ドールズフロントライン4.3 -IRIS- (仲村 リョウ)
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エピソード1:鉄血少女
プロローグ


この戦争のことを知りたい?


僕はとある前線基地へとやって来ていた。ある一人の兵士を探しに……

ここ406戦術陸上部隊は通称"懲罰部隊"と呼ばれている。兵士達が罪を背負い放り込まれる犬小屋………一般の人達はそう言うだろう。

しかし、僕が探している兵士はそんな事を気にしないばかりか、自分の命を顧みる事なく戦場を縦横無尽に走っては何百人という人命を救ったという。正規軍なら最高の勲章を手に入れれる名誉だろう。

 

しかし、懲罰部隊は例え一人が英雄的行動をとったとしても記録には残らない。罪人は人間として見られておらず既に戦死扱いとなっているからだ。残念ながらそれが今の秩序というものだろう。

だが、彼の存在は僕が勤務している会社のある正規軍統制街では話題になっている。彼に救われた兵士が家族や友人に話してのが広まってのだろう。

 

"不死身の衛生兵"

 

"死者蘇生師(ネクロマンサー)"

 

"ビッグメディック"

 

彼の呼び名はいろいろあるのだが、不思議と名前は誰一人と知らなかった。

 

そんな英雄に興味をもった僕は彼を知ろうと406戦術陸上部隊へと足を運んだのだ………

 

そして僕の前には彼を知る男が……回しつ続けているカメラの前に座っている。

 

 

「彼か?ああ………ここじゃあ有名な奴だったよ。自分の命よりも他人を優先する………俺達は死に急ぎ野郎って呼んでいたな。ここが懲罰部隊ではなくガチの正規軍なら最高の衛生兵だったのは間違いないな。なにせ、あいつ一人で何百人という命を助けたんだからよ」

 

どうやら何百人もの命を助けたのは本当の話のようだ。

男はそう言いながらもどこか遠い空の向こうへと眺める。

 

「俺ら懲罰部隊の命なんざどうでもいいし、生きることすら期待されていない。人海戦術で突っ込むことなんざザラじゃない」

「銃での戦争でそんな事ありえるのか?」

「ありえるんだよ。罪人の数が増えれりゃあ、お偉いさんは縮小を図る。俺達は捨て駒なのさ」

 

それが本当ならその上官はとんでもない奴だろう。いくら罪を犯した人間とはいえ人間には変わりない。

 

「だが、奴はそんなこと御構い無しだ。俺達が何であれ命を助ける。それが奴のモットーなんだろう」

 

『実際に俺も助けられたしな』と男は笑いながらそう言った。

 

「どうして彼は懲罰部隊に?」

「さあな。いろんな噂があるがどれが本当だか………上官を殴っただか、政治家を殺しただとか………色々さ」

 

そんな笑えない事を男は平気で笑いながら言ったのだ。僕はただ苦笑いで返すしかなかった。

 

「それで………彼は一体どこに?」

「ここにいないことはあんたも分かってるだろ。ある日のことなんだが………いつものように戦場から帰ってきたら知らない服を着た連中がいやがったんだ。赤ワインみたいな色をしたトレンチコートを着てモノクルをかけた女性だ」

「それって軍部の人?」

「いや。俺が見た限りそうじゃないだろうな。見慣れない黒いワッペンをつけていたし、何より彼女の護衛がそうじゃなかったんだ」

 

護衛がいたということは立場的には上の人物なのだろうか?

 

「そいつら俺よりも体の小さい女の子だったんだ」

「女の子?」

「ああ。兵士みたいに銃を持っててな……なんつーか………」

「………戦術人形」

「戦術人形………ああ、そうか」

 

僕の言葉にピンときたのか男は何処か納得げに笑みをこぼした。

 

戦術人形………第三次世界大戦以降から高速に普及した人形ロボットだ。その中でも戦闘に特化したものは戦術人形と呼ばれている。

 

民間軍事企業(PMC)の連中か」

 

戦術人形を従えて連れ回るPMCが思い当たるなら一つしかなかった。

 

「ありがとう。これはお礼の物だ」

「おっ?」

 

僕はそう言って彼にある箱を放り投げる。

 

「煙草か………しばらく吸ってねーな………」

 

文明は残ってるものの世紀末と化したこの世界にとって金ではなく物々交換を行うのは珍しくもない。特に嗜好品は取引材料にはうってつけのため、欠かさず持っていることにしている。

 

「気をつけて行けよ。えっと………」

「イーサン……イーサン・アーネル」

 

こうして僕は戦術人形を指揮し戦っているPMC"グリフィン&クルーガー"社へと足を運ぶのだった。

 

 

グリフィンS09地区。

 

辿り着くとそこは軍事施設かと思えるくらい少し大きめな基地だった。飛行場もあり、ちゃんと検問所もある。

 

そこで僕はここに入るにあたっての身体検査を受けていた。私服の上からプレートキャリアを着用した社員が僕の全身をくまなく金属探知機で調べ上げている。そして、もう一人の社員は僕が変な動きをしないか両手にライフルを持っては警戒している。こちらに銃口を向けられていないだけ緊張的にマシだった。

しかし、彼らの行為は当然のものだ。ここは軍事施設も同然の場所なため、警備が厳重なのも頷ける。

 

身体検査が終わるとカメラは没収された。社員は『少し待て』とだけ言い残し、詰所へと入っていく。誰かと連絡をとっているのだろうか?

 

すると基地の方から軍用ヘリコプターが僕の方向へと二機飛んでくるのが見える。

日差しを一時的に遮ったヘリは僕が来た道の方へと飛び去っていった。

 

しばらくすると詰所にいた社員が出てきた。

 

 

………どうやら指揮官は不在らしい。




プロローグはとあるカメラマンの語りで進んでおります。次回から主人公である戦える指揮官のご登場です。


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案件1-1:代役戦争

全てはここから始まった………


代役戦争

 

2061年 13:00

アヴェンジャー戦術指揮官

グリフィン&クルーガー

S07地区 グリフィンの基地から南西へ10km地点

 

ワスプ1≪こちらワスプ1。敵影は見当たらないがこのまま飛行しても大丈夫か?≫

 

「ああ。AR小隊によると作戦地点まで敵影の姿はないとの報告だ。ルートの変更はない」

 

ワスプ1≪ワスプ1了解≫

 

「416。いい加減この寝坊助を起こせ」

「起きなさいG11」

「んん~………あと5分………」

「んなに待ったら作戦時間余裕で過ぎるわ」

「あいて!」

 

ヘリに登場するなり俺の膝に頭を乗っけて眠っていた少女に俺は軽くチョップをくらわす。

しかし、少女は声はあげるものの起きる様子はない。

 

「………お前だけラムレーズンアイス抜きにするぞ」

「起きたよ」

 

上半身だけを向くっと起こしたG11。避ける準備をしていなかったら危うく顎に直撃するところだった。

 

「あんた………ちょろいわね」

「なんなりと~………おやつ抜きにされるのだけは勘弁」

 

そんな彼女の会話を聞いて思わずため息をこぼしてしまう。

人形にしてはよく人間に出来すぎている。味覚までつけなくてよかっただろうにと思うが今更。

それに、今では彼女達の個性が見られて飽きなくて済むという気持ちの方が大きいため俺の中ではどうでもいい話となっている。

 

「指揮官。さっき検問所にお客さん来てなかった?」

「みたいだな」

「一般の人みたいだったよ?」

「んなわけあるか。ここ民間軍事企業にやってくる連中なんてろくな奴がいねーよ」

「前みたいなハゲ親父とかみたいにね」

「9。言い方」

 

45の指摘に9は反省することなく、テヘッと舌をちょこんと出した。

 

「違いないな」

「指揮官も~」

「まあまあ。45姉も本音はキモいとか思ってたでしょ?」

「ん~………そうね」

「思ってたのね」

 

45の言葉に416が静かにツッコミをいれた。

実際、ハゲ親父だとかキモいと言っている人物は正規軍軍部の中では偉い人だ。まあ、俺にはどうでもいいが…………

 

しかし、うちの部下である彼女達戦術人形をいやらしい目で見てたのは別問題だ。あの時、ヘリアンがいなければ風穴空けていたところだった。

 

「AR小隊はちゃんとTCD(Tactical command device)を設置したのかしら?」

「じゃないと困る」

「連絡をとってみたら?」

「そうだな」

 

俺は無線の周波数をAR小隊の隊長であるM4へと無線を繋げた。

 

「M4。こちらアヴェンジャー。TCDの設置は完了したか?」

 

M4A1?≪はいはーい!設置終わったよー!≫

 

この声……SOPだな。

 

「おい。なんでお前がM4の無線に出てるんだ」

 

M4A1≪ちょっとSOP!無線機返してください!≫

M4A1?≪ああん!ちょっと待っ………≫

M4A1≪すみません指揮官≫

 

「ああ。気をつけろよ」

 

無線越しにはSOPが駄々をこねてる声が聞こえてくるがとりあえず無視だ。

 

M4A1≪CPの設置ですがSOPが言った通り完了しています。場所はマップで表示されているはずです≫

 

「確認したよー指揮官」

 

対面左斜めに座っていた45がヘリ内にあるモニターで確認し終えたのか、俺に手を振りながら報告してくる。

 

「確認した。これから………」

 

M16A1≪M4敵だ!≫

M4A1≪!?こんな時に……≫

 

「M4何があった?」

 

M4A1≪すみません指揮官。敵に増援を呼ばれていたようです………≫

 

「わかった。着陸地点を変える。お前らは俺達が到着するまで持ちこたえろ」

 

M4A1≪はい………SOP!前に出過ぎないで!≫

 

ここで通信は終わる。

 

「AR小隊は大丈夫かしら?」

 

416がなにやら棘かかった様子で声を漏らした。

 

「ああ見えてG&K(グリフィン&クルーガー)きっての精鋭だ。あいつらなら大丈夫だ」

「だといいんだけど」

「もうー………そんなにツンツンしないの416」

「抱きつかないで9」

「はぁ…………」

 

お前らも大丈夫かよと思ってしまう。

 

「聞いてたなワスプ1。着陸地点変更だ。そうだな………北東にある大通りにしよう」

 

ワスプ1≪ここにはヘリが降下できるスペースはありませんが………≫

 

「ヘリボーンで行く」

 

ワスプ1≪了解≫

 

ワスプ1がそう返答すると、先頭にいたヘリワスプ1が右へと傾斜させ進路を変える。俺が乗っているワスプ2も同じ動作に入り右へと傾斜し、ヘリは重力によってドアが全開した方へと引っ張られる。

 

「到達まで30秒だ。各自準備しろ」

「はーい」

 

俺はバラクラバを鼻元まで隠しヘルメットに装着してあるゴーグルを目へとかける。

 

「G11………寝てたわね?」

「お、起きてるし」

「ヘリボーンなんて久しぶり」

 

などと404小隊らは俺の言葉を聞いていないのか余裕の様子だ。まあ今回は仕方ない。

今回の任務は正規軍からで。鉄血工房の人形が廃墟となった街で活動があるとの報告を受け哨戒しろとの依頼。対して()な任務ではないのだ。

 

表向きはな………

 

「目標地点到達」

「よし。ヘリボーン開始!」

 

左右のドアからロープが降ろされ、俺はそれにしがみつき、スムーズに下へと降りていく。

 

下へ降りると俺は小銃を構え周囲を警戒する。

俺の次に降りてきたG11が地面に辿り着くと小さい体をトコトコと揺らしながら俺の方へとやってきた。

 

「全員降りたか?」

「うん。第一部隊の方も全員降りたみたいだよ」

 

G11がそう答えると、俺は載ってきたヘリに向かってハンドサインで行ってもいいぞという合図を出した。

 

ワスプ2≪ご武運を≫

 

パイロットはそう言って街から飛び去っていく。

 

ヘリのローター音がなくなるとそこは風が吹く音以外なにも聞こえない不気味な場所となった。かつてここでは人が生活を送っていたのが不思議と思うくらいの風景だ。恐らく第三次世界大戦以降から放棄されているのだろう。

 

「第一部隊は作戦通りに北の病院跡を目指せ。そこを拠点にし周囲を警戒しろ」

 

グリズリー≪了解、指揮官≫

 

「あと98。RFBをよく見張ってろ。あいつはすぐゲームの真似事をしたくなるからな」

 

Kar98≪了解ですわ指揮官さん≫

 

「頼む」

 

ここからはワスプ1に搭乗していた第一部隊とは別行動だ。俺はというと404小隊のメンバー、UMP姉妹の二人とG11、HK416と行動を共にする。

 

「404小隊はこれから俺と共にAR小隊の援護に向かう」

 

「「「「了解」」」」

 

リーダーであるUMP45を先頭に404小隊は行軍を始める。俺はG11と416に挟まれる形で歩くことになり、9は一番後ろに背後を警戒している。

 

「それにしても不気味な街ね。どうして正規軍は私達にここへ哨戒するよう依頼を出したんだろう」

「人が足を踏み入れない分、敵にとっては隠し事に適しているからな。それにあいつら正規軍は近いうちに鉄血工房の基地に向けて大規模侵攻を行うらしい。あまり自軍に損害を出したくないんだろう」

「なるほどね」

 

9の疑問については恐らくこの任務に駆り出された全員が思っていることだろう。俺も疑問だ。わざわざ俺達を出さずともこのような小さな街くらい正規軍ならどうとでもなる。

 

(ペルシカの言う通り………きな臭いな)

 

正規軍の中で俺達のような民間軍事企業をよく思っていない連中もいる為油断はできない。かといって奴らは鉄血工造と組んでまで俺達をはめようとする気は起きないだろう。

 

なにせ鉄血工造自体人間と組むことはないからな。

 

警戒はしておくか………上記通り敵は鉄血工房の人形だけとは限らないからな。

 

「TCDまでどのくらい?」

「ここから東へ300mね。銃撃も聞こえてるし近いわ」

 

俺はデバイスを取り出し、投射映像を映し出す。TCDの反応は416の言う通り東へ300m行ったところに反応を示してる。

 

「………不気味ね。AR小隊は接敵してると言うのにここは静かすぎる」

「そう?向こうに敵が集中しすぎてるんじゃない?」

「あなたは楽観すぎよG11。鉄血工造だってバカじゃないの。前のようになりたくなかったら少しは………」

「止まって」

 

先頭にいた45が拳を握りしめ俺達に止まるようハンドサインを促す。

 

「どうしたの?45姉」

「指揮官」

「ああ………」

「え?え?なに?」

 

どうやら状況が分かってるのは俺と45だけのようだ。

 

「………AR小隊は罠のようだな」

「そうみたい」

 

くそ。鉄血工造め………やってくれるな。しかもこのやり方………あいつしかいない。

 

「全員建物に避難しろ!」

 

そう叫んだ瞬間。前方の建物のバルコニーから機関銃が乱射される。

俺達は機関銃が放たれる前に走り出したお陰で被弾することなく近くの建物へと身を隠すことに成功する。

 

「くそっ!最初からはめられてたな!」

「ええ……この陰湿なやり方………」

「イントゥルーダー………」

「敵は!?」

「VespidとRipperね………ザコが」

 

といっても数的にはこっちが圧倒的に不利だ。作戦を変えるしかない。

 

「M4聞こえるか!」

 

M4A1≪はい!増援は………≫

 

「ネガテイブ。俺達も敵に遭遇し身動きが出来ない状態だ」

 

M4A1≪そんな………≫

 

「よってTCDを放棄。お前達は第一部隊がいる病院跡に向かえ」

 

M4A1≪しかし、TCDを放棄すると………≫

 

「戦術リンクがなくても何とかなる。それよりもお前達の方が大事だ。バックアップがとれないんだからな………」

 

AR小隊の構成員は他の戦術人形と違って俺指揮官がいなくても長時間独立して任務を遂行することが可能だ。その為、指揮能力及び戦闘力が高く設定されている分、戦術人形としてのバックアップがとれないというデメリットが存在する。

つまり、破壊されてしまい戦術人形として復旧されても彼女達は別人となってしまうということだ。

 

M4A1≪………わかりました≫

 

「そんな悲しそうにすんな。お前達の命は一つなんだ。だから無駄死にだけはよせ」

 

M4A1≪!?………はい!≫

 

「俺達も何とか切り抜けて病院跡へ向かう。ああ、TCDは破壊しておけ。敵に鹵獲されたら面倒なことになるからな」

 

M4A1≪了解です≫

 

さて、俺達も行動を起こそうと思うが………

 

「さっきから痛えぞ45」

「なーに熱いセリフ言ってるの?」

 

何故かドス黒いオーラを放ちながら俺の足を踏みつける45。人間の痛覚を考えて踏んでいるからマシだが。

 

「意味がわからん」

 

それが率直な本音だ。

 

「指揮官!私がいるのにぃー!」

「9は抱きつこうするな!状況分かってんのか!?」

 

逃げ道のない建物に乱射されている中、よくそんな行為が出来るなと思いつつ抱きつこうとする9をなんとか引き剥がす。

 

「指揮官。どうします?」

「全員を相手してる暇はない。逃げ道を作るぞ」

 

俺はバックパックの中からC4を取り出すと相手の射角に入らないよう後ろの壁へと貼り付ける。

 

「伏せろ!」

 

C4から離れ起爆させると耳をつんざくような爆音とともに瓦礫が飛びかう。その中、416が俺に覆いかぶさり彼女の胸が顔と密着してしまう形になってしまう。

 

俺を瓦礫から守ろうとした行動とはいえ………

 

「指揮官。行動がいつも大胆すぎます」

「この状況でそんなこと言ってられるか。45と9。先に行って索敵してこい」

 

「「了解!」」

 

416が俺から離れると45と9を援護する為、俺は自分の小銃を手に持ち、外にいる敵へとフルオートで発砲を始める。

 

「G11!手前のバルコニーにいる機関銃を片付けろ!」

「うん!」

 

事前に確認していたバルコニーには目立たないようにかボロボロな布で覆われていた。カモフラージュのつもりなんだろうが、それがかえって怪しかったのだ。

警戒せずにこのまま歩いていたら蜂の巣にされていたに違いない。奴らも昔のゲリラみたいな戦法をとるもんだ。

 

 

しばらく撃ち合いをしていると急に奴らの銃撃が止まり、先ほどの不気味な静けさが漂う。

 

「やっぱり貴方ならここに来ると思ったわ………アヴェンジャー」

「ちっ………イントゥルーダー………」

 

顔を見なくても声だけで分かる。この食えない口ぶり………間違いなくイントゥルーダーだ。

ということは、この地域での指示系統は全てこいつが行なっているのだろう。面倒くさい………

 

「派手な出迎えじゃないかイントゥルーダー。そこまでして俺達に何の用だ?」

「ふふふ。気に入ってくれたかしら?貴方達を出迎えるならこれが一番かと思って」

「………違いない」

 

俺はバックパックから片手鏡を取り出し416へと手渡すとイントゥルーダーの方へ向けるよう指示を出す。

 

「用という用はないんだけど………貴方達にここにいてもらっては邪魔だから歓迎してあげたのよ」

「言ってること矛盾していないか?」

 

これからやる事を悟られないように俺は自然にイントゥルーダーと話しながら元折れ式グレネードランチャーを取り出す。

 

「あら。私なりの善意よ?」

「わけが分からんな」

 

苦笑いを浮かべながらそう言うと。

 

(416。合図を出したら逃げるぞ)

(了解)

 

小声でそう言うと416はG11にハンドサインで俺がしようとしてることを伝える。

 

「………ところで提案なんだけど」

「なんだよ」

「アヴェンジャー。私達(鉄血工造)の元へ来ない?」

「「なっ!?」」

「…………」

 

416とG11は驚いた様子だ。俺も内心驚いたものの顔には出さなかった。俺が動揺してしまっては二人の行動に悪影響が出るかもしれないからだ。

 

「唐突だな。お前ら鉄血工造は人間を虐殺することしか脳がないんじゃないのか?」

「心外ね。まあ、そう思うのも無理はないわ。以前の私達ならこうして貴方と話すこともなく蜂の巣にしてたわけだし」

「さっきまでされかけたがな」

「貴方達ならどうとでもなるじゃない」

 

敵ながら買いかぶりすぎだ。人間は当たり前だが戦術人形だって撃たれどころが悪ければ死ぬんだぞ。

 

「でもね。今の私には感情がある。有効活用出来そうなものがあれば利用するものよ」

 

有能じゃなくて有効か。あくまでもこいつらは人間と組んだとしても利用しているだけの概念でしかないのか。

 

「で、どうするの?アヴェンジャー………」

「期待されているようで嬉しく思えばいいのか複雑だが…………断るに決まってんだろバーカ」

「!?」

 

俺がそう言い放った瞬間、身体をカバーしたままグレネードランチャーだけをイントゥルーダーへと向けて迷わず発砲した。

奴に命中したかは分からないが爆音と衝撃が伝わってきたということは少なからず命中しただろう。少しだけだが隙は出来たはずだ。

 

しかし………

 

「いってぇ!くそっ!」

「そんな撃ち方するからよ」

 

何十年前かくらいの漫画でこのような撃ち方をしてピンチを乗り切った場面を思い出してやってみたが………散弾銃と擲弾発射器が反動が違いすぎだな。どっちもどっちだが下手すれば指の骨が折れる。

 

「いいから行くぞ!あいつがそんなに待ってくれるわけがない!」

 

俺はそう言うと先ほどC4で吹き飛ばした壁穴から裏路地へと飛び出したのだ。

 

 

 

 

 

「まったく………やってくれるわねあの指揮官………そこがいいんだけどね。はぁ………やっぱり私は貴方が欲しいわアヴェンジャー…………ふふ。さてと、競争の時間かしら。彼らより先に奴を見つけなさい。出来たらだけどアヴェンジャーも捕まえてね。殺さない程度に……ね」




用語

TCD:"戦術指揮装置 Tactical command device"の略。戦術指揮官が戦術人形を指揮するのに必要な装置。設置することでJ-STARSとの情報を連携して地形や敵の位置などを把握し、指揮官が持つデバイスや拡張視(オーグメント・アイ)として映し出すことができる。通称戦術リンクと呼ぶ。しかし、データをリンクするには一度TCD本体に接続する必要があるため敵に狙われやすいという危険が伴う。
簡単に言えば、ゲーム本編マップのリアルバージョンだと思ってください。


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案件1-2:割に合わない仕事

人間と人形の間に絆なんてあるの?


「45と9はどこまで行ったんだ!?」

「UMP45応答して!」

 

隙をついて逃げだせたのはいいが街中での逃亡は苦しいものだ。後ろからは追っ手の鉄血人形。路地に出ると待ち構えていた鉄血人形がこちらへ乱射………何回撃たれかけたことか。

しかし、ゲリラで現れる敵を走りながら的確に仕留めていく416がいるもんだからさすが自称完璧というだけのことはある。こんなこと言えばこちらが風穴あけられそうだから言わないが。

 

「指揮官。次はどっち!?」

「左だ左!」

 

路地の突き当たりの角を左へ曲がると建物内へと繋がる扉が表れた。開くといいが………

 

「蹴り破るわ!」

「無茶すん………」

 

そう言いかけた瞬間だ。彼女の加減のない前蹴りが扉を蹴り破った。

そういや戦術人形だということすっかり忘れてたわ。

 

UMP9≪指揮官!その建物から表通りへ出て!敵はあらかた片付けておいたから!≫

 

「9か。45は一緒なのか?」

 

UMP45≪いっしょだよー≫

 

ったく。こっちは命がけで追いかけられているというのに呑気な口調だな。

 

「あいた!」

「G11!」

 

G11が建物へと入った瞬間、左足を撃たれたのか表情を歪ませながらこちらへと駆け寄ってくる。

 

「撃たれたの?」

「うん………痛かったけど大したことないよ」

 

銃弾の一発くらい大したダメージに入らないらしく、G11の表情はいつも通りダルげな顔になっている。

 

「走れるんだな?」

「うん。少なくとも指揮官よりはね」

「ったく。減らず口を」

 

そう言いながら表通りへつながるドアを開けて外に出る。

 

「指揮官こっち!」

 

向かいの路地から9が声を張り上げながらこちらへ手招きをしている。

 

「これ………あいつらがやったのか」

「みたいね」

 

9がいる路地と通りの間には鉄血工造の人形達が無残な姿でバラバラになっていた。地面には赤色の液体が無残に飛び散っている。

戦術人形にも血があるが人工血液というものを循環しており、いわば燃料みたいなものだろう。補給と言いかたは俺にとっては複雑なのだが、一度人工血液を輸血してしまえば数年は持つらしい。だったら食べ物も食わないでもいけるんじゃないかと思うが、ここはあいにく彼女達の気分ということになるので割愛させてもらう。

 

「指揮官!大丈夫だった!?」

「ああ」

「ごめんなさい!呼びに行こうと思ったら敵に遭遇しちゃって………」

「いい。今は合流できたわけだ。前のことは気にするな」

 

すると後ろの壁に銃弾が弾ける音が鳴り響く。

危ねぇ………もう少しでヘッドショットくらところだった。

 

「指揮官は隠れて!貧弱なんだから!」

「貧弱で悪かったな!」

 

彼女達が銃撃戦をするなか俺はデバイスを取り出し目標である病院跡の場所を確認する。

 

「このまま路地を突っ切れば近いな」

「当然だけど敵さんも簡単には行かしてくれないわよ?」

 

45の言う通り。病院跡へ向かうにはこの路地から出て大通りを走るしかない。

 

「かといって回り道する暇もないわよ」

「416の言うこともごもっともだ。時間をかけるほどこっちの状況は悪くなるだけだ」

「そうなると?」

 

「強行突破だ」

 

-side M4A1-

 

「ねぇねぇ!指揮官達はまだなの!?」

「さっきから通信で呼びかけてるけど応答がないな」

「やられ………ちゃったとか?」

「ないない。指揮官って悪運強いから無事よ」

「証拠にさっきから銃声が鳴り響いてますわ」

 

私達AR小隊が敵と交戦し、CPを放棄してから10分が経過しました。

指揮官が撤退するよう指示を出した病院跡へ無事に辿り着くと、第一部隊がすでに確保しており何とか無事に合流………したのはいいですが、肝心の指揮官がまだ来ません。無事だといいのですが………

 

Avenger≪………たい!こ………アヴ……ジャー!≫

 

すると私の無線から指揮官の声がノイズ混じりに聞こえてきます。

 

「指揮官!」

 

Avenger≪……と……がったか!≫

 

間違いなく指揮官の声です。

 

Avenger≪………そ!……ぱが悪い………≫

 

すると無線越しから何かが殴ったのような音が鳴り響きました。

 

「指揮官!?」

 

Avenger≪やっとまともに聞こえるようになったか……≫

 

「あの……さっきの音は………」

 

Avenger≪気にすんな。無線機を殴っただけだ≫

 

と、自分がピンチな状況にも関わらず落ち着いた口調で話してくれます。

 

Avenger≪それよりもこれから大通りを突っ切る。援護してくれ≫

 

「みんな!指揮官がもう少しで大通りから出てくるみたい!援護します!」

 

私が声をかけると病院跡にいる全員が慌ただしく配置に着きます。

 

Avenger≪もう出るぞ!間違えて撃つなよ!≫

 

指揮官がそう言った瞬間、スコープの先には指揮官ともう一つの部隊が路地から飛び出してこちらへ走ってくるのが見えました。

すると、その後ろからは鉄血工造の人形達が指揮官達を逃がさないと言わんばかりに銃を撃ちながら追撃しているのが見えます。

 

「撃ち方開始!」

 

敵の距離は約150m………レティクルの中心から少しだけ上と向け鉄血工造の人形へ向けてトリガーを引きました。

フラッシュハイターから放たれる閃光と同時に銃弾が発射され硝煙の香りが漂う………

弾丸は重力の影響を受けながらも人形の頭部を撃ち抜き、人工血液が霧のように飛び散りその人形は地面へと倒れピクリとも動かなってしまいます。

 

「ごめんなさい………あなた達にチャンスはないわ……」

 

指揮官を守る為に私はトリガーを引き続ける………

 

-side Avenger-

 

第一部隊とAR小隊の援護によって無事に病院跡へと辿り着くと、勢いよく窓を突き破って建物内へと入る。銃弾が飛び交うなかわざわざ玄関から入るやつなんていないだろ?それに、撃たれるよりガラスの破片で切り傷ができる方がマシだ。

 

とは言え安心はできない。敵の射線から身を隠す為、俺は窓の下の壁へと身を隠す。

 

「はぁ~………なんとか辿り着いたわね………」

「ああ。なんとかな………15とM4。一階に降りてきて手伝ってくれ」

 

M4A1≪了解です≫

 

「第一部隊は西に見えてるビルへと回り込んで援護してくれ」

 

グリズリー≪了解です指揮官≫

 

それぞれの部隊に援護の要請を指示すると、俺は小銃の弾倉を外してリロードを行う。

 

「ちっ………正規軍のクソどもが。なにがただの哨戒任務だ。割りに合わん事ばかり要請しやがって」

 

ここ最近の正規軍から来る任務はどれも割りに合わない案件ばかりだ。そのくせ報酬はケチるくせにこちらの行動に文句ばかり垂らしやがる。

 

「でも、確証は得たわね」

「不服だがそうだな」

 

だが、そのおかげで敵が何故ここへ部隊を展開しているのかなんとなく分かってきた。

イントゥルーダーが統率しているということはこの街にはなにかあるということだ。奴は普段俺らを挑発はするが好きらしく何度翻弄されてきたことか。しかし、奴は自ら動くことはあまりない為タチが悪い。ていうか悪趣味だ。

 

(さてと………なにを隠してるのか……)

 

俺はデバイスを取り出すと投射映像を映し出す。

 

「………指揮官。遊んでないで応戦してよ」

「遊んでるように見えたならそれは心外だ」

 

投射映像で映された波のような波形が一気に赤く染まるとともに大きく揺れる。ビンゴだ。

 

「404小隊。ここに地下がないか調べろ」

「えっ?」

「俺がなんの考えもなしにここを制圧すると思ったのか?」

 

そんはずはない。指揮官という慣れてない職業とは言え、考えもなく拠点を制圧しろだなんて馬鹿がやることだ。

 

それに正規軍からこの案件を嫌々請け負ったのは理由がある。それは"16LAB"のマッドサイエンティスト"ペルシカ"のお願いでわざわざ嫌な正規軍の案件を了承したのだ。

 

「ていうか地下なんかあるの?」

「ここは元々民兵の隠れ家らしいからな。大戦中地下を掘って色んな場所へと繋げていたらしい。ペルシカの情報源によるとここもその一部があるみたいだ」

「憶測なのね」

「まあ。なにか隠してるのは事実みたいだがな」

 

俺は手に持っていたデバイスを45へと渡した。

 

「これって………」

「それを参照に探してくれ………まだ容量配分が悪くてすまないが」

「いいわ。それを支えるのも私達の役目だし」

「苦労をかける」

 

分かってると言わんばかりに微笑む45の姿を見てこちらも思わず口角を上げてしまう。彼女達には見えていないだろうけど。

 

「聞こえていたわねみんな。地下を探すよ」

「はーい!/ええ/え~……」

 

おいコラG11。

 

「さてと……頼むぜペルシカ。あんたの頼みだけで俺達を死なせてくれるなよ…………」

 

そうボヤきながら俺は小銃を構え、アイアンサイトを敵に照準を合わせるのだった。



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案件1-3:落ちた空

進化しすぎたテクノロジーは■■■■を殺す


先ほど飛び立ったヘリの一機がしばらくして帰ってきた。砂塵を撒き散らしながら整備されているヘリポートのへ降り立ち、そこから出てきたのは負傷した人達………ではなく、戦術人形達だった。

血は出ているが本物の血ではないので、人間のように激痛で魘されているような様子は見えない。だが、酷い個体を見ると足や片腕がない人形もいた。負傷しながらも五体満足の人形は損傷の大きい者に付き添い、支えながらヘリを降りてくる。

 

そんな中降り立った一人の人間と思わしき人物。

人形達の装備とは違い、背も高い。体格的にも男だろう。恐らく人形を指揮していた人なのかもしれない。

彼は兵士のように軍服を着てプレートキャリアを身につけヘルメットとフェイスマスクを装着している。顔バレしてはいけない人物なのかもしれない。

 

彼は真っ先にある女性の方へと歩いていく。しかも、フードを被った女の子を連れて………

 

「ねぇ。貴方だれ?」

 

男の方へ注目してたばかりか僕の横には、警戒した様子でこちらを見つめる女の子がいた。

腰まで届く暗い茶色の髪に左側にサイドテールを施しており金色の瞳に左目に傷跡がある。

 

「ここ。関係者以外立ち入り禁止のはずなんだけど?」

「ああ、ごめん。僕はこういう者なんだ」

 

首にぶら下げていたパスを手に取り、彼女の方へと見せる。

 

CIM(中央情報誌)のカメラマン。イーサン・アーネルさん………ね」

「一応、カリーナさんという方から立ち入りの許可は貰ってるんだけど………今はまずかったかな?」

「ん~……まずくはないけど、カメラに収めるのはやめておいた方がいいと思うわ。状況が慌ただしいからね」

「そうなのか?」

 

もしかして先ほど負傷して帰ってきた人形達と関係があるのだろうか?

 

「もし、教えれる範囲なら教えてくれないかな?一体、なにがあったのか………」

 

僕はそう言うと少女は少しだけ考え込む。

 

すると………

 

「………空がね。落ちてきたの」

「空が………落ちる?」

 

この少女の言葉の意味を知るのはもう少し先のことだった。

 

 

-1時間前-

side UMP45

 

指揮官の指示に従い、私達404小隊はあるかも分からない地下を探す。指揮官達が鉄血工造の人形達を食い止めているため、あまりモタモタしていられず徐々に焦りが出てくる。しかし、こんな時だからこそ冷静に行動しなければならない。

 

「9。なにか見つけた?」

「ううん。まだ何も」

「本当にここに地下なんてあるの?」

 

416が言うことはもっともなことだ。

だけど、指揮官から渡されたデバイスのレーダには波形が強くなっている。指揮官の言う通りここに何か隠しているのは間違いない。なおさら、この命令は後に引けないものなってきた。

 

「地下があるないにしてもここに何かあるのは間違いないわ。特にこの部屋ね」

 

恐らくこの部屋は負傷した人達が集められていた部屋だろう。無残に散らばったストレッチャーがそれを物語っている。

 

「ねぇ、これって血かな?」

 

すると、一人離れていたG11がなにかを見つけたようだ。

 

「………血ね。しかも、人間のものじゃないわ」

 

真っ先に駆け寄っていた416が赤い液体を調べ、それは私達が使っている人工血液だということが判明する。

だとすれば、この病院の中には私達と同じ戦術人形がいるのかいたのか………

 

「付着的にこの棚へと繋がってるわね」

「えっ?じゃあ、もしかして」

「もしかしてかも」

 

私は力任せに棚を左へとずらしていく。予想通り棚の奥には地下へと続く階段があったのだ。当然電気は通っていない為真っ暗だ。

 

さーて………なにが隠れているのだろう。

私は銃を構えながら下へと降りていく。カツンカツンという足音だけが空間へと響き渡り、一層不気味さを漂わせる。別にそういった恐怖というものは私には持ち合わせていないためなんとも感じない。

 

下まで辿り着くと、そこは靴元が隠れるくらい水浸しになっている。ライトを照らすとそこは思わず人形の私達でも目を疑いたくなるような場所だった。

 

「なに………これ………」

 

無残に散らばった人間の骨と壁には乾いた血であろうものが塗装されたペンキのようにこびりついていたのだ。昔、ここでなにがあったのだろう。

 

(まだ、肉体が残っているよりマシね………)

 

昔なら大問題のことだろうが、今はそれよりも………

 

「45姉!今あそこでなにか動いたよ!」

「うん。見えた」

 

証拠に水紋がこちらまで伝わってきており、棚の後ろに何か隠れているのは間違いない。

私はその方向へ銃口を向けながらゆっくり近づいていく。

 

「大人しく出てきなさい。さもないと発砲するわよ」

 

待つこと数秒。私の警告に従うのか大きな水紋が伝い、水を弾く音が荒々しくなる。

すると、そこから出てきたのは子供だった。背丈はG11くらいだろうか。汚れたフードを被り私達に警戒しながらも両手を上げながらゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 

「止まって。妙な動きを見せたら撃つわよ」

 

子供は私のいう通りにその場へと動きを止めた。

私は後ろで構えている三人にアイコンタクトを送ると、慎重に子供の方へと歩いて行く。フードへと手を伸ばし、一気に捲り上げた………

 

「女の子………」

 

しかも人間じゃない。ここへ来るまで追われていたのか、皮膚が裂けた箇所には金属のフレームが見えていた。恐らく先ほどの血はこの人形のものだろう。

 

「あなた何者?IOP?鉄血工造?」

「………ぞう」

「なに?」

「て、鉄血工造………」

 

その言葉を聞いた途端、私達の警戒の構えが一層強くなり、自然と指にかかっているトリガーの力が強くなる。

 

「何で鉄血の人形がここにいるのよ」

「イントゥルーダーの差し金?」

「ち、違う!ボクは………!?」

 

突然、この人形の表情が変わった。何かに怯えてくるのように一瞬で顔が青ざめたのだ。

 

「は、早く逃げて!」

「突然どうしたのよ。こいつ………」

「空が………空が落ちてくる………」

「…………」

 

………不服だけど、こいつの様子を見る限り嘘を言っている様子はなさそうだ。私はすぐに指揮官へと通信を行う。

 

(繋がらない………)

 

地下だから電波が繋がりにくいのか………面倒だけど。

 

「私は指揮官にこの事を伝えに行くわ。あなた達はこの人形を見張ってて」

「わかったわ」

 

私を銃口を下ろし、指揮官がいる地上へと走っていく。

 

(なにか………悪いことが起きなければいいけど)

 

-side Avenger-

 

「ちっ……キリがねーな………」

 

病院跡に立て籠もってから数十分が経過した。戦闘は依然に撃ち合いが続いておりイタチごっこ状態だ。しかも、もう残弾が少ないときた。404小隊が地下を発見したのならそこから離脱する手もあるのだが、妙なことに連絡が来ない。

 

「すみません指揮官。私がTCDを破壊したばかりに………」

「そのことはもう言うな。俺が命令したんだ。お前が気にすることじゃない」

 

だがM4が罪悪感を抱くのは無理もない。TCD(タクティカルコマンドデバイス)とは俺が戦術人形を指揮するのに必要不可欠の物なのだ。広範囲に渡っての指揮には戦術リンクと呼ばれるシステムが運用され、戦術マップにて敵の位置の把握、戦術人形達の同時指揮が行えるようになる。これが正規軍よりグリフィン&クルーガーの方が勝率がいい仕組みだ。

逆にTCDがないと、人間のように無線でのやり取りによる指揮しかできなくなる為、一世代前の戦い方に逆戻り。今の時代、このように窮地に陥ることも珍しくはない。

 

それもそのはず。この世紀末のような時代に衛星なんて全て撃ち落とされているか機能しなくなっている。今や情報の習得はJ-STARSの情報にレーダーと電波頼りだ。このtもペルシカが作らなければどうなっていたことか。

 

「指揮官。敵部隊が撤退していきます」

「なんですって?」

 

15の言葉に反応したM4が慎重に外の様子を覗き込む。

 

「………指揮官。AR-15の言う通り、鉄血の人形達が撤退していきます」

「……有利な状況で撤退するなんざ、なにかしでかす証拠だ。M4。上にいる二人に降りてくるよう言ってこい」

「はい!」

 

無線が使えたら口頭で伝えなくて済むんだが。

 

「指揮官。敵は何故撤退していくのでしょうか?」

「………15。こういう時の悪い予感ってのはよく当たるもんだ」

「え?」

「指揮官」

「45か……」

 

先ほど地下の捜索を支持した404小隊の隊長が戻ってくる。顔色ひとつ変えないのは彼女らしいことだ。

 

「地下はあったのか?」

「ええ。だから………」

「まて………なにか聞こえなかったか?」

 

俺の言葉にその場にいた全員が口を閉じた。

間違いなく外から聞こえてくる。なにかジェットエンジンのような音だ。というより………

 

「くそ!巡航ミサイルだ!!」

「指揮官!!早くこっち!!」

 

45に手を引かれその場を離れる。誰もが焦りの様子を見せた。なにせ、鉄血の奴らが巡航ミサイルなど使った前例がないからだ。

人間が住む空域には対空レーダーが張り巡らされているため、奴らが巡航ミサイル等を飛ばしてきてもすぐ撃破されてしまうのだ。ここも一応対空レーダーの範囲に入っている。一体、どうやって突破してきたというのだろうか………

 

(新型しかありえねーな………)

 

 

そんな思考が最後に俺の意識は衝撃と共に失うのだった。



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案件1-4:アイリス

信用してもいいの?


「………かん!!」

 

………頭痛がひどい。頭がクラクラする。おまけに身体が全身激痛が走るときた………手と足の指等を動かしてみるとなんとか五体満足なのは分かる。嗅覚も正常。焦げくさい臭いが鼻の中をつんざき思わず咳き込んでしまう。

 

「指揮官!!」

「っ………」

 

ボヤけた視界の中、照りつける太陽を遮るようにこちらに顔を覗かせる一人の少女の影。

 

「この声………15か………」

「はい………本当によかったです指揮官………」

「………あれから時間はどれくらい経ったんだ?」

「32分と24秒です」

「こまけーな」

「ふふ……そう言えるなら大丈夫そうですね」

「みたいだな…………お前らは全員無事なのか?」

「無事………とまでは言いませんが、完全に破壊された者はいません」

 

完全に破壊された者は………か。ということは手足など吹き飛ばされた重傷者はいるみたいだな。

視界が段々とクリアになってくると体中に走った痛みに耐えながら半身を起こす。

 

「15………お前」

 

俺は視界の中にAR-15を映すと思わず言葉を失う。

 

「………私なら大丈夫です指揮官」

 

と、彼女は苦笑いを浮かべながらそう言うも俺の気分は最悪だ。なにせ、彼女の左足の膝から下は無くなっていたのだ。

 

「大丈夫なわけあるかくそ………」

 

誰かが治療した後なのだろうが人工血液が流れ出ていた様子が伺える。

 

「私達は指揮官が無事なら大した損害じゃないってことよ」

「45………」

「無事で何より指揮官。全力で庇ったかいがあったわ」

 

そういえば記憶の最後に45が引っ張っていったのは覚えている。

 

「………ったく。俺を身を呈して守ってくれるのはいいがな。俺にだって良心くらいはあるんだ。お前らの心配くらいさせろ」

「指揮官………」

 

そう言うと俺は15の頭の上に手を乗せる。彼女は少し頬を赤らめて気まずそうにしながらも嬉しそうにはにかむ。

ここで45から狂気じみた笑みで見つめていることは何も言わないでおこう。

 

 

しばらくして、体を無理やり起こして辺りを見回す。

意識を失っている間に運び出されたのか、今は病院跡ではなく近くにあった広場にいた。病院跡は僅かに原型は留めているが半壊。周りの建物も同様の被害を受けていた。

 

クラスター(集束)式か………」

「ええ。でなければ私達全員木っ端微塵よ」

「笑えねーな」

「本当にね」

 

45の言う通り、巡航ミサイルが通常弾頭なら俺達は今頃肉片と化してただろう。もし、これがイントゥルーダーの仕業なら俺達はまんまと手の平で踊ろらせていた気分だ。

 

「指揮官。今回のことは予想外のことよ。あまり自分を追い込まないでね」

「………ああ」

 

こいつら(人形達)の優先事項は自分の心配よりも俺の心配か………人形らしい思考だが、俺的にはもう少し自分の身の心配をしてほしいところだ。

 

「この辺りの鉄血人形達は撤退したみたいよ」

「そうか………なら、帰投しよう。ヘリを送ってもらう」

 

ちょうどこの広場にはヘリが着陸できるスペースが十分とある。

 

「大丈夫。すでに呼んであるわ」

「仕事が早いな」

「ええ。指揮官の右腕みたいなものだからね~」

 

いつかこいつに仕事を取られてしまうのではないのかと思ってしまう。まあ、報酬も支払ってる立場だから楽にできるに越したことはないな。

 

「それで………部隊の損害は」

「全員生きてるというのはAR15から聞いたよね?」

「ああ」

「第一部隊は三人が手足の欠損による重傷。AR小隊はAR15とSOPMODⅡが部分欠損による重傷。私を含めて404小隊は地下にいたおかげで全員無事ね」

「………分かった」

 

全く………してやられたというのが本音だ、くそ。

「でっ…肝心の地下の件だけど………連れてきて」

 

45が後ろを振り向き404小隊の連中を呼びかける。すると、彼女達はある人物に銃を突きつけながらこちらへと歩いてきた。肩まで届いた赤髪でボーイッシュな見た目をしている。

 

(子供?)

 

彼女達が銃で警戒している時点でただの子供ではないということは察せる。

 

「こいつは?」

「こんな見た目でも鉄血工造の人形らしいわ」

「鉄血工造の人形だ?」

 

まあ、こっちも人のことを言えた義理じゃないが。G11だって側から見れば子供だからな。

今、変なこと考えただろうと察したのかG11が不機嫌そうに俺の方へと睨みつける。ここは気づかないフリをするのが正解だろう。

 

「それで?こいつとさっきの巡航ミサイルは関係あるのか?」

「それは分からないけど」

 

尋問しろってか?まあ、404小隊が単体の任務なら俺の命令なしにそうしてただろうな。

 

「さてと………ヘリが来る間までだが話をしようか鉄血の人形」

 

俺はプレートキャリアに装着してあるホルスターからセカンダリウェポンであるハンドガンを取り出す。その仕草を見ていた鉄血の人形は少し表情が強張った。

 

「聞かれた事だけを答えろ。でなければ問答無用で額に風穴をあけるぞ」

 

例えこんな子供のような見た目でも俺達の敵である鉄血工造の人形に変わりはない。この世界では見た目だけで情を和らげるのは命取りになるのが常識となっている。

 

「まず、あの巡航ミサイルはお前がやったのか?」

「ボクは………やってない………」

「すまん。言葉を間違えたな………お前が誘導したのか?」

「それは………間違ってない………と思う」

「こいつ………」

「待て!」

 

45はトリガーにかけた指が怒りを滲ませ自然と力が入ってしまっている。俺はそれをなんとか抑止させた。

 

「………言葉が曖昧だな」

「た、確かに巡航ミサイルが飛んできたのはボクのせいでもある………けど、ボクだって望んでたことじゃない………」

「つまり?」

「………奴らに追われてたんだ」

「追われてた……か」

 

となると、こいつは鉄血を裏切ったかもしくは脱走したことになるのか。

 

「……お前の身体の状態を見る限りそうみたいだな。何をやらかした?」

「それは………」

 

彼女は急に押し黙ってしまう。なにか言えないことでもあるのだろう?でなければこんな気まずそうに俯くはずがない。

 

「なに?なにか言えないことでもあるの?」

「…………」

「指揮官………撃ってもいい?」

「お、落ち着いてよぉ、45姉」

「判断を下すのは指揮官よ。冷静になって」

「45がいつもより怖い………」

 

45の気持ちはよく分かる。この鉄血人形が原因で巡航ミサイルが飛んできた事実は変わりない。おかげで仲間が半分と損害を負ったのだ。頭にくるのも当然だろう。

俺だって腑に落ちないところはある……が、こいつには敵意というものが感じない。信用できるかはまだ判断できないが、こいつの話を聞かないといけない気がする為、45の具申は却下させてもらう。

 

「あなたが…………指揮官なの?」

「………鉄血工造の人形なら全員知ってると思ったがな」

「ボクは………噂だけなら………」

 

噂か。イントゥルーダーといい、こいつらも俺をどう評価してるんだか………鉄血工造の幹部どもはあいつ(イントゥルーダー)みたいに全員病んでるんじゃないだろうな?

 

「で?お前が追いかけられていた理由は話す気にならないのか?」

 

またもや鉄血の人形は黙り込んでしまう。

 

「………ボクを………保護して」

「なに?」

「ボクを………保護してくれたら話す………」

「鉄血の人形が………保護だと?」

 

ありえない………今まで前例にないことだ。

こいつらは人間を殺すことしか考えない連中だと思っていたが………

 

「太々しい奴………」

「落ち着け45」

 

罠………という可能性はなくもない。こいつを信用するにはまだ情報が足りなすぎる。

 

………だが。もし本当に味方であった鉄血が狙われる理由があるとするならば、相当な理由を持っているのかもしれない。

俺はひたすら考えた。可能であるメリットデメリットをひたすら絞り出すまで。

 

「………わかった」

 

結果、俺はこいつの提案を受け入れる。

 

「指揮官?」

 

45の反応は当然だろう。彼女だけじゃない。この場にいる人形達全員が同じ反応を見せるはずだ。

敵を基地に招き入れるなんざ前代未聞のことだからな。特に鉄血の人形は………

 

「まあ聞け45。いいか?鉄血の人形。お前が保護してほしいなら俺は受け入れてやる」

「じゃあ………」

「だが、物事には順番というものがある。このまま敵である鉄血工造の人形を保護するって話も全員が全員納得できる話じゃない。現にお前の横で銃を突きつけてる奴らがそうだ」

「うっ………」

「で、先にお前を拘束という形で基地に連れて行く。監視、検査、そして尋問を行うだろうが不審な点がなければそこで初めてお前を信用して保護してやることを約束する。どうだ?」

 

横目で45を見ると完全には納得できていない様子だ。

だが、こうでもしないとこいつは連れて行くことはできない………この人形自身も自分の立場は理解しているはずだ。

 

「………わかった。あなたの提案を受け入れる」

「そうか………聞いたな?」

「…………了解」

 

ここで初めて404小隊の警戒が解けた。

 

「今からこいつは監視付きながらもゲストだ。俺の指示なしにこいつに勝手に手を出すのは一切禁じる。いいな?特に45」

「分かりました~」

「指揮官。ヘリが来ました」

 

416が双眼鏡で空を覗きながらそう言った。確かによく耳を澄ませばヘリのローター音が聞こえてくる。

 

「さてと、撤収するぞ。動けるものは負傷した奴を背負っていけ」

 

ヘリが来るまでの間。俺は負傷した者の側へと向かい声をかける。どいつも大丈夫だとしか言わないから大したものだ。

 

そうしている間にヘリが降りてくると、人形達は仲間に肩を貸しながらそれぞれにヘリにの中へと搭乗していく。

 

「指揮官。ダミーは置いていかないの?」

「ああ。どの道、ここは鉄血工造と正規軍にとっても用はなくなったからな。守る価値なんてもうないだろ」

「そう」

「おい、鉄血の人形」

「な、なに?」

「名前は?」

「えっ?」

「名前はあんのかって聞いてんだ」

「えっと…………」

 

このようなことを聞かれるのが初めてなのか、鉄血の人形は落ち着かない様子だ。

 

「………アイリス」

「そうか………俺はアヴェンジャーだ。好きに呼べ」

「う、うん………ありがとう、アヴェンジャー………」

 

 

この日。初めてグリフィンはアイリスと名乗った鉄血工造の人形を受け入れた。

 

 

 

この人形を中心に様々な陰謀が蠢いているのをまだ知らずに…………

 



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案件1-5:帰投してから

人間の命は一つだけ………


「やあアヴェンジャー。なにか収穫はあった?」

「ああ」

 

ヘリのローターで舞う砂塵の中、S09地区へと帰還するなりヘリポートにはある人物が待っていた。

 

気だるげに話して来たのは何故か猫耳があるマッドサイエンティスト………

ペルシカリア。第二世代戦術人形の開発者だ。俺は気軽にペルシカと呼んでいる。

 

「痛手な成果だがな」

「それは本当にごめん。まさか、向こうが巡航ミサイルを所持しているなんてね」

「ああ。俺達も予想はしてなかった」

 

降り立ったヘリから負傷した人形達が抱えられて降りてくる。すると、すぐ側には側面に赤十字のマークが描かれたハンヴィーが用意されていた。

 

「修復の手筈は整っているから、明日には全員回復してるよ」

「助かる」

 

せめての詫びなのかペルシカは頭を掻きながら気まずそうに言った。

 

「それで……こいつの件だが」

「こいつ?ああ………今回の収穫ね」

 

アイリスをペルシカの前に連れてくる。

 

「鉄血工造の人形ね」

「ああ」

 

俺はアイリスを連れてきた理由を話した。ペルシカはなんとなく納得した様子で軽く頷くと。

 

「なるほどね。そういうことなら任せて。一度、今の鉄血工造の人形を調べてみたいと思ったんだ」

「おい、マッドサイエンティスト………改造するんじゃねーぞ」

 

ペルシカの言葉にビビったのかアイリスは俺の後ろへと涙目を浮かべながら隠れる。

 

「分かってるって」

「はぁ………おいVector」

「なんだい?」

 

たまたま近くにいたVectorへと声をかける。

 

こいつ(ペルシカ)がいらんことしねーか見張っといてくれ」

「分かった」

「ちょっとぉ……信用してよ」

「いいからとっとと行け」

 

足にしがみついていたアイリスを引き剥がし、ペルシカとVectorと供に歩き去っていく。

 

「指揮官さま~!」

 

やっと話が終わって解放されたかと思った矢先。ある少女がこちらへ走りながら叫んでいる。

 

「カリンか。どうした」

「お戻りになられたのですね。丁度よかったです」

 

タブレットを片手に親しげに話してくる女の子。

カリーナ。俺が入社してから親しくしてる人物の一人であり、この世界で信頼できる一人でもある。立場的には秘書的な立場で俺がいない間は代理を務めてもらっている。

 

「CIMの方が来られているのですが………どうします?」

「あの情報誌の奴が?」

「なにか、話を聞きたいご様子でしたので」

「悪い………今日は断ってもらってくれ」

 

今日はなにかとゴタゴタしすぎたのだ。この後、報告書やら色々やらないといけないことがあるため今日は対応できないだろう。あと、疲れがピークに達するためそれどころではない。

 

「わかりましたわ」

「宿舎の一部でも貸してやってくれ。その辺のことはお前に任せる」

「はい。お任せください」

 

いい笑顔で頷くものだ。

 

(さて………早めに終わらしてとにかく休むか)

 

明日ごろにはヘリアンから今回の間に関して詳しい連絡が来るだろうからな。

 

 

 

 

俺は昔の綺麗な地球の姿を見たことがない。生まれて物心がついた時にはこの世界は瓦礫と死体で地面が埋め尽くされていた。

その時から人の死を見てもなんの抵抗もなく現実を受け入れた。だって、それが今の世界の姿なのだから。

ただひたすら………屍の道を歩むしかないのだ。

 

フロントライン(前線)という名の道を………

 

 

 

 

「っ…………」

 

薄っすらとした意識……微睡みの中から徐々に意識が覚醒していく。カーテンの隙間からは日の光が木洩れており、あれから1日が経ったのかと思うと複雑な気分になってしまう。

 

それにしても嫌な夢を見てしまった………

 

(PTSDも患ってんのか………俺は………)

 

魘されていたのか額に触れると汗でべっとりとしている。

 

シャワーでも浴びよう………

 

そう思い立ち上がろうとすると、布団の中に違和感が伝わってくる。

何故、右側の掛け布団が膨らんでいるのだ?呼吸するのような動作もしている。

 

(またか………)

 

思わず頭を抱えてため息を吐いてしまう。なにせ、心当たりもあり前例もありまくりだからだ。最初は声を上げて驚いたものの、今では呆れる一方。

 

「おい、9………テメェ、いい加減人の部屋に入るのやめろ」

 

バサっと勢いよく掛け布団を捲り上げる。そこには横向きで寝ながらアヒル口で何のことやらと惚ける9の姿があった。

 

「いや~………昨日のことで落ち込んでるかなと思って来ちゃいました」

「来ちゃいましたじゃねーよ」

 

んな可愛い顔をして許されると思うなよ。てか、電子ロックで閉めてるというのにどうやって入ってきてんだこいつは………

 

「指揮官~………これなに?」

「…………」

 

ベッドの下からヌーッと出てきたのは45………ホラーだ。

両目の瞳に光が灯っておらず、なにかご立腹な様子。なにせ、45が両手に持っているのは成人雑誌だからな。

 

(はぁ………面倒な性格が裏目に出たか………)

 

俺はこう見えても面倒くさがりな性格だ。といっても、部屋の整理整頓などは日頃からは心がけているのだが、私物の管理に関してはズボラなところもある為よく無くすことがある。ちなみにだが、45が持っている雑誌は俺のものではなく前にいた部隊の奴に貰ったものだ。あまり興味がなかったため放ったらかしにしておいたのだが………まさかこんな所で見つかるとはな。

 

「言っておくが、俺のじゃないぞ」

「ふ~ん………」

 

こいつ信用してねーな………

 

「第一そんなものに俺が興味あると思ってんのか?」

「男なんだから興味ないわけがないよね?だって、この時代にどうやって性欲を処理してるわけ?」

「うるせーよ」

「指揮官!私がいるのにどうしてあんな本なんかに浮気するの!?」

 

9は半身を起こして俺に詰め寄りながら雑誌へ指をさして叫んだ。

そんな言葉どこで覚えたんだか………

 

「いいからお前らとっとと自分のセーフハウスに帰れ。なんでまだここ(グリフィン)にいやがんだ」

「いいじゃない別に」

「だって、ここ居心地がいいからね」

「だったら用意した宿舎に戻れ」

 

深いため息を吐くと、俺はベッドから降り、シャワー室へと向かう。

 

「………お前ら入ってきたら分かってるだろうな?」

「「…………」」

「…………」

 

まあいい………一応こいつらを信用するとして早く汗を流すか………この後ブリーフィングをしないといけないからな。

 

 

 



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案件1-6:後日

作戦立案は慎重に


「SOPとAR15。体はもう大丈夫か?」

「うん。この通り思いどおりに動くよ」

 

SOPは笑顔のままそう言うと片腕を回した。

 

「よし………諸君、静粛に。これからブリーフィングを始める」

 

暗くなった部屋に投射モニターを映し出し、ブリーフィングの内容をマップと共に表示する。

 

「先日の戦いに参加した部隊はご苦労だった。破壊された者がいなくてなによりだ」

「指揮官は大丈夫だったの?」

「ああ。軽い切り傷や打撲だけで済んだ」

 

報告書などをまとめてから自室に帰ってからシャワーを浴びたが全身のあちこちから痛みが走ったのは言うまでもない。

 

「話を戻して、昨日の巡航ミサイルの件についてだが………ヘリアンから詳しい詳細が送られている」

 

俺はそう言うとモニターの画面を切り替える。

 

「昨日俺たちに向けて発射された巡航ミサイルはS14地区から発射されたと見ている」

「そこって極寒の大地じゃない」

 

S14地区とはここS09地区より上にある場所だ。

 

「種類はクラスター(集束)式。標的に向かって広範囲にばら撒くやつだ。これがもし目標が大隊か師団規模なら大損害を負っていただろう。もちろん、部隊を率いている俺達も例外ではない」

 

俺達も損害を出したとはいえ、全員生き残っているのは奇跡というか悪運が強いというか………まあ、どちらでもいいが、損失するような被害が出なかったのはいいことだ。

 

「俺達を消し去るなら通常弾頭でもよかったはずだが………奴らはそうしなかった。そこは気まぐれなのかあえてそうしなかったのか………まあ、過ぎたことを考えても仕方ない。それに、問題は鉄血の奴らが巡航ミサイルを所持していることだ」

「もしかしたら、人間が協力している可能性もありますね………」

「その通りだM4。俺も同じことを思ってる。鹵獲されたとなると納得できるが、正規軍からも奪われたという報告は受けていない。そうなると、あんな高度で精密なものを作れるのは技術者である人間が関わっている可能性が大きい。もしかしたら、イントゥルーダーが俺をスカウトしてきたのも何かしら理由があると見ている」

 

その言葉を聞いた人形達はざわめく。まあ、無理はないな。

 

「ミサイルの件に関しては正規軍と合同で調査を進めているらしく、判明次第連絡がくる手はずだ…………そしてもう一つ、ヘリアンから同時に任務の内容が届いている。詳細は制圧任務だ。S09地区から東へ行ったところに敵の司令基地からあることが判明した。規模的には大きくないものの抵抗は予想される。かといって俺達の敵じゃない。その為、ハンドガン、サブマシンガンとアサルトライフルを中心とした部隊で制圧を行う。期間は指定されていないが、ミサイルの脅威もあるため3日以内には終わらせる予定だ。部隊編成の内容は後日知らせる………ブリーフィングの内容は以上だが、なにか質問があるものは?」

「はい」

 

左側にテーブル上へ座っていたスコーピオンが手を挙げる。

 

「昨日鹵獲………じゃなくて、拘束した鉄血工造の人形はどうなってるの?」

「今のところペルシカの検査待ちだ。それが終わり次第、俺が尋問を行う予定だ。そこで不審な点がなければ、晴れて無罪放免………というわけじゃないが、保護する形だ」

「信用できるの?」

「さあな。だが、信用できるかできないかはアイリスがなにを語るかだな………他には?」

 

静まり返るブリーフィングルーム。どうやら誰も質問はないらしい。

 

「よし、ブリーフィングは以上だ。行動があるまで各自自由にしてくれ。以上解散」

 

俺の言葉と同時に投射モニターは消され、部屋は照明で明るさを取り戻す。同時に集まっていた戦術人形達は雑談をしながらもブリーフィングルームから退出していく。

 

「指揮官。この後のご予定は?」

 

片手にファイルを手に持つと、前の席に座っていたスプリングフィールドがこちらへやってきて話しかけてくる。

 

「ペルシカの所へ行って検査の報告を聞きに行く。その後、さっきも話した通りにアイリスの尋問を行う予定だ」

「そうですか。なら、私は作戦の立案でもしておきます」

「ああ。そうしてくれると助かる」

 

今回の任務以外にもやることがあり過ぎて正直オーバーワークすぎて困っていたところだ。その中でスプリングフィールドの補佐ぶりには感心する。副官としての働きぶりは誰もかなわないと俺は思っている。

 

(さてと………ペルシカの元へ向かうか………)

 

 

-side Ethan-

 

昨日、カリーナさんから『指揮官様は本日多忙ですので、後日以降だとありがたいのですけど………もし、多忙でなければ宿舎も貸してくれると言っていましたのでどうなさいますか?』と言われたので急かされている仕事もないため、僕は言葉に甘えて泊まらせてもらうことにした。普通なら追い出されているところだが、ここは懐が大きいようだ。指揮官には感謝しないといけない。

 

そして、翌朝となり僕は食堂へとやってきていた。ここではクルーガー社の社員や戦術人形達が混じって食事を行なっている。どうやらここにいる人達は戦術人形に偏見を持たない人達が多く見受けられる。人形達も食料を食べることで精神状態などを維持していると社員の人達から聞き、僕達人間とさほど変わりがなのだと改めて思ってしまう。

そう思いながらトレーに乗せられた食べ物をスプーンですくい、口の中へと運ぶ。街中のレストランで出されるものより味はマシだが、やはりどこか素っ気ない味だ。

 

贅沢は言えない。こんな世紀末のような世界では作物や家畜なんて一部限られた地域でしか育てられず、野菜も肉も種類問わず高級品だからだ。最後に肉を食べたのはいつだろうと思い返せるのはいい思い出と言っていいのだろうか?

しかし、他所からやってきた人に食事を提供してくれるのもここの指揮官のおかげだろう。以前に他のPMCの基地へ取材へ行った時なんかMREをそのままトレーに乗っけられただけとか、時には栄養ブロックや水すら与えてくれないところもあった。

 

他の基地と違って空気が張り詰めていないのが不思議だ。普通なら話しかけるだけでも嫌な顔をされるのだが、ここの社員達はみな快く話をしてくれる。それだけグリフィンの景気はいいみたいだ。

 

(どうりで他のPMCの顔が渋ってる訳だ………)

 

話を聞く限りだと今いる指揮官が来てから鉄血工造との勝率が上がったらしい。指揮官として就任してばかりだというのに不可能だと言われた作戦を成功させたことから評判はよくなったという。

だが、その中でもよく聞くのが指揮官が自ら前線へ出て戦うのだとか………最初は僕もそんなバカなとは思ったが本当のことらしい。そうなれば昨日ヘリから降りてきた人間の男性と思われる人物はこの指揮官だったのだろう。まさか不在の理由が前線へ出ていたと分かると驚愕してしまう。

 

だからこそ、僕のジャーナリスト魂が熱くなっている。

 

衛生兵の事とは別にあの指揮官のことも気になり始めていたのだ………

 



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案件1-7:尋問

人間が全員貴方みたいだったら今みたいにはならなかったのかな?


ペルシカがいる部屋までやってくると、薄暗い部屋の中で彼女はコーヒーを啜りながらパソコンのキーボードを淡々と叩いている。

 

「ペルシカ。検査は終わったのか?」

「ん?うん。さっき終わったところ」

 

俺が声をかけるとペルシカはいつも通り気だるげに言葉を返した。

 

「どうだったんだ?」

「ん~……特に以上は見当たらなかったよ。ウィルスを仕込まれた形跡や追跡装置等の機器も見当たらなかった。彼女………アイリスだったかな?アイリスの言う通り、同じ鉄血でも追われていたのは本当みたい」

「そうか」

「傷もあったから一応治しておいたよ」

「………改造してないな?」

「Vectorに見張られていたし、してない」

 

まあ、それを聞けてよかった。でなければ16LABへ送り返しているところだ。

 

「それで。アイリスはどこに?」

「空き部屋。今はVectorに見張らせているよ」

「なら、丁度いい。Vectorに連絡して尋問室まで連れてくるよう伝えてくれ」

「了解」

「あと、彼女に連れて来たら休むよう言ってくれ」

「それも了解」

そう言い終えると俺は彼女へ背を向けて部屋から出て行く。

 

 

-数十分後-

 

『ここで待ってて』

『あのー……ボクはこれからなにを………』

『指揮官が来て説明してくれるから』

『…………』

 

鏡越しに無表情のまま不安になっているアイリスを見つめながら淡々と話しをする姿が映る。当然向こうからはこちらの姿は見えていないし、壁にしか見えていない。声もこちらからONにしないと届かない仕組みになっている。民間にしては昔にあった映画さながらの設備だ。

 

それよりもVector………ペルシカから休めって聞いてなかったのか?

 

「カリン。機器の調子は?」

「問題ありませんわ」

 

機材の前に座っているカリンは、無数に付いたボタンやダイヤルを調整しながらそう答える。

 

「すまない。少し遅れた」

 

すると、ドアからこちらの部屋に入って来たのは左目にモノクルをかけたクールな外見をした女性。

 

「全くだヘリアン。5分の遅刻だぞ」

「そう言わないでくれ。先日の任務の件で正規軍と報酬の交渉で手間取ってな」

「………なら仕方ねーか」

 

交渉が相当難航していたのかヘリアンは疲れたと同時に呆れた顔を見せている。

 

「それで尋問の方は?」

「今からだ」

 

俺はそう言いながら尋問室へ向かうためヘリアンの横を通り過ぎようとすると………

 

「………信用できるのか?あの鉄血工造の人形は」

「それを今から調べるんだろ」

 

キリッとした表情を崩さずに俺へそう問いかけるヘリアン。やはり、鉄血工造の人形は信用しきれないようだ。

「奴らの新型コンピュータウィルスの件もあるんだ………安易に彼女を保護するのも得策ではないと思うが」

「分かってる………」

 

ヘリアンの気持ちは分からなくもない。彼女が言う新型コンピュータウィルスのことは俺も懸念してることだ。

 

"雨が降った、平原に"

 

この言葉が意味することはまだ分かってはいないが、俺達に脅威となり得るのは間違いはない。そのため、アイリスを匿うのもあまり得策ではないと思う自分もいるのは確かだ。

 

しかし、その新型コンピュータウィルス以外にも脅威があるのは明白なのだ。この件もあまり妥協はしてられない。

 

「だが、アイリスが持っている情報も何かしらの脅威につながる手がかりかもしれない。一応、彼女と信頼関係を築くのもある意味策だと思わないか?」

「信頼関係か………ふっ。まさか、指揮官から冗談が聞けるとは思わなかったな」

 

冗談?俺が?

 

今のは皮肉げに言ったつもりだが………まあいい。とっとと尋問を始めるとするか。

 

 

 

 

 

尋問室のドアが開き、部屋へと入ると正面にはテーブルの向かいに手錠をかけられたアイリスとその横には監視役のVectorが側についている。

 

「監視はもういいぞVector。休んでこい」

「了解」

 

Vectorはそう言うと表情を変えずにそのまま開いたドアから出て行く。相変わらず無愛想な奴だと思うが今更。あれでも俺がグリフィンに来た時よりは軟化している方だ。

 

それはさておき、今はアイリスの尋問だ。

 

「さて。あまり休めていないようですまないが尋問を始めるぞ」

「う、うん………」

 

俺は椅子を引き、腰掛けると軽くため息を吐きこれから質問することをザッと脳内に整理する。

 

「先に言っておくがこの尋問の内容は全て記録される。言葉は慎重に選んで答えろ………まず、お前の所属と名前を答えろ」

「ボクは……アイリス。所属…………元?所属が鉄血工造」

 

再び自信をアイリスと名乗った鉄血工造の人形は緊張した様子で俺の方へと焦点を当てる。

 

「………単刀直入に聞く。お前は何故、鉄血に追われてたんだ?」

「それは…………」

「…………」

「…………」

 

お互い長い沈黙が続く。狭っ苦しいこの部屋に味方のいないアイリスにとって相当なプレッシャーを感じていることだろう。

 

「………なるほど。あくまでも約束を守ってくれるまでは話さないってことか」

「………ごめんなさい」

「いや、謝るな。逆に関心した」

「えっ?」

 

アイリスは俺の言葉が意外だったのかキョトンとする。

保身の為に走る奴だったらすぐ話していただろうし、信用もしないのは当然のことだ。それなのにアイリスは尋問とはいえ、先日の約束が守られるまで話そうとはせず黙秘を貫くつもりだろう。どっかの小心者の鉄血工造の人形とは違い見た目に反して度胸はある奴だ。

それに………アイリスが持っている情報が重要なものだとしたら悪用されることを懸念してるのかもしれない。アイリス自身も俺という人間を見定めているのだろう。

 

「質問を変えよう。どこから逃げてきた」

「それは………北からずっと降りてきたんだ。あいつらの追跡がかなりしつこくて」

 

北か………少なくも寒冷地で山岳地帯が目立つ場所だ。鉄血が隠れて基地を作るにはもってこいだな。恐らく北から降りてきたと言うならS05地区付近を通ったのは確かだろう。

 

「武器も持たずによく逃げ切れたな」

「事前に鉄血の情報をハッキングして地理を把握したからね………隠れ場所とか見つけるのに苦労はしなかったよ」

「そうか………」

 

大したものだ。鉄血のボスが追跡していた中、五体満足で逃げ切れたのは称賛できる。

 

(奴らが執着するということは、やはりこいつが持っている情報はかなり重要なものなのか)

 

断定はできないが俺の直感ではそう感じとれていた。なにより、鉄血にしてはアイリスの雰囲気が奴らと全く違うからだ。

 

「お前は何のために造られたんだ?俺から見れば戦闘向きではないのは分かるが………」

「それは………ボクも分からない。目が覚め時から戦闘に関するプログラムなんてなかったし、人間に関しても憎悪のような感情はなかった………」

「全員が全員じゃないと思うが………鉄血工造とは思えない発言だな」

「指揮官が鉄血をどう思ってるかは分からない………けど、ボクには本当に貴方達と敵対する意思はないんだ。信じて………」

「…………」

人間のように感情の起伏を見せながら訴えかけるアイリス。

俺はしばらく黙り込むと、軽くため息を吐くと口を動かし始める。

 

「正直なところ、信用できるかできないかで言えば………俺は信用してもいいと思ってる」

「………本当に?」

「ああ。でなければこんなのんびりと質問なんてしてないからな」

 

そう言いながら俺はヘリアン達がいるであろう部屋の方へとチラッと見つめる。恐らくだが何を言っているんだと表情を変えて聞いているに違いない。

 

「と言っても、保護………というより亡命のほうが正しいか。俺だけが信用してもどうこうできるって問題じゃない。お前の安全が保障されるでまだ少しかかるが………その時が来たら必ず話せ」

「う、うん!約束する」

 

(約束………か)

 

こんなこと45に聞かれたら甘いと言われそうだが、自分自身もそう思ってしまう。以前の自分なら尋問よりも拷問が当たり前だっただろう。そんなクズみたいな俺でも変われてしまったのだから、人形とはいえ彼女達との絆は案外と侮れない。

と言っても、俺の本性は根本的に変えられないのだが。

 

「さて、次は………」

 

それからというもの、約一時間くらい尋問が続いた。アイリスは疲れきった顔をしていた為、区切りがいいところで尋問は終了したが、ヘリアンが詰め寄って俺の真意を問いただしてきたのは言うまでもない。

 

 



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閑話:トラッカー

この世で一番残酷な生き物は人間………

今回はオリジナルの鉄血側の人形が登場します


人の気配がなく、ただ自動的に機械音が鳴り響く工場…………

ここはかつて人間が多数存在しては自立人形を生産していた場所だ。

だが、今はそんな活気あふれた景色とは遠くかけ離れ、天井は一部が抜け落ち、工場内もどこか不気味な空気が流れている。

 

そんな工場の奥である少女がテーブルの上へと座り、ノイズが走る巨大なモニターへと見つめている。

 

「………あら。帰ってきたのねイントゥルーダー」

「ええ」

「ふふ………なんだかご機嫌なようね?」

「見なくても分かる?」

 

少女の問いにイントゥルーダーは珍しく揚々とした口調で返答した。問いかけた少女も「声を聞いたらね」と言葉を返す。

彼女の言葉通り、少女はイントゥルーダーの方へと振り向きもせずに機嫌がいいことを当てた。もちろん慣れているイントゥルーダーはその事には驚きもせずに話を続ける。

 

「また彼に会えたのよ」

「彼って………ああ。あなたが言うグリフィンの指揮官のこと?」

「ええ。素敵だったわ………私のスカウトを人蹴りして突然グレネードランチャーを撃ってきたの」

「………それを素敵だと言える貴方の神経は理解できないわ」

 

味方とはいえ、イントゥルーダーの言葉に異常なものを感じ取った少女は少し引き気味な様子を見せる。

 

「分からなくて結構よ………でも。あんな予測できない行動をされたらゾクゾクするわ」

「………イかれてるわね」

 

そんな率直な感想を言い放った少女はやっとの事でイントゥルーダーの方へと振り向いた。イントゥルーダーの服ははだけておりなんともはしたない姿だろうか………顔や体には生体フレームが少々剥がれ落ち、機械部が見えている。そんな状態になりながらも笑いながら話すイントゥルーダーを見てイかれてると言う言葉は正解だろう。

そんな姿に少女はただ目を細めながら苦笑いを浮かべるしかなかった。

敵ながらもグリフィンの指揮官には同情してしまう。

 

「それよりも。脱走者は捕まえたの?それとも死んだのかしら?」

「残念ながら。グリフィンに連れていかれたわ」

「そう………巡航ミサイルを飛ばしてまで取り逃がすなんて」

「クラスター式を飛ばしておいてよく言うわ」

「…………ごめんなさい。それはこちらの手違い」

 

バツが悪そうに表情を曇らせる少女を見たイントゥルーダーは微笑みながら軽く息を吐く。

鉄血の人形にしては素直な性格をしている少女のことを理解しているのでイントゥルーダーに責める気など全くなかった。また、少女も上にいる存在に命令されて実行したに過ぎず、彼女を責めるのは間違っていることも承知なのだ。

 

「そもそも。私はその巡航ミサイルが気に入らないわ」

「なんで?」

「アヴェンジャーがバラバラになっちゃうじゃない」

「あっそ」

 

やはりイかれてる………いつからイントゥルーダーはこんなメンヘラな性格を持ってしまったのだろうか?

そんなにグリフィンの指揮官との出逢いが衝撃的だったのかと少女は疑問を抱いてしまう。

 

「でも………あんな程度じゃ彼は死なないけどね」

「あら。随分と信用してるのね?」

「信用?違うわ………」

 

ここで愛だとかぬかせば一発撃ってやろうかと思った少女だが、

 

「分かるのよ。彼は私達人形以上に狂った存在ってことをね」

「病みモードのオンオフが激しくて混乱してきたわ………まあ、いいわ。それよりも、貴方が心酔しているアヴェンジャーとはそんなにイかれてるのかしら?」

「ええ。なにせ、エクスキューショナーとマンツーマンで殺り合ったのよ?そんな人間何処にいると思う?」

 

(噂は本当だったのね………)

 

処刑人という名を持つ彼女は太刀とハンドガンを巧みに使って戦うことで知られている。正規軍もグリフィン以外のPMCもエクスキューショナー率いる部隊の前では太刀打ちできず何度も撤退に追いやられてきた。

 

そんな彼女を前にして一人の人間が立ちはだかったという噂が鉄血内で流れては話題になったのも最近の話。しかも、正規軍の大隊ですら倒せなかったエクスキューショナーの部隊を壊滅させ、彼女もグリフィンの指揮官とM4に倒されたというのだ。

少女はそんなバカな話があってたまるかと思っていたのだが、イントゥルーダーの話を聞く限りでは嘘を言っているようには見えない。

 

「よく生きてたわね彼」

「無傷ってわけじゃないみたいだけど………五体満足で生き残ったのはアヴェンジャーが初めてね。私も実際に見たわけじゃないけど、エクスキューショナーが最後に送ってきたデータにそうあったのよ…………」

 

それはエクスキューショナーが倒される前に主観映像と音声………そして、彼女の心の声が記録されているものだ。

 

なぜ私はその映像を見てないんだ?と少女が疑問に思ったのは割愛させてもらう。

 

だがイントゥルーダーは少女の気持ちを悟ったのか腕を巨大モニターへと伸ばし指を動かした。すると、そこに映し出されたのは主観で動く映像………エクスキューショナーの主観映像だ。

 

"M4A1とグリフィンの部隊が合流されるとさすがにオレでも太刀打ちできないと感じ、ある作戦を実行した。作戦と言っていいのか分からないが………まあいい。向こうには都合よく指揮官が前線へ出向いてるとの情報が送られ、そいつを殺すことにする。罠と言った方が納得するか………"

 

"その罠に見事はまってくれたグリフィンの指揮官は孤立。オレは真っ向から立ちはだかり、奴を殺すことにする。指揮官が死ねばグリフィンの部隊やM4A1はどんな顔をするだろうか………"

 

"物事とはうまくいかないものだ。グリフィンの指揮官は思ってた以上にしぶとい。戦い方を分かってるのかオレの攻撃を避けては反撃を食らわしてくる………"

 

"見事に一発くらっちまった………普通の人間なら絶望の顔をするというのに。前に殺った正規軍の将校とは違い、命乞いなどせずオレに立ち向かってくる…………チッ、戦いにくいったらねーな"

 

"ライフルを真っ二つにしたが、グリフィンの指揮官は片手にハンドガン、ナイフを持って尚オレに挑んでくる………手足などを何度か斬って刺して撃ったと言うのに…………なんて奴だ。グリフィンの指揮官は絶望した目などを見せずむしろ闘争心………いや、殺意を詰め込んだ目でオレを見てきやがった………認めたくはないが………オレは初めて"恐怖"というやつを覚えた………"

 

"…………もし、オレがこいつに負けて、次誰かが殺り合うなら忠告しといてやる…………このグリフィンの指揮官は私達以上に化け物だ。戦うなら覚悟しとくんだな………"

 

これ以上音声はなかったが映像ではアヴェンジャーとの死闘の様子が映し出される。言葉通りアヴェンジャーの体はボロボロで、所々に斬られたような箇所から血が流れている。

 

それでも戦い続ける姿に少女はただ黙って見るしかなかった………

 

ターゲットであるM4A1。そして、グリフィンの指揮官によって倒され、映像はそこで途切れてしまう。

 

「………エクスキューショナーにここまで言わせるなんてね」

「私も初めて聞いた時は驚いたわ。特に最後の言葉にはね」

「化け物………ね。貴方と戦った時はそうだったの?」

「いえ?その時は普通に人間らしい戦い方をしていたわ」

「人間らしく?」

「私聞いたことがあるんだけどね………一部の人間には死の直前まで追い込まれると真の力を発揮するらしいわ」

「真の力?」

「生きようとする本能と言うのかしら。人間は脆く、命は一つしかないからね」

 

確かにイントゥルーダーの言う通り人間は脆い。人形と違い、銃弾を一発受ければ致命傷となり、状態によっては戦えなくなってしまう。そして、人形のようにバックアップの体など無く、命の鼓動が止まってしまうと迎えるのは死だ。

 

「要するに………彼は追い込まれるほど強くなると捉えていいのかしら?」

「そうね」

 

なるほど………イントゥルーダーが熱中するのも分かる気はする。

少女は少しだけ俯くと……

(グリフィンの指揮官"アヴェンジャー(復讐者)"ね…………私も一度話をしてみてくなったわ)

 

心の半分………グリフィンの指揮官という人間が気になり始めていた。

 

「ふふ………貴方のお陰でアヴェンジャーに興味出てきたわ」

「それはよかった」

「まあ、その話はひとまず置いておきましょうか。今の問題はあの裏切り者よ」

「アイリスのことかしら?」

「ええ………まあ、裏切りかどうか微妙なところだけど、彼女がグリフィンに連れて行かれたということは………知られたかしら?」

「恐らくね」

「でも、焦る必要はないわ。あれの特定には優秀な指揮官とはいえ時間はかかるだろうし」

「見つけたとしても………彼女が教えてくれるからね」

「ええ…………」

 

でも、それ自体の起動はまだしないだろう…………

 

だってそれは………この戦争に混沌をもたらすのだから………だって、お楽しみというやつは最後までとっておきたいじゃない?

 

「次は貴方が前線に出るのかしら"トラッカー(追跡者)"?」

「ええ………一度、向こうの指揮官とお話ししてみたいからね」

「そう………でも気をつけてね。慎重に接触しないとすぐ撃たれちゃうから」

「貴方の話とエクスキューショナーの情報で学んだわ…………」

 

少女はくるりと回転しながらテーブルから降りる。

 

だが、それよりも………

 

(待ってなさいアイリス…………私が必ず貴方を壊してあげるから………)

 

三日月型口角を上げる微笑みはイントゥルーダーには見えなかった。



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案件1-8:夜間行軍

人間が滅ぶまで戦争は終わらない………


今回は架空組織が登場します。


「………こちらアヴェンジャー。12時の方向に敵二人を確認。一人は塔の上だ」

 

俺は一人離れた所でM4達AR小隊をスナイパーライフルを構えながら見守っている。

スナイパーライフルをバイポッドで支え、何十分もうつ伏せでいるためそろそろ腰が痛くなってきた。

そんな独り言はさておき、今は任務に集中だ。相手の距離はザッと見て250メートルだろうか。俺の腕では余裕の射程圏内にある。

 

M4A1≪了解。確認しました≫

 

「敵とは聞いていたが………まさか、反人形人権連盟とは聞いてないぞ」

 

M16A1≪まあ、指揮官と同族だからな。思うことは分かるよ≫

 

あんなクズみたいな連中と同情されたくはないがな。

 

M4A1≪指揮官。交戦規定は?≫

 

「一応、ヘリアンに問いただしたが無しだそうだ。奴らに対しては慈悲がないみたいだからな」

 

上記通り同情はしない。

反人形人権連盟とは名の通り、人形に人権を与えるなとか弾いているくだらない連中だ。

彼らが決起するきっかけとなったのは蝶事件のことが大きいだろう。表向きは人形を戦争に参加させることを反対たり人権を剥奪しろなどほざいている連中だが、本性は人形を拉致しては虐待や性的暴行を加えるというイカれた奴らだ。俺達は被害にあったことはないのだが、主にPMCの人形を標的として定めており、上記で言っただけではなく違法的に売買されている。理由としては単純にIOP社の人形は性能がいいからだろう。俺的には鉄血よりもこいつらを駆逐したいところだが………そう言ってしまえば頭のネジが外れたかのような発言と思われるだろうから言っておこう。

しかし、奴らが手を出しているのは人形だけではないのだ。

 

同類である人間にまで拉致等と及んでいるらしく、各地域では奴らが占領している地域があるときた。情報によればテロを起こしているのもこいつらも関わっているらしい。正直、鉄血工造よりもタチが悪いな。

そのため、グリフィンを含む民間軍事企業と正規軍は連携して奴らの根絶を図っているところだ。

今まさに現在進行形でな。

まあ、このようなイカれた組織はこいつらだけではない為、根絶するには長い年月が必要だろう。

 

要するに敵は鉄血工造だけではないというのはこういうことだ。

 

「同時にやるぞ。塔にいる奴は俺が仕留める」

 

M4A1≪はい≫

 

「スリーカウント。3…2…1…………グッドキル」

 

スナイパースコープのレティクル越しに見えるのは屍と化した武装した人間の姿。壁には血液が飛び散ってこびり付いていた。

ったく。夜間だというのに灯火管制も敷かないのかこいつらは………

 

M4A1≪これより飛行場に入ります≫

 

「了解」

 

SOPMODⅡ≪ねえねえ指揮官?派手にやっていいの?≫

 

「ああ。だが、第一部隊の応答を待て」

 

戦術リンクがとれている今ではリアルタイムで第一部隊の戦況が伝わってくる。作戦では第一部隊と同時に敵拠点に攻撃を仕掛けるといったシンプルなものだ。と言っても、単純に敵が敵なため、頭を使うような作戦を実行する必要もない。

 

もちろん、油断はしないがな。

 

グリズリー≪こちらグリズリー。指揮官。戦闘準備完了だよ≫

 

「了解。だそうだSOP。好きに暴れろ」

 

SOPMODⅡ≪りょうかーい!よーし!暴れるぞー!!≫

 

「ついでに言っとくが人間の目ん玉くり貫くのはナシだからな」

 

以前SOPは鉄血の人形を壊しては目玉をくり抜いて俺にお土産として持って帰るのがしょっちゅうあった。あの時はさすがに俺でも引いてしまった。

側から見ればあまり良く思われない為、やめるよう注意はした。

それからというもの最近は頻度的にはマシになっているのだが………

 

あとは察してくれ。

 

そんなことを思いながら再びスコープを覗くと飛行場内から銃声が聞こえてくる。AR小隊が敵と接敵したのだろう。

 

「さて………こちらも仕事を始めるか」

 

そう言いながら、飛行場の中へと射程を定める。突然AR小隊が奇襲をかけたせいか、敵さんはパニックになりながらも両手にライフルを持って交戦している。

 

まだ(スナイパー)がいることを知らずに………

 

「背中を向けるとはいい度胸だな………アマチュア共が」

 

重力の影響に距離と風速を計算し、自身の呼吸を制御しながらレティクルをやや右上と上げてトリガーに指をかけて引く。

肩から全身へと衝撃が伝い、一発の弾丸は重力に引かれながらも俺が定めたターゲットへと向かって飛んでいく。

 

命中………ヘッドショット………

 

一人脳天を撃ち抜かれ血が霧のよう分散した。

奴らはどこから攻撃されたのか分からないのかパニックが更に強くなっていく。なら、今のうちに敵の数を減らしていくか。

 

M16A1≪やるなぁ指揮官。最近狙撃してるとこ見てないから腕が落ちたんじゃないのか心配してたよ≫

 

「言ってろ」

 

ボルトハンドルを起こして後ろに引くと薬莢が排出される。そして、前へと戻し次の弾を送り込む。また狙った敵へと照準を合わせ発砲………飽きそうになるくらい単純な動作の繰り返しだが、やはり狙撃はボルトアクションがしっくりとくる。

 

M4A1≪気をつけてください指揮官。敵が数人そちらへ向かいました≫

 

「分かった」

 

俺としたことがスナイパーの基本を忘れて場にとどまりすぎたか………まあ、どうとでもなるが。

 

さて、狙撃は一旦やめて敵さんはどう攻めてくるか見ものだ。

 

「ぐわぁああああ!!」

 

叫び声と共に聞こえてきたのは爆音だ。こうもあろうかとクレイモアを仕掛けておいて正解だったな。いや、常識か。

 

「気をつけろ!!罠が仕掛けてあるぞ!!」

 

奴ら。スナイパーの位置を把握してハンター気分でいたのだろう。アマチュアさ全開だな………誰かが言ったかは分からないが、真のハンターとは足元を警戒するということを知らないのか?

 

「スナイパーライフルがあったぞ!」

「それはいい。狙撃手はどこに行ったんだ!?」

「くそっ!まだ近くにいるはずだ!探し出して殺せ!」

 

………確かに近くにはいる。

 

ただ、こいつらが足りないのは………警戒心と観察力だな。

 

「なっ!?」

 

俺は奴らの死角となっている木の影から一気に飛び出すと、まず一人の懐へと入り込みハンドガンを腹部へと連発する。

 

「ど、どこから現れやがったんだ!」

「そんなことはどうでもいい!撃ち殺せ!!」

 

すると、奴らは俺に目がけて小銃を連射してくる。俺は咄嗟に死体を盾にして身を守るが、この方法はプレートキャリアを装着してくれる部分しか守ってくれないため長時間続けるのは良しとしない。まあ、こいつらの撃ち方が下手なだけあってあまり気にしなくてもいいのだが………

さておき、俺はタイミングを見計らい死体の胴体を横にして二人のうち一人をハンドガンでヘッドショットを決める。それを見て動揺したもう一人は一度射撃をやめてしまう。

それが運の尽きだ………

 

「があっ!?」

 

死体をもう一人の方へと押し付けると、重みでバランスを崩し勢いよく地面へと倒れ込んだ。だが、敵はすぐさまライフルを構えて俺の方へと向けるが既に遅かった。

俺は相手のライフルを蹴り上げ、無理やり武装を解除させると、続けて敵の顔面へと蹴りを喰らわした。

 

「おいおい。威勢のわりには大したことないな」

 

俺はそう言いながらハンドガンの銃口を敵の頭へ向ける。

 

「ガハァ………ハァ………き、貴様………我々に逆らってタダで済むと思うなよ………」

「おー、こわ。それが1世紀前だったら通じる脅しだな。だがな………お前は脅す相手を間違えてる」

「なんだと………」

 

すると、敵は俺の左腕に貼られているパッチに目を配る。

 

「ちっ………PMCか……」

「人形を使っている時点で気づけよマヌケ。それとも、鉄血の奴らかと思ったのか?」

 

まあ、いきなり奇襲でもされたらそう思ってしまうのも無理はないな。

 

「死ぬ前に質問だ。お前らはこの辺りで何をやってんだ?いつものように人形狩りか?」

「き、貴様に答える道理はない!この、人形を率いる人類の裏切り者が!!」

「お前らから見て俺がどんな裏切りをしでかしたかは分からないが………」

情報を貰おうと思ったが……よく考えれば下っ端にそんなもん持ってるはずがないよな。

トリガーにかかる指に力がはいるが、木々の影に人の気配を察知しナイフを取り出す………が。

 

「死ねぇ!!この悪魔が………」

 

タンッ!

 

一発の銃声が鳴り響く。

木々に隠れていた敵が身を乗り出して銃口を俺に向けた瞬間、そいつの額から血を流しながら地面へと倒れこむ姿が目に映った。

 

「………おい。一人でも対応できたんだが45?」

「ごめんなさいね指揮官。こっちから見れば殺されそうになってたから」

「………まあいい。でっ?こんなところに何の用だ404小隊」

 

木々の影から現れ、死体をまたいでこちらへやってきたのは404小隊の連中だった。

 

「私達も任務で来たんだけど」

「別件か………」

「そっ。この付近にいる野獣共のリーダーを拘束しに来たのだけど………どうやら指揮官との任務内容は少し違うみたいね」

「ああ。俺らはこの辺りにいる敵さんの掃討及び基地の制圧だ」

「なら間に合ってよかったわ。このまま行ったら指揮官。奴らのリーダーを殺してるところだったし」

「私達の任務は失敗扱いになって報酬はチャラになってたわね」

「そうかい………そいつは運がよかったな」

 

バンッ!

 

俺はそう言うと、敵に向けていたハンドガンの引き金を引いた。

 

「………そいつ。リーダーじゃないわよね?」

「んな嫌がらせするか」

 

薄っすらと笑みを浮かべる45を背に向け、ため息混じりに返答するとハンドガンをホルスターへとしまい込む。

 

「M4。飛行場を制圧したか?」

 

M4A1≪はい。残存する敵はありません≫

 

「分かった。お前達はこのまま作戦通り"7-03地点"へ向かい、敵を掃討しつつ敵司令部へ向かえ」

 

M4A1≪了解≫

 

「…………俺は少し用事が出来た為、これから単独行動をする。敵司令部付近に着き次第そのまま待機しろ」

 

俺はそういい終えると地面に置いてあったスナイパーライフルを手に取り404小隊へと振り向く。

 

「どういうつもり?指揮官」

「なに。お前らの任務を少し手伝おうかと思ってな」

「………いいの?」

「まあ、今回の敵はそれほど脅威でもないからな。どの道、俺とお前の任務は一緒のようなもんだ。敵司令部にはどの道行かないといけないだろ?」

「まあ、確かにね」

デザートフィッシュ(J-STARS)の情報によれば敵リーダーは司令部にいるらしいからな」

 

敵も見た目に反して臆病なものだ。武力に関しては正規軍と民間軍事企業には勝らないため、奴らはコソコソ隠れて攻撃するしか戦法がないのだ。そのため、向こうのリーダーは拠点に篭って活動することが多いためデザートフィッシュの情報はほぼ正しいだろう。

 

「じゃあ行きましょ?」

「そうね。AR小隊には先を越されたくないし」

「え~………私はゆっくりでいいよぉ~」

「冗談じゃないわ。あいつらに遅れをとるなんて私が許さない………」

「落ち着いてよ416。方針を決めるのは45姉だよ?」

相変わらず416はAR小隊に対して対抗心が高い。とくにM16には呆れるくらい噛み付く。

 

「さてと………悪者を捕まえにいくか…………」




用語的な

J-STARS:Joint Surveillance and Target Attack Radar System の略で通称ジョイントスターズ。レーダーで敵地上部隊を探知、識別し味方地上部隊へと情報を送る。簡単に例えるとAWACSの対地版。
そもそもAWACSと思う人はいるだろう。

AWACS:早期警戒管制機と呼ばれ一定空域内の敵・友軍の航空機などの空中目標を探知・分析し、友軍への航空管制や指揮を行うのが主な任務。いかなる時代においても情報というのは最強の武器だ。


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案件1-9:共闘

誰にも秘密というものはあるもの


404小隊と共に行軍を始めてから数十分の時間が流れる。行く道に敵がいれば暗闇に紛れ静かに素早く一掃し、自分達に都合が悪い場合は無視する………

他の部隊との作戦時間に合わせるため、俺と404小隊は出来るだけ敵を避けて移動するべくステルスを重視する選択をとったのだ。416はこの選択には大いに賛成しており、率先して行動してくれる。AR小隊に負けたくないのだろう。お陰で狙撃担当である俺とG11の出番がなくなってしまうが。しかし、G11は楽が出来ると416の行動には満足な様子。

 

「それにしても。相手が人間だと少し違和感があるわね」

「なんでだ?」

「だって、私達の相手てって主に鉄血工造じゃない?」

「人間相手の任務は来ないのか?」

「たまーに来るよ」

 

………細かいことまでは聞かないでおこう。

 

「まあ、相手が人形と人間ならまだマシな方だ」

「マシ?」

「もしかして"ELID"のこと?」

 

45が言ったELIDとは"広域低放射線症候群"の略で人間が"崩壊液"と呼ばれる液体に被爆した場合に発症する病気のことだ。感染者の大抵はそのまま死亡するか崩壊して消えるのだが稀にゾンビ化するかミュータント化したりするため人類にとっては共通の敵と言っても過言ではない。

事実として第三次世界大戦を引き起こした原因はこのELIDの根源である"崩壊液(コーラップス液)"の存在が大きいのだ。この説明については長いと予測されるため割愛させてもらう。

 

「あれはなんて言うか………敵としては最悪だな」

「………あまり深く聞かないでおくわ」

 

俺は正規軍にいた頃、何度かELIDを掃討する任務に就いたことがある。ゾンビは映画通り頭以外撃っても歩いてくるわ、ミュータントは小銃程度の武器は通用しないわ………しかも見た目はグロいときた。あいつらの相手をするくらいならMREの残飯を食わされる方がマシだ。

 

「ELIDに比べたら人間や人形のお相手の方が可愛く思える」

「私達はまだ相手にしたことがないけど、指揮官がそう言うのならそうなんでしょうね」

 

45が苦笑しながら皮肉げにそう言った。実際、ELIDとの戦闘で正規軍陣営に多大な被害が出たのも事実である。その教訓を踏まえてから最近になり正規軍の戦術人形がELID掃討を担当していると聞く。

 

「お喋りはここまでだ。着いたぞ」

森林地帯を抜け、丘の下に見えるのは敵の司令部だ。滑走路やコントロールタワーまであるが、奴らには必要のないものだろう。しかし、双眼鏡で中の様子を偵察すると、陸上ビークルが多数停車しているのが見えた。中には装甲車の姿まである……恐らく正規軍から鹵獲したものだろう。巡回している奴らも中々の数だ。

 

「中の様子はどう?指揮官」

「よろしくないな」

 

そう言いながら俺は双眼鏡を45へと渡す。

 

「中々の数ねー」

「何か企んでる感じがするよね」

「正規軍への攻撃とか?」

「それはないな。まともに正規軍と戦える戦力なんてないだろ」

「………テロ?」

「なくはないが………」

 

ならここへ戦力を集める必要があるのだろうか。

 

「………だが。奴らが戦力を集めているということはここにリーダーは必ずいる。それに、掃討するには絶好の機会だ」

「そうね………でも、残念だけど私達は………」

「分かってる。掃討はグリフィンが請け負う。俺らは元々そういった任務だからな」

「なら、私達は予定通り中へ潜入するわ」

 

45から双眼鏡を受け取ると

 

「私と9と416で中へ潜入。念のため無線は封鎖するわ。G11は指揮官のお手伝いをしてて」

「うん」

「敵司令部への攻撃タイミングはこちらで合わせるぞ?」

「ええ、構わないわ。その為に指揮官には遠くで援護してもらうの」

「それはありがたいが………俺の部隊とはいえ顔は合わせないようにしろよ。色々と面倒くさくなるからな」

 

俺が彼女達へそう警告するのも当然のことだ。

 

Task Force 404 Not Found………

 

名の通り404小隊とは非公式の部隊であり"存在しない部隊"だ。勿論、グリフィン所属の戦術人形ではない。非正規の人形の為、メンタルモデルのバックアップが取れないという制限がある。

報酬を払って動く部隊なので傭兵には近い存在で、彼女達の任務は主に隠密性が伴う"特殊部隊"が行うような難易度の高いものが多い。

だが、どんな難しい作戦でもこなすので彼女達の腕の信頼は高いため俺もご贔屓(ひいき)にさせてもらっている。

さて………先程俺が言った"面倒くさい"ことになると言ったのは上記に説明した通りだ。非正規部隊の為、存在が明るみに出ないように彼女達と接触またはともに任務を遂行した戦術人形はメンタルモデル(マインドマップ)データ(記憶)を改竄されるか消去する処置を行うのだ。以前の作戦後も俺の部隊に処置を施していた。彼女達(404小隊)が存続するためにも俺は目を瞑るしかないし、なにより機密事項だからな。

 

だから、404小隊の存在を把握できている者は俺やヘリアンと言ったごく限られた人物だけだ。お陰でグリフィン内では"都市伝説"として語られていることもしばしばある。

 

しかし、そんなとんでも小隊の彼女達だが時々何もなかったかのような顔をしてはグリフィンの宿舎にやってきてお世話になっていることがある。時々と言うよりはほぼと言ったほうがいいか。特に45と9はな。前の部屋の件もそうだが………まあいい。

その時だけはグリフィン所属の人形として振る舞うので彼女達の存在を気づく者はいない。

 

「分かってるわ指揮官。私達がそんなヘマすると思う?」

「G11がいなければスムーズかもね」

「確かにー」

「みんな酷い」

 

G11は目を丸くしながら、からかう三人へと睨みつける。

 

「指揮官~………」

「…………」

 

同情して欲しいのか涙目になりながら俺へと詰め寄ってくる。

 

「はぁ………まあ、なんだ………お前はやる時はやる奴なんだから頑張れ」

「………そう?」

「ああ。活躍できたらラムレーズンアイス奢ってやる」

「よし。やるよ。みんなのんびりしてないで早く行ってきてよ」

 

さっきまでダルそうにしていたのはどこに行ったのか………なんて言うか。

 

「「「現金な奴………」」」

 

45と416も同じことを思っていたのか偶然にもハモってしまう。

 

しかし、9だけは………

 

「G11だけご褒美ずるいよー!指揮官!私も活躍するからご褒美頂戴!」

「引っ付くな!」

 

駄駄を捏ねる子供かお前は。

 

大人しく現金な分G11のほうが扱いやすいことが身に染みて感じる。

 

「その事は後にして9。私も言いたいことがあるのは山々だけど、時間もないからさっさと任務を遂行するわよ」

「あ~ん!襟を引っ張らないで45姉ぇ~………」

「………416。頼むぞ」

「分かったわ」

 

誰がリーダーなのか分からなくなってきたな…………

 

 

-side UMP45-

 

「全く9は………気持ちは分かるけど今は緊張感もって」

「でもでも45姉ぇ~」

「はいはい。静かにして9。敵司令部は目の前なのよ」

 

先導しながら丘を降りる416の後を追い続けるとフェンスが張り巡らされた敵司令部へと近づく。所々サビも目立つため、破るのは簡単そうだ。

 

「それにしても………指揮官が進んで私達に協力するなんて珍しいわね」

「言われてみればそうね………」

 

私達の事情を知っている指揮官は任務中に接触しても干渉することがない。無闇にグリフィンの人形と接触して処置をするのを避けてるのは分かるし、私達も面倒な行動がないことには文句がないのだが。

 

「何か企んでるのかしら?」

「ん~………それはないと思うわ」

「どうしてそう言い切れるの?」

「そんなの簡単」

「愛だよ愛」

「………は?」

 

フェンスへ円状に凍結スプレーを噴射していた416は9の言葉に唖然としながらこちらへ顔を向けた。

 

「指揮官も私達の家族なんだし………分かって当然だよ。ねっ?45姉」

「9の感覚は分からないけど~………」

 

愛ってのは否定しないわ。言葉には出さないけど。

 

「あなた達って本当に………頭がメルヘンチックね」

「そんなこと言って。416も私達がいないところでは指揮官に甘えてるよねー?」

「なっ!?そ、そんなことしてないわよ!」

 

((してるわね………))

 

フェンスの残骸を手に持ちながら顔を真っ赤にして否定する416。実は執務室で指揮官の膝の上に乗って甘えているところを目撃しているのだ。指揮官は満更でもない顔をしていたけど、普段からキリッとしてる416はフニャとした顔で癒されていた。癒されたのは私達の方だけどねー。否定しても体は正直というのはこう言うことかしら。

 

「は、話を戻すわよ」

「はいはい。指揮官が何か企んでるかもって話ね?」

「え、ええ………」

「まあ、単純に私達と協力した方が任務も早く終わるからじゃない?」

「つまり………利用されてるのかしら?」

「協力よ協力。今回は指揮官の方も反人形人権団体の駆逐じゃない?私達もそのリーダーの拘束。お互い似たもの任務だからね」

「そうそう!一石二鳥~!」

「………腑に落ちないけどそう言うことにしておくわ」

 

とか言って、本当は指揮官のことは信じてるくせに。素直じゃないんだから。

 

「………でも。前々から思ってたんだけど、どうして前線で戦いながら指揮するのかしら?」

「今更な疑問ね」

 

フェンスを潜り抜け、敵司令部へと潜入したが416は指揮官に対する疑問を言葉に出し続ける。

 

「う~ん………でも、416の言う通り。どうして指揮官は前線に出てくるんだろう?普通なら司令部で指揮するのが普通なんだよね?」

「普通………ね」

「………45。何か知ってるの?」

「うーん………全部知ってるわけじゃないんだけど………指揮官が普通じゃないのは分かってるでしょ?」

「ええ………少なからずはね………」

 

指揮官が未だに前線へ出て銃を手に取り戦うのは周りから見れば異常なものだろう。先程9が言った通り指揮官という役職は安全かつ後方での指揮をするのが当たり前だ。以前にクライアントの一人であるヘリアンと衝突していたのは言うまでもない。

 

「なんとなーくだけど………私の感では指揮官。死に場所を探しているのかもね?」

 

表では感情を無駄に表さない指揮官だけど私は知っている。夜な夜なたまに魘されていることをね………

 

まるで呪いがかかっているかのような苦しみの表情だった。

 

「そ、そんなこと………させないよ」

「ええ。私も存在する限りはそんなことさせない」

 

なにせ、あの人が希望って言うくらいなんだから………

 

それに、私も気に入ってるしね。

 

「死に場所ね………そう言っても、指揮官は簡単にはくたばらないでしょ。心配する必要はないわ」

「そうね」

 

あまり心配していない様子の416を見た私は思わず口角が上がってしまった。

彼女の言う通り、指揮官は不死身と言われるほど悪運が強いのだ。私も何度もそれを目にしている………立場上よくはないのだけど、私はその姿を見て惹きつけられているのだろう。

 

「だったら尚更私達と行動してほしかったわ」

「どうして?」

「だって………指揮官なら一人でもこの基地を制圧できるほど強いのよ」

「…………冗談でしょ?」

「勿論、死ぬ気になればの話よ」

 

人間というのは死ぬまで追い込まれると真の力を発揮すると言うらしい。もし、指揮官が死ぬ気で戦ったらどうなるのだろう?もちろん………

 

 

 

正規軍の特殊作戦コマンド部隊を全滅させれるくらいにね。



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案件1-10:後方支援

もう少しで深層映写が来るのか………


Avenger≪俺は少し用事が出来た為、これから単独行動をする。敵司令部付近に着き次第そのまま待機しろ≫

 

指揮官はそう言い残すと私が返答する前に通信が途切れてしまいました。

 

「M4。指揮官はなんて言ったんだ?」

「用事が出来たから単独行動をするみたいです………」

「なんですって?」

 

呆れた様子でこちらを見つめるAR15。気持ちはわかります………

 

「とんでもない指揮官だな………部隊と行動するならまだ分かるが、単独行動とはな…………」

「初めて会った時から指揮官はそんな人でしたから………」

 

M16姉さんには少しだけ同情してしまいます。なにせ、私を救ってくれた時も指揮官でしたから。

 

「でもでも。指揮官って凄く強いよね?それなら別にいいんじゃないのかな?」

「まあ………指揮官も無策で動くと言うことはないと思うから信用してもいいと思うわ」

「珍しいなAR15。お前が随分と肯定的じゃないか」

「どう言われても私達は指揮官の命令に従うしかないわ。いちいち指揮官の行動をどう考察したって分からないし、考えるだけ時間の無駄よ」

「謎が多いもんね」

 

確かにAR15の言う通り………指揮官と会ってまだ間もないです。知らないことの方が多いのは当然ですが、謎が多いというのは共感できます。名前はコードネームで呼ばれているようですし、プロフィールに至ってはカリーナさんやヘリアンさんも知らないときました………

 

(ですが………私は指揮官を信じます)

 

あの時、身を張って助けに来てくれたのは紛れもなく指揮官………こんな人形一体のために傷を負いながらも手を差し伸べてくれたんですから。

 

私はその時から指揮官の側にいることを決めた………どんなことが起きても必ず貴方を守ってみせると………

 

「指揮官の指示通り動きます。まずは7-03地点へ行きましょう」

 

私はそう言い放つとAR小隊は行動を開始する………

 

-side Avenger-

 

「ふわぁ~………」

「45達が行ってから5分も経ってないぞ………毎回思うがなんでそんなに眠たそうなんだ?」

「仕方ないよ………眠たいんだから…………」

 

なんだそりゃと思わず拍子抜けしてしまう。単するにこいつ(G11)は眠たいから眠いと言っているのだ。

「それよりも指揮官。今日はどうしてスナイパーなの?」

「お前にしてはまともな質問だな」

「え~………私はいつもまともだよぉ~」

 

まともだったらまず怠け癖を直すことだなG11。説得力の一欠片もないぞ。

 

「単に後方で支援する方が楽だったからだ」

「そんな理由?」

「今回の敵戦力なら司令部で指揮するくらいでよかったが…………窮屈すぎてダメだ」

「えー?私が指揮官なら司令部から動かないけどね」

「お前がいても寝るだけだろうが」

 

バレた?と言わんばかりにG11は口元を緩ました。ったく………こいつが指揮官だったら部隊はとっくに全滅確定だろうな。

 

M4A1≪指揮官。敵司令部に着きました。命令を待ちます≫

 

「思ってたより早いな」

「416がまた拗ねるね~」

G11の言う通り、悔しがる416の姿が思い浮かぶ。

 

「了解。待機しろ」

 

そう言うとAR小隊から第一部隊へと無線の周波数を変える。

 

「グリズリー。今どこにいる?」

 

グリズリー≪もう少しで敵司令部に到着するよ≫

 

「分かった。到着次第連絡を入れてくれ」

 

グリズリー≪了解≫

 

そう言い終えると俺はスナイパースコープを覗き込み、巡回している敵の一人を照準に定める。

 

「準備しろよG11」

「りょうか~い………」

 

寝惚け眼を擦りながら彼女もライフルのスコープを覗き込んだ。

こんなものぐさな性格をしているG11だがやる時は奴やつだ。404小隊のアタッカー兼狙撃手としてのポジションにいる彼女個人の戦闘能力は高く、見た目に反して残酷でえげつないものだ。なにせG11が放つ"ストームアイ"と呼ばれる爆裂弾幕を問答無用で張る………意味がわかるか?標的に定められた敵は木っ端微塵になるということだ。

 

グリズリー≪ポイントへ到着。指揮官。いつでもいけるよ≫

 

「了解」

 

さてと………再びお仕事の時間だ。

 

「このまま制圧を開始していいんだな?」

「いいと思うよ。三人なら大丈夫だと思うし」

 

随分とアバウトな感じだが、実際404小隊ならやってのけるだろう。どの道、早く任務を遂行しないとまたヘリアンにどやされるしな。

 

「よし。AR小隊、第一部隊。制圧を開始しろ」

 

双方の部隊から「了解」との言葉を受け取り、北と東から銃声が聞こえてくる。

 

敵司令部内からは慌てふためく敵の声が聞こえてくる………まさか、戦力を集中している時に攻めてくるもは思わなかったのだろうか。まあ、こちらの情報が行き渡らないように拠点を制圧してきたのは正解だったな。

この司令部の出入り口は北、東、西の三つ。俺とG11が陣取っているのは南西の丘だ。AR小隊は東、第一部隊は北へと配置している。もし、敵リーダーが逃げようとするなら西の検問所しかないだろう。交戦している中へ突っ込んで脱出を図ろうとしたら賞賛してやるが。

 

「指揮官。敵何人くらい倒したらご褒美貰えるの?」

「んなこと知るか」

「え~………」

「いちいちそっちの倒した敵の人数なんか確認しねーよ」

「はぁ………仕方ないから頑張るよ」

 

G11はそう言うと、さっきまでのものぐさな仕草はどこに行ったのかと疑問に思うくらい真剣な表情を見せる。その姿は本当に修羅場をくぐり抜けてきてような兵士の顔だ。

彼女は呼吸を整える様子もなくトリガーを引いた。(くう)を突き抜けながら飛んで行く弾丸は、走っていた敵へとヘッドショットを決めたのだ。

さすが404小隊のメンバーなだけある。この調子でいけば数十分でカタはつくだろう。

 

待てよ?今のこいつに任せとけば見えてる奴全員倒してくれるんじゃないのか?

 

「指揮官。サボらないでよ」

「………チッ」

「なんで舌打ちしたの?」

 

なんかコイツに言われると腹がたつな。

 

まあいい。俺だって仕事できてんだからコイツに舐められないよう頑張るか。

さて、敵さんは建物の屋上に数人いるみたいだ。東側へと向かって発砲しているということはAR小隊と交戦しているといいことか。LMGまで乱射している………おいおい。コイツらの戦い方を見ていたら、3次大戦の民兵の方が上手く戦ってたと思うぞ。

それが幸と言っていいのか動かない(まと)も同然な為、撃ちやすいものだ。

 

「コイツら弱いね………」

「ああ。こんな事だったら司令部で大人しくしてた方がマシだったかもな」

「今更だけど違いないね」

 

にししと笑いながら発砲を続けるG11を横目に思わず同感する。屋上にいた敵は何処から撃ってるのか分からないまま頭を撃ち抜かれその場へと次々と倒れていく。

 

「あっ。416達だ」

 

丘の下からこちらへやってくる人影が見えると、俺とG11は敵司令部内の敵の攻撃をやめ、彼女達の後方へと注意を向ける。そんな心配はないだろうが一応念のためだ。

45を先頭に416が敵リーダーらしき人物の襟を掴みながら引きずっている………抱えてくるという選択肢はなかったのか?

 

「お待たせー」

「流石だな404小隊。早いな」

「ええ。これくらい余裕よ」

 

416はそう言うとこちらへ敵リーダーらしき人物を投げてくる。

 

「ぐっ!?」

 

敵リーダーは地面に落ちた衝撃で思わず声を上げてしまう。しかし、意識を持つ気力もないのか白目をむきながら脱力している………一体どんなやり方をすればこのような状態になるのだろうか?

 

「こいつで間違いないのか?」

「ええ。クライアントから貰った写真と照合したら一致したから間違いないわ」

 

なら、この敵司令部の制圧も時間の問題だな。指揮する奴がいなくなった事でパニックに陥るのも目に見えてしまう。

 

「それで?G11はちゃんとしてたかしら?」

「それは愚問だな416」

「へへーん。西詰所にいる奴らはほとんど私が倒したし。やるときはやるんだよ」

「物を提示されてやる気を出すのは子供でも出来るわよ」

「あはは!素直に褒めてあげなよ~416」

 

「うるさい」と顔を赤らめながらそっぽ向く416。何だかんだ言って416はG11のことは褒めてるのだろう。

 

「さてと………俺はそろそろ彼女達と合流するか。あまり単独で動いていたらお前達の存在を疑われそうだ」

「名残惜しいけどそうね。はい、指揮官。お土産」

「ん?」

 

すると、45はなにかこちらへ投げてくる。俺は片手でそれを受け取り、手の平を広げるとそこにはUSBメモリがあった。

 

「こいつらの基地情報の位置をハッキングしておいたわ。一応、あいつら(AR小隊)を誤魔化せるでしょ?」

「ああ。助かる」

 

気がきく奴だ。アリバイ作りと言えば言葉は悪いが、404小隊の存在を疑われるのもよろしくないのでありがたく受け取っておこう。

 

後で対価を求められそうだが、まあいい。

 

「えー!?指揮官!ご褒美は!?」

「引っ付くんじゃねーよ9。何回も言わせんな」

「でもでもぉ!」

 

くそっ!力が強いな!全然引き剥がせねぇ!

 

「あっ。そうだ!私にも得して指揮官にも得できるご褒美思い付いちゃった!」

「はあ?何を………んっ!?」

 

すると、いきなり9が飛びついたと思った刹那………気がつけば彼女は俺と唇を重ねていたのだ。

 

「なっ!?」

「はっ!?」

「えっ!?」

目を瞑りながら唇を重ねる9は離さないと言わんばかりに俺の首に腕を絡ませている。甘い香りが鼻をくすぐり、思考が一瞬だけ停止してしまう。

 

三人が驚きの声を上げた中、俺は自分でも珍しくパニックに陥りそうになっていた。

そりゃそうだ。俺だって人間なのだ………こんな行為をいきなりされれば動揺だってする。

 

「ん………ぷはぁ!」

「…………」

 

やっと満足したのか、9は頬を赤らめながら放心状態になっている俺を上目遣いで見つめている。

 

「どうだった?指揮官………」

「………どうだったもなにも、いきなりなにやってんだって思ってる」

「えー!?キスだよキス!私、初めてだったのに!」

「知るか………」

 

なにが不満だったのか知らないが、とりあえず9からは離れておこう。次やられたらCQCで投げ返してしまいそうだ。

 

「指揮官~?なに一人でいい思いしちゃってるわけ?」

「そうよ。に、任務中だってこと忘れてない?」

「私ももう少しだけ背が高かったら出来るのに………」

「なんで俺が文句言われなきゃならないんだ?」

 

俺からしたわけではないというのに何故俺が責められるんだ。それに、G11はサラッととんでもないこと言ってるぞ。

 

「9もしたんだから………私にもしてくれるよね?」

「「…………」」

 

なんだろう45の後ろに見えるドス黒いオーラは………今のあいつなら一人で敵司令部を掃討できそうな気がする。

………ここは瞬時に離脱するのがいい選択肢だろう。

 

「あっ!」

 

俺は彼女達に包囲される前に丘の斜面から滑り落ちていく判断を下し、404小隊の連中から逃走するのに成功するのだった。

 

………帰投したら自室のセキュリティを強化するのをカリンと相談しよう。

 



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案件1-11:追跡

二話連続です


「M4」

「あっ。指揮官」

 

404小隊からの逃走に成功してから数分後。俺は東側にいるであろうAR小隊と合流を果たす。外にいる敵は全て倒されたのか、死体付近の周りには血を流しながら絶命していた。

 

「外にいる敵勢力は殲滅したか」

「はい」

「あとは残存兵力がないか建物を調べるぞ」

 

俺はそう言うと無線の周波数を第一部隊へと切り替える。

 

「第一部隊。敵の殲滅を確認した。俺とAR小隊は建物の残存兵力を掃討する。お前たちは外で待機してくれ」

 

グリズリー≪了解、指揮官≫

 

「なお、敵の増援を確認次第攻撃は許可する。デザードフィッシュとの連携を密にな」

 

恐らく増援はないと思うが警戒はしておいた方がいいだろう。

 

「それではAR小隊。敵の掃討作戦を継続するぞ」

 

4人からそれぞれ「了解」との返答を聞くと俺も頷き、建物の中へと入っていく。

 

 

「うわ~………中々荒れてるね~……」

「SOPMODⅡ。集中して」

 

SOPの言う通り、建物内へと侵入するとそこはもう廃墟と言っていいほどの雰囲気を漂わしている。サーペタイン4マンセルで行軍する彼女達へ着いて行く中、割れた窓ガラスからは冷たい風が吹き抜け、ガラス片が落ちた床を歩けばジャリッという音を空間を響かせ不気味さを一層と増す。壁は劣化の影響でひび割れが所々見られ、破片が零れ落ちていた。俺たち以外にも戦闘があったのか弾痕も見られる。恐らく第三次世界大戦中に起こったものと見て間違いはないだろう。

 

大戦が終結してから11年は経っているが、こういった廃墟は無数に存在する。以前の作戦で展開した街も同じ類だ。今となっては反勢力などの拠点として使われるのが多いのが現状だろう。

こうなってしまったのも俺達人類による自業自得というものだろう。核攻撃や長きに渡る戦災。そして、崩壊液の蔓延………

俺より先に生まれた大人共がイデオロギーやらを唱えては戦いを激化させ、次第に汚染されていない土地を巡って争い始めた。結局は人間と人間による醜い喧嘩だ。俺自身、大戦中はまだ幼い身のおかげか戦いには投じておらず、傍観者として戦争を見てきた立場だ。といっても、幼かった俺には少しばかりスパイスが強すぎる光景だったが。

記録によれば100年以上前に起こった第二次世界大戦より酷いらしい。

 

昔から環境汚染やら温暖化などによる環境問題は危惧されてきたのだが、今となってはどうでもいい話だ。なにせ、昔以上にこの地球は汚染されている。もう誰も手の施しようがないくらいに。まだ、ロシアやアメリカといった大国は数少なく生き残っているが、除染作業には取り組まないだろう。人間が崩壊液に手を出した時点でもう手遅れなのだから。

 

だから、俺はこの現状を作り出した奴を恨んでいるしこの世界が嫌いだ。

 

だが、そんな事思っても今更やり直せる力なんてこの世界にはないだろうし、やり直そうとは思わないだろう。この世界があるからこそ今の俺がいるわけだ。こうして俺が殺しの職業に就けたのも、人形を率いる事もできるのも、このイカれた世界があるこそなのかもしれない。

 

「………静かすぎます」

 

先頭にいたM4が全員が思っているであろう違和感を口にした。

 

「確かにな」

 

俺も同感だ。外にいる敵は全て倒したのは分かるが、全てではないはず。リーダーは404小隊が捕らえ、指揮がままらなくとも個人で逃げようとは思うはずだ。だとすれば何処か逃げ道を用意しているのか………

 

「気づいているかもしれないが………奴ら逃げ道を使って逃げたんじゃないのか?」

「だろうな」

 

地下道か………またか。

 

そんな事を頭の中へとよぎらせながら暗い通路を進んでいく。前の作戦時にも言った通り、廃墟となっている場所には地下道が張り巡らされているのが多い。大戦中、核兵器による放射線や崩壊液による土地の汚染に備え、小国の民兵達は地下を掘り進め戦えるよう又は生活が出来るようにしていた。

2045年の大戦勃発時には南極の地下都市が自衛として独立を宣言し、未だに鎖国を続けている。人が太陽の光を浴びる事なく生活できるというのを初めて証明してくれたのは彼らが初めてかもしれない。俺は南極の行動には賞賛を送りたいものだ。なにせ、このクソみたいな戦争に関わらないのは正解なのだから。

 

「指揮官。あの部屋だけ明かりが溢れています」

 

M4の言った部屋を見ると、扉の隙間から光が透き通っているのが確認できた。

 

「突入するぞ」

俺がそう指示を出すとルームエントリーの準備に入る。バックパックからDTチャージを取り出し扉へと貼り付ける。これはルームエントリーをする際に使われる突破型爆薬。やや厚めの鉄扉でも破壊できる優れものだ。

 

「ブリーチ!」

 

爆音と衝撃と共にドアは破壊され、M4から先頭にM16、AR15、SOPの順で室内へと突入して行く。

 

「クリア!」

「指揮官!隠し通路が!」

「ちっ……行くぞ」

 

この部屋はどうやら通信室のようだ。壁際には一世代前の機器が壁際に置かれている。

そして、正面の壁には人が一人通れるくらいの幅で下へと続く通路があった。恐らく予想通りの地下道だ。しかも即席で作られたもの。

 

「足元に注意しろよ。罠を仕掛けている可能性がある」

「了解です」

 

先頭は変わらずM4が務め、物怖じせずに進んでいく。果たしてこのまま一本道に続くのか、何処かへ通じているのか分からないがあまり深追いはしない方が良さそうだろう。もし、いくつもの分岐するような作りならすぐに引き返すのが正解だ。

それにしても嫌な感じだ。下へ降りるに連れて明るさは徐々になくなり、しまいにはライトを照らさないとお互いの存在が確認できない程なる。

敵に存在を悟られる原因を作らないためにも俺は暗視スコープを装着する。こういった暗闇の場所では最強の道具だと言えるだろう。

 

「指揮官。前方に階段がありますがどうしますか?」

 

M4から前方に階段があるとの報告を受け、俺は少しだけ思考を回転させる。

 

「………降りるぞ。もし、道が続くようなら引き返す」

「そうだな。待ち伏せに遭遇して全滅ってのも笑えない」

 

M16の言う通り。いくら戦闘のプロとはいえ、知りもしない場所で罠にはまれば全滅の危険すらある。時には引き際を考慮するのも必要だ。

 

警戒しながら鉄で作られた螺旋状の階段をしばらく降りると、そこはコンクリートで作られた広い場所だった。地下水が天井から滴り落ち、地面には所々水溜りもある。人の手に作られたにしては出来がいい。

 

「なんだろうここ?」

「三次大戦時に作られた施設か何かだろうな。この作り方は明らかに民兵が作るような構造じゃない。恐らくここの元小国が造ったものだろう」

 

テロリスト共が使うにはいい場所だ。今となってはいい迷惑なことだ。

 

『うわぁああああああ!!!』

 

突然、男性の悲鳴に俺達は思わず身構えた。その直後、小銃がフルオートで発砲する音が聞こえてくる。

 

「なんだ?」

「何かは分からないけど……私達以外に誰かいるのは間違いないわね」

 

銃声が止むと、弾切れを起こしたのかそれとも死んだのかは分からないが、また不気味な暗黒の空間に静けさが訪れる。

 

「どうしますか?指揮官。確認に向かいますか?」

「………ああ」

「了解です」

 

M4は俺の指示に疑問を持つことなく従う。普通、人間の部隊なら具申をいれる者が現れてもおかしくないのだろうが、彼女達は人形だ。ロボット工学三原則に基づき、その一つである"命令への服従"を優先しているのだろう。その為、俺がグリフィンに入ってからというものの、彼女達は俺の命令を無視したことが一度もないが意見を述べたり理由を聞いたりとしてくることはある。だが、最終的には指揮官である俺の指示に従う………

だから、命の鼓動を持たない彼女達………人形を物のように扱い、人間を守る盾として無謀な指揮をとる者は決して少なくはないだろう。以前の指揮官がそうだと聞く。

気にくわない。実に気にくわない。確かに人間ではない彼女達を物として見るのは強ち間違いではないのだろう。

しかし………俺も甘くなってしまった人間だ。人間のように心臓がなくとも人形だからといって無謀な指揮をとることは決してしない。

言葉は話せる。感情はある。なにより………俺のことを信頼してくれている。

だからこそ俺は彼女達を一人の部下として命を尊重しなければならない。例え人形だとしても彼女達は駒ではなく部下なのだから。

 

 

 

声がした方の通路へと足を踏み入れること数分。あれから人の声や銃声が聞こえることはなかった。

しかし………声がした方に近づくに連れ生臭い血の匂いが漂ってくるのが分かる。

 

「警戒しろ」

 

突き当たりには右方向しか進路がなく、寂れた標識には英語で"独房"と書かれてある。これ以上寂れた部屋が並べられた場所があるだけで、行き止まりの筈だ。しかし、今は世紀末。奴らが壁に穴を開けてトンネルを開拓しているかもしれない。

俺達は小銃を構えながら慎重に進んでいく。敵が待ち伏せているかもしれない角を曲がり、さらに奥へと。

すると、通路の奥には蛍光灯がランダムに点滅しながら弾ける音が鳴り響いている。何処で発電機が動いているのだろうと思っていると、M4が止まるようハンドシグナルで指示を出した。彼女が止まるよう指示を出した理由は明白だ。なにせ、突き当たりには首を片手で首を絞められ持ち上げられている人のシルエットが浮かび上がっているのだ。

俺は音を立てないよう慎重にカッティングパイを行いながら、突き当たりへと進んでいく。気がつけば俺が先頭に立っていたのは置いておこう。

 

「あら?随分と生温い攻撃だったわね?外での戦闘も大したことないし、まるでオメオメと地下に潜ることしか出来ないミミズみたい」

「ガァアアア!?は、離しやがれこの腐れた人形がぁ………!」

 

声が聞こえてくる。一人は女性だ。何処か見下したかのような口ぶりには心当たりがある。対して、首を絞められてるであろう男性は恐らく反人形人権団体の一人だろう。その証明に、突き当たりのすぐ側には小銃と額から血を流した骸が転がっている 。

 

「腐れた人形ね………まあ、強ち間違いではないかもしれないわ。でも…………貴方達には言われたくないわね」

 

ゴキャッ

 

何かが折れる音が狭い空間へと響き渡る。俺はそれを合図にAR小隊へと突入の合図をハンドシグナルで送る。

 

「そこを動くな!」

 

M4が小銃を構えながら牽制する。俺や他の3人も角から飛び出し、M4と同等の行いをした。

 

「あら?外での戦闘はお疲れ様グリフィンの犬達。それと………初めまして"アヴェンジャー(復讐者)"」

 

ダランと垂れ下がった骸の首を片手で持ち上げながらこちらへ微笑む少女。その姿に俺は何処か可憐で狂気に満ちた姿に見えたのだ。



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案件1-12:雑談

好奇心は行動の源


時々俺は人間が脆く弱い存在だと思う時がある。動脈や首を裂かれる。頭や心臓を撃たれる。それをやられただけで人は簡単に絶命する。鉄血の奴らが人間を見下すのも分からなくはない。なにせ、俺だって死にかけたことなど無数にあるからだ。

人間は命がけで戦うが、人形は言われたままに戦う。恐怖の概念はあれど、肉体が一つしかない人間とは違い、彼女達にはバックアップとなる体が用意されている。ゲームでいう残機数だ。そこが人間と人形の一つの違い。

だからこうして俺は両手に銃を持って自分の命を守る。たった一つしかない肉体と命を守るために………

 

 

「お前は鉄血のボスだな?」

「ふふ、ご名答。貴方の言う通り、私はボスの一人。そうね……トラッカー(追跡者)って呼ばれてるわ」

 

トラッカーと呼ばれる鉄血の人形は片手に持っていた人間だったものを後ろへと投げた。まるで本当の人形へ乱暴的に扱うかのように。

 

「へぇ~……エクスキューショナーの情報通り、わざわざ前線まで足を運び、挙句には自身の手で戦う指揮官ねぇ………どうりで彼女が困惑するのもわかる気がするわ」

 

距離的には離れているというものの何故か近くで体の隅々まで見つめられている感覚が襲ってくる。というのもこの感覚には覚えがあった。恐らく、イントゥルーダーの時と似たような類だ。

 

「せっかくここまで来たんだからお話ししていかない?グリフィンの指揮官?」

「話だと?」

「そっ。お話し」

 

ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら側にあるテーブルへと腰掛けるトラッカー。

 

「ふざけるな。誰が貴方と………」

「私は貴方達ではなくアヴェンジャーと話してるの。割ってこないでくれる?」

 

トラッカーはAR小隊のメンバーへ向けて形相を変えながらそう言い放つ。

 

「それとも………生き埋めにされたいのかしら?」

 

すると、トラッカーはこちらへ何かを見せつけてくる。その何かには大体予想がついてしまった。大抵こういうのは昔のアクション映画や漫画ではテンプレパターンなのを見ているため、まさか現実でも自分が体験することになるとは思いもしなかった。

 

「こいつらが仕掛けた爆弾………"TNT"というのかしら?どうやら貴方達の追跡を振り切るために使うと思われたのだけど」

 

トリニトロトルエン。第一次世界大戦から存在し、安定性の高さや腐食の問題がないことから100年以上経った現在に至っても使われている。

そんなものがこの空間に仕掛けられているということは、今俺達の命は彼女に握られていると言っても過言ではない。

 

「安心して。急に爆発させるっていうことはしないわ。勿論、私の要求をのんでくれたらの話だけど?」

「要求?」

「さっきも言ったようにアヴェンジャーとのお話し」

 

こいつ……本気でそう言っているのか?だとすれば、鉄血のボス共は相当病んでるのだろう。このような状況なら俺を殺す方が奴らにとってメリットが大きいだろう。なのに、こいつは実行しない………

 

「それに………アヴェンジャーを勝手に殺したって報告したら、きっといくら友と呼べるイントゥルーダーでも怒っちゃうからね」

なるほど。こいつ、イントゥルーダーと同じ類のようだ。

 

「さあ、どうするの?指揮官(アヴェンジャー)?」

 

膝をくみ頬杖をしながら小悪魔のように笑みを浮かべるトラッカー。

何故こいつは俺と話をしたがる?罠か?いや、罠ならもっと上手く俺達を嵌める筈だ。なのに、こいつは自分の姿を見せてまで俺達が来るのを待っていた。そうなると地べたに転がっている反人形人権団体の奴らは餌というわけだ。まるでディナーを誘うかのように。

 

「………いいだろう」

 

銃口を下ろしはしないが彼女の誘いに乗ることにする。

 

「指揮官」

「分かってる。もし、こいつが妙な動きをするなら撃っても構わん。例え、俺が人質に取られても躊躇はするなよ」

「しかし………」

「命令だ」

「…………分かりました」

 

命令として言葉を受け取ったM4はなんとか了承はしてくれる。しかし、納得はしていない様子だ。当たり前だろう。指揮官である俺が鉄血のボスと対談など彼女達にとって心臓が痛くなるほど危ない行為なのだ。

 

「あら。別にそんなことしないのに……」

「今はお前らとそこに転がっている奴らと戦争の真っ最中だ。信用できないのはお互い様じゃないのか?」

「それもそうね」

 

クスクスと笑うトラッカーに何かとやり辛さを覚える。何を考えているのかわからないのだ。そんな相手をするのはヘリアンだけで充分であり、俺の仕事ではない。何故、俺はイントゥルーダーのように変な人形に絡まれることが多いのだろうか。

 

「さあ座って。あまり時間はないと思うけど………一度貴方とはお話ししてみたかったの」

 

そう言いながら彼女はテーブルから飛び降り、近くにあったパイプ椅子を拾い上げて座る。俺も警戒しながら転がっているパイプ椅子を拾い、テーブルの前へと置いて腰掛ける。

 

「話か………世間話できるほどネタあんのかよてめーらには」

鉄血時事ネタ(お笑い話)ってのはあるけどね。ああ、勿論こちらが不利なるような話はしないけど」

「興味ねーから却下だ」

「あら残念。意外と可愛いイントゥルーダーの話もあったのに」

「あいつの話は正直勘弁してくれ………」

「………同情するわ」

 

まさか鉄血の人形に同情される日が来るとは思ってもいなかった。

 

「それにしても………前線にまで出てきて戦う指揮官ねぇ…………貴方。どうしてそこまでして自らの手で戦いたがるの?」

「特に理由なんてない」

 

嘘は言っていない。元々、グリフィンに入ったのも契約上、前線に出て指揮と戦闘を行う事をCEOであるクルーガーも承諾しており、戦っていること事態に理由なんてない。守りたい人や大切な人の為に戦っているわけでもなく、名誉やお金なんてもんも興味はない。

なら何故戦う?そんなことを何度も聞かれてきた。そう問われる度考えはするが、自分自身も答えは分からない。元兵士としての行動原理なのかそれとも人間の脳に元々ある闘争本能(残虐性)というやつなのか………

 

「本当にそうかしら?」

「…………」

 

なにかを見透かしているのかトラッカーは頬杖をしながらこちらへ見つめる。彼女の問いに俺はなにも返答できないということはきっと、俺自身気づいていない何かが本能では気づいてしまっているのかもしれない。

 

「戦う理由なんて人間も人形も動物だって変わらないわ。闘争心なんて生物共有。動物なら縄張りや交尾の為に争う。人間も国同士の対立、宗教の対立などの理由で争う。私達人形も戦えと言われるから争う………誰しも戦う理由はあるわ」

「違いないな」

「なら、貴方はなにに当てはまるのかしら?大切な人?国の為?それとも………私達(鉄血)の殲滅?」

「悪いが、俺自身も答えは知らない。お前の言う通り人間には戦う理由なんてそれぞれだ。大切な人の為に戦う奴もいれば自由の為に戦う奴もいる。(あなが)ちお前らの殲滅で戦う奴もいるだろうな。だが………俺はどれも当てはまらん。お前らが全滅しようが興味はないし、俺には命をかけてまで守りたいというような人間もいない」

「…………」

「お前が思っていることもAR小隊や他の人形も同じことを思っているだろう。確かに前線に出てまで戦いながら指揮をとる指揮官などイカれているだろうな」

「自覚はあるのね」

「自覚がなければ今頃司令部でMREを食いながら指揮してるかもな」

「それが普通よ。指揮官がいなければ戦術人形は意味がない。それなのに貴方は死を恐れずに前線へ立つ…………そんなチキンレースを毎回行われては貴方の上官も頭を抱えているでしょうね」

 

トラッカーが言うことは図星だ。ヘリアンは俺の行動には今も頭を抱えていると聞く。本当は俺の足を撃ってまで止めたいはずなのだが、CEOであるクルーガーが正式に公認しているせいでそれができないのだ。彼女には申し訳ないが、こうするしか俺には道がない。

 

「………今貴方を殺してしまえば後ろにいる彼女達も存在価値はどうなるのかしら?」

「心配するな。そうなる前に先にお前を殺してやる」

「アハハハ!いいわね貴方!本当に面白いわ!!」

 

なにが可笑しいのか………やはりこの人形にはイントゥルーダーと同類の感じがする。

 

「貴方………私達(人形)より人形らしいわ」

 

こいつら(人形)より人形らしい………か。彼女の言葉を返せずにいるということは、自分でもそう思っているということなのだろう。

俺という存在を作り出したのはこの世界だ。力がなければ死んでいただろうし、銃がなければ荒野に立って鉄屑拾いをしていただろう。

アメリカやロシアや中国といった秩序が存在する国家には関係のないことかもしれない。正規軍統制地区なら金や地位さえあれば大人になるまでの命の保証は期待でき、学校も働く場所も帰る場所もある。昔みたいに電話をすればドローンによるデリバリーで配達し、市民証とマネーカードを掲示すればピザを片手に団欒とテレビを見ながら食事もできる。この世界の人間にとっては桃源郷(ユートピア)のような存在だ。PMCが統制する地区も正規軍ほどには及ばないが、ある程度の衣食住や治安は保証される………

しかし、統制されていない地区………いわゆるブラックタウンと呼ばれる無法地帯ではそうはいかない。そこでは力が法律だ。道端に死体があろうと、誰が殺されようと、拐われようと関係ない。誰も見て見ぬ振りをし正義もクソもない。

俺はそのような場所で生きてきた人間だ。今更人を殺すことに抵抗はなく、死地に追い込まれようが死に対する恐怖というものがない。だから俺は人形のように戦うことで生きてることを感じているのかもしれない。

 

「お前も面白いことを言うな………」

「癇に障ったかしら?」

「いいや。人形らしいと言われたのはお前を含めて二人目だから驚いている。まさか、人形から人形らしいと言われるとは思ってもいなかったな」

「へぇ~………私以外にももっと言われてるかと思ったわ」

「口からは言わないだけで思っている奴はいるだろう。なにせ、俺自身もそう思ってるからな」

「皮肉なものね」

「皮肉屋なんでな」

 

敵ながら話しやすい奴だ。そんなことを思ってしまい、この現状を少しだけ楽しんでしまっている自分がいる。我ながら狂気なものだ。

だが今の現状、昔の俺なら例え向こうに命を握られていようと断っているか、爆発させる前に殺していただろう。そう考えると俺も随分と甘い人間になった。

 

グリズリー≪指揮官。デザートフィッシュからの情報なんですが北東より正規軍の部隊がこちらへ接近しているみたいです≫

 

「なんだと?」

 

突然グリズリーからこちらへやってくるお客さんの情報を無線で送られてくる。思わず眉間にシワを寄せてしまい頭を抱えてしまう。

なるほど………この依頼の意味がやっと分かった。薄々気づいていたが、鹵獲された兵器の数を見ると合点がいく。

 

(また正規軍の尻拭いかクソが………)

 

あいつらは自分らが汚した物も掃除できないのか?

 

「分かった。正確な到着時刻は分かるか?」

 

グリズリー≪3分後です≫

 

「なら、ヘリを呼んでくれ。俺達もすぐ離脱する」

 

グリズリー≪了解≫

 

「というわけだ。お前の話もこれでお開きだな」

「みたいね」

 

自分達の敵が迫っているのにも関わらず、呑気に頬杖をつきながらこちらを見つめている。

 

「さてと………面倒なことになる前に退散しましょうか」

 

すると、トラッカーはすぐ後ろにある即席のトンネルの方へと歩いて行く。

 

「あっ、そうそう………」

 

トラッカーは立ち止まるとこちらへ背を向けながらある物をこちらへ投げてくる。俺は動揺することなくそれを受け取り、見てみると片手で持てるくらいの大きさをした長方形型のリモコンだ。

 

「もう必要ないからあげるわね」

「ありがた迷惑だ」

「そう言わないで頂戴」

 

クスクスと笑いながら顔だけこちらへと振り向かせる。

 

「アヴェンジャー。面白かったついでにもう一つお土産をあげるわ」

「あ?」

「後ろには気をつけなさい。この戦争もそうだけどあの娘………アイリスのこともこの先必ず混沌な状況となるわ。そんな状況になって、それでも貴方はアイリスを守れる立場にいるならまた会ってお話ししましょ?その時は()と有意義な話ができることを楽しみにしてるわね」

「おい、待て。今なんて言った」

「ふふっ。また会いましょ?指・揮・官?」

 

彼女はスカートを少しだけたくし上げると闇の向こうへと消えていくのだった………

 

 

 

「ったく。勘弁してくれよ?指揮官。あんたを失ったらあたしらがヘリアンさんにどやされるんだからな」

「ああ」

「本当に分かってるのか?」

「なんだ?M16。あいつとの会話を聞いて幻滅したか?」

「幻滅はしちゃいないさ。あんたが前線に出て戦うことについては三原則に基づいて文句もない。けど、本音で言えばあまり出張りすぎないで欲しいとは思っている」

「…………」

 

出張りすぎないでくれ………か。こいつらも心配はしてくれているのか。

 

「お、落ち着いてM16姉さん………」

「心配するなM4。別にあたしは指揮官を嫌ってるわけじゃないんだ」

「ああ、そうだM4。M16くらい言ってくれる方が俺的には楽だ」

「えっ?あ、あの………喧嘩してるわけでは………」

「「してない」」

 

ハモりながらそう答える俺達を見てM4は戸惑うことしかできなかった。

M16も思うところはあるのだろうが基本的に仲はあまり悪くないと思っている。

人形に感情的に関わりすぎるのもよくないとヘリアンに言われているが、正直俺にはこいつらと話す方が楽だ。こいつらにも心はあるわけで、会話もすればほどほど打ち解けるのが中々面白いものである。

 

まあ、WA2000だけは俺を嫌っている節は見えるが。

 

「あっ。正規軍だ」

「確かに3分ですね」

 

飛行場に出るとそこには正規軍の装甲車やハンヴィーの車列がアイドリングしている。

 

「よう、グリフィンの指揮官。クズどものお掃除ご苦労さん。あとは正規軍が引き継ぐよ」

「それはよかった。さっさとこんな所からおさらばしたいところだったからな」

「相変わらず無愛想だな。って、顔を隠してれば無愛想もクソもないか」

「言っても無駄だと思うが、お前らの汚れ掃除くらい自分でやれと上に言っとけ少尉」

「そうしたい所だが、なんやらカーター将軍は特殊コマンドの指揮等に忙しいみたいでな。報告しても中々取り合ってくれないんだよ」

「おかげでこっちへ腐れ仕事が来るわけだ」

「俺達にもな」

「………同情する」

「お互いにな………」

 

この少尉も中々苦労人だ。バラクラバで顔を隠しているものの目の動き方で呆れてるのと同時に疲れているのが分かる。因みにだがこの少尉とは何度か面識があるため会えば皮肉を言い合う仲だ。正規軍に嫌悪感は抱いていると言っても、この少尉のようにごく数人と温厚な者がいる。その点に関しては完全に正規軍を嫌いになれないのも皮肉なものだ。

 

「まっ、あんたらの仕事は終わったんだ。早く帰って酒でも飲んでな」

「そうするさ」

 

背を向けながら左手をヒラヒラとさせながらヘリのランディングポイントへと歩いていく。ひらけた先には第一部隊がすでに待機しており、俺達とヘリの到着を待っていた。

 

「あの………先ほどのことを正規軍に報告しなくてもいいんでしょうか?」

「鉄血のボスのことか?大した情報も得ておらず、何より報告したところで余計な混乱を生むだけだ。それにここから去ってるんだから手遅れだろうな」

「そうですか………」

 

トラッカーか………また、面倒なボスが出てきたと思いながら、俺達は疲れた体をヘリの座席へともたれ掛け、基地へと起動するのだった。




用語集

≪デザートフィッシュ≫
本作オリジナルの早期警戒管制機J-STARS。名前の通り"砂漠の魚"と呼ばれ、上空から地上の敵勢力を識別、探知しグリフィンの部隊ををサポートする。一応、正規軍所属らしい………酒が好物らしく、スプリングフィールドが経営しているカフェ&バーによく足を運んでいるらしい。その中でもス◯リタスのカクテルをよく頼む。パーソナルマークは魚のマークの中にグリフィンの社章が描かれている。噂によると第三次世界大戦にも活躍していたらしい。

≪MRE≫
軍事携帯食料。第一次世界大戦に活躍が見られるも、味は食べられるものではないらしい。2000年代入ってからは味も良くなってはいるが、美味しくもないと賛否両論となっている。第三次世界大戦以降では、食料難に陥っているため人工による生産が行われており、問題の味はまたもや一次大戦時に戻ったとか………人形達も味は美味くないらしく、指揮官であるアヴェンジャーも苦手らしい。

≪少尉≫
本作オリジナル人物。正規軍第9小隊を率いる兵士。階級も名前?通り少尉である。割りに合わない任務によく振り回されているせいか、部隊を率いり、正規軍に振り回されているという立場であるアヴェンジャーと会えばよく愚痴や皮肉を言い合う仲であり関係も良好である。


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エピローグ

ドルフロコメント

深層映写クリアできなかった……


暗くなった一室の中。スクリーンへと投射された映画を俺は片手にピザを持ちながら見ている。いつもなら執務室に篭って報告書やら書類やらを纏めているのだが、今日は事情があって俺には似合わない日常を過ごしているのだ。足の膝にはピザの 入った箱を置き、左の座席には無心に映画を見ているM4に右の座席には食い入るように鑑賞するアイリスの姿がある。

先程言った通り、こうなったのには事情があるーー

 

 

夜間作戦を終えた朝のことだ。俺がいない間にヘリアンがアイリスの尋問を進めており、それを(もと)に上層部へと報告を済ませると彼女の保護が認められたのだ。その報告を受けた俺はアイリスを預かっているペルシカの元へと向かった。ペルシカもアイリスの保護が認められたことを知っており、身体に何の異常もないことから俺と同伴するようアドバイスされたのだ。彼女曰く、ここの生活に慣れさせろということらしい。俺にはそんな観光を目的としたナビゲートは出来ないため他の奴らにやらせろと反論したのだが、そこはまたペルシカ曰く、彼女が一番信頼しているのは俺だという。

理由はどうあろうと、アイリスのことは俺に任せたい様子だ。

手錠が外されまともな服を着せられたアイリスは初めて見た時と印象が大分違って見えた。改めて見ると、本当に無垢で純粋な子供に見える。鉄血工造で目立つ白い肌もなく、戦争という文字も知らなさそうな容姿……彼女が鉄血工造にいたと忘れそうなくらいに。

 

そして、アイリスと共に基地内を歩くとペルシカが言った言葉の裏の意味を理解してしまう。基地内にいる人形達の目が痛く感じるのだ。それも当然だろう。元々敵であった人形がこんな早くに保護が認められて堂々と歩くなんて誰もが理解できるわけではない。もし、隣が俺でなければ言葉の暴力が始まっていたのかもしれない。そんな事はないと願いたいところだが。

 

施設を案内する過程で今日は映画の日だということを思い出し、観に行くことをアイリスに提案したところ、興味があったのか即肯定。気まずい視線の中で案内するよりは大分マシだ。

M4とは途中で出会い、誘ってみたところアイリスがいることも満更でもない様子で肯定してくれる。

 

そして、現在に至るーー

 

俺達が今見ている映画は金属生命体と地球人との友情を描いたアクション映画だ。車から二足歩行のロボットへと変形して闘うシーンは特に見ものであり俺でも面白く感じてしまう。

何十年も前ーー第三次世界大戦が始まる前にはこういった娯楽が無数にあったのだろう。映画、ゲーム、カジノ、音楽………日常にあった当たり前のものがなくなっていく瞬間を当時の人達はどう感じていたのだろうか。

 

「指揮官………」

「なんだM4」

「その……仕事はしなくてもいいのでしょうか?」

「たまにはいい。特にお前らは最近まで酷い状況の中、立たされていたんだろ」

「そうですが………」

「こちらとは迷惑とも思ってもいねー。もし、迷惑だと感じてんなら休んで次に備えてろ」

「…………」

「人間の感覚はまだ分からないと思うが休養は必要だ。まあ………細かいことを言うのは面倒だから簡潔に言う。休むことを覚えろ」

「善処………します……」

「善処ではなく覚えろ。いいな?」

「は、はい」

と言うが俺も人のことは言えない。指揮官をやっている以上デスクワークという仕事は避けられない道であるため休むという選択肢が中々出来ないのだ。

今こうして悠々と映画を鑑賞できるのもカリンのおかげだ。アイリスの件とのことを連絡すると彼女は「デスクワークはこちらでやっておきます」と言ったのだ。何かあれば副官であるスプリングフィールドもいるので大丈夫だろう。

 

しかし、俺が前線へ出てる分、事務仕事はカリンに任せてばかなりなため申し訳ない気持ちが出てくる。

 

「………あの、指揮官」

「ん?」

「それを一つ貰ってもいいですか?」

 

M4は俺の膝の上に載せているピザの入った箱へと指を差した。

 

「ああ。俺一人で食べるには多すぎる」

「ありがとうございます」

 

彼女はそう言うとピザへと手を伸ばして一つだけ取る。溶けるチーズの糸を引き剥がし、ゆっくりと口元へと運んでいく。

 

「………美味しいです」

「だろうな」

 

そう言いながら俺も一切れを口の中へと放り込んだ。酸味のあるトマトソースにまろやかなチーズの味が合わさってこれぞジャンクフードって感じの味だ。

 

「凄いね……昔ってこんなロボット達がいたんだ……」

「いや、これはCGというやつで実際には存在していないぞ」

「そうなの!?」

「ああ。俺も詳しくは分からないがパソコンでシーンに合わせて付け足しているらしいな」

「へぇ~……昔の人間って器用なんだね」

 

この一作を作るのに何億ドルという金がかけられているらしい。俺達にとったらそんなものに金をかけるのはあり得ないというのが本音だ。ジェネレーションギャップ……というよりは、時代や世界がそうさせたのだと思う。明日を生きるのに精一杯な今の人間は娯楽に金をかけるよりもELIDや鉄血工造に対抗するための兵器、インフラ、食料や水の確保に金をかけるだろう。こうして俺が片手でピザを食べれるのもグリフィンの功績も大きく金や物資が届いているからだろう。

 

(この後はどうするか……)

 

基地内について説明することはもうない。この映画も終わればもうやる事はないと言ってもいい。とはいえ、このまま映画を連続で見続けるのは流石に疲れる。なにより偏頭痛が酷くなるのだーー

 

 

「ここが……指揮官の部屋……」

「まあ、なにもないとこだが…ゆっくりしてくれ」

 

映画が終了し、最後にやってきたのは俺の自室だ。生活用品を除き、飾りものは写真立てやカレンダーくらいしかない殺風景な部屋だ。

 

「M4は来るのは初めてだったか」

「はい。他にも誰か来られるのですか?」

「ああ。あの作戦の後、M16が俺の部屋に飲みにきやがった」

「M16姉さん………」

 

M4は申し訳なさそうに頭を抱える。仕事に支障がない程度には抑えて飲んでいたが正直、作戦後のジャック◯ニエルのような度数の高い酒のロックで飲はキツイ。さすがの俺でもすぐに酔ってしまった。

 

余談だが俺はジョニー◯ォーカーが好みである。

 

「……M16姉さんと仲がいいのは少し驚きました」

「仲がいいというよりは……飲み仲間がいないのか、向こうから来るのが正解だ」

 

そのまま喫茶店でスプリングフィールドと話しておけばいいのにと思う。まあ、理性があるなら416よりはマシだと言える。あいつは飲ますと本当に面倒くさい。もう言葉にするほど面倒くさいのだ。なにが面倒くさいと気になるだろうが割愛させてほしい。

 

「……すみません指揮官」

「気にするな。正直、誰かと飲むのも悪くはないと思ってる」

 

ふと思えば誰かと一緒に酒を飲むのもしばらくはしていなかった。それに、酒を飲むこと自体も久しぶりだ。酔ってしまったのも、誰かに愚痴を言ったのもーー

昔の俺が見たらなんと言うだろうか。きっと、随分と甘ちゃんになってしまったと呆れられるだろうな。

 

「ねえ、アヴェンジャー。これは?」

 

ふと、アイリスの声で我に返った。視線を動かすと、アイリスはテレビに繋がれたゲーム機に興味を示している様子だ。

 

「ゲーム機だ。ったく、RFBの忘れもんだな」

「し、指揮官の部屋って他の人形の方達が訪れますね……」

「ああ……正直なところ困ってる」

 

UMP姉妹は夜這いまがいなことで忍び込み、RFBは呑気にできるという理由でテレビを占領してはゲームをしに来て、M16はただの晩酌の付き合いで飲みにくる……そんな様々な理由で俺の部屋へとやってくる人形は多い。おかげでそいつらの暇つぶしに付き合う羽目になる為、休みがあってものんびりと過ごせたことはない。

 

「……せっかくだからやってみるか?」

「えっ?」

「だ、大丈夫なのでしょうか?勝手に触って怒られたりしませんか?」

「大丈夫だ。あいつが怒ったところで怖くもない。それに、肝心のセーブデータに手を出さなかったらなにも言ってはこないだろう」

 

俺はそう言いながらゲーム機を起動させる。最初にメーカーのロゴが表示されると、ユーザー選択画面ーー俺のアイコンを選択して、メニュー画面を表示させる。中には様々なゲームタイトルが並んでおり、それを選択すればゲームを始めれるというものだ。過去にはディスクがあったのだが、RFB曰く今では現存しているものはないらしい。

 

「どれかやってみたいかはあるか?」

「う~ん……アヴェンジャーに任せようかな?」

 

お任せかーー

 

最近やっていたFPSは難しいだろうな。なら、はじめての奴でもできるパズルゲームを選択するか。

 

「これは?」

「ランダムに落ちてくる色の付いた二個のブロックを四つ組み合わせて消していくパズルゲームだ」

「へぇ~……面白そうだね」

 

コントローラーを手に取るともう一つの方をアイリスへと手渡す。ゲームが起動するとメニューから対戦を選択する。

 

(最初のうちは少しだけ手加減しておくか)

こう見えてもRFBに巻き込まれる形で共にゲームをすることが多い為、腕に自信はある。かといって、初心者に本気を出すほど俺も大人気なくはない。負ける気もないが。

 

ゲームが始まると左右に二分された画面からそれぞれ色の違うブロックが落ちてくる。

 

「ボタンを押したら横にもできるんだね」

 

アイリスはそう言うとボタンを何度も押してはブロックを回転させる。

 

「あっ。消せた」

 

同じ色を四つ揃えれたのか効果音と同時にブロックは消され、こちらへ邪魔となるブロックが送られてくる。

 

「なるほど……ルールは大体分かったかな」

「結構シンプルなんですね」

「最初のうちは……な」

 

しかし、何度もやっているとどんなシンプルなゲームでも奥が深いものだ。

俺はあえてブロックを消さずに積み上げていき、次第にはゲームオーバーラインへと迫ってくる。

 

「なにしてるの?」

「まあ見てろ」

 

俺はそう言うと、ギリギリのところでブロックの色を揃えて消した。すると、消されたところに落ちてきたブロックがまたも色が揃っては消していきそれを繰り返している。

 

「えっ?えっ?ちょっと待って!そんなこともできるの?」

「パズルゲームって言っただろ?ただ単に一つずつ消していくんではなく、どう積んでいけば効率よく次々と消していくのかが重要だ」

「へぇ~……って、ボク負けてる!?」

 

このゲームの特徴は消していけば消していくほど邪魔となるブロックを落とせるというものだ。

俺もアイリスの気持ちはよく分かる。RFBと初めてやった時は少しだけ驚いてはいた。まあ、2~3回目以降から普通に勝てるようになったが。

 

「M4。お前もやってみるか?」

「えっ?私は………や、やってみます」

 

俺からコントローラーを受け取るとM4は俺の横へと座る。

 

「よーし。負けないぞ」

「わ、私も負けません」

 

左右にいる二人が軽く火花を散らしたのだった。

 

 

 

「やった!勝った!!」

「むぅ~……」

 

初めてやるゲームに勝利したアイリスは両腕を上げて喜んでいる。しかし、対照的に負けてしまったM4はコントローラーを握りながら頬を膨らませて悔しそうにしている。

しかし、M4が悔しそうにするのは少しだけ意外だった。

 

「もう一回です」

「よーし。次も勝つぞー」

 

この後両者とも勝ち負けを繰り返しては何度も勝負を挑み、日が暮れるまで対戦を続けたのだった。途中、ソファーに行って寝てしまったが、沈みゆく意識の直前に笑い合う二人の姿を見て思わず笑みを浮かべたのは内緒だ。

 

人形もーー本当はこのようにあるべきなのだと……

 

エピソード1:鉄血の少女END




用語集

≪ジャック◯ニエル≫
アメリカの有名な酒造メーカー。M16の好物でもあるウィスキー。第三次世界大戦が始まる前まではスーパーなどで売られていたが、現在は貴重な嗜好品の一つとして扱われており物々交換としても用いられることもある。

≪ジョニー◯ォーカー≫
こちらも世界的に有名なウィスキーメーカー。上記の通り大戦以降から貴重な嗜好品でもある。アヴェンジャーはこちらの方が好みらしい。

≪理性があるなら416よりはマシ≫
アヴェンジャーの言葉からとるに、HK416は酒癖が悪いらしい。以前に彼女と飲んだ以降からカフェ&バーには直々に"DO NOT Sell Liquor To HK416!"と張り紙を出すくらい……余談だがそれを見たHK416 は赤面してアヴェンジャーを追いかけ回したとかなんとかーー


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エピソード2:不穏行動
プロローグ


第2章プロローグ

こんなくだらない世界を壊すためだけに私は生まれたんだ


夜間任務から2日が明けた。あれからというもの鉄血との小競り合いは無く、特に平穏と言っていいほどの時間が流れた。各部隊には哨戒任務を与えてはいるがこの地区の鉄血勢力は減少傾向にあり、接敵してもリッパーやヴェスピドといった量産型しかいないため、特に損害が出るほどの戦闘にはなっていない。と言っても、油断できないのはこの世界にとって最も忘れてはいけないルールだ。

だが、この壁に囲まれた世界はそんな油断とは疎遠の存在だろう。

正規軍統制地区。もはや一つの国家都市と言っていいほどの大きさをほこり、五角形型の大きな壁に囲まれた要塞都市だ。ここでは世界大戦が始まる前のまだ平和だった頃の時代の光景が見れるため、ここに来るたび戦争をしていることが嘘みたいだと錯覚してしまう。家族や恋人達が和気藹々とショッピングや食事を楽しんでいる………壁の向こうでは戦争が行われているとは知らないと言わんばかりに。勿論、彼らは知らないわけではない。ただ、この壁の中にいれば自分達には火種が飛んでこないと思っているのだ。いや、飛んでくるはずがないと………

 

そんな中。俺はとあるカフェである人物と待ち合わせをしている。

それは朝の出来事だ。いつも通りに起床するとパソコンから一通のメールが届いていることに気づく。内容を確認すると差<1003>という文字だけ。

だが、俺は差出人も場所も分かっていた。このようなメールを送るということは何か重要なことを伝えたいという表れである。勿論、必要最低限以外このように連絡をするなと言ったのは俺だ。

カリンには報告を済ませ、あまり着ない私服を着て基地内を歩いては人形達に見つかり………

 

「指揮官だけお休みずるーい!!」

 

などと騒がれる。遊びに行くわけではないというのに………まあ、私服を着て歩くところを見られるとそう思われても仕方がない。

 

一応、護衛としてグリズリーとNZ75を連れて統制地区に連れて今に至る。

 

片手にコーヒーカップを持ち窓の外に映る景色を眺めながら一口と啜る。少しだけ強い酸味だが程よい苦味………何の豆で焙煎しているのかわからないが、基地に支給されるインスタントコーヒーより美味しい。

 

「お待たせしました」

 

すると、隣から女性の声が聞こえてくる。窓から目を離し、反対の方へと首を向けると、そこには一人の女性が立っていた。青色に統一された軍服を着用し、綺麗な金色の髪を後ろで束ねており、かぶっている青色のベレー帽がどことなく似合っている。

 

「…………」

 

女性はしばらくの間、澄んだ青色の目でこちらを見つめていた。

 

「………どうした?」

「………いえ。本当に"ストレンジャー"なのかを確認してました」

「もうその名前は使ってないぞフロリエン中佐」

「失礼しました"アヴェンジャー"」

 

女性はただ無表情でそう言うと対面の席へと着席する。

 

「それで………俺をここに呼んだってことは重要な話なんだろうな?」

「重要な話かどうかは貴方が決めることですが、グリフィンにとってはあまり無視できない話なのは確かです」

 

そう淡々とそう話す彼女は注文を聞いてくきたウェイトレスにコーヒーを注文する。

 

ミーシャ・フロリエン。国家保安局憲兵隊の担当指揮官だ。彼女とは長くはない付き合いなのだが、仕事に対する考え方や共通点も似ていることからカリンに続いて信頼できる人間の一人でもある。こちらの知り得ていない情報を共有する時しか会わないため、朝のメールのように暗号じみた内容を送り、こうして会うことが俺達のやり方だ。

 

「……護衛はつけてないのですか?」

「いや、いるぞ」

 

俺はもう一度窓の方に目を配り、顎で指した。窓の外にはテラス席が置いてあり、そこに一人コーヒーカップを片手に持ちながらこちらの様子を伺うジャケット姿の女性が一人こちらへ手をヒラヒラさせている。

 

「彼女は?」

「グリズリー。頼もしき俺の相棒だ」

 

パイロットサングラスをかけて睨みを効かせる彼女の姿はいつの時代かの元帥を思わせる雰囲気だ。通行していく人もその見た目から只ならぬ存在を感じとっているのか距離を置く者も見られる。

ちなみにだが、NZ75は店内にて俺達から丁度死角になるような場所にいる。

 

「そういうお前の方は?」

「ケイドが車で待機してます」

「そうか」

「………すっかり指揮官らしくなりましたねアヴェンジャー。まさか、貴方が指揮する立場に来るとは思いませんでした」

「言わせてもらうなら俺も同じだ。まさか、お前が部隊を指揮する立場に来るなんてな」

「………お互い様ってことですか」

 

しばしの沈黙。ウェイトレスがミーシャの注文したコーヒーを持ってくると、気まずい空気に気を使ったのか品だけを置いてそそくさとカウンターの方へと戻っていく。俺は私服とは言え、ミーシャは憲兵隊の制服を着ているのだ。しかも、階級は佐官ときた。そんなお偉いさんの制服を見せれられた相手の立場を考えれば早くこの場から立ち去りたいのも頷ける。

 

「それで?皮肉を言いにきてわけじゃないんだろ?」

「ええ………これを」

 

ミーシャは鞄の中から一つの封筒を取り出し、テーブルへとおいてこちらへ差し出す。

俺はそれを受け取ると、封筒を開けて中に入ってある何十枚か重ねられた紙を取り出した。どうやら、なにかの資料のようだ。

 

「"大陸間コーラップス搭載散乱型弾道ミサイル"………おい。これ………」

「あまり声に出さないでください」

 

いや………こんなものを見せられて声に出して驚かない奴はいないだろう。

 

「お前。この情報がどれだけ危ないものなのか分かってんのか?」

「承知してます」

「承知してんなら尚更このような場所で話すようなことじゃないだろうが」

「だから、特等席を用意したんですよアヴェンジャー」

 

彼女の言う通り………この席は一般人が入るには厳しい場所となっている。個室席、いや…………VIP席と言っていいのだろうか。メニューは一般よりも高めで、その分ワンランク上の品を楽しめるものとなっている。つまり………会合するにはピッタリの場所といことだ。

ため息を吐きながら眉間にシワを寄せ、もう一度資料に目を配った。今度は一文字一文字漏らさず1ページの内容を頭の中にインプットさせる。間違いなくこれは凍結されたアーティファクトだ。

 

「なんで今更こんな情報を」

「最近、正規軍内が慌ただしくなってきているのはご存知ですか?」

「慌ただしいのは昔からだろ。それが、さらに慌ただしくなったということは何かあったんだな」

「ええ。切羽詰まっている………そんな感じです」

「………なんで、このクソ兵器が今更出てくるんだ?まさか、こいつと関係してると言うんじゃないだろうな?」

「断定はできませんが………私でも情報を掴めたということは何かしら関係はあるのかもしれないですね」

「お前………正規軍に内通者を送り込んでるのか?」

「…………」

「おい」

 

彼女は表情を変えることなくコーヒーカップを手に持ち一口と飲む。

 

「正規軍を信用していないのは貴方だけではありませんから」

「だからってこんな情報を持ってると知られたらどうなるか分かってんのか?」

「その点でしたら心配なく。この資料はこの後処分する予定ですので」

「………そうしろ」

 

クソ………せっかく美味しかったコーヒーがちっとも美味しくなくなっている。

普段とはらしくない俺の動揺は味覚までも変化を与えるのか。

 

コーラップスーーまたの名を崩壊と呼ばれる用語は俺にとってはタブーな存在だ。なにせ、この言葉はこの世界を荒廃させてしまった元凶の一つなのだから。以前説明したことがあるため崩壊液についてはとりあえず割愛させてもらう。

 

このコーラップスを利用した技術は最初にロシア帝国が発見し、1905年の20世紀初頭辺りからずっと研究が続けられていた。冷戦期の米ソが兵器利用を実際に行なっており、放射線の影響や深刻な放射線障害と言った残酷な結果を目の当たりにしては崩壊液・崩壊技術の兵器利用は国際条約で禁止されたのだ。もちろん製造等も禁止されている。今でもその国際条約は有効となってはいるが、コーラップス技術が使われた兵器は未だに健在している。各大国が持っているかは不明だが、このような資料が残ってるということは確かに存在しているのだろう。

 

「第1次北蘭島事件以降から世界は変わりました。人が住める土地が大幅に狭まり、安全な土地を巡って第三次世界大戦が始まってしまった………人類がコーラップス技術さえ見つけなければこんな世界にはなっていなかったでしょう」

 

ミーシャの言う通り、人類がコーラップスなど見つけなければこんな腐りきった世界にはなっていなかっただろう。だが、コーラップスという存在がある限り遅かれ早かれ世界がたどる道は決まっている。

 

「それで?俺達(グリフィン)にどうしてほしいんだ?まさか、あるかも分からないこんな物騒なもん見つけて来いって言うんじゃないだろうな?」

「そのまさかですアヴェンジャー」

「………っち。マジかよ………」

 

無表情のままそう言い切ったミーシャはコーヒーを飲み干す。

 

我々(憲兵隊)では外での活動はできません。とは言っても正規軍も動かすわけにはいかず、グリフィン以外のPMCも信用できません」

「そうは言っても公には動けないぞ」

「分かっています。ですので、ブラックオペレーションとして依頼します」

ブラックオペレーション(存在しない任務)か………」

「無理を言っているのは分かってます………だけど、あの兵器を正規軍にも鉄血工造にも手に入れさせるわけにはいきません」

 

今日初めて彼女は表情を変えた。少しうつむきながらも………また北蘭島事件のような悲劇が来るのではないのかと不安が積もっているのだろう。

確かに………俺達グリフィンや今残されている人類にとっても無視できない問題だ。正規軍、鉄血工造の両者どちらかが手にしても攻撃目的で利用するのは違いない。なにより、鉄血工造に関してはこの前に巡航ミサイルを飛ばしているからな。

 

「………さっきも言ったが俺達も鉄血との戦いで無駄には動けん。仮にお前の依頼を引き受けても探し出せる保証もないーーそれでもお前は境界線(ボーダーライン)を超える覚悟があるのか?」

「それは貴方も同じはずです……」

「……違いない」

 

どんな屁理屈を言おうと折れないのは昔から変わらない頑固な奴だ。俺は軽く溜息を吐いて残りのコーヒを飲み干すと。

 

「いいだろう。任務を引き受けてやる」

「……ありがとうございます、アヴェンジャー」

 

コーラップスを憎んでいる点では彼女と俺の利害は一致している。

 

おかげで嫌な記憶がフラッシュバックを起こすのだがーー

 

そして、俺は統制地区で運用されている金を二人分の代金まとめてテーブルの上へと起き、出口の方へと歩こうとして立ち上がるが。

 

「………アヴェンジャー。いつになったら貴方は真実を話してくれるのでしょうか?」

「………」

 

俺は背を向けたまま立つことしかできなかった。いや、そうするしかなかった。振り向かずともミーシャの表情、感情、呼吸までもが分かる。それくらい俺は彼女の言葉に対して過剰に反応してしまったのだ。

 

「真実もなにもーーあれからなにも変わらない……」

「私はもう子供ではありません………あの時は感情に押し殺され貴方を憎み恨んで責め立てました。だけど、今になって考えれるようになったんです……貴方は私には言えない何かーー真実を隠しているのではないかと………」

「………」

 

真実………その言葉に俺は嫌気をさす。

 

真実は残酷で。

 

真実は知らない方がよく。

 

真実も嘘まみれなことも。

 

俺は知っているのだ。真実というものはいつまでも心の奥底に住み着き癌のように徐々に蝕んでいくことを。

 

「俺から話せることは何もない。用が終わったんなら俺は行くぞ」

「アヴェンジャー!」

 

俺はそれだけを言い残しカフェから出て行く。

 

………すまないミーシャ。あれだけはお前にどれだけ嫌われようが言うつもりはない。

 

 

「………私は諦めませんアヴェンジャー。何故、貴方は姉を殺したのか………貴方の口から真実を話してくれるまで諦めません………」

 




用語集

≪ 正規軍統制地区≫
正規軍が統括する地区。周りには30メートルほどの壁で覆われており、厚さも15メートルとある。内部には国のように政治や治安といった行政もあるため、小さな国家として機能している。しかし、統制地区に住むのは厳しい条件があるため街の半分以上は富裕層が住んでいると思われている。

≪国家保安局憲兵隊≫
本作オリジナルの組織。正規軍統制地区の治安・パトロール等を行なっており、地区内で起きたデモによる暴動などを鎮圧するのも彼らの仕事である。その為、彼らが外に出て戦闘に行くことはないが、万が一の場合統制地区が攻撃にあった場合は正規軍と共に迎撃に当たる事が決められている。余談だがミーシャは佐官であり憲兵部隊を指揮する立場にいるためかなり上の地位にいると思われる。

≪コーラップス・逆コーラップス技術≫
別名"崩壊・崩壊技術"。物体を瞬時に消し去ったり、消し去った物体を再構成できる技術。しかし、使用するにあたって崩壊液と人類には早すぎる水準極めて高度な設備が必要とされる。本作オリジナルの兵器である"大陸間コーラップス搭載散乱型弾道ミサイル"もその一環で作られたものであるが、国際法上違反しているため使われることはなかった。

≪コーラップス液/崩壊液≫
崩壊・逆崩壊技術で必要な物質。実際には放射線なので崩壊粒子と表記されるのが正しい。冷戦期に兵器として米ソが実際に使用しており、深刻な放射線障害を引き起こすため崩壊液を使った兵器を使用するのは国際条約で禁止される。
実際に被爆した生物に対して深刻な放射線障害を引き起こしたり、電波障害を発生させたりし、放置した場合の無害化にかかる時間はかなりの時間を要する。人形も崩壊液の汚染で行動不能に陥ることもあるが人間よりは長時間耐えることができることが確認されている。

≪第一次北蘭島事件≫
上海の近くにあるベイラン島にあった遺跡から大量の崩壊液が漏出した事件。ジェット気流によって地球全体へと拡散された粒子は汚染を広げ、人類の居住可能範囲を大幅に狭めてしまう。第三次世界大戦が起きた原因。
事の発端は度胸試しで数人の学生が忍び込んだことが判明されており、救助に向かった警察の特殊部隊の隊員は全員死亡が確認されている。現在では一般市民による公式的な情報は制限されている。
 


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案件2-1:ノースシティ

今回は通常より長めに書いてしまいした。脳内のストーリー的に終わらせる区切りが中々見つからなかった………


「ねぇ指揮官」

「なんだ?」

「あの女性は誰なの?」

「………」

 

正規軍統制地区から出てしばらく。ハンヴィーを操縦するグリズリーから唐突な質問をされる。

 

「もしかして、昔付き合ってた人とか?」

 

そして、後部座席にはNZ75が前座席に腕を持たれながら追い撃ちをかける。

 

「違う。あいつは俺が正規軍にいた時に世話になった奴の妹だ」

「へぇ~……噂には聞いてたけど。指揮官って本当に正規軍にいたんだね」

「なんだ?俺が正規軍にいたらおかしいのか?」

「ええ。おかしいよ」

 

真顔で即答するグリズリー。俺は思わず鼻で笑ってしまう。

 

「指揮官って正規軍のことになるとすぐに愚痴るじゃない」

「そうだね。そんな正規軍を嫌っている人が元々正規軍にいたなんてこれ以上の皮肉ってあると思う?」

「返す言葉もねーな」

 

息を深く吐いて背もたれに体重をかけた。狭いルーフを見上げるとコンソールに一枚の写真が挟まっていることに気づく。手に取ってみると写真にはグリズリーの周りに笑顔で群がる子供達の姿が映されていた。

 

「これはノースシティの奴らか………」

「ええ。指揮官も久し振りに行ってみたら?かなり歓迎されるよ?」

「いい。子供は苦手なんだ」

 

そう言いながら写真をコンソールへと戻す。やれやれと言わんばかりにグリズリーは苦笑しており、NZ75もこちらへ「へぇ~」と言いながらニヤニヤしてるところをバックミラーから確認できた。なにを思っているかは分からないが、期待外れだと思うぞNZ75。

写真に写っている子供達は正規軍統制地区から少し離れたノースシティと呼ばれる町にある孤児院の子達だ。そこは統制地区のように敵の攻撃から守る外壁がなく、駐屯地のように鉄条網を張り巡らせているだけの場所だ。立場的にも危ない場所であり、いつ戦闘に巻き込まれてもおかしくはない。実際にこのような場所はいくつもあり、鉄血以外にも反人形人権連盟や人類人権団体による攻撃及びテロに巻き込まれている。このノースシティはグリフィンが統括しているエリアとあり、人形の部隊を送っては警備をさせるのも仕事の一環だ。たまにだが俺も仕事としてノースシティへ行くこともあるが治安的にはそう悪くはない。まあ、グリフィンに所属している奴らは大半が人柄も良く、腐った感情を持った者が少ないと言うのが一番大きいだろう。お陰で地域住民はグリフィンに対して好意的に接してきてくれており仕事もやりやすい。現にグリズリーは孤児院の子供たちの間では面倒見がいいお姉さんとして見られているわけだがーー

 

「……よし。今から行きましょうか」

「おい、待てこら。なんでそうなる」

「つべこべ言わないの指揮官。一応非番ってことになってるんでしょ?たまには顔だしてあげなって」

「俺が顔を出したらどうなるか知ってんだろうが。俺は……」

「はいはい」

「おい!」

 

グリズリーは俺の方を振り向くことなく道をノースシティの方へと変更する。こうなってしまっては彼女になにを言っても無駄だろうと判断し、ため息を吐きながら腕を組んでルーフを見上げるのだった。

 

 

「あっ!!しきかんだ!!」

「しきかんがきたー!!」

「だっこしてしきかーん!!」

「チョコちょうだい!!」

「引っ付くなお前ら!くそっ。服を引っ張んじゃねぇ!」

 

ノースシティの南東側に位置する孤児院の広場にハンヴィーを止め、外へ出るなり遊んでいた子供達に取り囲まれてしまう。服を引っ張られるは身体はよじ登られるはなんともカオスな状況か。

 

「ねっ?指揮官楽しそうでしょ?」

「あれのどこが楽しそうに見えるのかな……」

「楽しそうに見えない?あれでも感情表現は前よりマシよ?」

 

(前って………当時の指揮官はどんな顔をしていたんだろうね……)

 

「おいグリズリー!どうにかしろ!」

「はいはいーーみんな。一斉に集まると指揮官も困るからねー」

 

そう言いながらグリズリーは俺によじ登ってきた女の子を持ち上げてゆっくりと地面に下ろした。

「グリズリーお姉ちゃん!」

「ねえねえグリズリーお姉ちゃん!まとあてしようよ!あれから強くなったんだから!」

「そう?じゃあ、今回は私に勝てるかな~?」

「俺も今日こそは勝つ!!」

「私も~!」

 

さすがグリズリーと言うべきか。子供の扱い方が一番うまい。俺は軽くため息を吐くと孤児院の中へと入っていくグリズリー達を目で追いかけた。

 

「意外だね……彼女があんな顔するなんて。初めて見たよ」

「そうか?あいつーー意外とはっちゃけてるぞ」

 

普段のグリズリーは落ち着いた口調で話す為基本的にクールな態度が見られる。そのせいか他の奴らから見れば冷たい奴だと思われることも不思議ではないだろう。しかし、彼女は決して冷たいわけではなく、気分転換にドライブに行こうと誘われたり今のように孤児院の子供達に会っては笑顔をよく見せる。

 

「はっちゃけてる、ねぇ……これをみんなが見たらどう思うだろう」

「どう思うも、さっきのお前みたいに意外だと言っては瞳孔を開くだけだろうな」

 

「かもね」とそう言いながら微笑むNZ75を見て俺は軽く息を吐いて空を見上げる。雲が軽く間を作りながら流れるも青空が目立つ。肌に当たる日差しが少し暑いくらいだ。

 

「アヴェンジャーさん。お久しぶりです」

「ん?ああーーフェリスか」

 

視界を正面にやるとそこには長い茶髪を後ろに纏めた女性の姿があった。彼女はこの孤児院の院長だ。俺がグリフィンに就任してから間も無くしてこの街に来た時からの知り合いだ。

 

「子供達がグリズリーさんと一緒に楽しそうにしてましてからもしかしたらと思ったんです。今日はお忍びで来たのですか?」

「いや。統制地区に用があってな。グリズリーに無理やり来させられたんだ」

「そうだったんですか」

 

少しだけ同情してくれているのかフェリスは微笑みながらこちらを見つめる。

 

「ああ。お前は初めて会うんだったな。フェリス。こいつはNZ75だ。今日は護衛のために付いてきてもらった」

「そうなんですか。はじめましてNZ75さん。私はこの孤児院の院長を務めています。フェリス・コールソンと申します。以後お見知り置きを」

「私はNZ75だ。少し前だけどグリフィンに配属になった人形だ。よろしくフェリス」

 

お互い自己紹介をすると握手を交わし合う。

 

「それで、最近どうだ?何か変わったことは起きてないか?」

「はい。最近まで人類人権団体が近くで行動を起こしていたと聞いていましたけど、それ以外はなにも変わったことはありません」

「そうか……」

 

一応この街にはグリフィンの指令基地と少し離れた所に飛行場がある。自慢するわけではないが、うちの警備力には自信がある。その抑止力もあるおかげか鉄血以外の敵勢力との戦闘はあまり目立たず、何かあればグリフィンの本拠地からすぐ駆けつけられる距離もあるので尚更だろう。

かといってーー決して戦闘が起こらない訳ではない。今、この世界まるごとが戦場なのだ。いつどこでなにが起こるのかは誰もわからない。最新のレーダーを持っていようが、強力な兵器を所持していようがこの世界では必ずどこかで人殺しが行われ、死人が必ず出るーーこの2060年代という世界はそれが当たり前の日常なのだ。

 

「アヴェンジャーさんも最近どうですか?あまり仕事とか無理はしていませんか?」

「ああ。普通だ」

「どこがかな?この前なんて鉄血に殺されかけたじゃないか」

「まぁ……」

 

この前というのは弾道ミサイルのことだろうな。殺されかけたのは事実だろうが前線に出る以上、命の天秤というものは常に死へと傾いている。指揮官として自ら戦場に赴くことに他から見れば戦闘狂なのかあるいは頭がおかしいのかと思われるだろう。

 

「アヴェンジャーさん。お仕事なのは分かりますが……命だけは大事にしてください。あなたが死んでしまったら悲しむ人がいますから……」

「……善処する」

 

フェリスも俺の仕事のことを理解しているためあまり深くは言ってこない。だが表情から見るに心配はかなりしている様子だ。

 

「指揮官が善処ねぇ……本当にできるのかな?」

「善処もなにも………ーーっ」

 

言葉に詰まる。また屁理屈を言うところだったのだ。NZ75も俺が何か言おうとしたことに察したのか苦笑している。

戦争に善処や約束なんてものはただの言葉でしかない。例え今日死のうが明日死のうが大して差がないのは理解しているため、俺は出来るだけ言葉選びには慎重に行なっているつもりだ。俺が周りの人間と比べて強かろうが頭と心臓を撃たれれば即死するし、失血死だってありえる。人間は必ず死を迎えるーーこの世界の場合、その瞬間は今起こっても不思議ではない。だが、こんな世界でも人間は死に方を選びたがるものだ。誰でもテロや戦闘に巻き込まれて死ぬなんてことは望んではいない。しかし、俺と同じように殺しを専門とした仕事をしている者はまた違うだろう。死と隣り合わせなのは全員理解しており、いつでも死ぬ覚悟はできている筈だ。全員そうでなくても俺はその瞬間を迎える準備は出来ている。

 

誰がなんと言おうと死というのは生物平等なのだから……

 

「ーーっ!?指揮官!何か聞こえなかったか!?」

「何が………」

 

NZ75の言葉を返そうとした瞬間だ。ここから少し離れた場所で爆音が鳴り響き、衝撃が伝わってくる。後ろを振り向くと黒い煙が揺れながら上空へと舞い上がっている。音の衝撃といいNZ75が聞こえたという音を考えれば恐らく迫撃砲の類だろう。

 

「くそっ、襲撃だ!フェリス走れ!」

俺はフェリスの背中を押しながら孤児院の方へと走る。その間にも迫撃砲は街の至る所に降り注ぎ屋根を突き破りながら黒煙を上げる。人々の悲鳴と同時に襲撃を知らせるサイレンが鳴り響く。

 

「くそっ!」

 

乗ってきたハンヴィーにも迫撃砲の弾が命中し爆破音と共に衝撃波が伝わってくる。俺は咄嗟にフェリスを庇うようにハンヴィーがあった方へと背中を向けて屈んだ。幸い破片などは飛んでくるが致命傷となる物は逸れてくれている。再び立ち上がりフェリスを孤児院の正面玄関まで連れて急いで院内へといれた。

 

「指揮官!何があったの!?」

「何者かは知らんが街を襲撃してきている」

 

孤児院のそばまでやってくると正面玄関からグリズリーが焦った表情で出てくる。建物の中からは子供達の鳴き声が聞こえてくるのを聞くと恐らくパニックになっているのだろう。

 

「グリズリー。お前は彼女と子供らを連れてシェルターに避難させろ」

「指揮官は?」

「俺は基地に向かって状況を確認する」

 

俺はそう言うと無線機をグリズリーへと放り投げる。

 

「分かった。無茶しないでよ」

「お前もな、こいつらを頼むぞ。NZ75、お前はついてこい」

「了解」

 

ホルスターからセンチネルストライクを取り出し基地へ向けて走り出す。

 

 

「メディックこっちだ!」

「ぐぅううう………いてぇよ………」

「止血帯を締めろ!」

「こっちにも負傷者がいるぞ!!」

「はぁ……はぁ……な、なんだよこれ………俺の足はどこにいったんだよ………」

「誰か……誰か息子を見ませんでしたか!?」

 

基地へ続く道を走っていると迫撃砲の被害を受けた場所では状況が混沌と化していた。半壊した建物に路上には血肉が広がっている。その場にいたグリフィンの兵たちは負傷した者や瓦礫に挟まった民間人の救助などを行なっており指揮官である俺が目の前を通っても気づかないほど混乱している様子だ。

思っている以上に被害は大きいものだ。間近で被弾した者は胴体がバラバラになっており思わず目を逸らしてしまいそうな光景が襲う。中のディテールが飛び出て横たわっている者はもう息をしている様子はない。辛うじて生きている者には兵士が必死に呼びかけながら治療を行なっている。

 

「指揮官!」

 

基地のそばまでやってくるとグリフィンの兵が一人で迎えた。

 

「状況はどうなってる」

「はい!恐らく鉄血が攻撃を仕掛たのと報告が入っています!ここから北の方は奴らが陣取っていると………」

「最高だな……どうやって監視網を抜けてきたんだ?」

 

俺は本部から応援を要請するため司令室へと歩きながら兵士から分かっている限りの状況を確認する。基地はかなり慌ただしくなっており、外へ戦闘の対応をする者はライフルを手に持って廊下を走りながら通り過ぎていく。

 

「これも先程入った情報なんですが……他のPMCが鉄血との戦闘で撤退するほどの被害を受け、追撃してきたものと聞いております」

「ちっ……それが本当ならとんだとばっちりだな」

「撤退する際にこちらを餌にされたんですかね」

 

だとしたらこの状況を打破したのちにそのPMCとやらに制裁を加えないといけないらしい。

 

司令室へたどり着くとグリフィンの社員達が慌ただしく動いている。真ん中に設置されているコンソールを起動させると本部へと通信を行う。

 

「こちらアヴェンジャー誰か応答せよ」

『こちらグリフィン本部(HQ)……って指揮官様!?』

 

どうやら通信はカリンが出てくれたようだ。

 

「今はとやかく説明している暇はない。ノースシティにて鉄血工造の襲撃を受けている。至急増援を送ってくれ」

『り、了解ですわ!えっと指揮官様。この状況で申し訳ないのですけど、戦術指揮官候補者の方がいらっしているのですが……』

「戦術指揮官候補者だと?」

 

聞き慣れない言葉だ。ヘリアンめ……また面倒ごとを押し付ける気じゃないだろうな……

 

『代わられますか?』

「………ああ」

 

だが、この状況だと候補者だろうが指揮官としての才能を抜擢されて送られてきたのは間違いない。人形の部隊が足りていないこの状況だと向こうで指揮を取ってくれた方がこちらとしても動きやすい。

そう判断した俺はカリンの質問に肯定で返す。

 

『た、ただいま代わりました。戦術指揮官候補者のレンカ・ミア・プロブストです!』

 

緊張しているのか若干テンパっているようだ。声を聞く限りだと女性で、恐らくカリンと同い年くらいだろう。推測だが……

 

「長ったらしい紹介は後回しだルーキー(新人)。今の状況は理解しているな?」

『はい!』

「だったら今からお前が指揮をとれ」

『え、えっと……それって実戦ということでしょうか?』

「ああ。俺はこれから現場での対応で十分な指揮を取れない。よって今から指揮権を一時的にお前に委任する」

『し、しかし私は……』

「何度も言わせるな。いずれお前が指揮をとらないといけないんだろうが。今日やろうが明日やろうが変わりはない。お前がこれから踏み込もうとしている世界は生半可なものじゃ務まらないぞ」

『………』

「俺みたいに戦場には来なくていい。ただ、お前は指揮官として最善の選択をしろ。部隊を編成し、導き、戦え。いいな?」

『分かり……ました!』

「それでいい。作戦と部隊編成もそちらに任せるぞ指揮官。ああ、それと、戦場ジャーナリストがまだ滞在しているはずだ」

『えっと……戦場ジャーナリストがですか?』

「ああ。詳しいことはカリンに聞いてくれればいいが、一つ伝言を伝えてくれーー"度胸があるなら戦場に立ってみろ"とな」

『りょ、了解です』

 

俺はそう言い終えると通信を終了させる。

 

「やれやれ。早速新人イビリやってるの?」

「勉強だと言ってほしいな」

結局は向こうの捉え方次第だろうがーーまあいい。今はこの街を防衛しないといけない。ここの戦力は警備として派遣している戦術人形MDR率いる部隊とグリフィンに所属する社員曰く兵士の部隊。戦力的には撃退できるだろうが今は混乱しているため態勢を整えるのにしばらく時間がかかるだろう。

 

状況的には最悪だーー

 

だが、増援が到着するまで守りきらないと戦線が大きく変化してしまう。そうなればこれからの戦いは厳しくなるだろう。よって、このノースシティをどうしても守りきらなければならい。

 

さてーー腕の見せ所だぞルーキー……




用語集

≪ノースシティ≫
S09地区に位置する街。規模的には大きくはないが市民が住めるなどの広さはある。グリフィン&クルーガー社の基地本部からは近い位置にあり、またグリフィンが統括している地区にあることから防衛および警備も担当している。グリフィンには好意的に接してくれており、戦術人形や社員との関係は良好である。街の周辺には鉄条網が張り巡らされており、防衛力としては不安がある。その為、反人権組織や鉄血からの襲撃は少なからずある模様。武器があっても予算がないのは今後最大の悩みだろう。

≪反人形人権連盟≫
人形を戦争に参加させていることを反対している組織。しかしそれは表向きのスローガンであり裏では人形を拉致しては分解しては不正に闇市に流出させたり、虐待や性的暴行を加えているという。主に戦術人形を取り入れているグリフィンは目をつけられており鉄血工造の次に戦闘が多いとされている。それ以外にも人間も拉致等を及んでおり、各地域の廃棄された場所を占領したり正規軍の武器や兵器も鹵獲したりとテロ紛いな過激的な行動をしているため、そういった問題から正規軍や各PMCからは共通の敵てして認識しており連携して根絶を行っている。結成当初は正規軍統制地区でデモや演説を行っていたのだが、いつから彼らはこんなにも変わってしまったのだろうか?

≪ハンヴィー≫
機動多用途装輪車両。アメリカで生まれた軍用車両でミリタリーファンの方ならすぐ思い浮かばれるだろう。

≪V45 センチネルストライク≫
本作オリジナルのハンドガン。V45は2060年頃から生産された拳銃で主に正規軍へ配備されている。9×19mmパラベラムを使用するのは変わらないが、長時間水や泥につけても作動し弾づまりも起こらないことから評価は高い。中でもアヴェンジャーが持つセンチネルストライクは対E.L.I.D用に改造されていることから腐食性にも耐性が付いており、また優いつ徹甲弾を装填することができる。


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主人公設定

今更ではありますが……

更新することがありますので稀にチェックをしていただけたら幸いであります


アヴェンジャー

本作の表主人公。名前、生年月日、年齢、経歴など一切が不明。執務時にはグリフィン専用のコートを着ており、任務時には兵士並みの装備を装着している。顔を隠すためヘルメット、スモークゴーグル(夜間任務時にはクリアレンズに取り替えている)、バラクラバ等をしている。左目に傷跡があり、UMP45には密かにお揃いだと好感を持たれているが本人はあまり気にしていない様子。

冷静沈着でどんな状況においても戸惑うことなく任務遂行の為に尽力する。冷酷というわけではなく、仲間内なら人形でも誰一人と見捨てない仲間思いなところもあり、稀にジョークを言うこともある。皮肉屋でもあるが戦術人形に対して人間同様と接していることから彼女達の信頼と評価は高い。

正規軍のことを毛嫌いしており、正規軍の依頼となると毎回愚痴をこぼしている。

個人の戦闘力は高くUMP45からは正規軍の特殊作戦コマンドを全滅させれるほどだと示唆されている。

本作は途中から描かれているため、彼がどのようにグリフィンの戦術指揮官として入ったのかは語られないが簡単にまとめると元々正規軍にいたが、とある理由から戦術指揮官として選ばれグリフィン&クルーガー社へと入る。

上記通りプロフィールについてはアヴェンジャーというネーム以外不明であり、ヘリアンやカリーナや人形達も知らないらしい。しかし、社長であるクルーガーとペルシカのみアヴェンジャーについての過去を知っている模様。

左目の傷跡は過去に鉄血につけられたものらしく、その事について本人は一切語ろうとはしない。人形達の間では色々な噂がたてられているが、本人はあまり気にしていない様子。

 

敵である鉄血工造からは優先的に狙われる立場ではあるが、自らが戦場に出ていながらも殺害には至っていない。また、エクスキューショナーと一対一でやりあえたことから人間の中では優いつ危険人物として警戒されている。しかし、イントゥルーダーだけは見方が違うらしく、彼を手に入れようと色々執着しているせいか味方からも若干引かれているとか……アヴェンジャー本人も違う意味で困っている様子。

 

好物はジャンクフード全般で自身でも作れるほど。煙草は吸わないが、酒は飲むらしくよくM16の晩酌に付き合っている。その為彼女とは比較的に仲が良く、優いつ軽口を言える仲だと言える。酒には強いらしい。その反対に嫌いなものはMREらしく、口の中に入れた瞬間舌を切りたいくらいだと言うほど。必要以外には絶対に食べたくないらしい。以前人形達がドッキリとして彼のご飯にMREとすり替えた時は大変な目にあったとかは定かではない………あまり深く聞くのも命に関わるのでやめておいた方がいいだろう。



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案件2-2:防衛行動

ドールズフロントライン オーケストラコンサート最高でした!!サントラにはないものも演奏してましたので映像と演奏が見事にマッチしてて臨場感が半端なかったです。始まった途端鳥肌が立ちました(笑)オーケストラバージョンとかでるのかな?


-side Lenka-

 

ここの指揮官であるアヴェンジャーさんに指揮権を一時的に委任されてから数分後。私はカリーナさんのアドバイスを元に二部隊を編成した。一つは基本的なるアサルトライフルの3人とサブマシンガンの2人による第一部隊。そして、ノースシティの防衛を目的としたマシンガン二人とアサルトライフル二人にサブマシンガン一人による第二部隊。ノースシティにいるMDRさんというアサルトライフルのチームが展開しているため、第二部隊をノースシティ基地に配置させて攻撃と防御を後退させる形でプランをまとめる。それを今から編成した部隊の戦術人形の方達を集めてブリーフィングを行うところだ。

 

「み、皆さん初めまして。本日からここグリフィン統括地区S09地区に配属になりました戦術指揮官候補者のレンカ・ミア・プロブストです!初めての実戦で納得できない部分もあるかと思いますがよろしくお願いします!」

 

私はそう言いながら敬礼をする。見渡すと初々しいと思わないばかりに戦術人形の方達は苦笑しながらバラバラに「よろしく」と交わしてくれる。

 

「あんまり緊張しすぎないようにね」

「指揮官も鬼ね。配属初日に実戦を任せるなんて」

「でもあの人なりに考えがあるんじゃない?」

 

驚いたことに皆さん私が指揮権を一時的とはいえ委任されていることに不満がない様子だ。もう少し文句を言われるかと思ったのだけどーー

 

「で、では時間もあまりありませんのでブリーフィングを行います!」

 

部屋が暗くなりコンソールからからホログラムを投射させる。

 

「現在ノースシティにて鉄血工造の襲撃を受けています。被害はまだ定かではありませんが民家人とグリフィンの兵士にも死傷者が出ているとの報告が出ているとのこと。鉄血の部隊は北から二手に分かれて部隊を展開させており、迫撃砲を撃ってきたことから片方もしくは両方に多脚戦車型自走砲"ジャガー"いるものと思われます。また、装甲機械二脚歩行型自走砲"ニーマム"の存在も報告されています」

「具体的なプランは?」

「まず第二部隊はグリフィンノースシティ基地へ配置しMDRさん率いる部隊と防衛を交代してもらいます。第一部隊は基地近くにある飛行場へと配置後、北上しながら敵戦力の掃討を行ってもらいます。以上が今回の作戦ですが………」

「まあ、シンプルでいいんじゃない?」

「そ、そうでしょうか?」

 

第二部隊の隊長であるネゲヴさんが一言だけそう述べた。もう少し細かく作戦を練った方がよかったのかな?でも、あまり時間もありませんし……

 

「勘違いしないでね。別に不満とかあるんけじゃないのよ?ただ、指揮官といっても新人なのに猶予もない中短時間でここまで部隊編成と作戦を立案できるとは思ってなかったから」

ネゲヴさんは口角を上げながらそう言うとテーブルに置いていた自身の銃を手に取る。

 

「すみませんネゲヴさん。自分の小隊もあるのに引き抜いてしまって」

「いいのよ。どうせ暇だったんだし、たまには鉄血のクズどもをぶっ飛ばしたいじゃない?」

「は、はあ……」

「それに……私を引き抜くなんてあなたは中々センスがあるわ」

 

マシンガンを両手に持ちながら微笑まられると何か別の狂気のようなものが見えるのですが……気のせいですよね?

 

「で、では具申がなければブリーフィングを終えます。ブリーフィング終了後、第一部隊と第二部隊の皆さんはすぐにヘリに搭乗してください。皆さんの奮闘を期待しています」

 

そう言うけど私の指揮によって作戦の流れが変わるんだよね。思っているよりもプレッシャーが大きい。カリーナさんはあまり考えすぎない方がいいとは言っていたものの、流石に実戦となると動悸が早くなってくる。

 

だけどーーこれで私の進む道が決まる。そのためにもこの作戦は必ず成功させないと……

 

私は胸に手を当てながらそう決意を固めるのだった。

 

-side Avenger-

 

基地にて装備の補給を終えた俺とNZ75は街の北へ向かい、交戦しているMDRの部隊を支援するべく走っていた。迫撃砲は一旦止んだものの、また砲撃を開始するだろう。近づくにつれ銃声が大きくなり、全身の神経を集中させる。肌に当たる風も敏感に感じ取ってしまい痛みと錯覚するほどだ。

北には検問所があり詰所とゲートと監視塔が存在する。勿論敵が侵入してきた際に迎撃する機関銃が入り口に向けて土嚢とセットになって配備されており、現に機関銃の音が絶え間なく響いている。

 

「南から味方が接近する。撃つなよ」

 

MDR≪りょうかーい!≫

 

次の角を曲がれば検問所が見えるだろうが、一度その手前で止まって注意しながら向こう側を除く。MDRの部隊とグリフィンの兵士が鉄血の部隊と真正面から撃ち合いをしているのが見える。見た限りだと戦死した者は見られないが何人かは負傷している者はいるようだ。

敵はまだこちらには気づいておらず、今なら全速力で走り抜ければ撃たれる心配はないだろう。そう判断した俺は彼らの元へと走る主旨をNZ75へと伝えると彼女はそれを了承する。

呼吸を整えると角から飛び出して一気に彼女達の方へと走る。何発かこちらに銃弾が地面へと着弾するのが分かったが、俺は気にすることなく土嚢へとカバーして、MDRの元へ合流することに成功する。

 

「指揮官じゃん。なんか新しいネタとかあるんすか?」

「ねーよ。状況を考えろ」

 

土嚢から身を乗り出し50メートル先から撃ってくるヴェスピドへ向けてライフルを発砲する。確認するだけでも七体はいるな。

 

(思っているよりこっちの敵部隊の数が少ない……)

 

正面から突破しようとするほど鉄血も馬鹿ではない。人海戦術ならば理解できるが、あの少人数で真正面から撃ち合いなど何か企んでいるのではないのかと疑う。鉄血も戦術人形だ。指揮するものがいなければ戦術的に動けないのは分かっている。

 

(………鉄血のボスがいやがるのか)

 

可能性はある。だとすれば何を狙う。基地まで目前だというのに奴らは少人数で攻めてきているのだ。

 

(このやり口はイントゥルーダーではないな……)

 

なら別のやつだ。わざとここを制圧させないようにしている。相手を焦らすかのようにじわじわと戦線を狭めてくる陰湿的なやり方はやられる側にとってかなりのストレスだ。情報も少なく相手の戦力も分からないーー下手をすれば味方がパニックになって全滅の可能性もあり得る。

 

俺は周囲の状況を確認するため無線の周波数を基地の指揮所(CP)に変える……がその時だ。

 

Guard captain ≪CP!CP!こちら飛行場警備隊!鉄血の部隊に襲われている!!至急増援を送ってくれ!!≫

 

撃ち合いの状況なのか無線越からノイズと発砲音が混じりながら飛行場の警備隊から増援の要請を聞き取ってしまう。

 

(っーー飛行場を制圧して増援部隊を降ろさせないつもりか)

 

仮に飛行場を制圧された場合、基地の指令基地に降り立つ増援部隊のヘリが集中放火を浴びてしまう。そうなれば損害も大きく戦闘の続行は不可能にとなり、街を見捨てる判断を下さなければならなくなる。何百人といる民間人に犠牲が出てしまうのは目に見えた。

 

「こちらアヴェンジャー。俺達が増援に向かう。あと、3分は耐えろ」

 

Guard captain ≪し、指揮官でありますか!?りょ、了解であります!お前ら!増援が到着するまで耐えるぞ!!≫

 

警備隊長だろうか?彼が増援に来てくれることに対して部下に鼓舞したことからか周りから歓喜と気合の声が張り上げている。そういえば警備隊には海兵隊の出身者が多いらしい。なら、簡単に飛行場は奪われないだろう。

 

「聞いていたなCP。これから俺達が増援に向かう」

 

CP≪こちらCP。了解≫

 

「MDR。俺はこれから飛行場の増援に向かう。ここは任せて大丈夫か?」

「誰に言ってるの?指揮官。ここなら私達だけで大丈夫だよ!」

 

MDRはこちらをニカッと笑みを浮かべながらサムズアップをする。

 

「分かった。任せるぞ。よし、お前とお前とお前!俺についてこい!」

 

グリフィンの兵士を三人指名すると彼らは「了解」とだけ答えて俺の指揮下に加わる。

 

「これから飛行場の増援及び防衛に向かう。道中開けた場所があるがイェーガーに撃たれたとしても走り続けろよ。MDR、援護射撃を頼む」

「りょうか~い」

 

MDRは自身の部隊に援護射撃の指示を出す。敵がいる方へと部隊全員の一斉射撃が放たれたおかげで相手はダメージを避けるように詰所の向こう側へと隠れる。俺達はそれを合図に一斉に走り出し、飛行場へと向かうのだった。

 




用語集

≪ジャガー≫
豹の名を持つ自走型迫撃砲戦車。遠くから砲撃を放ち、その正確さからも侮れない鉄血の兵器だ。

≪ニーマム≫
ネメアの獅子の名を持つ装甲機械兵器。装甲をまとったジャガーの派生バージョンと言っていい二脚歩行自走砲。動きは鈍く次弾までの装填時間は長いが攻撃力は高く、敵陣営に大打撃を与えることも少なくはない。話によれば正規軍の戦車を一撃で大破させたとか……が、耐久性はそれほど高くはない。


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