ポケモンリーグ準優勝者の育て屋ライフ (片倉政実)
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キャラクター設定(主人公編)

どうも、片倉政実です。今回はイクトの設定を書いていきます。
それでは、早速始めていきます。


【主人公】

 

名前:イクト

年齢:14

性別:男

趣味:読書、料理やポケモンフーズ作り、天体観測など

特技:どんなポケモンとも心を通わせられる事、ポケモンの気持ちを感じ取れる事

好きな物:甘い物、ロイ達とのふれあい、ポケモンバトル、日向ぼっこなど

嫌いな物:孤独、悪人、不自由

目標:世界一の育て屋

 

 

『イリス地方』の田舎町『イリバタウン』から離れた山中で育て屋を営んでいるポケモントレーナー。幼い頃からポケモンリーグで優勝する事を目標にしており、8歳の誕生日にプレゼントとして貰ったパートナーのピカチュウのロイなど共に旅をしていたが、準優勝という結果に終わった事で、いつしか自分はチャンピオンになれるだけの才能が無いと思うようになっていた。しかし、テレビで偶然目にした育て屋という仕事に興味を覚えた事で、世界一の育て屋という新たな夢が生まれ、現在は共に旅をしたロイ達や引っ越し先で出会った新たな仲間達と共に世界一の育て屋を目指して毎日の仕事に励んでいる。

性格は明るく社交的で、基本的に誰にでも分け隔てなく接するため、旅の最中に出来た友人はとても多く、その中にはかつて『イリス地方』で悪事を働いていた組織のボスや構成員、元ポケモンハンターなどのようなイクトとの出会いで更生をした者もいる。

短い黒のストレートヘアに雪のように白い肌、目鼻の整った顔立ちに筋肉の付いた細身の体といった容姿をしており、旅をしていた時や軽い外出の際は青を基調としたカジュアルな服装をしており、育て屋として働く時には緑を基調としたシャツやズボンを身に着けた他にオリジナルデザインのエプロンを着ている。

元々、ポケモンバトル自体が好きなため、育て屋になった今でも暇を見てはロイ達との特訓に励んでおり、旅の最中に出会った他のトレーナーが遊びに来た際や近隣でバトル大会が行われると知った際などには、ロイ達ポケモンリーグ挑戦時の手持ちでバトルを行っている。

幼い頃からどんなポケモンとも心を通わせられるという特技を持っており、相手がポケモンであれば怒りで我を忘れていたり心に深い傷を負ったり、機械などで洗脳をされたりしていてもそれが可能なため、博士達の研究からこれは生まれ持った何らかの特殊能力なのでは無いかと考えられている。そして、その力の影響からか一度心を通わせたポケモンならば体のどこかに触れる事で、そのポケモンが考えている事を感じ取る事が出来るが、パートナーであるロイだけは付き合いの長さから触れずとも鳴き声などから言いたい事をピタリと当てる事が出来る。




いかがでしたでしょうか。
今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいてす。よろしくお願いします。
それでは、また。


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キャラクター設定(イクトのポケモン達編)

どうも、片倉政実です。今回はロイ達イクトのポケモンとウル達の設定を書いていきます。
それでは、早速始めていきます。


【イクトの手持ちポケモン】

 

名前:ロイ(ピカチュウ)

性別:♂

性格:むじゃき

特性:せいでんき

現在のレベル:63

好きな物:甘い食べ物(特にホイップクリームを使った物)、イクトや仲間のポケモン達、ひなたぼっこなど

嫌いな物:苦い食べ物、不自由

育て屋での役割:預かったポケモン達の世話、従業員達の統率など

使用技

【ねがいごと】

【アイアンテール】

【ボルテッカー】

【ねこだまし】

 

 

イクトのパートナーポケモンで、育て屋の従業員でもあるポケモン。

元々は、イクト達が以前住んでいた町の近所の森にいたポケモンだったが、イクトの8歳の誕生日プレゼントとして両親にゲットされた後、イクトにプレゼントされた事でイクトのパートナーポケモンとなった。専用のボールは存在するが、あまりボールに入るのが好きでは無い上、イクトの傍にいる事が好きなため、ボールに入る必要がある時以外は、基本的にイクトの頭の上に乗っている。

無邪気な性格な上、悪戯好きなところもあるが、面倒見の良い一面もあるため、手持ち内ではエース兼リーダーとして振る舞っていた。そして、イクトが育て屋になった後もそのポジションは変わらず、ポケモン達の指示出しや預けられたポケモン達の相手など様々な面でイクト達から頼られている。

 

 

 

 

名前:レド(リザードン)

性別:♂

性格:いじっぱり

特性:もうか

現在のレベル:61

好きな物:辛い食べ物、イクトや仲間のポケモン達、ポケモンバトルなど

嫌いな物:渋い食べ物、曇り空、雨など

育て屋での役割:ロイのアシスト、荷物の運搬、買い出しの手伝いなど

 

 

使用技

【りゅうのまい】

【フレアドライブ】

【かみなりパンチ】

【ドラゴンクロー】

 

 

イクトの手持ちポケモンの内の一体で、イクトの育て屋の従業員でもあるポケモン。

通常の個体とは違う『色違い』と呼ばれる個体で、元々はリザードンの群れのリーダーの子供の内の一体だったが、一体だけ色が違う事で家族や群れの仲間達から気味悪がられた結果、生後間もなくして群れから追い出された。そしてそこに偶然通り掛かったロッカ博士に保護されたが、群れから追い出された事が心の傷となり、それが原因で研究所の誰にも心を開かず、度々脱走を行っていた。そんなある日、研究所を脱走しようとしたところで、研究所に引っ越しの挨拶をしに来たイクトとロイに偶然出会った。そして、イクトから他の人間とは違う『何か』を感じ、それを確かめるためにイクト達にバトルを挑んだが、イクトとロイのコンビネーションの前に敗北した。しかし、バトルを通じて自分が感じた物の正体を知り、イクト達ならば信じられると感じた事で、イクト達に手持ち入りを志願した。そして、それをイクト達が快く承諾し、イクト達のバトルからイクトにポケモントレーナーの才能があるとロッカ博士が感じた事で、晴れてイクト達の仲間となった。

旅の最中は手持ち内の副リーダーを務めていたが、イクトが育て屋になった後もその役割は変わらず、イクトから割り振られた業務に従事する傍ら、リーダーであるロイやシオン達他の従業員達のサポートに廻っている。

 

 

 

 

名前:クレイン(サーナイト)

性別:♀

性格:ひかえめ

特性:トレース

現在のレベル:60

好きな物:渋い食べ物、イクトや仲間のポケモン達、本など

嫌いな物:辛い食べ物、暗闇、孤独など

育て屋での役割:受付やポケモン達の言葉の通訳など

使用技

【サイコキネシス】

【ムーンフォース】

【めいそう】

【さいみんじゅつ】

 

 

イクトの手持ちポケモンであり、育て屋の従業員でもあるポケモン。

ラルトスだった頃は、野性のポケモンとして群れの仲間達と暮らしていたが、住み処を他のポケモンに襲われた事で、群れの仲間達とはぐれた上に住み処から遠く離れた場所で瀕死の重傷を負って倒れていた。しかし、偶然そこに通り掛かったイクト達の手当で何とか一命を取り留め、無事に元気を取り戻した後に自身の生まれ持った能力である『テレパシー』で自身にあった事をイクト達に打ち明け、群れの仲間達と再会できるように頼んだ。そして、イクト達がそれを快く引き受けた後、共に群れの仲間達を捜しながら辺りを歩き回り、何とか群れの仲間との合流を果たしたが、捜し回っている間にイクト達と一緒にいる事に心地良さを覚えていた事やイクト達の助けになりたいという気持ちが芽生えていた事から、群れの仲間との別れを決意し、そのままイクトの手持ちポケモンとなった。

旅の最中は『テレパシー』を使ったレド達の言葉の通訳や旅の計画立ての際の相談相手になるなどでイクトのサポートを行っていたが、育て屋になった後はその役割を継続して行いつつ育て屋の受付などの職務も行っている。

 

 

 

 

名前:グラン(ドダイトス)

性別:♂

性格:ゆうかん

特性:しんりょく

現在のレベル:59

好きな物:辛い食べ物、雨、音楽など

嫌いな物:甘い食べ物、冬など

育て屋での役割:荷物の運搬、庭の手入れ、預かった幼いポケモン達の遊び相手

使用技

【やどりぎのタネ】

【じならし】

【ウッドハンマー】

【がんせきふうじ】

 

 

イクトの手持ちポケモンの一体であり、育て屋の従業員でもあるポケモン。

ナエトルだった頃は『イリス地方』のとある街のジムで世話をされていたが、ある日イクトがそのジムに挑戦をしに訪れた際、偶然そのジム戦の様子を目撃し、その戦い方やイクトとロイ達の絆の強さからイクト達に興味を持ち始めると同時に、イクト達と共に旅をしてみたいという思いが芽生え始めた。そして、イクトがジム戦に勝利した直後にイクトの元へ走り寄り、クレインの通訳によってその思いを伝え、それを

イクト達とジムリーダーが了承した事でイクトの手持ちポケモンとなった。

イクトのポケモンの中では一番面倒見が良く、気持ちの変化などにも敏感な事から、ポケモン達の良き相談相手として頼られる事が多い。

 

 

 

 

名前:シオン(ルカリオ)

性別:♂

性格:まじめ

特性:ふくつのこころ

現在のレベル:61

好きな物:チョコレート、イクトや仲間のポケモン達、静寂など

嫌いな物:喧騒、歪んだ波導など

育て屋での役割:ポケモン達の特訓相手、ポケモン達の言葉の通訳など

使用技

【はどうだん】

【ボーンラッシュ】

【いやしのはどう】

【バレットパンチ】

 

 

イクトの手持ちポケモンの一体であり、育て屋の従業員でもあるポケモン。

リオル時代は群れの仲間達と共に暮らしていたが、群れの誰よりも弱かったことから、いつしか誰にも負けない強さを求めるようになり、それを手に入れるために仲間に別れを告げて住み処から旅立った。そしてその旅の途中で、特訓中だったイクト達と出会い、ロイ達の強さに興味を持った事で勝負を挑んだが、イクトとロイのコンビネーションを前に敗北する。その後、イクトから手当を受けながらバトルの内容を思い出す中、自分もロイのように強くなりたいと感じ、自分に特訓をつけてくれるようにイクト達に頼み込み、それをイクト達が了承した後に特訓を開始した。そして特訓後のイクト達とのバトルの最中にルカリオに進化し、進化によって得た新たな技や特訓によるパワーアップを駆使して戦うが、あと一歩のところで再び敗北を喫する。その後、再びイクトから手当を受けながらバトルの内容を想起し、トレーナーとポケモンの絆の力の強さを改めて感じた上、イクト達となら自分が求める強さへ辿り着けると確信し、イクト達に旅の仲間に加えてくれるように頼み込み、それをイクト達が了承した事でイクトの手持ちポケモンとなった。

クレインと同じように『テレパシー』で人間と会話をする事が出来る上、ルカリオというポケモンの特徴で『波導』を使える事などから、イクト達からはバトル以外の面でもとても頼られている。

 

 

 

 

名前:アーク(オーダイル)

性別:♂

性格:やんちゃ

特性:ちからずく

現在のレベル:60

好きな物:辛い食べ物、イクトや仲間のポケモン達、ポケモンバトルなど

嫌いな物:苦い食べ物、曇り空など

育て屋での役割:荷物の運搬、ポケモン達の特訓相手など

使用技

【アクアブレイク】

【りゅうのまい】

【れいとうビーム】

【みがわり】

 

 

イクトの手持ちポケモンの一体であり、育て屋の従業員でもあるポケモン。

ワニノコ時代は『イリス地方』の初心者用ポケモンの育成所で育てられていたが、育っていく中で他のワニノコが持っていない特性を持った個体である事が分かり、その事に興味を持ったロッカ博士によって研究のために研究所ヘと引き取られた。しかし、暴れる事や悪戯が好きな性質や自分の強さへの強い自信から、研究所内を暴れ回ったり研究所のポケモン達に次々と勝負を挑んだりしたため、ロッカ博士を始めとした研究所のスタッフが手を焼いていた時、イクトなら心を通わせられると感じたロッカ博士の考えによってイクト達が一時的に研究所へと呼び出された事でイクト達との出会いを果たした。そして、イクト達の話を聞いた事でイクト達の強さに興味を持ち、ポケモンバトルを挑むが相性面が有利なはずのレドに敗北し、自分の強さについての自信を喪失する。その後、イクトやレドとの会話によって強さという物への考えを改め、その新たな強さをイクト達と共に手に入れるために仲間に加えてくれるように頼み込み、それをイクト達が了承した事でイクトの手持ちポケモンとなった。

イクトのポケモン達やウル達の事は、大切な仲間であると思っているが、出会いの経緯からレドの事だけは仲間兼ライバルのような存在だと考えており、自分とレドが揃って暇な時にはポケモンバトルを挑んだり、レドが落ち込んでいる時には積極的に声を掛けにいったりしている。

 

 

 

 

【育て屋の従業員】

 

名前:ウル(メルタン)

性別:不明

性格:がんばりや

特性:じりょく

現在のレベル:10

好きな物:金属全般、イクトや仲間のポケモン達、日陰など

嫌いな物:雨、暗闇など

育て屋での役割:預かったポケモン達の話し相手など

使用技

【でんじは】

【とける】

【ラスターカノン】

【10まんボルト】

 

 

イクトの育て屋に住むメルタンのリーダーであり、従業員でもあるポケモン。

以前は仲間のメルタンやエース達アンノーンと共にポケモンの研究を行っていた老人と暮らしていたが、老人が死去した事で宛がわれていた地下室に仲間達と共に閉じ込められる。その後、エースと協力をして脱出をするが、自分達では正規の方法では地下室を開けられない事から、自分達でも開けられる手段をエースと共に探し続けていた。そして、引っ越してきたイクト達と出会った際、イクト達なら信用出来ると感じた事で、イクトからの協力の申し出を受け、無事に仲間達を助け出した。その後、仲間のメルタンやエース達とイクト達に何か恩返しが出来ないかと話し合っていたところで、イクト達が育て屋を始めるという話を聞き、全員でイクト達の育て屋を手伝う事を決め、正式にイクト達の同居人兼育て屋の従業員となった。

仲間のメルタン達とは異なる『色違い』と呼ばれる個体である事から、イクトの手持ちポケモンの中では同じ『色違い』のレドと一緒にいる事が多く、種類こそ違うものの副リーダーとしてロイや他のポケモン達のサポートを行っているレドの事を兄貴分のような存在として慕っている。

 

 

 

 

名前:エース(アンノーン)

性別:不明

性格:れいせい

特性:ふゆう

現在のレベル:15

好きな物:渋い食べ物、イクトや仲間のポケモン達、

嫌いな物:甘い食べ物、

育て屋での役割:預かったポケモン達の話し相手、ポケモン達とイクトの伝達役

使用技

【めざめるパワー】

【ー】

【ー】

【ー】

 

 

イクトの育て屋に住むアンノーンのリーダーであり、育て屋の従業員でもあるポケモン。

以前は仲間のアンノーンやウル達メルタンと共にポケモンの研究を行っていた老人と暮らしていたが、老人が死去した事で宛がわれていた地下室に仲間達と共に閉じ込められる。その後、ウルと協力をして脱出をするが、自分達では正規の方法では地下室を開けられない事から、自分達でも開けられる手段をウルと共に探し続けていた。そして、引っ越してきたイクト達と出会った際、イクト達なら信用出来ると感じた事で、イクトからの協力の申し出を受け、無事に仲間達を助け出した。その後、仲間のアンノーンやウル達とイクト達に何か恩返しが出来ないかと話し合っていたところで、イクト達が育て屋を始めるという話を聞き、全員でイクト達の育て屋を手伝う事を決め、正式にイクト達の同居人兼育て屋の従業員となった。

イクトの手持ちポケモンとも仲は良いが、その中でも同じリーダーであるロイとは特に仲が良く、自分とは異なるタイプのリーダーであるロイの行動も参考にしながら自分なりのリーダー像という物を日夜模索し続けている。




いかがでしたでしょうか。
今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また。


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イリス図鑑・改

どうも、片倉政実です。ここではイリス地方の図鑑の内容の改訂版について書いていきます。図鑑説明については、本編の方でポケモンが出た際に書くつもりなので、お楽しみに。
それでは、どうぞ。


No.001 フシギダネ

No.002 フシギソウ

No.003 フシギバナ

No.004 ヒトカゲ

No.005 リザード

No.006 リザードン

No.007 ゼニガメ

No.008 カメール

No.009 カメックス

No.010 キャタピー

No.011 トランセル

No.012 バタフリー

No.013 ビードル

No.014 コクーン

No.015 スピアー

No.016 ポッポ

No.017 ピジョン

No.018 ピジョット

No.019 アーボ

No.020 アーボック

No.021 ピチュー

No.022 ピカチュウ

No.023 ライチュウ

No.024 ピィ

No.025 ピッピ

No.026 ピクシー

No.027 ロコン

No.028 キュウコン

No.029 ププリン

No.030 プリン

No.031 プクリン

No.032 ズバット

No.033 ゴルバット

No.034 クロバット

No.035 ニャース

No.036 ペルシアン

No.037 ガーディ

No.038 ウインディ

No.039 ニョロモ

No.040 ニョロゾ

No.041 ニョロボン

No.042 ニョロトノ

No.043 ケーシィ

No.044 ユンゲラー

No.045 フーディン

No.046 ワンリキー

No.047 ゴーリキー

No.048 カイリキー

No.049 ポニータ

No.050 ギャロップ

No.051 ゴース

No.052 ゴースト

No.053 ゲンガー

No.054 カラカラ

No.055 ガラガラ

No.056 ドガース

No.057 マタドガス

No.058 ピンプク

No.059 ラッキー

No.060 ハピナス

No.061 ストライク

No.062 ハッサム

No.063 ケンタロス

No.064 コイキング

No.065 ギャラドス

No.066 ラプラス

No.067 メタモン

No.068 イーブイ

No.069 シャワーズ

No.070 サンダース

No.071 ブースター

No.072 エーフィ

No.073 ブラッキー

No.074 リーフィア

No.075 グレイシア

No.076 ニンフィア

No.077 ポリゴン

No.078 ポリゴン2

No.079 ポリゴンZ

No.080 ゴンベ

No.081 カビゴン

No.082 ミニリュウ

No.083 ハクリュー

No.084 カイリュー

No.085 チコリータ

No.086 ベイリーフ

No.087 メガニウム

No.088 ヒノアラシ

No.089 マグマラシ

No.090 バクフーン

No.091 ワニノコ

No.092 アリゲイツ

No.093 オーダイル

No.094 トゲピー

No.095 トゲチック

No.096 トゲキッス

No.097 メリープ

No.098 モココ

No.099 デンリュウ

No.100 ルリリ

No.101 マリル

No.102 マリルリ

No.103 ヤミカラス

No.104 ドンカラス

No.105 ムウマ

No.106 ムウマージ

No.107 アンノーン

No.108 ノコッチ

No.109 ヘラクロス

No.110 ニューラ

No.111 マニューラ

No.112 デリバード

No.113 デルビル

No.114 ヘルガー

No.115 ゴマゾウ

No.116 ドンファン

No.117 ミルタンク

No.118 ドーブル

No.119 ヨーギラス

No.120 サナギラス

No.121 バンギラス

No.122 キモリ

No.123 ジュプトル

No.124 ジュカイン

No.125 アチャモ

No.126 ワカシャモ

No.127 バシャーモ

No.128 ミズゴロウ

No.129 ヌマクロー

No.130 ラグラージ

No.131 ポチエナ

No.132 グラエナ

No.133 ハスボー

No.134 ハスブレロ

No.135 ルンパッパ

No.136 タネボー

No.137 コノハナ

No.138 ダーテング

No.139 スバメ

No.140 オオスバメ

No.141 キャモメ

No.142 ペリッパー

No.143 ラルトス

No.144 キルリア

No.145 サーナイト

No.146 エルレイド

No.147 ツチニン

No.148 テッカニン

No.149 ヌケニン

No.150 ヤミラミ

No.151 クチート

No.152 ココドラ

No.153 コドラ

No.154 ボスゴドラ

No.155 プラスル

No.156 マイナン

No.157 キバニア

No.158 サメハダー

No.159 ホエルコ

No.160 ホエルオー

No.161 ナックラー

No.162 ビブラーバ

No.163 フライゴン

No.164 チルット

No.165 チルタリス

No.166 ルナトーン

No.167 ソルロック

No.168 ヘイガニ

No.169 シザリガー

No.170 ヒンバス

No.171 ミロカロス

No.172 カクレオン

No.173 カゲボウズ

No.174 ジュペッタ

No.175 ヨマワル

No.176 サマヨール

No.177 ヨノワール

No.178 アブソル

No.179 ソーナノ

No.180 ソーナンス

No.181 タツベイ

No.182 コモルー

No.183 ボーマンダ

No.184 ダンバル

No.185 メタング

No.186 メタグロス

No.187 ラティアス

No.188 ラティオス

No.189 ナエトル

No.190 ハヤシガメ

No.191 ドダイトス

No.192 ヒコザル

No.193 モウカザル

No.194 ゴウカザル

No.195 ポッチャマ

No.196 ポッタイシ

No.197 エンペルト

No.198 ムックル

No.199 ムクバード

No.200 ムクホーク

No.201 コリンク

No.202 ルクシオ

No.203 レントラー

No.204 パチリス

No.205 ブイゼル

No.206 フローゼル

No.207 ミミロル

No.208 ミミロップ

No.209 ミカルゲ

No.210 フカマル

No.211 ガバイト

No.212 ガブリアス

No.213 リオル

No.214 ルカリオ

No.215 グレッグル

No.216 ドクロッグ

No.217 ロトム

No.218 ツタージャ

No.219 ジャノビー

No.220 ジャローダ

No.221 ポカブ

No.222 チャオブー

No.223 エンブオー

No.224 ミジュマル

No.225 フタチマル

No.226 ダイケンキ

No.227 ヨーテリー

No.228 ハーデリア

No.229 ムーランド

No.230 チョロネコ

No.231 レパルダス

No.232 マメパト

No.233 ハトーボー

No.234 ケンホロウ

No.235 シママ

No.236 ゼブライカ

No.237 ダンゴロ

No.238 ガントル

No.239 ギガイアス

No.240 モグリュー

No.241 ドリュウズ

No.242 タブンネ

No.243 ドッコラー

No.244 ドテッコツ

No.245 ローブシン

No.246 オタマロ

No.247 ガマガル

No.248 ガマゲロゲ

No.249 クルミル

No.250 クルマユ

No.251 ハハコモリ

No.252 フシデ

No.253 ホイーガ

No.254 ペンドラー

No.255 モンメン

No.256 エルフーン

No.257 チュリネ

No.258 ドレディア

No.259 シンボラー

No.260 デスマス

No.261 デスカーン

No.262 ゾロア

No.263 ゾロアーク

No.264 チラーミィ

No.265 チラチーノ

No.266 シキジカ

No.267 メブキジカ

No.268 エモンガ

No.269 カブルモ

No.270 シュバルゴ

No.271 バチュル

No.272 デンチュラ

No.273 ギアル

No.274 ギギアル

No.275 ギギギアル

No.276 ヒトモシ

No.277 ランプラー

No.278 シャンデラ

No.279 キバゴ

No.280 オノンド

No.281 オノノクス

No.282 チョボマキ

No.283 アギルダー

No.284 ゴビット

No.285 ゴルーグ

No.286 アイアント

No.287 クイタラン

No.288 モノズ

No.289 ジヘッド

No.290 サザンドラ

No.291 メロエッタ

No.292 ハリマロン

No.293 ハリボーグ

No.294 ブリガロン

No.295 フォッコ

No.296 テールナー

No.297 マフォクシー

No.298 ケロマツ

No.299 ゲコガシラ

No.300 ゲッコウガ

No.301 ホルビー

No.302 ホルード

No.303 ヤヤコマ

No.304 ヒノヤコマ

No.305 ファイアロー

No.306 メェークル

No.307 ゴーゴート

No.308 ニャスパー

No.309 ニャオニクス

No.310 ヒトツキ

No.311 ニダンギル

No.312 ギルガルド

No.313 エリキテル

No.314 エレザード

No.315 ルチャブル

No.316 ヌメラ

No.317 ヌメイル

No.318 ヌメルゴン

No.319 オンバット

No.320 オンバーン

No.321 モクロー

No.322 フクスロー

No.323 ジュナイパー

No.324 ニャビー

No.325 ニャヒート

No.326 ガオガエン

No.327 アシマリ

No.328 オシャマリ

No.329 アシレーヌ

No.330 ツツケラ

No.331 ケララッパ

No.332 ドデカバシ

No.333 イワンコ

No.334 ルガルガン

No.335 ナマコブシ

No.336 メテノ

No.337 トゲデマル

No.338 ミミッキュ

No.339 ダダリン

No.340 ジャラコ

No.341 ジャランゴ

No.342 ジャラランガ

No.343 サルノリ

No.344 バチンキー

No.345 ゴリランダー

No.346 ニャビー

No.347 ラビフット

No.348 エースバーン

No.349 メッソン

No.350 ジメレオン

No.351 インテレオン

No.352 ホシガリス

No.353 ヨクバリス

No.354 ココガラ

No.355 アオガラス

No.356 アーマーガァ

No.357 サッチムシ

No.358 レドームシ

No.359 イオルブ

No.360 クスネ

No.361 フォクスライ

No.362 ウールー

No.363 バイウールー

No.364 ワンパチ

No.365 パルスワン

No.366 タンドン

No.367 トロッゴン

No.368 セキタンザン

No.369 エレズン

No.370 ストリンダー

No.371 ヤバチャ

No.372 ポットデス

No.373 ユキハミ

No.374 モスノウ

No.375 セレビィ

No.376 メルタン

No.377 メルメタル




いかがでしたでしょうか。今回、エピソード0の図鑑内容にメルタンとメルメタルを追加していますが、これはイクト達がウル達イリス産のメルタンを見つけ、それをロッカ博士に報告した事で追加されたという形です。尚、イリス図鑑に選出しなかったポケモンについては、エピソード0同様に別地方から来たトレーナーの手持ちや何らかの事情でイリス地方に来たという設定で出すつもりですのでお楽しみに。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また本編で。


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本章
第1話 新たな日常と仲間


どうも、初めましての方は初めまして。他作品を読んで頂いている方は、いつもありがとうございます。作者の片倉政実です。
今回はちょっとした思いつきから生まれたこちらの作品を投稿させて頂きます。色々と拙い箇所などがあるかもしれませんが、最後まで読んで頂けるととてもありがたいです。よろしくお願いします。
それでは、早速始めていきます。


 ポケモン研究の権威であるオーキド博士が住む『カントー地方』などから遠く離れた場所に位置し、古き建物が建ち並ぶ街や自然に溢れる町が各地に存在する『イリス地方』。その『イリス地方』の辺境地にある『イリバタウン』から更に離れ、 周囲を森などで囲まれた山中に建つ一軒の空き家へ向かって家具などを載せた何台ものトラックが走る中、その遙か上空を大きな翼を生やした黒いポケモンが黄色い小さなポケモンを頭に乗せた一人の少年を背に乗せて飛んでいた。

「ふぅ……やっぱりあそこまでは遠いな。ロイ、レド、お前達は疲れてないか?」

「ピカ、ピカピカピ!」

「グォ」

「……ははっ、その様子だとまだまだ平気って感じみたいだな。流石はポケモンリーグ準優勝者の手持ちポケモン達ってところかな」

「ピカッチュ!」

「グォー……」

 少年の頭の上でロイと呼ばれたポケモン、ピカチュウがどこか自慢げに胸を張る中、そのロイの様子にレド――リザードンがやれやれといったように首を振った。そして、そんな手持ちポケモン達の姿に少年はクスリと笑った後、目的地へ向かいながらここまでの経緯を想起した。

 彼の名前はイクト、数年前にこの『イリス地方』へ家族やパートナーであるピカチュウのロイと共に引っ越してきた14歳の少年だ。彼は幼い頃からポケモンリーグのチャンピオンになる事が夢であり、8歳の誕生日にプレゼントとして貰ったロイと共に日々特訓に励んでいた。そして、旅立ちが許される10歳を迎える前日に家族の仕事の都合でこの『イリス地方』へ引っ越してきた後、引っ越し先の街である『ロンドシティ』に住んでいたロッカ博士に()()()()()()がきっかけでポケモントレーナーとしての才能を見込まれた事で、色違いのヒトカゲを貰いうけた。その後、ロイやレドと名付けたヒトカゲと共にポケモンリーグに挑戦するための旅を始め、その道中で人からの譲渡や野性とのバトルなどでゲットしたポケモン達とも協力をしながら順調に旅を進めていった。そして、ジムバッチを難なく8個ゲットした事で、このままならばポケモンリーグの優勝も夢じゃないとイクト達は確信し、優勝へ向けての特訓を行った後に彼らはポケモンリーグに参加し、激闘を繰り広げながら勝ち進んでいった。しかし、ようやく上り詰めた決勝戦で惨敗を喫してしまい、彼らはポケモンリーグ準優勝という結果に終わり、イクトは自身の無力さに悔し涙を流した。

 その後、ポケモン達と共に家族が待つ家へと帰ったイクトは、今の自分には一度自分を見つめ直す時間が必要だと感じ、しばらく旅には出ずに『ロンドシティ』に留まった。その間、旅の最中に出会った他のトレーナー達が会いに来たり、再び旅に出たという報せをもらったり、と様々な出来事があったものの、イクトの心はまったく晴れる事は無く、旅に出たりまたリーグに挑戦するための特訓を始めたりする事も無く、ただ時間だけが過ぎていった。そしてその内に、イクトは自分にはポケモントレーナーの才能はあっても、チャンピオンになれるだけの才能は無かったのではないかと思うようになり、チャンピオンになる夢を諦めようとしていた。そんなイクトの姿に手持ちポケモン達はどうにか元気を出してもらおうと様々な手を尽くしたが、その効果は一向に見られなかった。

 そして、ポケモンリーグ挑戦から1年が経ったそんなある日の事、イクトは偶然テレビで『育て屋』についての特集が組まれていたのを目にし、いつものようにロイを頭の上に載せたままで何の気なしにそれをボーッと観ていた。しかし、観ていく内に育て屋の仕事に徐々に興味を惹かれ、預けられたポケモン達がのびのびと過ごすその姿から目が離せなくなっている自分がいる事に気付いた瞬間、イクトは『……これだ』と思わず呟いていた。そして、すぐに育て屋になるために必要な物についての調査や免許取得のための勉強を始め、ロイ達手持ちポケモンや家族に支えながら育て屋になる事を目指して必死に努力を重ねた。だが、今までとはまた違ったジャンルの夢だった事から、その道のりは決して楽な物では無く、イクトは免許取得の試験に幾度も落ちた事で再び夢を諦めそうにもなっていた。しかし、傍で支えてくれているロイ達や家族のため、そして今度こそ夢を諦めたくないという自分の強い思いから、夢を叶えるためにイクトはひたすらに勉強に取り組んだ。

 それから1年後、イクトは免許取得の試験に見事合格し、新たな夢への第一歩を踏み出す事に成功した。そして試験に合格をした後、イクトは開業場所に相応しい場所のリサーチをしたり、開業資金を稼ぐために賞金が出るバトル大会に進んで参加をしたり、と帰郷時の様子がまるで嘘かのように精力的に活動をし続けた結果、無事に今日の引っ越しまでこぎ着けたのだった。

「……今日まで色々と大変だったけど、今度は諦めずに頑張ってきたからここまで来られたんだもんな」

「ピカ、ピカチュウ!」

「グォ!」

「ロイ、レド、お前達や他のポケモン達、そして父さん達に心配を掛けてきた分、育て屋として精一杯頑張っていくから、これからもよろしくな」

「ピッカ!」

「グォー!」

 頼りになるポケモン達の返答に、イクトは嬉しそうな笑みを浮かべながら頷き、これから自分達の家であり店でもある空き家へ向けて飛んでいった。

 

 

 

 

「ありがとうございましたー!」

「ピカピカー!」

 到着からおよそ二時間後、開業をするにあたって必要な資材や家具などを引っ越し業者達と協力しながら家の中へと運び入れ、イクトとロイは仕事を終えて走り去っていく引っ越し業者のトラックへ向けて大声でお礼を述べた。そしてトラックを見送った後、イクトはこれから自宅兼店となる建物をゆっくりと眺めた。

「それにしても……『イリス地方』の端の方にあるとは言え、こんなにしっかりとした家をよく手に入れられたもんだよな……」

「ピカ……ピカ、ピカピカチュ?」

「……ん? 実はここには何かしらの曰くでもあるんじゃ無いかって?」

「ピカ」

「うーん……確かにそう思うのは仕方ないけど、そんな話は一切聞いた事無いぞ? 不動産会社の調査結果にも特に怪しいところはなかったって書いてたし……」

「ピカ……」

 ロイがどこか不安そうに耳をペタンと倒す中、イクトはこの物件を見つけた時の事を想起した。この物件を見つけたのは、開業場所を探し始めてからおよそ1年が経った頃であり、不動産会社から買い手を探している空き家があるという情報をもらってすぐにイクトはその空き家について教えてもらいに行った。そして話を聞いてみると、その空き家というのは『イリス地方』の辺境地にポツンと建つ広い庭付きの二階建ての一軒家であり、そこはある一人の老人の持ち家だったらしいのだが、その老人はある日突然自分の資産の大半を使ってこの家を建てると、建てたその日の内に引っ越しをしてしまったのだという。しかし、その老人は2か月ほど前に病気で亡くなってしまい、その家は空き家となってしまったのだが、老人の親族は誰も住みたがらなかったため、老人の息子は売り値を大幅に低下させてでも良いから、どうにか買い手になってくれる人を探していたとの事だった。話を聞き終えた後、イクトがその空き家の情報が纏められた書類に目を落とし、住所の欄や売り値の欄をしっかりと確認した。そしてその話や立地条件などを承知した上で、この空き家を買い取ったのだった。

「……まあ、最寄りの街からもかなり距離があるし、いくら庭付きの二階建てだとは言ってもこんなところにある一軒家を買おうとする人なんて俺達以外にいないよな」

「ピカ……ピカピカチュ」

「けど、こういうところにあっても来てくれる人が出来るように、これから頑張っていかないといけないんだ。そうじゃないと、ここまで頑張ってきた意味が無いからな」

「ピカッ!」

「ロイ、旅の時にもレド達のリーダーとして頑張ってもらっていたけど、これからも皆の事を引っ張って行ってくれ。頼んだぞ?」

「ピカチュ!」

 イクトが頭上のロイに笑いかけ、ロイがそれに対して大きく頷きながら答えていたその時、家のドアがゆっくりと開き、中から二匹のポケモン達が姿を現した。

『主殿、中の掃除並びに家具の設置はおおよそ完了致しました』

『今、レドさん達がお庭の手入れをして下さっていますが、そちらもそろそろ終わりそうです。なので、後はイクトさんのお部屋の掃除と細かい物を片付けるくらいで終わりですね』

「うん、分かった。お前達もありがとうな、シオン、クレイン」

 二匹のポケモン達に対してイクトがニコリと微笑みかけると、シオン――ルカリオは静かに首を振りながら『テレパシー』で返事をした。

『……いえ、これも主殿の手持ちポケモンである我々の務めですから』

『ふふ、そうですね。イクトさんに今まで鍛えてもらい、様々な世界を見せてもらった分、これからもイクトさんのために精一杯頑張っていきますよ』

「お前達……ああ、これからも頼りにさせてもらうよ」

 イクトのその言葉に、シオンとクレイン――サーナイトが頷いた後、イクト達は住居スペースの片付けの残りを終わらせるために一緒に家の中へと入っていった。

 

 

 

 

 それから数時間後、夕食や入浴などを済ませたイクトは、ロイと共に自室の机に向かって今日一日の出来事を日記として纏めていた。

「……よし、こんなもんかな。それにしても……明日からは店の方の片付けや資材の設置、庭の改造なんかもあるし、しばらくは準備で忙しい毎日になりそうだな」

「ピカッチュ」

「それと、せっかくこういう生活になったわけだし、出来ればレド達の専用の寝床も作ってやりたいところだよなぁ……」

「ピカピカ……?」

「ロイはモンスターボールに入るのがあまり好きじゃないから、いつも俺と一緒に寝てるけど、レド達にはいつもボールに戻ってもらってるだろ? だけど、こういう生活を始めたからには、アイツらにも専用の部屋か寝床くらいは用意してやりたいんだよ」

「ピカ……」

「もっとも、シオンとクレイン辺りにこの話を持ちかけても丁重に断られる気がするけどな」

 その様子を想像して思わずクスリと笑っていたその時、部屋のドアがコンコンとノックされ、イクトは一度ロイと顔を見合わせた後、「どうぞ」とドアの向こうへ向けて声を掛けた。すると、ドアを開けて入ってきたのはシオンとクレインの二匹だった。

「シオン、それにクレイン。どうかしたのか?」

『あ、はい……実はシオンさんと一緒にこの家の中を色々と見て回っていたのですか、先程妙な物を見つけたので報告をしに来たんです』

「妙な物……?」

『はい。階段の裏の壁に『アンノーン文字』と呼ばれている物を使用した文章のような物が彫られていたのです』

「『アンノーン文字』……か」

 シオンたちのその報告に、イクトは顎に手を当てながら興味深そうな表情を浮かべた。『アンノーン文字』とは、『ジョウト地方』にある『アルフのいせき』という場所に彫られている『アンノーン』というポケモンと同じ形の文字だ。しかし、『ジョウト地方』から離れた場所にある上、『イリス地方』に『アンノーン』が棲息しているという情報を聞いた事が無い事から、イクトはこの家に『アンノーン文字』を使った文章がある事に興味を覚えていた。

「……分かった。とりあえず今からそれを見に行ってみよう。もしかしたら、前に住んでいた老人に関係する事かもしれないしな」

『うん!』

『承知致しました』

『はい』

 そして、シオンたちの案内で件の場所へ行ってみると、そこには確かに『アンノーン文字』で書かれた文章が彫られていた。

「なるほど……」

『主殿、これの解読は可能ですか?』

「まあな。一時期、『アンノーン文字』にハマってた事があったから、これくらいなら読めるはずだ。えーと……」

 イクトは文章に目を向けると、そこに書かれている内容をゆっくりと読み始めた。

「……『かくされたちかしつそこにちいさななかまたちがいる』、かな……?」

『隠された地下室、そこに小さな仲間達がいる……ですか』

『つまり、この家のどこかにその地下室へ行くための仕掛けがあるという事になるけど……そんなのどこかにあったっけ……? 』

『いえ、そんな物を見た覚えはまったくありませんね……』

『確かに……そんな不可思議な物があれば、見逃すわけは無いですし……』

「そっか……」

 シオン達の言葉にイクトは静かに答えた後、「ん……もしかしたら」と何かを思いついた様子でシオンに問い掛けた。

「なあ、アークやグランは何か知らないかな?」

『彼ら……ですか?』

「ああ。家の中に無いのなら、もしかしたら外にあるかもしれないだろ? だったら、庭の方を担当してもらっていたアーク達なら何か知ってるかもしれない」

『……なるほど。確かに中で見つからない以上、外にあるという可能性は高いですね』

『ええ。となると……早速彼らに話を聞きに行った方が良さそうですね。たしか彼らは、外で話をしていたはずなので、まずはそこへ行ってみましょう』

「分かった。それじゃあ案内は頼んだぞ」

『畏まりました』

 シオンが恭しく一礼をしながら答えた後、イクト達はシオンの案内に従って他のポケモン達がいる庭へと向かった。そして庭に出てみると、そこではシオンの話通り、レドを含めた他のポケモン達が楽しそうに話をしていた。

「いたいた。おーい、お前達ー! ちょっと話を聞いても良いかー?」

「……グォ?」

「ドォ……?」

「ダイ……?」

 不思議そうな表情でレド達がこちらを向く中、イクトはシオンたちと共にサッとレド達へと近付き、シオンに対して目配せをした後、『アンノーン文字』の文章の内容について問い掛けた。

「皆、庭の掃除や手入れをしていた時、何か妙な物を見掛けたりしてないか?」

『妙な物、ねぇ……』

『イクト、君が探してるのは具体的にはどういう物なんだい?』

「そうだな……強いて言えば、何かのスイッチとかレバーとかかな。実はシオン達が『アンノーン文字』で書かれた文章を見つけたんだけど、そこにこの家のどこかに地下室があるって書いてあったんだよ」

『地下室か……それはかなり面白そうな話だが、それに関連した妙な物なんて見た覚えは全く――』

 難しい表情を浮かべたレドが腕を組みながら答えていたその時、ドダイトスのグランは『……あ、そういえば……』と何かを思い出したような表情を浮かべた。

「ん……何か気になる事でもあったのか?」

『あ、うん……夕方頃にアーク達と庭の手入れをしていた時、なんだか不思議なものは見掛けたなぁと思ってね』

「不思議なもの……?」

『そう。ロイよりも小さくて、濃い茶色の六角形の頭に青く細い尻尾みたいなのが付いたちょっとドロッとした感じの銀色の体の何か……だったよ』

「そっか……グラン、ソイツは何か妙な動きとかはしてたか?」

『そうだね……特に妙な事はしてなかったけど、何かを()()()()ような感じだったかな?』

「何かを探してる……」

『うん。でも、すぐに裏口の方に行っちゃったし、庭の手入れの方が忙しかったから、それを追ってみたりはしてないけどね』

「なるほど……」

 グランの話にイクトは興味を惹かれた様子で声を上げた後、シオンにアイコンタクトを送った。すると、シオンはそれに無言で頷くと、頭の『房』をふわりと浮かべながら目をゆっくりと瞑り、辺りの『波導』を探り始めた。そして、程なくしてシオンはゆっくりと目を開けた。

『……主殿、どうやらグランの言う通り、裏口には何者かがいるようです』

「そっか……シオン、その波導の主はどんな奴か分かるか?」

『……具体的には分かりません。ですが、グランの話に出て来た何かの他にもう一つ別の波導が、そして家の下方から数多くの波導を感じます』

「数多くの波導、か……」

 シオンからの報告を聞いた事で、イクトの表情が更に興味を惹かれたような物へ変わると、それを見ていたオーダイルのアークはニヤリと笑った。

『イクト、そんなに興味があるなら今から裏口に行ってみたらどうだ?』

「え……今からか?」

『おう。まあ、明日の朝に行っても別に良いと思うけど、イクトが久し振りにスゴく興味を惹かれた顔をしてるみたいだから、今から行ってみた方が良いと思ったんだよ。あの日、ポケモンリーグの決勝戦で負けたあの日から、イクトは育て屋の事以外でそんな顔をする事も無かったしな』

「アーク……」

『もっとも、行く行かないの判断はトレーナーであるお前に任せるぜ? 俺を含めたここにいる全員が、お前の判断なら信頼できるって思ってるはずだしな』

 そのアークの言葉にロイ達が同時に頷くと、イクトはロイ達を見回しながら「皆……」と嬉しそうな声で呟いた。そして、育て屋見習いとしてでは無く、ポケモンリーグの優勝を目指していた一人のトレーナーだった頃の気持ちを呼び起こした後、イクトはコクリと頷きながらロイ達に声を掛けた。

「皆、裏口に行ってみよう。グランが見たという奴が、一体どんな奴なのかは分からないし、今もそこにいるかは分からないけど、何かを探してるって事はきっと困ってるんだと思うからさ」

『うん、そうだね。もしも困っているのなら助けてあげないといけないからね』

「ああ。よし……それじゃあ行こう!」

『おー!』

 ポケモン達が声を揃えて答えた後、イクト達は『何か』が向かったという家の裏口へ向けて歩き始めた。そして裏口に着いた瞬間、『……皆さん、そこで止まって下さい』と言いながらシオンはイクト達を手で制すると、緊張した面持ちで暗闇の中へ声を掛けた。

『暗がりに潜む方々、私達はこの家の新たな所有者です。ですが、私達は貴方達に敵意を一切抱いていないですし、何か困っている事があれば手伝いたいと思っています。もし、私達と話をしても良いと思っているならば、私達の前に姿を見せて下さい』

 そして、『どうか、お願いします』とシオンが静かに頭を下げたその時、『何か』がゆっくりと近付いてくる気配を感じ、イクト達は軽く警戒をしながらそちらへ視線を向けた。すると、視界に入ってきたのは、少し不安そうにこちらを見ているグランの話に出て来た姿の生き物と『A』の形をした一体のアンノーンだった。

「……まさか、アンノーンまでいるとはな」

『うん……けど、このポケモン……みたいなのは一体何なんだろう……?』

 ロイがポケモンらしきものを見ながら小首を傾げている中、イクトは再びシオンにアイコンタクトを送った後、静かにしゃがみ込みながらそれへ声を掛けた。

「なあ、お前はポケモン……なんだよな?」

『……そうだよ。僕は『メルタン』っていう名前のポケモンで、あの人からはウルって呼ばれてたよ』

「メルタン……やっぱり聞いた事が無い名前だな……。なあ、ウル。お前やそこのアンノーンはこの家の前の持ち主と何か関係があるのか?」

『うん……あの人は、僕達やこのエース達の友達だったんだ』

『そう。種族こそ異なってはいたが、彼は我々にとってとても大切な友人だったのだ。もっとも、出会ってからそんなに月日は経っていなかったが、少なくとも我々は彼の事を良き友人であると思っていた』

『そうだね。僕達はあの人の手持ちポケモンというわけじゃなかったけれど、他のポケモンに比べたら異質な存在である僕達の事をすぐに受け入れたあの人は、僕達にとって掛け替えのないとても大切な存在だったよ』

 老人と住んでいた頃の事を懐かしむような表情を浮かべるウルとエースの姿に、イクトが「そっか……」と優しい笑みを浮かべる中、アークは周囲をキョロキョロと見回しながら不思議そうな声を上げた。

『それにしても……地下室へ行くための仕掛けはどこにあるんだ……? 家の中には無かったって言うから、てっきり裏口の方にあると思ってたんだが……』

「……そういえばそうだな。なあ、お前達。この家の地下室に行く方法について何か知らないか?」

『……もちろん知ってるよ。けど……』

『……我々では、地下室へ続く正規のルートの扉を開く事が出来ない。だから、今も仲間達はあそこに……』

『え……それってまさか……!?』

『うん……僕やエースの仲間達は、あの人が亡くなったあの日から、ずっと地下室に閉じ込められてるんだ。あの地下室は、外からしか開けられない上、エースが言ったように僕達じゃ地下室に行くための扉を開けられないからね……』

『なるほど……でも、それならどうして君達は外に出られたの?』

『……通気口を通って外へ出たのだ。もっとも、我々が通り抜けた際、ウルの液状化している手足が通気口の内部に触れてしまった事で軽度の侵食が行われて変形をしてしまったため、空気の通り道はあっても我々はもう通る事は出来ないな……』

『だから、僕とエースはあの地下室を僕達の力で開けられる手段をずっと探してたんだ。地下室には、僕達が主食にしてる金属やアンノーン達が食べる保存食はあったけど、それも流石にそろそろ尽きてしまう頃だろうし……』

『……そうだな』

 そう言いながら心配そうにウル達が俯く中、イクトはロイ達と目配せをしながらコクリと頷き合うと、ウル達にニコリと微笑みかけた。

「ウル、エース、だったら俺達がお前達の仲間を助けてやるよ」

『助けるって……本当に良いの?』

「ああ、もちろんだ。さっきシオンが言ったように、俺達はお前達の事を手伝いたいと思っているからな。それに、居住者が困った時に助け合うのは当然だろ?」

『トレーナーさん……』

「イクト、で良いよ。それと……さん付けはしなくて良いぜ」

『……うん、分かった!』

『イクト、そして皆。これからよろしく頼む』

「ああ、こちらこそ。よし、それじゃあ早速仲間達を助けに行こう!」

 そのイクトの声にポケモン達全員が頷いた後、イクト達はレドやアークのように体の大きなポケモン達に外で待機をしてもらうように頼み、自分はロイ達と共にウル達の案内に従って地下室の扉を開く仕掛けがある場所へと急いだ。すると、辿り着いたのは先程文章を見つけた階段の裏側だった。

「え……ここにあったのか?」

『うん、そうだよ。少し見えづらいけど、ここの壁のところに仕掛けを解除して開けるタイプの隠し扉があるんだけど、さっきも言ったように僕達じゃ開ける事が出来なかったんだ……』

『やろうと思えば、ウルの『ラスターカノン』や私の『めざめるパワー』で壊すことも出来たが、彼と共に過ごしたこの家を一部分だけでも壊すというのは止めようと皆で決めたため、それだけはどうにも出来なかったのだ』

「そっか……でも、俺達がここに来る前にも以前住んでいたお爺さんの家族とか不動産会社の人とかは来てたんじゃないのか?」

『来てた事は来てたけど……誰も僕達に気付く様子は無かったし、イクト達みたいに信用出来そうな人が一人もいなかったから、声を掛けなかったんだよ』

『イクト達も分かっている通り、ウルはとても珍しいポケモンだ。中には協力をするフリをしてウルを捕らえようとする者もいるだろう。よって、我々は今日まで誰にも助けを求めなかったのだ』

「そういう事か……それで、その仕掛けっていうのは?」

『えっと……あっ、あったあった!』

 ウルが指差す方を見ると、そこには何かを填め込むための四角い窪みと『アンノーン文字』の文章があり、その近くには『アンノーン文字』が彫られた木製の正方形の物体が入れられた箱が置いてあった。

「6個の窪みに対して正方形の物体が28個……つまり、これを正しい組合せで入れれば良いって事だな」

『でも……どんな組合せで入れれば良いのかな?』

「それはたぶん……これを読み解く事で分かるんだと思う。えーと……『わたしがいちばんたいせつにおもっているもの』ってこれには書いてるな」

 イクトが文章を読み上げると、ポケモン達は揃って困惑した様子を見せた。

『住んでいたご老人が一番大切に思っていた物、ですか……』

『うーん……そう言われてもすぐには思いつきませんね……』

『うん……ねえ、二人とも。何かヒントになりそうな出来事って無いかな? それかどの文字を使っていたか覚えてない?』

『……ゴメン、僕達もサッパリ分からないんだ』

『彼はあまり自分の事を話すようなタイプでは無かったからな……それに、自室を含めてこの家の中には家族の写真などは一つも飾っていなかった』

『そっか……』

 ウル達の答えにロイがシュンとしながら耳をペタンと倒す中、イクトはうーんと唸りながら窪みや正方形の物体に視線を向けていた。そして、「……なるほどな」と納得顔で頷きながら独り言ちると、箱の中から正方形の物体を六つ取り出し、迷う事無く順々に窪みに填め込んでいった。すると、家の至る所から何かが動くような音が鳴り出し、それと同時に地下室へ続く隠し扉がゆっくりと開いていった。

「……やっぱり、これで合ってたんだな」

『あ、開いちゃった……ねえ、どうして答えが分かったの? ヒントになりそうな物なんて殆ど無かったよね?』

「いや、ヒントなら充分あったよ。その文章と28個の物体、そしてさっきのウル達の会話の中にな」

『え……それってどういう事?』

 ロイはイクトの言葉にキョトンとしながら小首を傾げたが、イクトは地下室の方から視線を外さずに返事をした。

「それについては後で教えるよ。とりあえず今は、ウル達の仲間達のところへ急ごう」

『そ、そうだね』

「……よし、それじゃあ行こう」

 ポケモン達がその言葉に頷いて答えた後、イクト達は目の前にある通路を小走りで進んでいった。そして、通路の先にあった木の扉を勢い良く開けると、そこには何冊もの本が収められた本棚や古びた雰囲気の机と椅子、そして力なく倒れ込んでいるウル達の仲間の姿があった。

『み、みんな……!』

『皆、しっかりしてくれ!』

 ウル達と共が急いで仲間達の元へ駆け寄ると、イクトはすぐさまメルタン達とアンノーン達の様子を確認した。そして、衰弱はしているものの、命を失っている個体が一匹もいない事を確認すると、イクト達は揃って胸を撫で下ろした。

「良かったぁ……間に合わなかったらどうしようかと思ったぜ……」

『そうだね……でも、早く何か食べさせてあげないといけないよね』

「ああ、それに……一回外にも出してやらないといけないな。シオン、クレイン、裏口にいるレド達に玄関の方に来てくれるように頼んだ後、キッチンからエスパータイプ用とはがねタイプ用のポケモンフーズと皿、それと飲料水と使わなそうな金属を見つけて、それらを庭に運んでおいてくれ」

『畏まりました』

『はい』

 イクトの指示でシオン達が部屋から急いで出ていった後、イクトとロイはウル達と協力しながらウル達の仲間達を少しずつ玄関へと運び、玄関に来ていたレド達に渡すといった作業を繰り返していった。そして、全ての個体を庭まで運び終えた後、イクトはシオンたちに持ってきてもらっていたポケモンフーズを軽く水でふやかすと、それを盛った皿や水を注いだ皿などをウル達の仲間達の前へと並べた。

「さあ、お前達。もし食べられそうなら食べてみてくれ」

「メル……」

「ノーン……」

 メルタン達とアンノーン達は、弱々しく体を起こしながら目の前に置かれた皿に視線を向けると、よろよろとそれに近付き、ゆっくりと食事を始めた。そしてその姿に、イクト達は再びホッと胸を撫で下ろし、そのまま静かに座り込んだ。

「ふぅ……皆、何とか食べてくれてるみたいだし、これで一安心だな」

『そうだね……まさかの出来事ではあったけど、何とかなって良かったよね』

「ああ。けど……こういう事態に出会す可能性も無くはないし、これを機にポケモンドクターの資格を取る事も視野に入れてみようかな……?」

『……イクト、その考えは悪くないが、それは育て屋としての生活が落ち着いてからにしよう。最初から色々と求めすぎてもキャパシティオーバーで今度はお前がダウンしかねないからな』

「……それもそうだな。とりあえず今は、ウル達の仲間を助けられた事を素直に喜ぶとするか」

 心地良い疲労感の中でそんな会話を交わしていたその時、『そういえば……』とロイが何かを思い出したように声を上げた。

『ねえ、イクト。さっきも訊いたけど、どうしてあの仕掛けが解けたの?』

「ん……? ああ、それか。さっきも言ったけど、あれが解けたのは文章や鍵となる正方形の物体、ウル達の会話があったからだよ」

『我々の会話……?』

『……今思い返してみたけど、特にヒントになるような事は言ってなかったような……?』

「いや、ちゃんと重要な事を言ってたよ。少なくともそれのおかげで()()()()()()の一つは除外できたからな」

『あり得た答え……主殿、それは一体何なのですか?』

「それはな……『FAMILY』、家族だよ」

『家族……だと?』

『イクト、君は何故それを除外できたんだい? シオン達から軽く聞いたけど、文章にはご老人の一番大切にしているもの、と書いていたんだろう? だったら、それは答えとしてかなりあり得たんじゃないのかい?』

「普通ならな。けど、お爺さんの場合はそれが答えになる可能性があまりにも低かったんだよ。自室に家族の写真などを置いていなかったお爺さんの場合は、な……」

 そしてイクトは、不思議そうに自分を見つめるロイ達を見ながらどこか哀しげな様子で説明を始めた。

「まず、あの仕掛けを簡単に説明するけど、あの時も言ったようにアレは『アンノーン文字』が彫られた正方形の物体の内、6個を選んでそれを正しい組合せで嵌める事で隠し扉が開くものだった。そして、この場合の正しい組合せというのは、『アンノーン文字』を組み合わせる事で『ある6文字の単語』を作る事だったんだよ」

『ある単語……でも、どうしてその『FAMILY』は違うって分かったの? 一応、それも6文字の単語だし、家族っていう意味ならあり得たんじゃないの?』

「いいや、さっきも言ったように、お爺さんの場合はその可能性は低かった。何故なら、お爺さんの部屋に家族の写真が無かった事やお爺さんの親族がここを売り払おうとした理由から、親族間の仲が悪かったと予想できるからだよ」

『親族間の仲が悪かった……』

「ああ。家族の写真が無かった事は、そういうのを飾る趣味が無かったからとも考えられるけど、それなら家族と一緒に住んでいたのに、わざわざこんな場所に家を建てた上に引っ越す必要はないだろ?」

『それは……確かに……』

「そして、お爺さんが亡くなった以上、この家はお爺さんの親族の誰かの物にしても良いはずなのに、誰かが引っ越したり借家にして利益を得ようとしたりしなかった上、売り値を大幅に下げてでも売りたい程、誰も()()()()()()()()()。それらの事から、俺は親族との仲が悪かったお爺さんにはこんなところまで引っ越そうと考える程の何かがあり、自分とその何かを親族から離すために引っ越しを行ったと考え、家族という意味の『FAMILY』を選択肢から外したんだよ」

『……なるほどね』

「それじゃあ、お爺さんが地下室付きの家を建ててまで引っ越しをしようとした理由やあの仕掛けを解くための答えは一体何なのか。そう考えた時、ふと浮かんだのがウル達だったんだよ」

『ウル達……?』

「ああ。どういう経緯でお爺さんがウル達と出会ったのかは分からないけど、お爺さんは『メルタン』というまったく名前を聞いた事が無いポケモンや『アンノーン』というこの地方にはいないポケモンの存在が親族に知られたら、自分の知らない内にどこかの学者なんかに引き渡されてしまうと思った。そこで、お爺さんは自分の資産の大半を使ってでもこの家を建て、ウル達に地下室という隠れ場所を与えた上に簡単にウル達を見つけられないようにするためにあの仕掛けを作ったんだよ。お爺さんにとってウル達はそうするだけの価値がある存在だったからな」

『そうするだけの価値がある存在……では、あの仕掛けの答えとなる単語は、ウル達に関係する単語という事ですか?』

「ああ。そしてその単語というのが――」

 そう言いながらイクトはウル達の方へ視線を移すと、ニコリと笑いながら話を続けた。

「『FRIEND』、()()だよ。因みに、答えがポケモンじゃなかったのは、『POKÉMON』だと7文字になっちゃう上に一文字だけ数が足りなくなるから。そして、お爺さんにとってウル達がただのポケモンとして片付けられるような存在じゃなかったからだと俺は思ってるよ。そうじゃなかったら、答えを『FRIEND』にはしなかっただろうし、あんな地下室をウル達のために作ってまで近くに置いておこうとは思わなかっただろうしな」

『『FRIEND』……そっか、僕達があの人の事を大切に思っていたのと同じように、あの人も僕達の事を大切に思ってくれていたんだ……』

『……どうやらそうみたいだな。まあ、同じように思っていた私が言うのもアレだが、出会ってからまだ月日も浅い我々をそこまで思ってくれていたとは、彼も中々の変わり者だったようだな』

『……ふふ、そう……だね。ほんっ……と、変わった……人、だったね……!』

 エースの言葉にウルは硬球上の黒目からボロボロと涙を零しながらもどうにか答えていたが、やがて耐えきれなくなりその場に泣き崩れた。そして、それを見ていた他のメルタン達も目を潤ませながらウルに近付くと、ウルと同じように泣き崩れ、庭にはしばらくの間メルタン達の泣き声が響き渡っていた。

 

 

 

 

 ウル達の仲間の救出完了から一時間後、泣き止んだウル達がエース達を交えて楽しそうに話をする中、イクトはロイ達と共に微笑みながらそれを眺めていた。

「それにしても……引っ越し初日からスゴい出来事に出くわしたもんだよな」

『そうですね。謎の文章の発見に始まり、ウルさん達との出会いやそのお仲間の救出……旅をしていた時でもここまでの出来事は流石に無かったですからね』

『ふふ、確かに。旅の最中はリングマの群れに追い掛けられたり、妙な組織に出会したりはしたけど、誰も見た事が無いポケモンとの遭遇を超えるような出来事は、一つも無かったかなぁ……』

『まあ、この出来事についてはここにいる全員の秘密って事にした方が良さそうだけどな』

『そうだね……』

『メルタンというポケモンの存在は世間には一切公表せず、ここにいる全員の秘密にした方が、ウル達も幸せに暮らせそうだからな』

「だな……」

 ウル達を見ながらイクト達がそんな会話を交わしていたその時、手に一枚の小さな紙を持ったシオンがイクト達の背後に近づき、『主殿』と小さな声でイクトに話し掛けた。

「ん……シオンか。()()()の方はどうだった?」

『はい。この家に住んでいたご老人は、どうやらポケモンの生態を研究していた学者だったらしく、あの地下室にはウル達が生活をするための設備の他に、この地方のポケモンの分布などが書かれた書類やそれについての論文、そしてウル達の観察記録などが残されていました』

「そっか……他には何かあったか?」

『はい。他にはウル達との生活について書かれた日記や各地方に伝わる伝説や逸話を纏めた書籍、そしてウル達と同じ匂いがする不思議な箱がありました』

「不思議な箱……?」

『はい。そして、その箱の傍にはこのような手紙が入っておりました』

 イクトはシオンが持っていた手紙を受け取ると、とても真剣な様子で手紙に目を通し始めた。そして、「……そういう事だったのか」と言いながら手紙から顔を上げると、ロイは不思議そうな様子でイクトに話し掛けた。

『ねえ、イクト。その手紙にはどんな事が書いてあったの?』

「そうだな……全部を読み上げようとすると、ちょっと長くなるから簡単に説明するな。まず、メルタンというポケモンは、別の地方である日突然出現したみたいなんだけど、その正体はミュウやセレビィと同じ幻のポケモンと言われる存在なんだってさ」

『幻のポケモン……ウル達って実はそんなにスゴいポケモン達だったんだね』

「そうだな。一応、とても古い文献にその姿などが記されていたみたいだけど、ミュウ達とは違って実際にその姿を見たという人は一人も現れなかった事から、その文献の真偽は不明とされた。そして、その事から『カントー地方』で作られた初期のポケモン図鑑にメルタンのデータが載る事は無く、オーキド博士もメルタンの事はとりあえず伏せて、ポケモンはフシギダネからミュウまでの151匹が存在すると発表をしたみたいだ」

『へえ……つまり、メルタンは最近までその存在すら疑われるようなポケモンだったわけか』

「まあ、そうなるな。最初に発見された時もそれら全てがメタモンの変身した姿だったみたいだしな。それで、そんなメルタンがどうして今になって出現したかなんだけど、それにはシオンが見つけたという箱が関係してるみたいなんだ」

『あの箱が……ですか?』

「そう。その箱の中には錆びた鉄塊が入っているらしいんだけど、自然豊かな場所で箱を開ける事で、鉄塊が特別な反応を起こしてメルタンが生まれるみたいなんだ」

『ほう……という事は、ウル達はこの地方で生まれたメルタンだという事か』

「ああ、この手紙にはそう書いてるよ。因みに、なんでこの家に住んでいたお爺さんがその箱を持っていたかというと、どうやらお爺さんはオーキド博士やオーキド博士と一緒にメルタンについて研究をしていた博士と親しかったみたいで、研究の手伝いを依頼されていたかららしい。因みに、エース達はお爺さんの助手だった人がわざわざ『ジョウト地方』から送ってくれたらしく、それはその箱を預かってきた時と同時期だったみたいだ」

『なるほど……そして、お爺さんは箱を開けてウルさん達を生まれさせた後、研究の一環としてふれ合っていく中でウルさん達やエースさん達の事を一番大切なもの――『友達』だと思うようになり、メルタンやアンノーンの存在を実の家族や周囲から完全に隠し通すためにこの家を建ててすぐに引っ越した、という事ですね』

「そういう事だな。けれど、お爺さんは病気を患っており、自分の命があまり長くない事を悟っていた。だから、この手紙を次の持ち主のためにあの地下室に遺していたみたいなんだよ。残された親族がこの家をさっさと売り払おうとする事を見越してな」

『ふむふむ……』

「他には……申し訳ないけれど、不思議な箱はメルタンの観察記録と一緒に元の持ち主に渡しておいて欲しいって事とその代わりに家の中にある物や庭は好きにしてもらって構わないって事が書いてあったよ。まあ、その持ち主の名前と住所もしっかりと書いてるし、家の中にある物なんかについてはお爺さんのご家族からも自分達は何もいらないから好きにして良いと言われてたから、そうさせてもらうつもりだ。そして、手紙はお爺さんの名前と『私の大切な友人達をどうかよろしく』という言葉で締め括られていたよ」

『大切な友人達をどうかよろしく、かぁ……やっぱりウルやエース達は、お爺さんにとって本当に良い友達だったんだね』

「ああ、そうだな。こんな風に頼まれたわけだし、アイツらが幸せに暮らせるように頑張っていこうな」

 そのイクトの言葉にロイ達が笑みを浮かべながら頷いていると、先程まで話をしていたウル達が揃ってイクト達へと近付いてきた。

『イクト、みんな。皆を助けてくれて本当にありがとうね!』

『イクト達が助けてくれた事で、仲間達は誰も命を落とさずに済んだ。本当に感謝している』

「あはは、別に良いよ。あの時も言ったように居住者が困ってるなら助けるのは当然だからさ」

『居住者……そういえば、イクト達がここの次の持ち主なんだよね?』

「ああ、そうだ。そして俺達は、ここで育て屋を始めるつもりなんだ」

『育て屋……?』

「そう。ポケモントレーナーから大事なポケモンを預かって育成を代行する仕事、それが育て屋だよ。まあ、『アローラ地方』にある『預かり屋』の要素なんかも取り入れるつもりだから、一般的な育て屋とはまた違った物になるかもしれないけどな」

『なるほど……それで、いつからその育て屋とやらを始めるんだ?』

「そうだな……店として始めるためには建物を少し改築したり、池を作ったり木を植えたりするために庭を改造したりしないといけないから、営業開始はまだまだ先の話になるかな。それに、他の仲間達を呼ぶ都合もあるしな」

『他の仲間達……?』

 ウルが不思議そうに小首を傾げると、イクトはニコリと笑いながら大きく頷いた。

「ああ、この育て屋は人間の従業員は俺だけで、他の従業員はここにいるロイ達や知り合いの博士に預かってもらってる旅の途中で出会ったポケモン達にお願いするつもりなんだ。ポケモン達の事は同じポケモンの方が理解しやすいだろうし、流石に俺達だけだと手が回らない時もあるだろうからさ」

『……なるほどな』

「まあ……いつかは人間の従業員を雇う可能性もあるけど、しばらくは俺達と他の仲間達だけで何とかするつもりだよ。ロイ達がいれば、大抵の事は何とかなるからさ」

 ロイ達の方を向きながら再びイクトがニコリと笑うと、ロイ達はそれに対して誇らしげな表情を浮かべた。ウル達はそんなイクト達の姿を前に、一斉に顔を見合わせると、何かを決意したような表情を浮かべながら同時に頷き、イクト達の方へと向き直った。そして、その様子にイクト達が揃って不思議そうな表情を浮かべる中、ウルとエースはどこか緊張した面持ちで一歩前に踏み出すと、ウルは一度深呼吸をしてから静かに口を開いた。

『ねえ、イクト。その育て屋さんの仕事、僕達にも手伝わせてもらえないかな?』

「手伝わせてもらえないかって……それは助かるけど、本当に良いのか?」

『うん! イクト達には色々お世話になったし、僕達に何か手伝える事があるなら手伝いたいんだ』

『もっとも、我々に出来る事は本当に少ないだろうが、この数の多さでそれは補っていくつもりだ。それに、我々もここの住人だ。居住者が少しでも困っているのなら助け合うのは当然だろう?』

 その大きな目でウインクをしながら言うエースの言葉に、イクトは一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに「……そうだな」と言いながらクスリと笑った。そして、やる気に満ちた目で自分を見つめるウル達やエース達の姿を見回し、嬉しそうな笑みを浮かべながら静かに口を開いた。

「皆、本当にありがとう。そして、これからよろしくな」

『うん! こちらこそよろしくね、イクト! 皆!』

『よろしく頼むぞ、イクト、皆』

 ウル達の言葉にイクトはロイ達と共に頷いた後、周りにいる仲間達の存在に心強さを感じながら大きな声で呼び掛けた。

「皆、これから色々大変になると思うけど、世界一の育て屋を目指して全力で頑張っていこう!」

『おー!』

 イクトの言葉に揃って答えるその声が辺りに響き渡った後、イクト達は満天の星空の下で仲良く笑い合うと、その場に座り込んで育て屋の仕事の話やイクト達の旅の話など様々な話を夜が明けるまで話し続けた。




いかがでしたでしょうか。今作品は、今のところこの一話のみの予定ですが、お気に入りの数など次第では連載作品として書き続けていく事にしています。なので、もしも連載作品として投稿されているのを見掛けた際は、チラッとでも良いので読んでみて頂けるととてもありがたいです。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また。


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第2話 帰還と友人との再会

どうも、一番好きなポケモンはピカチュウの片倉政実です。今回はイクト達のロンドシティへの帰還回です。
それでは、早速第2話をどうぞ。


 引っ越し先で新たな出会いを果たした日から数日後、手持ちポケモン達やウル達が協力し合いながら改築案の話し合いや庭の改造を進める中、イクトはロイと共に自室の机の上に広げられたノートなどの荷物を一つずつ確認をしながらリュックサックへと入れていた。

「えーと……こっちが今日までのロイ達の記録で、こっちが俺がつけたウル達メルタンの観察記録とエース達アンノーンの観察記録で……」

「ピカ、ピカッチュ!」

「ん……ああ、ウル達についてお爺さんがつけていた記録の写しか。サンキューな、ロイ」

「ピッカ!」

 ニコリと笑いながら答えるロイに微笑みかけた後、イクトは再びリュックサックの中に次々と物を入れていった。そして、最後の荷物を入れ終え、「うん……これで良いな」と言いながらリュックサックのチャックを閉めると、イクトは椅子に静かに座りながら小さく息をついた。

「ふぅ……これで後は出発するだけだな。それにしても……まさか引っ越してからまだ数日しか経ってないのに、もう『ロンドシティ』に戻る事になるなんて思わなかったな」

「ピカ……ピカ、ピカチュウ」

「そうだな。一番の目的はロッカ博士からの頼まれ事だけど、せっかく帰るからには父さん達や()()()()にも会っておかないとだな」

「ピカ! ピカ、ピカピカチュ……!」

「ああ、俺も早くアイツらに会いたいよ」

 ロイの言葉に笑みを浮かべながら頷いた後、イクトは『ロンドシティ』に帰る事になった出来事について想起した。

 

 

 

 

 昨晩の事、夕食も食べ終え食器などの後片付けも済んだ後、イクトがロイ達と共にリビングでのんびりとしていたその時、突然廊下のテレビ電話から着信を告げるベルの音が聞こえ、イクト達は揃って顔を見合わせた。

「ん……こんな時間に誰からだろう?」

『さあ……? でも、もしかしたらお母さん達かもしれないし、とりあえず出てみようよ』

「そうだな」

 ロイの言葉に頷きながら答えた後、イクトはロイ達と共に廊下へ出てテレビ電話の受話器を手に取った。すると、画面には白衣を着た茶色のポニーテールの女性の姿が映し出され、その姿にイクトは嬉しそうな笑みを浮かべた。

「ロッカ博士! お久しぶりです!」

『ええ、久しぶり……と言える程、前に会ってからそんなに日にちは空いてないんだけどね。でも、その様子だと引っ越し先でもロイやレド達とは元気にやってるみたいね』

「はい。ただ……まだやらないといけない事があるので、育て屋を始めるにはもう少し掛かりそうですけど、ロイ達や新しい仲間達と一緒に毎日頑張っています」

『新しい仲間達……?』

「はい。あ、今紹介しますね」

 そして、イクトが足元にいたウル達を抱き抱えると同時に、エース達が揃ってイクトの背後に並んだ瞬間、ロッカ博士は信じられないといった表情を浮かべた。

『……え? そこにいるのってもしかして……!?』

「はい。後ろにいるのがアンノーンで、今抱き抱えているのがメルタンというポケモンで──」

『やっぱりそうよね!? え、なんでイクト君達がメルタンと一緒にいるの!?』

「あ、えーと……ここの家の前の持ち主が、どうやらポケモンの研究者のような人だったみたいで、メルタンの研究をしていた博士から依頼を受けて、メルタンが発生するために必要な箱を預かっていたみたいなんです」

『うんうん、それでそれで!?』

「それで、発生させたメルタン達や自分の助手だった人が送ってくれたアンノーン達と一緒に生活をしていたんですが、その人は病気で亡くなってしまったんです。その結果、コイツらの部屋兼前の持ち主の研究室だった地下室を見つけられる人がいなくなってしまい、地下室に取り残された仲間達をこのウルとエースがどうにか助けようとしていたところに俺達が偶然引っ越してきたんです」

『なるほど……そして、イクト君達がその子達を無事に助け出し、シオンやクレインの通訳で会話した結果、共に暮らす仲間となったってところね』

「はい。それで、前の持ち主の願いでメルタンを発生させる箱は、もう元の持ち主である博士に返してしまったんですが、観察記録や研究データはまだ手元に残しています」

『え、そうなの……!?』

「はい。元々、観察記録や研究データも全て渡すつもりだったんですが、返しに行った時にウル達の事を話したら、その博士から『そういう事なら、これらのコピーだけは取らせてもらうが、このデータ自体は君が持っていると良い。これらの記録は、メルタン──ウル達との生活の中できっと役に立つだろうから』と言われ、そのまま持ち帰ってきたんです。もっとも、頂くだけなのは流石に申し訳なかったので、これからもウル達の観察記録や研究データは俺なりに採っていき、それをその博士に送る事にはしたんですけどね」

『そ、そうなのね……』

 少し驚いたような声で答えた後、ロッカ博士はしばらく黙り込んだ。そしてその様子に、イクト達が疑問を感じ始めたその時、電話の向こうから再びロッカ博士の声が聞こえ始めた。

『……ねえ、イクト君。その資料って誰かに見せたり渡したりしたらいけないって言われてる物だったりするかしら……?』

「え……いや、俺が信用出来ると思った人になら見せても良いとは言われてま──」

『それなら、お願い! 私にもそのデータを見せてくれない!?』

「え……ロ、ロッカ博士……?」

『お願い、イクト君! メルタンの研究データや観察記録なんて滅多に見られる代物じゃないから、見られるなら是非とも見てみたいのよ!』

「博士……」

 電話口から聞こえるロッカ博士の必死な声から、自分が持っているデータがロッカ博士にとってどれだけの価値があるかを感じ取った後、イクトはふぅと一度息をついてから微笑みを浮かべた。

「……それぐらいお安いご用ですよ。そろそろ博士のところでお世話になっているポケモン達にも会いに行きたいと思っていたので、明日にでもこのデータのコピーを持って研究所にお邪魔しますね」

『ほんと!? ありがとう、イクト君!』

「いえいえ、博士にはこれまでロイ達の事も含めて色々お世話になっていますから。それじゃあおやすみなさい、ロッカ博士」

『ええ、おやすみなさい』

 そしてイクトが受話器を置いた後、ロイはとてもワクワクした様子でイクトに話し掛けた。

『ねえねえ、明日研究所に行くって事は、お母さん達や他のみんなにも会えるって事だよね……!』

「ああ、そういう事だ。けど、こっちの作業も同時に進めないといけないから、明日連れて行けるのは数匹程度になるかもな」

『……まあ、それは仕方がない事ですからね。それで、明日は誰を連れて行くおつもりなのですか?』

「それはこの事をレド達にも話してから話すよ。という事で、まずは全員を庭に集めるぞ」

 そのイクトの言葉に全員が頷いた後、イクト達は手分けをして育て屋の従業員を庭に集めていった。

 

 

 

 

 そうして、昨夜の出来事を振り返り終え、イクトはクスリと笑っていたその時、部屋のドアを静かにノックする音が聞こえ、イクトはドアの方へ顔を向けながら「どうぞ」と声を掛けた。そしてドアをゆっくりと開けながら『失礼します』と言って入ってきたのは、小さなバスケットを持ったシオンだった。

『主殿、私達の準備は全て整いました』

「うん、分かった。こっちも準備は整ったから、そろそろ行こうか」

『はい、畏まりました』

 イクトの言葉にシオンが恭しく一礼をしながら答えていたその時、バスケットの蓋が独りでにパカッと開き、中に入っていたウルとエースがヒョコッと顔を出すと、イクトはウル達に顔を近付けながらニコリと微笑みかけた。

「ウル、エース、その中の居心地はどうだ?」

『うん、風通しも良いし、スゴく居心地が良いよ』

『私も同意見だ。しかし……本当に私達もついていって良いのか?』

「ああ、もちろんだ。まあ……作業の件もあるから、他の皆を連れて行けないのはちょっと残念だけどな」

『うん……せっかく帰るからには、みんなで行きたかったよね……』

「まあな。でも、同じ地方なわけだから帰ろうと思えばいつでも帰れるし、次に帰る時こそは皆で帰ろうぜ」

『イクト……うん、そうだね!』

 満面の笑みを浮かべるロイの頭を軽く撫でた後、イクトは荷物を入れたリュックサックをゆっくりと背負い、帽子を被ってからロイを頭の上に乗せた。そして、そのままシオン達の方へ向き直ると、シオン達にニコリと微笑みかけた。

「よし、それじゃあ行こうぜ、皆」

『『うん!』』

『はい』

『ああ』

 ロイ達が揃って返事をした後、イクトはロイ達と共に自室を出た。そして、リビングなどで作業をしていた他のポケモン達に声を掛け、玄関から外に出ると、イクトは玄関先で眠っているレドに声を掛けた。

「レド、お待たせ」

『……ん? お前達、準備は出来たのか……?』

「ああ、バッチリだ」

『ふわぁ……そうか。よし……それじゃあそろそろ出発するか』

「ああ、『ロンドシティ』まで頼んだぜ、レド」

『ああ。大体一週間ぶりのフライトだが、安全第一で送り届けてやるよ。さあ、乗った乗った』

 そんなレドの声に促されてイクト達がレドの背に乗ると、『……皆、しっかり捕まってろよ!』と一言声を掛けてからレドは軽く翼をはためかせ、両足のバネを上手く使ってそのまま空へと勢い良く舞い上がった。そして、雲と同じ高さまで飛び上がりながらバランスを整えつつ体をゆっくりと前へと倒し、俯せのような姿勢で滞空すると、ロイはイクトの頭上から辺りを見下ろしながら楽しそうな様子で声を上げた。

『わぁ……! 空から見る景色ってスッゴく綺麗だね……!』

『ロイ……お前、空を飛んだ時はいつもそう言ってるよな』

『別に良いでしょ? 空を飛んでる時はいつもそう思ってるんだから』

『……はあ、まあ良いさ。ところで、スゴく今更かもしれないが、ウルとエースって高いところが苦手とかでは無いよな?』

「どうだろうな……シオン、ちょっとバスケットの蓋を開けてやってくれるか?」

『畏まりました』

 シオンがバスケットの蓋を静かに開け、中からウルとエースがヒョコッと顔を出した後、物珍しそうに辺りを見回すウル達の様子にイクトはクスリと笑った。

「……どうやら、お前達は高いところが苦手っていうわけではないみたいだな」

『うん。まあ、こんなに高いところへ来たのは初めてだけど、時々エースに頼んで高いところまで連れてってもらってたから、高いところは平気だよ』

『私も問題ないぞ、イクト』

「ん、了解。それじゃあそろそろ『ロンドシティ』に向かうとするか。ウル、エース、バスケットの蓋を閉めるから、中に戻ってもらっても良いか?」

『うん、分かった』

『了解した』

 ウル達がバスケットの中へと戻り、シオンがしっかりと蓋を閉め終えた後、レドは再び『ロンドシティ』へ向けて上空を飛び始めた。

 

 

 

 

 出発から約2時間後、イクト達が育て屋の事などについて話をしていたその時、突如前方に薄い霧が立ちこめる街のような物が見え始めた。

「……おっ、見えてきたな。俺達の第二の故郷、『ロンドシティ』が」

『ふふ、まだ一週間くらいしか経ってないのに、なんだかようやく帰ってきたって感じがするよね。博士のところにいるみんなは元気かなぁ……』

『……まあ、(みな)の事ですから、いつもと変わらずだと思いますが……』

『……そうだろうな。さてと……とりあえず研究所のところに降りれば良いのか?』

「ああ、そうしてくれると助かる。父さん達に顔を見せたいのはやまやまだけど、まずは博士に観察記録やデータを届けたいからさ」

『分かった』

 イクトの言葉にレドは頷くと、そのまま研究所がある方へと飛んでいった。そしてそれから数分後、レドが研究所の前に着陸すると、イクト達は静かにレドの背から降りた。

「……よし、到着だな」

『そうだね。それにしても……一週間ぶりのはずなのに、随分久しぶりな感じがするね』

『……そうだな。さて、ここまで飛んできてちょっと疲れたし、こっちの家に帰るまでどっかで眠らせてもらうな』

「分かった。それじゃあその時になったら起こしに行くよ」

『おう。それじゃあまた後でな』

 そう言いながらレドが研究所のポケモン達の生活スペースに向かって歩いていった後、イクトは研究所の中へと入っていった。そして、ロビーにいた研究所のスタッフ達と軽い挨拶を交わしながら歩いていたその時、研究室の内の一つから白衣姿の茶色のポニーテールの女性が現れ、イクト達の姿を見た瞬間、とても嬉しそうな笑みを浮かべた。

「イクト君! それにロイ達も!」

「こんにちは、ロッカ博士」

『博士、こんにちは!』

『ロッカ博士、こんにちは』

「はい、こんにちは。ふふ……まさかこんなに早く来てくれると思ってなかったから、スゴくビックリしちゃったわ」

「あはは……早めに観察記録やデータを届けた方が良いと思ったので、朝一でレドに乗せてもらってきたんです。そして……これがその観察記録やデータです」

 そして、イクトがリュックの中から取り出した観察記録などを渡すと、ロッカ博士はそれをとても嬉しそうに受け取った。

「ええ、ありがとう。そういえば……レドは今どこに?」

「父さん達に会いに行くまで眠らせてもらうと言って、ポケモン達の生活スペースの方へ歩いていきました。もっとも、アイツらがいるところで静かに眠れるとは思えませんけどね」

「ふふっ、そうね。ところで……シオンが持ってるそのバスケットには何が入ってるのかしら?」

 ロッカ博士が不思議そうな様子でバスケットを指差すと、イクトは「それはですね……」と微笑みを浮かべながらバスケットの蓋を開けた。そして、ウルとエースが恐る恐る顔を出した瞬間、ロッカ博士はウル達の姿に驚愕(きょうがく)した様子で震える手でウル達を指差した。

「イ、イクト君……もしかしてこの子達って……!?」

「はい、昨晩もテレビ電話越しに見せた新しい仲間達です。せっかく帰るからには、コイツらにも『ロンドシティ』がどんなところなのかを見せたかったので、こうしてバスケットの中に入れて連れてきたんです」

「あ、ああぁ……目の前にメルタンが……それも再現のために作られた人形やCGじゃなく、実際に生きている本物のメルタンが……!」

 感動で声を震わせるロッカ博士の姿にイクト達が苦笑を浮かべていると、ロッカ博士はとても興奮した様子でイクトの方へ顔を向け、珍しい物を見つけた子供のように目をキラキラとさせながら大きな声で話し掛けた。

「イクト君! イクト君達が帰る前にこの子達と少しふれ合わせてもらっても良いかしら!?」

「あー……はい、それは構いませんけど……ウルとエースが嫌がる事だけはしないで下さいね?」

「ええ、それはもちろんよ。私だってポケモン達の事が大好きだし、どうせなら仲良くなりたいものね」

 ロッカ博士は先程までの興奮した様子とは一転し、落ち着き払った様子でニコリと笑いながら答えた後、どこか緊張した様子で自分を見つめるウルとエースに顔を近付けると、笑顔を浮かべたまま話し掛けた。

「昨晩もテレビ電話越しに会ったけど、改めて初めましてと言わせてもらうわね。初めまして、私はこの『ロンドシティ』でポケモン達の研究をしているロッカって言います。これからよろしくね、ウル、エース」

『は、はい! こちらこそよろしくお願いします、ロッカ博士!』

『よろしくお願いします、ロッカ博士』

 ロッカ博士の自己紹介に対してウルが緊張気味に、そしてエースが落ち着き払った様子で答えていたその時、『……む?』とシオンが何かに気付いた様子でゆっくりと背後を振り返ると、イクトは小首を傾げながらシオンに話し掛けた。

「シオン、どうかしたのか?」

『いえ……研究所の玄関の方から波導を二つほど感じたので……』

「波導を……?」

『でも……その波導って一体誰の波導なの?』

『それは──』

 ロイからの問い掛けにシオンが答えようとしていたその時、「ジュ……」という鳴き声が聞こえ、イクト達は揃って玄関の方へ振り返った。すると、イクト達の視界に入ってきたのは鋭い目付きをした緑色のトカゲ型のポケモンと黒い大柄な体格でふよふよと浮く一つ目のポケモンの姿だった。そして、そのポケモン達の姿にイクト達が嬉しそうな表情を浮かべる中、ポケモン達はゆっくりとイクト達へ近付き、目の前でピタリと足を止めると、緑色のトカゲ型のポケモン──ジュプトルはイクトの目を真っ直ぐに見ながら話し掛けた。

『……一週間ぶりだな、イクト』

「ああ、そうだな。でも……まさかお前達の方から来てくれるとは思ってなかったよ、()()()()

『……俺は待っていても良いと思ったんだが、()()()が珍しく自分達から会いに行った方が良いと言い始めてな……』

『それはそうだろう、フォード。レド殿が言っていた通り、イクト殿達は研究のデータを届けに来たり、新たな仲間の紹介にしたりするためにいらっしゃったのだから、わざわざ私達のためにこちらの方までお越し頂くのは無礼という物だろう?』

『……必ずしもそうとも限らないだろう、ダスク。まあ……今回ばかりはお前の方が合っていたと思っているがな』

 ジュプトルのフォードとヨノワールのダスクの二体の会話を聞き、イクト達は懐かしそうな表情を浮かべながらクスリと笑った。

「フォード達は相変わらず仲が良いみたいだな」

『ふふっ、だね。けど……()()()()の姿が見えないね。ねえ、リーチェは今日はいないの?』

『……アイツなら、いつもの()()に出ているぞ』

『今朝、朝食を食べ終えた直後に『……あ、気が向いたからちょっと散歩に行ってくるねー』と言ったかと思うと、自分の分の食器を片付けてからそのまま出掛けていきました。まあ、あの様子ならば、遅くともお昼頃に帰ってくるかと』

「あはは、そっか。まあ、アイツはちょっと気分屋なところがあるし、それは仕方ないよな」

『……そうだな』

 フォードが溜息交じりに答える中、ダスクはシオンが手に持つバスケットの中から興味深そうに自分を見つめているウルとエースの視線に気付くと、その姿に一つしか無い赤い目を丸くした。

『……おや、こちらの方々はどうやら私と同じ一つ目のようですね』

「ん、そういえばそうだな……まあ、タイプはそれぞれ違うけど、同じ一つ目同士仲良くしてやってくれ」

『はい、それはもちろんです。まあ、一つ目仲間では無かったとしても仲良くさせて頂くつもりでしたが』

 そして、ダスクはフォードと共にゆっくりとバスケットに顔を近付けると、その威圧感のある姿に警戒した様子を見せるウル達にニコリと笑いかけた。

『初めまして、私はヨノワールのダスクと申します。ロイ殿達と同じイクト殿のポケモンで、少しだけですが旅のお供をした事もあります。今はフォード達と共にこの研究所にお世話になっているので、イクト殿の育て屋業のお手伝いをなさっているお二方とは中々会う機会は無いかとも思いますが、これからどうぞよろしくお願いします』

『……そして、俺はジュプトルのフォードだ。ダスクと同じでお前達と会う機会は少ないかもしれないが、これからよろしく頼む』

『あ……うん、こちらこそよろしくね』

『……こちらこそよろしくな』

 挨拶を返し終えると、ダスクの見た目からは想像できなかった温和で礼儀正しい姿にウル達は驚きの表情を浮かべていた。そして、そんなウル達の様子にイクトは「やっぱりな」と苦笑すると、ダスクの横に立ちながらウル達に話し掛けた。

「今のお前達がそうだったように、ダスクは見た目からちょっと怖いポケモンだと思われがちなんだけど、普段は木陰でのんびりと昼寝をしたり、草タイプのポケモン達と一緒に花を眺めていたりするようなスゴく暢気なポケモンなんだ」

『そうだったんだね……勘違いしちゃってゴメンね、ダスク……』

『ダスク……本当に申し訳なかった』

『いえいえ、このくらいは慣れていますし、自分でもこの見た目ならば仕方が無いと思っていますので気にしないで下さい。これも大柄なゴーストタイプの宿命みたいな物ですから』

『『ダスク……』』

 目の前でニコニコと笑うダスクの姿にウルとエースは顔を見合わせたが、何かを決意したような表情で頷き合うと、その表情のままダスクの方へと向き直った。

『ねえ、ダスク。君にとってはよけいなお世話のように感じるかもしれないけど、君がこの先さっき僕達がしたような勘違いをされないように何か手伝える事は無いかな?』

『……え? いえ、大丈夫ですよ。先程も申しましたが、そういうのはもう慣れっこですから』

『確かに慣れているのかもしれないが、それでも傷つかないわけではないだろう? 後からちゃんと仲良くなれるとはいえ、初対面の相手から怖がられたり警戒されたりするのは辛いだろうからな』

『ウル殿……エース殿……』

『だから、ダスクがこれからはそういう勘違いをされないように何かしてあげたいと思ったんだ。さっきダスクが言ったように、僕達は一つ目仲間だからね』

『もちろん、ダスクの意思を無視するつもりはないから、本当に大丈夫だと言うのならこれ以上は何も言わない。だが、私達は同じ一つ目の仲間であり、イクトと共に歩んでいくと決めた仲間としてダスクのために何かをしたいと考えている。それだけは理解しておいてほしいんだ』

『…………』

 ウル達の言葉にダスクは少し驚いた表情を浮かべながらしばらく黙っていたが、その表情はやがて柔らかな笑みヘと変わった。

『……ふふ、分かりました。では、そのお言葉に甘えさせていただきますね』

『ダスク……うん!』

『まあ、もちろんそれ以外の悩みが出来た時や雑談がしたい時でも遠慮無く声を掛けてくれ。お前達が先程言ったように、会う機会は少ないかもしれないが、こうして会えた時こそお互いの事を知る事が出来る良いチャンスになるからな』

『ええ、そうですね。イクト殿と共に歩むと決めた者同士、私はお二方とこれからも仲良くしていきたいと思っていますし、何よりお二方とはフォードやリーチェとはまた違った絆を結べそうですから』

 そんな事を言いながらダスクがフォードを一瞥すると、フォードはやれやれと首を横に振りながら軽く溜息をついた。

『それはそうだろう……俺達の繋がり程、特異な物も中々無いだろうからな』

『特異って……』

『どういう事だ?』

『……簡単な話だ。今はこうしてイクトというトレーナーの元で仲良く暮らしているが、俺達は以前()()()だったんだよ』

『て、敵同士……!?』

『ええ、そうです。その頃の私はあるトレーナーのポケモンで、イクト殿とそのトレーナーは仲間同士だったのですが、ある出来事からイクト殿がそのトレーナーと敵対関係になった事で、フォードと私も当時は敵同士となったのです』

『尤も、その関係性もイクトがそのトレーナーからダスクを譲り受けた事で無くなり、多少の蟠りがしばらく残ったものの、今では同じ仲間として暮らしているというわけだ』

『なるほどな……だが、何故そのトレーナーはイクトにダスクを譲り渡したんだ? いくら以前は仲間だったとはいえ敵であるトレーナーに自分のポケモンを譲り渡すなんて普通なら考えられない行為だと思うが……』

『確かにその通りです。ですが、彼は私をイクト殿に譲り渡そうと決意し、それを実際に行った際にイクト殿もその疑問を彼へとぶつけました。すると、彼はただ一言こう言ったのです。

『コイツはお前と一緒にいた方が強くなれそうだと思ったからだ』と……』

『イクトと一緒にいた方が強くなれそうだと思ったから……』

『はい。事実、彼のポケモンだった頃に比べれば、私は強くなったと自負していますし、彼の選択が間違いだったとは思っていません。一時はある力に目がくらんで悪事に手を染めていましたが、彼は本当に腕の立つトレーナーでしたし、イクト殿と同じようにポケモンの事をとても大事にしているトレーナーでしたから』

 当時を懐かしむように語るダスクの姿にウルとエースは一度顔を見合わせた後、同時にクスリと笑った。

『どんな悪事を働いていたのかは分からないが、そのトレーナーはダスクにとって本当に良いトレーナーだったんだな 』

『ええ、それは間違いありません。まあ……この『イリス地方』が()()の危機に瀕した時は、流石に私も怒りましたけどね』

『あははっ、それは確かにおこ──え!?』

『ダスク……今、この『イリス地方』が消滅の危機に瀕したと言ったか……?』

『はい。今から大体二年前に『イリス地方』自体が地理的にも世界中の人々の記憶からも消えてしまいそうになった事がありまして、そんな事態を引き起こしたのが先程から語っている私の元トレーナーなのです』

『地理的にも記憶からも消えそうになるって……一体何をしたらそんな事に……?』

『……()()()()()だ』

 その落ち着いたフォードの声にウルとエースは驚いた表情を浮かべながら視線を向けると、フォードは壁に軽くもたれ掛かりながら再び口を開いた。

『アイツはあるポケモンが持つ時を渡る力を使って過去へと戻り、自分の望みを叶えようとした。しかし、そのポケモンの力が暴走した事で過去の『イリス地方』は次々と時間の狭間へと消えていき、現代の『イリス地方』もその影響を受けて、この世界や人々の記憶からゆっくりと消えていったんだ』

「……あの時は本当に焦ったよ。目の前で森や川、町や人がどんどん消えていったのに、それがあった事を俺達以外は誰も覚えてないんだからさ」

『そうだよね……もう終わった事ではあるけど、あの時の事を思い出すと、今でも震えが止まらないよ……』

『ええ、本当に……』

 当時を思い出してイクト達が暗い表情を浮かべる中、ウルとエースが同じように暗い表情を浮かべていると、フォードは壁にもたれ掛かったままでイクト達に視線を向けながら話を続けた。

『だが、イクト達の活躍で『イリス地方』の消滅はすんでのところで止めた事で、イクト達が現代に戻ってきた頃には消えていた部分も全て元に戻り、それを覚えているのは俺達やダスクの元トレーナー達だけとなった。そのため、その行為の証拠は一切無いが、ダスクの元トレーナーは己の行為を悔い、自分を止めてくれた事について礼を言った後に自分のエース以外をイクトに預け、幹部の一人と団員の一人を連れてここまでに行ってきた悪事を自白しに行った事で、この事件は無事に終息を迎えたわけだ』

『そっか……それで、そのダスクの元トレーナー達は、今はどうしてるの……?』

「……今は刑務所にいるよ。まあ、刑期を終えるのはまだまだ先の話だけど、刑務所から出て来たその時には、またあの人とバトルをする約束をしてるんだ。あの人とのバトルはとても楽しかったし、色々と勉強になる事も多かったしさ」

『それにダスクや預かってるポケモン達にも会わせてあげないとだしね』

「ははっ、そうだな。アイツらもあの人の事をスゴく気にしてるし、出て来た事が分かったらすぐにでも──」

 その時、イクトの服のポケットから突然プルルッという音が聞こえ、イクトがポケットから四角形の青い電子機器──『ポケフォン』を取り出すと、画面から青色の制服に身を包んだ男性のホログラム映像が現れた。

『イクト様、アーサー様より着信がありますが、いかがなさいますか?』

「アーサーさんから……!? 分かった、繋いでくれ!」

『畏まりました』

 そして男性が恭しく一礼をすると、男性が消えると同時に画面には紺色のスーツ姿の黒いオールバックの男性とワインレッドのスーツ姿の金髪の女性が映し出された。

『よう、イクト。久し振りだな』

「あ、はい……お久しぶりです」

『はは! その様子だと、どうやらサプライズは成功したようだな。なあ、クリス』

『はい、そのようです』

「サプライズ……というか、アーサーさん達は今どこにいるんですか?」

『ん? どこって……『ロンドシティ』だぜ? それも──』

 そのアーサーの声と同時に研究所のドアが開く音が聞こえると、イクト達は玄関へ視線を向けた。するとそこには、黒の『ポケフォン』を操作して通話を切りながらニヤリと笑うアーサーとその隣に静かに立つクリスの姿があった。

「改めて久し振りだな、皆。元気そうでなによりだぜ」

「アーサーさん……」

『ど、どうして……!? だって、アーサーさん達は今も刑務所にいるはずじゃ……!』

「あー、それなんだけどな……実は刑期が短くなったんだよ」

「刑期が短くなった……?」

「ええ。この前、同じ刑務所にいた犯罪者が脱獄をしましてね。それを捕まえる手伝いを頼まれて、それをこなしたら特例として刑期が短縮されたんですよ」

「脱獄……そういえば、そんな記事を読んだ気がしますけど、まさかそれにアーサーさん達が関わっていたなんて……」

「正直、俺達もそれを刑務官達の執務室で言われた時は耳を疑いましたよ。ソイツらよりも罪が軽いとはいえ、同じ犯罪者である俺達に手伝いを依頼するなんて、前代未聞ですからね」

「ですが……脱獄犯達は一筋縄ではいかない連中だったそうですし、脱獄をされた際に何人もの職員達やポケモン達も傷ついた事で人手が足りなかったため、やむを得ず私達に依頼したとの事でした」

「そういう事だったんですね……」

「ああ。んで、それを受けた俺達はそれぞれのエースポケモンを受け取り、まずは俺が社長を勤めていた『ベイカー・コーポレーション』の本社に連絡を入れた。お前達も知ってる通り、『ベイカー・コーポレーション』はこの『イリス地方』の各地に支社を置いてるから、『イリス地方』に何らかの異常事態があればすぐにわかるしな。まあ、連絡をいれたところで今更俺達みたいな奴らに手を貸してくれるわけないと思ってたんだが……アイツら、すぐに各支社に連絡を入れてくれた上、本社まで呼ばれて行ってみたら俺達用として育ててたっていうポケモンまで渡してくれたんだ」

「……アーサーさん達、本当に大切に思われているんですね」

「……そうだな。それに、社長は俺以外にいないから、早く戻ってきて欲しいなんて言いやがった。まったく……『イリス地方』全土に迷惑をかけた奴を今でも社長として認めてくれるなんて、アイツらくれぇなもんだろうよ」

「そうかもしれませんね」

「そして、準備を整えた俺達は支社から入った情報を元に現地へと向かい、脱獄犯達とやり合った後、無事に連中を捕まえ、駆けつけてきた刑務所の職員達に引き渡した。その後、俺達は今まで通りに刑に服してたんだが、昨夜になってその見返りとして刑期を今日までにする事になったと告げられ、ついさっきこうやって表へ出てきたってわけだ」

「なるほど……」

 アーサーの説明を聞き、イクトが納得顔で頷いていると、アーサーはダスクへと視線を向けニッと笑った。

「お前も久し振りだな、ダスク。お前もアイツらも元気か?」

『は、はい……! 私も彼らも元気に毎日を過ごしています!』

「ははっ、そうかそうか! そんなら、良かったぜ」

『あ、あの……ボス、彼──シャロはボールの中なのですか?』

「ああ、まあそうだが……んじゃあ、そろそろ出してやるとするか」

 そう言うと、アーサーはベルトに付けていたモンスターボールを一つ手に取り、静かにスイッチを押した。そして、中からシャロ──パイプを咥えた色違いのピカチュウが姿を現すと、ロイはとても嬉しそうな笑みを浮かべた。

『シャロ! 久し振りだね!』

『……ああ、久しぶりだね、ロイ。君とこうして会うのは……あのバトルの時以来かな?』

『うん! 君も元気そうで良かったよ』

『ふふ、君も元気そうでなによりだよ。ところで……そこに見慣れないポケモン達がいるようだけど、君達の新しい仲間達なのかな?』

『うん、そうだよ。あ、今紹介するね』

 そして、ロイがウル達の紹介を終えると、アーサー達はとても驚いた様子を見せた。

「……まさか、そんなポケモンがいたなんてなぁ……」

「それに、まだもう二匹いるとは……本当に驚きです」

『そうだね……こうなってくると、イクトの元には他の伝説のポケモン達も次々と集まってくるんじゃないかという気になってくるよ』

「あはは……流石にそれは無いと思うぜ? まあ、今でさえレイとリーチェがいるけどさ」

「くくっ……そうだな。さて……イクト、こうして会えた事だ。そろそろ約束を果たすとしようか」

「約束……ふふ、そうですね。言っておきますけど、俺達は絶対に負けませんよ?」

「はっはっは! それはこっちの台詞だぜ、イクト? これでも元悪の組織のボスだからな。そう簡単には負けてられねぇぜ」

『ふふ、そうだね。君達に負けたあの日から、ずっと悔しさを募らせてきたんだ。この勝負、絶対に勝たせてもらうよ』

『こっちだって負けるつもりはないよ!』

 二組のトレーナーとポケモンが火花をバチバチと散らす中、それを見ていたロッカ博士はクスクスと笑った。

「帰ってきたばかりなのにもう勝負の話なんて……まあ、私としても気になる勝負ではあるし、審判をしながら観戦させてもらおうかしらね」

「では、せっかくですので私も観戦させて頂きます」

『もちろん僕達も! ねっ、エース!』

『ああ、イクト達の本気のバトルには興味があるからな』

 ロッカ博士やウル達が楽しげに観戦への意欲を見せていると、シオン達は顔を見合わせて頷き合ってからイクトに話し掛けた。

『では、私達はレド殿達にこの事を話して参ります』

『他の皆もイクト達には会いたがっていたからな』

『無論、ボスのポケモン達もボスには会いたがっていたので、帰ってきたと知れば、すぐに会いに来る事でしょう』

「はっはっは! そいつぁ嬉しいな! それじゃあ伝令は頼んだぜ、お前達」

「お願いな、皆」

『『はい』』

『ああ』

 揃って返事をした後、シオンはウル達が入ったバスケットをロッカ博士へ手渡すと、フォード達と共にレドや他のポケモン達がいる生活スペースへと走っていった。そしてそれを見送った後、イクト達が揃って研究所のバトルフィールドへ向けて歩き始めた時、「そういや……」とアーサーは何かを思い出したように声を上げた。

「なあ、イクト。シアには最近会ったか?」

「シアですか? この前……俺が引っ越す前日にリアさんと一緒に会いに来てくれましたけど、その後『ポケバンド』の事で何日か別の街まで行く用事があったみたいで、リィルとオルタ、それとレイを借りてそのまま出発しましたよ」

「……そうか。まあ、お前が帰ってきたと知ったら飛んで帰ってきそうだが……一度帰るって連絡はしたのか?」

「あ、いえ……用事に集中して欲しかったので、連絡はしていないです」

「そうか……だが、バトルを終えて少し落ち着いたら連絡はいれてやれよ? アイツも俺達に手紙を寄越してくれてたんだが、お前の事や育て屋業の事は心配していたからな」

「はい、もちろんです」

 そんな事を話しながら歩く事数分、イクト達は研究所のバトルフィールドへ着いた。そして、すぐにそれぞれの位置へ着くと、ロッカ博士はゆっくりと両者に視線を向けた。

「それでは、これよりイクト君とアーサーさんのポケモンバトルを始めます。ルールは1対1のシングルバトル。どちらかが先に倒れた時点でバトルは終了とします。二人とも準備はよろしいですか?」

「はい、大丈夫です!」

「ピカ!」

「こっちも問題ないですよ、ロッカ博士」

「ピカ……」

「分かりました」

 両者の言葉に頷きながら答えると、ロッカ博士は両手を高く上げながら声を張り上げた。

「それでは……バトル、スタート!」




第2話、いかがでしたでしょうか。次回はイクトVSアーサーのポケモンバトル回+αですのでお楽しみに。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。


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第3話 VSアーサー&シャロ 約束のバトルと新たな再会

どうも、一番好きなタイプは草タイプの片倉政実です。今回はアーサー&シャロ戦&+αの回です。
それでは、第3話を始めていきます。


「よし……行くぞ、ロイ! 『ねこだまし』!」

「ピカ!」

 

 イクトの指示でロイがシャロとの距離を詰めるために走り出した時、アーサーは懐かしそうな様子で笑みを浮かべた。

 

「へへ、懐かしいな。ただ、わかっていると思うが、俺達にその戦術は効かないぜ? シャロ、『まもる』だ!」

「ピカ……」

 

 アーサーの指示に対してシャロは頷きながら返事をすると、自分の周りに球形の半透明の障壁を作り出した。そして、それを見たロイはその場で立ち止まると、軽く笑みを浮かべながら宙返りをして最初の位置まで戻り、イクトは同じように笑みを浮かべながらアーサーに話し掛けた。

 

「やっぱり、『まもる』を使いますよね」

「当然だな。ロイを出した時は『ねこだまし』で相手を怯ませてから『アイアンテール』や『ボルテッカー』で確実にダメージを与えていき、危なくなってきたら回避を優先しながら『ねがいごと』で回復をしていく戦法を使う。それなら、まずはその『ねこだまし』をどうにかしてしまえば良い話だからな」

「…………」

「そして、今回は交代無しの一体ずつでのバトルだから、もう『ねこだまし』は使えず、後はタイプ相性の関係からダメージをあまり与えられない『ボルテッカー』と『アイアンテール』、そして回復技の『ねがいごと』しか無い。しかし、シャロは電気タイプの技のダメージを無効にし、物理攻撃力を上げる『ひらいしん』の特性を持っているから、『ボルテッカー』ではダメージを与えられない。つまり、お前達は不利な状況にあるわけだな」

「……あの時や旅の中での特訓バトルの時みたいにですね」

「ははっ、そうだな! だが、お前達はその時みたいに勝つつもりなんだろう?」

 

 そのアーサーの問いかけにイクトは大きく頷きながら答えた。

 

「もちろん、そのつもりです」

「ピカ、ピカピカピカッチュ!」

「そうだな。ポケモンリーグ準優勝者の実力、見せてやろうぜ!」

「ピカッ!」

 

 イクトとロイが頷きあっていると、それを見たアーサーは楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「……くく、やっぱりお前達は面白いな。さて、それじゃあバトルを再開しようか」

「はい! ロイ、『アイアンテール』!」

「ピカッ!」

 

 イクトの指示に従い、ロイがシャロに向かって走り出すと、アーサーはそれを見ながらシャロに指示を出した。

 

「シャロ、『めざめるパワー』だ」

「ピカ」

 

 シャロが頷くと、シャロの周りには半透明のエネルギー体が幾つも現れ、それらはロイへ向かってまっすぐ飛んでいった。そして、それを見たイクトはニヤリと笑うと、ロイに指示を出した。

 

「ロイ、そのまま『アイアンテール』で『めざめるパワー』を打ち返せ!」

「ピカ!」

 

 その指示に従ってロイが『アイアンテール』で『めざめるパワー』を打ち返し始めると、アーサーは余裕綽々といった様子でシャロに指示を出した。

 

「良い判断だが、それくらいは予想済みだ。シャロ、『まもる』」

「ピカ……」

 

 シャロは返事をすると、再び『まもる』を使い、打ち返されてきた『めざめるパワー』をガードした。そして、その様子にイクトは歯をギリっと鳴らした。

 

「やっぱり、『まもる』が厄介だな……でも、使った直後だから今は使いづらいはずだ! ロイ、『アイアンテール』!」

「ピッカ!」

 

 イクトの指示でロイが走り出すと、アーサーはそれを見て楽しそうに笑った。

 

「ははっ、良いねぇ。その真っ直ぐな戦い方、やっぱり嫌いじゃないぜ。だったら、俺達もそれに応えないとな! シャロ、『でんこうせっか』!」

「ピカ」

 

 アーサーの指示に従ってシャロは自分に向かって走ってくるロイへ向けて目にも止まらぬ速さで走り出すと、そのままロイにぶつかろうとした。しかし

 、ロイはそれを『アイアンテール』で受け止め、二匹のピカチュウはバトルフィールドの中央で押し合いを始めた。 

 

「ピィ……カァ……!」

「ピカ……ピカチュ……!」

「そのまま行け、ロイ!」

「負けるなよ、シャロ!」

 

 トレーナー達の応援の声がバトルフィールドに響き渡り、ロイがシャロを少しずつ後ろに押し始めたその時、『やれやれ……再会早々バトルをしているとはな……』という声がイクト達の頭の中に響き渡った。

 

「えっ……」

「この声は……まさか……!?」

 

 そして、イクト達がロイ達の真上に視線を向けると、そこには宙に浮かぶ二人の人物と三匹のポケモンの姿があった。

 

「レイ! シア! ラピス! それに、リーチェとリアさんまで!」

「……はっはっは! 俺達の登場よりもすごいサプライズが待っていたな!」

「ピカァ……」

「ピカ……」

 

 そして、イクト達が見つめる中、ミュウツーのレイ達がバトルフィールドに降りてくると、シアは真っ先にイクトへ向かって走り出し、イクトの事を強く抱き締めた。

 

「シ、シア……?」

「……帰ってくるの、何で教えてくれなかったの?」

「あ、いや……シアには用事に集中して欲しかったし……」

「……その気持ちはもちろん嬉しいよ。でも、心配をしてたんだから連絡くらいはして欲しかった」

「……うん、ごめん。これからは帰ってくる時や何かあったら連絡するよ」

「……それなら許す」

 

 そして、シアはイクトに向かってにこりと笑うと、自分達の事を静かに見つめていたレイに対して頭を下げた。

 

「レイもありがとね。ここまで飛んでくるのはやっぱり疲れたでしょ?」

『……そんな事はない。この程度で疲れを感じる程、私は非力ではないからな』

「ふふ、そっか。後、リーチェもありがとね。リーチェが教えてくれなかったら、イクト君が帰ってきた事を後で知る事になってたから」

『うふふ、どういたしまして』

 

 シアの言葉に対して色違いのセレビィであるリーチェが笑みを浮かべながら答えていると、それを聞いていたイクトは少し不思議そうな顔をしながらシアに話し掛けた。

 

「なあ、シア。リーチェが教えてくれたってどういう事だ?」

「えっとね。リーチェが言うには、散歩がてら昨夜の『ロンドシティ』に『ときわたり』をしてたら、博士がイクト君と電話をしているのが聞こえて、今日イクト君が帰ってくるのがわかったみたいなの。それで、イクト君の事だから私には落ち着いた頃に連絡をすると思ったみたいで、朝早くに私のところに来て、イクト君が帰ってくる事を教えてくれたから、レイに頼んで『ロンドシティ』まで『サイコキネシス』で飛ばしてもらったの。因みに、用事はしっかりと済ませてきてるから、安心してね」

「なるほど……アイツらからリーチェが散歩しに行ってるのは聞いてたけど、まさか昨日の夜に『ときわたり』をしてたなんてな……」

『ふっふっふ……このリーチェ様の前ではどんな秘密も意味を成さないのよ!』

「はは、たしかにそうだったな。リーチェ、シアのところまで教えに行ってくれてありがとうな」

『どういたしまして。それにしても……』

 

 リーチェはそう言いながらにやにやと笑うと、シアとイクトの事を交互に見始めた。

 

『イクトは本当にシアに愛されてるし、シアは本当にイクトの事を愛してるわよね。だって、再会して早々抱きつくんだもの。あーあ、アタシもそうしたくなる程の相手が欲しいわねぇ……』

「だ、だって……イクト君がいなくて寂しかったし、会えて本当に嬉しかったし……」

「俺ももちろん嬉しかったよ。シアがこうして会いに来てくれるとは思ってなかったからさ」

「そ、そう……?」

「ああ。まあ、抱きついてこられた時は流石に驚いたけどな。でもその分、シアがどれだけ俺の事を考えてくれていたかはわかったし、今回シアが会いに来てくれたのは本当に良かったと思ってるよ。シア、本当にありがとうな」

「イクト君……うん、どういたしまして」

 

 イクトのお礼の言葉にシアが満面の笑みを浮かべながら答える中、そんな二人の事を微笑ましそうに見ていたリアはふとロッカ博士の方へ視線を向けると、ロッカ博士が手に持つバスケットの中からイクト達を見るウル達の姿に気づいた様子でロッカ博士に声を掛けた。

 

「ロッカ博士、バスケットの中にいるその子達は?」

「……ん? ああ、この子達はイクト君の新しい仲間達よ。それに、なんとこの中には幻のポケモンと呼ばれている内の一匹、メルタンが入ってるのよ」

「メルタン……って、最近学会を賑わせているとされているあのメルタンですか!?」

「ええ、そうよ。せっかくだから紹介したいところだけど……」

 

 そう言いながらロッカ博士がイクトとアーサーを見ると、イクトとアーサーは顔を見合わせてクスリと笑い合ってからロッカ博士に話し掛けた。

 

「バトルならまた後でも良いですよ、ロッカ博士」

「ええ。それに……久しぶりの再会を果たした今、正直バトルをするよりも色々と話をしたい気分ですから」

「……わかったわ。そういう事ならバトルは一時中断し──」

 

 その時、自分達の方へ向かって幾つかの足音が近づいてくるのに気づき、イクト達はそちらに視線を向けた。すると、そこにはシオンとレドを含めた数匹のポケモン達の姿があり、その姿にアーサーとシャロはとても嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「アイツら……ははっ、大分元気そうじゃねぇか」

『そうだね、ボス。さて、早速彼らに僕達も元気だという事を教えに行こうじゃないか』

「おっ、シアの通訳も久しぶりだな」

「ふふ、そうですね」

『こうして通訳をしてもらうと、旅をしていた時を思い出すね』

「だな。さて、新しい仲間も紹介しねぇとだし、さっさと行くか」

『あはは、そうだね。仲間が増えたとなれば、彼らも大喜びするだろうし』

 

 そして、イクト達がシオン達へ近付くと、シオン達の後ろにいたポケモン達はアーサー達の前に立ち、とても嬉しそうな様子を見せた。

 

『ボス! おかえりなさい!』

『ボス! ダスクから聞きましたが、これで俺達はまた一緒にいられるんですよね!?』

「ああ、そうだ。リーン、ワット、モリア、マイト、マーサ、待たせてすまなかったな」

 

 アーサーが頭を下げ、エーフィのリーンやボスゴドラのワットがそれに対して慌てる様子を見せる中、ゾロアークのモリアだけは落ち着いた様子でアーサーに話し掛けた。

 

『ボス、頭を上げてくれ』

「モリア……」

『俺達はまたこうしてボスとシャロに会えて嬉しいし、謝罪の言葉よりも欲しい言葉がある。ボス、アンタならそれがわかると思うぜ?』

「……そうだな。皆、ただいま」

『ただいま、みんな』

『おかえり、ボス、シャロ』

『おかえりなさい!』

 

 そして、アーサー達が再会の喜びを噛み締める中、シアはベルトから三つのモンスターボールを取り外し、それをイクトに渡した。

 

「はい、イクト君。レイとリィルとオルタのモンスターボール」

「ああ、ありがとう。でも、もう良いのか?」

「うん。しばらくは『ポケバンド』関連の用事は無さそうだし、何かあったらまたイクト君に声を掛ければ良いだけだからね」

「わかった。よし……それじゃあ出てこい、お前達!」

 

 そう言いながらイクトが二つのモンスターボールを上に放り上げると、中からフシギバナのリィルとカメックスのオルタが現れ、とても嬉しそうにイクト達に話し掛けた。

 

『イクト、ロイ、おかえりなさい!』

『育て屋の準備は順調?』

「ああ、まだ庭の手入れや中の掃除の段階だけど、今クレインやアーク達が新しい仲間達と一緒に頑張ってくれてるよ。な、ロイ」

『うんっ!』

『新しい仲間……』

『あ、そういえばロッカ博士が持ってるバスケットの中に見慣れないポケモンがいるね』

「ああ、メルタンのウルとアンノーンのエースだ。二匹とも引っ越し先で出会ったんだ」

 

 イクトが説明をすると、リィルとオルタはバスケットに近付き、にこりと笑いながら自己紹介をした。

 

『初めまして。僕はフシギバナのリィル、イクトのポケモンの内の一匹だよ。これからよろしくね』

『そして、僕はカメックスのオルタ。同じくイクトのポケモンの内の一匹だよ。ウル、エース、これからよろしくね』

『うん、こちらこそよろしくね』

『よろしく頼む』

 

 リィル達とウル達が笑い合う中、シオンはスッとイクトに近付き、小さな声でイクトに話し掛けた。

 

『主殿』

「ん、何だ?」

『他の皆も主殿と会いたいと言っておりました故、会いに行かれてはどうでしょう?』

「……そうだな。せっかく帰ってきたわけだし、俺も皆に会いたいからな」

『僕も僕もー!』

「よし、それじゃあまずは皆のところに行くか!」

 

 そのイクトの言葉に全員が頷いた後、イクト達は研究所にあるポケモン達の居住スペースへ向かって歩き始めた。そして、居住スペースに着くと、イクト達はすぐさまそこにいたポケモン達に囲まれた。

 

『おかえりなさい、イクト、ロイ!』

『イクト、ロイ、おかえりー』

「あははっ。ただいま、皆」

『ふふ、ただいまー』

 

 ポケモン達からの言葉にイクトとロイが嬉しそうに答える中、それを見ながらウル達は驚いた様子を見せた。

 

『スゴい……イクト達にはこんなにポケモンの仲間がいるんだ』

「ふふ、中には私やアーサーさんのポケモン、元々この研究所に住んでるポケモンもいるけど、半分はイクト君のポケモンだよ」

『シアとアーサーのポケモンはもちろん、イクトは旅を終わらせた後、時々この研究所のポケモンの世話をしに来てたから、研究所のポケモンとも仲が良いのよ』

「それにここにはいないが、この『イリス地方』にはイクトと仲を深めたポケモン達が数多くいる」

『そんな彼らも入れたら、本当にイクトのポケモンの数は膨大なものになるだろうね』

『へー……』

 

 イクト達の様子を見ながらシア達が会話を交わしていた時、ラティアスのルピアは首を傾げながらイクトに話し掛けた。

 

『ねえ、イクトさん。次は誰を育て屋さんに連れていってくれるの?』

「ん……それはまだ決めてないけど、やっぱり皆行ってみたいか?」

『それは……ね』

『この研究所での生活には不満はありませんが、やはり全員イクトさんのお側にいたいと思っておりますから』

「……そっか」

『まあ、イクトの側にいると安心するからね。その気持ちはよーくわかるよ』

『そうですね』

『違いないな』

 

 ロイやシオン達の言葉にイクトが嬉しそうな笑みを浮かべる中、それを見ていたアーサーは何かを思い出したように声を上げた。

 

「そういえば……なあ、イクト。今でもポケモンバトルに懸ける情熱は冷めてないよな?」

「あ、はい」

「そいつは良かった。実はな、ムショにいる時にちょっとしたイベントを思いついてたんだ」

『ちょっとしたイベント……ねえ、それって何なの?』

「ウチの『ベイカー・コーポレーション』主催のバトル大会だ。『ロンドシティ』名物の祭り、『ロンドフェスティバル』のイベントの一つとして開催しようと考えててな」

「『ロンドフェスティバル』……そういえばそろそろその時期ですね」

「ああ。せっかく、昔、セレビィ──リーチェがこの『ロンドシティ』を訪れた事を記念して開かれるようになった『ロンドフェスティバル』だ。盛り上がるイベントを増やすのもありってもんだろ?」

「たしかにそうですね。一昨年も去年もシアに気分転換という事で『ロンドフェスティバル』に誘ってもらいましたけど、本当に楽しかったので、今年も参加したいなとは思っていたんです」

 

 そのイクトの言葉を聞き、アーサーは満足げに頷いた。

 

「なら、大会にはもちろん出てくれるよな? お前を利用するようで悪いんだが、もう二年前とはいえ、ポケモンリーグを準優勝したお前が出ると言うなら、それを観戦したいと言う奴は多いだろうからな」

「あ、たしかにそうかも。ネットのスレッドではまたイクト君のバトルを観たいっていう声は結構上がってるし、イクト君が育て屋さんの開業費用を稼ぐために参加してたバトルの動画も人気みたいだから、イクト君が出るって知ったら、参加したい人やバトルを観たい人がいっぱい集まると思うよ」

「あはは……それは嬉しいですけど、少しプレッシャーなような……」

「まあでも、ポケモンリーグに出た時よりは、プレッシャーも少ないだろ?」

「……そうですね。久し振りにバトルを楽しみたい気持ちもありますから、是非参加したいです」

「くくっ、決まりだな。それじゃあ俺は、今から市長のところにこの企画を持ち込んでくるかね。まあ、あの市長の事だから、主催者の俺以上に乗り気になると思うがな」

「……そうかもしれませんね。ところで、そのバトル大会にリアさんは参加するんですか?」

 

 イクトのその疑問にリアはキョトンとした表情で首を傾げた。

 

「私? 私かぁ……うん、せっかくだから参加しようかな。でも、主力メンバーは流石に出さないよ?」

「でしょうね。主力メンバーを出す時は、あの事件のように本当に必要な時や俺やシアと本気のバトルをする時くらいですからね」

「ふふ、そうだね。まあ、あの子達には悪いけど、あの子達を出したら、色々大騒ぎになるからね」

「そうですね」

「イクト君はどうするの? やっぱり、ポケモンリーグの決勝戦を戦ったメンバーで行くの?」

 

 そのリアからの問いかけにイクトは顎に手を当てながら小さく唸った。

 

「うーん、どうしようかな……」

『あれ、もしかして悩んでるの?』

「ああ。せっかくのお祭りだろ? だったら、今までとは違うメンバーで行くのもありかなと思ってな」

「今までとは違うメンバー……つまり、今回はロイやレドとは別の子達と一緒に出るの?」

「それも良いかなと思うんだけど……まあ、これに関しては後々考えるよ。チャンスはみんなに等しくあげたいからな」

 

 そう言いながらシアに微笑みかけた後、イクトは身体を空に向かって伸ばしてからポツリと呟いた。

 

「……さて、クレイン達の事もあるし、昼過ぎには帰らないとな」

「え、そんなすぐに帰っちゃうの?」

「ああ。クレイン達なら心配はいらないと思うけど、流石にこれ以上はあいつらに負担をかけたくはないからさ」

『確かにそうだけど、こうした帰ってきたからには、もう少しみんなと一緒にいたいなぁ……』

「その気持ちはわかるけど……」

 

 ロイの言葉を聞き、イクトが少し困ったような表情を浮かべていたその時、「ああ、それなら心配はいらないぜ?」とアーサーがニヤリと笑いながら言った。

 

「心配はいらないって……どういう事ですか?」

「ここに来る前、ミスト団にも所属していた会社の人間を数人お前の育て屋に向かわせてたんだ。だから、今頃到着してるんじゃねぇかな」

「全員、イクトさんのポケモン達とは顔見知りですし、ポケモンドクターの資格やポケモンブリーダーの資格を持ったメンバーである上、ポケモン達の様子や掃除等の進捗状況についてはイクトさんに定期的に連絡をするように命令をしております」

「それはありがたいんですが……本当に良いんですか?」

「ああ。お前達には色々世話になったし、あいつらもイクトの助けになれるなら是非やりたいって言ってたからな」

「そうなんですね……」

「まあ、そういう事だから、少なくとも今日のところはこの『ロンドシティ』に留まっておけ」

「……わかりました。それじゃあ、そうさせてもらいます」

 

 笑みを浮かべながらイクトがそう言うと、アーサーは満足げに頷いてからイクト達に背を向けた。

 

「それじゃあ、俺達はもう行くな」

「はい──あ、今モリア達のモンスターボールを渡しますね。ロッカ博士、モリア達のモンスターボールは研究所の中ですか?」

「ええ、そうよ。ちょっと待っててね」

 

 そう言うと、ロッカ博士は研究所へと向かい、その様子を見ながらイクトは笑みを浮かべつつ小さな声で呟いた。

 

「……ほんと、色々な人に助けられてるな、俺」

「ふふ、そうだね。 でも、それはイクト君だからだよ?」

「そうだな。お前は色々な奴のために精一杯頑張ってきた。だから、誰もがお前のために動こうとしているんだ。だが、それを当たり前だと思ったりするなよ?」

「はい、もちろんです」

 

 アーサーの言葉にイクトは大きく頷きながら答えた後、ロッカ博士を待つ間、シア達との会話に花を咲かせ始めた。

 

 

 

 

「……うん、こんなもんかな」

 

 その夜、イクトは実家の自室の机に向かい、日課の日記をつけていた。そして書き終えた後、イクトは日記帳をパタンと閉じ、ベッドの上で楽しそうに話をしているロイ達に話し掛けた。

 

「ずいぶん楽しそうだけど、何を話してるんだ?」

「ピカ? ピカ、ピカピカッチュ」

「明日の予定か……明日は出来るなら一度家に戻りたいかな。『ロンドフェスティバル』でのバトル大会の事もあるから、クレイン達を迎えに行きたいし」

「メル……メル、メルメルメル?」

「ん……スクルやブレイブ達も連れてきたいって?」

「ノーン」

「……たしかにな。せっかくのお祭りなら、皆で楽しみたいし、その方が良いか」

「ピカ、ピカッチュ!」

「はは、そうだな。そして、祭りを楽しむのはもちろん、バトル大会でも優勝する。たとえ、相手が誰であろうともな」

「ピカチュ!」

 

 イクトの言葉に対して、ロイが拳を軽く握りながら力強く答えていた時、「メル……」とウルが小さく欠伸をすると、それを見たイクトはクスリと笑った。

 

「ふふ、それじゃあそろそろ寝るか」

「ピカッ」

「メル」

「ノーン」

 

 そして、机の上のスタンドライトと部屋の明かりを消した後、イクト達は揃ってベッドに入り、静かに目を閉じた。

 

「それじゃあ、おやすみ」

「ピカ、ピカピ……」

「メルル……」

「ノーン……」

 

 挨拶を終えた後、窓から月明かりが差し込む中で、イクト達は静かに眠りについた。




第3話、いかがでしたでしょうか。次回の内容は未定ですが、早めの投稿を心掛けたいと思っています。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。


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第4話 穏やかな日々と特訓の誘い

どうも、好きなバトル形式はシングルバトルの片倉政実です。
それでは、第4話を始めていきます。


 翌日、イクトがロイ達や両親達と一緒に朝食を食べていた時、ロイはイクトに視線を向けながら声をかけた。

 

「ピカ、ピカピカピカチュ?」

「ん、今日か? そうだな……昨日の夜も言ったように一度クレイン達を迎えに行きたいかな。あいつらだって研究所にいるポケモン達には会いたいだろうからさ」

「それじゃあ、ご飯の後はすぐにあっちに戻るの?」

「そうしようかな。迎えに行くなら早い方が良いし、俺達が留守の間に準備をしてくれる人達にも挨拶を──」

 

 その時、テーブルの上に置かれていた『ポケフォン』の画面からナビの男性のホログラム映像が浮かび上がり、イクトに向かって恭しく一礼をした。

 

『イクト様、ルイス様よりお電話が来ておりますが、いかが致しますか?』

「ルイスさんから……? わかった、繋いでくれ」

『畏まりました』

 

 そして、男性の姿が消えると、画面には笑みを浮かべる短い金髪の男性が映し出された。

 

「ルイスさん、お久しぶりです」

『おう、久しぶり。昨晩、ボスからお前達の話は聞いてたんだが、元気そうな姿を見られて安心したぜ』

「ルイスさんもお元気そうで何よりです。ルイスさんは今も『ベイカー・コーポレーション』にいるんですか?」

『ああ。ボス達と一緒にムショを出た後、今度はまっとうな社員として働こうとしてたんだが、ボスからお前達の育て屋のサポートの仕事を任せられてな。今は他の奴らと一緒にポケモンの世話や開業に必要な物の準備をしてるわけだ』

「そうだったんですね。あ、それじゃあ昨晩のメールもルイスさんが?」

『あれはドクターとブリーダーの資格を持ってる奴らが書いた物で、俺は統括役として文面のチェックをしただけだよ。まあ、メールじゃなく電話で報告が欲しいって言うなら、あいつらにもそう伝えるけど?』

「あ、それは大丈夫です。いざという時に確認出来る方が良いので」

『ん、わかった。それで、本題に入るんだけどさ。さっき、お前のとこのミュウツーとセレビィが来て、クレイン達を連れていったんだ』

「レイとリーチェが?」

 

 イクトが不思議そうに言うと、ルイスはコクンと頷いた。

 

『ああ。お前達がクレイン達とも『ロンドフェスティバル』を楽しみたいっていうのを聞いて、迎えに来たって言ってたぜ。だから、もう少ししたらそっちに行くと思うから、しっかりと迎えてやってくれ』

「わかりました。わざわざありがとうございました」

『どういたしまして。んじゃあ、『ロンドフェスティバル』をしっかりと楽しめよ。後、ボス達によろしくな』

「はい」

 

 そして、ルイスとの通話が終わると、ロイはイクトの顔を小首を傾げた。

 

「ピカ、ピカピカッチュ?」

「んー……そうだな、そういう事ならあっちに戻るのは止めにして、『ロンドフェスティバル』が終わるまでここにいる事にしようかな。ルイスさんからも『ロンドフェスティバル』をしっかりと楽しめって言われたし、こっちにいる間に何か育て屋業に使えるアイデアが浮かぶかもしれないしな」

「メル。メル、メルメルメル?」

「ん……その間、スクルやブレイブ達はどこにいれば良いのかって?」

「ノーン」

「そうだな……レドやシオンみたいにロッカ博士のところで預かってもらおうかな。本当なら全員家で面倒を見たいけど、それは流石に難しいだろうし、博士のところならあいつらに何かあった時にすぐに対応してもらえるだろうからな」

「ピカ。ピカ、ピカピカピカチュ」

「ああ。あいつらの事を出迎えるためにも早く食べてしまおうか」

 

 イクトのその言葉にロイ達が頷いた後、イクト達は『ロンドシティ』に滞在している間にしたい事や『ロンドフェスティバル』についての話をしながら再び朝食を食べ始めた。

 

 

 

 

 それから約一時間後、ロッカ博士の研究所へ行くためにイクト達は両親達に声をかけてから外へ出ると、歩き慣れた道をのんびりと歩き始めた。

 

「それにしても、今日も良い天気だな。こんなに良い天気なら、みんなひなたぼっこや二度寝でもしてるんじゃないかな」

「ピカ。ピカ……ピカ、ピカピカピカチュ?」

「バトル大会に出る時のメンバーか……昨日も言った通り、みんなに公平にチャンスをあげたいから、実力以外も判断基準になるような試験をしたいよな。

 それに、その大会のバトル形式が何かもわかってないから、それをアーサーさんに訊いておかないといけないし」

「メル、メルメル?」

「そういう事だな。ポケモンにもシングル向きの奴やダブル向きの奴がいるから、その辺はしっかりと考えていきたいな。まあ、中には元々はシングルバトルをメインにしてたけど、気の合う相棒を見つけたからそいつと一緒にダブルバトルも始めた奴もいるけどさ」

「ノーン……」

「ああ。だから、出来るならシングルバトル部門とダブルバトル部門の二つがあればベストだな。そうすれば、色々な奴にチャンスをあげられるからさ」

 

 そんな会話を交わしながらイクト達が歩いていた時、前方から肩にラピスを乗せたシアとリアが歩いてくるのが見え、イクト達は嬉しそうな笑みを浮かべながら三人に向かって走り始めた。

 

「シア、ラピス、リアさん!」

「あっ、イクト君!」

「おはよう、みんな。今から博士の研究所?」

「はい。みんなにも会いたいですし、『ロンドフェスティバル』でのバトル大会についても話し合いたいですから」

「バトル大会……たしかにそうだね。私は出場メンバーを大体決めたけど、イクト君達は決めるのが大変そうだよね」

「そうかもしれませんけど、全員に等しくチャンスをあげたいので、しっかりと話し合いたいと思ってます。もっとも、バトル形式についてはまだわからないので、そこをアーサーさんに聞いてからになりますけどね」

 

 そう言いながらイクトが苦笑いを浮かべていたその時、街頭の電光掲示板に穏やかな音楽と共に『ベイカー・コーポレーション』のロゴマークが映り、それが消えると同時に今度は真剣な表情を浮かべるアーサーの姿が映し出された。

 

『皆さん、お久しぶりです。『ベイカー・コーポレーション』の社長のアーサーです。先日は私欲のために会社の人間や私を慕ってついてきてくれた人間達を使って、皆さんに不安と恐怖を与えてしまいました。本当に申し訳ありません。

 私は常日頃から人間とポケモンの関係性について考え、お互いの事を思い合いながら生活出来る世界を目指して、日々様々なアイテムや技術の開発に努めてきました。

 そして、とあるトレーナー達の旅に同行した際にも見られたポケモンを道具同然に扱うような人間が少しでもいなくなるようにしたいと考えていましたが、今回そんな私の思いが暴走し、多くの方々に危害を加えてしまったという罪は、この先も決して忘れず、もう二度とこのような真似をしないように自身を戒めていきます。

 私を止めてくれたトレーナー達、そしてこんな愚かな私を今でも社長として慕ってくれる社員達のためにも私は今度こそ全トレーナーとポケモンのために力を尽くして参ります。

 皆さん、この度は本当に申し訳ありませんでした』

 

 画面内のアーサーが頭を下げ、周囲はシーンと静まり返っていたが、やがて一つ二つと拍手の音が聞こえ始めると、それに続いて住民達は拍手を送りながら次々と画面に向かって声をかけ始めた。

 

「良いぞー、アーサー社長ー!」

「今度こそは頑張ってくれよー!」

「アーサー社長ー! これからも応援してますねー!」

 

 そんなアーサーに対しての激励の言葉にイクト達は顔を見合わせてから嬉しそうに笑い合った。

 

「アーサーさん、やっぱりみんなから好かれてるんだな」

「そうだね。アーサーさんが刑務所にいた頃も色々な人から応援の手紙が送られてたようだし、アーサーさんも『ベイカー・コーポレーション』もこれからまた頑張っていけそうだよね」

「もちろん、今回の件でアーサーさんや『ベイカー・コーポレーション』に対して不信感を抱いた人はいるみたいだけど、アーサーさん達の頑張り次第ではそういう人達もまた信じてくれるだろうし、私達も何かお手伝い出来る事があったら、アーサーさんに力を貸そうか」

「はい」

「うん!」

 

 リアの言葉にイクト達が頷きながら答えていると、画面内のアーサーは静かに頭を上げ、コホンと一度咳払いをすると、穏やかな笑みを浮かべながら再び口を開いた。

 

『さて、それでは次は皆さんも楽しみにしているであろう『ロンドフェスティバル』についてのお知らせです。

 この度、『ベイカー・コーポレーション』は、『ロンドシティ』の市議会との合同企画として『ロンドフェスティバル』でのポケモンバトルの大会を行います。

 大会では、今のところシングルバトルの部とダブルバトルの部を設ける予定で、一日かけて予選を行った翌日にトーナメント戦を行う予定ですが、皆さんからのご要望があれば、トリプルバトルやローテーションバトルといった別地方で行われている他の形式も取り入れようと考えています。参加資格などは特に無いので、どなたでもお気軽に参加して頂けます。

 そして、当日は新人トレーナー用のバトル講習会やポケモンとのふれあい講座なども行う予定ですので、バトルをしてみたいけど自信が無いという方やポケモンともっと親しくなりたいという方も楽しめると思っております。

 更に現在『ベイカー・コーポレーション』では、バトル大会への参加、バトル講習会やふれあい講座の講師を様々な有名トレーナーに打診しており、既にある一名からバトル大会への参加をして頂ける事になっています。詳細は明かせませんが、もしかしたらあなたの推しトレーナーが参加するかもしれませんので、楽しみに待っていて頂ければ幸いです。

 さて、そんなイベント達に参加したいけど、参加方法がわからないよというそこのあなた。本日より配信される『ポケフォン』用のアプリである『LFN(ロンドフェスティバルナビ)』から参加登録が出来ます。

『LFN』は『ロンドフェスティバル』で行われるイベントの詳細や会場のマップなどを見る事が出来、会場内にあるチェックポイントを通る事でスタンプを得られるスタンプラリーや特定の画面を見せる事で会場内の出店等の商品を割引き出来るクーポン機能などもあります。『ポケフォン』をお持ちの方なら、誰でも無料でダウンロード出来ますので、是非ダウンロードしてみて下さい。

 尚、『ポケフォン』をお持ちで無いという方もご安心ください。当日、会場の入口付近にて紙のマップやスタンプラリーの台紙などを配布する予定ですし、バトル大会などへの参加も『ロンドフェスティバル』のホームページや『ベイカー・コーポレーション』の本社又は支社の入口に置かれている参加登録用紙に記入してそれを受付に渡す事で行えます。

 皆さん、今年からの『ロンドフェスティバル』はまたひと味違った物になりますので、期待していて下さい。それではこれで放送を終わります。ご清聴ありがとうございました』

 

 そう言ってアーサーが頭を下げると同時に電光掲示板には再び様々な企業の商品のCMなどが流れ出し、住民達はどこかワクワクした様子で会話をし始めた。

 

「バトル大会の他にも色々なイベントを考えてるんだねぇ……そういえば、さっきバトル大会に有名トレーナーから参加をしてもらえる事になったって言ってたけど、それってイクト君の事かな?」

「あはは、どうでしょうね。たしかにポケモンリーグで準優勝という成績は収めてますけど、色々な人から推してもらえてる程の有名人かというと……」

「そう? 実はこんなサイトもあるんだけど……」

 

 そう言いながらリアは『ポケフォン』を操作し、あるサイトの画面を表示すると、それをどこか誇らしげにイクト達に見せた。

 

「……『イリストレーナーナビ』?」

「こんなサイト、あったっけ?」

「この前新しく出来たサイトみたいだよ。『イリス地方』でスゴい成績を収めたトレーナー達の名前やエースポケモン達が載ってて、一ヶ月に一回人気投票も行われてるんだって」

『へー、そうなんだ』

『それで、このサイトを見せてきたって事は、イクトもこのサイトで紹介されてるって事?』

「うん。最終進化系じゃないロイをエースにしてジム戦やポケモンリーグでのバトルを勝ち上がって来た事や他のトレーナー達とはまた違った戦い方をしてるのがポイント高いみたいで、人気投票では常に上位にいるみたいだよ。そして、誇らしい事にシアも載ってるんだなぁ、これが」

「え、私も?」

「うん。それもシアも人気投票で上位にいるんだ。いやぁ、可愛い妹とカッコいい義弟(おとうと)が色々な人から好かれてお姉ちゃんは嬉しいよ、本当に」

「もう、お姉ちゃん……私とイクト君はただの友達だよ」

「そうですよ、リアさん」

「ふふ、そっか。私としては二人がそろそろそういう関係になっても良いと思うんだけど、そこは二人にお任せするよ。さて、それじゃあロッカ博士の研究所へ行こうか。元々、イクト君達を誘うためにお家まで行こうとしてたわけだしね」

 

 そのリアの言葉に全員が頷いた後、イクト達は様々な話をしながらロッカ博士の研究所へ向けてゆっくりと歩き始めた。

 

 

 

 

 それから数分後、イクト達がロッカ博士の研究所に着くと、入口付近で座りながらうとうとしていたレドが少し眠そうな目でイクト達をチラリと見た。

 

『……お前達か。おはよう』

「ああ、おはよう。だいぶ眠そうだな、レド」

『ああ。昨日の夜は、シオンと一緒に他の奴らからの質問責めにあってたからな。少しだけ寝不足なんだ』

『あはは、なるほどね。それじゃあ他のみんなももしかして眠たそうにしてたり?』

『いや、シオンやフォード、ダスクなんかはさっき特訓するとか言ってたぜ?』

『ほう、特訓か。やはり、皆バトル大会には出たいのだな』

『そうだろうね。イクトのポケモン達は、一部を除いてバトルするのが大好きだし、話をする時も結構バトルの事が多いから』

「でも、それだけやる気になってるのは良い事だよな。そういえば、お前はどうするんだ?」

 

 イクトからの問いかけにレドは軽く欠伸をしてから答えた。

 

『……個人的には出たいが、今回はパスだな。『ロンドフェスティバル』中に何かあった時、俺みたいに飛べるポケモンが控えてた方が色々助かるだろ』

「まあ、そうだな。それじゃあその時は頼りにさせてもらうぜ、レド」

『ああ、任せとけ。そういえば、少し前にレイとリーチェがクレイン達を迎えに行ったみたいなんだが、それについて何か聞いてたか?』

『うん。ルイスさんから連絡が来てたよ』

『それなら良いか。んじゃあ、俺は少し眠らせてもらうな。けど、何か用事があって別の街に行きたいとかがあったら、その時は遠慮無く声をかけてくれ。もちろん、シアやリアもな』

「うん、わかった」

「その時は頼らせてもらうね」

『おう。んじゃあ、おやすみ』

 

 そう言ってレドがすやすやと寝息を立て始めた後、イクト達はその姿を見てクスリと笑ってから研究所の中へと入っていった。そして、研究所のスタッフ達と挨拶を交わしながら奥へと入っていくと、研究室のドアがゆっくりと開き、中からロッカ博士が出てきた。

 

「あら……みんな、おはよう」

「おはようございます、ロッカ博士。さっき入口で眠そうにしてるレドに会いましたよ」

「あはは、やっぱり眠そうにしてたのね。シオンと一緒に他のポケモン達から色々訊かれてるようだったから、そうかなとは思ってたのよ」

『でも、シオンはフォード達と特訓をしてるんですよね?』

「ええ。でも、無理をしても良くはないし、イクト君達の方から少しは休むように言ってもらえると助かるわ」

「わかりました」

 

 イクトが頷きながら答えていると、ロッカ博士はイクト達を見回してから不思議そうに首を傾げた。

 

「ところで、今日はどうしたの?」

「研究所にお世話になってるみんなに会いに来たんです。『ロンドフェスティバル』が終わるまではいるつもりなので、その間にみんなともっとふれあおうと思ってます」

「ふふ、それは良いかもね」

「後、『ロンドフェスティバル』で行われるバトル大会のメンバーも決めていこうかと思ってます。今のところ、シングルバトルとダブルバトルの二つがあるみたいですけど、もしかしたら他にも増えるみたいですし、どうせ参加するなら全ての形式に出てみたいので」

『そして目指すは、全部での優勝、だね!』

「ああ。ウチのみんなはバトルが好きな上に負けず嫌いなところがあるからな。それくらいの意気込みでいかないとだな」

 

 イクトとロイが拳を軽くぶつけ合いながら笑っていると、その姿にロッカ博士達は安心したように笑みを浮かべた。

 

「イクト君、だいぶ前みたいになってきたわね」

「はい。あの頃は本当にショックだったみたいで、たまにバトルに付き合ってくれたんですけど、それでもどこかいつものイクト君らしくない感じでしたから」

「でも、今ではこんなにバトルに対してやる気だし、これなら心配はいらないかもね」

「そうね。あ、そうだ……イクト君、今日もウル達の研究をさせてもらっても良いかしら?」

「良いですよ。それと……レイ達がクレイン達を連れてきた時なんですけど、レドやシオンと一緒にウルの仲間達とエースの仲間達も研究所で預かってもらっても良いですか? 本当なら、家で面倒を見たいんですけど、流石に多すぎると母さん達も大変かなと思って」

「ええ、もちろん良いわよ」

「ありがとうございます。それじゃあ……ウル、エース、今日もロッカ博士の研究の手伝いをよろしくな」

『うん!』

『承知した』

 

 そして、イクトがロッカ博士にウルとエースが入ったバスケットを手渡していたその時、イクト達の背後から幾つかの足音が聞こえ、イクト達が揃って背後を振り返ると、そこにはシオン達の姿があった。

 

「お前達か。おはよう」

『はい、おはようございます、皆様』

『おはよう、みんな』

『皆さん、おはようございます』

「特訓中って聞いてたけど、何かあったの?」

『はい。主殿さえ良ければ、私達の特訓に付き合って頂けないかと思いまして』

「お前達との特訓か……もちろん良いぞ。でも、どうやって特訓するんだ?」

『俺とダスク、シオンと誰かが組んでダブルバトルがしたいんだ。なんだかんだで俺とダスクが組む事も多くなって、ダブルバトル用の戦術を考えるようになったからな』

「なるほど。そういう事ならちょうど良かったよね。バトル大会はダブルバトルの部もあるみたいだから、その練習にもなるよ」

「はい。よし……それなら、今からやるか。それじゃあシオンと組むのは……」

『はいはーい! 僕がやりたーい!』

「ふふ、わかった」

 

 イクトが笑いながら答えた後、ロッカ博士に視線を向けると、ロッカ博士はコクンと頷いた。

 

「バトルフィールドなら遠慮無く使って頂戴。こうして使ってくれるのは、貴方達くらいだからむしろ使ってほしいくらいよ」

「ありがとうございます。それじゃあ行こうか、みんな」

 

 その言葉に全員が頷いた後、イクト達はバトルフィールドへと向かった。そして、イクト達とフォード達がそれぞれ位置に着くと、フォードはやる気に満ちた様子でイクト達に話しかけた。

 

『さて、久しぶりのお前達とのバトル、楽しませてもらうぞ』

『ふふっ、楽しむのは良いけど、全力で来ないと負けちゃうからね?』

『それはもちろんわかっています。ですが、皆さんも私達のコンビネーションをなめていると、痛い目に遭いますよ?』

『ならば、そうならぬようにするまで。主殿、ロイ殿、参りましょう』

「ああ!」

『うん!』

 

 イクトとロイが揃って返事をしていると、ロッカ博士は審判の位置に着き、双方を見回しながら声をかけた。

 

「それじゃあ、審判は今回も私が務めるわね。ルールは2対2のダブルバトル、どちらかが先に全員戦闘不能になった時点でバトル終了とします。両者とも準備は良い?」

「はい!」

『大丈夫です!』

『問題ありません』

『俺も大丈夫だ』

『私も同じく』

 

 イクト達が各々の言葉で返事をすると、ロッカ博士はそれに対して鎮かに頷いた。

 

「わかったわ。それでは……バトル、スタート!」




第4話、いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。


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