ドールズフロントライン4.3 -IRIS- (仲村 リョウ)
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エピソード1:鉄血の少女 プロローグ

この戦争のことを知りたい?


僕はとある前線基地へとやって来ていた。ある一人の兵士を探しに……

ここ406戦術陸上部隊は通称"懲罰部隊"と呼ばれている。兵士達が罪を背負い放り込まれる犬小屋………一般の人達はそう言うだろう。

しかし、僕が探している兵士はそんな事を気にしないばかりか、自分の命を顧みる事なく戦場を縦横無尽に走っては何百人という人命を救ったという。正規軍なら最高の勲章を手に入れれる名誉だろう。

 

しかし、懲罰部隊は例え一人が英雄的行動をとったとしても記録には残らない。罪人は人間として見られておらず既に戦死扱いとなっているからだ。残念ながらそれが今の秩序というものだろう。

だが、彼の存在は僕が勤務している会社のある正規軍統制街では話題になっている。彼に救われた兵士が家族や友人に話してのが広まってのだろう。

 

"不死身の衛生兵"

 

"死者蘇生師(ネクロマンサー)"

 

"ビッグメディック"

 

彼の呼び名はいろいろあるのだが、不思議と名前は誰一人と知らなかった。

 

そんな英雄に興味をもった僕は彼を知ろうと406戦術陸上部隊へと足を運んだのだ………

 

そして僕の前には彼を知る男が……回しつ続けているカメラの前に座っている。

 

 

「彼か?ああ………ここじゃあ有名な奴だったよ。自分の命よりも他人を優先する………俺達は死に急ぎ野郎って呼んでいたな。ここが懲罰部隊ではなくガチの正規軍なら最高の衛生兵だったのは間違いないな。なにせ、あいつ一人で何百人という命を助けたんだからよ」

 

どうやら何百人もの命を助けたのは本当の話のようだ。

男はそう言いながらもどこか遠い空の向こうへと眺める。

 

「俺ら懲罰部隊の命なんざどうでもいいし、生きることすら期待されていない。人海戦術で突っ込むことなんざザラじゃない」

「銃での戦争でそんな事ありえるのか?」

「ありえるんだよ。罪人の数が増えれりゃあ、お偉いさんは縮小を図る。俺達は捨て駒なのさ」

 

それが本当ならその上官はとんでもない奴だろう。いくら罪を犯した人間とはいえ人間には変わりない。

 

「だが、奴はそんなこと御構い無しだ。俺達が何であれ命を助ける。それが奴のモットーなんだろう」

 

『実際に俺も助けられたしな』と男は笑いながらそう言った。

 

「どうして彼は懲罰部隊に?」

「さあな。いろんな噂があるがどれが本当だか………上官を殴っただか、政治家を殺しただとか………色々さ」

 

そんな笑えない事を男は平気で笑いながら言ったのだ。僕はただ苦笑いで返すしかなかった。

 

「それで………彼は一体どこに?」

「ここにいないことはあんたも分かってるだろ。ある日のことなんだが………いつものように戦場から帰ってきたら知らない服を着た連中がいやがったんだ。赤ワインみたいな色をしたトレンチコートを着てモノクルをかけた女性だ」

「それって軍部の人?」

「いや。俺が見た限りそうじゃないだろうな。見慣れない黒いワッペンをつけていたし、何より彼女の護衛がそうじゃなかったんだ」

 

護衛がいたということは立場的には上の人物なのだろうか?

 

「そいつら俺よりも体の小さい女の子だったんだ」

「女の子?」

「ああ。兵士みたいに銃を持っててな……なんつーか………」

「………戦術人形」

「戦術人形………ああ、そうか」

 

僕の言葉にピンときたのか男は何処か納得げに笑みをこぼした。

 

戦術人形………第三次世界大戦以降から高速に普及した人形ロボットだ。その中でも戦闘に特化したものは戦術人形と呼ばれている。

 

民間軍事企業(PMC)の連中か」

 

戦術人形を従えて連れ回るPMCが思い当たるなら一つしかなかった。

 

「ありがとう。これはお礼の物だ」

「おっ?」

 

僕はそう言って彼にある箱を放り投げる。

 

「煙草か………しばらく吸ってねーな………」

 

文明は残ってるものの世紀末と化したこの世界にとって金ではなく物々交換を行うのは珍しくもない。特に嗜好品は取引材料にはうってつけのため、欠かさず持っていることにしている。

 

「気をつけて行けよ。えっと………」

「イーサン……イーサン・アーネル」

 

こうして僕は戦術人形を指揮し戦っているPMC"グリフィン&クルーガー"社へと足を運ぶのだった。

 

 

グリフィンS09地区。

 

辿り着くとそこは軍事施設かと思えるくらい少し大きめな基地だった。飛行場もあり、ちゃんと検問所もある。

 

そこで僕はここに入るにあたっての身体検査を受けていた。私服の上からプレートキャリアを着用した社員が僕の全身をくまなく金属探知機で調べ上げている。そして、もう一人の社員は僕が変な動きをしないか両手にライフルを持っては警戒している。こちらに銃口を向けられていないだけ緊張的にマシだった。

しかし、彼らの行為は当然のものだ。ここは軍事施設も同然の場所なため、警備が厳重なのも頷ける。

 

身体検査が終わるとカメラは没収された。社員は『少し待て』とだけ言い残し、詰所へと入っていく。誰かと連絡をとっているのだろうか?

 

すると基地の方から軍用ヘリコプターが僕の方向へと二台飛んでくるのが見える。

日差しを一時的に遮ったヘリは僕が来た道の方へと飛び去っていった。

 

しばらくすると詰所にいた社員が出てきた。

 

 

………どうやら指揮官は不在らしい。




プロローグはとあるカメラマンの語りで進んでおります。次回から主人公である戦える指揮官のご登場です。


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案件1-1:代役戦争

全てはここから始まった………


ワスプ1≪こちらワスプ1。敵影は見当たらないがこのまま飛行しても大丈夫か?≫

 

「ああ。AR小隊によると作戦地点まで敵影の姿はないとの報告だ。ルートの変更はない」

 

ワスプ1≪ワスプ1了解≫

 

「416。いい加減この寝坊助を起こせ」

「起きなさいG11」

「んん~………あと5分………」

「んなに待ったら作戦時間余裕で過ぎるわ」

「あいて!」

 

ヘリに登場するなり俺の膝に頭を乗っけて眠っていた少女に俺は軽くチョップをくらわす。

しかし、少女は声はあげるものの起きる様子はない。

 

「………お前だけラムレーズンアイス抜きにするぞ」

「起きたよ」

 

上半身だけを向くっと起こしたG11。避ける準備をしていなかったら危うく顎に直撃するところだった。

 

「あんた………ちょろいわね」

「なんなりと~………おやつ抜きにされるのだけは勘弁」

 

そんな彼女の会話を聞いて思わずため息をこぼしてしまう。

人形にしてはよく人間に出来すぎている。味覚までつけなくてよかっただろうにと思うが今更。

それに、今では彼女達の個性が見られて飽きなくて済むという気持ちの方が大きいため俺の中ではどうでもいい話となっている。

 

「指揮官。さっき検問所にお客さん来てなかった?」

「みたいだな」

「一般の人みたいだったよ?」

「んなわけあるか。ここ民間軍事企業にやってくる連中なんてろくな奴がいねーよ」

「前みたいなハゲ親父とかみたいにね」

「9。言い方」

 

45の指摘に9は反省することなく、テヘッと舌をちょこんと出した。

 

「違いないな」

「指揮官も~」

「まあまあ。45姉も本音はキモいとか思ってたでしょ?」

「ん~………そうね」

「思ってたのね」

 

45の言葉に416が静かにツッコミをいれた。

実際、ハゲ親父だとかキモいと言っている人物は正規軍軍部の中では偉い人だ。まあ、俺にはどうでもいいが…………

 

しかし、うちの部下である彼女達戦術人形をいやらしい目で見てたのは別問題だ。あの時、ヘリアンがいなければ風穴空けていたところだった。

 

「AR小隊はちゃんとCP(コマンドポスト)を設置したのかしら?」

「じゃないと困る」

「連絡をとってみたら?」

「そうだな」

 

俺は無線の周波数をAR小隊の隊長であるM4へと無線を繋げた。

 

「M4。こちらアヴェンジャー。CPの設置は完了したか?」

 

M4A1?≪はいはーい!設置終わったよー!≫

 

この声……SOPだな。

 

「おい。なんでお前がM4の無線に出てるんだ」

 

M4A1≪ちょっとSOP!無線機返してください!≫

M4A1?≪ああん!ちょっと待っ………≫

M4A1≪すみません指揮官≫

 

「ああ。気をつけろよ」

 

無線越しにはSOPが駄々をこねてる声が聞こえてくるがとりあえず無視だ。

 

M4A1≪CPの設置ですがSOPが言った通り完了しています。場所はマップで表示されているはずです≫

 

「確認したよー指揮官」

 

対面左斜めに座っていた45がヘリ内にあるモニターで確認し終えたのか、俺に手を振りながら報告してくる。

 

「確認した。これから………」

 

M16A1≪M4敵だ!≫

M4A1≪!?こんな時に……≫

 

「M4何があった?」

 

M4A1≪すみません指揮官。敵に増援を呼ばれていたようです………≫

 

「わかった。着陸地点を変える。お前らは俺達が到着するまで持ちこたえろ」

 

M4A1≪はい………SOP!前に出過ぎないで!≫

 

ここで通信は終わる。

 

「AR小隊は大丈夫かしら?」

 

416がなにやら棘かかった様子で声を漏らした。

 

「ああ見えてG&K(グリフィン&クルーガー)きっての精鋭だ。あいつらなら大丈夫だ」

「だといいんだけど」

「もうー………そんなにツンツンしないの416」

「抱きつかないで9」

「はぁ…………」

 

お前らも大丈夫かよと思ってしまう。

 

「聞いてたなワスプ1。着陸地点変更だ。そうだな………北東にある大通りにしよう」

 

ワスプ1≪ここにはヘリが降下できるスペースはありませんが………≫

 

「ヘリボーンで行く」

 

ワスプ1≪了解≫

 

ワスプ1がそう返答すると、先頭にいたヘリワスプ1が右へと傾斜させ進路を変える。俺が乗っているワスプ2も同じ動作に入り右へと傾斜し、ヘリは重力によってドアが全開した方へと引っ張られる。

 

「到達まで30秒だ。各自準備しろ」

「はーい」

 

俺はバラクラバを鼻元まで隠しヘルメットに装着してあるゴーグルを目へとかける。

 

「G11………寝てたわね?」

「お、起きてるし」

「ヘリボーンなんて久しぶり」

 

などと404小隊らは俺の言葉を聞いていないのか余裕の様子だ。まあ今回は仕方ない。

今回の任務は正規軍からで。鉄血工房の人形が廃墟となった街で活動があるとの報告を受け哨戒しろとの依頼。対して()な任務ではないのだ。

 

表向きはな………

 

「目標地点到達」

「よし。ヘリボーン開始!」

 

左右のドアからロープが降ろされ、俺はそれにしがみつき、スムーズに下へと降りていく。

 

下へ降りると俺は小銃を構え周囲を警戒する。

俺の次に降りてきたG11が地面に辿り着くと小さい体をトコトコと揺らしながら俺の方へとやってきた。

 

「全員降りたか?」

「うん。第一部隊の方も全員降りたみたいだよ」

 

G11がそう答えると、俺は載ってきたヘリに向かってハンドサインで行ってもいいぞという合図を出した。

 

ワスプ2≪ご武運を≫

 

パイロットはそう言って街から飛び去っていく。

 

ヘリのローター音がなくなるとそこは風が吹く音以外なにも聞こえない不気味な場所となった。かつてここでは人が生活を送っていたのが不思議と思うくらいの風景だ。恐らく第三次世界大戦以降から放棄されているのだろう。

 

「第一部隊は作戦通りに北の病院跡を目指せ。そこを拠点にし周囲を警戒しろ」

 

グリズリー≪了解、指揮官≫

 

「あと98。RFBをよく見張ってろ。あいつはすぐゲームの真似事をしたくなるからな」

 

Kar98≪了解ですわ指揮官さん≫

 

「頼む」

 

ここからはワスプ1に搭乗していた第一部隊とは別行動だ。俺はというと404小隊のメンバー、UMP姉妹の二人とG11、HK416と行動を共にする。

 

「404小隊はこれから俺と共にAR小隊の援護に向かう」

 

「「「「了解」」」」

 

リーダーであるUMP45を先頭に404小隊は行軍を始める。俺はG11と416に挟まれる形で歩くことになり、9は一番後ろに背後を警戒している。

 

「それにしても不気味な街ね。どうして正規軍は私達にここへ哨戒するよう依頼を出したんだろう」

「人が足を踏み入れない分、敵にとっては隠し事に適しているからな。それにあいつら正規軍は近いうちに鉄血工房の基地に向けて大規模侵攻を行うらしい。あまり自軍に損害を出したくないんだろう」

「なるほどね」

 

9の疑問については恐らくこの任務に駆り出された全員が思っていることだろう。俺も疑問だ。わざわざ俺達を出さずともこのような小さな街くらい正規軍ならどうとでもなる。

 

(ペルシカの言う通り………きな臭いな)

 

正規軍の中で俺達のような民間軍事企業をよく思っていない連中もいる為油断はできない。かといって奴らは鉄血工造と組んでまで俺達をはめようとする気は起きないだろう。

 

なにせ鉄血工造自体人間と組むことはないからな。

 

警戒はしておくか………上記通り敵は鉄血工房の人形だけとは限らないからな。

 

「CPまでどのくらい?」

「ここから東へ300mね。銃撃も聞こえてるし近いわ」

 

俺はデバイスを取り出し、投射映像を映し出す。CPの反応は416の言う通り東へ300m行ったところに反応を示してる。

 

「………不気味ね。AR小隊は接敵してると言うのにここは静かすぎる」

「そう?向こうに敵が集中しすぎてるんじゃない?」

「あなたは楽観すぎよG11。鉄血工造だってバカじゃないの。前のようになりたくなかったら少しは………」

「止まって」

 

先頭にいた45が拳を握りしめ俺達に止まるようハンドサインを促す。

 

「どうしたの?45姉」

「指揮官」

「ああ………」

「え?え?なに?」

 

どうやら状況が分かってるのは俺と45だけのようだ。

 

「………AR小隊は罠のようだな」

「そうみたい」

 

くそ。鉄血工造め………やってくれるな。しかもこのやり方………あいつしかいない。

 

「全員建物に避難しろ!」

 

そう叫んだ瞬間。前方の建物のバルコニーから機関銃が乱射される。

俺達は機関銃が放たれる前に走り出したお陰で被弾することなく近くの建物へと身を隠すことに成功する。

 

「くそっ!最初からはめられてたな!」

「ええ……この陰湿なやり方………」

「イントゥルーダー………」

「敵は!?」

「VespidとRipperね………ザコが」

 

といっても数的にはこっちが圧倒的に不利だ。作戦を変えるしかない。

 

「M4聞こえるか!」

 

M4A1≪はい!増援は………≫

 

「ネガテイブ。俺達も敵に遭遇し身動きが出来ない状態だ」

 

M4A1≪そんな………≫

 

「よってCPを放棄。お前達は第一部隊がいる病院跡に向かえ」

 

M4A1≪しかし、CPを放棄すると………≫

 

「戦術リンクがなくても何とかなる。それよりもお前達の方が大事だ。バックアップがとれないんだからな………」

 

AR小隊の構成員は他の戦術人形と違って俺指揮官がいなくても長時間独立して任務を遂行することが可能だ。その為、指揮能力及び戦闘力が高く設定されている分、戦術人形としてのバックアップがとれないというデメリットが存在する。

つまり、破壊されてしまい戦術人形として復旧されても彼女達は別人となってしまうということだ。

 

M4A1≪………わかりました≫

 

「そんな悲しそうにすんな。お前達の命は一つなんだ。だから無駄死にだけはよせ」

 

M4A1≪!?………はい!≫

 

「俺達も何とか切り抜けて病院跡へ向かう。ああ、CPは破壊しておけ。敵に鹵獲されたら面倒なことになるからな」

 

M4A1≪了解です≫

 

さて、俺達も行動を起こそうと思うが………

 

「さっきから痛えぞ45」

「なーに熱いセリフ言ってるの?」

 

何故かドス黒いオーラを放ちながら俺の足を踏みつける45。人間の痛覚を考えて踏んでいるからマシだが。

 

「意味がわからん」

 

それが率直な本音だ。

 

「指揮官!私がいるのにぃー!」

「9は抱きつこうするな!状況分かってんのか!?」

 

逃げ道のない建物に乱射されている中、よくそんな行為が出来るなと思いつつ抱きつこうとする9をなんとか引き剥がす。

 

「指揮官。どうします?」

「全員を相手してる暇はない。逃げ道を作るぞ」

 

俺はバックパックの中からC4を取り出すと相手の射角に入らないよう後ろの壁へと貼り付ける。

 

「伏せろ!」

 

C4から離れ起爆させると耳をつんざくような爆音とともに瓦礫が飛びかう。その中、416が俺に覆いかぶさり彼女の胸が顔と密着してしまう形になってしまう。

 

俺を瓦礫から守ろうとした行動とはいえ………

 

「指揮官。行動がいつも大胆すぎます」

「この状況でそんなこと言ってられるか。45と9。先に行って索敵してこい」

 

「「了解!」」

 

416が俺から離れると45と9を援護する為、俺は自分の小銃を手に持ち、外にいる敵へとフルオートで発砲を始める。

 

「G11!手前のバルコニーにいる機関銃を片付けろ!」

「うん!」

 

事前に確認していたバルコニーには目立たないようにかボロボロな布で覆われていた。カモフラージュのつもりなんだろうが、それがかえって怪しかったのだ。

警戒せずにこのまま歩いていたら蜂の巣にされていたに違いない。奴らも昔のゲリラみたいな戦法をとるもんだ。

 

 

しばらく撃ち合いをしていると急に奴らの銃撃が止まり、先ほどの不気味な静けさが漂う。

 

「やっぱり貴方ならここに来ると思ったわ………アヴェンジャー」

「ちっ………イントゥルーダー………」

 

顔を見なくても声だけで分かる。この食えない口ぶり………間違いなくイントゥルーダーだ。

ということは、この地域での指示系統は全てこいつが行なっているのだろう。面倒くさい………

 

「派手な出迎えじゃないかイントゥルーダー。そこまでして俺達に何の用だ?」

「ふふふ。気に入ってくれたかしら?貴方達を出迎えるならこれが一番かと思って」

「………違いない」

 

俺はバックパックから片手鏡を取り出し416へと手渡すとイントゥルーダーの方へ向けるよう指示を出す。

 

「用という用はないんだけど………貴方達にここにいてもらっては邪魔だから歓迎してあげたのよ」

「言ってること矛盾していないか?」

 

これからやる事を悟られないように俺は自然にイントゥルーダーと話しながら元折れ式グレネードランチャーを取り出す。

 

「あら。私なりの善意よ?」

「わけが分からんな」

 

苦笑いを浮かべながらそう言うと。

 

(416。合図を出したら逃げるぞ)

(了解)

 

小声でそう言うと416はG11にハンドサインで俺がしようとしてることを伝える。

 

「………ところで提案なんだけど」

「なんだよ」

「アヴェンジャー。私達(鉄血工造)の元へ来ない?」

「「なっ!?」」

「…………」

 

416とG11は驚いた様子だ。俺も内心驚いたものの顔には出さなかった。俺が動揺してしまっては二人の行動に悪影響が出るかもしれないからだ。

 

「唐突だな。お前ら鉄血工造は人間を虐殺することしか脳がないんじゃないのか?」

「心外ね。まあ、そう思うのも無理はないわ。以前の私達ならこうして貴方と話すこともなく蜂の巣にしてたわけだし」

「さっきまでされかけたがな」

「貴方達ならどうとでもなるじゃない」

 

敵ながら買いかぶりすぎだ。人間は当たり前だが戦術人形だって撃たれどころが悪ければ死ぬんだぞ。

 

「でもね。今の私には感情がある。有効活用出来そうなものがあれば利用するものよ」

 

有能じゃなくて有効か。あくまでもこいつらは人間と組んだとしても利用しているだけの概念でしかないのか。

 

「で、どうするの?アヴェンジャー………」

「期待されているようで嬉しく思えばいいのか複雑だが…………断るに決まってんだろバーカ」

「!?」

 

俺がそう言い放った瞬間、身体をカバーしたままグレネードランチャーだけをイントゥルーダーへと向けて迷わず発砲した。

奴に命中したかは分からないが爆音と衝撃が伝わってきたということは少なからず命中しただろう。少しだけだが隙は出来たはずだ。

 

しかし………

 

「いってぇ!」

「そんな撃ち方するからよ」

 

何十年前かくらいの漫画でこのような撃ち方をしてピンチを乗り切った場面を思い出してやってみたが………散弾銃と擲弾発射器が反動が違いすぎだな。どっちもどっちだが下手すれば指の骨が折れる。

 

「いいから行くぞ!あいつがそんなに待ってくれるわけがない!」

 

俺はそう言うと先ほどC4で吹き飛ばした壁穴から裏路地へと飛び出したのだ。

 

 

 

 

 

「まったく………やってくれるわねあの指揮官………そこがいいんだけどね。はぁ………やっぱり私は貴方が欲しいわアヴェンジャー…………ふふ。さてと、競争の時間かしら。彼らより先に奴を見つけなさい。出来たらだけどアヴェンジャーも捕まえてね。殺さない程度に……ね」




用語

CP:コマンドポストの略で戦術指揮官が戦術人形を指揮するのに必要な装置。設置することでJ-STARSとの情報を連携して地形や敵の位置などを把握し、指揮官が持つデバイスや拡張視(オーグメント・アイ)として映し出すことができる。通称戦術リンクと呼ぶ。しかし、データをリンクするには一度CP本体に接続する必要があるため敵に狙われやすいという危険が伴う。
簡単に言えば、ゲーム本編マップのリアルバージョンだと思ってください。


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案件1-2:割に合わない仕事

人間と人形の間に絆なんてあるの?


「45と9はどこまで行ったんだ!?」

「UMP45応答して!」

 

隙をついて逃げだせたのはいいが街中での逃亡は苦しいものだ。後ろからは追っ手の鉄血人形。路地に出ると待ち構えていた鉄血人形がこちらへ乱射………何回撃たれかけたことか。

しかし、ゲリラで現れる敵を走りながら的確に仕留めていく416がいるもんだからさすが自称完璧というだけのことはある。こんなこと言えばこちらが風穴あけられそうだから言わないが。

 

「指揮官。次はどっち!?」

「左だ左!」

 

路地の突き当たりの角を左へ曲がると建物内へと繋がる扉が表れた。開くといいが………

 

「蹴り破るわ!」

「無茶すん………」

 

そう言いかけた瞬間だ。彼女の加減のない前蹴りが扉を蹴り破った。

そういや戦術人形だということすっかり忘れてたわ。

 

UMP9≪指揮官!その建物から表通りへ出て!敵はあらかた片付けておいたから!≫

 

「9か。45は一緒なのか?」

 

UMP45≪いっしょだよー≫

 

ったく。こっちは命がけで追いかけられているというのに呑気な口調だな。

 

「あいた!」

「G11!」

 

G11が建物へと入った瞬間、左足を撃たれたのか表情を歪ませながらこちらへと駆け寄ってくる。

 

「撃たれたの?」

「うん………痛かったけど大したことないよ」

 

銃弾の一発くらい大したダメージに入らないらしく、G11の表情はいつも通りダルげな顔になっている。

 

「走れるんだな?」

「うん。少なくとも指揮官よりはね」

「ったく。減らず口を」

 

そう言いながら表通りへつながるドアを開けて外に出る。

 

「指揮官こっち!」

 

向かいの路地から9が声を張り上げながらこちらへ手招きをしている。

 

「これ………あいつらがやったのか」

「みたいね」

 

9がいる路地と通りの間には鉄血工造の人形達が無残な姿でバラバラになっていた。地面には赤色の液体が無残に飛び散っている。

戦術人形にも血があるが人工血液というものを循環しており、いわば燃料みたいなものだろう。補給と言いかたは俺にとっては複雑なのだが、一度人工血液を輸血してしまえば数年は持つらしい。だったら食べ物も食わないでもいけるんじゃないかと思うが、ここはあいにく彼女達の気分ということになるので割愛させてもらう。

 

「指揮官!大丈夫だった!?」

「ああ」

「ごめんなさい!呼びに行こうと思ったら敵に遭遇しちゃって………」

「いい。今は合流できたわけだ。前のことは気にするな」

 

すると後ろの壁に銃弾が弾ける音が鳴り響く。

危ねぇ………もう少しでヘッドショットくらところだった。

 

「指揮官は隠れて!貧弱なんだから!」

「貧弱で悪かったな!」

 

彼女達が銃撃戦をするなか俺はデバイスを取り出し目標である病院跡の場所を確認する。

 

「このまま路地を突っ切れば近いな」

「当然だけど敵さんも簡単には行かしてくれないわよ?」

 

45の言う通り。病院跡へ向かうにはこの路地から出て大通りを走るしかない。

 

「かといって回り道する暇もないわよ」

「416の言うこともごもっともだ。時間をかけるほどこっちの状況は悪くなるだけだ」

「そうなると?」

 

「強行突破だ」

 

-side M4A1-

 

「ねぇねぇ!指揮官達はまだなの!?」

「さっきから通信で呼びかけてるけど応答がないな」

「やられ………ちゃったとか?」

「ないない。指揮官って悪運強いから無事よ」

「証拠にさっきから銃声が鳴り響いてますわ」

 

私達AR小隊が敵と交戦し、CPを放棄してから10分が経過しました。

指揮官が撤退するよう指示を出した病院跡へ無事に辿り着くと、第一部隊がすでに確保しており何とか無事に合流………したのはいいですが、肝心の指揮官がまだ来ません。無事だといいのですが………

 

Avenger≪………たい!こ………アヴ……ジャー!≫

 

すると私の無線から指揮官の声がノイズ混じりに聞こえてきます。

 

「指揮官!」

 

Avenger≪……と……がったか!≫

 

間違いなく指揮官の声です。

 

Avenger≪………そ!……ぱが悪い………≫

 

すると無線越しから何かが殴ったのような音が鳴り響きました。

 

「指揮官!?」

 

Avenger≪やっとまともに聞こえるようになったか……≫

 

「あの……さっきの音は………」

 

Avenger≪気にすんな。無線機を殴っただけだ≫

 

と、自分がピンチな状況にも関わらず落ち着いた口調で話してくれます。

 

Avenger≪それよりもこれから大通りを突っ切る。援護してくれ≫

 

「みんな!指揮官がもう少しで大通りから出てくるみたい!援護します!」

 

私が声をかけると病院跡にいる全員が慌ただしく配置に着きます。

 

Avenger≪もう出るぞ!間違えて撃つなよ!≫

 

指揮官がそう言った瞬間、スコープの先には指揮官ともう一つの部隊が路地から飛び出してこちらへ走ってくるのが見えました。

すると、その後ろからは鉄血工造の人形達が指揮官達を逃がさないと言わんばかりに銃を撃ちながら追撃しているのが見えます。

 

「撃ち方開始!」

 

敵の距離は約150m………レティクルの中心から少しだけ上と向け鉄血工造の人形へ向けてトリガーを引きました。

フラッシュハイターから放たれる閃光と同時に銃弾が発射され硝煙の香りが漂う………

弾丸は重力の影響を受けながらも人形の頭部を撃ち抜き、人工血液が霧のように飛び散りその人形は地面へと倒れピクリとも動かなってしまいます。

 

「ごめんなさい………あなた達にチャンスはないわ……」

 

指揮官を守る為に私はトリガーを引き続ける………

 

-side Avenger-

 

第一部隊とAR小隊の援護によって無事に病院跡へと辿り着くと、勢いよく窓を突き破って建物内へと入る。銃弾が飛び交うなかわざわざ玄関から入るやつなんていないだろ?それに、撃たれるよりガラスの破片で切り傷ができる方がマシだ。

 

とは言え安心はできない。敵の射線から身を隠す為、俺は窓の下の壁へと身を隠す。

 

「はぁ~………なんとか辿り着いたわね………」

「ああ。なんとかな………15とM4。一階に降りてきて手伝ってくれ」

 

M4A1≪了解です≫

 

「第一部隊は西に見えてるビルへと回り込んで援護してくれ」

 

グリズリー≪了解です指揮官≫

 

それぞれの部隊に援護の要請を指示すると、俺は小銃の弾倉を外してリロードを行う。

 

「ちっ………正規軍のクソどもが。なにがただの哨戒任務だ。割りに合わん事ばかり要請しやがって」

 

ここ最近の正規軍から来る任務はどれも割りに合わない案件ばかりだ。そのくせ報酬はケチるくせにこちらの行動に文句ばかり垂らしやがる。

 

「でも、確証は得たわね」

「不服だがそうだな」

 

だが、そのおかげで敵が何故ここへ部隊を展開しているのかなんとなく分かってきた。

イントゥルーダーが統率しているということはこの街にはなにかあるということだ。奴は普段俺らを挑発はするが好きらしく何度翻弄されてきたことか。しかし、奴は自ら動くことはあまりない為タチが悪い。ていうか悪趣味だ。

 

(さてと………なにを隠してるのか……)

 

俺はデバイスを取り出すと投射映像を映し出す。

 

「………指揮官。遊んでないで応戦してよ」

「遊んでるように見えたならそれは心外だ」

 

投射映像で映された波のような波形が一気に赤く染まるとともに大きく揺れる。ビンゴだ。

 

「404小隊。ここに地下がないか調べろ」

「えっ?」

「俺がなんの考えもなしにここを制圧すると思ったのか?」

 

そんはずはない。指揮官という慣れてない職業とは言え、考えもなく拠点を制圧しろだなんて馬鹿がやることだ。

 

それに正規軍からこの案件を嫌々請け負ったのは理由がある。それは"16LAB"のマッドサイエンティスト"ペルシカ"のお願いでわざわざ嫌な正規軍の案件を了承したのだ。

 

「ていうか地下なんかあるの?」

「ここは元々民兵の隠れ家らしいからな。大戦中地下を掘って色んな場所へと繋げていたらしい。ペルシカの情報源によるとここもその一部があるみたいだ」

「憶測なのね」

「まあ。なにか隠してるのは事実みたいだがな」

 

俺は手に持っていたデバイスを45へと渡した。

 

「これって………」

「それを参照に探してくれ………まだ容量配分が悪くてすまないが」

「いいわ。それを支えるのも私達の役目だし」

「苦労をかける」

 

分かってると言わんばかりに微笑む45の姿を見てこちらも思わず口角を上げてしまう。彼女達には見えていないだろうけど。

 

「聞こえていたわねみんな。地下を探すよ」

「はーい!/ええ/え~……」

 

おいコラG11。

 

「さてと……頼むぜペルシカ。あんたの頼みだけで俺達を死なせてくれるなよ…………」

 

そうボヤきながら俺は小銃を構え、アイアンサイトを敵に照準を合わせるのだった。



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案件1-3:落ちた空

進化しすぎたテクノロジーは■■■■を殺す


先ほど飛び立ったヘリの一機がしばらくして帰ってきた。砂塵を撒き散らしながら整備されているヘリポートのへ降り立ち、そこから出てきたのは負傷した人達………ではなく、戦術人形達だった。

血は出ているが本物の血ではないので、人間のように激痛で魘されているような様子は見えない。だが、酷い個体を見ると足や片腕がない人形もいた。負傷しながらも五体満足の人形は損傷の大きい者に付き添い、支えながらヘリを降りてくる。

 

そんな中降り立った一人の人間と思わしき人物。

人形達の装備とは違い、背も高い。体格的にも男だろう。恐らく人形を指揮していた人なのかもしれない。

彼は兵士のように軍服を着てプレートキャリアを身につけヘルメットとフェイスマスクを装着している。顔バレしてはいけない人物なのかもしれない。

 

彼は真っ先にある女性の方へと歩いていく。しかも、フードを被った女の子を連れて………

 

「ねぇ。貴方だれ?」

 

男の方へ注目してたばかりか僕の横には、警戒した様子でこちらを見つめる女の子がいた。

腰まで届く暗い茶色の髪に左側にサイドテールを施しており金色の瞳に左目に傷跡がある。

 

「ここ。関係者以外立ち入り禁止のはずなんだけど?」

「ああ、ごめん。僕はこういう者なんだ」

 

首にぶら下げていたパスを手に取り、彼女の方へと見せる。

 

CIM(中央情報誌)のカメラマン。イーサン・アーネルさん………ね」

「一応、カリーナさんという方から立ち入りの許可は貰ってるんだけど………今はまずかったかな?」

「ん~……まずくはないけど、カメラに収めるのはやめておいた方がいいと思うわ。状況が慌ただしいからね」

「そうなのか?」

 

もしかして先ほど負傷して帰ってきた人形達と関係があるのだろうか?

 

「もし、教えれる範囲なら教えてくれないかな?一体、なにがあったのか………」

 

僕はそう言うと少女は少しだけ考え込む。

 

すると………

 

「………空がね。落ちてきたの」

「空が………落ちる?」

 

この少女の言葉の意味を知るのはもう少し先のことだった。

 

 

-1時間前-

side UMP45

 

指揮官の指示に従い、私達404小隊はあるかも分からない地下を探す。指揮官達が鉄血工造の人形達を食い止めているため、あまりモタモタしていられず徐々に焦りが出てくる。しかし、こんな時だからこそ冷静に行動しなければならない。

 

「9。なにか見つけた?」

「ううん。まだ何も」

「本当にここに地下なんてあるの?」

 

416が言うことはもっともなことだ。

だけど、指揮官から渡されたデバイスのレーダには波形が強くなっている。指揮官の言う通りここに何か隠しているのは間違いない。なおさら、この命令は後に引けないものなってきた。

 

「地下があるないにしてもここに何かあるのは間違いないわ。特にこの部屋ね」

 

恐らくこの部屋は負傷した人達が集められていた部屋だろう。無残に散らばったストレッチャーがそれを物語っている。

 

「ねぇ、これって血かな?」

 

すると、一人離れていたG11がなにかを見つけたようだ。

 

「………血ね。しかも、人間のものじゃないわ」

 

真っ先に駆け寄っていた416が赤い液体を調べ、それは私達が使っている人工血液だということが判明する。

だとすれば、この病院の中には私達と同じ戦術人形がいるのかいたのか………

 

「付着的にこの棚へと繋がってるわね」

「えっ?じゃあ、もしかして」

「もしかしてかも」

 

私は力任せに棚を左へとずらしていく。予想通り棚の奥には地下へと続く階段があったのだ。当然電気は通っていない為真っ暗だ。

 

さーて………なにが隠れているのだろう。

私は銃を構えながら下へと降りていく。カツンカツンという足音だけが空間へと響き渡り、一層不気味さを漂わせる。別にそういった恐怖というものは私には持ち合わせていないためなんとも感じない。

 

下まで辿り着くと、そこは靴元が隠れるくらい水浸しになっている。ライトを照らすとそこは思わず人形の私達でも目を疑いたくなるような場所だった。

 

「なに………これ………」

 

無残に散らばった人間の骨と壁には乾いた血であろうものが塗装されたペンキのようにこびりついていたのだ。昔、ここでなにがあったのだろう。

 

(まだ、肉体が残っているよりマシね………)

 

昔なら大問題のことだろうが、今はそれよりも………

 

「45姉!今あそこでなにか動いたよ!」

「うん。見えた」

 

証拠に水紋がこちらまで伝わってきており、棚の後ろに何か隠れているのは間違いない。

私はその方向へ銃口を向けながらゆっくり近づいていく。

 

「大人しく出てきなさい。さもないと発砲するわよ」

 

待つこと数秒。私の警告に従うのか大きな水紋が伝い、水を弾く音が荒々しくなる。

すると、そこから出てきたのは子供だった。背丈はG11くらいだろうか。汚れたフードを被り私達に警戒しながらも両手を上げながらゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 

「止まって。妙な動きを見せたら撃つわよ」

 

子供は私のいう通りにその場へと動きを止めた。

私は後ろで構えている三人にアイコンタクトを送ると、慎重に子供の方へと歩いて行く。フードへと手を伸ばし、一気に捲り上げた………

 

「女の子………」

 

しかも人間じゃない。ここへ来るまで追われていたのか、皮膚が裂けた箇所には金属のフレームが見えていた。恐らく先ほどの血はこの人形のものだろう。

 

「あなた何者?IOP?鉄血工造?」

「………ぞう」

「なに?」

「て、鉄血工造………」

 

その言葉を聞いた途端、私達の警戒の構えが一層強くなり、自然と指にかかっているトリガーの力が強くなる。

 

「何で鉄血の人形がここにいるのよ」

「イントゥルーダーの差し金?」

「ち、違う!ボクは………!?」

 

突然、この人形の表情が変わった。何かに怯えてくるのように一瞬で顔が青ざめたのだ。

 

「は、早く逃げて!」

「突然どうしたのよ。こいつ………」

「空が………空が落ちてくる………」

「…………」

 

………不服だけど、こいつの様子を見る限り嘘を言っている様子はなさそうだ。私はすぐに指揮官へと通信を行う。

 

(繋がらない………)

 

地下だから電波が繋がりにくいのか………面倒だけど。

 

「私は指揮官にこの事を伝えに行くわ。あなた達はこの人形を見張ってて」

「わかったわ」

 

私を銃口を下ろし、指揮官がいる地上へと走っていく。

 

(なにか………悪いことが起きなければいいけど)

 

-side Avenger-

 

「ちっ……キリがねーな………」

 

病院跡に立て籠もってから数十分が経過した。戦闘は依然に撃ち合いが続いておりイタチごっこ状態だ。しかも、もう残弾が少ないときた。404小隊が地下を発見したのならそこから離脱する手もあるのだが、妙なことに連絡が来ない。

 

「すみません指揮官。私がCPを破壊したばかりに………」

「そのことはもう言うな。俺が命令したんだ。お前が気にすることじゃない」

 

だがM4が罪悪感を抱くのは無理もない。CP(コマンドポスト)とは俺が戦術人形を指揮するのに必要不可欠の物なのだ。広範囲に渡っての指揮には戦術リンクと呼ばれるシステムが運用され、戦術マップにて敵の位置の把握、戦術人形達の同時指揮が行えるようになる。これが正規軍よりグリフィン&クルーガーの方が勝率がいい仕組みだ。

逆にCPがないと、人間のように無線でのやり取りによる指揮しかできなくなる為、一世代前の戦い方に逆戻り。今の時代、このように窮地に陥ることも珍しくはない。

 

それもそのはず。この世紀末のような時代に衛星なんて全て撃ち落とされているか機能しなくなっている。今や情報の習得はJ-STARSの情報にレーダーと電波頼りだ。このCPもペルシカが作らなければどうなっていたことか。

 

「指揮官。敵部隊が撤退していきます」

「なんですって?」

 

15の言葉に反応したM4が慎重に外の様子を覗き込む。

 

「………指揮官。AR-15の言う通り、鉄血の人形達が撤退していきます」

「……有利な状況で撤退するなんざ、なにかしでかす証拠だ。M4。上にいる二人に降りてくるよう言ってこい」

「はい!」

 

無線が使えたら口頭で伝えなくて済むんだが。

 

「指揮官。敵は何故撤退していくのでしょうか?」

「………15。こういう時の悪い予感ってのはよく当たるもんだ」

「え?」

「指揮官」

「45か……」

 

先ほど地下の捜索を支持した404小隊の隊長が戻ってくる。顔色ひとつ変えないのは彼女らしいことだ。

 

「地下はあったのか?」

「ええ。だから………」

「まて………なにか聞こえなかったか?」

 

俺の言葉にその場にいた全員が口を閉じた。

間違いなく外から聞こえてくる。なにかジェットエンジンのような音だ。というより………

 

「くそ!巡航ミサイルだ!!」

「指揮官!!早くこっち!!」

 

45に手を引かれその場を離れる。誰もが焦りの様子を見せた。なにせ、鉄血の奴らが巡航ミサイルなど使った前例がないからだ。

人間が住む空域には対空レーダーが張り巡らされているため、奴らが巡航ミサイル等を飛ばしてきてもすぐ撃破されてしまうのだ。ここも一応対空レーダーの範囲に入っている。一体、どうやって突破してきたというのだろうか………

 

(新型しかありえねーな………)

 

 

そんな思考が最後に俺の意識は衝撃と共に失うのだった。



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案件1-4:アイリス

信用してもいいの?


「………かん!!」

 

………頭痛がひどい。頭がクラクラする。おまけに身体が全身激痛が走るときた………手と足の指等を動かしてみるとなんとか五体満足なのは分かる。嗅覚も正常。焦げくさい臭いが鼻の中をつんざき思わず咳き込んでしまう。

 

「指揮官!!」

「っ………」

 

ボヤけた視界の中、照りつける太陽を遮るようにこちらに顔を覗かせる一人の少女の影。

 

「この声………15か………」

「はい………本当によかったです指揮官………」

「………あれから時間はどれくらい経ったんだ?」

「32分と24秒です」

「こまけーな」

「ふふ……そう言えるなら大丈夫そうですね」

「みたいだな…………お前らは全員無事なのか?」

「無事………とまでは言いませんが、完全に破壊された者はいません」

 

完全に破壊された者は………か。ということは手足など吹き飛ばされた重傷者はいるみたいだな。

視界が段々とクリアになってくると体中に走った痛みに耐えながら半身を起こす。

 

「15………お前」

 

俺は視界の中にAR-15を映すと思わず言葉を失う。

 

「………私なら大丈夫です指揮官」

 

と、彼女は苦笑いを浮かべながらそう言うも俺の気分は最悪だ。なにせ、彼女の左足の膝から下は無くなっていたのだ。

 

「大丈夫なわけあるかくそ………」

 

誰かが治療した後なのだろうが人工血液が流れ出ていた様子が伺える。

 

「私達は指揮官が無事なら大した損害じゃないってことよ」

「45………」

「無事で何より指揮官。全力で庇ったかいがあったわ」

 

そういえば記憶の最後に45が引っ張っていったのは覚えている。

 

「………ったく。俺を身を呈して守ってくれるのはいいがな。俺にだって良心くらいはあるんだ。お前らの心配くらいさせろ」

「指揮官………」

 

そう言うと俺は15の頭の上に手を乗せる。彼女は少し頬を赤らめて気まずそうにしながらも嬉しそうにはにかむ。

ここで45から狂気じみた笑みで見つめていることは何も言わないでおこう。

 

 

しばらくして、体を無理やり起こして辺りを見回す。

意識を失っている間に運び出されたのか、今は病院跡ではなく近くにあった広場にいた。病院跡は僅かに原型は留めているが半壊。周りの建物も同様の被害を受けていた。

 

クラスター(集束)式か………」

「ええ。でなければ私達全員木っ端微塵よ」

「笑えねーな」

「本当にね」

 

45の言う通り、巡航ミサイルが通常弾頭なら俺達は今頃肉片と化してただろう。もし、これがイントゥルーダーの仕業なら俺達はまんまと手の平で踊ろらせていた気分だ。

 

「指揮官。今回のことは予想外のことよ。あまり自分を追い込まないでね」

「………ああ」

 

こいつら(人形達)の優先事項は自分の心配よりも俺の心配か………人形らしい思考だが、俺的にはもう少し自分の身の心配をしてほしいところだ。

 

「この辺りの鉄血人形達は撤退したみたいよ」

「そうか………なら、帰投しよう。ヘリを送ってもらう」

 

ちょうどこの広場にはヘリが着陸できるスペースが十分とある。

 

「大丈夫。すでに呼んであるわ」

「仕事が早いな」

「ええ。指揮官の右腕みたいなものだからね~」

 

いつかこいつに仕事を取られてしまうのではないのかと思ってしまう。まあ、報酬も支払ってる立場だから楽にできるに越したことはないな。

 

「それで………部隊の損害は」

「全員生きてるというのはAR15から聞いたよね?」

「ああ」

「第一部隊は三人が手足の欠損による重傷。AR小隊はAR15とSOPMODⅡが部分欠損による重傷。私を含めて404小隊は地下にいたおかげで全員無事ね」

「………分かった」

 

全く………してやられたというのが本音だ、くそ。

「でっ…肝心の地下の件だけど………連れてきて」

 

45が後ろを振り向き404小隊の連中を呼びかける。すると、彼女達はある人物に銃を突きつけながらこちらへと歩いてきた。肩まで届いた赤髪でボーイッシュな見た目をしている。

 

(子供?)

 

彼女達が銃で警戒している時点でただの子供ではないということは察せる。

 

「こいつは?」

「こんな見た目でも鉄血工造の人形らしいわ」

「鉄血工造の人形だ?」

 

まあ、こっちも人のことを言えた義理じゃないが。G11だって側から見れば子供だからな。

今、変なこと考えただろうと察したのかG11が不機嫌そうに俺の方へと睨みつける。ここは気づかないフリをするのが正解だろう。

 

「それで?こいつとさっきの巡航ミサイルは関係あるのか?」

「それは分からないけど」

 

尋問しろってか?まあ、404小隊が単体の任務なら俺の命令なしにそうしてただろうな。

 

「さてと………ヘリが来る間までだが話をしようか鉄血の人形」

 

俺はプレートキャリアに装着してあるホルスターからセカンダリウェポンであるハンドガンを取り出す。その仕草を見ていた鉄血の人形は少し表情が強張った。

 

「聞かれた事だけを答えろ。でなければ問答無用で額に風穴をあけるぞ」

 

例えこんな子供のような見た目でも俺達の敵である鉄血工造の人形に変わりはない。この世界では見た目だけで情を和らげるのは命取りになるのが常識となっている。

 

「まず、あの巡航ミサイルはお前がやったのか?」

「ボクは………やってない………」

「すまん。言葉を間違えたな………お前が誘導したのか?」

「それは………間違ってない………と思う」

「こいつ………」

「待て!」

 

45はトリガーにかけた指が怒りを滲ませ自然と力が入ってしまっている。俺はそれをなんとか抑止させた。

 

「………言葉が曖昧だな」

「た、確かに巡航ミサイルが飛んできたのはボクのせいでもある………けど、ボクだって望んでたことじゃない………」

「つまり?」

「………奴らに追われてたんだ」

「追われてた……か」

 

となると、こいつは鉄血を裏切ったかもしくは脱走したことになるのか。

 

「……お前の身体の状態を見る限りそうみたいだな。何をやらかした?」

「それは………」

 

彼女は急に押し黙ってしまう。なにか言えないことでもあるのだろう?でなければこんな気まずそうに俯くはずがない。

 

「なに?なにか言えないことでもあるの?」

「…………」

「指揮官………撃ってもいい?」

「お、落ち着いてよぉ、45姉」

「判断を下すのは指揮官よ。冷静になって」

「45がいつもより怖い………」

 

45の気持ちはよく分かる。この鉄血人形が原因で巡航ミサイルが飛んできた事実は変わりない。おかげで仲間が半分と損害を負ったのだ。頭にくるのも当然だろう。

俺だって腑に落ちないところはある……が、こいつには敵意というものが感じない。信用できるかはまだ判断できないが、こいつの話を聞かないといけない気がする為、45の具申は却下させてもらう。

 

「あなたが…………指揮官なの?」

「………鉄血工造の人形なら全員知ってると思ったがな」

「ボクは………噂だけなら………」

 

噂か。イントゥルーダーといい、こいつらも俺をどう評価してるんだか………鉄血工造の幹部どもはあいつ(イントゥルーダー)みたいに全員病んでるんじゃないだろうな?

 

「で?お前が追いかけられていた理由は話す気にならないのか?」

 

またもや鉄血の人形は黙り込んでしまう。

 

「………ボクを………保護して」

「なに?」

「ボクを………保護してくれたら話す………」

「鉄血の人形が………保護だと?」

 

ありえない………今まで前例にないことだ。

こいつらは人間を殺すことしか考えない連中だと思っていたが………

 

「太々しい奴………」

「落ち着け45」

 

罠………という可能性はなくもない。こいつを信用するにはまだ情報が足りなすぎる。

 

………だが。もし本当に味方であった鉄血が狙われる理由があるとするならば、相当な理由を持っているのかもしれない。

俺はひたすら考えた。可能であるメリットデメリットをひたすら絞り出すまで。

 

「………わかった」

 

結果、俺はこいつの提案を受け入れる。

 

「指揮官?」

 

45の反応は当然だろう。彼女だけじゃない。この場にいる人形達全員が同じ反応を見せるはずだ。

敵を基地に招き入れるなんざ前代未聞のことだからな。特に鉄血の人形は………

 

「まあ聞け45。いいか?鉄血の人形。お前が保護してほしいなら俺は受け入れてやる」

「じゃあ………」

「だが、物事には順番というものがある。このまま敵である鉄血工造の人形を保護するって話も全員が全員納得できる話じゃない。現にお前の横で銃を突きつけてる奴らがそうだ」

「うっ………」

「で、先にお前を拘束という形で基地に連れて行く。監視、検査、そして尋問を行うだろうが不審な点がなければそこで初めてお前を信用して保護してやることを約束する。どうだ?」

 

横目で45を見ると完全には納得できていない様子だ。

だが、こうでもしないとこいつは連れて行くことはできない………この人形自身も自分の立場は理解しているはずだ。

 

「………わかった。あなたの提案を受け入れる」

「そうか………聞いたな?」

「…………了解」

 

ここで初めて404小隊の警戒が解けた。

 

「今からこいつは監視付きながらもゲストだ。俺の指示なしにこいつに勝手に手を出すのは一切禁じる。いいな?特に45」

「分かりました~」

「指揮官。ヘリが来ました」

 

416が双眼鏡で空を覗きながらそう言った。確かによく耳を澄ませばヘリのローター音が聞こえてくる。

 

「さてと、撤収するぞ。動けるものは負傷した奴を背負っていけ」

 

ヘリが来るまでの間。俺は負傷した者の側へと向かい声をかける。どいつも大丈夫だとしか言わないから大したものだ。

 

そうしている間にヘリが降りてくると、人形達は仲間に肩を貸しながらそれぞれにヘリにの中へと搭乗していく。

 

「指揮官。ダミーは置いていかないの?」

「ああ。どの道、ここは鉄血工造と正規軍にとっても用はなくなったからな。守る価値なんてもうないだろ」

「そう」

「おい、鉄血の人形」

「な、なに?」

「名前は?」

「えっ?」

「名前はあんのかって聞いてんだ」

「えっと…………」

 

このようなことを聞かれるのが初めてなのか、鉄血の人形は落ち着かない様子だ。

 

「………アイリス」

「そうか………俺はアヴェンジャーだ。好きに呼べ」

「う、うん………ありがとう、アヴェンジャー………」

 

 

この日。初めてグリフィンはアイリスと名乗った鉄血工造の人形を受け入れた。

 

 

 

この人形を中心に様々な陰謀が蠢いているのをまだ知らずに…………

 



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案件1-5:帰投してから

人間の命は一つだけ………


「やあアヴェンジャー。なにか収穫はあった?」

「ああ」

 

ヘリのローターで舞う砂塵の中、S09地区へと帰還するなりヘリポートにはある人物が待っていた。

 

気だるげに話して来たのは何故か猫耳があるマッドサイエンティスト………

ペルシカリア。第二世代戦術人形の開発者だ。俺は気軽にペルシカと呼んでいる。

 

「痛手な成果だがな」

「それは本当にごめん。まさか、向こうが巡航ミサイルを所持しているなんてね」

「ああ。俺達も予想はしてなかった」

 

降り立ったヘリから負傷した人形達が抱えられて降りてくる。すると、すぐ側には側面に赤十字のマークが描かれたハンヴィーが用意されていた。

 

「修復の手筈は整っているから、明日には全員回復してるよ」

「助かる」

 

せめての詫びなのかペルシカは頭を掻きながら気まずそうに言った。

 

「それで……こいつの件だが」

「こいつ?ああ………今回の収穫ね」

 

アイリスをペルシカの前に連れてくる。

 

「鉄血工造の人形ね」

「ああ」

 

俺はアイリスを連れてきた理由を話した。ペルシカはなんとなく納得した様子で軽く頷くと。

 

「なるほどね。そういうことなら任せて。一度、今の鉄血工造の人形を調べてみたいと思ったんだ」

「おい、マッドサイエンティスト………改造するんじゃねーぞ」

 

ペルシカの言葉にビビったのかアイリスは俺の後ろへと涙目を浮かべながら隠れる。

 

「分かってるって」

「はぁ………おいVector」

「なんだい?」

 

たまたま近くにいたVectorへと声をかける。

 

こいつ(ペルシカ)がいらんことしねーか見張っといてくれ」

「分かった」

「ちょっとぉ……信用してよ」

「いいからとっとと行け」

 

足にしがみついていたアイリスを引き剥がし、ペルシカとVectorと供に歩き去っていく。

 

「指揮官さま~!」

 

やっと話が終わって解放されたかと思った矢先。ある少女がこちらへ走りながら叫んでいる。

 

「カリンか。どうした」

「お戻りになられたのですね。丁度よかったです」

 

タブレットを片手に親しげに話してくる女の子。

カリーナ。俺が入社してから親しくしてる人物の一人であり、この世界で信頼できる一人でもある。立場的には秘書的な立場で俺がいない間は代理を務めてもらっている。

 

「CIMの方が来られているのですが………どうします?」

「あの情報誌の奴が?」

「なにか、話を聞きたいご様子でしたので」

「悪い………今日は断ってもらってくれ」

 

今日はなにかとゴタゴタしすぎたのだ。この後、報告書やら色々やらないといけないことがあるため今日は対応できないだろう。あと、疲れがピークに達するためそれどころではない。

 

「わかりましたわ」

「宿舎の一部でも貸してやってくれ。その辺のことはお前に任せる」

「はい。お任せください」

 

いい笑顔で頷くものだ。

 

(さて………早めに終わらしてとにかく休むか)

 

明日ごろにはヘリアンから今回の間に関して詳しい連絡が来るだろうからな。

 

 

 

 

俺は昔の綺麗な地球の姿を見たことがない。生まれて物心がついた時にはこの世界は瓦礫と死体で地面が埋め尽くされていた。

その時から人の死を見てもなんの抵抗もなく現実を受け入れた。だって、それが今の世界の姿なのだから。

ただひたすら………屍の道を歩むしかないのだ。

 

フロントライン(前線)という名の道を………

 

 

 

 

「っ…………」

 

薄っすらとした意識……微睡みの中から徐々に意識が覚醒していく。カーテンの隙間からは日の光が木洩れており、あれから1日が経ったのかと思うと複雑な気分になってしまう。

 

それにしても嫌な夢を見てしまった………

 

(PTSDも患ってんのか………俺は………)

 

魘されていたのか額に触れると汗でべっとりとしている。

 

シャワーでも浴びよう………

 

そう思い立ち上がろうとすると、布団の中に違和感が伝わってくる。

何故、右側の掛け布団が膨らんでいるのだ?呼吸するのような動作もしている。

 

(またか………)

 

思わず頭を抱えてため息を吐いてしまう。なにせ、心当たりもあり前例もありまくりだからだ。最初は声を上げて驚いたものの、今では呆れる一方。

 

「おい、9………テメェ、いい加減人の部屋に入るのやめろ」

 

バサっと勢いよく掛け布団を捲り上げる。そこには横向きで寝ながらアヒル口で何のことやらと惚ける9の姿があった。

 

「いや~………昨日のことで落ち込んでるかなと思って来ちゃいました」

「来ちゃいましたじゃねーよ」

 

んな可愛い顔をして許されると思うなよ。てか、電子ロックで閉めてるというのにどうやって入ってきてんだこいつは………

 

「指揮官~………これなに?」

「…………」

 

ベッドの下からヌーッと出てきたのは45………ホラーだ。

両目の瞳に光が灯っておらず、なにかご立腹な様子。なにせ、45が両手に持っているのは成人雑誌だからな。

 

(はぁ………面倒な性格が裏目に出たか………)

 

俺はこう見えても面倒くさがりな性格だ。といっても、部屋の整理整頓などは日頃からは心がけているのだが、私物の管理に関してはズボラなところもある為よく無くすことがある。ちなみにだが、45が持っている雑誌は俺のものではなく前にいた部隊の奴に貰ったものだ。あまり興味がなかったため放ったらかしにしておいたのだが………まさかこんな所で見つかるとはな。

 

「言っておくが、俺のじゃないぞ」

「ふ~ん………」

 

こいつ信用してねーな………

 

「第一そんなものに俺が興味あると思ってんのか?」

「男なんだから興味ないわけがないよね?だって、この時代にどうやって性欲を処理してるわけ?」

「うるせーよ」

「指揮官!私がいるのにどうしてあんな本なんかに浮気するの!?」

 

9は半身を起こして俺に詰め寄りながら雑誌へ指をさして叫んだ。

そんな言葉どこで覚えたんだか………

 

「いいからお前らとっとと自分のセーフハウスに帰れ。なんでまだここ(グリフィン)にいやがんだ」

「いいじゃない別に」

「だって、ここ居心地がいいからね」

「だったら用意した宿舎に戻れ」

 

深いため息を吐くと、俺はベッドから降り、シャワー室へと向かう。

 

「………お前ら入ってきたら分かってるだろうな?」

「「…………」」

「…………」

 

まあいい………一応こいつらを信用するとして早く汗を流すか………この後ブリーフィングをしないといけないからな。

 

 

 



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案件1-6:後日

作戦立案は慎重に


「SOPとAR15。体はもう大丈夫か?」

「うん。この通り思いどおりに動くよ」

 

SOPは笑顔のままそう言うと片腕を回した。

 

「よし………諸君、静粛に。これからブリーフィングを始める」

 

暗くなった部屋に投射モニターを映し出し、ブリーフィングの内容をマップと共に表示する。

 

「先日の戦いに参加した部隊はご苦労だった。破壊された者がいなくてなによりだ」

「指揮官は大丈夫だったの?」

「ああ。軽い切り傷や打撲だけで済んだ」

 

報告書などをまとめてから自室に帰ってからシャワーを浴びたが全身のあちこちから痛みが走ったのは言うまでもない。

 

「話を戻して、昨日の巡航ミサイルの件についてだが………ヘリアンから詳しい詳細が送られている」

 

俺はそう言うとモニターの画面を切り替える。

 

「昨日俺たちに向けて発射された巡航ミサイルはS14地区から発射されたと見ている」

「そこって極寒の大地じゃない」

 

S14地区とはここS05地区より上にある場所だ。ここも肌寒い方だがむこうはそんなレベルじゃないだろう。

 

「種類はクラスター(集束)式。標的に向かって広範囲にばら撒くやつだ。これがもし目標が大隊か師団規模なら大損害を負っていただろう。もちろん、部隊を率いている俺達も例外ではない」

 

俺達も損害を出したとはいえ、全員生き残っているのは奇跡というか悪運が強いというか………まあ、どちらでもいいが、損失するような被害が出なかったのはいいことだ。

 

「俺達を消し去るなら通常弾頭でもよかったはずだが………奴らはそうしなかった。そこは気まぐれなのかあえてそうしなかったのか………まあ、過ぎたことを考えても仕方ない。それに、問題は鉄血の奴らが巡航ミサイルを所持していることだ」

「もしかしたら、人間が協力している可能性もありますね………」

「その通りだM4。俺も同じことを思ってる。鹵獲されたとなると納得できるが、正規軍からも奪われたという報告は受けていない。そうなると、あんな高度で精密なものを作れるのは技術者である人間が関わっている可能性が大きい。もしかしたら、イントゥルーダーが俺をスカウトしてきたのも何かしら理由があると見ている」

 

その言葉を聞いた人形達はざわめく。まあ、無理はないな。

 

「ミサイルの件に関しては正規軍と合同で調査を進めているらしく、判明次第連絡がくる手はずだ…………そしてもう一つ、ヘリアンから同時に任務の内容が届いている。詳細は制圧任務だ。S09地区から東へ行ったところに敵の司令基地からあることが判明した。規模的には大きくないものの抵抗は予想される。かといって俺達の敵じゃない。その為、ハンドガン、サブマシンガンとアサルトライフルを中心とした部隊で制圧を行う。期間は指定されていないが、ミサイルの脅威もあるため3日以内には終わらせる予定だ。部隊編成の内容は後日知らせる………ブリーフィングの内容は以上だが、なにか質問があるものは?」

「はい」

 

左側にテーブル上へ座っていたスコーピオンが手を挙げる。

 

「昨日鹵獲………じゃなくて、拘束した鉄血工造の人形はどうなってるの?」

「今のところペルシカの検査待ちだ。それが終わり次第、俺が尋問を行う予定だ。そこで不審な点がなければ、晴れて無罪放免………というわけじゃないが、保護する形だ」

「信用できるの?」

「さあな。だが、信用できるかできないかはアイリスがなにを語るかだな………他には?」

 

静まり返るブリーフィングルーム。どうやら誰も質問はないらしい。

 

「よし、ブリーフィングは以上だ。行動があるまで各自自由にしてくれ。以上解散」

 

俺の言葉と同時に投射モニターは消され、部屋は照明で明るさを取り戻す。同時に集まっていた戦術人形達は雑談をしながらもブリーフィングルームから退出していく。

 

「指揮官。この後のご予定は?」

 

片手にファイルを手に持つと、前の席に座っていたスプリングフィールドがこちらへやってきて話しかけてくる。

 

「ペルシカの所へ行って検査の報告を聞きに行く。その後、さっきも話した通りにアイリスの尋問を行う予定だ」

「そうですか。なら、私は作戦の立案でもしておきます」

「ああ。そうしてくれると助かる」

 

今回の任務以外にもやることがあり過ぎて正直オーバーワークすぎて困っていたところだ。その中でスプリングフィールドの補佐ぶりには感心する。副官としての働きぶりは誰もかなわないと俺は思っている。

 

(さてと………ペルシカの元へ向かうか………)

 

 

-side Ethan-

 

昨日、カリーナさんから『指揮官様は本日多忙ですので、後日以降だとありがたいのですけど………もし、多忙でなければ宿舎も貸してくれると言っていましたのでどうなさいますか?』と言われたので急かされている仕事もないため、僕は言葉に甘えて泊まらせてもらうことにした。普通なら追い出されているところだが、ここは懐が大きいようだ。指揮官には感謝しないといけない。

 

そして、翌朝となり僕は食堂へとやってきていた。ここではクルーガー社の社員や戦術人形達が混じって食事を行なっている。どうやらここにいる人達は戦術人形に偏見を持たない人達が多く見受けられる。人形達も食料を食べることで精神状態などを維持していると社員の人達から聞き、僕達人間とさほど変わりがなのだと改めて思ってしまう。

そう思いながらトレーに乗せられた食べ物をスプーンですくい、口の中へと運ぶ。街中のレストランで出されるものより味はマシだが、やはりどこか素っ気ない味だ。

 

贅沢は言えない。こんな世紀末のような世界では作物や家畜なんて一部限られた地域でしか育てられず、野菜も肉も種類問わず高級品だからだ。最後に肉を食べたのはいつだろうと思い返せるのはいい思い出と言っていいのだろうか?

しかし、他所からやってきた人に食事を提供してくれるのもここの指揮官のおかげだろう。以前に他のPMCの基地へ取材へ行った時なんかMREをそのままトレーに乗っけられただけとか、時には栄養ブロックや水すら与えてくれないところもあった。

 

他の基地と違って空気が張り詰めていないのが不思議だ。普通なら話しかけるだけでも嫌な顔をされるのだが、ここの社員達はみな快く話をしてくれる。それだけグリフィンの景気はいいみたいだ。

 

(どうりで他のPMCの顔が渋ってる訳だ………)

 

話を聞く限りだと今いる指揮官が来てから鉄血工造との勝率が上がったらしい。指揮官として就任してばかりだというのに不可能だと言われた作戦を成功させたことから評判はよくなったという。

だが、その中でもよく聞くのが指揮官が自ら前線へ出て戦うのだとか………最初は僕もそんなバカなとは思ったが本当のことらしい。そうなれば昨日ヘリから降りてきた人間の男性と思われる人物はこの指揮官だったのだろう。まさか不在の理由が前線へ出ていたと分かると驚愕してしまう。

 

だからこそ、僕のジャーナリスト魂が熱くなっている。

 

衛生兵の事とは別にあの指揮官のことも気になり始めていたのだ………

 



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案件1-7:尋問

人間が全員貴方みたいだったら今みたいにはならなかったのかな?


ペルシカがいる部屋までやってくると、薄暗い部屋の中で彼女はコーヒーを啜りながらパソコンのキーボードを淡々と叩いている。

 

「ペルシカ。検査は終わったのか?」

「ん?うん。さっき終わったところ」

 

俺が声をかけるとペルシカはいつも通り気だるげに言葉を返した。

 

「どうだったんだ?」

「ん~……特に以上は見当たらなかったよ。ウィルスを仕込まれた形跡や追跡装置等の機器も見当たらなかった。彼女………アイリスだったかな?アイリスの言う通り、同じ鉄血でも追われていたのは本当みたい」

「そうか」

「傷もあったから一応治しておいたよ」

「………改造してないな?」

「Vectorに見張られていたし、してない」

 

まあ、それを聞けてよかった。でなければ16LABへ送り返しているところだ。

 

「それで。アイリスはどこに?」

「空き部屋。今はVectorに見張らせているよ」

「なら、丁度いい。Vectorに連絡して尋問室まで連れてくるよう伝えてくれ」

「了解」

「あと、彼女に連れて来たら休むよう言ってくれ」

「それも了解」

そう言い終えると俺は彼女へ背を向けて部屋から出て行く。

 

 

-数十分後-

 

『ここで待ってて』

『あのー……ボクはこれからなにを………』

『指揮官が来て説明してくれるから』

『…………』

 

鏡越しに無表情のまま不安になっているアイリスを見つめながら淡々と話しをする姿が映る。当然向こうからはこちらの姿は見えていないし、壁にしか見えていない。声もこちらからONにしないと届かない仕組みになっている。民間にしては昔にあった映画さながらの設備だ。

 

それよりもVector………ペルシカから休めって聞いてなかったのか?

 

「カリン。機器の調子は?」

「問題ありませんわ」

 

機材の前に座っているカリンは、無数に付いたボタンやダイヤルを調整しながらそう答える。

 

「すまない。少し遅れた」

 

すると、ドアからこちらの部屋に入って来たのは左目にモノクルをかけたクールな外見をした女性。

 

「全くだヘリアン。5分の遅刻だぞ」

「そう言わないでくれ。先日の任務の件で正規軍と報酬の交渉で手間取ってな」

「………なら仕方ねーか」

 

交渉が相当難航していたのかヘリアンは疲れたと同時に呆れた顔を見せている。

 

「それで尋問の方は?」

「今からだ」

 

俺はそう言いながら尋問室へ向かうためヘリアンの横を通り過ぎようとすると………

 

「………信用できるのか?あの鉄血工造の人形は」

「それを今から調べるんだろ」

 

キリッとした表情を崩さずに俺へそう問いかけるヘリアン。やはり、鉄血工造の人形は信用しきれないようだ。

「奴らの新型コンピュータウィルスの件もあるんだ………安易に彼女を保護するのも得策ではないと思うが」

「分かってる………」

 

ヘリアンの気持ちは分からなくもない。彼女が言う新型コンピュータウィルスのことは俺も懸念してることだ。

 

"雨が降った、平原に"

 

この言葉が意味することはまだ分かってはいないが、俺達に脅威となり得るのは間違いはない。そのため、アイリスを匿うのもあまり得策ではないと思う自分もいるのは確かだ。

 

しかし、その新型コンピュータウィルス以外にも脅威があるのは明白なのだ。この件もあまり妥協はしてられない。

 

「だが、アイリスが持っている情報も何かしらの脅威につながる手がかりかもしれない。一応、彼女と信頼関係を築くのもある意味策だと思わないか?」

「信頼関係か………ふっ。まさか、指揮官から冗談が聞けるとは思わなかったな」

 

冗談?俺が?

 

今のは皮肉げに言ったつもりだが………まあいい。とっとと尋問を始めるとするか。

 

 

 

 

 

尋問室のドアが開き、部屋へと入ると正面にはテーブルの向かいに手錠をかけられたアイリスとその横には監視役のVectorが側についている。

 

「監視はもういいぞVector。休んでこい」

「了解」

 

Vectorはそう言うと表情を変えずにそのまま開いたドアから出て行く。相変わらず無愛想な奴だと思うが今更。あれでも俺がグリフィンに来た時よりは軟化している方だ。

 

それはさておき、今はアイリスの尋問だ。

 

「さて。あまり休めていないようですまないが尋問を始めるぞ」

「う、うん………」

 

俺は椅子を引き、腰掛けると軽くため息を吐きこれから質問することをザッと脳内に整理する。

 

「先に言っておくがこの尋問の内容は全て記録される。言葉は慎重に選んで答えろ………まず、お前の所属と名前を答えろ」

「ボクは……アイリス。所属…………元?所属が鉄血工造」

 

再び自信をアイリスと名乗った鉄血工造の人形は緊張した様子で俺の方へと焦点を当てる。

 

「………単刀直入に聞く。お前は何故、鉄血に追われてたんだ?」

「それは…………」

「…………」

「…………」

 

お互い長い沈黙が続く。狭っ苦しいこの部屋に味方のいないアイリスにとって相当なプレッシャーを感じていることだろう。

 

「………なるほど。あくまでも約束を守ってくれるまでは話さないってことか」

「………ごめんなさい」

「いや、謝るな。逆に関心した」

「えっ?」

 

アイリスは俺の言葉が意外だったのかキョトンとする。

保身の為に走る奴だったらすぐ話していただろうし、信用もしないのは当然のことだ。それなのにアイリスは尋問とはいえ、先日の約束が守られるまで話そうとはせず黙秘を貫くつもりだろう。どっかの小心者の鉄血工造の人形とは違い見た目に反して度胸はある奴だ。

それに………アイリスが持っている情報が重要なものだとしたら悪用されることを懸念してるのかもしれない。アイリス自身も俺という人間を見定めているのだろう。

 

「質問を変えよう。どこから逃げてきた」

「それは………北からずっと降りてきたんだ。あいつらの追跡がかなりしつこくて」

 

北か………少なくも寒冷地で山岳地帯が目立つ場所だ。鉄血が隠れて基地を作るにはもってこいだな。恐らく北から降りてきたと言うならS05地区付近を通ったのは確かだろう。

 

「武器も持たずによく逃げ切れたな」

「事前に鉄血の情報をハッキングして地理を把握したからね………隠れ場所とか見つけるのに苦労はしなかったよ」

「そうか………」

 

大したものだ。鉄血のボスが追跡していた中、五体満足で逃げ切れたのは称賛できる。

 

(奴らが執着するということは、やはりこいつが持っている情報はかなり重要なものなのか)

 

断定はできないが俺の直感ではそう感じとれていた。なにより、鉄血にしてはアイリスの雰囲気が奴らと全く違うからだ。

 

「お前は何のために造られたんだ?俺から見れば戦闘向きではないのは分かるが………」

「それは………ボクも分からない。目が覚め時から戦闘に関するプログラムなんてなかったし、人間に関しても憎悪のような感情はなかった………」

「全員が全員じゃないと思うが………鉄血工造とは思えない発言だな」

「指揮官が鉄血をどう思ってるかは分からない………けど、ボクには本当に貴方達と敵対する意思はないんだ。信じて………」

「…………」

人間のように感情の起伏を見せながら訴えかけるアイリス。

俺はしばらく黙り込むと、軽くため息を吐くと口を動かし始める。

 

「正直なところ、信用できるかできないかで言えば………俺は信用してもいいと思ってる」

「………本当に?」

「ああ。でなければこんなのんびりと質問なんてしてないからな」

 

そう言いながら俺はヘリアン達がいるであろう部屋の方へとチラッと見つめる。恐らくだが何を言っているんだと表情を変えて聞いているに違いない。

 

「と言っても、保護………というより亡命のほうが正しいか。俺だけが信用してもどうこうできるって問題じゃない。お前の安全が保障されるでまだ少しかかるが………その時が来たら必ず話せ」

「う、うん!約束する」

 

(約束………か)

 

こんなこと45に聞かれたら甘いと言われそうだが、自分自身もそう思ってしまう。以前の自分なら尋問よりも拷問が当たり前だっただろう。そんなクズみたいな俺でも変われてしまったのだから、人形とはいえ彼女達との絆は案外と侮れない。

と言っても、俺の本性は根本的に変えられないのだが。

 

「さて、次は………」

 

それからというもの、約一時間くらい尋問が続いた。アイリスは疲れきった顔をしていた為、区切りがいいところで尋問は終了したが、ヘリアンが詰め寄って俺の真意を問いただしてきたのは言うまでもない。

 

 



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閑話:トラッカー

この世で一番残酷な生き物は人間………

今回はオリジナルの鉄血側の人形が登場します


人の気配がなく、ただ自動的に機械音が鳴り響く工場…………

ここはかつて人間が多数存在しては自立人形を生産していた場所だ。

だが、今はそんな活気あふれた景色とは遠くかけ離れ、天井は一部が抜け落ち、工場内もどこか不気味な空気が流れている。

 

そんな工場の奥である少女がテーブルの上へと座り、ノイズが走る巨大なモニターへと見つめている。

 

「………あら。帰ってきたのねイントゥルーダー」

「ええ」

「ふふ………なんだかご機嫌なようね?」

「見なくても分かる?」

 

少女の問いにイントゥルーダーは珍しく揚々とした口調で返答した。問いかけた少女も「声を聞いたらね」と言葉を返す。

彼女の言葉通り、少女はイントゥルーダーの方へと振り向きもせずに機嫌がいいことを当てた。もちろん慣れているイントゥルーダーはその事には驚きもせずに話を続ける。

 

「また彼に会えたのよ」

「彼って………ああ。あなたが言うグリフィンの指揮官のこと?」

「ええ。素敵だったわ………私のスカウトを人蹴りして突然グレネードランチャーを撃ってきたの」

「………それを素敵だと言える貴方の神経は理解できないわ」

 

味方とはいえ、イントゥルーダーの言葉に異常なものを感じ取った少女は少し引き気味な様子を見せる。

 

「分からなくて結構よ………でも。あんな予測できない行動をされたらゾクゾクするわ」

「………イかれてるわね」

 

そんな率直な感想を言い放った少女はやっとの事でイントゥルーダーの方へと振り向いた。イントゥルーダーの服ははだけておりなんともはしたない姿だろうか………顔や体には生体フレームが少々剥がれ落ち、機械部が見えている。そんな状態になりながらも笑いながら話すイントゥルーダーを見てイかれてると言う言葉は正解だろう。

そんな姿に少女はただ目を細めながら苦笑いを浮かべるしかなかった。

敵ながらもグリフィンの指揮官には同情してしまう。

 

「それよりも。脱走者は捕まえたの?それとも死んだのかしら?」

「残念ながら。グリフィンに連れていかれたわ」

「そう………巡航ミサイルを飛ばしてまで取り逃がすなんて」

「クラスター式を飛ばしておいてよく言うわ」

「…………ごめんなさい。それはこちらの手違い」

 

バツが悪そうに表情を曇らせる少女を見たイントゥルーダーは微笑みながら軽く息を吐く。

鉄血の人形にしては素直な性格をしている少女のことを理解しているのでイントゥルーダーに責める気など全くなかった。また、少女も上にいる存在に命令されて実行したに過ぎず、彼女を責めるのは間違っていることも承知なのだ。

 

「そもそも。私はその巡航ミサイルが気に入らないわ」

「なんで?」

「アヴェンジャーがバラバラになっちゃうじゃない」

「あっそ」

 

やはりイかれてる………いつからイントゥルーダーはこんなメンヘラな性格を持ってしまったのだろうか?

そんなにグリフィンの指揮官との出逢いが衝撃的だったのかと少女は疑問を抱いてしまう。

 

「でも………あんな程度じゃ彼は死なないけどね」

「あら。随分と信用してるのね?」

「信用?違うわ………」

 

ここで愛だとかぬかせば一発撃ってやろうかと思った少女だが、

 

「分かるのよ。彼は私達人形以上に狂った存在ってことをね」

「病みモードのオンオフが激しくて混乱してきたわ………まあ、いいわ。それよりも、貴方が心酔しているアヴェンジャーとはそんなにイかれてるのかしら?」

「ええ。なにせ、エクスキューショナーとマンツーマンで殺り合ったのよ?そんな人間何処にいると思う?」

 

(噂は本当だったのね………)

 

処刑人という名を持つ彼女は太刀とハンドガンを巧みに使って戦うことで知られている。正規軍もグリフィン以外のPMCもエクスキューショナー率いる部隊の前では太刀打ちできず何度も撤退に追いやられてきた。

 

そんな彼女を前にして一人の人間が立ちはだかったという噂が鉄血内で流れては話題になったのも最近の話。しかも、正規軍の大隊ですら倒せなかったエクスキューショナーの部隊を壊滅させ、彼女もグリフィンの指揮官とM4に倒されたというのだ。

少女はそんなバカな話があってたまるかと思っていたのだが、イントゥルーダーの話を聞く限りでは嘘を言っているようには見えない。

 

「よく生きてたわね彼」

「無傷ってわけじゃないみたいだけど………五体満足で生き残ったのはアヴェンジャーが初めてね。私も実際に見たわけじゃないけど、エクスキューショナーが最後に送ってきたデータにそうあったのよ…………」

 

それはエクスキューショナーが倒される前に主観映像と音声………そして、彼女の心の声が記録されているものだ。

 

なぜ私はその映像を見てないんだ?と少女が疑問に思ったのは割愛させてもらう。

 

だがイントゥルーダーは少女の気持ちを悟ったのか腕を巨大モニターへと伸ばし指を動かした。すると、そこに映し出されたのは主観で動く映像………エクスキューショナーの主観映像だ。

 

"M4A1とグリフィンの部隊が合流されるとさすがにオレでも太刀打ちできないと感じ、ある作戦を実行した。作戦と言っていいのか分からないが………まあいい。向こうには都合よく指揮官が前線へ出向いてるとの情報が送られ、そいつを殺すことにする。罠と言った方が納得するか………"

 

"その罠に見事はまってくれたグリフィンの指揮官は孤立。オレは真っ向から立ちはだかり、奴を殺すことにする。指揮官が死ねばグリフィンの部隊やM4A1はどんな顔をするだろうか………"

 

"物事とはうまくいかないものだ。グリフィンの指揮官は思ってた以上にしぶとい。戦い方を分かってるのかオレの攻撃を避けては反撃を食らわしてくる………"

 

"見事に一発くらっちまった………普通の人間なら絶望の顔をするというのに。前に殺った正規軍の将校とは違い、命乞いなどせずオレに立ち向かってくる…………チッ、戦いにくいったらねーな"

 

"ライフルを真っ二つにしたが、グリフィンの指揮官は片手にハンドガン、ナイフを持って尚オレに挑んでくる………手足などを何度か斬って刺して撃ったと言うのに…………なんて奴だ。グリフィンの指揮官は絶望した目などを見せずむしろ闘争心………いや、殺意を詰め込んだ目でオレを見てきやがった………認めたくはないが………オレは初めて"恐怖"というやつを覚えた………"

 

"…………もし、オレがこいつに負けて、次誰かが殺り合うなら忠告しといてやる…………このグリフィンの指揮官は私達以上に化け物だ。戦うなら覚悟しとくんだな………"

 

これ以上音声はなかったが映像ではアヴェンジャーとの死闘の様子が映し出される。言葉通りアヴェンジャーの体はボロボロで、所々に斬られたような箇所から血が流れている。

 

それでも戦い続ける姿に少女はただ黙って見るしかなかった………

 

ターゲットであるM4A1。そして、グリフィンの指揮官によって倒され、映像はそこで途切れてしまう。

 

「………エクスキューショナーにここまで言わせるなんてね」

「私も初めて聞いた時は驚いたわ。特に最後の言葉にはね」

「化け物………ね。貴方と戦った時はそうだったの?」

「いえ?その時は普通に人間らしい戦い方をしていたわ」

「人間らしく?」

「私聞いたことがあるんだけどね………一部の人間には死の直前まで追い込まれると真の力を発揮するらしいわ」

「真の力?」

「生きようとする本能と言うのかしら。人間は脆く、命は一つしかないからね」

 

確かにイントゥルーダーの言う通り人間は脆い。人形と違い、銃弾を一発受ければ致命傷となり、状態によっては戦えなくなってしまう。そして、人形のようにバックアップの体など無く、命の鼓動が止まってしまうと迎えるのは死だ。

 

「要するに………彼は追い込まれるほど強くなると捉えていいのかしら?」

「そうね」

 

なるほど………イントゥルーダーが熱中するのも分かる気はする。

少女は少しだけ俯くと……

(グリフィンの指揮官"アヴェンジャー(復讐者)"ね…………私も一度話をしてみてくなったわ)

 

心の半分………グリフィンの指揮官という人間が気になり始めていた。

 

「ふふ………貴方のお陰でアヴェンジャーに興味出てきたわ」

「それはよかった」

「まあ、その話はひとまず置いておきましょうか。今の問題はあの裏切り者よ」

「アイリスのことかしら?」

「ええ………まあ、裏切りかどうか微妙なところだけど、彼女がグリフィンに連れて行かれたということは………知られたかしら?」

「恐らくね」

「でも、焦る必要はないわ。あれの特定には優秀な指揮官とはいえ時間はかかるだろうし」

「見つけたとしても………彼女が教えてくれるからね」

「ええ…………」

 

でも、それ自体の起動はまだしないだろう…………

 

だってそれは………この戦争に混沌をもたらすのだから………だって、お楽しみというやつは最後までとっておきたいじゃない?

 

「次は貴方が前線に出るのかしら"トラッカー(追跡者)"?」

「ええ………一度、向こうの指揮官とお話ししてみたいからね」

「そう………でも気をつけてね。慎重に接触しないとすぐ撃たれちゃうから」

「貴方の話とエクスキューショナーの情報で学んだわ…………」

 

少女はくるりと回転しながらテーブルから降りる。

 

だが、それよりも………

 

(待ってなさいアイリス…………私が必ず貴方を壊してあげるから………)

 

三日月型口角を上げる微笑みはイントゥルーダーには見えなかった。



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案件1-8:夜間行軍

人間が滅ぶまで戦争は終わらない………


今回は架空組織が登場します。


「………こちらアヴェンジャー。12時の方向に敵二人を確認。一人は塔の上だ」

 

俺は一人離れた所でM4達AR小隊をスナイパーライフルを構えながら見守っている。

スナイパーライフルをバイポッドで支え、何十分もうつ伏せでいるためそろそろ腰が痛くなってきた。

そんな独り言はさておき、今は任務に集中だ。相手の距離はザッと見て250メートルだろうか。俺の腕では余裕の射程圏内にある。

 

M4A1≪了解。確認しました≫

 

「敵とは聞いていたが………まさか、反人形人権連盟とは聞いてないぞ」

 

M16A1≪まあ、指揮官と同族だからな。思うことは分かるよ≫

 

あんなクズみたいな連中と同情されたくはないがな。

 

M4A1≪指揮官。交戦規定は?≫

 

「一応、ヘリアンに問いただしたが無しだそうだ。奴らに対しては慈悲がないみたいだからな」

 

上記通り同情はしない。

反人形人権連盟とは名の通り、人形に人権を与えるなとか弾いているくだらない連中だ。

彼らが決起するきっかけとなったのは蝶事件のことが大きいだろう。表向きは人形を戦争に参加させることを反対たり人権を剥奪しろなどほざいている連中だが、本性は人形を拉致しては虐待や性的暴行を加えるというイカれた奴らだ。俺達は被害にあったことはないのだが、主にPMCの人形を標的として定めており、上記で言っただけではなく違法的に売買されている。理由としては単純にIOP社の人形は性能がいいからだろう。俺的には鉄血よりもこいつらを駆逐したいところだが………そう言ってしまえば頭のネジが外れたかのような発言と思われるだろうから言っておこう。

しかし、奴らが手を出しているのは人形だけではないのだ。

 

同類である人間にまで拉致等と及んでいるらしく、各地域では奴らが占領している地域があるときた。情報によればテロを起こしているのもこいつらも関わっているらしい。正直、鉄血工造よりもタチが悪いな。

そのため、グリフィンを含む民間軍事企業と正規軍は連携して奴らの根絶を図っているところだ。

今まさに現在進行形でな。

まあ、このようなイカれた組織はこいつらだけではない為、根絶するには長い年月が必要だろう。

 

要するに敵は鉄血工造だけではないというのはこういうことだ。

 

「同時にやるぞ。塔にいる奴は俺が仕留める」

 

M4A1≪はい≫

 

「スリーカウント。3…2…1…………グッドキル」

 

スナイパースコープのレティクル越しに見えるのは屍と化した武装した人間の姿。壁には血液が飛び散ってこびり付いていた。

ったく。夜間だというのに灯火管制も敷かないのかこいつらは………

 

M4A1≪これより飛行場に入ります≫

 

「了解」

 

SOPMODⅡ≪ねえねえ指揮官?派手にやっていいの?≫

 

「ああ。だが、第一部隊の応答を待て」

 

戦術リンクがとれている今ではリアルタイムで第一部隊の戦況が伝わってくる。作戦では第一部隊と同時に敵拠点に攻撃を仕掛けるといったシンプルなものだ。と言っても、単純に敵が敵なため、頭を使うような作戦を実行する必要もない。

 

もちろん、油断はしないがな。

 

グリズリー≪こちらグリズリー。指揮官。戦闘準備完了だよ≫

 

「了解。だそうだSOP。好きに暴れろ」

 

SOPMODⅡ≪りょうかーい!よーし!暴れるぞー!!≫

 

「ついでに言っとくが人間の目ん玉くり貫くのはナシだからな」

 

以前SOPは鉄血の人形を壊しては目玉をくり抜いて俺にお土産として持って帰るのがしょっちゅうあった。あの時はさすがに俺でも引いてしまった。

側から見ればあまり良く思われない為、やめるよう注意はした。

それからというもの最近は頻度的にはマシになっているのだが………

 

あとは察してくれ。

 

そんなことを思いながら再びスコープを覗くと飛行場内から銃声が聞こえてくる。AR小隊が敵と接敵したのだろう。

 

「さて………こちらも仕事を始めるか」

 

そう言いながら、飛行場の中へと射程を定める。突然AR小隊が奇襲をかけたせいか、敵さんはパニックになりながらも両手にライフルを持って交戦している。

 

まだ(スナイパー)がいることを知らずに………

 

「背中を向けるとはいい度胸だな………アマチュア共が」

 

重力の影響に距離と風速を計算し、自身の呼吸を制御しながらレティクルをやや右上と上げてトリガーに指をかけて引く。

肩から全身へと衝撃が伝い、一発の弾丸は重力に引かれながらも俺が定めたターゲットへと向かって飛んでいく。

 

命中………ヘッドショット………

 

一人脳天を撃ち抜かれ血が霧のよう分散した。

奴らはどこから攻撃されたのか分からないのかパニックが更に強くなっていく。なら、今のうちに敵の数を減らしていくか。

 

M16A1≪やるなぁ指揮官。最近狙撃してるとこ見てないから腕が落ちたんじゃないのか心配してたよ≫

 

「言ってろ」

 

ボルトハンドルを起こして後ろに引くと薬莢が排出される。そして、前へと戻し次の弾を送り込む。また狙った敵へと照準を合わせ発砲………飽きそうになるくらい単純な動作の繰り返しだが、やはり狙撃はボルトアクションがしっくりとくる。

 

M4A1≪気をつけてください指揮官。敵が数人そちらへ向かいました≫

 

「分かった」

 

俺としたことがスナイパーの基本を忘れて場にとどまりすぎたか………まあ、どうとでもなるが。

 

さて、狙撃は一旦やめて敵さんはどう攻めてくるか見ものだ。

 

「ぐわぁああああ!!」

 

叫び声と共に聞こえてきたのは爆音だ。こうもあろうかとクレイモアを仕掛けておいて正解だったな。いや、常識か。

 

「気をつけろ!!罠が仕掛けてあるぞ!!」

 

奴ら。スナイパーの位置を把握してハンター気分でいたのだろう。アマチュアさ全開だな………誰かが言ったかは分からないが、真のハンターとは足元を警戒するということを知らないのか?

 

「スナイパーライフルがあったぞ!」

「それはいい。狙撃手はどこに行ったんだ!?」

「くそっ!まだ近くにいるはずだ!探し出して殺せ!」

 

………確かに近くにはいる。

 

ただ、こいつらが足りないのは………警戒心と観察力だな。

 

「なっ!?」

 

俺は奴らの死角となっている木の影から一気に飛び出すと、まず一人の懐へと入り込みハンドガンを腹部へと連発する。

 

「ど、どこから現れやがったんだ!」

「そんなことはどうでもいい!撃ち殺せ!!」

 

すると、奴らは俺に目がけて小銃を連射してくる。俺は咄嗟に死体を盾にして身を守るが、この方法はプレートキャリアを装着してくれる部分しか守ってくれないため長時間続けるのは良しとしない。まあ、こいつらの撃ち方が下手なだけあってあまり気にしなくてもいいのだが………

さておき、俺はタイミングを見計らい死体の胴体を横にして二人のうち一人をハンドガンでヘッドショットを決める。それを見て動揺したもう一人は一度射撃をやめてしまう。

それが運の尽きだ………

 

「があっ!?」

 

死体をもう一人の方へと押し付けると、重みでバランスを崩し勢いよく地面へと倒れ込んだ。だが、敵はすぐさまライフルを構えて俺の方へと向けるが既に遅かった。

俺は相手のライフルを蹴り上げ、無理やり武装を解除させると、続けて敵の顔面へと蹴りを喰らわした。

 

「おいおい。威勢のわりには大したことないな」

 

俺はそう言いながらハンドガンの銃口を敵の頭へ向ける。

 

「ガハァ………ハァ………き、貴様………我々に逆らってタダで済むと思うなよ………」

「おー、こわ。それが1世紀前だったら通じる脅しだな。だがな………お前は脅す相手を間違えてる」

「なんだと………」

 

すると、敵は俺の左腕に貼られているパッチに目を配る。

 

「ちっ………PMCか……」

「人形を使っている時点で気づけよマヌケ。それとも、鉄血の奴らかと思ったのか?」

 

まあ、いきなり奇襲でもされたらそう思ってしまうのも無理はないな。

 

「死ぬ前に質問だ。お前らはこの辺りで何をやってんだ?いつものように人形狩りか?」

「き、貴様に答える道理はない!この、人形を率いる人類の裏切り者が!!」

「お前らから見て俺がどんな裏切りをしでかしたかは分からないが………」

情報を貰おうと思ったが……よく考えれば下っ端にそんなもん持ってるはずがないよな。

トリガーにかかる指に力がはいるが、木々の影に人の気配を察知しナイフを取り出す………が。

 

「死ねぇ!!この悪魔が………」

 

タンッ!

 

一発の銃声が鳴り響く。

木々に隠れていた敵が身を乗り出して銃口を俺に向けた瞬間、そいつの額から血を流しながら地面へと倒れこむ姿が目に映った。

 

「………おい。一人でも対応できたんだが45?」

「ごめんなさいね指揮官。こっちから見れば殺されそうになってたから」

「………まあいい。でっ?こんなところに何の用だ404小隊」

 

木々の影から現れ、死体をまたいでこちらへやってきたのは404小隊の連中だった。

 

「私達も任務で来たんだけど」

「別件か………」

「そっ。この付近にいる野獣共のリーダーを拘束しに来たのだけど………どうやら指揮官との任務内容は少し違うみたいね」

「ああ。俺らはこの辺りにいる敵さんの掃討及び基地の制圧だ」

「なら間に合ってよかったわ。このまま行ったら指揮官。奴らのリーダーを殺してるところだったし」

「私達の任務は失敗扱いになって報酬はチャラになってたわね」

「そうかい………そいつは運がよかったな」

 

バンッ!

 

俺はそう言うと、敵に向けていたハンドガンの引き金を引いた。

 

「………そいつ。リーダーじゃないわよね?」

「んな嫌がらせするか」

 

薄っすらと笑みを浮かべる45を背に向け、ため息混じりに返答するとハンドガンをホルスターへとしまい込む。

 

「M4。飛行場を制圧したか?」

 

M4A1≪はい。残存する敵はありません≫

 

「分かった。お前達はこのまま作戦通り"7-03地点"へ向かい、敵を掃討しつつ敵司令部へ向かえ」

 

M4A1≪了解≫

 

「…………俺は少し用事が出来た為、これから単独行動をする。敵司令部付近に着き次第そのまま待機しろ」

 

俺はそういい終えると地面に置いてあったスナイパーライフルを手に取り404小隊へと振り向く。

 

「どういうつもり?指揮官」

「なに。お前らの任務を少し手伝おうかと思ってな」

「………いいの?」

「まあ、今回の敵はそれほど脅威でもないからな。どの道、俺とお前の任務は一緒のようなもんだ。敵司令部にはどの道行かないといけないだろ?」

「まあ、確かにね」

デザートフィッシュ(J-STARS)の情報によれば敵リーダーは司令部にいるらしいからな」

 

敵も見た目に反して臆病なものだ。武力に関しては正規軍と民間軍事企業には勝らないため、奴らはコソコソ隠れて攻撃するしか戦法がないのだ。そのため、向こうのリーダーは拠点に篭って活動することが多いためデザートフィッシュの情報はほぼ正しいだろう。

 

「じゃあ行きましょ?」

「そうね。AR小隊には先を越されたくないし」

「え~………私はゆっくりでいいよぉ~」

「冗談じゃないわ。あいつらに遅れをとるなんて私が許さない………」

「落ち着いてよ416。方針を決めるのは45姉だよ?」

相変わらず416はAR小隊に対して対抗心が高い。とくにM16には呆れるくらい噛み付く。

 

「さてと………悪者を捕まえにいくか…………」




用語的な

J-STARS:Joint Surveillance and Target Attack Radar System の略で通称ジョイントスターズ。レーダーで敵地上部隊を探知、識別し味方地上部隊へと情報を送る。簡単に例えるとAWACSの対地版。
そもそもAWACSと思う人はいるだろう。

AWACS:早期警戒管制機と呼ばれ一定空域内の敵・友軍の航空機などの空中目標を探知・分析し、友軍への航空管制や指揮を行うのが主な任務。いかなる時代においても情報というのは最強の武器だ。


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案件1-9:共闘

誰にも秘密というものはあるもの


404小隊と共に行軍を始めてから数十分の時間が流れる。行く道に敵がいれば暗闇に紛れ静かに素早く一掃し、自分達に都合が悪い場合は無視する………

他の部隊との作戦時間に合わせるため、俺と404小隊は出来るだけ敵を避けて移動するべくステルスを重視する選択をとったのだ。416はこの選択には大いに賛成しており、率先して行動してくれる。AR小隊に負けたくないのだろう。お陰で狙撃担当である俺とG11の出番がなくなってしまうが。しかし、G11は楽が出来ると416の行動には満足な様子。

 

「それにしても。相手が人間だと少し違和感があるわね」

「なんでだ?」

「だって、私達の相手てって主に鉄血工造じゃない?」

「人間相手の任務は来ないのか?」

「たまーに来るよ」

 

………細かいことまでは聞かないでおこう。

 

「まあ、相手が人形と人間ならまだマシな方だ」

「マシ?」

「もしかして"ELID"のこと?」

 

45が言ったELIDとは"広域低放射線症候群"の略で人間が"崩壊液"と呼ばれる液体に被爆した場合に発症する病気のことだ。感染者の大抵はそのまま死亡するか崩壊して消えるのだが稀にゾンビ化するかミュータント化したりするため人類にとっては共通の敵と言っても過言ではない。

事実として第三次世界大戦を引き起こした原因はこのELIDの根源である"崩壊液(コーラップス液)"の存在が大きいのだ。この説明については長いと予測されるため割愛させてもらう。

 

「あれはなんて言うか………敵としては最悪だな」

「………あまり深く聞かないでおくわ」

 

俺は正規軍にいた頃、何度かELIDを掃討する任務に就いたことがある。ゾンビは映画通り頭以外撃っても歩いてくるわ、ミュータントは小銃程度の武器は通用しないわ………しかも見た目はグロいときた。あいつらの相手をするくらいならMREの残飯を食わされる方がマシだ。

 

「ELIDに比べたら人間や人形のお相手の方が可愛く思える」

「私達はまだ相手にしたことがないけど、指揮官がそう言うのならそうなんでしょうね」

 

45が苦笑しながら皮肉げにそう言った。実際、ELIDとの戦闘で正規軍陣営に多大な被害が出たのも事実である。その教訓を踏まえてから最近になり正規軍の戦術人形がELID掃討を担当していると聞く。

 

「お喋りはここまでだ。着いたぞ」

森林地帯を抜け、丘の下に見えるのは敵の司令部だ。滑走路やコントロールタワーまであるが、奴らには必要のないものだろう。しかし、双眼鏡で中の様子を偵察すると、陸上ビークルが多数停車しているのが見えた。中には装甲車の姿まである……恐らく正規軍から鹵獲したものだろう。巡回している奴らも中々の数だ。

 

「中の様子はどう?指揮官」

「よろしくないな」

 

そう言いながら俺は双眼鏡を45へと渡す。

 

「中々の数ねー」

「何か企んでる感じがするよね」

「正規軍への攻撃とか?」

「それはないな。まともに正規軍と戦える戦力なんてないだろ」

「………テロ?」

「なくはないが………」

 

ならここへ戦力を集める必要があるのだろうか。

 

「………だが。奴らが戦力を集めているということはここにリーダーは必ずいる。それに、掃討するには絶好の機会だ」

「そうね………でも、残念だけど私達は………」

「分かってる。掃討はグリフィンが請け負う。俺らは元々そういった任務だからな」

「なら、私達は予定通り中へ潜入するわ」

 

45から双眼鏡を受け取ると

 

「私と9と416で中へ潜入。念のため無線は封鎖するわ。G11は指揮官のお手伝いをしてて」

「うん」

「敵司令部への攻撃タイミングはこちらで合わせるぞ?」

「ええ、構わないわ。その為に指揮官には遠くで援護してもらうの」

「それはありがたいが………俺の部隊とはいえ顔は合わせないようにしろよ。色々と面倒くさくなるからな」

 

俺が彼女達へそう警告するのも当然のことだ。

 

Task Force 404 Not Found………

 

名の通り404小隊とは非公式の部隊であり"存在しない部隊"だ。勿論、グリフィン所属の戦術人形ではない。非正規の人形の為、メンタルモデルのバックアップが取れないという制限がある。

報酬を払って動く部隊なので傭兵には近い存在で、彼女達の任務は主に隠密性が伴う"特殊部隊"が行うような難易度の高いものが多い。

だが、どんな難しい作戦でもこなすので彼女達の腕の信頼は高いため俺もご贔屓(ひいき)にさせてもらっている。

さて………先程俺が言った"面倒くさい"ことになると言ったのは上記に説明した通りだ。非正規部隊の為、存在が明るみに出ないように彼女達と接触またはともに任務を遂行した戦術人形はメンタルモデル(マインドマップ)データ(記憶)を改竄されるか消去する処置を行うのだ。以前の作戦後も俺の部隊に処置を施していた。彼女達(404小隊)が存続するためにも俺は目を瞑るしかないし、なにより機密事項だからな。

 

だから、404小隊の存在を把握できている者は俺やヘリアンと言ったごく限られた人物だけだ。お陰でグリフィン内では"都市伝説"として語られていることもしばしばある。

 

しかし、そんなとんでも小隊の彼女達だが時々何もなかったかのような顔をしてはグリフィンの宿舎にやってきてお世話になっていることがある。時々と言うよりはほぼと言ったほうがいいか。特に45と9はな。前の部屋の件もそうだが………まあいい。

その時だけはグリフィン所属の人形として振る舞うので彼女達の存在を気づく者はいない。

 

「分かってるわ指揮官。私達がそんなヘマすると思う?」

「G11がいなければスムーズかもね」

「確かにー」

「みんな酷い」

 

G11は目を丸くしながら、からかう三人へと睨みつける。

 

「指揮官~………」

「…………」

 

同情して欲しいのか涙目になりながら俺へと詰め寄ってくる。

 

「はぁ………まあ、なんだ………お前はやる時はやる奴なんだから頑張れ」

「………そう?」

「ああ。活躍できたらラムレーズンアイス奢ってやる」

「よし。やるよ。みんなのんびりしてないで早く行ってきてよ」

 

さっきまでダルそうにしていたのはどこに行ったのか………なんて言うか。

 

「「「現金な奴………」」」

 

45と416も同じことを思っていたのか偶然にもハモってしまう。

 

しかし、9だけは………

 

「G11だけご褒美ずるいよー!指揮官!私も活躍するからご褒美頂戴!」

「引っ付くな!」

 

駄駄を捏ねる子供かお前は。

 

大人しく現金な分G11のほうが扱いやすいことが身に染みて感じる。

 

「その事は後にして9。私も言いたいことがあるのは山々だけど、時間もないからさっさと任務を遂行するわよ」

「あ~ん!襟を引っ張らないで45姉ぇ~………」

「………416。頼むぞ」

「分かったわ」

 

誰がリーダーなのか分からなくなってきたな…………

 

 

-side UMP45-

 

「全く9は………気持ちは分かるけど今は緊張感もって」

「でもでも45姉ぇ~」

「はいはい。静かにして9。敵司令部は目の前なのよ」

 

先導しながら丘を降りる416の後を追い続けるとフェンスが張り巡らされた敵司令部へと近づく。所々サビも目立つため、破るのは簡単そうだ。

 

「それにしても………指揮官が進んで私達に協力するなんて珍しいわね」

「言われてみればそうね………」

 

私達の事情を知っている指揮官は任務中に接触しても干渉することがない。無闇にグリフィンの人形と接触して処置をするのを避けてるのは分かるし、私達も面倒な行動がないことには文句がないのだが。

 

「何か企んでるのかしら?」

「ん~………それはないと思うわ」

「どうしてそう言い切れるの?」

「そんなの簡単」

「愛だよ愛」

「………は?」

 

フェンスへ円状に凍結スプレーを噴射していた416は9の言葉に唖然としながらこちらへ顔を向けた。

 

「指揮官も私達の家族なんだし………分かって当然だよ。ねっ?45姉」

「9の感覚は分からないけど~………」

 

愛ってのは否定しないわ。言葉には出さないけど。

 

「あなた達って本当に………頭がメルヘンチックね」

「そんなこと言って。416も私達がいないところでは指揮官に甘えてるよねー?」

「なっ!?そ、そんなことしてないわよ!」

 

((してるわね………))

 

フェンスの残骸を手に持ちながら顔を真っ赤にして否定する416。実は執務室で指揮官の膝の上に乗って甘えているところを目撃しているのだ。指揮官は満更でもない顔をしていたけど、普段からキリッとしてる416はフニャとした顔で癒されていた。癒されたのは私達の方だけどねー。否定しても体は正直というのはこう言うことかしら。

 

「は、話を戻すわよ」

「はいはい。指揮官が何か企んでるかもって話ね?」

「え、ええ………」

「まあ、単純に私達と協力した方が任務も早く終わるからじゃない?」

「つまり………利用されてるのかしら?」

「協力よ協力。今回は指揮官の方も反人形人権団体の駆逐じゃない?私達もそのリーダーの拘束。お互い似たもの任務だからね」

「そうそう!一石二鳥~!」

「………腑に落ちないけどそう言うことにしておくわ」

 

とか言って、本当は指揮官のことは信じてるくせに。素直じゃないんだから。

 

「………でも。前々から思ってたんだけど、どうして前線で戦いながら指揮するのかしら?」

「今更な疑問ね」

 

フェンスを潜り抜け、敵司令部へと潜入したが416は指揮官に対する疑問を言葉に出し続ける。

 

「う~ん………でも、416の言う通り。どうして指揮官は前線に出てくるんだろう?普通なら司令部で指揮するのが普通なんだよね?」

「普通………ね」

「………45。何か知ってるの?」

「うーん………全部知ってるわけじゃないんだけど………指揮官が普通じゃないのは分かってるでしょ?」

「ええ………少なからずはね………」

 

指揮官が未だに前線へ出て銃を手に取り戦うのは周りから見れば異常なものだろう。先程9が言った通り指揮官という役職は安全かつ後方での指揮をするのが当たり前だ。以前にクライアントの一人であるヘリアンと衝突していたのは言うまでもない。

 

「なんとなーくだけど………私の感では指揮官。死に場所を探しているのかもね?」

 

表では感情を無駄に表さない指揮官だけど私は知っている。夜な夜なたまに魘されていることをね………

 

まるで呪いがかかっているかのような苦しみの表情だった。

 

「そ、そんなこと………させないよ」

「ええ。私も存在する限りはそんなことさせない」

 

なにせ、あの人が希望って言うくらいなんだから………

 

それに、私も気に入ってるしね。

 

「死に場所ね………そう言っても、指揮官は簡単にはくたばらないでしょ。心配する必要はないわ」

「そうね」

 

あまり心配していない様子の416を見た私は思わず口角が上がってしまった。

彼女の言う通り、指揮官は不死身と言われるほど悪運が強いのだ。私も何度もそれを目にしている………立場上よくはないのだけど、私はその姿を見て惹きつけられているのだろう。

 

「だったら尚更私達と行動してほしかったわ」

「どうして?」

「だって………指揮官なら一人でもこの基地を制圧できるほど強いのよ」

「…………冗談でしょ?」

「勿論、死ぬ気になればの話よ」

 

人間というのは死ぬまで追い込まれると真の力を発揮すると言うらしい。もし、指揮官が死ぬ気で戦ったらどうなるのだろう?もちろん………

 

 

 

正規軍の特殊作戦コマンドぶたいを全滅させれるくらいにね。



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案件1-10:後方支援

もう少しで深層映写が来るのか………


Avenger≪俺は少し用事が出来た為、これから単独行動をする。敵司令部付近に着き次第そのまま待機しろ≫

 

指揮官はそう言い残すと私が返答する前に通信が途切れてしまいました。

 

「M4。指揮官はなんて言ったんだ?」

「用事が出来たから単独行動をするみたいです………」

「なんですって?」

 

呆れた様子でこちらを見つめるAR15。気持ちはわかります………

 

「とんでもない指揮官だな………部隊と行動するならまだ分かるが、単独行動とはな…………」

「初めて会った時から指揮官はそんな人でしたから………」

 

M16姉さんには少しだけ同情してしまいます。なにせ、私を救ってくれた時も指揮官でしたから。

 

「でもでも。指揮官って凄く強いよね?それなら別にいいんじゃないのかな?」

「まあ………指揮官も無策で動くと言うことはないと思うから信用してもいいと思うわ」

「珍しいなAR15。お前が随分と肯定的じゃないか」

「どう言われても私達は指揮官の命令に従うしかないわ。いちいち指揮官の行動をどう考察したって分からないし、考えるだけ時間の無駄よ」

「謎が多いもんね」

 

確かにAR15の言う通り………指揮官と会ってまだ間もないです。知らないことの方が多いのは当然ですが、謎が多いというのは共感できます。名前はコードネームで呼ばれているようですし、プロフィールに至ってはカリーナさんやヘリアンさんも知らないときました………

 

(ですが………私は指揮官を信じます)

 

あの時、身を張って助けに来てくれたのは紛れもなく指揮官………こんな人形一体のために傷を負いながらも手を差し伸べてくれたんですから。

 

私はその時から指揮官の側にいることを決めた………どんなことが起きても必ず貴方を守ってみせると………

 

「指揮官の指示通り動きます。まずは7-03地点へ行きましょう」

 

私はそう言い放つとAR小隊は行動を開始する………

 

-side Avenger-

 

「ふわぁ~………」

「45達が行ってから5分も経ってないぞ………毎回思うがなんでそんなに眠たそうなんだ?」

「仕方ないよ………眠たいんだから…………」

 

なんだそりゃと思わず拍子抜けしてしまう。単するにこいつ(G11)は眠たいから眠いと言っているのだ。

「それよりも指揮官。今日はどうしてスナイパーなの?」

「お前にしてはまともな質問だな」

「え~………私はいつもまともだよぉ~」

 

まともだったらまず怠け癖を直すことだなG11。説得力の一欠片もないぞ。

 

「単に後方で支援する方が楽だったからだ」

「そんな理由?」

「今回の敵戦力なら司令部で指揮するくらいでよかったが…………窮屈すぎてダメだ」

「えー?私が指揮官なら司令部から動かないけどね」

「お前がいても寝るだけだろうが」

 

バレた?と言わんばかりにG11は口元を緩ました。ったく………こいつが指揮官だったら部隊はとっくに全滅確定だろうな。

 

M4A1≪指揮官。敵司令部に着きました。命令を待ちます≫

 

「思ってたより早いな」

「416がまた拗ねるね~」

G11の言う通り、悔しがる416の姿が思い浮かぶ。

 

「了解。待機しろ」

 

そう言うとAR小隊から第一部隊へと無線の周波数を変える。

 

「グリズリー。今どこにいる?」

 

グリズリー≪もう少しで敵司令部に到着するよ≫

 

「分かった。到着次第連絡を入れてくれ」

 

グリズリー≪了解≫

 

そう言い終えると俺はスナイパースコープを覗き込み、巡回している敵の一人を照準に定める。

 

「準備しろよG11」

「りょうか~い………」

 

寝惚け眼を擦りながら彼女もライフルのスコープを覗き込んだ。

こんなものぐさな性格をしているG11だがやる時は奴やつだ。404小隊のアタッカー兼狙撃手としてのポジションにいる彼女個人の戦闘能力は高く、見た目に反して残酷でえげつないものだ。なにせG11が放つ"ストームアイ"と呼ばれる爆裂弾幕を問答無用で張る………意味がわかるか?標的に定められた敵は木っ端微塵になるということだ。

 

グリズリー≪ポイントへ到着。指揮官。いつでもいけるよ≫

 

「了解」

 

さてと………再びお仕事の時間だ。

 

「このまま制圧を開始していいんだな?」

「いいと思うよ。三人なら大丈夫だと思うし」

 

随分とアバウトな感じだが、実際404小隊ならやってのけるだろう。どの道、早く任務を遂行しないとまたヘリアンにどやされるしな。

 

「よし。AR小隊、第一部隊。制圧を開始しろ」

 

双方の部隊から「了解」との言葉を受け取り、北と東から銃声が聞こえてくる。

 

敵司令部内からは慌てふためく敵の声が聞こえてくる………まさか、戦力を集中している時に攻めてくるもは思わなかったのだろうか。まあ、こちらの情報が行き渡らないように拠点を制圧してきたのは正解だったな。

この司令部の出入り口は北、東、西の三つ。俺とG11が陣取っているのは南西の丘だ。AR小隊は東、第一部隊は北へと配置している。もし、敵リーダーが逃げようとするなら西の検問所しかないだろう。交戦している中へ突っ込んで脱出を図ろうとしたら賞賛してやるが。

 

「指揮官。敵何人くらい倒したらご褒美貰えるの?」

「んなこと知るか」

「え~………」

「いちいちそっちの倒した敵の人数なんか確認しねーよ」

「はぁ………仕方ないから頑張るよ」

 

G11はそう言うと、さっきまでのものぐさな仕草はどこに行ったのかと疑問に思うくらい真剣な表情を見せる。その姿は本当に修羅場をくぐり抜けてきてような兵士の顔だ。

彼女は呼吸を整える様子もなくトリガーを引いた。(くう)を突き抜けながら飛んで行く弾丸は、走っていた敵へとヘッドショットを決めたのだ。

さすが404小隊のメンバーなだけある。この調子でいけば数十分でカタはつくだろう。

 

待てよ?今のこいつに任せとけば見えてる奴全員倒してくれるんじゃないのか?

 

「指揮官。サボらないでよ」

「………チッ」

「なんで舌打ちしたの?」

 

なんかコイツに言われると腹がたつな。

 

まあいい。俺だって仕事できてんだからコイツに舐められないよう頑張るか。

さて、敵さんは建物の屋上に数人いるみたいだ。東側へと向かって発砲しているということはAR小隊と交戦しているといいことか。LMGまで乱射している………おいおい。コイツらの戦い方を見ていたら、3次大戦の民兵の方が上手く戦ってたと思うぞ。

それが幸と言っていいのか動かない(まと)も同然な為、撃ちやすいものだ。

 

「コイツら弱いね………」

「ああ。こんな事だったら司令部で大人しくしてた方がマシだったかもな」

「今更だけど違いないね」

 

にししと笑いながら発砲を続けるG11を横目に思わず同感する。屋上にいた敵は何処から撃ってるのか分からないまま頭を撃ち抜かれその場へと次々と倒れていく。

 

「あっ。416達だ」

 

丘の下からこちらへやってくる人影が見えると、俺とG11は敵司令部内の敵の攻撃をやめ、彼女達の後方へと注意を向ける。そんな心配はないだろうが一応念のためだ。

45を先頭に416が敵リーダーらしき人物の襟を掴みながら引きずっている………抱えてくるという選択肢はなかったのか?

 

「お待たせー」

「流石だな404小隊。早いな」

「ええ。これくらい余裕よ」

 

416はそう言うとこちらへ敵リーダーらしき人物を投げてくる。

 

「ぐっ!?」

 

敵リーダーは地面に落ちた衝撃で思わず声を上げてしまう。しかし、意識を持つ気力もないのか白目をむきながら脱力している………一体どんなやり方をすればこのような状態になるのだろうか?

 

「こいつで間違いないのか?」

「ええ。クライアントから貰った写真と照合したら一致したから間違いないわ」

 

なら、この敵司令部の制圧も時間の問題だな。指揮する奴がいなくなった事でパニックに陥るのも目に見えてしまう。

 

「それで?G11はちゃんとしてたかしら?」

「それは愚問だな416」

「へへーん。西詰所にいる奴らはほとんど私が倒したし。やるときはやるんだよ」

「物を提示されてやる気を出すのは子供でも出来るわよ」

「あはは!素直に褒めてあげなよ~416」

 

「うるさい」と顔を赤らめながらそっぽ向く416。何だかんだ言って416はG11のことは褒めてるのだろう。

 

「さてと………俺はそろそろ彼女達と合流するか。あまり単独で動いていたらお前達の存在を疑われそうだ」

「名残惜しいけどそうね。はい、指揮官。お土産」

「ん?」

 

すると、45はなにかこちらへ投げてくる。俺は片手でそれを受け取り、手の平を広げるとそこにはUSBメモリがあった。

 

「こいつらの基地情報の位置をハッキングしておいたわ。一応、あいつら(AR小隊)を誤魔化せるでしょ?」

「ああ。助かる」

 

気がきく奴だ。アリバイ作りと言えば言葉は悪いが、404小隊の存在を疑われるのもよろしくないのでありがたく受け取っておこう。

 

後で対価を求められそうだが、まあいい。

 

「えー!?指揮官!ご褒美は!?」

「引っ付くんじゃねーよ9。何回も言わせんな」

「でもでもぉ!」

 

くそっ!力が強いな!全然引き剥がせねぇ!

 

「あっ。そうだ!私にも得して指揮官にも得できるご褒美思い付いちゃった!」

「はあ?何を………んっ!?」

 

すると、いきなり9が飛びついたと思った刹那………気がつけば彼女は俺と唇を重ねていたのだ。

 

「なっ!?」

「はっ!?」

「えっ!?」

目を瞑りながら唇を重ねる9は離さないと言わんばかりに俺の首に腕を絡ませている。甘い香りが鼻をくすぐり、思考が一瞬だけ停止してしまう。

 

三人が驚きの声を上げた中、俺は自分でも珍しくパニックに陥りそうになっていた。

そりゃそうだ。俺だって人間なのだ………こんな行為をいきなりされれば動揺だってする。

 

「ん………ぷはぁ!」

「…………」

 

やっと満足したのか、9は頬を赤らめながら放心状態になっている俺を上目遣いで見つめている。

 

「どうだった?指揮官………」

「………どうだったもなにも、いきなりなにやってんだって思ってる」

「えー!?キスだよキス!私、初めてだったのに!」

「知るか………」

 

なにが不満だったのか知らないが、とりあえず9からは離れておこう。次やられたらCQCで投げ返してしまいそうだ。

 

「指揮官~?なに一人でいい思いしちゃってるわけ?」

「そうよ。に、任務中だってこと忘れてない?」

「私ももう少しだけ背が高かったら出来るのに………」

「なんで俺が文句言われなきゃならないんだ?」

 

俺からしたわけではないというのに何故俺が責められるんだ。それに、G11はサラッととんでもないこと言ってるぞ。

 

「9もしたんだから………私にもしてくれるよね?」

「「…………」」

 

なんだろう45の後ろに見えるドス黒いオーラは………今のあいつなら一人で敵司令部を掃討できそうな気がする。

………ここは瞬時に離脱するのがいい選択肢だろう。

 

「あっ!」

 

俺は彼女達に包囲される前に丘の斜面から滑り落ちていく判断を下し、404小隊の連中から逃走するのに成功するのだった。

 

………帰投したら自室のセキュリティを強化するのをカリンと相談しよう。

 



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案件1-11:追跡

二話連続です


「M4」

「あっ。指揮官」

 

404小隊からの逃走に成功してから数分後。俺は東側にいるであろうAR小隊と合流を果たす。外にいる敵は全て倒されたのか、死体付近の周りには血を流しながら絶命していた。

 

「外にいる敵勢力は殲滅したか」

「はい」

「あとは残存兵力がないか建物を調べるぞ」

 

俺はそう言うと無線の周波数を第一部隊へと切り替える。

 

「第一部隊。敵の殲滅を確認した。俺とAR小隊は建物の残存兵力を掃討する。お前たちは外で待機してくれ」

 

グリズリー≪了解、指揮官≫

 

「なお、敵の増援を確認次第攻撃は許可する。デザードフィッシュとの連携を密にな」

 

恐らく増援はないと思うが警戒はしておいた方がいいだろう。

 

「それではAR小隊。敵の掃討作戦を継続するぞ」

 

4人からそれぞれ「了解」との返答を聞くと俺も頷き、建物の中へと入っていく。

 

 

「うわ~………中々荒れてるね~……」

「SOPMODⅡ。集中して」

 

SOPの言う通り、建物内へと侵入するとそこはもう廃墟と言っていいほどの雰囲気を漂わしている。サーペタイン4マンセルで行軍する彼女達へ着いて行く中、割れた窓ガラスからは冷たい風が吹き抜け、ガラス片が落ちた床を歩けばジャリッという音を空間を響かせ不気味さを一層と増す。壁は劣化の影響でひび割れが所々見られ、破片が零れ落ちていた。俺たち以外にも戦闘があったのか弾痕も見られる。恐らく第三次世界大戦中に起こったものと見て間違いはないだろう。

 

大戦が終結してから11年は経っているが、こういった廃墟は無数に存在する。以前の作戦で展開した街も同じ類だ。今となっては反勢力などの拠点として使われるのが多いのが現状だろう。

こうなってしまったのも俺達人類による自業自得というものだろう。核攻撃や長きに渡る戦災。そして、崩壊液の蔓延………

俺より先に生まれた大人共がイデオロギーやらを唱えては戦いを激化させ、次第に汚染されていない土地を巡って争い始めた。結局は人間と人間による醜い喧嘩だ。俺自身、大戦中はまだ幼い身のおかげか戦いには投じておらず、傍観者として戦争を見てきた立場だ。といっても、幼かった俺には少しばかりスパイスが強すぎる光景だったが。

記録によれば100年以上前に起こった第二次世界大戦より酷いらしい。

 

昔から環境汚染やら温暖化などによる環境問題は危惧されてきたのだが、今となってはどうでもいい話だ。なにせ、昔以上にこの地球は汚染されている。もう誰も手の施しようがないくらいに。まだ、ロシアやアメリカといった大国は数少なく生き残っているが、除染作業には取り組まないだろう。人間が崩壊液に手を出した時点でもう手遅れなのだから。

 

だから、俺はこの現状を作り出した奴を恨んでいるしこの世界が嫌いだ。

 

だが、そんな事思っても今更やり直せる力なんてこの世界にはないだろうし、やり直そうとは思わないだろう。この世界があるからこそ今の俺がいるわけだ。こうして俺が殺しの職業に就けたのも、人形を率いる事もできるのも、このイカれた世界があるこそなのかもしれない。

 

「………静かすぎます」

 

先頭にいたM4が全員が思っているであろう違和感を口にした。

 

「確かにな」

 

俺も同感だ。外にいる敵は全て倒したのは分かるが、全てではないはず。リーダーは404小隊が捕らえ、指揮がままらなくとも個人で逃げようとは思うはずだ。だとすれば何処か逃げ道を用意しているのか………

 

「気づいているかもしれないが………奴ら逃げ道を使って逃げたんじゃないのか?」

「だろうな」

 

地下道か………またか。

 

そんな事を頭の中へとよぎらせながら暗い通路を進んでいく。前の作戦時にも言った通り、廃墟となっている場所には地下道が張り巡らされているのが多い。大戦中、核兵器による放射線や崩壊液による土地の汚染に備え、小国の民兵達は地下を掘り進め戦えるよう又は生活が出来るようにしていた。

2045年の大戦勃発時には南極の地下都市が自衛として独立を宣言し、未だに鎖国を続けている。人が太陽の光を浴びる事なく生活できるというのを初めて証明してくれたのは彼らが初めてかもしれない。俺は南極の行動には賞賛を送りたいものだ。なにせ、このクソみたいな戦争に関わらないのは正解なのだから。

 

「指揮官。あの部屋だけ明かりが溢れています」

 

M4の言った部屋を見ると、扉の隙間から光が透き通っているのが確認できた。

 

「突入するぞ」

俺がそう指示を出すとルームエントリーの準備に入る。バックパックからDTチャージを取り出し扉へと貼り付ける。これはルームエントリーをする際に使われる突破型爆薬。やや厚めの鉄扉でも破壊できる優れものだ。

 

「ブリーチ!」

 

爆音と衝撃と共にドアは破壊され、M4から先頭にM16、AR15、SOPの順で室内へと突入して行く。

 

「クリア!」

「指揮官!隠し通路が!」

「ちっ……行くぞ」

 

この部屋はどうやら通信室のようだ。壁際には一世代前の機器が壁際に置かれている。

そして、正面の壁には人が一人通れるくらいの幅で下へと続く通路があった。恐らく予想通りの地下道だ。しかも即席で作られたもの。

 

「足元に注意しろよ。罠を仕掛けている可能性がある」

「了解です」

 

先頭は変わらずM4が務め、物怖じせずに進んでいく。果たしてこのまま一本道に続くのか、何処かへ通じているのか分からないがあまり深追いはしない方が良さそうだろう。もし、いくつもの分岐するような作りならすぐに引き返すのが正解だ。

それにしても嫌な感じだ。下へ降りるに連れて明るさは徐々になくなり、しまいにはライトを照らさないとお互いの存在が確認できない程なる。

敵に存在を悟られる原因を作らないためにも俺は暗視スコープを装着する。こういった暗闇の場所では最強の道具だと言えるだろう。

 

「指揮官。前方に階段がありますがどうしますか?」

 

M4から前方に階段があるとの報告を受け、俺は少しだけ思考を回転させる。

 

「………降りるぞ。もし、道が続くようなら引き返す」

「そうだな。待ち伏せに遭遇して全滅ってのも笑えない」

 

M16の言う通り。いくら戦闘のプロとはいえ、知りもしない場所で罠にはまれば全滅の危険すらある。時には引き際を考慮するのも必要だ。

 

警戒しながら鉄で作られた螺旋状の階段をしばらく降りると、そこはコンクリートで作られた広い場所だった。地下水が天井から滴り落ち、地面には所々水溜りもある。人の手に作られたにしては出来がいい。

 

「なんだろうここ?」

「三次大戦時に作られた施設か何かだろうな。この作り方は明らかに民兵が作るような構造じゃない。恐らくここの元小国が造ったものだろう」

 

テロリスト共が使うにはいい場所だ。今となってはいい迷惑なことだ。

 

『うわぁああああああ!!!』

 

突然、男性の悲鳴に俺達は思わず身構えた。その直後、小銃がフルオートで発砲する音が聞こえてくる。

 

「なんだ?」

「何かは分からないけど……私達以外に誰かいるのは間違いないわね」

 

銃声が止むと、弾切れを起こしたのかそれとも死んだのかは分からないが、また不気味な暗黒の空間に静けさが訪れる。

 

「どうしますか?指揮官。確認に向かいますか?」

「………ああ」

「了解です」

 

M4は俺の指示に疑問を持つことなく従う。普通、人間の部隊なら具申をいれる者が現れてもおかしくないのだろうが、彼女達は人形だ。ロボット工学三原則に基づき、その一つである"命令への服従"を優先しているのだろう。その為、俺がグリフィンに入ってからというものの、彼女達は俺の命令を無視したことが一度もないが意見を述べたり理由を聞いたりとしてくることはある。だが、最終的には指揮官である俺の指示に従う………

だから、命の鼓動を持たない彼女達………人形を物のように扱い、人間を守る盾として無謀な指揮をとる者は決して少なくはないだろう。以前の指揮官がそうだと聞く。

気にくわない。実に気にくわない。確かに人間ではない彼女達を物として見るのは強ち間違いではないのだろう。

しかし………俺も甘くなってしまった人間だ。人間のように心臓がなくとも人形だからといって無謀な指揮をとることは決してしない。

言葉は話せる。感情はある。なにより………俺のことを信頼してくれている。

だからこそ俺は彼女達を一人の部下として命を尊重しなければならない。例え人形だとしても彼女達は駒ではなく部下なのだから。

 

 

 

声がした方の通路へと足を踏み入れること数分。あれから人の声や銃声が聞こえることはなかった。

しかし………声がした方に近づくに連れ生臭い血の匂いが漂ってくるのが分かる。

 

「警戒しろ」

 

突き当たりには右方向しか進路がなく、寂れた標識には英語で"独房"と書かれてある。これ以上寂れた部屋が並べられた場所があるだけで、行き止まりの筈だ。しかし、今は世紀末。奴らが壁に穴を開けてトンネルを開拓しているかもしれない。

俺達は小銃を構えながら慎重に進んでいく。敵が待ち伏せているかもしれない角を曲がり、さらに奥へと。

すると、通路の奥には蛍光灯がランダムに点滅しながら弾ける音が鳴り響いている。何処で発電機が動いているのだろうと思っていると、M4が止まるようハンドシグナルで指示を出した。彼女が止まるよう指示を出した理由は明白だ。なにせ、突き当たりには首を片手で首を絞められ持ち上げられている人のシルエットが浮かび上がっているのだ。

俺は音を立てないよう慎重にカッティングパイを行いながら、突き当たりへと進んでいく。気がつけば俺が先頭に立っていたのは置いておこう。

 

「あら?随分と生温い攻撃だったわね?外での戦闘も大したことないし、まるでオメオメと地下に潜ることしか出来ないミミズみたい」

「ガァアアア!?は、離しやがれこの腐れた人形がぁ………!」

 

声が聞こえてくる。一人は女性だ。何処か見下したかのような口ぶりには心当たりがある。対して、首を絞められてるであろう男性は恐らく反人形人権団体の一人だろう。その証明に、突き当たりのすぐ側には小銃と額から血を流した骸が転がっている 。

 

「腐れた人形ね………まあ、強ち間違いではないかもしれないわ。でも…………貴方達には言われたくないわね」

 

ゴキャッ

 

何かが折れる音が狭い空間へと響き渡る。俺はそれを合図にAR小隊へと突入の合図をハンドシグナルで送る。

 

「そこを動くな!」

 

M4が小銃を構えながら牽制する。俺や他の3人も角から飛び出し、M4と同等の行いをした。

 

「あら?外での戦闘はお疲れ様グリフィンの犬達。それと………初めまして"アヴェンジャー(復讐者)"」

 

ダランと垂れ下がった骸の首を片手で持ち上げながらこちらへ微笑む少女。その姿に俺は何処か可憐で狂気に満ちた姿に見えたのだ。



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案件1-12:雑談

好奇心は行動の源


時々俺は人間が脆く弱い存在だと思う時がある。動脈や首を裂かれる。頭や心臓を撃たれる。それをやられただけで人は簡単に絶命する。鉄血の奴らが人間を見下すのも分からなくはない。なにせ、俺だって死にかけたことなど無数にあるからだ。

人間は命がけで戦うが、人形は言われたままに戦う。恐怖の概念はあれど、肉体が一つしかない人間とは違い、彼女達にはバックアップとなる体が用意されている。ゲームでいう残機数だ。そこが人間と人形の一つの違い。

だからこうして俺は両手に銃を持って自分の命を守る。たった一つしかない肉体と命を守るために………

 

 

「お前は鉄血のボスだな?」

「ふふ、ご名答。貴方の言う通り、私はボスの一人。そうね……トラッカー(追跡者)って呼ばれてるわ」

 

トラッカーと呼ばれる鉄血の人形は片手に持っていた人間だったものを後ろへと投げた。まるで本当の人形へ乱暴的に扱うかのように。

 

「へぇ~……エクスキューショナーの情報通り、わざわざ前線まで足を運び、挙句には自身の手で戦う指揮官ねぇ………どうりで彼女が困惑するのもわかる気がするわ」

 

距離的には離れているというものの何故か近くで体の隅々まで見つめられている感覚が襲ってくる。というのもこの感覚には覚えがあった。恐らく、イントゥルーダーの時と似たような類だ。

 

「せっかくここまで来たんだからお話ししていかない?グリフィンの指揮官?」

「話だと?」

「そっ。お話し」

 

ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら側にあるテーブルへと腰掛けるトラッカー。

 

「ふざけるな。誰が貴方と………」

「私は貴方達ではなくアヴェンジャーと話してるの。割ってこないでくれる?」

 

トラッカーはAR小隊のメンバーへ向けて形相を変えながらそう言い放つ。

 

「それとも………生き埋めにされたいのかしら?」

 

すると、トラッカーはこちらへ何かを見せつけてくる。その何かには大体予想がついてしまった。大抵こういうのは昔のアクション映画や漫画ではテンプレパターンなのを見ているため、まさか現実でも自分が体験することになるとは思いもしなかった。

 

「こいつらが仕掛けた爆弾………"TNT"というのかしら?どうやら貴方達の追跡を振り切るために使うと思われたのだけど」

 

トリニトロトルエン。第一次世界大戦から存在し、安定性の高さや腐食の問題がないことから100年以上経った現在に至っても使われている。

そんなものがこの空間に仕掛けられているということは、今俺達の命は彼女に握られていると言っても過言ではない。

 

「安心して。急に爆発させるっていうことはしないわ。勿論、私の要求をのんでくれたらの話だけど?」

「要求?」

「さっきも言ったようにアヴェンジャーとのお話し」

 

こいつ……本気でそう言っているのか?だとすれば、鉄血のボス共は相当病んでるのだろう。このような状況なら俺を殺す方が奴らにとってメリットが大きいだろう。なのに、こいつは実行しない………

 

「それに………アヴェンジャーを勝手に殺したって報告したら、きっといくら友と呼べるイントゥルーダーでも怒っちゃうからね」

なるほど。こいつ、イントゥルーダーと同じ類のようだ。

 

「さあ、どうするの?指揮官(アヴェンジャー)?」

 

膝をくみ頬杖をしながら小悪魔のように笑みを浮かべるトラッカー。

何故こいつは俺と話をしたがる?罠か?いや、罠ならもっと上手く俺達を嵌める筈だ。なのに、こいつは自分の姿を見せてまで俺達が来るのを待っていた。そうなると地べたに転がっている反人形人権団体の奴らは餌というわけだ。まるでディナーを誘うかのように。

 

「………いいだろう」

 

銃口を下ろしはしないが彼女の誘いに乗ることにする。

 

「指揮官」

「分かってる。もし、こいつが妙な動きをするなら撃っても構わん。例え、俺が人質に取られても躊躇はするなよ」

「しかし………」

「命令だ」

「…………分かりました」

 

命令として言葉を受け取ったM4はなんとか了承はしてくれる。しかし、納得はしていない様子だ。当たり前だろう。指揮官である俺が鉄血のボスと対談など彼女達にとって心臓が痛くなるほど危ない行為なのだ。

 

「あら。別にそんなことしないのに……」

「今はお前らとそこに転がっている奴らと戦争の真っ最中だ。信用できないのはお互い様じゃないのか?」

「それもそうね」

 

クスクスと笑うトラッカーに何かとやり辛さを覚える。何を考えているのかわからないのだ。そんな相手をするのはヘリアンだけで充分であり、俺の仕事ではない。何故、俺はイントゥルーダーのように変な人形に絡まれることが多いのだろうか。

 

「さあ座って。あまり時間はないと思うけど………一度貴方とはお話ししてみたかったの」

 

そう言いながら彼女はテーブルから飛び降り、近くにあったパイプ椅子を拾い上げて座る。俺も警戒しながら転がっているパイプ椅子を拾い、テーブルの前へと置いて腰掛ける。

 

「話か………世間話できるほどネタあんのかよてめーらには」

鉄血時事ネタ(お笑い話)ってのはあるけどね。ああ、勿論こちらが不利なるような話はしないけど」

「興味ねーから却下だ」

「あら残念。意外と可愛いイントゥルーダーの話もあったのに」

「あいつの話は正直勘弁してくれ………」

「………同情するわ」

 

まさか鉄血の人形に同情される日が来るとは思ってもいなかった。

 

「それにしても………前線にまで出てきて戦う指揮官ねぇ…………貴方。どうしてそこまでして自らの手で戦いたがるの?」

「特に理由なんてない」

 

嘘は言っていない。元々、グリフィンに入ったのも契約上、前線に出て指揮と戦闘を行う事をCEOであるクルーガーも承諾しており、戦っていること事態に理由なんてない。守りたい人や大切な人の為に戦っているわけでもなく、名誉やお金なんてもんも興味はない。

なら何故戦う?そんなことを何度も聞かれてきた。そう問われる度考えはするが、自分自身も答えは分からない。元兵士としての行動原理なのかそれとも人間の脳に元々ある闘争本能(残虐性)というやつなのか………

 

「本当にそうかしら?」

「…………」

 

なにかを見透かしているのかトラッカーは頬杖をしながらこちらへ見つめる。彼女の問いに俺はなにも返答できないということはきっと、俺自身気づいていない何かが本能では気づいてしまっているのかもしれない。

 

「戦う理由なんて人間も人形も動物だって変わらないわ。闘争心なんて生物共有。動物なら縄張りや交尾の為に争う。人間も国同士の対立、宗教の対立などの理由で争う。私達人形も戦えと言われるから争う………誰しも戦う理由はあるわ」

「違いないな」

「なら、貴方はなにに当てはまるのかしら?大切な人?国の為?それとも………私達(鉄血)の殲滅?」

「悪いが、俺自身も答えは知らない。お前の言う通り人間には戦う理由なんてそれぞれだ。大切な人の為に戦う奴もいれば自由の為に戦う奴もいる。(あなが)ちお前らの殲滅で戦う奴もいるだろうな。だが………俺はどれも当てはまらん。お前らが全滅しようが興味はないし、俺には命をかけてまで守りたいというような人間もいない」

「…………」

「お前が思っていることもAR小隊や他の人形も同じことを思っているだろう。確かに前線に出てまで戦いながら指揮をとる指揮官などイカれているだろうな」

「自覚はあるのね」

「自覚がなければ今頃司令部でMREを食いながら指揮してるかもな」

「それが普通よ。指揮官がいなければ戦術人形は意味がない。それなのに貴方は死を恐れずに前線へ立つ…………そんなチキンレースを毎回行われては貴方の上官も頭を抱えているでしょうね」

 

トラッカーが言うことは図星だ。ヘリアンは俺の行動には今も頭を抱えていると聞く。本当は俺の足を撃ってまで止めたいはずなのだが、CEOであるクルーガーが正式に公認しているせいでそれができないのだ。彼女には申し訳ないが、こうするしか俺には道がない。

 

「………今貴方を殺してしまえば後ろにいる彼女達も存在価値はどうなるのかしら?」

「心配するな。そうなる前に先にお前を殺してやる」

「アハハハ!いいわね貴方!本当に面白いわ!!」

 

なにが可笑しいのか………やはりこの人形にはイントゥルーダーと同類の感じがする。

 

「貴方………私達(人形)より人形らしいわ」

 

こいつら(人形)より人形らしい………か。彼女の言葉を返せずにいるということは、自分でもそう思っているということなのだろう。

俺という存在を作り出したのはこの世界だ。力がなければ死んでいただろうし、銃がなければ荒野に立って鉄屑拾いをしていただろう。

アメリカやロシアや中国といった秩序が存在する国家には関係のないことかもしれない。正規軍統制地区なら金や地位さえあれば大人になるまでの命の保証は期待でき、学校も働く場所も帰る場所もある。昔みたいに電話をすればドローンによるデリバリーで配達し、市民証とマネーカードを掲示すればピザを片手に団欒とテレビを見ながら食事もできる。この世界の人間にとっては桃源郷(ユートピア)のような存在だ。PMCが統制する地区も正規軍ほどには及ばないが、ある程度の衣食住や治安は保証される………

しかし、統制されていない地区………いわゆるブラックタウンと呼ばれる無法地帯ではそうはいかない。そこでは力が法律だ。道端に死体があろうと、誰が殺されようと、拐われようと関係ない。誰も見て見ぬ振りをし正義もクソもない。

俺はそのような場所で生きてきた人間だ。今更人を殺すことに抵抗はなく、死地に追い込まれようが死に対する恐怖というものがない。だから俺は人形のように戦うことで生きてることを感じているのかもしれない。

 

「お前も面白いことを言うな………」

「癇に障ったかしら?」

「いいや。人形らしいと言われたのはお前を含めて二人目だから驚いている。まさか、人形から人形らしいと言われるとは思ってもいなかったな」

「へぇ~………私以外にももっと言われてるかと思ったわ」

「口からは言わないだけで思っている奴はいるだろう。なにせ、俺自身もそう思ってるからな」

「皮肉なものね」

「皮肉屋なんでな」

 

敵ながら話しやすい奴だ。そんなことを思ってしまい、この現状を少しだけ楽しんでしまっている自分がいる。我ながら狂気なものだ。

だが今の現状、昔の俺なら例え向こうに命を握られていようと断っているか、爆発させる前に殺していただろう。そう考えると俺も随分と甘い人間になった。

 

グリズリー≪指揮官。デザートフィッシュからの情報なんですが北東より正規軍の部隊がこちらへ接近しているみたいです≫

 

「なんだと?」

 

突然グリズリーからこちらへやってくるお客さんの情報を無線で送られてくる。思わず眉間にシワを寄せてしまい頭を抱えてしまう。

なるほど………この依頼の意味がやっと分かった。薄々気づいていたが、鹵獲された兵器の数を見ると合点がいく。

 

(また正規軍の尻拭いかクソが………)

 

あいつらは自分らが汚した物も掃除できないのか?

 

「分かった。正確な到着時刻は分かるか?」

 

グリズリー≪3分後です≫

 

「なら、ヘリを呼んでくれ。俺達もすぐ離脱する」

 

グリズリー≪了解≫

 

「というわけだ。お前の話もこれでお開きだな」

「みたいね」

 

自分達の敵が迫っているのにも関わらず、呑気に頬杖をつきながらこちらを見つめている。

 

「さてと………面倒なことになる前に退散しましょうか」

 

すると、トラッカーはすぐ後ろにある即席のトンネルの方へと歩いて行く。

 

「あっ、そうそう………」

 

トラッカーは立ち止まるとこちらへ背を向けながらある物をこちらへ投げてくる。俺は動揺することなくそれを受け取り、見てみると片手で持てるくらいの大きさをした長方形型のリモコンだ。

 

「もう必要ないからあげるわね」

「ありがた迷惑だ」

「そう言わないで頂戴」

 

クスクスと笑いながら顔だけこちらへと振り向かせる。

 

「アヴェンジャー。面白かったついでにもう一つお土産をあげるわ」

「あ?」

「後ろには気をつけなさい。この戦争もそうだけどあの娘………アイリスのこともこの先必ず混沌な状況となるわ。そんな状況になって、それでも貴方はアイリスを守れる立場にいるならまた会ってお話ししましょ?その時は()と有意義な話ができることを楽しみにしてるわね」

「おい、待て。今なんて言った」

「ふふっ。また会いましょ?指・揮・官?」

 

彼女はスカートを少しだけたくし上げると闇の向こうへと消えていくのだった………

 

 

 

「ったく。勘弁してくれよ?指揮官。あんたを失ったらあたしらがヘリアンさんにどやされるんだからな」

「ああ」

「本当に分かってるのか?」

「なんだ?M16。あいつとの会話を聞いて幻滅したか?」

「幻滅はしちゃいないさ。あんたが前線に出て戦うことについては三原則に基づいて文句もない。けど、本音で言えばあまり出張りすぎないで欲しいとは思っている」

「…………」

 

出張りすぎないでくれ………か。こいつらも心配はしてくれているのか。

 

「お、落ち着いてM16姉さん………」

「心配するなM4。別にあたしは指揮官を嫌ってるわけじゃないんだ」

「ああ、そうだM4。M16くらい言ってくれる方が俺的には楽だ」

「えっ?あ、あの………喧嘩してるわけでは………」

「「してない」」

 

ハモりながらそう答える俺達を見てM4は戸惑うことしかできなかった。

M16も思うところはあるのだろうが基本的に仲はあまり悪くないと思っている。

人形に感情的に関わりすぎるのもよくないとヘリアンに言われているが、正直俺にはこいつらと話す方が楽だ。こいつらにも心はあるわけで、会話もすればほどほど打ち解けるのが中々面白いものである。

 

まあ、WA2000だけは俺を嫌っている節は見えるが。

 

「あっ。正規軍だ」

「確かに3分ですね」

 

飛行場に出るとそこには正規軍の装甲車やハンヴィーの車列がアイドリングしている。

 

「よう、グリフィンの指揮官。クズどものお掃除ご苦労さん。あとは正規軍が引き継ぐよ」

「それはよかった。さっさとこんな所からおさらばしたいところだったからな」

「相変わらず無愛想だな。って、顔を隠してれば無愛想もクソもないか」

「言っても無駄だと思うが、お前らの汚れ掃除くらい自分でやれと上に言っとけ少尉」

「そうしたい所だが、なんやらカーター将軍は特殊コマンドの指揮等に忙しいみたいでな。報告しても中々取り合ってくれないんだよ」

「おかげでこっちへ腐れ仕事が来るわけだ」

「俺達にもな」

「………同情する」

「お互いにな………」

 

この少尉も中々苦労人だ。バラクラバで顔を隠しているものの目の動き方で呆れてるのと同時に疲れているのが分かる。因みにだがこの少尉とは何度か面識があるため会えば皮肉を言い合う仲だ。正規軍に嫌悪感は抱いていると言っても、この少尉のようにごく数人と温厚な者がいる。その点に関しては完全に正規軍を嫌いになれないのも皮肉なものだ。

 

「まっ、あんたらの仕事は終わったんだ。早く帰って酒でも飲んでな」

「そうするさ」

 

背を向けながら左手をヒラヒラとさせながらヘリのランディングポイントへと歩いていく。ひらけた先には第一部隊がすでに待機しており、俺達とヘリの到着を待っていた。

 

「あの………先ほどのことを正規軍に報告しなくてもいいんでしょうか?」

「鉄血のボスのことか?大した情報も得ておらず、何より報告したところで余計な混乱を生むだけだ。それにここから去ってるんだから手遅れだろうな」

「そうですか………」

 

トラッカーか………また、面倒なボスが出てきたと思いながら、俺達は疲れた体をヘリの座席へともたれ掛け、基地へと起動するのだった。




用語集

≪デザートフィッシュ≫
本作オリジナルの早期警戒管制機J-STARS。名前の通り"砂漠の魚"と呼ばれ、上空から地上の敵勢力を識別、探知しグリフィンの部隊ををサポートする。一応、正規軍所属らしい………酒が好物らしく、スプリングフィールドが経営しているカフェ&バーによく足を運んでいるらしい。その中でもス◯リタスのカクテルをよく頼む。パーソナルマークは魚のマークの中にグリフィンの社章が描かれている。噂によると第三次世界大戦にも活躍していたらしい。

≪MRE≫
軍事携帯食料。第一次世界大戦に活躍が見られるも、味は食べられるものではないらしい。2000年代入ってからは味も良くなってはいるが、美味しくもないと賛否両論となっている。第三次世界大戦以降では、食料難に陥っているため人工による生産が行われており、問題の味はまたもや一次大戦時に戻ったとか………人形達も味は美味くないらしく、指揮官であるアヴェンジャーも苦手らしい。

≪少尉≫
本作オリジナル人物。正規軍第9小隊を率いる兵士。階級も名前?通り少尉である。割りに合わない任務によく振り回されているせいか、部隊を率いり、正規軍に振り回されているという立場であるアヴェンジャーと会えばよく愚痴や皮肉を言い合う仲であり関係も良好である。


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