元・魔王の成り下がりヒューマンライフ! (新日地 祐西)
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小さな魔王

3年前、この世界は魔王に滅ぼされかけていた。

 

魔王とは膨大な魔力を持った魔人であり、全ての種族の敵である存在だ。

 

魔王は突然現れて魔王は多くの街や村を壊滅させ、多くの種族を絶滅寸前にまで追い込んでいた。

 

そんな魔王の暴挙に人々は絶望した。

 

そして人々はひとつの伝説に頼った。

 

それは勇者という存在。

 

魔王という悪の存在に打ち勝つことのできる者。

 

伝説には勇者召喚という極上級召喚魔法で勇者を呼び出さなければならない。

 

それは異世界から呼び寄せるものだという。

 

生き残った魔法使いが魔力を全て用いて呼び出した結果、3人の勇者が召喚された。

 

1人は剣の勇者として、1人は魔法の勇者として、そして1人は格闘の勇者として。

 

勇者たちは3年の時をかけて魔王から奪われた土地を全て取り戻し、ついに魔王城へと乗り込んだ。

 

結果、3人は魔王城をうち壊すことに成功した。

 

人々は3人の勇者を讃え、近くの村で魔王討伐を記念する祭りが続いた。

 

しかし、勇者の3人もこの世界の人々も知らないことがあった。

 

それは、魔王は倒せていないということ。

 

もちろん勇者たちはとどめをさしていた。

 

しかし、魔王は生きていた。

 

ただし、魔王としての全ての力を失って。

 

 

 

 

 

祭りが始まったころ、勇者によってうち壊された魔王城のなかで瓦礫が動く。

 

中から出てきたのは青紫の髪にルビーのような赤い目を持った少女であった。

 

少女が立ち上がると、ふらつきながらも追い詰められた様子でその場を立ち去っていった。

 

腰まで伸びた髪をなびかせながら走るその後ろ姿はただの幼い少女にしか見えない。

 

しかし、その少女こそが世界を震撼させた魔王であった。

 

 

 

しばらく走った彼女はある村へたどり着いた。

 

そこはかつて魔王としての彼女が壊滅させてしまった村であった。

 

そこでは祭りが開かれていた。

 

村では大人も子供も魔王の脅威が去ったことに安心しているのか嬉しそうであった。

 

「──っ!」

 

彼女はとっさに木の後ろに隠れた。

 

その視線の先には魔王としての彼女を滅ぼしたあの3人の勇者がいた。

 

彼女は逃げたいと思った。

彼女は恐れた。 見つかることを、殺されることを、しかしなによりも ──

 

 

不意に声をかけられた。

 

彼女と同じくらいの少女が話かけていた。

 

「おまつり、いかないの?」

「まつ…り…魔王を倒した、から?」

 

少女は首を傾げながらもうなずいた。

 

彼女は急ぐようにそのまま少女から立ち去ろうとするが、手をするの掴まれる。

 

振り向くと、少女が笑いかける。

 

「かなしそう、わたしとおまつり、いこう?」

「…」

 

すると少女は悲しそうに顔を歪める。

 

「すこしだけ」

 

彼女はため息をつくと渋々

 

「わかった。少しだけ、ね。」

 

少女は途端に笑顔を弾けさせた。

 

「わたしはスティ!」

「…ヘレ…ストナ」

「よろしくね!」

 

彼女、ヘレストナはまだ警戒するもののほんの少しだけ緊張を解いて名を名乗った。

 

 

それが過ちであったことに気付かず。

 

 

ヘレストナはこう思っていた。ほんの少しだけならばれないと、ほんの少しだけ楽しみたいと。

 

楽しかった。初めて人間の祭り、というものに参加して。

 

 

 

しかし、その時間は長く続くことはなかった。

 

 

 

「スティ、その子誰?村の子じゃないよね?」

 

若い女が話しかけてきた。

 

ヘレストナは声を聞いた途端硬直し、スティは駆け寄っていった。

 

「こんばんは!魔法の勇者さま!」

「あぁ、こんばんは。祭りはどうだった?」

 

その人物はなんと、魔法の勇者であった。

 

「おまつり、たのしかったよ!つぎはあのおみせにいくの!いこうヘレストナ!」

 

ヘレストナは重大なことを思い出した。

勇者たちは魔王の名を知っているということを。

 

ヘレストナ、という名を聞いて魔法の勇者はピクリと反応した。

 

「ヘレストナ、だって?…青紫の髪にその赤い目、それに…」

 

魔法の勇者はヘレストナの細い首につけた首飾りをみる。

 

ヘレストナは無意識に首飾りに手を伸ばす。

 

その首飾りかつて昔に作られた勾玉というアクセサリーに似ていた。

 

ただし、その首飾りの石は逆さまであった。

 

これは、魔人にとっては『堕ちた魂』として魔王勢のシンボルであった。

 

「…間違いない。外見は違うが、お前は魔王ヘレストナだな?」

 

魔法の勇者は先ほどのような穏やかな声とはうって変わった緊迫した声になる。

その目は魔王であった彼女に向けた鋭く冷たい目であった。

 

「何で生きているんだ?何を企んでいる」

 

周りの祭りの活気の中、この3人の場の空気だけが凍りついた。



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再会

お久しぶりです。
二話目の投稿です。
題名の通り再会します。


「何で生きているんだ?何を企んでいる」

 

周りの祭りの活気の中、この3人の場の空気だけが凍りついた。

先に口を開いたのはスティであった。

 

「ヘレストナ…?」

「スティ、そいつから離れなさい。」

「へ…?」

「離れなさいといっているでしょう!」

 

状況についていけず動けないスティに魔法の勇者が一喝する。

スティはビクッと身を竦ませ両目にみるみる涙をためた。

周りの人々はこの状況に気づき、いつの間にか囲むように野次馬が群がっていた。

もちろん他の勇者も。

 

「カグヤ、どうした?こんな切羽詰まった大声出して。まさか魔王が復活したわけじゃぁないしな。」

 

と片方の男、剣の勇者が軽口をたたく。

魔法の勇者、カグヤは彼を睨み付け、ヘレストナを指差してただひと言

 

「魔王ヘレストナだ」

 

途端、残る2人の勇者は剣、拳を構えた。

 

「リツ様、ナオヤ様、カグヤ様どうなされたのですか?」

 

野次馬の中の1人が慌てて聞く。

 

「魔王だ。何故生きているのかは知らないが、何か企んでいるのだろう。」

「…違う、私は…」

 

「違う?なにがだ。オレらに気づかれないように魔力隠して、外見変えて…復讐でも考えてオレらに近づこうとしていたんだろう。」

「さすがは魔王、狡猾だな。」

 

誰もヘレストナの話を聞こうとしない。

確かに魔力を抑えてはいるのだが、魔王としての魔力は全て失っているのだ。

残ったのは魔王になる以前の魔力だけ。

今のヘレストナはただの魔人だ。

 

復讐は一切考えてなどいなかった。

ただ、彼らに近づこうとしていたのは事実ではあった。

ある重要事項を伝える為に。

 

「話を聞きなさい。」

 

焦る気持ちを抑え、魔王の時のようなあの時の冷徹な声を出す。

こうすれば聞いてくれると信じて。

 

「誰がおまえなんかを…」

「聞きなさいといっている。」

 

その声は決して大きくなどない。

しかし、この場にいる全ての人々の耳に届いた。

 

「私は忠告をしに来ただけ。これから言うことは1度しか言わないから聞きなさい。」

 

勇者たちは魔王と対峙したときのような強大な魔力は感じていなかった。にもかかわらず、誰もが動くことができなかった。

 

長いようで短い緊迫したなか、1人の人間が魔王の前に出てきた。

 

「ひどいこと、しないで。ヘレストナはわたしのともだちなの」

 

スティはヘレストナの前に立ち、両手を広げた。

ヘレストナを守るように。

 

その事には誰もが驚いた。

魔王の味方をする、ということは3勇者を敵に回すということに等しい。

ヘレストナは思わぬ味方に驚き、動揺した。

 

「す、スティ私から離れなさい。」

「いや」

「スティ」

「ぜったいにいや。」

 

ヘレストナの言うこともましてや勇者の言うことも頑として聞かず、ヘレストナから少しも離れることはしなかった。

 

勇者をはじめとする人々だけでなく、ヘレストナまでもが動揺する。

 

「…今の話を聞いていたでしょう。私は魔王。だから守る必要なんて…無い。知っているでしょ、魔王がどんなことをしていたのか。」

 

スティは少し怒ったように振り向く。

 

「まおうがしたことはしってる。でもいまはヘレストナはわたしのともだち。みすてられないよ。」

「ヘレストナが魔王とわかっていて言っているのか!?」

 

スティはカグヤの言うことに自信満々に頷く。

 

「うん!だってヘレストナやさしいもん!」

 

誰もがスティの言ったことに疑問を持った。

 

ヘレストナはスティに優しくした覚えは一切なかった。

なのに、スティは優しいといった。

 

「優しくなんてない」

「でも、ヘレストナは…」

 

スティがいいかけた時、

 

「ヘレストナ様ご無事ですか!?」

「あなた…?!」

 

声のした方を振り向くと、野次馬の中から出てきた黒色のローブを羽織り、フードを深く被った若い男がいた。

 

「嗚呼、ヘレストナ様ご無事で何より」

 

男はフードを脱ぎ、顔を露にした。

 

「誰だ!」

「おお、申し遅れました。わたくしはヘレストナ様の幹部であるテルクナロク、と申します。」

 

一瞬の静寂、そしてその一瞬後ざわざわと騒々しくなる。

無理もない。

魔王だけでなく、その魔王に次ぐ実力を持つ幹部までもがこの村に現れたのだから。

 

「テルクナロク。私はもう魔王ではない。だから10年前の契約は無効だ。」

「ええ、わかっております。しかし、わたくしは貴女についていく事を10年前のあの日に決めていました。契約が無効になっていたとしても今までと気持ちは変わりません。」

 

テルクナロクはヘレストナの前に跪いた。

 

「私は魔王でない上にあの勇者よりも弱い存在となった。それでもついていくのか?」

「ええ、勿論。」

 

ヘレストナの問いにテルクナロクは間を空けず瞬時に答える。

その答えにヘレストナはホッとしたようにほんの少し微笑む。

 

「そうか…」

「ところで、ヘレストナ様。どうするのですか?」

「なにがだ?」

「世界征服のことです。」

 

この場の空気が張り詰める。

ヘレストナはため息をついて周りを見回す。

勇者が構えるのは勿論、村人の男たちは鍬や斧等を持ち出したり、女子供はいつの間にか家の中に隠れている。

スティの方は両親に抱えられ家の中へと連れていかれているのが見えた。

 

「はぁ、私はもう世界征服など考えてなどはいない。」

「では、何故このような所に居られるのですか?」

「…これから話す事は全魔人を敵に回すことになるかもしれない。それを知ってでも聞くか?」

 

この問いにも素早く答える。

 

「ええ、勿論。わたくしは何処までも貴女に付いていきます。」

「ならば良い。…勇者共、お前らも少しこちらへ来い。重要な話だ。」

「…」

 

警戒している勇者たちを近くに呼ぶ。

 

「私が魔王となったすぐに世界を征服しようとしていたことは知っているな。」

「ああ」

「ならば、私が魔王となったすぐ後に動き始めた1人の人物は?」

「そういえばいましたね。アルディス…でしたね。ヘレストナ様の側近となった。」

 

テルクナロクはムスッとして答えた。

 

「そうだ。アルディスは霊媒術の使い手で、私の…育ての親だ。」

「なんですと!?それは初耳です。」

「…で、そのアルディスとやらがどうしたんだ?」

「…それは」

 

剣の勇者リツの問いにヘレストナが答える前に誰かが答えた。

 

「私がどうかしたのかい?」

 

ヘレストナが振り向くとそこには長い銀髪をなびかせた美しい顔立ちの人物がいた。

声と体つきからして男のようだ。

 

「…!私を追ってきたのか!」

「そうだよ。『娘』の安否が心配でね。」

「アルディス…!貴女に私の事を娘と呼ぶ資格など無い!…黒炎《ヘルブレイズ》!」

 

ヘレストナはアルディスに強い憎しみを込めて魔法を放った。

しかし、その魔法はアルディスが腕を一振すると、四散してしまった。

 

「かわいそうに…こんなに力を失ってしまって…でも大丈夫。また力を授けてあげるから。」

「そんなものもう、要らない!」

「授けるってまさか…ヘレストナお前、あの力は霊の力だったのか!?」

 

声を荒げた格闘の勇者ナオヤだけでなく、他の勇者や人間たち、そしてテルクナロクさえも声がでなかった。

当のヘレストナとアルディス以外、誰も魔王ヘレストナの強さは霊によるものだとは思ってなどいなかったのだから。

 

「私への弾劾は後でいくらでも受ける。だから、今はアルディスを倒す事に協力してくれ!」




大体このくらいのを2~3週間くらいで以後、進めていきたいと思っています。


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脅威の『親』

「私への弾劾は後でいくらでも受ける!だから、今はアルディスを倒す事に協力してくれ!」

 

 勇者たちに向けて叫ぶヘレストナ。

 

「ヘレストナ。お前が私たちを騙しているという可能性がある。だから、信用できない。」

 

 カグヤはそう言い放ち、魔法を放つために魔力を高めを始める。

 リツとナオヤはそれぞれアルディスの様子を伺いながらじりじりと迫る。

 でも、とカグヤは続ける。

 

「今は緊急事態だ。こいつを倒すまでは協力はしてやる。だか、そのあとにしっかりと処罰は受けてもらう。そこの部下と共にな。」

「ああ。だが、処罰は私だけだ。事態がこうなったのは全て私のせいだからな。」

「いえ、それは認めません!不肖このテルクナロク、貴女の選ぶ道、共にゆきます!」

 

 ヘレストナが言ったことにテルクナロクは慌てて反対した。

 その様子を勇者たちは一瞥すると、目の前の敵に集中する。

 

「そんで?お前さんはそこのヘレストナをどうしようとしているんだ?」

「言っただろう、あの子に力を授けてあげるって。あの子は力を望んでいた。子が望むものを親である私が叶えてあげているだけなんだが。」

 

 するとヘレストナは怒りを露に叫んだ。

 

「言ったでしょう、もう、力を望んでなどいないって。貴方は魔王を生み出して貴方の望む世界を造り出そうとしていたみたいだけれど、もう言いなりになどならない!私は貴方を親とは認めない!それどころか私の仲間とも認めなんかしない!」

 

 言い終えるとアルディスはほんの少し顔を歪めた。

 その顔は子に裏切られたという哀しみに見えたが、ヘレストナには思い通りにならなくて不快になっているようにも見えた。

 それを見て感じたヘレストナは余計に憤る。

 怒りに身を任せて魔法を放とうとするが、テルクナロクに止められる。

 

「…何故止める。」

「怒りに身を任せてはいけません。もう少し冷静におなり下さい。」

 

テルクナロクに諭され、ヘレストナは少し冷静になる。

 

「…ヘレストナ、その者たちは…勇者では。何故共にいるのだ?」

 

アルディスはと勇者たちを見ると眉をひそめる。

 

「勇者は我ら魔人の敵。そう教えたはず…何を考えている、ヘレストナ?」

「勇者は私たち魔人の敵?歴代の魔王たちが勝手に人界へ侵略し、それに人間たちが抵抗して勇者たちを呼び出した。人間たちは被害者であっても決して敵などてはない。」

 

ヘレストナが言葉を続けるうちにアルディスは段々と不快そうに顔を歪める。

それに、決めたんだ。とヘレストナは言う。

誰もが考えもしなかった言葉を。

アルディスの『親』という仮面を剥がす決定的な言葉を。

 

「私は魔王という立場を捨て、人間たちと生きると。人間たちと魔人たちの共生を結ぶと。たとえ、どれだけの時を掛けようとも。」

 

「フフフ…フッハハハハハ」

 

言い終えるとアルディスは突然、笑いだした。

 

「ハハッ…あろうことかそんなことを考えていたとは。子供の発想は面白いなぁ。でも…」

 

ヘレストナに過去に一切見せたことがない殺気を込めた鋭い視線をヘレストナに向ける。

 

「そんなことは絶対にさせるつもりはない。私はそんなことを望んでなどいないからな。」

 

ヘレストナ以外には一切視線を向けてはいない。

しかし、周りのはアルディスの威圧に動けない人たちがいる。

近くにいたスティも例外ではない。

 

「う…あぁ」

「な、何なんだコイツは…魔王とは似て非なる感じがする…」

 

周りが動けずに呻くなか、ヘレストナを睨むアルディスとアルディスを睨むヘレストナ、テルクナロク、そして勇者たち。

何十秒もの時間が過ぎた後、遂にアルディスが動き出す。

 

「ヘレストナ、私にはお前が必要だ。私がなんと言おうとお前が考えを曲げないことはわかっている。育ての『親』だからな。だから、力ずくでもお前を必ず従わせる。」

 

親という言葉を強調して言うアルディスに対してヘレストナは眉間にシワを寄せる。

そして無言で腕を天に向ける。

すると、ヘレストナを中心に魔方陣が現れる。

 

「これは…結界か?」

「魔法…思いっきりやれ!」

「魔王が私に指図するな!…いけっフラーザ!」

 

カグヤが叫ぶと彼女の手から黄金色の光線が飛び出る。

光線は真っ直ぐ、そして速くアルディスに向かっていく。

かなりの速さに回避は不可能だろう。

そして、光線はアルディスに、正確にはアルディスの顔に当たり、その衝撃に土が舞い上がる。

 

「…やった…か?」

「……」

 

カグヤの疑問にすぐ答える者はいない。

しかし、その疑問には言葉でなく砂ぼこりから現れたものを見ることで晴らされ、そして誰もが驚愕する。

 

「なにっ!?」

「…マジかよ…」

 

砂ぼこりが晴れたその場所にいたのは、

 

「…なんだい、今のは?まさか今のが君の全力の魔法だなんていわないよな。」

「そ、そんな…」

 

得意とするの魔法の直撃を受け、生きているどころか無傷で立っているアルディスを見てカグヤは気力を喪失してしまう。

それもそうだ、今の魔法はカグヤにとって一番強力である魔法だったのだから。

 

「彼に魔力耐性があったとはいえ、ここまでとは…」

 

アルディスの能力の一部を知っているヘレストナでさえも絶句する。

 

「さあ、どうするヘレストナ?」

「貴様…!ヘレストナ様に何を…」

 

激昂するテルクナロクの言葉は途中で霧散する。

アルディスが霞むほどの早さでテルクナロクの首に手を当てる。

 

「黙れ…ここでは貴様には発言権は無い。」

「…っ!」

 

テルクナロクは声を発しようとするが、アルディスが何らかの魔法を用いたのか口をパクパクと開閉させるだけで声が出なかった。

それを見た勇者たちは顔に出さなかったものの驚いた。

魔法耐性が強いだけのただの霊媒師であるのだと3人とも戦闘能力は低いと踏んでいたのだ。

 

周りにいた村人だけでなく、勇者、テルクナロクまでもがこの光景に絶望したとき、静かに声を発する者がいた。

 

「アルディス、やめろ…」




次回くらいからヒューマンライフを始めていきたいなぁ、と思っています。


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元・魔王の覚悟

「アルディス、やめろ…」

 

静かに発せられた声に振り向くと、そこにはアルディスを睨むヘレストナがいた。

少女のその小さい指からは黒々とした炎、先ほどの黒炎より遥かに小さく、しかし、それよりもより強力なものであることが誰の目でも明らかであった。

 

「これを見たら、もう諦めろ。」

「それはまさか……ま、待て、ヘレストナ!」

「なっ!?」

「…っ?!」

 

ここに来て、初めてアルディスが慌て出した。

先ほどまで余裕を持っていたアルディスが慌てるほどのヘレストナの行動は、ここにいた誰もが驚くものだった。

 

「うっ…ぐ…」

 

ヘレストナは額にその小さな黒炎を押し当てる。

押し当てた指を離すと、その額には黒い紋章が刻まれていた。

 

「これからは私は人間たちと共に生き、暮らしてゆくことを誓おう。また、魔王の力をまた手にしたとき、この身は黒炎ので骨の髄まで焼かれる事となろう。」

 

ヘレストナが声を高らかに宣言したとき、額に付いた紋章は段々と薄くなり、やがて消えた。

 

「黒印の呪いか…」

「ああ、そうだ。この呪いを解けた者は今だ皆無。もうお前の思い通りにはならない。さあ、ここから去れ。2度と私の前に姿を現すな。」

 

この言葉に驚いたのはヘレストナを除く者達だった。

 

「ヘレストナ、私はまだ諦めないからな…」

 

そういい残してアルディスは煙のように消え去った。

 

「何故今ここで戦わなかったのか!?」

「そうよ!」

「…貴方たち、馬鹿?」

 

アルディスが去って数十秒が過ぎ、ようやく止まっていた勇者たちが我に返りヘレストナに次々と弾劾を浴びせる。

しかし、ヘレストナは振り向いた途端、勇者たちを馬鹿と、そう言い放った。

 

「「「ばっ…?!」」」

「さっき戦って敵わないって思わなかった?今戦えば貴方たち勇者どころかこの村も全滅。さらに勇者のいない状態でそのまま放っておけば、最悪本当に世界の人間たちは消えるかもしれない。」

「ぐ……でも、今放っておけば、他の所から村町を襲う可能性があるぞ?」

 

ヘレストナの言い分は正論ではあったが、それでも納得できないとリツが食い下がる。

 

「ああ、その事なら大丈夫だ。」

 

ヘレストナは

微笑みながら得意気に言う。

 

「魔王の魔力を使って生命を保つのと同時に私の把握出来ている人間たちの村町を結界で覆った。」

「…それは人間にとっては無害なものなのか?」

「結界を張ったのにあいつは入って来たけどね。」

 

そこにナオヤの疑問とカグヤの嫌味が投げられる。

それにもヘレストナは笑って答える。

 

「ああ、もちろん。ただ、同時に数十にも及ぶ結界を張ったことによって薄まって受け付けないのが低位魔人と一部の中位魔人だがな。…結界魔法は苦手の部類に入っているしな。」

「ならこの結界は気休めってとこか…」

「……まあ、そういうことになるか。」

 

ところで、とヘレストナは勇者たちから視線を外すと近くにいるスティ、遠巻きにこちらを見ている村人たちに視線を向ける。

 

「ひっ!!」

 

目を合わせた途端、怯えながら後退りをする。

ヘレストナは少し悲しそうにまた勇者たちに視線を戻すと聞いた。

 

「先ほど言った通り、私は人間たちと暮らしていきたい。願うならば人間も魔人も共に…」

 

「断る!!」

 

ヘレストナが全てをいい終えないうちに誰かが叫んだ。

ハッとして声のした方へ目を向けると1人の少年が走って来ていた。その後ろには少年の姉と思われる人間が家から走り出てきていた。

 

ガツン

そんな音と共に頭に痛みが走る。

少年に視線を戻すと彼の手には拳程の石が握られていた。

 

「お前のせいでおれの…おれの母さんと弟が殺されたんだ!あんだけ殺しておいて次は殺した家族に向かってっ…人間と暮らしたいだなんて……ふざけんなよ!」

 

少年が言う度に石が投げつけられる。

テルクナロクが怒りに燃えながらヘレストナを守ろうと前に出ようとするが、止められる。

 

「……?」

「下がっていろ、お前が私を守る必要は今は無い。」

 

納得しないものの引き下がったテルクナロクを見て頷くと少年に近づいていく。

 

「なっ…なんだよ」

 

姉に止められ睨んでいた少年がこちらから近づいているのを見て姉と共に怯えを見せる。

不意に3歩ほど手前で足を止める。

 

 

「ごめんなさい」

 

数秒の沈黙が流れ、ヘレストナの口から出たのはたった一言の、でも、後悔を滲ませた謝罪の言葉だった。

 

「自分で自分を押さえられなかったとはいえ、貴方の家族を殺し、貴方を傷つけてしまった。」

 

ヘレストナの言うことは一切の言い訳が無く、更には言い終えたすぐに頭を下げた。

これにはヘレストナを責め立てていた少年だけでなく、村人も、ヘレストナの行動に注目し、いつでも動けるように構えていた勇者も困惑した。

 

人間も勇者もまさか魔人という種族が自らの行いを悔やむことを、ましてや謝罪するということをするなんて誰が予想していただろうか。

 

いや、人間の中でたったで1人だけ驚かなかった者がいた。

 

「やっぱりヘレストナはやさしいね。」

「…私のしたことを知っていてなお、どうしてそこまで言う?」

 

振り向いたヘレストナの視線の先にいたのは宴の間、ずっと笑顔を向け続けていて、今も笑顔を向けている少女、スティだった。

 

スティが何故ここまで笑顔を向けてくれるのか、ヘレストナには全く理解が出来なかった。

 

ヘレストナに冷たく言われてもスティはまだ笑顔を向け続ける。

 

「ヘレストナはやさしいから。だってわたし、みんなのこころ、わかるんだもん!」




いつもより少なかった…ですかね?


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スタート

結局4週間ほどが経ってしまいました。
待って下さった方々、ごめんなさい、そして、ありがとうございます(^.^)(-.-)(__)


「ヘレストナはやさしいから。だって、わたしみんなのこころがかかるんだから!」

「この子、まさか能力が発現したのか!?」

 

 

 

人間には魔法以外に1人ひとつ能力を持っている。

何故人間が魔法というものを持ちながらそんなものを持っているのか…

人間は他種族と違い、力や魔法に知恵、技術を持っている。しかし、他種族と比べてそれぞれが劣る。

そのため、力を持たない人間を哀れんで神が授けたという説があるのだが、真相は誰も知らない。

 

 

 

「わたし、わかる。ヘレストナはせかいを、わたしたちをきずつけようってかんがえてない。」

「だが…」

「…どうやらこの魔王の言うことは本当だったみたいだな」

 

ようやく勇者たちは武器を収める。

但し警戒は解かないままで。

 

「スティの能力に命拾いしたな」

「…ああ、本当に」

 

ヘレストナもホッとする。

 

「…にしてもスティ、いつ能力が発現したの?」

「?」

 

スティはカグヤ意味がよくわからないという風に首を傾げる。

 

「つまり、人の心がわかるようになったのはいつなの?そのとき、何をしていた?」

「えーとね、ヘレストナにあったときから」

「魔王と?なんで?」

「ヘレストナ、さびしそうだった。こわがってた。わたし、たすけたいっておもったの。」

 

 

能力は発現するのにいくつか条件がある。

 

1つ目は突発的に何かを強く、今までに無かったほど強く思ったとき。

 

2つ目は長い間、何かを曲げることなく思い続けているとき。

 

3つ目は能力を発現させるための儀式をしたとき。

 

スティの場合は1つ目だろう。

 

 

「いままではじぶんをまもるだけだった。だれかのこころなんてかんがえたこと、なかった。」

「ヘレストナを見つけて気持ちを知って助けたい、そう思ったのか?」

 

ナオヤの言葉にスティは首肯く。

 

「…どうする?」

「あの子がああいうなら…」

「でもアイツだぞ」

 

勇者たちがこそこそと話し始めた。

内容はよく聞き取れないが、恐らく ヘレストナの処分について話し合っているのだろう。

 

 

そして数分後、

 

「ヘレストナ、お前の処分が決まった。」

「お前の要求通り村にいていいが、条件がある。」

 

 

条件というのはこのようなものだった。

 

1、人間に手を出さないこと。

2、必ずどんなときでも勇者と行動すること。

3、村の復興のために人に協力すること。

 

 

「これが呑めるのなら…」

「わかった」

「ずいぶんと即答だな…」

「和解するというのは本気だからな」

 

ヘレストナはテルクナロクの喉に手を当てる。

すると一瞬黒く光り、その光は徐々に消えていった。

 

「声、出せるか?」

「は、はい、出せます。…ヘレストナ様、今のは…?」

「……」

 

誰もが驚く。

無理もない。

何故なら、魔族というのは主に攻撃に特化した魔法や呪い等しか扱わない、いや、扱えない筈なのだ。

 

ヘレストナの魔法は呪いの解除という呪いを掛けた本人又は神官にしかできない筈のものだったのだ。

 

 

テルクナロクの疑問には答えなかった。

 

「テルクナロク、お前は先程の条件を呑めるか?」

 

テルクナロクも何かを感じたのかそれ以上の追及はせず、はい、とだけ答える。

 

「…ということだ」

 

 

「勇者様!本当に魔王や魔人を人の村に住まわすのですか!?」

「…スティは、我が娘は嘘を吐かない。誰でも知っているはず。だから、私たちはスティを信じるしかない」

 

村人の内の1人が叫ぶ。それをきっかけに非難を浴びせる。しかし、答えたのは勇者ではない、別の人であった。

 

「し、しかし村長…」

「スティは嘘なんて吐かないよね。」

「わたしはうそつかない!」

「わかってる」

 

カグヤの言葉に強く肯定するスティ。

村長は微笑んでスティの頭に手をポンと乗せる。

 

「私は魔王を全て信用している訳ではない。しかし、全てを信用していない訳でもない。魔王の言葉が本当ならば、魔人が私たち人間を襲うことが無くなるかもしれん。私はスティを信じてこの賭けに乗る」

 

村長の言葉に非難していた者は全員黙りこむ。

その言葉を聞き、それを見たスティは笑顔を弾けさせた。

 

こうしてヘレストナとテルクナロクがこの村にいることが決定したのだ。

 

 

 

 

 

村の中、まだ辺りが暗く、誰もが眠りから覚めていない中、2つの影が動く。

 

「おはようございます、ヘレストナ様」

「ああ、おはよう、テルクナロク。」

 

ヘレストナ達は村で一夜を過ごした。

村は半壊してしまったため立て直した家はまだ少なく野宿となってしまったが、それでもヘレストナにとっては嬉しいことであった。

 

ヘレストナの人と魔人の共存という願いが今小さくも一歩スタートラインから踏み出されたのだから。

 

「ようやくスタートだな」

 

ヘレストナがテルクナロクにも聞き取れないほどの小さくそう呟く。

すると、ここから崩されてもはや原型を留めていない小さくなった魔王城から日が昇る。

 

 

人々を苦しめ続けた魔王はこの世界にはもう、存在しない。

 

 

今、この瞬間から元・魔王となった魔人の少女ヘレストナの人間との生活、ヒューマンライフが始まる。

 




ようやくスタートです。


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魔王誕生話

何かちょっと張り切ったらいつもより長くなってしまったような…


「魔王だ…」

「今さらなんで…」

「あの魔人には近づいては駄目よ」

「魔人、それに魔王…いつ襲ってくるかわからないぞ」

「仲良くしたいだなんて嘘に決まってる」

 

ヘレストナとテルクナロクが村を歩くなか、少し離れたところで人間達がひそひそと聞こえないように話している。

 

しかし残念ながら2人の魔人の前ではどんなに小さな声でも丸聞こえだ。

 

「ヘレストナ様…」

「聞こえない振りをしろ。この反応は当たり前。私達はここに居させてもらう側だ。私の望みは1つ1つの積み重ねが大切なんだ。変な気を起こすな」

「…はっ。承知致しました」

 

我が主であるヘレストナが頭を下げてまで行った行為を嘘と割り切り疑いの目で見つめる人間達。

それにに対してテルクナロクはそこにいる人間達を今すぐ消してしまおうか等と考え、ヘレストナに止められる。

 

テルクナロクはかつての冷徹な魔王ヘレストナを見てきたがために昨日からの行動に表には出さないものの戸惑う。

 

今、目の前に存在するものは本当にかつての魔王ヘレストナと同一人物なのか、と。

 

そう思ったとき、ヘレストナはテルクナロクを振り向く。

 

「今の私は魔王の私ではない。だが、」

 

 

「魔王ヘレストナ、昨日の話通り仕事はしてもらうぞ」

「ああ……だが1つだけ条件のようなもの、いいか?」

「…なんだ」

 

村人と共に笑顔で家を建築していたナオヤはヘレストナ達がやってくるのを見つけるとすぐに表情を引き締める。

ヘレストナに昨日通りの条件を守ってもらおうと言ったとき、ヘレストナからも条件が出されるということで先程引き締めた表情を更に引き締めた。

 

「そんなに警戒しなくてもいい。ただ、私のことを『魔王』でなく『ヘレストナ』と呼んでもらいたい、それだけだ」

 

なにを言うのかと警戒していたナオヤはそれを聞いて理解するのに5秒程の時間を使った。

 

「…はあ?」

 

そして脱力した。

まさか条件が自分の呼び方についてだったとは一欠片も思いもしなかったのだから。

 

「…ナオヤ、だったか?それで私達は何から始めればいい?」

「は?あ、ああそうだな…まず、テルクナロクは力仕事だな」

「…わかった」

 

突然ヘレストナに名前を呼ばれると思わなかったナオヤは腑抜けた声を挙げ、それを恥じながら咄嗟にテルクナロクの役割を与える。

 

ヘレストナとテルクナロクとしては一瞬ではあるが勇者の間抜けな顔を見て、思わず吹き出しそうになり、それを悟られないように表情を保つのに必死であった。

 

「で、まお…じゃなくて、ヘ…ヘレストナ…は……」

 

魔王と言おうとしてヘレストナとテルクナロクに睨まれたナオヤは言い直しながら

 

(やりずれー!魔王、戦うより相手にしずれー!)

 

と心の叫びを挙げていた。

 

 

 

「大変そうだな」

「…ええ…」

「なんでかくとうのゆうしゃさま、あんなにあわててるの?」

 

別の家の修理を手伝っていたカグヤとリツは3人のやり取り全て聞いていた。

スティは心を読む能力を持っているため感情がわかるが、やり取りは聞こえていないので何故ああなっているのかがわかっていなく、2人の勇者に説明を求めている。

 

2人がどう説明をしようかとしているところに不満そうな顔をしたヘレストナがやってきた。

 

「スティと一緒に居とけと言われた…」

「それのどこが不満なんだ?」

「ヘレストナ、わたしといっしょ……だめなの?」

 

スティの能力は心がわかるといってもあくまで感情がわかるだけで、思っていることを読み取ることはできない。

 

そのため、ヘレストナが不満なのは自分のせいなのかと悲しそうな目をしてヘレストナを見つめる。

 

「い、いや……スティと一緒は嬉しいぞ。というか、一緒にいることが駄目な訳ないだろう」

 

ヘレストナの言うことが本当だと感じたのか、スティは花を咲かせたようにパアッと輝かせた。

そんな2人を見ていた勇者達はヘレストナを許した訳ではないが、あの魔王がただの人間の子供を相手にあたふたするのが微笑ましいと感じていた。

 

「なら、何が駄目なの?」

「…家というものを一度作ってみたかったんだ」

「作ったこと無いのか?」

 

ならば何が駄目だったのかとカグヤが聞き、その答えにリツは純粋な疑問をぶつける。

 

そしてヘレストナのその疑問の答えに度肝を抜かれた。

 

「私達のいた魔界は、そんなものを作る暇なんてなかった。仮にあって作ったとしても、すぐに消される。そんなところだったんだ。家はあったが…とても家とは呼べない物だったな」

「え、でもまお……昔魔王が代々魔人たちを統一してやって来ているって聞いたけど…。」

「それに、…ヘレストナは統一した上で国を作ったって…」

 

カグヤは魔王と言おうとして先程のナオヤと話していた条件を思い出す。

というより、ヘレストナの睨みによって思いださせられた。

リツは仲間の失敗を繰り返すまいと、意識して丁寧に言う。

 

「私が統一していたのはほんの一部だ。まだ統一されていないところは…あと8割は残っているな」

「「はっ…8割!?」」

「?」

 

ただでさえ多いヘレストナ配下の魔人が全体のたった2割であることに驚く勇者2人を余所に話の内容を理解出来ないスティは2人が何故驚くのかわかっていない。

 

「まあ、確かに多いが…ん?なんだ?」

「ヘレストナ、まかいってどんなとこ?」

「…そうだな。私がいた時の魔界の現状を伝えた方がいいかもしれないな」

 

 

 

 

 

私の生まれた場所は魔界の中心地。

魔界のなかでも1、2を争う激戦地区だったんだ。

知り合いだろうが身内だろうが関係ない。

弱いものは蹂躙され、殺されるだけの運命だったんだ。

 

私もそうなるはずだった。

 

そこで私の命を救ったのがアルディスだった。

…今考えてみればちょうどいい寄り代を探しているときに私を見つけたのだろうな。

 

私が幼い頃だったから覚えていないが、親は既に死んだそうだ。

私に何でもしてくれた。

 

私がかすり傷でも傷がつけば次の日には私に傷をつけた相手の存在が消されていた。

私がこの世界で生き残るための力が欲しいと言えば与えてくれた。

 

この時の私はアルディスが私を本当に大切にしてくれているって思っていた。

本当に大切にしていたのは私自身ではなくこの器だったがな……。

 

許されなかったことと言えば………そうだな、友人を作ることと1人でどこかへ行くことだったな。

 

…今は私の身の上話ではないが、ここからが魔界に関わることなんだ。

 

今から…100年と少し前かな、私の中に何かが入ってくる、そんな感覚がしたんだ。

そのとき、力を欲した私がアルディスの言う通りに魔方陣の中で目を瞑っていたのだが、その時に霊を憑依させたのだろう。

 

まず、憑依されたときは魔力が急激に増えたことから体がはち切れそうだったな。

まだ私が…いくつだ?まあ、大体300にならないくらいの……ああ、すまない。人で言うと10だな。

そのくらいだから体自体が耐えきれないかも知れなかったんだ。

 

アルディスが言うには私には素質がある、耐えきれるだろうとかいって放置されたがな。

 

アルディスの言う通り、私はそれに耐えきり…そこからだな。

私が魔王として名を馳せるのは。

 

 

始めは自分ものとなった力に戸惑った。

殺されそうになって反射的に反撃をしたら相手が消炭になっていたからな。

怖かったよ。見ず知らずの、私を殺そうとした相手とは言え、生き残るためとは言え、命を奪っているのは事実なのだからな。

 

それからは私の中の何かに穴が開いたようで…正直言って、記憶がない。

でもその時から自分の中に入っていた霊が大きく動き出したんだ。

 

霊の力が強くなって私の体の主導権を乗っ取るようになったんだ。

私は抗えなかった。

ただ、霊の主であるアルディスの言うことを聞くだけの人形となった。

 

そしてその力を持ってして魔界の一部ではあるが統一し、何故かはわからないが10年前から人界への侵攻を始めたんだ。

 

 

 

 

 

「あとは貴方達勇者が見てきた通りだ。10年という僅かな時とは言え、今の魔界はどうなっているのかは知らない」

「…どう、スティ?ヘレストナは嘘は…」

「うそ、いってないよ!」

「そう、ごめんね」

 

ヘレストナの言うことに嘘がないかスティに聞くが、即座にスティに怒られ、謝るカグヤ。

 

もし、スティが嘘を吐いていたら、という考えが全く無かったことにヘレストナは驚いていた。

 

「子供は良い意味でも悪い意味でも純粋なのよ」

 

そんなものなのかとヘレストナは疑問を更に深めていたが、これ以上考えてもわからないのでこのことを考えることはやめにした。

 

「スティがいうから信じるが、まさか家の話から魔界の、それも魔王の誕生の経歴を知れるとは思わなかったな」

「私としてもいつかは言うつもりではあったがこんな形で言うことになるとは思ってもいなかったな」

 

そしてヘレストナは苦笑した。

 

この会話によって初めて、魔王と勇者の間にあった溝がほんの少しではあったが埋められた瞬間であった。




今回もヒューマンライフっぽいとこ無かったな…
( ノ;_ _)ノ申し訳ないです


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元魔王、家ができる

ギリ、セーフヽ(^o^;)ノ
今月中とは言いつつもここまでギリギリになるとは…
猛省です…



それでは久しぶりのまおヒュー
どうぞっ( ゚∀゚)つ


「ヘレストナ、こっちきて」

「なんだ、スティ?」

 

早くも魔王が倒されてから7日、魔王がやって来てから6日が経った村。ヘレストナはスティにある場所へ連れられていた。

 

村の端に連れてこられたヘレストナはポツンと建てられた小さな小屋があることに気づいた。

 

「スティ…この建物は…」

「ヘレストナとテルクナロクのおうち。ゆうしゃさまたちにつくってもらったの」

「わたくしも不本意ながら勇者と共にお造りしておりました」

 

テルクナロクが自分のことも忘れるなとばかりにスティに申し立てをする。

 

「うん!テルクナロクもがんばったよ」

「そうか。テルクナロク、ご苦労だったな。ありがとう」

 

ヘレストナから労いの言葉を貰うと嬉しそうに頭を下げ…ようとして丸太を持ったままだったことに気付きわざわざ慌てて下ろして頭を下げた。

ヘレストナ本人から主従関係を解消したと言ってもテルクナロクにとってはこの態度は絶対らしく、最早ヘレストナは何も言わなかった。

 

「おいテル!早く来い!」

「俺はテルではない、テルクナロクだ!何度も言っているだろう!」

「うっせ、長いし言いづらいからテルでいいじゃないか?」

「この…」

 

何やら不穏な空気(テルクナロクのみ)が醸し出されるなか、思わぬ方向から賛同の声が上がる。

 

「いいではないか」

「…ヘレストナ様がおっしゃるなら──」

「私もその…テルクナロクという名は少々言いづらいと前々から思っていてな」

 

ヘレストナが賛同したと言うことで渋々了承しようとしたとき、そう付け足した。

それを聞いたテルクナロクは固まり手から滑り落ちた丸太が足を下敷きにする。

突然のことに驚きを露にするヘレストナ。

 

「お、おい!テルクナロク!?」

 

彼は頑丈なので丸太によるダメージはさほど心配はしていないが、こうなるほどにショックを受けるテルクナロクを見て流石に何かあったのではないかと思ってしまう。

 

そして本人はと言うと、

 

「……」

 

元とは言え主に名を言いずらいと言われたことに精神的なショックを受けて、未だに固まっていた。

 

「うわっ、ナチュラルに抉った」

「魔王って案外、天然…?」

 

 

それを一部始終見ていた勇者二人。

カグラとリツだ。

 

「理由、教えるべき…?」

「……どうだろう?」

 

二人はテルクナロクを憐れと思いながらも結局特に口出しすることもなく傍観に徹した。

 

「早く来いと言ったろうがっ!」

 

しかしそこへ空気を読まない勇者一人。

ナオヤは白くなったままのテルクナロクの襟元をひっ掴むとズルズルと引きずっていった。

 

それを止めることもできずただそんな二人を見送ることしか出来なかったヘレストナ。

暫く呆然と佇んでいた。

 

「…え?何で?」

 

そう呟かれたその言葉に答えるものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ヘレストナはスティから何かを差し出された。

 

 

「ヘレストナヘレストナ、これ」

「うん?何だこれは」

 

スティの小さな手の中にあったのは苗木だった。

スティの言葉足らずの説明によると、この村には新しく建った家の側に苗木を植え、家の守り木として育てるという風習があるらしい。

少し前、村の中で建て直した家の側に皆が何かを植えていたことを思い出したヘレストナは納得し、そして不安げに顔を歪める。

 

「育てる…私なんかにできるのか?」

「できるよ。おおきくなあれってまいにちおみずをあげるの」

 

花すら育てた事の無かったヘレストナ。

育てる、と聞いてどんなことをするのかと不安に思ったが、案外簡単であると拍子抜けした。

 

スティからおずおずと苗を受けとると千切らないように、傷つけないようにじっくりと見たり葉をツンツンと突っついてみたりしていた。

 

そしてふと何かを思い出したヘレストナは聞く。

 

「この苗木とやらは何処にあったんだ?この辺りの木や花は枯らしてしまっていた気がするのだが…」

 

そう、この村は魔王城から一番近い場所。

魔王の邪気を顕著に受け、殆どの植物を枯らしてしまったことをヘレストナ自身は自覚していた。

 

なのに何処にこんな苗木が幾つもあったのか。

 

「種があったらしいぞ」

 

いつの間にやって来ていたナオヤとテルクナロクそしてスティを迎えに来たらしいカグヤ。

どうやら今日の仕事は終わったようだ。

 

何故だかテルクナロクは不機嫌そうだ。

 

「テルクナロク、どうしたんだ?」

「!!」

 

するとテルクナロクはパッと不機嫌そうな顔を消し、嬉しそうに答える。

 

「いえ!何でもありません!」

「?ならいいが…」

 

原因は分からずじまいだったが彼の機嫌がよくなったのでまあ気にしなくていいだろう、そう思ったヘレストナだった。

 

「ゴホン!…俺の話、聞いてるか…?」

 

わざとらしく咳払いをしてヘレストナたちの注目を集めるナオヤ。

 

「ああ、聞いてるぞ。で、種があったんだって?」

「ああそうだ。どうやら長い間保管されていた種があったらしいんだ。それを少し前から苗木まで育てていたらしいぞ。それから何故種があったのかはかはオレに聞くな。オレだって知らないんだからな」

 

ヘレストナが聞こうとするかもしれないと思ったのか先回りをして言う。

そしてそれ以上は質問不要と踵を返し広場へ戻っていった。

 

それを見てやれやれと言いつつスティの手を握りカグヤも去っていった。

 

先程彼は理由を聞くなと言っていたが、ヘレストナは別に何故かを聞こうなどとは思っていない上に何となくは理由は察していた。

 

(…恐らく誰かが予想していたのだろう。この村の植物が枯れ、また植えるために…)

 

実はヘレストナ、村をスティと回っている間にこんなことを耳にしていたのだ。

 

『先人のお陰で伝統が一度も止まることなく続けられます…』

 

まさかこの苗木がそうだとは思いもしなかったが『先人』が用意していたから今、この手に苗木があるのだろう。

 

ヘレストナは苗木の葉を撫でるとテルクナロクに振り向いて言う。

 

「共に植えよう。これからはここが私たちの家だからな」

「はい!」




次回は再来月辺りになると思いますが変更になる可能性もあるのでその場合は活動報告にてお伝えします


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