INFINITY WITCHES ~無限大の魔女~ (AGM-123)
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登場人物紹介・設定集

拙作の登場人物等の設定資料です。
こちらから読んでいただいたほうがより分かりやすくなるかと思います。
なお、未投稿話のネタバレ等もございますので注意してください。
※2019/4/5 読みづらい点を修正しました。


〇登場人物

 

・アローズ・エア・ディフェンス&セキュリティ社

 

 ・リーパー/ボーンアロー4→ボーンアロー1

  本名:-

  使用機種:F-4E・F-15S/MTD(ソーサラー隊カラー)

  出身:扶桑

  使い魔:ハヤブサ

  固有魔法:亜空間制御(詳細については設定集参照)

  使用銃器:Mk.48機関銃、アーウェン37グレネードランチャー、Mk.23ソーコム

元扶桑空軍国防空軍兵。ボーンアロー隊の新兵。

見た目のイメージモデル:マルセイユ(を黒髪ショートにした感じ)。

 

 ・オメガ/ボーンアロー2

  本名:-

  使用機種:EF-2000

  出身:ロマーニャ

  使い魔:ロップイヤー

  固有魔法:超回復

  使用銃器:M4カービン、M203(M4に装着)、グロック17

ボーンアロー隊のムードメーカー。明るく陽気な性格だが、ユニットの損耗率が高い。ディビジョンエージェント。

見た目のイメージモデル:ニパ(の現代版)

 

 ・ヴァイパー/ボーンアロー1

  本名:-

  使用機種:MiG-21bis

  出身:リベリオン

  使い魔:バセットハウンド(名前:ガブ)

  固有魔法:身体強化(機体、自身の体の耐G性強化。)

  使用銃器:M14ライフル、M79グレネードランチャー、M67手榴弾、M1911

上がり間近の歴戦のウィッチ。飲酒して出撃することもある問題児だが、仲間思いな性格。

見た目のイメージモデル:チェキータ(ヨルムンガンド)

 

 ・グッドフェロー

  本名:-

  使用機種:-

  出身:リベリオン

  使い魔:-

  固有魔法:全方位広域探査

エクスウィッチ。地上からの指揮、管制を担当。所属ウィッチの機体入手の仲介も行う。

見た目のイメージモデル:ミーナ

 

 ・ブロンコ/ボーンアロー3

  本名:-

  使用機種:F-16E

  出身:カールスラント

  使い魔:グリズリー

  固有魔法:炸裂(ミサイル、銃弾の威力強化)

  使用銃器:XM556、P226

ボーンアロー隊の中堅ウィッチ。基本的に無口で無表情だが、トリガーハッピー。メーデー民。

見た目のイメージモデル:草薙素子

 

 ・ゼブ/ボーンアロー4

  本名:-

  使用機種:MiG-29

  出身:オラーシャ

  使い魔:シベリアオオカミ

  固有魔法:旋風

  使用銃器:AK-74、RGD-5、MP443

ボーンアロー隊最年少ウィッチ。ルッキーニ的ポジション。ニンジャヘッズ。

見た目のイメージモデル:響(艦これ)

 

 

 

・国連軍

 

 ・スカイ・アイ

  本名:-

  使用機種:E-767

  出身:リベリオン

  使い魔:-

  固有魔法:-

  使用銃器:-

イメージモデル:南雲忍

 

 

 ・スラッシュ/リッジバックス1

  本名:ジョン・ハーバート

  使用機種:ASF-X

  出身:リベリオン

リッジバックス隊隊長の男性パイロット。経験豊富で冷静沈着なエース。

 

 ・エッジ/リッジバックス2→リッジバックス1

  本名:永瀬ケイ

  使用機種:ASF-X

  出身:扶桑

  使い魔:ローデシアン・リッジバック

  固有魔法:射撃弾道安定(近距離限定)

  使用銃器:SIG556、グロック19、M203(リッジバックス隊の標準装備品)

 ・フェンサー/リッジバックス3

  本名:-

  使用機種:ASF-X

  出身:ガリア

  使い魔:ワイマラナー

  固有魔法:-

  使用銃器:SIG556、グロック19、M203

 

 ・アクスマン/リッジバックス4

  本名:-

  使用機種:ASF-X

  出身:アウストラリア

  使い魔:グレイハウンド

  固有魔法:-

  使用銃器:SIG556、グロック19、M203

 

 ・ランス/リッジバックス2

  本名:-

  使用機種:ASF-X

  出身:リベリオン

  使い魔:ダルメシアン

  固有魔法:-

  使用銃器:SIG556、グロック19、M203

 

 ・ベルツ中尉

  本名:レオナード・ベルツ

  出身:カールスラント

  使用銃器:M-4

 

 ・ベルツ准尉

  本名:-

  出身:カールスラント

  固有魔法:怪力

  使用銃器:GAU-19の改造型(手持ち運用が可能)

陸戦ウィッチ。アイアンマン・バックパック型の装備から12.7mmを供給し、高い火力を誇る。

 

 ・コリンズ軍曹

  本名:-

  出身:リベリオン

  使用銃器:M-4

 

 

 

・その他

 

 ・ディアボロ1

  本名:仰木

  使用機種:F-15F

  出身:扶桑

扶桑国防空軍のウィッチ。Fate/Zeroからのゲストキャラ。

宝具にされたりはしない。

 

 ・ディアボロ2

  本名:小林

  使用機種:F-15F

  出身:扶桑

扶桑国防空軍のウィッチ。仰木と同じくFate/Zeroからのゲストキャラ。

海魔に喰われたりはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 ・”蝶使い”/ゲイマー

  本名:?

  使用機種:CFA-44?/MQ-90L

  出身:?

  使い魔:?

  固有魔法:?

  使用銃器:P90

 

 

 

 

 

〇設定集

 

 

・東京:扶桑国旧首都。1999年7月の「ユリシーズの厄災」により甚大な被害を受け、放棄される。都内(特に隕石が落着した城東クレーター、つまり墨田区周辺)は治安悪化、難民・不法滞在者によるスラムが形成されている。都内の治安維持はPMCが行っている。(扶桑国防軍は復興のため縮小。そのため治安維持に割ける人材がない)落着した隕石の磁場により、都内では小型GPS端末は使い物にならず、都内での作戦(特に陸上部隊)では昔ながらの地図が用いられる。携帯型トランシーバーも至近距離でなければ使えないため、大型無線機を持った小隊無選手も作戦には必須。なお、現在の扶桑国首都は京都に遷都されている。

 

・扶桑:先進国の中では最もユリシーズによる被害が大きかった国。国防軍は復興予算のため縮小されている。そのため一部の重装備(航空機、艦艇等)を除き装備の新規開発は中断。2000年代以降に採用された国産装備(特に小銃等の個人装備)はほとんど無い。89式の後継はSIG556、P220の後継はグロック19のように、欧州製の装備を多く採用している。

 

・リベリオン合衆国:ユリシーズによる被害は大きくなかったが、その後の治安悪化、および2015年末~2016年初頭にかけて起こった”ある事件”により疲弊。現在の国力は弱まっている。

 

・ウィッチ:基本的には第2次ネウロイ大戦時と変わらず。ただし、ウィッチの数が当時よりも少ないため、通常のパイロットとウィッチの混成運用が一般的(例としてはリッジバックス隊)。なお、大戦機よりFCSが進化しているため、ストライカーの機種に関わらずHMD型の照準装置を装着している。(F-4EやMiG-21bisの様な旧式機でもそれは変わらない)

 ウィッチは「魔法力発現→国による保護・軍籍登録→国連へのウィッチ存在の報告」という手続きを踏むため、軍もしくはPMCに所属していない、つまり存在が知られていないウィッチは存在しないと言われている。例外的に、ストライカーを自力で飛ばすことの出来ないようなエクスウィッチは”ウィッチとして”は国(軍)の登録から抹消される。(軍籍は残るため、登録抹消後には通常の軍人として過ごす者が多い)

 

・F-15F:扶桑国防空軍主力戦闘機。現実世界におけるF-15J(MRM改修機)と同等の機体。複座型の名称はF-15DF。ストライカーユニットの場合は、89式小銃およびP220が制式装備として使用される。

 

・亜空間制御:主人公リーパーの固有魔法。東方の八雲紫のスキマ能力の様な物。亜空間内部に予備弾薬、銃器等を格納、任意の時に取り出せる。弾薬搭載量は、ストライカーのサイズに完全に依存する。ただし亜空間を通っての空間移動は出来ない。ちなみにこの固有魔法はエースコンバットシリーズ恒例のミサイル100発以上搭載を考えての物。

 

・AWACS-W:早期警戒管制機としての任務を持つ、E-3CやE-767ストライカーを使用するウィッチのこと。読み方は「エーワックス・ウィッチ」。原型機が大型のため、ストライカーは背負い式となっている。

 

・成田飛行場:旧名、新東京国際空港。首都と共に放棄された空港を、軍民共用の飛行場としたもの。民間定時便の離発着はなく、チャーター便、もしくは国連軍機などが使用することが多い。

 



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Misson01 迷い蝶 ~艦隊防衛戦~

本来はエースコンバットインフィニティの完結と同時に投稿しようと考えておりましたが、作者の都合で一年近くずれ込んでしまいました。
有りがちな内容ですが、どうかお楽しみいただければ幸いです。


2019年―???―

 

 

『――あの災厄からもうすぐ20年です。あの日、空は砕かれ無数の光の矢が降り注ぎました』“彼”のその言葉と共に、“私”の目の前の画面に降り注ぐ流れ星の映像が映される。

『今日は歴史の勉強をしましょう』“私”は思わず眉をひそめた。歴史の講義なんて、退屈で嫌いだ。そんな“私”の内心を知ってか知らずか、“彼”は勝手に話を進めていった。

 

『1994年、長い楕円軌道を描く一群の小惑星が発見されました。それは、木星軌道上の小惑星“1986VG1ユリシーズ”に未知の小惑星が激突してできた破片でした』惑星の軌道がCGで表記され、そこに伸びた赤い線が、惑星の1つと重なる。次の瞬間、赤い線が何本にも分裂する。

『この“ユリシーズ小惑星群”は地球との衝突軌道にあり、地球に一万個の隕石が降り注ぐと判明します』その言葉通り、地球の引力に引き寄せられた破片が、まんべんなく地表に墜ちてくる。『全ての軌道変更は不可能なため、小惑星と隕石を迎撃・破壊する最後の手段として超巨大地対空レールガン施設の建造が開始されます』

画面が切り替わり、8門の砲台が1セットになったそのレールガン施設が表示される。『建造は大モンゴル帝国の試験機タイプ・ゼロからリベリオンのタイプ1、アウストラリス、オストマン、南アフリカ、ノイエ・カールスラントのタイプ5までの計6箇所』立体的に表示された地球儀の上に、6つの点がつけられる。

『そして1999年7月、小惑星群が飛来します』今度は、戦闘機のコクピットかららしき映像。昔のテレビ中継の画像だろう。隕石が落着したとたん、画像が乱れ、消えた。恐らくは衝撃波で撮影機が墜ちたのだろう。次に移されたのはやけにごみごみとした街。画面端に映る特徴的なツインタワーを有したビルが目立つ。しかし、その街に隕石が飛来し、落着し、画面が暗転して、消えた。

『レールガンにより被害はごく僅かに抑えられました。……そう、世界秩序の崩壊程度(・・・・・・・・・)でしたがね』とんでもないことを“彼”はあっさりと流し、続けた。

『これが、有史以来人類が始めて経験する未曽有の大惨事――“ユリシーズの災厄”です』回転する地球儀の上に映し出されるまだらの点は、クレーターだろう。

『既存インフラの喪失により世界経済は破綻し、特に被害の大きいユーラシア大陸ではアジア諸国、南欧州諸国が破綻を免れるために地域ごとに共同体として再編、軍事予算を削減し復興予算にその多くをつぎ込みました』その言葉通り、“復興予算58%、軍事予算3%、復興予算総額1兆8450億ドル”と表示される。

『領土縮小によるエネルギー資源の枯渇はどの共同体でも大きな問題となり 天然資源を求めての紛争が激化していき…』早口の解説にまぶたが重くなってくる。

しかし、“私”のまどろみはビープ音に吹き飛ばされた。

 

[SORTIE ORDER(出撃 命令)]

 

全ての画面表示が消え、その表示だけが映る。

 

『続きは後程……』と“彼”は名残惜しげに言うも、無視だ。

 

どうせつまらない仕事だろうが、こんな眠気しか感じない退屈な講義よりはましだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AREA J4E 扶桑皇国旧首都東京 2019年5月1日0900時

 

ユリシーズによってもたらされた城東クレーター。その上空を、二人のウィッチが飛んでいた。前方を行く一人はEUによって協同開発された「EF-2000タイフーン」、それに追従するもう一人は1958年初飛行の「F-4EファントムⅡ」ストライカーを履いている。

 

 

 

前方を行くウィッチ――オメガがもう一人のウィッチ――私に話しかける。

《今日もまた隕石の屑が多いわね。昨日のニュース見た?厄災からもうすぐ20年だってさ。まだ空にはカケラがいっぱいなのに》

見上げると、ごく小さなユリシーズの屑が大気圏に突入し、流れ星となって消えていくのが見える。

 

私はアローズ・エア・ディフェンス&セキュリティの新入社員、TACネーム「リーパー」だ。

 

《こちらFASDF(扶桑国防空軍)309飛行隊、コールサイン“ディアボロ”。貴機の所属確認を》

 

前方からやってきたのは2人のF-15Fストライカーを履いたウィッチ。

 

《こちら国連独立コマンドのアローズ所属、ボーンアロー隊オメガ。作戦支援に来たわ》  

《本隊より連絡を受けている空賊(・・)部隊ね。よろしく頼むわ》

《こちらこそ》

ディアボロ隊の2人は、こちらに手を振ると反対方向に離れていった。

 

《グットフェローからボーンアロー各機、これより作戦行動を開始します。敵機を発見次第速やかに迎撃しなさい》無線越しに呼びかけてくるのは、私達の指揮官、“グッドフェロー”だ。エクスウィッチである彼女は、地上管制を担当している。

 

《オメガ了解。12時方向に敵機(バンディッツ)、偵察用UAVと推定》

 

レーダーに2つの影が映る。

《交戦を許可します》

 

《ルーキー》

オメガが呼びかけてくる。

《敵は非武装の無人機よ。手柄は譲るから、落ち着いていきましょう》

《了解》

今日が初出撃の私に気を遣ってくれたのか、オメガは後ろへ下がる。私はMSSLを選択し、各機に一発ずつ発射。鈍い機動でしか動けないUAVは、一瞬で撃墜された。レーダーを切り替え、索敵。もう1機居たUAVを、今度はMk.48機関銃で撃ち落とす。

 

《敵無人機を全て撃破》

《よし、任務終了!オメガ、RT――》

仕事は終わり、とばかりにオメガが帰投しようとしたときだった。

 

《新たな敵編隊の接近を確認》と、グッドフェローからの無慈悲な指示。

 

《またぁ!?》オメガがぼやくも、次の瞬間には真剣な表情となり、アフターバーナーをカット、急旋回と共にフレアを放出した。そのフレアに何か(・・)が引き寄せられ、炸裂する。

 

《注意して。敵機の中に対空兵装を持つ無人機が混じってるわ》

グッドフェローのいまさらな警告に《先に言ってよ!》とオメガが詰る。

 

UVAによく搭載される、MANPADS改造のIRパッシブならF-4の機動力でも回避可能。そう踏んだ私は、エンジンを吹かして不完全燃焼の黒煙をノズルからたなびかせながら、格闘戦を挑む。

しかし、すぐに違和感を覚えた。さっきのUAVは直線翼でプロペラ駆動の、出来の悪い模型飛行機みたいな機体だったのに対し、この武装UAVはM字型の主翼にジェット推進の先進的な機影。これはまさか――

 

《あれって…まさかクオックス!?》ディアボロ1が驚いたように叫ぶ。

《さっきまでの機体に比べて運動性能が高いわね!》

苦々しい顔で、オメガも新型機の登場に同意する。

 

《クオックスってウチ(国防空軍)が開発した汎用無人機よ?それが攻撃してくるはずがないじゃない。どこかのメーカーのデッドコピーかもしれないわよ》ディアボロ2が苦言を呈す。

 

《ネウロイの偵察機だったりしてね》オメガが冗談交じりに混ぜっかえす。

 

《笑えないわよ。それ》

 

3人がやいのやいのと騒いでいる間に、私は2機をMSSLで撃墜した。

 

《機体は後程確認します。今は攻撃に集中しなさい》ため息交じりにグッドフェローが窘める。叱られたオメガが決まり悪げにUAVに照準を合わせた。そのときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

《♪~♪》

 

 

 

 

 

 

 

 

《…え?》

 

聞こえたのは、鼻歌だった。昔懐かしのファミコンゲームのBGM。周りの3人を見るも、全員が無線をいじり、困惑している。

 

《いまの何?あんたらじゃ…ないみたいね》こちらを見たディアボロ1が言う。

《民間のラジオ放送じゃないの?きっと》とオメガが答え、

《ここいらはノイズが強いわね。隕石の影響かしら》とディアボロ2が応じ、これは「ラジオの混線」ということで決着がついた。

 

 

 

 

 

…………もし、この混線を重要視していたら、あの惨事は避けれたかも知れない。しかし、このときの私は、そんなことを知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

お喋りをしつつもオメガはMSSLを撃ち、1機を撃墜。ディアボロ隊の2人も、協同で1機墜とした。

 

《敵無人機を撃破。よくやったわね》

 

《よし!じゃあ今度こそ帰投――新たなレーダー・ブリップ!うそでしょ!何でこんな所に!》

UAVのブリップが現れたのは、東京湾沿岸。つまり……艦隊の目と鼻の先だ。

 

レーダーロックをする間もなく、UAVから放たれた小型対地ミサイルがアーレイ・バーク級駆逐艦の後部ヘリ格納庫シャッターを突き破る。格納庫内で炸裂したタンデム配列HEAT弾頭は、そこに駐機していたMH-60Rとその搭乗員、整備員らを爆風で引き裂いた。ヘリから漏れ出た航空燃料に引火し、艦尾を黒煙が包み込む。レーダーに火が入っていないらしく、即応射撃が出来たのはCIWSのみ。軽量、小柄なUAVはひらりと20mm砲の火線を躱し、悠々と離脱する。

 

私は、何のためらいもなくHPAAを撃ち、艦を攻撃したUAVを木っ端微塵にする。

 

《ビルの間を縫っての超低空侵攻!?気づけない訳ね》と、オメガが呟く。

 

不意に聞こえた機銃の発射音と爆発音。振り向くと、街の数ヶ所から黒煙が上がっていた。

《敵無人機による市街地への攻撃を確認。シナガワからカワサキにかけての沿岸エリアね》

 

《全部さっきの武装タイプ!?》愕然としたようにオメガが確認を取る。

聞くまでもなく、UAVには機銃とミサイルが搭載されているようだ。

《各機、被害が拡大する前に排除しなさい!》

返答の代わりに手近な1機に7.62mm弾をたたき込み、離れた位置の2機には素早くHPAAを撃ち込む。数秒と立たないうちに、無人機は全滅した。

 

《敵無人機を全て撃破。当空域からの敵勢力排除を確認》

安堵のため息をついたディアボロ1が、こちらに笑顔を見せつつ体を翻す。

《こちらFASDF309。貴隊の支援に感謝します》

《お役に立てて何よりよ》オメガが手を振り、2人を見送った。

 

《現在、被害状況の確認中…。避難エリアまでは達していないようね。民間人への被害は無し。まずはよくやったわ。リーパー》

 

《そういえばクオックス…だっけ?何であれが東京を攻撃してるの?》

結局あの武装UAVの正体は不明なままだった。

《無人機の情報は国連軍から回してもらうわ。全機、帰還してください》

 

 

 

 

 

 

 

─???─

 

『お帰りなさい。それでは 先ほどの続きを………』退屈な任務から帰って来た私は、これまた退屈な講義で迎えられた。鼻歌交じりで行えるほどの楽な任務。結局私が操っていたUAVは、全て墜とされてしまったが、まあどうでもいいことだ。

『どこまでお話ししましたか………あ、そうそう。紛争激化まででしたね』何が楽しいのか、“彼”は嬉しそうにに話を切り出す。

『その後長く続く紛争は、さらに難民の数を増やします』世界地図上のモザイクは、難民の発生場所だろう。どこも居住していた住民の50%以上が難民となったようだ。

『EU、アジア共同体、オラーシャの一部が難民特区を設けて受け入れを始めます。特にオラーシャ南部の難民特区“イユーリ自治区”は広大な土地を有し、多くの難民を受け入れました』デフォルメされた人影が、数え切れないほど、“IYULI”と書かれた場所に集まる。

『しかし難民は安価な労働力として囲われたに過ぎず、住環境は悪化し巨大なスラムを形成。さらに外国人労働者排除のデモ活動も頻繁になっていき周辺地域の治安を脅かしていました』資料映像に移されたのは、無数のバラックと火炎瓶らしき物を用いた排斥デモ─いや、暴動の様子。

『そこへ特区の雇用創出に支援を買って出る企業が現れます』次は、企業のホームページらしき物が表示される。『巨大軍需企業“ヴェルナー・ノア・エンタープライゼス”です』と、“彼”がどこか誇らしげに言い放つ。

『因みに、災厄直後では各国の軍事予算の削減から派遣傭兵部隊を有する軍事サービス業が大きな産業となっていました』言外にこの企業もそれに漏れずと匂わせ、次の資料が映し出される。

『また、“アドバンスド・オートマチック・アヴィエーション・プラント”と呼ばれる強化型コンピュータ数値制御工場の実用化により、既存の航空機は比較的容易にリビルド可能になっており、航空機が大量生産された結果今度はパイロット不足に悩まされることになります』リビルド可能な航空機の影絵が画面一杯に映り、次はフランカーらしき戦闘機が3Dプリンターで射出成形されるかのように無数に作られているのが表示される。

『ドロップアウトしたパイロットたちを集めた傭兵会社と言うのも設立されました。おっと、話が脱線しましたね。特区を持つ国家や共同体もヴェルナー社の支援を歓迎。同社は大手を振って自由にできる土地と労働力を得て軍需産業の他にエネルギー開発、宇宙開発にも手を広げます』この手の軍需企業が、自由に活動できる場所は少ない。何処か辺鄙な国に拠点を構えても、すぐにジャーナリストにすっぱ抜かれ、“死の商人”“戦争屋”と罵られるだけだった彼らにとっては、この厄災は発展の格好の機会だっただろう。

『ヴェルナー社の産業は各国の復興に大きな影響をもたらし、紛争も沈静化していきました。そして20年後の現在、ヴェルナー社の支援で急速な経済発展を見せた各特区でしたが、豊富な軍事兵器を保有するがゆえ過激な武装組織の温床となっていきます』ユーラシア大陸だけで、ざっと50以上の武装組織が居ることを示す図が出てくる。

『各特区に散らばった多国籍グループネットワークが形成され、次第にイユーリ周辺の近隣諸国で反大国主義を掲げた過激な武力行為が増加、国連および大国はこれをテロ組織と認定、そして現在に至る……』だめだ、今度こそ眠さに耐えられない。私はついに瞼を閉じた。

 

『…あれ?起きてますか?お疲れのようですね。それでは続きはまたの機会に』

“彼”も漸く諦めたようだ。眠りに落ちる寸前、私は今回の任務で1つ気になる事があったのを思い出した。東京上空で、私が操るUAVを次々叩き落としたウィッチ。

旧式ストライカーにも関わらず、あれほどの機動が出来る彼女が妙に気になる。……まあ、それほど気にすることでもないだろう。どうせ、彼女は私に墜とされる運命にある(・・・・・・・・・・・・)のだから。

 



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Misson02 渡り鳥 ~コモナ宇宙センター防空戦~

構成が予定よりも早くできたので投稿します。
※タグに他作品コラボありとありますが、まだコラボネタはありません。


 

 

エリアB9K コモナ諸島宇宙センター 2019年5月15日1300時

 

 

 

心地よい太陽の光が、私達を照らす。眼下に広がるのは観光パンフレットにでも乗ってそうな青い海。

 

《やっぱり南国はいいねぇ》背面飛行で空を見上げつつ、のんびりとオメガが呟く。

《こちらグットフェロー。のんびりしすぎて墜ちないでよ。機体ごと海水浴はしたくないでしょ?》

 

《オメガ了解!》と口では調子よく答えるオメガだが、彼女がここへの移動前に、楽しそうに水着やら浮き輪やらをトラベルポッドに詰め込んでいたことを私は知っている。この任務の後の休暇中に、基地近くの海辺で海水浴でもするつもりなのだろう。

 

今回の出撃が前回と違うのは、ボーンアロー隊がフル編成、4人での出撃と言うことだ。  

 

F-16Eストライカーを操るボーンアロー3「ブロンコ」と、MiG-21bisストライカーを操るボーンアロー1「ヴァイパー」の二人が編隊にいる。

 

隊長の姿を見るのは、これが初めてだった。20歳ほどの長身のリベリオン人。もうあがりが近い年頃だからだろうか、妙な貫禄がある。

 

《こちらグッドフェロー。国籍不明の輸送機及び護衛機が宇宙センターに近づいています。敵機と判明次第、撃墜を許可します。宇宙センターには被害を与えないようにね》

 

それに答えるように、ヴァイパーが初めて口を開いた。

 

《こちらボーンアロー1、ヴァイパー。前方にレーダー反応》

だれたような口調でヴァイパーがグッドフェローに話しかける。

 

《グットフェローからヴァイパー。オープンチャンネルに切替えて勧告して》

彼女とグッドフェローは旧知の仲なのだろうか?やけに砕けた会話だ。

 

《あいよ。ヴァイパー了解。…あー、あー。国籍不明機に警告する。こちら国連独立コマンドのアローズ所属機。我々の誘導にしたがって進路をと………》

 

ヴァイパーの勧告は、無線の向こうから聞こえたビープ音で途絶えた。

《不明機からのFCレーダー照射を確認。敵機と断定します》

 

グッドフェローの言葉を合図に《だと思ってた!》とオメガがぼやき、M4のセレクターをフルオートに切り替える。

 

《全機発砲を許可します!》との通信を皮切りに、ヴァイパーが鋭く言い放つ。

 

《よし、あんたら、始めるわよ!》とヴァイパーは一声叫び、自らの持つM14の安全装置を外した。

私もMk.48の安全装置を外す。レーダーに映る敵は3機。1機は大型輸送機のIL-76、後は護衛戦闘機だろう。

先に輸送機を墜とすか、等と考えているといきなりヴァイパーが呼びかけてきた。

 

《おい、ボーンアロー4!》彼女の方を見ると、こっちに来いと言わんばかりに手招きしている。《アンタだアンタ。そこの辛気臭い死神マークのルーキー、アンタのことよ》

《…何ですか?》と私が彼女の真横に着けると、親指でキャンディットの方を差し、

《やってみな、腕を見てやる》と付いて来るよう促した。

 

《輸送機は足が遅いから、勢い余って突っ込まないようにね》と、オメガが前回の戦闘の時のようにアドバイスをしてくれる。その助言の通り、加速を控えめにしてキャンディットの後方に付き、MSSL2発を発射。エンジンに被弾した輸送機は、いっきにバランスを失い、錐もみで海面へと消えていった。

 

《輸送機を撃墜。よし、残りを片づけるわよ》とヴァイパーがM14を撃つ。護衛機のうち1機、MiG-21がその火線に吸い寄せられるように被弾し、空中爆発を起こした。私は、2019年の空で、1950年代初飛行の航空機同士が戦闘を行っていることに不思議な感傷を抱きつつ、もう1機のMiGを探した。

その瞬間だった。耳元で連続したオーラルトーン。さらにHMDの表示が全て赤く染まる。視界の真ん中には“MISSILE ALERT”の文字。

 

《注意!敵対空ミサイル発射!》いつの間にか後ろに回り込んでいたMiGが、R-60を発射していた。慌ててフレアを撒き、推力を絞って急旋回。オーラルトーンが連続した音に変わったと思った時、いきなり警報が途絶えた。どうやらフレアに惑わされたらしい旧式のAAMは、私の後で虚しく爆発していた。

 

回避に成功したと思った瞬間、私はストライカーを前につきだし急減速。オーバーシュートしたMiGに7.62mm弾を浴びせかける。慌てて回避しようとした敵機は、運の悪いことに弾幕に機首から突っ込んでしまった。キャノピーが弾けて機首周りが真っ赤に染まり、主を失ったMiGは、ふらふらと少しの間飛んだ後、仲間の後を追うように海に呑まれていった。

 

《リーパー、なかなかやるじゃない》と、オメガが感嘆したように言う。

 

 

空域がクリアになると、オメガが私のパーソナルマークに目を遣りつつ話しかけてくる。

《ところでその死神マークさ、なんか取り憑かれそうで気味が悪いわね。今度私がお洒落に描き直してあげようか?》

《…ええっと、すいません。とりあえず遠慮しておきます》というも、

《遠慮しないでって。私“画伯”って呼ばれてるくらいだからさ》

それは正しい意味でそう呼ばれているのかと心の中でツッコミを入れつつ固辞しようとすると今度はヴァイパーが横に並びつつ絡んできた。

《こちらヴァイパー。クラッシュ・クイーン(被弾女王)オメガへ。さっきから余裕じゃない。アンタ復帰したばかりでしょ。また墜ちたら笑えないわよ》と彼女が突っかかると、

《こちらオメガ、ラジャー。墜ちないように気をつけまーす。…後あんまり近づかないでよね。酒臭いわよ。また一杯引っかけて上がってきたんでしょ》とオメガに返された。

《ちょっ…アンタ…!》何か言い返そうとしたヴァイパーだったが、グッドフェローからの《また飲酒操縦?どういうことかしら?説明してくれるわよね、ヴァイパー》とのやけに優しい声の無線に意気消沈し、オメガに恨みがましい目線を向けつつ編隊の先頭へ戻っていった。

 

《リーパー。ヴァイパーのストライカー、機種は分かるわよね?》とヴァイパーが離れた隙にオメガがまた話しかけてくる。《えっ…。MiG-21フィッシュベッド…ですよね》と答えると、《まあ見た目はそうだけど。実際博物館入りクラスの年代モノなんだけどね、あれは相当金をつぎ込んだカスタム機よ。レーダーFCSは最新鋭だからBVRAAMを運用可能。エンジンノズル、コンプレッサは強化してあって、動翼アクチュエータも新型のが積んである。フレームも強化してあるから、フィッシュベッドなのはガワだけよ。あれはもう実質的には第4世代機ね》と教えてくれた。通りでさっきの空戦ではやけに俊敏な機動が出来たわけだ。

《あとあれ、尻尾が“∞”になってる蛇のパーソナルマークが付いてたでしょ?あれは撃墜数を数えきれないぐらい墜としてますよって意味ね》などとパーソナルマークの由来まで教えてくれた。

《全ての敵機の撃墜を確認。帰投を許可します》とのグッドフェローの言葉を、ヴァイパーが否定する。《いや、まだね。重役出勤の奴らがいる》

レーダーに映ったのは、2機のIL-76と3機のMiG-21、それに6機のミラージュ2000だ。輸送機とMiGはまだいいが、問題はミラージュだ。私のファントムより1世代上で、デルタ翼とM53エンジンがもたらす機動力も良好。あいつとのドッグファイトは無謀だ。

 

とりあえず数を減らすため、キャンディットに2発ずつHPAAを発射し、撃墜。守るべき対象を失った敵戦闘機は、猛り狂うように突っ込んでくる。

 

 

《フィーバータイムだ!稼がせて貰うわよ!》とヴァイパーが叫びつつ、2機のMiGとヘッドオン。先に発砲したのは機銃の射程が長い敵機だったが、ヴァイパーは23mmの火線を難なくかわし、真正面からキャノピーを吹き飛ばす。

《くそ、正規部隊じゃない!こいつら傭兵だ…ぐわあ!》

短い断末魔を残し、1機目のパイロットが操縦席ごと身体を砕かれ、墜落。咄嗟にダイブして躱したもう1機も、MSSLに追い回され空中で爆散した。

 

 

《フォックス3》聞きなれない声とともに、2機のミラージュがミサイルに貫かれ、落ちていく。QAAMでミラージュを屠ったのは、ブロンコだ。彼女の駆るF-16Eは第4.5世代機。電子機器の差を生かせば、ミラージュを落とすのは簡単だっただろう。

 

 

さらに1機のMiGが主翼と胴体を撃ち抜かれ、落ちていく。今度はオメガがM4で撃墜したらしい。《リーパー、ぼやぼやしてると稼ぎがなくなるわよ!》

その声にハッとした私は、とりあえず手近な2機のミラージュに2発ずつMSSLを撃つ。1機はフレアで回避するも、もう1機はエンジンノズルに直撃を食らい、真っ逆さまに落ちていく。さらに回避軌道の真っ最中のもう1機には、Mk.48での掃射を仕掛ける。若干狙ったところからはずれたが、それでも右翼に大ダメージを与えることができた。ほんの数秒、パイロットは右翼の半分を失った機体をコントロールしようと足掻いていた。だが、やがて諦めたらしく、イジェクションシートを作動させて脱出した。パラシュートが広がるのが見えたが、私はすでに生き残った敵に意識を向けていた。

 

《蛇のマークの奴に追われている!助けてくれ!》ミラージュのパイロットが必死に機体を旋回させ、ヴァイパーの火線から逃れようとする。

《そいつは傭兵のエース“ヴァイパー”だ!俺が援護する、待ってろ!》もう1機がやや離れた位置からシュペル530とマジックを同時にヴァイパーに向け発射。舌打ちをしたヴァイパーはチャフとフレアを撒き、体をひねって無理やり向きを変えつつそのミラージュをSAAMで撃破。しかしその隙にアフターバーナーに点火した最後のミラージュは、ヴァイパーの射程から離れてしまった。しかし、ミラージュのパイロットは1つミスを犯していた。その場にいたのは、ヴァイパーだけでないということを忘れていたのだ。いつでも援護できるような位置にいた私とオメガがほぼ同時に敵機をロックオンする。

予想外の方向からのロックオンアラートに驚いた敵機は、残ったシュペル530をロックオンもせず発射。運悪く敵機の近くにいたオメガは、《ちょっと、そんなの有り!?》とぼやきつつ急旋回でかわそうとする。

その一瞬の隙を突き、私はHPAAを発射。最短射程ギリギリで撃たれたミサイルに対し回避機動を取る余裕もなかったらしいミラージュは、ミサイルを受けた胴体中央部から何回か小爆発を起こし、最後にひときわ大きな空中爆発を起こして墜落した。

 

《あーあ、リーパーに持ってかれちゃったか》シールドで何とかミサイルを防いだらしいオメガが、悔しそうにつぶやく。

 

《敵機の全滅を確認。ボーンアロー隊、お疲れ様》今度こそ敵を全滅させ、私たちは帰路に就くことが許された。

 

《リーパー、何機墜とした?》とオメガが聞いてくる。

 

《ええと…輸送機3機、MiG1機、ミラージュ3機の計7機です》

《こっちはMiG3機とミラージュ1機。まあ、今回はルーキーに手柄譲ってやったからね》とヴァイパー。

《…ミラージュ2機》ぼそりと答えるブロンコ。

《で、アンタは何機よ、オメガ》にやにやと笑いながら問いただすヴァイパー

《……MiG1機です》と、がっくりした様子で答えるオメガ。

《よし、1番撃墜数少ないアンタの奢りでルーキーの歓迎会だな》無慈悲な言葉に、あんまりだとばかりに頭を抱えるオメガ。そんな彼女を無視して、ヴァイパーはグッドフェローと話していた。

 

《こちらグットフェロー。ヴァイパー、今回の新入りはどう?》

《まあまあってところね。どこで力が伸びるかは本人次第。“一線”を越えることができれば誰だってモノになるわよ。》

《まあ、前の娘はそれを超える前になぜか逃げちゃったけどね》

《アンタがあんな無茶させるからに決まってるでしょうが》

 

私は思わず2人の会話に割り込む。《あの…私の前任のウィッチって一体何させられたんですか…?》との問いに、《いや、ほんのちょっと無茶するようお願い(・・・)しただけよ?》とグッドフェローが答え、《世の中には聞かないほうがいいこともあるわよ》とヴァイパーが忠告してきた。本当に何させられたんだと思いつつ、私たちは基地へと飛び続けた。

 

 

基地に帰った私たちを待っていたのは、休暇と外出許可証…ではなく待機命令だった。とりあえず2時間後にブリーフィングルームに集合するように伝えたグッドフェローは、半泣きのヴァイパーを引きずるようにして指令室へ戻っていった。シャワーを浴びて着替え、軽く食事をとった私がブリーフィングルームに向かうと、すでにオメガ、ブロンコ、ヴァイパーが待っていた。飲酒操縦をきつく叱られたらしいヴァイパーが涙目で机に突っ伏し、「覚えてなさいよオメガ…」と呪詛のようにぼやくのを無視して待っていると、やや焦った様子のグッドフェローが入室してきた。

 

「先に言わせてもらうわ。緊急事態よ。この後すぐ、オラーシャに向かいます」と聞いただけで、オメガが愕然とした顔をした。休暇は…?と呟く彼女を無視し、グッドフェローはかいつまんで状況を説明した。「オラーシャを訪れていた“グレイメン”と呼ばれる特権階級クラブのメンバー9名が拉致されたわ。彼らは世界の経済や行政を牛耳るエリート達よ。さらに同時刻、オラーシャ南西部イユーリでテログループがヴェルナー社の軍事施設を占拠。それに連鎖するように他の同社関連施設での武装蜂起が確認されたわ。という訳で休暇は取り消し。全員、30分以内に荷物をまとめて」

 

 

30分後、私物をトラベルポッドに詰め込んだ私たちは、一路北を目指して飛んでいた。離陸直後から、オメガが鬼のような形相でぶつぶつと何か言っている。そんなにテロリストが憎いのかと聞くと、「当然じゃない!あいつらせっかくの休暇を潰したのよ!南洋の海でバカンスを楽しみにしてたのに!」と、私利私欲満載の理由でテロリストに恨みを募らせていた。そんな彼女の愚痴を聞きつつ、私は、このタイミングで武装蜂起を起こしたテロリストたちの目的に、何か嫌な予感を感じていた。とりあえず頭の中で情報をまとめてみる。

 

この前の東京襲撃に使われたUAVはやはりクオックスだった。そしてそれは渦中のヴェルナー社で製作された物の改良型だという。そしてそれによるヴェルナー社軍事部門最高責任者「キャスパー・コーエン」の引責解雇。東京襲撃、グレイメン拉致、そしてヴェルナー社の軍事施設の占拠。全てが何かでつながっているような気がする。

しかし、それを差し置いて私が気に掛かることがある。UAVの中継手段と、もう1つ。

「オメガ」私は無線を介さず、直接オメガに呼びかけた。「何?リーパー?今話しかけないでほしいんだけど?」撃墜数最下位と休暇取り消しのダブルパンチで苛ついているらしいオメガの刺々しい声を無視して、疑問を語りかける。「あの時上空にいた飛行物体って、一体何だったんでしょう?」数秒後、先ほどとは打って変わって冷静な声で、オメガは答えた。

「分からない。でも、何かやばい奴だってことはなんとなく感じる」私が気に掛けていたのは、あの時上空にいた謎の飛行物体だ。恐らく6万フィート以上の高空にいたと思われるそれは、その後レーダーに映る事無く消えたという。「まあ、まず間違いなくクオックス…いや、ヴェルナー社関係の物でしょうね」「…やっぱりオメガもそう思いますか?」また数秒の沈黙の後、「今そのことを考えても仕方ないわよ。まずはグレイメンとやらの救出、そして武装蜂起の鎮圧。それからよ」「……了解」私は、一抹の不安を拭えないままだった。

 

 

 

 

 




相変わらずへたくそな内容で申し訳ありません。
次話投稿は少し遅れます。


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Misson03 閉ざさされた大地 ~要人救出作戦~

 

 

 

 

 

エリアR2M イユーリ南西部 2019年6月2日1500時

 

 

 

《ボーンアロー各機へ、これより人質奪還作戦を開始します!》

グッドフェローの凜々しい声と共に、私達は作戦空域へ突入した。

 

 

《……ところで、何でこんなの使わなきゃならなかったんですかぁ!》

私は、今使ってるストライカーに不満をぶちまける。私がこの作戦で使うはずだったストライカーは、引き続きF-4Eのはずだった。しかし、イユーリへ向かう途中、地中海に差し掛かったころに問題が発生した。

 

東京から西インド諸島へ飛び、2回戦闘を行ったうえ、さらにそこからオラーシャまで飛ぼうとした結果、J79魔動エンジンがオーバーヒートを起こしてしまったのだ。緊急着陸したロマーニャの軍事基地で点検を行った結果、エンジン交換をしない限り作戦行動は不可能と整備班により判断された。エンジン交換によるタイムロスを惜しんだグッドフェローは急遽、国連軍の権限を使用し基地にあるロマーニャ軍機の使用を打診。軍当局の快諾を得て借り出したのが、今私が使っている「トーネードIDS」だった。

はっきり言ってあまりいい機とは思えなかった。可変翼機構のせいで機体は重たく、小柄な機体の兵装搭載量は少ない。F-4よりもFCSやレーダーは新しく加速性も悪くはないが、どうにも使いづらい機体だった。

《まあ良いじゃん、小さくて被弾しづらいし、それに今回はCASだからちょうどぴったりな機体だよ》とオメガが慰めてくれる。《被弾しづらいならアンタが乗れば良かったんじゃない?》とヴァイパーがオメガを茶化す。

 

 

《こちらリベリオン海兵隊FACのベルツ中尉だ!現在目的地に向け飛行中。こっちは対空兵器には無防備だ。進行方向の敵防空網制圧を要請する。頼んだぞ空賊部隊!》

 

眼下を飛ぶのは2機のCH-47F。最新鋭の輸送ヘリではあるが、所詮は鈍重な大型ヘリ。私たちが対空火器を破壊しないと、彼らは生き残れない。今回は対地攻撃任務とのことで、Mk.48のほかにもう1つ、ブリタニア製の連発式グレネードランチャー、アーウェン37を持ってきていた。この37mm弾なら、装甲がないに等しい対空砲やSAMなら一撃で破壊できるはずだ。

 

《聞いたわね?コマンド部隊のヘリが進行中よ。人質が拘束されていると思われる目的地まで彼らをサポートします。まずは進行方向の敵施設を破壊。しっかり働きなさいよ》

 

まずは手近な武装ボートに7.62mm弾を叩き込む。ボートの撃沈を確認する前に目の前の前哨基地にMSSLを発射。振り返り、両方の破壊を確認。

 

《ヴァイパーからボーンアロー各機、対地攻撃よ。勢い余って地面にキスしないようにね…特にオメガ、アンタは気をつけなさいよ》

《…了解!》この前の撃墜数最下位以来ずっといじられっぱなしのオメガがヤケ気味に返事する。

 

《ヴァイパー、ルーキーのサポートをお願い》グッドフェローからの無線にヴァイパーは《はいよ》とだけ答え、私の横についた。

 

実は私は、対地攻撃の経験がない。そのことを正直にグッドフェローに話したら、「心配しないで」と返されたのだ。ヴァイパーのサポートなら大丈夫、ということだろう。

《リーパー、ヴァイパー先生の個人授業を始めるわよ。まずは“エースへの道その1”》

思っていたサポートと違うと言う前に、

《リーパー、アンタ“対地特殊兵装”は積んでるわね?銃やMSSLよりなかなか使えるわよ。「使えるもんは何でも使え」ってこと。ほら、わかったらやって見なさい》と勝手に話が進んでいた。《ちょっとそれだけ!?もうちょっとなんというか…》とヘリの護衛をしていたオメガが呆れるも、《順序ってもんがあるのよ。撃墜数最下位はちょっと黙ってて》とヴァイパーにあしらわれ、《夜道に気をつけなさいよ!》の捨て台詞を残して彼女はヘリの護衛へと戻っていった。

とりあえず言われるがまま、HUDを対地モードに切り替え、LACMを重要目標のAAガンに発射。ロックオンされたLACMは正確にAAガンへ向かい……しかし手前の地面で爆発した。「…あれ?」とっさの判断で、Mk.48より破壊力が高いアーウェン37グレネードランチャーに持ち替え、4発撃つ。4基並んだAAガンのうち、3基を破壊。撃ち漏らしは、ヴァイパーが片付けた。

《やるとおもった。じゃあ、ここで“エースへの道その2”よ。HMDの情報を良く見なさい。破線コンテナで表示された敵は地形とかに遮られてるから、そのまま攻撃しても当たらないのよ。回り込んで別方向から攻撃しなさい。「急がば回れ」よ。覚えておきなさい》

 

 

《オメガからグットフェローへ》トラックや監視塔に40mmグレネード弾や5.56mm弾を浴びせつつ、オメガがグッドフェローに話しかける。《この前の宇宙センターの作戦は国連から押し付けられたんじゃなくて、強引に仕事を引っ張ってきたって本当?》とのオメガの問いに、《報酬が良さそうだったからね》と即答。《相変わらず金、金だねぇ》とオメガが呆れたように言うも、《よく墜ちる娘がいるからよ。機体購入は金がかかるから》と返され、《それを言われるとぐぅの音も出ないわね》と、納得したようにうなずいていた。

 

《その辺にしときなさい。次の目標が見えてるわよ》とヴァイパーがたしなめ、《おおっと、やばいやばい》と言いつつも、彼女は対空機銃を撃ち上げてくるAPC2両を屠り、ついでとばかりに大型燃料タンクに40mmグレネード弾を撃ち込み、周囲の歩兵を大爆発で一掃した。

 

 

《拠点まで残り15km。この調子で引き続き頼むぞ!》タンクの爆炎を目視したらしいベルツ中尉が叫ぶ。

 

森の中に隠された最後の目標を見つけた私は、照準コンテナが実線で表されていることを確認し、LACMを撃ち込む。今度こそ命中したLACMは機関砲弾を誘爆させ、AAガンを跡形もなく吹き飛ばした。

 

《拠点まであと10kmだ。空賊、礼を言わせてもらうぞ!》チヌークが高度を下げ、NOEで拠点へ向かおうとした時だった。

《ん?後方からレーダー反応!》最もレーダー性能がいいストライカーを使うオメガが、こちらに向かう機影を捉えた。《IFFを確認…えっ?このタイミングで味方?》敵機ではないことを確認した私の目に、信じられないものが飛び込んできた。

 

 

全遊動式カナード、前進翼、斜め双垂直尾翼で構成される先進的な戦闘機。胴体内で上下に重ねる独特な配置のエンジン。特徴的な背中のエアインテイク。

 

扶桑が開発した最新鋭戦闘機、「ASF-X震電Ⅱ」だ。

 

 

目の前にいるのは、群青色に塗装され、機体背部に1本の白い線が描かれたASF-Xが1機と、同型のストライカーを履いたウィッチが3名。特徴的なのは、彼女ら3人が揃いの制服──群青色の地に、中央の白い一本線というデザインの物──を身に着けていることだった。

 

《邪魔だ》とだけ喋ったパイロットが、オメガをかすめるように追い抜く。「うわっ!!ちょっと…!」抗議するオメガをあざ笑うかのように、さらに3人のウィッチがオメガの脇を通る。

《…エッジよりスラッシュ、“空賊さん”が先に到着してます》1人のウィッチが、一番機と思しきパイロットに話しかける。

 

《ん?そうか。…空賊部隊へ、前座ご苦労。もう帰ってもらって構わんぞ》

 

 

 

これが、国連空軍トップクラスのエリート部隊“リッジバックス隊”とのファーストコンタクトだった。

 

 

 

《背中に白の一本線、エリート様のご登場ね》ヴァイパーがあざける様に言う。

《分かりやすくいけ好かないわねぇ!最新鋭機なんか乗っちゃって!》と、オメガが敵意をむき出しにする。

 

《こちら国連軍所属AWACS-W(エーワックス・ウィッチ)スカイ・アイ。これより参加全航空機部隊を指揮する》

凛とした声に上空を見上げると、はるか上空でE-767ストライカーを装備したウィッチが飛んでいた。

 

《こちらグットフェロー。ここからは共同作戦よ。アローズ各機への指揮もスカイ・アイに移行します》

彼女らが作戦前にグッドフェローが言っていた“エリート部隊”だったのか。

 

 

《リッジバックス隊各機、邪魔なのがいるがいつも通り作戦を遂行しろ》

完全にこちらを見下したリッジバックス隊隊長──スラッシュの言葉を聞いたオメガが口の中で何事か吐き捨てる。

 

《彼らより早くターゲットを破壊しなさい。取り分が減るわよ》とのグッドフェローの言葉に、《了解!お財布握り締めて待ってなさいよ!》と元気を取り戻したオメガが応じる。

 

《リーパー、“エースへの道その3”は「貪欲になれ」よ。エリートでも何でも戦場では戦果を上げた奴が一番偉い。そう決まってんのよ。「俺の獲物に手を出すな」ってくらいの勢いでいかないと食いっぱぐれるわよ!》オメガに呼応するように、ヴァイパーが往年の戦記物漫画の台詞を借りて急かす。その言葉通り、私は手近なAPCを蜂の巣にし、MSSLで監視塔や前哨基地を吹き飛ばす。

 

《こちら海兵隊FAC!進行方向にSAMが配置されている!排除を要請する!》ベルツ中尉からのゾッとするような無線を聞くと、1機のヘリが今まさにSAMに追い回され、チャフとフレアを撒いて回避したところだった。

 

《スカイ・アイより各機、これよりヘリのLZ(ランディング・ゾーン)を確保する。 敵SAMサイトを破壊せよ》グッドフェローに比べると淡々とした指令。

 

《こちらリッジバックス隊。スカイ・アイ、ウィルコ》こちらも淡々と答えたスラッシュが、GBU-31を投弾し、SAMの管制レーダーを破壊。1発で数基のSAMを無力化したスラッシュに、《負けてらんないわね》とオメガが闘志を燃やす。

 

私も温存していたLACMを連続発射し、2基の発射機と燃料タンク1基を破壊する。

更にもう1基の管制レーダーに照準を合わせると、《悪いわね空賊さん》とあざ笑うようなセリフと共にリッジバックス3──フェンサーという名のウィッチがグレネードを撃ち込み撃破した。

《ちょっとちょっと、こっちの獲物に手出さないでよ!》流石に我慢しきれなくなったのかオメガが抗議するも、《なんだ、まだいたのか》と完全にこちらを見下しているスラッシュに言い捨てられてしまった。

《…死神なんて大層な名前の割には遅いな》余計なお世話だと心の中で吐き捨て、地上を掃射しAAガンと監視塔を1基づつ破壊。

可変翼を一番後ろまで畳んで一気に加速し、湖岸の平地に密集している敵拠点の真ん前に躍り出る。残ったLACMを全て発射し、監視塔、武装ボート、発射機、燃料タンクを同時に破壊。

 

《敵SAMサイトの無力化を確認》スカイ・アイの報告に、《協力感謝する!これよりランディングを開始する!》と返答したベルツ中尉は、地表ギリギリにホバリングしたヘリから飛び降り、部下を率いて“グレイメン”らが監禁されていると思しき建屋へ向かっていく。

 

《航空部隊は周囲を警戒しつつ、残りの敵を撃破せよ》とは言われたものの、辺りの地上目標はすべて破壊し尽くされ、残骸しか残っていない。しかし、敵もまだ戦力を隠していた。何処からともなく、3機の不明機が姿を現す。速度からしてヘリコプターだ。旋回してMSSLをロックオン。2機のハインドを撃墜。残った1機は30mm砲を撃ちつつ高度を下げて逃げようとしたが、私はすれ違いざまにキャノピーを撃ち抜き、叩き落した。

 

《コリンズ、B隊は裏へ回れ!》《ラジャー! 》《A隊いくぞ!》

地上部隊の無線を聞くに、もう突入寸前らしい。あと5分以内に片が付くだろう。

ふとレーダーを見ると、国連軍の主力飛行隊“ジャベリン”“セイバー”がこちらに向かってきていた。F/A-18Eを用いる彼らが上空から援護してくれる。どんなイレギュラーが起きても大丈夫だと、私はこの時考えていた。

《プライベーティアって…》エッジのTACネームを持つ扶桑人らしいウィッチがつぶやく。《空賊が気になるのか、エッジ?》とのスラッシュからの問いに、《いえ、この程度かと思って》との返答。フラストレーションが溜まってきているのか、普段無口で無表情なブロンコも珍しく眉間にしわを寄せている。

《言ってくれるわね。確かに圧倒的に差がついちゃってるけど……》実際、私たちは重要目標のSAM管制レーダーを1基たりとも破壊できていない。既に無力化された発射機か、その他の優先度の低い目標を破壊しただけだった。

《こんなザコ敵じゃあ本気を見せられないんでね!》とオメガが強がり、《確かに手応えの無い敵ばかりだったわね》と、こういう時だけは気が合うのか、ヴァイパーも同意する。

 

しかし、私は全く別の事が気になっていた。あのウィッチ──エッジに、見覚えがあったのだ。大型のHMDに隠されて顔の上半分は見えないが、犬系らしい使い魔と髪型に見覚えがある。確かに知っている顔だ。ウィッチの知り合いなどほとんどいないが、昔関わったことのあるウィッチを思い出せるだけ思い出して見る。はっと、彼女の顔と名前が脳裏に浮かんだ。

「ケイ!」思わず、口に出してしまう。《!?ボーンアロー4、貴女、どうして私の名前を!?》やはり、間違いなかったようだ。いきなり名前を言い当てられ、驚いた彼女は一瞬バランスを崩した。

《…私よ、ほら、航空学生の時に同期だった》HMDを上げた私の顔を見て、数秒間思案した彼女は、《ああ!あの時の!》と叫んだ。どうやらあちらも思い出してくれたらしい。

《リーパー、リッジバックス2と知り合いなの!?》心底びっくりしたという感じでオメガが聞いてくる。《はい。私が扶桑で国防空軍の訓練生だったころの同期です》と手短に訳を話す。

 

実は私は、元々は扶桑国防空軍の航空学生だった。しかし、訓練途中で私はその道から外れることとなった。原因はユリシーズだ。復興予算に国防費を喰われ、新たにパイロットやウィッチを多数任官することができなくなった軍部は、一定未満──通常なら合格クラスだが──の成績の者に対し航空学生を除隊するよう求めたのだ。この際に、数多くのパイロット候補生が操縦技能不足や体力不足で除隊させられ、別の道を歩むことになったという。私の場合は操縦技能等に問題はなかった。だが、“協調性に大きく欠ける”という欠点を指摘されていた。それが原因で私は除隊させられてしまった。本来ならそこで私のウィッチとしての活動は終焉を迎えるはずだった。が、翌日に私の元を訪れてきたエクスウィッチ──グッドフェローが私を雇用したいといってきたのだ。軍への愛想を尽かしていた私は一も二もなくその話に飛びつき、即日扶桑国防空軍自体から除隊。数日後からはアローズ社で訓練を受けていた。

 

しかし、エッジ──永瀬ケイは違った。彼女は高い操縦技能と協調性、リーダーシップを発揮し、トップクラスの成績を収めて実戦部隊へ配備されたのだ。

 

 

《…まさかこんなところで会うなんて》こちらも向こうも意外な出会いにびっくりしているところに、地上部隊から交信が入る。

《目的施設の内部に入った。敵の反応は軽微。このまま進行する》

作戦終了まであと1歩のところまで来たらしい。でも、違和感を覚える。敵にとっての最重要防衛対象は“グレイメン”だ。それを守るはずの敵がほとんど抵抗をしていない?明らかにおかしい。

 

《こちらA隊、目標の部屋に接近。突入する!》ドアを蹴破る音が無線機越しに響き、数秒間荒々しい足音が続く。目標発見の報があるか、全員が耳を澄ませていた。

《こ、これは…》ベルツ中尉の驚いたような声。それきり無線が沈黙する。

 

《ベルツ中尉、どうした?報告を。…ベルツ中尉、報告を》帰ってきたのは、罵声交じりの絶望的な報告だった。

《くそッ!人質なんてどこにもいない!ここはもぬけの殻だ!》私の予感は的中してしまった。この警備の薄さは、そもそもここに防衛対象がいないという意味だったのだ。

 

「なーんだ、無駄足かあ」ホバリング状態で、頭の後ろで手を組んだオメガがぼやく。

 

 

 

 

 

 

 

その次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

空が、砕けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

衝撃波とともに現れた何か(・・)が、私たちの眼前で膨れ上がる。

 

全身に火が付きそうとも感じるほどの熱波に、耳が一時的に聞こえなくなるほどの爆音。

その何か(・・)が爆発したと私が認識できたのは、その数秒後だった。

 

 

《なんだ!?》状況を全く飲み込めないスカイ・アイが叫ぶ。

 

その次の瞬間、無線に届いたのは、友軍機の阿鼻叫喚だった。

 

《うわあっ!助けてくれ!制御が……》

《操縦不能!ベイルアウトする!》

《ちくしょう!機体が…》

《メーデー!メーデー!》

 

 

《どうしたの!?》今まで沈黙していたグッドフェローが無線に割り込む。

《なんだなんだ!?》ヴァイパーも、何が起こったのか分からないようだ。

 

《ジャベリン隊、セイバー隊、応答を!応答せよ!くそっ!》スカイ・アイが感情的に吐き捨てる。見ると、レーダーに20機近く映っていた味方戦闘機隊は、半数近くが一度に姿を消していた。

 

《何がどうなってるの!?誰か説明して!》オメガが喚き散らす。

 

《周囲を警戒しろ!フォーメーションは崩すな!》この中で最も経験豊富なスラッシュが混乱に陥ったリッジバックス隊を立て直そうとする。

更にもう1発が炸裂し、爆心地近くにいた1機のF/A-18Eが跡形もなく消し飛ばされる。

 

《こちらスカイ・アイ!全機に告ぐ!極超音速で飛来する物体を感知!ミサイルじゃない、遠方からの砲撃だ!高度を下げろ!》炸裂弾の嵐から身を守る方法は今の無線で分かった。しかし、ここは山岳地帯。下手に高度を下げれば地面に激突だ。

 

《地面にもぐれってでもいうの!?》オメガがスカイ・アイに問いただす。

 

《コマンド隊はその場で待機!上空の航空部隊は良い的になるぞ!》1人のウィッチ如きにかまってられないらしいスカイ・アイは彼女を無視する。私も、ギリギリまで高度を下げ回避を図る。「テレイン、テレイン、プルアップ!プルアップ!」と対地接近警報が鳴り響くほどの低高度に機体を下げるも、まだ高度が高いらしい。このままでは落とされてしまう!

 

《あの峡谷だ!あそこを抜けるしかない!》 私を追い越したヴァイパーが指す先には、戦闘機3機分ほどの幅しかない狭い峡谷が口を開けていた。

 

 

《アローズ全機へ!ヴァイパーを追って峡谷へ逃げ込みなさい!早く!》是非も無く、私はヴァイパーのすぐ後を追う。

《リッジバックス隊、付いて来い。私が先行する》それに続いてスラッシュが、さらにエッジが飛び込んでくる。少し遅れてオメガやブロンコ、リッジバックス隊の隊員らも谷へ飛び込んでくる。その間にも、第3撃、第4撃と砲撃は続き、高高度で右往左往していた戦闘機隊のうち少なくとも3機が機体を粉砕されたのがレーダーで分かった。

 

《高高度では敵の対空砲撃の餌食となる。これより最高高度を2600ftとする》とのスカイ・アイの言葉にぞっとする。わずか2600ftだと、眼下の川に手が届きそうな気さえしてくる。

 

《高高度にいる連中!今すぐ峡谷にもぐれ!》ヴァイパーが警告するも、彼らはいまだに躊躇していた。当然だ。戦闘機よりも遥かに小柄なウィッチでさえ谷間に飛び込むのには躊躇するのに、左右にわずか10mほどしか間隙がない彼らにとっては、自殺行為以外の何物とも感じられないだろう。

 

《ルーキー、落ち着きなさいよ!こういう時は高度計だけ気を付けて!下手に地面を見たら駄目よ!》オメガが低空飛行のアドバイスをくれるも、その声は震えていた。

 

 

《敵の第2射を感知。着弾予想地点と危険界のデータを各機に送る。カウント・ゼロまでに危険界から脱出せよ!》突如、視界が真っ赤に染まる。ここが危険界か!慌てて可変翼を畳み、フル加速してその場を離れる。

《5…4…3…2…インパクト!》同時に、渓谷の中で火球が現れる。爆風で岩壁にたたきつけられそうになるのを、急加速と旋回を駆使して回避する。

《ちょっと!峡谷の中にも撃ってくるじゃない!?》話が違うとばかりにオメガがスカイ・アイにがなり立てる。

 

《よく聞け、ボーンアロー2!先程の攻撃はレールガンと思われる。発射された砲弾は炸裂後、可燃ガスを拡散し広範囲の2次爆発を発生させるタイプだ。たとえ隠れても二次爆発の加害範囲からは免れない。最初の炸裂を目視したら直ちに爆心から離れ二次爆発の範囲を回避しろ!》

 

その言葉通り、渓谷の上で炸裂した砲弾の火球が渓谷の壁面を炙る。

 

《リッジバックス隊、そのままルートを維持!》余裕がないのか、スラッシュの声にも焦りがある。

 

《何機残ってる!?》オメガが後ろを振り向き戦闘機隊を心配するも、「前だけ見て」と言い残したブロンコに追い抜かされる。

 

《もう1発来るぞ!》もう何射目かもわからない砲撃が飛んでくる。

《いつになったら止むのよ!?》オメガが泣きそうな声で叫ぶ。

 

《5…4…3…2…インパクト!》今度は余裕をもって躱せた。

しかし、私の後ろを飛ぶ彼女(・・)には、そんな幸運はなかった。

 

 

《メーデー!メーデー!ボーンアロー2、アンエイブルコントロール!》

はっと後ろを振り向くと、オメガがストライカーから黒煙を吐き出し、よろめくように高度を落としていた。

《ボーンアロー2、イジェークト!》

次の瞬間、オメガの体からストライカーが分離し、白いパラシュートが開いた。

 

《ヴァイパー、オメガが!》《気にすんな!このぐらいならアイツは死なない!》ヴァイパーがベイルアウトしたオメガを気にする私を叱りつけ、もっと飛ばすように目で急かしてくる。

 

《5…4…3…2…インパクト!》さらにもう一射。今度は殿の戦闘機隊が巻き込まれた。

 

見える限りでも4機、ある者は火球に焼き尽くされ、、またある者は爆風で壁に叩きつけられ、ベイルアウトすることさえ出来ずに落ちていく。

 

《離脱ラインまであと15km。高度をそのまま維持しろ》まだそんなに、という気分が心の中を支配する。

《警告!至近弾飛来!》今度の危険界はやや前方。加速ではあそこを突破できない。私は可変翼とエアブレーキをいっぱいに開き、急減速。この時ばかりは、この可変翼が有難く思える。

 

《5…4…3…2…インパクト!》今度は3発がほぼ同時に眼前で炸裂する。このまま進んではあの火球の跡に飛び込むことになる。しかし、いつまでも失速寸前で飛んでいるわけにはいかない。危険を承知で、炸裂した火球が残した高温の空気と塵の中に飛び込む。視界はほぼゼロ。そして、僅か数秒後に私はこの選択を激しく後悔した。

 

HMDに映る警報。私はそれを一瞥し舌打ちする。右側のRB199魔動エンジンが爆風で吹き上げられた異物を吸い込み、出力低下を引き起こしていた。

 

《まもなく離脱ラインへ到達する!全機高度をそのまま維持しろ!》見ると、離脱ラインまではあと4キロほど。私は再び主翼を畳み、無事な方のエンジンを吹かして全速で突っ込む。

 

 

 

不意に、砲弾が炸裂する轟音が止んだ。

《…危険空域からの離脱を確認。敵の対空攻撃も沈黙している。全機、高度制限を解除する》

ようやく砲撃地獄から抜け出せたらしい。

《…もういや、こんなの》無口なのが特徴のブロンコも、不平を漏らしている。

 

《アローズ全機、報告を。リーパー、まだ生きてる?》疲労困憊した私の代わりに、ヴァイパーが答える。《ボーンアロー1,3,4を確認。ボーンアロー2は渓谷でベイルアウトした》

数秒の沈黙の後、ため息をついてグッドフェローが答える《ベルツ中尉に回収を要請するわ》

 

「……あれは一体なんだったんですか?」震える声で誰ともなしに呟く。

 

《現状では不明ね。レールガンといえば、アレ(・・)を思い出すけど……》

アレ(・・)か、……そうかもね》二人が言うものに、私も心当たりがある。

 

 

 

8門1セットの、人類史上最大の巨砲。全世界6ヶ所に点在する“厄災の記念碑”。

 

 

 

《…まともに編隊も組めん空賊連中のせいで、予想よりも遅くなった。スラッシュよりリッジバックス隊、帰還するぞ》最後の最後まで、スラッシュは私たちに憎まれ口を叩き通しだった。

《ラジャー。さよなら空賊さん》後半の台詞を私を見ながら言いつつ、エッジもそれに続く。

 

《ほんと、淡々としてるわねぇ……》ヴァイパーがぼそりと呟く。

 

 

《ヴァイパー、部隊の準備が整い始めたわね》グッドフェローが意味深なことを言う。

 

《リーパー、“エースへの道その4”を用意しといてあげるわ。ほんのちょっとだけきつめのやつだけど、大丈夫そうね》

 

聞き捨てならない台詞に、たまらず言い返す。《あの、それって私の前任がやらされてその後逃げ出したってやつじゃない…ですよね?》

その言葉にヴァイパーは、《さあね》と、笑いを噛み殺すように言った。

 

………絶対なにかヤバい奴だ、と私は直感したが、抗う術はなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Misson04 厄災の記念碑 ~ストーンヘンジ攻略戦~

 

 

エリアT8F オストマン中央部 2019年 7月8日 1100時

 

 

 

《よおし、見えてきた!…って、うわあっ!!》作戦開始早々被弾しかけたオメガに、

《喋ってると舌噛むわよ。あと新品の機体壊したらどうなるか分かってるでしょうね?》

とヴァイパーが脅しをかける。

 

《レイピア2、左翼をやられた!すまない、離脱する!》いきなり戦力ダウンを知らせる無線に気が滅入る。レーダー上で、1機のF/A-18Fがよろめくように反転していく。

《ヴァイパー、作戦は!?》とのオメガの問いに、《見えたものから叩き潰せ!》という、シンプル過ぎる回答。《はいはい、いつも通りの現場主義!》その回答をかき消すように、再びストーンヘンジからの砲撃。

 

《ハハッ、手厚い歓迎ね!》こんな状況というのに、ヴァイパーはどことなく楽しそうだ。

《スカイ・アイから全部隊へ、これよりストーンヘンジ破壊作戦を開始する》スカイ・アイの言葉を合図に、私たちはストーンヘンジの懐に突っ込んでいく。なんでこんな無茶な作戦を、と心の中でつぶやき、私はブリーフィングの内容を思い出していた。

 

 

 

約10時間前──

 

「国連軍がイユーリへの爆撃作戦が予定しているわ」とグッドフェローが切り出す。

「でも、イユーリはレールガンの射程範囲内で近づくことは出来ないわ。そこで、これよりエリアT8F、オストマン中央部の厄災の記念碑こと、“ストーンヘンジ・タイプ3”に攻撃を行います。……レールガンの直撃を受ければ勿論、砲弾の衝撃波に巻き込まれても即終わりよ。特にオメガ、貴女は前回墜ちたんだからその怖さはわかっているわね?まあ、それは置いといて、敵はストーンヘンジの中央に電子攻撃システムを建設したことが判明してるわ。強烈なジャミングで航空機からのロックオンは無効化される。そこで友軍の地上部隊がストーンヘンジに接近して砲撃による電子攻撃施設の破壊を試みます。貴女たちの任務は彼らの前進を阻む敵防衛部隊の排除よ。電子攻撃施設が破壊されればロックオンが可能となるわ。電子攻撃施設の破壊を確認したら速やかにレールガン本体に攻撃を加えなさい。そして、今作戦においては リッジバックス隊を含む腕利きのパイロット達が集結しています。先を越されないようにね。あのデカ物を落としたら、報酬上乗せよ」

このブリーフィングを要約すると、ストーンヘンジの砲撃下、ベルツ中尉ら率いる地上部隊を援護。彼らにECMを無力化させ、その隙に空爆ということだ。シンプルだが無茶な作戦だ。

しかしオメガは異常なまでにこのミッションに燃え、「全部私がぶっ壊してやる」とまで息巻き、普段より多くのグレネード弾やSTANAGマガジンを弾薬庫から持ち出してきていた。普段は身に着けないチェストリグを装着し、その上背中にはSMAWロケットランチャーまで背負っている。まあ、当然だろう。前回のミッションで墜落した彼女は、EF-2000ストライカーを再び入手したもののその購入費の一部を負担させられ、本人曰く「有り金はたいた」らしく、重度の金欠に陥っていたのだ。今回のミッションで金を稼がなければならないのだろう。

かく言う私も、似たような理由で金欠だった。エンジンを壊したトーネードの修理費が嵩んだ……のではない。もともとあの機体は今年中に退役する予定だったらしく、私が壊してしまっても特に何の問題もなかったのだ。そこで突き当たった問題がこのミッションに使用する機体がないということだ。F-4Eのエンジン修理は終わったが、この難易度のミッションを行うには機体が古すぎる。機体のレンタルも考えたが、アローズ社が保有する機材──F-5EやSu-25──ではやはりこのミッションの完遂は困難だと判断した。そこで、今までの仕事で貯めたある程度の預金を使い、それでも足らずに一部はローンで自分の好みの機体を入手することとしたのだ。初陣がこんな無茶な作戦だとは思わなかったが、それでも今まで乗ってきた中では最高性能機。どれだけ活躍できるか、ある意味楽しみだった。

 

 

 

 

《しっかしまあ、グッドフェローもよくそんな珍しい機を入手できたわねえ》と、オメガが私のストライカーを見て呟く。まあ、確かにその反応が当たり前だろう。私の新しい乗機は、箱型2次元スラストベクタリングノズルとカナード翼を装備したマルチロールファイター、「F-15S/MTD アジャイル・イーグル」だ。ごく少数の機体が生産されただけのこの機体はほとんどが実験部隊や航空技術研究に用いられており、兵装やFCSを搭載しているものはせいぜい1機か2機だ。その内の1機をどういうルートを使ったのかグッドフェローは入手し、私に売ってくれたのだ。その苦労に見合う成果を上げねば、と私は内心奮起した。

ただ1つ問題があった。入手して慣らし運転をした後、即今作戦に使用しているので、塗装が変更できていないのだ。青、白、黒のストライプカラーの上面に真っ白な下面。デモンストレーター機か曲技飛行隊のような塗装はさすがに悪目立ちが過ぎる。この作戦が終わったら塗装しなおしてもらわないとな、と私は思った。

 

 

アフターバーナーを全開にし、地上部隊上空を通過。やはり加速性が段違いにいい。ファントムやトーネードも一応はマッハ2級の戦闘機だったが、イーグルのF100-PW-200の推力は129.71kN。ファントムの1.6倍、トーネードの1.8倍という推力は一線を画しているとしかいうほかない。

 

 

眼下は、茶色い砂と岩石で覆われた荒涼とした大地だ。その所々にみえるまだら模様の物体は、ストーンヘンジ攻略に失敗したオストマン軍の兵器の残骸だろう。陸軍のレオパルド2やM110自走榴弾砲はひっくり返されてスクラップと化し、UH-1らしきヘリは地面に叩きつけられて原形を留めていない。その少し向こうでは、何機ものF-16CとF-4Eが無残な黒焦げの残骸と化して横たわっている。

そして、地上車両の脇に横わたる黒い人型の塊。───もし私達が作戦に失敗したら、ベルツ中尉らもあの死体達の仲間入りをする羽目になる。

 

 

その地上部隊と正対しているのは複数両の装甲戦闘車と大型バンカー。この前の山岳戦と違い、平野での戦闘のため障害物に気を使わなくて済む。LAGMを釣瓶撃ちにして、複数のターゲットを同時に破壊。ふとレーダーでストーンヘンジの位置を確認してみると、やはりジャマーの影響でか、ぼんやりとした円でしか表示されていない。

 

今は攻撃対象ですらないストーンヘンジは取りあえず置いておいて、今度は横から地上部隊を襲撃しようとする車列に攻撃。2両をLAGMで破壊し、近くの小型トーチカともう1両には37mmグレネード弾をお見舞いする。高度100ftほどで低い丘陵を飛び超え、その向こうを進軍する戦車部隊を捉える。

 

《早く敵の情報を送ってよ!》と、初っ端から出遅れたオメガがスカイ・アイに文句を言うも、そこは「貪欲になれ」の教えを忠実に守る私の勝ちだ。クラムシェル型砲塔の戦車、おそらくはT-72にLAGMをロックオン。慌ててスモークディスチャージャーを作動させるも、こちらのミサイルはレーザー誘導ではなくレーダー誘導式。白煙に隠れて見えないが、撃破した手ごたえはある。

 

《砲撃の危険界のデータを送る。表示に注意せよ!カウント・ゼロまでにその範囲内から離脱、回避しつつ地上部隊を支援しろ。低空でも2次爆発のダメージは免れない。最初の炸裂を目視したら直ちに爆心から離れ、二次爆発の範囲を迂回しろ!》

さすがにストーンヘンジのすぐ近く、前回とは比べ物にならない頻度で砲撃が来る。すでに10発近く撃たれており、戦闘機部隊はろくに活躍することもできないままその半数が撤退、若しくは撃墜されていた。

 

《2射目、来る!》スカイ・アイが叫び、レーダーに赤い円がいくつも表示される。

 

《危険界から離脱!オメガ、そのままじゃ叩き墜とされるわよ!》またオメガが狙われているらしく、ヴァイパーがうるさいくらいに注意を促す。

 

《5…4…3…2…インパクト!》しかし、今度の狙いは航空部隊ではなかった。

巨大な火球がストーンヘンジから20kmほどの位置で炸裂する。

《ぐうっ!衝撃で押しつぶされる!》シールドで何とか熱風を防いだらしいオメガだが、衝撃波を受け流すのは難しかったらしく、苦しげに呻く。

 

《あのバケモノ、地対地攻撃もできるのか!?》ベルツ中尉が憎らしげにつぶやく。

《レールガンの砲撃だ!損害を確認しろ!》地上部隊を見やると、少なくとも戦車1両が横転、その脇には少し前まで人間だったであろう肉塊が散らばっている。

《進み続けろ!もたもたしてると損耗する一方だぞ!》ベルツ中尉が言うとおり、彼らは進み続けるしかない。たとえここで後退を図っても、その道中に砲撃で壊滅させられるだけだ。

 

《こちらB隊コリンズ軍曹、近接航空支援を要請します!》との地上部隊から懇願にも聞こえる無線だが、一番近くにいるオメガは、《無茶言わないで、こっちも逃げまわってんだから!》と返す。しかし、地上部隊の進軍を阻む装甲戦闘車に、何本ものロケットが降り注ぐ。やったのはオメガ……ではない。

 

《邪魔だ。遊んでるだけなら帰ってくれ》《こんにちは、空賊さん》70mmロケットの雨を降らせたのは、リッジバックスだ。

 

《また一本線の連中?》どうやら完全にリッジバックス隊が嫌いになったらしいオメガがつぶやく。

 

《ちんたら飛んでんじゃないわよ、オメガ!ほら、やるわよ!》ヴァイパーがオメガを急かし、複数両の装甲車や戦車に、M203とM79からグレネード弾の雨を降らせる。撃破された兵員輸送車から銃を持った兵士が這い出るのを予測していたように、ヴァイパーが複数のM67破片手榴弾を落とす。空中で炸裂し、破片効果を最大限に発揮した手榴弾は、二人の通った後から動くものを一掃した。

 

《ちっ》2人に獲物を取られたらしいスラッシュの舌打ちがはっきりと聞こえるが、無視だ。

 

 

《こちらA隊、目標地点に到達!待たせたな!電子攻撃施設への砲撃を開始する!》ストーンヘンジまでほんの10kmほど。見える限りでは4両のM109A6パラディン155mm自走榴弾砲と2両のエイブラムス戦車……恐らくは最新鋭のM1A2 SEPV3。さらには同型のストライカーを用いる2名の陸戦ウィッチまで見える。合計8門の砲撃を、鉄骨を組み上げただけのろくな防備もない建物に浴びせかけるのだ。一瞬で片が付くだろう。

 

 

《各機、地上部隊の攻撃完了まで待機》待機とはいってもまだやることはある。自走砲を狙うハインドを撃墜し、水平射で地上部隊を薙ぎ払おうとした対空機関砲座を破壊。

 

しかし、ふと気づく。静かすぎる。今まで数秒とおかずに鳴り響いていた砲撃音が全く聞こえない。《おかしいな……、レールガンの砲撃が止んだ》スラッシュも訝しんでいる。次の瞬間、今までばらばらの方向を向いていた8門の砲身が、意外なほどの素早さである一方向に向く。あの方向は──

同一方向を向いた砲身が、ぴたりと動きを止める。その動きが何をしようとしているか瞬時に察した私は、無線機に叫ぶ。だが、その声は、8発の砲弾が同時に放たれた爆音でかき消された。地上で、今までとは比べ物にならない大きさの火球が産まれる。すさまじい爆風。視界を遮る塵の中で、全備重量63トンを超える戦車が、子供に投げ飛ばされたおもちゃのように大地を転がるのが一瞬見えた。

 

《ぐああっ!》ベルツ中尉の呻きとも悲鳴ともつかぬ声が無線に響く。

 

《A隊、何かあったか!?》離れたところにいるせいか、直接こちらを目視できないスカイ・アイが叫ぶ。

《くそっ…!レールガンの集中砲撃だ!損害甚大!作戦続行は不可能!一時撤退を要請する! 》

見ると、自走砲は4両とも元あった位置から数十mは吹き飛ばされてひしゃげた残骸と化し、M1も1両は完全にひっくり返ってしまっている。どちらも内部の乗員が生きているようには見えない。陸戦ウィッチも1名が負傷したらしく、別のウィッチの肩を借りて何とか歩いているようだ。

 

《…なんてことだ》暗に撤退を許可したスカイ・アイが呻く。しかし、これで作戦はご破算だ。ロックオンできなければストーンヘンジの破壊は無理だ。これだけの被害を出して撤退か──

《…アローズ・コマンダーからスカイ・アイ、一つ提案があるわ》今まで沈黙を保っていたグッドフェローが、無線越しにスカイ・アイを呼ぶ。

《続けてください、コマンダー・グッドフェロー》打つ手を失ったスカイ・アイは、素直にグッドフェローの提案を受け入れるつもりらしい。私も無線に耳を澄ます。

 

《こちらの航空部隊であれば、電子攻撃システムへ直接攻撃を行うことが可能よ》

「……ええっ!?」思わず大声をあげてしまう。

《それは……!?》スカイ・アイにも予想外の事だったらしい。

 

《ちょっと…!それマジで言ってる!?パスパス、私はパス!》あまりにも非常識な提案に、オメガが今この場にいるすべての人が思っているであろうことを代弁する。

 

《状況は一刻を争うわ。回答を!》そんな私たちの事を知ってか知らずか、グッドフェローは回答をと急かす。

 

《……了解した!》数瞬の逡巡後、短く了承の意を伝えた彼女は、《スカイ・アイから全機へ、作戦変更だ。これより航空機による電子攻撃装置の破壊を行う。サークル中央部の電子攻撃装置3基を無誘導兵装で破壊せよ》と、全員に伝えた。

 

《なんて燃えるシチュエーション》と、オメガが完全にあきらめたようにつぶやく。

 

《グットフェロー、砲台は私がひきつける。その間にアイツを行かせる》ヴァイパーが指示したアイツとは、言うまでもなく私の事だった。

 

《お膳立ては申し分ない、か……分かった。リーパー、突入よ!貴女が先陣を切りなさい!》無茶を通り越して無謀ともいえる作戦の連続にヤケを起こした私は一言、《了解!!》とだけ叫び、ヴァイパーを追って隙ができた砲台の間をくぐり、サークル内へ突入した。

 

《え!?ちょ…マジでいくの!?》驚いたオメガが叫ぶも、無視だ。

 

《リッジバックス隊全機、突入を開始する》獲物を取られてたまるか、とばかりにスラッシュらも私の後を追う。

 

《リーパー、“エースへの道その4”は「無茶な状況のほうを選べ」よ!そう、今みたいにね!》確かに、これは今選択できる状況の中では最も無茶なものかもしれない。サークル内にストーンヘンジの砲撃は飛んでこない。しかし、一体どれだけ持ち込んだのかと疑問に思えるほどの対空火器が待ち構えていた。SAMが、AAガンが私を狙う。もはやアラートが鳴っていない時がない、といえるほどに濃密な防空網が形成されていた。

 

《しょうがない。こちらオメガ、リーパーについていくわ!》覚悟を決めたらしいオメガが私よりやや高空で飛び回り、自らに砲火を引きよせる。

 

私は50ftを切るほどの低空で、1基目のシステムに7.62mm弾を浴びせかける。装填済みのベルトリンクを撃ち切り、ついでにLAGMをロックオンせずに極至近距離で発射。大型ロケット弾と化した2発のLAGMは、ほとんど燃焼せずに残った推進剤と弾頭を起爆させ、鉄骨で組み上げられたシステムにとどめを刺した。

《リーパー!ここは度胸よ!スピードさえ出してりゃ致命弾は受けないわ!死神名乗るんならあの化け物を憑り殺してやりなさい!》あまりにも厚い防空網に命を脅かされ続け、溢れるドーパミンでハイになったらしいオメガが変なことを口走る。

装填に時間がかかるMk.48をスリングで背負いなおし、アーウェンを構える。5発全弾を2基目に向けて発射し、さらにこちらにもLAGMを撃ち込む。

《電子攻撃システムの2基目を破壊!残り1基だ!》最後の1基を破壊しようと、カナードとスラストノズルを用いて急旋回。しかし、《空賊だけにやらせてたまるか!》と一言叫んだスラッシュが70mmロケットを浴びせかける。最後の1基は、そうして土台ごと崩壊した。

 

《全ての電子攻撃システムの破壊を確認!砲台本体にロックオンが可能だ!攻撃を許可する!》珍しく興奮しているスカイ・アイが大声を張り上げる。

 

《はっ!よくやったわねリーパー!》ヴァイパーが嬉しそうに叫び、ターゲットの3分の2を奪われたスラッシュが聞こえよがしに《クソッ!》と吐き捨てる。

 

《ペイバックタイムだ!デカブツを叩き潰すぞ!》その言葉と共に、ヴァイパーは砲撃の合間をするりと抜け、サークル内の対空火器に機銃掃射を行う。

 

《リッジバックス隊各機、巻き返すぞ!砲台は俺達が貰う!》《了解!このままでは終われません!》スラッシュの激励にエッジが答え、サークル外で待機していたリッジバックス隊のウィッチ達が超低空飛行で飛び込む。

《お、一本線が体勢を立て直した!まあ、最後は私が貰うけどね!》やる気満々のオメガが砲火に翻弄されつつも、1基目の砲台基部に40mm弾を撃ち込む。《ルーキーに良いとこ獲られてたまるか!出る杭は全力で叩き潰してやる》と今度はヴァイパーが手榴弾をいくつもばらまき、AAガンを破壊する。

 

しかし、より砲台に近い位置にいた私は、他の誰よりも有利だった。3発のLAGMを同時発射し、オメガによってダメージを与えられていた1基に致命弾を与える。《砲台の1基目を破壊!》しかし、ほとんどのウィッチはそれを聞く間もない。

《くうっ!風圧で流される!》《体勢を立て直せ!戦術データリンクを切らすな!》砲弾の炸裂による爆風と衝撃波、エンジンと翼が巻き起こす乱気流、サークル内は真っ直ぐ飛べないほどの暴風が縦横無尽に吹いていた。地面効果で暴れる機体をエンジン推力で無理やり抑え込み、どこから飛んできたのかもわからない敵のフランカーをロックオン。しかし、後ろからミサイルが接近する。チャフを撒き地面スレスレまで下がると、真上をリッジバックス3が飛び去る。《ブルー・オン・ブルー!》と叫んだ彼女は、悪いといわんばかりに片手を私に挙げ、2機のSu-27をヘッドオンで撃墜。雑魚を彼女にくれてやった私は、2基目に今度は4発のLAGMを発射する。砲身に1発、基部に3発の直撃を受けた砲台は、冷却水を盛大に吹き出し、頽れた。《水蒸気で前が見えない!…ってうわあ!》《邪魔しないでよ空賊!どっか行ってなさい!》オメガがニアミスしてきたリッジバックス4に逆ギレ気味に怒鳴られ、《そっちこそ邪魔》とブロンコに言い返される。

それを尻目に、3基目と4基目に同時攻撃。それぞれ4発づつLAGMを発射し、同時撃破。

 

《このサークルの中に何機入ってんのよ!?ニアミスのオンパレードね》とオメガがぼやく。しかもそれだけではない。SAMやAAガンが火を噴くのを避け、狭いエリアで飛び交う味方を機体の設計限界ギリギリの急旋回で回避しつつ、ストーンヘンジに攻撃を行っているのだ。HMDはほぼ常にロックオンを示す赤色に染まり、対地接近警報、ロックオン警報、過荷重警報、味方の罵声と悲鳴交じりの無線、さらにはロックオン完了のオーラルトーンにストーンヘンジの砲撃音、AAガンの発砲音にフルスロットルで回転するエンジンの轟音まで鳴り響いているのだ。もし、耳の良い者がこの場にいたら、新手の拷問じゃないかと錯覚するほどの煩さだった。

 

《砲台の7基目を破壊!残りあと 1基だ!!》スカイ・アイの叫びに私は我に返る。SAMやAAガンを相手している間に2基をヴァイパーが、1基をオメガが破壊したらしい。SMAWの83mm弾を食らった砲台は、完全に倒壊していた。残った1基は私の目の前、しかも、こちらに砲口を向けていた。LAGMをその砲口めがけて撃とうとするも、既に弾切れ。が、この絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。再装填を済ませてあったアーウェン37を構え、全弾を砲口内へ撃ち込む。退避しつつ振り返ると、どうやら内部で装填中だった砲弾が5発の37mm弾で誘爆したらしい。その誘爆が地下にある弾薬庫まで回ったらしく、何十トンになるか想像もつかないほどの巨砲が地面から持ち上がるほどの爆発が地下で起き、砲身が後ろにひっくり返るように倒れた。

 

 

これが、私たちを苦しめ、幾多ものパイロットと兵士達の命を奪った“ストーンヘンジ・タイプ3”の最期だった。

 

 

《砲台の完全沈黙を……確認》スカイ・アイが、興奮を押し殺したような冷静な声で、ここ最近で最もうれしいことを教えてくれる。

 

《よっしゃー!》オメガが拳を突き上げ快哉を叫ぶ。

《やるじゃないの》とヴァイパーが言下に私を褒める。

《よくやったわね、リーパー!》グッドフェローも喜色をたたえた声で呼びかけてくる。

 

《こちらB隊、電子攻撃システムをやってくれたのはどの部隊だ?》重装備のほとんどを失いつつも、サークル外からの砲撃で防空網の弱体化に協力してくれていたコリンズ軍曹が呼びかける。《こちらスカイ・アイ。何機か突入したがリッジバックス隊だろう》と、現場を見ていないスカイ・アイは勘違いしているようだった。

《こっちからは別の機体に見えたがな》《リッジバックス、さすがは一本線!助かった!礼を言う》と偶然にも皮肉な内容になったベルツ中尉とコリンズ軍曹の無線に、スラッシュは答えず、《全機帰還するぞ。すぐにデブリーフィングだ》とだけ伝え、機体を翻し、去っていった。

 

《……やったのはうちのリーパーだっていうのに》と、オメガがぼやくが、《ははっ!好きに言わせきなさい》とヴァイパーが笑い飛ばす。

《こちらグットフェロー。そうね。どういわれようが、報酬はどっさり頂ける》と彼女も笑った後、ふと意味深なことを言った。

《その上、掘り出し物もあったわ。一線というやつが見えた?ねえ、リーパー》

彼女の問いに、私は答えることができなかった。

 

 

 

基地に帰投した私たちは、デブリーフィングもそこそこに久しぶりの休みを謳歌しようとしていた。しかし、デブリーフィングが終わる直前、渋面で入ってきたグッドフェローに、再び休みは覆された。「さあみんなで祝杯を…といきたいところだけど、今はおあずけよ。テログループは私たちのストーンヘンジ攻撃の裏で同時多発に東欧・中東・アジア共同体の各主要都市を攻撃、瞬く間に占拠したわ。詳しい情報はまだないけど、全員自室で待機。緊急出撃に備えて」とだけ伝えた彼女は慌ただしく部屋から出ていき、後には唖然とした私たちだけが残された。

 

 

自室に戻った私は、このテログループの手際の良さに半ば感心していた。要人拉致で私たちをキルゾーンに誘い込み、ストーンヘンジで攻撃。そして、ストーンヘンジをターゲットにさせる。私たちにストーンヘンジを決戦兵器と勘違いさせ、それを囮に、腕のいいパイロットや地上部隊が出払って無防備な各国主要都市を制圧。私たちは、彼らの掌の上で踊らされているだけだった。

「……考えても、仕方ないか」そう独り言ちた私はベッドに横になって目を閉じ、次の作戦まで少しでも体を休めようとした。どうせ、次もグッドフェローが重要作戦を持ってくるのだから。

 

 

 

そして、私は眠りについた。

 

 

 

次の作戦が私たちに大きな影を落とす事になるなんて考えつきもしないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




漸く中盤の山場、ストーンヘンジ戦まで書くことが出来ました。
次話投稿前にもしかしたら別の短編をアップするかもしれません。


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Misson05 極東戦線 ~東京解放戦(前編)~

投稿が遅れて誠に申し訳ありません。
第5話、投稿させていただきます。

また、UA1000達成をこの場をお借りしてお礼申し上げます。


ストーンヘンジ攻略戦から数日後の早朝、叩き起こされた私達は、グッドフェローに起き抜けには見たくないものを見せられた。

 

「武装テログループのリーダーによる声明文が全世界に向けて発表されたわ。リーダーは…先の宇宙兵器開発問題で解雇されたヴェルナー社軍事部門最高責任者、キャスパー・コーエン」

 

薄く髭を生やしたもじゃもじゃ頭の男性の顔が大写しになる。

 

「コーエンはユリシーズの厄災以降、一部特権階級の私服を肥やしただけの国連及び大国政府の政策責任を追及するとして、拉致したグレイメン9人を全員処刑したわ」

 

さらに9人の男性のバストショットが画面に映り、殺害を意味する赤で全ての写真が染め上げられる。

 

「そして EU東部からアジア共同体にかけてのユーラシア大陸南部をユリシーズ難民による国家“ユージア連邦”と名付けて独立することを宣言。その声明文は次の通りよ」

 

画面にユーラシア大陸全体が映し出され、“ユージア連邦”とやらの面積が表示される。それを見て私は、目を見開いた。…広すぎる。大モンゴル帝国にインド連邦、ビルマ、シャムロ、ペルシア、オストマンとオラーシャの一部、オストマルクとカールスラント、さらには扶桑の西側の砂漠地帯までもを領土としているというのか!?

 

 

私の驚きをよそに、画面にユージアのものと思しき国旗の様な物が映り、同時に音声が流れはじめる。

 

 

「ユリシーズの厄災から20年、難民たちは苦しめられてきた。そして、いまだユリシーズの破片がNEOとして多く周回、落下の危険性は極めて高い。ユリシーズの悲劇はまた繰り返される!今こそ人類の力を結集して対策すべきである!…そのような事態にありながら、国連は20年もの間、大国の言いなりとなり弱体化した。その対策として“失われた世代”と呼ばれる我々難民出身者が脆弱な国連に変わる新たな秩序となり、強力な統治機構で世界の窮状を救うのだ!」

 

熱に浮かされたかのように、コーエンが画面の中でがなる。

 

 

 

「ガキの戯言ね」とオメガがきっぱり言い切り、

誇大妄想狂(パラノイア)が。ダイムノヴェルの主人公にでもなったつもりか」とヴァイパーが口に出すのも嫌そうに吐き捨てる。

「……馬鹿みたい」と率直すぎる意見で締めくくったのは、ブロンコだ。

 

 

「ふざけた話だけど、事実イユーリを中心にヴェルナー社の軍事兵器を使用して大陸各国の主要地を要塞化し、防衛ラインを引いているのが確認されたわ。テロ組織の独自行為とは思えない迅速さね。加担している国家も複数あると見られているわ。なんにせよ、国連軍の出足の遅さが仇になったわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―???―

 

『ユージア、また歴史の1ページが紡がれました』

いつも通りの嬉しそうな口調で“彼”が切り出す。

『もっと歴史のお勉強をしましょう。昔ユーラシア大陸の中央に……』

機会があったらすぐにでも歴史の講義を進めようとする“彼”を、いつかと同じくビープ音が抑える。

 

[SORTIE ORDER]

 

『あ、また出撃のようですね。この話はまた別の機会に』

と、残念そうに語る“彼”を無視し、私は出撃の準備をする。またあのウィッチ、ボーンアロー隊の4番機とやらに会えることをほんの少しばかり楽しみにしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ユージア独立宣言”の翌日、またしても早朝に私達は叩き起こされた。しかし、グッドフェローによって告げられた作戦は、私達全員の眠気を完全に吹き飛ばすのには十分なほど衝撃的なものだった。

 

 

「全員そろってるわね。ユージア軍を名乗るテログループの侵攻を防ぐべく、ユーラシア大陸各防衛戦において、国連軍の大規模作戦が決行されるわ。一つはペルシア湾沿岸エリア。そしてもう一つはアジア極東エリア──フソウ皇国旧首都、トーキョーでの同時作戦よ。私達アローズにも出動要請が下ったわ。再びトーキョーに向けて出発します。今作戦は陸海空全ての勢力が激突する大規模作戦になるわ。激しい戦闘が予想されるけど、目立ちたがり屋には絶好の舞台よ。機体の整備は慎重にしておきなさい。この戦線を切り崩すのは私達よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AREA J4E 扶桑皇国旧首都東京 2019年 8月19日 17時30分 

 

 

ユージア連邦独立宣言から数日後、私は再び東京上空を飛行していた。前回飛んだときとは違い、今度は4機編成、さらにフル武装だ。遺棄された旧国際空港上空を通り抜け、東京湾上空から首都全体を見渡す。3ヶ月前に見たばかりの東京は、様変わりしていた。狭い河口に戦闘艦が遊弋し、上空をユージア軍機が我が物顔で飛び回る。そして、あちらこちらで空へと伸びる黒煙。湾内では、何隻かの友軍艦が無残な骸を晒している。扶桑海軍のハルナンバー「183」のミニ・イージス艦と、リベリオン第7艦隊のハルナンバー「151」の駆逐艦が、ASMの直撃を受けたのか黒煙を吐いて横たわっている。

 

「……東京が!」私が呟いたのを皮切りとしたかのように、スカイ・アイが命令を下す。

 

《これより東京開放作戦を開始する!各部隊、作戦時間内に可能な限りの戦果を挙げんことを》それを合図に、次々と交戦宣言が伝えられる。

 

《リッジバックス1 エンゲージ!》《リッジバックス2 エンゲージ!》リッジバックスの2人がまずは宣言し、《ボーンアロー1、エンゲージ!》《ボーンアロー2、エンゲージ!》《…ボーンアロー3、エンゲージ》と、3人がそれに続いて叫ぶ。

 

 

《ボーンアロー4、エンゲージ!》と私も一声叫び、アフターバーナーに点火。真正面にあったAAガンにMSSLを発射し、急旋回して別の敵を探す。貨物港に潜伏していたイージス艦を見つけ、艦橋に7.62mm弾の集中砲火を浴びせる。SPYレーダーとCICを破壊されたイージス艦は、これでもう戦力外だ。数十発の魔力弾を浴びた艦橋要員の惨状は想像しないことにして、今度は上空の4機編隊のMiG-29に意識を向ける。MSSLで至近距離の2機を屠り、残りを機銃で追いかけ回す。

 

 

《敵はシンジュク副都心、臨海エリア、ジョートー・クレーター付近に兵力を集中している。航空部隊は各エリアで交戦中の友軍を支援しろ。作戦時間には限りがある。各個の判断で出来る限り多くの敵戦力を排除せよ!》

 

 

スカイ・アイの戦況報告を聞きつつ、2機のMiGを撃墜。ロックオンアラートに周囲を見渡すと、少なくとも6機のMiG-21が私を狙っている。いくら相手が旧型機でも、流石にこの数はきつい。しかし、そう思った次の瞬間、4機のMiGが同時に撃墜された。

 

 

《こちらFASDF309飛行隊!お久しぶり、空賊さん!前みたいに頼むわよ!》

 

 

前に共闘したディアボロ隊が中距離ミサイルを連射し、援護してくれたのだ。編隊が崩れたMiGの間に割り込んだオメガが1機をロックオン。MiGが急旋回してロックから逃れようとしたところにディアボロ1が放ったAAMが突き刺さる。

《スプラッシュ!協同撃墜ね!》《こちらボーンアロー2、援護ありがとう!》

 

 

上空の敵は3人に任せ、私は低空で地上目標を探す。

 

《敵艦隊からの艦砲射撃!敵戦闘機もうじゃうじゃしてやがる!航空部隊はまだか!》

 

コリンズ軍曹の叫びに、私は敵を撃墜することで答える。CASを行っていたSu-33を叩き落とし、先ほどとは別のイージス艦にLAGMを真上から打ち込む。装甲らしい装甲を持たないイージス艦は、今の一打で竜骨を折られたらしく、真っ二つにへし折れ轟沈した。

 

《大丈夫だ、上を見てみろ!あいつが来てる》今度はベルツ中尉が嬉しそうに叫ぶ。

《死神マークのあのウィッチですか…。あいつだけには取り憑かれたくない》低空で飛んだせいか、私のパーソナルマークを見たらしいコリンズ軍曹が気味悪げにうめく。

 

《いや、違うぞ。あの死神マークが見えてりゃ、そこの下は安全地帯だ。忘れるなよ、コリンズ。お前の上にはいつもあの機体がいるんだ》《了解!》人のことをなんだと思ってるんだ、とツッコみたいのは置いておいて、煩わしいAAガンを2基連続で片付ける。

 

 

《おおっと、艦砲射撃だ!地下鉄構内に退避!》今度は2隻のコルベットが3インチ砲で対地射撃を行っている。それぞれ一発づつLAGMを撃ち込み撃沈。レーダーを頼りに宙返りで反転すると、さらに2隻のコルベットと1隻のイージス艦。この狭い湾内に一体何隻居るんだという疑問はさておき、コルベットには機銃掃射で、イージス艦にはMSSLで対処する。蜂の巣になったコルベットと艦橋をもぎ取られたイージス艦が漂流するのを横目で眺め、急上昇して今度は空中戦に殴り込む。2機のF-15がAMRAAMを発射してくるも、ウィッチの私はRCSが小さすぎてロックオンできなかったらしい。虚しく私を通り過ぎて飛んでいったAMRAAMを無視し、ヘッドオンで機銃を撃つ。キャノピーを粉砕された2機のF-15は、パイロットをベイルアウトさせることなく墜ちていく。

 

 

 

 

 

次の瞬間、レーダーロック警報が響く。振り向くと、後方ほんの1000mほどの距離にMiG-29が接近していた。Mk.48で応射しようとするも、空撃ちの音が響く。目をやると、既に装填していたベルトリンクは撃ち尽くしていた。とっさにMk.23をホルスターから引き抜き、乱射。しかし、当てずっぽうに撃った45口径弾は全て外れた。「しまっ…!」シールドを張る暇は…無い。私は被弾を覚悟し、思わず目を閉じた。

 

だが、衝撃は襲ってこなかった。その代わりに、爆発音と熱風が私に襲いかかる。「…え?」

見ると、MiGは上空からのミサイル攻撃で、エンジンを吹き飛ばされていた。私の危機を救ってくれたのは、2人1組のウィッチ。《こちらイーグレス680、敵機撃墜!》《イーグレス320、周囲に敵影無し。索敵を続行する》扶桑空軍のラウンデルをつけたストライカーを駆る彼女らは、錐揉みで墜ちていくMiGと唖然とする私を置き去りに、飛び去っていった。

エアインテイクと垂直尾翼に紅いダンダラ模様を描いたF-4EF改ストライカー、680号機と320号機。「まさか、新撰組…!」そう、彼女らは“百里の新撰組”の異名で知られるベテランウィッチ、神田中佐と栗原中佐。旧型のF-4EでF-15Cを複数機撃墜したエースコンビ。まさか参戦していたとは。…彼女らに負けないように、私も頑張らなければ。

 

 

 

 

 

再びの警報にレーダーを確かめると、3機のMiG-21が上下に分かれて私を狙っていた。背面飛行で上空の2機に機銃掃射し、すれ違いざまにもう1機にはMSSLを撃つ。3つの爆発音を背中で聞き流し、今度は旧皇居の森の中に隠れる自走ロケット砲をロックオン。自衛装備も装甲も持たないMRLSはLAGMの直撃を受け跡形もなく爆散四散する。その近くにダックインしていた3輛のT-90は、スモークを焚いて自らの姿を隠そうとする。しかしそのスモークの中を狙ってアーウェン37を全弾撃ち込む。魔力によって強化され、一発当たりがMBTのHEAT並の威力になった37mm弾は、たとえ至近弾でもT-90達から戦闘能力を奪うのには十分過ぎるほどだった。

 

 

《なんて入り組んだ街だ》コリンズ軍曹のぼやきが聞こえる。

《回避!回──うわあああ!!》断末魔と共に無線が途絶える。下を見ると、陸軍のAH-64Dがビルに衝突、炎上している。パイロットとガナーは即死だっただろう。原因は──あそこの車載SAMか!ついでとばかりに私をロックオンしてきたSAMにLAGMを発射し、破壊。ギリギリまで迫ってきていたSAMを避けるために、低空に逃げる。真下は運が良いことに小さい川だ。これなら、高度を下げられる。しかし、その川の中、堤防の間には先客がいた。ライトグレイに塗られたシングルローターの大型ヘリが2機。撃とうかと一瞬迷うも、胴体横のラウンデルは白地に太陽と月。扶桑軍機だと分かったため、私はその場を離れ、高度を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何て入り組んだ街だ」コリンズ軍曹はぼやいた。

ベルツ中尉は隣にはいない。どこかではぐれてしまった。

艦砲射撃に追われ地下鉄に逃げ込み、構内で彷徨っているうちに離れ離れになってしまったのだ。合流しないとと思いつつ小隊無線手を探すも、彼は地下に逃げ込む前に無線機ごと吹き飛ばされていたことを思い出す。

「ったく、ナンバーテンだな」

ふとヘリの羽音に空を見上げると、上空を遊弋するAH-64Dが見える。一瞬身構えるも、茶、緑、黒の三色塗装は紛れもない扶桑陸軍の物。地上最強の戦闘ヘリの登場に安心したのもつかの間、アパッチはチャフとフレアを撒き散らしつつ急旋回。しかしその努力も虚しく、数瞬後SAMの直撃を食らったアパッチは、高層ビルに機首から突っ込み、ひしゃげたテールブームのみを黒煙の中から覗かせていた。

目の前で戦死した2人のパイロットの事はとりあえず意識の外に置き、コリンズは地図を取り出し、辺りを見渡す。まるで迷宮のような地下街に、地上には放置された古めかしい乗用車と、20年前遺棄された半壊したビル。『篠原重工』と書かれた錆び付いた看板が虚しく風に揺れている。地下鉄の駅名を調べようと標識を見るも、それは経年劣化が激しく、解読は不可能だ。自分がどこにいるのか見当もつかない。

「畜生、何て入り組んだ街だ」もう一度コリンズはぼやいた。

次の瞬間、目の前の廃乗用車が火柱を上げて吹き飛ぶ。ビルの窓からのロケット弾攻撃だ!「RPG!」と叫びとっさに伏せて第2撃の破片から身を守り、ロケットの飛んできた方向に向かってM-4を乱射し牽制。更に近隣のビルからの火点に擲弾手が40mm弾を撃ち込むも、彼は別方向からの火線に体を撃ち抜かれ、即死した。

「クソッタレが!」口汚く罵りつつ地下街入り口のコンクリート壁を盾にし、何とか2つの火点を黙らせるも、未だ10近い火線が彼らを良いようにいたぶっていた。

ビルから飛び出てきた敵兵らが、牽制の火線を張りつつこちらに向かってくる。

 

 

「全滅」の2文字がコリンズの頭をよぎったその時だった。

 

糸が切れた人形の様に、路上にいた3人の敵兵が頽れる。その一瞬のち、複数の火点があっという間に沈黙した。数秒遅れて聞こえてくる複数の発砲音。アンチマテリアルライフルの遠距離射撃か。

「…へ?」状況が把握できず、間抜けな声を上げてしまったコリンズの前に、どこからともなく扶桑人の男が現れた。

黒いBDUとドラゴンスキンのアーマーを着込み、MP7を持っている。だが、どちらも扶桑軍の装備ではない。PMCにしても、こんな最新鋭の装備を使えるはずがない。

「…扶桑国防陸軍か?」コリンズの問いに、その男は微笑みを浮かべつつ流ちょうな英語で答えた。

 

「扶桑国防陸軍……所属は言わないでおきます。コウヘイ・ドモン少佐です。私の事はプリーストと呼んでください」

 

特殊部隊員か、と悟ったコリンズは「UNFのコリンズ一等軍曹であります」と返答し、握手を交わした。

「我々があなた方を援護します。戦闘車両もわずかながら持ち込めたので、航空部隊が優勢を取り戻すまでしのぎましょう」

生き残った小隊員を集めて部隊を再編制しつつ、コリンズは問うた。

「ボタスキー、SAWを持て。パッキーはグレネードを頼む。ラッツはSMAWだ。チコ、お前はスティンガーだ。……AFVがあるんですか?そりゃいいが一体どこに…」

彼が言いかけた時だった。耳を弄する轟音とともに、巨大な2つの影が現れた。近くの堤防の中をNOEでここまで飛んできたのか。

「キングスタリオンか!?」コリンズが呻くと、入り口前の道路に着陸した2機のCH-53Kから、2台づつ車両が現れた。

ルーフにM2重機関銃を積んだ扶桑軍の四駆装輪装甲車──軽装甲機動車──と、2門の砲を搭載した見たこともないような小型AFVだ。

「何ですか?あのちっこいのは?」と機関銃手から問われた彼は、笑って答えた。

「60式自走無反動砲。今から約60年前に採用された自走無反動砲ですよ」

「…たった2両のポンコツが、心強い援軍とはね」と小隊付き選抜狙撃手が周りに聞こえないようぼやいた。

 

いつの間にやってきたのか、服装も装備もバラバラの男女が自走無反動砲に取り付き、各部の点検や砲弾の装填を行っていた。

「ユミ!イタミ!ノモト!イツネ!配置に付け!」「了解、ハンニバル!」「…彼らは?」プリーストに彼らの正体を尋ねると、「東京での治安維持に当たっていたPMCだ」という趣旨の簡素な答え。軽装甲機動車に乗り込み、機銃席についたコリンズに、プリーストが大声で呼びかける。「PMCはあちこちでレジスタンス活動を行っています!合い言葉があるので、困ったときは使ってください!」「なんて言えば良いんだ!?」プリーストはにやりと笑って答えた。「“糞共は誰?”に“国連だ!”って返せば良いんですよ!」と。それを聞いてコリンズも笑みを返した。PMCにぴったりの合い言葉。それに、この状況を招いたのは国連だ、という意見もあながち間違っては居ない。そうコリンズは思っていた。

 

「さあ、反撃開始だ!」コリンズは叫び、部下に前進を促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高層ビルの間をくぐり抜けた私は、AAガンや装甲車を血祭りに上げる。さらに、上空から逆落としに突っ込んでくるMiG-21を躱し、エンジン部を機銃弾でずたずたに切り裂く。

 

《おかしい。空賊連中と差が出始めてる。リッジバックス隊、ペースを上げるぞ!》スラッシュの言葉に、HMDのインジケーターを見てみる。私達が6、リッジバックスが4という感じだ。2回前のオラーシャのミッションでは、リッジバックスが8、私達が2という具合だったので、逆転されたのが不愉快なのだろう。

 

《あっちにも敵が散開している…私が叩く!》1人突出したエッジがヴァイパーの前すれすれを横切り、ヴァイパーが狙っていたSu-33を撃墜する。《ははっ!生意気でいいねぇ!》獲物を奪われたことに怒る様子もなく、むしろ楽しげにエッジを目線で追いかけるヴァイパー。

《スラッシュからエッジ、編隊から外れるな》スラッシュの叱責にエッジが不満げに答える。

《……エッジ了解》

 

《一本線のリーダー!アンタのやり方はいちいち過保護なのよ。そんなんじゃ良い部下は育たないわよ》珍しくヴァイパーがスラッシュに話しかける。

《あんたは傭兵だろう。黙っててくれ。部下を守るのは上官としての役目だ。そちらのやり方では放任過ぎる》と、スラッシュが返す。

《そうそう、言ってやんなさいよ一本線》と、こういうときばかりはオメガがスラッシュの肩を持つ。

《フン、若いのは勝手に育つのよ。あたしたちの役目は、ここってタイミングで背中をポンっとひと押ししてやるくらいでいい。さっさと一人前になってもらわないと、おちおち隠居もできやしないじゃない》と、持論を展開するヴァイパーをオメガが茶化す。

《隠居って言ってもどうせギャンブルでしょ?また直ぐに戻ってくることになるわよ》しかしヴァイパーは《うるせぇ》とだけ返し、《そっちの2番機は戦いたくてウズウズしてるように見えるけどね》と今度はエッジに視線を向けた。図星を付かれたらしいエッジは、何も答えなかった。

3人が話している間にも、私は敵を撃墜していく。比較的高性能な敵機──MiG-29やSu-33は既に全て墜とされ、残っているのはMiG-21だけ。旋回しつつ1機1発の勘定でMSSLを撃ち、3機を墜とした。MiG-21の方は既にAAMも撃ち尽くしたらしく、ただただ旋回を続けるだけだった。

 

 

《ひるむな!上空の連中は押してるぞ!死神がいる限り、撤退はない!》どうやら私のことを“死神”と呼ぶことに決めたらしいベルツ中尉が、部下に激励を掛けるのが聞こえる。

さらに私が2機、オメガが1機のMiGを撃墜する。

《こちらスカイ・アイ。一定数の敵戦力の排除を確認》

《うわー、だいぶぶっちぎったんじゃない?》オメガの言葉通り、私達は敵の7割近くを破壊していた。残りの3割は地上部隊とリッジバックス隊、扶桑空軍と国連空軍機の合同スコアなので、まさしくぶっちぎりの大金星だ。

 

もはや戦意を失い、ただ逃げ続けるだけの敵を撃ち墜とそうとしたときだった。

 

 

 

 

《待て!上空に巨大な機影を察知!!》

 

とのスカイ・アイの言葉と共に、レーダーに非常識なまでの大きな何か(・・)が映る。レーダーが故障しているんじゃないかと思えるほどに巨大な飛行物体。全幅は──約1km。

 

 

 

 

「何…よ。何なのよ…。あれ…」オメガがおびえたように呟く。

 

「……嘘でしょ」顔面を蒼白にしたブロンコがぼそりと言う。

 

 

 

まるで、1940年代の記録映像の中から飛び出てきたような姿。あれがもし黒と赤のヘックスパターンだったら、子供でも正体を言い当てられる。

 

「まさか…ネウロイ…?」人類最大の脅威を思い浮かべた私の言葉を、ヴァイパーが否定する。

 

 

 

「いや、あれは……、重巡航管制機って奴よ。噂では聞いていたんだけど…まさか、完成していたとはね……」

 

 

 

 

その短い一言が告げた非現実的な光景に、私はただただ恐怖するしかなかった。

 

 

 




◎キャラ解説コーナー

 ・神田中佐、栗原中佐:某空自物漫画の主人公コンビ。この世界ではウィッチとして登場。2機のストライカーに分乗しているのは、複座型戦闘脚のイメージが思いつかなかったため。
 
 ・コウヘイ・ドモン少佐:某特殊部隊物小説の2代目部隊長。ちなみに前隊長も登場予定。

 ・ボタスキー、パッキー、ラッツ、チコ:某猫の糞一号の主人公達。ちなみにチコは陸戦ウィッチ(使い魔は猫)。
 
 ・ユミ:某女子高生が海兵隊になる漫画の主人公。この世界では傭兵。

 ・イタミ:某異世界に行ったオタク自衛官。この世界では傭兵。

 ・ノモト:某迷彩君。原作と同じく傭兵。

 ・イツネ:某VRゲームで山本五十六役を演じた女子高生。

 ・ハンニバル:某特攻野郎Aチームの隊長。



◎シーン解説
 今回CH-53Kで自走無反動砲を運搬するシーンを書きましたが、あれは恐らく可能だと考えました。CH-53Kの荷室が9.14m×2.62mx1.98m、15.9トンまで。60式自走無反動砲が3m×2.23m×1.38m、8トンなので恐らく積載は可能です。



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Misson05 極東戦線 ~東京解放戦(後編)~

第5話後半です。
今回、若干の残酷描写と暴力描写がございます。
ご注意ください。


 

 

 

 

「ひるむな!上空の連中は押してるぞ!死神がいる限り、撤退はない!」ベルツはそう叫びつつ、M4をフルオートで撃ち、歩兵をなぎ倒す。

次の瞬間、ユージア連邦軍のBMP-2が火柱を上げて吹き飛ぶ。旧型の106mm無反動砲でも、成形炸薬弾の直撃は装甲厚わずか33mmの歩兵戦闘車には致命的だった。

2両の自走無反動砲は、その古さに似合わぬ戦果を挙げていた。

ハンヴィーより小柄な車体を生かして、瓦礫の影から砲のみを出し狙撃、敵を倒す。

 

この戦法で、彼らは3両のBMP-2を撃破し、1両のT-80Uを無力化していた。

60式をポンコツと罵ったマークスマンは、思わぬ戦果に唖然としていた。

いかな旧型車両といえども、積んでいるものは対戦車砲。特に粘着榴弾の威力は絶大で、ビルに張り付いた弾頭のC4が破片を撒き散らし、散弾効果で壁の向こう側の敵を殲滅することもできた。

 

さらに運のいいことに、上空では「空賊」のウィッチらが航空優勢を確保。こちらのヘリが思う存分に飛び回れるようになっていた。

 

扶桑陸軍の戦闘ヘリ部隊による支援も相まって、ベルツ中尉と合流し、ついでにPMCからハンヴィーを徴発したコリンズらは、このままうまくいけば東京開放、つまりは扶桑からユージア連邦軍を追い出せるのではないかと淡い期待を抱いた。

 

戦力は軽装甲機動車とハンヴィーが各2両ずつと、それに搭載されたMk.19とM2が2門ずつ。それに虎の子の自走無反動砲。

 

これだけの戦力なら、まだやれる。まだ戦えるはず。しかしその甘い希望は、たやすく打ち砕かれた。

 

 

「おい…なんだよ…、あれ…」怯えたような声を上げて上空を見あげる扶桑の特殊部隊員。

 

 

上空を見上げたベルツとコリンズの目には、彼らが知るいかなる飛行物体よりも巨大な何かが空を飛んでいるのが映った。

「…ネウロイ、か?」「違うぞボタスキー、ありゃあ…空中戦艦ってやつじゃないか!?」「嘘だろ…なんてデカいんだ化け物め!」「ニャー!」国連軍も、扶桑軍もパニック寸前に陥っていた。

目の前の非現実的な光景を何とか受け入れたベルツは、知らず知らずのうちに、一度たりも信じたことのない神の名を呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恐怖におののく私達の前で、重巡航管制機とやらの後部から、”何か”が落ちてきた。2mほどの大きさの細長いもの……有り体に言えば人間が飛び降り、その後に、蝶のようなM字型の主翼のUAV──MQ-90クオックスが続いている。

 

 

 

 

重巡航管制機後部から飛び降りた人間。

 

彼、いや彼女は、私達の目の前で飛び降り自殺を行ったわけではない。彼女の両脚には、見たことない形の機械…機種不明の、ストライカーユニットが装着されていた。

 

短冊形のカナードとW型の主翼後縁が特徴的な、異形の機体。

 

正体不明のウィッチの後を、クオックスが従順に付いてくる。

 

間違いない。彼女は、“敵”だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《こちらオメガ、あのUAV前ここで見た奴よ》オメガが誰とも無しに報告し、ヴァイパーが《“蝶”のエンブレム…なんなのよあのウィッチは!?》と、珍しく混乱したように叫ぶ。

 

まさかユージア側にもウィッチがいるとは。それがこの場にいた全ての人間の総意だった。

 

《リッジバックス隊、ボーンアロー隊は敵ウィッチ、ならびにUAVを狙え。その他の航空部隊は敵重巡航管制機を攻撃──》とスカイ・アイが言いかけたときだった。

 

 

空を、幾筋もの紅い閃光が切り裂いた。

 

 

《なんだ!?ぎゃあっ!》《何が起こった!ぐわっ!》その紅い、禍々しい閃光に捕らわれたF-16Cが、一瞬で爆散する。F-16Cとそのパイロットの悲惨な最期を目撃した2機のF/A-18Eが急旋回で逃亡を図るも、彼らも数秒後には同じような末路を辿った。

 

 

《なになに!?何なのあれ!》恐慌状態のオメガが喚き散らす。

《あれは、まさかレーザー兵器!?》恐怖に震える声で、エッジが呟く。

《全機、あのUAVに注意!恐らくシールドではあのレーザーは防げないわ!》

グッドフェローが言わずもがなの注意をしてくる。

《UAVの先端にレーザー兵器が搭載されている!》この状況下でも、ヴァイパーは冷静さを取り戻していた。

 

《それに遠隔操作にしてはあまりにも高精度な攻撃ね。まさか、人工知能でも?》的確に私達を狙い、死の閃光を縦横無尽に煌めかせるUAVの正体を、2人は冷静に分析していた。

 

《私の勘じゃ、この人食い蝶の親玉はあのウィッチね》

《なるほど、“蝶使い”って訳ね》敵ウィッチの仮称を決めた2人をよそに、目の前のクオックス改とも言えるレーザーUAVにMSSLを撃つ。しかし、近接信管の作動エリアに入る前に、ミサイルはレーザーと交差し、空中で爆散した。

 

 

 

《ダメ!蝶使いを狙ってもミサイルは全部レーザーで落とされる!》私が持っている物よりも高性能なAAMを持つオメガが蝶使いに吶喊するも、こちらと同じくミサイルは届かない。

 

《レーザー弾幕なんて!アニメやゲームじゃないのよ!ウィッチならウィッチらしくシールド張りなさいよ!》と理不尽すぎる敵を怒鳴りつけたオメガが、いきなり咳き込み出す。

 

《オメガ、どうしました!?》と心配したが、《叫びすぎて声が枯れただけ》と言う返事。

 

その間にも、小柄なUAVは縦横無尽に飛び回り、逃げ惑うばかりの戦闘機を仕留めていく。1機ずつ、1機、また1機と。レーザーが交差した瞬間、次々と機体が爆発していく。燃料に引火したのか、それとも弾薬が誘爆したのか。どの機体も、パイロットが脱出する暇も無く空中で木っ端微塵になる。

 

 

 

《まずはUAVを落としなさい!》《散って!雑魚から1機ずつ落とすわよ!》グッドフェローとヴァイパーがほぼ同時に同じ指示を出す。あちこちからミサイルが撃たれるが、そのどれもが命中せず、敵側の損失ゼロ、こちらの損失はすでに10機以上と酷い有様だ。

 

「ミサイルがだめなら…」私はつぶやき、Mk.48で弾幕を張る。

 

効果があった。UAVのうち1機がもろに7.62mm弾の中に飛び込み、一瞬のうちに蜂の巣になる。

《グッドキル、ボーンアロー4!》スカイ・アイの称賛はよそに、次のUAVに狙いを定める。が、ギリギリのところでこちらの火線をかいくぐる。敵はパイロットを乗せておらず、ひらひらと舞う。Gもかけ放題、まさしく殺人的な機動が可能だ。わずか5機に、私達は翻弄され続けていた。

 

 

《さっきから無線ノイズが酷いわね、あーもう、気が散る!》オメガの愚痴に、はっと気付く。無線にさっきから時々混じる音声。聞き覚えがある。これは、ノイズなんかじゃない。

 

 

 

《♪~♪》

 

 

 

「これって…!」あの時(・・・)の、昔懐かしのファミコンゲームのBGM──

 

《オメガ、これ、ノイズじゃないです!あの時聞こえた鼻歌です!》あの時、一緒に飛んでいたオメガに伝えるも、《ええっ!…って、何だっけ、それ》と鈍い反応。

 

《ほら、前東京でUAVを迎撃したときに聞こえた、あのラジオ放送みたいな!》ここまで言って、オメガはやっと思い出したようだ。《……ああっ!じゃあ、あの時も…》そう、間違いない。あの時、私達の目の前で艦隊を襲撃したのは、あのウィッチ操るUAVだったのだ。

 

 

《んな事どうでも良いから、こっち手伝ってよ!》と、UAVとウィッチの正体分析に熱中していた私達を、ヴァイパーが大声で呼び戻す。

 

《あの無人機、レーザー撃った後は動きが鈍くなる!そこ狙ってミサイル撃って!》といったそばから、彼女はレーザーを躱しつつUAVをオーバーシュートさせ、一瞬のちにMSSLを真後ろから発射。レーザーの充電でもしているのか、確かに動きが鈍ったUAVは、いとも簡単に撃墜された。

 

 

レーダーを見ると、残りは3機。いつの間にかもう1機も墜とされていたらしい。

 

 

《エッジ、腕がうずくか》執拗にUAVのうち1機を追い回すエッジに、スラッシュがいつもとは違う感じで声を掛ける。《えっ?あ、はい!…あっ、いいえ》思わず本音を言ってしまったエッジが、あたふたと取り繕う。

 

《フッ…そうか。リッジバックス1より全機、これより各々自由戦闘に入れ。“猟犬”の腕はこんなもんじゃない。偉そうに説教垂れた空賊連中に見せ付けてやるぞ!》

何か吹っ切れたのか、スラッシュの指示はかなり大雑把だ。

《エッジ了解!!》叫んだエッジは、鎖から解き放たれたかのようにUAVに食いつく。

 

《リッジバックス隊ブレイク!》スラッシュも一声叫び、彼は蝶使いを追尾する。

 

《やっとその気になったわね、スラッシュ!》ライバルが増えたのが嬉しいのか、ヴァイパーもいつもより饒舌だ。

 

 

 

《この感覚、久しぶりだな》化け物じみた機動のウィッチを前に、スラッシュは今まで見たこともないような鋭いマニューバを連発する。

「…すごい!」思わず呟いてしまう。いくらベクトルノズルと前進翼、カナードを組み合わせたV/STOL機でも、所詮は戦闘機。1/100の大きさにも満たないウィッチとは機動力が天と地ほどの差があるはずだ。それなのに、彼はぴったりと蝶使いに食いつく。

 

 

 

《おい空賊ルーキー……、リーパーだったよな》いきなり名指しで呼びかけられた私は、《…へっ!?あっ、はい》と間の抜けた返答をしてしまう。

 

《あの蝶使いを落とした方が勝ちでいいな?》私の驚きをよそに、スラッシュは話を進める。

 

《ストーンヘンジでの借りを返させて貰うぞ、リーパー!》彼からの勝負の持ちかけに、私は一言、《…はい!》とだけ答える。

 

ほんの一月ほど前までは、邪魔な空賊呼ばわりだったのが、今ではTACネームで呼ばれ、ライバルとして認められる。それが、無性に嬉しかった。

 

 

 

彼は蝶使いから目を離し、後ろからレーザーの猛攻を仕掛ける1機のUAVに狙いを定めたらしい。スロットルを調整し、高度を変えずに機首を後ろに向ける機動。コブラ…いや、違う。クルビットだ!一瞬、ASF-Xの機首とクオックスが正対する。その瞬間を、彼は見逃さなかった。《UAVを撃墜、次行くぞ!》バルカン砲でUAVを粉砕したスラッシュは、何事もなかったかのように機首を元に戻し、次の獲物を探した。

《すごい…》エッジも、思わず呟く。

 

 

《ふぅん》と、聞き慣れない声。上空を見ると、蝶使いがこちらを見ていた。大型のHMDで表情も顔つきも分からない。が、どことなく嫌な雰囲気の女だ。

 

 

《新たにUAV2機が接近》生き残ったUAVが、同時にスラッシュに狙いを定める。

 

 

《残りの2機だな?俺がやる!》 VTOLモードでUAVをオーバーシュートさせた彼は、機関砲の照準を2機に合わせる。後数mm、トリガーを引けば落せる。しかし、次の瞬間だった。《スラッシュ、踏み込み過ぎです!》

 

 

《かかった!》蝶使いが、嬉しそうに叫ぶ。混線した無線の中でもはっきりと聞こえる嫌な声。彼女の狙いは、スラッシュだった。

 

UAVの1機が人間には不可能な機動で急旋回、スラッシュの上前方から、レーザーを主翼に浴びせた。

 

 

群青色のASF-Xの右翼から、高熱に炙られたジェット燃料が火柱を上げた。

 

 

《くそっ!主翼をやられた》半分ほど無くなってしまった主翼のせいで、よろよろとしか飛べなくなったASF-Xが、爆煙の中から現れる。

 

《ベイルアウトを!》エッジがスラッシュを急かす。

 

《そうだな、せっかく面白くなってきたとこだったのに。エッジ、後は任せたぞ。全員を連れて帰ってくれ》エッジに、部隊員の命を託す。

 

《了解です。早くベイルアウトを!》エンジンも止まったのか、高度が落ちていくASF-Xに、エッジが再び急かすように呼びかける。

 

《リーパー、またな。勝負はお預けだ。リッジバックス1、イジェクト!》

 

ASF-Xのキャノピーが枠ごと投棄され、ロケットブースターで加速させられた射出座席が空に舞う。一瞬のち、白とオレンジ色のパラシュートが花開き、スラッシュはゆっくりと地上へ降下していった。真下はエネミーラインではなく、友軍の支配地域だ。すぐに助け出されるだろう。

 

 

 

《こちらエッジ、パイロット1名ベイルアウト。パラシュートを確認、至急救出部…まさか!?やめて!》

 

冷静にスカイ・アイへ状況を報告していたエッジが、取り乱したように叫ぶ。

 

 

 

 

その切羽詰まった声に振り返った私は、見た。いや、見てしまった。

 

 

 

 

ゆっくりと降下するスラッシュ。

 

 

 

 

彼の後ろから、1つの異形の飛行物体が急速に迫ってくる。

 

 

 

 

エンジン音を聞いたのか、スラッシュの顔が後ろを向く。

 

 

 

 

UAVは、進路を変えることなくスラッシュに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

そして、UAVの、機首が、紅く光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろおおぉっ!」私は思わず叫ぶが、その光が止められるわけもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、上空でこちらを見ていた奴──蝶使いが、それはそれは楽しそうに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《アハッ♪》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、短く笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の出来事だった。降下するスラッシュの体を、レーザーが射貫いた。悠々と飛び去るUAV。鼻歌交じりで、何処へ飛ぶともなく上空を遊弋する蝶使い。

 

 

 

 

後には、主を失い、風に流されるツートンカラーのパラシュートだけが、残っていた。

 

 

 

 

 

何事か、オメガが叫んだ。それは悲鳴か慟哭か、それさえ私には分からなかった。

 

 

 

 

 

《どうした、何があったの!?》あまりに異様な雰囲気に、UAV以外の敵機を相手していたヴァイパーが駆け戻ってくる。

 

《……見たのよ》いつもの陽気さを失い、オメガはぼそりと答えた。

《何をよ!》あまりの惨劇に、シェル・ショックを引き起こしたオメガの元に、ヴァイパーが駆け寄る。

《スラッシュが……空中で……あいつら、何でベイルアウトした人間まで殺すのよっ!?》

 

 

M4を取り落としかねないほどに虚脱したオメガを守るように、ヴァイパーがシールドを張る。《ちいっ!オメガ、しっかりして、ほら、しっかりしなさいよ!銃を握って!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

私も、オメガと同じような状況だった。しかし、心の中には、一つ、はっきりと、「憎悪」が渦巻いていた。

 

 

 

 

赦さない。

 

 

 

 

殺してやる。あのウィッチも、上空の管制機の乗組員も、地上部隊も、捕虜も皆殺しだ。

 

 

みんな、殺してやる。

 

 

 

 

 

 

 

《ふざけるなああぁ!》誰かの絶叫。エッジだろう。

 

彼女が蝶使いに食らいつく。SIG556を狙いもつけずに乱射し、当たるはずもないのにM203で奴を狙う。

 

 

《リッジバックス2、落ち着け!しっかりしろ!》

 

 

《ああもう!リーパーも一旦落ち着け!そんな飛び方してたら死ぬぞ!》

 

普段ならすんなり聞けるはずのヴァイパーの声も、今の私には煩わしかった。

 

 

心の中に憎悪が渦巻くが、私は不思議に冷静だった。頭の隅でヴァイパーの言葉を聞き流し、F-15S/MTDでできる限りの急旋回で蝶使いを追う。

 

さっきから過加重警報が鳴りっぱなしだ。

 

黒く視界が狭まる。ブラックアウトを起こしつつも、私は誤射もかまわずMk.48を乱射し、蝶使いを追い詰めようとしていた。

 

 

 

次の瞬間だった。ガキッという鈍い音と共に、Mk.48が弾丸を吐き出さなくなる。

 

一瞬で頭の芯まで冷える。最悪の事態だ。

 

排莢不良(ジャム)二重装弾(ダブルフィード)不発(ミスファイア)

 

今考え得る限りの銃の故障要因がいくつも浮かぶ。

 

トップカバーを開けてベルトリンクを取り出し、不発弾をベルトから毟り取る。再びベルトリンクをフィード・トレイに乗せ、コッキングハンドルを引く。その十数秒の間に、沸騰しかけていた私の頭はすっかり冷めていた。

 

一つ深呼吸をし、再装填したMk.48を抱え直す。

 

《リーパー!援護しろ!》と、ヴァイパーが叫ぶのが聞こえた。見ると、エッジを引き連れたヴァイパーが蝶使いから逃れようとしていた。当たるはずがない、と分かっていても2発のMSSLを撃ち、蝶使いの注意をそらした。

 

 

更に後方からレーザーを撃ってくるUAVをオーバーシュートさせ回避。

数十秒としないうちに、近くのビルの陰に退避していた2人が飛び出てくる。エッジが私の後方につき、《…リーパー、やるわよ!》と叫ぶ。

私は考える間もなく、《分かってるよ。エッジ!》と返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーパーが不発弾を噛み込んだとき、エッジは、高度差を生かして蝶使いに突っ込もうとしていた。位置エネルギーを速度に変え、真上から仕留めるつもりだ。しかし、蝶使いもただ見ていただけではない。背面飛行をしつつ上空のエッジにP90を向け、フルオートで迎え撃つ。エッジの5.56mm弾も蝶使いの5.7mm弾も命中することはなかったが、蝶使いの横をすり抜けたエッジは、致命的なミスを犯していた。

彼女は、無防備な背中を蝶使いに晒すことになったのだ。反撃しようにも、SIG556のマガジンは既に空だ。サブウェポンのグロック19をホルスターから抜こうとするも、そんな暇はなかった。

 

(殺られる…!)しかし、彼女の体を5.7mm弾が引き裂くことはなかった。

 

誰かが左腕を掴んで引っ張り、エッジを蝶使いの火線から無理矢理反らしたのだ。

 

「貴女は…ヴァイパー!」エッジの驚いた声を無視し、ヴァイパーは《リーパー!援護しろ!》と一言叫び、彼女を蝶使いから死角となる近くのビルの影まで引きずり込んだ。

 

「なんで私を…」と言いかけたエッジの頬を、ヴァイパーは思いっきり張り飛ばした。

 

パンという軽い音と鋭い痛みが、エッジを正気付かせた。

 

 

ヴァイパーはエッジの胸ぐらを掴み、怒鳴った。「馬鹿かアンタは!自分から死に急いで!スラッシュの言ったことを忘れたのか!?見てみろ、アンタらの部隊は瀕死状態だ!」

 

上空では、指揮を失ったリッジバックスの3,4番機の2人が追い回されるままになっている。しかも1人は片方のエンジンから煙を吐いている。それを見たエッジに、ヴァイパーが畳み掛けるように話しかける。

 

「1人じゃあの化け物を狩るのは無理よ。うちのリーパーのフォーメーションに入りなさい」戸惑うエッジに、さらに語りかける。

「このままじゃ弔い合戦も出来ないわよ、さあ、どうするの!?」

 

顔を上げたエッジは、はっきりとした声で、「……了解!」と答えた。

 

それを聞いたヴァイパーは破顔し、「よーし、良い子だ。じゃあまずはUAVを落すぞ!リーパーを援護してやれ!」と一声言い、ビルの影から飛び出す。自分の獲物を目の前でかっさらったウィッチを覚えていたらしい蝶使いが、リッジバックス隊からヴァイパーに標的を変えた。

 

ヴァイパーの周囲にレーザーが煌めく。その隙を突き、エッジはリーパーの後方に付いた。

 

 

《…リーパー、やるわよ!》《分かってるわ。エッジ!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出しぬけに吹き飛ばされたハンヴィーが、運の尽きを表しているように思えた。

ハンヴィーを盾にMINIMIを構えていた機関銃手が、爆風に手足を引き千切られ即死したのを、コリンズははっきりと見た。

 

超巨大飛行要塞の登場に勇気づけられたのか、敵の攻撃は一層熾烈になっていた。

AT-4に撃破されたハンヴィーは、運の悪いことにMk.19とその予備弾薬、さらにSMAWまでもを積んでいた。

 

大量の弾薬とガソリンの誘爆はその近くに駐車していた軽装甲機動車を横転させた。その軽装甲機動車は陰に隠れていた小銃手を一人巻き込んで圧死させ、コリンズらは一気に戦力の半分を失う羽目になっていた。さらにその脇では、唯一の装甲戦闘車であった自走無反動砲がくすぶっている。自らの不運を呪いつつ新しいマガジンをM-4に叩き込んだコリンズは、上空の熾烈な空戦に一瞬目を奪われた。

 

空を切り裂く紅いレーザーを搭載したUAV。それを操るのは信じがたいことに敵側のウィッチ。それに相対するは、あの“死神”だ。

 

既に「一本線」の隊長機を含む10機以上が落とされ、ベイルアウトしたパイロットすら殺害されるのを見たコリンズらは、ユージアへの憎悪を募らせていった。

 

プリーストが連発グレネードランチャー、ダネルMGLを構え、なんもためらいもなくエアバースト弾6発を全弾撃ち尽くす。生身の人間に使っていいような威力の物ではないが、そんなことは構わなかった。盾にしていたUAZ-3151ごと、2、3人の敵がぼろ雑巾のように吹き飛ぶのが見える。

 

「前進!!」ベルツが号令をかける。目的地は「一本線」の隊長が降下したと思しき地点だ。

レーザーに撃ち抜かれた彼が生きているとは思えないが、せめて遺体だけでも回収する。

 

 

 

 

その思いを胸に抱いたコリンズらの目の前に、レモン大の「何か」が転がってきた。

 

 

M26破片手榴弾。すでにレバーは外れている。転がってきた先には、虫の息のユージア兵。彼は、最後の意識を振り絞り復讐を果たそうとしていた。

 

「手榴弾だ!」と小隊員のパッキーが叫ぶ前に、コリンズは誰かが視界の端から飛び出してくるのを見た。

誰よりも早く反応したベルツが素早くヘルメットを外し、それを手榴弾にかぶせ、自らもその上に覆いかぶさったのだ。

 

 

刹那、手榴弾の爆発と共にベルツの体は宙に舞った。

 

 

164gのコンポジションBの炸裂は超高分子量ポリエチレン製のEHCヘルメットを容易く引き裂き、鋭く尖った無数の破片をまき散らした。

 

その一片が、7.62x51mm徹甲弾をも止める強固なIMTVボディアーマーの襟首の隙間を縫い、頸動脈を切り裂いた。

 

 

「隊長ー!!」絶叫しながらコリンズらが駆け寄るも、既に彼の傷が手の施しようがないのは明白だった。破裂した水道管から水が流れ出るかのように、破片に裂かれた頸動脈から血が溢れてくる。

 

 

 

 

 

急速に薄れゆく意識の中で、自らの血の池に横たわったベルツは駆け寄ったコリンズらを見た。仲間は誰も欠けていない。全員を守れた。

仲間を命の続く限り守りきれた事に安堵した彼は、最後に残った意識を永久に手放した。彼の中には、苦しみも、悔しさもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァイパーの叱責で落ち着きを取り戻した私とエッジは、クオックスの協同撃墜をもくろむ。

 

加速性に優れた機に乗る私が、ほんの数秒、最高速で直進しクオックスの注意を引く。体をひねってレーザーを避け、その直後の一瞬にエッジがSIGで撃墜する。

 

《UAVを撃墜!残り1機!》私達を苦しめたレーザー攻撃も、すっかり散発的な物になっている。

 

残った1機が、7人のウィッチに追い回される。そして、誰が撃ったか分からないAAMが、最後の1機にとどめを刺した。

 

《UAV全機撃墜を確認!やつのバリアーを剥いだぞ!》レーザーの防御を失った蝶使いは逃走に転じると思いきや、《やるじゃん》とだけつぶやき、P90を乱射しつつ私達の方へ突っ込んでくる。

 

 

《最後の授業だリーパー!「エースへの道その5」“止めは自分で刺せ”よ!》

ここしばらくなりを潜めていたヴァイパーの教え。とどめを刺さなければ、それを撃破したという栄光も報酬もない。私は、蝶使いに食いつく。

 

《あいつは私が墜とす!》エッジも私の後をぴったりと付いてくる。

 

《アハッ、かわいがってあげる》耳の奥にこびりつくような嫌らしい声。なぜかこっちと無線をつないでいるため、散発的に鼻歌と独り言が聞こえてくる。奴は、悪い意味で戦闘を楽しんでいる。

 

そして、P90を散発的に乱射し、こちらを妨害してくる。

 

 

その数秒後だった。

 

 

 

 

 

 

《タイムアップ》

 

 

 

 

 

 

 

蝶使い側の警報だろうか?意味不明の無線が聞こえる。しかし、次の瞬間、蝶使いが、目に見えて動きを鈍らせた。何があったかは分からない。でも、このチャンスを逃す私ではなかった。

 

 

 

「貰ったあ!」私は叫び、Mk.48に装填してあった残弾全てを撃ち尽くす。そのうち数十発が、蝶使いの肉体を切り裂いた。

 

 

 

頭、背中、腕、腰、ストライカー、全身に7.62mm弾を喰らった蝶使いは、被弾の衝撃に一瞬全身を震わせ、P90を取り落とし、頭から墜ちていった。

 

東京湾の海面にたたきつけられる寸前、約50ftほどの高度で、蝶使いのストライカーは、数秒前までの主であった穴だらけの肉塊を巻き込み、爆発した。

 

 

 

 

爆煙が収まった後には、波間に揺られる僅かな残骸だけが残されていた。

 

 

 

 

 

《リーパーが敵ウィッチを撃墜!》興奮したようにグッドフェローが叫ぶ。

《ヒュー、やるようになったじゃないの》口笛交じりに、ヴァイパーがつぶやく。

 

 

《蝶使いはベイルアウトなし……か。人間離れした奴だったわね。捕虜にでもできればよかったけど》オメガがしんみりと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

《スカイ・アイから全部隊へ、これより重巡航管制機に一斉攻撃をかける》

蝶使い撃墜で一息つく間もなく、今度は上空の重巡航管制機の撃墜命令だ。

扶桑空軍機や国連軍機が攻撃したのか、複数個所から煙と炎を噴いているが、ろくなダメージにはなっていないらしく、未だに悠々と飛び、信じられないことに後部からSu-33らしき艦載機を発進させている。

 

 

そして、私達の目の前で、運の悪い扶桑空軍のF-15Fが何機か、搭載されたSAMの直撃を受けて墜ちていく。

 

《ホーク2!柿崎!立て直せ!》

《ホーク2、アンコントロール!アンコントロール!脱出できません!》

《スラッガー02、逃げろ、宗像!》

《安藤班長!ミサイルです!》

 

蠅のように落とされていくF-15達の阿鼻叫喚を聞きつつ、スカイ・アイが命じる。

 

 

《敵重巡航管制機の対空砲と対空ミサイルに注意しつつ機動力を叩け。後方エンジン部分を重点的に攻撃すれば、足は止まる。重巡航管制機へ攻撃を開始せよ!》

それと同時に、HMDに数多くのターゲットが映る。

エンジン、固定機銃、自衛用ミサイルサイトなど、目標はよりどりみどりだ。

 

 

超巨大飛行物体に攻撃を仕掛けようとするウィッチ達。何年か前に見たSF映画にこんなシーンがあったなと思い出す。凶悪な宇宙人の飛行要塞に立ち向かう何十機もの戦闘機が脳裏に浮かぶ。もっともその映画では、辛うじて逃走に成功した1人を除いては全機が撃墜されてしまっていたが────

 

 

 

 

 

 

象にかみつく蟻、蟷螂の斧と不吉なイメージばかりが頭をよぎる。

 

《こちらヴァイパー、全機、あの白鯨を狩るぞ!》どうやらこの重巡航管制機のあだ名は、白鯨に決まったらしい。

《了解!エイハブ船長殿!》とオメガが茶化すような返事をし、《エイハブって白鯨と一緒に沈んだヤツじゃん、しかも片足もぎ取られて》と返される。

 

《あれ、知ってた?》といったオメガに、「後で覚えてなさいよオメガ」とだけ呟き、ヴァイパーはSu-33の迎撃に向かった。いつも通りの軽い感じの会話。ボーンアロー隊、再始動といったところか。

 

《エッジよりエッジバックス隊、これより私が隊の指揮をとる。負傷したものは帰還せよ。それ以外は散開、白鯨を攻撃する!》スラッシュの代わりに隊をまとめ上げたエッジが、被弾して離脱した4番機を除いて2機編隊を作る。

 

1番白鯨の近くにいた私が、まずは発艦した直後のSu-33にAAMを撃つ。速度も出ていないシーフランカーは鴨同然だった。分厚い主翼の上をギリギリで掠め、ついでに機銃でAAガンを2機破壊する。エンジン回りはさすがに防備が固いはずだ。まずは、対空装備を破壊しないと。

 

 

《こちらグッドフェロー》何か知らせるべきことでもあるのか、グッドフェローが無線に割り込む。

《言われなくても分かってる!あれ墜としたら報酬上乗せでしょ!》オメガが叫ぶも、グッドフェローは続ける。

《いえ、金も必要だけど、あれはニンジンよ。私がほしいものは別のもの。聞いてるでしょ?リーパー。守りに入ったやつは本物にはなれないのよ。貪欲な奴のほうがいい。そして、状況は無茶であればあるほどいい。デカい的に、無茶な作戦。全ては揃ったわ。貴女には何が見える?》

 

 

その問いに、私は答えなかった。

 

 

その間にも、各部のAAガンにMSSLを撃ち込み、黙らせる。

SAMも撃っては来るが、これだけ近づいているせいか巨体が災いしてろくに照準もできないようだ。

 

 

《弾着を確認!チッ、硬い!》リッジバックス3がMSSLをエンジン周辺に撃ち込むも、分厚い装甲板に阻まれ、エンジンは健在なままだった。

 

しかし、そのエンジンをヴァイパーが破壊する。彼女は複数のM67を投げ込んで装甲をめくりあげ、そこにM79を撃ち込んだのだ。

 

《ちまちまAAMなんか撃ってないで、AGMかASMを撃ち込みなさい!それがなきゃグレネードだ!》

 

そうか、こいつが空を飛んでいるから今まで空対空戦闘と考えていた。しかし、このサイズなら、速度が速い陸上/洋上目標となんら変わりはない。

私はLAGMの照準をエンジンブロックに合わせ、発射する。1発で戦闘艦を行動不能にする威力のあるLAGMは、エンジン数基で構成されたブロック区画を丸ごと吹き飛ばし、機体に大ダメージを与えた。

 

 

 

 

《うわっ!?ちょっとブロンコ!撃つなら言ってよ!》ブロンコの射撃で白鯨ごと被弾しかけたオメガがブロンコに文句を言う。ボーンアロー隊随一の瞬間火力を誇るXM556で機関砲座を掃射した彼女は、《…射線上に入るなって、私言わなかったっけ?》とだけ言い、白鯨の胴体を所構わず掃射する。オメガも《言ってないっつーの!》と言い返しつつ、飛行甲板に出ようとしたSu-33に5.56mm弾を浴びせかける。

 

そんな二人のやり取りを尻目にリッジバックスはM203の同時発射で反対側のエンジンブロックを破壊。白鯨は、両翼から煙を吐いて高度を落としていく。

 

《全てのエンジン破壊を確認!続いて前方コクピットを潰せ。これで終わりだ!》

残る目標はあと1つ、白鯨の鼻先、コクピットだけだ!

 

 

《止めはアンタが刺しなさい!リーパー!死神らしく、大鎌で首を刎ねてやりなさい!!》

 

 

言われなくても、だ。

 

白鯨を追い越し、180度ターンを決めて、ヘッドオン。

アフターバーナー全開で、LAGMの最短射程ぎりぎりまで近づく。

 

分厚いキャノピーの向こうで、操舵手や艦長らしき人影が逃げ惑うのが見える。

 

「これで…終わりだ!!」残ったLAGM5発を全弾発射。

 

私はその勢いのまま、白鯨の内部、Su-33の残骸を燻ぶらせている飛行甲板を掠めるように通り抜け、反対側に脱出した。振り返ると、白鯨のコクピットが一瞬膨れ上がったように見え、次の瞬間、内側から爆発した。

 

 

全身を黒煙と炎に包まれた白鯨の機首が下がり続け、やがて、漂流する敵艦の残骸を巻き添えにし、東京湾に叩き付けられた。すさまじい水煙の後には、へし折れた主翼端が墓標のように残っていたが、それも、やがて渦に呑み込まれ、消えていった。

 

 

《敵重巡航管制機撃墜!》《やったぜ!》スカイ・アイとオメガが同時に嬉しそうに叫ぶ。

《墜としたのは誰?リーパー……か。……“死神”、その仇名、間違ってもないかもね》

と、エッジがつぶやく。

 

 

 

《アローズ各機、本当によくやったわね!》ストーンヘンジ破壊作戦以降、一番うれしそうにグッドフェローが労う。

 

 

《グッドフェロー、帰ったらあたしは長い休みをもらうわよ。そろそろ休んでもいいころだと思わない?》いきなり、ヴァイパーが爆弾発言を繰り出す。

《えっ!?ヴァイパー、やめるの!?》一番驚いているのは、オメガだ。

 

《だってあたしも、もう上り寸前だしさ。それに、隠居できる理由が見つかったからね》

いつになく穏やかな口調のヴァイパー。じゃあ誰が1番機に、と私が考えていると、スカイ・アイが最新の状況を伝えてくる。

 

 

 

 

《敵航空勢力の全てを排除。地上部隊はどうか?ベルツ中尉、報告を》

 

しかし、無線は雑音を返すだけで、何も答えない。

 

《ベルツ中尉、応答を》急かすように、スカイ・アイが再度呼びかける。

まさか…。

 

そして数秒後、地上部隊と無線がつながった。

 

《こちら海兵隊コマンド部隊コリンズ軍曹、ベルツ中尉に代わって報告する。全ての敵勢力を排除した……》

 

隊長であるベルツ中尉が答えない、いや、答えられない。

 

それは、やはり最悪の結末を示していた。

 

《……了解した。全敵勢力の排除を確認》スカイ・アイが感情を封じ、淡々と答える。

 

 

《だが、残念なことだが我が軍は数多くの戦友たちを失った。全機、勇敢な兵士達に敬礼!》

 

ボーンアロー隊、リッジバックス隊の全員が東京を向き、敬礼する。離れた位置では、同じ方角を向き、敬礼をしているディアボロ隊や“新選組”の2人が見える。

 

 

今回の戦闘は、私達の勝利ではあった。

 

しかし、私達は多くを失い過ぎた。

 

 

 

グレイメン救出戦とストーンヘンジ戦を生き抜いた歴戦のコマンド兵、ベルツ中尉。

 

未熟な私達を叱責し、影ながら支えてきてくれたエースパイロット、スラッシュ。

 

レーザーに焼かれ、遺体すら残さず空に散っていった何人もの国連軍パイロットたち。

 

 

 

 

 

いくら悔やんでも、彼らは帰ってこない。

 

《……ボーンアロー4、RTB》一言無線に呟き、私達は戦闘空域を離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Interlude01 炎の矢 ~アローブレイズ始動~

UA1500達成ありがとうございます。

(2019年6月18日追記)現在活動報告で重要なアンケートを行っております。ぜひとも回答をよろしくお願いいたします。


 

 

 

 

作戦終了より2時間後───

 

コリンズの目の前で、MH-60M(ブラックホーク)がローターを回し、待機していた。先に負傷兵を乗せ、彼は最後に乗り込む。隊員の1人がドアを閉め、ブラックホークは東京を飛び立った。

ここに、さっきまで一緒に戦っていた扶桑陸軍特殊部隊の姿はない。彼らは、生残した1両の軽装甲機動車と、それを運んできたCH-53Kに分乗し、去っていった。去り際に、彼らは自らの部隊名を、コリンズ軍曹のみに教えた。

 

決して存在を語られることのない特殊部隊が“沈黙の部隊”を意味する名を名乗るとは、なかなか洒落がきいている。

彼らとの別れを回想していたコリンズは、無意識のうちにポケットに手をやり、何枚かのドッグタグを取り出していた。その内の1枚、ひしゃげて血に塗れた物は、ベルツ中尉の物だった。

「Leonard・Belts」と刻まれたドッグタグを握りしめ、コリンズはヘリの窓から東京を眺める。血のような赤い夕陽が、街を照らしていた。

この街と自分たちを守って彼は死んだのだ。生き残った自分たちは、ベルツ中尉の分まで戦い、この馬鹿騒ぎを終わらせ、生き残らなければならない。

その思いを胸に秘めたコリンズを乗せ、ブラックホークは国連軍所属の揚陸艦へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、夜。

私達が間借りしている旧新東京国際空港──成田飛行場の空き格納庫で、ささやかなパーティが開かれた。ヴァイパーの退任祝いと、ストーンヘンジ撃破、東京開放成功の祝賀会を兼ねたものだった。もちろん状況が状況なので、ケータリングサービスの料理といくらかの酒類やソフトドリンクが会議室から借りだされたテーブルに並べられているだけという質素なものであったが。アローズ社の整備兵とグッドフェロー、それに私たちボーンアロー隊の4人という少人数のパーティだったが、それなりに盛り上がった。

 

 

パーティの騒ぎがひと段落着き、オメガと整備員の幾人かが酔いつぶれ、ブロンコがグッドフェローに絡み酒を始めた頃、私はこの場の主役であるはずのヴァイパーがこの場にいないことに気が付く。もう宿舎に帰ったのか、と思って少し探すと、彼女は私達のストライカーユニットが格納してあるハンガーにいた。彼女は私のF-15S/MTDのそばに、赤い航空用塗料の缶を持って立っていた。

「…ヴァイパー?」私が呼びかけると、彼女は気まずげに、「何。見てたの、リーパー」と言った。

「なにをしてたんですか?」と聞いても、彼女はその質問に答えず、塗料の缶をツールワゴンの上に置き、「…頼んだわよ」と一言言って、そのまま宿舎の方へ振り返りもせずに行ってしまった。

 

 

 

翌朝、私たちが目を覚ますと、ヴァイパーはもういなかった。愛機のMiG-21を駆り、M14を担いで、明け方、何処へともなく飛び去っていったのだという。1機分の空きができた格納庫に向かうと、なぜか私の機の周りに、人だかりができていた。整備兵数名と、オメガとブロンコ。

 

「どうしたんですか?」と私がオメガに聞くと、彼女は黙って私のパーソナルマーク、鎌を持った死神を指さした。

彼女の指指す先、死神の頭の脇には、ヴァイパーのトレードマークだった、∞のマークが赤く、はっきりと描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、成田飛行場会議室。

 

私達がブリーフィングルーム兼待機室として使用しているその会議室には、普段から考えればあり得ないほど多くの人が詰め掛けていた。耐Gスーツを着たパイロットらしい男たちに、なぜかリッジバックス隊のウィッチ達3人。それに見知らぬ数名のウィッチらしき少女。

 

よく見ると、何人かの男には見覚えがある。たまに新聞やニュースに出る、腕利きのエースパイロットたちだとすぐに気づいた。幾人かに至っては二つ名持ち(ネームド)だ。

 

カールスラントの“銀色の犬鷲”に、“灼熱の荒牛”の異名を持つロペズ大尉。リベリオン最強のエースパイロット、“青い魔術師”ことジョシュア・ブリストー大尉もいる。

 

 

「揃ってるわね。私が誰だか知らないって人も多いでしょうけど、まぁそのまま聞いて頂戴」とグッドフェローが切り出す。

 

「対ユージア軍との交戦に向けて、国連軍からアローズを正規軍として迎え入れたいとの要請があり、アローズ社はこれを了承したわ。アローズ社所属各隊はこれをもって解隊。これより軍事参謀委員会直下の独立強襲部隊、タスクフォース118“アローブレイズ”として再始動します」

ボーンアロー隊の面々とその他パイロット達からどよめきが上がる。なるほど。独立コマンドであった私達をかき集め、1つの部隊とするのか。

 

アローブレイズ、“炎の矢”とは悪くないネーミングセンスだ。エンブレムは、銀色の3つの鏃。

 

「私は引き続き指揮官を務めるわ。正規軍所属の飛行隊も共に解隊、再編。ケイ・ナガセ中尉以下、リッジバックス隊もアローブレイズに編入されます」今度のどよめきはリッジバックスからだ。

 

「また、世界各国から戦果著しい飛行隊、傭兵達も我が部隊に編入されるわ」

 

プロジェクターに表示されたのは10個近い部隊章。うち2つは私達とリッジバックスの物なので、新しく編入されるのはそれ以外のいくつかの部隊。それぞれの部隊章の下には、“エスパーダ”“クロウ”“シュネー”“ズィルパー”“ウィザード”などなどと書かれている。

 

ヒスパニア、リベリオン、カールスラントと、様々な国の言語で表記された色とりどり個性豊かなエンブレム。それを見つつ、グッドフェローが再び切り出す。

 

「私達は国連独立コマンドから正規軍になったけど、今までどおり、報酬は頂くわ」その一言に、何人かから安堵のため息と喜びの歓声が聞こえる。当然だろう。今までのような、いや今まで以上に危険な任務に就きながら、給料まで正規軍と同じ定額制にされたらたまったものではない。ざわめきが収まるのを待って、グッドフェローが切り出す。

 

「これより、各ユーラシア大陸防衛戦において、“永久の解放作戦”を開始します。……そうそう、新入り達に言っておくわ。ここでは一番稼いだ奴が全ての行為を優先されるのよ。金と名声が欲しいんなら、うちのエースを抜くことね」

 

彼女の言葉と共に表示されたエンブレムを見て、何人かのパイロットが呻き声を上げた。

 

 

「こいつが例のエース、“死神”か…」「死神がなんだ、俺がやってやる」「戦果は関係ない。最後まで飛んでいた者が勝者だ」「…何時の時代もこういう奴がいる。私はその全てを墜としてきたのだ」「焦る事はない。迷わずにいつもどおり飛べば勝てる」どよめきに紛れ、それぞれの部隊長が部下に言い聞かせているらしい言葉も聞こえてくる。

 

 

彼らの目をくぎ付けにしたエンブレム、

 

 

 

それは、ボロボロの黒いローブを羽織り、鎌を持った死神に、紅い無限大のマークと、“Reaper”の6文字をあしらったものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻──???──

 

『再稼働まであと24時間』“彼”の言葉と共に、『DISCONNECTED』と表示されていた“私”の目の前のディスプレイに、24時間分のカウントダウンが表示される。

 

「えー、つまんないの…」と言って見るも、『しばらくお休み下さい、マスター……』と返されただけ。まあ、退屈極まりない講義がないだけマシ、といったところか。

 

 

それにしても今回は手ひどくやられた。UAV(クオックス)は全て撃墜され、“私”自身も撃ち落とされた。ベイルアウトした“1本線”とやらの隊長を何の気なしに撃ってみてから、人が変わったように攻めてきた2人のウィッチ。

 

内1人は、3ヶ月ほど前に出会ったボーンアロー4とかいう奴だった。白、青、黒の特徴的なカラーリングのF-15改造型を用いる彼女。

 

前はポンコツ同然のF-4Eだったのに、今度は最新鋭機。少し撃墜難易度が上昇している。「まあいいか。今度あったら、真っ先に墜としてやろうっと」“私”はそう独り言を言うと、目を閉じた。

 

 

そして、いつしか、お気に入りのゲームBGMの鼻歌を歌いつつ、“私”は眠りに落ちていった。ボーンアロー4、死神と名乗る彼女との第3ラウンドを心待ちにしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Misson06 要塞アヴァロン ~ICBM破壊~

UA1700達成ありがとうございます。

現在活動報告でとても重要なアンケートを行っております。今後の作品の進展を決める重要なものです。ぜひとも回答をよろしくお願いいたします。



 

 

 

 

エリアM3A 大モンゴル帝国・オラーシャ国境 2020年3月3日1330時

 

 

《降って来たわね》白いものがちらほら舞い始めた空を見上げつつ、オメガがつぶやく。

 

《作戦行動を開始します!スカイ・アイ、再度作戦説明を》グッドフェローの言葉に、スカイ・アイは作戦概要の解説で答える。

 

私はそれを聞く代わりに、グッドフェローのブリーフィングを頭の中で反芻させていた。

 

 

 

数日前──

私は、自室で先の東京襲撃の事後報告書類を呼んでいた。半年近くがたって、ようやく報告書が上がってきたのだ。その間私達は成田飛行場に駐屯し、大きな損耗を出した国防軍の穴埋めとして哨戒などを行っていた。

報告書に話を戻すと、あの“白鯨”、正式名称「アイガイオン級重巡航管制機」は、某国で建造された長距離攻撃プラットフォーム兼空中空母であり、大型・高性能化で配備機数を節約しようとして過剰進化した空飛ぶ軍艦だそうだ。

“配備機数を節約”、つまりあんな化け物がもう何機かいるということらしい。もしそのすべてがユージアの手に落ちているとしたら、いや、製造技術や設備を入手しているとしてもとんでもないことだ。

 

そして“蝶使い”。彼女が駆るストライカーは、「CFA-44ノスフェラト」NATOコードネーム、ファンダンス。こちらも某国が開発した次世代型ステルス艦上戦闘機だ。

F-22やF-35よりも新しい5.5世代機であるらしく、レールガンや小型多連装ミサイルを搭載可能なまさしくオーパーツめいた代物ということだ。しかも、“蝶使い”が用いたものはその改造型であるという。

一体どんな改造が施されたか、それはまだ明らかになってはいないが、どうせろくなものではないだろう。書類をめくると、クオックスのレーザー兵器についての調査結果が載っていた。フライトヘルメット、もしくはウィッチのHMD類を識別し狙撃する画像認識機能があり、攻撃は接近すると自動的に行われる容赦なしの殺人兵器ということらしい。最新鋭のステルス機に、オートエイムレーザーUAV。全くとんでもない化け物の組み合わせだ。「サイコ野郎にバットモービルか」という、しばらく前に見た映画の台詞が脳裏をよぎる。

 

読み終えた書類を放り出し、別の書類を手に取る。こちらは、新規入隊したウィッチの履歴書だ。この前の、アローブレイズ編成の時に姿を見せていた見知らぬウィッチの1人。いままでどこかで基礎訓練を行い、次の作戦からボーンアロー隊で実戦をこなすらしい。銀髪のオラーシャ系で、かなり若い…いや、幼い容姿だ。14か15歳くらいだろうか?使用機種はMiG-29。AK-74をメインアームとして用いるとのことだが、彼女の5.45mm弾とオメガたちが使う5.56mm弾を共用できないのがつらいところか。彼女は私の後を継ぎ、ボーンアロー4として編入される予定らしい。

 

そこまで書類を読み進めると、突如館内放送で、「アローブレイズ所属員は、至急ブリーフィングルームへ集合せよ」と流れる。慌ただしくブリーフィングルームに向かうと、既にそこは満席に近い状態だった。

 

 

 

 

「先に言っておくわ。緊急事態よ」

そう前置きし、スクリーンの前に立つグッドフェローが切り出す。「エリアM3A、大モンゴル帝国とオラーシャ国境沿いの巨大ダムにミサイル実験施設が発見されたわ」彼女の声と同時に、画面にダムの3D画像が映し出される。

「この“アヴァロンダム”はヴェルナー社の管理施設でもあるわ」との解説に、「またヴェルナーかよ…」と誰かがぼやいた。

 

「ユージア軍がこのエリアに集結。放水され干上がったダム湖には、ミサイル発射設備及び対空兵器がその姿を現しているわ。これは重力式コンクリートダムを改造した鉄壁の巨大要塞よ。装備されたミサイルは、サイロの形状から大陸間弾道ミサイル(ICBM)と考えられるわ」

 

その言葉に、全員が一瞬凍り付く。究極の最終兵器ともいえるICBMが、通常弾頭を装備しているはずはない。

 

 

“弾頭は通常に非ず”。おそらく──核、それもメガトン級だ。一体何処を狙っているのか。

「万が一の自体に備え、オラーシャ領空にミサイル迎撃機AL-1Bが配備されているわ」それを聞いて、少しほっとしたような空気が流れる。機首にメガワット級レーザー兵器を搭載した4発機、あれがいるなら少しは安心できる。

 

 

「私達の任務は大陸間弾道ミサイルを発射前に破壊する航空阻止作戦よ。アローブレイズ各隊はオラーシャ側から侵入し、ダムに繋がる峡谷を抜ける予定です。峡谷内で高度を上げると、レーダーに捕捉され長距離防空ミサイルの餌食になるわ」

 

画面に映し出された許容される最高高度は、わずか1900ft(600m)。この前、ストーンヘンジの砲撃下から逃げた時よりも低い。後ろから、「スター・ウォーズじゃねえんだぞ…」と誰かがつぶやく声が聞こえる。

 

「低空のまま峡谷を突破して、ダム到着後は地上部隊が施設へ侵入、サイロへ続く通路を空けるはずよ。そうしたら、地下へ突入してミサイル施設を破壊しなさい」

 

ひときわ大きいざわめきが場を支配する。もし私達が聞き間違えをしていないのなら、地下のトンネルの内部を飛行してICBM発射台を破壊しろという意味に聞こえた。「おいおい、コマンダー・グッドフェロー。そりゃいくらなんでも冗談きついぜ!戦闘機でトンネルくぐりなんて、出来るもんか!?」戦闘機隊…どの隊のパイロットかはわからないが、我慢しきれなくなった誰かが大声を上げる。しかし、グッドフェローはそれを完全に無視し、ブリーフィングを締めくくる。

 

「高度な操縦技術が必要となる作戦よ。でも、幾多の戦場を駆け抜けてきた貴方達であれば

この作戦を成功させることができるはずだわ。戦果を期待します。以上よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

《こちらリッジバックス・リーダー。先に行かせてもらう》スラッシュ亡き後を引き継ぎ、新たなるリッジバックス隊隊長となったエッジが、私達に先行して高度を下げていく。

 

《こちらオメガ、新生ボーンアロー隊も負けちゃいないわよ!ねえ、リーパー隊長殿》

 

そう、ヴァイパーが去った後の隊長は、私だった。新たなボーンアロー4、TACネーム“ゼブ”を加えた私達も、リッジバックスの後を追う。

 

 

 

まずは前方を2機編隊で飛ぶMi-24にMSSLを放つ。爆発音を置き去りにし、今度は森の中に潜む車載型SAMを撃破。

 

《時間は無い。峡谷内の敵には構うな》とスカイ・アイは言うものの、自分たちを狙うSAMやAAガンを放置はできない。撃破確認もせずにMSSLを撃ち、ついでに30mm機関砲で格闘戦を挑んできたハインド2機をMk.48で掃射する。

 

渓谷の開けたところに出た瞬間、いきなりのレーダーロック警報。CAP中だったらしいMiG-21がヘッドオンで突っ込んでくる。1機は機銃で墜としたものの、もう1機は私の横をすり抜け、去っていく。しかし、そのMiGは突如機体から火を噴き墜ちていった。

 

《やったあ!ボーンアロー4、敵機撃墜!》やったのはゼブらしい。

《ほら、はしゃいでないで!下に戦車いるわよゼブ!吹っ飛ばして!》《ハイヨロコンデー!》初戦果に喜ぶゼブをオメガが急かし、対地攻撃を行わせる。

 

この開けた川の両岸の土地は敵の前哨基地として使用されているらしく、数両のBTR-80とT-90が配備されているのが見える。その合間を流れる川には、2隻の武装ボート。Kord重機関銃とKPV 重機関銃の曳光弾を躱しつつ、LAGMで戦車を、グレネードとMSSLでその他の地上車両を相手取る。

 

《フルスロットルで突き抜ける!》そう叫んだオメガは駆け付けたMiG-29をHCAAで追い払い、川の上を低空で飛行していく。

 

《各機急ぐぞ!》エッジも早々にここの戦線を離脱し、アヴァロンへ向かっていく。

 

私もMiGに機銃で牽制をかけてから再び狭い渓谷へ突っ込む。

 

《全機先を急げ!可能な限り敵機との戦闘は回避せよ!》あと1分半以内にダムまでたどり着かなければならない。敵機が応戦しづらい低空を縫って飛ぶも、やはり何機かはついてくる。しかし、彼らは撃墜困難な私達よりも、もっとやりやすい相手に目をつけたようだ。

 

《ジャベリン3ダウン!》《レイピア4も落ちた!》国連軍機2機がたちまちのうちに撃墜されたという知らせ。

《サルベージ1、ミサイルだ!回避しろ!》《くそ!くそったれ!食らった!まだやれる!まだやれる!》

さらに敵機を避けようと不用意に高度を上げてしまった1機が、長距離防空ミサイルに被弾する。

 

 

《リッジバックス各機、無事か!?》頭上をかすめて飛んで行ったミサイルと後方からの爆発音に、エッジが確認を入れる。幸いにもリッジバックスもボーンアローもまだ1発も喰らっていない。

 

《この先に敵のレーダーサイトがある。それを破壊すれば高度制限の解除が可能だ。全部隊、 ターゲットの破壊を急げ!》巨大なゴルフボールのようなレーダーサイトをロックオン。被弾することなど想定されていないレーダーはLAGMの直撃を受けた瞬間、もろくも爆発した。さらに反対側にあるもう1基には、エッジがミサイルを撃ち込んで破壊する。

 

《レーダーサイトの破壊を確認。高度制限解除!各機散開!周囲の敵を排除しろ!》

 

《先に抜けたのはどっちだ!?》銃声交じりの地上部隊の無線が聞こえてくる。《無限大のマーク、リボン付きの死神だ!》

 

 

どうやら私は、ただの死神から、“リボン付きの死神”にランクアップさせられたようだ。あんな低空で飛んでいたとはいえ、よく私のパーソナルマークが見えたなと思いつつ、レーダーを確認する。

 

…多すぎる。ダム本体を縁取るように配備された10基以上の対空砲。さらにダムの底には20両以上の車両がうごめき、最低8機の敵機がいる。

 

 

《今、地上部隊が要塞突入のため施設のセキュリティへ侵入している。その間にまずはこの戦域の敵を排除しろ。時間には限りがある》スカイ・アイからの指示を聞きつつ、私はまずダム上部の対空砲群を始末する。分厚いセメントに開けられた穴から火線が伸びるが、さすがに対空砲の精度では人間大の標的である私には当てられない。落ち着いて1基づづMSSLで撃破する。

 

 

《こちらコマンド隊コリンズ!航空支援、よろしく頼む》聞きなれたコリンズ軍曹の声。突入しているのはやはり彼らの隊か。

 

《やるよ隊長!一本線には負けられない!》オメガが叫びつつ、MiG-21を1機墜とす。私はダム湖の底を走ってくるBTR-80と自走式対空砲に機銃掃射を行う。

 

《リッジバックス隊、遅れをとるな!》エッジ達も負けてはいない。すでに複数の敵機を落とし、対空砲塔の1基を沈黙させている。

 

 

《要塞前面の敵はほぼ排除した。次は要塞本隊を叩け》ひとまず地上部隊の直接の脅威となる手近な車両を撃破すると、今度は要塞のあちこちにある対空砲塔に攻撃を仕掛ける。

 

 

《何よここ!?立派な大要塞じゃない!》オメガががなりつつ、自らをロックオンしてきたMiG-31を撃墜する。見ると、ダム湖の底のコンクリート地盤に、数基の固定式SAMが備え付けられている。やはり間違いない。このダムは最初から要塞として建造されていたのだ。

 

でなければ、あんな対空砲塔までもを持っているはずがない。ダム湖のSAMも、対空砲塔も、建造にはそれなり以上の時間が掛かる。やはりヴェルナー社は、元から世界に向けて戦争を仕掛ける気だったのか。

 

 

上空で2機のJAS-39が撃ち落とされる。《よっしゃー!ここは私達死神部隊が頂いたぁ!》そう叫んだのはゼブだ。喋りつつも彼女はAKでさらにF-15S/MTDを相手している。敵に新鋭機が多いのは、やはりここが重要拠点だからだろうか。AAアヴィエーション・プラントが敵にもあるとは言え、これだけの機を運用できる兵站があると言うこと自体が空恐ろしい。

 

 

無駄な思考を振り切り、私は低空の敵に専念することにした。目の前のKa-50をロックオン。2機をMSSLで、残りをMk.48で落とす。特徴的な単座2重反転ローターの戦闘ヘリが、地面に叩きつけられ爆ぜる。

 

更にT-90とBTR-80が2両づつダムに向かっていたところを、LAGMとグレネードの併用で倒す。

 

 

《壁の向こうで待ち構えているぞ!C-4用意!》《突破するぞ!たまには空の連中に貸しをつくってやれ!》《パッキー、4人連れて退路を確保!チコ、ラッツは私に続け!》《ニャ!》

地上部隊の奮戦が、無線越しに聞こえてくる。彼らの無事を、私達は祈るしかない。

 

 

無謀にもあんな旋回半径でドッグファイトを挑んできたMiG-31を相手に機銃で勝負を仕掛けると、混戦したのか、《あれは死神か!?こんなところまで来るのか!》と無線が聞こえる。

 

味方内だけでなく、敵にまで私の異名が知れ渡っているとは、少し意外だった。

 

 

MiG-31のキャノピーを吹き飛ばし、さらに2機編隊でやってきたF-15S/MTDをMSSLで撃墜する。私と同じ機体だが、彼らのはグレー系ロービジ迷彩。フォールスキャノピーを描いた機体が落ちていくのを見て、私の機体が未だ塗り直されていないのを思い出す。このトリコロールカラーは目立つが、もしかしたらこれが“死神”の目印になっているのかもしれない。なら、逆に好都合だ。居るだけで敵を怖じ気づかせられる。

 

 

そんなことを思いつつ、眼下の2両の戦車にMSSLを撃ち込む。気づけば、残りの敵はMiG-31とF-15S/MTDが各1機づづだけ。高速性能を活かして逃げ惑っていたMiGをオメガが、高い機動力を持ってドッグファイトに持ち込もうとしたF-15S/MTDをエッジがそれぞれ撃墜する。

 

レーダーに映るのは友軍機のみ。後は、地上部隊の作戦完了を待つだけだ。

 

 

《第2コントロールルーム占拠完了!》

《C隊はそのまま待機!他は中央コントロールルームへ向かえ!》

この場にいる全員が、地上部隊の無線に耳を澄ませていることだろう。

《中央コントロールルームに入った!これよりセキュリティ解除を始める》

《奴らすぐコントロールルームを奪い返しに来るぞ!》

 

数秒後、銃声が無線に交じる。

《コントロールルームエントランスに敵兵!クレイモアを起爆しろ!》とたんに漏れ聞こえる爆発音と悲鳴。700個もの鉄球を撒き散らす指向性地雷は、大きな損害を敵にもたらしたようだ。

 

《こちらコマンド部隊コリンズ!セキュリティ解除成功!空けるぞ!》

待ち望んだ無線が、聞こえてくる。

 

 

《地上部隊が要塞のシステムを掌握した。要塞のシャッターが開放されるぞ!》スカイ・アイが言うと同時に、レーダーに地下の目標が映る。

しかし、次の瞬間、辺り一面に重々しいサイレンが鳴り響いた。

 

 

《…まずいぞ!こちらコリンズ!ICBMのカウントダウンシーケンスを確認!》このサイレンは、ICBMの発射合図か。おそらく、サブ的なコントロール設備があったか、異常な操作を感知したら自動で発射する設定になっていたかのどちらかだろう。いや、そんなことを考えている場合ではない。

 

 

《こちらの予想より早い!至急航空部隊の突入を要請する!》コリンズ軍曹の懇願に近い要請に、スカイ・アイが私達への命令で答える。

《スカイ・アイから全機、よく聞け!施設には2本の地下通路があり、それぞれ2箇所の進入口がある。ICBM発射制御施設はそれぞれに2基、全部で4基だ。確実に破壊しろ!》なら話は早い。片方から入って、もう片方から出る。トンネル内でのUターンを覚悟していた私は胸をなで下ろした。

 

《グッドフェローからリーパー、時間はないわ。貴女が先陣を切りなさい!》

《カウントダウンはもう開始されている。ボーンアロー1、突入せよ!》

 

スカイ・アイとグッドフェローが同時に私を急かすが、その言葉を聞く前に私はすでに地下通路に侵入していた。入口は巨大な側溝のようにも見えたが、その先はまさにトンネルだった。低圧ナトリウムランプのオレンジ色の光が照らし出す、四方を分厚いコンクリートで囲まれた空間。

その片隅に、巨大な筒状のもの…ICBMが鎮座している。残り時間は3分ほど。再突入して反復攻撃をする時間はないと判断した私は、確実な撃破を狙いLAGMを2発撃ち込む。至近距離で起きた爆発で、私も壁にぶつかりそうになるが、エルロンとカナードを駆使して躱す。

 

私には閉所恐怖症の気はないはずなのに、無性に恐ろしさが襲ってくる。さらに、トンネルに航空機で突入されることを予測していたのか、CIWSに似たような形の防護機銃までもがあった。MSSL1発でそれを片づけ、その奥にあるもう1機のICBMを破壊する。

 

すると、MiG-29がトンネル内でヘッドオンを仕掛けてきた。なんて無謀なパイロットだと恐怖を覚えつつ、30mm砲弾をまき散らすMiGをバレルロールで回避。私とすれ違ったMiG-29は破壊されたICBMの爆煙に惑わされ、壁面に突っ込んでしまった。

 

 

《A隊はそのまま待機!C隊、B隊、要塞から脱出しろ!死神が入ってくるぞ!急げ!》

 

地上部隊も脱出を始めたらしい。

 

1本目のトンネルを抜けた先で、Mi-24がホバリングして待ち構えていたが、1機を機銃で、もう1機をMSSLで落とす。残りのMi-24は、エッジが落としてくれた。しかしこれでMSSLは弾切れ。後はLAGMと銃器類のみ。

 

 

 

 

上空で反転し、2本目の通路に飛び込む。残り時間はあと2分半。前と同じく、LAGM2発で破壊する。《ICBM破壊、残り1。次で最後だ!》

 

 

『発射まで120秒』辺り一面に響き渡る無機質な合成音声が、嫌な汗を背中に流す。

 

 

最後の1機にLAGMを撃ち込んだ時だった。ICBMの基部から、爆発が連鎖するようにトンネル内に広がる。爆炎に触れる寸前、トンネルから空中に躍り出る。液体燃料の供給パイプに引火したのかそれとも別の何かか、定かではなかったが冷や汗ものだった。

 

《全ICBMの破壊を確認!よくやったリーパー!》《やったあ!》スカイ・アイが嬉しそうに叫び、オメガがガッツポーズをする。

 

《……まだだ!》しかし、コリンズ軍曹の言葉が、その喜びを吹き飛ばした。

 

《なっ…!熱源反応を感知!》熱源…まさか、5基目か!?

 

《くそっ!4基のICBMはフェイクだ!奴ら本命を隠してやがった!》次の瞬間、ダムの脇の山地から、1発のミサイルが炎の尾を引いて空へ飛んでいく。

 

 

《迎撃システムはどうなの!》グッドフェローがスカイ・アイを問い詰める。

 

《ダメです!オラーシャ領空に配備していたAL-1Bは所属不明機の攻撃により撃墜された模様!ブースト・フェイズでの迎撃は不可能!くそっ!》スカイ・アイが取り乱したように叫ぶ。

 

 

これまで、か…。私達の心の中を、絶望が支配しかけた時だった。

 

《…まだよ!うちのエースたちなら追いつける!行きなさい!!》

 

 

《残燃料が減って加速度が大きくなる前に落とせ!急げ!》グッドフェローの思惑を理解したスカイ・アイが私達を急かす。

 

《私達も行くぞ!》ボーンアローとリッジバックス、8人のウィッチ達ができる限りの急角度で───ほぼ垂直に上昇していく。

 

 

撃墜不能になるまで、あと1分。

 

 

《間に合ってよ!》オメガが叫ぶ。

《ぐう…、無理!追いつけない!》まずブロンコが離脱した。彼女の駆るF-16Eは単発機。元々ICBMに追いつく推力はない。

《加速度が上がっている!》スカイ・アイが、絶望的な声で叫ぶ。

《ぐっ……機体が持たない!引き離される!》今度は、リッジバックス3が脱落した。

《くそっ!着氷した!着氷した!》オメガも、悔しげにがなりつつ高度を落とす。

《もっと速く……もっと高く……!クッ!》エッジも、Gに悶え苦しむ。

 

《ダメか……次々と脱落していく……》地上部隊か、諦観したような声が聞こえるが、無視だ。

《リーパー、至近距離についているのは貴女だけよ!》

《限界高度まであとわずかだ!急いでくれ、リーパー!》

 

もうMSSLはない。LAGMでの対空攻撃は不可能。ならいっそのこと…。私は、最後の賭けに出た。

 

 

翼下に残ったLAGMを投棄、アーウェン37も捨てる。グレネードの予備弾が固定してある弾帯ベルトもだ。さらにMk.23をピストルホルスターごと捨て、ついでに、Mk.48のベルトリンクマガジンの予備も捨てる。どうせ再装填するような暇はない。捨てられるものをすべて捨て軽量化されたF-15S/MTDは、じわじわとICBMに近づく。

視界が黒く、狭まっていく。オーバーGの警報が出るHMDも、邪魔だとばかりに脱ぎ捨て、放り出す。

 

 

ブラックアウトの症状が出ても、私はそれを気にすることさえしなかった。

 

《限界高度に到達するぞ!最後のチャンスだ!》その声を合図に、私はMk.48のトリガーを引いた。

すでにブラックアウトは深刻になり、視界はほぼなかった。真っ黒に染まった中にわずかに残った中央部の視野を頼りに、私は、ICBMが飛んでいると思しき場所を掃射した。弾帯に残っていた約30発を、全て撃ち尽くす。

 

手ごたえは、あった。

 

一瞬、G-LOCで失神した私は、爆発音で意識を取り戻した。

 

 

 

 

 

《ICBMの破壊を確認!もうちょっと近ければ私からも見えたかもしれんな》スカイ・アイの言葉に、成功したのかと他人事のような感慨を抱く。

 

《イヤッホー!でっかい花火だ!》オメガが、今度こそ嬉しそうに叫ぶ。

《よくやったわねリーパー!》《今回も彼女に助けられたか》グッドフェローとスカイ・アイが同時に喋る。

 

《地上からも破壊を確認した!“死神の下は安全地帯”か》コリンズ軍曹の声に、ようやく実感がわいてくる。

 

エッジも、一安心とばかりにため息をつく。

 

《リッジバックス隊、帰還する。リーパー、勝負は次へ持ち越しよ》

そう言い残し、エッジ達は去っていった。

 

私達も帰投へ向けて進路を取る。あまりにも無茶な機動をさせたF-15S/MTDは、機体のあちこちからオイルを漏らし、嫌な軋みを挙げていた。

失神したときに取り落としたのか、Mk.48も手元になかった。不調となった機体をあやすように飛ばし、私達はアヴァロンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

その後のデブリーフィングでは、ICBMの標的がワシントンD.C.に設定されていたということ、つまり、ユージアがリベリオン侵攻に乗り出したということが報告されたらしい。

 

が、私はそれを聞かなかった。いや、聞けなかった。

 

 

 

 

 

原因は、無茶な使い方をしたストライカーだった。

 

 

 

 

「…んで、その結果がこれかぁ?」恐縮しきる私を、殺気を籠めた目線でぎろりと睨みつけたのは、整備班長だった。

彼の目の前には、私のストライカーが置かれていた。機体各部が漏れ出たオイルで汚れ、数ヶ所の外板やアクセスハッチが剥がれて内部の構造材がのぞいてしまっている。

 

「あーあ。鳥坂先輩、これ直りますかね?パーツだってあるかどうか見当もつかないし」

「だーいじょうぶ!まーかせて!工賃その他もろもろはパイロットに請求するから、あとは良きに計らえよ」

長髪眼鏡の男性整備員と小柄な女性整備員が修理方法について話し込んでいる。

 

 

彼らを見やった整備班長、作業帽とサングラスがトレードマークの、もはや老人といっても差し支えない彼は一つため息をつき、「まったく、HMDはどっかに無くしてくる、各部駆動用モーターは過加重でお釈迦、外板数か所に皺及び欠損、エンジンは過負荷でオーバーヒート寸前、フレームも歪んでるかもしれねえ。しばらくは飛べねえぞ」と言った。

 

「俺はな、あきれ果てたぞ。おめえ、2番機のバカでも移ったか!?」と説教が始まり、「まあまあおやっさん、何もそこまで…」と止めようとした整備主任も、「シゲ!お前は黙ってろ!」と跳ね除けられ、結局私はデブリーフィングの間中ずっとハンガーで班長の有り難い(・・・・)お説教を聞かされる羽目になったのだ。

 

 

 

ようやく解放された私がブリーフィングルームに向かうと、オメガ、ブロンコ、ゼブの三人が思い思いに休息を過ごしていた。

オメガはブリーフィングルーム端のテレビにゲーム機を接続し、ウイルステロによって荒廃したニューヨークで脱獄囚と戦っていた。ブロンコはテーブルに突っ伏し、何かの料理───おそらく彼女の好物、ヒヨコマメのコロッケを食べながらPCで動画を見ている。

画面の"This is a true story. It is based on official reports and eyewitness accounts.(これは実話であり、公式記録、専門家の分析、関係者の証言を元に構成しています)"のテロップを見るに、とある航空事故検証ドキュメンタリー番組を見ているようだ。

ゼブはというとこちらはスマホで何かを読んでいる。見ると有名なSNS連載の小説だ。ちらりと見えた所は、主人公が冷蔵庫から5回バク転で飛び出してきたシーンだった。

 

私も自室に帰って読みかけの小説でも読もうかと考えていると、ブリーフィングルームにやってきたグッドフェローに名前を呼ばれた。

どうやら代替機のついての話があるようだ。

 

 

 

 

「F-15S/MTDは予備パーツが希少だから、次回のミッションまでには間違いなく修理が終わらないわね」

わかってはいたが、はっきり言われるとやはりがっくり来る。紛失した銃器の再購入費と合わせて、今回の出費は嵩みそうだ。

「そこで1ついい知らせがあるんだけど、リベリオン政府がユニットの貸与を申し出たわ。それを使ってもらうことになりそうよ」

 

今回のICBM攻撃で対岸の火事ではいられなくなったリベリオンが、自国製のユニットを提供し、その対価として防衛を依頼してきたのだという。

リベリオン製のユニットで私達に貸与される可能性のあるものとなると、今使っているF-15S/MTDの原型機であるF-15Cかその発展型のF-15EかF-15X、ブロンコが使っているものと同じF-16シリーズ、はたまた海軍・海兵隊機のF/A-18EかF/A-18Cくらいか。可能性は低いが、F-35シリーズも有り得るかもしれない。

どれが貸与されるのか考えていると、それを悟ったのかグッドフェローが私を格納庫に連れていく。

 

 

格納庫には、すでにそのストライカーがカバーに覆われて鎮座していた。グッドフェローが近くにいた整備員に命じ、そのカバーを外させる。

その下から現れたストライカーは、私の想像を超えるものだった。

 

 

 

 

外側に傾いた2枚の垂直尾翼。

 

 

六角形に近い形の主翼と、それに滑らかに繋げられた凹凸の少ない胴体。

 

 

ステルス性を強く意識した、平行四辺形型のエアインテイク。

 

 

そして、2次元推力偏向式ノズルのついた双発エンジン。

 

 

 

 

私の目の前に現れたのは、史上最強と名高いステルス制空戦闘脚、開発メーカーが「航空支配戦闘機」を自称する“F-22Aラプター”だった。

 

 

「…どうしてこんな最新鋭機を!?というか、これ輸出禁止だったはずじゃ…」と驚く私に、「まあ、首都に核撃ち込まれかけたらだれだって怖気づく。そういうことよ」とだけ言ったグッドフェローは、私にF-22の運用マニュアルを手渡し、去っていった。

 

次の出撃が何時かはわからないが、それまでに覚えておけということだろう。気が滅入りそうなほど分厚いマニュアルを片手に、私は宿舎へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





◎キャラ解説コーナー

・長髪眼鏡の男性整備員:某光画部の「敗北を知らぬ男」。ちなみに某機動警察では整備員として登場していた。

・小柄な女性整備員:同じく某光画部の「皆勤賞」。

・整備班長:某特車二課整備班長。作者的には整備員と言えばこの人。

・シゲ:某特車二課整備班主任。




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Misson07 円卓の鳥 ~B7R制空戦~

活動報告で7月末には完結と言っておきながらここまで投稿が遅れて申し訳ありません。
それと、UA2000達成をこの場をお借りしてお礼します。


 

 

 

「ブリーフィングを始めるわよ」いつも通りの口調でグッドフェローが切り出す。

 

「南米よりリベリオン本土に向けて飛行する敵戦闘機部隊が確認されたわ。かなりの大規模連隊であることは確かよ。私達はサンディエゴ基地より出撃、これを迎え撃ちます」

 

サンディエゴか。あそこなら海軍や海兵隊の基地があるし、きちんとしたサポートを受けられそうだ。

 

「交戦ポイントはエリアB7R。ネバダ州中央部の円形の隆起地形が広がる山岳地域でリベリオン空軍の特殊飛行試験区域に指定されている場所よ」

 

後ろで誰かが、「クソッ…“円卓(ラウンド・テーブル)”かよ」と毒づく。

“円卓”とはその空域の愛称か?奇妙な名前だ。扶桑空軍なら訓練空域はアルファベットで名付けるし、リベリオン軍も動物の名前などを使うことが多いはずだ。いったい何が由来なんだろう。

 

「この地域では、地下の鉱物資源の影響で通信環境が悪いわ。救助部隊の連携も難しいから、

ベイルアウトしても救出には数日掛かるはずよ。…気をつけなさいよ、オメガ」名指しで注意を受けたオメガが、恥ずかしげに頭を掻く。

 

「それと今回は地上管制ができないため、私もAWACSに搭乗して出撃します。…敵航空部隊との激しい戦闘が予想されるわ。サンディエゴについても、出撃には若干時間があるから、機体の調整は十分に行いなさい」真面目な顔に戻ったグッドフェローが締めくくる。

 

 

トラベルポットに詰め込む私物をまとめにいこうと立ち上がると、やや後ろのほうで難しい顔をした若いパイロットが座っていた。

その耐Gスーツに縫い付けられたエンブレムは、矢を咥えたカラスをハートマーク型に描いたもの。──クロウ隊、とか言ったか。つい気になって、声をかけてしまう。

 

 

「ええと、貴方は…」

「ん?あ、俺っすか?俺はリベリオンから派兵された、クロウ隊の3番機っす。PJって呼んでください。ちなみにPJは本名のパトリック・ジェームスの略で。あ、趣味はポロ。あの馬に乗ってやるヤツっす」

どうやら話好きな性格の様で、気さくに答えてくれる。しかし、この声は間違いない。さっき、円卓について話したときに聞こえた声だ。

 

 

「…さっき、何かB7Rについて話してませんでした…?」と私が聞くと、ああ!と一言呟き、自身の経験について語ってくれた。

「あの空域は、さっきコマンダーが言った通り鉱物資源の影響で通信環境が悪いんす。で、そこで空戦してるとレーダーとかも調子が悪くて、BVRAAMも射程を活かせないうえに命中率も低いんす。おまけに無線も混線して敵部隊の声も聞こえるし。前あそこで訓練してたことあるから知ってるんすよ。教官機に何回もドッグファイトで撃ち落とされて」とのこと。

 

 

「じゃあ、円卓っていう名前の由来については知ってますか?」との問いにも、

「あれは、アーサー王伝説が元ネタっすね。BVR戦闘ができないから基本的にIRパッシブか機関砲でのドッグファイト、よくても至近距離でのアクティブホーミングくらいでしか戦えないんす。だから、階級も所属部隊も関係なし、ACMの技術だけがものを言う世界って感じなんです。そこから、アーサー王の円卓の“上座も下座もなし”っていうのを連想して、ってのが由来らしいっす」と素早く答えてくれる。

 

戦闘地域の事前情報を知れた私は彼に礼を言い、自室に帰る。替えの衣類や暇つぶしに読む本を手早くまとめ、格納庫のトラベルポットに詰め込む。

 

 

少し離れたところでゼブとオメガが荷物を詰めていたが、その中に水着や折りたたんだビーチボール、シュノーケルつきゴーグルが入っているのは見なかったことにする。

どうやら意気投合した彼女らは、作戦終了後に遊びに行くことを考えているらしい。…というか、この雪がちらつくオラーシャにまで水着を持ち込んでいたのか。

 

…まあ、最近ほとんど休暇もとれていないし、いいだろう。私も、向こうで水着を買って遊ぶくらいならいいかもしれないと考え始めた。

 

 

 

 

数時間後、私達はオラーシャを飛び立ち、一路リベリオンへ向かっていた。現在リベリオンへ向かっているのはボーンアロー隊とリッジバックス隊、それにクロウ隊と、彼らと同じくリベリオンからやってきたウィザード隊。

 

4機編隊で飛ぶ私達ボーンアロー隊だが、私の後ろでは編隊が乱れがちだった。

オメガとゼブがタブレット端末で何かを熱心に読み、それをブロンコがのぞき込んでいるのだ。無線は使っていないが、至近距離なので会話は聞こえてくる。

「やっぱりまずはミッションビーチだよね」「私あそこ行きたい!レゴランド・カリフォルニア。ブロンコはどこ行く?」「……バルボア・パーク。あとファッションバレー」

 

 

聞こえてくるのはサンディエゴの観光スポットの名前。減速してオメガの持つタブレットをのぞき込むと、そこに映っているのはとある有名な旅行ガイドブックだ。

3人とも作戦終了後の休暇をどう楽しむか、今から考えていた。

「リーパーはどこか行く予定ある?」後ろについた私に気付いたのか、オメガが振り返りつつ問いかけてくる。

数秒考えて、私は言った。「ミッドウェイ博物館とかですね」空母丸ごと一隻をそのまま博物館としたあそこは、一度行ってみたいと思っていたところだ。

 

「…隊長も来ない?ビーチ」珍しくブロンコが自分から話しかけてくる。

 

 

私達4人は、束の間戦争の事も忘れて休暇の計画を話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後に待ち受けていた、恐ろしい出来事を知る由もなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリアB7R リベリオン合衆国ネバダ州“円卓” 2020年 5月21日 11時00分

 

 

《懐かしいわね》上空のグッドフェローが、どことなく懐かしげにつぶやく。

《来たことあるんすか?》オメガからの問いに、《ここは新型機の試験飛行を行う空域でね、数多のパイロットやウィッチたちが階級の上下に関係なく腕を磨き合った特別な場所よ》

ここを彼女が飛んだことがあるというなら、彼女は元テストパイロットだったのか?

 

《そういえば、あんたの昔話を聞くのは初めてね》…それは珍しい。そういえば私も、ボーンアロー隊所属兵の経歴は全く知らない。

なぜオメガやブロンコ、ゼブがこの部隊に来たのか、前歴もわからない。まあ、「語るは無用、聞くは無作法」という言葉もある。

《おしゃべりは終わりよ。そろそろ交戦ポイントに入るわ》

 

 

同時に、レーダーにいくつもの影が映る機種はMiG-29とSu-33、見える限りでは4機編隊(ダイヤモンド)4つの計16機。

《来たわよ!》グッドフェローの言葉と共に、全ての敵機がターゲッティングされる。

 

 

《大勢でおいでね》と呟くオメガに、《玄関でお出迎えよ。丁重にお帰り願って》とグッドフェローが返す。

《スカイ・アイから全機、交戦を許可する!散開!》スカイ・アイもグッドフェローに続けて叫び、《ボーンアロー2、エンゲージ!》《リッジバックス1、エンゲージ!》と交戦宣言が無線に響く。

《ボーンアロー1、エンゲージ!》と私も叫び、6AAMを発射。最も接近していた1個編隊を狙う。急旋回しつつ、ミサイルの行く末を見守る。

空に3つの火球が生まれる。3機撃墜。さらに2機のMiGに向けてMk.48を掃射し、高高度にいたSu-33とMiGにMSSLを撃つ。これで5機。

 

《獲物はいくらでもある。リッジバックス隊より1機でも多く墜すわよ!》《ゼブ、了解でーす!》

オメガとゼブがコンビを組み、編隊2つ、8機を相手取る。背中合わせに飛び、あっという間に4機を叩き落した2人だが、そこにエッジが突貫し、3機を撃墜する。

《空戦はこちらの得意分野、最初から引き離す!リッジバックス各機、一気に攻めるぞ!》

《リッジバックス2、コピー!》聞きなれない声のリッジバックス隊員だ。おそらく、スラッシュの穴を埋めるため、こちらのゼブと同じように新人を雇ったのだろう。

 

彼女がMiG-29を追い回すのを尻目に、2機のフランカーをMSSLで撃墜する。

《リーパー、あなたには負けない》すでに7機を落とした私に、エッジが闘志を燃やす。

しかし、ミサイルアラートが鳴りやまない。最高のステルス性を持つラプターでも、この至近距離で、しかもレーダーとアフターバーナーを使用していては、その意味はほとんどない。

PJが言った通り、ここでは遠距離のロックオンができないため、必然的に機銃やWVRAAMの射程で殴りあうことになる。

《撤退は許可できない。敵を可能な限り撃退せよ》スカイ・アイの冷静な言葉に、《…でしょうね。報酬上乗せよ》とブロンコがつぶやく。

 

《2番機が追われている!》MiG-29の1機を追い続けると、敵機からの無線が聞こえてくる。PJが言っていた無線の混線か。

《後ろがガラ空きだ、国連の犬め!》と聞こえた瞬間、2発のAAMが私をかすめて飛んでいく。一気に減速し、今撃ってきた敵をオーバシュートさせロックオン。

《回避!回避!》と叫びつつ敵機はフレアを撒き、1発目のMSSLを回避した。しかしもう1発は避けられず、エンジンノズルと尾翼を吹き飛ばされ、墜ちていった。

さらに2番機と呼ばれたMiGにMk.48を撃つ。7.62mm弾に左翼をもぎ取られたMiG-29が、仲間の後を追う。

 

《くっそ、空が、空が狭い!!》Su-33を追いかけるオメガが、一言叫ぶ。

 

《1番機に気を付けろ!死神だ!》《リボン付きの死神!?ふざけたマークだ!》2機のMiGと1機のフランカーが旋回戦を挑んでくる。

体を捻り、6AAMを撃つ。やや距離があったため、ほとんどは避けられてしまった。それでも1機のMiGを撃墜、その破片と爆煙に惑わされた残り2機に、MSSLで対処する。フレアを撒く暇もなく、2機は火球と化した。

 

《リボン付きの死神、その首貰った!》上から逆落としにMiGが突っ込んでくる。

《死神!!お前を落として俺は金を得る!その金こそが、金こそが俺を…!その金で俺は…俺を…!》やけにうるさく騒ぐ敵機を6AAMで素早く屠る。

《航空部隊の半数を撃破、その調子だ!》とスカイ・アイが叫ぶ。しかしまだ半分か。すでに私は9機、オメガ、ゼブ、エッジが見た限り合計で7機。

ブロンコやリッジバックス隊の面々、クロウ隊やウィザード隊も何機かは撃墜しているはずだ。すでに最低でも20機以上は落としている計算になるが、それでもまだ半分。

いったい何機の敵機がこの狭い空域にいるのか。

 

《3番機“リボン付き”を振り払え!》《分かってるさ!死神を引き付ける!後方から狙え!》私の共同撃墜を目論んだらしいが、無線でバレバレだ。

前方の敵機をMk.48で掃射。旋回中だったせいか、少しずれて右翼に弾痕を刻む。

《主翼が!!》機体制御を失った悲痛な味方の叫びを聞き、急反転で逃亡を図ったSu-33にMSSLを撃ち、こちらも墜とす。

 

《敵勢力の殆どを撃墜。各隊、体勢を整えよ》ようやく一区切りだ。交戦開始から2分足らずで11機を撃墜した。

Su-33やMiG-29のような高性能機を相手にしたが、さすがは史上最強の戦闘脚、F-22だ。F-15S/MTDだったらこうはいかなかっただろう。

使えるのはおそらく今回だけだろうが、手放すのが惜しくなるくらいの乗り心地だ。

 

 

 

 

 

 

《ん?レーダーに新たな編隊を確認!敵増援部隊が接近中、迎撃せよ!》

 

同時にレーダーに転送される戦闘機隊の情報。かなりの至近距離までAWACSにも気づかれない敵…私と同じステルスか!!

敵はF-22かF-35か、それともYF-23か…。いずれもにしても最新鋭機。機体性能では大きく負けるものもいる。ウィッチの小柄さと旋回性の高さを生かして、戦うのがベストだ。

 

《押されてるな。アーテル隊、ブレイク!》やはり漏れ聞こえる無線。それと同時に敵機の情報がHMDに表示される。4機2編隊の計8機。機種は…。

 

《嘘でしょ!?Su-57!?》「なっ…!?」信じられなかった。NATOコードネームが決まったばかりの最新鋭中の最新鋭機。

開発元のオラーシャ軍でさえまだ10機も配備できていないはずの機体。それがまさか、ユージアの手に渡っていたとは──

 

《えーっと、Su-57ってそんなに強いの?》とぼけた声で聞いてくるのはゼブだ。

《オラーシャ帝国、スホイ社の最高傑作。通称PAK-FA。NATOコードネーム『フェロン』。機動力ではF-22にも匹敵する機体性能がある。私も実機は初めて見た》とやや興奮気味にブロンコが解説する。

 

比較的近い編隊に向けて6AAMを発射、しかし──。「っ!?躱されたっ!?」ステルスと磁場のダブルパンチ、さらに敵の腕もいい。だが、チャフさえ撒かずに回避されるとは。

 

《リッジバックス1から各機、迎え撃て!》より前方に出ていたリッジバックスが吶喊する。

《いくわよリーパー!》オメガと共に1機を照準、発射。2方向から同時発射されたAAMはさすがに避けられず、1発の至近弾を食らった敵はエンジンから黒煙を噴き始める。

 

 

《ここは俺達の庭だ!全機喰らいつくすぞ!》

敵機からの無線に疑問を抱く。……“俺たちの庭”?じゃあ彼らは、リベリオン人か?ならなぜオラーシャの機体でユージアに所属している?

 

《敵は精鋭部隊との情報あり!警戒せよ!》そんなことを考えている場合ではなかった。手近な1機をロックオンし、MSSLを2発撃つ。

これは回避された。しかし、それを予測し進路上に7.62mm弾をばらまく。平べったい機体にはほとんど当たらなかったが、それでも何発かは尾翼や主翼に穴をあける。

動きが鈍った隙を狙ってMSSLをさらに2発撃つも、それもまた避けられる。…今まで戦った中では最も腕のいい戦闘機乗りだ。こちらもエースなら、あちらもエースか。

 

 

《アーテル・リーダーより各機、まずは敵中核部隊の隊長を落とす。編隊を崩せ》

となると…。狙いは私か!

《了解、あの一本線カラーの魔女だな》いや違う、エッジが狙われている。機体とカラーリングを揃えた彼女らを中核部隊と捉えたのか。いや、それはどうでも良い。

 

 

《捕まえた》1機のSu-57が、可変ノズルを生かしてエッジを追いかける。3次元偏向ノズルがもたらす高機動力は、ウィッチと戦闘機の差を徐々に埋めていった。

しかし、今は援護にはいけない。目の前のダメージを負った1機を追い、MSSLを撃つ。

近接信管を作動させたMSSLはSu-57のエンジンノズルと垂直尾翼を丸ごともぎ取り、1機5700万ドルの最新鋭戦闘機を無価値なスクラップへと変えた。

 

 

《離れろ…!》ループ、ターン、ダイブ、上昇、下降を繰り返してなんとか敵機を引きはがそうとするエッジだが、相変わらずSu-57は食いついてくる。《ここは“円卓”。死人に口なし、だ》不吉なことを敵機が呟く。

 

《リッジバックス4から3、リーダーを支援しろ》《ウィルコ!》フェンサーがSIG556で弾幕を張り、Su-57の進路を妨害しようとするも、ひらりと言う擬音がぴったりきそうな機動でその弾丸は全て回避される。

《まさか、私だけを狙ってる?…このっ!》エッジもSIGを撃つが、回避軌道を取りつつの射撃で、命中しない。私はエッジを追尾する1機を狙い、6AAMを2回発射する。計12発のAAMは流石に回避不能だ。乗機を破片と爆風でズタボロにされた彼は、ベイルアウトする間も無く7.62mm弾でコクピットを吹き飛ばされ、最期を遂げた。

 

エッジに向かってミサイルを撃ち、機動力が一瞬削がれた1機を狙い、4発のMSSLとMk.48を浴びせかける。真後ろから、しかも油断した瞬間の攻撃をもろに受けたSu-57は機体後ろ半分を破壊され、円卓の大地に叩き付けられた。

《ボーンアロー4、敵機撃墜!やった!》ゼブがやったのか。部隊内では最も旧型のMiG-29で、よくやったと言うほかない。

《敵航空部隊の半数を撃破》やっと4機か。《いよーし、いい調子ね!》とオメガが嬉しそうに言うも、《喋ってないで墜として》とブロンコに諭される。

 

 

《敵はエッジに狙いを絞ってきているわ。ボーンアロー隊、カバーしなさい!》3機を墜としている間に、エッジはかなり追い込まれていた。《ウィルコ!》オメガが叫び、HVAAを連射する。運良くその1発が、エッジを追う1機に当たる。その数秒前、オメガがミサイルを撃った一瞬のちに私は6AAMを2連射していた。12発のAAMは中距離誘導を行うことが出来ずほとんどが外れたが、オメガにより機動力を削がれた1機に命中。5機目のSu-57が主翼をもがれ、錐もみで墜ちていく。《くそ!主翼をやられた!彼奴は何だ!?》数秒後、Su-57のキャノピーが弾け飛びパラシュートが開く。

 

《死神マークにトリコロールカラー!あれが例の空賊のエースか!》…そうだ。もっと私に注目しろ。そうすれば、味方の攻撃のチャンスは増える!私の機体とエンブレムに目を取られた1機。その一瞬の隙が命取りだ。ブロンコが真上からMSSL2発を放ち、さらにXM556で弾幕を張る。最高のタイミングで放たれたMSSLは、見事にエンジン排気を捉えSu-57を撃破する。

 

《いけるぞ!あの1番機を逃がすな!》生き残った2機には、撃墜された6機のことが分かっていないらしい。連携が取れていないのか、それとも気にも掛けていないだけか。

 

《各機、エッジを援護しなさい!》

エッジを追う事に熱中しすぎたのか、後方確認を全くしない1機を狙い、Mk.48で掃射する。《残り1機》

 

《これでラストだ!》流石に分が悪いことを悟ったのか、エッジの追尾を諦めた最後の1機が低空へ逃げようとする。その真後ろから、6AAMを撃つ。

《ぐあっ!レバーが効かん!ちくしょう!》数発の至近弾を受けたSu-57は、小爆発を繰り返しながら高度を下げていき、最後は燃料に引火したのか、ひときわ大きな爆発を起こし墜ちていった。

 

やっと一息つける。ふと時計を見ると、空戦を始めてからまだ4分しかたっていない。もう数時間も戦ったような錯覚を覚えるほど、激しい空戦だった。瞬きをすることも忘れていたのか、目がひりひりと痛む。

この短い間に単独撃墜16機、協同撃墜1機。4分で16.5機はあの伝説のエースウィッチ、“アフリカの星”ことハンナ・ユスティーナ・マルセイユを上回る撃墜記録だ。

 

 

 

《リッジバックス1、機体の損傷を報告せよ》スカイ・アイの無線に、しかしエッジは答えない。《リッジバックス1、エッジ!報告を!》数秒の沈黙が続いた。

 

《直撃はありません。まだ飛行可能です》思ったよりもしっかりとした声。無事なようだ。

 

《無理しないでよ》とオメガが呼びかけるも、

《ボーンアロー1へ、援護感謝します。但し、次からは余計な真似は結構!》拒絶するようなエッジの声。《そうくると思った》オメガがぼそりと呟く。

「フソウのツンデレ、って奴じゃないですかね」と、ゼブが無線を使わず軽口を叩き、それを聞いたブロンコが笑いを噛み殺している。

 

 

 

次の瞬間だった。

 

 

 

《クロウ2、被弾した!ベイルアウトする!》もう敵は居ないはず。なのに、戦闘機隊の1機が撃墜された。「えっ…?」

《ウィザード3、ダウン!》次の無線は、ウィザード隊のYF-23が撃墜されたとの知らせ。

《なに!?ウィザード隊が墜とされただと!?》

 

 

スカイ・アイが驚いたように叫ぶ。

 

 

その時だった。

 

 

 

 

《♪~♪》

 

 

 

 

耳なじんでしまった、あの鼻歌(・・)。そして、上空に現れるアンノウンの機影。

 

 

 

《え?この歌……まさか!?》オメガが、ぞっとしたように呟く。

 

 

 

 

《アハッ♪》

 

 

短い笑いと共に、私達をかすめた小柄な影。

 

 

顔の上半分を完全に覆うHMDに、右手に持ったP90。

 

そして、短冊形のカナードとW型の主翼後縁が特徴的なストライカーユニット。

 

彼女の後ろに、忠実に従う8機のUAV。

 

 

 

CFA-44とMQ-90を操る敵ウィッチ。

 

 

 

だが、彼女は死んだ。いや、死んだはずだった。

 

 

 

 

 

「“蝶使い”…!!」

 

 

 

 

私は自分でも知らないうちに、その敵の名を呼んでいた。

 

 

《嘘…でしょ!?あの女は墜としたはずでしょ!?》

オメガが顔面を蒼白にして叫ぶも、あれは紛れもなく、蝶使いだ。

 

 

十数機の国連軍機と、スラッシュを撃墜した最強且つ最悪の敵。

東京では、墜とせはしたが多大な犠牲を出した。

 

 

しかし、今回は違う。空戦にステータスを振り切ったとも言えるF-22に、Mk.48だけを持った前よりも軽量な装備。やれる。今回こそ、誰も死なせずに墜とす。

 

6AAM、MSSLを同時に放つ。すれ違いざまにUAV2機にそれをたたき込み、撃墜する。

 

《……あいつは私が墜とす!》決意を固めたように叫んだエッジが、SIGで蝶使いを狙う。

 

 

 

しかし、何故死んだはずの奴が生きている?奴は私が墜とした、それは間違いない。7.62mm弾数十発で蜂の巣にされた人間が生きているはずはない。だが、動きは前の奴とそっくり同じだ。

 

 

《相変わらずなんて動きするのよ!前回とは違う奴のはずでしょ!?》歯噛みしつつ、オメガが唸るように言う。

フランカー並みの、いやそれ以上に大きな機体サイズ。なのに機動力は偏向ノズル付きのこちらと同等か、むしろ良好ときている。

一体どうなっているのか。あれだけのGを掛ければ、機体はともかくウィッチの方が持たないはずだ。

 

《ああ、神様!最高のウィッチをぶつけるしかできることはないのか!?》スカイ・アイが叫ぶ。

 

既に、戦闘機隊の生残機は視界内にない。私達8人で、何とかするしかない。

 

 

《…何か変ね》グッドフェローが呟く。数秒の沈黙、そしてグッドフェローが再び口を開いた。

 

《こちらグッドフェロー、蝶使い機からの桁違いに大きいデータ通信を確認。多分だけど…あれにウィッチなんか乗っていないわ!》

 

「……はい?」グッドフェローの言葉が理解できない。じゃあ、目の前で今飛んでいるのは一体何なんだ?正体が急にわからなくなった敵が、いきなり不気味なオーラを放ってきたように感じる。

《じゃあ…じゃああれはなんなのよ!?本物の幽霊って訳じゃあるまいし!?》そのオメガの言葉を聞いたわけではないだろうが、《へへへ~》と蝶使いの笑い声が響く。

……本当に、気持ちの悪い奴だ。

 

 

《いや、あのストライカーはたぶん…無人機の様な物よ。蝶使いの本人は別のところにいて、あれを操っている可能性が高いわ》

 

 

私は、言葉が出なかった。まさか、ウィッチ型(・・・・・)のUAVとは。そういえば、思うところがある。奴は、1回もシールドや固有魔法らしき物を使っていない。

 

それに、奴を墜としたときの事を思い出す。私の撃った弾は確かに全身を撃ち抜いた。しかし──墜ちていく奴、そのズタズタになった体からは、一滴たりとも血が出ていなかった(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

《さすがは大軍事企業様。下々の一般市民には思いもつかないことするわね》オメガが吐き捨てた時だった。

 

 

 

《っ!?》気が削がれた一瞬、その隙をついてクオックスがブロンコを狙う。レーザーが彼女の身体を掠め、何かが彼女から離れ、落ちていく。

 

《ブロンコ!?》《…大丈夫。怪我はない》いつも通り棒読みの口調で無事を知らせるブロンコ。

《でも銃が…》彼女の手元を見ると、XM556の銃身が、もぎ取られたように無くなっていた。《…レーザーが当たった》と、機関部だけになったガトリングの残骸を投げ捨てたブロンコが呟く。

 

《ブロンコ、いったん下がって。私がやる》

 

 

 

幾ら相手が強かろうと、流石に2回目となればネタも割れる。ミサイルではレーザーに防がれる。なら──

 

私は中途半端に残ったベルトリンクマガジンを捨て、新しい物へと変える。

 

 

《おいで、かわいがってあげる》《隊長ー!助けてくださーい!実際ジリープアーですー!》

ゼブを執拗に狙っている蝶使いの真後ろに付き、ストライカーを狙ってMk.48のトリガーを引く。

 

 

《む!》蝶使いが後ろに付いた私に気付き、体をひねって逃げようとするが、もう遅い。銃口初速833 m/s、弾頭重量147グレーンのフルメタルジャケット弾が、毎秒12発の勢いでストライカーを撃ち抜く。

ほんの5秒にも満たない射撃、しかしそれは蝶使いのストライカーから飛行能力を奪い去った。

 

次の瞬間、自らを制御していた主を失ったUAV達が自爆する。

 

《蝶使い機を撃墜!速い!さすがは死神だ!》スカイ・アイが感嘆したように叫ぶ。

 

 

 

ストライカーを破壊された蝶使いが、高度を急速に下げていく。

 

ストライカー以外には当てていないためか、まだ無線が聞こえる。

 

《あ~あ、1機減った~。も~。もう一回、コンティニュー!》その言葉を最後に、蝶使いはストライカーごと爆散した。

 

やはり、ストライカーを履いていた奴は、人間ではなくロボットのような物だったのか。 ……私達にとっては命がけの空戦でも、奴にとってはゲームと同じか。

 

 

 

《…全機へ、まだ終わってないわよ》グッドフェローの言葉にレーダーを確認すると、まだ機影が残っている。10機のSu-27が、こちらを目指して飛んでくる。

 

《ユージアの奴、まだ戦力を隠してたのか!?》何処で戦っていたのか、PJが叫ぶ。

 

《各機、残弾を確認!》無線に叫ぶも、《こちらオメガ。ミサイル無し、ライフル弾15発、あとは拳銃だけ》

《ゼブです。ミサイルとライフル弾無し、ピストルも残り1マガジンです》《…ミサイル2、銃は壊した》と、ボーンアロー隊の面々はほとんど丸腰だ。

かくいう私も、ミサイルはMSSL1発のみ、Mk.48の弾薬は残り30発ほど、拳銃はそもそも持ってきていない。

 

《こちらリッジバックス1、全機合わせてミサイル2、ライフル弾残り約2マガジン》

 

《こちらクロウ3。1、2、4がダウン、ミサイルは無くてバルカンが50発くらいしか残ってないっす》

 

《こちらウィザード1、我が隊も2、3、4がやられた。私も弾薬は残っていない。燃料は残り15分》

 

 

……全員合わせてもミサイルは5発、そもそもほぼ完全に非武装の者さえいる。

敵の主武装、R-27の射程に入るまで後数十秒。…ベイルアウトして、なんとか逃げるしかないか?

 

私が覚悟を決めた、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

《ん…?新たな機影を確認。…IFFを受信!リベリオン軍だ!機数2、急速に接近中!》

 

《いまさら2機来ても、どうにもならないわよ…》オメガが、諦めたように呟く。

 

そのとき、《フォックス3》《フォックス3!!》2人の男女からのミサイル発射コール。

 

計4発のミサイルが、Su-27に向かって飛ぶ。チャフとフレアを撒いて回避をはかる敵機群。

しかし、その回避した先に再びミサイルが撃たれ、あっという間に4機が火を噴いて墜ちていく。

 

 

 

《…間に合ったようね》聞き慣れない声、彼女らが援軍か。

 

 

 

私達の横をかすめ飛ぶ2つの影。ウィッチと戦闘機の混成だ。機種はF-22A。

 

そして、そのインテイク脇のエンブレムに、私の目は奪われた。

 

 

 

 

 

月と星をバックに、空に向かって吠え猛る狼。

 

軍事に多少興味のある者なら、誰だって知っている部隊章だ。

 

約3年前、復讐に取り憑かれたオラーシャ人が巻き起こした戦乱から、リベリオンを救った英雄。

 

 

 

 

 

リベリオン空軍第108タスクフォース、“ウォーウルフ隊”。

私達の救世主は、史上最強のエース達だった。

 

 

 

 

「ウォーウルフ…!」

 

《ええっ!?ウォーウルフってまさか…》全員の驚きを、オメガが代弁していた。

 

《あー、あー。国連軍機へ。聞こえる?敵機は私達が引き受けるから、その隙に撤退を》

そう私達に言ったウォーウルフ1は、生き残ったSu-27へ猛然と突っ込む。まず1機をAAMで撃墜し、さらに反転して2機を同時にライフルで撃墜する。

 

そのあとに続くウォーウルフ2は、ヘッドオンを仕掛けてきたSu-27をバルカンで撃墜し、交戦空域外へ離脱しようとする2機に、AMRAAMを発射してとどめを刺した。

 

わずか30秒ほどで10機すべての敵機を撃墜した二人は、私達の横へ並んだ。

 

 

 

《大丈夫かしら?死神さん》ウォーウルフ1…ビショップ大佐が親しげに声をかけてくる。

《…はい、大丈夫です》あまりの早業に心を奪われていた私は、そう返すのが精一杯だった。

 

《…ところで、あのシリアルキラー女は?》真面目な声で尋ねられるが、それが何のことを指しているかよくわからない。

《…ほら、あのバタフライ・マスターとか言う奴よ!》と焦れたように言われ、ようやく合点がいった。

《一応墜とすには墜としましたが…》彼女に蝶使いの正体を大まかに伝えると、一つため息をつき、《なるほど。本体を潰さなきゃ、か……》と返される。

 

 

《ま、いいわ。貴女方国連軍が無事なら、それでいいわ。じゃあね、死神さん。ウォーウルフ1、RTB》と言い残し、彼女らウォーウルフ隊は機体を翻し、去っていった。おそらく、ネリスへ向かうのだろう。

 

《ボーンアロー1、RTB》私もすべての敵機の撃墜を確認し、サンディエゴへと方位を取る。

《本体か…。いったいどこにいるんでしょうね…》エッジが、ぼそりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







◎キャラ解説コーナー

・PJ:某空飛ぶ一級死亡フラグ建築士。

・ウィザード隊:某国防空軍第8航空団第32戦闘飛行隊。クーデター組織を結成したりはしない。


・ウォーウルフ1
本名:ウィロメナ・ビショップ
使用機種:F-22A
出身:リベリオン
使い魔: アメリカアカオオカミ
固有魔法:三次元空間把握
使用銃器:HK416,M11
原作通りの沈着冷静なウィッチ。現階級は大佐。


◎今話のハイライト(試読した友人談)
 
 ・ACZeroのパイロットら登場。
 ・まさかのウォーウルフ隊参上。
 ・オレオ




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Interlude02 魔女達の休日 ~作戦前夜~

大変お待たせして申し訳ありません。
投稿を再開いたします。
一気に完結までもっていきます。


 

 

 

 

円卓での激戦が終わってからおおよそ2時間後、私達がいたのはノースアイランド海軍航空基地のブリーフィングルーム……ではなく、サンディエゴで最も人気が高い観光地の一つ、ミッションビーチだった。予定通りに休暇がもらえ、移動中に立てた計画が実行できたのだ。

 

「海だー!」と大はしゃぎしているのはオメガだ。去年の5月から海に行きたいと騒いでいたので、喜びもひとしおだろう。そしてオメガの後を、浮き輪片手について行くゼブ。

 

扶桑の5月なら、海水浴にはまだ早い。

しかしここサンディエゴの今の気温は23度。ちょうどいい気温だ。

 

オメガとゼブは既に海に飛び込み、ブロンコはビーチチェアで横になっている。

 

離れたところでは、海パン姿のPJがウィザード1と缶ビールを開けている。

 

 

私はコーラ片手にビーチパラソルの下に座り込み、彼女らを眺める。

こんな平和な時間は久しぶりだった。

硝煙やケロシン、エーテルの燃える匂いも、悲鳴混じりの無線もエンジンの爆音もない、穏やかなひと時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

去年の5月半ばだったはずだ。派遣先の南国で休暇を取り、海水浴に行こうと思ったのは。

結局去年はユージア独立戦争騒ぎで一回も休暇を取れず、フソウでは飛び立てば海が見える位置にある基地に居ながらも一回も泳げなかった。

 

1年越しに叶った希望。しかも、一大観光地のミッションビーチだ。

 

……しかし思い返せば、人生で一二を争うほどに濃い1年だった気がする。サンディエゴの日差しを浴びながら回想にふける。

 

オストマンではまだルーキーだったリーパーに引っ張られる形でストーンヘンジの喉元に切りかかり、フソウでは化け物じみた空中要塞に喧嘩を売り、オラーシャではスターウォーズの真似事をした挙げ句ICBMと追っかけっこだ。

そして去年の6月にはストーンヘンジの砲撃に巻き込まれ、ベイルアウト回数を更新する羽目になった。確かあれで、11回目の緊急脱出だったはずだ。

お気に入りのEF-2000を買ったおかげで貯金はすっからかん。ローンを背負った空賊なんて絵にもならない。ストーンヘンジ攻略、トーキョー開放戦、ICBM迎撃、そして今日の円卓戦とかなりの戦果は挙げたが、まだまだ貯金は心もとない。本当はショッピングで爆買いでもするかと思ったが、それはしないほうがいいだろう。

 

……まあ、財布の中身を検討するのはまたいつかでいい。

今日は、ただただ休暇を楽しむことに専念しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地の近くに、そのカフェがあったのは僥倖だった。

私の大好物、オストマン北西部のルブナーン地域の料理を出す店はそう多くない。だから、私の目当ては何よりも先にここになった。オープンテラスのテーブルの上に、注文した料理が並ぶ。ケバブに、ピタパン。ヒヨコマメのコロッケにデザートのバクラヴァ。

 

 

料理を口に運びながら、途中で買い求めた新聞を広げてみる。

『エストビア連邦、全地域が陥落。ブリタニアに亡命政府設立を宣言』

『コレチア最後の都市、西グレスティン陥落。ユージア連邦、コレチアを完全占領か』

『ユージア連邦、アルストツカとの国境で国連軍と膠着状態に』

…第一面には、物騒な文字ばかり躍る。

 

経済面を広げてみる。

『オリビエリ・ライフ・インシュアランス社の株価高騰。要因は個人向け戦災保険』

『核シェルター関連企業の株価暴騰。“戦争特需”と関係者談』

こちらも戦争の話題で持ち切りだ。ざっと、株価が上がっている企業を見てみる。MNC(多国籍企業)のシャフト・エンタープライズに戦闘機メーカーのドナルド・ダイナミクス。新鋭民間軍事会社のマーティネズ・セキュリティー・カンパニーに海運・武器運送会社のHCLI社。医薬品メーカーのアンブレラ社もだ。

 

 

次に、気まぐれで買った航空系雑誌を開いてみる。こちらもちらほら戦争の匂いの濃い記事があるが、大半は平穏な内容のものだ。

 

『シャーロット・エルウィン・イェーガー少将、F-15Dで音速飛行を再現』

『2019年リノ・エアレース優勝機“ファイアーバードMAⅢ”サンディエゴで展示飛行』

『TFJ-01最終生産機、エアイクシオンへ納入』

 

エアショーや旅客機など、航空関係のニュースが満載されたページをめくり、次のページに掲載された記事を見て私は思わず噴き出してしまった。

 

それは、ユージア戦争特集の記事の、ある一枚の写真だった。

 

『東京上空を哨戒中の国連軍ウィッチ(撮影者:アルベール・ジュネット)』

 

その写真のウィッチは、白を基調として青と黒のストライプカラーが特徴的なストライカーを用いている。

 

そう、他ならぬ我らが隊長、“リボン付きの死神”リーパーだった。

 

 

読み終えた雑誌を新聞もろともバッグに仕舞った私は、ウェイターを呼んで追加の注文をする。

機体を壊すこともなく、地道に貯め続けた給料はかなりの額になっている。

グルメに、流行のブランド物。…頭のネジが外れたかのような散財も、悪くないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーチでのバカンスの後は個々に分かれての自由行動だ。オメガはそのまま泳ぎ続け、ゼブはテーマパークへ、ブロンコはショッピングモールへ、私は博物館へと。

 

グッドフェローからは外出許可証と合わせて、外泊許可証も受け取っている。既にオメガらは近くのホテルの予約を取っているらしく、今日は基地に帰らないと私に伝言を頼んだ。

 

 

私は別に外泊する気は無く、オメガらと分かれた後は基地へ帰って伝言を伝え、その日は久しぶりにのんびりと休んだ。翌日からは博物館巡りだ。

 

初日にはミッドウェイ博物館でE-2CやF-14を見学した。扶桑語のガイドレコーダーを借り、その日一日はずっと空母の中で過ごしていた。昼食も、艦内のレストランで摂ることが出来た。

 

その翌日にはサンディエゴ航空宇宙博物館を訪れ、第二次ネウロイ大戦時のトップエース、第501統合戦闘航空団のエーリカ・ハルトマン中尉のBf-109ストライカーユニットやウルトラマリン・スピットファイアを見学し、ついでに土産物をいくらか買ったところで、グッドフェローから連絡があった。

 

どうやらデブリーフィングがあるらしい。別行動を取っているオメガ達にその旨をメールし、私は基地へ向かった。

 

 

ブリーフィングルームに集まった私達、つまりボーンアロー隊とリッジバックス隊、それにPJとウィザード1を一瞥し、グッドフェローは「休暇は楽しめたようね」と切り出した。

 

見ればオメガはやや日焼けし、ゼブはテーマパークのキャラの縫いぐるみを抱き、ロゴ入りのキャップをかぶっている。ブロンコはショッピングの最中だったらしく、衣類の入ったいくつかの紙袋を机の上に置いている。

リッジバックス隊には水着姿のまま着替えずにデブリーフィングに来た者もいた。エッジも出かけていたのかラフな私服姿だ。

PJらに至っては、昼間から飲んでいたのか顔が赤らんでいる。

 

 

 

一つ咳払いをしてグッドフェローは切り出した。「捕虜の尋問により、蝶使いの正体についていくらか判明したわ」途端に全員に緊張が走る。

 

「あのストライカーには、やっぱり生きた人間なんて乗ってなかったわ。リベリオンが散乱した破片をかき集めたけど、その中に人間の遺体やその一部らしき物はなかったそうよ」

 

…やはり、か。私達がしのぎを削ってきた相手はただの機械だったのだ。

「そのストライカーだけど、捕虜を尋問して漸く詳細が判明したわ。機体名は“QFA-44カーミラ”。これはCFA-44の無人化改造機で、どういう仕掛けになってるかは未だ不明だけど同じ無人機のクオックスより空中戦能力が高いわ。操縦用のデータ通信は低軌道の通信衛星網が利用されていることが確認されているんだけど…」

 

それを聞いたPJが声を上げる。「じゃあその人工衛星を墜とせば蝶使いは現れないんすか?」

 

その言葉にグッドフェローは頷き、「確かに、PJのいう通りよ。その衛星を叩けば終わる話なんだけど……国連が取り決めた“宇宙条約”があるから手が出せないの。国連は条例改定に急ぐとは思うけど、一部の加盟国内、特に南米諸国の反対が強いらしくて、すぐにとはいかないでしょうね」と続けた。

 

「…お偉いさん達は自分達で作ったルールに縛られ、自らの首を絞めているということか」ウィザード1が呟き、室内は重苦しい沈黙に包まれた。

 

しかし、良いニュースもあった。撃墜された6機のうち、クロウ隊の1番機と2番機、ウィザード隊の4番機がベイルアウトに成功していて、救助されたらしい。

 

デブリーフィングが終わるやいなや、PJらは救助されたウィングマンの元に飛んでいった。私達が自室へ向かおうとすると、何故か私だけが呼び止められた。

 

グッドフェローがいうには、F-15S/MTDについてのことで話があるらしく、ハンガーに向かって欲しいとのことだ。前回、アヴァロンで壊してから2ヶ月半あまり。漸く修理が終わったということだ。

 

 

 

 

 

 

ブリーフィングルームのある建物から出て、ハンガーへ向かう。彼女から教えられたハンガーの前には、見慣れない航空機が駐機していた。

 

 

鉛筆のように細く尖った機体に、剃刀のように薄く鋭い台形主翼。尾翼は今時の航空機には採用されにくいT字型だ。機体全体は何の塗装も施されていない銀一色。いかなる現用機とも似ていないその小型機は、「究極の有人戦闘機」とも称された第2世代ジェット戦闘機、F-104Cスターファイターだった。

 

1970年代半ばに退役したこの旧型の、しかも戦闘機がなぜここにあるのか?それはわからなかった。

 

スターファイターの駐機しているハンガーの中には、私のストライカーを固定した拘束装置と、それを取り囲んだ幾人かの男女がいた。内2人はアローズがPMCだった時代からいる整備班長とその部下の主任だ。他に居るのは作業着姿の口髭を生やした老年の扶桑人と若いリベリオン人女性の2人だ。

 

 

整備班長が振り向き、「おお、来たか」と私を手招きする。「ストライカーが直ったと聞いたんですが」と切り出すと、「ああ、やっと直ったぜ。全く、あそこまで無理に無理を言わせてぶん回してくれたんじゃ、俺達だけじゃ手に負えなくてな。手を尽くして機材と人を集めてやっとだ」と言われた。

 

「なるほど、あんたか。この機体をここまでぶっ壊した大馬鹿野郎は」荒っぽい口調で親しげに話しかけてきたのはそこにいた唯一の女性だ。「あたしはエイブリル。こいつの整備を手伝わせて貰った。ああ、そこの3人にも感謝しな。サカキのじいさんとシバが大まかなとこはやってくれたし、そこのイマイっていう元扶桑軍のエンジニアがいなきゃ手が足りなかった」

お調子者の整備班主任、シゲさんが笑いながらピースサインをしてくる。

 

「嬢ちゃん、イーグルはデリケートなんだ。もっと丁寧に扱ってくれ。……まあ、荒っぽく使っちゃあるが雑には使って無いみたいだけどな」最後に話しかけてきたのは扶桑人の男性。エイブリルの話だと扶桑国防空軍に所属していた整備兵ということだが、恐らくはアローズの班長が伝手で呼んだのだろう。

 

「まあ、あんたの機体にはちょっとした“魔法”をかけてやった。多少は無理をしても問題ないだろう。だが、次は壊さないでくれよ」そうエイブリルが締めくくった。

 

 

早速ストライカーを履いて、エンジンを回してみる。…驚いたことに、回転がかなり滑らかになっていた。入手したときよりも滑らかに回っている気がする。そのまま整備班長の誘導に従って滑走路に出て、さらに推力を上げる。フラップを下ろし、スラストノズルとカナードを動かして一気に上昇する。ラダーやエレベーター、エルロン、カナードの動きも良い。操縦系統の遊びも完璧な感触だ。

今まで使ったどのストライカーよりも上々の乗り心地だ。よくあんなに損傷した機体からここまで良い状態に出来たなと心の底から思う。

 

上下左右の旋回や加減速、一通りのマニューバを取ってみる。他の動翼も滑らかで、間違いなく今までで最高の状態に仕上がっていた。

 

エイブリルは「魔法をかけた」と言っていたが、まさしくその言葉通りだ。

 

試験飛行を終え、格納庫に帰った私を出迎えたエイブリルは、「どうだい、乗りごごちは?」と笑いながら聞いてきた。「…最高です。一体どうすればあそこまで飛ばしやすくなるんですか」と返すと、彼女は「故障したパーツは全部新しいのに変えた。エンジンはコンプレッサとノズルを強化して、エアブレーキは高性能化、各部のモーターやアクチュエータは新型のを搭載してある。ついでにハードポイントも改良しておいてやった」と答えた。

 

まるでヴァイパーが使っていたフィッシュベットのように、改造のオンパレードだ。

 

「感謝します」と私が述べると、「ならいいさ。次は壊さないように乗ってくれ。……あばよ、大馬鹿野郎」とだけ言い、彼女はハンガーを出て行った。

 

 

“次”か。恐らく次の作戦は拠点奪還や敵機迎撃ではなく、反攻作戦、つまり強襲や上陸・侵攻作戦だろう。

 

そういえば、この基地に離着陸している航空機の数も増えてきている。

それも、弾薬や機体パーツを満載しているらしいC-2(グレイハウンド)C-5M(ギャラクシー)、ロールアウトしたばかりのアドバンスド・スーパーホーネットやF-15EXが、だ。

 

ユージアとの正面衝突が、間近に迫ってきているのを私は感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 





◎キャラ解説コーナー

・エイブリル:某スクラップクィーン。

・イマイ:某百里の新選組の整備担当。



◎お詫び

長らく投稿を停止していて申し訳ありませんでした。
最終話まで書き終わったので、数日中に完結させます。





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Misson08 バンカーショット作戦決行 ~反撃開始(前編)~

 

 

 

 

 

 

「すべての準備は整ったわ」ユージアの地図が表示されたスクリーンの前で、グッドフェローが重々しく切り出す。そして、地図が拡大され、ロマーニャとヴェネツィア公国の辺りが詳しく表示される。

 

「いよいよユージアに占領された土地へ向けて侵攻し、欧州東部解放作戦を展開します!」

ウィッチもパイロットも、全員がなにも喋らず聞いている。

 

「作戦名は──“バンカーショット”。エリアV9D、アドリア海を抜けてヴェネツィア領を目指す作戦よ」室内に響くのは、グッドフェローの言葉とメモ用紙にペンを走らせる音だけだ。

 

「上陸部隊はエラフィティ諸島のルーダ島を迂回し、エコー隊とウィスキー隊の二手に分かれて上陸します。上陸地点は内陸へ向かう道が狭いから、守備するユージア側に有利な地形で、敵の激しい抵抗が予想されるわ。各航空機はビーチの敵を掃討し、上陸部隊の被害を最小限に留めなさい。……この作戦が成功すればユージア戦争終結の突破口となるわ。奴らの喉もとに切り込むわよ!」

 

ブリーフィングが終わった途端、全員がドヤドヤと部屋の外に飛び出していく。「腕が鳴るぜ」「血が騒ぐ」と、血気盛んなパイロット達。

 

これは、この戦争の終結を左右する大作戦だ。

 

全てを万端にして向かわなければならないだろう。

 

 

武器弾薬を点検するためにハンガーへ向かうと、そこは怒号と罵声、命令を伝える怒鳴り声で満ちていた。

 

「誘導爆弾とIRパッシブだけでいい!BVRはいらん!」

「違う違う!30mmは30mmでも俺のは30×113mmB!30×165mmじゃねえ!」

「リベリオンとオラーシャじゃ規格が違うんだ!ミサイルは分けて置いとけ!」

「25mm弾はねえのか!?機関砲無しじゃ戦えんぞ!」

「時間がねえぞ!編隊長機や新型機から整備してけ!旧型は後回しだ!」

「班長、予備のエンジン(F110)が到着しました!」

「ようし、すぐ第3班にかからせろ!手が空いた奴からそっちにまわす!」

「なんでこのMiGは西側のパーツを使ってんだよ!?どういった運用してたんだ!?」

「40mm砲だと!?なんてデカブツ積んでんだ、スツーカかこいつは!?」

「これはインチねじだ馬鹿!スホーイはミリねじなんだよ!」

「クソッ!だからヤードポンド法は嫌いなんだ!」

「口動かす前に手動かせ!あと何機いると思ってんだ!」

 

 

規格がバラバラの機体に、パイロットたちがそれぞれ好みの兵装を積むよう要求しているため、大混乱が起こっていた。

当然だろう。様々な国や部隊から兵士が押し寄せたため、ヨーロッパ諸国やリベリオンの最新鋭機からオラーシャの世代遅れの機体まで、ハンガー周りは軍用機の博覧会のような有様だ。整備員もアローブレイズの人員からもともと基地にいたロマーニャ人メカニック達、戦闘機パイロットと共に脱出に成功した各国の整備員などが入り乱れ、まともに意思疎通が取れているのが奇跡と思えるほどだった。

 

幸いにもウィッチ隊は合計8名と人数が少なく、大きな混乱は発生していなかった。

しかしそれでも携行式多目的ミサイルや高誘導AAMのような重装備は希少らしく、ボーンアロー隊までは回ってこなかった。

 

人類史上最大の上陸作戦は、早くも暗礁に乗り上げ始めているような気がした。

 

 

 

 

 

翌日、午前6時ちょうど。

ハンガーやエプロンでは、アローブレイズ所属機の他に、この攻撃に参加する様々な国の戦闘機や攻撃機がエンジンを作動させ始めていた。

 

 

ロマーニャから派遣されたEF-2000の部隊に、ブリタニア義勇兵のF-35B飛行隊。

オストマルクからこの基地まで、決死の脱出行を繰り広げた何機かの古ぼけたMiG。

お馴染み国連軍のF/A-18FにF-16E、リベリオンからはるばる飛んできたF-15E。

さらにはすでにユージアの占領下にある国の残存兵達。

 

新旧東西入り混じった機体に、パイロットが乗り込んでいく。

 

彼らは、私たちの後に離陸するようだ。

 

 

 

格納庫で、準備の整ったF-15S/MTDのエンジンを始動させる。

 

JFS(ジェット燃料始動装置)を作動させ、INS(慣性航法装置)を自立操作。

右エンジンをスタートさせ、回転数、EGT(排気温度計)オイルプレッシャー(油圧警告灯)を点検。問題なし。

エンジン回転数が18%に到達、スロットルをIDLEにまで進める。

全て問題なし。

機体が引きずられないように、エンジン回転数は70%を維持。

左エンジンも伝達開始。全て問題無し。

 

後ろではブロンコが同じようにエンジン始動を行っている。だが、「…アンチアイス、オフ」「フラップ…15、15、グリーンライト」「……第4エンジンに愛着はない…」などと、明らかに関係ないセリフが紛れ込んでいる。…彼女の大好きなドキュメンタリーのセリフだったはずだ。

 

「ブロンコ、それ不吉だから今は言わないで」と軽く注意すると、「…もう助からないゾ」と一言だけつぶやき、今度は真面目に始動作業を始めた。

 

私達ボーンアロー隊が、滑走路へ進入する。このロマーニャの基地から、上陸予定地点まではおおよそ2時間半。離陸、移動、上空待機で、ちょうど良い時間だろう。

 

 

 

《……話せるのか?》無線に誰かが割り込んでくる。この声は──“スクラップ・クィーン”ことエイブリルの声だ。

《…おい、聞こえるか。そいつは最高の状態に仕上げてある。HMDもピカピカに磨いといたぞ。空がよく見える。…行ってこい、大馬鹿野郎》

 

《貸してくれ、スクラップ・クィーン。リーパー、一緒に行きたかったぜ!》これはクロウ2の声だ。

《不調機や負傷者では足手まといになる。だが…私も同じ気持ちだ》今度はウィザード4だ。

 

ベイルアウトの傷が癒えてなかったり、代替機がどうしても入手できなかった彼らは、今回出撃しない。

しかし、彼らもこの大規模作戦に参加し、ユージアに一杯食わせたかったのだろう。

 

私はそんな彼らがいる管制塔に、敬礼を返す。

 

向こうも、返礼を返したのが僅かに見えた。

 

《こちらボーンアロー1、離陸準備完了。離陸許可を求めます》

 

《ボーンアロー1、離陸を許可します。御武運を》

 

 

 

管制塔との交信を終え、スロットルをMAXに叩き込む。2機のF100-PW-200ターボファンエンジンが確かな唸りを響かせ、片側12万馬力の推力が私の身体を加速させる。

 

 

《あれが例の彼女か》

《そうだ、今飛び立ったのが彼女だ》

無線に混じるのは、離陸の順番待ちをしているパイロットらの声か。

 

…いったいこの中の何人が、生きて滑走路に帰ってこれるのか。

不吉な予感が、胸の中で一瞬渦巻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

エリアV9D エラフィティ諸島ルーダ島上空 2020年 9月19日 09時00分

 

《グッドフェローから全航空部隊へ。左右に展開する上陸部隊を守りきりなさい。この作戦の成否は貴女達の腕にかかっているわ》

あいにくの雨模様の中、20隻以上の揚陸艇が眼下に広がる。

 

 

 

《こちらエストビア空軍第17飛行隊サラマンダー。ボーンアロー隊、会えて嬉しいよ》

8機の迷彩柄のMiG-23がダイヤモンド編隊を組み、横に並ぶ。コクピットの中からパイロットが手を振ってくる。エストビア本国は完全に陥落したらしいが、何とか国外に逃げ延びる事が出来た飛行隊らしい。

 

《我々はアルストツカ人民空軍、第54飛行隊リジルだ。対地援護は任せて貰おう》

今度は10機のSu-22が後方に付き、主翼を振って合図してくる。

 

《こっちはコレチア空軍第26飛行隊スコール・スコードロンだ。よろしくな!まさかアルストツカと共闘する日が来るとは思わなかったよ》

アルストツカの仮想敵国、コレチアの飛行隊がリジル隊の横に並ぶ。陥落の影響でズタズタになった空軍を有り合わせの機体で無理やり再編したせいか、6機編隊の中に同じ機体は1機も無い。JA37ビゲンにシーハリアー、F-16A 、F-111FにF-CK-1、果ては正体不明の双発デルタ翼機と生産国から年代まで多種多彩だ。

 

 

 

《見てよ隊長。あのF-16、ノーズコーンが黒い…。最初期型だよ、あれ。BVR積めないはずけど大丈夫なのかな?》

 

《………それよりもあのデルタ翼機、あれは試作のミラージュ4000。1機しか生産されなかったのにどこから持ってきたの?》

 

《そんな変な機体ばっかで本当に大丈夫なのかねぇ、この作戦は?》

 

オメガとブロンコが作戦参加機の異様さを口にする。

私もまさか、AIM-9しか積めないような旧型機や試作戦闘機を投入するなんて思ってもみなかった。

 

《…心配するな。機体も中身もロートルだが腕だけは本物だ。必ず作戦を成功させてやる!》

 

二人の愚痴が聞こえたのかスコール1から無線が入る。

 

聞こえた声は渋く、歴戦の兵を想像させるようだった。

 

 

 

 

《こちらW(ウィスキー)隊コリンズ!我々は前方のルーダ島を西に迂回して海岸線へ接近する!海峡通過時は左右両岸からの集中砲火に晒される危険がある!航空支援、よろしく頼むぞ!》

おなじみのコリンズ軍曹の要請に、私はAAガンをミサイルで破壊することで答える。対空用の20mmガトリング砲でも、装甲のないエアクッション艇には大きな脅威だ。

 

《ボーンアロー隊、こちらE(エコー)隊のベルツ》今度は、島の反対側を回るエコー隊からの無線だ。こちらの部隊長はどうやら女性らしい。……しかし、ベルツとは。あのベルツ中尉の親戚だろうか?いいや、そんな偶然があるはずないだろう。

 

《我々は敵艦船により海峡封鎖されたルーダ島東を突破する。だが、敵艦の前ではSSC(エアクッション型揚陸艇)など花びらのボートで浮かぶお姫さま同然だ。敵艦の排除を頼んだ!》

 

自らを“お姫様”と例えた彼女に、《准尉はお姫さまって柄じゃないがな》とコリンズ軍曹が茶々を入れる。

《コリンズ軍曹、上陸地点で会おう。先ほどの言葉は覚えておく》やけに優しげなベルツの言葉に、《了解であります、准尉殿!》とコリンズが返す。そんな2人のやりとりを尻目に、対地ミサイルを積んだMiG-29の2機編隊を墜とす。

《あれ?今の准尉さんベルツって言ってなかった?女の人の声だったけど……》ホーカムを相手取っていたオメガが、首をかしげる。

 

 

《こちらスカイ・アイ。友軍による艦砲射撃を確認。これより“バンカーショット作戦”を開始する!》気合いの入った声で、スカイ・アイが戦闘開始を宣言する。

 

 

《…実は今日は私の誕生日なんだ。プレゼントには上陸記念日をお願いしたい》スカイ・アイが珍しく私的な台詞を口にする。それほど彼女もこの作戦に気を向けていると言うことか。

《それはリーパーに頼んで。私じゃ無理だから》とオメガが私に振ってくる。

 

《…了解!この辺り一帯にリボン掛けて丸ごとプレゼントして差し上げますよ!》と返すと、《それは頼もしいな、頼んだぞ“死神”!》と声援が帰ってくる。

 

その間にも、私は機銃を装備した監視塔と、対空ミサイルのレーダー車を破壊した。

 

 

《リッジバックス隊ブレイク!ウェポンズフリー!》低空で防空兵器を相手する私達に対して、航空ではリッジバックスが迎撃機のSu-27と交戦を開始していた。

 

《東ルートのE隊だ!敵艦隊と目視戦闘距離に突入、航空支援を要請する!》まずはベルツ准尉の隊からの支援要請だ。

 

海峡にひしめくコルベットや巡洋艦を目視できる位置に居た私は、LAGMで巡洋艦の1隻を、MSSLとMk.48でもう1隻を撃沈する。リベリオン製のタイコンデロガ級によく似た巡洋艦があっという間に横倒しになり、あるいは竜骨の辺りからへし折れて水面に消えていくのを尻目に、高速で友軍に接近するコルベットとミサイル艇をMSSLで沈める。

 

《敵艦隊の半数撃沈!エコー隊は順調に前進中》《支援感謝する!行くぞ!怯むな!》4隻の戦闘艦を沈めたのに、まだ敵の海上戦力は健在だ。中型のコルベットだけでもまだ5隻ほどいる。ミサイル艇や武装哨戒艇も何隻か見える。…船舶でさえもAAアヴィエーション・プラントで量産できるのかと考えつつ、3隻のコルベットにLAGMを1発ずつ撃ち込み、撃沈する。

 

《エコー隊、敵艦隊はクリアされた。通過せよ》ようやくコルベット以上の艦の大半を撃沈し、一息付ける。《ボーンアロー隊の支援に感謝する。敵艦隊は海の藻屑になったようだな》

残骸が漂流し、漏れ出た燃料で海面が燃えている中を10隻以上のエアクッション艇が突き進む。

 

《まもなくウィスキー隊が海峡部へ侵入する。支援可能な機は両岸の敵陣地を叩け》ベルツらの上を通過した私は、ついでとばかりに単機で飛行するMiG-29にMSSLを撃ち、標的を沿岸に展開する戦車や沿岸砲に切り替える。アーウェン37でまとめて数両を吹き飛ばし、生き残った沿岸砲にはMSSLを追加で叩き込む。

 

 

《上空の空賊部隊!こちらは何とかする!西のウィスキー隊の支援を!》ベルツらのSSCの艇上からも、散発的ながら火線が伸びている。恐らく携帯型ミサイルや無反動砲を撃っているのだろう。その火線の一つ、重機関銃クラスの火器からの射撃が、低空を飛ぶホーカムの装甲を撃ち抜き、撃ち落とす。

 

しかし、重機関銃にしては威力が大きい。まるで30mmクラスの対空機関砲だ。艇上を注視すると、誰かがガトリング砲のようなものを抱えて(・・・)射撃していた。

ちらりと見えたそれは、3銃身12.7mm口径のガトリング式重機関銃、GAU-19だった。

勿論、生身の人間にはそんなものは携帯不可能だ。そんなものを手持ちで撃てるのは──ウィッチだけだ。

 

 

《大丈夫だ!上空の死神、兄からそちらのことを聞いている》

……“兄”。そうか、ベルツ准尉は中尉の妹か。偶然、同姓の人物がいたのではなかったのだ。

 

《死神に取り憑かれたら、もう怖いものはなにも無いとな!》そう喋りつつも、ベルツは敵を撃っているようだ。射撃音からして、恐らく重機関銃…。そこまで考えて、私ははっとした。

《ベルツ准尉!貴女は──ウィッチですか!?》その問いに、彼女は笑い声とともに答えた。《そうとも。私はウィッチだ。だから、多少のことは問題ない。それよりも、コリンズ達をなんとかしてくれ》私は彼女を信じ、その揚陸艇から離れた。

 

 

《沿岸より砲撃!》《うわぁっ! ウィスキー315被弾!》両岸からの射撃に晒されていたウィスキー隊に、ついに敵弾が命中した。第2射を放とうとする沿岸砲と、執拗に射撃を繰り返すT-90をLAGMで屠る。さらに上空のMiG-29を撃墜し、別の沿岸砲も破壊する。

《砲撃が止んだ!損害軽微!感謝する!》

どうやら被弾したのは1隻だけのようであるが、まだ安心できない。沿岸には一定の距離を置いて、固定式の沿岸砲1門と戦車と装甲車を数両ずつ、それに対空機関砲をまとめて配備した小規模陣地がいくつもある。

 

《こちらスカイ・アイ。敵勢力の一定数排除を確認。さらに任務を続行せよ》その言葉を聞き流しつつ、小基地の1つにLAGMを撃ち込む。これで揚陸艇を狙える位置にある地上部隊はほぼ無い。

アフターバーナーを焚いて高度を一気に上げ、MiG-29とドッグファイトに持ち込む。

ミサイルを節約し、3機をMk.48の掃射で墜とす。

 

 

《攻撃機も来たよ!迎撃だ!》低空を這うように接近するのは、翼下に大量のロケット弾ポッドとクラスター爆弾を抱えたA-10Aだ。対空戦闘においてはカモ同然であるが、地上部隊からすれば恐怖そのものにしか思えないだろう。

 

《先に頂く!リッジバックス1から各機、迎え撃て!》

A-10隊を護衛するようにMiG-29も集まってくる。私は1番の脅威となるA-10にMSSLを撃つ。

 

「…ッ!堅い!」しかし、さすがは史上最強のタンクバスター。

MSSL1発を当てたくらいでは撃墜できなかった。

陸戦型ネウロイ519体を撃破した伝説の対地攻撃ウィッチ、ハンナ・ウルリーケ・ルーデル大佐が設計に関わっただけのことがある。その頑丈さが、今では煩わしい。

 

だが、せいぜい時速500km程度の攻撃機なんて、いくら堅くても問題ない。1機につき2発か3発、撃ち込めばいいだけだ。リッジバックスにMiGは任せ、ボーンアロー隊はA-10迎撃に専念する。

 

対空特化の装備のオメガが先行し、ここぞとばかりにHCAAを撒き散らす。さらにブロンコが上方からXM556で掃射し、ダメージを負ったA-10にとどめを刺していく。

結局、A-10は1機たりとも地上部隊に到達することはなく、全機が撃墜された。

 

 

 

《上陸部隊、海岸まで2分》あと少しだ。あと少しで彼らは陸地にたどり着ける。

 

一気に急降下し、海沿いの道路を走る戦車や装甲車に37mm弾を撃つ。ロックオンアラートが響き、反射的に旋回すると2機のMiG-29がミサイルを撃ってくる。チャフとフレアをぶちまけ、お返しとばかりにMSSLを2発ずつ撃ち、撃墜。

 

《まもなく上陸部隊が海岸に到達》《行くぞ! 総員上陸準備急げ》それに答えるように、私はさらに上空のMiG-29を撃墜し、木々の間に隠れた戦車や装甲車を破壊する。

押し寄せる味方に呼応するかのように、敵機がじわじわと大陸の内陸側へ移動しているようだ。中にはこちらに背を向けて遁走する機体もいる。

 

…何かが妙だ。今まで戦ってきた相手はこんな戦意が低い相手ではなかった。

しかも、潰走しているのではなく、なにか秩序だった撤退行動をとっているような気がする。

 

《敵機が撤退を開始した!戦意は低いぞ、ここで叩け!》興奮気味にスカイ・アイが指示を出す。そうだ、考えるのは後で良い。余分な思考を捨て、敵の撃滅に専念しよう。

 

《エコー隊、陸に取り付いた。反撃は軽微だ!展開急げ!…確かに、死神は我らの守り神だな!》

《こちらウィスキー隊!出遅れたが上陸完了だ!死神に感謝だ!》

 

《死神、死神……。不気味なマークがマスコットになってるわね》エッジがこちらを見ながら呟く。別に私のせいじゃない、といいたいところだがここは空気を読んで黙っておく。

 

《よし、両部隊の上陸と展開を確認した。“バンカーショット作戦”第一段階は成功だ!続いて敵残存勢力の掃討に移れ》

 

 

 

スカイ・アイがそこまで言ったときだった。

 

 

 

 

 

 

辺り一帯に、異様な音が響いた。

 

 

何かが掠めるような、爆ぜつつ落ちてくるような…。本能的な恐怖を抱かせる音が。

 

 

 

 

《……何だ!?》スカイ・アイが珍しく、怯えたような声で呟く。

 

《ちょっと…何よ、この音!》オメガが、恐怖を掻き消すように怒鳴る。

 

《上……上よ!》エッジが叫ぶも、その異音はあまりにも大きく、既にその声は誰の耳にも入らなかった。

 

《えっ!?なんだって!?》

 

《上から……そんな!?》

 

 

思わず上を見上げた私は、見た。

 

 

 

 

いくつもの火の玉が降ってくる。空を裂きつつ、赤熱した火の玉が。

 

 

いや、ただの火の玉じゃない。圧倒的質量を持つ、超高温の何か。

 

 

その巨大な何かが、揚陸艇ひしめく海岸に落着し、巨大な水柱が上がる。

 

 

《何々何々!?なにが起こってるの!?誰か情報を頂戴!!》

 

《第2次上陸部隊、壊滅!》震える声で、スカイ・アイが知らせる。それが落着した海面にいたはずの揚陸艇達は、まるで元からいなかったかのようにその姿を消していた。

 

《なにが起こった!?損害状況を確認しろ!》コリンズがわめき、

《応答しなさい!アローブレイズ各隊、報告を!》グッドフェローが通信に割り込むも、誰も、何も答えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 




今話はネタを大量に入れました。
完結まであと2話、明日中には投稿いたします。


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Misson08 バンカーショット作戦決行 ~反撃開始(後編)~

 

 

 

 

 

《報告を…!各部隊、報告を!》永遠とも思える数秒が過ぎ、ようやくグッドフェローの言葉が耳に入ってくる。

 

近くをブロンコとゼブが飛んでいたが、何も答えない。

 

「c’est pas vrai… Mais qu’est-ce qui se passe…」

 

2人とも呆然として、ブロンコが母国語で何か呟いているのが聞こえるだけだった。

 

 

 

《ボーンアロー隊全機……いるね》オメガが代わりに確認を取る。

《こちらエッジ。リッジバックス隊、全機確認》リッジバックスも無事なようだ。

《……了解した》ウィッチ達は全員無事だった。しかし、他の部隊はそうも行かなかった。

 

《ちくしょう!機体が!》降ってきた物体に巻き込まれたのか、右主翼を失ったF/A-18Fが錐揉みでアドリア海に落ちていく。

 

無線は、阿鼻叫喚の悲鳴で溢れていた。

 

《だめだ!翼を掠っただけなのに…!機体を捨てる!》

《制御不能!制御不能!イジェク──》

《サラマンダー3、スコール2、ロスト!くそ、一瞬で消えちまった!》

《駄目だ!エンジンが──》

《リジル1は何処だ!?隊長もやられたのか!?》

《リジル7、脱出しろ!レバーを引くんだ!》

《さらに2機ロスト!サラマンダー2とスコール3だ!ちくしょう!》

《キャノピーが飛ばない!誰か助けて!嫌だ!死にたくない!死にた──》

 

 

空域に集結した様々な国籍の機体が、次々と翼を折られ、エンジンを破壊され、あるいは衝撃波を叩き付けられ落ちていく。

 

 

《メディック!負傷者の手当を急げ!》《残存戦力を確認しろ!》地上部隊も混乱の極みに陥っている。

《……何が、どうなってるの?》ようやくブロンコがまともに口を開いた。

 

《これは……ユリシーズ……?》エッジが、呟いた。そうだ、間違いない。

 

毎年7月になると特番で放送されるドキュメンタリー。飽き飽きするほど放送されるそれで見た、雨あられと降り注ぐ隕石。

それと、そっくりだった。

 

《隕石…だって!?あんな大きいの、まだ残ってたの!?》そうだ。比較的大きなユリシーズの欠片は既に重力に引かれ、20年の間にほぼ全て隕石となって地上に落ち、軌道上からは無くなったはずだ。

 

《いえ、事前情報は無かったわ……。だとすれば、あの隕石は自然落下なんかじゃない!》

《じゃあ何よ!あのヴェルナーの宇宙兵器ってやつか何かなの!?》

 

混乱の中にある私達の眼下で、1隻のSSCが落着した隕石を避けられず、水柱に突っ込んで転覆した。40ノット以上の速度で転覆したあの艇に、生存者はいないだろう。

 

《警戒!敵機インバウンド!ユージアの奴、まだやる気みたいだよ!》Su-27が少なくとも3個小隊、こちらに向かってくる。

 

《ユリシーズの再現か…。くそっ、本隊との連絡もとれやしない…!》珍しく、グッドフェローが口汚くこの状況を吐き捨てる。

 

《ちょっとちょっと…マジでヤバイよ、これ…。レーダー見て!後続の上陸部隊と航空機隊が壊滅してる!!》

実際にレーダーには、上陸に成功した僅かな部隊とリッジバックス、それにボーンアローのほかには数えるほどの航空機しか映っていなかった。国連軍航空隊も、多国籍有志連合の機体もろくに見当たらない。しかしそれでも敵は襲ってくる。私をロックオンしてきたSu-27にMSSLを、その僚機にMk.48を掃射する。

 

《こちらスカイ・アイ、上陸部隊、報告を!》

 

《こちらコリンズ、上陸できなかった部隊は全滅だ》《こっちも残存戦力は3割ってとこ》

戦力の7割を失ったという報告。

 

一般的には、30%の損失で全滅の判定が下るという。

 

 

 

 

現状は、最悪を通り越していた。

 

 

 

 

撤退戦をしようにもSSCはこの状況では使用不可。3割弱の戦力での突撃は無謀。

 

…いくら私が悩んでも、答えは見つからなかった。

 

 

《…だが、主力陸戦ストライカー含め、戦力は何とかなる!!》ベルツ准尉は、力強く断言した。彼女は、まだやる気だ。

《こちらオメガ、どうするんです?撤退ですか?》現状の判断がつかず浮き足立つオメガ。私はそれを無視して、大陸から出てきたMiGを墜とす。

 

《そっちのコマンダー、決めてくれ!》コリンズがスカイ・アイを急かす。

《ちくしょう、まだまだ出てくる!一体何機居るのよ!?》ようやくオメガが制空戦に参加する。HCAAで2機のSu-27を蹴散らし、M4でMiGの主翼をもぎ取る。

 

《コマンダー・グッドフェロー、決断を!》ついにスカイ・アイがこの場の指揮権を投げた。

 

 

 

 

グッドフェローは数秒の沈黙後一つため息をつき、はっきりと言った。

 

 

 

《全機に告ぐ。作戦は続行する。このままでは終わらせない。“バンカーショット作戦”続行よ!》

 

途端、戦場の雰囲気ががらりと変わった気がした。

 

 

 

《各機に告ぐ!作戦続行、作戦続行だ!我々の力で勝利を掴み取るぞ!》スカイ・アイが覚悟を決めたように叫ぶ。

 

《オメガ了解!》《…ブロンコ、ラジャー》《ウィルコ!もうこうなりゃヤケです!何でもして見せますよ!》ボーンアロー全員が鋭く答える。

 

《エッジ了解!リッジバックス隊、聞いたな?》《了解隊長!死神に良いとこ取られてばっかじゃたまりませんもんね!》リッジバックスも体勢を立て直す。

 

 

《分かった!こちらリジル4!おい、誰か!俺とエレメントを組める奴はいるか!?》

《スコール6よりリジル4、了解だ!まさかアルストツカと手を組む日が来るとはな!》

《サラマンダー隊全機へ!エストビア空軍の、いやファイターパイロットの意地を見せろ!》残存したパイロットたちも、国籍に関係なく編隊を再編し、戦闘態勢を整える。

 

 

しかし、敵も本気のようだ。新たにレーダーに敵機が映る。Su-57フェロン、円卓で私達を苦しめた最新鋭機が大陸奥地から押し寄せてくる。

地上にも、今まで擬装されていたトーチカが現れ、それを守るようにSAMやAAガン、戦車にAPCが現れる。

 

《ひるむな!リボン付きが上にいる!我々はあいつに取り憑かれた死神部隊だ!》

《そうだ!怖いものは何もない!上空部隊と共にこのまま突っ切るぞ!》

無線の向こうからは男達の雄叫びが聞こえる。

 

 

最優先目標は、大口径榴弾砲を装備したトーチカだ。

LAGM2発を同時に撃ち込んで1基を撃破し、脇に陣取る戦車を機関銃で蜂の巣にする。

 

 

《死神、そちらの攻撃に合わせて前進する!》

准尉らの侵攻ペースは私達に係っている。なるべく早く、なるべく多く壊すべきだろう。

 

 

《敵戦闘機隊も駆けつけてきている!空と陸の総力戦だ。頼んだぞ!》

実際に上空にはMiGやフランカーが乱舞し、地上では陸戦ウィッチと敵戦車が殴り合っている。

 

 

《全機!“死神”に続け!》戦闘機部隊も、私を頼っている。

 

《後ろは私が守る!前だけ見てろ!行け!》《行け!行け!行け!》

全ての兵の願いに、トーチカの1基を吹き飛ばすことで返事する。戦車、装甲車、AAガン、手当たり次第にLAGMとMSSLを撃ち、歩兵やジープに37mm弾を撃ち込む。

 

《トーチカが沈黙した!これが“死神”か》准尉が、吹き飛んだトーチカを前に満足げな声を上げる。

《敵の後退を確認!前進しろ!前進!》そうがなりつつも、彼女はGAU-19を乱射し、一際大きな銃声を辺りに響かせている。

 

私はエアブレーキを全開にし、隣接するトーチカにもLAGMを放つ。対空砲弾や歩兵のライフル弾が体を掠め、ストライカーユニットにも傷を付けるが、そんなことはお構いなしだ。

 

《敵沿岸守備隊30%が沈黙!いいぞ、そのまま攻撃を続けろ!》

 

炎上するトーチカ跡の上空でループし、空の敵を狙う。

エレメントを組んだSu-27とヘッドオンだ。

《死神だ…!アドリア海から、死神がやってきやがった!》

混線した無線から敵の声が聞こえる。MSSLを1発ずつ放ち、2機とも撃墜。火だるまになった敵機は対地ミサイルを抱いたまま、森の中へと落ちていく。

 

《地上部隊がトーチカラインの側面に進出した!行ける、行けるぞ!》スカイ・アイも興奮したように叫んでいる。

 

《敵は第一阻止線を放棄!前進するぞ!怯むな!振り向かずに突っ込め!》《行くぞ!Go!Go!Go!》コリンズたちが前進しているらしい。彼らの支援の代わりとして、森の中の道路を走っていた戦闘車両の列に7.62mmの雨を降らせる。

まともな装甲の無い防空戦車はもとより、爆発反応装甲を有したMBTでさえもその暴力に耐えきれず、はじけ飛ぶ。

 

 

 

《斜面にとりついた!トーチカの死角だ》准尉の言葉の後に、戦車砲と思しき轟音が響き渡る。《……貫通しないっ!?くそっ、ミホ、銃眼だ!銃眼を狙え!!》

 

僅か一人の陸戦ウィッチが数倍の戦力を相手取って砲戦を繰り広げている。

見上げて手を振る彼女に、私は機体をバンクさせて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔力を籠めた120mmHEAT-MP(FM12A1)が、トーチカの銃眼に命中する。

 

一瞬のち、想定していない内部からの爆圧を受けたトーチカは噴火したかのように爆発し、倒壊した。

 

《こちら“グースフィッシュ(あんこう)”、敵トーチカ1基を撃破しました!》

 

《“タートス(カメ)”よりグースフィッシュ、こちらも敵MBT2輛を撃破!!》

 

9名いた主力陸戦ウィッチの中で、今現在戦闘可能なのは私を含めてわずか2名。最優先で揚陸させられたおかげで死人は出ていないが、それでも戦力の78%はあの攻撃で負傷、もしくはストライカーを損傷して戦線を離脱し、苦しい戦いを強いられている。

 

ちらりと残弾を確認して顔をしかめる。少なすぎる。

APFSDSが3発にHEAT-MPが5発。

10式陸戦ストライカーに搭載可能な120mm砲弾は僅か22発しかないのに、もう6割がた使ってしまった。

 

揚陸前の対地射撃と今までの戦闘で消費してしまった弾薬の補給のあてはない。

予備弾薬はSSCと共に海の底だ。

 

 

しかし、弾薬が無くなろうと進まなければ、私達に明日はない。

 

 

周囲を見渡し、車体側面を対戦車ミサイルで食い破られたT-90を見つける。

素早く近寄り、傾いた砲塔からKord重機関銃をもぎ取る。

 

大当たりだ。50発のベルトリンクは未使用の上、予備の弾薬箱もハッチ近くに残されている。携帯用にピストルグリップにストック、バイポッドまで付いている。

 

 

ソフトスキンや対人射撃にはこれを使うしかないだろう。

 

 

いや、対人戦は他の海兵隊員がやってくれている。

 

その中でもベルツ准尉ともう一人の兵士が強力な火線を張っている。12.7mmガトリングが火を噴き、BTR-90の薄い装甲を撃ち抜く。

 

さらに、別の火線がBTRを盾にした敵兵を撃ち倒した。

 

「よくやった、タチャンカ!」誰かが彼を褒め称える。

 

 

“タチャンカ”と呼ばれた筋骨隆々の大男は、混戦の中でも異彩を放っていた。

円筒にスリットを開けた、中世の騎士の様な無骨なヘッドギアをかぶり、そして奇妙な形状の古めかしい機関銃を担いでいた。

それはフライパンかレコード盤のようなマガジンを上部に付けた軽機関銃、おおよそ90年前に設計された“DP28”だった。

 

 

「死体の山から掘り起こしてきた」と彼が語る骨董品の軽機関銃は、NATO弾よりも強力な7.62x54mmR弾を轟音と共に吐き出し、重機関銃陣地の敵兵を土嚢ごと撃ち抜いて倒す。

 

准尉たちが露払いをしてくれているので、対戦車戦に専念できそうだ。

 

 

見上げると上空を“リボン付きの死神”が飛んで行った。思わず手を振ると、それが見えたのか彼女が体を揺らして答えてくれた。

 

何よりも頼もしい彼女を見やりつつ、林の中にダックインしたT-90を睨みつける。虎の子のAPFSDSを装填し、シュトーラ(TShU-1)を起動させてミサイルから身を守ろうとするそれに狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

准尉の部隊は、陸戦ウィッチの支援もあってか何とかトーチカを相手できているようだ。なら私はコリンズたちを助けるとしよう。しつこく浜辺に砲弾を撃ち込む自走榴弾砲にMSSLを撃ち、ついでに近くにあったSAMも破壊する。

 

 

 

ひときわ大きな爆発音が響き渡る。見ると、一体何を投下したのか、トーチカだった廃墟から巨大な爆炎が上がっていた。さらにその周辺では、戦車や対空砲がひっくり返って燻ぶっている。

 

 

《スコール4、着弾確認!やってやったぜ!》

コレチアのF-111が敵トーチカを一撃で吹き飛ばしたのだ。

 

あの機体に搭載可能なこの威力の兵器……バンカーバスター(GBU-28)か!

 

《さすがは5000ポンド!威力が違うな!》スコール4のパイロットか、嬉しそうに誰かが叫ぶ。

 

 

 

《コレチアの同志が目に物見せてくれたぞ!俺たちも続け!》

今度はアルストツカのSu-22部隊が、1基のトーチカを目標にKh-29を次々と投下する。

5発、6発と弾頭重量320kgの大型ミサイルの暴力を受け続けたトーチカはついに耐え切れず一部が崩壊し、そこに地上部隊から砲撃を受け、完全に撃破された。

 

 

《地上部隊が敵防衛ラインを突破!!》《リッジバックス各機、一気に攻めるぞ!》エッジ達も負けてはいない。70mmロケットや40mmグレネードを雨あられと叩き込み、かなりのペースで敵を屠っている。

 

 

《死神!上空に爆撃機だ!頼むぞ!》

恐ろしい言葉に触発されてレーダーを見ると、何機ものB-1Bランサーがこちらに接近していた。80発以上の500ポンド爆弾を積めるあの機体を放置したら、今度こそ間違いなく地上部隊は全滅だ。

 

 

《ゼブ!対地支援を!私はランサーをやる!》そう無線に一方的に叫び、MSSLを続けざまに撃つ。

しかし、さすがは爆撃機。タフさが違う。2発や3発では墜ちやしない。4発目でようやく主翼が折れ、急激に高度を落としていく。

 

しかし、敵も必死だ。Su-57がランサーの周りで飛び回り、自機を犠牲にしてでも守ろうとしてくる。

しょうがない。先に戦闘機を落とすしかない。MSSLを最短射程ぎりぎりで撃ち、エンジンノズルを吹き飛ばす。戦闘能力を奪われた敵機は無視し、残った2機の爆撃機にMSSLを連射する。

1機は落とせたが、もう1機はフレアを撒いてMSSLから逃げ延びる。しかし、そんなことをしても寿命が数秒伸びただけだ。

真後ろにつき、エンジンの放射熱を感じられるほどの至近距離からMk.48を撃ちまくる。破片が飛び散り、エンジンが黒煙を吐いてもかまわずに撃ち続け、ついに最後の1機を撃墜する。

 

 

《仕留めた!》エッジが何事か叫ぶ。《敵戦車が撃破された!青地に一本線、リッジバックス隊だ!》《ヒュー!やるねえ!》

 

 

 

《敵陣地突破ぁ!“死神”に乾杯だ!》《空賊が道を開いてくれたぞ!全軍進め!》地上部隊も、一歩も引かずに攻撃を続けている。

 

既に“死神”で私の呼び名は完全に定着してしまったらしく、「ボーンアロー1」や「リーパー」と呼ばれることのほうが少なくなっているのではないだろうか。

 

 

そんな期待に答えて、今まさに砲撃を行おうとしている榴弾砲にMSSLを撃ち込む。

ミサイルが大量の榴弾を誘爆させ、さらに隣に駐車していた砲側弾薬車をも巻き込んだ大爆発が起こる。それを見た地上部隊からは大きな歓声が上がった。

 

 

《倒れているものを見つけたら岩陰に隠せ!誰も置いては行かない!》准尉の言葉は、決意に満ち溢れていた。

 

《敵爆撃機、残り6機!全て撃ち落とせ!》上空ではオメガとブロンコが爆撃機をスクラップに変えていた。

私は100メートルほどの低空に降り、手当たり次第に地上兵器を破壊し尽くす。

 

SAM、AAガン、レーダー車、榴弾砲、機銃塔、対空戦車。

目に付くものすべてにありとあらゆる火力を叩き込む。

Mk.48を、アーウェン37を、MSSLを、LAGMを。

 

私の眼下には煙と残骸が残るだけとなった。

気づくと、レーダーにはほとんど敵が映っていない。

 

《敵の交戦可能戦力は30%を切った》

 

《死神をここで墜とせ!やつを大陸内に入れるな……ぐわぁ!?》

ヘッドオンしたSu-57のキャノピーを7.62mm弾で撃ち砕き、そのままハンマーヘッドターンで急降下し、眼下の対空戦車を破壊する。

 

 

 

 

《ごめん隊長、撃ち漏らした!2機!》オメガが叫ぶ。3人のウィッチの猛攻を凌ぎ切ったランサーが、可変翼を完全に畳んで吶喊してくる。

 

既に、爆弾槽扉は開いていた。「させるか…ッ!!」MSSLを4発撃ち、何とか1機を撃墜する。生き残った最後の1機は、分が悪いことを悟ったのか急旋回で逃亡を図るが、私はその進路上をMk.48で掃射する。

 

 

ランサーの頑丈な機体からフラップやエルロンが捥げ飛び、弾痕から作動流体が漏れ出す。

そしてついに、ナイフのような主翼が根元から折れ、バランスを失ったランサーはくるくると独楽のように回転しながら、アドリア海の海面へ落ちていった。

 

 

《ナイスキル!敵爆撃機を破壊!》これで、敵航空隊はほとんど壊滅だ。生き残ったのは数機の戦闘機だけ。それもほとんどが対空装備らしく、地上部隊へは攻撃を行っていない。

 

 

《敵が引いていく!いいぞ!このまま進める!》《もう少しだ!敵陣地の堡塁を破壊せよ!》すでに地上には、一部を除いて地上兵器は残っていなかった。

何機かのSAMが残ってはいたが、既にレーダー車や管制車を破壊され、あるいはオペレーターが白旗を上げ、無力化されていた。

 

 

最後の敵が終結したのは、あるトーチカの周辺だった。

生き残った機甲兵力のほぼすべてに、新型の高性能SAM。ほかのトーチカよりも重装備だ。

 

いや、トーチカというには規模が大きい。長距離通信用の無線アンテナが伸びていることから見ても、おそらくは指令所を兼ねた沿岸要塞だろう。

 

 

 

しかし、ミサイルアラートが邪魔をする。《墜ちろ疫病神め!》生き残ったSu-57が一斉に私を狙ってきている。舌打ちをした私は一気に上昇し、まず1機に食いつく。Mk.48で尾翼をずたずたに引き裂き、もう1機、近くにいた敵にMSSLを叩き込む。

 

さらにもう1機と旋回戦になる。推力偏向ノズル搭載機同士、設計限界強度ギリギリの旋回を続ける。

その戦いを制したのは、私だった。

 

Gに耐え切れず、よろめきながら旋回を緩めた敵機の広い背中に、Mk.48で風穴を開ける。

 

 

《敵航空部隊、全機破壊を確認!》残ったMiGはブロンコとゼブに、Su-57はオメガとエッジに撃墜されていた。

 

その間にも地上部隊の手によって、車両部隊は壊滅していた。

 

《ターゲット、残り1!最後の1基だ!》レーダーに映っているのは、さっきの沿岸要塞のみ。それも対空銃座から火線を張るだけだった。

 

《エッジ了解!》《オメガ、了解よ!》《…Rog》《ウィルコ!》

 

《総員、全ての武力を持って攻撃せよ!》エンジン推力を落とし、エアブレーキを最大に開いて失速寸前まで減速する。

 

《撃てぇ!!》

 

まだ対地兵装を残した全ての友軍機やウィッチから、航空機に搭載可能なありとあらゆる火力が降り注ぐ。

 

対地ミサイル、誘導爆弾、無誘導爆弾、クラスター爆弾、無誘導ロケット弾、機関砲。

LAGM、LASM、GPB、MSSL。グレネード弾に、手榴弾、魔力を籠めたライフル弾。

地上部隊からは、陸戦ウィッチの主砲弾に対戦車ロケット。

 

これ以上にないほどの濃密な火線を受けた要塞は、一瞬のち、銃眼から炎を吹き出し、内部から爆発して倒壊していった。

 

 

《敵拠点の堡塁全てを破壊!上陸部隊、報告を!》敵は殲滅した。後は結果を御覧じろだ。

 

 

 

《こちらW隊、制圧を完了!》

 

《E隊、こちらも制圧完了だ》

 

 

 

 

数秒の沈黙後、スカイ・アイは声高らかに宣言した。

 

《敵拠点の奪取、および制空権の確保を完了した!“バンカーショット作戦”成功だ!!》

 

とたんに、地上部隊から歓声が響いてくる。無線が音割れするほどだ。

いや、無線がなくても聞き取れるほどだ。

 

 

《やったの?やったのね!?イヤッホー!!》オメガが狂喜乱舞し、ビクトリーロールとばかりにクルクルとバレルロールをする。

 

エッジも一つ息をつき、《リッジバックス隊、任務完了!RTB!》と無線に吹き込む。

 

 

《全員、よくやったわね!》グッドフェローも嬉しそうに叫ぶ。

 

 

そして、一息ついたグッドフェローはこう語った。

 

《これより先は、広大な大地に広がる敵陣よ。そして、さらに上空から見下ろす奴もいる。私達はその脅威から全てを解放するわ。ここからよく見ておきなさい》と。

 

 

銃弾からミサイルまで、全ての弾薬を射耗しすっかり軽くなった体を基地に向けると、エッジがすぐ真横に並んできた。

 

 

《もっと遠く、もっと高く……か。……ねぇ、リーパー。貴女ならいけるの?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地に帰還した私たちを待っていたのは、整備員やグランドクルーたちの熱烈な歓声だった。

全パイロットが興奮冷めやらぬままブリーフィングルームに入ると、既にグッドフェローが待っていた。

 

 

「全員よく帰還したわね。上陸作戦は辛くも成功よ」

その言葉に、また歓声が上がる。

「やってやったぜ!」

「ざまあみやがれ、ユージアめ!」

 

 

「今後、ユーラシア大陸内部での作戦展開において有利にはなるでしょうね。でも、別途作戦が展開されている西オラーシャ戦線では今だ苦戦が強いられているわ」

苦戦という事実を突きつけられ、徐々にパイロットたちの興奮が冷めていく。

 

「それと…例の蝶使い機もモスクワで目撃されたわ。まだ奴の本体の在処は掴めていないそうよ」

“蝶使い”の名前に、全員が顔を見合わせ、沈黙が訪れる。

 

「ああ、後今回使用された宇宙兵器に関しては情報が入り次第説明を行うわ。今はゆっくり体を休めてちょうだい」

 

逆転勝利を収めても、まだこれは反撃の序章に過ぎない。私達の決死の1勝は、敵にとっては、たったの1敗というところだろう。手放しには喜べない、それが現状だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、全パイロットが再びブリーフィングルームに集められた。

「宇宙兵器に関しての情報よ」

グッドフェローの言葉に、ざわめきが走る。

 

「正体は《OLDS》と呼ばれる軌道兵器よ。ユージアはこれを《空の欠片計画》と名付けているわ。本来はユリシーズの残骸を静止衛星軌道以遠に排除するために軌道に配置されたものなんだけど、ヴェルナー社軍事開発部門は秘密裏に戦略兵器への転用を計画していたわ」

彼女の言葉と共に画面に表示されたのは、4本の筒状の推進器と、その中央に配置された円盤形の管制設備、さらにそこから伸びた砲身という、SF映画に出てくる宇宙船のような人工衛星だ。

 

「人工衛星からレーザーを放射し小惑星の表面を気化、その推力で軌道を変える。そうして安全な軌道に移動させる…はずだったんだけど、ユージアの奴ら、地上の任意の地点に落下させることが出来るように再調整した様よ」

 

衝撃的な新兵器の登場に、全員が一言も発せず、画面を注視している。

 

「地球墜落時の効果は完全には解析されていないけど、命中精度はまだ高くないでしょうね。ただし、理論上は地球上全てが攻撃対象になるわ。まさに《ユリシーズの再現》ね」

 

OLDSのイメージ画像が切り替わり、CGで作られた地球が移される。そこに誘導された隕石が落ちていき、さらに飛び散った破片で二次被害が発生。それが、海や大陸所かまわず発生している。

地球上の大半がクレーターを示す赤い円で覆われたところで、再び画面がOLDSのイメージ画像に切り替わる。

 

「OLDSには安全装置により軌道上の人工物を照準できない設定が施されているんだけど…まあ、これの解除も時間の問題でしょうね」

 

グッドフェローがそこまで言い終わると、あちこちから嘆息が聞こえてくる。

 

地球上どこへ行っても逃げ場無し、一回攻撃が始まれば迎撃不能、おまけにGPSや偵察衛星のような重要な人工衛星もいずれ奴らの手の中に堕ち、運動エネルギー兵器と化す。それどころか、故郷さえクレーターに変えられかねない。

 

…バンカーショット作戦の成功なんか、軽く吹き飛んでしまうほどの衝撃的な兵器だった。

 

 

「…さて、話は変わるけど、これより《永久の解放作戦》の範囲を拡大、ユーラシア大陸内部でも作戦を展開します!」

 

それと同時に、今度はユーラシア大陸の地図とユージアの支配地域が表示される。

そこには、いくつかの侵攻ルートを示す矢印が書かれていた。

オラーシャ南部からペルシアを目指すルート、エジプトから地中海を渡り、オストマンから脇腹を抉るルート、シャムロ王国周辺へ強襲揚陸を試みるルートなど、全方位からユージアを方位する形になっている。

「アローブレイズも部隊ごとに再々編成、それぞれ大陸各地の作戦に参加してもらうわ。

うちのトップエースを抜くのは誰か、皆の活躍に期待するわ。以上よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────遡ること数日、バンカーショット作戦終了直後。

 

 

狭い室内に“私”の鼻歌が、響いていた。目の前の液晶画面に、すべてのMQ-99が撃墜されたと表示されているのにも関わらず、だ。

『ご機嫌ですね。何かいいことでも?』“彼”が話しかけてくる。普段なら無視する所だが、今日は機嫌がいい。少し話に乗ってやろう。

 

「まあね。ゲームの相手を見つけたわ。あのリボン付きなら、まだまだ楽しめそう」

今回モスクワで戦ったオラーシャのパイロットたち。Su-30を駆る彼らは、犠牲を払いつつもクオックスを墜とせたが、“私”のカーミラを撃墜することはできなかった。

 

……やっぱり、私の相手をしてくれるのは、あの死神しかいない。

 

『…《パピヨン・プロジェクト》。これもまた、歴史の1ページとなる予感がしてます。しかしデータ通信のラグ問題は解決できないのですかね?あなたも“ここ”では窮屈でしょう』

 

余計なお世話だ、と思いつつ“彼”──“ここ”の制御を司る人工知能、クヴァシルとの通信を切る。

 

「私は好きよ。だって、“ここ”は特等席だから」そう独り言ちつつ、ヘッドセットを外す。私の手から離れていったカラフルなそれは、ふわふわと空中を漂っていった(・・・・・・・・・・・・・・)

 

また鼻歌を歌いつつ、“私”は窓の外を見る。

 

漆黒の宇宙空間に浮かぶ、美しいとしか言いようのない青い色を湛えた惑星。

 

蝶のエンブレムを刻んだ人工衛星は、今日も“私”を載せて衛星軌道を周回する。

 

2000km下の大気圏内で繰り広げられる、人々の争い。それを眺める位置から、“私”は飛び続ける。

 

これまでも、そしてこれからも。

 

 

 

 

 

 

 




◎キャラ解説コーナー

・陸戦ウィッチ”グースフィッシュ”、”タートス”:某大洗女子学園の隊長車、副隊長車車長。なお、他の7名も別チームの車長である。

・タチャンカ:某スペツナズ。展開型シールドは使わない。







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Epilog まだ始まったばかり

 

 

 

 

 

 

「…何故ですか!?」部屋中に、若い女性の大声と何かを力一杯叩く音が響く。

机を拳で叩いたその女性の顔は、怒りと憤りで歪んでいた。

彼女と机を挟んで正対するのは、各国の軍を束ねる立場にある重要人物たち。

彼女──タスクフォース118のコマンダー、グッドフェローの怒りを買ったのは、机に投げ出してある書類のようだ。

 

 

「理由をお聞かせ願えますか。何故、このような命令を!?」

 

怒声に近い彼女の声に、困ったような顔でリベリオン人の男性が説得を試みる。

 

「そうは言われてもね、ミス・グッドフェロー。これは既に決定された事項なのだよ」

「しかし!こんな命令、承服しかねます!これは、我が隊だけでなく、他の多くの部隊の士気にも──」

 

「なにも分かっとらんようだな、君は」グッドフェローの言葉を遮るブリタニア人男性。

 

「これは高度な政治的判断が求められる事案なのだよ。一介の現場指揮官でしかない君が口を出せる問題ではない」

 

「ですが!!」いきり立つ彼女に、今度はオラーシャ人男性が牽制を掛ける。

 

「いいかね、これは我が国連軍司令部、ならびに常任理事国代表の総意なのだよ。逆らうならば、君の指揮官権限剥奪も辞さない」

 

国連軍司令部だけなら、何らかの交換条件でこの命令を撤回させることもできたかもしれない。

しかし、海千山千、二枚舌外交がお手の物の各国要人が結託したこの状況では、グッドフェローは彼らに逆らうことも出来ず、目の前の理不尽な命令を呑み、うなずくことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ボーンアロー1、ウェイポイント2ヘッドオン》

東京上空を哨戒飛行中の私は、すっかり口なじんだ台詞を無線に吹き込み、いつも通りの進路をとる。

バンカーショット作戦終了から、早いもので4ヶ月がたった。

私達は今、扶桑に拠点を置いて活動している。旧新東京国際空港─成田飛行場に私達は恒久的な司令部を置き、旧首都近郊の空中哨戒を担っているのだ。

 

 

何故私達ボーンアロー隊がユージア軍との最前線、ヨーロッパ地方ではなく東京にいるのか?

それは作戦終了から数週間後、国連軍総司令部から下された命令が原因だった。

怒りをあらわにしたグッドフェローが伝えてきたのは、「ボーンアロー隊の任地異動、それによる任務内容の変更」だった。

早い話が、「前線に出るな。後方で基地防衛等を行え」と言うことだ。

 

司令部曰く、「高い戦果を挙げたウィッチを戦闘で失えば、国連軍全体の士気が損なわれる。英雄となった彼女らを失うのは好ましくない。また、いざというときのために戦力は温存しておくに限る」とのことだった。

 

しかしそれはどうせそれは表向きの理由だろう。どこの馬の骨とも知れない寄せ集めの傭兵部隊なんかに、戦果を奪われるのが惜しくなったに違いない──というのは、グッドフェローの談だ。

 

 

 

実際、私たちが抜けた後の穴埋めには、様々な国から“自らの意思で参戦した”とされる義勇兵ら──事実上の派遣部隊が参加しているらしい。そして、それは戦局の泥沼化を招いていた。

 

確かにバンカーショット作戦は成功したが、それ以来大きな戦果は挙がっていない。

上陸部隊を壊滅の憂き目に追い込んだ件の宇宙兵器、OLDSとやらも全くの手つかずのままだ。

さらに、ドバイ・モスクワ・パリが幾度となく襲撃され、1度ならずアドリア海沿岸の橋頭堡が奪取されている。

 

 

しかし、国連軍直属の臨時編成飛行隊、アルファ隊・ブラボー隊がその危機をなんとか凌いでいるらしい。

合計わずか8機の戦闘機隊に、そこまでの戦果が挙げられるのかと正直驚いていた。

 

 

 

 

 

 

《ボーンアロー5、ウェイポイント3ヘッドオン…ボーンアロー1、コースを外れないで》

回想に浸っていた私を、僚機の声が現実に呼び戻す。

疑問に思う人も居るかも知れない。ボーンアロー隊は4機編成だったはずだ、ボーンアロー5とは誰か、と。

 

 

《……ごめん、エッジ。ちょっと考え事してた》《珍しいわね、貴女が任務中に考え事なんて》

そう、ボーンアロー5とは、他ならぬ元リッジバックス1──エッジだった。

彼女たちリッジバックス隊にも私達と同じような理由で同じような命令が下され、部隊運用の手間を減らすために2隊が統合されたのだ。

 

それによりボーンアロー隊は8機編成となっている。

勿論最初は若干の諍いもあったが、今は滑らかな運用が出来ていた。

《こちらグッドフェロー。緊急連絡案件あり。哨戒中の機は速やかに帰投せよ》

怒りを湛えたようなグッドフェローの声。顔を見合わせた私とエッジはすぐに進路を変更。

私達の拠点である成田飛行場へと向かった。

 

 

同じく哨戒を行っていたオメガとアクスマン、私達をブリーフィングルームで待っていたのは、他のボーンアロー隊員と、司令部からの通達を伝えてきたときよりも怒りとイラつきを露わにしているグッドフェロー、それに、司令部から送られてきた戦闘中に撮影されたらしい何枚もの写真と書類。

いつもつけっぱなしのテレビは、何かのニュースを映しているが、今は音を絞ってあった。

 

 

テーブルの上に投げ出されていた写真。それには、1枚見ただけでも卒倒しそうな、衝撃的なものが写っていた。

 

 

 

 

 

アルプス山中の超大型永久要塞と、その上空を飛ぶSu-57の編隊。

 

超特大の自走砲を配備して防衛されている大規模弾薬庫。

 

街1つと同じくらいの大きさの製油施設。そしてその脇を固める大艦隊。

 

コモナ諸島宇宙センターや、エリアB7R上空で行われるユージア軍との熾烈な空戦。

 

ミサイル施設が修復され、再び稼働状態になったアヴァロンダム。

 

私達が倒したものより、さらに強力になり、僚艦まで付いたアイガイオン級重巡航管制機。

 

目のくらむほどの高さのある、迎撃レーザー砲台。

 

修復され、高性能化した状態になったストーンヘンジ・タイプ3。

 

UCAVを射出している、”シンファクシ級”との注訳がある潜水空母。

 

そして、モスクワ・パリ・アドリア海橋頭保・B7R・ストーンヘンジ、それぞれの上空を我が物顔に飛び回る”蝶使い”とクオックス。

 

 

 

書類には、この全てを撃破してもなお、ユージア連邦には有効な打撃を与えられないと書かれていた。

 

 

そして、脇のテレビ画面が切り替わり、突如臨時の中継が入る。

見慣れた東京の街並みが、爆撃の黒煙でかすんでいる。カメラも、衝撃波で揺れていた。

画面下のテロップは、ユージアによる東京再侵攻が始まったことを示している。

 

 

テレビに呼応するように、基地に空襲警報が響く。その中で、開戦当初よりさらに強力に、さらに大規模になったユージア連邦軍の実情を知った私は思わず叫んだ。

 

「一体何なんですか、これは!まだ…まだ始まったばかりじゃないですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今話をもちまして、拙作「INFINITY WITCHES ~無限大の魔女~」をひとまず完結とさせていただきます。

途中8カ月にわたる休載を挟み、僅か14話に1年以上もかけてしまいましたことをお詫びさせていただきます。

さて、今後の予定ですが、外伝的なものを1話か2話、いつか投稿する予定です。
また、機会があればオリジナルのエンディングまでもっていければと考えています。
(なお、連載を再開した場合はこの14話は削除させて頂きます。)


最後になりましたが、1年間以上も拙作に付き合っていただいて、誠にありがとうございました。



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