fate altered night (ベルフィ)
しおりを挟む
1話
抑止の環より来たれーーー天秤の守り手よーー!」
薄暗い室内に溢れた魔力が、まるで北国の朝に見られるダイヤモンドダストのように瞬いた。描かれた陣の上には1人の女性が立っていた。
ここから、ここから始まるのだ。僕の、
顔を隠すローブを羽織った女が口を開く。自身を喚んだ主人へと私とともに戦う意志はあるかと。
「キャスター。よびかけにより応じました。貴方が私のマスターですか?」
「…そうだ、僕が君を喚んだ。僕が君のマスターだ。これからお前は僕に従え。いいな?」
「ふふ、ええわかりました。もとよりこの身は御身に呼ばれたサーヴァントでありますれば」
彼女は少し笑うと、僕の前に跪いた。
「よし、じゃあまずはキャスター、お前の真名を聞かせてくれ。キャスターのクラスなんだ。戦略上、味方の情報は必須になるからな」
「当然ですね。いいでしょう、答えます。我が真名は―――
「そういやここ最近新宿の辺りで通り魔事件ってあるじゃん。犯人つかまってないヤツ。その通り魔が出たらしいの。さっき三年の先輩がそれっぽいのを見たー!って騒いでたんよ」
「いやそれを見てたならその先輩もやられてるんじゃないのかよ」
「そうそう、俺もそう思ったんだけど物陰に隠れて見つからなかったとか?そんなんじゃねーのかな」
「そこらへんガバガバなのかよ。なんでそんな高校生に見つかるような犯罪者を警察はつかまえられねーんだよ?」
「知らんわそんなん。ガバガバ捜査とか考えてみたらなんか笑うわ」
「そういうこと言ってるヤツこそ襲われるんじゃないですかね…。お前が襲われて警察が君のことでなんか聞きに来たら、いつかやると思ってました。って言っとくから」
「おい、それ俺が通り魔の方じゃねーか!」
「え、違うの?」
「そうです。私が変なおじさんです」
「ややウケ。45点」
「採点辛すぎて草。再審を!再審を!」
「ダメです。デデーン」
「ブリュリュリュリュ!」
「くさそう」
「っと、先生が来るから戻るわ。次は世界史だから用意してないと機嫌悪くなるから。また後で」
「ういー、世界史了解ー」
教師が入ってくる前にやりとりを切る。…ばからしいやり取り。だけど家のことをやっているときより気が楽だ。
…だが、そんなことよりも。
(聞いてたなキャスター。今の新宿では通り魔事件が起きている。被害者は大体が若者で時間帯は夜間。やられるのは大体が一人になった者。襲われた後は気絶して衰弱状態って話だ。…意味は分かるな?)
(ええ、おそらくサーヴァントによる魂喰いでしょう。しかし、今の時代は神秘の漏洩に対してシビアと聞いています。例え魔術により記憶の捜査を行っているとしても、あまりいい手ではないでしょうに)
霊体化して僕が座る席の後ろに立ったキャスターは口調こそ激しくないが、嫌悪の感情を露わにそう語った。
(へえ、ちょっと意外。キャスターはそういうのに頓着しないようなイメージがあったんだけど)
(…必要とあれば行いましょう。ただ、積極的にやりたいことではないです。それに…私は赤の他人を巻き込むことに抵抗があります。聖杯戦争の勝利を志した以上、取れる手段は取りますが、最終手段と、させて頂きたいです…)
フードで隠れているが、僕のことを睨む彼女の視線を感じる。その反面、語気が弱めなのは虚勢も入ってるのか?…まぁいずれにせよ。
(いや、悪かった。僕もそういった手段はあまり取りたくはない。キャスター、君の言う通り、打てる手が無くなった時の最終手段ってことにしよう)
…まぁ、そんな時になったら恐らく間に合わないのだろうが。というか、キャスターってのは、そんな段階まで追い込まれないように策を講じるようなクラスだろう。予備策として、という程度で十分だと僕は思う。
(…それにしても、お優しいんだな。キャスター?)
こちらを見ていたキャスターに向かって意地の悪い笑みを浮かべる。なっ!と声を上げたキャスターは誤魔化すように、神秘の秘匿だとか色々な理由を並べ立てるが、僕からすればただ面白いだけ。いや、可愛いと思った。
「おい、島崎。授業は始まってるぞ?教科書も出さずに、先生の話を聞かずに、隣の柴田を見つめて…ん?なんだ?片思いか?お?」
「ちょ、やめろよ島崎。そういう趣味、ねーから!」
教師が入ってきて授業が始まったことに気付かずキャスターと念話していた島崎少年はクラスでホモというポジションにされ(元から淫夢厨)、今日の教科書音読を全てやることになったとさ。チャンチャン
「えー、そして12世紀後半イギリスでリチャード1世による第三回十字軍が結成され、エルサレムへ向けて遠征した。そして………フフフ、ソワカソワカ
(…ふふふ、私を馬鹿にした天罰です。マスターのばーか)
BGMにwithout youをBJとMDDで流して書いてます
小説自体はプロットは全て出来ているのでエタって更新停止することはないと思います。書き溜めは4話までしかないので更新は毎週で何か支障が出ない限り、水曜日に投稿しようと思います。
初投稿なので、三話まで連続投稿します。
予定では全25話になります。
裏話として、この小説に出てくるサーヴァントは作者が高校生の時に、授業で習った偉人や、読んだ小説に出てくる神話の英雄です。真名をぜひ当ててほしいですね。ヒントは小出しにしていきます。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
2話
楽しんでくれたら嬉しいです
草木も眠る丑三つ時。周囲一帯に僕の使い魔を放ち、他陣営のサーヴァント、もしくはその痕跡を捜索させる。正直何かが見つかるとは思っていない。魔術師なら、大体は自分の陣地で召喚を行うだろうし、そういう場所は屋内で見つからず、外の人眼につかない場所での召喚となると、痕跡を消していくだろうと予想されるからだ。仮にも魔術師ならな…。そう思いながらも捜索は続ける。とはいえ、東京は他の県と比べると小さいが、実際はとても広大だ。全体を全て探すのはいくら使い魔を用いても厳しいものがあるだろう。だから、サーヴァントが魂喰いを行っていると思われる、新宿を中心に捜索を行う。
とはいえ、僕の魔術の腕はいいわけではない。高性能な使い魔などあまり作れない。場所もはっきりわあってないなら人海戦術、いやネズミ海戦術のほうが効果が期待できる。それにネズミは簡単に増やすことが出来るため、使い魔としてはポピュラーな類だ。鳥型の使い魔のように広範囲を素早く見回ることはできないが、どんな隙間にも潜り込み、見た結果を伝えてくれる。何より、下水道を伝って移動できるのが最高だ。何故なら僕たちキャスター陣営は下水道を用いて魔力を集めているからだ。
下水道は東京の地下を隅々まで覆う血管だ。その性質上、霊脈から魔力を引っ張ってきやすい。隣接する霊脈に接続すれば、魔力は水と一緒に下水の集まる場所、河川でいう下流へと集まってくるワケだし。だからこそ、下水道は僕らの陣営の要になるのだ。ここなら使い魔の素になるネズミも増やし放題だし。
勿論、使い魔はキャスターが作ったほうが効率がいいだろうし、適格だろう。だが、そうも出来ない事情がある。キャスターの作る使い魔は造形がわかりやすい無機物タイプの使い魔なのだ。キャスターは英雄となった英霊ではない。逸話がそのまま英霊となったタイプ。芸術家が英霊になった存在だ。レオナルドダヴィンチが敵と戦えるか?無理だろう。元一般人が勝てるわけないだろ!…まあ、そんな訳で使い魔に捜索させるのは僕の役目だ。
ああ、でも一つだけ、下水道の魔力が集まる地点。その一帯にはキャスターの工房があり、周囲をキャスターの使い魔で警戒している。僕らの陣に他のサーヴァントを入れるわけにはいかないからな。近づかれたら終わりっていうのがキャスタークラスの欠点だろう。あと他クラスの耐魔力スキルだけど、まぁウチのキャスターは魔術で攻撃するわけじゃないから関係ないな!
「やっぱり見つからないか…。まあ期待はしてなかったけど…」
「気を落とすことはありません。聖杯戦争は始まったばかり、相手方の情報が見つかることの方が難しいでしょう」
「まあそうだけどさ…」
それでも見つけられたら、と思ってしまう。高性能な使い魔を量産出来れば良かったんだけどな…。
「しかし、もう聖杯戦争が始まったんだよな。覚悟を決めたはずだけど、不安になる…。お前はどうだ?キャスター」
「…期待しているところ申し訳ないですが、私だって不安になってます。私、元一般人ですよ?英雄と戦うなんて怖くて怖くて」
「そこは、それは武者震いですよマスター。とか、情けないマスター、恥ずかしくないの?とか、豪気なこと言ってくれよ」
「一般芸術英霊に何求めてるんですかマスターは」
「一般人を名乗る英霊ってなんだよ」
一週間ほど前に、聖杯戦争が始まったとの通告があった。聖杯戦争とは言うモノの、正規の聖杯戦争ではなく亜種、というヤツらしい。モト冬樹の聖杯戦争とは違い、劣化してはいるようだがそれ自体は本物らしい。まあ疑惑は残るが聖杯自体は使えるらしい。
正直、使えても使えなくてもどっちでも構わない。どうせ、僕は使えない。家に持っていかれるだけだ。僕はただ、聖杯を獲得すればいいだけ…。それ以外なんてそんなこと、僕には関係ない。
「カットカットカット」
落ちかけた思考を無理矢理止める。自己暗示の魔術を用い、意気を高揚させる。
「マスター大丈夫ですか?ご気分が優れないようでしたらお休みなされては…」
「いや、いい…、大丈夫だ」
キャスターの心配する声を嬉しく思う。改めて勝ちたいと思った。勝ち残る、その決意を新たにする。
「僕のことは心配いらない。それよりも聖杯戦争が始まった以上、ここの防備も強化する必要があるだろう。君の宝具は性質上、時間が必要だし、条件あるしで持久戦に持っていくことが必須になる。なら拠点であったり、僕の家であったりを防衛のための基地にしよう。どうだ、出来るか?」
「え、ええ。可能です。万が一のためなども想定した拠点を設置しておくのは素晴らしいアイディアだと思います。早速、マスターの家、借りているホテルの部屋、確保していた廃ビルにも防衛用の魔術を仕掛けておきます」
「ああ、ありがとう」
さて、今日できることは終わったか…?
そんな風に気を抜いていた時だった。
【―――――――――】
「「—ッ!」」
これは、魔力反応…!方向方角からすると…北西位置!ここ、品川から南西とすると…!
「恵比寿だッ!すぐに飛ばす!」
下水道を介して調査させていたネズミの使い魔達のリンクを切り、一つだけ持っている鳥型の高性能使い魔を使用する。フクロウ型の使い魔はすぐに拠点にしていた下水道を抜け出し大空を舞った。視界をリンクをさせ、更にキャスターとも同期させる。
異様な、ともいえる空模様だった。僕たちのいた、品川のあたりは星も見える晴れた夜空なのだが恵比寿の上空を覆うのは厚い積乱雲だろうか?水の集まる場所に拠点を置いているのだから、今日の天気も当然ながら調べている。今日は雨など降る予報は無かった。それが、こんな天気になっているのは間違いなくサーヴァントの影響だろう。ただ、一騎だけならこんなに魔力を顕にする必要がない。十中八九、戦闘行為を行っているのだろう。
念話でキャスターに自身の考えを伝え、意思の共有を図っていると使い魔が恵比寿までたどり着いた。
(これは…酷いな…)
まず見つけたのは、恵美須東公園の無惨な姿だった。地は抉られ、木は薙ぎ倒され、所々に地割れのような跡が存在していた。
『ーーーーーーーーー』
(あっちか!)
戦闘音が響いてくる、恵比寿の更に奥、ビル街の方に向かわせる。近づくにつれて濃い魔力の波動を感じ取れるようになってきた。
「儂の嵐を食らっておいて、元気なやつじゃの…、ちっとは痛そうにせいよ、全く」
「ギャハハ!痛え、痛えぞ!オーディンこの野郎!つーかそれを言うならこっちの槍も受けてみろよ!逃げ回ってるだけかよオイ!」
そこで戦っていたのは二騎のサーヴァント。
片方は謎の高速で動く樹木に座した壮年の眼帯を付けた男。
もう片方は槍を持った、樹木を超える速度で走る若く勇壮な戦士。
(なっ!あいつ、オーディンって言ったか!?北欧神話の主神だと!?なぜこの聖杯戦争に!?)
(あ、あり得ません!聖杯戦争では神霊は召喚出来ない…!出来るのは人との交ざり物や人に堕ちた逸話がある神霊のみ…。オーディンにはそんな逸話、存在しません!)
眼帯の男に自然と注目が集まる。見れば、皺のある年季の入った顔立ちでありながら、残ったもう片方の瞳には深い理知を感じさせる、カリスマと威厳を纏った男性、そんな印象を受けた。
(なら、仮称オーディンの乗るあの木はまさか、北欧神話における
(分かりません!ですが、オーディンの伝説の1つにユグドラシルで首を吊ってオーディン神に、自分に捧げたというのがあります!自身を殺した生物を宝具にする英霊はいます!彼もその類という可能性はあります)
だとしても、世界を支えた木を宝具にするなんて…。そんなの反則だろ…!
「オラァッ!」
叫び声に反応して、もう片方に目を移す。
もう一人の英霊は軽装の鎧を纏った偉丈夫。よく見ると、鎧には欠損や汚れがあるが、体には傷も何もない。持った槍には特に宝具のような強い魔力は感じとれない。
二騎の英雄はお互いを攻撃しあっている。オーディンは木を操作し、もう片方、ランサーか?ランサーらしき英霊に向かわせる。が、ランサーのサーヴァントはそれよりも速い。オーディンの木が追い付かない速さで走り回り、オーディンに槍の振り下ろしや刺突などを繰り出すが、その度に空から雷が落ち、それをランサーが躱そうとオーディンから離れる。また近づいて行く、といった展開が続く。
「チックショー!ってめー!その雷引っこめろボケェッ!こっちの主神思い出すわウスラハゲ!」
「なっ!ハゲてないわ!頭は帽子で見えんじゃろうが!勘違いされそうなこと言うなアホタレ!」
…あれ?威厳…?
「…チッ、止めだやめ。このまま続けてもずっと同じ状況にしかならん。今は宝具使えないしな…。今日はこれで終いだ。いいな?オーディン」
「汚い口調じゃな…、ランサー。まあよい、この膠着は儂も些か面倒であった。ここでお開きにするのが良かろうて」
「…フン」
不満そうな顔をしたランサーは鼻を鳴らすと、一気に身を翻し、ビルの上を跳んで行く。対してオーディンの方は、1つ溜息を吐くと、虚空に腕を向けるとそこから陣が現れ、魔弾が飛んでいく。計3つの魔弾はそれぞれの方向に飛んでいき、1つはこっちに飛んで来た。
(ぬおっ!?)(わわっ!?)
2人で魔弾を避けるために仰け反る。と、魔弾が僕の使い魔に当たり撃墜される。そこで使い魔を介した視覚のリンクが途切れ、僕達の意識は拠点に戻ってくる。
「び、びっくりしました…。魔弾が向かってきて、私達に当たるかと…。思わず仰け反っちゃいましたし…。というか、気づいてたんですね私達の監視に。………マスター?マスターどうしました?
目は虚ろに、この世の終わりのような表情を浮かべた主の姿。キャスターからすればさっきまでの普通に話せていた状態からの大きな変貌に驚愕を隠せない。
「…ッハ!まさか、あの魔弾に呪いがかけられていて、使い魔を介してマスターをっ!?」
リモコンの1時停止ボタンを押したかのように、止まった主人の肩を揺らすキャスター。
肩を揺らすキャスタ―に反応したのか、うめき声をあげる。
「…う、うぅ…」
「ま、マスター?大丈夫ですか?」
「う、うう…。うわー!
どうか行かないで……(悲嘆)
あー!落としちゃった……
ウワァァァァァァ……
マアァァァァァァ……
うぁー!落としたァー! 僕の使い魔落としちゃった!!」
「ど、どうかぁ、しましたか?」
「はい!作った使い魔、落としてす、しまったのですが!」
「あ、それ後でほんじゃあ作りますから、あっと……工房まで来てください。ね?
ちょっとも、大人しくしててくれる?」
「ぁハン……」
「ね、他の使い魔もありますから」
次の日、以前のより高性能な使い魔を手に入れたことに喜ぶ主人とあきれたような雰囲気を出すフードの従者がいたというのは蛇足である。
更に言うと、いくら高性能でもキャスターが作った使い魔は無機物であり、真名の露呈を恐れた主人が泣く泣く使うことを諦めたことなんてホントのホントに蛇足である。
主人公がヤバいと思ったら、ゲームのカード落としちゃった。で検索してみるといいかも。ネタとしてね。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
3話
推理パートです。殆どわかりやすくまとめたけど、一つだけ意図的に入れてません。知識がある人はもうわかったりするのかも。
「さて…昨日のランサーと思しきサーヴァントともう一人、オーディンらしきサーヴァントについてだが…」
「そのことは、昨日の夜のうちに話しておきたかったです…」
「う、うるさいな。かっこつけて話してんだからそれには触れずに流せよ」
「フフ、はいわかりました」
「…ならいいけど」
「…かっこつけて話してたんですね?さて…って、ふふふ」
「な、流せっつの!てかお前だってキャラとか口調定まってねーじゃねぇか!」
「それは私の責任ではありません!優雅に話すけどポンコツ混じってあほかわいいキャラなんて私じゃありません!というか最初一人称僕だったレベルですよ!」
気まずい空気が流れる。←(神の権能)
「…なんか気まずくなってきたし、話を戻すぞ」
「…よし、じゃあ他陣営についてだが…ランサーから話すか」
「はい、昨日、恵比寿周辺で戦っていたサーヴァント二騎。その一騎はおそらくランサーです。自分から名乗った訳ではないですが、槍を手繰っていましたし、剣、弓を持っている様子もありませんでした。粗野な口調ではありましたが、理性は持っているのが見て取れました。アサシンにしては目立ち過ぎでしたしね。そういう訳で、ランサーのサーヴァント、そう見ていいでしょう」
「んー確かにそうなんだけどな。ランサーなのに持っている槍に宝具のような魔力を感じなかったんだよな。発動していないにしても、魔力を感じるさせるのが宝具って存在だ。僕はそこが気になるな」
「なるほど、確かに私もそこは気になっていました。ですが、宝具を1つしか持たない英雄であったり、槍の逸話はあっても無銘の槍を使っていた、などという可能性も考えられます。いずれにせよ、今の段階では槍については分かりません。マスターは他に何か気付いたことはございますか?」
「そうだな…」
ランサーについて…。顔立ちはヨーロッパ系というのが見て取れた。僕には流石にそれ以上は読み取れない。そっちに暮らしてたら分かるかもしれないけれど。そういや、キャスターもヨーロッパ系だよな。聞いてみるか。
「あいつの顔立ちはヨーロッパの出身みたいだった。キャスターもヨーロッパ出身だろ?どこの国の辺りか分かるか?聖杯に国の名前とかは教えられてるだろ?」
「聖杯からは地図などの知識は送られていますが…。2000年も前の顔は今と比較も出来ませんし…。申し訳ありません…」
「そうなのか…いやいいんだ」
「いえ、でも私は彼から神性を感じました。もしかしたら、何らかの神と関係があるサーヴァントなのやもしれません。ただ、私の知識にはそういった人物像がありません…。もしあったなら私のスキルですぐに判明するのですが…」
「神性か…。ヨーロッパの神話と言えば、ギリシャ神話、ケルト神話、あと北欧神話とかが有名だな」
「そうですね。他にもスラヴ神話やローマ神話などがありますがメジャーなのはそんなところです。そして、北欧神話の主神と目されるオーディンが顔を知らないようなので、北欧神話は除外してもいいかもしれません」
「あーそうだな。ふうむ…。まぁ神性についても保留かな?…あ、そうだ、一つ、僕が気付いたことがある。僕たちがあそこに着くまでにもあいつ等は戦闘してたみたいだ。当然、傷なり何なりを負っているはずだ。だが、ランサーは纏っていた鎧に欠損や汚れはあったのに傷の方は一切存在しなかった。血の跡とかは確認できなかったが、もしかしたら不壊だったり、不死、再生のスキルや宝具を持っているのかもしれない」
もしそれが宝具なのならキャスターの言った、宝具が一個のサーヴァントという可能性もあるが。今度はどう倒すかという問題が出てくる。だが、僕たちが倒差なくてはならないというわけではないのだから、こっちの可能性のほうが有難いのだが。
「ヨーロッパの神話で不壊、不死、再生のいずれかの逸話を持つ槍使いの英雄ですか…。パッと浮かぶのはギリシャ神話に出てくるアキレウスですね。彼は母親が女神であり神の血を継いでいて、不死の加護を受けた槍術の名手として有名です。…が、まあ違うでしょうね」
「む、その心は?」
「私の知るアキレウスの人物像とあれとでは全く違います。あれはアキレウスではありません」
「そうか…。スカアハは女神だから違うし…。うーん、ランサーの真名については保留かな…。宝具にアテがついただけいいと思おう」
「はい、そうしましょうか」
「さて………触れたくないもう一騎…」
「うう…私だって同感ですよホントに…何ですか一つの神話の主神って」
オーディン、あるいはヴォーダン。嵐の神とされ、北欧神話における最高神であり、ルーン魔術の祖とされる。今のルーン魔術はオーディンのモノを劣化に劣化させた存在で、文字を描くことで詠唱や魔法陣を省略できる魔術だ。姿は隻眼に帽子を被った老人の姿で描かれることが多い。神々の叡智を得た代わりに片目を失い、以来は眼帯を付けている。グングニルという武器を所持し、その槍は目標に対し、百発百中なのだという。二羽のワタリガラスを従えていて、最後はラグナロクで一番にフェンリルによって食い殺されることになる。
そして、騎馬として
「…いや無理だって。キャスターよりキャスター名乗れるぞコレ。つよそう(現実逃避)」
「いやいや、戻ってきてください。真面目に分析しないと本気で負けますよコレは」
二人で揃ってため息を吐く。やってらんねぇよ。英霊同士の戦いに神霊が主神が出てくんな。こういうのを子供の喧嘩に親が出るって言うんだろうか。トキワの森にアルセウスがいるかボケ。
「…とりあえず、何か気づいたことありますか?マスター」
「…使い魔で向かわせていた時に上空に見えた厚い雲。東京には特に雨などの予報は出ていなかったし、晴れると予測されていたはずだ。それが、恵比寿上空のみ雲が出ていたというのは、オーディンの嵐の神としての権能を
発揮させていたんじゃあないか?ランサーに攻撃していた時は雷で牽制をしていた。公園のなぎ倒された木も同じ方向に広範囲の木が倒れていた。風を叩きつけて薙ぎ倒したと考えれば納得がいく。実際に姿も神話に語られるそのままだったしな。だけども…」
「ええ、聖杯戦争では神霊の召喚はできないはずなんです。そもそも英霊召喚は世界に小さい穴をあけてこちらに運ぶといった形で行われます。ですが、その穴は小さく、存在の大きな神霊が通ることはできないのです。例外は人から神になった者、神と人との混ざりもの、神に由来する加護を持つことなどで神性を持つ者もいますが…」
「オーディンは神話の頂点。召喚されるはずがないってことか」
黙って首肯するキャスター。ふむ…。
「他には何かあるか?何でもいい。何か気づいたことが」
「ええ。そうですね、私としてはオーディンはライダーのクラスで現界していると考えているのですが、そうすると、私には少し違和感を感じるのです」
「違和感?なんだ?」
「オーディンには確かにユグドラシルで首を吊った逸話があります。自分を殺した生物を宝具にするとすれば、ライダークラスとして現界することになるのですが、オーディンにはユグドラシルの他にも騎乗生物として候補があるのです。大神を喰い殺したフェンリル、そして騎馬として愛用していたスレイプニルの存在です。より、オーディンの騎獣として相応しいのはスレイプニル。次点でフェンリルになるでしょう。いくら首つりの逸話があるとしても、実際に死にかける程度でユグドラシルを宝具に出来るかという疑問が残ります」
「…なるほど。確かにそうだな」
「それと、ユグドラシルの樹は世界を支えた世界樹です。あのサイズでは世界樹は違和感があります。…宝具になったこと、サーヴァントとなったことなどで劣化していると考えれば、まあ納得できますが…」
「デカいと言えばデカかったけどな、世界を支えられるか?ってなったらダメだなあれは」
「私にはこれぐらいしか浮かびませんでした。申し訳ございません」
「いや、僕も同じだから気にするな」
この日はこの後も議論を続けたが特に分かったことはなく、そのまま終了した。
床に就きながら思索を巡らす。
あれが聖杯戦争。あれが英霊の戦い。勝ち残れるだろうか。この僕に、
(大丈夫ですよマスター。私たちなら勝てます。大丈夫です)
漏れ出た思考にキャスターが応える。自分たちなら勝てると。恐ろしく強力なサーヴァントを見たというのに、キャスターのその言葉が僕の心を解きほぐす。安堵しながら瞼を閉じる。
(それに、キャスタークラスには芋り戦法があります。それと漁夫の利作戦を併用すればドン勝ビクロイ間違いなしですよ!)
「台無しだよコンチクショウ!」
性癖バレ←僕っ娘
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
4話
あとタイトル変えました。
島崎彰は魔術師である。これは紛れもない事実であり、彼は一般社会に溶け込んだ異端者なのだ。彼は古くから続く歴史ある魔術の家に生まれた。長男である彼は幼い頃から父に英才教育を施された。今では1人立ちを認められており、今回の聖杯戦争も、息子を信頼する島崎家当主が直々に聖杯を勝ち取ってくることを命じたのだ。
そして、彼はキャスターを召喚し、聖杯を得るために聖杯戦争の渦中に飛び込んだのだ。
~~二日前~~
「キャスター、ここが僕がメインの拠点にしようと思っている場所だ」
「…えぇ?ここを拠点にするのですか?嫌なのですが」
「ワガママ言うなよ。日本だと住めば都って言葉があるんだぞ」
僕が事前に調査し、選んでいた拠点。それは下水道だった。勿論臭いし汚い。この場所は下水処理場の近くにあたるから下水が集まっている地点だ。当然ともいえる。
「確かに魔力を集めるって意味じゃ、いいかもしれませんがこうも汚いと私たちの士気にも関わりますよ。これなら以前居た廃ビルのほうが良いかもしれません」
「そうだな。ここら辺は汚いし臭い。床はカビやヘドロがついてるし、ネズミだとかの死骸なんかもよく落ちてる。…そこでキャスター、君のスキルならこの床や壁をきれいな石に出来るだろ?それを使うんだ」
「…いえそんなことのための、掃除のためのスキルではないのですが…はい、分かりました。確かに地下ならば対軍でもなければ破壊されることはないでしょうし、魔力の拡散も少ない。臭いなども魔術を使えば消せるでしょう。死骸や瓦礫のようなものは私の使い魔で片付けましょう。…とりあえず、それで当面は大丈夫なはずです」
よっし、さすがはキャスター。こういう微妙な作業を使い魔にもやらせられるし、宝具を使わない限り魔力消費はほとんどないしホントにいると助かるサーヴァントだと思う。キャスター最弱の時代はもう終わりですよクォレハ。
お掃除中
「すごいな陣地作成スキルってのは!こんなに立派な拠点になるなんてな」
「ええ、少し頑張らせていただきました。これはもう下水道に見えませんね」
「作業を横で見てなきゃとてもじゃないけど信じられないね」
キャスターの手によって整えられた新拠点は白い石(大理石かなんかか?)を床や壁に使った、バラエティ番組で見る大金持ちの家みたいな美しい景観になっていた。
「勿論ただきれいなだけでは拠点として機能しません。防衛用の設備として、ゴーレムを常に配備して警戒させています。サーヴァント相手ではあまり持ちませんが、私たちが態勢を整えるための時間稼ぎにはなります。万が一のための機能ではありますが、道連れにするための自爆機能も付けてあります」
自爆…!?…ふっ、わかってるなキャスター。目でテレパシーを送る。フードを被っているが首を傾げたのはわかった。
そういえば、と前置きしたキャスターが思案した様子でこちらを伺いながら言う。
「今更と言えば今更なのですが、学校でしたか?行かなくてもいいのですか?」
「あぁ一応旅行って名目で休んでるけど…まぁこの戦いが終わったら実家に戻ることになるみたいだ。多分、復帰は厳しいだろうな」
負けたら死ぬ。敗退しても殺されるだろう。勝利だ、勝ち抜くことでしか僕が生き抜く道は存在しないのだ。
「そうなのですか…。友人と別れてしまうのは寂しいもの、と聞きます。生憎私にはほとんど友人と呼べる者はおりませんでしたが、マスターはせめて悔いの無いように」
そうだな。といって話を切る。何か言いたげなキャスターの視線を感じたが、努めて無視をした。胸には重たいしこりと憂鬱さが残った。
???side(2日後)
「異界の知識とは恐ろしいモノだね。私には君のことが開けてはならない箱に見えてしまう」
その割には興味津々といった顔をしているね。主人よ。
「当然だ。私に限らず、根源への到達を目指す魔術師ならだれでもこうなるだろうさ。君は当初思い描いていた根源への足掛かりにはならないが、結果的にその知識を見ることが出来たなら十分な収穫さ。根源への到達には私だけでは足りない。まあ魔術師は足りないものは他から持ってくる生き物だ。聖杯の願望器の力があるなら両方を手に入れることも夢ではない。ふふ、君を召喚することが目的だったが、優勝しなくてはならない理由が出来てしまったね」
そうか。まあどっちでもいい。
「そうなると、君の宝具が重要になるね。バーサーカー、昨夜の戦闘はどうだ。なにかわかったか?あのサーヴァントたちについて」
無論である。私の
「…ふむ?隠蔽、偽装の宝具か?とりあえず分かったことを述べたまえ。君が得た情報を」
ああ、まずはランサーの真名だが―――――
sideout
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
5話
三人称視点
時期で言えばライダーとランサーが戦闘していた次の夜。場所は渋谷区代々木公園。一般人は魔術師による暗示により近づけなくなった夜の公園に一つの人影があった。殺気のような危険を感じさせる空気は普通の人間には耐えがたいだろう。
「…ふむ、安心した」
公園の中、一人佇む影が呟いた。
「いやなに、昨日の戦いに魅了されたのは儂だけとは思えなんだ。故にここで挑発して待っていた。我が主人も見つけやすいようにして下さったようでな。来てくれて嬉しいぞ」
独り言、ではない。彼は誰かに向かって言葉を投げかけている。では誰か。
彼の目の前の空間から滲み出すように一人の男が現れる。
「あんな風に誘われれば行かずにはおれんよ。少なくとも某はな」
現れたのは日本刀を腰に携えた精悍な侍武者。鋭い殺気の籠った切れ長の瞳が影を射抜いた。
武者の風体を見た影が言葉を紡ぐ。
「その持っているのは日本刀か?ならば貴様はセイバーのクラスか」
「うむその見立て通りよ。某は此度の戦に於いて剣士の器で以って限界した。そして我が真名は明かせぬ。名乗りを挙げんのは武家の者として悪いがな。許せよ」
「かかか、構わん構わん。儂も名を名乗るつもりは無いからな。こういうのを日本国ではお互い様と言うのだろう?気にする必要はない。ああそれと、平民共に関しても問題ないぞ。主人が術にて人払いをしてある。これで心置きなく戦えるであろう」
豪放な声の男の声が響くと、影がその姿を月下に晒す。
その姿は獅子の如し。顔には大きな爪痕が残り、白い髪と髭を揺らす大男。纏った鎧は金色に赤のマントを羽織らせた中華風の剛健な作りであり、醸し出す覇気は揺らめく陽炎を幻視させる。
「…ほう、名のある兵法者と思えば獣の類だったか」
並みの人間なら途端に竦みあがるその威圧を受けた武者。獣狩りとな、寧ろ願ってもない僥倖なり。と声をあげる。
「おうおう!よく吠える!ならば儂の槍を受けさせてやろう!さあその刀を構えよセイバーよ!儂は此度の聖杯戦争にてアーチャーのクラスにて現界せしめた!」
「む?弓兵だと?いや、悪いな。始めようぞ」
刀を抜き放ち下段に構える武者、セイバーに対し、身の丈ほどの槍を虚空より取り出した大男、アーチャーは大上段にて槍を振り回すと、切っ先を武者に向け突貫する。
「フンッ!」
空気すらねじ切る、勿論当たれば死は免れない。そんな槍を武者は首を右に傾け、更に沈み込むように身体を落とし躱しきる。落とした身体はそのままに左の足に斬りつける。それを垂直に飛ぶことで避ける大男。身体を飛びながら回すことで武者の居る空間そのものを薙ぎ払う。先の突きに対して面積の広い薙ぎ払いを武者は刀を前面に構え、後ろに飛びずさりながら受けて絶死空間より離脱する。
「――フゥッ!」
敵の攻撃の衝撃も利用し距離を置く武者に、大男は今度は跳躍しつつの槍の振り下ろしを行う。武者は瞬時に相手の着地点を予測すると
「ぬぅッ!」
武者は攻撃の隙をつき、無防備を晒した大男に刀による斬撃を浴びせる。たまらず呻く大男。
「ちょこまかとッ!」
「生憎だが、貴殿の槍を食らえば畳み掛けられて詰まされるのは先に槍を受けた時に理解した。不用意に近づく愚は犯したくないのでな」
大男の攻撃した隙を突き、一撃加え即離脱。武者の攻めは侍の戦いというよりは忍びの者が戦おうとする時の一撃離脱戦法に似ていた。勿論、忍びの様に罠や搦め手を組み合わせた蛇の様な攻めではないが、大男の急所を狙い、狙うのが難しいのなら末端の四肢や肩などから切り崩していくその戦い方は大柄で隙の大きい大男には効果的にはまっていた。
しかし、
「蠅のようにブンブンと…鬱陶しいわッ!」
大男のフィジカルはその小細工を無視して強引に武者の防御を突破する。
「ハッ、捉えたぞ!」
武者が飛び退るのと同時に大男は追い縋る。武者の跳躍しながらの斬り払いに大男は怯まず、腕の肉を斬り付けられつつも武者の左腕を掴む。そしてそのまま、武者を振り回し地面に叩きつける。
「はぁッ!フンッ!ドラァッ!」
「カッハァ…ッ!」
小規模なクレーターが出来るほど叩きつけ、このままとどめまで刺してやろうと考える大男は、急に襲い来る悪寒に従い、武者を放り投げるとともに後ろへと跳躍する。
「…ぐ、この距離で避けるか。目がいいのか…或いは勘がいいのか。素晴らしい技量だな」
投げられた状態から身体を翻し、砂煙をまき散らしながら着地する武者。だが、口からは血が零れ、低くはないダメージを負ったことが見て取れる。
「言いよるわ。お主、あのまま叩きつけていたら何かするつもりであったろう」
「さて…どうだろうな」
「ふん、その言い回し、友を思い出すな。…まあいい」
大男は槍を手元から消し、身を翻す。
「む。もう終わりか?まだ舞えるであろう」
「生憎だが、今の儂は宝具を使えん。であれば、貴様の有利は決まるわな。だが、儂は此度の宴を勝利すると決めている。ならばこの戦いを持ち越すことが最良と判断しただけのことだ」
「存外、理性的な判断をするのだな」
うるせぇ。と吐き捨てつつ、霊体化し帰還するアーチャー。
一人残されたセイバーは呟く。
「しかしあれで弓兵とは…某を投げたことしか飛ばしているところがないではないか」
詐欺もいいところだ。といった感想を抱きつつセイバーの方も自らの拠点に帰っていった。
「え!?バリバリ日本の英霊っぽいんですけど。聖杯戦争にキリスト教圏以外の英霊も召喚できるのかよ!?」
なんて絶叫する魔陣営のコンビがあったとか。
聖杯戦争には様々なルールであったり、制限などが存在する。
例えば、令呪の存在。例えば、クラスの存在。例えば、
「キリスト教圏の英霊しか召喚出来ない、ということ。であったりな」
僕が聖杯戦争に参加するにあたり、事前に調べた文献資料によると、聖杯戦争は
「ってことは、あのセイバーは長崎出身のキリシタンの英霊なのか?」
「いえ、そうとは限りません。」
隣で考えこんでいたキャスターが言う。
「この聖杯戦争は
…マジスか…?
「え、じゃああの、オーディンも…?」
「あ、いえ、オーディンに関しては、神霊を召喚出来たのはおかしいです。そこは間違いありません」
「そうなのか…まぁオーディンのことは昨日話した以上のことは出ないだろうから置いておくとして。他に何かオリジナルから違うところはあったりするのか?」
もしそういうことがあるのなら知らなければ。キャスターがフードを揺らしながら思案する。やがて自分の中でまとめ終わったのか、今回の聖杯戦争について話しだす。
「召喚の手順というか、方法がが少し変わっているようです。本来はそのクラスで呼ばれることがないサーヴァントも、違う枠に入れられ召喚されることがあるようです。まぁ、オリジナルの記録を見る限り、そう珍しいことでも無いのやもしれませんが。抜け穴を突くのは当たり前、のようですから」
「サーヴァントとの契約も少し変化しています。本来なら、令呪とサーヴァント契約は別物ですが、今回の聖杯戦争では令呪を介した契約になっているみたいですね。つまり、令呪を使い切った場合、その瞬間、契約が切れ敗退が決定します」
「世界と電子によって繋がれるようになった時代のため、後世の誇張による影響を強く受けている、という変化もございます」
「例えばーーー」
「ーーー」
「ーーー」
「色々な変化がありますが、殆ど同じです。けれど、一部変化があると覚えておく必要があるでしょう」
「なるほど…。これらの差異が僕達の作戦に影響を及ぼす可能性はあると思うか?」
「ない…とは言い切れません。私の宝具は相手の理解が要になります。間違った情報を得てしまった場合、起きる齟齬は私達を敗北へと追い込むやもしれません」
「そう、か…」
どうするべきか…。作戦を変更するか、続行していくのがいいのか。未来はわからないが、僕が生きられる道は全てに勝つことでしか得られない。それは嫌だ死にたくない。
死への恐怖に苛まれる。
聖杯戦争で敗北したら死。敗退して生き残っても死ぬだろう。かといって逃げ出すことも無理だ。細い生への道が、閉ざされていく感覚が僕に絶望感を与えてくる。結局、僕には死の運命しか…。
瞬間フラッシュバックする記憶。
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌い「私が付いてます」
スッと耳に入った言葉に驚き、目を瞠る。
こちらを向いたキャスターが被っていたフードを上げ、僕を抱き寄せる。
「貴方を殺させやなんてさせません。私が貴方を守ります。守らせてください、マスター」
キャスターは大理石のような真っ白な髪をふわりと靡かせ、僕へと微笑む。思わず息を止めた。
「家のことだろうと何であろうと、私が貴方を守ります。だから、私を信じてください」
ハッと呼吸を取り戻す。
それはキャスターの言葉が嬉しかったから、よりも
「…キャスター」
「はい」
「おまえ、お前は…!
何よりも知られたくない己の弱さ。それを知られてしまった!
「ま、マスター…?」
戸惑った様子のキャスターなど気にならない。踵を返して今まで居た部屋から出る。大きな音を立てて閉められたドアが怒りの丈を示していた。
「マスター…」
残されたキャスターは主人の記憶を、夢という形で見てしまった自身の主人の心配を抱えたまま、呆然とすることしか出来なかった。
くそくそくそ!
何故とどうして、がリフレインする。
精神を不安にさせる感情が溢れる。キャスターへの怒り、聖杯戦争を生き残れるかの恐怖、そして、逆らえないトラウマ。
理不尽な怒りは止めどなく。
だけれど1番度し難いのは。
ーーーキャスターの言葉に救われた己の弱さだ。
ちなみに、殆どの陣営がこの戦闘を見てました。
初めての感想を頂きました。とても嬉しかったです。
見直していたら色々と粗があるなぁというのが分かりました。あと、小説情報のとこをいじってたら読んでくれた人の数が見られるというのがわかったんですが、あんまり呼んでくれる人がいないなぁと感じまして、
そこで、一旦連投をやめ、代わりに全く別のかるーく読める短編を作って名前を売ってみようと思います。
もし、この小説を楽しみにしている方がいらっしゃったら少々お待ちください。
目次 感想へのリンク しおりを挟む