喰種喰 (リョー)
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序章

 どうも作者です。
今回は僕の大好きな東京喰種のssを書きました。
復讐と希望という一見真反対に位置するテーマを掲げましたが、この物語はどうなるんでしょうか。
 是非、楽しんで頂けたらと思います。
楽しんで頂けなかった方は静かにbbして頂ければ。 


 痛みは無かった。

それは無数の弾丸に貫かれ、地に堕ちた。

 捕食対象としてしか見ていなかった人間は案外強いみたいだ。

これまでの人生で蓄えてきた力はボロボロの身体でまるで意味を成さなかった。

 地面の冷たさ、自分の身体を打ち付ける雨の音を感じながら眼を瞑る。

走馬灯すら見えない。

近付く足音に死を覚悟し、人間に殺されるくらいならばと赫子を出した。

 しかし耳元に聞こえたのは同種の声だった。

 

「ねぇ。君、まだ生きたい?次は死なない力が欲しい?」

 

そう言っている様に聞こえ、自分は最後の力を振り絞って首を縦に動かした。

 

「良かった!ねぇタタラさん」

 

「そうだな。中々使えそうだ」

 

耳元での会話は遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼓膜を震わす音、身体を包む布の感触、細く開いた瞼に眼に射し込む光、身体の感覚が戻り自分は瞼を開いた。

 

「ここ、は?」

 

純粋な疑問を口にする。

すると驚いたような女性の声が飛び込んできた。

 

「あっ!すみません!起こしてしまいましたか!えっと、ここはアオギリの樹のアジトです」

 

アオギリの樹、聞き覚えのあるフレーズだ。

 

「何故、ここに」

 

「アオギリの樹の幹部の方が連れてきたからです。酷い怪我を負っていて記憶が無いのでしょうか、、、」

 

女性の声は困った様に言う。

 

「そう、、、」

 

名前も知らない女性と話していると、部屋の扉が開いた。

 

「やぁ、喰種喰らいくん。起きたんだね!」

 

あの時に聞こえた少女の声。

目の前には包帯が巻かれた少女がいた。

 

「何故、知っている」

 

そう訪ねると少女はクスクスと笑いながら話した。

 

「だって君、喰種の中では有名人だよ。喰種喰らいの隻眼ってね。白鳩の方は業鬼とか呼んでいたっけ?」

 

 そうだ。正体不明の喰種、業鬼。

それが自分だ。

そしてこの間、自分は自分を追い続けた捜査官に討ち取られた。

 

「それで昨日、君は捜査官に倒された。でも私達アオギリの樹が君に加勢して捜査官を退けて君をここに連れ帰った」

 

少女は話し続ける。それを黙って聞いた。

 

「君の意識が無くなる間際に私が言ったこと覚えているかな」

 

自分は記憶を探って答える。

 

「次は死なない力が欲しい?」

 

「そう!そして君は頷いたよね?」

 

自分は頷く。

すると少女は包帯に覆わていても分かるくらいの喜びを浮かべた。

 

「ならアオギリの樹にようこそ!」

 

 その質問はアオギリの樹に入るかどうかを問うものだったらしい。

確かにアオギリの樹等の組織に入るのは有用である。

そして組織の援助を受けながら自分で力を着けていけばいい。

 自分は古い記憶を呼び起こす。

妹を殺したあの隻腕の捜査官

自分を追い詰めた隻腕の捜査官。

あの捜査官を殺すまでは死ねない。

 

 

 

 

 

 

 

 



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邂逅

天宮仙
18歳
re type:不明
size186cm/59kg




 「君は弱い」

 

「何も持っていないのではなく何も得ることができなかった敗北者だ」

 

「妹が死んだのだって君の力不足」

 

「目の前で死ぬ妹を守れなかった君のせい」

 

「そう。全て君のせい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アオギリの樹に所属してから数日が経った。

仕事は自分が目覚めた日の午後から与えられ、捜査官、敵対喰種の排除から偵察まで多岐に渡った。

 自分は他の構成員がアヤトと呼ぶ、自分と同い年若しくは少し下くらいの青年の下につき活動をはじめた。

 そして今日もアヤトとの仕事を終え、暗いアジトに帰った自分を可憐な少女の声が呼んだ。

 

「えっと、アマミヤさんですか?」

 

「そう。なに?」

 

 少女の眼に映るアマミヤ。

光が当たって白く見える灰色の髪と片方だけ光る紅に、どうしても自分のよく知る少年と重ねてしまうが、その目は虚ろで暗く淀んだ雰囲気を纏っていた。

 

「えっと、私新人教育でアマミヤさんの担当に「アヤトから聞いた」」

 

「天宮仙。好きに呼んで」

 

 冷えきった声、纏う雰囲気、喰種喰らいという異名、少女はこの青年に対して怖れを抱いていた。

そして早速の冷たい態度に心が折れかけた時、仙から言葉が聞こえてきた。

 

「それと、その、よろしく」

 

気恥ずかしそうに発せられた言葉。

口数は少ない、どこまでも冷たい。けど少し温かいところが有って、もしかしたら本当は優しいのかも知れない。

どちらにせよこの青年からは悪い気はしない。

 自然と笑みが溢れてきた。

 

「はい。よろしくお願いします!私は笛口雛実といいます。ヒナミと呼んでください!じゃあ、センさんで」

 

喧嘩したらどうしよう、話なんて聞いてくれないかもしれない、怒らせたら殺されるかもしれない、そんな考えは吹き飛んだ。

この人なら案外上手くやっていけそうだと、そう思うのだ。

 少しの間、そんなことを考えていると目の前にいる仙が無言で首を傾げた。

 

「あっ、ごめんなさい」

 

「うん。それで何を教えてくれるの?」

 

ヒナミは説明を始めた。

ヒナミの説明を聞いて仙は頷く。

 

「先ずはアオギリの樹でのルールです」

 

「了解」

 

そうしてアオギリの樹でのルールを一通り話終えて、口頭で説明することは無くなった。

明日からは一緒に仕事に行き、新人教育を行うのだ。

 仙の分かりが良かったからか時間が余った。

相変わらずの眼で部屋を眺める仙にヒナミは話しかけた。

 

「仙さんはどうしてアオギリに来たんですか?」

 

「それは今必要?」

 

「いえ。必要ではないですね。少し知りたかったんですけど言いたくないならいいですよ」

 

「、、、。力が欲しかったから。奴を倒すための。そして、、何かを得るための」

 

「それと、敬語はいい。普通に接してくれて構わない」

 

「分かりまっ!、、、うん。分かった」

 

クスリと笑うヒナミに妹を感じた仙。

仙の脳裏には笑顔を浮かべた妹が居た。

しかしその笑顔は燃えるように消え、次に浮かぶのは苦しそうに顔を歪めながらも無理に笑う妹だった。

仙は唐突な吐き気と頭痛に見舞われ、胸の奥がズキズキと痛んだ。

感覚が優れているヒナミは急に呼吸が荒くなった様子を感じとり、声を掛けた。

 

「大丈夫!?」

 

「気に、しない、で。今は一人にして欲しい」

 

言われた通り、ヒナミは部屋から出ていったが心配になり、少しだけ開いた扉の隙間から仙の様子を覗き見た。

血のように赤い涙を虚ろな目から溢す仙。

きっと彼はずっと悲鳴を上げているのだろう。

それが何なのかは知らない。

だから助けることも出来ない。

けど、色んな感情の入り混じったその血の涙はヒナミに焼き付いては消えなかった。

この日、自分が覗き見たものは仙の様子などではなく天宮仙が唯一持つものの一部だとヒナミが気付くのは随分と後になってからであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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螺旋

 頭が痛い。

白く鱗を纏った赫子は無意識の内に身体を飛び出し、仙の細く白い身体を突き刺してはかき混ぜた。

もう慣れきったこの痛みに何も思わない。

だけれどこいつも言うのだ。

あの包帯の少女の様に

 

「全てお前のせい」

 

と。

そしてそれが何よりも仙を傷めるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雛実との仕事が始まって約二週間が経った。

相性はかなり良いらしく、順調に仕事は進む。

 しかし未だに自分の求める強敵、それと隻腕の喰種捜査官の情報は無く、収穫はほとんどないまま日々は過ぎていった。

 

「その通りを真っ直ぐ進んで、二番目を右折して」

 

「了解」

 

「敵対喰種が三体」

 

「確認した。殺す?」

 

「お願いします」

 

 赫子を出す音、悲鳴、頭が落ちる音が三つ。

仙の無事を確認した雛実は安心するがそれも束の間、自分の肩を弾丸が掠めた。

驚き振り返ると、そこには肩から赫子を出した喰種が居た。

 

「お前ら、アオギリだな!クソッ!よくも俺の仲間を!」

 

 赫子を出して応戦しようとするが、時既に遅し。

自分の身体を無数の弾丸が襲おうとしていた。

しかし弾丸が届くことは無かった。

 そして雛実の背後からは紅い結晶が飛び、先程の喰種を蜂の巣にした。

 

「慣れないことはしない方がいい」

 

無機質で無気力な声が自分の横を通り過ぎて行く。

この青年の教育担当になって二週間。

何も出来ない。

いつも助けられてばかりだ。

という感情は何時になっても消えない。

 

「私、何も出来てない」

 

 倒した喰種を喰ら続ける仙のいる闇に雛実は呟いた。

 

「上手に言えない。けど、ヒナミはヒナミの出来ることをすれば良い。それで充分助けられている。だから何も出来ていないわけではないと、、思う」

 

 

 

思えば仙の妹もこんな風に悩んでいた。

その度に今のように慰めていた。

 妹のことを考え出した仙は頭を振った。

また眼から赤が零れそうだ。

 仙から思わぬ言葉を掛けられた雛実は一瞬驚くが、直ぐにそれが隠された優しさだと気付く。

 

「ありがとう」

 

「それを言う必要はないと思う」

 

「それでもありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、東京の某所。

薄暗いビルの地下に片腕の無い男が入っていく。

 薄汚い格好をして、帽子を目深に被った喰種は男を見るなり嬉しそうに声を掛けた。

 

「よぉ。また喰種に会いに来たのか?捜査官さんがよぉ。あのコクリアだかに情報持ってる奴は山程いるんじゃねぇのかよ」

 

「放っとけ」

 

「捜査官が喰種とつるむのはどうなのかねぇ」

 

「放っとけと言ってるだろ」

 

「つれないねぇ」

 

血を匂わせた喰種は男に酒を注いだ。

男は黙ってそれを受け取り、一気に飲み干すと、現金が入った銀色のケースを差し出した。

 

「気前が良いじゃないか」

 

「捜している喰種がいる」

 

「へぇ、どんな。特徴を言ってみろ」

 

少し間を置いて男は話し出す。

 

「灰色の髪の喰種だ」

 

「聞いたことないねぇ」

 

「他に特徴は?マスクは?」

 

「鬼。鬼のマスクをしていた」

 

すると男は何かを思い出したように眼を開き、言う。

 

「ああ。そう言えば最大の特徴があった」

 

「なんだい。言ってみな」

 

「隻眼。隻眼の喰種だ」

 

「それまた大物じゃないか」

 

「どっちの眼さ」

 

「右目だったな」

 

「灰色の髪で、鬼のマスクで、隻眼。ああ。喰種の中では中々に有名じゃないか。喰種喰らいの隻眼ってな。白狼なんて呼ばれてた時期もあったね」

 

「そいつが今どこに居るのか出来るだけ早く調べろ」

 

そう言うと男は首から下げたペンダントを撫でた。

 

「待ってろ。直ぐに仇を取ってやるからな」

 

静かに放たれたその声は誰にも届くことはなく消えた。

 



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淀み

 第四話までは1000文字程度の短い物語が続きます。
だけどここからは結構頑張って書くつもりです。
何卒宜しく御願いします!


 アオギリの樹に所属して2ヶ月。

新人教育は終わったが、アヤトの部隊に所属している都合上ヒナミと仕事に行くことは多い。

 今回も仕事は仙と雛実で、何時も通りの仕事をしているとそれは目の前に出てきた。

今回の仕事は捜査官の排除だ。

そして対象はもう掃除した。

しかし増援として駆け付けた捜査官の中に左腕が無い男が一人。

 

「センさん。帰ってよさそう。あの捜査官は対象外だよ」

 

ヒナミからは帰還の指示が出された。

しかし恨みの相手を前にしてそんなものは聞いていられない。

 

「先に帰っていて」

 

そう言うと、仙の目はさらに紅く染まった。

仙は駆ける。

そして飛び立ち、捜査官達に結晶を浴びせた。

 

「襲撃だ!」

 

「ん?この赫子。そうか。隻眼か!」

 

現れた喰種に体勢を整える捜査官達。

どうすれば良いか戸惑う雛実。 

 物分かり良く、冷静で、常に落ち着いた仙が指示に背いたことは始めてだった。

そしていつもは光の無いその眼には復讐という確かな炎が宿っていた。

 仙の身体には既に傷が刻まれているがそれでも仙は捜査官と交戦する。

取り巻き達の頭を結晶で貫き、隻腕の捜査官には鱗を纏った赫子を振りかぶる。

 しかし隻腕は大鉈の様な武器で対処する。

 

「センさん!退いて!」

 

雛実は必死に呼び掛けるが届かない。

 仙の鱗赫は敵だけでは無く仙の理性までを喰らった。

 

「あああっ!」

 

叫び。

そして叫びと共に鱗赫は九本に増える。

 増えた鱗赫はさらに隻腕を襲う。

 

「チッ!このクインケじゃ分が悪い!退くか!」

 

逃げた隻腕。

それでも仙は叫びながら赫子を振り回す。

雛実は暴れる仙にゆっくりと近寄る。

 これまで仕事をしてきて、仙は何度も負傷している。

しかしこれまでの仕事で仙が捜査官や喰種から攻撃を受けたことは殆んどない。

つまり仙の赫子は主をも喰らう。

 仙の赫子は赤い煙になって消えた。

自分を傷付け続け、血が足りなくなったのだろう。

 雛実は地面に倒れている仙の頬に手を置いた。

 

「全部僕のせい」

 

「母さんが死んだのも」

 

「父さんが殺されたのも」

 

「霞が殺されたのも」

 

「だから強くならないと」

 

「もう一人にならないため」

 

「もう悲しくならないようにするため」

 

「奪わないと」

 

これが仙が流す赤。

怒り、悲しみ、恨み、後悔、色んな感情が入り交じって成された復讐の赤。

 血に染まった灰色の髪が揺れる。

死人のように白い肌を赤が伝う。

雛実は仙の過去を知らない。

しかしそれが酷く暗く、淀んだものであることはよく分かった。

そして彼はその淀みの奥で抜かるんで動けないのだ。

虚ろで奥の見えないその眼のような淀み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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哀惜

 途中からす少し閑話っぽく成りますがご了承を


 開く瞼に見慣れ始めた天井。

あの、隻腕と遭遇した日、貧血状態で悶々とした意識の中、雛実の肩を借りてアジトに帰還し、直ぐ横に成った。

 幸いにも今日、その日からみると翌日は仕事が入っておらずたっぷりと眠れた。

相も変わらず起きたら一人と思ったが隣には椅子が置かれ、そこでは雛実が眠っていた。

 恐らく夜遅くまで見ていてくれたのだろう。

その証拠に口の中には甘い血の味が広がっていた。

 仙は起こさないように雛実に毛布を掛けると歩きだした。

服も変えられている。

やはり色々手を焼いてくれたのだろう。

仙は静かに感謝しつつ、歩き出した。

 昨日の記憶は鮮明に残っていた。

隻腕を見つけたこと、隻腕を逃がしたこと、赫子が暴走したこと。

 赫子が暴走した時は目の前が真っ赤に成って、ただただ暴れ続けた。

そして血が足りなくなって、倒れた自分を雛実が安心させた。

 あの頬を触る小さな手が、安心させる声が、仙に妹を思い出させ胸を痛めた。

 屋上で昼間の風を浴びながら仙は深く息を吐いた。

いつまでも妹のことを考えては居られない。

もう死んだのだからそれは向き合わなければいけない。

 そう思って胸の痛みを消そうとするがいつまでも消えることはない。

 すると後ろから声が聞こえた。

 

「センさん!起きたんだ!」

 

「ヒナミ。昨日はごめん。手を掛けさせた」

 

「ううん。私は大丈夫」

 

そう言って雛実は仙の横に座る。

 少し弱めの向かい風が吹き続け、秋の残暑を拭う。

 

「そう言えば毛布掛けてくれたのセンさん?」

 

「ああ、うん。冷えるから」

 

やはり仙は優しい。

何時も仏頂面で言葉もたまに冷たく、無愛想。

しかし優しい。

そんな仙に雛実は笑みを溢す。

 

「どうしたの?」

 

「ううん。センさんって意外と優しいんだなって」

 

「そう?」

 

「うん!」 

 

「そう。」

 

 暫くの沈黙。

しかしそれを仙の声が破った。

 

「妹が居た。二歳離れた妹」

 

「そうなんだ。だからセンさんは、、、」

 

何かを納得したような雛実。

しかしそれには構わず仙は話し続ける。

 

「母親は妹が産まれた時に、父親は捜査官から僕達を守って死んだ」

 

「だから妹と二人で生きてきた」

 

そよ風にすら掻き消されそうな声で言葉を溢す仙。

雛実は何も言わず聞く。

 

「僕とは全然似てなくて、真面目で、明るくて、優しくて」

 

「それなのに」

 

「あの片腕の捜査官が妹を殺した」

 

「僕は何も出来なくて」

 

「最後まで妹は笑ってた」

 

「止めは兄さんにって」

 

 仙の頭に蘇る記憶。

 

「兄さん。止めを刺して」

 

「私を食べて」

 

「最後は大好きな人に。そして大好きな人の力に」

 

雛実は呼吸があらくなった仙の手に触れる。

冷たい手を覆うように手を触れた。

 

「きっと辛いよね」

 

「でもセンさんのせいじゃないよ」

 

「だから」

 

だから、一人で悩まないで。

喉元を出かかった言葉が出ることは無かった。

きっと自分がそう言えるような生半可な問題では無い。

だけど、だけど仙の目が透き通り、笑顔を浮かべる姿を雛実は見たい。

仙が淀みから抜け出すにはきっとあの捜査官を仙自身の手で殺すしか無いのだろう。

しかし少しだけ仙の瞳の奥が赤ではない色で光った気がするのは気のせいだろうか。

 

「ありがとう」

 

「ううん。辛いときはいつでも相談してよ」

 

「私で良ければだけど」

 

仙は何も言わずに頷く。

そして自分の胸の痛みが消えていることに気付いた。

仙がこの少女、笛口雛実と出会ってから破綻した心も修復されていっているような気がしていた。

 

「そうだ。センさん!」

 

「?」

 

唐突に言い出した雛実に首を傾げる。

 

「私に戦い方を教えてよ」

 

「別に構わない。けど何故?」

 

「少しは自分で自分を守れるように成りたいんだ」

 

雛実の真っ直ぐな目に仙は頷く。

 そして場所を移した二人。

仙は雛実に合わせ、甲赫、そして鱗赫を出した。

 

「綺麗」

 

仙の赫子を見て雛実が呟く。

 

「先ずは自分の赫子を理解して」

 

「端的に言うとどう殺せるかを理解して」

 

「相手が何処にどう動いても、殺せるように」

 

「僕にやってみて」

 

雛実の甲赫が仙を襲う。

もし仙が逃げるしか出来ない人間なら、確実に死んだだろう。

 

「うん。それで良い」

 

「うんっ!」

 

「じゃあ赫子を戻して」

 

「次に、僕が一本だけ武器を持った人間だと想像して」

 

「想像したなら僕を殺そうとして。どんな手を使ってでも」

 

雛実はよく考えたあと動き始めた。

一本だけなら攻撃を受けて耐えれる?

先ずは足を切って動かないようにすれば?

いや、人間なら武器を持てないように手を?

沢山考えてから動いた。

 

「うん。良いと思う」

 

「今、沢山のことを考えたと思う」

 

「それをすれば良い」

 

「相手が何か、武器の数は、そもそも武器は」

 

「ずっと考え続けて考えるのを止めないこと」

 

「それを意識して僕に本気で攻撃して。大丈夫。僕が死ぬことはないから」

 

 雛実を撫でる殺気。

目の前にいるのはやはり歴戦の喰種なのだろう。

業鬼。

殺気は鬼そのものだ。

しかしきっと手加減している。

それ故に本気を出せば何れ程の力を持つのかを考えてしまう。

 雛実は頭を振り、一度リセットすると赫子を出した。

そして攻撃を始めた。

 

 

 

 

 

 最初の攻撃をしてから二時間が経った。

広場の中央には息を切らした雛実と、いつも通りの無表情で立つ仙が居る。

 

「大分良くなったと思う」

 

「頭の回転は速いし、赫子も優秀だと思う」

 

「あとはそれを活かせば良いだけだと思う」

 

「でも今日の相手は僕で死ぬことは無いって分かっていたけど、実際に戦う時は誰が相手か分からないし、少しの気の緩みで簡単に死んでしまう」

 

「その時も今みたいな冷静さを忘れなかったら良いとおもう」

 

「じゃあまたやりたい時に言って」

 

「出来れば、毎日お願い。駄目?」

 

「、、、。構わない」

 

 そして部屋に帰った時にアヤトから仕事を告げられた。

この時は何時もより少しだけ儲かる仕事くらいにしか思っていなかった。

この仕事で仙がどうなるのか、それを考えることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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折れるわけには

 


 「センさんは右から回って」

 

「了解」

 

 敵を捕捉して羽赫で狙い撃つ。

大きく膨らんだ羽赫は勢い余って周りにいた雑魚を蹴散らした。

 仕事は滞りなく進み、仙は標的の人間を殺し、その肉を喰らおうとした。

だが、しかし喰種の赫子によって防がれた。

 目の前には紫色の鱗赫を持った壮年の喰種が立っていた。

 

「ほう。お前、隻眼か」

 

殺気、眼光、立ち姿、声。

 

間違いない。

この喰種は強い。

 

「センくん。目の前にいる喰種、排除して」

 

雛実ではなく包帯の少女の声。

何故、彼女が出てきたのかは気になる。

しかしこの相手と戦えるということは嬉しい。

 センも鱗赫と羽赫を出す。

 駆け寄ってくる男。

仙は男の足元に分離させた鱗赫を撃ち込み、牽制する。

 

「甘い」

 

壮年は分離赫子を赫子で振り払い仙に迫る。

 赫子と赫子がぶつかり合う。

紫と白は残像を残しながら闇を切り裂く。

 男の動きの隙を読み結晶を撃ち込む。

しかしそれが直撃することがない。

 

「中々やるな」

 

「あなたも」

 

 男の赫子は二本から四本に増える。

仙の赫子もそれとともに大きく膨らんだ。

 

「まさかお前、細胞を操作するのか」

 

 小声で呟く男。

そして男は不敵な笑みを浮かべ、更に速く間合いを詰める。 

 目で追えない。

仙は大きく膨らんだ赫子を振り回し、男を襲うが全てを男は全てを避ける。

 そしてそのままのスピードで仙の身体を刻む。

避けたため傷は浅く済んだ。

しかし男は何度も仙を攻撃する。

 

「頭はキレるようで、力もある」

 

「しかし何故俺に勝てないか、解るか?」

 

男の声を聞きながら必死に攻撃を防ぐ。

反撃の隙を探るが、隙は全くと言っていい程無い。

 

「答えはな、経験だ」

 

 男の赫子が仙の腹を抉る。

 仙は負けじと男の赫子を力で無理矢理押しきり、攻撃をする。

しかし頬を掠めただけだ。

 全く歯が立たない。

 

「お前に足りてないのは経験だ」

 

赫子の守りも破れ、更に深く腹を抉る。

 身体の傷が限界に達した。

これ以上戦闘を継続するのは無理だろう。

 赫子は赤い煙になって跡形も無くなった。

 

「中々楽しかったぞ」

 

男は赫子を仙に向けた。

 不味い。

死ぬ。

死ねない。

こんな所で死ねない。

 

ー貴方に力をー

 

頭に響く霞の声。

そうだ。

何時だって自分はなにもしない。

隻腕の情報だって見つかるのを待ってばかり。

あの時だって何もしなかったのは僕だ。

今も相手に隙が出来るのを待っていた。

経験。

そんなものは無くても強い奴は強いんだ。

霞、僕に戦う力を。

次こそは負けない。

 仙の身体は嘗て無いほど速く再生し、赫子は大きく、そして強く膨らんだ。

 

「なに?おかしい」

 

 頭は冴えきっていた。

考えろ。

計算しつくせ。

 男の赫子を撥ね飛ばした仙は起き上がり、冷静に男を見据える。

 もう一度、もう一度始めからだ。 

雛実に教えたように、相手の位置を考えろ。

 男はスピードを活かして攻撃をする。

目で追えないなら、それを何かでカバーするしかない。

 研ぎ澄ました感覚で男の一手先へ回り、攻撃する。

仙の赫子は男を捉え、脚を飛ばした。

脚が無ければ走れない。

 瞬時に男は再生したが、その一瞬の隙は見逃さない。

太く強大な赫子は男の腹を貫く。

 

「おかしい!まるで別人だ!」

 

再生する男。

再生するならその分もまた斬る。

相手が立てなくなるまで徹底的にやる。

 

 

 

 やがて、男は再生出来なくなり弱々しく倒れた。

 

「見事だ。出来るじゃないか隻眼」

 

「俺に足りてなかったものはなんだ?」

 

多分、経験も有るのだろう。

状況判断も最適だった。

それでも負けた理由。

それは

 

「死ねない理由」

 

そう言うと男はカラカラと笑った。

 

「そうか。それは確かに無かったな」

 

「意味もなく殺戮を続けるなかで、そんなものはどこかに置いてきたな」

 

「そうか。ゴミだと思っていたそれは力だったか」

 

男は笑い終えた。

そして仙は男の首を飛ばした。

目の前に有るのは強敵の死体。

また自分は強くなれる。

 仙は男の死体に食らいついた。

すると駆け寄る足音と、声が響いた。

 

「センさん!無事ですか!」

 

「無事」

 

「良かったぁ」

 

 安堵する声。

そう言えば何故この少女は自分が無事だと安堵し、自分が傷付くと必死に助けるのだろう。

 

「じゃあ帰ろうよ」

 

「うん」

 

雛実と揃って歩き出す。

 

「あ」

 

そう言って雛実は立ち止まり、一緒に立ち止まった仙の前に出てきた。

 そしてハンカチを取りだし、仙の目元を吹いた。

 

「血、付いてるよ」

 

「、、、。ありがとう」

 

自分より幾分か背の低い雛実は手を伸ばして、仙の目元を拭う。

 そしてまた二人揃って歩き出す。

それを後ろから見つめる影が一つ。

 

「セン。成長したな」

 

その声は仙に聞こえることは無かった。

 そして影は闇に消えていく。

 

「お前ら、地下に戻るぞ」

 

「はい」

 

「りょーかーい」

 

「帰るかー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

アヤトは仙と雛実に告げる。

 

「今度マダムどもの護衛をやる。オークションでかなりの人数が集まるみたいだ」

 

「ヒナミには耳をやってもらいたい」

 

「そしてセンは冴木と一緒に俺と来い」

 

「分かった」

 

「ヒナミ。明日から護衛の日まで訓練の時間を伸ばす」

 

「うん!」

 

仙の淀みは更に深くへと仙を引き込んで行く。

唯一の光も呑み込んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 



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 ピエロの華やかなオープニングでオークションは始まった。

目の前にあるステージでは人間達が想像も付かないような価格で競られていく。

特に自分と同じ隻眼の喰種は二億という価格で競られた。

何故喰種である彼女が競られているのかは分からないが彼女からは食欲を掻き立てるような不思議な匂いがしていた。

 

「セン。今日はタキザワも参加するらしい。アイツのフォローも頼む」

 

「分かった」

 

 そう言えば元々人間のタキザワは人間を殺すことに抵抗をおぼえないのだろうか。

いや、それを感じる心さえも既に死んでいるのか。

 仙は一人で納得すると再度ステージに目を移した。

 

「白い肌に大きな目!まるで人形じゃないか!」

 

「スタート価格は」

 

そういいかけた所で少女は脚に手を伸ばした。

 

「御代はけっこう」

 

脚は作り物のようで、そこからは無数のナイフが出てきた。

 仕事の始まりだ。

 

「セン、行くぞ!」

 

「うん」

 

アヤトと一緒にオークションのホールを駆ける。

 そして、羽赫を展開する。

 

「そっちはウサギさん。でも君はみたことないですね」

 

 アヤトが狙われると空かさず仙が出ていきターゲットを移す。

武器は無数のナイフしか持って居ないようで、不利だと感じた目の前の捜査官は撤退する。

 すると耳元に雛実の声が流れる。

 

「センさんは出来るだけ捜査官を殺しながらタキザワさんに合流して下さい」

 

 仙は駆け出す。

目の前にいる捜査官を切り殺す。

逃げていく捜査官を羽赫で撃つ。

 

「正体不明の喰種と交戦」

 

「紀村上等と三浦一等が殺されました!」

 

 仙を沢山の捜査官が捉え、攻撃するが攻撃が仙を傷つけることはなく、その鱗赫は大きく伸びて捜査官を次々と刈り取っていく。

 

「白い大きな鱗赫と羽赫。鬼のマスクです!」

 

 特徴を聞いたCCGの指令部はその喰種を探す。

そして誰かが呟いた。

 

「業鬼、、」

 

「業鬼と特徴が一致!」

 

「状況は!」

 

「准特等捜査官が二人、上等捜査官が五人、一等捜査官、二等捜査官は数えられません!」

 

「正体不明の鬼、ここで出てきたか」

 

和修はそう呟くと、無線のマイクに言う。

 

「業鬼のレートを制定」

 

「過去の被害、そして今回の被害を合わせてレートは暫定レートはSSS~とする!」

 

 仙と戦っている捜査官達は絶句した。

梟のレベルの敵が目の前にいる。

最早自分の死は確定したものと思い、斬りかかる者。

何とか助かろうと逃げだす者。

何もせずに呆然とする者。

 しかしどれも平等に無慈悲な死が与えられるだけだった。

 

「広場を制圧。タキザワのとこに向かう」

 

「うん!」

 

 そう言った自分の前にあの捜査官、片腕の無い捜査官が飛び出す。

 

「情報通り、アオギリ所属していたか」

 

きっとここはこの捜査官を倒さなければ通れないか。

 仙は赫子を限界まで強化する。

無言で切りつけてくる隻腕。

それを見切って、捜査官の懐に潜り込む仙。 

 攻防が頻繁に入れ替わる戦い。

それは相手と自分が同等であることを示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隻腕との戦いは長引き、未だに終わらない。

仙は赫包を2つ潰され、隻腕は左目を斬られている。

しかし退けない。

ここで退いてしまってはまた同じだ。

 仙の鱗赫は主の血液で尚いきいきとしている。

まだ戦える。

 

「そろそろ終わりにしよう」

 

そう言い、隻腕は武器を掲げた。

武器から発せられる光。

 その光を見たとたんに仙は身体から力が抜けるのを感じた。

 

「この光はRC細胞を抑制するんだ」

 

 光景が異常にゆっくりに見えた。

隻腕の刃はゆっくりと自分に迫ってきている。

 この状況を変えるにはどうすれば。

RC細胞を抑制する。

そう言えばいつかの男が言っていたRC細胞を操作する、ということ。

 考えてみればそうだ。

抑制されたならそれを上回るRC細胞が有れば良い。

 もっと赫子を!

 消えかけた赫子はまた取り戻し、隻腕の刃を防ぎ、割った。

 

「馬鹿な!」

 

戦う武器を無くした隻腕は悔しそうに撤退して行く。

逃すまいと放った結晶が当たることは無い。

 追おうして、飛び立った仙の身体を後ろから雷撃が貫いた。

後ろを振り向くと、そこに居たのは白い服で揃えた捜査官達。

そしてその真ん中に居る、白髪の捜査官。

死神、有馬貴将。

 隻腕との戦いで傷を負った身体は動かない。

死神はゆっくりと近付き、仙の頭を黒い槍で貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タキザワと戦い、傷を負った雛実。

そして雛実を捜査官が囲んだ。

その中の一人の捜査官は雛実に向かって大きな何かを投げた。

 それは同種だった。

端整な顔立ちには見覚えがある。

そしてその目から流す赤。

苦しそうな声。

そこに居たのは仙の成れの果てだった。

 淀みはさらに深くへ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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訓練

 「戦闘できる捜査官は急行して下さい」

 

「コクリアへの護送車が正体不明の喰種の襲撃を受けました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒンヤリとした空気が漂う静かな空間で仙は目覚めた。

目の前にあるのはアジトの天井じゃない。

 この光景アジトよりも見慣れた物だった。

 

「起きたか。仙」

 

 近くで響く男の声。

この声にも聞き覚えがある。

 

「うん。陣、だよね」

 

「ああ」

 

「何故、僕はここに」

 

「コクリアに護送されている所を助けた」

 

「そう。一緒に、女の子が居なかった?」

 

「助けだそうとしたが、死神に阻まれた」

 

「そう」

 

この男、陣は言うなれば仙の義父だ。

両方の親を喪い、妹と東京を彷徨いていた仙に力と居場所を与えたのがこの男だ。

 

「そう言えば霞はどうした」

 

「、、、。」

 

仙の顔で察したのか、陣は済まないとだけ言ってその話を続けることはしなかった。

 

「お前、また俺の所にくるか?」

 

「お前の眼は力を求めている」

 

そうだ。

今は力が欲しい。

あの捜査官を殺せるくらいの、そして雛実をコクリアから連れ出せる位の。

仙が知っている喰種の中で一番強いのは陣だ。

数年前、逃げるようにしてこの場所を出てきた為か、再び戻るのを躊躇っていたがそんなことは今は言っていられない。

 

「陣。僕をもっと強くして」

 

「陣の持っている力の全てを僕に頂戴」

 

そう言うと陣は静かに笑う。

 

「折れない、か」

 

「良いだろう。お前を強くしてやる。行くんだろう?コクリアに」

 

無言で頷く。

 

「先ずはお前を運んだ姉達に挨拶をしてこい」

 

 そう言われ、仙はベッドから降りた。

約10年の時を経て帰ってきたこの場所は変わっていず、それが仙を安心させる。

 長い石造りの廊下を歩き、最奥の扉を開ける。

 

「あっ!センだ!」

 

「、、、おはよう」

 

「久しぶりー!」

 

駆け寄ってくる喰種達。

彼らは血は繋がっていないが皆姉だ。

 

「ちょっと見ない間に格好よくなっちゃって!」

 

「ちょっとじゃない。大体10年間」

 

「ねぇねぇ彼女出来たのー?」

 

賑やかな雰囲気。

久々のこの雰囲気は中々悪くない。

 

「そう言えば運んでくれてありがと」

 

「凄い傷だった。治った?」

 

 既に再生は終わっていた。

姉達と話していると、陣がやって来た。

 

「挨拶は済ませたようだな」

 

「暫くは此処で過ごすのだろう」

 

「ここはお前の家だから好きな様に過ごしてくれて構わない」

 

「部屋は昔の部屋を使え」

 

「訓練の時は呼ぶ。一応朝から晩までずっと訓練を行うつもりだがな」

 

陣に頷く。

早速訓練だと、言われ仙は大広場へ向かう。

 そして訓練が始まった。

 

「先ずは眼を閉じ、一切の思考を捨てろ」

 

言われた通りに眼を閉じる。

隻腕のこと、雛実のこと、アオギリのこと。

それらを一番置き、眼を開ける。

すると焦っていた気持ちも落ち着き、身体が軽くなった。

 

「ああ。それで良い」

 

「次にお前に付いた癖を取るぞ」

 

「我流の戦い方も良い。だがそれでは俺の教える技も取り込めないだろう。我流に戦うのは全てを教えてからだ」

 

そう言い、基礎の基礎から訓練は始まった。

 出来るだけ早く、だけど丁寧に仕上がるような訓練を陣は施す。

出来ないなら出来るように成るまで。

必死で体得して、全ての基礎を学び終えるころには無駄を一切省いた流麗な動きをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「良い動きだ。ここまで来るのに二週間。だがまだ終わりじゃないのは分かっているだろう」

 

仙と長女の燐が闘う様子を見て陣は言う。

 

「燐。戦っていて何か思ったか?」

 

「隙と癖が無いと思った。案外やりにくいかも」

 

燐の言葉に陣は笑みを浮かべる。

 

「よし。仙。合格だ」

 

「だが、次からが長いだろう」

 

「俺と戦ってどんどん俺の技を盗んでいってもらう」

 

「分からない技は俺に聞け。どんどん教えてやる」

 

「そして本気の俺と姉達を倒せれば合格だ」

 

仙は気合いを入れながら頷く。

 この二週間、1日16時間の訓練で得たものを更に昇華させるのが次の訓練。

そして実戦に一番近いのも次の訓練。

 

 

 

 

 

 

 

 



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懸想

今回は短めです。
また1000文字前後に逆戻りかも、、、


 大広場の真ん中で、二人の男が正座をして向き合っていた。

しかし二人の感覚は遠く、どちらとも眼を瞑っている。

そして一人が一気に立ち上がると、もう一人も立ち上がり戦いを始めた。

 

「なかなか良い感覚だな」

 

「それを活かして戦え」

 

陣は戦いながら指摘する。

 

「はい」

 

仙の白い赫子は陣の赫子とぶつかり合う。

どちらの動きも流麗で無駄が無い。

 

「やはり良い動きをする。学んだことは無駄に成っていないようだな」

 

寝る時間を削ってでも1日で学んだことをもう一度復習する。

毎日そうしていた仙の当然の結果だ。

 

「しかしもう少し柔軟に動かすことも必要だな」

 

そう言って仕掛けてきた陣の攻撃を仙は取り込む。

そうして取り込んだ技を攻撃に組みこんで食らわす。

 

「そうだ!良いな」 

 

陣の声が響く。

 

「それなら、これはどうだ?」

 

うねる赫子は軌道を左右に変えながら迫ってくる。

そして赫子は仙を貫いた。

 仙は空かさず立ち上がり、更なる追撃を赫子で防ぐ。

 

「そうだ。守れ」

 

「敵の攻撃を絶対に受けないようにあるものは全て使え」

 

「よし。これはどうだ」

 

陣の赫子は細くなり、仙に真っ直ぐ飛んでくる。

当然の様にそれは防いだが、反動を利用して陣は間合いを詰める。

 

「成る程。こう言う攻撃には馴れていないか」

 

 

 

 そうして1日の訓練は終了した。

第二の訓練が始まって既に1週間。

陣に勝てる自信は未だに無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって東京の中にある喰種の収容所、コクリアの中。

その一室に一人の少女が何をするでもなく、ただ座っていた。

 アヤトのこと、アオギリのこと、記憶を失った彼のこと。

色んなことを考えるが何より考えるのは灰色の髪が特徴的で、虚ろな眼をした仙のことだ。

 捕まってから暫くの時間が経った。

そして時間が経つに連れて想いは大きくなる。

あの冷たい手に触れたい。

あの冷たく聞こえて温かい声を聞きたい。

あのどこか寂しそうな顔を見たい。

あの隠れた控えめな優しさを感じたい。

 自分にとっての彼がここまで大きなものだとは思わなかった。

一緒にいた時間はアヤトの方が大きい筈。

だけど頭を占めるのは仙だ。

 無愛想で、不器用で、いつも冷たいくて怖い。

だけど優しくて、少し天然で、そんなところが可愛い。

そんな仙のことを自分は、、、、。

 今頃彼はどうしているんだろうか。

多分苦しんでいるに違いない。

そして必死に足掻いているに違いない。

 小さい頃から居場所を奪われ、唯一の支えの妹が殺され、暗い過去を一人で背負って歩いてきた彼にどうか明るい未来を。

 彼が悲しむことはもう有りませんように。

小さく冷たいこの部屋でそう祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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初戦

 最初の訓練が始まり丁度5週間が経った。

1日16時間。5週間、35日で560時間。

それだけの時間を積んだ為、仙は飛躍的に強くなった。

 しかしまだまだ強くなれる。

仙の頭に浮かぶのはあの可憐な少女だ。

今はどうしているんだろうか。

きっと怯えているんだろう。

 アオギリの樹に入ってからずっと一緒に居たから分からなかったが、自分の中であの少女の存在は大きいらしい。

沢山のことを考えるが自分は一度すべてを無くす。

 この広場に相手がやって来た。

 

「あっ。もう来てたんだー」

 

三女、景。

 第二の訓練の合格を貰うための初戦だ。

 

「じゃあ始めよう!」

 

「殺す気で行くから!」

 

景の両目が赤く染まる。

合わせて仙の片目も赤く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 景の赫子は尾赫。

太く一本だけ伸びた尾赫の攻撃は一つ一つが重い。

 

「逃げて防ぐだけじゃ倒せないよっ!」

 

 それでいて隙は無い。

相手に呑まれそうになるが、一度落ち着き冷静に観察をする。

 そして攻撃と攻撃の間に赫子を突いていく。

仙の攻撃は景のペースを崩した。

 そうすれば此方が有利に立てる。

徐々に攻撃回数を増やし、自分のペースに持っていく。

 

「良いじゃん!」

 

 景は楽しそうに笑う。

景は戦闘までをも楽しむ。

多分それが景の強さの秘訣何だろう。

陣だって強い相手と戦っているときは口元が緩んでいる。

 楽しんで戦うことも必要なのかも知れない。

 一気に間合いを詰めてくる景を蹴って防ぐ。

 

「うーん!攻めにくい!」

 

 鱗赫を分散させて多方向から攻撃する。

そして同時に羽赫を展開する。

 

「仙は全部の赫子を使えるの忘れてた!」

 

 後ろに退く景。

そして景は笑う。

 

「じゃあ私も奥の手だしちゃうよ!」

 

一本だけの尾赫は増えて三本になる。

どの尾赫も太く、素早い。

 羽赫の弾幕で牽制しつつ鱗赫で攻撃。

そして隙ができたら甲赫を展開し間合いを詰める。

しかし、三本の尾赫は別々の動きをして仙の攻撃の全てを防ぐ。

 

「それ!今の仙!とっても楽しそう!」

 

 そう言う景もまた楽しそうだ。

一進一退、ほんの気の緩みが負けになるこの試合は楽しい。

 

「そろそろ自傷ダメージもキツいんじゃない?!」

 

確かに赫子に喰われた傷は小さくは無い。

 訓練でこの特性について気付いたことがある。

この赫子は血と肉を確かな力に変えて相手を打ち砕く。

今までは呪いだと思っていたこれは霞が仙に与えた力だ。 

 身体の傷は一定量を越した。

すると赫子は今までに無いほど膨らみ白く光った。

 そしてそれは景へと向かっていく。

速く、強く。

 

「不味いっ!!」

 

 景は尾赫を重ねて盾をつくる。

そして盾に仙の赫子がぶつかった。

 仙の赫子の勢いは衰えない。

そしてそれは盾を砕いた。

 仙の赫子を受けて吹き飛ぶ景。

 駆け寄り、景の状態を確認すると景の腹には大きな穴が空いていた。

 段々と穴は塞がり、景は眼を開く。

 

「凄く強くなったね」

 

「もうあの頃の仙じゃないんだね」

 

「懐かしいなぁ。しょっちゅう私達と喧嘩してさ、仙は弱くていつも私達に負けて霞ちゃんに慰められてたよね」

 

 景は満足げで、どこか寂しそうに言う。

 

「遠くに行っちゃったんだね」

 

「それは。違う」

 

「強くはなった。でも遠くに行ったわけじゃない」

 

「ずっとここにいる」

 

「ずっと景の弟」

 

そう言うと景は嬉しそうに笑う。

 

「そうだね」

 

「その強さが有れば暦にも勝てるよ!」

 

「頑張ってね」

 

景の手を引き、起こすと仙は歩いていく。

かつて無いほどの赫子を出したからか、身体の節々が痛む。

自分が受け取った霞の力はとてつもないものだったと、この日、初めて知るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「sssレート喰種業鬼。あれから目撃情報は無しか」

 

「一度大きな被害を起こして行方を眩ます。そして忘れた頃にまた大きな被害を起こす。昔と変わらないな」

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




長女は憐(レン)
次女は暦(レキ)
三女は景(ケイ)

憐はおっとり。セリフに伸ばし棒が多いです。
暦は無気力。セリフに句読点が多かったり、「、、、。」が多いです。
景は元気。セリフにビックリマークが多いです。

この三人は本当の姉妹ですが、親である陣(ジン)との血は繋がっていません。


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二回戦

オリキャラのレートや二つ名

(神山)天宮仙:SSS/業鬼
天宮陣:SSS+/鬼
天宮燐:SSS/霊亀
天宮暦:SS+/麒麟
天宮景:SS/応竜
(神山)天宮霞:S+(死亡)/鳳凰
七條曹:准特等/隻腕

仙、霞の()は旧姓です。
陣に引き取られ天宮になります。
燐、暦、景はCCGに正確な力までは認知されていないので二つ名はあるもののレートは不明と言う設定ですが、どのくらいの強さかを記すためにレートを記入しました。



 仙は意識を集中させる。

今回戦うのは次女、暦。

 暦といえば、いつ気だるげ、無気力。

表情の変化はあまり無く、感情の起伏も無い。

 余談だが、仙とよく似ていると他の姉達は言う。

しかし、戦う時は羽赫のスピードを利用した隙がない連続攻撃を無慈悲に浴びせ、縦横無尽に駆け回る。

 彼女が姉妹の中で一番強いと言っても過言では無い。

 すると足音が響いた。

 

「仙。早いね。」

 

 そう言うと暦は仙に近寄る。

無言で頷く仙の頭を撫でると、距離を取る。

 

「じゃあ始めよう。」

 

「、、、。手加減は、、しない。」

 

暦の眼は赤く染まり、肩から羽のような赫子が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右、左と移動しながら暦は仙に近寄る。

そして飛び上がると段幕を浴びせる。

 仙はそれが着弾するのを全て防ぎきったが、暦は反撃はさせないと赫子を使って斬りかかる。

やはり、速い。

頭の回転、次に行う行動の選択、そして攻撃。

全てが速く着いていけない。

 仙は一度退く。

羽赫は基本的に素早い行動が得意だが、同時に持久力が無い。

 暦も短期決戦を得意としていた筈だから、攻撃を誘発させたりしながら持久力を削っていくと勝てる。

仙は甲赫を使って、暦の攻撃を防ぎながら羽赫を展開し、結晶を放つ。

 暦の怒涛の連撃は未だに止まない。

しっかりと間合いを管理しつつの連撃は防ぐしかできず、辛い。

 完全に打つ手なし、そう思った瞬間、暦の攻撃に隙が生じ始めた。

出来た隙は逃さない。

剣に形を変えた甲赫で暦の身体を斬り付ける。

 攻撃を受けて取り乱したのがよく分かる。

そうなればこちらのものだ。

 暦から放たれた弾丸が仙の身体を貫く。

相手が取り乱しているとは言え攻め切れない。

やがて、暦は落ち着きを取り戻す。

 持久力は消費しきっているから先程のように、とはいかない。

しかし回避しながら間合い外から弾丸を撃ち込む戦法は仙を悩ませた。

 取り敢えずは同じく羽赫を使って応戦。

回避をするタイミングに狙って撃ち落としたあとに攻撃を刻む。

脳内で作戦を立てて仙は動き出す。 

 暦の弾丸は甲赫と羽赫を使って弾き落とす。

そして一回目の回避。

二回目の回避。

三回目の回避。

四回目の回避の最中に仙の弾丸が暦の肩を直撃した。

 赫包があるその位置に直撃したことで、暦の赫子は勢いを落とす。

仙は空かさず駆け出し飛び上がる。

 自傷ダメージも充分。

飛びながら構えた甲赫は膨らみ白い大剣と化す。

 暦は迫る影を見上げる。

白い大剣を持った仙。

もはや何も出来ない。

その綺麗な姿を目に焼き付けようと暦は瞬きもせず迫る仙を見つめた。 

 やけに遅く動く目の前の光景。

仙は暦の位置を捉えて大剣を振り下ろした。

 大剣は柔らかいものを切り裂いた感覚を残しながら地面と激突する。

身体中の骨に衝撃が伝わり、骨を何本か折った。

 

「、、、。凄い」

 

 大広場に声が響いた。

声の方向には真っ二つに別れた暦がいた。

しかし再生は進み、やがて身体は元通りになる。

 

「、、、。強い」

 

 仙は暦の近くに寄ってしゃがむ。

 

「ねぇ。仙。仙はどこにも行かないよね?」

 

頷きで答える。

 

「とても不安。いつか仙は居なくなるんじゃないかって。十年前みたいに。今度は帰ってもこないんじゃないかって。」

 

景も同じ様なことを言っていた。

仙は景に言ったように言う。

 

「僕の家はここだけ。そして暦は僕の姉さん。それは変わらない」

 

「僕はずっとここにいる」

 

「僕はずっと暦の弟」

 

そう言うと暦は珍しく笑う。

 

「ねぇ暦、手かして。」

 

暦に手を差し出すとそれを握った。

 

「冷たい」

 

「ねぇ。私、本当はね。仙のことが、、、」

 

「いや。いいや。」

 

暦は何かを言い掛けて止めた。

何を言おうとしたのかは分からない。

しかし暦の顔は今まで一番幸せそうだった。

それならそれで良い。

 暦は手を引いて立ち上がる。

 

「再生終わった。」

 

「仙は強い。これなら燐も倒せると思う。」

 

「、、、負けないで。」

 

「しなきゃいけないことがあるんでしょ。」

 

 仙は強い目で頷く。

暦は仙の居なくなった広場で呟く。

 

「あーあ。言えなかったな。」

 

「でも傷つきはしなかった。」

 

「痛みを避けるのは普通、だよね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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三回戦

キャラの年齢を書きます。

天宮仙:19歳
天宮霞:享年15
天宮燐:22歳
天宮暦:21歳
天宮景:20歳
天宮陣:48歳



 仙はいつもと同じく大きな広場で正座をする。

こうして姉を待つのは三回目。

そして次に戦うのは長女の燐。

 燐と言えば、いつもゆっくりとした話し方で、温厚。

しかし、本気を出せば異常な強さを発揮する。

甲赫の堅牢な守りで相手の攻撃を全て防ぎ、重い一撃を的確に叩き込む。

 仙は深呼吸をして焦りを落ち着かせる。

すると広場に足音が響いた。

 

「あっ。仙もう来てたんだー」

 

 無言で頷く仙を見て燐は微笑む。

 

「どう?今までの訓練は力になったー」

 

「うん」

 

「そっかー。それは良かったねー」

 

 最後の姉。

そして次は育ての親である陣。

 陣に繋げる為にこの戦いは負けられない。

 

「じゃあそろそろ始めよー」

 

「お手柔らかに、、、お願いね」

 

燐の目は赤く染まった。

そして大きな盾の様な甲赫が二つ飛び出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 甲赫を相手にする場合に至って先手必勝はお約束だ。

重く機敏な動きが出来ない甲赫の弱点を突くために、体勢が整う前に攻撃する。

甲赫が守りの体勢に入るとそれを壊すのは中々難しい。

 仙は開始直後、羽赫を展開しながら間合いを詰めて弾幕を浴びせる。

しかし、燐の体勢は既に整っていた。

 信じられない。

守りの体勢に入るまでの速さ、流石だ。

 一度退いて状況を見る。

二枚の甲赫はどちらとも分厚く端は研ぎ澄まされ鋭利だ。

攻めと守りを兼ね備えた甲赫、近寄れば切られこの程度の弾丸なら全て防がれる。

 暦とは違った攻めにくさ。

 弱点を見抜こう仙は考える。

燐の間合いは広い。

しかし、暦のように俊敏に動いて攻撃することは出来ない。

暦が何度も攻撃を防ぐことが出来ないように。

なら、燐の間合いの外から一方的に攻撃するまでだ。

 そしてこの程度の弾丸は 防がれる。

もっと大きく、もっと速く、もっと強い弾丸を。

 身体中の赫包が熱くなる。

そして何度も肩に赫包が生成される。

 あの喰種の男が言っていた細胞を操作するという意味とその感覚、積み重ねた訓練で仙は身に付けた。

肩に集まった赫包は赫子を出す。

赫子は纏まりそれは大きな翼を成す。

白く、大きな翼。

 

「綺麗、だね」

 

「なら、私も本気を出すよ」

 

 燐の盾はさらに大きく、凶暴な刃となる。

 仙は弾丸を放つ。

一発一発を強化した弾丸の弾幕。

 それは確実に燐の甲赫を砕く。

 

「防ぎきれないー!」

 

 燐は守りの体勢を崩し、仙に近付く。

大きな二つの盾は、仙の身体を刻む。

 守りから攻めに転じた燐。

しかし燐が素早く長い距離を移動することは出来ない。

 仙は移動しながら結晶を放つ。

ゆっくりで良い。

着実と相手を弱める。

 燐は結晶を放つ仙に真っ直ぐ突撃し、仙は弾き飛ばされる。

しかし立ち上がり、結晶を放つ。

 そして遂に燐の赫子は砕けた。

空かさず仙は距離を詰める。

 燐を逃さないようにしっかりと掴まえると羽赫は燐の方向を向いて更に大きくなり、ただ一つの結晶を生成する。

 

「強くなったんだね」

 

燐は呟く。

大きな結晶は羽赫から発せられる光を受けて赤く輝いた。

燐は眼を瞑る。

そしてそれは高速で放たれた。

 勝った。

仙の白い赫子は灰のように宙に舞って消えた。

 自分の目の前には結晶に貫かれた燐が横に成っていたがやがて身体中の傷が再生され、戦う前の状態に戻った。

 

「とっても強かったよー」

 

 何時もの調子で燐は言う。

この声を聴いていると仙の焦りは消える。

 

「次は陣と戦ってー、勝ったらもうコクリアを破りに行くんだよねー?」

 

「本当に凄いなぁー。仙はどこまでもいっちゃうなー」

 

「仙。行っておいで。そしたら帰っておいで」

 

何を言いたいのかと首を傾げる仙をみて燐は微笑む。

 

「ううん。一人言だよー」

 

「仙。仙は色んな所に行きなさい。そして今よりももっともっと強くなりなさい。私達が行けないほど遠くへ行きなさい。そしたらまた帰ってきなさい」

 

 確りとした声。

仙は頷く。

 燐の顔はとても満足そうだ。

 三人の姉を破り、残すは育ての親である陣。

何度か訓練で打ち合ったが、それとは違う本気の陣。

 不安感は無い。

あとは本気で戦うのみ。

 仙は決意をし、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

   

 

 

 

 



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 仙は今までの訓練を整理する。

この戦闘は避けては通れぬ通過点。

最初の砦だ。

 ここでの最後の相手は陣。

自分は実際の所陣という喰種をあまり良く知らない。

 自分が陣といた6年をもってしても陣のことはあまり良く分からなかった。

それほどまでに陣という喰種の底は深い。

 

「もう来ていたか」

 

 足音も無く陣は大広場に入って来た。

眼を閉じていれば良く分かる陣から漏れ出す殺気と覇気。

 

「お前の好きな時に始めるぞ。その時が来たら言え」

 

陣はそう言う。

 仙の整理は既に終了している。

 

「もう。始めたい」

 

「そうか。良いだろう」

 

 仙の片眼は赤くなる。

 

「良い眼をするな」

 

「格上を喰らうものの眼だ」

 

「それではいくぞ」

 

「陣、参る」

 

 陣から赫子が飛び出すと同時に殺気が解放される。

自分より大きな彼はまるで鬼だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陣は眼にも追えない速さで駆けてくる。

陣の赫子は鱗赫。

仙も鱗赫を出し、赫子を防ぐ。

 しかし重い攻撃に弾き飛ばされる。

そして弾き飛ばされた仙を追撃するが、それは全て防ぎ切る。

 負けじと仙も攻め込む。

赫子だけでは無く、体術も使い陣に攻め込むが陣は難なく防ぎ切る。

 そして全てを攻撃し終わった仙の腹を突く。

仙は飛びかけた意識を瞬時に戻し、陣の顔を膝で蹴った。

 

「中々にやるじゃないか」

 

 仙は鱗赫を仕舞い、代わりに尾赫を展開する。

そして調和の取れた攻撃で陣に攻める。

 景がしたように調和を大事にしながら一撃一撃を重く。

そして隙はなく。

 陣は鱗赫で守り続けるが防ぎきれずに傷を負う。

少し仙が優勢のこの状況。

しかし陣の鱗赫は仙の調和を無理矢理崩し、割り込んで攻撃をする。

 攻撃を受け、仙の身体には穴が開くが直ぐに再生した。

 

 

 

 次に仙は羽赫を出した。

そして駆け回り、陣の攻撃を回避しながら弾丸を浴びせる。

 暦がしたように素早く、相手に行動の隙は与えない。

 陣は弾丸を掻き消そうとするが速く重い結晶は中々防ぎ切れずに陣の身体に更に傷を増やす。

 しかし仙の身体を陣の鱗赫が貫いた。 

 

「目が慣れた」

 

 完全に勢いを無くした仙に陣が攻撃する。

攻めと守りは入れ替わった。

 完全にペースを持っていかれた。

陣は何も出来ない仙を何度も切り刻む。

 傷を受けた仙は倒れたが立ち上がった。

 

 

 

 そして素早く甲赫を展開して、次なる攻撃を防いだ。

 甲赫で防ぎながら相手の攻撃を読んで重い一撃を叩き込む。 

燐がしたように硬く、相手の攻撃は全て防ぎ切る。

 陣の鱗赫は仙の甲赫を傷付けていく。

しかし仙の一撃を喰らって深い傷が出来た。

 陣は楽しそうに笑う。

この笑みは陣が相手を強者だと認めた証だ。

 次の瞬間、仙の甲赫は割れた。

その隙を陣は突こうとするが、それを仙の鱗赫が防いだ。

 

 

 

 

 仙の鱗赫と陣の鱗赫がぶつかり合う。

陣の赫子は強大で、たまに負けそうになる。

 しかし折れない心と燃える復讐心と連れ出さなければ成らない少女の存在が仙を支えた。

 

「路地裏で拾った子供が」

 

「これほどに成るとはな!」

 

 攻撃しながら陣は言う。

 もう仙は満身創痍。

だけど身体を必死に動かす。

 

「もう終わりにするか」

 

「悪いな。仙。また来てくれ」

 

 陣は満身創痍の仙に連撃を振るう。

 だが、この満身創痍という状況の中で仙の頭は異常に冴えていた。

 攻撃に目が追い付く。

最初の攻撃を弾き、二発目の攻撃もそのまま弾く。

大きく縦に振った三発目は横に移動すれば当たらない。

 最後は大きく斜めに振る。

この部分、胴体に守りは無い。

自分の赫子が仙を貫くのが速いか、陣の赫子が自分の身体を斬るのが速いか。

 仙は全ての力を込めて鱗赫を放った。

そしてそれは光の速さで陣の胴体を穿ち、陣を飛ばした。

 壁に打ち付けられた陣に仙は飛びかかる。

そして陣のした連撃を返す。

 最初の横振り、二発目の横振りは陣の胴体を更に刻み、大きく縦に振った三発目は防御の為に出てきた鱗赫と陣の身体を切り裂く。

 最後は渾身の力を赫子に乗せて斜めに斬る。

赫子は陣に直撃した。

 

「見事」

 

 陣はその場に倒れる。

そして身体の傷は徐々に再生している。

 

「本当に見事だ。良くやった」

 

「仙。行くんだな?」

 

仙は何時ものように無言で頷く。

 明日の夜、ここを出てコクリアを破る。

 

「少し前までは泣き虫だった奴がな」

 

「これだけ生きていれば面白いこともあるもんだな」

 

「仙、そうだ。渡すものが有った」

 

そう言い、陣は広場のすみに置いてあった箱から仙の手くらいの包みを4つ差し出した。

 

「これは?」

 

「俺達の赫包だ」

 

「強者の赫包は喰種を強くする」

 

「ありがとう」

 

感謝を伝え仙は赫包を一つずつ取り込んだ。

仙の身体は再生して最早戦う前と同じだった。

 明日はコクリア。

確実に雛実を助け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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決戦

 仙はコクリアの地図に目を通しながら作戦を組み立てる。

先日、捜査官を狩って回りコクリアのキーを見つけた。

先ずはそのキーを使ってコクリアの中に潜入。

潜入後は中の捜査官を殺しながらレート等からヒナミが居ると予測出来る第三層に向かい、ヒナミを探索。

そして、ヒナミの独房の扉を解放する。

 

「どうやってこの地図を?」

 

仙は地図を差し出してきた暦に聞く。

 

「CCGをハックしてデータベースから抜き取った。」

 

色々な手を尽くしてくれたのか暦の目の下には大きな隈が出来ている。

仙は暦に感謝しつつ作戦を組み終えた。

 時刻は午後の5時。

作戦決行は6時。

 仙は準備を始めた。

 

 

 

 薄暗い部屋の中で仙は準備を始める。

昨日に取り込んだ赫包の力は完全に自分の身体に反映され、身体の調子はすこぶる良い。

 仙は真新しいブーツの靴紐を結び、黒いコートを着る。

そして深くフードを被り、最後に鬼のマスクを身に着ける。

 いよいよこの時が来た。

不思議と緊張はしていない。 

後はやるという覚悟のみ。

 

「仙。そろそろ出ろ」

 

 陣に呼ばれ、仙は立ち上がる。

 

「地下を通っていけ。ここを道なりに進んだ所にある最後の出口が一区に繋がっている」

 

 陣がそう言うと、三人の姉妹が集まってくる。

 

「仙!頑張って!」

 

「仙なら、、、できる。」

 

「絶対に帰ってきてよー」

 

「やってこい!」

 

 確りと頷く仙。

 歩き出したらもう振り返らない。

次にここを見るのは無事で戻ってきたその時だ。

 暗い地下の中を仙は歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「コクリアに喰種が侵入!見つけ次第殺せ!」

 

「侵入喰種とSSSレート喰種業鬼との照合結果が完全に一致!」

 

「コクリア内の全捜査官は直ぐに業鬼の討伐へ向かえ!」

 

 警報が鳴り響くコクリアを仙は歩く。

攻撃をしてくる捜査官は全て殺す。

未だ無傷でコクリアを進む仙の通った道には沢山の死体が転がっていた。

 第一層は突破そして制圧。

独房内の喰種を念のため確認して回ったが、雛実は居ない。

 階段を降りて、第二層へと足を踏み入れた瞬間に仙を銃弾が襲う。

 しかし弾丸は当たらない。

止めずに射ち続ける人間達だったが仙は羽赫を展開し一人づつ殺していく。

逃げ出す捜査官には長く延ばした尾赫を。

やがて、第二層の入り口は静かになりそこを仙が歩く。

 

「これ以上深く潜らせるな!」

 

 単体でコクリアに潜り込み、ここまで被害を与えた喰種はいない。

 故に捜査官達は焦る。

そして焦る捜査官を仙は殺していく。

 第二層に雛実は居ない。

やはり、読み通り第三層だろう。

 仙は階段を下り第三層へと降りた。

第三層は異様に静かだった。

仙は警戒をしながら雛実を捜す。

そして遂に雛実の独房を見つけ、カードキーをかざすが扉は開かない。

仕方なく赫子を出した仙は、渾身の力を乗せて鉄の扉にぶつけた。

仙の赫子を受けた鉄の扉は轟音を響かせながら破け、力なく開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 独房の中から不安げな顔で仙を見つめる雛実。

仙はフードを捲り、鬼のマスクを見せた。

 

「、、、。」

 

 そこにいるのが仙だと分かった雛実は涙を流し、仙に抱き着いた。

 

「、、、。迎えに来た。帰るよ」

 

「うん!」

 

一先ず目的は達成した。

後は最下排出口を目指すだけ、そう考え雛実を連れ歩き出した時だった。

コクリアの天井が開き、沢山の同種が降ってくる。

 そしてその先頭に居るのは黒い兎のマスクを着けた青年、アヤトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警報はさらに鳴り響く。

単独で潜り込んできた災害。

天蓋から侵入してきた沢山の喰種。

コクリア内の独房を解放して回っている捜査官。

 そしてそれらを排除するために煙が放出された。

cRCガス。

喰種が戦う為になくてはならないrc細胞の動きを抑制するものだ。

 仙は雛実がガスを吸わない様に赫子で覆いながら安全な場所へと退散する。

すると聞いたことのある声が聞こえた。

 

「お前、まさかセンか!?」

 

振り向くとそこには黒いウサギのマスクを身に着けた青年が居た。

 

「、、、。アヤト。久しぶり」

 

仙の横から雛実が顔をのぞかせる。

 

「アヤトくん!」

 

「お前、雛実を助けに、、、!」

 

仙は頷く。

 

お「一層から三層にかけて捜査官は粗方殺されていたが、まさかお前の仕業か?」

 

もう一度頷く。

アヤトはどこでそんな力を、と呟くが仙は何も言わない。

 仙の目の先にアヤトは居ない。

仙が仮面の中から見ているのはその奥、確かな足取りで近付く人物だった。

 それの影は歪で右手には箱、左腕は無く、不思議な形をした銃と同化していた。

仙の異変を感じた雛実は直ぐに仙と同じ方向を見て、何が来たかを察した。

 次の瞬間、男の歪な左腕から大きな弾丸が仙に向かって放たれた。

仙は弾丸を撃ち落として冷静に見据える。

 

「敵だ!」

 

アヤトはそう言い、周りに居る喰種をかき集めたが雛実は声を上げる。

 

「アヤトくん!あれはセンさんにやらせてあげて!」

 

仙はアヤトに強い眼を向ける。

アヤトは一回舌打ちをすると喰種達を解散させる。

しかし喰種達は警戒は解かずに座り、仙を見つめた。

 仙は不安そうな雛実の頭に手を置いた。

 

「心配しないで。少し時間を頂戴」

 

 そうして隻腕に向かっていく。

 

「遺言は遺したのか?」

 

 隻腕は不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「一つ約束しよう。お前を殺すまでお前の仲間は手を出さないで置いてやろう」

 

そう言い、隻腕は箱を展開する。

 

「本気のお前を殺してこそ意味がある!」

 

それは真っ直ぐで長い刀だった。

 仙は鱗赫を展開して隻腕に向ける。

 隻腕は駆け出した。

そして仙の懐へと潜り込もうとするが、仙はそれを難なく避ける。

 隻腕は引き下がり、間合いから外れて弾丸を撒くがそれも全て弾き落とす。

恐らく陣より弱い。

おまけに強者の赫包を取り込み仙の身体は大幅に強化されていた。

 

「アヤト!ヒナミ!あの喰種は!?」

 

「SSSレート、業鬼だ」

 

仙の結晶が間近にいた隻腕の身体を貫き、鬼のマスクを返り血が塗らす。

 

「センさん。とっても強い喰種だよ」

 

 隻腕は必死に刀を振る。

しかしそれは当たらない。

 遊びはそろそろ止めにしよう。

仙は赫子に力を込めて、全身の細胞という細胞を送り込む。

赫包が燃えるように熱い。

 仙の赫包と身体中を巡る管は紅く光り、白い鱗赫に走る筋までもが紅く輝いた。

復讐という炎に焼かれた一人の喰種の赤は攻撃的で見るものに恐怖を与える。

しかしこの瞬間は誰もが美しいと思うのだ。

 仙は音の速さで男に近づき、蹴り飛ばした。

脳裏に浮かぶ健気な少女。

仙は赫子と拳に怒りを乗せて隻腕を攻撃する。

眼からは赤い涙が垂れ流れ、鬼のマスクを伝って落ちた。

 どれだけ泣いても、どれだけ叫んでも、霞は

 

 仙の鱗赫は隻腕の刀を割ってそのままの勢いで隻腕を貫いた。

腹に風穴を開けた隻腕は口をパクパクとさせて倒れ込む。

仙はくるりと振り替えって歩き出す。

 仙はマスクを取る。

鬼の面の中から露になったのは少し幼さを残し、女性味もあるような端正な顔立ちだった。

その目は雛実が出会ったときと同じく虚ろであるが少し柔らかくなったように感じた。

 大きな赫子、紅く輝く赫包等、そして鬼のマスク。

まさしく百戦錬磨、歴戦というような印象に喰種達は静まり返る。

仙の鱗赫は段々と灰になって崩れ落ちた。

赫包等は輝きを失い、赫子が自らの主を捕食した痕が生々しく残っていた。

 

 

 

 

 

 

 



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破る

 仙はアヤトに合流してコクリアを進んで行く。

着々と歩みを進めていき、途中で何度か捜査官に遭遇したが難なく処理出来た。

 そのまま更に進んだ時の事だった。

仙、そしてアヤトに向かって雷が放たれる。

仙はこの雷に貫かれた記憶を一瞬の内に思い出す。

そしてこの雷を持っているのはただ一人、死神有馬貴将。

 仙とアヤトと戦える喰種達で有馬へ向かっていく。

アヤトの羽赫の攻撃の後に、隙を与えないように鱗赫の攻撃を差し込む。

死神の対処は鮮やかな者だった。

そして死神の雷が放たれた。

しかし、その方向に自分は居ない。

 悪寒がした仙は五感を研ぎ澄まし、雷が飛んでいく方向を探る。

そこには雛実やその他の喰種達。

 仙は光の速さで動き出す。

雷より速く。

雷が到達する前に。

仙は雛実の前に飛び込む。

仙は身体に大きな雷を受ける。 

身体中の血が気化していくような感覚、喉を熱い血が逆流する。

 

「センさん!」

 

 仙が動けない間に戦闘は進む。

アヤトと、もう一人羽赫の喰種が戦う姿を朦朧とした目線で見つめる。

先程の戦いでrc細胞を使い過ぎた上に死神とも戦ったからか、再生がうまくいかない。

そしてアヤトを庇って前に出た羽赫の喰種は電撃を放つが、死神はそれをかわし、そのままの動きで羽赫の喰種に雷を向けた。

 目の前にいる名も知らない喰種が殺される。

自分達を庇って前に出た名も知らない喰種。

まるであの時と同じだ。しかし身体は動かない。

 死神の雷は最大級に溜まりそれを羽赫の喰種に放ったその時、赤く大きな鱗赫が雷を防いだ。

 

「お兄ちゃん、、、!」

 

 自分の近くにいた雛実がそう呟く。

 

「アヤトくん!最下排出口だろ!?」

 

「あ、ああ!」

 

「任せた!」

 

 赤い鱗赫の喰種はそう言い、死神と向き合う。

未だに立てない仙をアヤトが抱える。

 

「お前、独りでコクリアに来たのか?」

 

頷く仙にアヤトは若干呆れたように息を吐く。

 

「あの日からアジトにも帰ってこなかった。正直死んだと思ったぞ」

 

「どこに居たんだ?」

 

「地下にある陣という喰種の所」

 

そう言うとアヤトを含めて何人かの喰種が反応したのが分かった。

 

「陣ってまさか、、鬼か?」

 

「多分。陣は僕のお義父さん」

 

「アヤト。もう大丈夫。自分で、歩ける」

 

仙はアヤトに下ろしてもらうと自分の脚で歩き始め、話出した。

 

「陣の所でコクリアを破る訓練をしていた」

 

「どうせアオギリの樹は雛実を助けには来ない」

 

「アヤトが来るとは予想していたけど、それはいかない理由に成らない」

 

「なら僕が行こうと、その為にずっと訓練していた」

 

 アヤトと話していると、とうとう廃棄プレス場に着いた。

そしてここを下っていった所、最下排出口だ。

 早速喰種達は下っていくが、異変を感じた仙は止めようとする。しかし、それは遅かった。

轟音を響かせながらプレス機が稼働し出した。

そして上からぞろぞろと出てきて自分を見下す捜査官達。

仙は赫子を展開しようとしたが、それは必要無かった。

 巨大な喰種が乱入して、プレス機を壊した。

 

「なんでエトが!!」

 

「分からない。だが利用するしかない!」

 

 壊れたプレス機はもう動かない。

仙達は最下排出口を抜け出した。

 遂にコクリアを抜け出した。 

廃水場に抜け出し、進む仙。

もう終わりかと思ったがそれが違った。

目の前で捜査官が待っていた。

 

「おかしいわね。ネズミにしては大きいと思うわ」

 

「ぴょこぴょこぴょこぴょこぴょこ。これはかわいいウサギ達」

 

「檻からでちゃだめ」

 

「ダァーーーーーーッ!」

 

 高速の光線が放たれる。

 仙は受け止めようと甲赫を出した雛実の後ろに周り、後ろから雛実の赫子に仙の赫子を重ねて雛実を支えた。

雛実を支え終えた仙は動き出す。

再生する時間は充分だった。

細胞も足りてる。

 羽赫のクインケを操る女捜査官に切りかかるが、クインケは2つに分かれて刃に成った。

 仙が展開した甲赫も形状を刃に変え、女捜査官と打ち合う。

仙のフードが捲れて露になったマスクを見た女捜査官は呟く。

 

「まさか、、業鬼!」

 

 仙の全ての赫子は身体を鎧の様に包み、伸びた羽の様な赫子は形を変えて刃と化した。

その姿はさしずめ

 

「鬼、、、!」

 

「赫者か!!」

 

仙の動きは目で終えない程の速さだった。

重みは景から。速さは歴から。硬さは燐から。その全てを活かす技は陣から。

 戦う仙の横に戦える全ての喰種が出てくる。

 

「セン!手を貸す!」

 

 アヤトを羽赫のクインケが狙う。

それを避けたアヤトだったが、弾丸はアヤトを追尾する。

仙は結晶をぶつけて追尾する弾丸を潰す。

  

「助かった!」

 

 そのまま戦続けていると、女捜査官を白装束の捜査官が囲った。

 

「零番隊!」

 

「どういうことかしら?」

 

 白装束の捜査官達はどうやら味方らしい。

そして、大きく赤い鱗赫が迫ってくる。

赫子の主は、白い髪の青年。

それは、青年ではない。

それは喰種の王様だ。

 

 

 

 

 

 



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得た

 仙は昼下がりの向かい風を浴びる。

腰まで伸びた真っ直ぐな灰色の髪は風に揺れた。

 今の自分は何もない。

果たすべき目的も、身を焼く復讐心も、自分を必要とする人も。

気楽と言えば気楽かもしれない。

だけど仙は怖かった。

何も無い、居る意味すら無くなった自分は消えてしまうのでは無いかと。

陣の所へ行けばいいのかもしれない。

陣は何時だって自分を助けてくれたから。

だけど、それでは意味がない。

陣のところへ行くのは自分だけじゃどうしようも出来ない、自分の力では何も出来ないときだと決めているから。

 

「やっぱりセンさん居た!」

 

 振り返るとそこには雛実が居た。

仙は雛実を一瞥すると目線を元に戻す。

 

「どうしたの?」

 

「?」

 

「なんか悲しそうな顔してる」

 

「なんでも」

 

「ねぇ、センさん。ありがと」

 

 唐突に感謝を伝えだした雛実に首を傾げる。

 

「何故?」

 

「助けてくれたから」

 

「別に良い」

 

「センさんらしいね」

 

仙はうなずく。

雛実は仙の顔を覗き込んだ。

 髪を伸ばしているからか、その顔は女性的にも見える。

そしてそこには虚ろでも美しく光る目が有った。

鬼の仮面の下がこんな顔だとは誰も思わないだろう。

ましてや業鬼などという仰々しい二つ名が付いているとは誰も思わないだろう。

だが、右目を流れる涙のような傷痕や、放つ雰囲気が百戦錬磨という雰囲気を醸し出していた。 

 

「そう言えばお兄ちゃんがセンさんを呼んでいたよ」

 

「、、、お兄ちゃん?」

 

「ごめん。金木お兄ちゃん」

 

 仙は理解したような素振りを見せる。

すると後ろから聞きなれない声が聞こえた。

 

「あっヒナミちゃんにアマミヤさん」

 

「お兄ちゃん!来てくれたんだ」

 

「うん。人に頼み事をするなら自分から行かないとね」

 

 仙の後ろには白い髪の青年、金木がいた。

 

「アマミヤさん。頼みが有ります」

 

「僕にはあなたの力が必要です。僕の所に来てください」

 

仙は一瞬驚いて目を見開いた。

自分を必要としてくれる場所があることに。

そして言う。

 

「分かった」

 

「天宮仙。好きに呼んでくれていい」

 

「よろしく、ケン」

 

握手をする仙と金木を見て雛実は笑う。

 金木は立ち去った。

仙と雛実はまた二人並んで座る。

 

「ねぇセンさん」

 

「?」

 

「あの時、センさんが来てくれてとっても嬉しかったんだ」

 

「僕もヒナミが生きていてくれて嬉しかった」

 

雛実は想像して居なかった言葉に驚く。

 

「ねぇセンさん」

 

「?」

 

「好きだよ」

 

「?」

 

よく聞こえずに首を傾げる。

雛実は仙にもっと近付いてもう一度言う。

 

「私はセンさんが好きだよ!」

 

雛実も、そして言われた側である仙も顔を赤くする。

仙は顔を赤くしたまま言う。

 

「ヒナミ。僕も好き、、、、ヒナミが」

 

雛実は一瞬驚く。

そして笑う。

 

「ヒナミ。僕と一緒に居て、、欲しい」

 

雛実は先ほどより驚く。

寡黙で無愛想な彼がそう言うことをいうとは思わなかった。

 そして雛実は仙の近くに行く。

 

「えっと、こう言うことを言われたことがないからどう言えば良いか分からないけど」

 

「私もセンさんと一緒に居たい」

 

「センさん。付き合って下さい」

 

「こちらこそ」

 

仙の頬が少し緩んだ。

そして雛実はそれを見逃さない。

 

「あ、今笑った!」

 

「笑って、、ない」

 

「ううん!笑ってた!」

 

「凄い綺麗な顔だったよ」

 

「、、、、うるさい」

 

自分を必要としてくれる場所が有る。

自分を好きで居てくれる人がいる。

 それだけで仙は報われたような気がした。

いや、それだけのことではなくそれほどの事だったのだ。

 

 

 

 

 




終わり感でてますが終わりません


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黒山羊

 仙は金木に案内され、大きな広場へと出向いた。

そこには沢山の喰種が居て、沢山の喰種の視線は金木、そして仙へと注がれた。

 元アオギリ所属の喰種も沢山居る。

しかしマスクを付けていたり、長い髪で顔を隠していることが多かった仙は余り素顔を知られていなかった。

 

「センくんはここで待っていて。何処にいても良いよ」

 

「分かった」

 

 了解した仙は広場の隅に座り込んで眼を閉じる。

ここに来る前に有った出来事を考えると、一度眼を閉じて頭を整理する必要が有りそうだった。

 雛実に思いを伝えられ、雛実に思いを伝え、付き合うことと成ったが何をすれば良いのかが分からない。

これまで約20年生きてきたがこうゆう出来事は無かった。

自分は何をして上げれば良いのか、どう関われば良いのか、頭の中はぐるぐると回る。

 そんな仙をアヤトが呼び戻した。

 

「よう。セン」

 

「アヤト」

 

 アヤトは仙の横に座った。

アオギリの頃からお世話に成ってきたアヤト。

戦闘での相性は雛実と同じくらい良く、それも有ってかアヤトと仙はいつの間にか親しく成っていた。

 

「センはこれからどうするんだ?」

 

「ケンについていくことにする」

 

「そうか、、、」

 

「アヤトは?」

 

そう聞くとアヤトは少し間を置いて答えた。

 

「俺は姉貴を守りたい」

 

「とても、良いと思うよ」

 

そう会話をしていると怒号が響いた。

 

「こいつがセキガンオウ?聞いてねぇぞ!!その顔面忘れねぇぞ!!神アニキを殺ったやろう!ぶっ殺してやる!!」

 

「よせナキ!そう言うことじゃねぇーだろ!」

 

アヤトが止めに入るのを仙は遠い眼をして見る。

喰種同士ならよく有ることだ。

そしてこう言うことには関わらないのが一番だ。

 

「大兄貴を殺った野郎だけじゃねぇ。なんで白鳩がいやがるんだよ」

 

「噂の隻眼の王ってのは人間に媚びるクソヤローか?」

 

ややこしく成ってきた。

仙は立ち上がってその場を去ろうとした。

しかしミザの声が仙を止めた。

 

「どこへ行くんだ?アマミヤ」

 

「別に貴方に言う必要はない。けど一つ言うなら余計なことで時間が潰されてくのは納得出来ない」

 

「そうか」

 

そう言うと次にミザは金木に向けて言った。

 

「カネキケン。私はアオギリの樹の元幹部、刃の首領のミザだ。私は島でお前の仲間に命を救われた。お前達の目指す物には興味がある。だからお前の考えを聞いてから決めたい。去るか。残るか」

 

仙は足を止めて振り返った。

これなら聞く価値はある。

仙は一度此方を見たミザに向かって軽く礼をした。

そして金木の方向を向く。

 

「僕は、、、、先代の隻眼の王の意志を継ぎ喰種と人が分かり合える世界を作ります。喰種は駆逐すべき、生きるためには人を殺して喰らうしかない。いつまでもも殺し合う関係が変わらないにはお互いに歩み寄ろうとしないからだ。人と喰種は分かり合える。人であった僕がここにいることがその証拠だ。大事なのは話し合うこと。でも彼らはそんなこと受け入れもしないだろう。だから強制的に話し合いのテーブルについてもらう」

 

「ここに隻眼の王を筆頭とする対人間の組織を発足します」

 

金木がそう言うと大勢の喰種が列を成して歩いてきた。

そして先頭にいた喰種の合図で金木に向かって伏せた。

 

「先ずはCCGと話し合うこと。組織の名前は黒山羊(ゴート)とする」

 

金木の話を聞き終えた仙は振り返って歩き出した。

 

「そこにいる隻眼は何も思わないのか?喰種と人間が話し合うなど!」

 

仙に向かって一人の喰種が言った。

 

「僕は僕を必要とする人に力を貸すだけ」

 

「だからケンに従う」

 

「でも、ケンが言う喰種と人が分かり合える世界。僕は気になる」

 

 そう言うと仙は本当に歩き出した。

仙は知っている。

人間と喰種が分かり合えることを。

仙がそこに存在していることが何よりの理由だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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閑話。

 雛実が仙と付き合い始めてから未だに進展は無い。

寧ろ距離が遠くなったように感じれて少し寂しい。

お互いの好意を認識し、受け入れ合ったのならもう思うことは無い筈なのだが仙と話していると会話が途切れてしまい、そのまま離れてしまうことがよくある。

 少し悲しい顔をして歩く雛実を店から出てきた懐かしい声が呼んだ。

 

「ヒナミ。どうした?暗い顔して?」

 

「あっ。お姉ちゃん。うんとね、少し悩んでて」

 

雛実がそう言うとトーカは雛実を店の中に招いた。特に用事も無い雛実は店の中に入っていく。

 

「ゆっくり聞くから座って」

 

頷いた雛実は店の中のスペースを見つけて座った。

今日は休みのようで店の中には清掃をしている古間さんや入見さん、そしてトーカお姉ちゃんしか居ない。

暫くするとトーカはコーヒーを二つ持ってきて座った。

 

「で、どうしたの?」

 

「う、うん。えっと、誰にも言わないでよ?」

 

「うん。言わない」

 

雛実は若干俯きながら話し始める。

 

「私、最近センさっ、、、ある人と、、その、、、」

 

「いや、聞こえてる。で、どうしたの?はっきり言いなさい」

 

トーカお姉ちゃんは嬉しそうに笑う。

どういう話題か想像出来てるのに直接言わすなんて。意地悪だ。

 

「、、トーカお姉ちゃんの意地悪」

 

「ははっ」

 

雛実は仕方なく話す。

 

「私、、最近センさんとその付き合い始めたんだけど」

 

トーカは楽しそうに雛実を茶化す。

 

「ん?何て言ったの?」

 

「最近センさんと付き合い始めたんだけど!」

 

声を大きくして言う。

それが古間さんや入見さんに聞こえたようで向こうでも笑っている。

そして二人が寄ってくる。

 

「古間さん、入見さん、、誰にも言わないで」

 

二人はトーカと同じく嬉しそうに返事をする。

 

「まぁ僕はもう分かっていたんだけどね」

 

「えっ!?」

 

古間さんも心底嬉しそうに話し出す。

 

「いや、何日か前から仙くんの雛実ちゃんとの話し方とかが変わったからもしかしてかな、って思って聞いたんだよね」

 

「なんて聞いたのよ?」

 

入見さんまでもが食い付いている事態に頭を押さえたくなる。

 

「いや、雛実ちゃんと何かあったの?って。そしたら仙くん顔真っ赤にしながらコーヒー吹き出して」

 

「その後は心行くまでからかわせてもらったよ」

 

親指を立てる古間さん。

そして古間さんはポケットを漁って携帯電話を取り出して画像を見せた。

そこには顔を真っ赤にして撮るなと掌をこちらに向ける仙が居た。

 

「その時に撮った画像だよ」

 

「アイツ可愛いとこあるじゃん」

 

トーカが反応するとそれに同調した古間が他にも有る仙の画像を次々と公開していく。

雛実は赤い顔を覆った。

 一通り画像を見せ終わり、トーカ達もひたすら爆笑し終えたた後にトーカは聞いた。

 

「で、そんなセンと何が有ったのよ?」

 

「その、最近話せてないなって。付き合い始めてからなんか逆に距離が遠くなったなぁって。やっぱり私なんて、、、」

 

本気で悩む雛実にトーカ達はハッとする。

それだけ雛実は仙のことが好きなんだろう。

三人はからかうような笑みでは無く、優しい微笑みを浮かべる。

 

「仙くんも照れてるんじゃないかな」

 

「そうね。あの子恥ずかしがりやだしね」

 

古間さんと入見さんが言う。

続いてトーカお姉ちゃんも微笑みながら言う。 

 

「アイツは分かんないじゃない?付き合い始めてどう関われば良いかとか」

 

「でもそれって雛実が大事だからだと思うけど?」

 

雛実は仙を思い浮かべた。

すると喫茶店の扉が勢い良く開いた。

入って来たのは息を切らした仙だった。

そして雛実に向けて言う。

 

「ヒナミ。見つけた、、、」

 

「僕、分からないだけなんだ。誰か他の人を好きになったことも、誰かと付き合ったことも無いから」

 

「だから、素っ気ない態度を取ってしまうし、貴女を見ると照れてしまう」

 

「でも本当はヒナミのことが、、、好き、、、なの、、、、!」

 

その場に居た三人は勿論。

ヒナミはそれよりも驚いた。そして嬉しくなった。

 

「センさん、私も分からない。けど、それなら二人で一緒に探っていこうよ。私もセンさんのことが好きだから」

 

仙と雛実は見つめ合ったが、お互いに顔を赤くして目を逸らした。

 

「あっ!仙くん照れてるな~」

 

「ほら。雛実も照れんな~」

 

古間さんとトーカが二人を茶化した。

 

「照れてない!!」

 

仙の声が響いた。

 

「エンジ。あの写真、見せてないよね」

 

「どうかなー?」

 

未だに赤い仙をヒナミは見る。

いや、自然と目が仙を追うのだ。

そして思うのだった。

 

「やっぱり大好きなんだ。私は」

 

そして仙は雛実の元へと近づく。

 

「一緒に帰りたい」

 

「うんっ!ねぇセン()()手、繋ごうよ」

 

「う、うん」

 

二人が並んで進む姿を夕日が照らした。



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訓練

 仙は金木に呼ばれて、いつかに話を聞いた広場に来ていた。

仙と金木の周りには沢山の喰種が居て、二人を見ていた。

 隅には雛実が、タオルを持って手を振っている。

 

「えっと、先ずは訓練に付き合ってくれて有難うございます。けどこんなに観客が来るのは予想していませんでしたね」

 

苦笑いする金木。

今日、仙は金木と訓練の為に手合わせをする約束をしていたのだが、いざ来てみれば沢山の喰種が広場に居た。

 

「なんでこんなに?」

 

仙は金木に疑問を口にした。

 

「多分、西尾先輩の仕業かと、、、。センくんの腕が気になったのでしょう」

 

仙は納得して、開けていた上着のボタンを締めた。

 

「まぁ観客は別に良い。それと、、手は抜かないで」

 

仙の殺気が飛び出した。

それだけで広場の喰種を全員赫眼に、臨戦体制にさせてしまう程の異様な殺気。

次に金木の殺気も飛び出す。

2つの異様な殺気が混同しているこの状態はまさに最強を決めるぶつかり合いだった。

仙が無言で白い鱗赫を構えて、金木に掛かってこいと眼で合図した。

 金木の赫子は高速で動き、さらに的確に相手の弱点を狙った。

仙は甲赫を展開してそれを防いだ。

 

「前から気になっていたんだけど、仙くんの本当の赫子はなに?」

 

「、、、。あとで教える」

 

甲赫を引っ込めた仙は使いなれた鱗赫を展開した。

そしてぐるぐると回して、金木の攻撃を防ぎながらゆっくり距離をつめていく。

仙が動かせば動かすほど力は増していく赫子に金木は苦戦する。

しかし仙が赫子に喰われていっていることに金木は未だ気付かない。   

 仙の赫子が金木の身体を掠めた。

そしてそのほんの少しの攻撃が金木の体制を崩した。

体制を崩した仙に追撃を仕掛けていく。

 

「似ているな、、、」

 

雛実の横にいた四方が呟いた。それに雛実が反応した。

 

「誰にですか?」

 

「陣にだ。良く似ている」

 

 四方は目の前で戦う喰種に陣の姿を重ねる。

あの灰色の髪、そして戦い方、綺麗な顔立ち、全てが陣とよく似ていた。

 次の瞬間、仙の白い鱗赫が金木の紅い鱗赫を切り落とした。

 

「強いっ!」

 

金木はそう呟くと、赫子を再び生やした。

 それと同時に仙は血を吐いた。

血を吐いた途端に赫子はさらに強大になる。

合わせて金木の赫子も強くなる。

仙の身体からは汗と血が流れていた。

 金木の攻撃は一段と重くなる。

流石は新たな隻眼の王だ。

太く、百足のような赫子は仙の盾、身体を切り裂いた。

 

「そろそろ終わりにしよう」

 

 金木がそう言い、仙が頷く。

そして二人は赫子をしまった

 広場は新たな隻眼の王、そして喰種喰らいの力にざわついた。

 

「ケン。僕に赫子は無い」

 

「無い、とは?」

 

首を傾げそう言った金木に分かるように説明をする。

 

「全ての赫子を使えるということですか?」

 

「まぁうん。そして喰った赫包を確実に反映する。羽赫の赫子なら羽赫を。鱗赫なら鱗赫を。だからこの赫子は今まで喰種の赫子と自分の赫包を全て束ねたもの」

 

仙は金木に頷くと一度全ての赫子を出してみた。

羽赫、甲赫、鱗赫、尾赫。

全ての赫子を出し、化物のような姿をした仙に広場の喰種は絶句した。

 

「ありがとうございました」

 

観察し終えた金木の声を聞き、仙は赫子を仕舞う。

一度眼を閉じてもう一度開けるとその目はいつも通りの紫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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