月が輝く時、星も輝く。 (たくみん2(ia・kazu))
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人生の転換点(前半)

 今回の話は月ヶ瀬大輝《つきがせだいき》という美城プロダクションの社員がアイドル部門に飛ばされて、プロデューサーとして挑戦してみるという話です。

 今回よりお試しでデレマスの小説を書いてみようと思いましたので書かせていただきました。まだ構想段階の小説の為頓挫してまた投稿をやめてしまう可能性はありますが、応援していただけると少しでも元気づけられるのでぜひ応援してください。よろしくお願いします。

たくみん


 美城プロダクションに努めて3年経った。大卒で芸能プロダクション大手であるこのプロダクションに入社。広報を中心にこの三年でいろんな部署に飛ばれ、とうとうアイドル部署といわれるところにやってきた。アイドル部署というのはこのプロダクションの顔のような存在であり、ここで数々の上司が出世していった。夢のような職場だが、ここに配属されるというのは二つの意味を指す。有能な人を出世させるか、無能を手っ取り早く消すという厄介払いか。

当然だが、俺は後者の方だ。ろくに成果もあげられなかったつけが回ってきたのだろう。異動の通知がきた時点で俺はそう察していた。

 

 

 

配属初日。早速新しい職場・上司の元に向かう。いつもと異なる建物には落ち着かなかった。それはまるで新入社員のようだ。だが何か違う。それは恐らく今後どうなってしまうのかだいたい予想がついているからだ。考えていくほどいろいろ吹っ切れていた俺の足取りは徐々に軽くなっていった。部長の部屋の前につく頃には何時もよりも増して冷静になっていた。

「失礼します」

ノックをして中に入ると、中にはスーツをきた年上の男性がデスクで飲み物を飲んでいた。彼こそが新しい上司だろう。ただTHE・上司というような、典型的上司ではなく、近所にすむ優しいおじいさんみたいな印象を受けた。

「おはようさん。君が新しく転入してきた…」

「月ヶ瀬、月ヶ瀬大輝です。どうぞよろしくお願いします」

軽くお辞儀をする。

「こちらこそよろしく。つき…?」

「月ヶ瀬です」

「そうそう月ヶ瀬君。手帳にかいておこう。月ヶ瀬君月ヶ瀬君…」

部長は名前を連呼しながら手帳を探し、手帳の右ページ下に記入する。その手帳を横目で見ていた俺は、中にもたくさんの名前が書かれていたことに気づく。中には線が引かれているのも見える…どころか、全体の6、7割の名前に線が引かれていた。もちろんこれはリタイアしていった奴らだろう。俺も将来同じようになるんだろうな。

「ごめんね。最近新しい後輩が多くて名前を覚えるのが大変で大変で…」

「ああ、大丈夫です」

  まぁそうだろうな。他部署よりも出入りが多い為、毎度名前を覚えるのは俺だって無理だと思う。

 

部長は他にもいろんな事を尋ねてきた。好きな食べ物・好きな色・趣味についてなどなど。何に使われるのかはわからないが聞かれたことは全て答えた。それを部長は手帳に書いていた。

「質問はこれで終わり。すまないねぇ。それで早速だけど、君の担当を決めたい。何人くらい行けそうかな?」

「特に制限等は…」

「本当!?最初だから少ない人数の方がいいんじゃない?僕、100人くらい連れて来るかもしれないよ?」

「部長に頼まれたのなら100人であろうと引き受けるつもりです」

部長は本当?といいたそうな顔で俺を見てくる。すこし言い過ぎたかと思ったが後悔はしていない。どうせ散るならド派手に散りたい。この部長さんには迷惑をかけてしまうかもしれないが、俺は自分自身で有終の美を飾りたいのだ。すると、部長は顔色を変えて話しはじめた。

「なーんてな。冗談だよ冗談。とりあえず一人お願いしようかな。その子のプロデュースをしてあげてほしい。まずはその子を決めよう」

部長は引き出しからファイルを取り出して俺に渡した。中を開くと数十人のアイドルのプロフィールが載っていた。

「そこには候補生としてここのレッスンを受けている生徒が載っている。その中から好きな子を選んでくれ。あ、実際に会いたいなら裏面を見てほしい。レッスンの時間書かれているから見に行ってもらって構わないですよ」

「ありがとうございます。しばらく検討させていただきます」

「了解了解。じゃあこれ、君の部屋の鍵。この部屋は君だけの部屋だから。上手に活用してね。それで期限だけど…」

「では、3日ほどいただけますか?」

「よっしゃ、それでいこう。ここに私大体いるから気兼ねなく相談に来てもらってかまわんよ」

「ありがとうございます。是非困ったことがあれば相談させていただきます」

深くお辞儀をした。『こちらこそ』と部長もお辞儀をした。頭をあげると部長が笑顔になり肩を組む。

「さあさあ新しい世界が待ってるぞ。彼女達にも早く挨拶していらっしゃい」

部長は肩を組ながら入口の方へ向かう。俺は動揺していたが部長は笑顔でまあまあと言いながら進んでいく。そして扉の前までくると部長は扉をあけた。すると、そこには10人くらいの少女が扉に耳を澄ましていた。

「さぁみんな。彼が新しいプロデューサーだ。仲良くしてあげてね!」

すると俺を取り囲むように群がってくる。そして全員同時に自己紹介をはじめた。俺は聖徳太子じゃないから全く聞き取れなかったが、歓迎されているのをとても感じた。きついと思っていたがまだやっていけそうな希望は持てた気がした。

 

 




誤字脱字等あれば報告の方よろしくお願いします。とても助かります。


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人生の転換点(後半)

 続きです。やっと後半でデレマスに触れられるような話になりました。2話以降はもっと要素が大きくなっていくと思います。

たくみん


部長の部屋を後にした後、数人のアイドルに連れられて施設の紹介をしてもらった。ほとんど施設紹介というよりも彼女らの自己PRタイムだった。俺はいろんなことを聞き取り、彼女らの個性を観察した。初日にしては良い収穫となった。1時間半くらいすると彼女らはレッスンだといい別れることとなった。『ありがとう。プロデュースの参考にさせてもらうね』といい残し、新しい拠点となる事務所に向かうことになった。事務所があるのは別マンションの最上階。アクセスは素晴らしく最悪だった。このビルにはエレベーターが一台しかなく、しかも遅い。照明も薄暗く、俺以外に使う人がいるのかというほどに誰もいない。俺は何回も部屋を確認してやっとたどり着いた。

俺はドアノブに手をかけると、ドアが開く。鍵がかかっていなかった。中は意外にいい事務所。この前勤務していたのがデスク一つだったから、とてつもなく広く見える。でもやはり薄暗い。省エネなのか蛍光灯も抜かれているところもあり、なんとなくジメジメしている感じがした。

そして俺はデスクに荷物を置き、椅子に座った。しばらくボーっとしていたが、思い出したかのようにかばんから先ほどもらったファイルを取り出す。その中を再び見るとさっき施設紹介をしてくれた子たちが記載されていた。少し気になる子もおり、候補として荷物の中から付箋を取り出し、数人につけていった。

時計の音だけが聞こえる事務所の中、一人作業を行っていたのだが、作業開始5分後それは突然起こった。

ガタガタガタ…

次のページをめくった瞬間、急に机が揺れだしたのだ。突然の怪奇現象に俺は飛び上がった。

ダダダダ、ダレ?

さらに奇妙な声が聞こえた。薄暗い部屋の雰囲気と合わさってとても不気味に見える。おもわずその場を離れた。机の反対側にあるソファの陰に隠れ机を見守る。すると急に机の揺れが収まる。少し俺も安心し冷静さを取り戻す。だがしかし、それは急に現れた。俺の机から何かが出てきた。銀色の…細長い…髪の毛?…アホ毛…。これには俺も心当たりがあった。俺は恐る恐る本人に尋ねてみた。

「輝子…?」

 

 

彼女の名前は星輝子。彼女もれっきとしたアイドルだ。輝子とはちょっとした関係があり、初対面ではなかった。それはつい一週間前に遡る。

一週間前の昼。昼休みにいつもは訪れることのないカフェに向かった。偶然昨夜に炊飯器が故障し、弁当を作れなくなってしまった。朝にコンビニで買い揃えようとも思ったのだが、朝のコンビニに現れた長蛇の列を見てすぐに諦めました。午前中の仕事が早く終わり、みんなより一足早くランチタイムを迎えた俺だが、初めてのカフェに困惑しながらも、サンドイッチとコーヒーを両手にもって明るい窓際のカウンター席に座った。そんなに賑わう時間でもないのでのんびりとしたランチ…のはずだった。その声は突然やって来た。

「フヒヒヒヒ…」

奇妙な笑い声が聞こえてきたのだ。不気味で、少し深いにも思えたこの声は左隣の日陰の席から聞こえてきた。どんなツラしたやつなのか、隣を見ると、小柄な銀髪の少女が座っていた。この声の本人なのか一瞬疑ったが、手に持った植木鉢を見ながら笑っている様子を見るに間違いなさそうだ。

「マイタケ君…。新しいお家はどう?なんだかとても住みやすそうだね。良かったよ。私のお昼ご飯代…、全部なくなっちゃったけど」

すごく会話の内容がシュールだった。しかしそれ以上に気まずくなった。彼女の言葉を聞く限り、お昼を食べていない…いや、食べられないのだろう。隣で美味しそうに俺に食べられていたら嫌に違いない。空腹のせいでマイタケ君(?)という幻覚を見せられているのではないのか?

『グウゥゥーーー』

少女がお腹を鳴らす。余計に気まずくなってしまった。思わず俺は立ち上がり、再びレジの方へ向かい、サンドイッチセットを購入し席へ戻った。

「ほらよ」

座ってすぐ隣にそのセットが入った袋を少女に差し出す。その子は首を傾げた。

「ほら、受け取りな」

その子は動揺しながらも袋を受け取った。

「何…これ…?」

「何これって、サンドイッチとオレンジジュース。嫌いだった?」

「いや、これ…私のじゃない…から…」

「うん。俺が君にあげた」

「いや、私はいらないから…」

その途端、また彼女のお腹がなった。やはり体は嘘をつけないらしい。

「ほら、お腹すいてるんでしょ?それやるから食べな」

俺は隣の自分の席に座りなおし、食べかけのサンドイッチに手を付ける。

「あ、ありが…とう…」

隣の女の子が頭を下げる。律儀な彼女の姿を少し笑って、

「どういたしまして」

と言葉を返した。

 

これが出会いの始まりだった。

 

 

 

この日は星輝子という名前と、アイドルの訓練生としてここにいるということを教えてもらった。その後に会議が控えていたこともあり、別れを告げて仕事場へと戻っていった。次の日も俺はカフェに向かった。すると彼女も同じ場所に座っていた。この日から昨日までの5日間、毎日お昼を一緒するようになってしまった。この毎日お昼ご飯を奢っていたわけではないのだが、また何回かご馳走してしまった。今思えば、年上の兄ちゃんが中学生の女の子とお昼を食べるという行為が、援助交際のように見えてしまったのかもしれない。それをチクられたから急に異動になったといわれるとおかしくは思わない。

しかし、俺らはそのような悪質な関係ではない。普通に会話するだけ(歳の差と立場がアンバランスだけど…)。輝子はいろんなことを教えてくれた。スカウトされてアイドルを始めたこと、春休み毎日来てレッスンしたり、のんびりしたりしていること、初日に持っていたマイタケ君を昨日鍋にして食べてしまったことなどなど…。もちろん俺の事も輝子に教えてあげたが、唯一一つだけ秘密にしていたことがあった。それが、アイドル部門へと異動が決定したことだった。

「黙っていて、すまなかった。驚かせるつもりはなかったんだ」

改めて謝罪した。相変わらず輝子は困ったような顔で俺を見ている。

「本当だぞ。本当にお前のこと不審者かと思ったぞ…」

確かに、出会い目的に昼ご飯で釣り、少々の関係を持った後、彼女のいるこの部屋に侵入。見事に悪質な犯罪に見えてしまう行動だ。改めて事情を説明し、資料などの証拠を見せることでやっと納得してもらえた。

「そういえば、なぜこの部屋に?」

一番の疑問である。部屋に入ってくるのならともかく、急に机の下から出てこられては意味が分からない。レッスンスタジオ直通の隠し通路でもあるのか?

「それはだなぁ…」

輝子は自身気にもう一度机に入っていく。そして机の上に何かを置いた。植木鉢だった。

「キノコか」

「シイタケ君だ」

よりにもよってあんまり好きじゃないシイタケを出してきて少しイライラしたのは置いておいて、まぁ輝子らしい理由に納得した。

「確かにここはジメジメしてるから適してるっちゃ適してるのかもしれないが、なぜに部屋の中なんだ。やっぱり外とかのほうがいいんじゃないのか?」

「外ならどこかに行ってしまうかもしれないぞ」

「家は?」

「自室がすでにいっぱいだ」

確か寮生活と言っていたな。その部屋でもキノコがいっぱいなのか…。なんか想像したくない。

「そういえばお前はプロデューサーになったってことだよな?」

「まぁそうなるな」

しばらくの沈黙の後輝子がいきなり驚いた顔をする。

「だから私と一週間前からコンタクトを取ってたのか!?」

「ちがう。そんなつもりでは…」

一週間前からプロデューサーになることをわかっていたから関わるようになったと考えると確かに出来すぎた話である。

「でも、これってやっぱり…」

と言って輝子は俺の机の上にあるファイルを指す。見てみるとなんと輝子のページが開かれていた。言い逃れは絶望的だった。こうなればこれを逆手に取って計画通りに進んでいるようにみせつけてやる。フッと悪役のように笑みを浮かべて威圧をかける。

「今頃気づいたか…。すべてはもう考えていた計画の内だったんだよ。星輝子、この俺がプロデュースしてやる。この俺がプロデュースするには必ず成功させてやろう」

言ってから思った。すごく恥ずかしい。今すぐにも壁に頭をめり込ませてやりたい。輝子すまない。俺はこんな嘘をついてまで有能でありたいのだ。

すると輝子は笑った。最初に見た不気味な笑いではないまた別の笑った顔。

 

 

 

「失礼します」

ノックをして中に入る。

「今日で三日目だけど…。そういうことでいいのかな?」

「はい、決めさせていただきました」

一つ深呼吸して覚悟を決める。今になってこの選択に間違いがなかったか不安になったがそんなことを気にしている場合ではない。3日かけて俺が決断したことを報告する。

 

「星輝子さん。彼女を中心としたプロデュースをさせていただこうと考えております」

 



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