拳の勇者として召喚された件 (キルルトン)
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プロローグ

 人ってなんのために生きているだろう。

 俺、田村(たむら) 幸成(ゆきなり)がそんな事を考えているのは、とある知り合いの葬儀の最中だった。

 その人の名前は三上(みかみ) (さとる)。俺の兄が勤めるゼネコンの先輩社員で俺とは友人? ……みたいな関係だ。そんな三上さんだが、なんと、俺の兄が通り魔に襲われそうになった時、その身を挺して兄を守り、そして亡くなってしまった。

 俺と兄と両親は三上さんの家族にただただ、お礼とお詫びを繰り返していた。

 それを聞いていても、未だにピンと来ていない。まさか、初めての葬式が三上さんになるなんて。あの人確か、童貞だったよな。もし生きていれば、童貞のまま死ぬのって、どんな気分なのか聞いて見たかったな。……いや、流石に不謹慎だよな。それにそれだと死んでないし。

 お坊さんのお経を聴きながら俺はみかみさんとの思い出を思い返す。

 初めて会ったのは、飲み会で酔い潰れた兄を連れて来た時だった。偶々、やっていたゲームをしながら出迎えると三上さんが俺のやっていたゲームにめちゃくちゃ食いついて。そのまま、その場で3時間も談笑してしまった。大学じゃあ、ろくに友達も作れなかった俺には時たま三上さんとやるゲームは楽しかったな。……まさか、本当に亡くなるなんて。

 

 葬式も終わり、三上さんの親族や知人たちが帰った葬式場で兄貴は項垂れていた。その側には婚約者の沢渡(さわたり) 美穂(みほ)さんが慰めていた。

 しばらくして、兄貴が立ち上がりどこかへ向かおうとした。

 

「兄貴。どこへ行くんだ?」」

「幸成……なに、ちょっと先輩の遺言を果たそうと……」

 遺言………三上さんが死に際に兄貴になにを頼んだんだ?

 

「どんな内容なんだ?」

「先輩のPCを風呂に沈めて、電気流して、データを完全に消去してやってくれって」

 ………あの人らしいなぁ。

 

「それって、風呂に沈める意味ある? 普通にメモリーカードを抜いて折ればいいんじゃないか」

「ダメだ! そんな事! これは、先輩の最後の頼みなんだぞ!」

 ガッと、肩を掴み兄貴が詰め寄ってくる。

 

「わかった、わかった。じゃあ、俺が代わりにPC沈めるから。兄貴は家帰って寝とけ」

「ダメだ。これは先輩が俺に頼んだ事だ」

「どうせ田村って言ってたんだろ。それなら、俺も田村だし問題ねーよ」

 俺の言い分に「だが……」とまだしぶる兄貴。しょうがない、ダメ押しにもう一言。

 

「それに、兄貴。ほとんど寝てないだろ。うっかり、こけて感電死しちゃいました〜なんてことになったら三上さんも浮かばれないよ」

「………わかった。頼んだぞ、幸成」

 

 

 

 

 

 

 ふふふ……兄貴よ俺が代わりに三上さんのPCを沈める理由を言わないが心の中で言ってやろう。

 それは……過去に俺は三上さんにエロ本を見つけられ散々茶化されたのだ! だから! あの人が保存しているであろうエロ系統モノを見てやろうという理由だ!

 てな訳で、俺は三上さんが住んでいたマンションの一室についた。

 早速、PCを立ち上げフォルダの中を調べまくった。

 結果……三上さんに変わった性癖は無かった。というか、結構俺好みのものが多くて、むしろダメにするより持って帰りたいと思ってしまう。

 ………ん? なんだ、このフォルダ。1つだけ何故か文字化けしている謎のフォルダを見つけ、俺は興味半分でそれを開いた。

 

「……『五聖勇者伝』?」

 聞いた事ないな〜。

 …………! もしや、この五聖勇者伝って三上さんが書いたネット小説か!?

 これか! これが、PCをダメにしたかった本当の理由だったのか! ふふふ、いったいどんな内容なんだ? 自分を主人公にした厨二感全開の痛〜い内容なのかな〜。

 

 どれどれ〜……って、ほとんど書いてないじゃん。なんか、プロットみたいなのが書いてあるだけだ。

 概要はとある異世界で終末の予言がなされた。

 その終末は幾重にも重なる災厄の波がいずれ世界を滅ぼすというもの。

 災厄を逃れる為、人々は異世界から勇者を呼んで助けを乞うたとか何とか。

 うーん、なんかどっかで聞いたことあるようなやつだな。

 そして召喚された5人の勇者はそれぞれ武器を所持していた。

 剣、槍、弓、拳、そして盾。

 ………拳はギリ武器として認めるが、流石に盾は違うだろ。

 などと苦笑しながら続きを流し見ていく。

 勇者達は力をつけるため旅立ち、己を磨き、災厄の波に備える。

 ドラゴンなんかを倒して大活躍する剣の勇者。仲間思いの槍の勇者。悪政を行う大臣を退治する弓の勇者。

 何このよくある内容を足しまくったやつ。三上さんまねるにしても、自分のものにしないとダメですよ。

 

 《確認しました。ユニークスキル『模倣者』を獲得……成功しました》

 ……今、なんか聞こえたような。気のせいか……

 それはそうとなんで拳と盾はのことが書いてないんだ?

 

「………あれ」

 考え込んでいると急に視界がぼやけて俺は意識を失った。



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勇者召喚

「おお……」

 感嘆する声に俺はハッと我に返る。

 纏まらなかった視点を前に向けるとローブを着た男達が何やらこちらに向って唖然としていた。

 

「……ここは」

 と思わず呟いた。一体何があったんだ?

 確か、さっきまで俺は三上さんの部屋に居たよな。そして、急に意識を失くして………気がついたらこの状況。………ダメだ意味がわからん。

 

「おお、勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」

「「「「「はい?」」」」」

 あれ、他にも声が……

 少し周りを見てみると俺以外にも4人の男達がいた。

 男達はそれぞれ、剣、弓、槍、そして盾を手に持っている。

 ……ていうか、なんで俺だけなんも持ってないんだ。背中に何かを担いでいる感覚はない。手にも何も持ってな………え? 手の平を確認した際、何故か手の甲の方も見た瞬間、俺は自分の目を疑った。なんと俺の右手の甲に何か宝石のようなものがくっ付いていた。

 試しに触って見たが特に違和感はなかった。宝石と皮膚の境目をなぞってみても、問題なし。手の甲に接着剤か何かでくっ付けてるだけだと思い、境目に爪を食い込ませ方としたが……全く通らなかった。

 はめ込んでいるとか……いや、それなら右手を動かしただけで違和感があるだろ。

 なんなんだこれ……

 

「おい」

 俺が考え込んでいると盾を持った男が声を掛けてきた。

 

「なんだ?」

「さっきまでの話、聞いてなかったのか?」

 話? そういや、世界がどおのこうのって言ってたな。

 

「………聞いてなかった」

「はぁ……しょうがない、移動する間に説明してやる」

 やれやれと言いたげに盾の人は俺に状況の説明をしてくれた。なんやかんやで教えてくれるし、いい人だな。

 

 要約するとローブの人達は世界を救ってもらうために俺達5人を召喚したが、剣の人と弓の人、槍の人がタダ働きは嫌だみたいなことを言って今からこの国の王様に報酬なんかの話をするようだ。

 確かに、世界救うのにタダ働きは嫌だな。

 

 

 

 

 

 

「ほう、こやつ等が古の勇者達か」

 謁見の間の玉座に腰掛ける偉そうな爺さんが俺達を値踏みして呟いた。

 正直あんまり良い印象じゃないなぁ。なんか舐めてる感じがする。

 

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者達よ顔を上げい」

 下げてはないんだけど……まぁ、王様だし、偉そうにしたいんだろうな。

 

「さて、まずは事情を説明せねばなるまい。この国、更にはこの世界は滅びへと向いつつある」

 王様の話を纏めるとこうだ。

 この世界は今、世界を滅ぼす波と呼ばれる厄災が起きている。

 そして、今から1月ほど前にこの国メルロマルクにも波が起き凶悪な魔物が大量に亀裂から這い出てきた。その時は辛うじて国の騎士と冒険者が退治することが出来たのだが、次に来る波は更に強力なものとなるという。このままではマズイと考えた重鎮達は伝承に則り、勇者召喚を行い今に至る。

 因みに俺達がこの世界の言葉がわかるのは伝説の武器の能力によるものらしい。

 武器を持っていない俺もわかるのは何故だ?

 ちょっと待てよ。この話、三上さんが書こうとしたネット小説とかなり似てるぞ。というかいっしょだ。剣とか弓とか槍に盾も。という事は俺が拳の勇者って奴か。

 

「話は分かったが、召還された俺達にタダ働きをしろと?」

「都合のいい話ですね」

「だな。自分勝手としか言いようがない。滅ぶんなら勝手に滅べばいいだろ。俺達にとってはどうでもいい。」

「確かに、助ける義理はないよな。タダ働きした挙げ句、平和になれば『さようなら』とかされたらたまったもんじゃないしな」

「報酬とか以前にまず、帰れる手段があるのか知りたいんだけどその辺どうなの?」

「ぐぬ………」

 俺たちの文句に王様は臣下の者に目線を送る。

 

「もちろん、勇者様方には存分な報酬は与える予定です」

 4人が、グッと握り拳を作った。

 

「他に援助金も用意できております。ぜひ、勇者様たちには世界を守っていただきたく、そのための場所を整える所存です」

「へー……まあ、約束してくれるのなら良いけどさ」

「俺達を飼いならせると思うなよ。敵にならない限り協力はしておいてやる」

「……そうだな」

「ですね」

 なんだろう。ちょっと上から目線な気がするんだけど……

 

「では勇者達よ。それぞれの名を聞こう」

 王様がそう言った後に、剣を持った人が前に出て自己紹介を始めた。

 

「俺の名前は天木(あまぎ) (れん)だ。年齢は16歳、高校生だ」

 剣の勇者、天木 錬。女装をしたら女の子に間違う奴だって居そうな程、顔の作りが良い。髪はショートヘアーで青みがかった黒髪。

 切れ長の瞳と白い肌、なんていうかいかにもクールという感じだ。

 

「じゃあ、次は俺だな。俺の名前は北村(きたむら) 元康(もとやす)、年齢は21歳、大学生だ」

 槍の勇者、北村 元康。なんと言うか軽い感じのお兄さんと言った印象の男性だ。

 髪型は後ろに纏めたポニーテール。男がしているのに結構似合っている。

 

「次は僕ですね。僕の名前は川澄(かわすみ) (いつき)。年齢は17歳、高校生です」

 弓の勇者、川澄樹。見た目は、なんかピアノとか習っている坊っちゃんの感じだ。

 髪型は若干パーマが掛かったウェーブヘアー。

 

「次は俺だな、俺の名前は岩谷(いわたに) 尚文(なおふみ)。年齢は20歳、大学生だ」

 盾の勇者、岩谷 尚文。この人は、何処にでもいそうな大学生だな。

 髪型は癖っ毛のある黒髪。

 

 ……って、俺は何様で人を見てるんだか。それに全員、日本人なんだ。

 

「最後は、俺だな。田村 幸成。年齢は19歳、大学生だ」

「ふむ。レン、モトヤス、イツキ、そしてユキナリか」

「王様、俺を忘れてる」

「おおすまんな。ナオフミ殿」

 忘れられた尚文がツッコム。

 自己紹介してすぐに忘れるとか無いだろ。

 

「では皆、己がステータスを確認し、自らを客観視して貰おう」

「は?」

「えっと、どのようにして見るのでしょうか?」

 樹が王におずおずと進言した。

 

「何だお前ら、この世界に来てすぐに気付かなかったのか?」

 錬は情報に疎い連中だと呆れたように声を出した。

 

「視界の端にアイコンが無いか?」

「え?」

 何となく視界の端に、アイコンのようなものが見えてきた。

 

「それに意識を集中するようにしてみろ」

 アイコンをじっと見つめ続けてみると、ピコーンと軽い音がして、視界に大きな、ウィンドウのようなものが現れた。

 

 田村 幸成

 職業 拳の勇者 Lv.1

 装備 ヒューマンフィスト(伝説武器)

    異世界の服

 スキル 模倣者(ナラウモノ)

 魔法 無し

 

 模倣者(ナラウモノ)ってなんだよ? 他にも色々、項目があるが今はいいだろ。てか、まんまゲームの世界だな。

 

「Lv1ですか……これは不安ですね」

「そうだな、これじゃあ戦えるかどうか分からねぇな」

「というかなんだコレ」

「勇者殿の世界では存在しないので? これはステータス魔法というこの世界の者なら誰でも使える物ですぞ」

「そうなのか?」

 そもそも、俺らの世界には魔法自体ないし。

 

「それで、俺達はどうすれば良いんだ? 確かにこの値は不安だな」

「ふむ、勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化していただきたいのです」

「強化? この持ってる武器は最初から強いんじゃないのか?」

「はい。伝承によりますと召喚された勇者様が自らの所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです」

「伝承、伝承ね。その武器が武器として役に立つまで別の武器とか使えばいいんじゃね?」

 元康が持っている槍をペン回しのようにくるくる回しながら意見する。

 それより、槍を片手で弄ぶとかどんだけ力あるんだよ。

 

「ふむ、となると……自分磨きするにしたって、Lv1じゃやっぱ危ないよなぁ……」

「じゃあ、俺達5人でパーティーを結成するのか?」

 尚文のたぶん独り言に、元康が答えた。

 それが良いよな。安全だし。

 

「お待ちください勇者様方」

「んん?」

 俺達が旅に出ようとしていると大臣が進言してきた。

 

「勇者様方は別々に仲間を募り冒険に出る事になります」

「それは何故ですか?」

「はい。伝承によると、伝説の武器はそれぞれ反発する性質を持っておりまして、勇者様たちだけで行動すると成長を阻害すると記載されております」

「本当かどうかは分からないが、俺達が一緒に行動すると成長しないのか?」

 すると、全員が武器の所に使い方やヘルプがついていたようでそれに気付き目で追った。

 

 注意、伝説武器同士を所持した者同士で共闘する場合。反作用が発生します。なるべく別行動しましょう。

 

 ……本当みたいだ。

 となると、仲間探しから始めないとダメだな。

「ワシが仲間を用意しておくとしよう。なにぶん、今日は日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。明日までに仲間になりそうな逸材を集めておく」

「ありがとうございます」

「サンキュ」

 それぞれの言葉で感謝を示し、その日は王様が用意した来客部屋で俺達は休むこととなった。



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勇者交流

 来客室の豪華なベッドに座り、勇者達はそれぞれの武器を見つめながら説明に目を向けていた。外は日が沈んでおり、それだけ集中しているのだ。

 え〜と、伝説の武器はメンテナンスが不必要の万能武器である。

 持ち主のLvと武器に融合させる素材、倒したモンスターによってウェポンブックが埋まっていく。

 ウェポンブックとは変化出来る武器の種類を記載してある一覧表であると。

 俺は武器のアイコンにあるウェポンブックを開く。すると、壁を越えてアイコンは長々を記載されていた。

 そのどれもがまだ変化不可能と記載されている。

 

「すげぇ……」

 一体何千……いや何万あるんだ?

 ふむふむ、特定の武器に繋がるように武器を成長させたりも出来るみたいだな。

 アレだ。ネットゲームのスキルツリーみたいな感じだ。

 スキルを覚えるには変化出来る武器に収められた力を解放する必要があるっと……。

 ホント、ゲームっぽいな。

 

「なぁ、これってゲームっぽいよな」

 尚文が周りにそう問いかけると、ヘルプを見るのに集中しているせいか、全員が空返事をして答えた。

 

「ってか、ゲームじゃね? 俺、結構やってたぞこんな感じのゲーム」

 元康が自慢げに言い放つ。

 

「え?」

「というか有名なオンラインゲームじゃないか、知らないのか?」

「いや、俺も結構なオタクだけど知らないぞ?」

「お前しらねえのか? これはエメラルドオンラインってんだ」

「何だそのゲーム、聞いたことも無いぞ」

「お前本当にネトゲやったことあるのか? 有名タイトルじゃねえか」

「俺が知ってるのはオーディンオンラインとかファンタジームーンオンラインとかだよ、有名じゃないか!」

 俺はそのゲームも知らないぞ。

 

「なんだよそのゲーム、初耳だぞ」

「え?」

「え?」

「皆さん何を言っているんですか、この世界はネットゲームではなくコンシューマーゲームの世界ですよ」

「違うだろう。VRMMOだろ?」

「はぁ? 仮にネトゲの世界に入ったとしてもクリックかコントローラーで操作するゲームだろ?」

 元康の問いに錬が首をかしげて会話に入ってくる。

 

「クリック? コントローラー? お前ら、何そんな骨董品のゲームを言ってるんだ? 今時ネットゲームと言ったらVRMMOだろ?」

「VRMMO? バーチャルリアリティMMOか? そんなSFの世界にしかないゲームは科学が追いついてねえって、寝ぼけてるのか?」

「はぁ!?」

 

 錬が声を荒げて反論した。

 そういえば、練は一番早くステータス魔法ってのに気が付いたな。

 何か手馴れている印象を受ける。

 

「なあ……全員、この世界をなんのゲームだと思っているんだ?」

 別にここがゲームの世界だなんて思ってないが似ているんなら聞いて起きたい。

 

「ブレイブスターオンライン」

「エメラルドオンライン」

「ディメンションウェーブです」

「知らない。っていうかゲームの世界?」

「なるほど。因みに俺もこの世界に似たゲームなんて知らないぞ」

 全員の答えが出て。そして、全員が相手の言ったゲームを知らない。

 

「まてまて、情報を整理しよう」

 元康が額に手を当てながら練を見る。

 

「錬、お前の言うVRMMOってのはそのまんまの意味で良いんだよな?」

「ああ」

「樹、尚文、幸成。お前たちも意味は分かるよな」

「SFのゲーム物にあった覚えがありますね」

「ライトノベルとかで読んだ覚えがある」

「右に同じ」

「そうだな。俺も似たようなもんだ。じゃあ錬、お前の、そのブレイブスターオンラインだっけ? それはVRMMOなのか?」

「ああ、俺がやりこんでいたVRMMOはブレイブスターオンラインと言う。この世界はそのシステムに非常に酷似した世界だ」

 錬の話を参考にすると、VRMMOというものは錬にとって当たり前のようにある技術で、脳波を認識して人々はコンピューターの作り出した世界へダイヴする事ができるらしい。

 

「それが本当なら、錬、お前のいる世界に俺達が言ったような古いオンラインゲームはあるか?」

 錬は首を横に振る。

 

「これでもゲームの歴史には詳しい方だと思っているがお前達が言うようなゲームは聞いたことが無い。お前達の認識では有名なタイトルなんだろう?」

 樹も元康も頷く。

 間違ってもオンラインゲームに詳しいのなら聞いたことが無いというのはおかしい。

 そりゃあ、アイツらの視野が狭い可能性があるかもしれないが、間違っても有名タイトルくらいなら言えるはずだ。

 

「じゃあ一般常識の問題だ。今の首相の名前は言えるよな」

「ああ」

 その結果は、見事……全員バラバラ。他にも自分の世界で有名なネット用語やページ、有名ゲームを尋ねあい。

 そのどれもが知らないと言う結論に至った。

 

「どうやら、僕達は別々の日本から来たようですね」

「そのようだ。間違っても同じ日本から来たとは思えない」

「という事は異世界の日本も存在する訳か」

「時代がバラバラの可能性もあったが、幾らなんでもここまで符合しないとなるとそうなるな」

「パラレルワールドみたいなものか」

 なんとも奇妙な展開になったな。唯一の共通点がみんなゲーム好きってことだけか。

 この後、俺たちはここへ来るまでの経緯を話し合った。

 練と元康、樹は経緯は違えど死んだか、済んでのところでこの世界に召喚されたようだ。

 一方、尚文は俺と同じで気づいたら召喚されていたようだ。

 そういや、三上さんのPCのデータ………消すの忘れてた!! どうしよう!!

 

「じゃあみんな、この世界のルールっていうかシステムは割と熟知してるのか?」

「ああ」

「やりこんでたぜ」

「それなりにですが」

 何やら尚文が急に練たちに質問している。

 そのまま、尚文はそのゲームについて聞いた。その結果、尚文の盾は全然強くなれない負け組職であることがわかった。しかも、救済措置も一切なかった。

 そのことを聞きうなだれている尚文を横目に俺も自分の武器? について聞いてみた。

 

「ところで、俺の拳ってそもそもゲームの中にあったのか?」

「俺のやつには無かったな」

「徒手スキルならあったが……それをメインで戦う奴はいなかったな」

「格闘家という職業はありましたが……それでも武器はありましたよ」

 やっぱり、拳……というか、素手だけってのはないよな。

 ………はあ。

 俺が肩を落としていると尚文が肩を叩く。

 

「どんまい」

 自分より下がいてよかったな尚文。



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最初の仲間

 翌朝

 朝食を終えて、王様からお呼びが掛かるのを今か今かと俺達は待ちわびた。

 さすがに朝っぱらから騒ぐわけにも行かず、日の傾きから10時過ぎくらいになった頃、俺達は呼び出しを受けた。

 待ってましたと俺達は期待に胸を躍らせて謁見の間に向う。

 

「勇者様のご来場」

 謁見の間の扉が開くと其処には様々な冒険者風の服装をした男女が13人ほど集まっていた。

 13って………不吉だなぁ。

 俺達は王様に一礼し、話を聞く。

 

「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ」

 5人いるから、2〜3人に割り振られるんだろうな。俺と尚文は、武器弱いからその分仲間が欲しいな。

 

「さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」

 

 え? そっちが選ぶ側?

 これは俺達も驚きだった。

 まあ、よくよく考えれば異世界の良く分からない連中に選ばせるよりも国民の方に選ばせる方がいいのかも知れない。

 なんか順番に並ばされる。

 ザッザっと未来の英雄達が俺達の方へ歩いてきて各々が共に行きたい勇者の後ろに並んだ。

 その結果、錬、5人。元康、4人。樹、3人。俺、1人。尚文、0。

 

「ちょっと王様!」

 当然、尚文は王様に異議を唱える。

 そりゃそうだよな。盾は味方ありきで本領を発揮するのにその仲間がいないんじゃあ。

 

「う、うぬ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」

「人望がありませんな」

 呆れ顔で大臣が切り捨てる。

 そこへローブを着た男が王様に内緒話をする。

 

「ふむ、そんな噂が広まっておるのか……」

「何かあったのですか?」

 元康が微妙な顔で尋ねる。

 

「ふむ、実はの……勇者殿の中で盾と拳の勇者はこの世界の理に疎いという噂が城内で囁かれているのだそうだ」

「はぁ!?」

「伝承で、勇者とはこの世界の理を理解していると記されている。その条件を満たしていないのではないかとな」

 まさか昨日の雑談、聞かれていたのか。

 王様の話を聞いて尚文は一瞬、俺の方を向いたがすぐに目を逸らした。

 同じこの世界のこと知らないのになんでお前には仲間がいんだよ……的な目で訴えてきているが、俺は目を合わせない。俺だって、仲間は1人だけなんだどうにも出来ない。

 

「つーか錬! お前5人も居るなら分けてくれよ」

 何か怯える羊みたいな目で錬に同行したい冒険者たちが錬の後ろに隠れる。

 錬も困ったように頭を掻きながら見て。

 

「俺はつるむのが嫌いなんだ。付いてこれない奴は置いていくぞ」

 突き放す口調で話すわけだが、冒険者たちは微動だにせず、むしろ更に練周りに身を寄せ合っている。

 

「元康、どう思うよ! これって酷くないか」

「まあ……」

 尚文は元康に同意を求めるがにごった返答が返ってくる。

 元康のパーティーはほとんどが女性で占めているハーレムパーティー。元康的には満足する結果なのだろう。

 

「偏るとは……なんとも」

 樹も困った顔をしつつ、慕ってくれる仲間を拒絶できないと態度で表している。

 

「均等に3人ずつ分けたほうが良いのでしょうけど……無理矢理では士気に関わりそうですね」

 樹のもっともな意見に尚文以外、全員が頷く。

 

「だからって、俺は一人で旅立てってか!?」

「あ、勇者様、私は盾の勇者様の下へ行っても良いですよ」

 声のする方を向くと元康のパーティーに入るつもりだったセミロングの赤毛の女の子が片手を上げて立候補する。

 

「お? 良いのか?」

「はい」

 元康の問いに笑顔で答えた彼女は尚文の後ろに移動した。

 

「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらんのか?」

 ………誰も手を上げる気配が無い。

 王様は嘆くように溜息を吐いた。

 

「しょうがあるまい。ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ、月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」

「は、はい!」

 俺も同じで援助金が増えるか聞きたいが、残念ながら言い出せるほど俺の神経は図太くない。これはただをこねた尚文の成果としよう。

 

「それでは支度金である。勇者達よしっかりと受け取るのだ」

 俺達の前に5つの金袋が配られる。

 ジャラジャラと金属が擦れる音が聞こえた。

 その中で少しだけ大き目の金袋が尚文に渡される。

 

「ナオフミ殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚用意した。これで装備を整え、旅立つが良い」

「「「「「は!」」」」」

 俺達と仲間はそれぞれ敬礼し、謁見を終えた。

 それから謁見の間を出ると、それぞれの自己紹介を始める。

 

「俺の名前は田村 幸成。歳は19。よろしくな」

「初めまして。私はアヤメ・キリノ。18歳です。職業はシーフ、盗賊をしています。こちらこそ、よろしくお願いします。ユキナリ様」

 俺の最初の仲間、アヤメ・キリノ。腰まで届く黒髪を背後でに纏めた髪型。

 盗賊と言うより忍者を思わせる装束と腰に携える小太刀。

 と言うか………アヤメ・キリノって

 

「あのー、もしかしてアヤメさんって日本人ですか」

「? ニホンジン? よく知りませんが、私の生まれ故郷は東方にある小さな島国です。それと、私のことはアヤメで構いませんよ」

 呼び捨てかぁ。どうしよう、女子を呼び捨てするのは正直あんまりしたことないからなぁ。

 

「あ、ああ。よろしくな。ア、アヤメ」

「はい。それでは、ユキナリ様。これから、どうしますか?」

「あー、そうだな。やっぱり、武器屋に行って装備を整えたいな」

 そう、武器を持っていない俺はまず武器が必要だ。

 得物を持たずに魔物と戦うのは無謀だし、他の勇者に追いつくのだって難しいだろう。

 

「では、私が知ってる良い店に案内しますね」

「お願いできる?」

「はい」

 城を出でアヤメさんに案内されるまま俺は移動している。

 その間に町並みを見てみた。

 ファンタジーゲームでよくある、中世ヨーロッパ風の町並み。ホントにゲームの中に入ったみたいだ。

 

「ここがオススメの店です」

「此処が……」

 城を出て10分くらい歩いた頃、一際大きな剣の看板を掲げた店の前でアヤメさんは足を止めた。

 店の扉から店内をのぞき見ると壁に武器が掛けられていて、まさしく武器屋といった感じだ。

 他にも鎧とか冒険に必要そうな装備は一式取り扱っている様子。

 

「いらっしゃい」

「幸成か、やっぱりお前も来たのか」

 店に入ると店主と思われるスキンヘッドのおっさんと何か防具を装備している尚文、そして尚文の仲間の女の子がいた。

 そうか、尚文も武器が盾だから攻撃用の武器を買いに来たのか。

 

「よう、尚文」

「なんだ? アンちゃんの知り合いか? ……ってことは、アンタも勇者様ってことか?」

「ああ、俺は拳の勇者の田村 幸成だ。って言うわけでオヤジさん、武器を見せてくれないか?」

 俺がオヤジさんに尋ねるとオヤジさんと尚文がものすごい渋い顔で俺を見る。

 そして、尚文が申し訳なさそうに告げた。

 

「あー。幸成、残念なんだけど。俺たちって、伝説の武器以外、装備出来ないみたいなんだ」

 マジかよ! それじゃあ何か、俺は素手で魔物と戦えと、無茶だろ!

 

 そうだ!

「盾! オヤジさん。盾を見せてくれ!」

 せめて防御力は上げたい。

 

「おう! いいぞ…で、予算はどれぐらいだ?」

 うーん。王様に渡された、銀貨600枚。まず、これがどのぐらいの価値かよくわからん。

 

「……えっと、ア、アヤメ。予算ってどのぐらいにした方がいいんだ?」

「そうですねぇ……宿代や食費を考えると200枚ほどがいいかと」

「そうか……と言うことだ。オヤジさん」

「お? そうか。となると……この鉄の盾とかどうだい」

 オヤジさんは、壁に飾られている鉄製の盾を見せた。

 

「鉄の盾かぁ……」

 オヤジさんから鉄の盾を受け取る。ズンっとなかなか重く、少し叩くとカンと金属音が響く。

 アイツらは負け職だって言ってたけど、素手よりは戦闘で役に立つだろう。

 バチン!

 

「痛っ!」

 突然強い電撃を受けたかのように持っていた鉄の盾が弾かれて飛ぶ。

 

「なに!」

 それを見て尚文は驚きの声を上げた。

 何が起きたんだ?

 わからないままの俺の視界に文字が浮かび上がってきた。

 

『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました。勇者は自分の所持する伝説武器以外での戦闘を行うことができません』

 ちょっと待てよ! これは盾だぞ! 防具だぞ! なんで無理なんだよ!!

 

「まさか、盾も装備出来ないなんて……ん?」

 俺が落とした盾を拾い上げる尚文はジッと鉄の盾を見つめる。

 

「どうした。尚文」

「いや、鉄の盾を持ったらいきなり視界にウェポンコピーってのが出て来て……」

 ウェポンコピー?

 なんだよそれ

 

「親父。ちょっとこのウェポンコピーってをやって見ていいか?」

「ああ、構わねぇぞ」

 オヤジさんの了承をもらって、尚文はウェポンコピーを行った。すると、尚文の盾が鉄の盾へと形が変わった。

 

「うわ! なんだそれ?」

「これは見た限り手にした盾をコピーする能力のようですね」

 何そのお手軽機能。てか、それって拳の俺にも適応しているのか?

 

「親父! この店にある盾、全部見せてくれ!」

「おい、盾のアンちゃん。それって、盗みを働きますって言ってるようなもんだぞ?」

「何言ってんだ、親父。俺は盾を盗む気は無い。ちょっと、コピーしたいだけだ」

「ウチからしたら、盗んだも同然だ。コピーしたいなら、買え!」

「ふざけるな! もう盾はあるんだぞ。いらん」

「それなら、コピー代としてコピーする盾の代金の半分を寄こせ」

「多すぎる! もっとまけてくれ」

 そのまま、尚文とオヤジさんの交渉が始まった。

 

「ユキナリ様。残念でしたね」

「ああ。まさか、盾すら装備出来ないなんてな……」

「念の為、他の防具を買いませんか?」

 確かに、これで他の防具も無理だったら伝説の武器じゃなくて、呪いの武器になるな……はは。

 

「そうだな。オヤジさん、ちょっといいですか?」

「あ? なんだ、拳のアンちゃん」

「盾以外の銀貨200枚の防具を見せてくれ」

「いいぜ。そうだな、拳のアンちゃんも盾のアンちゃんと同じ鎖帷子がいいと思うぜ」

 といわれて、俺は鎖帷子に手を伸ばす。

 試しに着てみると、アイコンが開いた。

 

 鎖帷子(くさりかたびら)

 能力:防御力アップ 斬撃耐性

 

 成る程、盾の時に出てこなかったのは装備できないからだったのか。

 

「オヤジさん。これの値段はどれくらいなんだ?」

 予算内なら買おう。

 

「そうだな。拳のアンちゃんのおかげでこうしてタダでコピーされずに済むし。銀貨50枚でどうだ?」

「マジで! 買った!」

「まいど! ついでに中着をオマケしておくぜ!」

 オヤジさんどんだけ気前いいんだよ。俺は銀貨50枚を渡し、鎖帷子を手に入れた。



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現実

「それでは、ユキナリ様。そろそろ戦いに行って見ましょうか」

「おう!」

 鎖帷子を装備して冒険者っぽい格好になった俺は気持ち高らかにアヤメと一緒に店を出るのだった。

 それから俺達は城門の方に歩いて、城門を潜り抜ける。

 城門の先は、見渡す限りの草原が続いていた。一応石畳の道があるが一歩街道から外れると何処までも草原が続いているくらいに緑で覆いつくされている。

 

「ユキナリ様。このあたりに生息する魔物はとても弱いです。初戦闘の相手としては良いと思います」

「そうだな。俺も自分がちゃんと戦えるかわかんないもんな」

 しばらく草原をとぼとぼと歩いていると、なにやら目立つオレンジ色の球体のような何かが見えてくる。

 

「ユキナリ様、あれはオレンジバルーンです。とても弱いですが好戦的な魔物です」

 オレンジバルーンって、随分とストレートな名前だな。個人的には、バルーンと言うよりボールな気がするが。

 

「ガア!」

 凶暴な声と二つの凶悪そうな目つきが敵意を持っているのを感じさせる。

 アイツ、小さい子とかが持ってるボールに似てるな。あれなんて言うんだろ。

 

「頑張ってくださいユキナリ様!」

「おう!」

 カッコいい所を見せてやる。

 俺は伝説の武器が宿っているであろう右拳を握りしめてオレンジバルーンに向けて殴りかかる。

 するとバルーンはその場で跳ね返った。意外と弾力がある! これ、絶対バルーンじゃなくてボールだよ!

 その跳ね返りを利用するかのようにオレンジバルーンはそのまま牙をむいて俺に噛み付いてきた。

 

「い!」

 痛っ〜。こいつの攻撃、結構痛い。犬に噛まれるぐらい痛い。

 

「この! この、この!」

 クソっ! 腕に噛み付いていて殴り難い。

 それから、3分間必死に殴り続けた結果……パァン! と軽快な音を立てて、オレンジバルーンは弾けた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 ピコーンと音がしてEXP1という数字が見える。

 経験値が1入ったと言う訳か。

 しっかし、これだけ戦って1とは……先が思いやられるな。

 

「これは……さすがに厳しいですね」

 見ていた、アヤメが難しい顔で呟いた。

 だよな。ゲームでいうところのスライムみたいな扱いのやつにここまで苦戦するんだもんな。

 戦闘を初体験だとしてもスライムみたいな扱いのやつにここまで苦戦するんもんな。3分間、殴り続けないと倒せない攻撃力。囓られてた所から血も出てします防御力。

 戦利品のオレンジバルーンの残骸を拾う。ピコーンと手の甲の宝石から音が聞こえる。

 バルーンの残骸を宝石に近づけると淡い光となって吸い込まれた。

 GET、オレンジバルーン風船

 そんな文字が浮かび上がり、ウェポンブックが点灯する。

 中を確認するとオレンジフィストというアイコンが出ていた。

 まだ変化させるのは無理みたいだが、必要な素材みたいだな。

 

「今のが伝説武器の力ですか」

「そうみたいだ。変化させるには一定の物を吸い込ませると良いみたいだね」

「なるほど」

「ちなみにさっきの戦利品ってどれくらいの値段で売れるの?」

「銅貨1枚いったら良いくらいですね」

「……何枚集まれば銀貨1枚?」

「銅貨の場合は100枚です」

 うーん。やっぱりどれぐらいの価値かわかんないなぁ。まあ、それは後々わかるだろう。

 それより、戦闘をどうすれば………あ! そうだ! ここ、ファンタジーの世界だ!

 

「次は、私の実力を見せる番ですね」

「いや、その必要はないよ。アヤメが強いことはわかってるから」

 アヤメは国に選ばれた人なんだし、十分強いんだろう。

 それなら、俺は自分を強くする方を優先したい。

 

「それより、アヤメ。この世界ってどうやって魔法を覚えることができる?」

「魔法、ですか……」

 そう! 魔法! 俺たち勇者を呼び出したのも召喚魔法だったし魔法は武器じゃないから伝説の武器の呪いを受けることは無い!

 

「ユキナリ様の考えはとても理に適っています。ですが、残念ながらそれは難しいと思います」

 ………えっ!?

 

「な、なんで!?」

「ユキナリ様。これは、なんと言いますか?」

 唐突にアヤメが地面に指で何かを書いた。

 

「…………わかんないな」

「この世界の文字で書いた、私の名前です」

 ………この瞬間、俺は悟った。この世界の言葉は伝説の武器でなんとかなっているが、文字は読めないんだった。

 

「ユキナリ様が勉学に強くても、次の波までに文字を覚え、魔法を覚えるのは流石に無理があるかと」

「た、確かに……」

 もはや、ぐうの音も出ない。

 

「………何というか、お手軽に魔法を覚える方法とかないかな」

 って、無いよな。

 

「一応あるにはあります」

「あるの!!?」

「ですが、それには金銭面で問題が……」

 アヤメの話だとこの世界で魔法を覚えるには大きく分けて2つだ。

 1つは、単純に魔法書で習得する方。これだと、多くの魔法を覚えることができ、威力の調節などもできる。ただし、魔法書ではさっきアヤメさんが書いたこの世界の文字を覚えないといけない。

 もう1つは、水晶玉での習得する方だ。魔法書と違い魔法文字を覚える必要がなくすぐに覚えることができる。しかし、水晶玉は高価でしかも水晶玉1つで覚えられる魔法は1つだけ。さらに威力が低く増減が難しい。

 

「水晶玉は、1つ購入するのに金貨5枚は必要です。銀貨にすると500枚になります」

 俺たちの持ち金は王様からもらった銀貨600枚から武器屋のオヤジさんが負けてくれた銀貨50枚を引いた、銀貨550枚。

 水晶玉1個買ったらヤバイじゃん。でも、投資と考えれば……

 

「宿代は大体、2部屋、銅貨60枚です。もちろん食事は別です」

 9日しか泊まれねぇ!!!

 

「先に言っておきますが、ギルドに入るのも現状は無理と思います」

「え? なんで?」

 俺からの疑問をアヤメはわかりやすく教えてくれた。

 ギルドへの依頼はその殆どがが魔物の討伐や魔物が生息している場所に行き薬草なんかの採取とこれまた、ゲーム感全開である。

 しかし、やはり現実、魔物に殺されるような弱い奴を雇うわけには行かず。登録の際に魔物との戦闘実技があるのだ。

 

「ーーーつまり、今現在オレンジバルーンにさえ苦戦しているユキナリ様ではギルドへの加入試験を間違いなく不合格してしまいます」

 ………八方塞がりじゃねぇか……

 

「ユキナリ様。焦る気持ちはわかります。ですが次の波までまだ、1ヶ月あります。ゆっくりとユキナリ様のペースで強くなりましょう。私も手伝います」

「アヤメ………ありがとう」

 慰められてるとわかっていても……嬉しいな。

 その後、日が傾く少し前まで草原を歩き、遭遇するオレンジバルーンやその色違いのイエローバルーンを割る作業を続けるのだった。

 それでも、レベルは上がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 1日中、バルーン割りをして疲れ果てた俺とアヤメさんは町の宿屋に来ている。アヤメさんの言う通り、1部屋銅貨30枚。

 

「2部屋で」

「はい。ごひいきにお願いしますね」

 宿屋の店主が揉み手をしながら俺達が泊まる部屋を教えてくれる。

 俺たちはすぐに各々の部屋には行かず宿屋に並列している酒場で晩食を食べるついでに明日の方針を決めることにした。

 アヤメが帰りがけに買った、周辺地図をテーブルに広げる。

 地図を広げるとこの国の地形が大まかに分かる。

 基本的に城を中心に草原が広がり、そこから森へ続く道と山へ続く道、他に川へ突き当たる場所や村がある道があるのだ。

 あんまり大きな地図ではないので、近くの村もそんなに無い。

 

「ユキナリ様。この地図には載っていませんが先ほど戦闘をしていた草原の先にある森。そこを抜ければラファン村という村があります」

「ふむふむ」

 注文していた料理を食べながらアヤメの話を聞く。

 

「そのラファン村近くには初心者向けのダンジョンがあります」

「ダンジョン……!」

 おもしろそうだな! ネトゲだとモンスター狩りしかないけど。

 

「散々、色んな冒険者が入った場所なので宝などは無く魔物しか居ませんがLvを上げるには良い場所かと思います」

「おおっ!」

 八方塞がりだった状況から希望が出てきた。

 食事を食べ終え、一緒に運ばれた飲み物をグビッと飲み干した。

 

「……アヤメさん! 本当にありがとうございます!!」

「! ど、どうしたんですか? ユキナリ様、急に!?」

 俺が頭をテーブルに叩きつけながら礼を言うとアヤメは慌てて理由を聞いてきた。

 

「いやだって。俺も尚文と同じでこの世界のこと何も知らないのに、アヤメさん。俺の仲間になってくれて……俺、おれ……」

「ユキナリ様?」

「Z〜Z〜Z〜」

「……寝てる」

 この時の出来事は正直あまり覚えていない。ただ、1つだけわかったことがある。俺は非常に酒に弱い。

 

 

 

 

 

 

「うぐ……ひっぐ……」

 どこかで聞いたことのあるすすり泣く声が聞こえた。

 見てみると男の人が泣き崩れていた。その横でどこかで見たことある美人さんが慰めていた。

 なんだろう、どっかで見たことあるんだけど……何処だろう?

 

(ひとし)さんしっかり」

「す、すまん。美穂」

 仁……兄貴か! てか、兄貴はなんで泣いていたんだ?

 

「幸成くん。三上さんの家に行ったきり行方不明になっちゃって」

 ………えっ!? 行方不明? 俺が?

 あ、そっか。俺、異世界に召喚されたから。日本じゃ、行方不明扱いになったんだ。

 

「う……うう……」

 俺は、泣いてる兄貴を見て思う。これはきっと、夢だ………だけど、あっちじゃ本当に起きているかもしれない事だ。

 

 

 

 

 

 

「……ッ…! はぁ、はぁ……。やっぱ、夢だった……」

 俺は目を見開き飛び起きると、周囲を眺めると見知らぬ部屋のベッドの中にいた。

 いつの間に部屋に入ったんだ?

 窓から景色を見るとまだ真夜中だ。

 

「………………」

 この世界に来て2日ぐらいか。兄貴、心配しているんだろうな……

 ……眠れそうにないし、Lv上げにでも行くか。

 

 部屋の扉を開けて廊下に出ると遠目にアヤメと尚文の仲間が立ち話をしている。

 なんの話をしているのか気になるけど、今からLv上げに行くと知られたら止められそうだからやめとこ。

 

 

 

 

 

 

 朝日が昇ってきた。

 俺は初めて魔物が狩りをした草原でオレンジバルーンとイエローバルーンを倒している。腕の所々に噛み跡が残っている。まあ、噛まれ過ぎて途中からあんまり痛くなくなったし。しかも、8体目以降は噛み付く前に叩けるようになった。

 しかし、あれだけ倒してやっとLv.2か。

 

 ステータス

 田村 幸成

 職業 拳の勇者 Lv.2

 装備 ヒューマンフィスト(伝説武器)

    鎖帷子

 スキル 模倣者(ナラウモノ)

 魔法 無し

 耐性 痛覚耐性

 

 あれ? ステータスの項目1つ増えてる。痛覚耐性……これのおかげでバルーンの噛み付き痛くなくなったのか!

 俺がマジマジとステータス画面を見ているとウェポンブック項目が点灯していた。

 

 オレンジフィストLv.1/5

 能力未解放……装備ボーナス:防御力1

 

 イエローフィストLv.1/5

 能力未解放……装備ボーナス:防御力1

 

 能力未解放?

 装備ボーナス?

 それに武器自体にもLvがある。

 なんのことだかわからない時はヘルプを見よう。

 

『武器の変化と能力解放』

 武器の変化とは今、装備している伝説武器を別の形状へ変える事を指します。

 変え方は武器に手をかざし、心の中で変えたい武器名を思えば変化させることが出来ます。

 能力解放とはその武器を使用し、一定の熟練を積む事によって所持者に永続的な技能を授ける事です。

 

『装備ボーナス』

 装備ボーナスとは、その武器に変化している間に使うことの出来る付与能力です。

 例えばドラゴンブローが装備ボーナスに付与されている武器を装備している間はドラゴンブローを使用する事が出来ます。

 攻撃3と付いている武器の場合は装備している武器に3の追加付与が付いている物です。

 

『武器Lv』

 変化した武器で敵を倒した時、武器自体にも経験値が入る。Lvが上がると装備ボーナスの能力が上昇する。

 

 つまり能力解放を行うことによって別の装備にしても付与された能力を所持者が使えるようになるという事か。

 熟練度はたぶん、長い時間、変化させていたり、敵と戦っていると貯まるんだろうな。

 武器Lvは………まぁ、戦ってたらわかるだろう。

 それにしても、何処までもゲームっぽい世界だ。

 さて、アヤメが起きる前に早く宿へ戻ろうか。

 

「いた! ユキナリ様!」

 ヤバ! アヤメ、もう起きてた。しかも、肩で息を切らしているから結構前から俺がいないことに気づいて探していたのか。

 

「ア、アヤメ。何故ここに……」

「なぜって……少し気づいた事があって話そうと部屋入ったらもぬけの殻で……」

「へぇ、気づいた事ってなんなの?」

「それより! ユキナリ様は、ここで何をしていたんですか?」

 ここは、正直に話すか。別に悪いことしてたわけじゃないし。

 

「ちょっと、Lv上げを……」

「何考えてるんですか!!」

 ええ! なんで、怒るの!?

 

「ユキナリ様はご自身の実力をちゃんとわかっているんですか!? バルーンが集団で襲ってきたらどうするんですか!? バルーンより強い魔物に会ったらどうするんですか!?」

「うう……っ」

 正論ばっかだ。ここで言い訳は逆効果だ。ここはーーー

 

「すみませんでした! もうしません!! 許してください!!」

 言葉短く! 腰を低く! 情に訴えかける!

 

「……はぁ、わかりました。今後は、こんな無謀なことはしないでください」

「わかった!」

 良かった〜。

 

「では、もう出発しますか」

「え!?」

「早くレベルを上げたいんですよね」

「あの……ちょっと休憩を入れてくれませんかね」

「行きますよ」

「……はい」

 うう……っ。やっぱ、怒ってるよな。アヤメが言ってた気づいた事って、気になるけど聞ける空気じゃないよな。

 俺がトボトボとアヤメの後をついて行くと目の前にいきなり、何かの画面が出てきた。

 

『アヤメ・キリノから同行者申請がきました。了承しますか? YES/NO』

 同行者申請? これってパーティー組もうぜ的なやつか?

 

「知り合いの冒険者から聞いたんですが、同行者認定していれば私が倒した魔物でもユキナリ様にも経験値が入るんです」

「え! そうなの!?」

 もはやどういう原理だ?

 俺も一緒に戦っだ場合なら経験値が入るならわかる。でも、アヤメの言い方から考えてアヤメ1人で倒しても、同行者認定してさえしていれば経験値が入ると思っていい……のか? ここまでゲームみたいだと、本当にゲームの世界なんじゃないのか。

 

「ユキナリ様。そろそろ、森の中に入るので早く了承してくれませんか」

「あ、ああ。悪い」

 アヤメに催促され、急いでYESに意識を集中した。

 そうだ。この世界のことなんて気にしなくていいんだ。波を早く終わらせて。俺は、元の世界に戻るんだ!!

 

『アヤメ・キリノを同行者に設定しました』

 続けて、アヤメの簡単なステータス情報に切り替わった。

 

 アヤメ・キリノ

 職業 盗賊(シーフ) Lv.38

 装備 小太刀

    忍装束

 

 高っ!! Lv.38とか俺の19倍じゃん。これだったら、もっとキツイ場所でもなんとかなるんじゃないか?



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最初の森で迷子です

 俺とアヤメはラファン村近くにあるダンジョンを目指して森の中を進んでいた。

 同行者設定をしているから、アヤメが倒した魔物でも俺は経験値を上げることができる。

 それをいい事に、俺は魔物が出てくればとりあえず戦闘をしていた。相手こそ、レッドバルーンやブルーバルーンなどバルーン系の魔物にしか遭遇していない。

 まぁ、そのお陰で俺はLv.4に上がることができ。

 武器であるオレンジフィストとイエローフィストは、

 

 オレンジフィストLv.5/5

 能力解放……装備ボーナス:防御力5

 

 イエローフィストLv.5/5

 能力解放……装備ボーナス:防御力5

 

 とLvがMAX状態になった。能力も解放した。

 俺は倒したレッドバルーンとブルーバルーンの残骸も拳に吸わせてさっそく武器を解放させた。

 レッドフィストの条件が解放されました。

 ブルーフィストの条件が解放されました。

 

 レッドフィストLv.1/7

 能力未解放……装備ボーナス:攻撃力3

 

 ブルーフィストLv.1/5

 能力未解放……装備ボーナス:攻撃力1 防御力1

 

 やった! 

 ついに攻撃力のある拳が出てきた。俺はすぐに拳をレッドフィストに変えた。因みにこのカラーシリーズの拳はなんというかゴム手袋がくっ付いたような不思議な感覚だ。皮膚がゴムになるとこういう感じなのか? 

 それに、レッドだけ最大Lvが7だ。武器によってLvの最大値ってまちまちなのか? 

 

「やったぞ、アヤメ。攻撃力のある武器を手に入れた! 今度、魔物が来たら俺1人で戦って見てもいいか?」

「構いませんが、私たちの目的はわかっていますよね」

 もちろん、ダンジョンに入る前にまともに戦えるのか試してみたいだけだよ。

 そうこうしているうちに、いったい何度目の遭遇になるのかオレンジバルーンが現れた。

 よっしゃー! コイツならもしかしたら、ワンパンでいけるかもさんねぇーぞ。

 それを知ってか、アヤメは武器を持たず俺の後ろに下がってくれた。

 ガァー! 

 オレンジバルーンが飛び掛かった。しかし、その行動は単調ゆえに簡単に躱し、軽く手刀を食らわす。

 すると、かなり呆気なくオレンジバルーンはパンッ! と破裂した。

 ……なにこれ? 呆気なく過ぎる……前に戦った時は3分かかったのに、マジでワンパンで倒してしまった。しかも、手刀って……拳じゃねぇーじゃねぇか。俺がやったことだけど。

 

「これなら、ダンジョンで戦っても問題ないよな」

「はい。それでも、まだユキナリ様を主体とした戦闘スタイルはダメですよ」

 チッ。流石にまだ、俺を主体とした戦い方は危険か。

 でも、この調子で戦って経験値稼いでいけばいずれ……

 

 

 

 

 

 

 という淡い考えをしてから3時間。俺たちは未だにバルーンの森(俺名称)を歩いていた。その間、俺はとある不安に頭を悩ませていた。

 いや、そんなハズないのはわかっているんだ。だが、もしやと考えてしまう。

 そう、ひょっとして……俺達、迷っているんじゃね? 

 

「…………」

 いやいや。そんなハズない。

 なんせ、ここっていわば冒険最初の森だよ。ゲームとかで迷いの森とか言われる場所でも実際に迷うわけないし。

 アヤメだって何も言わずにいるんだ。

 きっと、この森は広いんだ。地図だとそこまで大きく感じなかったけど、縮図だからわからなかったんだ。

 うん! そうだ、そうしよう。

 

「……あの、ユキナリ様。大変申し訳難いんですが……その……私たち、迷ったようです」

 迷ってたんかーい!! なんとも、申し訳なさそうな顔で謝るアヤメ。

 

「本当にすみません。なんで、こんな所で迷ったんでしょう……」

 この森はそもそも迷うような複雑な森ですらなく商人なんかも当たり前のように利用している森だ。

 そんな森を何時間もさ迷うのは流石におかしい。何らかの理由がある。

 

「考えられるのは幻妖花という周囲に幻覚作用をもたらす花が何処かに咲いているのかもしれません。あとは……妖術師(マーヤー)による幻覚魔法ぐらいでしょうか」

 アヤメが現在の俺たちの状況を分析して述べてくれた。

 つまり、俺たちがこの森を彷徨っているのは偶然咲いていた幻妖花という花のせいか。たぶん、この世界でいうとこの魔法使いに方向感覚を狂わせる幻覚魔法をかけられているかのどっちからしい。

 そうなると幻妖花の線の方かな。敵なんて作った覚えないし。

 幻妖花が原因と考えた俺たちはいったん来た道を戻り、近くに幻妖花が咲いてないか探った。

 すると、幻妖花が見つからないどころか更に迷ってしまった。

 

「アヤメ。幻妖花の幻覚作用って、どのくらい続くの?」

「直接吸ってない限り、1時間もすれば無くなります」

 なのに俺たちは未だに迷い続けている。

 

「……因みに、幻覚魔法だと、どのぐらい続くの?」

「……強力なものなら、2、3日は掛かっているでしょう」

 これはもう疑いようがない! 俺たちは誰かに幻覚魔法をかけられている!! 

 だが問題がある。それは、誰が俺たちにそんな魔法を掛けたかだ。

 

「ユキナリ様。今から、この魔法をかけている者を見つけ出す為に少しこの場を離れますが、ユキナリ様はこの場にいてください」

 俺が敵が誰か考えているとアヤメが見つけ出す作戦を提案した。

 

「アヤメ、見つけ出すことができるのか? 無理だったら、俺が大ピンチなんですけど……」

 敵の狙いがアヤメならそれでも問題ないけど、俺が狙いなら格好の的になるじゃないか。なんせ俺めっちゃ弱いんだから。

 

「安心してください。私は一度離れたら、隠れてユキナリ様を見守ります」

「……それって、俺に餌になれってことか!?」

「まぁ、そうなりますね。敵がユキナリ様を狙っている可能性がありますから。ですが、ユキナリ様に危険が迫ったら私が必ず守ります!」

 アヤメは真っ直ぐ俺の目を見て答えてくれた。そもそも、このままジッとしていても先には進めないしな。

 

「わかった。頼むぞ、アヤメ」

「はい!」

 そう答え、アヤメは俺に背を向け森の中へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 アヤメが森に入り30分くらいが経過したころ、俺はすでに暇で暇で仕方がなかった。だって、やることないんだもん! 初めこそすぐに敵が来て戦闘とか思ったけど、よくよく考えたら相手だってバカじゃないんだから二手に分かれたら怪しむよな。魔物とかが出て来たら、戦って時間も潰せるけど全く現れないし。下手にうろちょろしたらアヤメが見失うかも知んないんだから。

 その為なんの理由もないが、俺は何も変わってないだろう拳のウェポンブックを開きぼうっと見ることにした。

 現在、俺が手に入れた武器はオレンジフィスト、イエローフィスト、レッドフィスト、ブルーフィストの4種類だけだと思った。

 

 仲間の拳Lv.1/1

 能力未解放……装備ボーナス:仲間の成長補正(小)

 

 仲間の拳? 何これ? こんなの手に入れた覚えないんだけど。でも、装備ボーナスは良いな。成長補正って単純に強くなりやすくなるってことだよな。

 でも、どうして開いたんだ? 俺が拳に吸わせたのはバルーンの残骸だけ。それが条件とは思えないし、Lvだけが条件なのか。

 取り敢えず仲間の拳に変えてみたら見た目は普通の人間の手だ。ただ中指に赤い紐が巻きついているだけだ。

 俺が突如出て来た武器に対して思考をめぐらしていると近くの茂みからガサゴソガサゴソと音が聞こえた。

 これ、絶対に罠だよな。でも、ま、アヤメも何処かで見てるし問題ないよな。

 でも、一応は拳をブルーフィストに変えておこう。

 そして、俺は音がした茂みの方へ足を運ぶ。

 だが、そこにいたのは俺たちを攻撃していた奴らではなかった。

 そいつはまん丸の球体フォルムで血を全身に浴びたかと思うほどの赤黒い色。凶暴な目と口。その魔物は……バルーンだ。

 ってまた、バルーンかよ! 

 と、怒声を出すのをグッとこらえて、戦うのも面倒だからゆっくりと後退して見なかったことにしよう。

 

「オイオイ、テメー。何、見なかったことにしてんだ、ゴラぁ!!」

 逃げようとした俺にに向けてバルーンが吠えた。

 てか、喋るのかよ!! どうやって喋ってんだよ!! 

 

「オイ、ガキ。何、固まってんだ。そんなにバルーンが喋るのは意外かゴラァ」

 それにコイツ、かなり口悪いな。ここは、当たり障りなく穏便な済ませよう。

 

「すみません。実は今、敵に攻撃を受けているんですよ。だから、巻き込みたくないんで、それでは」

 踵を返して今度こそ、俺は去ろうと────

 

「待ちな」

 ウッッゼェ!!! 

 なんだよ! また、呼び止めて。別に用なんか無いだろ! それとも何か、今まで倒したバルーンに対する報復か? なら、かかって来い。所詮おまえもバルーンだろ! 喋れるからって調子乗ってんじゃねぇぞ! 

 と怒声を吐く前にバルーンから驚きの一言を聞いた。

 

「今から、テメーに幻覚魔法をかけた奴が来っから、ジッとしてろ」

「…………え? どういう事?」

 その後のバルーン、名前をブランと言うらしいが。その説明に俺は絶句した。

 なんでも、その人物は俺に魔法を教えるために自分が住んでいる場所まで誘導していたそうだ。誰がどう考えても、そんなめんどくさい事するよりも目的地で待ち伏せした方が楽だと思う。

 もちろん、ブランもその考えは言った。しかし、その人物は「こういうのは、シュチュエーションが大事なんだよ。普通に村で待ち伏せするよりも、偶然の巡り合わせの方が運命を感じない?」との意見だった。

 確かに運命は感じるけど……それって必要なのか? 単純に待ち伏せしたら警戒される。なら、わからなくもないが。バレたら余計警戒するだろ。

 色々とよくわからない作戦だけど、1つわかっていることがある。

 魔法を教えてくれるのなら有難い。

 

「───という訳で、今からその魔法使いに会うことになりました」

 さっきのブラムとの会話を何処かで見張っていたであろうアヤメを呼び戻して説明した。

 しかし、説明していくにつれアヤメの顔がだんだんと渋くなっていった。

 

「ユキナリ様。その話に疑問に思う点はありませんでしか?」

「疑問? まぁ、なんで待ち伏せなんかするんだろうなぁ? って、思ったぐらいかな?」

「それもですけど! もっと、根本的に疑問に思わないといけないところがあります!」

 えっ!? これ以外でなんか気になるとこってあったけなぁ。俺が悩んでいるとアヤメが深い溜息を吐いて、答えた。

 

「ユキナリ様。そもそも、その方は、どうしてユキナリ様が魔法を覚えたがっているのを知っているですか?」

「それは…………なぜ?」

 そういえばなんでだ? 俺が魔法のことを言ってたのは昨日、草原の時だけだ。その時、聞いたのか? 周りに人いたっけ? 

 

「どうですか? よく考えると、ものすごく怪しくないですか?」

 ……うん。よく考えなくても、普通に怪しかった。

 

「────まぁ、そんな怪しがらないでよ。本当に、善意で教えてあげたいんだからさ」

 その声は虚空から聞こえた。そして、声の主は瞬間移動をしたように俺たちの目の前に現れた。

 インテリチックなメガネの奥に見える、綺麗な翠緑の瞳に腰まで届きそうなプラチナブロンドの髪。黒いローブに身を包み、同じ黒い三角帽子を被り、杖を持った、ザ・魔法使い。そして、あの長い耳は────

 

「エルフ……」

 ファンタジーでの代表的な亜人の一人。ほぼ全てのファンタジー作品において、エルフは高度な魔法を得意としている。

 

「貴女が元凶ですね。おかしな真似をしたら、有無を言わせず斬りますので何もしないことをオススメします」

 俺がお姉さんを見て惚けているとアヤメが俺の前へ出て小太刀を抜いてお姉さんを威嚇した。

 

「アハハ! 落ち着いてよ、アヤメちゃん。私が、君たちのことを知ってるのは、偶々、遠隔透視魔法で見つけただけだからさ」

 エルフは俺たちを見つけた方法を教えたが、それはかえってアヤメの警戒レベルを引き上げらことになった。

 俺には悪いエルフには感じないんだけどな。

 

「ユキナリ様。私の後ろに下がっていてください」

 アヤメが俺にそう促した。それを見てエルフが呆れたようにアヤメを見る。

 

「随分と警戒するわねぇ。本当に純粋に魔法を教えたいだけなのに」

「そう易々と信用するわけにはいきません」

「なるほどね。でも、それを決めるのは君じゃなくてそこの坊やじゃないの?」

 ここで俺に目を向けるのか.……

 

「……エルフさん。本当に俺を強くしてくれるんですか?」

「それは知らないよ。私は君に魔法を教えるだけ。強くなれるかは、君次第よ」

 結局は、俺の努力次第か……よし! 

 

「よろしくお願いします!」

「ちょっ、ユキナリ様。相手が誰かもわからないんですよ」

「わかってる。でもまぁ、1日でも早く強くなりたいじゃん」

 波だって後、1ヶ月だって言ってたし。武器を持たない以上、俺が1番弱いはずだ。それなら、1番頑張らないとダメだ。

 

「と言うわけで……えーと、名前なんですか?」

「そういえば言ってなかったわね。私の名前はユリアスよ」

 こうして俺は、魔法使いエルフのユリアスさんの弟子になりました。



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魔導師の弟子

 前回までのあらすじ

 俺、田村 幸成はエルフで魔法使いのユリアスさんの弟子になりました。

 なお、ユリアスさん曰くこの世界に魔法使いと言う職は存在せず、使う魔法によって呼び方が変わるそうだ。因みにユリアスは魔導師(ウィザード)と言う様々な魔法を使うすごい職らしい。

 そんな、魔導師のユリアスさんとの修行は想像を絶するものだった。

 まず最初に教わるのは、この世界の文字だった。以前にもアヤメが言っていたように魔道書を読むには、この世界の文字を読めるようにならなければいけない。最初こそ文字を必要としない修行だと思っていたが

 

「やっぱり、読み書きできる方が色々都合がいいからね」

 と言う、理由から読み書きが始まった。内容は、この世界の文字を読むための表を使って簡単な文章を書く事とユリアスさんが空中に書いた文字をひたすら模写することだった。勿論、発音込みだ。しかも、文字は炎出てきているからか少し時間が経てば消える。模写できなければ1つにつきユリアスさんが作っているあやしい薬を1つ飲むように言われている。この初日に1つ模写できなかったからユリアスさんが作った痺れ薬を飲まされ10分くらい動けなくなった。

 ───ただ、文字の勉強だけをしているわけではない。

 まず魔法の仕組についてだが、魔法は何らかの効果を生じさせるイメージを、特定の法則によって具現化するものだそうだ。

 そして、この世界の魔法は〈元素魔法〉〈精霊魔法〉〈神聖魔法〉〈召喚魔法〉と大きく4つに分けられる。

 その中の1つ元素魔法は自分自身の持っている魔力の元と言われる、魔素だけで打てるわけではない。魔法の発動前にイメージを大気に満ちている魔素を取り込み、自身の魔素を着火源にして放つ。制御には相応の魔力が必要になる。

 そのためにやるもう1つの修行内容は魔力の底上げだ。内容は単純に周囲の魔素を取り込んで自身の制御できる魔力量を大きくしていくことだ。

 他にも精霊魔法、神聖魔法に召喚魔法などとユリアスさんが知り得るすべての魔法とそれに関係することも波が来るまでの1ヶ月の間に教えてくれるそうだ。

 

 修行を始めて3日が経った。未だに魔法は教えてもらっていない。

 

「先生。いつになったら魔法を教えてくれるんですか?」

「そうねぇ。取り敢えず、最低限の魔力量か文字を手に入れからかな」

 そうは言っても、魔力量の方は増えてるのかわかんねえし、文字はすぐに覚えられないし。

 

「あ! そうだ。何か簡単に文字を覚える魔法とかないんですか?」

「アハハ。君、楽しようとするなぁ〜。まぁ、あるけどさ」

 あるんだ!! こういう時、普通ないってオチのはずなのに……でも、ラッキー! 

 

「それじゃあ。それ、お願いしまーす!」

「いいけど……それ、精神魔法の応用で頭に情報を無理やり流し込むんだけど。───失敗したら廃人になるんだけどぉ……本当にやる?」

「やっぱり、自力で頑張ります!」

「うん。よろしい」

 やっぱりズルはダメだな。地道にコツコツとがんばろう。千里の道も一歩からだ。

 

「それじゃあ、何か魔法見せてくださいよ。出来れば攻撃魔法を」

 せめて、魔法がどんな感じか見てモチベーションを上げないとサジ投げそうだ。

 

「うーん。そうねぇ……まぁ、いいわ」

 ユリアスさんは少し悩んでいたが、すぐに了承してくれた。

 と同時に俺たちは何処かの荒地…………の上空にいた……って落ちる! 落ちる!! 落ちる!!! ───あれ、落ちない? 

 

「はぁ。空中に居るぐらいで慌てないでよ」

 空中でドタバタしている俺を見てユリアスさんが呆れてられていた。あ、そういえば初めて会った時に飛んでたなこの人。

 

「じゃあ、ユキナリくん。アレが何かわかる?」

 ユリアスさんが指差した方に目を向けると7、8頭のドラゴンの群れがいた。さすが異世界、やっぱりドラゴン居るんだ。

 

「あれは、天空竜(スカイドラゴン)災厄級(カラミティ)……て言ってもわかんないよね。簡単に言うと、アレ1体で小さい国なら滅ぼせるぐらいの力を持ってるの」

 とユリアスさんが説明してくれる……と言うか、そんなのが8頭も居るのヤバすぎだろ。

 

「じゃあ、今からスカイドラゴン(アレ)と戦うわね」

 …………え? 今なんて? あの人、1頭でも国滅ぼせる化け物を8頭も相手取るの? 普通逃げるだろう。正直、あのスカイドラゴンとか言うのがどれほど強いのかはわからないけど、なんかヤバイのは何となく分かる。こう……早くこの場から逃げてぇ! って感情が湧き上がっている。

 俺が混乱しているとユリアスさんが持っていた杖から魔力弾を8撃ってスカイドラゴン全てがこちらに気づいた。

 

「「「「グギャアアアアアア!!!」」」」

 雄叫びを上げながら、こちらに迫って来るスカイドラゴン。8頭のうち3頭は口から雷撃を放ち、3頭は翼を羽ばたかせて衝撃波を生み出し、2頭は他6頭より高度へ飛び、鋭い爪を俺たちに向け強襲しに来た。

 ───あ、これ死んだかも。わずか1秒にも届かない刹那……俺には死を悟ることしかできなかった。

 

「残念だけど。まだ、死んじゃいけないよ」

 スカイドラゴンの攻撃が当たるよりも速くユリアスさんは魔法を発動させた。

 結界のような球体に包まれ、スカイドラゴンの攻撃を全て防いでいる。結界内で更にユリアスさんは魔法の詠唱を始めた。

 

「力の根源たる私が命ずる。森羅万象を支配し、神々よ雷神の一撃を以って、彼物を灰燼と帰せ……雷霆(ケラウノス)

 次の瞬間、後方で雷撃と衝撃波を放っていたスカイドラゴンを中心に半径数百メートルは優に超える光のドームが轟音と共に発生した。ドームの所々に電流のようなものが見える。

 これがケラウノス……って、まだよくわかってないんだが、ドームが消えてその恐ろしさがわかった。もちろん、攻撃を食らったスカイドラゴンが消し飛んで詠唱道理の灰燼と帰しているが他にもある。

 何せ、さっきまでただの荒地に数kmも及ぶクレーターができているんだからな。

 

「ハ、ハハハ……アハハハ……」

 俺が見ていない間に巨大な隕石でも落ちたか? 

 因みに俺たちに爪を立てていたスカイドラゴン達は恐怖からか何処かへ飛び去って行った。

 

「さっき見せたのは、核撃魔法って言うの。平たく言うと元素魔法の奥義みたいなものよ」

 と、ユリアスさんはケラウノスの説明をしてくれていた。詰まる所、この世界における最強魔法って事だな。

 はっきり言って厄災の波……この人がいれば簡単に止まるんじゃないか? 勇者必要か? 

 

「まぁ、最終的にこれぐらいの魔法が使える人間なんてそうそういないから落ち込まないで」

 割と絶望している俺にユリアスさんが優しく慰めてくれた。

 

 その言葉通り、そう易々とあんな化け物魔法が使えるわけ───あったんだよなこれが……

 それを説明するためにまずは、ステータス魔法の説明をしよう。

 ステータス魔法とは、自身の今の状態を見ることができる魔法だ。

 見れるのは主に自分のレベルと装備品とスキル、魔法が見れる。更に詳しく見ると、HP、MP、体力、攻撃力、防御力、魔力、素早さまで見れる。

 これは、ユリアスさんに魔力量が増えているのか確かめたい。と言った所、ステータス魔法の見方を教えてくれた。

 早速、見て見ると

 

 田村 幸成

 職業 拳の勇者 Lv.4

 装備 ヒューマンフィスト(伝説武器)

 鎖帷子

 スキル 模倣者(ナラウモノ)

 魔法 雷霆(ケラウノス)

 

 雷霆(ケラウノス)……覚えいるんだけど…………なんで? 

 

「あのー。ユリアスさん。なんだかわかりませんが……その……雷霆(ケラウノス)が使えるっぽいんですが?」

「いやいやいや、幾ら何でもそう易々と覚え……てる」

 割と軽いノリで対応していたユリアスさんが初めて顔を強張らせた。

 

「うーむ……なるほどねぇ。いや〜、恐ろしいスキルだね」

 スキル? この模倣者(ナラウモノ)か? そういえば、これって結局わかってないだよな。

 

「ステータス魔法で模倣者(ナラウモノ)に意識を集中してみなよ。詳しい内容が出てくるよ」

 意識を集中か、ステータス魔法を見るときと同じようなものかな。ピコーンと新しいウィンドウが出てきた。

 

 特殊能力(ユニークスキル):模倣者(ナラウモノ)

 能力:解析鑑定と完全模倣。実際に見て理解したスキル、魔法、技能を習得するスキル。

 

「つまり、ユキナリくんは雷霆(ケラウノス)を実際に見て、その説明を聞き理解したから雷霆(ケラウノス)を使えるようになりました。って事だね」

 …………なんだよ、そのチートスキルは

 

「それじゃあ、試し撃ちして見よっか」

 そう言い、また荒地に瞬間移動した。多分、これも魔法だよな

 

「じゃあ、撃ってみ」

 随分と軽いな、地形を簡単に変える威力を撃ってみってこの世界の魔法への扱い軽! 

 とりあえず、あの大岩を的にしよう……巻き込まれないよな

 詠唱は、えーと確か……

 

「力の根源たる私が命ずる。森羅万象を支配し、神々よ雷神の一撃を以って、彼物を灰燼と帰せ……雷霆(ケラウノス)

 強烈な光と共に轟音が炸裂した。大岩は言うまでもなく粉々になった。だが、ユリアスさんほどの威力ではないのだろうがそれでも、5メートル程のクレーターは出来ていた。…………バタン

 ───アレ、動けない。

 

「あー。やっぱり、倒れたか〜」

「あのー。先生。指すら動かせないんですけど何ですか? これ」

「MPが足りてなかったみたいだね。魔力疲労の限界を超えて動けなくなってしまったようだね」

 マジか! 1発撃ってしばらく行動不能状態って死ぬじゃん。

 

「それじゃ、戻って動けるようになったら修行再開ね」

 確かに、これじゃあ戦闘には使えないな。良くて敵が1体だけで、トドメ刺しぐらいじゃないと無理かな……そうだ! ひらめいた! 

 

「先生! この後、色々攻撃魔法を見せてください。説明込みで」

 模倣者(ナラウモノ)このチートスキルを以ってすれば短時間で魔法を習得できるぞ! 

 

「えー、やだー」

 えー……なんでだよ。動けない間、ユリアスさんにこれでもかと頼み込んで見たが、一切聞いてくれなかった。魔法は自力で覚える他ないようだ。

 因みに動けるようになったのは翌日だった。



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