まさか他の女とヤることのダシにされてるなんて。

言って聞くとは思えないが、一応忠告だけはすることにした。

 

「それ本気で言ってるなら、考え直せ。お前は性欲満たすのに惚れた女をダシにするのか?

 そもそも、何で他の人とヤるのがグレモリー先輩のためになるんだよ。

 俺には理解できない発想だな。さて、さっきも言ったが俺も疲れてるんで寝るぞ。

 

 ……だが俺が寝たからって妙な気は起こすなよ?

 俺が席を外してる間の監視も頼んであるんだからな?」

 

「…………チッ」

 

なんだその舌打ち。こいつまさか、姫島先輩か紫藤辺りに

夜這いかけるつもりじゃなかったろうな?

警察の人にも監視は頼んでいるが、一応俺も目を光らせておいた方がいいかもしれない。

そう思いながら、俺は表面上は兵藤に背を向けて寝ることにした。




R-18部分の話がちらほら出てますね。
まだ投稿はしてませんが、案の定以前来なかった理由は……でしたし。

そして噛み合ってない話。やはり朱乃もシャドウが紛れ込んでるみたいですねえ。

>冒頭の三人
ペルソナ2より、東亜ディフェンスの口笛店主と
ピースダイナーのアルバイト(当時)、がってん寿司の板さん――ミッシェルの親父です。
やる気のないボーイとか罰ではリストラされたアニマムンディのマヌカンとかも
出そうと思いましたがだらだらしそうなので却下。

因みに口笛店主は二代目、時代劇口調の店員はバイトからチーフマネージャーに出世してます。

>合同学習会
忘れてるかもしれませんが、一応これが名目です。
ただ、学校にテロリストが来る~なんて妄想は多くの人がしたかと思います。
禍の団がテロリスト扱いなのも、そこからかもしれませんし。

……でもなんで、奴ら珠閒瑠市に来たんでしょうかね。

>リアス
イッセーとセージの間で揺れ動き始めてますが、セージに対してはまだ憎しみも抱いてます。
愛憎入り混じった感情、って奴です。

……イッセーがだらしなさすぎる、ってのが大きな要因かもしれませんが。

>イッセー
曰くホテルで朱乃といたらしいですが。何をしていたかはR-18のお話ですのでご容赦を。
彼にしてみればセージのポカで白音が誘拐された(?)ので怒るのもさもありなん。
相変わらず手が出るのが早いですが。

でも実は何気に、ナイアに忠告されたことあまり守れてないような……
ナイアの側も守らせる気は無いっぽいですけど。


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Heroes Entry

年内最後の投稿です、当たり前ですが。
特別編とかでもよかったんですが、通常投稿の方が「らしい」と思いまして。

ネタはあるんですよね、forXの方も。
そちらも楽しみにされている方はお待たせして申し訳ないのですが。


A. M. 05:13

珠閒瑠(すまる)市港南区 廃工場跡

 

まだ日も暗いこの早朝の時間帯。

かつて悪魔が巣食ったとも、マフィアのアジトとも噂されていた廃工場のあった跡地。

今やここは買い手もつかないまま荒れ果てた更地となっているが

そんな場所にローブを纏った男女が数名佇んでいた。

 

「けっ。いつまでこんなみみっちい真似しなきゃならないんだ。

 ゲオルク、てめぇはいつもの格好とほとんど変わらないから息苦しくないだろうけどよ」

 

明らかに身の丈に合っていないローブから筋骨隆々な肉体を覗かせた巨漢が

ローブを纏っていても違和感のないであろう魔法使いらしき男に声をかける。

その声色は、あからさまに不服そのものであった。

 

「仕方ないでしょう。ここ珠閒瑠市は駒王町とは勝手が違うんです。

 私の『絶霧(ディメンション・ロスト)』だって今しがた展開を終えたばかりですし

 それだって不十分なんですよ。

 あのクロスゲートとやらが動いている限り、『絶霧』も一時凌ぎにしかならないでしょうが」

 

ゲオルクと呼ばれた男は、手に持った魔導書を擦りながら嘆息するように語る。

実際、現在の珠閒瑠市の市境には朝靄に混じる形で霧が立ち込めており

内外との行き来が不可能な状態になっている。

 

 

――それは奇しくも、十年前にシバルバー(アメノトリフネ)と呼ばれ物理的に成層圏にまで浮かび上がった

珠閒瑠市の区域と合致していたのだが、ゲオルクはこの事を知る由もなかったのだが――

 

 

「これで赤龍帝も白龍皇も、この地に封じ込めることが出来ました……が。

 曹操、一つ聞きたいのですが」

 

「何だ、ゲオルク」

 

曹操と呼ばれたローブから漢民族の如き服装を覗かせる青年に、ゲオルクは問いかける。

まるで、曹操こそ彼らのリーダーであるかのように。

 

「今更ニ天龍にこだわる必要などあるのですか?

 私の得た情報では白龍皇は殆ど争いから身を引き

 赤龍帝も社会的にほぼ抹殺されている状態。我々が手を下さずとも……」

 

「そうでもないさ。ニ天龍は存在そのものが人類にとって害悪だ。

 神器(セイクリッド・ギア)が目覚めていようがいまいが、復活を――活動を阻止するためにも

 所有者には死んでもらわなければならない。

 それが世界を平和にするより確実な方法だ。俺にはその力がある。

 俺は、この力を使ってこの荒廃した世界を平和にしたいんだ。

 それが英雄として生まれた者の役割だからな」

 

演説をするかのように、この場に集まっている面々に語り掛ける曹操。

英雄。この単語こそが彼らをここに集めた言葉であると言えよう。

ここにいるものは皆、大なり小なり神器によって

どん底の人生から這い上がろうと足掻いてきた者たちである。

 

「何だっていいさ。俺は暴れられればそれでいい。

 特に蔓延ってる悪魔とかを潰すのが気分がいいんだ」

 

「右に同じくよ。私の中に響くのよ、邪悪なるものを滅せよ、ってね」

 

巨躯の男――ヘラクレスと集団の紅一点と思われる存在――ジャンヌは

ともすれば過激ともいえる言動をしているが

今の時代、この世界においては彼らの方こそが主流の考えなのであろうか。

 

しかし、それならば何故彼らは超特捜課と合流しないのか。

それはこの場にいる彼らが皆一様に海外からやって来たことに由来する。

超特捜課はあくまでも日本の組織。海外ではちょっとしたネットニュースにこそなれども

母体が警視庁である以上、日本国籍を有さない彼らは合流のしようが無いのだ。

後方支援組織たる蒼穹会ならば抜け道はあったかもしれないが

それは超特捜課以上に海外では無名だ。

 

「もっと言えば、超特捜課とだってやり合ったっていい。

 ジャパニーズ・ポリスはヘタレの集まりだって聞いてたが

 あいつらは様々な悪魔とかをぶっ潰してるそうじゃないか。俺らとそう変わらないのによ」

 

「ハッ。あんたが警察と一緒なんて、警察に失礼よ」

 

「んだとジャンヌ!? 俺のどこがヘタレだってんだよ!?」

 

ジャンヌの単純な挑発に食って掛かるヘラクレス。

その様は大男総身に知恵が回りかね、を地で行くようであった。

とは言えジャンヌもそうは言いはしたものの、本音はヘラクレスに同意していたりする。

超特捜課。それは彼らに言わせれば英雄でも何でもない一般市民が

悪魔などと互角以上に戦っているというある意味、彼らの存在意義を

根幹から揺るがしかねないものであるからだ。

英雄の名を冠し、英雄派を名乗る彼らにしてみれば超特捜課は人間でありながら

目の上のタンコブともいえる存在だったのだ。

 

「よさないか。作戦決行前に自分たちで争ってどうする?

 それに、そろそろ協力者を迎えに行ったアーサーと天草が戻ってくるころだぞ」

 

ゲオルクに窘められ、ヘラクレスとジャンヌの喧嘩は呆気なく幕を下ろす。

この場にいる曹操ら4人の他にも、アーサーと天草と呼ばれる存在や

協力者がいることがゲオルクの口から明かされる。

彼らが属し、掲げているお題目を考慮すればよくない集団であることは明白である。

 

「……曹操。アーサーや天草は構わないですし

 幼いからとレオナルドを置いてきたことは納得できますが……

 ……やはり、あの彼らと手を組むことはどうしても承服できません。

 もっと言えば、何故アーサーが彼らの手引きをしているのか。私はそこからして疑問です」

 

「彼らも我々と志を同じくするものだ。その答えでは不服か?」

 

先刻喧嘩の仲裁をしたゲオルクが、今度は己がリーダーたる曹操に対し意見をしていた。

彼は今回の協力者と歩調を合わせること自体を忌み嫌っていた。と言うのも――

 

「私もゲオルクに同じ。いくら何でも、ナチスと手を組むことは無いじゃない。

 あいつらは英雄でも何でもない、ただの侵略者よ。

 それなら超特捜課と協力した方が、よほど納得がいくわ」

 

そう。彼らの協力者とはフューラーの率いる軍団であったのだ。

ハーケンクロイツを徽章とし、ナチスが用いていた兵器の数々を近代化改修させたものを用い

かの指導者を想起させてならないフューラー・アドルフの存在と言い

ナチスそのものと言っても過言ではない程にナチスを想起させるものなのだ。

ヨーロッパ系であるゲオルクやジャンヌが抵抗を示さない方がおかしい。

 

「彼らも禍の団(カオス・ブリゲート)にて英雄を名乗っているのだ。英雄同士、協力し合うのが筋だろう。

 それにジャンヌ。超特捜課はあくまでも一般人。我ら英雄が庇護しなければならない存在だぞ。

 肩を並べて戦うなど……」

 

「ああ、俺はまどろっこしいことを考えるのが嫌いだからな。

 アーサーや天草の紹介なら間違いない。そうだろ、曹操?」

 

曹操の語ることは、ある意味的を射ていたが、同じ人間を見下すというその様は

ある意味悪魔や天使、堕天使と言った三大勢力のそれよりも醜悪であると言える。

その言葉に、渋々承服するジャンヌとゲオルク。

一方、ヘラクレスは組む相手がナチスの系譜という事さえも意に介していない様子であった。

 

半ば強引に話が纏められているうちに、曹操らの下に人影がやってくる。

曹操らと同じローブを纏った青年が2人と、顔のない仮面をつけた白い軍服の女性。

ローブ姿は曹操らの仲間、女性は聖槍騎士団の1人であり、彼女らのリーダー格でもあった。

 

「曹操だな。今回の共同戦線に際し、総統閣下からお言葉を預かってきた。

 『此度の作戦に際し、是非一度お会いしたい』……とな。

 その協力の証として、我ら聖槍騎士団以下禍の団英雄派――改めラスト・バタリオンは貴公ら

 『禍の団・英雄派』との共同作戦に従事しよう」

 

軍服の女性が合図をすると、何処からともなくガスマスクとシュタールヘルムを装備した

ナチス時代のドイツ兵を思わせる集団や、四本足を生やした立方体のマシンなどが現れる。

全てではないかもしれないが、それでも今までセージ達やオカルト研究部

ひいては超特捜課が相手にしていた規模よりも遥かに大きい。

これには、ヘラクレスも驚きを隠せなかった。

 

「一般人とは言え、やっぱ軍隊って奴は違うな……」

 

Sieg Reich(祖国に栄光を)!! 我ら総統閣下の命により、英雄の力となるもの!

 かつて忌み嫌われし力、此度は人類守護のために揮わん!」

 

銃剣を高く掲げ、声高に宣言するラスト・バタリオンの兵士達。

それに合わせ、太陽が東の空から昇り始める。

 

「貴公らの協力に感謝します。では早速そちらの総統閣下との面談を行いたいのですが」

 

「……では、私が付き添いましょう。アーサー君はゲオルク君の護衛についてください。

 ゲオルク君がやられては、この作戦は失敗ですからね」

 

フードを外し、金色の瞳を輝かせながら南蛮鎧を纏った美青年――天草時貞が名乗り出る。

彼はかつて長崎でキリシタンを庇護し、キリシタン弾圧に立ち向かった

天草四郎の魂を受け継いだ……と、本人は語っている。要はジャンヌと同じである。

しかし、彼については謎が多い。曹操でさえ、彼の出生や所有神器を把握していないのだ。

一応、言い伝えにあるような治療を見せたことから

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」ないしその亜種を持っているのでは? とされているが。

 

「……大丈夫なのですか、曹操」

 

「心配は要らないさゲオルク。彼もきっと我々の理想を理解してくれる。

 その証拠にこうして協力してくれたではないか。

 アーサー、ゲオルクを頼んだぞ」

 

軍服の女性に連れられる形で、曹操はこの場を後にする。

入れ替わる形で、ラスト・バタリオン側の指揮官と思しき

灰色の軍服の女性――聖槍騎士団の一人がゲオルクらと挨拶を交わす。

彼女との挨拶を交わした後、ゲオルクはアーサーに話しかける。

彼には、どうしてもアーサーがナチスの直系たるラスト・バタリオンと協力することが

不思議に思えてならなかったのだ。

 

「……アーサー。納得のいく説明をしてください。

 何故ナチスの手を借りようなどと思ったのです。

 ナチスをよく知らない、黄色いサルな曹操ならいざ知らず、あなたはよく知っているはずだ。

 あなたほどの方が、何故ナチス如きの手を借りようとするのです」

 

「……呪いですよ」

 

しかし、アーサーは顔色一つ変えずにゲオルクに答える。

――呪い。聖剣とはおおよそ縁遠い概念と思われるが、彼は自嘲気味に呟くのみであった。

 

「ゲオルク。アーサー王の話は知っているでしょう?」

 

「知ってるも何も、それは……」

 

「……それがそもそもの間違いだったのですよ。アーサー王は確かにアーサー王です。

 ですが、そのアーサー王のファミリーネームは知っていますか?」

 

アーサー王伝説。それは海を隔てた日本においても

数多の脚色を加えられながらも語り継がれる伝説。

そのアーサー王が率いる円卓の騎士の物語には、確かに諸説ある。

 

……しかし、その中で殆ど語られないものもある。それこそが……

 

「ファミリーネーム? ペンドラゴンではないのですか?」

 

「……フフフ、そうですか……やはりそう答えますか……フフフフフ……」

 

ゲオルクの答えに、アーサーはただ力なく笑い返すのみであった。これが意味するところとは。

しかし、アーサーのこの態度でゲオルクは自身の答えが違っていることを察したのだった。

 

「……違う、そう言いたいのですね。

 ……ん? だとするとあなたは…………?」

 

「……そもそもペンドラゴンとは称号であり、ファミリーネームではありません。

 それはアーサー王の父親であったユーサーからしてそうです。

 では、ペンドラゴンを姓に持つ私は何なのですか?

 イギリス貴族の末裔であることは知ってますよ。ですが、それだけです。

 アーサー王とは何の関係もないんですよ、私は――いえ、我が一族は。

 

 ……或いは、アーサー王が遺した子孫がペンドラゴン姓を名乗ったという可能性もありますが

 それにしたって所詮は分家。ペンドラゴン家がアーサー王の直系であると

 胸を張って言える証拠など、どこにもないという事ですよ」

 

「それでは……!? あ、あなたは一体……!?」

 

驚きながらも投げかけられたゲオルクの問いに、アーサーは嘲笑を浮かべる。

自分はただのアーサーであり、アーサー王とは何の関係もない

ただの出奔した英国貴族にすぎない、と。

 

「そう言う意味では、私はとんだ裏切り者です。

 英雄でも何でもない、ただの貴族の道楽でここまで来ただけの、ね。

 なんでもエクスカリバーの一部を持ち逃げした者もいるそうじゃないですか。

 私もそのものと何ら変わりませんよ。しかも私はお膝元から直接です。

 今頃、祖国では指名手配でもされていることでしょう」

 

「しかし……! 我らの理想に賛同し、共に立ち上がったあなたは間違いなく!」

 

己を嘲笑うように、アーサーは語り続ける。

そこにいるのは、ヘラクレスやジャンヌとは違う意味で英雄とは程遠い、人間臭い青年であった。

そんなアーサーを、ゲオルクは宥めようとするが――

 

「フフフ、よしてくださいゲオルク。今の私には、その優しさすら辛い。

 何せ、私は知っていて彼らと――ナチスの末裔と手を組んだんですよ。

 曹操のような黄色い猿ならば、ナチスの本当の恐ろしさを知らない。

 だからこそ、私はわざと曹操とフューラーとのかけ橋になったんです。

 偽りの英雄には、民衆の悪意に支えられた英雄こそが相応しいと思いましてね」

 

「アーサー……!!」

 

アーサーの歪みながらも確固たる信念の前に、ゲオルクは何も言えなくなってしまう。

アーサーとて、ナチスが何をしでかしたかは知っている。

しかし、アーサー王の末裔と言うアイデンティティを喪失していた

アーサーを拾い上げた者こそ、フューラーであったのだ。

 

アーサー王伝説の真実を知り、ペンドラゴン家を出奔したアーサー。

そんな彼に保管していたエクスカリバーの一部を授けたのがフューラーであった。

その後アーサーはエクスカリバーで罪の有無を問わず様々な人魔を斬り渡り

曹操の挙兵を聞きつけ、英雄派へと参戦した背景がある……あった。

 

しかし、その実アーサーはフューラーの尖兵に仕立て上げられており

曹操が確かに聖槍のオリジナルを確保していることを確認。

聖槍のオリジナルを探し求めていたフューラーへと情報を売り渡していたのだ。

 

「で、どうします? ……ああ、今更彼女らを追っても無駄ですよ。

 それに彼女らはコピーとは言え異能封じの聖槍を有しています。

 神器に頼る我々英雄派は、いいカモに過ぎません……私がそうであったようにね。

 ならば私を倒しますか? それも無駄なこと。

 ……精々、お互いに踊らされた英雄を演じようじゃありませんか。

 

 英雄など、所詮は民衆の体のいい玩具に過ぎませんよ……」

 

アーサーのこの言葉は、曹操率いる英雄派の性質をこれでもかと的確に言い当てていた。

誰が彼らに英雄としての挙兵を望んだのだ。

誰にも望まれぬ英雄は、本当に英雄と呼べるのだろうか。

そもそも、英雄とは何なのか。

定義は多数あれど、絶対の定義は存在しない。

そういう意味では曹操の提唱する定義も間違っていないが

それをかさに着て暴力をふるう事に、果たして正義は存在するのか。

正義無き英雄に、存在意義はあるのか。

誰もその問いに答えることは無く、英雄を騙る軍隊は再び珠閒瑠の大地を踏みしめるのだった。




英雄派。原作よりかなりやさぐれてますね(一部除く)。

>アーサー
ペンドラゴンが名字じゃない、ってのは意外と知られてないと思います。
原作(HSDD)じゃ名字なんだよ! でもいいんですがね。
すり合わせの結果、拙作ではアーサー王本家とは別口のただの英国貴族という事に。
アーサー王の分家か、アーサー王伝説に肖って当時の貴族が勝手に名乗った名字か。
そもそも、アーサー王伝説の舞台になった時代のイギリスとかじゃ名字を名乗る文化無かったっぽいですし。

ある意味今回一番やさぐれた人。ナチスがどういう存在か知ってて協力してるんだもんなあ。
(なお彼らの正体については考えないものとする)

>ゲオルク
今回やった事って、異聞録で御影町を覆った結界とほとんど変わってない事実。
なので対外的にはセベク・スキャンダルの再来と噂されることとなります。
そして何気に曹操の事を「黄色い猿」と揶揄していたり。アーサーもですが。
別にこの二人が白人至上主義者とかでは、無いですけどね。

>曹操
黄色い猿。浮ついた英雄像しか持っていないので、アーサーの手引きでやってきた
(来てしまった)フューラーの甘言に乗ってしまうことに。
これでは英雄ではなく道化だと思います。

……本当に、命がけでフューラーに聖槍渡すだけの役になりそう。

>ヘラクレス、ジャンヌ
英雄派の中でも殊更に三下感の強かった人ら。
曹操程ではないにせよ、英雄ではない一般人を見下してます。
警察でもないのに警察気取るのって、結構……

>天草時貞
原作には存在しない、拙作オリジナルの英雄派構成員。
実は(正体的な意味で)織田信長とどっちにしようか悩んだんですが
胡散臭い(某幕末~明治頃の侍魂格ゲーのせい)雰囲気なのはこっちだろうってのと
もう原作で天草四郎出てきそうにない(多分)のでご指名。

キリシタンとしては信長以上に有名だし、三大勢力との相性かなり良さそうなのに何で原作に出てこないのか謎。
あと何気に神仏同盟特効持ってそうな感じもしたり。


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Will26. 霧の珠閒瑠市

気づけば今年初投稿、お待たせしました。
何とかまとまりましたので、投稿させていただきます。


A.M. 06:52

ホテル・プレアデス 一室

 

早朝から呼び出されたと思ったら

俺は何故だかギャスパーの着替えの手伝いをすることになっていた。

なんでも――

 

――白音さんがいないのに、ギャスパーがいる。

  これはよくないからいっそギャスパーを白音さんの替え玉にする――

 

――とのことだが、無茶じゃないか?

背格好とかでバレ……いや、どうだ? ギャスパーは本当に男か? ってレベルで線が細いし

「男にしては」小柄にも程があるから替え玉になるかもしれんが……

小柄って意味じゃ白音さんもだぞ?

 

……ま、その提案をした姫島先輩は嬉々としてギャスパーを着替えさせようとしているんだが。

 

「……で、俺をここに呼んだ理由は何ですかね?」

 

「うふふ、セージ君なら小猫ちゃんの事詳しそうですし

 男同士ですからギャスパー君の着替えに立ち会っても問題ないかと思いまして」

 

――あんたがそこにいたら同じだろ。

 

思わずそう突っ込むが、笑ってごまかされた。状況を楽しんでやがるな。

……となると、この姫島先輩は蝸牛(かたつむり)山でグレモリー先輩に頭下げた姫島先輩じゃなさそうだ。

今それを突いてもどうにかなるものでもないから、とりあえずは黙っておくが。

 

「……ギャスパー、あんまり反応するな。あの手合いはこっちの反応を楽しんでやがるんだ。

 玩具や見世物になりたくなかったら、毅然と対応するんだ」

 

「……む、難しいですけど……」

 

お? 窮地に駆け付けてきたって聞いてたから、もしやと思ったが

俺の知らない間にギャスパーも強くなってるな。男子三日会わざればとはよく言ったもんだ。

 

……にしても、まさかガキの頃に培った経験がこんなところで役に立つとはね。

もう思い出したくもないことだと思ってたが、こうして使う機会が来るとは。

……あんな奴らを楽しませるために、俺は生きてるわけじゃない!

 

「……い、痛いです……っ!」

 

「え? あ、すまない」

 

……無意識に、力が入っていたようだ。

結果として、ギャスパーを痛めつけてしまったようだ。意図が無かったとはいえ、反省せねば。

……本当、的確に嫌な記憶を突いてくれるよ、この姫島先輩は。

 

スカート丈、肩幅、袖の長さなどチェックしながら

ギャスパーに白音さんの制服を着せようとするが……ちょっと、待て。

 

「……なあ。ギャスパーは確か自分用の制服を持っていなかったか?

 態々白音さんのを着なくとも、自分のを着ればいいんじゃないか?」

 

「それじゃあ意味がありませんわ。

 小猫ちゃんがちゃんと来ている、って立証するためですもの」

 

……あのさ。態々タンス開けて調べるとでもいうのか?

メダル探してるわけでもないのに、そんな変態じみた……

 

…………ま、まさか…………

 

「……あ、あのですな姫島先輩。まさかとは思いますが……」

 

「……うふふ、勿論『下着も小猫ちゃんのを着用して』もらいますわよ?」

 

却下ァァァァァァ!!

却下だ却下、大・却・下!!

 

「ギャスパー! もうこんな奴に付き合うな!

 服を着ろ! 部屋を出るぞ!」

 

「あらあら。そうなると困るのはセージ君もではなくて?

 それに、どうしてセージ君がそんなにムキになるのかしら?」

 

……くっ、俺としたことが頭に血が上り過ぎたか……!

だが、こいつに白音さんのを着られると思うと思わず……

 

「……まあいいですわ。面白いものも見られましたし。

 ですけれど、ギャスパー君には小猫ちゃんの振りをしてもらわないと

 混乱が起きるのは事実ですわよ」

 

「……それは確かに」

 

とりあえず、ギャスパーには鬘と黒猫のブローチでごまかしてもらうことにした。

本人も流石に「白音さんの下着をつけること」には抵抗を示していたようだ。

乗り気になられても困るし、そうなったらもしかするとぶっ飛ばしていたかもしれないが

よもや下着まで女物とは思わなかった。筋金入りと言うか、なんというか。

 

まあ、男物でもそれはそれでどうなのだろうか、とは思うしなあ……

 

――結局、姫島先輩の監視の元ギャスパーの着替えは終わり

俺は何のために呼ばれたのかわからずじまいだった。

なので、一応聞いてみることにしたのだが――

 

「あら。小猫ちゃんの事なら、セージ君にお伺いを立てれば確実かと思いまして」

 

「なんで俺なんですか。確かにうちに住んではいますけど、相応の分別はしてますよ」

 

あんたと違ってな、とはさすがに言わないでおいた。

万が一にも頭を下げた方の姫島先輩だった場合、地雷になりかねないからだ。

言動を見る限りじゃ、その可能性は低そうだけど。

しかもこの一連の動作で兵藤のマークが外れてるし。

一応、部屋を出るときはあいつ寝てたから問題ないとは思ったが……

 

「……とにかく。用件は済みましたからレストラン降りてきてください。

 飯食ったら七姉妹学園(セブンス)に行きますよ」

 

「ええ、わかっていますわ」

 

無駄に消費したエネルギーを朝食ビュッフェで回復させながら

俺達は七姉妹学園へと向かうことにした――

 

 

――のだが。

 

 

「やけに霧が濃いね……」

 

「天気予報じゃ、こんな霧が出るとは言って無かったですけど……」

 

玄関を出た俺達を待ち受けていたのは、凄く濃い霧であった。

下手をすれば迷ってしまいかねない。

 

「あんまりこういうことはやりたくはないけど……吹き荒べ!」

 

祐斗が風の魔剣で霧を払おうとするが……効果が無い。

やはり、こりゃただの霧じゃないな……

天気予報にない霧って時点で、怪しさが半端ない。

 

「祐斗がダメなら、私が……」

 

「待て待て。滅びの力なんぞ使ったら霧より先に鳴海(なるみ)区が吹っ飛ぶ。

 とりあえず、ドローンでも飛ばしてみるか」

 

グレモリー先輩を止めながら、超特捜課から預かっていた

ドローンドロイドの一機を飛ばしてみる。

映し出される映像は、やはり霧に包まれていて殆ど何も見えない。

ホテルの屋上階辺りまでドローンが上昇した時点で、ようやく周辺が見渡せるようにはなった。

そこで、周辺や珠閒瑠(すまる)市全域を見てみることにした……のだが。

 

「なんだこりゃ……!?」

 

「珠閒瑠市が……霧に覆われている……!?」

 

ドローンの映し出した珠閒瑠市の全景。

それは、円形状になっている珠閒瑠市全域を取り囲むように霧が覆っている姿だった。

霧は珠閒瑠市全域ではなく、珠閒瑠市の市境を形作るように濃くなっており

丁度市境に位置する鳴海区は霧のど真ん中に位置していたわけ、らしい。

 

「この霧では、市の外に出るのは難しそうだな……」

 

霧は陸路を塞ぐように形成されていた。

港南区と言った海に面した場所が霧が薄くなっているのは気になるところではあるが。

海上にも霧は出ると思うが……やはり、自然現象じゃないな。この霧は。

 

ドローンドロイドを戻し、身の振り方を考えていると

後ろから布袋芙(ほていふ)先生に声をかけられる。

 

「何をしているんだ君達、遅刻してしまうよ?」

 

「え? 先生、霧が……」

 

「僕もまさかここに霧が出るとは思わなかったからね。

 だけど、七姉妹学園を始めとした珠閒瑠市中心部には霧は出ていない。

 通常通り、授業を行うよ」

 

調べてみると、確かに一応電車は走っている。ダイヤは乱れているようだが。

止まっていれば授業も無かったかもしれないが、やる以上は仕方がない。

 

「さあ、行った行った。僕も重役出勤させてもらうから、そのつもりでいることだね」

 

追いやられる形で俺達は七姉妹学園に向かうことになった。

……ん? となると今ホテルにいるのは布袋芙先生に紫藤、兵藤か……

 

……引っかかる組み合わせだが、今どうすることもできないか。

この霧じゃ、監視も出来ないだろうし……かと言って分身出すわけにもいかない。バレる。

こうなったら――!

 

「どうしたんだい、セージ君?」

 

「や、なんでもない。霧が濃いから、なるべく固まって行動しよう」

 

霧の中に、ドローンドロイドを紛れ込ませる。

兵藤を監視対象に、自律行動させる形だ。

少々でかいからバレてしまう可能性もあるが、無いよりマシか。

 

 

鳴海区のジュネスの前を通りながら、俺達は駅に向かう。

確かに、若干の混乱はあるようだが駅前はそれほどでも……あった。

どうやら、珠閒瑠市外と往来する列車が霧のため不通になっていたり

珠閒瑠市外の車庫から来るはずの列車が来なかったりと、確かにダイヤに乱れはあるようだ。

遅延証明書で対応しろ、って事だろうか?

幸い、時間を逆算する限りでは問題無さそうだが。

 

考えを巡らせていると、改札前で聞き取りをしていたアーシアさんと光実が戻ってきた。

 

「今聞いて回ったんですけど、日が明けるころから急に霧が立ち込めたそうです」

 

前触れもなく……となるとやはり、人工的に出来た霧、と見て間違いないか。

しかし、人工的に霧を出して珠閒瑠市を覆って何をするつもりだ?

……わからん。

 

「霧の中を無理に越えようとすると、迷わされた挙句元居た場所に戻されるそうです。

 そのために電車も止まり、外との行き来も出来なくなってるみたいです。

 通話も、外とは繋がりにくくなってるみたいで……」

 

霧で閉じ込める……そういや、聞いた話だが昔御影町(みかげちょう)でそんなような事件が起きなかったか?

似たようなことが起きる……その時、確か御影町には悪魔の大群がいたそうだが……

 

「アーシアさん、光実。聞いた話ではバケモノはいなかったか?

 アインストでも、インベスでも、デーモン族でもいい。

 もしかすると、別のバケモノが現れているかもしれないんだ」

 

「別の……? そういや、バケモノの話は聞いてないですね」

 

不幸中の幸いか。この状況で悪魔とか出たら洒落にならん。

……うん? そういや、英雄派が潜入しているって言ってたよな?

 

……まさか、この事を見越して?

或いは最悪、マッチポンプって事もありうるが……そこまでして、か?

大義名分を得たいなら、マッチポンプは確かに手っ取り早い方法ではあるが……

 

――間もなく、蓮華台(れんげだい)行きの電車が発車いたします。ご乗車の方は――

 

状況について考えていると、場内アナウンスで現実に引き戻された。

この駅を始発にした蓮華台行きの列車が発車するらしい。

これに乗らないとまずい。俺達はホームへと向かい、列車に乗り込むことにした。

 

 

――――

 

 

A.M. 08:46

蓮華台 七姉妹学園

 

霧にも関わらず、登校してくる生徒はそこそこ多い。

やはり珠閒瑠市の外周にしか霧が出ていない、という事が影響しているのだろうか。

等と考えていると、話声が耳に入ってくる。

 

――え? それってヤバくない?

 

――でも、カメ横の近くで目撃した人がいるんだよ、JOKERを!

 

――ね、ねえ今珠閒瑠市の外に出られないって噂じゃん。なのにJOKERがいるって事はさ……

 

JOKER。

冥界でも噂になってるって話の怪人で、祐斗らが遭遇したって奴か。

確かに、目撃情報とは辻褄が合うが……

JOKERについて再確認するために、俺は祐斗に聞きなおしてみることにした。

 

「なあ、JOKERってどうヤバいんだっけ?」

 

「自分を召喚する魔法陣で自分を召喚――

 人間の場合だと、自分の携帯電話から自分の携帯電話に電話をかけることで

 呼び出せる願いを叶える怪人、って話は聞いているよね?

 要はオカルトそのものな都市伝説の怪人なんだけど

 同時に連続殺人犯でもあるそうなんだ……」

 

連続殺人犯。事実上の密室。でもって潜伏しているテロリスト。

……なるほど、確かにヤバいな。

外部と往来ができないとなると、超特捜課に応援を呼ぶこともできない。

クロスゲートを移動手段にするなんて、言語道断だし。

 

聞いた話では、ここの裏手にあるアラヤ神社ってところの境内にクロスゲートがあるらしいが……

もう、そっちまで調べてる時間はなさそうだ。

俺達は各々の教室へと向かい、授業を受けることとなった。

 

 

「お、一限目は若流(わかる)先生じゃん。ラッキー」

 

「あの先生『わかる~』ばっかり言ってるけど、絶対わかってないだろ。

 麻生(あそう)草加(そうか)と違って可愛いしスタイルいいから許すけどさ」

 

「わかるわかる! 女の私から見てもあの先生背高いしいいよね、わかるわ~、わかる!」

 

「……お前、うつってるぞ」

 

……俺は今、駒王学園のあの癖の強い教師陣が特別ではないのだという事を思い知っていた。

一限目に来た若流先生は、オランダ帰りの華々しい経歴とは裏腹に

その精神年齢は生徒とどっこいであり、授業のほとんどが

「わかる~」と「やっば~い」で占められていた。

 

本来なら真面目に聞くべきなんだが、俺はどうしても霧の事や潜伏しているらしい英雄派の事。

そして何より白音さんの事が気がかりで若流先生の授業が耳に入っていなかった。

 

「――じゃあ~次! 駒王学園の宮本君! ここの問題、解いてみて?」

 

「……セージ君、セージ君!」

 

「――えっ? あ、はい! わかる~……じゃない。すみません、わかりません……」

 

……不覚を取った。上の空だったのだ。

祐斗に呼びかけられるも時すでに遅し。わからんものはわからんのだ。

まさかこんなことに記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)使いたくないし。

 

「も~ぅ、ちゃんと聞いてよ~……やっばいわ~……」

 

俺の内心もやべえよ。

兵藤もいないし、松田も元浜もいくらか大人しいから

駒王学園の評価が最悪に落ちることは多分無いが……

俺としたことが、情けない真似をしてしまった。

 

着席し、気を取り直して黒板に向かい

若流先生が教科書のページをめくったところで――

 

 

――爆発が起きた。




>ギャスパー
止む無く白音の代わりに朱乃の部屋にいた状態です。
他の部屋、ベッド埋まってますし。
性的なことはされてませんが、辱めに近い事やられてる時点で……

以前に比べてセージに苦手意識が無くなっていたり
毅然とした態度も取れるようになっているあたり
冥界で成長していたのでしょう。セージが見てなかっただけで。

原作では曲がりなりにもギャスパーのが体格いいですけど、拙作ではどっこい。
白音がアルビノですけど体格はよくなってますから。
なので着ようと思えば白音の制服も着られました。結局自前にしてますけど。

>朱乃
完全におちょくってます。
ドSっつーか、ただの虐めになってますね、これ。

>セージ
朱乃の態度に激しい嫌悪感を示していたり、昔虐められていた疑惑。
相変わらず白音の事にはムキになります。それが朱乃の狙いでしたが。

>霧
いつからここは稲羽市になったんだい? ……じゃ、なくてゲオルクの仕業です。
前回シバルバー(トリフネ)外周とほぼ同じ領域に展開していた、としましたが
そうなると蝸牛山や鳴海区があぶれるよなあ、と思いこの二か所は霧のど真ん中設定。
海側には無いので、海路から珠閒瑠市に入ることは可能です。
多分、空路での侵入も可能ですけど、珠閒瑠市に空港無いんですよね。
ヘリポートならあるでしょうけど。

>若流先生
「あーそう」麻生先生と「そうかー!」草加先生に続く
セブンスのアクの強い先生第三弾。「わかる~!」ので若流先生。
元ネタは艦これのデ・ロイテル。ちょっと艦これネタ増えすぎかもしれません。自重したい。
でも思いついたものは仕方がないじゃないですかと今回は開き直り。
流石に麻生・草加両先生は年を召してますが若流先生はついこの間実習終えたばかりの若手先生。
ハンニャはともかく、冴子先生も今はもうセブンスにはいないです。

余談ですが、麻生先生て何気に序盤からギンコの英語力に言及しているんですよね。
そこを何ら疑うことなく受け取ったので、ギンコの英語できないカミングアウトも「あーそう」で済ませてしまった記憶。

余談その2、冴子先生にそっくりな先生が中学の頃の国語の教師でした。


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Will27. 学園のテロリスト Aパート

学校にテロリスト
さて、どれだけの人が妄想したシチュエーションか知りませんが
実際に起きると、ちょっと洒落にならんですよね。

……どこぞの国では、起きてるらしいですし。


七姉妹学園(セブンス)での合同学習の中、突如起きた爆発。

突然の出来事に、教室の中は騒然としたのだった。

 

「や、やっば~い! みんな、机の下に隠れて!」

 

授業を受け持っていた若流(わかる)先生の指示に逆らう形になってしまうが

俺は特別製の警察手帳を出し、事態の解決に向けて動くことにした。

 

「先生、俺は警視庁超特捜課特別課員でもあります。

 今回の爆発事件、解決のために自分が動きます」

 

「やっば~い! 噂には聞いてたけど初めて見た~!

 で、でも私だけじゃ決められないから、麻生(あそう)先生にも話を通して!

 この時間は職員室にいるはずだから!」

 

一応、自由行動の許可は得た。

とは言えやはりここの先生にも話を通さないと、学生でもある以上マズかろう。

薮田(やぶた)先生や布袋芙(ほていふ)先生はもう来ているのか? 薮田先生が来ていたら話が早いんだが。

 

「後、駒王学園の薮田先生にも話を通します。俺の素性を知ってますし。

 先生はこの教室をお願いします。

 

 ……祐斗も若流先生のフォローに回ってくれ。あまり集団でウロチョロするのはマズい」

 

「わかったよ。セージ君も無茶しないでくれよ」

 

「そうそう! ケガとかしたらやっば~い、じゃすまないからね?」

 

とりあえず、俺は職員室へと向かうことにした。

教室を後にする際に、小声で「お、お、俺が、か、カッコよく、で、出るはずだったのに……」と

聞こえた気がしたが……気のせいだろう。

 

……にしても、何でまたこんな何の変哲もない学校を?

駒王学園なら、悪魔の本拠地みたいなもんだからわからんでもないが。

七姉妹学園でそういう話は聞いたことが無い。

 

精々、中庭に駒王学園の校庭で出土した要石の片割れが鎮座していたくらいだ。

確か、鳴羅門(なるらと)石……

 

等と考えていたら、早速不審者(?)に出くわした。

四本足を生やした四角いマシン? これは超特捜課の物でも、ユグドラシル製でもなさそうだ。

今まで見たことの無い、新手だ。一応調べるか。

 

COMMON-SCANNING!!

 

――メタル・ツェンタオア。

 

「機械のケンタウロス」を意味する、ナチスが設計した機動兵器。

機関砲「ブライコンツェルト」や毒ガス噴霧器を搭載し

動力は可燃性が高く、緊急時には自爆するようプログラミングされている。

 

第二次世界大戦中には完成しなかったが、終戦後潜伏したナチス残党が秘密裏に完成させ

当該モデルは近代化改修が施されているものである――らしい。

 

……明らかに学校に配備したらヤバい奴だこれ!

放置するわけにはいかない、確実に破壊しないと!

例え標的が三大勢力関係者だけだとしても、流れ弾やら何やらで被害が出るのは想像に難くないし

そもそも毒ガス標準装備してるような奴が徘徊していること自体、ヤバい。

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

機械には雷、そういう単純な理屈で雷魔法をぶっぱしたが……はずした。

思ったより、相手の機動力は高いみたいだ。こっちがノーコンてのもあるかもだが。

少々危ないが、接近して電気を流し込めば――

 

SOLID-PLASMA FIST!!

 

EFFECT-HIGH SPEED!!

 

迎撃のブライコンツェルトを掻い潜りながら、マシンに体当たりをかまし、転倒させる。

多脚型は一度転倒すると弱い。ひっくり返った裏側にプラズマフィストを叩きつけ

そのまま電流を流す。

 

確かに電撃には弱いが、内部メカに直接与えているわけではないので少々、効きが鈍い。

構成材が何なのかまではわからなかったが、一応絶縁素材ではなさそうで助かった。

電流を流していると、突如警報が流れ出す。ま、まさか!

 

慌てて飛びのくと、さっきまで俺がいた場所のリノリウムの床は、真っ黒に焦げていた。

辺りには機械部品が散らばっており、自爆したのだと断言できる。

毒ガス積んだ奴が自爆して、その毒ガスが飛散していないのは

随分なご都合主義だと思うがあれか?

ナチスの科学は世界一ィィィィィィ、って台詞をどこかで聞いたが。

 

一応、メタル・ツェンタオアの部品と思しき機械部品を拾い集める。

鑑識に回して如何こうなるものとも思えないが、念のためだ。

有益な情報が手に入れば、儲けものだし……ハードディスクやメモリ的な部品が見当たらないから

その可能性は限りなく低そうだが。

 

COMMON-RADAR!!

 

伏兵がいないかどうか確かめつつ、校舎の廊下を歩く。

それなりの数の兵士が入り込んでいるようで、何度か遭遇戦を繰り広げながらも

無事に職員室までたどり着くことができた……のだが。

 

「……うん? 鍵が……

 すみません、駒王……じゃない。警視庁超特捜課特別課員の宮本です。

 扉を開けてもらえますか?」

 

「宮本君ですね? わかりました、今開けましょう」

 

中から薮田先生の声がして、鍵が開く音がする。

周囲を確かめながら、安全を確保して速やかに中に入り、鍵をかけなおす。

奴らが本気を出せばこの程度の鍵どころか扉ごとぶち破ってきそうだが、念のためだ。

 

「君なら動き出すと思っていましたよ。ところで、駒王学園の生徒会の皆さんは見ましたか?」

 

「正規の職員じゃないとはいえ、ここにいる警視庁関係者は今自分だけでしょう。

 やらないわけにはいきませんよ。

 生徒会組については、俺のクラスにはいなかったのでさっぱり。

 真っすぐ職員室まで来ましたからね。

 ……ところで、麻生先生はどこに?」

 

「あーそう。君が噂に聞く警視庁関係者ね。

 でも同時に駒王学園の生徒でもあるから、私のところに話をつけに来たと、あーそう。

 警察手帳は……これね。それじゃ公務執行妨害にならないように

 私は君に探索や行動の許可を出すと。

 駒王学園の薮田先生も承認済みと、あーそう。じゃ、気をつけなさいよ」

 

素直に喜んでいいものかどうかわからない信頼を向けられながら

俺は麻生先生に行動の許可を得る。

薮田先生がいれば要らない気もするが、けじめは付けなきゃなるまい。

若流先生だけに話を通す、ってのもアレだし。

 

「宮本君。既に気付いているとは思いますが、ここを襲ったのはフューラーの部隊です。

 それから、何人か神器(セイクリッド・ギア)持ちの人間も確認していますね」

 

「神器持ち? 安玖(あんく)巡査や慧介(けいすけ)さん……じゃ、ないですよね」

 

「残念ながら、今珠閒瑠(すまる)市を覆っている霧は『絶霧(ディメンション・ロスト)』と呼ばれる神器による霧です。

 この霧を何らかの形で消さない限り、珠閒瑠の外部からの応援は呼べないでしょう」

 

やはり。この霧は人工的なものだったか。

神器でフューラーの手助けをするって事は、どう考えなくても禍の団(カオス・ブリゲート)関係者だろう。

それがどうして、七姉妹学園を襲っているのかはわからんが。

 

「神器封じ持ちが神器持ちと組んでいる、と言うのは考え方によってはかなり厄介です。

 宮本君、くれぐれも気を付けてください。

 

 ……ところで、他のみなさんは?」

 

生徒会以外の他の……という事は、祐斗や光実(みつざね)とか、か。

同じクラスで受けていた祐斗には若流先生の補佐として教室に残したが……

他のメンバーはわからないな。3年組やギャスパーはもっとわからん。

 

「……よりにもよって木場君ですか。もしかすると失策かもしれませんよ。

 なにせ、彼もテロリストとしての嫌疑がかけられていますからね。

 パニックを起こした生徒が、何をしでかすか……

 

 仕方ありません。私も教室の見回りを行いましょう。

 麻生先生、今から我々は外に出ますので、そうしたら鍵をかけてください。

 校内に入り込んだテロリストを撃退するまで、決して開けないようにお願いします」

 

「あーそう。ここは私達で何とかするので、外は薮田先生にお願いしますよ、と」

 

素っ気ない対応を取っている麻生先生だが、この場に残して本当に大丈夫なのか?

薮田先生がここを離れたらこれ幸いとばかりに制圧されないか?

気になった俺は、薮田先生に小声で聞いてみたが――

 

「宮本君。こうなった以上、生徒の安全確保を優先すべきです。それが教師と言うものですよ。

 本当なら、あなたにも待機を命じたいところですが……そうも行きませんからね。

 

 それと、人手が無いからと言って分身を使うのはやめた方がいいですね。

 さっきも話しましたが、相手に神器持ちがいる以上撃破されるリスクも背負うべきですよ。

 それに、フューラーの兵士に後詰めがいないとも限りませんし。

 

 では、私は3年の様子を見ます。宮本君は1階の様子を」

 

言うや否や薮田先生は突き当りの昇り階段を上がっていこうとする。

そこで俺は奴らの兵器の部品を拾ったことを思い出し、薮田先生に渡すことにした。

 

「……これを鑑識に、ですか。わかりました。ですが宮本君も持っていてください。

 片方にだけ集中させると、万が一が起きた時にいけませんからね」

 

薮田先生と別れ、俺は下の階段を下っていくことにした。

 

 

――――

 

 

1階に降りた途端、外から爆音と共に物凄い揺れが走った。

まさか、校舎に攻撃しているのか!?

 

レーダーに反応は……確かにある。外からの攻撃のようだ。

こりゃ、ギャスパーより先にこっちを何とかしないといけないか?

ギャスパーは確か……1-Aにいたはずだ。白音さんが同じクラスだったはずだし。

俺は1-Aの扉の前で、ギャスパーを呼び出してみる。

 

「ギャスパー、いるか?」

 

「その声は……宮本先輩!? い、一体何が起きてるんですかぁ!?」

 

「フューラーの部隊の襲撃だ。外から攻撃してくる奴がいるみたいだ。

 俺はそっちを叩くから、お前はこの教室を守ってくれ。出来るな?」

 

俺の問いかけに、扉の向こうからは声が震えながらも応じる返事が返ってきた。

他の教室も気になるが、こんな中でおちおち避難させることも難しいし

1-Aに固めるのもそれはそれで危険だ。体育館は離れだから、もっと危ない。

 

となれば、さっさと表から攻撃してくる奴を何とかしないといけない。

決心を固めて、俺は校庭に飛び出した。そこには――

 

――2メートル以上はあろうかと言う、筋骨隆々の巨漢がいた。

 

「……お? なんか虫けらが来たなあ?」

 

「今の爆発、お前の仕業か?」

 

まあ、他にいないし犯人として見るには妥当だろう。聖槍騎士団が長距離射撃してきたり

スツーカ爆撃やってきたり、ってんなら話は別だが。

俺は相手に悟られないように記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を向ける。少なくとも、初見だ。

 

「ああ、そうだ。この『超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)』でなあ。

 お前は……赤龍帝の片割れ……いや、アモンか」

 

「人間だよ。お前こそ人間の癖に、フューラーに与して、人間に害をなして何とする?

 転生悪魔じゃないってのは、見ればわかる」

 

――出力された。

相手はヘラクレス。あのギリシャの英雄ヘラクレスの魂を受け継いでいるというが……

正直、見てくれだけしかそうだとは思えない。

悪魔がありなら、英雄の生まれ変わりもありかもしれないが……

一昔前に流行った、自称英雄の生まれ変わり、って奴か?

 

神器「巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)」による破壊力の高い攻撃を繰り出し

禁手「超人による悪意の波動」で広範囲を焼き尽くすこともできる。

見た目通りの頑強さを誇り、女子供相手でも容赦せず破壊の限りを尽くしている――か。

 

……全く、テロリストらしい奴だよ。で、目的は何なんだ?

 

「いるんだろ、この学校に。悪魔がよ」

 

「……そのために無関係の人も巻き込むとか、何考えてるんだ」

 

狙いはやはりオカ研か。だが、それならオカ研だけを狙えばいいはずだ。

態々七姉妹学園を、珠閒瑠市を攻撃する理由がわからない。

 

「俺も難しいことはわからねえ。でもそこにいるんなら、攻撃しない理由にはなるめえだろ?」

 

くっ、なんてはた迷惑な!

それがテロリストのテロリストたる所以かもしれないが!

とにかく、オカ研はどうあれこいつはここで倒さないと七姉妹学園が危ない!

 

「そうかい。じゃあ、こっちとしてもお前を撃退する十分すぎる理由があるが、いいな?」

 

「アモンは標的じゃねえんだがなあ。まあいいや。邪魔するんなら、てめえも潰れちまえ!!」

 

「……フン、ならば自称ヘラクレス! 広域破壊の現行犯としてお前を逮捕する!!」

 

 

桜の代紋を掲げながら行った俺の宣言をゴングに

ヘラクレスは「超人による悪意の波動」をしまい、こっちに向かって突っ込んできた。

見てくれ通りのパワーファイターか、ならば――

 

―こっちに来る前に、カードはリロード済みだ!

 

EFFECT-HIGH SPEED!!

 

ヘラクレスの剛腕から繰り出された拳を難なく躱したが

俺がさっきまでいたところはクレーターが出来ている。

まるで、さっきのメタル・ツェンタオアの自爆のような威力だ。

 

「ちょこまか動いたところで、俺からは逃げられねえぞ!」

 

今度はヘラクレスの拳が空を切る。拳圧による攻撃……かと思ったら

こっちに向かって爆発が起きた。これは流石に想定外!

 

SOLID-DEFENDER!!

 

「くっ……!」

 

爆発自体はディフェンダーで防げたが、爆風で舞い上がった砂煙で視界が遮られている。

つまりこっちの姿が隠れてしまっているので

相手が見えないって意味では相手も同条件だと思うが……

 

「見えないなら、纏めて吹っ飛ばしゃいいんだよ! 『超人による悪意の波動』!!」

 

「なにっ!?」

 

無差別攻撃にも程がある! 確かこの攻撃はミサイルサーカスによるものだ。

ならば、これで迎撃するしかない!

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

視界は遮られているが、触手砲は自律して攻撃できる。

相手をミサイルに絞り、これ以上爆撃による影響を出さないようにしなければならない。

だが触手砲の展開は、自分の位置を教えることでもあった。

 

「そこかあ!!」

 

「――っ!!」

 

いつの間にか突っ込んできたヘラクレスの剛腕に、危うく押しつぶされるところだった。

これ、気配を殺されてたらやられていたな……

だが、砂煙の隙間から見えるヘラクレスの拳が地面に突き刺さったのと同時に――

 

 

――目の前が、真っ白になった。




セブンス、10年前も軍隊が来たり殺人犯が入り込んだり
エルミンや軽子坂程じゃないですがかなりヤバいことになってますよね。
まあ、夜中に塔になる月光館も大概ですが。

>毒ガス積んだ兵器の自爆
いや、これは本当にご都合主義って事で……
ゲームで広範囲攻撃だしたときの影響とか、その辺考えだしたらキリ無いですし。

>駒王の生徒会
……原作で影薄いのもむべなるかな、って扱いになっちゃってます。
匙は出したら話ややこしくなりそうですし、他生徒会役員はぶっちゃけ掘り下げる必要を拙作ではあまり……
幽霊時代のセージが花戒に相性悪かったかも、程度のお話ですし。

それに七姉妹の生徒会はもっと影が薄い。

>木場を残したのが失策
全国ネットで顔割れてますし。
同様の理由でリアス・朱乃・アーシア・光実がヤバい。
その点生徒会は動きやすいんですが……

草加先生「そうかー! 君達がこの事態に対応してくれるそうなのか―! でも外は危険だから、この教室で大人しくしているんだぞ! そうかー! わかってくれたかー!」
ソーナ「いや、あの……」

>ヘラクレス
そういや、自称英雄の生まれ変わり、ってどこかで聞いたようなと思ったら、罪本編にいましたわ。

転生戦士イシュキック。

こちらただの痛い(1999年当時でも)コスプレ少女で
ムーで実際に流行ったとされる「戦士の生まれ変わり」を妄想しているだけ(それをジョーカーで叶えてますが)。
罰の彼女みたくヘラクレス他英雄派もただのキャラ作りコスプレイヤーだったら、平和だったんですがねえ……

因みにwikiに曰く確保後「幼稚園で警護してる」らしいんですが
仮にも子供乗せたバス襲った奴をその役職に就けて大丈夫なんですかね。
セキュリティの問題じゃなく、心情の問題として。


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Will27. 学園のテロリスト Bパート

――……ジさん、セージさん、しっかりしてください!

 

遠くから声が聞こえる。これは確か……光実(みつざね)の声だ。しかしなぜ……

 

……じゃない! 俺はさっきまで戦っていたはずだ!

一体今どうなってるんだ!? 状況を確認しないと……

 

身体を起こすと、目の前には緑色の鎧兜を纏った光実――

アーマードライダー龍玄(りゅうげん)の姿があった。

龍玄がここにいるという事は……光実に違いは無いだろうが、何が一体どうなった!?

 

「ぐ……光実か……」

 

「しっかりしてください、校舎の中はゼノヴィアさんが押さえてくれています。

 僕は校庭で爆発があったので来てみたのですが、そうしたらセージさんが倒れていたので……」

 

倒れて……? そうだ、俺はヘラクレスに吹っ飛ばされたんだった。

よく見ると、さっきの場所からは少し離れた場所にいる。

光実が俺を運んだという事か。何せ、身体がうまく動かない。

ヘラクレスの攻撃のダメージが、まだ残っているのか……

 

「光実、ついでに一つ頼まれてほしいんだが、左手の神器(セイクリッド・ギア)からカードを抜いてくれ」

 

俺は龍玄の手に向けて記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を開く。

情けない話だが、右手がうまく動かない。

こうなった以上、左手にある記録再生大図鑑を使う方法は一つしかない。

 

龍玄が手を伸ばした瞬間、遠くで爆音が響いた。

ヘラクレスが動き出したか! これ以上もたもたするのはマズい!

 

「光実! 悪いが急いでくれ!」

 

「わ、わかりました!」

 

EFFECT-HEALING!!

 

龍玄がカードを取ると同時に、俺の右手の違和感は消え去り、見事に動くようになった。

記録再生大図鑑を使い始めの頃、俺が自分でカードを引けない時によく使った手だ。

誰が引こうが効果は自分にかかる。

中身は意識して変えられるので、不意に引かれない限りは大丈夫だ。

 

「助かった、それより奴が動き出した。接近戦とミサイル爆撃、攻撃範囲がとにかく広い」

 

「ええ、ブドウ龍砲でミサイルは撃ち落とせますが、アーマードライダーシステムでも

 直撃を受ければ危険ですね」

 

攻撃範囲が広く、威力が高いという事は――これ以上、放置するわけにはいかない。

現に建物にもダメージが行っているみたいだ。

これ以上やらせるわけにはいかない、注意をこちらにひきつけないと!

 

「光実、俺が注意を引く。お前は龍玄の武器でフォローを頼む」

 

俺の提案に首肯で返してくれる光実。二人がかりでないと危ない敵ではあるしな。

と言うか、律儀にタイマンはる必要なんかないだろ。テロリスト風情相手に。

 

「どうした自称ヘラクレス! 俺はまだ生きているぞ!」

 

「てめえ! 俺は自称じゃねえ! 本物のヘラクレスの魂を受け継いだ英雄だ!」

 

その英雄がテロ行為か。まあ、英雄なんて一歩間違えば……ではあるが。

ともかく、相手の目をかく乱させるために、俺はわざと太陽を背にして飛び掛かる。

接近戦では相手のパワーとタフネスを考えれば、どう考えなくとも不利だ。

そうなれば、接近するのはブラフにしておかなければならない。

こっちに接近戦用の必殺技があるわけでもなし。

 

……アキシオン・バスターは……撃つべきじゃないだろ。

 

SOLID-CORROUSION SWORD!!

 

SOLID-FEELER!!

 

ギャスパニッシャーを使ってもパワー負けすると踏んだ俺は、いっそのことと思い

腐食剣と触手を実体化させる。そういや、腐食剣を生身の相手に向かって使うのは初めてだ。

相当えげつないことになりそうだが……そもそも、効くのか?

 

この剣で、俺はヘラクレスの足元を狙う。

あれだけの巨体だ、足を潰せばひとたまりもあるまい!

転倒させやすくするために、触手もセットで運用している。

 

攻撃のタイミングは――龍玄の砲撃に合わせる!

 

「てめえ! ちょこまかと……なんだ? さっきからちまちまと撃ってきやがって?」

 

龍玄の砲撃に全く怯む様子を見せない。

あれ、一応初級インベスなら余裕で倒せる威力があるはずなんだが。

いくら見てくれ通りに頑強だからって、程度があるだろ。

どう見ても、普通の人間の強度じゃない。

 

『……伊達に英雄名乗ってねえな。ありゃ、マグネタイトで相当強化してやがる』

 

「マグネタイトって、そう言う事にも使えるのか?」

 

アモン曰く、マグネタイトは生体エネルギー。肉体を覆う不可視の外殻にもなる生体エネルギー。

普通の人間が保有できるマグネタイトはそう多くないが、ある一定以上の力を得た人間は

悪魔などの存在にも比肩しうる肉体強度を得られるそうなのだ。

 

そして、そういう人間は得てして普通の人間より多くのマグネタイトを保有しているため

洋の東西を問わず、霊験あらたかな謂れを持つとされる人物が妖魔に狙われるのは

そのマグネタイトを狙っているらしい――とのことだ。

 

『お前もある意味そうかもな。だが詳しい話は別の機会だ。

 あのブドウ野郎が作った隙を逃がすな!』

 

「……っと、そうだ!」

 

龍玄の攻撃に気を取られたヘラクレスの隙を突き、触手を足首に絡ませる。

そして、腐食剣をヘラクレスの向こう脛に叩きつける。

この剣、切れ味がそもそもあまりないので

本来の西洋剣同様、叩きつける目的で使う事が多かったりする。

 

「――っっっ!!!」

 

「『弁慶の泣き所』。どれだけオカルトパワーで補強しようとも

 骨をほぼ直に叩かれれば痛くないわけがないだろ!」

 

そして、狙いどころは向こう脛。所謂弁慶の泣き所だ。

伝説の弁慶も、頑強な体を誇ったと言われているらしいし。

その弁慶でさえ、向こう脛は弱点足り得たそうな。

まあ、目の前の自称と弁慶を比べるのは、あまりにも弁慶に対して無礼だと思うが。

 

思わず飛び上がろうとするヘラクレスだが、それを阻むように足には触手が絡みついている。

するとどうなるか――当然、派手に転ぶ。

 

SOLID-GUN!!

 

隙だらけの自称に一気に距離を詰め、俺は自称の口に銃口を宛がう。

念のため、手首足首は縛っておく。

 

「形勢逆転だ。大人しく警察に出頭しろ。日本でのテロ行為は死刑になるかもしれないが

 そんなこと俺が知るか。お前は英雄などと嘯いちゃいるが

 お前らのやってる事を顧みればただのテロリストだ」

 

銃口を口に宛がわれているため喋れない自称は、俺を睨んでくるが形勢は俺が優位だ。

とは言え何を言っているのかわからないので

銃口を口から眉間にずらす形で、俺は銃の向きを変える。

 

「ふん、俺は英雄だ! 英雄に対してこの仕打ち、タダで済むと思うなよ!」

 

……ふと思った。こいつ、「ヘラクレスじゃない自分」は何なんだ?

生まれた時からヘラクレスだったわけじゃあるまい? もしそうなら、話題になるはずだ。

情報統制を敷くにしても限度がある。まあ、フューラーも突然沸いて出てきた気がするが。

 

「……お前、本名はなんて言うんだ?」

 

「本名も何も、俺はヘラクレスだ!」

 

「そうじゃない。俺が聞きたいのは――」

 

まあ、聞くだけ無駄だったか。

「自分がヘラクレスだと思い込んでいる」と踏んで話を振ってみたが

これは筋金入りと言うか、なんというか……

 

ふと、レーダーが何かをキャッチした。光実も勘づいたらしく、俺に注意を呼び掛けてきた。

止む無く俺は自称から距離を取る。

 

すると、空中に突如として黒い長髪を靡かせた悪魔……? が現れた。

少なくとも、俺はこいつを見たことが無い。ならばとアモンに聞いてみるが――

 

『あれは……クルゼレイ・アスモデウスか? いや、それにしちゃ雰囲気が違いすぎる……』

 

アモンのいう事を、俺はすぐに察せてしまった。

何せ、目の前の悪魔? は見てくれこそ悪魔だが、レーダーが導き出している答えは――

 

 

――アインストなのであったから。

 

 

実際、そのクルゼレイとやらの見た目はアインストグリートを思わせる触手が生えていたり

アインストリッターを思わせる装甲を纏っている。その下に申し訳程度に貴族風の衣装が見えるが

最早、それもほとんど襤褸となっている。

 

 

「……何を……している。静寂を……この地に……齎すのでは……なかったのか……?」

 

「何を言っている!? お前ら旧魔王派と、俺達英雄派は相互不干渉のはず!

 それは曹操が確かに言っていた――」

 

ヘラクレスの反論も意に介していない。

まあ、アインストってコミュニケーションに関してはかなり一方的だしなあ。

コミュニケーションで事態を解決するような連中にも思えないが。

 

……などと思っていると、ヘラクレスの体に異変が生じだした。

 

「…………!?

 がああああああっ!? あがあああああああっ!?」

 

「……レジセイア(監査官)からは……逃れられぬ……

 我らに……属するとは……そういう……意味だ……」

 

ヘラクレスの筋骨隆々の肉体が、歪に変形する。

既に縛り付けていた俺の触手は千切れている。

だが、とても俺達に向かって襲い掛かってくる風には見えない。

 

と言うより、明らかにその変化は異常である。

……これは、前に似たようなのを見たことがある。

あの時は運よく助かったが……今回のこれ、大丈夫なのか……?

 

「セージさん、これは一体……!?」

 

「……あいつ、何らかの方法でアインスト因子植え付けられてやがったな……

 それがあそこにいるクルゼレイってアインストのお陰で活性化しやがった。

 そう見るのが自然か」

 

 

……多分だが、兵藤夫妻よりアインスト因子を体内に保持していた期間は長い。

となると、ここでアインスト化したら……まず間違いなく……

 

 

「い、いやだああああああ!!

 俺は、俺は、俺は英雄なんだあああああああ!!

 ヘラクレスなんだああAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

ヘラクレスの胸筋をぶち破る形で生えてきたアインストのコア。

そして、それに呼応するように全身から触手が生え、筋肉の鎧はそのまま硬質化し

アインストゲミュートを思わせる鎧の巨人へと姿を変えたのだった。

 

COMMON-SCANNING!!

 

俺もこういった事態に慣れてきてしまったのか、淡々と記録再生大図鑑を向ける。

 

 

――アインストヘアクレス・ニヒト。

 

幼き日、英雄ヘラクレスに憧れてきた男が道を踏み外した成れの果て。

元来持っていた鎧のような肉体は文字通りの鎧となり、自身を覆い、攻守を担う。

触手は鎧を動かす筋肉や神経のような役割を果たしており、それ自体に攻撃能力はない。

 

「ボースハイト・エクスプロジィオーン」と呼ばれる爆発を両掌にあたる部位から発する。

他のアインスト同様、弱点はコアの部位。

 

 

見てくれは確かにアインストゲミュートに似ている。だがあいつは中身が空っぽだった。

それを、一応中身のあるヘラクレスが変異する形でなったというわけか。なんて話だ。

 

 

「英雄……尊厳……そんなものは……どうでもいい……

 俺達を……認めぬ……世界を……作り直し……静寂なる……世界を……」

 

 

アインストの定型文まで出てきたか。まさかテロリストがアインストになるなんて……

いや、そもそもテロリストの首魁がアインストだった。こりゃ当然の帰結って訳か。

 

「くっ……アインストはアーマードライダーでも苦戦する相手ですからね……

 だけど、兄さんに頼ってもいられない! セージさん、行きま――

 

 ――――後ろです、セージさん!」

 

「なにっ!?」

 

光実の声に驚き、振り向くと爆発と共にゼノヴィアさんが飛び出てきた。

またあの変態じみた教会の服、かと思いきや警視庁で採用された特殊強化スーツを着込んでいる。

慧介さんあたりから受け取ったのか?

 

……デザイン的には五十歩百歩だけど。

 

「すまん光実、突破された!」

 

「ゼノヴィアさん!」

 

ゼノヴィアさんが対峙している煙の中から、今度は女性が出てくる。

だが、その姿はヘラクレス同様に――

 

――いや、あの姿は、見覚えがある。アインストレヴィアタンだ。

だが尾が剣で出来ているみたいだし、アインストのコアは見当たらないので

アインストではないのかもしれないが……人間とも言い難い。

 

こいつもヘラクレスの仲間か? だとしたら英雄とバケモノは紙一重ではあるけれど

本当にバケモノになってどうするんだよ、まったく。

 

「私は……私は……ジャンヌ・ダルクではない……

 では私は何者……? 私はジャンヌ……ジャンヌじゃない……私は……私は……

 私は……わたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしは

 だれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれ?????」

 

彼女の服装が飛び散り、その胸部にはやはりアインストのコアが浮かび上がっていた。

それと同時に、背中から無数の触手が生え、その先端は俺のスイングエッジ同様に

剣で形成されていた。

 

 

――アインストヨハンナ・ニヒト。

 

フランス革命の旗印、ジャンヌ・ダルクの再来を嘯いた女性の成れの果て。

以前使っていた神器・聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)から派生した剣を作る力で

自らの体を形成している。

アインスト特有の再生能力と合わさり、その刃の切れ味は衰えることは無い。

触手部位は「シュヴェールト・ギーセン」。

下半身にあたる巨大な尾は「ツュッヒティゲン・ドラッヘ」と呼称される。

 

なお、アインストレヴィアタンとは異なり、下位アインストに過ぎたないため

この個体にアインストを生成・召喚する能力はない。

これはアインストヘアクレス・ニヒトも同様である。

 

 

「これは……アインスト!? やはりこいつら、オーフィスの!」

 

「……そうだ。我らの……目的は……いずれ……成就される……

 我らの……望む……世界に……彼奴らは……不要……故に……」

 

「予め仕掛けておいて、鉄砲玉に仕上げたって事か!」

 

 

クルゼレイって奴の言う事を要約すると、英雄派は初めからオーフィスにとって

鉄砲玉程度にしかなっていなかったらしい。つまり、こいつらは英雄だなんだと言っても

テロの片棒を担がされたどころか、使い捨てられたって事だ。

 

……今ここにいる二体を倒したところで、向こうには何のダメージも無いって事だろう。

そもそも、アインストが人間と同じ組織体系を運用しているかどうか怪しいし。

女王バチを頂点とする生物と考えたら、およそ人間的組織運用ではあるまい。

 

つまりこいつらは……スペックはともかく、替えの利く働きバチって事だ。

以前戦ったアインストレヴィアタンも、性質は女王バチだったがアインストと言う種全体で見たら

氷山の一角に過ぎなかったわけだし。

 

寧ろ、後ろでふんぞり返っているクルゼレイの方が女王バチに思えないこともない。

 

「とにかく、こんな奴らにこれ以上暴れられたら危険です!」

 

「だな。光実、ゼノヴィアさん、やれるな?」

 

「勿論だ。学校内には負傷者もいる。

 アーシアが応対しているが、皆のメンタルにもかなり負荷がかかってる。

 早いところ奴らを片付けて、原因を取り除かないとな!」

 

フューラーの部隊から、神器持ちの超人、そしてアインストと

敵の種類がめまぐるしく変わっていたが、倒さなければならないことに変わりはない。

 

 

「……静寂なる……世界を……齎す……ために……」

 

 

だが、クルゼレイは動こうとしない。

こちらから仕掛けようにも、目の前の二体が邪魔で近づけないが。

 

『クルゼレイも引っかかるが、今はこいつらが先だ。セージ、やるぞ!』

 

「ああ!」

 

「本物の聖剣の力を見せてやる!」

 

「今ここに兄さんはいない……僕が、やるしかないんだ!」

 

相手がアインストという事で俺はナイトファウルを。

ゼノヴィアさんはデュランダルを。

光実はブドウ龍砲を。

 

昴星の校庭に、虚空の魔物と化した英雄を嘯く者たちを相手に俺達は戦いを挑む。




英雄派の扱いは、拙作ではこんな感じです。

オーフィスが仕事しない禍の団だからああなっていた部分あると思いますし
じゃあってんでオーフィス仕事したらこうもなるかと。

>ヘラクレス
こいつに限らんのですが、「英雄じゃない」自分は無いのでしょうか。
原作では事案起こした後で見つけたようですが、拙作ではそこに至る前に……
そもそも、テロリストが普通に表舞台に出るなって話なんですよ。
元アルカイダとかオウムの実行犯がその辺うろついてたらダメでしょう。

セージもそれなりに体格あるので、牛若丸みたいな戦い方はできませんでしたという事で
強引に転ばせました。ころばし屋が欲しいところ。

>ジャンヌ
端折られました。彼女も多分ゼノヴィアから似たような問答されてると思います。

>ミッチ
一応テロ容疑かけられてるのにどうやって? まあ、ユグドラシルのコネ使ったのでしょうね、多分。
一度外に出てしまえばあとは変身で正体ごまかせますし。

>英雄派
実は曹操英雄派はオーフィスと謁見しています。
つーか組織なんだからトップへの謁見位するでしょ普通。
アインスト因子はその際の物。
腕輪なんぞ無くったってアインスト因子あればアインストに変異します。
ディオドラやカテレアパターンではなく兵藤夫妻パターン。

しかしこちら兵藤夫妻より遥かにアインスト因子を長期間体内に保有していたという事は……
フューラー英雄派? 中身がアレなので……

作中、鉄砲玉と評されてますがフューラーから見ても曹操英雄派って鉄砲玉扱いだったのかもしれません。
今のところ一部兵士以外はマシンばかりですし
虎の子(最も、これでさえも使い捨て疑惑あるけれど)の聖槍騎士団がいませんし。
(危惧はされてましたが)

※2/26追記
誤字報告ありがとうございます。
ですがこれ誤字じゃないんですよー
ヘラクレス、ドイツ語表記だとヘアクレスらしいので(googleの発音もそう聞こえます)。
アインスト関連の名詞は一応ドイツ語縛りかけてますので、そっちに因んでます。
(ヨハンナになったジャンヌも同様の理由です)


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Will28. 「かつて」ですらなく Aパート

お待たせしました。
思いのほか筆が進まない&スランプ気味でして。

……違うネタが浮かんでくるのは、どうしたもんでしょうかね。

※3/18追記
誤字報告ありがとうございます。
ですがこれ誤字じゃないんですよー
ヘラクレス、ドイツ語表記だとヘアクレスらしいので(googleの発音もそう聞こえます)。
予め言っておくべきでしたね、失礼しました。


「世界を……静寂なる……世界を……」

 

禍の団・英雄派のジャンヌが変異したアインストヨハンナ・ニヒトの繰り出す

刃のついた触手――シュヴェールト・ギーセンによってゼノヴィアは接近戦を挑めずにいた。

それならばと光実(みつざね)が変身したアーマードライダー龍玄(りゅうげん)がブドウ龍砲で射撃を試みるが

その攻撃は前に躍り出たヘラクレスの変異したアインストヘアクレス・ニヒトの

鋼鉄の如き表皮によって阻まれる。

 

「クッ……手強い!」

 

「バラバラに攻めてもダメだ、ゼノヴィアさんはデュランダルでヘラクレスの足止め

 光実はジャンヌの触手を撃ち落としてくれ!」

 

EFFECT-CHARGE UP!!

 

俺はゼノヴィアさんと光実にバフをかけつつ、後方支援に徹する。

それと言うのも――

 

『セージ、6時方向上空から高速飛行物体が来るぞ!』

 

「あれは……多分この間襲ってきたスツーカとフォッケウルフか!

 かなり厄介な奴らだぞ!」

 

後ろを振り向くと、スツーカのサイレン音のような飛行音が響く。

ディフェンダーが間に合わなかったので、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)でガードするが

やはり、これでは完全には防げない。スツーカの爆撃で舞い上がった土煙の向こうから

フォッケウルフが機銃を撃ちながら突っ込んでくる。

 

「ぐぅっ……!!」

 

攻撃に思わず怯んでしまい、防御態勢を崩されてしまう。

ここをスツーカで狙われたらたまらないぞ!

だが、ここでこいつらを食い止めないと、スツーカやフォッケウルフに

ゼノヴィアさんと光実の頭上が押さえられる。それは避けたい。

そう危惧していると、意識しているのとは別の方向に体が動いた。

 

『おわっ!?』

 

「悪ぃなセージ、だがここは俺にやらせてもらおうか!」

 

体勢を立て直そうと四苦八苦している間に体が勝手に動く。

アモンが強引に俺の体のコントロール奪いやがったな。

……ま、この状況じゃ文句言ってる場合でもないが。

 

斧のような真紅の悪魔の翼(デビルウィング)を広げ、空中から超音波の矢(デビルアロー)

スツーカやフォッケウルフを狙おうとするが……

向こうの操縦技術がかなり高いのか、全く当たらない。

 

「くそっ、当たりさえすりゃ一発だが……まるで当たらねぇ!」

 

『おいアモン、このまま空飛んでたら向こうの的だぞ!』

 

そうなのだ。地上にいれば急降下爆撃と超低空飛行による掃討射撃。

空中に出れば高高度爆撃にドッグファイト。

あの二つの機体の操縦者として有名なあのパイロットは

経歴が嘘だか本当だかわからないって話だ。

それを再現されたとあっちゃ、こんなデカブツは的にしかならない。

 

魔力障壁を張りながら、アモンはフォッケウルフを掴もうとするが

これもうまくいかない。幸いなのは、この二種の機体はこっちの攻撃に集中しているらしく

ゼノヴィアさんや光実の方には向かっていないという事くらいか。

 

「…………チッ」

 

地上に降りるなり舌打ちをしながら、アモンが引っ込む。

あれだけの機動力に対抗するには、俺の手札の中にはもうこれしかなかった。

 

SOLID-GUN LEGION!!

 

「ぐっ…………!!」

 

戦闘機には戦闘機だ。ギャスパニッシャーで止めて各個撃破しようにも

ギャスパニッシャーでとらえる前に逃げられる。それ位、相手は素早い。

正直に言えば、これはパワーソース的な意味でアキシオン・バスターとあまり変わらないので

なるべくなら使いたくはないのだが。

 

校庭の砂利を媒体に、周囲を漂う負念が集まってくる。

負念は俺の体から抜け出た赤黒い光と結びつき、骨で出来た鳥を形作っていく。

どうもこの辺に漂っている負念では足りないらしく

俺の中にあった負念を増幅させて賄っているようだ。

正直、俺の中にどんどんどす黒いものが積み重なっていく感じがして、気持ち悪い。

 

しかし、そんな俺の異変を察知したのかスツーカもフォッケウルフも標的を俺から

向こうでアインストと戦っているゼノヴィアさんや光実に変えたらしく

俺から離れるように飛び去って行こうとする。マズい!

 

「くっ……ガン・レギオン、シュート!!」

 

スツーカとフォッケウルフを追撃する形でガン・レギオンが飛び

ほどなくして上空ではドッグファイトが繰り広げられた。

ドッグファイトの舞台となったのはジャンヌやヘラクレスの頭上。

それが鬱陶しいのか、ジャンヌは触手を振り回し、ヘラクレスは爆発で上空を攻撃しているが

ガン・レギオンにも、スツーカにも、フォッケウルフにもあたっていない。

 

……あれ? あいつら、どっちの味方なんだ?

 

「セージ、これは一体……!?」

 

「わからない、だが今がチャンスだ!」

 

いずれにせよ、このチャンスを逃す手は無い。

ゼノヴィアさんと光実に攻撃を指示し、俺もナイトファウルを改めて携え

アインストとの戦いに参加する。勿論、アルギュロスは装填済みだ。

 

「騒々しい……我らは……混沌は……望まぬ……!!」

 

「ヒトも……混沌も……静寂へと……帰れ……!!」

 

 

――お前らも……人間だろうが!!

 

 

人はその身に余る力を持てない。力を持て余した瞬間、人は人でなくなる。

少なくとも、今まで見てきた中では俺はそう思っている。

奴らはさながら、神器(セイクリッド・ギア)と言う己の力に溺れて、人の道を踏み外した挙句が

ああしてアインストへと変貌した、といったところだろうか。

スツーカとフォッケウルフの意外な支援攻撃によって

奴らの攻撃の隙が出来たことで、俺達は一気に攻め込んだのだが

奴らの攻撃の手が止まったわけではない。

相変わらずジャンヌの触手は攻撃の足を止めて来るし

足止めを喰らったところにヘラクレスの爆撃が来る。

 

爆撃自体はゼノヴィアさんがデュランダルで相殺しているが

そうなると攻撃できるのは俺と光実だけだ。

俺のナイトファウルはコアを狙わないと装甲の厚いヘラクレスはおろか

見た目的にはそこまで硬くなさそうなジャンヌにも有効打にならない。

光実――龍玄のブドウ龍砲もあまり有効打にはなっていないようだ。

 

「くっ……攻め込むなら、接近戦用のアームズが必要ですね……

 今持っている僕のロックシードなら……あれなら行けそうだ!

 セージさん、飛び道具はセージさんに任せます!」

 

「あっ、おい光実!」

 

間合いを取り、光実が戦極(せんごく)ドライバーのロックシードをはずす。

そして、また別のロックシードを取り出し、新たに填め直す。

 

 

〈キウイ!〉

 

〈ロック・オン!〉

 

――鳴り響く銅鑼と二胡のメロディ。

龍玄の頭上には、空間に穴が開いており、そこから――

 

 

――キウイが、落ちてきた。

 

〈ハイーッ!!〉

 

〈キウイアームズ!〉

 

〈撃! 輪! セイ! ヤッ! ハッ!〉

 

銅色の鎧に、輪切りのキウイを思わせるチャクラムを両手に携えた姿。

遠距離主体のブドウと違って、近~中距離戦に主眼を置いた装備のようだ。

なお、やはり記録は出来ない。

 

「これで触手を食い止めます、その隙にもう片方を!」

 

「わかった!」

 

なるほど。確かにあれだけ幅広の刃を振り回せば、触手のようなものなら容易く斬れる。

その証拠に、ジャンヌの触手を光実は舞うように回りながら切り裂いていく。

これなら、ガン・レギオンに援護させるだけでこっちは大丈夫そうだ。

スツーカとフォッケウルフは、形勢が不利と見たのか離れている。

あるいは、積んでいる燃料が無くなったか?

まあいずれにせよ、流れはこっちに来始めた。

 

「ガン・レギオン! 光実を援護しろ!

 ゼノヴィアさんは俺がヘラクレスの装甲を脆くするから続いてくれ!」

 

確か腐食剣はアインストゲミュートにも効いた。

ならば、このアインスト化したヘラクレスにも効くだろう。

奴の肉体が変異したものだから、確実なことは言えないが。

正直、扱いにくいナイトファウルを振り回すよりはこれで有効打を与えるのが先だろう。

そもそも、ナイトファウルの真価を発揮するにはコアを狙う必要がある。

 

「やれるんだな?」

 

「――やるさ!」

 

SOLID-FEELER!!

 

ヘラクレスに触手を巻きつけ、奴の巨体を軸にする形で一気に距離を詰める。

途中、ヘラクレスが触手を千切ろうと掴もうとするが

その一瞬を見逃さず、紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)に宿っている白龍皇の力を発動させる。

 

DIVIDE!!

 

元が大きい力だからか、相当弱体化したようだ。

しかし、それでも巻き付けた触手が千切られるのは時間の問題に思えた。

そこで、俺は奪い取った力を利用して地面を蹴る。

若干のクレーターを作りながら、ヘラクレスの懐に潜り込む。

 

――今だ!!

 

SOLID-CORROSION SWORD!!

 

ナイトファウルを一旦仕舞い、腐食剣を実体化させる。

まずは足だ。これだけの巨体を支える足を崩せば、相当無力化できるはずだ。

少なくとも、体勢は崩せるだろう。

 

切れ味の鈍い腐食剣が、鈍い音を立ててヘラクレスの硬質化した足に当たる。

向こう脛にあたる部分を叩いているのだが、特別悲鳴を上げていない。

今更だが、アインストって本当に人間とは違う構造してるんだな。

 

「ゼノヴィアさん!」

 

「おおおおおおおおおっ!!」

 

大振りに振りかざしたデュランダルが、脆くなったヘラクレスの足を切り裂こうとする。

しかし、突進するゼノヴィアさんの前にヘラクレスの拳が迫る。

しまった! 手が足りなかったか!

 

「くっ……!!」

 

「潰えよ……静寂を乱す者……!!」

 

この位置からではゼノヴィアさんは勢いを殺せないし、防御したら攻撃のチャンスが無くなる。

俺は慌てて巻き付けていた触手をヘラクレスの攻撃を食い止めようと

ヘラクレスが振りかぶった拳目掛けて伸ばすが、やはり、一歩遅い。迂闊だった――!!

 

「――なめるな、その程度で私を止められるか!!」

 

――しかし、ヘラクレスの攻撃はゼノヴィアさんの遥か頭上で爆発する形で終わった。

おかしい。あの位置なら爆発に巻き込ませるよりは殴った方が早い。

アインストだから人間とは戦法が違うのかもしれないが、それにしたって。

 

だが、それはこちらにとっては好機だった。なにせ、攻撃の勢いをほとんど殺がれていないのだ。

腐食剣で脆くなった部分を、的確にデュランダルが砕く。

轟音を立てて、ヘラクレスの巨体が傾く。

 

「……おのれ……混沌め……我らに……下りながら……

 我らに……楯突くか……!!」

 

よく見ると、ヘラクレスの右腕には砲弾――徹甲弾が突き刺さっていた。

恐らく、どこかから砲撃されたものだろうが……

天照様? それとも聖槍騎士団? このどちらかしか、この攻撃は出来ないはずだ。

 

 

……いや、今はそれについて考えるのは後だ!

崩れ落ちたヘラクレスのコアを狙おうと、腐食剣をナイトファウルに持ち替えようとするが。

 

『セージ、今は腕を封じろ。また攻撃されたら敵わん』

 

……それもそうか。俺は狙いを左腕の関節部分に変え、飛び上がって関節に腐食剣を叩きつける。

それを見ていたゼノヴィアさんが、続く形で関節をデュランダルで切り裂く。

 

EFFECT-RUIN MAGIC!!

 

そして、切り口に滅びの魔力を叩きこむ。こうすれば再生もするまい!

目論見通り、再生能力を滅ぼされたことで新しい腕が生えてくる気配も

切り落とされた腕を再接続しようと触手が伸びてくる気配もない。

これでヘラクレスの攻撃は殆ど封じた。と思っていたのだが――

 

(なんだ? レーダーに熱源? ヘラクレスのエネルギーが上昇してる……?

 何か行動するつもりだろうが、その前にコアを叩けば!)

 

体勢を崩し、コアが露出し、それを防ぐための腕も片方しかない。

ナイトファウルでコアを狙うなら今だと判断し、ヘラクレスのコア目掛けて突撃するのだが。

 

「セージ! ヘラクレスの様子がおかしい!

 

 …………背中だ! 背中が隆起して……何か撃ち出すつもりだ!!」

 

ゼノヴィアさんの指摘に、俺はヘラクレスが何をしようとしているのかを察知した。

尚の事、攻撃を急がなければならない。まだ何かしでかすつもりか!

 

COMMON-SCANNING!!

 

だが、焦ってもどうにもならない。せめて攻撃の正体は把握しておきたい。

そう思って検索をかけたのだが……

 

……この野郎! 最後になんてもの出しやがったんだ!!

なにせ、撃ちだそうとしているものが――

 

 

 

――核ミサイルと遜色ないものだったのだ。

 

 




手を組んだはずの聖槍騎士団が英雄派であるはずのジャンヌやヘラクレスを妨害するような行動。
これは彼らがアインストと化したからなのか、それとも。
ヘラクレスにスポットを当てたため、ジャンヌの影が薄いですがまあいずれ。

>キウイアームズ
本編では黄泉に改造された疑惑のあるアームズ。
触手相手ならブドウより優位に戦えるかな、とチョイス。
ヘラクレス相手ならパインの方がいいかもしれませんが
そっちは腐食剣とデュランダルの合わせ技になりました。

>ヘラクレスの最後の技
イメージは山のバーストン。
と言うか、原作ヘラクレスも割と山のバーストンっぽい感じがしなくもなく。
流石に核ミサイルはぶっぱしてない……はずですが。


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Will28. 「かつて」ですらなく Bパート

ちょっとくどいようですが、今回も念のため。
ヘラクレス、ドイツ語表記だとヘアクレスらしいので(googleの発音もそう聞こえます)。

まあ、今回でこの告知終わる予定ですけど。


七姉妹学園(セブンス)の校庭に現れた禍の団(カオス・ブリゲート)・英雄派を名乗るジャンヌとヘラクレス。

神器(セイクリッド・ギア)の力を笠に着て英雄の、偉人の継承者や転生を嘯く奴らだったが

奴らが変異した先はアインスト。

しかもアインストにさえもニヒト――否定を突き付けられていた。

それが、奴らに提示された奴らの声に対する答えだったのかもしれない。

 

俺はヘラクレスが変異したアインストヘアクレス・ニヒトに対し

優位に戦いを進めることができたが、追い詰められた奴はさらなる切り札を出してきた。

それは、かつて自分が使っていた神器――ミサイルを生成し撃ち出す能力――の

ある意味での完成系。

 

 

核ミサイルの射出であった。

 

 

テロ行為に核兵器を持ち出すってのは、知る限りじゃフィクションの話だけだ。

それを、アインストに変異したとは言え実際にテロで運用されるのだ。

なるほど、だから聖槍騎士団もアインストを止めにかかったのか?

……などと言うのは、ちょっと奴らを買い被り過ぎか。

 

いずれにせよ、ヘラクレスは倒さなければならない。

ミサイルの発射前に倒せば、何とかなるかもしれない。

そう考え、俺は一気にナイトファウルをヘラクレスのコアに突き付けた。

 

BOOST!!

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

装填しているアルギュロスも、予備のアルギュロスも全部撃ち尽くす勢いで

トリガーをでたらめに引いている。トリガーを引くたびにナイトファウルの

杭打機、ブラスティング・ステークがヘラクレスのアインストコアを叩きつける音が響き渡る。

こいつを倒せば核ミサイルが止まるかもしれない、そんな淡い希望だ。

 

しかし、ナイトファウルも試作品の複製だからか

ここまでの連射に銃身が耐えられていないようだ。

銃身からは火花や煙が吹き出し、軋む音が混じり始めている。

 

『セージ、このままじゃ銃身が持たんぞ』

 

「わかってる! だが核撃たれるよりマシだ!」

 

手ごたえからして、後一撃加えればコアを破壊できそうな感じにはなった。だが――

 

 

――その後に響いた爆発音は、俺がトリガーを引くよりも前に響き渡った。

 

 

「ぐわあっ!!!」

 

フリッケンの指摘通り、ヘラクレスのコアを破壊する前にナイトファウルが持たなかった。

実体化させたナイトファウルが暴発してしまい、右手に灼けるような痛みが走る。

血で赤く染まった腕は、次の手を打つことができない。ついでに言えば、リロードすらできない。

 

「俺は……英雄だ……英雄は……力で……世界を……

 

 

 ……世界を……静寂で……満たす……!」

 

一方、とどめを刺すに至れなかったヘラクレスは

完全に自分の意思とアインストの意思が混ざり合っている。

このままじゃ核ミサイルが落ちる上に、こいつも倒せない。二発目を撃たれる危険もある!

だが、もう俺に出来ることは無い。無いというか、出来ない。

 

「貴っ様ァ! 街中で核ミサイル撃つなんざ、それが人間のやることか!!」

 

俺の叫びも虚しく、核ミサイルは射出された。

もしかすると、ここでこいつを倒せば機能停止するかもしれないが……

 

……今の俺には、攻撃する手立てがない。

 

「セージ、下がってくれ! 私がとどめを刺す!」

 

声に合わせて後ろに飛びのくと、俺と入れ替わる形でゼノヴィアさんが飛び込み

デュランダルをヘラクレスのコアのひび割れた部分に突き立てる。

次の瞬間、ヘラクレスのものと思われる咆哮が響き渡った。

 

「どうだ!」

 

「……お、おのれ……

 だが……俺を……倒しても……もう……遅い……

 

 世界は……俺が……せ……い……じゃ……く……に…………」

 

 

「――っ、ダメだ! 奴は倒せたが、ミサイルは健在だ!」

 

コアが砕け散ると同時に、ヘラクレスの体は崩れ去り、風化していく。

しかし、撃ち出された核ミサイルは健在だ。

この撃ち出された核ミサイルをどうにかして成層圏の向こうまで飛ばして爆破するか?

そうでもしないと、この一帯が放射能汚染されてしまう。

今から珠閒瑠市や周辺地域全域に避難を呼びかける暇もない。

 

全く、一難去ってまた一難とは言うが!

とんだ英雄の置き土産だと思う間もなく、いまだ引かぬ痛みに意識が飛びそうになる。

 

「セージ!」

 

「セージさん!」

 

光実はジャンヌに対し優位に戦っているが、こっちがこれでは……

それに、核ミサイルをどうにかしながらジャンヌと戦うなんて到底、出来ない。

 

「ぐ……ぜ、ゼノヴィアさんは光実の援護を……」

 

「しかし!」

 

こうなった以上、核ミサイルを止めるのが先だ。

とにもかくにも、そうしなければ何もかもが終わってしまう。

核ミサイルをどうにかするにしても、横槍を入れられるのは御免だ。

 

「アーシアさんじゃあるまいし……今戦えるのはあんただけだし

 そもそもあんた飛べないしあんな超高高度の標的をどうにかできるのか?

 

 ミサイルは俺が何とかする……ジャンヌ、奴とてアインストだ。

 それも俺達複数がかりでないと倒せない規模のな。

 だから早く光実の援護を……!」

 

「くっ……無理はするなよ!」

 

ゼノヴィアさんは俺を一瞥した後光実とジャンヌの戦いに加勢する。

それを見て安堵した俺は、何とかして記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)のリロードを決行。

消耗を感じながらも、右手の傷を回復させるには現状これしかなかったのだ。

 

RELOAD!!

 

EFFECT-HEALING!!

 

痛みに耐えながらカードを引く。激痛で手元が狂うのでなかなか難しかったが

何とか傷は塞がり、痛みも引いた。

血で赤く染まっちゃいるが、こればっかりは洗ったり拭いたりしてる暇がない。

不衛生ではあるが、それより急ぎの用事があるのだ。

 

……無理すんなったって、無理でもやらなきゃダメだろうが。

相手は核ミサイルなんだぞ!

 

「待たせたなアモン、後は任せていいか?

 悪いが、なるはやで頼みたいところだが」

 

相手が上空に向かっている以上、アモンの力を使わざるを得ない。

アモンも戦歴は相応にあるが、果たして核ミサイルの阻止なんざやった事があるのだろうか?

いや、今は何も思うまい。核ミサイルの阻止が最優先だ。

有無を言わせぬ形で、俺はアモンと交代する形で引っ込んだ。

 

「お前、存外に悪魔使いが荒いな。俺がやるしかねえのはわかるがよ。

 ここでどうにかしないとこの辺一帯諸共に壊滅だしな。

 セージ。お前には俺の許可なく死なれたら困るとは言った気がするが……

 

 ……万が一の時は、覚悟しとけよ」

 

そんなの、グレモリー先輩の眷属に組み込まれたときから相応に覚悟してる。

向こうは命張ってる意識は無かったのかもしれないが、やってることは普通に命がけだった。

今からやるのは、コカビエルの時どころか、下手すりゃ暴走した兵藤を止めるのよりもきつい。

 

――何せ、俺達だけで一発だけとはいえ核ミサイルをどうにかしないといけないんだ。

  どう贔屓目に見ても、一介の高校生のやれることを大幅に超えている。なんなのだ、これは。

 

『なあアモン。悪魔って、放射線とか防げるバリア張れるのか?』

 

「何とも言えん。爆発の威力はもしかしたら防げるかもしれないが

 その後の放射線の影響まで試したことが無いからな。

 純血悪魔なら放射線の影響を受けないかもしれないが、お前はそうでもないだろ。

 処理に成功しても、お前が被曝しましたじゃ笑えんぞ。

 お前の体がダメになったら、俺もダメになる」

 

じゃ、方法は一つだな。

核ミサイルが地上に落ちてこないように上空で爆破するのではなく

そのまま核ミサイルに成層圏を突破してもらう必要がある。

構造がわかれば弾頭を取り除いて破壊することもできるが

そもそも俺は核ミサイルの構造を知らないし

アモンに代わって飛び続けなければならない以上検索もできない。

 

それに、アインストが生成した核ミサイルが

人間が保有している核ミサイルと同じだって保証が無い。

だからって、威力や放射能汚染の危険性が無いってまで考えるのは楽観が過ぎる。

止めなければならないことに、変わりはあるまい。

 

アモンは赤い翼(デビルウィング)を広げ、超高速でミサイル目掛けて飛びあがろうとした時。

遠くから、赤い閃光が空に向かって放たれた。

あの方角は……鳴海(なるみ)区辺りから射出されたものだが……

 

 

…………まさか!!

 

 

次の瞬間、雲の向こうで大爆発が起きた。飛んでいたら、間違いなく巻き込まれていた。

ミサイルが落ちてくることは無くなったが、放射線はどうなってる?

ガイガーカウンターなんて俺は持ってないし作れない。

目に見えない恐怖に慄いていると、俺のスマホに連絡が入った。

 

『宮本君、私です。薮田(やぶた)です。事態は私も校舎から眺めていたから把握していましたよ。

 少々出過ぎた真似かもしれませんが、放射線については私の神器で除去しておきました。

 ここを新たな日本の被爆地にするわけにはいきませんからね』

 

ご都合主義の神頼みでも何でもいい! ありがとう薮田先生!

これで目下の心配事は片付いた!

 

「……一応、礼は言っとくぜ」

 

『その声……アモンですね。確かにミサイルの相手ならば飛べない宮本君よりは

 あなたの方が適任でしょうが……悪魔とて核ミサイルの直撃には耐えられないはずですよ?

 まして、その体は宮本君のものです。

 いくらマグネタイトで補強したとて、核ミサイルに耐えうるとは思えませんが』

 

あ、やっぱり? 俺もそれは懸念していた。ほかに方法が思いつかなかったから、空中でどうにかするつもりだったが。

アキシオン・バスターは二次災害起きそうだったし。

等と思っていたら、薮田先生から意外な言葉を聞かされた。

 

『宮本君。今みたいな時こそ、アキシオン・バスターの……ディーン・レヴの使い時でしたよ。

 今回は、這い寄る混沌の目論見に乗せられてしまった形ではありますが

 お陰で核ミサイルの脅威から逃れることは出来ましたね』

 

這い寄る混沌? なぜそこでそれが…………まさか、さっきの赤い閃光は!!

 

「おいヤルダバオト。まだアインスト残ってるから、そろそろいいか?」

 

『そうでしたね。では外は引き続きお願いしますよ。

 正直、校舎の中も安全かつ平和とは言い難い状態でしてね』

 

薮田先生が気になることを言っていたが、事情を聴く前にアモンに通話を切られてしまった。

だがまあ、アモンの言う通りまだジャンヌが残っている。

幸い怪我は治療済みなので、俺に代わってもいいが……

 

「いや、このまま俺にやらせろ。お前、疲れてるだろ」

 

……まあ、かなり無理してリロードかけたりメンタルで消耗してる部分はあるから

アモンの言う事もあながち間違いじゃない。

それに、正直ゼノヴィアさんと光実だけで行けそうな感じもしないでもないので

俺が出張ることもない。そういう意味でもアモンに任せてもいいか。

 

「俺がやるとは言ったが、俺は消化試合担当じゃないぞ」

 

……聞こえてた。そういう意味じゃないが、すまん。

とにかく、後はアモンとゼノヴィアさん、光実に任せよう。

 

アモンがジャンヌに向かって飛び掛かると、迎撃しようと触手(シュヴェールト・ギーセン)が伸びてくる。

しかしその触手はキウイ撃輪によって切り裂かれ、アモンの進路はがら空きだ。

……ん? そういや、アモンはナイトファウルは使えないはずだ。

アインストのコアを狙うなら、やはり俺が出た方がいいんじゃ……

 

……と思った矢先、アモンはある意味アルギュロスよりも、アントラクスよりも

強大な威力を発揮する特効のある攻撃を繰り出したのだ。

 

「てめえが本当にジャンヌ・ダルクなら……これに耐えられるか!」

 

そうだ。奴は自称とは言えジャンヌ・ダルクを名乗っていた。

確かジャンヌ・ダルクの末路は磔の上、火炙りだ。

そしてアモンは、炎も扱える。

ちなみに俺の手元には爆発や雷のカードはあれど、炎のカードは無かったりする。

アモンならではの攻撃だ。

 

アインストヨハンナ・ニヒトの尾の部分から焦がし焼き尽くすように

七姉妹学園の校庭は炎に包まれた。

炎はアインストヨハンナ・ニヒトを中心に火柱となって燃え上がる。

さながら、自らの体――長い尾が磔台と化したような形で。

 

「何かと思えば……そんなもの……私には……

 

 

 ……あつい、いや、いやよ、火は……火はいやああああああああああ!!

 あつい、やめて……私は、私は魔女じゃないいいいいいいい!!!」

 

確かにアインストにはそれほど火は効果的ではない。

しかし、もし本当にジャンヌ・ダルクの魂を継承しているのならば

己の死の原因となった炎には、相当なトラウマが出来ているはずだ。

 

……余裕が無かったから記録できなかったけど

こんなことならフェニックスの炎を記録しておくべきだったかな。

にしても、こんな形でジャンヌ・ダルクの魂を受け継いだってすごい皮肉だな……

 

火達磨になった人間が暴れるように、ジャンヌは触手を振り回し暴れまわるが

その攻撃はアモンの熱光線(デビルビーム)やキウイアームズからブドウアームズにアームズチェンジした

光実――アーマードライダー龍玄(りゅうげん)のブドウ龍砲によって阻まれる。

 

「合わせろ、ブドウ野郎!」

 

「間違っちゃないですけど……わかりました!」

 

「飛んでくる炎は私に任せろ。接近戦は出来なくとも、デュランダルは盾にもできる!」

 

光実と息を合わせ、ジャンヌにとどめを刺そうと必殺の一撃の準備に入る。

ジャンヌが焼かれる苦しさから暴れることで飛び散ってくる炎は

ゼノヴィアさんがデュランダルで防いでいる。とどめを刺すなら好機だ!

 

――行け、アモン、光実ェ!!

 

〈ブドウスカッシュ!!〉

 

「デビル……ビィィィィィィィム!!」

 

ブドウ龍砲のドラゴンショットと、アモンの熱光線がさらなる熱をジャンヌにもたらす。

アモンの炎を受けた時から苦悶の声を上げていたジャンヌは、ひときわ大きな悲鳴を上げた後

崩れて動かなくなった。

 

……人間の死に方としちゃ、生きたまま焼かれるって相当苦しいらしいが……

 

『言っちゃなんだが、あいつは既にアインストだった。

 現に、龍玄とアモンの一撃でコアが粉砕されたら、跡形もなくなっただろうが。

 

 ……たとえ人間みたいなことをほざきやがっても、バケモノに魂売り渡した時点で

 そいつはもう人間じゃない』

 

人間自体バケモノとの境界線に立ってるようなもんだがな、と付け加えて

フリッケンが一人ごちる。俺の心の声に反応したらしい。

 

……なんにせよ、これで校庭に入り込んだアインストは倒せたはずだ。

騒動に紛れて入り込んできた奴がいない限りは、だが。

 

アモンと交代し、レーダーをチェックしたり上空を見渡しているが

いつの間にかスツーカとフォッケウルフもいなくなっていた。

あいつら、本当に何しに来たんだ?

それにさっき、薮田先生が「這い寄る混沌のお陰で核ミサイル落下が阻止できた」って言ってたが

スツーカもフォッケウルフも這い寄る混沌の軍勢じゃないか、ある意味。

 

……なんかこの件、非常に複雑で嫌な予感がするが……

 

俺がアモンと交代したのを皮切りに、光実は変身を解きゼノヴィアさんもデュランダルをしまうが

次の瞬間、校舎から悲鳴が響き渡った。




Cパートまで行くかな、と思ってたけど
案外早く終わった。
当初の予定では核ミサイルをアモンが追っかけて、雲の上で核ミサイル狙撃に巻き込まれて
錐揉み落下するところをスイカに拾われる、って流れだったんですが
いくら何でも核ミサイルが目の前で爆発して無事に済むわけないだろとか
色々考えてこの形に。

ちなみにそうなった場合、ジャンヌの火炙りはCパートの予定でした。

>ナイトファウル
ここに来て試作品故の耐久力の低さが仇に。
原作みたく極とか複合式杭打機「鵺」とか出せればいいんですけど
現時点の機関砲オミットしたナイトファウルでさえ相当無理してるので
多分出てこない、多分。

>赤い閃光
現時点で、これが出来る奴って時点で限られてるお話。
因みに、もう少しミサイルの高度が低かったら……珠閒瑠市が被曝してました。

>被曝
原作ならニュートロンジャマーとか普通に作れそうですけど
拙作では上級悪魔でも核ミサイルの威力は危険、放射線的な意味でも。としてあります。
因みにアモン(セージ)は言わずもがな。はげるどころか……

今回薮田先生が神器で放射線除去してますが、それ以外の方法が思いつきませんでした。
やっぱ軽々しく核なんか撃つもんじゃないな!
……すみません。

>アモンの炎
バトルドッジボールで炎使ってますし、漫画版でも炎で焼き払う場面(イメージ?)ありますし。
この後デビルビームとか言っちゃって熱光線撃ってますが。
そういやデビルビームってほぼブレストファイヤーなイメージが……

……ファイナルダイナミックスペシャルできるんじゃね?

>ジャンヌ
ヘラクレスは本当に末裔ないし生まれ変わりかどうかは拙作でもわからずじまいでしたが
こちらはこんな形で本人認定。死にますけど。


さて次回。校舎の中で何が起こるやら。
ヒントはJOKER呪い。


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Will29. 学園のJOKER Aパート

アインストと化した禍の団(カオス・ブリゲート)・英雄派を名乗る

自称ヘラクレスは自爆同然に核ミサイルを撃ち上げたが

それは謎の赤い閃光によってはるか上空で撃破され、核の放射線も薮田(やぶた)先生の神器によって除去。

ナイトファウルでひび割れたヘラクレスのコアもゼノヴィアさんのデュランダルで砕かれ

塵と化した。

 

同時に現れたジャンヌもまたアインストと化し、こちらを苦しめたが

自称ヘラクレスの後を追うように崩れ去った。

その最期は、炎に包まれて焼き尽くされるという

図らずも史実のジャンヌ・ダルクと同じものであった。その際の取り乱しようは

本当にジャンヌ・ダルクの転生であると思わせるものであったが……

 

……果たして、彼女は輪廻転生を是とする教義の下で生きていたのだろうか?

そうでなかったら、色々とそれはそれで興味深い話だが。

 

 

――しかし、アインストと化した2人を倒したのもつかの間

今度は七姉妹学園(セブンス)の校舎の中から悲鳴が響き渡ってきたのだ。

確かに、中は殆ど祐斗やギャスパー、薮田先生とかに任せた形ではあるが……

 

「セージさん、ゼノヴィアさん!」

 

「あ、ああ! セージ、ミツザネ、急ぐぞ!」

 

校庭の安全を確認し、俺達は校舎へと急ぐ。

しかしその目の前に、クルゼレイと呼ばれたアインストが立ちはだかる。

くっ……アモンの言う通りなら、あのカテレア・レヴィアタンと同格。

ここで相手取るにはかなりきつい相手だ。

少なくとも、神様交えた総当たりでようやく倒せたアインストレヴィアタンと同格って事になる。

何の被害も出さずに倒すってのは、厳しそうだ。

……いくらあの時から禁手(バランスブレイカー)とか色々増えたと言っても、数としての戦力が足らなさすぎる。

分身して戦力比を埋めるとかそういう次元の話じゃない。

 

「所詮は……不完全な……生命体……

 結果も……予測の……範囲内……

 我等の……望む……世界には……不要……」

 

クルゼレイの言葉は、色々な意味で予想通りだった。

やはりあいつらは、英雄などと嘯いていてもその実使い捨てに過ぎなかったのだ。

アインスト自体が、死者を悼む発想にかけているってのもあるかもだが。

 

「然れども……目的は……達成せり……

 記録する者……古の記録に……近づかんと……する者……

 歪められた……歴史の……新たな……特異点……」

 

言ってることが要領を得ない。

まあ、アインストレヴィアタンもこんな感じだったが。

言葉はわかるが、会話ができない。そういうタイプか。

 

「……何が言いたい?」

 

「記録する者よ……お前も……我等の望む……世界には……不要……

 静寂なる世界……その静寂を乱す……特異点は……抹殺する……」

 

言いたいことはわかった。

こっちを見ながら言ってるって事は、俺がその記録する者で、特異点って事だろう。

記録する者はわからんでもないが、特異点ってのはよくわからんが。

ついでに言うと、古の記録ってのも全然わからん。

アインストの言葉をいちいち額面通りに読んでいたらキリがないのはあるが。

 

いや、それよりもだ。

いくら何でも、これだけの戦力でアインストレヴィアタンクラスと戦うのは無理が過ぎる。

禁手化(バランスブレイク)すれば、太刀打ちは出来るかもしれないが……

 

……セブンスや、珠閒瑠(すまる)市を守りながら戦うとなると……

 

「くっ、そこをどけっ!」

 

「無駄だ……不完全な……生命体に……私は……倒せぬ……」

 

問答に痺れを切らしたゼノヴィアさんがクルゼレイに飛び掛かるが

デュランダルの一撃はいとも簡単にクルゼレイのエレガントアルムに阻まれる。

サイズこそアインストレヴィアタンより小さいが、パワーは全然変わってないか……!

 

とにもかくにも、こいつを倒さないと先に進めない。

……やるしか、ないか。

 

無限大百科事典(インフィニティ・アーカイヴス)を起動させようと構えると、目の前が突如として真っ白になる。

視界が回復したその先には、白いローブに黄金の光輪を背負った――

 

――ヤルダバオトが、クルゼレイと向き合うように立ちはだかっていた。

 

「皆さん。クルゼレイの相手は私がします。皆さんは校舎の中をお願いします」

 

「や、薮田先生!? あ、あなたは……!!」

 

あれ。ゼノヴィアさんって薮田先生の正体知らなかったっけ?

いや、今はそれよりも、だ。

 

「私がこうして動けば天照様にも伝わるかもしれませんが、今はそれどころではないでしょう。

 さっきも言いましたが、力とは使うべき時に使うものです。

 私の力ならば、周囲に影響を及ぼさずに対処することなど造作もありませんよ」

 

そう言う事が必要なくらい、影響の出る戦いになるって事か。

そうなると、俺達が下手に加勢しても却って邪魔になりかねない。

それに、薮田先生がこっちに来たって事はその分校舎の中が手薄になってるって事だ。

 

「わかりました。では先生、俺達は中に向かいます!」

 

「待てセージ! あの方は……!!」

 

「ゼノヴィアさん、急いでください! 中の悲鳴も只事じゃないです!」

 

俺と光実(みつざね)はゼノヴィアさんを引っ張るような形で校舎の中へと駆け込んでいく。

直後、背後から爆発音が聞こえたが衝撃は然程伝わってこない。

セブンスを駒王学園の二の舞ににすることは避けたいが

そのために今俺達が出来るのは、この中の安全の確保だろう。

 

「そう言えばセージさん。薮田先生って、あの身なりは只者では無いと思いますが……」

 

「それはそうだろう! 私もお目にかけたことは無いが

 あれは聖書の神と言っても差し障りのないものだったぞ!」

 

興奮気味に話すゼノヴィアさんに、光実は軽く引いている。

うんまあ、日本人の感覚ならそりゃそうだと思う。

俺も慣れちゃった部分はあるが、そう言えばゼノヴィアさんって元々……なところはあったと

今更ながらに思い返していたり。

 

「ヤルダバオト。ゼノヴィアさんは聞いたことが無いか?

 本人曰く聖書の神の影武者だそうだが、聖書の神として表舞台に立つつもりは

 俺が知っている限りでは無いそうだ。三大勢力のやらかし以外では、だそうだが。

 今はこれ以上だらだら喋ってる時間も惜しいから、このまま進んでいいか?」

 

「むう……確かに、聞いたことはある……ニセモノの神の名前ではあるが。

 だが、そうであれば聖書の神が消えたという時に、彼が表舞台に立てば……!!」

 

「……ゼノヴィアさん。気持ちはわかるとは言わないし

 ムキになる理由を俺は日本人特有の信心の浅さ故に全く理解できないが

 その上で言わせてくれないか?

 

 ……問答してる時間が惜しいって言った。まずすぐそこにギャスパーがいる教室があるから

 そこから調べて、可能ならギャスパーと合流するなり情報共有するなりしたい」

 

俺も焦っていたのかもしれない。少し強い口調でゼノヴィアさんに言ってしまった。

だが、俺にはゼノヴィアさんの気持ちはわからない。わかろうとする意志は必要だが

想像もつかない気持ちを、どうわかれと言うのだ。

 

俺達はまず宣言通りギャスパーと合流することにした。

ギャスパーがいた教室に駆け込んだ先に入ってきたのは

白塗りの貌にやたらと目立つ赤い唇の生徒に掴まれているギャスパーだった。

 

……待て。いくらギャスパーが内向的でも、ここにいる普通の人間に負けるほど

膂力が弱いとは思えない。となると答えは一つだ。

 

 

――こいつは、一体何者だ!

 

 

「ゼノヴィアさん! 姿こそ違いますが、こいつは……!」

 

「JOKER! こんなところにまでいたのか!」

 

「ま……待ってください! この人はJOKERかもしれませんけど……

 ここの、セブンスの生徒です!」

 

……なんだ? ゼノヴィアさんも光実も、ギャスパーもこいつの事を知っている素振りだが

それより、ギャスパーの言葉を信じるならこいつがここの生徒? 一体どういうことだ?

 

COMMON-SCANNING!!

 

当然、調べるより他あるまい。俺のやることは決まっている。

些か遅れた感はあるものの、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を白塗り貌の生徒に向ける。

 

――JOKER。

 

かつて珠閒瑠市で一世を風靡し、昨今では冥界でも流行している

「JOKER呪い」によって顕現する願いを叶える怪人であり、連続殺人鬼である。

かつて「JOKER呪いを行ったものはJOKERと化す」と言う伝聞が伝わった事で

それが現実化、珠閒瑠市に無数のJOKERが現れたこともあった。

 

現在では噂や流行の衰退からJOKER呪いは行われなくなったが、冥界にて再流行。

それが人間界に齎され、逆輸入の形で再流行を果たした。

長い年月の間にJOKER呪いに関する顛末は忘れ去られており

再び危険性はそのままに、世情への不安から流行の兆しを見せていた。

 

JOKER呪いで変異した者は、JOKERと呼ばれるペルソナに支配され

その力のみならず人格も連続殺人鬼としてのJOKERと遜色無くなってしまう。

ペルソナであるため、ベルベットルームで一時的な対症療法が可能。

 

能力は変異した人間の特性に応じた様々な魔法や力に加え

周囲の人間のうち、誰か一人の能力を一時的にJOKERで上書きし

無差別攻撃をさせ、自滅させる「オールドメイド」なる能力も持つ。

また、かつて澄丸清忠(すまるきよただ)なる武将が所持していた妖刀「村正」の複製品も所持しており

この妖刀には異能封じの力も込められている。

 

 

――つまり、聖槍騎士団の相互互換ってとこか。

いや、場合によっちゃ無尽蔵に増えることを考えると

一応13人で頭打ちの聖槍騎士団よりヤバい部分があるって事か!

妖刀に能力の上書き、ギャスパーが苦戦してるのはもしかしてこれか?

 

 

「聖槍と同じ能力封じなら、この中じゃ俺のアモンの力か、ギャスパーの吸血鬼としての力。

 それと光実のアーマードライダーシステムなら太刀打ちできるはずだ。

 ギャスパー、吸血鬼としての力で戦うんだ!」

 

「わ、わかりました!」

 

「そう言う事なら、ここは僕に任せてください!」

 

捕まれていたギャスパーが蝙蝠の群れに変身することで拘束を脱出。

そのままJOKERとなった生徒を翻弄している間に

光実が戦極ドライバーとロックシードを構える。

 

〈ブドウ!〉

 

〈ロック・オン!〉

 

「変身!」

 

〈ハイーッ!〉

 

〈ブドウアームズ! 龍・砲! ハッハッハッ!〉

 

緑のスーツにブドウの紫を差し色が施された中国武将を思わせるアーマードライダー、龍玄(りゅうげん)

アーマードライダーは、力の源はともかく異能に依らない人間の技術。

異能では無いので、オールドメイドでも、妖刀でも無力化出来ないのだ。

 

「ギャスパー、光実。ここは任せていいか?」

 

「セージ! 相手は……」

 

「待ってくれ。俺の検索が正しければ『この学校に、他にもJOKERがいる可能性が高い』んだ。

 そうなると、ここで全員足止めを食うわけにはいかない。

 いくら他に祐斗だの薮田先生だのいるって言っても、限度がある。

 それに、どれだけの生徒がJOKERになったかわからないんだ。

 ここのJOKERの反応は、普通の人間と変わらなかったんだ」

 

今度はゼノヴィアさんの言いたいことがわかる。

ギャスパーと光実だけで、殺さず倒すことができるかどうかと言うと困難だろう。

しかし、この校舎中に他にもいる可能性を考えると、ここで固まっているわけにはいかない。

幸い外のアインストはクルゼレイのみ。そのクルゼレイも薮田先生が押さえている。

逆に言えば、校舎内で担当するはずだった薮田先生の分を俺達が押さえなければならない。

 

後は祐斗のいる俺達がいた教室と、それ以外。

分散するのは失策かもしれないが、勝手のわからない場所ならば

まず自分達がいた教室の安全を確保した方がいいかもしれない。

 

「ゼノヴィアさん、まず俺達がいた教室の安全を確認しよう。

 俺はJOKERと戦ったことが無いから相手の強さが今一わからないが

 話に聞くのと、調べた限りでは相当な難敵だ。くれぐれも気を付けてくれ」

 

「わかった。君も気を付けてくれ」

 

二階へ戻り、俺達は各々が授業を受けていた教室へと戻ることにした。

俺もまた、教室に戻ろうと身を翻したが

次の瞬間、若流(わかる)先生の悲鳴が響き渡った。

 

どう考えても只事じゃない。

今なお襲い掛かってくるナチス製のマシンを蹴散らしながら

俺は教室に戻り、勢いよく引き戸をガラリと開ける。

 

「若流先生!?」

 

「宮本君!? ぶ、無事だったんだね……

 で、でもわかんないよ……木場君が……狂暴化した生徒を止めようとして

 取り押さえようとしてたんだけど、次の瞬間……

 

 木場君の周りにいた生徒が、次々と血まみれになって……!!」

 

俺の前の前に広がったのは、赤く染まった教室の床と

さっきギャスパーと対峙していた白塗り赤唇の生徒と

それを取り押さえながらも、茫然としている木場の姿。

そして、木場の周りで崩れ落ちているセブンスと、駒王学園の制服。

 

「いたぁ……! さっきのクソナマイキな奴!

 てめぇが勝手なことしなけりゃ、俺が学校のテロリストやっつけて

 ヒーローになって、みんなを見返して、先生にもでかい面させずに

 女の子や若流先生とかにモテモテになってるはずだったんだ!

 

 それを……てめぇがぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 何のために俺がJOKER様に願ったと思ってるんだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

――JOKER呪いをしたものはJOKERとなる――

 

 

その言葉の意味を、ここで俺は完全に理解した。

何故なら、その白塗りの貌もまた、セブンスの制服を着ており

その特徴は、ギャスパーが話していたものとほとんど変わらないものであったからだ。




JOKER再び。
しかし、このJOKERは先日リアスらを襲撃したJOKERではありません。
そして目的を果たすために生み出された紙袋でもなく。

そう言えば、モチベ向上の一環で某シラカワ博士の幻想入り動画とか見返してましたが
鈴奈庵の噂って、かなりペルソナ2の噂に通ずるものがありますね。
今のところ虹川姉妹と名前だけの京都の妖怪の総大将以外に東方要素ありませんし
増やす予定はありませんが。

>JOKER
こちらは罰で大量発生した方のJOKER。
今回JOKER絡みではKEGAREがどうのって話は無いので
単純に連続殺人鬼が大量に野放しにされるだけのお話。
警察も現状JOKERを積極的に(目的のために)捕まえるって話も無いので
校舎内が阿鼻叫喚に包まれたのはそういう系のお話。

所持している妖刀のコピーは罰原作では触れられていないX-1とX-2の所持している
コピーの大本の持ち主がもしかしたら、程度の話なのでこれまた独自設定の範疇を出てません。
ちなみに妖刀はJOKER化した際に顕現したとかそんな感じ。

そのやり取りこそ描いてませんが、木場はババを引いちゃったとだけ。
いくらかまともだったはずの木場のテロリスト疑惑の噂がこれで加速します。

で、木場にババ引かせたJOKERはセージが飛び出した際に後ろでぶつくさ言ってた奴。
JOKERに「ヒーローになりたい」とでも願ったのでしょう。
罪ジョーカーは記憶の限りでは悪意のある願いの叶え方はしてませんが
あれは正体やジョーカーになった経緯故のことと解釈しましたので
その辺の無い拙作JOKERは普通にイマジンみたいな願いの叶え方もします。

ギャスパーがババ引かなかったのは、妖刀を受けただけのお話。
聖なる武器でもないので、傷こそ軽微ですが神器(と悪魔の駒)封じは健在ですので。

>クルゼレイ
カテレアみたく巨大化はしてませんが、彼の場合同様のパターンになると
カオス・レムレースみたいなことになりそうな。あるいはヴォルクルス。
……あれ? あんまり本来のアインストレジセイアと変わらないな?

と言うわけもあり、今回巨大化は無しです。
ただしパワーはカテレアと互角なので薮田先生出番ですという事で。
あの時からセージも成長してるとはいえ、本文にて触れてる通り戦力全然足りませんし
校舎内の事もありますしで。

>セージ特異点疑惑
「ハイスクールD×D」って作品と拙作を比較すれば、宮本成二ほど特異点を名乗っていい存在は無いと手前味噌ながら解釈してます。
まあ、数多の二次創作オリキャラ(特にオリ主)に言えることなんですが。
なおペルソナ2罰でも達哉が罰世界における特異点呼ばわりされてましたし

特異点と言えば、拙作は一応他平成ライダーも出せる余地があるので……


3/29追記
誤字報告ありがとうございます。
よう言わんわ、関西弁でしたねそういや。
そりゃこの場で言うのは不適切だ。

……台詞とか特に黙読しながら書いているので
時々こういうことが起きます……


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Will29. 学園のJOKER Bパート

お待たせしました。
ちょっと最近モチベが上がりにくい状態です。
踝剥離骨折したり、虫歯が見つかったり、ニキビが悪化したりと
医療費がぽこじゃか発生する現状。


――JOKER呪いをしたものはJOKERとなる――

 

 

かつて、珠閒瑠(すまる)市で流行したJOKER呪いにまつわる噂であるそうだ。

JOKERとは願いを叶える怪人であると言われているが

それと同時に連続殺人鬼であるとも言われていた。

JOKERに願いを叶えてもらった者は、JOKERと化してしまう。

荒唐無稽な話であったはずのそれは

過去珠閒瑠市において現実のものとして席巻していたらしい。

 

そして今、語られなくなって久しく、風化したはずのJOKER呪いは

JOKERの存在ごと珠閒瑠市において復活した。

 

 

 

七姉妹学園に、JOKERの狂った笑い声が木霊する。

俺がいる教室にも、現に目の前にJOKERとなった生徒がいる。

それだけじゃない。外からも、悲鳴に混じって狂った笑い声が聞こえてくる。

ギャスパーのいた教室と、この教室の現状からもしや、とは思ったが

他にもJOKERのいる教室はあるようだ。ならば、ここで時間はかけられない……のだが。

 

「ぼ、僕は……僕は…………!!」

 

「落ち着け祐斗、お前のせいじゃない。お前が手を下したわけじゃ……!」

 

JOKERの能力だろうか、祐斗がJOKERとなった生徒を取り押さえようとした矢先に

祐斗の近くにいた生徒が影響をもろに受けて、負傷したようだ。

とにかく、ここは祐斗と負傷した生徒を下げないと……

 

そうなると、分身を出すしかなさそうだ。

まさかJOKERを放置してぞろぞろ外に出るわけにもいかない。

外はまだナチスの軍勢がいるし、最悪JOKERと鉢合わせになる危険性だってある。

光実(みつざね)やギャスパーを呼ぶ? 無理だ。二人だってJOKERと戦ってる。

ゼノヴィアさんも同様の理由で呼べない。

薮田先生は外でアインストの相手だ。そもそも、先生が外でアインストを押さえてくれているから

俺達は校内でJOKERの相手に専念できるってのに。

 

そうなると、グレモリー先輩や姫島先輩、あと生徒会も呼べないだろう。

うまいことJOKERを押さえてくれることを祈るしかない。不安だけど。

 

と言うわけで、分身を出すしかない状況に追い込まれたわけだが……これも正直不安だ。

JOKERの強さがどれほどかわからないが、手抜きは出来ないし

外に出る俺は護衛をしながらナチスの軍勢と戦わなきゃならない。

その影響がこっちに出たら、最悪共倒れだ。逆もまた然りだが。

 

「……宮本君。君は戦えるんだよね?」

 

「え? ええ、でなきゃ飛び出したりしませんよ」

 

JOKERの動きに警戒する中、不意に若流(わかる)先生が話しかけてくる。

思わず素で返してしまったが、JOKERが空気読んでくれることを願うしかないな、こりゃ。

 

「じゃあ、宮本君は怪我した人たちを連れて保健室に行って。

 大丈夫、あの子も私の生徒だもん。話せばわかるって」

 

…………は? わかる~……わきゃないだろ!?

確かに安全に届けるには、俺がついていた方がいいかもしれないが

若流先生がJOKERを押さえるのか!? 無茶にも程がある!

 

「しかし先生! あれはどう見ても普通じゃないです!

 逃げるなら、全員一緒に……」

 

『セージ、お前も落ち着け。この人数を、しかも怪我人まで抱えていて

 無事保健室までたどり着けるか? でもって、保健室にこんだけの人数匿える余裕あるか?』

 

思わず感情的になっていたらしく、フリッケンに突っ込まれてしまう。

フリッケンの言う通り、ぞろぞろ移動すれば見つかりやすくなるし

保健室は大抵普通の教室より狭い。そうでなくとも、クラス全員を入れる想定はしてないだろう。

それに、考えてみれば同じことを考えている奴らとぶち当たったら共倒れだ。

 

(……ぐ、ならどうするフリッケン。外で戦うと薮田先生の邪魔になる。

 かと言って教室の中で戦うには手狭だし、他の生徒がパニック起こしかねない。

 祐斗でさえ、かなり危険な状態なんだ)

 

「てめえええええっ!! なに若流先生と親しげに話してるんだあああああ!!

 その役目は、俺の役目だああああああっ!!」

 

俺が若流先生と話しているのを見て、JOKERが激昂する。

この沸点、まるで……

 

「宮本君!」

 

「くっ!」

 

突っ込んでくるところまで同じかよ!

……ん? 待てよ? JOKERになったって言っても、本質は元のこいつのまま、か?

元のこいつを詳しく知らないが、もしかすると……

 

……いや、ダメだ! この状況で祐斗も戦えなくなって

若流先生巻き込むのはいくら何でもあんまりだ!

 

『何を企んだ?』

 

「……ろくでもないことだ、忘れてくれ。

 それより、何とかしてJOKERを黙らせないと……

 奴の能力の事を考えると、アモンに代わるべきかもしれんが……」

 

『この状況で俺が出るのは、周りの連中を怯えさせるだけだと思うがな』

 

その通りだ。豹変した生徒に、突然負傷したと思しき生徒。

そこで俺も豹変したら、JOKERを倒した後の事態の収拾がつかないだろう。

となれば、ここでアモンの力は使えない。

 

だが、そうなるとオールドメイドや妖刀(ムラマサ)の影響をもろに受ける神器で戦うことになるが……

恐らく、祐斗もJOKERを取り押さえる際に神器(セイクリッド・ギア)を使ったことで

異能を暴走させるオールドメイドの対象に引っかかってしまい

この事態を招いてしまったと考えられる。

 

つまり、迂闊に挑めば俺も二の轍を踏むことになる。

 

『アモンもダメ、神器もダメ、多分だが俺もダメ。となると……』

 

「流石に銃の携行は認められなかったが、こいつなら許可が下りた。

 これが俺でも使える程度には、治安が悪くなってるって事だよな……」

 

そう言って、俺は電磁警棒を取り出す。記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を用いた装備の実体化は

オールドメイドに引っかかる危険性があることを考えると使えない。

そうなると、神器に依らない装備の使用をしなければならない。

 

……仕方のないことかもしれないが、神器も、アモンも使えない俺って本当に……

 

『卑下する場面じゃないぞ。

 いくらマグネタイト補強があるっつったって、神器も悪魔の力も使えない

 ただの人間、それも丸腰なんてたかが知れて当然だ。

 そもそも人間は道具を使って生きてきた生物だろうが』

 

ご尤もだ。アモンの至極当然のツッコミに、俺は冷静さをいくらか取り戻せた。ありがとう。

人間の歴史は道具の歴史でもある。

人間から産まれた怪物が相手なら、人間らしい戦い方で取り押さえてやる!

 

『だが神器も、俺の力も迂闊に使えないって事は忘れるなよ』

 

「勿論だ――若流先生! 怪我人と、祐斗を教室の隅に!

 祐斗は大丈夫です、もう危害を加えません! もっと言えば、今の行動は事故です!

 俺がJOKERを取り押さえますので、先生はその間に救急車を!」

 

「…………うん、わかった! 木場君はともかく、怪我人でてるもんね!

 みんな、教室の後ろの方に下がって! 怪我した人は先生に任せて!」

 

救急車がこの状況で来てくれるかどうかはわからなかったが

それでも呼ばないわけにもいくまい。

がなり立てながら襲い掛かってくるJOKERを、電磁警棒で怯ませながら足止めする。

とにかく、何が何でもJOKERの足止めをする!

祐斗の分も、俺がやらなきゃならないんだ!

 

「さっきから本当にてめぇは……邪魔すんじゃねえええええええ!!」

 

「うっせぇ。こっちだってダチのお礼参り控えてるんだ……覚悟しろよ!」

 

JOKERの能力をこいつがどういう意図で行使したかはわからないし

さっきの叫びから察するにもしかしなくても兵藤の同類になりうるかもしれないが

それでも、祐斗の心に傷をつけて、ただでさえテロリストなんて噂が立っているあいつに

噂の裏付けにもなりかねない行動を、結果としてでも起こさせたんだ。

 

 

――殴る権利くらい、ダチとしてはあるだろう?

 

 

JOKER化しているという事もあってか、やはり身体能力は常人の比ではない。

そりゃあ、俺も最近松田や元浜と取っ組み合いの喧嘩なんかしてないし

兵藤は既に悪魔なので何の参考にもならない。

黒歌さんを振りほどくのにしたって、彼女だって妖怪だし。やはり参考にならない。

 

それでも、俺が痛感できる程度にはこいつはただの人間じゃなくなっている。

メカニズムはわからないし、今それを調べる暇なんか無い。

もっと言えば、検索のための起動でオールドメイドが発動したら、目も当てられない。

 

……ん? そうなると、迂闊に検索もできない相手と戦うって事になるというか

よくさっき無事に検索出来たな。

もしかすると、まだ俺はオールドメイドの対象になってないのか?

しかし、それでもちょっとのミスで周囲に被害が出ることを考えると

やはり迂闊に神器やフリッケンは使えない。そうなれば、取れる手段は当然これだけだ。

喧嘩はあまり得意では無いしいっそ苦手な部類だが、今回ばかりは甲次郎達に感謝すべきか。

 

「――っらあ!!」

 

「ぎゃはっ!?」

 

掴み合いになって膠着状態になったため、状況の打開のために俺は頭突きをかました。

軽く頭がくらくらするが、向こうも怯んだようだ。畳みかけるなら今か!

電磁警棒を握り直し、JOKERに突撃する最中、ポケットに入れていたスマホが震えだす。

 

『セージ! 電源切っとけ!』

 

「警察関係からの連絡ツールだから迂闊に切れないんだよ! ……ったく誰だこんな非常時に……

 はい宮本です、ただいま立て込んでおりますので、折り返し――」

 

JOKERを蹴り飛ばし、安全を確保してから電話に出る。

その電話口の声は、随分と久方ぶりの声だった。

 

『どもどもセージさん、お久しぶりです、バオクゥです! 一言……』

 

『今そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ。宮本成二、っつったな?

 話は周防から聞いてる。今から俺らも応援で校舎に突入するが……』

 

その久方ぶりの声の後ろから、聞きなれない男の声がした。

応援はありがたいが、今校庭を突っ切って校舎に入るのはマズいんじゃ?

 

「待ってください! 今校庭は危険です、裏から……」

 

『心配すんな。これでも数えきれねぇくらい修羅場は潜ってんだ。

 ドンパチに参加するならいざ知らず、校舎に入る位なら十分だ』

 

『そういうわけなので、もうちょこっと辛抱してもらっていいですか?』

 

ありがたい! 正直、今は援軍が欲しかったところだ!

校庭を突っ切ってこなければならないって懸念材料はあるにせよ

話に聞く限りだと二人は応援が来るって事か。

これなら、怪我人を保健室や、アーシアさんのいる体育館に運ぶこともできるかもしれない!

 

「応援は願ってもない話だ。現在、怪我人が複数、心神喪失者もいる。

 教師の引率で保健室と、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』持ちがいる体育館の二手で治療を行いたい。

 そこで、バオクゥ達には生徒たちの移動の安全確保をお願いしたい。

 敵――JOKERは、俺や他の戦える奴らで押さえておく。すまないけれど、頼む!」

 

『「JOKER」――か。最初聞いたときは、悪い冗談だと思ったが……本気らしいな。

 JOKERが関連してるなら、尚のこと俺も黙っちゃ見てられねぇな。

 うらら、遅れるなよ。アバオアクー、てめぇは避難経路を確保しとけ』

 

『了解ですっ!』

 

電話口の声は、後ろにいるであろう二人に指示を出していた。

何にせよ、これで心置きなくJOKERの対処ができる!

 

「ありがとうございます、えっと……」

 

『嵯峨……いや、「奴ら」が動いてるとなっちゃこう名乗った方がいいやな。

 「パオフゥ」。ま、覚えとかなくともいい名だ』

 

聞いたことがある。この人がバオクゥのお師匠さんで

周防警部らと一緒にニャルラトホテプと戦ったってペルソナ使いの人か!

これはかなり心強い援軍だ!

隔離されている以上、援軍は期待できないと思っていただけに心強い!

 

援軍が来る以上、全力でJOKERに注力していいだろう。

神器やらは使えないが、戦いようはある。

もっと言えば、神器を封じられての戦いを強いられたことなど別に今が初めてじゃない。

 

「若流先生、救助が来ます。俺があいつを鎮圧するので、その間生徒を頼みます!」

 

「おっけ~! さぁみんな、救助の人が来るまでの辛抱だからね!」

 

一連の俺達の行動に激昂するJOKERだが、その攻撃は精彩を欠いている。

まあ、いいカッコ見せようと思った相手に見事に拒絶されてるんだもんなあ。

わからんでもないが……

 

 

…………やることが、違うだろ!

 

 

苦し紛れに魔法を放ったようだが、それは効果を発揮することなく

俺の電磁警棒による攻撃をもろに浴びて、JOKERになった生徒は崩れ落ちた。

脈はあるので、殺してはないはずだが……まあ、勢い余ってってこともない、とは思うが。

崩れ落ちたJOKERを見て、生徒たちは歓喜の声を上げる。

こいつの事を考えると、俺としては素直に喜べないが……

けれど、命狙われてた以上その命を狙ってきた相手が動かなくなって安堵するのは当然の反応だ。

俺が妙なことに慣れ過ぎてるだけだ。

 

その後、怪我をした生徒らの応急処置などをしていると教室の扉が開き

金色スーツに丸サングラスのストレートヘアのおっさんと言う

何処をどう見たって堅気に見えない人が入ってきた。

 

 

ここに来てヤクザかマフィアの増援!? なんでこのタイミングで、しかもただの学校に来るんだよ!?

ここは駒王学園の生徒も来てるとは言っても、普通の人間の学校だろうが!

全く休まる余裕もないまま、入ってきた男に対し俺は警戒を解くことが出来なかった。




JOKERの能力はオールドメイドや一部魔法除けばおおよそ元の人間に左右されるのでは? とは睨んでます。
原典の方では言動も割と元のJOKERに引きずられている感じでしたけどね。
大なり小なり電波電波してた須藤以外のJOKERでしたが
拙作の彼の場合、日頃の妄想の時点で須藤の電波互換だったのでこんな形に。
須藤の電波も今風に言えば妄想の産物でしょうし。

割とあっさり負けちゃってますが、これは完全に場数の違い。
HSDD原作でいう所の英雄派構成員の役割をJOKERが担った部分はあったりします。
かなり初歩的な神器持ってた彼ら。拙作ではそのポジに曲がりなりにも中ボスクラスで
異能メタ張れるJOKERが来たりしてる時点で拙作らしいというか何というか。


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Will29. 学園のJOKER Cパート

今回の没案

・JOKER化した生徒を挑発するために若流先生と一芝居打つが
 その際にセージがラッキースケベする

→いくら何でも木場が憔悴して負傷者も出てるときにそれはなあ
 色々な意味でイッセーの事を言えなくなるし


そんなわけでお色気描写がまた一つ減った拙作ですが
forXの方もネタはあります。モチベが出ないだけで()


JOKERの対応に苦慮していると、外から急に連絡が入った。

パオフゥと名乗ったその男は、かつて俺が冥界で世話になった盗聴バスター・バオクゥの師であり

周防警部らと共にニャルラトホテプと対峙したとされる人物その人であった。

 

なんでも、応援として校舎に駆け付けてくれるそうだ。

校庭では薮田先生とアインストになった旧魔王派のクルゼレイ・アスモデウスが戦っているというのに

無茶をしてくれるなあ。だけど、願ってもないチャンスなのも事実だった。

援軍に期待して、俺は教室のJOKERを手早く片付けて

すぐさま協力を仰いで怪我をした生徒や憔悴状態に陥ってしまった祐斗のケアをしたい。

俺が行動するにしても、まずはそれからだ。

 

 

JOKERを倒したその後、怪我をした生徒らの応急処置などをしていると教室の扉が開き

金色スーツに丸サングラスのストレートヘアのおっさんと言う

何処をどう見たって堅気に見えない人が入ってきた。

 

 

……おいおい、ここに来て八十曲津組(やそまがつぐみ)の増援かよ!? もしくは天道連(ティエンタオレン)か!?

JOKER特有の気配は感じられなかったので、思わず俺は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)をスタンバり

いつでも仕掛けられる準備をすることにした。こんなあからさまに怪しい奴がこのタイミングで……!

 

 

……なのだが、俺のその警戒はすぐに解かれることになった。

 

 

「ちょっとパオ。アンタ、いい加減堅気に見える格好したらどうなのよ。

 彼、完全に警戒してるじゃない。アオバちゃんとは知り合いみたいだし

 彼女連れてきた方がよかったんじゃない?」

 

「うっせえ。これは俺の仕事着でトレードマークなんだよ。

 それにJOKERが相手ならあいつよりお前の方が勝手がわかりやすいだろ。

 逃げ道の確保はどの道必要だったしな。

 

 ところで宮本成二って奴は……

 ああ、確かに周防の奴の話してた通り、ペルソナとは少し違う反応を示してやがるな」

 

赤髪のショートヘアに、深緑のツーピースと言う他人のファッションをとやかく言えるのかと

素人目には思える着こなしをしている女性に窘められながら

グラサンのおっさんは俺を名指ししてきた。

もしかしなくても、この人らが……

 

「え、えーっと……パオフゥさんですね? 確かに俺が宮本成二です。

 この度は警視庁超特捜課の特別課員として、市民のご協力――」

 

「ガキが堅苦しい言葉使うもんじゃねえ。それにそれを言うなら俺は元地検検察官だ。

 てめえがその年で警察の協力者をしてるってのは周防から聞いちゃいるが……

 

 ……ったく。アバオアクーと言いてめえと言い。

 なんでガキってのは危険なことに首突っ込みたがるのかねえ」

 

いきなり子ども扱いは、ちょっと色々と思うところはある。いや、そりゃまあ比べたら……だが。

と言うか(やなぎ)元課長と言い安玖(あんく)巡査と言い、警察関係者の服装って意外と……

周防警部もグラサンともみあげが個性的過ぎるし、弟の周防巡査だってあの髪型だ。

まともと言えるのは蔵王丸(ざおうまる)警部と氷上巡査、霧島巡査位か?

 

「あ~、ごめんね? パオの奴、昔色々あったもんでさ。キミらみたいなのを見ると

 ほっとけない性質なのよ。それでいて口が悪いんだから、ほんとめんどくさいわよねぇ。

 あ、アタシは芹沢うらら。こいつのパートナーやってんの。よろしくね」

 

「はぁ……宮本成二です」

 

この人も結構派手ではあるなあ、と思いながら挨拶を交わす。

普通に名乗ってくれてる分には、別に記録再生大図鑑を向けることもあるまい。

そもそもあれで相手を調べるの、プライバシーやら地雷やら踏み抜くことが稀にあるから

出来る事ならやりたくないんだけどなあ。戦う時は便利だから、やるけど。

 

「で、この生徒と引率の教師を保健室まで案内すればいいんだな?」

 

「いや、体育館でお願いします。そこで憔悴している金髪の男子生徒の知り合いが

 体育館にいるもので……」

 

今の祐斗には、心のケアが必要だ。

アーシアさんならば、もしかしなくても出来ると俺は踏んでいる。

少なくとも、今の祐斗はリアス・グレモリーの「騎士(ナイト)」じゃなくて

一人の戦いに怯えた男子生徒だ。そんな奴に、JOKERやら

外のナチス軍勢の相手やらを任せるわけにはいかない。

 

「……成る程な。お前さんのダチの面倒は、俺達で見ておく。

 宮本。お前さんにゃ悪いが

 引き続き校内にJOKERが残ってないか調べてもらって構わねぇか?」

 

「任せてください、そのつもりでした。

 そちらも、祐斗や他の生徒のことをお願いします」

 

パオフゥさんと芹沢さんに、若流先生や祐斗らの事を託す。

危なっかしいが、JOKERになった生徒もだ。このまま放置も出来ないし。

 

「JOKERなら、対症療法とは言っても治療にうってつけの場所があるからね。

 そこに連れて行くまで、一か所にまとめておくのが理想なんだけど……」

 

芹沢さんの提案に、俺は同意する。相手が取り込み中かもしれないとは思いつつも

俺はスマホでゼノヴィアさんや光実、ギャスパーに連絡を取り

校務員室にJOKER化し、かつ沈黙させた生徒を押し込む作戦を伝えた。

 

「手慣れてやがるな。まるで達哉みてぇなガキだな」

 

「……色々あったんですよ」

 

俺の返答に「そうかい」と返しながら、おもむろに煙草を吸おうとするも芹沢さんに

「ここ禁煙」と止められているパオフゥさんを見ながら

俺は確かに周防巡査や周防警部のかつて戦った出来事を見出していた。

出来る事なら、ここでニャルラトホテプについて聞くべきかもしれないが……

 

今は、それよりも。

 

「セージ君……ごめん……僕は……僕は……!」

 

「大丈夫だ、祐斗。お前は悪くない。わざとやったんじゃないんだろ。

 これは事故だ。無理な相談かもしれないが、あまり気に病むな」

 

えらそうなことを言っているが、俺だって人間相手じゃないにせよ似たようなことをやっている。

ライザー・フェニックスだ。俺が体を失い、悪魔になりたての頃に起きた戦い。

その時に、俺はオーバーキルともいえる攻撃をライザー・フェニックスに対し敢行。

その結果、グレモリー家とフェニックス家の双方から俺は恨みを買うことになった。

最も、俺の行いは戦士を相手に行ったものに対して、祐斗のそれは一般人を相手に行われたものと

そこで大きく食い違ってしまっているし、もっと言えば俺はある程度意図してやったが

祐斗は完全に不可抗力だ。俺はこの件で祐斗を責める気にはなれない。判官贔屓かもしれんが。

 

「そんじゃ、みんなとっととずらかるわよ。レッツらゴ~、ってね。

 パオ、JOKERはあんたに任せたわよ」

 

「やれやれ……面倒なもん押し付けてくれるな全く」

 

若流(わかる)先生や祐斗、生徒たちは芹沢さんに引率され。

JOKERはパオフゥさんに引きずられるような形で教室を後にした。

これで俺はフリーになったので、おもむろに記録再生大図鑑でレーダー探知を始める。

JOKERが相手である以上、迂闊に分身して行動するわけにはいかないので

オールドメイドの射程外からこうして位置を割り出し、先手を打って殴り込み各個撃破。

時間はかかるが、二次災害を生まないためにはこうするしかない。

 

 

……だが、そのJOKERは殆ど倒されていた。

まあゼノヴィアさんや光実、ギャスパーの他にも一応グレモリー先輩とかもいたし。

そのあたりの功績なのかと思い、気にも留めていなかったが少し違っていた。

 

現場に居合わせた元浜の証言だが

なんでもこの学校の元アイドルのOGが助けに来てくれたそうだ。

リサ・シルバーマン。俺はアイドルには疎いので名前は聞いたことが無いが

「ペルソナ」と言う叫び声と共にナチスの軍勢を蹴散らしたそうだ。

そして、アイドルヲタクの生徒に曰く「現役時代には特技として習っていなかったはず」の

カンフーを駆使していたともいう。

 

 

何故だか。ふと、ミッシェルさんの事を思い出した。

ペルソナ使いが珍しくないのは周防兄弟やさっきのパオフゥさんらの件でもわかる。

それに「ペルソナ使いや神器(セイクリッド・ギア)持ちは惹かれ合う」とも言うらしいし。

 

今回のJOKERと言い、ここに来てやたら動いているペルソナ使いと言い

何やら、とんでもなく大きなことが動いているようにも思えるが……

 

禍の団(カオス・ブリゲート)やアインストとかがそのための布石……ってのは流石に考え過ぎか。

 

 

――――

 

 

外部からやって来た応援のお陰もあって校内のJOKERは一掃できた。

応援のために校庭に出ようとするが、その前に薮田先生が生徒を引き連れてやってきた。

一足違いだったか?

 

「外や周辺地域に被害が出なかったことを喜ぶべきかもしれませんが……

 クルゼレイそのものには逃げられてしまいました」

 

「いやぁ、油断しちゃいました……じっとしてられなくて……」

 

「アバオアクー……てめぇなあ……」

 

どうやら、バオクゥが不注意で薮田先生の視界に入った事でクルゼレイが人質に取るなりして

逃走に利用された、という事だろうか。その場にいないから、推測でしかないが。

 

「それより、セージさんはいますか? 手紙を預かっているんですが……」

 

おもむろに俺が呼び出されたので、何事かと前に出ると

突然バオクゥは思い出したようにハッとする。何だ? 俺の顔に何かついていたか?

 

「そういや、セージさんって双子の兄弟とかっています?

 私、てっきり双子の兄弟からのお手紙かと思いまして」

 

「兄弟、ましてや双子なんていない。で、手紙ってのは?」

 

 

手紙を受け取って読んだ時、俺は気がかりが最悪の事態で当たってしまったことを痛感した。

それは、俺宛の手紙を預けた人物が俺そっくりであったという事を忘れさせるほどには

衝撃的な内容だったのだ。

 

 

 

――白猫は預かった。返してほしくば、山まで来い。

  但し、宮本成二・兵藤一誠の両名は必ず来ること。

  これ以外の制限は設けないが、この両名が揃っていない場合白猫を処分する。

  当方は其方を監視している。不用意な行動は避けられたし――

 

 

 

ふと上を見上げると、確かに見慣れないドローンが飛んでいる。

これを撃ち落とせば、まあ間違いなく白音さんを殺すって事だろう。

 

しかしあまりにも無機的な文章だが、筆跡は俺のものに近い。

だが、当然俺はこんなものを書いた記憶がない。

白音さんを誘拐した犯人が俺? そんな馬鹿な話があるか。メリットがない。

 

どう考えなくとも罠だが、これは救出に迎えるまたとないチャンスだ。

兵藤を必ず同伴させないといけないというのは危険要素だが、仕方があるまい。

逆に、これ以外の縛りや制約、要求が無い辺りが却って不気味だ。

ぞろぞろ大人数で殴り込んだら、まず間違いなくバレるだろうし一網打尽にされかねない。

俺と兵藤の二人だけと言うのも危険だが……

 

 

……一度、相談した方がよさそうだな。




さあ嫌なフラグが立ちましたよ。

>JOKER
そう言えば、終盤のJOKERは「JOKER呪いしてなくてもJOKERになる」
のが原典なんですが、流石にそこまでは。
禍の団やらアインストやらインベスで世情混乱してますが
JOKER無限増殖はお話的にも収集つかなくなりますし
現時点でそれやったらデビルマンの原作再現になりかねないですし。

……にしても、アインストと言いインベスと言いこういう変質系の敵多いなあ。
この辺HSDD原作には絶対いないであろう「積極的に市井にも被害をもたらす敵」
の集大成だと思います。
それを三大勢力(悪魔)が拾って育てていたとしたのは完全なる悪意ですが。

>パオフゥ
やっぱり不審者扱いの方。ガワ付きとはいえ天道連とも戦ったセージからしたら
警戒対象になるのも無理はない。でも地雷踏まなくてよかったねとは。
周防兄弟とは違って戦いに直接参加してないというか描写はありませんが
例の「拳銃より速い指弾」は健在です。年なのに。

>うらら
以前番外編で登場した際にも軽く触れましたが、苗字は芹沢姓のままです。
こちらもあの対比色ファッション。リアスとかで見慣れてるはずのセージをして
派手と言わしめたファッション。舞耶姉の私服も考えると
この人にパオフゥの私服選ばせてもあまり現状から変わらないのでは、とも。

にしても罰組の私服センスはみんな色々おかしい
舞耶姉:ハートおっぱいミサイル
うらら:蜘蛛の巣ツーピースと赤髪、彼女の場合寧ろペルソナが……
克哉:寧ろペルソナがその2。もみあげサングラス
パオフゥ:グラサンが熱い。金色スーツにロン毛は只者じゃない
達哉:メッティバッテン赤ジャージ
南条君:1番ヘルメット。何気にペルソナがその3
エリー:由緒正しきワカメちゃんヘアー

舞耶姉に関してはイッセーと出くわさなかったのはセーフと言うべきか、なんと言うべきか。

>ギンコ(リサ)
こちらもニアミス。罰原典では南条ルートだと殆ど会わないですし。
セージは既に栄吉と面識があるのでそういう意味でも南条ルートリスペクト。
罰ではカンフーも広東語もありませんが、拙作世界ではペルソナもカンフーも使ってる……またヤバいフラグが。
カンフー繋がりで千枝ちゃんとも絡みがあれば……と思ったけれど、ここでは出し切れないので裏設定レベル。
にしても元浜の守備範囲が広い。

>薮田先生とクルゼレイの戦い
パオフゥ達は中を突っ切ったわけではないですが聖書の神(影武者)とレジセイア級の
アインストとの戦いの脇をすり抜けて涼しい顔して教室に来られる程度には
戦闘経験あるって事で。
神の領域の戦いを普通にやってますが、薮田先生はきちんと神器由来の結界張って
被害を出さずに行動してました。でもバオクゥが人質に取られましたが。

>バオクゥ
かたや今回のうっかりさん。当初モブ生徒にメッセンジャーを宛がう予定でしたが
せっかく外にいるのだからメッセンジャーに任命。
なかなかお師匠にいいとこ見せられません。呉島姓を名乗ってる(番外編より)のに
ミッチともニアミス。まあ血縁無いですし。

>手紙
二人いる疑惑の朱乃同様、セージもここでそっくりさん登場フラグ。
ペルソナ的には嫌なフラグでしかありません。しかも白音誘拐犯。
イッセーを呼び出しているのは一体何を企んでいるのか。


と言うわけで次回(いつ?)を待て。


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Will30. 再び閉ざされた地で Aパート

お待たせしました。
五月病気味で筆が鈍ってました。
アイデアとかは浮かべども、筆が進まない。そんな状態でした。

今回短いのはそれもですが、区切りの関係もあります。


縛り上げたJOKERはパオフゥさんとうららさんによってベルベットルームへと運ばれ

一応の措置は済ませられたそうだ。

その一連の作業が終わる頃にはフューラーの部隊も引き上げており

七姉妹学園(セブンス)にはとりあえずの平和が戻った。

一応、俺は駆けつけてきた周防警部から聴取を受けてはいるが。

 

「……芹沢君や、パオフゥからの口添えもあった。

 僕自身、JOKERとは因縁もあることだし

 今回の君の行動に関しては超特捜課の行動として適切であったと報告しておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

やはり、こうして説明の速い大人がいてくれるのは助かる。

そういう意味では、俺の方こそ権限を笠に着て好き放題してるのかもしれないな。

……かつて、グレモリー先輩に揶揄したことではあるのだが。

 

そう考えていると、周防警部から妙な話を聞かされた。

 

「……今から話すことは、決して他言無用で頼む。

 今、下手に噂が流れてしまうと取り返しのつかない事態を招きかねないからね。

 それは、君も過去の事件を聴いているから知っていると思うけれど」

 

「何か、あったんですか?」

 

周防警部から聞かされたのは、驚くべき話だった。と言うか、耳を疑った。

何せ――

 

 

――俺が、D×Dの六人目であるという噂が流れているらしいのだ。

 

 

「バカな!? 俺は行動の際には警察手帳も提示して……」

 

「恐らくだが、君がリアス・グレモリーらと行動を共にしていたのが仇になったんだろう。

 噂の出所は芹沢君やパオフゥ、それともう一人が調べているところだが

 ほとぼりが冷めるまで、君はD×Dに関連している人物と行動を共にしない方がいい」

 

……ダメだ! それじゃダメだ!

白音さんを攫った犯人は、俺を兵藤と行動させることを要求してきた!

兵藤自身はD×Dの構成員としては世間には知られてないが……

別に兵藤と二人きりで行動するつもりは無いのだから、それはあまり意味がない。

寧ろ、同行を願おうと思っていた人がそこの条件に引っかかってしまう。

 

「そうしたいのは、山々なんですが……」

 

「その言い方だと、何かあるみたいだね」

 

隠すことでもないので、俺は周防警部に顛末を改めて話すことにした。

そして、当初の予定であった行動プランも。

白音さんの捜索届は既に受理されているはずなので、周防警部が知らないはずもないのだが。

 

まず俺と兵藤は向こうが指名しているのだから、否応なしにでも行動を共にしなければならない。

後はアーシアさん。これは不測の事態に備えてだ。犯人が白音さんを傷つけない保証がない。

あとは機動力に秀でた祐斗の他に珠閒瑠(すまる)市の土地勘がある誰かを同行させたいところだった。

兵藤も土地勘はあるかもしれないが、情報の更新が無い奴の土地勘はあまり当てにならない。

 

「確かに、君の家族が行方不明とは聞いていたが……まさか誘拐事件に巻き込まれていたとはね。

 身代金や逃走手段の要求も無いとなると、確かに相手の要求が不明瞭だな。

 しかし、さっきも話したが今の君がD×Dのメンバーと目されている者達と

 行動を共にするのは、危険であると言わざるを得ないな」

 

「……一か八かの危険な賭けですが、噂を噂で上塗りするってのは可能ですか?」

 

俺の提案に、周防警部は思い当たる節があるのか一瞬驚いた表情を見せた。

しかし、すぐに神妙な面持ちに戻る。その眼差しは、サングラス越しにもわかる位だ。

 

「対抗神話になる噂を、か? 出来ればやめた方がいいかもしれないな。

 噂が現実になる現状、二つの相反する噂が流れてしまってはどうなるか見当もつかない。

 それに、何処からその対抗神話を持ち出してくるというんだ?」

 

「それなら、このバオクゥにお任せください!」

 

周防警部の指摘に俺が頭を抱えていると

用事を終えたと思しきバオクゥが向こうからやってきた。

ん? そういや、こいつは俺達が来る前から珠閒瑠市にいたわけだよな?

という事は、少なくとも俺よりは珠閒瑠市の土地勘はある、それも最近のものを。

だったら……

 

……って、俺のD×D六人目説に対抗する噂話? そんなもん何処で仕入れたんだ?

 

「……本当はジャーナリストとしてやりたくない方法なんですけど

 でっち上げの話を使って……SNSとかで、適当な対抗神話を仕立て上げて

 セージさんとD×Dに接点を無くせばいいんじゃないですかね?」

 

「ガセネタを流すのか。バレたら炎上しないか?」

 

「まあ、そこは腕の見せ所、って事で。それに、ガセネタには一家言ある知り合いもいますし」

 

……バオクゥのその言葉を聞いて、俺は頭が痛くなった。

まさか、リーの力を借りるつもりなのか?

と言うか、イェッツト・トイフェルのお抱えになったリーが

今回の件にホイホイ手を貸してくれるものか?

そう懸念していると、周防警部もどうやら同じ考えをしていたらしい事を話し出した。

 

「…………いや、やはりその方法は危険すぎるな。

 噂が現実化するというこの現象、まず間違いなく十年前の事件の再来だ。

 そして僕には犯人に目星がついている。僕が思っている通りの相手が犯人ならば

 下手なガセネタを流せば、事態はより悪化することになりかねない」

 

「……ニャルラトホテプ、ですか」

 

周防警部の言葉に、俺は心当たりのある存在の名を告げる。

首肯する周防警部と対照的に、初めて聞く名前であったのかバオクゥが食いついた。

 

「ニャル……ま、まさか今回の事件の裏にいるのってクトゥルフの……!?」

 

「いや。その神話の神そのものと言うよりは、人の心の悪意そのものの雛型と言うべきだったな。

 まあ、鶏が先か卵が先かまでは僕には何とも言えないが」

 

その存在に対して辟易とした様子で、周防警部が語っている。

俺も聞いた限りでは、オーフィスとかとは別ベクトルで厄介な存在だと思えてならない。

なにせ極論を言えばオーフィスはクロスゲートに放逐すればその場しのぎは出来るが

ニャルラトホテプにその手が通用するかどうかはわからない。

 

「……ガセネタ作戦は危険ですかぁ……うまくいくと思ったんだけどなぁ」

 

「……いや。バオクゥには別件で力を貸してほしいことがある」

 

ガセネタ作戦は取り下げられたが、俺はバオクゥに珠閒瑠市の土地勘を期待して

道案内、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)に頼らないナビゲーターとして同行を頼むことにした。

彼女はD×Dの構成員として噂になってないので、連れ歩いても問題はない……はずだ。

同行させることで逆に彼女がD×Dの構成員にされかねないが。

 

「そう言う事ならお任せください!

 変な噂流されるのも、リーさんと組んだことあるんで今更ですよ!

 それに、ちょっとやそっとの噂ならそれこそ捻じ曲げちゃいますよ!」

 

自信満々に応えるバオクゥに、頼もしさと同時に危うさを覚える。

いや、今や手段をとやかく言える事態ではないのだから多少は目を瞑るべきだろう。

だが、それでも少し嫌な予感がしてならない。

 

それに同行を願うならより土地勘があるのは芹沢さんやパオフゥさんの方なんだが

どうやら「街中にもJOKERが現れた」らしいので、そっちの対応に向かったのだ。

超特捜課が応援で来られない現状、珠閒瑠市にいる人員だけで対処するしかない。

こういう時のために、ホテルについた時に俺は沢芽(ざわめ)市の凰蓮(おうれん)軍曹から

「珠閒瑠市で何か起きた時のためにここを頼れ」と渡された封筒を持って

ホテル内のフレンチレストラン「クレール・ド・リュンヌ」に行っていたんだった。

だがそれだって、従軍経験のあるレストラン従業員に頼むという裏口的な手段だ。

現役の警察官や自衛隊員を動員している訳じゃない。

 

まさかあそこのギャルソンさんもフランス外人部隊の出身で

かつ凰蓮軍曹と同じ隊にいたことがある、と聞いた時には

世界意外と狭すぎだろ、とは思わざるを得なかったが。

ただあのギャルソンさん、どっちかと言うと悪魔絵師と同業っぽい感じもしたんだよなあ……

まあ、噂じゃ十年前の事件で店が襲撃された際にナイフとフォークで賊を撃退したって話らしいし

実績があるのは確かなので、今回頼った方がいいだろう。

 

とりあえず、そのギャルソンさんとも打ち合わせがしたいので

俺達はこの後ひとまずホテルに戻ることになった。

授業もこの騒動で終わってしまっている。

俺達以外の生徒は学校待機となってしまった。

まあ、まだ街中にJOKERがうろついているのではなあ。

 

疎開と言う名目のはずが、何かとんでもないことになってっしまっているな……




>6人目のD×D
罪当時既に戦隊の6人目はそこまで珍しくない(罪発売時のゴーゴーファイブ日本語版に6人目はいませんでしたが)ですが
フェザーマンの元ネタたるジェットマンに6人目はいませんので。
(次作ジュウレンジャーから正統な6人目スタートですしね)

なので、その辺に準えて「今なら5人組には6人目もいるだろう」って事で6人目エントリー。ヨホホイ。
その6人目がセージになってしまったのは何の因果か。
そりゃまあセージには「追加戦士」的なテイスト加えてる部分ありますけど。

>噂の上書き
罪で成立したのは
「爆破テロ現場に達哉達が来ていた」
「子供たちの草の根ネットワーク」
と言う冷静になって考えると結構危うい地盤だったので(しかもそれでも完全じゃなかったが故にシャドウ誕生)
状況証拠に乏しい現状では対抗神話はそれこそガセネタ由来になってしまうので
そんなもん流したらどうなるかわからないので……

>地獄のギャルソン
一体何島さんなんだ……
悪魔絵師の同業臭いというセージの意見は、元ネタが元ネタですので……
凰蓮軍曹と同じ部隊にいたというのは、時系列を考えると少し微妙なところですが……
ま、まあ以前も安玖巡査の兄と言う別の人がいたので。
それにしても外人部隊所属経験者多いなあ。

凰蓮軍曹との接点は持たせたかったのですが、そのエピソードを入れるのを失念したために
こんな風にねじ込み気味に。すみません。


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Will30. 再び閉ざされた地で Bパート

そう言えば、前回報告を忘れていたのですが。

NOTICE
>赤土がareなメガテンの世界の観測をはじめました。

これによってシナリオが変わるということは無いのですが、インスピレーションの幅は広がった……かもしれません。
あれ普通に男主人公出し抜ける(もっと言えば男主人公も攻略できる)から
合法でイッセーハーレム瓦解できるんだよなあ(悪い笑み)

あ、一応警告しておきますがR-18ネタなので悪しからず。
寧ろforXの展開が広がったかも?


もう一つ、こちらは電流走ったので。
https://twitter.com/sennsu_/status/1391757889585369090?s=20

フリッケンそのものでは当然ありませんが、フリッケンのイメージは大体こんな感じ。
ディケイド(門矢士)の力の残滓に赤龍帝と白龍皇の欠片を合成させたのが
フリッケンの生い立ちですので。振り返るとすっごいチート。


七姉妹学園を襲撃したアインストも、JOKERも辛うじて撃退に成功した。

しかし、珠閒瑠(すまる)市全域にもJOKERが現れたらしく

七姉妹学園解放に協力してくれた人らはそっちに向かってしまった。

俺も警察から事情聴取を受けているさなか、俺がD×Dの六人目と噂されているという

情報を入手した。噂が現実になると言われている現状、これは気をつけなければ。

 

 

 

――さて。俺達駒王学園組も警察の保護下でのホテルへの退避の後

ホテル待機が命じられたわけだが、正直に言おう。

ここで俺は超特捜課特権を使うことにした。

そのため、俺が口添えしたオカ研メンバーやゼノヴィアさん、光実(みつざね)

警察による護衛対象から外れ、別口でホテルに戻ることになった。

これで一応は自由に外に出られる。状況が状況なので現地警察の支援は受けられそうにないが。

 

 

……で、今俺は何をしているかと言うと。

中庭にある鳴羅門(なるらと)石の調査をしている。

これはついこの間駒王学園から出土した二つの石――比麗文(ひれもん)石と鳴羅門石。

この片割れである鳴羅門石。それと同じ名を冠した石があるというので

同じものかどうか、記録再生大図鑑で調べていたのだ。

以前と同様に、薮田先生の立ち合いである。

 

「……大きさや設置時期の違いこそありますが、ほぼ同じと見て間違いないですね。

 寧ろ、磁気異常とかは駒王学園にあったものよりも低レベルなくらいです」

 

「駒王学園のものよりも磁気異常が少ない、ですか。

 聞けば、ここの鳴羅門石は十年前には既に存在していました。

 磁気異常の沈静が経年によるものかはわかりませんが

 とりあえずこの石そのものによる悪影響は無いと見て間違いないでしょうね」

 

薮田先生の見解では、この石自体に何かを起こす力はない、とのことだが。

だが、だとしたらなんであの時急に駒王学園の下から出土したんだか。

とは言え、これ以上これを調べても何も手掛かりは無さそうだし

この石に関しては「それっぽい、思わせぶりな石塊のオブジェ」だったのかもしれないし。

丁度昔流行った「イン・ラケチ」って本が結局のところなんてことは無い

「思わせぶりで中身のない代物」だったわけだし。

この手のものに変に誤解してこじつけると却って痛い目を見る。深追いはやめた方がいいかも。

 

「……それに。私の杞憂であればいいのですが、この石そのものがある種の罠かもしれません。

 昨今の事件、私も一応調べてみたのですが……同様の事件である十年前の事件の主犯は

 その手のブービートラップを仕掛けることに長けているようです。

 もし主犯が同一存在だとした場合、下手に騒ぎ立てて騒動を大きくしては

 それこそ相手の思うつぼでしょうね。

 宮本君、調査の協力ありがとうございました。ここでこの石の調査は打ち切ります。

 この石から、得られるものはもう何もありませんよ」

 

「そうですね。俺もそれがいいと思います」

 

後でわかった事だが、十年前もひっきりなしにこの石を調べていた教師がいたらしいのだが

その人も矢鱈とオカルトに傾倒していて

終いには妄想と現実の区別がつかなくなって失踪してしまったそうだ。

なんでも、イン・ラケチの執筆に携わっていたらしいが……

まあ、あの本がどういうものかって事を考えたらさもありなん。

 

一度だけ話のタネに目を通したことがあるが……はっきり言って、時間の無駄だった。

結局、その程度の本だったって事だ。

 

……でもあんなんでも一応本は本。感銘受けた人とかいるんだろうなあ。

良し悪しはさておくとして。

 

「さて宮本君。蔵王丸(ざおうまる)警部から聞いたかもしれませんが……

 今警察では、不穏な動きが起きています」

 

唐突に、薮田先生から警察の現状について話を振られる。

確かに、警部がそんなようなことを言っていたっけか。

 

「具体的には、公安が須丸清蔵(すまるせいぞう)の手に落ちたと言うべきでしょうか。

 超特捜課も役割としては公安に近いものがありますが

 公安とは一応別の指揮系統にありました。

 それと言うのも、相手が科学での立証が難しい怪異の存在であり

 それが明確に人類に牙を剥いて襲ってきていることから超特捜課が発足した。

 

 ……この話は知っていますね?」

 

「ええ。以前聞かされました」

 

「つまり、超特捜課の力は同じ人間相手に揮うべきではない……

 そういう危険なものであるという事も理解していますね?」

 

薮田先生の相変わらず回りくどい話に、俺は首肯する。

一度兵藤に神経断裂弾を見舞ったが、もうあいつは……

 

「ですが、須丸清蔵はまず公安を自分の管轄下に置くことで

 公安と共通点の多い超特捜課を接収しようとしています。

 そうなれば、超特捜課本来の目的からはかけ離れた任務にも超特捜課が駆り出されかねません。

 そう、最悪は超特捜課の力が人類に向けられることも起こり得ます」

 

「そ、それって……!!」

 

「ご安心を。あなたに公安の仕事は回ってこないでしょうし

 いくら無茶をして超特捜課を接収したとしてもあなたの身柄の拘束まではしないでしょう。

 

 ……超特捜課特別課員としてのあなたの身柄は、ですが」

 

本当に回りくどい薮田先生の話だが、言わんとすることを察してしまった。

何せ、さっき俺は「D×Dの構成員として噂されている」という情報を聞いてしまっている。

そこに公安が俺の身柄の確保をするとなれば……

それは、まず間違いなく俺の逮捕ないし勾留って事だろう。

で、あとは司法取引か何かで俺を公安の仕事を手伝わせる。

それこそ、今俺が超特捜課に属しているように。

決定的な違いは、自由意志か事実上の強制か、位か。

 

「幸い、今はこうして珠閒瑠市の外からの干渉は出来なくなっています。

 怪我の功名ではありますが……ただこれもいつまでもつか、何とも言えませんからね。

 場合によっては、今回の事件があなたが超特捜課特権を使える

 最後の事件になるかもしれませんよ」

 

今使えているから実感がわかないが、桜の代紋を背負って動くのはかなりの重圧だ。

それが無くなるのは、ある意味では楽ができるって事だが……

同時に、後ろ盾を無くすことを意味する。

その状態での暴徒鎮圧なんて、それは只の方向性の違うテロリストだ。

それなら敢えて公安に取り入るのも手、なんてのは早計が過ぎる。

指揮系統には従わなければならないし、その指令が正しいものであるかどうかなんて保証がない。

しかも聞く限りじゃ、かなり強引な手法で公安を手中に収めたそうじゃないか。

そんなところから出される指令なんて、碌なもんじゃない。

 

「それと……白音君が誘拐されたとの話ですが、私に言わせればこれはあからさまな罠ですね。

 まずあなたと兵藤君を同時に指名している時点で、何かしらの企みが伺えます。

 赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)、あるいはアモンと言った呼称ではなく

 本名の方で呼んでいるという事は、あなた方の関係についても

 ある程度以上に把握していると見ていいでしょう。

 その上であなた方を同時に行動させるという事は……わかりますね?」

 

「白音さん救出を口実に、俺達を同士討ちさせる魂胆ですかね?」

 

薮田先生はどこまで知っているのだろうか。

まあ、誘拐犯が態々表に出るなんてことは通常あり得ない。

メッセンジャーをやっていたバオクゥ曰く「俺そっくり」だったらしいが。

もし……もしだ。俺自身が犯人だった場合…………

 

 

…………ダメだ。全く狙いが読めない。

兵藤に俺を殺させる? 俺と兵藤の共倒れ? 全くわからん。

犯人の狙いや動機は、今は考えるのはよそう。まずは白音さんを無事に救出しないと。

 

「それよりも。犯人は『山に来い』とまでしか言ってませんが、具体的な場所は絞れたのですか?

 珠閒瑠市は海に面していますが、内陸側には山もありますよ」

 

「まあ、そこは土地勘のある兵藤かバオクゥを頼ろうかと」

 

俺の返答に薮田先生は「そうですか」とだけ返してきた。

まあ確かに兵藤を頼るのは些か……だが、まさか白音さんを人質に取られている現状で

非協力的態度をとるとは思えない。そりゃあ、白音さんは「元」オカルト研究部だが

それを言ったら自分だって「元」駒王学園生徒だろうに。

 

「人質を取られている以上、アドバンテージは犯人側にあるという事をお忘れなく。

 宮本君、ホテルに戻る際もですが過剰な集団行動は避けた方がいいですね。

 街中のJOKERへの対応もそうなのですが、D×D構成員と目されるメンバーが

 ぞろぞろと歩いていては、悪目立ちしすぎます。この現状でもありますしね。

 認識阻害の魔法も、珠閒瑠市を覆う結界の中では作用しないようですし。

 あと、くれぐれも言っておきますがJOKER対策を兼ねて分身して帰ろうと思わないように。

 同時に複数の場所で目撃情報が出た場合、最悪の事態が起こり得ますからね」

 

最悪の事態……もしかしなくても、噂か。

これ、実質現状街中での分身だとかの技能は封じられているって事だよな。

まあ、相手に全力を出させないようにデバフをかけるのは戦いの基礎ではあるが……

そのデバフの素が噂ってのは、本当に厄介だ。俺一人で如何こうできるレベルじゃない。

 

「それと……くどいようですが、布袋芙(ほていふ)先生の動向にも注意してください。

 彼女、結局七姉妹学園には一度も姿を現しませんでしたので。

 一応、先生方には『移動中にトラブルに見舞われて、ホテルに引き返さざるを得なくなった』

 と、説明はしておきましたが……他の原因も、多分に考えられますからね」

 

「警戒はしますが……布袋芙先生に関しては対応が後手になるかもしれませんよ。

 名目上の主であるグレモリー先輩でも持て余している感がひしひしと伝わってきてますので」

 

そう。結局のところ俺はまだ布袋芙先生と言う存在の尻尾を掴んでいない。

……やけに兵藤を始めとして奴の周囲を煽ってばかりいるが

それが何の目的があっての事なのか、まるで分らないのだ。

しかも、俺も標的にされている節もあるし。調べようにも、調べられないし。

 

 

薮田先生との対話も済ませ、俺達は別行動でホテルへと戻ることになった。

その間にもJOKERやアインスト、さらに言えばフューラーの軍団。

それらを辛うじて退け、ホテルにたどり着いた頃には日は沈みかけていた。

 

 

――――

 

 

――その夜のニュースは、全チャンネル報道特別番組が放映されていた。

 

全チャンネルとは言っても霧の影響か、ほとんどのチャンネルは映ることが無く

地元に放送局のある珠閒瑠TVが辛うじて映った程度だ。

そこで放映されたニュースに曰く――

 

 

――蝸牛山で中国系の民族衣装を着た少年の惨殺死体が見つかった。

  手口はJOKERに酷似しているが、犯人は不明。

 

――各地で10年前のJOKER事件と同様の暴動が発生。珠閒瑠市全域に非常事態宣言。

 

――珠閒瑠市全域でドイツの軍服を着た謎の軍団がJOKERとなった人間や怪物と戦っている。

 

――アラヤ神社の謎の建造物が青く輝きだした。

 

――外部との連絡、依然つかず。

 

 

……冷静に考えなくとも、洒落になってない事態だよな、これ。

まさか疎開先でこんなことになるなんざ。

しかしニュースを注意深く見ているが、D×Dに関する情報は流れていないようだ。

不幸中の幸いと言うべきかもしれないが、不幸の度合いが大きすぎて何とも言えん。

ここで報道されないという事は、それほど大きくなってないって事かもしれないが……

 

 

……そして、案の定クロスゲートは動いていたか。アインストが来た以上、まさかと思ったが……

 

「セージ君、大変だ! 珠閒瑠市内の掲示板を中心に、D×Dに関する情報が……!!」

 

駆け込んできた祐斗の言葉に、俺は寒気がした。

地方掲示板の事を失念していたのだ。SNSが主流になっている昨今だが

ケーブルテレビなんかでネット接続を確保したのか、地方掲示板にD×Dに関する情報が

書き込まれている、とのことだ。

 

「今、光実君と協力して情報を集めているけれど

 このままじゃテレビに取り上げられるのも……」

 

『――続いての情報です。珠閒瑠市を覆う霧や、珠閒瑠市全域における通信障害などは

 国際テロ組織「禍の団(カオス・ブリゲート)」と自称テロ対策組織「D×D」による

 抗争の影響で発生したものであると、珠閒瑠市港南警察署が見解を発表しました。

 会見において港南警察署は――』

 

 

……まいった。どこまで最悪のシナリオが構成されていくんだ。

頭を抱えていると、俺のスマホに周防警部から連絡が入る。あれ? 俺電話番号話したっけ?

 

『宮本君、大変なことになった。今テレビで流れている会見だが、これはどうも公安の差し金みたいだ。

 僕の立場からはこれ以上言う事は出来ないが、これからは警察の動きにも注意してくれ。

 もう僕の力では、警察の動向も制御することが出来ない。力になれず……すまない』

 

「いえ、情報ありがとうございます……では失礼します」

 

電話番号は誰かから聞いた、という事にしておくとしても……警部の話が本当なら

公安が動いたという事か? しかし、よく公安は珠閒瑠市内部の情報を入手出来たな。

或いは、先回りしてこっちに公安の人間が来ていたのか?

それも、須丸清蔵の息がかかったのが。

その件を踏まえても、今の公安はかなり怪しいと言わざるを得ない。

 

 

…………この期に及んで、まさか警察も敵になるんじゃなかろうな…………?




【悲報】曹操、死亡説濃厚【案の定】

幾瀬と言いバラキエルと言い容赦ないです。だが私は謝らない。
まあ、ニャルと組むってのが既にそう言うフラグですし。
例外はレイジ位ですかね。

>鳴羅門石を調べていた教師
イデアル先生。彼女、罰原作では妄想は粗方成りを潜めている(大本がそもそも……ですし)んですが
ここに来てまさかの破滅ルート。HSDD原作以外では珍しい破滅ルート。
罰はともかく、罪は結構どころか、ある意味淳ママ以上にダメな大人に思えましたので
遠回しな因果応報。別に舞耶姉の仕返しとかではありません。
罪終盤のムーブは完全に妄想と現実の区別がついてない(周囲が既にそうなんですが)のと
仮にも教師が生徒を妄想のスパイ扱いするのはダメでしょう、と。
教師に何を期待しているのか、って話ですが……
まあ、これも今の常識を20年前の常識に当てはめるべきではないのかもしれませんが。

>鳴羅門石
前作の比麗文石はフィレモンを想起させるもので、こっちはニャルを想起させるものとしての役割ってだけなんでしょうけど
やっぱりP2噂の例にもれず「実はたいしたことないものがそれっぽく言われて大事になった」のだと思ってます。
……最も、エルミンも噂の現実化が起きていたって後付け解釈できなくもないんですが。雪の女王を見るに。

>公安
所謂公安警察です。超特捜課の特別性は、対象が怪異になっているだけの公安と大差ない状態ではあったので
ある意味では元通りになっているとも。ただ、作中触れている通り
神経断裂弾や最悪ゲシュペンストがマル暴対策に駆り出されたり、なんてことも。
(拙作の暴力団は悪魔ともつるんでましたがそれはそれ)
テロの片棒担いでいると噂されたセージを接収して運用しようとしたり
もっと言えばⅮ×Ⅾそのものを接収しようとしている、のかも。

なので、拙作の公安のイメージは第四次スパロボやFのティターンズだったり
第二次OGのガイアセイバーズだったり。あながち間違いでもない?


……実は、超特捜課が国の権力で動きを封じられたり、敵に回るというネタは当初の予定からあった事でもあります。
原作Ⅾ×D、そういう事態に陥った事って無いような。私が知らんだけかもですが。


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Definition Aパート

相変わらずなんですが、曹操も多少ですが改変(改悪ともいう)加えてます。
誰も彼もにも言えることなんですが、後出しで「実は可哀想」やり過ぎで
キャラのぶれっぷりがどうにもならないレベルになってることが多いとは感じます。

まあ、だから開き直ってこういうの書いてたりするんですけど。


あ、因みにサブタイは「定義」って意味らしいです。


珠閒瑠(すまる)市・蝸牛山(かたつむりやま)

 

この山に珠閒瑠市を襲撃したテロリスト・禍の団(カオス・ブリゲート)が前線基地を展開し拠点としていた。

布陣していたのは禍の団の主要戦力を占めるアインストではなく

神器(セイクリッド・ギア)持ちの人間から構成されていた英雄派と呼ばれる一団で

古代中国の英雄の末裔を自称する曹操が指揮を執っていた。

そんな彼らに同調するかのように、フューラー・アドルフ率いる一派も行動を共にする形で

この蝸牛山に部隊を展開させていた。

 

 

――彼らもまた、英雄派と呼ばれていた集団ではあるのだが――

 

 

蝸牛山山頂。

ここには特徴的なオブジェが設置されており、噂では

「珠閒瑠市の地下に眠る宇宙船・シバルバーの稼働の要となる遺跡カラコルの入り口」

等と言われてもいたが、所詮は噂でありそんなものは存在しない。

 

宇宙船にまつわる遺跡の入り口は存在しないが、テロリストの拠点はあった。

曹操らがいたころには簡易的なテントがあったに過ぎなかったが

フューラーが現れたことで、瞬く間に前線軍事基地が出来上がったのだ。

その前線基地に、曹操らも招かれていた。

 

「ようこそ、我がBasis(基地)へ。前線故に大したもてなしはしかねるが、歓迎するぞ?」

 

「こちらこそ、我々の思想に賛同してくれたことを嬉しく思う。同志フューラー」

 

漢服を身に纏った少年と、ドイツの軍服を着固め

サングラスをつけたちょび髭の中年男性が対面する。

彼らの背後には、ローブの青年や仮面の女性が待機している。

それぞれ、英雄派の構成員であるゲオルクであり

フューラー直属の部隊である聖槍騎士団であった。

 

「では早速、情報の交換……と言いたいところだが、早速報せが来たようだな」

 

フューラーが外を見遣ると、模型程度の大きさの飛行機が飛来してくる。

主翼に鉤十字(ハーケンクロイツ)が描かれていることから、フューラーのものであることが窺える。

曹操と会談をする前に、部隊を展開した七姉妹学園等を偵察するために

部下に命じて発進させたものであろう。それが戻ってきたのだ。

 

控えていた聖槍騎士団の一人が左手を翳すと、飛行機はまるで着水するような挙動を見せながら

彼女の近くで動きを止める。

止まった飛行機を拾い上げながら、持ち戻った情報を読み取っているようだ。

 

「その飛行機は?」

 

「偵察だよ。広範囲に部隊を派遣していると、どうしても情報の把握は死活問題になるからな。

 情報収集を怠り負けを喫した我が同盟国のような振る舞いは避けたいのでな」

 

曹操に解説するフューラーは、その一方で聖槍騎士団の報告を受けている。

その表情は一切何も変わることが無く、それが却って曹操はもとより

フューラーを、ナチスを危険視しているゲオルクの不安を煽っていた。

 

「……偵察では、なんと?」

 

「…………残念だが、悪い報せだ。我が方も部隊の7割近くを喪失。所謂全滅状態だ。

 そして、諸君らのところの戦士二人が、討ち死にしたそうだ」

 

淡々としたフューラーの言葉に、曹操は驚きを隠せなかった。

つい先ほどまで、普通に言葉を交わしていた同志の死亡。

戦場であるのだから当たり前の事なのだが、それでも死と言うものは衝撃が大きかったようだ。

 

「ヘラクレスとジャンヌが……そんな馬鹿な! 彼らとてただの人間じゃない……!!」

 

この時、図らずも曹操は地雷を一つ踏み抜いてしまっていた。

英雄派は、神器や聖剣などの特異的な力こそ持っているが

身体――もっと言えば遺伝子的には人間である。

それなのに、「ただの」人間じゃない。

と、まるで一般人を見下すかのような物言いをしてしまっていたことだ。

そのことについては、ゲオルクも全く気付いていなかったが、フューラーは聞き逃さなかった。

とは言え、フューラーも選民思想を是とする思想の持ち主なので

そのことについて糾弾ないし指摘するように触れることは無かったが。

 

そして何より、フューラーはヘラクレスとジャンヌの顛末

――彼らがアインストへと変貌した事については、一切触れていなかった。

彼らの顛末は、人間が辿るべき道とは程遠い、異界の怪異そのものであったのにも関わらず、だ。

 

「……一体、誰にやられたのです?」

 

そんな中、ゲオルクは努めて冷静に、可能な限りの情報を得ようとしていた。

彼もまた、ヘラクレスやジャンヌが簡単にやられるはずがないと信じていたというのもある。

そして、その二人を倒したという事は相当の力の持ち主である。

曹操ならば勧誘も辞さないかもしれないが、ゲオルクはその相手が勧誘に応じなかった場合

場合によっては始末しなければ自分たちが危ない、と懸念していた。

 

「それを諸君らが知る必要はない」

 

しかし、フューラーはゲオルクの問いに一切答えることをせず。

結局、ヘラクレスとジャンヌを倒したのが誰なのか、を知ることは無かった。

秘密主義ともいえるフューラーの態度に、曹操は口を荒げた。

 

「しかし! こちらは同胞を二人も失った! そちらが部下を失ったように、我々も……!!」

 

情に訴える曹操の言葉だが、これはフューラーにとっては何一つ響きはしなかった。

と言うのも、フューラーやフューラー率いるラスト・バタリオンの兵士は

直属の聖槍騎士団はもとより、末端の一兵卒に至るまで出所不明の存在だったのだ。

つまり、部下がどれだけ倒されようともすぐに補充が効くし、もっと言えば消耗品扱いなのだ。

とは言え流石にコピーとは言え聖槍を持つ聖槍騎士団だけは補充が難しいのか

倒された後の補充はされていないが。

 

「それは痛ましいことね。だけど、勘違いしないで。

 ここは戦場よ。戦場ならば、死は常に私達の傍に傅いている。

 そして好機と見るや、死は私達を捕らえ、二度と離さない。

 貴方の同胞は、死に魅入られたに過ぎないのよ」

 

興奮気味に話す曹操を宥めるように、聖槍騎士団の一人が仮面越しに抑揚のない声で語る。

これは死生観の違いに過ぎず、もっと言えばいくら戦い慣れしていたとしても

人間同士の戦いを碌に経験せず、もっと言えば従軍経験もなく、聖槍や仲間の英雄の力に頼り

本命ともいえる魔王らと戦う事もせずにいた曹操と

軍隊と言う性質上命の遣り取りが日常にあり、増してや当事者でないにせよ世界大戦に携わった

かの総統を思わせる人物に率いられた聖槍騎士団では、見えるものが違って当たり前だ。

 

「どんな綺麗な戦いを思い描いていたか知らんが、我々の戦いは根本からして違うという事だ」

 

聖槍騎士団のリーダーと思しき白い軍服の女性が、同じように淡々と語る。

そもそも、綺麗な戦争など存在しない。殺し合いに汚いこそあれど、綺麗は無いであろう。

それ位の事は、曹操もゲオルクも理解はしていた。

 

……ただ、自分がその当事者になるという事が頭から抜け落ちていただけなのだ。

英雄の戦い。それは怪異に支配される人類の解放を謳う、輝かしい英雄譚。

現在語られる英雄譚の大半は、そうした既に脚色された上で

人を奮い立たせるように彩られたに過ぎないものである。

 

Junge(少年)に一つ教えてやろう。歴史とは勝者が記すもので、今我々が見聞きしている歴史は

 勝者によって都合よく改竄されたものに過ぎんのだよ」

 

フューラーのこの言葉に対し、ゲオルクは「どの口が言うか!」と言いたげな目で

睨むように聞いていた。

ヨーロッパ系のゲオルクにとって、フューラーの率いる組織は許しがたいものなのだ。

もしリーダーが曹操で無かったとしたならば、すぐにでも一戦交えているところであろう。

……実際には、戦力差などの理由から現実的とは言い難いが。

 

「……それもそうだ。忠告痛み入る、同志フューラー。

 確かにヘラクレスとジャンヌの事は残念だが、まだ我々には仲間がいる。

 彼らと協力し、この世界を蝕む悪魔や怪物を撃退しなければな。

 それが、英雄たる俺達の使命であり、英雄として殉じた彼らに対する手向けだ」

 

「……英雄、か。この私を英雄と讃えるか……クックック……

 そして英雄として殉じた……か。真実を知った時の顔、見物だな」

 

曹操にしてみれば、純粋に新たな仲間への鼓舞のつもりだったのだろう。

だが、ゲオルクはやはりフューラーと言う存在を英雄としては認められないらしく

険しい目つきのままであり、そもそも当のフューラー自身でさえ

曹操の言葉に対し不敵な笑みを浮かべていた。

サングラスのお陰で表情は完全には読み取れないが、口元は確かに笑っている。

それが単純な喜びなのか、自嘲を交えた笑いなのか

はたまた曹操の無学を嘲笑っているのかまでは読み取れないが。

 

「時にJunge(少年)、君は戦力を集めた後にどうするつもりなのだ?

 今この世界には、あらゆる人類の敵が渦巻いている。

 アインスト、インベスと言った明らかな怪異の他にも天使・悪魔・堕天使と言った三大勢力。

 そして、私にも正体の掴めない謎の建造物クロスゲート。

 差し当たっては、何処から潰すつもりなのだ?」

 

そうなのだ。今この人間界には、敵が多すぎる。アインストやインベス、三大勢力もそうなのだが

そもそも論として、人間の敵は人間と言わんばかりに

人間そのものが人間界に牙を剥いているケースもあるのだ。

その一端を担っているのが、自分たちの所属する禍の団・英雄派と言うのだから

本当に皮肉極まりない。

 

だからなのか、曹操は言葉に詰まった。三大勢力は仮想敵だからいい。

アインストやインベスも、当初の予定とは狂ったがまだ想定の範囲内だ。

だが、クロスゲートだけは全く話が違う。ゲオルクらと協力して調査こそしていたものの

全く情報も資料も無い建造物を相手に、調査が捗るはずもなく。

明確に「人類に対し牙を剥くことがわかっているものの、手出しすることが出来ない」

と言う、厄介な代物なのだ。

 

実を言えば、曹操はフューラーに対しクロスゲートへの対応を期待していた部分もあった。

しかし、先ほど念を押されるように「クロスゲートの正体はわからない」

そう言われてしまっている。

曹操にしてみれば、当ての外れた部分が無きにしも非ず、だ。

責めこそしないものの、心の底では落胆があったのも事実である。

 

「クク、まああのHölle Tor(地獄門)は人のみならず神の手にも余る代物。

 手出しできずとも気に病むことはあるまい」

 

「しかし! いつ怪物が現れるかもわからぬものを放置することなど!」

 

曹操はクロスゲートの危険性をフューラーに訴えるが、完全に聞き流されている。

だがこれに関してはフューラーの意見も間違っていると断言はできない。

何せ、クロスゲートに対し手の打ちようがないのだ。どうにもならないものなのだ。

 

「やけにあれに拘るな。英雄としての振る舞いならば、アインストやインベスを撃退し

 人間に対し実害を与える三大勢力を撃退するのはおろか

 もっと言えば、天道連やユグドラシルと言った人間の側のよくない者達に対し

 民衆を守る抑止力となることで振舞う事でも達成できるぞ?

 

 ……いや、もっと言えば戦う必要すらない。

 私は知っているぞ。戦わずとも、人の心の雛型となれるほどに功績を残した人間。

 そう――『英雄』を」

 

英雄。その言葉に対して曹操は些か過剰に反応した。

しかし、フューラーの語る英雄と、曹操の思い描いていた英雄はかけ離れていたと言っていい。

曹操の思い描いていた英雄は、武力を以て人間を脅かす怪物を退治すること。

対して、フューラーの語った英雄は武力に依らず、行いで人の心にその存在を確立した存在。

どちらも正しいが、英雄と言う言葉の意味を考えれば、フューラーの方が正しいと言えよう。

 

「そうだ。何も人間は戦う必要などないのだ。戦いなど、出来るものがやればいい。

 そして……そうして支持を集めた者が、民衆を導けばいい。

 

 ……曹操。君の語る英雄とは、まるでそういう風にも聞こえるぞ?

 そしてそれは、かつて私が率いたかの組織と何ら変わることは無い……

 

 

 ……そうだな? ゲオルク?」

 

急に話を振られたことで、ゲオルクは目を見開いた。

しかも、まるで自身の心を見透かされているかのように。

 

そうなのだ。曹操の思い描いていたビジョンでは

自分達英雄派が人類の平和を守り、人類を守護するつもりだったのだ。

だがそれは、サーゼクスの掲げていたビジョンとほとんど変わらない。

先導者が悪魔か人間か、しか違わないのだ。

そしてそれは、フューラーに言わせば

「民衆は全てを決定してくれる絶対的な指導者を求めている」

とのことであり、その点においても曹操はサーゼクスとも、フューラーとも類似点があったのだ。

 

しかし、それに対して曹操以上に衝撃を受けた者がいた。ゲオルクだ。

 

「バカを言うな! 何故我々がナチス如きの後塵を拝さなければならないのだ!!

 我々は貴様らのような独裁者とは違う!!!

 人類の自由と平和を守るために蜂起した英雄だ!!!」

 

「クックック……そう取り繕うな。そもそも忘れている……いや目を背けているだけかもしれんが

 かの総統も、そもそもは民主主義で誕生した存在なのだぞ?

 民衆が望んだから、あの総統は生まれたのだぞ? 歴史の授業で学ばなかったのか?」

 

「黙れェェェェェェェッ!!!」

 

興奮のあまり、ゲオルクは絶霧を展開しフューラーを害しようとする。

しかし、その動作は曹操の傍に控えていたもう一人の青年によって阻害されたのだ。

 

「…………あ、アーサー!? と、止めないでください!!」

 

「……そうは行きません。今はまだ、あなたに死なれると困るんです。

 この霧を制御できるのは、あなたしかいないんですよ。

 なので、聖槍であなたを貫くこともできないのです。

 ですので、大人しくしていてください」

 

アーサーの「支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)」の力の前に、ゲオルクは引き下がるしかなかった。

そして、この一連の流れは「アーサーは既に曹操ではなく、フューラーに協力している」

という事を証明するには決定的な出来事であったのだ。

 

「クッ……わ、我々が望んだから……あの悪魔のような男が生まれただと……

 そもそもが……自業自得だったというのか……

 そして我々も……あのナチスの同類だというのか……?」

 

「……クックック。いい眼をしてきたなJunge(少年)よ。

 だが心配することは無い。ナチスは確かに民衆が望んだから生まれたが

 諸君らは誰からも望まれていないではないか。

 一体、誰が諸君らに英雄としての蜂起を望んだのだ?

 いやそもそも、英雄とは人が認めて初めて英雄と認識されるものだ。

 誰からも認められていない諸君らは、英雄ですらないではないか」

 

最初の友好的な態度が嘘のように、フューラーはゲオルクと曹操を煽り散らす。

ゲオルクの心が折れたと見るや、今度は曹操の心を折りにかかってきたとも言える。

畳みかけるように、フューラーの言葉は続いた。

 

「いや……私にはわかるぞお? 曹操、君は英雄になりたいのではない。

 『誰かから認められたい』に過ぎないのだ。

 だから正規の方法ではなく、外法を用いてまでテロリスト紛いの事をしたのだ。

 その浅ましい承認欲求に他者の命を巻き込んで、英雄気取りは楽しかったか?」

 

「ふゅ、フューラー……あ、あなたは一体……!?」

 

いつの間にか、聖槍騎士団は一歩下がっている。

周囲には、アーサーに取り押さえられたゲオルクがいるだけだ。

 

「そう言えば、我らの同盟の証をまだ用意していなかったな。

 余興として、こんなものを用意してみたぞ? そうら」

 

フューラーが手を翳すと、黒い球体が宙に浮かぶ。

黒い球体の中から浮かび上がるように現れたのは

くたびれた顔をした中国系の古ぼけた服に身を包んだ中年の男女。

顔つきは、どことなく曹操に似ていた。

 

 

「バカな……父さん……母さん……生きて、いたのか……!?」




多分次回は短いです。

>フューラー
今回のフューラーはその正体を考えればさもありなんと言う言動をしてますが
実際にヒトラーが現代人を揶揄するとしたらこういうことを言うのだろうか、とふと。
少なくとも、ヒトラーもナチスも選挙で生まれた存在に違いは無いはずですが。

……さて。実は今回、フューラーは他愛もないことですが嘘をついてます。

>偵察
いつの間に? と思われるかもしれませんが
情報収集だけなら、戦闘の影響の及ばない場所から収集するのが上策だと思うんです。
戦闘ではなく、情報収集が任務ですし。
挙動が元ネタの都合上仕方ないのですがヤマテラス様の零観に似てますが
全く関連性はありません。

>ヘラクレスとジャンヌ
数話前で触れた通り、英雄としての在り方を否定された上でアインストとして死亡。
ジャンヌだけ一応ジャンヌ・ダルクとしての死に方をしましたが、それが英雄らしいかどうかと言われると。
事実を知らないから英雄として殉じたとかカッコいいこと言ってますが
そもそも禍の団(英雄派が打倒を試みた異形の立てた組織)にいる時点で……
どう取り繕おうとも、この時点で人間やめた外道だと思うのです。

>ゲオルク
ドイツは言わずもがなですが、海外(特にヨーロッパ)のナチスタブーなんて
ある種の常識的な部分もあるでしょうから、こういう態度。
日本がかつての同盟国って事を抜きにしても大らかすぎる部分もあるかとは思いますが
果たして歴史にふたをすることが正しいのかどうか。
フューラーからもナチスタブーを意識した煽りをされちゃってます。

>聖槍騎士団
流石に表面上だけでも同盟相手に「愚か者」とはちょっと言えないので
遠回しに「愚か者、ここは戦場だ!」と言ってます。
ガワを作るよりも聖槍のコピー作る方がめんどくさいのか
触れている通り一般兵と違って欠員の補充はなされていません。
ロンギヌスコピー簡単に作れそうなんですけどね。

……だからダンケダンケ言うCV:小澤亜李やUボートなCV:茅野愛衣はいません。
リーダーのCV:早見沙織で我慢してください(何)

>曹操の両親
原作では死んだはずですし、拙作でも一応自殺したはずです。
なのに連れてこられた。

ペルソナ2罪のラストを意識した展開ですが、アレはあの場所だから出来たこととは思いますが
今回そこを無視してやっちゃってます。まあ、前線基地がそういう性質の強い場所という事で。


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Definition Bパート

珠閒瑠(すまる)市・蝸牛(かたつむり)山。

ここに展開されていたフューラーの前線基地にて、禍の団(カオス・ブリゲート)英雄派を名乗る曹操と

偶々同じ組織名を名乗ったフューラーは、手を取り合うべく対談に臨んでいた。

しかし、対話を重ねるうちに空気は不穏なものとなっていき――

 

 

 

「いや……私にはわかるぞお? 曹操、君は英雄になりたいのではない。

 『誰かから認められたい』に過ぎないのだ。

 だから正規の方法ではなく、外法を用いてまでテロリスト紛いの事をしたのだ。

 その浅ましい承認欲求に他者の命を巻き込んで、英雄気取りは楽しかったか?」

 

「ふゅ、フューラー……あ、あなたは一体……!?」

 

いつの間にか、聖槍騎士団は一歩下がっている。

周囲には、アーサーに取り押さえられたゲオルクがいるだけだ。 

 

「そう言えば、我らの同盟の証をまだ用意していなかったな。

 余興として、こんなものを用意してみたぞ? そうら」

 

フューラーが手を翳すと、黒い球体が宙に浮かぶ。

黒い球体の中から浮かび上がるように現れたのは

くたびれた顔をした中国系の古ぼけた服に身を包んだ中年の男女。

顔つきは、どことなく曹操に似ていた。

 

 

「バカな……父さん……母さん……生きて、いたのか……!?」

 

 

そう。フューラーが呼び寄せたのは、死んだはずの曹操の両親。

しかし、わざわざ死体を呼び出したわけではない。

二人は、確かに生前の姿で呼び出されていたのだ。

故に、生きていたとするならば老け具合などがおかしな話になるのだが

曹操がそのことに気づくことは無い。

曹操にとって両親は、もう二度と出会うはずのない存在であったのだから。

 

 

「子の不始末は、親に取らせるのは当たり前であろう?

 一体何の不始末をしでかしたのか……と言う顔をしているな。

 教えてやろう。君の持っているその聖槍。それは元々、私のものなのだよ。

 英雄を気取るのは己が全能感に酔い痴れる若さの特権と私も見逃したさ。

 だが、そのための武器がまずかった。その聖槍は私のものだ。

 盗んだもので英雄を気取るとは、悪いJunge(少年)だ。いい大人にはなれんぞぉ?」

 

地に伏している男女を見下げながら、曹操の聖槍が盗品であると語るフューラー。

しかし、曹操の持つ聖槍もフューラーのものであるという証拠がない。

ところが曹操にしたところで、生まれながらに持っていたものであるため

そもそも盗んだという自覚が無い。曹操に言わせば言いがかりもいいところである。

 

「い、言いがかりだフューラー! これは、俺が生まれた時から……」

 

「クックック。ならば私ではなく神を、天界を恨むことだ。

 俗な言い方をすれば、君は遍く人間が引かされる神器(セイクリッド・ギア)のくじ引きで

 偶々所有者不在扱いされていた聖槍を引き当てたにすぎんのだ。

 全く私も苦労したぞぉ? ニュルンベルクに秘蔵した遺産が戦後の混乱で散り散りとなり

 ようやく手掛かりが見つかったと思ったら、まさか第三者――それもナチスとは何の関係もない

 アジアのJunge(少年)の手に渡っていたとは、私も予想だにしなんだ」

 

天界に責任を押し付けながら、フューラーは曹操に語り掛ける。

神器の発現を、あたかもくじ引き――ガチャに準えるフューラーに

曹操は得体の知れないものを感じ取った。まるで、人間を人間として見ていないような。

 

「さて。ではこのDieb Junge(泥棒少年)の犯した罪を、彼らに償ってもらうとしよう。

 未成年の犯罪は、保護者が責任を取るのが社会のルールだからなぁ?」

 

そう言うとフューラーは無理矢理に男女を叩き起こす。

状況を読み込めない男女は、かつて自分達の下から逃げ出した子供の成長した姿を目にする。

 

――しかし、彼らはそれが自分達が売り飛ばそうとした子供と

同一の存在であると気付くことは無かった。

 

「クックック……フハハハハハハハッ!!

 どうやら己が欲に溺れるあまり、とうとう自分の子供の顔すらわからなくなったようだな!

 良かったな曹操! これで心置きなく自分を罪人に貶めたそいつらを

 断罪することが出来るぞ!」

 

「な……そ……そんな! 違う! 父さん、母さん、俺だよ!!」

 

曹操は必死に呼びかけるも、男女は狼狽えるばかりでまともな反応を示さない。

それどころか、曹操を拒絶してさえいるようだ。

無理もない。そもそも曹操が両親と別れたのは今よりも幼い頃。

そして時を経て曹操が実家に戻った際には、既に両親は他界していた……はずだったのだ。

それがこうしてここにいることのメカニズムはわからないが、少なくとも死人ではない。

生者としての温もりは、確かに曹操の手に伝わっては来ているのだ。

 

「ゲオルクにも言ったが、己が心を取り繕うな。もっと自分に素直になれ。

 思い出せ曹操。誰のせいで、こうなったかを。

 誰のせいで、明日をも知れぬ生活を送らねばならなくなったのかを」

 

「……俺の……俺の心……」

 

フューラーに言われるがまま、考え込む曹操。

幼少期、曹操は確かに不思議な力を持っていた。

それは今にして思えば、聖槍由来のものであったのだが。

そして、その聖槍の力を求める集団へと曹操の両親は

我が子を金欲しさに売り飛ばそうと試みたこともあった。

それを拒み逃げ出した曹操だったが

それが両親とは今生の別れとなってしまったのだった。

 

聖槍の力さえなければ、貧しいながらも平凡な

ありふれた農家のまま過ごせたのかもしれなかったのに。

 

 

――そう考えた途端、曹操は突然自分の持つ聖槍の力も、両親への思いも

途端にどす黒く塗りつぶされていく感覚に襲われた。

心の中に広がっていたはずの幼少期を過ごした農村は暗雲に包まれた荒野へと。

心の中にいた村の人達や両親と言った親しい人たちは忌むべき異形の怪物へと。

それらを撃ち滅ぼさんと、今まさに心の中の自分は聖槍を手に戦おうとしていた。

その相手の正体を、知った上で尚。

 

曹操の心に広がる情景は、瞬く間に地獄絵図へと塗り替えられていったのだ。

 

 

「その力を見せた時、周りはどうした? まるで怪物を見る目で見てきただろう?

 或いは好奇、或いは畏怖。少なくとも、同じ人間に向ける感情ではあるまい?

 貴様は人間の英雄などと嘯いてはいるが、そもそも『人間の』英雄などではないという事だ!」

 

「バカな……俺は……英雄じゃ……」

 

憔悴し、見る間に表情を変えていく曹操。

そこには、英雄と嘯き余裕綽々の表情を見せた面影はどこにもない。

英雄とは、人に――民に認められて初めて英雄となる。そうフューラーは語った。

それが事実であるならば、曹操は初めから英雄にはなれなかったのだ。何故ならば――

 

 

――彼は、見世物小屋の珍獣同然に実の親から売り払われようとしたのだから。

 

 

「自分を受け入れるのだ曹操。今心に思い描いたものこそが、本当に求めていたものだ。

 怪物を、自分を認めない者達を撃ち破り、自身を賞賛する者さえいればいい。

 民衆に賞賛さえされればその瞬間君は英雄だ。

 

 ――そう、手始めに、まずそこの罪人二人に刑を執行するのだ。

 君の持つ聖槍。それは本来、罪人に刑を執行するための槍だ。さあ、使うがいい」

 

言われるがまま、聖槍を手にする曹操。しかしその瞳に、感情は、光は宿っていない。

ここに来て、ようやく事態を把握した曹操の両親であったが、時すでに遅し。

必死に命乞いをするも、その声はもはや曹操に届くことは無い。

 

 

「お前たちのせいで、俺は死にかけたんだ!!

 お前たちは俺の親でも何でもない!! 今更俺の前に出て来るな!!!」

 

 

聖槍から空気を切る音が響き渡ると、曹操の両親の腹部は赤く染まり

そこからは止まることなく血が流れ続けていた。

 

そんな両親を見下すように、顔を返り血で染めた曹操が聖槍を構えている。

その様は、確かに死刑執行人であり、あたかも二千年ほど前に起きた処刑と同様であった。

刑を執行した相手が、後の聖人どころか唯の俗物にすぎないという差はあったが。

 

「フハハハハハハッ!! よくやった!!

 我が身可愛さに守るべき己が子供を売り渡そうとする者が、清廉潔白なわけがない!!

 邪悪を打ち払う英雄としての最初で最後の役割、見事果たしたな! 褒めてやるぞ!!」

 

 

――「最初で最後」。

 

高揚感で曹操は気にも留めなかったが、フューラーは確かにこう言ったのだ。

気にも留めないどころか、英雄と讃えられたその一言だけで曹操は浮かれていた。

仲間内で「俺達は英雄だ」などと言っていた時とは違う。外部の者が英雄と讃えてくれたのだ。

それは、出征において誰からも讃えられなかった曹操にとっては

乾いた心に染み入る潤いであった。

 

 

但し……その潤いは、間違いなく毒であったが。

 

 

「そ、そうだ! 俺は英雄だ、英雄なんだ! 俺達英雄が、人間界に巣食う怪物を打ち払うんだ!

 そして……」

 

 

 

「…………必要の無くなった英雄は、処分されるものだ」

 

 

次の瞬間、フューラーから伸びた影の触手が、曹操の背から胸を抜けて勢いよく伸びた。

フューラーから迸る青白い光を受けて、曹操からは鮮血が飛び散る。

その一瞬の出来事に、曹操は自分に起きた事を全く把握していない。

 

犯罪者であり汚点たる自らの両親を断罪した。

罪人を咎めた自分は英雄のはずだ。英雄にはこれから煌びやかな道がある。

その煌びやかな道を進み、怪物を倒し、民衆から讃えられる。そんな英雄に自分はなるんだ。

 

それなのに、この胸の熱はなんだ。灼けるような痛みはなんだ。

英雄として、巨悪と戦った末のものでは無い。今自分がやったのは、ただの断罪だ。

自分が傷つく要素など、何一つとしてないはずなのに。

 

 

「さっき言ったはずだぞ? その槍は、罪人に刑を執行する槍だ」

 

「な…………フュー……ラ……ァ……どう……し……」

 

肺を一瞬で貫かれたのか、ヒューヒューと声をかすれさせながら曹操はフューラーに問いかける。

一瞬の出来事で、曹操は理解が追いついていない。

両親を刺したと思ったら、今度は自分が刺されているのだ。

 

「いかんなあ? 罪人が執行人を気取っては」

 

「おれ……の……つ…………み…………?」

 

サングラス越しに邪悪な笑みを浮かべながら、フューラーは曹操に語り掛ける。

「罪人」呼ばわりされたことに、曹操は納得がいっていないようではあるが。

 

「至極単純な話だ。『親殺し』、これ以上の罪はあるまい?

 まして貴様は儒学位学んだであろう? それなのに、親を殺した。

 これを罪と言わずして、何と言うのだ?

 

 曹操、まだ意識があるのならば、槍の柄を見るがいい」

 

「な…………に…………?」

 

言われるがままに、曹操は聖槍の柄を見遣る。

そこには、短く「YE GUILTY.(汝、罪人なり)」と記されていた。

 

「クックック……どうやら、聖槍には見放されたようだなあ?

 まあ最も、そんなもの誰が持っていようが意味など無いがな。

 だがこれから死にゆく貴様には、過ぎたるものだ。

 本来の持ち主たる私が有効活用してやろう、ありがたく思うがいい」

 

「フュ…………ラ…………れを…………だま…………」

 

影の触手が、曹操から抜き取られると同時に

その触手の先端には光り輝くものが見える。

それはまるで、かつてアーシアから抜け出ようとした神器の光に酷似していた。

 

曹操の顔からは、見る見るうちに生気が抜けていき、顔色も悪くなっていく。

英雄として最期を迎えるには、あまりにも呆気なく、誰からも顧みられることなく

ただ一人、無様に死んでいこうとしているのだ。

 

「かつての武皇帝の名を名乗る割には、呆気ない幕切れだなあ?

 だがこの二十世紀最悪の独裁者とも言われた私と同盟を組もうというのだ。

 死にゆく貴様に言っても仕方が無いが、付き合う相手は選ぶことだ。

 それとも、その最悪の独裁者たる私を更生させようとでも思ったか?

 

 だとしたら、私を見縊ったと同時に、とんだ自惚れだ。

 時として若者は、己が全能感に酔い痴れ、過ちを犯すというが……

 死に際に、それを学べたな。地獄で恥をかかずに済むぞお?」

 

フューラーの手には、先刻まで曹操の手に握られていた聖槍があった。

既に、所有権は曹操からフューラーに移っていたのだ。

聖槍の穂先は、確実に曹操の首を捉えていた。

 

「そしてこれが最後のアドバイスだ。確かに怪物は民衆を撃ち滅ぼし、英雄は怪物を撃ち滅ぼす。

 だがその英雄は、民衆に撃ち滅ぼされるものだよ。そして私は民衆の声の代弁者。

 その私が、英雄を殺すことは何ら不自然ではない。

 ……まあ最も、貴様は英雄としてではなく

 行旅死亡人として無様にその屍を晒すことになるが……

 

 

 ……だが、私も同盟を結んだ相手に何ら手を差し伸べることなく

 処分するのも気後れする。この場からの逆転を果たせる手段があるが……賭けてみるか?」

 

何を思ったのか、フューラーは先ほど傷つけたはずの曹操の傷を癒し始める。

痛みが引き、止血も果たされたことで話す気力を取り戻したが

聖槍の力は既にフューラーに奪われている。神器を奪われた者は遠からず死ぬ。

たとえ治療を受けたとて、曹操はどの道長くはない。

 

しかし、それでも生きようとする意志はあった。

その意思があったからこそ、親に売られそうになっても今まで生きながらえてきたのだ。

そんな彼が、不本意ながらもフューラーの提案に頷くのは当然のことと言えよう。

 

「携帯電話は持っていよう? スマホでも構わんぞ?

 その携帯電話から、己の携帯電話の番号にかけてみるのだ。

 そうすれば、英雄に……いや、死の運命を変えられるかもしれんぞお?」

 

フューラーが提示した救命手段。それは、事もあろうにJOKERを召喚する儀式である

JOKER呪いそのものであったのだ。

事ここに至って、曹操にJOKER呪いを行わせるというのだ。

 

「そもそも貴様ら英雄派は、怪異を打ち倒す英雄を名乗っておきながら

 アインストなどと言う怪異の最たるものが率いる組織に属しているではないか。

 いや、たとえオーフィスがアインストでなかろうとも

 もっと言えば首魁がオーフィスでなかろうとも

 あの組織は人間が立ち上げたものでは無い。

 

 貴様が理想とする英雄となるには、初手から誤っていたのだ。

 怪異から人類を解放するなどと謳っている癖に、貴様は初めから怪異の傀儡だったのだよ!!」

 

「そ、そんな…………」

 

愕然とし、思わず携帯を握る手から携帯を取り落としそうになる。

フューラーに拾い上げられ、握り直させられるが

その手には、既に力はない。

 

「だが、そんな無力な貴様にも英雄になれる機会はある!

 さあ、その携帯から己が携帯に問いかけるのだ。

 貴様に英雄の資格があろうがなかろうが、その願いは叶う。そう決まっているのだよ」

 

言われるがままに、曹操は自らの携帯から、自分の携帯に発信する。

本来なら繋がらないはずのそれは、コールサインを発信する。

次の瞬間、曹操は知らないはずの呪いの祝詞を口から出していた。

 

 

 

――JOKER様……JOKER様……おいでください……




Bパートで終わる予定でしたがCパートに続きます。
完成自体はしてるのでそう遠くないうちに投稿は出来るかと思います。

>曹操
もうだめだ。
完全に閣下に出し抜かれてる上にあからさまな罠を突き付けられてる。
「ゴースト」特別編でイッセーが聖槍騎士団から寄越されたヘル実食う位アレな状態だ。

……曹操はこんなですが。
英雄に関しては、赤土的には割とこういう見方をマジでしてます。三すくみですね。
これが正しいかどうかはさておいて、こういうもんだろとは思ってます。

一応、この世界の曹操は貧しい農村で生まれ育った、聖槍の力がある以外は
全く普通の少年……だったのですが……
やっぱ聖書の神クソだな。それ以降は曹操がやることなすこと全部悪手過ぎるのですが。
こうやって見ても、こいつはこいつでイッセーのif足り得る存在なのかもしれません。
だから、原作でクローズアップされているのかも。

……拙作では知った事かとばかりに混沌劇場の片鱗を見せつける試金石にされてますが。

>総統閣下
「こいつら罪人でお前の持ってる槍は罪人処刑用だから使えばいいよ」からの
「やっちまったなあ? 親殺しは大罪だからお前処刑するね」は我ながら気持ちのいいコンボだと思います(悪い笑み)
事ここに至ってJOKERけしかけようとするとか人の心ってもんが無さすぎる。
起源を考えると全くそんなこと無いはずなのに。

自分(ヒトラー)の悪評を知った上でこれだけのことが出来るのだから
英雄と嘯いて正義の味方ごっこしてるだけの奴らが勝てるわけが……
アインストに巨人族でパワーバランス間違えた気もしてますが
一番パワーバランス間違えたのはこのネガティブマインド軍団かもしれません。
(何せイッセーらはもとよりセージ達でさえ勝てるビジョンが浮かばない浮かびにくい)

>聖槍
柄の文字は完全なお遊び。
実際にかの機械巨人の起動時に表示される文字は昔処刑用の剣に刻まれていたらしいですが。
聖槍にこの文字が刻まれていたという話は聞いたことがありません。なのでお遊び。

>神器ガチャ
言葉は悪いですが、HSDDで運営されてる神器ってとどのつまりこれじゃ……
で、人間(ハーフ含む)にのみ現れる。これって……

ネタバラシになるのでまだ言えませんが、かなり悪意のある扱い方は出来る……
やると思います。
勿論、ガチャにつきもののリセマラやクソ広告御用達のン百、ン千連ガチャも踏まえた上で、ね。


余談ですが、そうして考えると本当にHSDDって成り上がり系でクソ広告をよく打ち出す中華系アプリゲーの世界だと思います。


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Definition Cパート

禍の団(カオス・ブリゲート)・英雄派を率いていた曹操は、同志として

同じく英雄派として名乗りを上げたフューラー・アドルフの部隊と合流し

フューラーと対談を交わし、手を取り合おうとその手を伸ばしたのだが――

 

 

――差し出した手には、刃が握られることとなった。

 

 

「そもそも貴様ら英雄派は、怪異を打ち倒す英雄を名乗っておきながら

 アインストなどと言う怪異の最たるものが率いる組織に属しているではないか。

 いや、たとえオーフィスがアインストでなかろうとも

 もっと言えば首魁がオーフィスでなかろうとも

 あの組織は人間が立ち上げたものでは無い。 

 

 貴様が理想とする英雄となるには、初手から誤っていたのだ。

 怪異から人類を解放するなどと謳っている癖に、貴様は初めから怪異の傀儡だったのだよ!!」

 

「そ、そんな…………」

 

曹操の思い描いていた英雄とは、ナチスの同類ないし思想を体現するものだったのだ。

ナチスの同類と、よりにもよってナチス色の強いフューラーから指摘されたことに

ゲオルクは逆上し、曹操も彼が持つ聖槍だけが目的とばかりに

フューラーは曹操から聖槍を奪い取ったのであった。

 

ご丁寧に、彼に親殺しの実績まで与えた上で。

 

 

「だが、そんな無力な貴様にも英雄になれる機会はある!

 さあ、その携帯から己が携帯に問いかけるのだ。

 貴様に英雄の資格があろうがなかろうが、その願いは叶う。そう決まっているのだよ」

 

曹操にフューラーが授けた手段とは、ずばり「JOKER呪い」。

これは自分の携帯に自分の携帯から発信することで

願いを叶える怪人・JOKERを呼び出すものだ。

この願いは多岐に渡り、富や名誉、能力から果ては殺人依頼まですることもできる。

そのJOKERの力を用いて、英雄にさせようというのだ。

 

本来ならば、曹操とて首を縦に振らない話ではあるが

既にフューラーに己の存在意義の大半と言える

聖槍を奪われてしまっている。聖槍も広義では神器(セイクリッド・ギア)にあたるため

抜き取られたことで、曹操は遠からず死ぬ運命にあった。

その死の運命から逃れるという意味でも、曹操は藁にも縋る思いだったのだ。

 

彼とて人の子である。己の命に対する執着心はある。

そうでなければ、実の親に売り飛ばされそうになった際に逃げ出したりはしなかっただろうし

追手を撒いたりはしなかっただろう。

 

だからこそ、言われるがままに曹操は自らの携帯から、自分の携帯に発信する。

本来なら繋がらないはずのそれは、コールサインを発信する。

次の瞬間、曹操は知らないはずの呪いの祝詞を口から出していた。

 

 

「JOKER様……JOKER様……おいでください……」

 

 

次の瞬間、曹操の影は道化師のような人型を取り、曹操の背後に現出した。

白い学ランのような姿に、ひび割れた道化師のような仮面。

 

 

――汝が後ろに。

 

 

JOKER。夢に煩う者が引いた、最後の切り札。

あらゆる願いを叶える、そう噂された怪人。

曹操にしてみれば、それは悪魔を召喚し願いを叶えてもらう行為と大差ないと認識はしていた。

だが聖槍の力を失った今、英雄となるべく彼が縋れるのはJOKERしかなかったのだ。

 

情報源が噂という事もあり、半信半疑だったが

確かにJOKERは曹操に後ろに現れた。

ならば、願いを叶えることも当然、出来るはずである。

 

すかさず、曹操は己が願いを口にする――

 

 

「俺を……英雄に……皆に認められる……英ゆ…………うっ!?」

 

 

――しかし、その願いが叶うことは無かった。

曹操を貫いたのは聖槍ではなく、もう一つのJOKERの腕。

それはまるで曲がりなりにも人型を成しているJOKERには似つかわしくない

異形の、悪魔のそれであったのだ。

 

「バァーカ。今更俺に頼ったって遅えんだよ。

 そもそもてめぇは聖槍っつー切り札を既に持ってただろうが。

 その切り札の使いどころを誤っておいて、切り札を取られたからって

 ホイホイ別の切り札に乗り換えようったって、そうはいかねぇぞ?」

 

曹操を貫いたJOKERは、黒い学ランに赤黒い道化師の面をしていた。

その姿は、以前リアス・グレモリーらを襲撃したものと酷似していたが

それを曹操が知る由は無い。

 

だが、そのJOKERが何故ここにいるのか。

如何に正体不明の怪人と言えど、私設とは言え軍の前線基地に何事もなく入れるはずがない。

それはつまり、この黒JOKERも何者かに呼ばれた存在なのだ。

 

 

「……黄色い猿め! よくも私の英雄としての花道に泥を塗ってくれたな!!

 JOKERよ! 今ここに英雄を嘯く愚者を生贄に捧ぐ!

 そして、我らに民衆を守る英雄としての力を授けたまえ!!」

 

「クックック……ハッハッハッハッハッ!!

 まさか、相棒とも言うべき腹心に謀殺されるとはな!

 この死に様の真相だけは、英雄らしいと認めてやるぞお!!」

 

そう。この黒JOKERはゲオルクが召喚したJOKERだったのだ。

ここに来て、曹操の不甲斐なさに失望したゲオルクが曹操を見限り

JOKERを用いて処分したのだ。

 

「な…………そん…………な…………ゲオ…………ル…………」

 

「貴様を聖槍の錆にするのも惜しいわ。だが、JOKERの噂を確かなものにするために

 貴様の遺体だけは有効に活用してやろう。遺体としてな。

 只の死体に曹操などと言う名は大仰であろう。

 見果てぬ夢ならば、見ない方が救済だ。その夢見る力、JOKERの糧にしてくれるわ」

 

断末魔を上げることなく、英雄としてではなくただの哀れな犠牲者として始末された曹操。

狂気の道化師を象った仮面に相応しく、嬉々として曹操の遺体を解体し始めるJOKER。

その様を見ても、JOKERをけしかけたゲオルクは何ら感情を抱くことは無かった。

曹操の呼び出したJOKERは、ただ静かに佇んでいる。

召喚者が不在でも、JOKERには何の影響も無かったのだ。

 

「ああ、もう一つ冥途の土産に教えてやろう。

 ジャンヌとヘラクレスだがな。彼奴等はアインストとなり果てた上で駆除されたよ。

 さっきも言ったが、貴様らは初手から誤っていたのだ。

 彼奴らは英雄ではなく、その英雄に駆除される怪物であり

 今ここで死ぬ貴様は、英雄としてではなく名もなき市民として野垂れ死ぬのだ」

 

 

――切り札はスポイルされた。

 

 

次の瞬間、曹操の遺体は黒い影に包まれる。

誰も口に出さなかったが、もはや曹操を名乗った少年の存在は誰の記憶からも消えていたのだ。

その少年は、死に際まで自らのこれまでに絶望し、自分を陥れた周囲を呪いながら消え去った。

 

本来、白JOKERに願いを言えなかった者は夢見る力を奪われ、影人間と呼ばれる存在にされ

誰の記憶からも消え、認識すらされなくなり、終いには存在そのものが消えてしまうのだ。

順番こそ違ったが、曹操はこうして影人間――影遺体となってしまったのだ。

途中で横槍が入ったとはいえ、願いを言えなかったことに変わりはないのだから。

 

最も影人間の消失にも時間がかかるため、消失までの間曹操を名乗った少年の遺体は

警察かマスコミが来るまでの間、こうして野晒しにされ続けることになるのだが。

 

「さて……よくやったぞアーサー、ゲオルク。

 これで私は聖槍を手にすることが出来た。

 あとは異界の怪物を排除し、今度こそ真なる帝国を樹立する時だ。

 そして聖槍が手に入った今、こんな場所は用済みよ!

 

 続け我が軍勢よ! 英雄派などと言う稚拙な集団は今ここに崩壊した!

 ここに我が第三帝国の軍はその真名を取り戻した!!

 この聖槍の名の下に、我らはラスト・バタリオンなり!!」

 

 

――Heil Führer!!(ハイル・フューラー)

  Sieg Reich!!(ジーク・ライヒ)

  一つの国、一つの国民、一人の総統!!

  

 

シュプレヒコールの後ろで、JOKERを呼び出したゲオルクもまた

噂通りにJOKERへと変貌しようとしていた。

しかし、JOKER呪いをしたものはJOKERになるという噂とは裏腹に

ゲオルクはJOKERへと変化することなく、ただ黒いオーラを体から吹き出し

霧散させただけだった。

 

「寛大なご配慮に感謝いたします、総統。

 あの黄色い猿はどうでもよかったのですが

 彼はまだこの地を覆う結界を守るために必要な人材。

 あの猿よりは、役に立ちましょう」

 

「確かに……JSM(JOKER Separated Machine)など、時代遅れの装置だとばかり思っていたが

 今ここでこいつに暴れられても困るからな。

 まあ、中身のない奴になったとて神器が使えれば問題なかろう。

 だがそれも、クロスゲートが本格稼働するまでの話だがな。

 アレが動いてしまえば、こいつの神器など何の役にも立たん」

 

オーラが抜け出て、崩れ落ちたゲオルクをアーサーに指し示し、運ばせるように指示する。

フューラーが語った「JSM」とは、かつてJOKER呪いが行われ

人々がJOKERとなった際にそのJOKERを強制的に分離させ

人々をJOKER化から救うもの……ではあるのだが。

 

そもそも、JOKERとてその人から生まれた影の部分であり、その人を形成する一面である。

それを強制的に分離させるのが、どういう結果を齎すか。

当時は、その口調から「レッポジ人間」などと揶揄された中身のない人間に成り果てていた。

JOKER化の阻止のためとはいえ、同じ措置をゲオルクは施されたのだ。

 

「クックック……その猿は英雄などと嘯いていたが

 こうして真なる英雄の出征の礎となれたのだ。

 アーサーよ。君の役割も既に終えているが……どうする?

 このまま異郷の地で腐り果てるか、いつ終わるとも知れぬ戦いに臨むか。

 私に聖槍を捧げた褒美に、好きに選ぶがいい。

 無論、家族に復讐するでもいいぞ。私は、成果を上げた者には褒美を取らせる主義だ」

 

ペンドラゴン家。その名前からかの英雄王アーサーに連なる家系……かと思いきや

実際には全く、何の関係もないただの貧乏貴族である。

そしてなまじアーサーなどと名付けられてしまったがゆえに

否が応にもかの英雄王との関連性を思わせられるものであった。

因みに、妹もルフェイと名付けられており彼女も彼女でさる伝説を思わせるものではあるのだが

然程ある種の風評被害を受けているわけではなく、兄程ぐれているわけではない

ちょっと魔法が使えるだけの普通の少女として生活していた……はずだったのだが

それも、アーサーがテロリスト――それもナチスに連なる組織に属してしまったが故に

その日常は音を立てて崩れ去ったのであった。

 

聖剣が家宝として伝わっていたことから、意図しての行為であった部分はあるが

アーサーは結果として妹に不要な心労をかけ、家庭不和を招いてしまっていたのだ。

例え、自身につけられた名前が原因であったとしても。

 

そう。アーサーを突き動かしていたのは英雄としての矜持ではなく

かの英雄王、アーサーと比較される自分へのコンプレックス。

そうした抑圧された感情が、彼の進む道を踏み外させ、目を曇らせていたのだ。

 

事ここに至り、英雄派はその名前に反し派閥としてではなく、ただの個々の集まりとしての

性質が露呈し、それが仇となって瓦解する結末を迎えてしまったのだった。

 

そして、散り散りになった英雄派の残党をフューラーが接収。

これまた偶然か必然か、フューラーが当初名乗った通りに名実共に英雄派となったのだ。

 

今ここにいない天草四郎の末裔を名乗るものや、置き去りにされたレオナルド等

残党はいるかもしれないが、最早聖槍を手にしたフューラーにとってそれらは有象無象と言えた。

その有象無象を纏め上げるという意味でも、皮肉にもその成り立ちや実績から

英雄と言うには憚られる部分も強いフューラーではあったが

リーダーとしての資質は間違いなくあり、その点においてもこれ以上なく適任と言えたのだ。

 

あるものはアインストへと変貌し。

またあるものは偽りの英雄像に翻弄され。

またあるものは只誰かのいいように扱われただけに終わり。

 

 

――この世界に、英雄は存在しない。求められなかったのだ。

 

 

英雄に連なる、なりうる異端者はここに駆逐された。

この世界では、赤い龍の鎧がただ一人の英雄なのだ。

そうあるべきなのだ。

 

 

珠閒瑠(すまる)市を覆う霧は一時的に晴れたが、再び霧に覆われてしまい

またしても珠閒瑠市は陸の孤島と化してしまう。

まだ、珠閒瑠市にアインストやJOKERが存在するという事実は変わらないのだ。

それどころか、JOKERの存在は証拠が挙がったという形でより確固たるものとなった。

 

 

その日の夜、蝸牛(かたつむり)山に惨殺死体が見つかったという報道がなされ。

その手口はかつてのJOKERによるものに酷似していたとは言われたものの

被害者の身元は、終ぞ判明することは無かった……

 

 

 

――――

 

 

 

「愛する者を失い、失意と無念を胸に抱いて朽ちた怨念に

 信頼していた者と共に掲げた理想を裏切られ、絶望に沈んだ怨念……か。

 フフフ、これは面白くなってきたね」

 

 

七姉妹学園の時計台の上から、蝸牛山の方角を眺め口角を上げる女性の影。

曹操の死と共に、空へと昇っていき珠閒瑠市の南西の方角へと飛んで行った絶望の想念。

普通の人には不可視のそれは、彼女の双眸にははっきりと映っていた。

 

「残る一つは……希望を胸に抱き、絶望への布石としながら散りゆく怨念か。

 なるほど、確かにこれは面倒臭そうだ。こんな都合のいい生贄は……

 

 ……まあ、無ければ作ればいいか。今までみたいに」

 

女性の目の先にあるのは、珠閒瑠市・鳴海区。

それは絶望の想念が飛んで行った先であり、怨念を喰らう装置を持つものがいる方角であり。

 

 

――そして、生贄が集められた場所でもあった。




長引きましたが、「合同学習のプレアデス」完結です。
これ当初の予定だとまだ続く予定だったんですよね。
キリの良さでここで次章突入としましたが
曹操の顛末描いただけのシーンなので、次章回しでもよかったかも?
まあ、一応原作でも英雄派顔見世と同じ時系列ではあるのですが。
(なお起きているイベントは全く異なってます)

>曹操
以前バラキエルを相当えぐい退場のさせ方しましたが、多分それ以上。
ゲオルクやアーサーから黄色い猿呼ばわりされてますが
大なり小なり、アジア系ってそういう見方されますので……
実績もなく、偉そうに振舞っているだけなら猶更。

身元不明の遺体として処理されてますので、無縁仏行きです。
名声としての英雄を求めた者には相応しい最期だと思わないか?
ふはははははっ!!

>ゲオルク
このポジは裏切ってなんぼってのは、それはそれで固定観念にとらわれているかとは思いますが
今回作劇の都合もあり普通にルラギリました。
まあ史実の曹操も裏切りが普通にある時代の人間ですから、別にいいでしょう。と開き直り。

今回JOKER化キャンセルされましたが、ある意味もっと酷いことになりました。
使い潰されるって意味では曹操とどっこいか、それより酷いか。
一応個人として認識されている分、その事考えればマシでしょうか。

>JSM
正式名称は推測からの独自設定。あるのでしょうけど、ソース探せなかったので。
まかり間違っても「JOKERが 佐々木に取り憑き まあ愉快」じゃないです。
今回使ったのは小型化された簡易版。別に集めてるわけでもないですし。

>アーサー
やさぐれてましたが、とりあえず名前が原因でぐれたって生々しくてひどい理由。
アレな名前の子供の両親のアレ率も酷いですが、子供も大概だと思いますし
何なら曹操もそのクチだったかもしれない。
肖って名前を付けるのは、自称どまりにしておかないと生育に悪影響しか及ぼさないと思います。
肖ってもないであろう某ニュータイプは……うん、まあ。

>レッポジ人間
JOKERって人間の影の部分を無理矢理抜き取った成れの果て。ゲオルクの現状。
この呼称は非公式ではありますが、口癖のように「レッツ・ポジティブ・シンキング!」と叫びながら何もしない空っぽ(になった)人達。
口ではいいこと言ってても、実が伴わないでは……


>最後の独白
ここに来ていきなりペルソナ2要素が抜けます。
無念、虚の感情を抱きながら死んだ人の魂、裏切られ、絶望しながら死んだ人の魂。
前者は拙作では人ではありませんが、まあそれはそれ。
最後の一つ、死の間際まで希望を捨てずにいた魂を求めているあたり
かなりヤバい物集めてます。霊魂集積装置持ってる奴もいることですし。


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校外実習のアラヤ識
Will31. 眠れぬ夜のリアス Aパート


珍しくイベントよりもこっちがノリノリだったりします。
今回以降、リアスの立ち位置が少し変わるかもしれません。
没落を望む方には、ちょっと消化不良になるかもしれません。すみません。

(いや二次創作で救済するのにごめんなさいも変な話なのにあれこれは一体)


――気が付くと、俺はまた不思議な空間にいた。

星空が見えるあたりから、ベルベットルームでないことはすぐにわかった。

どちらかと言えば、フィレモンに会ったあの不思議な部屋に似ている。

 

 

……だがこの部屋、こんなに赤かったっけか?

 

 

――ディスは、間もなく目覚める。

 

 

突如、何処からともなく俺の耳に凄まじい不快感を伴わせながら

謎の声が囁きかけてきた。

 

声の主は見当たらない。

フィレモンに似ている声だが、こんなに心の奥底から不快感を催すような

声の主ではなかったはずだ。

 

 

――絶望を糧とする破壊、虚無から産まれる調和は捧げられた。

  残るは、希望をも塗り替える創造――

 

 

なんの……話だ……?

俺の周りを漂っている負念は、確かに前よりかなり強くなっている。

このままでは、遠からず俺も負念に呑まれてしまうかもしれない。

だが、負念を集めてやろうとしていることがまともであろうはずがない。

 

 

――希望を捧げよ。さすれば、地上には永遠の安寧が約束されるであろう。

 

 

……断言できる。この声の主が誰かはわからないが

この声の主がやろうとしていることは碌なもんじゃない。

こんな訳の分からない話には――乗れない!!

 

 

「断る! 誰かの希望を、そんな風に踏み躙っていい訳が無いだろう!!」

 

 

――ククククク……希望を捧げるのは、何も貴様でなくともいい……

  いや、そもそも貴様には、捧げられた絶望、無念、希望を集めてもらわねばならない。

  この3つの感情が捧げられた時、この世界における審判の火は一等燃え盛り

  その炎を迎え火に、冥府の死の神は目覚めるであろう。

 

 

こいつが言っているのは、ディーン・レヴであることはすぐに理解できた。

だが、この話が本当だとするとディーン・レヴの怨念吸収能力の本命は

こうして生贄のごとく捧げられた魂を集めることだっていうのか!?

俺は、なんだかわからない奴を復活させるための生贄の収集役にさせられていたのか!?

その果てに、冥府の死の神が目覚めるであろうことも、この声の主は織り込み済みで

なんなら、それこそが真の目的であるようにも思えてならない。

 

 

「そんなものを目覚めさせて、何をするつもりだ!」

 

 

――人間は、己に道を与え縋りつく対象さえあればいい。

  その道を与える存在……「神」に反影を与え

  より確実な存在として顕現させようというのだ。

  貴様は知らぬであろうが、その神は古から統馭者として君臨し

  人類に知恵を与え、そして……

 

 

ふと、俺の脳裏にかつてアモンが語った神の話が過ぎった。

教化の名の下に人間を支配し、かつての悪魔やデーモン族と戦いを繰り広げたとされる神。

もし、ここで語られている神が、その神の復活であるのならば……

 

……させるものか。

人間は、人間として、人間らしく生きてこそ人間だ。

それを悪魔だ天使だ堕天使だ神だ、そんな奴らに好き勝手される云われはない。

もし、俺が集めた、集めさせられた怨念が鍵で、俺が鍵を作る役割を担わされているのならば。

 

 

……敢えてその話に乗って、徹底的に神の復活を阻止してやる。

 

 

――ククククク。どれだけ足掻こうとも、統馭者の再臨は避けられぬ。

  統馭者は、既に天界に鎮座しているのだ。

  人間界に降り立つのも、最早時間の問題に過ぎぬ。

  それでもなお人として生きたいと願うのならば、無駄な足掻きをするがいい。

  人類には、絶対的な統馭者が不可欠なのだ。

  それが古からの賢者たる神か、赤き龍の魔王のどちらかで、違いなどありはしない。

  絶対的な存在が君臨し、平定することでのみ、人間には真の平和が約束されるのだ。

 

  貴様がどれだけ足掻こうが、平定を拒む限りは貴様自身が望む平和からは遠ざかり

  人間は永遠の闘争の炎に焼き尽くされることとなるぞ?

 

 

「ふざけるな! そんな平和が、まともな平和であるはずが無いだろう!!」

 

 

こいつの言っている事は、要はそのろくでもない神か

あるいは得体の知れない悪魔に隷属しろという事だ。

そんな世界がまともであるはずがない。

大体、楽園を謳う世界がまともであったためしがないのだ。

 

 

――なおも拒むか。だが気づいているか?

  その未来への希望こそが、神を君臨させる要素の一つだという事に。

  ククク……貴様は実にいい働きをしてくれる。

  怨念を集め、そして自身もまた生贄としての資質を持つ。

  真に人類のためを思うのならば、神を君臨させ世界を平定する礎となるのが

  より確実な方法なのだがな。

 

  ……よかろう。それほどまでに生贄の役割を放棄するのならば

  もう一つの、怨念の集積をやってもらうこととしよう。

  貴様は、どちらか一つを必ず選ばなければならないのだ。

  どちらも拒むという事は赦されんぞ。

 

  だが後悔するなよ? 怨念を集めるという事は

  その分貴様自身もその怨念に触れることになるのだからな。

  その怨念に負けず、なおも希望を持ち続ける姿を私に見せるがいい。

  待っている……待っているぞ。

  ククク……フハハハハハハハッ!!

 

 

声が遠のくと同時に、赤い空間も薄れていき、俺の意識そのものも消えていった。

感覚としては確かに以前フィレモンのいた場所にいた時に近いものを感じたが

それ以上に、心を掻き毟るような不快感がついて回ったのが気がかりだった。

 

その不快感から解放されたと同時に、俺は――――再び、意識を手放した。

 

 

――――

 

 

A.M. 01:24 珠閒瑠(すまる)市・鳴海区

ホテル・プレアデス一室。

 

 

外は昏く、太陽が昇るまではまだ暫くかかりそうな時間。

とてつもなく嫌な夢を見ていた記憶はあるが、中身までは思い出せない。

その証拠に、肌着がやたらとべたついている。暑くはないのにだ。

 

隣のベッドで寝ている兵藤を起こさないように注意しながら、部屋のシャワーを浴びる。

こんなこともあろうかと余分に用意しておいた肌着が役に立ったか。

40度近くのお湯を顔から浴びながら、頭の中を整理する。

 

別に、夢の内容を整理するわけじゃない。そもそも、覚えていない。

ただ、言いようもないくらいに不快感を覚えた事だけは間違いない。

そして、恐らくそんな夢を見たのは俺が意識を失う前の出来事が原因だろう。

 

 

……そう、あれはニュースを見ていた時、祐斗からD×Dに関する情報が

ネットに流れていると伝えられて、その直後に周防警部から電話がかかってきて……

それから……

 

 

……ああ、そうだ。警部の電話を切った後に沢芽(ざわめ)市でディーン・レヴが初めて動いた時のような

物凄い悪寒が走って、それで気分が悪くなって……

 

……その先の事は、思い出せない。

つまり、そのタイミングでぶっ倒れたってわけか。

十中八九、ディーン・レヴのせいだろうが……

 

シャワーのお湯を止め、ディーンの火に意識を集中させる。

常時携帯している訳じゃない――こういう時なら猶更――のだが、意識を向けることで

ある程度の状況を把握することはできる。

 

 

……確かに、今までとは比べ物にならないくらいエネルギーを感じる。

今までもヴァーリとの戦いとかで余剰を放出したりしていたが

また余剰エネルギーが溢れ出している。

あまり垂れ流しにするのもよくないので、そういう場合は仕方なく自分の霊力に混ぜる。

要領としては白音さんの力の吸収と同じなのだが、彼女の暖かい気とは違って

やはりと言うべきか、怨念由来なので不快感が半端ない。

そもそも、霊体でいた時の経験で怨念の不快感は嫌って程理解しているのに。

 

……ま、だからこそ垂れ流しにできない事情もあるんだが。

 

「……誰のか知らんが、なんて怨念だ……」

 

間違いなく自分に悪影響が出るだろうなあ、と思いつつも処理しないわけにもいかないので

タオルで体を拭き、バスローブを羽織りながら怨念を制御する。

どうせここにいるのは寝ている兵藤だけなので、着込む必要は無かろう。

そうでなくても熱いシャワー浴びて体が熱いんだから、少し冷まさないと。

 

冷蔵庫にしまっておいたお茶を飲み干しながら、頭を冷やす。

頃合いを見て、肌着を着直すが……目がさえてしまった。困った。

しかし、兵藤の言っては何だがマヌケ面を見ながら何をしないでもいるのもなあ……

仕方ない。警察の人に相談して、部屋の外で張ってもらって少し外を歩くか。

夜風にあたってまた目が覚めそうな気もするが、ここでじっとしてるのも何か落ち着かない。

そう考え、俺は軽装で部屋を後にすることにした。

 

……一応、消灯過ぎているので先生には見つからないように。

 

 

――――

 

 

 

ホテル・プレアデス

エレベーター前ロビー。

 

自動販売機でお茶の補充をした後で、降りるべくエレベーターを待っていると

見慣れた赤い髪がやってくる。兵藤の相手をしなくていいと思ったら

まさかこっちの相手をすることになるのか?

……まあ、睡眠導入にはある意味いいのかもしれないが。

 

「セージ。もう消灯時間はとっくに過ぎているわよ。

 そうでなくとも、あなたは人間でしょう? 悪魔の私と違って、この時間の行動は体に毒よ?」

 

「眠りたいし、兵藤の監視もあるのでおっしゃる通りなんですがね。

 生憎と、目が冴えてしまいましてな。それならばといっそ鳴海区のパトロールでもしようかと」

 

パトロール。別に口から出まかせでもない。

JOKERがホテルに襲撃してこないとも限らないし、アインストならば猶更だ。

夜中の交戦は言われていないが、常識的に考えて学生たる自分の役目ではない。

だがやるなとも言われていないので、パトロール中に出くわしたのなら別に戦ってもいいだろう。

出くわさないに越したことは無いが。

 

「じゃ、私も付き合うわ。別にいいでしょ?」

 

「……消灯時間じゃなかったんですか」

 

チッ。やっぱりついてくるつもりか。大方、暇つぶしなり気分転換に外に出ようとしたところで

俺と出くわして、そのまんま……って魂胆だろう。

今回、俺はあんたに提供できるものは何にもないがな。

 

エレベーターで地上に降りた後はフロントから出られないので、裏口からホテルを後にする。

個人的にはここにあるという「天樹理化学研究所」って施設がちょっと気になっていた。

天樹って名前通り、聞いた話じゃユグドラシルが運営している施設らしく

人を集めているって情報も耳にしている。

もしかして……と思い、実は今回のパトロールはここを重点的に調べるつもりだったのだ。

 

だが、グレモリー先輩が来たことでご破算になっちまったが。

流石に、グレモリー先輩を連れて物凄い怪しい事をするわけにもいかない。

俺がやろうとしていたのはユグドラシルに真っ向から喧嘩を売りかねない所業だったし。

そうでなくとも、グレモリー先輩は沢芽市のユグドラシルタワーでテロ行為を働いた……

 

……と、報道されている。そんな人(悪魔)を連れてとあっては、尚の事だ。

 

と言うか、グレモリー先輩ほど潜入に向かない人材はいないだろ。

俺一人なら忍び込む位は神器(セイクリッド・ギア)なりフリッケンなり使えば何とでもなるが

良くも悪くも派手派手しいグレモリー先輩がいたら、そうも行かない。

特に、今は霧の影響かクロスゲートの影響かは知らんが認識阻害魔法が効いてないし。

 

「それとも、セージ一人で行きたいところでもあったのかしら? えっちな本とか」

 

「……兵藤と一緒にしないでくれ。一人で行きたいところはあったけど

 別に今でなくてもいい。要らん騒ぎは起こしたくないし」

 

今の兵藤がエロ本如きで満足できるかどうかは知らん。

だが、エロ本探しに夜中に出歩いていると思われるのはいくら何でも心外だ。

 

……ただ、今でなくてもいい、ってのはちょっと言い過ぎかもしれない。

そう都合よく珠閒瑠市に来られる保証はないし、もし本当にここに姉さんがいたとしたら……

ユグドラシルが、きちんと真っ当に試薬モニターやってくれることを願うしかないんだが

何分戦極凌馬(せんごくりょうま)って不安因子があるし、あの会社の素行はグレーどころか真っ黒だ。

 

……ただそれこそ、俺一人が殴り込んで姉さんを助けられる保証もないんだよなあ。

黒影(くろかげ)どころの騒ぎじゃないスペックのアーマードライダーは存在を確認しているし

あんなのが徒党を組んできたら、いくらなんでも辛い。

救出に行ってるんだから、アキシオン・バスターなんて使ったら

何しに行ってるんだかわかったもんじゃないし。

 

「……それより、何で俺と一緒に?」

 

「夜道を歩くんですもの。ボディガードの一人や二人は必要でしょ?」

 

要らんだろ、と思いながらもJOKERやアインストの事を考えると

一概にそうとも言えないと思い直す。

それに、返り討ちに遭うのは火を見るよりも明らかでも

やはりJOKERやアインストとは全く違う意味でのよくない奴に出くわさない保証はない。

と言うか寧ろ、そっちの方が実際に出くわした時に面倒だろう。

そう言うのを引き寄せやすい見た目はしてるんだし。

しかも下手すりゃそっちの商売の人に見えそうなくらいに私服だし。俺も私服だが。

 

……だが、これじゃまるで……

 

「あなたも私服で都合がよかったわ。まるでデートみたいね」

 

言うな。言わないでくれ。考えないようにしていたのに。

別に兵藤に悪いという気はさらさら無いが

だからって俺がグレモリー先輩と付き合うかと言われたら、それは全く話が違う。

そもそも、今俺は寝付けないから外を歩いているのであって

攫われた白音さんはもとより、家においてきた黒歌さんの事だって気がかりだ。

そんな彼女らを置いておいてデートなんてもってのほかだ。

 

「……あのですな。そう言う冗談に乗れる気分でもないんですがね」

 

俺の一言に、グレモリー先輩もはっとした顔を浮かべていた。

言われなきゃわからなかったのかよ。楽観が過ぎるだろ。

 

ただ、俺のこの一言が切欠で空気が気まずくなってしまい

以後会話が交わされることが殆どなかったが

まあある意味、都合がよかったのかもしれない。騒ぐような時間でもないし。

 

黙っていると、移動の主導権はどうやら俺にあったらしく

気付いたら、天樹理化学研究所の前にいた。

一応、地図で場所だけは把握していたが……

入るつもりは無かったのに、足だけ無意識に向かっていたのか。

 

夜の帳の下りた空の下に、物々しい壁に覆われた建物を見上げる形で

俺達は、図らずもユグドラシルの施設の前に立っていた。




かねてからリアス変化の兆しはあったんですが、今回以降少し加速します。
救済かどうかは、まだ言えませんがね。

>赤い部屋
とうとうあっちの方に呼ばれたセージ。
別にここで如何こうするつもりは無く、セージを生贄にしようと勧誘しただけです。
勿論突っぱねられましたが。

生贄で復活するものと、天界にいる神気取り。
これらの関連をご存じの方はここで声の主が何しでかそうとしてるのかを察したかと思われますが……

まあ、この話も全体で見ると終盤ですからね。
クロスオーバー物の恒例行事ラスボスラッシュの布石ってとこでしょうか。

>イッセー
そりゃ四六時中ヤってるわけではないので。
寝るのは自分の部屋にしておかないと色々面倒ですからね。

>リアス
朱乃絡みが解決した(?)矢先にもう一つのもやもやの原因と遭遇。
やっぱりどこかセージをイッセーの同類と見ている節がありますが
これに関しては原作で「男なんてどれも同じ」って見てる節もありますし。
あと、女の武器の威力はきちんと把握しています。セージには神経逆なでする結果になってるだけで。
セージどころかイッセーにも言えることなんですが、白音攫われたのにパッと見気楽だな……

>天樹理化学研究所
こちらペルソナ2罰で南条が所有していた理学研究所の現在のすがた。
あの事件の後南条が手放し、ユグドラシルが買い取って使っているって設定。
ユグドラシルの試薬モニターと言う、セージにとってはかなり……な伏線の回収。
リアスと出くわしていなかったら、忍び込んでいたのでしょうけれど
エンカウントしてしまったため諦めてます。これが吉と出るか凶と出るか。
セージはD×D6人目、リアスはユグドラシルタワー爆破犯人と報道されてますので
ユグドラシルの施設相手に下手なことはできませんし。


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Will31. 眠れぬ夜のリアス Bパート

夢見が悪く、寝付けない俺は

深夜と言う時間帯ではあるものの、ホテル・プレアデスの外に出て

ちょっとしたパトロールをしようと思った。

 

 

……パトロールと言うのは建前で、本当はここ珠閒瑠(すまる)市・鳴海区にある

天樹理化学研究所と言う建物を調べてみるつもりだった。

聞いた話では、ここはユグドラシルが買い取って運用している施設であり

ここで人を集めて何かしているらしいのだ。

 

いつぞや、情報を仕入れた姉さんが参加しているという

ユグドラシルの試薬モニターも、ここで行われているのかもしれない。

 

 

なんでそこまで必死になって調べるのか。

そりゃあ、ユグドラシルって会社の姿勢ややり方を目の当たりにしておいて

さらにその会社の主催していることに姉さんが参加しているんだ。

不安にならないはずがない。

 

だから、俺は忍び込んででもこの施設の事を調べるつもりはしていたんだが……

 

 

……横槍が入ったので、それは諦めざるを得なかった。

いや、寧ろやらなくてよかったのかもしれない。

なにせ、俺だって変な噂が流れているのだ。5人組のテロリストの6人目だとか。

そんな状況で目立つことをしては、噂が本当だと言っているようなものだ。

噂の現実化とか以前に、そう言う事をしていては噂が事実だと言っているようなものだ。

 

 

「じゃ、私も付き合うわ。別にいいでしょ?」

 

「……消灯時間じゃなかったんですか」

 

俺に潜入を諦めさせた張本人――リアス・グレモリーは

何ら悪びれることも、人の気持ちも知らずに優雅に夜の散歩と洒落込もうとなさっておられる。

ま、悪魔が夜出歩くのは普通だし、寧ろ俺がこんな時間に出歩くべきじゃない。

 

いくら何でも、グレモリー先輩を連れて潜入なんてやってられない。

そもそもこの悪魔、見た目も行動もいちいち派手派手しすぎて潜入には全然向かない。

そうでなくとも、俺以上にはっきりと5人組のテロリスト「D×D」の一員だと言われているし

ユグドラシルタワーを攻撃する映像が流れてしまっている。

そんなのを連れて、しかもユグドラシルの施設に潜入とかあり得ない。

なので、適当にほっつき歩いて終わらせるつもりだったのだが……

 

 

……気付いたら、天樹理化学研究所の前にいた。

一応、地図で場所だけは把握していたが……

入るつもりは無かったのに、足だけ無意識に向かっていたのか。

 

「セージ、ここって……」

 

「ユグドラシルの設備らしい。沢芽(ざわめ)市のローカル企業って訳でもなし

 珠閒瑠市に関連施設があっても別段おかしなことは無いのだが……」

 

「もしかして、ここに用事があったの?」

 

……ま、そりゃ聞かれるわな。無意識とは言え一直線に向かった先が

まさかユグドラシルの施設だなんて、ご都合主義にもほどがある。

グレモリー先輩にそう思われたって、不思議じゃない。

 

それに、用事があるって意味では全くの間違いではない。

諸々の事情が無ければ、この中を調べてみるつもりではあったのだし。

だが、それは今じゃない。

 

「…………や、単なる偶然ですよ」

 

「ふぅん、そう言う事にしといてあげ…………っ!?」

 

グレモリー部長も気づいたか。

こっちに来た時から、誰かに見られている感じはしていたが。

これだけ暗い中だと、俺達を監視していた奴も目視がしづらい。

 

強い明かりで照らされて、目を開けられなくなる。

それは、確かに予備動作とかがあったのだろうが、暗くて見えなかったのだ。

 

「貴様ら! タワーを爆破した犯人にこの間忍び込んだ奴! のこのこやって来たか!」

 

「…………?」

 

闇夜に溶け込んだ、黒い鎧。

俺達を照らす照明を受けて、額の鉢金のような装飾の銀色が反射して光る。

やはりと言うか何と言うか、複数確認できる。取り囲まれていると見ていいだろう。

 

 

……だが、今妙なことを言ったな。

俺が前に施設に忍び込んだ? 俺は今初めてここに来たぞ?

誰かと見間違えたか? ……わざわざ探照灯で照らしておいて見間違え、か?

気にはなるが、今はそれを調べるよりも!

 

「くっ、散るぞ!」

 

「わかっているわよ!」

 

夜景に溶け込んだアームズから唸る、影松の一閃。

まさかの夜間戦闘補正に驚きながらも、ただ棒立ちで受けるわけにはいかない。

いくら黒影のとは言え、アーマードライダーのアームズウェポンを生身で受けてタダで済むわけがない。

対インベスを想定している装備なんだ、悪魔にだって有効打になりうる装備だ。

 

SOLID-DEFENDER!!

 

なんとかディフェンダーで影松の攻撃をいなしながら態勢を立て直すが、何分視界が悪い。

照明弾なんて持ってないし、グレモリー部長が光に関わる何かを持ってるなんて考えられない。

スペックとしては黒影はアーマードライダーの中では低い方なのに

地形効果で無茶苦茶手強い相手になってる!

しかも当然、向こうは暗視ゴーグルとか積んでいるだろうから、こっちは丸見え……

 

「グレモリー先輩、突破口作りたいんで手薄な場所の方角教えてもらえませんかね?」

 

「自分で調べればいいでしょ? それかアモンに代わるとか」

 

そりゃそうだ。記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)はそう言う事には適任だ。

だが、持ち主は人間だ。つまり、夜目が効かない。

言う通り、アモンに交代すれば夜目が効くが、今は必要以上に騒ぎを起こしたくない。

確かに倒すだけならば、アモンに代われば手っ取り早い。

だが、変に倒したら警戒が強くなる。全滅させても結果は同じだろう。

戦闘で騒ぎを大きくするくらいなら、ここは逃げの一手だ。

闇討ちするにしたって、既に見つかってる相手に闇討ちが効くとは思えない。

 

「や、ここは逃げたいんですがね」

 

「あら。敵に背中を向けるというのかしら?」

 

言ってろ。そういう態度ならあんたを囮にして逃げるぞ。

白音さんの救出には兵藤を引きずっていけばいいんだ。

別にあんたがどうなろうが俺の知った事じゃない。

最悪、兵藤は意見を無視して引きずって行くつもりだったし。

 

「そこだっ!」

 

「!!」

 

言い合っている間に、闇夜に紛れて影松が飛んできた。

かなりぎりぎりだが、何とか回避は出来た。グレモリー先輩も無事そうだ。

まあ万が一影松が刺さっても、聖槍じゃないから大丈夫だろ。

それに、中身は訓練しているとはいえ人間だ。上級悪魔とやらなら大丈夫だろ?

 

だが、このままじゃ埒が明かない。

こうなったら無理やりにでも突破口を開いて逃げるか。

 

SOLID-FEELER!!

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

「うまく避けてくださいよ、グレモリー先輩!」

 

「ちょっ、セージ危ないじゃない!」

 

影松を難なく躱せるグレモリー先輩ではあるが、俺の触手に関してはかなりぎりぎりのようだ。

多少は当ててもいいやと思いながら振り回しているが、わざと当てるつもりは無い。

致命傷にはならないだろうとは言っても、やっぱり女の子に傷をつけるのは忍びない。

……魔力でそういう傷はすぐ塞げそうな気もするけど、まあそれはそれだ。

 

それに、ここで痺れさせでもしたら担いで帰らなきゃならなくなる。

仕事増やしてどうするんだって話だ。黒影の足を止めるのが目的なのに、こっちの足を止めたんじゃ意味がない。

 

文句を意に介さず、攻撃が飛んできた方向に向かって電磁触手を伸ばす。

スパークのお陰で黒影の位置は割り出せた。攻撃は外れたが、思いのほかスパークが便利なので

このまま電磁触手を振り回すとするか。

上級悪魔なら、こんな攻撃避けるくらい訳ないだろ。

 

「味方を巻き込むなんて、ライザーみたいなことするわね。

 あなた、本当に人間なの?」

 

「……そりゃどういう意味ですか。俺はやっと人間に戻れてるんですよ。

 それにそれは聞き方によっちゃ『俺は元々悪魔』みたいな言い草じゃないですか。

 どうして悪魔『なんか』に未練を持たなきゃいけないんだ。

 もうあんな生活は二度と御免ですよ」

 

「……その悪魔を前にしてそうも言い切られるのも複雑よ」

 

電磁触手を位置を割り出した黒影に巻きつけ、感電で昏倒させながら

グレモリー先輩とやり取りを交わす。

俺は人間であることに誇りを持っているし、満足している。

その俺がどうして悪魔をやめたことを後悔しなきゃいけないんだ。

そもそも、やむにやまれぬ事情だったとはいえ人を勝手に悪魔にしておいてよく言う。

 

腹いせも兼ねて、電磁触手で周囲を薙ぎ払い、黒影の部隊を昏倒させる。

応援呼ばれたら厄介だし、昏倒させること自体は当初の予定通りだ。そのまま朝まで寝てろ。

 

ひとしきり蹴散らしたところで、電磁触手をしまって記録再生大図鑑もしまおうとするが――

 

 

「セージ、後ろ!」

 

 

グレモリー先輩の叫びに、咄嗟に振り向くと

夜の帳の中から黒影のアームズが溶け出て、俺に向かって影松を突き出してくる。

迎撃しようにも、電磁触手もディフェンダーもしまってしまった。

影松はアーマードライダーのアームズウェポンの中でも威力は低いが

それでも生身で受けたら重傷は避けられないし、記録再生大図鑑では受けきれない攻撃だ。

 

――しくじった。そう思ったが、黒影は横から飛んできた滅びの魔力を受け

戦極ドライバー諸共アームズが分解。衝撃を受け変身者も昏倒していた。

 

へぇ。よく中の人を殺すことなく無力化出来たもんだ。

黒影の装甲、別に特別分厚いわけでもないはずだし。

 

 

…………と言うか、だ。

 

 

「……あ、ありがとう」

 

「どういたしまして。いつまでも、あなたに嘗められたままじゃいられないもの。

 どうかしら? これでポンコツ呼ばわりはやめてもらえる?」

 

 

……その態度がポンコツなんだよ。

とは思ったが、まあ助けてもらったのも事実だ。今回「は」ポンコツは返上しておきますか。

 

「助けてもらったことには重ね重ね礼は言いますがね、それとこれとは話が別ですな。

 何かにつけて恩着せがましいその態度が…………っとと」

 

「いいでしょ別に。私は褒められて伸びるタイプなの」

 

へいへいそうですか。その甘やかしが原因で天狗になって痛い目に遭ってるのはどこの誰だか。

とは言え俺も流石に恩人相手にあまり悪し様に言ったり、喧嘩を売るのは気が引ける。

それを言うと、そもそも命を助けてもらった恩はあるんだが……

 

……同時に、怨にもなっちまったからなあ……

 

 

全く、このリアス・グレモリーってのは俺にとっては複雑な相手である。

恩人であり、不倶戴天の敵。眷属、下僕に向ける情とは言え愛情を向けられていると同時に

自身を破滅させた忌むべき存在。お互いに、そんな関係だ。

だからめんどくさいから俺としては可能な限り縁を切りたいんだが……

この世情では、そうも言っていられない。

よせばいいのに、騒動の中心に近い場所にいて、しかも親族に世界に影響を与える存在がいる。

そういう意味でも、本当にめんどくさい。まあ、身内がそういう存在で

何かにつけて比較されるってのに関してはある意味同情できるが。

一般家庭の育ちで、親父もいなけりゃ兄弟もいないから

気持ちがわかるなどとは言わないけど。

 

自分は自分らしくあろうとしても、周囲がそれを許してくれない。

家族が与える影響が大きすぎて、自分としての存在を確立できてない。

 

 

……この間の不安定さとかから顧みても、偉そうに振舞ってる割には

リアス・グレモリー個人は本当に、人間年齢相応程度かそれ以下のメンタルなんだろう。

ま、それ故に偉そうに振舞ってるってのはあるかもだが。

 

 

だからこそ、俺は冥界の、悪魔政府のやり方が許せない。

そんな奴に、人の住まう場所を仕切らせるな。

俺だって駒王町の町長にいきなり任命されたら、泣いて辞退する。

そう考えると、グレモリー先輩も被害者なんだろう。

だから不始末で人を死なせたことまで許すかと言われたら、それこそ

「それはそれ、これはこれ」なんだが。

 

「…………不始末を許す気は無いが、あんたなりによくやってるんだろうよ。

 少なくとも、俺が同じことを出来るかって言われると無理だな」

 

「何か言った、セージ?」

 

 

 

 

「……てめえで立候補した責任ある立場なら、しっかり責任もってやれって言ったんだ。

 死人が出たのを許す気は無いんだ、甘ったれた考えで動いてるんじゃねぇよ」

 

実際のところ、俺はグレモリー先輩が駒王町の管理者って立場に

立候補してなったのかどうかの話は知らない。

死んだ人はもうどうにもならないが、だったらその死を無駄にしないでほしい。

そして、未熟な奴を管理者に宛がうような真似はこれで最後にしてほしい。

と言うか、それ以前に悪魔が人間の街を管理ないし干渉すんなって話だが。

 

 

――やはり、俺はリアス・グレモリーが……冥界の悪魔がよくわからない。

人間をどうしたいんだ。人間とどう付き合いたいんだ。

それによって、俺も悪魔を見る目が変わる。

 

俺は人間であり、それ以上でもそれ以下でもない。人間としての視点以外は持てないんだ。

俺の価値観の基準は人間の物になる。

だからそういう意味でグレモリー先輩と分かり合う事は、最悪未来永劫出来ないだろう。

人間に危害を加えるというのなら徹底的に抵抗するし、そうでないなら態度を多少軟化させる。

それだけだ。

 

人間以外の知性を持った存在が、人間と共存しようとしている。

これからは、そういう時代なのかもしれないが……人間同士でさえ、共存が難しいというのに。

頼むから、問題を持ち込まないでくれ。

人間の問題が解決していないところに、問題を持ち込まないでくれ。

 

 

黒影に見つからないようにしながら、足早に天樹理化学研究所を離れながら

俺はそんなことを思っていた。




まさかの黒影夜戦シナジー。
真っ向勝負なら火力の問題で圧勝でしょうけど
今回は撤退戦ですので。真夜中にドンパチとか噂にしてくれって言ってるようなもの。

>黒影
今回中身はユグドラシル民間警備会社。
沢芽市でアインストと戦った時にはセージと一緒に戦った人達ですが
事情が変わればこうもなります。
同一人物がいたかどうかはセージは知りませんが。

そしてまさかの夜戦シナジー持ちが発覚。
特に夜間迷彩施さなくても配色が既に。
劇中別に夜戦が得意とかってわけじゃなかったはずですが、配色から導き出した結果。
あとは装備の拡張性を考えて。

最後の伏兵は奇襲ではなく応援を呼ぶべきだった。

>褒められて伸びるタイプ
リアスに限らず、大体の人はそうだと思います。
ただ、彼女の場合評価に胡坐をかいていたとしか思えないのが……

>自分に駒王町の管理者は無理
そりゃ一般市民たるセージに言わせばそうもなります。
シムシティやるわけじゃないんですから。
ただ、この点に関してはリアスもそう大差ないとは思います。
経験と言う問題では、普通の高校生と遜色ないというか
なまじ裏社会(悪魔的な意味で)に精通しているがために
人間の目線での価値観が抜け落ちている風には思えます。
人間の街を管理するんですから、人間の目線は必要なはずです。

……それとも、そこは町長に丸投げだったんでしょうかね。
それが一番妥当な線とは思いますが……うーん。


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Will31. 眠れぬ夜のリアス Cパート

――やはり、俺はリアス・グレモリーが……冥界の悪魔がよくわからない。

人間をどうしたいんだ。人間とどう付き合いたいんだ。

それによって、俺も悪魔を見る目が変わる。

俺は人間であり、それ以上でもそれ以下でもない。人間としての視点以外は持てないんだ。

だから価値観の基準は人間の物になるから

そういう意味ではグレモリー先輩と分かり合う事は出来ないだろう。

ただ、人間に危害を加えるというのなら徹底的に抵抗するし

そうでないなら態度を多少軟化させるだけだ。

 

人間以外の知性を持った存在が、人間と共存しようとしている。

これからは、そういう時代なのかもしれないが……人間同士でさえ、共存が難しいというのに。

頼むから、問題を持ち込まないでくれ。

人間の問題が解決していないところに、問題を持ち込まないでくれ。

 

うっかり入り込んでしまった天樹理化学研究所を足早に逃げ去りながら

俺は考え込んでいた。

何分、このクソッタレなお嬢様は如何にも「自分たちは人間の味方でござい」な面をしている。

やっていることややり方は他の悪魔と然程変わらないくせに、だ。

 

そんなやり方しかできないなら、冥界の側から働きかけてくれ。

人間の世界から人間の味方がしたいなら、人間のやり方に合わせるようにはしてくれ。

そのつもりは無いと言葉だけは言うだろうけれど、人間を下に見ているのがあけすけだ。

その私服のセンス同様、本音もあけすけにするのはある意味美徳だが

歯に衣着せぬ、とかは必ずしも誉め言葉じゃなかった気がするんだがね。

 

……それにそもそも、古い意見を述べるなら嫁入り前があけっぴろげに肌を露出するんじゃない。

などと、深夜に歩くにはちょっと肌寒いし無防備すぎるだろと言わざるを得ない

グレモリー先輩の私服――短い丈のシャツに

これまた太腿が剥き出しってレベルのデニムパンツ。

申し訳程度に首元に巻いてるスカーフで、谷間は隠してるつもりなのかもしれないが

却って誘蛾灯になってる気がする――といった具合だ。

 

いや、動きやすいかもしれないがもうちょっと色々考えろとは言いたい。

……ま、そりゃこんな格好でうろついてりゃ兵藤がホイホイ釣られるわけだわな。

まああいつの場合、外面さえよければ何でも良さそうな気もしないでもないが。

 

 

――――

 

 

なんとかホテルまで戻ってくることが出来た。

俺の迂闊な行動で、要らん労力を使ってしまったことについては反省すべき点だ。

真夜中という事もあり、ロビーには誰もいない。

誰もいないロビーの椅子に、向かい合わせで座って一息つくことにした。

 

そして、俺は開口一番謝る。

普段ならともかく、今回は完全に俺のミスだ。流石に自分のミスに巻き込んだとあっては

相手が誰であれ、謝らないわけにもいくまい。

 

「……グレモリー先輩。その…………すみませんでした。

 俺がうっかりあんな場所に寄らなかったら、逃げ帰ってくることも無かったのに」

 

「……セージ、大丈夫? やけに素直だけど?

 あの程度の敵なら気にしなくてもいいわ。その気になれば吹っ飛ばせる相手だったし」

 

いやそれがまずいんだろうが。

あんた仮にもテロリスト呼ばわりされて地上波で堂々と流されてるでしょうが。

そこで曲がりなりにも会社の施設の警備員吹っ飛ばしたとか擁護不可能だろそれ。

まして、それが過去に攻撃した会社の系列施設とあっちゃ。

 

「まぁいいわ。悪いと思っているのなら、もう少し私に付き合いなさい。

 そうね、具体的には相談に乗ってもらえるかしら?」

 

相談? 愚痴聞きの間違いじゃなくてか?

俺としちゃ眠気の誘引が出来るんなら何でもいいが。

……出来れば、夢見が悪くない手段がいいけれど。最近、本当に夢見が悪いし。

 

と、腹の中にしまい込んで一応グレモリー先輩の話を聞くことにする。

それに、最近の彼女の精神状態を顧みると冗談じゃなくてマジの可能性も否定しきれん。

 

「……私は悪魔としてでは無くて、リアス・グレモリーとしてこの世界で生きてみたいの。

 そのために、やらなければいけないことがあるのなら教えてちょうだい」

 

……あんたらしく直球だな。もう少しカーブ効かせてもいいだろうに。

まあいいや。一応答えを求められたので、俺も思案する。

 

……だが、そのリアス・グレモリーを体現するのが悪魔って属性だろう。

俺だって人間って言う属性を抜きにして語ることなんかできやしない。

悪魔である前にリアス・グレモリーである、と言いたいのかもしれないけれど

リアス・グレモリーとしての人格が、悪魔の常識の上に成り立っている以上は

悪魔であるという事を抜きにして語ることなんか……できないはずだ。

 

「…………すみません、わかりません」

 

「…………そう」

 

――だから、俺はこのグレモリー先輩の質問に答えられない。

悪魔ではないリアス・グレモリーなんてものは現時点では想像もつかないからだ。

それを答えるには、俺はリアス・グレモリーって個人を知らなさすぎる。

検索すりゃ情報は見られるが、それにしたって情報だけだ。

その出来事に、当人が何を思い決心し今に至っているのか。

そんなもの、俺にわかるはずがない。記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)はそういう風に出来ていない。

 

「またちょっときつい事言いますがね。俺の持っている神器(セイクリッド・ギア)で、心は検索できません。

 それは心ってものを軽く見過ぎです。俺が持ってるのはいわばカンペですから。

 あらかじめ設定された答えならわかりますが、これから作らなきゃいけないものは白紙ですよ。

 未来予知も読心術も、そう言うのは筋違いですね。禁手化(バランスブレイク)って問題じゃない」

 

最も読心術であんたの悩みが解決するとは思えないが、とも付け加えたが。

厳密に言えば、禁手(バランスブレイカー)たる無限大百科事典(インフィニティ・アーカイヴス)

疑似的な読心術や未来予知ならば理論上は出来る。

だが、その能力を持っている人に当てがない。

未来予知ならアポロン様が持ってるって話は聞いたが、それをトレースできるかって言うと。

神様以外は成功しているけれど、神様のトレースなんてやった事がないし。

ペルソナのアポロは全く別物だし。

 

「変なこと聞いたわね、忘れてちょうだい。

 それとセージ、あなた最初に悪い夢を見たみたいなこと言って無かったかしら?

 どうかしら、夢占いでも受けていく?」

 

夢占い、ねえ。正直どうでもよかったが、まあ話の種程度だ。

これも眠気を誘引するきっかけになればいいし。

 

「……何よその目は。前も言ったかもしれないけど、私だって伊達や酔狂で

 オカルト研究部の部長やってないわよ。占い位余裕で出来るわよ。

 そうでなくとも、私グレモリーなんだけど」

 

グレモリー。確かソロモン72柱の1柱で、契約者に女性の愛を与えるとかなんとか。

…………必要なような、そうでないような。

兵藤にしてみりゃ、喉から手が出るほど欲しい力なんだろうけれどもな。

俺には…………それが本当に正解なのかどうか、わからん。

 

「残念ながらフラれたとかそういう夢じゃないですね。グレモリーの権能の出番は無さそうで。

 とりあえず、覚えている限りの俺の見た夢は――」

 

可能な限り、俺は見た夢を思い出しながら語る。

夢をそこまで覚えていられるのも我ながら大したものだが

何分、フィレモン――と同格の相手のいる領域っぽかったからなあ。

フィレモンとの対話は明晰夢みたいなものだったし、それなら覚えていても不思議じゃない。

 

最も説明するのにフィレモンの事から話すのは面倒なので、そこは端折ったが。

 

 

――絶望を糧とする破壊。

  虚無から産まれる調和。

  希望をも塗り替える創造――

 

 

特に心に残ったのはこの言葉である。そして――

 

 

――ディスは、間もなく目覚める――

 

 

この辺りの事は、恐らく的確に説明できたと思う。

夢の中の事なので、記録再生大図鑑への記録はしていない。と言うか、出来てない。

 

俺が説明を終えると、グレモリー先輩は神妙な顔をしていた。

さっきの俺みたいだな。なら、これでこの件はおあいこだな。

 

……ちらりと小声で「ぜ、全然わからないわ……」と呟いていたのは、俺は聞いていない。

 

 

「……ぁふ。何かわかりますかね? 俺としちゃ、いい具合に眠くなってきたので

 当初の目的を果たせそうなんで、わからないならわからないで別にいいんですが」

 

「わっ、わかるわよ! わかんないけど!」

 

……あ、意地張ったな。これは時としては長所になるが、大体において短所になりうる点だ。

兵藤にも、無論俺にもあるその人(グレモリー先輩は悪魔だが)の個性だ。

だからそれを如何こう言う気は無いが、俺は眠いんだ。

 

「ディス……は、死の神だとか冥府の悪魔王だとか言われている存在よ。

 それと最初に話してた3つの言葉だけど……嘘をついてもしょうがないから正直に言うわ。

 

 …………あまり、よくない内容の言葉よ」

 

「……ふむ」

 

「リリス冥界大図書館……って図書館があるんだけれども。

 そこの本に、異世界の邪神に関する本があるの。そしてその邪神を蘇らせるために捧げる生贄の魂。

 その魂に込められた感情……それが、あなたの話した『絶望』『虚無――無念』『希望』。

 そこに書いてある内容が、この3つと合致するのよ。

 

 また別の本だけれども、ディスの名前もそこの本に載っていたわ。

 まつろわぬ霊達を貪りつくし、数多の魂を輪廻の外へと放逐し、銀河に終焉を齎す悪魔王にして死の神――と」

 

そりゃ、確かによくない内容だ。しかしまたご無沙汰な名前だな。

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に関する資料は禁帯出扱いなのに、異世界の邪神は普通にオープンなのか。

相変わらず何と言うか……だな。

 

「しかし、異世界の邪神なんぞ、この世界で蘇らせるメリットなんかあるんですかね。

 もうアインストにインベス、怪しい宗教団体にデーモン族とごった返してるってのに」

 

「怪しい宗教……もしかして! セージ、お手柄よ!

 怪しい宗教――黒の菩提樹は、その異世界の邪神を召喚しようとしているのかもしれないわ!」

 

真夜中に大声を上げたグレモリー先輩の口を、俺は慌てて塞ぐ。

興奮するのはいいけど、時間と場所を弁えてくれ。

 

「……で、それがわかったらどうするんですか。当たり前ですが、俺は邪神を復活させるつもりは――」

 

「セージ。夢の話を踏まえると、今はあなたがその魂を抱えているのよね?

 つまり、こっちで押さえておけば邪神の召喚には利用されない。

 つまり……セージ。あなたは今まで通りにしていなさい。

 ずっと前に忠告したけど……今度は本当に、あなたが悪霊になってしまうわ。

 そして、肉体のあるものが悪霊になってしまったら……どうなるか、私にもわからないわ」

 

かなり神妙な様子で、グレモリー先輩が呟く。

こっちもつられて神妙な面持ちになっているかもしれない。

少なくとも、この現状を兵藤辺りに見られたら面倒なことにはなるかもしれない。

 

兵藤…………あっ。

 

「ご忠告感謝します。言われずとも、俺は俺のままある……つもりですので。

 それじゃ、いい具合に眠気も来たのでお暇させていただきます。

 それじゃ、おやすみなさい」

 

「ええ、おやすみなさいセージ」

 

思わず欠伸を噛み殺しながら、俺は足早に自分の部屋に戻ることにした。

監視の代理を頼んでいる以上、必要以上に部屋を開けるのは好ましくない。

グレモリー先輩との挨拶もそこそこに、階段もしんどいので

さっさとエレベーターに乗り込んでいくことにした。

シャワー浴び直して寝よう、そうしよう。

 

 

――――

 

 

警察の人に挨拶を交わし、部屋に戻る。

兵藤は幸い寝ているようで、相変わらずマヌケ面を晒している。好都合だ。

さっとシャワーを浴び直して、寝る支度を整える。

 

 

「んが……? セージ、どこ行ってたんだ……?」

 

ベッドに突っ伏した衝撃で起こしてしまったか。

起こすつもりは無かったので、少し悪いことをしたな。

 

「悪い。起こすつもりは無かったんだが」

 

「エロ本でも買いに行ってたのか? だったら俺もつれてけよ」

 

「違う。と言うかお前エロ本そのものっつーか、それより凄い事してるだろうが」

 

お前もか。まあ、平常運転だが。

と言うか入れ替わりで悪いが眠いんだ。眠らせてくれ。

白音さんの問題もあるんだし。

 

「その凄い事のネタ探しだよ。刺激は必要だしよ」

 

「どっちにしたって断る。なんでお前のネタ探しに付き合わなきゃいけないんだ」

 

枕に突っ伏し、兵藤に背を向けながら返事を返す。

まさか、今度はこいつが起きたりしないだろうな?

だとしたら結構面倒なことになる。下手すりゃ完徹だ。

 

「ん……部長の匂い……? お前、部長の部屋に……? ま、まさか……!!」

 

「違う。さっき廊下ですれ違っただけだ。なんで俺がグレモリー先輩と逢引せにゃならん」

 

半分嘘をついた。バカ正直に話すとこいつは面倒だからな。

しかし、こいつも悪魔だから鼻がきくって事を忘れていた。

グレモリー先輩、きつめの香水つけてやがったか? あまりわからなかったが。

シャワー一回じゃ落ちなかったか。

 

……こりゃ、行動考えないと黒歌さんだの白音さんだのに会う時面倒なことになるな。

 

「そうだぞ! 部長は俺のもんだからな!」

 

言ってろ。だがそう言う割には、告白するとかしないとかそういう話をまるっきり聞かないな。

姫島先輩や紫藤イリナに関しては、順序が逆になったって事で今更言っても仕方ないが……

 

果たして、当のグレモリー先輩はどう考えているんだかね……

そんなに欲しいんなら、さっさと告白でも何でもすればいいものを。

気持ちを伝えなきゃ、どうにもならんだろうに。

 

 

 

…………気持ちを伝えなきゃ、か。

    それを一番蔑ろにしたのは、俺なんだろうけどさ。




険悪な態度でなく話せているのは意外と新鮮かもしれません。
ただ、リアスはやっぱりセージに対してどこかずれたアドバイスしているし
セージも本心からリアスを信用している訳じゃないしで
問題の解決は当面先になりそうな予感。

>イッセー
そう言えばイッセー「自身」の活躍はデビルマン編入ってから無いような。
まあこれから否応なしに戦場なんですがね。

この手のキャラの大半に言えることかもしれませんが、「(ヒロイン名)は自分のだ」
って言ってる割には、それが行動に移せてないような。
まして彼奴の場合、ヒロインに気がある素振りしておいて他のヒロイン、下手すりゃモブキャラにセクハラ働いてるってのが……
で、いざヒロインから言い寄られると引っ込む。
まあ、疑心暗鬼もわからんではないですが……序盤で片づけてもいい問題だったかもしれませんね。
10巻を序盤と言ってしまえるのかどうかは、何とも言えませんが。
(まさか媒体違うとはいえジョジョやドラゴンボール並の長丁場のつもりしている訳でもあるまいに)

>セージ
なんかだんだん爆弾が浮き彫りになってきてない?
前回のチョンボもほとんどこいつのせいだし。


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Will32. 夜明けのホテルで作戦会議

久々にイベント完走逃しました
いやはや……


眠れぬ夜が明け、雲越しの太陽が珠閒瑠(すまる)市を照らす。

昨日の出来事、特に夜のあの件はそれほど騒がれることは無く

ニュースにもなっていなかった。

逆に言えば、あの施設があまり公にできる施設じゃないって事なのかもしれないが。

いずれにせよ、要らん噂の種が蒔かれることは無さそうだ。助かる。

 

さて。幸か不幸か昨日のJOKER騒動で今日も授業が無い。

これを利用しない手は無い。早速超特捜課権限を活用し

白音さんの救出のための段取りを進めることにした。

 

 

ホテル・プレアデスの一室を借り、ここにオカ研の面々をはじめ

関係者を呼び出すことにする。

丁度いい具合に、見回りに出ていたバオクゥも来てくれたので

彼女も交える形で白音さん救出のための作戦を立てることにしたのだ。

 

……俺が呼んだのは兵藤、グレモリー先輩、姫島先輩、祐斗、アーシアさん、ギャスパー。

それから布袋芙(ほていふ)先生……と勝手についてきた紫藤。

そしてオカ研外部の人員であるゼノヴィアさん、光実(みつざね)、バオクゥ、薮田先生の12人だ。

まさか、ここにいる全員で行くわけにはいかない。兵藤は確定としても、絞らなければならない。

 

「じゃあ早速、全員で殴り込みをかけるわよ。

 イッセーとセージだけを指名していて、他は何も言ってきてないわけじゃない。

 こんなふざけた犯人、全力で叩き潰して――」

 

「犯人は俺と兵藤を指名しているが、それ以外は何も指定されていません。

 ただ、『山で待つ』としか言ってきてません。

 つまり、総攻撃をかけるってことも不可能じゃないですが……」

 

「私は反対ですね。この中にはテロリストとして報道された人もいるのです。

 そんな人が揃って動き回っては、混乱を招きかねません」

 

「そうだね。だが、犯人の戦力もわからない。

 少数で挑んで、返り討ちに遭っては元も子もないよ」

 

薮田先生と布袋芙先生からそれぞれ意見が出る。

俺個人としては薮田先生の意見に賛成だが、俺一人が賛成してもなあ。

案の定、兵藤の奴は布袋芙先生の言う事にほいほい頷いてるだけだし。

……お前、中身ちゃんと聞いてる?

 

 

……え? 俺の発言は誰かのそれを思いっきり遮った? 何のことやら。

 

 

「ちょっ、む、無視しないでよ!?」

 

「グレモリー先輩。一応意見としては聞くし、布袋芙先生も大体同じこと言ってるけど

 今は勝手に仕切らないでくれ。

 俺が仕切ってるのは『超特捜課、つまり警視庁の人間である』からだ。

 誘拐事件となれば警察が動くのが筋だろう。そりゃ、俺は正規の警察官じゃないが。

 要らんことでグダグダやってる間に白音さんがどうなるかの想像がつかない。

 人質の命には代えられないんだ。そこはわかってくれ」

 

露骨に無視したからか、流石にグレモリー先輩もキレた。

だが、今は遊んでる場合じゃないんだ。これ以上ごっこ遊びに付き合っていられない。

遊びなら、白音さんを助けた後で付き合ってやる。

その時はついでに、駒王町のみならず人間世界を巻き込んだ

無駄に規模のでかいごっこ遊びから手を引いてもらえると嬉しいんだがね。

 

「てめっ、部長が仕切るのが筋だろうが!?」

 

「やめなさいイッセー。

 ……わかったわ、ここは引き下がるわ。

 確かにくだらない事をやるよりは一刻も早く小猫を助けるべきだものね。

 ただし、収集がつかなくなったら私が強引に仕切るわよ」

 

グレモリー先輩の言葉に首肯し、話に戻る。

始終兵藤は不服そうだが、まあいつもの事だしなあ。

それに、どうしてグレモリー先輩が仕切るのが当たり前みたいな話になるんだよ。

今回はその限りでは無いだろうが。もう白音さんはオカ研関係ないぞ。

オカ研を呼んだのは、あくまでも兵藤が犯人に指名されているからだ。

オカ研と言うよりは、グレモリー眷属と言う括りになるが

それ以上に、俺が知っていて、かつ協力が仰げそうな人選てのもある。

 

なので、万が一俺がまともな議題進行が出来なかった場合は

グレモリー先輩が強引に仕切るのもそれはそれでありだったりする。

そうならないように努力はするが。

事態が事態なので、脳筋作戦はご遠慮願いたい。

 

「すみません。話の続きをお願いします」

 

「わかりました。

 ……そうですね。全員で出てはJOKER等から一般市民を守れる人が目減りしますよ。

 いくらかは対抗できる人もいるようですが

 珠閒瑠市全域にJOKERがいると言ってもいいですからね。

 人手はいくらいても足りませんよ」

 

一応、話の流れとしては薮田先生の発案である少数で犯人の居場所と思しき場所に乗り込む方法。

布袋芙先生の発案である犯人の居場所に総出で乗り込む方法。この二つが主な案だ。

 

「……ふむ。じゃあ、決を採ろうか。

 僕の意見――犯人の居場所と思しき場所に総攻撃をかけ、制圧し、人質を確保。

 この意見に賛成の人は?

 但し、僕と薮田先生は決議には参加しない。いずれにせよ、参加できないからね。

 教師も楽じゃないのさ」

 

「はいっ! はいはいっ! はいっ! ナイア先生の意見に賛成です!」

 

「そうね。私としても総攻撃に異存は無いわ。

 下手に策を弄するよりも、私達の力で以て圧倒した方が早いわ」

 

兵藤が思いっきり手を挙げている。しかしそれ以外は……

ギャスパーが恐る恐る、紫藤と姫島先輩が考え込みながら、グレモリー先輩が堂々と。

つまり、5人か。

 

「……結構だ。じゃあ、次は――」

 

「私……と言いますか、宮本君の意見ですね。少数で、宮本君と兵藤君を中心としたメンバーで

 犯人がいると思しき場所に乗り込み、人質を救出。

 この意見に賛成の人は?」

 

俺、祐斗、光実、アーシアさん、バオクゥ。5人だ。

……割れたな。と、思っていたらゼノヴィアさんも挙手。6人。

一応、多数決の上では俺の意見が通ったか。

 

「……まあ、ある程度予想通りの割れ方だね。

 一応聞くけど、選んだ理由は?」

 

「下手に騒動を起こして、犯人に感づかれたくはない。

 それに、俺達の中には指名手配されてる奴もいる」

 

俺の意見。オカ研メンバーと光実は指名手配犯にされている。俺だって怪しい。

そんな状況で、目立つような真似はしたくない。

 

「セージ君とイッセー君以外は交渉相手に何も指定していない辺りが却って怪しいよ。

 罠だとしたら、ぞろぞろ行くのは犯人の思うつぼじゃないかな」

 

祐斗。罠を警戒している。そりゃ確かに、俺と兵藤の指名以外何もないのは

誘拐犯の要求としてはかなり怪しすぎる。

 

「罠はあり得ますね。僕が犯人なら、罠の一つや二つくらいは用意しますし」

 

光実。お前、なんかまるで経験したような口ぶりだが……な訳ないか。

ただ単に、ユグドラシル勤務経験から言ってるだけだろう。

 

「それに街にはJOKERもいますし、街を守れる人が残るのも大事だと思います」

 

アーシアさん。今、珠閒瑠市は警察とパオフゥさんらペルソナ使い。

そしてクレール・ド・リュンヌのギャルソン副島(そえじま)さんが

パトロールをしてJOKERの被害から市民を守っているらしい。

副島さんには、俺から凰蓮(おうれん)軍曹の紹介状を介してお願いした形だ。

まさか、本当に役に立つ事態が起こるとは思わなかったが。

 

「私の主観で恐縮なんですが、あの文章読んだ限りですと

 まるで大勢で来てくれって言ってる風に読めましたね。

 となると、大勢で行くって事が犯人の要求なんじゃないかなー、って。

 この手の犯罪って、犯人の要求を呑んだら際限なく付け上がりますよ?」

 

バオクゥ。彼女は最初に犯人の手紙を寄越された人物だ。

最初に俺が読み上げた時、その場にいた。つまり、事前情報を得たのは俺と同じタイミングだ。

 

「人質を取るって事は、こちらの挑発が目的だろう。罠などねじ伏せればいい……

 と思ったが、そもそも私はその挑発で痛い目に遭わされたこともあったしな。

 出来る事なら、慎重な方法を取りたいさ」

 

最後に手を挙げたゼノヴィアさん。

ああ、そういや煽って紫藤と同士討ちさせたっけか。

 

と、俺達の側は一応意見を述べた。大体が罠の警戒である中

アーシアさんは街のJOKER対策に人員を割くべきだと主張。まあ、そりゃそうだ。

 

「罠か。まあ、あの文じゃ罠の一つや二つあってもおかしくは無いだろうからね。

 さて、じゃあ多数決も採れたところで……」

 

「お待ちを。あなた方が何故総力を挙げるプランに賛同したのかと言う意見を聞いていません。

 グレモリー君は言ったようなものですが」

 

話を切り上げようとする布袋芙先生を、薮田先生が制止する。

確かに、こいつら何で総力プランを支持したんだ?

まさか……何も考えずに支持したわけでも……無いよな?

 

「…………答える必要はないよ。多数決は採れたんだ。

 これ以上、反対側の意見を汲み上げても混乱を招くだけだよ」

 

「いえ、待ってください先生。

 薮田先生の言う通り、そちらの意見も聞いておくべきだと思います」

 

光実も同じことを考えていたのか、布袋芙先生に食いつく。

確かに、方針としては決まったがどうして総力プランを挙げたのか。

そこは、覚えておいて損は無いはずだが。

 

「わ、罠だとしたら少数で行ったら逆に捕まっちゃうんじゃないかなって……」

 

ギャスパー。祐斗や光実とは違う意味で罠を警戒している。

確かに、少数で罠にかかったら笑えない。

そう言う意味では全員で赴く慎重案も一理ある。

 

「小猫を攫ったという事がどういう事か、犯人にわからせてやるには

 それくらいの力が必要よ。さっきも言ったけれど」

 

グレモリー先輩。まあ、白音さんに手出した落とし前は付けさせたいところだが

だからって総攻撃に出るのもなあ。

そりゃ、俺だって犯人に思う所はあるが。

 

「なるほど……ギャスパー君の意見は一理ありますね。

 グレモリー君も言いたいことはわかりました。

 他の3人は何かありますか?」

 

続いて兵藤、紫藤、姫島先輩に意見を聞くが返ってくる答えは、どうも要領を得ない……

と言うか、まるで布袋芙先生の受け売りだった。

兵藤なんかそれを隠そうともせず「ナイア先生が言うんだから間違いない」な風潮だ。

 

……こいつ、崇拝の対象がグレモリー先輩から布袋芙先生に変わってる?

まあ、崇拝対象が変わっただけで本質は変わってない……どころか

心なしか悪化したような感じすらあるが……

 

何か、箍が外れたって言うか、なんていうか……

まさかヤったのが切欠で、変な方向に振り切れ始めたか? ま、まさかな……

 

「…………わかりました。罠への警戒は厳重なものにするとして

 宮本君と兵藤君を中心とした少数で犯人の指定した場所に向かう方針で行きましょう。

 この作戦でいいですね?」

 

「ま、まあ多数決ですから……あ、あの、僕も行かなきゃいけませんか?」

 

ギャスパーが恐る恐る俺に聞いてくるが、そうだな……

咳払いをしつつ、俺は通る声を張り上げながら宣言する。

 

「割り振りだが、すまないが勝手に決めさせてもらった。

 俺と兵藤は確定。小回りが利くギャスパー。偵察が出来、土地勘もあるバオクゥ。

 万が一に備えてのアーシアさん。この5人だ」

 

「ひええええっ!? や、やっぱりぃぃぃぃ!?」

 

「あ、それなんですが……私が戦闘に出ると、かなり騒ぎになってしまうと思うんです。

 なので、私は道案内と退路確保に努めますので、もう1人か2人加えてもらえませんか?」

 

バオクゥの意見を聞き、俺は確かにハッとした。何分、バオクゥの主武装は砲台だ。

そんなものをぶっ放したら、いくら消音とかしていると仮定しても騒ぎになる。

となると、加えても1人がベターかもしれないが……

 

「じゃあ、僕が行きます。アーマードライダーは目立つかもしれませんが

 汎用性は高いですので、状況に応じて動けると思います」

 

「確かに、何だかんだで近接攻撃オンリーの僕よりは幅広い立ち回りが出来るかも。

 光実君、みんなをよろしく頼むよ。

 

 それとギャスパー君。今回のような作戦では、時間停止に加えて

 蝙蝠に変身できる君の能力は有用だと思うよ。僕の分も、頑張ってくれ」

 

光実が立候補してきた。まあ、立候補があるなら邪険にすることもないか。説得力あるし。

祐斗は戦力、機動力共に申し分ないんだが、スタミナがあまり高くないことに加えて

今回の作戦のキモは白音さんの救出だ。犯人を倒すことじゃない。

そうなると、小回りが利くのは単純に優位に立てるはずだ。

そう考え、俺は祐斗とギャスパーで比較して、ギャスパーを選んだのだ。

 

選ばなかったメンバーは、その祐斗以外は単純に派手すぎる。

人質救出もだが、隠密行動には全然向かない。

紫藤が小回りの利くであろう使い魔同然の状態だが

その特性をフルに発揮するには主ともいえる布袋芙先生が必須。

しかしその布袋芙先生がいないとなると、使い魔としての能力を発揮しきれるかどうか怪しいし

そもそも紫藤は報道された5人とは違って正真正銘テロリストだ。連れ歩くのは流石に……

 

「……とまあ、以上のメンバーで行くわけだが。何か問題が無ければ――」

 

「問題大有りだよ! てめぇは本当に華が足りねぇな!

 アーシアとそこの悪魔の子はともかく、他の連中は……」

 

あー。やっぱ文句言ってきたか。そんな理由で選んでいられるか。

そもそも祐斗外してるじゃないか。男くさいチームじゃないはずだが。

ま、聞くだけ無駄だと思うが……一応要望だけ聞いてみるか。

 

「じゃ、お前の意見は?」

 

「部長、朱乃さん、イリナ、アーシア、ゼノヴィア、それからそこの悪魔の子!」

 

はいはいそうですね。お前制限が無かったら布袋芙先生も入れるつもりだったろ。

バレバレなんだよ。ちったあ下心隠せ。そのうち足元掬われるぞ。

 

「…………はぁ。で、その根拠は?」

 

聞くだけ無駄だが、一応聞く。

因みに、このメンバーだと攻撃偏重過ぎる。滅びの魔力、広範囲攻撃の雷魔法に

エクスカリバー……とアスカロン、デュランダル。それでもって巡洋艦クラスの砲撃。

唯一アーシアさんがサポートだが、何の慰めにもなってない。

バオクゥの偵察能力も、これで活かせと言うのはなかなか難しそうだ。

 

敢えて悪し様に言えば、周囲の被害とか全然考えてない編成だ。

 

「そりゃ当然、ハーレムだからだ!

 だからてめぇは邪魔だからあっち行けって言いたいとこだけど

 犯人がてめぇも来ないと小猫ちゃん殺すって言ってるからな!

 だから仕方なく入れるけど、みんなに変な目線送るなよ!?」

 

で、包み隠そうともせずに本音をぶちまけてくれる。どっちにしたってアレじゃねぇか。

……うっわ。こいつここまでクズだったっけ? この非常事態にそんなこと考えてられるなんて。

だが、ここまであからさまなのにも関わらず姫島先輩と紫藤は熱い視線を兵藤に送ってるし

グレモリー先輩も苦笑しているだけだし。誰か止めろよ。特にグレモリー先輩。

 

ふとゼノヴィアさんを見ると、物凄く複雑な表情をしていた。

まあ、無理もあるまい。何せ探していた友人が見つかったと思ったら

変な男に引っかかってるんだもんな。何と言うか、ショックでかいんじゃなかろうか。

一方のアーシアさんは驚くほど冷めた目線を送っているし、バオクゥは半ば怒っている。

そりゃ、初対面でこの対応はねぇ。

 

(……セージさん。私、セージさんの依頼でここにいますけど

 ああいう扱いされるのって結構頭に来るんですけど。

 ハーレムって要するに相手を下に見ていなきゃ成立しない関係じゃないですか。

 一体いつ、私があんな奴の下に入ったんですか!)

 

(……すまない。只の妄言だから適当にあしらってくれ。

 それでも腹の虫が治まらないなら何か補填しとく)

 

(いいんですか? 安請け合いしちゃって。言質取りましたからね?

 じゃあ引き続き取材に協力してもらうって事でよろしくお願いします!

 いやぁ、セージさんは色々な意味で注目集めてますし、最近リーさんがこっちに来ないので

 実質独占取材状態なんですよね。そこにアモンも加われば本当に凄いんですから!)

 

バオクゥからのクレームがこっちに来た。まあ、そりゃ言いたくもなるか。

理不尽だが、俺が呼んで、俺に付き合って嫌な思いしてるわけだから

俺に責任追及するのは筋っちゃ、筋か。責任は取らなきゃなるまいよ。

 

それにしても……ほんっと、あの野郎。

前から首を傾げる部分はあったが、最近酷くなってる気がするぞ。

まあ、女の人に対するリスペクトが全然足りてねぇのは前からだったとは思うが。

 

言いようのない不安を抱えながら、俺達は白音さん救出のための準備を進めることになった。

尚、兵藤の意見は案の定却下された。

 

 

だが、肝心の犯人の居場所が絞り切れていない。

兵藤の意見では蝸牛山だが、バオクゥの見立てでは違う場所――

クロスゲートのあるアラヤ神社の裏山を示しているのだ。

蝸牛山か、アラヤ神社か。果たして、犯人はどこにいるのか……




あれ。ここまで加筆するつもりなかったんだけど。

>ギャスパー
小回りでは多分一番利くのではなかろうかと。
セージも小さくはなれませんし。
その目的で指名されてますが、多分セージの気持ちは通じてない。

>光実
罠について一家言あるような物言いですが、そりゃ鎧武原作では
騙し討ち上等でしたからねえ。罠を張って戦うとか得意とは思います。
この世界で黒化するかどうかはともかくとして。

>ゼノヴィア
出来れば、イリナがああなった件についてもう少し踏み込んだ描写をしたいところ。
でも最近セージ目線の話が多いので、描写が出来てないだけです。

>総攻撃派の意見
ギャスパーとリアスが一応自分の意見を述べてますが、残りの三人は……
そしてこの三人の共通項は……
もしかすると、かなりヤバい領域に足突っ込んでるかもしれません。

>イッセー
ブレない、ってのはこういう事もありうるとは穿った見方であり邪推であるとは思います。
ですが、諸々を繋ぎ合わせていくと結局こういうことになるんじゃなかろうかと。
普通はここから成長しますが、その成長の方向性はいくらでもある、それが可能性。
その可能性を意図的に捻じ曲げてしまえば……

>バオクゥ
デザイン元ネタのゲームデザイン的には一応上下関係はっきりしてるのでまだマシ(?)かもしれませんが
そりゃ初対面をさりげなくハーレムに入れるとか反発来そうですし
それこそライザーやディオドラが表面上振舞ったそれをイッセーがなぞってるのはもう完全に皮肉。

ジュウコンカッコカリ出来るゲームが元ネタのキャラがハーレムに物申すとか色々ツッコミどころありますが。

>攻撃偏重編成で人質救出作戦
バカなの? 死ぬの?


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Will33. 二つの山

やることは、変わりません。
これが、これこそが自分が得た結論であり
細かいところを変えることはあっても、基幹を変えることは無いと思います。

アプローチの仕方が拙いのは、まあ……


誘拐された白音さんを助け出すための作戦会議は比較的順調に進んでいた。

街の防衛もあり、少数で乗り込む作戦を立ててそのメンバー分けも決まったが

肝心の犯人と白音さんがいる場所がわからない。

 

一応、犯人は「山で待つ」と言っているために

珠閒瑠(すまる)市にある山に違いはないんだが……

その山が、絞り切れないのだ。

 

俺は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を展開し、珠閒瑠市の航空写真と地図を並べて話を進める。

独特の、市境としては非常に珍しいほぼ真円形の形をとった珠閒瑠市。

その外れにある蝸牛(かたつむり)山か、そのほぼ中心部に位置する蓮華台。

そこに位置するアラヤ神社の裏山である岩戸山か。

 

一応、山としての規模の大きさは蝸牛山の方がはるかに大きいのだが。

アラヤ神社には境内にクロスゲートがある。これがある以上、話は単純にはいかない。

 

「一応、今挙がっている候補の蝸牛山と岩戸山。

 この二か所に絞り込んでみようと思う。他に珠閒瑠市にこれ、と言った山が無いのもあるが。

 兵藤、お前はなんで犯人が蝸牛山に潜伏していると思った?」

 

「えっ? そりゃ、山頂に……」

 

「……山頂のカラコルなら、残念ながら無いわよ。私もこの目で見たもの。そうよね、セージ?」

 

まさか兵藤がカラコルを引き合いに犯人の潜伏場所に選ぶとは思わなんだ。

その根拠はグレモリー先輩が粉々に打ち砕いてくれているが。

そりゃあ、確かに確認したものを信じられないようでは言っちゃなんだが……だが。

その結論を導き出させたのは俺でもあるので、ここは素直に首肯する。嘘ついても仕方ないし。

 

「えっ…………」

 

「……だが待ってくれ。蝸牛山には他にも廃病院や寺院と言った建造物もあるだろう?

 それに、獣道側からは相当入り組んだ山道になっていたはずだ。

 それは逆に、犯人の側からは潜伏しやすいという事にもなるはずだよ。寺院は知らないけど」

 

兵藤に助け船を出すかのように布袋芙先生からの意見が出る。

寺院と言う不確定要素はあるものの、確かに廃病院は隠れ家にするにはうってつけだろう。

だがその廃病院、確か火事で焼け落ちた廃病院だったような。

寺院にしたって、調べた限りじゃまだ人が住んでいる。潜伏場所にするとは考えにくい。

 

「火事で焼け落ちた建造物はともかく、既に人が使っている家屋を潜伏場所にするものかね……」

 

そう考えれば、寺院にはいないだろうが、廃病院に潜伏している可能性はあるだろう。

まあ、当たり前だが犯人が蝸牛山にいるという前提が必要だが。

そうなると、蝸牛山か?

だが俺がその結論を出す前に、薮田先生からバオクゥに問いかけが投げられる。

 

「もう一つ、岩戸山が候補に挙がっていますが……それは何故ですか?」

 

「それが……恐縮なんですけど。これだ、って決定的な証拠がないんですよねえ……

 ただ、犯人の『山』ってキーワードで絞り込めたのが珠閒瑠市ですと

 さっきも話に出た通り蝸牛山か岩戸山位しか有名な山ってないんですよね。

 知名度ですと蝸牛山の方が圧倒的ですし、言ってしまえば蝸牛山があまりにも愚直なので

 敢えて外して岩戸山を挙げただけですよ」

 

意外だ。この手の話には必ず裏をつけるバオクゥがほぼ当てずっぽうで話を出すとは。

逆に言えば、バオクゥでさえ当てずっぽうをせねばならない程情報が無いという可能性もあるが。

 

「そんないい加減な話で大丈夫なのかよ?」

 

「それを言われると痛いですねぇ。それにクロスゲートってものが近くにありますし

 やっぱり私の見立ては間違いじゃないかと……」

 

「……いや、それは早計だな。バオクゥだっていい加減な理由で岩戸山を選んでないだろ。

 何かないか? 些細なことでもいい。例えばそう……なんか怪しい奴を見たとか」

 

バオクゥだってジャーナリストで自称盗聴バスターだ。情報の扱いにいい加減だとは思えない。

となれば、その少ない情報から探り出してみるのもいいかもしれない。

そりゃあ、蝸牛山――と言うか廃病院も怪しいと言えば怪しいが。

とは言え、この現状では兵藤でなくとも「大丈夫なのか」と言いたくもなるか。

 

「怪しい奴なら、廃病院でも目撃情報があるんですよねぇ……

 そっちは悪魔っぽいって話なので、もしかするとやっぱり蝸牛山の方が……」

 

「おい! なんで悪魔が小猫ちゃんを攫うんだよ!」

 

「黒歌さんが言うには、猫魈(ねこしょう)は悪魔的にはレアらしいからな。

 レアハンティングの標的にするなら、悪魔としては動機が十分すぎるほどある。

 こいつは俺の個人的な調べだが、レア種族、レア能力持ちってだけで眷属に入れようとする

 悪魔も少なくないらしいし。なあグレモリー先輩?」

 

「……なんで私に振るのよ」

 

我ながら、ちょっと毒づいたとは思う。だがまあ、この意見を変える気は無いが。

実際、今は世情的にどうだか知らんが禍の団(カオス・ブリゲート)――と言うかアインストが暴れる前の悪魔陣営は

そう言う一方的な転生を行ってたのは事実じゃないか。

自分だけは関係ないみたいな素振りをされるのも、正直気に入らないってのもあるし。

レア能力に関しては、まかり間違っても自分は違うなんて言えないはずだ。

アーシアさんやギャスパー、最たるものでは兵藤なんてその代表例だろうに。

 

「宮本君、あなたの言いたいことはわかりますが

 今はグレモリー君に突っかかっている時では無いはずですよ」

 

「……すみません。発言は取り下げませんが以後気をつけます」

 

本心で言ったことを取り下げる気は無い。グレモリー先輩の性質的に嘘はダメだろう。

横紙破りの常習犯とも言うべき相手だから、尚のことかもしれないが。

ま、横紙破りに関しちゃ俺も人のことは言えないが。

薮田先生にも釘を刺されたので、俺は気を取り直して話を進める。

えっと……蝸牛山と岩戸山、どっちを調査するかって話だったな。

 

「どっちも決定打に欠けるんだよねえ……要素の多い、蝸牛山を当たってみるかい?」

 

「焼け落ちた廃病院のある蝸牛山か、クロスゲートが近くにある岩戸山か。

 どちらにせよ、あまり時間をかけた捜索は難しいな。

 JOKER騒動が起きているとはいえ、明日には駒王町に戻らなきゃならんし」

 

条件はほぼ五分か……そう言えば、蝸牛山には何があるか大体わかっているが

岩戸山には何があるんだ? 中にあるもの次第では、岩戸山に構えている可能性だってある。

 

「そう言えば、岩戸山ってどんな場所なんだ?」

 

「アラヤ神社の裏山、ってのは話したかもしれませんけど……

 単に岩戸山って言った場合ですと、裏山の洞窟の事を指すことが多いですね。

 私も洞窟の中までは調べてないのでわからないんですけど……」

 

洞窟か。なるほど、焼け落ちた廃病院よりはある意味潜伏に適した場所かもしれないな。

洞窟の中だと、確かにバオクゥは戦闘に適さないし、グレモリー先輩だの姫島先輩だのは

そう言う場所での戦闘に不向きすぎる。ゼノヴィアさんでさえ怪しい。

戦闘に関しては兵藤も怪しいが、兵藤は連れて行かざるを得ないので仕方がない。

それより洞窟となれば、昨日今日出来たものじゃないだろう。

もしかすると、兵藤も行ったことがあるかもしれない。

 

「兵藤。岩戸山には行ったことはあるか?」

 

「えっ? あ……いや……ない、んじゃ……ない……かな?」

 

……うん? 目が泳いでる? 行ったことがあるのか?

だが、隠すという事は言いたくない事情があるのだろう。

言いたくない事を無理に聞き出すのも拗れる元か。

現時点じゃこれ以上兵藤に追求するのは得策とは言えないな。

 

 

さて。情報が揃っているが、潜伏場所に難のあるであろう蝸牛山か。

情報は無いが、洞窟と言う立地条件上潜伏に適した岩戸山か。

山と言う発言を鵜呑みにすれば蝸牛山かもしれないが……

何にせよ、岩戸山の情報が足らない。こうなったら調べてみるか。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

――岩戸山。アラヤ神社の裏手に存在する山及びその洞窟の呼称。

御影町に存在する同名の神社の裏手にも、アラヤの岩戸なる洞窟が存在する。

珠閒瑠市のものの内部は比較的入り組んでおり、鏡の泉なる泉が四か所に沸いている。

この泉には、人の心を映し出すという噂があるとされている。

 

観光地と言うよりは、公開されていないパワースポット的な場所だな。

人目につかないって意味では廃病院と遜色無さそうだ。

調べても全然絞り込めんな、これ。

 

「だ、だったら蝸牛山にしようぜ? 廃病院とか誘拐犯が立てこもってそうだしよ」

 

兵藤は蝸牛山を推してくるが、何故かそこには俺達を岩戸山に行かせまいというか

寧ろ、自分が岩戸山に行きたがってないような感じも受け取れた。

なんでこいつ岩戸山に行きたがらないんだ? 何かあるのか?

いやまあ、神社なんて場所悪魔は行きたがらないだろうけれど。

 

 

…………いや、ちょっと待て。

今さっきこいつは岩戸山には「行ったことが無い」って言っていた。

にもかかわらず、こうも「行くこと自体を拒否」するのは悪魔だって以外にも何かがあるぞ。

現にメンバーに抜粋したアーシアさんやギャスパーからは

自分が悪魔だからって理由でのアラヤ神社の裏手である

岩戸山への移動を拒否する声は上がっていない。

 

ただ、そうは言っても兵藤が岩戸山へ行くことを拒否することと、犯人の行動との結びつきなんざ

何も思い浮かばないってそもそもの問題はあるわけだが。

やはり、悪魔だから神社のある岩戸山を避けているだけなのか……?

いや、こんな状況でそんなことを言っていられるものか?

俺の記憶では、そこまで問題から逃げ出すような奴では無かった気がするが……

少なくとも、ライザー戦を控えていた頃のこいつを考えれば……違和感がある。

 

そう思い、俺は敢えて候補を岩戸山に絞り込むことにした。根拠の説明が難しいが……

 

 

「…………岩戸山にしよう。人目につかない場所って意味では、蝸牛山より人目につきにくい」

 

「まあ、有名な観光地ってわけじゃないですしね。私は構いませんけど……」

 

岩戸山を挙げたバオクゥは賛成。アーシアさんとギャスパー、光実(みつざね)も特に反対意見が無いのか

ノーを突き付けてくることは無かった。

 

「お、俺は反対だぞ! そもそも俺の話聞いてたのかよ!?」

 

「逆に聞くが、お前なんでそこまで目的地を蝸牛山にしようとしたがる?

 ……いや、『岩戸山に行くのを避けようとしている』んだ?

 言っとくが、悪魔だからって言い訳はすんなよ。

 アーシアさんとギャスパーの許可は貰ってるんだ。

 聞こうか聞くまいか迷ったが、そこまで必死に岩戸山を避けるって

 それはお前に何かあるって気がするぞ」

 

俺の質問に、兵藤は何も言えなくなったのか黙り込んでしまう。

しきりに布袋芙(ほていふ)先生にアイコンタクトを取っているようだが

布袋芙先生はそれに対し特に何も反応を示していない。

こんな大事な決定を、人任せにする……

いや、こういう時に大人の意見を聞くこと自体はおかしなことじゃないし

なんならいくら超特捜課権限を発揮しているとはいえ仕切ってる俺の方が変だ。

ただ、こいつのそれはどうにも「逃げ」の姿勢が見て取れた。

理由まではわからんが。

 

「反対意見が無いなら、岩戸山を調べてみようと思う。

 蝸牛山には、念のため警察の人達に行ってもらうつもりだ。ノーマークって訳にも行かないし」

 

「私達じゃなくていいの?」

 

「今回の件は警察にも話を通してある。誘拐事件の捜査なら、本当なら警察の役割だし。

 万が一岩戸山が外れだった場合には、蝸牛山に俺と兵藤の二人で急行する作戦だ」

 

グレモリー先輩。いい加減自分がテロリスト扱いされてるって自覚持ってもらえませんかね。

迂闊に街中うろうろしてたら問題でしょうが。

いくらJOKERがある種囮になってるって言っても。

ま、それを言ったら俺だって似たようなもんではあるが。

 

「それなら、魔法陣で呼び出せば……」

 

「俺を呼び出せるんなら、その方法でも構いませんがね」

 

姫島先輩の提案は、単純な「俺を魔法陣で召喚できない」と言う一点で成立しなかった。

人間の俺は無理でも、アモンならば呼び出せるかもしれないが。

 

(アモン、蝸牛山にグレモリー先輩か姫島先輩に待機してもらって……)

 

『セージ、冗談はよしてくれ。悪魔の召喚ってのはデリケートなもんでな。

 力の強弱が召喚の可否に大きく関わってくるんだ。

 いくら俺がこいつらに言わせばロートルの悪魔でもな、力で負けた覚えはないんだぜ。

 そこの教師なら何とも言えんが、そいつは今回不参加だろ。なら無理な相談だ』

 

すまん。ちょっとアモンの力を見縊ってた。

確かに、悪魔の世界ってのは力の強弱がそのままヒエラルキーだ。

今も昔も根本は変わらないところを見るに、早々変わらない部分なんだろう。

そりゃアモンにしてみたら、悪魔目線でも未熟なグレモリー先輩如きにいいように召喚されるのは

我慢ならない、って感じなんだろうな。

 

「セージが悪魔なら、呼び出せたのだけど」

 

「そりゃさっきの意趣返しですか」

 

売り言葉に買い言葉、傍から見たらそうなのかもしれないが、黙って聞き流せない言葉でもある。

漸く人間に戻れたのに、なんでまた悪魔にしようとしたがるんだ。

俺は嫌だって言ってるのに。

 

「……さっきも言いましたが、今は言い争っている場合では無いでしょう。

 そんなことをしている暇があるのでしたら、行動に移すべきだと思いますよ。

 先ほど決めたメンバー……宮本君、兵藤君、アーシア君、ギャスパー君、呉島君。

 それとバオクゥ……でしたね。そのメンバーで岩戸山に向かうという事で宜しいですね。

 警察への連絡は私からしておきます。くれぐれも、ミイラ取りがミイラにならないように。

 何度も言いますが、今回の事件は罠の可能性が高いんです。くれぐれも、油断は禁物ですよ」

 

「薮田先生の言う通りだ。今は時間が惜しいのだろう?

 なら、早いところ囚われのお姫様を救いに行くべきだよ。

 なに、その間は事件が起こらないよう僕達も目を光らせておくさ。なあ、『ご主人様』?」

 

「そうね。イッセー、アーシア、ギャスパー。気をつけなさい。

 それとセージも。小猫の事は頼んだわよ」

 

一抹の不安を覚えながらも、俺達は岩戸山に向かう事にした。

果たして、本当に白音さんはそこにいるのか。

 

 

……そして、岩戸山と言う場所そのものに、俺も正直なところ嫌な予感を覚えていた。

場所と言うよりは、クロスゲートの近くと言う立地条件と――

 

――岩戸山の中にあるという、鏡の泉である。

 

何かが起こる。犯人絡み以外にも、俺には何か嫌な予感がぬぐい切れなかった。

もしかすると、兵藤もそれを警戒していたのかもしれない。

 

だが、それならば尚の事岩戸山に向かうべきかもしれない。

白音さんを使って俺達を呼んでいるのだとしたら。

俺達が行くのをためらう場所にこそ、犯人はいるのかもしれない。

 

――薮田先生の言う通り、罠だろうな。だが、それでも。

白音さんを助け出さない理由にはならない。

俺のせいで苦しむ人を増やすのは、もう、これ以上は…………




相変わらず変にギスギスしてるセージとリアス。
色々な意味で原作ヒロインの面目躍如してるかもしれません。
かと言ってリアス→イッセーの好感度が原作準拠かと言うとそうでもなく。

……どうなんのこれ。

さて。今後話の本流は変わらないにしても、細かな変化をつけるためのギミックとして
簡易アンケートを行う予定があります。
もし行う場合には告知させていただきますので、よろしくお願いします。

例えば今回の場合ですと
A:岩戸山 B:蝸牛山
と言った風に、目的地を選ぶ所謂「安価式」に近い事を行うかもしれません。

>御影町のアラヤ神社
あそこはあそこで長かった。おまけに2人で攻略せにゃならんし。

>イッセーが岩戸山に行くのを嫌がっている理由
……そりゃあ、相手が行かないって明言しているものの
そこで自分が何をしたかって言えば……ねえ(プルガトリオ参照)


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Will34. 阿頼耶の岩戸 Aパート

今回ダンバイン系列未参戦にほっとしております。
だってナイツマってきれいなショット・ウェポンが活躍する話でしょ?(偏見)
バイストン・ウェルが出てきたら合体事故待ったなしだと思いますよ本当に。
今回セフィーロに飛ばされてそうな気もしますが。

そしてアカネちゃんは自慢の怪獣がスーパーロボット軍団にぼっこぼこにされる涙目展開待ったなしなのがなんとも。

可能ならサウンドエディションを入手していただきたく。
夢のヒーロー収録してますし。


……PCでも合法でスパロボが出来る、良い時代になったもんです。


岩戸山に向かうべく、俺は準備をしていた。

向かうのは俺と兵藤、アーシアさん、ギャスパー、バオクゥ、そして光実(みつざね)

固まって移動すると目立つので、アラヤ神社の鳥居前に現地集合することにした。

境内への進入は俺と光実は問題ないのだが

残りの四人がこぞってよくない影響を受けるので断念している。

まあ、そうでなくともクロスゲートがある以上境内に入れるかどうかわからんのはあるが。

出発前に、装備を整えるべく俺は光実を呼び出していた。

 

「光実、これを渡しておく」

 

「これは……缶? 見慣れないラベルが描かれてますが」

 

「超特捜課で運用してるドローンドロイドだ。

 バオクゥの偵察機と同じ程度の役割は果たしてくれるはずだ。

 ギャスパーは自身が蝙蝠になることで、アーシアさんも使い魔が使えるから偵察は問題無いが

 光実も偵察の出来るものを用意しておいた方がいいかと思ってな。

 都合よくないだろ、そういうロックシードは」

 

「まさかインベス召喚するわけにも行きませんしね。一応、あれ制御可能ですけど」

 

そう言えば、フリードやレイナーレも横流しで手に入れた

ロックシードからインベス出して使役してたな。

余計なことをしたかもしれないが、確かに言う通りインベスをほいほい使うのもどうかと思う。

ただでさえ、危ない橋を渡っているというのに。

使い方次第では使えたかもしれないが、現状インベスは完全に人類の敵だ。

ある意味三大勢力並か、それ以上に。

そんなものを使役しては、ただでさえ怪しい目で見られているのに完全にアウトだ。

 

「ともかく、ありがとうございます」

 

「終わったら返してくれよ。一応超特捜課――警視庁からの預かりものだから」

 

光実にも偵察能力は付与できた。俺は……まあ、レーダー使えるし。

洞窟でどこまでレーダーが使えるかわからんが……

ギャスパーの能力や、アモンの身体能力も駆使すれば

多少視界が悪くても何とかなる……と思いたいところだが。

 

因みに、兵藤にはドローンドロイドは貸し出してない。

あいつは使い魔も持ってないので偵察手段が無いことになるが

そもそも言っちゃなんだがあいつには戦力としては期待しても

偵察などの行動には何一つ期待してない。

ドライグがそう言う力を持ってるかどうか、も知らないし。

ドローンが使えなくとも、悪魔なら生身でどうにでもなるだろ。

それに、警察からの預かりものを冤罪扱いにはなったとはいえ

警察のご厄介筆頭格に預けるのも気が引けるというのもあるし。

 

「それじゃ、三つのグループに分かれて移動だ。まずアーシアさんとギャスパー。

 次にバオクゥと光実。兵藤、お前は俺と来い。サイドカーに乗せてやるから」

 

「ちっとも嬉しくねえよ。いつぞやみたいにアーシアを後ろに乗せて自転車で……」

 

「じゃ、行きましょうかギャスパー君。早く白音ちゃんを助けないといけませんし」

 

まるで兵藤を避けるようにギャスパーを引き連れてホテルを出るアーシアさん。

あそこまで露骨な態度が出るとなると、少しだけ兵藤が不憫に思えるが……

こいつの場合、大半自業自得だしなあ。

俺に偉そうなことが言えた義理かどうかは……多分、言えないが。

 

「あ、待ってくれアーシアさん。

 パトカーで申し訳ないが、アラヤ神社までの足を用意しておいた。

 準備ができ次第、外に警察の人が待機してるはずだから使ってくれ」

 

「ありがとうございます。

 あの子に乗っていくわけにもいかないので、どうしようかと思ってたんです」

 

あの子? まさか、蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)ではあるまいな?

あいつはいくら小柄なアーシアさんでも到底乗れない大きさのはずだったが……成長したか?

まあ、いずれにせよドラゴンなんかに乗って移動したらそれこそ目立ちすぎる。

パトカーでの移動って色々な意味であまり印象はよくないが、タクシーを使うのも違う気がする。

それに、俺が特権で辛うじて用意できるのってパトカーだし。それでも一台だけだ。

まあ、俺も光実も自前の移動手段があるから大丈夫ではあるのだが。

 

「さっきから恨めしそうにあの二人を見ているが安心しろ。

 ギャスパーはお前ほど疚しい目でアーシアさんを見てない」

 

「何も言ってねえよ!?」

 

パトカーに乗るべくギャスパーの手を取って外に出ようとするアーシアさんを

さっきから恨めしそうな目で見ている兵藤に、ストレートで釘をさす。

まさかギャスパーに嫉妬しているのではあるまいな?

と思いカマをかけたが、まあいつもの応対だった。

しかし、脈のない人にどうしてそこまで…………いや、これは俺も人の事言えんわ。

 

「じゃ、僕達も行きましょうか。今バイク出しますので」

 

その一方、光実も表に出た直後ローズアタッカーを出して

バオクゥとタンデムすることになったようだ。

バオクゥは光実と言う新しい取材対象が見つかったので、ご機嫌なようだ。

この二人にも何やら邪な目線を向けている奴がいるが……

 

「……やっぱあの光実ってイケメン、気に入らねえぜ……!」

 

「……お前なあ。相手が好青年だとその露骨に態度や考え変える癖

 どうにかした方がいいと思うぞ。これも前から思ってることだがよ」

 

何か、松田や元浜とバカやってた頃とそう変わってない気がするな。思わずため息が出る。

そりゃ人間、そうそ簡単に変われるものでは無いが。

……いや、こいつはもう人間どころか悪魔かどうかすら怪しいが。

 

そもそもこいつはドラゴンではないにも関わらずドラゴンアップルを喰ってるんだから

インベスに近い体質になっていたっておかしくは無い。

或いは、ドライグに引っ張られてドラゴンに近い体質になったか。

いずれにせよ、真っ当な人間ではあるまい。これも俺が人の事を言えるかどうかは疑わしいが。

 

「あ、移動しながらでいいので、取材は……」

 

「舌噛みますよ」

 

なるほど。二人のやり取りを見て取材拒否はそういうやり方もあったか、と思い至る。

目から鱗だ。

光実からヘルメットを受け取り、バオクゥも光実の後ろに乗る形で

光実の操縦するローズアタッカーでアラヤ神社の方角へと向かっていった。

 

……ああ、ありゃ兵藤がそう言う目線向けるわ。

何せ自分は昔一応できていた事が出来なくなっているばかりか

いけ好かないイケメンにその役割を取られたって解釈出来ん事も無いしな。

ただ、さっきも思ったがアーシアさんに愛想尽かされてるのって

アーシアさん自身の環境や考えが変わったってのもあるだろうけれど

お前自身のメッキが剥がれたってのもあるんじゃないか?

いくら第一印象が良くても、その後で化けの皮が剥がれては意味が無かろうに。

 

まあ、そんなことは正直俺にはどうでもいいので

意にも介さずにマシンキャバリアーを実体化させることにした。

 

PROMOTION-KNIGHT!!

 

ぐずっている兵藤にヘルメットを被せながら、半ば強引にサイドカーの横車に押し込む。

少々手荒だが、アーシアさんの言う通り白音さんの命には代えられない。

仲間のためなら自分がどうなってもいい。

少なくとも、最初にレイナーレと戦った時のこいつからは

そう言う気概が感じ取れたが、今はあんまり感じない。

ここ最近の諸々で腑抜けたか、ただ単に他人に言われるのが嫌なだけか。

特に俺に言われるなんて、こいつにしてみたらいい気はしないだろう。

 

 

…………だが。俺が焦っているとして、それは本当に

白音さんの事「だけ」で焦っているのか?

 

 

さっきも薮田先生にまで釘を刺された俺の発言。

ちょっと時間が経って考えてみると、言われた通りだ。

確かに、あの時グレモリー先輩と出くわさなかったらあの施設に俺は忍び込んでいただろう。

いくら黒影の警備があったとはいえ、それ位は出来た自信がある。

言うなれば、その目的をグレモリー先輩に邪魔された形だ。

気にしてない、とは言ったが…………やはり、そう割り切れないか。

 

……それはそうと。

 

「どうでもいいが、お前よく俺に突っかかってこないな。

 さっきのグレモリー先輩に対する態度、ありゃ自分でもよくないって思えるレベルだったぞ」

 

「もうお前に言っても聞きやしねえって諦めたんだよ。それに…………や、なんでもねえ」

 

今、こいつの目線が見送りに来てる布袋芙(ほていふ)先生や姫島先輩、紫藤に向いた気がする。

……まさか、そういう理由か? わからんでもないが、あんまりわかりたくない気もするぞ。

 

布袋芙先生はともかく、姫島先輩や紫藤とは一線超えてるくせにグレモリー先輩は特別視してる。

それが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)による洗脳まがいの忠誠によるものか

あるいはもっと単純な何かなのかはわからんが。

少なくとも、祐斗のグレモリー先輩に対する態度と同じではあるまい。

 

俺はてっきり、アーシアさんかグレモリー先輩で揺れ動いているものだと思っていたが

アーシアさんは望み薄だし、そうかと思えば姫島先輩や紫藤とああいう事をしたし

なんなら布袋芙先生にもオカ研に入りたての頃

グレモリー先輩に向けていた目と同じ目を向けている気がする。

 

……こいつ、何がしたいんだ? 最悪刺されるぞ?

ハーレムって、こういう無節操に女性の尻を追いかけるもんだったかな……?

ま、俺もどうだかな……って部分はあるが。

 

『セージ。あんまり色々考えるな』

 

(おっと。確かにそうだ。それじゃアラヤ神社まで頼むぞ、フリッケン)

 

『免許は有効なんだから、お前が操縦しろ』

 

フリッケンに促される形で、マシンキャバリアーのエンジンを入れる。

やっぱ、持つべきものは手に職か。免許取ってなかったらまた面倒なことになってたと思うし。

アーシアさんとギャスパーだけ乗り物が無いが、マシンキャバリア―だって

こっちじゃそこまで乗せて運搬できないし

ただでさえ目立つマシンキャバリアーに、そんなに乗せては……

 

「イッセー、セージ。気を付けて。アーシアやギャスパー、小猫を頼んだわよ」

 

グレモリー先輩の言葉に、イッセーは元気よく答え、俺はそっぽを向いたまま頷く。

確かに。俺はなんであいつに突っかかってるんだろうな。

そりゃまあ、人間をあからさまに下に見てる上から目線は普通に気に入らないし

なんなら人間界で冥界のやり方を通しているその態度も気に入らない。

 

……だが、今そういう態度取ってたか?

一先ずその疑問は横に置いておいて、俺は発進することにした。

 

 

――――

 

 

『セージ……お前、女の趣味が広いというか、悪くないか?』

 

鳴海(なるみ)区から蓮華台(れんげだい)に向かって走行中、アモンの一言に、俺は思わず操縦ミスを犯しそうになった。

いきなり何を言い出すんだ、あまりにも突拍子もない話なので驚いた。

 

「どういうことだ? アモン」

 

『俺には、あのグレモリーのガキを意識しすぎるあまり突っかかってる風にしか思えんがね。

 フラれた腹いせで手当たり次第に口説くにしても、もう少し周りを見たらどうだ。

 で、片や猫の姉妹にあのジャーナリスト。そういやけたたましい幽霊共もいたな?

 おまけにそのフラれた本命が忘れられずに今なお燻らせてる。

 俺には、他人の爛れた異性関係を突っ込める風には思えんがな?』

 

「…………アモン。俺はそう言う冗談は嫌いだ。

 白音さんや黒歌さんにも現状が申し訳ないって思ってるんだ。

 そこになんだって口説く対象としてグレモリー先輩の名前が出て来るんだよ。

 虹川さんやバオクゥならいざ知らず。

 それにしたって彼女達だってそういう意味での付き合いをしているつもりは無いし

 そもそもいつ俺が姉さんにフラれたんだ。あまり言うようだとこの場で追い出すぞ。

 バイクの操縦だけならお前関係ないんだからな」

 

『そりゃ悪かった。だが、お前の振る舞いを見ているとそうとしか思えなくてな。

 嫌悪ってのはな、好意が一周回った末の感情だってのも珍しくないもんだぜ。

 あとお節介ついでに言わせてもらうとな、猫の嬢ちゃん達だけでもはっきり返事しとけ。

 妹の方は言わずもがなだが、姉の方もああ見えて気にするタイプだと俺は見たぜ』

 

アモンの発言に、俺は思わず取り乱しそうになった。よく冷静でいられたな。

とは言え、思わずアモンを追い出そうとしたくらいには狼狽してたとは思うが。

 

それにしてもアモンめ。いくら何でも冗談がひどすぎる。

どうして俺がグレモリー先輩にそういうアプローチをかけなきゃいけないんだ。

ただでさえ白音さんや黒歌さんに申し訳が無いのに、どうしてグレモリー先輩を口説くなんて

地雷原を裸足で駆け回るような真似をしなきゃいけないんだ。

……そりゃ、身体はどちらかと言えば好みだが。

 

 

…………それに、いくら避けられてる節があるって言っても俺は姉さんにフラれてない。

フラれてない……はずだ。いや、でももしかすると……

そうなっても、おかしくないことはしたし……

 

等と考えていると、突然サイドカーの横車が激しく揺れる。

 

「セージ……お前、一体それどういうことだよ!? 興味ねえって言ってたくせに

 ちゃっかり自分だってハーレム目指してるじゃねぇか!

 しかも部長狙いとか!! 俺を差し置いてそうはいかねぇぞ!!」

 

「おまっ……おい、暴れるな! ここは公道だぞ!」

 

俺がうっかり声に出して反論してしまったため、兵藤が食いついた。

横車の上で暴れてくれているお陰で、バランスが一気に崩れる。

さっきの事もあり、俺も車体制御がうまくいかず安全運転どころではなかった。

 

蛇行運転を繰り返した末に、フリッケンが制御することで事なきを得たのだが。

 

『セージ、真面目に運転しろ。アモンも煽るな。煽り運転は犯罪だぞ』

 

『意味違うだろそれ』

 

俺に力を貸している悪魔と破壊者は呑気に話しているが、こっちは割と深刻だ。

姉さんにはフラれた……訳じゃないと思いたいし、白音さんは助けに行かなきゃいけない。

万が一のことがあれば、黒歌さんに合わせる顔が無い。

グレモリー先輩だって、なんで俺はああも突っかかるのか、正直最近わかってない。

悪魔のやり方が気に入らないなら、別にグレモリー先輩に限った話じゃないわけだし。

そもそも魔王の政治方針からして正直気に入らないんだ。

 

……まさか、アモンの言う通り……いや、そんなはずはない。

ないはずだが……くそっ、兵藤じゃあるまいに。

何であいつはああもこっちの心に立ち入ろうとする。

そこは腐っても悪魔って訳か。そう言う事かよ。

 

「ふ、フリッケン……すまん。こっから先、アラヤ神社まで頼んでいいか?

 今、ちょっと自分で運転できる気がしない……」

 

「なっ……それ、さっきの話が本当だって認めるのかよ!?」

 

あー……俺がグレモリー先輩をどう思ってるかはともかく

兵藤にして見りゃそりゃ面白くないわな。

偉そうに言ってた奴が、自分と大して変わってないんだから。

ライザーやディオドラの事を顧みると

こいつ自分以外のハーレム所有者は目の敵にしてるみたいだし。

 

『わかった。だが、岩戸山に入るまでに気持ちを落ち着かせておけよ』

 

「……すまん、頼む。兵藤、質問の答えだが……俺にもわからん。わからんとしか答えられん。

 検索も出来ん。それで納得してくれ。俺だってわからないんだ……」

 

「…………」

 

俺の最大級の答えに、押し黙る形になった兵藤。

納得するしないじゃなくて、いい加減な答えも出来ないし、俺自身が答えがわかってないんだ。

そもそも、自分の心なんてどうやって検索しろって言うんだ。出来んものは出来ん。

 

 

フリッケンのお陰で、何とかアラヤ神社まで向かう事は出来た。

しかし、アモンの指摘は俺の頭の中から離れることは無かった……




次回、とんでもない奴が出てきます。
ヒント:フリッケン

イッセーに頻りにツッコミを入れているセージですが
内面ではイッセーと大差ない部分が。
ここに来てそれが悪い意味で顕在化。

そしてペルソナ2原作(特に罪)ではこの後罪(子供の頃の我儘)が暴かれて……

>アーシア
ギャスパーを引っ張ったり、地道に蒼雷龍を育てていると思しき感はありますが
やたらイッセーに対する当たりが強いですねえ。
この辺、原作で学べなかった社会常識やらなんやら学んでいるので
その関係でイッセーの負の面を知ってしまったがため、ではあります。
ゼノヴィアも同じく。
教会組、いくら何でも一般常識知らなさすぎる(イリナは別の意味かもしれませんが)ので
一般常識教える人はやはり必要だとは。申し訳ないですが兵藤夫妻にそれが務まるとは思えませんので。
(なお拙作もその役が名護さんなのは内緒)

>光実
バオクゥがやたら接近してますが、それに対する彼の答えは次回。
運転が地元の警察の人なアーシア・ギャスパー、ナビ搭載でイッセーも場所だけなら知ってるセージ・イッセー組と違い
彼だけ直接バオクゥにナビしてもらってます。
ローズアタッカーにナビ搭載してないはずですし。

>蒼雷龍
地味にアーシアが乗ろうとしていたり、このところラッセー呼びしていなかったりと
そこはかとなく強化(変化)フラグ立てていたり。
まあ、どんな形であれアーシアも自衛出来る力は必要とは原作でも言われてますし。

>アモン
色恋沙汰に聡い風な事言ってますが、これただの年の功。
あとダイナミック系主人公で奥手ってあまり思い浮かばないのも。
(人間・不動明時代ならともかく)
そういう意味ではハーレムはどっちでもいいが、けじめはつけろと
黒歌と違い面と向かって言ってます。


今回セージがアレなのは意図的だったりもします。


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Will34. 阿頼耶の岩戸 Bパート

流石にヒントがでかすぎましたかね。
今回、あとがきにも一部本編が入り込んでます。


――アラヤ神社・鳥居前。

 

境内のクロスゲートが稼働しているせいか、神社境内への立ち入りは制限されており

警察だけでなく神仏同盟の監視役も来ていた。

我ながらとんでもない場所を集合場所に指定したが、ここが一番近くてわかりやすいんだよなあ。

他に目立つ場所と言えば七姉妹学園の校門前とかあるが、ちょっと距離あるし。

 

アーシアさんらを運んだパトカーは既に他の現場に向かったらしく

この辺りには降りたアーシアさんとギャスパーだけが佇んでいる。

光実(みつざね)とバオクゥも俺達より早くここに来ていたらしく、既に鳥居前にいた。

ローズアタッカーは元々ロックシードなので、携行にも便利なんだろう。

俺のマシンキャバリアーも似たようなもんだが。

やはり道中のアレが原因か、到着したのは俺達が最後だった。

 

「お待ちしてましたよ、セージさん」

 

「すまない、途中で事故りかけてな」

 

「だ、大丈夫ですかセージさん!? 怪我とかは……」

 

心配するアーシアさんに怪我はしてない、と返しながら周囲を見渡すと

やはりJOKER騒動の影響か、あまり人はいないし

神社の境内はそもそも所謂バリケードテープがされているため、入ることが出来ない。

そりゃ特権使えば入れることは入れるだろうが、今入る理由が無いだろう。

 

……だが、そんな中で一人怪しげな男を見かけた。

年のほどは俺達よりも少し上位か。男性にしては長めで明るめの茶色い髪と

白いジャケットに黒の上下と言ういでたちの男。

 

纏っている雰囲気から、俺はこの男がこの世界の人間じゃない。

そう思えてならなかった。何故かはわからないが。

 

 

『あいつは……!!』

 

『知ってるのか、ピンクの』

 

男を見た瞬間、フリッケンが反応を示すがそれが何なのかは当人にもわかっていないようだった。

だが、マゼンタのフリッケンに対応するかのように

男の手には一瞬、シアン色の銃が握られているように見えた。

 

……次に見た時には、そんなものは見当たらなかったので見間違いだったかもしれないが。

だが、それが本当に見間違いかどうかはともかくとして、この男はやはり只者では無いという事を

すぐに思い知ることになった。

いつの間にか俺の目の前に立っていたと思えば、こっちの目を見て開口一番

 

「……成る程。それがこの世界での君の役割か」

 

俺に向かって話しているのだろうけれど、俺ではない何者か

――思い当たるのはフリッケンかアモンしかいないが――に

話しかけている風にも思えた。初見でそれを見破ったとするならば、確かに只者では無い。

 

「本当なら、この世界にもお宝はあったんだろうけれど……

 性質の悪いことに、誰かがお宝をダメにしちゃったみたいだからね。

 腐ったお宝は、申し訳ないけど頂くのはご遠慮願いたいところだしね。

 

 そんなわけで、僕としてはお宝が無い以上この世界に留まる理由が無いんだけど……

 君がいるとなれば話は別だ。君のいるところ僕あり。

 今回はお宝は二の次で、君に関わる事に優先して首を突っ込ませてもらおうかな。

 

 ……じゃ、また会おう」

 

要領を得ないことを言い残して、男は俺達の前から去っていった。

その歩いて行った方角は、事もあろうに岩戸山の方角であった。

 

 

「……今の人、誰か知ってます?」

 

バオクゥが俺達に問いかけるが、当然誰一人としてあの男の事を知らない。

だが、俺は全く知らないわけでもなかった。

 

……かつて、次元の狭間で遭遇した白金龍(プラチナム・ドラゴン)。そこに残されていた力の残滓――

後のフリッケンである――に酷似したものを、さっきの男から感じとったのだ。

証拠に乏しいが、フリッケンのオリジナルか、或いはそれに連なるものだろうか。

男の正体はわからないが、岩戸山に向かったという事は出くわす可能性があるという事か。

 

「……ま、まさか! さっきの奴が小猫ちゃんを攫った犯人じゃないだろうな!?

 なんかお宝とか言ってたし、泥棒っぽい雰囲気もしてたぞ!

 それにイケメンだし!」

 

「……俺達が追ってる犯人は泥棒じゃなくて誘拐犯だろ。

 まあ、白音さんの身柄を『盗んだ』ってんじゃそう外れても無い表現だとは思うが。

 

 …………ん? どうしたフリッケン?」

 

『泥棒……そうだ、間違いない! 思い出したぞ! あいつは……』

 

赤龍帝と白龍皇の力を行使する上で不必要だったのか

自分が「世界を破壊するものと呼ばれていた」以外の自身の記憶は

碌に思い出さなかったフリッケンが突如として声を上げ

一部の記憶が戻った事を公言していた。

そして、その後で語られた名前は俺達の全く知らない名前であった。

 

 

――ディエンド(DIEND)

 

 

その名に不吉なものを感じるが、俺達のやることが変わるわけではない。

俺達は、白音さんを助けるべく岩戸山へとその足を進めるのだった。

たとえそのディエンドとやらが犯人だとしても、今の俺達に必要なのは

犯人の撃退ではなく、白音さんの安全の確保だ。

そのためにヒーラーとして貴重なアーシアさんにこっちに来てもらったんだ。

最悪、俺達が来た途端白音さんを害する可能性だってある。

俺達を呼ぶっていう目的を果たした時点で、人質は用済みになるのだから。

手紙や不足気味とはいえ状況証拠から犯人の目的は

「俺達――特に俺と兵藤を呼び出す」と言う一点に集中していると見ていいだろう。

そうなれば、白音さんは言うなれば釣り餌だ。

獲物が食いついた時点で、釣り餌に価値は無くなる。

最悪の事態を考慮して、俺はアーシアさんに来てもらった。本人も乗り気なのでそこは助かった。

 

誘拐事件で人質の負傷など、一番あってはならない事態なのだから。

 

――――

 

 

岩戸山・洞窟前

 

当初の予定通り、バオクゥにはここに待機してもらう。

落盤の危険性を考えれば、洞窟の中ではバオクゥは満足に戦えないだろう。光実も怪しいが。

一番危なっかしいのは兵藤だが、こいつは連れて行かないわけにもいかない。

 

「それじゃ、私は予定通りここで退路を確保しておきますね。

 セージさんもですけど、光実さんも取材させていただきたいので

 ちゃんとそろって帰ってきてくださいよ?」

 

初対面の俺に対してもそうだったし、兵藤に塩対応なのはああだったから

むべなるかな、ってとこだが。やけに光実に対してもバオクゥはフレンドリーな対応だった。

移動中に何かあったのか、単純な好奇心でつい聞いてしまった。

 

「……光実、なんかあったのか?」

 

「大したことじゃないですよ。彼女、こっちで呉島(くれしま)姓を名乗っていたらしいので

 そのことについて問い質したら……」

 

「使用料を踏み倒された挙句に、追加で請求されたって訳か」

 

「人聞きの悪い事言わないでくださいよセージさん!」

 

苗字勝手に名乗ってたのか。そりゃ、悪魔名で人間界で行動するのは中々に厳しいしな。

シトリー先輩だって一応支取蒼那って名乗ってるし、悪魔じゃないが薮田先生も言わずもがな。

大日如来様は芸名って側面もあるから同列に考えていいかどうかはちと、わからんが。

そのことを考えたらグレモリー先輩はなんなんだって気もしてくる。

 

とは言え、ここは沢芽(ざわめ)市じゃないとはいえよく呉島なんて苗字名乗ったな。

 

「そもそも、僕の一存で取材は応えられませんよ。

 僕個人ならともかく、ユグドラシル絡みの事はそれこそ兄さんに聞いてもらわないと。

 それに、一応僕も指名手配されてるんですから

 取材を受けるつもりは……」

 

そりゃそうだ。ユグドラシルが素直に取材に応じるとは思えない。

それどころか、取材結果を捻じ曲げる位は普通にやってのけそうだし、あの企業。

 

「とほほ……やっぱ無理ですか」

 

「相手が悪いと思うぞ。光実について聞く前に、ユグドラシルについて軽く調べたらどうだ?

 悪いが、俺も今それを喋ってる暇は無いが」

 

肩を落としながら、俺達を見送る準備を進めるバオクゥ。

言っちゃ悪いが、ここまで来た以上は先に進むしかない。

ここに白音さんがいるのは確定ではないし、この距離ではまだレーダーで捉えられない。

洞窟内部でレーダーが使えなかったらどっちみちアウトではあるが。

 

「そうだ。中に入る前にこれを渡しておかないと」

 

おもむろに、バオクゥは鞄の中から紙の筒を寄越してくる。

何かと思って広げてみると、どうやら地図のようであった。

 

「この先の洞窟の地図です。天野編集長――昔お師匠様やうららさん達と

 一緒に事件解決に向かった人なんですけど、その人から地図の写しを預かりまして。

 中で落盤とか起きてなければ、きっと役に立つと思いますよ」

 

「それは助かる、ありがとう」

 

パオフゥさんと一緒……って事は、周防警部とも一緒に行動していたって事か。

それは確かに信用できる……ってか、その時にもここに立ち寄る必要性があったって事なのか。

何が目的で立ち寄ったのかまではわからないし、今それは重要な情報じゃないが

こうして地図があるってだけでも捜索はかなりやりやすくなるはずだ。

 

ふと、兵藤を見るとやはり神妙な顔をしていた。

そこまでしてここに入りたくない理由……もしかして、鏡の泉か?

 

「兵藤。確かに俺の調べではここにある鏡の泉ってのは人の心を映し出すらしい。

 だが、この中に白音さんがいるかもしれないんだ。

 心を暴かれていい気がしないのはわかるが、行かないわけにはいかないだろう」

 

「それもあるけどよ……や、なんでもねえ。

 それより、てめえこそ心に疚しい物抱えてねえだろうな?」

 

 

…………ぐっ!!

 

 

こ、こいつ……時々こうして核心を突いてきやがる。

だがこのタイミングは最悪と言うより他ない。

こいつにだけは言われたくは無いが、全くのでたらめを言われている訳でもないのだ。

 

「…………心に疚しい物を抱えていない奴なんか、そうそういないだろ。

 もしかすると犯人は、そこまで踏まえて精神攻撃の一環で

 俺達をここに呼び出したのかもしれないし。

 いい加減、腹をくくって中に入るぞ」

 

後ろで「アーシアにも疚しいところはあるのかよ!?」って言っているが

言っちゃなんだが、アーシアさんとて例外ではないと思っている。疚しさの多寡はあれども。

まるで聖人君子か不可侵の聖域のようにアーシアさんを扱うのって

それアーシアさんの昔やられてたことの再現にも思えるがね。

それが嫌でアーシアさんは悪魔になった――と、解釈することにした――ってのに

自分を悪魔にする切欠の一人であろう奴が、まるで聖人君子のような扱いをするってのは

どうにもやるせないものを感じるがね、俺は。

 

鬼が出るか蛇が出るか。その言葉通りにしかならない現状ではあるが

俺達は、意を決して洞窟の中へと足を進めるのだった。

 

――下り坂の両端に立てられた松明と言う、明らかに人の手の入った洞窟の中に。




セージ達が洞窟に入った少し後。

見張りをしているバオクゥの前に、黒いボディにバーコードを思わせる鎧。
そして、身体や頭部に走るシアンのアクセント。
謎の存在が、バオクゥの前に立ちはだかった。


「…………何者ですか?」

「そうだな……強いて言うなれば『通りすがりの仮面ライダー』ってところかな」

バオクゥに立ちはだかるものは、シアンの銃を構え、マゼンタ色のカードを銃にセットする。

「君に恨みは無いが、君に洞窟の中に入られると厄介だからね。
 暫く、こいつと遊んでいたまえ。
 なに、一人で退屈そうだから暇つぶしの相手を呼んでおこうかと思ってね」

「……余計なお世話ですよ!」

バオクゥが砲台を構えるのと同時に、シアンの銃の引鉄が引かれた。


KAMENRIDE-SNIPE
SIMULATION GAMER!!

〈スクランブルだ! 出撃発進
 バンバンシミュレーションズ 発進!〉

光と共に召喚されたのは、紺色のボディにバオクゥと同じような砲台を全身に装備し
頭には白い軍帽を被ったようなデフォルメされたような赤い目に
蛍光グリーンの垂れた前髪を思わせる装飾。

それは、ある世界でこう呼ばれていた。


――仮面ライダースナイプ シミュレーションゲーマーレベル50。


――――


はい。と言うわけでディエンドでした。
しかもジオウ以降のネオディエンド。劇中2号ライダーしか召喚してないので
3号のスナイプは際どいところではありますがネオディケイドライバーが完全上位互換なのに
ネオディエンドライバーが相互互換(全ライダー召喚できるけどキバの世界までと、多分ゼロワンの世界まで召喚できるだろうけど2号ライダーだけ)というのも
考えにくいと思いまして、思い切って3号ライダー召喚。

……決してバオクゥとスナイプレベル50で艦これやりたかったわけではありません。
重巡と戦艦でちょっと分が悪いですけどね。

>ディエンド
珠閒瑠市は隔離されてるはずですが、こいつはこいつでオーロラカーテンに準ずる能力持っててもおかしくないし
なんなら珠閒瑠市が隔離される前から潜入してたって線もありうるし。
当初(本作構想時)登場予定には全く無かったので完全なライブ感で出した存在。
いくらセージにツッコミを入れる役とは言え、あまりやるとライダー大戦になっちゃうので扱いには気をつけたいところ。
ただでさえ……なところではありますが。
(ただ、この作品自体がハイスクールD×Dの二次創作と言うよりかは同級生のゴーストの続編としての意識の方が赤土的には強かったり)

この世界で狙うはずだったお宝は言及していませんが
「その世界にとって重要な役割を果たすもの」が大体海東が狙ってるお宝で
それが「ダメになった」と言及しているあたり、そのお宝は……

そしてそのお陰でヤンホモが本格参戦しそうなフラグ立ててしまっていたり。

>バオクゥ
元ネタは艦これでは現状重巡における神風型・睦月型枠なのに
戦艦クラスとガチバトルさせられそうな事態に。

なお持ってきていた地図は天野編集長――すなわち舞耶姉が昔マッピングしたもの。
ラディーンさんの依頼は超貴重な愚者のカードが貰えることもあってか果たしていたことになりますが
そうでなくともメガテン主人公ならマッピングはするよね……と。

>アーシア
イッセーの彼女に対する態度(特に序盤)ですが、これ昔アーシアがやられて
さらに掌返された、聖女ないし聖域扱いに近い物を感じるのは気のせいですかね。
やれ「アーシアには危険だから」「アーシアがそんなことをするはずがない」ってのは
昔教会のクソがやってくれたことと何が違うんですかね。
そもそも一人の人間としてアーシア見てたのと違うのか、と。

アーシアに限った話でもないんですが、イッセーって釣った魚に餌を本当にあげてないような……
キャッチアンドリリースするかその日のうちに捌くならともかく
餌やらなきゃ魚は普通に飢えるんですがね。捌いて食うにしても感謝の念は忘れちゃいけません。


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The fog cleared

――セージ達が岩戸山へと入っていった頃。

珠閒瑠(すまる)市鳴海区・ホテルプレアデス。

 

 

「イリナ! ようやく腰を据えて話すことが出来るな。

 この時をどれほど待ったことか……」

 

珍しく単独行動をとっていた紫藤イリナを、ゼノヴィアが捕まえることに成功したのだ。

思えば、紫藤イリナという少女も帰国してからこの方波乱に満ちた生活を送っている。

エクスカリバーの断片の回収を命じられ、ゼノヴィアと共に帰国。

その際ゼノヴィアが警察ともめ事を起こし、暫定的な身元引受人となる。

その後当初の任務に就くも、その際に神の消失を知らされ自暴自棄となり

心神喪失していたところを禍の団(カオス・ブリゲート)に攫われてしまう。

その後禍の団で活動を始めるも、当時同じく禍の団に所属していた聖槍騎士団の手引きで

布袋芙(ほていふ)ナイアの下に身柄が移され、彼女の使い魔となり、現在に至る。

 

最早、彼女にとって仕えるべきは布袋芙ナイアであり、理想とする兵藤一誠であるのだ。

教会や、天使と言ったものは敵ですらあるといえよう。

彼らがイリナを謀った――神の消失を伏せた上で信仰を強要していた点――について

謝罪をすることは永劫に無いだろうが、たとえあったとしても

彼女がその謝罪を受け入れることもまた、無いであろう。

 

それ位に、今のイリナにとって過去は「どうでもいいもの」だったのだ。

 

「……なに?」

 

「心配したんだぞイリナ!

 禍の団に下ってしまったかと思ったら、こうして無事に姿を見せてくれて……

 もう、禍の団から足は洗ったのか?」

 

若干辟易とした様子で、ゼノヴィアの質問に答えていた。

今の彼女の主であるナイアは、間の悪いことに教師としての仕事の最中であった。

だからこそ、こうしてゼノヴィアが話しかける隙が出来たという事でもあるが。

 

「そこはそうなるわね。今の私にとっては店長とダーリンこそが全部なの。

 あんな組織なんてどうでもいいわ。元々、天界に仕返ししたくて協力してただけだし

 それも今となっちゃどうでもいいし。

 

 本当なら私もダーリンと一緒に行きたいところなんだけど

 店長にそれは止められちゃってね。それに、ダーリンの迷惑にはなりたくないし」

 

「ダーリン? ま、まさか……」

 

イリナが心酔する相手。それはゼノヴィアの目線ではお世辞にも忠誠を誓うに値する存在ではない。

それならば、まだ人間を謀ったとはいえゼノヴィアの記憶の中にあるミカエルの方が

余程忠誠を誓うに値する存在だ。

 

「言っとくけど、いくらあんたでもダーリンの事を悪く言ったらアスカロンの錆にするわよ。

 そして、今の私にはそれくらいの力があるの。使い魔――いいえ、使徒になった私なら

 人間のあんたなんか軽く捻れる自信はあるわよ」

 

実際のところ、今のイリナはナイアの魔力を受けているだけで

イリナ自身が転生悪魔に準ずる存在になったわけではない。

アーシアの蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)と同様、使い魔は転生悪魔と違って種族が変わるわけではないのだ。

 

――そうした「他種族を自分と同じ種族に改造する・他種族を隷属させる」事こそが

悪魔に対する他種族のヘイトの原因の最たるものではあるのだが。

 

そんな彼女の言動に、ゼノヴィアは以前ほどでは無いがショックを受けていた。

確かにお互い知恵の回る方ではない自覚はあったが、ここまで「自身が人間であることをやめた」

風になるとは、ゼノヴィアとしても想定外だったのだ。

最悪の可能性は、思い描いていたにしても。

 

「……そうだ。ねえゼノヴィア。あんたも私と一緒に来ない?

 ダーリンの独り占めさえしなかったら、悪いようにはしないわよ。

 デュランダルだって今より強く、より使いこなせるようになれるわよ。

 店長、そう言う事に関しては物凄い手腕の持ち主なんだから」

 

ここに来て、イリナからのまさかの勧誘。

しかしそれは、あの得体の知れないナイアのものになるという事でもあり

ひいては、人格面で到底認めることのできない兵藤一誠のものになるという事でもある。

そうでなくとも、このゼノヴィアは「神の消失を知り、自棄を起こし悪魔となった自身の存在」を

目の当たりにしたわけではないとはいえ、知識として知っているのだ。

そうした行いは、彼女の居候先の家主であり、同じ元教会の戦士でもあった

伊草慧介(いくさけいすけ)の教えに背くことでもある。

彼からは、かつての同門であり先輩戦士であったシスター・グリゼルダから

しっかりと教わることの無かった「人間の誇り」を教わっている。

今のゼノヴィアには、人間として聖剣を揮い、人間を守るという確固たる信念がある。

その信念と、イリナの勧誘は相容れられないものである。

 

ナイアが尽くしている――いいように扱っている、と見えなくも無いが――

兵藤一誠は、そもそも悪魔だ。

そして彼には、人間であったことへの未練は既に無いと言い切っていい。

それほどまでに、悪魔であることの恩恵に賜っているのだ。

もっと言えば、人間の存在など悪魔の繁栄のための足掛かりにしか思っていない節すらある。

そんな存在に尽くすなど、ゼノヴィアには到底考えられないことだ。

 

「――バカなことを言うな! イリナ、もう二度とそんな悪い冗談を言わないでくれ!」

 

「本気なんだけど、私。ダーリンを知っちゃったら、もう普通の生活なんか満足できないわよ。

 私に言わせれば、今のあんたの方がよっぽど味気ない生活を送ってると思うわ。

 

 ……本当なら、あんたも私と一緒にダーリンのものになってたはずなのに。

 店長は、そう言っていたわ」

 

イリナのその言葉が引き金となり、ゼノヴィアは思わず拳をイリナの顔に向けていた。

自分があのようなものの慰み者に!? 冗談ではない!

 

「……冗談はやめてくれと言ったぞ、イリナ。

 まだ言うようなら、私にも考えがある……!!」

 

「……はぁ。やれやれ、本当にあんたは昔から頭が硬いんだから。

 ダーリンを知れば、この世界が間違ってるって事もわかるってのに。

 自分の考えに凝り固まって、世界の本当の姿を知ろうともしないってのは

 はっきり言って、バカのやることよ。

 

 でもまぁいいわ。そこまで言うんなら仕方ないわね。

 あんたの席は開けておくし、ダーリンもあんたが来るって聞いたらきっと喜ぶわ。

 だから、気が変わったらいつでも私か店長に話してみたら?」

 

言うだけ言って、イリナはゼノヴィアの前から立ち去ってしまった。

イリナからの勧誘。それは、かつてイッセーが歩んだとされる「虚憶」に基づくものであり

その概要を、ナイアから聞かされているという証左であった。

つまり、イリナはイッセーの虚憶を「知っていて」今の立場に甘んじているのである。

そしてそれは、今のこの世界に対する不満を

「この世界が間違っている」と言う形で発現させているのだ。

 

――それは、禍の団を始めとするテロ組織の在り方と何ら変わらない。

彼らはこの世界が自分の理想の世界でないのだから、世界を変えようと力を以て動いている。

イリナ自身は禍の団から足を洗ったとは言っても

彼女自身の本質は何一つとして彼らと変わっていなかったのだ。

 

(私があんな奴のものに……? バカな、あり得ない!

 それではまるで、かつて聞かされた世界の私ではないか!

 私は私だ、何であんな奴のものにならなければならないんだ!)

 

ゼノヴィアにとって、それはかつて聞かされた「異なる世界の自分自身」と被って聞こえた。

話に聞く限りでは、唾棄すべき思想を掲げていた。

それが自分自身のあり得たかもしれない姿なのだから、嫌悪感は殊更に酷いものであった。

 

さらに言えば、これはゼノヴィアにその世界でのゼノヴィアの在り方を教えた張本人も

与り知らぬ事なのだが、その嫌悪している兵藤一誠に対し

自分から強引に関係――それも肉体的な――を迫ったりもしていたのだ。

万が一、それをこの世界のゼノヴィアが知れば、たとえ他の世界の自身の事であったとしても

自害しかねない勢いであろう。それは自身にとって「あり得たかもしれない可能性」ないし

「どこか別の世界では実際に起きてしまっている」事なのだから。

 

(……私の事もだが、イリナ。君は本当にそれでいいのか?

 私に言わせれば、君こそ何も変わっていないぞ。

 今の君はただ、ミカエル様に対する信仰を他のものに挿げ替えただけじゃないか。

 それでは、ミカエル様に私達が騙されたように

 また同じように騙されてしまうかもしれないんだぞ……)

 

変わり果てた風に見えつつも、本質は何一つ変わっていないかつての同僚の姿に

ゼノヴィアはただ、心を痛めるばかりであった……。

 

 

――――

 

 

ホテルプレアデス・客室。

 

職員用として割り当てられたホテルの一室。

駒王学園の教諭としての役職も持っている薮田直人(やぶたなおと)は、ここで教諭としての仕事をしつつ

窓の外から珠閒瑠市の様子を眺めていた。

 

それと言うのも、数刻前に珠閒瑠市を覆っていた霧が突如として晴れたのだ。

それを皮切りに、外部との連絡や通信の送受信が可能となり

今は電話回線などの通信インフラに過負荷がかかっている状態である。

 

(絶霧が解かれた……? 目的が達成されたか、絶霧の持ち主に何かが起きたか。

 いずれにせよ、何事かが起こる予兆には違いありませんね)

 

そんな薮田が頻りに調べているネットニュースには

 

 

――フューラー・アドルフ、禍の団を脱退!?

 

――やはりネオナチだった! フューラーが新たに樹立した組織「ラスト・バタリオン」!

 

――フューラーの組織、珠閒瑠市で未確認怪生物と交戦開始!

 

 

と、禍の団・英雄派を語っていたはずのフューラーが「ラスト・バタリオン」と名を改め

未確認怪生物――アインストと本格的な交戦状態に突入しているというニュースが入っていた。

 

その戦いに巻き込まれないよう、周防克哉(すおうかつや)やパオフゥらペルソナ使いの他に

ギャルソン副島(そえじま)と言った腕に自信のある者達によって避難活動が行われている。

戦いの規模は、かつて珠閒瑠市で起きていた事件よりも大幅に拡大しているといえよう。

軍隊とは言え、一部隊に過ぎないラスト・バタリオンに対し

相手はクロスゲートから無尽蔵に湧き出す怪生物である。

さらに、そんな中でもJOKERは次々と現れているのだ。

 

……ただし、この状況下ではJOKERの回収は行われていない。

ただ、無差別殺人犯が大量に街中に放流されているのだ。

これもまた、かつて起きたとされる事件との相違点であった。

 

このホテル・プレアデスがある鳴海区もまた、そうした戦闘行為の影響下にあった。

先のギャルソン副島も、このホテルを中心に防衛を行っているような状態なのだ。

 

(本来なら、アインストやらJOKERと戦える私達が率先して動くべきなのでしょうが

 私はともかく、まさか学生をほぼ軍事行動であるラスト・バタリオンの戦いに

 巻き込ませるわけにはいきませんからね。

 絶霧の解けた今、珠閒瑠市には自衛隊もこぞって押しかけて来るでしょう。

 この分ですと超特捜課も来ることは容易に想像できますが……

 

 ……何故でしょう。嫌な予感がしますね)

 

考えを巡らせていると、薮田の携帯が突如鳴り響く。

発信者は超特捜課を指揮する立場にある蔵王丸(ざおうまる)警部であった。

発信者を確認し、電話に出る薮田ではあるが

電話越しの声は、かなり憔悴している様子であった。

 

『……博士、薮田博士、聞こえるか!?』

 

「ええ、聞こえていますよ。

 それよりどうしたんです? その声の様子ですと、ただ事ではなさそうですが」

 

『危惧していたことが現実になった!

 須丸清蔵(すまるせいぞう)の奴、公安使って超特捜課の戦力を接収しやがったんだ!

 せっかく南条から資金援助受けて完成した「G」もこれで奴らの手に渡っちまった!

 他にも神器持ちの安玖も、「G」の操縦適正持ってる氷上も公安に移転させられた!

 ギルバート博士は雲隠れしちまうし、俺一人じゃ霧島達を逃がすだけで手一杯だった!

 博士の所にも公安の連中が来るかもしれねえ! 十分に気を付けてくれ!』

 

蔵王丸警部からの電話では、超特捜課の戦力が接収されたという話であった。

これが事実であるならば、指揮系統が単純に変わるだけと言う話ではない。

この状況下で、ノウハウが引き継がれないまま指揮系統が変わるというのは危険である。

 

(……思ったより、須丸清蔵という人物は俗物のようですね。

 いえ、今公安を指揮している人物が俗物と言うべきかもしれませんが)

 

蔵王丸警部からの電話を切って間もなくと言うタイミングで、客室のドアが乱暴に叩かれる音が響く。

その下品な音に辟易としながらも、薮田は警戒しながら応対に赴いた。

 

「……どちら様ですか?」

 

『警視庁公安部だ。薮田直人博士だな?

 警視庁超特捜課は、我々公安部の管轄下に組み込まれることとなった。

 薮田博士にも招集令状が出ている。我々と来てもらおうか』

 

やはり来たか、という感想しか薮田には湧かなかった。

彼の持つ本当の力を使えば、この事態を解決は出来るだろうが

それは彼の在り方に反する事であり、そこまでしては彼がここまで来た意味が無い。

しかし、公安に身柄を拘束されるというのも、彼の望むところではない。

 

「駒王学園の教師と言う側面から、お断りします。

 予め言っておきますが、駒王学園は治外法権が認められていましてね。

 駒王学園の教師としての籍も持っている私の身柄を預かりたいのでしたら

 まず駒王学園の理事長に話を通していただけますか。

 超特捜課への協力は、そもそも駒王学園の教師としての私が

 外部協力者として名乗り出ただけの話ですので」

 

ここに来て、薮田は嘘では無いが本当でも無い話を持ち出したのだ。

駒王学園の教師としての籍。これは当然持っている。

超特捜課へは外部協力者として参加していた。これも事実である。

駒王学園の治外法権。これはかなりグレーの話だ。

ただ、いつまでたっても警察の足が鈍い兵藤一誠らの目に余る行為や

リアス・グレモリーを始めとした一部生徒の特権。

義務教育の教育現場ではないとはいえ、国が定める教育方針からはかなりかけ離れた授業。

これらをして、薮田は「駒王学園には治外法権がある」と言ったのだ。

駒王学園に限らず、おおよその学校――特に私立校――は治外法権もかくやと言う

学校独自の風習が息づいているところも少なくは無いが。

 

しかし当然、こんなその場しのぎのでたらめが通じる相手ではない。

薮田もそれは理解していたので、それっぽい事を言っている裏で

神器(セイクリッド・ギア)である「創世の目録(アカシック・リライター)」を稼働させていたのだ。

 

『現在は厳戒態勢下である。我々には強制的に招集が行える権限が与えられている。

 よって、駒王学園に対する説明は、それを必要としない。

 もう一度言う。薮田直人博士、公安部への出頭を命じる』

 

(……まるで逮捕状ですね。ここまでして戦力を集中させたいとは

 余程永田町も現状を恐れているという事ですか。

 国民を、人々を守るという目的ならばまだ許せますが

 あの様子では間違いなく、接収そのものが目的でしょうね。

 

 ……ならば、従う理由はありませんね)

 

創世の目録の力で、客室はまるで最初から誰も入っていなかったからのような姿へと早変わりし

薮田もまた、自身の転移能力でどこかへと姿を消した。

 

反応の無くなった部屋を不審に思った警察が部屋の中に入るも

既にそこはもぬけの殻であり、彼らは薮田に出し抜かれたことをようやく悟ったのだった。

 

 

しかし、これは始まりに過ぎなかった。

薮田に対し公安が動いているという事は、指名手配ないし重要参考人とされている

六人の少年少女の身柄を確保すべく、珠閒瑠市の外から

人員が入り込んでいるという事に他ならないのだから。

 

 

(彼らがここに来たという事は、リアス君らの所にも公安が来ている可能性もありますね。

 彼女らの身柄が公安に拘束されては、面倒なことになりかねません。

 こうなった以上、当初の予定とは大きく外れますが

 彼女達を連れてアラヤ神社に向かった方がよさそうですね)




以前触れたイリナとゼノヴィアの確執にようやく触れられました。
遅きに失した感はありますが。

>イリナ
元々空っぽで自暴自棄になったが故に禍の団に入ってました。
そこに(理想の)イッセーを宛がったために欲望の器が満たされて
イッセーに心酔。イッセーと言うよりは、引き合わせてくれたナイアに心酔してる節もありますが。
ただ、これも「自分の欲望を満たす対象」としてしかイッセーを見ていないので
万が一イッセーが自分の欲望を満たすに値しない存在だった場合
あっさりイッセーを切ってナイア一筋になりかねない危険性も。

彼女もナイアからイッセーの虚憶(原作の展開)を知らされており
「そっちの方が面白そう」と協力していたりします。
そりゃ、救いも何もない世界よりはどんなご都合主義でも救いに満ちた世界の方がいいって人、いますからね。
ただ、それは見方によっては現実からの逃避なので……

>ゼノヴィア
最高な人に師事したり、別の世界の自分と組んでいた人のお陰で
身を持ち崩さずに済んだ人。イリナの勧誘もあっさりと跳ね除けてます。
更衣室でイッセーを襲おうとした人なんかいなかったんや。
ただ、そのお陰で身を持ち崩してしまった友人と訣別せねばならないフラグが立ってしまいましたが。

その友人は(本人的には)善意で勧誘してくるから猶更つらい。

>ラストバタリオン
オリジナルの聖槍が手に入った瞬間アインスト撃退に乗り出してます。
この辺、原作と異なり禍の団がはるかに規模がでかくなっている&対抗組織が少ないので
いつの間にやら原作で三大勢力が担っていたであろう対禍の団の行動をとってしまっている形になります。
まあ、首魁が「アレ」ですので。ただ聖槍騎士団のキャラ元ネタ的には
他国とは言えようやく「人を守る軍艦」の役割を果たせているのは皮肉。

英雄派? 完全に吸収されてますが何か。
英雄派が大人しく旧魔王派とかクリフォトに従うとは思えませんし。
と言うか猫も杓子もDCだった旧シリーズのスパロボの方が
余程その辺のすり合わせしっかりしてたような。

>超特捜課
敵対フラグ入りました。セージの「6人目のD×D」は完全にこの前振り。
しかも折角完成したゲシュペ……げふんげふんも持ってかれています。
南条君が資金援助してくれたってのに。
そしてタイミングが悪いことに珠閒瑠市の隔離が解除されてる。

援軍のはずが、とんでもないことになるやも。


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Will35. 遥かな忌憶の彼方より

岩戸山の洞窟に入るなり、外が妙に騒がしい気がしたが、ここで引き返すわけにもいかない。

バオクゥは戦闘は本職では無いが、ここは彼女を信じて先に進むしか無かろう。

そう考え、俺達は洞窟を奥へと進むことにした。

 

ひっそりと静まり返った、どこか神秘的な雰囲気も湛えた洞窟の岩壁。

坂道を照らしている松明や立て札の存在が、ここに人が入った事のある証左になっている。

やはり、鏡の泉と合わせて何かしらのパワースポット的な存在だったのだろう。

それが、噂の力で「心を映し出す力を持つ」なんてなっている――

 

考えられるカラクリは、そんなとこだと思うが。

 

「……ひ、ひっそりとし過ぎてて、逆に怖いです……」

 

「ギャー助。洞窟が静かなのは当たり前だろ」

 

蝙蝠に化けて洞窟内部を偵察しているギャスパーが独りごちる。

洞窟に蝙蝠って時点で凄く似合いすぎているが、そんな姿で怖いといわれても

全く説得力が無い。鏡見ろ。吸血鬼は鏡に映らないかもしれないけど。

 

「ですが、僕達を待ち構えているにしては確かに静かすぎますね」

 

そうなのだ。まだ歩き出してそれほど経っていないが

はぐれ悪魔にも、デーモン族にも、アインストにも出くわしていない。

ロックシードを持ってさえいれば一般人でも能動的に呼び出すことのできる

インベスでさえも、だ。

 

光実(みつざね)の指摘に、これは俺の早合点だったかと考えだしたところで

俺達の目の前に立て札が現れる。どうやら、この先が鏡の泉らしい。

 

「……一応、言っておく。

 何が映し出されても、必要以上に追求するのはやめにしないか?

 なんてことも無い事を映し出されるか、嫌なものを映し出されるかは

 何とも言えないのだし」

 

「あ、ああ。そうだな。珍しく意見が一致したじゃねぇか」

 

俺の提案に、兵藤が賛成する。正直、こいつの賛成を貰っても

逆に何かあるんじゃないかって疑いたくなるが……

それ以上に、俺があまり追及されたくない。

兵藤がどうこうじゃなくて、完全に自己保身だ。少し嫌になる。

それっぽく纏めて言ってるが、保身に走る口実ってのがなんとも……

 

……ここ最近、自分の事が嫌になってばかりだな。

 

「……じゃ、先に進むぞ」

 

意を決して、俺達は鏡の泉の前に立つことになった。

 

 

――――

 

 

泉が映し出したのは、何処かの街。雰囲気的には、沢芽(ざわめ)市に近いだろう。

その中で、龍玄(りゅうげん)――光実が見たことも無い黒いアーマードライダーと対峙している。

 

 

黒いアーマードライダーがおもむろに変身を解くと、少女の姿になる。

どうやら、何かしらの方法で無関係の人物を洗脳して戦わせているようだ。

完全に人質になっている。

 

どうすることもできないのか、光実は変身を解き、少女の隣にいた

黒いイナゴの怪物にいいようにやられている。

 

「あ、あのままじゃ光実さんが!」

 

「落ち着けアーシアさん。あれは映像だ」

 

映し出されている映像にどうにもできないのはわかっているが

確かにこれをどうにかできないかと思っていると

光と共に、白銀の鎧を纏った金髪の青年が現れた。

 

……その光ってのがリンゴみたいな形をしていた事には、まあ触れないでおこう。

 

青年の力で、イナゴの怪物は倒され、人質にされていた少女も解放された。

さらに、青年は見たことも無い白銀の南蛮鎧を思わせるアーマードライダーに変身。

 

 

――一緒に戦おうぜ、ミッチ!

 

 

青年の声に応えるように再び龍玄に変身した光実と共に

黒いアーマードライダーを撃破したのだった。

 

 

紘汰(こうた)……さん?」

 

「知っているのか? 光実」

 

 

映像が終わると、光実は懐かしいものを見たかのように目に涙を湛え

ふと、聞きなれない名前を呟いていた。

 

「え……? いえ、僕の知り合いに紘汰って人は……いない……はず……なんですけど……

 でも……忘れちゃいけない……よく知っている……一体、これは……?」

 

映し出された映像に、光実は混乱を隠しきれていない。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を向けるべきだったかと悔いても、仕方がない。

一応、カメラ越しでも記録や読み取りは出来るが。

 

「……虚憶(きょおく)、だと思うぜ」

 

「虚憶、だと?」

 

「ナイア先生が言ってた。ここじゃない、どこか別の世界で自分じゃない自分が経験した記憶。

 俺もよくわからなかったけどよ、確かにあった事なんだと思うぜ。

 実感湧かねぇけどよ、前世の記憶がなんたら~って奴みたいなもんじゃね?

 部長の部屋にあった古い雑誌に、よくそういう投稿が載ってたぜ」

 

兵藤がやけに饒舌に語る。

……ん? 布袋芙(ほていふ)先生に虚憶とやらに教わったのはいい。その機会はいくらでもあっただろ。

だが問題は、こいつどのタイミングでそんなピンポイントな情報を得たんだ?

まさか……やっぱりこいつ、ここに来たことがあるんじゃないか?

その時に自分の虚憶を見て、それで布袋芙先生に教わった……ってとこか?

 

「じゃあ……今映し出されていたのは……」

 

「……ある意味、心を映し出したってところか。

 ただ、その映し出した心はどの世界の自分の心かまるっきりわからないってところだが。

 しかし前世とは大きく出たな。まさか前世もお前は兵藤一誠で

 こんなような出来事を体験してたってのか?」

 

「実感が湧かねぇつったろ」

 

正直、俺は兵藤についてどこまで知っているのか問い質したいところだった。

だが、今はそんなことをしている場合じゃない。

いきなりガツンと情報で叩かれたが、当初の目的を果たすのが先だ。

白音さんの救出。それを果たしてからでもこいつを問いただすのは遅くあるまい。

 

……が、虚憶について一応検索だけ軽くかけてみるか。

 

 

ERROR!!

 

 

……ダメか。文字化けも何も出ない、エラーとだけ返されるって事は

やっぱり、他の世界にまつわることなのかもしれない。となれば開示には禁手(バランスブレイカー)が必要だが

それこそ今そんなことをしている場合じゃない。

とんでもない謎を残してくれたが、優先順位をはき違えるわけにはいかない。

 

「あっ! 泉の映像が……!」

 

アーシアさんの言葉で泉に向き直ったときに映し出されていたのは、何処かの教会だった。

そこで対峙しているのは……兵藤と天野さん? ……いや、レイナーレか。

これは……兵藤の過去か? それとも、俺の……?

 

兵藤が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)でレイナーレを倒す。ここまでは俺の記憶通りだ。

そしてその後、俺がブチ切れて兵藤の体を勝手に使ってレイナーレを半死半生にしたんだが

その事件が起こる前に、グレモリー先輩がレイナーレを消し飛ばした。

 

 

……なに? こんな顛末だったか? それとも兵藤の中ではこう記憶が改竄されているのか?

いや、そんなはずはない。そもそもレイナーレはまだ生きている。

この時にレイナーレが消えては、現実と齟齬が起きるどころの話じゃない。

 

アーシアさんも首を傾げている。

俺が話した顛末と、今映し出されている顛末が食い違っているのだ。

そりゃあ、あの時は怒りで前後不覚だったから多少の記憶の混乱はあったかもしれないし

そもそもあの時、俺の記憶混乱してたもんな。

この時の顛末をよく知らないギャスパーや光実は、アーシアさんとは違う意味で首を傾げていた。

 

「……本当なら、セージが横槍入れなくとも部長がレイナーレを消して

 めでたしめでたし、だったはずなんだ」

 

兵藤の言ったことが気になるが、深く追求するのはやめようって言った矢先だ。

舌の根も乾かないうちに問い質すのはよくない。

 

……にしても、黒幕消して大団円、ねえ。

今思えば、レイナーレもディオドラの掌の上だったかもしれんが。

まあ、自分の汚点を消すのに他人に頼ってる時点で俺はどうかと思うがね。

満身創痍だったとはいえ、赤龍帝の籠手って武器はあったはずなのに。

……なんなら、俺がやったみたいに暴走させてもよかったんだし。

ま、それは悪手も悪手ではあるが。

 

などと考えていると、映像はさらに移り変わった。

 

 

今度は……ライザー・フェニックスとの戦いか。

だが、これも俺の記憶とは全く顛末が違う。

あの時、俺は間違いなくライザーと聖水のプールに自分諸共飛び込むことで

聖水漬けにして、強引に勝利をもぎ取ったはずだ。

それなのに、ここではグレモリー先輩が投了(リザイン)している。

その後、結婚式典に兵藤が乱入する形でライザーを下したのだ。

 

……決まり事を後から台無しにするのって、どうなんだろうね。

俺は事情を知っているからノーコメントを貫けるが

事情を知らない人から見たら、これって重大なルール違反だと思うんだが。

実際、光実はすごい怪訝な顔をしている。

一応、事の顛末をかい摘んで説明したが。

 

「……これ、少なくとも僕にはきちんとした取り決めを

 後から力業でふいにした、って風にしか見えないんですが」

 

「安心しろ光実。俺の記憶では、こんなことは起きてないし

 兵藤だってそんな約束破りなんて不誠実な真似をしていない」

 

俺の一言に、兵藤が少し不機嫌そうな顔をしているが……俺何か言ったか?

今映し出されているのは、この世界で起きた事じゃないだろ。

言っちゃなんだが、お前とも無関係の話のはずだ……だよな?

 

そうじゃないとしたら……これは、混乱による記憶の改竄なんてもんじゃないぞ。

クロスゲートの向こう側にあるかもしれない世界の出来事、って言った方が

まだ納得できるレベルでの改竄が起きている。

 

鏡の泉は、心を映し出す泉じゃなかったのか?

これが心だとしたら、現実改変なんてレベルじゃないぞ……?

まさか本当に、前世の記憶だとでもいうのか……?

こんな、クロスゲート超えた先の世界って言った方が納得できる話がか?

 

俺が疑問に思っている間にも、映像は変わっていく。

今度はコカビエルとの戦いだ。ここはあまり変わらないが……

 

「そう言えば、さっきからセージさんがいませんね?」

 

「一番最初の時は、イッセーさんに取り憑いているって思ってたんですけど

 それ以降はそうでもなかったはずなので、それなのにセージさんがいないってのは

 やっぱり……」

 

光実とアーシアさんの指摘で、凄く根本的なことに気づいた。

 

 

――俺がいない!

 

 

映し出されている映像には、どれも俺がいないのだ。

兵藤は赤龍帝の籠手を発現させ、ライザー戦では禁手にも至っているようなので

使いこなせていない、なんてことは見る限りではなさそうだし

このコカビエル戦でも祐斗は聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)を手にしている。

 

ただ、俺の存在だけがごっそり抜け落ちているのだ。

いや、もう一つ抜け落ちているものがある。超特捜課だ。

まあ、これは接点が無いって理由で映し出されていないだけの可能性もあるんだが。

 

その後も映像は流れていき、神仏同盟とアインストのいない駒王学園での会談。

身に覚えのないシトリー眷属とのレーティングゲーム。

そして何故だか北欧神話の来日の警護に就いているオカルト研究部。場所も沢芽市じゃない。

そんな中でも、覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)での暴走は起きているが……レーティングゲーム空間だ。

駒王町を消し飛ばしかねない状況ではない。

 

あまりにも、あまりにも俺の記憶と違いすぎる。一体これはなんなんだ!

 

 

「……これは、少なくとも俺の心じゃないな。俺の記憶にも、心にもあんな出来事は無い」

 

「……いや、あれが正しい歴史なんだ。俺も最初は……」

 

言いかけた兵藤が、はっとした表情で口をふさぐ。

今の口ぶり……こいつ、やはり本当はここに来たことがあるんじゃないのか?

とは言え、深く追求しないといった手前こいつに問い質すこともできないが。

 

「……お前の虚憶、とやらか。あの場に光実や俺がいなかったり

 大なり小なり変化が起きているのは、この世界じゃない別の世界に

 生を受けたお前が経験したことか。

 確かに、クロスゲートなんてもんがある以上、そう言う出来事も起こりうるか。

 

 ……だがな兵藤。俺の所見だが、今映し出された虚憶とやらが

 何もすべて正しいとは思えんぞ。

 まして前世の記憶だとして、それをバカ正直に信じるのも流石にな。

 少なくとも、今あるものを否定してまで不確かな虚憶に縋るのは、どうかと思――」

 

「お前に何がわかるんだよ!! 俺はな、虚憶の中ではハーレムも持てて

 魔王様にも認められて、平和を脅かす悪い奴らも撃退出来て

 何不自由なく過ごせていたんだ!! 今なんかよりずっとな!!」

 

言い終わる前に、物凄い剣幕で兵藤にまくし立てられた。

そりゃ、夢みたいなものを「自分が経験したことです」なんて言われて

現実とのギャップに苦しまない方が無理があるとは思う。思うが……

 

……今を、生きてる世界を蔑ろにしていい理由にはならない。そう俺は思うんだがね。

それに、前世の記憶だとしても……結末が同じになるとは、限らないじゃないか。

現に、お前の言い分だと前世にいない光実や俺がこうしている訳なんだし。

 

「あの……そ、そろそろ先に進みませんか?

 まだ、洞窟は続いてるみたいですし、何より……」

 

「……ん、そうだな。虚憶だ前世だ並行世界だ、そんな話をしに来たんじゃない。

 指摘ありがとうよ、足止めさせてなんだが先に行こうか。

 あんまり、白音さんを待たせるのもよくない」

 

ギャスパーの指摘通りだ。そんな途方もない話をしにこんなところに来たわけじゃない。

要らん足止めを喰らうよりも、さらに先に進んだ方がいいだろう。

まだ洞窟は奥に続いてるみたいだし。

 

 

――――

 

 

鏡の泉を抜けた先に、何か宝物を隠しておくような、そんなタイムカプセルじみた

古びた箱がぽつんと置かれている小部屋のような空間があったが

当然のようにそこには何もなかった。

多分、昔ここで遊んでいた子供が何か隠したんだろう。

こんなところに隠すってのは、よほど大事にしたいものか……

もしくは、誰の目にも触れられたくないものを隠したか。

ま、俺はその子供じゃないからわからないし

本当にそんなことがあったのかどうかは知る由もない。

 

奥に進むにつれ、洞窟も入り組み始めてくる。

しかし、やはり何かが出てくる気配は一向にない。

敵がいないのはありがたいが、それだけに不安になる。

まして、さっきあんなものを見せつけられては。

 

「……本当に何も出てこねぇな。気味が悪いぜ」

 

「レーダーにも何も反応は無い。場所が場所だから効かないだけかもしれないが」

 

敵が出てこない、ただ静まり返った洞窟の中を進んでいくだけと言う状況。

音と言えば、俺達の足音か鍾乳石から滴り落ちる水滴か。

これは、この奥に犯人がいるとなると精神的に摩耗したところを狙う魂胆だろうな。

願わくば、白音さんだけ見つけて犯人の対処は後日改めてと行きたいところだが。

 

 

だが、そんな俺の気持ちを嘲笑うかのように二つ目の鏡の泉が現れた。

確かに、バオクゥから貰った地図には四つ、泉があるとされているが。

 

……さっきみたいなのを、あと三回も繰り返すのか。

これは確かに、精神を摩耗させるのが目的かもしれないな。




虚憶絡みは本当に話がややこしくなる……

>最初に映し出された映像
TV版鎧武最終話です。一話で群雄割拠してる場面とどっちにしようかと思いましたが
まあ、こっちの方が虚憶の解説にはいいかなと。

そしてこの世界ではミッチは「紘汰の事を知らない」はずなのですが
こうして虚憶には映し出される。

この世界の鎧武、かなり歪な設定なんですよね。
ユグドラシル関係は中盤なのだけど、紘汰も戒斗も舞もいない。
この3人がいない=最終話後のはずなんですが……
DJサガラが普通に動いている事を考えるとやっぱり何かありそう。

とりあえず黒ミッチ全盛期を映し出されなくてよかったね。

>虚憶
改めて調べてみると、メタ発言をそれっぽく言ってるだけかと思ったら
前世だの輪廻転生だの破界と再世だの……
本当にややこしすぎるので、とりあえず原作イッセー=拙作イッセーの前世、と
OG感覚での虚憶だとなることになりますね。

まあ、アーリィさんの世界は原作世界とはまた違いますし。
拙作世界よりは原作よりですが。

実はすでに虚憶こそが真実と言う説への反論である
「イレギュラーが存在している」が言及されてるんですよね。
そりゃあ、イッセーもセージを目の敵にするわ。

と言うか、前世を真実だと思い込むって
それイシュキックで既に通った道……
まあ、イッセーがイシュキックなんざ知ってるはずもありませんし
なんなら虚憶ってワードを初めて使ったユーゼスでさえ……
あのユーゼスは殊更にポンコツでしたが。

>鏡の泉を抜けた先の小部屋
不死鳥戦隊のお面(或いは何か札)が隠されていた場所。
実は初プレイ時に赤だけ回収し忘れてアポロ不在だった思い出。
流石に時を経ているので、ここには何もないですし
セージ達もここで何があったのかなんて知りません。


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A dear and abominable memory. Aパート

――宮本家。

 

珠閒瑠(すまる)市の騒動は遠く離れたこの駒王町にも伝わっていた。

ましてや、家族が珠閒瑠市に赴いているのだから

その心理的影響は計り知れない。

 

「……まさか、合同学習で行った先であんなことになるなんてねえ。

 セージもだけど、白音ちゃんは大丈夫?」

 

「白音も猫魈(ねこしょう)にゃん。ちょっとやそっとで、どうにかなるほど

 柔な育ちはしてない……はずにゃん。

 それに、セージもついてるなら大丈夫にゃん」

 

言葉とは裏腹に、黒歌の声には不安が多く含まれていた。

何せ、彼女は白音が体がそれほど強くないことを知っている。

そんな白音を守るために、一度は妖怪でありながら悪魔に身を窶したのだから。

セージもついている。そう言い聞かせることで、なんとか納得させようとはしていたのだが。

 

「……でも、未だに実感がわかないわ。

 まさかセージが、とんでもない力を持っていて

 テロリストとも渡り合えるほどの可能性を秘めているだなんて。

 

 ……そりゃあ、昔一度だけ大喧嘩してくれたことはあったけれど」

 

「へえ。そういう方面でもやることはしっかりやってるにゃん。

 逆にちょっと安心したにゃん」

 

思わぬセージの母の告白に、黒歌はともすれば茶化すような口ぶりではあったものの

感心の意味合いも込めて、思わずつぶやいていた。

 

「その話、詳しく聞いてもいいにゃん?」

 

「……ごめんね? これはセージ自身があんまり言いたがらない事でもあるし

 本人のいない場所ではちょっと、ね」

 

本人に口止めされているのか、セージの過去について

この場ではこれ以上語られることは無かった。

しかし、それについて黒歌はセージの母を責めるでもなく

寧ろ「誰しも脛の傷の一つや二つくらいあるわよね」と、気にも留めなかった。

本人にも脛に傷があるのだから、当たり前と言えば当たり前ではあるのだが。

 

 

――しかし、今その脛の傷が暴かれようとしているのであった――

 

 

 

――――

 

 

 

――岩戸山。

 

 

二つ目の鏡の泉を前に、セージ達一行は中に入るのをやや躊躇いがちであった。

しかし、ここを通らなければ先に進むことはできない。

確信は無いが、ここに白音がいるかもしれない。

以上の理由から、この先に進まざるを得ないとして、意を決して泉の前に立つこととなった――

 

 

 

 

――光と共に現れた光景は、何処か古さを感じる宮本家の風景。

家の前には、老夫婦とやや年のいった女性がおり、その女性の影に

幼い少年が隠れている。

 

(あれは……母さんに爺さん、婆さん……間違いない、俺の記憶だ!

 しかも……身に覚えのない記憶じゃない! これは……)

 

向かい合う先には、少年よりはいくらか年上の少女がいる。

周囲に大人がいないところを見るに、一人で宮本家を訪ねてきたのだろう。

 

「――今度、隣に越してきた牧村です!」

 

「あら、えらいわねえ。一人で挨拶しに来たの?

 ほら、セージ」

 

祖母に促される形で、おずおずと母の影から前に出るセージ。

この頃のセージは、神器(セイクリッド・ギア)が無い事は当然の事ながら

その引っ込み思案からうまく周囲に溶け込めず、友達どころかいじめの標的にされがちであった。

本人もそれを幼いながらに学んだのか、一人遊びに耽ることが多かったのだ。

 

「み、みや……みやもと、せいじ……です」

 

「セージ……セーちゃんね! 私は明日香。牧村明日香(まきむらあすか)、よろしくね、セーちゃん!」

 

挨拶が済むや否や、おもむろにセージを手を取り、遊びに出ようとする明日香。

越してきたばかりで土地勘が無く、近くの公園を紹介されることとなり

二人で公園に遊びに行ったのであった――

 

 

「これも……セージさんの虚憶(きょおく)、ですか?」

 

「いや。これは身に覚えがある。小さい頃のこととはいえ、忘れるものか。

 初めて……姉さんに会った日だ」

 

先ほど光実とイッセーの心を映し出したものとは違い

今回は「当人が確かに経験したこと」を映し出したのだ。

とは言え、その証言は本人のもののみであるのだが。

 

「ほんとかよ? 姉さんって確か、いつだったか病院で……」

 

「ああ。その姉さんだ」

 

セージがまだイッセーに憑依せざるを得なかった頃

病院に入り込んだ先で偶然出くわしたことはある。

しかし当然、向こうにしてみればイッセーしか視認できなかったのだから

その時にセージと会った、と言う認識は全くない。

 

「この時からあんな美人のお姉さんと面識があったのかよ……やっぱリア充だろお前!」

 

イッセーのやっかみにも、セージは何も言い返さず沈黙を返すのみである。

相手をするのが面倒なのか、或いは過去に思いを馳せているのか。

いずれにせよ、色々と複雑な事情を超えた先に今があるという事もあり

これ以上、セージとしては詮索してほしくなさそうではあった。

 

 

そうこうしているうちに、映像はめまぐるしく変わっていく。

その光景は、幼き日のセージと、明日香が共に遊ぶ姿。

セージが小学校に入り、進級をしていきながら明日香とは毎日のように遊んだり

学校の宿題を見てもらったりしていたのだ。

 

「そうだ。これが虚憶でないことを示す証拠がある……

 ……これだ」

 

セージはおもむろに懐から生徒手帳を取り出す。

その中には、忍ばせるような形で明日香と共に撮った写真のシールがあったのだ。

青い帽子をかぶった雪だるまのキャラクター――ジャックフロストが描かれたフレームの中に

幼き日のセージと明日香が、並んで写っている。

 

確かに、鏡の泉が映し出した光景の中にも二人で並んで写真撮影機に入り込んだ映像があった。

二人ともそこそこに背はあったので、子供だけでもなんとかなったのだ。

元来セージは好奇心のある性格だったらしく、それが明日香との出会いで刺激されており

明日香当人もまた、セージを引っ張る位には行動力があったのだ。

 

「あ、確かに並んで撮ってますね。

 でもセージさん、これくらいの年からこんなことしてたなんて……進んでますね」

 

「…………姉さんと一緒なら、何でもできると思ってたんだ」

 

ちょっとだけ茶化すようなアーシアの言葉にも、セージは感慨深そうに語るのみであった。

その様子にただ事ではない事を察したアーシアは、慌てて謝るが

セージは別段気に留めている様子もなさそうであった。

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

「悪気があっての事じゃないなら、別にいいさ。

 ……そう。確かに、姉さんには色々なことを、世界を教えてもらった。

 

 ……あの時も……」

 

 

再び映像が移り変わると、そこは公園で遊ぶセージと明日香の姿。

二人で、何やらおまじないのようなものをしようとしているのだが――

 

 

「そうだセーちゃん。セーちゃんは将来の夢とか……ある?」

 

「うん。お姉ちゃんといつまでも一緒にいたい! お姉ちゃんに似合うような人になりたい!」

 

無邪気に応えるセージだが、対する明日香の方は少し神妙な顔をしていた。

思わず「変なこと言った?」と聞くセージに明日香は意識を現実に戻される。

 

「あ、ご、ごめんね? ちょっとボーっとしちゃってた。

 そっか、私と一緒にいたいんだ。なんだかお姉ちゃん嬉しいな。

 じゃあ、そんな自分になれるかどうか確かめてみる方法があるんだけど……やってみる?」

 

明日香の提案に、将来を知るという恐怖心はあったもののすぐに好奇心が上回り

セージは明日香の提案に乗る形になった。

 

「――『ペルソナ様』って言うんだけどね。

 これをやると、将来の自分を知ることが出来る……って聞いたことがあるの。

 でも、これ一人じゃできなくて……セーちゃんと一緒なら、できるかなーって」

 

明日香が聞いていたやり方を教わるセージ。いざ試してみようとするが

ここでセージがふとあることに気づく。

 

「――ねえお姉ちゃん。これ、出来なくない?

 だって『ペルソナ様、ペルソナ様、お越しください』って言いながら

 隣の人にタッチするんでしょ? お姉ちゃん、誰にタッチするの?」

 

「だから不思議なのよ。私の聞いたやり方だと、四人でやってたけど

 それだって最後の一人は誰にもタッチできないじゃない?

 それなら、最後の一人はタッチする必要が無いって事じゃない?

 だったら、二人でもできるかな、って。

 

 で……セーちゃん、やる?」

 

明日香の提案に頷き、セージ達はペルソナ様遊びを始めたのであった。

二人だけで行うそれは、二人だけの不思議な儀式のような雰囲気を醸し出しており

言葉に言い表せない雰囲気を醸し出していたのだ。

 

 

「……『ペルソナ様遊び』。そうか、俺ここでやってたのか。

 だから、あの時フィレモンは……」

 

「なあセージ。ペルソナ様ってなんだよ?」

 

イッセーの質問にセージは「話すとややこしいし、長くなる」として応えようとしない。

ただでさえ虚憶などと言うややこしい話が出たばかりだ。

これ以上、ややこしい話をするのも憚られる。

 

「じゃ、後でナイア先生にでも聞いてみるか」

 

「いや、それは……」と、喉まで出かかるがそれを口に出すことは無かった。

布袋芙(ほていふ)ナイアがニャルラトホテプだというのは、ほぼ間違いない話なのだが

そのニャルラトホテプがどう自分達に悪影響を及ぼしているのか。

それを少なくともイッセーは知らない。

セージとて、ニャルラトホテプの話は周防(すおう)兄弟から聞いた程度なのだ。

断片と対峙している事こそあれど、本格的にニャルラトホテプと戦っているわけではない。

一応、まだ自分たちの主たる敵は禍の団(カオス・ブリゲート)――アインストであり、インベスであり、デーモン族なのだ。

セージの場合はそこにサーゼクスを筆頭とする四大魔王が入る形になるが。

 

 

幼き日のセージ達がペルソナ様遊びを終えたところで、映像は終わった。

しかし、まだ洞窟は先に続いている。白音はいない。

まだ、先に進まなければならないのだ。

 

光実(みつざね)とイッセーが映し出したのは虚憶で、俺のは言わば実憶……

 この違いは、何か意味があるのか……?)

 

鏡の泉が映し出した光景。

それは、実体験を伴わない虚憶であるのか、それとも物的証拠を伴った実憶なのか。

どういう仕組みかもわからない以上、調べることもできない。

 

(せめて、どういうメカニズムかわかればやりようもあるのかもしれないが……

 こうなったら、やはり禁手(バランスブレイカー)で――)

 

そう考え、セージは思い切って禁手を発動させようとするが

それはアーシアによって阻まれてしまった。

 

「待ってください。もし白音ちゃんを誘拐した犯人がいたら、戦いは避けられないと思います。

 その時に、セージさんがベストコンディションじゃないとなると

 かなり危険な状態になると思うんです。

 なので……白音ちゃんが見つかるまで、禁手は使うのを控えてもらってもいいですか?」

 

「ん、確かにそうだな。俺が軽率だった」

 

アーシアに宥められる形で、セージは禁手の使用を取りやめる。

その光景に、イッセーの顔は苛立ちを見せていた。

 

(けっ。こんな奴いなくったって、俺の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)さえあれば

 誘拐犯なんか一瞬で叩きのめしてやれるってのによ)

 

(……『俺の』か。確かに神器の所有者はこいつだが、俺の自由意思はまるで無視してくれる。

 反省はしとらんが、これも『神如き』と彼奴を侮ったが故の結末か。

 こうして体の自由を奪われ、ただ意志だけが残された状態で

 俺や白いの(アルビオン)の力を何も知らない人間が勝手に行使する。

 全く、神も随分と陰湿な仕返しをしてくれたものだな)

 

その苛立ちに対し、赤龍帝の籠手の中にあるドライグは達観した様子で思いを馳せていた。

 

 

鏡の泉を越え、点在するタイムカプセルのような小部屋をやり過ごしながら

松明で照らされた下り坂を降りていく。

 

「光実さん、足元気を付けてくださいね」

 

「ああ、ありがとうアーシアさん」

 

足場が悪く、視界も悪い下り坂と言う危険な場所を移動するにあたり

アーシアが光実の手を取って下って行ったのだ。

ギャスパーは蝙蝠に変身したままなので足場は関係ないし

セージもあまりにも視界が悪かったり足場が悪いときにはアモンに交代している。

となれば、面白くないのはイッセーだ。

 

「けっ。これだからイケメンって奴はよ」

 

「僻むな。別にアーシアさんが誰と仲よくしようが当人の自由だろ」

 

まるで「アーシアは自分のものだ」と言わんばかりのイッセーの態度。

だがそれは、図らずも自らが否定し打ち砕かんとしたディオドラ・アスタロトと

何ら変わることの無い思想そのものであった。

それが透けて見えたのか、先刻の鏡の泉から口数がさらに減っていたセージでさえも

とうとう口を開いたのだった。

 

「へーへー。ガキの頃から美人のお姉さんに可愛がってもらってた奴は言う事が違うねえ」

 

「…………っ!!」

 

次の瞬間、静まり返った洞窟に乾いた破裂音が炸裂した。

セージがイッセーを殴りつけたのではなく、アーシアがイッセーの頬を叩いたのだ。

 

「……人の思い出を、茶化すような真似はやめてください!」

 

「あ、アーシア……!?」

 

一瞬の出来事に、再び洞窟を静寂が支配する。

しかし、こうなったのは必然とも言えた。

映し出された記憶はわけありのもの。少女に好かれる男に対する嫉妬。

自分も好意を寄せられている立場であるにもかかわらず、それを顧みようともしない言動。

それらがふいに言動になって噴出してしまった際、アーシアの怒りに触れてしまったのだ。

 

「……そこに泉がある。『トリッシュの泉』って書いてあるって事は

 鏡の泉じゃなさそうだ。一先ず、そこで休もう。

 このコンディションで先に進むのは、それこそ危険だ」

 

空気が悪くならないうちに、セージは休憩を提案した。

その泉はアイスの露店販売も行っていたりと至れり尽くせりではあるのだが

如何せん、費用が高すぎる。それこそ、高級アイスなど比ではないくらいに。

丁度いいとばかりにアイスを買おうとしたセージ達だったが

相場価格の優に100倍はあろうかと言う価格に目玉が飛び出してしまい

結局、イッセーが店主のトリッシュを「洋服破壊」することで値切って

人数分のアイスを確保したのであった。

 

「Boo!! 洋服代後で請求するかんね!」

 

(……アイス代と差し引きでいいだろ)

 

図らずも、ぼったくりでボロ稼ぎした分をこうして支払わされる羽目になったトリッシュ。

普段イッセーのセクハラじみた行為に難色を示すセージでさえ

今回は何ら咎めることを言わなかったのだ。

善行には善行の、悪行には悪行の報いがある。

その理屈で、こうしてトリッシュはイッセーにひん剥かれる形になってしまったのだ。




唐突ですが、とうとうセージの記憶が暴かれる形になりました。

>セージ
虚憶どころか、実憶として過去の大事な所を暴かれた形。
しかもこれ、まだ続きがあるような感じ。
姉さんとの確執にペルソナ様遊びと結構重要なことを
こうして何の脈絡もなくさらりと。

一緒に撮った写真はまさにプリクラ。
あれアトラス制作ですし、ジャックフロストもプリクラ太郎でしたし。

>イッセー
相手が光実だのセージだのだから失言も出るってもの。
少なくとも、男女間で対応の温度差はかなりあるとは思ってますので。
そして、アーシアに固執するのもディオドラと何が違うのかと。
今回別にミッチといちゃついてたわけでは無いですし。
セージの過去映像ではいちゃついてたかもしれませんが
明日香姉さんとイッセーに接点は無い……はずだけど
それでもやれてしまうのは……

>ドライグ
何気に言及されたのはかなり久々。
原作では無二の相棒とか言われてますが、やってることと言えば
「体の自由を利かない形にされて、力を何も知らない人間に勝手に行使される」
と言う、ともすれば屈辱ともいえる処遇だと思うのです。
まあ、これをやってくれたのは四文字神なので
あの神ならばそういう陰湿な事してもおかしくないような。
HSDDの四文字神もあまり……でしたので。

拙作の四文字神は……うん、まあ……

>トリッシュ
P3仕様のレポーターじゃないです。
相変わらずの守銭奴っぷりを見せつけてましたが、今回相手が悪かった。
一応材料とかは買いそろえて自分で作っているので
所謂転売には当たらない、イベント会場の自動販売機価格なので
そこまでボロクソに叩かれる謂れは無い……はず。
でも悪徳商法ばりの価格で、それが原因で妖精界追放されたらしいので
今回は珍しく(?)イッセーにお仕置きされた形。

因みにゲーム相場とは言え円単位で一人分ン万~ン十万と言うふざけた価格設定してくれているので(ちなみに、喫茶店のカレーとかは現実とそう変わらない値段)
ハー〇ンダッツとかがかわいく見えるレベルです。念のため。


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A dear and abominable memory. Bパート

――映像は、先ほどの続きを映し出していた。

ペルソナ様遊びをやった数日後か、セージと明日香は他愛もない会話を交わしていた。

 

「――じゃあ、セーちゃんの夢にもその変なおじさんが出てきたって事?」

 

「うん。名前を聞かれたから、答えたけど。

 なんておじさんかは、忘れちゃった」

 

セージのその言葉を聞いた明日香は、険しい表情でセージに詰め寄ったのだった。

 

「ダメよ! 知らない人に名前を言ったり、口をきいたりしちゃダメ!

 お母さんやおじいちゃん、おばあちゃんに教わったでしょ!?

 お姉ちゃんとも約束して! 攫われちゃうかもしれないんだから!」

 

「う、うん……わかったよ……ごめんなさい、お姉ちゃん」

 

その血相の変わり具合はただ事では無かった。

思わずたじろぐセージだが、この場限りかもしれないとはいえ自分の言う事に従ったことに

明日香は安堵する。

明日香のいう通り、誘拐などの犯罪に巻き込まれることを未然に防ぐという意味では

知らない大人とみだりに話すことは避けるべきである。

しかし、セージの場合は夢での話である。夢だからいい、と言うものでもないだろうが

やはり、不用意な行動は危険に繋がりかねないという意味でも

年長者として、神経をとがらせた部分はあるのだろう。

 

 

「……やけに拘束してきますね?」

 

「……今思えば、そういう見方もあるわな。

 だが、姉さんには姉さんなりに責任があったんだと思う」

 

映像を見ていたアーシアが、思わずセージに問いかけてくる。

この時セージは、やたら干渉してくるリアス・グレモリーと言う存在を朧気に思い浮かべていた。

勿論、全く接点のない両者ではあるのだが。

しかし、思い返してみると強引さにもなりかねない引っ張る力などは

明日香はセージの知る限りのリアスにも通ずるところはあったのだ。

勿論、明日香はセージの知る限り人生を狂わせるほどの束縛をセージにかけた……訳では無いと

セージは思っているのだが。

 

 

「うぜーんだよ、木偶の坊!」

 

「悔しかったらやり返してみろよ、うすのろ!」

 

再び映像が切り替わる。このペルソナ様遊びを境に、セージがやけに行動的になったり

攻撃的な言動の片鱗が見え隠れしてくるようになっていたのだ。

こうして虐められている最中にも、反撃の機会を伺おうとじっと耐えていた。

攻撃を良しとしない耐久ではなく、いつか仕返しをするための耐久に

いつの間にかなっていたのだ。

 

「……けっ、つまんねーの。言う事もやる事もつまんねーんだよ」

 

「また泣きつくか? 『お姉ちゃーん』、ってよ!」

 

「…………」

 

幸い、この場では流血沙汰になることもなく、大きな騒ぎにはならなかった。

ただ、その時のセージが嫌な思いをしただけであって。

しかし、爆発するのもそれは時間の問題でもあった。

 

 

(……絶対ぶっ潰してやる)

 

 

それは、最悪の形で堰を切って溢れ出すこととなった。

切欠は、元々セージを標的にしていたいじめの矛先が

当時中学に進学していた明日香の側に向いたことによる。

セージと共に過ごしている時間の長い明日香であった。

セージをいじめから助けたことも少なくない。

そうなれば自然と標的にされてしまう。

それをセージに悟られまいと振舞っていた明日香だったが

偶然セージに現場を見られてしまい――

 

 

「せ、セーちゃん!?」

 

「なんだ、あのうすのろの木偶の坊じゃねーか。関係ねえだろ、あっち行ってろよ」

 

「……お姉ちゃんを…………いじめるな!!」

 

次の瞬間、セージの体から青白いオーラが迸り

明日香を虐めていた子供達を残らず吹き飛ばしたのだ。

しかもそれに飽き足らず、一番明日香を虐めていたリーダー格に対して馬乗りになり

近くにあった石――それも子供が持つには些か重い――をガンガンに叩きつけていたのだ。

 

「セーちゃん、やめて!!」

 

明日香の制止も聞かず、セージはひたすらに虐めリーダー格を殴り続けていた。

そのセージの背後には、うっすらと異形の姿が見えていたのだ。

 

 

(あれは……ペルソナ!? まさか、俺は……ペルソナを発現させたことがあるのか!?

 いや……ペルソナ様をやったって事は出来てもおかしくないが……

 てっきり、あの時フィレモンが言ったように神器(セイクリッド・ギア)に変異したものだとばかり……)

 

 

映像のセージがその手を止めたのは、相手の顔が血まみれになり、残りのメンバーも

骨折や切り傷などの少なくない傷を負った段階であった。

 

「セーちゃん……どうして……」

 

「お姉ちゃんをいじめてる奴が……許せなかったんだ……

 夢の中でおじさんが……力をくれるって言ったから……

 お姉ちゃんを助けたいと思って……僕は……僕は……」

 

幼いセージには、ペルソナの力は制御しきれなかったのだ。

大切な人を守りたいという一心で感情を爆発させて発現したペルソナの力であったが

結果は子供の喧嘩の範疇を越えた負傷者を出すことになったのだ。

 

当然、その結果セージは親同伴で相手の家族に謝罪をさせられることとなったのだが

その時も、セージは頑なに謝ろうとはしなかった。

 

――お姉ちゃんをいじめた奴に、ごめんなさいなんて言いたくない!

 

結局、明日香まで謝罪の場に出る羽目になってしまい

その時にようやくセージも謝罪の言葉を口にしたのだが

それ以来、セージと明日香との関係に微妙なギスギス感が生まれてしまった。

 

幸い、明日香に出会う前のような風には逆戻りこそしなかったが

以前ほどセージも明日香にべったりとはしなくなっていた。

 

時に、セージも小学六年への進級を控えている頃であった。

年頃もあるのかもしれないが、この一件も少なくない影響を与えていたのだ。

 

 

 

「……もしかして……セージさんがお姉さんに拘るのって……」

 

「…………あの映像は実際に起きた事だってのは言っておく。

 ペルソナで半殺しにしたことについては記憶が無いが……多分、母さん辺りに聞けば

 本当だって返事が返ってくるかもしれない。

 謝罪の場で謝らなくてごねたのは……なんか、覚えがある」

 

苦々しくセージは語るが、やはりその口は重く、空気もつられて重苦しいものになっていく。

しかし、この場の誰もそれを打開する言葉を持たなかった。

空気を読まない傾向の強いイッセーでさえも、その真意はさておき一切の口を開かなかったのだ。

 

(……そうだな。この分だと……この後の……「あの時」も暴いてくるかもしれない。

 あれだけは……知られたくはない……

 自分の手で……姉さんを…………した……「あの時」だけは……

 

 ……だけど、ここまでに白音さんがいないとなると、最悪最後の泉の所になるか……

 そうなると……白音さんも、その光景を見ることになりかねないか。

 白音さんには、殊更に知られたくないけど……これは……行くしか、ない、か)

 

思い詰めていたセージであったが、それはものの見事に顔に出ていた。

あまりにも深刻なセージの顔を見て、思わずアーシアは一度引き返すことを提案するが――

 

「…………いや、行こう。ここまで来て白音さんが見当たらないとなると

 この地図で言う最後の泉がある場所……最深部しか心当たりがない。

 さっきの落とし穴地帯の下も探してこれだ。となれば後は、もう……」

 

「……最後の泉の場所、ですか」

 

地図が示す最後の泉の場所は、小部屋の隣の坂を下った先の一本道の突き当り。

それこそがこの岩戸山の洞窟の最深部であり、そこに最後の鏡の泉がある。

現時点で崩落などが起きている個所と言えば、足場の悪い落とし穴地帯の

下層にあたる位置へと続く坂道が崩れ落ちていた位だ。

仕方が無いので、そこは蝙蝠姿のギャスパーやドローンドロイドで調べていたのだが

やはりと言うか、そこに白音はいなかった。

 

消去法で、最後の鏡の泉のある場所にいるのではないか。

いるとするならば、そこしか思い浮かばない。

対抗として小部屋の存在があるが、ここに来るまでに似たような小部屋がいくつかあったが

そのどれもがタイムカプセルじみた空き箱しか置いてない、何の変哲もない小部屋だったのだ。

ここに来て、白音がそんなところにいるとも考えにくい。

 

「……一応、最後の小部屋も調べてみるが、それでもそのすぐ先が鏡の泉だ。

 そこを調べない理由は無いだろ……」

 

セージにしてみれば、これ以上鏡の泉に接触することで自分の過去を暴かれるのは避けたい。

この泉は元来過去ではなく心を映すものだが、セージが過去の事に囚われているために

必然的に泉は過去の事を映し出す。セージにとっては隠したい過去を。

 

「あの……僕達で先行して調べますか?」

 

「下手なことはやめたほうがいいかもしれない。

 向こうは『俺と兵藤』を不可欠として要求してきているんだ。

 その要求を満たさない場合、白音さんが本気で危ない。

 

 ……今ほど、俺の読みが外れて欲しいと思っていることは無いよ」

 

ギャスパーの提案であるが、これもそもそも犯人の要求を満たさない形になってしまうため

人質の安全を顧みて、渋々ではあるがセージは却下した。

 

「セージ、怒られるのを承知で言うけどよ。

 ここに小猫ちゃんがいるかもしれないって言ったのはお前だろ。何渋ってんだよ。

 お前も来なきゃ、小猫ちゃんを助けられないだろ」

 

「…………ああ、そうだ。全く言い返せない」

 

イッセーにも促される形で、セージは先に進むことを決心した。

その心には、未だ迷いと恐怖を抱えたまま――

 

 

下り坂の前の小部屋も調べてみたが、やはり空の小箱がぽつんと置かれているだけで

白音は影も形も無い。

いくら白音が小さいからって、それを隠すようなスペースがあるわけでもなく

何もない事を確認したセージらは踵を返し、松明が照らす下り坂を降りていく。

 

この先は一本道。

このまま進めば、ただ最後の鏡の泉がある洞窟の最深部に到達するのみだ。

最後まで、インベスもアインストもデーモン族も出なかった。

 

しかし、鏡の泉があることを示す立て札が見えてきた辺りで

突如として、セージの意識の中に違和感が走る。

 

――何者かの気配を感じる。

 

しかし、その気配は今まで感じた誰のものでもないどころか

まるで、鏡で自分の姿を見ているような錯覚さえ覚えた。

 

「…………え?」

 

同様に、違和感を覚えたのはアーシア。

彼女も何者かの気配を感じ取ったのだが

その気配は近くにいる長身の同い年の少年によく似ていた。

まるっきり同じではないというあたりに、一応の区別はついているようだが

注意深く感じ取らないと、同じと感じ取ってもおかしくは無い。そんな気配。

 

「セージさん……ここに、います……よね?」

 

「何言ってるんだアーシア。さっきから偉そうな態度で先導切ってただろ」

 

イッセーがそんなアーシアの違和感を気のせいと切って捨てるが

アーシア自身も、そして何より当のセージ本人が違和感を覚えている。

最も、そのセージは違和感の正体に感づいてはいるようだが。

 

 

(…………そうか。やっぱりイゴールが、ベルベットルームの人達が

 言っていたのはこう言う事だったのか。

 それなら、今までの色々と不可解な話も合点がいく。

 やはり、犯人は…………!)

 

 

気配の正体、その違和感を確信に変えるためにも

意を決し、セージ達は最後の鏡の泉がある広場へと足を踏み入れたのだった。




>ペルソナ様遊びの結果
セージは名乗れたものの、力を使いこなせずに暴走し傷害沙汰。
明日香姉さんは名乗らなかった様子。
この辺はペルソナ2の達哉と詩織を意識してる部分はあります。

それにしても。
あまりセージもイッセーの事を言えない部分がちらほらと。
いくら子供の頃のこととはいえ、相手を半殺しにして謝罪も無しは……ねえ。
結果お姉ちゃんとの関係ギスってるし。

>イッセー
珍しく正論言ってますが、別に偽者にすり替わってるとかはないですよ。
これもまた前振りの一部ではありますが。

>最奥の気配
恐らくもうお気づきの方も多いかとは思いますが、とりあえずここで引きという事で。


尚、次回はまた別の個所での話になる予定です。


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Riders surprised they Aパート

この場を借りまして評価ありがとうございます
いつまでご期待に添えるかわかりませんが
今後ともよろしくおねがいします

……正直、前作・前前作以上に趣味全開なので驚きですが

あ、低評価にも目は通してますよ?
返答は作品注釈から飛べる活動報告にある通りなので
敢えて何も言わないだけで
改善はその中から可能であればさせていただきます
その結果や返答は作品の展開をもって返させていただきます


――セージ達がアラヤ神社に向かった直後。

 

 

珠閒瑠(すまる)市・鳴海区

ホテルプレアデス・裏口。

 

 

ホテルの従業員に襲い掛かろうとしているJOKERを、ソーナ達が倒していた。

報道のお陰で表立って動けないリアスらに代わり、ソーナが率先して

JOKERとの戦いに赴いていたのだ。

 

「会長、先ほどの戦いによる怪我人等は出ておりません」

 

「そうですか、わかりました。無事で済んで何よりです」

 

ソーナらは駒王学園生徒会としての表の顔を持っており

そのために生徒会の活動であるかのように行動している部分も

節々に見受けられる。女王であり副会長の真羅の言葉もそれによる部分が少なくない。

 

「当たり前っすよ。いくら殺人鬼だっつったって、人間でしょう。

 俺達は悪魔なんですよ、悪魔!」

 

「サジ。あなたはまたそうやって……

 もう、悪魔に優位性なんてあってないようなものです。

 今の戦いだって、JOKERが能力を行使していれば負けていたのは私達でしたよ」

 

そう。JOKERの持つ能力――と言うかペルソナだが――の「オールドメイド」。

これは周囲の能力者の持つ力を強制的にJOKERで上書きしてしまう。

そうなれば、普通に能力を発現したが最後、JOKERが発現し

無差別に周囲を攻撃してしまうのだ。

持続時間こそ長くないが、これによって七姉妹学園で木場が神器(セイクリッド・ギア)を暴発させてしまい

負傷者を出してしまったケースが現に存在するのだ。

 

それに、JOKERは確かに人間ではあるのだが、同時にペルソナ使い――即ち、異能者だ。

言うなれば、英雄派の構成員として神器を持った者が参戦していたのだが

そんな彼らを相手にしているのに等しい。しかも、それが珠閒瑠市中に現れているのだ。

 

「大丈夫!? ソーナ!」

 

戦いが終わり、ホテルの裏口からリアスも駆けつけてくる。

人目につかない場所ならば大丈夫だろうと踏んでの事だが

戦いは、既に終わった後であった。

 

「大丈夫ですよ。まだ対処できる範囲でしたし」

 

「ならいいのだけど。はぁ、それにしても旅行先でまで戦いに巻き込まれるとは思わなかったわ」

 

警戒を解き、普通の学生のような態度で話し始めるリアス。

しかし彼女の言う事も的を得ている話ではある。

そもそも、彼女らは駒王町の騒動から距離を置く形で修学旅行に代わる形として

珠閒瑠市へとやってきているのだ。それが珠閒瑠市でも騒動に巻き込まれては、意味が無い。

良くも悪くも戦い慣れしている彼女らはまだいいにしても、そうでない生徒たちにとっては

多大なストレスにもなりかねない。現在宿泊しているのが高級ホテルなので

いくらかのストレスは軽減されているのだが。

 

「そのことなのだけど……リアス。私がこれから言う事は他意はありません。

 なんてことは無い、ただの心配事だと思って聞いてください」

 

「ん? どうしたのよ、ソーナ」

 

神妙な面持ちで口を開くソーナ。

その発言の内容は「自分達悪魔の存在が明るみに出たことで

世界のバランスが崩壊しているのではないか」と。

つまり、自分たちは早急に冥界に戻るべきではないか、と。

 

「か、会長!? そんな、まるで尻尾巻いて逃げるような!?」

 

「匙君の言う通りよ、ソーナ。まだ私達は禍の団(カオス・ブリゲート)さえも倒していないわ。

 それに、私はテロリスト扱いされたまま冥界に戻るなんて嫌よ!」

 

「……そう言うと思いました。実は、姉から冥界への帰還勧告が来ていたのですが

 そう言う事なら、私もこの勧告を蹴ってしまいましょう。

 

 ……私も、あのフューラーの一人勝ちみたいな状況で冥界に帰るのは気が引けますし

 人間の皆さんに問題だけ押し付けて帰るのも、私の主義に反します」

 

魔王からの勧告であった冥界への帰還だが、こうして現時点では揉み消されることとなった。

こう言う態度に出られたのも、まだ命令ではなくあくまでも勧告であるため

従う必要が無い、とのことではあったのだが。

 

束の間の平和な時間、眷属を交えながら人間界に留学した悪魔達は談笑を楽しんでいたが

その時間も、全く長くは続かなかった。

 

 

「……バケモノ風情がスクールライフか。人間ごっこは楽しいかい?」

 

「誰!?」

 

リアスとソーナが振り向いた先には、シアンのスーツに黒い鎧を纏った存在が佇んでいた。

その存在の右手にはシアン色の銃が、左手にはマゼンタ色のカードが握られている。

 

「バケモノに名乗る名前なんか無いよ。

 まして、君達みたいな人間の皮を被ったバケモノなんかにはね」

 

「てめぇっ!! 会長もリアス先輩も人間のために戦ってるんだぞ!!」

 

匙の反論にも「どうだか」と一言しか返さずシアンの男は銃をくるくると回している。

口調から、人間でないものが人間のような素振りを見せる姿を

彼は毛嫌いしているようではあるが。

 

「……一体、私達に何の用ですか?」

 

「君達に用があるのは僕じゃない……彼だ」

 

シアンの男が指示した先には、目深にフードを被った長身の男が立っていた。

戦う意思こそ見せていないが、その左手には辞書を思わせるデバイスのようなものがついていた。

そしてリアスは、その存在をよく知っていたのだ。

 

「……ま、まさかセージ!? あ、あり得ないわ!

 セージはさっき、小猫を助けにアラヤ神社に向かったところよ!

 あなた……一体何者なの!?」

 

フードの男は、沈黙を貫いている。

そんな彼の言葉を代わりに伝えるかのように、シアンの男は饒舌に語っているが。

 

「彼も君達に話すことは無いってさ。だが、彼が君達に用があるのは本当だ。

 そして僕達もその用事はなるはやで済ませたいからね。ここからは巻きで行かせてもらうよ!」

 

 

KAMENRIDE-SPECTER!!

 

 

〈カイガン・スペクター!

 レディゴー! 覚悟! ド・キ・ド・キ・ゴースト!〉

 

 

シアン色の銃から、三色の光と共に二本角の青い亡霊のような戦士が現れる。

それは、別なる世界で「仮面ライダースペクター」と呼ばれていた存在であった。

勿論、それをリアスも、ソーナも知る由は無い。

 

「これは……ユグドラシルのアーマードライダー!?

 でも、果物っぽさが無いわね……」

 

ユグドラシルでアーマードライダー・デュークと戦い、それ以前にも幾度となく

黒影(くろかげ)トルーパーの攻撃を退けていたリアスはスペクターに

アーマードライダーとの共通点を見出そうとするが

共通点など、精々ギミック付きのベルトをしている位だ。

 

「へぇ。話には聞いていたけど、やはりこの世界にはアーマードライダーがいるんだね。

 まあ……別に『あの』鎧武(がいむ)の世界じゃない鎧武の世界があっても不思議じゃないか。

 じゃあ、そう言う事なら差し入れだ。受け取りたまえ」

 

 

KAMENRIDE-ZANGETSU!!

 

 

〈ソイヤッ!

 メロンアームズ! 天・下・御・免!〉

 

 

スペクターと同じように、シアンの銃から放たれた光と共に現れたのは

呉島貴虎(くれしまたかとら)が変身したアーマードライダー、斬月(ざんげつ)

それと寸分違わぬ存在が、リアス達の前に立ちはだかったのだ。

 

「リアス! これもその……アーマードライダーとやらなのかしら?」

 

「そうだと思うわ。だけど、私はこの白いアーマードライダーは見たことが無いわ。

 私の戦ったアーマードライダーは手強い相手だったわ。こいつも何をしてくるか……」

 

リアスは斬月の出方を警戒するが、実のところ斬月の能力はシンプルである。

メロンディフェンダーによる鉄壁の防御と、無双セイバーによる確実な攻撃。

それを呉島貴虎と言う人物の技量で最大限発揮している

小細工の一切ない純粋な強さに拠るものである。

その点において、リアスが以前戦ったデュークとは正反対の能力の傾向であった。

この召喚された斬月に呉島貴虎の技量は付随していないが、斬月の性能そのものはそもそも高い。

小手先ではなく実力で真っ向から完膚なきまでに叩きのめす。

それがアーマードライダー斬月であり、その戦い方は相手の心をへし折るほどだ。

 

「精々、心をへし折られないようにするんだね」

 

斬月は無双セイバーとメロンディフェンダーを構え。

スペクターも腕を模した武器――ガンガンハンドを構え、いよいよ戦う姿勢を見せている。

その一方で、フードの男とシアンの男は一向に戦う姿勢を見せない。

 

「相手が何だろうと、先に潰しちまえば!」

 

先走って飛び出す匙を制止しようとするソーナだったが、間に合わない。

それならばとリアスが滅びの力も込めた魔力弾で援護攻撃をするが

その攻撃は、斬月のメロンディフェンダーで防がれ、無双セイバーで切り払われてしまった。

匙の戦い方は奇しくもイッセーに近いものがあったため、リアスとしても合わせやすかったのだが

それでも、斬月の前には通用しなかったのだ。

 

「そんな、無傷だなんて――!!」

 

懐に飛び込もうとした匙もまた、スペクターのガンガンハンドのリーチに邪魔されて

飛び退かざるを得ない状況に陥っていた。

 

「元士郎! こうなったら連携だ!」

 

「お、おう!」

 

騒ぎを聞き駆けつけたソーナの「戦車(ルーク)」、由良翼紗(つばさ)と共に

再び匙達は斬月やスペクターの懐に飛び込もうとするが

やはり、ガンガンハンドや無双セイバーのリーチの前にはうまくいかない。

 

「……やれやれ。バケモノは頭の中までバケモノなのかい? リーチの長さで不利なのは

 火を見るより明らかじゃないか。君達は素手、そして彼らは武器を持っている。

 戦いの素人でもわかりそうなものだけどな」

 

シアンの男の挑発に、匙と由良は揃って頭に血を昇らせていた。

しかしシアンの男の言葉とは裏腹に、斬月やスペクターからの攻撃はそれほど苛烈ではない。

少なくとも、以前リアスが戦ったアーマードライダー・デュークからの攻撃に比べれば。

 

「……ソーナ。これは手加減されているわ」

 

「やはりそう思いましたか。あれだけの防御力を誇る盾に、あの刀も銘まではわかりませんが

 業物と見ました。

 それに、あの青い方が持っている武器も牽制にしか使っていないみたいですし。

 恐らく、何か目的があってのことだとは思いますが……私にもわかりません。

 

 サジ! ユラ! 相手は何か企んでいます! 注意して挑みなさい!」

 

ソーナの指示通り、匙は神器である「黒い龍脈(アブソーブション・ライン)」を発動させる。

それによって伸ばしたラインは斬月には無双セイバーで切り払われてしまうが

見事にスペクターを縛り上げることに成功した。

 

「よし、これでどうだ!」

 

さらに、匙はそこからスペクターの力を吸収しようとしだすが……その時、異変が起きた。

一向に力を吸収することが出来ないでいるのだ。

 

(……なんだ? 全然力が湧いてくる感じがしないどころか……何も変わってない?

 だとするとこいつはそんなに……い、いや。会長が油断すんなって言ったばかりだ。

 だったら、何が何でもここで釘付けにしてやるぞ!)

 

いかし、その異変は当事者である匙でさえうっすらとしかわからないものであり

スペクターもまた微動だにしない。傍から見れば、匙がスペクターの動きを止めたと

解釈してもおかしくない状態だったのだ。

 

(やっぱりあれで優位に立てたと勘違いしてるようだね。

 種明かしは簡単だけど、ここはちょっと黙っておくとするか)

 

ここでこうなったタネを明かすと、スペクター、並びに彼と同様のシステムで変身するライダーは

その能力をゴースト眼魂(アイコン)と呼ばれるガジェットに依存する。

そしてゴースト眼魂には文字通り魂が宿る、ないし魂が変化したものといわれており

スペクターの場合もコピーでこそあるものの、確かに魂をスペクターゴースト眼魂に宿している。

つまり、力の源はベルトにセットしてあるゴースト眼魂の側であり

匙がラインで縛り上げたスペクターは言わばただの抜け殻である。

勿論、人間が変身した場合はその人間の力を吸収できたのかもしれないが

このスペクターはシアンの男が召喚した自由に顕現・消失させられる「実体のない存在」である。

変身者、すなわち中身が存在しないのだ。

それでも、スペクターが纏っている「パーカーゴースト」と呼ばれる

青いラインの入った黒いパーカー。これがそのスペクターの力の源であるため

ここにラインを接続すれば力を吸い取れたかもしれないが

匙はスペクターの「本体」にラインを接続してしまい、それが出来なくなっているのだ。

 

「動きを止めた、今だ!」

 

「でやああああああっ!!」

 

ラインで縛り上げられたスペクターに向かって、由良の健脚が突き刺さらんと飛び掛かる。

しかし、その脚がスペクターを捉える寸前、スペクターのベルトが開き

目玉のようなものが飛び出し、別のものが吸い込まれていった。

これこそがゴースト眼魂である。

 

 

〈カイガン! フーディーニ!

 マジいーじゃん! スゲーマジシャン!?〉

 

 

何処からともなくやってきた青いバイクが由良を撥ね飛ばすように飛び掛かり

そのままスペクターと合体を始めた。

その勢いで、スペクターは自身を縛っていた匙のラインから完全に抜け出したのだ。

 

「それは仮面ライダースペクター・フーディーニ魂。

 世紀のマジシャン、ハリー・フーディーニの力を持っているんだ。

 その程度の拘束からの脱出など、朝飯前さ」

 

「フーディーニ……私達の力が、イカサマだとでも言いたいのかしら?」

 

「おや、自覚があるんだ。

 なら覚えておきたまえ。どんな奇術で人心を掌握しようとも

 最後は人間の知恵と意思に破られるのだという事をね。

 ましてその偉人――フーディーニは奇術に惑わされること無く生涯を貫いたそうだよ」

 

リアスもオカ研部長の立場上、ハリー・フーディーニの話は知っていた。

しかしそれは、リアスは当然オカルトを肯定する立場から話を知覚しているのに対し

フーディーニ自身は生涯インチキ霊媒師にしか遭遇しなかったという

いわば「オカルトの否定」をある意味やってのけていたのだ。

あまつさえ彼は「死後の世界があるなら、そこから連絡する」と言い残しこの世を去った。

そして何の音沙汰もなく80年以上経っている。答えは出ているようなものだ。

 

しかし、ここにいるのはフーディーニが生前であった自称ではなく、正真正銘の異界の者達だ。

オカルトに関しては本業もいいところである。

 

「だったら! 俺の魔術であっと言わせてやるぜ!」

 

ラインを切られても尚戦意を失わない匙。

奇術師に対抗すべく魔法で挑まんと「僧侶(ビショップ)」への昇格(プロモーション)を試みるが

その瞬間、フードの男の口角が上がったのだった。




シアンの男……一体何ィエンドなんだ……
そしてフードの男も誰なんだろうなー(棒)

時系列的にはセージ達がアラヤ神社に向かった直後の話なので
この後……

>何ィエンド
変身前の姿は見せてませんが、まあ。
因みに矢鱈悪魔に対して当たりがきついですが、これディケイド版の海東だとあり得る話だと思うんです。
矢鱈オルフェノクを敵視していたり、そもそも出身世界が「アレ」ですし。

殺意の高いライダーのチョイスしている割には本気で殺しにかかってない風にも見えるので
本当に書いてるこっちがわけわからんわこの人。

因みにライダーのチョイスは
斬月:普通にアーマードライダーいるし、バロンはデュークの後だと名前的にもちょっと。特にデュークと戦ったリアスがいるとなると。リアスも一応公爵令嬢ですし。そのお陰で出てきたのが戦極ドライバー変身だと最強クラスだったりしますが。
スペクター:フードの男のネタバラシ兼ねて。後は申し訳程度の英雄要素。
共通点:年下の兄弟がいる(片やリアス・ソーナは年上の兄弟)

>斬月
貴虎ニーサンの技量が伴わないとは言っても、強キャラに変わりは無いわけで。
それを二軍で相手取るんだからやっぱり容赦ないなこの何ィエンド。
なお、ネオディエンドライバーには「2号ライダーしか召喚できない」疑惑がありますが
拙作では普通に3号以降も召喚できることにしてあります。でないと相互互換どころか劣化疑えてしまいますので。
なおフォームチェンジは変形した召喚アクセルの拡大解釈。

>スペクター
実はかなり改変とも言うべきアレンジ加えてます。
当初は「幽霊だからラインの吸収能力が逆流する」FF方式考えてましたが
ゴースト眼魂の設定とかゴースト系ライダーの戦い方とか考えると
パーカー(眼魂)が本体でトランジェント体は飾りと言うか抜け殻と言うかみたいなもんじゃね? と判断。実際眼魂が本体みたいな描写ありますからね、ある意味。
どっちにせよ束縛系攻撃は相性悪すぎた。

フーディーニは単純に脱出能力。スペクターも一応幽霊移動できるらしいので
そっちでもよかったんですが。
フーディーニ本人がオカルトに対してある意味懐疑的なので、そう言う意味合いも込めてますが。
因みに音声は電王OPから引っ張ってます。


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Riders surprised they Bパート

そう言えば何故急に、と思い色々調べてみたところ……

ご紹介いただき、ありがとうございます。
紹介されたのは通知が来ないので今の今まで気づきませんでした。


ホテル・プレアデスの裏口。

JOKERの襲撃を退けたソーナ・シトリーや

リアス・グレモリーらの前に、謎のシアンの男とフードの男が現れる。

シアンの男はまるでソーナらを試すかのように「仮面ライダー」と呼ばれる戦士を召喚。

 

亡霊の如き青い戦士・仮面ライダースペクター。

純白の鎧武者・仮面ライダー斬月。

 

二人の戦士は、まるでソーナらにとって立ちはだかる壁であるかのように

悉くソーナらの攻撃を退ける。

そんな中、ソーナの眷属・匙元士郎が神器(セイクリッド・ギア)黒い龍脈(アブソーブション・ライン)」で

スペクターの動きを封じようとするが、スペクターは事も無げに匙の拘束から脱出。

その際に用いた力は、脱出王とも呼ばれた奇術師、ハリー・フーディーニの力であった。

 

そのフーディーニの力に対し、匙は僧侶(ビショップ)昇格(プロモーション)することで対抗しようとした。

しかし、匙は神器の力こそ使えてはいるものの、魔術的な素養に関しては

特筆するところは無い。長所を伸ばすものでは無く

ただ単に相手に張り合って昇格しただけだ。

 

この時、匙は完全にフードの男から注意が外れていた。

しかし、フードの男は仮面ライダーを召喚だけして何もしないシアンの男同様

一切手を出してこなかったので、注意を向けなくなるのも無理からぬことではあるのだが。

 

しかしそれは、完全にフードの男の思うつぼであった。

 

MEMORISE!!

 

「…………えっ!?」

 

「……目的は果たした」

 

そう、戦いの脇からこうして横槍を入れられているのだ。

別に一対一の勝負でも何でもないので、横槍自体は別に卑怯でも何でもないのだが

その横槍の中身が問題だった。

 

横槍と共に響いた声。その声は、多少歪んで聞こえるものの

リアスにとってはよく聞いた声でもあった。

まして、声の主の左手のデバイスが発した音声。それは紛れもなく――

 

「ま、待ちなさい! あなた……セージなの!?」

 

SOLID-GUN LEGION!!

 

リアスの問いかけに、フードの男は返答代わりにガン・レギオンを差し向ける。

しかしそのガン・レギオンはセージが生み出した骨の鳥のような姿ではなく

飛んでいること自体が不可解とも言うべき、穴ぼこだらけでスクラップにしか見えない戦闘機。

それはまるで、戦闘機の――かつて空を守った英雄達のゾンビとも言うべき姿であった。

ゾンビを思わせる姿とは裏腹に、その機動力はかつて大空を駆けた頃となんら遜色は無い。

不吉な赤黒いオーラを纏いながら、機体ごと突っ込んでくるかのように

掃射攻撃を行いながら、ガン・レギオンはリアス達目掛けて突っ込んできた。

 

「カミカゼ!?」

 

「――リアス様!」

 

その悍ましい姿に一瞬リアスもたじろぐが、事態を察知した椿姫がリアスを庇うように躍り出て

神器「追憶の鏡(ミラー・アリス)」で特攻を含め攻撃を反射するが、その返った攻撃の衝撃は

前に躍り出た仮面ライダー斬月(ざんげつ)のメロンディフェンダーが全て受け止めたのだ。

 

MEMORISE!!

 

「……へえ、これは思わぬ収穫。お前たちのお陰で手札を増やしてくれてありがとうよ。

 そしてこれでそっちの勝ち目はさらに無くなった」

 

「試してみなきゃわからないだろ!」

 

この場の誰も知らぬ事ではあるのだが、実際セージは僧侶への昇格のカードは持っていないし

そもそもシトリー眷属とは匙以外戦ったことが無い。能力をコピーする機会が無かったのだ。

能力をコピーする。それは紛れもなくセージの神器「記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」の能力であり

少なくともリアスはセージがそれを十二分に活用していることを知っており

ソーナもリアスからのまた聞きではあるが知覚している。

そして、以前セージと匙はもめ事を起こしたことも。

 

「試す? 一度負けているのにか?

 二度も無様に這いつくばるなら、自分で無様にのたうち這いずり回れ。

 俺は、お前の理想を決して認めはしない」

 

「てめえに何がわかるんだッ!!」

 

匙が発現させた力。それは「黒い龍脈」ではなく、黒い炎。

元来匙が持ち合わせていないはずのヴリトラ系の神器「邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア)」であった。

これは呪いの炎を放つ、黒い龍脈よりもさらに攻撃的な能力であり

攻撃をメロンディフェンダーで受けていた斬月もじりじりと押され始めていた。

 

「どうだ! 俺の新しい力は!」

 

鉄壁を誇っていた斬月を押し返し、勝ち誇る匙であったが

フードの男は微動だにしない。彼が斬月の後ろにいたというのもあるのだが

徐に彼はガン・レギオンを召喚した時と同様左手のデバイスを翳す。

 

EFFECT-REFLECT!!

 

次の瞬間。フードの男の前にバリアが展開され、彼を襲っていたはずの黒い炎は

その勢いを完全に匙の方角に向けてきた。

しかも返された黒い炎は、匙だけでなくガン・レギオンの攻撃の衝撃を返した椿姫や

主であるはずのソーナにまで返ってきてしまっているのだ。

 

「言ったぞ。自分で無様にのたうち這いずり回れとな」

 

「く、くそお……っ!!」

 

(これは……椿姫の神器をコピーしたとでも言うの!?

 それじゃ、まるでセージの……じゃ、じゃあやはり……!!)

 

一連の流れで、リアスはフードの男がセージではないかと言う疑惑を強めた。

何せ、相手の能力をコピーして使用しているのだ。

身体的特徴も、極めてセージと酷似している。

 

しかし、セージとするなら解せない。

彼は人質解放のために今しがた出たばかりだ。

ここで戦う事は、人質解放とは全く関係が無い。

いくらセージでも、そんなことをするとはリアスには思えなかったのだ。

 

「……リアス、皆。ここは撤退しましょう。

 相手の力が読めなさすぎます。こうして椿姫の力まで複製されたとあっては

 他の能力も例外ではないかもしれません。そうなっては手が付けられません。

 それに、あのシアンの者が増援を出さない保証もありませんし」

 

「た、確かに……

 信じたくはないけど、もし私の懸念が当たっていたら

 こっちの能力や弱点も筒抜けになりかねないわ。

 何とか隙を作って、一気に抜け出すしかなさそうね」

 

リアスもソーナも、撤退で意見は纏まった。

相手の力の底が見えない上に、最悪相手はこちらの能力や弱点を見通せるのだ。

もしここがホームグラウンドであったとしても、その地の利をあっという間に覆しかねない。

それだけのポテンシャルを、相手は秘めていたのだ。

 

「だったら、俺が殿になります!

 こんな時のために、俺はヴリトラの神器を強化したんです!」

 

「なっ……!?」

 

匙の神器の強化。それはソーナにとっては寝耳に水の話であった。

主である自分に何の相談もなく、勝手に行っていたのだ。

それはまだいいとしても、一体どこでそんな事をやってのけたのだろうか。

そもそも、さっきの能力だっていつ手に入れたのだ。

確かに、聞いた話程度ではあるが匙の神器には同格のものが残り3つはあったそうなのだ。

そのうちの1つが、さっき見せた黒い炎だというのは確信できた。

 

……だが、いつ匙はそんな情報を手に入れたのだろうか。

そもそも、どうやってヴリトラの神器を見つけ出したのだ。

神器の移植など、堕天使がかつて試みた事例しかない。

それだって、元の所有者を殺害して奪い取る形での移植だ。

そもそも、神器を抜き取ることは持ち主の死を意味する。

そこから導き出される答えは一つだ。

 

 

――匙元士郎は、殺人に関与している――

 

 

匙自らが神器の所有者を殺したのでないのだとしても、よくて火事場泥棒。

一番考えうる悪いケースは、殺人の幇助。

警察が何も言ってきていないという事はイッセーと違って証拠が挙がっていないという事なのだが

それでも、匙が犯罪に手を染めたという事が暗示されてしまった。

 

その考えに至った瞬間、ソーナの背筋を冷たいものが走った。

悪魔である自分が人間を殺すのは、あってはならないことと思ってはいるが

避けては通れないところもあるのかもしれないと、何処かでは思っている。

しかし、元人間の匙が人間を殺すというのは……やはり、あってはならない。

そこはまだ、ソーナの若さ故の甘さが見え隠れしている部分であった。

 

一方の匙は、意気揚々と新たなヴリトラの力を発現させようとしていた。

再び黒い炎が上がるが、その炎はフードの男や斬月、スペクターだけを取り囲むように燃え盛り

動きを封じにかかったのだ。

しかし、スペクターに憑依しているのは脱出を得意とするフーディーニ魂。

炎の牢獄からあっという間に脱出を――できなかった。

同時に展開された力場が、スペクターの力を吸い取っていたのだ。

 

「どうだ!『龍の牢獄(シャドウ・プリズン)』に『漆黒の領域(デリート・フィールド)』の合わせ技だ!

 その妙な力で脱出しようったって、そうはいかねぇぞ!!」

 

(なるほど。動きを止めておいて、そこに力を吸収する力場を設けるか。

 確かに、これなら眼魂(アイコン)の力を失わせることも可能かもしれないね。

 ただ…………これ、まずいことになってるかもしれないな)

 

斬月も力を奪われ、メロンディフェンダーを取り落とすどころか

実体を保てるかどうかの瀬戸際まで追い込まれてしまい

スペクターもいつの間にかフーディーニ魂から召喚された当初の姿へと戻っている。

さらにスペクターも斬月同様、実体を失いかけていた。

この状況には、シアンの男も仮面の下で舌を巻いていた。

 

2大ライダーを封じることが出来たというのは、匙の金星と言えるかもしれないが

一方のフードの男は、先ほどラインを接続されたスペクターのように

微動だにしていなかったのだ。

 

「次はお前の番だ! その減らず口を二度と叩けないようにしてやる!」

 

『……取り込まれた魂は、まつろわぬ霊となり、理を覆す。

 命の、魂の意味を知らぬ、解ろうともせぬものには……

 銀河の終焉の地で貪り、貪られる霊達と存在を等しくするがいい……

 

 ――ディーンの火よ、ディスの心臓の鼓動となれ――!!』

 

フードの男が呪文のようなものを詠唱したと共に、周囲に漂う死者の霊魂や

先程召喚したガン・レギオンの残骸。そして斬月やスペクターまでもが

フードの男の胸元に展開された赤黒い魔法陣へと吸収されようとしていた。

 

「…………っ!!」

 

 

FINALATTACKRIDE-D D D DIEND!!

 

 

思わず、シアンの男が黄色いカードを銃に装填し

青緑色のカードの形をしたエネルギーの渦を形成する。

斬月とスペクターはそちらに取り込まれる形となり、その姿を消した。

 

そして、フードの男が集束を始めていた霊魂――怨念を雲散霧消させるかのように

シアンの銃からエネルギーの奔流を放ち、周囲を巻き込む形で

フードの男の行動を阻害したのだ。

 

その結果、物凄い爆風と共にホテル裏口付近は煙に包まれ

何者も視認することが出来なくなってしまった。

悪魔の視力を以てしても、煙が肺に入り込んでしまい

視力で周囲を見渡す以前の問題になっている。

 

その煙が晴れるころには、フードの男もシアンの男もその姿を消していた。

 

 

「けほっ……けほっ……ソーナ、みんな、大丈夫……?」

 

「わ、私は無事です……しかし、着弾点の近くにいたサジが……」

 

リアスも、ソーナも、椿姫も、由良も煙を多少吸い込んだ程度で済んだ。

しかし、シアンの男の攻撃の近くにいた匙だけは

その攻撃の余波を浴びることになってしまい、少なくないダメージを受けていたのだ。

しかも、間の悪いことに治療ができるアーシアも人質救出に出てしまっている。

 

救う手立てがない。やはり冥界に戻るべきかとソーナが結論を出そうとした時

奥からスーツ姿の女性が駆けつけてきた。

オカ研の顧問、布袋芙ナイアである。

 

「これは……派手にやってくれたものだね。

 とりあえず君達、無事かい?」

 

「先生、実は……」

 

リアスが顛末を説明する。その内容をナイアは黙って聞いていたかと思えば

すぐさまに解決法を提示したのだ。

 

「それなら問題ない。確か僕の部屋にフェニックスの涙があったはずだ。

 取りに行く時間も惜しいから、匙君を僕の部屋に連れて行こう」

 

「それなら、私も手伝います」

 

名乗り出るソーナであったが、ナイアはその提案を拒否した。

その理由を問い質すソーナだったが、今の騒動で生徒が混乱している。

生徒会長として生徒の混乱を収めてくれ、と言われてしまい

そっちの役割を果たさざるを得なくなったのだ。

 

……最も、今のソーナにそんな求心力は無く

ナイアが示した事態の収集とは「暴動を起こしかねない生徒のサンドバッグになってこい」と言う

とても教師が言えたものでは無い、残酷な指令でもあったのだ。

 

「……私も行くわ。騒動に立ち会った以上、あなただけに辛い思いはさせないわ」

 

「……ありがとうございます」

 

悪魔の生贄に山羊を差し出すのは有名な話だが、まさか自分達が生贄の山羊になるとは。

そんな皮肉めいた考えが頭をよぎりながら、リアスやソーナらは

不安に駆られる生徒の下へと向かっていくのだった。

 

 

 

「…………これも全部君の作戦だとでも言うのかい?」

 

「『通りすがりの仮面ライダー』の片割れか。

 別に。僕はただ、この世界があるべき姿になるように動いているにすぎないさ」

 

ナイアの背後に、白いジャケットを着た金髪の青年が立っていた。

手にしているシアンの銃が、彼が先程のシアンの男であることを物語っている。

 

「あるべき姿……か。僕に言わせば、随分と趣味の悪い話だね。

 そのためにお宝一つダメにしているんだ。僕には受け容れられないな」

 

「僕は何時だって切欠に過ぎないさ。お宝を活かすも殺すも、全てはお宝の持ち主次第。

 お宝はそれを必要とする人の手に渡って初めて価値がある。そうだろう?

 なら、その価値は持ち主次第という事さ」

 

あたかも「宝を腐らせているのは持ち主の責任」とでも言いたげにナイアは語る。

そう仕向けているのは彼女である部分もあるのだが、聞く限りでは彼女の話は正論にも聞こえる。

 

「覚えておくといいよ。たとえ通りすがりの仮面ライダーと言えども

 運命からは決して逃れられないという事を。

 それが世界の運命ともなれば、猶更さ」

 

「そっちこそ覚えておきたまえ。

 今僕が探しているのは、その世界の運命すらも破壊できるものさ」

 

「…………世界ごと、かい?

 それより、そろそろいいかな。一応僕は、怪我人を抱えているんだ」

 

青年の言葉にも、ナイアは不敵な笑みを崩さない。

無表情の青年の横を、匙を抱えたままナイアは去っていく。

 

「……気に入らないね。あんな奴の掌の上だなんて。

 やはり、早いところ士を見つけ出さないとな。

 この世界にいるのは、間違いなさそうだけど……」

 

青年は忽然と姿を消していた。

誰かを探していたのか。そして、何故フードの男と行動を共にしていたのか。

彼の行き先と目的は、彼のみが知り得る事だった。

 

 

――そして、やはりフードの男とは――




さりげなく匙が強化されてます。
神器の活用と言うか神器のゴリ押しではありますが
斬月とスペクターを追い詰める能力を発揮。
まあ、召喚ライダーではありますがほぼ勝ってるのは書いててなんですが意外(?)
ですが神器の強化って、移植って方法で強化となると
その移植元の持ち主ってどうなったんでしょうね。
好意的解釈するなら、持ち主が死んだ後アザゼル辺りが保管していたって事でしょうが
これでもかなり……いや、それでいいの? とは思えてしまいます。
宙ぶらりんの神器も無くはないとは思いますが、そうだとすると都合よすぎ。

拙作ではアザゼルが関わっていないので、よりにもよってな人が関わってそうな気配。

>ナイア
そのよりにもよって。
何故グレモリーの所属なのに取引禁止状態であるはずのフェニックスの涙を持っているのか。
何故匙の救助をしようとしているのか。
海東どころか士の事も知ってそうだけど、まあ正体が正体なので。

>フードの男
もうほぼ完全に正体バレてる(?)
いやだってデバイス音声と言い使ってる技と言い
あまつさえディス・レヴ使いそうになったり。

ガン・レギオンのデザインがセージのものより禍々しかったり
ディス・レヴ覚醒させようとしたり、完全に殺す気でやってますが……さて。

以前セージは匙に対して明確に殺意を向けてました。
ここでも不寛容極まりない言葉と共に、匙を周囲諸共消し飛ばそうとしてますし。
やっぱり…………

つーかこの時期に召喚攻撃とは言えカミカゼはどうなんだろうと
少し心配ではあるけれど、元ネタ的な意味含めてこちら仕様です。

>シアンの男
一方こちらは別にリアス達を殺すつもりでやっては無かった模様。
殺すつもりならディス・レヴ発動しかけた時に妨害せずにインビジボゥしてるだろうし。
やっぱりこいつ何がしたいんだろう、と書いてる人の言う事ではありませんが。
そしてやってることはさほど変わらないけれどナイアの事は気に入らない様子。


次回は遅れるかもしれません。


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Shadow Aパート

今回少し短めです。


岩戸山・最奥

4つ目の鏡の泉を湛えた、比較的広い空間。

天井も高く、岩の色も相俟って今まで以上に神秘的な雰囲気を醸し出している。

 

白音を探すために岩戸山の捜索を続けていたセージ達だったが

残すのはこのエリアのみとなった。

ここにいなければ、完全な無駄足だ。

 

「白音さん!」

 

「小猫ちゃん!」

 

セージとイッセーが最奥の空間に入るなり、呼び掛けて周囲を探す。

しかし、辺りは未だしんと静まり返っている。

 

――そんな中である。

まるで、射貫くような視線と、悍ましい気配が奥から漂ってきたのは。

 

 

「…………よく来たな。やはり、俺の思った通りだ。

 イッセーの方はともかく、お前の方はちょっとやそっとの餌じゃ食いつかないからな。

 同時に釣り上げる餌を選別するのに、苦労したぞ」

 

「お、お前は…………!!」

 

声の主は、宮本成二その人であった。

しかし、その瞳は真紅にぎらついており、その目つきも今入ってきたセージに輪をかけて悪い。

それ以外の特徴は、セージと瓜二つ。見分ける方が難しいレベルだ。

 

――言うなれば、(シャドウ)

そう、シャドウ成二とも言うべき存在だ。

 

「セージさんが……二人!?」

 

禍の団(カオス・ブリゲート)の偽者か何かか!?」

 

確かに、禍の団――アインストに対象を模造する能力はある。

しかし、生命を理解していないアインストがアルトアイゼンなどの機械人形はともかく

生物である人間を精巧にコピーできるかと言われると怪しいところだ。

模造品にしては、あまりにも精巧すぎる。その表情だけが、悪意に満ち溢れているだけで。

 

「偽者……偽者か。クッククク…………」

 

「な、何がおかしいんだよ!?

 まさか、お前の方が本物のセージだとでも言うのかよ!?」

 

イッセーの指摘に、シャドウ成二は笑いを返す。

あたかも不正解を嘲笑うような、悪質な笑い方ではあるが。

 

「改めて名乗ってやろう。俺は宮本成二。

 リアス・グレモリーの元『兵士(ポーン)』で、その時に名づけられた名は歩道誠二。

 ちょうどお前――兵藤一誠と対になる名前だったな」

 

「名前まで一緒かよ……!?」

 

イッセーの零した感想をも、シャドウ成二は嘲笑う。

まるで、相手の無知を愚弄するかのように。

そして「自分こそが宮本成二その人である」と言わんばかりに。

 

「名前だけでは無いぞ? 宮本成二の食べ物の嗜好、去年のテストの成績に

 ここに来る前に家で作った献立まで言い当ててやれるぞ?」

 

「……まどろっこしい真似はやめろ。お前は俺なんだろう?」

 

追い打ちをかけるように、シャドウ成二は嘲笑を交えながら

セージ本人しか知り得ない情報を曝け出そうとしている。

その内容は、セージが遮ることで語られることは無かったが。

 

「へえ。さすが俺とでも言っておいてやろうか。

 てっきり『お前が俺であるはずがない!』位言ってくれるかと思ったが。

 まあ、俺が影で真なる俺であることに変わりは無いが……

 それとも、単なる強がりか? どちらでもいいがな」

 

「え? で、でもセージはここまで俺達と一緒に来たよな?

 それが何で小猫ちゃん攫って……あっ! 分身か!」

 

「……残念だが、俺は分身を出してない。少なくとも、あの手紙を受け取って以降はな」

 

イッセーの指摘に、セージは紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)を。

シャドウ成二は何もない右手を指し示す。

紫紅帝の龍魂は、其々一切起動していない。そもそも鏡の泉に入ってからフリッケンはだんまりだ。

これによって、シャドウ成二はセージの分身などではないという事が証明された。

 

「……これで俺の無実は証明できたか?

 こいつは言うなれば俺の心の中にある影。その影が何らかの理由で実体化した存在だ。

 それがどうして、このタイミングで仕掛けてきたのかまではわからんが」

 

「あっ……もしかして、D×Dに6人目がいるって噂されているのって……」

 

「ご名答だ、アーシアさん。

 俺こそがそのD×Dの6人目……って事らしい。

 まあ、俺はD×Dなんぞにこれっぽちも興味は無いが

 D×Dってのは自称とは言えテロ対策チームなんだろ?

 だったら、今までやってることとそれほど変わりはないさ」

 

まるで自分もテロリスト――禍の団やデーモン族等と戦っているという風な口ぶりである。

実際、セージはそうしているのだから間違いではないのだが

目の前の存在はそのセージとは違う――はずだ。

 

「な、何でセージがD×Dにいることになってるんだよ!?」

 

「俺に聞くなよ。そういう風に噂されてるんだから仕方ないだろう。

 さっきも言った通り、俺はD×Dなんてものには興味が無いってのにな。

 それともお前は、無責任に噂を流布した一人一人に対して責任を追及するつもりか?」

 

シャドウ成二の指摘に、イッセーは「そう言う訳じゃねえけど……」としか返せなかった。

噂の根源を探るなど、ネット社会においても困難だ。

まして、情報が混乱している今のご時世で噂の根源を探り当てるなど不可能と言っていい。

 

――だからこそ、噂の現実化などと言う荒唐無稽な出来事が真実味を帯びてしまっているのだが。

現実が噂として流れるのではなく、流れている噂が現実のものとなる、と言う因果の逆転が。

 

「……そんな事はどうだっていい。白音さんを返せ」

 

「ああ、そうだったな。彼女はお前達を呼び寄せるための餌であり、大事な観客だ。

 丁重に扱わせてもらったが……そろそろ返してやろう。ほら、そこだ」

 

セージが本題に話の軌道を戻すなり、シャドウ成二が指示した先には、横たわる白音がいた。

見た限りでは怪我もなく、肩を動かしているところから息もある。

駆け寄ったセージに揺り起こされる形で、白音は目を覚ますが

目の前にいたセージに目を丸くしていた。

 

「え……? セージ……先輩……?

 え……? でも、私をここまで運んだのも……え?」

 

「てめぇっ! 小猫ちゃんに何もしてないだろうな!?」

 

「見ての通りだ、傷一つないだろ。俺は害をなすものは徹底的につぶす主義だが

 無益な殺生は好まない主義でな。さっきも言った通り、丁重に扱わせてもらったぞ。

 

 それとも…………『何かした』方がよかったか?

 この顔だったら、それほど抵抗なくやれたと思うがなあ?」

 

白音に傷が無いのは確かである。念のため駆け寄ったアーシアが神器(セイクリッド・ギア)を使ってみるが

取り立てて変化はない。負傷していない者の傷を癒すことなど不可能だ。

しかし、その後のシャドウ成二の挑発にはセージ自身が思わず相手を睨みつけていた。

 

「……どういう意味だ!」

 

「ククッ、ここでしらばっくれるか。気づかない程唐変木でもないだろう、お前も。

 そこの白猫の少女が、どういう目をお前に向けているか。

 そして、その向けられる目に対して『満更でもない』って感じてる自分の存在を。

 ……知らないとは、言わせんぞ?」

 

「えっ…………!?」

 

全く悪びれる様子もなく、シャドウ成二はセージの非難ものらりくらりと躱している。

それどころか、セージに対する白音の気持ち、その気持ちに対するセージの気持ちを

あっさりとばらしてしまっている。

当然、意識がようやく覚醒した白音にもそれは筒抜けであった。

あまりにも、ムードと言うものが欠けている中で相手の気持ちが判明してしまう。

 

「セージ! こんな……小猫ちゃんにまで……!!

 そもそもてめぇ、美人のお姉さんがいるんじゃなかったのか!?」

 

「だよなあ? 今尚忘れられない人がいて、それでいて他の人に心を動かすなど

 不誠実な奴のやる事だよなあ?

 わかっているのか? お前のやっていることは、他人の好意を己の欲望のために利用し

 踏み躙っている、って事なんだぞ? 姉を救った恩を売って、己の欲望を満たす……

 

 ……お前に、イッセーの事を悪く言える資格があるのか?

 寧ろ、自分を欺かない分イッセーの方がいい奴なんじゃないか?」

 

(……それは……同意しかねる……!!)

 

シャドウ成二の言っていることは、半分は正論でもう半分は暴論だった。

保身のために過失による部分があるとはいえ、殺人を犯すものが「いい奴」と言えば疑問だ。

これだけは、如何に後ろめたいセージと言えど肯定しきれなかった。

 

「お前は、どこまで自分を欺くつもりだ?

 自分を欺くような奴が、誰かに信用されると思っているのか?

 嘘つきは犯罪者の始まりだぞ?

 

 ……いや、『既に犯罪者』だったなあ?

 警察との利益供与以前にも、重大なことがあるだろうが。

 思い出せよ、あの時を」

 

「う……うぐ…………!!」

 

シャドウ成二の指摘に、セージは黙り込んでしまう。

しかし、その沈黙は肯定とも取れかねない流れであり

それは白音にとっても、少なくないショックを与える話であった。

 

「せ……セージ先輩…………?」

 

「だんまりか。だがお前に黙秘権は存在しないし無駄なことだ。

 何故なら俺は全部知っている。俺はお前だからな。

 だからお前が黙っていても無駄な足掻きだ」

 

徹底的にセージを煽るシャドウ成二。

そもそも、影に隠しておいたはずの己の暗部。

その影を称するものが目の前にいる以上、隠し通せる道理は全くないのだが。

 

「セージの……隠してたことって……!?」

 

「こいつには幼い頃から一緒に過ごしてきた、大切な姉とも……いや、それ以上だな。

 そう言う存在がいるって事は、お前達も見てきただろう?

 

 で、宮本成二。お前はその心の中にある忘れられない存在――明日香姉さんに対して

 一体お前は何をした? 忘れるな。思い出せ。これ以上目を背けることは許されない」

 

 

「――――ッ!!!」

 

 

シャドウ成二の指摘に、セージの顔が青褪める。

それは、まるで自分の心の中にある秘密を暴かれていく恐怖。

隠しておきたかった、隠さねばならなかった秘密を、自分の似姿が勝手に暴いていく恐怖。

 

「せ、セージさん! 気を確かに!」

 

「思ったより観客は少ないが……まあいい。手紙の書き方が悪かった部分もあるしな。

 じゃあ、宮本成二の知られざる思い出――その最終回をここでお披露目と行こうか。

 よく見てあの日を思い出すんだな……クハハハハハハハッ!!」

 

 

「や、やめろおおおおおおおっ!!」

 

 

セージの絶叫と共に、鏡の泉は風景を映し出す。

その風景は、今までの光景から続くセージの過去。

牧村明日香と宮本成二の幼き日の思い出の、最後の一幕とも言えた――




セージを指名したのは、そういう理由でした。
イッセーの指名理由については次回。
単独行動していたところを狙われたとはいえ、そういう意味では白音は適任だったわけです。
なので、もし単独行動していたのがアーシアだったらアーシアが狙われた可能性もありますが……
そうなると、原作の余計なフラグ拾っちゃいそうですしね。

今回は今まで以上にペルソナ(特に2)意識してる部分が。
相手が相手だから仕方ないね。

>シャドウ成二
ここに来るまでにちらほら出ていた「セージのそっくりさん」。
そっくりさんどころかある意味本人なんですけどね。
「ゴースト」時代から割と悪ぶった口調になることが多かったので
その時のセージ意識したセリフ回しだったりします。
今回は罪の「噂が混合した結果生まれた影」と罰の「ニャルの化身としての色が強い影」の折半。
やってることはほぼ罪シャドウそのものなんですがね。
本体の後ろめたい部分をねちねち突くのは罪罰どころかP4シャドウにも共通するところですが。
因みに白音に「何かする~」のは、イッセーの思った通りの内容です。
こちらforXで補完する予定はありませんが。

>白音
セージが「満更でもない」とか本人(の影)にバラされちゃってる。
自分でも「もしかして~」とか「だったらいいな~」程度だったのに
いきなりこれ。しかもこんなところで。
ただ、同時に「現状どうしても勝てない」状態なのもバラされてますが。

>イッセー
シャドウを偽者呼ばわりしてるのはシャドウに関して明るくないから仕方ない。
なんの予備情報も無しにそっくりさんをシャドウ――別なる本人と断定できる方が無理ゲー。
一番シャドウ、それも人類全体のシャドウ(の化身)と接触してるのに、と言うべきか
だからこそ、と言うべきか。

>セージ
こっちもベルベットルームでの予習が無ければ「お前なんか俺じゃない」って言ってた可能性も無きにしも非ず。
ただ「お前は俺だろ」と言ってはいるものの、P4みたく受け入れたとは
全く別のお話なので……


※11/07追記
矛盾点が発覚したため修正。
シャドウにはアモンもフリッケンもいません。ガワだけ真似ることは可能ですが。


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Shadow Bパート

今回も短めです。
また、今回はちょっとしたアンケートを予定しています。


――それは夏休みのある日。セージの家に遊びに来ていた明日香とセージは

庭に面した一室で昼寝をしていた。

セージがペルソナを暴走させた一件以降、気まずい関係にはなっていたが

まだこうして遊びに来てくれる程度の関係は維持できていた。

 

……しかし、それも今年が最後であった。

家の都合で明日香の引っ越しが決まってしまい、来年はもう会えなくなってしまう。

それに焦りを覚えたセージは、明日香との距離感を何とかしようとしていた。

 

図らずも、先日セージが茂みで偶然にも発見してしまった如何わしい本に写っていた女性と

今の明日香の格好は、似通っていた。

その光景が、フラッシュバックしてしまう。しかも幸か不幸か、明日香自身もまた

二次性徴を経て「らしい」身体になりつつあった。

それでも、セージとの距離感は昔のままを意識していたのだ。

ここに、歪みは揃った。揃ってしまったのだ。

 

白いワンピースから覗く胸元に、夏の暑さで肌に浮かぶ汗。

そしてエアコンが入っているとはいえ部屋の熱気。

熱気に駆られ、セージは思わず明日香に覆いかぶさっていたのだ。

 

「せー……ちゃん……?」

 

寝ぼけ眼でセージの顔を見る明日香。

しかし、セージの側は興奮で焦点が定まらぬ目をしており、完全に明日香を組み敷いていたのだ。

 

「え……!? ちょっ、セーちゃん、落ち着いて!」

 

「お姉ちゃん……お姉ちゃん!!」

 

勿論、そういう経験の全くないセージは本能の赴くままに明日香を組み敷いたまま

鼻先や唇を明日香の身体に擦り付ける。いくら如何わしい本を見たと言っても

熟読などしてないし、ましてやノウハウなど一切学んでいないのだ。

襲っていると言っても、児戯に等しい。

しかし、セージの力はペルソナ暴走の一件以降、飛躍的に増していた。

それを理性の失った状態では、今度は明日香が被害者になりかねない。

 

「落ち着いて……落ち着いて……ね?」

 

「お姉ちゃん……っ!!」

 

何とかセージを宥めようと、セージの頭を撫でたり抱きしめたりする明日香だが

セージの身体の熱は一向に治まらない。表情も、理性が飛んだそれである。

互いの服がはだけるのは、時間の問題であった。

 

 

 

「……こ、これって…………!!」

 

「マジ……かよ……!?」

 

「そんな……セージ先輩…………」

 

風景は少女を組み敷く少年の姿を映し出しているが、その光景にアーシアは驚愕し

イッセーも信じられないものを見る目で見ている。

白音に至っては、ショックすら受けていた。

 

 

「どうだ? これでもお前は清廉潔白だとでもいうのか?

 おっと、俺に文句を言うのは筋違いだぞ?

 仲間に隠し事をするのは、よくないもんなあ? そうだろう?」

 

「う……うう……うあ…………」

 

シャドウ成二の指摘に、セージは膝から崩れ落ちてしまう。

よもやイッセーの性犯罪そのものとも言うべき振る舞いを糾弾していた側が

子供の頃とは言え、強姦を行っていたのだ。

 

「わかってると思うが、強姦――暴行は覗きより刑が重いぞ?

 それに……まだあるだろう? この話の続きが。さあ、自分の口で言ったらどうだ」

 

ショックから茫然自失となったセージは、言われるがままにその後の顛末を口にしだす。

 

「…………この後のことは覚えてない。

 でも……お姉ちゃんとは、これ以来まともに口をきかないまま

 卒業のシーズンを迎えて、それっきりだった。

 それから何年かして、駒王学園に俺が入った後、バイト先で再会したんだ。

 どの面下げて……って思ったけど、忘れられなくて、気持ちを伝えようとして

 それで……それで…………!!」

 

「つけ回して、一方的に気持ちを押し付けただけなんだよなあ?

 なあ、そう言うのって何て言うか知ってるよな?

 

 『 () () () () () 』 って言うんだぞ?」

 

その指摘に、セージはますます黙り込む。

さらには、信じていた者が自分の知っている存在よりも酷い性犯罪者。

その事実は、白音の側にも重くのしかかることになった。

イッセーにしても、自分より酷い奴が自分を糾弾していたと知って

そのことに怒りを露にしていた。

 

「再会して開口一番が『ありがとう』どころか『ごめんなさい』ですらなく

 事もあろうに告白なんだものなあ?

 そりゃあ避けられて当然だ。訴えられなかっただけありがたいと思わなくっちゃなあ?

 それだけのことをしたんだよ、お前はな!!」

 

その自分に対する怒りが具現化したかのように、シャドウ成二はセージの脇腹を蹴っ飛ばす。

セージの過去を暴き、断罪する。それこそが、シャドウ成二の目的だったのだ。

 

「そ……そうか! こいつは、セージさんの過去の罪をこうして暴いて

 セージさんに罪の意識を植え付けて無力化することが目的だったのか!

 だから、人質の取引にセージさんを指名したんだ!

 セージさん自身がいなかったら、そもそも成立しない!」

 

「そ、そんな……」

 

光実(みつざね)の指摘に、シャドウ成二は首肯する。

セージを精神的に追い詰める。それこそが、シャドウ成二の目的であり

そのために確実にセージを呼び出すために白音を誘拐した。

その結果、セージはウマが合わないどころの騒ぎではないイッセーと組んでまで

こうしてやって来たのだ。まんまとシャドウ成二の目論見に嵌ったといえるだろう。

 

そのシャドウ成二は、崩れ落ちたセージの髪を掴んで起こしながら

さらに追い詰めるようにまくし立てる。

 

「『一方的な好意は迷惑』、そうだよなあ?

 そう言ってリアス・グレモリーを拒絶していたが、それは他でもないお前自身の事だものなあ?

 なんでお前がリアス・グレモリーを拒絶しているか、知ってると思うが教えてやるよ。

 

 『 () () () () 』って奴だ。イッセーに対してきつく当たったのも、それだろう?

 悪魔だなんだってのは副次的な理由だ。

 本当は自分の醜い姿を見せつけられているようで嫌だったんだろう?

 

 ……ああ、それとも『自分はあれよりもっと酷く醜い』か?

 そうやって自分を責めて、悲劇に酔っているだけだろう?

 それこそ全く以て醜い、醜すぎる。反吐が出るな」

 

シャドウ成二の指摘に、セージはもはや返す言葉もなく、力なく項垂れているだけだ。

まさか、自分が自身を正当化するために散々逆らい、実力行使にまで出た相手と

事もあろうに同類なのだというのだ。

 

「じゃ、じゃあ俺を指名したのは……」

 

……では、イッセーは何故呼び出されたのか?

その答えも、当然ながらシャドウ成二は用意していた。

 

「それについては……これだ」

 

徐に、シャドウ成二はイッセーに拳銃を投げ寄越す。

日本の警官が使っている、ニューナンブである。何処からか調達したものであろう。

普通の人間が持つには重いが、悪魔であるイッセーには何ら不自由なく持つことが出来る。

イッセー自身に銃を扱う資質は、あまりないが。

 

「散々こいつに煮え湯を飲まされてきただろう?

 だから、ここいらで仕返しをする機会を与えないといけないと思ってな。

 『やられたら、やり返す』って奴だ。その証拠に以前ドライグに撃ち込まれたのと同じ

 神経断裂弾を込めている。あの時は激痛に苛まれ力も満足に行使できなくなったろう?

 さあ、やれよ。借りを返してやるんだ。

 

 ……ああ、因みにそれには一発しか弾を込めてない。妙な気は起こすなよ」

 

ニヤついた顔で、イッセーにセージを撃ち抜くように促してくる。

しかし、いきなり銃を寄越されて「撃て」と言われて撃てるほど

イッセーもそうしたことに慣れているわけではない。

戸惑っているイッセーに、シャドウ成二は最後の一押しをかけてきた。

 

「……だったら、引鉄を引く気にさせてやるよ。

 さっきも見たと思うが、お前の理想とする世界に、こいつはいたか?

 重大な出来事の節目節目に、必ずこいつがいただろう?

 レイナーレ、ライザー、コカビエル、ヴァーリ、ディオドラ……」

 

シャドウ成二の問いかけに、イッセーは首を横に振る。

そう、虚憶の中でイッセーがその(神器(セイクリッド・ギア)の)力を開花させた戦いには

こちら側では必ずと言っていいほどセージがいた。

その結果、イッセーの得た力は彼が理想とする虚憶(きょおく)の中の

半分以下となってしまっている。辛うじて禁手(バランスブレイカー)には至れるものの

ドライグの力を虚憶の中ほど引き出せているかと言われれば、引き出せていない。

力でこれなのだから、人間関係ともなれば大幅に変わっていることは想像に難くない。

 

実際、ライザーとの戦いでは結末そのものが変わってしまったために

イッセーはリアスからのキスを受ける事が無くなり

今に至るまでイッセーはリアスとはキスをしていないのだ。

その反面、布袋芙(ほていふ)ナイアの手引きで朱乃やイリナと肉体的に結ばれたものの

リアスとはさっぱりであるし、アーシアやゼノヴィアはイッセーから離れつつある。

これらの件に関してはセージが直接噛んでいるかと言うと疑問ではあるが

間接的にセージが噛んでいると言えないこともない。言いがかりにも近いが。

 

「わかるだろう? こいつが与えた影響が。

 じゃあ、どうするべきかもわかるよなあ?」

 

「…………お、俺にセージを撃たせてどうするつもりなんだよ?」

 

震える声で、イッセーはシャドウ成二に問い質す。

しかし、シャドウ成二はあっさりとその答えを返した。

そもそも、シャドウ成二がイッセーを呼び出した理由など、これしかない。

 

「さっきも言っただろ。恨みを晴らしてやればいい。他の事なんざ考えるな、面倒だろ?」

 

「や、やめてください! そんな……これ以上人殺しをさせるなんて!!」

 

アーシアがイッセーを説得しようとするが、言葉が拙かった。

「これ以上」それはつまり、過去にイッセーが殺人を犯している事を指している。

それはイッセーにとってはいくら揉み消したとしても汚点であり

僅かながらの良心の呵責の原因でもある、触れられたくない痛みなのだ。

そこにアーシアが触れてしまったことで、イッセーは逆ギレしたかのように叫ぶ。

 

「う、うるさい!! そ、そうだ! 俺が逮捕される羽目になったのも、元はと言えば……!!」

 

「イッセーさんっ!!」

 

SOLID-FEELER!!

 

叫ぶアーシアだが、その口には触手の猿轡が噛ませられた。

シャドウ成二が触手を生成し、アーシアを拘束したのだ。

拘束のみで、他には何も手を出していないが。

 

「あ、アーシア先輩!!」

 

ギャスパーがアーシアに駆け寄り、光実も戦極(せんごく)ドライバーとロックシードを構え

一触即発の状態へとなだれ込む。

 

しかし、そこに割り込む形でアラヤ神社で出会った青年がシアンの銃を発砲しながら

ギャスパーや光実をけん制しにかかったのだ。

 

「邪魔はしないでくれたまえ。これは僕にとっても重要な話だ。

 彼があの力を行使するに相応しいかどうか、それを僕は見極めたい。

 (つかさ)は認めたかもしれないけど、僕としては勝手に士の力を使われるのは我慢ならないからね」

 

「くっ……!」

 

イッセーを止めようにも、完全に青年が光実を足止めしており

ギャスパーも必死でアーシアの猿轡を外そうとしているが、苦戦している。

 

「大人しくしていてくれるのならば、僕もこれ以上手は出さないよ。

 だから、君達も大人しく彼らの決断を見守っていたまえ」

 

邪魔が入らなくなったところで、シャドウ成二は改めてイッセーに決断を迫る。

セージに下す断罪。その執行を果たすか否か。

 

「まだ決めかねているのなら、はっきりと言ってやろう。

 こいつを撃たなければ、お前は未来永劫ハーレム王にはなれないぞ!!」

 

さあ、撃て! と言わんばかりにシャドウ成二はイッセーを焚きつける。

ハーレム王。その単語にイッセーが反応し、握られた拳銃の引鉄に指がかけられる。

その銃口は、確かにセージの側を向いているのだった……




>こいつを撃たなければ、お前は未来永劫ハーレム王にはなれないぞ!!
撃つ
撃たない
シャドウ成二を撃つ

イッセーにあるのはこの3つの選択肢のうちのどれか、だけです。
選択肢次第では多少物語の結末に影響を及ぼすかもしれませんが
まあ、気楽に答えていただけると幸いです。
因みに期間は投稿日から一週間程度を想定しています。

>セージ
イッセー以上にとんでもない事やってたことが発覚。
いくら幼少期のこととはいえ、強姦働いた上に直近ではストーカー行為。
こりゃイッセーの事を言えるわけがない。
尚強姦については未遂かどうかは今回当然ぼかしてますが
セージは状況証拠で最後までやったのではと疑って(思って)いるし
以前黒歌にちょっかいかけられた際にその辺について引っかかることも言われているし。

こう言う過去があって白音の治療でああ言う事をしたって結構……

>シャドウ成二
主人公のシャドウをトップバッターにしたのは、真面目な話しますと
この手の二次創作とかでよく言われる「オリ主とて原作主人公の同じ穴の狢じゃないか」に対するアンサーです。
同じ穴の狢どころか、限定的に見ればもっと酷い。
だけどそんなことは自分が一番よくわかってる。でもわかってるだけじゃどうにもならない。
イッセーに断罪させようとしているのも、そう言う訳です。

別に他のシャドウ(現時点では一人確定どころか登場してますし
原作のギミック考えればもっと出てくる)を
消化試合にするとかそう言うつもりも無いですけどね。

>イッセー
ある意味セージ以上にいいように扱われた奴。
いくら仕返しが出来るとはいえ、シャドウ成二の思惑の上って現実に変わりはないので。
セージを撃つか撃たないか。或いはシャドウ成二を騙し撃ちするか。
その決断は…………あなた方に委ねられました。


メタい話をすると原作で思いっきり働いているであろう「大いなる意思」の具現化。
シャドウ成二もその正体はネタバラシしますと人類全てのダークサイドたるニャルラトホテプの化身の一人なので
「不特定多数の人間の意思」を反映させるにはこうする他ないと思いまして。

>海東
シャドウ成二と組んでいたのは「セージがフリッケン(士)の力を行使するのに相応しいかどうかを見極めるため」でした。
つまり、シャドウ成二にフリッケンの力はともかく意思は宿ってません。
お宝を追わずに、士を行動指針にするとそうなるかな、と。
セージに士の力があるってのは気づいてますし、なんならアラヤ神社で出くわす前から知っててもおかしくない。

小説鎧武でミッチと会っていたのは士の方なので海東はミッチと面識はありません。
龍玄とディエンドなら、まだしも。


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Indication

何も投稿しないのも、と思いまして。
アンケートは引き続き行っております。今週木曜いっぱいです。
宜しければ、前話をご覧いただいたうえで参加いただけると幸いです。
https://syosetu.org/novel/185653/93.html


――岩戸山・洞窟入り口前。

 

 

「…………何者ですか?」

 

「そうだな……強いて言うなれば『通りすがりの仮面ライダー』ってところかな」

 

セージ達が洞窟に入り、退路を確保するために入り口で待機していたバオクゥ。

その前にに立ちはだかるバーコードを思わせる黒い鎧を纏ったシアンの男。

彼はシアンの銃を構え、マゼンタ色のカードを銃にセットする。

 

「君に恨みは無いが、君に洞窟の中に入られると厄介だからね。

 暫く、こいつと遊んでいたまえ。

 なに、一人で退屈そうだから暇つぶしの相手を呼んでおこうかと思ってね」

 

「……余計なお世話ですよ!」

 

バオクゥが砲台を構えるのと同時に、シアンの銃の引鉄が引かれた。

 

 

KAMENRIDE-SNIPE

SIMULATION GAMER!!

 

〈スクランブルだ! 出撃発進

 バンバンシミュレーションズ 発進!〉

 

光と共に召喚されたのは、紺色のボディにバオクゥと同じような砲台を全身に装備し

頭には白い軍帽を被ったようなデフォルメされたような赤い目に

蛍光グリーンの垂れた前髪を思わせる装飾。

 

それは、ある世界でこう呼ばれていた。

 

 

――仮面ライダースナイプ シミュレーションゲーマーレベル50。

 

 

「じゃ、後はよろしく」

 

「あっ! 待ってください!」

 

召喚だけして、通りすがりの仮面ライダー――ディエンドは岩戸山へと入って行く。

それを追いかけようとするバオクゥだったが

その足元にはスナイプの撃ち出した砲撃が着弾する。

 

「……た、倒さなきゃ追いかけられないって訳ですか」

 

スナイプの砲撃を口火に、山奥に似つかわしくない砲撃戦が繰り広げられる。

重巡洋艦の主砲を思わせる砲台を担いだバオクゥと

ディエンドの召喚した、戦艦を身に纏ったような戦士

仮面ライダースナイプ・シミュレーションゲーマーレベル50との戦いである。

 

「くううっ!!」

 

スナイプの両腕に装備されたオーバーブラストキャノン。

そして両肩のスクランブルガンユニット。

これらの砲撃は、バオクゥの攻撃を重巡洋艦とするならば

あからさまに戦艦、それも超弩級戦艦と言っても差し障り無い火力を誇っていた。

 

(か、艦載機が飛んでこないだけマシなんですかねこれ……)

 

一応、スナイプの砲撃は前方か回り込まれた方角からの砲撃に限られており

上空からの立方的な攻撃は今のところ繰り出されてこない。

見方によっては飛び上がってキックしてきそうな外見もしているが

今のところ、砲撃戦のみで接近戦を挑んでくる様子はない。

 

しかし、そんなものはなんの気休めにもならない。

胸部のバトルシップアーマーをはじめ、見た目通りに重装甲を誇り

バオクゥの砲撃でさえもほとんど刺さらない。完全にじり貧である。

 

(これ……火力がちょこっとどころじゃなく足りないですよぉ……)

 

思わず内心弱音を吐くバオクゥだが、スナイプの方も

そこまで殺意のある追撃をしてこないのは救いであるといえた。

そもそも、シアンの男はバオクゥの足止めのためにスナイプを召喚したのだ。

倒すところまでは目的にしていないのだろう。

 

だが、一発一発の威力がでかすぎるのでまともに喰らえばただでは済まない。

そう言う意味では、早いうちに何とかしなければならないことに変わりはない。

それに、洞窟の入り口を背にするわけにもいかなかった。

スナイプの砲撃で洞窟の入り口が塞がりかねないからだ。

 

(こんな高火力の相手と街中でなんてやり合えないですし

 足止めに乗っかるようで癪ですけど、ここで相手するしかなさそうですね……)

 

腹を決めたのか、バオクゥは飛び出すタイミングを測り始めた。

バオクゥの装備は精密射撃には向かないが、それでも大まかに狙いを定めることはできるし

やろうと思えば、肉薄しての攻撃だってできる。無論、リスクも高いが。

そのハイリスクハイリターンを取ったのか

主砲を思わせる鞄の中から魚雷のような武器を取り出す。

それをスナイプに直接ぶつける魂胆だ。

 

(こんなこともあろうかと、手入れしておいて正解でしたよこれ。

 砲撃の癖がわかりさえすれば、これを守りの脆いところに叩き込んで……!

 あのギミックの多そうなベルト部分が脆そうですね)

 

実際のところ、スナイプに限らず仮面ライダーの系譜に連なる者達はベルトが弱点である。

そうでなくとも、ベルトと言えば大体腰から腹部

有体に言えば臍の部分に装着されることが多いので

人体の急所であり、チャクラ的に言えば中枢を叩くことになるのだ。効果が無いわけがない。

 

そこまで来れば、あとはタイミングだ。

まさか、砲撃を真っ向から掻い潜るわけにもいかない。

地雷原を突っ走るにも等しい行為であり、最悪の事態となれば粉微塵で轟沈だ。

そうならないためには、砲撃を逸らさせる必要があるが

バオクゥにそんなものが用意されている訳が無かった。

 

実際の海戦では、流れでタイマンになる事こそあれども

はなっからタイマンでの勝負などほとんどない。

そもそも軍艦は数隻単位で動くものだ。それらが各々の職務を全うするのだから、勝てるのだ。

バオクゥの装備も面火力に秀でている方でこそあるが、相手はそのはるか上を行く面火力だ。

タイマンではあまりにも分が悪すぎる。

 

バオクゥを炙り出そうと、スナイプは副砲とも言うべき

スクランブルガンユニットでの砲撃を繰り返す。

これ以上やっては、岩戸山の地形が変わりかねない。

 

(隠れてるのも限界かもしれませんね……こうなったら!)

 

砲撃が止んだ瞬間。バオクゥはおもむろにスナイプの前面に飛び出し

ベルトのバックル――ゲーマドライバー目掛けて魚雷を投げつけようとしたが。

 

 

――スナイプの右手のオーバーブラストキャノンが、取り外されており

蛍光ピンクのハンドルを握っていた。

 

 

〈バンバンクリティカルファイヤー!!〉

 

 

「――――ッ!?」

 

 

再びスナイプの右手に装着されたオーバーブラストキャノン。

両手のそれを合体させ、艦載機を載せた甲板を思わせる形状を取る。

そこから繰り出された砲撃は、事もあろうにバオクゥに直撃してしまった。

 

 

服も、装備もボロボロになり突っ伏すバオクゥ。

倒したことを確認したスナイプは、光と共にその姿を消失させた。

 

(……あはは……負けちゃいましたね…………

 あーあ……最後にもう一度、呉行ってみたかったな…………)

 

立ち上がろうと手に力を込めるバオクゥだったが、程なくして

その力は失われ、力なく横たわるのみとなってしまった。

 

 

――――

 

 

時を同じくして、七姉妹学園。

ここには薮田直人(やぶたなおと)を始めとして

リアス・グレモリー以下オカルト研究部部員がいた。

当初の予定ではアラヤ神社に彼女たちを連れていく予定だったが、神社という事もあり

悪魔であるリアスらへの抵抗が激しいため、止む無く七姉妹学園の中庭にやってきた形だ。

 

「薮田先生。一体どういうことなのかしら?」

 

「事態は思った以上に深刻でしてね。

 これ以上、ホテルに滞在しているのは危険だと判断したのですよ。

 何せ、私の所にも公安が押しかけて来たくらいですからね」

 

警察協力者である薮田の下にさえ、公安が押しかけて来たのだ。

テロリスト容疑がかけられているリアスらに至っては、さらに公安が来る可能性は高いだろう。

 

「あらあら。それでは返り討ちにしてしまったら、本当に犯罪者ですわね」

 

「それで先生、これからどうするんですか?」

 

ホテルに滞在できないとなれば、これ以上駒王学園とも

七姉妹学園とも行動を共にすることはできない。

やむを得ない判断ではあるが、一足先に冥界に戻らざるを得ない状態になったと言えよう。

 

「冥界に戻るべきですね。

 如何に公安と言えども、冥界まで捜査の手を伸ばしてくるとは考えにくいです。

 今捕まるよりは、冥界でほとぼりが冷めるのを待った方が賢明ですね」

 

「……私達はそれでいいとして、先生はどうするの?

 それに、まだイッセーやアーシア、ギャスパーが岩戸山にいるはずよ。

 私達だけ、先には戻れないわ」

 

今、ちょうどイッセーらは岩戸山に白音を救出しに向かっている最中である。

冥界への転移の魔法陣はリアスが管理している。

今冥界に行ってしまっては、イッセーらが置き去りになってしまう。

 

「……それに、ナイア先生も見当たらないわ。

 彼女は私の眷属であると同時に、オカ研の顧問教師でもあるわ。

 いくら薮田先生に指示されたからって、ナイア先生を無視はできないわ」

 

(確かに。そこは気になるところではありますね。

 急を要する危険性が高いので、事後報告だけでもと思いましたが……

 

 ……まさか、連絡がつかないとは。やはり、彼女は警戒しなければなりませんね)

 

そしてリアスとは別口で冥界に移動できそうなナイアもまた、何処かに行ってしまっている。

彼女が公安にマークされているということは無いが、オカ研顧問という事で

重要参考人程度にはなっているだろう。

それを見越して雲隠れしたにしては、生徒を置き去りにして雲隠れするというのは

教師としてあまりにも無責任だ。

 

「……仕方ありませんね。白音君を探しに行ったメンバーが戻り次第

 合流し、冥界に戻ってください。布袋芙(ほていふ)先生については、私が何とかします。

 

 ……いいですか。くれぐれも、公安と戦おうなどと考えないように。

 単純な戦力ならば、あなた方にも勝ち目はあるでしょうが

 勝ち負けの問題ではありません。あなた方は悪魔。公安は一応人間。

 その立場の意味を、よく考えてください」

 

公安とオカルト研究部の戦い。それは、単純な抵抗ではなく

「人間と悪魔の戦い」になってしまうのだ。テロリストが悪魔であることがそもそもの原因だが

それでも、人間である公安と悪魔であるオカ研が戦えば

それは他の意味を持つようになってしまう。最悪、人間界と冥界の戦争になりかねない。

 

「……面倒ですわねえ」

 

「だけど、公安となれば国家権力。そんなのと戦えば確実に僕達だけの問題じゃなくなる……

 それより薮田先生。僕達や布袋芙先生はいいとして、光実(みつざね)君はどうするんです?」

 

「彼は……少し危険ですが、可能であればユグドラシルに身柄を保護してもらいましょう」

 

木場の指摘する通り、光実は人間でありながらリアスらの仲間扱いされている。

光実を冥界に連れて行くわけにはいかないので、沢芽(ざわめ)市への帰還も念頭に置いているが

現状では困難であると言わざるを得ない。

 

「……今回の件、ユグドラシルが公安に働きかけているんじゃないかしら?」

 

「可能性はゼロとは言いませんが、今憶測で動くのは危険ですよ。

 ただでさえ憶測で動くことはリスクが多く伴います。

 判明している情報から、最適解を導き出して行動することが肝要ですね」

 

リアスの指摘は、当たらずとも遠からずと言えた。

そもそもテロリスト扱いされたのは、ユグドラシルタワーでの事件が原因だ。

しかし、その後公安が発言力を増し超特捜課でさえ掌握したことに関しては

ユグドラシルは一切関わっていない。

だが、公安に働きかけた張本人である須丸清蔵(すまるせいぞう)は、ユグドラシルともパイプがある。

そう言う意味では、ユグドラシルと繋がりはあるが、直接的とは言えない。

 

「……じれったいわね。無実を証明しようにも、どうすればいいか……」

 

「そう言えば、セージ君が連れてきたあの藤色の髪の彼女。

 なんでもキスメット出版ってマスコミで働いてるみたいですよ。

 彼女にコンタクトを取ってみたらどうでしょう?」

 

木場がバオクゥの身元を思い出し、リアスに彼女の力を借りることを提案する。

しかし、バオクゥは救出メンバーの一人として出発している。

彼女に話を振るには、そこに向かう必要があるのだ。

幸か不幸か、彼女は突入メンバーでは無いが。

 

「そうね。なら朱乃、祐斗。私達も岩戸山に行くわよ。

 じゃあ先生、そう言う訳だから後はよろしくお願いしますね?」

 

薮田の返答を聞く前に、リアスらは行動を開始してしまった。

神社の境内ではないので、悪魔でも入れることは

既にセージに同行しているイッセーらが証明している。

 

しかし、彼女達だけで行動させていいものか。

不安を覚えた薮田もまた、後を追う形でリアスに付き添うことになったのだ。

 

 

――警官隊と、黒いパワードスーツもまた岩戸山の方角に向かって行ったのは

その少し後の事であった――




誰かダメコン持ってきてー()

>バオクゥVSスナイプ
ここだけ艦これ。
スナイプは火力的には姫級想定していたり。
ただ、艤装(ゲーマ)装着してない部分はそれほど防御力高くなさそうなので
そこかベルトを狙えばクリティカル撃破可能かも、ってレベル。
でも運はプリンツ位は欲しかった。

で、一撃に失敗してまともに喰らってます。
服ボロボロもある意味原作再現。

さて、艦これ触った方ならある程度お察しかと思いますが
大破した状態で戦闘したわけではありません。
なので……

……3話の如月? 何のことだか。

>オカ研
よせばいいのに岩戸山に向かおうとしてる。
テロリスト疑惑晴らすためにマスコミの力を借りようとするなど
発想自体は(木場が)まともですが、そのマスコミがどうなったかと言うと上記の通り。

で、その岩戸山では丁度セージの過去が暴かれているところなので……

>公安
しかもリアスらをつけてる可能性すらある集団。
黒いパワードスーツは原作聖槍騎士団ではなく……

これ、シャドウ成二&ディエンドの後連戦になるフラグが。


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Preacher

改めまして、アンケートご協力ありがとうございました。
結果は作品を以て返させていただきます。


「まだ決めかねているのなら、はっきりと言ってやろう。

 こいつを撃たなければ、お前は未来永劫ハーレム王にはなれないぞ!!」

 

岩戸山の最奥、鏡の泉。

そこで白音を人質に待ち構えていた宮本成二のダークサイドが形を成した存在――シャドウ成二。

彼はイッセーに対し、セージに散々苦汁を舐めさせられた仕返しをしろとばかりに

拳銃を投げ寄越す。

 

その拳銃にはかつてドライグを止めるために発砲したとはいえ

人体――イッセーは悪魔だが――には過剰火力とも言うべき神経断裂弾が

その時と同じように一発だけ込められていた。

 

逡巡していたイッセーではあったが、「撃たなければ、ハーレム王にはなれない」。

この言葉をきっかけに、引鉄にかけられた指に力が込められる。

 

(そ……そうだ! 何をためらう必要があるんだ!

 こいつのせいで部長は……リアスは辛い思いをさせられて!

 三大勢力の和平だって果たされずに、悪魔は今なお滅びに瀕してるじゃないか!

 それなのにこいつは、そんな悪魔に手を差し伸べるどころか

 その手を踏みにじるようなことばかりしてるじゃないか!

 

 そうだ……俺が、俺がやらなきゃ、こいつを……悪魔の敵であるこいつを!)

 

迷っていたイッセーの瞳に、セージに対する個人的な憎悪と

悪魔を救わんとする義憤が入り混じった炎が宿る。

そんな様子を赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)――ドライグは内側から白けた目で眺めていた。

 

(……バカが。完全にこれは口車に乗せられているぞ。

 しかし、このやり口はたかだか人間一人の悪意のみで為せる業ではないな。

 後ろにもっと大きな……得体の知れない悪意の塊でもあるというのならば話は別だが……

 

 ……やはりこいつもガキか。たかが人間の悪意如きに踊らされおったからに)

 

ドライグの思っている通り、シャドウ成二はセージに銃口を向けるイッセーを眺めており

その表情には、邪悪さがこれでもかと込められていた。

対照的に、銃を向けられているセージは膝をつき、項垂れたまま顔を上げようともしない。

 

無理からぬことだ。シャドウ成二は文字通り、セージがその心を成立させ今に至るまでの

ありとあらゆる悪意から誕生した存在である。

言うなれば、セージの人生を別の角度からずっと眺めてきたのだ。

そんな存在に、過去の悪事を洗いざらいぶちまけられ、それはここにいる仲間のみならず

互いに満更でもないと思えるほどの関係を築きつつあった少女にも衝撃を与え

現にこうして、過去悪事を指摘し糾弾した相手にも

仕返しと言わんばかりに銃を向けられている。

 

「セージさん、しっかりしてください!」

 

「イッセー先輩も、やめてください!」

 

救助のためについてきた光実(みつざね)とギャスパーが声を上げるも、まるで届いていないかのように

イッセーも、セージも微動だにしない。

しかし、その声を上げる彼らもまた動けない。

アーシアを拘束する猿轡を外すというのもあるし、シアン色の銃を持った男が

二人をけん制しているのだ。

 

「……時間は悪魔の一生程無限じゃないんだ。撃つなら早く撃てよ。

 自分の事を棚に上げて偉そうに振舞った挙句、他人の足を引っ張ってきたこんな奴。

 生かす価値なんざ無いんだからよ」

 

イッセーが狙いやすいように、シャドウ成二はセージに蹴りを一発入れた後

髪を掴む形でセージの頭を持ち上げ、イッセーの持つ拳銃の銃口が

確実に頭に当たるような位置にまで持ち上げた。

 

「……や、やめて……やめてください……」

 

そのあまりにも惨たらしい光景に、さっきまで捕まっていた白音が思わず声を上げる。

しかし、その声はイッセーやセージに届くことは無く、シャドウ成二もまた

その声を遮るかのように逆に意見を述べていた。

 

「そうはいかない。これは君に対するけじめでもある。

 不誠実な対応をして、嘘をついてきた君に対する、な。

 こいつは死ぬべきなんだ。罪には相応の罰が必要だろう?

 何故刑罰に死刑、なんてものがあると思う? 死を以てせねば償えない罪だからだ。

 こいつはそれだけの罪を犯した。リアス・グレモリー、ライザー・フェニックス。

 それからサーゼクス・ルシファーに兵藤一誠。

 そして……牧村明日香に、君だ。これら皆、こいつのせいで人生を狂わされた者達だ」

 

シャドウ成二が述べるだけで6人。もしかすると、もっと多いかもしれない。

これを殺人に照らし合わせれば、立派な凶悪犯罪者だ。死刑もありうるだろう。

 

「……御託は終わりだ。さあ、イッセー!

 今こそ、お前の恨みを晴らす時だ!!」

 

シャドウ成二が、徐にセージを突き飛ばす。

その先には、イッセーが構える銃口が待ち構えていた。

 

 

「……借りを、借りを返してやるぜ……

 

 …………セージィィィィィィィィィィィィッ!!!」

 

 

 

イッセーの叫び声と共に、発砲音が洞窟の奥深くに木霊する。

人体の内側から神経を破壊する神経断裂弾が、セージの頭部に炸裂せんと発射されたのだ。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

...

 

 

 

 

 

 

 

..

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

..

 

 

 

 

 

 

 

...

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

…………岩戸山は、静寂に包まれている。

辺りに漂う火薬の臭いが、今しがた発砲があった事を物語っている。

 

 

……しかし、そのうっすらと青く輝く地面は、赤く染まってはいなかった。

 

 

「……忘れてねえかセージ。お前は、俺と契約したんだ。

 悪魔である俺と契約を交わした以上、俺の許可なく勝手に死ぬのは

 立派な契約違反だ。他はどうだか知らねえが、俺は契約違反を許さねえ主義でな。

 あんまり悪魔を嘗めんな」

 

セージの髪は、悪魔を思わせるものへと変化しており

その目つきも、普段のセージに輪をかけて悪いが、シャドウの邪悪さとも違う。

 

――アモン。

宮本成二と契約した、かつてのセージと同じく身体を失った悪魔。

彼がセージの身体を強引に使い、神経断裂弾が着弾する前に熱光線(デビルビーム)で弾丸を相殺し

神経断裂弾の着弾を防いだのだ。

 

「な…………な…………!!」

 

「よ、よかった……!!」

 

「セージさん!」

 

思わずへたり込み泣き出す白音に、セージが無事であることに涙するアーシア。

ギャスパーと光実も、惨たらしい殺傷事件が起きなかったことに安堵していた。

 

「……へぇ。人間でありながら悪魔の力をね。まるで…………いや、今はいいか」

 

シアンの銃を構えていた男も、一先ずは銃を下ろす。

今の一発で決まらなかったことで、これ以上の拘束は無意味だと判断したのだ。

 

 

ところが、一人だけこれに納得がいかない者がいる。

殺意の有無はともかく、間違いなく発砲したイッセーだ。

 

 

「な……なんだよこれ!? そんなのありかよ!?」

 

(さっき霊魂のの方を「自分の事を棚に上げて~」なんて言っていたが

 俺に言わせば、お前も大概だと思うがな。

 そこまで合わせて、同じ穴の狢って言うんじゃないのか?)

 

思わず憤慨するイッセーだが、ドライグは一切興味無さげだ。

そもそも、これはニ天龍の戦いとなんの関係もない。

ドライグが興味を抱く道理が、そもそもないのだ。

 

「こんなのありかよ!? 卑怯じゃないのか!?」

 

「…………………卑怯?

 

 

 …………クッ、クハッ、クハハハハハハハハハハッ!! 何を言うかと思えば!!

 そもそも赤龍帝の籠手、赤龍帝の力を使ってるお前に言われたくはないわ!!

 それに、虚憶(きょおく)を見てきたんなら知ってるだろ?

 今のこいつみたいなことを、お前だって散々やってきただろうが!!」

 

偶然、竜の手(トゥワイス・クリティカル)が赤龍帝の籠手としての力を取り戻した。

偶然、魔王の引き立てもあるとはいえ禁手(バランスブレイカー)に至った。

偶然、暴走した力を制御できるようになった。

偶然、新たな力に目覚めた。

偶然、…………

 

アモンの力を借りたか、ドライグの力を借りたか。

たったその程度の違いであると、シャドウ成二は声高に宣言している。

 

「け、けどこの世界じゃ俺は…………」

 

「虚憶の世界でお前と対峙した奴が何を思って戦ったのかは俺も知らん。

 だが、一つだけ言えることがある。それは……

 

 ……さっきてめえが言ったことと、同じことを思ってたんじゃないのか?」

 

シャドウ成二の語ることを要約すれば、この世界の兵藤一誠は

虚憶の中で兵藤一誠と戦った、所謂敵と言える存在とほぼ同質の存在である。

イッセーは、それを認めなかった。認めるわけにはいかなかった。

何故なら、虚憶で彼が戦った相手は、須らく世界の平和を乱す相手だったのだ。

それを倒すことが、自分が正義の味方であり、自分に正当性を与える唯一の手段だったのだ。

そんな相手と同質であるなど、認めるわけにはいかないのだろう。

 

「お、俺を騙したのか……!?」

 

「人聞きの悪い事を言うなよ。お前みたいなのでも一応ダチだからな。

 仕返しをするためのお膳立てをしたってのに、なんて言い草だよ。

 ま、アモンが全くの想定外だったとは、言い切れないけどな。

 お前だって、自分の中にドラゴン飼ってるだろ。悪魔(Demon)か、(Dragon)か。

 その程度の違いだ」

 

(ま、彼にはもう一つ(Decade)……いや二つ(Dis-rev)か。あるみたいだけどね)

 

イッセーの凶弾は、アモンに阻まれた。

かつて悪魔によって夢を紡がれたものが、悪魔によって目的を遮られた形だ。

悪魔はほぼ無条件に味方だと思っていたイッセーにとって、信じがたい出来事でもあった。

 

「そ、そうだお前……お前も悪魔なのに、何で……!?

 セージは、悪魔なんかどうなったっていいって思ってるような……!!」

 

「ハッ! セージにも言ったが、悪魔を嘗めるな小僧!!

 てめえが人間で叶えられない願いを叶えるためだけに、悪魔は存在してるわけじゃねえ!!

 それにだ! 俺はサーゼクスを潰すためにセージと契約した!

 てめえら親魔王派とは、はなっから道が違ってるってことだ!!

 悪魔なんかどうなったっていい、その位の気概も無い奴が

 悪魔の力を利用しようなどと笑わせる!!」

 

とは言えセージにしても、肉体を取り戻すためにやむなくアモンと契約した側面もあるため

完全にアモンの意見に合わせている訳でもないのだが。

そのセージは、アモンによって今は強引に内側に押し込められてしまっている。

 

(アモン……俺は……

 あいつらの言ってることは本当だ……俺は……)

 

(勝手に死ぬのは契約違反だっつったぞ。

 それにだ。悪いと思っているなら、さっさと謝れ。道理を弁えた上でな。

 そのためにも、やらなきゃいけないことが山ほどあるだろ。

 

 ……サーゼクスのクソ野郎に、人間界を好きにさせていいのか?

 アインスト、インベス、黒の菩提樹、ラスト・バタリオン、デーモン族……

 人間だってこの世情で混乱して暴徒化してる。これらをどうにかしない限り

 最悪、お前の言う姉ちゃんだって殺されかねないんだぞ。

 こいつらを止めるだけの力、無いなどとは言わせねえぞ。なあフリッケン)

 

(マゼ……そうだな。あの泥棒野郎を見て思い出したことがある。

 セージ、俺はお前を通して、この世界を見定めている。

 ……この世界を、破壊するかどうかを決めるためにな。

 俺もかつては絶望に打ちひしがれ、戦う意思を失った。

 だが、ある人が言った。「命ある限り戦え」……ってな。

 

 戦えセージ! 誰かに与えられたものじゃない、お前の命を持っているのなら!!)

 

セージの心に木霊する、アモンとフリッケンの叫び。

確かに、セージは多くの罪を犯した。

しかし、そこで終わりではない。その罪を、どう償うか、だ。

力のあるものが、戦わずに降りることが出来る状況ではない。

世界は既に、多くの悪意によって覆われている。

その悪意を拭い去ることが出来る力を、セージも持っているのだ。

ならば、やる事は一つである。

 

(アモン、フリッケン……ありがとう。後は…………

 

 

 …………俺がやる!!)

 

 

アモンから、自身の肉体のコントロール権を取り戻すセージ。

その時、微かにアモンの力がセージの側に流れて行った風にも見えたが

それに気づくものは誰一人としていなかった。

 

フリータロットの「力」に値するカードを強く輝かせながら

セージの意識は再び外へと向かう。

 

 

「…………やれやれ。やはり、自分の手で始末をつけなければならないか。

 大人しくイッセーに撃たれていれば、丸く収まったものを」

 

「そうもいかんな。これ以上、あいつに要らん罪を重ねさせるわけにはいかない。

 そして、俺の不始末は……俺がつける!」

 

互いに記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を構え、対峙するセージとシャドウ成二。

その様は、さっきまで戦意を喪失していたセージの姿とは程遠い。

 

「セージさん、戦えるんですか!?」

 

「心配かけてすまない、もう大丈夫だ!」

 

戦線に参加しようと、光実やアーシア、ギャスパーが駆けつけようとするが

その前には、シアンの銃を持った男が立ちはだかっていた。

 

「おっと。悪いけど、まだ彼の試練は終わりじゃないんだ。

 君達の相手は、僕が引き受けよう」

 

KAMENRIDE-DIEND!!

 

シアンの銃から放たれた光で、男はシアンのスーツに黒いバーコードのような鎧を纏い

どことなくアオスジアゲハを思わせるような意匠の戦士――仮面ライダーディエンドへと変身し

そして……

 

 

「折角だ。君達も異界の戦士の試練を受けていきたまえ」

 

 

KAMENRIDE-IXA!!

 

 

「あれは……まるで教会の戦士のような……!」

 

「うっ……ぼ、僕の苦手そうな相手です……」

 

アーシアとギャスパーの前には、胸に太陽を抱く白い聖戦士。

――仮面ライダーイクサ。

 

 

KAMENRIDE-BARON!!

 

 

(バナナのアーマードライダー!? いや、プロフェッサーがバナナは開発中止にしたはず!

 だとすると、こいつはユグドラシルのアーマードライダーじゃない!?

 でも、あれは戦極(せんごく)ドライバー……!)

 

光実が変身したアーマードライダー龍玄(りゅうげん)の前には

異なる世界ではあるときは対峙し、またある時は共に戦った男爵の名を持つ赤い槍騎士。

――アーマードライダー……否、仮面ライダーバロン。

 

 

「君は試練と言うよりは……お宝をダメにしてくれた、その憂さ晴らしだ」

 

「お宝? 何のことだよ!」

 

KAMENRIDE-CROSS-Z MAGMA!!

 

 

そして、赤龍帝の籠手を構えたイッセーの前には橙の熱き溶岩の力を持つ黒い龍戦士。

――仮面ライダークローズマグマ。

 

 

正しく英雄とも称される、三人の戦士がアーシア達の前に立ちはだかる。

セージに加勢しようにも、彼らがその道を阻む。

 

その隙を突くように、白音がセージの下へと加勢しようとするが

それさえもディエンドには見透かされており

彼が召喚した戦士の不意打ちを受ける形になってしまった。

 

「させないよ!」

 

KAMENRIDE-TAIGA!!

 

 

「くっ……!!」

 

白音を足止めせんと景色を反射する泉の水面から飛び出したのは、白虎を思わせる鏡面戦士。

――仮面ライダータイガ。

 

 

「彼の下に駆け付けたいのならば、まずは彼らを倒すことだ。

 覚えておきたまえ。試練は平等に降りかかるものだよ」

 

自分自身との戦い。

そして、試練と称し立ちはだかる異界の英雄とも言うべき戦士達。

 

岩戸山の最奥、鏡の泉。

そこに待っていたのは、まさに試練と呼ぶに相応しい戦いの幕開けであった。




と、言う訳で迷った結果「撃つ」行動に出ました。
だんまり決め込んでたアモンが出てきたので無傷で済みましたけど。

>シャドウ成二
イッセー使ってセージ始末させようとしていただけで
それ以外は全くイッセーに期待していませんでした。
もっと言えば、始末出来ればそれでよし、そうでなくともまあいいや、程度。
始末できなくてもセージを煽るのには使えますしね。

なお、登場から一貫して言えることですが
「シャドウは自分自身の事に関しては『嘘は』ついていません」

>イッセー
今回セージのアモンによる防御を卑怯呼ばわりしてますが
シャドウ成二やドライグが言うように「おまいう」案件。
前回セージがブーメランと言われていましたが、つまりイッセーだってブーメラン。
同じ穴の狢であり、セージがイッセーの「アナザー」になりうる資質を持っている証左。
逆かもしんないけど。

>海東
何気に言及してる悪魔の力を持った人間。
決して昨日地上波初登場した俺っちのことじゃねぇんだわ!
多分? きっと? メイビー?

……そういや、拙作アモンも「実体のない悪魔」だったなあ。
こっちは比較的楽に外部とコンタクトできるけど。

>カメンライド
かなり大盤振る舞い。
イクサにバロンにタイガ、そしてクローズマグマ。
一人だけ最終フォーム相当の強化フォームなのは海東が言ってる通り腹いせ。
同じく最終フォーム相当のスナイプと戦ったバオクゥは負けてるので
イッセーにも負けフラグですけど、こいつ一応原作主人公なので
そうなるかどうかは。

当初は2号ライダーで揃うのでタイガは出さない予定でしたが
そうなると白音がフリーになるorディエンドと戦う羽目になるので
白猫(違)でタイガ。

……アーシアと言い、白音と言い
次章で新能力お披露目の予定が早まりそう。まあいいか。


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Phantom KAMIKAZE Aパート

お待たせしました。
ぼちぼちと投稿再開させていただきます。


艦これはリベンジ果たせましたが、些か息切れが始まってきたかもしれません。
まあ、中休みあれども長い付き合いでしたし、私も年を取ってきたので
さもありなん、と言ったところでしょうか。


その割にはDD始めたり、魂の絆が入っていたりするのですが。
どう考えても艦これより疲れるゲームだと思うのだけれども……

で、DDにも何やらOGに絡みそうな単語がちらほら見えるのですが。
アンギルオンの外見とか、あいつっぽいですし。グランティード。

ダイは……この作品的には絡みませんが
この作品の作風だとダイじゃなくてロト紋じゃないか、と思わないでもなく。
色々言われてるけれど、素直にクロコダインとアバンの絡みは胸熱。
この作品ならノヴァも親衛騎団の噛ませに甘んじることなく活躍できそうですし?
(現状、ヒャド系の使い手が誰一人としていないどころかヒャド系未実装)


WELSH-DRAGON BALANCE BREAKER!!

 

シアンの戦士――ディエンドが召喚したクローズマグマに対抗すべく

イッセーは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)禁手(バランスブレイカー)――赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)で対抗する。

 

『敵は禍の団(カオス・ブリゲート)の連中とも、フューラーの軍勢とも違う。十分気をつけろよ』

 

「だったら、パワーで押しきればいいだけだ!」

 

BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!!

 

ドライグの忠告も半分程度にしか耳を傾けず、一気に倍加をかけて

そのパワーでクローズマグマを押し切ろうとするイッセー。

 

しかし、その力も相手に当たらなければ意味が無いとばかりに

イッセーが攻撃を繰り出す前にクローズマグマからの龍を象ったエネルギーで牽制されたところに

息もつかせぬワンツーパンチが繰り出され、攻撃に転じることが出来ずにいた。

その様は、まるで「負ける気がしねえ!」と言わんばかりの猛攻であった。

 

「く、くそっ! 攻撃する暇が……!!」

 

『……仕方がないな』

 

FEELER!!

 

赤龍帝の鎧の隙間から突如として赤い触手が生え

クローズマグマの攻撃の手を強引に止める。

パワーだけは十分に倍加されていたのもあって、猛攻を止めることが出来たのだ。

 

「さ、サンキュー……ドライグ」

 

『俺はドラゴンであって、ヒドラになったつもりは無いんだがな。

 だが、ここでこんな傀儡に負けるようじゃ赤龍帝の名折れでもあるし

 それこそ、ハーレム王どころの話じゃないぞ』

 

そうなのだ。いくらクローズマグマが強いとは言っても、今イッセーの目の前にいるのは

ディエンドが召喚した、いわば傀儡である。

その傀儡が、下手をすれば聖槍騎士団以上の力を以て襲い掛かってくるのだから

たまったものでは無いのだが。

 

クローズマグマが自身を拘束する触手を引きちぎることで戦況は仕切り直しとなり

今度はクローズマグマナックルからの龍型エネルギーの奔流をイッセーに放つ。

 

DEFENDER!!

 

それに対し、赤龍帝の鎧の右籠手部分が肥大化、盾のような形となる。

さながら、セージが強引に複製したデュランダルを改造して作り出した

ディフェンダーのような形である。

 

そう。

この世界のイッセーには、虚憶で得た力の大半は引き継がれておらず

乳語翻訳(パイリンガル)なども会得していない(どの道、クローズマグマには通用しない技ではあるが)。

しかし、その歪を埋めるかの如く修正力が働いているのも事実であった。

そのお陰か、ある世界では星を破壊せんとした脅威に立ち向かった戦士の一人である

クローズマグマにも、イッセーは辛うじて喰らいついていたのだ。

 

 

……最も、それは「兵藤一誠」の力ではなく、「赤龍帝ドライグ」ないし

かつてイッセーに憑依していた「宮本成二」の力ではあるのだが

当のイッセーは、それに全く気が付いていなかった。

 

 

――――

 

 

〈バナナスパーキング!〉

 

一方、偶然の一致か同じシステムを使っている龍玄(りゅうげん)とバロンの戦い。

バナスピアーが突き刺された地面から、巨大なバナナ状のエネルギーが突き上げてくる。

冗談のような光景だが、殺傷力は本物である。

牽制のために龍玄がロックシードで召喚した初級インベスが

この一撃で全滅しているのだ。

 

「やはり、システムは完全に戦極(せんごく)ドライバーのそれと同じ!

 なら、アームズの特性を生かして戦わないと勝てない!」

 

〈ブドウスカッシュ!〉

 

反撃とばかりに、龍玄のブドウ龍砲にエネルギーが込められる。

ドラゴンショット。飛距離と威力を両立させた、龍玄の必殺技である。

地面から生えたバナナを粉砕しながら砲撃はバロンを捉えるが、決定打にはなっていなかった。

バロンが纏っているアームズの防御力もさることながら、バナスピアーで防御されていたのだ。

 

(くっ……パワーが足りないのなら、飛び込めば……!)

 

意を決して、ブドウ龍砲を連射しながらバロンの懐に飛び込もうとするが

投擲されたバナスピアーに最後の一歩を邪魔され、次の瞬間バロンのアームズは変化していた。

 

〈カモン! マンゴーアームズ!〉

〈ファイトオブハンマー!〉

 

山吹と赤のツートンカラーに、二本角とマントを纏ったバナナアームズに比べ重厚な外見。

その様は花切りのマンゴーの果肉を思わせる、それが確かにロックシード由来の

アームズウェポンであることは確かであった。

 

……では何故、召喚された傀儡とも言うべきバロンがそれを持っているのか。

このディエンドと言うものが、ユグドラシルの関係者にはどうしても思えない。

そもそも、このマンゴーアームズを使う前に使っていたであろう

バナナアームズは、戦極凌馬(せんごくりょうま)の鶴の一声で開発中止になっている。

 

つまり、アーマードライダーバロン……などと言うアーマードライダーは

この世界に存在するはずがないアーマードライダーなのだ。

強いて言うなれば、先ほど映し出された光実の虚憶(きょおく)の中に

このような姿のアーマードライダーがいた位か。

 

しかし、それは今ここにいる光実とは何も関係が無い。実感も無い。

まるで、水子が生まれてくるはずだった姿のまま現れたような不気味さも

この目の前のアーマードライダーは醸し出していたのだ。

そんな光実の戸惑いを他所に、バロンは巨大なメイスであるマンゴパニッシャーを軽々と振り回し

龍玄に叩きつけようとしてくる。そのパワーは、さっきまでのバナナとは比べ物にならない。

 

「パワーじゃ負ける! だったら……!」

 

〈ハイーッ! キウイアームズ!〉

〈撃! 輪! セイヤッハッ!〉

 

力では不利と見た光実は、龍玄のアームズをすかさずブドウからキウイへと変更。

キウイ撃輪の「技」を以てマンゴパニッシャーの「力」を往なそうと試みたのだ。

マンゴパニッシャーの一撃は、見た目通りに鈍重であり、デザインモチーフのマンゴーからは

想像もつかない。この一撃をまともに受ければ

如何に防御に優れたアーマードライダーと言えどひとたまりもない。

そのため、光実はその威力を利用してバロンを倒す。

言うなれば「柔よく剛を制す」作戦に出たのだ。

 

 

――――

 

 

〈ADVENT〉

 

セージの下に救援に駆け付けようとした白音の前に、ディエンドに召喚された

仮面ライダータイガが召喚するモンスター・デストワイルダーが現れる。

青い縞を持つ白虎の怪物の爪が、白音を切り裂こうとする。

 

「くっ…………!」

 

デストワイルダーの動きが素早いのもあるが、白音がまだ寝起きで本調子ではないのも

白音が追い詰められる原因になっていた。

小柄な見た目通り、白音は物理的な防御力は低い。

かつて「戦車(ルーク)」の駒を有していた頃ならばともかく、今は「戦車」の力を持たない。

デストワイルダーの爪は、下手をすれば致命傷になりかねない。

 

そんな白音を援護すべく、セージがシャドウに差し向けようとしていたガン・レギオンは

デストワイルダーへと狙いを変更、集中砲火でデストワイルダーの足を止めることに成功した。

……しかしそれは、セージがシャドウの攻撃に対し無防備になることとほぼ同義でもあった。

 

「身を挺して守りたいほど、その猫が大事か。

 それとも、自分のせいでこうなった引け目か。

 いずれにせよ、その隙を見逃すほど俺が甘いと思わないことだ!」

 

SOLID-GUN LEGION!!

 

シャドウ成二が地面に手をつくと、地面から青黒い光が浮かび上がる。

青黒い光は朽ち果てた戦闘機を形成していき、さながらプロペラ機でありながらVTOL機のような軌道で

セージの上空を散開し始める。

 

 

――志半ばで朽ち果てた肉に宿る魂よ、今ここに新生せよ。

  その魂こそが血肉であり、力であり……存在意義である。

  朽ちて沈もうとも、汝らは再び蘇る。それこそが無限であり……魂の存在の証明だ。

 

  神の風と共に受けろ……「悪霊達の機動部隊(ガン・レギオン)」!!

 

 

青黒い光を放つ戦闘機は、セージにその攻撃を集中させながら

何の迷いもなく一直線に突っ込んでくる。

機銃攻撃は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)でガードしているが

それはセージの体勢を崩すための第一手に過ぎない。

……本命は、形を成した戦闘機の残骸の姿そのものである。

 

 

「うあああああああっ!?」

 

 

真っすぐ突っ込んできた戦闘機の残骸は、それそのものが質量兵器と言える存在でもあり

着弾と同時に、青黒い光が爆発を起こしているのだ。

見てくれは爆弾を抱えていないが、存在そのものが爆弾であったのだ。

 

シャドウ成二の召喚したガン・レギオンがセージのそれと大きく違う点。

それは、悪霊の攻撃性をそのまま体現したかのように、特攻を仕掛けてくるという点であった。

恐れることもなく、すぐに補充が効き、相手の戦意だけを確実に殺ぐ。

 

かつて追い詰められた末の戦法として発案された特攻は

ここに来て魂そのものをリソースにすることで、無限に使いまわせる誘導ミサイルと言う

これでもかと悪意を積み重ねた形となって再現されたのだ。

その魂も現世に未練を、恨みを残し死んでいった者達のものを使用しているため

生者への恨みつらみで動いている、うってつけの原材料と言えた。

 

 

「その様子では、まだお前のディスは目覚めていないようだな。

 悪霊……いや、死んでいった者達の器となることを拒んだか。

 まあ、どちらでもいいがな」

 

シャドウ成二の能力は、当然ながらセージと遜色がない。

だが、いくらかの相違点はあった。

シャドウは悪霊の力を無尽蔵とも言えるほどに扱えるディス・レヴを持っているが

アモンやフリッケンの力を使う事は出来ない。

対してセージは、アモンやフリッケンに由来する力は使えるが、悪霊の力は万全に発揮できない。

彼のディス・レヴはまだ目覚めていないのだ。

 

「この際だ。お前もこの中を流れる悪霊に加えてやろうか」

 

斃れたセージを踏むつけながら、頭上を周回している悪霊達の機動部隊に命令し

シャドウ成二は最後の攻撃を繰り出そうとしていた。

 

「ま……まだ……だ……!!」

 

「ふむ。この期に及んでまだ諦めないか。

 だが、それはある意味好都合。聞いたはずだ。希望こそが、邪神を蘇らせる最後の鍵であると。

 お前が辿り道は二つ。悪霊の集合体の一部になるか、邪神の供物になるか。

 なんなら、両立させてやってもいいんだぞ」

 

言葉とは裏腹に選択の余地を与えることなく、シャドウ成二は悪霊達の機動部隊に号令をかけ

真っ直ぐセージを狙わせたのだった。




>クローズマグマ対イッセー
一応この世界で得た力で喰いついてはいますが
それが勝利につながるかと言うと……うーん。
まあ、乳語翻訳は通じないのでヴァーリ、曹操あたりと条件は五分のはずなんですが。
こう言うとクローズマグマの格が落ちる感じで……まあ、もにょります。

レベルを上げて物理で殴る、ってスタイル自体はそこまでクローズマグマ(と言うか万丈)と変わらないのですが
そうなると元々の力とかで決まっちゃいますし……
神器の謎パワーがあったとしても、それを上回る性能出されたらそこまでだと思うんですよね。
精神コマンド駆使しようがスパロボだって詰むときは詰みます。
最近のスパロボは詰む方が難しいところありますが。

>バロン対光実
ガンバライジングでやれ。以上。

>悪霊達の機動部隊(ガン・レギオン)
セージが使っていたものをさらに悪辣にアレンジしたのがシャドウのガン・レギオン。
こう書くと神器っぽさがマシマシになりますが、それは同時に
「神器を多数運用しているようなセージのチートっぷり」でもあるわけでして。
まあ、イッセーも似たようなもんだったりしますけどね。

セージが運用していた時点で深海棲艦の艦載機をモチーフにしていた部分ありますが
シャドウのものはさらに深海棲艦由来っぽさを混ぜ込んでます。
本家じゃ絶対に実装しない攻撃パターンもそれ。
……最近深海棲艦の定義も若干揺らいでる気はしますが、まあそれはそれ。

と言うか弾撃ち尽くした後ファンネルミサイルになるファンネルとか
割と外道兵器な気も。


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Phantom KAMIKAZE Bパート

「この際だ。お前もこの中を流れる悪霊に加えてやろうか」

 

斃れたセージを踏みつけながら、頭上を周回している悪霊達の機動部隊(ガン・レギオン)に命令し

シャドウ成二は最後の攻撃を繰り出そうとしていた。

 

「ま……まだ……だ……!!」

 

「ふむ。この期に及んでまだ諦めないか。

 だが、それはある意味好都合。聞いたはずだ。希望こそが、邪神を蘇らせる最後の鍵であると。

 お前が辿る道は二つ。悪霊の集合体の一部になるか、邪神の供物になるか。

 なんなら、両立させてやってもいいんだぞ」

 

言葉とは裏腹に選択の余地を与えることなく、シャドウ成二は悪霊達の機動部隊に号令をかけ

真っ直ぐセージを狙わせたのだった。

 

セージに向けて手を翳すシャドウ成二の攻撃を阻むように、雷が落ちる。

アーシアが蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)に命じて、足止めを図ったのだ。

その後ろでは、ギャスパーが必死にイクサを食い止めている。

 

「させません……! あなたもセージさんなら、そんなことをすれば

 あなたもまた悪霊の一部になってしまうんですよ!」

 

「だとしたら何だ? こいつを消せるのならばそれでいいだろう。

 一つ勘違いしているようだが、俺は別にこいつに取って代われなくったっていいんだ。

 宮本成二。お前の存在そのものが赦せないんだ。

 お前を消す過程で俺が消えようが、それは些末なことに過ぎない。

 だがお前の存在を消さない限りは俺もおちおち消えてられねえんだよ」

 

シャドウ成二。それは、宮本成二の罪の意識が具現化した存在であると言える。

周囲を傷つけた自分に対する罪の意識、その断罪者としてシャドウはあった。

その断罪のための手段として、宮本成二が所有していたはずのディーン・レヴ。

そこには既に多量の死霊が封じ込められていた。

それを解放すればどうなるか。その答えが、シャドウ成二の持つディス・レヴであると言えた。

 

だが、このディス・レヴは言うなれば紛い物であると言える。

元来ディス・レヴには無限ともいえる死霊の意思――デストルドーが込められており

それを力として駆動するものである。

セージ一人に使うには、明らかにオーバーキルであるのだ。

しかし、先ほどの攻撃の威力は確かに高いものではあったが

負の無限力の源にもなり得るディス・レヴの力を使って放った攻撃にしては

些か弱いものであった。

 

「……前から言おうと思っていたことがあるんです。

 セージ先輩、もっと自分を大事にしてください。心配してる私達がバカみたいじゃないですか。

 攫われた私が言っても、説得力無いですけど」

 

思わぬところから攻撃を受ける形になったセージ。

白音の指摘は尤もとも言えるものであるが、セージの耳には少し、届かない。

 

「……虚憶(きょおく)の兵藤ほどじゃない。それに、何度も言うようだがこいつが言っていることは事実。

 それを捻じ曲げるつもりも毛頭ない」

 

「だったら、ここで俺に殺されろ!!」

 

ディス・レヴの負念を爆発させ、次の攻撃を繰り出そうと

さらに戦闘機の残骸を飛ばしてこようとするが

アーシアがけしかけた蒼雷龍の電撃で、その大半は撃墜されていった。

 

「自分で自分を殺す……それは、主が最もお認めにならない罪です!

 そんな罪を、セージさんに犯させるわけにはいきません!」

 

「知った風な口を利くか! そもそも俺は十字教の神など信仰してはいない!

 不快な騒音を撒き散らす源……先にお前から潰してもいいんだぞ!」

 

セージを狙っていた悪霊達の機動部隊はその標的をアーシアに変え

真っ直ぐに戦闘機の残骸が突っ込んでいく。

その光景を目の当たりにしたイッセーが割って入ろうとするも

イッセーはその動きをクローズマグマによって釘づけにされている。

アーシアの加勢に入ることは出来ずにいた。

 

「くっ、避けろアーシア!」

 

「君に他人の心配なんかしている暇は無いと思うけどね。

 まずは、君の相手を倒したまえ。自分の事も満足にこなせない奴に、他人は救えないよ」

 

ディエンドの指摘通り、イッセーはクローズマグマに対して苦戦していた。

二人がかりでイクサと戦っていたアーシアが辛うじて、こうして救援に来られた形なのだ。

 

今まで、アーシアは直接前線に出てきたことは少ない。

そもそも、戦闘スタイルが前線に出るべきではないのだが

そうも言っていられない状況も少なくない。

 

悪霊達の機動部隊が、アーシアに狙いを変更する。

それを蒼雷龍が電撃で迎撃するが、雷の弾幕を掻い潜った数機がアーシアの頭上で爆発を起こす。

 

「アーシア! セージ、てめえ!!」

 

〈ボルケニックナックル! アチャー!〉

 

イッセーがセージに向けて怒号を放った瞬間、クローズマグマの鉄拳が

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)の兜を砕く。

最大の得物であるマグマナックルを装着しての必殺技を無防備で受けたために

如何に赤龍帝の鎧と言えど、その防御性能はクローズマグマの必殺技に耐えられなかったのだ。

 

「ぐああああああっ!?」

 

『ぐっ……言わんこっちゃない! 貴様、奴のいう通り、目の前の敵に集中しろ!』

 

赤龍帝の鎧の損傷は、そのままドライグへのダメージにもつながった。

消滅は原則イッセーが死なない限りはあり得ないが、それでもこのまま攻撃を受け続ければ

イッセーの命にも係わる事態だ。アーシアによる回復が期待できない以上

それを回避するためには、自分の力でどうにかするしかない。

 

虚憶の中も含め、捨て身の戦いを辞さないイッセーではあったが

その捨て身を行った瞬間、クローズマグマの高い攻撃力が直に刺さる羽目になる。

ノーガードの殴り合いになどなった日には、傀儡であり中身が存在しない関係上

痛覚で止まることの無いクローズマグマの方が圧倒的優位である。

 

「いや、ドライグ。こいつらはあの水色が召喚したんだ。

 あいつを倒せば、もしかしたら……!」

 

『よせ! 向こうもそれは把握している! 下手に突っ込めば……』

 

BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!!

 

さらに倍加をかけ、クローズマグマから奥にいるディエンドに目標を切り替え

クローズマグマを倍加した突進力で突破しつつ、イッセーはディエンドに狙いを定める。

 

「喰らえ、ドラゴンショッ――」

 

ATTACKRIDE EFFECT-REFLECT!!

 

ディエンドの目の前に現れたバリアが、ドラゴンショットを正面から跳ね返す。

その突然の事に、イッセーは防御が間に合わず、自分で放った攻撃の直撃を受ける形になった。

 

赤龍帝の鎧はその姿を維持できなくなり、黒焦げになりながら淡く光る地面に突っ伏すイッセー。

その様を見下ろすのはイッセーを下したディエンドであった。

シアン色の銃――ネオディエンドライバーを回転させながら、自分でも驚いた様子ではあるが。

 

「……へぇ。まさか、このカードに互換性があるなんてね。

 ドライバーのアップデートの賜物か、それとも……

 

 ま、いずれにせよ君の負けだ。

 別に君を如何こうするつもりは無いし、僕としてもお宝を台無しにされた憂さは晴らせたから

 これ以上追い打ちはかけないよ。回復してやる義理も無いけど」

 

そう言って、クローズマグマに突っ伏したイッセーを洞窟の隅まで運ばせて

ディエンド自身はクローズマグマを戻し、使ったカードをシャドウ成二に投げ寄越した。

 

そう、今しがたディエンドが使ったカードは記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で使用されるカードだったのだ。

 

「ぐ……なんで……てめえが……セージの……」

 

「うまく行ってよかったよ。ダメだったら、僕も少し危なかったかもしれないけれど。

 なんでこのカードが使えるのかは、僕だって知らないさ。聞かれても困る」

 

素っ気なく、満身創痍のイッセーの問いに答えるディエンド。

実際、ディエンド自身も本当に記録再生大図鑑の能力が行使できるとは思っていなかったのだ。

これが失敗すれば、バリアを展開するなり姿を消すなりして逃げるつもりではあったし

そのための手札も準備はしていた。

 

(……まさか、大ショッカーが神器(セイクリッド・ギア)なんて作るはずもないしねぇ……

 それにそうなると、彼と大ショッカーに接点が生まれないと辻褄が合わない。

 ならこの世界の神が、ディケイドライバーか何かを参考にでもしたかな?)

 

大ショッカー。ディケイドライバーやディエンドライバーを生み出したとされる

あらゆる世界の悪の秘密結社が集結した、偉大なる大組織。

この世界に魔手は伸びておらず、かつてディケイドやディエンドらによって

壊滅させられた経緯もあった。しかし、残党がどこかにいてもおかしくはない。それ位の組織だ。

この世界に大ショッカーの痕跡は無く、仮に記録再生大図鑑を大ショッカーが作ったとするならば

セージは大ショッカーと何らかの関連性を持っていなければならなくなるため

大ショッカーが記録再生大図鑑を作ったとは、考えにくい。

 

そもそも記録再生大図鑑は神器にカテゴライズされる。

そうなれば、聖書の神が作ったのが道理である。

しかし、聖書の神とて異界の遺物ともいえるディケイドライバーや

ディエンドライバーを知っていたかと言われると、中々に怪しいところである。

 

ともあれ、ディエンドが勝利を収めたのは完全に博打の賜物である。

虚憶の中ならば、イッセーが勝っていたはずであろう博打。

しかし、この世界において勝利の女神は、一向にイッセーの方を振り向かない。

まるで、虚憶の中ではイッセーだけを勝利の女神が見るよう固定されたかのような状況だったが

この世界においては、その限りでは無い。

 

セージ達とシャドウ・ディエンドの混成軍の戦いは

アーシアに気を取られ、勝負を焦ったイッセーの無謀な突撃が原因で

シャドウ・ディエンド混成軍に一つの白星がつく形となった。

 

 

しかし、この戦いはセージとシャドウ成二の戦いにおいては何ら意味をなさない。

セージは自らの罪を清算し、未来に進むために。

シャドウ成二はその罪を断罪し、セージを償いと称し抹殺するために。

 

本来ならば、他者の入り込む隙など無い戦い。

シャドウとの戦いに、終わりなど存在しない。

それでも、今は決着をつけなければならない。

 

宮本成二が、宮本成二であるために。

それを支える絆こそが、彼を蝕む毒であると共に――

 

 

 

――状況を打開する、大きな一手となるのだ。




作劇上仕方ないとはいえまた負けてるよこいつ。

>シャドウ成二のディス・レヴ
実はディス・レヴと言うよりは霊帝に近い存在になってますね、これ。
シャドウがこれを使っているという事は、セージはリチュオルコンバーター的な存在に進化するのがワンチャン。
でもイミテイションの方かもしれない。

>白音のツッコミとそれに対するセージの返答
原作主人公への当てつけも含んでます。
事あるたびに身を削っていてもすぐさまそれが無かったことになる原作主人公。
これを自己犠牲と言っていい物かどうかはわかりかねますが
そもそも自己犠牲に関しては
「自己犠牲は尊い行いかもしれませんが、必ずしも正しい行いとは限りませんぞ」
と言う坊さんのお言葉もありますでなあ。

因みに今回のセージは抱え込み過ぎて自爆したただの自業自得。
……いや、こんなん誰に相談しろって話ではあるのだけども。

>記録再生大図鑑とネオディエンドライバーの互換性
当然ディケイドライバーとディエンドライバーには互換性ありますし
(放送当時のDX版玩具はしらない)
この理屈だとディケイドライバーと同程度の性能を記録再生大図鑑は持っているって話になりますが
そもそも記録再生大図鑑自体がライドブッカーモチーフに設定した代物なので……

因みに、フリータロットの読み込み能力は流石にディケイドライバーにもディエンドライバーにもありません。
そう考えると記録再生大図鑑ってこれ……

>イッセー
目の付け所はよかったんです。よかったんですが……
実はこれ、原作でこいつが散々やっている「ご都合主義」が
そのまんま返ってきてる状態なんですよね。
乗り越えるべき試練を乗り越えずに結果だけ求めようったって、そうはいかない。
原作イッセーならば、もしかするとクローズマグマに勝てたかもしれませんが
その勝ち方だって言っちゃなんですが怪しいもんですし
拙作でもせっかくドライグがセージ由来の能力で支援してたのにこの体たらく。


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Lightning Attacker Aパート

なんかすごい久々な気がする原作勢の真っ当なパワーアップ回。
その解説のため、今回あとがきが長いです。


セージ達とシャドウ成二・召喚ライダー連合の戦いは膠着状態にあったが

流れが大きく動いたのは、イッセーがクローズマグマの必殺技・ボルケニックナックルを受け

勝負を焦り、出力を上げたドラゴンショットをディエンドに放ったのだが

そのドラゴンショットが、正面から跳ね返されてしまい

事実上、イッセーが敗北したことに起因した。

 

傷だらけのイッセーを治療すべく、セージはアーシアに対し救援に向かうよう要請する。

 

「アーシアさん……兵藤の奴を……!」

 

「お前も他人の心配などしている暇があるのか?

 目的一つ満足に果たせないような奴が、これから先の戦いを生き抜くことなど不可能だ。

 布袋芙(ほていふ)ナイアは無理矢理にでもあいつをハーレム王……ひいては魔王にしたがっているようだが

 俺にそんなことは関係ない。確かにあいつはダチと言えばダチだが

 あいつが生きようが死のうが、どうだっていい。

 そもそも、一応半死半生で済んだお前と違ってあいつ一度死んだだろ。

 死人は死人らしく、灰になるか墓の下で眠っていればいいものを。

 

 ……いや。死人には、うってつけの行き先があるな」

 

「お、お前……まさか! 兵藤をディス・レヴに取り込むつもりか!」

 

アーシアを程ほどに甚振ったシャドウ成二は、今度はその矛先を満身創痍のイッセーに向ける。

セージはシャドウ成二に踏みつけられ、白音の前にはデストワイルダーが立ちはだかり

ギャスパーと光実(みつざね)も、それぞれイクサとバロンと言う二大仮面ライダーの相手をしている。

とても誰かの救援に向かえるような状態ではない。

完全にイッセーはノーマークになってしまっているのだ。

 

「現状でお前を屠る程度の力はある。だが、腐っても龍の神器(セイクリッド・ギア)を持つ奴だ。

 野放しにして大事になられても厄介だし、ゴミ掃除の一環だと思え」

 

イッセーはともかく、赤龍帝の力は無尽蔵ではないものの未知数である。

それをディス・レヴに取り込んだ日には太刀打ちなどできなくなるだろう。

おまけにディス・レヴ自体が無限とも言える力を行使する媒体にもなりうるため

赤龍帝の力を取り込んだことによるオーバーフローでさえも、期待できない状態だ。

 

「……口実だけは立派だな!」

 

「おいおい、俺はお前だぞ。今言ったことが嘘か真か位、すぐにわかるだろう。

 まして、お前は脳筋になることこそあれ、愚鈍ではなかろう。

 兵藤はともかく、これ幸いにと危険因子であるドライグを処分しようとしている自分がいる事。

 認めないなどとは、言わせんぞ?」

 

不利な立場でありながらも、シャドウ成二に対する闘志は失っていないセージ。

そんな精いっぱいの強がりも、シャドウ成二の前には一笑に付されてしまう。

そしてシャドウ成二も、セージの挑発に乗ることなく、イッセーから狙いを外さない。

抹殺し、死霊となったイッセーの魂をドライグごとディス・レヴに取り込む腹積もりなのだ。

先刻の一件と言い、徹頭徹尾イッセーを利用しようとしているのだ。

そんな彼がイッセーを差し「ダチ」と呼ぶのは、完全な皮肉であり、悪意であった。

 

「赤き龍も、お前達の血肉にするがいい……『悪霊達の機動部隊(ガン・レギオン)』!」

 

「くっ……止めろ、ガン・レギオン!」

 

突っ伏したイッセー目掛けて飛来するシャドウ成二の「悪霊達の機動部隊」を

セージが即席で召喚したガン・レギオンが追撃する。

洞窟内で骸骨の鳥と飛行する戦闘機の残骸によるドッグファイトが行われるが

セージが呼び出したガン・レギオンの方が力が足りず、制空権を奪えない。

 

このままでは、イッセーが「悪霊達の機動部隊」の攻撃に晒されてしまう。

それを防ぐ手段は、無いと思われていた。

 

しかし、ここで驚きの事態が発生する。

アーシアが、身を挺してイッセーの前に立ったのだ。

 

「あ、アーシア! 逃げろ、逃げるんだ!!」

 

「に、逃げません……!

 みんな、辛い思いをして戦っているんです!

 私だけ、後ろでのうのうとしているなんて……もう耐えられません!」

 

「だけど、アーシアには戦う力なんか……」

 

こればかりはイッセーの言う通りである。アーシア自身は悪魔になったとはいえ

下手をすれば、人間にさえも喧嘩で負けてしまいかねない。

それ位、アーシアはイッセーにとってか弱い存在であり、守るべき対象だったのだ。

そしてその見解は、間違ってはいない。いないが――

 

 

「……いいえ、あります!

 生まれ持った神器でも、悪魔になって生まれた身体能力でも、魔力でもなく!」

 

「…………ほう?」

 

不意に立ちはだかったアーシアの眼に宿る輝きを見て、シャドウ成二は攻撃の手を止める。

さっきまで、セージから見出していたもの(希望)よりも強いものを、アーシアから感じ取ったからだ。

 

「どんな苦難が相手でも諦めない心!

 どんなに道が険しくても挫けない意思!

 どんな人でも持っている、そんなありふれたものですけど……

 私にとっては、かけがえのない力です!!」

 

アーシアは神器こそ持っているが、戦いに関しては素人である。

これはなまじリアスもイッセーも、あるいはセージでさえも

アーシア自身を前線から遠ざけていたためになってしまったことではある。

しかし、それが故にアーシアは「普通の人間だからこそ会得できる極致」に

最も近い立ち位置に立っていたのである。

 

そして、そんなアーシアの心に応えるかのように

アーシアの矛となり、盾となって戦い抜いてきた蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)

アーシアの魂の叫びに、彼は咆哮をもって応えた。

 

そんな、彼の様子が……

 

「……ら、ラッセーが……!」

 

「そっちが本命か! だが、先にお前を潰せば使い魔は指揮系統を喪う!

 狙いは変わらんぞ!」

 

当初の予定通り、「悪霊達の機動部隊」はそのままイッセーを庇うアーシアを標的にする。

それを「卑怯」と罵るイッセーだが、シャドウ成二にそんな声は届かない。

 

「…………っ!」

 

「あ、アーシアァァァァァッ!!」

 

「悪霊達の機動部隊」の攻撃による爆風が、アーシアを包む。

先程と違い、セージと同じく直撃である。

生身の人間であるセージよりは僅かながらに頑丈であるアーシアだが

セージはアモンの指導の元マグネタイトで守りに補正を得ている。

マグネタイトの有効な使い方のレクチャーを受けておらず、その補正が少ないアーシアでは

結局セージ以上の被害を被ってもおかしくはない。

そんなアーシアが、悪意に満ちた特攻の総攻撃を受けたのだ。

攻撃によって巻き上がる粉塵にアーシアが包み込まれ、その姿は粉塵の向こうに消えてしまう。

 

 

「て、てめえセージ!! どうして、どうしてアーシアをやったんだ!?」

 

「…………チッ。よく見ろ」

 

様々な意味合いを込めた舌打ちをしながら、苦々しくシャドウ成二は立ち込める煙の方を見遣る。

そこには、小さな人影ではなく人間より少し大きいくらいのサイズのドラゴンの影が映っていた。

 

 

「そうか! 前に記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で読んだが、使い魔は戦闘の経験を重ねることで強くなる!

 あいつは、ラッセーの奴は確かに今まで多くの戦いを潜り抜けてきた!

 それが積み重なって、こうして……」

 

「……セージさん。もうこの子はラッセー君じゃありません。

 この子が私に教えてくれたんです……蒼雷龍から進化した、紫電龍(パーピュラー・ドラゴン)

 新しいこの子には……『ライリィ』と名付けます!

 

 ライリィ君、あの戦闘機の怨念を、解放してあげてください!」

 

咆哮と共に、ラッセー改めライリィは雷のブレスを吐き出す。

その稲妻は、頭上を旋回していた悪霊達の機動部隊を次々と撃ち落としていく。

先程よりも厚くなった雷の弾幕は、今度は一機たりとも撃ち漏らすことは無かった。

 

『ほう。ガキのドラゴンだと思っていたが、根性もあるし中々見所あるじゃないか。

 なんなら、お前より成長しているかもしれないぞ?』

 

ライリィの獅子奮迅の活躍に、ドライグは同じドラゴンとしても舌を巻いていた。

しかし、イッセーにとっては今一つ面白くない。

元々、ラッセー時代のライリィと反りあいがよくなかったのもあるが

ラッセーと言う名は、アーシアがイッセーにちなんで名付けた名前でもあった。

 

それを、使い魔の進化と言う節目を経たとは言ってもあっさりと変えてしまったこと。

それが、イッセーにとっては面白くなかったのだ。

 

余談ではあるが、このライリィの名前の元となったとあるシスターとの反りあいも

イッセーは決して良くなかった世界が存在する、とはここに明記しておこう。

 

 

「……アーシア先輩があそこまで頑張っている。

 私も、負けていられません」

 

一瞬の隙を突き、白音もデストワイルダーの妨害を突破してシャドウ成二に飛び掛かる。

そのため、悪霊達の機動部隊の第二波を出そうとしていた動きが阻害される。

しかし、それは同時にデストワイルダーを使役していたタイガに対して

隙を見せることにも繋がり――

 

〈FINALVENT〉

 

白音の背後から、デストワイルダーが爪を構えて突進してくる。

爪で捉え、地面を引きずってタイガの元まで運び、爪型武器のデストクローを装備したタイガが

標的を串刺しにする必殺技、クリスタルブレイクの構えであった。

 

「くっ、白音さん!」

 

「…………っ!!」

 

セージの警告で、後ろから突進してくるデストワイルダーに気づくも

そのまま捕まってしまう白音。爪で突き刺され地面で削られることこそ避けたものの

この勢いのままでは向こうで待ち構えているタイガの攻撃に対し防御態勢が取れず

串刺しにされてしまう。

 

ならば、待ち構えているタイガに対しカウンターをお見舞いするしかない。

しかし、タイガは確実に白音を捉えているため、一瞬で決めなければならないのだ。

 

(十文字お師匠様、今こそ私の……私の気の力を使います。

 姉様……一度は姉様を疑った私だけど、姉様の教えてくれた仙術の使い方……

 お師匠様、姉様……そしてセージ先輩。私に、私に力を貸してください!)

 

意を決して、右手に自身のマグネタイトや気と言った生命エネルギーを集中させる。

その過程で、白音の身体が成長しデストワイルダーの拘束が外れたのは幸運的な偶然であった。

全体的に黒歌に勝るとも劣らぬほどのプロポーションへと変貌し

肩程度までの長さだった髪は腰辺りまで伸び、纏っている雰囲気は全く違うものになっていた。

白音の体内に溢れていた気の力を解放したことで、こうした副作用が生じているのだ。

 

「……私のこの手が光って唸る! 未来を拓けと輝き叫ぶ!

 白光! ライトニング……フィンガァァァァァァァァ!!」

 

タイガに接触する瞬間、生命エネルギーを集めた右手をタイガに叩き込む。

攻撃に転じられたことでデストクローで防御を試みたタイガだったが、白音の渾身の一撃は

デストクローを撃ち破り、そのままタイガの腹部に直撃。

攻撃の余波で腰のVバックルに罅が入ったのだ。

 

「スパァァァァク……ジ・エンドッ!!」

 

最後の掛け声と共に、白音の白く輝く右手から、エネルギーの奔流がタイガに注ぎ込まれる。

その影響で爆発が起こり、攻撃に耐えきれなかったタイガは消失。

デストワイルダーも、つられて消え去ったのだ。

 

解放された白音は、へたり込むようにして地面に膝をつき、肩で息をしている。

姿形も、普段よく見知った小柄な彼女に戻っている。

シャドウ成二をけん制しながら、セージもまた白音の下に駆け寄った。

 

「白音さん!」

 

「はぁっ……はぁっ……ちょ、ちょっと張り切り過ぎちゃいました……

 ……セージ先輩、ちょっと失礼します」

 

言うや否や、セージの返答を待たずして白音はセージの懐に潜り込む。

そのままセージの胸板に鼻を擦り付け、背中に手をまわししがみついたのだ。

 

「な……なななななななっ!? せ、セージてめぇ!!

 元浜じゃあるまいに、なんだこれは!?」

 

白音にしてみれば、一番近くにいたのがセージで好都合だったのだ。

生命エネルギー――マグネタイトを使いすぎたため、早急に摂取しなければ

栄養失調のような症状を起こすことになってしまい、死に至りかねないのだ。

本来ならもっと摂取効率のいい行動はあるのだが、一応まだ戦闘中である。

白音自身の恥じらいもあるのだが、そこに至るのは危険であると考えたのだ。

 

……無論、受ける側のセージも今の精神状態で受け入れられるかと言うと疑わしいが。

 

「応急処置だ。それ以外の何物でもない。

 ……で、白音さん。落ち着いた?」

 

「……はい。もう少ししたら、動けるようになると思います」

 

言葉とは裏腹に、セージから離れない白音。

幸か不幸か、シャドウ成二は空気を読んで攻撃の手を止めているし

ライリィはアーシアを背に乗せて、イクサと戦っているギャスパーの加勢に戻っている。

白音の猛反撃と、ライリィの進化で戦況はセージ達の優勢へと傾いたのだ。




真っ当(拙作基準で)

>ライトニングフィンガー
モロバレですが、Gガンダムよりシャイニングフィンガー・ゴッドフィンガー。
実はこの技、白音の師匠に東方先生的キャラを宛がった時点で決めてたんですが
その際に、以前感想欄で言われた「白音に白虎咬」ネタを組み合わせて
「じゃあシャイニングフィンガーでもやってもらおうか、あれ生身で撃てるし(小説版設定・ロマリオ参照)」
と考えてこうなった次第です。
正式名称が「爆熱」ゴッドフィンガーならぬ「白光」ライトニングフィンガーなのは白虎咬ネタの名残。
とどめの「ヒートエンド」ならぬ「スパークジエンド」は
キカイダーの必殺技「デンジエンド」より。ただ、あれ両手技なんだよなあ……

>紫電龍
実はラッセーの名前対策の都合上進化したという、身も蓋も無い裏話。
だってイッセーに因んだ名前を現状のまま使えるかと言われると……
昔の交際相手に因むものを後生大事に持っておけるかと。
少なくとも、私は無理です。特に喧嘩別れした相手のなんて。

進化すれば名前は変わる。ニックネームは進化しても変わらないけれど、ニックネームなら尚の事任意で変えられるし。
貰いものなら名前変更できないけれど、ラッセーは自力ゲットなので任意変更可能。
でもただ変えるだけってのも味気ないので、パワーアップイベント混ぜました。

名前は完全に語感。一応元ネタのタービュラーは、検索してもハードタービュラー(ハードボイルダーの飛行ユニット)しか出ないですが。
辛うじて出たタービュラーテープ(飛行機模型の翼部に張ることで、空気抵抗を軽減させる)
がそれっぽいかな、程度。
紫(パープル)+タービュラーではポピュラー、に近いちょっと抜けた感じになってしまいましたが
まあ、そこはご容赦……多分今後ライリィ呼びになると思いますし。

紫電は蒼雷の意識と、旧日本軍の戦闘機「紫電」より。

因みにラッセー同様の命名形式に則り雷+アーリィ。
アーリィはSINSOU様の作品「和平って何ですか?」に登場した主人公。
「ゴースト」にて参戦していただいたご縁もあり、今回再び使わせていただきました。
あれ特別編とは銘打ってますが拙作時系列では正史扱いですし。

重ね重ね、SINSOU様にお礼申し上げます。


体長はアーシア一人なら軽々乗せられる程度には成長。
雷のブレスも強化された、正当進化系。
原作では「うる星」のテン(あれは火だけど)とピカチュウ的マスコットに甘んじてたような状況でしたが
拙作でそれが赦されるはずもなく、戦闘に向けて正当進化。
ピカチュウのまま通る舐めプが赦されるのはアニポケだけです。
(あれはもう舐めプじゃなくてスポンサーの意向にしか見えませんが)

原作で師事していた(?)オーフィスがあのザマなので、こういう形でパワーアップしないとどうにもならない事情もありますが。

>シャドウのディス・レヴ
こっちに取り込んだ悪霊がセージの所有している方に与える影響については現時点では不明。
ディス・レヴは神器でもペルソナでもないですが、原作シャドウのペルソナ、リバースペルソナもまた
本体のペルソナと起源を同じくしており強化に一枚噛めるので拙作でも似たような状況になるかもしれません。

……少なくとも、記録再生大図鑑に記録したデータについてはシャドウを下すことが出来れば
共有によるデータ更新が可能である、とだけ言っておきます。

>タイガ
Vバックルに罅が入ったのでとどめにならなくてもデストワイルダーに食われてた可能性。
ただ召喚ライダーなのでVバックルに罅の段階で消失してもおかしくはないのですが。


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Lightning Attacker Bパート

書きたい場面ではあるのですが、描写カロリー高すぎて胃もたれしてました。


「ギャスパー君、このまま一気に攻めましょう!」

 

「は、はい!

 そうだ、アーシアさん! 僕に向かって雷をぶつけてください!」

 

ギャスパーの突然の提案に、アーシアは戸惑いながらも蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)から

紫電龍(パーピュラー・ドラゴン)へと進化した元ラッセー――ライリィの雷をギャスパーに向けて放つ。

次の瞬間、ギャスパーは無数の蝙蝠へと変身し、その蝙蝠一匹一匹が雷を纏い始めたのだ。

 

「ぎゃ、ギャスパー君!?」

 

「うぎぎ……だ、大丈夫です! 僕は転生悪魔でもあり、半吸血鬼ですから

 身体はこう見えて頑丈なので……大丈夫です!」

 

そう言って、ギャスパーは雷を帯びたままイクサに向かって体当たりを敢行する。

質量はそれほどでもなく、イクサの装甲ならば弾ける程度なのだが

蝙蝠は一匹一匹がギャスパーである。言うなれば、ギャスパーの思い通りの場所を狙えるのだ。

そして、装甲の薄い場所を雷を帯びた状態で体当たりし、関節にも電撃で攻撃しているので

イクサの動きが若干だが、鈍くなる。いくら中身が無いとは言っても

ある程度は反射行動なのだから影響を及ぼすのだ。

 

ギャスパーの攻撃に対し、イクサカリバーで迎撃を試みるが

そこに上空からライリィの援護射撃が飛ぶ。

イクサ自身、電撃を用いた武器を装備しているため

電撃に対する耐性はそこそこ持ち合わせているが

同時攻撃に耐えられるほど特化した防御ではない。

 

「今です、ライリィ君!」

 

ギャスパーの全方位攻撃で態勢を崩したところに

進化によって大型化したライリィの尾が叩きつけられる。

この波状攻撃に耐えられず、ついにイクサは爆発し、消滅してしまった。

 

 

――――

 

 

〈バナナスカッシュ!〉

 

〈ブドウスカッシュ!〉

 

この世界において、欠番になっているはずのロックシードで変身した

アーマードライダー、バロン。

その相手を務めるのは、正当なロックシードで変身したアーマードライダー、龍玄(りゅうげん)

互いに初めに使っていたアームズに姿を戻し、今まさに必殺の一撃が繰り出されようとしていた。

地面から隆起するバナナ状のエネルギーを、上空に飛びあがった龍玄のキックが破砕。

しかしそれによってエネルギーは相殺されており、この攻撃がバロンに刺さる事は無かった。

 

「ライダーキックは決まらなければ大きな隙を晒すことになる、覚えておきたまえ」

 

「…………いえ、これで十分です!」

 

ディエンドの指摘通り、これによって龍玄はバロンの目前に着地することになったが

近すぎる距離は却ってバナスピアーを持て余す結果となった。

徒手空拳での抵抗こそ受けたものの、これを好機と龍玄はブドウ龍砲の銃口を

バロンの戦極(せんごく)ドライバーに宛がい、そのままトリガーを絞る。

 

ブドウ龍砲の6つの銃口は、さながらガトリングガンのような作りであり

必殺技でなくとも、連射によって相手の防御に左右される部分こそあるが

十分に強力な威力を出せるのだ。まして、目標は心臓部とも言うべき精密部分。

ドライバーはともかく、ロックシードは案外簡単な衝撃で壊れる。

そこにブドウ龍砲は、過剰火力でさえあった。

 

バロンの懐に飛び込んだ龍玄のブドウ龍砲により

バロンの戦極ドライバーはロックシードごと破壊された。

本来アーマードライダーの変身に必要なドライバーが破壊されたことで

バロンもまた存在を維持できなくなった。

この二人の戦いは、龍玄の勝ちに終わった……のだが。

 

「何っ……!?」

 

突如、龍玄のドライバーからブドウロックシードが外れてしまう。

今の戦いで、エネルギーを使い果たしてしまったらしい。

その証拠に、カバー部分が黒ずんでしまっている。

それに合わせ、変身が解けた光実(みつざね)は慌ててロックシードを回収するが

ディエンドはそれに見向きもしない。

 

「……あなたは泥棒だと聞きました。僕が言うのもなんですが、このロックシードは貴重品。

 奪ったりしないんですか?」

 

「僕はそれについてある意味君以上に知っている。今更欲しいとも思わないよ。

 それに、ロックシードはここで得るべきお宝じゃない」

 

光実にはディエンドの語るところの意味は読み取れなかったが

奪うつもりが無いのであればと、早々にロックシードを回収し

キウイロックシードでセージとシャドウ成二の戦いに参戦しようとしたが

それはディエンドに止められてしまう。

 

「言ったはずだよ。これは彼の戦い。邪魔をするのならば、今度は僕が相手になろう。

 僕らしくない言い方をすれば『大事なタイマンに手を出すな』ってところだね」

 

本調子ではない龍玄の力しか使えない光実に、ディエンドと言う底の知れない存在の相手は

少々、危険が過ぎる。構えていたキウイロックシードを渋々ながらも仕舞い

光実はセージとシャドウ成二の戦いを観戦するより他なくなったのだった。

 

 

――――

 

 

「「うおおおおおおおっ!!」」

 

セージとシャドウ成二の戦いは、単純な殴り合いに移っていた。

始めは「悪霊達の機動部隊(ガン・レギオン)」を使役し優位に立っていたシャドウ成二だったが

セージの側が分身した上でガン・レギオンを運用しだしたために

数の上で不利になったのだ。シャドウ成二にはフリッケンの力が無いため、分身は出来ない。

そこで差が出た形になったのだ。

 

――しかし、これにも欠点はある。

 

SOLID-GYASPUNISHER!!

 

ギャスパニッシャー。これにはモデルになったギャスパーから引き継いだ

相手の動きを時間ごと静止させる能力がある。

デザインもギャスパー本人を意識した、鎚には似つかわしくない

フリフリした装飾が多く使われている。

しかしシャドウ成二の実体化させたそれは、モノトーンでゴシックホラー風の

禍々しいデザインになっている違いもあった。

 

ギャスパーから受け継いだ静止能力。それは鎚に描かれた眼で

捉えた相手を対象にしたものだが、当然相手より力が上回っていないと発動しない。

セージとシャドウ成二は当然、拮抗している。

だが、そこに悪霊の力をブーストすればどうなるか。

 

「…………!!」

 

「『断罪判決の魔眼(フローズン・グローバルパニッシャー)』。お前もこの力はよく知っているはずだ」

 

シャドウ成二はディス・レヴに取り込んだ悪霊で自身の力を増幅し

「断罪判決の魔眼」にセージを捉える。

悪霊の分、セージよりシャドウ成二の力が上回っているために

「断罪世界の魔眼」が効いてしまうのである。

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

静止させたセージ目掛け、シャドウ成二はギャスパニッシャーをおもむろに投げつける。

ハンマー投げの要領で投げつけるセージと違い

シャドウ成二はノーモーションでギャスパニッシャーを投げつける。

動けないセージに、これを回避する術はない。

デザインは違えど、質量自体はセージが使っていたものと変わらないため

これも直撃すれば、大きなダメージは免れない。

回転しながらセージ目掛けて飛んでいく棺桶の鎚。直撃する寸前で停止が解除されるも

時すでに遅く、なすすべもなくまともに喰らう形になってしまった。

 

まともに受けたことで、セージの骨の一部が砕けてしまう。

息をするだけで激痛が走り、ギャスパニッシャーの能力関係なしに身体を動かすことすら

ままならない状態になってしまった。

その大きすぎるダメージは、展開していた分身をも一気に消し去ったのだ。

 

「かは……っ……!!」

 

「……勝負は火を見るより明らかだが、まだやるのだろう?

 それに、俺はスポーツ――レーティングゲームをやってるんじゃないんだ。

 俺とお前、どちらかが死ぬまで戦う。そうしなければ、お前は生き残れない。

 そして、今ここに俺の悲願は果たされる」

 

SOLID-CORROSION SWORD!!

 

ギャスパニッシャーから腐食剣に武器を持ち換え、仰向けに倒れたセージを見下ろす形で

シャドウ成二はセージの傍に立つ。

その手に握られた腐食剣の切っ先を、セージの腹に目掛けた上で。

 

「宮本成二。如何にお前が伝説の悪魔の勇者(アモン)異界の破壊者(フリッケン)の力を得たとしても

 お前が辿る運命は変わらない、変えられない。

 ここで死ね。それが今まで苦しめた者達への手向けだ」

 

腐食剣の切っ先が、セージの腹を貫こうとするが

その切っ先を、セージは苦痛に耐えながら右手で腐食剣の刃を握り

剣がその体を貫く寸前、辛うじて食い止めることが出来た。

腐食剣の力で右手の紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)が煙を上げ、その掌からは血が滴る。

 

「ぐ…………く…………!!」

 

「罪の意識を背負いながらも、生に醜く執着するか。

 思い知れ、理解しろ。お前の生は、人を苦しめ、人の座を奪い居座る簒奪者の生だ。

 お前が生きている限り、これから先より多くの人を苦しめる。

 兵藤一誠だって、お前が余計なことをしなければ大成した!

 それにお前は、第二第三の牧村明日香を生み出したいのか!

 

 ……そんなことは無いはずだ!

 あんな苦しみを、まだ他に奴らにもばら撒くというのか!?

 苦しみを押し付けるような奴ならば、尚の事ここで始末しなければならない!

 最早お前の希望など要らない!

 死ね! 死ね! 絶望に沈んだまま、悪霊の糧になって死んでしまえ!!」

 

シャドウ成二はセージを踏みつけながら、腐食剣を押し込もうとする力を増していく。

しかも、先ほど「STRENGTH(筋力強化)」のカードを使っている上に悪霊の力も加えているため

その力はセージをはるかに上回る。

対するセージは、骨折によるダメージで力が入らない上に、防御態勢も取れない状態である。

シャドウ成二のセージに対する憎しみ。それは完全に、自罰的感情の擬人化であった。

 

腐食剣の刃がセージの腹に刺さろうとした時、シャドウ成二が吹っ飛ばされる。

白音が横から飛び蹴りでシャドウ成二を妨害したのだ。

 

「グッ……邪魔な白猫がぁ!!」

 

「もう……もうやめてください。どうして自分を殺そうとするんですか。

 どうしてそんなに自分が憎いんですか。いつまで過ちに囚われているんですか」

 

この横槍には、先ほど光実を制止させたディエンドも顔を顰める。

割り込んだ白音を倒すべく、ディエンドは白音を引きはがそうとするが――

 

「させません! ライリィ君、今度はあいつを狙ってください!」

 

ディエンドの行動は、ライリィによって阻まれる。

それに続く形で、ギャスパーと龍玄・キウイアームズに変身した光実が立ちはだかる。

 

「……どうやら、これは僕の負けのようだね。

 だが君達が僕に勝ったところで、彼が自分自身に勝たなければ意味はない。

 

 そして宮本成二。聞こえているなら、彼女たちに感謝したまえ。

 この絆の力。確かにこれを行使できるならば、一先ず君に(つかさ)の力を預けてもよさそうだ。

 だがそれも、君が自分自身に勝てばの話だ。君が負けた場合、僕が君を消そう。

 士の力を僕以外に悪用されるのは、我慢ならないからね。

 

 そして覚えておきたまえ。絆の力は確かに強力無比だが、同時に己を蝕む毒になる。

 そう、今の君のようにね。さあ、見事自分自身に打ち勝ってみせたまえ」

 

ATTACKRIDE-INVISIBLE!!

 

言うだけ言って、ディエンドは姿を消す。

不利を悟って逃げたわけでもなく、目的を果たしたので既に用は無いとばかりに

身を引いたかのような物言いであるが、逃げていることに変わりはない。

物は言いようである。

 

ディエンドが撤退した後、着陸したライリィから飛び降りたアーシアがセージに駆け寄り

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」で治療する。

それによってセージの呼吸もいくらか落ち着き、改めてシャドウ成二に向き直る。

 

「チッ……お前達が宮本成二に抱く期待、希望、友愛。

 それすら、こいつには重荷なんだ! 俺はその重荷からこいつを解放する!

 真にこいつの事を想うのならば、ここで死ぬ! その運命を受け容れさせることこそが

 こいつに対する信頼だ!!」

 

「……そんなものが信頼なわけ、無いでしょう!」

 

気を巡らせ、成長した白音の鉄拳が、シャドウ成二の頬に突き刺さる。

思わぬ威力の一撃に、シャドウ成二も仰け反ってしまう。

その隙を突いて、白音は再びセージの元に歩み寄る。

シャドウ成二の言葉は、誇張された部分もあるとはいえ、セージの本音だった。

シャドウ成二の発した言葉に心当たりがある分、セージは白音の顔をまともに見られず、俯く。

 

そんなセージの手を、白音はおもむろに引っ張る。

 

「セージさん。私に合わせてください。

 そして、自分の罪を乗り越えるための第一歩を、踏み出してください。

 私は……私達は、そのためなら何だってします。

 

 あなたの……あなたの大好きな、お姉さんのためにも」

 

「…………!」

 

顔を覗き込み、白音はセージに必死に訴える。

白音の言う通り、今はシャドウ成二を攻略するためのまたとないチャンスである。

そして、セージもまた一瞬見せた白音の複雑な表情に気づく。

 

(……ここまでさせておいて……俺は何をしてるんだ……

 姉さんの事で自分が赦せなくても、これじゃ周りに当たり散らしてるのと

 何も変わらないじゃないか。だったら……やる事は!)

 

「セージさん! 罪を認めても、それを受け容れ前に進もうとする者に

 主は祝福を与えてくださいます! セージさんが主を信仰なさらずとも

 祝福とは、常によく生きようとする者の傍にあります! ですから……!」

 

「僕は……弱い自分でいることは、もう嫌です。

 僕も、弱い自分を受け容れて、前に進める……その手本を、僕に見せてください!」

 

「虚憶の中で見た、醜い自分……一歩間違えば、僕もそうなっていたかもしれない……

 道は変えられる! 他ならぬ自分の手で! だから……セージさん!」

 

アーシア、ギャスパー、光実がセージに声援を送る。

それらも受け、決意も新たにセージは白音に向かい合う。

 

「……わかった。手間をかけさせるけど……よろしく頼む」

 

「大丈夫です。私を……私達を信じてくれて、ありがとうございます」

 

白音の差し出した手を、しっかりと握るセージ。

しっかりと握られた手を伝って、気がセージに流れ込んでいき

その気は、白音のものと同調を始める。

 

「私のこの手が」

 

「光って唸る!」

 

白音の右手が輝く。先程披露したライトニングフィンガーの構えである。

セージも負けじと、左手にプラズマフィストを現出させている。

繰り出す攻撃に合わせてか、ナックルダスター型の形状から

いつの間にやら手甲型の形状へと変化していた。

これにより、よりフレキシブルに電撃ギミックが稼働するようになったのだ。

無意識のうちにモーフィングを発動させ、変形させていたようだ。

 

――本来ならば、アモンの力を使わなければできないはずなのだが。

 

「未来を拓けと!」

 

「輝き叫ぶっ!!」

 

攻撃から立ち直ったシャドウ成二は、両サイドから突っ込んでくる二人を迎撃しようと

触手砲を展開させるが、それは思わぬ人物によって阻害された。

 

「な……イッセー! 貴様ぁ!!」

 

「ふっざけんなよ……散々俺を利用してくれやがって!

 これ以上、お前にいい思いをさせてたまるかよ……ドライグ!!」

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で触手砲を引きちぎりながら、シャドウ成二の動きを封じる。

それによって、セージと白音を阻むものは何もいなくなったのだ。

 

『頃合いだな。下がれイッセー!』

 

ドライグの合図に合わせ、イッセーが飛び退く。

その後ろからは、プラズマフィストを最大出力にしたセージが。

そしてシャドウ成二の背面からは、右手から溢れんばかりの気を纏わせた白音が。

既に挟み撃ちの状態であった。

 

「「白光!!」」

 

「ダブル!」

 

「ライトニング…………」

 

 

 

「「フィンガァァァァァァァァ!!」」

 

 

 

両サイドからの攻撃に、シャドウ成二の断末魔が上がる。

 

 

プラズマフィストの電撃に、白音の増幅された気の力。

双方のエネルギーはシャドウ成二に流れ込み、爆発を起こす。

その爆風で、シャドウ成二は吹っ飛ばされた。

 

消費した白音の気力を回復させるために、セージは白音の肩を抱きながらその場から距離を取る。

プラズマフィストも、全エネルギーを放出しており火花が散っている。

 

(プラズマフィスト……いや、白音さんに合わせるならプラズマフィンガーか。

 より伝達させやすくなるように形状が変化したのか?

 超特捜課でこれの改良版を作ってるって話は無かったはずだし……無意識でモーフィングしたのか?

 

 ……なんか、前にも似たようなことがあったような……?)

 

セージの懸念を他所に、白音は安堵した表情でセージに肩を抱かれている。

安定供給をセージから受けているためか、姿も成長した姿のままである。

 

 

「……やりましたね、セージさん」

 

「お見事です、セージさん!」

 

「これで……これで勝ったんですね!」

 

「自らの影に……打ち勝ったんですね!」

 

勝負がついたと見たか、セージの下に集まってくるイッセー以外のメンバー。

そのイッセーは、ばつが悪そうにそっぽを向いている。

 

『行かないのか?』

 

「俺はあいつにいいように扱われたのが気に入らなかっただけだ。

 セージに手を貸したわけじゃねぇ。そもそもあいつは部長の――リアスの、魔王様の敵だろ。

 それに、この世界がおかしくなった原因かもしれないんだ」

 

だったら何故セージじゃなくシャドウを狙ったんだ、とドライグは呆れながらも考えていた。

そして、ドライグは同時にこうも考えていた。

そしてその考えは、図らずもセージも似たようなことを考えていた。

 

そのセージの考えが杞憂か否か、その答えは立ち上がる煙が語っていた――




いきなり合体技披露してます。
姉がいないのをいいことにヒロイン指数上げまくってない? この白猫

>ダブルライトニングフィンガー
実はライダーダブルキックよろしくライトニングダブルフィンガーと名前迷ってました。
とは言え元ネタもダブル~ですし、ダブル~の方が言いやすいですし。
何気にセージの方がアレンビー役。プラズマフィストの変形したバージョンはゴッドガンダムの手甲をイメージしてますが。

……さて。
無意識に悪魔時代の能力を使っている、前にもあったような……?

>ギャスパーの ボルテッカー!
飛行タイプで電気タイプも持ってないのに電気技受けて電気技使うとか
知らない間に根性付きすぎてないかなこのギャスパー。
イッセー抜きで「弱い自分は嫌だ」の境地に達しているので
やっぱりイッセー要らないんじゃないかな……
一応、ミリキャスとグレイフィアの相手をしているうちに自覚が芽生えた感じ。

ここでイクサが退場してしまいましたが、当初の予定ではドッガフェイクフエッスル使う予定でした。
ただ、モチーフあるとはいえ作り出したギャスパニッシャーと違って
この世界に存在しないはずのドッガハンマーを召喚するのはできるのかな、と疑問に思ったのと
これ以上戦闘長引かせたくなかったのであえなく没。
フォームチェンジ普通にやってるので今更ですが、フォームチェンジアイテムは
携行可能なのに対し、ドッガハンマーはアイテムは携行してもハンマー自体は明確に召喚されているので……

>バロン対龍玄
だからガンバライジングでやれ。
HSDD原作(最も、最近多重クロス原作にした方がいい気がしてきましたが)なのに
なんでライダーバトル書いているんだと。
それもこれもおのれディケイド。

ブドウはエネルギー切れ。スイカがガス欠起こすなら、ブドウだって起こしてもおかしくないかと。
エネルギー切れ起こすほどロックシード酷使してないような気もするのですが、まあ。

>イッセー
一人だけええとこなしなのはいくら何でもかわいそうなのでとってつけた活躍を。
セージに対しては無茶苦茶蟠りがあるのでめっちゃ距離置いてます。

シャドウ成二に対し利用されたことを怒ってますが、もっと利用しているのが
身近にいるという事には、全然全く気付いてません。


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The Others Aパート

……品の無いネタでキャッキャ言ってたその結末が
紅茶メーカーに喧嘩売るってさあ……

フィクションに留めてるからいいじゃん、が通用しなくなるような振る舞いは
慎むべきだと思うんだよね。

価値観アップデートを他人に強要する癖に、自分がそう言われる側になったら
昔からこうだ、は通じないでしょ。


~閑話休題~
ちょっと今回短めです。
次回はなるはやで投稿しますが。


シャドウ成二は、白音とセージのダブルライトニングフィンガーで倒された。

立ち上がる煙がそう物語っていると考えた一同は、セージを取り囲み勝利の余韻に浸っていた。

 

 

 

――しかし。

 

 

「…………えっ?」

 

煙の中から飛び出してきた刃付きの触手が、光実(みつざね)の身体を貫く。

龍玄(りゅうげん)に変身しているときなら耐えられた攻撃だが、生身では本当に普通の人間と変わらない。

セージのように、マグネタイトで悪魔にも匹敵する身体能力を得ている訳でもない。

そんな光実が、触手の刃に耐えられるはずが無かった。

 

「み、光実さんっ!!」

 

「こ……これは……!!」

 

煙の中から、幽鬼のようにゆらゆらと立ち尽くす人影が見える。

所々ボロボロになっているが、それはシャドウ成二であった。

 

「……今の攻撃はよくやったと言ってやる。流石は俺だと、そこまで自惚れはしないし

 そもそもお前一人の力じゃないだろう。

 おっと、予め言っておくが俺にとってはお前達全員が標的だ。

 ただ、宮本成二の優先順位が高かっただけだ。

 もうこれ以上、お前達に優位なまま進めはしない。それだけだ」

 

その言葉に、一同はシャドウ成二が再び「悪霊達の機動部隊(ガン・レギオン)」を行使するのかと身構えるが

その気配は一向に無い。ただ、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を展開させてはいるが。

 

「朗報だ。俺にはもう悪霊達の機動部隊を行使するだけの負念が無い。

 さっきの防御で、ほとんど使い果たしてしまったからな。

 今から外に出てクロスゲートに飛び込めば補給も出来ようが……許すはずもあるまい?

 この辺に漂っているのをかき集めるにしても、それなりの限度はあるからな」

 

いけしゃあしゃあと、種明かしをするシャドウ成二。

そこに狼狽や憔悴と言った感情は、一切含まれていないようだ。

寧ろ、余裕さえ感じられる。その余裕綽々の態度に、却って警戒心を強める一同。

 

「……フッ、合格だよ。今の俺の言葉を聞いて考えなしに突っ込んでくるマヌケがいない。

 そこで不貞腐れてる奴はどうだか知らんが、その程度の脳みそも回せない程度じゃ

 俺と戦って勝つなんて土台無理な話だ」

 

言い終わるなり、シャドウ成二は二枚のカードを引く。

一枚は銃を実体化させるカードで威嚇射撃を敢行。

もう一枚は――

 

「知っての通り、記録再生大図鑑は俺が見たもの、体感したものを記録・再現することが出来る。

 そして、俺はここにいる。そこの宮本成二とは独立してな。

 

 ……言いたいことが、解るな?」

 

「……お前! まさか、どこかでデータの記録を……!!」

 

 

その通り! そう叫びながら、シャドウ成二は二枚目のカードを翳した。

 

 

PROMOTION-BISHOP!!

 

 

僧侶(ビショップ)」への「昇格(プロモーション)」。

元来は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の「兵士(ポーン)」の特性をセージがコピーした……と言うよりは

通常の方法で昇格が出来なかったセージが、強引に昇格を敢行するために

記録再生大図鑑で再現させた、言うなれば猿真似の昇格。

その性質上、悪魔の駒が抜けた今のセージにはある意味、記録が出来ないカードと思われていた。

勿論、僧侶への昇格をセージが記録する機会に恵まれなかったというのも理由として存在するが。

 

元来これらの昇格は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)替わりに紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)を変形させて装甲にしているが

シャドウ成二は紫紅帝の龍魂を持たない。

そのため、代わりに所持しているディス・レヴに封入された悪霊を代わりに使い

負念をかき集めて装甲を形成していた。

 

それはセージのマゼンタ色の装甲とは異なり、漆黒に赤のラインが入った

禍々しさをこれでもかと放つものであった。

かつて、セージがイッセーに憑いていた頃に暴走させて発現させた

赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)」が、その色合いなどの風貌としては近いだろう。

 

 

僧侶の形態はその身を覆う装甲は殆どなく

三日月状の装甲を両肩に装備し、丈の長いマントを靡かせた簡易なものであった。

しかし、そこに漂う力は確かに昇格した兵士のものと同質である。

 

「セージの奴、いつの間に僧侶に昇格できるようになったんだ!?」

 

「恐らく、あいつが勝手にどこぞで仕入れた記録だろうな。

 俺は今まで兵士が僧侶に昇格するところを見たことが無い。

 どこで仕入れたかは、知らんがな」

 

さらに性質の悪いことに、ここにいる全員――レーティングゲーム参加経験のない光実は特に――

僧侶との戦闘経験が浅い。僧侶自体との戦いは一応ライザー戦であるのだが

その際は罠や力押しで僧侶の特質を出させる前に倒しているし

僧侶の一人であるレイヴェルとは戦ってすらいない。

そうなれば、この場にいる僧侶であるアーシアやギャスパーから

相手の性質を見極める必要がある。のだが――

 

「もしかすると気づいているかもしれないが、俺を他の僧侶と同じに思うなよ。

 騎士(ナイト)にせよ、戦車(ルーク)にせよ悪魔の駒のオリジナルに無い能力を持っていたんだ。

 僧侶だってそう言う手合いの能力を持っていたところで……不思議ではあるまい?」

 

挑発も兼ねて、シャドウ成二は自身の能力の特異性を暗にひけらかす。

それそのものを口上で述べたりはしないが、手の内の読めなさは変わらない。

何せ、彼の場合戦車でありながら力任せによらない攻撃を敢行したり

騎士の速度を乗り物に頼ったりなど、悪魔の駒の性能からはかけ離れた能力を発現させるのだ。

 

――最も、戦車でありながら攻撃魔法に頼った戦い方をするというケースは

  イッセーの虚憶(きょおく)の中に、さるヴァルキリーが行っているものが存在するのだが――

 

「……けっ! 全力で殴ってぶっ飛ばしちまえば同じだ!

 ドライグ! もう一発赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)で――」

 

『出来るか馬鹿。さっきドラゴンショットの反撃で吹っ飛ばされた分の回復が追いついていない。

 可能な限り倍加させたドラゴンショットで我慢しろ』

 

これはドライグの側の後遺症なのだが、かつてセージによって撃ち込まれた神経断裂弾。

このダメージは確かに回復しているのだが、こうしてドライグの側の治癒が遅くなっているという

ともすれば致命的ともいえる後遺症を残していたのだ。

 

元来ならば生物の神経を内側からズタズタにする神経断裂弾。

それを神器に封印された存在であるドライグに宝玉越しに撃ち込んだことで

こうした後遺症が発生していたのだ。ドライグとて、元は生物なのだ。

如何にドラゴンと言えど、生物の理からは逃れられない。

生物の理から逃れられるのは、概念の存在である神や悪魔のみだ。

尤も、悪魔は自分から生物の理に縛られに行っている節が存在するが――

 

「く……っ!」

 

仕方なしにイッセーはシャドウ成二に向けて不完全なチャージのドラゴンショットを放つ。

何の駆け引きも無い、ただの必殺技ぶっぱが当たるほどシャドウ成二も甘い相手ではない。

攻撃は簡単に回避されてしまうのだが、それを見てセージは違和感を覚える。

 

(……ドラゴンショットを躱した? 受けるでも、跳ね返すでもなくか?

 そこから考えられるのは、やはりあの状態は防御力は高くないという事か?

 まあ、無駄なダメージを喰らいたくないだけかもしれないが……)

 

物は試しと、ガン・レギオンの残りをシャドウ成二に嗾けるセージ。

その攻撃に対しても、シャドウ成二は回避に専念している。

ただ、両手の三日月状の刃がついた籠手で迎撃はしているが。

 

(ガン・レギオンの攻撃に対しても反撃が来ない?

 ……一体、何をやろうとしているんだ? 反撃も、防御もだが

 一向に記録再生大図鑑すら使わないというのは、却って不気味だな……)

 

「……こんなものか。

 では、そろそろこの『僧侶』の力を見せるとするか。

 俺はさっき悪霊達の機動部隊を行使するだけの負念をもう持っていないと言ったが……

 

 ……それは、このためだ!」

 

徐にシャドウ成二が記録再生大図鑑――もとい、無限大百科事典(インフィニティ・アーカイヴス)を開く。

いつの間にか禁手化(バランスブレイク)させていたが、開いた神器(セイクリッド・ギア)からは3枚の光るカードが飛び出す。

 

 

TRI-SPREAD SUMMON!!

 

 

SWORD!!

 

DEFENDER!!

 

FEELER!!

 

 

3枚のカードは、三点を頂点とする魔法陣を形成する。

それはさながら、悪魔召喚の儀にも似ていた。

 

 

ADDITION!!

 

 

「そしてここに、もう一枚を加えさせてもらう。

 こうして生まれたものに……残る全ての負念を注ぎ込む。

 

 ――今見せてやる。これが俺の『僧侶』の力!!」

 

 

さらに、シャドウ成二は魔法陣の中心に無地の青いカードを投げ込む。

その青いカードの中央には、白と黒がシンメトリーで彩られた仮面の紋様が入っていた。

 

そのカードに応えるように、魔法陣の中央の地面が隆起し、人型を成していく。

その人型にシャドウ成二が抱えていた最後の負念を全て注ぎ込む。

それによって、人型は変形していく。

 

変化を果たした人型は、黒のロングコートを纏い、頭部は怪物の頭蓋骨を思わせる形状。

その背には、白い棺桶を無数に背負い。

右手には、抜身の刀が握られている。

 

この場の誰も、下手をすれば彼らの関係者ですら知り得ない事なのだが

この姿はある世界で、ワイルドと呼ばれる能力を身に着けた

とあるペルソナ使いの少年が顕現させたペルソナ――タナトスに酷似していた。

しかし、その形状はそのタナトスとは所々異なる。

 

まず棺桶。これは本来のタナトスのそれは閉じているが

目の前のタナトスの棺桶は半開きになっており、中身がはみ出している。

たくさん並んだ棺桶に墓標のごとく「THANATOS 2009」と記されている。

次に頭部。怪物の頭蓋骨は変わらないが、こちらのタナトスはその頭蓋骨の口の中に顔が見える。

その顔はペルソナにあるまじき「素顔」を思わせる造詣をしている。

しかし、その顔は苦悶の表情を浮かべた、醜悪なものであった。

 

 

――我は我。別なる我――

 

 

言うなれば「アナザータナトス」とでも言うべき存在だ。




【速報】気づけば100話目
【悲報】まだ「デビルマン」の折り返しにも来てない(「ゴースト」ひっくるめればそれなりに後半)

……いや、本当はもう少し進んでるはずだったんです。
一応今後の展開も頭の中にはあるのでよほどのことが無い限り
エタる予定はないのですが……

と言うか、本当にD×Dネタが無くなってきてますね。
一応、今回の珠閒瑠市編が終わればD×D縁の地が舞台になる予定ですが
(スポットライトが当たるとは言って無い)

>僧侶
以前シャドウがディエンドとつるんで匙にちょっかい出してた理由。
アーシアやギャスパー、黒歌の例を鑑みるに「特殊能力にまつわる影響」っぽいですが
戦車や騎士に比べるとあまりスポットライト当たってないというか
なんならゼノヴィアのあたりから怪しい気がします、悪魔の駒の特性。
セージは似ても似つかぬ猿真似昇格だからいいんですけど。

なお戦車で城壁を模した鎧、騎士で胸当てと来た装甲ですが
僧侶は三日月状の肩当と三日月状の刃が付いた籠手。シャドウのなのでいくらか差異はありますが。
形状モチーフは僧侶繋がりのフェンブレン。もう退場してますけど。
あくまで形状モチーフに過ぎないので、この形態でのセージの戦闘能力は
実は素の状態とほとんど変わっていない。

そういや戦車のパワーとか騎士の機動力ってのもなんかハドラー親衛騎団くさいような、そうでもないような……

>召喚
セージが所有しているカードを素材にして、その特性を持った存在を生み出すことが出来る。
ただしそれを動かす燃料は別途用意しなければならない。
今回は悪霊を使ったが、その気になればバッテリーとかでも動く。
カードの枚数は任意で決められ、枚数を増やした分だけ能力が向上するが
それに比例して燃費は悪くなる。
また、記録再生大図鑑収録のカード以外のものを追加することも可能。

>アナザータナトス
言い訳無用レベルでアナザーライダーなタナトス。賊神(ピカロ)じゃありません。
仮面(ペルソナ)」に対して「素顔」の意匠を入れたり
名前と西暦が刻印されていたり
所々オリジナルに比べて醜悪なデザインをしていたり。

罪罰原作ではリバースとしてオリジナルのペルソナを模したペルソナが出るのですが
セージは御存じの通りペルソナ未所持。なのでリバースペルソナが出せない。
じゃあ、という事でアナザー()のペルソナを。
以前無限大百科事典でアポロを再現した時にオルタ・アポロにしたのはこういう理由でした。

そして、設定面でもアナザーライダーを意識した部分があるため
このアナザータナトスが存在するという事は
P3主は男女問わずペルソナ能力持ってないことになります。なので……


因みに、扱いきれず没にしたものにアナザーイザナギとアナザーアルセーヌ。
話の展開上没にせざるを得なかったものにアナザー青面金剛とアナザーヴォルカヌス。
一応、あったりします。没ですけど。


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The Others Bパート

そう言えば、シャドウ成二に「紫紅帝の龍魂」が無いって描写入れてましたが
普通に矛盾してましたやんけ。

……一応、中身のないガワだけ真似たものと言う言い訳も可能ですが
成り立ちを考えるとこれガワだけ作ってもあまり意味が無い物なので
「シャドウ成二は紫紅帝の龍魂を持っていない」という事で統一させていただきます。
ご迷惑をおかけしました。

記録再生大図鑑はセージ自身に拠るものなので普通に持ってますし、ガンガン使ってます。


――我は我、別なる我――

 

 

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)――言うなれば、反転(リバース)・記録再生大図鑑に記していた

昇格(プロモーション)」のカードを使い、「僧侶(ビショップ)」の能力を得たシャドウ成二。

 

彼は三日月状の刃を象った肩当や籠手からは想像もつかない

「召喚」能力で、さる世界で世界の脅威に立ち向かったペルソナ――タナトスの

別なる姿とも言える、アナザータナトスの召喚を敢行したのだった。

 

「こいつは……ペルソナ!?」

 

「フッ、残念ながら不正解だ。モチーフにペルソナを加えはしたがな。

 こいつこそ、俺の『僧侶』の能力――『召喚』。

 『戦車(ルーク)』の『力の操作』、『騎士(ナイト)』の『剣術強化と操縦技術』同様

 記録再生大図鑑で再現する上で変異した昇格能力だ」

 

シャドウ成二自身はともかく、召喚されたアナザータナトスの力は本物である。

セージに高速で突撃し、すれ違いざまに右手の刀で切り刻む「ブレイブザッパー」。

セージも防御を試みたが、反応に追いつかずに傷を負ってしまう。

 

「速――っ!?」

 

「当たり前だ。こっちは今の召喚にリソース全部つぎ込んだんだ。

 簡単に攻略できるなどと……思うなよ」

 

アナザータナトスの猛攻をアシストするように、シャドウ成二も援護攻撃を行っている。

その攻撃はセージに迎撃態勢を取らせまいと、的確に狙いをつけてきている。

宮本成二の心の闇から生まれた影である以上、セージの思考パターンはほぼ、読まれているのだ。

 

(く……っ! こうなりゃ手段は選んでられないな……

 後ろから撃たれるかもしれないが、今はこれしかない!)

 

EFFECT-CHARGE UP!!

 

セージは白音やギャスパーのみならず、イッセーも巻き込む形で能力の増強を図る。

巻き込む、と言うよりはイッセーの能力強化を目論んでの行いである。

イッセーを強化するという事がどういう結果を招くかは

セージ自身全く理解していないわけでは無いが、シャドウ成二・アナザータナトスとの

彼我戦力差を鑑みた上での結論であった。

負傷した光実(みつざね)と、回復に付き添っているアーシアは能力増強が出来なかったが

負傷者を巻き込むわけにはいかない、と判断した結果でもある。

 

「都合が悪くなれば他人に縋るか。しかも散々糾弾した相手に。

 とうとうお前の底も見えたな。そんなことも見抜けない俺と思ったか?」

 

シャドウ成二が指示を出すと、アナザータナトスは白音とギャスパーの前に立ちはだかる。

その様は、まるで瞬間移動をしてきたかのような速さであった。

直後、アナザータナトスの身体から黒い煙が吹き出し、白音、ギャスパーのみならず

後方で光実の治療を行っているアーシアまでも巻き込んでいく。

 

「けほっ――!!」

 

「こ、これは……!?」

 

ギャスパーとアーシアは、己の身体に異変が起きた事に気づく。

その異変の源は、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)

悪魔の駒は宿主を悪魔へと変異させるものであるが、それに伴って邪悪な力に対しては

ある程度の耐性を齎してもいた。耐性を齎すというよりは、神聖なものが弱点になることに対する

バランス調整の結果出ている反応であるとも言えるが。

 

しかしその耐性が、黒い煙を吸い込んだことによって消えていくような感覚を覚えたのだ。

かと言って、神聖なものにたいする抵抗力が生まれたわけでもない。

邪悪な力に対する抵抗力そのものが、失われていったのだ。

 

――呪怨ガードキル。

 

属性抵抗力を奪うガードキルスキル。例えば、火炎ガードキルを使えば効果を発揮している間は

炎の力を宿すライザー・フェニックスだろうと炎でダメージを与えることが出来る。

今回の場合は、それの呪怨――邪悪な力に対する抵抗を奪い去るものだ。

そうなれば、悪魔に対しても邪悪な力による攻撃が通るようになる。

 

その効果が表れたと見るや、アナザータナトスの背面の棺桶の一つの蓋が、がたりと外れ落ちる。

その中からは、腐臭を漂わせながら腐った肉のような色をした触手に繋がれた

紫のワンピースを着た金髪の少女らしきものがだらりと零れ落ちる。

その少女は、触手に繋がれたままゆらりと白音たちの前に姿を見せ―

全く腐り落ちていない、可憐な顔を覗かせながら満面の笑みでこう呟いた。

 

 

   死  ん  で  く  れ  る  ?

 

 

その悪意の無い顔から発せられた、悪意に満ちた言葉。

純粋な願いにして、純粋が故に無自覚の悪意による願い。

無邪気な邪気。それが、この言葉の言霊を現していた。

そして、邪悪な力に対する抵抗力を失ったアーシア達がこの言霊から逃れる術はなく――

 

 

――ばたり、ばたりと倒れていく白音、アーシア、ギャスパー、光実。

そしてアーシアが倒れたことに伴って消失するライリィ。

この攻撃から逃れられたのは、そもそも暗黒ガードキルの対象になっていなかった

イッセーとセージだけであった。

 

「い……一瞬で……!?」

 

「な……何が起きたんだ……!?」

 

「いくら俺でもお前ら二人に加えて猫魈(ねこしょう)に吸血鬼と悪魔のあいの子。

 ドラゴン使いの悪魔シスターにアーマードライダー。

 こんなに相手出来るか。だからご退場願った」

 

一連の行いを悪びれもせずに言ってのけるシャドウ成二。

少女を零した棺桶も、いつの間にか蓋が閉まっている。

少女も、棺桶の中に仕舞われたのかもしれない。

しかし、やはりどこかしらは棺桶の蓋がずれており。中身が覗き込めてしまう。

元来のタナトスが背負っている棺桶は、決して蓋が外れることなく

ある種の芸術品のような気品も併せ持っていたが、アナザータナトスのそれは

厳粛な葬儀に用いられる棺桶ではなく、大量の死人が出た際に用いられるような

間に合わせの棺桶のような簡素とも言える部分があり、それが故の歪さもあった。

 

「て……てめえ! よくも小猫ちゃんやアーシアを!!」

 

「何キレてるんだお前? 俺が白音を攫ったときから理解してると思ってたんだがな。

 今俺達がやってるのはお遊戯でも何でもない、ただの命の遣り取りだ。

 最初に言ったぞ。状況次第では人質の命は保証しない、とな。

 そしてその言い分だとギャスパーや光実はどうでもいいのか……なるほどな。

 曲がりなりにも、殺人を犯しただけのことはある。

 命の取捨選択をこうもあっさり……俺にも真似出来んよ」

 

「約束守っただろうが! それに、俺の事は今関係ないだろ!!」

 

イッセーのある意味尤もな意見にも、シャドウ成二は悪びれもせずに答える。

約束を守ったのだから危害を加えるな。一見すれば真っ当な意見ではあるが

それはあくまでも被害者目線。加害者の舌先三寸な状況では、何の意味も無い。

 

「状況が変わった。そもそも、お前達との約束を後生大事に守る必要性なんかないだろ?

 命ってのは理不尽に刈り取られるものだ。強いて言うなら……『そこにいた、お前が悪い』。

 まあこれも無理に悪人を仕立て上げたが故の歪みだがな」

 

「やったのは……お前だろうがぁ!!」

 

シャドウ成二に殴りかかろうとするイッセーだが

その勢いはシャドウ成二に足払いをかけられたことで余らせてしまい

前のめりに転んでしまう。

 

「バカを言うなよ。生きてりゃ誰かの、何かの命をどうしても奪うんだ。

 肉や魚だけじゃない。野菜や穀物だって、植物って生物から命を奪って食ってるんだ。

 食う以外にも、蟻を知らずに踏みつけたり、蚊を叩き潰したり

 いくらでも命は奪ってるものだ。それを罪だなどと言うのは……

 

 とんだ思い上がりだ、殺人犯の兵藤一誠君?」

 

真紅の眼を輝かせながら、心底底意地の悪い笑みを浮かべながらイッセーを嘲るシャドウ成二。

彼が嘲る対象は、何もセージだけではない。

確かに彼はセージの心の闇が具現化した存在であるが

これは即ちセージ自身にもイッセーに対する嘲りの感情がある事の示唆でもある。

今回の標的はイッセーであるが、他の誰に対してもこのような行動が出ることはあり得るのだ。

 

「て……てめぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「……落ち着け。憶測の域を出んが、あいつを倒せば……」

 

「おっと。俺を倒せば万々歳、などと考えているのなら、そんな甘い考えは捨てろ。

 お前達は後ろの四人を守れなかった。それが答えだ。

 お前達が俺に勝とうが負けようが、この事実だけは覆らん。

 

 ……確かにタナトスは消せるが、それで解決では無いぞ」

 

「…………っ」

 

的確に、生き残ったセージとイッセーの戦意を殺いでいくシャドウ成二。

なまじ事実であるがゆえに、反論の余地もない。

 

「ハーレム王? 人類の自由と平和? そんなバカげた夢は捨てろ。

 そもそも俺一人倒せないようで、そんな大仰な夢がかなうものか。

 叶わぬ夢なら見ない方がましだ。この昏い穴底で見果てぬ夢の終わりを迎えるんだな」

 

「お前……さっきセージと小猫ちゃんに負けたくせに偉そうに!」

 

「いい事を教えてやる。『俺が屈しない限り、貴様が勝ったわけではない』。

 さっき光実の虚憶(きょおく)の中でそう言っていたアーマードライダーがいたな。

 いい言葉だ。座右の銘の一つとして、記録再生大図鑑に記録させてもらったさ」

 

イッセーの罵倒にも一切動じず、シャドウ成二は事も無げに返答を返す。

そもそもシャドウは心の闇が具現化した存在であり

その元締めは人類の、知的生命体の――果ては心を持つ総ての存在を嘲笑う存在である。

それを源流とするシャドウ成二が、イッセーの態度を嘲笑うのは自然とも言えた。

 

「さて。お前達との問答も終わりだ。

 本物でこそ無いが、このタナトスは死の神。それを俺が呼びだした……この意味を理解しろ」

 

抜身の刀を突きつけたアナザータナトスを、シャドウ成二が嗾ける。

最早、これはセージ自身の問題を超えている。

セージの皮を被った悪意の集積体と、それが生み出した怪異。

消耗したセージとイッセーだけで、この脅威に立ち向かう事になったのだ。




第二ラウンド。

>呪怨ガードキル
実際に実装されてたらハルマゲドン→勝利の雄たけび並の反則かも。
賊神でもムドブースタは持っているけれどこんなの無いし。
こいつタナトスってかニュクス・アバターじゃね?

>死んでくれる?
で、ガードキルからのこれ。
作品によってはやたらファンシーだけれども、今回そんなこと無いです。ホラー。
全体即死は本当に刺さると怖い。

ちなみにネタバラシしますと本当に死んでません。
仮死状態ですが、戦線復帰は不能です。そんな感じ。
地返しの玉か反魂香みたいなものでもあればワンチャン。

>棺桶の中身
メガテンのアリスを模したもの。ペルソナアリスがタナトスの材料でもあるのでそこも意識。
(そういやタナトスの材料サマエルも入っていたな……)
この子も一応死人だけど、本人は別に腐ってないはず。
そこにいる住人は赤黒おじさん以外腐ってるけど。
腐臭はその彼女の背景を意識したものでもありますが
単純に棺桶の中に詰まっていた触手の臭いとも。
罪罰だとメギドラオンや相性無視の全体即死ぶっぱしてくるのでやっぱヤベー奴。

どうでもいいけど幼女で腐臭と言うと某同人エログロゲーが……

>強者理論
原作では負け惜しみとも不屈の闘志とも取れた言葉ですが
それもニャ……シャドウにかかれば逆張りの煽り文句。
と言うかこの精神身に着けたニャルラトホテプとか迷惑以外の何物でもない……

>イッセーへの援護
もうこうでもしないと勝てないとの判断。
別に自分自身との戦いに、タイマンである必要は無いですし。
まして、放置したら外に出て暴れまわるのがほぼ確定しているような場合では。

……問題は、そのイッセーが原作ほどの力が無く
下手すれば修行した白音の方が強いんじゃ? な状態だったこと……


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Will36. ほんとの私はどれでしょう

久方ぶりのセージ一人称。


目の前にいる、もう一人の俺。

そいつが繰り出したアナザータナトスの力は

確かに今の俺と兵藤とで太刀打ちできるかどうかは怪しいものだった。

兵藤は本調子ではないし、俺もさっきまでの戦いで正直、消耗している。

 

不幸中の幸いは、奴を形成しているであろう負念が底をついた――

即ち、これ以上強大な増援を寄越される可能性は低いという事であろうか。

 

だが、こっちだってさっきのアナザータナトスの攻撃で仲間が全員やられた。

また同じ攻撃が来たらどうにもならない。そうなる前に倒したいところだが……

相手の実力が読み切れないうちに、こっちが全力を出すのは博打が過ぎるが。

検索しようと思ったら、棺桶から触手が飛んできたので割とそれどころじゃなかったし。

 

INFINITY-ARCHIVES DISCLOSURE!!

 

MOTION!!

 

「――アポロ!」

 

アナザータナトスに近しい力と言う意味で、俺は神器(セイクリッド・ギア)禁手化(バランスブレイク)させ

オルタ・アポロを召喚する。アナザータナトスの刀に対し、オルタ・アポロの得物は銃。

リーチの上では、こちらが優位ではあるが。

 

「兵藤! 俺がこいつを食い止める! お前はその隙に――」

 

「俺に指図すんな!!」

 

兵藤は口ではそう言っているが、その足はシャドウ成二に向かっていた。

ある程度はこうなることを見越してアナザータナトスの相手を請け負った部分はあるが。

もう一つは、今の手負い状態のあいつにアナザータナトスの相手は荷が重かろう、と言う点だ。

幸い、今のシャドウ成二は本人の戦闘力自体は特筆するところはない、はずだ。

まさか、禁手(バランスブレイカー)相当とは言えただの神器持ちの人間如きに後れを取るはずもあるまい?

 

連携して戦うのが無理なら、疑似的に連携すればいい。

要は、奴がそう動くのを見越して俺が動く。合わないなら、合わせれば済むだけの話だ。

 

SOLID-SWORD!!

 

アナザータナトスの刀に対抗できるとは思えないが、俺自身も剣を生成する。

どうもオルタ・アポロの再現に必要な周防巡査のモーションを再現するとなると

刀剣系の武器が相性がいいみたいだ。ディフェンダーではでかすぎる。

 

アナザータナトスに対峙する俺とオルタ・アポロ。

徐に、アナザータナトスの背面の棺桶の一つから、蓋が外れ落ちる。

またあの悍ましい攻撃が来るのかと身構えていたが

棺桶から顔を出したのは、赤黒い襤褸のコートを身に纏った怪人のような存在。

何かを「奪おう」と鋭い鉤爪をした手を伸ばしてくるが、その手は空を切る。

 

しかしそれは、攻撃が外れたことを意味していなかった。

空を切った鉤爪からは、やはり不快な「何か」が溢れ出してきていた。

 

――呪怨魔法(マハエイハ)

 

鉤爪から溢れ出したそれは、周囲に残り未だに漂っている。

もしやと思いディーン・レヴで吸収を試みるが……ダメだった。

取り込むこと自体は出来るが、完全に攻撃的な負念であるために変換が効かないのだ。

寧ろ取り込んでしまったことで余計なダメージを受けてしまったさえある。

 

「ぐっ……!」

 

さらに今の攻撃で動きが鈍ったところに、アナザータナトスのまた別の棺桶の蓋が外れる。

中から飛び出してきたのは、赤い鉢巻きらしきものを巻き、サングラスを付け

返り血を浴びた襤褸の短ランを思わせる衣装を纏った人型。

そのサングラスは、まるで「真実」など見る必要も無いと言わんばかりだ。

 

その手に握られた赤黒いメリケンサック共々、もう既に見た目からして殺意に満ちている。

真実など、己が力でどうとでもできるとでも言わんばかりだ。

 

……当然、これでは近づけない。

離れるという事は、さっきの呪怨魔法が飛んでくるという事でもあり

遠近共に全く隙が無い。

 

こちらは距離を取ればオルタ・アポロの銃。

接近戦ならば俺の何の変哲もない剣。

腐食剣にすればいいじゃないか、と誰かに言われそうではあるが

その実腐食剣は威力自体は普通の剣と然程変わらない。

あれの真価は相手の装甲や装備を劣化させることだ。生物にも一応効くが。

この時点で些か不利な状態だが、かと言って兵藤にこいつの相手をさせるのも。

 

言ってはなんだが、あいつの出来ることと言えば火力一辺倒の必殺技以外は

力にかまけた戦い方ばかりで、技術と言えばひん剥き位だ。それも女性限定の。

この状況で役に立つとは思えない。

こいつに任せるよりは、俺が戦った方が確実だろう。

 

そんなこんなで、アナザータナトスの攻撃を必死に往なしていると

突然背後から撃たれた。

 

「いつまでこいつを宛がって時間を稼いでいるつもりだ?

 お前のように分身は出来なくとも、その気になればこいつの相手をしながらでも

 お前を処分することくらいは容易いんだぞ?」

 

「ぐ……!」

 

どうやら、兵藤の相手をしている片手間で、触手砲を忍ばせて

死角に入ったタイミングで撃ち抜いてきたようだ。

触手砲の砲撃は光弾であるため、悪魔でも生霊でもなければ、アモンも表に出ていない

現状で受けるダメージはそれほどでもなかったが

これで生じた隙でアナザータナトスの攻撃をもろに受けてしまった。

ヤバい。これはヤバい。視界が歪む。

 

 

「く……!!」

 

EFFECT-HEALING!!

 

回復させて態勢を整えるも、このままでは同じことの繰り返しだ。

そうなれば、回復の手札が心許ないこっちが不利に決まっている。

オルタ・アポロではアナザータナトスに勝てないのか……?

 

いや、そんなことは無いはずだ。

そもそも、向こうが昇格(PROMOTION)のカードを使っているのならば

こっちだって使うのが筋と言うもの。そして使うカードは…………

 

 

PROMOTION-ROOK!!

 

 

戦車(ルーク)」のカードで昇格し、まず力の上だけでも補強をかける。

しかし、この昇格は力そのものの操作が可能だ。重力、電磁力、強い力、弱い力。

我ながら大したズルだと思うが、相手があれだけの脅威であれば

ズルでもなんでもやらねばならない。これは遊びじゃないんだ。縛りプレイしてる場合じゃない。

 

 

――超重力加重操作(グラダイン)!!

 

 

アナザータナトスの周囲の重力を、可能な限り増加させる。

棺桶が軋む音と共に、アナザータナトスはその躰をその場に縛り付けられる形になる。

……ま、まあグラダインってのはなんとなく頭に浮かんだから言ってみただけで

特に意味は無かったりするが。

 

「…………くっ」

 

などと偉そうなことを言いはしたが、実は未だにこの4つの力――基本相互作用とやらを

完全に理解しているわけではない。これが理解できる高校生なんて簡単にいてたまるか。

なので、自分の理解の範疇の外にある力を操作するというのは記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)ないし

無限大百科事典(インフィニティ・アーカイヴス)にとんでもない負荷がかかる。

それは即ち、俺自身に物凄い負荷がかかるのだ。

 

かと言って、アナザータナトスを触手で縛り上げるのは難しいだろう。

本体を縛っても棺桶がフリーになるし、棺桶を縛っても本体がフリーでは意味が無い。

となると動きを止めるのは……こうなるわけだ。

 

そして戦車の力を使っているという事は、俺自身の耐久力も上がっているという事だ。

多少横槍を入れられても、意に介さずに行動することが出来る。

流石に分身を作っている暇は無いが、俺のシャドウの横槍を無視してアナザータナトスを攻略するには

この形態はうってつけであると言えるだろう。

 

「てめぇっ、さっきから俺を無視してんじゃねぇ!!」

 

「……お前、はっきり言ってやろうか。

 

 『自分がまともに相手されるほど、大層な奴だと思っているのか?』

 

 赤龍帝だか未来の魔王だか知らんが、ここは人間の世界だ。

 悪魔のルールも、ドラゴンのルールもこの世界には存在しない。

 存在しないルールを……押し付けるな」

 

一方、シャドウは兵藤の攻撃を往なすなり、返す刀で一撃を加えたかと思ったら

そのまま兵藤の左腕を捩り上げていた。

 

「異質な力を持った者が迫害される。

 そんなのは何千年前から連綿と続いている、人間の限界だ。

 だがだからこそ人間はその中で生きなきゃならない。お前は結果論とは言え人間であることを捨てた。

 未練がましく、人間の世界に付きまとうな」

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

僧侶(ビショップ)の力は通常と大差ないとは言え、力を補強すればそれなりに力は増す。

そんな状態で、捩り上げた左腕にさらに力を加える。

いくら兵藤が悪魔とは言っても、人体構造上どうにもならない力を加えられれば……

 

「あがっ、あがあああああああっ!!」

 

「なにがハーレム王だ。自分の周りを蔑ろにして、自分の気持ちも満足に伝えられないで

 人心掌握など出来ると思っているのか。それとも、変な力で強引に従わせるのが

 お前の言うハーレムか。悪役の、それも独裁者の発想だな」

 

……シャドウの言っていることは、完全に俺の代弁だった。

変な力、に関しては俺の憶測に過ぎないが。

だがグレモリー先輩を狙いつつも全く声をかけなかったり

かと思えば姫島先輩や紫藤と爛れた振る舞いをしている。

その結果がアーシアさんの離反だ。全部、てめえ自身の行動の結果だろうが。

 

「…………なあ? こいつ、ここで殺した方がよくないか?

 こいつの虚憶(きょおく)を覗いたら、こいつ将来は魔王になるそうだ。

 それはいい。だが、こいつが魔王になった世界の人間界はどうなっていると思う?

 こいつが人間を庇護するような奴か? 最悪、自分のええかっこしいのためだけに

 敵を人間の世界におびき寄せかねないぞ?

 それに庇護にしたって、今やっていることの猿真似になりかねん。

 人間の世界は、人間の手で守られるべきだ。

 それを、こいつらはしゃしゃり出てきて滅茶苦茶にするかもしれないぞ?」

 

シャドウの問いかけに、俺は一瞬頭が真っ白になった。

まさか、今度は俺にこいつを殺すかどうかを聞いてくるとは!

 

……確かに、俺はこいつに撃たれはした。

そう考えれば、俺自身の身を守るためにもこいつは……

 

「考える時間位はくれてやる。だがくどいようだがもう一度言っておくぞ。

 俺はお前だ。その俺がこいつを殺すことを提案するという事の意味をよく考えろ。

 独りよがりの理想郷と、世界に住む人々の自由と平和。比べるべくも無いと思うがな。

 それからこいつを殺して罪悪感を覚える必要ならないぞ。

 何せここにいるのは俺とお前、そしてこいつだけだ。目撃者など、何処にもいない。

 お前の選択が全てだ。誰の意見も求めていない。無論、こいつの意見もな」

 

 

とんでもなく傲慢な物言いに、こいつも俺なのかと軽く頭痛を覚える。

だが、俺も思い返してみると割とそういう所がある……かもしれないし。

まあ、今から殺す相手の意見なんか普通聞かないしなあ……

 

……だが。俺の答えは決まっている。

兵藤が俺を殺そうとしたとか、そう言う事はこの際関係ない。

俺とこいつの関係ではなく、こいつ自身がこの世界に何を齎すか。

こいつが、この世界で何を成そうとしているか。

 

独りよがりな夢のために、世界を、人の魂を犠牲に出来るものか。

こいつの夢が、本当に人格を奪い去って女性を蒐集する事なのだとしたら。

それこそ、今悪魔がやっているように。

 

 

……こいつをここで殺すことが、ひいては世界の平和に繋がるのかもしれない。

だけど、何かが俺の中で警鐘を鳴らしている。

 

そもそも、今こいつを殺すことに躍起になってる場合なのか?

もっと重大なことが、あるような気がするが…………




サブタイは歌:子安武人。
しかし本当に「本当の私」が何処なの問題。
アナザータナトスにせよ、オルタ・アポロにせよ元は他人のペルソナ。
(アナザータナトスはペルソナとは少し違いますが)
シャドウも一面に過ぎないので「本当の」と言い切るのは乱暴が過ぎますし
今ここで戦車に昇格して戦ってるセージだって宮本成二と言う個人の一面に過ぎないわけで。
……ほんとの私はどれでしょう?

で、これと同じことはイッセーにも言えます。つまり……
今回、以前イッセーが突き付けられた質問と似たようなフリをしていますが
アンケートは行いません。
(結果がなんとなく想像できるというのもあるのですが)

>シャドウ成二の言動
セージが地の文で述べている通り、ほぼセージが思っていることを代弁してます。
心の内側の具現化たるシャドウの名は伊達では無いです。
つまり、ここでシャドウがイッセーに対して言っていることを
セージは常日頃から懸念していたわけで……
……そりゃあ、関係悪くもなるか。

ただ、ここで怒りをぶつける程度にはセージはイッセーの事を気にかけている、とも言えます。
態々イッセーを殺すかどうか聞いてくるのは、シャドウの出自に起因するただの意地悪だと思いますが。

ちなみに、この場にいないので言及していませんが
多分リアスに対しても同じくらいか、もっと酷い事言ってると思います。

>アナザータナトスの棺桶の中身
没ネタの再利用。マハエイハを使ったのはアナザーアルセーヌ。メリケン握ってたのはアナザーイザナギ。
彼らの「アナザー」ではなく、ただの棺桶の中身なのでそれっぽいだけの存在。
それぞれ「強奪する」ことや「真実を力でねじ伏せる」と原典に対して
これでもかと悪意のある解釈を成しているあたり、やはりアナザー。

因みに、彼らの元ネタになったアナザーライダーの設定の都合上
アナザー青面金剛とアナザーヴォルカヌスはクロスゲートの力業で強引に出す以外
どう捻っても出せず、彼らは早々に没と相成りました。
どっちもデザイン構想まで練ったのに……

>グラダイン
それにしてもこの駒王番長、ノリノリである。


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Will37. これが、俺の結論である

私生活バタついてました
その裏では寝落ちしながら初甲狙ったり色々と。

今回、流れの中でR-18編のネタを拾ってますが
未読の方はまあ……流れで察してください。としか。
すみません。


突如として、シャドウから提案された兵藤一誠の殺害。

いくら俺が兵藤に撃たれたからと言って、俺がこいつを殺す理由には…………

 

 

…………理由には…………

 

 

「どうした? 即断しないという事は、お前自身がこいつの死を望んでいるという事だぞ?

 こいつを消せば、後顧の憂いは断てる。人類に敵対する要素の一つを消し去れるという事だ。

 サーゼクスは、こんな奴に希望を見出しているんだ。

 その希望を断てば、脆弱な悪魔など瓦解する……

 いや、不平が噴出して内側から崩れ去るだろう。

 その時こそ、冥界は今以上の地獄になる」

 

『……俺が手を下すまでもないって事かよ』

 

シャドウの物言いに、アモンは不承不承と言った様子で呟く。

アモンは、サーゼクスへの意趣返しが出来ればよいと言った部分もあった。

それが、自ら手を下すまでもなく悪魔は滅びるという可能性を突き付けられたのだ。

複雑な心境なのだろう。俺も悪魔を人間に置き換えて考えれば、複雑だ。

 

……そこまで悪魔は脆弱なのか、と疑問に思いもしたが

そもそも奴ら悪魔がモデルケースと称している人間が……だ。

人間を模倣すれば、結末も人間に準えることになったって、然程おかしな話でもない。

 

「順番が前後するだけだ。片づけられるものから片づけていく。

 何もおかしなことはあるまい?

 

 …………さあ、どうする?」

 

シャドウの言う事は、確かに尤もらしく聞こえる。

今は、少しでも人類を脅かす要因は取り除かなければならない。

 

それに、そもそもこいつは法の裁きを下そうとしても通じなかったじゃないか。

こいつが裁かれない選択肢など、あるはずがない。

信賞必罰。その心意気は大事にしたい……そう、思ってはいるのだが。

 

 

「……お前も俺なら、わかるだろ。答えは…………」

 

言いかけた言葉を遮るように、シャドウは心底呆れ果てたような声を上げる。

そこまで呆れなくてもいいだろ。自分でもある程度はそう思っているんだから。

 

「…………お前、自分がどんな決断下してるのか本当にわかっているのか?

 こいつは法の裁きすら抜け出したような奴だぞ?

 法の裁きも下せぬ奴を、野放しにして良い訳がないだろうが」

 

「だからって、私刑による殺害が正義になるとは思えない。

 こいつが成したことを許すつもりは無いが

 俺だって人を如何こう言えるほど大層な人間じゃない。

 少なくとも、俺に兵藤を私刑で殺せる権利なんか無い。

 

 ……いや、俺じゃなくても、こいつに対してじゃなくても、私刑で人を殺して良い訳が無い。

 こいつは悪魔だが、だとしても同じことだ」

 

俺の言葉を、シャドウは殆ど聞いていない風にも思えた。

俺だって、これが正解だと言い切れない。せめて、ベストではなくモアベターくらいだろう。

私刑の殺し合いが延々と続いたのが、人類史における凡その戦争の根っこだろうとは

なんとなくだが思っている程度だ。

 

そう考えれば、私刑による正義遂行ははなっから正義の体を成していない。

そもそも、兵藤の正義と俺の正義はまるっきり違う。

だから何度となく言い合いになり、今や殺し合いだ。

俺だって、それが健全な状態だとは思っていない。

こうなった元凶は当然あるのだろうが、今はそれを言っても仕方がない。

 

「…………ハッ。我ながら白ける話だな。

 お前は相互理解の望めない、倒さねばならない敵に対しても恩情をかけるというのか?

 だとしたら、とんだ偽善だな。まあ、ある意味お前らしいよ」

 

相互理解の望めない、か。

まあ……バオクゥだってリーよりマシとは言え、言っちゃなんだがビジネスが前提の関係だ。

ビジネスに関しては、ある程度以上に悪魔は信用できる。アモンがいい例だ。

 

……寧ろこれに関してはグレモリー一派が悪魔の面汚しレベルで信用できないんじゃないかと

俺個人とは言え人間目線では思えてならないのだが。

 

「……ま、だったらこいつはもう用済みだな。

 恨みをぶつけて同士討ちさせようにも、お前にその気がないんじゃな。

 こいつが恨みをぶつけたところで、結果はあの通りだったしな。本当に役立たずだな、こいつ。

 それじゃあ用済みで処分する前に聞くが……兵藤一誠。お前、何がしたいんだ?

 成そうとしていたことは悉く失敗し、逆恨みで犯罪に手を染め

 想いを口にできないもどかしさを得体の知れない女教師に慰めてもらって

 人形遊びで自分の心すら誤魔化す。

 

 ……お前、本気でリアス・グレモリーに告白しようなどと思っていないだろ」

 

シャドウは今度は足元に倒れている兵藤を叩き起こすと

ゴミを見るような目を向けながら、俺にあの事を突き付けた時のような口調で

今度は兵藤を煽り始める。

 

 

……だが、俺はその光景に妙な違和感を覚えたのだ。

俺は……そこまで兵藤の事を知らないぞ……?

 

「……そ、そんなことは無い! 俺は……」

 

「ああ、そうだったな。お前は…………

 

 『ヤれれば誰だっていい』んだもんなあ?

 

 否定はさせねえよ。俺の目の前で、あれだけ盛ってたのはどこの誰だ?

 本命に相手にされない代償行為か?

 それともこの世の女は全部自分のものだという思い上がりか?

 赤龍帝だか何だか知らんが、お前の本質はただの世俗に塗れた人間だ。どこまで行ってもな。

 たとえ生物学上人間をやめられても

 心は……魂の性質までは簡単に変えることなど出来るものか。

 

 ……いや、逆だな。心や魂の在り方を簡単に変えられるという事は

 それが出来る位お前の心が、魂が薄っぺらく、ちっぽけだという証拠だ。

 そんなちっぽけな奴に女を抱えられるものか。

 一人でも持て余すというのに、二人以上など身の程知らずだ」

 

……まただ。

俺はここまで、兵藤の内側に深く踏み込んだことなんかない。

なのになんでこいつは、ここまで兵藤の事を知った風に言ってるんだ?

 

「違う! 俺の魂がちっぽけだなんて……!

 だって、俺は赤龍帝……」

 

「そこが既に勘違いなんだよ、馬鹿が。

 お前は兵藤一誠であり、赤龍帝はドライグだ。この両者は同一存在ではないだろう。

 ドライグの意識を誰ぞに押し付けられただけで、お前は兵藤一誠だ。

 兵藤一誠でなければならないんだ。お前はお前だ。

 それとも、お前――兵藤一誠の存在は他者――ドライグに食われる程度の

 安っぽい存在価値しかないのか?」

 

シャドウの挑発に、兵藤は食って掛かっている。

しかし、その見透かした態度で詰るシャドウの言葉に、兵藤の余裕がなくなっているのは目に見えてわかる。

俺相手なら見透かした態度もわかるが……こいつ、よくここまで兵藤の事を知っているな?

 

「なわけねーだろ! そもそもこれは俺が生まれた時から……」

 

「たとえ『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』が生まれ持ったものでも、人格は別個だ。

 お前はお前で、ドライグ(赤龍帝)ではない。そこをはき違えるな。

 はき違えたからには、お前は赤龍帝でもなければ、兵藤一誠でもない。

 つまり、何者でもないという事になるぞ」

 

 

……そうだ。

やはり、このシャドウは兵藤を嘲笑うでもなければ、叱咤激励している風に取れなくもない。

選んでいる言葉自体は、嘲笑って言葉が似合う位には物凄く悪辣だが。

 

こいつ、一体何がしたいんだ?

それとも、これも俺の……?

 

「お、お前……お前に何がわかるんだ! さっきから知った風な口をききやがって!

 お前に俺のおっぱいへの情熱を、ハーレム王への夢を否定する権利なんかあるのかよ!?」

 

「ねえよ」

 

「――ッ!? だったら、何で!!」

 

兵藤の反論を、シャドウはあっさりと受け流している。

そりゃ、誰かの夢を否定する権利なんか通常、ありはしない。

例外を挙げるなら、その夢が誰かに苦痛を齎すものである場合位か。

 

「お前のハーレムに組み込まれる人たちが可哀想だから言ってるんだよ。

 ハーレムに組み込まれるって事は、その時点でその人の意思や人格は無いも同然だ。

 考えてもみろよ。好みが被ったとは言っても、誰も彼も争わずに一人の存在を共有する。

 

 ……いい理想だ、感動的だな。だが無理だ」

 

「どうして無理だって言えるんだよ!?」

 

畳みかけるようなテンポで持ち上げて落としたシャドウの言葉に思わず感心してしまうが

そりゃ、夢見てる側からすれば真っ向から否定されていい気はしないわな。

そう言う観点においてのみ理解できんことは無いが……

 

ちなみに、ハーレムに関する考え方もこれは俺の考えそのものだ。

別にシャドウが俺じゃないなんて思っていないからそこを否定はしないが……

 

……うん、もう少しこう……手心と言うか……

 

「当たり前だろ。お前に触手が生えてるならともかく、一つしかないものを相手取る以上

 順列はどうしても発生する。その順列を受け容れさせるのに、どうやって説得するんだ?

 誰も彼も、姫島先輩みたく二番手に甘んじるなんて都合のいい話があるわけないだろうが。

 そこで従わせるなら、心の束縛……それこそ、洗脳とかな。

 そう言う手っ取り早い手段を使わざるを得なくなるだろ。

 

 ……例外があるとするなら、相手側がそれを良しとする……言うなれば、阿婆擦れ位だがな。

 阿婆擦れの意味は分かるか? 主に女性に対して品行が悪い場合に揶揄する蔑称だ。

 伝わらないならこう言ってやろうか。サセ子、ビッチ、色狂い。

 まさかお前、そう言うのが好みなのか? だとしたら碌な青春送れんぞ?

 いや、もう送れてないしそもそも色狂いはお前か。いや失敬失敬」

 

この辺は、あいつがやっぱり俺なのだという事を否でも認識させられる。

何せ、ほとんど俺の意見と差異が生じていないのだ。

 

……いや、俺より酷いかもしれない。思っていることは大体合っているが、何もそこまで……

 

「俺の事よりも部長が……リアスがそんな訳ないだろうが! リアスに謝れ!」

 

「やだね。この場にいない奴に、どうして謝らなきゃいけないんだ。思っているのは事実だから猶更だ。

 それ以前に、リアス・グレモリーの心と体はあいつ自身のものだ。お前のものじゃない。

 お前の身体が、お前自身のものであるようにな。

 

 ……だから、俺は必死になってお前から抜け出す方法を考えていたんだよ」

 

今でこそアモンのお陰で俺は兵藤から抜け出せたのだが、こいつに憑依せざるを得なかった時は

正直、気が気じゃなかった。いつ、俺が消えるのかと言う心配は常に付きまとっていたからだ。

 

 

…………あれ?

となると、アモンって……今の状況を考えたら…………

 

『余計なことは考えるなセージ。俺だって考えなしでお前を選んだわけじゃない。

 そりゃ、俺自身の身体があれば、それに越したことは無いけどな』

 

「……っ! そ、そうだ!

 お前が、あの時レイナーレとの……」

 

「……クックック、それ以上をここで言うか?

 お前、発言はよーく考えてからしろよ?

 一度飛び出した言葉は、器用にひっこめる事なんか出来ないんだからな?」

 

 

……わかってしまった。

シャドウの誘導尋問的な部分は多分にあったろうが、兵藤が本心で何を思っているのか。

それが、わかってしまった。

間違いなく、シャドウはああ言っているが兵藤にこう言わせたいんだろう。

 

 

――お前がレイナーレと出会ったときに余計なことをしなければ、今頃は……

 

 

「うぐ、ぐ……っ!!」

 

「クハハハハハハッ! アウトだ。

 いくらお前が言葉を引っ込めることが出来たとしてもこいつは妙に勘がいいからな。

 ま、だからあんな頭のおかしくなりそうな神器(セイクリッド・ギア)を使ってられるんだろうが。

 もう、お前が何を言いたいのか、何を考えていたのか。手に取るようにわかっているだろうよ。

 

 とは言え、言葉をどう取り繕おうともお前は既に行動でその意思を示してるがな」

 

凄くいい笑顔でシャドウは兵藤を煽っている。

ただ、その不気味に赤い瞳で湛えた笑みは爽やかな笑みとはまるでかけ離れた

あからさまに相手を嘲る笑みであるのだが。

……最も、俺も祐斗みたく爽やかな笑みが出来るかと言うと自信がないのだが。

 

散々兵藤を煽り散らしたシャドウは、今度は俺に向き合ってくる。

その邪悪な笑みは、一切崩さずに。

 

「いやあ、まさか助けた相手にここまで恨まれるとは思わなかったよなあ?

 しかもその助けるためにお前自身が死にかけるどころか体を無くしたり

 お前自身が消滅の危機に瀕したんだからな。こういうのを骨折り損って言うんだよなぁ?

 

 ……お前、人から恨み買いすぎだと思わないか?」

 

「…………自覚はしてるよ。お節介だってのもな。

 だが、これだけはここではっきり言わせてもらおうか。

 俺は、あの時兵藤の死に介入したことを…………

 

 

 …………悔やんでもいなければ、間違ったことをしたとも思っていない。

 そう、たとえこいつに殺されそうなほど恨まれていたとしてもだ!」

 

そうだ。あの時は確かにデートプランを考えてやる程度には付き合いはあった。

そんな相手がいきなり殺されようとしているのを助けるのに、打算的な理由などない。

そもそも、あの時無我夢中だったし。

結果はこれだが、俺の決断は間違ってない。間違ってない…………はずだ。

 

「…………なるほどな。そういうお前の独善的な振る舞いが

 こいつを苦しめ、未来を、夢を奪うきっかけになったわけだ。

 わかるか? だから今度はこいつのために死んで詫びろ」

 

「……そこまでする義理は無いな。そもそも、俺にだって死ねない理由の一つや二つはある。

 それに死を以ての償いなんて、自惚れの自己満足にすぎないだろ。

 命はあらゆるものを生み出すからこそ尊く、無限の価値がある。

 それを投げ出すことは、賠償どころか損失を齎す……これが俺の決断だ!」

 

俺の啖呵を受けてもなお、シャドウは嗤っていた。

何処までも、何処までも自分を、他人を嘲笑い続ける。

あらゆる知識、思考、感性の根幹が俺と同じだという事は

今までの兵藤との問答で嫌と言うほど思い知らされた。

そして、そんな奴が俺の中に存在しているという事実。

認めたくはない、だけど認めざるを得ない。ここまで証拠が揃っているのだ。

性質の悪い贋物どころの騒ぎじゃない。これは、悪意に満ちてこそいるが間違いなく――

 

 

――我は汝、汝は我。

 

 

「俺がお前であることを受け容れたつもりだろうが、だから何だと言うんだ。

 お前が在る限り俺もまた在る。しかし俺はお前の存在を認めない。

 お前など、俺ではない……ではなく、お前の存在そのものを否定するものだ。

 だから、ここで死ね。今までの茶番も全て、そのためだ」

 

沈黙を貫いていたアナザータナトスが、再び動き出す。

兵藤も今までの問答の間に回復したのか、立ち上がり戦闘態勢に入っている。

だが、シャドウは俺の方を狙っている。兵藤には、アナザータナトスが狙いをつけている。

……交代と言う訳か。

 

兵藤の意見を聞く前に、俺はシャドウ目掛けて飛び掛かる。

後ろで何か言っている風にも聞こえたが

今更ああだこうだ言ったところで向こうが聞くとも思えない。

俺達の意見など、はなっから相手は求めていないだろうし。

 

少々危険だが、シャドウをどうにかすればあのアナザータナトスも黙らせられるかもしれない。

寧ろ、その方が早いかもしれない。

あのアナザータナトスは、そう言う手合いの相手かもしれない。

召喚したものが矢鱈滅法強い反面、本体はそこまで強くない。

勿論、シャドウも記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を使う以上、何が飛び出すかわかったもんじゃないが。

そもそも、俺自身は僧侶(ビショップ)昇格(プロモーション)するカード持ってないし。

なのにシャドウは使った、それが答えだ。

 

 

――兵藤がやられる前に、本体を先に潰す。

恐らくそれが、今の俺にできる最善手だ。




このシャドウはセージのシャドウなのですが、振る舞いがイッセーのシャドウじみている状況。
本人の前で隠していた本音を曝け出し、本体にゆさぶりをかけるのはシャドウの常套手段ですが
そのために他人を平然と巻き込む。この辺2のシャドウ。
その流れでイッセーに流れ弾どころか無差別爆撃してるのは御愛嬌。
「死んでくれる?」で周囲を退場させたのはそう言う横槍防ぎも兼ねてかどうかは不明。

本体への揺さぶりのためのダシにされた、その点に関してだけはイッセーは不憫。
でもシャドウはセージの思っていたことを言っているだけなので嘘はついていないし
セージも心当たりがあるためにイッセーをフォローできない。

ただ、イッセーもイッセーで現在進行形で惚れた女のためとはいえ
命の恩人に銃向けた(しかも撃った)って前科があるし
その命の恩人からも見限られてるって状況……


……そりゃニャルも首突っ込みたくなるか。首突っ込んだ結果かもしれんけど。


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Will38. 千日手のR / 俺のリビドー、魅せます!

お待たせしました。
多分今年最後の更新です。

そして「デビルマン」では初めての、通算でも本当に久方ぶりのイッセーパート。
書いていてモチベが下がったからと言う訳ではなく、単純に難産だっただけです。


SOLID-SWING EDGE!!

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

案の定と言うべきか、こちらから攻め込もうにもシャドウは記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を駆使して

こちらの攻撃を的確に妨害してくる。

発動させないように距離を詰めようとしても

その前にこちらの行動をピンポイントで妨害してくるのだ。

 

……とはいえ、能力をかなぐり捨てての殴り合いに持ち込んでもただの消耗戦だ。

そうなればアモンに代われるこっちが有利、と言いたいところではあるのだが。

 

 

『セージ。俺は今回手は貸さないぞ。

 これはお前の戦いであり、お前が決着をつけるべきことだ。

 お前自身を決める戦いにまで手を貸してやるほど、俺はお人好しじゃない』

 

 

こうしてアモンには釘を刺されているのだ。

とは言え、俺も今回に限ってはアモンの力を借りるつもりは無かった。

いつぞや祐斗に釘を刺したが、今回ばかりは他人の事が言えない。

これだってこだわりと言ってしまえばそれまでなのだから。

 

SOLID-GYASPUNISHER!!

 

SOLID-SWORD MOUNTAIN!!

 

接近できないのならばと、ギャスパニッシャーの投擲で足を止めようとするが

それもコース上に設置された剣山によって勢いが殺がれてしまう。

さっきから、互いに決定打が打てない状態なのだ。

 

……相手も俺なのだから、ある意味においては当たり前の結果とも言えるが。

そのため、千日手になりながらもその間隙を縫って攻めなければならない。

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

SOLID-DEFENDER!!

 

シャドウももう悪霊達の機動部隊(ガン・レギオン)が使えないからなのか、触手砲を展開してこちらを狙ってくる。

その砲撃をディフェンダーで防ぎながらゴリ押ししつつ、何とか懐に飛び込もうとするも

足元から一本の触手が飛び出してくる。

 

「――くっ!」

 

飛び出してきた触手をディフェンダーの刃で切り落としつつ

今度はディフェンダーをシャドウ目掛けて投げつける。

ヴァーリに使った時同様、後から触手を出して軌道をコントロールする。

ギャスパニッシャーでは重すぎてできなかったが、ディフェンダー程度の重さならばやれる。

うまく軌道調整が効き、シャドウの頭上から直撃するルートでディフェンダーが飛び込む。

 

直撃コース。これで有利に立てるはず……なのだが。

 

 

EFFECT-MELT!!

 

 

「何っ!?」

 

なんと、シャドウは目の前でその身体を溶かして見せたのだ。

液状化した体には、ディフェンダーによる物理的な攻撃は完全に分散してしまっている。

確かに、あのカードには対象を溶かす力はあるが……まさか、「自分に効果を発揮させる」とは!

液状にその身体を変えたまま、シャドウは俺に絡みついてくる。

その身体が再び実体に戻った時、俺は完全に関節を決められていた。

 

「そうら、動けないままこれでも喰らうんだな!」

 

EHHECT-THUNDER MAGIC!!

 

「あがあああああああっ!?」

 

関節を決められたことへの痛みと、関節に流れ込んでくる電流のダブルパンチで激痛が走る。

はっきり言って、意識を飛ばしそうなほどの痛みだ。

シャドウが離れると同時に、俺は思わず倒れこんでしまう。

ついでに言うと、身体が痺れて動けない。

 

「あが……ぐ……!」

 

「おらぁっ!」

 

シャドウに蹴り飛ばされ、俺は泉の中へと落ちてしまう。

着衣水泳自体は経験があるし、泳ぎはどちらかと言えば得意な部類に入るのだが

それは体が五体満足に動く場合だ。痺れた体では泳ぐことなどままならない。

水に入る前には準備運動をしろと言うのは

水中で体が攣って動かなくなることを防ぐためなのだ。

 

そして、今俺は言うなれば全身が攣っていて、かつ水を吸う衣服を纏っている状態だ。

つまり……普通に溺れる。

 

「…………!!」

 

「そのまま水底でもがけ。水の恐怖、知らないなどとは言わせないぞ」

 

ここに来る前に鏡の泉が映した映像の中には、姉さんと川に行った出来事もあった。

そこで俺は、不意に川の石で足を滑らせて危うく流されかけたことがあった。

幸い何事も無かったが、それ位に水と言うものは恐ろしいものなのだ。

ここは流れの無い湖だが、その分深さは川とは比べるべくもない。

満足に動けず、重しを身に着けている状態では沈んでいくのは必定と言える。

 

 

――冗談抜きで、このままじゃ死ぬ!!

 

 

はっきり言って、レイナーレだのライザーだのがバカバカしく思えるほどに命の危険を察している。

身体へのダメージ云々じゃなく、途轍もない破壊力を見せつけられている訳でもなく。

 

ただ単に、身体が酸素を欲しているのだ。俺は古生代のミジンコでも、植物でもない。

地球上の生物なのだから、酸素は必要不可欠な物質だ。

それを求め、思わず口を開けてしまうが……ここは水の中だ。つまり……

 

「がぼっ……」

 

水を飲んでしまった。俺は陸上生物なのだから鰓呼吸なんてできない。体も動かない。

これは…………ダメかもしれない…………!!

 

俺の身体は、泉の水底へと沈んでいくようであった……

 

 

 

――

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

――

 

 

 

セージの偽者が呼び出した棺桶を背負ったバケモノと対峙する。

棺桶の中から出てきた女の子が小猫ちゃん達を一瞬にして倒してしまった。

その攻撃に気を付けつつ、俺は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の力を使いながら

このバケモノを倒そうと躍起になっているが、こいつは今まで俺が戦ったどんな奴とも違う。

悪魔とも、堕天使とも、それどころかアインストとも違う。

強いて言うなら、訓練で戦ったナイア先生の神器(セイクリッド・ギア)に似ているけど。

 

ふと、俺は女の子の入っていた棺桶が半開きになっていることに気づく。

また棺桶が開いて、小猫ちゃん達を一瞬で倒したあの攻撃を出してくるんじゃないか。

その俺の予感通り、棺桶の中からは女の子が出てきた。

この女の子、かなり可愛いんだけど…………臭い。

おっぱいが無いのは百歩譲ってもいいとして(小猫ちゃんも無いし)、この臭いだけはだめだ。

まるで、壊れた冷蔵庫の中から出てきた食材みたいな臭いだ。

こんな臭い、冥界でさえ嗅いだことが無い。

 

クソっ、こんな時にヴァーリの能力があればなあ。

臭いを半減させられそうだってのに。

 

『そんなことに俺らの能力を使うんじゃねえよ。それより来るぞ!』

 

 

  死  ん  で  く  れ  る  ?

 

 

さっき繰り出した、あの攻撃だ。

まるで地の底に引きずり込もうとする、凄く嫌な感じの纏わりつく感覚。

 

……こんな、こんな気持ちの悪い攻撃にやられてたまるか!

俺がやられるのは、おっぱいの中だけだって決めてるんだ!!

こんな陰気な奴、俺のおっぱいエネルギーで消し飛ばしてやる!!

 

『え? おい、お前……』

 

BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!!

 

後ろでドライグが何か言っているが、知った事か!

俺はあの女の子にお仕置きすべく、伸びてきた触手を引きちぎりながら女の子に触れる。

……さあ、条件は整った!!

 

 

洋服破壊(ドレスブレイク)!!」

 

 

紫のワンピースがはじけ飛び、白い肌に瑞々しい身体。

そして小ぶりなおっぱいが俺の目の前に飛び込んでくる。

やはりナイア先生や朱乃さん、リアスほどのインパクトは無いがこれはこれでいい。

おっぱいに貴賤は無いのだ! 大は小を兼ねるけど!

 

『このバカやりやがった』

 

バカで結構、俺はお前にこの喜びを教えてやりたいくらいだぜ!

何なら、イリナや朱乃さんとヤってるときに代わってやろうか?

俺の身体ならバレやしないだろうし。

 

『……俺が言うのもなんだが、お前、ヤってから殊更に性格悪くなったな。

 増長が目に見えていると言うか、そんなところだ。

 ま、龍の神器を持っている以上大なり小なり増長するもんだ。

 慢心せずして何が龍か、とでも言っておこうか』

 

ドライグの言っていることが今一よくわからなかったが、バカにされた事だけはわかる。

なんで俺の周りにはロマンのわからない奴が多いかな?

ま、競争相手が少ないのはいい事だ。全部俺が独り占めできるんだからな!

 

(……この欲深だけは紛うこと無く龍だな。ま、龍は軒並みその欲深が故に倒されてるんだがな。

 こいつは、その欲深で自滅した龍の運命を変えてくれるのかね……)

 

ドライグが何か言っていた気がしたが、俺にとってはどうでもよかった。

それより、棺桶の女の子は可愛い悲鳴を上げながら棺桶に引きこもってしまった。

……繋がれてる、身体の一部って訳じゃないから棺桶は洋服破壊で壊せそうにないな。

寧ろ、バケモノの一部って方がしっくりきそうだし。

 

ならばとばかりに、俺は力づくで棺桶を引きはがして女の子と対面しようと考え、組み付いたが

ふと、相手の抵抗が弱くなったような気がした。

なんだかわからないが、弱体化したならチャンスだ! 一気に押し込んでやる!!

 

(……成る程な。あのバケモノ、怨念なんていうデストルドーの塊で動いていたんだ。

 こいつのリビドーで、デストルドーが相殺されたってところか。

 

 ……ただ、別の負念は増したようだがな)

 

別の棺桶から、また別のバケモノが飛び出してきた。

こいつらは女の子でも何でもないから、問答無用でドラゴンショットで正面からぶっ飛ばす!

ナイア先生に教わったアレを試してみたいけど、それをやれるほどまだ倍加が出来てない。

アレを使うと、俺も動けなくなるし。

 

……それにしてもこいつら、鬱陶しいな!

赤黒いボロコートのバケモノに、返り血を浴びたような短ランのバケモノ。

見ていて不愉快になるから、さっさと帰れってんだ!

 

(さっき霊魂のが戦っていた時よりもこいつらの攻撃の激しさが増しているな。

 やはり、リビドーでデストルドーは抑えられても、そのリビドーを向けられたことに対する

 不快や嫌悪による憎しみから生まれた負念が、デストルドーの代わりをしているみたいだな。

 デストルドーはあくまでも「死へと向かう想念、死んだ奴の思念」だから

 生に根差す思念であるリビドーで相殺できるのはそこまでだ。

 リビドーじゃ、憎しみは消せやしない。そもそも、憎しみもまた生きる糧になる力だ。

 それどころか、破壊衝動って意味じゃデストルドーと性質は同じだしな)

 

バケモノが繰り出してくるパンチやエネルギーは、受け止めるだけでも不快感を催す。

うまく言えないけど、俺の中にまとわりついてくるようなもやもやした感覚だ。

勿論、パンチは普通に痺れたりする程度には痛いけれど

それ以上にねちねちと嫌味を言われているような不快感が込み上げてくる。

 

……なんなんだよ。何なんだよ、こいつら!

 

(奴らの攻撃の源は憎しみ、恨みと言った負念だ。

 それを打ち消したければ、お前の中にあるありったけの正念をぶつけるしかないぞ)

 

正念? それなら、俺の中にはいくらでもある!

そうだ、ありがとうよドライグ!

俺のおっぱいへの、ハーレムへの想いがこんな訳の分からない恨みや怨念に負けてたまるか!!

 

 

BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!!

 

 

「うおおおおおっ!! 爆発しろ、俺のおっぱいパワァァァァァァァァ!!!」

 

 

(……状況打開のためとはいえ、こうでもしないといけないとはな。

 霊魂のが分身を寄越してくれれば対処できたかもしれんが……

 

 

 ……さっきから、霊魂のの気配を感じないな。あそこにいるのは……違うだろうしな)

 

自分でやって驚いたが、俺のドライグの力も込めたおっぱいオーラでバケモノが消し飛んだ。

どうだ、俺だってセージがいなくったってこれ位出来るんだ!

それに、こいつはセージだって苦戦した奴だ! それを俺が倒したんだ!

 

それを自慢するために、俺は泉の畔にいるセージに駆け寄って行った。

 

「へへん! どうだセージ! あのバケモノは俺が――」

 

『!! バカ、よせイッセー! そいつは――』

 

 

セージの肩を叩こうとした瞬間、衝撃と共に目の前の景色がぐるりと回転したのだった。

俺の赤龍帝の籠手と同じくらい――いや、寧ろ血のような色を湛えた瞳で

こっちを嘲笑っているのだけは、その寸前にはっきりと見えた。




リビドーとデストルドーの関係。
実はこれこそが怨念≒デストルドーに対抗する手段の一つでした。
そう言う意味ではイッセーは怨念特効持っていることになるのですが
それと同時にこのように不快感を与えてしまって
別の負念を生み出すことになるわけでして……
それにリビドーは別に性欲だけじゃないですしね。

そしてせっかくディス・レヴ攻略法が見つかったのにその情報を会得していないセージ。
シャドウに負けて溺死させられそうなところで引き。
でも大丈夫、水落ちは特撮での生存フラグなので。

>アリスに洋服破壊が効いた理由
某Bismarck級な聖槍騎士団には効かなかった洋服破壊ですがアリスには有効。
そもそもこのアリス「メガテンのアリス」に極めて近い存在です。
なので「少女の思念が肉体を得た」アリスには有効です。
聖槍騎士団はガワはBismarck級っぽくても中身が……なので。
某eraじゃ女性って噂流せますけどね、奴ら。

>アナザーなイザナギとアルセーヌ
赤おじと黒おじの役割も少しだけ持たせてます。
色合いはイザナギはともかくアルセーヌは元ネタ意識してますけど
赤おじ黒おじは単なる偶然。
ベリアルもネビロスもめんどくさい役でD×D出演済みですが
当然、無関係です。


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Will39. 水底で、鎖を磨く

今年もよろしくお願いします。
新年早々が少し短めではありますが。

今回艦これタグを入れた方がいいんじゃないかと真面目に思ってたり。
今に始まった事じゃありませんがやる夫スレ的な変化球。

……で、言い逃れ効くのかなあ……


「…………ぅう」

 

気が付くと、俺はどこか冷たい地面の上に横たわっていた。

息が出来る、という事は水底ではなさそうだが。

或いは、何処かの横穴に流されたか……いや、海じゃないんだからそれは無いか。

 

見渡すと、薄暗い洞穴のように見える。ふと上を見ると、底知れぬ闇ばかりが広がっている。

それなのに辺りを見渡せるという事は……暗闇に目が慣れたわけではない。

そもそも、さっき目が覚めたばかりだ。どこか、何か光源があると見る方が自然か。

アモンだったら、悪魔特有の夜目とかが働くのだろうが。

 

水滴の音と湿った空気が、ここが水に近い場所だという事を認識させる。

とりあえず、俺は奥に向かう事にしたが……目印が何もない。

こりゃ下手しなくても迷うな。幸い、地面は足で印をつけられる程度には柔らかかったので

足でバツ印を書いた後、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)でマッピングをしながら奥へと進むことにした。

 

 

結論から言うと、マッピングは徒労に終わった。

少し歩いてわかった事だが、どうもやけに横幅の広い一本道になっているようだ。

つまり、先に進むか引き返すかしかない。こんな中途半端な場所で引き返しても意味はあるまい。

先に進んで行き止まりだったなら、その時に引き返せばいい。

罠とか何か触れちゃいけないものとか、そういうものがある可能性も否定はしきれんが。

だがいずれにせよ、行動しなければ現状を打開できない。それなら前に進んだ方がいいだろう。

 

しばらく進んで行った俺の目の前には、うっすらとサーカスのテントのようなものが見えた。

サーカスのテント? なんだってこんなところに?

どう見ても、客が来られるような場所じゃない。と言うか、俺はどうやってここに来たんだ?

確か、身体をマヒさせられてからシャドウに泉の中に蹴落とされて……

 

 

……まさかと思うが、あの世じゃないだろうな。

溺死して気づけば摩訶不思議な場所……全くあり得ない話でもないだろうとは思うが。

何分、俺は臨死体験とまでは言わないにせよ瀬戸際にいたこともあるんだ。

 

それに、ここが三途の川――賽の河原だとしたら静かすぎるし、人気が無さすぎる。

もっとこう……石積みをしている子供の霊とかがうようよいそうなものだし。

いずれにせよ、ここで立ち止まっていても得られるものは無さそうだ。

このサーカスのテントに、入ってみる他無さそうだな。

 

 

――――

 

 

サーカスのテントの中は、やはりと言うか何と言うか静まり返っていた。

そりゃ、こんなところのサーカスに客が来るとは思えないし。

テントだけがぽつんとあるのか?

普通、こういうサーカスのテントってのは公演が終わったら片付けるものだと思っていたが。

 

だが、この静まり返り具合……どこかで、似たような感覚を味わった気がするが……

 

 

――ようこそ、私の世界へ。

 

「誰だっ!?」

 

ふと、響き渡る声。思わず身構えるが、声に敵意はあまり感じられない。

だが、こんな正体不明の場所ににいるような声の主だ。只者ではあるまい。

 

奥からやって来たのは、紫紺のタキシードのような衣装に身を包んだ、銀髪の男。

やけに血色の悪い顔をしているが……まさか、本当に死人の世界か?

 

「止したまえ。私はただ、ここで鎖を磨いているだけだ。

 君に対し危害を加えるつもりは、今のところは無い」

 

「鎖……?」

 

男の声と共に、俺の背後で鎖が動く音がする。

振り返ると、確かに鎖が伸びている。伸びている……が。

 

その鎖は、やけに錆び付いていた。

いや、錆び付いていたというよりは……長い間、海底に沈んでいたような。そんな感じの鎖だ。

好奇心から近寄ってみるが、下手に触ったら崩れ落ちてしまいそうな、そんな脆さすらある。

 

……これを……磨いている……?

 

「鎖。それは過去から現在、そして未来へと連綿と繋がっていく象徴。

 人の在り方を体現する、一つの人の心の形。

 それを人によってはこう呼称するだろう――『普遍的無意識』と」

 

普遍的無意識。どこかで……

 

…………フィレモン! フィレモンがいた世界だ!

すると、こいつはフィレモンの違う姿、って事か……?

 

「宇宙に瞬く星々。果て無き砂漠を形成す砂粒一つ一つ。

 それほどまでに人の心は無限に広がり、人を形成す素材は無数に存在する。

 私がここで磨いている鎖も、それら在り方の一つと言えるだろう」

 

あ、やっぱフィレモンの関係者だ。言ってることが今一要領を得ない。

そもそもだ。何で俺はここにいるんだ?

 

「さて、君がここにいる理由。心当たりはあるのではないかな?

 先程私が言ったように、私はここで鎖を磨いている。

 そして鎖とは、過去からの繋がりを意味する」

 

「…………っ」

 

心当たりがあり過ぎる。言ってしまえば、俺の過去の清算がうまくできなかったから

白音さんは攫われたようなもんだし、アーシアさんやギャスパー、バオクゥに光実(みつざね)

それでもって兵藤にまで要らん迷惑をかけている。

広い目で見ればホテル待機組やこっちの警察にまで迷惑かけてるんだ。

 

 

「ではここで鎖を磨く者として、君に問おう。

 君に繋がれた過去と言う鎖。君ならばどうする?」

 

 

どうする、とは言葉通りの意味ではないだろう。

俺の過去。子供のやんちゃと言うにはあまりにも酷過ぎるやらかし。

その言わば「罪」を、どう折り合いをつけるのか。そう言う事を聞きたいのだろう。

 

…………ならば。

 

 

「……鎖が人の過去から続き、今を、未来を示すというのならば。

 その鎖で己を見失わないように、解きます。

 

 場合によっては……断ち切る事も辞しません。

 しかしそれは、過去を捨てる事ではありません。

 形を変えて、過去を受け容れる。そう言う意味です」

 

 

過去を無かったことにするのは、意外と簡単だ。無視すればいいのだから。

だが、それが解決策な訳が無い。

事実は変えられないのだから、受け容れるより他が無い。

だが、それで今を囚われては意味がない。

 

過去を受け容れ、今を生き、未来に進む。

 

それが、人として健全なあり方ではないかと俺は思う。

 

 

「鎖を断ち切る……か。鎖を磨く者としては、些か引っかかる言葉ではあるが……

 いいね。鎖としても、未来へと繋ぐことのできない状態は不本意だ。

 君の言葉はしかと耳にした」

 

よくわからないが、納得してもらえたようだ。

別に嘘は言っていないし、ここで嘘を吐くメリットが何一つ思い浮かばないし。

鎖……鎖か。こんな水底で鎖につながれたら……まず、浮かび上がれないな。

 

と言うかそれ以前に……本当にここ水底か?

泉に落とされて気が付いたらここにいたって状況だけを根拠にするには……うーん。

 

「ならば君が成すべきことは、今までと変わらない。

 悲しみや苦しみを真っ直ぐに見据え、新しい道を進むことだ。

 いいね。君の強さ、しかと見せてもらった」

 

 

……どうやら、正解だったようだ。

まあ、この手の問答は初めてでは無いからそう言う意味での狼狽えは無かったが……

尤も、所謂「正答の無い問答」だった気がしないでもないが。

とは言え、別にこの答えは嘘でも何でもないが。

 

 

「その強さに敬意を表し、私からアドバイスだ。

 鎖を断ち切った時、繋がれていたものは激流に流されてしまう。

 失いたくなければ、しっかりとその手に掴むことだ。

 

 そして、魂を縛る鎖は同じ魂の力で断ち切ることが出来るだろう。

 だが心したまえ。魂の力は、正にも負にも転ずる。今の君のようにね」

 

魂の力……今の俺の心当たりは……まあ、アレしかないな。或いは、自分自身の魂の力だが。

 

ふと、周囲が照明が落ちたように真っ暗になる。

それと同時に、今まで地面を踏みしめていた足から、突如として地面の感触が無くなる。

 

 

――私の物語と君の物語は交わらないはずだったし、今なお交わりはしていない。

  ただ、私と君がこうして出会えただけだ。

  しかし、心の海はそうした壁さえも取り除ける。

  私は水底――普遍的無意識の海の底から、在り方を見守ろう。

  さあ、行きたまえ。君の心の海の航路が私の世界に差し掛かる時こそ、また会おう。

 

 

その言葉を最後に、俺は何か物凄い激流に飲み込まれる。

まるで、水の中にいるみたいな――

 

 

水の中……激流……

 

 

俺は一か八か、記録再生大図鑑からある手札を切ってみることにした。




フィレモン! フィレモンです!(演:京本政樹)

何でこうなったかと言うと……

・赤土って奴が新春ライブ行きそびれた腹いせ
・セージは水底に落ちた
・フィレモンに相当するキャラをそろそろ出したかった
・赤土って奴が新春ライブ行きそびれた腹いせ
・赤土って奴が新春ライブ行きそびれた腹いせ

でした。
色々深海磨鎖鬼の行動の報告とか見ていると「ニャル程ではないにせよ干渉のできるフィレモン」って
イメージが湧いてしまったので、もういっそフィレモンの化身にしちまえ的なノリ。
ニャルが好き放題やってるイメージ(実際そう)ですが、フィレモンだって黙ってみている訳がなく。
カダスの猫みたいなもんです。

宇宙にある無数の星々、は罪にてニャルが触れていた人の心。
砂漠を形成す砂粒一つ一つ、は仮面ライダー電王の設定。
時の砂漠も見方によっては普遍的無意識みたいなもんかな、って事でここで少しだけ。

>鎖を断ち切った時、繋がれていたものは激流に流される~
実は、今後の一部シーンにおいて重要な役割を果たしていたり、いなかったり。

>交わるはずのない物語
やっぱり…………

>心の海は、そうした壁さえも取り除ける
言葉自体は罰EDの台詞の拡大解釈ですが、実は今回の話そのものに対する理由づけであり
この実験室のフラスコもかくやと言うクロスオーバーの定義にもなり得たりします。

……ただその場合、とんでもない悪意で形成されていることになりますが。


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Vortexquall

お待たせしました。
活動報告にある通り、急遽ですがアンケートぶち込んでます。
宜しければ、ご協力お願いします。


……一応、タグとして多重クロスは組み込みましたけどね。
そらまあスパロボもかくや(しかもαやZ)な話や世界観だしなあ。
設定複雑すぎるとか言われても、私の腕の問題は当然あるとしても…………ねえ。

ただ、個人的にはクロスオーバーって世界観やキャラ構築から関連付けないと
そこに別作品のキャラがいる説得力無くなっちゃうでしょって考えちゃう系の人なので。
(めんどくさいオタクともいう)
先駆けともいえるマジンガーZ対デビルマンじゃその辺の考察なんざ無かったですけどね。
ただ、拙作のように現代ファンタジーに近未来(異世界)科学混ぜてるとなると。

ちょっと脱線しそうなのでこの辺にて。


イッセーは、瞬く間に仰向けに転がされていた。

アナザータナトスをどんな形であれ打ち破った事をセージに自慢しようとして

おもむろにセージに近づいた、その末の出来事であった。

しかし、その近づこうとした相手はセージはセージでも

「シャドウ」成二であったのだ。

 

「な……んで……!?」

 

「いい加減気づけよバカが。

 かき集めた悪霊詰め込んだだけのペルソナもどき倒した程度でいい気になるな」

 

シャドウ成二は、その赤い瞳で仰向けのイッセーを見下ろす。

その右手に握られた拳銃が、命を奪わんと銃口を輝かせながら。

 

「なあお前……率直に言うぞ。

 『もうこれ以上、生きていても仕方がない』とか思ったりしないか?」

 

「な、そ、そんな訳無いだろ!?

 朱乃さんやイリナだっているし、リアスも……ナイア先生だっている!

 それなのに、なんで死ぬような真似しなきゃならないんだよ!?」

 

シャドウ成二の質問に、イッセーは信じられないとばかりに反論をする。

実際、イッセーの中ではそうなのだろう。

しかし、シャドウ成二はその答えの中に「虚勢」を見出したのである。

 

「強がるな。いくらお前が夢を叶えているって言ったって、それは『与えられたもの』だ。

 お前自身の力で得たものじゃない。

 

 ……いや。お前自身の力で得たものなんか、少なくともレイナーレと出くわしてから向こう

 俺は見たことも聞いたことも無い。

 ドライグ――赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を指しているんなら、それは何度も言うがお前の力じゃない。

 お前とは運命共同体とは言え赤の他人である、ドライグの力だ」

 

ドライグの存在を否定されると、イッセーには何もなくなってしまう。

実際、朱乃もイリナもナイアという存在が引き合わせたようなものであり

彼自身がアプローチをかけて関係を得るに至ったわけではない。

イッセーは、こうした関係に関しては受け身の姿勢だったのだ。

ナイアのお膳立てを、これ幸いにと貪っているに過ぎないのだ。

 

「そんなはずがあるものか! 俺は……」

 

「じゃあお前自身が何をしたのか言ってみろよ。精々人殺しくらいだろうが。

 そしてそれすらも有耶無耶にした。つまり、だ。

 

 ……『お前は、何もしていない』んだよ。いや、『何もできない』と言った方が正しいか?」

 

嘲りを含んだ眼差しを向けながら

シャドウ成二はイッセーの反論を許さないとばかりに言葉を重ねる。

しかし実際、ここに至るまでイッセーがやった事は、多くない。

こんな現状なのだから、理想ばかりを並べたてた虚憶に縋るのも無理からぬことではある。

なのだが……

 

虚憶(きょおく)とかいう妄想に縋るならそれでもいいさ。だが今この世界はそれを許すほど優しくない。

 さてここで問題だ。今俺が何を言わんとしているか……わかるか?」

 

「虚憶は……あれは嘘じゃねぇ! だってナイア先生が……!!」

 

反論は許さない。言葉にこそしていないがシャドウ成二はその行動を以て確かに物語っていた。

その証拠に、彼が握っている銃は、イッセーの眉間からその銃口は一寸たりともずれておらず

引鉄には、既に指がかけられている。

 

「だったら現にここにいる俺はどう説明するんだ。異物だとでもいうつもりか?

 確証の無い得体の知れないものに縋っている時点で、それは夢でも何でもなく、ただの妄執だ。

 妄執に縛られた生に意味なんかない。どうせこれから想像もつかない程苦しむことになるんだ。

 インベス、アインスト、デーモン族、黒の菩提樹(ぼだいじゅ)の巨人族、フューラー。

 人間だってもうこれ以上黙っているとは思えない。

 そうなったら、この世界に人間やめたお前の居場所なんか無くなるぞ。

 お前が力にしている赤龍帝だって、ニ天龍の確執とやらにお前を勝手に巻き込んでいる。

 

 ……もうわかるよな。ダチのよしみだ。解放……楽にしてやるってんだ。

 これ以上、こんな地獄みたいな世界で生きなくてもいいようにな」

 

「勝手に……勝手に俺の人生を値踏みすんな!!」

 

その言葉と共にイッセーはシャドウ成二に殴りかからんと起き上がろうとするが

当然、その前に発砲音は鳴り響く。

 

 

……しかし、イッセーは無傷であった。

イッセーの身体を覆う赤黒いオーラが、銃弾を弾いたのだ。

一瞬驚くシャドウ成二だったが、すぐさま次の手を打とうと身構える。

 

(……なんだかんだで、欲望を満たしたことで力が増したか?

 あるいは、もっと単純にヤった女どもからマグネタイトを貪って、それを力にしたか?

 だとすれば……)

 

 

――兵藤に言いたいことがあるのはわかるが、俺はお前に借りがある!!

 

 

そんなシャドウ成二の背後から、激流のような音と共に水柱が上がる。

渦を巻いた水柱の中からは、泉に沈んだはずのセージが飛び上がってきたのだ。

 

 

「セージ!?」

 

「お、お前……!!」

 

泉のあった場所から飛び出し、再び陸に上がるセージ。

前髪ごと額を拭いながら、水を滴らせながらシャドウ成二と対峙する。

 

「自身の液状化(MELT)

 同じ手札を持っていて、お前にできたことが、俺にできない道理は無いからな!」

 

「なるほど、それは道理だ……だが。

 それは使い方も考えなければただの猿真似にしかならないというのは

 お前もよくわかっているだろう? そして猿真似で、俺は倒せない」

 

倒したはずのセージが戻ってきたことに対しても、シャドウ成二は平静を保ったままであった。

まるで、こうなることがわかっていたかのように。この結末すらも、見越していたかのように。

 

「ああ。だから……こうするのさ!」

 

セージはその身体を再び液状化させ重力に従って落ちていくだけとなった

水柱へと飛び込んでいく。水柱は再び渦を巻き

今度はシャドウ成二目掛けて飛んできたのだ。

 

「ぬうっ……! 自分も液状化することで水と一体化……

 これで水底から脱出してきたと言う訳か。

 そして今度はそれを攻撃に転用……だが!」

 

SOLID-DEFENDER!!

 

セージは津波の如き激流を起こし、シャドウ成二を飲み込まんとする。

ディフェンダーで抵抗するものの、泉の水を丸ごと使っているために

その質量は簡単に防げるものでは無い。

まして、この激流は渦を巻いている。

回転も加わることで、シャドウ成二は身動きが取れなくなっていた。

 

激流は洞窟の天井目掛け、さらに勢いを増す。

重力に逆らうほどの勢いを持った渦の中で、シャドウ成二の身動きは完全に封じられていた。

 

「フン、こっちの自由を奪った程度で俺が倒せるか!

 お前には、決定打になる攻撃の手札は限られているだろう!」

 

「手札の多寡に関わらずお前は倒せる! 何故ならば!

 俺が人間であるならば、お前も人間! そして人間は……自分の力だけでは飛べない!」

 

激流の渦が四散し、宙に放り出される形となるシャドウ成二。

セージの言葉通り、空中では人間は姿勢の制御が難しい。

身体の自由を奪われた形になったシャドウ成二に対して、セージは触手を実体化させ

一本は岩場に括り付け、もう一本はシャドウ成二に巻き付ける。

 

「俺の手札が猿真似だって事は、俺が一番よくわかってる!

 だったら、猿真似にならない戦い方を手札から組み立てればいい、それだけの話だ!」

 

セージが今必殺の一撃を繰り出そうとしている最中

イッセーもまた必殺の一撃を繰り出そうとしていた。

それを物語るように、赤龍帝の籠手に赤黒いオーラが集まっていく。

スパークし、赤黒い輝きを放ちながら赤龍帝の籠手はその姿を禍々しく変えていく。

 

BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!!

 

「俺を勝手に利用したうえに、散々言いたい放題言いやがって!

 もう我慢ならねえ! この一撃でぶっ飛ばしてやる!」

 

(ん……? 赤龍帝の籠手って、あんな嫌な感じのするものだったか……?

 だが、今は……!)

 

変異した赤龍帝の籠手に一抹の不安を覚えながらも、イッセーの思惑を読み取り

彼が狙いやすい位置にシャドウ成二を落とすように調整しながら

セージは触手を操る。岩場に自身の身体を引きつけながら

墜落防止のために岩場に巻き付けた触手をシャドウ成二に縛り付け直す。

その動作が終わるや否や、今度は天井の岩場を足蹴に勢いよく飛ぶ。

まるで、地面にシャドウ成二を叩きつけてそこにキックを突き刺すようなイメージで。

 

「ぐ、き、貴様らぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「てめえに、俺の何がわかるって言うんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「俺の落とし前は――俺がつける!!」

 

地表からは赤龍帝の籠手の鉄拳。上空からは勢いを増したセージの飛び蹴り。

それが触手で抵抗できなくさせられた状態の所に突き刺さるのだ。

 

互いの攻撃がそれぞれの方角からシャドウ成二に突き刺さり

その衝撃は周囲一帯を覆う。影響を受けるであろう他のメンバーは地に伏しているので

直撃を受けることは無かった。

 

防御することもできないまま、二人の攻撃をまともに受ける形になり

さらに追い打ちをかけるように、セージはシャドウ成二をそこから地面に叩きつけ

鳩尾に右足が深々と突き刺さる。落下の勢いはイッセーのパンチで相殺されていたにもかかわらず

途中で再加速を加えられたことでシャドウ成二の周囲にはクレーターが出来上がっていた。

クレーターが出来上がると同時に、セージの行動で打ち上げられた水柱が雨となって

元の泉の姿に戻ろうとしていた。

 

 

「がは…………っ…………!!」

 

 

――ここに、宮本成二は己の影を打ち破ることに成功したのだ。

  力の上で、ではあるが。

 

 

 

――――

 

 

 

「兵藤、受け取れ」

 

シャドウ成二が動かなくなることを確認すると、セージは息を整えイッセーに道具を投げ寄越す。

その中身は「地返しの玉」。元来は「道反玉(ちがえしのたま)」とも呼ばれる

日本神話に伝わる十種神宝(とくさのかんだから)の一種であるが、その名前にちなみ

生命的に危篤状態に陥った者に対する救急救命の道具として某ドラッグストア(サトミタダシ)が販売している。

セージはこれを以前ベルベットルームを訪ねた際にディーン・レヴとは別件で受け取っており

万が一に備えて保持していた。そして、今こそ使い時であると判断したのだ。

 

「それでアーシアさんを起こしてくれ。俺は白音さんを引き受ける」

 

アナザータナトスの攻撃で倒れてしまった他の4人を救助すべく

二手に分かれて回復を試みたのだ。と言うよりは、アーシアさえ復活すれば

後は彼女の神器(セイクリッド・ギア)でどうにかなると判断しての行動である。

起き上がれないほどのダメージを受けたとは言っても、死んだわけではない。

だが、このまま放置すれば危険である。そのため、2人がかりで起こすことにしたのだ。

 

イッセーがアーシアの下に向かうのを確認するなり、セージも白音の下に駆け寄る。

強く念じながら自身の胸の前で合わせた手を、白音の丹田のあたりに添える。

生命エネルギーたるマグネタイトの供給ならば、もっと直接的な粘膜接触と言う方法があるのだが

今それを行うのは、色々な意味で危険である。

そのため、微弱ながらも間接的なマグネタイトの供給を試みたのだ。

 

(地返しの玉は今兵藤に寄越した1個だけ……

 アーシアさんの手が回るのを悠長に待っているのも危険……

 今の俺のマグネタイトを寄越したら、白音さんに悪影響が出るやもしれんが……

 

 ……四の五の言ってる場合じゃない)

 

しかし、やはり間接的な供給では限度があった。

仕方なく、セージは救急救命の要領で白音にマグネタイトを供給――

即ち、マウストゥマウスを敢行したのだ。

事態が事態である。あのような光景を見せつけられた後ではあるが

あの時とは全く事情が異なるのだ。誹りを受ける謂れなど無い。

 

 

「――けほっ、けほっ!」

 

「……気が付いたか。体は何ともないか?」

 

程なくして、せき込むと同時に白音が目を覚ます。

わずかに離れた場所にいるセージに安堵しながら

白音もゆっくりと体を起こす。現状、特に異常などは無さそうだ。

 

「大丈夫です。それより、あのセージさんは……?」

 

「俺と兵藤で倒した。後で皆にも改めて言うけど……

 

 ……俺のせいで、すまなかった。ごめんなさい」

 

屈みこんでいる体勢の都合上、土下座しかねない勢いで頭を深々と下げるセージ。

白音はそれほど気にも留めていなかったのか、そんなセージを責めるようなことは無かった。

 

「怪我も無かったですし、特に何かされたわけでも無かったですから」

 

「それならいいが」

 

イッセーに起こされたアーシアが、ギャスパーと光実(みつざね)を回復させてやって来たのは

このすぐ後の事であった。




思ったより長引いたシャドウ成二戦、ここに決着です。
結局セージもシャドウが披露した手段「自身の液状化」を利用して
泉の底から脱出しただけでなく、必殺技に転用したわけです。
なのでこれ、水さえあれば出来るんですが逆に言えば「水が無いと使えない必殺技」です。
あと、地形的にフィニッシュホールドを繰り出せる足場が無いとただ行動封じで終わります。
要するに超電磁タツマキと超電磁スピンのようなもの。
モチーフはシャウタコンボ。実際回転を加えればオクトバニッシュになります。

……実はセージ、元来の戦法はオーズに近いんですよね。禁手が殊更にディケイドじみてるだけで。
液状化って点で言えば怒りの王子の方が先に出てきそうですし
協力者の属性的にもそっちの方が適切かもしれませんが。

>赤龍帝の籠手
ここに来て何やら不穏な空気。
だけどあんな生活送ってたりあんなメンタルだったりドライグとの絆もああでは……
(ドライグ云々に関しては原作からして怪しいとかいっちゃダメ)
そして不穏な進化って意味では「ゴースト」最序盤から示唆されてまして。

>シャドウ
「ゴースト」序盤の如く、セージとイッセーの二人がかりで倒されました。
当初より少しイッセーの出番増やしましたが、これはまあシャドウがやたらイッセーにもちょっかいかけてましたし。

イッセーが「お前に何がわかる!」な反論していますが、実はセージは人のプライベートに関しても
ある程度カンニング出来るんですよね……そしてそれはシャドウも変わらず。
ただし、今回はそれ以上にも踏み込んでいる節はありますが。

正体を考えると方針としては逆に近い言動。
「こんな世界に意味無いからもう諦めようぜ」なんてのはニャルと言うよりは
寧ろP5のヤルオだったりフィレ……

ところで、シャドウが「こういう言動をした」って事はセージ自身もちょっとは
「もうこの世界だめなんじゃ……」とか思っていたり、いなかったり。

>サブタイ
セージが繰り出した必殺技の名前。
ボルテクスコール。Vortex(渦)とSquall(急な豪雨等気候変動)のカバン語。
劇中言わせようとしたけれど、タイミングが無かったのでここに。


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Will40. いつも、君のとなりに……

以前「ゴーストと合算すると終盤に差し掛かった」と言いましたが
計算し直してみるとそうでもなかった感。

そりゃあ、まだ敵組織どこも壊滅してませんしね。
英雄派は接収されましたし。

反社軍団が意外と影薄くなってしまった不具合。


やっとの思いで、シャドウを倒すことが出来た。

やった事はシャドウの真似事だが、水中から不意を打つとなると

ああいう方法しか思い浮かばなかった。戦法が増えたって意外な収穫もあったし。

それに、何とか皆無事でよかった。

白音さんを助けに来て、それ以上の被害を出しては意味がない。

そうなった時点で、俺達の作戦は事実上の失敗になってしまうのだから。

 

……作戦と言えば。

このシャドウ、一体誰の差し金だ?

消去法で考えるとするならば、フューラーの差し金か?

だが、それにしては辻褄が合わなさすぎる。

何せ、ここに来るまでフューラーの部隊とも一度も戦っていないのだ。

とは言えこんなある種戦略的行動を、一人で行ったとも考えにくい。

だが、いくら俺のシャドウでもアインストや三大勢力と組むとは思えない。

 

……こいつが「噂で生まれた、話をでっち上げるのに都合のいい存在」でもない限りは。

 

「セージさん、大丈夫ですか?」

 

シャドウの背後について考えていると、兵藤が地返しの玉で回復させたであろう

アーシアさんがギャスパーと光実(みつざね)を伴ってこっちにやってくる。

よかった。パッと見た限りでは後遺症とかは無さそうだ。

 

「俺は大丈夫だ。それより、白音さんを見てやってくれ」

 

「……私も怪我とかは無いですけど」

 

そりゃそうだ。見てわかるような怪我があったら事だ。

そうじゃない、目に見えない傷やらなんやらがあってもいけないからな。

それが後々尾を引いて……なんて、よくある話だ。

そうでなくとも、俺のマグネタイトを流し込んでいるんだ。どんな悪影響が出ているか……

 

俺の言葉通り、アーシアさんが「聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」で白音さんの治療にかかる。

とは言っても、本人の言う通り大きな怪我とかがあるわけでは無いので

それこそ、小さな傷を塞ぐ程度だったので治療はすぐに終わったのだが。

 

「――はい、これで大丈夫だと思いますよ」

 

「……ありがとうございます」

 

それこそ、あっという間の出来事だった。

俺も白音さんの回復に集中していたので、ギャスパーや光実の回復に

どれくらいかかったかはわからないが

恐らく、それよりも手っ取り早く済んだのではないだろうか。

俺の治療行為にしても素人の付け焼刃なので、こうしてアーシアさんに見てもらったが……

 

……寧ろ、管轄としては黒歌さんの分野かもしれないんだよな。

 

「なあ白音さん。帰ったら、一度黒歌さんに見てもらった方がいいと思うんだ。

 前にチェックしてから結構経つし、今回の件で何か起きているかもしれない。

 大事になる前に……」

 

「……気の流れでしたら、大丈夫です。これ以上、姉様に心配かけたくは無いですし」

 

む……。本人がこう言ってしまってはな。この手合いを無理に強制させると面倒ではある。

しかし、俺の治療行為のせいでその気に異質なものが混じってないか、それが不安なのも事実。

どうにかして黒歌さんの協力を仰ぎたいが……ここに呼ぶわけにもいかないし。

そもそも、まだ珠閒瑠(すまる)市って隔離されていたような。

 

……おい。どうやって帰るんだよ、これ。

黒歌さんに見てもらう以前の問題じゃないか。

そう頭を抱えた、その時だった。

 

「ああっ! み、皆さん……!!」

 

素っ頓狂な声を上げて、ギャスパーが指差した先。

 

 

――シャドウが、ふらつきながらも立ち上がろうとしていたのだった。

 

 

「お前、まだ……っ!?」

 

「ふ、ククク……まさか。

 悪霊の力も霧散し、多勢に無勢。そして俺は本調子じゃない。

 ここまで勝負の見えた状況で戦おうとするほど、俺は向こう見ずじゃない」

 

「当たり前だ! 何度立ち上がろうとも、俺がぶっ潰してやる!」

 

驚愕する俺を他所に、兵藤はかなりやる気だ。

言いたいことはわかるがな、俺としちゃもう戦いたくない部類の相手だぞ。

勝てたのだって、殆ど運みたいなもんだし。お前と呼吸が合った事含めてな。

それに、あの様子じゃ戦う意思が無いという言葉に嘘偽りはないだろう。

そう考え、俺は兵藤を制止する。そもそも、あいつは俺のシャドウ(反影)だ。

本来なら、俺が決着を付けなければならない事だったんだ。

 

「そうだ。『今回は』俺の負けを認めてやる。

 だがよく覚えておくんだな。お前ある限り、俺もまた存在する。

 俺とお前の戦いに、終わりなど存在しない。

 たとえこの世界から要らぬ戦いを消そうとも、俺とお前の戦いは絶対に消せない。絶対にだ」

 

「この野郎! 言うに事欠いて、この期に及んで負け惜しみかよ!!」

 

兵藤は負け惜しみと言っているが、そうじゃない。

「俺だから」わかるんだ。生きていれば、どうしても隠したい出来事の一つや二つはあるし

これから出来ないなんて誰が言えようか。俺もそんな器用に生きられるとは思えない。

それに、今は何ともない出来事でも、将来触れたくもない出来事になる可能性だってあるんだし。

 

「負け惜しみ……か。影の言葉をそう切って捨てられるのはある意味、羨ましくもあるな。

 どれだけ影から目を背けたところで、それが無くなるわけではないのだが……

 ま、言ってもわからんだろうな。特にお前には」

 

けらけらと兵藤を嘲笑いながらシャドウは語る。こんこんと語る。

その最中、徐にシャドウが俺に小さな栞のようなものを投げ寄越してきた。

 

「ククク……今のお前が喉から手が出るほど欲しがっているものだ。

 お前の推測通り、牧村明日香(まきむらあすか)は天樹理化学研究所にいる。

 存在そのものをこの目で見たわけでは無いが、居るという証拠は収めた。

 その手掛かりを記したデータだ。同じ神器(セイクリッド・ギア)を使っているのだから、読めるだろう?

 ついでに、俺が記録した能力のカードも同梱させた。精々、うまく使って見せるんだな」

 

「なにっ!? それは……本当なのか!? 姉さんが……姉さんが……!!」

 

ここに来て思わぬ収穫。あの時黒影(くろかげ)に追われたのは、こう言う事だったのか!

まさか、シャドウが先んじて潜入していたとは……

しかも、やっぱりここに姉さんがいる!? だとしたら……!!

 

「行くなら急ぐんだな。ユグドラシルは……戦極凌馬(せんごくりょうま)

 人間にとってよくない実験をしているようだ。

 取り返しのつかないことになる前に、助けに行くことを推奨するぞ。

 ……出来るものならな」

 

「ユグドラシルが、そんな実験を……!?

 それは本当に見たのか!? いい加減なことを言うようなら……」

 

ユグドラシルと言う言葉に反応して、光実がシャドウに食って掛かる勢いで詰め寄る。

しかし、シャドウは力なく手を振りしらを切っている。

お前も俺ならその場で姉さん助けてくれよ、とも思ったが

まあ、それこそ言っても無駄かもしれない。出来ない事情もあったのかもしれないし。

……碌なもんじゃなさそうだが。

 

「いい加減かどうかは、その目で見て確かめろ。

 だが宮本成二、お前ならわかるはずだ。俺の言っていることが本当か嘘か。

 そして見事助け出してみろ。お前の、大切なものをな」

 

……データと、新しい手札を貰っているんだが何一つとして祝福されている感じがしない。

寧ろ、完全に焚きつけられている感じだ。

そして、こいつの言う通りにしないといけないって現状が殊更に腹立たしい。

 

……研究所に行かないって選択肢が、無いじゃないか……!

 

 

「ククク……これで俺の為すべきことは終わった。

 いいか、よく覚えておけ。影は常に傍にいる。いつも……『お前のとなり』にな。

 

 ククク……クハハハハハハハッ!!」

 

 

嗤いながらシャドウは前のめりに斃れ、そのまま黒い靄と共に消失した。

戦いには勝ったが、何故だか心の底から喜べない。

厄介事を押し付けて、言いたい事言って消えていった。そうとしか思えない。

 

 

「最後の最後まで負け惜しみ言いやがって! 負けたのは事実だろうが!」

 

「……あいつも俺なら、俺がある限り消えることは無い。

 『俺のとなり』……そうか、そう言う事か」

 

 

温かく見守るか、隙あらば仕掛けて来るかの違いしかないって事か。

しかもそれも全て、己の心次第と来た。

シャドウ……本当に、本当に敵として対峙するのなら厭らしい相手だ。

自分を相手に戦うというのが、こんなにも辛いものだとは。

今までのアインストやコカビエルとかとは、全く別のタイプだ。

 

「……さ。何はともあれ、これで目的は果たした。

 早いところ抜け出して、ホテルに戻ろう……の前に」

 

咳払いをし、皆に横一列に並ぶように促す。

これだけは、はっきりさせておきたかったのだ。

 

「…………今回は本当にすまなかった!

 俺のせいで、白音さんを危険にさらしたのみならず、お前達にも迷惑をかけた!

 

 特に兵藤! 今まできつく当たっていたのは、全部あいつが言った通りのことだ!

 自分のことを棚に上げて、偉そうに言ってすまなかった!」

 

シャドウの言っていたことは、本当なのだ。

そして何より、俺の不始末のせいで白音さんは誘拐されたし

そのためにこうして救助隊としてこんなところまで来る羽目になったのだ。

 

頭を下げずには、居られない。

 

「それは……僕なんて、前から皆さんに迷惑かけてますし」

 

「僕としても、後顧の憂いを断つためにも必要な事でしたし」

 

頭を下げているから顔はわからないが、ギャスパーと光実。

そう言えば、本当にギャスパーは表に出てくるようになったな。

何があったのか、機会があれば聞いてみるべきか。

 

「皆さん無事だったからいいじゃないですか。もしまだセージさんが気に病むようでしたら

 私でよければ、お話聞きますよ。懺悔を聞き入れるのも私のお仕事ですし」

 

「……や。俺はやはりあの神は信じてないので、気持ちだけ貰っとくよ。ありがとう」

 

アーシアさん。そりゃ懺悔でもすりゃいくらか心も晴れるかもしれないが……

もう、強制的にさせられたようなもんだからなあ。これ以上はちょっと。

それに、信仰しているものが違うし、改宗する気もない。

 

「……さっきも言いましたけど、無事だったんです。私は気にしてません」

 

当の被害者にもそう言われちゃな。

赦される赦されないはともかくとして、こうしてけじめはつけておかなきゃとは思ってた。

それが故の行動でもあるのだけれどもね。シャドウが言ったことは本当でもあるし。

 

「セージ。いい話で終わらすんじゃねぇぞ。てめぇがやらかしたことは事実なんだよな?

 だったらてめぇこそ……」

 

「……そうだな。姉さんがどう言おうが、非親告罪である以上

 俺は今すぐにでも桜の代紋を返上しなきゃならないだろうな」

 

正直に言うと、今桜の代紋を返上するのが正しいかどうかはわかりかねる。

別件で桜の代紋返上した方がいいんじゃないかって状況(らしい)が、そうでなくとも……だ。

今ふいに兵藤に対して言い返そうとしたが、今回ばかりは論点のすり替えになりかねない。

そう思い、黙っていたのだが。

 

「……イッセーさんはせめて天野さんに謝ってください。

 堕天使に与したとは言っても、彼女自身は一般人だったんですよ?

 それを返り討ちとは言え一方的に殺したんですよ?」

 

「ちょっ……あれはわざとじゃないし、俺はあいつがレイナーレだと思ってたし

 そもそもこの件は……」

 

「アーシアさん、今は……」

 

何だかんだで罪から逃れようとするその姿勢がアーシアさんの癇に障ったのか

感情のこもってない声で兵藤を詰るアーシアさん。俺の時とは対応が違いすぎる。

これで兵藤に文句言われたが、そんなの俺が知るか。

これ以上拗れても面倒なので、俺はなんとかアーシアさんを宥めてこの場を鎮めることにした。

 

「……代わりに言ってくれて、ありがとう」

 

一応、礼を交えた上で。

……って、白音さん。ちょっと目線が痛いんですけど。

ああもう、本当にめんどくさいなあもう! よくこんな針の筵みたいな状況が延々と続くであろう

ハーレムを希望するって感情が湧いてくるもんだよ本当に。

 

とにかくいいからこの場を出よう、そう強引にまとめた矢先に

出口の方角を見ると、ボロボロになったバオクゥが倒れこんできたのだった。

 

 

「ちょ、ちょっと……深入りしすぎちゃいました……」

 

「なっ……そのダメージはどうしたんだ!? アーシアさん、忙しいけれど頼む!」

 

「は、はい!」

 

すかさずアーシアさんの神器で治療を施していると、今度はグレモリー先輩に姫島先輩。

そしてゼノヴィアさんに祐斗がやって来た。

なんでだ? 暗に来るなって言ったはずなんだが……

大方、グレモリー先輩が強引に連れてきたのだろうか。

おいおい、今事件解決したからいいようなものの解決してなかったら面倒なことに…………

 

…………いや、俺の公開処刑の観客が増えるだけか。

全く、結果論としていいのか悪いのかわからんな。

 

「皆も……すまなかった。俺のせいで、迷惑や心配をかけてしまって」

 

「え? なんでセージが謝るのかしら?」

 

……あ。そこから話さなきゃいけないのか……

あれをもう一度一から話すのは凄く気が引けるが……

ここにいるって事は、鏡の泉についてもある程度認識しているだろうから

黙っていたところでアレか。それに、兵藤に漏れた以上そこから伝わりかねん。

だったら、自分の口で言った方がいいか。

 

 

――――

 

 

「自分自身の、心の影……それが実体化した存在、ねぇ」

 

「現にそいつが白音さんを誘拐し、俺と兵藤を呼び出した。俺を消すために。

 そして、俺の罪を公開し、糾弾するために。

 だから言うなればこれは俺の不始末、俺の責任だった。俺がもっと――」

 

「不始末にケリを付けたのなら、私から言うことは無いわ」

 

グレモリー先輩はあっさりと俺を許した。いや、俺に興味が無いと言うべきか?

形はどうあれ、白音さんやアーシアさんらを危険にさらしたんだが……

 

「アーシアやギャスパー、イッセーはともかく、小猫はもうあなたが面倒を見るべき相手よ。

 そしてそれを無事に保護した。それでいいじゃない」

 

「……ありがとうございます」

 

「おいセージ! なんでリア……部長といい雰囲気になってるんだよ!?」

 

……うわあ。やっぱり絡んできたか。

やっぱりシャドウの言ってたこと、殆ど当たりじゃないか。

たったこれだけのやり取りで目くじら立てるとか、童貞じゃないのに童貞臭いぞ、お前。

 

「あらあら、男の嫉妬はみっともないですわよ、イッセー君?

 でもそれだけリアスを情熱的に愛しているって証拠かしら、うふふ」

 

そして的確に煽ってくる姫島先輩。

そりゃ嫉妬は愛情の別表現ではあるけれどもさ。今それを持ち出さなくとも……

しかし、指摘されてドギマギする兵藤とは裏腹に

グレモリー先輩はどこだかうんざりしている風にも見えた。

 

……え? まさか、これって……

おい兵藤、本気でグレモリー先輩に告るなら

今の状況は本気で取り返しのつかない事態を招きかねないぞ!?

 

そんな俺の心配とは別ベクトルの心配事を、今度は祐斗が持ってきたのだった。

 

「……セージ君。実は僕らも君に……いや、君達に謝らなきゃいけないことがあるみたいだ」

 

「ん? どうしたんだ?」

 

 

「…………敵を、連れてきちゃったみたいなんだ」

 

そう言う祐斗の背後から、警官隊と共に黒いパワードスーツのようなものが姿を現した。

パワードスーツ……超特捜課の装備だろう。つまり、敵じゃない……はずなんだが。

 

 

――なんで、なんでこっちに銃口を向けているんだ!?




サブタイはペルソナ2罪EDより。
君のとなり。あの終わり方でこのフレーズは「離れ離れになっても~」と見ればイイハナシダナー、で終わるんですが
如何せん黒幕が黒幕。君のとなりにいるのは果たして……?

>シャドウ
ここでシャドウ成二「は」退場です。
ここでデータをセージに寄越したのは罪のシャドウ戦オマージュ。
シャドウを専用ペルソナで倒すと強化できるってアレ。

克己を体現した熱い展開……のはずなんですが
如何せん何気に性格が悪いセージのシャドウなので、不安要素しか残さないという。
パワーアップが不穏なフラグってのは、拙作においてはいつものことなんですが。

以前理化学研究所に忍び込んでいたのもシャドウ。
こうしておけばセージは絶対に助けに行く。それを促す最後のピースを埋めにかかりました。
状況が許せば、セージは一人でも乗り込みかねません、本当に。

そしてユグドラシルがよくない実験をしているという不安要素も追加。
そりゃ鎧武原作でもユグドラシルはアレだけれども……
正直、今回は鎧武原作と同等かそれ以上に酷いことになってるかもしれません。

それこそ「助け出してみろ。出来るものならな」です。
つまり、ここで唯一嘘を吐いた可能性も……

>リアス
実は少し丸くなってます。物理的な意味じゃなく。
そして、イッセーとの関係に不協和音が見え隠れし始めて……
原作でもご都合主義気味だってのに、拙作においては何をかいわんや。
ただ、別に改心したとかそう言う訳では無いので……

>朱乃
そんな2人をフォローしてる(?)んでしょうけれど。
彼女は彼女で背景がああなのでもう泥沼からの誘いにしか見えず。


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Will41. 公安調査対象

祝え!
人の心の海の力を受け継ぎ、20世紀から令和の世にその存在をしらしめるペルソナ使い。
その名も周防達哉と天野舞耶。
ねんどろいどとして誕生を約束された瞬間である。
https://twitter.com/gsc_kahotan/status/1491938829988958209?s=20&t=aiF1JDc3et0UC7cEyXfD8A

因みにキタローもあるでよ。
なおりん……


敵を連れてきた。

そう言う祐斗の後ろからは、警官隊がなだれ込んできた。

一瞬、超特捜課(ちょうとくそうか)かと思ったが……それにしては、様子がおかしい。

それに……一般の警察官とは、装備があからさまに違う。

超特捜課の新装備……じゃない! これは……SAT(特殊急襲部隊)だ!!

 

しかも、その後ろからは見慣れない黒いパワードスーツまで来ている!

これは祐斗の言う通り、完全にこちらを攻撃するつもりの布陣。

流石に問題だと思い、俺はダメもとで警察手帳を提示してみるが――

 

「待ってください! 俺は超特捜課特別課員の宮本です!

 誘拐事件についてはこの通り被害者を保護、犯人は既に鎮圧しました!

 犯人は怪異由来のものであり、超特捜課事案としてたった今……」

 

しかし、俺の言葉を意に介さず足元に威嚇射撃を受けてしまう。

おいおい、俺が言うのもなんだが何時から警察はこんな横暴な組織になったんだ!?

 

「誘拐事件は我々の管轄外だ。我々は警視庁公安部。

 テロリスト集団『D×D』! 扇動罪及び国家反逆罪の容疑で

 貴様らの身柄を拘束する!」

 

D×D!? グレモリー先輩らはともかく、俺は違う!

いや……「俺がD×Dの6人目」って噂は既に流れていた……

公安が真に受けたか、現実化したか!?

この噂の現実化って奴は、当人の意思お構いなしか!

 

「既にお前達は完全に包囲されている。無駄な抵抗などせず、我々と来てもらおうか」

 

(どうする、セージ?)

 

(相手が冥界の連中とかならいざ知らず、流石に警視庁と事を構えるのは……

 向こうはD×Dに用事があるって言っているんだから、俺一人出向したところで

 事態は解決しないだろうしな……)

 

人間の俺が人間の世界、しかも自分が属する国の警察機関と事を構えるとか

犯罪者になるだけだ。唯一抜け穴があるとするならば、この行使が不当な事由によるものだが

D×Dを引き合いに出されている以上、それも無い。

そのD×D自体が正体不明の組織だったりするのが問題っちゃ問題ではあるんだが。

 

この場にいる中でD×Dに関係が無い人は…………いた。

 

 

「ま、待ってください! そこの銀髪の子と藤色の髪の子はD×Dとは関係ありません!

 せめて、彼女達だけでも……」

 

「断る。こうして貴様らと行動を共にしている時点で重要参考人だ。

 構成員でなくとも、活動の幇助を行っていた可能性もある。

 よって、容疑ではなく重要参考人として我々と来てもらう事に変わりはない」

 

ダメだ。白音さんとバオクゥだけでもと思ったが、取り付く島も無しとはこの事か。

この場を切り抜ける方法を、と思ったがここまでとなると思い浮かばない。

そりゃ姿を消すなりなんなりで逃げる方法はあるかもしれないが、実力行使は最後の手段だ。

と言うか、相手が相手なのだから実力行使は愚策も愚策だ。使うべきじゃない。

容疑を現行犯にするわけにもいかないし。兵藤? あいつは誤認逮捕になったとは言え犯罪者だ。

俺が頭を下げたのはあくまでも自分を棚上げして糾弾したことだ。

罪をはぐらかす行為にどうして頭を下げなきゃいけない?

 

次の手を考えていると、ふと警官隊の中に見覚えのある金髪の目つきが悪い人がいた。

安玖(あんく)巡査!? どうして公安に……!?

 

「あ、安玖巡査!?」

 

「宮本か。悪ぃがこう言う訳だ。税金で給料もらってる以上、泥棒するわけにもいかねぇからな。

 こういう時、宮仕えはつれぇよな」

 

って事は……後ろのパワードスーツの中身は……!!

 

「……宮本君。すみませんが、大人しく我々に従ってください」

 

「氷上巡査!? そのパワードスーツを操縦しているのは、氷上巡査なんですか!?」

 

「そうだ。俺がいること。

 そして、このパワードスーツ――ゲシュペンストを氷上が操縦している。

 これらのことから、超特捜課は公安の直属になったってわけだ。

 それに伴って、宮本。お前は――」

 

「――そこから先は、私が言いましょう」

 

警官隊をかき分けるように、やたら偉そうなスーツの男が出てきた。

この人は初見だ。って事は、超特捜課じゃなく公安に元々いた人間って事だろうか。

 

「私は警視庁管理官の黄蟹雅史(こがにまさし)と言います。

 宮本成二君。君の活躍はテリー警部や蔵王丸(ざおうまる)警部から聞いていますよ。

 それとありがとうございます。君のお陰でテリー警部を左遷出来たようなものですからね。

 これで、あの若造にでかい顔をされることも無くなりました。感謝していますよ」

 

「なっ……!?」

 

黄蟹と言うこの男が宣ったのは、絵にかいたような権力欲の権化とも言うべき言葉だった。

管理官という事は左遷される前のテリー警視とそう変わらない立場のはず。

それを俺がやらかした(って事になるんだろう、一応)せいで

こんな奴がのさばる羽目になったのか!

もしかして、須丸清蔵(すまるせいぞう)の横槍もあるけれど

こいつもこの警察の横暴に一枚噛んでいるんじゃ……

 

……須丸清蔵に取り入って甘い汁吸ってるだけかもしれないけど。

 

「お陰で超特捜課の力も、こうして行使することが出来るようになったんです。

 神器(セイクリッド・ギア)とやらには恵まれなかった私ですが、こうして上に立ちその力を自在に操れる。

 クセになりそうですよぉ!」

 

その言葉に、安玖巡査は苦虫を噛み潰したような顔を隠していない。

氷上巡査も、表情は伺い知れないが同じことを思っているかもしれない。

くそっ、ここに来てなんでこんな奴が陣頭指揮を……!

 

「ですが。君の本分はあくまでも学業。

 こうしてゲシュペンストも南条コンツェルンのお陰で完成を見た今。

 もはや君に出張ってもらう必要もありません。

 こんなご時世でもありますし、君が態々戦地に赴くことなんかありません。

 今までご苦労様でした。退職金を……と、言いたいところですが……」

 

そう言うや否や、SATの一部が俺に銃口を向けたまま両脇に付く。

明らかに、ねぎらいが目的ではないことくらいはわかる。

 

「君にもテロ組織『D×D』への関与が疑われていましてね。

 全く学生が武装集団だというのでも問題なのに、よりにもよってテロリズムに傾倒するとは。

 しかも国際テロリスト『禍の団(カオス・ブリゲート)』と『D×D』には関連があるそうじゃないですか。

 名目上は争っているように見えても、その実繋がっていれば疑惑を向けざるを得ない。

 言いたいことが……わかりますね?」

 

(狡兎死して走狗煮らるとはよく言ったな、こりゃ)

 

アモンが感心したようにつぶやくが、こっちは生きた心地がしない。

D×D相手を想定しているって事は、恐らくだが装填している弾は神経断裂弾だろう。

そんなもの、いくらマグネタイトで補強しているからって生身で受けて無事で済むわけがない。

そもそも撃たれて無事で済むとかありえないし。

気休めだろうが、仕方なく両手を挙げて降参の意思表示をする。

 

「せっ、セージ!?」

 

「仕方ないだろ。相手は曲がりなりにも警察だ。俺の立場上、事を構えるわけにはいかない。

 ……日本国民じゃないあんた達なら、まだしもな」

 

……くそっ。何で俺はこいつらに逃げるヒント与えてるんだよ。

そりゃあ、D×Dなんて訳の分からない組織の一員に勝手にさせられて

そのままあれよあれよと言う間に指名手配……じゃあ、納得も出来なかろうが。

 

ハナっから日本国籍なんか有していないであろうグレモリー先輩にアーシアさんとかはいいだろう。

祐斗だって言っちゃなんだが国籍不明だ。木場祐斗って名前がグレモリー先輩が勝手につけた名前だとしたら。

姫島先輩は少し怪しい。兵藤も……勘当されたらしいが、それでも戸籍が抹消されたわけではないだろう。

光実は言わずもがな日本国籍を有している。恐らく、立場的には今の俺と一番近いかもしれない。

 

「……仕方ないですね。弁護士は付けてもらえるんですよね?」

 

「光実君まで!?」

 

俺に続く形で、光実も抵抗する素振りを見せずに両手を挙げる。

祐斗が驚いているが、この状況では仕方ない。お前の言いたいこともわからんでもないが……

クソっ、どうすればいいんだよこれ。

 

俺と光実を拘束するために、SATの一部が俺達への対応に集中する。

その間に、後ろでグレモリー先輩が何かして……

 

 

……あれは、転移魔法陣!?

そうか! いくら警察でも、自力で冥界に行く技術までは無いはずだ!

クロスゲートとかでも使わない限り、冥界にこっちから乗り込む手段は無いはずだ!

確かに、これならば……逃げる形にはなるが……

 

 

「セージ、付き合う必要は無いわ! こっちに来なさい!」

 

「ぶっ、部長!? なんでセージの奴を……!?」

 

俺を呼び寄せるグレモリー先輩の態度に、兵藤が面食らっている。

そりゃあ、あいつにしてみれば俺はグレモリー先輩にとっての不倶戴天の敵だし

正直、それは俺もそうだとは思っている。だから、何故グレモリー先輩が俺を呼んだのかが

今ひとつ解せなかったりもした。

 

だが、この場で捕まるよりは逃亡した方がマシかもしれない。

逃走は罪が重くなるかもしれないが、そもそもD×Dって集団の正体がまだわかってない。

その正体を突き止めない事には、おちおち捕まってもられないだろう。

 

「光実君も! ここで警察に捕まっても、事態は好転しないよ!」

 

「し、しかし……」

 

一方、逡巡するのは光実。祐斗の言葉にも、踏ん切りがついていないようだ。

そりゃあ、光実は冥界に行ったことが無いのだから無理もないか。

 

「光実、ここは思い切って冥界に行くしかない。

 このまま、身に覚えのないテロ疑惑をかけられたままでは泥沼だ!」

 

「……しか、ないみたいですね……」

 

「他のみんなも来なさい! 纏めてグレモリー領まで飛ぶわ!」

 

グレモリー先輩の言葉に、ゼノヴィアさんとバオクゥも魔法陣に飛び込む。

動作を始め、光り出した魔法陣。俺と光実が入り込もうとしたその瞬間。

 

「あ、あれは何なんです!? SAT部隊、彼らを逃がしてはなりませんよ!

 超特捜課も! こういう時のためにあなた方がいるんですからね!」

 

その情けなさがにじみ出ている黄蟹管理官の号令に対し

渋々と言った様子で安玖巡査は氷上巡査に頷き

パワードスーツを装着したままの氷上巡査もそれに対し頷き返す。

直後、俺達を追い抜きかねない勢いで二人は魔法陣の中に入り込んできたのだ。

 

「給料泥棒になるから、逃がさねぇって言っただろ」

 

「皆さん、大人しくしてください!」

 

 

明らかに魔法陣の中に入るには定員オーバーともいえる人数が強引に入り込む。

安玖巡査と氷上巡査を追い出そうと兵藤が攻撃を加えようとするが、俺は何とかそれを制止する。

 

「このっ、何するんだよ!」

 

「よせ! 公務執行妨害の現行犯が付くぞ!」

 

俺が兵藤を抑え込んでいる間にも、魔法陣は俺達を冥界に飛ばそうと動作を続けている。

しかし、そんな中洞窟が揺れ始めたのだ。

 

 

――違う。洞窟が、ではない。

 

 

洞窟の空気そのものが、揺れ始めたのだ。

 

 

 

「こ、これは……」

 

「……地震?」

 

「ま、まさか魔法陣の定員オーバーでは……?」

 

 

戸惑う俺達だったが、それは警察の側も同じだったようだ。

足並みが、見るからに乱れ始めていた。元々、あの黄蟹管理官って人物に

指揮能力がそれほど備わってないのもあるとは思うが。

 

「う、狼狽えるんじゃありません! 足を止めた今こそ、彼らを捕まえるチャンスですよ!」

 

「し、しかし管理官! 揺れは……揺れはどんどん酷くなっています!」

 

そうなのだ。揺れはおさまるどころか、どんどん大きくなっている。

下手をすれば、立っている事すら覚束なくなるような状態だ。

地上でもこれだけの地震は不安を覚えるが、それ以上に今は洞窟の中だ。

落盤なんて起きたら、洒落にならない。

 

「あ……ああっ! セージさん、あれを!!」

 

……のだが、もっと洒落にならないものが俺達の目の前に現れたのだ。

 

「あれは……まさか!」

 

「地上にあったものが……転移したのか!?」

 

 

――クロスゲート。

 

ここで転移魔法陣を起動させた影響か何か知らないが、鏡の泉の水面上に浮かぶような形で

それはこの場に顕現したのだ。揺れの正体は、これだったのかもしれない。

そして、そのクロスゲートはリングの中から青い光を放っていた。つまり――稼働状態だ。

 

 

次の瞬間。クロスゲートから放たれた光は俺達を包み込み

光に呑まれる形で、俺の意識は遠ざかっていくのだった――




>黄蟹管理官
公安の指揮を執ってる人。元ネタは仮面ライダー龍騎から須藤雅史。
「黄金」の「蟹」だから黄蟹。
龍騎組は捩った名前ばかりですが、彼に関しては須藤姓が使えないという理由もあります。

「須藤、だと? どうやらその苗字は命名神様がいかんと言っておるようだ。すまんが別の苗字にしてはくれまいか?」

……いやだって悪徳政治家だったり電波ばいきんまんだったりで使われてる苗字ですし。

立ち位置としてはペルソナ2罰の島津管理官。
SAT率いてる辺りそんな感じですが、俗物っぽさはかなりマシマシ。
そのうち食われるかもしれません。

>人間が持つ転移装置
一応、人間製だとデヴァ・システムやクラックの制御装置
そしてパーソナル転送システムとかがあるのですが
パーソナル転送システムはアーマードライダーのアームズ転送を疑似再現した一方通行型。
デヴァ・システムやクラック制御装置は警察に採用されていないという事で
こうして冥界とかに逃げられたら打つ手が無くなります。要は高飛びされるわけですね。

デヴァ・システムもプチ・デヴァから10年が経過しているので
さらに小型化されていてもおかしくは無いのですが……

>D×D
完全にこの世界ではテロ組織扱い。曲がりなりにも原作じゃテロ対策チーム謳っているのに……
しかも自分達が知らない間にテロ組織として名前だけが伝わり、知らない間に一員にされている。
ある意味で仮面党であり、身に覚えのない「ヒーローごっこ」のおとしまえを付けさせられている状態。


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Suspicion

こう言う意味でリアルと連動してほしくないです……


「何も知らずに……」

 

画一された辞世の句を残し、聖槍騎士団(せいそうきしだん)のうち2体が

リアスらを追っていた薮田直人(やぶたなおと)によって倒された。

これでリーダーも含めれば残りは4体となったわけである。

元来聖槍騎士団が属するフューラーの部隊――ラスト・バタリオンは

今やアインストにその標的を変え戦闘行為を行っていたはずである。

 

しかし、それがこうして突如として薮田に標的を変え襲い掛かってきていたのだ。

 

(……はぐれ部隊と言うには、あまりにもお粗末ですね。

 私が狙われる理由には心当たりがありますが、それだとしても些か理由づけとしては弱い。

 私自身が彼らが標的としている三大勢力とは対立する姿勢を示していたはずではありますが……

 

 ……一番可能性の高い理由としては、私の足止めでしょうね。

 だとしたら、彼女らも不憫ですね。私には、聖槍は効かないというのに。

 複製なら、尚の事です)

 

足止め目的の捨て駒にされた聖槍騎士団に対し、僅かながらの憐憫を向けながら

薮田は急ぎアラヤ神社へと向かっていた。

その裏の岩戸山。そこに、リアスらが向かっていたのだ。

そんなリアスらを追う形で薮田は行動していたのだが

その途中に聖槍騎士団の襲撃を受けた形なのだ。

 

 

――――

 

 

――アラヤ神社、境内。

 

そこにあったはずのクロスゲートはその姿を消しており

境内には一人のパンツスーツの女教師が佇んでいるだけであった。

布袋芙(ほていふ)ナイア。それが、彼女の名前とされている。

 

「おや、薮田先生。こんなところで何をしているんですか?」

 

「布袋芙先生ですか。私は生徒を追っていたのですがね。

 その途中でトラブルに巻き込まれてしまいまして。

 解決はしたのですが、生徒は見失ってしまいましてね。

 布袋芙先生こそ、こんなところで何をしているのです?」

 

本来ならば、JOKERやアインストが徘徊しており

それらと戦闘行為を行う形で珠閒瑠(すまる)市に散開しているラスト・バタリオンもいる以上

現状で一般市民の外出は危険極まりない。

それなのに、この二人の教師はこうして外に出ているのだ。

薮田に至っては、その精鋭を返り討ちにしてさえいる。

彼の正体を考えれば無理からぬことではあるが。

 

「僕は顧問教師としてリアス君らを迎えに来たのさ。

 とは言え……皆は先に帰ってしまったようだけどね。入れ違いさ」

 

ナイアの言葉に、薮田は引っかかりを覚える。

リアスらが向かったのはアラヤ神社ではない。岩戸山だ。

それなのに、どうしてここでリアスらの顛末を知り得ているというのだろうか。

そして何より……

 

 

――何故転生悪魔であるナイアが、アラヤ神社の境内で何食わぬ顔で平然としていられるのか。

 

 

「布袋芙先生。お身体の方は大丈夫なのです?

 ここは曲がりなりにも神社。魔を祓う気は充満していると思うのですが。

 あなたはグレモリー君の『戦車(ルーク)』になったと聞いております。

 それなのに、何故ここで平然としていられるのです?

 

 ……ああ、『フリーパスを持っている』などと言うつまらない言い訳は止してくださいよ。

 私は神仏同盟にも顔が利きますから、そう言う手合いの嘘はすぐにバレますよ」

 

実際、神仏同盟から悪魔に対するフリーパスが発行されたという記録は「無い」。

さる虚憶(きょおく)の世界ならばそう言う形で魔王が神社の境内に入ったという記録もあるとされているが

少なくとも、この世界においてそう言った記録は無い。

 

「フフッ、心配しなくともそんなものは持っていないし、発行してもらえそうも無いしね。

 僕が何故ここにいるのかと言う質問についてだけど、それは……秘密だ」

 

「情報源の秘匿は情報収集の上において必須ではありますが

 過ぎたる秘密主義は不信を招きますよ」

 

薮田の指摘に対しても、「君には言われたくない」と返しながら

ナイアは飄々とした態度を崩そうともしない。

互いに柔和な表情を崩してはいないものの、目を凝らすと火花が散っている。

そのような向かい合いを、薮田とナイアは繰り広げていた。

 

「布袋芙先生。やはりあなたには色々と不可解な点がありますね。

 先程の話の他にももう一つ。『何故グレモリー君があなたを眷属にできたのか』。

 言っては何ですが、今の彼女の実力で、あなたを眷属にできるとは到底、思えない。

 たとえ『戦車』の駒を2個使用したのだとしても」

 

「それこそ秘密と言うものだよ、薮田先生。現に僕はこうしてリアス君の眷属になっている。

 事実はきちんと受け止めないと、教職者としてよろしくないよ?」

 

ナイアの言う通り、現にナイアはリアスの「戦車」なのである。

「戦車」を2個使ったことで、実質は「女王(クイーン)」をも上回る

駒価値10と言う破格の存在になっている訳ではあるが。

それさえも、顧問教師としての立場に利用している節はあるようだ。

 

そして経緯はどうあれ、ナイアはリアスの眷属であると言う結果は確かに存在している。

これには薮田も「……確かにそうですね」と認めざるを得ないわけではあるのだが。

 

(しかし……やはり不可解な点が多すぎますね。

 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は神以外あらゆるものを悪魔にしてしまう道具。

 布袋芙先生の正体は今もって不明ですが、この事実から神ではないのは間違いないでしょう。

 ですが、彼女の不可解な点は神ないし神性を持つものでなければ

 説明がつかない部分が多すぎます。

 

 ……あるいは最悪のケースとしては。

 「神性を持つものが意図的に神性を隠すことで

  チェックをすり抜けて取り入ろうとわざと契約を交わす」。

 尤も、そうするメリットが今一つ思い浮かびませんが……

 それこそ、目的なんてない愉快犯のようなケースを除いては。

 

 ですが……今までのは全て、私の憶測にすぎません。

 「創世の目録(アカシック・リライター)」と言えど、情報収集の小回りに関しては

 「記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」に一歩譲りますからね)

 

「……物思いに耽っているところ恐縮だけど、薮田先生を『裏』にも精通していると見込んで

 僕から話しておかなければならないことがあるんだ」

 

憶測を巡らせている薮田であったが、その意識はナイアの言葉で呼び戻される。

彼女の言では、ここにあったはずのクロスゲートは突如として消失。

自分が来た時には既にこの状態であったという事である。

 

「あれが危険なものであるという事は、僕にもわかっているさ。

 そして僕には、消えたここのクロスゲートが転移した先に目星がついている。

 

 ……ここの裏山の洞窟の奥深く。鏡の泉の上さ」

 

「……何を根拠に?」

 

「根拠も何も、アレを操っているのは僕だからさ。

 今しがたリアス君らが公安に付けられているのが見えてね。

 アレを使って、冥界にでも避難させようと思ってね」

 

いけしゃあしゃあと、クロスゲートを操っているのは自分だと公言するナイア。

しかし、薮田にはその言葉に信憑性を感じられなかったのだ。

それもそうだ。今まで何をどうやっても正体不明の建造物であったクロスゲートが

ぽっと出の女教師の匙加減一つで操作できるはずがない。

真偽……と言うまでもなく、薮田には偽としてしか聞こえなかったのだ。

 

「……嘘ならもっとマシな嘘をついたらどうです?」

 

「フフフ、流石に先生は騙せないか。だが僕がクロスゲートを操るってのは嘘だけど

 リアス君らが公安に付けられていたのは、嘘じゃない。

 追い詰められたリアス君らは、まず間違いなく冥界に飛ぶだろうね。

 そしてクロスゲート近くで何らかの手段での転移を用いれば、その手法は酷く不安定になる。

 先生ならば、よくご存じのはずだよ」

 

実際、薮田には心当たりがあった。

コカビエルがギリシャに対して行った「しでかし」の謝罪のために

シェムハザを伴って渡希した際、その後帰国する際に転移を試みたが

クロスゲートの影響か、時間がずれてしまっていたのだ。

そのほかにも、セージがさる理由から直接クロスゲートで沢芽(ざわめ)市から転移を試みた際には

若干だがセージの希望通り駒王町に転移できたのだが、時間にずれが生じていたのだ。

時間と空間に作用する存在であるため、こうした影響は起こるものであるのだ。

 

「……そうそう、同じ顧問教師として忠告しておくけどさ。

 ソーナ君だっけ? 彼女らも、いい加減冥界に返した方がいいよ。

 魔王様直々の帰還命令もあるし、こっちでは公安が目を光らせ始めた。

 その魔王様からも、冥界でレーティングゲームに興じていればいい。

 ……そう言いたげな様子ではあったね。あれは、近々大会でもあるのかな?」

 

(確かに、公安がああも幅を利かせ始めた以上

 支取君達もこれ以上こちらで活動するのは無理でしょう。

 口実はありますし、冥界に返すべきですね。

 ……とはいえ。冥界が遊戯に興じられるほど治安がいいとも思えないのですが)

 

ナイアの提案に対し、薮田は首肯する形で返答とした。

このプランはプランで問題がありそうなものだが

人間界でこれ以上必要以上に悪魔をのさばらせておくのは環境的にもよくはない。

実際、ソーナら(厳密には匙が、であるが)とて一般人と諍いを起こしたことはあるのだ。

 

「そうだ。ついでにもう一つ質問だけれどもさ。

 ……先生は、どこまで人間に肩入れするつもりなんだい?」

 

「…………どういう意味です?」

 

「しらを切っても無駄さ。僕には、先生の正体がなんとなくだけど察しがついている。

 先生の立場で、人間に必要以上に肩入れをするのはよくないと思うのだけどねぇ?」

 

思いもよらぬ質問に、薮田も一瞬顔を顰める。

すぐさまポーカーフェイスを取り戻し、平静に対応するが

ナイアの言葉はでまかせか、確信あってのものかは不明だが

薮田の背景を知らなければ、でてこない言葉ではあった。

 

(……まさかとは思いますが、聖槍騎士団を差し向けたのは彼女かもしれませんね。

 それこそ、証拠がありませんが……

 

 私が聖槍騎士団を退けたことで、確信を得たのかもしれませんね。

 なるほど……二重に手を打っていたと言う訳ですか)

 

「先生。僕から一つ忠告さ。『人は神にはなれないが、神もまた、人にはなれない』。

 ……僕からの話はこんなところかな。僕はこれから、リアス君らを迎えに……いや、違うな。

 リアス君らと合流しに冥界へと向かう事にするよ。

 だから後のことは先生に任せたよ。じゃ、改めて後はよろしく頼んだよ」

 

そう言うや否や、ナイアは黒い靄と共に姿を消してしまう。

しかし、それは薮田の知る冥界への転移魔法陣とは全く違った。

最後の最後に、ナイアはさらに謎を残していく形になったのだ。

 

「『神もまた、人にはなれない』……ええ、存じておりますよ。

 だからこそ、私は人を蔑ろにしている彼らに一度痛い目を――

 人間を見縊るとどうなるかを思い知ってもらうために、人間に協力しているのですから。

 ……そう言う意味では、私は『人』でも、『神』でもないのかもしれませんね」

 

虚空に向かって薮田がふと呟いた次の瞬間。

 

 

――空間が、揺れ動いた。

 

 

(……動きましたか。となるとこれ以上長居をすれば

 岩戸山から出てきた公安と鉢合わせする可能性がありますね。

 私も彼らに捕まるわけにはいきませんし……ここに長居は無用ですね。

 

 …………クロスゲート。異なる世界、異なる時間を繋げる門。

 間違いなく、これが一連の事件をより悪質にしている存在でしょうね。

 そしてこれは間違いなく……「何者かの手によって悪用されている」。

 それが何者かはまだ確信を得られませんが……

 これ以上の悪用は、取り返しのつかない事態を招きそうですね。

 いつまでも、後手に回るわけにはいきませんが……今はまだ、雌伏の時と言うべきでしょうか)

 

 

クロスゲートの作動の影響下。転移は危険を伴うため出来ない。

薮田は来た道を引き返し、ホテル・プレアデスへと戻ることとなった。

 

 

駒王学園生徒会及びオカルト研究部所属生徒・顧問教師と

その他一部の生徒は、珠閒瑠市から駒王町へと戻るバスの中にはおらず

往路にその姿を見せた生徒を乗せたバスを追走するサイドカーの影も

見当たらなかったのだった……




疑惑。
ナイアは薮田先生の事を知っていますし、薮田先生はナイアに対し疑惑の目を向けています。

>聖槍騎士団
戦闘すらカットされて2体退場。
いやだって戦った相手の正体的に、さあ……
聖槍は効かない、主砲も自称・神器で無力化される。
こういうチートキャラは主人公達とは違う場所で戦わせるから輝くものだと思っていたり。
その主人公がチートだった場合、中々ややこしいことになりますが。

そして仕向けたのが「彼女」だった場合、わかっててそうしたのだから完全な捨て駒。

>戦車2個
計算すると女王の9より上になるんですけど、良いんですかねこれ。
複数使用は兵士の特権だったかどうかは、ちょっと失念してしまいましたが。
尤も、バグの温床とも言える悪魔の駒絡みなので割とガバガバと言うか何と言うか。
とは言え貴重なキャスリングの使い手を1人減らすほどの価値があるかどうかってのは……うん。

どうでもいいけど「ゴースト」第4章でリアスがキャスリングで移動を試みて
人質にされた件、どこぞの大魔王様に言わせば「チェックメイト後のキャスリングは反則だ」そうなので
ペナルティで人質にされたんでしょうね。今取って付けました。

「女王」を上回っているって点が地味に朱乃とナイアの力関係を物語っていたり
何故リアス・グレモリーが布袋芙ナイアを眷属にできたのクァ!! だったり
やっぱこの混沌正体隠す気ねえな。

>人間を見縊るとどうなるか
そのつもりで肩入れしていたらオーバーテクノロジーを次々開発し始めた件について。


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復活祭のパンクラチオン
Will42. 夢現にて


……当日twitterではっちゃける程度にはテンション上がってたけれど
やはり時間が経ってくるとダメージ来るなあ。

何の話かって? 活動報告参照という事で。


――また、お会いしましたな。

 

気が付くと、俺は一面青色の部屋――ベルベットルームにいた。

扉を開けた記憶は無い。という事は恐らく……か。

 

「どうやら、見事己の影との戦いに一先ずの勝利を収められたご様子。

 このイゴール、心より祝福させていただきますぞ」

 

相変わらずのギョロ目長鼻の老人はその風体にある意味似つかわしくない懇切丁寧な態度で

俺に接してくれる。いや、これが上から目線の不遜な態度でも困るのだけれども。

 

「ですが影とは言え、対峙された者もまた、あなた様ご自身。

 あなた様がご健在の限り、影はいつまたあなた様に牙を剥くとも限りません。

 影に向き合い受け容れた、影に勝利を収めた。

 これらは全て、今後も続くあなた様ご自身と、あなた様の影との戦いの序曲に過ぎません。

 その事だけは、お忘れなきよう……」

 

シャドウ自身も言っていた。

「俺とお前の戦いは、俺自身がいる限り永劫に続くのだ」……と。

恐らくも何も、それが「生きていく」という事なのだろう。

そして影とは、俺の中にある俗にいう「悪い部分」に限らない。

今表に出ている俺の心。その間内に引っ込んでいる俺の心。

それこそが、シャドウなんだろう。

俺と言う存在は、たった一面だけで物語れるものじゃない。

シャドウの存在も含めて、俺――宮本成二と言う存在なのだろう。

 

「さて……此度あなた様をお呼び立ていたしましたのは。

 いよいよクロスゲートなる門と、そこから現れる者達の活動が

 本格化する兆しが見え始めていることを、お伝えするためにございます」

 

なんだって!? いよいよ……アインストの首魁が表に出てくるってのか!?

まさか、フューラーがアインストとの戦いに注力しだしたのはそれが原因なのか!?

 

「それについては……間違いない。

 僕が見たクロスゲートとは少し違うが、本格的に動き出す兆しのようなものが

 ここからでも見えた。おかげで、描こうと思っていた絵のイメージが飛んでしまったよ」

 

クロスゲートを見たと言っている悪魔絵師のお墨付きまで貰ってしまった。

欲しくないお墨付きだが、これで信憑性が増してしまったって事か。

 

「……シャドウは戦いの終わった後、俺に新たな力をくれた。

 神器(セイクリッド・ギア)は専門外だってのは承知してますが

 これを以てアインストの脅威に立ち向かう事は出来ますか?」

 

「……シャドウの力……ふむ……

 確かに私がこと神器においてお力添えできることは殆どありませんが

 かつて、周防達哉様は大衆の声を基に歪められた己の影と対峙し、勝利を収めた際に

 お持ちのペルソナが真価を発揮した例もございます。

 細かな点に差異はございますでしょうが

 凡そその時と同じと思っていただいて、間違いはないかと」

 

周防巡査も、そう言う事があったのか。

ペルソナも神器も、己の心一つ。

力を心にするのではなく、心を力にしろということか。

 

「そして、これからのあなた様の運命。それは……『逆位置の悪魔』が見えますな。

 それに重なる形で『正位置の刑死者』が見えます。

 あなた様の道はまだ険しいものであるという事は、お忘れなきよう」

 

逆位置の悪魔。悪魔ってカード自体がそもそもあまりいい意味じゃなかったはずだ。

それの逆位置となると……好転する何かがある、って事か?

だがそれを補うかのように正位置の刑死者とは。

まあ、苦難なんてここ最近は本当に沢山あるから今更一つ二つ増えたところで、だが。

 

「そしてこれは、フィレモン様からの言伝でありますが……

 

 『遠くない未来。あなた様は自分の人生を、世界をも変え得る選択を迫られることになる』。

 

 その証拠に……先ほどのカード、未来を指し示す位置に『死神』が配置されております」

 

……苦難の道に、責任重大な選択か。

本当に、俺の人生バグっちゃいないかね。

若いうちの苦労はうんたら、とは言うらしいがこれはどうよ。

 

「あなた様がどのような選択をするか。私共はそれについて言及することはございません。

 選択をしないというのも、一つの選択肢ではございます。

 ですが、一つだけ注意させていただきますと……

 

 ……『選んだ選択には、責任を持つこと』だけは、努々お忘れなきよう」

 

……無責任でいるな、というわけか。

選んだからには、その選んだ事柄と結末に対して責任を持て、と。

当たり前のことだが、果たしてどれだけの奴がそれを実行できているのやら。

 

「さて……イゴール老人の話が一段落付いたところで

 唐突で悪いんだけど、僕にフリータロットを見せてもらえるかな?

 飛んでしまった絵のインスピレーションを、少しでも回復させたい」

 

悪魔絵師に催促された形ではあるが、俺はフリータロットを悪魔絵師に見せることにした。

俺の目には、あまり変化が無いように思えるんだが……

 

 

「なるほど。目に見えない形でも、少しずつではあるけれど力を増しているみたいだね。

 とは言え絆の力とは元々目には見えないものだ。

 目に見えないものだからこそ、僕の描く絵のインスピレーションになる」

 

そう言うや、特に注意深く見ていたのは3(女帝)、8(力)、9(隠者)、10(運命)

そして11(正義)、14(節制)。

以前とはまた違うカードだが……ふむ。

 

それにしても、俺自身はこのフリータロットについて殆ど理解していなかったりする。

何かの力の触媒、って程度にしか理解できてない。それでいいのか。

 

ふと、カードを眺めている間に13(死神)のカードがはらりと床に落ちた。

慌てて拾い上げようとした瞬間、俺の頭の中に姉さんの声が聞こえた気がした。

フリータロットに込められた力は、絆の力の体現。それは女帝や皇帝のカードで

逆説的な意味も含めて証明されている。

 

 

…………まさか、俺の持っている死神のカードの力の根源って…………

 

 

「あっと。急ですまないが、今回はもう時間が来てしまったようだ。

 ありがとう、まだ君のカードに絵を描くほどでは無いが、方向性は出来上がりつつあるよ。

 君の心のキャンパスに描かれる絵も、そう遠くないうちに完成するかもしれないね。

 とは言え、知っての通りここでは時間は意味を成さないが」

 

「え? あ、ちょっと……」

 

俺が死神のカードの事について聞こうと思った瞬間

意識がベルベットルームの外に飛ばされそうな感覚を覚える。

その寸前で、イゴールからの声だけが届いてきた。

 

「あなた様が新たに得た力。それは力を組み合わせ、魂を封入することで真価を発揮します。

 封入する魂の協力が得られるならば、それは無限の可能性を実現する力にございます。

 悪魔絵師が描くであろう札も、完成すればその形代となることでしょう。

 

 ……では、さらなる絆を、心の力を紡ぐその時までさらばですな……」

 

 

イゴールの声が遠のくと共に、俺の意識も遠のいていくのだった――

 

 

 

――――

 

 

 

「――ジ、セージ、起きなさい」

 

遠くから俺を呼ぶ声がする。誰だ。もう少し俺は眠っていたいんだが……

 

……んん? ってか、ここはどこだ? そして俺を呼ぶお前は……

 

 

掛け布団を剥ぎながら体を起こすと、目の前にはグレモリー先輩がいた。何でまた。

周囲を見渡すと、ここは駒王学園の旧校舎・オカルト研究部の部室だった。

 

……はて。ここはとっくの昔に焼け落ちて再建されなかったはずだが?

一体、いつの間に……?

 

「やっと起きたわね。いつまでたっても起きないから心配したわよ」

 

「……んん? すまないが、事情を説明してはいただけないか?

 自分の正体や、今自分の目の前にいるのが何者かという事はわかるんだが

 何故俺がここにいるのか、今何が起きているのかという事に関しては

 全く理解が追いついていない」

 

はて。前も似たようなことがあったが、その時よりは俺の頭は冴えている。

前後不覚に陥っているという事はない。

 

「見ての通り、ここは駒王学園のオカ研部室よ。

 あれから紆余曲折あって、再建までこぎつけられたのよ。

 悪魔が……グレモリーが本気を出せば、これ位は容易い事よ」

 

自慢話を省いて話を纏めると、壊滅状態に陥った駒王町の復興のために

グレモリー家が中心となって、悪魔がその力を傾けているのだというらしい。

 

……仮にその話が本当だとして、何処にそんな力があったんだ、悪魔。

俺の記憶ではグレモリー家は傾いているし、悪魔だって人間界に支援を送れるほど

安定している状態じゃなかったような気がするんだが……

この辺は、バオクゥからも詳しくは聞いてないしな。情報の行き違いがあるのかもしれん。

情報源がグレモリー先輩ってのは、些か不安ではあるが。

 

「そこでセージ。あなたにも復興を手伝ってほしいのよ」

 

「……他を当たってくれ。何度も言うようだが、俺はあんたの……」

 

「それは承知しているわ。私ももうあなたを眷属にすることは諦めたわ。

 それに、今のあなたを私が眷属にできるかどうかと言うと

 『女王(クイーン)』の駒どころか『戦車(ルーク)』2個でも使わない限り、出来そうにないもの。

 私だって、無限に『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を持っている訳じゃないわ」

 

……なんだ? 俺はてっきり、街の復興と言う尤もらしい理由をつけて

俺の協力を仰ぎ、その流れで俺を眷属に引き戻す腹積もりなのだと思ったが……

 

 

……だが何だ? 何か、何かわからないが……猛烈に嫌な予感がしてならない。

 

 

「それに、あなたを眷属にしなくとも、あなたの協力を仰ぐどころか

 あなたを私のものにすることだって不可能じゃないわ。

 眷属と言う形以外で、あなたを私のものにすればいいだけの話だもの」

 

とんでもない事を宣うグレモリー先輩の言葉に頭を抱えつつも

俺はこの部屋に兵藤がいないかどうかだけ見まわす。

今の言葉に反応が無いという事で察しはついていたが、この部屋に兵藤はいないようだ。

 

……奴め、今どこに?

 

「それも他を当たってくれ。

 あんたが何を言おうが、俺はあんたの所有物になるつもりなんか……」

 

「ええ。あなたはそう言うと思っていたわ。だから……

 

 ……イッセー。『彼女』を連れてきて」

 

兵藤は外に待機していたのか。にしても「彼女」?

あの兵藤と女の人を同時に待機させるって結構……だと思うんだが

そこはいいのか? ……いいんだろうな。兵藤の夢を知ってて手元に置いてるようなもんだし。

自分もその標的だって事、本当に理解してるのかね……俺には関係ないが。

 

……だが「彼女」って誰だ? 白音さんを引き戻したのか? それとも黒歌さん?

いずれにせよ、あれだけ言っておいて白音さんをまた眷属に引き戻すというのは

あまりにも格好がつかないし、黒歌さんは本人が承諾するとは思えない。

 

そう考えていた俺の目に飛び込んできたのは、思いもよらない人物だった。

俺が選択肢から外す程度には、彼女にはこの件に関わってほしくない人物。

そんな彼女を、兵藤の奴はいやらしい手つきで腰に手をまわしながら

部屋の中に案内してくる。

 

 

「……紹介するわ。私の新しい『騎士(ナイト)』。牧村明日香よ」

 

 

…………俺の目の前が、一瞬で真っ黒になった。

兵藤にセクハラされてることもそうなんだが、姉さんが、よりにもよって姉さんが

こんな奴の提案を飲んだという事に、俺は目の前の現実が受け容れられなかった。

 

「ど、どう言う事だこれは!?」

 

「どうもこうも無いわ。イッセーから聞いて、そこで決めたのよ。

 

 『あなたを私のものにするならば、あなたの心を繋いでいるものを私のものにすればいい』。

 

 正直、神器の一つも持っていないし朱乃のように特殊な力があるわけでもない

 ただの一般人相手に『騎士』の駒を使うのは躊躇いがあったけれど

 これであなたが私のものになるのならば、大儲けと言っていいわ」

 

「感謝しろよセージ! 俺から部長に頼み込んだんだ。

 ああいうことするくらいには、お前この人の事好きなんだろ?

 だから、お前が部長のものになればお前はこの人と一緒にいられる。

 部長は戦力の増強が出来る。俺はハーレム王への道がさらに拓ける。

 だれも損をしない、みんな丸く収まるいい方法じゃないか!」

 

 

……なんだこれは。今俺の目の前で何が起きているんだ。

姉さんは悪魔にさせられて、グレモリーの先輩の所有物どころか

この分だと兵藤の奴が何かしでかしてくれてる様子もある。

そして俺は実質姉さんを人質に取られたようなものだ。

姉さんに悪魔の駒があるという事は、もう姉さんはグレモリー先輩の所有物にされたわけで……

 

 

……って! 問題はこれだけじゃない!

姉さんには、旦那さんや子供もいるんだぞ!?

 

「おいちょっと待ってくれ! 岩戸山で言った記憶は無いが……

 姉さんには旦那さんが……子供がいるんだぞ!?

 そっちにちゃんと説明はしたのか!? いやそもそもそれ以前に……!!」

 

「説明はちゃんとしたわよ。『いつも通り』にね。

 さ、『私の騎士』として、彼に挨拶なさい。彼もまた、私のものなのだから」

 

「……はい。私はリアス・グレモリー様の『騎士』、牧村明日香です。

 話は聞いているわ、これからリアス様にご奉仕する者同士よろしくね、『セージ君』」

 

 

……この瞬間、俺は全てを察した。そして、理解し……絶望した。

 

 

…………俺のせいだ。俺が、姉さんの事を過去の憧れとしてしまっておかなかったからだ。

 

俺が、いつまでも姉さんに縋りついていたからそこを付け入られたんだ。

 

 

俺が……姉さんから…………何もかも、奪ってしまったんだ!!

 

 

 

俺は姉さんへの挨拶を返すことも無く、人目も憚らず

ただ、ただ慟哭を上げることしか出来なかった。




何か違和感を覚えたあなた。
赤土の芸風がわかってきたところだと思います。

イッセーが「自分から頼み込んだ」と言っているけれど
その他の態度を鑑みるにやはり誰ぞの入れ知恵である可能性が高く。


さて、アンケートの方ですがかなり長い間続く形になってしまいましたが
もう2~3話ほど投稿しましたら終了とさせていただきます。
引き続き、だらだらとした形ではありますがよろしくお願いします。


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Will43. 経済特区ルキフグス Aパート

お待たせしました。
中々進みが遅いですが、よろしくお願いします。


 

「うわあああああああっ!!」

 

 

思わず、俺は絶叫した。

目の前の景色が信じられず、ただただ叫ぶしかできなかったのだが。

そして叫んだ次の瞬間、体中に何かに叩きつけられたような痛みが走る。

 

――何に、叩きつけられたんだ?

 

 

次に飛び込んできた景色は、何故だか妙に横を向いている。

あれ。これってもしかして……

 

 

「せ、セージさん!? 何があったんですか!?」

 

勢いよく扉が開く音がしたと思ったら、バオクゥが駆け込んできた。

ん? なんでバオクゥが……?

気になった俺は、凄いマヌケ面をしているような気もするが

バオクゥに聞いてみることにした。

 

「何があったは俺も聞きたい。一体ここは……?」

 

「……って、寝ぼけてるだけですか。

 ここは冥界のルキフグス領にある宿屋です。

 気を失っていたセージさんを、私達で運び込んだんですよ。

 それより寝ぼけてるだけですよね? 頭打ってないですよね?」

 

寝ぼけ……って、じゃああれは夢か。

今までで最大級に悪い夢だったよ、本当に。

夢だと安心したら、なんだか妙に疲れてきたな。

とりあえず、頭はぶつけてない事だけは伝えたが。

 

……ん? 「達」?

ここにはバオクゥ以外にも誰かいるのか?

 

 

……いや、ちょっと待て。思い出してきたぞ。

そもそもあの時、俺達はグレモリー先輩の転移魔法陣で移動を試みたはずだ。

ならば、グレモリー領に飛ぶのが筋ってもんだろ。

以前俺が間違ってフェニックス領に飛んでしまった時は、勝手に動かしたことで

設定が狂っていたのかもしれないが……今回はそうじゃないはずだ。

咄嗟のことで設定ミスをしたとしても、何でこんな関係のない場所に飛ぶんだ?

……ん? 関係? ルキフグス……待てよ、どっかで聞いたような……

 

まだ寝起きのためか考えもまとまらないうちに

また扉の向こうから足音が聞こえてくる。

複数。何人かがこっちに向かっているようだが。

 

「ん、起きてたのかセージ」

 

「!?」

 

入って来た人は三人。その顔を見て俺は驚いた。

ゼノヴィアさんもだが……安玖(あんく)巡査に氷上巡査。

なんでこの二人が冥界まで来てるんだ!?

 

「そう身構えることは無い。二人とも転移に巻き込まれてしまったんだ。

 かく言う私もなんだが、ここは人間界じゃなく冥界だからな。

 デュランダルを持っている私が、悪魔に対し睨みを利かせていたってわけだ。

 冥界の瘴気も、デュランダルで浄化している。私にもだが、彼らにも毒だからね。

 他にも、ミツザネが私達の近くにいた。今は周囲の偵察に出ているが。

 

 ……あのアーマードライダーと言う奴は便利だな。

 冥界の空気の中でも、全くものともせずに行動できている。

 私らは、そう言う訳にはいかないからな……目立ちはするが」

 

「まさかゲシュペンストに乗ったまま街中を動くわけにはいきませんからね。

 ゲシュペンストはその気になれば宇宙でも運用できるほど気密性は高いですが

 戦闘でもないのに乗り回すのには抵抗がありますし」

 

「それよりもだ。戻る手立てがない以上、行動に必要な物資も探していたんだが

 奴ら、こっちが人間だと見るや足元見てきやがった。

 魔っ貨(マッカ)なんてもんは持ってねえから、換金しようとしたらとんでもねえレートでな……

 

 ……って言うか宮本。お前、なんでそんなに身構えてやがる?」

 

普通に、超特捜課にいた時のような態度で話し始めている安玖巡査に氷上巡査。

……あれ? 俺達を捕まえに来たはずじゃ……?

俺はそれを警戒して、相手が安玖巡査や氷上巡査であろうとも警戒はしていた。

 

「さっきも言いましたけど、ここでゲシュペンストは使えませんよ。外ならともかく。

 それに、ゲシュペンストが使えない理由はもう一つありまして」

 

「こっちだってあの蟹ヤロウ(黄蟹管理官)の目が届いてねえ場所でまで

 あんな奴のいいなりに何ぞなりたくねえんでな。

 右も左もわからない場所でくらい、自分の判断で行動させろってんだ」

 

……成る程。監視の目が無いから従う必要はない、って事か。

で、ゲシュペンストが使えないのは稼働記録が残って

そこから足が付くことを危惧して……ってとこか。

 

ん? じゃあ、ここじゃ安玖巡査も氷上巡査も……

 

「ここでてめえと事を構えるなんざ、野垂れ死ねって言ってるのと同じだ。

 俺達は冥界に来るのは初めてだが、てめえは来たことがあるんだろ?」

 

安玖巡査の問いに、俺は首肯する。

まあ、来たことがあるって言っても霊体時代ではあるのだが。

その時の感覚が、どこまで通用するかは俺にもわかりかねる。

少なくとも、もう悪魔じゃない今の身体では冥界の空気は危険だろう。

 

……だが、常時デュランダルで空気清浄をするってのもそれはそれで、だ。

とりあえず、念のために記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で空気成分を調べてみることにする。

そういや、前から冥界の空気って好きになれなかったんだよなあ……

 

 

……やはり、人間の世界の空気と比べると何か違う。

俺に専門知識はそこまで無いが、記録再生大図鑑によれば地球上の大気の大半は窒素。

次いで酸素、アルゴン、二酸化炭素、その他物質と続く……らしい。

これらは水蒸気などを除いたものだ。

 

大まかに言えば、冥界の大気と人間界の大気は成分比率はそこまで変わらない。

だが、アルゴン以下の物質の中に……

地上で、人間界では性質上物質としては認められていないマグネタイトが含有されていた。

無論これを以て冥界の大気が人間にとって有毒であるとすることはできないが

そのマグネタイトが、悪魔(もしくは堕天使)由来のものであるため

それを常時浴び続けるというのは、やはり人間にとってはあまりいい影響はないだろう。

まあ、長時間居たら悪魔になる……とかは無いとは思うが。それ位、微量みたいだ。

 

……と、出力した情報をアモンにも確認を取ってもらった。

 

『マグネタイトは悪魔のみならず、堕天使や天使、果ては人間……

 もっと言えば妖怪みたいな連中にだってある、生体エネルギーだって事は話したよな?

 マグネタイトを得る手段は多岐に渡るからここではいちいち言わねえが

 今回の場合だと、微量のマグネタイトを常時取り入れている、って言う状態になるわけだ。

 確かにすぐに如何こうなるって訳じゃねえが、将来的には悪影響を及ぼす可能性が高い。

 まして冥界のマグネタイトとなれば、その大多数は悪魔か堕天使のものだ。

 マグネタイトの過剰摂取は、人間としては色々な意味で宜しくねえな』

 

アモンの言いたいことは、なんとなくわかった。

マグネタイトでなく、普通の食べ物だって一気に過剰摂取したところで

待っているのは嘔吐――リバースだ。

それを許容量を超えない範囲で次々と摂取していたら……ゆくゆくは肥満だ。

肥満だって要はエネルギーの過剰摂取でそうなっているのだから

この場合、悪魔や堕天使を形成する栄養素を多量に摂取する形になり……

 

「アモンが言うには、やはり長時間冥界の空気を吸うのは人間的にはよくないみたいです。

 要するに一気食いしても限度があるけれど、許容量に収まる程度に何度も大食いを続けていれば

 終いには……」

 

「ぶくぶくと肥えあがるって訳か。ゾッとしねえな」

 

『今食い物で例えたからついでに言うが、空気以上に気を付けなきゃならないのは飲食物だ。

 特に、冥界のものをそのまんま食ったら一発でアウトだ。

 そもそも、冥界と人間界じゃ環境が違う。生育している食物だって違うってわけだ』

 

確かに、前に凰蓮軍曹のところで特訓した時に教わった事だが

サバイバル時の鉄則として、現地の得体の知れない食べ物を食さない、と言うものがある。

まして、冥界は確かドラゴンアップルが生育するような環境だ。

あんなヤバいものが生育するとなると、他のものも推して知るべしという事か。

 

「……ヨモツヘグリ、って奴ですね」

 

「ミツザネ、帰って来たか!」

 

偵察から帰って来た光実の言うヨモツヘグリ。

黄泉戸喫(よもつへぐい)とも言い、日本はおろか海外にも類似した話は数多くある。

現地のものを食べた者は、二度と元の世界には戻れない……って話だ。

 

確かに、となると食料や飲料水はどうやって調達するんだ?

モーフィングで変えたとしても、元は冥界のものなのだから一時しのぎにもならないし……

 

「冥界ではアインストやJOKERの被害がある……と聞いていたので

 偵察に出ていたんですが、とりあえず今のところは大丈夫そうですね。

 あと、食料に関しては戦極(せんごく)ドライバーの生命維持装置が使えると思います。ただ……」

 

戦極ドライバー。あれ、そんな便利な機能もあったのか。

光実が言うには、戦極ドライバーでロックシードをセットすれば

生存に必要な栄養素などは賄えるという。

光実が使っているドライバーは個人認証されてしまったので使えないが

予備のドライバーがあるという。

 

だが、ドライバーがあってもロックシードの数に限りがあるのだ。

栄養補給に使ったロックシードは、暫く使えなくなるとのことだ。

その事を考えれば戦闘にも必須なブドウなどは使いにくいだろう。

 

「まさか、こんなところにロックシードがあるわけないですしね」

 

「あったぞ。ただでさえ足元見られた相場だったから買ってこなかったがな」

 

安玖巡査の意外な言葉に、今度は光実が目を丸くする。

そりゃあ、ユグドラシルと縁もゆかりも無いであろう冥界の市場で

ロックシードが出回っているなんて事自体

ユグドラシルの関係者でもある光実からすれば衝撃であろう。

 

「流石は、造幣局を抱えた経済特区と言う訳か。市場が随分と活発なようだな。

 この様子では、市場は市場でも闇市場って気もするが」

 

納得したようにゼノヴィアさんが呟くが、全くその通りだ。

テロリストに渡ったロックシードが、紆余曲折を経て冥界で扱われるようになったか

或いは全く別の流通ルートがあるのか。見当がつかないが。

 

「……一度、連れて行ってもらえませんか? もしかすると、戦力の増強が出来るかもしれない」

 

光実の提案に、一瞬安玖巡査も首肯しかけるがすぐに渋る。

何せ、聞くところによると足元を見られて吹っ掛けられたという。

そこに人間がのこのこ行っても、結果は同じって訳か。

 

『セージ、代われ。俺が行けば、もしかすると話を付けられるかもしれん』

 

アモンが? 確かに言う事には一理あるが、それならバオクゥでもいいような気もするが……

等と考えていると、アモンから釘を刺されてしまう。

 

『人間界でしか出回ってないはずのロックシードを扱ってるって事は、十中八九闇市場だろう。

 そんなところの交渉に、いくら荒事の心得があるって言っても

 あの嬢ちゃんだすのもどうかと思うがね、俺は』

 

「……確かに。じゃあ光実、俺も行こう。俺と言うか、アモンだが。

 だがその前に、確認を取りたいことがあるんだ。

 今合流出来ているのは、これで全員か?」

 

「そうだ。私も転移の瞬間アーシアの手を握っていたんだが

 どうやら転移の最中に離れ離れになってしまったようでな。

 アーシアや他のメンバーを探してみたが、見当たらなかった」

 

ゼノヴィアさんの話では、どうやら俺達だけがこのルキフグス領に飛ばされたらしい。

考えられる理由としては、俺達はグレモリー先輩とは何の関係もない。

だから、魔法陣での転移がうまく行かなかったのだろう。

 

……だが、そうなると白音さんは? 彼女も、もうグレモリー先輩とは関係ないはずだ。

ちょっと待て! せっかく助け出したのに、また行方不明になったってのか!?

 

「待ってくれ! 白音さんは……白音さんはいなかったのか!?」

 

「そう思って僕もさっき探したんですが……」

 

光実の返答に、俺は肩を落とすことしか出来なかった。

探しに行きたいところだが、今単独行動をとるのは危険だし

何より、人間界に戻る手立てを確保しておく必要がある。

冥界もどういう理屈かわからないが、アホほど広いのだ。分身して探すにしたって限度がある。

分身どころか、監視衛星が欲しいレベルの捜索範囲だ。

 

……それに、こっちに飛ばされる前にはクロスゲートが動いていた。

最悪の場合……

 

『セージ。今は白猫の事を考えるのはやめておけ。姉ちゃんの事もだ。

 冥界っていうだけでもアウェーなのに、人間に対して害意を持っているルキフグスの勢力下だ。

 これをどうにかしない事には、俺達の側が危ない』

 

『それに、今はいないってだけでJOKERやアインストがいつ出ないともわからない。

 現状でそうした奴らに襲われたら、面倒だぞ』

 

アモンとフリッケンにも釘を刺された。いや、もっと言えば白音さんもだが

姉さんの事も気がかりは気がかりだ。まだシャドウに寄越されたデータ読んでないけど。

シャドウが言ったことが本当ならば、急がなければならない事態だし。

 

「……だな。まあいずれにせよ、行動は俺待ちだったみたいだし、心配かけてすみませんでした。

 もう大丈夫だから、そろそろ……」

 

「あー……その事なんですがね、セージさん……」

 

どの道宿を出る必要があったため、結局全員で行動することになった。

宿代は魔っ貨を持っているバオクゥが立て替える形になってしまっている。

まともな換金が出来たら、早いところ返さないとな……

安玖巡査の話だと、まともな換金レートじゃないって事らしいし。

1魔っ貨1000円とかだろうか。だとしたら勘弁してほしい。

 

「ところでお前、一泊分だけとはいえよく俺達分の宿代用意出来たな。

 マスコミってのは、稼ぎのいい職業なのか?」

 

「そう言う訳じゃないんですけど……言っても怒らないでくださいよ?

 ここ、人間は宿代取らないんですよ……荷物扱いとかで」

 

「……予想の斜め上にクズな理由ですね」

 

……どうやら、ルキフグス領ってのはグレモリー領はもとより

フェニックス領よりも人間に対する風当たりが強い……と言うか

人間に対する権利を持ち合わせていないようだ。まさか人間が器物扱いとは。

こりゃ、確かに面倒な所に飛ばされちまったかもな……




【朗報】無理矢理眷属にされた憧れのお姉さんはいなかった【夢オチ】

【悲報】今度の誤転移先はルキフグス領【まただよ】


>ルキフグス領
拙作では造幣やっているので、その関係もあって経済活動「だけ」はやたら活発です。
ですが経済が活発という事はその分防衛にも力を割けるという事なので
この辺りは他の区域と比べると治安がいいです。
……悪魔社会における治安、ですが。
規模は下手な現魔王のお膝元よりもでかいです。
今じゃ多分グレモリーと逆転してるんじゃないかな。

……で、ルキフグスとなるとあのシスコン(実姉対象)が出てくるわけですが
こっちにもシスコン(近所のお姉ちゃん対象)が。さてどうなることやら。

現魔王とは明確に対立しているので、人間に対する扱いも保守的ではないかと思い
ミッチ曰く「斜め上にクズな理由」で人間が扱われています。
しかしこれがここの当たり前なのだから、一々キレていられない。
変えたければ、頭を変えなければ。

>面子
実はここ結構悩みました。
最初はセージ・バオクゥ・安玖・氷上・光実の予定で
次にセージ・バオクゥ・安玖・氷上・ゼノヴィアで組む。
しかし結局両方加えた大所帯。
ミッチにヨモツヘグリの件を言わせたかっただけってのもありますが
これで「現在リアス・グレモリーと何の関係もない」繋がりが出来ています。

……でもそうなると悪魔の駒抜いたはずの白音は?
と言う訳でセージが疑問に思っています。


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Will43. 経済特区ルキフグス Bパート

アンケートは次回投稿をもって締め切らさせていただきます。
長い間のご協力ありがとうございます。


「……チッ、気に入らねぇな。まるで珍獣を見るような目でこっちを見てやがる。

 俺は一応悪魔だってのによ……デーモン族とは言えな」

 

「……ルキフグスは、前の内戦で旧魔王側についていた家系ですからね。

 そのせいかどうかはわかりませんが、終戦後僻地に追いやられた家の一つでもあります。

 辺境に追いやられたのに活気があるのは、造幣局を抱えているその一点が大きな要素ですね」

 

俺の身体を使っているアモンが愚痴を零す。傍から見れば確かにバオクゥ以外全員人間だ。

見た目では全員大して変わらない――バオクゥも翼を出している訳ではないし――のに、だ。

確かに、以前訪れたルシファードやリリスとは雰囲気が違う。

そりゃああの時とは色々違うが、それを抜きにしても……

……見下されているような気が、してならないのだ。

 

そしてその理由の一つは、すぐにわかることになった。

 

「……あー、そういやそうだったわ。ここのグレイフィアとかいう女が

 サーゼクスの野郎とくっつきやがってな。それでこの家は大混乱。

 当主継承権も放棄して、実質家を捨てるような形で出奔したもんだからな。

 そのせいで戦争に負けたって説も末期にはあったらしいが……本当のところは俺も知らん。

 何せ俺が封印されたのは、その戦争が終わったすぐ後だからな」

 

アモンの言葉に、俺も思い出した。グレイフィア・ルキフグス。

魔王サーゼクスの「女王(クィーン)」にして妻、グレモリー先輩の義姉にあたる悪魔。

しかしアモンの言葉の何処までが事実かはわからないが、本当だとしたら彼女もやってくれる。

まさか、自分が「女」であろうとするために家を捨てるとは。

そのくせ苗字は名乗っているんだから、そりゃルキフグスにしてみれば

自分達の顔に泥を現在進行形で塗られている形か。

 

……そういや俺の記憶だと「ロミジュリ」みたいに持て囃されてる、なんてあったが

ロミオとジュリエット……あれ、当事者同士は悲劇で終わってなかったか?

要は、結果云々関係なくどれだけドラマチックな恋愛が出来ればいいか……ってところか。

頭の悪いカストリ雑誌でもそこまで頭の沸いた特集は無いだろ……知らんけど。

 

「……悪魔ってのは、自分の家や立場に責任を持たないものばっかりなんですか?」

 

「それを言われると返す言葉が無いな。俺だって現アモンとは何の関係もねえし。

 今のルシファーを始めとした魔王だって、その名を『襲名した』に過ぎないんだ。

 奴らに魔王としての自覚があるかどうかは、俺にもわかりかねる。ねえと思うがな」

 

「その話を聞いていると、悪魔の72柱が衰退したのは

 レーティングゲームとか何も関係なく、なるべくしてなったって風に思えてきたぞ……」

 

光実(みつざね)の質問にアモンが答えているが、その答えにはゼノヴィアさんですら

思わず開いた口が塞がらないものであったようだ。

アモンの憶測もあるとはいえ、強ち嘘でもないと思えるのがまた。

確か光実は呉島(くれしま)って沢芽(ざわめ)市のでかい家の次男坊だから

この中では一番悪魔の貴族社会に近い立ち位置のはずなんだが。

その光実が呆れるって、どれだけいい加減な人間社会のエミュレーションだよ。

 

「……そろそろ見えてきたぞ。あの市場でロックシードを見かけたんだ」

 

『……あー。こりゃまた随分と……』

 

安玖(あんく)巡査の指し示す先には、如何にもって感じの市場があった。

屋台がひしめいている中に、人――悪魔だかりも多く、行きかいは激しい。

よく映画や旅番組で見かける、雑多な売店がずらりと並んでいる、アレだ。

 

「買い物をするにしても、魔っ貨(マッカ)が無いと話になりませんからね。

 私はさっき自分の魔っ貨使っちゃいましたので……」

 

「その換金レートが問題なんだよ。俺と氷上の財布合わせてもたったの10魔っ貨だと。

 因みに3日分の食料で15魔っ貨。これは一人分の価格だからな。

 どれだけのぼったくりか、これで分かっただろ」

 

その財布の中身が少し気になったが

公務員の、成人男性の財布の中身を聞くのはあまりよくないだろう。

他人の家の冷蔵庫を覗くのと同じくらい、失礼の部類にあたる気がする。

バオクゥも財布を下に向けて振るジェスチャーをしている。

そりゃ、さっき宿代立て替えた人にこれ以上出させるのは色々マズいだろ。

俺もバオクゥの羽振りの良さについては全然聞いたことが無いし。

 

「セージ、ちょっとだけ代われ。今の冥界の為替レート、調べられるだろ?」

 

(なるほど。二人が本当に吹っ掛けられたのかどうか、調べるわけか。

 ……尤も、ここじゃ人間界の通貨なんかあまり価値が無いと思うが)

 

アモンの提案通り、俺は今日の魔っ貨の為替レートを調べてみることにした。

「記録されている情報」じゃなくて「リアルタイムで変動する情報」だから

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)にかかる負荷もいつもよりは少しばかり、大きい。

 

「うぐ……かなりあちこちの情報をリアルタイム操作してるからか……負荷が思ったより……

 精度を下げてもいいか?」

 

(構わねえ……つか俺も失念してたわ、悪い。

 今情勢不安で魔っ貨の価値も下がってたって事を失念していた)

 

あ、そうか。アインストだのJOKERだのが蔓延っているような場所の貨幣なんか

好き好んで使う奴はいないだろう。貨幣ってのは国――集団がきちんと機能して

初めて価値があるもの、と経済の授業で教わった気がする。

現状の悪魔社会においては、最悪国家転覆も起こり得るのだから。

 

とにかく、何とか魔っ貨と日本円の為替レートを引っ張り出せたが……

こりゃ、確かにひどい。

 

さっき例えで1魔っ貨1000円とは考えたが、それより酷い1魔っ貨2000円だった。

この間みたいな事態も無いので、俺も手元に現金は無い。魔っ貨にできるのは2魔っ貨程度か。

で、安玖巡査と氷上巡査の10魔っ貨。二人で2万って事は……いや、考えるのはよそう。

 

「ゼノヴィアさん……はいいや。光実、お前魔っ貨換算でいくら持ってる?」

 

「……5魔っ貨ですね。ここじゃ、呉島の伝手も利きませんし」

 

うわあ、流石お金持ちの次男坊。大の大人一人と同じくらい持ってるって事か。

ゼノヴィアさんをスルーしたのは、そう言う羽振りはよくなさそうだったからってのもある。

確かに女の子に金を出させるのは格好が悪いが

そんなものは既にバオクゥに宿代を立て替えてもらっている以上、全然説得力がない。

……いくら人間は請求されなかったとは言っても、気分の問題だが。

単純に、経済に関しては疎いどころのレベルじゃない気がしたのだ。

 

「おい、今なんか失礼な扱いを受けた気がするぞ」

 

「諦めろゼノヴィア。てめぇからは、金の匂いが全然しねえ。

 そりゃ聖職者から俗世を体現する金の匂いがする方が問題かもしれねえが

 それを抜きにしたって、てめえからは金の匂いどころか貧乏の臭いがする」

 

「……安玖巡査。それはもっと失礼な扱いなのでは……」

 

後ろでぎゃあぎゃあ騒いでいるが、何にせよ魔っ貨は全員分合わせても20魔っ貨にも満たない。

これじゃ、一人が4日食える分の食料しか買えない。

どう考えなくとも、ここで買い物をすることなど不可能だ。

 

(なるほどな。よくわかった、ありがとよセージ)

 

言うや否や、アモンは半ば強引に俺の身体の主導権を奪う。

為替レートを調べさせて、何か作戦でも立てたのだろうか?

本人曰く「俺が出た方が交渉がしやすい」らしいが……微妙に、嫌な予感もする。

ずかずかと市場を進んで行くアモンに、俺はどうしても不安を隠せなかった。

 

 

――――

 

 

アモンが安玖巡査の案内のもと真っ先にやって来たのは外貨両替の窓口。

……うーん、やっぱ人間の、それもたった一国でしか使えない貨幣が

悪魔の、ルキフグスの領地で価値のあるものには思えないんだがなあ……

 

「あん? なんだまた来たのか人間。

 どれだけ雁首揃えて押しかけてこようが、ダメなもんはダメだ。

 

 ……どうしてもっつーんなら、マグネタイトで払え。

 この機械で測定して10マグネタイトにつき1魔っ貨で買ってやる」

 

そう言って受付の悪魔が指示したのは、何か血液を採るような装置。

……あー、マグネタイトって事はやっぱそうなるか。

 

あれ? それってつまり……

 

「ここは日本じゃないが敢えて言うと、臓器のみならず血も売買は違法だぞ」

 

「マグネタイトってのは体液からも採取できる物質ですよね。

 となれば、これはつまり売血となり日本じゃ立派な犯罪です。

 ……そう言えばあの機械、曲津組(まがつぐみ)のガサ入れの時にも見ましたね」

 

だよな。いくらここが闇市場めいているとはいえ……なあ。

ポロリと零した氷上巡査の言葉は、まあ……聞かないことにした。

ヤクザの相手なんて、高校生がするもんじゃない。もっと酷いの相手にしてる気がするけど。

 

それ以前に、俺もここで血液提供する気なんかさらさらない。

そもそもの問題として、ここで採取した血をどう使われるかが不透明過ぎる。

まさか俺のクローンなんか作ったって大勢は変わらないと思うが……

 

と言うか、だ。クローン人間に神器(セイクリッド・ギア)は宿るのか?

クローンの魂がオリジナルと同一だった場合、かなり面倒なことになりうるが……

そうでなくとも、ここでの人間の扱いを考えたら

クローンを培養されたとて、まともな使い方をされるとは到底思えない。

それこそ、畜産の肉みたいな扱いをされたって不思議じゃない。

 

「そんなことさせる気なんかねえから安心しろ。こっちだってマグネタイトは貴重なんだ。

 ……それよりもだ。てめえら、こっちが人間だからって嘗めてるんじゃねえだろうな?」

 

……案の定だ。アモンの奴、受付にいちゃもんを付け始めた。

そんなことをしたら騒動が起きて面倒なことになるってのに。

 

「あ? どう見ても人げ……」

 

「いや、ちょっと待て。後ろのセーラー服とこいつは人間の臭いがしやがらねえ。

 後ろの奴はともかく、こいつは魔力もそれなりに……」

 

身分証(魔法陣)出してやるからよ、羊皮紙出せや」

 

羊皮紙。ああ、そうか。魔法陣はある意味悪魔の家紋みたいなもんだ。

それである程度の身分証明にはなるか。

 

……だが、羊皮紙ってアナクロなものを要求されたので手間取っているのか

多少窓口がもたついていたようだ。

 

「……受付窓口なんだからこういうもんはわかるところに置いとけ。

 じゃあ待ってろよ…………ほらよ」

 

アモンが羊皮紙に魔力を込めると、あっという間にアモンの魔法陣が浮かび上がる。

今のアモンとは違う、アーキタイプのアモンの魔法陣らしいが……

 

……それって、通じるのか?

 

「ハッ、手の込んだ手品だな。こんな魔法陣、見たことが……

 

 ……先輩? なんでそんな震えてるんです?」

 

アモンの羊皮紙を受け取った悪魔は鼻で笑っていたが

後ろの悪魔は顔色が見る見るうちに悪くなっていた。

どうやら、「こっちの」アモンの事を知っているようだ。

なるほど、それなら確かにアモンが出た方が話が……なのか?

 

「い、いや、俺の見間違いかもしれない。

 俺は報告に行ってるから、お前業務に戻れ。

 それとこいつは預かっておく。現物見せた方が早いからな」

 

「おうそうしてくれや。てめぇら下っ端じゃ話にならん。

 責任者……領主でも構わんぞ、出せ」

 

「は!? ちょっ、何言ってんだよお前!?」

 

走り去るように去っていく悪魔を見送るしかできなかった受付の悪魔。

ご愁傷さまと言いたいところだが、これ俺達もここで待ちぼうけになるんじゃ……

アモンはアモンで、かなりの無茶振りしてるし。

 

今一状況を読み込めていない窓口の悪魔と顔を突き合わせたまま待つこと数刻。

俺達の目の前に、銀髪の若い――見た目だけだが――悪魔が現れた。

 

「……こいつか? アーキタイプのアモンの魔法陣を寄越してきたってのは」

 

「え、ええ……ですが自分の目には人間の皮を被った、ただの悪魔にしか……」

 

銀髪の悪魔は俺の顔と手に持った羊皮紙を見比べながら、何かを考えこんでいるようだ。

俺の顔と言うよりは、明らかにアモンを見ているのだろう。

話を振ったのはアモンだから仕方ないんだが、なんか無視されているみたいで気分が悪いな。

 

「これがただの悪魔に見えるか?

 まあデーモンを知っている悪魔など、若い世代でいるはずも無いから仕方のない事か。

 過去から目を背けても、悪魔の改革など無理だというのがわからんのだろうな。

 

 ……さて、この魔法陣。ご無沙汰しておりますねえ、アモン殿。

 あの無能の魔王にいいように使われた挙句放逐され、今度は人間に取り入りますか。

 冥界の勇者がこのような体たらく……まるで蝙蝠ですねえ」

 

「ほざけ。前の内戦で俺にワンパンで斃された奴が他人の事を言えるのか。

 そして今度は姉をサーゼクスに寝取られてうじうじと自分の縄張りで当たり散らす……

 その性根、俺にワンパンで斃されたときから一向に変わっちゃいないな。

 なあ? ユーグリットの小僧さんよ?」

 

……なにこれ。いきなり険悪なやり取りが始まってるんだが。

おいアモン、まさかこんなことのために上の……しかも、さっきの口ぶりだと

こいつ、ルキフグスの直系の悪魔じゃないか!

そいつに嫌味言うためだけにあんな騒ぎ起こしたのかよ!?

 

(そうでもねえさ。俺だってここを牛耳ってるのが

 まさかユーグリットの小僧だとは思って無かった。単純に、騒動を起こせば上の……

 あわよくば、ルキフグスの関係者が出てくる位には思っていたが

 こんなところにも、冥界の人員不足が反映されているとは俺も考えが甘かったな)

 

……って事は、売り言葉に買い言葉か。となるとこのユーグリットってのは

あまり褒められた性格じゃ無さそうだな。アモンの口ぶりから大体察しが付くが。

 

「貴様……どこであのクズ魔王と姉上の事を知った!?

 ま、まさかその人間か! その人間に入れ知恵をされたか!?

 

 ……よく見ればその人間も、あの憎きグレモリーの眷属で見た顔だぞ!」

 

『冗談でもやめてくれ。俺はもうグレモリーの眷属は降りたんだ。

 出戻るつもりも無いし、そう言う扱いをされるのは些か業腹だ。

 あとアモンとは一応正式な契約を結んでる。こうなってるのは一身上の都合だ』

 

はて。俺は冥界で動いているときは顔を隠していたつもりだったが……どこでバレた?

まあ、バオクゥはともかくリーに情報流した時点でこうなるのは

遅かれ早かれ、だとは思っていたが。

 

……しかしこれは嫌な予感がする。このユーグリットとやらの矛先が

アモンではなく俺に向きかけている。

いや、アモンに矛先が向いている以上俺に矛先が向いているのも同然ではあるんだが。

 

「……眷属を降りた……だと? 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)はどうしたって言うんだ?」

 

「知らねえのか坊や? 今じゃ神仏同盟が中心となって

 悪魔の駒の摘出技術が着々と開発されてるんだ。

 日本やギリシャ、北欧の神話圏じゃ比較的低いリスクで

 悪魔の駒の摘出が可能になったって話だぜ」

 

アモンの言っていることは事実である。沢芽市で行われた会談で交換された情報や技術を基に

悪魔の駒の摘出技術は大幅に進歩。

それを各国の神話体系の下に無償ないし格安で提供しているのだ。

そんなアモンの話を聞いて、ユーグリットは突如として笑い出したのだ。

 

……そういやこいつ、さっきサーゼクスの事を「クズ魔王」って言ってたな。

だけどアモンがサーゼクスと組んでたっていう前の戦いでは「ワンパンで斃された」。

 

 

…………もしかすると。

 

「ハハハハハハハッ!! いい気味だサーゼクス!!

 他所の神如きに突破される程度の技術で、悪魔が救えるものか!!

 お前にできるのは、精々姉上を誑かす程度なんだよ!!

 姉上を誑かした罪、いずれ贖ってもらうからな!!」

 

「因みにだがな、その神が技術確立させる前は『強引にぶっこ抜いた』ぞ?

 俺はその様子を知らないが、証人と当事者ならいるぞ?

 

 ……この体の『本当の持ち主』がな」

 

アモンのその追加の言葉に、ユーグリットの狂ったような笑いは一瞬にして止まった。

もう一度やってくれって言われてもお断りする「ぶっこ抜き」。

……あれでよく、黒歌さんは後遺症も無く無事に済んだもんだ。

一応、少彦名様が診てくださったらしいが……そう何度も、奇跡が起きてたまるか。

奇跡が何度も起きるようになると、それに頼っちまう。そうなったら人としてお終いだ。

そしてあんな悪魔の駒の強引なぶっこ抜きは、人間業じゃない。あの時人間じゃなかったけど。

 

「……それは本当なのか? まさか、人間如きが。

 あのクズどものいかれた計画を頓挫させる嚆矢になる、そういう解釈をすればいいのか?

 

 

 …………人間。お前の知る情報を、このユーグリット・ルキフグスに教えろ。

 返答如何では、この地での特例を認めてやる。それでどうだ?」

 

 

……そしてそれをやった人物がここにいると聞いて、ユーグリットの目の色が変わる。

嫌な流れに、ならなきゃいいけどな……




ユーグリット登場。
彼もなんか「シナリオの都合で悪役させられてる」風に見えるんですよね。
穿った見方かもしれませんし、それを私が言えたことではありませんが。

そもそもサーゼクスとグレイフィアの婚姻が既に突っ込むべきところなのに
ルキフグス血縁者たるグレイフィアに侍従の格好をさせている。
これだけでルキフグスにとってみれば
「ルシファーではなくグレモリーに仕えさせられている」って業腹だってのに
そのルキフグスが原作では散り散りとか、死人に口なしとはよく言ったものですわな。
悪魔の駒問題と言い、死者冒涜が過ぎませんかね……(死亡確認されてないけど)

拙作では「グレイフィアが次期当主継承権とか放り出して出奔し、他のルキフグス血族も死亡ないし病床。
生き残ったユーグリットがルキフグスを纏め、造幣局としての機能を維持していた」ため
ルキフグス領は経済特区ですし、クリフォトになんぞ所属している暇はありません。多分。
その関係で原作よりは「ルキフグス家の領主」としての顔が強いです。
拙作レイヴェルにも近いですが。
……血のつながりはないけれど、リアスに似てるなあ、グレイフィア。


そして今回のコンセプトは「無責任に対する尻ぬぐい」。
ただ価値観は一般的な悪魔のまんまですので……
そして……


????「誰しもが夢を叶える権利がある、いい言葉だな。
     だが……その陰で泣いている者の事を、考えはしたか?」


>セージ組の経済事情
セージ:約4000円
安玖、氷上、光実:各約10000円
バオクゥ:約12000円(宿代)
ゼノヴィア:文無し

ゼノヴィアがこうなったのは原作仕様とも言いますが(路上でたかりやったくらいですし)
伊草さんお小遣いくらいはあげたって……
セージはいつぞやのしらいしの反動、安玖巡査と氷上巡査は世知辛い公務員。
ミッチはええとこのボンボンですから。
そう考えるとミッチはもっと持っていてもよかったかも。

>マグネタイト換金
10マグネタイトは献血1回分(ココの場合)。なのでここで稼ぐとなるとガチで命が危ない。
だけどこれは「普通の人間」の数値。この場にいる人達は怪異との戦闘経験も豊富な
「人外にある意味片足突っ込んでる」領域の人達なので成分的には5倍程度の価値。
セージはアモン(と負念)混じりなので10倍程度の価値。バオクゥは純血悪魔なので20倍。
いずれにせよ、こっちが人間の集まりなので足元を見たレート設定されているので
本来はもうちょっと稼げます。
文字通り、身を削って稼ぐわけですね。


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Will44. 悪魔交渉 Aパート

この投稿の後日付変更をもってアンケートを締め切らさせていただきます。
ご協力、ありがとうございました。


ルキフグス領に飛ばされた俺達は、活動のために市場で物資獲得のための交渉をしていたが

その交渉におけるアモンの作戦が、思いもよらぬ相手をこの場に呼び寄せてしまったのだった。

 

――ユーグリット・ルキフグス。

 

散り散りになったルキフグスの悪魔を纏め、造幣局所在地と言う地の利を活かし

ルキフグス領を経済特区にまで発展させた、凄腕の悪魔。これは俺もすごいと思う。

確かルキフグスは経済に特化した知識を持つ悪魔だと何かで聞いたから

さもありなんと言うべきか。

 

話の流れで、俺達は受付窓口からユーグリットが使っているというバーに来ることになった。

しかも、VIP席だ。当たり前だが俺はこんなところに来たことが無いので

物珍しさから思わず見回してしまう。

 

「バーのVIPルームか。内密な話をする時の定番だな」

 

「内装も、人間のそうした店とあまり変わらないみたいですね」

 

……ただ単に、あまり外に漏らしたくない話も含まれているのかもしれないが。

下に見ている人間相手にまともな交渉を、領主自らが行うってのは

そりゃあ、示しもつくまいて。

 

安玖巡査や氷上巡査が言うように、アレな組織が密談をする場合の会場としての

立ち位置もあるのだろうから。そう言う意味でのVIP席だろう。

 

「アモンをも引き連れた人間。考えてみれば、そう言う意味でも興味があるな。

 サーゼクスのいいように使われたマヌケを、どうして拾う気になったのか。

 人間と悪魔の懸け橋、とやらをやりたいのであれば

 それこそサーゼクスに取り入ればいいものを。

 アモン、僕はその人間に興味が湧いた。そいつと代われるんだろう? 代われ」

 

「言われなくともそうするつもりさ。じゃセージ、後は頼んだぞ」

 

(お、おいアモン!?)

 

ユーグリットとアモンは勝手に話を進め、勝手に俺を表に出す。

そりゃ、何だかんだで身体の主導権はほぼ俺だし、冥界の事情にある程度詳しいって理由で

俺がチームリーダーみたいな扱いになってる。

成人である安玖巡査や氷上巡査は「土地勘が無い」って理由で辞退してしまったし

バオクゥも「自分がやったら敵を味方と誤認するとかとんでもないポカしそうな気がする」

というよくわからない理由から辞退された。

光実は「自分はサポート向き」として辞退。

ゼノヴィアさんも「巡査が辞退している以上、私が立候補するのもおかしいだろう」と

結局、消去法で俺がリーダーみたいな扱いになってしまった。

あれもこれも俺が独断で決めている訳ではないのだが。

 

とにかく、俺よりこういう場に詳しそうなアモンを代わりに据えていたのだが

そのアモンからいきなりバトンを渡された。急すぎるんだよ。

 

「……全く、アモンも勝手な。

 で、質問の答えだが。俺は別に悪魔と仲良しごっこがやりたいわけじゃないんだ。

 詳細は省くが、その時の俺とアモンの利害が一致した。

 後はなし崩しなところもあるが、目的を果たすまで俺はアモンと行動を共にしている。

 アモンが俺と行動を共にしている、とも言えるが」

 

実際、あの時俺はアモンがいなかったら身体が取り戻せなかった。

何せ悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の影響で兵藤のみならず俺の魂まで悪魔化したことで

人間のままであった俺の身体に戻れなかったのだから。

それをアモンが俺の身体に憑き、一時的にでも悪魔にしたことで

半ば強引に俺の身体を取り戻した。

その際、自分の身体を消失していたアモンに俺の身体を貸す、と言う条件で。

 

……兵藤にやっていたことを、今度はアモンが俺にやるという形になっただけの話だ。

まあ、あの時はああでもしないと自分が消えるかどうかの瀬戸際だった、ってのもあるんだが。

 

「まあ、それが普通だ。人間と悪魔の交流なんて、ビジネスライクなものでいい。

 人間と悪魔で情を交すなんて碌な結末にならない。

 過去幾度、『自分が関係改善の第一人者になる!』と宣った人間や悪魔が現れた事か。

 僕もその手の台詞は聞き飽きたし、ベリアル家にもそんな戯言を抜かした奴がいたっけか。

 

 だが結果はどうだ。このルキフグスも商売の都合上人間向けの商材を扱ってはいるが

 お前達の扱いは、身に染みてわかっていると思うがな。それが答えだ。

 ……そしてそれは、悪魔同士でも変わらない。変化を是としないゼクラムが牛耳っている以上

 サーゼクスの言葉は理想論に過ぎないし、姉上は己が理想に酔い

 結果として一つ……いや二つの家を混乱に陥れた。

 呪われているんだよ、グレモリーは。

 そしてその呪いは、自分達だけじゃなく悪魔……いや、関わる全ての者に降りかかる」

 

(……よっぽど拗らせてるな。サーゼクスに姉を寝取られたのがそこまで悔しいか。

 サーゼクス本人だけでなく、グレイフィアに向ける感情にまで、憎悪の色が見えているぞ)

 

とんでもない事を言っているアモンだが、俺もそれは同意見に思えた。

これは、振り向いてもらえない寂しさを紛らわすための……

だが、それを抜きにしてもグレモリーが呪われているってのは当たってる気がしてならない。

兵藤にせよ、俺にせよグレモリーと関わったばかりにこんなことになっている。

結果論と言えなくも無いが。

 

「そんな事よりも人間。本当にアモンは、サーゼクスを倒すと言っていたんだな?」

 

「ああ。俺としてはどっちでもよかったんだが、あの魔王のやり方で人間界に干渉されて

 事件事故を起こされるのは看過できないんでね。

 だったら、冥界で大人しくしてろってのが俺の率直な意見だ。

 人には人の、悪魔には悪魔の世界がある。それでいいと思うんだ」

 

「そいつについては警察の立場から言わせてもらっても同意見だ。

 何度悪魔の不始末をさせられたと思ってるんだ。

 俺達が知っているだけでこれだけあるって事は、全世界規模だったらどうなっている事か」

 

安玖巡査の方からも同意の声が出る。

安玖巡査の――超特捜課の事案とユーグリットはあまり関係ないと思うが

人間の世界からすれば、悪魔ってだけで同一カテゴリに見做される。

その手の事案は人間同士でも枚挙に暇がないのだから。

 

「ククク……当の人間には随分と嫌われたもんだなあサーゼクス。

 だがいいのか? 転生悪魔の中には、進んで悪魔になった元人間も

 かなりの数がいると聞くぞ?」

 

「さっきと同じだ。人の世で生きられないはぐれ者が、悪魔の世界に行くのは別にいい。

 逆に、悪魔の世界で生きられないはぐれ者が、人の世界に来るのもそれはそれでいい。

 

 ……悪魔の世界の理を、人の世に持ち込んだりしなければ、だが」

 

確か、レイヴェルさんの所に新しく入った転生悪魔がそのクチだった気がする。

人にはそれぞれ事情がある。そこにいちいち踏み入るのは、それこそ野暮だ。

それを口実に、他者を攻撃したりしない限りは。

 

「……その言い分だと、悪魔が自分ルールを人間に押し付けている風に聞こえるが?」

 

「違うのか? 俺達が始末している悪魔は、軒並みそんな連中だ」

 

「……と言うか、はぐれ悪魔なんだ。どういう理由ではぐれになったかまでは知らないが

 お前達の政策のしわ寄せが、俺達人間に降りかかっている。

 こんな状況じゃ、とてもサーゼクスの政策を諸手を挙げて歓迎なんて出来ないさ」

 

安玖巡査の体験談に補足する形で、俺も意見を述べる。

実際、俺は契約者相手に妥協する悪魔なんて聞いたことが無い。

……いや、兵藤が結果論で妥協したことはあった気がするが。

 

いずれにせよ、悪魔の駒なんてものが幅を利かせ、その不始末たるはぐれ悪魔が

人間界で悪さをしてる……となれば、人間はその対応をしなければならない。

そのための超特捜課だ。大公の討伐指令? 知らんなそんなものは。

 

「……なるほどな。アガレス家が討伐指令を出しているとしても

 はぐれ悪魔が発生する前に討伐指令を出すことは出来ないからな。

 いくら転生悪魔の立場が弱いとは言っても、そこは最低限保証されている。

 

 ……そうか、それが裏目に出た形か。フフフ……そうか。

 サーゼクス共々超越者だなんだとちやほやされていても、アジュカも存外大したことないな」

 

超越者。確か、悪魔の枠に収まらない存在をそう呼ぶって聞いたような気がするが

こういう「特別扱い」って、大抵碌な結果にならないんだよなあ。

と言うか、差別の大元って基本「特別扱い」とか「特権階級」が絡んでるし。

当人に理不尽を振りかざす気がなくとも、その権威に取り入ろうとする奴はいくらでも出てくる。

そいつが理不尽を振りかざせば、同じことだ。

 

「よし、アモンを抱えている人間に免じて我がルキフグス領内におけるお前達の活動については

 それをこのユーグリット・ルキフグスの名の下に保証しよう。

 具体的には、下級悪魔と扱いの上では同じにしてやろうというのだ。

 ああ、別に悪魔の駒を使えとか悪魔になれって言っている訳じゃない。

 これ以上半端者を増やされても、正直扱いに困るんでね」

 

「ケチだな。もっと何かないのかよ」

 

「サーゼクスの首か、姉上の身柄でも持ってきてくれたのならば話は別だが

 こっちにだって示しってものがある。いきなりどこの馬の骨とも知れぬ人間を特別扱いなど

 それこそ無理な相談だ。お前達は、僕の領地に要らぬ騒動を持ち込みたいのか?」

 

安玖巡査が食い下がるが、こればかりはユーグリットに分があると思う。

どう考えなくとも、俺達はここではイレギュラーもいいところだ。

そもそも、さっさと出ていくための支度をするための交渉でもあるはずだし。

 

「いや、扱いについては別にここのパスは要らないと言うか……

 暫く、冥界で動くのに不自由しない程度の水と食料、魔っ貨の確保が出来ればいいんだが。

 具体的には、今からグレモリー領に行きたい。そこからなら、人間界に帰る手段の当てもある」

 

「ああ、人間はそういうのが必要だったな。全く面倒な生き物だ。

 こんな脆弱な生物に、なんでサーゼクスは、グレモリーは肩入れするのかよくわからん」

 

お前らだって太陽の光だめじゃないか、とは言わないでおこう。

とにかく、俺としては普通に飲み食いできる水や食料があれば最悪何とかなる。

ここからグレモリー領までの距離や方角程度の情報ならば、検索すればいい。

 

「……いや、待て。お前達は、グレモリー領に行くと言ったな?」

 

「そうだが……足を用意してくれる、なんて話じゃなさそうだな。

 今までの話の流れで、そこまでしてくれるとは思えないが」

 

……なんだ? 話の流れが、急に変わったぞ?

俺達がグレモリー領を目指しているのなら、何だって言うんだ?

 

「……そうだ、それがいい。

 人間。僕もグレモリー領に向かう事にするよ。

 姉上の身柄が欲しいのならば、誰かが持ってくるのを待つのではなく

 僕の方から出向けばいいだけの話だ。

 言うだろう?『求めよ、さすれば与えられん』とね」

 

「……なるほど、そっちにもグレモリーに用事はあるわけか」

 

理由がある。こっちは冥界での活動を保証したい。

向こうにもグレモリー領に用事がある。

そうなれば、自分が出向くことで顔パスを利かせるってわけか?

 

……しかし、少し俺には引っかかりを覚える。

そこまで、グレイフィア・ルキフグスに執着する理由。

思い当たる節があるような、考えたくないような。

 

……もしかすると、こいつは……

 

「ああ、そうさ。僕は姉上に責任を取ってほしいんだ。

 勝手に出ていき、勝手に家を……僕を捨て、勝手に呪われた血をひり出す。

 姉上は自由を、正義を成したつもりかもしれない。

 

 ……だけど、それはルキフグスに……僕にとっては、屈辱だったんだ!

 姉上は僕の気持ちを知ってなお、サーゼクスなどにうつつを抜かし!

 あまつさえ、取り返しのつかないことをした!」

 

 

……やはり。俺にも、ユーグリットの言わんとすることはわかった。

こいつも、俺と同じなんだ。

決して手の届かないものに対して、想いを募らせ、叶わぬ想いだけが積もりあがる。

そして、やがては自壊する。

 

ついこの間、ああ言う事があった矢先にこれか。

そう言う事なら、こいつの提案を飲むことにするか。

 

 

「……わかった。そっちの条件を飲もう。

 こっちとしても、冥界に詳しい者がいた方が心強いし

 何より、個人的な話だが今の話……他人事に思えなくてな」

 

 

「…………何ぃ!? 人間風情が、僕のこの想いがわかる、だと!?

 貴様如き人間に何がわかると言うんだ!

 姉上に対する、僕のこの想い! それを知った風に言われるのは業腹だ!!」

 

……しまった。完全に地雷を踏んだ。

傍から見れば理不尽かもしれないが、なまじ理解できるだけにやってしまった。

まして、今回みたいに下に見ている相手に自分の気持ちが理解できる、なんて言われた日には。

こいつにとっては、そんな安っぽい気持ちじゃないって事だろう。

 

問題は、俺にそんなつもりは微塵も無かったことなんだが……言っても通じないだろうな、これ。

だが、次にユーグリットが宣った言葉に、俺は思わず耳を疑った。

 

「大体だ! 姉上は僕のものになるはずだったんだ!

 姉上の髪、姉上の瞳、姉上の唇、姉上の乳房、姉上の臀部、姉上の……」

 

「……なに? お、お前……まさか」

 

え? なに? そう言う意味なの?

いや、そりゃ俺だって姉さんにそう言う感情が無かったって言えば嘘だし

そもそも、そう言う感情があったからこそああいうことをしたわけだし。

 

……だが。仮にも、血の繋がった姉じゃないのか?

いや、そりゃ血の繋がった妹を眷属――と言うかハーレム――に加えた前例は確かにあるが。

そう言う意味で、悪魔と人間で倫理観は異なってるのは間違いないだろう。

まして、純血が減少傾向にある悪魔だ。純血悪魔が増やせる組み合わせならなんでもいい。

そういう考え方だって、ゲスいが出来なくもない。

 

 

「それとも、お前だって僕と同じように、姉に欲情し、手籠めにしようと企んでいたのか?

 だとしたら将来有望な人間だな! 僕がやり方を教えてやろうか?

 ルキフグスとしては専門外だが、この手の事は予行演習済みだ。

 

 いや、あるいはもう既に済ませたか? だったら感想を聞かせておくれよ。

 『お姉ちゃんの具合はどうだった』?」

 

 

 

――次の瞬間、俺はユーグリットの鼻っ柱に鉄拳をめり込ませていた。




コンセプトはタイトルどおり。
マッカくれ→魔石くれ→宝石くれ→あばよ!
こう言う事されればあくまをころしてもへいきになりますとも。

>バーのVIP席
こういう話をするときには料亭と並んで定番の場所。
当然、セージは来たことが無いですしゼノヴィアも言わずもがな。
ミッチは怪しいところですが、多分無いかと(貴虎ニーサンならともかく)。
巡査二人が言うように、人間の世界のそれとあまり変わらないようです。
つまり趣味が悪い。

>バオクゥがリーダー蹴った理由
ワレアオバ。
ネタ抜きにしても、この子はチームリーダーってガラじゃないですしね……


シャドウに罪を暴露された直後に、第三者が自分の罪と似たようなことを
自慢げに話している件について。


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Will44. 悪魔交渉 Bパート

お待たせしました。
思いのほか立て込んでしまい、遅くなってしまったことをお詫びします。


冥界・ルキフグス領に迷い込んだ俺達は、人間界に戻る手段を得るために

冥界での活動を確かなものにするために、アモンの協力の元

ルキフグスの領主に対し交渉を試みた。のだが――

 

 

「大体だ! 姉上は僕のものになるはずだったんだ!

 姉上の髪、姉上の瞳、姉上の唇、姉上の乳房、姉上の臀部、姉上の……」

 

「……なに? お、お前……まさか」

 

ルキフグス領主、ユーグリット・ルキフグス。

矢鱈とサーゼクスに対し敵意をむき出しにしていると思っていたが

その実情は、実姉であるグレイフィア・ルキフグスに対し並々ならぬ想い――

 

――それも劣情も含め、抱いていたことに起因する。

 

それが故に、俺にとっては何故だか他人事に思えず、協力を申し出たのだが

人間である俺がそれを言ってしまったことが、ユーグリットの癪に触ってしまったようで

こうして怒られているのだ。

 

「それとも、お前だって僕と同じように、姉に欲情し、手籠めにしようと企んでいたのか?

 だとしたら将来有望な人間だな! 僕がやり方を教えてやろうか?

 ルキフグスとしては専門外だが、この手の事は予行演習済みだ。

 

 いや、あるいはもう既に済ませたか? だったら感想を聞かせておくれよ。

 『お姉ちゃんの具合はどうだった』?」

 

 

次の瞬間、俺はユーグリットの鼻っ柱に鉄拳をめり込ませていた。

俺が相手の地雷を踏んだと思ったら、まさか向こうも地雷を踏み抜きに来るとは。

姉さんにしたことは、責められることはあっても誇ることじゃない。

それは、俺のした取り返しのつかない事だ。それを……!!

 

 

『……アモン。まさかお前、ここまで見越して……』

 

『可能性の一つとして考慮してなかったわけじゃないさピンク。

 こいつがユーグリット同様姉に対して並々ならぬ劣情を抱いていたのは、バレバレだったんだ。

 だったら、かなり位置の近いセージをぶつければ、どっちかには転ぶだろう、ってな。

 ……とはいえ、ちょっとやり過ぎた。ユーグリットはともかく、セージには悪い事をしたな』

 

『俺が言うのもなんだがなんて無茶苦茶なプランだ。

 あとピンクじゃなくてマゼンタだ、何度も言わすな』

 

俺の中でアモンとフリッケンが何か言っているが、知った事ではない。

今の俺の中では、ユーグリットに今の言葉を取り消させることしかない。

姉さんを穢さんとする奴を、許す道理なんか何処にもない。

 

「……は、ハハッ、ハハハハハハッ!!

 いいぞ、いいぞ人間! 悪魔に向けるその感情こそ、人間と悪魔のあるべき姿だ!

 そこまでムキになるとは、やはりお前にとってその女は大切なものらしいな!

 

 人間風情に何がわかるか、と言ったことは取り消してやる!

 だが、その感情のうねりを僕のそれと同列に語られるのは、まだ納得がいかない!

 人間、そこまでのものならば悪魔の流儀で僕に示してみろ!」

 

「……御託はいいよ。こっちこそ、少しでもお前の気持ちを応援しようと思った俺がバカだった。

 今度はアモンの代わりに俺が沈めてやる。表に出ろ」

 

後ろでわいわい言っているような気がするが、今の俺にははっきりと聞こえない。

一応、最後の理性でここで暴れるのではなく

表で暴れてやろうという気持ちだけは残っていたが。

 

「いいだろう。だが、僕を失望させないでくれよ?

 もし僕のお眼鏡に適わないようであれば、お前の言うその女。

 この地に引きずり出して、転生悪魔以下の供物として扱ってやろう」

 

「……御託はいいっつった!」

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

普通に出るつもりだったが、今の言葉に我慢がならず、壁をぶち抜く形で

強引にユーグリットを外に出すことにした。

今ユーグリットを殴りつけたことで、いくらか冷静さも戻って来た。

壁の修理代が怖いが、それはあいつに出させよう。

 

――これ以上、姉さんを穢させてなるものか。

子供も産んで、平和に過ごせるはずなんだ。それをなんでこんな奴に!

 

「せ、セージさんマズいですよ! ユーグリット・ルキフグスは

 魔王クラスの能力を持っているそうです!

 言うなれば、四大魔王のうち誰か一人を相手にしてるのと……」

 

「これは俺が買った喧嘩だ。巻き込まれたくないなら下がってていい。

 それに、魔王クラスだというなら尚の事ブチのめしてやらないと。

 こいつに負けるって事は、即ち四大魔王には勝てないって事になるからな」

 

『わかってるじゃないかセージ。ユーグリットを焚きつけた俺も悪かったが。

 その伝聞が本当ならば俺が戦った時よりも強くなってるって話だろうな。

 ……だからセージ。詫びって訳じゃないが、俺の力も使え』

 

バオクゥに制止されるが、それは今の俺には燃料を増しただけだ。

姉さんを愚弄した分は絶対にわからせるし

いつかは四大魔王とも戦わないといけない、と言うか嘗められるようではだめだ。

アモン云々関係なく、俺個人が魔王に嘗められては話にもならん。

 

「……いや。人間として、こいつには言いたいことがあるからな。

 お前の買った喧嘩、俺も乗らせてもらうぜ。

 氷上、お前は被害が出ないように見張ってろ」

 

「私も乗ろう。ここまで人間を侮辱されて黙っているのも癪だからな。

 悪魔を斬るのならば、いつもやっていることだ。今更躊躇うことなど無いよ」

 

いつの間にか、話はかなり大きくなっていた。

安玖(あんく)巡査にゼノヴィアさんも首を突っ込んできたのだ。

そりゃあ、ここは人間にしてみれば完璧なアウェー。

いくらアウェーでも、好き勝手言われれば腹に据えかねる。

 

「ほう、三対一か。人間は脆弱だからね、数にものを言わせなければどうにもならない。

 丁度いいハンデだと思うよ。まあ、それでも僕に勝てるとは思えないがね。

 そう……たとえアモンが出てきたとしても、今の僕があの時と同じと思わない方がいい」

 

『……癪だが、奴の言葉はハッタリでも何でも無さそうだ。

 今の俺も本来の肉体を無くして久しいからな、あいつを一撃で斃した時ほどじゃない。

 力を貸すとは言ったが、考えなしに俺に代わったところで、奴には勝てんぞ』

 

(そこは大丈夫だ。俺に策がある)

 

今のアモンの口調から察するに、明らかに苦虫を噛み潰したような顔をしているだろう。

つまり。アモンの知っているユーグリットより

今目の前にいるユーグリットの方が強い、と言う訳だ。

確かにアモンの言う通り、考えなしにアモンに交代したところで

アモンが武勇伝として語った通りの結果になるとは思えない。

向こうだって対策の一つくらい練るだろう。

 

……それに、いくらマグネタイトで補強しているとは言っても人間たる俺の身体だ。

アモンの元々持っていた悪魔の肉体じゃない。出せる力には限度がある。

つまり、あまり言いたくないが俺の身体がアモンの足を引っ張ってしまっている状態だ。

この問題に対する解決策。それは、この間の戦いでアイデアとしては成立したが

まだ試してはいない。ぶっつけ本番だが、理論上は行けるはずだ……多分。

 

「人間と戦うのも久しぶりだからな……だからこうしよう。

 もし君達が僕に勝てたら、僕は無条件で君達に協力しよう。

 だがもし君達が僕に負けるようならば……君達の持つ『全財産』を頂こう。

 ああ、勿論物的な意味での財産に限らないよ。心の繋がりも絡んだ財産……

 

 そう、『全財産』だ」

 

『ま、平たく言えばゼノヴィア辺りは悪魔の苗床、神器(セイクリッド・ギア)持ちは神器バラして売り飛ばし。

 アーマードライダーとかも没収。

 残った肉体はバラしてマグネタイトの原料……ってとこだろうな』

 

さらりと言ってのけたアモンの言葉に、俺は軽く背筋に寒いものが走った。

そんな行為が罷り通っているのが、冥界ってところなのか。

一体どれだけ、グレモリーってところが温いのか。嫌って程思い知らされた一日だ。

 

……だがこれで、生半可な喧嘩じゃない――生き残りをかけた戦争としての意味合いが

この戦いに付与された。つまり、もう負けられない戦いだ。

そうなれば、何の手心も加える必要などない。元からそのつもりは無かったが。

 

「どうした? 最初の一撃も譲ってあげるよ。かかってきたらどうだ?」

 

「――――しっ!!」

 

「敢えて」挑発に乗る形で俺はユーグリットに飛び掛かる。

ここまであからさまに挑発してくるってのは、大体何かしら仕掛けがあるものだ。

俺でも仕掛けを仕込んだ上で攻撃を誘発させるにしても、ここまで露骨に挑発しない……はずだ。

今回も殴ると見せかけて、その実は掴みかかって記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)での検索を仕掛けているだけだ。

これだけ近くて、フリッケンのアシストもついていれば即座に結果は出るだろう。

 

『――読み通りだ、セージ。この野郎「物理反射魔法(テトラカーン)」を仕込んでいやがった』

 

『恐らく俺が「ぶん殴って」一撃で沈めたことに対する意趣返しだろうな。

 にしちゃ、仕込みが幼稚な気もするが。

 セージ、その「物理反射魔法」は一撃殴れば解ける。適当に引っ叩いて剥がしてやれ』

 

おい解き方。ここで脳筋方法を提示されるとは思わなかったが

その実俺も反射魔法の解除方法なんて知らない。悪魔の魔法は聖槍コピーで封じられないし。

仕方ないので、提示された方法の通り俺はこのままユーグリットに肉薄したまま――

 

 

――デコピンを見舞った。

 

 

「きっ……貴様ぁ!! ふざけているのか!?」

 

「今だ安玖巡査、ゼノヴィアさん!!」

 

額の痛みに耐えながら安玖巡査とゼノヴィアさんに攻撃を指示する。

ユーグリットの怒りもまあ、わからんでもないが

だったらそんな小細工なんぞ仕込むなと言いたい。

初見殺しを仕掛けたつもりが逆に初見殺しに嵌ってる感も、なくは無いが。

 

 

「おらああああっ!!」

 

「ふんっ……!!」

 

俺が立ち退くと同時に、安玖巡査の神器から放たれた火球の弾幕がユーグリットの動きを封じ。

足が止まったその隙を突いてゼノヴィアさんのデュランダルが煌めく。

即興ながら、我ながらうまくはまったと思う。

 

 

……その、はずだった。

 

 

「――どれほどの浅知恵を絞ろうが、人間風情が僕と互角に戦えるなどと思うな。

 確かに聖剣を受け太刀すれば、いくら僕でも危ないだろうがね」

 

ユーグリットは安玖巡査の弾幕をものともせず

デュランダルの一閃をわざと紙一重で躱している。

しかもその反撃として、奴の懐に踏み込まざるを得なかった

ゼノヴィアさんの鳩尾に一撃を喰らわせている。

魔力を込めた一撃だ、生身のゼノヴィアさんでは受けたダメージが……!

 

「ぐっ……くっ!」

 

「チッ。あの野郎、俺の火球弾幕が堪えている様子がまるでなかった。

 奮発して出力上げたってのに、これじゃどぶ銭じゃねえか」

 

安玖巡査の火球攻撃。これは神器由来のものであり、投資金額に応じて威力が変わる……らしいが

あの様子で安玖巡査がケチったとは思えない。つまり、それ相応に威力のある攻撃だったはずだ。

それが効かないとなると……

 

『……あの野郎、検索結果にダミー仕込んでやがったか?

 特に炎に対する耐性は無い、と記録再生大図鑑は言ってるが……そうは見えないな』

 

「もう一度調べてみよう。フリッケンは悪いがそっちの方を頼む。

 前衛は引き続きゼノヴィアさん……と言いたいが、あの様子じゃ一旦下げないとダメっぽいな。

 もう一度、俺達で仕掛けて検索するぞ」

 

SOLID-DEFENDER!!

 

ディフェンダーを展開し、ゼノヴィアさんと入れ替わる形でユーグリットの前に出る。

もう物理反射魔法は切れているはずだから、ディフェンダーで仕掛けても何ら問題はないだろう。

ゼノヴィアさんの容態が気になるが、ここにアーシアさんがいないんじゃ気にしても仕方がない。

それより、こっちも二の轍を踏まないように気を付けなければならない。

 

「光力を仕込んだ盾……面倒なものを用意してくれた。

 だが……僕の『とっておき』を見ても、そんな悠長な態度を取っていられるかな?」

 

「とっておき」。その言葉に嫌な予感がして、思わず防御態勢を取るが。

次に耳にしたその電子音のようなガイダンス音声に、俺は思わず耳を疑った。

 

 

BOOST!!

 

 

「なにっ!?」

 

『何だと!? 隠し玉にも程が――』

 

ディフェンダーに触れるギリギリのところまで延ばされた掌底から繰り出された

ユーグリット・ルキフグスの「最上位重力魔法(グラダイン)」。

しかも、その威力は倍加されているのだ。

いくらディフェンダーと言えど、それには耐え切れずにひしゃげてしまい

盾を貫通する形で俺達も直撃を受ける形になってしまい、魔力の奔流に吹き飛ばされてしまう。

 

 

――なんで、奴が「龍の手(トゥワイス・クリティカル)」、ないしは「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」を持っているんだ!?

 

 

それを疑問に思う間もなく、重力波の衝撃と叩きつけられた衝撃が一度に襲い掛かってくる。

何とか、意識を手放さずには済んだが……俺がいた辺りは、物凄いクレーターが出来ていた。

 

 

「……クソっ! あの電波ジジイめ……切り札とか言っておきながら

 これじゃ僕の領地まで消し飛ばしかねないじゃないか!

 こんな使いどころに困るものを寄越してきた……体のいい厄介払いか?

 だとしたら、それはそれで好都合とも言えるが……

 それにしても、よくこんなものを扱う気になるな。あの赤龍帝のガキは」

 

ぶつくさ言いながら、ユーグリットも体勢を立て直していた。

どうやら、威力があり過ぎて半ば自爆しかけたようだ。

確かに、こんなクレーターが出来るものを自分の領地で撃つわけにもいくまい。

そう言う意味では、お互いに初見殺しだったわけだ。

 

そして、この現状に悪態をついている目の前の悪魔を見て、心底ほっとした俺がいた。

何故ならば。周囲を顧みて、力を揮うべきかそうでないかをきちんと認識できている。

周りも見えず、闇雲に力を振りかざす。そんな悪魔ではないことを。

 

(……やはり姉さんを愚弄した件は許せないとしても、話は通じるかもしれないな)

 

『これは驚いた。お前、あれだけ言われてよく冷静にそこまで考えられるな』

 

フリッケンの指摘も尤もだ。温い、かもしれない。

だが……あの悪魔としての姿勢。一周回って協力を仰げるかもしれない。

俺は、やはりそう思えてならないのだ。

 

……まあそれにしても、姉さん愚弄してくれた分はもう少し殴っておくつもりだが。

 

『セージ、奴のタネが割れたぞ。

 奴は「聖なる力以外の魔法、霊的な力には滅法強いが、物理的な攻撃には弱い」。

 だから、それを補うために物理反射魔法を仕込んでいたってところだな。

 やっぱりダミー仕込んでやがったな。どういう仕掛けかはわからんが』

 

(なるほど、それで安玖巡査の火球弾幕が効かなかったわけか。

 となると……物理的な攻撃だが……下手をすれば、さっきみたいなことになる。

 

 ……よし。アモン、そろそろお前の出番だ。フリッケンも)

 

検索が止まった記録再生大図鑑からカードを引こうと、徐に手を伸ばす。

俺の中では、フリッケンが次の準備をしており、アモンも怪訝ながらも自分の出番を待っている。

手札はある。ヒントは得た。

 

後は……俺の手札構成技術だ。




ま、拳で語るってやつです。
(物理)と出来ないのは、魔法も使っているからですかね。

>ユーグリット
スペックはD×Dと言うよりはペルソナ2のルキフグス。
グラダインとテトラカーン、火炎無効はこの辺から。
逆に物理弱点なのでアモンにワンパンされたのはそう言う事情だったり。

そしてやっぱり持ってた赤龍帝の籠手。
拙作では出所不明ですが、電波ジジイ(リゼヴィム)から貰ったと
本人が零しており、ではそのリゼヴィムはどこから……? となると
一番考えられるのは……

ただ、敵が自軍戦力を使う、ってのはそれなりに燃える展開のはずなんですが
今回のこれ、なんだか燃えるというよりは想定の範囲内と言うか。
そもそもが地力の弱い奴が使って~ってお話だったので
じゃあ地力の強い奴が使えば? ってのがユーグリットが持ってるレプリカ赤龍帝の籠手、って話でしょうし。

セージにももれなく言えることなんですが、猿真似でどうにかできるもんなんですかね。
赤龍帝に頼ってしまっていて、終盤の敵のはずなのに強敵感が薄い気が。
なので拙作ではペルソナ2要素追加してますが(こっちも終盤とは言え雑魚悪魔なんですがね)。


……ちなみに、拙作ではまだ披露していませんが魔っ貨に連なる悪魔として
「あの」トラウマ技も持っています。


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Will45. 明日をつかめ、デビルマジン

今回、少し短めです。


ひょんなことから俺達はユーグリット・ルキフグスと戦うことになった。

人間の力を思い知らせてやる、そう意気込んで戦っていたが

奴は悪魔が使えないはずの「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」を使ってきたのだ。

 

これは、恐らくだが俺達人間が道具の力を使って戦うように

悪魔にとってみれば神器(セイクリッド・ギア)は道具に過ぎないのだろう。

……持ち主ごと、でないだけマシだと思うべきなのかもしれないが。

 

『セージ、奴のタネが割れたぞ。

 奴は「聖なる力以外の魔法、霊的な力には滅法強いが、物理的な攻撃には弱い」。

 だから、それを補うために物理反射魔法(テトラカーン)を仕込んでいたってところだな』

 

(なるほど、それで安玖(あんく)巡査の火球弾幕が効かなかったわけか。

 となると……物理的な攻撃だが……下手をすれば、さっきみたいなことになる。

 

 ……よし。アモン、そろそろお前の出番だ。フリッケンも)

 

検索が止まった記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)からカードを引こうと、徐に手を伸ばす。

俺の中では、フリッケンが次の準備をしており、アモンも怪訝ながらも自分の出番を待っている。

手札はある。ヒントは得た。後は……俺の手札構成技術だ。

 

 

「これ以上騒ぎが広がるのは不本意だからな、そろそろ決着つけようか」

 

「よく言うよ人間。お前が仕掛けてきたくせに」

 

ユーグリットの茶々も意に介さず、俺はいよいよ記録再生大図鑑から新たなカードを引く。

それは、ついこの間シャドウ()が披露した、俺の別なる可能性。

今まで機会に恵まれなかっただけで、可能性自体は存在していた、そんなカード。

 

 

PROMOTION-BISHOP!!

 

 

十字架を模したサークレットに、僧侶の駒を模した肩部~胸部を覆うプロテクター。

そして、羽織るように全身を覆う法衣のようなローブに、ケープ。

他の「PROMOTION(昇格)」に比べて、随分とひらひらしたデザインであり。

そして、シャドウが展開した妙に鋭利な三日月状の刃は最低限に留められていた。

 

『「僧侶(ビショップ)」? いつの間に……ああ、あの時か』

 

そう。シャドウが持っていたカードを、いくつか継承した。

その中に、このカードが入っていた。自身の液状化(MELT)同様、やってやれないことは無い。

そう考え実行したが……ま、液状化よりは楽だわな。

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の真似事か?

 だが僧侶の駒は魔力強化。魔力を持たない人間が使ったところで――」

 

「ああ。だから……こうするのさ!」

 

 

QUINT-SPREAD SUMMON!!

 

 

SWORD!!

 

 

STRENGTH!!

 

 

CHARGE-UP!!

 

 

PLASMA-FIST!!

 

 

HEALING!!

 

 

剣・力・能力の増幅・電撃拳・回復の5枚のカード。

シャドウが使った時よりも多い、五点を頂点とする魔法陣の生成には成功する。

魔法陣の中からは、クレーターを作り上げた土を塗り固めて

ひたすら硬化させた作った、物々しい鎧が現れる。側頭部から角を生やし

蝙蝠の翼のような放熱板らしきものを胸に抱く、物々しい鎧。

 

(甲次郎。お前が夢で見たっていう鎧の話、使わせてもらったぜ)

 

それはこの間甲次郎から聞いた、神にも、悪魔にもなれるという兜の話。

その兜を被ることで鎧を纏い、大いなる力を得たとされる夢。

なぜ今、この話を出したかと言うと――

 

『だがセージ。召喚をしたところでそれは中身が無ければ動かないんじゃないか?

 シャドウの時は悪霊を詰めていたようだが、今悪霊の力はそこまでは……』

 

「悪霊の力を使わなくとも、中身を詰めさえすればいいんだろ。

 あるじゃないか、うってつけなのが」

 

『……読めたぜ。俺もてっきり、お前もあれに悪霊を詰めて動かすのかと思ってたがな』

 

フリッケンとアモンに突っ込まれるが

それじゃあ普段使ってるガン・レギオンと変わらないじゃないか。

そんなものを作ったところで、使い捨ての戦力にしかならない。

ここまで手の込んだものを作る以上、使いきりとは言え消耗前提ではなあ。

 

それに、ガン・レギオンが赤龍帝の籠手持ちの魔王クラスに通じるかどうかと言えば、疑わしい。

牽制にはなるだろうが、とどめの一撃にはなるまい。

 

「フン……僧侶の力で何をするかと思えば木偶を作っただけか。

 木偶でこのユーグリット・ルキフグスを倒せるなどと……ふざけるのも大概にしろ、人間!」

 

「ただの木偶なんてデコイにもなりゃしないものを態々手間暇かけて作るものかよ……

 さあ、お前の出番だ!

 

 

 ――アモン!!」

 

 

俺の号令を発すると同時に、俺の中から何かが抜け出る感覚に襲われる。

アモンが、俺の身体を離れたのだ。

だが、本来の肉体を持たないアモンを長時間外に出せば、それはたちまち霊魂になってしまうだろう。

かつての、俺と同じように。

 

そうならないために、俺はあれを――魔神の鎧を、用意したのだ。

材料こそ、寄せ集めではあるが。

 

 

『また、俺に殴られたいようだな! ユーグリット!!』

 

「アモン……アモンだと!?」

 

 

俺が生み出した魔神の鎧の脳天部分に、赤い光と化したアモンが突き刺さる形で入り込む。

甲次郎は確か、この兜から生まれた鎧の事を

 

 

――神にも、悪魔にもなれる兜から生まれた鎧。

  それを人が被り、人の頭脳を加えることで完成させる。

 

 

そう、語っていたか。

 

言うなれば、この魔神の鎧は魔神甲(まじんこう)……いや、少し言いにくいし語呂が悪いな。

ならば、魔神の(おう)とも言うべき……

 

「セージ、こいつは中々ご機嫌じゃないか! この鎧、名前が無いのならば俺がつけてやる。

 魔神皇(まじんのう)……いや、この名前はダメだな。嫌なことを思い出す。

 魔神剛(まじんごう)……そう! 今からこの鎧は魔神剛(マジン・ゴー)! 魔神剛アモンの威力、とくと見よ!!」

 

魔神剛……うん、召喚するときにもいい。その名前に異存は無い。

魔神剛の力を得たアモンをアシストする形で、俺も戦列に参加する。

 

「まずはこいつだ! デビルスマッシャァァァァァ……パンチ!!」

 

魔神剛アモンの右腕に、スクリューのような刃が展開される。

そのまま右手を振りかぶり、刃を回転させながら、腕を撃ち出す。

 

 

……どう見なくても、ロケットパンチだ。

確かに僧侶の力で召喚を行う際、カードを媒体にし召喚対象の力を発現させるが

その召喚結果までは、俺も事細かには把握できない。だからってこれは……

アモンが入った影響もあるかもしれないし。

 

 

ドリルを合わせたロケットパンチなんてロマン全振りな攻撃は、ユーグリットに突き刺さるなり

回転はさらに増し、あっという間にユーグリットを吹き飛ばしてしまう。

いくらユーグリットが物理的な攻撃に弱いからって、こりゃかなりの威力だ。

 

……なのだが、そう手放しでも喜べない実情があった。

 

「セージ。今の一撃だが、そう何度も撃てねぇな。

 ご機嫌なのは間違いないが、威力にガワの材質が追いついてねぇ。

 ま、それに耐えうる材質なんざそれこそ超合金みたいなもんになるかもしれねぇがな」

 

簡単に言ってくれる。確かに冥界を探せば超合金みたいなものの一つや二つ、あるかもしれないが。

それを都合よく調達するにしても……いや、記録再生大図鑑とモーフィングなら出来るか。

ただ、俺がその材質について知らないと作るのが面倒ではあるが。

 

とは言え、デビルスマッシャーパンチを放った魔神剛アモンの右腕は

見るからにヤバいくらいにはスパークしている。

いくら威力があっても、自壊しかねないものを撃っているようでは

さっきの赤龍帝の籠手を使ったユーグリットと大差ない。

 

継戦能力について危惧しているが、再生能力を持たせた上でこれである。

回復のカードを混ぜたのだから、再生能力は備わっているはずなのだが。

再生で追いつかない程の自壊をするほどパワーがすごい、とも取れるか。

 

 

「ぐ……お、おのれアモン……二度も殴るとは……

 姉上にもぶたれたことがないのに……!」

 

「ハッ、殴って何が悪い? ぶたれもせずに愛される奴なんかいねぇと思うがな?

 それはつまり、てめぇがグレイフィアに愛されてねぇって事だよ。ユーグリットの坊や」

 

魔神剛の力を得たからか、アモンが少し調子づいたようにユーグリットを挑発する。

とは言え、あのタイプはこの手の挑発には乗りやすい。

俺だって、同じこと言われたらどうなるかわからないし。

 

「ほざくな、悪魔の裏切り者がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「裏切り者は、裏切り者らしく力を揮わせてもらうぜ……

 ……デビルレイッ!!」

 

今度は魔神剛の鎧の目にあたる部分から凄まじい威力の光――ビームを撃ち出す。

アモンに体を貸していた時に使った熱光線(デビルビーム)と違い、貯めが無い。

それより、悪魔のアモンが光の力を使えたことに驚きだが。

これも、魔神剛の鎧の力なのだろうか。

 

「まだまだ! デビルミサイル!!」

 

今度は魔神剛の鎧の腹部分からミサイルが撃ち出される。

中身がアモン以外空洞だからこそ出来る業だろう。

ミサイルなんて質量兵器どこで生成しているんだ、って疑問はあるが。

3Dプリンターでも内蔵しているんだろうか。そんな馬鹿な。

 

……にしても、シャドウが召喚したアナザータナトスもそうだったが

明らかに素材に使ったカードよりも武器や技の数が多い。

アナザータナトスは量で、魔神剛の鎧は質で。

それぞれ中身が強力だからこそ、これほどまでの力を発揮しているのだろうか。

 

……だとしたら、今までの戦車(ルーク)騎士(ナイト)より扱いは慎重になるべきか。

それこそ、ディーン・レヴ並に危険な代物だ。

 

「セージ、仕掛けるぞ! デビルスライサー!!」

 

アモンから投げ寄越された両刃の長剣。ずしりと来るそれは

元々魔神剛の鎧を土くれから作ったことなど彼方に忘れ去ってしまえるほどの作りであった。

僧侶への昇格は、自分自身の力は殆ど強化されないらしく

今の俺には些か持て余してしまいそうな剣だが、何とか両手で握りアモンの攻撃に合わせる形で

俺もユーグリットに斬りかかる。

 

「ぐっ……ちょこまかと……人間め、アモンめェェェェェェェェ!!」

 

魔王クラスの相手らしいが、その魔王クラスに比肩したアモンが自由に戦えている。

俺はアモンのアシストに入る形で、この戦いを支えることにする。

 

しかしこの戦いの余波、ゼノヴィアさんや安玖巡査が入る余地がなくなりつつある。

やはり、魔王クラスと言うのは伊達では無いという事か。

早急にケリをつけたいところだが、どうやらそうも言っていられない。

 

――その原因を、俺は後方で防衛についていた氷上巡査と光実(みつざね)から聞かされることとなった。

 

 

「みなさん、大変です! 上空に重力震反応を感知しました!」

 

沢芽(ざわめ)市にアインストが現れた時と同じ反応です、しかも同等規模が来ているみたいです!」

 

 

アインストの大群。果たして、ユーグリットを相手にしながらそれを捌けるか。

冥界がアインストの襲撃を受けている。それは事実だと再認識するとともに

その上空に現れたアインストは、間違いなく沢芽市で相手取ったのと同程度の規模であった。




本体が僧侶の召喚を使うと、こうなります。

>魔神剛の鎧
番外編で甲次郎を強引にでも出した理由。
言うまでもなく元ネタはマジンカイザー。
なぜこうなったかは初代テーマの「デビルマシン」ってフレーズに心打たれて。
間違いなくデビルマン意識してるよね? と思いはしたけれど
別にデビルマンの歌はアニキじゃないしなあ、とも思い。
そりゃあ、デビルマンとマジンガーは切っても切れない縁があるけれども。

魔神皇って名前に嫌悪を示しているのはアモン繋がりのif.ネタ。
だからって魔神剛(マジーン・ゴー)はどうかと思いつつも
マジンガーっつったらこれしかないと思いこのまま通し。

材質が材質なのとセージがまだ僧侶の力に慣れてないので
現時点のアモンカイザーは本家マジンカイザーに比べると明らかに弱いですけど。
セージもダブルマジンガーブレードやらされてますが、能力ブーストかかってないので
精々気を引く程度しか扱えてないです。

……そして、多分関係ないけれどここでマジンガーの因子を出したことで
また一つニャルラトホテプ特効が生まれました(スパクロ話)。

マオウガー? はて。


>悪魔が神器を使う
人間がアーマードライダー使うようなものなのかもしれませんが、それにしたって。
認証システムはあれど独立してるアーマードライダーシステムと違って神器はそれそのものが
人間と同一(人格が同一視される程度には)ですから
道具感覚で使うって事は、即ち人間の扱いなんざ……

……やっぱ悪魔クソだな。


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Will46. 「かつて」からの襲来 Aパート

お待たせしました。
多忙やら体調やら諸々重なってました。

おまけにリアルは酷いことになっているし、だからさあ……


俺達とユーグリットの戦いは、アモンを召喚したことで優位に立っていた。

しかし、その最中ルキフグス領上空にアインストが現れたという報せが入る。

冥界もまた、アインストの標的に変わりはないのだ。

 

「……人間。命拾いしたな。

 アインストが現れた以上、最早お前達等に構っている暇は無い」

 

言うや否や、魔法陣を展開し姿を消すユーグリット。

見方によっては、これ幸いとばかりに逃げ出したとも見えるのが何とも。

それ位、アモンの力で優位には立てていたのだ。

 

『……どうする、セージ?』

 

フリッケンの質問に対する答えは、俺の中にはいくつかあったが

どうやら俺の答えは顔に出ていたようだ。

 

「お前がお人好しだってのは薄々思っちゃいたがな。その上で言わせてもらうぞ。

 ……っざけんな! 今の戦いと違って、今度は俺にしてみれば

 骨折り損どころか金をドブに捨てるようなもんだ!

 誰が好き好んで、ガラクタに投資しなけりゃいけないんだ!」

 

「私も、安玖(あんく)巡査の意見に賛成だ。

 いや、確かにアインストも危険だし人間の敵である以上、戦わなければならないのもわかる。

 だが、そのために結果論でも悪魔を救うと言うのは、やはり私には承服しかねる。

 入国のために名義を借りたにすぎないが

 私としても世話になったシスター・グリゼルダの顔に泥は塗りたくない」

 

今度は逆に、安玖巡査とゼノヴィアさんがアインストとの戦いに難色を示したのだ。

そりゃ、ここでアインストと戦うというのは結果として悪魔を助けるということだ。

そうなればゼノヴィアさんは元々悪魔祓いだから主義に反する。

安玖巡査だって超特捜課として守っているのはあくまでも人間。

人に危害を加えかねない悪魔を守る道理なんか、何処にもない。

たとえここが、日本国憲法の適用外の地域だとしても。

 

「氷上。お前もこんなことにゲシュペンスト使うのはやめとけ。

 ゲシュペンストの補給線が確保できてるか怪しい現状、燃料を無駄遣いして

 いざって時にゲシュペンストが動かせない、なんてのは困るからな」

 

安玖巡査に釘を刺される形で、氷上巡査も黙り込む。

氷上巡査も割と人がいいから、ゲシュペンスト出すつもりだったのかもしれない。

ただ、これに関しては俺としては安玖巡査に賛成だ。

補給が確保できていないから、ユーグリットに頼み込んでいたわけだし。

 

「アオバさん、あなたはいいんですか?」

 

「……正直、別にルキフグスの悪魔を助ける義理も何も無いんですけどね。

 強いて言うなら、折角生き延びた純血悪魔がアインストに壊滅させられるのは

 ご愁傷様、ってのと……魔っ貨の造幣が効かなくなったら経済面で大混乱おきそうかな、とか」

 

……ん? それ、結構ヤバい奴じゃないか?

光実(みつざね)に質問されたバオクゥの言う通り、ルキフグスは造幣を一手に担っている。

他にもあるのかもしれないが、造幣や経済活動の音頭を取っているのが

今俺達がいるルキフグス、とは聞いている。

ここが潰れたとなると、ただでさえ法が整備されているかどうか危うい冥界が

さらに世紀末じみた事にならないか?

 

魔神剛の鎧の制限時間の問題もあり、俺はアモンに目配せして、一旦アモンを俺の身体に戻す。

そしてすぐさま、俺は騎士(ナイト)昇格(PROMOTION)を果たし、マシンキャバリアーを呼びだす。

 

「おいセージ! 今の話聞いてたのか!?」

 

「ええ。その上で俺は行きます。来てくれ、などと言うつもりは無いですし

 俺に強要できる権利は無いですから。ただ、それは逆にいくらお二人が超特捜課でも

 俺に強要ないし命令できる権限はもう無いと思いますよ」

 

「……確かに、今宮本君は超特捜課を実質クビになってますからね」

 

……うっ。今までは一応抜け穴的に給料もらえてたけど、今後もらえないって事か?

そうなると、ちょっと身の振り方考えた方がいいかもしれないな……

ただでさえ、最近入り用な事が増えているってのに。

 

「……ともかく。ここでルキフグスが潰れられると冥界が無法地帯になりかねません。

 そうなったら悪魔が安住の地を求め、人間界への攻撃的干渉が今以上に激化しかねません。

 見たでしょう。人間を資材か何かとしか思っていない、あの悪魔の在り方を」

 

「……悪魔としてはフォローしたいところなんですが、否定しきれませんね」

 

バオクゥも匙を投げた、あのルキフグスでの悪魔の在り方。

あれが通例なのかもしれないが、だとしたらあんなのが人間界に流れ込んだら。

そう思うと、ゾッとする。

そうさせないためにも、悪魔には冥界で大人しくしてもらいたい。

そのためには、冥界から追い出す形になりかねないアインストはどの道、邪魔だ。

それに、冥界を襲撃したアインストが次に狙うのは、恐らく……

 

「……燻されて人間界に出てこられるよりはマシ、って訳か」

 

「それに、冥界を潰したアインストがそのまま大人しくしてるとも思えませんしね」

 

二人の巡査は、俺の言わんとすることを把握してくれたようだ。

ゼノヴィアさんも、渋々と言った形ではあるが協力してくれるようだ。

 

「では、僕とセージさん、アオバさんで先行しましょう。

 幸か不幸か、襲撃地点からはそれほど離れてませんし」

 

光実のローズアタッカーと、俺のマシンキャバリアー。

二台のバイクで先行して、アインストと戦うという流れになるだろう。

バオクゥには、マシンキャバリアーの客車部分に乗ってもらう。

 

「知っていると思うが、デュランダルではアインスト相手には分が悪い。

 私もすぐに行くが、戦力としてはあまり期待しないでほしい」

 

「なに、俺達で始末をつけてきますよ」

 

と、偉そうに言ったはいいが。

実際のところ、レジセイアと呼ばれる上級クラスと出くわしたら

ここの全員の戦力を集めても辛いかもしれない。

今のところ確認しているレジセイア級は、カテレア、クルゼレイ。

うちカテレアは既に倒している。だがそれも俺達だけの力じゃない。

大日如来様や天照様、そういった方々の力を集めてのものだ。

そうなると問題は、カテレアと同等以上の力は持っていることが安易に想像できるクルゼレイだ。

こっちは倒せていないから、今回出てきたって不思議じゃない。

薮田先生が抑えなかったら全滅していたかもしれない、七姉妹学園(セブンス)での記憶が蘇る。

果たして、もし現れたのならば薮田先生抜きで戦えるのだろうか。やらねばならないが。

 

「そうだな。こっちだって無駄遣いはしたくねぇんだ。お前らでやれるんならやってくれ」

 

「後方支援くらいは出来ると思いますので、後はお願いします」

 

安玖巡査ら三人に見送られる形で、俺達はバイクで先行して都市部に戻ることにした。

そうだ、何にせよ今いる戦力だけで戦わなければならない。

 

 

――――

 

 

やはりと言うべきか、アインストは悪魔が集中している都市部目掛けて侵攻していた。

インベスと違い、理知的に進軍しているのは今までの戦いでも明らかだ。

毛色の違うラスト・バタリオンと言っても過言ではない。

 

「何とか、数を減らしましょう!」

 

「そう言う事なら、砲撃で支援しちゃいます!」

 

光実――龍玄のブドウ龍砲、バオクゥの連装砲。

そして、バオクゥがマシンキャバリアーから降りたことで使えるようになった

マシンキャバリアーに搭載されている単装砲。

それらの攻撃を集中させ、上空にいるアインストの集団目がけ砲撃を開始する。

 

〈ブドウスカッシュ!〉

 

「これは……よく見えますねぇ!」

 

「よし……撃てぇぇぇぇぇっ!!」

 

態々接近戦をする理由も無い。市街地を守る義理も無い。

そりゃ被害は最小限に食い止められればそれに越したことは無いが。

だが、優先順位はアインストの撃退だ。

そう言う事ならば、遠距離からの高火力攻撃は理に適っているはずだ。

 

……しかしそれも、当たれば。の話である。

翼の生えたアインストクノッヘン――骨の翼で、どうやって飛んでいるのだろうか――は

その機動力でこちらの攻撃を回避し、こっちに向かってきている。

そうなれば、今度は白兵戦にもつれ込んでしまう。

 

それにしても、アインストが襲撃してきたというのにここの悪魔の大半は逃げ惑ってばかりだ。

まるで、人間と何ら変わらない。本当に悪魔の優位性ってあるのか?

そう疑問に思えてならない。

何の戦う力も持たない人間ならいざ知らず、魔力と言うものを持っている悪魔が、だ。

少なくとも、人間より強いのは間違いないはずなのに。

何故こいつらは戦わないのか。自分の住処を守る気は無いのか。

 

 

……そう考えると、俺達がこうして戦っているのが酷く馬鹿らしく思えてならない。

 

 

『ここの悪魔は当てにならねぇ! セージ、もう一度俺を召喚しろ!

 言わんとすることはわかるがな、戦うっつった手前勝手に降りることは出来ねぇし

 そもそも、奴らが既に俺達を狙っているんだぞ!』

 

 

――アモンの言う通りだ。

ここの悪魔がどうであれ、アインストってのは俺達にとっては間違いなく、敵だ。

ここにいる働きバチ程度を倒したところで影響は無いだろうが

それでも、放置していい理由にはならない。ここを破壊されたら長い目で見て困るのも

事実ではあるのだし。

 

さておき。奴らに接近されたら、マシンキャバリアーでは戦いにくい。

それに、魔神剛の鎧ならばある程度は遠距離にも対応できる。

俺自身の強化が甘くなるが、それよりもアモンが戦える方が重要だろう。

 

その支度を整えるために、俺は再び僧侶(ビショップ)へと昇格した。

 

 

PROMOTION-BISHOP!!

 

 

俺が再び纏うは、聖職者を思わせる十字架を模したサークレット。

僧侶の駒を模した肩部~胸部を覆うプロテクター。

そして、羽織るように全身を覆う法衣のようなローブに、ケープ。

 

防御には期待できないが、俺自身の戦闘力よりも

これから召喚するものの戦闘力の方が本命である。

 

 

QUINT-SPREAD SUMMON!!

 

 

SWORD!!

 

 

STRENGTH!!

 

 

CHARGE-UP!!

 

 

PLASMA-FIST!!

 

 

HEALING!!

 

 

「行くぞアモン! 魔神……剛(マジーン・ゴー)!!」

 

アインストの攻撃で崩れた瓦礫や、土を利用して魔神剛の鎧が形成される。

アモンがそれに憑依することで、赤いマントのような翼をたなびかせ

青黒い(くろがね)の城を思わせる魔神となるのだ。

 

 

「――来るぞ!!」

 

 

魔神剛の鎧を纏ったアモンの号令と共に、上空からアインストクノッヘンの軍団が降下してくる。

龍玄とバオクゥの対空砲火を掻い潜りながら、そうしてやって来たものは

アモンによって悉く鏖殺されていく。俺が相手取っているのは、専らそれらの撃ち漏らしだ。

正直、魔神剛の鎧を召喚するので結構な力を消費するのだ。

そのため、アモンに頑張ってもらわないと元が取れないのだが

その辺はアモンが元々強いのもあって何とかなってくれている。

 

魔神の眼光(デビルレイ)ッ!」

 

魔神剛の鎧の眼から放たれた一条の光が、アインストの群れを薙ぎ払う。

悪魔特効の影響は全く無いが、それでもアインストを次々と撃ち落としていくその光は

間違いなく、今の俺達の中では頭一つ抜き出た威力を誇っていた。

 

……いや、アキシオン・バスターみたいな規格外は置いておくとして。

 

アモンの撃ち漏らしを、光実とバオクゥが各個撃破していく。

俺はと言うと、レーダーやらなんやらで指示を出す立ち位置に落ち着いている。

とは言え、アインストはレーダーへの映りが悪いので要らん力を使っているのだが。

俺が前線に出たところで、今の俺では豆鉄砲程度の威力しかできない砲撃や

碌な防御力を発揮できないディフェンダーしかないのだ。

砲撃もだし、薄っぺらな防御力でタンク役が出来るかと言われると。

 

それ位、魔神剛の鎧の召喚や維持に力を使っているため

他の能力――特に、SOLIDやEFFECTと言った記録した能力を行使するタイプのもの――は

初歩的なごく一部を除いて満足に性能を発揮できないのだ。

 

……これ、単純に俺の力不足だな。凰蓮(おうれん)軍曹に指摘された事でもあるだけに

まさかこの期に及んで実際に問題として浮き出て来るとは。

鍛え直しが必要だな、これ。

 

魔神激弩鉄拳(デビルスマッシャーパンチ)!!」

 

飛来してくるアインストクノッヘンが打ち止めになり

次に襲来してきたのは強固な装甲を誇る、アインストゲミュートやアインストアイゼン。

それらに対抗すべく、アモンも一撃の威力が重い

あのコークスクリューロケットパンチを繰り出して攻撃する。

光実とバオクゥは、アインストの動きを止めるべく牽制のための射撃に専念している。

あれらには、ブドウ龍砲もバオクゥの砲も決定打にはなっていないのだ。

 

(今は何とかなってるが、流石にあの規模をこれ以上の密度で来られるときついな……)

 

アインストの何が厄介か。それは単に、その底が知れない部隊の展開力だ。

インベスも一応元が存在する生物である以上、ある程度の限界はあるし

反社勢力などの人間を主体とする軍団は言わずもがな。

酷い話だがJOKERだって基になる人間には限りがある。

例外は、その兵力の出所が未だにわからないラスト・バタリオン位だが

それだって元英雄派構成員は打ち止めになり得る。

 

だがアインストはそのあたりが全くの不透明で、どうやって殖えているのかすらわからない。

何せ、生物かどうかすらの判別が未だについてない連中なのだから。

アインスト絡みの問題を解決するには、禍の団のトップであるオーフィス。

――もとい、ウンエントリヒ・レジセイアを斃さない限り

末端のアインストは無限に沸き続ける。

今まで撤退しているのだって、向こうが戦略的に戦闘続行する理由がなくなったから

それに伴って攻撃の手を止めただけで、結果として見逃されているようなものだ。

生き残れば勝ちだが、それではジリ貧は間違いない。

 

 

……だが。今回に関して言えば、どうやら俺達は勝てたようだ。

少なくとも、ジリ貧の戦いをこれ以上する必要がなくなったのだ。

レーダーに、アインストとは違う軍勢が映ったのだ。




今更ですが、セージの僧侶形態の装飾モチーフは仮面ライダーイクサだったりライブだったり。

>魔神剛の鎧のルビ
悪ノリ。無駄な原作再現とも言いますが。
絵面的にはマジンカイザーVSアインスト……なんですが、この組み合わせって
家庭機スパロボでは無いんですよね。インパクトにマジンカイザーは出てませんし。
精々、イベントでアインストが出た時にカイザーを出撃させられるDDくらい?

>逃げ惑う一般悪魔
いくら相手が下手な悪魔より強いとは言っても
人間よりは強いはずの悪魔が何故。
原作においても「自分達の力で冥界を守ろう」という気概は
あまり感じられなかったです。

で、そんな奴らを尻目に外部の存在が防衛戦闘を繰り広げる、ってのは
どういう風に映るのか……

セージが(いくら力を持っているとはいえ)持ち合わせている常識が
人間のそれなのだから、悪魔とは比べるべくも無いので
そこで齟齬が起きているってだけの話かもしれませんが。


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Will46. 「かつて」からの襲来 Bパート

ルキフグス領に突如現れたアインスト。

アインストの襲撃で被害を被った悪魔が、その立て直しのために

人間界に襲ってこないとも限らない。

そうさせないために、アインストの侵攻から悪魔を守ることにした俺達。

……はっきり言って、一切合切気乗りはしないのだが。

 

『セージ。気づいてると思うが悪魔の軍勢がこっちに来るぞ。

 こっちに仕掛けてこないとも限らん、一応警戒しとけ』

 

「悪魔の軍勢……まさか」

 

フリッケンの指摘に、悪魔の軍勢と聞いてある部隊が思い浮かぶ。

バオクゥも交えている手前、出来ればあまり遭遇したくない相手だが……

冥界にいる以上、エンカウントは避けられまいか。

 

「げっ……あれってイェッツト・トイフェルじゃないですか!

 あっちゃー……冥界って事は、あいつらと出くわす危険性を考慮しておくべきでした。

 私としちゃ、あんまり会いたくない相手なんですけどねぇ……」

 

「こりゃ事故だ。向こうだって冥界の治安維持を仕事にしている以上

 こういう場面で出くわさない方がおかしい……

 

 ……マズい! アモン、一度戻れ! 見つかったら面倒だ!」

 

「……仕方ねぇな。あいつらにいいように使われるために、この力はあるわけでもねぇしな」

 

案の定、対アインストのために部隊を展開してきたイェッツト・トイフェルに対し

バオクゥが愚痴る。俺だって面倒な相手だとは思っているが

共通の敵がいる以上、ある意味ではこれはありがたい援軍だ。

 

ただ、それも魔神剛(まじんごう)の鎧が絡むとなると話が変わる。

奴らなら、俺やアモンごと魔神剛の鎧を接収しかねない。

そうなったら、俺達の切り札が切り札でなくなる。

いくら魔王も共通の敵になり得るにしたって、それとあいつらと組むのとは話が別だ。

 

「イェッツト・トイフェル?」

 

「あ、光実(みつざね)には話していなかったか。

 奴らは冥界――悪魔政府の魔王直属の正規軍だ。一応はな。

 一応とは言え、治安維持の名目でここに派兵してきたんだろ」

 

一応。俺がそう注釈を入れたくなるくらいにはイェッツト・トイフェルと言う組織は

上司である魔王との折り合いが悪すぎる。行動隊長たるウォルベンはもとより

副指令ともいえるハマリアでさえ、魔王に対する悪感情を隠そうともしていない。

魔王、と言うよりは魔王を輩出した家系に対する悪感情かもしれないが。

少なくとも、魔王眷属と足並みをそろえているところなぞ、思い当たる節が無い。

 

思った通り、イェッツト・トイフェルとアインストの戦闘が始まる。

展開力は流石に俺達とは比べ物にならず、数の暴力に対し負けず劣らずの数を展開して

一気にアインストの軍勢を全滅させたのだ。

数が少ないとされる悪魔だが、こうして正規軍を結成できる程度には存在している。

そりゃ、人間の軍隊に比べたら構成員は少ないかもしれないけれど。

そこは、悪魔の力で補っているのだろう。推測だが。

 

 

戦闘を終え、一息ついているところにイェッツト・トイフェルの行動隊長である

ウォルベン・バフォメットがなんとユーグリットを伴って現れた。

ユーグリットがイェッツト・トイフェルの所属だったのか?

組み合わせが全く思い浮かばなかったが。

 

「これはこれは奇遇ですねぇ。まさかこんなところであなた方にお会いするとは。

 はじめましての方もお見えになりますので、改めて自己紹介させていただきます。

 私は悪魔政府直属部隊『イェッツト・トイフェル』所属の

 番外の悪魔(エキストラ・デーモン)、ウォルベン・バフォメットと申します」

 

「……それはいいが、何故ユーグリットが一緒にいるんだ?」

 

「フッ、先程のアインストとの健闘を讃えて教えてやろう。

 僕はルキフグスの、冥界の未来のために

 彼らイェッツト・トイフェルを全面的に支援することにした。

 恐らくさっきのアインストは、禍の団(カオス・ブリゲート)を脱退した僕に差し向けてきた刺客だろう。

 オーフィスはともかく、リゼヴィムの電波ジジイならそう言うみみっちい事をしそうだしな」

 

は!? こいつ、禍の団の構成員だったのか!?

その割には、アインストの影響を受けていないようだが……

 

「禍の団と言っても、一枚岩ではないことはよく知っているだろう。

 オーフィス――アインストが率いている正統派。フューラーが率いていた英雄派。

 ……そして、リゼヴィムが率いているクリフォト。

 僕の知っている限りじゃこの三つに大別できるな。

 

 他にも魔女の夜(ヘクセン・ナハト)、なんてのもあったと思うが

 オーフィスがアインストに乗っ取られたときのいざこざで

 壊滅したんじゃないかな。知らないけど。で、僕はリゼヴィムの一派についていたって訳さ」

 

「制裁に、別の派閥の戦力を使ったんですか?」

 

バオクゥが疑問に思うのも尤もだ。少なくとも、俺の知っている限りでは

その派閥同士の仲は良くはない。オーフィスらアインストの派閥と

フューラーの派閥は実力行使を伴えるレベルで仲が悪かったはずだ。

利害の不一致の結果かもしれないが、派閥同士が協力するような要素はそこからは伺えない。

まあ、フューラーとオーフィスが仲が悪かっただけの話かもしれないが。

 

「アインストにとっても、この冥界に蔓延る悪魔は邪魔だからね。

 あの電波ジジイはそこを利用してうまく出し抜いたつもりかもしれないが……

 ありゃ早晩、オーフィスに始末されるね。

 自分だって、その邪魔な悪魔の一人に過ぎないって事を理解してるかどうか」

 

どうやら、アインストに支配される前に抜け出た……と言うよりは

カテレアやクルゼレイとは違う一派にいたことで、アインストの支配下に置かれなかった。

そう言う事だろうな。そして、そこを抜け出てイェッツト・トイフェルについた、と。

 

……こりゃ驚いた。こいつ、とんだコウモリ野郎だ。

 

「久々にお会いできたことですし、会談の場を設けたい……ところですが

 我々としましても、今回あなた方にお会いしたのは想定外。準備が出来ておりません。

 それに、今我々は来るレーティングゲームの大会警備に向けての準備もありますので。

 積もる話は、またいずれとさせていただきたく存じます」

 

言葉だけは丁寧だが、その態度はチョコレートを齧っていたりと相変わらずだ。

しかしこのご時世にレーティングゲームの大会警護とは。

こうしてアインストの襲撃があるってのに悠長なもんだ。

無策で大会やられるよりはまし、と思っておくべきか?

 

「レーティングゲーム?」

 

「悪魔うちで流行ってる娯楽だよ。純血悪魔が、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)っつークソッタレな道具で

 悪魔に作り替えた自分の眷属同士を戦わせる、趣味の悪い闘技場ごっこ」

 

「インベスゲームみたいなものですか。不良どもの性質の悪い道楽という。

 インベスゲームも、流石にインベスの危険性が認知されたおかげで言うほど流行ってませんが。

 ……使う奴らは、使ってますけどね」

 

悪魔の風俗に疎い光実から再び質問を受けたので、俺は内容もあって

かなり悪し様に返答したが、納得されてしまった。

真に受けられてもなんだが、内容が内容なので別段訂正する気も起きなかった。

この場にグレモリー先輩とかがいたら、顔真っ赤にして訂正するんだろうが。

 

そうして話し込んでいると、ウォルベンに通信が入る。

どうやら、周辺被害の状況を調査していたようだが、それも一段落付いたようだ。

 

「……どうやら、被害は未然に防ぐことが出来たようですね。

 そうそう。ここを離れられるのであれば、気を付けた方がいいですよ。

 今冥界は、アインストもですがJOKERという怪物も蔓延っていて

 とんでもなく治安が悪くなっておりますので。

 悠長にレーティングゲームの大会など、やっている場合では無いという位には……ね」

 

JOKER。セブンスで、珠閒瑠(すまる)市で猛威を振るった正体不明の殺人鬼の怪人。

冥界にもそれがいる……という事は、怪人ならぬ怪魔とでも言うべきか。

 

だが、人間を基にしたJOKERでさえあれだけ危険なのだとしたら

悪魔を基にしたJOKERなど、どれほど厄介なものか。

交戦記録が無いので、憶測でしかものを語れないが……

それこそ、ジョークで済んでない。

 

「では、またいずれ。

 そうそう。一応、レーティングゲームの大会は一週間後を予定しておりますが

 その時は予定を開けておくことをお勧めしますよ。

 

 ……あのとち狂った魔王が、何かの間違いであなた方を選手登録しかねませんから」

 

ウォルベンの突拍子もない冗談に俺は思わず吹きそうになるが

あのサーゼクスやアジュカは、そう言う事をしかねない。

自分の息のかかったグレモリー先輩やらで、合法時に俺やアモンを始末する。

それ位の事はやりかねない。俺のサーゼクスやアジュカに対する評価は、そうなっている。

 

『完全にフリじゃねぇか。セージ、これは覚悟しておいた方がいいぞ。

 サーゼクスが仕向けるんじゃなく、あいつらが自分達の目的のために

 俺達をダシにするって意味も込めてな』

 

アモンの言う通り、サーゼクスが合法的に俺達を始末する、ってだけじゃなく

イェッツト・トイフェルがクーデターの下準備として俺達を選手登録させ

陽動に使うって事もあり得る。むしろ、そっちが本命かもしれない。

やはり冥界は人間には、少なくとも俺達には優しくない世界だ。

俺達に限らず、人間を、他種族を資源ないしコレクションとしてしか見ていない。

そんな悪魔の傲慢に満ち溢れた、この陰鬱な空。

 

アインストと言う外部の怪異に駆逐されるのか。

JOKERと言う内部の癌に食い破られるのか。

 

今の冥界は、内部と外部、二つの悪意に晒されている風に見える。

そういう時にこそ、為政者の真価が問われるのだろうが

その為政者にも敵は多く、現在進行形で敵を作っている。

 

 

……今の俺達にできるのは、一刻も早くこの沈む船から脱出することなのだろうな。

俺達に寄越されたのは、カルネアデスの舟板か、ノアの箱舟か。

悪魔は救うに値する存在なのか。そんなもの、俺にわかるわけがない。

唯一つ、はっきりと言えるものがあるとすれば。

 

 

――自分達が滅びに瀕しているのを、さも世界全体の問題にすり替えられては

たまったものでは無いという事だ。




公安から逃げられたと思ったら今度はイェッツト・トイフェル。
野放しの力程危険なものは無いですからね、言わんとすることはわからんのでもないですが。
その接収した力を、私利私欲で使われては。

>禍の団
現状、実質オーフィス派の一派状態。クリフォトは実質別組織みたいなもんだと思いますし。
しかし拙作ですとオーフィス派=アインスト。
これもうアインストじゃね?

>イェッツト・トイフェル
曲者だけれども、仕事をする大人の代表格、のつもり。
壊れたラジオのように和平を訴えるだけが政治家の仕事じゃないんですよ。
彼らは政治家じゃなくて軍隊ですけどね。今のところは。
ユーグリットを引き込んだり、相変わらずセージを引き込もうとしたり
戦力増強に余念がない様子。禍の団(=アインスト)とも互角に戦えているのに
これ以上の戦力を求めるのは、果たして。

>ユーグリット
クリフォトから鞍替え。現状ではセージの味方ではないけれども、真っ向から敵対するルートではない、そんな扱い。
グレイフィアに接するのに、テロリストでは都合が悪い。
この辺は黒歌の改変と同じ理由です。
おまけに魔王と敵対しかねない組織に所属。あわよくばサーゼクス始末するつもり満々。
グレイフィアを如何こうするのと、サーゼクスに対する意趣返し。
果たして一挙両得なるのやら。


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Will47. ようこそグレモリー江

そう言えば聖槍騎士団はare的な意味でもなくガチで初期設定全員中身女性だったらしいですよ
その話を聞いて驚いているのも私だ


珠閒瑠(すまる)市・岩戸山の鏡の泉に出現したクロスゲートに飲み込まれる形で

俺達は冥界へと飛ばされた。

俺達が飛ばされたのは、冥界の経済を造幣と言う立場から担っているルキフグス領。

そこでは悪魔至上の思想が蔓延し、人間などは生命体としてすら扱われていなかった。

 

それでも、俺達は当面の目的地を勝手をある程度知っているグレモリー領に定め

そのためにアモンの協力も得て領主でありルキフグスの数少ない生き残りである

ユーグリット・ルキフグスとの対話を試みる。

 

その対話は、拗れに拗れて一戦交えることになったのだが

最中にアインストがルキフグス領に発生。その対応のためにユーグリットが離脱。

俺達も悪魔を、それも人間を生命体とも思わない奴らを守ることへの抵抗感を覚えながらも

アインストへとその標的を切り替える。

悪魔領を守る戦いという事もあってか、そこにはイェッツト・トイフェルも

アインスト撃退のために進撃してきたのだった。

確執こそあるものの、当面の敵を同じくすることもあってか

俺達は彼らと諍いを起こすことも無く、戦いを無事に終えることが出来たのだった。

 

そして、俺達はイェッツト・トイフェルのウォルベン・バフォメットや

ユーグリットから、冥界においてこれから起こるであろう出来事を聞かされることとなった。

 

 

――――

 

 

――その後。俺達は当初の予定通りユーグリットの案内を受けてグレモリー領へと向かっていた。

それなりの距離があったため、乗り物――領主が乗るには些か不釣り合いである

旧式の幌馬車。悪目立ちしないためらしい――を手配してもらっての移動だったが

その移動の最中にもアインストの襲撃は起きていた。

話に聞いていた通り、冥界の治安は悪くなっているようだ。

何せ、国防にあたっているはずのイェッツト・トイフェルの防衛線を掻い潜って

俺達が狙われているのだから。

まあ、アインストは瞬間転移で移動するために防衛線などあってないようなものではあるのだが。

 

そして、道中俺達が相手取ったのはアインストだけではなかった。

アインストを退けた矢先に、今度はJOKERまでもが襲ってきたのだ。

JOKERはその性質上、都市部に多く発生するはずなんだが……

はぐれ悪魔ならぬ、はぐれJOKERか? 僻地に住んでる悪魔がJOKER呪いをしたとか?

……ま、考えたところで答えがわかるわけでもないが。

 

「……見ての通りだ。全く、悪魔として恥ずかしい限りだよ。

 願いの成就を餌に事を為すはずの悪魔が、願いに釣られる側に回るとは……嘆かわしい」

 

俺の考えを見越したわけではないだろうが、これにはユーグリットも嘆息しながら吐き捨てる。

JOKERになるという事は、悪魔の矜持を捨てているに等しいのだろう。

そりゃ、願いを叶える側が願いを叶える呪いに頼っていちゃあ、ねえ。

 

 

……だがこのJOKER。「どこから入り込んできた」?

そもそも、誰が「冥界にJOKER呪いを持ち込んだ」?

 

俺の考えが纏まる前に、俺達が乗った幌馬車はグレモリー領に差しかかった。

辛うじて置かれている検問を越え、幌馬車が領地に入ろうとする瞬間

黒い影が俺の懐に入り込んでくる。

 

「うひゃうっ!?」

 

それは黒く毛むくじゃらで、人肌よりも仄かに暖かく、ズシリとまではいわないが

存在感を感じる重さのある物体――と言うか生物だこれ!

 

しかもこの感触は覚えがある!

俺はその正体を察し、ユーグリットにバレないようにしながら

懐に潜り込んだものに話しかけた。

 

「……もっとマシな出方はなかったんですか、黒歌さん」

 

「久々に会った第一声がそれとかいけずにもほどがあるにゃん、セージ」

 

この態度は間違いなく黒歌さんだ。

だがはて。黒歌さんは俺の家にいたはず。それも母さんを守るという名目上。

 

……ん? じゃあ、今俺の家って……

 

「あ、ちょっと待つにゃん! 私がこっちに来たのにはきちんと理由があるにゃん!

 まず、家に警察が押しかけてきて大変だったにゃん。

 で、奴らの動向から只事じゃないと思って……」

 

「母さん見捨ててきたんですか」

 

「んな事しないにゃん! お母さんは蒼穹会(そうきゅうかい)? ってところが匿ってくれてるにゃん。

 で、お母さんはその蒼穹会に任せて、私も嫌な予感がしてセージや白音を追ってきたんだけど

 珠閒瑠市に入ろうとしたところで、突然光に包まれて、そしたら……」

 

蒼穹会。確か慧介(けいすけ)さんやゼノヴィアさんが所属してる組織だっけか。

超特捜課とも協力関係だけれども一応表向きはNPOだから、公安の直接の指揮下ではないから

よほど強引な手を使われない限りは安全、って事か。よかった。

……ってか、やっぱ家に公安来たのか。そりゃ来るか。

 

しかし黒歌さん。俺達を追ってきたのだとしても

暫く珠閒瑠市に外部から入ることはできなかったはずだ。

最終的には公安が入ってこられたことを考えると、外部との行き来は可能になっていたはずだが

その際に冥界に飛ばされたのだろうか?

確かに、クロスゲートは突如として現れる系のものだから

時間差で黒歌さんを飲み込んでも不思議じゃないが……

 

「クロスゲート? が現れてからこっち、前にも増して不可思議な事ばかり起きてる気がするにゃん。

 私も猫魈(ねこしょう)……ってか妖怪やって結構長い事生きてるけど、ここまで説明のつかない出来事が

 連続して起きるって早々ないにゃん」

 

「そう言うもんなのかな」

 

黒歌さんが言うには、ここまで立て続けに怪異に由来する事件が起こるなんて

過去においては殆どなかったらしい。例外は御影町(みかげちょう)のセベク・スキャンダルに端を発する

10年前に起きたとされる珠閒瑠市の事件位か? だがこれだって人間目線で見れば

3年のブランクがある事件で、連続とは言い難い位には間が開いている。

こういう所で、俺と黒歌さんとでは認識に齟齬が起きることもしばしばある。

 

……やはり、異能を用いても俺は人間か。

 

「……そこの黒猫の言う事、強ち間違いでもないかもしれねぇぞ。

 何せ、俺と氷上の知ってる限りでも駒王町での怪異由来の事件の発生頻度は高かったな。

 ただ、どうしても調査の起点が超特捜課発足からだからな。

 それ以前から怪異由来の事件が頻発していたとなるとそこはもう俺達でも知らん。

 あの領主気取りの小娘の職務怠慢だ」

 

そういや、俺も気にも留めなかったが駒王町で怪異由来の事件なんて

レイナーレに出くわすまでは噂があったかなかったか程度だったな。

探せばあるのかもしれないが、どうにも兵藤の奴が引鉄になってる気がしないでもない。

 

……まさか、な。

 

「そろそろ、その小娘の家につく頃だにゃん。

 それよりセージ。白音はどこ行ったの?」

 

「……情けない話ですが。一度合流した後、はぐれました」

 

今話すと面倒なことになりそうなので、誘拐された事実は一先ず伏せた上で直近の出来事だけ話す。

それに、俺の勘だとグレモリー領にいるかもしれないし。

案の定暴れ出そうとしている黒歌さんだったが、何とか抑え込むことが出来た。

……結果として、ユーグリットに黒歌さんの存在がバレたが。

 

「後できっちり説明してもらうわよ。あんたが付いていながらなんてザマよ」

 

「……面目次第も無いです」

 

「荷物が一つ増えたのはいいが、あまり騒がしくすると放り出すぞ」

 

身を乗り出して外を眺めると、陰鬱とした空の下に矢鱈豪華な邸宅が……

 

 

……無かった。

 

「あれ? 俺の記憶だとこれ見よがしにでかい邸宅を建ててた気がするんだが?」

 

「……そう言えば言うのを忘れていたな。グレモリー領は集中的にアインストに狙われていて

 如何にイェッツト・トイフェルと言えどもそのすべてを守り切ることはできなかった。

 その影響の一端が、グレモリー邸の倒壊だよ」

 

ユーグリットが現状を解説してくれるが、どうにもウォルベンの性格を知っていると

この現状は「わざと」とも思えてならない。

 

「ん? じゃあグレモリー家は今宿無しか?」

 

「いいや。ここから少し離れたところに、避難所的に拵えた家屋がある。

 そこにグレモリーの主だった悪魔は逃げ込んでいるはずさ」

 

ユーグリットが言い終えるのと同じくらいのタイミングで

確かに前の邸宅に比べればみすぼらしいが、人間目線で見れば

十分すぎるほどの大きさの家屋が見えてきた。ま、中までは何とも言えないが。

ガワだけ立派で中がショボいなんて、よくある話だ。

だが避難所を兼ねているとするならば大きさは必要だろう。

そっちは中の設備もある程度必要だが。

 

 

全員(黒歌さん含め)降りたと同時に幌馬車は長居は無用とばかりに帰って行った。

そう言えば転移魔法は? とも思ったが

こうしてクロスゲートが稼働している以上、使わない方がいいのだろう。

実際、俺達がルキフグスに飛ばされたのだってクロスゲートのせいかもしれないし。

冥界にもあり、かつ稼働しているという以上、影響は無視できない。

クロスゲート稼働の副産物たるアインストはこうして現れているのだし。

 

「丸腰で返して大丈夫なんですか?」

 

「イェッツト・トイフェルの警邏ルートを通って帰るように伝えてあるからね。

 道中何かに出くわしても問題は無いはずさ。

 領主と言うものはその辺のフォローも入れておくものだ」

 

まるで誰かへの当てこすりのように自慢げに応えるユーグリット。

行きは最短ルートを通ったって事らしい。護衛戦力が十分だから、だそうだ。

ちゃっかりしてやがる、全く。

 

「さて。僕らもここでうろついていても仕方がない。あのボロ屋に向かうとしよう」

 

……悪魔目線では、あれでもボロ屋なんだな。

いや、悪魔がと言うよりは……良家からすれば、か?

 

「あれだけの大きさの家をボロ屋と言い切れるとは……

 確かに、僕達と悪魔じゃ価値観の相違は拭い切れませんね」

 

「警部クラスの給料でもありゃ無理だな。柳みたく警視でどうにかってレベルだぞありゃ」

 

「……や、ルキフグス領の経済観を悪魔の基準と思われてもそれは困るんですけど。

 人間に対する価値観は、ちょっとフォローが難しいですが」

 

俺の疑問は光実がきっちり拭ってくれた。安玖巡査とバオクゥのフォロー付きで。

そういや、冥界って人間界から地下に位相としては存在しているはずなのに

その領土としては地上の何倍も広いのだそうだ。地球空洞説もビックリだな。

ここまでくると、冥界と人間界は相互に影響を与えているのではなく

全くの別世界、いや別次元と言った方がいいのかもしれない。

 

……だったら尚の事、ほいほい干渉されたくは無いんだがなあ。

人間が宇宙に干渉するように、悪魔は別世界、別次元に干渉するものなのか?

開発ってのは侵略行為だとは、誰かが言ったものなのかね。

 

あれこれ考えていると、屋敷の入り口付近で赤い髪の子供と遊んでいるギャスパーが見える。

って事は……あいつが噂に聞くミリキャス・グレモリーか。

と言うか、ギャスパー無事だったのか。よかった。

 

「ギャスパー! 無事だったか!」

 

「わっ!? あ、せ、セージさん!?」

 

俺はギャスパーを確認するなり声をかけるが、ミリキャスの方はこちらを見て警戒している。

俺に対して警戒しているのかもしれないが

どうも後ろにいるユーグリットに目線が向いているみたいだ。

 

「……やれやれ。叔父さんが会いに来たってのに可愛い甥っ子には嫌われているみたいだ。

 姉上に何か吹き込まれたかな?」

 

おどけて見せるユーグリットだが、当のミリキャスはギャスパーの影に隠れてしまっている。

まるで、初めてギャスパーを見た時のような反応だ。

そのためか、ギャスパーも警戒は解いていないようだ。

……そりゃあ、ユーグリットはグレモリーからはいいように思われていないだろうし。

なんか、ここも俺と似てるな……

 

面識のほぼ無い初対面同然に拒絶されるのも堪えるが

甥っ子に拒絶されるのも堪えるのだろうな。

今一、実感の沸きにくい話ではあるが。

そうこうしているうちに、玄関の扉を開けてグレモリー先輩が姿を見せる。

そりゃあ、ここはグレモリーの持ち家なんだからいるのは不思議では無いが。

 

「ギャスパー、ミリキャス、そろそろ……ってセージ!

 あなた無事だったのね! 近くにいなかったから心配したわよ……

 

 ……って!! あ、あなたは……!!」

 

「やあ、久しいな。我が愛しい義妹よ」

 

悪びれる様子もなく義妹と言ってのけるユーグリットだが

グレモリー先輩の態度は、さっきのミリキャスとほぼ変わらず

まるで怨敵を見つけたような態度だ。

そりゃまあ、取り巻く環境やらなんやら考えればさもありなん、か。

ユーグリットの側も、感極まったというよりは慇懃無礼って感じの態度だし。

 

「……あなたに義妹と言われる覚えは無いわよ!!」

 

「おいおい。僕の姉上は名目上は君の兄君の妻なんだ。

 ならば君は、僕にとって義妹になる。何らおかしなことではあるまい?」

 

なんか、似たようなやり取りを以前見たような気がするが。

その際も、グレモリー先輩が一方的に相手を否定していたような。

ともかく、あまり意固地になられても話が進まない。

俺はひとまず、グレモリー先輩を宥めることにした。

 

「少し落ち着いてくれ。何故彼がここにいるのかについては色々と事情がある。

 そして、その事情もあって俺達はここに来たんだ。

 出来れば、その説明のために腰を据えて話したいんだが。

 それに、そっちに聞きたいこともあるし」

 

「そ、そうね。ちょうどお茶の用意が出来たところよ。

 話は中で聞くことにするわ……他の皆も構わないわね?」

 

満場一致で首肯する。

ミリキャスの目線は冷たかったが、それよりもさらに冷たい目線を俺達は

中に入ると同時に浴びせられることになるのだった。




グレモリーも例外なく大変なことになっています。

>冥界にJOKERが現れるわけ
以前さらりと触れましたが、セージもいよいよ疑問に思いだしました。
何せ、誰かがノウハウを持ち込まないと現れるはずのないものですから。
クロスゲートさえあれば出てくるアインストとはそこが違います。
その以前触れた通り、誰かが持ち込んだからこそJOKER呪いは流行ったわけですが
それがいつ、誰の仕業かはもはや不明。
案外電波かもしれないですし。

>グレモリーとユーグリットの関係
そもそもルキフグスがグレイフィア以外……で
死人に口なしでグレイフィアの証言がグレモリーにとってのルキフグスの全て……でしたが
拙作ではユーグリットが領主として健在。でもって造幣と言う形で経済握ってる。
なのでリアス(と言うかグレイフィア)が頓珍漢なことに。
ミリキャスにも影響出ちゃってるしどうすんのこれ。

>黒歌&セージ実家
そりゃセージは強く出られない。公安来たら逃げたのはそれはそれ、これはこれ理論で
追及されてたりしてますが。
(そらセージの所に公安が来たんだから家が割れてるのだから来ないわけがない。
似たようなイベントが起きたイッセーとの違いは相手がテロリストか国家権力かの違いだけ)
現状、セージの母は蒼穹会に保護されてますが
果たして、メガテン(orデビルマン)フラグを回避できるかどうか。
回避のために黒歌をフェードアウトさせるのは、ちとできませんでした。

※7/28訂正
グレイフィアが抜けてた、なんで?
ルキフグス名乗ってるくせにルキフグスらしくないのがいけないんだ(責任転嫁)


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Will48. グレモリーとルキフグス Aパート

いろいろありまして遅くなりました。お待たせしました。


グレモリー領の郊外に建てられた仮設住宅――と言うにはあまりにも豪勢な邸宅に

俺達は招き入れられることになった。

俺達と行動を共にしているユーグリット・ルキフグスについての情報の提供と

白音さんの所在を確かめるための情報交換……の、つもりだったが。

 

「……セージ先輩、無事だったんですね」

 

「やはり! こっちに来ていたのか、白音さ……ぐえぅ」

 

俺が言い終える前に、懐に忍ばせていた黒歌さんが俺を思いっきり足蹴にして飛び出す。

ネコキックを鳩尾あたりに入れて、華麗に飛び出して一気に人型の姿を取る。

突然の事で、白音さんも対応できていないようだ。

 

「ね、姉様……苦しいです」

 

「白音! よかった、よかったわよ無事で……!!」

 

色々言いたいことはあるが、今回は黙っておくことにしよう。

元をただせば俺のせいだ。姉妹水入らずを邪魔するのも悪いし。

 

「どこか痛いところは無いにゃん!?」

 

「……苦しい以外は大丈夫です」

 

……懸念していた悪影響も、見たところは大丈夫そうだし。

ただ、白音さんに限った事じゃないがクロスゲートの影響を受けてないかは心配だが。

そういや、一番影響受けてるであろう俺もあまり悪寒とか感じないが……

 

「……僕は猫のじゃれ合いを見に来たんじゃないんだ。

 リアス・グレモリー。さっさと話を始めようじゃないか」

 

「グレイフィアは呼んだ方がいいかしら?」

 

「……姉上を同席させたら、僕が姉上について話すだけで軽く半日以上は潰せるぞ?

 姉上との話は別の機会にするから、まずは君の話を先にしたらどうだ」

 

ユーグリットの言っちゃなんだが意外な態度に、俺も驚いた。

グレモリー先輩も鳩が豆鉄砲食ったような顔で俺を見ていたが

俺もただ、頷き返す位しかできなかった。

 

……俺以上の爆弾発言かました姿からは、想像できないのだが

半日以上をグレイフィアさんについて語る、ってのもありありと想像できてしまうからな。

ここはユーグリットの言う通り、グレモリー先輩の質問を優先した方がいいだろう。

そう考え、俺達は黒歌さんを宥めてから客室へと向かおうとするのだが……

 

「ぶ、部長! こいつらは……!! セージは百歩譲っていい……いやよくねえ!!

 大体てめぇ、どの面下げてこのグレモリー領にやって来たんだ!?」

 

出たよ。別に間違ったことを言ってるとも思っちゃいないが

その喧嘩腰の態度だけはどうにかしてくれ。色々な意味で気が滅入る。

 

「私の招いた客人でも不服なのかしら、イッセー」

 

「それは…………

 

 

 …………ふ、不服だ!! セージだけでも許せねえってのに、禍の団(カオス・ブリゲート)にいるって話の

 グレイフィアさんの弟に、部長を散々邪魔した警察の奴らまでいるじゃないか!!

 部長は騙されてるんだ!! 揃いも揃って部長に要らんことを吹き込んだな!!」

 

なんと。まさか面と向かってグレモリー先輩に楯突くとは。

自分の転生悪魔――眷属を下僕呼ばわりするグレモリー先輩的に、これはマズくないか?

兵藤、お前自分の言っている言葉の意味わかってるよな?

これにはユーグリットも頭を抱えている。言わんとすることはわかるが。わかってしまうが。

 

「……奴を同席させるのはやめた方がよくないか?

 それから僕の名誉のために言っておくが、僕はもう禍の団からは足を洗っている。

 知らないのも無理からぬことだが、そこは覚えておきたまえ」

 

「……そうね。イッセー。不服ならあなたは席を外しなさい。これは命令よ」

 

「い、嫌だ! どうしてわかってくれないんだ! あいつは……」

 

屋内でぎゃあぎゃあとわめきたてれば、こうなることは必然であるかのように

奥から赤髪の壮年の男性悪魔が現れる。現当主、ジオティクス・グレモリーか。

 

「何の騒ぎだね」

 

「お父様、実は……」

 

まあ、流れとしては敢えて言うまでもあるまい。

自分の娘の眷属が、自分の娘に歯向かっているのだ。そんなことをすれば……

……ってそうだ。俺がグレモリーに命を狙われたのは

そもそも俺がグレモリー先輩に逆らったからだ。

いくらなんでも、それがわからない兵藤でもないだろう。

言うなれば、俺と同じようなことをやっているって事だ。

 

 

――ところが。

 

 

「大事な眷属を蔑ろにしてはいかんぞ、リーアたん。

 仲間外れになどせず、彼も参加させなさい。何せ彼は、赤龍帝なのだから」

 

 

…………は?

いやいやいやおいおいちょっと待て。

俺の時との対応の差 is 何?

ここで俺が出しゃばると収集がつかなくなりそうだから、言わないではおくが……

 

……どうやら、後でグレモリー先輩に確認を取らなきゃならない事例が出来たようだな。

俺の時は暗殺までされそうになったのに、今回はお咎めなしってどういう事なんだよ。

 

「そうだよ、リアス君。お父様の言う事は、きちんと聞いておくべきだ。

 僕も仕事柄、些細なすれ違いから悲劇的な結末を迎えてしまった父子を多く見ているからね。

 君には、同じ轍を踏んでほしくないんだ」

 

俺の耳にも「何言ってるんだ」としか思えなかったジオティクスを擁護するように現れたのは

これまた驚いたことに布袋芙先生。一体、今までどこに行ってたんだ?

 

「一先ず、皆無事のようだね。ホテル・プレアデスに泊まっていた生徒たちは

 皆、駒王学園で無事が確認できたのだけど

 岩戸山に向かったイッセー君達とリアス君達が見当たらなくてね。

 それでもしやと思い、冥界に来てみたら……と言う訳さ」

 

納得は出来ないが、一応筋は通っている。

とはいえ、前々からこの布袋芙先生の言う事はそんなんばっかりだが。

だが、いくら納得できなくともここで一番発言力を持っているのはジオティクスであり

その彼がこう言っている以上、無碍にも出来ないのがな。

それはグレモリー先輩も理解していたらしく、大人しく従っている。

……えらく顔には、出ているようだが。

 

「そして君は……ええと……」

 

「ルキフグス家現当主ユーグリット・ルキフグスです。いつも我が姉がお世話になっております」

 

「おお、グレイフィアの弟であったか! いや挨拶が遅れすまなんだ。

 なにせグレイフィアはあまり家族の事を語ろうとしないものでな。

 今はサーゼクスの妻、即ち我が娘も同然と扱わせていただいているが」

 

……うわあ。こっちはこっちで物凄い殺気がにじみ出ているのを感じる。

大方「それは駆け落ち同然の結婚だろう、ルキフグスに話が行かないのは当然だ」みたいに

考えているのだろうけれど……同席するだけで胃が痛い。なるべく気配を殺しておこう。

 

「……ほう。その我が娘にメイド――給仕の如き振る舞いをさせるのがグレモリーの常識ですか。

 我々ルキフグスは、ルシファーに仕えることはあっても

 グレモリーに仕える覚えも謂れも無いのですがね」

 

「いやいや、そう言うつもりは無いよ。こうして君が来てくれたのもとてもありがたい話だ。

 何せ今まで、ルキフグスとは一切連絡がつかなかったもので

 こうしてルキフグスの者、それも現当主が来てくれたのも何かの縁。

 どうだろう、ここで改めて我がグレモリーと家族ぐるみの……」

 

その言葉がユーグリットの地雷を踏み抜いたのか、にじみ出ていた殺気が

一気にジオティクスの方へと向けられる。標的になっていないとはいえ、背筋が凍る思いだ。

こうして見ると、魔王に匹敵するってのも強ち何の誇張でもないって事か。

 

「……それは、我がルキフグスに其方の負債の連帯保証を行え。そう言う意味合いですか」

 

「手厳しいなユーグリット君。まさか私とてそんなつもりでこの話を持ち出したりはしないよ」

 

「当然です。我々にも経済特区としての自負があります。

 それが故に全ての悪魔に対し我々は公平に接するよう努めております。

 そう、それこそ現政府よりも。

 それを当主の姉が嫁いでいるからと言っていち家系を贔屓するような事があっては

 それは他のあらゆる悪魔の不平を招き、やがては暴動に繋がりかねません。

 それはこの悪魔社会の平穏を願ういち悪魔としても、避けたいところです」

 

……まあ、そりゃ身内びいき、って事だしなあ。

人間社会だってそんなことをしたら不平が出て来るに決まってる。

そうなれば、ルキフグスにとってグレモリーを支援することにメリットがないとどうにもならない話だが……

次の布袋芙先生の言葉に、俺は思わず耳を疑った。

 

 

「……その点についてだけど、返済の当てがあるんだ。だから経済面で君達の重荷になることは無い。

 そうだろう? イッセー君」

 

「え? あ、ああ、そうっす。なんでも俺達をモデルにした作品がヒットして

 その印税が入ってきて、それで……」

 

ユーグリットが思わずマヌケな声ではあ? と聞き返していたが

俺も思わずマヌケな声が漏れてしまっていた。

それ位、寝耳に水な話だったのだ。

 

 

何故?

どうして?

どういう経緯で?

 

 

……どれだけ考えを巡らせても、俺の中に答えが出てくることは無かった。

 

「……お恥ずかしながら、その件については初耳です。

 仕事柄、こちらは経済面に関する事柄は積極的に情報を仕入れるようにしていたのですが

 その我々を以てしても、今しがた初めて聞いた話です。

 一体、どのようなお話なのです?」

 

「『赤龍帝おっぱいドラゴン』と言う作品でね、主人公の転生悪魔がドラゴンとおっぱいの力で

 悪魔社会を脅かすあらゆるものを撃退する、と言う所謂ヒーローものの作品だよ」

 

……そんなの流行るんだ。まあ、悪魔の感性と人間の感性はまるっきり異なるからな。

俺からしたら信じられないものが流行ったところで、別におかしくもなんともあるまい。

 

『いや、悪魔から見てもどうかと思うぞ。少なくともタイトル聞いた限りじゃ』

 

アモンに突っ込まれたが、確かに話の内容を聞く限りでは

今更悪魔社会でそんな凡百なヒーローものが流行るとは考えにくい。

あれだけ人間社会の模倣をやっておいて、今更ヒーローものが特別扱いされるなんて……

 

『セージ。一つだけ、こういう現象を起こせるものがあるぞ。

 そしてそれは、副産物として今の冥界にもうじゃうじゃいやがる』

 

 

まさか……JOKER呪いか!

確かにあれなら、殺しの願いだけじゃなくて普通の願いだってできる!

だが、いったい誰がこんなことをJOKER使ってまで願ったんだ?

そもそも、そう言う「誰かの願いを叶える」は悪魔の領分だろうに。

……とも言い切れないのが、今の冥界の現状なんだろうけど。

 

「その作品に、イッセー君とリーアたん。それにリーアたんの眷属達も参加してくれてね。

 そのお陰でグレモリーの財政も立て直せそうなんだよ。

 この話を持ち掛けてくれたナイア君には、感謝してもしきれないよ」

 

「いえいえ。僕の方こそ、僕を受け入れてくれて感謝の極みですよ」

 

まただ。布袋芙ナイア、一体全体何を企んでいるんだ?

兵藤を手籠めにして、グレモリーの外堀を埋めるような真似をして……

まさか本当に、兵藤とグレモリー先輩をくっつけようとしてるのか?

 

だがそんなことをして、一体何のメリットがあるんだ?

持ち上げるだけ持ち上げて、のぼせあげた奴を一体どうするつもりなんだ?

 

「……お父様と先生で何か話している、とは思っていたけれど

 この話だったとはね……色々取材が来ていたから変だとは思ったのだけれど」

 

「まさか借金まみれの土地をリーアたんに渡すわけにはいかないだろう。

 リーアたんでなくとも、ミリキャスの教育にもよろしくないからな。

 ヴェネラナやグレイフィアに、要らぬ苦労をこれ以上かけるわけにもいかない。

 私にとっては、渡りに船とも言える話だったのだよ」

 

家を守るための策略。外堀埋めのように見えるのはその副産物。

とりあえず、そう考えるのが現時点では自然か。

そのためにJOKER使ってるのは、いかがなものかとは思うが

そのJOKER使った証拠が無いんじゃあなあ。

 

「……お話は分かりました。ですが、それはあくまでもあなた方グレモリーの家の問題。

 我々ルキフグスには、何の関係もありません。

 そしてその上で言わせていただきますが、我が姉を……ルキフグスの者を

 辱めるような真似は、おやめいただきたいのです」

 

「辱める? 一体何の……」

 

そうジオティクスが言いかけた次の瞬間。

屋内にユーグリットの怒号が響き渡った。

 

 

「姉上に公の場であんな格好をさせておいて! 辱めてないとでも言うつもりか!?

 それも当主であり弟である僕の前で!!

 あれでルキフグスに要らぬ風評被害が立ったらどう責任を取るつもりだったのだ!!

 さっき言ったがもう一度言ってやる! 我々が! いつ!? グレモリーの臣下に下ったのだ!!」

 

 

ユーグリットの物凄い剣幕は、彼が魔王に比肩するという話を確定づけるには確かなものだった。

その剣幕に周囲の者は気圧されるばかりであった。俺も勿論、結構ヤバい。

だがその重圧を押しのけるように、奥から銀髪のメイド服の女性が現れた。

 

「やめなさい、ユーグリット。この件に関しては旦那様は無関係よ」

 

「あ……姉上!?」

 

グレイフィア・ルキフグス。渦中の悪魔のお出ましであった。




>おっぱいドラゴン
流行らせないと言ったな。あれは嘘だ。

……いやすみません。個人的には流行らせたくない低俗番組だと思うんですが
話の都合上……
おかげで流行語に「ずむずむいや~ん」が入り込んでいる有様。

つまり、グレモリー領他で「ずむずむいや~ん」と声高に叫ぶ悪魔がちらほらと。
そう、何も考えずに「レッツ・ポジティブ・シンキング!」と言った風に。

>イッセー
そのお陰か増長の兆しあり。リアスにも面と向かって楯突き始めました。
果たして据え膳の成功に意味はあるのでしょうか。

>ジオティクス
ナイアの犠牲者3号(2号は匙)。
イッセーの成功体験のためだけの都合のいい舞台装置に仕立て上げられてます。
一応、家を立て直すという意識は本物ですが。

>ユーグリット
ルキフグス当主にしたら何故だか格が上がったような。
姉の事でムキになるのは変わっていないはずなのに。


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Will48. グレモリーとルキフグス Bパート

お待たせしました。
いろいろあって遅れてました。またです。


冥界での活動をしやすくしようと、いくらか人間に好意的であろうグレモリー領へと来た俺達。

そこに俺達の案内として同行してきたユークリッド・ルキフグスだったが

邸内で現れた現当主、ジオティクス・グレモリーとのやり取りの中で

つい、彼は己の感情を爆発させてしまった。

 

 

「姉上に公の場であんな格好をさせておいて! 辱めてないとでも言うつもりか!?

 それも当主であり弟である僕の前で!!

 あれでルキフグスに要らぬ風評被害が立ったらどう責任を取るつもりだったのだ!!

 さっき言ったがもう一度言ってやる! 我々が! いつ!? グレモリーの臣下に下ったのだ!!」

 

 

その物凄い剣幕は、彼が魔王に比肩するという話を確定づけるには確かなものだった。

その剣幕に周囲の者は気圧されるばかりであった。俺も勿論、結構ヤバい。

だがその重圧を押しのけるように、奥から銀髪のメイド服の女性が現れた。

 

「やめなさい、ユーグリット。この件に関しては旦那様は無関係よ」

 

「あ……姉上!?」

 

グレイフィア・ルキフグス。渦中の悪魔のお出ましであった。

 

「この格好は私が自分の意思で行っていること。

 これについてサーゼクス様や旦那様を責めるのは筋違いよ」

 

その言葉を聞いた時、ユーグリットの顔から表情が無くなった――気がした。

 

 

「……それが。それが姉上の意思か!

 僕の気持ちも知らないで! 折角見つかったルキフグスの家の者が、その家の名を騙り愚弄し!

 家を捨てるどころかその家に砂をかけるような真似をして!

 一体ルキフグスに、僕に何の恨みがあって! 家の名を貶めるような真似をするんだ!?」

 

「……言いたいことはそれだけかしら、ユーグリット。

 私がいつ、ルキフグスの名を穢したというのかしら?

 私はただ、ルキフグスの者としてルシファーに仕え――」

 

「そのルシファーに命令された事でも無いのなら、直ちにやめろって言ってるんだ!

 これは僕だけの意思ではない! 僕は今、ルキフグスの名を背負ってこの場に来ているんだ!

 ルキフグスは悪魔の経済を双肩に担う悪魔! それは姉上も知っているだろう!

 その名を騙りルシファーどころかグレモリーよりも下であるかのように振舞うその姿勢!

 

 『我々はルシファーにこそ仕えども、グレモリーの下にあることはあり得ない』!

 姉上のその態度が、振る舞いが! ルキフグスとしての活動をやりづらくさせているんだ!」

 

グレイフィアさんの言葉を遮るように、ユーグリットが激昂する。

しかも、あれだけの怒号をあげているにも関わらず互いに表情の変化が乏しい。

どうやら余程、グレイフィアさんの所業が腹に据えかねていたようだ。

言われてみれば、「ルキフグス」としてのグレイフィアさんと言うよりかは

「グレモリー家の一員」としてのグレイフィアさんの方が印象に残っている。

俺自身グレイフィアさんとの接点は無いに等しいのだが。

 

「……語るに落ちたわね、ユーグリット。

 家と言う旧時代的なしがらみが嫌で、私はルキフグスを出たのよ。

 私がサーゼクス様を選んだのはルシファーだからではない。サーゼクス様だからよ。

 あの当時、まだサーゼクス様はルシファーではなかったことくらい

 あなたも知っているでしょう?」

 

「そうだね。そのことについては許せないけど今は置いておこう。

 では何故姉上は、出奔した家の名前を、未だに騙っているんだい?

 僕の所にも色々と話が来ているのだけれども

 既に行動を把握していない姉上の事なんて、答えようがなかったよ」

 

……つまり、なまじルキフグスなんて名乗っているもんだから

その問い合わせは当たり前だけどルキフグスに行く。

だけど、ユーグリットを始め現ルキフグスはグレイフィアさんが何をしているかなんて

詳細を知っているはずがなく。

 

……聞いてて頭痛くなってきた。まさかああもクソ真面目そうなグレイフィアさんが

こんな後先考えない恋愛スイーツ()脳だったとは。

 

「それだけじゃないよ姉上。僕にとっても甥っ子にあたるミリキャス君に関してもだ。

 僕も悪魔だけれども鬼畜ではないからね。貴重な純血悪魔である彼を

 『存在を認めない』なんていうつもりは無いさ。

 

 ……だが。いくら家を出た後に産み落とした子供だとしても。

 その子供が純血であり、かつルキフグスの名を未だに使っているにもかかわらず

 僕達に生誕の報せの一切も無かったというのはどういうことだい?

 お陰で出産祝いの諸々を贈ることが出来なかったじゃないか。

 ルキフグスを名乗るのならば、自ら産み落とした子について

 僕らルキフグスにも知らせるのが礼儀じゃないかい?」

 

「……ルキフグスの家に、祝ってもらおうなどとは思っていないわ」

 

……完全に外野から判断させてもらうと。

なんだか、グレイフィアさんは妙に意固地になっている気がする。

そしてこれは、俺にとっては見覚えのある光景だ。

そう考え、俺は兵藤を注視する。

 

 

――そう。これはいつぞや、グレイフィアさんが話を持って来た

ライザーとグレモリー先輩のレーティングゲームに至る前のやり取りに近い。

あの時も兵藤が向こう見ずに突っ込んだおかげで若干だが話がこじれた。

またああなっても困るし、それ以外にもこいつはやらかしがあった気がする。

 

今にして思えば、家のしがらみから抜けたがっていたグレモリー先輩と

グレイフィアさんは似た者同士だったから、あの話が出たとも考えられる。

最終決定を下したのは、他の誰かだろうけれど。

いくらなんでも、家の将来に関わることを給仕の、眷属の一存で決められるわけがない。

たとえグレイフィアさんが、「女王(クィーン)」だったとしても

そんな家の将来を左右するほどの権限が、与えられているものだろうか。

……魔王の眷属ならば、あり得るのだろうか。

 

「……だったら。何故グレモリーを名乗らないんだい。

 ルキフグスを捨てたというのなら、嫁いだグレモリーを名乗るのが筋じゃないのか。

 いくらサーゼクスがルシファーだと言っても、生まれはグレモリーなんだから

 姉上がグレモリーを名乗ることに、何ら不思議は無いだろう。

 僕達ルキフグスが仕えていたのはルシファーと言う『家』だ。『名前』じゃない。

 

 ……もっと言ってやろうか。お飾りのルシファーに仕えたなどとあっては

 『ルキフグス』の恥だ。そしてルシファーと言う『家』が実質消滅した今

 我々ルキフグスが成すべきはルシファーに仕えることじゃない。

 悪魔の経済基盤を支えることだ。このルキフグスの権能と義務、忘れたなどとは言わせないよ」

 

「それで、あなたは納得するのかしら?

 私が、あなたの姉でなくなる。あなたの手の届かないところに行ってしまう事に」

 

ユーグリットはやけに饒舌だが、その声は絞り出しているものであるという印象を受ける。

反対に、グレイフィアさんは淡々とユーグリットの言葉に答えている。

 

――しかし、それは今のユーグリットの感情を逆撫でするには十分すぎたようだ。

 

「――話をすり替えないでくれ!

 初めから、僕のものになるつもりなんか無かったくせに!

 他者に嫁いでおきながら、あたかも僕の手が届くなどと匂わせるような真似をして!

 そして僕が踏ん切りをつけようとルキフグスの為すべきことに邁進している矢先にこれだ!

 

 ……姉上は一体どこまで、僕の気持ちを弄べば気が済むんだ!

 姉上がどう思おうとも、僕は姉上の事を一時たりとも忘れた事なんてない!

 それなのに……それなのにっ!!」

 

実姉を犯そうとしていた者と同一存在とは思えないほど、その感情は純粋なものに思えた。

いや、純粋だからこそ一線を超えた関係になろうとしていたのかもしれない。

……俺が、そうやろうとしたように。

 

ヒートアップする一方のユーグリットとグレイフィアさんの口論。

成程確かに、これはユーグリットにグレイフィアさんの事を語らせたら

日が暮れるというのは間違いじゃなさそうだ。冥界に暮れる日は昇ってないが。

しかし、こっちの用事はほぼ済んだとはいえいつまでこの口論に付き合っていればいいんだ?

流れで協力している形だが、最後までユーグリットに付き合う義理は無いんだがなあ。

……そりゃあ、心情的にはユーグリットは放ってはおけないが。

 

そう、どうしたもんかと思っていた矢先であった。

途轍もない、強大な魔力をアモンが感じ取ったのは。

 

『セージ。でかいのが来る。間違いなくこいつは……!!』

 

(お前がそう言うって事は……!)

 

アモンが強い反応を示す。ここはグレモリーの関係地。

そこから導き出される答えは一つしかない。

 

 

……マズい! ここでユーグリットとサーゼクスが鉢合わせたりした日には!!

 

 

『心配するなセージ。騒動がでかくなりすぎるようなら俺が表に出る。

 今の俺がサーゼクスとガチでやり合えるかと言うと怪しいが、抑止力くらいにはな』

 

「グレイフィアの帰りが遅いから気になって来てみたが

 これは一体どういうことだい? 随分と千客万来のようだけど」

 

「サーゼクス!!」

 

やはり。以前サーゼクスが目の前に現れた時は

アモンも今にも飛び掛からんとしていたが

今回はそれよりもヤバい、ユーグリットがいるからなのか

幾分か、アモンの方は落ち着いている。

……それだけに、ユーグリットの動向がかなりヤバいんだが。

 

「も、申し訳ありませんサーゼクス様。ユーグリットに捕まってしまいまして……」

 

「ユーグリット? ああ、ようやく会えたね我が義弟!

 いつもグレイフィアが世話になっているよ、君には――」

 

 

「よくも抜け抜けと僕の前に姿を現せたな、偽りのルシファーめ!!」

 

 

――ヤバい!

 

これは敵うかどうかじゃない。ここでユーグリットを止めないと、とんでもないことになる。

俺とアモンは意見が一致したらしく、アモンに交代してなんとかユーグリットを止めようとする。

周囲の大半は気圧されてしまっているのか、身動き一つ出来ていない。

俺もよく、アモンに交代しているとはいえ飛び出せたもんだが。

 

「はっはっは、随分熱烈な歓迎じゃないか。お兄ちゃんは嬉しいよ」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

「坊主、落ち着け! サーゼクスも煽るな!」

 

必死にアモンの力でユーグリットを止めるが

魔王に比肩するという伝聞はハッタリなどではない。

それをまざまざと思い知らされるがごとく、制止が効かない。

だが。アモンに交代したことでこうして後ろから冷静に状況を見ることが出来るのだが

だからこそ、わかった事がある。

 

――サーゼクス。こいつ、煽りなんかじゃなく素で言っている!

 

(ダメだアモン、サーゼクスは素で言ってる!

 ユーグリットがどんな気持ちをサーゼクスに向けていたか。

 グレイフィアさんとの確執の一切合切。この全てが理解できてないような素振りだ!)

 

そう。グレモリーは確かに身内に対する情は篤い。

だがそれは逆に、自分の感情を相手の心を慮ることなくぶつけかねない事でもある。

そう言う意味では、ユーグリットの性質は極めてグレモリーに近いが……

まあ、本人には言わないでおこう。

このサーゼクスにしたって、ようやく会えた義弟との出会いに感激しての事だろう。

当のユーグリットからすれば、不倶戴天の敵が目の前に現れた上に

自分の気持ちを愚弄されたようなものなのだろうけど。

 

……あれ。これもなんか前に似たようなことが。

 

半ば暴走状態に陥っているユーグリットは次第に息を切らし、動きが緩慢になっていく。

この辺は人間と同じと言うか、あの我を見失った状態では

たとえサーゼクスとやり合う形になっていたとしても

ユーグリットに勝ち目は万に一つも無かっただろう。

とは言え、これは却って好都合と言えるが。

 

「おいおいアモン。僕は煽ってなどいないさ。義弟に会えた喜びを素直に出しただけさ。

 その証拠に彼も感極まって涙を流しているだろう?」

 

……無論、怒りとか憎しみとかそう言う方向で感極まって溢れた涙であるのは間違いない。

これについてはグレモリー先輩もユーグリットに対して同情的な目を向けている。

そりゃあ、あのポンコツ具合はただ事では無かろうが……

 

……ん? じゃあ、グレイフィアさんはそのポンコツに引っかかったって事か?

ミリキャスに関しては、詳しい人となり――悪魔となりを知らないので言及は控えるにしても。

 

「……この面が喜んでるように見えるか? 昔からてめえは自分の愛情とやらを押し付けて

 人の意見を全く聞かなかったよな。ジオティクスのおっさんの受け売りか?

 そんなんでよく婚姻できた――いや、悪魔だからこそそんなんでも婚姻できた。

 そう言った方が正しいか」

 

「僕は愛情の押し売りなどしていないさ。無論、父上もリーアたんもね。

 結婚もしていない君に言われても、説得力に欠けるよ。アモン」

 

どうだか。俺はアモンの内側で思いっきり毒づいた。

グレモリー先輩には悪魔としての在り方を強要されかけたり、ジオティクスに至っては

娘に反抗的だからと言う理由で処分されかけたんだがね。

だがアモン。どうしてそう言う結論に至ったんだ?

愛情の押し売りって点じゃ、正直俺はサーゼクスの事を偉そうに言えん。

 

(そもそもデーモンに愛情なんて概念は原則として無い。何事にも例外はいるにしてもだ。

 そこから愛を会得したのが近現代の悪魔だとか錯覚してる奴はいるかもしれんが

 それにしたって、人間の猿真似に等しいし、その参照先の人間の愛情だって

 そんなに崇高なもんじゃないだろ。なあセージ?)

 

……言いたいことはわかるが、耳の痛い事を言ってくれるなアモン。

だが確かに、人間の愛情も言うほど素晴らしい物とも言い切れない。

それを体現してしまっているのが自分自身であるが故に、何も反論できない。

 

『セージを弄るのはその辺にしておけ。それより、奴がここに来たのは

 自分の嫁を迎えに来ただけじゃなさそうだぞ』

 

フリッケンの言葉に、アモンもサーゼクスに注視する。

ユーグリットの暴走で話の腰が折れただけで、確かにサーゼクスは

用事があってここに来たようだ。

 

 

「思わぬ来客に面食らってしまったが、今日僕が来たのは他でもない。

 アモン……いや宮本成二。君達に、今度行われるレーティングゲームに出てもらいたい」

 

 




Cパートは書けているので近々上げます。

>ルシファーは実質存在しない
リゼヴィムがルシファーとしての役割果たすかと言うと疑問ですし
ヴァーリはあんなですし。サーゼクスは名ばかりですし。
名前だけの魔王に付き従うのを、よしとしなかったのがここのユーグリットです。

……他の所にも、そう言う悪魔はいるかもしれませんね。

>グレイフィア
スイーツ()認定されてしまってます。
なれそめをさも美談のように語っていますが
こうして「家のものが生き残っており、かつ家の活動を行っていた場合」を考えると
旧姓を名乗るのはリスク以外の何者でもないかと。
その名を讃えるため? その結果がメイドのコスプレでは……
似たようなことは、どこぞの魔王にも言えますが。

>ユーグリット
姉は好き、でもその姉が家の害にしかならない事ばっかりやっている。
愛と憎しみ、相反する感情が大きく渦巻いています。
もしユーグリットが双子座だったらいがみ合う双子のリアクターになれるかも。
この世界スフィア無いですけど。あってたまりますか。

>セージ
罪は自認したけど、「お姉ちゃん」に対する罪悪感が消えたわけではなく。
その辺現在のユーグリットとは最大の相違点。
やらかした姉と、やらかしをしてしまったお姉ちゃん。全然違う。
それ故にグレイフィアをスイーツ()認定したり、ユーグリットも一歩引いてみることが出来ていたり。

>サーゼクス
愛情のお仕着せ。敵対者に容赦ないと言えば聞こえはいいかもしれませんが
その片方で味方にべた甘。為政者としてはあまりいい姿勢ではないですし(もっと言えばそれこそ独裁の元……)
いくら未来でイッセーがその座につくと言っても
「じゃあなんでこんな奴魔王、それも代表格にしたんだ」になる。
ユーグリットを綺麗にするために汚くした、では
HSDD原作とやってることが変わりませんが、見方を変えればそんなもの。
偶々、原作では旧魔王派が汚く、サーゼクスが都合がいい位矢鱈綺麗だった。
それだけの話かもしれません。


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Will48. グレモリーとルキフグス Cパート

グレモリー仮設邸でひょんなことから行われたユーグリットとグレイフィアさんの対話は

一触即発の状態となり、そこにグレイフィアさんを迎えに来たであろう

サーゼクスが現れたことで、一度は爆発状態となってしまった。

辛うじて状況を抑えることには成功したが、サーゼクスが来た目的は

やはりと言うか何と言うか、ここに来た俺達にもあったようだ。

 

「思わぬ来客に面食らってしまったが、今日僕が来たのは他でもない。

 アモン……いや宮本成二。君達に、今度行われるレーティングゲームに出てもらいたい」

 

――そら来なすった! 奇しくも、この間ウォルベンが言った通りの展開になった。

これがサーゼクスの意思か、イェッツト・トイフェルの差し金かまではわからないが

また俺達を見世物にしようって魂胆を、この魔王は抱えているのだろうか。

どれだけ上辺を取り繕ったって、このレーティングゲームってのは

趣味の悪い貴族の道楽でしかないんだ。

駒に生き物――自分の言いなりになるように仕向けた存在を使っている限りは。

 

「何かと思えばそんな事か。嫌だね、俺達にメリットが無さすぎ――」

 

アモンが言い終える前に、俺の身体はユーグリットに引きずられる形になった。

ご丁寧に、口まで塞がれた上で。いきなり何するんだ!?

動かしてるのはアモンでも、俺の身体だってことに変わりは無いんだぞ!?

 

「サーゼクス、ちょっと待ってろ。アモン――この体の人間とは個人的な付き合いがあってね。

 少し、その人間と相談がしたい」

 

「今日中に返事を貰えればいいから、それは構わないが」

 

そんなわけで、俺達は強引にユーグリットに引きずられて相談を持ち掛けられたのだ。

内容はずばり。俺達のレーティングゲームへの参加であった。

強力な魔力障壁のようなもので、ユーグリットは俺達にサシの対話を試みたようだ。

 

「……さっきも言っただろうが。俺達にレーティングゲームに出るメリットがない。

 どうせ、特別待遇とかでエキシビジョン枠と言いつつ参加選手全員で俺達をフルボッコ。

 そう言う展開に持ち込む口実と見たがね」

 

「他の魔王はともかく、サーゼクスもいくら何でもそこまで露骨な潰しはしないだろう、多分。

 それよりもだ。確かに君達にレーティングゲームに参加するメリットは無い。

 だが……そのメリットを、僕が提供するとしたらどうだい?」

 

ユーグリットが提供するメリット。

今までの事を考えれば、冥界での行動における制約の緩和。

――この場合、うまくすれば制約フリーにまで持ち込めるかもしれないが――とか

人間界への過干渉の抑制――はちょっと夢見すぎか。まあ、考えうるのはそんなところか。

ものによっちゃ一考の余地はある。話を聞く価値はあるか。

 

ユーグリットと言う悪魔に、そこまでの信頼を寄せる価値があるかどうか。

その決断を下す材料が足らなさすぎる相手との交渉は、慎重になるべきだが。

……だが、如何せん俺は冥界では味方が少なすぎる。

少しでも味方になり得る可能性のある相手の力は、借りた方がいいかもしれない。

 

 

(……アモン。代わってくれ)

 

「何? おい、いいのかセージ?

 ……いくらお前の決定でも、俺のデメリットになるような事だったら

 強引に話を打ち切るからな、いいな?」

 

アモンと交代し、俺は表に出る。一応、アモンを表に出したままでも会話はできるが

こうした方が一応の礼儀は果たせると思ったからだ。

少なくとも、ユーグリットと言う奴は俺が知ってるグレモリー先輩やサーゼクスよりかは

礼儀を尽くすに値する悪魔だと見ている。

価値観の違いなど、この場合においては些細な事だ。

価値観が同じでも、礼儀を尽くすに値しないケースは無い事も無いのだから。

 

まあ、その相手が相手だからかアモンには警戒されているが。

とは言え、その方が有難いっちゃ有難いが。アモンが目を光らせてくれているお陰で

俺も安心して悪魔と交渉できるってもんだ。

多少情報が古いとはいえ、俺達三人の中で一番悪魔の風習に通じているのはアモンだ。

 

「……それで、俺をレーティングゲームに出してどうするつもりだ?

 俺を出すからには、俺に勝ってほしい魂胆があるんだろう?

 サーゼクスの鼻っ柱でもへし折るつもりか?」

 

「惜しい回答だと言っておくよ。さっきも話した通り、僕は姉上に戻ってきてほしい。

 生まれてしまったミリキャスは仕方ないにしても、サーゼクスは僕にとっては不要な悪魔だ。

 で、非公式とは言えグレモリーはフェニックスとの婚姻話をレーティングゲームで潰したろう?

 ならば今回もすでに成立している婚姻の破棄が出来なくとも

 姉上をルキフグスに連れ戻す位は出来るはずだ。いや、やらざるを得んだろうよ」

 

あー……そりゃあ、婚約破棄を引き合いにレーティングゲームを出した

グレモリーからすれば、これは引くに引けない条件になるわけか。

こんなところにも、ごり押しのツケは回ってる訳か。

仮に魔王が特権か何かで有耶無耶にしようとしたら、それをルキフグスが指摘する。

そのネタは俺がバオクゥに流してもいいし、ユーグリットからイェッツト・トイフェル経由で

リー・バーチと言う俺が知ってる限りではかなりのマスゴミに流れるかもしれない。

ユーグリットの差し金(という体)の俺が出れば、そういう事態にもなり得るわけか。

 

「そもそも今回のレーティングゲームの参加者は

 聞いた話では皆本来ならば資格なき若い悪魔だ。

 リアス・グレモリー。ソーナ・シトリー。レイヴェル・フェニックス。

 シーグヴァイラ・アガレスに……サイラオーグ・バアル」

 

面子に聞き覚えがある。確かいつだったかの会合の時に名前が出た若手悪魔だ。

成る程、そこでやるはずがオーフィスが出ただかでお流れになったレーティングゲーム。

それを今回やるつもりか。

 

「事故で再起不能になったライザー・フェニックスと違い

 公式試合参戦資格をまだ持たない、若手悪魔によるゲーム。

 ……そこに、特例として君をねじ込むんだ。悪魔の後ろ盾など何一つ持たない君を

 魔王特権か政府軍特権かは知らないが、強引にねじ込むわけだ。

 ならば僕も口添えしてやろうというのだよ。条件を加えた上でね。

 公式な試合じゃないんだから、いくらでも条件は付けられる。

 リアス・グレモリーがライザー・フェニックスと戦った時のようにね」

 

「……要は、俺のスポンサーと言うかパトロンになるって訳か」

 

悪魔の協力者としてはバオクゥがいるが、彼女を後ろ盾と言うには些か心許ない。

彼女の情報網は優秀だが、彼女はフリーだ。組織立って動いている悪魔じゃない。

後ろ盾と言うには不適切だ。

それにそもそも、俺は悪魔の組織とは協力関係を結んだ覚えがない。

 

「ルキフグスの名誉を守るというのならスポンサーと言えるけれど

 姉上の事に関しては僕個人の意向が強いから、今回はパトロンと言うべきかな。

 さっき言ったように、僕からもメリットを提供するのはルキフグスの名に懸けて誓おう。

 その代わり……」

 

「参加者全部ぶっ潰してサーゼクスの面子を潰せ、か?

 グレイフィアさんを連れ戻すには、それなりに戦果をあげなきゃならないと思うが」

 

「最低限叩き潰すのはグレモリーだけでいい。

 他はいざ知らず、フェニックスやバアルは生半可で勝てる悪魔ではないからね。

 おっと。君はフェニックスには勝ったんだったか」

 

反則スレスレの方法だけどな、と返答しつつユーグリットの言葉に首肯する。

それに、あれは兵藤や祐斗、白音さんもいたから勝てた勝負だと思う。

少なくとも、俺一人でライザーに勝てたとは思えん。

 

「それと、姉上の事は僕の領分だ。君が口出しすることじゃない。

 ……と言うか、黙っていてもらおうか。この間も言ったが、君にどんな過去があろうとも

 僕と姉上の間に押しかけるような真似は慎んでくれ」

 

「わかった、悪かった。要らんお節介だったな」

 

年上の忘れられない想い人。そう言う存在と言うだけでつい、自分に重ねてしまったが

確かに考えてみたらユーグリットにしてみたら要らん世話だ。

俺は俺、ユーグリットはユーグリット。

ユーグリットがグレイフィアさんとの事に関して、どういう結論を出すか。

それは、俺の関知するところではないだろう。

 

「そうでなくとも、転生悪魔ですらない人間や

 時代にそぐわないとして封印したはずのデーモンが

 現政権の希望たる若手悪魔や転生悪魔を駆逐すれば

 それだけでサーゼクス――現政権に対する打撃にはなるさ」

 

『……確かにな。放逐されて今やはぐれ悪魔同然の扱いを受けているデーモンからも

 溜飲の下がる話にはなり得るか。デーモンからは裏切り者扱いされてる俺だが

 その点に関しては、デーモンの連中の言いたいこともよくわかる』

 

「……その結果、デーモンが政権奪還を果たしたりはしないのか?

 そうなると、俺としては……」

 

デーモンがサーゼクスに代わって悪魔社会の主導権を握る。

デーモンの協力者としてアモンがいるが、正直アモンをデーモンの代表とするには

些か話が違いすぎる。兵藤を人間の代表として扱う位には無理のある話だ。

デーモンが悪魔の代表になった途端、今までとは違うスタンスで人間界に侵攻してきました。では

ユーグリットに提案されるメリットが帳消しになりかねない。

 

「……今の政府の政権奪回なら、寧ろイェッツト・トイフェルの方が余程怪しいよ。

 少し前なら旧魔王派がその立ち位置だったんだろうけど

 奴らはこぞってアインストに成り果てたからね。

 もう、悪魔社会の政権になんて興味無いだろうね。

 ああ、僕が彼らに手を貸しているのは別に権力欲しさじゃないからね」

 

確かに、カテレアはもう政権なんぞどうでもいいって感じだった。

クルゼレイだって、旧魔王派の悪魔と言うよりもうほぼアインストだった。

現政府が放逐した結果がアインスト、は僅かに同情の念を覚えるが

聞いた話では奴らは自分からアインスト――オーフィスに縋っている。

結局のところ自業自得だ。

 

「そのへん含めて、現政府にしてみれば皮肉な結果さ。

 政敵とした旧魔王派が政権に興味を示さなくなったと思えば

 今度は自分達のお抱えだった政府軍が謀反を企てている。

 バケモノと化した政敵を倒して万々歳、が現政府の思い描いているプランだとしたら

 失笑を禁じえないね。敵は身内からも生まれるものさ……今回みたいにね」

 

そう語るユーグリットは、どこか遠い目をしていた。

強く想いを抱いている姉が、領主の自分にとっては政敵とも言える立ち振る舞いをしている。

そう考えれば、複雑な心境と言うのも頷ける。

 

「……話が横道にそれまくったけど、僕が君にこの試合に参加してほしいのは今述べた通りさ。

 メリットは……そうだな。差し当たって、ルキフグスの目の届く範囲では悪魔の人間に対する

 不当な扱いはこれを禁ずる。ただし、冥界では今まで通りだ。

 冥界でまで人間を優遇すれば、それはまた反乱の種になりかねないからね」

 

確かに、悪魔の人間に対する扱いは不当極まりない。それは、ルキフグスで見てきた通り。

見方を変えれば、グレモリーだって何ら変わらない。

当事者に言わせれば、それが人間のためだとか宣いそうなものだが。

そんなことを決める権利など、奴らにあるわけがない。

 

……にしても。些か、提案するメリットがショボくないか?

せめて、今回みたいに事故で冥界に来た人間の処遇も改善してほしい気はするが。

 

「……不服そうだね。だが、如何にルキフグスが経済を担っていると言っても

 現政権に携わっている訳ではないんだ。あいつに邪魔されている……ってのは、邪推だろうけど

 どの道、今の僕が口をはさんだところであいつが耳を貸すとも思えないしね」

 

『……だろうな』

 

「そう言う訳だ。だが、民間レベルなら経済を牛耳っているのは僕らルキフグスだ。

 ルキフグスにはこんな座右の銘もある――『財を制する者は、政を制す』とね。

 法律として定めることはできないが、経済の側から働きかけることはいくらでも可能さ」

 

本当に言ったのかよ、と言いたくなる座右の銘だが、確かに経済と政治は密接な関係にある。

そう言う意味では、ルキフグスである彼の言葉一つで冥界が動くこともあり得るだろう。

……実際、流行しているという兵藤が主役の話も影響力が凄いらしいし。

話の内容はともかく、後で少し調べてみる価値はあるかもしれない。

 

「フフフ、僕の提案を飲む気になったかな?

 ああ、アモンとの二重契約なら心配しなくともいい。

 そもそも、アモンと僕らルキフグスとじゃ担当が違う。

 肉屋と取引契約を交わしておいて、魚屋と取引契約を交わすのは二重契約になるかと言うと

 そんなわけは無いだろう? そう言う事だよ」

 

『……サーゼクスに泡吹かせるって意味じゃ、被っちゃいるがな。

 だが今回の奴の主目的はサーゼクスじゃない。サーゼクスに泡吹かせるのはものついでだろう。

 二重契約にあたらないってのは、俺からも保証させてもらうぜ。

 それに、今のお前なら複数の悪魔と契約しても問題は……

 

 ……いや、あるな。グレモリーの眷属との契約がまだ切れてない。

 お前、あの白猫を元に戻すことばかり考えていて契約の事忘れていただろ』

 

 

…………あ。

そういや、俺が幽閉されたときに祐斗や白音さんと契約交わしたっけ。

俺が表に出られたから、てっきり切れたものだと。

それに、結構慌ただしかったからその後の顛末をすっかり忘れていた。

 

「なんだ。あまり複数の悪魔と契約するのは望ましくないな。

 そう言う事なら、この話は無かったことに……と言いたいが、僕がそれでは困る。

 君に決定権は無い。その契約、さっさと破棄しろ」

 

(アモン。悪魔との契約を勝手に破棄して問題にはならないか?)

 

『そこは然程問題にはならねえよ。少なくともあの線の細い兄ちゃんの方はな。

 ただ白猫の嬢ちゃん。こっちに関しては向こうが悪魔じゃなくなった関係もあってか

 ちょっとややこしいことになっている。悪魔契約としての体は果たしていないから

 ユーグリットとの契約に差し当たっての問題は存在しねえが……

 

 あの嬢ちゃんがそんなことするタマには見えねえが、魂持って行かれるなよ。

 妖怪との契約は、俺も専門外だ。詳しい事はあの黒猫の姉ちゃんに聞くんだな』

 

今アモンに言われて思いだした。悪魔との契約は魂が担保に入るじゃないか。

そんなことを忘れるとは俺らしくない失態だが、ここまで来た以上は……

そう考えると、ユーグリットとの契約は安請け合いだったかもしれないと後悔し始めた矢先。

 

「ああ。それからサービスで君の魂は獲らないで置いてやるよ。

 アモンの恨みを買うのは僕としても避けたい。君がアモンと契約した、珍しい人間でもね。

 悪魔にだって命あっての物種って概念はあるんだ。

 でなきゃ、フェニックスの涙が人気商品になるわけがない」

 

『ハハハッ、セージ。俺に感謝しろよ?

 ああ、因みに俺もお前の魂を獲るつもりは無ぇ。

 前にも言ったが、お前に死なれると困るからな。肉体的にも、精神的にも』

 

アモンめ。ここぞとばかりに俺に恩を売ってくるな。

どれだけ恩着せがましくされようとも、俺のやる事は変わらんからな?

差し当たっては――

 

 

「……わかった。そう言う事ならそっちの提案を飲もう。

 レーティングゲームが終わった後の事、忘れるなよ」

 

「いいだろう。ルキフグスの名を出したんだ。その名を穢さぬことをここに誓うよ。

 ……誰かさんと違ってね。

 

 では、僕らの契約が成立したことを祝して。

 ――悪魔と人間が協力関係を交す際に、定番の言葉がある。

 その言葉を以て、僕からの話を締めさせてもらうよ」

 

 

――コンゴトモ、ヨロシク

 

 

この言葉を受けた後、俺達は正式にサーゼクスの要求を呑んだ。

結果として、俺達はウォルベンの言った通りの道を歩むことになりそうだ。

 

五大若手悪魔と、俺を旗印とする人間混成チーム。

サーゼクスが何を思って俺達を招集したのかは終ぞわからなかったが

この試合は、俺達にとって、恐らくサーゼクスにとっても思わぬ事態を招くことになる。

そう思い至るものは、まだ俺達の中には誰もいなかった。

 

 

……辛うじて、ユーグリットが一枚噛んでいたかもしれない。その程度だ。




原作におけるソーナ戦とサイラオーグ戦を一緒くたにやろうとしてます。
大丈夫なのか?
まあ、拙作じゃレーティングゲームなんてそれほど存在価値のない代物ですし……
だからこうしてレーティングゲームに出る出ないの方で尺が取られる。

>ユーグリットの目的
結局サーゼクスの鼻を明かしてグレイフィアを連れ戻したいだけ。
その駒として悪魔の駒を使わない形でセージを利用している。
(触れてませんが、ユーグリットも悪魔の駒は反対派です)
当のセージは冥界での味方欲しさにこの話に乗っかってます。

……普通ならリアスやソーナ、変化球でサイラオーグ辺りが
そう言うポジションになるはずなんですが、そこはほら。
拙作、意地の悪い展開ばかり続いてますし。

一応、サイラオーグとの接点はありますけどね、セージ。

>契約問題
ほぼ拙作独自のものですが、多重契約とか大丈夫なのかな、と。
ペルソナ2じゃ3つまで契約は重複可能でしたが。
ユーグリットが言っている通り、契約「破棄」によるペナルティは特にありません。
ペナルティが起きるのは契約「違反」が起きた時。
例えばセージの場合、アモンを体から追放するのは問題ありませんが
アモンの意向を無視してサーゼクスと協調路線取ろうものなら
速攻で内側からアモンに消されます。
非現実的な喩えですが、悪魔の契約ってそれ位シビアなものでしょうし。

まあ、カジュアルなのがHSDDでの悪魔契約なんでしょうけど
あれはグレモリー(リアス)特有のものと解釈させていただきました。
少なくともノリについては。


さて、コネの無いセージがどうやってレーティングゲームのチームを作るのやら。


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Will49. 戦いへの準備 Aパート

生存報告も兼ねて、やや短めです。


サーゼクスの思惑に立ち向かうため、俺はユーグリットの提案を呑み

奴と契約をすることにした、のだが。

 

「一体何考えてるんですか、セージさん!?」

 

ユーグリットが手配した宿に戻るなり開口一番、バオクゥに怒られた。

曰く、悪魔と言うものを嘗めすぎているとのことだ。

 

『ま、こりゃこの嬢ちゃんの言う通りだな。ユーグリットは感性としては旧来の悪魔と同じだ。

 それはつまり、今までと同じ感覚で悪魔の力を借りようと思ったら

 間違いなく、痛い目に遭うぞ』

 

そりゃあ、俺だってグレモリー辺りと同じだとは思っていない。

だが確かに、バオクゥの言う通り安請け合いが過ぎたかもしれない。

支払うべき代償として、何を要求されるのか分かったもんじゃない。

 

「……反省はしてる」

 

「まあ、セージさんの事情もあるでしょうから私の口からああしろこうしろは

 言えた義理じゃないんですけどね」

 

「と言うかだ。その……レーティングゲーム、だったか。

 そいつに参加しなきゃいけない理由って何なんだよ」

 

安玖(あんく)巡査の言う通りだ。正直に言えば、俺達にレーティングゲームに参加する理由も道理もない。

全部、こっちの悪魔どもが勝手に決めている。

何かしらの意図があって、無理やりにでも俺達を試合の土俵に引きずり出したいのだろうが。

方針が真逆なはずのサーゼクスとイェッツト・トイフェルはここで意見が合致している。

この状況では、出ないという選択肢は逆に危険だろう。

 

……俺達をレーティングゲームに引きずり出してやらせたいことは、全く違うだろうが。

 

「……出なきゃいけないのはわかりましたし

 そのためにユーグリットの口添えが必要なのはわかりました。

 で、その上で聞きますけど……セージさん、メンバーのあてはあるんですか?」

 

そこだ。元来レーティングゲームってのは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の持ち主たる悪魔と

その眷属達でチームを組んで行われるゲームだ。

ところが当然ながら俺に眷属なんてものは存在しない。悪魔でもないし。

そうなると、バオクゥに突っ込まれた通りどうやってメンバーを集めるんだって話になる。

 

「…………無い」

 

「無論、君が悪魔の駒など持っているはずも無いだろうから

 疑似的に悪魔の駒の能力を再現させる『異能の駒(オルタナティブ・ピース)』を君に支給するそうだ。

 その代わり、以前君が行ったらしい分身でチームメンバーをそろえると言ったことは不可能だ。

 異能の駒の使用条件も悪魔の駒と同じだから、一人に複数の属性の駒を与えることはできないし

 君はそもそも『(キング)』に位置づけられる存在だ。駒の適用の対象外だ。

 ま、それも使う相手がいなければ何の意味も無いが……

 

 ……まさか、いくら勝った相手もいるとはいえ一人だけでいいとかいう

 下らない縛りプレイを課すつもりは無いだろうね?」

 

今回は分身で賄うのは不可だと釘を刺されてしまった。

分身そのものが出来ないわけでは無いらしいが

恐らく前回を踏まえて対策を練りに来たのかもしれん。

分身で賄わせたところで、数の上では俺は圧倒的不利な立場に変わりはないはずだが……

 

『エンタメ的にそれでは面白みに欠けると判断したんだろう。奴なら考えかねん』

 

あり得る。アモンの推測に俺は首肯で返す。

観客が人間の無双を見たいかと言うと見たくないだろうしな。

寧ろ、最近話題になっている(らしい)赤龍帝が

調子づいた人間を叩きのめす様の方が見たいのかもしれん。

国防のための演習という要素もあるらしいレーティングゲームだが

現状を見るにそんなものは建前だ。トップランカーがアインストだのと戦っているという話は

少なくともバオクゥからは聞いていない。

 

『で、実際どうするんだセージ。まさか十九枚落ちで戦うつもりじゃないだろうな』

 

「そうなったらユーグリットを戦線に引きずり出す。

 そこまでハンデをくれてやる義理なんかあるものか」

 

「……一応想定の範囲内だ。だから特別ルールを打診しておいた。

 だがそれでも、僕も素顔で出るわけにはいかないね。

 何分、ルキフグスってのは前の戦争では所謂敵対勢力だ。

 そこから生じる不平不満を経済を掌握することで黙らせているに過ぎない。

 サーゼクスのお花畑な対応を真に受けるほど、僕もめでたくは無いつもりだからね」

 

分身や召喚を駆使しても、数の不利を賄えるとは思えない。

そう考えてユーグリットにも最悪出てもらうつもりだったが

やはりそう簡単に同じ土俵に立つ気は無いらしい。

相手がサーゼクスとかなら、出てきた可能性もあるかもしれないが……

今回の相手はピンはサイラオーグ・バアル、キリはリアス・グレモリーと若手しかいないので

ユーグリットが出る幕では無いという事なのだろう。

 

それを踏まえてか、ユークリッドが言うには出場選手に制約のかかる

「ダイス・フィギュア」と呼ばれる特殊ルールでの戦い……らしいが

ここまでくると、本当にレーティングゲームは実戦からかけ離れているとしか思えない。

 

仮想敵はバカ正直に戦力に制約かける舐めプするのか?

兵法上でも戦力の小出しは原則として悪手だってのは素人の俺でもわかる。

こんなルールが罷り通っている以上、演習の名を借りることすら烏滸がましいと思える。

あるいは、俺が勝手に演習だと思い込んでいただけかもしれないが。

と言うか、最近そんな気がしてきた。

 

そうなると、演習でもない戦闘をひたすらに娯楽として繰り返す悪魔って結構……

……ま、今更な話かもしれないが。

 

「ふっふっふ~……誰か忘れちゃいませんかにゃん?」

 

「うひゃあ!?」

 

考えを遮るように突如として、耳元に生暖かい息を吹きかけられ

脇腹にこそばゆい感触が走る。

こんなことをするのは一人しかいない。黒歌さんだ。

 

「やっぱセージのそう言う声はおいしいにゃん。

 本当はもっとおいしいところを食べたいけれど……ま、それは今度にして。

 セージ、こういう時こそ私の出番じゃないかにゃん?」

 

「……いや無理っすよ。そもそもどうやって死人を出すんですか。

 黒歌さん、書類上では今死んでるんですよ」

 

そうだ。表向き黒歌さんは彼女の悪魔の駒を摘出・破壊した際のいざこざで

悪魔政府の書類上では死亡したことになっている。

追跡を逃れるために一芝居打った形だが、こうして顔出しで行動している以上

公然の秘密とした方がいいのだろうが。

とにかく、書類上死亡したことになっている存在を出場させることはできないだろう。

いくらなんでも、そこまで政府もガバではあるまい。

……まあ、生きていたとしてもお尋ね者。こういう場に出られるとも思えないが。

 

悲鳴を聞かれたことといまだに残る脇腹のこそばゆさに気恥ずかしさを覚えながらも

平静を装いながら黒歌さんに返答を返したのだが

黒歌さんは秘策あり、と言わんばかりにドヤ顔で豊満な胸を張っている。

 

「私だってわかんないようにすればいいにゃん。例えば、覆面被るとか。

 こんなこともあろうかと、きちんと準備はしておいたにゃん」

 

黒歌さんはどこから仕入れたのか、はちわれ模様の覆面と

女子プロレスラーもかくやというコスチュームに早着替えした。

変身のつもりかもしれないけれど、こんなところで着替えんでくださいよ。

 

「じゃじゃーん。人呼んで『マスク・ザ・ハチワレ』とでも名乗っておこうかにゃん」

 

早着替えした黒歌さんは、軽い身のこなしでポージングを取りながら

本物のプロレスラーの入場みたいな立ち振る舞いを見せる。

モノトーンカラーの光沢のある際どいハイカットのレオタードのようなコスチュームは

黒歌さんの体のラインをこれでもかと浮かび上がらせている。

人前でしていい恰好じゃない。いつもの事だけど。

そして猫の靴下模様を思わせるニーハイブーツにロンググローブ。

ブーツのピンヒールは、最早レスラーと言うか違う職業に思えてならない。

と言うか歩きにくくないのかあれ。

 

ちなみに、ご丁寧にブーツの裏とグローブの掌部分には肉球があしらわれていた。

不覚にも可愛いと思ってしまった。

 

「…………」

 

案の定、こっちについてきてた白音さんもちらちらと黒歌さんを見てる……

……んだけど、なんか白い目と言うよりは興味津々って様子なんだが。

え? なに? 白音さんこういうのが好きなの? コスプレ的な意味?

言っとくが、このデザインは俺は一切関与してないぞ! …………好きだけど。

 

「……姉様、それ私の分はありますか?」

 

「よくぞ聞いてくれたにゃん! 勿論用意してあるにゃん!

 あと私はあんたのお姉ちゃんじゃないにゃん。『マスク・ザ・ハチワレ』にゃん」

 

黒歌さ……マスク・ザ・ハチワレが何処からか取り出した似たようなスーツは

今度は三毛猫模様だった。後は可愛らしさを重視したのか

マイクロミニ丈のスカートを思わせる腰布がついている。

お腹に大きな小判があしらわれているところを見るに招き猫のつもりだろうか。

まあ、縁起物の招き猫はある意味悪魔特効かもしれないが。

 

広げてまじまじとコスチュームを眺める白音さん。

目が輝いているあたり、どうやら気に入ったらしい。

 

「……それじゃ、私もいきます。

 

 …………あの、皆さん向こう向いてくれますか?」

 

姉に倣って早着替えをした白音さん。だからここで着替えるなっつーの。

言われた通り向こうを向いていると、すぐに白音さんから向きを戻していいという許可が下りた。

早着替えのスキル自体はあったらしいが、やはり黒歌さんと違って抵抗があったのだろう。

と言うか、それが普通だ。

 

「おおーっ! さすが我が妹……じゃなくて白音!

 私の見立て通り、よく似合っているわよ!」

 

「……リングネームは『カムカム・ミケ』でお願いします」

 

リングネーム名乗るあたり白音さんもノリノリじゃないか。

マスク・ザ・ハチワレのネコミミ覆面に対抗してか、こちらは目の周りだけを覆うタイプのマスクだ。

正直、見る人が見たら一発でバレそうなもんだが。

 

「……気分が乗ってきたので、ちょっと本気出してみます」

 

「あっ! 待って白音! そのスーツは……」

 

黒歌さんの制止を待たずして、気を解放して身体を成熟させる白音さん。

……なのだが、スーツの大きさは据え置きだったようだ。

これは……どう見なくともマズい。

 

何せ、言っちゃなんだが普段の控えめで小柄な白音さんの体系とは全く異なり

気を解放した際の白音さんの身体は、黒歌さんと遜色ないほどに肉付きがよくなる上

背も高くなる。大人がジュニアサイズの服を着ればどうなるか。言うまでも無かろうて。

 

「……んっ……くぅん……姉様……これ……きつい……です……」

 

ブーツやグローブも途端に窮屈そうなデザインになり

肉付きの影響をもろに受けた胸元や鼠径部辺りが

黒歌さんよりもきわどくヤバいことになっている。

零れ落ちそうとか、はみ出そうとか、隠せてるのかどうなのかとか。

そう言う使用上の注意はもっと早くに言ってくれ、黒歌さん。心の準備ってもんがある。

 

「……あはは、スーツはまだ改善の余地ありそうだにゃん」

 

「……せめて伸縮性だけは確保してください」

 

何とか元の大きさに戻った白音さんは、顔を赤らめながらジト目で黒歌さんを睨んでる。

俺は今回の件にはノーコメントだ。ノーコメントだったらノーコメントだ。

他の男性陣もそっぽを向いていたり、目が泳いでいたりしている。

唯一、ユーグリットだけは好色な目を向けているが……なんか知らんがムカつく。

 

「まあともかく、そんなわけで二人戦力は確保できてるにゃん。後は……」

 

黒歌さんがぐるりと周囲を見渡す。確かに、二人が来てくれるなら心強いが

正直、レーティングゲームを勝ち抜くのに三人(と二人)だけではまだ不安が残る。

ユーグリットはさっきの言葉から察するにちょっとやそっとでは同じ土俵には立たないだろう。

……などと思っていたら、いつの間にかユーグリットが何処かに行っていた。

さっき白音さんにいやらしい目を向けていたのに、何処に行ったと言うんだ。

 

……必要以上に干渉しないという事かもしれないが、全面的に信頼できない相手である以上

行動が読めないというのは些かやりづらい。そんな相手と組むなって話でもあるんだが。

 

 

そんな折、部屋の扉をノックする音が響く。安全を確認して扉を開けると

そこには何と、白いメッシュの入った長髪を靡かせた男――戦極凌馬(せんごくりょうま)が立っていたのだ。




ちょっと活動報告案件になるので、近況についてはそちらで。

>ユーグリットとの契約
そら悪魔の事情に詳しい人からすれば安請け合いと怒られる。
ちなみにバオクゥとの契約はただの取材協力(これも悪魔契約にねじ込もうと思えばいけるか)なので
正式なものでは無いです。

>レーティングゲーム
拙作の状況だと呑気にやってる場合でもない気はしますけどね。
まあ「世情が暗いから景気づけに祭典を行う」ってのもあの魔王なら考えそうだとは思いますが。

……ただ、今回のレーティングゲームは別の思惑もあるようですので……

>リングコスチューム
東方タッグマッチとかで出てるようなあんな感じ。
どの道黒歌はそのままじゃ出せないので、じゃあ覆面レスラー枠にしちゃえって事で。
ノリノリでコスチューム着てるあたり、某魔王みたいな趣味になってるような。

ちなみにリングネームは以前大那美組と行動した際にアイデアを貰った様子。
その場にいなかった黒歌は自前で考えたんでしょう。多分。


戦極凌馬がここに来た。お分かりとは思いますがミッチの強化フラグです。
ヨモツヘグリや斬月・偽ではないとだけ。


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Will49. 戦いへの準備 Bパート

レーティングゲームに参加するためのメンバーを選ぶことになった俺。

今回は俺一人では戦えない。そこに黒歌さんと白音さんが名乗り出たのだが

彼女達だけでは、少々心許ない。

そんな折、部屋の扉をノックする音が響く。安全を確認して扉を開けると

そこには何と、白いメッシュの入った長髪を靡かせた男――戦極凌馬(せんごくりょうま)が立っていたのだ。

 

「やあやあ久しぶりだねぇ。はじめましてもちらほら見受けられるようだが」

 

「……何をしに来たんだ」

 

率直な感想である。そもそもこいつは俺が沢芽(ざわめ)市から出る際に

フリードや私兵を使って俺を生け捕りにしようとしてきた奴だ。

こんなところで何をしようと言うんだ。まさか、こんな戦力差で俺を生け捕りはあるまいが。

 

「そう怖い眼をしないでくれたまえ宮本君。

 今日は光実(みつざね)君に用事があってね。試作品だが新型のロックシードが完成したんだ。

 彼にそのテストを行ってもらいたくてね。

 聞けば、君達は今度のレーティングゲームに参加するそうじゃないか。

 是非、光実君にもそれに参加してもらいたいんだ」

 

「セージさんじゃないですが、僕は人間ですよ?」

 

光実の言う通りだ。俺はアモンを入れている分人間と言い切っていいかどうかと言う問題があるが

光実はまごうこと無き人間だ。いくらアーマードライダーシステムを所持しているとは言っても

それを扱う光実は人間だ。

 

「勿論知っているさ。君が出場する許可はきちんと取った。

 いや、思いのほか簡単に取れたと言った方がいいだろうね。理由は、わかると思うが」

 

俺だ。俺がレーティングゲームに出るという以上「人間がレーティングゲームに出る」事に

違和感など生じようはずがない。俺の他に人間が増えたところで、誰も気にも留めないだろう。

寧ろ、積極的に人間を参加させようとしているのではないかとさえ思える。

 

……転生悪魔に俺達人間を叩きのめさせることで、人間の限界を思い知らさせる。

その上で、悪魔転生希望者を募る……考え過ぎだとは思うが、あり得ない話でもないだろう。

 

「それにこれは貴虎(たかとら)からの頼みでもある。

 『悪魔に対抗するためのロックシード』を作るというね。

 試作品ですまないが、君にそのデモンストレーションを頼みたいんだ。

 私としても、これ以上悪魔に嘗められたくは無いからね」

 

「貴虎兄さんの……」

 

等と言っているが、この戦極凌馬。魔王とのつながりも噂されている人物だ。

魔王と繋がっている後ろで、こうして対悪魔用のロックシードを作る。

まあ、それが交渉や同盟と言うものなのかもしれないが。

 

「因みに、私がここに来ているのは偶然ではない。来賓として招かれているからね。

 無論、私を招いた悪魔も私がこのロックシードを作った事は知っているだろう。

 だがそれでも、君にこのロックシードの力を発揮してもらいたいんだ。

 見せてやるのさ。人類の……私の力をね」

 

光実が渡されたのは二つのロックシードと何かのデバイス。

ロックシードは二つともブドウの色違いに見えるが、片方はブドウの房の色違い。

もう片方はロックシード本体の色が違う。

このカラーリングは前に見た事がある。エナジーロックシードって奴だ。

 

……ん? だが、エナジーロックシードに対応した

ゲネシスドライバーは受け取ってないようだが……?

 

「プロフェッサー。エナジーロックシードだけ受け取っても、ドライバーが無くては……」

 

「君も知っていると思うが、ゲネシスドライバーは量産が効かなくてね。

 だが、それではエナジーロックシードを持て余してしまう。

 そこで、戦極ドライバーを拡張するという形で

 エナジーロックシードに対応するようにしたんだ。

 

 悪魔特効のアームズを装備しているが、性能自体はブドウアームズとそう変わらない

 『マスカットロックシード』。

 悪魔や堕天使、アインスト等への特効こそ持たないが

 基本性能を高めた『ブドウエナジーロックシード』。

 

 是非、有効に使ってくれたまえ。

 ああ、エナジーロックシードの使い方については、後でマニュアルを読んでおくように」

 

まじまじと受け取ったロックシードを眺める光実。

アーマードライダーシステムの欠点は、稼働させないとどうなるかがわからない点だ。

多分、光実自身もわかってないと思う。性能自体は、今戦極凌馬に解説してもらったが。

 

「……そう言えばプロフェッサー。バナナのロックシードは開発していませんよね?

 僕は先日、バナナのロックシードを使うアーマードライダーと戦ったのですが」

 

「それはあり得ないな。ロックシードの製造法は誰にも伝えていない、私にしか作れないものだ。

 私以外がロックシードを製造するなど、断じてあり得ないし、あってはならない話だ。

 あるとするならば……いや、そうだとしても君が知る必要のない事だよ、光実君」

 

凌馬の断言に黙り込む光実。あのアーマードライダーは、出所からして違うという事か。

この言い分だと、クロスゲートで「バナナロックシードが開発された世界からやって来た」

と言う位にはあり得ると踏んでいるのかもしれないが……まあ、それは多分違っているだろうな。

ディエンドがクロスゲートから来たかどうかも、定かではないし。

 

……と言うか、あいつ何処から来たんだ?

 

「……わかりました。次の質問ですがプロフェッサー。

 僕にこのロックシードを渡して、悪魔狩りをしろって事ですか?」

 

「……抑止力だよ。確かに人間は悪魔に比べて弱い。

 だがだからと言って、悪魔の跋扈を許すのはユグドラシルの理念からも外れてしまう。

 悪魔が人間界に存在する以上、それに対する抑止力を作る。自然な事だろう?

 それに今までの戦闘データを見させてもらったが、その上で結論付けると

 上位のアインストを相手取る際にはブドウアームズでは力不足だと思ってね。

 だが、ゲネシスドライバーはさっき話した通り予備が無い。

 そこで、急遽戦極ドライバーの拡張ユニットを作ることで間に合わせることにしたんだ。

 今の人類の敵は、悪魔だけではないからね」

 

「警察の立場としては全面的に賛成はできねぇが、言いたいことはわかる。

 よし、なら俺も出る。民間人だけ戦わせて警察がなにもしねぇってのは

 俺達警察の沽券にかかわるからな」

 

戦極凌馬の持論を受けてか、安玖(あんく)巡査が出場の名乗りを上げる。

ところが、それに待ったがかかった。氷上巡査である。

 

「いえ、今回は自分が出ます。話を聞けば、この戦いは我々にとってはともかく

 悪魔にとっては単なる娯楽。そんな娯楽のために、安玖巡査の身銭を切らせるわけには……」

 

「気持ちはありがてぇがな氷上。ゲシュペンストを動かせばログは残るぞ。

 今俺達はあの蟹野郎の監視から外れてるからセージと行動を共に出来てるんだ。

 現状がログに残って、そこから奴に知れ渡ったら事だぞ」

 

安玖巡査が戦えば、神器(セイクリッド・ギア)を使う以上その性質上安玖巡査は支出が嵩んでしまう。

そうなると、別にファイトマネーが貰えるわけでもない(多分)現状

タダ働きどころの話じゃない。

誰が好き好んで、お金を払ってまで見世物になりたいというのだ。

 

氷上巡査がそう思ったかはわからないが、ゲシュペンストを持ち出してまで

安玖巡査に戦わせまいとするからには、余程の事があるのだろうとは思う。

だが、俺も詳しい事は知らないがゲシュペンストを動かせばログが残る。

言うなればドライブレコーダーか。そりゃあ、国のものだからそう言う記録は緻密に取るよな。

そうなると、現状が筒抜けになってしまって俺達どころか

安玖巡査や氷上巡査の立場も悪くなってしまう。

 

 

……そんな不安がよぎる中、またしてもドアがノックされた。

 

「……心配には及びません。私が、ここで、ゲシュペンストのメンテを行います」

 

戦極凌馬の後ろから現れた影。それは、ある意味では場違いにも程がある存在。

薮田(やぶた)先生だった。

 

「博士!? どうやってここに!?」

 

「蛇の道は何とやら、と言っておきますよ。来賓と言う訳でもありませんがね。

 ちなみに、試合の観客席はバックネット裏を取ってありますのでご心配なく」

 

「……来賓みたいなもんじゃねぇかよ。

 それより博士、どうやってこっちでゲシュペンストのメンテをするんだよ」

 

「その質問に答える前に……氷上巡査。ゲシュペンストのパーソナル転送システムを私に」

 

安玖巡査の質問に答える形で、薮田先生は氷上巡査からゲシュペンストの

パーソナル転送システムを預かる。

なるほど。これで呼びだしてメンテを行うって事か。

 

「ご存じとは思いますが、ゲシュペンストは呼びだしていない待機中に

 工場スタッフがメンテや補給を行っています。

 しかし、現在それにばかり頼っていては公安に情報が筒抜けになってしまいますからね。

 そこで、私がメンテナンスを代わりに行うと言う訳です。

 早速、メンテを行ってきますので少し席を外します。なに、すぐに済ませますよ。

 

 ……ああ、因みに弾薬やエネルギーについてもあてがありますので、ご心配なく」

 

一礼し、足早に部屋を出る薮田先生。

この状況を見て戦極凌馬も俺達の置かれている立場を理解したのか

元々知っていたのか定かでは無いが、まるで悪魔と戦う俺達を激励するようなことを言い出した。

 

「どういう経緯で君達が悪魔と事を構えるようになったのかはわからないが

 これは人類からすればチャンスだと言えるね。

 悪魔も、天使も、堕天使も人間を契約によってエネルギーを得るための餌か

 自分達の手駒を作るための材料としか思っていない。

 その理由はさっきも言った通り、人間が悪魔よりも弱いからだ。

 だがその悪魔に、君達人間が勝てばどうだい? たとえロックシードやゲシュペンスト

 果ては神器を使ったものだとしても、悪魔に勝ったという実績の方が大事だ。

 では私もこの辺でお暇させていただこう。諸君の健闘を祈るよ」

 

言うだけ言って、戦極凌馬も部屋を後にする。

どうも、奴は悪魔と組んでいる癖にその悪魔を滅ぼしたがっている風にも思えてならない。

そうなると、なんで悪魔と組んでいるんだ? 弱みを握られている風でも無いし。

 

……やはり、何か企んでいるような気がしてならない。

 

「……確かに彼の通りだな。悪魔に勝ったという実績を作ることも、悪魔祓いの基礎だ。

 悪魔を退け、人々に希望を与える。それがこの聖剣(デュランダル)を持つ意味だ。

 ……そう言う訳で私も出よう。異論は無いな?」

 

その戦極凌馬の口車にのせられるような形で、ゼノヴィアさんまで出ることになってしまった。

これで俺、黒歌さん、白音さん、光実、氷上巡査、ゼノヴィアさんと6人そろった。

数の上ならば、少なくともグレモリーチームとほぼ同等ではあるが。

 

「あ、私は今回は従軍記者って事で。

 いえ、正直に申し上げますとこの間航空戦艦みたいな奴と戦った時のダメージが

 まだ残ってまして……身体じゃなく、艤装の方に……」

 

不参加のバオクゥが言う航空戦艦みたいな奴。

俺はその場に居合わせなかったが、恐らくはディエンドが呼びだしたであろう傀儡か。

今更だが、皆よくあれに勝てたもんだと思う。負けたのもいた気がするが。

あの時の俺は、シャドウの相手で必死だったと思うので何とも言えないのだが。

 

「じゃあ、俺は氷上のセコンド兼代役だ。

 ゲシュペンストは一応誰でも操縦できるからな。氷上が負傷したときとかのために

 俺も代打として登録した方がよさそうだしな。ゲシュペンストなら、俺も身銭を切らずに済む。

 それならいいだろう、文句は言わせねぇぞ氷上」

 

「……まあそう言う事でしたら」

 

バオクゥは不参加、安玖巡査が神器を使わない形で参加。

これで出場メンバーは揃った形か。見事なまでに悪魔が入っていない。

アモンがいる分、俺が一番悪魔なんじゃないかって位だ。

……猫魈(ねこしょう)を悪魔の範疇に含めてしまえば、話は変わってくるが。

 

「神器を使うにしても、こっちじゃ日本円が碌な価値も無いってのはわかったが

 だからって、俺にタダで寄越してくれるほど気前よくは無いだろ。

 それに、出所のわからん金を受け取るってのは立場上マズいからな。

 下っ端とは言え公務員が収賄したら、洒落にならんだろ」

 

「……安玖巡査、金に関しては真面目ですからね。

 だからお金を浪費する神器が使えるのかもしれませんけど。わかりませんが」

 

言えば、ユーグリットの事だから工面はしてくれるかもしれないが

ここで出回っているお金なんてどういう経緯で来たお金かわからないからな。

たとえ悪魔社会で正しく回っていた金だとしても、大元が何をしたか。

そうでなくとも、曲津組(まがつぐみ)ってわかりやすい前例があるんだ。

悪魔と日本社会的によくない組織が繋がっている可能性なんて、大いにある。

それを悪魔社会を通して受け取ったら、そう言うのって確か……ええっと……

 

『……マネーロンダリング、って奴か。警察の身分で実行に関わったらダメな奴だな』

 

そうそれ。ってか、よく知ってたなフリッケン。

まあとにかく、犯罪に絡む金を警察官が受け取ったら大問題だよな。

 

「リーさんが食いつきそうなネタは、出さないに越したことは無いですからね」

 

バオクゥの言う事は尤もだ。だがそうなると、俺はかなり危ういが……

ユーグリットと組んだこともだし、もしかすると鏡の泉で暴かれた件も何処からか……

 

「一応さっきボディチェックしたけど、セージに盗聴器の類はついてなかったにゃん」

 

さっきのって、そう言う意味があったのかよ。

向こうでバオクゥがバツの悪そうな顔をしているが、無いなら別にいい。

 

「念のため俺達も調べておくか。どこから情報が洩れるかわからないからな。

 黒猫、お前は白猫とゼノヴィアとブン屋をやれ。俺が自分と氷上と光実をやる。

 氷上、お前は光実や宮本と部屋の中を調べろ」

 

「命令すんな、って言いたいとこだけどわかったにゃん」

 

「うう……こういうのって盗聴バスターの弟子たる私の出番のはずなんですけどねぇ……」

 

「……確かに、プロフェッサーとかそう言うの仕掛けてもおかしくないですからね」

 

言えてる。まあ、分身使って盗聴してた俺が言えたことでは無いが。

 

それにしても、一体全体このタイミングでレーティングゲームを仕掛け

あまつさえ、俺達まで巻き込むとか一体何を考えているんだ?

……戦極凌馬に、薮田先生。外部からも来賓を呼んでいるという事は

この分だと、何処かまた他の所から来ている可能性もあり得るな。

 

外部からの来賓、レーティングゲーム、主催者。

これらが揃った時、俺は一つの可能性にぶち当たった。

 

 

――公開処刑。

 

 

イェッツト・トイフェル辺りの思惑に乗せられすぎな気もするが

可能性としては、無いわけではないだろう。裏切り者のアモンを擁し

悪魔社会に明確に反旗を翻す、現悪魔政府にとってみれば

俺は禍の団(カオス・ブリゲート)もかくやと言わんばかりのテロリストみたいなもんだ。

 

そのテロリストを打ち破ることで政府の正当性を示し、味方を増やす魂胆かもしれない。

それが正しいかどうかはわからないが……

この戦い、黙ってやられるわけにはいかない事だけは事実だ。




と言う訳でゲシュペンストのメンテ問題解決と新型ロックシードによる戦力増強。
今回はもうちっとだけ続くんじゃ。

>新型ロックシード
一応正統派ならドラゴンフルーツエナジーとかあるんですが……
マツボックリやマロンにエナジーがあるなら、ブドウにエナジーがあったって
別に不思議じゃないだろうって事で。この戦極凌馬は作ったんです。

マスカットはブドウのカラバリイメージ。完全に対悪魔に特化した
拙作だからこその個性を持たせたアームズ。相手が悪魔じゃなかったら
只の色違い。

ブドウエナジーはゲネシスコアでの変身なので、言うなればジンバーブドウ。
ナックルのジンバーマロン、それの龍玄・ブドウアームズ版ってとこですかね。


……ただ、悪魔対策の新型ロックシード、性能向上型のロックシードと嘯いてますが
レジェンドなロックシードを差し置いて何言ってるんだか、ってのも事実。

>ゲシュペンスト
神器持ちの安玖巡査が運用する必要性が無い(金がかかるとはいえ神器使えばいい)ので
氷上巡査が使用していたって身も蓋も無い話はありますが
一応氷上巡査が一番うまくゲシュペンストを扱えます。
なにせこの世界におけるG3シリーズみたいなポジションですし。

>公開処刑疑惑
一応セージの有無関係なくレーティングゲームはやろうとしていたので、今回のセージの予想は完全なる杞憂。
ただ、セージが(半ば偶然とはいえ)やってきてしまったので
これ幸いとばかりにアモン諸共公開処刑を企てていると言えば、そうなるのかもしれませんが。
イェッツト・トイフェルはそれを逆手に取って公開処刑を台無しにし、現政府の支持率を下げようとしている魂胆。


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Will49. 戦いへの準備 Cパート

お待たせしました。


『セージ、試合前に一つ頼まれてくれ。魔神剛(まじんごう)(よろい)の材質だ。

 前も話したが、そんじょそこらの鉱石じゃ、俺の――デーモンの力に耐えられん。

 俺の記憶に、一つその力に耐えうる合金がある。それを確保してくれ。

 

 ……その名は「超魔合金D(ちょうまごうきんディー)」。己の肉体のみを武器とするデーモンだが

 唯一例外的に、この合金で作られた武具だけは使っていたんだ。

 デーモンの力にも耐えうる素材だからな』

 

魔王主催のレーティングゲームに、半ば強引ながらも参加することとなった俺達。

メンバーも粗方選定し終えたところで、アモンから相談を持ち掛けられる。

以前使用した際に問題が浮き彫りになった、魔神剛の鎧の材質だ。

 

その候補として挙げられたのは超魔合金D。

聞きなれないその名前の合金は、今の冥界にあるのか?

そう思い、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で超魔合金Dについて調べてみるが……

まあ、思った通りの結果が出力された。

 

「アモン。お前わかってて俺に聞いてないか?

 超魔合金Dの精製方法は失われて久しい。

 原料になる鉱石もそうなんだが、超魔合金Dって名前自体も

 今の悪魔のほとんどは知らんそうだぞ。

 

 ……いや、原料になる鉱石自体はあるな。

 別な名前を付けられて、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の原料にされてるが。

 つまり、ほぼ完全に政府が確保している。入手は無理だろうな」

 

『だろうな。デーモンに関する資料が焚書されたって事は

 デーモンに因む物も同じ目に遭ってるってのは想像に難くない。

 だが解せねえな。超魔合金Dなんて、その強度も魔法への適応性も悪くないのに

 なんでまた、技術を衰退させるような真似をしたんだか。

 で、その代わりに生まれたのが悪魔の駒か。何とも言えん話だな』

 

アモンが疑問に思っていると、俺とアモンの対話――傍から見たら独り言だが――を聞いていた

バオクゥが、思い当たる節があると言わんばかりに割って入って来た。

 

「超魔合金Dですか? それなら私が持ってますよ?

 いやあ、何を隠そう私のこの艤装、一部分だけですけど超魔合金D使ってるんですよ。

 ……精製方法は私もわかんないんですけどね、あはは……」

 

「十分だ! バオクゥ、すまないが艤装をちょっと調べさせてくれ!」

 

記録再生大図鑑で記録できるものは、能力に限らない。

やろうと思えば、書籍の内容を丸コピしたり成分調査も出来る。

そして、記録さえすれば……

 

「…………セージ」

 

「…………セージさん」

 

後ろから黒歌さんと白音さんの白い眼が刺さる。

そう、傍から見たら今の俺はバオクゥにセクハラを働いているようにも映ってしまうのだ。

手に取ってみているのはバオクゥの「艤装」であって「本体」じゃあないんだが。

艤装が本体とか言われたらどうしようも無いが。

 

「……疚しい部分は無いとだけ言っとく。

 と言うか、そうだとしたらタイマンでやったらそれこそ問題だろ」

 

「まあ、それもそうかにゃん。公衆の面前で女の子辱めるのは控えめに言わなくてもゲスだけど」

 

「……それこそ、あの変態のこと言えなくなりますよ?」

 

……白音さん。流石にそれは堪える。ただでさえ俺一部分ではあいつ以上の事やってるのに。

普段の行いまであいつと同等になったら、ちょっと穴倉に潜りたい。

 

「あー……私は別に? 艤装見てもらってるだけですし?

 それにこの艤装、脱着自由ですから外して調べれば全く何も……」

 

「そっ、そんなことしたらセージが変な趣味の変態みたいになっちゃうにゃん!」

 

……そう言う風に考えてるのはもう黒歌さんだけじゃないのか。

そう思い、黒歌さんに軽くツッコミで手刀を見舞いながらも

俺はバオクゥが外した艤装をくまなく調べてみる。

持ち上げようとすると結構重い。よくこんなもん担いで動き回ってるよな。

まあ、山奥ロケとかのカメラも似たようなもんか。

 

「あ、この辺ですこの辺。脚部部分の方、その底面。船で言えばバルジのとこですね。

 ここに、超魔合金Dを用いてるんですよ。

 逆に言えば、これ位しか使えないんです。何だかんだで、貴重ですから。

 

 ……私が今回戦闘に参加できないのも、この部分のダメージが修復できないからなんですよ。

 超魔合金Dなんて、今取り寄せるとなるとそれこそルキフグスの闇市場位しかないですから」

 

げっ、あのぼったくり市場かよ。

確かに、バオクゥの脚部艤装の底面にはまだ亀裂が残ったままだ。

修理をするにしたって、その材料が無ければこういう物は修理できない。

とは言え壊れていても成分記録には恐らく問題は無いが、ここで一つ重大なことを思い出した。

 

 

……今俺、モーフィング出来ないじゃないか。

それに出来たとしても、超魔合金Dを生成するのにどれだけモーフィングを繰り返せばいいのか。

アモンに代わってモーフィングするにしても、そのアモンを召喚するために

神器(セイクリッド・ギア)を使ってるんだから、神器の使えないアモンに代わっては本末転倒だ。

 

「……アモン。超魔合金Dだが、一部分だけを使用するとか……」

 

『それじゃ意味がねぇ。デーモンのパワーを最大限発揮するには、材料費をケチるな。

 ルキフグスの闇市場なら、ユーグリットに話を振ればいいだろ。

 交渉なら、俺が出てやる』

 

いや無理だろ。流石にこれ以上アモンを強化するってのはユーグリットが首を縦に振るかどうか。

いくらサーゼクスにぶつける魂胆があるにしても、自分を狙いかねない相手をそこまで強化するか?

 

「なのでセージさん。私の艤装を使ってください。

 大丈夫ですよ、身を守るための機銃程度なら使えますし、そもそもそっちは超魔合金Dを使って無いので

 今回の件には全然関係ないですし」

 

「気持ちはありがたいが、元に戻して返せるかどうかの保証が……」

 

「話は聞いていたぞ。超魔合金Dなら、僕が工面してやる」

 

思わぬ方向から助け船が出た。俺が最初にその可能性は無いと切って捨てたユーグリットだ。

さっき出て行ったはずなのに、また戻ってきている。いつの間に。

 

「用事があるんじゃなかったのか?」

 

「ちょっとした野暮用だっただけだ。それより、超魔合金Dなら確かにウチの市場にある。

 政府の眼を掻い潜って手に入れた、違法スレスレと言うかほぼ違法な代物だがな。

 まあ安心したまえ、当たり前だが足はつかないようにしてある。

 でなければ、いくら闇市とは言え大っぴらに市場には流せん」

 

意外だった。ここで超魔合金Dを使うという事は、即ちアモンの強化だ。

ユーグリットとアモンの関係は、はっきり言ってよくは無いと思っていたのだが。

 

「僕がアモンの強化をタダで引き受けるのが意外だとでも言いたげだね。

 考えてもみたまえよ。アモンが超魔合金Dの力を行使するには、君の力が不可欠だ。

 つまり、だ。もし僕がアモンと戦うことになった際、アモンを直に封じなくとも

 そのアモンに超魔合金Dの力を与える君をどうにかすればいい。

 いくら得体のしれない神器を持っているからと言っても

 人間に後れを取るほど僕も衰退しちゃいない。

 それに君の戦い方は初見殺しだろう。そんな相手の同じ札に二度も翻弄されるほど

 このユーグリット・ルキフグスは耄碌しちゃいない」

 

……あ。そういえばそうだった。

アモンに魔神剛の鎧を与える際、俺は無防備とは言わないにしても

それほど強化されている訳ではない。

ユーグリットの言っていることは、そのまま俺の欠点の指摘でもあった。

 

『ユーグリットの事だからお前自身の篭絡も考えにあったかもしれんが

 あいつの言っていることは凡そ正しいぞ。お前の合図が無ければ俺は魔神剛の鎧を使えない。

 そうなったら超魔合金Dとて宝の持ち腐れだ。

 こういう時、自分の身体が無いのがもどかしいな』

 

それはよくわかる。俺だって、何度身体が無いが故にもどかしい思いをしたか。

ともかく。これで魔神剛の鎧の補修の目途も立った。

と言うか、これでようやくまともに運用できるレベルになったと言うべきか。

以前使った際には、攻撃の度に自壊していたし。

本番でそんなことになったら、目も当てられない。

 

「そう言う事なら、遠慮なく使わせてもらおうか。

 それと、さっき言ってた悪魔の駒の代用品だったか?

 

 ……あれ、いらないから」

 

俺の発言に、ユーグリットとアモンから驚きの声があがる。

黒歌さんも目を丸くしているようだ。

一応、これだって考えなしの意地っ張りってわけでもない。何故ならば。

 

「考えてもみてくれ。俺達は『悪魔の駒に頼らない人間――と妖怪』の代表として出るんだ。

 そこで紛い物とは言え悪魔の駒の力なんか借りてみろ。

 勝ったにしても負けたにしても、悪魔の駒推進派にマウントを取る口実を与えることになるぞ」

 

俺の意見に、ユーグリットは得心がいったように頷く。

勝てば「悪魔の駒の力を使ったから勝った」。

負ければ「悪魔の駒に頼らない人間や妖怪はこの程度」などと

自分達に優位なように言いふらすのが、ありありと想像できる。

そんな戯言を言わせないためにも、ここで悪魔の駒を使わないことで

そうした言い訳を無効にさせておく必要があったのだ。

 

「……確かに。そこは僕の考えが浅かった。謝罪するよ。

 だが、そうなるとどうやって悪魔と人間の地力の差を埋めるつもりなんだ?

 君達の神器や聖剣、その妙な道具で戦うにしても、そんじょそこらの悪魔はともかく

 赤龍帝クラスとなると、通用するかどうかは怪しいぞ。

 君達が赤龍帝に勝てているのは、奴自身が未熟だというのと地の利もあるのだろう。

 ここは奴にとってはホームグラウンド、君達はアウェーだ。

 この戦い、今までと同じと思わない方がいいぞ。

 

 それと、駒の特性を使わないのは勝手だがダイス・フィギュアのルールにおける

 駒のコストはきちんと反映される。そこは忘れてくれるなよ」

 

それもそうだ。俺だって、まさか集団リンチで戦えるなどとは思っていない。

いや、戦略上はそれが基本ではあるのだが。

特に、個々の能力がどうしても劣る人間である以上は。

 

俺がわかっていることを伝える旨の返事をしたと同時に

今度は反論のような形でユーグリットに言葉が投げかけられた。

 

「そっちこそ、人間嘗めんじゃねえぞコウモリ野郎。

 俺達人間はな、てめえらみたいな連中の玩具にされるために生きてるんじゃねえ。

 てめえらの導きっつー横槍なんぞが無くったってな、生きていけるんだよ」

 

「信じられないのなら、それを今回僕達で証明して見せます。

 まさか、現実を目の当たりにできない程でも無いでしょう?」

 

安玖(あんく)巡査と光実(みつざね)に挑発される形で、ユーグリットの意見は跳ね除けられた。

かねてから思っていたんだが、悪魔の駒の使用は結局のところ

「自分達にとって有益だから引き抜く」行為でしかないわけで

そこに相手への敬意は存在していない、風に思える。

それなのにグレモリーだとかは人間との共存を謳う。出来るかんなもん。

悪魔からの人間評はグレモリーもルキフグスも上っ面はともかく根本は変わってないらしく

それはユーグリットの言葉が証明していた。

 

だからこそ、安玖巡査も光実も言葉に出たんだろう。

光実が口にしたのは意外ではあったが。

 

「……言ってくれるな。だが、意地を張って負けたなどと

 情けない結果は見せてくれるなよ。そうなっては、僕も立つ瀬がない。

 ま、最終的に僕は姉上を取り戻せればそれでいいのだけどね。

 サーゼクスの鼻を明かすのは、姉上を取り戻せればついでに達成できる目的だ。

 その目的のためにも、人間の力と言うものを見せてもらおうか。

 そのための投資は、僕は惜しまないよ」

 

そう言って、ユーグリットは魔法陣から黒光りする鉱石を取り出す。

乱雑に切り崩されたようなそれは、調べてみると確かに超魔合金D――の原石だった。

 

「精製済みじゃないのか」

 

「精製の技法は僕も知らないな。何せこの鉱石はアグアレスで採取されたものを

 裏取引みたいな形でうちが買い上げたんだ。彼らも超魔合金Dの精製方法までは知らないしね。

 精製済みのものは、悪いが僕の一存だけでは簡単には渡せないな」

 

こうは言っているが、精製済みの超魔合金Dを俺達に渡せない本当の理由は

間違いなく別にあるだろう。

 

――人間に超魔合金Dを渡すつもりがない。

 

出来るかどうかは別として、仮にゲシュペンストやアーマードライダーに超魔合金Dを用いたら

それがどういう結果になるか。その辺のリスク管理ってとこだろうな。

それに、ゲシュペンストは薮田先生、アーマードライダーは戦極凌馬。

どっちも、超魔合金Dを実際に活用しそうでならない。

 

(……これ以上交渉を粘ってもあまり得なことは無さそうだな。

 アモン。少々の特訓は必要になるが、原石の状態でいいか?)

 

『構わねえよ。魔神剛の鎧がきちんと使えさえすればいい』

 

アモンとの相談。決まりだ。交渉成立という事で

俺はユーグリットから超魔合金Dの原石を受け取る。

名前は忘れたし検索する必要性も無いので省略しているが、悪魔の駒と同じ原料なんだよな。

あれは俺がコピーした滅びの魔力で消せる程度のものだったが

超魔合金Dは、いったいどれほどなのか。

 

『精製方法にもよるが、超魔合金Dは魔力的な攻撃に対しては滅法強い。

 滅びの魔力だろうと例外じゃねえ。サーゼクスクラスとなると断言はしかねるがな』

 

つええな。それだけに、最大限スペックを発揮するとなると俺の力次第って事になるわけか。

俺の身体でアモンが全力を出し切れていなかったって考えると、デーモンが使っていた武器と

同じ材質のガワを与えれば、アモンも遠慮なく全力を出せる。そう言う寸法だ。

 

「原石ならある程度工面できる。足りなくなったら言いたまえ。

 ……ただで、とは言わないがね」

 

これ以上足元を見られるのは御免だ。俺はそう返し、ユーグリットとの交渉を切り上げた。

出場の手続きはユーグリットが代わりに行うらしいが、大丈夫か?

……まあ、いくら防壁を作れるとは言っても人間が長時間冥界の空気を吸うのはよくないからな。

その事を考えれば、レーティングゲームなんぞやらずにさっさと帰りたいんだが。

 

 

――――

 

 

翌日。早速訓練を開始した俺達も合間にニュースを目の当たりにしたが

案の定、俺達の出場で話題は持ちきりになっていた。

 

 

――レーティングゲーム魔王特別杯開催、6つ目の参加チームにまさかの人間チーム!

 

 

そして連なる各チームの参加メンバーの名前。

他のチームに見慣れない名前があるのはいい。そもそもアガレスやバアル

果てはシトリーですらよく知らない部分あるし。

 

俺達の所にも当然、取り決めたメンバー――ご丁寧に、黒歌さんと白音さんはリングネーム――が載っていた。

 

 

……だが、その中で見慣れない名前を見た。

 

――ビナー・レスザン。

 

気になって記録再生大図鑑で調べてみるが、結果が出ない。

一体何者なのか。誰かがスパイでも送り込んできたか?

いや、そもそも昨日までの時点でそんな奴はいなかった。

 

(アモン、デーモンにそんな奴はいたか?)

 

『いや、俺の知ってる限りじゃいねぇ。とは言っても、俺もデーモンの全部を知ってるわけじゃないが』

 

アモンも知らない悪魔となると、逆にデーモンの可能性は薄くなる。

強いて心当たりがあるとすれば、ユーグリットが何か知っているかもしれないが……

確たる証拠がない。それでも、問い詰める必要はありそうだが。

 

 

俺達の戦いは、思わぬところからきな臭さを増していたのだった。




※11/15大幅加筆・修正。
せっかく6チームでリーグ戦行えるのに、わざわざ5チームにして運用しづらくする意図も無いでしょう。
あと、ルールを考えるとセージの「駒の特性使ってたら意味がない」は一理あるにしても
ルール無視が罷り通りかねないのでこの辺も加筆。

ちょっと、スランプ気味かも……


まあ、普通に考えて自分の攻撃で自壊するような材質じゃまともに運用できないですしね。

>超魔合金D
超合金Zに類するものは必須であろう、と。
マジンカイザーはZどころかニューZαではありますが。
名前が被っただけで別に超魔生物とかは関係ありません。

そして今まではセージの身体だったから本気出せてなかった(出したらセージの身体が吹っ飛んだ)と言う事実。
つまり、ここからアモンはほぼ全盛期に近い状態に。


ちなみに、バオクゥの艤装の一部に用いられていますが
何故だか(棒)似たようなシステム持ちの天照様の艤装の材質はヒヒイロカネです。
どっちが材質的に強いか、とかそう言うのは今回野暮なので触れませんが。

>セージのチームの立ち位置
暗黒武術会の浦飯チームみたいなものと思っていただければ。
悪魔の領域で人間が戦う(しかも人間サイド)訳ですからね。
そして、ここでの戦いの結果如何では、冥界の今後が大きく変わりうることがほぼ確定した瞬間でもあります。
(ただの人間に負けては悪魔の駒の優位性が全く無くなる、単純に悪魔を増やすためだけの道具に成り下がる)

妖怪が参加してる? 悪魔の力を使ってる? 妖怪は個人で人間に協力しているだけ、悪魔は人間に召喚されて出てきているだけなので
悪魔の駒の恩恵とは一切関係ありません。能力の参考元ではあるにしても。


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Will50. 遥かなる戦い~陰謀~、開幕

戦いと書いていんぼうと読む、そんな感じ。


今、俺達の間にはちょっとした騒ぎが起きている。

それと言うのも、突如として聞きなれない名前の存在が

勝手に俺達のチームにエントリーされていたのだ。

 

――ビナー・レスザン。

 

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)にも存在しないそれは、人間なのか悪魔なのか妖怪なのか。

はたまたそれ以外の何者かなのか。それすら一切合切がわからないのだ。

 

 

「セージ! これは一体どういうことだ!?

 誰なんだよ、このビナー・レスザンって奴は!?」

 

「すみません、俺も調べてみたんですがわかりませんでした。

 バオクゥ、お前何か知らないか?」

 

「いえ、私も初めて聞く名前でして……」

 

安玖(あんく)巡査に詰め寄られるが、俺だってわからない。

バオクゥに聞いてみるが、それすらもダメだ。

 

「……確たる証拠が無いが、ユーグリットに聞いてみるより他仕方ないな。

 エントリーの手続きはスポンサー権限だとかであいつがやったんだ。

 その時に、何かしら手を加えたって考えるのが自然だが……

 何分、奴がやったって証拠がない」

 

朝練から戻って来た俺を待っていたのが、この混乱である。

ユーグリットの横槍か、何処からか入り込んだスパイか。

情報が少ない現状では、あらゆる事態を想定して動くより他仕方がない。

 

「俗にいう『事件と事故両方の観点から捜査する』って奴ですね。

 宮本君にもバオクゥさんにもわからないんじゃ、我々にわかるはずもありませんし」

 

「だな。一応聞くが光実(みつざね)、ゼノヴィア、猫ども。

 お前らの知り合いにこんな名前の奴はいるか?」

 

安玖巡査に聞かれた一同は揃って首を横に振る。知らないという事だ。

無いものは無いのだ。警戒を解くことはできないが、気にしすぎても仕方がない。

そう結論付けて、各々の行動に出ることとなった。

 

安玖巡査と氷上巡査は薮田先生と合流し、ゲシュペンストの整備。

光実は戦極凌馬(せんごくりょうま)……の所へは行かず、ゼノヴィアさんと新しいロックシードの運用テスト。

黒歌さんと白音さんはスパーリング。

バオクゥは現在の冥界の情報収集。

そんな具合に、皆一様に忙しそうである。ユーグリットは顔を見せていない。

 

俺達も朝練の続きにとりかかる。魔神剛(まじんごう)の鎧の顕現も、安定してきている。

周囲への被害を鑑みて、実際にアモンの能力を行使するのはぶっつけ本番になりそうだが

魔神剛の鎧とアモンの魂のリンクはうまく行っているようだ。

他にも勿論、凰蓮(おうれん)軍曹のメニューにも取り組んでいる。

この辺は取り組む人物を選ばない基礎的なところも少なくないので

他のメンバーもタイミングが合えば一緒にやっている。

 

その合間に、俺は僧侶(ビショップ)の力で魔神剛の鎧と同じように

他のものが召喚できないか試してみたが……

ここに来て、以前悪魔絵師に描いてもらったラフ画の女教皇が反応を示していた。

その結果顕現出来たのは、天照様。もしくは大日如来様。

どちらかを能動的に呼び出すことはできなかったので、実戦ではちと、使いにくそうだ。

その際に顕現されたのは、どうも分霊にあたる存在だったらしく

それを俺の指揮下に置くことは、特別問題無いらしい。

また、今回のレーティングゲームに際し本体に招待状が届いたそうだが

国防の観点と環境の都合上――太陽の有無――から辞退したそうだ。

その点からも、分霊がこっちに来られるのはありがたいとも仰っていたが。

 

ともあれ、どちらが来るかはわからないが

神仏同盟の主神格をも呼び出すことも出来たと言う訳だ。

場合によっては、アモン以上に戦力になり得るだろう。

 

 

……それが意味することを考えると、ゾッとするが。

 

 

――――

 

 

調整と情報収集を繰り返しながら、とうとうレーティングゲームの開会式の朝を迎えた。

結局、今の今までビナー・レスザンと言う奴は一度も俺達の目の前に現れなかった。

誰かの悪戯じゃなかろうか。そんな考えも過ぎるようになっていた。

そんなレーティングゲーム開会式の朝、控室で待機していた俺の下に

バオクゥが血相を変えて飛び込んできた。

 

「せっ、セージさん! わた、私見ちゃいました!!」

 

「おい落ち着け。一体何を見たって言うんだ」

 

慌てた様子で鞄の中から水上偵察機の模型を出しながら必死に記録データを取り出すバオクゥ。

普段なら、記録媒体を予め出した上で俺の下にやって来ているので

この事からも既にただ事ではないことが窺える。

 

「とっ、とにかく! これ見てください!!」

 

押し付けられるように記録媒体を寄越される。

何気に、こういう物も記録再生大図鑑で読み取れるので

その気になればレコーダー要らずとも言える。

いくらでも悪用できる。それはどの神器(セイクリッド・ギア)にも言えることかもしれないがな。

 

そう考えながら、データを読み取ると……

 

 

『……セージ。このところの特訓で俺は目が疲れたらしい』

 

『アモン。そりゃ気のせいだ。俺にも、同じものが見えている』

 

フリッケンとアモン。こぞって目を疑うのも無理はない。

何せ、そこに映し出されていた映像には――

 

 

――イェッツト・トイフェルと、ラスト・バタリオンが会談を行っていたのだ。

 

 

「……イェッツト・トイフェルっていち軍事組織、それも政府が運営している組織だったよな?

 それが、勝手に他所の軍隊……まあ、私設軍みたいなもんではあるにしてもだ。

 そいつらと、会談なんかやっていいのか?」

 

「だから問題なんですって! この事が明るみに出たら、間違いなくクーデターの疑惑を……」

 

バオクゥの言葉を遮るように、バオクゥの通信端末からけたたましい着信音が鳴り響く。

通話のために席を外したバオクゥを見送った後、俺も何気なく外を眺めてみるが……

 

……確かに、元々重苦しい冥界の空気が、さらに重いような印象を受けた。

 

「……セージさん。驚かないで聞いてください。

 今、リーさんから話があったんですけど……

 

 ……イェッツト・トイフェルとラスト・バタリオンが同盟を結んだそうです。

 既に公式に発表されていることで、今頃号外や緊急特番が組まれてますよ」

 

いやいやいやいや。それ驚くなっていう方が無理だぞ。

正直、今だんまりを決め込んでいるのはどうリアクションをしていいのかがわからないからだ。

なんで悪魔至上主義な軍隊とオカルト混じりとは言え人間の軍隊が手を組むんだよ。

 

『……マズいな。奴ら意外と足が速い。奴らの第一目的をアインストの殲滅とすれば

 イェッツト・トイフェルとラスト・バタリオンは、共通の敵を持っていることになる。

 そうなれば、束の間の同盟を結ぶことに何ら不思議なところは無い。

 当然、奴らの事だ。アインストの殲滅以外の目的もあっての同盟だろうがな』

 

そうか! 謀反の意思ありって突っ込まれる前に、アインストって当面の敵を駆逐するための同盟だと

対外的に説明を付けることで、正当性を持たせたわけか!

だがそれでも、この件に関してサーゼクスとかが何か言ったって話は聞いていない。

軍部の暴走……日本でも、昔あったことではあるが。

 

「一応、発表の上では今日から行われるレーティングゲームの警備強化も

 観点に入れての事だそうです。

 何分、セージさん達人間チームも参加するという事で、人間の軍隊である彼らが来た。

 交流の一環、そんなところでしょうね」

 

おいおい。自衛隊でも地球最強クラスのアメリカ軍でもなく

亡霊の私設兵団とつるむとは。そりゃ人間の軍隊に変わりはないけどさあ。

前々からイェッツト・トイフェルも怪しいとは思っていたが、とうとう隠さなくなってきたな。

こりゃレーティングゲームを隠れ蓑に、本当にクーデターか何か起こすつもりかもな……

 

 

……正直、ここまでイェッツト・トイフェルも周囲が見えてないとは思わなかったが。

この混乱している現状でクーデターを起こすなんて、自殺行為だとしか思えない。

現政権に不平があるからクーデターを起こすのだとしても、今のまま起こしたところで

よくて心中だとしか、俺には思えなかった。

それに、組む相手がよりにもよって……だ。

周防巡査に曰く、ニャルラトホテプに近しい軍隊でもある。

そんな相手と組んででも、冥界からアインストを駆逐したいのか?

まあそれ位、アインスト――オーフィスは底の知れない相手ではあるが。

間違いなく、アインスト駆逐以外に目的がある。アインスト対策も兼ねているにしてもだ。

 

このとんでもない事態にどうしたものかと思っている矢先に、控室にアナウンスが流れる。

しかしそれは、今入った情報に関することではなく、当初の予定通りと言える内容のものであった。

 

 

――これより、レーティングゲーム・冥界復興祈願杯の開会式を行います。

  出場される選手の皆様は、会場にお集まり下さい。

 

 

「じゃあ、私は観客席から応援してます。今回記者席取れなかったもので。

 セージさん、さっき言った話も含めて、十分に気を付けてくださいよ」

 

頷き返し、俺は控室を後にする。

静まり返った通路を歩きながら、大なり小なり緊張した面持ちのチームメンバー

――二人ほど、覆面でよくわからないが――と合流する最中

見慣れない仮面の悪魔とも合流を果たす。

 

「……ビナー・レスザン、か?」

 

「そうだ。如何に君達が人間としてレーティングゲームに参加すると言っても

 レーティングゲームは悪魔の祭典、と言う認識は未だ色濃く。

 それは永劫に塗り替えられることは無いだろう。

 だからこそ、言い訳程度ではあるが祭典の体裁を整えるために

 私が君達のチームに参加することにしたのだ」

 

ボイスチェンジャー越しの声からは、感情は読み取れない。

悪魔の祭典であるというレーティングゲームの体裁を整えるための参加、か。

言わんとすることはわかったが、ならばアモンで十分ではないか?

 

「知っているとは思うが、俺にはアモンが……」

 

「人間に下った悪魔、他神話との関係で脛に傷のある悪魔など、悪魔としては認めない。

 そう思っている悪魔も今尚少なくは無いという事だ。ゼクラム・バアルとかな。

 この戦いは、君達人間の力を示すと同時に

 悪魔の一つの時代の変遷を意味するものでなくてはならない。

 それを果たせるのは、グレモリーでも、バアルでもない。

 それが、私が君達に力添えをする理由だ」

 

ビナー・レスザンから語られた、自分が俺達に協力する理由。

まあ、下手に人間のためだとか言われるよりかは信用できるか。

脛に傷って言い回しだと、直近でやらかしたグレモリーとかよりも昔――

それこそ、西暦一桁台か紀元前位の時代の話かもしれない。

譜面通りに受け取るなら、悪魔も変わろうとはしているようだ。方向性はさておき。

 

『……脛に傷、か。この野郎が何処まで知ってるかはわからんが、大体合ってるってのがな……』

 

(アモン、何か言ったか?)

 

『いいや。お前と同じで俺にも色々あんだよ。気が向いたら話してやるよ』

 

そういや、アモンからはサーゼクス――と言うか現行政府に切り捨てられて幽閉されたって話と

それ以前は聖書の神の支配に立ち向かうべく蜂起したって話位しか聞いてないな。

興味が無いと言うか、アモン自身も話さないしそれどころでも無かったからな。

今は、アモンの過去を掘り返しても仕方が無いだろう。

デーモンやサーゼクスが相手って訳でも無いし。

 

そうこうしているうちに、目の前にステージが現れた。

神器持ちは神器自体の影響で冥界の瘴気をある程度抑えられるが

それの無い光実や氷上巡査は間に合わせのマスクを装着してステージに赴く。

俺もまた、サングラスを装着して参加する。

冥界に太陽は無いので、遮光と言う意味だと無意味なのだが

顔が割れることを防ぐという点では、まだ活用できる。

 

……とはいえ、リーやバオクゥと絡んでいるうちに顔割れも起こしてしまっているので

今となってはあまり意味のない代物だったりするのだが。

仮面で売り出したために、正体が割れても仮面が無いと格好がつかない。その程度の理由だ。

 

 

ステージに出た俺達を待っていたのは、ブーイングが半数以上を占める歓声。

これを聞くだけでも、ここがアウェーなのだという事は思い知らされる。

以前、俺がフェニックスを倒した時にはまだ賛否は半々程度の評価だったが

こうして悪魔を辞め、人間に戻り、悪魔に弓引いている現状では、まあこうもなるか。

これでは、俺はともかく他の人はとなると。

 

「今更ですが、巻き込んでしまってすみませんでした」

 

「私は別に気にしてないにゃん。以前はブーイングどころか指名手配だったわけだし?」

 

「警察やってりゃ人の恨みなんざ買うもんだ。いちいち気にすんな」

 

「人間相手に言われるならともかく

 悪魔にブーイングぶつけられるのは祓魔師冥利に尽きるものだよ」

 

「言わせておけばいいんですよ」

 

……とまあ、こんな具合でブーイングはどこ吹く風だった。だがそう言ってくれるのは助かる。

俺達の入場は参加チームの最後だったらしく、俺達が指定の位置についたと同時に

アナウンスが流れ、サーゼクスの挨拶が始まった。

 

 

――この逆境にも負けぬ、未来ある若手悪魔達の夢を支えるために!

  そして、堕天使や天使との和平の足掛かりとして

  まずは共通の隣人たる人間と手を取りあえた記念として!

 

 

  ここに、冥界復興祈願杯の開幕を宣言するものとする!




話が飛んでいる風にも思えますが、セージ視点なのである程度は仕様です。

>僧侶の召喚能力
召喚魔法の使い手が強いのは鉄則。
こうして見るとセージってすっぴんジョブにも思えるような。
能動的に召喚対象を選べない、はFF3の幻術師みたいなもんです。

>同盟
どうして悪魔は自分から破滅フラグを立ててしまうのか。
情報漏洩が起きても気にしていない辺り、もう既に事は……?

>ビナー・レスザン
原作では……だったのが何故かここで。
このねじれにねじれた拙作で原作通りかと言えば……

んなわけねえだろ、とだけ言っておきます。


と言う訳でレーティングゲーム()が開幕したわけですが
果たして参加者のどれだけがサーゼクスの意図を汲んでいるやら。


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Backstage

ペースが落ちてますが、なんか色々ありますねえ……

今回は前回の裏で何が起きていたか。


――冥界、某所

  イェッツト・トイフェル基地

 

ここには、レーティングゲームに向けて警備体制を整えている

イェッツト・トイフェルの軍勢がいる――のだが。

 

今は、明らかにイェッツト・トイフェルの軍勢ではないものもいた。

ダークグレーの軍服に、シュタールメットを装備したその兵団は――

 

 

――禍の団(カオス・ブリゲート)英雄派改め、ラスト・バタリオン。

 

 

その兵団を護衛に付ける形で、その首魁であるフューラー・アドルフもそこにいた。

彼らの目的はただ一つ。イェッツト・トイフェルの司令である

ギレーズマ・サタナキアに招聘されたからであった。

 

「……しかし、一体どういう風の吹きまわしかね? 貴公らは、我ら悪魔を殲滅せんと

 人間界で軍事活動を行っているのではなかったのか?」

 

「それは人間界での話だよ。それに、我々もアインストと戦うにあたり戦力を失いすぎた。

 そこで、アインストとの戦いにあたって其方に助力を請いに来たのだよ」

 

フューラーから語られる、イェッツト・トイフェルとのコンタクトの理由。

そもそも人間界で悪魔が活動しづらくなったのは、他ならぬフューラーの仕業である。

それなのに、当のフューラーはこうして悪魔に救援を求めに来たのだ。

悪魔であるギレーズマからすれば、随分と勝手な言い草である。そう思うのも無理はない。

 

「確かに、我々にとってもアインストは強大な敵だ。

 だが、その強大な敵と対峙するにあたって貴公らは有効な戦力足り得るのか?

 我らの力だけをあてにするというのならば、随分と勝手な話だな」

 

「ただで兵力を借り受けようなどと思ってはおらんよ。

 そうだな……表向き、其方が始末できない存在を我らが代わりに始末する。

 つまり、其方の目的のための手札として、我らの軍を使う事を許可しようではないか」

 

そして、フューラーから軍事協力の対価として提示されたもの。それは――

イェッツト・トイフェルにとって都合の悪いものの暗殺請負。

それも、彼らが直接手にかけるのは対外的に角が立つものを。

 

「……司令。奴らを使えば……」

 

「……ふむ。あの厄介な後ろ盾を排除するには、うってつけと言えるだろうな。

 聞けば、奴らは聖槍を入手している。その矛先が一先ず我らに向かないだけでも

 十分な理由にはなるが……」

 

ハマリアからの報告で、ギレーズマもフューラーが本物の聖槍を入手したことは知っていた。

その矛先は、悪魔の命運を決定づけかねないものだ。

矛先を逸らすという意味でも、フューラーとの軍事協力は有意義と言えるだろう。

たとえそれが、仮初のものであったとしても。

そして、その聖槍を持つものと協力関係にあることが出来るというのは

聖槍の矛先を、ある程度は思うがままに向けられるという事でもある。

 

(サーゼクスはともかく、その後ろ盾たる大王派ならば聖槍で討つことも不可能ではあるまい。

 後ろ盾さえ排してしまえば、放逐することも容易かろう。

 かつて自分達が、旧魔王派やデーモン族を排したように)

 

しかし、ギレーズマにはまだ引っかかることがあった。

何故、ラスト・バタリオンは戦力を失ってなおアインスト討伐に躍起になるのか。

確かに、人間界においてもアインストは脅威ではあるのだが。

それだけでは、悪魔の軍隊であるイェッツト・トイフェルを頼る理由にはなるまい。

そう、考えていたのだ。

 

「……何故、我々に声をかけたのだ?

 貴公ら人間界ならば、他神話が力添えをすることも吝かでは無いだろう?

 北欧、エジプト、ギリシャ……特に貴公らが本格展開している日本ならば

 神仏同盟と言う有力な神話体系があったと思うのだがな」

 

「攻勢に出るための軍事行動は、神仏同盟や自衛隊は足並みが悪いのでな。

 言わば我々は、アインストの拠点を知りながら攻め入ることが出来ない状況にいるのだよ」

 

フューラーの出た言葉。それは、ギレーズマにとっても驚きの言葉であった。

 

――アインストの本拠地を知り、攻略しようと思えばできる状態にいる。

 

「司令殿の言う神話体系には既に粗方話は通してある。

 そこで、そのための協力を仰ぎたく正規軍たる其方に話を持って来たのだ」

 

「……こいつは驚いた。まさか、あのアインストの拠点を突き止める勢力がいたとは。

 しかも、それが神話体系ではなく人間の軍隊と来たか。

 なるほど、我々に話を持ち込むだけのことはある……が。

 

 そうなると、別の疑問が浮き上がるのだよ。

 一体だれが、貴公の兵力を損耗させるほどの痛手を負わせたのだね」

 

ギレーズマのその質問に、フューラーは包み隠さずに淡々と答える。

 

「アインストとの戦いで失ったのもあれば、現地での抵抗にあい失った戦力もある。

 だが、主力たる聖槍騎士団の一部は主にアモンによって討ち取られたのだ」

 

「ならば、アモンに協力を仰げばいいのではないか?」

 

「そうもいかん。奴らにとって我々はアインストと同列、倒すべき敵として認識されている。

 我々も外敵を排すべく動いているというのに……嘆かわしい事だ」

 

そうなるに至ったのは当然、ラスト・バタリオンの自業自得的な側面もあるのだが

それこそ今回の話には全く関係がない。

あくまでも、アインスト攻略のためにイェッツト・トイフェルに話を持って来た形だ。

 

「その外敵と言うのは……我々悪魔も含んでいるのかね?」

 

「正直に言えばそうなるな。

 だが、他は知らんが私は別に人間界に対する侵略行為さえ行わなければ

 悪魔や堕天使、天使を如何こうするつもりは無い。

 かつて演説で語ったのは、人間の生活を脅かす悪魔や堕天使、天使についてだ」

 

かつて、何処からか手に入れた映像とその時暴れまわっていたコカビエルの映像をもとに

フューラーは演説を行い、三大勢力の存在と

神――聖書の神であるが――の不在を白日の下に晒した。

それは後にフューラー演説と呼ばれ

三大勢力が人間界で活動する上での大きな制約となったのだ。

 

だが、別にフューラー自身は三大勢力を根絶やしにしようと言う意思は無かった。

強硬派が生まれているのは、あくまでも三大勢力がそれまでに行っていた行いの結果である。

少なくともフューラーは、そういう考えである。

 

「フ……でなければ、我々に交渉を持ちかけるなどと言う恥知らずな真似は出来んか。

 ではもう一つの質問だ。どうやって、アインストの本拠地を知り得た?」

 

「別に隠す事でも無いからお聞かせしよう。

 ……デヴァ・システム。かつて我ら人間界において、混乱を引き起こした装置。

 それとアインストが拠点としているクロスゲートの波長が重なったのだ。

 これを利用し、アインストの拠点を叩く。そしてゆくゆくは……」

 

「クロスゲートをも手中に収める、という事か?」

 

「いいや? あれは情けない話かもしれんが、私の手にも余るものだよ。

 だが放置しておけば、第二第三のアインストとも呼べる災いを齎すことは目に見えている。

 監視や、可能ならば封印。理想は破壊だな」

 

破壊。その言葉を耳にして、ギレーズマは僅かに眉を顰める。

クロスゲートは悪魔の力でも満足な調査が出来なかったものだ。

それを人間風情が波長を合わせられるほどの成果を上げ

それどころか破壊をも視野に入れた研究を進めているという事に。

 

(ここに奴がいる以上、認めねばならんか。人間のその危険性とも言うべき可能性を。

 だが、最後に立つのは我ら悪魔だ。

 人間風情が、我ら悪魔より優秀な顔をするというのはやはり腹立たしいわ。

 

 ……そして同時に、やはり悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は廃止すべきものだな。

 あんなもので制御下に置けるほど、人間とは容易いものでは無かろう。

 そして、そうして制御下に置いた人間など……もはや人間ではあるまい。悪魔でも無いがな。

 この冥界に……悪魔の世界に、人間の居場所など不要だ)

 

「……納得いただけたかな? 司令殿。

 では、我らの申し出を受けるか否か、返答を願おうか」

 

ギレーズマにとっては腹立たしい現実を聞かされながらも

その逡巡の末、ギレーズマが出した答えは……既に決まっていた。

 

 

「……いいだろう。貴公の申し入れを受け入れよう」

 

「寛大な配慮に感謝するぞ、現代の悪魔の名を冠する軍隊よ」

 

ギレーズマとフューラーは手を取り交わし、フューラーが羊皮紙に自らの名を記し血判を捺す。

ここに、ギレーズマ・サタナキアとフューラー・アドルフの契約は果たされたのだ。

 

 

――コンゴトモ、ヨロシク

 

 

その言葉が交わされたかどうかまでは、定かではない……

 

 

――――

 

 

その光景を、天井裏から見ているものがいた。

バオクゥが送り込んだ、偵察機の乗組員であった。

双眼鏡で一部始終を見ていたそれは、大慌てで偵察機に戻り

派遣した主の下に戻ろうとする。しかしそれは、既にギレーズマらには筒抜けであった。

 

「……司令。しばし、ネズミ狩りに……」

 

「フ、その必要は無い。遅かれ早かれ、ここで起きた事は公表される。

 その段取りを早めるだけでいい。今回の話、あのジャーナリストにも掴ませているのだろう?

 奴を使えばいい。こういったスキャンダルは、大々的に

 かつ盛り上げるだけ盛り上げてやればいい。

 カバーストーリーさえしっかりしていれば、本質など真逆でも構わんよ。

 

 我々と人間の軍が組むというのは、少なくともサーゼクスからすれば

 共存の足掛かりとして諸手を挙げて喜ぶだろうよ。

 それがたとえ、人間界への悪魔の進出を阻む相手であったとしてもな」

 

ネズミ狩りをせんとするハマリアを制し、ギレーズマは不敵に笑う。

今回の会談は、既にイェッツト・トイフェルお抱えのジャーナリスト

リー・バーチの知るところであり

後は結果を彼に伝え、メディアに流すだけで話は終わるのだ。

 

「司令殿は随分と豪胆な作戦を立てるものだ」

 

「これ位の思い切りが無ければ、軍の指揮など出来んよ」

 

実のところ、ギレーズマにはサーゼクスと違い人間との共存を掲げる意志など無い。

目の前にいる軍隊は、下手な他神話勢よりも強力な力――聖槍――を持ち

それがたまたま人間であった。それだけのことに過ぎない。

そもそも、ギレーズマとサーゼクスは政治・組織運営方針に関しては全くの真逆なのだ。

 

種の保存のために手を取り合う――方法はさておき――を良しとするサーゼクスと

まず己が力を高め確立することを良しとするギレーズマ。

どちらが正しいとは一概に言えたものでは無いが、ギレーズマもそれを果たすための

土台作りに余念がない。

 

……その方法こそ、些か乱暴なものではあるが。

 

「まあ、いずれにせよこれで大手を振って貴公らの軍隊も悪魔領を歩けるようになるだろうよ。

 冥界の空気が肌に合わない、などと言った気候面は我々の管轄外故、与り知らんがな」

 

「ご配慮に感謝するぞ、司令殿」

 

ラスト・バタリオンの輸送車両が各地で目撃されたのは、このすぐ後の事であった。

そして、この後もギレーズマとフューラーの対談は行われていた。

ラスト・バタリオンが討つ――討ってもいい悪魔をイェッツト・トイフェルがピックアップし。

作戦行動中の混乱に乗じて殺害を試みるという、典型的な暗殺の手段。

下手人としてラスト・バタリオンを利用するのは

イェッツト・トイフェルが不要な反感を買わないためでもある。

ラスト・バタリオンは人間の軍隊である。悪魔を守る義理などは無い。

軍事同盟こそ結びはしたが、それは悪魔を守るためではなく

アインストに対する攻勢のための同盟なのだ。

 

 

「……では、来賓として来る大王派を狙えばいいのだな?」

 

「そうだ。奴らさえ討てば悪魔が人間界に来ることは今よりは少なくなるだろう。

 私の見立てでは、だがな。

 そうなれば、貴公らも結果的に目的が果たせるだろう?」

 

その同盟の代価として生贄に捧げられたものこそ。

 

――サーゼクス・ルシファーを魔王に推し、現在の冥界の在り様を確立させたともいえる

ゼクラム・バアルら大王派であった。

 

 

「……老いたな、ゼクラムも。時すでに遅いのだよ」

 

 

――――

 

 

悪魔領首都リリス

サーゼクス・ルシファー執務室

 

 

執務の片手間に、サーゼクスはクローゼットや衣装ケースをひっくり返し

何かを探し求めていた。

 

「おかしい……一体どこに行ったんだ……?」

 

「何かお探しですか、サーゼクス様」

 

その様子にグレイフィアが声をかけ、しばらく後にサーゼクスからの返答が返ってくる。

 

「ああ。サタンレッドの手袋かどこかに行ってしまってね。

 今度のレーティングゲームの決勝戦のエキシビジョンマッチ。参加するのに必要なんだけど……」

 

サタンレッド。四大魔王が余興で作り上げた戦隊ヒーロー、魔王戦隊サタンレンジャーのリーダー。

自主制作ながらも完成度は「自主制作としては」それなりにあると言える。

そのコスチュームを、サーゼクスは探していたのだ。

 

「……まさか、サーゼクス様自らが陣頭に?」

 

「ああ。若手の実力を自分自身で測りたいというのもあるし

 それに、万が一相手がアモンだったならば……

 それはそれで、盛り上がるだろうからね」

 

しかしサーゼクスは、アモンからはこの上なく恨まれている。

共に戦っていた同志としてアモンからは見られていたのだが

その同志を、サーゼクスは政治方針でのこととはいえ追放、封印したのだ。

その意向は「平和な世に力に依る文化を是とするデーモン族はそぐわない」とのことだが

アモンは旧い悪魔、デーモン族であったため例外とはならなかった。

これをアモンは裏切りと見做したのだが、今の悪魔の通説では裏切り者はアモンである。

歴史は、勝者が作るものなのだ。

 

「……なら、衣装抜きでやればいいでしょう」

 

「そうはいかないよ! エキシビジョンマッチなんてある意味では決勝戦より盛り上がる場面!

 そこで出てくるのが、ヒーローたるサタンレンジャーの役目じゃないのかい!?」

 

嘆息しながらも、グレイフィアはサーゼクスの衣装探しを手伝う羽目になったのだが

終ぞ、出てくることは無かった。

 

 

……そして、これによってグレイフィアはサーゼクスに対する相談の切欠を失ってしまったのだ。

 

 

(ユーグリット。今になって私の前に現れて……

 抗戦を訴えたあの時とは打って変わって、今は冥界の経済を一手に担っている。

 私は良かれと思ってサーゼクス様と結婚したけれど……

 

 …………本当に、私の決断は正しかったの?

 大王派が跋扈し、イェッツト・トイフェルと言う軍隊まで発言権を得つつある今。

 私達は、新時代の魔王などではなく……ただの、ただのお飾りでしかなかったの?

 

 そして、お飾りとしての役目すら果たせなくなったら……)




大王派。
眼の上のタンコブか、後ろ盾か。
そのどちらかで、今回の計画はまるっきり逆の流れになりかねません。
後ろ盾かと思って潰した奴が目の上のタンコブだったばかりに
これ幸いとばかりに四大魔王が調子づくかどうか。

総統閣下が来た時点でどっちに転んでもろくなことになりませんがね。


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Will51. ダイジェスト・アガレス Aパート

年内投稿間に合いました。
今回からレーティングゲーム開幕……ですが
いきなりダイジェストです。


ダイス・フィギュアルールと言うもはや演習じゃないよなこれ、と言わんばかりの

只の道楽であろうレーティングゲームは、思いのほか恙なく進んで行った。

目に見えた罠も無い、と言うよりはむしろコスト制度が追い風になったのだ。

と言うのも。そもそも俺達のチームに課せられたコストについて説明せねばなるまい。

 

2個のサイコロを振って出目の合計以内のメンバーが出場できるらしい。

それに伴う人数制限は無い……が、連続出場は出来ないので

数の暴力はうまくできないようになっている。ゲームとしちゃあ、まあ悪くない落としどころだ。

実戦には何の役にも立たない縛りだと思うが。

今回はどちらにせよ、人数の都合上人海戦術を立てにくいのではあるが。

で、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を持たない俺達のコストがどうなっているのかと言うと。

 

俺こと宮本成二、ビナー・レスザン:9

 

ゼノヴィアさん:5

 

白音さ……もといカムカム・ミケと

黒歌さ……もといマスク・ザ・ハチワレ:3

 

光実(みつざね)安玖(あんく)・氷上巡査:1

 

 

俺の評価は神器(セイクリッド・ギア)とアモンを踏まえてのものだろう。

アモン単体なら12になり得たかもしれないが、俺が転生悪魔でない生身の人間

……って事でこの数値なんだと思う。

ビナー・レスザンは「女王(クイーン)」相当って事らしい。こいつの事全然知らないけど。

ゼノヴィアさんはデュランダルってあからさまな悪魔特効持ち。

猫姉妹は気功術ってところの評価だろう。

 

だが光実や氷上巡査、安玖巡査はやけに低く見積もられている。

これは安玖巡査以外神器を持っていないことが影響しているのだが

そもそもこの評価値にアーマードライダーシステムやゲシュペンストが加味されていない。

安玖巡査の神器だって、兵藤はともかく祐斗と比較しても言っちゃなんだが、使い勝手で劣る。

そりゃあ、悪魔にとって未知の技術であるアーマードライダーシステムやゲシュペンストを

正確に評価しろって方が土台無理な注文ではあろうが。

 

……ん? いや、ゲシュペンストはともかく

アーマードライダーはアジュカ経由で伝わって無いのか?

そこは戦極凌馬(せんごくりょうま)が情報規制したのだろうか?

 

ともかく。甘く見られていることが、今回思わぬ追い風となったのだ。

それは、今さっき行われた俺達の初戦――シーグヴァイラ・アガレス戦において発揮されたのだ。

 

 

――――

 

 

〈ハイーッ!〉

 

〈マスカットアームズ! 銃・剣! ゴー! ゴー! ゴー!〉

 

まず、光実のマスカットアームズ。これはパッと見ブドウアームズの色違いにしか見えないが

その正体はデュランダルもかくやと言わんばかりの悪魔特効。

シャイン銃剣と名付けられた銃剣付きのマスケット(……ダジャレか?)は

戦極凌馬が悪魔の駒の研究の中で手に入れたデータを基に反映された悪魔特効が働いている。

そして基礎スペックはブドウアームズと大差なく、つまり防御力は高い方になる。

得物こそ連射が効き取り回しやすいブドウ龍砲とは全く異なる運用を要求されるが

それを補ってこの場においては余りあるアドバンテージになったのだ。

 

……だから、あの時光実はゼノヴィアさんと特訓していたわけか。

 

その結果、俺達はアガレスの「女王」さえも打ち破れたのだ。コストを決めた審査委員会は

人間――と言うかアーマードライダーとゲシュペンスト――の力を過小評価していたが

シーグヴァイラ・アガレスはそんな相手にさえも「女王」をぶつけてきたのだ。

そりゃあ、戦力の小出しは戦略眼的に下策も下策と言うのは有名な話だが。

……俺がピンゾロ、即ちファンブルをしたことでどうなることかと思ったが

短期間で新アームズの力を会得した光実には頭が下がる思いだ。

ファンブルでペナルティがかかる仕様でなくて安心したのもあるが。

 

とは言え、あいつ銃砲系武器を使ったかと思ったら

でかい輪っか――光実曰く「乾坤圏(けんこんけん)」らしい――とか

使ったりしてるから、武器を問わないスタイルなのかもしれないが。

と言うか、アーマードライダーの武装が多岐に渡り過ぎてる。

 

 

その後、「女王」が倒されたことでアガレス陣営は「(キング)」である

本人自らが出陣するというとんでもない事態になった。

戦力の小出しはさっき言った通り愚策とは言うが、今回に関しては

最強の戦力が倒されるという不測の事態という事で後がなくなったが故だろう。

他の眷属を用いた人海戦術も出来たろうが、結果はこれだ。冗長になるから止めたのか?

一方の俺はと言うと、ダイス運に恵まれず(ある意味恵まれているのかもしれんが)

ピンゾロをだしてしまった。まただ。

二連続という事で細工も疑ったが、試行二回で細工を疑うには回数が足りない。

同じ選手は連続で出せないというルール上、光実を出すこともできないため

止む無く氷上巡査に頼んだのだ――

 

 

――――

 

 

「コール・ゲシュペンスト!」

 

ゲシュペンストを出した時の反応が凄かったが、相手のガン・レギオン……のような挙動をする

ダンプラ――ダンガムのプラモデル。輸入品だとは思うが密輸じゃなかろうか――もものともせず

次々と撃破して行った。どっかからクレームが来そうだと思ったのは内緒だ。

と言うのも。ダンガムは基本的にビーム兵器を使う(と言う設定)で

それを踏襲してご丁寧にビームを撃ってきたが

ゲシュペンストには標準でビームコートが施されている。何を想定してたんだ。

ダンプラの数で攻めてきたとしても、スプリットミサイルやスラッシュリッパーと言った

ミサイル、遠隔操作武器で次々と撃破できてしまったのだ。

 

……操作してた本人は「やっぱリアル系じゃ装甲薄いかぁ……」とか

「ビームに頼らない奴持ってくればよかった」なんて意味の分からないことを言っていたが。

装甲無いなら避けりゃいいだろ。大きさ的に難しそうだったが。

何せ、スラッシュリッパー一枚がシーグヴァイラのダンプラの

大体二~三倍くらいの大きさなのだ。

人間だけを殺す機械、と銘打って出てきた円盤電鋸でもそこまででかくなかったってのに。

 

また、シーグヴァイラ・アガレスは時間操作能力を持っていたようだが……

時間を弄っても、とどめを刺せなかったら意味が無かったという事らしい。

これはギャスパーの時も似たようなものだったし

俺がギャスパニッシャーや「TIME」のカードを使った時も陥りがちな事態だ。

時間操作は補助では比類なき威力を発揮するが、フィニッシュホールドには通常、ならない。

タキオン粒子をうんたらとかそういう方向性の力にしない限りは。

 

しかし、それはこちらから仕掛けるにあたっても決定打に欠けることを意味していた。

何せ、こちらの攻撃も時間操作で躱されてしまうのだ。まあ当然か。

その打開策として、氷上巡査はなんと。

 

 

――咆哮一閃、ゲシュペンストで飛び蹴りを見舞ったのだ。

それも面ドライバーもかくやと言わんばかりの。

 

今まで散々ロボット、パワードスーツらしい攻撃を繰り出していたゲシュペンスト。

それが急に生身っぽい徒手空拳で戦いだしたので

相手はそのギャップに面食らってしまったらしい。

そう言えば、ダンガムにも格闘技で戦う奴がいた気がするんだが。

まあ、ゲシュペンストはあれほど格闘一辺倒ではないか。

 

この一部始終を見ていた薮田(やぶた)先生は

 

「確かにゲシュペンストによる格闘戦は仕様の想定内ですが

 整備手段が限られている場では程々にしてほしいものですね」

 

……と、ぼやいていたそうだ。そりゃ精密機械だしなあ。

その点ではプラモデルをトンデモパワーで動かす方がメンテが楽そうだ。

見たところ、随分精巧に作られているのがウリの1/100スケールシリーズみたいなので

それを戦闘に駆り出すことに思わないところが無いわけでも無いが。

だって勿体なくないか? 子供が無理に動かすことを想定して作られてる

超合金のおもちゃとかならともかく、プラモデルって壊れやすいし。

俺だって変形・換装可能なプラモデルを何度壊したことか。

 

とにかく、ゲシュペンストの装備から射撃戦重視の機体と見たシーグヴァイラの裏をかく形で

氷上巡査の飛び蹴りからの一本背負い。

そしてとどめのジェット・マグナムが見事に決まったのだ。

 

 

――――

 

 

――そんなわけで、今会場内は物凄いどよめきが巻き起こっている。

何せ若手四王の一角とも呼ばれたシーグヴァイラ・アガレスが

二連続でファンブルをかました相手に返り討ちに遭い、それが神器すら持たない

ただの人間相手だというのだから、とんでもない騒動になってしまったのだ。

控室にいても、外の喧騒が聞こえてくる始末だ。

 

「おい……これ、ちょっと派手にやり過ぎたんじゃないか?」

 

「無理ですよ。こっちだって加減のわからない相手だったんですから。

 警察での訓練ならいざ知らず、自分としては鎮圧と同じくらいの心構えで挑んでましたからね」

 

「実際プロフェッサーは、笑いが止まらなかったみたいですよ。

 アーマードライダーシステムをさも自慢げに語ってました」

 

この空気には、普段横柄な態度を隠そうともしない安玖巡査でさえも

ただならぬものを覚えたようだ。

俺としては、審査委員会の悪魔が人間嘗めすぎってのが今回の問題のとどのつまりだと思うが。

でなきゃ、光実や安玖巡査、氷上巡査にコスト1なんて割り振られない。

 

「と言うかだ宮本。お前が二連続でファンブルしたのも問題じゃねぇのか。

 ファンブルしておいて勝つとか、そっちの方がインチキ疑われても文句言えねぇぞ」

 

「サイコロの出目に文句言わんでくださいよ。

 丁半賭博じゃないんですから、サイコロ振る技術なんてありませんって。

 奴らがゲシュペンストやアーマードライダーを過小評価しすぎたんですよ」

 

下馬評を覆すどころの騒ぎじゃない番狂わせ。

観客は俺達がなすすべもなく叩きのめされるところを見たかったのかもしれないが

実際はほぼその逆だ。氷上巡査にせよ、光実にせよ無傷で勝ったわけでは無いが

ギリギリの勝利と言う訳でも無かった。氷上巡査は相手の都合上苦戦を強いられてはいたし。

 

……で、そうなると俺達にヒーローインタビューが来るのが筋、だと思っていたのだが

冥界のマスコミはこぞってシーグヴァイラに詰め寄っている。

 

安玖巡査が「まあ見てみろ」と言うのでテレビをつけてみると……

 

 

――今回の試合について、何か一言!

 

――相手はただの人間だったという事ですが、そのただの人間に二連敗を喫したことについて!

 

――ただの人間のチーム、それも致命的な出目をだした相手に、何故負けてしまったんですか?

 

 

「……な? 言った通りだろ」

 

「……どこの世界も、マスコミがクズってのは変わらないもんですね」

 

クズでないマスコミも知ってるが、今回は光実に同意する。

そこで繰り広げられていたのは、インタビューと言う名の死体蹴りだ。

その死体を作った側が言うのもなんだが、これはひどい。

安玖巡査が顔を顰めるのも、わかる気がする。

警察って職業柄、そう言う場面によく出くわしているのかもしれないが。

 

 

――相手チームが不正を行ったという噂もありますが?

 

 

『……それはありません。今回の試合の結果は、全て私の慢心が招いた結果です。

 未知の力に油断し、人間の技術に見惚れ、成すべきことを成せなかった。

 アリヴィアンは、よく戦ってくれました。今回の無様な敗北は、全て私の責任です』

 

 

その死体蹴りにも負けず、シーグヴァイラは淡々と答えている。

敵ながら大したメンタルだと思うが……

それにしても、敗者に対するリスペクトが足りて無くないか?

不正を疑われるレベルで勝った俺達が言うのも、なんだが。

 

因みに当然だが、不正を働いた覚えはない。

 

 

会見を打ち切り、シーグヴァイラは会場を後にする。

それでも食いついてくるマスコミは……何と言うか、ワイドショーでよく見る光景だ。

まさかと思うが、悪魔はこれが会見の定番スタイルだと思っちゃいないだろうな?

人間の技術や文化の模倣がよく見受けられるが、これもなんかそんな気がしてならない。

気のせい、かもしれないが。




シーグヴァイラがこういう役回りになった理由。
単純に、セージとの接点がほぼゼロだったからです。
新アームズやゲシュペンストのお披露目になる以上、かませは避けて通れませんし。
となると、接点のあるサイラオーグやレイヴェルをかませにするのは些か問題ですし
ソーナは別問題でかませにできない事情(匙絡み)がありますし
リアス(と言うかイッセー、ナイア)は論外。
そのお披露目を地の文ダイジェストにしてしまったのは、まあ……ですが。
他の試合ならともかく、セージの試合までダイジェストにしたのも
この後まだ試合続きますし、全体通すとそこまで重要な試合でも無いですしで……

>マスカットアームズ
シャイン銃剣と言う銃剣付きのマスカットもといマスケットを装備したアームズ。
悪魔の駒の研究で得られたデータを基に戦極凌馬が作成した、対悪魔用アームズ。
何故対悪魔用のアームズにマスカットなのか。シャイン(光)マスカットだから。
あと、ブドウの色違いが欲しかった。

>ゲシュペンスト
ヒーロー戦記モデルですが、スラッシュリッパー積んでます。
スラッシュリッパー自体は換装可能武器なので問題ありませんが
地の文で述べている通り、バグ(F91)みたいな描写になっちゃってます。
いくら相手がガンダムモチーフだからって。

ビームコートに関しては第四次で対モビルスーツのアドバンテージになっていた印象強かったので。
セージは何を相手取るのを想定していたんだ、と思ってますが
この世界の仮想敵が仮想敵なので……

氷上巡査が繰り出したのは勿論例のアレ。
そう言えばこの世界のゲシュペンスト、アレの元ネタに照らし合わせると(&氷上巡査のキャラモチーフ的に)
G3-Xに該当するんですが、ガンバライドやガンバライジングとか以外でG3-Xがライダーキック見舞った事例ってありましたっけ。
後発の装着系ライダー以上にメカメカしい動きが目立っているので……


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Will51. ダイジェスト・アガレス Bパート

リアルでフラグ回収するのやめてもらっていいですかね……


~前回の没案~

「敵を焼き尽くせ、デビルブラスタァァァァァァァッ!!」

「いやああああっ! 私のダンガムがぁっ!!」


ひょんなことから冥界でレーティングゲームを行うことになった俺達。

その初戦の相手は大公であるシーグヴァイラ・アガレスのチームだった。

完全なアウェーでの戦闘だったが、俺達は何とか勝つことが出来た。

 

……とはいえ、俺は何もしていないんだが。

龍玄の新アームズと、ゲシュペンストの力を過小評価していた悪魔陣営が

その煽りをもろに受けた形であり、言うなればシーグヴァイラは

その矢面に立たされただけの話である。

 

それを証明するかのように、テレビではインタビューとは名ばかりの

シーグヴァイラの公開処刑とも言えるつるし上げが行われていた。

 

 

――今回の試合について、何か一言!

 

 

――相手はただの人間だったという事ですが、そのただの人間に二連敗を喫したことについて!

 

 

――ただの人間のチーム、それも致命的な出目をだした相手に、何故負けてしまったんですか?

 

 

――相手チームが不正を行ったという噂もありますが?

 

 

『……それはありません。今回の試合の結果は、全て私の慢心が招いた結果です。

 未知の力に油断し、人間の技術に見惚れ、成すべきことを成せなかった。

 アリヴィアンは、よく戦ってくれました。今回の無様な敗北は、全て私の責任です』

 

 

淡々と答えるシーグヴァイラ。この有様には、勝者である俺達も虫唾が走るような

まるで人間のマスコミのような、醜悪な悪魔のマスコミの有様をまざまざと見せつけられた。

この場にバオクゥがいなかったことに、内心安堵している。

 

 

――――

 

 

いけ好かない会見のしばらく後、俺達の控室に薮田(やぶた)先生が来た。客を伴って。

その客と言うのが――シーグヴァイラ・アガレスだった。

 

「メンテナンスの報告ですが……どうしても同伴させろと、しつこかったもので」

 

「ええ。あそこまでパーフェクト負けを喫した以上、もう怖い物なんてありません。

 ですが、その前にいくつか聞かせてほしいのです。

 何故、悪魔とは何の関わりもなさそうなあなた方が

 ああも私達と戦えたのか。ただの人間だとは、どうしても思えないのです。

 そこの聖剣使いや、アモンを宿した人間はともかく」

 

シーグヴァイラの質問は、はぐれ悪魔討伐を依頼している大公のものだとは思えないものだった。

いや、だからこその質問なのかもしれないが。

俺は巡査達に、彼女らアガレス家は人間界にいるはぐれ悪魔の討伐を依頼していることを

改めて説明した。

 

「ハッ。てめぇらの尻拭いを実際にやってるのが、俺ら警視庁超特捜課なんだよ。

 てめぇらでやってるって言ってもな、そこに至るまでにはタイムラグがあるだろうが。

 だから、実際に悪魔が暴れてる現地の俺らが始末に動いてるんだ。

 これに問題があるだなんて、言わせねぇぞ」

 

「そんなわけで、自分達は悪魔と全く関わりがないどころか

 寧ろ、悪魔討伐を主任務にしている位なんです。

 今回戦ったゲシュペンストも、そのための装備なんです」

 

ゲシュペンスト。その名前を聞いた時に、シーグヴァイラの眼の色が変わった……風に見えた。

少なくとも、食いつき具合はさっきまでの比ではない。

 

「そう! そのゲシュペンスト!

 まさか本物のダンガムを見ることが出来る日が来たなんて夢にも思わなかったわ!

 実際に人間界にはダンガムベースって聖地があるくらいだし

 あれもそこで作ったのかしら!?」

 

「……ゲシュペンストはダンガムじゃねぇし規定ガチガチの警察装備だぞ。

 玩具なんぞと一緒にすんな」

 

……まさかとは思うが、ダンガムは実際に存在するもので、ゲシュペンストはダンガムに出てくる

マシンの一種だと思っちゃいないだろうか。そりゃあ、出て来そうな見た目ではあるが。

興奮していたシーグヴァイラは安玖巡査に水を差された形になり、咳払いをして平静を取り戻す。

 

「……実際、ダンガム顔をしたデザイン案もあったんですが流石に没になったそうですよ。

 ゲシュペンストに求めているのは広報ではなく、国防と治安の維持ですから。

 ゲシュペンスト開発の指揮を執ったのは、ギルバート博士なのでまた聞きですが」

 

そんな案あったのかよ。実際そうなったら著作権やらなんやらいろいろ引っかかりそうだな。

官公庁が広報に漫画やアニメのキャラクターを使う例は枚挙に暇が無いが

まさか実際に運用する装備がそれそのものってのは色々問題だろ。

 

「まさかと思うが。ゲシュペンストをプラモにしたい、なんて言うんじゃねぇだろうな?」

 

「それも魅力的……なんですが。

 実は真面目な話。あのゲシュペンストの設計図、何処で手に入れたんですか?

 私には、凄く見覚えのある設計だと思ったんですが……」

 

踏み込んだ話がシーグヴァイラから振られるが、関係者であろう薮田先生は

顔色一つ変えずにその質問に答えた。

 

「……機密保持の観点から、口外は出来ませんね。

 逆に聞きますが、何故そんなことを聞くんです?」

 

「実は……私は堕天使との和平の式典用として

 アルトアイゼン――ロボットの設計をしたのですが

 ゲシュペンストの構造が、そのアルトアイゼンとよく似ていたもので……」

 

「和平の式典用って事は、少なくとも内蔵兵装に関しちゃ積んでないだろ。

 それがどうして、治安維持用パワードスーツのゲシュペンストと被るんだよ。

 ゲシュペンストには、内蔵火器だってあるんだぞ。詳しくは当然言えねぇがな」

 

安玖巡査の言う通りだ。式典用ロボットと警察が運用するパワードスーツじゃ、繋がらない。

この場にいる人にとっては、シーグヴァイラの発言は凄く頓珍漢なものにしか聞こえない。

 

「じゃ、じゃあゲシュペンストの設計図とアルトの設計図を見比べれば……」

 

「この場で広げるのだとしたら、出来ない相談ですね。

 警察の装備の設計図が流出するなんて、普通に考えて大事ですよ。

 同様の理由で、アルトアイゼンとやらの設計図も大々的に流すものではありませんね。

 設計図一つあれば、模造品を作ることは容易いのですから」

 

「設計図どころか、現物がマフィアに横流しされたケースもありますからね。

 今言ったのは、警察の事例じゃ無いですけど」

 

薮田先生や安玖巡査に言いくるめられ、さらに光実(みつざね)の援護射撃が入った事で

さっきの試合もかくやと言わんばかりの集中砲火を受ける形になったシーグヴァイラ。

ちょっとかわいそうに思えなくも無いが、一応ここ敵地と言えるからなあ。

場外乱闘だけは勘弁してもらいたいが

けんもほろろな対応を受けるのは想定の範囲内だと思うんだが。

 

「じゃ、じゃあ完成品の写真を見比べて……」

 

そう言ってシーグヴァイラが出してきた写真。

そこに映っている赤いロボット。これがアルトアイゼンのようだ。

確かに、見方によっちゃゲシュペンストに似てなくはないし、個人的にはいいデザインだと思う。

これを和平式典用とするのは、センスがちょっとどころでなくズレてるとは思うが。

そもそも頭の角はともかく、右手の杭や左手の装飾は武器って言ってもいいレベルだ。

 

……だが。それ以上にこのアルトアイゼン。どっかで見たデザインだ。

ゲシュペンストよりも前に見た、赤くてごつい奴……

 

「……あれ? これ、あいつに似てません? アインストの中にいた、赤くて硬い奴……」

 

光実がそうつぶやいた瞬間、この場の空気の温度がさらに下がった気がする。

もし光実の仮定が是であった場合、アインストはアルトアイゼンを基に

あの赤い奴を作ったことになる。それはつまり……

 

「そ、それはこっちも被害者なんです! 奴らに勝手にデザインどころか原型機も利用されて

 今や和平式典用どころか、侵略の尖兵として扱われて……

 アルトや堕天使が作る予定だった兄弟機のヴァイスのためにも

 私はアインストを残らず駆逐したいんです!!」

 

 

「……なるほど。それが貴様が若手四王(ルーキーズ・フォー)に居続ける理由か」

 

声がした方を振り向くと、そこにはあの謎の悪魔――ビナー・レスザンがいた。

確かに、この場にいる俺達のチームの中ではある意味アモン以上に

今の悪魔の時勢に詳しいだろう。そんな風な物言いだ。

 

「……そうですよ。それの何が悪いんですか!!

 アルトも、里子に出したヴァイスも、言うなれば私の子供達!

 その子供達を、いいように利用しているアインストに対して仇討ちの感情を向けるのは

 悪い事じゃないでしょう!?」

 

「仇討ちを規制する法は無いな。

 だが、次期当主としてその振る舞いは、まだまだ若すぎる。感情的過ぎだ。

 実際アインストは悪魔に仇成す存在であるから、討ち滅ぼすことに異存は無い……が。

 精々、サー……ルシファーの、大王派の鉄砲玉にされないようにだけは気を付けるんだな」

 

……うん? 今こいつなんて言おうとした?

そう言えば、ビナー・レスザンが来てからというものユーグリットをあまり見かけないが……

…………まあ、いいか。

シーグヴァイラはシーグヴァイラで、こいつの言っていることが腑に落ちてない感じだし。

 

 

――シーグヴァイラ様、そろそろお時間です。

 

 

外から、男の声が聞こえる。言われて時計を見てみると、確かに結構時間が経っていた。

声の主は確か、光実と戦ったシーグヴァイラの「女王(クィーン)」。確か、アリヴィアンとか言ったか。

 

「……もうそんな時間ですか。それでは、私はこれで失礼します」

 

「……期待に添える情報が提供できずに、すみませんね」

 

薮田先生の言い分だと、やはりゲシュペンストについて知りたかったってところか。

それで勝負が終わってインタビューで精神的に疲労したところでこれか。

中々の行動力だが、無茶してないか?

こっちはこっちで、精神的に疲れるようなことを言われてるし。

 

一礼して、俺達の控室を後にするシーグヴァイラを見送り

足音が聞こえなくなるタイミングで安玖巡査が口を開く。

 

「時間か。そういや、アガレスってのは連戦だったな。次は……シトリーだったか」

 

「そうだ、薮田博士。ゲシュペンストの方はどうでしたか?」

 

「問題ありませんよ。ただ、キックはするなとは言いませんが、なるべく控えてください。

 装甲材質ならともかく、内部機械はここで壊れられると面倒ですから。

 特にレコーダーの誤作動などされた日には、欺けるものも欺けなくなりますからね」

 

そういや、ゲシュペンストを下手に動かすとレコーダーから足がつくとか何とか言ってたっけ。

公安に追われてこんなところに来てしまったが……家、大丈夫かな。

などとふと思っていたら、不意に安玖巡査が思いもよらぬことを問い質してきた。

 

 

「……なあ博士。ギルバート博士はゲシュペンストの設計図をどこで手に入れたっつった?

 さっきのあいつじゃないが、確かにあの赤い奴とゲシュペンストは

 構造が似通ってる部分がある風に見えた。

 

 ……まあ尤も、専門家じゃねえ下手の横好きの私見に過ぎねえが」

 

「ほう。流石は家電に一家言ある安玖(あんく)巡査と言うべきですか。

 あれを家電と言っていい物かどうかはわかりかねますが。

 

 ビナー・レスザン……でしたか。その悪魔の言う通り、彼女はまだまだ若いという事ですよ。

 下手人まではわかりませんが、彼女の知らぬところで流出があったのは間違いないですね。

 それがどうして、警察の関係者に流れ着いたのかまではわかりませんが。

 答えとしては、そんなところでしょうか」

 

今の話を聞く限りだと、シーグヴァイラは(その感性に共感が出来るかどうかは別として)

曲がりなりにも和平のために動いていたのだろう。

それがこうして、二重の意味で悪魔に牙を剥くことになろうとは。

ちょっとだけ、不憫に思えてきた。

シーグヴァイラ自身は和平のために作ったものが、アインストと警察の両者に分かれて

同じ設計図から潰し合いをしている。本人にしてみりゃ、心苦しいのだろうが……

 

「そんな出所不明の設計図なんか使って平気なのかよ」

 

「技術職として答えますが、著作者不明の設計図など突如沸いたアイデアと大差ありませんよ。

 それにさっきも話で出た通り、治安維持用パワードスーツと式典用のハリボテとでは

 ガワは似せられても、中身は真似しようがありません。

 ゲシュペンストが真似たのは、精々外見だけですよ。

 そもそも、悪魔由来の科学技術を人類の科学力で完全再現するのは

 セベクの技術を接収した南条コンツェルンどころかユグドラシルでも無理ですよ」

 

そんな御大層な物、使っていませんでしたが。と薮田先生が付け加える形で締める。

実際、ゲシュペンストで使われている装備は悪魔が用いている機械や技術と言うよりは

超特捜課で運用していた装備の発展形が殆どだ。

つまり、この時点で既にゲシュペンストとシーグヴァイラのアルトアイゼンの間に

接点はほぼ、無い。

 

「では、私はこれにて……おや? 真羅君ですか。試合はどうしたのです?」

 

「それどころではありません、会長が……ソーナ様が大至急先生を呼んでくれ、と……!」

 

ただならぬ雰囲気を伴ってソーナ・シトリーの「女王」、真羅椿姫が駆けつけてきた。

それと同時に、向こうで試合の中継を見ていたゼノヴィアさんやマスクを脱いでいた黒歌さんが駆けつけてきた。

 

 

――これは大変なことになりました! シーグヴァイラ・アガレス選手、ドクターストップです!

  転送魔法が働いたため、命に別状はないとのことです!

 

 

「聞いての通りだ、ソーナ・シトリーの『兵士(ポーン)』が、アガレスを……!!」

 

「……実況はああ言ってるけど、見るからにヤバい負傷の仕方だったにゃん」

 

この騒動を聞いた薮田先生は、恐らく色々と察したのだろう。

真羅椿姫に促される形で、俺達の控室を後にした。

 

「……私を呼ぶという事は、フェニックスの涙でも対処しきれない事態かもしれませんね。

 いや、或いは治療以外の問題で私の力が必要な事態かもしれません。

 すみませんが、暫く駒王学園の教師としての立場に戻らせていただきますよ」

 

薮田先生が出た後で記録映像を見てみると……匙が、シーグヴァイラに重傷を負わせていたのだ。

その匙が持っている神器(セイクリッド・ギア)は、黒い龍脈(アブソーブション・ライン)ではない――風に見えた。




設計図問題。そりゃ触れずにはいられないでしょうて。

この世界ではゲシュペンスト→アルトアイゼンではなく
アルトアイゼン→ゲシュペンスト(見た目的な意味で)です。
或いはパーソナルトルーパーをダウンサイジングしてパワードスーツ作ったとか。
ムゲフロで似たような事例があったような、なかったような。

>シーグヴァイラ
残念ながら、彼女もまだまだ若かった。無能では無いはずなんですが
若気の至りで逸ってしまって……
アルトの設計図流出も、もう少し気を配っていたら……
でもそうしていても堕天使側からも漏れていたのだから同じこと。
若気の至りが事態を悪化させる、ペルソナ2的には原作再現なんですが
HSDD的には真逆の展開。
無事に済んだと思ったのに負傷退場とかどういうことなの……


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Will52. 龍脈の疑惑

過去何度か突っ込んだ記憶があるヴリトラ神器の闇。
本編中で明確に突っ込むのは今回が初?


俺達に敗れたシーグヴァイラ・アガレスの二回戦。

それはソーナ・シトリーとの戦いであったが

その最中、事故が起きてしまう。

 

 

――シーグヴァイラ・アガレスが大怪我を負ったというのだ。

 

 

――――

 

 

レーティングゲーム会場・医務室前。

 

 

ソーナ・シトリーの「女王(クィーン)」、真羅椿姫に呼び出された薮田先生が先に向かっていた。

俺達……と言うか俺も、かつての出来事から嫌な予感がしたので

後を追う形にはなったが、マスクをした黒歌さんを伴って駆けつけることにしたのだ。

 

「セージ、あんまり試合以外でうろつきたくないんだけど」

 

「すみません。だけど、ちょっとこういう事態にトラウマと言うか、嫌な予感がしたもので」

 

 

「――その嫌な予感と言うのは、私達にも関係のあることかしら?」

 

声がした方を振り向くと、金髪の縦ロールと言う如何にもなヘアスタイルの

レイヴェル・フェニックスが、顧問弁護士の奥瀬秀一を伴ってやって来ていた。

 

「…………否定は、しない」

 

「まあ、お兄様もユーベルーナも快方に向かってますし

 もうグレモリーとは関係のない貴方を如何こうするつもりもありませんけれど」

 

「お嬢の当たりが強いのは勘弁してやってよ。

 大好きなお兄ちゃんを再起不能にされたって事は、やっぱり思う所があるみたいなんだからさ」

 

あっさりネタバラシされたレイヴェルが照れ隠しに奥瀬弁護士をどついている。

……まあ、そうだよなあ。いくら当時の命令だとか見せしめだとかでも

あれは……今思うとやり過ぎたかもしれない。

 

 

「レイヴェル、中に怪我人がいるんだ。あまり騒ぐのはよくない」

 

声をかけてきたのは恵体の悪魔、サイラオーグ・バアル。

その後ろに控えているのは……確か、彼の「兵士(ポーン)」であるレグルス。

まるで気配を感じないそれは、確かに「(キング)」を守護する護衛としては恐ろしく優秀だろう。

いずれは戦う相手なんだから、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を向けたいところだが……

今は、それどころじゃないな。

 

「……しかし解せませんわね。ちょっとやそっとの負傷ならば

 フェニックスの涙で治療できるはず。

 今回フェニックスの涙はケチっておりませんし、シーグヴァイラさんの負傷が

 ここまで大事になるとは思えないのですが」

 

「ああ、俺もそれが気がかりでな。心配になって様子を見に来たんだ」

 

悪魔二人が首を傾げるが、俺と黒歌さんにはなんとなく心当たりがあった。

俺の場合、二重の意味で心当たりがあるんだが。

 

「ねえヒヨコ。フェニックスの涙ってのは、精神的なダメージも回復できるのかにゃん?」

 

「誰がヒヨコよ!

 ……こほん。フェニックスの涙は確かにあらゆる傷を治療することが出来るいわば霊薬ですわ。

 ですが、当たり前のことですが既に死んだ者には効果を発揮しませんし

 肉体的な損傷によらないダメージ……精神面でのダメージに対しては

 これまた効きが悪いですわね」

 

軽口を叩きながら、黒歌さんがレイヴェルからフェニックスの涙の効能を聞き出している。

確かに、死人に効くようなら悪魔の駒(イーヴィル・ピース)なんざ要らんわな。

 

……だが、それよりも。この黒歌さんが聞き出した

「精神面からのダメージには効かない」と言う点が、俺の中にある一つの仮説を齎した。

 

「……セージ。多分、思ってる通りだにゃん。

 詳しい事は実際に診察しないとわからないから、中入るわよ」

 

半ば強引に医務室に入ろうとする黒歌さん。

それを止める間もなく、俺達もあれよあれよと言う間に中に入ることとなった。

 

 

――俺の嫌な予感に呼応するように、ディーン・レヴから悪寒を感じながら。

 

 

――――

 

 

病室には、既にシトリー会長と真羅副会長に薮田先生。

そして、当事者であるとされる匙が雁首揃えていた。

シーグヴァイラの方は、ここから見る限りだと魘されているようにも見える。

その看病として、アリヴィアンが付き従っているようだ。

 

……はて。「黒い龍脈(アブソーブション・ライン)」のダメージはここまで後を引くようなものだったっけか?

 

「……御足労頂いて恐縮ではありますが、現状において満足なおもてなしは……」

 

「俺達に気を使うことは無い。まずは治療に専念するんだ。

 ソーナ・シトリーの『兵士』にせよ、人間たちにせよ

 その力は我々悪魔の下馬評を大きく上回っていたんだ。

 見舞いと共に、そのような相手に対しても全力を尽くした。

 その戦いぶりを讃えるためにも来ただけだ」

 

俺達を代表してか、サイラオーグさんがアリヴィアンと挨拶を交わしている。

もしかすると、ゲシュペンストとの戦いのダメージが残っていたかもしれないが……

 

容態を訝しんでいると、黒歌さんが俺の袖を引っ張ってくる。

どうやら、遠巻きではあるが症状に心当たりがあるようだ。

 

「……セージ。遠巻きだから断言はできないけれど、症例としては白音の時に似てるにゃん。

 あ、発情してるとかそう言う意味じゃないにゃん。

 気の流れがおかしくなってる、って意味にゃん」

 

気の流れ? はて、それこそ黒い龍脈にそういう作用は無かったはずだ。

強いて言うなら、力を奪った際にそうした作用が副次的に起こったか。

 

……或いは、何かの要因で悪いものが逆流したか。

 

「……ふむ。俺も闘気と言うものを嗜んでいる上での心当たりとして言わせてもらうが。

 シーグヴァイラの症状だが、これはどうも彼女の気が汚染されたことで起きているようだな。

 気を送り込むか、汚染された気『だけ』を除去すれば、快方に向かうとは思うが……

 生憎俺も医者じゃないんでな。民間療法を推奨は出来ん」

 

「私も同意見にゃん。ああ、私も出身の都合上、気功術についてはちょっとしたものなのよ。

 ただ私も医者、それどころか悪魔ですら無いから

 私の証言なんか何の役にも立たないだろうけれど」

 

「元」悪魔だけどな、と心の中で同意を述べながら俺も頷く。

サイラオーグさんが言う「汚染された気の除去」だけなら、俺も出来なくは無いが……

ただ、俺がそれをやるとなると「逆流」や「感染」の危険性があるってのがな。

それでも、出来るのに黙っているのもなんか気分が悪いので

俺はこっそりと黒歌さんに相談することにした。

 

「セージ。言いたいことは読めたけど推奨はしないにゃん。

 ただでさえこっちに来る時にクロスゲート潜ってるんだから

 あんたの持ってるディーン・レヴがどう動くかわかんないのよ。

 暴走なんかされた日には、事態の収拾なんか出来なくなるわよ」

 

『ま、俺が表に出れば最悪抑え込むこと自体は出来るけどな。

 悪いが、俺がそいつのためにそこまでしてやる義理が無い。

 セージの保護って観点なら、俺は動かざるを得んけどな』

 

そう。「怨念を吸収する能力」でシーグヴァイラの気の流れを安定させようと考えたのだ。

その「汚染された気」が「怨念」ではないかと考えたからこその判断ではあるが……

違った場合、俺が抱えている怨念が逆流して最悪の事態を招きかねない。

と言うか、怨念抱えて正気を保っていられるって時点で

既におかしいとは我ながら思ったりするが。

 

……それは果たして、正気なのかどうかわかりかねるところだが。

 

 

――――

 

 

「……結論から言いますと、この症状はシーグヴァイラ君の身体を

 負念が蝕んでいることによるものですね。

 ですので、その負念さえ取り除いてしまえば彼女は快方に向かうはずですよ」

 

やはり。薮田先生の診断の結果は俺達の予測と同一であった。

ここに薮田先生がいたのは不幸中の幸いだったか。何だかんだで、この場にいる中では

一番知識を有している。俺の知識は、所詮は付け焼刃だ。

 

「…………ですが、解せない点があります。

 私が知る限り、黒い龍脈には相手の力を吸収したりする能力はあるはずですが

 怨念を相手に流し込む能力は無かったはずです。

 匙君。黒い龍脈を持っているのはあなたです。心当たりは、ありませんか?」

 

確かに。薮田先生の疑問も尤もだ。

俺の知る限りと、検索の結果では黒い龍脈にそんな

クロスゲートの中身みたいな効能は無かったはずだ。

どこかでそんな能力を手に入れた、と考えるのが自然だが……

 

「え? い、いや、俺に心当たりは……」

 

「匙君、しらを切らないで下さい。あの時に見せた神器(セイクリッド・ギア)の強化。

 今回の事件に関係性があるとするのならば、これが今回の原因ではないかと思います。

 一体、あれはどこで手に入れた力なんですか?」

 

「……神器の強化、ですか。私には、初耳の出来事ですがね。

 いえ、これについてシトリー君を責めるつもりはありませんが。

 私も、皆さんの様子を見ることを疎かにしていましたからね」

 

……なんだ? 妙に向こうが険悪な空気になっているが……

そういや、シャドウが「僧侶(ビショップ)」への「昇格(プロモーション)」を果たしたがその出所はここか?

シャドウが奴らと何らかの理由で戦った際に記録した、そう言う事か?

 

「連絡が遅れてしまってすみません、先生。確かにサジは、黒い龍脈を強化しています。

 ただ、その強化の元となったのは調べてみたところ、分割されたヴリトラの……」

 

「ヴリトラの神器……なるほど、そう言う事でしたか」

 

シトリー会長からの報告を受け、一人ごちる薮田先生。

俺でもついていけてるかどうかわからないってんだから、後ろにいる黒歌さんや

他の悪魔組は既に頭に疑問符が浮かんでは消えている。

 

「分割していたものを一つに結合し直した……と言えば、聞こえはいいかもしれませんが

 実際には神器を摘出して、それを移植したのと変わりありませんね。

 そして、私の知る限り生きたまま神器を摘出する方法はありません。

 恐らく、その際に匙君に移植したヴリトラの神器にヴリトラのものでは無く

 元の神器の持ち主の思念が残っていたと考えられます」

 

「では、黒い龍脈の負念はそれによるものだと?」

 

真羅副会長の問いに、薮田先生は首肯し返す。

それよりもだ。神器の摘出と言えば……レイナーレがやろうとしていた事だ。

あの時はアーシアさん相手に使い、結果としてアーシアさんが悪魔になる原因になった出来事だ。

その件に関しては、俺はレイナーレを未だに許したわけではない。

と言うか、ある意味グレモリー先輩以上に許せない相手ではある。

 

……だが、レイナーレが自身に「聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」を移植した際には

レイナーレにアーシアさんの思念は移っていなかった。

これに関してはレイナーレが手際が良かったのか

匙に移植手術をした奴がヤブだったのかは知らないが。

 

「聖なる力に抗体のあるものなら、聖水なり祈祷なりで負念を祓う事は容易ですが

 ご存じの通り、悪魔相手にそれは出来ません。

 逆に、時間を置けば自然治癒し負念に対し抗体も出来るかもしれませんが……

 色々な理由で、おすすめはしませんね」

 

シーグヴァイラの治療方法――と言うのもお粗末なものだが――が提示されるが

これは言った本人もあまりにもあまりな方法なのか、すぐに否定している。

その理由が今一つ掴み切れていなかったのか、サイラオーグさんが薮田先生に質問する。

 

「免疫を付けることを薦めないとは……

 もしや、その前にシーグヴァイラが持たないという事か?」

 

「命を失うような事態にはならないと思いますが……負念に染められた知的生命体が

 元の人格を保持できるかどうかと言われれば、私は出来ないと見ますがね。

 つまり、生き長らえたところでそれはあなたがたの知る

 シーグヴァイラ・アガレスではなくなっているだろうという事ですよ」

 

そりゃそうだ。俺だってあんな背筋の凍るような気色の悪いものに四六時中晒されていたら

あっという間に正気を失っているだろう。

俺が正気を保てているのは、ディーン・レヴって外部装置があるからに他ならない。

それが無ければ、俺はあっという間に溜め込んだ負念に飲み込まれてしまうだろう。

 

……だが。負念を除去すれば治療できるという事は。

 

「薮田先生。負念の除去装置か何かは?」

 

「……残念ながら、冥界の医療技術と言えどそういう所は……」

 

だろうな。前に調べた時も、そう言う魂だとか思念に関する概念に関しては

何故だかやたらと研究が後手後手であった。だから俺が四苦八苦する羽目になったのもあるが。

そうなれば、思念を汚染する負念を除去できるのは――

 

「ちょっ……まさかセージ! 止めろっつったでしょ!?」

 

「だが、他にできる人がいないでしょう。出来るのにやらないってのは、後悔しそうで」

 

「そこまでする義理が無いでしょ!? 知らないとは言わせないわよ!

 あんただって負念を溜め込み過ぎたら、どうなるか……!!」

 

そうだ。今回は別に戦闘中ってわけでもない。

そうなると、外に放出してハイ終わり、と言う方法が使えないのだ。

行き場を失った負念がどうなるか。そんなの、ちょっと考えればわかることだ。

 

……仕方ない。言い訳としては下手糞すぎるが、このプランで行くか。

 

「治療法は俺が持っているんだが、それをやると俺もただじゃ済まない。

 そこで、俺のアフターケアも兼ねて、この後少しスパーリングに付き合ってもらいたいんだ。

 参加者は誰だっていい。ああ、勿論病人の傍にいる面子は必要だから

 この場にいる全員に来てもらう必要は無いが」

 

「成る程。それが手っ取り早いとはいえ、あなたも無茶をしますね」

 

「事情はよく分からんが、スパーリングなら俺が付き合おう。

 お前は確か、この後レイヴェル・フェニックスとの戦いが控えているんだろう?

 そのウォーミングアップの手伝いが出来るのは、光栄なことだ」

 

言っとくが、手札の全部は見せないぞ。

スパーリングと言う表現をしたのは、こうすればサイラオーグさんは

食いついてくるんじゃないかと思っての事だ。そしたら案の定だ。

 

「……ったく。あたしは止めたからね? 後で泣き言言ってもほっとくわよ?

 ほんと、白音と言いセージと言い世話がかかるんだから」

 

「同感ですわ。フェニックスの涙は用意しておきますので。

 場外乱闘は程ほどにしてくださいまし」

 

怒られた。まあそりゃそうだ。いつの間にか備わった霊力吸収能力。

それの指向性がディーン・レヴのお陰で誘導されている。

今の俺は、負念を優先的に吸収しやすくなっている。

一番いいのは、それを自力で浄化することなんだが……生憎、出来ない。

なので、溜め込んだ負念は一度何かに使わなければならない。

そうしなければ……俺が、負念に飲まれる危険性があるのだ。

 

そして負念が大量に漂っているクロスゲートを潜り抜けて

ここに来るまでにそれほど消費していない。

この状態でシーグヴァイラの負念を肩代わりすればどうなるか。

……外に放出するまで、保ってくれればいいが。

 

シーグヴァイラに手を翳し、彼女を取り巻く負念を俺のディーン・レヴに取り込ませる。

その過程で、負念は当然俺の身体にも入ってくるわけだが……

 

(やはり……キツイか……!!)

 

シャドウはよくあれほどの負念を操れたものだ。

シャドウにできた事なのだから、俺にできない道理はない……んだが

シャドウはそもそもが俺の内面、とりわけ負に属していたからこそできただけの話かもしれない。

あまりやり過ぎると、俺がシャドウに反転しかねない、そう言う事か。

 

 

――ナゼ、生キテ――

 

 

――ドウシテ、殺サレネバ――

 

 

――オレタチハ、コンナヤツノ糧ニ過ギナイノカ――

 

 

言っちゃなんだが、聞き飽きた怨念の言い分。

だが、今回に限っては妙に引っかかる。

そもそも、黒い龍脈にこうした負念がまとわりつくものか?

いくら匙が力を奪う過程で仮に倒したとしても、これほどの強い負念を残すものか?

ただ倒されただけの奴の負念にしては、やけに強すぎる。まるで……

 

「み、宮本君……顔色が優れないようですが……?」

 

「……だ、大丈夫だ。これでシーグヴァイラの負念は除去できたはずだ。

 だ、だが……本当に黒い龍脈の攻撃を受けてからこうなったんだよな……?

 吸収してみてわかったんだが、俺の想定よりも負念がかなり強かった……

 こんなに負念が強いものを、この先使い続けるのは……」

 

必死にシトリー会長に返答するが、正直さっさとこの抱えた負念をガン・レギオンに変換したい。

俺は制止も振り切って、スパーリング用のステージにサイラオーグさんと共に上がることにした。

俺の零した忠告が匙に届いていたかと言うと、多分届いていないだろうな……




また語られるヴリトラの闇。
この場にはいないけれどナイア先生が関与しているので
その際に細工されたと見るのが自然。
匙は知ってか知らずかそれを行使してしまった。
言うなれば、改造エアガンをサバゲ―でぶっ放したようなもん。

前回使った相手は中身のないライダーだったので発覚が遅れた、ってのもあります。

ソーナも今回の件で危険性を把握してますが
持ち主の匙がどうしてかシラを切る。没収を懸念してるのでしょうか。

負念に対する抗体。
この場合、ワクチンどころかウィルスそのものを使って抗体作ろう、って話なので
無茶にも程があります。
逆にセージは負念に曝され続けて本人自覚がないところで闇属性になってたり。


※05/24修正
ソーナが6チームリーグ戦なのに2回戦で2試合とか言う酷いことになりそうだったので訂正


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Will53. 別なる疑惑、さらに深まり

今回「も」劇的な設定変更を加えています。

そして、「ゴースト」~「デビルマン」の世界観の根幹に抵触する設定でもあります。


シーグヴァイラを蝕んでいた負念。

それを除去するために、俺の身体に負念を移し替えたのだが

その負念の量があまりにも多く、自壊しかねないために

俺は負念放出を兼ねたスパーリングを提案。

その相手として、サイラオーグさんが名乗り出た形となり

今こうして、スパーリング用ステージで俺達は戦っていた――

 

 

SOLID-GUN LEGION!!

 

「悪いけれど、最初から飛ばす! ガン・レギオン!!」

 

「ならばこちらも相応の力を見せよう! 来い、レグルス!!」

 

サイラオーグさんの前でガン・レギオンを使うのは初めてだが

手札の出し惜しみとか言っていられない。そもそもこれを使うのが目的だし。

こうやって負念を放出しなければ、俺の方がもたない。

本番でも無いんだからアキシオン・バスターとまでは言わないし

僧侶(ビショップ)」での召喚に負念を詰め込むのはもっと切り札になり得る。

そう考えれば、今それらの条件を満たして都合がいいのはガン・レギオンだ。

 

対するサイラオーグさんは手にした斧の一振りでガン・レギオンを撃墜していく。

大振りではあるが、その一撃でガン・レギオンを薙ぎ払えるその火力は、半端じゃない。

いくらガン・レギオンが防御には優れない構造だからって。

 

……ところで。俺の前で下手に武器なんぞ出したらコピーされそうなものなのに。

アーマードライダーみたくコピープロテクトがかけられているのか、コピーできる兆候がない。

気になったので、ガン・レギオンを補充しながら記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べてみることにした。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

――レグルス。いや、「獅子王の戦斧(レグルス・メネア)」。その正体は…………であり

所有者を失った後も単独稼働を続けていたところをサイラオーグ・バアルの手により

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を利用することで制御下に置かれることとなった。

それ故、サイラオーグの力を最大限に発揮することが出来

また彼自身もサイラオーグの手によって、その力を最大限に発揮することが出来る。

 

 

……よく読めなかったが、付喪神的な何かか?

いや、悪魔の駒は神性を持つものには適用されないから付喪神じゃない……

となると神器(セイクリッド・ギア)だが……神器が独立して動く……意思を宿した神器ならあり得る話……か?

 

 

もし、そうだとすると…………

 

 

「スパーリング中に考え事とは感心しないぞ!」

 

「そいつは失敬、ちょっと気になることがあって……ね!」

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

ガン・レギオンと触手砲の両面攻めである。あんな得物を持ち出されたんじゃ接近戦は分が悪い。

アウトレンジからの十字砲火。必勝の戦術だが、こんな素人でも思いつくようなものが

サイラオーグさんに通じるかと言うと、そうでもないだろう。

そもそも、ガン・レギオンは迎撃されている。

掻い潜った何機かは攻撃に成功しているが、豆鉄砲程度の攻撃しかしてない。

 

「ぬうっ……!?」

 

(…………?)

 

だが、気になることがあった。

触手砲の砲撃は悪魔特効だからそれはいい。

しかしガン・レギオンの攻撃も、その威力に関しては一発一発は言っちゃなんだが

豆鉄砲と言うべき火力なのに、何故だかわからないが

サイラオーグさんに対しては有効打になっている。

これもちょっとよくわからん。調べてみるか。

 

COMMON-SCANNING!!

 

――サイラオーグ・バアルは魔力を持たない代わりに

その生命エネルギーを「闘気」として武器に変えている。

闘気を纏ったその一撃は、生半可な悪魔の魔力を優に超える一撃となり

その身を護るヴェールとなる。

溢れる生命力を源とする闘気を使っているが故に

死せる魂から生まれた負念に対しては、負念が生命力を蝕む関係上

その力がうまく働かないのである。

 

 

……これ。アキシオン・バスターって切り札が特効になっちゃう奴か。今使う気は無いけど。

思わぬところで攻略法が手に入ってしまったが、それは向こうも同じだろう。

ましてこっちは手札を明かされたら生身の人間なんだ。

いくらマグネタイトで補強してる……マグネタイト?

はて、マグネタイトも確かさっき言ってた闘気とあまり変わらないような?

 

『気づいたか、セージ。奴は知らず知らずのうちに自分のマグネタイトを闘気――

 それも光力に近いスタイルに変えている。

 だから、お前の負念を用いた攻撃がやけに通りがいいんだ。

 だが解せねえな。堕天使ならともかく、悪魔が光力使うなんざ……デーモンでもいねえぜ』

 

魔神剛(まじんごう)(よろい)のデビルレイは、あくまでもそれっぽい光学兵器だ。天使の使う光力じゃない。

そう考えると、やはりサイラオーグさんは色々と異質が過ぎる。

アモンも前代未聞と言った旨の事を零している。

 

……だが、光力を使い、悪魔の駒を使ったとは言え自力で神器をも操る悪魔……

それって、本当に悪魔なのか……?

 

ふと気になったので、俺は次の手を打つことに……

する前に、サイラオーグさんの方が仕掛けるのが早かった。

 

「そちらから仕掛けてこないなら、こっちから踏み込むまでだ!」

 

「くっ……!」

 

SOLID-LIGHT SPEAR!!

 

物凄い勢いで戦斧を担いで踏み込んでくるサイラオーグさん。

ディフェンダーで防ぐよりは、思い切ってカウンターを決めた方がいいと思い

光の槍を現出させ、守りが疎かになったサイラオーグさんに突き立てようとする。

オーバーキルになるのは、承知の上でだ。

 

その一撃は、確かにサイラオーグさんを捉えたのだが……

 

 

「――取った!」

 

「ぬうっ……だがまだだ!!」

 

なんと、サイラオーグさんは光の槍の直撃を受けながらも

怯むことなく俺の頭上に戦斧を振り下ろしてきたのだ。

こっちの読みが、甘かったか――!!

 

 

――だが、戦斧が俺の頭をかち割ろうとした瞬間。

ガン・レギオンの生き残りがサイラオーグさんを取り囲む。

互いに、頭を獲れる位置になったのだ。威力では獅子王の戦斧のほうが上だろうが

瞬発力ではガン・レギオンの方が上だ。互いに狙いは寸分違わないとなると、これは……

 

「……自律兵器か。いつの間にそんなものを?」

 

「あれからいろいろありまして」

 

サイラオーグさんが構えを解くと、俺もガン・レギオンを消失させる。

一度ガン・レギオンに封入した負念は、戦いと言う行為を経てある程度は浄化される。

少なくとも、解放しても差し障り無い程度には。闘争と言う形で、昇華させるのだ。

シャドウのは……かなり悪辣なやり方だから、多分……違うだろうが。

 

……それよりも。

 

「すみません、スパーリングって事を忘れて、かなり本気で仕掛けてました」

 

「おいおい、あれで全てではないだろう。

 それを言ったら、こっちはレグルスまで持ち出しているんだ。

 それにもかかわらずお前の全てを出し切れなかったという点では

 俺もまだまだ鍛え方が足りんという事か」

 

やはり。俺が見たアインストとの戦いの時にも使っていなかった気がする獅子王の戦斧。

ただの神器なら、祐斗やアーシアさんの時みたくコピーできるはず、なんだが……

その出自を鑑みるに、コピーできないのもさもありなん。

それに、こっちの手札はその気になれば無限大だ。そう簡単に全部出させてたまりますか。

 

「スパーリングで手札全部出すバカはいませんよ。まだ本番が控えてるんですから。

 そんな対策されてまともに戦えるほど、地力に自身は無いので」

 

「その底の知れなさがお前の恐ろしいところだ。

 だが、俺も負けんぞ。俺も、レグルスも、眷属達もこの程度では無いという事を教えてやろう」

 

 

……底の知れなさは、あんたも相当なもんだと思うぞ。なにせ…………

 

 

…………なんで、悪魔なのに光の槍でぶち抜かれて涼しい顔してられるんだよ。

 

 

――――

 

 

俺達のスパーリングは、どうやら観客がいたらしく。

下手な試合よりも観客が集まって大変だったとサイラオーグさんの眷属や

取材にかこつけて見物に来ていたバオクゥが零していた……バオクゥ?

 

俺はバオクゥを控室に呼び出し、記録していた動画をチェックすることにした。

俺の推測の事を考えて、ビナー・レスザンやユーグリット・ルキフグスには席を外してもらう。

もし、俺の推測通りだったとしたらこの二人に知られるととんでもないことになる。

 

……そんな気がしたのだ。

 

「セージさんの戦い方って、飛び道具系ですよね。

 サイラオーグさんみたいなタイプとは、ハマれば強いですけど懐に潜られたら……」

 

それ兵藤の奴と戦う時もおんなじだと思うからその辺はわかってる。

俺がチェックしたいのはそう言う事じゃない。

 

「俺は光力を用いた攻撃を普通に繰り出していたんだ。そうしないとヤバいと思ってな。

 いや、ガン・レギオンを出して負念を解放するのが目的だったんだが

 そこから先も、棒立ちじゃやられちまうからな」

 

「光力……光力ですか!?」

 

バオクゥが驚くのも無理はない。普通の悪魔に光力での攻撃をすればただじゃ済まない。

それこそ、この先の試合参加が危ぶまれるレベルだ。

それも、一際強い光の槍が急所を外したとはいえサイラオーグさんをぶち抜いている。

ただじゃ済まない、はずなんだが……

 

「……一応聞く。このサイラオーグ・バアルと言う悪魔、今は無事なんだな?」

 

「ああ、フェニックスの涙で元通りだとさ」

 

「…………あり得ない! セージ、この時に使ったのは堕天使の光の槍なんだよな?」

 

ゼノヴィアさんの問いに首肯する。その反応に、当然だがゼノヴィアさんは目を丸くする。

そりゃそうだ。俺だっていまだに信じられていない。

 

「転生悪魔でもその性質は知っての通り悪魔に準ずる。

 まして、バアルの悪魔となれば純血の悪魔。

 そんじょそこらの転生悪魔でなければ、純血に悪魔の駒を使ったケースでもないんだろう?

 それならば……」

 

『一応言っておくが、神器自体はちゃんと稼働していたぞ。

 負念もガン・レギオンに全部流れているからそっち方面の異常も無い』

 

フリッケンの補足に、ゼノヴィアさんは確信めいたといった感じで反応を示す。

そして語られた言葉は、俄かには信じられないものだった。

 

「私達の地元では、チェンジリングって話があってな。

 妖精……まあ、広義では悪魔か。それらが、人間の子供を自分達の子供と取り換えてしまう

 ちょっとした説話なんだが……」

 

「それが今回の件とどう関係するんだよ」

 

「ああ。そうした子供は当然人間の子供じゃない。悪魔の子と言われているのは

 元を辿ればそうした出自の子供も少なくなかった……らしい。

 ただ、調べが進んで行くと実際に悪魔が取り替えたケースの他にも……」

 

「……突然変異、ですか」

 

突然欧州の説話を語られたことを訝しむ安玖(あんく)巡査が疑問を投げかけるが

対照的に合点が行ったように、光実(みつざね)が相槌を打つ。

その相槌にゼノヴィアさんが頷くと、今度は光実が交代で話し始めた。

 

「読めました。人間に突然変異で悪魔の子が産まれるように、悪魔にも突然変異が起こる……

 そう言う事ですね」

 

『確かに、サーゼクス・グレモリーはそんなような出自だったな』

 

「そ、それじゃあサイラオーグ・バアルは……!!」

 

 

俺達の懸念、それは。

 

 

 

――サイラオーグ・バアルは悪魔ではない、という事だ。

 

 

 

しかしそれは、状況証拠とは言え色々と合点が行ってしまうのも事実だ。

何せ神器たる獅子王の戦斧を何食わぬ顔で振り回せているのもそうだし

そもそも非生物たる神器に悪魔の駒が作用するとは思えない。これもバグの一環かもしれんが。

もし非生物たる神器に悪魔の駒が作用するのなら、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)はどうなる。

アレこそ意志を持った神器に他ならないじゃないか。

確かアレのせいで兵藤の駒は8個も使う羽目になったのだが

それは考え方を変えれば「赤龍帝の籠手が本体で、兵藤はおまけ」となる。

獅子王の戦斧のケースが罷り通るなら、兵藤は「いてもいなくても変わらない寧ろ邪魔」。

そうなりかねない。

それこそ、兵藤の蘇生じゃなくドライグが復活する、という事態に。

そこは、グレモリー先輩の能力不足でドライグじゃなく兵藤が復活した。

そう見做すこともできるだろうが。

だから、記録再生大図鑑はああ述べたが、俺は……

 

 

――獅子王の戦斧は、サイラオーグ・バアル自身の神器で

  レグルスとは獅子王の戦斧の仮初の肉体である。

 

 

という仮説を打ち立てたのだ。

 

仮初の肉体を用意するという事自体は、過去に事例がある。

さっきアモンが言った、サーゼクスの時だ。

あれも滅びの力の安定化のためにわざわざ仮初の肉体を用意したらしい。

 

そして、バアルとは今の悪魔政府にとって重要な家である、らしい。

そこから突然変異で悪魔ではない子供が生まれてしまったとしたら……

 

「……セージさん。ここに私やアモン以外の悪魔がいなくて正解だと思いますよ。

 もし、この仮説が正しい、もしくはでっち上げられでもしたら

 それこそ今の政府が大混乱しかねません。

 何せ今の政治を牛耳ってるのは、実質バアルですから。

 他の皆さんも、この事はくれぐれも……」

 

「緘口令は警察の十八番だ。

 俺達は悪魔じゃないが、情報の開示で混乱することがわかっているような情報を

 態々開示したりしねえよ」

 

サイラオーグさんの秘密。これは俺達だけに留めておこうと全員合意する。

特に悪魔の情勢には疎いはずの警察二人の同意を得られたのは大きかった。

興味本位で情報をばら撒く奴は、この場にはいなかった。

基本的に悪魔を駆逐する側であるはずのゼノヴィアさんも、不要な混乱は是としていないようだ。

 

『魔力が無いその理由が、まさか「悪魔ですらない」ってのは驚きの理由だがな。

 そういやセージ。奴の母親に関しては調べたか?』

 

(まだだ。だが、この分だとヴェネラナ・グレモリーの時に近いケースも考えうるな。

 悪魔とて生物の端くれであるとするならば、出生に際し母体の影響を全く受けない……

 そんなことは、あり得ないだろうから)

 

不意にアモンから問いかけられる。確かに出生に関してはサイラオーグさんを調べれば早い。

そう言えば、まだしっかりと検索はかけてなかった気がする。

必要も無かったのでしてないだけで。

 

……いずれにせよ、この件で検索をかけることは今は無いだろう。

ただの好奇心のために、他人の家庭の事情に踏み込むのはもしかしなくともマスゴミの所業だ。

 

 

――宮本成二様。間もなく試合のお時間です。ステージにお上がりください。

 

「おっと、じゃあ私はこの辺で。また観客席から応援……

 ……おや? はい、どうもバオクゥです…………」

 

 

そして、俺達は次の試合に臨むこととなった。

相手はレイヴェル・フェニックスのチーム。こっちはスパーリングも終えてコンディションは万全。

相手とは以前うっかりフェニックス領に迷い込んだときに戦闘状態になった。

その時の事を考えても、油断はならない。その際に得た戦闘データだって古いものだし

まだ選手表に記載されている程度の情報しか更新していない。

いくら悪魔に研鑽で強くなるという習慣が無いとは言っても

隠し玉の一つや二つ出てこないとは言い切れないのだ。

 

一同気合を入れ直し、別室で待機してもらっているビナー・レスザンを呼び戻し

いざ試合場へ、と言う矢先にとんでもない報告が入って来た。

 

 

「な、なんですって!? 確か……みたいですね。わかりました、情報ありがとうございます。

 セージさん、セージさん! 大変なことが起きちゃいました!」

 

 

――シーグヴァイラ・アガレスが以後の試合を全て棄権する、としたのだ。




以前、サーゼクスの設定変更の際にバアルにもとんでもない設定変更に関して関連付けたと言いましたが
ちょっと、その当時とは改変加えましたがこうして公開させていただきました。
そろそろ世界観に絡む設定開示して畳む準備もしたいところですしね。

悪魔の定義が既に原作から乖離してますが、私なりに違和感なく考えたらこうなっただけの話です。
ダブルオーガンダムとウイングゼロが兄弟機以上に無理のある改変かもしれませんけど。

>チェンジリングと突然変異
入れ替え子=悪魔の子
即ち、先天性の障碍なりなんなり持って産まれた子供をチェンジリングと関連付けたが故の説話でしょうが
そう言うのって科学・医学等学問が発展した現代の観点で言えば「突然変異」では?
そう考え、チェンジリングを突然変異としてミッチが語ってます。

>サイラオーグ
改めて見るとこいつアイオリアや一輝ってよりヒュンケル(ともすればヒム)やん。
そっちの設定に引っ張られたのか、闘気が光属性帯びてしまい超パワーを発揮するのカラクリにもなっちゃいましたとさ。
悪魔の出す闘気なら所謂暗黒闘気になるかもしれませんが、何故だか……
ちなみに今回はセージがミストバーンみたいなことしたがために相性悪かったお話。
つーかセージがゴースト時代から主人公にしては闇属性引っ張り過ぎな感。
あく・ゴーストタイプは伊達じゃなかった。

>レグルス
こいつに悪魔の駒が適用される、とした場合
封印込みとは言えドライグはどうなるん? と疑問に思った結果。
そりゃまあ四文字が封印施したものを当時のリアスがどうにかできるわけがないので
こう言う結果になったんでしょうけど、だとしたら獅子王の戦斧も神滅具扱いされてるのに
こうして自律稼働してるってのは微妙にダブスタって気がして。ノーマークとかザルすぎない?
なので拙作では

「元々サイラオーグの神器で自律稼働も出来るけど、悪魔は神器を使えないのでそのカモフラージュのために悪魔の駒を利用して兵士扱いにしている」

としてあります。
いくら鬼っ子とは言え、バアルからそういう子供が産まれるのは問題なのは原作でも言ってたはずですし。
原作以上に問題のある子供が産まれた形になりましたがね!

>サイラオーグはこの事知ってるの?
知ってたらもっと話が変わってると思います……

※05/24修正
ソーナが6チームリーグ戦なのに2回戦で2試合とか言う酷いことになりそうだったので訂正


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Speculation Aパート

ご無沙汰してます。
アンケート期限も次々話投稿、と言いはしましたがまさかこうなるとは思ってもみませんでした。
本業の多忙と提督業でエイプリルフールネタがやっとでした。

大変お待たせしました。
アンケート期限は報告で述べた通り次話投稿までといたします。
遅くとも2週間以内には投稿の予定です(予定は未定)。
こちら投稿の目途がつき次第改めて報告します。


シーグヴァイラ・アガレスの棄権。

それは宮本成二対レイヴェル・フェニックスの試合の前に突如として飛び込んできたニュース。

そうなるに至った背景には、その前に行われたソーナ・シトリーと

シーグヴァイラ・アガレスの試合において、シーグヴァイラ自身が負傷したことが挙げられる。

その突然の事件に、他の参加者も驚きを隠せなかった。

 

シーグヴァイラの負傷自体は、彼女に送り込まれた負念が原因で生じたものであり

その負念を取り除くことによって、快方に向かった……はずであった。

ところが。

 

 

――――

 

 

「そうそう。シーグヴァイラちゃんだけど、大事を取って以後の試合全部棄権扱いにしたから♪」

 

「何ですと!? それでは、我が方のシーグヴァイラは負けっぱなしではありませんか!」

 

この突然の発表に対し、シーグヴァイラの父である現アガレス当主は

セラフォルーに対し抗議を行った。ところが……

 

「そんなこと言ってもねぇ。人間、それも神器(セイクリッド・ギア)も持ってない奴に負けちゃったとあっては

 そんな子の試合なんて以後盛り上がらないと思うし?

 華ならソーナちゃんのチームにもいっぱいいるし?

 消化試合をサイラオーグちゃんや赤龍帝ちゃんにさせる位なら

 もういっその事ここでリタイアした方が賢明かなって♪」

 

 

セラフォルーの台本ではこうだ。人間チームとの戦いでのダメージが残っていたシーグヴァイラは

ソーナ相手に善戦するも、力及ばず敗れた。

そしてソーナが擁する「兵士(ポーン)」、匙元士郎の攻撃によって負傷。

表向きは匙との激戦を物語るものとしつつも、その実は

「人間如きに負けた情けない悪魔」の淘汰とも言えた。

 

 

「……しかし! あのゲシュペンストとか言うマシンとの戦いにおいては

 シーグヴァイラのプラモはまだしも、自身はそこまでのダメージを受けていなかった。

 寧ろ、容態が悪化したのはその後のソーナ戦の後ではないですか。

 それも、あの「兵士」との戦いの後に!」

 

セラフォルーの采配を糾弾するアガレス。

しかしそれは、魔王である彼女に対する叛意とも取れないことも無く。

意見されたことで気分を害したセラフォルーは、口調こそ普段と変わらないものの

その声色は、彼女が得意とする冷気の魔力を彷彿とさせるほど底冷えのするものであった。

 

「……アガレスちゃんは、魔王少女の私に対してそんな口聞いちゃうんだ~♪

 『魔法少女マジカル☆レヴィアたん』の敵キャラのオーディション、いつでも受けてるよ♪」

 

迂遠(うえん)な言い回しだが、要は「魔王である自分に逆らうな」という事である。

「魔法少女マジカル☆レヴィアたん」に出てくる敵は、天使や他神話の神々

並びにそれに準ずる者達。つまり、現悪魔政府の政敵と言える存在である。

 

ちなみに噂されている限りだと、今放映されているシーズンでは

かつての悪魔の裏切り者と手を結んだ亡霊の賢者が敵ボスである……らしい。

 

それが意味するところを察したアガレスは、それ以上何も言えなくなってしまった。

 

「……それからね。かわいいソーナちゃんの眷属の事を悪く言う奴は

 たとえ大公であったとしてもタダじゃ置かないからね♪」

 

噂では、かつて若手悪魔の会合がグレモリー家で行われた際。

そこで彼らの意思表明も行われたのだが、その際にソーナの夢を嘲笑った悪魔達は

その全員が、その後謎の事故に遭ったと言われている。

表向きには昨今冥界を賑わせているJOKERの仕業として始末されているが

その真実は定かではない。

 

(あのアモンとつるんでる人間……かねてから気に入らないと思っていたが

 匙君にまで手を上げるなんて……アモンの事を抜きにしても、一度思い知らせてやらないとな。

 私のソーナの所有物を傷つけるなんて……だから人間は気に入らねぇんだよ)

 

アガレス大公に聞かれないように舌打ちをしつつ、セラフォルーはその場を後にする。

大公もまた、セラフォルーに聞かれないように嘆息し、娘の下にこの顛末を伝えるべく

重い足取りで病室へと向かって行った。

 

 

――――

 

 

ところで、このレーティングゲーム。

裏でのきな臭い話とは打って変わって、民衆は普通に盛り上がっている。

昨今謎の人気を集めている「乳龍帝おっぱいドラゴン」を受けて

グレモリーチームが注目株になっていたり、バアルチームもその実力から優勝最有力候補だ。

他にもシトリー、フェニックス、アガレスもその王をはじめ綺麗どころが集まっている。

また、人間チームに所属しているマスク・ザ・ハチワレやカムカム・ミケの二大妖怪は

本人たちの意向を他所に、悪魔達の注目をこれでもかと集めている。

試合前から、そのルックスは既に非合法のブロマイドが作られるほどだ。

その盛り上がりぶりは、サーゼクスの思惑通りと言えた。

 

――アインストやJOKERと言った、恐怖から目を逸らすという意味においても。

 

その様子を見て、サーゼクスは満足そうな笑みを浮かべているが

それを同席していたユーグリットは怪訝そうな目で見ていた。

 

「ふう。ようやくレーティングゲームを開催することが出来たよ。

 これも君達が協力してくれたおかげだ、心から礼を言うよ」

 

「……そいつはどうもありがとうございます、兄上様」

 

白々しい。そう心の中で吐き捨てながら思ってもいないおべんちゃらを述べる

自分に辟易としながら、ユーグリットが応対する。

そう思っているのは、ユーグリットだけではないのかもしれないが。

 

「他の来賓の皆様も、今回ご用意したこの場は

 我々にあなた方に対する敵意が無い事を示すための場でございます。

 どうか、我らが誇る若手悪魔達の試合を心行くまでお楽しみくださいませ」

 

「だったら女の一人でも付けてくれてもいいじゃねえかよサーゼクス。

 てめぇ、まさか既婚者だからって調子に乗ってやしねぇだろうな?

 自分はこれ見よがしに嫁にそんな恰好をさせて侍らせやがって。

 俺だって美人の悪魔に酌されながら観戦したいんだがよ」

 

サーゼクスの社交辞令に対し、本音半分からかい半分で返答をするのはアザゼル。

失った片腕は義手という形ではあるものの、ようやく動かせる形にまでは復元できた。

今回はリハビリと言う体で、シェムハザに内政の職務を押し付けてこの場に来た形だ。

 

アザゼルのこの指摘には、ユーグリットも内心では大きく首を縦に振っていた。

勿論、「嫁にこれ見よがしにそんな恰好をさせて侍らせている」の一点のみであるが。

本来ならば、アザゼル以上に「ルキフグスを辱めるな」と言いたいところなのだが

この場には堕天使のみならず、北欧神話やギリシャ神話と言った他神話勢もいるために

辛うじて踏みとどまっているに過ぎない。

外交の場で、ルキフグスの代表たる自分が取り乱すことは出来ないのだ。

歯噛みし、下唇に血を滲ませながら「あの場にいるのはグレイフィア・グレモリーである」と

自分に言い聞かせているのだ。

 

「……フン。ここは娼館では無いのだぞ。カラスの発情期は見境が無いと見えるな」

 

その一方で刺々しくアザゼルの冗談を糾弾するのはハーデス。

彼らの陣営は、以前堕天使陣営によって戦力を奪われ、勝手に堕天使陣営の戦力として扱われた他

その首謀者であるコカビエルを勝手に自陣営に収監させられたのだ。

元々三大勢力に対し好印象を持っていなかったが、この事でより印象は悪くなったのだ。

この場に出ているのも、単なる外交上の理由に過ぎない。

 

「ヘッ、枯れてる骨野郎に言われたくはねぇな。

 そんなんだから嫁さん……ペルセポネーだっけか?

 そいつに逃げられるんだよ。そいつだって骨のものよりかは肉がパンパンに詰まった方が……」

 

「貴様……カラス風情が我が妻を侮辱するか……!!

 ペルセポネーは外遊に出ているだけだ。我が下から逃げたわけではない。

 彼女には豊穣の神としての役割があるのだ。

 生誕を祝福する場に、死の神たる儂が出向くわけにはいくまい。

 鳥頭ではその程度の事も理解できんと見えるな」

 

「堕落を促すのは俺ら堕天使のお家芸だからよ、侮辱も何も無いんだわ。

 それに生誕とあらば、尚の事しっぽりヤってるんじゃねえのか?

 俺もご相伴に肖りたいぜ。腕一本取られてからうまく処理できなくてよ」

 

アザゼルの場の空気を読まない冗談……と言うよりは、明らかにハーデスを挑発している。

だが流石にそんなアザゼルの言葉は度が過ぎたのか

彼の(元)上司とも言えるヤルダバオトから冷徹な一言が下される。

 

「アザゼル、言葉が過ぎますよ。その手の冗談は場を選んで貰いたいものですね。

 この場にガブリエルを呼ばなくて正解でしたが

 オーディン殿のお付きのヴァルキリーに対しては、立派なセクハラですね。

 我々は人間ではありませんが、人間ならば出るところに出れば処断されますよ。

 ちょい悪親父を気取っているつもりかもしれませんが……

 私から見れば、今のあなたはただのウザい中年にしか見えませんね」

 

「てめっ……会議以来で顔合わせた元部下に対する言葉がそれかよ!?」

 

「私の下を去ったのはあなたの側でしょう。

 そうでなくとも今更堕天する前の事を持ち出されても、私の関与するところではありませんね。

 

 ……ですが、皆様にはこの不肖の元部下に代わり、私が謝罪いたします。すみませんでした」

 

サーゼクスの努力も虚しく、一瞬で張りつめてしまう空気。

アザゼルが空気が読めていないのか、よりにもよってハーデスと同席させた

運営側のミスか、或いはその両方か。

いずれにせよ、周囲の者はいい迷惑である。

ヤルダバオトの謝罪でさえも、空気を和らげるのには何の役にも立っていない。

彼の言葉に謝意が込められていない

――アザゼルが謝意を見せなければ意味がない、と思っているからなのだが――

と言うのも、理由としては込められてはいるが。

 

「偽神よ、一先ずはその言葉を当事者の言葉として受け取ろう。

 だが魔王よ。我らの喧嘩はただの喧嘩では無いという事、理解していような?

 故にアザゼルもハーデスも止せ。我らの立場を鑑みれば、ここで事を構えることは

 それ即ち、戦争の種火を切るが如き行いだぞ」

 

「ロキが仲裁に回るとはのう。それほどまでに、今の喧嘩は見苦しいものであったぞ。

 ハーデス殿も奥方を侮辱されて憤る気持ちはわかるが、今は控えてもらえまいか」

 

「……む。ペルセポネーを引き合いに出され、思わず頭に血が上った。

 場の空気を穢して、すまなかった」

 

「へいへい、悪うございました」

 

ハーデスが矛を収めたことで、アザゼルも矛を収めざるを得なくなった。

ロキが仲裁に入ったのはただ単に「ここで巻き込まれては敵わん」という理由からだが

オーディンが指摘するように、見苦しい喧嘩であったのは間違いない。

ハーデスという神は、職務に忠実であり、身内を愛する神なのである。

ただ、管轄や普段の陰気な立ち振る舞いから誤解を与えているだけなのだ。

 

(ところでロキよ。貴公の提案もあってやって来たこのレーティングゲームの観戦じゃがの。

 これは意外な収穫があるやもしれんぞ)

 

(ほう。オーディンにこういう趣味があったとはな。

 我が言うのもなんだが、このレーティングゲームとか言う遊戯。

 決して良い趣味とは言えんぞ。何せ盤上遊戯を気取ってはいるが

 やっていることと言えばローマどもの蛮族の考え付いたことだ。

 奴らの敵対する神が禁じた行いだからこそ、重んじる面もあるかもしれんがな)

 

(そうではない。あの人間チームを見よ。

 あの呉島光実(くれしまみつざね)と言う少年、見覚えがあろう?)

 

オーディンもロキも、かつて沢芽市でユグドラシルを訪ね

その際にオーディンもロキも呉島貴虎(たかとら)と出会っている。

オーディンに至っては、光実にも出会っているのだ。

 

(兄の影に隠れる童ではない、という事か。

 エインヘリャルではないにせよ、戦う者は老いも若きも須らく重責からは逃れられん。

 ノブレス・オブリージュ……言うは易いが、呑まれるでないぞ)

 

オーディンはかつて僅かながらに面を合わせた、呉島の次男を待ち受けるであろう運命。

それをどこまで見据えているかはわからないが、帽子の鍔を弄りながらその行く末を案じ。

彼に付き添っていたヴァルキリー、ロスヴァイセは。

 

(た、確かにあの時アインストとも戦って見せた光実君だけど……

 あんな子供を勧誘するってやっぱ流石に無いわよね……無い。

 そもそもエインヘリャルって……だし、いきなり光実君をそっちの道に連れて行くのもねぇ。

 彼だって学校ある……学校! そういえば!!)

 

あることに気づいたロスヴァイセ。そこから口に出すのは早かった。

 

「お、オーディン様! あの光実君もなんですが、参加者には学生と思しき者も見られます!

 学校は、学校は一体どうなってるんですか!?」

 

「何をいきなりとぼけたことを言っておるんじゃロスヴァイセ。

 ……と言うが、確かに妙じゃな。儂の調べによれば、規模が縮小されているとはいえ

 人間界の学校は普通に開かれておる。

 冥界の学校に通っているであろう悪魔どもはよいにしても

 光実や彼の所属するチームにも学生はおる……サーゼクスよ。そこはどうなっておるのじゃ」

 

「……その点は、既に話をまわしております。

 幸いにして、我が妹のチームもソーナ君のチームも同じ学校――駒王学園に籍を置く身。

 それに、かの人間チームに在籍している者達も駒王学園に在籍しているとのこと。

 根回しは、既に済んでおります」

 

(……根回しとは名ばかりの、一方的な話ですがね。

 素性のわからない布袋芙(ほていふ)先生の急な着任と言い

 駒王学園の学園運営体制には疑問を抱かずにはいられませんがね。

 

 ま、私が言えたことではありませんが)

 

オーディンの質問に対するサーゼクスの答えにも、その裏側を知っているヤルダバオトは

どうしてもその眉を顰めざるを得なかった。

 

そもそも、駒王学園と言う舞台自体が「都合がよすぎる」のだ。

まるで悪魔が人間界で活動するための前線基地であるかのような存在感を見せているのだ。

そうした前線基地は、他の場所にも点在しているという説もあるが、定かではない。

 

 

そして、ロスヴァイセはこの会場で気になる人影を見かけたのだ。

それは呉島光実ではなく、以前訪れたユグドラシルタワーの地下に潜入した際に見かけた影――

 

――戦極凌馬(せんごくりょうま)

 

「オーディン様。光実君もなんですが、私はこの会場で以前ユグドラシルタワー……

 それも、私が調査を行った区域で見かけた人物。

 それと同一人物と思しき人影を見かけたのですが」

 

「今は止せ、ロスヴァイセ。下手にその点を突いては我らのみならず、神仏同盟……

 ひいては何の関係もない人間達にも影響が出かねん。

 儂も呉島の坊がいることを踏まえれば、今回もユグドラシルが一枚噛んでいるのは

 ほぼ確定事項と睨んでおるがの。

 あるいは、事故に巻き込まれて流れで参加せざるを得なくなった、か」

 

だが、ユグドラシルと悪魔の接点は、北欧勢力が非合法に得た情報しかない。

この場でそれを指摘するのは、徒に北欧勢力への風当たりを強めるだけなのだ。

如何に悪魔が無法を働いていたとしても、それを糾弾するのに非合法な手段を用いたのでは

今度は北欧勢力に対する評価に昏い影を落としかねないのだ。

それどころか、余計な混乱さえも生み出しかねない。フューラー演説の時のように。

 

サーゼクスの思惑とは裏腹に、列席している各勢力の代表勢は

その心が一つになろうとする兆しは一切、見受けられなかった。

 

 

――ただ唯一、悪魔と堕天使への警戒心と言う点においては

各々の勢力以外の歩調は合いつつあったが。




表向き普通に盛り上がっているのに運営側・来賓が癖あり過ぎる件について。
ルキフグスやフェニックスが表立って協賛している以上、色々なものが潤沢に使えますので。
あと、やっぱり市民悪魔も鬱憤たまっていた様子。

>非合法なブロマイド
ローアングルとかそう言う奴。

>セラフォルー
四大魔王の中でも随一の過激派かもしれません。妹のために戦争起こそうとしたり
自分の主演番組の敵役を政敵にしたり、なんか……
いや、フィクションに現実の政治・外交・文化問題を持ち出すのは止しましょう。

>サーゼクス
ファーストレディとしてグレイフィアを扱っているのかもしれないけれど
その恰好がああでは当然ユーグリットも心中穏やかではありません。
一応今回ユーグリットはスポンサーとしてこの場にいます。出なければなりません。
それが責任と言うものです。

>アザゼル
ちょっと改悪したかも。何をいまさらですが。
独身貴族なのでファーストレディがいません。だからって相手先にコンパニオンを出させるのはどうなんでしょ。
そりゃあ、用意するのももてなす側の役目かもしれませんが。

>ハーデス
そういやHSDD原作で嫁さん(ペルセポネー)の話って……無かったような。
まあそれ言ったら星矢にもマジンガーにもハーデスの嫁さんはいなかったわけですが。
一応拙作では原典意識した夫婦関係。役割上アザゼルの言った通りになっている事もある……かもしれませんが
それについても神の役割として容認している様子。
それだけに今回のアザゼルみたく侮辱とも取れる言われ方すると二重の意味でキレる。

>薮田先生
アザゼルのカウンターキャラとして創作したはずなのにブレーキしてない件。

>北欧組
前に一度接触しているからか、表にこそ出していないものの人間チーム(特にミッチ)推し。
ロスヴァイセが持ち帰った情報からこの中ではハーデスとは違う意味で悪魔を信用してませんし。
ロキがローマに関して言及してますが、ここでは単なるご近所さん程度の認識。それも大昔の。

※05/24修正
ソーナが6チームリーグ戦なのに2回戦で2試合とか言う酷いことになりそうだったので訂正


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Speculation Bパート

お待たせしました。
こちら投稿後日付変更をもちましてアンケートは終了とさせていただきます。


「いやあ、一時はどうなることかと思ったが、こうしてリーアたんも人気を取り戻したし

 我が家の家計も持ち直すことが出来た。これもすべてナイア君のおかげだよ!」

 

「いえいえ。僕の方こそリアス君にはお世話になっておりますので」

 

一方。こちらはグレモリーチームの控室。サーゼクスが用意した特等席から

娘の試合を観戦していたジオティクスとヴェネラナが

リアス達に労いの言葉をかけに来ていたのだ。

 

リアス第一の側近のように振舞っているのは姫島朱乃……ではなく

オカルト研究部顧問の布袋芙(ほていふ)ナイア。

戦車(ルーク)」2個と言う掟破りな駒の価値を抱え、今や実質的な「女王(クイーン)」とも呼べる立場である。

本来の「女王」である朱乃自身でさえ、ナイアがこの席に就くことに関しては賛成しており

これに関して諍いが起ってはいない。寧ろ、リアスの側近と言う堅苦しい立場を離れたことで

今まで以上に奔放な振る舞いが目立つようになっていたのだ……特に兵藤一誠に対して。

 

「……朱乃。仮にもお父様の前よ。イッセーで遊ぶのは程ほどにしなさい」

 

「そうだよ朱乃君。一応君は立場上『女王』なんだ。イッセー君で遊ぶのは後にしたまえよ」

 

イッセーで遊ぶ、それ自体を否定しないことに、リアスは一瞬眉を顰めるが

諦めたのか、すぐに元の表情に戻る。

当のイッセー自身は、その朱乃に対して自分から擦り寄っている風にも見えている。

これに対しては、ナイアも一言言おうかと思ったのだが「本人たちがいい気分だからいいか」と

教職者としては感心しかねる姿勢をとっている。これもまた、リアスの不機嫌の原因であった。

 

「一回戦のレイヴェル・フェニックスとの戦いも、以前のライザー君との戦いに教訓を得て

 見事に戦い抜いてくれた! さすがリーアたんだ!」

 

「次の試合はサイラオーグでしたね。

 リアス。わかっているとは思いますが、相手は若手五王(ルーキーズ・ファイブ)の筆頭格。

 今回勝てたからと言って、決してその勝利に慢心しないように」

 

べた褒めするジオティクスとは対照的に

次の試合に向けて気を引き締めるよう告げるヴェネラナ。

実際彼女の言う通り、サイラオーグ・バアルの下馬評は極めて高く

優勝最有力候補であるのだ。

 

ちなみに若手五王とは、今回の参加チームから人間チームを省いた

その他五チームを指す。筆頭がバアル、次いでフェニックス、シトリーとアガレスが同位。

グレモリーが、滑り込みに近い形で名を連ねている状態だ。

昨今、このパワーバランスにも変化が生じつつはあるのだが。

それでも、今回の試合でグレモリーがバアルを下せば

それは立派なジャイアントキリングになり得る。

少なくとも、非公式な賭場ではそういうオッズだ。

 

「……ええ。腹の虫の収まらなさをぶつけるにはちょうどいいわ。

 セージにも、私の本当の実力を思い知らせてやらないといけないし。

 サイラオーグに勝てれば、セージだって私の力を認めるはずよ」

 

「おお! その意気だリーアたん!」

 

八つ当たり同然にサイラオーグとの戦いに臨もうとするリアス。

それを闘志と受け取ったジオティクスはその姿勢を讃えるが

ヴェネラナは呆れた様子で娘の態度を眺めていた。

 

「……あなた、話を聞いていたの?

 私がバアル出身だから言う訳ではないけれど、そんな心構えで勝てるほど

 サイラオーグは甘い相手では無いのですよ?」

 

「まあまあ奥方様。リアス君に対しては、僕からもそれとなく言っておきますので。

 それより、今日はここにいる皆に差し入れがあるのでしょう?

 イッセー君以外の他の頑張っている眷属の皆も、きちんと労ってあげませんと」

 

ナイアに制されて、リアスの眷属達に手製の焼き菓子を振舞うヴェネラナ。

グレイフィアはサーゼクスと共にVIP対応で席を外しているため、紅茶は朱乃が淹れていた。

こうしてみる限りでは、悪魔社会としては割とありふれた光景であると言えよう。

 

「それにしても、ソーナも災難だったわね。いきなりサイラオーグと当たるだなんて」

 

「で、そのサイラオーグさんに俺達が勝つ!

 俺達の優勝は、揺るぎないものっスよ!」

 

「……いや、流石にそれは楽観が過ぎるよイッセー君。

 今さっきヴェネラナ様がおっしゃったばかりじゃないか。

 サイラオーグさんは簡単に勝てる相手じゃない、って。それにセー……」

 

窘める木場の言葉を遮るように、イッセーは怒号をあげる。

それは勝利に向けた意気込みと言うよりは、耳を塞ごうと声を上げている。

そんな虚勢ともいえる怒号であった。

 

「わかってるよ! だけど俺も最近調子が出てきてるんだ!

 今の俺なら、サイラオーグさんにだって負ける気がしねえんだ!

 当然、セージにだってな!」

 

その根拠のない自信はどこから来るのか。

そう思っているのは、木場に限った話でもなかった。

イッセー同様に岩戸山でシャドウ成二との戦いを間近で見ていたギャスパーやアーシアは

イッセーがセージを脅威と見做さない理由がわからなかったのだ。

冥界にいれば否応なしにその実力のほどが伝わってくるサイラオーグに関しても同様だ。

 

「そうだね。自信を持つのは結構だけど、慢心しては勝てるものも勝てない。

 ヴェネラナ様のお菓子を頂いたら、調整に入るよ」

 

天狗の如き振る舞いをするイッセーを、少なくとも形の上だけでも窘めるナイア。

本来ならばリアスがその役割を果たすべきなのだが、何故だか先んじてナイアが行っている。

そしてそれに対してイッセーもまた、何の疑問も抱かなくなりつつあったのだ。

 

かつてならば、リアスが形の上だけでも行ったであろう動作。

その大半を、いつの間にかナイアが肩代わりしてしまっていたのだ。

……リアス自身もまた、増長しやすい傾向にあるので

窘めるという動作に至らない事も少なくは無いのだが。

 

 

「…………」

 

「部長さん、お菓子お口に合わなかったんですか?

 それより、このお菓子おいしいです! ヴェネラナ様、今度作り方教えてくれますか?」

 

「勿論いいわよアーシアちゃん。今度時間が取れたら一緒に作りましょう。

 それからリアス。少しいいかしら? あなたに話があります」

 

差し入れであるヴェネラナの焼き菓子に一同が舌鼓を打つ最中

そのヴェネラナが菓子を食べるには似つかわしくない神妙な面持ちのリアスを呼びだす。

うまく言い訳をして母娘だけの場所に出た際、ヴェネラナはある一つの疑惑を口にするのだった。

 

 

――――

 

 

「お母様、話とは?」

 

「いいこと、リアス。今グレモリーには、何かよからぬものの意思が介入しています。

 それは当主でさえも気づかぬまま……いえ、最悪は当主でさえも取り込んでいるでしょう。

 それ位、ここ最近のグレモリーの動向に私は『違和感』を覚えたのです」

 

ヴェネラナが抱く「違和感」。

リアスも、最近は妙にグレモリー絡みで忙しくなりつつあるとは思っていたが

それが「よからぬものの意思」であるとは、思いもよらなかったのだ。

 

「よからぬもの……それは一体?」

 

「そこまではまだはっきりとは断言できません。ですが、一つ怪しいと思うもの。

 いえ、寧ろこれしか怪しいと思うものが無いとも言えますが……」

 

そうしてヴェネラナの口から紡がれた名前こそ。

 

兵藤一誠の身元引受人として名乗り出て。

リアス・グレモリーの破格の「戦車」として眷属に自ら志願し。

グレモリーの財政再建に陰ながら尽力していた。

 

 

――布袋芙ナイア。

 

 

「…………やはり」

 

ヴェネラナの挙げた名前に、リアスは合点が行った様子であった。

今までは朱乃もイッセーも矢鱈とナイアを庇い立てするために

彼女に不審な点が見受けられても「自分が考え過ぎではないのか」とも思っていたが

ここに来てヴェネラナと言う同意見を得たために

ある程度自分の判断が間違っていないことを再認識していた。

 

「今ここで話しているのだって、もしかしたら彼女の手のものに聞かれているかもしれない。

 前に貴女には話したと思いますが、私は何があっても貴女の味方です。

 母親とは、そういうものです。いつかきっと、貴女にもわかる時が来るでしょう」

 

「お母様。お母様は何故、ナイア先生に対してそう言う印象をお持ちに?」

 

いつになく神妙な面持ちで語るヴェネラナに、思わずリアスも問い質した。

何故、そう言う結論に至ったのか、を。

 

「…………『出来過ぎている』のです。

 

 偶然、私達の下に現れ、貴女の力になると言い出した。

 それから偶然、グレモリー家の家計が再建される切欠が産まれた。

 偶然、貴女や赤龍帝の再評価の機運が高まった。

 偶然…………

 

 これらの中には、貴女も偶然では片付けたくないものもあるかもしれない。

 けれど、その予兆が何一つとして無かった。

 私もグレモリーに嫁ぐ前、バアルから経済学を学んでいましたが

 それでも、今回のグレモリーの財政再建は説明のつかない点が多すぎる。

 まるで突然、降って湧いたかのように出来事が起きたのです。

 彼女が来る前は、何一つとして兆候が無かったというのに」

 

ここ最近起きているグレモリーの再評価の機運。

それを、ヴェネラナは誰かに仕組まれたものでは無いか。そう考えていたのだ。

 

「この事はお父様に相談は……」

 

「勿論しました。けれど、私の言葉は杞憂だと聞く耳すら持ってもらえなかった。

 確かに財政再建は急務でしたし、それが行えるのであれば

 ちょっとやそっとの不具合には目を瞑る。その姿勢は当主としては寧ろ正しい。

 言っては何だけど、魔王を輩出したとは言ってもグレモリー自体は弱小の家系。

 そこを持ち上げて落とす、その動機が分からない……と言うのもあって

 グレモリー家は布袋芙ナイアを正式に招き入れた。後は貴女も知っての通りです」

 

ヴェネラナはグレモリーを中心にナイアの不自然さを考えていたが

ここに来てリアスの方がある一つの点に気づくのだった。

 

 

「動機……あり得るわ! イッセーよ!」

 

「赤龍帝を? 成る程……確かに可能性としては一番あり得る話です。

 グレモリーを手中に収めたとしても、冥界にまでその発言力を伸ばすことはできない。

 それをやる位なら、グレモリーより寧ろバアルを狙った方が賢明。

 それなのにグレモリーを標的にする……バアルになくて、グレモリーにあるもの……

 

 ……確かに、辻褄は合います。

 その赤龍帝が未熟なのも、布袋芙ナイアにしてみれば好都合でしょうし」

 

ヴェネラナの抱く疑惑。そのピースは、リアスのふとした思い付きから嵌ろうとしていた。

しかし、疑惑が深まれど証拠は無い。それどころか、ナイアは既に財政再建と言う形で

グレモリーにとって大恩ある存在となっていたのだ。その方法はさておくにしても。

 

「何てこと……内側から私達を崩壊させるつもりなのね!

 こうしちゃいられないわ、今すぐ駒の排除を……」

 

「待ちなさい。正当な理由なく眷属を追放してはならない。これも以前話したはずですよ」

 

「だけどお母様、ナイアがイッセーを篭絡してるのは間違いなく……」

 

「証拠が無いわ。思い込みで罪を被せるのかしら?

 そうしてナイアをはぐれ悪魔にすれば、後は大公に押し付けることも出来なくは無いでしょう。

 だけどそうなった場合、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に対する評価も、グレモリー家の評判も

 間違いなく、以前悪かった時より下がるでしょう」

 

そうなのだ。

ここでこうして挙げられたことも、全てはリアスとヴェネラナの想像の域を出ない。

明らかにナイアがイッセーを始め、朱乃にまでその魔手を伸ばしていたとしても

それを証明するものが、何一つとして無いのだ。証明できる善意の第三者がいないのだ。

 

「リアス。暫くは今まで通りに過ごしなさい」

 

「お母様!? けれど……」

 

「可愛い眷属を取られて不服に思う気持ちはわかります。

 ですが、ここで変に勘づいては今度は直接的な方法で貴女に害を成してくるかもしれません。

 これ程の不可解な出来事を立て続けに起こせる相手なのです。

 生半可な……少なくとも、駒王町を管理していた時と同じ心構えでは

 布袋芙ナイアを如何こうすることは出来ない。それは間違いありません」

 

ヴェネラナの有無を言わせぬ言葉に、リアスは沈黙で答えるしかなかった。

ある日突然グレモリー領に現れた女性、布袋芙ナイア。

彼女はグレモリー家にとって救世主であると同時に――

 

 

――獅子心中の虫でもあったのだ。

 

 

(ふふふ、聞いちゃった聞いちゃった。これは店長に知らせなきゃ。

 ダーリンのハーレム以前に、店長の周りを嗅ぎまわられたら

 普通にうざいからね。勿体ないけど、消しちゃうか。どうせ悪魔だし。

 ……とは言っても今ここで殺ると何かと面倒だし、頃合い見てからでいっか)

 

リアスとヴェネラナの会話に聞き耳を立てていた存在。

それは布袋芙ナイアの使い魔――本人は使徒と言い張っているが――に身を窶した

紫藤イリナ。彼女にとって、兵藤一誠と布袋芙ナイアこそが全てであり

悪魔の栄華など、どこ吹く風なのだ。

もっと言えば、未だに悪魔は駆除すべき存在と見做している。

ただ、一応悪魔であるイッセーを立てることと

主であるナイアの命令で悪魔に牙を剥いていないだけなのだ。

 

(店長の言う『虚憶(きょおく)』じゃあんたはおいしい思いしてるんだろうけど……

 悪魔がのうのうと甘い汁吸ってんじゃないわよ。ダーリンの隣は私の特等席なんだから。

 ダーリンのハーレムに誰が来ようがお構いなしだけど……

 

 ……あんたは例外よ。リアス・グレモリー。

 虚憶の中とは言え、後から出てきてダーリン掻っ攫いやがって。

 その腹いせ、こっちでさせてもらうわよ)

 

獅子心中の虫が産み落とした刃。

その刃を握る手に悪意は無い。

その背中は悪意によって押されるが、刃に悪意は込められていない。

それこそが獅子心中の虫――布袋芙ナイアのやり口なのだ。

 

見えざる悪意による刑の執行宣告。

それが下されたのは、ヴェネラナに限った話ではなかったのだ――




おや……?

当初の予定では一回戦でリアス対ソーナやるつもりでしたが
それやると活動報告でも述べた通りソーナがとんでもないことになるので
急遽レイヴェルが宛がわれました。
一応因縁のある相手との戦いなのにカットされちゃいました。

……とは言っても、妙なブーストのかかってる今のリアスチームに
レイヴェルチームが勝てる要素が無かったりするんですけどね。

>ジオティクス
ラクダと間違えて娘を人間界に捨てて来そうなポンコツ具合。
(そうなるとリアスがラクダ面になるわけですが)
とは言え心労祟ってたところに何か吹き込まれてあれよあれよ……だったので
そう言う意味では被害者。

>ヴェネラナ
こういう所で妙に目立つのってつまり……
イリナにロックオンされたり、アーシアとなんか約束したり。
ちょっと露骨だったかもしれません。何がとは言いませんが。
商才についてはバアルにいた頃に学んで身に着けたもの、としてあります。
そう言う意味ではユーグリット(ルキフグス)と仲良くなれたのかもしれないのに……


原作では大々的に取り上げられたサイラオーグ戦が次回戦らしいですが
この捻くれまくった拙作で原作通りに行くはずがなく。
そもそも、サイラオーグにはある疑惑が明らかになってますしね……


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Will54. プレイバック・フェニックス Aパート

お待たせしました。
夏風邪・多忙・モチベ低下。
なんとか投稿にこぎつけましたが、短めです。ご容赦を。


「聞いた話ですと、貴方本来の肉体を奪還出来たとか。

 美南風(みはえ)の切り札が役に立たなくなってしまったのは残念ですが

 ここは敢えておめでとう、と言って差し上げますわ」

 

「……ご丁寧にどうもありがとうございます」

 

レーティングゲーム、第二試合。

俺達の相手は、この通りレイヴェル・フェニックスのチームだ。

練度はともかく、人員の層はこちらよりも確実に上手だ。

これでもライザーが率いていた時から減っているんだから

もしこれがライザーのフル動員だったらと考えると、数の暴力で潰されていた可能性が高い。

なんだかんだ言っても戦いは数だよ。

 

 

……結論から言えば、シーグヴァイラ戦よりも苦戦したと言える。

シーグヴァイラが努力を怠ったなどと言うつもりは無いが、レイヴェルの勝負への執念は

それをはるかに上回っていた。振り返ってみれば、そう感じられたのだ。

 

初戦の相手はミラ。それに対してこちらは白音さ――じゃなくて、カムカム・ミケ。

前回俺がファンブルしまくった反動か、相手がファンブルを出して

こっちが出目に(ある程度)恵まれた形だ。

出目の上では黒歌さ――マスク・ザ・ハチワレも同じで、ゼノヴィアさんも出られる出目だ。

この三人が出られるのなら、デメリットも少なくない光実(みつざね)や氷上巡査

安玖(あんく)巡査に出張ってもらう事も無いだろう。

ビナー・レスザンはそもそも出目的に出られない。

ではこの三人でどうやって決まったかと言うと……

 

 

「じゃーん」

 

「け、けーん」

 

「……ぽん」

 

 

マスク・ザ・ハチワレの鶴の一声(猫だけど)でじゃんけんで決まることになった。

グダグダやられるよりはマシだが……まあいいか。

ただ一人、じゃんけんという遊戯に慣れていなかったゼノヴィアさんが出遅れて

そこだけ多少グダグダしてしまったが。

 

「そこ。後出しするんじゃないにゃん」

 

「……ずるはダメです」

 

「し、仕方ないだろう! 私は君達よりこっちの文化に慣れてないんだ!

 ……色々ケイスケやメグに教わったつもりだったが……私もまだ修行が足らないか……」

 

相手側からは「まだ決まりませんの?」な目つきでレイヴェルさんがこっちを見ている。

戦う相手のミラも、準備運動をしてやる気万全と言ったところ。

そしてこっちから出る面子は今決めてる最中だ、急かさないでくれ。

こんなことなら、即席でくじを作っておけばよかっただろうか。

 

「むぅ……」

 

「負けたにゃん……でも言い出しっぺだから強く言えないにゃん……」

 

「……じゃ、行ってきます」

 

多少ぐだ付きながらも、結局カムカム・ミケが戦うことになった。

最初に戦った時の棒から、槍に武器を変えて攻撃的になったミラ。

その身体能力も、かつてライザーに一番弱い、などと称された時とは比べ物にならない……だが。

 

 

「……ライトニング、フィンガァァァァッ!!」

 

 

カムカム・ミケ(と言うか白音さん)の必殺技、ライトニングフィンガー。

槍が相手では身体事情も相俟ってリーチ的に苦しい技だが、槍の柄の部分に飛び乗り

そこから猫走り、頭上を飛び越して背後を取った形だ。

猫ならではの軌道で優位に立った形だ。

 

「なるほど。一度前に突き出したものを引き戻すのは大変ですしね」

 

「……使う技は考えなさいってお姉ちゃん言わなかったかにゃん?

 面倒な奴に正体が割れたかもしれないにゃん」

 

正体隠す気が無いマスク・ザ・ハチワレのぼやき。

とは言え、ライトニングフィンガーでの正体割れで面倒な事態なんて……

 

……いたわ。あいつだ。

 

 

だが、こればかりは遅かれ早かれな気もする。警戒するに越したことは無いが。

見る奴が見ればバレる程度ではあるし、元浜だったらスリーサイズでバレかねない。

……今ほど、あいつに元浜のスキルが無くてよかったと思ったことは無いが。

 

 

――――

 

 

「ミラをやられたのは痛いところですが

 あの手強い猫一匹の足止めや手札晒しができただけでも良しとしますわ。

 さて、次に行きますわよ」

 

「……ああ」

 

レイヴェルさんの掛け声と同時に賽を振る。

今回は互いにファンブルは無かったようだ。

 

第二戦はゼノヴィアさんと確か以前祐斗に矢鱈絡んでいた剣士の……カーラマイン、だったか。

向こうにしてみれば、ゼノヴィアさんのようなタイプの同僚がいたらしく

そう言う意味でゼノヴィアさんは御しやすい相手だったようだ。

 

――その似たタイプの同僚ってのが、俺が光の槍でぶち抜いて再起不能にした

騎士(ナイト)」の片割れだったのだから俺としては何と言うか、複雑な思いで観戦していたわけだが。

 

 

……そして、肝心の勝負の行方はと言うと。

結論から言えば、得物の優位性でゼノヴィアさんが勝った。

そりゃあ、悪魔特効の聖剣持っておきながら悪魔に負けたとか悪魔祓いの沽券に関わるか。

 

「フフッ、君は随分とスピードタイプの剣士と戦いなれているようだが……

 見たところ、君の仲間にそう言うタイプの剣士がいる風には思えない。

 一体、何処で鍛錬を積んだんだ?」

 

「木場祐斗――リアス・グレモリーの『騎士』だったか。

 彼と何度か刃を交える機会があってね。

 私のかつての同僚のようなトリッキーなタイプの剣士とも違う

 速さと技術に重きを置いた剣士だった」

 

「……! そうか、彼か!

 なるほどな。君は剣の腕もだが、人を見る目もあるようだ。

 そして自分とは正反対のスタイルの剣術に触れながらも、自身の剣術のスタイルを見失わない。

 君のような剣士と仕合えた事、誇りに思うよ。

 悪魔の身分で聖剣使いにこうした感情を抱くのは不思議なものだが……

 改めて、名前を聞いてもいいか?」

 

 

ゼノヴィア・伊草(いくさ)

彼女が名乗ったと同時に、システムによってカーラマインは退場させられた。

俺が知らないだけで、しっかり鍛錬してるんだな。

そりゃあ、ゼノヴィアさんも祐斗も逐一動向を観察している訳でも無し。

俺の与り知らぬところで繋がりが出来ていたって不思議じゃない。

 

 

随分と爽やかな結末を迎えた二回戦。

人間が悪魔を下したってのに、観客席からは歓声が飛んでいる。

……あの刃が、自分達に向けられるかもしれないって考えは無いのか?

人間だって普通は自分の事を善良な一般市民だと思って生活しているが……

まさか、悪魔もそうじゃなかろうな?

そうならば、ルキフグスでアインストに対して逃げ惑ったのも納得がいくが。

 

前回の光実や氷上巡査の時があそこまでの歓声で迎えられなかったって事を考えるに

単にゼノヴィアさんのルックスで誤魔化されてるんじゃないかって考え方もできるが。

何分、兵藤の欲望を具現化したような話が流行になる位の精神構造なんだ。さもありなん。

 

 

――――

 

 

「……カーラマインの騎士道かぶれにも困ったものですわね。

 最初の戦いの時も、そういえば……」

 

独りごちり始めたレイヴェルさん。

あいつのあの考え、騎士道って言うかスポーツマンシップとか武士道じゃなかろうか。

騎士道ってのとは、何処か少し違う気がするんだが。

俺はその辺に詳しくないので、言わないでおくが。

 

 

「……こほん。さて、そろそろ白星を挙げたいところですわね。

 次、行きますわよ!」

 

続いて、その光実の二回戦。相手の出目は良好だったものの、運用と配分を考えてか

出てきたのは「兵士(ポーン)」のニィとリィって猫共。

ならばとこっちも白音さんと黒歌さん……じゃなくて

カムカム・ミケとマスク・ザ・ハチワレで対抗しようとしたが

こんな時に限ってファンブルするんだよなあ。やっぱただの籤運の問題か?

 

で、ファンブルとなると相手が機動力に優れる以上

小回りの利かない(全く利かないわけでも無いんだが)

ゲシュペンストは不利になる、そんな理由で光実を出すことになってしまった。

そして。相手が二人となると……安玖巡査も出さねばなるまい。

 

「これでファンブル率6割かよ。お前、学校卒業したらギャンブルやれ。一攫千金狙えるぞ」

 

「安玖巡査。学生にそう言う事を薦めないでください」

 

安玖巡査の嫌味に氷上巡査の窘めが入りながら、俺は光実と安玖巡査を見送る。

そうだ。次ファンブルしたら氷上巡査一人で戦わなければならない羽目になってしまう。

それは避けたい……うっ、そう考えたら少しプレッシャーが……

 

 

「また悪魔特効に期待させてもらうぞ」

 

「……今回は厳しいかもしれませんね。

 さっき使って分かったんですが、マスカットアームズは機動力はブドウと変わりません。

 なので、相手がスピードで来られたら折角のシャイン銃剣も役に立ちませんよ」

 

安玖巡査は渋々と言った様子で神器(セイクリッド・ギア)欲望掴む王の右手(メダル・オブ・グリード)」を発動。

光実も龍玄・マスカットアームズへの変身を果たす。それと同時に、ゴングは鳴った。

 

光実の懸念は当たる形となってしまった。

基が猫の妖怪だからか、動きの速さたるや言わずもがな。

……って事は! 「騎士」にでも昇格されたら手に負えなくなる!

 

「奴らの『昇格(プロモーション)』に気を付けろ! 『騎士』になられたら……」

 

「遅いですわ! ニィ! リィ! 『昇格』して格の違いを見せてやりなさいな!」

 

「勿論だニャ!」

 

「行っくニャ!」

 

――おおっと、ここでニィ選手、リィ選手! 「騎士」への「昇格」を果たしたァ!!

  素早い動きで翻弄する作戦かァ!?

 

ご丁寧に実況が入ってくれるので、レーティングゲームのルールに疎くとも

戦況はなんとなく理解できるはずだ。

一応、「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」の性質などは一通り解説してはいるが

転生悪魔との交流はともかく戦った経験の浅い超特捜課(ちょうとくそうか)の二人や光実では

こういう時キツいか……

 

超特捜課ではぐれ悪魔を倒した経験のある安玖巡査だとしても

そのはぐれ悪魔が駒の性質を使ったって話はあまり聞かないし。

だから奴らはデーモン族化してると言えるのかもしれないが。

 

案の定、「騎士」への「昇格」で機動力を上げた相手に対し

こちらの攻撃は有効打とならなくなった。いくら特効武器とは言え、当たらなければという奴だ。

不幸中の幸いは、光実に対してはアームズの防御力のお陰で決定打を受けていない事だが

実質生身の安玖巡査はそうもいかない。光実が攻撃を庇っているから何とかなっているだけだ。

これはまずい。

 

「シーグヴァイラ様の無念は、この私が晴らさせていただきますわ!」

 

……ま、そりゃそうだわな。同じ悪魔なんだから、そう言う仇討ちに来る可能性は大いにある。

これがライザーの仇討ちなどと言ってきた日には

俺の相手を見る目が節穴だったと言わざるを得ない事になる。

あの時に関わっているのはこの場にいる限りじゃ俺以外だと白音さんだけだし

その白音さんだって今は(一応)カムカム・ミケだ。

俺の旗の下に集ったって意味では仇の対象になるかもしれんが

言っちゃなんだがそれは八つ当たりに過ぎないと思う。

そう言う点において、今回の相手の闘志は真っ当なものであり

故に苦戦している部分もいくらかはあるだろう。

 

 

そんな劣勢に追い込まれた俺達だが、反撃の兆しは思わぬところから来ることとなった。




どうしてもいいところに恵まれないミラと、イイハナシダナー?してるカーラマイン。
出番に恵まれない&キャラ被りとかを懸念してライザー時代からリストラした眷属組ですが
ここでも端折られる形に相成りそうです。というかなります。


ゼノヴィア戦の顛末で突っ込んでますが、これ彼女が悪魔になったからこうした事態回避されてるだけ……だと思うんですよね。
図らずも原作におけるイリナみたいな立ち位置になりつつあるゼノヴィア。
観客の側に危機感が足りてない、と思ってますが
この辺も暗黒武術会の観客の妖怪どもを意識していたり(冒頭のじゃんけんも)。


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Will54. プレイバック・フェニックス Bパート

「シーグヴァイラ様の無念は、この私が晴らさせていただきますわ!」

 

俺達人間チームとレイヴェル・フェニックス率いるフェニックスチームの戦いは

今のところ、俺達が優勢だった。

 

しかし、ここに来てまたしても俺の籤運が悪い方向に転がり。

神器(セイクリッド・ギア)のコスパが絶望的に悪い(金銭的な意味で)安玖(あんく)巡査と

攻撃力は申し分ないが機動力に不安の残るアーマードライダー・龍玄(りゅうげん)光実(みつざね)という組み合わせで

兵士(ポーン)」のニィ、リィという双子の猫又を相手取ることとなり。

そして「兵士」である以上「昇格(プロモーション)」も当然できるわけで

案の定、「騎士(ナイト)」へと「昇格」されてしまい窮地に立たされる。

 

 

そんな劣勢に追い込まれた俺達だが、反撃の兆しは思わぬところから来ることとなった。

 

 

「おい。あいつら猫の悪魔だっつったよな」

 

「そうですけど……それがどうかしたんですか?」

 

「なら……こいつは効果覿面だよなぁ?」

 

安玖巡査の神器「欲望掴む王の右手(メダル・オブ・グリード)」が青と黄色の光を放ち輝く。

それと同時に、安玖巡査は物凄いスピードで動き回りながら

相手に先回りするように水流を放った。

これには俺も光実もだが、相手も面食らった。何せ。

 

「ぎにゃっ!? み、水が来たニャ!」

 

「い、いきなり水ぶっかけるとか何考えてるニャ!?」

 

「精々逃げ惑いやがれ。こいつは火吹くより金かかるんだ。

 何の効果もありませんでした……って訳には、いかねぇからな!」

 

……猫虐めって考えると物凄く言いたいことはあるんだが、別に猫そのものな見てくれでは無いし

何なら媚びが見え隠れする、ともすれば隠そうともしないネコミミネコシッポのコスプレは

正直、好きではない。主観だが。

それに、いくら相手が猫でもゴミ箱荒らすような猫に制裁を加えるのは致し方無かろう。

警官たる安玖巡査が暴徒鎮圧用の放水能力持ってるのは不思議じゃないし。

 

――などと言う俺の主張など一切気にも留めずに、安玖巡査は水を撒き続ける。

この水で相手の動きを誘導して、そこに光実の攻撃を重ねる形か。

 

「あれは魔力を帯びた水でも聖水でもありませんわ!

 あなた方の実力ならば怯まずに突破できるはずですわ!」

 

「なーんだ」

 

「それなら怖くないニャ!」

 

「何っ!?」

 

なんと。やはり見るものからすればバレてしまうか。

アドバイス通りに水に濡れるのをものともせずに突っ込んできたではないか。

……やっぱりあの時マタタビが効いたのはまぐれだったのか?

こうなると水で誘導する作戦が使えない。そうなればそこまで機動力に秀でている訳でもない

マスカットアームズは不利になる……どうするんだ、光実!?

 

「このっ……! さっきから余計な出費ばかりさせやがって!」

 

光実のフォローから外れて攻撃に晒される形になった安玖巡査は

相手の攻撃を真正面からブロックしている。

いくら「騎士」はそこまで力を高める性質が無いとはいえ

転生悪魔の一撃を生身の人間がまともに受けて……

 

その俺の疑問に答えるように、安玖巡査の神器は鈍色の光を放っている。

さっきの水と高速移動同様、神器の力を使っているのだろう。

 

「こいつっ! 神器使ってるって言っても人間の癖にとんでもない硬さニャ!」

 

「ゴリラみたいなタフネスだニャ!」

 

「おい光実ェ! 押さえておくからさっさと攻撃しろ!」

 

「わ、わかりました!」

 

 

〈マスカットスカッシュ!〉

 

 

龍玄が必殺技の体勢に入り、飛び蹴りの着地点に合わせて安玖巡査が二人を押し出す。

ところが、ニィとリィも互いに押し出すようにして必殺技の着地点から飛び退き。

結果として、必殺技は不発に終わってしまった。

 

「……駄目です、相手がすばしっこくて攻撃が当たりません!」

 

「チッ、これ以上は赤字だぞ! 光実、俺が合図したら跳べ!」

 

悪魔が優勢のまま運ばれる試合展開に、観客はかなり沸いている。まぁわかっていた事だが。

だが、こちらとしてもこのままむざむざとやられるわけにはいかない。

赤字になった事を愚痴りながら、安玖巡査が次の手を打ったのか。

その証拠に、神器は再び鈍色の光を放ち出した。

 

「今だ光実!」

 

「……今度こそ!」

 

安玖巡査の足から、地面に衝撃波が走る。

地響きで足元を不安定にさせ、そこで動きを止めて仕留める戦法か。俺も以前やった事がある。

揺れる地面に足元を取られている間に、光実が上空に跳ぶ。

 

 

〈マスカットスカッシュ!〉

 

 

回避運動がが取れないところに、悪魔特効のマスカットアームズの必殺技。

これならいける――!

 

 

「「ぎにゃああああああっ!?」」

 

 

――しょ、勝者は人妖チーム! ここまで三連勝!

  シーグヴァイラチームを破った実力は、まぐれではなかったのかァ!?

 

 

思わぬ苦戦を強いられた「兵士」相当のタッグマッチは

なんとかこっちが勝ちを収めることが出来た。

だが、その代償はかなりのものであった。

 

「光実。後はお前が何とかしろ。俺はもう神器が使えねぇ。

 ……くそっ、今月も厳しいってのによ……おまけにここで使った分は申請出来ねえじゃねえか」

 

「……そう言われましても、こっちも……」

 

神器を収納し、安玖巡査は後ろに下がる。その一方で光実も変身を解く。

こちらはロックシードのエネルギー切れだろう。

試合に勝って勝負に負けた。今回の戦いは、そんなところだ。

次の次の戦いには安玖巡査も出られるが、神器は使えないだろう。

メカニズム的に借金で使えるのかどうか知らないが、使えたとしても借金を強いるのは。

光実も特効のロックシードがガス欠を起こしている。

まだ使えるロックシードがある分、こっちはまだマシか。

 

 

「……どうやら。チーム戦と言う点におけるスタミナではこちらに分があるようですわね。

 ジリ貧に追い込んでの勝ち……華には欠けますが、勝利と言う事実に変わりはありませんわ」

 

向こうでレイヴェルさんが勝ち誇ってるが、まだ決着ついてないだろ。

勝った気になってるのは悪魔の……いや、貴族故の慢心か。

そう考えながら、まだ半数程度は控えている相手をこっちの残りの戦力でどう攻めるか。

その方向に考えをシフトしていたら、突然バオクゥに工面してもらった冥界用の端末が鳴り響く。

 

『セージさん! ちょ、ちょっと大変なことになったみたいです!

 サイラオーグさんの件なんですが……』

 

サイラオーグ。その名前が出た途端嫌な予感が過ぎるが

この情報は向こうにいるレイヴェルさんにも伝わったようだ。

そして、アナウンス席にも若干の混乱が見られるようで

少し遅れて試合開始のアナウンスが流れる。

 

 

「……少し。貴方に問い質したいことが出来ましたわ。

 ここからは本気を出させてもらいますわよ!」

 

そう意気込んだレイヴェルさんの出目は「3」。

悔しそうに地団駄を踏んでいるが……おい貴族のご令嬢。

その一方の俺の出目はと言うと……「4」。これなら猫姉妹も出られるから何とかなる。

……そう思ったのだが、出てきた相手は「僧侶(ビショップ)」相当の奥瀬秀一(おくせしゅういち)

振る舞いは寧ろ「女王(クィーン)」かもしれんが。

確か、以前戦った時は飛び道具を中心に攻めてきた。

となると猫姉妹は相性が今一だ……仕方ない。

 

「……すみません。氷上(ひかみ)巡査、お願いします」

 

「わかりました。聞けば、飛び道具主体の相手とのこと。ゲシュペンストで戦う算段ですね」

 

「ちぇ。出番だと思ったのに……仕方ないにゃん。ここはセージの顔を立ててやるにゃん」

 

 

サイラオーグに関する一報に、互いにざわつく中での一戦。

見回せば、観客席の中にも少しだが困惑の様子が見え隠れしている。

 

「そもそも俺戦いとか好きじゃないけど……お嬢の頼みだからさ」

 

「公務執行妨害……じゃ、ないですよね。

 自分も私用でゲシュペンストを使うのはやはり気が引けますが……コール・ゲシュペンスト!」

 

転送されてきたゲシュペンストを纏い、氷上巡査の戦闘態勢は完成する。

片や奥瀬弁護士も、フェニックス領で製造されたと思しき銃を持っている。

そういや、あの時あの火器何処から出したんだ? 神器持っているって話は聞いてないが。

 

妙に機械的な奥瀬弁護士の銃火器とゲシュペンストの攻防は

シーグヴァイラ目線ではともすれば凄い魅力的に映るのではないか? などと思いながらも

その戦いの行方は、ゲシュペンストが不利になっていた。

単純に、奥瀬弁護士の武器の射程がゲシュペンストの射程を上回っていたのだ。

……高性能レーダーとか積んでないのか。

 

射程で劣勢に追い込まれたゲシュペンスト。

その射程と言うアドバンテージを投げ捨てるかのように

奥瀬弁護士はゲシュペンストに肉薄してきた。

その戦術をガン無視したかのような行動を不思議に思っていると

突如として氷上巡査から無線が入って来た。

 

『……ものは相談なんだけどさ。ここで負けてくれない?

 見ればわかるんだよね。それ、壊したりしたらマズいもんでしょ。

 これ以上無駄に壊してダメージ残すよりは

 負けて損傷を最小限にした方が賢明だと思うんだよね』

 

『……八百長をしろと言う訳ですか』

 

なるほど。弁護士らしく交渉で勝ちをもぎ取りに来たわけか。

確かに、ゲシュペンストに要らんダメージを残してこの後の戦いを迎えるのは避けたい。

いくら薮田先生が整備に関しては受け持つとは言っても、ここはアウェーもアウェーだし

そもそも公安の眼を掻い潜ってるって現状、完全な整備が出来るって保証もない。

そう考えれば、相手の提案をのむのも一つの手ではある。

ただ、負けることのデメリットも無いわけではないからなあ……

 

「……構わん。白星を奴らにくれてやれ」

 

口をはさんできたのはビナー・レスザン。お前、いつからそこにいたんだよ?

曰く「あまりにもうちのチームが全勝で勝ち進んでいると逆に怪しまれる」とのことだ。

レーティングゲームはエンターテイメント。一方的な試合は好ましくない……だとさ。

俺は一応スポンサーから滅茶苦茶にしてくれ、って言われてた気がするんだがね。

 

「確かに、無理してゲシュペンスト壊されるのも問題だからな。

 それに、氷上が出られなくとも俺がゲシュペンストを動かせばいい話だ」

 

ビナー・レスザンの意見に安玖巡査も同意する。

取り立てて負けることへの反対意見も出ていない。

一応立場的に「(キング)」である俺が負けるよりは大事にならない、と言うのもあるのだろうが。

如何せん、うちは人数が少ない。ただでさえ少ない人数が減るのは避けたいところでもあるが……

 

『話は決まったかい?』

 

無線越しで俺達と相談していた氷上巡査の返事を待たずして奥瀬弁護士の攻撃は続く。

このままじゃゲシュペンストを破壊されるだけで終わってしまう。

それだけは避けないと……!

 

「氷上! ゲシュペンストには煙幕を積んである!

 適当に流れで戦って、頃合いを見て引き上げろ!」

 

『了解しました!』

 

安玖巡査の提案を受け、氷上巡査のゲシュペンストの動きの方向性も決まったようだ。

牽制射撃からおもむろに飛び上がる。あの構えは……!

 

 

――究極・ゲシュペンストキック!!

 

 

氷上巡査の必殺キックを迎撃するように奥瀬弁護士は対物ライフルを持ち出す。

あんな長物で近接攻撃の迎撃などかなり難しいと思うが……

 

キックが決まると同時に、対物ライフルの攻撃が炸裂したのか。

フィールド上は物凄い煙に包まれ、状況はわかりづらくなっている。

……フィールドの煙が晴れた時、そこにいたのは。




世界観的にはハイスクールD×Dで合ってるはずなんですがねえ。
サイラオーグ絡みは不穏分子しか生まれない……

>カザリVSアンク(違
安玖巡査の神器、能力を行使するたびに費用が発生するタイプです。
支払えなくなった場合はどうなることやら。因みに踏み倒しは効きません。
能力モチーフはお察しの通りオーズのコアメダル。
今回はシャチ、チーター、ゴリラ、ゾウ。
課金してメダルを買う、思えばこの頃から転売は社会問題だったかもしれません。
因みに四足動物だと悪路に強い……らしいのですが、彼女らは二本足なので
地響きによる足止めが有効だったりします。

>ゾルダVSゲシュペンスト(違
FのゲシュペンストMk-IIRなら対応できたかもしれない長射程。
レクタングル・ランチャーがあれば話は変わったかもしれないカード。
因みに元ネタ通りだと本当にシーグヴァイラさんがハッスルしそう。
ゾルダをロボットと言うのは暴論もいいとこですが、見た目的に。

八百長持ちかけてるのもほぼ元ネタ通り。
カーラマインが正々堂々戦った後にこれだよ!

……セージ側に八百長に乗るメリットがあるあたりがまた何とも。
原作が原作だから仕方ないけど、人間がアウトローだなあ……
(警察って法の体現者がいるのにアウトローとはこれいかに)


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Will54. プレイバック・フェニックス Cパート

長くなりましたが、ここで一段落です。
不定期更新ではありますが評価・感想ありがとうございます。


レイヴェル・フェニックスとの戦いも佳境に入り、氷上(ひかみ)巡査のゲシュペンストと

相手の「僧侶(ビショップ)」である奥瀬(おくせ)弁護士の戦いが繰り広げられている。

互いに飛び道具を主体としているが、射程は相手が上回っており劣勢に立たされていた。

 

そんな中、相手の奥瀬弁護士からゲシュペンストのダメージを最小限に抑える提案として

八百長が持ちかけられたが……

 

 

――究極・ゲシュペンストキック!!

 

 

氷上巡査の必殺キックを迎撃するように奥瀬弁護士は対物ライフルを持ち出す。

あんな長物で近接攻撃の迎撃などかなり難しいと思うが……

 

キックが決まると同時に、対物ライフルの攻撃が炸裂したのか。

フィールド上は物凄い煙に包まれ、状況はわかりづらくなっている。

……フィールドの煙が晴れた時、そこにいたのは。

 

 

ゲシュペンストを失い、仰向けに倒れている氷上巡査だった。

 

 

――勝者、フェニックスチーム!

 

 

奥瀬弁護士の勝利を讃えるアナウンスと共に、氷上巡査はこちらに戻された。

しかし、その身体にはそれほどダメージが無い。

それを見越していたかのように、安玖(あんく)巡査が声をかける。

 

「お前にしてはいい役者っぷりだったじゃないか。俺はてっきり煙幕焚けないってんで

 相手の攻撃を煙幕代わりにして死んだふりするのかと思ったが」

 

「そんなことしたらゲシュペンストが壊れて本末転倒じゃないですか。

 それに、いくら自分が不器用だからって煙幕焚くくらいはできますよ」

 

「ハッ、何言ってやがる。以前霧島に聞いたぜ?

 交通課の応援に行った時に発煙筒を焚けずに右往左往してたって……」

 

凄くどうでもいい口論が始まりそうになったので

俺は二人を制しながら今の顛末を聞くことにした。

……やはり、奥瀬弁護士の口車に乗った形のようだ。

 

「……シーグヴァイラ・アガレスさんでしたっけ。

 彼女には、ちょっと悪い事をしたかもしれませんね」

 

「知るか。悪魔相手に広報する義理も義務もねえ。

 まともな指揮系統下にいない現状、ゲシュペンストを現場判断でどう使おうが、俺らの勝手だ。

 そしてそういう状況下にいる以上、破損のリスクを避けられるなら避ける。当たり前だろうが」

 

さもゲシュペンストが壊れてないみたいな言い方をしているが、本当に大丈夫なんだろうか。

大丈夫だとして、あの状況でどうやって?

気になった俺は、氷上巡査に聞いてみることにした。

 

「ところで、どうやってあの状況を切り抜けたんですか?」

 

「ああ、キックすると見せかけてグラス・ヒールって

 脚部オプションのショットガン撃ったんですよ。

 その散弾で弾幕を張って、直撃を免れたってわけです。

 で、その隙に煙幕を使って大破して戻したように装ったんですよ」

 

「だから、あの弁護士野郎のダメージはキックの衝撃じゃなくて散弾のダメージだろうよ。

 ま、八百吹っ掛けてきた代償だと思えって事だ。警察の買収は犯罪だからな。

 ……奴も弁護士なら知ってるだろうに」

 

八百長に乗っておいてそれか。まあ警察ってのも割と悪どいっちゃ悪どいし

俺もなんか言える立場でもないけど。

あと安玖巡査、奥瀬弁護士も割と悪どい方の弁護士です。クロをシロにするタイプの。

 

「でも、これでこっちは一人減っちゃったし、相手も調子づいたりしないかにゃん?」

 

「……セージ先輩のサイコロに期待します」

 

黒歌さんの心配はご尤もだし、白音さんからはどうにもならない期待を寄せられる。

サイコロの出目の操作なんて霊魂時代でも出来ないっての。やろうと思えばできるかもだけど。

 

(なあアモン。瞬間霊体で飛び出してサイコロの出目を弄るってのは……)

 

『そんな器用な真似できるか。俺はお前と違って霊体での物理干渉は会得してないんだよ。

 いくら悪魔にとって物理的な肉体がそこまで重要じゃないって言っても、得手不得手はある。

 ちなみに、俺にてめえの身体を預けてお前がやる……ってのもやめとけ。

 なんかの拍子でお前の霊魂がこの体から締め出されたら笑えんぞ。

 今度は最初にお前が身体を取り戻した手法も使えないからな?』

 

やっぱダメか。俺が幽体離脱してやろうかとも思ったんだが

その瞬間今度はアモンに身体を乗っ取られて追い出される、なんて事故も起きかねない。

そうそうズルはするもんじゃない、って事か。

 

 

――――

 

 

「勝ち方はどうあれ、流れはこちらに向きつつありますわ。

 この勢いで、悪魔の底意地を人間に思い知らせてやりますわよ!」

 

インターバルも終わり、次の試合。

黒歌さんの指摘通り、気合十分の相手チーム。

迎え撃つには相応の覚悟が必要だ。

それこそ、俺が出て背水の陣で挑む必要があるかもしれない位には。

……ちなみに、さっきのが八百長で勝ったって事は

どうやら少なくともレイヴェルさんにはバレてるっぽいな。

そんな俺の気持ちを汲んでか、こちらのサイコロの出目は9。相手も最大値だが。

 

「……ここで決着を付ける理由が出来ましたわ。私自ら出向きますわよ」

 

「おいお嬢! 逸って負けたらどうすんの!」

 

「八百長男は黙っていてはもらえまいか。

 レイヴェル様は汚い勝利よりも高潔な戦いを望んでおられるのだ」

 

「……あのねカーラちゃん。カーラちゃんと違って、お嬢は負けたらお終いなの。

 俺やカーラちゃんと違って、『絶対に負けの許されない立場』なの。

 ま、お嬢の決めた事だから俺が如何こう言うのも烏滸がましいけど……

 カーラちゃんのその押し付けがましい思想も、お嬢の前ではあんまり言わない方がいいよ。

 正々堂々大いに結構。でもそれはカーラちゃんの理想であって、お嬢の理想じゃないから」

 

なんと奥瀬弁護士の制止を振り切り「(キング)」自ら……即ち、レイヴェルさん自身が出てくるようだ。

後ろで揉めているようだが、レイヴェルはそんな二人を宥めながら、ステージに上って来た。

ならば俺が出るべきか。そう思い、出ようとすると――

 

 

「……忘れちゃいないか。『9』相当は、もう一人いるんだという事を」

 

なんと。俺を無理矢理ひっこめた上でビナー・レスザンがフィールドに躍り出たのだ。

相手が正体不明という事もあるが、色々解せない行動も多い。

まさか、本当にスパイか何かじゃなかろうな?

そう疑ってかかっていると、相手から小声でそっと耳打ちをされる。

 

「お前の手札は、そう簡単に曝さない方がいい。

 サーゼクスを消すにあたって、アモンの力とお前の手札で一気に畳みかける。

 超越者とも言われる奴を消すには、それ位してもギリギリなくらいだ。

 それを成すためにも、お前の手札を曝して対策する時間を与えるのは得策では無いな」

 

……あれ?

俺、こいつにアモンとサーゼクスとの因縁や俺がアモンとの契約の流れとは言え

サーゼクスを倒すつもりだって話、したっけ?

実際サーゼクスや四大魔王相手に必要以上に手札曝す真似は避けたいってのは間違いじゃないが。

 

 

とにかく、奴がフィールドに出た以上俺の側から行動を起こすことは難しい。

奴が勝ってくれることを祈るしかない。悪魔相手に祈るのもなんか変だが。

 

……奴が昔「神に祈る位なら悪魔に祈る」みたいなことを言っていたな。

ま、俺に言わせば神も悪魔もそんな都合のいい存在でも無いだろう。

人間が言い訳をするためにでっち上げた概念的な何か、俺はそう考えている。

それを面と向かって言う程不躾でも命知らずでも無いが。少なくとも神仏同盟に関しては。

……そう考えると、ここにいる連中は一体何なんだと言いたくもなるが。

 

 

「……私は彼に用があるのです。貴方のような正体不明の悪魔など、お呼びじゃありませんわ!」

 

「此方もこんな茶番はさっさと終わらせたい。

 その一点において、あの人間とは利害が一致している。

 如何に不死鳥とて、雛鳥ならば恐れるに足らん」

 

ビナー・レスザンが手を翳すと、赤い光と共に途轍もない重力波が発生する。

これは……ユーグリットが使った「最上位重力魔法(グラダイン)」に近い。

だが、その重力波はレイヴェルさんへの攻撃ではなく、フィールドに効果を及ぼしていた。

重力波によってステージ上は遮蔽物や地形効果の一切無いフィールドへと変貌し

レイヴェルさんがフィールドに出た際に生じた火柱も一つ残らず消えている。

 

「重力魔法の応用、『空間湾曲(ディバイディング・フィールド)』だ。

 時間が無いのだろう? 小細工という三文字を今ここで消し去った。

 自分自身の力のみで、全力で来い」

 

「…………後悔しますわよ!」

 

 

……見えた。見えてしまった。

今、レイヴェルさんの瞳に「恐怖」の二文字が。

恐らく、彼女も再生能力と言う点ではライザーに勝るとも劣らないものがあるのだろう。

だが……それだけなんだろう。即ち、ビナー・レスザンに対する決定打が無い。

千日手になれば、必然的に魔力の総量が多い方が勝つ。戦いは数だ。兵糧だ。

 

 

MEMORISE!!

 

 

此方にとっては勝機、相手にとっては死刑宣告。

そんな状況の中での久々の記録。今の技術、使えないことはない、って事か。

肝心の効果は……

 

――強力な重力波を利用し、周囲の地形を一時的に空間湾曲させることで

その地形に存在する生命体・地形・建造物等へ被害を齎さない戦闘フィールドへと置き換える。

このフィールドには持続時間があるため、その時間を過ぎれば空間湾曲した地形は元に戻り

戦闘フィールド内部の存在は消失、時間制限付きデスマッチ用のフィールドを生成する。

この戦闘フィールドは生成者以上の力がない限り上書きは不可能である。

 

……こういう場所より、寧ろ市街地向けの能力だな。

もしかすると、何かしらジャミング的なものも同時に使えるのか……?

 

 

いや、それよりも。

これだけの強力な魔力を操作できるって事は。

 

……俺の懸念は、想定通りの結末を齎したのだった。

 

 

――――

 

 

――フェニックスチームの「王」、戦闘不能!

  よってこの戦い、人間チームの勝利です!

 

 

俺が思った通り、結果はビナー・レスザンの圧勝だった。

確かに、レイヴェルさんの不死の特性や幾度となく立ち上がるガッツは凄まじいものがあった。

だが、ビナー・レスザンはそれを事も無げにあしらったのだ。

まるで、魔力の量そのものが違うと言わんばかりに。

そう。例えるならば魔王クラス……魔王クラス?

 

……先程の魔法と言い、それを展開させる際に放った赤い光と言い

もしかして、奴は……

 

「如何にライザー・フェニックスの後継とは言え、あのような雛鳥如きに後れを取る私ではない。

 それに、こんなところで負けてはスポンサーに顔向けできんだろう?」

 

……恐らく、俺の勘は当たってるだろうな。

今だってこうして「見ているぞ」と言わんばかりの振る舞いをしている。

俺達のこのレーティングゲームでのスポンサー。それは……

 

 

「はぁっ……はぁっ……せ、セージさん! 大変です!

 さっきも少し話しましたけど、サイラオーグさんが……」

 

ビナー・レスザンの正体を問い質そうとする寸前で、息を切らせてバオクゥが駆け込んでくる。

そう言えばさっきもサイラオーグさんがどうとか言っていたが。

息も絶え絶えの様子で、端末に記録されていたらしき動画を俺達に見せつけてきた。

 

 

――当局ではサイラオーグ・バアル氏に関して

  身分詐称及び公文書偽造の容疑について、同様に取り調べを行うものとし…………

 

 

  …………た、たった今入った情報です!

  現在行われているレーティングゲーム会場の来賓室にて

  ゼクラム・バアル大王の変死体が発見されました!!――

 

 

……事は、俺どころかスポンサーが想定していたよりも複雑だったようだ。

サイラオーグさんの身分詐称容疑もなんだが、ゼクラム・バアルと言う聞きなれない名前に対し

アモンを除けば唯一生粋の悪魔であるビナー・レスザンが

目を見開いてそのニュースを聞いていたのだ。

そして当然、その情報を持ち寄ったバオクゥを問い詰める。

 

「おい情報屋! 大王が……大王が死亡したとはどういうことだ!?」

 

「わ、私も詳しくは知りませんよ!? そっちはノーマークなんですから……あっ」

 

「『そっちは』? ならばサイラオーグの身分詐称については知っているのか!?

 奴は、バアルの後継者では無いとでもいうのか!?

 魔力が無いとはいえ、出生については間違いなくバアルの系譜なのだぞ!?」

 

「そ、それは…………」

 

こっちを見て言い淀むバオクゥ。確かに、あの時ビナー・レスザンはいなかったな。

じゃあサイラオーグさんの「あの件」については知らないのも無理はない。

……事が事だけに言うのも憚られたし、そもそも他のメンバーと違って

ビナー・レスザンと俺達との間には妙な「壁」がある。

どこぞみたいに馴れ合い所帯じゃないからそれ自体はいいのだが。

 

そしてこのサイラオーグさんの件については、俺は察してしまった。

あの時の戦いの一部始終が、何らかの形で漏洩したのだろう。考えうる限り最悪の事態だ。

 

 

……そりゃそうだ。悪魔が光力を用いた攻撃をまともに喰らって平然としている。

そんな前代未聞の事態を目の当たりにした俺達でさえ、未だに信じられないのだ。

これが外部に漏れ出でもしたら……

 

 

…………サイラオーグさんに対する目線は、どうなるか分かったもんじゃない。




【速報】大王死す【出オチ】

さらに近いタイミングでサイラオーグの疑惑についても触れられているので
犯人はサイラオーグではないか、と言う噂が出ています。

真犯人は……まあ、お気づきの方もいらっしゃるかとは思いますが。


ビナー・レスザン。
もう正体バラしてるよねこいつ。
原作を考えると何気に皮肉な設定。


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Trapped Aパート

色々やってたら投稿のタイミングが遅れてしまいました、すみません。
そしてそこまで長くないという。


「…………おかしい」

 

冥界におけるレーティングゲーム、グレモリーチーム対バアルチームの試合。

その開幕を今か今かと待ちわびているのはグレモリーチームの代表、リアス・グレモリー。

しかし彼女は、舞台入りしてからもう三十分近くも待たされていたのだ。

この異常事態に、彼女のみならず会場も困惑していた。

 

そもそも、相手となるサイラオーグ・バアルと言う男。

彼は実直が服を着て歩いていると言っても過言ではない位

悪魔としては異質と言えるくらいの人格者なのだ。

そんな彼が、大事な試合を放棄し相手チームに待ちぼうけを喰らわせる。

そんな相手でないことは、遠い親戚筋でもあるリアスもまた承知していたのだ。

 

 

――これは一体どうしたことか!?

  サイラオーグ選手、赤龍帝を前に怖気づいたのでしょうか!?

 

 

そんなリアスとサイラオーグの背景など知らない実況席が、昨今の赤龍帝の評価から下された

無責任なサイラオーグに対する評価に、リアスは舌打ちをする。

 

(散々優勝候補だとか持ち上げておいて、いざこうなったら臆病者扱い……

 ウケが取れれば何だっていいのかしら。なんていい加減な……!)

 

内心毒づくリアスだが、観客席はアナウンスに同調していた。

優勝候補として持ち上げられていたサイラオーグだが、それは単に彼の実績によるものだ。

先の試合で実証されたとは言っても、その相手は赤龍帝を擁している訳でもなく

ましてや、衝撃的な番狂わせでも無かった。そう、「ありふれた結末」だったのだ。

それでは、「勝って当たり前」という前評判以上の話題性はない。

話題性で言うならば、試合に遅れている現時点の方が余程高いのだ。

 

「五輪書のリスペクト、って訳でも無さそうですしね」

 

「ゴリン……ジュ?」

 

「違いますよ。五輪書。宮本武蔵が記した武芸書ですよ。ご臨終じゃ死んじゃいます」

 

「そ、そうそう! ミヤモトムサシね! ゴリンノショーね!

 ……ところで、ミヤモトムサシってセージの親戚か何かかしら?」

 

「多分違いますよ。宮本武蔵だって普通の人間です。

 悪魔転生したって話も聞いてないですし、僕のお師匠様みたいなことも無いでしょう。

 だからセージ君は無関係……だと思います」

 

ズレた反応を示す自称日本贔屓のリアス。

そもそも彼女の日本に関する知識は木場の剣術の師匠でありサーゼクスの眷属となった

かつての新選組一番隊組長・沖田総司からのものであり

幕末と言う中世日本までのものが基準となっている。

――それでも、五輪書や宮本武蔵は彼が活躍した時代よりも二世紀も遡るのだが。

 

「宮本って苗字もレアってわけじゃないしな。

 俺も最初ゴリンノショってなんだっけとは思ってたけど

 宮本武蔵って聞いてわかったぜ。

 確かに、今のサイラオーグさんは決闘にわざと遅れてきた宮本武蔵みたいだよな」

 

(……いや、流石に部長以上に日本に精通していない彼がそんなことをするとは思えない。

 ある意味部長以上に堂々とした闘いを尊ぶ人格者と聞いている。

 そんな彼が、小手先の心理戦に持ち込むような真似をするだろうか……?)

 

かつて決闘の時間にわざと遅れてやって来たという説を残す剣豪に喩えて話した木場だが

サイラオーグが宮本武蔵を知っているとは思えないこと。

また語られる限りのサイラオーグの性格は、その説話に記されていたような宮本武蔵の人物像とは

少し違っていることから、口に出しはしたもののすぐにこの考えを取り下げていた。

因みに、五輪書にも兵法や戦術については記されているものの

態々「戦いには遅れて行くべし」と記されていたかどうかは定かではない。

 

そんなやり取りを繰り広げながら時間が過ぎていくが、それでもなおサイラオーグは現れない。

そして、ついには――

 

 

――今回の試合についてご案内いたします。

  サイラオーグ・バアルチームが現れないため

  この試合リアス・グレモリーチームの不戦勝といたします!

 

 

「な、なんだよそれ!? サイラオーグさんは滅茶苦茶強い悪魔だっていうから

 気合い入れてきたのに、なんか損した気分だぜ」

 

「…………」

 

この告知にどよめく会場。

肩透かしを食らったとぼやくイッセーに対し、リアスは納得がいかない表情を浮かべていた。

 

(あり得ないわ。サイラオーグが大事な試合をすっぽかすなんて。

 非公式の試合ならいざ知らず、この試合は魔王様のみならず全世界が観戦している。

 そんな舞台で、自ら恥を晒すような真似をするなんて……)

 

気が抜けた様子のイッセーを他所に、リアスはインタビューも無視して

神妙な面持ちのまま控室へと戻って行った。

結局、インタビューはイッセーが適当に調子のいいことを言い

それがグレモリーチームの総意として扱われることとなり一悶着起るのだが

それはまた、別の話である。

 

 

――――

 

 

「……これは……グレイフィア、サイラオーグ君とは連絡が取れないのかい?」

 

「はい。先程から連絡を試みているのですが、一向に出る気配がなく……」

 

この異常事態には、流石に主催たる魔王も動かざるを得なかった。

何せ優勝最有力候補の突然の試合放棄だ。観客の盛り上がりは一気に困惑へと変わる。

来賓として来ている他神話の神々やアザゼルの他にも

ユグドラシルの重役も何事かが起きた事は肌で感じたが

事態が事態であるがゆえに、静観の姿勢を取っていた。

 

緊急事態に気を揉んでいる魔王の下に、直属軍がやって来たのはすぐの事であった。

 

「どうした? 随分と慌てているようだが?」

 

「君は……ハマリア!? 軍の方はどうしたんだい!?」

 

やって来たのは正規軍たる魔王直属部隊(イェッツト・トイフェル)の副指令であるハマリア・アガリアレプト。

サーゼクスの言う通り、警備を担う軍の指揮を執る立場であるため

身軽に動ける身の上では無いはずである。

 

「部下が優秀でな。貴様の狼狽える顔を見に来る余裕位は出来ているのだよ」

 

「……相変わらず手厳しいね君は。だが、それだけじゃ無いんだろう?」

 

「無論だ。貴様らが欲しがっている、サイラオーグ・バアルの所在を教えてやろうというのだ。

 一応、私は司令から言伝を預かった立場だが……そろそろ頃合いか。

 私の口から聞くよりも、ニュースを見た方が早いんじゃないか?」

 

ハマリアの言葉を受け、会場を映し出しているモニターの一つをニュース番組に変える。

今日も繰り広げられているJOKER出没のニュースが終わった後

臨時ニュースとして、サイラオーグ・バアルの身元詐称問題が浮上したという内容のニュースが

アナウンサーによって読み上げられていた。

 

「み、身元詐称問題だって!? 彼は、バアルの悪魔では無いとでも言うのかい!?」

 

「我々もタレコミの情報を見た時は目を疑ったよ。ああ、情報源は秘匿とさせてもらうがな。

 あの様子では、少なくともゼクラム・バアルはいい顔をするまい。

 そうなれば……わかるな?」

 

「まさか……ゼクラム様がサイラオーグ様の出場を取りやめにしたと?」

 

ハマリアの、イェッツト・トイフェルの下に届けられたタレコミ。

それこそ、先だってセージとサイラオーグのスパーリングの際にサイラオーグが見せた

悪魔にとっての特異性――

 

――光力に対する過剰な耐性

 

であった。

 

それをバアル家は「サイラオーグは悪魔ではない」と解釈したのだ。

彼自身は間違いなくゼクラム・バアルの系譜であり

ウェパル家より嫁いできたミスラ・バアルが腹を痛めて産んだ子に違いは無いのだが。

それでも、光力による攻撃を受けて全く影響を及ぼしていないという情報は

彼が悪魔ではない、と言う疑惑を抱かせるには充分であった。

 

「その通りだ。そして今、ゼクラム・バアル自らサイラオーグに対し査問を行っている。

 彼は悪魔でありながら生まれつき魔力が備わっていないことは周知の事実だが

 それが『はなっから悪魔ではない』となると事情が異なる。

 悪魔でも無いものがバアルを名乗り好き勝手することを看過できなかったと言う訳だ。

 どう足掻いたところで、今の試合に出られるはずも無かろうよ」

 

「そんな事が……」

 

納得できたか? と言わんばかりにハマリアはサーゼクスを見遣る。

実際には、まだサイラオーグが悪魔では無いという確たる証拠が出ている訳ではないのだが

光力に対するその異常な耐性に加え

ゼクラムともなればサイラオーグの持つ神器(セイクリッド・ギア)の秘密を知っている。

その事を踏まえた上で、サイラオーグは悪魔ではないという結論を導き出したのだ。

 

そもそも、純血悪魔が神器を使える時点でおかしい。

 

「だが、貴様にとってはある意味喜ばしいことかもしれんな。

 私には、貴様の妹のチームがサイラオーグのチームに勝てたとは思えん。

 たとえサイラオーグが悪魔ではなくとも、だ」

 

「……リアスの勝利は喜ぶが、それはあくまでリアスが全力を尽くし戦った話だ。

 今回のように、不戦勝を祝う程私も恥知らずじゃない」

 

どうだか。と零すハマリアだが、その後ろではグレイフィアも同意するかのように頷いていた。

普段のサーゼクスのリアスに対する態度から

今回に関してはサーゼクスの言葉よりもハマリアの言葉の方を信じるに値する。

そうグレイフィアは受け取ったのだ。

 

「さて。昔の女はそろそろお暇させてもらおう。

 グレイフィア・ルキフグス。こんな男を選んだことを、精々後悔しないようにするのだな。

 貴様が悔恨した時、真に苦しむのは貴様らが尊ぶ若手の悪魔……ミリキャスなのだぞ」

 

最大級の地雷を捨て置き、ハマリアはVIP席を後にする。

グレイフィアもサーゼクスの元カノの存在は知識として知ってはいたが

それがハマリアであることは今初めて知りこの手の話題に食いつきの早いアザゼルからは

サーゼクスもグレイフィアも根掘り葉掘り聞かれることとなった。

 

アザゼルの質問責めや、グレイフィアの温度の下がった目線にサーゼクスがげんなりする中

さらなる情報が飛び込んできたのだ。

 

 

――たった今入った情報です!

  現在行われているレーティングゲーム会場の来賓室にて

  ゼクラム・バアル大王の変死体が発見されました!!

 

 

ここで言われている来賓室とは、恐らくはゼクラム・バアルの個室の事であろう。

今このVIP席に、ゼクラム・バアルはいない。

そもそも彼は今、サイラオーグの査問を執り行っていたはずだ。

いずれにせよ、現政府の在り方にも重大な影響を齎しているゼクラムの訃報は

現政府の基盤にも影響する。

表面上は平静を取り繕っているサーゼクスだが、同席していた各神話体系の主神達は

そのサーゼクスの姿勢が虚勢であることをすぐに見抜いていた。

 

「……はめられたな、サーゼクス。

 さっきのハマリアって女、こうなることを見越してニュース映像を流させたんだろうよ。

 お前にゃ悪いが、今の悪魔政府の為政がどういう状況になっているか位

 この場にいる神々は全員知ってるだろうよ。で、その根幹を担う悪魔が急死した。

 野心を抱いた奴なら、これ幸いにと冥界に侵攻してくる可能性だってあるぜ」

 

「フン。心配せずとも、アインストやクロスゲートで手一杯の現状で

 そのような死体蹴りに興じる余裕など無いわ。

 信じる信じないは、そっちの勝手だがな」

 

「……貴様の想像に任せよう」

 

アザゼルの指摘に対し、ハーデスとロキはここぞとばかりに

意地の悪い笑みをサーゼクスに向けて浮かべるばかりである。

彼らの普段の態度を知っているサーゼクスからすれば、肝の冷える思いであった。




人間チーム対フェニックスチームが意外と長引いた反面、こっちはこんな有様。
ライバルとの戦いが全て飛ばされて「戦いの中での成長」ではなく「外付けパワーアップ」極振りになってる原作主人公。
こんな「出来過ぎた展開」に違和感を覚える原作ヒロイン。

そして魔王にも特大の地雷が投下されたり。
名前元ネタ程拗れてませんが昔付き合ってたサーゼクスとハマリア。
ユーグリットが連れ戻そうとしていたり、グレイフィアはグレイフィアでサーゼクスに呆れていたり
その一方でルキフグスからしたら問題のある存在。
恋愛要素薄めても修羅場って出来るんだなあ。


ゼクラムが死んだことがバレた。
アインストやクロスゲートっていう大きな敵がいるから侵略行為働いてないだけで
これらが無かったらロキ辺りは間違いなく要らんちょっかいかけていたでしょう。
そしてゼクラムが死んでもJOKERの出没には何ら関係が無い。
内憂外患ってレベルじゃないな、我ながら。


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Trapped Bパート

少し短めです。


ゼクラム・バアルの急死。

そのニュースにレーティングゲームの観戦にやって来た各国の主要神話体系の神々をはじめとした

来賓が困惑し浮足立つ中。

 

 

――その一方で。

 

 

「くっ……俺は無実だ! 俺に大王を殺す動機がない!」

 

「どの口が言っているんですかねぇ。

 貴方と大王が口論しているという証言を私は耳にしているんですがねぇ。

 そもそも、貴方と大王は折り合いが悪かったではありませんか」

 

サイラオーグの身柄確保のために出動したイェッツト・トイフェルの

ウォルベン・バフォメットから逃げる形でサイラオーグは奔走する。

 

「それは……」

 

「大方『お前は悪魔ではない、悪魔では無いものがバアルを名乗るなど言語道断』

 ……などと言われたのではありませんか?」

 

「…………っ!!」

 

ウォルベンの言葉は図星であった。

光力に対する異常なまでの耐性から、ゼクラムはサイラオーグを悪魔では無いと判断。

検査結果が出る前に決めつけこそしたものの、それでも「バアルを名乗る資格なし」と

断言したことはサイラオーグにとって誇りを傷つけたことに他ならなかったのだ。

 

「もっと言えば、母君諸共バアルの面汚しとして処刑する……とも

 以前マスコミのインタビューで答えていたではありませんか。

 『勝利を、武勇を母に捧ぐ』……と」

 

「!!!!!」

 

サイラオーグと言うバアル家にとっての鬼子を産み落としたことは

嫁いできたサイラオーグの母に対する風当たりを強くするには十分すぎる出来事であった。

それでも自分を育ててくれた母に対し、サイラオーグは大いに敬愛の念を抱いていたのだ。

彼に少なくない功名心があるのは、母の地位向上のためでもあるのだ。

 

だがその足掛かりも、今こうして奪われようとしていた。

 

「……ま、まだ……まだ俺が悪魔では無いと決まったわけでは……!」

 

「では貴方のあの光力に対する耐性や、悪魔には扱えない神器(セイクリッド・ギア)を軽々と操る。

 それはどう説明されるのですかな?

 そもそも、大王を殺した凶器は『普通の悪魔には扱えない』代物でしてね。

 容疑者として一番疑わしいのは貴方なのですよ」

 

何故それを!? と言わんばかりの表情を浮かべるサイラオーグ。

しかし、デモンストレーション的側面が強いとはいえスパーリングを公開し

しかも撮影自由と言う環境にしていた以上、何処から情報が洩れるかはわからない。

これに関しては、スパーリングを持ち掛けたセージが迂闊であったと言わざるを得ない。

 

「恨むのなら、この事が露見する切欠を与えた相手を恨むことですな」

 

(……疑惑は持たれていた事だ。遅かれ早かれ露見はしただろう。

 だが、今このタイミングと言うのは最悪だ!)

 

ウォルベンの攻撃を往なしながら退路の確保に努めるサイラオーグ。

そんな中、そのサイラオーグを援護するように「穴」が生じる。

サイラオーグの「女王(クィーン)」である、クイーシャ・アバドンの力であった。

 

「……今の話、聞かせてもらいました!

 『普通の悪魔に扱えない』凶器ならば

 サイラオーグ様よりも疑い深い者がいるではありませんか!」

 

「……ああ、なるほど。確かに我々は同盟を結びましたが

 別にどこぞの魔王みたく仲良しこよしを前提とした同盟ではありませんからね。

 『そういう』リスクもまた、起こり得る話ではありますねぇ」

 

「警護やアインスト対策のために同盟を結んだ相手が

 同盟相手の重鎮を害する行いに出た……そう言う事か!?」

 

クイーシャの指摘に、ウォルベンは答えを言ったようなものであり

サイラオーグもそのウォルベンの態度に納得した。

大王殺しの真犯人はラスト・バタリオンである。クイーシャは、そう言いたいのだ。

 

「ですが発言には気を付けた方が良かったですよ。

 大事な同盟相手に対し証拠不十分での糾弾は、それ即ち国際問題になり得ます。

 我々も悪魔の利益で動いている訳ですからね……

 そう言う事を言われると対応せざるを得なくなります」

 

ウォルベンが指を鳴らすと、今までとは比べ物にならない規模の兵士が姿を現す。

その中には、悪魔の兵士ではなく旧ドイツ軍服を纏った兵士や四足歩行の機械もいる。

明らかに、ラスト・バタリオンから貸与された軍団だ。

 

さらに、上空はスツーカやフォッケウルフが押さえている。

「穴」の力やレグルスを使えば一網打尽に出来るだろうが

スツーカやフォッケウルフがいる、という事は聖槍騎士団が控えていることは想像に難くない。

そうなれば、神器であるレグルスは忽ち無力化されるだろう。

 

「投降するなら手荒な真似はしませんよ?

 ただ、今までのやり取りは全て録画録音させていただいているので

 相手方から名誉棄損で訴えられた場合、溜飲を下げるため

 相応の対応をせねばならなくなりますが」

 

「……それはつまり、バアル家の取り潰しか。

 最早形骸化した72家だが、大王職たる我がバアル家を取り潰させるわけにはいかないな」

 

「はっはっはっ。サイラオーグ殿は冗談がお好きでいらっしゃる。

 悪魔では無いというのに、悪魔の家系の心配をなさるとは。

 

 ……いや、人間から悪魔になって間もないにも関わらず

 悪魔の価値観にすぐさま染まった輩もいましたっけ。

 とは言え、貴方は転生悪魔ですら無かったでしたね。いや失敬失敬」

 

口角を上げ、サイラオーグとクイーシャの拘束を命じようとした矢先。

ウォルベンの率いていた軍勢のど真ん中に「穴」が出現したのだ。

それと同時に、クイーシャが怒号を上げる。

 

「サイラオーグ様! ここはお逃げください!」

 

「くっ、こんなど真ん中で『穴』を用いるとは……!

 主君のためならば周囲の危害はお構いなし、生まれ持った性質か、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の副作用か。

 いずれにせよ、正規軍たる我々に対し力を行使する……

 いいでしょう、そっちがその気ならば――

 

 ――サイラオーグ・バアル並びにクイーシャ・アバドンを拘束せよ!

 抵抗激しい場合は殺害しても構わん!」

 

「しかし、大王殺しの容疑者を殺せば……」

 

「構わん! 我ら正規軍の執行に対し楯突き、逃亡を試みたのだ!

 大王殺しについても、自らが行ったと自白したも同然!

 万一が起きた場合は司令には被疑者死亡として報告する、早急に拘束するのだ!」

 

抵抗を受けたウォルベンだが、問答無用とばかりにすぐさま拘束の続行を命令する。

生死不問のその命令内容に兵士も一瞬戸惑うが、相手は正規軍である自分達に対し武力で抵抗した。

即ち、公務執行妨害であるとウォルベンは言い放った。

その命令を受け、イェッツト・トイフェルの兵士達も一斉に動き出す。

それを支援するように、スツーカもサイラオーグとクイーシャ目掛けて突っ込んできた。

 

「私も後から他のものと合流して必ず後を追います! 今は御身を第一にお考え下さい!」

 

クイーシャの決死の覚悟を前に、サイラオーグも堪えながらレグルスを揮う。

クイーシャが開けた包囲網の隙間から、サイラオーグは必死に飛び出す。

最早、彼に会場に戻る余裕もなくこの場を離れる事を最優先に動くより他なかった。

それほどまでに、ウォルベンの軍勢やフォッケウルフの追撃は執拗だったのだ。

 

 

――まるで、この会場からサイラオーグを遠ざけようとしているかのように。

 

 

(……理想はサイラオーグの身柄の拘束でしたが、まあいいでしょう。

 この後の事を考えれば、サイラオーグに会場近辺に居座られるのは不都合ですからね。

 追撃の兵士を割かねばならないのは落ち度ではありますが……

 

 ……ああ。こういう時こそ、人間が作ったアレを使えばいいんですか)

 

ウォルベンがサイラオーグに対し放った追手。

それはイェッツト・トイフェルの兵士やラスト・バタリオンの軍勢のみならず

ドラゴンアップルの害虫――冥界ではその出自からはぐれ悪魔の出来損ないとも言うべき

インベスでさえも、混じっていたのだ。

 

サイラオーグを追撃しようとするインベスを止めようとするクイーシャだったが

その行動はスツーカの爆撃に阻止され、クイーシャもラスト・バタリオンや

イェッツト・トイフェルの相手に忙殺されることとなった。

そして、ついには――

 

 

「くっ……」

 

「サイラオーグ・バアルを誘き寄せる釣り餌になるか、見せしめの生贄か。

 精々、監獄の中でどちらがいいかじっくり考えることです。

 心配せずとも、主との再会の願いは叶えて差し上げますよ。

 ただし、我々にとって都合のいい形ではありますがね」

 

「穴」の力を以てしても、イェッツト・トイフェル、ラスト・バタリオンの連合軍の

数の暴力の前には、クイーシャも投降せざるを得なかった。

捕縛されたクイーシャは、心配そうにサイラオーグの逃げ去った方角を見つめていた。

 

 

(クイーシャ……必ず助ける!

 だが、奴らの動きはあまりにも手際が良すぎる……

 まるで、俺と言う存在を囮に何かを起こすのではないかと言う位には……

 もし、そうだとしたら……奴らめ、何を考えているんだ?)

 

この場からの逃走には成功したサイラオーグではあったが。

一応悪魔政府の正規軍たるイェッツト・トイフェルが追跡しているという事実は

サイラオーグ・バアルに対し「国家反逆者」としての誹りを与えるには

十分すぎる材料となってしまったのだ……




原作では主人公に殺されかけた(少なくとも殺意は向けられた)方が
こちらでは捕縛され反逆者。しかも処刑をちらつかされてる、何の因果か。
「穴」自体は数の暴力ともそこまで相性の悪い能力では無いはずですが
反逆者扱いによる士気の低下に付け込んだ形。

ゼクラムを殺したのは「普通の悪魔には扱えない凶器」。
サイラオーグは神器が使える(拙作設定)ので、この凶器を使えてもおかしくない。
だけど……?

病気の母のために戦っていたはずがいつの間にやら犯罪者(本人曰く無実とは言え)。
これ、レーティングゲームの裏で起きるにはでかすぎるスキャンダルじゃね……?(今更)


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Highlight Sitri Aパート

ゼクラムの急死、サイラオーグの騒動を経ても

レーティングゲームの試合そのものは変わりなく行われた。

参加チームのうち2チームが脱落した形となるが、2大魔王が推している

グレモリーとシトリーが脱落していないことから、試合を強行する運びとなったようだ。

 

人間チームのスポンサーとして暗躍していたユーグリットではあるが

試合が中止となればそれはそれでいい、とも考えていたようだ。

寧ろこの異常事態に変わらずレーティングゲームを行っている魔王に対し

さらなる不信感を募らせていたのだった。

 

(バアルの所のがとんでもない騒動を起こしてくれたようだけど

 それにもかかわらず試合続行とはね。事態が事態だから下手に公表するより

 普段通りの事をするべきと判断したか。まあ、いつもの甘ったれ魔王らしいけど。

 

 …………にしても)

 

 

――そして、そのレーティングゲームだが。

 

 

「…………っっっっなんで、なんでソーナちゃんが負けるのよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

セラフォルーの金切り声が木霊していた。

 

人間チームとシトリーチームの試合は、セラフォルーの鶴の一声により

従来通りの方式で行われることとなった。

即ち、試合用のフィールドを用意しその中で両チーム全員が戦うという流れとなっていた。

そしてご丁寧に、セラフォルーはソーナが戦いやすいであろう

人間界のショッピングモールを模した空間を破壊禁止の試合用フィールドとして指定したのだ。

 

……だが、その人間界のショッピングモールと言うのが仇となったのだ。

そのフィールドのモデルとなったのは、ジュネス駒王店。

つまり、セージのバイト先でもあった。

そんなこととは露知らず、セラフォルーはソーナの戦いやすいであろう舞台を

設定したつもりであった。だが。

 

 

「そもそもどうしてソーナちゃん達の行く先々にあいつらが先回りして出て来るのよ!

 それに貯水タンクに聖水混ぜるなんて卑怯じゃない!

 スプリンクラーの水が聖水って、普通に拷問よ!!

 サーゼクスちゃん! 一体これはどうなってるのよ!!!」

 

「い、いや……私にもさっぱり……だが彼らも施設の破壊はしていないし……

 スプリンクラーの作動も、実際に火事を起こしたわけでも無いし……」

 

 

あまりにもあまりなワンサイドゲームっぷりに

セラフォルーは当たり散らすことしか出来ずにいた。

そう。結果は人間チームの勝利、それも圧勝であった。

シトリーチームはその眷属のほとんどを無力化され、「(キング)」一人では

いくら相手が特殊装備を満載した人間や妖怪の集まりとは言っても、多勢に無勢だったのだ。

 

 

(まあ、原因はわかってますが……敢えて言う事も無いでしょう。

 自分の妹を贔屓するあまりに人間への注意が疎かになった。

 姉としても、悪魔としても、外交官としても未熟な証拠です。

 経験もまともに積んでない悪魔を魔王に、それも外交官に据えようなどと

 サーゼクスを神輿にするのはわかりますが、実際に動く必要のある彼女をこの椅子に据えたのは

 私に言わせれば、悪魔政府の――大王派の不始末だとしか思えませんね。

 そこまで、旧レヴィアタンを続投させるのを拒絶するものなのですかね)

 

ただ一人、薮田直人だけがそのからくりを知っていたためか

呆れ果てた様子で状況を眺めていたのだった。

 

 

――――

 

 

「罠とかじゃなく、普通に偶々こちらの有利に働いた、ってわけですか」

 

「……俺があそこのジュネスでバイトしてるって話。

 調べようと思えば調べられたと思うんですがね。

 そこはあんな学校でも生徒のプライバシーは守ってくれたと思うべきかもしれませんが」

 

ソーナ・シトリーが率いるチームは駒王学園の生徒会でもある。

そのため、教師とも近い位置にいるため、セージのバイト先も調べようと思えば調べられたのだ。

だが、実際にはそれを知らなかったかのように、セージの立てた行動に対し

シトリーチームは完全に後手後手に回っていたのだ。

結果、見事なまでのワンサイドゲームでの敗北を、シトリーチームは喫したという事になる。

 

「三人組によるプライバシー侵害が常日頃行われていた学校でか。そりゃ笑い話か?」

 

「…………返す言葉もありません」

 

安玖(あんく)巡査が(あげつら)った皮肉に、思わずセージも閉口する。

安玖巡査は警視庁からの異動組ではあるが、駒王町でどのような事件が起きていたのかは

前もって情報を仕入れているのだ。そうでなくとも、継続人事として氷上(ひかみ)巡査がいる。

彼から駒王町でどのような事件が起きているのかの情報共有をするのは

警察官としての職務執行において、なんらおかしなことは無い。

そしてそこで話題に上がるほどには、あの三人組による駒王学園での狼藉は

駒王警察署でも知れ渡っていたのだ。

 

「しかし……君も随分あくどいな。貯水槽の水を聖水にして

 相手チームが集まったところでスプリンクラーを作動させて一網打尽にするとは」

 

「あくまでもスプリンクラーの誤作動。設備は一切破壊していない。

 誘導もバックヤードを活用する。

 相手はフィールドやルールを自分達の有利になる設定をしたのかもしれませんが

 ここまで見事に裏目に出るものなんですね」

 

「聖水に関してはこれが初めての使用法じゃないんで。

 それに、俺はジュネスじゃレジ打ちより品出しメインだったんで

 バックヤードを活用したルート設定はいつもやってた事なんで。

 

 ……それに、警告も出した」

 

以前、セージが聖水を使って悪魔を追い詰めた際には

その相手の悪魔を再起不能にまで追い込んでしまっている。

その時よりは面識のある相手であることもあり、再起不能にするには忍びないと考えたセージは

作戦指示のために立て籠もった防災センターから、ご丁寧に店内に向けて全体放送を流し

そこから警告を発したのだ。

だが当然、相手がその警告に従うはずもなく。

 

――結果として、セージにしてみればいつぞやの惨劇の再来とまでは言わないにせよ

  それを彷彿とさせる事態を、再び招くこととなったのだ。

 

「私としてはちょっと暴れ足りない気もするにゃん。

 猫魈(ねこしょう)には悪魔程聖水は毒って訳でも無いんだし。そりゃ、水は苦手だけど」

 

「仕方ないじゃないですか。スプリンクラー作動させる中だと

 黒歌……ハチワレさんは動きが鈍くなる以上

 水に強いメンバーが出る必要があったわけですし」

 

「確かに見てくれは水着みたいだが、教会の戦闘服は水着では無いのだがな。

 そりゃあ水泳の授業だって出来んことは無いし、その気になれば風呂だって入れるが」

 

「……一応言っておきますけど、日本の公衆浴場は原則水着禁止ですよ」

 

スプリンクラーの作動する内部での足止めはゼノヴィアと変身した光実。

そして火力過剰にならないように可能な限り武装を落とした氷上巡査のゲシュペンストが用いられ

そのアシストとしてバックヤードから神器(セイクリッド・ギア)を使う金の無くなった安玖巡査と

水に弱いマスク・ザ・ハチワレとカムカム・ミケが動く形となった。

 

「……まさか、いの一番で俺が戦力外になっちまうとはな。

 これなら、セージと一緒に防災センターに籠ってた方が良かったか?」

 

「神経断裂弾とまでは言わないにしても、祓魔弾は有効なんですからいいじゃないですか。

 それに、対怪異のプロとも言える我々が怪異とは言え高校生に嘗められるのは

 その方が問題だと思いますけど」

 

「……ここぞとばかりに言うじゃねえか氷上。

 てめえだってゲシュペンストの適正が俺らの中で一番高かったから

 ゲシュペンスト使ってるだけで

 俺だってゲシュペンストの操作の訓練自体は受けてるんだからな?」

 

「はいはい、そうかっかしないにゃん。

 子供の前で大人が喧嘩するほど大人げないのは無いにゃん。

 そういやセージ。大人って言えばあのビナー……なんだかいう

 へんてこな悪魔はどこ行ったのにゃん?」

 

氷上と安玖の口喧嘩自体は超特捜課においてはしばしば見られた光景ではあるが

今はそのブレーキ役とも言える霧島巡査や柳警視、蔵王丸警部がいない。

それもあってか、珍しく黒歌が喧嘩の窘めに入ったのだ。

彼らを除けば、このチームは皆十代の学生なのだから。

 

その黒歌が投げかけた、ふとした疑問。

――ビナー・レスザンがいない。

彼の不在による失格などは無いが、単純にメンバーが欠けた状態で

試合に臨まなければならなくなるため

ただでさえ戦力の層が薄いセージのチームにはこの上ない逆風となったのだ。

 

「何か忙しい、って不参加表明出したんですよ。

 多分、サイラオーグさん絡みじゃないですかね。何で他人のチームの人員を駆り出してくるのか

 全く理解に苦しみますが。或いは、俺達に力を貸しているのは本当にただの道楽で

 事ここに至って本業が忙しくなってきたと見るか」

 

「……本当に得体の知れない奴だな。と言うか、そんな緊急事態でまで

 こんなゲームをやるとは、悪魔ってのは能天気なのか、それとも……」

 

「…………無責任なだけよ。人を蒐集品か何かとしか思ってない。

 自分達の勝手で人を支配下に置いて

 都合が悪くなったらすぐに悪者扱いして処分しようとする。

 世間じゃ天使が傲慢の権化みたいな言われ方してるらしいけれど

 私に言わせれば悪魔だって十分傲慢の権化よ」

 

「確かに、今の悪魔の元締めとも言えるルシファーは傲慢の悪魔だったか」

 

はぐれ悪魔絡みで実感のこもった恨み節を述べる黒歌。

セージもまた、声に出しこそしなかったものの

悪魔絡みの傲慢には間近で触れていたので、全面的に同意していた。

無意識に、先の試合で付けられた傷痕を擦りながら。

 

「……うん? セージ、まだ痛むのかにゃん?」

 

「え? ああ、何分妖刀で斬られたのなんて初めての経験なので

 まだ少し違和感があるような、無いような……? ってなところですよ」

 

「……あのな。怪異に間近で触れてる奴に言っても仕方ねえが

 普通は妖刀でなくとも刀で斬られる経験っての現代の日本人はしないもんだ。

 それにしても、まさかJOKERが試合場内に出て来るとは予想外だったな」

 

「いくらバックヤードとは言え、ですね。警備体制に穴があるんじゃないでしょうか?」

 

そう。セージは先の試合において、バックヤード奥にある

防災センターに立て籠って指令を送る立場にいたが

そこに突如現れたJOKERの急襲を受けてしまったのだ。

その際に妖刀で斬りつけられた傷は、ゲーム後の治療で回復したのだが

まだ違和感が残っているのか、無意識に傷痕を擦っていたのだ。




シトリーチーム相手だと多少逆風吹いたところで負ける要素が無い、と。
悪魔とは言え高校生の集まりと、特殊装備に身を固めた警察官では、ねえ。

おまけに地の利を与えようとセラフォルーが特別ルール出したら
その特別ルールを相手の方が活用してきたという。
そりゃ確かにセージはメタ張りではこの上なく強いタイプですが
ここまでメタらなくとも……
しかもセージじゃなくてソーナの後援しているはずのセラフォルーがメタ張りの基盤を固めてきたという。
そりゃ(セージがジュネスでバイトしてるなんて知らない)セラフォルーはキレるしかない。

一応、今回は原作5巻のリアス対ソーナ戦の流用。
デパート(と言ってたけど昨今どころか発売当時の実情やら考えるとイ〇ンみたいなショッピングモールかと)舞台だと
ジュネスでバイトしてるセージにしてみれば無双フラグなわけで。
前線切って戦うタイプではない生徒会ですが、そもそもセージがそう言うフィールド向けの能力ですし
ユグドラシルタワーで指揮取った時に比べて少人数・面識のある相手という事で
指揮伝達速度も段違い。基礎スペックで劣る分は聖剣やゲシュペンスト、龍玄でフォロー。
負ける要素が思いつきませんでした。


次回からは試合内容を少し掘り下げます。


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Highlight Sitri Bパート

ちょっと思ったより長引きそうです。


先の試合において。

人間チームはフードコートを、シトリーチームは食品売り場を拠点として

ゲームがスタートしたのだが、セージ達が取った行動はフードコートの守りを最小限にして

セージは速やかに防災センターを確保。そしてゼノヴィアを屋上にある防火用貯水槽に派遣し

貯水槽の水を浄化、聖水へと変えさせたのだ。

 

 

Everyday Young life JUNES!!

 

 

――警告する。ソーナ・シトリーの速やかなる投了(リザイン)を勧告する。

  当方には屋内施設を破壊することなく広範囲を攻撃できる準備がある。

  眷属の命が惜しければ、速やかに投了せよ。

 

(これは……館内放送! という事は、サービスカウンターを押さえられたって訳ですか。

 偵察でフードコートが手薄になっているとは思いましたが、まさかそこを狙うとは……

 ……ですが!)

 

防災センターからのセージの通告に対しても、ソーナは抗戦の意思を示した。

その証拠に、シトリーチームの拠点である食品売り場へ向けて移動している

氷上(ひかみ)巡査のゲシュペンストと光実(みつざね)龍玄(りゅうげん)に対し

優位を取りやすい魔力による攻撃を敢行したのだ。

屋内の破壊は認められていないため、龍玄はキウイアームズのキウイ撃輪。

ゲシュペンストは右手のプラズマ・スライサーと徒手空拳による応戦を強いられる形となり

広域破壊をすること無く遠距離攻撃の出来るシトリーチームが優位に立っていたのだ。

 

魔力による攻撃を繰り出してくるシトリーチームとの戦いは、初めこそ人間チームが不利だったが

バックヤードからの人間チームの援軍が駆けつけた時には

シトリーチームを誘導できる程に、人間チームが優位性を得ていたのだ。

ゲシュペンストとアーマードライダーの装甲が、魔力弾を耐え抜いた証左ともなった。

さらに、魔力弾の通りが悪いからと接近戦を挑めば、接近戦はゲシュペンストも龍玄も射程範囲。

今度はパワーで押される形となってしまうのだ。

 

そんな重装歩兵のような戦い方を繰り広げるゲシュペンストと龍玄。

そんな彼らを、バックヤードから援護射撃するのが安玖(あんく)巡査。

そして、素早い動きで攪乱に入る猫姉妹。

人間チームは、ショッピングモールの「売り場」ではなく「裏口」を戦闘の生命線としたのだ。

 

このように、売り場内で迎え撃つ段取りをしていたソーナ達の裏をかくように

セージ達はバックヤードを移動経路とし、さらにソーナはアナウンスの発信源を

売り場内にあるサービスカウンターと誤認してしまった。

 

女王(クィーン)」である副会長の真羅椿姫(しんらつばき)を伴ってサービスカウンターに奇襲を仕掛けるソーナ。

しかし、当然のことながらそこにセージはいない。

ご丁寧に大型サイズのぬいぐるみが椅子に座るように置かれていただけだ。

そんなソーナ達を煽るように、館内放送が流れる。

 

 

Everyday Young life JUNES!!

 

 

――お客様のお呼び出しをいたします。宮本成二様、宮本成二様。

  支取蒼那(しとりそうな)様がお呼びです。一階サービスカウンターまでお越しください。

 

  ……とでも言っておけばいいか? 残念だったな。

  こんなところで油を売っている暇があったら、味方の援護に向かう事を勧めるがね。

  無論、ここからただで帰ることが出来れば、だが。

 

 

そしてさらに、サービスカウンター周辺に罠が張り巡らされて無い訳が無く。

カウンターの上に無造作に置かれていたロックシードが起動。

小さな初級インベスとは言え、数に物言わせる形の布陣であり

さらにその第一撃は不意打ちである。

 

時限式でのヒマワリロックシードの使用を提案したのは光実だ。

後始末やフレンドリーファイア対策など、万が一にも備えてのチョイスであった。

そもそも、ここに相手チームが来るかどうかはセージとしても半々の賭けであった。

ここに相手が来た時のために、遠隔操作ができる罠が求められ、その結果白羽の矢が立ったのが

光実がいくらか持ち込んでいたロックシードだったのだ。

 

そもそもロックシード自体、サポート対象外ではあるが素人でも簡単な改造が可能な代物だ。

今回行われた改造は、正規所有者以外でもインベス召喚を可能にする「リミッターカット」だが

それに光実が時限装置や遠隔起動システムを組み込んだ形である

(実際に改造を施したのは観戦に来ていた戦極凌馬(せんごくりょうま)だが)。

 

無論、この初級インベスの奇襲だけで倒せるほどソーナ・シトリーの眷属も甘くはない。

……甘くは無いのだが、ここに本命の奇襲が加われば話は変わってくる。

 

「――しゃあああああああああっ!!」

 

従業員口から飛び出してきたマスク・ザ・ハチワレのラリアットが椿姫の首にクリーンヒット。

纏わりついていた初級インベスを巻き込む形で

ショッピングモールのフローリングに倒れこむ形となる。

 

「椿姫!」

 

「く……油断しました……か、会長は早くみんなの下へ……!

 ここは私が……!」

 

「そんな余裕な口、すぐにきけなくしてやるにゃん!」

 

追い打ちをかけるようにマスク・ザ・ハチワレが椿姫を逆さ吊りにし

ジャイアントスイングの構えに入る。

プロレスならばここでソーナが割り込むのが流れとして正しいのだが

ソーナにプロレスの知識は無かった。そのため、椿姫の言葉を真に受けて

他のメンバーの救援のために食品売り場へと引き返してしまったのだ。

その後ろ姿を追うことなく、マスク・ザ・ハチワレは椿姫をフローリングの床に放り投げる。

場外乱闘があるとはいえ、プロレスはリング上の競技である。場外で叩きつける技を使えば

その分、ダメージは大きい。故に場外はカウントを取られるのだ。

しかし、今は通常ルールのレーティングゲーム。場外カウントは存在しない。

 

「一つ教えておいてやるにゃん。

 こういう時はカットに入るのがプロレスのルールブックだにゃん。

 だからこうして……」

 

「うっ……んっ、ああああああああっ!?」

 

液体とも称されるほどの柔軟性を持った猫の妖怪だからか、その体の柔軟性を活かした関節技。

悪魔には翼があるため関係ないが、その足を封じる意味でマスク・ザ・ハチワレは椿姫に対し

クロス・ヒール・ホールドをかけたのだ。

これが格闘技にも通じている「戦車(ルーク)」の由良ならば抜けられた可能性もあったかもしれないが

椿姫もまた、プロレスには疎かったため抜け出す手立てが無かったのだ。

魔力攻撃をしようにも、関節からの痛みと言う骨格と神経と筋肉を持つ生物ならば

無視できない場所からの痛みであるため、魔力を練る集中力をも奪っていたのだ。

 

技をかけた相手の足首や靭帯に大きな負荷を与えるこの技。

見てくれとしては美女二人が絡み合う形となっており

さらにマスク・ザ・ハチワレは元々際どいコスチュームをしていたため

この技が決まった時に一部観客が沸き立っていた。

 

それを知ってか知らずか、マスク・ザ・ハチワレが腰を扇情的に動かしたかどうかは

定かではないし、それはまた、別の話。

 

 

――――

 

 

一連の戦闘の流れを、リアスもまたモニターで観戦していた。

彼女はソーナが知りようが無い「中継された映像」に基づく知識も得ていた。

それは即ち、ゼノヴィアが防火用貯水槽に施した細工の中身と

セージはソーナの推測であるサービスカウンターにはいないこと。

この二点から、彼女にはある記憶が去来していた。

 

(セージ……まさか! またアレをやるつもりなの!?

 こうしちゃいられないわ、早くソーナを投了させないと、取り返しのつかないことが……)

 

慌てて飛び出そうとするリアスだが

その目の前にはユーグリット・ルキフグスが立ちはだかっていた。

 

「何しに来たの、邪魔しないで!」

 

「それはこっちの台詞だよ。今、どこに行こうとしたんだい?

 まさかとは思うけれど、妙な事をソーナ・シトリーに吹き込もうとして無いだろうね?」

 

「命にかかわる大事よ! 妙な事じゃないわ!」

 

ユーグリットの脇を強引に駆け抜け、リアスは周囲の反対を押し切って

試合の実況席に駆け込んできたのだ。

これには、実況席の悪魔も面食らう事となってしまった。

 

「ちょっ!? ぐ、グレモリー選手!? 今は試合中ですよ!?」

 

「関係ないわ! ソーナ、聞こえる!? 今すぐ投了しなさい!

 セージは、セージはあなたを殺すつもりでこの試合に臨んでいるわ!

 誰がこの方式での試合を提案したかはわからないけれど

 このままじゃあなた達は全滅させられてしまうわ!」

 

『……聞こえています。何ですか騒々しい。

 リアス、今は試合中ですよ? つまらない話は後にしてください。

 そもそも、レーティングゲームで死亡事故など聞いた事がありませんし

 それが起きないための設備がしっかりしているではありませんか。

 相手が誰であれ、全力を以て事に臨む。

 それがレーティングゲームの心構えでは無いのですか?』

 

「あなたは知らないのよ! 私とライザーとの試合で……

 いや、あれは試合なんてものじゃなかったわ!

 セージはライザーを再起不能にさせた実績があるのよ! あの場にいたからよく知っているわ!

 セージもセージよ! あなた、レイヴェルもこの試合を見ているというのに

 よくもこんな真似が出来たものね! 反省したんじゃなかったの!?」

 

『………対話の必要を認めない。故に以後は無視を貫き通す。

 あまり喋って不利になりたくはないんでね。

 (と言うか、タネ晴らしは普通に反則だろ……二度としないとも言って無いし)』

 

ソーナからも、セージからも素気無く返されてしまったリアスの必死の叫び。

しかも、彼女が強引に実況席に入った事で試合は一時ストップしてしまった。

これは試合運行の上においては重大な事故である。

 

「そこまでだ、リーア。これ以上の試合への干渉は君にペナルティを与えねばならなくなる」

 

「お兄様! お兄様からも言ってください! このままでは、ソーナが……」

 

「大丈夫よリアスちゃん☆ ソーナちゃんがあんな人間如きに負けるわけないって☆

 だから心配しないでソーナちゃんを応援してあげてね☆」

 

魔王からもストップがかかったことにより、リアスも引き下がらざるを得なくなる。

妹としての立場からサーゼクスに訴えかけるが

苦虫を噛み潰したような顔でサーゼクスは首を横に振っている。

彼もまた、ジオティクス経由でライザーの顛末は知っているが故の反応である。

一方セラフォルーは、その過剰ないし盲目的とも言える妹への信頼から

ソーナの負けを一切考慮していなかったのだ。

 

 

――――

 

 

因みに、リアスが引き合いに出したレイヴェルは静かに試合を見守っていた。

 

(……まあ、当事者ならばやるのは当然ですわね。聖水の有効性は証明されていますもの。

 そして、それを使用禁止とする取り決めも無い。

 人間が道具と共に進化してきたのは何よりも歴史が証明してますし

 その人間の進化の恩恵に肖ったのも私達悪魔ですもの。

 理性も無いサル相手に契約は結べませんわ)

 

「……お嬢、いいんですかい?」

 

驚くほど冷静に試合を見守っているレイヴェルに対し、奥瀬の方が声をかける。

ショッピングモールでの細かな立ち回りなどは彼からも解説が加えられており

レイヴェルはスムーズに試合観戦が出来ていたのだ。

 

「思う所はありますけれど、あの時負けたのはあの『兵士(ポーン)』……いえ、人間を見縊ったから。

 そして、その人間が(しがらみ)から解き放たれて、万全な状態で戦いに臨んでいる。

 ソーナ様には悪いですけど、どれほどのものを見せてくれるか、逆に楽しみですわ」

 

「……怖いもの見たさ、ですかね」

 

否定はしない、と奥瀬の言葉に首肯するレイヴェル。

かつてはリアスの一撃としてもやり過ぎなセージの行動を一応は黙認したレイヴェル。

兄を再起不能なまでに痛めつけた人間という事で、レイヴェルはある意味リアスと同等程度には

セージに関心を寄せていたのだ。

それは情の絡むものでは無く、悪魔として

そしてフェニックスとして打ち克つべき存在としてではあるが。

 

リアスの一撃、としたが当のセージには当時からリアスのために戦っている意思は全く無く。

それはライザーからも指摘されており、実際その通りとなった。

故にレイヴェルはこの試合以降、セージをリアスの「兵士」たる転生悪魔ではなく

扱いこそ転生悪魔のそれではあったが「人間」として見做していたのだ。

それが故に、人間をより良く知るために

新しく同じ日本人男性である奥瀬秀一を眷属に招き入れたのだ。

彼は彼でフェニックスの権能目当てでレイヴェルの提案をのんだ形であるが

弁護士を求めていた件も合わせて、利害は一致していたのだ。

実は案外珍しい、双方正常な意思を持ち、完全な同意の下行われた悪魔転生契約である。

 

「俺に言わせば、ありゃ心に何か持ってますな。

 何かしらの闇抱えてなけりゃ、あんな肝の据わった行動を高校生のガキが取ったりしませんよ。

 いや……高校生だからこそ、そう言う無茶するのかもしれませんが」

 

「そう言う意味でも、やはり眷属に入れるのは成人した方に限りますわね。

 いくら強制力が働くとは言っても、制御の利かない眷属なんて怖くて仕方ありませんわ。

 ああ、ちなみにお兄様の眷属の中には幼い見た目の子もいらっしゃいましたけど

 皆結構な年齢ですわよ? お兄様との付き合いも長いって時点で、自然とそうなりますもの」

 

レイヴェルのその言葉は、当然のことながら転生悪魔は人として死ねない。

という意味合いのものであった。

だが奥瀬はその言葉にも動じることなく相槌を打っていた。

彼もまた、病気に起因するとは言え不老不死を願っていたのだから。

フェニックスの権能によって病魔の死の恐怖から逃れる事。それが彼の願いだったのだ。

 

「お嬢は年上好みか? じゃあ残念ながら俺は対象外か。

 俺、こう見えてお嬢より生きてないし、それ以前にお嬢はブラコンだしな。

 綺麗どころが揃っていても、みんな俺に気が無いってのはそれはそれで肩身が狭いもんだねえ」

 

「ぼやかないでくださいまし。先生ならモテますわよ。

 確かに私の眷属は皆お兄様から譲り受けた方々なので

 必然的にお兄様に尽くす立場ですけれど」

 

別に仕事仲間口説くつもりも無い、と返す奥瀬であったが

その声のトーンは心なしか低かった。

ライザーの美的感覚と奥瀬の美的感覚に然程の違いは無かったのだ。

そんな彼女たちは揃ってライザーのハーレムの一員である。奥瀬は文字通り蚊帳の外なのである。

 

「ま、別に女が欲しくて契約した訳でも無いしね。生きてりゃ金や女はどうにでもなる。

 それが昔からの俺の信条でね。それに仕事はきっちりこなすよ。

 なんたって、スーパー弁護士ですから?」

 

「まあ、欲深な事」

 

おどけて見せる奥瀬に対し、レイヴェルも奥瀬の元病人とは思えない

或いは元病人だからこそなのかもしれないが。

その逞しさに関心を持っていた。

それはセージの苛烈さの原動力と合わせて、人間が強く持つ性質であると言えた。

レイヴェルはセージと奥瀬、二人の人間と出会う事で人間への関心を強めていた。

それは彼女自身が人間に憧れることではなく

自身が悪魔としてより高みを目指すための研究材料として。

悪魔にそう言う感情を植え付けるほど、人間の知恵と勇気と底力は偉大なものであったのだ。




そりゃやるんならこの二人が黙ってねえだろ、的な描写を入れた結果。
黙ってないのはリアスだけでしたが。
本当は今回聖水スプリンクラーが炸裂するはずでしたが、それは次回。

あとマスク・ザ・ハチワレの女子プロレスを少しは披露したかった。
カムカム・ミケはギミックの都合上今回はお休み。多分食品売り場で猫になって運動会してる。
床が普通にフローリングなのでバスター系の技は自重(投げたけど)。
と言うのは建前で本当は際どい衣装でのくんずほぐれつが見たかったという
赤土って奴のスケベ心の仕業なんだ。
クロスヒールホールド。詳細は各自検索してください。関節技は口頭で説明するの難しいですし。

ソーナ。確かに言われてみれば、言われてみなくともある意味リアスどころかサーゼクス以上に現実が見えてない子。
レーティングゲームに夢見すぎだと思います。
そんな奴が拙作の世界でどうなるかと言ったら……ねえ?
夢のアンチテーゼたるJOKERが手ぐすね引いてるような世界ですし。

一方兄を再起不能にされながらも「人間を嘗めたから負けた」と分析し
人間の知恵袋を更新し、そこから得るものはないかと探り始めたレイヴェル。
原作考えると某Kガリみたいな状態とも言えますが。
人間との共存ではなく、悪魔として高みを目指すために人間を研究する。
そう言う意味で良き隣人たれるかどうかは微妙ですが。
少なくとも、今のところ非人道的な方法は取ってませんとだけ。


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Highlight Sitri Cパート

――シトリーチームの「女王(クィーン)」、リタイア。

 

 

サービスカウンター前でのマスク・ザ・ハチワレと真羅椿姫の戦いは

マスク・ザ・ハチワレのフィニッシュホールドが炸裂する形で幕が下りた。

豊満な女体の絡み合う関節技でのフィニッシュには、様々な意味で観客が沸き立った。

元来、椿姫は神器(セイクリッド・ギア)と長刀で戦うのが得意スタイルなのだが

その得物の長さが命取りとなったのだ。関節を極められるほどの至近距離では

長刀も神器も役には立たない。

 

こうして着実に追い詰められていったシトリーチーム。

一発逆転を狙うべく、拠点である食品売り場で迎え撃とうとしていた。

 

 

……しかし、それこそがセージの狙いでもあった。

 

 

Everyday Young life JUNES!!

 

 

――最後通告だ。直ちに投了(リザイン)しろ。

  さもなくば、当方にて用意している攻略兵器の機動を決行する。

 

 

再度流れるアナウンス。

アナウンスを伝えるジュネスCMソングのジングルと

その肝心のアナウンスの内容の温度差は、まるで金属疲労を起こせそうなレベルであった。

 

「決意は変わりません。そのような脅しには、私達は屈しません!」

 

『セージ! 止めなさい! セージ!!』

 

しかし、アナウンスに対しても逆に闘志を燃やすソーナに

殴り込んだ実況席から必死に呼びかけるリアス。

彼女たちの声を知ってか知らずか、防災センターのセージはついに行動を起こすのだった。

 

 

――了解した。己の決断の甘さを呪うがいい。

 

 

ぶつり、と館内放送のスピーカーが切れたと同時に、けたたましく火災報知器が鳴り響く。

そして、ゲシュペンストから撃ち出された煙幕弾が食品売り場の天井付近で炸裂する。

フロア上では、ご丁寧にゼノヴィアや龍玄(りゅうげん)が足止めを行っている最中での出来事だった。

 

「煙幕……? ま、まさか!!

 皆さん、すぐにここから離れて下さい! これはもしや――」

 

ソーナがそう叫んだ瞬間だった。

天井に設置されていた防火用スプリンクラーが満を持して作動。

ノズルの真下に誘導されていたシトリーチームは、清められたスプリンクラーの水を

もろに頭から浴びる形となったのだ。悪魔にとっては硫酸にも等しい、聖水を。

当然、試合の様子は映し出されているので観客席にはどよめきと悲鳴が響き渡る。

 

「……悪魔には容赦しない私だが、流石にこれは酷いな……。

 これはまるでアウシュビッツではないか……!」

 

この光景には、悪魔退治を生業としているゼノヴィアでさえも目を覆った。

何せやっていることは、彼女の祖国では禁忌とされているさる組織の所業と

そこまで大きく変わらないからだ。

 

聖水から逃れようとするシトリーチームだが、狙ったように足元には油が撒かれ

水が降り注ぐエリアからの脱出を困難にしていた。

聖水は天井から降り注いでいるため、飛んで逃げることもできない。

 

溺れる者を棒で叩き続けるが如き非道とも言える行い。

これは単に悪魔に対する感情移入が無いからこそできる行いである。

 

光実(みつざね)は悪魔との接点が殆どない。

超特捜課の二人は職務とあれば冷徹に遂行することを求められる。

今は職務では無いが、手心を加えた結果、自身を苦しめる結果になるだろうことは理解していた。

ゼノヴィアは生まれからこの光景に嫌悪感を示しただけで、悪魔に対する姿勢に変わりはない。

マスク・ザ・ハチワレ――黒歌は、そもそも悪魔に恨みがある。

 

 

一応セージも事前に相談はした――特に聖水の提供元であるゼノヴィア相手には――が

それでも特に反対意見が挙がらなかったため、決行に移されたのだ。

 

 

――――

 

 

「……聞こえてるよ。こっちの戦力で各個撃破なんてやってられないから

 こうやって一網打尽を狙ったんじゃないか。

 それ以上でもそれ以下でもない、態と残虐なやり方で嬲り殺すなんていう

 露悪趣味やってる暇だって無いんだ。それに、一応こう見えてそう言うのは好きじゃない。

 

 ……と言うか、大量の聖水を悪魔の集団目がけてぶちまければ

 こういう結果になるってわかってて、こっちに聖水を提供してくれたんじゃないのか」

 

ゼノヴィアのぼやきに無線越しでセージからの反論が入る。

しかし、反論こそしたもののセージ自身、他にやりようがあったのではないか、と言う考えも

少しではあるが抱いていた。

 

(……作動させたのは自分だけど、やっぱこれは何度やっても慣れないな。

 スイッチ一つで大量殺戮の引鉄とか……俺もまともな死に方しないだろうな。

 それに、鉤十字(ハーケンクロイツ)の旗掲げてる奴と戦ってるくせに

 やる事が同じってゼノヴィアさんの言い分もまあ……)

 

『……おいピンク。こいつ、本当に高校生だよな?

 俺の話に聞いた人間の、日本の高校生とはまるで違うんだが。

 少なくとも、死に様の心配なんかしねえと思うんだが』

 

『マゼンタだ、いい加減覚えろ。だが高校生が死に方の心配なんかしないってのは同意だな。

 まさかとは思うが……取り込んだ負念に引っ張られて無いだろうな。

 もしそうなってたら……少々マズいかもしれんぞ』

 

スプリンクラーの作動を見届け、一人防災センターで考え耽るセージ。

しかし、脱落のアナウンスは流れても、試合終了のアナウンスは流れていない。

それは即ち、隠れ立て籠もっている自分にも危害が及ぶ危険性が

まだ残っていることを示していた。

その証拠に、机の上に置かれていた無線機に通信が入る。

 

『おいセージ、聞こえるか! 今確認したが……一人足りねぇ!

 辛うじて生き残ってた『(キング)』は俺達が押さえているが、それでも一人足りねぇ!

 あの聖水爆撃を逃れた奴がいる、気を付けろ!』

 

「な、何だって!?」

 

安玖巡査からの無線に我に返ったセージは、慌てて監視カメラの映像を確認する。

シトリーチームはほぼ食品売り場に固めており、そこでスプリンクラーを作動させたのだから

ほぼ全員が行動不能に陥っているはずだった。

しかし、確かに数が合わない。「兵士(ポーン)」匙元士郎がいないのだ。

匙の姿を確認すべく、必死にモニターを注視するが。

 

――それが、命取りとなったのだ。

 

 

「――きえええええええいっ!!」

 

「――っ!?」

 

振り向いた瞬間、セージは真正面から袈裟斬りにされてしまう。

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)の装甲を展開していなかったのが仇となり

刃を防ぐものはセージの制服と、万が一のための備えである特殊防御インナーだけであった。

そして何より、そのセージを切りつけた武器は――

 

『セージ! 奴が持っている刀……妖刀だぞ!』

 

「何っ!? 妖刀……まさか、JOKERが持っているって話の村正か!?

 だとすると……匙、お前!!」

 

「……ああそうだ。俺はな、会長に相応しい男になるためにJOKERに願いを告げたんだ。

 ヴリトラの力にJOKERの願いを叶える力が合わされば

 いくらお前が訳わからねえ程能力を集めても、俺だって負けはしねえ!

 だから……会長に相応しい男になるために……お前を……

 

 …………八つ裂きにしてやるんだよぉ!! ヒャーッハッハッハッハッハ!!」

 

突如、匙の背後に現れた黒龍。その背中を食い破るようにして仮面の道化が姿を現す。

丁度、仮面の道化師が黒龍から生えている――

否、仮面の道化師が黒龍を従えている形となっている。

言うなれば、JOKERヴリトラであり、それを操る彼はJOKER元士郎とでも言うべきか。

その証拠に、匙の貌は今までJOKERへと変わり果てた人々と同様

白塗りに薄気味悪い笑みを浮かべた赤い口紅。

元来の匙の貌ではなく、JOKERのそれと成り果てていたのだ。

 

 

防災センターの中で、JOKER元士郎と対峙するセージ。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を展開しようとするが、うまく行かない。

 

(そういや、JOKERの持つ妖刀には異能封じの力があるんだったか。

 おまけに聖槍のコピーと違って、普通に痛いし出血もあるか……こりゃヤバいな。

 止血は出来てるみたいだが、記録再生大図鑑を封じられたとなると……)

 

『…………ージ、セージ。悪いが……も……紐づけ…………てるからか…………』

 

『今のままじゃ不利だ、妖刀なら悪魔特効は無いはずだ。俺に代われ!』

 

記録再生大図鑑との紐づけが仇となり、効力を失いつつある紫紅帝の龍魂。

今やセージはその力の大半を奪われた状態である。

そんな中でJOKER元士郎と対等に戦うためには

セージに憑いているアモンの力に頼らざるを得ない。

…………なのだが。

 

(ダメだ。この中にはゼノヴィアさん直伝の魔封結界が展開されているし

 そもそも入り口からして魔除けを施している。

 こんな中でお前が表に出たら、盛大な自爆になっちまうぞ)

 

『道理で、この中に入った時居心地が悪いとは思ったが……

 じゃあ、だったら何であいつは平気なんだよ?』

 

(……わからん。JOKERになった事で、転生悪魔としての性質がリセットされて

 人間としての性質になったか、そもそもJOKERは悪魔じゃないから魔除けの対象外か。

 そう言えば確かにJOKERは「怪人」だの「殺人鬼」だの噂されていたが

 「悪魔」と噂されていたって話は聞いたことが無いな)

 

セージが防災センターを確保した際、相手チームの進入に備えて魔除けを施していた。

これは彼らが人間チームであり、特に今回は味方に悪魔がいなかったからこそ出来た芸当である。

妖怪にも多少は効果があるかもしれないが、今回施した魔除けは悪魔に対象を絞っている。

妖怪と悪魔は、近しい物こそあれども基本的には別種族である。

故に、セージは躊躇わず魔除けを施したのだ。

 

「ヒャッハッハハハァ!! いい気分だなぁ?

 今まで散々俺や会長やリアス様に生意気な態度を取ってくれてよぉ!

 お前だって神器でイキってただけじゃねえか! 俺はそれに加えて悪魔の力もある!

 人間風情が会長やリアス様に逆らうんじゃねえよ!!

 俺達が、悪魔が人間の世界を守ってやるって言ってるんだ!!

 力のない人間にしゃしゃり出てこられると、迷惑なんだよ!!」

 

(……力のない人間が出てくるのは迷惑。そこはわからんでも無いがな。

 だが人間の世界の平和は、人間の手で守るものだって基本的なことが抜け落ちている。

 それを無くしている以上、お為ごかしを掲げた侵略者と変わらない……!!)

 

JOKER元士郎の掲げる理想に対し、セージは戦う決意を新たにするが

神器を封じられたセージと、神器に加えJOKERの力も加わったJOKER元士郎とでは

戦力に決定的な差があり過ぎた。

防災センターの中にあった警備員用の装備で辛うじてJOKER元士郎の攻撃は凌げているが

攻勢に転じることは、出来ないでいた。

 

「首だけになって、会長に詫びやがれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「――っ!!」

 

振りかぶった村正が、不吉な光を放ちながらセージの首を刎ねようと唸る。

しかし、妖刀の刃は血に染まることなく空を切り裂いただけであった。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「白音さん……じゃなかった、ミケ、どうしてここに!?」

 

間一髪で、カムカム・ミケによってセージは一命をとりとめた。

ここに展開されている結界はあくまでも魔除けのものであり

猫魈相手には効果が不完全だったのだ。

また、これは彼女自身も気づいていないことだったのだが

格好に招き猫と言う縁起物の意匠を取り入れたことによって

猫魈にも少なからず残っている魔に由来する部分が、福を齎すものとして属性が反転したのだ。

 

「セージ先輩、ここは私が」

 

「……なんでだよ!? なんでだよ小猫ちゃん!?

 君だってリアス様の下で悪魔として活躍してたじゃないか!」

 

JOKER元士郎の言葉にも、カムカム・ミケは聞く耳持たずといった趣で

対峙しながらもその構えは解かれることが無く。

それどころか、必殺技を繰り出そうと気を練ってさえいた。

 

「私は……私が戦うのは……リアス先輩のためじゃありません。

 私のために……戦います」

 

カムカム・ミケの右手に輝く白い光。それこそ彼女が元来持つ気が姿を変えて顕現した姿である。

その小柄な体躯には収まりきらない程のはち切れんばかりの気を、彼女は蓄えている。

そして、その気を収束させ、直接叩き込む必殺技。それこそが――

 

「……だから、あなたを倒します。

 白光! ライトニング……フィンガァァァァァァッ!!」

 

カムカム・ミケの強い気の光を受け、JOKER元士郎の背後から生じていた

ペルソナを思わせる黒龍から生えた道化師の影諸共に吹き飛ばされるが

白塗りの貌を歪めながら、カムカム・ミケに反撃を敢行。

カウンターを受ける形で、JOKERの魔法を受ける形になってしまったのだ。

 

「……う、裏切り者め……裏切り者めぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「い、今です……セージ先輩……!」

 

 

――人間チームの「カムカム・ミケ」、脱落。

 

 

転送されるカムカム・ミケの後ろから、セージの伸ばした触手がJOKER元士郎を縛り上げる。

カムカム・ミケの脱落と同時に、神器の封印が解けたのだ。

 

「きっ、きっ、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

怒号を上げるJOKER元士郎を無視しながら、セージはジャイアントスイングの要領で

JOKER元士郎を天井に向けて放り投げる。

放り上げられたJOKER元士郎は、天井に叩きつけられその身動きを封じられる。

 

 

EFFECT-CHARGE UP!!

 

 

そして、身体能力を強化した上で触手を地面に叩きつけ

その勢いで空中へと飛び上がり、再度JOKER元士郎を触手で固定。

そのまま激突するような形で、セージはJOKER元士郎に渾身の蹴りを叩き込んだ。

 

 

――ボルテクストリーム。

 

 

かつて、シャドウ成二にとどめを刺したボルテクスコールの応用技。

水流や渦潮と言った水の力を使わない分、固定する威力では劣るが

攻撃そのものの衝撃に関しては変わらない。

ライトニングフィンガーの後に、立て続けに必殺技とも呼べる一撃を受けたことで

JOKER元士郎と言えど、地に伏さざるを得なかったのだ。

 

 

JOKER元士郎が斃れたのと、食品売り場で残りのメンバーが

傷ついたソーナ・シトリーを下したのは、ほぼ同時のタイミングであった。




本当なら顛末まで書くつもりだったのですが、長引いてしまいましたので。
ともあれ、こんな形で人間チームはシトリーチームを下しました。
関節極められた副会長と白音とセージの連続攻撃受けただけの匙は
聖水シャワーから逃れた形ではありますが……

と言うかシトリーチームってアザゼルのテコ入れが無かったら匙以外モブオブモブってレベルの強さじゃないですかやだー
拙作? 当然そんなテコ入れ無いので今回の聖水シャワーはもしかしたらオーバーキルかも。

……ところで、JOKERには言及してますが
「匙元士郎」には言及してませんよねえ?


しれっと新技出してるセージ。
と言ってもキン肉バスターと新キン肉バスター位の違いしかありませんが。


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The Price of Wishing Aパート

多分、年内最後の投稿になるかと思います。


「……やってくれたな、宮本成二」

 

試合を終えたセージを出迎えたのは、パトロンを名乗り出たユーグリット・ルキフグスだった。

大っぴらにはしていないものの、彼が人間チームに肩入れしているというのは

一部の悪魔ならば知っている程度には知れ渡っていたため

セージが先の試合で繰り広げた虐殺劇とも言える聖水散布に対して

関係各所に対する説明に追われていたのであった。

 

「確かに僕は君達のやり方について口出しはしないとは言ったが。

 よくも純血悪魔たる僕の支援を受けておきながら、転生悪魔が殆どとは言え

 悪魔相手に虐殺まがいの行いが出来たものだね」

 

詰るユーグリットに、セージは沈黙を返す。

言い逃れをするのでもなく、言い訳をするでもなく。

セージにしてみれば、間違ったことはしていない。

さりとて、反論をしたりましてや言い訳をするようなことでも無い。

故に、沈黙を返答としたのだ。

 

「だんまりか。まあ、僕としてはサーゼクスの見ている前で

 グレモリーを潰してもらえればいいのだけれども。

 だが今回のようなことを繰り返すようならば、君との契約も見直さなきゃならなくなるな。

 わかるだろう? 僕にだって、悪魔社会における立場と言うものがある」

 

「……心配せずとも、グレモリー相手にあの手は使えない。

 いくら頭脳派気取った脳筋でも、一度ならず二度も見せた手段が通用するなんて

 俺としても思っちゃいない」

 

気丈に返すセージだが、その本音は

「出来るならもう二度と……は無理にしても、極力使いたくない手段である」事に起因していた。

何せやっていることは、猛毒を散布することによる大量虐殺と変わらないのだ。

そんな無体を好き好んでやれるほど、セージは冷酷非道では無かったのだ。

 

「……それよりも、あんたに聞きたい事がある。ビナー・レスザンって悪魔についてだ」

 

「ビナー・レスザン? 誰だ、そいつは」

 

「とぼけるな。奴とレイヴェルさんの試合を見て確信したんだ。

 奴の使った能力や魔法。それはあんたのそれと酷似している。

 俺は悪魔に詳しいわけじゃないが、あそこまで能力が酷似したりはしないだろう。

 

 ……ビナー・レスザン。それはあんただろう、ユーグリット・ルキフグス」

 

レイヴェル・フェニックスとビナー・レスザンの試合において

ビナー・レスザンはユーグリットが使った重力魔法(グラダイン)を応用した能力を発揮していた。

それだけでは証拠としては不十分ではあるものの

ユーグリットとビナー・レスザンが同時にいないこと。

そしてアモンが感知した魔力の波動の近似から

セージはユーグリット=ビナー・レスザンではないかと睨んだのだ。

 

「……ま、アモンがいればバレるか。その通り、僕がビナー・レスザンだ」

 

「俺達の監視のつもりだったのか?」

 

「そんなところだね。それと万が一のための保険、ってところかな。

 人間風情に悪魔が負けるのは癪だが、スポンサーとしてついているチームが負けるのも

 それはそれで問題だ。そう思って、表立って出るわけにはいかない都合上

 姿と名前を変えて参加していたんだが……」

 

「……その矢先にサイラオーグさんの事件、か」

 

ユーグリット自らがその名前と姿で人間チームに参加するのは問題である。

そのため「人間に興味を抱き、人間に加担した風変わりな悪魔」として

ビナー・レスザンを演じ、セージ達にまんまと紛れ込んでいたのだ。

 

『俺が言うのもなんだが、よくサーゼクス達を誤魔化せたな』

 

「モニター越しなら、たとえ相手がサーゼクスでもいくらでも誤魔化せるさ。

 それに、ああ見えてサーゼクスはそう言う感知系の魔力には疎い。

 寧ろ危うかったのは姉上だね。ビナー・レスザンの名前の由来は、姉上だから」

 

グレイフィア・ルキフグスこそがビナー・レスザンの名前の由来だというユーグリット。

その理由をつい興味本位から聞き出してしまったセージは

己の行動を若干だが後悔することになった。

次に語られたユーグリットの言葉は比較的纏められてはいたものの

その真意は、底冷えのするほど悪意に満ちたものだったからだ。

少なくとも、敬愛するものに対する感情には由来しない。

 

「当てつけだよ。ルキフグスを棄てて奔放に生きた姉上に対する、ね。

 諸々の背景こそ異なってはいるが、あの当時姉上がしでかしてくれたことは

 今僕がこうして君達に手を貸しているのと然程変わらない位の大事だったんだよ。

 幸か不幸か、姉上から訴求されることは無かったけれど……

 

 ……ああ。そうか。それ位には、姉上は僕に興味が無いのか。

 アモン。前に君が言ったことが朧気だが理解できたよ。

 そして礼を言うよ。姉上に対する処遇。僕もこれはどうかと思っていたが……

 ……踏ん切りがついた」

 

『一人で納得するのは勝手だがな、一応約束上は俺達がサーゼクスの妹に勝たなけりゃ

 お前の姉ちゃんの身柄は確保できないんじゃなかったか?』

 

「フッ。アモンともあろう者が、戦う前から負ける算段かい?」

 

皮算用をするんじゃねえ、とアモンは反論する。

アモンの言う通り、ここでグレイフィアの処遇を語るのは、完全に取らぬ狸の皮算用である。

アモンも、無論セージもリアス・グレモリーに負けるつもりは無い。

だが、セージにしてみれば以前戦った時とは相手の戦力が違うのだ。

今まで戦ってきた相手とは違う意味で、警戒している。

 

「……まあいい。約束は約束だからね。君達の要求は当初の予定通りとさせてもらうよ。

 それからレイヴェル・フェニックスにも一応礼を言っておいた方がいいんじゃないかな?

 何せ彼女のインタビューが無かったら、君達は外に出た瞬間石やら何やらぶつけられていたよ。

 それ位、君達は悪魔社会においてはパブリックエネミーと化したんだ。

 僕が態度を軟化させているのも、単に彼女のお陰だと思っていい。

 

 ……あれは驚くべき成長だな。兄に対する情が、雛鳥を一気に羽ばたかせたか。

 あるいは、再編成した眷属どもの入れ知恵か……まあ、僕には関係ないが」

 

その言葉に、セージは「……だろうな」と小さく返した。

そもそもリアスの眷属であったライザーの時でさえ、評価が二分したのだ。

純粋な(とも言い難い部分はあるが)人間となった今、同じような手法を使っては

悪魔の側からすれば、将来有望な悪魔に牙を剥いた侵略者も同然だったのだ。

 

「さて。僕からは以上だ。君達が負けるとは思っていないが

 リアス・グレモリーとの戦いの勝利を期待しているよ。

 

 ……ああ、そうそう。次の試合もビナー・レスザンは出ないから。

 それと、僕がビナー・レスザンだという事は他言無用だ。

 君の周りにフリージャーナリストがうろついている以上、余計な情報を与えたくは無いからね」

 

「サイラオーグさん絡みか? 教えてくれ、何が一体どうなったんだ?」

 

「サイラオーグ・バアルの顛末を君が知る必要は無いし、僕が話す義理も無い。

 知りたければ自分でフリージャーナリストを使って調べるんだな。

 僕が次の試合に参加しないのは、僕がいなくともグレモリーには勝てるだろうという期待と

 悪魔としての矜持だね。確かに親魔王派からは評判のよくない僕だが

 悪魔相手にああいうことをする奴と、一緒に戦いたくはない」

 

他に手段が無く、どうにもならないアモンはともかくとして

ライザーの顛末を知ってなおセージに力を貸していたバオクゥが特別だった。

ここに来て、セージはそれを思い知らされたのだ。

悪魔の常識に照らし合わせば、セージの振る舞いはスポーツ感覚の娯楽競技に

毒を持ち込んで一切の遊びも許さず一方的に蹂躙する、礼儀知らずでしかないのだろう。

 

「じゃあ、僕の話は終わりだ」

 

セージを追い払うように、ユーグリットも席を外す。

忙しそうに振舞うユーグリットだが、実際セージとの関係について

メディアに問い質されていたり、そのことについてサーゼクスやセラフォルーから

叱責されていたりと、気を休める間もないほどの状況下にいたのだ。

 

 

――――

 

 

ユーグリットの叱責から解放されたセージを待っていたのは

チームメイト……ではなく、リアス・グレモリーによる平手打ちであった。

殺気を隠そうともしない彼女の平手打ちに、セージは思わず反応してしまう。

カウンターこそ見舞わなかったが、リアスの平手打ちは空を切ったのだ。

 

「セージっ! よくも一度ならず二度までもあんなことをしてくれたわね!

 ライザーはともかく、ソーナ達にまであんな仕打ちをすることは無いじゃない!

 この際だから言わせてもらうわ。セージ、あなた……

 

 ……悪魔を殺して、平気なの!?

 

鬼気迫る勢いでセージに迫るリアス。

必死に訴えかけるその目には、うっすらではあるが涙さえも浮かんでいた。

 

「……逆に聞くがな。お前達こそ人間を何とも思って無いんじゃないのか?

 事が起きようとも原因のはぐれ悪魔を倒して、隠蔽して終わり。

 賠償と言えば遺族に賠償金代わりの裏金を遠回しに支払う。

 殺された人の遺族に対する謝罪の言葉の一つも無いのか?

 俺はあんたの下にいた時、そう言う怨嗟の声をこれでもかって位聞いていたんだぞ」

 

セージはリアスの質問に質問で返すが、その内容は事実であった。

当時霊体であったセージは、駒王町に漂うはぐれ悪魔の犠牲者の霊魂の声を耳にし

それもあって、リアスら悪魔に対する不信感を募らせていったのだ。

セージしか知り得ず、共有しようにも彼女らの方針からは真っ向から対立する情報であったため

これが後に彼がオカ研において孤立する一因にもなったのだ。

 

「……悪魔の存在を表沙汰にするわけにはいかないわ。

 表沙汰にしたら大混乱を招く、今フューラー演説でそうなっているのがその証拠よ。

 まあ、他の要因もあるかもしれないけれど」

 

「……そうかもしれんが、モノだけ寄越して謝罪とするってのは誠意としてどうなんだ。

 それに、さっきも言ったが何も知らずに殺されて、親しい人からも忘れ去られる――

 そんな仕打ちを受けた奴が、怨念にならない方がおかしい位だ。

 今の俺が接触したら、もしかしたら怨念として吸収できるかもしれない位には

 強い負念と化していた霊魂もあったんだぞ」

 

セージの意見にも、リアスは思う所があったのか

唯々「私に言われても困るわよ……」としか返せずにいた。

確かに、セージの言葉はただの地方領主とも言うべきリアスに対して言うよりは

悪魔全体の姿勢である以上、サーゼクスら魔王に対して言うべきである部分も少なくない。

 

「ともかくだ。お前達悪魔がそう言う姿勢で人間や他の種族に接している以上

 俺としてはそれを前提として悪魔に対する態度を貫き通す、それだけだ」

 

「ライザーはともかく、ソーナがそう言う悪魔じゃないってのは知ってるじゃない!」

 

「逆だろ。俺には寧ろライザーの方が『悪魔としては』真っ当に思えたがな。

 少なくとも、俺が知っている限りでは公私混同はしていない。

 翻ってソーナ・シトリーってのはどうだ。

 駒王学園でもないのに駒王学園での肩書を振りかざす。

 駒王学園の生徒会長が世間一般でどれくらいの立場なんだ。

 そこまで駒王学園の生徒会ってのは偉いのか。それとも、まさかとは思うが……」

 

このセージの指摘に対して、咄嗟にリアスはセージの言葉を制する。

何を言わんとしたのか、似たような身の上であるが故に察したのだろう。

これに関してはリアスの落ち度では無いのだが、ソーナを庇い立てした以上

引っ込みがつかなくなってしまっていたのだ。

そう、セージは暗にこう言っていたのだ。

 

――魔王の妹だから、こういう振舞いをしても許される、と。

 

当然、それはリアスにもダイレクトに突き刺さる。

彼女にその意思があろうとなかろうと、そう言われて気分のいい話ではないのは明白だ。

しかもリアスは、こと駒王町においてはある意味ソーナ以上に奔放に振舞いすぎた。

セージが言及したのはソーナだが、それ以上にリアスに対する言葉にもなったのである。

 

「……セージ。あなたはまさか、悪魔と人間との間で戦争を起こすつもりなの!?」

 

「まさか。ここでの振る舞いはあくまで俺個人のものだ。

 ……とは言え、『人妖チーム』などと人間の代表みたいな扱われ方をされていては

 そう言う風に思われても仕方が無いし、だからこそレイヴェルさんやらユーグリットが

 会見に追われていたんだろうよ。

 

 だがこれだけは言っておくぞ。地球上に人間ってのは60億はくだらないほどいるんだ。

 いや、下手すりゃもっと多いかもしれない。

 それだけの数の代表などと、どうしてそんな烏滸がましい事が言えるんだ。

 あんた達だって悪魔に限定しても旧魔王派やら大王派やらに分かれてるじゃないか。

 たまたま俺が、悪魔に対しての強硬派だった。それだけの話だ」

 

責任転嫁とも取れるセージの発言だが、彼自身まさか世界に60億は軽く超えるであろう数の

人間の総意の代弁などと、自惚れた振る舞いをするつもりは無いし

そこまでの責任は背負いきれない。

そこは、人間より絶対数で劣る悪魔との考え方の相違の根本であるとも言えた。

 

「……決めたわ。だったら私は、悪魔と人間の和平と共存のために、あなたを倒すわ!」

 

「……和平はともかく、共存だと? 寝言は寝てから言え。

 あんたたちの常識じゃ、共存ってのは一方的に支配したり、不正や汚職を蔓延らせたり

 上から目線で片手間に干渉してくるようなのが、それだっていうのか?

 

 それに、いつあんたが悪魔の代表になったんだ。

 まさか魔王の妹だからって理由じゃなかろうな?

 そんな浮ついた考えで大それた看板掲げるんじゃねぇよ。

 俺だって大それたことを言えた立場じゃないから、代表面してないだけだ。

 

 だが……今や悪魔社会じゃ俺はパブリックエネミーらしいしな。身に覚えもある。

 社会の敵を倒す、この上ない口実が出来たじゃないか。よかったな?」

 

セージの長台詞が終わった瞬間、彼の左頬にリアスの平手がめり込んでいた。

これには、先程避けて見せたセージも反応が遅れていたようだ。

 

「バカ言わないで! 社会の敵って事は……あなたは悪魔のほぼ全てを敵に回すのよ!?

 そんなことになったら、魔王様はおろか他の悪魔もこぞってあなたを狙いに来るわ!

 そうなったら、いくらあなたでも生きてはいられない。だったら、元とは言え主の私が……」

 

「……その覚悟を、もちっと早く兵藤相手に見せていられりゃ

 あいつも今ほど道を踏み外さずには済んだかもしれないが……ま、今更か。

 そしたら俺も元眷属として教えてやるよ。

 

 ――『人間を、八百万の想念を嘗めるな』。

 

 万物に神は宿り、妖すらも神の側面。それが俺の物心ついた時からの言うなればの信仰だ。

 これこそ自惚れだと思うが、俺は一人で戦っているつもりは無い。

 お前達悪魔が理不尽を振りかざすから、俺はそれに抵抗しているんだ。

 お前達を滅ぼすつもりで戦っているんじゃない。

 聖水を撒いたのも、お前達悪魔が人間を甘く見ているから。

 人間の恐ろしさを思い知らせるためのものだ。前回はともかく、今回はな」

 

その証拠に、致死量に成る程の聖水をかけたわけではない。

そうセージは締めくくる。実際、ライザーが再起不能に陥ったのは

その前に消火器で彼の炎を消されていたことも要因として含まれている。

今回はそうした「追撃ないし事前の一撃」が無い、所謂ぶっぱの形で聖水を振りまいたため

確かに強烈な一撃ではあったものの、致命的とまではいっていない。

それでなくとも、貯水槽への祈祷と言う、通常やらない方法で聖水を確保していたのだ。

直接水を聖水に変換したライザーの時とは違い、聖なる力が薄まっていても不思議ではない。

 

「それでも椿姫以外全員に聖水を浴びせるって……

 ソーナ達がライザーみたいになってもよかったって言うの!?」

 

「そこまでは俺としても望むところでは…………うん?」

 

ここに来て、リアスの言葉に齟齬が生じた。

彼女はこう言った。

「マスク・ザ・ハチワレに倒された『女王(クィーン)』真羅椿姫以外の全員が、聖水を浴びた」と。

 

だが、セージは防災センターでJOKERと化した「兵士(ポーン)」匙元士郎と戦っていた。

彼も聖水は浴びていない形である。

 

「……ちょっと待て。もう一人いるぞ。俺が直接戦った…………

 

 ……匙。そう、匙元士郎。そいつも聖水の洗礼は受けてないはずだぞ?」

 

間を置きながらも、セージは聖水を浴びていない者の名前として匙の名前を挙げる。

しかし、返ってきたリアスの返答は、彼女のものとは思えない耳を疑うものであった。

 

 

「…………匙? 匙って……誰?

 そんな子、生徒会……いえ、ソーナの眷属にいたかしら?」




セージ、ユーグリットとリアスに詰られるの図。

そりゃああいうことすればスポンサーも黙ってない。
いくら相手がソーナだからって、悪魔を何とも思わないような戦法を立てたことに変わりはないですし。

そしてここぞとばかりに謎の悪魔()の正体を問い質すも、あっさりとバラされる。
まあ、原作既読の方はは察していたかもしれませんが。
またシスコン拗らせちゃったよこの弟。

リアス。必然的に次戦う相手という事もあり
ソーナの敵討ちやら悪魔社会の平和のためやらと、セージを討つ口実だけはどんどん揃っていきます。
そして受けて立ってやると応えるセージ。
歪みすれ違いながらも、何だかんだ通じ合ってない……?
少なくとも、イッセーに比べれば。
交渉の際の名台詞もいただきましたし。

そして不穏なリアクション。
勿論ソーナの眷属の事を知っているリアスが匙の事を知らないはずは無いのですが。


セージが間を置きながらもちゃんと匙の事を認識していたのは
直接匙と戦ったからってのと……

「神器」と「ペルソナ」は近しい物であり、リアスは当然神器を持っていないからして……


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The Price of Wishing Bパート

お待たせしました。
うっかりCパート相当を先に書いてしまったので
帳尻合わせも含め時間がかかってしまいました。


冥界・レーティングゲーム会場控室前。

 

偶然鉢合わせたセージとリアス。

聖水の使用について、セージのスポンサーでもあるユーグリットから叱責を受けた矢先に

聖水の使用による犠牲者を目の当たりにし、かつ当事者でもあるリアスから

さらなる叱責を受ける形となったセージであったが――

 

 

「……バカな、あんたともあろう者が知らないのか!?

 そりゃ確かに、匙元士郎はシトリー会長の眷属だから、あんたとの接点は比較的薄い。

 だが、あんたとシトリー会長の付き合いを考えれば知っててもおかしくないはずだ!」

 

「そんなこと言われても知らないものは知らないわよ。

 そんなに言うなら、今念話繋ぐからソーナに確認を取ってみるわよ?」

 

リアスらしからぬ物言いに思わず食って掛かるセージ。

事の発端は、ふと匙の名前を出したセージに対し

リアスが「そんな奴は知らない」と返したことなのだが

それがセージにはあまりにも不自然だったのだ。

 

リアスもリアスで、セージの血相の変え方が彼女の知るセージらしからぬところがあると考え

セージを黙らせる意味合いも込めて、ソーナに確認を取ってみることにした。

主であるソーナが、眷属である匙を知らないなんてことはあり得ない。

セージは、間違いなくそう思っていた……のだが。

 

「――返答が来たわ。『知らない』とのことよ。

 向こうも薮田先生と話していて忙しいみたいだから、これ以上は話さないわよ。

 それからセージ。薮田先生からもさっきの試合について一言あるそうだから

 後で会いに行きなさい。内容は……わかると思うけど」

 

「そうか……手間かけさせて悪かった。

 悪かったついでにお節介を焼くが、JOKER呪いには気を付けろ。

 手出しはしないと思うが、手を出したが最後碌なことにならないからな」

 

「……私達、そのJOKERに狙われてるんだけど。

 命を狙ってくる相手に願い事を告げるほど、面の皮は厚くないし

 そもそも私、願いを叶える側よ?」

 

そうだったな、と返すセージの言葉にはどこか、力が無い。

セージにとって匙はあまり印象のいい相手ではなかった。

しかし、JOKER呪いに手を出し、あまつさえ主の記憶からも消えてしまうというのは

これが「噂」に聞く「影人間(かげにんげん)」と言うものかとセージは感じ取っていた。

そのあたりの知識が無いリアスやソーナは匙を普通に「存在しないもの」として扱っているが

セージは曲がりなりにも匙が何を思って、何を夢見て戦っていたのかは知っていた。

 

(肝心な相手からも忘れられて、誰からも顧みられず、夢を叶えようとした結果がこれかよ……

 リスクとリターンがあまりにも釣り合って無さすぎる。

 これじゃ悪魔契約の方が余程……!!)

 

ヴリトラの神器(セイクリッド・ギア)の力では不足とばかりにJOKER呪いに手を染め。

それでもなおセージを倒し、理想を叶えるには至らなかった匙。

それがこのような結末を迎えてしまったことに、直接手を下したセージとしても

胸を痛めずにはいられなかったのだ。

 

 

――――

 

 

一方。その匙の主であるソーナもまた、生徒会顧問である薮田直人の質問に答えていた。

質問と言うか、叱咤激励とも言えるものであったが。

 

「シトリー君。今回の敗因はわかりますね?」

 

「……宮本君を甘く見ていました」

 

「……二割は正解、三割は半分正解。残りは不正解です。

 これが試験ならば落第点ですね。

 ああ、断っておきますが競技中の負傷を理由に採点が甘くなるなどと言った

 そう言う生易しい採点基準はありませんよ」

 

薮田はこう言っているが、ソーナ達は聖水を浴びたにもかかわらず

後遺症はほとんど残っていなかった。

貯水槽から作った聖水という事で成分が薄かったのか、さしたる後遺症も無く

既にシトリーチームの負傷は治療されていた。

聖水を浴びず、物理的に脳天を打ち付けた椿姫の方が後遺症が大きいとさえ言えよう。

 

「ではこの敗北を踏まえて問題です。

 今後、あなた方が勝利するためには何が必要だと思いますか?」

 

「より相手の事を調査し、その能力に対応できるように鍛錬し

 どんな相手でも慢心することなく戦いに臨む……ですか?」

 

薮田の問いかけに対し、ソーナは思いつく限りの答えを出した。

しかしそれは、既にセージが実践している事でもあった。

セージ達人間チームは、人間と言う悪魔に対し地力で劣る種族であるがゆえに

その力の差を埋めるべく、神器をはじめとした様々な道具の力を使い

少しでも自分達が優位に立てるように戦いを進めようとしている。

これはセージに限らず、遡れば神話の時代から行われていた事でもあるのだ。

 

「その答えは不正解ですね。

 と言うよりは、それは人間の専売特許と言っていいでしょう。

 ヘラクレスの試練、大江山の鬼退治などそうした戦いは枚挙に暇がありません。

 これらを引き合いに出せば、討たれるのはあなた方ですよ」

 

「……私達が悪魔だから、ですか?」

 

薮田の非情な宣言に、椿姫が眷属を代表して不安げに問いかける。

セージの聖水責めや薮田の宣告の前から、悪魔だからと言う理由で

駒王町では白眼視されてきていたのだ。

椿姫は違うが、「面白そうだから」と言う理由で眷属になったものもおり

ここに来て、その判断を後悔し始めているのである。

 

「人間か悪魔かなど、私に言わせれば些細な事ですが……

 あなた方には、悪魔であるという自覚や、真羅君らには人間を棄てているという自覚。

 そうしたものが欠けている――そう、私は先程の試合を観て感じましたね。

 あなた方が悪魔である以上、宮本君らが悪魔対策を練ってくるのは自明の理ですよ」

 

人間と悪魔と言う種族の壁。薮田は言葉で突き付けた形ではあるが

それを現実に突き付けた者こそ、他ならぬ先程戦ったセージ達なのだ。

 

「先生。悪魔は……悪魔は、もう人間と手を取りあうことは出来ないのでしょうか?

 フューラーを倒せば、また人間と悪魔が……」

 

「どうやらあなたには、グレモリー君に匹敵する程人々との認識の齟齬があるようですね。

 あるいは、それが悪魔の常識なのかもしれませんが。

 とは言え、私もそこまで悪魔の世情や通例に明るくないので

 見当違いの事を話していましたら悪しからず。

 

 ……結論を言いますと、今――或いは将来的にフューラーを倒したとしても。

 もっと言えば、フューラー演説を阻止していたとしても。

 いずれ別な形で人間と悪魔の対立は起きていたと思いますよ」

 

ソーナはこう考えていた。

 

「人間と悪魔の不和を招いているのはフューラーだ。

 そのフューラーを倒せば、関係は修復できる」――と。

 

確かに人間と悪魔の不和を表面化させたのはフューラーだ。

しかし、フューラーは潜在的な人々の不平不満を噴出させたに過ぎない。

この場にもしフューラーがいたならば、ソーナの愚昧さを嘲笑していただろう。

 

「そんな! リアスもですが、私達は……」

 

「もしあなた方が『人間のために何かをしてやっている』。

 そう考えているのでしたら、それは他ならぬ傲慢ですよ。

 はぐれ悪魔問題にせよ、悪魔契約の諸々にせよ、何より眷属契約にせよ。

 同意を得ているケースがあるとは言っても、その根底は悪魔の都合を一方的に押し付けた

 人間の事を慮っていない、私に言わせれば独善的な思想に基づく方針に他なりませんね」

 

傲慢。ソーナの目指していた共存の理想はこの二文字で斬って捨てられたのだ。

それも他ならぬ、神の影武者とは言え顧問教師に。

立場の違い故に薮田も「まあ、私の立場で一方的に糾弾するのは簡単なのですが」と零していた。

 

そして、咳払いを一つし薮田は改めてソーナに問いかけた。

 

「……ところで。眷属メンバーの点呼は済ませましたか?

 真羅君は医務室から戻ってきているのは、既に確認していますが」

 

ソーナ・シトリーチーム。

「王」ソーナ・シトリー以下

 

女王(クイーン)」真羅椿姫

戦車(ルーク)由良翼紗(ゆらつばさ)

騎士(ナイト)巡巴柄(めぐりともえ)

僧侶(ビショップ)花戒桃(はなかいもも)

「僧侶」草下憐耶(くさかれんや)

兵士(ポーン)仁科留流子(にしなるるこ)

 

――以上、眷属計6名。

 

その結果を聞いた薮田はただ一言「……そうですか」と返したのみだった。

 

「……会長。何度数えても『兵士』の駒が4個、足りません。

 やはり、最低でも一人足りていないのです」

 

「何を言っているんですか。ここにいる6人で私の眷属は全てですよ?」

 

何かを言いたそうにしている椿姫の言葉を、ぴしゃりとソーナが遮る。

他の者達も、椿姫の言葉に首を傾げている。

 

――自分たち眷属は、6人であるはずなのに――と。

 

この異常事態に、思わず椿姫も声を荒げてしまった。

 

「お忘れですか会長! 匙君を……匙元士郎君を!

 他の皆も! 私達にとってかけがえのない仲間では無かったのですか!?」

 

「サジ……? 椿姫、やはりあなた頭を打った後遺症があるようですね。

 私の記憶の中に、そんな者はおりません」

 

けんもほろろな対応を返される椿姫。

確かにソーナは眷属――特に匙に対し、リアス対比ではあるが厳しい対応を取っていた。

しかしそれは全て、匙の可能性に対する期待の裏返しでもあった。

それを知っていた椿姫は、ソーナのこの言葉が信じられなかったのだ。

 

匙元士郎を覚えている、認識しているのは自分だけ。

この異常事態に、椿姫も自分の認識が間違いではないかと疑い始め

ついには薮田に確認を取り始めたのだ。

 

「先生、先生ならば知っていますよね!?」

 

「……真羅君。あなたはもう一度医務室に行くべきですね。

 脳の損傷が無いかの再検査もですが……一度、気を鎮めた方がいいでしょう。

 誰か、真羅君について行って差し上げなさい」

 

「そ、そんな……!!」

 

椿姫が医務室に逆戻りという事もあり、この場は解散となった。

しかし、ソーナの胸の奥には言いようのない喪失感があるのも事実であった。

 

(サジ……匙……全く思い当たる節が無いのだけど……

 だけど何かしら……この心の中をごっそりと抜き取られた喪失感は……

 「兵士」の駒の数が合わないのも事実……だけど私の「兵士」は彼女一人。

 一体、この喪失感の正体は何だというの……!?)

 

得体の知れない喪失感に苛まれるソーナの後ろ姿に

薮田もまた、静かに心を砕いていた。

 

(紫藤イリナ、匙元士郎……

 既に二人も、私の不手際で若くして道を踏み外させてしまいましたか……

 あの様子では、シトリー君も遅かれ早かれ……

 私に何ができるかわかりませんが、教師を僭称する以上、何もしないわけにはいきませんね。

 

 ……やはり、神が人を導くのと同じようには行きませんか。

 そもそもの問題として、私には学校の教師は向いていないのかもしれませんがね……)

 

人間・薮田直人としては、確かに数多の博士号を持つほどの頭脳明晰である。

だが、それと生徒を教え導く教師の適正とは全く別の話だ。

 

神も過ちを犯す。その神の過ちの否定として生まれた概念とも言えるヤルダバオト(神の偽者)

その名を冠する薮田直人としては、実に皮肉な状況に置かれていたのだ。




改めて見たらアザゼルのテコ入れが無かったら勝てる訳が無いシトリーチーム。
寧ろこれでよく拙作世界のアインストやらインベスやら相手に戦えたなあ。
リアス達以上のワンマンチーム疑惑が。

>ソーナ
セージ視点では最初「リアスよりはマシ」だったのがだんだんメッキ剥がれて……
地金が出た、ってとこでしょうか。
そしてその地金は「方針はリアスとどっこい」。うん、類友。
そんなだから薮田先生にその経営方針を「傲慢」と斬って捨てられてます。
ソーナやリアスに限った話でも無いんですがね。

目をかけていた眷属が影人間化して喪失。
この喪失感による心の隙間を埋めようとほらそこに這い寄って……

>椿姫だけ匙を認識できていた理由
Aパート参照。神器持ちは彼女だけですし。
残りは原作で所持しているのはアザゼル謹製の人工神器。
拙作でそんなもの持ってるはずもなく。だから上述の結論に至る、と。

神器をペルソナ互換と考えると、人工神器ってP3のストレガ……


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The Price of Wishing Cパート

冥界・アグアレスで人間チーム対シトリーチームによるレーティングゲームが行われている頃。

 

珠閒瑠(すまる)市・青葉区 嵯峨マンサーチャー事務所

 

 

「――嵯峨だ。ああ、こっちは変わりはねえ。

 ああ……何? そいつぁ……本当か?

 ああ、すぐに周防の奴を呼んでおく……ああ、それじゃあな」

 

おもむろにかかって来た連絡を受けていたのはこのマンサーチャー事務所の所長である

嵯峨薫(さがかおる)――パオフゥ。つい先日、七姉妹学園で発生したJOKER騒動の応援に駆け付けた際

JOKERと化した生徒を保護し、ベルベットルームで応急処置をした後

その生徒を南条の管轄下の病院へと運んだのだが

連絡は、その南条の病院からのものであった。

 

「仕事の依頼……じゃ、なさそうね。どこから?」

 

「南条からだ。この間運び込んだJOKERのガキに急変があったらしくてな。

 どうも要領を得ないから、俺と周防に応援要請だとよ。

 うらら、車回しとけ。俺は周防に連絡を取る」

 

パオフゥの連絡を受け、すぐさま駆けつけてきた克哉。

問題がJOKERとなれば、動かないわけにもいかなかった。

そんな克哉もまた、駒王町から蔵王丸(ざおうまる)警部を呼びだしていた。

 

 

「急にお呼び立てしてすみません、蔵王丸警部」

 

「気にすんな。言っちゃなんだがJOKERとなれば超特捜課として動かなきゃならん。

 確かに駒王町を離れるのは問題だが、駒王町にいたところで黄蟹(こがに)の奴に

 いいように扱われていただけだろうからな」

 

JOKERに関して問題が起きた、という事で調査と称して珠閒瑠市にやって来た蔵王丸。

彼としても公安の黄蟹管理官の下から少しでも離れようと克哉の招集は渡りに船であったのだ。

 

「……それに、安玖と氷上は公安命令で珠閒瑠市に行った後に連絡が途絶えた。

 あいつらの事だからうまくやってるとは思うが、消息の確認もしたくてな。

 黄蟹の奴は殉職したと言っちゃいるが、俺からすれば信用できねえ」

 

蔵王丸の懸念通り、安玖と氷上は冥界に飛ばされただけであり、殉職はしていない。

テロリスト追撃の中で殉職した、として黄蟹はテロリスト対策と称し

戒厳令を具申したり、ゲシュペンストの配備数を増やすことで

超特捜課――公安ひいては警察にも自衛隊と同等の戦力を持たせようとしていたのだ。

戦力増強自体はこの非常時においては一定以上の支持を得ていたが

やはりと言うか何と言うか、日本と言う国においては

軍備増強に繋がりかねない事態に対しては、強い反発が起きているのも事実であった。

 

などと情報交換を行いつつ、克哉らは南条記念病院に収容されている

JOKER化した生徒が治療を受けている病室の前へとたどり着いた。

 

病室の前に待機していた警官が克哉らに一礼を返し

克哉、パオフゥ、うらら、蔵王丸と病室へと入っていく。

 

 

「……患者が突然脱走した、そう担当医師は言ったんだな?」

 

「ああ。だが見てみろ、患者は普通にベッドに横たわっている」

 

パオフゥは南条記念病院から「JOKER化して搬入された患者が脱走した」と聞かされて

克哉に連絡を入れ、ここにやって来たのだが、彼らの眼には

しっかりとJOKER呪いを行い、JOKERになった生徒がベッドに横たわっていた。

 

 

――存在感こそ、普通の人に比べて異様に希薄になっているが。

 

 

「……俺なんかが学校でモテるなんて無理なんだ……学校の女子も、若流先生も

 俺なんかには目もくれない……俺なんか…………

 

 …………うぅ…………あぁ……あ…………」

 

 

今にも消え入りそうなか細い声で譫言のようにつぶやき続ける生徒の眼からは

明らかに生気と言うものが消えている。JOKERの後遺症にしては、異常であるとも言える。

 

「おいっ……! しっかりしろ! 気をしっかり持て!」

 

そのあまりにも痛々しい様子に、思わず声を荒げる克哉。

しかし、その様子を見守っていた蔵王丸は、ここに来てとんでもない事を言い出した。

 

 

「どうした周防警部? 誰もいないベッドに怒鳴りつけて。

 そこに誰かいるのか? 誰かいたとしても、ここは病院だろ?」

 

「え……っ!? ちょっ、警部さん!? あのコの事、見えてないの!?」

 

蔵王丸には、ベッドに横たわる生徒の姿は見えていなかった。

蔵王丸と、克哉、パオフゥ、うらら。彼らの違いは、ペルソナ能力の有無。

それが、生徒の視認の可否と言う形で表れていたのだ。

 

「……影人間(かげにんげん)

 ペルソナ能力や、それと起源を同じくする神器(セイクリッド・ギア)を持っているのならば

 その姿を視認することはできるが、それだけだ。

 JOKERに願った際に願いを告げられなかったり、分不相応な願いを告げた者の成れの果て。

 

 ……達哉に聞いたことはあったが、実物を見るのは俺も初めてだ」

 

「パオフゥ、いつ達哉に聞いたんだ?」

 

今話すことじゃないだろう、と克哉に返しながら

パオフゥは以前に仕入れた影人間の知識と目の前のベッドに横たわる生徒を照らし合わせる。

確かに間違いなく、パオフゥが仕入れた情報通りの症状である。

 

その仕入れた情報源と言うのはかつてパオフゥが営んでいたネット掲示板由来のものであり

そこに噂されるほど有名な影人間を、パオフゥが今に至るまで実物を見ていないという

不自然な点はあるものの、一同は概ね影人間というものを実物を見ながら理解することとなった。

実物を目視できない蔵王丸は、話に聞くだけであったが。

 

「影人間になれば、誰からも顧みられない。俺達が気付いたとて、本人に生きる意志が無い。

 そうなれば、もはや死んだも同然だ。実際、これも進行すれば徐々に言葉を失っていき

 最終的には俺達ペルソナ使いや神器持ちでさえ視認できなくなる……何よりも。

 

 ……誰の記憶からも消え、残るのは共有する記憶と記録の齟齬だけだ」

 

影人間と化した人間は、もはやだれからも顧みられることが無い。

そうなれば、たとえ物理的に死んでいなくとも、生きているとも言えない状態になってしまう。

実際、今こうしてベッドに横たわっている生徒も生ける屍も同然となっている。

 

なにより、人間の生命維持と言うものには自らの生きる意志と言うものが欠かせない。

生きようという意思が無ければ、心身の健康にも重篤な影響を与えかねないからだ。

 

「……一つ確認したいんだが、物理的に消滅したわけでは無いんだな?」

 

「今のところはな。だが俺達からも見えなくなった瞬間

 誰もそいつを知る者、覚えている者はいなくなる。

 そうなっちまったら、消滅したって言ってもいいだろうな」

 

現時点では物理的な消滅ではない、と確認を取る蔵王丸。

これが意味するところは、影人間になって誰からも認識されなくなったとしたら

そこに放置される形となり、今の情勢では流れ弾による死傷が十分に起こり得るという事だ。

 

「こうして助けてもいずれは死に、放置しても戦いに巻き込まれて死ぬ……

 願いの代償にしては、随分と大きすぎるじゃねえか。悪魔がかわいく思えるぜ」

 

蔵王丸が言う通り、影人間は「認識されない」だけで「確かにそこにいる」のだ。

いずれは誰からも認識されなくなり消えてしまうのだが、物理的には存在している。

そこにラスト・バタリオンやアインストの攻撃が加えられれば……結果は明白だ。

 

「そういやパオ、この影人間って治せるの?」

 

「達哉の受け売りだが、JOKERに夢見る心……ま、大雑把に言えば心の一部だな。

 それを奪われている状態だ。だからそれを取り戻せば治せる……そういう話だがな。

 ……だが、俺に言わせればそいつは素人考えだな」

 

「何故だ? 無くしたものを元に戻せば治るんじゃないのか?」

 

パズルならば、外れたピースを元通りに埋めれば完成する。

しかし、それは複雑ながらも単純なパズルの話だ。

何処から何処までも複雑怪奇な人の心において、パズルのピースのような喩えは通用しない。

そう、人体における臓器移植が困難な術式であるように。

 

「抜歯した歯をそのまま詰め直そうとしてもうまく行かないのと同じか」

 

「ま、そんなとこだな。それにな、俺達は方向性は違うがこれと同じようなものを

 昔、沢山見ているはずだぜ」

 

「へ? 昔ってアタシらがJOKER事件追ってた時でしょ?

 けどそん時には、こんな存在感が希薄になった人なんて全然……」

 

うららは首を傾げているが、反対に克哉は合点が行ったように頷いている。

十年前のJOKER事件に携わっていなかった蔵王丸も同席していることもあり

改めて、克哉から十年前に何が起きていたのかが語られた。

 

新世塾(しんせいじゅく)に穢れ落としを受けた人々――所謂レッポジ人間の事か。

 確かにあれも、JOKERの源となる負の心と言う心の一部を奪い取ってああなった。

 そう言う意味では、影人間の同類か。

 

 ……しかしパオフゥ。

 この少年は、きちんとベルベットルームでJOKERを心の海に還したのだろう?

 それなのに何故、レッポジ人間の亜種とも言うべき影人間になるんだ?」

 

かつての国会議員・須藤竜蔵(すどうたつぞう)が音頭を取り、日本国の中枢まで牛耳り

無原罪の世界を作ろうと国家転覆を試みた組織、新世塾。

その手段として用いられたのが、JOKER呪いであり

それによって数多くの犠牲者を生み出したのだ。

 

「それについては、俺の推測だがな。

 ……こいつは、JOKERに願わなきゃならない程追い詰められていた、ってとこだろうな。

 そこをJOKERを倒したり還したりして前提を崩すと

 『JOKERに願いを告げて無い』って判定されるか、 或いは

 『分不相応な願いを告げてしまった』って絶望し、夢見る心を手放して

 影人間になる条件を満たした……ってのが俺の推測だ」

 

「うっわ……なんか詐欺みたいじゃんそれ」

 

外部から追い詰められたか、自分で自分を追い詰めていたかは知らんがな、と付け加えながら

パオフゥがJOKER呪いをした少年が影人間化した理由を推測する。

形は違えど詐欺に遭ったうららが、ドン引きしながらパオフゥの推測に対して感想を零す。

 

JOKERの力を使い願いを叶える。

JOKERに願いを告げられぬ者は、夢見る心を奪われ廃人と化す。

では、そのJOKERが倒されたり消えてしまったら。

願いを告げるべく縋ったJOKERは無く、無いものに願いは告げられない。

存在しないものが、願いを叶えることは出来ない。

故に、影人間と化してしまうのだ。

 

「じゃあ、レッポジ人間? ってのにならなかったのは何でだ?」

 

「そいつは簡単だ。ベルベットルームで行った処置は、JOKERをそいつの心の海に還す――

 つまり、JOKERを消したわけじゃねえ。

 表層に現れたJOKERを、沈静化させただけだ。

 JOKERは、がん細胞みたいに摘出して終わりじゃねえ。

 寧ろ、JOKERの摘出は臓器摘出に等しい行いだ」

 

「JOKERも心の一部である以上、消すわけにもいかなかったんです。

 人の心を消すというのは、途轍もなく悍ましい事ですから。

 …………このように」

 

蔵王丸には空に見えるベッドを指しながら、克哉が沈痛な面持ちで俯く。

見えない、という事は想像以上に実感の沸かないことであったが

克哉のその表情から、蔵王丸も今の状況がただ事ではないことを感じ取ったのだった。

 

「そいつもまだ学生だった。その学生に、夢見る心すらこんなもんに頼らなきゃ持てないような

 世界にしちまった。それが俺達大人の罪、なのかもしれねえな……」

 

「……十年そこらで、劇的に変わりゃしないとは思ってたけどさ。

 それでもいざ現物を目の当たりにすると

 やっぱアタシら大人が如何に無力かって思い知らされるよ」

 

犠牲者がまだ学生という事もあり、蔵王丸とうららはこの現状を憂う。

沈痛な面持ちをしていた克哉もまた、同じ考えではあったが

気合を入れ直すようにサングラスを直し、二人に声をかける。

 

芹沢(せりざわ)君。めげてる場合じゃない。僕達にはまだ、やるべき事があるんだ。

 警部も、安玖巡査や氷上巡査はきっと無事です。

 悪魔を相手に渡り合えるのなら、それ相応の心の強さも持ち合わせているはずですから」

 

「ああ……そうだな」

 

JOKER呪いをしたものはJOKERとなる。

JOKERとは、人々の心の中に巣食う穢れ――影そのもの。

影なくして、人はその存在を保てない。

影に取り込まれるか、影を奪うか。

影人間とレッポジ人間は、その実その程度しか変わらない。

 

JOKER――穢れとは、人々の心の闇に他ならない。

その心の闇に目を背けず、決して屈しないことこそ

夢を叶える効果的な一手である。

 

……しかし、その境地に至れるものは多くなく。

それどころか、JOKERに縋らなければ夢すら追えない若者。

JOKERに縋った若者の自業自得ではあるのだが、大人はそうは思わない。

夢を追った結果が殺人鬼と化し、末は廃人。

夢を追うのは、それほどまでに大きな罪だというのだろうか。

 

かつて突き付けられた夢を追う罪と罰は、再び突き付けられようとしていた。

 

 

――空間を隔てた向こうにいる少年少女たちにも、等しく。




学校にテロリストが来ることを妄想したり、異世界転生が如くある日突然力が目覚めて学校の人気者になる……
たったそれだけの他愛もない妄想を抱いただけの学生が何をしたって言うんだ!

>影人間の治療法
無いです(一応原作設定、のはず。少なくとも回復した人はP2にはいません)。
……つまり、匙は……

>で、なんでJOKER呪いして影人間になったの?
JOKERに願い事を告げる→JOKERに叶えてもらう
という正規のプロセスが
JOKERに願い事を告げる→そのJOKERが倒される=JOKERに願っても叶わないほど分不相応な願いを告げた→影人間になる
となったわけです。

或いは
JOKERに願い事を告げる→そのJOKERが倒される→JOKER消失によって心の穢れたるJOKERが無くなる→レッポジ人間になる
もありえなくはないですが、こちらはベルベットルームで
JOKERを心の海に還した=JOKERはまだ健在、なのでレッポジ人間は回避されました。

ベルベットルームに連れて行った=JOKERがまだ健在だったから影人間になった、と言えなくもないですが。
影人間とレッポジ人間のどっちがマシか、ってのはありますが。

ちなみにレッポジ人間ってのは言動こそクソ前向きですが
その実良心の呵責とか全く存在しない、ポジティブシンキングと宣いながら
破壊や殺戮と言った反社会的行動も何のためらいもなく実行・賛同できるヤベー人の事。
何もかもが無気力になって喋るどころか歩くことすらできなくなった影人間とは
全く真逆の結末。製造プロセスは然程変わらないのに。

レッポジ人間と影人間が互換と言うのは本作独自設定。
そもそも罰では影人間って概念そのものが存在しない(JOKER呪いの設定的に)し
JOKERになった後ボコられたうららも最後まで健在ですし。
そこに至るプロセスにJOKERが絡むってのは、どっちも同じですけどね。


JOKER呪いも、悪魔との契約もどっちも願いを(一足飛びで)叶える手段。
あなたは、どちらを使いますか?
(こちらアンケートではありません)


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Proxy war Aパート

冥界・グレモリー領。

 

追跡を逃れるためにサイラオーグはここまで無我夢中で駆け抜けてきた。

当てがあっての事ではない、完全に無意識での行動である。

それがこうして親戚筋の領地に逃げ込む形になったのは偶然か

あるいは何者かの運命の糸の手繰り寄せかはわからないが。

 

かつてグレモリー領を走っていた鉄道。そのグレモリーの経済状況の困窮の煽りを受け

全鉄道が運行休止になったが、その後程なくして経済状況が回復するも

一度止めた鉄道を再度運行するというのも、多大なコストを要求される。

そのため、グレモリーの明るくなりつつある経済状況とは裏腹に

未だに鉄道の運行は再開されていない。

 

サイラオーグが身を潜めているのは、そのグレモリーの運営していた鉄道の車両がある

列車車庫である。最早再開の目途の立っていない車両が立ち並ぶ

所謂列車墓場とも言うべき場所だが、車両の劣化はまだほとんど起きておらず

列車墓場と言うよりは、車両博物館と言うべき佇まいとも言えた。

 

(…………)

 

固唾をのみながら、車両の影に身を潜めるサイラオーグ。

そのサイラオーグの追跡を行うイェッツト・トイフェルやラストバタリオンの兵士。

彼らの追手から逃れるべく、こうして列車の影に身を潜めているのだ。

 

サイラオーグを追う兵士たちの喧騒や軍靴の音が遠のいていく。

再び静寂が辺りを支配したと同時に、サイラオーグは車両の影から身を乗り出す。

 

――しかし、その直後にサイラオーグの視界は光に包まれる。

万事休すか、と身構えたサイラオーグだったがその直後にかけられた声は穏やかなものであった。

 

「ご無事でしたか、サイラオーグ様。

 私はレイナルド。元グレモリー鉄道の車掌で、あなたの執事レイモンドの従兄弟にございます」

 

「レイモンドの……?」

 

サイラオーグにとっては寝耳に水であった。療養中である母ミスラ・バアルの介護を行っているはずの

自分の執事・レイモンドの名前が出てきたことに驚きを隠せなかった。

 

「ええ。我が従兄弟レイモンドとのよしみもあるのですが

 これはグレモリー夫人たるヴェネラナ様からのきっての願いでもあります」

 

レイナルドは語る。ヴェネラナはこう言っていた――

「自分はグレモリーに嫁いだ身。最早バアルとは何の関係もない。

 しかしバアルの子供達もまた、多くの苦難に立たされることだろう。

 そこで、もしもの時にはバアルの子供達の力になってほしい」――と。

 

「事の顛末は聞き及んでおります。今がそのもしもの時。

 あなたの御身は、私がお守りしましょう」

 

「しかし、まだクイーシャが……」

 

「あなた様の眷属に関しましては、レイモンドめが必ず救出する、そう言っておりました。

 眷属の皆様も、御母上様もご心配でしょうが、今は堪えてくださいますよう……」

 

 

思わぬ形で救援を受ける形となったサイラオーグ。

母ミスラ、消息不明の眷属達と心配事は絶えないが

今は一先ずレイナルドの下に身を寄せることとなった――

 

 

――――

 

 

――同時刻。

  冥界・アグアレス内レーティングゲーム会場控室。

 

 

グレモリーチームとの試合を控えた人妖チーム。

その試合を前に、神妙な面持ちで駒王学園生徒会顧問でもある薮田直人(やぶたなおと)

超特捜課(ちょうとくそうか)、つまり警察官である安玖(あんく)巡査らに頼みごとを持ち掛けてきたのだ。

 

「何だい博士、折り入って俺達に頼みたい事ってのはよ」

 

「実は、この冥界に取り残された……いえ、厳密に言えば違うかもしれませんが

 とにかく、この冥界から保護し連れ出してほしい子供達がいるのです。

 匙果穂(さじかほ)匙元悟(さじげんご)。中学生と幼稚園の子供達です」

 

唐突に現れた薮田から、二人の子供の保護を超特捜課の二人に依頼してきた。

匙果穂、匙元悟。この二人こそ、JOKER呪いに手を染めた末に

影人間となり、その存在を忘れ去られてしまった匙元士郎の妹と弟である。

 

「匙……ああ、皆まで言うな博士。それなら俺が行くぜ。

 俺たち二人とも席を外しちまったら、今度はセージがマズい事になりかねん」

 

「……何か、起きたのですか?」

 

「戦力のがた落ちですね。ビナー・レスザンを名乗る悪魔の離脱と

 カムカム・ミケと言う白猫の少女が負傷のために戦線離脱していまして。

 自分にはこの勝負の意味は解りませんが

 人間が負けるのは将来的にマズいことになることだけはわかります」

 

薮田の問いに答える形で、氷上がセージ達の現状を解説する。

ビナー・レスザンことユーグリット・ルキフグスはセージの所業のために離脱。

そして、白音もJOKERから受けた負傷のために治療中。

そこで、神器(セイクリッド・ギア)が事実上使えなくなった安玖が薮田の依頼に応える形で

匙姉弟の保護を行うことにしたのだ。

 

「そう言う事でしたら、安玖巡査にお願いしましょう。

 二人はシトリー領にいるはずです。案内はソーナ・シトリーの『女王(クィーン)

 真羅椿姫(しんらつばき)を訪ねるといいでしょう。

 彼女ならば、匙元士郎の顛末を正しく理解しているので話が早いはずですよ」

 

「ま、迷子の保護は警察の真っ当なお仕事だからな。

 じゃあ氷上、そっちは頼んだぞ」

 

冥界と言う、人間にとっては過酷とも言える環境に、子供二人取り残された状態。

そして、ここに来るに至る原因となった匙元士郎に関する記憶は失われている。

つまり、訳も分からぬまま右も左もわからぬ所に取り残された状態である。

 

――そして何より、匙元士郎と言う存在が喪われたことにより。

 

シトリーにとって、最早この二人は庇護対象足り得ない、ただの人間である。

シトリーもグレモリーほどではないにせよ、人間に対しては友好的な家系である。

しかしそれは、悪魔基準での人間に対しての友好的である。人間目線で言えば、何をかいわんや。

そのため、匙の存在が喪われたことを受け薮田は早急に二人の保護を画策した。

警察ならば、迷子の身柄の保護と言う点においてはこの上なく適任と言える。

 

(私が技師ではなく正規の警察官であれば、すぐに事態を解決できたかもしれませんが……

 警察官……いえ、公務員の身分で薮田直人を名乗るわけにはいかないですからね。

 全く、全能でないが故に人間はここまで進化出来たのでしょうが

 全能でないというのも、中々にもどかしいものですね……

 

 ……それをもどかしく感じるというのが、既に全能に胡坐をかいた姿勢かもしれませんが)

 

想い耽る薮田だったが、咳払いを一つし

氷上に向かって改めて向き直る。

 

「改めまして、氷上巡査。私が来たのはもう一つ理由があります。

 ゲシュペンストの整備についてですが、こちらも既に滞りなく万全と言えます。

 武装に関しましても、私の権限で承認・搭載可能なものは全て扱えるようにしてあります。

 有効に活用してください。

 

 それから……こちらをあなたに預けておきます」

 

「これは……パーソナル転送システム?

 ゲシュペンストの予備機をこちらに回す余裕が出来たのですか?」

 

薮田から氷上に手渡されたのは、腕輪型のコンソール。

それは、氷上がゲシュペンストを呼び出すときに使っているものと全く同じ仕様であった。

 

「規格が合わなかった部品と言えど、かき集めれば何とかなるものですよ。

 本来なら安玖巡査に渡しておくべきだったのですが、話を聞く限りでは

 こちらに用意した方がいいと思いましたので。

 

 こちらに登録してある機体は、ゲシュペンストであり、ゲシュペンストではありません。

 ゲシュペンストとのコンペに敗北し、制式採用が見送られた

 バージョンアップした特殊強化スーツ。

 それの特性を、ゲシュペンストのオプションパーツとして再設計した上で

 予備機のゲシュペンストに搭載したものとなります。

 

 従って、運用は従来のゲシュペンストとは大きく異なるものとなります。

 なので、現状のゲシュペンストの運用に慣れているあなたが利用するよりは

 他の者に利用させた方がいいかもしれません。

 ああ、実験機のテストと言う体で報告しておきますので

 こちらの情報の漏洩についてはとりあえず、ご心配なく」

 

「わかりました、博士。確かに拝領いたしました。

 セージ君が言っていましたが、次の相手はかなり手ごわいとのこと。

 駒王町にいた時から、彼女らの噂は聞いていましたが……

 さっきセージ君と話した時、『その噂は、あてにしない方がいい』。

 彼は、そう言っていました」

 

氷上の答えに、薮田は静かにうなずいていた。

彼も少なからず、リアス・グレモリーと言うものを見縊っていた節があった。

しかし、ここまでのグレモリーチームの戦いを見るに

布袋芙ナイアと言うイレギュラーが、グレモリーチームに大きな影響を与えている。

それは、間違いなく事実であった。

彼女がいる限り、決して油断できる状況にはない。

単純なスペックもだが、彼女が何をするかわからないからだ。

 

「……噂の現実化、についてはご存じですか?」

 

珠閒瑠(すまる)市で起きて、今も各地で散発的に確認されている事象ですよね。

 以前(やなぎ)元課長から、調査報告書を読ませていただきましたが

 情報量が多すぎて自分には何が何だかさっぱり……でした」

 

「まあ、妥当な見解ですね。

 あの事件自体、多くの闇を抱えたまま解決と言う名の迷宮入りをしたと言っても

 過言ではない事件ですから。

 

 私の見解では、あの事件は集合的無意識一つ一つの思い込み。

 それがある超常的な存在の手によって具現化していた――そう見ています。

 悪魔等がこうして実在し、しかもそれが昨日今日の存在ではない以上

 見当違いの見解では無いと自負していますよ。

 

 ……つまり、何が言いたいのかと言いますと。

 慢心をするのは論外ですが、だからと言って必要以上に恐怖を抱え思い込むこともない。

 そうすれば、おのずと道は開ける、という事ですよ。

 そのための力は、確かに私が用意してありますからね」

 

薮田の言う事はこうだ。

既に駒王町に流れている噂では、リアスは大したことは無い。

しかし、冥界においてはそのリアスの、彼女が擁する赤龍帝に関する噂については

真逆の物に塗り替えられつつある。

――眷属を装い、全てを舞台裏から眺め、蹂躙する存在によって。

 

そしてその全てを舞台裏から眺め、蹂躙する存在がかつて仕掛けた罠。

それに対する策は、既に実践され、打ち破ることに成功している。

要は、かつて起きた噂が現実化した事件の黒幕に対し、成し遂げた振る舞い、心の在り方。

それこそが、今ここで新たな力を得たリアス・グレモリーらに対し

立ち向かうための力となり得るのだ。

 

「ゲシュペンスト……ですか」

 

「それもありますが、もっと根本的なものですよ。

 人間なら誰しもが、その可能性の極致に辿り着けるものです。

 本来ならば悪魔や天使もその可能性はあるのでしょうが……

 彼らはなまじ力と言うものを持っているが故に、そこに目が行きにくいのでしょう。

 そう言う意味では、神器という力さえもない

 あなたこそがその極致に一番近いのかもしれませんね。

 

 確認しますが氷上巡査。あなたは、ゲシュペンストが無かったとしても。

 或いは、他の超特捜課の装備が無かったとしても、超特捜課の職務に邁進して

 人々を護ろうという意思に変わりはありませんね?」

 

「無論です。怪異が何の権限があって人々を蹂躙するのか。

 自分には理解できませんが、奴らの理不尽から人々を護る。

 理不尽によって泣く人を、少しでも減らすことが自分の意思です。

 それに、ゲシュペンストや超特捜課の装備の有無は関係ありません」

 

真っ直ぐと薮田の眼を見据えながら、氷上は己の考えを述べる。

今まで、数多くの人々を怪異の身勝手によって葬られたり、攫われたりして来た。

それらの事件は全て闇へと葬られ、それに立ち向かうべく超特捜課は結成された。

 

「確かに、耳にしました。

 その言葉は、口にするのは容易ですが、実践を伴うのは容易ではありません。

 ですが、あなたの今までの行いから、それが口先だけのものでは無いと

 信頼するに足るものである、と私は信じておりますよ。

 

 ……ですが、心してください。そうした可能性は、人間の専売特許ではありません。

 そして人間もまた、そうした可能性に溺れては、道を踏み外し

 怪異以上の外道や理不尽に成り果てることもあり得ることを」

 

薮田の言葉に、氷上は静かに頷く。

人の可能性と言えば聞こえはいいが、どのようにも転がり得るからこそ可能性なのだ。

強大な力を得た代償に可能性を狭めたのが悪魔や天使だとするならば。

単体の力は小さくとも、如何様にも大きくすることが出来るのが人間なのだ。

それが光り輝く幸福に満ちた世界として結実するか。

魑魅魍魎と破壊と殺戮が跋扈する地獄絵図として顕現するか。

どちらも、可能性なのだ。




政府に追われてる奴を匿うとかまたヤバいフラグが

>レイナルド
本当は随分前に出た時にそのまま出番終了の予定だったけれど
ヴェネラナ個人の頼みで動いてくれそうな人が欲しかったので急遽ご指名。
アグリッパはジオティクス眷属なので(ネタバレにつき検閲)故に除外。
またグレモリーが経済立て直ししつつある中で鉄道止めてるので
その辺のフォローも兼ねて(フォローになってるとは言って無い)。

>レイモンド
サイラオーグの執事。原作にもいるキャラですが、名前設定は無さげだったので
拙作独自設定にて。元ネタはGガンダムのサンド家執事から。
あのウォーカーマシンもどきを操るジョルジュお付きの執事。
レイナルドとの従兄弟設定は名前の語感。

>匙姉弟
今どういう経緯でここにいるのかがわからない、シトリーの側も何で能力もないガキ二人がここにいるのかがわからない。
なのでいくら何でもこれはまずいと早急に薮田先生が手をまわしました。

ちなみに前回椿姫に医務室行きを支持しているものの、薮田は当然匙の顛末知っているので
このケースに関しては椿姫を信頼し、大人で警察の安玖に匙姉弟の保護を頼みその補佐を頼んでます。

>ゲシュペンストの予備機
どういう経緯で作られたか、は陸ガン理論で一つ。
そんな都合よく規格の合わないパーツがマシン一機分も出るのか、ってのはまあ、ありますが。

尚ここで言及されたゲシュペンストのオプションパーツ。
RVでもXNでもありません。拙作独自のものとなります。
ゲシュペンスト・タイプFR。それが今回用意されたゲシュペンストの予備機。
FR。ゲシュペンストともある意味馴染みがあり、このイニシャルに関連するのと言えば……


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