団長は恋愛禁止です。 (袋小路実篤)
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団長、恋愛解禁する。

 あれは確か、リーシャが入団した頃だったな。そのあたりから、俺の騎空団には新たなルールができた。

 

 『団長の恋愛を全面禁止とする。』

 

 ―――何故俺だけなのかは分からない。が、とにかく禁止されている。

 

 そして俺は、この規則に大いに不満がある。

 

 いや、確かに恋愛目的で騎空団やってるわけじゃないけどさ・・・わざわざルールにまでしなくてもいいじゃん?

 

 俺、年頃の男の子だよ?それなのに、恋愛全面禁止はヒドくない?

 

 たまには新しい島より女の子の攻略したくなる時ぐらいあるって・・・

 

 っていうかそもそも、何で団長の俺に無断で新ルールが追加されてんの?しかも俺の一生を大きく左右するような新ルールが。まずそこから意味わかんねえよ。俺の基本的人権どこ行った?

 

 考えれば考えるほど酷いルールだ。

 

 今すぐにでも廃止してほしい。いや、もう百歩譲って改正だけでも構わない。全面禁止じゃなくて、せめて肉体関係は無しとか、そのくらいにしてくれれば納得できる。

 

 ちょうど春だし、春闘と称してリーシャに抗議してみよう・・・

 

 

「ダメです。なんと言おうと、廃止は絶対に認められません。」

 

 春闘当日。気合を入れてあれこれ御託(ごたく)を並べてはみたものの、案の定秒速で突っぱねられた。

 

「い、いや、しかしですねリーシャ殿っ?!せめてもう少しこう、シバリをゆるーく、ゆるーくしてはもらえないでありましょうか?!自分は年頃であります!!童貞でありますっ!!恋愛全面禁止はさすがに酷なのでありますよぉっ!!」

 

 俺はリーシャの机に両手をついて猛抗議する。

 

 こっちは童貞がかかってるんだ。ちょっとやそっとで諦める訳にはいかない!!

 

「だめです。廃止も、改正も、どちらも認められません。」

 

 クソっだめだ!今日のリーシャいつにも増して強ぇっ!リーシャマグナにアップグレードしてやがる!!

 

「なんででありますかリーシャ殿ぉぉぉ!!」

 

「だめなものはだめです。」

 

 やっぱり認めてもらえない。

 

「あと、その喋り方止めてくれませんか?全然しっくりこないので。」

 

「あ、サーセン。」

 

 挙句、普通に怒られた。

 

「まったく団長さんったら・・・はあ。」

 

 何だよ、そんなでかい溜息つくなよな・・・俺は真面目に抗議してんだぜ?必死なんだぜ?童貞がかかってるんだぜ?それなのに溜息は無いだろ・・・

 

 あーあ、なんかもう、こっちまで萎えてきたわ。

 

 分かりましたよ。禁止でいいですよ、禁止で。どうせ俺なんて、一生童貞で居ればいいんでしょ?

 

「・・・あのさリーシャ。」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「疑問なんだけど、なんで禁止なわけ?」

 

 廃止にしてくれないなら、もうそれでもいい。どうせ俺にはリーシャに勝てるほどの交渉力は無い。

 

 だが、ならせめて、理由だけでも知っておきたい。

 

 俺は派手な恋愛で団に迷惑かけたことは無い。

 

 女の子とイチャついてリア充自慢したことも無い。

 

 まあ、そもそも規則のせいで機会が無かったというのもあるが・・・それでも、人の上に立つものとしてそれなりの倫理観は心得ているつもりだ。

 

 なのに何故?なぜなんだっ!?

 

 なぜ禁止なんだあぁぁぁぁああぁぁぁ!!

 

「恋愛禁止の理由・・・ですか?」

 

「ああ。」

 

「そうですね・・・・・」

 

 その呟きと共にリーシャは椅子から立ち上がり、俺を背にして窓の方に向き直った。

 

 そして静かに一言。

 

「団の風紀を乱さないためです。」

 

「いや、だからさ、俺は別に皆に迷惑かけたり、気分を害するようなことはしないって。」

 

「ええ、そうでしょうね。団長さんは優しい方ですから、むやみに人に迷惑を掛けようとはしないでしょう。」

 

 なんだ、分かってるんじゃないか。別に俺のことを信頼してない訳じゃないんだな。

 

「でも・・・」

 

「・・・・?」

 

「団長さんがそのつもりでも、お相手の方がその通りにしてくれるとは限りませんよ?」

 

 不意に振り返ったリーシャが、鋭い眼差しで俺の目を見据える。

 

「むしろ、私が心配しているのはそちらの問題です。この団であなたに好意を抱いている者の中には、道理を(わきま)えない者が数多くいますから。」

 

「いや、道理を(わきま)えないって、いくらなんでも言い過ぎ・・・」

 

「本当ですよ。ナルメアさんなんてその典型例じゃないですか。」

 

「うぐッ、確かに。い、いやでもさ、ナルメアだけだろ?他の子は距離感とか、ちゃんと(わきま)えてるって。」

 

「そうですかねぇ?」

 

「な、なんだそのジト目はッ。」

 

「本当に、団長さんはそう思っていらっしゃるんですか?」

 

 その瞬間リーシャが放った雰囲気があまりに鋭く、思わず息が詰まるような気がした。でも、食い下がる訳にはいかない。

 

「ああ。本当だ。そう思ってるとも。この団には良い人たちしかいないよ。」

 

 これだけは団長として断言できる。いや、しないといけない事だと思う。そうだよ、この団にそんな悪い娘がいる訳ない。みんな優しくて良い娘たちだ。

 

「はぁ。本当にお気づきで無いみたいですね。」

 

「気づくも何も、それが真実さ。それに・・・」

 

「・・・?」

 

「万が一そんな悪い娘がいるってんなら、俺がちゃんと更生してやる。」

 

「・・・・」

 

 きっぱりそう言ってやると、リーシャはしばらく唖然とした様子で俺のことを見ていた。

 

 が・・・

 

「ふふ・・・ふふふ。」

 

 突然気味悪く笑い出した。

 

「ど、どうしたんだよ・・・?」

 

「ふふふ、いえ、何でもありません。ただちょっと、団長さんて真っ直ぐな人だなぁと。」

 

 なんだ、そんな事か。

 

「いや、団長として、それ以前に人として当然だよ。」

 

「わかりました。団長さんがそのように仰るのであれば、規則の方は廃止にしましょう。」

 

「へッ?」

 

「団長さんに彼女たちを更生できるのなら、規則なんて必要ありませんよ。自由に恋愛していただいて結構です。むしろ、その方が団の為にもなるでしょう。」

 

「あ、ああ。ありがとう・・・?」

 

 何々?急にどうした?さっきとは態度が一変したぞ?

 

 え?なんだろう、あんまりしっくりこないけど、とりあえず上手く行ったってことでいいのかな?

 

「団長さん?ぼーっとしちゃって、どうしたんですか?」

 

「え!?あ、いや、別に何でも・・・」

 

「ほら、もう自由ですよ。こんなところに居ないで、好きなように恋愛を謳歌してください。」

 

「ああ・・・」

 

 そうだよ、何尻込みしてんだ俺!恋愛できるんだ。それでいいじゃないか。何にも疑問に思うことなんてない、俺は自由だ、自由になったんだ!!

 

「それとも、何かほかに用事でも?」

 

「ん?いや、特に用事は無いよ。俺はもう行く。急に邪魔して悪かったね。」

 

「いえいえ。また何かあったら、いつでも来ていただいて構いませんよ。」

 

「ありがとう。それじゃ。」

 

 踵を返し、俺は部屋の出口のドアノブに手をかける。

 

 そしてその瞬間、不意に喜びが背筋のあたりを駆け抜けた。

 

 ―――この先には自由が広がっているんだ。俺の待ち望んだ自由が。

 

 若干の震えを抑えつつ、俺はドアを開け、不自由を後にした。

 

 ・・・バタン。

 

「さて、これで私も自由というわけですね。団長さんが望んだことなんですから、後悔はしないでくださいよ?・・・ふふふ。」

 

 

 

 

 

 

 



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団長、詰む。

沢山のお気に入り登録や評価、有難うございました。拙い文章でほんとにすいません。(汗)


 さて、これで俺は晴れて恋愛自由の身になったわけだが・・・恋愛って、いったい何をどうしたら良いんだ?

 

 今まではただ漠然と恋愛に憧れてたけど、いざ恋をしようってなるとなかなか難しいな。

 

 やっぱり、告白とかしないとだめなんだろうか?うわっ、やだ、恥ずかしい!!

 

 ストーリーじゃ殆ど喋らないコミュ障の俺に告白は無理ゲーだよ!!

 

 何かもっとこう、女の子の方から勝手に好きになったりしてくれないかなぁ?

 

 いや無理か。俺はどこぞの四騎士様とは違う、世の中そんなに甘くない。

 

 はあ・・・今思ったけど、恋愛ってムズイな。

 

 いや、俺がチキンなのがいけないのか?

 

「あ、お兄ちゃん。」

 

「お?」

 

 あれこれ考えながら廊下を歩いていたら、不意にジータとすれ違った。

 

 ああ、そうそう。みんなは知らないと思うから説明しとくけど、ジータは俺の妹だ。そして、現在はこの騎空団の副団長を務めている。

 

「そんなに深刻な顔して、どうしたの?」

 

「ん?いや、別に何でも。」

 

「そう?・・・あっ、そういえば聞いたよお兄ちゃん。恋愛、自由になったんだって?」

 

「え?ああ。そうなんだよ。」

 

「おめでと~!念願の恋愛だね!」

 

「念願って、別にそこまでじゃ・・・」

 

 まあ、念願だったけど。

 

「なに言ってんの。毎晩部屋でオ〇ニーした後いっつも『はあ、恋愛したい。』って言ってたじゃん。」

 

 ぬおっ!?ぬおっ!?ぬおっ!?

 

「貴様なぜそれを知っているっ!?」

 

「部屋隣だから。毎晩毎晩良く飽きないなぁって思いながら聞いてた。」

 

 ぬわんだとぉぉぉぉぉ?!

 

「うをぉぉぉぉ!!忘れろ!今すぐ忘れろ!!あぁぁぁぁぁぁ!俺のHPがっ!これは致命傷だ、は、はやくエリクシールを・・・」

 

「ははは、そんな気にしなくても。年頃の男の子にはよくあることだよ。」

 

 ぬぁぁ!傷口に塩を揉み込むなぁぁぁ!!

 

「まあいいや。とにかく、これから頑張ってね!妹として応援してる。」

 

「え?・・・あ、お、おう?ありがとう。」

 

 それだけ言い残すと、ジータはスタスタと歩いて行った。

 

 ・・・意外にも励まされてしまったな。・・・デリカシーは無いが、良い妹だ。

 

 うん、抉られた傷口は痛むけど、さっきより元気は出て来たかも。

 

 そうだ、焦る必要なんてない。俺の恋愛人生はまだ始まったばかりなんだ、これから頑張って行けばいいじゃないか。

 

 そう心に決めた途端、何だか世界が明るくなった気がした。

 

 頑張ろう。それがいい。

 

 俺は足取り軽く自室に向かい、清々しい気持ちでドアを開いた。

 

―――ガチャ

 

「あ、団長ちゃんお帰りなさい。お昼ご飯はまだ食べてなかったよね?お姉さん、団長ちゃんの為に作ってあげたんだ。良かったら一緒に食べ・・・」

 

―――バタン。

 

 え?何今の?えっ?えっ?

 

 なんで俺の部屋でエプロン姿のナルメアが昼飯作って待ってるの?

 

・・・あ、そっか、幻か。今のは幻だ。俺疲れてるんだな。

 

「だ、団長ちゃん?どうして入って来てくれないの?」

 

 いや、やっぱり違うッ!!部屋の中から声が聞こえるぅぅぅ!!

 

「あ、そっか!ごめんね団長ちゃん、お姉さん勘違いしてた。」

 

「え?」

 

「団長ちゃんは普通のエプロン姿より、裸エプロンの方がいいよね。」

 

「はぁっ?!」

 

 何言ってんだコイツ!?

 

「は、裸エプロンッ?!?!」

 

 素っ頓狂な声が、今度は背後から聞こえてきた。

 

 この声はまさか・・・ヴェイン?!

 

「は!ヴェ、ヴェイン?!いつからそこにっ!!」

 

 振り返ってみると、そこにはアバターレベルに顔の青いヴェインが乾いた笑いを浮かべながら立っていた。

 

 あ、これあかんやつやん。

 

「あ、あははは!そ、そうだよな、趣味は人それぞれだもんな。団長、俺、別にそういうのもいいと思うぜ?うん、応援してる。いやほんと、じょ、冗談じゃないよ?あは、あはははは。そ、そそ、それじゃぁっ!!」

 

「あぁぁぁ!待ってくれヴェイン!!今のは誤解だ!誤解なんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 渾身の叫びも虚しく、ヴェインは光の速度で消えていった・・・

 

 くそぉぉ、なんだってこんなことに・・・この状況、俺完全に変態じゃないか!!思春期が暴走してると思われるじゃないか!!

 

「さあ、団長ちゃん。お姉さん着替え直したよ?入ってきて?」

 

 そうだ!今のは全部あいつが悪い!!

 

 メスドラフめ・・・成敗してくれるっ!!

 

 俺はドアノブを引き千切るぐらいの勢いで回し、思い切り戸を開け放った。そして怒りをぶちまけるように叫ぶ。

 

「おいナルメア!お前いったい何を考えているんだ!!」

 

「あ、団長ちゃん。ようやく入って来てくれたんだね。ほら見て、団長ちゃんの好きな裸エプロンだよ?」

 

 ナルメアは立ち上がって、くるっと一回転して見せた。

 

「俺がいつそんなものを好きだと言ったぁっ?!」

 

「えっ、団長ちゃん、もしかして、裸エプロン嫌いだった?」

 

「はぁッ!?!?い、いや、別に嫌いとは言ってねえだろうがっ!!」

 

 むしろ好きだぁぁぁぁぁぁッ!!

 

「じゃあ、好きなんだね?」

 

「いや、だからその、あれだ、えと、あれなんだよ・・・ええい!そんなことはどうだっていい!!それより、お前は何だってこんなことをやってるんだ!?」

 

 今、危なかった。

 

「なんでって・・・団長ちゃんが好きだからだよ?」

 

 俺の問いに対し、ナルメアはさも当然のような顔をしてそう答えた。

 

 どうやら質問の意図すらわかっていないようだ。頭の上にハテナマークが飛んでる。

 

「そういう事じゃなくてだな、俺は限度を弁えろと言ってるんだよっ!」

 

「限度?」

 

「そう、限度だ。こんな行動はどう考えたっておかしいだろ?!」

 

「どこが?」

 

「どこがって・・・」

 

「だって、お姉さんは団長ちゃんの奥さんになったんだよ?奥さんなら、夫の帰りを待つのは当然じゃない?」

 

「はぁっ・・・?」

 

 答えがあまりにミーハー過ぎて、俺はもはや若干の恐怖を感じていた。

 

 狂気だ。狂ってる。間違いなく。

 

 突如悪寒が指先から体幹を駆け抜け、その後を鳥肌が追う。

 

 今の恐怖は、これまで戦闘等で味わってきたものとは明らかに異質だった。

 

 『死の恐怖』じゃない、『先の読めない恐怖』。

 

「お前、何言って・・・」

 

「お姉さん聞いちゃったんだ。団長ちゃんが恋愛OKになったって。だからね、団長ちゃんに余計な虫が付く前に、団長ちゃんをお姉さんの物にしちゃおうって思ったの。団長ちゃんも、気持ち悪い他の女に付きまとわれるより、ずぅっと愛し合ってたお姉さんと結婚する方がいいでしょ?ね?」

 

「.........」

 

「ね?」

 

「.........」

 

「なんで、答えてくれないの?」

 

「ひっ・・・」

 

 その瞬間、俺は、恐ろしい眼を見た。濁った眼だ。どこまでも深く、深く、濁った眼だ。

 

「私のこと、愛してないの?」

 

「う、うわぁぁっぁあああああぁぁっぁあああっぁああああああああ!!!!」

 

 俺は嵐のような勢いで部屋を飛び出して、ただひたすらに走った。

 

 逃げなきゃ・・・死ぬより恐ろしいことになる!!

 

 壁にぶつかり、階段に躓き・・・それでも走った。いや、走れた。逃げるためなら、いくらでも。

 

 ―――どこまで来ただろうか?気づくと、暗い部屋の中にいた。

 

 貨物室だろうか、人の気配はない。どうやら、うまく撒けたらしい。

 

「はあ・・・良かった・・・」

 

 一瞬の安心。でも、すぐに気付く。

 

 そうだ、この船に居る限り、ナルメアには絶対に見つかってしまう・・・

 

 そして見つかれば、きっと恐ろしい目に遭う。

 

 いやだ・・・それは絶対にいやだ!!

 

 何とかしないと・・・仮に見つかっても大丈夫な方法、俺が酷い目に合わなくてすむ方法・・・何かないか?

 

 俺は思考をフル回転させた。これほど必死にものを考えることなんてこれから先無いってぐらいに一生懸命考えた。

 

―――そして、ついにある解決策を思いつく。

 

 そうだ、リーシャの所へ行こう。そしてもう一度、恋愛を禁止にしてもらうんだ。

 

 そうすれば、俺の身は守られる!!

 

 

 

 

 

 

 



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団長、甚大な被害を与える。

三話目です。勢いだけで書いてる感が否めない雑な文章ですいません。あと、短くてすいません。


 ―――そのころ、グランサイファーのサロンでは、ヴェインが一人、頭を抱えて震えていた。

 

「う、うぅ・・・団長・・・裸エプロン・・・変態・・・うぅぅぅ・・・」

 

 先ほど聞いた、聞いてしまった、身の毛もよだつおぞましい言葉の数々・・・彼はそれを、必死に忘れようとしていた。

 

 と、そこへ、不意に軽やかな足音が聞こえてきた。ジータだ。コーヒーでも淹れに来たのだろう。

 

「あれ?」

 

 ヴェインのただならぬ様子は、すぐに彼女の目に留まった。

 

「ヴェイン?どうしたの?震えてるみたいだけど・・・」

 

「はっ!じ、ジータ副団長!!」

 

 ヴェインは雷にでも打たれたように立ち上がり、ジータに駆け寄って彼女の両肩に手をかけた。

 

「き、聞いてくれ副団長ッ!!団長が・・・団長が・・・」

 

「お兄ちゃんが・・・?」

 

「団長が裸エプロンで変態なんだぁぁぁぁぁっ!!」

 

「え?!お兄ちゃんが裸エプロンで変態?!」

 

 ジータは不覚にも、その光景を想像してしまった。

 

 そして・・・

 

「うぐッ!!・・・かはっ・・・・」

 

 史上稀に見る甚大な被害を被った。

 

「う・・・やばっ、早くポーションを・・・」

 

 床に倒れ込んだ彼女は、携帯していたポーションを震える手で取り出し、一気に飲み干す。

 

「んぐっ・・んぐっ・・んぐっ・・はぁ。危なかった。」

 

 そして彼女は思った。

 

 兄は一体、どんなテロ行為を企てているのかと・・・

 

「あっ、ジータ!それにヴェイン!!」

 

 と、その時、サロンの入口の方からグランの声が聞こえてきた。

 

 随分と切羽詰まった様子の彼は、二人の方へと真っ直ぐに駆け寄る。

 

「あ、お兄ちゃん。」

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!団長(へんたい)だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ちがぁぁぁぁう!!誤解だッ!!誤解だッ!!誤解だぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 とまあそんな感じに一通り怒号が飛び交ったところで、グランは改めて、二人に向き直った。

 

「そんな事より、二人とも、リーシャを見なかったか?!」

 

「え?リーシャ?さあ、私は見なかったけど・・・部屋に居ないの?」

 

「部屋はさっき行った!しかし居なかった!!畜生、なんだってこんなタイミングの悪い時にっ!!」

 

「うーん、じゃあ、私は知らないなぁ。」

 

「ヴェインは?!ヴェインは何か知ってるか!?」

 

「知らないっ!俺は何もっ!!裸エプロンなんて聞いてないっ!!」

 

「もう忘れろぉぉぉぉ!!まあいい。知らないならしょうがない。ただ、もしリーシャを見つけたらすぐに俺に教えてくれっ!!緊急事態なんだ!!」

 

「え?あ、うん。分かった。」

 

「頼むぞ!!俺はもう一度、リーシャの部屋を確認しに行く!!」

 

 彼はそれだけ言い残すと、怒涛の勢いで去っていった。

 

 ただならぬ兄の様子に、ジータは若干の不安を覚えた。

 

(緊急事態・・・いったい何事なの?)

 

「あ、副団長。それにヴェインさんも。こんにちは。」

 

 思索(しさく)にふけっていたら、急に背後から声が聞こえてきて、ジータは思わず飛び跳ねそうになった。

 

「ああ、リーシャ。」

 

 振り返ると、そこにはリーシャの姿が。いつの間にかは分からないが、きっとグランとは反対側の入口の方から入って来たのだろう。

 

「そうだリーシャ。お兄ちゃんが探してたよ?今リーシャの部屋に行ったから、できれば早めに行ってあげて。」

 

「団長さんが・・・そうですか。思ったより音を上げるのが早いですね。」

 

「え?」

 

「いえ、何でもありません。お気になさらずに。」

 

 そう言って、リーシャは笑顔を浮かべた。

 

 だがその顔は、どことなく狂気じみているように見えた。

 

「・・・ところでリーシャ。」

 

「はい?」

 

「その、手に持ってる白い袋は何?」

 

 リーシャが右手に持つ、小さな紙袋。

 

 普通なら気にも留まらないことなのに、この時のジータにはそれが無性に気になった。

 

「ああ、これですか?シャオさんに頂いたお薬です。」

 

「薬?何か、病気にでもかかってるの?」

 

「病気・・・ええまあ、そんなところです。」

 

(恋の病・・・とでも言いましょうか。)

 

 リーシャは心の中で小さく呟いた。

 

「あっ、そうだジータさん。」

 

「ん、何?」

 

「確か予定だと、明日ポートブリーズに燃料補給で立ち寄る筈でしたよね?」

 

「うん。そうだけど・・・」

 

「私、その時に配達業者に荷物を出したいので、少し待っていてもらえませんか?」

 

「ああ、うん、分かった。ラカム達にも伝えとくね。」

 

「お願いします。それでは、私は団長さんの所へ向かいますね。」

 

 リーシャは、にっこり微笑んだ・・・

 

(ついに、計画が動き出すんですね・・・愛しの団長さんが、ついに私の物に・・・ふふふ・・・ふふふふふふふふふふふふ・・・・)



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団長、墓穴を掘る。

 サロンを出た後、俺はナルメアセンサーをビンビンに働かせながら、もう一度リーシャの部屋の前までやって来た。

 

 さっき来たときにはリーシャ居なかったけど・・・今度こそ居てくれないと困るよっ、マジで!

 

 ナルメアも絶対俺のこと探してるだろうし、これ以上リーシャ捜索の為に廊下をウロチョロしてたら絶対にエンカウントしちゃうっ!それはマズイッ!!

 

 あの状態のヤンデレに捕まったら、間違いなく○ぬ!

 

 ・・・あ、いや、でもなあ・・・俺もそれなりにレベル上がって来てるし、もしかしたらワンチャン勝てるかもしれねえぞ?

 

 ちょっと脳内でシミュレートしてみるか。

 

 

 

 Now loading....

 

READY...

 

 VSナルメア(病)

 

団長:『よし、まずはこれをくらえ!ミゼラブルミストッ!』

 

ナルメア:『効かないわ。』miss miss

 

団長:『何ッ!?どっちもよけられたッ!?』

 

団長:『ぐぅ、ま、まだだ!食らえ通常攻撃!!』

 

ナルメア:『』miss

 

団長:『無言で避けたぁぁぁっ!!』

 

ナルメア:『私のターンね。舞い散りなさい。胡蝶刃・源氏舞。』

 

団長:『あがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』ズシャッ!ズシャッ!ザシュッ!

 

 あ、これダメだわ。

 

 ちくしょう!なんだって俺がこんな目に合わなきゃいけねぇんだよぉ!

 

 死にたくねぇよぉ・・・・頼む!神様仏様リーシャ様!!どうか居てください・・・居てください・・・居てくださいっ!!

 

 ―――俺は祈りながらドアノブに手をかけ、ゆっくり捻る。

 

 そして、最後は思い切ってドアを開けた。

 

 だが・・・

 

「・・・いない。」

 

 どこにもいない。執務机にも、ベッドにも、椅子の上のバッグの中にも、どこを探しても居ない・・・

 

 はぁッ!?もうマジで何なの?なんでこういう時に限っていないの?

 

 もう・・・勘弁してくれよ・・・

 

「――――――ッ!!」

 

―――そう思って肩を落としたその瞬間、突然背後に気配を感じた。

 

 まさか・・・ナルメア?

 

 い、いやいやいや、ポジティブにいこう。うん、そうだ、これはきっとリーシャだ。そ、そ、そ、そうに違いねぇ!!

 

「・・・リーシャ?」

 

 俺は後ろ向きのまま、震える声で問いかけた。すると・・・

 

「団長ちゃん、みぃつけた。」

 

「・・・・・」

 

 はい終わった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!刺さないでっ!刺さないでっ!刺さないでぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「だ、団長さん、そんなに驚かないでください!今のは冗談です!私です!リーシャですよ!!」

 

 その言葉でハッと振り返ると、確かにリーシャが立っていた。

 

「うおぉぉぉ!!てめぇ殺す気かコノヤロォォォ!!危うく漏らすところだったじゃねぇか!!」

 

「なに言ってるんですか。もう漏れてますよ。」

 

「なにッ!?」

 

 気が付くと、俺のグラン周辺が大洪水だった。

 

「うわぁ!最悪だぁっ!」

 

 やっちまったぁぁぁぁっ!女子の前で漏らすのはマジで人権失効だぞッ!!

 

「今、魔法で綺麗にしますから、じっとしててください。」

 

 そう言うとリーシャは体の前に軽く手をかざし、小さく呪文を詠唱した。すると、たちまち彼女の手から淡い緑の光があふれだしてきて、俺のグランのあたりにまとわりつく。

 

「・・・ふう、これで良し。」

 

 数秒後には、洪水は綺麗サッパリ消え去っていた。

 

 ・・・スゲぇ。そんな魔法あるんだ。

 

 って、感心することじゃねえ!そもそもコイツがあんな恐ろしいこと言わなきゃよかっただけの話じゃねえか!!

 

「全く、洪水を何とかしてくれたのには感謝するが、もう二度とあんな馬鹿なことしないでくれよッ!!俺死ぬぞッ!!一撃が最大HPを軽く超えてるぞッ!!」

 

「ふふふ、すみません。まさかあんなに驚くとは思わなかったので。」

 

「思え!頼むからッ!!」

 

「分かりました。以後気をつけます。」

 

「ええい・・・まあいい。とりあえず、早くドアを閉めてくれ!」

 

「はい。」

 

―――バタン。

 

「よし!それでいい!!あと、ちゃんと鍵も掛けてッ!!」

 

「鍵?掛けちゃってもいいんですか?そうするとここ、密室になっちゃいますよ?」

 

 なぜこっちを見てニヤニヤする!俺の命がかかってるんだぞ!

 

「いいに決まってんだろ!!奴に入ってこられたら一巻の終わりだ!!」

 

「分かりました。」

 

―――ガチャ。

 

「うーん、部屋の鍵だけじゃ心配だな。なんか他に、鎖とか南京錠とか無いのか?」

 

「ありますよ。」

 

「よし、それも使おう。ガッチガチに施錠するんだ。」

 

「えぇっ、良いんですか?」

 

 だから、なぜこっちを見てそんなにニヤニヤするんだ!!俺は必死なんだぞ!!

 

「頼むから使ってくれ!もう二度と開かないぐらい厳重に施錠してくれッ!!」

 

「まあ、団長さんがそうおしゃるのでしたら・・・ふふふ」

 

 なぜ笑ったッ!必死な俺がそんなに面白いか!?!?

 

「・・・・さてと。こんな感じでいかかでしょうか?外からはおろか、中からも開きませんよ。」

 

 リーシャは机の脇から取り出した鎖と南京錠で手際よく扉をガッチガチに固めると、俺の方に向き直ってそう聞いてきた。

 

「うん、完璧だ。」

 

 無数の鎖と南京錠で雁字搦(がんじがら)めにされて、扉はもう二度と開きそうにない。これならナルメアも入って来れないだろう。

 

 よしッ!危機は回避したぜッ!!

 

「ふう。ようやく落ち着きましたね。ところで団長さん、今回は一体どういったご用件で?」

 

 おっとそうだった!ナルメアから逃げることに夢中になりすぎて、うっかり忘れるところだった。

 

「ああ、実はな・・・」

 

「あっ、こんなところで立ち話もなんですから、どうぞソファの方へ。」

 

「えっ?、あ、おう。」

 

 リーシャに促されるままに、俺はソファに座った。

 

「気分が落ち着くように、何か飲み物でも用意しますね。紅茶とかでいいですか?」

 

「ああ、ありがとう。」

 

 なんだ?今日は妙に気が利くな・・・

 

 いや、そんなことないか。リーシャは割といつもこんな感じだ。

 

 こいつ乙女のクセして真面目だからなぁ~。こういう礼節をしっかり弁えてる所とか、ちょっと好感度上がるわ。

 

 俺なんて、部屋に誰か来ても高確率でシカトだもんなぁ。会話しようと思っても話が続かないんだよね、すぐに話題が尽きちゃうし。

 

 マジでコミュ障の悪い癖出てるわ。日常会話で話題を提供できないという悪い癖が。やばっ、今度から気をつけよ。

 

 ―――リーシャは部屋の隅の棚に置かれている花柄のティーセットを取り出すと、それを執務机の上に置き、せっせと紅茶を淹れ始めた。

 

 それに伴って、疲弊した俺の耳に様々な音が聞こえてくる。

 

 茶葉が缶の中を滑る乾いた音、続いてポットから湯の注がれる音・・・

 

 こういう日常的な音は何だか安心するな。さっきまで緊張していた分、余計に癒し効果が高い。

 

 ・・・気の抜けた俺は、ふと目を瞑って深呼吸してみた。

 

―――ポチャン。

 

「・・・?」

 

 なんか今、変な水音がしたような・・・

 

 俺はパッと目を見開いて、リーシャの方を見遣る。彼女はちょうど二杯目のカップに紅茶を注いでいるところだった。

 

「おいリーシャ、今、紅茶に何か入れなかったか?」

 

「え?別に入れてませんけど・・・」

 

「そうか。」

 

「どうしたんですか団長さん?」

 

「いや、変な水音が聞こえたもんだからさ。」

 

「気のせいじゃないですか?きっと疲れてるんですよ。」

 

 確かに、それはあるかもな。今日はいつにもまして事件が多かったし。

 

 そうだ、今のは幻聴だ。きっと俺は疲れてるんだよ。

 

 そもそも、リーシャが紅茶に何かを入れるったって、一体何を入れるってんだ?睡眠薬でも混ぜたってか?それこそ有り得ねえ。リーシャはそんなことする奴じゃない。

 

「さあ、紅茶が入りましたよ。どうぞ。」

 

「ありがと。いただきます。」

 

 俺は、差し出されたティーカップを受け取った。

 

 

 

 

 

 



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団長、目覚める。

前回の投稿からひじょーーーーーーに時間が空いての投稿となります。待ってくださっていた方々、誠に申し訳ありません。私生活が忙しくなったのと、『このままこんな拙い作品を書き続けていいのだろうか?』という自責の念から、つい筆が止まりがちになってしまいました。つまらなかったら申し訳ありません。


「うぅ・・・・」

 

 痛い。頭が割れるように痛い。なにこれ、マジ勘弁。

 

 朦朧とする意識の中、頭を抑えるために手を動かそうとすると……

 

「――――!」

 

 ジャラジャラと重たい鎖の音がした。ついでに、手首には冷たい感覚。

 

 はっとして見てみると、俺の両手には、鉛色に鈍く光る手枷がしっかりと掛けられていた。

 

 枷から伸びる鎖は、ご丁寧にも背後の壁に鎖でつながれている。

 

 が、そこまで拘束力は強くないな。鎖は割と長めだ。頭も自分で掻けるし、もしかしたら立ちあがって5、6メートルは動けるかも。

 

 いや、っていうかその前に……

 

「………ここどこッ!?」

 

 俺の一声が、むき出しの石壁に反響する。

 

 目の前に広がるのは、薄暗い、牢獄のような部屋……っていうか普通に牢屋だ。後方と左右は分厚そうな石の壁に囲まれていて、目の前の一面だけ鉄格子がはめられている。

 

 余計に頭が痛くなった気がして、俺はこめかみの辺りを左手で抑えた。

 

 うん、とりあえず落ち着こう。解決しなきゃいけないことは山ほどあるが、ひとまず考えなきゃいけないのが……

 

 ――――なんでこうなった?

 

 全く意味が分からん。おかしいな、俺さっきまでリーシャの部屋にいたはずなんだけど……そこから、何がどうなってこうなったのか……全然覚えてない。

 

 最後に何してたっけな?

 

 確か、リーシャに出された紅茶を飲んで、そこから先の記憶がないような……

 

 ――――もしかして、あの紅茶が何か関係してるのか?

 

「はっ!まさか!!」

 

 ――――俺はその瞬間、この状況の全てを悟った。すべての謎を解くカギは、刹那の内に、俺の中に舞い降りてきたのだ。

 

「……ククク、そうかそうか。全く、俺としたことが全然気づかなかったぜ。情けねえ。」

 

 それに気づいた途端、自分の馬鹿さ加減に、笑いが込み上げてくる。

 

 ――――そう、悩むまでもない。全ての答えは、至極単純な物だったのだ。

 

 真相を解く鍵は、あの紅茶が握っている。

 

「なぜ今まで気づかなかったんだろうな……自分の新たな可能性に。俺が紅茶を飲むことで瞬間移動できる体質だということに。」

 

 この状況を完璧に説明する答え――――それは、こんなにも単純なことだったのだ。

 

 おそらく俺は、彼女の淹れた紅茶のせいで無意識のうちに瞬間移動をし、何処かの牢屋の中に来てしまったんだろう。まったく、運の悪いこともあるもんだ。

 

「団長さん、お目覚めのようですね。」

 

 と、そこで不意にリーシャの声が。

 

 コツコツと石の床をヒールが叩く音が次第に近くなる。

 

「気分はどうですか?」

 

 廊下の奥から歩いてきた彼女は俺の牢屋の前で立ち止まり、にやりと微笑んだ。

 

「うんまあ、それなりに絶好調だな。」

 

「そうですか。それは良かったです。」

 

「それより……悪かったなリーシャ。急に瞬間移動しちまって。俺、自分の特殊能力に気づかなくてさ。いやほんと、迷惑かけて申し訳ない!」

 

「そうですね、団長さんは扱いやすくて助かります。」

 

「ヤダなぁ。そんなに褒めるなよ~。」

 

 照れちゃうだろっ?へへっ。

 

「褒めてないですよ?」

 

「……えっ?なんか言った?」

 

「……いえ、何でもありません。」

 

「そっか、まあいいや。それより、とりあえずここから出してくれないか?探しに来てくれたんだろ?なんか俺、上手い感じに手が枷にはまっちゃったみたいでさ。」

 

 俺は鎖をジャラジャラやりながら、両手首にはまった手枷をリーシャに見せる。純粋に金属でできてるからか、マジでシャレにならないくらい重い。絶対肩凝るヤツだよこれ。

 

 リーシャは優しいから、きっとそういうのすぐに察して外してくれるだろう。

 

「……フッ、ふふふ……」

 

 ――――だが、俺の予想はこの時、最悪の形で裏切られた。

 

「リーシャ?」

 

「あはははは!」

 

 突然大笑いし始めた彼女を見て、俺は後ずさりをする。彼女の姿に恐怖を感じたのだ。

 

 今のリーシャはいつものリーシャじゃない。一言で言うなら『狂気』。底知れない、黒々とした狂気だ―――背筋に悪寒が走る。それと同時に、俺の背は硬い石壁にぶつかった。

 

「団長さん、申し訳ありませんけど、その手枷は外せません。せっかく団長さんが私の物になったのに、そんなことしたら逃げちゃうじゃないですか。」

 

「リーシャ、まさかお前……」

 

 信じたくはない。でも、俺は自分の内で湧き上がる疑いの念を否定することが出来なかった。

 

「ヤンデレ……なのか?」

 

 彼女は答えなかった。ただ俺の全身を撫でまわすように見て、狂気じみた笑みを浮かべながら、一度舌なめずりをする。

 

 ――――確定じゃん。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 俺は、ただただ叫びをあげることしかできなかった。

 

 

 

 



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ジータ、動く。

 すみません。三か月半ぶりの投稿です。前回の話を投稿した後に、『二か月半眠っていた団長がついに目を覚ました!』というコメントを頂いたので、総計半年でたった二話しか話が進まなかったことになります。

 許してください、本当に忙しかったんです。

 え?『何がそんなに忙しかったのか』だって?そりゃもちろんゲー……あヤベッ、ゲフンゲフン!!芸を磨くのにです。

 すみませんウソです。めっちゃ遊んでました。でも、土下座しながら投稿ボタン押したので許してください。ついでにつまらなくっても許してください。


 ところ変わって、ここはグランサイファーの副団長室。

 

 部屋の中央に向かい合わせて置かれているソファには、二つの人影があった。

 

「じゃあ、状況を確認しよう。」

 

 そのうちの一人が口を開く――――ジータだ。

 

「団長が行方不明になったのが三日前。そして同日、なぜかリーシャも失踪してる。……団の士気低下を避けるために、今のところ二人の失踪は皆に伏せてるけど……」

 

 その向かいで相槌を打つのはヴィーラ。

 

「バレるのも時間の問題ですね。団長さんの身の安全も心配ですし、早く探し出さないと。…………はぁ、前々からあの人の阿保さ加減にはほとほと困っていましたが、まさかこんなことになるなんて……秘書としてあるまじき失態です。」

 

 彼女はそう言って肩を落とした。

 

 無理もない。秘書に任命されてからというもの、ヴィーラは他の誰よりも、グランを支えることに責任を感じて来たのだ。

 

「気に病まないでヴィーラ。しょうがないよ、お兄ちゃんは知能がイモムシな上に童貞だから。」

 

 そんな彼女を心配したジータが、すぐにフォローに回る。

 

「ジータさん……そうですね、団長さんは知能がイモムシな上に童貞ですもんね。ありがとうございます。」

 

 かけがえのない仲間の温かさに触れ、ヴィーラはすぐに元気を取り戻した。そして気づく。世界はこんなにも、優しさで溢れているのだと。

 

「でも、どうやってお二人を探したら良いのでしょうか?」

 

 訝るヴィーラ。だが一方のジータは得意げな笑顔を浮かべた。

 

「安心して、実は、二人を探すために強力な助っ人を呼んだの。入ってきて!」

 

 彼女がドアの方に向かってそう言うと、二人の団員がそそくさと部屋に入ってきた。

 

 一人は色の白い、糸目をした優男――――シャオ。

 

 そしてもう一人は、背の低い、紫色の髪の女――――ナルメアだ。

 

「ジータさん、ご要望通り、ナルメアさんを連れてきましたよ。」

 

 シャオはジータの顔を見るなりそう言って、ナルメアの手をそっと引いた。

 

「うん、ありがとうシャオ。ナルメアの容体はどう?」

 

「見ていただいた方が早いかと。」

 

 ジータは彼の傍で俯いているナルメアに目をやる。

 

「団長ちゃん団長ちゃん団長ちゃん団長ちゃん団長ちゃん団長ちゃん団長ちゃん団長ちゃん団長ちゃん団長ちゃん団長ちゃん団長ちゃん」

 

「うん、絶好調みたいだねっ!」

 

「どこが?」

 

 ヴィーラが冷静に突っ込みを入れた。

 

「では私はこの辺で。ナルメアさんにはまだ団長欠乏症の禁断症状が出ていますから、取り扱いには十分注意してくださいね。」

 

「分かった。ありがとう、シャオ。」

 

「いえいえ。」

 

 役目を終えたシャオは、そう言って足早に立ち去った。

 

 閉まるドア――――部屋に残されたナルメアを見て、ヴィーラは怪訝(けげん)な顔をする。

 

「えぇと、ジータさん。質問なんですが、お二方の捜索とナルメアさんに、一体何の関係があるんですか?」

 

 当然の疑問であった。

 

「うーん、そうだなぁ。どこから説明したらいいかな?とりあえず、ヴィーラは"ヤンデレ"って知ってる?」

 

彼女の問いかけに、ヴィーラは(うなず)いた。

 

「はい、わたくしも一応ヤンデレですから。」

 

「そっか。じゃあ話が早いね。実を言うと私、今回の失踪にはヤンデレが絡んでいるんじゃないかと思うの。」

 

「ヤンデレが……ですか?」

 

「わたしの予想はこう。お兄ちゃんの恋愛解禁でヤンデレの本性をあらわしたリーシャが、何らかの方法で彼を連れ去った――――そして現在、どこかの島に二人で潜伏している。リーシャはもともとお兄ちゃんに脈ありな感じだったし、それにこの仮説なら、二人がほとんど同時に失踪した説明がつくでしょ?」

 

「なるほど……確かにそうですね。」

 

 ヴィーラは(あご)に手を添え、すっかり感心した様子だ。

 

「で、そこにナルメアさんがどう関係してくるのですか?」

 

「それはちょっと見ててもらえばわかるよ。」

 

 そう言うと、ジータはポケットから白いハンカチを取り出した。

 

「これはお兄ちゃんの部屋にあったハンカチ。これをナルメアの前に出すとね……」

 

 彼女は摘まみ上げたハンカチを、そっとナルメアに近づける。すると……

 

「はッ、団長ちゃん!!団長ちゃんを感じるっ!!」

 

 ナルメアが覚醒した。

 

「ハンカチをナルメアから離すと……」

 

「……」

 

 今度は一転、ナルメアは沈黙。

 

「また近づけると……」

 

「団長ちゃんッ!!」

 

「離すと……」

 

「……」

 

「近づけると……」

 

「団長ちゃんッ!!」

 

「離すと……」

 

「……」

 

「……近づける、離す。近づける離す……近づける離す近づける離す近づける離す」

 

「ジータさん、ナルメアさんで遊ばないでください。」

 

「あっ、ごめん、つい。」

 

 ジータはハンカチをポケットにしまった。

 

「今見てもらった通り、ナルメアはお兄ちゃんの『気』を探知できる『団長ちゃんレーダー』を搭載してるの。」

 

「なるほど……つまり、今回はそのレーダーを使って団長さんを探し出すというわけですね?」

 

「うん。そしておそらく、お兄ちゃんの傍にはリーシャがいるだろうから、ついでに彼女を見つけることもできるはず……」

 

 二人は顔を見合わせる。

 

「完璧ですね。」

 

「でしょ?」

 

 そして、高らかな笑い声をあげた――――



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団長、真実の愛を悟る。

今年、運よくとある大学に合格することができ、ようやく受験から解放されたので、七か月ぶりに新しい話を書きました。

まさかこのシリーズが1年以上も続く”大長編”になるなんて・・・とても驚きです。

思い返せば昨年の春、学校での勉強会中に先生の目を盗んで書き始めたのが、全ての始まりでした。

『スタディサプリで勉強する』という名目のもと、学校のWi-Fiにアクセスし、自習室で一人、気持ち悪い笑みを浮かべながらキーボードを叩いていました。とても懐かしいです。

しばらく書いていないのでだいぶ腕が落ちていると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。


 ――――此処に来てから、一体どれくらいの時間が経ったろうか。

 

 牢の壁にぽっかり空いた小さな覗き窓の向こうでは、日が暮れ、日が昇り、また日が暮れて、そうかと思ったらまた日が顔を出し始めて……

 

 ……こんなに長い間留守にして、団の皆は、きっと心配してるだろうな。

 

 懐かしい顔が瞼の裏をよぎる。

 

 ごめんな、ビィ。

 

 ごめんな、ルリア。

 

 ごめんな、ジータ。

 

 ごめんな、皆……

 

 ――――でも俺、

 

「団長さん、ほら、あーんですよ、あーん。」

 

「あ~~んっ!うん!おいちぃ~~!!」

 

 ここの生活が楽しくてやめられそうにない。

 

「いやー、リーシャの料理は旨いなぁ!ほんと、君はいいお嫁さんになるよ!」

 

「もう、団長さんたら、褒めても何も出ませんよ。それに……私はもう、あなたのお嫁さんですよ?」

 

「あは、そうだったね。」

 

 ――――拘束が厳しかったのは最初だけで、信頼関係が出来てからは手枷も外れ、結構自由が増えた。

 

 牢屋の中にもソファとか机とか生活用品を増やしてくれたし、何よりリーシャが身の回りの世話を全てやってくれるので、めちゃめちゃ快適だ。俺は息をしているだけでいい。

 

「・・・ごめんな、リーシャ。俺は君のことをずっと勘違いしてたよ。」

 

 自身の状況を振り返り、俺は改めて、リーシャに謝罪したくなった。

 

 彼女はこんなに俺のことを思ってくれていたのに、どうして俺は今までそれに気づかなかったんだろう?

 

「いいんですよ団長さん。それよりも私は今、団長さんとこうして居られて、とっても幸せです。」

 

 リーシャは頬を赤く染めながら、そっと俺の手を握った。優しい、温もりのある手だった。

 

「俺もだよ、リーシャ・・・」

 

 胸の中が温かい気持ちでいっぱいになって、俺はやさしく微笑む。

 

 ――――もしも今、俺の立たされている状況を他人が見たら、きっとこう言うだろう。『異常だ』と。

 

 誘拐され、監禁され、束縛されているにも関わらず、彼女と共に居られることに幸せを感じるなんて、狂っていると。

 

 だが俺に言わせてみれば、そんな意見は全く取るに足らない。

 

 リーシャが俺を誘拐するのも、監禁するのも、束縛するのも、彼女が俺を他の誰よりも愛してくれているからなんだ。

 

 身に余るほどの大きな愛を、俺に注いでくれているからなんだ。

 

 これほど大きな愛を受けて不幸だなんて思う輩がいるとすれば、そいつらは真実の愛を知らない、本当に哀れな連中だと思う。

 

「ありがとう、リーシャ。」

 

 俺はリーシャに感謝した。

 

 彼女は俺に全てを教えてくれた。

 

 真実の愛とは何か。

 

 本当の幸せとは何か。

 

 普通に生きていたら気づけなかった大切なことに、彼女が気づかせてくれたのだ。

 

「そ、そんなに見つめないでください団長さん・・・照れちゃいますから・・・」

 

「あ、ああごめん・・・」

 

 お互いに頬を染め、恥ずかしさのあまり顔を逸らした。

 

 そしてそのまま、柔らかな沈黙が二人を包む。

 

 ――――だがしばらく経ったとき、リーシャが突然、何かに気づいたように「あっ」と小さく声を漏らした。

 

「どうした?リーシャ。」

 

「そういえば、そろそろお薬の時間ですね。」

 

「ああ、いつも飲んでる薬か。もうそんな時間になったんだな。」

 

「団長さん、これを飲んでください。」

 

 リーシャは懐から白い錠剤を取り出して俺に渡した。

 

「・・・そういえば、ずっと疑問だったんだけど、これってなんの薬なの?毒とかじゃないよね?」

 

「大丈夫ですよ、ただの媚薬なので、体に害はありません。」

 

「なるほど、じゃあ安心だね。」

 

 渡された水とともに、俺は錠剤を流し込む。

 

 ヤンデレは好意対象に危害を加えることがあるというから警戒していたが、リーシャに対しては杞憂だったようだ。

 

 ま、そりゃそうか。愛しのリーシャが俺に変な薬を飲ますなんて、常識的に考えてあり得ねえもんな。

 

「さて・・・・・・それでは団長さん、私は少し席を外しますね。」

 

 ――――俺が薬を飲み終えたのを確認すると、リーシャは徐に立ち上がり、牢の出口に向かって歩き出した。

 

「ん?なんだ?どこかに行くのか?」

 

「ええ、ちょっとお出迎えに・・・・どうやら、お客様がお見えになったようですから。」

 

 そういうと、リーシャは窓の外を見据える。彼女の視線の先には、小さな騎空艇の影があった。



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