令嬢じゃないと何回言っても分からなかったらしい (斜め上へ目指して)
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令嬢じゃないと何回言っても分からなかったらしい
「また、やりましたわね!」
その声に色々な男子や女子が集まってくる。そして、そいつら全員に包囲された。大半は野次馬だが、一部は怒りの目を向けている。
俺の目の前にいるのは、窪みに足を取られてこけ、泥だらけになった淑女。学校で1、2を争う美貌の持ち主である。
対して、こちらにいるのは姉一人と同級生のメイド三人の合計4人の女子生徒。
この状況で、もはや何をしたのかなど、明白だった。・・・周りの奴らにとっては。
「貴様! また彼女に手を挙げたのか!」
近寄ってくるのはこの国の第一王子であるファラ・コリウス様。激怒していらっしゃる。周りの奴らと同じく、この状況から、何が起こったのかを考察したのだろう。
他にも美男子が来るわ来るわ。逆ハーのしかも基本的に立場が上の者達。
「貴様は現時点をもって婚約を破棄する! そして、彼女を我が婚約者として迎え入れる!」
すると、男子達から歓声と抗議の声が上がった。つまりは、俺に寄越せとか僕の婚約者にするんだとかそんなの。
けどね、それ、ねぇ?
左にいた姉を見る。姉は溜息をついた。
とても醜い顔、太った体、見苦しい服装をした姉が一歩前に出る。
「失礼いたしますファラ王子様。我々からの抗議があります」
「ハッ、言ってみろ」
「まず、この人はそんな事をする者ではありません。今までの事を含め全て我々の起こした事ではございません」
「嘘を言うな! やったところは全て我々、この場にいる者達も見ているのだぞ!」
そうだそうだと全員が言い、数の暴力によって無理矢理押さえつけられていく。
更には、その醜さに対しての暴言が飛び交い、笑いが起こる。
もはや無秩序な場所だった。
「そうだ! その女が! 彼女に嫉妬してこんな事をしたのだ! 言い訳など聞きたくないわ!」
「・・・では、最後に一つ、よろしいでしょうか?」
「良い、言ってみろ」
「そもそも、この人は男ですよ?」
「「「「「「「「「へ?」」」」」」」」」
あーあ、鬱陶しかった。ありがとう、姉上。
「いえ、良いのですよ。そもそも、貴方が自分は男だと何回言っても聞かなかった馬鹿どもですから。いっそ清々しいです」
醜い顔が溶けていき、目の前の女と比べてなお美しい女性が現れた。
プロポーション、顔、肌の美しさ。どれを取っても女神としか言いようのない女性。
「元々は婚約者探しとして、心の綺麗な者を探しておりましたが・・・この様子では無理ですね。吐き気がします」
マントを羽織り、体の線を隠した。
「それでは、これまでの証拠の数々でもご紹介していきましょう」
そうして、女のやってきた事全てを映像として流す。初めて食事をした時には、食事の中に虫が大量に入れられていたと喚き散らされた。が、実際は自分で虫を転移させ、それを俺たちのせいにしていた。
お茶会の時には、お茶の中に何かを入れられたと運ばれていったが、実際は自分で痺れ薬を入れ、自作自演をしていた。
パーティーでは、態々自分からこちらに来て、転かされたような演技をした。
それから、それからと、今まで行ってきた事全てを曝け出された女は、顔が青白くなっていた。男子生徒達の大半は呆けた顔をし、映像を見ていた。
「で、これでよろしいですか? 映像記録の方は、彼女が何かをし始めてから全て国王陛下へとお送りしておりますので、あとはご確認を。それでは、失礼いたしました」
俺が先頭に立ち、4人も付いてきた。
こんな事して大丈夫なのかなー?
「大丈夫ですよ。貴方が心配する必要はありません。常に手は打っていますしね」
ニコニコと笑顔で俺を引っ張り、学校の外へと誘導する我が姉。
⋯⋯ん? おい姉上。何処へ進んでいる?
「え? 何処って、
ちょっと待てなんだその不安な言葉は?
「言ったでしょう? 学園内で好きな殿方がいなければ、貰ってくれると」
え、ちょ、ま、イヤァァァァ!!!
この数日後、この国を超えて遠くの国まで、「学園の男の大半が両刀使いだ。王子も、例に漏れず両刀だ」との噂が広がった。
我が姉怖い
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