出直して来ていいですか? (ブルーな雛菊)
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アウトブレイク編
1


続くかは未定です!


ディビジョン・・・正式名称Strategic Homeland Division、略称SHDもしくはディビジョンと呼ばれる。

 

ディビジョン・・・・細菌テロが起きた場合、最悪の場合90%の人命が失われるという軍事シミュレーションOperation Dark Winterに対応するために発令されたDirective 51(即応部隊の設立)のことでである。

 

ディビジョン・・・それは高度な戦術と最新鋭の兵器を使いこなす訓練された民間人の事である

 

ディビジョン、通常は一般人に紛れ暮らしているが一度召集が掛かればエージェントとして任務を開始する。そう、我々は貴方達にとって同僚、隣人であり友人であるかもしれない。

 

 

世界最強と呼ばれる合衆国も目に見えない敵に対しては無力だと軍事シューミレーターが判断した。感染性と殺傷能力の高い細菌兵器は瞬く間に人々に広まり経済は崩壊、物流は停止し人々は生き延びる為に暴徒と化す。軍でも対処できないと判断された最悪の状況を打開する為に設立された部隊が我々SHD通称ディビジョンである。

 

エージェントは民間から選ばれるが、その採用・選定は困難を極めた。

高度な戦闘訓練に耐え最新鋭の兵器と機材を使いこなし電子戦、細菌兵器にも対応出来る人材。その上で危険思考がなく経歴がクリーンであり長期間の訓練で不在でも周囲から怪しまれない者、任務が発令した場合家族や友人の安全確保がされていない状況でも即座に現場へ駆けつける事の出来る者。

情報漏えいなど厳禁な機関の性質上、大々的に求人案内を出すわけにもいかず政府から膨大な人材の中からめぼしい人材を見つけ素性を洗い出しオファーを掛けるという気の遠くなる作業だった。最初こそ一般から採用していたが、やがて人事採用部は一つの結論へとたどり着く・・・「めぼしい人材を探すのが困難なら自分達で作ってしまえばいいじゃない!」と・・・

 

白羽の矢がたったのは身寄りの無い幼い孤児達。兵士としての寿命も長く、幼い頃から戦闘訓練を叩き込む事によって技術不足の懸念はなくなる。義務教育と平行して愛国心を気持ちばかり植え付けて一般採用のエージェントとは一線を越える最強の兵士の出来上がり。

・・・このことが世間に露呈したら反響があるとは思うが、当事者の私の立場から言うと災害で両親を失い途方に暮れていたところを拾い上げ育て、将来の就職先まで斡旋してくれている様なものである。ありがとうとしか言葉は無い。

 

訓練を終えたものは開放されて召集が掛かるまで一般人に溶け込む事となる。手塩を掛けて育て上げたエージェントを放し飼いにするとは母国の太っ腹さに感服する。

ともあれ訓練を終え、自由の身となった私は何気ない日常を過ごしている。洗面所で身だしなみを整えてハイスクールへ登校の準備を始める・・・鏡には今世で16年間共にした体と見慣れた顔が写っている。光の加減で若干青み掛かって見えるハーフアップの銀髪に、色素が薄すぎて金眼に見えるブラウンの瞳と碧眼のオッドアイ・・金髪や赤毛、茶髪など様々な髪色の人々の住まう合衆国においても私の容姿と髪色は一際目立つ。諜報員としては目立ちすぎるが私の教官曰く「スパイとして活動するのではなく国家の非常事態時の緊急要員として活動するのだから能力さえあれば問題ない」とのことだ。

 

エージェントの証であるスマートウォッチを腕に装着し家を出る。

私が着任して初めの頃は、ゲームのディビジョンの様にドルインフルエンザの様なバイオテロが発生しないかと黒幕の組織やバイオ兵器の情報を必死に探していたが、今のところその兆候は見られない。やがて前世の記憶があるせいで安易に現実とゲームを結びつけてしまったのかもしれないと結論をだした。

 

(もしかするとバイオテロなんて私が生きている間には起こらないかもね。ディビジョンが必要とされる状況は軍が対応出来ない最悪の事態なのだから)エージェントに出動命令が下るのは多くの命が喪われ後のない状況だ、少々退屈ではあるが平和であることは喜ばしい事だ。そう自身に言い聞かせ自宅を後にする……

まだまだ夏の残暑の残る9/26日…今日も変わり映えしない1日が始まる……誰もがそう信じていた

 




ルフィーナ・D・ガーランド……今作の主人公。転生者。前世はゲームのディビジョンを攻略半ばで不幸にも事故にあってしまう。
アクション映画が好みであった為、今世では幼い頃から意欲的に訓練に参加していた事もあり高度な戦闘技術を取得している。
容姿は身長160cm(欧米としては小柄)銀髪ハーフアップ、金・碧眼のオッドアイ、色白の肌などと色々と目立つ


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私の出番…あるの?

バイオハザード2進めなきゃ…
ディビジョン2も進めなきゃ……


~9/26 am10:30 学校(休憩時間)~

 

SHDエージェントは一般人と距離を置いて過ごしていかなければならない。それは情報漏洩を防ぐ為でもあるが有事の際に、暴徒と化した自身の友人に銃口を向けなければならない事もありえるからだ。私もその掟に従い毎日、教室の端で講義を受けている(コミュ症ではないんだからね!)お陰様で[深窓の令嬢]などと不本意な称号が付いてしまう始末だ……解せぬ!

 

そんな話づらい雰囲気を醸し出す私に好んで話しかけて来るのは…

「もー!また、眉間に皺寄せて本読んでる!せっかくの美人さんが台無しじゃない!」

 

…この子くらいだろう。初対面の私に「可愛い!お人形さんみたい!」と言いながら抱きつかれたのは記憶に新しい。その後も私の塩対応にもめげずに声を掛けてくる為、遂には私も折れてしまった。

真っ直ぐで人懐っこくめげない、まるで犬みたいな金髪の可愛らしい少女を視界に納め私は苦笑いを溢す。

 

「マリーさんおはようございます。相変わらず元気ですね、それと私の顔はいつもこんな感じです。」

 

「そんな事ないよ!ほら、眉間の力抜いてー」

 

友人が私の眉間をマッサージをしようとして伸ばされる手を避ける。

それが気に入らなかったのか、今度は両手でがっちりと顔をホールドされてしまった。

 

「……………」

「……………」

 

捕まって困惑する私、予想外に捕まえてしまって驚いている友人。暫く無言で見つめあった後…何故か柔らかい笑みを浮かべ此方に顔を近付けくる。

 

(近い近い!)

 

お互いの体温を感じてしまうほどに近い、自身の心臓が早鐘の様に鳴り響いているのを感じる。

唇同士が触れ合いそうな瞬間……[ピピピピピピ]とスマートウォッチのアラームで中断された。

 

周囲から嗚呼ーと悔しがる声が聞こえたのはきっと気のせいだ。

 

「すいません…急用が出来ましたので早退しますね。」

顔を真っ赤にしている友人に別れを告げる。

 

 

「あっ…あの……ルナちゃん…さっきのは……」

もじもじと挙動不審の友人…理由は解っている。ドッキリのつもりでキスしようとしたがネタバレをする前に中断された為、勘違いされていないか心配なのだろう。

 

(そんなに恥ずかしいなら思い止まってくれたら良かったのに……まぁ、確かにビックリしましたが)

「ドッキリでしょ?わかってますよ。」

 

何故か安堵と無念さが入り交じった表情になっている友人…

(今日は驚かれされたし仕返ししてもいいよね?)

 

「それでは行ってきます。」

友人の額にキスし、真っ赤になった友人を残し颯爽と立ち去る。

(フフフ…公衆の面前で悶えるがいい!)悪い笑顔を浮かべながら…

 

 

 

普段、決してなることのないスマートウォッチのアラームが鳴動した。文字盤は通常時のグレーから任務・召集を意味するオレンジ色に色が変わっている。詳細はまだ知らされていないが国家の非常事態になりうる状況ということだ。

集合地点と時間にまだ余裕があるため自宅に装備を回収しに戻る。

厳重に保管された金庫から武器ケースとつい最近開発され支給された最新のガチェット、弾薬と医療キット携帯食料の入ったバックパックに自己修復金属プレートの入った軽量防弾ベストを取り出し装着する。

 

(まだ残暑が厳しいけど作戦区域ではないからベストを隠すためにロングコートを着なきゃいけないか…)

 

念のためにPcの電源を入れてドルインフルが発生していないか確認するが相変わらずその手の情報は入って来なかった。

(何が起こってるというの?)

舌打ちしながらルナは車に装備を積み込みピックアップ地点へと車を走らせた。

 

~9/26 pm4:59 ピックアップ地点~

閑散とした地下駐車場……自分を除き周りに人けはない。10秒ほど待機していると遠くからエンジン音が聞こえ此方に向かっているのが伺える。

(定刻通り…途中渋滞してた筈たけど。流石はプロね)

目の前で停止したバンに素早く乗り込み出発した。中には素敵なおじさま達が3人ほど詰め込まれている…正直むさ苦しい。

 

「これより空港に行きヘリに乗り換え現地へと向かう。空港到着予定は2000時、作戦区域侵入は翌日の0000時だ。作戦内容はヘリに搭乗後に説明する。」

 

無言で頷き窓の外から景色を眺める。流れていく車達、買い物袋を持った親子、屋外カフェテリアでお茶をする男女

(いつもと変わりのない景色…)

平和な日常の風景が流れていた。

 

~9/26 pm11:50 作戦区域上空(とある街)~

上空から見える街の景色は、夜にしては全体的に暗い。所々火の手が上がっており、炎の光が街の暗闇を調和している様に見える。

その景色を見たエージェント達は動揺してるのか先程から落ち着きの無い者も見受けられる。

(無理もない…いくら高度な戦闘訓練を受けたにせよ実戦は初めての者がほとんどだろうし。撃ち方を知ってるのと実際に人を撃つのでは意味が違う。)

 

「状況を説明する。9/24、現地に滞在しているエージェントから緊急の応援依頼があった。謎の病が蔓延し、街全体で大規模な暴動が起こった。現地の警官隊と衝突したが状況は悪い。9/25に軍を投入したが街の外部への暴徒や感染の疑いのある現地人の流出を止めるので精一杯の状況だ。第一派となる我々の任務は生存者の保護、主要施設を確保し後続のエージェント達の作戦拠点を設ける事だ。尚、通信棟は暴動により破壊されていると先程衛星写真で判明した、本部との長距離通信は現地の無線機を確保しろ。」

 

「なぁ、弾薬が尽きたら何処で補給する?」

誰かに似ている気がする素敵なおじさま1号が質問をする。

 

「現在、街への物流は当然停止している。弾薬、食料、医療器具は街に点在するセーフルームに備蓄があるので必要に応じて補給しろ。場所はアイザック(行動支援AI)にナビしてもらえ。」

 

「「「了解」」」

 

「作戦区域への侵入は暴徒の抵抗が予想される為、空挺降下で行う。マクレーン!お前は水道設備の確保。メイトリックス!発電所の復旧。ガーランド!現地の治安部隊の援護及び作戦拠点の設営。私は病院に降りてウイルスに関する情報の入手と後続の研究者の為のベースを設営する。」

 

名前を聞き思わず2度見してしまう。

(似てると思ってたけどご本人様?)

 

「隊長……もしかしてお名前はライバックだったりしませんか?エージェントになる前は料理人だったり?」

 

「すまない、自己紹介がまだだったな…ライバックであってる。確かに料理人の時もあったが今は整体師をしている。」

 

(ご本人様やん……元スペシャルフォースに元コマンドー、ついていない警察が一人いるけどこの人、別作では定年退職したciaエージェントだったりするんだよね……ぷちエクスペンダブルズ?私いらなくない??)

 

「お喋りはここまでだ。降下を開始する、まずは……レディーファースト」

 

「あの~隊長……私、空手の稽古が今からありまして……(このメンバーでは私の出番ないやん!一人で軍隊壊滅出来る化け物が3人も居るのに私の出番あるわけないやん!)」

 

「今日は休め!」

メイトリックスが笑顔で告げる

 

心の準備が出来ていないにも関わらず、後ろから背中を押されて宙に身を投げ出される。ヘリの扉から隊長が笑顔で手を振っているのが見える。

 

「チクショー!ライバーック!」

不本意ながらこうして私の任務は始まってしまった。




マリー・ゴールド……ルフィーナ(ルナ)の唯一の友人。金髪ボブカット、青眼、素直で一途、ワンコの様になついてくる可愛い少女。バレバレだがルナの事が好き(本人は気付いていない)
暫く出番はない。

隊長…ライバック。元特殊部隊隊長。前職は料理人、現整体師。強すぎる為ボスが雑魚キャラその1になってしまう。ぶっちゃけ銃なんていらない。

ジョン・メイトリックス…元コマンドー、今は山奥で自給自足している。筋肉もりもりマッチョマンの変態。この人も銃なんていらない。

ジョン・マクレーン…色んな事件に巻き込まれる不幸な警官。今作では元凄腕ciaエージェントの過去をもつ。銃撃されようが爆破されようが乗ってるヘリが墜落しようが死ぬことのないタフガイ

ルフィーナ・ガーランド…濃いメンバーに囲まれた可哀想な隊員。
戦闘能力はトップクラスだが周りのメンバーが化け物揃いの為目立たなくなるかも……エージェントの人数不足の為、各メンバーは単独行動を強いられる事となるので出番はある!

……というか主人公視点ですすむので出番はある!逆にチームメンバーがいると難易度が崩壊してしまうのであまりエクスペンダブルズ達は物語に出せない気がする……


Q:このメンバーが一般人枠なのはおかしい!
A:元軍人でも今は民間人です!よって民間人枠!(暴論

Q:自己修復金属プレート付き防弾ベスト?
A:デヴィジョンの回復するアーマーをどう表現するか迷った末に生み出した物。最新鋭の金属を使用しているため消耗しても時間経過、もしくは特殊な薬剤で防弾性が回復する

Q:ヘリの中でソワソワしてたのは誰か?
A:マクレーン。恐怖や武者震いではなく単純にトイレを我慢していただけ



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3

~9/27 0:00 ○○シティ(作戦区域上空~

 

空挺降下、暴徒化した市民が降下中の隊員を狙撃するリスクを最大限に減らす為にギリギリまでグライダーの展開を遅らせる。短い降下時間の中で徐々に鮮明に見えてくる街の景色は予想を上回るものだった。乗り捨てられた車やベッドや食器棚が乱雑に積み上げられ、あちらこちらに簡易的なバリケードが作られている。メインストリートには溢れんばかりの暴徒化した市民と思われる人影で埋め尽くされており、いたるところから絶え間なく銃声や悲鳴が聞こえてくる。

 

(私達は最悪を想定して訓練されたけど…これは予想以上ね)

暴徒の数は街1個分かと思える程の量で、これを鎮圧するのは流石のエージェントでも単独では不可能だ。

(当初の予定通り、治安部隊と合流して対策本部を設置、ライフラインを確保して状況が鎮静化するのを待つしか方法は無さそうね。)

 

グライダーを展開して降下地点を探す。警察署に降りることが出来ればわざわざ移動する手間が省けるのだが、既に大量の暴徒に包囲されているのを確認出来た為、少し離れた地点へと着地した。身動きがとれない状況で集中砲火されれば一秒持たずに蜂の巣になってしまう…やむ終えない。

(運よく誰にも気付かれていないみたいね)

「此方ガーランド、作戦区域に侵入した。生存者を保護しつつ警察署に向かう。オーバー」

 

「了解。ウイルスの脅威は未知数だ、生存者への接触は十分に注意せよ。これより本機は帰投し、エージェント第二派投入の準備を開始する。無線機が確保でき次第SHD本部へ状況を報告せよ。オーバー」

 

「了解した。アウト。」

 

上空のヘリとの無線を切り最新鋭ガチェットの動作確認とセーフティーを解除する。

 

ガチェットは現在の最先端の軍事技術が採用されている。いくつか例を上げると、タレットと呼ばれる自動で敵を識別し迎撃するセントリーガンや、ハンドボールくらいの大きさの球体で自動追尾し炸裂するマイン、機銃を装備した軍用ドローンや即座に消耗したアーマーを回復する薬剤を注入したランチャー、分かりやすい物で言うと携帯式で7.62mmの弾丸を耐え抜く高性能の盾など様々だ。

 

エージェントはこれらを使いこなす事で、単独でも多数のゲリラや訓練された特殊部隊をも相手にとることが可能だ。勿論、エージェントの中には小道具に頼らずに敵を圧倒する猛者も居たりするのだが……

 

私が今回持ち出したガチェットは2種類、銃撃戦を想定してドローン・ディフェンダー[内蔵されたソニックエミッターによって迫りくる弾丸の軌道を逸らす]とアーマー回復材が注入されているケミランチャー・レインフォーサーだ。

ドローンは銃撃戦では優秀で、簡単に言うとマ○オのスター状態だ。相手の弾丸は此方に当たることはなく一方的な戦況を作り上げる事ができる。

(バッテリー消費が激しくて1分も持たないのが珠に傷なんだけどねー)

 

 

建物を一つ隔てた路地から悲鳴が聞こえた。

(任務は警察署の安全確保…だけど、さっきの悲鳴は近かったし先に生存者を救出しますか)

メインウエポンのG36[外観はSL-9風にカスタム]とMP7、サブウエポンのM1911ガバメント[6インチカスタム]の薬室に弾丸を装填し、作戦を開始する。

 

クイックピークとカッティングパイを使用しつつ、予期せぬ接敵を警戒しながら悲鳴の場所へと急ぐ。たどり着いた場所には血痕だけが残っており人影はない。路面に付いた血痕の跡を辿りながら更に暗い路地裏の奥へと進んで行く。

 

周りの建物の明かりはなく、分厚い雲のせいで月明かりすらない袋小路、血痕の跡は其所で途切れている。クチャクチャと咀嚼音をたてながらひたすら何かを貪り食っている男性を見つけた。

 

(おかしい…先程の悲鳴は女性のものだった。それならば、この男性は暴徒で女性に危害を加え食料を奪ったと考えるべきか)

目の前の男性への警戒度を一段階上げる。

マグライトの光を当てて男性を観察する。

(武装を所有している様には見えない…後ろ姿だけでは判断出来ない)

 

警戒しながら少しずつ正面へ回り込む

(何を食べているの?それにこの臭い…)

例えるなら腐った香りというのだろうか?アンモニアの様な鼻にツンとくる香りが漂っている。ウイルスの空気感染への対策として特殊なマスクを着用してるが、フィルター越しにでも感じ取れる異様な空気に表情が引き締まる。

横顔が確認できるかという位置でようやく男性が私に気付いたのか、立ち上がり此方を振り向いた。

 

食いちぎられた頬、剥き出しになった歯、血の気のない肌、白濁した瞳、血塗れの両手には紐の様な物が握られている。

「……腸」

 

男性とバリケードの影で隠れて先ほどまで見えなかったが。横たわった女性の足が物陰から見えた。

 

「……一応警告しておく。其所で止まれ!それ以上近付くなら敵勢力と見なし対処する。」

 

うめき声をあげながら止まる気配のない男性に対して、即座に5.56mmフルメタルジャケット弾が放たれる。

ライフリングにより回転しながら頭部に着弾した弾丸は、着弾と同時に回転の軸がズレる。体内で弾丸が横転することでよりダメージを与え、運動エネルギーをもて余した弾丸は後頭部から大穴を開けて排出される。ただの屍になった男性を眺めながら自身が見落としていた事柄に気付く。

 

(おかしい……これじゃあ…まるで…)

 

大通りにでて薬局を探す。エージェントたるもの如何なる状況でも冷静てなければならない

思考の末たどり着いた可能性を否定出来る証拠があるはず!

たどり着いた薬局…店のウインドウにはポスターが貼り出されている

[10歳若返る魔法のハンドクリームAQUA CURE]

……見覚えのある赤と白のロゴマークの横に社名が書かれている[アンブレラコーポレーション]

 

「…………」

エージェントたるもの如何なる状況でも動揺してはならない。一瞬の隙が命を喪うこととなる。

任務目的である警察署が見える位置…非常階段からアパートの屋上へ上がりG36の光学機器[スコープ]で建物を確認する。

 

ご丁寧にデカデカとライトアップされた[R.P.D.]の看板が見えた

(ラクーンシティ警察……)

 

つまり、アウトブレイクはアウトブレイクでもドルインフルではなくTウイルスで、私の敵は暴徒化した市民や反政府ゲリラではなくて生きる屍と言うことだ…私が持ってきたガチェットは2つともガラクタに成り下がってしまったという事で間違いないだろう…

しかも数日後には浄化作戦という名目で戦術核が投下されるというおまけ付き。

 

……エージェントたるもの如何なる状況でも…………

 

「……此方ガーランド、応答願います。」

 

[ザザザザザザ]

ヘリへの無線は繋がらない、作戦領域を離脱したようだ。

 

「此方ガーランド、出直して来ていいですか?」

私の呟きは虚しく、この街の喧騒の中に消えていった。

 




一応タイトル回収しましたし……完結でいいでしょうか?(笑
ゲームのバイオハザードクリアして続編が思い付きましたら追加で投稿いたします。

(実はゲームの方でドローン・ディフェンダーをまだ使った事がなかったり…性能が違うかもしれないのはご愛嬌で


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4

完結と言ったな・・・あれは嘘だ!(相変わらずどこまで続くかは未定


一応、複数の「」を使ってますのでこの小説での使い分けを・・・
「」会話など人物が声にだしたもの
()思考や心の中の声
[]オペレーションシステムや入手した物など説明などに関するもの


~9/27 am1:00 警察署前 アパート屋上~

息を吸い込み気合いを入れ直す。

(ウジウジしててもしょうがない。私もプロらしく集中しよう。)

ルナの纏う空気が一変し、冷たく重いものへと変わっていく。任務遂行に必要のない感情に蓋をしキリングマシンが出来上がる。

 

[周辺状況のスキャンを開始……解析中……]

SHDウォッチを操作し周辺の建物の配置や屋外で反応する熱源などを解析する。

[解析完了…周辺に熱源なし。マップの更新を行います。]

(目の前に大量の感染者がいるのだけど反応なしか…タレットも使い物にならないようだね。)

タレットのセンサーは熱源感知式になっており、センサーの範囲に入った物を迎撃する仕組みとなっている。通常、エージェントの脅威となるものは熱を発するものだ…人であれ動物であれ、機械ですらエンジンやモーターなどの動力部では熱が発生する。現在の状況があまりにも…あり得ない事なのだといえる。

 

(今の武装ではガチェットの相性も、あれを相手にするための弾薬も足りない。)

歩く屍は銃を撃たないし、アーマーの有無など関係なくウイルスに感染した時点で死亡が確定する。現在持ってきている物は銃撃戦を想定していたため、物量任せで接近してくる脅威には無力だ。

 

(突入をかける前にセーフルームに立ち寄り態勢を整えるか…)

セーフルームへのルートをSHDウォッチで検索しナビを開始するとコンタクトレンズの液晶にガイドが表示された。

(時代は変わるものだねー)染々と時の流れを感じる。

 

 

 

「おいおい、やっこさん腐ってるぞ?いつからハロウィンになったんだ?」

共に街に降り立ったメンバーからの無線が入った

 

「マクレーン、無線を使うときはルールを守れ。丁度いい、現在の状況を報告しろ。オーバー」

 

「はいはい。此方マクレーン、水道施設を確保したが飲料水のタンクで感染した仏さんが水浴びをしているようだ。汚染された水が広まらないように街への給水を停止する。オーバー」

 

「此方メイトリックス。現在交戦中、発電所施設の状況は現在確認出来ていない。終わり次第、設備の状況を連絡する。オーバー」

 

「了解。マクレーン、施設停止後メイトリックスの応援へ迎え。」

(激しい銃撃の音が聞こえていたがきっと大丈夫だろう、なんせあの人だし。)

「お嬢ちゃん、そっちはどうだ?」

 

「現状警察署前。感染者が包囲しているため、一度セーフルームで装備を整えてから突入を開始します。尚、感染者は生存者を捕食している模様。スキャンでも熱源を感知出来ず…文字通り歩く屍となっていると思われます。オーバー」

 

「無理はするなよ、入手したウイルスの情報を伝える。ウイルスは感染者の唾液など血液感染するようだ…接近された際には十分気を付けろ。感染した場合初期症状は全身の痒みと空腹感、やがて死亡し数時間後…ハロウィンメンバーのお仲間入りだ。この街の汚染が何処まで進んでいるかわからないが、状況によっては最悪ともいえる判断を司令部が下すかも知れない。プランBとして各人、脱出ルートを確保しておけ、オーバー」

 

「「「了解」」」

 

「迅速に行動しろ、アウト」

 

(最悪の判断…つまり核による浄化ね)

バイオハザードというゲームの予備知識があるから理解できるが、Tウイルスは人だけではなく全ての生物に感染する。犬やカラス、ノミや地中に生息するワームまで…今でこそ近くに餌場があるためこの街にとどまっているが狩るものが無くなった時、街の外へ感染した生物が流出し始めたら軍ではとても止められない…世界が崩壊する。

こうなってしまった以上、核による浄化は免れないだろう。

(その前に生存者を集め脱出する。まずは警察署の確保)

私もこの街と共に滅びるつもりなど、さらさら無い。

ルナはガイドに従いセーフルームへと歩きだした。

 

 

 

~9/27 am3:00 セーフルーム付近~

 

(無駄に時間がかかった…)

途中、感染者の大群やバリケードで道が塞がれていた為迂回せざるおえなかった……流石に現在の装備で全部、相手する程の余裕はない。

 

(セーフルーム…近くにあるはずだけど……)

SHDエージェントが非常時に使用する予備の銃器、弾薬、食料などが備蓄されている建物、又は部屋だ。ロックが掛かっているため、エージェントしか入室出来ない様になっている…一般人にとっては開かずの扉なので怪しまれない場所に設置されている事が多い。マンションの非常階段からしかアクセス出来ない屋上の小屋であったり、レストランのスタッフルームから地下に梯子が降りていたりと様々だ。

今回向かうセーフルームはどうやらブティックのようだ…店内に入る。ガイドラインは更衣室へと延びていて鏡の掛かっている壁の中へと延びていた。

(ゲームだったらバグにしかみえないよね…これ)

目的地が壁の中、役に立たないナビ……ゲームあるあるだ。勿論、現実ではそんなことはない。SHDウォッチを鏡にかざしながら調べていると[ピッ]と電子音が鳴った後、鏡の掛かっている壁が開き地下へと続く螺旋階段が現れた。

 

 

~9/27 am3:05 セーフルーム内~

10人入れば狭いと感じてしまいそうな部屋・・非常時に備え食品、弾薬、銃器、ガチェットと通信設備が用意されている。

(本部との連絡はとれそうね)通信設備とSHDウォッチを同期すれば離れた場所からも本部との連絡が出来るだろう。PCの電源を入れて現在の状況を確認すると、最後にこのセーフルームに食品などの物資を運んだのは2年前という事が確認出来た。

[認証コードを入力……装備保管庫のロックを解除]

行動支援AIが面倒なロック解除をしてくれるので助かる。

 

ガチェットの予備を探すとタレットとシールドを見つけた。タレットは熱源感知式の為、ゾンビ達に自動照準・迎撃は出来ないが何も射撃が出来ないわけではない。マニュアル照準に切り替える事で自身の指定した位置へ射撃を行える。照準は自身の視線をコンタクトレンズが読み取る為、タレットでの攻撃中は対象から視線を離せなくなるのが欠点だが…その代わりといっては何だが、自身が敵の脅威を察知しトリガーを引くので、現状支給されているタレットのセンサーよりは柔軟で素早い対応が可能となる。

(回復剤(レインフォーサー)は置いていこうかな…荷物になるだけだし)

 

 

弾薬箱から自分の使う弾を探すがMP7で使用する4.6×30mmの弾薬は見当たらない。

(比較的新しい銃だし仕方ないか)

タレット用の22LR弾と給弾ベルト、5.56と45APC……それとMP7の弾薬を使いきった時のために保管庫からM93Rと9mmParabellumを取り出し、空きマガジンに弾込めを行っていく

 

(地道よね~映画みたいにポンポン使い捨て出来たらな~)

9mmの弾込めを行っている最中にふとカートリッジのリムに刻まれた文字に目がいく

「Si vis pacem, para bellum……」

 

(汝平和を欲さば、戦への備えをせよ………装備を整える為にセーフルームに出直した私にとっては皮肉よね…)

一人、苦笑いを浮かべながら黙々と作業を行っていく……カチッカチッカチッと弾を込める音だけが響く部屋、それはまるで嵐の前の静けさを感じさせるものがあった。




ルナちゃん黙々と作業してます(心の中は賑やかですがw

メイトリックス(交戦中)・・・この人なら放置してても大丈夫!弾が無くなっても農具があれば数人は殺れる!

MP7・・・要人警護などに開発され専用弾薬4.6x30mm弾を使用する。
本作ではSHD内でもまだ浸透しておらずラクーンへの配給には間に合わなかった

M93R・・・こちらも要人警護むけ。コンパクトであり比較的入手しやすいと思われる9mmを使用する為ルナがチョイスした

Si vis pacem, para bellum・・・汝平和を欲さば、戦への備えをせよ
これは戦う為の準備ではない、(自身の尊厳を)守る為の準備だ
という言葉があります。本来の意味は相手が簡単に手出し出来ないようにするという抑止力的な意味合いが強いかと思います。


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一般市民として・・・

色々独自設定はあります。


~9/27 am10:00 ラクーンシティ警察署~

地下駐車場シャッターが上がると同時に、けたたましいサイレンの音と共に多数の警察車両が隊列を組んで出撃する。当然、署の前には夥しいほどの歩く屍が居るが、バンを先頭にした車列は速度を緩めることは無い。先頭のバン・・・8.4LーV10エンジン搭載のベアキャット装甲車は屍の山に突っ込み紅い絨毯を残しながら悠然と進む。これまで数々の凶悪犯の弾丸から乗員を守り続けてきたその装甲は最早軍用LVといっても過言ではない粋に達している。重量10トンを越える車体の前に、いくら人が立ちはだかろうと止めれる要素など何一つ無かった。

署長がラクーン市警の精強さを民衆にアピールする為に大枚はたいて購入した車両がこれ以上ないまでに活躍していた。

 

「こんな時にS.T.A.R.Sの連中やケビンがついて来てくれたら頼もしいんだがなー」

 

「ケビンのやつは仕方ない、署内に残る生存者を誰かが残って警護しなきゃならんだろう・・・S.T.A.R.Sは・・・そうだな、誰か一人でも真面目にあいつらの話を聞いてればこんな事には・・」

 

「ああ、この町に異変があった時には既に生き残りのS.T.A.R.Sはこの町を離れていたって話だ・・・今思うと正しい判断だよな。」

乾いた自嘲気味の笑い声が車内に響く、きっと生きてはこの町を出ることは出来ないと乗員達も薄々感じ始めているようだ。この車の行き先はメインストリート。署長の出した作戦は生存者の保護と脱出経路となる大通りの安全確保だった。確かに大通りにはバリケードは設置されていない為、装甲車以外でも通れるように安全確保できれば脱出経路となりうるが・・・

(いや・・・正確には突如現れたゾンビの大群にバリケードを設置する暇さえなかったが正しいか・・脱出出来るだろうよ!今も蠢き犇くゾンビ共をどうにか出来ればな!)

 

皆が知っている、大通りには既に生きている者など居ないという事を、自分達が向かうのは希望ではなく絶望だという事を・・・

 

~9/27 am11:00 メインストリートから1km周辺地域~

[周囲に熱源感知]

準備を終え警察署に向かう途中、唐突にアイザックから生存者を意味する報告が入った。数十秒後、車列が通りを猛スピードで駆け抜けていく。

(警察車両・・・彼らか・・・行き先は検討はつく。)

酷く気は進まないがルナはため息をつきながら進路を変え車を追う。

 

~am11:10メインストリート~

車を停車させ盾にするような形で速やかに隊員達が配置につく、選別警官隊と呼ばれるだけあり一切無駄な動きはない。眼前には大量の人だったもの達・・・・

彼らのうめき声と共に檄鉄は落とされた。

 

 

前方で発砲音が聞こえた

(既に始まったか・・・こっちは走りだというのに!)

警官隊とルナの距離は200mほど、その20m先にはゾンビ達が行進していおり、圧倒的な物量差で既に押され初めている。前日にアンブレラが雇った傭兵部隊U.B.C.Sが数時間で壊滅したように、今でこそ警官に死者は出ていないがそれも時間の問題だった。

 

(よく無謀と勇敢は紙一重という。他者が見れば彼らの行動は前者と捉えられるだろう・・・愚かだというだろう)

G36のセーフティーを解除し、走りながらセミオートで精確にゾンビ達の頭部を打ち抜いていく・・・

まるでフルオートのような速度で次々放たれる弾丸は前方に居る警官や車両の間を一発も当たることなく標的だけに着弾していく。ルナの精確な狙撃で前列のゾンビは一掃されるが、すぐに後詰めがその屍を越えて近づいてくる為、警官とゾンビとの距離は変わることない。

 

(だけど、私はそうは思わない)

(誰かが立ち向かわなければならない、誰かが助けを求める者に手を差し伸べなければならない、彼らは運命に抗った・・・)

(私は彼らを愚かだとは思わない。)

 

警察車両のボンネットの上をまるでスライディングするような形でダイブし最前線へと降り立つ、その際にボンネット上に置き去りにしたタレットを起動し装填された22LR弾が怒涛の勢いで発射された。

 

22LR弾・・・エージェント内でも威力不足の声もある。だが、少数精鋭のエージェントをサポートする上ではやむおえない事だった。タレットは前方の敵に集中放火を浴びせる他にも、背後・側面に設置して迂回して挟撃を狙う敵を牽制する際などにも使用する。リロードする際は一旦回収しないとならない為、大量の弾薬を装填できる22LRが採用されたというのが背景にある。それに小口径・低反動故にその発射レートと命中率は高い。

そして、非力とよばれるがアーマーを着ていない標的にはそこそこ有効であり、過去10数人の死者を出した銃撃事件も実はこの弾薬が使われていた事もある。

 

視線で標準を合わせ発射命令をタレットに指示しながら並行して別の標的を自身のG36で射撃を行っていく。視線はタレットのマニュアル射撃の為にタレットの標的からは外す事が出来ない、その為一瞬だけ敵の位置を確認し、敵の向きや動作から予測される位置に一切そちらに視線を向けることなく射撃を行う。

 

ルナが幼い時に身につけた技能だった。訓練した相手は同じ訓練生や現役軍人、そして先輩エージェントにあたる教官達、それらを圧倒する為に生み出した技、それはゾンビだけでなく対人戦にも適応される、一度視界に納めた敵から次に予想される敵の動きを予測する、銃口から発射タイミングと弾道を読み取り即座に回避行動をとり反撃を行う。相手が物陰に隠れようとも反撃の為に身を乗り出した瞬間、銃を構える前に一瞥をもくれることなく即座に撃ちぬく。コンセプトは某映画のガンカタに似ているとは感じている。

唯一の弱点は視認できないほど離れた遠距離からの狙撃、そちらはアイザックにあらかじめ網を張り感知してもらう、最悪の場合はドローン・デフェンダーを展開して狙撃された銃弾を着弾前に叩き落すことで対処している。

 

タレットとG36、手数は2倍になった程度だが警官隊とは違い一発たりとも無駄弾なく頭部に撃ちこんでいるので殲滅速度は先ほどまでの比ではない。前方の群れをほぼ一人で押さえ込んでるため、手を止めあっけにとられてる警官も居るほどだ。

 

だが状況は変わる、銃声を聞きつけたゾンビたちが左右の建物からなだれ込んできたのだ。すぐさまMP7を引き抜き3方の敵を同時に対処する、背後を包囲されつつある為、時より一回転ターンし敵の情報を更新する。

 

MP7を真上に放り投げG36の弾装が空になる前・・・一発だけ薬室に弾丸を残した状態で弾薬が装填されたマガジンに交換することでコックする手間を省く、MP7をキャッチし射撃を再開する。

 

派手に暴れている分、警官達よりもこちらに向かってくる敵が多いように思える。(ありがたい事だ)

G36の弾が切れると共に地面に伏せる、直後背後からタレットが掃射し自身周囲の敵をなぎ払う。

(タレット残弾0・G36はマガジンに装填してるものは切れた)

M93Rを引き抜き射撃を再開する、相変わらず囲まれているが既に付近の敵は100を切っている。

 

全方位を射撃しながら太股に縛ったむき出しのマガジンを銃底に叩き込むようにリロード行う。前方から掴みかかろうとする敵を半身で避け、すれ違いざまに頭部に一撃、勢いをそのままに背後の敵に肘で頭部を強打し怯んだ敵を掴み左側の敵へ投げ飛ばす。コートの襟元を掴まれた際は相手の肘に銃撃を行い関節を破壊して拘束を逃れる。カニバサミで相手を引き倒しそのまま足だけで拘束して一体を無力化、前方の敵に集中砲火後、拘束してる相手にトドメをさし立ち上がる。

(残りは左右の10体か)

胸ポケットからMP7とM93Rのマガジンを取り出し宙に投げた。

空中で左右の銃に弾倉を叩き込みそのまま左右の脅威を排除する。

 

暫しの沈黙、誰も唐突な乱入者に対して口を開こうとはしない。屍で埋め尽くされた道路、感染者がまだ残っているが、かなり距離があるため放置していても問題なさそうだ。

ルナは黙々と地面に転がっている使用し空になった弾倉を拾い集めていく

(めんどくさい・・・でもタナトスを目の前にして「焦ったら負けだ」とか言いながら弾込めしたくないしな・・・)

(G36残弾120・MP7残弾0・M93R残弾60・タレット0・・・タレットは廃棄するか)

SHDウオッチからタレットの自壊プログラムを作動させ、とても小規模な爆破解体を行った。

(ガチェットを回収されるわけにはいかないからね)

最新技術の詰まった装備を第三者に回収・解析されるわけにはいかない。

(MP7・・・荷物になっても自分の装備は絶対持ち帰る!「お前の友達はライフルだ!」って軍曹も言ってたもん!)

 

「お・・・おい・・あんたは?」

 

「私ですか?私は昨日まで一般市民として平和に過ごしていましたよ?(今は違う)」

問いかけた警官は微妙な表情をしている・・・そりゃそうだ

 

(私達はこの国にとって最後の矛であり盾である・・・我々は・・・デビジョン)

ルナは心の中で静かに返答した。

 

 

 



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死守~Silent night

ディビジョン1 サイレントナイトトレーラーみたいな感じに仕上げてみたかったなと(笑



~9/27 pm6:00 ラクーンシティ警察署~

マービン警部視点

既に警察署は包囲され、脱出は困難な状況になっていた。反撃出来る技量を持つ特選警官隊は署長の指示の元、各地に駆り出され肝心な時に警官署内に残る者は必要最低限。しかも、大半の者が今まで平和に過ごしてきた一般人ばかりで、署を守る警官は10名程度だ。更に、長距離通信の出来る無線設備は破壊され外部との連絡は取れない。

 

古い署内の地図から発見した…女性が一人、通れる程度の隠し通路から婦警のリタを脱出させたのはいいが、彼女が襲われずに無事に応援を呼んでこれるか…それまで、この警察署が持ちこたえられるのかも神頼みだ。

「マービン!正面のバリケードが突破される。」

息を荒いながら叫ぶ同僚、直後鳴り響く金属音。例えその場に居なくてもその音が何を意味するのか容易に想像出来た。

 

「正面ゲートが突破された!敵がなだれ込んでくるぞ。戦える者は武器を持ってロビーに集まれ!」

「女、子供、負傷者は堅牢な作りの押収保管庫へ避難させろ。エリオット!地下駐車場の下水道から包囲を抜けて、地上に出れないか偵察を頼む。」

 

一気に指示を飛ばす。これが、現在出来る限りの最善だと信じて。

「我々に退路はない。何としてでもここで食い止めろ!」

 

 

    ・

    ・

    ・

    ・

シンディ視点

その日私は、バーでウエイトレスをしていた。日々の業務、いつもの常連さん、焼き回しの毎日。そんないつもと変わらない日常…いつまでも続くと思っていた平和は無情にも、呆気なく終わりを告げた。

異変は、一人の酔っぱらいがバーに入店した時から始まる。席を案内しに近づいた同僚の首筋に噛みつき押し倒したのだ。常連の警察官……ケビンさんが即座に店の外へ不審者を放り出したが、それで終わったわけではない。店の扉に貼り付き、こじ開けようと扉を叩く不審者、それは時間と共に数は増えてきている。私はケビンさんに手を引かれるような形で、他の生存者と共に店を脱出した。より安全だと思われる警察署を目指して、何回も道を迂回しながら。

 

警察署には既に多くの生存者が集まっていた。最初こそ安全だと思われていた署内も、時間経過と共に周囲を包囲する不審者が増えており、逆に私たちが逃げる事が出来ない状況にまでなっていた。

 

そして甲高い金属音と共に警察官の怒号が飛ぶ。

「正面ゲートが突破された!…」

 

(あぁ…神よ……)

「戦闘が始まります!安全な場所に避難しますので子供、女性の方、怪我をされている方は私についてきて下さい。」

 

市民を誘導する声が聞こえる。ケビンさんに視線を向けると険しい顔で頷くのが見えた。

(本当は一緒に居たいけど、私も足手まといになるわけにはいかない。どうかご無事で…)

私は押し潰されそうな不安と胸を指すような感情を無視して、他の生存者と共に誘導に従った。

 

避難場所となる押収物保管庫は、西側廊下を通らなければならない。廊下は多数の窓があり外の様子を伺える…侵入を防ぐという意味では非常に頼りなく感じてしまうが、窓の外には警察署を囲む様に頑丈な塀と柵があり、感染者程度の力では柵を隔てた此方側まで来ることは出来ない筈だった。

 

[ジャリッ]

ヒールがガラスを踏んだ音で気がついた。

(窓が破られている…)

柵と塀は依然として健在であり、窓の近くには感染者の気配はなかった。

(どうして…?)

異変は感じているが、何が原因か検討がつかない。そんな形の無い不安だけが募っていく。そして、良くない想像は良くない物を引き寄せるとよくいうものである……皆の不安が最悪の形となって実現してしまう。

 

[ドチャッ]

背後で粘性を持った重い物が地面に当たる音に気付き振り返ると、人間の皮を剥ぎ取ったようなグロテスクな物体が、市民と最後尾を守る警官を別つかたちで其所にあった。

それは感染者の様な腐り始めた肉体ではなく、むき出しの筋肉繊維は瑞々しい上に太く、一目で強靭と判断できる。長い爪に鋭い牙、3mはありそうな舌、極めつけは頭部の大部分のスペースが剥き出しの脳で占領されて目が無い顔だ。

 

化物……」

 

息を飲む警官と私…だが、それは私を襲うことはなかった。まるで周囲を見渡すようにキョロキョロと、目の前に居る私達に気付いていないかの様に探し回っているようだった。

(見た目通り、目が……見えていない?)

 

音を立てない様にゆっくりと後ずさる。もしかしたら、このままやり過ごせるという希望を持ち始めたとき…それは絶望に変わった。

「ば……化物

気付いた他の市民の絶叫に反応して化物が動き始めた。

 

「私達が引き付けます!早く部屋に入って施錠してください!」

 

市民の誘導・護衛をしていた警官2人の発砲音を背中で感じながら市民は押収物保管庫にたどり着き鍵をかけた。

薄暗く狭い保管庫…中には女・子供・そして噛まれて負傷した者……

近くから、遠くからも発砲音が絶え間なく聞こえる。

(応援は……助けは来るのだろうか…?あの怪物を倒して私達を此処から連れ出してくれる人はいるのだろうか?)

狭い部屋に響く、幼い少女の嗚咽が未来を示しているかのようだった。

「大丈夫よ、神様は私達をちゃんと見守って下さるの」

絶望的な状況で気休めにしかならないと理解してはいるが、少女の心が恐怖で塗り潰されないように…私達の魂が安らかに最後の時を迎える事ができるように……

「歌を歌いましょう?神様に届くように…」

頷く少女、声を合わせて口ずさむ。

 

[Silent nightーHoly nightー]

 

やがて部屋に居る市民達も歌い始める

 

[[[All is calm, all is bright,]]]

 

 

~ロビー ケビン視点~

「クソッ! 数が多すぎる!」

ケビンは感染者の眉間を正確に撃ち抜いていく。S.T.A.R.S.採用試験にはその性格が災いして数回に渡り落ちているが、その実力は確かなものだ。一体一体確実に無力化していくがその速度を上回る速度で感染者が押し寄せて来る。弾は署内に分散しており、限られた時間で回収出来たものはほんの一部でしかない。

「リロード!カバー!」

弾込めの間周囲の同僚に援護を頼む。

「クソッ!チクショウ!焦ったら負けだ!」

予備のマガジンはない。一発ずつ弾倉に装填していく…眼前に迫る感染者。装填を中断し弾倉を銃に叩き込む、組み付かれる前に蹴りを放ち間合いを確保し銃を構えるが、引き金を引く前に側方からの銃撃で感染者は無力化された。

 

「ケビン!ぼさっとするな!」

「恩に着る…マーク!」

警備員のマークだ。普段は反りの会わない2人だが協力しあわないと明日まで生き残れない。

……銃撃の合間に遠くで歌声が聞こえた気がした。

 

[[[Round yon Virgin Mother and Child]]]

 

「ケビン!これを!」

マービン警部から丸い物が投げ渡される。足元には傭兵の感染者の死体があり、其処から拝借したようだ。

 

(聖なるピンを抜き数を数えよ)

ピンを抜き3秒数える。

(2秒でも4秒でもない、3つ数えたら手に持った聖物を汝の敵に投げ渡せ)

「Frag out!」

振りかぶり密集した場所へと投げ入れる。

(さすれば汝を脅かす脅威から救われる)

 

炸裂音と共に感染者達が豪快に吹き飛ぶ。

「リタ!襲撃されている!長くは持たないぞ、急げ!」

マービンが無線に怒鳴っているのが聞こえる。

「なんとかなるさ…少なくてもこんな所で死ぬつもりはないぞ」

「当たり前だ!全員で脱出する。」

戦いは始まったばかりだ。

 

 

~地下駐車場 エリオット視点~

脱出経路を確保するために、下水道へ繋がるこの場所へ来ていた。本来なら作戦を立て情報収集、援護などバックアップがあった上で決行されるであろう作戦だが今回は時間がない。突入して可能なら脅威を排除、不可能ならば逃げ帰り情報を伝えるという威力偵察の様なかたちで退路を確保するしかない。

マンホールを開けて下水道に突入する。

 

[[[Holy Infant, so tender and mild,]]]

 

何もないと思っていた場所から、突然手が延びて引き倒された。

「糞が!」

ゴミ溜まりに紛れて沈んでいた感染者に銃口を押し当てて引き金を引く。木霊する銃声…その音が合図となってしまった。次々と上がる水音…包囲されている……

「ふざけやがって…」

何度となく銃声が反響した。

 

 

~押収物保管庫 シンディ視点~

[[[Sleep in heavenly peace]]]

私達を助ける為に囮となった警官2人の銃声は、もう聞こえてこない。無事に逃げ切れたのか…それとも……

(ありがとう…ごめんなさい。)

 

[ガリガリ]

怪物がこの扉を壊そうとしているのだろう。

[ドゴン!ドゴン!]

重い物を扉に叩きつける音が響く、長くは持たないだろう。

(それに、噛まれた者がどうなるかを私は知っている。)

 

[[[Sleep in heavenly peace]]]

 

(生きたまま喰われるのは、きっと地獄の苦しみだろう。幼い子供達が受けるべきものではない。そうなる前に…私が…この手で……)

 

バーを出るときにケビンに渡された銃のグリップを握りしめる。

[ガン!]

鍵が破壊され、扉が勢いよく開いた音を背中越しに聞く。

「あぁ…神よ…」

私は少女に向けて引き金を引く。

 

 

 




押収保管庫へ警官2名
下水道に1名
残り+戦える市民は正面で応戦

~発電所~
「ホーリー!ホーーリーー!」
タンクトップで名前を呼ぶ男性が一人
「お前の嫁さんはこの街には居ないだろう?」
「ハウス!」
「いや……誰だよ!?」
突っ込む筋肉モリモリマッチョマン、此方も何故か上半身裸だ。
「メイトリックス、応援に来たぞ!誰か残っているか?」
「いえ、死体だけです。」

「………あっ………はい……」


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7

ルナが介入してることで徐々にオリジナルから外れてきています


~9/27 pm4:00 メインストリート~

「クソッ!ダメだ!」

選抜警官隊はメインストリートを確保後、未だに移動することが出来ずにいた。強固な装甲を持つベアキャット装甲車だが、幾度となく感染者を撥ね飛ばしており、その際に飛び散った肉片がインタークーラーにへばりつきオーバーヒートをおこした為である。

エージェントは端末操作や銃撃だけではなく、運転や修理などあらゆる状況でも柔軟に対応出来るように訓練されているが、私から見ても完全にアウトだった。

「焼き付いてますね…」

つまり、要オーバーホールだ。予備部品も時間もないので勿体無いが捨て置くしかないだろう。

 

「時間が惜しいです。警察署は現在手薄なのですよね?当初の目標も達成してますし、早く戻った方が良いかと思いますが…」

 

「そうだな、署まで送って行く。車に乗ってくれ。」

 

警察車両の後部座席に案内される。

(前世で速度違反してお世話になった時以来だ……)

懐かしい様な…だけども全く嬉しくないような…何も悪いことはしていないのだけど何故か落ち着かない…そんな気分になる。

エンジンがかかり血の海と屍の山を残して、撤収が始まった。

 

 

 

~pm5:00~

メインストリートこそ感染者の進行が早かった為、バリケードが間に合わなかったという経緯があるが、その他の道はと言うと……

「次、右折してください。その先また右折」

「それじゃUターンになってしまうじゃないか?」

「バリケードがあるので若干戻った方が早いです。」

 

至る所にバリケードが設置されており迂回しなければならない。最初こそ黙って運転を見守っていたが、待てども待てども警察署に辿り着かないのでアイザックを使用して案内をかってでた。

「すまない、お嬢ちゃん。助かるよ。」

「……ところでお嬢ちゃん、名前は何て呼べばいい?」

 

(この一件が終わったら、きっとまた平和な日常に戻る事になるだろうね…ならば…)

 

ジェーン・ドゥ(身元不明者)

「HAHAHA。教える気ないなこのやろう!」

「長い付き合いにはならないから問題ないです。」

 

「…つり橋効果で俺に惚れてもいいんだぜ?」

「だったら良いところ見せてくださいよ。」

「うぐっ……」

 

空のマガジンに弾を込めながら、同乗した警官達と軽口を言いながらドライブを楽しむ。

 

[誰か……誰か、応答してください。]

車両に搭載された無線機が誰かの声を傍受した。

[此方、選抜警官隊!そちらの状況を詳しく教えてください。]

 

[婦警のリタです。警察署を防衛していましたが、感染者に包囲されています。バリケードもいつまでもつか…署内に残る市民達の避難の為、力を貸してください!]

 

署内の無線機は破壊されている為、脱出出来たリタさんが短距離無線で救援を呼んでいるという事なのだろう。

 

[了解、署に急行します。貴女を回収して向かうので現在地を教えてください。]

[私は今~~]

車内で選抜警官と署内から脱出した婦警との会話が進む。

(既に原作とは変わってる。よい方向に進むと良いのだけれども…)

 

「すみません。警察署は現在、包囲されているようで安全とは言えないようです。これより我々は、署内に残る者を救出に向かいますが…出来れば力を御貸しください。」

 

無言で頷くルナ

(元よりそのつもりだし。)

 

車両は速度を上げて突き進む。

 

 

 

~警察署前 pm6:20~

車のエンジン音とは別に自身の向かう方向から何重にも重なった銃声と炸裂音が聞こえてくる。

[全車、これより我々は警察署に突入し正面ゲートを確保する。署内に残る者達と感染者を挟撃する形となる為、味方への誤射には十分気をつけろ。署内の生存者を確保後速やかに離脱する。]

[[[了解!]]]

 

 

 

開けっ放しの正面ゲートを次々と警察車両が通過し、最後尾のバンがその車体の大きさを生かして、ゲートギリギリに停車して簡易バリケードを作った。

「Go!GO!GO!GO!GO!」

掛け声と共に警官隊が車内から飛び出し交戦を開始する。MP5から繰り出される9mmの連続した炸裂音、12ゲージの重い銃声が叫び声と唸り声の蔓延る戦場に、新たに加わった。

「ジェーンさん!我々はゲートを防衛するのに手一杯です。署内に残る市民の救助をお願いします。」

 

「了解。」

ルナはSHDウォッチを操作しスキャンを開始する。無暗に突入して探し回るより場所を特定してから行動した方が効率が良いためだ。

[周囲に生態反応複数]

建物の地図と生存者が居る場所が更新されマッピングされていく。

[危機に瀕した市民を確認]

生態反応が低下しつたある場所にマーカーが設置された

(此処から行った方が良さそうね)

場所は地下駐車場、ルナは走り出した。

 

~地下駐車場~

途中、感染者は複数いたが相手にせずに指定の場所へ急いだ。

 

たどり着いた駐車場には生存者の姿はない。それどころか感染者もいないという状況だった。

(マーカーは此処だけど…いったい何処に…)

 

[付近にechoを探知]

echo…エージェントが活動した履歴を周囲の電子機器等に分散して記録することで、後に訪れるエージェントがそのデータを解析・復元して当時の状況、情報を収集出来るという仕組みだ。ディビジョン以外でも隊員にカメラを装備させている部隊もあるが、カメラや死体が消去されれば痕跡が掴めなくなるのにたいして、echoは場所に自身の痕跡を残す為、完全にエージェントの痕跡を敵が消そうとするのは困難になるという仕組みだ。

 

ウォッチを操作し解析を許可する。その時、停車されていた車両の影から物音が聞こえた。

「誰か居るの?」

銃を構えながら問いかける…返事はない、警戒しながら近づくと開けっ放しのマンホールが見えた。

(まさか……)

ルナは慌ててマンホールに近寄り覗き込むと其所には梯子を登りかけの警官と、それにまとわり付く5人程の感染者達がいた。

ルナが手を差し伸べるが警官はその手を掴む事はなかった。かわりに自身の持つ銃を…此方にグリップを差し出す形で持ち上げている。

 

「頼む……」

苦しそうな警官の声、ルナが銃を受けとると警官は満足そうな笑みを浮かべて下水道の下へと落ちていく。

下水道に反響する悲鳴と咀嚼音…

ごめんなさい…助けられなくて…ごめんなさい

一発の銃声が鳴る…ルナは駐車場から下水道で群がる感染者の隙間を縫って、警官を苦しみから解放した。

「……」

 

[解析完了、復元したデータを再生します]

空気を読まないアイザックが解析を終えたechoを再生し始めた。

 

立体ホログラムが浮かび上がり当時の状況を再現する、エージェント名はエドワードと表記されている。音声が再生される。

 

[[署長!あんた、こんな状況の時にいったい何処にいたんだ!?それに、あんたが出した作戦では署内が手薄になる。これでは防衛すらも出来ないぞ!]]

[[……]]

それに対する返答はなく静寂が流れる

[[もういい!俺達が独自で指揮を執る]]

振り返ったエドワードに署長は背後から銃を構え発砲した。

[[クックック…何故?って顔してるな?冥土の土産に教えてやるよ。]]

 

 

「グルルルル」

echoの再生音ではない唸り声が駐車場に響く、振り返ると奥の扉から3匹…血塗れの警察犬が此方に顔を出すところだった。

 

[[この街は私が作り上げ育てた私の王国だ!]]

この間もechoは空気を読まず再生されている。

 

警官に手渡されたブローニングハイパワーを握りしめ引き金を引く。腐り始めているとはいえ、ゾンビ犬の速度はゾンビ達の速度を軽く上回る…1匹、2匹と処理するがみるみる間合いを縮められていく、3匹目を処理するがルナが最後に処理した犬の影に隠れた4匹目の犬に気付いのは、犬が飛びかかる寸前の予備動作に入った時だった。

 

[[それをアンブレラの奴らは滅茶苦茶にしやがった]]

 

飛びかかる犬…ルナは犬と自身の間にある停車されている車両の後部ドアを開き、盾とした。激しい衝撃とガラスを破る音。犬はドアのフレームに胴体が当たった事で失速し、ガラスを破った後は落下するように此方側に落ちる。

 

[[せっかく俺がS.T.A.R.S.が漏らす情報を処分してやってるのにだ!]]

 

ルナは犬の頭を蹴り上げて車のドアと車体の隙間に挟み込み、思いっきりドアを勢いよく閉める。

 

[[こうなりゃ、全員道連れだ!警官も、市民も、研究所の奴らも皆…皆ぶっ殺してやる。]]

 

犬の足がまだ動いている。ルナはドアを閉めたまま、体重をかけた回し蹴りを犬を挟んだドアに放つ。

echoは再生を終えて、立体ホログラムは最後の瞬間の映像を映し出していた。地を這うエドワードと笑いながら銃口を向けるアイアンズ署長。

 

「グルルルル」

 

ルナは奥歯を噛みしめホログラムの署長の頭ごと、車両の屋根の上に乗り唸っている5匹目の犬の頭を撃ち抜いた。

 

 

 

 




下水道の銃を手渡すシーンはアウトブレイク2の表紙ですね。
アウトブレイクでは初期装備で誰もが持っている筈のハンドガンすら持ってなかったりと、今までのバイオハザードを覆す様なインパクトを受けた記憶があります。
命の次に大事な武器を、他人に託すという思いが伝われば…と思います。


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持つべきものはマスターキー!

前日章、アウトブレイク編はこれが最終章。
次章はバイオハザード2編~(リアルの都合で一時更新ストップ・ゲーム未クリアなので( ´;゚;∀;゚;))
続くかどうかも(未定)





静まり返った駐車場、動くものは私を除いて誰もいない。

「4発…」

託された銃の弾数を確認し、駐車場を後にした。まだ悲しむ暇はない、戦闘続いている。

 

~正面ゲート ~

正面ゲートでは未だに激しい銃撃が行われていた。

「現在ゲートは何とか抑えている。後5分位は持つと思うが急いでくれ。市民は押収物保管庫に避難してあるが、途中の西側通路に見たこともない怪物が居て近寄る事が出来ない。無理にとは言わないが…可能なら押収庫の市民も救出したい。頼めないか?」

 

ルナに気付いた選抜警官が現在の状況を説明してくれた。一応、一般人と言っている私に怪物を押し付けるのはどうかと思うが…駐車場に救出しに行った私が誰も連れずに戻って来たことに触れない心遣いは正直嬉しい。

 

ルナは選抜警官隊のバンから、とある装備を持ち出して西側廊下に向かった。

 

~西側廊下~

ガリガリと硬い物が廊下に擦れる音が響く。当然、グロテスクな怪物…リッカー達も新しく侵入してきた獲物の存在に気付いた。

リッカーは頭部…脳が異常に肥大しており、通常目があるはずの場所まで占領している。視力はなく、かわりに聴力が発達した事で視覚を補っている。

 

(とはいえ呼吸や衣擦れ音までは感知しないか……)

廊下の先に怪物が2体、此方の存在には気付いたが場所までは特定出来ていない様だ。

(わざわざ名乗ってやる義理もないな。)

ブローニングを引き抜き撃鉄を落とす。撃鉄はファイヤリングピンに当たりピンはカートリッジの信管を叩く。信管から散った火花は内部の装薬に引火し、爆発的なエネルギーを生み出し、弾頭部の鉛を押し出す。

大気を押し退けながら発射された弾頭は、まるで吸い込まれる様にリッカーの剥き出しの脳に着弾していく。

 

一見、頭部が剥き出しで弱点だらけの怪物に見えるが、アンブレラが生体兵器のベースに採用しようとしただけあり耐久性は高い。4発の9mmを頭部に貰ってなお、此方に接近するリッカーの勢いは衰えない。後ろ足を踏みしめ、まだ10m程離れているにも関わらず一気に飛びかかってきた。

 

後ろに引かれ、勢いよく振りかざされようとしている爪の威力は、天井にへばりつき歩行した際のコンクリートに残された穴や、金属製のドアに深く残された爪痕を見れば容易に想像できる。

 

ルナはエージェントのガチェットである携帯式高性能盾であるバリスティックシールドを展開する。携帯式であるにも関わらず7.62mmくらいまでなら耐え抜く事の出来る盾だが、リッカーの爪を防ぐ事は出来そうもない。

(そんなことくらい私だって理解してる!)

ルナ自身もリッカーが飛び出した瞬間、盾を構えながら踏み出し突撃する。結果、リッカーが爪を振りかざす前に盾が剥き出しの頭部と衝突した。

「どいつもこいつも、ふざけやがって!」

盾の角度を変えて、そのままリッカーを真上に打ち上げた。

切り揉みしながら落ちるリッカーを、ナイフで頭部に一閃する。

床に落ちて行動を停止したそれに、盾を振り下ろし頭部を粉砕する。

 

もう一体のリッカーが舌を伸ばす。

まるで弾丸の様に迫る舌を盾で防御し、そのまま廊下の壁と盾でサンドして引き戻せなくした上でナイフで舌を貫き壁と固定した。

 

ルナは戦闘が始まる前に投げ捨てた装備を掴み上げ引きずりながらゆっくりと身動きを取れないリッカーへ近寄る。爪が届く範囲に入った事を察知したリッカーが爪を振り抜くが、その爪は空を切ることとなる。ルナは上半身を大きく反らしスウェーを行い、ブリッジに近い状態から床に手を付きそのまま遠心力ののったサマーソルトの様な蹴りをリッカーの顎に見舞った。延ばされままの舌は自身の牙で噛みきられ、のたうち回る。

装備を構え直し自身の体ごとリッカーに突進し打ち付ける、一発目でリッカーを押収庫の扉の前へ追いやり二発目で扉とサンドするような形で打撃を加える…重量18kg、金属製、バッタリング・ラムと呼ばれる破城槌である。

(やはり私では威力が出ないか)

ルナの持ち出したバッタリング・ラムは鍛え上げられた隊員が2人係りで使用するものだ、重い金属の棒を少女の力では振り抜く程の力はない。とは言えども、リッカーもその後ろの扉もダメージが入っており後一息といったところだろう。

ルナは破城槌のスリングを掴み、ハンマースルーの様に自身を軸に破城槌を振り回し遠心力ののった一撃を見舞う。

 

リッカーが最期に感じたものは「ふぅん!」という掛け声と共に、重い何かが風を切る音と、HELLOと刻印された金属棒が自身の骨を砕く音だった。

 

 

[バン!]という音と共に勢いよく扉が開いた。

押収庫の中には女、子供、負傷者が詰まっている。扉付近の女性が「oh……Jesus」と呟きやがら少女に何かを向けている後ろ姿が見えた。

(や・ら・せ・る・か!!!)

ルナは女性にタックルし少女に向けられた銃口から射線を外す。

 

「諦めるのはまだ早いですよ、迎えに来ました。脱出しましょう。」

感謝の声と共に抱きつかれる。助からないと思っていた分、その安堵と喜びは計り知れない。

(貰い泣きしそう……)

助けれた命があれば、助けられなかった命もある、死を間近に感じるこの街で誰かの為になった事が…ルナは心から嬉しかった。

 

「…まだ気を抜かないで下さい。正面ゲートを確保してます、急ぎますよ!」

震える声を隠す様に声を張り上げて、生存者を引き連れルナは進む。

 

~正面ゲート~

「ありがとう!本当にありがとう!」

警官と生存者から感謝の言葉を貰う。

 

「撤収を開始するぞ、車両に乗り込め!」

次々と乗り込む生存者達

(本来なら選抜警官隊も、署内の警官も全滅する筈だった…)

最初に警官隊を援護したのが大きかったのだろう、署内でも本来支払われる筈だった犠牲よりも遥かに少ない。

 

 

[此方ガーランド、警察署を確保。しかしバリケードは突破され防衛に回せる人員も不足しているため、市民を街の外に脱出させようと思います。許可を願います。オーバー]

少し離れた所で本部に連絡する。

 

[此方SHD本部、市民の脱出を許可する。現在政府上層部の動向を監視しているが、街の汚染状況から戦術核による滅菌作戦が提案されている。また、貴女が入手したecho情報からアイアンズ署長がこのアウトブレイクの一件に深く関わっていると予想される。]

[よって、任務を作戦拠点確保からウイルス情報やバイオテロを起こした組織の情報収集に変更する。オーバー]

 

[了解した。市民の護衛と、滅菌作戦前の隊員の脱出は如何されますか?オーバー]

 

[市民の持っている電子機器は、既に我々が追跡している。エスケープポイントに到着したら迎えをよこす。隊員の脱出はヘリを向かわせる、時間まで情報収集に専念しろ。オーバー]

(つまり私が市民を護衛することは許可出来ないということね)

[了解。アウト]

 

 

視線を戻すとマービンとリタが言い争っているのが見えた。

「マービン!早く乗って!」

「俺は噛まれている、一緒に行っても足手まといになるだけだ」

 

(バイオハザード2でレオンやクレアに状況を説明する大事な役だったね……でも、彼しか出来ないって事ではない。)

「噛まれているのは貴方だけではないし、水道施設の水が汚染されている事が確認されている、全員が感染の恐れがある。それでも貴方は、感染したからここに残るという選択をとるの?」

 

「君は……?」

「一般市民です!」

マービンとリタは揃って怪訝な表情を浮かべている。マービンは目の前の少女を観察する。持っている銃器は目視出来るだけで3つ、明らかに重装備だ。この暴動だ、それは不思議ではないかもしれない…だが、誰も知らなかった情報を知っていたり、返り血が大量に付いたロングコート、顔全体を覆うガスマスクが市民じゃないことを物語っている。というか信じろという方が無理がある。

 

「という事らしいです!残っても結果は一緒なら付いてきて手伝って下さい!」

リタは信じてはいないが、ここぞとばかりにマービンの同行を促す。

 

「ラクーン大学に向かって下さい。あそこのグランドは広いので、ヘリの離着陸が出来ます。それに医学部が特効薬を開発しているかもしれません。」

生存のヒントを与える。彼等がデイライトを手にいれるかはわからないが護衛に警官隊が付いている。ゲームよりも難易度が下がっていると思いたい。

渋るマービンの背中を押して無理やり車に押し込みドアを閉める。

 

「ジェーンさん、準備が出来ました。貴女も早く車へ。」

「ごめんなさい。私は此所でやるべき事があるから一緒には行けない。」

 

警官隊から声がかかるが同行しないと伝えて署に向かって歩いていく。

背後で[ザッ!]と統率された足音が聞こえる……敬礼でもしてくれているのだろうか…ルナは振り返ることなく拳を掲げ、生存者との別れをつげる(安全を願う)

 

 

 

 

~9/28 0:00 警察署内~

(任務は情報収集…署長を探しつつ地下研究所の入り口を探す。途中、レオン君やクレアに合ったら援護しながら手伝って貰うか。)

 

これからの事を考えながら署内を探索する

 

~1:00~

(おかしい……私の知っている警察署のマップとは違う気がする。鍵の位置も記憶とは違う場所で発見した。)

 

~2:00~

[スキャンを開始………構造物の下に空間を検知]

ロビーの石像の下に部屋か、通路があるようだ。

(ここから下水道にでて研究所に向かえるのかしら。)

銅像には丸い窪みが3つあり、メダルを組み込めば通路が開くのだろう。最優先でメダルの確保しなければ…

 

~4:00~

[解析中……ロックを解除します。]

電子ロックをハックして武器庫の施錠を解除した。ここら辺はエージェントにとってはお手のものだ、解除に10秒も必要ない。問題なのは物理的な鍵だ。ピッキングツールなど持ち合わせていないので、面倒だが鍵を探すしかないだろう。

(ダイヤの鍵……どこ?)

広い署内の中、途方にくれる。

 

~8:00~

やっと一つ目のメダルを入手出来た。

メダルは石像の台座に固定されており、3つの絵柄の付いたダイヤルを合わせる事で手に入る仕組みだった。そして、私はすんなり絵柄を合わせたのではない。何百通りもの組み合わせを1から全部試し、やっとの思いで入手したのだ。

(あと……2つ)

任務を開始する前から数えて既に3日目に突入している。一睡もしていないので酷く眠い。頭痛がする……

(鍵もまだ見当たらない、爆破用の信管は見つけたけど何で電池入ってないの!?)

 

~13:00~

2つめのメダルを手にいれる為に、がむしゃらに絵柄を揃えていく……

(署内にヒントがないかと思って、探し回っているけど見つからない。きっと生き残りが命懸けで署内を探し周りレオン君に託して息を引き取るってイベントなんだろうけど…)

署内の生存者は昨日の段階で脱出させてしまい、ゲームでいうNPCが入手する予定だったヒントを得る機会を失ってしまったのだ。

(後悔はしていないけど…)

ため息をつき、再度絵柄合わせに取りかかる。

 

~15:00~

きっと私は疲れていたのだろう…鍵なんて探す必要なんて、最初っからなかったというのに…。取調室の鍵のかかった部屋なんて、マジックミラーを破壊して反対側に行けばいい。鎖の巻かれた扉もドアごとマスターキー(破城槌)で開ければいい。信管なんていらない、C4なんて使わなくても床と鉄格子の間に手榴弾を挟み込んで吹き飛ばせば、蝶番の部分が破壊されて開くのだろう。メダルの固定された台座も材質は石材だ、マスターキー(破城槌)開ける(破壊)ことが出来る。

 

「何で~こんな簡単な事に気づかなかったのだろう~」

愉快で笑いが込み上げてくる。

「署長さん~何処に居ますか~?ぶち殺して情報聞くので出て来て下さい~」

「あれ?殺したら情報が聞けないかな?まぁ、いいや。殺してから考えよう。」

 

(血と汗でベトベトだ~メダルをあと一個手にいれたら、適当な服に着替えて仮眠しよう。)

ルナは笑いなが署内のドアを開けて(破壊)回る。

その日、警察署では重い何かを引き摺る音、衝撃音、肉を叩く音と笑い声が響いていた。

 




ルナちゃん睡眠不足でぶちギレてます(笑
尚、充分な睡眠を取れれば通常モードに切り替わります。




~9/28 17:00 警察署前~ 番外編バイオハザード3
「ジル!ジル!助けてくれ!追われている」
元スターズ隊員のジルが、武器の確保の為に警察署の門をくぐった時、背後から同僚の声が聞こえた。ブラッドが酷く慌てた様子で此方にかけて来ている所だった。駆け寄るブラッドだが、突然空から降ってきた巨体が2人の間に降り立つ。
「糞!くるな!うわぁぁ」
無情にもブラッドは持ち上げられ頭部を触手で貫かれる。
振り返った怪物は「スターズ!」と言葉を漏らす。
(明らかに私を狙っている。それだけの知能がある。)
ジルは絶句する。その巨体は暴君タイラントを思い出させる面影がある、その全身凶器とも呼べる暴君がジルの息の根を止める為だけに投入されているのだ。
いくら命があっても足りない、ジルは迷わず警察署に逃げ込んだ。
(中までは追って来ないようね)
安堵し、署内を見渡す。静まり返った署内、足元にはいくつもの薬包が転がっていることから、何が起こったか用意に想像できた。
(警官は全滅か……)
婦警のリタなどジルにとっても仲のいい職員もいたが…死体がないということは今頃、感染者の仲間となり街をさ迷っているのだろう。
外の異変に気付くのが遅すぎた自身、己の無力さに歯を食い縛る。

(悔やんでも仕方ない、武器を確保しよう)
当初の予定通り武器庫に向かうことにするが、途中の景色にジルは唖然とする。開けっ放しにされている扉、見たことのない怪物の死骸、頭部が破壊されている死体の山[顔の皮膚にHELLOと判子の様に刻印がされている]に正面ゲートで見たような知能を持った生物兵器がいるのではないかと警戒を強めた。
作戦会議室の前を通る際、全身の毛穴が総立ちした。
(この中に何かいる……)
タイラントや先程の追跡者ですらこんなことはなかった。全身がこの部屋に入るなと警鐘を鳴らしているようだった…ジルは会議室に入らずに足音を立てずにその場を去る。

一階の武器庫はロックされておりカードキーは持ち合わせていない。スターズオフィスは何故か武器庫が開いていた為、武器を回収することが出来た。スターズオフィスから階段を降りて来た道を戻る時、正面ゲートで出会った巨体が一階の階段付近の窓を突き破って侵入してきた。ジルは慌てて作戦会議室……のドアではなく、西側オフィスからホールへと逃げる。
追跡者…ネメシスも後を追おうとするが、その時会議室のドアが開いた。
中から現れたのは、返り血で真っ赤に染まったロングコート着た小柄な人影
「あれれ~ネメシスさんじゃないですか~貴方を倒せばダイヤの鍵を落とすのかしら~?(もう要らなくなったけど)
それとも~逃げ隠れてる署長さんの居場所を知っているのかしら~?」
「ねぇねぇ、アンブレラさん~どうせ隠れてデータをとっているのでしょ?ねぇねぇ……この糞ったれな状況を作り出したド阿呆の居場所を教えてよ?」
真っ赤に染まった鉄の棒を引き摺りながら、まるで散歩に行くかのような気軽な足取りで追跡者との間合いを詰めてくる少女。
ネメシスは標的ではないが任務の邪魔となる障害と見なし排除の為に動き出す。
ブラッドにしたように掴み上げようとするネメシスの手を、地を這う様に姿勢を低くして避けた後、その場で2回転、槌のスリングを持ち遠心力の乗った破城槌をネメシスの口元に叩き込み顎と歯を破壊する。槌を放り投げて近距離で2発、両目に9mmを撃ち込み視力を奪う。
歯の抜けた口にM93Rを突っ込み、弾が切れるまで怒涛のバースト射撃を見舞った。
(頭を潰しても、熔鉱炉の中に突き落としても復帰するような怪物だから時間稼ぎにしかならないけどね…ジルちゃんも大変だね~)
会議室で見つけた信管の電池を持って3つ目の石像の場所へ向かうルナ……
ボコられ放置された追跡者?そう……ただの八つ当たりである。


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閑話:「この手に限る!」

皆大好き!あの人たちの出番です!
今回は元コマンドーと世界一付いていない男!
ネタ大目です~


~9/28 発電所~

[此方メイトリックス。発電所の復旧作業を完了した。これより、電力供給を再開する。オーバー]

 

[了解。お疲れ様メイトリックス。補給後、生存者を保護しつつ、このアウトブレイクの主犯と思われるアンブレラコーポレーションに関する情報収集をお願いします。尚、政府機関上層部の動向を監視していますが、上層部はウイルスの拡散を恐れ都市ごと焼却するという滅菌作戦『コードXX(ダブルエックス)』を検討しているようです。XXが発令される前に迎えのヘリを出しますので時間の許す限り、調査をお願いします。オーバー]

 

[了解、アウト]

 

メイトリックスは無線を切り暫し思考に沈む。

(未知のウイルスの感染力は、この街の現状を見れば容易に想像がつく・・・この街から漏れれば全世界が滅ぶだろう。上層部の判断もやむ負えないか。)

 

「おいおい、休む暇も無いじゃないか。」

マクレーンが悪態をつくが、その顔はきちんと状況を理解しているようだった。

 

「まぁ、俺もこの街と心中する気は無いがな。これからどうする?」

 

「セーフルームはここから遠い。途中で弾薬を補給してアンブレラの施設に向かおう。」

 

「そんな都合よく補給できるのかねぇ・・・まぁ、心当たりはあるが。」

ドヤ顔で先を進むマクレーン・・・ついて来いということなのだろう。

タンクトップの禿と上半身裸のマッチョマンの変態は死体の山ができている発電所を後にした。

 

~とあるクラブ前~

「ここの何処に銃と弾があるというんだ?マクレーン。」

 

「そう焦るな。ここは見ての通り高級クラブだ。こういう所は大抵、銃の持込を禁止している。客層は薬のバイヤー、ギャングの幹部クラスや武器商人などなど様々だ。では、日頃から携帯している銃を入店時に何処に保管する?・・・・・よし!開いた!」

 

黒塗りのベンツ、その窓は全てスモークが施されている。その・・・明らかに持ち主はカタギではないと伺える車のトランクをこじ開けたマクレーン。

中には・・・・

 

「AK-74・・・いや、5.56を使用しているからAK-100シリーズか。あとは、MAC-10とM870・・・まぁまぁだな」

一般市民の自衛とするには重武装だが・・・そんな些細な事2人は気付かない。

 

「おい!なんだその顔!これのどこに不満があるんだ?」

 

「別に・・・」

 

「いいや!その顔にはっきりと書いてあるね![この程度では不満です]ってな!」

 

「・・・・」

 

「はっきり言ったらどうだ?[私はこの程度の短小では満足出来ません]てよ!・・・おいおい、どこ行くんだ?話はまだ終っちゃいないぞ!」

 

「・・・・ショッピングだ。」

 

「はぁ?」

 

 

~マックリーズ~

マックリーズ:人食い病の噂が流れ始めたアウトブレイク初期、強盗の被害に合い閉店していた銃器店である。逃げ惑う市民に無償で武器を与えた事で店内の銃器・弾薬が枯渇していたケンド鉄砲店とは違い、初期から店舗を封鎖していた事により店内には多くの銃器が未だに眠っている。

 

「ガンショップか・・・・確かに、ここにはお目当ての銃があるだろうよ。だが、どうやって中に入る?」

 

「・・・・・ I'll be back」

 

強盗に入られた影響か、ショーウインドウの前には鋼鉄の頑丈なシャッターが下りている。扱う物が物だけに頑丈な施錠がされていた。こじ開けようにも警報機が鳴り響き、店内に入る前に歩く屍に囲まれるだろう。

 

「まったく、何が I'll be backだ・・・合鍵でも探して来るってか?」

鼻で笑うマクレーンだが・・・数秒後、その笑顔は驚愕で固まる。

 

[ギャリギャリギャリゴゴゴゴゴ]

耳障りな甲高い履帯の音。腹に響く重低音のエンジン音。

エンジン出力470Kw(636馬力)、総重量72トン。排気量23150cc。採石場や建設現場で活躍する重機、ブルドーザーだ。重量だけで比較しても意味は無いのだが、10式戦車が44トン、M1エイブラムスが63トンという数値からその規格外な質量が伺える。何処から持って来たのか・・・・重低音と地響きを残しながら、メイトリックスは瞬き1つしない無表情で立ち塞がる車両をなぎ倒し・・歩く屍をひき潰しながら時速11kmというゆっくりとした速度で

そのまま店内に突入する。シャッターなど無力と言わんばかりに突き破り、ついでにウインドウ近くに展示されている戦闘服をなぎ倒したところで、やっと停止した。当然、警報機が鳴り響くがメイトリックスが途中で周囲の屍を引き倒しているので、屍に包囲される心配はなさそうだ。

 

平然とブルドーザーを降り、ショッピングカートに装備を放り込み始めるメイトリックスに駆け寄るマクレーン。

 

「あんた、周囲から[野蛮]だって言われないか?」

「・・・・・」

言葉の変わりにナイフが展示されているショーケースを素手で叩き割り、カートにナイフを投げ込む元コマンドー。

 

「それで、お目当ての銃はあったのかい?」

店内には装備品しか展示されておらず、銃器は別の部屋に纏めて保管されているようだ。無論、これはマクレーンお馴染みの皮肉でしかない。

 

「ああ・・・(この店の銃)全部だ」

 

「HAHAHA。それじゃ、店じまいしないとな。」

 

ひたすら豪快な相棒に機嫌が良くなるマクレーンだった。

カウンターの裏に廻り別室への隠しスイッチを押すメイトリックスだが、壊れているのか反応しない。

 

「動けこのポンコツが!動けってんだよ!」

ガンガンとカウンターをどつくマッチョマン

 

[pipi・・・bi-]

電子音と共に開く扉・・・・

「この手に限る」

満面の笑みを見せるメイトリックス

「・・・・・」

声を殺し爆笑するマクレーン・・・既に店内は混沌と化していた。

 

~5分後~

[\デェェェェン/]

 

~10分後~

[此方本部。発電所付近のエージェントに通達。敵勢力と思われる部隊が発電所に向かっているとの情報を傍受した。目的は発電施設の破壊による電話・無線機などの情報網の遮断と思われる。現在、付近の傭兵部隊を買収し、敵勢力にぶつけて時間稼ぎしているが長くは持たないだろう。直ちに急行せよ。エージェント、現在の装備で任務続行可能か?]

 

[勿論です。プロですから]

 

[HAHAHA、頼もしい。健闘を祈る。アウト]

 

「マクレーン、仕事だ。」

「ああ、聞いていたよ。だが、発電所まで遠いぞ?」

 

メイトリックスはおもむろにブルドーザーでなぎ倒され、横転した車に近寄り力ずくで正常な位置にひっくり返す。

 

「これで車が出来た。」

「・・・あんた、最高だよ!」

愉快な2人組の旅は続く。

 

 

 

~15分後 発電所~

「クリア」

「クリア」

「周辺に生体反応なし、オールグリーン」

「よろしい。ベクター、先行して残党・トラップ等がないか偵察しろ。」

「了解」

 

 

アンブレラ社私設保安警察「U.S.S.」デルタチーム「ウルフパック」

アンブレラの所有する直属の部隊である。隊員はいずれも精鋭であり、その能力は各国の特殊部隊と同等・・・又は上回る程である。接近戦を得意とする狼の母、カリスマ溢れる部隊のリーダー・ルポを筆頭に、あの死神ハンクと共に過酷な鍛錬を耐え抜いたベクター、生物兵器に精通するフォーアイズ、爆発物のスペシャリスト・ベルトウェイなどなど・・・あらゆる分野のスペシャリストで編成された部隊は、あらゆる状況で柔軟な対応が可能だった。現に、寄せ集めの傭兵部隊では全く歯が立たず、こうして床に骸を晒している。

彼らにとって、発電所にEMPを設置し施設を破壊するという・・・簡単なお仕事になるはずだった。

 

「周囲に敵影なし・・・いや・・正面に男が2人」

ベクターからの無線が入る。

 

(たった2人?正面に?)

逃げ遅れではないのだろう。ただ、此方の部隊との戦力差は今しがた実証したはずだ。

(結果を認めず撤退を選ばないのは愚策でしかないだろうに)

 

他の隊員と共に斥候のベクターに追いついたルポは正面に佇むの2人を見て眉間に皺を寄せる。

緑色の戦闘服、腕と顔には黒の油性マジックで戦化粧が施されているマッチョマンと、黒のレザージャケットを着こなしている年季の入った渋いオジサマ。

(確かに重装備ではあるが・・・6対2、戦力差は覆せない。)

 

戦闘の合図を待つ隊員達・・・しかし、ルポが許可を出す前にマクレーン達が発破をかける。

 

「おいおい、でかいのは態度と図体だけか?こいよ、カウボーイ!相手してやる。」

「来いよ、ベネット。銃なんて捨ててかかって来い!」

 

ウルフパック・・・・確かに精鋭部隊ではある。ただし、それはチームワークではなく個人の能力が高い為である。編成されて間もない、新しい部隊であるが故に隊員達の心や目指すものはいまだにバラバラであった。

 

「野郎ぶっ殺してやる!」

「おう!バックからチェーンガンを出しなよ、でかぶつ!」

 

簡単な挑発に乗り、40mmグレネードを乱射し始めるベルトウェイ。ステルス迷彩で姿を消すベクター、ゾンビを引き寄せるホルモン入り手榴弾をポーチから引き抜くフォーアイズ。銃声を合図に次々と戦闘行動に入っていく隊員達・・・・グレネードがマクレーンが隠れていた机ごと吹き飛ばし爆炎が視界を埋め尽くす。

 

「HAHAHA。君のお友達は口の割にはあっけないな。」

ベルトウェイが壁を盾に片手でM60撃ちながら牽制するメイトリックスに言い放つ。

 

「隊長然り、あのお嬢ちゃん然り。我々は同じエージェント内でもそれぞれの分野の頂点に立っている者達だ。この程度の攻撃であのオヤジが殺せるとでも?」

 

ガジェット[パルス・スキャナ]を放ちながら返答するメイトリックス。

「ほら、炙り出してやったぞ。マクレーン。」

 

「ありがとよ!」

メイトリックスの背後を取ろうと回り込むベクターの背後から銃撃を見舞うマクレーン。

 

「死んだと思ったか?残念だったな、トリックだよ!」

パルス・スキャナ・・・潜水艦でいうアクティブソナーのように此方側から特殊な電磁波を放ち、その反響で敵の位置を特定、位置をロックし、SHDのコンタクトを通して物陰に隠れる周囲一帯の敵を視覚化するという索敵用のガチェットだ。その効果範囲は壁や盾にしている障害物を透過し、見えない敵にまで作用する。メイトリックス自体が過剰戦力なので補助用のガジェットを選んだのは順当な結論だろう。

スキャナの効果によって、ステルス迷彩で目視出来なくなったベクターを炙り出し逆に背後を取ったのだ。40mmや銃弾の嵐の中どうやってマクレーンは生き残ったのか?後に共に任務に付いた事のある女性隊員はこう語る・・・・「あれ等は規格外です。私達一般市民が考えたところで時間の無駄ですよ。」と・・・

 

防弾ベストが幸いし、致命傷を免れたベクターだが、確実にダメージが蓄積されていた。

 

「ほらほらガキ共。お前らも楽しいクリスマスが迎えられると思うなよ?」

マクレーンの怨嗟とも取れる咆哮を皮切りに、両者の戦闘は激化していった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ゲームの方でスキャナ・・・使ってる人いるのかな・・・?リアルの仲間内では影の薄いスキャナさんを物語りにぶち込んでみました!w

次回も閑話!題名は・・・「お前のようなコックが居てたまるか!」でしょうかw


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閑話:自称コックは大抵チート

話の流れ的に少々無理矢理感があるかもしれません~
カルロスが病院を訪れるのは本来は10/1ですが、この物語では予定を少々早めています~
(後になってわかったのですがレオン達はウイルスの抗体持ちだったのですねw)


次話 バイオハザード2編
とりあえず警察署~下水道位までなら書けるかなと



ゲーム・バイオハザードには、幾つか解明されていない謎がある。 例えるならアウトブレイクでは、プレーキャラクターは全員スタートの時点でウイルスに感染して、ウイルスの進行を遅らせる[坑ウイルス剤]を飲みながら脱出を目指すというゲームである。これはアウトブレイク以前、もしくは直後にウイルスで汚染された水を摂取した為と思われる。U.B.C.S.[アンブレラが雇用した傭兵部隊]のマーフィー・シーカーが良い例である[汚染水を飲みゾンビ化、仲間の手で射殺]。

ラクーンシティに入り1日で脱出したレオン・クレアは問題ないとして、アウトブレイク以前から滞在していたジルは、起こるかわからない生物災害に対して日頃から食料を選別していたのだろうかと…一度もウイルスに感染した生物からの攻撃を、受けることなく街から脱出出来たのかと……疑問が残る。

 

町中に不自然に放置されたドラム缶やガスボンベ。

また、Tウイルスのワクチンを作成間近で壊滅した、ラクーン総合病院の医師達は本当に己の力だけで、U.B.C.S.を壊滅に追い込んだB.O.Wを2体も生け捕りにすることが可能だったのか?という謎も残されている。

 

 

~ラクーンシティ総合病院 9/27~

[医師のレポート]

9/24夜

昨日の暴動の影響もあり、多くの負傷者が病院になだれ込んでいる。現在の時点で収容キャパを大きくオーバーしているため、周辺の医療機関に応援を依頼しているがとても間に合うとは思えない。一部の錯乱した重傷者が職員を襲うという案件が多発しているため、簡易的ではあるが病院の一区画を閉鎖し隔離している。私も患者を目撃したが、とても正気とは思えない。

気がかりなのは、患者と一瞬目が合ったが瞳孔が開いている様に見えた事だ…きっと私は疲れがたまっているのだろう。

 

9/25早朝

患者が暴徒化している。彼等は一様に目は白濁、瞳孔は開き、血液は凝固、中には腐敗臭が漂う者もいる。誰から見ても死人だ。

何らかの病が集団発生したと仮定して原因究明の為に研究チームを設立する。

 

9/25昼

未知のウイルスが確認された。抗体の作成を検討しているが、完全に暴徒化した患者からのサンプル採取はウイルスの影響か、腐敗の進行が激しいため断念する。負傷者の血液を媒体に通常の方法を試しているが状況は芳しくない。何より、時間が足りない。

 

9/26

付近の公園から逃げ延びて来た市民が、興味深い情報を持っていた。今まで見たこともない怪物が襲ってきた、助けに入った兵隊をあっという間に全滅させた…などだ。

恐らく、ウイルスによって変異した生物なのだろう。俊敏な動きをしていたと言う証言から、ウイルスの強い腐敗作用を抑える何らかの抗体の様な成分が確認出来るかもしれない。検体を確保する必要がある…化物に麻酔が効けばいいが…

 

9/26夜

このレポートもこれが最後だろう…多くの犠牲を払ったが検体の確保には至らなかった。我々の想像を遥かに上回る身体能力を発揮する怪物を前に、我々に出来たことと言えば逃げ惑う事のみ。怪物を振り切ってここに戻る頃には私一人しか生き残っていなかった。

……私達は間に合わなかった。抗体が完成した所で救える患者ももう居ない。願わくば、この研究が生き残った生存者の救いにならんことを…

 

 

今は亡き、名も知らない医師のレポートとを読みながら、ライバックは眉間に皺をよせていた。

[残念だけど間に合わなかった様ね。]

 

[我々が動く時は何時だって手遅れだ。]

国家が滅ぶ恐れのある最悪の事態に、エージェントは召集される。現場に着く時には大抵が多くの命が喪われた後だという不満を無線越しにオペレーターにぶつけた。

 

[犯罪者なら警察が、戦争なら軍隊が対応する。貴方達の任務は、政府ですら抑えきれない脅威に対応する事よ。些細なことでエージェントの命を喪う訳にはいかないし、エージェントの存在を知られ他国から脅威としてターゲットにされるわけにもいかない。]

 

[ああ…解ってはいるさ。ただ、納得しているかと聞かれれば…そうじゃない。]

 

[議論は帰ってから上として。今は任務に集中。]

 

[…ああ。]

 

レポートを読み終わり設備を見回す…培養設備、抗体ベース…様々な器具がところ狭しと陳列されていた。検体さえ確保出来れば、すぐに抗体を作成出来る様に整えられている。レポートの最後にはチームのだれが生き残ってもワクチンを作れるように、丁寧な作成手順が記されていた。

 

[医師のお陰でワクチン完成まてあと一歩ってところね。まずは…怪物の確保から。貴方、調合出来る?]

 

[問題ない。料理と一緒だ。]

 

[……………]

 

ライバックは材料調達の為に公園へ向かうことにした。培養は時間がかかるため、今回は直接化物を確保して成分を採取する方法をとる。

 

[ガーランドが警察署の端末と同期した為、此方からでも公園の監視カメラの映像を確認出来るようになったわ。レポートにあった怪物の映像が映ってるから、戦闘データを先に確認して。]

 

[警察は何をしていたんだ?]

 

[ガーランドが確認した書類などから推察するに、暴動の鎮圧や生存者の保護で手一杯だったようね。監視カメラまでは確認する余裕はなかったと思われる。]

 

コンタクトレンズを通して当時の映像が再生される。医師が10名ほど公園で待ち伏せし、群れから離れている個体に麻酔が入っていると思われる注射器を片手に襲いかかっている。麻酔銃でもあれば結果は少しはマシになっていたかもしれない。もっとも、麻酔銃なんて品物は法律上、医師免許をもつ者しか使用が認められておらず、実際に所有しているのは獣医師くらいなものだろう、都合よく手元にあるわけがない。それから起こった事は一方的な虐殺だった。ある者は刃物の様な鋭い水掻きで首を切断され、ある者は生きたまま丸呑みされていた。傭兵すら太刀打ち出来ない怪物に医師が挑むのはあまりにも無謀で解りきった結末だった。

 

[目は無い筈たけど、映像を見る限り甘く見ない方が良さそうね。確保出来そう?]

 

[問題ない]

確かに映像からは、瞬発力や筋力は相当なものだと判断できる。

(ならば、此方も相手に合わせた戦い方をするだけだ。)

 

 

~公園~

その怪物は公園内を徘徊していた。アンブレラコーポレーション・ヨーロッパ支部の作り上げたB.O.W[ハンターγ]だ。両生類の受精卵に人間の遺伝子を組み込んで製造されたハンター。まったく歯のない巨大な口に眼球のない顔など通常のハンターシリーズとは異なる様子をしている。また、知能は高く与えられた任務をこなす事も可能だ。今回の任務は[確認出来る全て生物の抹殺]という簡単なもの。

彼等にとっては、一般人の抹殺も傭兵部隊の殲滅もたいして変わらない難易度だった。正にハンターという名に相応しい能力、本当の意味で彼等にとって脅威となる存在には遭遇したことがない……彼に会うまでは……

 

黒い戦闘服、黒髪、鍛え上げられた肉体…ハンターγには目が無い為その姿を確認する事はないが、視力を補う感覚が目の前に立つ男は危険だと告げている。男は構える事なく平然と近寄りハンターにてをかざす…その時初めて、自身よりも優れた狩人の存在を怪物達は思いしる事となった。

 

 

~9/28~

『U.B.C.S.』……大企業アンブレラによって雇われた傭兵部隊。パンデミックで暴徒化した感染者から市民を救助するためにラクーンシティへ駆り出された。だが、それは表向きの口実。一部の隊員は本来の目的、自社が開発していたウイルス兵器の流出というアンブレラにとって不利になる情報の抹消や、真実を知る一部の人物の口封じなど、街の混乱に乗じて公に出来ない任務を行っている。また、絶好の実験場と化したラクーンシティで[実戦テスト]という名目で、開発していた数々の生物兵器を街に投下、現地の治安部隊や市民、何も知らないU.B.C.S.隊員と戦闘させてデータを記録したりとやりたい放題である。U.B.C.S.の中でもその様などす黒い任務を行っている一部の隊員を総じて[監視員]と読んでいる。

身長187cm・体重102kg、血液型はA型、年齢は35歳、元スペツナズ隊員、ニコライ・ジノビエフもその監視員の一人である。

 

「さぁ、武器を捨ててお前が持っている情報を全て渡して貰おうか。」

 

場所はラクーンシティ総合病院。向ける銃口の先には黒髪の男性。部屋にはハンターγの捕獲された大型のカプセルとウイルス研究の為に所狭しと器具が並べられている。

 

(この病院の医師には見えない。U.B.C.Sの隊員名簿にもこの男の顔写真は記載されていなかった。アンブレラ特殊部隊U.S.S.や合衆国の特殊部隊の線もあるが装備が明らかに違う。)

 

ニコライの静止を聞かず未だ作業を続ける男を観察するが、装備からはその正体を推察する事は出来なかった。銃器だけは3丁と普通の兵士よりは多い…外観から解る情報はその程度だけであった。ただ、B.O.Wが確保されているこの施設にいる以上何らかの情報を持っていることは確実だ。

 

「まぁ、まて。忙しいんだ。」

 

銃口を向けられているにも関わらず、男は動じない。ニコライは、いっそこのまま撃ち殺して自身で情報を集めるか迷うが、時間と労力を考えると、あまり得策とは思えない。苛立ちを抑えながら待つこと数分、作業が終わったのかやっと男は此方を振り返る。

 

「確か、武器を捨てろ。だったか?」

男は、自身の身を守る命綱と言っていいほどの銃を、部屋の隅に投げ捨てる様に簡単に手放した。例え、脅されている状況でも其があるだけで抑止力と成りうる銃をだ。とても正気とは思えない。

 

「それと、抗体の研究データも寄越せ…だったか?」

 

男は余裕のある態度を崩すことはない。ニコライは自身が圧倒的有利にも関わらず、まるで自身が追い込まれている様な錯覚に陥る。

 

「これは、医師達が命懸けで設計し私が育てたプロジェクトだ。其れをポッと出のお前さんに渡せと言うのだな?…………いいだろう。」

 

わざわざデータの重要さをアピールしたあとに、両手を広げまるで歓迎するような仕草で承諾する。

 

「このバッグの中に、今までのデータが入っている。ほら、受け取れ。」

 

男はニコライの方へバッグを投げ寄越す。バッグはニコライから4m手前で落ち、その衝撃でバッグの横に付いていたハンドボール大の球体が外れてニコライの方へ転がって来た。否、転がるという表現は正しくはない。その速度は異常に早く、まるで球体が自走しているかのようだった。

 

「ツッ……!?」

 

特殊部隊に長年勤めた感か、ニコライは球体の異常性に即座に気付き回避行動をとる。バックステップ後、背後の机上に並べてある器具を薙ぎ倒しながら机の裏に隠れるのと、ニコライが先程いた場所で球体がピタリと止まり、顔の高さまで球体が飛翔したのは同時だった。

球体は空中で炸裂し周囲一帯に鋭い金属片を撒き散らす。

自走マイン・エアバースト……エージェントの指定した座標に文字通り自走し炸裂する爆弾だ。主に先制攻撃や銃撃戦で物陰に隠れる敵を炙り出す時に使用されるガジェットだ。なかでも、エアバーストは空中で炸裂することで広範囲に散らばり敵に負傷させることを目的に作られた物で、ニコライがあのまま回避行動をとらずに至近距離で炸裂を浴びていたなら間違いなく死亡していただろう。

 

ニコライは自身が有利な状況にも関わらず、先手をうたれた事に若干のショックを感じていたが、即座に切り替え反撃を行う。

 

「馬鹿な!?」

反撃のため机から身を乗り出し銃を構えるが、いつの間にか至近距離に接近した男がその銃身を握っている。

 

マインが炸裂した直後にニコライは反撃を行った。にもかかわらず男がこの場所に居るということは、爆発で兵士達を殺傷する数多の金属片が飛び交う中、この男は真っ直ぐに、この場所まで移動していた事になる。ニコライは男の外傷を探すが、目立った外傷はなく唯一あるのは、頬に付いた傷と言うには烏滸がましい程度のかすり傷のみだった。

 

「化物め!」

 

男はニコライのライフルを奪い取り、強烈な前蹴りを放つ。その威力は体重100kgオーバーのニコライを軽々と吹き飛ばし、背後の薬品棚を盛大に巻き込みながら壁へ激突した。

 

「もう、辞めにしないか?こんなことをしても無駄なだけだ。」

男は奪ったライフルを部屋の隅に投げ捨てながらニコライに言い捨てる。その銃でニコライを撃てたにも関わらずにだ。

 

「無駄だと?貴様が死ねば全て丸く収まる」

立ち上がったニコライはナイフを抜きながら男に襲いかかるが……

ナイフを持つ手を捻り上げられ、ナイフを落とす。そのまま高速で胸部に2連打。首に手刀を行い、掌を反し指先を曲げニコライの顎の骨を掴む様な形で抉る様に引き抜く。(今回は肉を千切るような事はしていないが、彼がその気になればスプラッターな打撃も可能だっただろう)ダメージを受け千鳥足のニコライにトドメと言わんばかりに盛大な一撃を見舞う。……両手をまるで太極拳の様に大きく円を描きながら腰辺りで力を溜め相手へ打ち出す様に力を解放する。その動作はまるでゲームのキャラクターが行う波動拳のようであった。

 

ニコライの身体はまるで重力を無視するように吹き飛び、4階の窓を突き破り、外へ転落する。数刻後、衝撃音と車の防犯アラームがけたたましく鳴り響いた。運が良ければ車がクッションになり、まだ生きているかもしれない。

 

「だから、その努力自体が無駄だといったんだ。」

男は誰も居なくなった部屋で一人呟いた。

 

~~

 

 

[お疲れ様、ライバック。無事に抗体を作成出来たようね。ウイルスのデータとその抗体を持って街から脱出して。]

 

[了解。途中でお嬢ちゃんを拾ってから脱出する。ところで、先程襲撃を受けたが…この施設はどうする?]

 

[その様ね…ウイルス兵器は大抵ワクチンと1セットで販売される。それは、己が撒いたウイルスに自身が感染するのを防ぐ為です。どちらか一方が欠けるだけで兵器としては成り立たなくなります。この街の現状を推察するに、アンブレラはウイルスを抑制するワクチンを開発していないと見受けられます。この抗体のデータが彼等に渡るのは大変危険です。この施設を破壊し、ウイルスが完全な兵器として世に出回るのを阻止して下さい。]

 

[了解。]

 

 

~~

「ジル……間に合ってくれ…すぐにワクチンを見つけてくるから。」

U.B.C.S.隊員、カルロスは焦っていた。彼は監視員とは違い、純粋に街の市民の救助を目的としてこの街にいた。ジルと出会い自身の雇い主がこの地獄の元凶と知ったのはつい先日。その後、彼女とは歪み合い、助け合いながらもこの街を脱出するために協力しあっていた。

何とかたどり着いた時計塔。アクシデントがあり彼女とはぐれていたが、ジルが力なく倒れているという最悪の現場で2人は再開を果たした。傷口には紫色の液体……どお見ても感染は免れない。カルロスは唯一の可能性を信じて総合病院に入っていった。

 

 

 

[病院爆破準備完了。5分後に爆破する]

 

[お疲れ様、すぐにその場を離れて。……ライバック?どうかしたの?]

 

病院のロビーを見渡すライバック。

[いや…扉にもたれ掛かっていた死体の位置が変わってるように見えただけだ……きっと気のせいだろう。]

 

[そう…仮に、襲撃者がまたデータを取りに戻ったとしてもその時間での情報の収集は不可能よ。捨て置いて撤収しましょう。]

 

[ああ…]

 

~~

爆破炎上する病院、カルロスは奇跡的に無事だった。マップが解らないにも関わらず、実験室を奇跡的に見つけ出し、既に作成準備が出来ている設備を動かし抗体を作成した。そして、作成中にジルが心配になり急いで病院を後にしたことが効をなした。

「一体何だっていうんだ!チクショーメ!」

 

彼等が無事に脱出するのは、まだ先の話である。

 

 

 




~警察署~
[ねぇ、ルナ?先程、ライバックのオペレーターから公園の監視カメラのデータを寄越すように連絡があったわ。]
ルナの専属オペレーター、エマから無線が入る。

[映像を確認したけど、怪物が公園内に複数いるわ。今から彼、公園に行くみたいだけど大丈夫かしら?]

[そうね…普通だったら危険でしょうね…怪物は人間との戦闘を主として開発されているから……だけど、私以外の隊員は皆、人間辞めてるから大丈夫よ。]

ルナは石像のダイヤルを回しながら無線に答える。

[前から気になってたけど、彼等とは知り合い?]

[いいえ。会ったのは初めて。だけど彼等は有名よ……
隊長を辞典風に言うなら、霊長類ヒト科セガール目。英名:ケイシー・ライバック。地上最強の生物の一角として君臨している。まず、例えミニミやM60で銃撃されようが、その銃弾は彼に当たることはない。例え運良く当たったとしても、「銃弾は貫通しているから当たったうちに入らない」と言うタフさ。(実際に作戦行動に支障はない)オリンピック級の狙撃の腕前を持ち、あらゆる武器を使いこなす。格闘戦では無敗。敵にあわせてナイフや銃など持つことがあるが、それは敵の見せ場を作るためのハンディキャップでしかない。控え目に言って化物よ。もし私が彼の敵だとしたら、彼の姿が見えた時点で泣いて命乞いするわね。]

[なにそれ、怖い…]
これまでマルチロックオンや未来予知と言っても過言ではない偏差射撃を披露したルナだが、その異常さについ最近養成学校を卒業しオペレーターになったばかりのエマは気付かない。

[ところでエマちゃん、絵柄は弓と鳥、水瓶……好きな組み合わせある?]
ひたすら絵柄を合わせていくルナ…

[(私の担当の人はまともそうで良かった~)]
心のなかで安堵するエマだが…その安心が取消されるのは、ルナが疲労と眠気でキレるまでの数時間だけだったとさ……


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RE
1、長い夜の始まり


オリ主:ルナちゃんからレオン君達に一言
「ようこそ、不思議の国(地獄)へ」


~9/29 ラクーンシティー郊外 夜~

新人警官のレオン・S・ケネディは、ラクーンシティーに向かって愛車のジープを走らせていた。時刻は20:00を回り既に日の光はない。今日が初出勤となるのだが、数日前から自宅待機命令が下りそのまま音信不通となっていた。出勤当日となった今日も警察署の電話は繋がらず、流石に不審に思い直接出向く事にしたのだ。

ラクーンシティーまで、後数十キロ…燃料は残り僅か。一旦ガソリンスタンドに立ち寄る必要がありそうだ。

 

 

~遡る事、10分前~

 

女子大生、クレア・レッドフィールドはラクーンシティーに向かってバイクを走らせていた。夜間の運転、しかも激しい雨が降っており、彼女の体力と集中力をみるみる削ぎ落としていた。普通の雨でも、時速60kmで走行するバイクの上で浴びるとなるとそれだけで正直痛い。州を跨いだ長距離運転だ、クレアは安全運転の為に一旦、前方に見えてきたガソリンスタンドで休憩してから街に入る事にした。

 

 

「ええ、もうすぐ街に着く。」

 

[あのラクーンシティーなんでしょ?最近人喰いとか変な噂が流れてくるけど大丈夫?]

 

「だから平気だってば~」

 

[気を付けなさいよ!あんた美人なんだから。]

 

「はいはい、わかった。クリスに合ったらすぐに街を出る。それじゃ…もう切るね。」

 

スタンドにあった公衆電話を切る。ラクーンシティーに住む兄のクリスに長いこと連絡が付かず、心配になった彼女は直接様子を見に、街を訪れる事にしたのだ。心配性の大学の友人に無事に街までたどり着きそうと連絡したところ、今度は変質者が出るから気をつけなさいと忠告をいただいた。これでは、まるでオカンだ。

「もう…皆心配性なんだから~」

 

思わず自分の口から小言が漏れていた事に気付き、クレアは苦笑いを浮かべてしまった。

 

[ガシャン]

「えっ?何?」

スタンドの売店の方から何かを倒す物音が聞こえた。店は日没して周囲が暗くなっているのにも関わらず、明かりはついていない。スタンドにはエンジンがつけっぱなしで放置された警察車両があり、不穏な空気が流れている。

 

「誰?」

不安な気持ちのせいか、思わず口から言葉が漏れた。

 

恐る恐る彼女は店に近づき様子を伺う…店内は、棚から落下した商品が床に散乱している。そして、血痕……一・二滴ではない、この量では少なくても、手首や腹などをナイフで刺さない限りは起こり得ない。

「あのう誰か居ませんか?居ないの?」

 

返答はない。足元に不自然に放置された懐中電灯を拾い上げて店内を探索する。店の奥、飲料水が陳列されている場所に男性が座り込んでいるのが見えた。

 

「大丈夫?」

走りより様子を伺うクレア。男性は首を押さえており、その手からは血が溢れてシャツを赤く染め上げていた。話す余裕もなく、店の奥…スタッフルームへ続く扉を指差す男性。奥からは揉み合っているのか、物を倒すような音が聞こえる。

 

「待ってて見てくる。」

男性の横を通り抜け、奥へ進む。数秒後、先程通り抜けた扉が閉められる音が背後から聞こえてきた。

 

(!?……なんで閉めたの??)

心の中でツッコむクレア…その間も前方から揉み合っている音が聞こえる為、仕方なく前へ進む。

 

「じっとしてろ!」

男性の声が聞こえる。通路の先、スタッフルームへの扉を開けると、警察と私服の男性が揉み合っている姿が見えた。

 

「あの大丈夫?」

問いかけるクレア。

 

「大丈夫だ!さがってろ。」

此方を振り向きながら、即答する警官。だが、掴み合いをしている最中に振り向いたのは不味かった。拘束の力が弱まった一瞬の隙をつき、警官の後ろから押し倒す男性。警官の首筋に噛みつき、思いっきり引き千切る。

 

「なんなの!?離れて!聞こえないの?早くはなれて!」

クレアの静止を聞かずに、凶行は行われる。頸動脈が切断されたのか、警官の首筋から大量の血液が流れだし…やがて抵抗していた警官の悲鳴も消えた。

仕止めた獲物の肉を咀嚼しながら、此方に顔を向ける男性…血塗れの口元、白濁した瞳。ふらつきながら立ち上がり、此方に向かって歩いてくる。

 

「それ以上近寄らないで!」

クレアは後退りしながら叫ぶ。もときた通路を引き返し店内の扉を開けようとするが、店内側からロックされているのか、その扉が開くことはなかった。

 

「来ないで!撃つわよ。」

少しずつ近寄る異常者、追い詰められるクレア。護身用のリボルバーを引き抜き警告するが、聞く耳を持たない男性。クレアは仕方なく足へ銃撃したが…痛がる素振りも、怯む様子もない。

 

「嘘……」

目の前で警官が殺されている。正当防衛は十分成り立つのだが、彼女は命を奪うのが怖かった。だか、そうも言ってられない。逃げ場がなく徐々に追い詰められている。

 

[タン!]

一発の銃声が鳴り、続いて物が倒れる音が響いた。眉間に穴の空いた男性の死体…奥には首を噛みきられた死体。後で警察に連絡するにしても、この死体のある部屋からクレアは出たかった。人を撃ったショックで吐き気を抑えながら、クレアはカウンター裏に続く扉の鍵を探した。

 

「嘘でしょ……」

そして、クレアは見てしまった。眉間に穴の空いた男性が再び立ち上がる後ろ姿を。急いで扉の鍵を解除して、店内を出るクレア。外に出るための扉を開いた先には銃を構えた男性がいた。

 

「待って!撃たないで!「伏せろ!」」

クレアの背後から襲おうとした異常者に、男性は容赦なく発砲した。

 

「ありがとう。」

「例を言うにはまだ早い、囲まれている……ここを離れよう。こっちだ!」

 

いつの間にかスタンドに群がる異常者の群れをくぐり抜けて、エンジンのかかっている警察車両に乗り込み発進させた。

 

「貴方警官?」

 

「ああ、警官だ。俺はレオン。」

 

「どうなっているの?」

 

「さぁ?警察署にいけば解るかもな。」

 

2人を乗せたパトカーは更なる地獄へと突き進む……長い夜になる、その事を2人はまだ知らない。

 




[クレアが頭部を撃ったのにゾンビが立ち上がった理由]
ゾンビは脳の大分を占める大脳の機能を停止してます。その為、例え脳を攻撃しても決定打になりえない場合もあります。
対してルナは生命維持活動、神経が密集している、小脳・脳幹を的確に破壊している為、一撃で無力化しています。
今回のクレアは大脳を射撃し、なおかつ頭蓋骨に当たり運悪く弾道が逸れた為、頭部を撃ったにも関わらず無力化出来なかったと言うことです(という設定w)


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2、連れを起こさないでくれ…死ぬほど疲れてるんだ

レオン君視点です~



~ラクーンシティー~

その街は夜間に関わらず薄暗かった。時刻は21:00、住民が就寝するには早すぎる。乗り捨てられた車、路上に散らばる鞄や書類、ショッピングモールの中央吹き抜けに設置された女神像は今も尚、上から滴り落ちる液体で赤く染め上げられていく。その景色を見れば引き返し街を出ることを考えたかもしれない…だが、不幸にもラクーンシティーに到着したばかりの警察車両はそれらに気付くことなく人通りの無い通りをゆっくりと通過していく。

 

[市民の皆さん。大規模な暴動が発生した為、ラクーンシティー警察署への避難をおすすめします。必要な方には食糧や医療品を無料で支給します。]

 

「嘘でしょ…なんで誰も居ないの!?」

雨音の響く中、録音された避難案内が放送されていた。

 

「署に行けば何か分かる。もうすぐだ。」

 

「ええ、そうね。でも、生き残っているのが私達だけだったら?」

クレアが不安を口にした。街に入って時間がたつが、見当たるのは警察署に向かっているのだろうか…乗り捨てられた車の列、そして不思議なことに車の持ち主は疎か、人影すら未だに見かけていない。

 

「いや!他にもいるさ。でかい街だ、きっといる。」

否定するレオン。実は面接試験の為に一度、この街を訪れたことがある。7月末にテレビや新聞を賑わせた猟奇事件に興味を持ち、経歴書をもってラクーンシティー警察署へ赴いた時の、この街の賑やかさは今でも覚えている。

 

(警察署まで後2ブロックほど…もうすぐだ)

署が近くなるにつれて焦りが大きくなっていく…不安と焦燥で思わずアクセルに力が入りそうになった時、道をふさぐバリケードがドライブ終了を告げた。

 

「歩くしかなさそうだな。」

 

「走るの間違いじゃない?」

「ああ、そうだな」

道端で食事している人影を見てしまったクレアが、レオンの言葉を即座に訂正した。

エンジン音に気がつき食事をやめる人々…新鮮な肉の気配に気付き、警察車両を取り囲み始めた。

 

「レオン!早くバックして!」

レオンが包囲から逃れる為にシフトをRに入れて後方を見るが…

 

「何なの…」

猛スピードで後方から接近するタンクローリーの姿が見えた。脱出しようと試みるクレアだが、感染者が邪魔でドアを開くことが出来なかった。

(脱出は無理。ならば……)

「捕まってろ!」

衝撃に備えるレオン、最後までドアを開けようとしたクレア…この時の判断が2人を別つ。タンクローリーに追突されレオンを乗せた警察車両は大きく吹き飛ばされる…クレアは衝撃の瞬間、投げ出される形で車両から放り出された。

 

「クレア大丈夫か?」

「ええ、大丈夫よ貴方は?」

間一髪、タンクローリーが爆発する前に脱出したレオン。炎上するタンクローリーの向こうに居るクレアも無事そうだ。

(クソ…さっきの音で引き寄せられてきたのか)

先程までの人気のなさが嘘のように、周囲からは感染者が集まってきている。

 

「駄目だ、ここは危険だ」

「先に行って、警察署で合いましょう。」

 

レオンはH&K VP70[マチルダ]をホルスターから抜きセーフティーを外す。

(残り17発か…無駄には出来ないな。)

最大、弾倉に18発、薬室に1発の19発だが、常日頃から薬室に装填している人が居るのだろうか?既にクレアを助けるために1発消費している…感染者はざっと見、20人くらいはいるようだ。…とても相手にはしてられない。感染者と放置された車両などの障害物の間を縫って駆け抜ける。

 

(ゾンビ擬きは速度が遅いのが救いだな。反応が遅いから背後を走り抜けば掴まれる心配はなさそうだ。問題は……)

 

前方には感染者の群れがあるため路地を抜けて、迂回する形で警察署を目指した。路地は大通りの様に周囲を囲まれる事はないが、此方の逃げ道もない。そして、物陰など死角が多い為……

 

「shit!」

出会い頭にレオンは掴みかかられる。レオンは即座に銃底を感染者に叩き込み、怯んだ隙にその横を通り抜けた。警察署前にも感染者が多数いるが、そちらは道が広いため難なく掻い潜れた。

何とか警察署の門をくぐり抜けで閂を掛け、感染者が入り込まないようにロックする。噛まれることなくたどり着く事ができたが、この状況が長く続く様ならば、おそらく食い殺されていたかもしれない。

 

「ここは戦場か何かか?」

振り返って見た警察署の正面ゲートの景色は正に戦場の様であった。数多もの薬莢、動かなくなった死体の山、血のついた複数の足跡。まるで世界大戦の映画を見ているような光景だった。ふとクレアが言っていた[この街には私達しかいないかもしれない]という言葉を思い出してしまった。

 

(ここに生存者が居ないのなら、本当に俺達だけかもしれない…)

不安を抱きながら警察署の重い扉を開いた。

 

~警察署~

警察署内には外と同じように薬莢が散乱している。違う事といえば、死体を外へ引き摺って出したのか、赤い筋が警察署の床に描かれていた。近くの通路のシャッターは下げられていて、静寂と重い空気が署内を包んでいる。

 

「誰か、誰かいないのか?」

彼の声がホールに反響するが、それに答えるものはいない。

(クレアの言った通りだ…いや…交戦した後、署内から死体を片付けている。留まるつもりがないのならわざわざ片付ける必要は無い筈だ。)

 

気を持ち直し、辺りを探索する。カウンター裏には丈夫な金属ケースがあり、頑丈な南京錠で鍵がかけられている。

(開かない……しかもこの南京錠、鍵穴もダイヤルも無い。どうやって開けるんだ?)

極太な支柱に鉄の塊の様な本体、解除の為の穴やダイヤルは無い。早々に箱を開けるのを断念してカウンター奥へと足を向ける。応急処置用だろう…仕切りと簡易ベッドが設置されており其所には、銀髪の女性が横たわっていた。

 

「おい!あんた!」

レオンは銃を構えながら声を掛けるが返事はない。見たところ外傷はない様に見えるがその肌はとても白く、生きてるようには見えない…制服は血で汚れていないが、ベッドの下には血塗れの服と布が転がっていた。

 

(薬品で死亡したか…それとも…死後は血液が凝固する、綺麗な服に着替えた直後…おそらく服の下にあるであろうガーゼから血が滲み出る前に息を引き取ったのか…だが、瀕死の状態でわざわざ着替えるなんて余裕はあるわけがないし…)

レオンはこの街では不自然な死体に興味を抱く…否、死体と言う表現は合わないように感じる。それはまるで人形の様に最初から命のない完成された創作物と感じてしまうほどたった。

 

(リタ・フィリップスさん…自分よりも若く見えるけど先輩になる筈だった人…自分がもう少し早くこの街に着いてさえいればこの人を助けることが出来たのだろうか?)

暫く立ち竦んでいたが考えたところで答えは出ない、レオンは署内の探索を再開した。

 

ロビーの端末にアクセスして、監視カメラの映像から生存者を探す。カメラは署内の廊下しか設置されていないため部屋の様子はわからない。人影のない廊下の映像を切り替えること数回、署内を歩く人の後ろ姿を見つけた。

「生存者か!場所は東側オフィス近くの廊下、警備室付近」

 

端末からマップを暗記して、カメラで目撃した廊下へと向かう。シャッターで封鎖されているので解除レバーを上げるが、シャッターが上がる途中でヒューズが飛んだのか1/5程で動かなくなった。仕方なく血で濡れた廊下を、這いつくばってシャッターをくぐり抜け抜ける。

 

「泣けるぜ……この服お気に入りなのに」

血塗れになった服、状況は理解出来ているが愚痴を溢さないと正直やってられない。注意しながら水浸しの廊下を歩いていく、この水の出所をレオンが知ることがないのが唯一の救いかもしれない。

 

~警備室~

カメラで後ろ姿を確認できた廊下は、下ろされたシャッターの先にある。

 

[ガシャンガシャン]

 

「待ってくれ!今開ける!」

シャッターを叩く音に急かされながら、レオンは急いでシャッターを下から持ち上げた。シャッターの隙間から延ばされる血塗れの手を掴みとり此方側に引っ張ろうとしたが違和感に気付く。

 

「ツッ!」

握力が異常に強い…まるで自分の手を砕かんとするくらいの力で掴まれている。半ば自身手から振り払う様に勢いよく手を引き抜くが、その拘束を解くには至らなかった。続けて表れた頭部は案の定、頭皮が喰い千切られた様に頭蓋骨が露出している。人間ではないと判断出来たレオンはすかさず、拘束している腕に一発、頭部に二発撃ち込みやっと解放された。

 

[ドン!ドン!]

 

「今度は何だよ!」

レオンが入ってきた入口の扉から叩く音がする、十中八九感染者だろう。

 

[バン!]

遂に扉が破られ感染者が室内に侵入するが、レオンも黙って見守る訳ではない。開け放たれる扉を掴み、回し蹴りで扉の軌道上に居る感染者ごと文字通り締め出す。吹き飛ばされて倒れている感染者の上を難なく通過してホールへと戻ろうとするが、シャッターの下をくぐり抜ける時に感染者に追い付かれてしまった。足を掴まれて徐々に這い上がってくる感染者、銃は足を引っ張られた際に手から離れてしまって前方にあるのだが届かない。ホールから足音が聞こた…見上げるとホールで見かけた銀髪の死体…

 

(あぁ…リタ先輩に食べられるのか…)

レオンはまるで他人事のように己の未来を受け入れた。

 

 

 

 




マチルダはゲームでは12発でしたっけ?
性能は実銃を参考にしています


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3、

レオン:死んだ筈じゃ…
ルナ:残念だったな、トリックだよ



~レオン君の危機から3分前 警察署ホール~

[ルナ!起きて!ルナちゃん!お~き~て~!]

 

無線からオペレーターのエマの声が聞こえた。

「アラームまだ鳴ってないです。後5分…」

 

[そのアラームは20分前に、とっくにスヌーズまで終わってます!お仕事の時間ですよ!Come on, wake up!!]

 

ルナは起き上がり、大きく息を吸い込み吐き出す。

「エマさんもゆっくり寝れましたか?」

 

[お陰様で~何せ徹夜も徹夜だったからね~]

 

「何か異常とかは?」

 

[交代で監視してくれてた人からは何も連絡受けてないよ~私が珈琲入れる3分程、席を離れた間に何もなければ異常なし。]

 

(時刻は21:15…レオン君達もそろそろ来る頃ですよね…確か…)

 

ルナは伸びをして立ち上がる。足元には今まで着ていた血塗れの服

「寝ぼけてて意識無かったですけど、一応は服や体を拭いて寝てたみたいですね。それにしても随分血塗れになってますね。何があったんですか?」

 

[ソダネー、ナンカ キモチワルクテネレナイ イッテター]

 

「何で片言なんですか!?」

 

[ワタシ ナニモシラナイ ミテナイ]

 

「??」

 

寝不足と疲労で暴走したルナ本人の記憶は、2つめのメダルを手に入れた段階で既に無かったようだ。何故か血塗れになった自身の服に首を傾げながら装備の汚染具合を確認する。

 

[ロングコート:汚染大]

[ガスマスク:汚染大]

[破城槌:汚染大]

[M93R:汚染小]

 

汚染大の物は設備で除染しないと使用するのは危険だ。幸いにも、ディビジョン専用プレートアーマーの様な特殊装備は汚染されていない。コート類はそのまま破棄しても問題ない、今回は空気感染の危険もないとわかったのでマスクも無理に回収する必要はないだろう。

 

[パン!パン!]

 

署内から発砲音が聞こえてきた。

「生存者!?」

 

ルナはすかさずに生体スキャンを行い、生存者の情報を探る。

 

[ルナちゃん!東側通路から生存者が此方へ向かって来てる!]

「了解!」

 

ロビーカウンター裏の金属ケースに掛けた南京錠のロックをSHDウォッチを操作して解除し、中からカスタムガバメントだけ取り出して急いで生存者の元へと向かう。丁度その時、シャッターの下から這い出るレオン君が足を掴まれて銃を取り落とす場面が見えた。抵抗するレオン…何故か私の顔をみて諦めた様に目を閉じた。

 

(???)

 

「大丈夫よ。」

全く状況が分からないが、ガバメントで感染者を無力化して頭部をシャッターの奥へ蹴飛ばして防壁を完全に下へおろす。

 

「これで暫くは安全よ。」

 

「助かった。俺はレオン・ケネディ」

 

「私は「リタさんですよね?」」

(??なんでレオン君はリタさんと勘違いしてるのだろう?リタさんはマービンと一緒に脱出したはずだけど……?)

 

「私の事を知ってるの?」

 

「いえ…制服の名札を見て…」

 

ようやく理解できた。血塗れの服のままで寝るのは嫌だし、目を擦ったりなど、ふとした瞬間に感染してしまうかもしれないので、寝る前に比較的サイズの合う服をロッカーから拝借したのだ。目を落とすと確かにリタ・フィリップスとネームがきられている。

(どうせ偽名を使うつもりだったし、勘違いしてるなら丁度いいか。)

 

「そう……貴方の先輩のリタよ。よろしく。」

   ・

   ・

   ・

   ・

 

「こうなった原因は?」

 

警官隊の制服に着替えながらレオンが尋ねてくる。

(いきなり黒幕を言うのもな…警官が知ってそうな情報だけ伝えておくべきかな)

 

「いつから始まったかは私にも分からないわ。ただ、猟奇事件が多発する郊外の洋館へ特殊部隊が調査のために派遣された、過去に軍隊に所属した事もある精鋭達だが洋館からの生存者は僅かだった。そして彼等の証言はとても信じられるものではなかった。」

 

「それはどんな…「死者が歩き人を喰う」」

 

「アンブレラの開発した生物兵器だとも…知っての通り、この街はアンブレラのお陰でここまで成長してきた。それを覆す様なホラ話を誰も信じようとはしなかった。……真実だったのにね。」

少し寂しそうに笑うルナ。

 

「状況が悪化したのは4日程前、作成報告書からは署内の市民と警官は此所を脱出したようね。貴方と私は、彼等と入れ違いになったみたい。」

 

 

「……先週から出勤の筈が待機命令がでて…もっと早く来ていれば…」

何も出来なかった自身に悔しがるレオン。

 

「今居るだけで十分よ(一人で鍵集めとか本当にうんざりしてたから)」

 

「準備出来ました先輩。」

制服に着替え、プロテクターを装着したレオン。実はレオンの方が年上だ、先輩呼びされてむず痒い。

 

「本当に?」

その姿を見たルナは首を傾げる。

 

「…………まぁ、口煩いお説教は後にするとして…警察署、貴方がここに入って来たとき既に囲まれつつあったでしょ?今から外に出て街の外まで脱出出来そう?」

 

「いえ…無理です。」

 

「でしょうね…実はこの警察署は古い美術館を改造して作ったみたい。其所にはある石像の下に隠し通路があるみたいで、其所を使って包囲網を越えようと思うの。その鍵となるアイテムも集めたわ」

3つのメダルをどや顔でレオンに見せるルナ…レオンにはその苦労の意味を知ることはない。

 

「では、早速脱出ですね「まだ!」」

 

「署内の武器庫に弾薬と装備が余ってます。それの回収からお願いするわ。」

 

「分かりました。すみません」

 

シュンとするレオン

(おおぉ!あのスーパーエージェントのレオン君が凄く初々しい!滅茶ゃレアやん!これ!)

 

「これを持っていって。あと…感染者には誰であれ躊躇わないで。ああ成ってしまった時点で助からない。」

 

ナイフと署内でかき集めた分の9mm(90発全て)を渡しながらルナは忠告する。

 

「私が仮眠している間に署内に侵入した感染者も居ると思う…気をつけて。それと…貴方のデスクは西側オフィスにあるわ。」

こんな非常時に何を言ってるのか?と首を傾げるレオン。確かにその通りだが…あの歓迎会のメモ帳を見てしまった私は、どうしてもレオンに分かって欲しかった。

 

「あの…先輩は一緒に行かれないのですか?」

「私は貴方が装備を持ってくるまで、此所で準備を整えておくわ。それとも…乙女の身仕度をじっくり拝見したい?」

 

「行ってきます!」

駆け出すレオンの後ろ姿に思わず笑みが溢れる。

 

[虐め過ぎよルナ]

「いやいや、女性に対する耐性つけとかないと苦労するのよ…あの子は…」(就職で遠距離恋愛になることに彼女は激怒して破局。此所ではエイダに振り回され…ラクーンを抜けても4のどっかの村でも、また振り回され…つくづく運がないというか…)思わず同情してしまう。

 

「…さて、銃の整備でもしますかね~」

耐久性に定評のあるg36だが(排熱問題は除く)整備できるうちにしておきたい。

 

「~~~~♪♪」

聞き覚えのある言葉に適当にメロディーを繋げて、即席の歌を歌いながらルナは銃の分解を始めた。

 

 

~西側オフィス~

スターズオフィスからデザートイーグル、一階ロッカーからM870を二挺入手したレオンは帰り道に西側オフィスに立ち寄った。先輩に言われた通り、自身のデスクを確認してみると机の両端にダイヤル式の南京錠がされており開く事ができない。机の上にはメモ帳が置いてありメッセージが綴られていた。

 

[新人の初仕事]

レオン・S・ケネディ、貴官に重大な任務を与える。その恐るべき内容とはーーーなんと自分の机の鍵を開ける事だ!ヒントは6人の先輩のファーストネームの頭文字だ。順番は机の並びと同じにしてある。鍵は机の左右に一つずつだ。両方ちゃんと外せよな。ま…要するに仲間の名前を覚えることがお前の初仕事って訳だ。成功を祈ってるぜ。スコットの野郎から聞き出すのは、ちょっと骨だろうけどな。

ーーー優しいブラナー先輩より

 

施錠された扉をお構いなしに破壊したルナだが、この机だけは手付かずのままで放置していた。レオンにだけは知ってて貰いたかった。既にルナが介入したことで原作とは違う結果を辿っているが、それでも救えなかった命もある。後にラクーンの犠牲者と名前を忘れられ一括りに言われるだろう故人となった先輩の名前を覚えておいて貰いたかった…そういう思いでルナはレオンを此所に向かわせた。

 

レオンはその意図を汲み取り鍵の解除に取りかかる。机の上に置かれたネームプレートを一つずつ確認していく…

(リタ先輩の机だ…レポートや日記があるけど、見ても問題ないだろうか?)

 

少し躊躇われたが、この街の状況把握と自らを説得して日記のページを開く。書れてる内容は、去年採用された新人としての不安、特殊部隊のジルという職員と仲好くなったという事や、マービンという先輩が厳しいが尊敬できる、新人が入社したら私が先輩になるんだ!などなど…日記を読んだ印象としては人懐っこい犬の様な印象を受けるのだが…どうしても先程出会ったリタ先輩のイメージとは食い違う。

(人は変わる…親しい人を無くしのかもしれない…きかないでおこう)

 

再び鍵解除の為にプレートを探し始めるレオン

(エリオット先輩…銃が好きだったのだろうか?ブローニングハイパーが綺麗に手入れされて机の上に置かれている…でも、この状況で銃を持ち出さないのは…きっとこの人は…)

 

それはルナが暴走する前に、綺麗に磨きあげ彼の机に置いた物だった。レオンはこの銃を手に取ろうとして…やめた。きっとこの銃の引き金は、他のどの銃の引き金よりも重い…そんな気がした。

 

 

 

 




現在の装備
G36(SL9風)    120発
MP7     0発
ガバメント  35発
M93R    60発(ネメシスで20発使用後署内の9mmで補給)
フラググレード 3発
ドローンディフェンダー 1機

盾は歪んだ為、破城槌は扉を開けてしまったので破棄

ガバメントはインフィニティ
トラディショナル・フレームのシングルカラムマガジン総弾数7+1
砂や泥水を掻けても安全に動作するという範囲で精度が出るようにカスタムオーダーしている
ほぼストレートのフレームとスライドにはOld Soldiers Never Dieとだけ刻印が施されている

銃のチョイスは完全に筆者の好みですね(笑
性能とか良いものはゲームでも、実銃でも色々あると思います~
ですが、SL-9!この銃格好いいと思いません?(民間用でセミしかないですが……故にG36を外観だけSL-9風に(笑


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4、G

投稿時間…間違えました(汗


~ホール~

「My rifle, without me, is useless. Without my rifle, I am useless. I must fire my rifle true. I must shoot straighter than my enemy who is trying to kill me. I must shoot him before he shoots me. I will …♪」

我がライフルは、我無くしては意味が無い。ライフルを持たぬ我もまた無益。我は正確にライフルを撃つ。我は我を殺そうとしている敵よりも勇猛に撃つ。敵が我を撃つ前に、我は敵を撃たなければならない。

 

ルナは小声で歌いながら銃を組み立てていく。

 

[何の曲ですか?聞いたことのない歌ですけど]

「ん~~適当にメロディーつけただけの…誓いの言葉?」

 

紫色の液が付着し、明らかに汚染されてます!と言わんばかりの93Rを分解、洗浄、組み立てしたルナ。

 

[それより、あの人を一人で行かせて大丈夫だったの?]

「大丈夫大丈夫、あの人は後のアクションヒーローよ。簡単には死なないから!」

[でも、感染したらお仕舞いじゃない?]

 

レオンやクレアは奇跡的にもTウイルスの抗体を先天的に持っているので、噛まれたところで感染することはない。しかしそれは後に分かることであり、原作知識のあるルナと違い出会って間もないエマが知るはずがない事だった。

 

(レオン君は単独で、寄生虫に支配された軍事施設に殴り込み壊滅させたり、リッカーを簡単に排除出来るし問題ないでしょ~)

(いや……それはラクーン脱出後、エージェントの訓練を受けた後の話だったね……っ)

 

大丈夫とエマに伝えようと思ったが、言葉を詰まらせる。

 

「…もしかして、ヤバい?」

[まぁ、普通に考えたら危険よね。]

 

慌てて組み立て直したベレッタを片手に、レオンを迎えに腰を上げる。

(レオン君はリッカーごときじゃ死なない筈!…でも、ダムネーションでは、訓練した特殊部隊がリッカーに簡単に壊滅したし…レオン君とは言えども、一般人。もしかすると……)

などと考え事をしながら、西側オフィスの扉を開けようとしたのがいけなかった。運悪く戻って来たレオンと鉢合わせになり、抵抗なく開いた扉に吊られる形でレオンの腕の中に飛び込んでしまったのだ。

 

「……えっと…先輩?お待たせしました。」

「遅い!…………お帰りなさい。[ツンデレ乙!]うるさい!」

「え!?」

 

無線から聞こえる茶々に即座に反応してしまったルナ。レオンの困惑した表情が見える…当たり前だ、エマとの無線はレオンは知らない。

 

「…と…とにかく、怪我してないならよかった。」

 

真っ赤になった顔をそむけて誤魔化すルナであった…

 

「何か手に入りました?」

「はい!フルストックとソードオフの散弾銃が1丁ずつと、大口径拳銃、あと俺の銃のカスタムパーツ…先輩、ありがとうございます!」

「いえ、そのお礼はこの街を脱出して、他の先輩達に直接言いなさいな。」

 

そう、用意したのはルナではない。

 

(入社祝いに愛銃のカスタムパーツ…粋な先輩達ね。)

少し羨ましいと思う、何せ私の先輩や教官は優秀だが、精神的には故障した人達が多かったから…

 

「その銃をカスタムしてから隠し通路の探索を始めましょう。」

 

   ・

   ・

   ・

   ・

 

レオンが愛用しているマルチダを改造しているのを横目に、彼から受け取ったM870にバックショットを装填していく。

(散弾銃は反動が強いので、先輩がストックのある方を使ってください…なんてね……気を使わせちゃってるね。嬉しいのだけどね…)

 

正直な話、ルナの方が銃は使い慣れていたりするのだが、下手なことを言って怪しまれないようにと素直に提案に応じた。装填が終わり、今度はスラッグ弾を筒状にした画用紙の中に詰めていく。

 

「それは何に使うのですか?」

見慣れない光景だった為か、レオンが思わず口を挟んだ。

 

「これは予備です…備えあれば憂いなし、と日本のことわざであります。使わないならそれでよし、いざ必要になった時に無いよりはマシってことです。警官は通常、予備弾薬を1~2マガジンほど携帯してます。それと同じですよ。逆に聞きます、会った時から思ってたのですが、貴方…この街に来るときに予備弾薬持ってきてました?」

 

「……」

 

(其所は原作通りなんですね~)

「貴方はゴリス(ゴリラ)では無いのですから、弾薬無しでハンドガン片手に、救出任務なんか行かないで下さいね?」

ため息混じりにお説教を溢す。

 

「勿論です!」

 

心外です、と言いたげな表情で此方を見るレオン君だが…(近いうちにやらかすんでよね~これが…例えば寄生虫に乗っ取られた村に行くときとか~)

毎回、ゲーム開始直後は弾薬の少なさに頭を悩ませたものだ。現実となった今、現地で自身の使う銃の弾薬を確保出来る可能性は低い。コンテニューなんて出来ないので無謀なことをするなとこの場で釘を打っておく。

(毎回出直し出来る保証は無いですからね~)

自身も最近出直したということは当然、彼には秘密である。

  ・

  ・

  ・

 

「さぁ行きましょうか…」

 

石像にメダルを嵌め込むことで姿を表した隠し通路。思えば、ここまで長い道のりだった…生存者の救出任務から始まり、署内の探索、キーアイテム集め…署長が生存者を分断して全滅させる事が目的だった為か、鍵もアイテムも突拍子の無い場所に置かれているものばかりだった。

 

(やっと新しいエリアを探索出来る…あと、アイアンズ!貴様は許さん!)そっと心に誓うルナであった。

 

タイプライターが置いてある自動感知照明の備えられている隠し部屋を抜けて、地下道へ続く通路を懐中電灯の明かりを頼りに警戒しながら降りていく。建物の構造を簡単に言うならばB1・B2と言うべきだろうか…B1は横へと続くグレーチング状の床材の通路。B2へ進むであろう、下へと降りる階段からは数人の足跡が残されており、風にのって仄かに悪臭が漂ってくる。おそらくB2は下水道に繋がっているのだろう。B1、B2のどちらかがアンブレラの施設に繋がっていると予想できる…それは電子ソナーを放ちスキャンを行えばすぐに分かることではあるのだが……ルナがSHDウォッチを操作してスキャンを行おうとしたときだった、B1の通路の奥から走る足音が聞こえた。

 

「生存者か!?」

「レオン君!待って!」

 

足音を追って走り出すレオンを慌てて追いかける。

(足音の主…あの速度なら感染者ではないと思うけど、生存者とも思えない。それに、このマップ…)

通路を抜けた先には機械室と言うべきだろうか…今居る通路の下にはボイラーや機械、太いパイプが交差した空間がある。そして、追いかけたレオン君も音の主を見失っているようだった。

(ボス戦ですね…あまり弾は無いのですが…)

 

こんなところに生存者が居るとは思えない。ゲームでよくあるボス戦前の静けさ、専用マップ…ルナの知らない展開だが、この後何があるかは予想できる。ガバメントをホルスターにしまい、G36に持ちかえる。警戒度を上げ、すぐに交戦出来るように身構えた。

前方の部屋、レオンが倒れて入口を塞いでいる棚をどけて中に踏み込もうとした時だった。足音の主が部屋の天井を破壊して落下してきた。大半の部位は人間とかわらないが、右側の腕は異常に肥大し、筋肉繊維や腫瘍の様なグロテスクな外観を晒している。髪は金髪、ジーンズと左側に残っている血だらけの白衣。アウトブレイクの原因となった人物の一人、Gウイルスを自らに注入したウイリアム・バーキンの成れの果てだった。

これまでのTウイルス感染者…歩く屍達とは比べ物にならない速度でレオンに掴みかかるウイリアム(G)…突然のことで硬直しているレオンの換わりにルナが発砲する。レオンが掴み上げられ、床に叩きつける直前でライフル弾がGの頭部に着弾していく。今のGには、まだ痛覚は存在しているようで、銃撃の痛みで拘束が緩みレオンは解放された。咳き込むレオンの襟を掴み引きずりGから距離を取る…直後、先程居た場所にGの持つ鉄パイプが振り下ろされた。あまりの怪力にグレーチング(金網状の床材)が破壊され下の階層(機械室)に落下する2人と1体。

 

「レオン!怪我は?」

「大丈夫です。何ですか!あれは…」

「何でもいい…相手が脅威となるなら速やかに排除するのよ!」

 

ルナが口にしたことは日本以外の警察では当たり前の事だ。相手が此方に銃口を向けるなら、即座に脅威を排除しなければならない。自分が倒されれば次は同僚、付近の市民に被害が及ぶ。其処に感情をはさんではならない。……それが…治安を守るのが[仕事]だからだ。

助けて、苦しい、と呟くGにライフルを発砲する。

 

「先輩!俺が引き付けます。その間に逃げて「却下!」」

 

確かにルナ一人ならば逃走は容易だろう。頭上のパイプを伝い上の通路へ先に登り、梯子を下ろしレオンを援護して共に逃げる。だが、それでは…

 

「逃げた先が行き止まりなら、此処で戦うより状況が悪化する。」

「分かりました、交戦します。」

 

レオンの散弾銃が次々と火を吹いた。

 

  ・

  ・

  ・

 

戦闘が始まって既に1分。始めは2対1の正面火力で押していたが、次第に頭部への銃撃の痛みに馴れてきたのか、銃撃を受けながらでも此方へ間合いを詰めるようになっていた為、戦法をかえる。レオンが正面から頭部を銃撃して引き付ける。ルナが側面に回り込み腕部にあるG特有の大きな眼球を潰す。リロード時はお互いにカバーするようにGの注意を引き付ける。…ルナのチームメンバーは()()()ばかりの為、連携が疎かになっているが、SHDの基本的な戦い方だ。交戦を開始する前に有利な配置に付き、一気に排除する。敵とお互いに障害物を挟みこんでの銃撃戦、硬直した状況ではメンバーが制圧射撃してる間に側面へ回り込むなどだ。無論、ルナもその様な戦い方を学んでいる。音や気配を消して忍び寄る、頭部と眼球を銃撃した後相手が此方へ振り向く前に即座に場所を移す。相手にとってはゴーストと戦っているようにも感じるだろう。

 

2分経過…既にライフルのマガジンを2つ消費した。ルナは連結したG36のマガジンを使用していない物に切り替える。最後のマガジンだ。Gも流石にダメージが蓄積されたのか、動きがぎこちなくなっている。足掻きだろうか…鉄パイプを振り回しながら突進してくるGに狙いをつけるルナ。だが発砲する前に通路のボイラーへと繋がるパイプに、Gのもつ鉄パイプが衝突して破損、辺り一面を蒸気が覆った。

(視界回復まで後何秒?此処に止まるのは危険、場所を移すべきね。Gは蒸気で視界が覆われる前に何処を見ていた?)

 

ルナはGの次の行動を予測する。

(正面の私を見ていなかった…事実、此方へ突進する足音は聞こえて来ない。撤退した?考えられなくもないけど…違う気がする。Gが最後に見た物……)

 

Gは見上げた…頭上には太い…ボイラーの高圧の蒸気に耐えられる頑丈な太いパイプ。

 

「レオン、上よ!逃げて!」

「えっ!?」

 

離れた場所から重い物体が落下する音、金属同士がぶつかり合う甲高い音、そして、壁に叩きつけられる音が聞こえた。

蒸気がはれ、視界が開ける。床には真っ二つに折れた散弾銃、壁からずり落ちる様に倒れ込むレオン。Gはとどめを刺そうとパイプを頭上高く振り上げている所が見えた。

 

「…………」

ルナは無言で、Gの振り下ろされるパイプを持つ手の親指をライフル弾で吹き飛ばす。親指という支えが無くなり、握力が低下したことで鉄パイプを保持出来ずに、振り下ろす場所とは違う、明後日の方向へパイプが飛んでいく。

 

「襲撃者に復讐出来て、さぞ満足でしょ?なら、もう思い残す事もないだろう?既に棺桶に片足突っ込んでるんだ……大人しくそのままクタバレよ出来損ないが!」

 

G36をフルオートで頭部を蜂の巣にしながら、ゆっくりと()()()()歩いてGとの間合いを詰めていく。30発の弾倉があっという間に空になる。残弾0のG36を背中に押しやり、替わりにレオンから受け取ったフルストックのM870を抜き放ち、構えると同時に引き金を引く。現在装填されている銃弾は00B(ダブルオーバック)。1発のショットシェルに直径8mm程度の鉛玉が9発、15m程という拡散もろくにしない近距離で放たれる。

 

(進化を繰り返す…Gはウイルスとしては完成しているかもしれない。だが、兵器としては及第点とは言えない…人間は知識があることで生態系の頂点に君臨した。己の非力さを知り、補う為に武器を作った。個人では敵わないと知ると徒党を組むようになり、連携して駆り立てる事を覚えた。罠を張り、戦術を学び…やがて敵となるものは同族しか居なくなった。)

 

次々と銃口から吐き出される散弾、圧倒的な弾幕にGは押される。00Bを使い果たしたM870を空中で反転させ、銃身下部のローディングポートが上にくるように持ち直し、ライフルドスラッグが入っている画用紙の筒をローディングゲートに押し当ててマガジンに弾を流し込む。空になった筒が落下する……初弾を薬室に装填し引き金を引く。その間も決して歩みを止めない。

 

(確かに怪力、高耐久……だが、自我を…知識を失い、繁殖するだけの生物など兵器にはなり得ない。)

 

ライフルドスラッグ…ショットシェルに小弾を数発詰め込んでるバックショット(など)とは違い、ライフルドスラッグは1発の大口径の鉛玉しか入っていない。その威力はライフル弾に匹敵する程であり、熊等の大型の動物に使用される弾薬だ。それが、見るからに柔らかい腕部の眼球に着弾して内部を抉る。振り払われる腕をルナは、小柄な体格と速度を生かし、難なく避ける。

弾切れになった散弾銃を床に放り投げ、ガバメントで銃撃しながらGへ更に接近する。

 

「だから………」

 

フラググレードのピンを抜き、穴だらけになったウイリアムの口に押し入れ、蹴ってGを突き放つ。

 

「人間を嘗めんなよ?化物が!」

 

グレネードが内部で炸裂して、Gを機械室の端の手すり付近まで吹き飛ばした。Gの背後、手すりの向こうには下水道へと繋がるであろう、谷の様な深い落差と闇が広がっている。

 

「レオン…?」

動かなくなったGを横目にレオンの様子を伺う。蒸気の向こうで何があったかは正確には分からないが、おそらく打撃を受ける寸前で銃を盾にしたのだろう…レオンに外傷はなく、呼吸と脈も安定している。

(壁に叩きつけられた衝撃で意識を失っているだけか…)

 

安堵するルナ。その時、視界の端で何かが動くのを察知した。頭部が無くなったGがヨロヨロと立ち上がる所だった。

 

(薄々気付いてたけど、既に生命維持の器官が別の場所に移動してるのか…)

 

人間にとって脳幹を破壊すれば即座に行動不能となる。Gにも同じような器官があるとは思うのだが、具体的な場所など分かるわけがない。此方に向かい歩きだすG……腕部にある唯一の目にガバメントの標準をつける。

 

さっさと失せろ。ベイビー(出直してこい、三下が)

 

銃声と共に45口径の重い弾頭が眼球に着弾する。足を通路から踏み外し、腕を振り回しながら手すりの向こうに落下するG。

 

[まさか、あんな生物が存在するなんて…ルナ、大丈夫?]

「問題ないです。」

(この程度なら負けませんよ…少なくても()()()では…)

 

弾を使い果たした銃達…再び現れるであろう進化を繰り返す生物、気を失ったレオン…ルナの頭痛の種は増える一方であった……

 

 



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5、

令和!おめでとうございます~
よろしくお願いしますね~!
今回は準備回です~

それとイラストを友人に描いていただきました!

【挿絵表示】


休暇中のルフィーナ(和服仕様)です
(ルナは別ゲームで使ってる自キャラ(オリジナル)だったりしますw


~機械室~

「エマ、聞こえる?」

 

[はいはい、何でしょうか?先輩。]

 

「本来、来るはずだったエージェント第二派と、拠点に持ち込む筈の物資はこの街の付近で待機してるのよね?」

 

[その通りです先輩。コードXXが発動されると情報が入った為、エージェントの増援部隊は郊外で待機しています。]

 

「なら、補給物資の空中投下(サプライドロップ)をお願い出来ないかしら?内容は私の銃の弾薬、カメラ照準に換装したタレットとドローンを各3つとSHDキャッシュ(拡張型ガチェット制御装置)、あと…シグネチャーウエポン(切り札)を。」

 

[ルナちゃん、何を用意しましょうか?50口径対物ライフル(TAC-50C)回転弾倉式40mmグレネードランチャー(M32A1)?それとも炸薬付きクロスボウ?]

 

「いいえ、ペイロードライフル(XM-109)を。」

 

[ほら来た、無茶ぶり!ペイロードライフル(重装弾狙撃銃)何て注文するエージェントは後にも先にもルナちゃん位ですよ。そもそも、今回ラクーンに降下したメンバーのシグネチャーは異常(頭おかしい)ってオペレーター内でもっぱら評判ですよ!]

[ゾンビや化物が犇めく(ひしめく)街なのに日本刀を要求したり、戦車支援戦闘車両(ターミネーター2)を要求したり、35mm2連装高射機関砲 (L-90)を要求したり、大体なんですか!L-90って!テクニカル(武装トラック)で運ぶとしてもバリケードの多いラクーンでは通行出来ませんよ!?]

 

「さぁ?文字通り()()()()んじゃない?」

 

[頭おかしい(頭おかしい!)]

 

「その点は、激しく同意出来ますね。で、ペイロード位なら用意できるでしょ?エマさん。」

 

[まぁ、問題ないです。ガチェットの換装で1時間程頂きます。投下地点は警察署で良いでしょうか?]

 

「(タイラント投下等で)状況が変わるかも知れません。準備ができましたら連絡下さい、その時に投下地点を指定します。それと、もう一つお願いが…」

  ・

  ・

  ・

 

[よくわかったわ!貴女も頭おかしい!]

 

お願いを聞いたエマの感想だ、頭おかしいとは心外だ。

 

[一体何と戦うつもり?第三次大戦でも始めるの?ルナちゃんのお願いでも絶対に無理よ!]

 

「いつも平気でやってる事だろうが!今更御託を並べるな!……やるんだ!貴女がやらないなら私がハックして起動するわ。」

 

[分かりましたよ…やりますよ…貸し1ですよ!]

 

「今度ケーキをたっぷり奢ってあげる!」

[もう子供ではないです!そんなんじゃつられません!]

「なら日本!京都へ4泊5日![一人で行っても楽しくないです。ルナちゃんと一緒なら考えます。]それで決まり!」

 

「それじゃ例の件、よろしくね!」

[頑張ってみます~]

 

無線を終えた…きっと無線の向こう側ではエマちゃんが物資の準備など、慌ただしく指示を飛ばしているのだろう。もっとも、私の方も他人事では無いのだが……

 

 

気を失ったレオンは未だに目覚めない。先程、派手に暴れた事もあり、まだ探索出来ていない場所からゾンビ達が此方に来るかもしれない。となれば、安全な場所までレオンを背負って行くしかないのだが……

 

(装備重量20kg程…更に70kgオーバーの男性を背負って行くのは不可能ね。回復するまで待つべきなのだけど、此処に長居はしたくない。)

 

Gを退けたが、トドメを刺してはいない。回復した怪物が此処まで戻ってくるとも思えないが、安全とも言い切れない。仕方ないとルナは弾の切れた銃と装備を外して、近くにあった空のロッカーに入れて特殊な南京錠で施錠する。

 

(レオンを連れて、ひとまず安全な場所に連れていった後に装備を回収しに戻ろうかな。)

 

レオンを背負い移動を始める…身長差のせいでどう頑張っても、ガリガリとレオンの足が床に擦れてしまうのだが、そこは我慢してもらいたい。背負ったまま何とか上の通路への梯子を登りきり、安全な場所を探しながら先へと進む。床に目をおとすと、B2からの階段で見かけた複数の足跡が先へと続いていた。嫌な予感がする……心の中では気付いているのだが、それを認めたくなくて考えない様にしていた事がある…

作業員詰所だろうか?橋を渡った先にある部屋にたどり着いた。部屋の奥には上への繋がる梯子があり、付近にはB2から続いていた足跡の主であると思われる歩く屍が5人程(たむろ)していた。ルナは、レオンの装備は別として、残弾が多かったので持ってきた唯一の装備、M93Rで屍を無力化する。

 

「……」

予想通りと言うべきか…歩く屍の他に動かない、6体目の完全な死体があることに気づく。噛み千切られ損傷が激しいが、鼻から着弾し後頭部にかけて脳幹を破壊しながら抜けている亡骸は見覚えがある。

 

(私がよく狙う弾道…見覚えのある顔、駐車場で助けられなかった人…エリオット。)

 

自嘲染みた笑いが込み上げてくる。苦労して鍵を探して、たどり着いた先が数日前に既に探索済みの場所だったのだから…今までの努力は何だったのか?という思いと、助けられなかった犠牲者の屍を再度目の当たりにしてどっと疲れが来る様に感じた。

 

「……」

黙々とレオンを担いで梯子を登り駐車場の先、エレベーター前の待合所でレオンを下ろす。一向に起きる気配のないレオンを置いて一旦、自身の装備を回収するために再度地下施設に戻ることにする。

 

待合所から駐車場に戻ると其処には2人の人の姿があった。

 

  ・

  ・

  ・

「あそこよ!」

 

走り出すシェリー、クレアは周囲を警戒しながらその後ろ姿を追う。駐車場の出口は頑丈なシャッターが降りており通行は不可能、近くの端末を調べるとカードキーを差し込む様なスロットがある。

 

「駄目だ、カードキーがいる…誰!」

 

シェリーの方へ振り返った時に、視界に映った人影。既に死んでいる歩く屍ですら存在感はあるのに、視界に映ったそれは直接目視しなければ気づかないほど薄い気配だった。

 

「まって!撃たないで。感染はしてない。」

 

気配の主は両手を上げ、敵意がないことを示しながら此方に近づいてきた。付けっぱなしの車両に照らし出された人物は、この地獄の様な街には似合いそうもない容姿だった。ラクーン市警の制服を着た女性、髪はバサツキ激しい運動をしたのか火照った肌、正直同性の私から見ても妖艶な雰囲気を醸し出している。実際に人を担いで移動するという重労働をしているのだが、クレアは知るよしもない。

 

「ラクーン市警よ、とりあえず銃を下ろしてくれる?」

 

クレアが銃口を彼女から下ろそうとしたときだった。婦警の背後から放たれた銃弾がクレアの足元に着弾する。

 

「いいや、全員そのまま動くな!」

中年太りした男性が、クレアが銃口を向けている婦警を結束バンドで拘束し、シェリーにクレアを拘束して共についてくるように促す。

 

「私に人質となる価値はない。構わず撃って!」

「いいや、善良な警官ごと撃つことなど出来はしないよなぁ?」

 

ネットりと声で挑発する男。確かに男性のいう通りだ、私に人を撃つ覚悟はまだない。クレアは苦虫を噛み潰す様な顔で男性の指示に従う他無かった…

 

  ・

  ・

  ・

長い間探していた署長が、最悪のタイミングで現れたのは大きな誤算だった。既にクレアにホールドアップされた状態、下手に動くと署長よりも敵と誤認したクレアに撃たれかねない。レオンを担いだせいでスタミナを使い果たし尚且つ、拘束なんてされればルナの力は所詮17才の少女の平均よりも上といった程度しかない。抜け出すことは不可能だろう。本来ならこのような状況を防ぐため、常に警戒し、銃術を極め、速度と身のこなしで補う様な立ち回りをするのだが、仲間と分かっているクレアを見かけた為に警戒を解いてしまったのがいけなかった。

(拘束される前に被弾覚悟で署長を潰す)

 

覚悟を決めて身構えるが、駐車してある車のミラー越しに、背後の署長は自分ではなくクレア達に銃口を向けている事に気付き踏みとどまった。

 

[ルナ!構わず署長を排除して!エージェントを失う損失は他では補えない!]

 

無線からエマの叫び声がするが…従う訳にもいかない。結局拘束されてシェリーと共にアイアンズに引きずられながら駐車を後にする。

 

「覚えてろ!下衆野郎!」

クレアの遠吠えを聞きながら、引きずられるルナの頭の中は疑問符だらけだ。

 

(???。……何故、私まで一緒に拉致されてるのだろう?)

 

 




時間系列
エリオットが下水道からゾンビに追われながら駐車に到着。この時下水道への鍵は解除してある。

レオンとルナがGを排除し駐車場奥の待合室に向かう

クレアがシェリーと合流。駐車場へ向かう

装備回収しに戻ろうとするルナとクレア達が遭遇

ついでに着た署長に拘束されルナとシェリーがドナドナされる。

地下を探索するクレア、レオンが目を覚まし駐車場でエイダと遭遇。レオンはそのまま留置場に行ったためクレアと入れ違いになる

となっています


~署長室~
クレアは連れ去られたシェリー達に追い付く為にカードキーを探していた。

「あの下衆野郎、絶対に許さない!」

手がかりになりそうなものを調べてるうちに署長が記した記録書に目が行く。題名は狩猟記録

オジロジカ オス 推定6才
狩猟場所:アークレイ山地
体長:185cm 体重:165kg
剥製の出来は満足のいくものだが、いい加減小物には飽き飽きだ。そろそろ新しい挑戦するべきだろう。

アムールトラ オス 推定4才
狩猟場所:ハバロフスク地方
体長:290cm 体重:240kg
めくるめく体験だった。黄色い脂肪を断ち割って温かな腸が溢れ出した時の興奮といったら!私の体からも獣の香りがする。たまらない

豚 メス 22才
狩猟場所:ラクーンシティー
体長:160cm 体重:50kg
獲物の体は、白く、柔らかで、どこもかしこも甘い。
私のものだ。永遠に。

ここでクレアは一旦、読むのをやめた。豚の平均寿命は25才ほど、体長も平均的と言えば平均的なのだが、体重が豚としては異常に軽すぎると違和感を感じた。最後のページをクレアは開く。

白兎 メス 推定10代後半
発見場所:ラクーンシティー
体長:ーーー 体重:ーーー
その毛並みは艶やかで光に反射するさまは、まるで白銀の様だ。瞳は琥珀とエメラルド。とても美しい。コレクションとして、何としてでもあれが欲しい!あの手の動物は警戒心が強い。慎重に行動せねばならないだろう。




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閑話:アイアンズ署長の独白

アイアンズ署長の回想です。
サイコな人物なので(※筆者の署長に対するイメージです)
内容もそっちよりになってしまっていると思います
(一部ヘイトな内容があると思います観覧注意です)
(ゲーム公式設定:婦女暴行事件)

剥製の製作は皮を剥ぎ防腐処理を行った後、樹脂製の型に皮を貼り付けて作るようですね…人の剥製とか…怖すぎます((( ;゚Д゚)))ガクガク


~孤児院 アイアンズの回想~

人生とは経験の積み重ねだと私は考える。

そして、人生とは死ぬまでの暇潰しだとも…。

如何にして[自身の時間を楽しむかを]モットーに今まで長い時間を過ごしてきた。ベースボール、サッカー、ラグビー、ボクシング、若かれし頃は、色々なジャンルのスポーツに手を出して楽しんできた。しかし、時の流れとは無情なものだ……光輝いていた物達は、いつしか輝きを失い、かつての感動や熱狂を感じる事はない。生き甲斐とまで思っていた物でさえ今では惰性で続けている毎日。

輝きを失った物達を大切にする事が無意味だと気づいたのは……一体いつの日の事だったのだろう?

私は不純物を捨てて、新しい玩具を探し出す日々を繰り返した。権力を求めて署長の座へと上り詰めた。金を求めて企業と手を組んだ。必要な手段の確保に抜かりはない。いつかは飽きると分かっていながらも、美術品を買い漁る……

  ・

  ・

  ・

退屈な日々が過ぎていく……唯一の趣味である狩猟と剥製作りも、今では熱が冷めつつあると自身の心の中で感じていた。いずれ、この趣味も退屈な時間に変わってしまう事も理解している。何も無くなってしまった自身の姿……それはきっと、苦痛でしかない。新しい玩具を探さなければ…

  ・

  ・

  ・

街の秩序が崩壊した今、自身の心の中に有るものは一つしかなかった。それは、若き頃の過ち…権力で揉み消した婦女暴行事件。少女達を押さえ込み、支配した時の胸の高鳴りを今でも鮮明に思いだせれる。若い女性を狩って剥製に出来るのならば、きっと他の動物なんかでは味わうことの出来ない興奮を体験する事が出来るだろう。

なに、簡単な事だ。混乱と死が支配するこの街で、私を止める事も、咎める事を出来る者も居ない。

……何時から私は壊れてしまったのだろう?アンブレラがウイルスを漏洩した時か?

否、きっと……平和な世の中でも…………平和な世の中だからこそ狂気は育つということなのだろう。

  ・

  ・

  ・

運良く白兎を捕獲出来たのは幸いだった。先に仕止めた豚を放置すれば腐るので皮を剥いで、皮に付いた肉を削ぎ落として剥製にするまではお預けだが……

豚は皮に傷が入るのを気にしすぎて過程を簡単に済ませてしまった分、兎で楽しむとしよう。

………この街の全ては私のものだ。金も、権力も、市民の命も。

彼女の涙、怯えた声、恐怖に歪んだ表情、悲鳴、溢れる血液、断末魔、虚ろな瞳。彼女の体、心、命、魂までも……彼女の全てが私の物だ。




白兎
[不思議の国のアリス]での登場人物。常に時間に追われている。
アリスが「若さ」「勇敢さ」「健康さ」そして「目的に対する迷いのなさ」を描写されているに対して、白ウサギは「老成」「臆病」「虚弱」そして「神経質な優柔不断さ」など、対極の存在として描かれています。
ですが、この物語では見方を変えて
興味本意で兎を追って穴に落ちたアリスは「無鉄砲」「蛮勇」「その世界の常識を無視し我を通す頑固さ」
対して白兎は、「臆病、虚弱が故に準備を怠らない」「自身との戦力差を見極める判断力(捉え方によっては神経質、優柔不断に見える)」といった風に描いてみたいな…と思います。

相変わらず不定期更新&残念な文才ですがよろしくお願いします。
(一応re2までは完走させるつもりです)


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6.神の前に我は誓う

今更ながらオリキャラの紹介!

エマ
ルナのオペレーター。急な召集命令の為、初日の作戦には間に合わず警察署奪還任務後に合流した。(それまではライバックのオペレーターがチームに指示を与えていた)
専用回線を使って通信しているため[オーバー][アウト]など無線用語を省いて会話している。
ルナとエマは養成学校時代の先輩と後輩にあたり、戦闘訓練が苦手なエマは難なくこなすルナに憧れを抱いている。
情報戦、電子機器などに精通しており有能。echo解析、厳重な電子セキュリティーの手動解除、情報収集や分析など様々な支援を行う。

アイアンズ署長のifルートで1話書けそうな気が…
ここまで味のあるキャラは中々いないですよね~
いよいよ物語も終盤です。


~孤児院 ルナ~

「ご機嫌よう、クレア。取引をしようじゃないか。」

「どういう事?」

 

受話器からクレアの声が洩れてくる……。あの後、署長は私から奪ったM93Rで感染者を倒しながら孤児院までたどり着いた。…勿論、抵抗する事は出来たが、その時はシェリーも道連れとなってしまうだろう……拘束された私では感染者の群から子供を守りきる事は難しいと思えた。

 

「私の時間を無駄にする気か?ペンダントを持ってこい、シェリーが死ぬぞ。」

「ペンダント?何のために。」

 

署長はシェリーの持ち物が無いこと気付くと、私達を部屋に監禁し、自身はモニターで監視カメラの映像を凝視しているようだった。来るかどうか分からない生存者がまるで、その部屋に辿り着くのを確信してるような素振りだった。

(その生存者がクレアだったとはね…もし、レオンだったなら今回の交渉は上手くいかなかっただろうけど……。)

いきなり知らないガキが死ぬぞ!と電話がかかってきても質の悪いジョークとしか思わないだろう。

 

「ガキを死なせたいのか?」

「分かった。何処へ?」

「孤児院だ。」

「孤児院?何処にあるの?」

「近くにあるからすぐに分かる。」

 

(この人本当に交渉する気あるの?大事な物なんでしょ?バカなの?)

ペンダントが届かなければ困るのは署長だろう。でなければ、わざわざ交渉を持ちかける必要性がない。

 

「シェリーと彼女は無事?」

「………今はな」

「もし、指一本でも触れたら!」

 

一方的に通話を終了する署長。相手にヘイトを与えるには有効な手段だろう…受話器の向こう側でクレアが悪態をついてる様子が想像出来る。

 

「馬鹿なガキだ。あれを落とさなければ見逃してやったのに。」

「お前もだ!白兎。大人しくしていれば悪いようにはしない。」

(……………。)

 

 

目的の人物に要件を伝えれた安堵か、満足げに部屋を出ていく署長。

 

[……と言ってるけど、どうするの?]

署長の生体反応が遠ざかったのを確認したエマが話しかけた。小型無線機に署長が気付かなかったのは幸いだ。

 

「どうするも、こうするも…正体を隠す気の無い誘拐犯ほど説得力の無いものは無いでしょ?」

[だよね~。]

 

誰だって、いつ警官隊が突入してくるか分からない緊張の中で眠りにつきたいとは思わないだろう。本当に人質を解放する気があるのなら、指名手配を恐れて自身の顔は隠すだろうし、解放された人質から得た情報で監禁場所を特定される可能性もある。痕跡が発見されるリスクを減らすためにルートや拉致手段など、自身に繋がる証拠を出来るだけ隠したがるものである。

それをしないとなると、ガセ情報と笑って誤魔化せる権力者・既に指名手配されている大物テロリスト・始めから生きて解放する気の無い者くらいだろう。

署長は最後に残した言葉の通り、クレアを生かして返すつもりは無いようだ…無論、それは私達にも言えることだが……

 

私の手札は少ない。

戦う、逃げる、従うどれを選んでも生存確率は低いだろう。

戦うを選んだ場合、戦闘時は速度と体格を生かした小回りで補っているが私の筋力は女子の平均より若干上程度、筋力とリーチに勝る成人男性に取り押さえられたら為す術はない。銃やナイフがあるなら話は別だが現状ではとても現実的とは言えない。

逃げるを選んだ場合、署長に武器を奪われている。2階の窓から飛び降りて逃げる事は出来るが、シェリーは置き去りとなる。仮に2人で脱出出来たとしても丸腰で子供を守りながら感染者の群から逃げるのは不可能だろう。生きながら補食される未来しか見えない。

従うを選んだら……薄い本の展開があるかは知らないが、確実にコレクションの仲間入り。

 

(………詰んでるじゃん)

 

残された手段は……プライドが多少傷つくが…

「エマ…他のエージェントへ救出願いを頼める?」

[了解!ライバックが2時間圏内にいる。向かわせるわ「ありがとう」]

 

(きっと後でこの件でからかわれるだろうな……)

背に腹は変えられないとはこの事だろう。クレアも此方に向かっているのは確かだが、シェリーが人質である以上下手な行動は出来ない筈だ。対してチームメンバーは、署長に存在を知られていない。最適なタイミングで確実に相手を無力化してくれる筈だ。

 

(後は、私にどれだけ時間が残されているか…か…)

何故、私を拉致したのかは本当の所分かっていない。警官では無いことは既に気づいているとは思うが、エージェントであることはSHD組織の存在を含めて知らないはずだ。

 

(アンブレラの工作員と思われているか、それとも予想通り剥製にされるのか…)

前者は拷問、後者は……

どちらにせよ私にとっては嬉しくない状況にはかわりない。只、確実に言えるのはクレアが取引に此方へ来るまでは安全だと言うことだろうか。ルナは早速行動を開始する。

 

後ろで手首を縛られているが、方法はある。腕を背中位の高さまで持ち上げた後、尻の位置まで振り下ろす。その際、両腕を離すように……結束バンドに負荷がかかるように意識して行う。繰り返すこと3回、[パチッ]という音と共に解放された。欠点は自身の腕にも負荷がかかるため、それなりに痛いということだろう…これも背に腹は変えられないが。

 

段ボールで塞がれた壁の穴をくぐり抜けて隣の部屋へ、落ちてたヘアピンで扉の鍵を開けた。

 

(シェリーが居ない…センサーの感度からおそらく一階、署長と一緒か……)

署長と鉢合わせになるのは不味い。無理に脱出を決行せずに屋敷に潜伏して、クレアかメンバーが孤児院に突入した際にタイミングを合わせて署長を強襲するのがベスト、署長の不意をついてシェリーさえ救出してしまえば状況は好転するだろう。

 

(警察署から孤児院まで徒歩20分位の距離、クレアに連絡を入れた署長が短期間で再び様子を見にこの部屋に戻ってくる確率は低いでしょうね。)

 

2階で武器になりそうなものを探すが、孤児院という背景もあり刃物は見当たらない。無いよりマシだと、鉛筆を数本掴む。

(何だって武器になる。ベルトでもスーツでも、教官(運び屋のハゲ)を見習わなきゃ)

 

[…ねぇ、ルナちゃん。その格好で行くの?]

 

一階に降りようとしたときエマから呼び止められた。自身服装を見直すと、署長に強く引っ張られたせいか制服の前のボタンが弾けて胸元が露出までとは言わないが、はだけてしまっている。

 

「………いつの間に」

 

  ・

  ・

  ・

緊張感が無いのは重々承知しているが、敵地のど真中で衣服を漁っている……当然、子供服が多いのだが私に合うものが一つだけあったので拝借することにした。

 

[白のワンピース(後ろ側だけ少し長い)に黒のショートデニム、ロングブーツにアウターはジャケット……ちぐはぐね]

 

「これしかサイズが合うものが無いので贅沢は言えませんよ」

激しい戦闘では髪がバサつくので纏めることにする。ポニーテールはクレアと被ってしまう。ならばと自身の髪を結び直した。改めて自身の姿を鏡で確認する……そこには養成学校時代、[白兎]と呼ばれていたツインテールに結った自身の姿があった。

 

(映画版バイオハザードのアリスの服装みたい…白兎の私には皮肉がきいてる。)

 

 

一階に降りて正面玄関の施錠を確認するが案の定、鍵がかかっている。2階の部屋と違い厳重な物のためヘアピン程度ではどうにもならなそうだ。奥からクラシック音楽が微かに聞こえてくる。

 

[生体反応は音楽の方から2つ]

「脱出経路は確保してないけど、奪われた銃やシェリーの様子を見に行きます。」

 

廊下を通り扉をあける。奥の部屋にいるのだらうか、署長姿は見当たらない。ビリヤード台には女性の遺体が横たえられており、その付近で椅子に縛り付けられたシェリーが啜り泣いていた。鍵と銃は付近(ふきん)にない。署長が身につけているのだろう。

 

 

「シェリー、大丈夫?」

「お巡りさん?」

「静かにそのままで」

 

(武器と鍵は確保不可能、既に15分経過してる…2階の窓から脱出すればここへ向かうクレアと合流出来るか)

 

シェリーの縄を解いて手をとった時、玄関付近で破壊音が聞こえた。

 

「おっと!そのまま動くなよ白兎。()()()たくはない。」

 

間の悪い来訪者の音で、奥の部屋から様子を見に来た署長に発見されてしまう。

 

「なに、取引が終わればちゃんと解放してやるさ」

 

[廊下から生体反応1!]

(署長はクレアと思っているのだろうけどきっと違う…)

何かを感じ取ったのかエマの緊張感した声と、[ゴツ ゴツ]と響くあまりにも重い足音が物語ってる。

 

「署長……最後の警告よ……今すぐ銃を下ろして逃げなさい。さもないと……覗き込んだ兎の穴がどれ程深いか思いしる事になる……」

 

「お友達が来て強気になったか?残念だが貴様らの命は私の手の中にある。」

 

廊下へと繋がる扉から出来るだけ離れるルナとシェリー。

徐々に近づいてくる[ゴツゴツ]という足音が不安を掻き立てていた。

 

 

 

  ・

  ・

  ・

 

~警察署 クレア~

[ガチャツーーツーーツーー]

「信じられない!」

話の途中で電話を切られたクレアは、本日数回目になる言葉を口にした。孤児院の詳細な場所も定かではない。忘れてるかも知らないがクレアはこの街の人では無いのである。案内無しで、しかもバリケードが乱雑に存在する街中を探索するのは骨がおれる。

吊り下げられている駐車場ゲートのカードキーを力任せにもぎ取り、クレアは孤児院に向けて警察署を後にした。

 

  ・

  ・

  ・

 

~孤児院 クレア~

街中は今は閑散としていた。

(私の発砲音ですぐにゾンビが集まってくるだろうけど…)

コンビニから街の観光マップを確認して孤児院までたどり着いた。

 

(まさか、あのゲス野郎が街のヒーローなんてね……)

雑誌の特集[ラクーンのヒーロー]で街を発展させた人物として記事に取り上げられていた。市民の安全を第一に考え、親を失った子供達の為に孤児院を建設したと……実物を見たクレアにとって、まるで別人を紹介されている気分になる。

 

SMGとハンドガンの弾を確認して、孤児院の正面玄関の扉に手をかけた。

(開いてる?)

 

よく見ると鍵が力任せに破壊された跡がある。

「キャーー!」

 

左側の部屋から子供の叫び声が聞こえた。

「シェリー!……署長!その子に手を出したら唯じゃおかない!」

 

扉を蹴破りながら部屋に突入した。しかし、クレアの目に写った光景は予想に反するものだった。部屋に入ってすぐに飾ってあっただろう本棚や装飾品を壁ごと突き破ってある。ビリヤード台はなぎ倒され辺りは物が散乱、そして壁が無くなり見通しがよくなった部屋の中央では身長2mオーバーの巨漢が、署長と思われる服装の男性の頭を握り潰す場面だった。

 

  ・

  ・

  ・

~孤児院 ルナ~

皆さんにとってタイラントとはどういった存在だろう?何度となく復活する面倒な相手?ストーカー?もしくは馴れた歴戦のプレーヤー達は「あんなの只のカカシですな」と笑うかもしれない…勿論、私も以前はその程度しか印象はなかった。

だが、ゲームが現実となった今…アンブレラが総力を上げて造り出した最高傑作が本当にその程度の性能なのだろうか?幾つか例を上げていこう。

まず耐久力、防弾コートを標準装備していることもあり、各兵士が所持する小銃程度ではダメージと呼べるものを与える事も出来ない。仮に有効打を与えれても即座に回復する。

次に攻撃力、素手でコンクリートを軽々と破壊する。暴走状態では長い爪が出現し更に攻撃力が増す。ネメシスと呼ばれる個体では重火器を使用する事も可能だ。

知能を有し、任務を行うことが出来る。正に歩く戦車と言っても過言ではない。

 

その集大成といっていいのが映画ダムネーションで登場する戦闘用、スラブ共和国仕様のタイラントだろう。真正面から突進する戦車と取っ組み合い、タンクローリーの爆発でも仕止めきれない。特殊部隊を圧倒するリッカーの群れを軽々と一掃し、自身へ飛来するRPG7の弾を掴み取り、投げ返す。……結局、タイラントを排除した手段は戦車砲、A10のアヴェンジャー、ロケット弾など。兵士の携帯火器ではない。

 

(スラブ仕様ではなく量産型…耐久力や攻撃力は下だろうけどハンドガンごときでどうにか出来る相手ではないな。)

 

突如壁を突き破り署長を殺害したタイラント、その背後にはさっき到着したクレアの姿がある。位置は私、タイラント、クレア、廊下へと繋がる扉となっていてタイラントをどうにかしないと逃げることも出来ない。

 

素早くクレアとアイコンタクトを行い頷く。

クレアSMGで射撃を行い注意を逸らす。その間に背後をすり抜けてクレアの元に向かった。

 

「無事?」

「ええ、早く逃げましょ。」

射撃音で聞き取りにくいがクレアは此方を心配してくれてるようだ。廊下へと続く扉を開けようとした瞬間だった。

「伏せて!」

タイラントが投げたビリヤード台が背後から飛んできて通路に突き刺さり塞ぐ。

 

 

逃げ道を塞がれた為、ソナーを放ち脱出経路を探す。

[周辺状況をスキャン、付近に隠蔽された空間を検知]

 

「クレア!奥の小部屋に地下への隠し通路がある!「わかった!」」

 

シェリーの手を引き通路へ向かうクレア、タイラントの注意がそちらに向いた所で落ちてた小瓶を頭部へと投げつけた。

瓶が割れて中身が飛散する。薬品特有の刺激臭が部屋の中に蔓延し吐き気を催しそうになった。正面から被ったタイラントの皮膚は爛れて瞼を塞いでいる。視界が一時的に無くなっていると判断し、ルナは署長の死体から自身の銃を取り戻しクレアの後を追った。

 

  ・

  ・

  ・

蛍光灯が照らし出す地下通路。通路は数回の曲がり角の末に、エレベーターへと続いていた。昇降機は下の階に降りているため実質行き止まりになっている。

「早く早く!」

エレベーターのボタンを連打しているクレアだが、到着までもう少しかかりそうだ。

 

「お巡りさん!無事?」

「ええ。」

「アイツはどうなったの?」

「すぐに来ると思う……」

 

[ゴツゴツ]と重い足音が再び響き初め、時間のリミットを奏で始める。

 

(猶予は残り数十秒、撃退は不可能。エレベーターの到着はまだ……。逃走も……)

周囲を見回した後、シェリーを見つめる。無理な逃走経路はこの子がついてこれない。

 

「私が時間を稼ぐからエレベーターが来たらその子を連れて先にいって!」

 

「貴女は?「後で合流する!」」

 

短く用件を伝えた後、93Rで天井と床の照明を次々と撃ち抜く……。

「エマ、私の行動記録からマップをechoとして再生、周囲の構造物と同期して。次に生体検知センサーの索敵速度をそちらで一時的に上げてソナー代わりに。[了解!]」

 

周囲に灯りがない地下通路。立体映像記録とセンサーを代用して即席暗視ゴーグル代わりにする。

巨体が通路を曲がり、その巨体を現した時に最後の電灯を撃ち抜いた。

 

(相手は此方を見えない、だけど放置すればエレベーターの駆動音でクレア達の方へ向かう)

 

あえて発砲して自身居場所をタイラントへ教え、囮となる形でエレベーターから引き離す。

やがてエレベーターが下へと到着した音を聞いたルナは、射撃をやめて闇と同化した。闇雲に腕を振り回すタイラントだが数分後、諦めて別の地下へと続くルートを探してこの場を後にした。

 

[凌げたみたいね。]

 

「この戦闘データから改良型が生まれないことを祈るわ。サプライドロップの投下位置をこの孤児院の正面広場にして。」

 

[了解、10分後に投下できるよ。]

 

  ・

  ・

  ・

 

 

「My rifle and myself know that what counts in this war is not the rounds we fire, the noise of our burst, nor the smoke we make. We know that it is the hits that count. We will hit…♪」

この戦争で重要であるものは、放たれる弾丸、爆炎、硝煙ではない。我々が数えるのはそれが命中するかであることを知る。

 

[海兵隊信条…好きよね~ルナちゃん]

 

「好きって訳ではないのですけどね。子守唄代わりに聞かされていたので自然と口ずさんでしまうんです。エマさんはありません?」

 

[私の教官達はそんなことはしなかったな~]

 

警察署に一度戻り装備を回収後、再び孤児院へ戻ったルナ。動く者はおらず静まり返った孤児院の正面広場で、歌を歌いながら補給物資を開けてベストとバッグに弾薬を積めていく。

SHDの戦闘は常に激しい。ひとつのエリアを確保するのに300発以上、弾薬を消費する事も多々ある。その為、補給は欠かせないと言える。弾薬箱が都合良く落ちている事もなければ、時間経過で消費したガチェットが回復するわけでもない。

 

「例の件は上手くいきそう?」

 

[問題ないよ、実戦を想定した性能評価試験という名目で話を通してる。それと2日後、10/2にコードXXの発令が決定したわ。ルナちゃんは施設の調査後、この街を脱出して。]

 

「……了解。」

 

首尾は上々、最後の手札が揃った。後はパーティー会場に主賓が揃うのを待つだけだ。

 

「~~~~~~♪。………この信条を聞いていると、私達の日常が守られていると実感できる…どんなに厳しい戦場でも、戦っているのは自分だけではないと実感出来るんです。」

 

[……そう、ならば己の利益や権力、くだらない思想で国民の想いを、命を、当たり前の日常を踏みにじった奴等にたっぷりとお礼をしなくちゃね!]

 

SHDキャッシュをスマートウォッチに同期、新しいガチェットを待機モードに設定し、武器ケースに入れ直す。

XM109を取り出し弾を装填しながら静かに歌う。

 

「Before God, I swear this creed. My rifle and myself are the defenders of my country. We are the masters of our enemy. We are the saviors of my life.♪」

神の前に、我は、この信条を誓う。我と我がライフルは、祖国の守護者。我々の敵の征服者。

 

 

「[So be it, until victory is America’s and there is no enemy, but peace!!]」

それゆえに、勝利が合衆国のものとなり、敵が絶えなければ、平和は訪れない!!

 

ルナとエマの声が重なり最後の一節を紡ぐ。

これから赴く戦場は地下。物資の補給(出直し)は見込めない。

 

「さぁ、お茶会を始めましょう。」

 

獰猛な笑みを浮かべた白兎(ボーパルラビット)は夜の暗闇に静かにとけていった。

 

 

 

 




ボツ話
~レオン 下水道~

「………ッツ」
肩の痛みと共に意識が覚醒した。付近には誰も居らず、汚水の流れる音と悪臭だけが其所にあった。アネットの銃撃からエイダををかばった時に負った傷に顔を歪ませ立ち上がるが、見覚えのあるコートが自身に被せてあることに気付いた。

(エイダのコート、優しいのか冷たいのか分からないな。)

本日2回目の気絶だ。破損したレオンの銃の代わりに自身の銃を置いて居なくなった先輩、レオンを気遣う様に手当てだけして居なくなったエイダ。こんな状況で言うのも何だが、目が覚めたら膝枕をしてくれてて優しく微笑んでくれたりしてくれても良いでわないか!?
改めて自身の状況を振り返る。
立ち込める悪臭。汚水まみれの自身。痛む肩。固い床……

「……泣けるぜ。」

レオンの未来を暗示するかのようだった。

  ・
  ・
  ・

~下水道 某特殊部隊~
悪臭立ち込める汚水の中、男は辺りを警戒しながら無言で進んでいく。

[此方ナイトホーク、アルファ応答せよ。アルファ、聞こえるか?]
突如、回収部隊のナイトホークから無線が入った。

「ナイトホーク、此方アルファチーム、ハンクだ。」

[てっきり全滅したかと思ってた、探してたんだが…「K12に到着、回収地点の詳細を。」]

男は無線の会話を遮り要点だけを問う。

[なるほど、死神と呼ばれる訳だ。]
「回収地点の詳細を。」
[安心しな死神さん。ラクーン市警正門へ向かってる、其所でピックアップだ。]

「了解」

今回のアウトブレイクの発端となった一人、アンブレラ特殊部隊USS、アルファチーム隊長、通称死神ハンクは自身のチームが全滅したにも関わらず、単独で再び生物兵器の溢れる研究施設に侵入してGウイルスを回収していた。
任務は無事に生きて回収地点に辿り着くことだけとなったが、怪物の棲みかである下水道を限られた弾薬で抜けるのは至難の技である。
しかし、此方も死神の名は伊達ではない。ゾンビ達の背後を音もなくすり抜け、時には頭部を正確無比な射撃で無力化し、G変異体の足元に手榴弾を投げ込み、爆発で怯んだ隙を通り抜ける。長年の経験と其を実現する鍛えられた肉体は、地獄の様な状況にも関わらず、最適な行動を導いていく。

下水道、警察署地下施設を越えて地下駐車場に辿り着き、警察署正面ホールに行くために一階へと続く階段のある、射撃場横の扉を開ける時だった。
背後から微かな気配を感じとり行動を中断する。普段のハンクならそのまま無視し扉を開けて去っていただろう。だが、それが出来ないほど感じ取れる気配は異質だった。
例えるのならば殺気。それはチンピラが見せつける為に放つものとは一線を画するもの。達人の書いた奥義書を素人が理解出来ないように、自身に近い実力を持つ者のみが感じ取れる気配。重く冷たく、相手に悟られないように極限まで抑え込まれた薄い気配に息が詰まる。

(既に背後をとられている。応戦するのは困難…)
ハンクは冷静に状況を分析するが解決策は見つからない。タイムリミット(回収ヘリの離脱)への時間が刻々と過ぎていく。
体感ににして数分、実際は数十秒程度だろう。突然気配が消えてプレッシャーから解放された。

「………此方ハンク。ナイトホーク、その場を直ちに離脱後ヘリを処分。追跡に注意しろ。」

[何故?あんたはどうするんだ?]

「マークされている可能がある。私は自力でこの街を脱出する。」

[……了解、健闘を祈る。]

一瞬の会合で更に状況が厳しくなったが、作戦は続行可能だ。
何故、殺気の主は行動に移さなかったのか……心の中にある疑問に蓋を閉じ、ハンクは再び地獄の底を駆ける。





[……流石のルナちゃんも弾切れではお手上げか~]
「ええ、お手上げです。他の面子なら素手で圧倒したり、鉄パイプを引きちぎり投げつけたりするかもしれませんがね。」

ハンクとの邂逅はタイラントの追跡を振り切り、警察署へ装備を回収しに訪れた時の事だった。

(間違いなく彼の腕は一流。万全な体勢でも矛を交えたくない部類の人間です。)

「無駄だと思いますが、彼の回収用ヘリを衛星で追跡して下さい。」

[何故無駄だと思うの?]

「勘です……いいえ、彼なら間違いなくそうする。」
[初対面の相手に変な信用しちゃってるよ…]

少しズレてる様に見える友人をしっかりと守ろうと心に誓うエマであった。




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7、

書きたい話がありますが、そこに行き着くまでがツラい~(´・ω・`)
(でも、あともう少し!


~下水道 クレア~

汚水を掻き分け前へ進む。

 

「糞みたいな状況ね…文字通り。」

クレアは悪臭に思わず悪態が出る。だが、引き返す事など出来はしない。

 

(彼女が襲撃者から時間を稼いでいるうちに、シェリーを安全な所まで連れていかなければ!)

 

5分もない短い邂逅だったが、襲撃者の異常性は身に染みる程理解している。感染者と同じ様に白濁した瞳、3mはあるであろう巨体、拳は家具を軽々と破壊し、銃撃をもろともしない。その巨体の質量は重すぎる足音が物語っている。

 

(追い付かれたら命の保証はない。幸い、あの巨体なら通れる通路は限られている……最悪の状況ではシェリーだけでも、子供が通れる程度の配管に隠れさせて難を逃れるか…)

 

シェリーを避難させた後、クレア自身も襲撃者から逃れないとならない。それに加え、まるで迷路のように張り巡らされた下水道。初めて訪れる場所でありマップなど知る訳がない…その状況ではぐれてしまうのは得策とは言えない。

 

(あくまでも最終手段ね。)

 

そう結論付けたクレアだが……

その手段を使わざるえない状況は、無情にも早く訪れる。

 

Y字路の様な下水道の分岐点、柵で封鎖された側を新たな襲撃者が破壊し、クレア達の前に姿を表す。

肩に大きな瞳、上半身が肥大し逆三角形の様な体型、両手には鋭い爪、頭部はとても人間の物とは思えない顔。千切れ落ちそうになっている白衣の胸元には[ウィリアム・バーキン]と名札がぶら下がっていた。

 

「パパ……」

「…………………。」

 

冗談も程々にしてもらいたい。前門の虎後門の狼とは正にこの事だろう。

 

「シェリー!耳を塞いで目を閉じて!」

 

クレアは閃光手榴弾のピンを抜き数秒数えた後、Gの眼前に投げ渡す。下水道に反響する強烈な爆発音と閃光。怯む巨体の横をクレア達が通過する。

 

「GAAAAAAAA!」

怪物の怒りの咆哮が鬼ごっこの第二ラウンドの開始を告げた。

 

 

 

~ラクーン大学 ケビン~

署を共に脱出した市民と警官達は、署で別れた少女の言葉を信じて大学へ訪れていた。黒のロングコートに顔を覆うガスマスク、ニュースで見かける不審者よりも怪しい格好をしていた彼女だが、提供してくれた情報は確かなものだったと言える。

 

(ガセで有ろうが無かろうが、どのみち選択肢なんて無かったしな。)

 

幸運にも教授達がウイルスの特効薬の研究を行っていた、そして今回のバイオテロ、主犯グループの一人と思われるグレッグ教授の諸行も。そのレポートを元に特効薬[ディライト]の作成し、容疑者として[タナトス]を起動寸前の教授を取り押さえる事に成功した。

後は彼女を信じて救助部隊の到着を待つだけとなった。

 

「あそこ!ヘリが見えるぞ!」

「発炎筒を焚け!」

 

上空には自身の存在を示す夜間灯が輝いており、ヘリの存在が確認出来る。徐々に近づいてくるヘリの騒音で感染者が集まることが予想されるが、その頃にはこの街をおさらばしている頃だ。問題はない。

 

更に近づくヘリ。目視で確認できる距離になったとき、ケビンは違和感を感じた。生存者を全員乗せるにはヘリ一機では足りない、闇に溶け込む様に黒に塗装されたヘリの下部には大きなタンクの様な物が5つ程固定されている。

 

「此方だ!」と必死に発炎筒を振り、存在を示す警官達を横目にヘリはタンクを投下した後去っていく…

 

「何だよ!今必要なのは物資じゃなくて救出なのに!」

 

選抜警官隊の一人が毒づく。

「何も無いよりはマシだ、調べてみよう。「待て!」」

 

タンクに近付く警官を止めるマービン。

それにはケビンも賛成だ。残り僅かとなった残弾を確める。

 

(本当にこの街は退屈しないな…)

まるで墓標の様にそびえ立つ不気味なタンクを、持ち前の楽観思考を発揮しながら注視する。

 

「まぁ………どうにかなるだろう。」

 

  ・

  ・

  ・

~アンブレラ支部 臨時作戦本部~

「タイラント5体ラクーン大学に投下完了。」

「宜しい、ナイトホークはその場で待機。戦闘データを収集せよ。」

 

本来、合衆国特殊部隊の救出活動を妨害する為に、焼却施設へ投下される予定だったタイラント5体。戦闘データを収集する予定だったが市民の生存者がいるとなれば話は別だ。

 

世界有数の国際企業、アンブレラコーポレーション。突如街に蔓延した未知の感染症から市民を守るために、自らの財源を使い傭兵部隊を雇い、救助活動を行った……それがアンブレラの書いたシナリオだった。アンブレラの研究施設や証拠となるデータは滅菌作戦でロスト、救助活動をした記録だけが残り真実は闇に葬られる。自身も災害にあった被害者として誰もアンブレラを疑う事はない。

 

……街の生存者が口を揃えてアンブレラを糾弾しなければの話だ。

特に、特殊部隊STARSが持ち帰った情報は有害で其を聞いたであろう、ラクーン市警の職員達を見逃す事は出来なかった。

 

仮に全土に噂が知れ渡った所で笑い飛ばす事は出来る。だが、物好きなジャーナリストに嗅ぎ廻られれば、今後の活動が大きく制限されるだろう。故に、害となる芽は徹底的に摘み取る。

 

「オーダーをどうぞ。」

「見つけ次第殺せ。」

 

「復唱、サーチ&デストロイ」

「起動シーケンス完了、タイラント起動、ハッチを開放します。」

 

命令を一言伝えるだけで、オペレーター達が一斉に動き出す……まるで私が生態系のトップに君臨しているようで、とても気持ちがいい。

 

「さぁ、最高傑作達よ。愉快な喜劇を見させておくれ。」

これから始まるのは戦闘ですらない。圧倒的な暴力による一方的な虐殺だ。市民の希望が絶たれ、絶望に染まる。泣きながら逃げ惑う姿はさぞや滑稽だろう。

 

身を乗り出す様にモニターに映るタイラントのコートに内臓されたライブカメラの映像を見る司令官。

 

「タイラント2号、生体反応ロスト」

「なんだ、センサーの異常か?確認しろ!」

 

「いえ!センサー感度良好。異常ありません」

「なら何が起こってるんだ「5号ロスト」」

 

センサーの異常でないならば、瞬く間に2体のタイラントの生体反応が消失したということになる。全世界最強と噂される合衆国特殊部隊をも圧倒出来るとされているタイラントがだ。

 

「ナイトホーク!情報を説明しろ!」

 

[乱入者です。戦闘車両が大学敷地外から侵入しました。あれは…連邦の車両!?]

「映像をヘリのものに切り替えます。」

 

切り替わったモニターには合衆国にはない車両が、タイラントを蜂の巣にしている映像が映し出されていた。

 

BMP-T…戦車支援戦闘車、技術発達により歩兵でも戦車装甲にダメージを与えれる様になった近年。戦車の敵は戦車だけ、とはいかなくなった。建物が乱立する市街地戦、突発的に発生する戦車の死角からの攻撃に対処する為に作られた車両であった。

歩兵を排除するのに必要なのは150mm滑空砲か?否。必要なのは構造物を貫通する程度の威力を持つ機関砲、装甲車両や立て籠った陣地を吹き飛ばす誘導ミサイル、如何なる状況下でも迅速に行動出来るように装備された暗視装置他、各種レーダー。

御察知の通り、対人に特化した車両だ。7.62mm、12.7mmとは一線を画する30mm機関砲は、タイラントの強靭な肉体をも抵抗なく貫通し、その背後に集まりつつある感染者達をも凪ぎ払う。

 

「何であんなものがこの国にある!あのイカれ野郎を仕止めろ!」

 

指示の元、左右から接近するタイラントを次の瞬間、L-90の35mmが貫く。

2門合わせて毎分1100発、怒涛の射撃の前に一瞬で原型を無くす標的。

 

「何なんだ…あの化け物は……」

重量6tにも及ぶ兵器を軽々と扱う生身の男。

 

[土産だ、とっておけ。]

BMP-Tから発射されたミサイルによりヘリの映像が途絶え、全てタイラントの生体反応が消える…僅か2分にも満たない時間だった。

  ・

  ・

  ・

~マービン~

乱入した2人の活躍により、驚異は排除された。

打ち上げられ周囲を照らす照明弾、到着した複数のヘリに乗り込む生存者達。

 

「やっとこの悪夢から抜け出せるですね!」と喜ぶリタを横目にマービンの気分は晴れない。

 

タイミング良く選抜警官隊を救出し、警察署を制圧した黒衣の少女。教えられた救出地点で都合よく手に入った特効薬と、この災害の黒幕の証拠。

例えるなら、まるで舞台の上で踊らされてる様なモヤモヤとした違和感を感じる。

 

「どうなるかは分からない。まぁ、一寝入りして起きてから考えるさ。」とケビンの言う通り。答えなんて最初から用意されていないのかもしれない。

 

マービンはヘリの窓から眼下に広がる、滅び行く街の様子を眺める。時刻は午前4時、もうすぐ日の出の時刻だ。[ディライト]…この絶望に対抗する唯一の希望を握りしめ、街を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~孤児院地下 ルナ~

装備回収の為に警察署への往復40分、補給物資を得て準備する事10分。先行したクレア達にかなり遅れをとってしまったが、やっと後を追える状態になったということだ。

Gやタイラント、変異個体が蔓延る地下やアンブレラ施設に、拳銃一つだけで殴り込みに行く勇気など最初っからない。

……かといって、今のルナの装備も過剰戦力と言わざるおえないが。

ペイロードライフル重量10kgオーバー+弾薬その他装備で20kg、更にガジェットを複数入れた武器ケースをズルズル引きずりながら孤児院地下の隠し通路を進んでいく。

 

「何ですかこれ!また鍵が掛かってるじゃないですか!」

目の前には金属製の頑丈な扉、勿論合鍵など持ち合わせていない。

 

[つくづく運がないね~ルナちゃん。今度はC4でも用意しとく?]

 

「本当に…1ダースあってもたりないですよ……」

 

[構造物をスキャンした結果、この先に下水道らしからぬ広い空間があることが分かってるけど……どうする?さっきの下水を通って迂回する?]

 

「笑えない冗談ですね……」

 

付近に漂う悪臭が示す通り、近くに下水が流れている。その中を進むことには異論はない…通常であれば……

感染し、発症する前の人々が流しただろう…尿、吐瀉物、吐血などで構成された汚水の川。マップやレーダーを表示することが出来るコンタクトレンズのディスプレイには、ウイルスの存在を示す赤い点が、汚水の川を赤く染め上げる様に表示されている。

私にTウイルスに対する抗体があるかは分かっていない。その状況で中を進むのは自殺行為だろう……

 

「研究施設ということですが消耗品や物資を搬入するには、この入り口は小さすぎます。スキャンデータを元に他の入り口を探します。」

 

[懸命ね。おそらく企業の幹部などの重役、顧客等のゲストも施設に招く事がある筈。悪臭漂う通路や、汚水の中を進ませる事はないでしょう。2箇所地上に繋がる搬入口らしき場所が確認出来るから其所へ向かって。]

 

「了解」

 

(この街に来てから、鍵やギミック、通路で悩まされる事が多いわね…)

 

トボトボとケースを引きずりながら来た道を引き返すルナであった。

 

 

 

 

 

 




マクレーン&メイトリックス+市民が脱出!
残り2話で完結予定…所々飛ばしつつ戦闘多めで頑張りたいなと
(ばら蒔いたフラグを回収しなきゃ


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8、一つの物語の終わり

筆者は考えます。
主人公が活躍する物語は原作があるじゃないかと。
同じ内容を書いてしまうよりはオリジナル要素を色々ぶちこんで読者に楽しんで貰った方が良いのではないかと…
ということでこの物語は原作や設定を色々と無視して都合のいい感じに改変した物語にしてみました!
NESTの構造や次話で登場する法案、兵器や暗証コード等は全て適当に引っ張ってきたり、作り上げた設定ですので……そのまま知識として吸収してしまわない様に注意願います。



~下水道~
「シェリー!しっかりして!シェリー!」

固く目を閉じたシェリーは目を覚まさない。Gに追われた末にシェリーをGが通過出来ない、小さな配管に避難させる事にしたクレア。自身もGの気を引くように囮になってシェリーから引き離したのだが、再びシェリーに再開したときには、既にウイルスに感染したあとだった。

「あぁ、何て事……ちゃんと言い付けを守って警察署に居ればこんなことには……」

パニックになりながら一人でブツブツと一人言を漏らすアネットにクレアの堪忍袋が切れた。

「あんたにこの子がどんな気持ちで探し回ってたか分かるの!?何で傍に居てあげなかったのよ!何とかしなさいよ!母親でしょ!」

その言葉は傍に居ながら、守りきれなかった自身にも深く突き刺さる言葉だった。

「感染した時点でもう……いえ、NEST……研究所のワクチンを摂取させればまだ間に合うかも……」

「ワクチン?ワクチンがあるのね!?」
「えぇ……ええそうよ!ケーブルカーに乗って先にいって!私も保管庫の鍵を取ったらすぐに向かうから!その子をお願い!」
  ・
  ・
  ・


研究所へのアクセスは大まかに別けて3つ。一つは孤児院から被検体を連行する下水道近くのルート。2つ目は企業の幹部などのゲストが、悪臭等で不快にならないように研究所入口へ直接アクセスできる高速エレベーター。3つ目は物資搬入口。

研究施設となれば消費される物資は莫大なものとなる。当然、研究所への搬入口もそれなりの規模になってくる。

勿論、ラクーンシティー地下に存在する研究所、通称NESTにも搬入口が存在する。研究からラクーン郊外へと続く線路、そしてラクーンシティーから物資を搬入する為の大型エレベーター。

ゲーム版ではその様な物は存在しなかったが、現実となったこの世界では最低限、この3つが必要となってくる。

搬入口は線路だけで問題ないのでは?と思われるだろうが、仮にも企業。消耗品の運搬の為に街から郊外へトラックを走らせ、線路で搬入していてはコストの無駄である。

 

~ラクーンシティー 倉庫搬入口 ルフィーナ~

「まさか、こんなところに搬入口があったなんてね~」

[木を隠すなら森のなかって言うしね~]

 

バイオハザード3、冒頭で登場した倉庫だった。コンテナを摘んだトラックが頻繁に訪れても不審ではない。そしてその中の一角に、地下へと続く昇降機があったとしても気付く者はいないだろう。

のんびりと地下へ降下していく大型昇降機の上で、店舗から拝借したバイク(H2R)を停め、足を伸ばしながら寛ぐルナ。

 

「随分と深いですね、まだ着かないのでしょうか?」

[後2分ってところかな。]

 

「エマさん?もしも~し?」

[地下深いから電波が---中継機------して--]

 

地下深くまで降下しているため、通信に影響が出始めているようだ。

 

現在IP無線を使用しているが通信局が破壊されている為、一旦セーフルームの無線を中継して通信を行っていた。その無線範囲から外れる地下施設では当然電波は入らない。

 

(NESTで働く職員が、容易に情報を外部へ漏らさない為でもあるのでしょうけど。)

かといって完全に外部から隔離されているとも考えにくい。管理の元、無線中継機が存在すると考えた方が妥当だろう。ならば、見つけ出して利用させてもらえばいい。

 

エレベーターが軽い衝撃と共に停止し、目的地にたどり着いた事を知らせる。厳重な防護壁の様な扉は固く閉ざされており解除用のパネルが設置されている。

 

「アイザック、久しぶり。扉を開けて。」

[データ解析開始…所要時間残り5分]

 

「随分と時間かかるわね。エマなら30秒よ?」

[現在2% 残り推定時間4分50秒]

 

人工頭脳のオペレートシステムに不満を言っても仕方ないのだが…

(それだけエマが優秀って事かな)

今は待つしか無さそうだ。

  ・

  ・

  ・

扉を抜けてNEST内部へ。施設は研究室のある上層、物資保管所及び各エリアへ物資を搬入する資材エレベーターのある中層、郊外へと続く線路のある下層に別れている。

上層は更にイーストエリアとウエストエリア、休憩室やロビー、ゲートのある居住エリアに別れ、エレベーターのある中央に橋をかけるかたちで各エリアにアクセス出来る仕組みとなっていた。

 

(やっぱりマップがかわってるわね。)

周辺をスキャンしマップを更新。

(エマとの通信回復が第一ね。)

 

「アイザック、無線設備がありそうな場所をピックアップ」

マップを確認して移動を開始する。場所は居住エリア。

中層はエレベーターが密集している、地上や郊外からの物資搬入用大型エレベーター、各エリアへ物質を運ぶ為の資材エレベーター、居住エリアに繋がる作業員用のエレベーターだ。

 

資材エレベーターはセキュリティー上、人が乗った状態では起動しないようにプログラムされているが……

(端末弄ってプログラム書き換えるだけ。エマなら10秒かからない。)

SHDエージェントの前では脆弱なセキュリティーでしかなかった。

 

バイクを中層に停車させ、ガチェットの入ったウエポンケースを下ろしズルズルと引きずりながら作業員用のエレベーターに乗り込み居住エリアに……入り口付近の端末にアクセスして無線をジャック、エマとの通信を回復させる。

 

[ただいま、ルナちゃん!寂しかった?]

「ん~……ん~~……特に[泣くぞこの野郎!]」

 

「ではウイルスの情報、証拠となるアンブレラの行動記録の確保ですね。端末から抜ける情報全部お願いします。それと、私達以外からの無線アクセスを制限してくださいね」

[?「ただの賭けみたいなものです」]

[了解~]

 

無線を終えた直後、ゲートが開いた為G36を入り口へと向けて様子を伺う。

「クレア?」

「貴女…無事で何より。手を貸して、シェリーが感染しているの!」

 

クレアの腕にはぐったりとしたシェリーの姿があった。

「ウイルスのワクチンがこの施設の中にあるみたいなの!」

「……わかった、取ってくるわ。クレアはその子の側にいてあげて。」

 

 

クレア達を受付近くの守衛室に残しワクチンの確保へ向かう。

[ウエストエリアが最もセキュリティーの高いエリアよ、おそらくワクチンも其処にある。]

 

培養層、シャワールームを抜けた先のウイルス保管所。

「また鍵ですか!手榴弾でぶっ飛ばしていいですか?いいですよね?やりますよ!?[待って!まって!ルナちゃん!]」

[多分、厳重なセキュリティーが敷いてあるはず!強行すると最悪の場合、施設ごとボン!よ?]

 

「…………どうするんですか?」

[鍵を探すしかないですね]

「…………」

 

「貴女何者!?」

保管庫を前に途方に暮れていた時だった、レーダーで接近は感知していたが背後から声をかけられる。

タイミングがいいと思う、これが彼女以外の人物なら詰んでいたかもしれない。流石メインキャラクターであるといったところだろうか……シェリーは私が手を出さなくても助かる運命らしい。

 

「うん、お待ちしていましたアネットさん。取引をしましょう。」

「取引?「見たところお時間がないご様子なので手短に」」

 

「我々の元で働け。貴様がやった罪は法廷に立ち、牢獄に監禁されて償える程軽いものではないくはない。ウイルスは既にUSSの手の内にある、いずれこの街と同じ悲劇が繰り返される。故に、ワクチンや生体兵器に使用されているウイルスを即座に死滅させる程の特効薬を開発しろ。それが、其だけが貴様に残された唯一の償いだ。」

 

交渉という名の脅迫、彼女には一切の同情などかける気などない。

協力の引き換えに彼女とシェリーの安全を保証するというものだった。

(もっとも……決裂してもシェリーは助けるからブラフでしか無いのだけど。)

 

「条件を飲めばシェリーは助かる?」

「貴女達の安全は保証する「分かったわ取引に応じる」」

 

やはり仕事一筋だとしても母親ということだろうか……最後の最後では我が子の安全を心配する。

「そんなに暗い顔しなくても悪いようにはしないわよ。」

 

保管庫の前を離れアネットがワクチンを取り出すのを見守った。

 

  ・

  ・

  ・

 

~生体培養層~

円状の広間、中央には保管庫とウエストエリア入口を繋ぐ通路。壁には4mはありそうな巨大なタンク、大型の装置が並んでいる。

2人が通路を通過した時に天井を突き破り落下してきたG

 

「あらいらっしゃい、しつこいわね。」

「私がやる。「貴女はワクチンを持ってシェリーの元へ、私の事は待たなくていい。」」

 

ピストルグレネードを取り出すアネットを止める。暴走した夫を、せめて自らの手で解放してあげたい気持ちは分からなくないのだが、彼女では不可能なのは予想できる。

 

上体だけ体積を増しアンバランスになっている足を、ペイロードライフルで撃ち抜き、バランスを崩した所に手榴弾を投げ込み通路外へと転倒させる。

下の階へ落下したGを追うようにガチェットケースを下に投げ入れた後、自身もタンクの上に乗り継ぐ様に飛び降りる。

 

タンクの上に落下しているケースのロックを解除し、ドローンストライカー3機、タレットアサルト2機、スナイパータレット1機の中からアサルトだけを取り出しGを挟む様に左右に投げ込み設置した後、下階の床に舞い降りる。

 

「随分と逞しくなったものですね…新しい顔の具合は如何ですか?」

前回遭遇した時にはまだ、人間らしい面影が残っていたが、現在は見る影もない。筋肉の肉体は更に強靭に、頭部は人間の骨格ではない獣の様なものに変化し、腕は更に2本追加されて4本になっていた。

 

(小火器では有効打にはならなさそうですね)

前回でさえ退けるのにライフル弾を90発程消費してるのに更に耐久力が上がっているとするなら、いよいよお手上げだろう。

(暫く様子を見てみましょうか。)

 

SHD内でアレグロと呼ばれる発射レートを向上させたチューニング、補給物資に入っていた総弾数50発のロングマガジンを装着したG36で頭部、露出している目を中心に射撃を開始する。

タレットを使用し3方から集中砲火しダメージを与えていく。

 

(右凪ぎ払い、次は左のコンボ)

知能や人間としての自我は、完全に消えているようで単純な攻撃の繰返しを行うだけだ。

一向に此方を捉える事が出来ないGは痺れを切らして周囲にあった小型タンクを持ち上げて投げつける。

 

勿論、難なく回避するがタンクが落下した先で爆発炎上し、戦闘領域が狭まっていく。

 

(振り下ろしからの凪ぎ払い)

相手の予備動作から次の攻撃を予測し、最適な方法で回避を行う。

ステップで横へ移動し、壁を踏み台に空中へと舞い、強烈な凪ぎ払いを難なく回避した。……だが、一つルナは見逃していることがあった。

 

凪ぎ払いを回避した直後に視界に入った()()()()()()

4本の腕があることを完全に失念していたのだ。

 

[ルナちゃん!]

「カッ……ハッ……」

直撃し、反対側の壁まで吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。肺の空気が全て吐き出され呼吸が整わない。嘔吐し、視界が涙でぼやける。

滲む視界の端にゆっくりと此方へ近付くGの足が映った。

 

「ルナちゃん!しっかりして!敵影更に接近、残り5m!」

ピンを抜き前方へ投げる。直視すれば目に焼き付く様な閃光と、鼓膜を破り平衡感覚を狂わせる様な轟音が辺りを包む。光が収まった頃には地べたで嘔吐していた少女の姿は消えていた。

 

「一撃でアーマーは全損、修復不可。貫通しなかったのは幸いね。」

Gの視界外、そびえ立つタンクの上で冷静に被害確認しながら息を整える。

 

「タレットは両機弾切れ、5.56は150発…」

[撤退しましょ!手に終えない。]

「フラググレネード3発、スタングレネード1発」

[ルナちゃん!もう充分時間は稼いだ、これ以上危険をおかす必要は無いわ]

「25mmペイロード弾、6発……」

[ルナちゃん!?]

「その他武器、ガチェットは消耗なし」

[聞いてる!?聞こえてる!?]

「敵、出来損ない1体……」

 

破損したプレートアーマーを放り捨てる。損傷が激しすぎて交換するしか方法はない。ならば無駄な荷物でしかない。弾切れになったタレットに自壊コードを送る。G36背中にはXM109、白のワンピースドレスの上にマガジンと手榴弾を突っ込んだジャケットを羽織り、再び戦場へと舞い戻る。

 

「こう見えても私はこの世界に感謝しているのですよ?」

もしこれがバイオハザードではなくディビジョンの世界ならば敵となるのは人間だ。それぞれが自身の意思を持って戦っている。

生きるために、家族を守る為に仕方なく他者を傷付け奪う事を選んだ暴徒達。

ウイルスの拡散を防ぐために息のある保菌者をも焼き払ったクリーナズ。

政府の対応に不満を持ち、より強い国家の設立の為に武器を持った元傭兵部隊、ラストマンバタリオン。

各々の勢力が、それそれの信念をもって闘っていた。

彼等を撃たなければならないとき何を思うのだろうか?もし、自分がSHDに所属していなかったら、自身の銃口は誰に向けていただろうかと思う事が多々ある。

今となっては訪れることのなかった未来だが…。

 

それに比べ今は単純だ。自我を無くした化け物に、己の富と権力の為に命を弄んだ愚か者達。私の銃の引き金は、羽の様に軽い。

 

此方の存在に気付いたGは、その筋力を活かした凄まじい速度で肉薄してくる。4本の腕を使った連打で私を挽き肉にしようと畳み掛けてくる……

 

「もう、見飽き(覚え)ました。」

前世の記憶を参考に習得した銃術、ガン=カタ。

一体多数を想定し敵の攻撃を交わしながら倒していくというものだ。派手な銃撃に目が行きがちだがその真髄は他の場所にある。

幾万、幾億とある戦闘データを統計して、次に敵が行う行動を()()()最適な位置で反撃を行う。故に相手が人間なら相手の立ち位置を確認するだけでいい、戦闘が始まった時点で勝敗が決まっている。暗闇の中、敵が見えない状況でも同様。ただ決められた結果をなぞるようにして死体が増えていく。

 

銃撃しながら上半身を退きスエーを行い右腕を回避、足をその場で開脚し床側に頭一個分沈みこむ事で凪ぎ払いを避ける。頭上を激しい風切り音を残して重い物体が通過する。

回転しながら横へ移動し、振り下ろしを避ける。壁を足場に宙に舞う。

 

今まで手こずっていたのは所詮、相手のデータを収集していただけに過ぎない。

 

狭い場所で腕を振り回した結果、周囲のタンクに爪痕が入り可燃ガスが漏れている。

 

「地獄の業火よ、豚共を焼き尽くせってな」

離脱と同時に残されたフラググレネード。爆発と共にタンクに誘爆し火柱が上がる。

 

[やったか?]

エマが無線で旗を立ててるの無言でスルーする。回収するのは分かりきっている。

 

炎の中から現れるG

頭部や肩の瞳が潰れたせいか、胸部に複数の目が現れ視界を補っているようだった。

怒りの咆哮と共に駆け寄るG、突きを回転しながら回避すると同時に背中に下げているXM109を逆手でグリップを持ち、ぶっ放つ。

 

ペイロード弾と呼ばれるライフル弾の内部に炸薬が詰まった弾頭。40mmグレネードには炸薬量が及ばないが、その最大の特徴はグレネード弾の割には弾速が早い事だろう。軟標的では体内に侵入し内部で炸裂する。

絶叫、そしてマズルブレーキが効いていないかの様な激しい反動。

そのままXM109のスリングを引っ張り腕に巻き付けながら通常の構えに移行し胸へ撃ち込む。空になった弾倉を抜き取り、3発しか入らない新しい弾倉を叩き込む。

振るわれようとしている腕、初期動作で速度がのっていない腕にペイロード弾を撃ち込み動作をキャンセルする。

G36に持ち換え再び胸へ2本目のマガジンを撃ち尽くす。

 

反撃しようとするGの目の前にスタングレネードを放り投げ、腕で自身の目を保護する。

炸裂音。

ルナにとっても至近距離だが耳にはイヤホン、エマがノイズキャンセリングしてくれた様なので一応は無事。目も瞳を閉じた上で腕でガード、それでも多少は光が焼き付いてしまいそうになるのだが、そもそも目を閉じた状態でもルナなら戦闘可能だ。

 

3本目の弾倉を撃ちつくし、穴が空いた胸に回し蹴りと共にピンを抜いたフラググレネードを2つ、鉄で補強されたブーツの底で奥まで押し込み離脱する。

爆発と共に崩れ落ちる巨体。偶然にも、最初邂逅での決め手と同じ方法だった。

 

~ウエストエリア レオン~

激しい銃声がウエストエリアから響いていたが、レオンがイーストエリアでアクセスキーをアップグレードしてウエストにたどり着いた頃には異様な静寂が辺りを包んでいた。

生体培養層の下の階を眺めるが、ちらつく炎と瓦礫以外には人影や生物の死体等は見当たらない。

 

疑問に思いながらも先へ進み、エイダから依頼されてたウイルスを回収する。

 

[[ウイルスの不正持ち出しを検知、各フロアのアクセスを制限し処理を行います。職員は誘導に従い下層フロアへ集合してください。]]

 

「お約束ってか?泣けるぜ。」

施設と共に心中する気はない急いでエイダの元へと戻る。

 

   ・

   ・

   ・

~中央エレベーター~

「レオン!ウイルスは?ここは長くは持たない、脱出しましょう。」

 

エイダがエレベーターの端末を操作しロックを解除した姿が目にはいる。

(FBIは皆あんなことが出来るのか?それとも…)

 

この施設のパスワードを知っているのはセキュリティー面からしても其所の職員位だろう。例えFBIだとしても、コード解析等を行っている裏方の者が戦場の様な現場に赴く事があるのだろうかと。

 

(もし、違うとなると……)

レオンは誰からのヒントを与る事なく、一つの些細な違和感から真実たどり着いた。

 

「エイダ、君は本当にFBIなのか?」

「………このまま気付いてくれなければよかったのに。」

 

レオンは自身でも信じていない想像を口にしただけに過ぎなかったのだが、エイダは自分の知らないところでアネットと接触して真実を知ってしまったと思い正体をあかす。

 

「レオン、貴方を傷付けたくない…ウイルスを此方へ渡して。」

「撃てよ、撃てるなら」

 

撃たれても良いと思った。たった一晩だがお互いの命を守りあい、共に助け合った仲だ。それでも撃たれるのなら所詮その程度だったと……後で自分自身を笑ってやればいいと……

 

銃を下ろすエイダに安堵して近寄る。

 

「危ない!」

自爆コードが実行され崩壊しつつある施設、天井から落下してきた瓦礫がウエストエリアとエレベーターを繋ぐ橋の上へと落下する。

 

橋が崩壊して下層へと落下していく。ギリギリの所で落ちそうになるエイダの腕を掴む事が出来たレオンだが…アネットに撃たれた自身の腕から血が滴り落ち、握力と共に滑り始めていた。

 

「もういいの……貴方は生きて」

「エイダ!」

 

遂に手からエイダが滑り落ちる。

 

 

[[ウイルスの不正持ち出しを検知、各フロアのアクセスを制限し処理を行います。職員は誘導に従い下層フロアへ集合してください。]]

 

感傷に浸る時間も与えず無情にもアナウンスが終焉のときを告げるカウントを開始する。

 

  ・

  ・

  ・

崩れゆく施設、追跡者を()()()上から落ちてきたロケットランチャーで撃破して列車に乗り込む。扉を開けると懐かしい姿が其処にあった。

 

「レオン!」

「クレア無事だったのか…その子は?」

 

「この子はシェリー、私の娘よ。」

「何でお前がここにいる!?」

 

クレアと共にいる少女そして今夜、自分を銃撃したアネットがいた。

 

「私は生かされただけ……ここを出たら償いをさせてもらう」

「……」

 

「……それより、白いワンピースを着た女性を見なかった?この施設に居た筈なんだけど。」

 

気まずい空気を感じたクレアが急いで話題を替える。

レオンの脳裏に署内で出会った少女の姿が頭によぎるが、すぐにその考えを振り払う。

 

先輩は署で別れている。こんな隠された研究所にいるはずがないのだと。

 

「イーストエリア、ウエストエリアも回ったが何処にも居なかった…おそらく先に逃げることが出来た…と思うしか…」

 

「そうね…」

 

異常な振動が列車を襲う。

 

「様子を見てくる。」

クレアがミニガンを抱えながら後部車両へと赴く。

 

  ・

  ・

  ・

激しい銃声が響いている。

「弾が好きなんでしょ?遠慮は要らないわ」

 

1分間に3000発もの弾丸を吐き出すミニガンが火を吹くが、度重なる戦闘で原形を無くしたGには威力が足りないようだ。

 

列車の走行音、銃声、Gの咆哮、そして()()()()()、異変に気付いたレオンも途中から参戦する。

 

幾度となく進化を繰り返し環境に適応するウイルス…G。

弾丸を、ある時には爆発物を、または物資の詰まったコンテナを衝突させられたG生物は、ひたすらにあらゆる攻撃をも凌げる耐久性を持つ形態へと進化をしていた。

列車の車両を埋め尽くす様な、巨大なナメクジのような巨体。

その巨体を維持するためには1日に数十万カロリーが必要であるにも関わらず、獲物の捕獲に適してるとは言えない体を持った矛盾した生物……進化を繰り返した末に自身を滅ぼす進化へとたどり着いた哀れな生物の末路だった。

 

その代償に手にいれた圧倒的な耐久力は絶大で9mmや40mmだけでなく対戦車用のランチャーの弾すらものともせずにゆっくりと前方の車両へと距離をつめていく。

 

「クレア!列車の連結機を外す、手伝ってくれ。」

「駄目!ケーブルが引っ掛かってて完全に外れない!」

 

「クソ!此処まで来たというのに諦められるか!」

 

前方から光が射し込んでいた。

郊外から研究所へと続く長いトンネルがもうすぐ終わろうとしている。

 




次話で完結!近日中に投稿予定です。
ということでこの話から主人公のチート解禁です!
チートと言えば怪力や魔力やスピードなど色々ありますが、こういう形のチートは中々みないな~と思いましてw

次回、最終話 「白兎」
戦闘+フラグ回収となっております(*つ▽`)っ


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最終話、白兎

~遠い遠い昔の話~

ある王は目の前に佇む魔物を見て、騎士達に注意を呼び掛けます。
「あの魔物は狂暴で危険だ。鋭い牙を持っている」と

それを聞いた騎士達は笑い転げます。
それもその筈、目の前の魔物とやらは、可愛らしい兎だったのですから。一体誰が、剣と盾で武装した騎士達に敵うと思うのでしょうか?

騎士達の反応を見た王は、半ば諦めた表情で続けます…
「本当に狩られるだけの存在ならば、とうに駆逐されているべきだ。戦場、魔窟に潜む存在はそれだけの意味を持っている」と

騎士達は笑いながら兎に剣を向けます。


………王のその言葉が最後の警告だったと言うことに…一体何人の騎士が気付けたと言うのでしょうか?


~生体培養層~

白色の照明に反射し鈍色に染まる鉄製の床、水色に塗装されたタンク、爆発の余波でチラツク炎と壁にぶちまけられた返り血が赤のコントラストを醸し出している。

穴だらけになった壁、床には100発を軽く上回る薬莢、そして横たわる虫の息の敗北者(G生物)が前の戦闘の激しさを物語っている。

 

その瀕死状態のG生物の傍らでサンプル(血液)を回収する人影が一つ。黒の戦闘服にサングラスを掛けた男性(ウェスカー)は、最優先任務を無事に終えた安堵からか、思わずため息に似た深い息を吐いた。

 

~アルバート・ウェスカー ~

Gウイルスを保持するUSS隊員(ハンク)を寸前の所で取り逃がし、部下の諜報員(エイダ)からもNESTに侵入するという報告を最後に連絡が途絶えた。彼女が死亡したとはとても思えないが、万が一にもこの任務を失敗する訳にはいかなかった。

入手したサンプルをまじまじと見つめ、保冷ケースに保管しようとした時だった。突然の銃声、撃ち抜かれる腕、転がるサンプル。

そして、頭上から凛とした声で語りかけられる。

 

「やぁ、ジョージ。」

 

いつから居たのかは分からない。4mはあるだろう、巨大なタンクの上に腰掛けクスクスと笑いながら話す少女が其所にいた。

 

「おや?挨拶を返してはくれないのかい?

それとも、私が知らない人だから?私は白兎。」

 

白兎と名乗った少女はタンクから飛び降り、サンプルを拾い上げる。

 

「生憎、お遊びに付き合ってあげるほど暇ではないのだよ。お嬢さん。「そして貴方はアルバート・ウェスカー」」

 

「ほら、……知らない人ではなくなった。」

名前を呼ばれ、此方の微かな反応を確認した少女は笑みを深める。口元は笑っているのに目線だけは鋭く、此方を射抜くかのようだ。

 

「元特殊部隊STARS隊長、元アンブレラ幹部、スペンサー館事件で死亡。そして今は、アンブレラと敵対する製薬企業HCFの幹部」

 

ギリッと奥歯が鳴った。洋館事件以来、表舞台から姿を消した為、自身の存在を知っているのは極僅かな人間のみの筈だ。目の前の少女が精確な情報を掴んでいるという事は・・・それはつまり・・・・

 

(誰か内部(HCF)に密告者がいるということか。)

残念な事に心当たりのある人物は複数存在する。誰しもが途中から入ってきた新参者が、苦労して手に入れた自身の立場を危うくする存在ならば面白くはないだろう。

 

(ボロが出ないか、少し無駄話でもして引き出すか。)

「ほぅ・・此処に俺が居る事に驚かないのかね?」

 

「来るか来ないかは賭けではありました。

ですが、(諜報員)からの連絡が無くなれば飼い主が来るとは思ってましたので。

それに・・・{死者が歩く}・・・そんなこと不思議の国(この街)では常識でしょ?」

 

(流石に簡単には聞きだせそうにもないか・・・)

ならば、この会話に費やす時間は無駄なものでしかない。

 

「無駄話は終わりだ。それ(サンプル)を此方に渡してもらおうか?」

いつの間にか復帰したG生体は、ダクトを落下してこのエリアを離脱している。故に、サンプルを奪い返すしか方法は残されていない。

 

「あぁ・・・これが欲しいのかい?勿論欲しいよねぇ?

貴方には後が無いものね。何より貴方のプライドがそれ(任務失敗)を許さない。

HCF幹部に担架を切った上で、アンブレラが管理するデータの奪取を失敗したものね。

なぁ・・・・ジョージ?(無能さん)

 

ウェスカーは会話に夢中の少女に狙いをつける。後は持ち前の身体能力を生かした速度で、ホルスターから銃を抜き放ち、引き金を引くだけだ。

 

「それと・・・・時間が無いでしたっけ?

パーティー(お茶会)に間に合わなくなってしまうから?

大丈夫ですよ、貴方の為に用意したパーティー会場(死地)は此処であっていますよ。」

 

少女は嗤う。

優雅にカーテシーを行う白兎(狂人)に向けて、自身用にカスタムされたサムライエッジを抜き、眉間めがけて撃鉄を落とした。

 

 

~ルフィーナ~

ゲームや映画で度々行われる〔格上狩り〕内容は大半が油断している敵に、渾身の一撃で倒すというものだ。だが現実では簡単に行えるものではない。生と死が隣合わせの現代戦では勝者(生き残り)敗者(死者)が一瞬で決まる。そして、現代戦においての格上とは数多もの死線をくぐり抜け、他とは一線を画する者達の事を指す。つまり不意打ちなど通じるのは一回きり、仕損じたら二度目はない。即座に立て直され反撃される・・・それが強者(格上)だ。

 

ウェスカー(ウイルス適合者)と私との力の差は絶望的、故に使える手札は全て使う。

ピエロ(狂人)を演じ、決して余裕の態度を崩さない。全ては有利に事を進める為に。

 

(初めは手軽な銃撃ね)

今まで使う機会が無かった〔ドローンディフェンダー〕を起動し、即座に対応できる様にしておく。

デェフェンダーの最低動作保証時間は30秒。それはSMGやLMG等で集中砲火を対処した場合の時間だ。彼の持つ拳銃の弾を打ち落とす程度の負荷なら、3分以上の動作は見込める。

あえて銃撃を誘う様にカーテシーを行い、隙を見せる。直後、銃声とディフェンダーから放たれるソニックエミッターで、弾道を外された銃弾が壁に着弾する音が響く。

 

(これで彼は、銃撃は無効化されると気付く。デェフェンダーの動作時間など知るはずが無いから無駄な銃撃を控えるようになる。)

ウェスカーはピクリと眉を動かした後、銃をホルスターに収める。

 

(次は接近戦、攻撃方法は恐らく・・・劇場版でやったようにサングラス投げからの高速接近、心臓への掌打か手刀。)

 

「ほぅ・・・面白いものを持っているな。」

 

「欲しくなった?」

左手の93Rをトンファーのように逆手に持ち替え、更にガバメントを抜く。

 

「いや・・・もっと連れてくる(持ってくる)べきだった。」

 

私の視界を遮る様に投げられるサングラスは、直撃すると判断したディフェンダーによって空中で迎撃され、天井近くまで高々と打ち上げられる。既に彼の姿は見当たらない。ルナはガバメントで自身の前方足元に射撃しつつ、左足を半歩後ろへと引き、半身になりつつ左手を縦に構える。直後、左手に伝わる衝撃、飛び散る93Rの部品。

 

踏み込もうとした矢先に太股を撃ち抜かれ、充分に加速されなかった彼の手刀が目視出来ない速さで自身が先程まで居た場所を貫く。

93Rの残ったフレームで更に手刀の軌道を逸らし、ルナ自身も力の奔流に逆らわないように・・・まるでレールの上を滑る車輪の様に、伸ばされる手刀の上を回転しながらウェスカーに接近する。

 

抱きつく程の距離、この距離ならば一々狙いを付ける必要性もない。如何に自身の銃を奪われる事なく閉所で素早く射撃できるかという事に重点を置いたC.A.R System構えだ。半身で銃を胸の前で持ち素早く引き金を引く。

 

2発の45ACP弾が彼の胸を貫く、4発目ウェスカーはバック転で回避する、ルナは素早く通常構えに移行して照星をバック転では回避できない位置に合わせ引き金を引く。5発目、ダンッ!という力強い踏み込みの音と共に、宙に舞った彼の元に弾は届かない。

 

(本当に無駄に格好良いな・・・でも、地から足を離したのは失敗だったね。)

バック宙・・・彼の視点が天井を向いた時を見計らって、着地地点に2回続けて引き金を引く。

 

「な・・・・に!?」

着弾して驚愕に染まる彼の頭部にマガジン最後の弾頭を叩き込む。

 

これで(不意打ち)で終ってくれれば助かるんだけどね~)

弾切れでスライドがロックしたガバメントに弾倉を叩き込み、宙に舞ったサングラスをキャッチし()()()掛ける。

 

「調子にのりやがって・・・兎らしく隅で震えておけばいいものを!」

 

眉間に穴が開いているのにも関わらず消耗は感じられない。

(此処からが本番か・・・)

 

ため息をつきたい本心を隠しつつにこやかな笑顔を見せる。

 

 

~ウェスカー~

最初は不意を付かれたと思う。二度目は偶然だとも………だが、3度4度となると話が変わってくる。まるで此方の動きが見えてるかのように精確な射撃でダメージが徐々に蓄積されつつある。私がウイルス適応者であるにも関わらずだ。

Tウイルスは細胞を変化させる、再生と分裂を繰り返す事で通常では考えれない耐久性を得る。その過程で肉体が耐えられなかった者達は変異し、自我を失う。

だが、適応者は違う。適合しなかった者とは比べ物にならない耐久力、圧倒的な身体能力を自我を残したまま手に出来る。そう・・・適応者とは人間風情が感情論でどうにか出来るなどというレベルに留まってはいない、そのはずだった。

 

(未知の銃と装備、此方を完全に補足している動き。

アンブレラやHCFと同等の科学力を持つ組織が作り出した、未知のウイルスの適応者といったところか。

ならば、此方も全力で掛からせてもらうだけだ。)

 

此方がダメージを負っているのに対して敵は(少女)無傷でその場を動くことなく猛攻に対処している。顔には笑顔、明らかに余裕が見える。

ウェスカーは更に速度を上げて()()の少女へと肉薄する。

 

~ルフィーナ~

彼は恵まれていた。企業幹部に抜擢される頭脳、特殊部隊の隊長を勤める程の戦闘技術、1千万人に1人の確率であるウイルス適応者。

故に、彼は恵まれていなかった。自身の能力を完全に発揮できるほどの存在(適応者)に。彼は人間を圧倒できる程度の身体能力で満足して、それ以上を求めなかった、自身の体の限界を見誤った。だから攻撃の瞬間、自身の速度に動体視力が付いていかず一瞬速度が緩む。高速移動した際に、相手との距離を測る為に一瞬立ち止まる、射撃の度に一々狙いを付ける。

そして、対等と思える存在に会った時、自身と同じ未知の存在(適応者)と認識する。・・・・それが()()()だとも気付かずに。

 

彼の速度が上がる。

数発わざと外し、相手に速度を上げた事による効果を実感させた上で、至近弾、直撃と速度に対応した様に偽装する。

本来の彼なら気付いていたかもしれない。移動する自身を狙っているのでなく、通過もしくは立ち止まる位置に弾丸が()()()()()()()()

 

接近されないようにMP7で牽制(精密射撃)しつつ予め設置しておいたドローンストライカーを正面2機、私の背後に1機の全3機、起動させる。

 

(流石にこの速度を捌くのは厳しいか・・・)

彼の攻撃を一撃でも貰えば即死亡、割に合わない。

 

焦りを悟られてはいけない。

正面の私に集中する彼の背後から2機のドローンの機銃が襲う。

・・・悟られてはいけない・・・たった今、彼が着弾した上で回避行動を行い、背後からの攻撃を()()()()と見せかけているように。

正面の私からMP7とガバメント、彼の背後からは2機のドローン。銃撃を回避しながら接近するウェスカー。

 

(次は接近してからの回し蹴り)

彼が予備動作に入る前から回避行動を行う。バック転を行う私の眼前を強烈な蹴りが通過する、回避と同時に背後に展開していた3機目のドローンで彼を射抜き、更に回避先、その次の回避先に向けて引き金を引く。

接近されたままだと分が悪い。引き離すように弾幕を張る。

 

~ウェスカー~

ダメージが重なり徐々に体が重くなっていくのが実感できる。そろそろ撤退を考慮しないといけない頃合かもしれない。

 

「貴方の言った通り、私は脆弱よ。」

 

激しい銃撃の中、少女が話し始める。

壁の上を走り、追い立ててくるドローンの追跡をふりきる。

 

「私には他を圧倒する格闘術も怪力も生存技術もない。

弱弱しい臆病者よ。」

 

前方のMP7とガバメントの銃撃を壁を蹴って宙を舞うことで避ける、背後のドローンを空中で身を捻り、回転することで回避する。そのまま右にフェイントを入れつつ彼女の背後に回りこむ。

 

「だからこそ、その()()()がこの場に立っている事に疑問を持つべきだった。」

振り返る暇は与えない。彼女の頭に銃口を突きつける。この距離ならディフェンダーが弾丸を打ち落とす事は不可能だ。

 

「チェックメイトだ「スティールメイト(引き分け)よ」」

 

強烈な衝撃が側面から伝わる。少女の頭部から銃口がズレる。発射された弾丸は少女が掛ける、自分のサングラスのふちを破壊するだけにとどまった。

 

(一体何処からの銃撃だ!?)

攻撃を受けた方向へ視線を向けると、タンクの間を縫うように設置された大口径のタレットの姿があった。

 

気をとられた隙に、振り向きざまに右手で銃撃を見舞う少女、その射線から外れる様にステップを行う。だが、その回避先を狙う様に向けられた5つの銃口に気付いたのは、彼の足が地面を離れた瞬間だった。

死を覚悟した為か、大量のアドレナリンが分泌されているようだ。走馬灯の様にスローに感じる時間の中で、両目を閉じた彼女の顔が目に入る。

 

(……成程、ハンディ(目隠し)を与えた上で俺を圧倒していたと言うことか)

「化け物め………」

 

己の敗北を認めた上で、本心を溢した。

 

  ・

  ・

  ・

 

~ルフィーナ~

[彼、迎えに来るって言ってたね。]

 

「ええ、私が同類(適応者)と勘違いしてるのでしょうね。サンプルとして欲しいのではないのかしら。(そう、勘違いするように仕向けたのですけどね)」

 

ウェスカーは致命傷となりうる50口径の弾丸を回避することだけに専念し、他は被弾覚悟で回避を行った。

 

[逃がしちゃって良かったの?]

「お互い決着がつかないから引き分け(スティールメイト)なのですよ。それに…」

 

彼が逃走した扉を見つめ、頭を振る。

「気持ち悪くて吐きそうです。」

 

[ドローンのカメラ標準を3つ、高速で切り替えながら射撃と移動指示を行えばそうなりますよ~もっとも貴女以外、出来る人間なんて存在しないですけどね。]

 

[ウイルスサンプル、坑ウイルス剤、アンブレラの活動報告書を入手完了、言うこと無しね。撤退しましょう。]

 

ルナは頷き荷物搬入用エレベーターに乗り込む。

 

[そう言えば、さっきのキャラはもう止めたの?]

「あれは、相手に余裕を見せるために演じていただけです。」

 

[そう?本当に?]

「………何か?」

 

[何でもない……]

「私は普通の少女ですよ?」

 

[はいはい~]

「解せぬ(……解せぬ)」

 

ゆっくりと閉じ行くエレベーターの扉の隙間から、懐かしい姿(レオン)が上階の足場を走って行くのが見えた気がした。

  ・

  ・

  ・

[[ウイルスの不正持ち出しを検知、各フロアのアクセスを制限し処理を行います。職員は誘導に従い下層フロアへ集合してください。]]

 

ウエストエリア貨物エレベーターから物資搬入口用大型エレベーターに乗り換えた時だった。アナウンスが流れエレベーターが一時停止したが、即座にエマが管理プログラムをオーバーライド(上書き)し、運行が再開される。

 

「映画みたいですね。」

[いよいよクライマックスだよ!逃げ遅れないようにね!]

 

ゆっくりと下がり行くエレベータの中で、H2Rの暖気運転をしながらのんびりと下層へ到着の時を待つ。

(このエレベーターの降下速度なら、もしかするとクレア達の方が先に進んでるかもね・・・)

 

「焦ってもしょうがないですしね~。そろそろ切り札を切りましょうか。」

[本当に必要?]

 

「必要ないときは別の場所に落としましょ。」

[了解~]

  ・

  ・

  ・

  ・

~合衆国海軍工廠大砲試射場~

[ブラボー・リマ・シエラ・エコー・チャーリー・キロ・ユニフォーム・ケベック・エコー・パパ・エコー・リマ・タンゴ・ヤンキー]

無線から若い女性が、坦々とフォネティックコードを告げている。

合衆国設立以来、決して使用されたことの無い措置が今、行われようとしている。

 

[[国家非常事態特別援護措置]]

大統領や上層議員、国の方針を決める中枢が機能しなくなった場合、もしくは国家を転覆させかねない緊急の非常事態時に派遣されるエージェントからの応援要請だ。要請を受けた施設は、施設の防衛・維持にマージンがあれば議会上層部の判断を待たずに速やかに支援を開始するという措置である。

 

 

(我々の知らないところで脅威が迫っているのか・・)

戦争・内戦やテロなどの情報は入手していない。変哲の無い平和な日常、勿論この施設にはマージンがある為に措置に従い支援を開始しなければならない。

 

「認証コードを確認、〔トールハンマー〕を開始する。」

(問題は、何もしらない部下に何と説明するやら・・)

施設の管理者は頭を痛める。

  ・

  ・

  ・

「これより実戦を想定した、最大負荷試験を行う!弾種はGPS砲弾、これから指定する座標に24発、2分間内に撃ち切れ!」

一斉に従業員達が作業に取り掛かる。

 

「上官!その座標は内陸です!370Km離れた自国の地に砲弾を落とすのですか?」

「自国の地だからこそだ!貴様は能力が実証されてない兵器を戦場に送り込む気か?それとも自国の土地を300Km買い占めて射撃場にする気か?該当区域の閉鎖は完了している。遠慮なく撃ち込め!」

 

「「Sir、yes、sir.!」」

 

電力充填が整い、炸薬とは異なる砲声と衝撃波の音を残して順次砲弾が放たれる。初速マッハ7、着弾弾速マッハ5と従来の砲を大きく上回る速度で撃ち出された150mm砲弾は高度152kmまで上昇し6分後、370km離れた場所へ着弾する。

 

「全弾発射完了、弾着まで残り4分。砲身の冷却を開始します。」

「時間になれば目標物が通過する、データ収集を怠るな。」

  ・

  ・

  ・

~NEST B4~

施設焼却まで残り3分のアナウンスが流れる。自爆の為に極限にまでエネルギーを蓄えられた圧力タンクの中には、時間を待たずに自壊を始めるものもある。搬入エレベーターが下層へ到着した頃には、天井から瓦礫が落下し始め周囲は焔の赤で埋め尽くされている。

 

「綺麗・・・・[この状況でその感想!?]」

 

[・・・トールハンマーを開始したわ。初弾の着弾まで残り5分。弾種はGPS砲弾・・・本当に5分後にターゲットが其処を通過するの?]

「何いってるんですか?そんなの分かる訳無いじゃないですか。()()()目標に誘導するのですよ?」

 

[はい!?何言ってるの?]

「列車が通るのは保障します。ですが移動目標ですからね~。衛星から送られる座標データを上書きするなり方法はお任せするわ~出来るでしょ?」

 

[あぁぁ!もう!

出来ますよ!やってやりますよ!

帰ったらルナちゃんをイチャイチャ・ニャンニャンしてやるんだから覚悟しなさいよ!]

 

「あ~あ~聞こえない~[砲弾、ルナちゃんに落とすわよ?]ゴメンナサイ、ジョウダンデス。」

笑いながら前輪ブレーキしたままH2Rのアクセルを入れてホイルスピンさせてタイヤを暖める。

 

「それじゃ、日の出(デイライト)を拝みに行きましょうか。」

ブレーキから手を離し、圧倒的な加速に身を任せる。速度計が一気に100km/hを表示し、その後も勢い衰えることなく上昇し続ける。そして4秒後には200km/hを超し背後に迫りつつある爆炎を置き去りにしていく。

 

線路を中央にして両端にある点検作業員用の通路の上を疾走するバイク。

 

[前方、右に緩やかなカーブ!]

 

通常であれば居眠りしなければ衝突することのない緩やかなコーナー・・・通常の速度であらば。ルナは体を傾け重心を移動、更に片方の膝を広げる事で空気抵抗をも利用する。

 

[左カーブ!速度落として!]

 

H2Rは中央線路を飛び越え、左側通路の()()()に着地、疾走する。

「これ!映画で見たことある~!」

 

[・・・・・]

  ・

  ・

  ・

[着弾まで残り2分、前方に車両(列車)を確認。]

 

主人公達が乗る列車に追いついた様だ。3両編成、後ろの車両の天井付近の窓からはマズルフラッシュの光が見えており、原作通り物語が進んでいるのだと実感した。

 

「列車の走行速度は80km/hを維持、後ろの2両がターゲットです。最前の車両に当てないように終端誘導をお願いします!」

[了解、最終調整を行う。着弾で衝撃波が予想されるからその列車から離れてて「了解。」]

 

列車の中から銃声の合間に「弾が好きなんでしょ?遠慮は要らないわ。」という声を聞きながら、再びバイクを加速させ離脱する。

 

[私、時々思うんです・・・・貴女は未来が見えているんじゃないのかと・・・]

長いトンネルを出て離れた位置にバイクを停車させる。長い夜が終わり、朝日が昇り始めている。

 

「私にそんな能力はありませんよ。出来る事といえば銃を撃つ事、ドローンの操縦、それと・・・未来を少し()()するくらいです。(でも、今回だけはズル(原作知識)を使いましたね。)」

 

主人公達を乗せた列車がトンネルを抜けて姿を現す。

[・・・カウントを始めます。着弾5秒前・・・4・3・2・1・・・着弾、今!]

 

秘密裏に開発され、実用レベルまで昇華されたレールガンと呼ばれる電気の力で弾丸を飛ばす大砲。

放たれた砲弾は300kmの長い距離を6分かけて滑空し・・・

たった今、神を冒涜し命を弄んだ愚か者に鉄槌(トールハンマー)を下した。

 

マッハ5で飛来した砲弾は鉄製の車両と逞しいGの肉体を軽々と貫通し衝撃を残す。元より外れかけていた車両の連結器は無事に外れ、後部車両だけが脱線し宙を舞う・・・・そして、容赦なく立て続けに後続の砲弾が着弾する。

 

ビューティフォー(流石だな)

[生体反応ロスト、目標の沈黙確認。]

「念のために合衆国が処分予定にしてるナパームをここで使ってもらいましょう。」

[そうね、連絡入れとくわ。さぁ、撤収しましょうか。]

  ・

  ・

  ・

  ・

~日本 京都~

ラクーンシティーが消滅して早6年。企業に狙われる恐れのあるアネットとシェリーの保護を政府に依頼し、自身も大統領直轄のエージェント組織「DSO」 (Division of Security Operations)に所属し生物兵器に関する動向をおっていた。

 

[どう、レオン?目的の彼女は見つかりそう?]

エージェントの同僚、オペレーターのハニガンから無線が入る。

 

「いや・・・正直、自分でも見つかるなんて思っていないさ。」

[ならばいい加減諦めたら?リタ・フィリップスは偽名だったし、街を脱出した生存者リストにも無かったんでしょ?]

 

ラクーン脱出後、エージェントの訓練の合間に生存者名簿を探し、本人に会いに行った時の事を今でも鮮明に思い出せる。リストに名前を発見し、喜びながら先輩の自宅を訪問した。だが、扉を開けた人物は署内で出会った銀髪のクールな少女ではなく、金髪の犬のような印象を受ける女性だった。署内で本人の日記を読んでいたこともあり、こちらがリタという人物なのだとその時に悟ったのだ。

その後、壊滅前のラクーン住人のリストを可能な限り集め、生死問わず調査を依頼したが特徴の一致する女性はヒットしなかった。

 

「先輩・・・・あんた一体何者だったんだ?」

自身が訓練を受けて初めて気付く先輩と呼んでいた人物の異常性。

隙の無い立ち回り、無音で走り、狙いを付けず精密射撃を行う、合図など交わしていないにもかかわらず此方の次の動きが分かってるような連携。DSO内にも卓越した戦闘技術を持つエージェントはいるが・・いずれも彼女のレベルまで達しているものなどいない。

 

「Old soldiers never die, they simply fade ... 」

老兵は死なず。ただ消え去るのみ・・・少女の銃に刻まれていた文字を思い出す。

役目を終えた少女は、誰にも知らせることなく表舞台から姿を消す・・・未来を自身の後に続く者に託して・・・

 

「ハハハ・・・如何にも貴女らしいな、先輩。」

名前も居場所も、エージェントの情報網を使っても知ることは出来なかった。今、日本に居るのも先輩が日本のコトワザを良く使っていたのを思い出した程度に過ぎない。

 

[レオン。休暇中で悪いのだけど仕事よ!VIPの娘が誘拐されたらしいわ。迎えを向かわせるから集合して。]

「泣けるぜ・・・」

 

気をつけてね・・・レオン

 

懐かしい声が微かに聞こえた。

振り向いた先には銀髪の女性の後姿が見え・・・

通行人がレオンの前を通過した瞬間、姿は見えなくなっていた。

 

「・・・すまないハニガン。今手持ちの武器が無い、銃器と弾薬をたんまりと用意してくるように回収係に伝えてくれ」

[了解・・・どうしたの?]

「いや、心配性の知り合いの事を思い出しただけさ。」

 

(・・・・分かってますよ・・先輩。ちゃんと準備していきます。)

 

紅葉が並ぶ石畳、観光客で混雑する道の中レオンは振り返ることなく真っ直ぐと歩く。

 

 

 

 

 

 




時が経てば悲しみも憎しみも薄れていくものだ。それを良いとも悪いともいえないのが現状ではあるのだが・・・100,000人以上の犠牲者を生み出したラクーン災害も薄れ行く記憶の一つだといえる。
今となっては生物災害の恐ろしさよりも、Tウイルスが生み出したユニークなモンスター達が面白可笑しくメディアで取り上げられる程度だ。・・・それが情報操作されたものとは誰も気付かずに・・・。

モンスター達はユニークな物ばかりだ。歩く屍を筆頭に、生皮向かれた目の無い怪物、巨大化したミミズ、トカゲの兵士、コートを着た大男等々。
中には、公衆電話を持ち上げ投げつけるゴリラ、スキンヘッドの不死鳥、北斗神拳の伝承者などユニークな怪物も実在したとかしないとか・・・

特にイタズ好きな子供達を躾ける時に使われるモンスターはとても平凡が故にユニークである。
  ・
  ・
  ・
「あら、ジェーン。まだ寝てなかったの?」
「うん、この漫画が面白くて~」
「もう、早く寝ないと白兎が迎えに来るわよ?」

母親が子供に言いつけるときに良く使われる怪物、白兎。
日本で言う鬼やナマハゲのようなニュアンスである。

「ママ、前から思ってたのだけど何で白兎なの?全然怖くないよ?」

母親は暫く考えた後、言葉を繋げる。
「白兎はとても弱くて臆病なの。」
「ほら、全然怖くないじゃん~「だけど、案内人でもあるの。」」
「案内人?」
「そう・・・」
  ・
  ・
  ・
~オフィスビル地下 ゲスト用NEST直通エレベーター前~
腹に大穴を空けた男は足を引きずりながら歩く。
先ほどNESTの自爆コードが開始されたようだ。この場にと止まっていてはNESTの爆発によって地下が崩落し、また穴の底に逆戻りとなってしまう。
先程の戦闘ダメージが大きすぎて回復には数日掛かりそうだ。任務は失敗となってしまうが・・そんな物はどうにでもなる。

「出来たばかり、成功するか分からない物よりも完成品のほうが価値がある。」

Gウイルスなど傷が回復してからアンブレラ施設に殴りこみ奪えばいい。そんな物よりも未知のウイルスを宿した適応者の確保が優先だ。自身の体にそのウイルスが適合するなら最高の結果となる。合わないとしてもタイラントのようにクローン量産すればいい。戦闘力は身をもって実証済み。
Gウイルス回収という任務は失敗こそしてはいるが今後の目的が見え笑いたくなるくらい気分がいい。

上機嫌でビル1階ロビーへ向かうウェスカー
  ・
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  ・
「白兎は臆病。その臆病者が正面から敵と向き合っていると言う事実に気付かないといけないわ。」
「??」

母親は我が子の頭を愛おしそうに撫でる。

「駆逐されるだけの存在ならば当の昔に狩られてるの。その場に逃げずに居るということは・・・その兎にとって敵は、己に害を与えれる存在ではないと言う証拠なのよ。だから、白兎が目の前に現れた時点で地獄への案内が確定しているの。」
「それに・・・・」

  ・
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  ・
ロビーへと到着したウエスカーは絶句する。
これまで多くの凶悪犯罪現場や生体兵器の実験場を見てきたが、これほどまでの殺戮現場は初めてだった。
床一面に両断された感染者の亡骸。中にはリッカーやハンター、Gウイルス確保の為に追加で投下されたタイラントの死体まである。
壁や正面ゲートの大型ウインドウにも大量の血が付着しており、徐々に顔を出しつつある日光と相重なってロビーを赤く、赤く染め上げていた。

その中に佇む黒衣を着た男。

「お嬢さん、そんなに急いで何処へ向かうんだい?」
ウェスカーは逃走経路探そうと見回すが、そんなものは存在しない。

「白兎から案内されなかったか?お前の為のパーティー会場は此処だと」
男は圧倒的な絶望を携えて此方へと歩きながら刀を抜き放つ。
   ・
   ・
   ・
「それに・・・白兎がいつも一人ぼっちだとは限らないでしょ?」

我が子の反応が無いと思い覗き込んでみるとガタガタと震える幼い我が子の姿があった。

(ありゃ・・・やりすぎちゃったか・・)
「大丈夫よ!貴女は悪い子ではないでしょう?」
「うん!!」

「それじゃ、早く寝ましょうね?」
「うん!」

母親は微笑みながら子供部屋の扉を閉めた。



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人物紹介(ネタバレあり

メリークリスマス!

【挿絵表示】


イラストはフレンドさんに依頼してしまいました(*つ▽`)っ


人物紹介

 

ルナ・ガーランド

転生者、バイオハザード5迄の原作知識持ち。

現在SHDエージェント。本名はルフィーナ

容姿は銀髪のハーフアップ、オッドアイ(作者と絵師さんの気分によって色は変わりますw)、小柄。

他のエージェントと違いガジェットや武器を使いこなすタイプの兵士である(怪力や不死属性はない)

エージェント養成学校時代では髪型がツインテールであったこともあり周囲からは[白兎]や[首狩り兎]と呼ばれていた。

本人はか弱い、凡人と言っているがエージェントの例に漏れず、この人も実はチート(ただしある程度条件を揃えなければならない)

性格は慎重、自身が脆弱と実感しているためターゲットを確認してもすぐに行動せず、戦力差など判断した上で攻撃を開始する。したがって、時間に猶予がある状況かつ装備不足と判断した場合は態勢を整えにベースへ出戻りすることもしばしば。

 

エマ

ルナのオペレーター。略称:エイシー 本名:ここでは秘密

急な召集命令の為、初日の作戦には間に合わず警察署奪還任務後に合流した。(それまではライバックのオペレーターがチームに指示を与えていた)

専用回線を使って通信しているため[オーバー][アウト]など無線用語を省いて会話している。

ルナとエマは養成学校時代の先輩と後輩にあたり、戦闘訓練が苦手なエマは難なくこなすルナに憧れを抱いている。

情報戦、電子機器などに精通しており有能。echo解析、厳重な電子セキュリティーの手動解除、情報収集や分析など様々な支援を行う。因みにルナに対して百合属性持ち

 

チームメンバー

メイトリックス

マッチョマンの変態、L90をぶっぱなすチートマン!

 

マクレーン

タフガイ、敵からはゴキブリの様にしぶといとの評価が付くほど

超危険な年金生活者

 

ライバック

ある敵役が言いました

「死体を確認するまでは生きていると思え」と……

毎回映画のボスキャラを瞬殺する凄腕料理人

 

マリー

ルナになついている犬

出番がないまま最終回を迎えた可哀想なキャラ

ルナの相棒というポジションも完全にエマに持ってかれた……

読者の皆様もきっと存在を忘れているはず?

 

レオン

後のスーパーエージェント。バイオハザードシリーズでも歴代最強クラスの人物だが、ラクーンシティーに着いた時点では訓練を受けていないので一般人でしかない。

女性関係に運がなく毎回振り回されがち。

SHDとレオンが所属するDCHは別組織の為、SHDに所属するルナの存在を情報を掴むことは難しい。

 

エイダ

企業スパイ

ウイルス兵器を集めるのが趣味。シリーズを通して度々登場!

実はいいやつ?

原作通りレオンに心を奪われる。そして度々話に出てくる先輩に少し対抗心を燃やしていた(頑張れ!リタ・フィリップス)

尚、レオンは突然姿を消した先輩を心配していただけの模様。

 

クレア

一般人

特殊部隊が壊滅する状況で生還するのはクリスの教育の賜物か?

 

シェリー

子供

 

アネット

脱出後SHDに加入。シェリーと共に保護を受けながらウイルスのワクチンや対生物兵器用薬剤を開発している

 

マービン+リタ・その他大勢

警察署襲撃や大学強襲にエージェントが間に合った為、生存。

リタは暫くの間エイダからストーキングされた模様

 

むっつりサングラス

特別ゲストで登場

舞台裏から引きずり出された被害者

ルナにボコられたあとライバックにエンカウント

その後の生死は不明

 

とある親子

ラクーンの生き残りだが詳細は不明

ルナやエマかもしれないしシェリーやリタ、シンディかもしれません

ご想像にお任せしますw

 

 

ルフィーナの教官

今作は未登場

ルナに(子守唄に丁度良いでしょ?)と海兵隊信条を叩き込んだ張本人。

ガンカタやガチェットの多重操作などはルナの努力の成果だがその他の技術は全てといって良いほどこの人に教わった

つまりこの人もチート

容姿は黒髪ロング 紅瞳 

見た目は小学生高学年くらいだが成人している

 

戦闘スタイルは機動力とステルス性を活かした暗殺スタイル

ただ……能力が逸脱している(何処にでも居るし何処にも居ない)

手首に赤黒い鈴の付いたリボンを巻いている

本名は 一条鈴音(ルナからは一姉[いちねぇ]と呼ばれている

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます!
感想、応援してくださった皆様。ありがとうございました!
とても励みとなっております!
始めは一発ネタのつもりで始めた小説でした。面白い話が書けるか不安でチラシの裏でひっそりと書いていたのですがここまで続いてしまいましたw
そして前回と同様、オリキャラに愛着が…また(ひっそりと)物語を書くことがあれば登場させてしまうかも(*つ▽`)っ

追記
出直して良いですか?の過去編(ルフィーナ訓練生時代)を別タイトルで書くかも……
舞台はデッドライジング!
いつも通りチラシの裏です~
投稿時期はまだ未定(ストーリーを復習中
最近書き逃げが多いので次こそは完走させないと……


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