Fate/GrandOrder 異邦の小鬼殺し (痩せた骸骨)
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小鬼殺しの日常:①

※注意書き
 クロスオーバー物のため、この小説の宣伝と商業行為は禁止させていただきます。


「ゴブリンだ」

「え?」

「来るのか、来ないのか、好きにしろ」

 

 カルデアのマイルームで白の制服を着た後輩──マシュと休憩していたら、唐突に話しかけられた。

 振り返ると、その姿で彼なのだとわかった。

 話しかけてきた人物──ゴブリンスレイヤーの風貌はかなり目立つのだ。

 全身の身なりがみずぼらしく、室内にいても外すことのない兜には、そこかしこに傷が入っている。

 左腕には取っ手のない小ぶりの円盾があり、中途半端な長さの剣は腰にぶら下げられている。

 革鎧は汚れているのか、シミなのか模様なのかわからないものでくすんでいて清潔感がまるでない。

 ジャンヌやネロとは異なる、なんというか英雄の雰囲気を感じない英霊なのだ。

 

「えっと、それは相談ですか? ゴブリンスレイヤーさん」

「そうだ」

 

 マシュと私──藤丸立香はため息をついた。

 ゴブリンスレイヤーの相談はどうも分かりづらいことが多く、頭を抱えたくなるほど口数が少ない。今に始まったことではないため、慣れつつあるが。

 

「……あの、ゴブリンスレイヤーさん」

「なんだ」

「説明もなく二択を迫ることを相談とは言いません」

「そうなのか?」

「そうです」

「そうか」

 

 マシュが諭すように注意をするが、彼が不思議そうに首を傾げていた。

 ゴブリンスレイヤー──長いからゴブスレで──の相談って、端的に話してくるから分かりづらい。相談をしてくれるから進歩はしてはいるんだけど。

 

「フォウ」

「あっ、フォウさん」

「うわっと」

 

 ゴブスレの近くにいたからか不快な臭いを嗅ぎとったフォウ君は抱き締めていた私の腕の中から飛び出し、マシュの懐に入り、顔を埋めてしまった。

 彼からの臭いが気になるのはしょうがないね。

 フォウ君がマシュの胸に引っ付いてるのは見なかったことにしよう。

 

「いつものことだけど、分かりやすく相談できない?」

「努力はしている」

「……本当にわかってる?」

「……ああ」

 

 彼はため息をつきながら頷いた。

 マシュは注意していたけど、彼の相談って一人で行くかそうじゃないかの違いしかない。

 一人で勝手にレイシフトしてゴブリン退治しに行くことがなくなったから良いけど。

 

「ところで、場所はどこなのでしょうか?」

「来るのか」

「行かないとレイシフトの許可は出ませんよ?」

「そうか」

 

 どうぞとマシュが用意した椅子に、彼は面倒くさそうにため息をつきながら無造作に座った。

 私は三人分のコーヒーを用意して、コーヒー粉を入れてお湯を注いだカップから湯気が立ち上った。

 

「ゴブスレもコーヒー飲む?」

「ああ」

 

 手渡されたカップを受け取り、まだ熱かったのか手に持ったまま中身を覗いていた。

 

「あれ、苦手だった?」

「……コーヒーとはなんだ」

「えっ」

 

 頭を傾げ、彼がコーヒーを知らないと言ったことに立香は困惑した。

 聖杯から授かった知識にはなかったのかな?

 

「ゴブリンスレイヤーさんは、見るのは初めてですか?」

「ああ」

 

 マシュも驚いたのか、唖然とした顔をしていた。

 

「コーヒーとはなんだ」

 

 彼は首を傾げながら再び聞いてきた。

 まるで、知らないものを見て好奇心を刺激された子供のようだと思ってしまった。

 表情は見えないけど、なんとなくそう思った。

 

「コーヒーは豆を燻して、粉状にしたものにお湯を掛けて溶かして飲む物で、眠気を覚ます効能もあります」

「眠気を覚ます、夜の見張りに使えるな」

「先輩もどうぞ」

「ありがとう、マシュ」

 

 マシュに手渡されたミルクと角砂糖を入れて、少し口をつけた後カップをテーブルに置いた。

 苦い。まだコーヒーは馴れないけど、ミルクと砂糖を入れれば美味しくなるから平気だね。

 それを見たあと、彼も飲み始めた。

 知らなくても飲めるものだと分かったのかな? 

 

「………よく兜着けたまま飲めるよね、どうやるの?」

「練習だ」

 

 アドバイスにもならない一言で綺麗に纏められた。

 えっ、コツは?せめて何か具体的なことは?

 そんな抗議の意を込めた視線はまるっきり無視した彼は一息ついた後、ゴブスレは姿勢をただした。

 マシュは苦笑いしながらもゆっくり椅子に座った。

 

「それで、どちらにレイシフトしたいのですか?」

「小鬼退治の依頼を請けた」

「依頼を?」

 

 ゴブスレは腰の雑嚢から手紙を出し、立香に手渡した。

 中身を広げ書かれている内容を読もうとしたが。

 

「古代ローマ字読めない」

 

 仏語はマリー達から教わってるけど、イタリア語はまだ手付かずのままだった。それを見越していたのか、ゴブスレはもう一枚手紙を差し出した。

 

「翻訳を頼んで入れている、確認できるはずだ」

「先輩、私も読んでもいいでしょうか?」

 

 マシュに手紙を渡して内容を読み上げてもらい、彼が小鬼退治をするのにレイシフトをする必要があることを知った。

 

「これは、ネロさんからの依頼ですか?」

「そしてその話をゴブスレが引き受けたと」

「そうだ」

 

 ゴブスレの話しをまとめるとこういうことだ。

 ネロが近辺の町に視察を行ったところ、町人たちから見たこともない怪物が作物と家畜を奪っていく姿を目撃したそうだ。

 しかしその怪物は力自慢の男たちで追い払えてしまえたため、国に訴えることはなかったという。

 ネロもその話を聞いて軍を動かすことはなかったが、念のため近くの森に斥候を向かわせたところ、謎の巣穴を見つけたということだ。

 この報告にネロは頭を悩ませた。村の家畜に被害が出ているのはこの村だけではなかったからだ。

 他の村に兵を向かわそうにも人理修復という未曾有の戦いが終わってまだ間もない。

 町の修復や事後処理、国境の前線にも軍を送っているため首都の兵を割く事はできなかった。

 そこで皇帝として、そして友としてカルデアに相談したと。

 

「その依頼をしなければならん」

「概ねの事情は理解しました、先輩もわかりましたか?」

「うん、だいたいは」

 

 わかったことは、ネロが困っているということ。そして私たちになんの相談もなく彼が依頼を引き受けてきたということ。

 事後承諾になっちゃったけど、ネロが困ってるなら助けにいこう。

 

「だけど、ネロが率先してやりそうなものなんだけど」

「そうですね、なにか都合が悪いのでしょうか?」

 

 ネロのことだから、心配ないと思うけど。

 

「依頼を無事終わらせたら、あとで理由を聞いてみよう」

「そうしましょう先輩、ネロさんも会いたいでしょうし、きっと喜びます」

 

 ともかく彼と一緒に依頼を果たしに行こう。

 

「…………」

 

 と、彼が此方を凝視していた。

 兜着けてるからわからないけど、彼からの視線を感じた。

 

「……国がゴブリン退治をするのか?」

「ネロだったら積極的に人を守るために戦うよ」

「……そうか」

 

 なにか思うところがあるのか、彼は少し俯いていた。

 ともあれ、私たちはローマにレイシフトするためロマンとの元へ向かうことにした。

 それはそれとして。

 

「いまさらだけど、匂いもなんとかしてね」

「これは工夫だ、小鬼どもは鼻がいいからな」

 

 鼻が曲がりそうな匂いが工夫って。見えないはずなのになぜか誇らしげな顔をしてるのがわかる。

 気のせいかもしれないけど。

 



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小鬼殺しの日常:②

「という訳なんです」

「それでローマにレイシフトしたいのか」

「そうだ」

 

 観測機シバの調子を見ていたゆるふわな雰囲気の職員──ロマンに事の経緯を説明をしていた。

 ゴブスレは隅に座り込んで所持していた道具を広げ、一つ一つ調べていた。

 

「ネロさんから頼まれたのでレイシフトの準備をお願いします、ドクター」

「立香ちゃんやマシュが一緒に行くなら問題ないよ、むしろそうしてくれないと色々困るよ」

 

 ゴブリンスレイヤーを見ながらため息をつき、表情を緩ませながら立香に向き合った。

 

「彼の手綱をしっかり握ってくれればこっちも安心できるよ」

「いつも一人で行動するからね」

 

 なにをやらかすのか読めないゴブリンスレイヤーの手綱を握ることは容易ではない。

 たった一人でレイシフトしてゴブリン退治をしに行ったこともあって、ロマンとしては気が休まらない心境だったのだろう。

 

「……イヤな事件だったよね」

「ドクター、事件とは?」

 

 ロマンが遠い目をしながら疲れたように頷いた。

 寝てないのか、疲れが癒えてないのか分からないけど、あんまり無理して欲しくないかな。

 

「彼がやり過ぎたことの後処理をしていただけで、気にしなくていいよ」

 

 ロマンがマシュの質問をはぐらかしていたとき、此方に来る足音が響いてきた。立香が振り向き、足音の主が笑みを浮かべて手を振りながらロマンの方に向かった。

 

「ゴブリンスレイヤー君がやっちゃった事件は置いといて、こっちの準備は万端だ、いつでも行けるよ」

 

 レイシフトの準備を終わらせて来た長い黒髪の絶世の美女──ダ・ヴィンチは報告をした。

 

「やあ立香ちゃん、マシュ、おはよう」

「おはよう、ダ・ヴィンチちゃん」

 

 いつものミステリアスな笑顔のダ・ヴィンチと挨拶を交わした。

 

「おはようございます、ダ・ヴィンチさん」

「元気よく挨拶するのは良いことだ。笑顔を絶やさなければ、自然とやる気が出てくるからね」

 

 いつもの挨拶をした後、ダ・ヴィンチちゃんはロマンの所に行き、私とマシュは座り込んでいるゴブスレが何をしているのか、気になって歩み寄った。

 

「何してるの?」

「装備と道具の点検だ、怠るわけにもいかん」

「ゴブリンスレイヤーさん、サーヴァントの武具は壊れにくい筈ですが」

「万が一が起こることもある、油断すれば死ぬ」

「ゴブリン退治なのに、少々物々しくないですか?」

「準備を怠って良い理由にはならん、奴等は馬鹿だが間抜けじゃない」

「小鬼でも知恵を回す、ということでしょうか?」

「そうだ」

 

 ──馬鹿なのに間抜けじゃない。頭は悪いけど考えなしだと思っちゃいけないということか。

 ゴブスレの用意周到な準備と格下だと見くびらない用心深さに、どれほどの修羅場を潜り抜けてきたのか想像もつかない思いだ。

 なにが彼をそこまで駆り立てているのだろうか。

 

「ゴブリンスレイヤーでも、命懸けなの?」

「そうだ」

 

 あっさりと、簡潔に言い切った彼にかける言葉が見つからずにいた。短い間だがゴブスレの言葉には冗談もウソもない剣呑な雰囲気を感じた。

 マシュと私がなにも言えずにいるとダ・ヴィンチちゃんがゴブスレに歩み寄ってきた。

 

「ゴブリンスレイヤー君、おはよう」

「ああ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが彼に挨拶をしていた。

 短いながらも挨拶をしたが、ダ・ヴィンチは不服だったのか、徐にゴブスレの兜を掴んで頭を力ずくで顔を向かせた。

 

「ゴブリンスレイヤー君、おはよう」

「……おはよう」

「よろしい。挨拶は大事なことだ、一日が始まるという自覚が生まれてくるものだ」

「そうか?」

「そうだとも」

「そうか」

 

 満足したのか、兜から手を離したダ・ヴィンチは頷いき、ズレた兜を直したゴブスレは此方を向いた。

 

「準備は終わったか?」

「マシュ・キリエライト、準備を整えました」

「私も準備できたよ」

「そうか」

 

 レイシフト準備の確認をとり、あとは起動するだけ。

 ロマンとダ・ヴィンチにそう伝えると。

 

「それじゃ私とロマンはオペレーションルームに戻るよ、気をつけてローマのお土産を買ってきてよ」

「観光旅行じゃないんだから、それは控えてね」

「ついでに助っ人も呼んでいるから安心したまえ」

 

 茶々を入れつつダ・ヴィンチはロマンと一緒に入り口から退室していった。

 

「助っ人?」

「誰なんでしょうか?」

 

 緊張感が高まる最中、再び機械音を響かせながら入り口のドアが開いた。

 潜り抜けて来た人物はよく知っているキャスターだった。

 

「ようお嬢ちゃんたち、またローマに跳ぶんだってな」

 

 オークの杖を携えた美丈夫──クー・フーリンが上機嫌に訪ねてきた。

 面白いことがあったのか、いつも以上にテンションが高い。

 

「助っ人ってクーフーリンだったんだ」

 

 心強い助っ人の登場に立香とマシュは頬が緩む思いだ。

 かつて特異点Fにて共に戦ったサーヴァント、彼の助けがあったからこれまでの人理修復を成すことができた。

 

「クーフーリンさん、こんにちは」

「おう、あの兄ちゃんに頼まれてな、今度は何しに行くんだ?」

「ゴブリンスレイヤーさんのゴブリン(小鬼)退治の手助けに行くところです」

「ゴブリン? あの性悪なゴブリン(妖精)か?」

 

 頭をかきながらキャスターは疑問を投げ掛けた。

 

「そうだ」

「そりゃまた難儀だな、あの性悪どもの退治とはね」

 

 困惑した顔を浮かべたがクー・フーリンはゴブスレを見ながら訝しんだ。

 ゴブリンにいまいち不安を感じないが、油断していい相手ではないことを立香は感じ取っていた。

 

「ゴブリンってそんなに強いの?」

「いえ、それほど強くはないですよ先輩」

「そうなんだ?」

「はい、少なくともサーヴァントが一人いれば十分安心なはずです」

 

 ゴブスレが退治する案件は人理の危機とは違うが、ネロが困る事態になっているのなら放っておけない。

 立香が人知れずに拳を握り固めていると。

 

「来るのか?」

「マスターが出向くってんなら、オレも付いていくぜ」

「そうか」

「お嬢ちゃん達の成長も見れて暇も潰せ、両手に花付きの仕事とくりゃ、一石三鳥ってなわけだ」

「そうか」

 

 男二人の話しも一段落ついたらしい。

 レイシフトに参加するのは四人。ゴブスレとクーフーリンが来てくれるだけでも心強い。

 ローマの地に何が起こるかわからない、いつもの手探りでゴブリン退治をすることにまだ不安が付き纏う。

 

「一石三鳥……とは言うが」

 

 ふと、ゴブスレが何かに疑問を持ったようだ。

 

「石ではなく、弓矢で射ち落とした方が早い」

 

 少なくとも一羽は確実に落とせると、ズレた事を仰ったゴブスレにクーフーリンは肩透かしをくらい、眉間に皺を寄せてていた。

 

「……お前さん、ことわざって知ってるか?」

「知らん」

 

 皮肉を一刀両断してゴブスレは荷物を纏め始めた、武具の具合を触り準備を終わらせて此方によってきた。

 ふとゴブスレは足を止め、腕を組んでいた。

 

「今のがそうか」 

「一石三鳥か?」

「ああ」

 

 今ことわざの事を分かったのか、ゴブスレは得心して頷いていた。

 

「正確には一石二鳥です、クーフーリンさん」

「細けぇことは気にすんなよお嬢ちゃん」

 

 おいキャスターそれでいいのか、キャスターなのに細かいこと気にしなくて良いのか。

 指摘したマシュの肩に手を乗せて、笑って誤魔化すつもりだ。

 

「正確な情報は必要だ」

「間違えて覚えていたら恥ずかしいしね」

「特に、ゴブリンの事は詳しく知る必要がある」

「ゴブリン以外の事は?」

「興味がない」

 

 なぜだろう、仕事一筋の駄目な人に感じてきた。

 立香がため息をして肩を落としていたがゴブスレは気にすることなく、部屋の中央にあるカルデアスに向かって行った。

 

「それじゃ行きますか」

 

 立香が振り向き、マシュとクーフーリンは頷き答えた。

 

「いつでも行けます、先輩」

「どれだけ腕をあげたか、期待するぜマスター」

 

 二人の反応に立香は強く頷き、ローマへとレイシフトするためにカルデアスへと向かって行った

 召喚して以来のゴブリンスレイヤーを伴った初レイシフト、小鬼殺しが危惧するゴブリンとは何者なのか。

 立香達三人はこのときまだ知るよしもなかった。



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小鬼殺しの日常:③

 目的の村よりも近い丘に到着した立香達。

 魔獣を飼い慣らした賊に襲われる道中だったが、キャスターが肩慣らしと称して一人で撃退してしまった。

 歯応えがねえヤツらだと愚痴っていたが、こうして無事にたどり着けたので良かったことにしよう。

 それよりもゴブスレがこっちに着いてからしきりにマシュの方を見ていた、というより盾の方を気にしていた様子だった。

 

「もうすぐ目的の村に到着するよ、立香ちゃんの健康状態も良好だ」

「いつもありがとう、ロマン」

 

 ロマニの緩く明るい声が届き、少し気が緩んでしまった。もうすぐとはいえ、わずか数十分の距離を歩くだけで何度も襲われ、気が休まることはなかった。

 ため息をついていると前方を歩いていたゴブスレが振り向いた。

 

「代わりが必要だ」

 

 自分の肩を揉んでいた立香が呆然として声の主を見た。

 マシュと向き合いながら提案を出すゴブスレ、唐突だったのでマシュは少し驚きはしたが話しが見えず、頭を傾げていた。

 

「代わりとは何ですか、ゴブリンスレイヤーさん」

「盾だ」

 

 盾、それはマシュが持ち運んでいる大きな十字架と円卓が組み合った宝具。背丈を越え、身体を隠してしまうほどで、サーヴァントでなければ振り回すこともできない代物だ。

 その武器にゴブスレは問題を感じて相談してきたようだ。しかし、その無遠慮な言い草にマシュは俯いて立ち止まってしまった。

 心配になった立香が止まったのに気づいたのかゴブスレも歩みを止めていた。

 

「……それは、私が先輩の足手まといだからですか」

「違う」

「えっ?」

 

 思いもよらない返答だった。ゴブスレはマシュの実力に不満はなく、ある点が気になっていたようだ。

 盾の替わりを要望する意図がわからず、どう答えたものか思案に暮れているとキャスターが近寄ってきた。

 

「なにが問題なんだ、ゴブリンスレイヤー」

「洞穴で振り回すには盾が大きすぎる」

 

 歩みを再開しながらキャスターの疑問に答えたゴブスレに、立香達も歩き始めた。

 

「代わりってのはその為か?」

「進退を決めるのに動きにくい、小さな盾が必要だ」

「どっかで調達するより作った方が早くねえか?」

「強度が問題だ、調達して武装を揃えればいいが、なければ別の手を考える」

「なら調達はオレがやった方がいいな、キャスターとは言えど足の早さは変わらねえからな」

「頼めるか」

「いいぜ、合流地点は巣穴の前で構わねえか?」

「構わん」

 

 杖を抱える様に腕組をしているキャスターとゴブスレが段取りを話している間、立香はマシュの近くに寄り添い様子を伺った。

 少し俯き気味だが、なにかを考えるように手を口に当てていた。

 

「ゴブスレが言ったことが気になる?」

「先輩。いえ、ゴブリンスレイヤーさんの説明は納得できるものでした。……ただ」

「何を考えているのか、でしょ?」

「……はい」

 

 兜のせいで表情が見えず、寡黙さ故に言葉が少ないゴブスレの距離感が掴めないでいるマシュは悪戦苦闘を強いられていた。

 当の本人はなんとも思っていないのか、特に慰めの言葉を掛けることはない。

 しかし立香はゴブスレが時折こちらに視線を向けていることに気づいていた。道中の移動でもこちらの歩幅に合わせて歩き、側を離れないようにして行動を共にしている。

 盗賊に襲われた時は真っ先に前に出て立香達を守ろうとしていた。

 立香はゴブスレの性格に気づきつつあったが、マシュはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

「気にしなくても良いんじゃないかなマシュ、彼は会話を好む性格ではないし、他のサーヴァント達と揉め事を起こしてないからね」

「ドクター、ゴブリンスレイヤーさんが悪い人ではないのは理解しています、ですがその」

「言いづらいをズバッと言っちゃうのが苦手?」

「……そうです先輩」

 

 苦笑いを浮かべたマシュの気持ちは分かる。

 ロマンも共感しているのか、困り顔でため息をついていた。

 

「俺がどうした?」

 

 話が聞こえていたのか、ゴブスレが立ち止まってこちらを待っていたようだ。

 いつの間にか離されていて、立香達は小走りで距離を詰め寄った。

 キャスターは話の内容が分かっているのか笑いながらマシュに耳打ちしてきた。

 

「ゴブリンスレイヤーのことはあんま難しく考えんな、ありゃ裏があるというより言葉足らずなだけだ」

「そうなのですか?」

「ああ。ウチの師匠に比べりゃ、付き合いが楽な人間(・・)だ」

 

 キャスターとマシュが何を話しているのか気になって耳を傾けようとして。

 

「村に着き次第ゴブリンの情報を集めに回る」

 

 ゴブスレが今後の事を唐突に切り出した。驚いて顔を見たが、相変わらず表情が分からない。

 こちらが話し出すのを待っているのか黙して見ていた。

 

「他には?」

「身体を休め、情報を集めながら装備を整える。やることはある」

「装備って言っても剣は振り回せないよ?」

「ないよりはマシだ。有ると無いとてば勝手が変わる、常に守れるとも限らん」

「マシュが守ってくれるとしても?」

俺が知らない(・・・・・・)ゴブリンがいるかもしれん、備えておく必要がある」

「分かった、そっちも休むんだよ」

「ああ」

 

 イヤに現実的な提案だが、備えあれば憂いないしが実際に役立ったことを知っている立香は素直に聞き入れた。

 話はそれだけだったのか、ゴブスレは静かに歩いていた。

 

「それでなんだけど」

「なんだ」

「ゴブスレは人と話すの苦手かな?」

「いや」

「その割には口数少ないけど」

「そうか?」

「お陰で分かりづらい」

「そうか」

「だから、少しずつで良いからもっと喋ってね」

「……」

 

 口を閉じたゴブスレだが、彼が考え込んでいると立香は思った。

 風が吹き、ゆったりと舞い落ちてきた葉が兜の隙間に入り込んだことを感じたのか、ゴブスレは手探りで葉を掴み取った。

 

「……善処しよう」

「ホントに?」

「ああ」

「じゃあさっそく喋ってみて」

「特に用はない」

 

 あっれぇ!?

 なにか語るのかと思っていた立香は肩透かしを食らい、半眼で睨んで無言の抗議を訴えてみたが効果はなかった。

 

「ゴブリンスレイヤー、立香ちゃんは趣味とか好きなものとか話すの待ってたんだよ」

「そうか」

「とういうわけで、リテイクしよう!」

「……」

 

 ロマンが呆れ果ててため息をつきながらもフォローし、ゴブスレは再び考え込んだ。

 

「好き嫌いは特にない」

「趣味も?」

「ああ」

「じゃあカルデアで見つかるといいね」

「……そうだな」

 

 ちょっと前進かな? 微かな手応えとも言い難い感覚を感じた立香は胸を撫で下ろした。

 

「先輩、ゴブリンスレイヤーさん、村の門に着きました」

 

 いつの間にか先に行っていたマシュとキャスターがこちらを呼んでいた。

 立香は振り返り、頷いて応えたゴブスレは並び歩き始め、村へと入っていった。

 



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