MONS-GOJIRA- (神乃東呉)
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本編 大戸島

 海鳥が群れを為して飛ぶ。

 『家族』だからではない、『種族』だから群れを為す。

 船舶が空気の壁に突き刺さるように空気は船体に流れるように風切音を響かせる。

「お客さん!大戸島へは何しに行かれるのですか?見たところ身なりがよろしですなぁ!」

 船舶の持ち主たる鉢巻き姿の海の男たる船長がジャケットに同じ生地のズボンに高価なベルトとネクタイ、ワイシャツは純白なまでの白のいわゆる中年男性にこれから行く『大戸島』への目的を訪ねた。

「ビジネスにもいろいろある」

「びじねす?なんでいそいわ」

「まぁ営業と同じです…船長と同じく」

「かぁ~けぇったいなお職業なのでしょうが…あんまお勧めばしませんぜ!なんせあの島は完全孤立の閉鎖島、郵便船さロクすぽ生き帰りはしない、見んとこ無しの島ですわぁ!五島列島の方がマシですぜ」

 ここへ来るまでにこの話は何度聞いたことか。

 皆が口をそろえて『大戸島』は止しなと言う。

「たんだなぁ!あんこの島には奇妙な噂が有るんですわ」

「奇妙な噂?」

「だども、あんこの島には『呉爾羅』がいるんだとか」

「『呉爾羅』?」

「何でも荒ぶる神様だったり、海の魔物だったりだとかまちまちですが、とんもかくそれはけったいなもんで島民の間では悪さをするものは『呉爾羅』に食んわれるちゅうてなそうして子供さ躾けるんですわ!」

「…そうか、なら今度から私の子供にもそう言い聞かせよう」

 男の隣で海鳥に手を伸ばそうとする赤いブラウスを着た女の子を横目で見た。

「お父様、見て見て!海鳥がいっぱい~」

「これキヨコ、危ないからよしなさい。船長の話を聞いただろう。海には魔物が居ると」

「魔物?…魔物ってなぁに?」

「誰も知らない存在は未知の脅威だ。良い子にしなければお前はこの海の主に取って食われるぞ」

「ヒィいや…お父様とお母様、兄さまたちと離れ離れなるなんていや…」

 スーツ姿の男の娘『キヨコ』は話に不安になり、父親の背広を引っ張ってしがみ付いた。

「フッフッフッ…失礼、あまりにも船長のお話をまんま言うもので…でもどうやらお子さんには効果的なようですね」

 笑ったのは向かい席の少し焦げ茶色のスーツ姿に右目に眼帯を着けたどこか悲しげにもとれる不思議な男であった。

「でも、あなたが言うように誰も知らない存在の脅威なら私達人間も同じことが言えるのでは?…私達人間の心にも脳にも未知の脅威がある」

「何を申したいのですか?」

「いえ、私はただそう思っただけです…失礼、学者をしています芹沢ダイスケと申します」

 離れの向かい席からお辞儀をする眼帯の男、芹沢ダイスケの傍らにはトランクケースのみの手荷物程度、自分も似たようなものであった。

「ビジネスと先ほど仰ってらしたが家族観光ではございませんでしょう」

「ええっ娘が駄々をこねて言うことを聞かないもので折角なので私の仕事ぶりでも見せてやれと妻に言い聞かされまして」

「…なるほど、お嬢さんはあんたの将来の秘書さんで」

「いえいえ、こんな子に秘書は務まりません」

「むぅぅ!お父様!キヨコは立派な大人のレディですわよ!」

「ふぅっ…ふっふっ、すまん、一人前のレディは自分からレディと名乗らんもんだよ…」

 娘は頬をまるで焼いた餅のように膨らませて怒りを表した。

「ああっ失礼、私が名乗っていませんでしたね。貿易業から建設業まで何でも壱賀谷商事の壱賀谷トシユキと申します。そしてこっちが娘の壱賀谷キヨコです」

 芹沢にはこの親子の苗字と社名に聞き覚えがあった。

「ほぅ、今上々の一流企業の社長さんでしたか」

「一流とは言いようですね…一流と言うのは酷な者です。少しでもミスは許されぬ者だけに与えられる不名誉な称号です」

「…まぁ人それぞれでしょう」

「私はこれから土地を買いに行くんです」

「ほう、大戸島を買い取るおつもりで?」

「いえいえ、島民にはちゃんとお話合った上で見定めるつもりです」

「そうですか…あなたには御関係ない話ですが、私はこれから知り合いの家によるつもりです」

「では上陸したら一時的にお別れですね」

「ええっ…また乗船の時に」

 そうこうして話し合っている内に島の輪郭が見え始めてきた。

「見えてきましたぜ!あれが大戸島です!!」

 その島は国土的に硫黄島より少しくらい大きめの広さがあるが違いは不発弾がないことである。

 島に船が近づき港に付くと下船して降り立ち芹沢は2人にお辞儀をして先に島の中へと歩いて行った。

「お父様…あの方何だか怖いです…学者様はみんなどこか怖いです…この間、お会いしたシュタイン博士と同じ感じがします」

 キヨコは怯えたように父親にしがみ付いて離れようとしなかった。

「9年前の戦争で人もまた大きく変わったのだよ…彼の右目が見たのも私が見てきたのもどれも地獄に等しいからね…ただそこには閻魔の居ない無秩序の地獄だったがね」

「嫌…お父様の戦争のお話は聞きとうありません」

「ふぅ…子供にするような話でもないな…でも忘れたくない…お前は終戦のあとに生まれたからなぁ…私は知らなくてもいいと思うがこれからの時代いやと言うほど聞かされることになるだろうからその時にでも考えると良い」

 壱賀谷は娘ミヨコの頭をそっと優しく撫でて落ち着かせ手を握って大戸島へと歩みを進めた。

「遠路遥々よくぞお越しくださいました。わたくしが村長の稲田と申します」

 手厚い歓迎で海岸と集落に隣接した大戸島の村民は古い着物などを着こんだ男女やキヨコと同年代の子供たちが珍しがって見に来ていた。

「本土からのお客人来なさるとはどういったご用件で?」

「ええ、私どものこの度企画するリゾート開発にこの島が地形的によろしくまた―」

 壱賀谷が村長達と大人たちだけで会話する中、キヨコと子供達で海岸の方へ遊びに行っていた。

「これは何?」

「そいつぁオオドガイだべ、こんの島ん中に住まう生きもんさぁ全部オオド付くんじゃけ、ここいらに取れる昆布さも大戸昆布や塩もまた」

「大戸塩!」

「んだべ、ああ、おいらは山田シンキチ。兄ちゃんと母ちゃんと暮らしちょるけ」

 その男の子はこの島の子供たちの中で一番年長でキヨコと同学年の子供であった。

「お父さんは?」

「…父ちゃんは病で死んじまった…だども島のみんながおいらの親同然、島のみんな家族さ」

 子供たちはシンキチに合わせて『んだんだ』と頷き合わせた。

 するとキヨコの目に入って来たのは海岸から泳いで上がってきて水にぬれた髪が垂れ下がったふんどし姿の同い年くらいの少年であった。

「あの子は?」

「ああ、ゴンちゃんや!おお~いゴンちゃん!!」

 子供たちが一斉に駆け寄って行き、キヨコも彼等に引かれるようについて行くと次第にその子供に近づいて見ると引き締まった筋肉に自分の背丈ほどの銛を携え、その銛で捕まえたのか網いっぱいに膨れた獲物網が今日の収穫が大量であることを物語っていた。

「ゴンちゃん、こん子さ本土からのお客人のキヨコちゃんだべ…今日もいっぱい取れただか?」

「ああ…それなりに」

 少年はゴンと呼ばれる名でその瞳はまるで猫のように丸い瞳をしていた。

 顔立ちは伸ばしきった髪で隠れて良く見えないが猛獣か何かのような目はかつてキヨコが上野動物園で見たライオンのような威圧感が有るその少年が同じ8歳の子供とは思えない何か甲高いものを感じていた。

「コラァアア!!またワルゴンかぁああ!!」

 大人の度なる声に反応して少年はそそくさと子供たちの前から去って木々の生い茂る森に向って走り出した。

 怒鳴った大人たちは拾い上げた石をゴンに向って投げつけ始めた。

「やめろ!!何している!相手は子供だろう!」

「やめんかお前たち!お客人の前でなんてことを!」

「村長!あのワルゴンさ、また掟破って魚ば取っていたぞ!」

「またか…」

 村長は深くため息を吐いて呆れかえった。

「一体これは…あの子はどういう子なのですか」

「あの子は宮下ゴウケンと言って名の初めの『ゴ』と『ン』を取って『ゴン』と皆読んでますが子供達とは仲は良好なのですが私ども大人たちには掟を破る悪ガキと認識しとるのです」

「掟とは?」

「“大戸の漁は神の見定めに”、神のお告げに従って漁をする日としない日を区別しとります。この大戸島の爺様と呼ばれる祈祷師によってとり決まっておりますがあの子はそれを破って勝手に漁を行っているからいつか呉爾羅さまの怒りをかうと皆が危惧しているのです」

 壱賀谷は先ほどの船長の話に出てきた『呉爾羅』という神的存在の事が島民の口から出てきたことに耳を立てた。

「いいんな!アイツはきっと呉爾羅の化身じゃ!アイツだけ禁止日に何事もなくいつも大量さ得物取ってくるなんておかしいべ!」

「ここ最近不作続きなのには奴が呉爾羅と結託してるにちげぇねぇべ!」

「いいんやバカなことを申すでない!呉爾羅さまを軽く見ると痛い目見るぞ」

 島民にとって賛否両論であった。悪魔や鬼のような危険な存在と捉える者もいればただ神ゆえに信仰的に奉る者もいる二分する状況であった。

 すると村長はゴンの身の上話を語り始めた。

「あの子は元々、この島に移住してきた夫婦の間の次男坊でして、けれどもどういうわけかその夫婦は忽然と煙のように別れもうして…おとっつあんは元々本土の軍人さんで最初そのおとっつあんが忽然と姿を晦ませて、おっかさんもその後にあの子をあの森にすむ刀鍛冶の所に引き取らせて長男坊さ連れて島を出て行ったんですわ…こう聞くと可哀そうな子なんですが…」

「可愛そうあるか!あの森の刀鍛冶つったら『鬼人・刀兵衛』だべ!あんな変人の刀鍛冶の野郎に関わってるんべ!」

「やめないか!…けったいな事を言うな!それにこの村さ支えてくれたのは大塩家のお塩有ってこそだべ!その製法が無かったら大戸塩はなかった!」

「失礼、大戸塩とは?」

「ああ…この島では村民一丸となって禁止日に塩を製造する習わしなんです。その製法を教えてもらったのが子孫代々から続く大塩家さんの方々なのですが…その大塩家さんの末代があそこの森の家で刀鍛冶をしている『大塩トウベエ』なんです。かつては塩作り一代…今の末代は本土で培った刀鍛冶…腕は立つんですが人付き合いは私どもとはよろしくなく…その根源があの『ゴン』なんです」

 村長が指差した森は先ほどまで共に乗船していた芹沢と名乗る青年学者が入って行った森であった。

 大人たちから逃げてきたゴンは森を進んで一件の煙突から煙が立ち込める家に着いた。

「珍しい…こんな時間に窯に火を入れるなんて」

 いつもと違う家の様子に気付いたゴンは戸を開けて中に入ると見知らぬ眼帯の男が居た。

「やぁ…君がゴウケン君…いやゴン君と呼ぶべきかな」

「おっさん誰だ…何で俺のあだ名知ってる」

「コラ、ゴン!ちゃんと挨拶せんか!」

 眼帯男と向かい合って座布団の上に胡坐をかいて着物姿で頭に手ぬぐいを回して被る男『トウベエ』がいた。

「客人か…こんな辺鄙なとこへ何しに来たんだか」

「ったく…すまんな、俺が礼儀を教えていないがばかりに…」

「いいや、寧ろ君に似ているのかもな」

「あん!?どういう意味だ!」

 話し合う二人をよそに銛を置いてトウベエに今日の収穫をつき出した。

「あぁ?なんだ今日も大量か…ウツボやタコまで…」

「ほう、これは中々…」

「ちゃんと先風呂に行けよ」

 トウベエに言われるとおりに玄関を進んで風呂場に入って行った。

「君もだいぶ親らしくなってきたじゃないか…」

「冗談じゃねぇ…あんなのと7~8年もいっしょに居たらそうなるわ…居候ならなおさらこの家の仕来りに従ってもらわなきゃならん」

「トウベエ…私たちもあの戦争から9年過ぎたんだ…こうして今私たちが生きて居られるのは大佐のおかげでもある…あの子もその意思を受け継ぐ要にいつかなるさ」

「あんなのが時代の要なら俺は政治屋にでもなってるよ」

「違いない…」

「それよりただ喋りに来たわけでもないだろう」

「…ああ、実はこれを見てほしい」

 そういうと2人の顔つきを変えて芹沢がトランクケースをトウベエに差し出して開けるとガラス状の容器に入った鉱石のような物を取り出した。

「…こいつは玉鋼にしては黒すぎる…なんだこりゃ見たこともねぇぞこんな鋼は…」

「私が酸素を研究していた過程で偶発的に誕生した未知の鉱石だ…おそらくどこを探してもどんな宇宙の中でも存在しえない鉱石であろう…私はこれを『D-METAL』と呼んでいる。…これを誰かの手に渡るよりも君の手で全く新しい形に変えてくれると思っている。ここにあるだけ君に託す…これで私の生涯のすべてを君に任せたい」

 トウベエは鉱石を手に取って確認して日の光に照らした。

 それを見ていたのは2人だけではなかった。風呂場の戸から覗いていたゴンもまた見ていた。

「…これくらいの量なら野太刀くらいできるが…待て待て…話が急すぎてついて行けない…」

「単刀直入に言おう…これで刀を作ってくれ…純度も条件も君が扱ってきた玉鋼と相違ない」

「お前、殺戮兵器は嫌っていたんじゃ…それでお前さんの親父は…」

「ああ…原爆で私の父は被爆したが…だがアインシュタイン博士だってああなることを望んでもいなかった…人の研究が殺戮のために有るとは限らないことを私は証明したい」

「それとこれと刀がどう関わる…」

「そのトランクケースに一千万ある…好きにしてくれその代わりこれら『D-METAL』と刀剣名をここに記してあるからを君に託したい」

 鉱石を覆う梱包材を取り払うと確かに現金で一千万円と刀剣の顔たる名前の書いた封筒を手渡した。

「…お前の頼みだが生憎金じゃねぇ…俺もお前に頼みたいことが有る……あいつを…ゴンを一時的に預かってくれ」

「彼を…」

 芹沢はチラリと風呂場の戸に目をやった。

「島の連中は20年周期の生贄儀式をするつもりだ…島連中はおそらくゴンを選ぶ…お前さんの所へ預かっていてくれ」

「こんな閉鎖的な島でもまだ行われているとは…そんな野蛮儀式が…しかも子供を生贄にするなど…なんて連中だ」

「それがこの島の本性だよ…どうすんだ?出なきゃ刀は作らん」

「ああ…もちろんだとも」

 芹沢は了承して風呂場に居るゴンの今置かれている状況に胸痛く感じていた。

「聞いてただろう…出てこい、今日からお前はこの人に匿ってもらうんだ」

 トウベエの声に合わせて戸を開けて濡れた体のまま、芹沢を見つめた。

「体拭いて、ふんどしくらい巻け…」

 トウベエは手を顔に当て、呆れ返った。

 それを見てクスクスと芹沢は笑うのであった。

 壱賀谷とキヨコは島民の集会場にて手厚いまでの歓迎を受けていた。

「ささっ、この島で取れた名産ばかりです。遠慮せずさっ大戸酒をぐぐい~っと」

「あっああ…これは」

 稲田に日本酒のをおちょこにつがれそれを礼儀通り飲み干した。

「ああ~…中々の味わいで」

「お父様、このお料理も美味しいです」

 2人は出された料理に舌鼓を打った。

「どうぞどうぞ…ゆっくり味わってください…」

「ええ…とっ…て…も…あっ…あれ」

 酒を口にして弱くないはずの壱賀谷がそのまま眠り倒れてしまった。

「おっ…おとう…さ…ま……」

 キヨコも料理を口に運んだ瞬間、突如眠り倒れた。

「……よし、倉に閉じ込めておけ…お客人にこの島の秘密を知られるわけにはいかん…それにこの島を売り飛ばす気は無い」

 灯した松明が引き伸びるほどその光の持ち主たちが急ぎ足でいるかが村集落の住民たちにそれが何を意味しているかが分かっていた。

「とうとう来てしまったのか…」

 森が松明の火で明るくなり、やがて村連中が大塩の家に着いた。

「トウベエ!!ゴンは何処だ!!」

「ゴンを出せ!!」

 叫ぶ集落の連中の前に戸を開けてトウベエが出てきた。

「なんだ…こんな時間に近所迷惑な…」

「おめぇさの家周りに近所が有るわけねぇだろう!ゴンは何処だ!?」

 桑や農業道具を構えて村連中がトウベエに向けていた。

「この辺に居る動物たちが俺のご近所さんだ…テメェらみたいに物騒なもん引っさげてくるバカとは違う」

「うるせぇ!もう引き返せねぇんだ!あの社長様のリゾート開発なんざ俺たちが認めるか!!」

「たとえリゾート開発なんざにしたら呉爾羅の怒りをかうべ!呉爾羅を復活させてわなんねぇべ!!」

 言い争っているとトウベエは頭をかいて家から出るとトウベエが打った刀を鞘から抜刀して桑を斬りつけた。

「死にたい奴から前に出ろ!!この鬼トウベエを殺せるもんならな!!戦争を経験しなかった奴らがこの俺を殺せるか!!」

 村連中は鬼人のようなトウベエに尻込みした。

「どっ…どうすんだ…」

「まっまて…トウベエ!お前と戦う気は無い!じゃがこの島の決まりなんだ!生贄を与えなければゴジラを蘇れらせちまう!」

「んなこと知るか!ガキ一人の命で助かろうとする連中の存命などオレが知るか!!」

 迫る鬼人に村連中はじりじりと下がっていく。

「ゴンが居たぞぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!」

 その声に反応して声のする方へ村連中は走って行った。

「さっさと行け…ゴン、ダイスケ」

「ありがとう、君には感謝することばかりだ…」

「行け!ダイスケ…ゴンを頼むぞ」

 ゴンと芹沢は島連中が居ない内に2人は別ルートで奔り抜けて行った。

 森を進むと軍服を着たかかしの立つ洞窟が見えてきた。

「こっこのかかしは」

 芹沢はこのかかしの軍服に見覚えがあった。

 軍服に軍帽子の階級章は大佐であることに気付いた。

「こいつはこの洞窟を守ってる『軍人かかし』って俺は呼んでる。この先の洞窟は大人たちが呉爾羅の巣穴と子供に言い聞かせてるが俺はここに何度も足を運んでるがそんな奴は居ない…いくぞ…」

「待ってくれ…少しでもいいから身を隠した方がいい…ホラッ」

 芹沢はかかしの厚手の軍帽子をゴンに被せた。

 深く目元まで隠れんばかりの姿になった。

「その方が君には似合う…軍人かかしからお借りしよう」

 ゴンは恥ずかしながらも頷いて2人は洞窟へ入って行った。

 先へ先へと進むと鍾乳石が上下に連なって生えていた。

「凄い…天然の鍾乳石がこんなに」

「見えたぞ…」

 ゴンについてたどり着いたのは大きなため池のような洞窟湖であった。

「おお…ここが…なんて美しい…」

 洞窟内に光は入っていないはずなのにまるでサファイアの如く湖が光り輝いているようであった。

「ここを沿って回って行けば山道を抜けれる。港埠頭にはそこからまっすぐ行く必要があるから走るぞ…おっさん体力はあんのか?」

「おっおっさんって…私はまだ20代だぞ…それにあの戦争を生き延びるだけの体力はある」

 自慢げにゴンに見栄を張る芹沢だがスタスタと先へと進んでいった。

 やがて洞窟の抜け道にたどり着くと芹沢は湖を振り向いて目に焼き付けるほど数秒間だけ見た。

狭くなる道を屈みながら進むと集落の見える崖路に出た。

「ここは子供しか通らないから集落の死角になる」

「なるほど…これなら安全だ」

「ゴンちゃんゴンちゃん!」

 崖下ではシンキチがゴンを見上げていた。

「ゴンちゃん、村の衆はおらが引き付けたってぺ!あとはこっちさ逃げれっぺ」

「よし、降りるぞおっさん」

 ゴンと芹沢は崖を下って降りて行った。

集落の入り組んだ死角に沿って隠れながら進んでいった。

「居たか!?」「いや居ない…クソ、どこ行ったべ!」

 途中、警戒に当たる連中たちが行きかう中で何とか集落出口に差し掛かる蔵までに到着するが、蔵から暴れるようにドンドンと音を叩きながら叫ぶ者がいた。

「おい!開けろ!!開けてくれ!!私たちは何もしない!!今回はお話をしに来ただけなのになんだこの仕打ちは!!もうこの島でのリゾート開発は断念する!出してくれ!子供がいるんだぞ!!」

「うぇええええん!!お母様ぁああ!!兄さまぁああ!!」

 叫ぶ壱賀谷と泣き崩れるキヨコが蔵の中にいた。

「さっきのお客人じゃ…」

「助け出そう!彼等も私の乗って来た船の同じ乗船者だ」

 芹沢は塞がれた倉の門の長い板を取り外して2人を助け出した。

「おお…あなたは先ほどの」

「お話は後です!今はとにかくこの島を出ましょう」

「ああ…その方がいい…この島はイカれている」

 蔵を抜け出したキヨコはシンキチと軍帽を深くかぶるゴンの前で涙を拭いて礼を言った。

「ありがとう…もうダメかと思いました」

「いいんでべ、困ったときはお互い様だ」

「とにかく行くぞ…村の連中が来る」

「んだべが…おらはここでお別れだべ…ゴンちゃん、本土さ行くだベ…気いつけてな」

 4人はシンキチの見送られてそのまま埠頭まで走って行った。

 埠頭の休憩場では休憩中の船長が煙草を吸いながら新聞とラジオを聞いていた。

『あなたと共に~行きましょう~』

「なんだ…ビキニ環礁って…水着姿のねぇちゃんがうんさかいんだべ…そりゃ楽園だ…んんっ?」

 船長は走ってくる壱賀谷たちに窓から覗きこんでいた。

「おおお~い!今すぐ舟を出してくれ!!」

「あんれ?社長さん…どうしたとですか」

 船長は室内から出て訪ねると壱賀谷に肩を掴まれた。

「どうしたもこうしたもない!今すぐ舟を出してくれ!!」

「だせったてもう舟は出れんとですよ、波が高すぎます」

「あれを見てもそんな事を言えるのか!?」

 壱賀谷が指さす方から松明の光と共に鬼の形相をした島民が迫っていた。

「あんぎゃぁああ!今すぐ逃げましょう!!」

 船長は慌てて走って船に乗り込みエンジンをかけ始めた。

「さぁ早く乗ってください!」

 壱賀谷と芹沢は遅れる子供たちを先に乗せようと待っていた。

「さぁ早くキヨコ!!」

「待って…待ってお父様、きゃっ!!」

 キヨコは埠頭の段差に躓いて転げた。

「キヨコ!!」

 キヨコの背後から迫りくる島民に振り向いたキヨコは怯えて足が竦んでいた。

「あっああ…あ」

「キヨコ!!」

 躓いたキヨコに走り出して駆け寄ったゴンはキヨコを引っ張ったがそれでも動きけなかった。

 迫りくる島民たちはあと数m先であった。

「キヨコ!!」

―バァアアアン!!

 とどろく銃声と共に弾丸は村人たち手前の地面に着弾した。

「せっ…芹沢さん」

 撃ったのは芹沢のモーゼルであった。

 モーゼルの銃口から煙が立ち込め銃を構える中、埠頭をゆっくりと歩いた。

「下がれ!!撃たれたくなければ子供達から、この港から離れろ!!」

 剣幕張る芹沢に尻込んで暴徒と化した島民は静まり返ってゆっくりと後ろに下がった。

 やがて子供達の地点に着くとゆっくり屈んでキヨコを起き上がらせて子供達と共に拳銃を構えながら下がって行った。

「船長…船を出してくれ」

 舟に乗り込んだ芹沢たちは海の暗闇へと消え去って行った。

 島民は唯それを見送るだけであった。

「なんてことを…呉爾羅の怒りをかうぞ…」

「この世はおしまいだ」

「爺様に相談じゃ」

 舟を走らせて大戸島を後にした一行は安堵を隠せなかった。

「申し訳ない…子供たちが居る中で銃を引いてしまって」

「いえいえ!…あなたは命の恩人だ…それはモーゼルですか?」

「ええ…戦時中の私の相棒です」

 大人たちが会話する中、子供達は大戸島の方を見えなくなるまで眺めていた。

「……ぷっ…ぷははははっははははっ!!すごかった!!まるで冒険みたい!!」

「さっきまで泣いたり腰抜かしてたり忙しい奴だな」

「なによ!男のくせにレディの一人もリードできなかったくせに!」

「お前が重過ぎんだよ」

「なによ!!レディに向かって失礼極まりないわ!!」

 キヨコは腕を振る回しながらゴンに迫った。

 しかし、それでも恐怖は彼女を安心させなかった。

 振り下ろした手はゴンに抱き着いて不安を和らげた。

「なんだよ…」

「怖かった…すごく怖かった……少しは怖い思いをしたレディを介抱しなさい」

 キヨコはギュッとゴンの着物を握りしめて抱き着いた。

 無理もない。あんな思いをした後に来る恐怖は『もしあのまま…』と考えてしまうだろう。

 しかし、キヨコは顔を上げてゴンの顔をジッと見た。

「あなたゴンって言うの…ワンちゃんみたいな名前ね」

「あぁん」

「あぁんじゃないでしょ!ワン!ハイもう一回!」

「海に落とすぞ!」

「こら!レディに向かってなんて口!…はいお手」

 キヨコはイヌの芸の一つ『お手』を求めて手を差し出した。

 よくわからずにゴンは手を乗せてキヨコにクスクスと笑われた。

「フフフッ…あんたって身なり汚いくせに手は綺麗なのね…顔も…髪を何とかすればそれなりに…」

 キヨコはゴンの顔に手を回してジッと見つめた。

「私はキヨコ。壱賀谷キヨコ。あなたゴンとか呼ばれてるけど本当の名は?名前分かる?」

「バカにするな…宮下ゴウケン…質実剛健って言葉から来てるってトウベエは言ってた」

「そう…なんか固いからやっぱゴンがいい…ワンちゃんみたいだから」

 そうこうしていると揺れる船舶は東京の明かりが見え始めていた。

「見えてきましたぜ!…東京です!」

 それは戦後復興期の戦火から立て直した大都市東京の夜景の明かりであった。

 時は1954年、あの戦争から9年後の日本…

 山根家

 

「ビキニ環礁沖で米軍の水爆実験…第五福竜丸被爆…いや~物騒な話だ」

「もう、お父さん…新聞呼んでないでご飯運んでください。もうすぐ尾形さんもいらっしゃるのに」

「ああ…すまんエミコ…今日は尾形君が来る日か…」

―ピンポーン

「あっ噂すれば来たみたい、は~い」

 あの戦争の惨劇から時経ち、平和を謳歌する時代に…

「やぁエミコさん…遅れてすまない…最近、事件が多くて物騒で中々家に帰れないよ」

「いいえ、いつでもお越しください尾形さん、お食事できてますわ」

 この時代に誰が想像できたであろう。

 カイロ経由日本行き飛行機 着陸地点上空

 

「エジプトも良かったがいよいよ日本だ…ワクワクするよ!」

「おいマーティン、あくまで取材だぞ…日本の戦後復興の現状を取材するために来てんだからな」

「分かってるってレイモンド…でも待ち遠しいんだ…あのアインシュタイン博士が『夢の国』とまで呼んだ神秘のベールに包まれたこの国にこれたことが僕は嬉しすぎるんだ」

 誰が対処できたか…

「スティーブン・マーティンさまとテリー・レイモンド様ですね…日本へは何をしに?」

「日本の復興状況を新聞記者として取材に」

「左様ですか…では入国は許可いたします。どうぞ日本を楽しんできてください」

「あれっバレました?」

「顔に書いてある程、顔が笑ってるよ」

「だって楽しみじゃないか!…フジヤマにゲイシャ、ニンジャにサムライ!」

「ニンジャもサムライもいないよ、中世にナイトが居ないようにサムライも日本のナイトだ…とっくの昔に消えたよ」

「オウ、そうなのかい!?騎士はイギリスにもいたのに」

「あれは称号であって本当のナイトじゃ…」

 平和は簡単に崩れる…

 ドイツ便 帰国ゲート

 

「次の方…拝見します…日本へは帰国ですね」

「ああ…」

「ええっと…安久津ショウセイさまで」

「はい…」

 すべてはここから始まった…

 防衛次官 執務室

 

「阿久津…ショウセイ…小さいに青と書いて『小青』?」

「ええ…われわれCIA(ラングレー)は9年前からその男を追っています…出身は秋田県の雪原地域、雪の中での過酷な環境下でも漁を行う『雪男』の家系…10年前に日本陸軍大尉としてドイツ軍と日本軍の極秘研究施設にて着任。ある兵器の実験員としていた」

「ある兵器?」

「…戦時下、日本とドイツが共同で開発していた特殊迷彩戦闘装甲服、彼らはこれを『クラールハイトギア』と呼んでいます」

「『クラールハイト』…ドイツ語で透明…」

「そう、彼は透明人間です。ナチスは戦前に外宇宙から飛来した未確認物体を回収し解析して誕生したのがこの『クラールハイトギア』です…ご想像ください…草木や世闇に紛れて誰にも気づかれずに国家元首を暗殺できる者がいるとすれば…既に国を制圧されるのです」

「いま、なんと…?」

「我々は彼をこう呼んでいます…透明男(クリアマン)と」

 時代の歯車は動き出す…

 越中島駐屯地

 

「おい、岩永…また走り込みか?」

「ああ…この間の米軍演習後だ。訛りたくない、走りながら演習で覚えたことを記憶する」タッタッタ…

「あの演習の後に走り込むやつがいるとしたらお前だけだよ…ここは所詮警察の保険だよ」

 やがて時代は彼等を巻き込む…

 荷物受け取り所

 

「ええ~っと僕の荷物は…あった…んんっおもっ!」

「失礼…それは私のです」

「ああ…すいません、似ていたもので…」

「いえ…誰にでも間違いはありますよ…では」

「あの日本人凄いな…あんな重たい荷物を軽々しく持って…」

「おいマーティン、荷物来たぞ!」

「ああ…ごめん」

 これは新たな時代の幕開けである。

 防衛次官 執務室

 

「それともう一人…この者だけは我々の諜報力を持ってしても掴めません」

「はい?…爾羅威 慎呉…仮名?」

「我々CIA(ラングレー)にも引っ掛からないまったくもって謎の人物…戦時下の日本軍にこれだけ存在はあるのに全く持って無い…固体のように存在を匂わせ、液体のように周囲に溶け込ませ、気体のように蒸発し現在も不明…日本軍にこれほどまで幻の人物が居ることが正に『液体人間』と言わずにはいられません」

「液体…人間…」

 これは始まりである。

 港埠頭

 

 舟から降り立ち、4人はここで別れることになった。

「いろいろお世話になりました。このお礼はいつか」

「いえ…見返りは求めない主義です」

「じゃぁねゴン、あんたも立派なダンディな男に成りなさいよ」

「だん…でぃ?」

 そして、お辞儀をして4人は2手に離れて行った。

「あぁああむ!」

「何だいそれは…エビみたいだが」

「俺のおやつのオオドチュウ、虫だけどエビみたいだからウマい…まだたくさん〆た奴ある」

 ゴンは網いっぱいのオオドチュウを掲げた。

「へぇ~できればそれは人前で食べないことを勧めるよ」

「やらねぇぞ」

「いらないよ」

 そして、Gが目覚める―

 太平洋 深海地点

 

―グルルルルッ…

―ギャオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンン!!




―作者制作話―

どうも、作者の神乃東呉です。
唐突に始まったこの『MONSTERS SAGA』の本編も30話を越え、まだ少ないながらもああ~見てくれてるんだな~いろんな感想があるんだなぁ~と思えた期間でした。
そこで今回は『MONS-GOJIRA-』と題して正に怪獣娘や怪獣漢の始まりを連載しました。

―制作あたって―

そもそもこのMONSTERSシリーズのお話は僕が初めてゴジラの二次創作を思いついたことから始まりです。
しかし、当初は怪獣を等身大の人間に置き換えることは考えていませんでした。
そんな時に『ウルトラ擬人化計画』を見てコレだと思いましたが…この企画自体が怪獣が女の子に擬人化すると言うものはとしては完成していました。
怪獣が女の子に擬人化…じゃぁ逆に怪獣が人間として等身大で戦う話はどうだろうかと思いました。いわゆる発想の逆転です。
その怪獣たちこそ『ゴジラ』など円谷怪獣以外がうってつけでした。

―時代背景について―

この『MONS-GOJIRA-』時代背景にあるように50年代の日本の戦後復興期の物語です。
作中の大戸島もそれに合わせて当時の市区町村の閉鎖的観点と本編とのミッシングを施すためにかなり伏線を盛り込みました。

―少年ゴン ユウゴとアキ・宮下の関係―

言わずもがな本編を見てくれた方なら分かる通り「ゴン」はユウゴとアキ、つまりはゴジラとアギラのおじいちゃま、『初代ゴジラ』通称『ジジゴシ』です。
そんなおじいちゃんがなぜ怪獣人間となったのか、なぜ怪獣漢が誕生したのかもこの話で紐解きます。

今回はここまで!
これからも変わらずのご愛読をよろしくお願いいたします。 


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栄光丸

 始まりは海を航海する一隻の船だった。

 陽気な音楽を船乗りが奏でる中で乗客がこの大海原と幻想的な青空を見たくデッキに集まりだした。

 しかし、突如にして爆音と共に海がまるで中に太陽が有るかのような光を放った。

 海底火山でもない、何か途轍もなく悍ましく不気味な青白き光であった

「あれはなんだぁあああ!!」「海で何が起きてるんだ!!」

 それに気づいた乗客たちも船乗りも慌てて海を見るとその光に目を眩ませ次々と倒れ伏せる者も居れば慌てて船内で混乱して走り回る者も居た。

 チェスやギターを捨てて逃げ惑うもここは大海原のど真ん中、逃げ場は無かった。

 モールス信号で打電を打つも波の飛沫が船内まで入って来てやがて船体は炎上した。

 そして、沈没した。

 送られたモールス信号は遭難呼出波として海上保安庁に届いた。

 そして、その知らせは黒電話からある男の居る事務所に届いた。

 ジリリリッと鳴り響く黒電話の受話器を取り、耳にまで持ってその知らせを耳にするのであった。

「はい、南海サルベージの尾形です…なに?…んっ…よし、わかったすぐに行く」

 受話器を切り、自分の近くに寄ってくる値段の張るであろう洋服にリボンが無数についた帽子を被った山根エミコに謝罪すると心配そうに「何か事故でも?」と尋ねた。

 それに答えるタンクトップ姿の尾形ヒデトは肌面積の多い腕に染み付いた汗を拭き取って軽く頷いた。

「本社の船にSOSが入ったんだ…すぐ海上保安庁に行かなきゃならないんだ」

 それを聞いたエミコは残念そうな顔になった。

 無理もない、せっかく二人きりに時間の時に入って来た一報に尾形は『なぜこんな時に』と思いつつもブダペストの四重奏コンサートのチラシとチケットをエミコに回した。

「またしてすまなかったけど、急いで行ったら間に合うよ」

 そういう問題じゃないはずだが、しかし尾形の仕事である以上納得せざる負えなかった。

「残念だけど…お仕事なら仕方ありませんわ」

 尾形は急いで航海士の象徴たる海帽子を被り、エミコと共に部屋を後にした。

 その頃、上野アメヤ横丁にて―

 様々な物流が行きかうのと同時に人も行きかうアメヤ横丁をブロンドの髪にカールの掛かった髪型に清爽なスーツ姿で写真を収める若年の欧米人がいた。

「これはすごい!…米藁で編んだ草鞋か…おおっ!こっちは見事なまでの飴細工だ!」

 マーティンは目に捉えた物の新鮮さを収めんばかりに写真を収め続けていた。

「何しているんだマーティン!このまま越中島に移るぞ!」

 同じく同行していたスーツ姿で茶色髪の同行人のテリーに呼び止められた。

「分かってる!もう少し撮らせてくれ」

 風景を額に収めようと辺りにレンズを向けているとふと先ほど自分が荷物と間違えた荷物の持ち主の日本人が見えた。

「あの日本人…さっきの?」

 遠目ではあるが確かに空港に居た男であった。

「マーティン!越中島に行くぞ!」

「ああ…」

 人通りの多い、アメヤ横丁を突き進んでいく安久津には既に自分を尾行する者の気配を感じていた。

(…警察か…なら)

 通りに差し掛かってサッと細い路地へと走って逃げた。

「あっ!待て!!」

 狭い裏路地を駆け進み、途中のゴミ箱などを倒しては足止めをして酒瓶の入った積み上げたケースでも足止めを食らった尾行者二人は安久津を見失い取り逃がしてしまった。

 尾行者を撒いた安久津は古びたアパートの一室に入り、部屋に入って早々に壁を剥がし、大きく開いた穴の中から空港まで持ってきていたトランクケースを取り出した。

 机に置いてあるカッティングナイフで本来入れるべきはずトランクケースの底を繰り抜きだした。

 ナイフで開けた穴から二層の構造になっており、その中から黒塗りの特殊繊維素材の潜水服のような服が出てきた。

「…よしっ…ここもそろそろバレ始めた。頃合いだ」

 安久津は特殊服を開けて、着こみ始めた。

 足先を服の足もとに入れ、全面には人間の大胸筋と腹筋を思わせるような装甲と腕には電子機器たる装置を取り付け、頭部に保護用のヘルメットを装着して、足には特殊繊維と同じ素材のブーツを履いて、顔を二つのレンズと共にガスマスクのようなマスクを装着して視界を装置で暗視レンズを起動する。

「……目に見えぬ死神が向かうぞ……」

 海上保安庁では消息を絶った『貨物船・栄公丸』が北緯24度・東経141度2分の座標に消え、現在も連絡中であるが未だ応答の無い状況であった。

 そんな中で、南海汽船の幹部と尾形がスーツ姿で乗組員の関係者と共に姿を現した。

「どうも…原因はなんでしょう?」

 幹部は軽くお辞儀をして南海所属の貨物船の原因究明のため保安員に訪ねた。

 しかし、見当もつかないこんな会の事故に保安庁も頭を悩ませていた。

「まるで明神礁の爆発にそっくりです。いきなりSOSを打ってそのまま消息を絶ったんです」

 保安員のいう明神礁とは別名明神海山と呼ばれる海底から比高約1600mに位置する溶岩ドームである。

 当時の2年前の1952年に最初の噴火が報告されたのは焼津港所属の『第十一明神丸』にちなんで命名された。

 しかし、保安員が言うにはそれにそっくりであるとのこと、似ている何かが栄光丸を事故に巻き込んだと考えられた。

 不安そうな幹部に別の保安員が『栄光丸』と同じく南海船舶所属の船『備後丸』が現場に急行して何か分かるかもしれないと伝えた。

「ここですね…」「はい…」

 尾形の目に入ったのは航海地図上の栄光丸が消息不明になった位置を指さした。

 しかし、その頃すでに捜索に出ていた『備後丸』もまた海面に青白く光る発光と共に爆発炎上、消息を絶った。

 そして、『備後丸』が『栄光丸』と同一地点で消息が不明になった知らせが入って来た。

 状況は正に絶望的と言えるものであった。

「せめて、せめて生存者があるとか見通しもつかないんですか!?」

 栄光丸の関係者たちがごった返すこの一室に殺到していた。

 保安庁が全力を挙げて捜索していると伝えても納得のいかない状況であった。

 栄光丸に続いて備後丸も消息不明、7000tクラスの船舶が続いて2隻も消えたことに憤りと不安に駆り立てられた関係者が保安庁に捜査力向上を要求した。

「全力挙げて捜査を続けていきますから、その点ご安心ください」

 一方、別の大戸島の漁船が生存者を発見した。

「おおお~い!助けてくれ~!!」

 漁船の乗組員たちが漁船の浮き輪を投げ救助した生存者に話を聞いた。

「いきなり海が爆発したんだ!はぁはぁ…」

 その証言に驚愕する漁船の乗組員たちは顔色が変わった。

 生存者救出の一報は保安庁に届き、漁船に救助された3名は大戸島へ入港するため、保内庁から巡視船『穂高』を派遣することを関係者並びに報道記者に伝えた。

 しかし、関係者たちが聞きたいのはその生存者が栄光丸か備後丸かいずれかの乗組員なのかを知りたがった。

「目下、問い合わせ中ですからまもなく人命が判明すると思われますので今しばらくお待ちください」

 関係者も南海汽船の幹部も安心し切っている最中にまたしても一報が入った。

 その隙を付いて関係者たちが対策本部室に殺到してなだれ込んできた。

 関係者をかき分けて幹部と尾形たちが対策本部室入って状況を耳にした。

「大戸島の漁船もまたしても…栄光丸と備後丸と同じ運命です」

 救助したと一報が入った大戸島の漁船もこれもまた消息を絶った。

 なだれ込もうとしてくる対策本部前の入り口に関係者たちが情報の公開を求めるもなだれ込む関係者を抑える保安員で小さな騒ぎになった。

 そして、新聞の見出しには幾つもの憶測と報道が飛び交った。

―浮遊機雷か?海底火山脈の噴出か!

―原因不明の沈没事件続出 生存者絶望的

 その見出しに目を凝らして壱賀谷は自宅で新聞を読んでいた。

「大戸島は散々だったが…船が次々と消滅しているなんて知らなかったなぁ…」

 傍らにはコーヒーを自室にデスクに置き、新聞を広げる中で妻が寄り添うように二人で新聞の見出しを見つめた。

「あなた…あなたもキヨコも無事で何よりですわ…」

「そうだな…」

 窓の外に目をやると昨日までの怖い体験など無かったかのように元気で遊ぶキヨコの姿があった。

 その頃、大戸島では―

 

 島民が島に漂流する筏を発見して『筏だぞぉおおおお』と声を大にして村中に響いた。

 島民は直ぐさまに体力のある若者だけがその筏を泳いで引き戻しに行き、残る島民たちで焚火を燃やし始めた。

 筏に乗る人物はシンキチの兄、マサジであることを告げると慌てて海岸までシンキチと母親が駆けてやって来た。

「マサジ!しっかりせいマサジ!!」

「あんちゃん!あんちゃん!!」

 島民はマサジを起き上がらせ、目を覚まさせるために必死で体をゆすっては頬を叩いた。

 マサジは気が付き、『やられただぁ…』と島民に言い残して意識を失った。朦朧としているが命に別状はなかった。

 その後、島民たちは今日の漁を再開したが結局小魚一匹も取れないですべての船が帰ってきた。

 すると一人の年老いた島民があることを過らせた。

「こりゃぁ…呉爾羅かもしれんぞぉ…ゴンさ生贄んばかりにこんな…」

「何だと!!ゴンを生贄だと!!」

 その声は無理して起き上がったマサジを肩に腕を回して担いでシンキチがやって来た。

「おめぇら生贄さしないと言ったでねぇか!!生贄儀式さそんな野蛮な事をして…そんなにおめぇらの命が大事か!!」

 フラフラな状態でもマサジは島民たちに殴り掛かって内輪揉めになった。

「なにすんだかマサジ!!おめぇさは呉爾羅にやられたんだろう!!もはや後戻りできないのにゴンに逃げられた…どう転んでもわしらは終わりじゃ!!」

「ふざけんねでぇ!!ゴンはまだ子供だど!…おらにとってはシンキチ同じさ弟のようなもんをおめぇさんらが呉爾羅に怯えとるがために子供一人さ犠牲にして助かる命なんざ屑じゃ!」

「何じゃと!!マサジ!!テメェだけ助かっておいてなんだその口ぶりは!!お前ら若い衆は情なんぞに毒されたんが為にあんなどこかの分からん軍人さに教育されただが!!」

「おらたちの先生を馬鹿にすんな!!先生は教えてくれただ!!この世には捨てん命など無いと!!生きて生き抜くことをさ、おめぇらなんも分かってなか!!」

 大戸島の島民は若者と古参で二極する事態となった。

 そこへ雑誌社のヘリが通って海岸に着陸した。

「本土の連中だ!!みな、けえっぺ!!マサジも家族さを取り押さえ蔵に閉じ込めてけ!!」

 島民連中はマサジとシンキチを取り押さえ引きずるように運び出した。

「何をすだ!!まだ話終わっちゃういねぇべ!止めろ!!」

「兄ちゃん!!離せ!はんなせっぺよ!!」

「マサジ!シンキチ!!止めてけれぇ!!息子さ返してくれ!!」

 山田家族は島民に連れていかれ事実に反発するマサジたちは隠された。

 降り立った海上保安庁のヘリと共に新聞記者の荻原が辺りを大きなフラッシュライト付きのカメラを片手に写真を撮っていた。

 すると、向かいから島民たちがやってきた。

「ようこそ、お越しくださいました」

 荻原は村に案内され島民の拠り所たる寺の前で祈祷師と巫女が神棚前に祈祷と舞を踊って祭囃子のように歓迎される中で新聞記者は島民から聞きこみをしていた。

「呉爾羅?」

「ええ…大きさが尺デケェ怪物でしてねぇ…海を食いつぶしてそれが無くなったら今度は陸に上がって人間まで食うそうだ…昔はわけぇ娘っ子を海さ流して生贄にしとっただ…今でもこうして厄まれんように舞を踊るさ」

「へぇ…」

 不気味な天狗の仮面に着物で着飾った巫女は不思議な舞で音楽に合わせて踊るのであった。

 しかしこれはどれも偽り、本当の大戸島の姿を見せまいとする島民の偽りの歓迎である。

 やがて嵐が迫り、風が激しさを増していた。

 祭囃子のような音が聞こえてもれてくる中で軋む倉の中は凍えるような寒さにシンキチたち震えていた。

「あんちゃん、母ちゃん…寒いよう」

「だいじょぶさ!…何もしんぺぇすることねぇ」

「何が大丈夫なもんか!…村連中め…こんな仕打ち…クソッ!」

「やめれマサジ!…村連中は悪くねぇだ!」

「母ちゃんは村のこんさイカれんば儀式に何とも思わんだか!?母ちゃんの妹さ、おいたちのおばさんも呉爾羅の生贄さした連中の言いなりで!」

「けったいなこと言うでねぇ!クメは村のために呉爾羅に生贄さなっただ!!ゴンさえ生贄ばなっとったらこんなことには…」

「まだそがいなこと言うか!!生贄どうこうにしても意味なんかねぇべ!!村連中は頭がおかしいべ!人じゃない!」

「いい加減にせい!おめぇさが反発せしなけんればこんなことには!」

「あんちゃん!かぁちゃん!やめてけれ!」

 言い争う二人に仲裁に割って入った。

「…おれがゴンちゃん逃げしたべ…」

 二人に衝撃が走った。ゴンを逃がした事に母親は崩れるかのように膝をついてシンキチに問いただした。

「…なんかの冗談だべ…シンキチさそんなことをする子じゃねぇべ…ワルゴンさ逃がすようなこと…」

「ホントだべ…おら、ゴンちゃんさ友達だべ……友達見殺しにゃ出来んかった…いつも美味しい魚ば取ってきてくれた。ゴンちゃんはおらの…おらたちの憧れなんだべ!…どんなにつらい思いをしても逞しく自由に生きるゴンちゃんが誰よりも大切な友達だかんら!」

 シンキチのその告白に母は涙を隠せなかった。

 島の掟よりも自分の大切な友情を選んだシンキチを誇らしかったからである。

 二人はそっとシンキチを抱きしめた。

「あんちゃん…おら間違ったことをしただか?」

「いいんや!お前さ正しいことをしただ…」

「おっかちゃんが間違っとった!…生贄なんさ何にもならんことぐらい分かっとったのに…母ちゃん馬鹿じゃった… クメの時も村の意向にしたがっとっただけじゃった…許してけぇ…神様…」

 涙ながらに自分の島の愚かさに気付いた母親はここを抜け出すことを決意させた。

「母ちゃん!そうこうしていても始まらん…嵐が近い!何とかしてここを抜け出そう!」

 扉を蹴り上げては、叩いてみるもビクともしない扉に為す術が無かった。

「くそ!開け!開かんかわれ!」

 すると、ドォオンと大きな音さ響いて蔵全体何処らここら周辺が揺れた。

「なっ…なんじゃ今の…」

「…まさか…あん時の…」

 マサジにはそれが何なのか見当が付いていた。

「!…母ちゃん!ここを掘ってくれ!ここの隙間ならシンキチさ外へ出せる!」

 その僅かに開いていた地面と壁の隙間に穴を掘り始めた。

「ああ!ホントじゃ!掘るべ!」

 掘り進めると子供一人分が出れる穴が開いたがマサジと母親が出れる大きさでは無かった。

「待ってよ!あんちゃんと母ちゃんは!?」

「いいから先で出れシンキチ!…さっ早く!兄ちゃんたちも後に出るから…」

 マサジはシンキチを先に外へ出させて押し込む様に外へと出した。

「母ちゃん…もうわかってるじゃろう…」

「ああ…シンキチさえ無事ならええ…」

 二人だけ残された蔵は地響きと共に蔵は崩落していった。

 抜け出して外に出れたシンキチは振り返ると見る見る崩れていく蔵にマサジと母親を呼び叫んだ。

「かぁあちゃぁあああん!!あんちゃぁぁぁあああん!!」

 大雨降りしきる中で蔵は崩落して土砂と共に流されていった。

 シンキチは島民に抱えられて避難させられた。

 ゴーゴーと風が吹く中で大嵐に見舞われる大戸島は騒然としていた。

 波は高く、茅葺は揺れて、木々が倒れ行く中で島民は避難に歩みを進めるのであった。

 海上保安庁のヘリは横転して飛行不可能なまでに大破してしまい孤島に取り残された。

 丁度その頃、江東区越中島駐屯地

 

『警察予備隊』及び『保安隊』

 1950年にGHQのポツダム政令に基づいた『警察予備隊令』によって設置された日本の平和と秩序を維持し、国家の警察力を高めるために設けられた目下国家軍事組織である。

 1952年に保安隊として改組され、その活動は警察の任務の範囲に限られるべきものであると定められていたが、実質的には対反乱作戦を遂行するための準軍事組織という立ち位置にある。

 また組織として警察とは独立して内閣総理大臣の指揮の下に活動をしている。

 1950年以降の時点では管区隊の編成は、管区総監部及び直轄部隊のほか、3個普通科連隊、1個及び2個の特科連隊で編成されていた。

 ここ、越中島駐屯にも当時の保安拠点の一つとして第1管区隊として設置されたばかりであった。

「ここが日本の保安隊の駐屯地か…」

 マーティンは駐屯地の外観を写真に収める中、迎えが来たことにカメラの中から気が付いた。

「お待たせしました。本日、あなた方を案内いたします。岩永トモ1等保安士です」

 敬礼をマーティン達に向けるその男は日本の警察官のような出で立ちの姿だが、制服の色合いが少し異なりそれが警察との区別化に伴うものであったことが伺えた。

「ニューヨークタイマーのスティーブン・マーティンです」

「同じくテリー・レイモンドです」

「ではここから先は駐屯地をご案内いたしますので…」

 振り返り2人を案内しようとすると、奥から同じ保安官が岩永に一報を伝えに来た。

「えっ!?大戸島に災害派遣命令!?」

 その一報に案内を中止せざる負えなかった。

「一体何が?」

「ああ…いえ、先ほど我々に大戸島から緊急救助要請が入りましたので災害派遣命令が発令されるかもしれません。ご案内は一時中断させていただきます!」

「なんと!それは残念な事ですが…仕方ありません…」

「いや待ってくれテリー!これはいい機会だ!あの、岩永さん。我々もその災害派遣に同行できないでしょうか?」

「えっ!?それは…」

 マーティンの提案に保安官の岩永にはどう答えられなかったがその判断にある政府に問わなければならなかった。

 国会議事堂前

 

 国会前では有識者が次々と集まりつつ、記者たちの質問攻めにも答えている暇のない議員たちが自身の乗って来た車から次々と降りて、記者をかき分け、フラッシュをものともしない中を通って国会議事堂に入って行った。

 国会議事堂内 緊急対策閣議会

『大戸島特別災害対策本部』

 

 戦後初になる大型災害による保安隊の災害派遣に対し、総理始め議員たちが対策本部と題した仮の一室で細長いテーブルを囲んで参列していた。

「どういうことだ?大戸島での台風情報は気象庁から入っていないはずだろう!」

「ええ、それがしかし、民間のヘリが強風によって横転し大破炎上して波が高く海上保安庁の避難船も出せない状況とのことで」

「なぜ出せないんだ!?巡視船はどうしたんだ?」

「ええ…巡視船等を先の『栄光丸』捜索に出た船舶がことごとく消失しており」

「何で肝心な時に海上保安庁の船が居ないんだ!?」

 最後に対策本部に入った総理は業を煮やしていた。

「とはいえ、保安隊発足以来の災害派遣となる上に大戸島はほとんど情報の無い島での災害派遣だぞ」

 悩む総理に一人の議員が手を挙手して次のように述べた。

「総理!ここは『くす型護衛艦』に島民を乗せて本土に避難させてどうでしょうか?就役1年少しですが大戸島の人口は1000人足らずとのことですので」

「うむ…ことは一刻を争う!保安隊の災害派遣は絶対として、災害の原因究明も重要だ!」

「山根博士はどうでしょう?東都大の教授にして我が日本の頭脳とも言える人物です!」

「おお、そうか…では至急山根博士に大戸島への同行を…おっ?なんだ?…」

 総理と議員が話し合う中、総理に伝言が入った。

「なに?アメリカ人記者が災害派遣の同行を求めてるだって?ダメに決まっているだろう!危険すぎるし不謹慎だ!」

 しかし、ここへ外務省の議員が挙手をした。

「総理!割って入るようで申し訳ありませんが事は災害大国である我が日本の保安隊による初の大型災害派遣を目下国外への情報発信のためにもここは一つ許可してはどうでしょうか?…最もいまだ日本の『警察予備隊令』に対して軍隊組織とする見方もありますのでここは一つ、海外メディアに取り上げていただいて災害派遣状況を報道していただくと言うのはどうでしょうか?」

 議員たちがざわつき始める中、総理は深く考えて次のように政府は公表した。

『大戸島特別災害派遣に伴い、くす護衛艦2隻と第一管区隊の派遣目下有識者として山根キョウヘイ教授とその関係者、並びにアメリカ人記者2名を大戸島へ入港決定』

 そして、当日―

 

 くす型護衛艦2隻と共に保安隊派遣連帯編成された保安官計500人体制と山根キョウヘイ教授、その娘の山根エミコと南海サルベージ所長・尾形ヒデト、アメリカ人ニューヨークタイマー記者のスティーブン・マーティンとテリー・レイモンドの計5名を乗せ、くす型護衛艦は港を出港した。

―いってらっしゃーい!気を付けてけよ!

 派遣に出向く保安隊と尾形たちを一目見ようと漁港では人が集まって見送りに来ていた。

 行ってきますと手を振る尾形とエミコの視界にはたくさんの人たちの中に眼帯の上からサングラスをかけた芹沢の姿があった。

 護衛艦は出港していよいよ大戸島へ向けて航海を始めた。

出港から数分後には港は見えなくなり護衛艦は大海原のど真ん中にいた。

 この景色の中で尾形は先ほど居た芹沢の事をエミコに話していた。

「芹沢さんが見送りに来るなんてよっぽどのことだな…滅多に実験室から出たことのない人が…最後のお別れに来たつもりかもしれない」

「まぁ…どうして?」

 尾形は備え付けの望遠鏡を覗いて海を見渡した。

「もちろん危険水域を避けていくだろうが万一と言うこともあるからね…」

 尾形はエミコに少し辛いことを仄めかしてしまった。

 自分でもなぜこのような事をしているのか分からなかった。

「尾形ヒデトさん!山根エミコさん!至急来ていただきたい!…山根博士が皆様を招集していただきたいとのことで」

「あっはい…」

「あっ申し遅れましたが、今回の大戸島特別災害派遣の任で指揮を担当しました。岩永トモ1等保安士です!ささっどうぞ中へ」

 尾形たちは岩永に案内されるように船内の広い一室で航海地図や学術の本類、機器類が並べられる中に一人老年の白髪の男性はエミコの父にして東都大学の山根キョウヘイ教授であった。

「ああ、尾形君!よく来てくれた」

「ありがとうございます、山根博士。僕まで同行させていただいて」

「いやいいんだ…それにこれは君にも十分関係することだからね」

 2人が会話する中で、エミコに一人、声をかける人物が居た。

「アッ…ハッハジメマシテ、ワタシノ名前、スティーブン・マーティンデス」

「あっ…どうも…えっと…なっナイストゥーミチュー」

 その答えにマーティンはクスリッと笑った。

「ああっいえ失礼…アメリカ人の僕が日本語で話したら日本人のあなたが英語で返して来るものですから…申し訳ない」

「あら!?先ほどの日本語とは思えないほど流暢ですね」

「ええ…これでも日本語は何度も勉強しています。戦前は通訳者として米軍に居ましたので…でも日本には行かずに終戦を迎えたので今回が初めての来日に当たってとても恵まれたビックチャンスに乗っかりました」

 マーティンはそのビックチャンスがここと言わんばかりに下を指して、彼はこの災害派遣をビックチャンスと捉えていることが伺えた。

「では改めて、スティーブン・マーティンです。アメリカでニューヨークタイマーと言う新聞雑誌の記者をしています。あっちに不機嫌そうな顔をしているのが僕の友人で同僚のテリー・レイモンドです。彼は日本が嫌いと言うわけでは無いんですが…いわゆる職業柄の疑わしい性格なので…」

「そっそうなんですか…」

 マーティンはエミコの手を取って、彼女の目を見つめた。

「とても素敵な目だ…あなたのような綺麗な方とご同行できる僕はとても運が良いようだ」

「はっ…はぁ…やっ山根エミコです」

「エミコ…素敵な名前だ」

「んんっんっ!!」

 尾形は咳払いをして割って入る形でマーティンの握るエミコの手を払って尾形はマーティンの手を握り返した。

「南海サルベージ所長の尾形ヒデトです!ど・う・ぞ・よそしく!」

 強く握ったマーティンの手から彼の意思が伝わった。

「オウソーリー!ボーイフレンドがいらっしゃるとはつゆ知らずです!…故意はありません。ソーリーヒデト、エミコを幸せにしてあげてください」

 そのつかみどころのないマーティンの態度に不審がる尾形は手を離して改めてお互いの自己紹介をした。

「ええ~皆さん…それではこれより緊急ではありますが…私が現時点で分かった情報を皆様にお伝えします」

 突如、山根博士が記者会見のような形で皆に現状の大戸島を取り巻く状況説明に入った。

「ええ~まず、突如発生した大戸島の気流の変化は局所的な電磁場による影響かと思われます…こちらの通り、大戸島には計器に異常な数値を狂わす何らかの磁場が発生していると思われます」

 山根博士が提示した計測類の殆どの機器類が異常な数値が安定しない程に上がり下がりが激しかった。

「博士!その磁場はどういったモノなんですか?」

「私もまだ上陸して見ないことには確証はありませんが…言うならば電磁パルスのように機器類を退くか故障させる一種のフィールドのようなものかと考えられる」

「それは島に何か影響があるのですか?」

「島を中心に何か途轍もないエネルギー量が蠢いているとしか…まるで生き物か溶岩のような…しかし、溶岩にしては発生場所が一時一区違うのが見て取れる」

 観測されたデータと山根はボードにある航海図に照らし合わせて指し示した。

「それと、これらの観測された海域は丁度このように…」

 山根博士が照らし合わせたのはもう一つの航海地図であった。

 薄く重なり合ったその航海地図の上には何と消息を絶った貨物船等の船舶の位置と重なる。

 その中には『栄光丸』が消息を絶った位置もあった。

「これは一体どういうことですか?」

「そう、私もこの事実を知った時には驚いた…このフィールド内にすべて消息を絶った船舶の位置とすっぽりハマる」

 発生している電磁場のフィールド内を円に見立てると栄光丸含めた消えた船舶の位置と重なり合うほどその円の中にあった。

「私が考えるにはこれはおそらく…縄張りだと思われる」

「ちょっと待ってください!生き物なんですか!?」

「ああ…自然界でいうところのマーキングにも似た領域と見て取れる…この海域に入った船舶だけが襲われて消滅している…我々はこれを迂回しているから危険海域を避けて正解だったと言える」

「オウマイガー…なぜこのような事に…仮にこれが生き物の仕業としてもあまりにも…被害が大きすぎますよ」

 マーティンの言う通り、ことは貨物船と言う日本の海域の公海上に物流たるルートでの事故ではなく、生き物による被害が何を意味するのか悍ましかった。

 すなわち7000tクラスの貨物船を意とも簡単に破壊し沈める化け物が存在すると言うことであった。

 そんなものがもし、東京に上陸でもすれば恐ろしい結果は彼等が想像するまでも無かった。

「私も、ただの妄想で居てほしいが…これは大戸島につかない限り謎は解けないと言えます…気象庁も観測できなかった嵐の謎も…すべての答えは大戸島にあります!」

 静まり返る護衛艦内はいよいよ大戸島に入稿しようとしていた。

 

 一方その頃の港付近の床屋では―

 

 カランっと扉の上に着いた来店の鈴が店内に鳴り響いた。

「いらっしゃ…なんだ、お客さんでしたか…」

 中年の散髪屋が振り返るとスーツ姿にサングラスの芹沢であった。

「戻ると言っただろう…船を見送りに」

 サングラスを店内で外した芹沢は内ポケットにしまった。

「ええっ…それにしても随分とこの子は毛量が多いですね…でも、その割に髪質は綺麗ですな…こんな子は初めてです」

「知り合いの子ですので…よくはまだ知らないのでこれからですかね…」

「そうですかい…それより保安隊が災害派遣とは…わたしゃてっきり軍隊化による再来かと思ってましたよ…日本軍の発足かって…」

「いいや…日本軍はもうこの国には存在しませんよ…軍隊はもう必要の無い…かつてはそれに準じて軍部が暴走して起こしたのが太平洋戦争ですから」

「違いないです…私も兄と父を失いましたので…あなたは…その…」

「目ですか…そうですね…これも失った物の一つですよ」

「人は誰だって失って初めて気づく者ですよ」

 芹沢の隣で雑誌を読みながら待つ男が居た。

「ほう…あなたも随分と先の戦いで失ったような目をしてらっしゃるようで」

 芹沢にはわかった。まるで死んだ魚の目をしたその人物は戦争経験者であることを見抜いた。

「あなたが失ったのは何ですか?」

「……心と思い出…ですかね」

「心…ですか…私達のようなもの全員に当てはまることだと思いますが…思いでは初めてですな…」

「今日…私はその思い出を取り返しに行くのです…そのためには身だしなみくらいしっかりしなくては」

「……女性ですか?」

「……ええっ」

「終わりました。…どうです?こんな年で中々の男前になりましたよ」

 仕上がり整った髪型を印象付けてゴンの暗い目元の前髪を減らしたことで素顔をさらけ出して明るくした。

「ええっ…中々です」

「それもまぁそうなんですがねぇダンナ…この子の首回りに少しトカゲの肌みたいな?黒い皮膚があるんですが…」

「これは魚鱗癬という遺伝子異常によって皮膚表面角質の形成障害ですが体に害は無いのです…生まれ持っての…個性みたいなものですがこの子の住んでいた所は偏見と差別が強い地域だったので私が一時的に預かってるんです」

「そっそれは大変失礼しました!」

 散髪屋は触れてはいけないことを触れたと思い深く謝罪した。

「いいよ、おっさん。嫌われ者は慣れている」

 ゴンは巻いていた毛避けの布を脱いで台座から降りた。

「そっ…それは…」

「彼がそう言うんです…気にしないであげた方が彼にもあなたにもよろしいです」

「はっ、はぁ…」

 ゴンは扉の取っ手に触れると芹沢と話していた男の顔を見た。

「…中々の顔じゃないか…」

「…あんた、焼いた魚みたいな目してんな…」

 そう言い残し、ゴンは外へ出た。

「申し訳ない…しつけはロクにされていないようなので…」

「いえ、子供はあれくらいがちょうどいい性格と肝をしていれば上出来ですよ…最近、東京に越したばかりですが安久津です」

 安久津は芹沢に握手を求めるように手を伸ばした。

「芹沢です…またどこかでお会いするかもしれませんね」

「ええ…そうですね」

 そういうと代金を払った芹沢は店を出てゴンと共に街に消えた。

「…では、お待たせしました」

「ああ…女性にこれから会うので綺麗に頼むよ」

「かしこまりました」




―作者制作話―

今回のお話でいよいよ様々な原点キャラクターたちがお互いに顔を見合わせました。
最後の方では物語の鍵を握る男『安久津』と芹沢とゴンの邂逅が僕にとっては何よりの見所でもあります。
果たして、安久津の目的は?この国に迫るのは一体何か!?
物語は序章を越えいよいよ本格的にGが動きます。

―警察予備隊からの保安隊ー

原作の劇中では防衛隊となっていますが、ここがこだわりです。
元々、日本国憲法第九条の通りに軍隊の所有をしないとあれども自衛力は必要不可欠とのことで今回では自衛隊ではなく、この当時の時代背景に合わせて保安隊として登場しましたのが言わずもがな後の自衛隊です。

―ゴジラのようなシン・ゴジラ―

今回の話で国会の緊急招集のシーンがありますが、これはシンゴジラに付随する政治的背景や描写こそゴジラからシンゴジラ、シンゴジラからゴジラを意識しました。

―電磁場フィールドー

ここはアニゴジですね、平成最後のゴジラを昭和最初のゴジラに組み込んだ設定となっています。次回ではコレを更に関連させる内容となるでしょう。

今回はここまで!
次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。 


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科学者

 黒の外観の色合いに丸いヘッドライトと並んで中央に三角形の赤いエンブレムの付いた4ドアのセダンに乗用する芹沢とゴンはある場所へと向かっていた。

 揺れる車内でみすぼらしい服装と出で立ちであったゴンは髪型を切り分け整え、服装もチェックの洋服に短パンのズボン、白の靴下に黒の子供用の革靴を履いている事に慣れないのか服をいじったり、靴元を擦って試みていた。

「コレッ…せっかく揃えたんだ、綺麗に扱え」

「あんたの選びが悪い」

「無理を言うな…だが、これから向かう所は由緒正しい身なりで無ければ失礼にあたるということだ」

 山道を進み、一件の豪邸が森林生い茂る山の中に姿を現した。

 外の門から使用人らしき老年の執事姿の男性が立ち尽くして待っていた。。

「芹沢様ですね、当家の主があなたをお待ちしております」

 執事に門を開けもらい、車を邸内に走らせて駐車した。

「着いたぞ…」

 芹沢とゴンは車を降りて噴水湧き出る庭園の奥に西洋屋敷の外観の邸宅に歩み進んだ。

「遥々よく来てくれた芹沢くん」

 庭園の草のアーチをくぐって初老の主と思われる男性とテディベアを抱えて白いワンピースに輝く少女が男性の手をつないでやって来た。

「真船先生…お久しぶりです」

 芹沢と同じ学者の初老の出で立ちの真船と言う人物と握手を交わした。

「おや?そちらの子は?」

「ええ…私の所属していた部隊の戦友から子守を任されまして…」

「子供嫌いだった君が…一体どういう風の吹き回しなのやら…初めまして…私は真船シンゾウ、こっちは娘の―」

「カツラです…」

 人見知り故か真船の襟袖を掴んでテディベアで自分の顔を隠す娘のカツラにはゴンは首を傾げた。

「あの戦争を経験すれば誰だって生物学的な…いや本能的に自分の持つものをすべて継承しようとする…あなたの最初の講義で仰ったことは今でも忘れませんよ」

「我ながら変な授業をしていたと思ったが…君のような熱心な生徒は居なかったよ……いい車だ」

 真船は芹沢の車を一目見ようと鏡のように自分の顔が映る塗装に目を懲らした。

「ええ…知り合いに豊田の自動車メーカーに試運転用にお借りした『クラウン』と名付けられた車です…順当に行けば来年から日本の市場、ゆくゆくは日本国産車として海外展開も計画中とのことで」

「王冠(クラウン)か…まさに日本の自動車産業を担う車にふさわしい名だねぇ…話しておきたい事は山ほどある、案内しよう」

 そういうと真船親子を先頭に2人は彼等について行き、屋敷の中へと入って行った。

 執事が部屋をノックしてトレーに乗せて紅茶葉の入った容器に紅い紅茶とそれを注ぐためのティーカップが真船と芹沢、科学者2人だけの部屋に運び込まれた。

「イギリス製茶葉のアールグレイです」

「ありがとうございます」

「輸入品だが最近は物価調整もあって安く手に入る海外品も多い…こんな屋敷を持っているにも関わらずセコイ生き方をしているよ」

 目の前に紅茶を置かれ、2人はその紅茶を口に運び喉を通した。

「うむ…それで早速、君からの国際便…拝見したが、本当に君の言うことを信用できないというわけでは無いが…君は例のアレをどうするつもりだ」

「私も今はそれに悩んでいます…自分の研究した過程で生まれた私の影…アレは私の心そのものなんです」

「そんな簡単な話では無い事ぐらい…君は十分理解しているだろう…君が持つアレは核に変わる全く別の新たなる殺戮兵器となるかもしれないのだぞ」

 2人の間に沈黙が走る。

 一人の教え子がもはや人の一線を越えようとしている気がしてならない真船には辛くも重い悲しき現実であった。

「兵器は科学者の結晶なんかじゃ無い…科学は常に軍事と言う魔物に利用されて来た……利用され続けるのはもう沢山だ……私にはこの屋敷と、こんな廃れた学者の私に尽くしてくれる使用人…そしてカツラ…私にはその一つ一つがかけがえのない存在ばかりだ……私は今でも妻を誇りに思っている…被爆した長崎、広島へ…医者として立派だったのに…私とカツラを置いて…二次被害でっぅぅぅうううっうっ…」

 目に移る真船の妻の写真縦に笑顔を見せるモノクロの写真が真船の心に刺さる傷を抉り、涙を浮かばせた。

 それは芹沢にも…廊下にて立ち尽くす使用人にも…彼の辛さや苦しみが伝わるのであった。

 1945年8月6日に広島、その3日後の9日に長崎と2つの地域が地球上初めての核の炎で焼かれた惨劇は戦後日本に大きな影と爪跡を残したと言われている。

 45年時点では放射能に関する被爆以外に原爆投下後の『黒い雨』と呼ばれる放射性降下物によって被爆被害による二次災害が多発、投下後に救援、捜索にあたって市内に入った者は急性障害を引き起こしたとされる記録が存在する。

真船の妻もその一人であった。

「カツラの生まれたのは8月9日…長崎に落ちたあの日に生まれ…退院後…あの時に引き留めておけばと何度思ったことか…神は私達を愚かと見ているのだろうか…」

「先生、この世に神は居ませんでした…それはあの戦争を経験した私たちの世代がそれを…身を持って体感しました……そして、私たちそのものが人間であり、神であり、悪魔であることを可能にしてしまった…核が私たち人間を根本から変えてしまった…それはもはや放射能や灼熱の炎ではなく…何か大きく変えてしまった…得体の知れない怪物へと」

「善と悪など所詮は人の言葉に過ぎない…所詮老いぼれの戯言に過ぎないかもしれないが、だがねぇ芹沢君…私はまだ希望を捨ててはいない!…私たちに残された最後の希望…それは彼等だ」

 真船が指さした先には窓の外にいるゴンであった。

「あの子が…」

「いいや、あの子だけでは無い…あの子も、カツラも、そしてこの時代に生きる子供達すべてが私たちの希望だ」

 芹沢は窓1枚隔てた先に居るゴンを見据えて考えた。

「あなたの言う『継承』ですか?」

「いいや、これは継承では無い…受け継がれたからと言ってそれが正しいとは誰にも判定できない…だからこそ、これから先に生まれてくる者たちが決めるべきなのだよ」

「彼等もまた同じ道に歩まれたら?」

「それまでか、あるいはそれこそ真価か…人はやがて新たな姿形を変えるかもしれない…その先でその力をどう使うかは私にもわからないさ…」

 真船は椅子の背もたれに寄りかかり、窓ガラスの先の空を見上げた。

「未来はいつだってわからない者さ…あと数年後の自分は死に絶え、別の自分になってるかもしれない…わかりたくもない…私は私自身と化学、そして未来が恐ろしくも興味深い議題に感じるよ…こんな矛盾した考えを持った学者は学者としては異端なのかもしれないな」

「先生…」

 真船の辛い気持ちが芹沢の科学者としての同一の苦しみに捉えられた。

 それは科学の研究を利用し続けた人類の英知たる自分たちの『科学』に疑心も希望も果て見えぬ先へ進み続けた者の成れの果てにも思えた。

 その頃、外の庭園を歩くゴンは途中、色とりどりの薔薇に立ち止った。

「なんだ?この花…」

 珍しい花にソッと手を伸ばして摘み取ろうと試みるも…

「ダメ…」

 少し離れた横からカツラが呼び止めた。

「なんだ…」

「綺麗な薔薇ほど棘があるわ」

 ゴンは花びらしか見ていなかったためそれが死角となり茎の棘が見えていなかったことに気が付いた。

「ああ…確かに棘がある…この花、薔薇って言うのか…俺の島に生えているハマナシに似ているけど…」

「ハマナシも同じ薔薇の仲間…日本の薔薇は『テリハノイバラ』『ハマナシ』『ノイバラ』の三種類があるの…薔薇は『花の女王』…その可憐にして美麗たる姿は古くから私たちを魅了するけど触れた手を血に染めてします。だから薔薇の花は赤くなる…」

「人の血を吸うのか?」

「そんな吸血植物ではないわ…今のはたとえだけど…でもどんな植物にも水分は必要…私たち人間も…」

「俺は人間なのかも怪しいが…」

 カツラはゴンが人間かを疑心する彼に首を振って否定した。

「あなたは人…私とこうして話し合える人が人で無いわけがない…意思疎通のできる、それだけであなたは人間であることの証明になるわ……私は今日、誰かとこうしてお花の話をできることに嬉しく思うわ」

 カツラは振り返ってゴンのクッキリした瞳を見つめた。

「…あなた…綺麗な目をしている…まるで薔薇のように…今後いろんな人があなたに魅了される…あなたには人を魅了する不思議な力を感じる」

「それは勘違いだ…俺は…ずっと嫌われ者だ…これからもずっと…好かれようと思わない」

「でも私は好きよ…あなたの目も…あなた自身も…」

 カツラはグッとゴンの目の前に近づいて至近距離で見つめた。

「…あそこ…あの花壇だけ空けてるの…あの花壇は…私の夢」

「夢?」

「うん…いつか実現不可能と言われた『青い薔薇』を一面に咲かせたいのが…私とお父さんの夢…」

 カツラは花壇の前に座り込み花壇を囲むレンガブロックにそっと手を触れた。

「あなたには…夢はあるの?」

「さぁな…俺に存在意義があるのかさえも解らない…」

「誰にだって生きる価値を見出すために私たちはこの世界に生かされているとお父さんが言ってた…あなたは何のために生きてるの?誰のために生きているの?」

 迫ってゴンの至近距離で彼に尋ねたがゴンは答えられなかった。

「ゴン!…話は終わったよ…帰ろう」

 ちょうど芹沢が戻って既に彼の愛車のクラウンの前に居た。

 ゴンは芹沢の呼びかけに呼応してカツラに分かれの軽いお辞儀をして芹沢の前へ走って行った。

「お嬢様…そろそろ屋敷に御戻りください」

「うん…分かってる…」

 カツラは執事に向かって執事の手を握り、屋敷へと戻った。

 屋敷に戻った執事とカツラは暖炉のある居間に入って、暖炉が必要無い時期にも拘わらず暖炉に火を付けていた真船が居た。

「…付いた…例のアレは持って来たか?」

「はい…こちらに…ですがよろしいのですか?」

真船は執事から受け取ったフチのカラフルにトリコロールが施され、差出人名に『SERIZAWA』と書かれた国際便を受け取り、それを穴が開くほど見つめた。

「彼はもう人間では無かった…科学者は常に人として大切な何かを失って生きているが…彼も私も既に人では無い…戦争は人から大切なものを常に奪う…科学者から科学を奪う…そうして兵器として利用する」

 そう言うと真船は芹沢からの国際便を火の付いた暖炉に投げ込み燃やし、芹沢と決裂をした。

「カツラ…私の元に来てくれ…」

「はい…お父さん…」

 カツラは真船の寄りかかるチェアのそばに座り込み、彼の膝に乗って共に暖炉を見つめた。

「芹沢君の子供はどうだった?」

「とても面白い子でしたわ…ええ…とても…」

「そうか……やがて私たち旧世代の時代は終わる…これからはお前たち子供たちの時代だ…次代は新たな息吹を求めているのかもしれない…私にさえも分からない新たな変革が起ころうとしている…」

 真船とカツラはジッと燃える暖炉の火を共に見つめ続けた。

 山道を抜け、町はずれに出て道路に沿って走り進んでいた。

「あの女の子と何を話していたんだい?」

「特に何も…」

「その割には随分と親しそうだった…まるで小さな恋人同士のように…」

「恋人?…なんだそれは…」

「男が女を好き好み…女が男を好き好む…そういった相思相愛な関係だ…」

「…俺にはよくわからん…」

「今はまだいい…いずれ解るさ…」

「あんたはそういう関係に成れた女は居たのか?」

「大人を茶化すものじゃぁ無い……だが一人居た…徴兵以前に私は10代で東都大学に在籍していた…その時にあの真船先生を含めた何人もの恩師が居たよ…その恩師の一人で山根先生の研究室に在籍して、自分の研究が好評的になるにつれ先生に婿養子迎えで先生の娘さんと婚姻関係に成っていた」

「婚姻関係?」

「子供の君には難しいか…要は結婚前提の付き合いだ…でも、当時の私は16歳…激化する戦時下では徴兵には十分な年齢だったが私は東都大学の研究過程に着手した陸軍上層部は私をガダルカナルの研究施設で兵力研究に充てられた…泥沼の前線に出ることは無かったが私には少尉階級が与えられ軍人として科学者として血生臭い悪夢の戦場のド真ん中で研究を強いられていた…最初のガダルカナルを始め、幾つもの研究施設を転々として時にはドイツでの研究施設でも割り当てられた…戦争は常に戦死者を出すからな、人手不足は常に多かった…そのドイツで君のお父さんに会っていたよ…名目上は短い期間の部下だったが」

 芹沢はゴンの父親の話に踏みきったが…

「興味ない…親の事なんざ顔も覚えていない…」

「そうか…でもいつか親と言う存在は君の目や耳と言った感覚器官に干渉するように君に触れて来るものだ…どんなに忘れようとしても忘れきれない…それが親と言うものだ…私にとって親とはかけがえのない存在だ…どんなに辛い戦況下であっても親家族、出会った人、出会った仲間、出会った恩人、そういった人々の為、生まれた故郷の為、世界の平和の為に私は今日まで科学を武器に闘い続けた」

 運転する芹沢の眼帯側から見てもその表情は虚しさとは違う感情を表に出しているようであった。

「君もいずれ大人になる…成長と言う進化の過程で君は時代の波の中で子を残すこともある…その時に君の子に何を残すか、何を受け継がせるか…それは君でさえ、神も仏でさえ分からない…何処へ進むかは時代の先にしかわからないものだ」

 芹沢の言うことに理解苦しむゴンはそっぽを向いて窓に映る青空に進み動く雲を眺めた。

 それはまるで芹沢の言うように時代と言う時間の中に波打つように雲は自分たちが乗る車より先へと動いているかの様であった。

(…やはり、首元の硬化皮膚が侵食している…これは魚鱗癬なんかじゃ無いのかもしれない…)

 芹沢はチラリと見たゴンの首元の黒い皮膚は先ほどより進行が広くなっているように見えた。

 賑わう繁華街、行き通る人々は銀座の大通りを行ったり来たり、安久津はそんな人間観察染みた主観の中で十字路の路面電車の行き来する尾張町交差点でわずかにしかない建造物の中で一際大きく目立つ和光服部時計店の時計台を見上げた。

「…銀座は焼けてもここは残っていたか…」

 戦時中、東京大空襲による戦火に燃える銀座の中で唯一免れ建っていたのは和光服部時計店の時計台であり、50年代の銀座を象徴するシンボルであった。

 店内では大小様々な時計や輸入品、宝飾品が並んでいた。

「いらっしゃいませ、何をお探しでしょうか?」

「無論、時計だ…時計店に時計を買いに来てはおかしいか?」

 顧客と睨んで声をかけた店員は滅相も無い事を表すかのように首を横に振って手をゴマする仕草で安久津に寄った。

「左様でしたらこちらのオメガの『シーマスター』はいかがでしょう。元は防水時計の『マリーン』から発展したものですが海運業などでは重宝され発売から6年目となりますが根強い人気の商品でございます」

 店員が勧めたのは1948年にスイスの時計メーカーオメガから発売された青のカラーリングを基調とした防水の腕時計『シーマスター』であったが…

「いや…私は海運業の人間では無いので」

「それは大変失礼しました。こちらなどは…」

 店員のセールストークはまだ続けようという試みには感服の意を隠せない安久津であったが、安久津の目に留まったのは1つの懐中時計であった。

「それは?」

「えっ…ああっ、こちらはウォルサムの懐中時計ですね…この時計はアメリカの15代大統領のジェームズ・ブキャナンが友好の証として孝明天皇に贈呈した一番古い初期のモデルの懐中時計ですね、その後の16代大統領に就任したエイブラハム・リンカーンを始めとした著名人も愛用していたんですがウォルサム自体が去年にボストン時計会社に社名変更してマサチューセッツに新工場を建設したんですが結局破産して、お恥ずかしい話で唯一残っただけの代物ですよ」

 安久津はその懐中時計の身の上話を聞かされたのか、その懐中時計がまるで自分と同じ時代に取り残された同士に感じていた。

 かつては親しまれ、その名の知れた物であっても激動の荒波に潰され見る影の無い物へと化したこの懐中時計が自分自身の写し鏡にも感じた事に衝動的な購入に踏み切った。

「衝動的ね…あなたが時を買って何を願うの?」

 懐中時計の購入を終えた安久津に背後から話しかけてきた女性はこの世の人とは思えぬ色白さに似合うまでの純白の服装が端麗な長髪に自分の顔を見透かすようなくっきりとした目つきが妖気的魅了を彼女の武器なのかはたまた自然にそうなっているのかを連想させる女性であった。

「…誰だ」

「白夫人と言えばわかるかしら…『小青(ショウセイ)』」

「『白娘(バイニャン)』か…」

 和光服部時計店内の最奥の時計屋の前で引き合うようにであった男女はそのまま人の流れに進んだ。

 時計屋を後にした2人は店内を見て回っていた。

「どうして…俺だと分かった…」

「あなたの律儀な出で立ち、仕草、息遣い、そのどれをとっても普通の人では無いから…仕込まれ、規律正した気配が軍の獣臭を醸し出す…まるで自分を探してくれと言うばかりにあなたは知らず知らずのうちに私を引き合わせていた」

 途中目に留まった物を選び、悩み、話し、決めるとそれを買い、自分たちの身に付けていた。

「どうして俺が『小青』なんだ…命令では俺は『許仙』であったはず…だが後になってなぜ…」

「『小青』に『白娘』、そして『許仙』…この名は『白蛇伝』からもじってるの…白蛇の妖怪が白衣の美しい女性に化けて、淫慾を満たしその心肝を食うために若い男性を攫う中国の民話…民話は時代によって物語を大きく変わったり追加したり都合の悪い描写は削除される」

「今のこの世界で起きていることと変わらないな…都合が悪くなると消したり切り捨てたり…その気に成れば世界は『誇り』さえも競売にかける…この国がそうだったように…」

 女はネックレスジュエリーを首にかけ、男は度の無い鼈甲縁の伊達メガネを目元にかけ…

「でも私は書き換えられた脚本にその物語の違う方向性を見ているわ…『白蛇伝』は幾つもの分岐したお話があるの…中でも私は白蛇が己の腹中(はらなか)を満たすために狙った男に恋してしまい白蛇は人間の女として男と夫婦になる話もあるけど、法師に女が白蛇であることを見破られ引き裂かれる悲恋、いろいろ有っていろいろ面白いの…」

「では俺が男ならなぜ『小青』なんだ…」

「『小青』もまた妖怪、白蛇のライバルにして恋敵ね…彼女もまた彼に芽生えてあの手この手で『許仙』を誘惑する…男と男が一人の女を取り合う女の理想の恋展開の逆…女と女が一人の男を取り合う…恋は妖怪を人の女にするの……でも私が描いてるシナリオは違う…」

「どんなのだ?」

 端麗な白き婦人服を身に包んだ女『白娘』と規律正しさを強調する黒い紳士服を身に着用した男『小青』。

 二人は銀座和光服部時計店を後に路面電車行きかう交差点を歩いて『白娘』は自分が描いた『白蛇伝』を語り始めた。

「貧しい薬屋の『許仙』はある雨の日、傘もなく濡れていた美しい『白娘』に自分の傘を差し出した。『白娘』は『許仙』のその優しさに惚れ込み『許仙』に結婚を申し込み、婚礼の支度金として紙で包んだ銀を手渡した。女の居ない『許仙』にとって突然舞い降りた幸せに『許仙』は喜び、姉夫婦にその結婚話と支度金を持って尋ねた。支度金の銀が入った包みを開いてみるが、中から出て来たのは盗品の銀であった。罪を問われた『許仙』は鞭打ちに処せられた上、蘇州へと流された。『許仙』を慕う『白娘』は蘇州へ追った。しかし、無実の罪であった『許仙』は『白娘』を憎んでいたが、彼女の心と向い合う中にその恨みは影を潜め、愛着だけが強くなっていった。2人は幸福な愛の生活を送ることとなった。しかし、許仙は茅山道人という道士に、妖魔に魅入られていると警告され、妻である『白娘』の正体は、妖怪『白蛇』だという…悩んだ『許仙』に近づく女の影…『白娘』に別れを告げた『許仙』に別の愛する女性『小青』が居るとして『白娘』に自分と縁を切るように仕向けた…でもそれこそ『許仙』が『白娘』に与えた試練…たとえ妖怪でも自分を本当に愛しているのか試すために『小青』と言う女をでっち上げて『白娘』の本当の愛を試していたの……」

「つまり『小青』は『許仙』であった…俺が『小青』である理由…」

 2人は町はずれの洋食店に入り、テーブル席に案内されメニューに目を張り、注文を決め店員を呼び止めた。

「ご注文はお決まりですか?」

「私はオムライスで」

「俺はライスカレーで」

 注文を書き留めた店員は去り、先ほどの答えを白娘は述べた。

「惜しい…あなたは『小青』であり、『許仙』である。でもあなたにはもう一つの名が有る」

「何処まで知っている…」

「ヘビは神の使いよ…なんでもお見通し……あなたが秋田県の山村部出身である陸軍大尉であることも…あなたが何故あの実験とあの装甲着に選ばれたのかはあなたが目指していたことに由来しているのでは?」

 2人が入った時まで賑わっていなかったレストランはランチタイムに入って人足が増え始めて賑わっていた。

 戦後成長期内にあって一店の店の中のランチ帯の賑わいがこの国の復興と経済状況が伺えた。

 店内を見渡していた小青だったが丁度自分たちが注文してた料理が運び込まれた。

「お待たせしました。オムライスとライスカレーです」

 運びこまれたオムライスに掛かる真紅のケチャップが一つの料理としてのオムライスを際立たせる。

 そんなオムライスに子供のように目を輝かせる白娘はそれまで清純で清楚な出で立ちに合わせた振る舞いをしていた彼女とは思えない程にオムライスを口に運び、うまさのあまり固く貴女を装っていた彼女の表情は緩み、頬に手を当てにこやかな笑顔を小青に見せた。

 堅苦しかったお互いの関係に緩んだギャップに小青はクスッと微笑した。

 正確にはさせてもらった。彼女、白娘が自分に久々の笑顔を浮かばせてくれたことに小青は心許したのか、今度は自分の身の上話を話し始めた。

「ヒマラヤの『雪男』…最近はよく耳にする不思議な『雪男』と言う名前…そもそもの語源は俺の故郷の秋田の人里離れた村の風習から来ている……村での俺は貧弱で男として情けないガキだった…一方、俺の親父は村の中で『雪男』と呼ばれる狩人だった…『雪男』ってのは雪原多い秋田の大地の中でジッと寒さに堪え、雪に潜みながら獲物を狩る狩人にとっての称号であり、勲章であり、名誉な事だった…そんな誇り気高い父と貧弱で情けない俺と比べられてよく馬鹿にされた…俺は別に馬鹿にされていたことに気にしては居なかったがこの『雪男』に俺は憧れはしていたが村連中も父親も自分自身も無理だと決めつけていた…でも人はきっかけさえあれば成れないものは無い事を知らされた」

「どんな?」

「俺には好きな子がいた…東京から転校してきた物静かな子だったがその端麗な容姿から人気で『雪奈』と親しみ込めて呼んでいた…どれだけの男が口説いても彼女は首を振らない子だった…一筋縄ではいかないその子に近づきたく俺は夜中に親父の村田銃を抱えて山道を超えて狩りに向かった…『雪男』って言う名は絶大な影響力を村全体に与える、そうすればあの子は俺に振り向いてくれると勘違いしていた…獣の獲物を狙っていたが本当の狙いは『雪奈』だった」

「ロマンティックな話ね…一人の女の子のためにあなたは銃を手に森へと立ち向かった」

「ところが森に入って早速、家畜の豚より大きなイノシシに出くわした…野生のイノシシの突進力は波の大人をも殺す威力を持っている…俺はゆっくり村田銃を構えたが5m先の至近距離で俺に突進してきた……俺は初めて生き物を殺した。冷静だった…迫る砲弾のように突進してくるイノシシがゆっくりに見えていた…響く銃声は森に広がり、村まで届き、大人たちと父親が駆けつけていた時には12歳の貧弱と罵っていた子供が家畜より大きなイノシシを仕留めていたことに驚愕していた…それ以来、俺は馬鹿にされないどころか12歳で『雪男』の称号を手にしていた」

「それで…どうしたの?その子とは…」

「俺はすぐさま雪奈の家へ向かったが…そこに雪奈どころか、雪奈の家族、雪奈の家そのものがもぬけの殻となっていた…噂では雪奈の父親は軍部に関わる科学者だったらしく、俺が『雪男』に成ったあの夜の内に雪奈とその家族ともども姿を消した…『雪奈』って名は民話の『雪女』から来ている。ある吹雪く晩に山の小屋に迷い込んだ青年とその小屋の主の雪女の時間を掛けた恋愛話…『雪奈』と言う名はその青年と駆け堕ちた雪女の名が『雪奈』…地域によってさまざまだが俺に取ってその名に比例する幻の女だった」

「あなたはその女の子を諦めたの?」

「いいや、馬鹿真面目に諦めつかず、村を捨て、15で陸軍学校へ進学した…そこでなら『雪奈』に会えると信じて…だが時が経つにつれ俺は3年を超えて、陸軍大学校に進学してやがてそれも卒業して戦争が始まった…俺はドイツに大尉として送られて今に至る…結局何処にも雪奈は居なかった」

「…そう…悲恋だけど…とても切ないわね」

 食べ終えたオムライスとライスカレーを食したスプーンを皿の上において席を離れて会計を澄まして洋食店を後にしようと扉に手を掛けた時だった…

「お父様~とてもおいしゅうございましたよ!―っきゃぁ!」

 はしゃぐ女の子が扉を開けた安久津の前へ滑り込む様に転び、今にも泣きそうな顔つきになっていた。

「大丈夫か?嬢ちゃん」

 安久津は女の子に手を差し伸べ、起き上がらせた。

「だっ大丈夫でございます!恐れ入りまする」

 涙をこらえて丁重に安久津に感謝を伝えた。

「!!…雪奈…」

 顔を上げたその女の子が安久津の視界に先ほど話した雪奈と重なる幻覚が肉眼に起きた。

「はい?」

「ああ…いや、何でもない…」

「これキヨコ!大変失礼しました…申し訳ない」

 子供の父親がやって来て、父親もまた感謝と謝罪をしてきた。

「娘が失礼働いたことをお詫びします」

「いえ…別に…」

「おや?あなた…どこかで」

 子供の父親は安久津にどこか見覚えのある顔であるのが伺えた。

「壱賀谷グループの壱賀谷社長ですね、あなたは…私は依然、和光服部時計店の創業パーティーで見かけた者です…お話こそしませんでしたが、あのパーティーであなたが誰よりも目立っていらしたので」

「ああ~…あの時の…いや失礼、何分多くの方に囲まれていましたので…」

「影響力のある貴方ならなおさらですよ…それじゃぁ」

「ええ…ご達者で」

 安久津と白娘は店を出て、壱賀谷とキヨコと別れた。

「お父様…お知り合い?」

「いや…でもいずれどこかでお会いすることになるやもしれんな…私は顔が広すぎるか…」

 壱賀谷は改めて自分の影響力を感じさせられた。

 洋食店から離れて、質素なアパート住宅街に入り、時間もまだお昼時の12時前後の青い空の下で白娘は頬を膨らませ怒っていた。

「なぜ怒っている…」

「別に…あなたにそういう趣味があると知っただけ」

「どういう意味だ…」

「あなたは未だにその雪奈を探っている…居もしない幻の子をさっきあの女の子と重ねていた…」

 白娘の観察眼は鋭かった。

「別にそんな…」

「うそ!あなたは…雪奈を忘れきれていない!…だからあなたはさっき…」

「………」

 安久津は白娘に言い返せなかった。

「ここでいい…あなたとは付き合える気がしない…この計画にはあなたが必要だと思ったけど…ここで別れるわ…じゃぁ」

「まて、白娘」

 安久津は白娘の手を引き留めた。

「何っ…むっぅう!」

 白昼堂々に人通りが無い場所で白娘の唇を奪った。

 絡む白娘と安久津の舌がお互いのオムライスのケチャップのトマトの味とカレーのスパイスが口同士の中で交わる。

「むっう…むぅっ…ぱぁっ…」

「それを決めるのは俺だ…ここで別れるのも君ではない…そして、俺がこう言う…ここでいいと」

「えっ…ええっ」

 呆然とする白娘を後に安久津は自身のアパートに入り、帰って行った。

 白娘もアパートを背に駆け足で去って行った。

その様子は別の者も見ていた。

「クリアマンが女と別れた…奴は例のアパートだ…女も回収しろ」

 別のアパートで監視をしていた白人男性は部下の突入班に合図を送り、安久津の帰ったアパートの扉端によって、『GO!』の耳元の無線の合図で扉を蹴破り、銃を構えて突入した。

「…居ない!窓が開いている…既に逃げられた…」

『違う!奴は逃げて居ない!!そのアパートにまだ居るぞ!!』

 暗黒めく部屋の中から暗視の赤い目が光る。

『ワァァアアアアアアア!!―ダダダッ…』

「どうした!応答しろ!!応答しろ!!」

「おい!女はどうした!?」

『ザザザァアアアアア…』

 無線からはすべて途絶えて全滅を過らせた。

 裏路地を越えて、塀に寄りかかる男と白娘が合流した。

「足はこの先の駐車場に停めてる…鍵はそこの柿の木だ…」

「ええっ…いつもありがとう、円谷さん」

「悪いが俺はこれで手を引かせてもらう…後は電気屋に一生を務め、弟たちと余生を過ごすつもりだ…一番下のエイザンはまだ8歳だからな…」

「ええっ…お勤め、ご苦労様です」

 男から離れて白娘は『円谷』と言う男の言う通り、駐車場に停められた外車に、ちょうど駐車場に生えている柿の木の枝元に掛かったキーを手に取って、停められた車の中へと入った。

「……始末したの?」

 白娘にはわかっていた、フロントミラーに移る輪郭が後部座席に座っている。

 透明な何者かが座っているが、白娘にはそれが誰なのかわかっていた。

「そのまま車を出せ…そろそろだ…」

 透明な何かが社内の窓を覗くと、安久津が先ほどまでいたアパートはドォオオオン!!と爆発炎上した。

「10分で起爆するようセットしたナパームジェル加工の爆弾だ…鎮火に時間が掛かるだろうが元よりあのアパートには俺以外はCIAだった…消えてもこの国の捜査機関には気付かれない」

「……出すわよ…」

 白娘はエンジンをかけて、駐車場を後にした。

 都心を抜け、高尾山付近のコテージに白娘と安久津は泊まった。

「しばらくはここで計画通りに…」

「それよりもアンタはこの国際便の通りの計画では俺にこんな大金の口座を渡して何を企んでいる…」

 安久津は白娘が送りつけた国際便の計画書とそれに同封された残りの口座小切手をヒラヒラと揺らめかせた。

「あなたにはそれだけの価値がある…随分と買い物しているようだったから…それにその金自体が元は私たちのお金…ジュエリーを買おうが婦人服を買おうがオムライスを食べようが私の意思よ…」

 白娘は安久津の首元まで腕を回して、鍛え上げられた安久津の胸元と豊満に満ちた白娘の胸が布一枚で触れ合った。

「まだ足りないのなら…今ここで支払うわ…それでも足りないなら…現地調達ね」

「武器はいつもそうやって扱っている…その辺の石でも武器になる」

「では女は?…あなたはまだ…雪奈を求める?…それとも」

「アンタが白蛇なら…『許仙』である俺を喰らうか…」

「あなたは『許仙』であり、『小青』であり、『雪男』…私以上の妖…妖は妖しか愛せないの…私のシナリオはそうなっている…食うか食われるかはお互い様…」

 安久津と白娘はコテージのベッドに2人で倒れこんだ。

「あなたこそ良いの?…私たちは陸軍内でもはぐれの七三一部隊…対してあなたは陸軍の極秘部隊…まるで月とスッポン……ねぇ、どうしてあなたは戦っているの…誰の為?」

 安久津はその問いに答えなかった…が、返答代わりに口づけで返した。

 上を取るか、下に屈するか、コテージのベッドで繰り広げられる男と女の戦場、愛し合いと言う名の戦場…

 安久津はそんな白娘との交わりの中でかつての追憶を呼び覚ました。

『はぁ…はぁ…はぁ…』

 血が水たまりの様にイノシシから流れ出る額の穴は絶命を意味していた。

 僅か12歳で命を始めて奪った…たった1人の女の子に振り向いてもらいたいと言う理由で安久津は人を捨てた。

 40kgを超える重装備を抱えて行軍する。

 仲間たちは次々と脱落して教官にしばかれる姿をいつも見ていた。

―ダダダダダダダッ…

 射撃に込める思いによって射撃能力は変化すると教わった。

 だが、安久津に込める思いも感情も無い中で引き金を引く。

 そうしているうちに的は常に真ん中を捉えていた。

『射撃、格闘、水泳、空挺、戦闘、技術…僅か10代でこれだけの成績を収めるのは稀に見る天才だ…でも君は天才であって人から怪物と謳われても君はまだ人間だ…』

 安久津18歳、この時はまだ『安久津』と言う名では無かった。

『では…人を捨てるには?』

『君は十分に人を捨てている…が、捨てたのは人であって間はまだ捨てきれていない…君には見込みが有る…ドイツに行け…今日から君の名は『中野ウメオ』だ』

 それが初めての名であった。

 後に様々な名で呼ばれ使い続ける。

 ドイツの首都内に着任した安久津は表向き日本からの留学生を装い、裏ではナチスに加担する獣だった。

『君が『川越タツミ』だね…今日から君の新たな任務はドイツ国内に居る反ナチス連党の討伐、及び内情調査だ』

ドイツに入国してレジスタンスの狩り、狩りは得意であったがそれでもやがて自分の中で本来の自分が存在しなくなっていることに気が付いた時には安久津は『安久津』と言う最後の名を与えられ、研究施設に実験投入された。

 装甲服は無色無存の姿、まるで自分が幽霊になったような気分であった。

『成功だ!!クラールハイトギア…ここに完成だ…』

『実験中止!実験中止!!ベルリンが…落ちた…総統が亡くなられた』

 研究員のドイツ人たちが騒ぎ慌てる中、安久津は射実験用のワルサーP38のスライドを引いた。

―カシャン…バンッバンッバンッ!!

 敗者には介錯人が必要であった。

 残ったのは転がる薬莢と血だまりに沈む研究員たちであった。

 最初からこれが任務だった。

 ナチスに勝因の無い状況は明かだったが、その科学力を刺激させ作らせたのが『クラールハイトギア』であった。

 そして透明なその鎧にふさわしく作られたのが『安久津』と言う人間であった。

 1945年、ドイツで『安久津』と言う名を被った兵器が誕生した。

「私はね…いつか私の白蛇の物語を完成させたいの」

 人肌で触れ合う安久津と白娘は互いの体温を感じていた。

「白蛇は神の化身…悪い捉え方をすれど良い捉え方もある…でも私が描きたいのはそのどれでも無い…」

「じゃぁ…白娘とは一体なんだ?」

「白蛇も女として恋がしたい…白蛇が描いた理想の女…許仙を惹くために装ったに過ぎない仮初の女…故にこの話は『白夫人の妖恋』…人の幸せを夢見た白蛇と愛した女が妖だった男の物語…」

 白娘は強く安久津の腕を抱きしめた。

「俺は誰にも買われるつもりも無い」

「でもあなたは私を愛で買った…」

 白娘は安久津の反対の右手まで手を伸ばして彼が握る懐中時計に触れた。

「私は人外に憧れていた…あなたはそんな私の憧れの体現者…あなたなら…こんな世界、変えてくれる…」

 蓋の閉じた懐中時計はその中で秒針動かし、時を刻む。

 科学が生んだ時を定める道具が2人の一時の時間を表していた。




―作者制作話―

前回予告した内容とズレましたが今回はゴジラシリーズに怪獣映画にある人間ドラマと恋愛劇をテーマに制作しました。

―真船とカツラ―

言わずも分かる方には分かる、『メカゴジラの逆襲』の登場人物ですね。
ただ、この中での劇中と原作は大きく異なり、その最大要素こそ『真船と芹沢の関係』です。
同じ科学者としての人の枠を超えた芹沢をどう捉えたかが伺えるシーンこそ僕が押すこの話の『科学者と科学』に大きくスポット当てました。

―白娘と安久津ー

この物語を制作する上で欠かせない二人が安久津と白娘です。
この二人は裏の主人公とヒロインです。
彼等の愛とそれを付け動かす動力こそ、科学が生んだ懐中時計の時の中です。

―透明人間と雪男、白蛇―

この二つは東宝映画の『透明人間』と『雪男』の名を安久津にー
東宝映画の『白夫人の妖恋』を白娘に与えました。
今後もこのテーマが重要になります。

平成最後の作品として上げた今回は『科学と恋愛』をテーマにできました。
次回こそゴジラがそのベールを脱ぎます。
そしてゴンと安久津の邂逅も…
 
 今回はここまで!
次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。


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呉爾羅

 大戸島に上陸して早々に保安隊災害派遣編成隊と山根博士率いる調査団、尾形にエミコ、マーティンとレイモンドの4名と村民たちに取材をしていた萩原たちが大戸島の悲惨な現状を目の当りにした。

「生存者は見つけ次第避難所に運べ!」

「ゆっくり行くぞ!せぇの!」

「保安隊派遣2隊から本部へ、10家屋以上が倒壊による損壊激しく―」

 捜索や撤去に充てられた隊や通信による現状確認をする通信隊の無線が飛び交っていた。

「おい!こっちに人が居るぞ!!」

「梃子で瓦礫を退けるぞ!!せぇ~の!!」

 派遣隊の保安官が家屋の下敷きにされている男女を救出したが…

「酷いなぁ…轢死だ」

「即死だなコレは…」

「うわぁあああああ、あんちゃん!母ちゃん!」

「コラッ!近づいたらダメだ!」

 遺族のシンキチが保安官に抑えられつつ担架に2人の遺体を本部へ運ばれていった。

「あんな小さい子の家族まで…可哀そうに…」

 それを見ていたエミコは悲しい気分が過った。

一方で山根博士含めた調査隊と萩原含めた取材陣が倒壊した家屋などにメジャーで距離を計測して倒壊した家屋内をガイガーカウンターで放射線数値を計測していた。

「当分はこの井戸水も使わないでください、危険ですから」

 島民の主婦方には井戸が使えないことに嘆き合う中、尾形は疑問に思ったことを山根博士に投げかけた。

「先生、放射能とは無縁なこの島でなぜ一夜の大嵐にこれほどまでの放射能が発生するのでしょうか?」

「恐らく…科学者の仮設であればこの間のビキニ環礁で行われた核実験の影響で放射能の雨がこの島に訪れたと見るべきかもしれない…」

 尾形はビキニ環礁と耳にして今朝の新聞の一面を連想した。

「例の合衆国水爆実験ですね…確かマグロ漁船の第五福竜丸の船員が被爆して日本中で反核運動が激化している状況でしたね」

「うむ…ただビキニ環礁と大戸島では距離が有り過ぎる…ビキニ環礁の水爆実験による放射能の雨が嵐となるとは考え難い…」

 すると2人の前にマーティンが帽子を脱いで立ち尽くし…

「私の祖国が皆さんに多大なる迷惑をおかけしていることに祖国を代表して謝罪します…申し訳ない」

「いっいえ、あなたが謝る事でもありません…これは人間の業か…あるいは例の謎の生物の仕業か…どちらにしてもそれには人間の手が大きく関わっている以上、我々に等しく贖罪をもたらせているのでしょう」

 謝罪するマーティンに頭を上げるように告げた山根博士は先へ進むと…

「のあっ!!」「博士!?」

 足場を踏み滑らせ段差に気付かずに山根博士は落ちた。

「だっダイジョブですか!?」

「ああっ私は無事だが…んんっ?」

 突如、博士が小脇に下げ抱えるガイガーカウンターが大きな反応を示した。

「なっなんだこれは…ちょっと瓦礫を退けて見てくれ!!」

 保安隊に瓦礫の撤去を要請して次々と撤去されるとその穴が明るみに晒され姿を現した。

「こっコレは…」

「オーマイゴッツ…コレはどう見ても…」

 それは穴と言うより大きな生物の足跡の様な形をしていた。

 確かな大きな爪の輪郭が3本、そこから輪郭を描いて踵に到達する長さは周りを囲む大人20人以上分はあることを見るとかなりの大きさであった。

「すっ凄い…大スクープだ」

 記者の萩原はすかさずフラッシュを焚いて写真を撮った。

「尾形くん…君はこれを生物の足と言って…信用するかね」

「…信用以前に生物なのかどうか、少なからず人知を超えてます」

 更にこの足跡にガイガーカウンターを当てると異常値示していた。

「この足跡に放射能がある…んっ、こっコレは!?」

 山根博士は水溜りに浮いていたある生き物を見つけすかさずメガネをかけてその生き物を手に取った。

「そいつはオオドチュウってなぁ、海さ魚喰っちまう迷惑なフナ虫ですわ!」

「フナ虫!?これが…」

「こいつさ大きくなって3尺(90cm)以上にもなるがや」

「3尺!?…そんなに大きく肥大化を…」

「博士!?コッチにも!!」

 マーティンが指す方の泥濘には無数の大小様々なオオドチュウがいた。

 しかし、このオオドチュウ…山根博士はただのフナ虫とは見えなかった。

「エミコ、尾形君、これは確かにフナ虫の特性を持ってはいるが…形状そのものはトリロバイト…今は絶滅していると言われる三葉虫に酷似している」

「先生、直接手で触れない方がいいです」

「ああ…しかしこれは大変な物だよ、生きた化石が外見変えずにしかも生態そのものに大きな変化を及ぼしている…水棲環境と陸棲環境の双方を取り入れて進化段階の生物と言える…全く新しい生物のカギだ、学術的な名を付けるなら…そう『進化過程生物(ショッキラス)』」

 サンプルとして拾った三葉虫をエミコの持つ保存袋にしまった。

「せっ先生方、そげぇなモン持ち帰るんがか!?」

「何か…よろしく無い事でも?」

「いや~良くも悪くも、そんなもの喰えたもんでねぇですよ」

「こっコレを?…まさか放射能による被爆で奇形に肥大化してしまった生き物を食べようだなんて…」

「だどもコレを喰っちまう奴が居るんですわ」

「こっコレを食べれるんですか!?」

「いいんや、普通は喰えるはずねぇ代物ですがゴンのやつがこのオオドチュウさ喰っちまうですわ、私らはそんな厄介者、気持ち悪くて食べませんし…」

 被爆したオオドチュウを食べる者が居ることを知った山根博士は学者としての良識を越えて頭が混乱しそうな状況であった。

「お父様!?大丈夫ですか?」

「ああっいや…そっその子供は…何ともないですか!?その身体に変化とか」

「ワシらには特に深く関わったことは無いですし…もうその子供さこん島に居ませんので」

「本土から来た学者さんに連れられて本土に渡っただ」

「ではその子供の家族は!?誰でもいい!関係者は!?」

「関係たって…あの山の森に住まう鍛冶屋の男ぐらいですわ」

 島民が指さす方にはその子供が住んでいたという木々が生い茂る山を指していた。

「少し案内よろしいでしょうか?」

「むっ無茶言うながや!あっそこに住まう鍛冶屋は『鬼刀兵衛』って言って戦争帰りの人殺しですわ!」

 戦争帰りの鍛冶屋の住まう家と聞いて固唾を飲んだが…

「案内が出来なければ私1人で行こう」

「そんな無茶な!?」

「山根博士お一人で生かせません!私も行きます」

 山根博士に続いて尾形も名を挙げた。

「ワタシも行きます!」

 マーティンも続いて名を挙げた。

「私も同行いたします、それでしたら身の安全は保障できるでしょう」

 保安隊から1人、岩永も3人に同行する形で4人は鍛冶屋が住まう木々の生い茂った山道に向かった。

「待ってお父様!私も行きます」

「エミコ…お前は危ないから私たちにここを任せてくれ」

「でも…」

「私が付いて居ます!どうかご安心ください。皆さんは保安官の支持従って一同本部にお戻りください」

 続々と保安官に従って戻る中、エミコは振り返って森の中へ入って行く4人の男達を心配そうに見つめた。

 村の一角に設けられた派遣本部には救護所も付いてケガ人や被災死した遺体を収容しているため、その遺体の遺族たちが嘆いていた。

「…ふんん…ザッと20以上か、それも年老いて寝込んでいた老人ばかり」

 森に入って行ったマーティンに代わってレイモンドがカメラを抱えて救護所の様子を写真に収めていた。

 他の記者や萩原たちも様子を写真に収め取材をしていた。

「…記者ってみんな不謹慎な人ばかりね」

 こんな状況でも仕事として取材陣に対してエミコは呆れた表情で見つめていた。

 すると…向かいでガシャン!!っと大きな音が鳴り、エミコが目をやるとそこには子供と島民たちが何かを言い合っていた。

「この人殺し!!お前らさせいで…あんちゃんと母ちゃんは…うっうう」

「ふざけんじゃねぇ!!お前ら家族のせいで呉爾羅さ蘇っただ!!お前がゴンさ逃がすようなマネしなきゃこげぇなことにならずに済んだ!!」

 大人気無く小さな子供を殴る島民を見たエミコはシンキチと大人の間を割って入りシンキチを庇った。

「あなた達こんな小さな子供に何をしてるんですか!?」

「そこを退いてくれ譲さん…これは島のもんの問題じゃ…よそ者のあんたが口出しすることじゃねぇ」

 島で中々の筋骨な男たちがなまじ人の顔をしては居なかった。

「ボク、大丈夫?顔に痣が出来てるわ」

「……うっううう…うわぁあああああ!!」

 突然泣きついてきたシンキチにエミコは家族を失った悲しみを感じた。

「家族を失ったのね…分かるわ…私も小さい時にお母さまを亡くしたもの…」

「違う…こいつらに…こいつらにオラの母ちゃんとあんちゃん見殺しにされた…殺されただ…こいつら殺すことなんて何とも思ってない…おらの友達も殺されかけた」

「えっ!?」

 シンキチから聞いた衝撃的な島の事実に振り返って保安隊に本部へ連れたいかれる島民の男達に…島民全員に疑心の目が向いた。

 一方、山道を進んで草をかき分けながら辿り着いた先には一軒の家がそこに会った。

「ここが…鍛冶屋さんの家…」

「家の隣の小屋に煙が出てますね…作業場でしょうか?」

「多分、あそこに居るのだろう…訪ねて見よう」

 家の隣の小屋に近付いて行くと戸が開いて刀を持つ鬼の様な形相の男が出てきた。

「なんだテメェら…俺になんの用だ!?」

「あっいや…ぼっ僕らは怪しい者では…」

 事情を聴いた刀鍛冶のトウベエは自分が入れた茶を皆に振る舞い、一息を家の中でついた。

「うちは滅多に客人は来ないから茶菓子なんざねぇぜ」

「ああっいえ、御構い無く…」

「刀鍛冶さんでいらしたんですね」

「フンッ…島連中に何を言われてきたか知らんが、戦前は修行して破門をされて流れ着いたもんだよ、俺は…」

 不愛想ながらも受け答えするトウベエに早速山根博士は質問に移った。

「あなたにお子さんは?」

「あん?世捨ての俺に女もガキも居ねぇよ…知り合いから預かっていたクソガキは居たが、先週から芹沢って言う俺の戦時中の知り合いに引き取ってもらった」

「せっ芹沢さんに!?」

「あん?あんたらアイツの知り合いか?」

「えっええ…まぁ私の大学の教え子でしたので…」

「そうかい…俺は京都の刀鍛冶を破門された後、流れで徴兵に向って刀剣作りに回された後に部隊に回された時にアイツと知り合った」

「そうだったんですか…」

「先週、久方ぶりにアイツに会ったが…ありゃ、もう人の目じゃ無かったなぁ…なんと言うか死人と言うか」

「では、今はその子は芹沢君と?」

「ああそうだ…ここには居ねぇよ…居るのは俺の打った刀(こいつら)だけだ」

 訪れた4人は辿り損であったと思い…トウベエに頭を下げてその場を去ろうとした。

「ありがとうございましたトウベエさん…まだ調査の途中ですので我々はこれで…」

「待て、爺さんあんた学者だろう。ここから離れにゴンが隠れ通いしていた洞窟がある…あんたらの話通りなら俺も今回の嵐…ただ事じゃないと思っていた、確かな確証は無いがそこへ行ってみるか?」

「ぜっ是非!少しでも手掛かりがあるのでしたら…」

「…ついてこい」

 全員、立ち上がり4人は案内に従い彼の言う洞窟に向かった。

 森を更に奥へ進み、かかしの目印の洞窟が5人の目の前に現れた。

「こっここが…」

「洞窟…まるで大きな生き物の住処みたいですね…」

 洞窟の入り口には軍服を着たかかしが立てかけられたおり、嵐の後であっても倒れないほど深くかかしの杭が地面に刺さり門番の様に5人を待ち構えていた。

「この先には島の連中は呉爾羅の巣として恐れているから誰も近づかない…んっ?かかしの帽子が無い…飛んで行ったか?」

「呉爾羅?…呉爾羅とは一体?」

「この島の言い伝えにある荒ぶる神の化身、魔獣、怪物の俗称だ、小さいガキを躾けるために『悪さをすると呉爾羅に喰われる』と言われるほどの古くからある伝承だ…俺の案内はここまでだ、後はあんた達にまかせるよ」

「ありがとうございます!じゃぁ行きましょう」

「ああっ…ここの放射能度は集落地より正常値のようだ」

 山根博士のガイガーカウンターは基準値を下回る程度の正常な濃度値を占めていた。

 内部は進むにつれて鍾乳洞の結晶体が幾つも点在していた。

「火山の洞窟だったんでしょうか?」

「遥か昔にマグマがこの山から出たことで休火山となり島全体を広大に形成したと見るべきだね」

「見てクダサイ!」

 マーティンが指さす先には洞窟内部の最奥まで広がった小規模の湖ほどの大きさが広がっていた。

「なんと美しい…あっいや、それより」

 山根博士はガイガーカウンターの計測を開始するもこれと言った異常値は計測されない…が、洞窟湖にガイガーカウンターを向けると…

「なんという事だ…この洞窟湖の私達の居る地点は正常値だが…この洞窟湖内だけは基準値以上の数値が発生している」

 ガイガーカウンターが異常なまでに警報音を鳴らし始めるほどの大規模な放射濃度がこの洞窟湖に蓄積していた。

「集落の放射能濃度…そしてここの濃度…帰ったって来たんだ」

「帰って来たって…誰がですか?」

「元々、ここを住処としていた生物が日本海から太平洋上を庭の如く周回していたんだ…それが偶然にもビキニ環礁での核実験にて……なんてことだ!?我々人類はとんでもない生物を生みだしたのかもしれない!?」

「ワッツ!?アレは何ですか!?」

 マーティンがライトで照らした先に洞窟湖内部で蠢く生物の背びれのような物が湖内に居た。

「ダメだ!ライトで照らしては…」

 光に反応して湖の生物が目が覚醒した。

 湖内で蠢きながら生物は深く潜り始め洞窟湖水面から尻尾が立ち上がり倒れてきた。

「あっあああ!?」

「危ない!!」

 辛うじて倒れてきた尻尾から4人は回避したが…

―ゴゴゴゴゴゴゴッ…

「まずい!洞窟全体が崩れ始めてる!?」

「にっ逃げるんだ!!」

 4人は崩れ落ち始める洞窟内の天井から降り注ぐ岩の雨を避けながら洞窟湖を後に去った。

―ドオオオオオオオンンンンン!!

 大きな地響きで大地が揺れ動くほどの振動が発生した。

「なっなんですか!?」

「こっこれは…」

 洞窟の入り口で待つトウベエが存在に察していた。

「奴だ…奴に決まってらぁ」

「やっ奴とは…まさか!?」

「この間の嵐もこの地響きもすべて奴の仕業だ」

 ドオオン!!ドオオン!!っと徐々に大きくなるその響きはやがて迫り始めてきた。

「……『呉爾羅』だ」

 カーン!カーン!っと鐘の音を鳴らすと島民は慌ただしく錯乱し山の方へ向かい逃げ始めた。

「皆さん落ち着いた!本部から離れないでください!」

「山じゃ!!山に逃げるんだ!!」

 保安隊が安全を訴えても数多い島民たちの波に押され静止は出来なかった。

「待ってボク!?どうしたの!?」

「あいつだ!?あいつが戻って来たんだ!!」

 恐怖心に満ちた顔のシンキチは混乱する島民と同じように山の方へと逃げ始めた。

「戻ったって何がっキャッ!待って!!」

 群衆は山に続く道を走り進むとエミコがシンキチを追ってようやく辿り着くと手を引いて止め、向かいに居た山根博士たちと合流した。

「お父さま!」

「エミコ…私は確かに…私たちは確かに見た」

「何をです!?」

「大戸島の伝承にその名が示す通り荒ぶる神の化身…その名は…『呉爾羅』だ」

 ズシンッ!ズシンッ!と大きな音を地響きと共にその姿を現す。

―キィオオオオオオオンンン!!

 ゴツゴツとした岩肌の様な体表にサンゴの様な白い背びれを背負いしその素顔はトカゲのような顔立ちであった。

「逃げろ!!逃げるだ!!」

「逃げろ!!呉爾羅だぁああ!!呉爾羅が来たぞ!!」

 島民が波のように引き返して来る中にエミコとシンキチは島民たちとぶつかり転げて端に落ちた。

「きゃぁっ!」「うわっ!」

 落ちた所にエミコが起き上がり振り返ると…

―キィオオオオオオオンンン!!

―ドオオオオオオンンンンン!!

「ああああああああああああ!!」

「うぁああああああああああ!!」

 空気を振動し、森の木々が騒めくほどの鳴き声の爆発にソニックブームが舞い起きて島民や草々と木々ごと吹き飛ばした。

「きゃぁああああああ!!」

 ソニックブームに巻き込まれかけたエミコを尾形がシンキチと一緒に近くの岩場に隠れて衝撃から身を守った。

 ズシンズシンッと大きな音を立てるが、呉爾羅は山の頂上から大きな素顔は消えた。

「エミコ!!エミコ!!」

 エミコを探し回る山根博士はエミコと尾形とシンキチの3人に合流した。

「ご無事で何よりです、さっ本部へ戻りましょう!」

「隊長!!アレを!」

 別の保安隊が指す方に全員が集まって見た先には浜辺続く砂浜に大きな足跡が2つ、1本線が湾曲して描かれた尻尾の跡が砂浜に残されていた。

「隊長、捜索要請を回しますか?」

「いや、7000tクラスの輸送船を沈め続けた化け物だ…判断はすべて総理だ…撤収作業と負傷者の有無を最優先で報告せよ!」

 その頃、神奈川県の銃砲火薬店では…

「上下二連銃と水平二連銃」

「はいよ、ボックスロック構造ですが高級な逸品です」

「…ブローニング・A-ボルト」

「お客さん詳しいですね…これはボルトアクション式のブローニングの傑作銃ですよ、猟銃には最適な代物です」

「……オート5を」

「オート5ですか…これですね…」

 次々と猟銃の名を言うこの男が長年銃砲店を営む初老の店主に戦争帰りであることを見抜かせた。

「あなた戦争帰りですか?いい構え方をする…そこらの素人や猟師では中々無い構え方なので…」

「まぁな…老後は猟師生活も良いと思って」

「老後って…私の方が一番近いですよ、はっはっは…それで、どれにしますか?」

「全部…全部いただく」

 長年銃砲店を開く店主には2丁以上買う客はそうそう居なかった。

「今日は店を早く終えそうだ…家内に牛すき鍋を食わしてやれる、登録書にサインを―あれっ?はっはっ滅多に登録しないから…どこだっけ?」

 男は店主が見ていない隙に待ち相席の椅子に置かれた座布団を取り抱えて箱から弾丸を取り出して弾倉に装填した。

「あったあった、はいここにサインを」

「言っただろう…この店の全部をいただくと―」

 カシャンと装填された散弾銃の銃口を座布団に被せ―

―ボンッ…

 車内で待つ白娘はジッと銃砲火薬店を見つめていた。

 バンッと車のドアを開けて入って来た安久津に状況を聞いた。

「どう?」

「店主は始末した。後はお前の部下が回収している」

「調達は完了ね……あなたは本当に私たちに手を貸すの?」

「なぜそれを今更聞く…」

「……いいえ、何でもない…出すわよ」

 車のエンジンをかけ、車道に乗り出して銃砲店を後に去って行った。

―数時間後…

 

「あんたぁああああ!!」

 銃砲火薬店の店主の奥さんは見るも無残に散弾で撃ち抜かれ変わり果てた店主が担架に乗せられ布で覆い隠され運び出されていった。

「盗み出されたのは銃火器70丁と弾薬類複数、他にも幾つか盗難にあってほぼすべての品物が強奪されていますが近隣からは発砲音は一切なかったと」

「当然だ…見ろ、この座布団を銃口に覆い隠して発砲すれば消音効果になる…犯人はプロだ、それも短時間で大胆に犯行を行えるだけの大人数…組織ぐるみだな」

「現在付近を検問して非常線を張っていますが…」

「やっこさんはとっくのとうに逃げている…たった1店舗の銃砲店の品物から戦争が出来る物資を持ち逃げてな」

 県道には警察の検問に車が渋滞する中…

「免許証を」

「はいっ…」

 サングラスをかけた高貴な女性の免許証には『白娘レイナ』と記載されていた。

「トランク内を拝見いたします」

「どうぞ」

 トランクのキーを手渡し、警察官が後方のトランクを開けると…

「カラか…結構です、ご協力ありがとうございます」

 キーを返却して検問を抜けた。

「…もういいわよ…旅行帰りの疲れ切った夫の役作りはその辺にしなさい」

 安久津は顏に被さった帽子をずらして白娘の顔を覗いた。

「……俺がいつあんたの夫になった?」

「あら?一晩を共にした程度の関係じゃ不満?」

「……『レイナ』と言うんだな…苗字は中国読みでは無く日本読みで『白娘(しらじょう)』…もちろん偽名か」

「ええっ…でも私一人が名を偽っては居ない…この世界では至る所に名も存在さえも偽っている…この国もそう、偽った上っ面だけの国家など、国家に値しない」

「…あんたは何を憎んでる?自分を捨てた国をか?」

「…そんなんじゃない…でもこのまま行けばこの国は軌道に反れた間違った歴史を歩むことになる…あの太平洋戦争のような時代を再来させてしまう」

「だからクーデターを決起し、あんたが新たな日本国のリーダーになるとでも?」

「…既に私を中心とした政権構想と人材は完成している…あとは今の内閣を水面下で鎮圧し、欧州列強諸国並びに米国などの大国の圧力を阻害できるだけの力がここにいる」

「買い被り過ぎだ…俺もあんたも人間に過ぎない…人間爆弾が生んだ結果がどんなものだったかあんたも知っているだろう…」

「日本海軍の人間魚雷…零戦特攻による体当たり覚悟の玉砕…馬鹿馬鹿しいにも程があるわ…あんなものとは違う、これは政戦なのよ…政治と人の総意が互いに相違となってぶつかり合い…殺し合いを哀れに踊り狂ったのが先の大戦…」

「……確かに…俺たちは踊らされ踊り狂いすぎた」

 白娘は車のハンドルを強く握りしめ県境を越えて2人を乗せる車は東京に向っていた。

大戸島災害派遣による島民避難

 34世帯 総勢207人

被害状況

 28家屋倒壊

 12私有敷地(井戸含む)崩壊

被災死傷者

 死亡23名

 重軽傷者123名

 

 現在大戸島全域の集落地の復興めどは未定

 倒壊した家屋等にて発生した瓦礫撤去の目途未定

 大戸島は現在倒壊を免れた家屋の所有者1名の島民だけ本人の意向で在留し以後は立入禁止状態にある。

 尚、島民は都内の仮設避難所で住居生活を余儀の無い状況にある。

(大戸島被災報告書 一部抜粋)

 

 国会審議会参考人招致で提出された報告書には大戸島での現状が鮮明に記載されていた。

「ええ~現在避難所での物資は不足状況にあり、戦後9年目の復興最中の国内の民間企業の支援では足りず―」

 災害派遣後に開かれた審議会では山根博士が次に控えて調査結果資料を抱えていた。

 被災報告が終え次に山根博士に回った。

「山根キョウヘイ教授」

 議長に名を呼ばれ台の前に立ち山根博士の調査報告が始まった。

「ええ~お手元の資料にありますように今回の災害は台風による自然発生によるものとは…まったく異なるものであることが判明しました」

 山根博士が告げた衝撃的事実に会場は騒めき始めた。

「まずはこちらの写真をご覧ください」

 そう言うと降ろされたスクリーンに映写機に大戸島で撮影された写真を公開した。

「これは作り物ではありません。今回一連の大戸島での大規模な天候災害、輸送船消息不明、いずれもすべてこの生物による獣害と我々は結論付けました」

 写真に写る山から顔を出した生物がその大きさが山と同等であることに全員が驚愕した。

 次にこの生物の存在経緯を詳細に報告するためスライドを説明用の恐竜などが描かれた絵に変えた。

「この生物の頭部の大きさが10~20mほどの大きさと推定しますと全体は50m、質量は2万tと考えられます…この生物は今から2億年から1億5千万年前の中生代期…学問的には『ジュラ紀』の恐竜が全盛を極めた時代から存在していたと見て地質調査の段階で大戸島にはそれを裏付ける断層が存在していました」

 更に戻って先ほどの生物の写真がスクリーンに映し出された。

「この生物はジュラ紀に生息していた水棲爬虫類から陸上獣類の2つの生息環境の特性を取り入れた全く新しい中間型の生物と見て差し支えないと思われます……仮にこれを大戸島の伝承に捉えて『ゴジラ』と呼称しますが、この『ゴジラ』は元々大戸島の洞窟内に最低でも200万年前から大戸島に上陸し定住していた中間型生物の最後の生き残りと見て今回の調査で発見し、既に生息地と思われる洞窟湖も大戸島で確認されております」

 山根博士がゴジラの正体を公表したと同時に今回の一連の輸送船消失と大戸島災害がゴジラによるものであることを語り始めた。

「この『ゴジラ』が度々太平洋上を海遊していた所を世界各国の核実験、水爆実験の影響で被爆し50mと言う規格外のサイズにまで放射能を吸収、進化を経て帰巣本能で大戸島に帰還する最中に偶発的に輸送船と遭遇、生物の高音域を鳴らす汽笛などに反応して敵と認識したと見られます…今回の嵐は『ゴジラ』の体内にある放射能が輸送船との度重なる衝突により局所的に不安定になり上陸して早々に体内磁場が発生し局所的な磁気嵐を引き起こし、大戸島の気象を悪化させ、台風クラスの気象災害が発生したと考えられます…現在大戸島では基準値を超える地域が幾つも発見されております」

 『ゴジラ』が太古の生物に水核実験の影響で50mもの巨体に変化したことに参列者は騒めき動揺が隠せなかった。

 しかし、人類が生み出した悪魔の発明『放射能』を持って生きている生物が居ないのが被爆国日本の定説であるが故に納得と理解のいかない議会参列者は俄かに信じがたい『ゴジラ』に対して鼻で笑うばかりであった。

「ゴジラの種族はジュラ紀から今日まで生き永らえた確たる証拠をお見せいたします」

 写真はゴジラに代わってオオドチュウの分析写真に切り替わった。

「それを裏付ける物的証拠があります…ゴジラの足跡から発見された大戸島ではオオドチュウと呼ばれるフナ虫ですが、名前は大戸島由来の生物と思われますが…これはトリロバイト、三葉虫と呼ばれる生物で1億5千万年前に絶滅したと言われていますが大戸島ではこのフナ虫が三葉虫の形状をそのままに形を留め『生きた化石』として今回発見されシーラカンス同様に絶滅したと思われていた生物が日本の近海それも諸島にて発見された…さらにはゴジラの足跡に発見された、この生物はゴジラの足にコバンザメの様に付着していたと考えられます」

 『生きた化石』については現在では身近に該当する『イチョウ』『キソウテンガイ』と言った植物を始め、動物園などで目にする『レッサーパンダ』や『カモノハシ』のような哺乳類動物、『カブトガニ』や『オウムガイ(アンモナイト)』と言った海洋生物も現在まで姿も変えずに生きている化石として総称される。

 しかし、長らく絶滅していたと考えられたいた『シーラカンス』は1938年に南アフリカのチャルム川にて存在が確認され、2年前の1952年にはインド洋コモロ諸島、43年後の1997年にはインドネシアのスラウェシ島の近海でも確認されシーラカンスのように絶滅していた種が新たに発見された『生きた化石』の事例も存在する。

「このトリロバイトの殻から発見された砂はジュラ紀の特色を示す赤粘土の中に含まれているものであり、その中にガイガーカウンターによる放射能検出、性量分析によるストロンチウム90の存在が確認されたことからゴジラに付着した砂の中に水爆の放射能を多量に発見することが出来たのであります」

 戦後から9年にして核による悪夢の再来がこの場に居る誰しもが頭の中で過らせ不安が口の外へ出て国会内はざわつき始めた。

「静粛に!静粛に願います!」

 暗く囲まれた一室のカーテンを開いて光が差し込むと山根博士はメガネを外して次のように語った。

「これらの物的根拠からして『ゴジラ』も水爆実験の影響で相当量の放射性因子を帯びているにも関わらず放射能に対して『定着』と言った形で進化した全く新しい生物としての学術的な調査を視野に目下検討を願いたく存じます」

 50m、2万tの生物を研究対象として見ているのは山根博士だけであった。

 他この場に居る者の殆どは恐怖の対象か鹵獲後の復興財源案を口走る楽観的な考えを持つ者ばかりであった。

(愚かな…みな誰一人としてこの生物を解析しようとしない…これでは帝国主義時代と何一つ変わっていない……彼等の中にあるのは『国』と『自分』だけか…実に愚かだ、戦後から何も学んでいない)

「静粛に!ご静粛にお願いします!」

 ここで一人挙手をした。

「熊耶国務大臣」

「先ほどの山根博士の学術的ご説明は大変参考になりましたがしかし、この生物が本土にて上陸する恐れも目下考えなければなりません…かねてより『国土防衛法案』を発動し現在の警察予備隊から保安隊へと経た予備組織を『防衛隊』編成をし、陸海空の精鋭部隊組織を総理にご検討願いたい」

「ふざけるな!また戦争さするつもりか!!」

「帝国主義は終わったんだよ!帰れ帰れ!!」

「ご静粛にお願いします!!」

 総理が挙手をして熊耶国務大臣の返答に応じた。

「開米総理」

「かねてからありました『特別法案』に関する『国土防衛法案』は国家が侵略及び危機的状況に陥った時に保安隊等の運用を想定した国土防衛のための法案として議題にありましたが、既に大戸島と言う我が国の領土領海を『ゴジラ』が犯していることは明白であり、早期的な決議に成りますが私は仮に生物による侵略であっても我が国は屈する意向はありません。よってここに『国土防衛法案』を発動し在日米軍と協力し『ゴジラ』撃退を容認いたします」

 開米総理の決断は揺るぎないものであった。

 『徹底抗戦』、ゴジラに対して国家元首は侵犯と見なして山根博士の捕獲案など微塵も心中に無い様子であった。

 ヤジが飛び交う国会内は騒然と荒れ狂う結果に賛否両論であった。

 そんな中、山根博士は回り込んで開米総理を引き留めた。

「総理…」

「山根博士…あなたのお気持ちは重々察しますが、私は捕獲か駆除かと訊ねられたら国家元首内閣総理大臣として後者を決断せねばなりません」

「いえ…1人の国民として総理の御決断に…異論はありません」

「ありがとうございます…できればこんな形で歴史に名を残したくはありませんでした」

 そう言い残し、開米総理は山根博士から去って行った。

 翌日の毎朝新聞にはこのように記載されていた。

 

 政府ゴジラ対策に本腰

 

 災害対策本部設置さる

 

 船舶の被害甚大

 既に17隻に及ぶ

「原水爆に水爆マグロの次はゴジラかぁ…」

「疎開も考えないとなぁ…」

「東京に上陸したらどうする?」

「逃げる場所なんて…」

「『国土防衛法案』発動?戦後初の保安隊改め防衛隊出動命令…開米内閣は何を考えてるんだか」

「ゴジラの次はこの国がまた戦争に向ってるんじゃねぇか?」

 様々な憶測が朝の通勤に毀れ東京中に広まる結果になった。




―作者制作話―

とうとう姿のベールを脱いだゴジラが山根博士たちの前に姿を現しました!
長らく更新遅れてようやく本格始動!!

―オオドチュウとショッキラス―

ここには84年のゴジラも意識して2つの名の顔を持つ生物が物語の鍵を握るキーです。
本編の様に私の描くMONSシリーズではそれまで日の目を見なかったマイナー怪獣や設定用語をふんだんに取り入れています。
その為、あのマイナーな怪獣がゴジラとどう関わり渡り合うのかも本編もこの作品もお楽しみいただける要素です。

―200万年と洞窟―

原作では『200万年前のジュラ紀』となっていますが、現代にリアリズムを合わせて2億年から1億5千万年前と仮定した世界でゴジラに属する種族が生息していたとして大戸島に定住した時期を200万年前としました。
要するにこの物語のゴジラは…200万歳以上!
ウルトラマンの約100倍です。
洞窟は原作の地層の歪に生息していた設定を置き換えて居ます。
と言ってもゴジラにとっては幾つもある家に過ぎない…言うなれば別荘です。

―『国土防衛法案』と防衛隊―

怪獣と言う存在が現れたことで日本国内の法的措置が発生するきっかけです。
『自衛隊』の発足以前と『警察予備隊』発足後の中間に位置する1954年内の日本国内で軍事的対抗を示すための苦しい決断とも言えます。
終盤の開米総理の『…できればこんな形で歴史に名を残したくはありませんでした』と言うセリフは『シンゴジラ』の平泉成氏演じる里見祐介が内閣総理大臣臨時代理としての立場に座らされオマケに合衆国の核攻撃を容認したことを後悔しながら愚痴る様子を意識しました。

 今回はここまで!
次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。


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酸素剤

 東京都内に設けられた『特設災害対策本部』には新聞記者並びに報道関係者から会場組合関係がごった返す状況だった。

「凄い人だかりだ…」

「それもそうだろう、日本の海産資源と言うべき漁業関連はほぼ停止、都内の築地市場も一時的な閉鎖状態、日本人は寿司を食べるのに必要な魚が獲れない状態だ」

 そこにはマーティンとレイモンドが報道関係者として並んでいた。

「東経138度より同じく7分、北緯33度4分より同じく8分を結ぶ海上においてゴジラに対しフリゲート艦隊によって爆雷攻撃を実施するにつき、付近航行の船舶は十分なる注意を要します。防衛庁より、以上」

 防衛庁が下した結論は目下ゴジラが潜航していると思われる海域にくす型護衛艦結集のフリゲート艦隊の出動を決定した。

 時を同じくして出港したくす型護衛艦10隻のフリゲート艦隊が派遣されゴジラに対する爆雷攻撃が実施された。

 ドオオン!ドオオン!っと機雷の爆発によって湾内の海は大きく荒れるも海上からくす型護衛艦からはゴジラに対して機雷攻撃が有効になったのか知る由も海の中もどうなっているかさえも分からなかった。

―ブクブクブクブク…

―グルルルルッ…

 その様子はテレビニュースで大々的に報じられてテレビの液晶の先で荒れ狂う機雷による爆発の飛沫がテレビニュースのテロップと被さって移されていた。

『既に19隻の船舶を海底深くに屠り、日本全土を恐怖に叩きこんでいる世紀の怪獣ゴジラに対しフリゲート艦隊による初の爆雷攻撃を実施されました。午前10時堂々の陣形を整え大戸島西方海上に進出した10隻のフリゲート艦隊は10時17分命令一下一斉に攻撃を開始しました』

 その様子をテレビで見て山根博士と尾形、エミコ、山根家に匿われたシンキチは目を凝らしていたが、数分後に山根博士が立ち上がり自室に向かった。

 その物悲しい気分を伝えるような山根博士の背中にエミコは耐えがたく後に山根博士を追った。

 同じくシンキチも様子のおかしな山根博士が心配になり…

「…どうかしたんでねぇですか?」

「先生は生物学者だからゴジラを殺したくないんだ」

 尾形には山根博士の生物学者として貴重な研究資料であるゴジラを失いたくない山根博士が胸を痛める気持ちを理解していた。

「お父様…お父様!」

 エミコは部屋の前でノックを叩いても返事の無い山根博士にしらを切らしてドアノブを捻り入室した。

 部屋の電気すら着けず机に向っている山根博士にエミコは電気のスイッチを入れて声をかけた。

「しばらく一人にしてくれ…」

 そう言われたエミコは物悲しい気分の山根博士から立ち去ろうとドアを閉めようとした時―

「エミコ…電気を消してってくれ…」

「…はい」

 そう言われ電気を消して山根博士の部屋を後にした。

 山根博士の部屋の前の通路を渡って玄関に立ち止ったエミコは振り返って山根博士のあの悲しげな声と背中が脳内から離れなかった。

「お父様…」

 そこへ玄関のベルが鳴り玄関先に2人の人影が居た。

「はい?どちら様?」

 玄関を開けて確認するとそこには岩永とマーティンが山根家を訪ねて来ていた。

「Missエミコ、こんにちは」

「夜分遅くに申し訳ありません!岩永トモ一等陸尉です」

「岩永さん防衛隊編成で階級が変られたんですね」

「ええっ、これから防衛隊内では陸海空の3属に分けられ私は陸上の国土防衛任務に着任しました。今回の一件を終了と同時に以後新たに再編が見直される一時的な方針です」

「そうですか…国民の為にありがとうございます」

「いえいえ、国土防衛の任で皆様の安全を防衛できるのは防衛官として本望です」

 仕事上予断を赦さない状況と会ってお酒の飲むことが出来ない岩永に麦茶を差し出されていた。

「それで今回訪ねられたのは?」

「ええ、私ではなくマーティン氏が皆さんに、山根博士にどうしても伝えたいことがあるとのことで」

「ザッツライッ!ジツはステイツの大使館に私の友人を介して合衆国の水爆実験場となったマーシャルのビキニでの放射能状況を確認してもらいました」

「それで…どうでした?」

「それが…過去数十回も繰り返して核実験が行われていたにも関わらず海中内の平均値と同程度の放射能がでした」

「なっ…なぜ」

「それどころか…ビキニの近海ではまるで何事も無いかのように海洋類が健康な状態で確認されています」

「ひっ被爆も一切無く?」

「例の第五福竜丸の被爆地からの観測ですので間違いありません…これはゴジラが核エネルギーを吸収して海洋自然界を回復させているとしか思えません…ゴジラは決して悪者(ヒール)では無いと言うことです」

「本当の悪者は…核を生み出す私達人間なのね」

「ノー…そう悲観に成らないでください。ゴジラも我々も同じ生き物です」

「だが今さらゴジラは悪くないと言っても政治家は耳を貸さないのが現状でしょうね…」

「核を吸収する生物…仮にそれを知っていてもキルして得物をドロップしたがるのは人間なのでしょう」

「それは違いますよマーティンさん」

 部屋から出てきた山根博士は居間に集まるみんなの前に姿を現した。

「ドクター山根さん…それはどういう意味なんですか?」

「…ゴジラは核を吸収したんじゃない…核と言う人間の業を背負わされた被害者なんだ…怒って当然なことを私達人間は10年前からしてきた…絶え間ない戦争と殺し合いの連鎖と歴史…第二次世界大戦と太平洋戦争…そして行き着いた先は核…本当に恐ろしいのは私達人間かもしれない」

「お父様…」

「暗い話になってしまったな…何か食事でもしながら先程の君の話を聞かせてほしい」

「OK、ゼヒともです」

「岩永君もどうだね?」

「ありがとうございます…ですが私はマーティ氏の山根家の案内だけの任で来ましたので…これから本部に戻って作戦検討で…」

「それは残念だ…また是非ともゴジラの一件が収まったらいつでも家を訪ねて来てくれ」

「ありがとうございます山根博士…では私はこれで」

 岩永は立ち上がり、エミコに玄関まで案内されて山根家を後にした。

 岩永は軍用車を走らせて東京の繁華街の車の波に乗っていた。

「東京は賑やかだなぁ…ゴジラの存在に対する恐怖心が何一つ感じない感じさせないような明るい気配を感じる」

 車内から入り込む繁華街の照明が眩い程に綺麗な景色であった。

「……んんっ?」

 車道から抜け出て端に車が止まっていた。

 どうやらエンストして立ち往生した車を男が一人修理して女が車内で待っている状況のカップルが岩永の目に留まった。

 困っていると助けたくなる性分の岩永は流れる車の波から外れて立ち往生する車に近付き車を停めた。

「どうかしましたか?」

「ああっいや、車が火を噴いて…」

「ちょっと見せてください……なるほど、これなら私が修理できますよ」

 岩永は男からレンチを受け取って代わりに修理を始めた岩永は慣れた手付きで早急に修繕へと向っていた。

「これで大丈夫です、エンジンを鳴らして見てください」

「ええ」

 車内に居る女性がエンジンをかけて見ると車は息を吹き返したように唸りを上げた。

「ありがとうございます、助かりました」

「いえ、困った時はお互い様ですので…それでは」

 岩永が去ろうとした時、車内に居る女性が美麗な黒髪を手でかき分けて妖艶な瞳で岩永を見つめた。

「ありがとう、軍人さん」

「……あっいえ…自分は軍人では無く、防衛官であります」

「…そう、でもありがとう」

 車内に戻った男を乗せて女性が運転を再開して岩永の後を去って行った。

「綺麗な人だなぁ…あんな彼女が居て羨ましい…」

 岩永は独身で彼女無し歴は年齢と比例していた故に羨んだ。

「あれがこの国も軍事機構…即席の軍隊で何をしているのやら」

「例のゴジラとか言う御伽の生物対峙だろう」

「三流の昔話ね…軍隊に怪物が倒せるとでも?国家が怪物に太刀打ちできるとでも」

「それでも連中はこの国に希望の灯火を消したくないんだろう」

 先程の男女が整った服装を崩して安久津と白娘へと姿を戻した。

「あの人には悪いとは思わないけど…この国に仕事を増やすことになるわね」

「だといいが…」

 一方そんな夜に東京湾を周遊中の納涼船『橘丸』の甲板で乗客がダンスに興じていた。

 陽気な音楽と共に互いのペアパートナーと手を取り合って回って踊り、グラスに入ったビールを飲み合っていると…

「きゃぁああ!!」

 乗客たちの目の前の海面から姿を現したゴジラを目撃し、乗客たちはパニックに陥る事態が発生した。

「ごっごごゴジラだ!!」「ゴジラだ!!」

「きゃぁああ!!」「うわぁああああ!!」

 乗客は大慌てで船内に逃げ込みだしたことで船内は騒然とした状況であった。

 ゴジラはパニックに荒れ狂う納涼船『橘丸』など気にもせずに海に顔を沈ませ尻尾を海上に浮上させバシャーンと波をたたせて海の底へ潜り消えて行った。

 そんな一報を聞きつけた山根博士は特設災害対策本部に顔を出して人々が話合う通路を抜けて警備2人が立ち尽くす本部のドアを通って中に入って行った。

「お待ちしておりました先生…」

「開米総理…」

 そこには内閣総理大臣の開米が山根博士を待っていた。

「弱ったことになりました先生…このままでは近く外国航路も停止しなければならない状況です…現在輸入に頼る日本には危機的状況です…何か良い方法はございませんか?」

「…総理からその様な御言葉を尋ねられるとは思いもしませんでしたが…そうですね…」

「山根博士…率直に申し上げます、如何にしてゴジラの生命を断つことが出来るか、その対策を伺いたいのです」

 総理は駆除による抹殺を目的一線ばかりであった。

「それは…無理です。水爆の洗礼を受けてなおかつ生命を保つゴジラを…何を持って抹殺するしようと言うのですか?…そんなことよりもまずあの不思議な生命力を研究することこそ第一の急務です」

山根は古生物学者の立場からゴジラと言う存在を抹消しようとすることなど不可能であり、むしろゴジラの驚異的な生命力を研究するが必要であると力説するのであった。

 一方、都内のとある新聞社では出来上がりの新聞を萩原が持ち抱えて待合室で待つマーティンとレイモンドに手渡した。

「萩原さん、無理を受けてくれてセンキューマッチ」

「何言ってるんですか、こんな時こそ報道は国境を越えて一致団結しなければ、ささっどうぞ」

「ドクター山根さんの意見では重大な点が含まれているみたいですね…やっぱ大いに研究するべきです」

「現実の災害はどうなんだ…仮にココがニューヨークだろうがワシントンDCでも同じことは言わない…軍事と政治が研究機関の意見も聞かずに核を容認するだろうな」

「ここは日本だレイモンド!アメリカみたいに直ぐに攻撃には切り替えないよ」

「そこがこの国の脆弱なところだ…意見同士がぶつかって無駄に時間を捨てている間にもゴジラはこっちに向っているかも知れないんだぞ」

 互いに意見がぶつかり合う中、マーティンは萩原にここへ訪ねた本題の情報を交換した。

「Mr萩原、出来立ての新聞を見せていただいた礼にあなたにコレを」

「なんですか?」

「昨日私が山根博士のホームを訪ねた時にご紹介された人です」

「……芹沢博士…」

「ドクター山根さんの養子に成るはずだったそうですが、戦後まもなくにMissエミコとの婚約を破棄した人物とのことです」

「へぇ~あの御嬢さんの…」

「Missエミコの仲介も承諾しています、一度お会いしてみてはいかがでしょう?」

「…わかりました、マーティンさんとレイモンドさんはしばらくここに?」

「お世話に成りますが、よろしくお願いします」

 マーティンとレイモンドは仕事の関係で毎日新聞社に滞在を許されていた。

 一方、南海サルベージ事務所では尾形とエミコが居た。

「お父様はきっと許してくれるわ」

「…誰にも遠慮することは無いと言いながら、芹沢さんの事を考えるとどうも弱気になる」

 窓を外から見える空を見つめていた尾形は回転椅子を身体ごと反転して机に向かった。

「戦争さえなければあんなひどい傷を受けずに済んだんだ」

「尾形さん…私、芹沢さんにはお兄様のように子供の頃から甘えたりして、今でもその頃の気持ちと変わりませんのよ」

尾形はエミコの腕と肩を掴み近づけた。

「エミコさん…ありがとう」

 事務所のドアをノックして許可を経て部屋に入室したのはシンキチだった。

「エミコさん、萩原さんがお会いしたいって」

「萩原さん?」

「うん、しんぶんきしゃ…の?おらよくわかんねぇべ」

 頭を抱えるシンキチの後に萩原が事務所に入って来た。

「やぁ、どうもすみません」

「何でしょうか?」

「ああ、マーティンさんから御嬢さんに芹沢博士の紹介を勧められたもので…」

「ああっ昨日のお話ですね…」

「丁度いいや、僕もさっきの事を芹沢さんにちゃんと了解を得ようと思う」

「そうね…でもそのお話、私の口からお話した方が芹沢さんも着易く聞いてくれると思うの」

「うん…そうだね、じゃぁ行ってらっしゃい」

「ありがとうございます、じゃぁ車待たしてますので」

 先に萩原が部屋から退出して降りて行った。

 後からエミコの傘を拾って尾形はエミコに手渡した。

「私、うまくお話してきます」

「うん、僕もシンキチ君のことを山根博士に聞いておくか」

 そう言うと尾形はエミコを見送った。

 萩原とシンキチはバイクで芹沢宅に向かって、その後をエミコがタクシーで芹沢宅に向かっていた。

 芹沢宅に到着すると門前の『芹澤科學研究所』と書かれた門を通って萩原とエミコ、シンキチの3人は芹沢に出迎えられた。

「何でしょう…エミコさん…」

「お久しぶりです…芹沢さん」

 顔を見合わせる芹沢とエミコの間に気まずい空気を防ぐように萩原が割って入った。

「はっ初めまして、毎日新聞の萩原です」

「あっ!?あん時んの眼帯博士!」

 シンキチは以前島に来ていた芹沢の顔を覚えていた。

「がっ…眼帯博士…」

「こっこら!よしなさい!」

「こんひとゴンちゃんさ匿って引き取ってくれた人さ」

「ゴン?」

「ああ…彼ならあそこで私の飼ってる鯉を勝手に食べているのが知り合いから預かっているゴンだ」

 芹沢が指さす方には勝手にたき火を焚いて、勝手に飼っている鯉を焼いて食べているゴンが居た。

「ゴンちゃん!生きてただか!?」

「んっシンキチ、おめぇも生きてたのか?」

 エミコの印象には野生的な野蛮人の子供が鯉を焼いている姿が異常であった。

「ちょっと!あなた達そんなものを食べちゃダメよ!」

「んんっ?おばさんだれ?」

「おっ…おばさっ…おばさんじゃなくてお姉さん!!」

「すまないエミコ君、これと言った躾など私にはできないもので…」

 萩原は自分が飼っている鯉が喰われていても何事も無く黙認している芹沢にエミコが何で別れたのか察した。

「芹沢さんじゃぁ子育ては無理ですものね…いいです、この子預かりますので芹沢さんと萩原さん御二人でお話しててください!ちょっと街に出ます!」

 エミコはゴンとシンキチの手を取った。

「ああっ…その方が助かる」

「何処に行くつもりだよおばさ…」

「お・ね・え・さ・ん!!」

「はぁ…」

 おばさん呼びされたエミコは蛇の様に睨んで異論は認めなかった。

 芹沢宅を離れて繁華街のブティック立ち並ぶ街に出向いて歩き回っていた。

「先ずは服ね…随分と汚いから新しいのにしましょう」

 エミコが真っ先に立ち寄ったのは子供服売り場であった。

「帽子もほら、これなんか…そんな日本軍の軍帽を外して…」

「これは…ダメだ……大切な物」

「えっ?…そっそう…」

「あっ!それ軍人かかしのだべ?」

「ああっ眼帯博士が被せたが…結構気に入ってる」

 気に入っている以上、無暗に取るのは控えたエミコは再度服選びに専念した。

「これとこれとこれにこれね!」

 エミコが選んだのは輸入物の子供ジーンズにTシャツとスカジャンを羽織るスタイルの衣服をゴンに着せた。

「…眼帯博士も大概だが…おばさんも大概だな」

「お・ね・え・さ・ん!!」

 変らずおばさん呼びされてエミコはムキになった。

 その頃、芹沢宅では…

「…山根博士のお話は分かります…ですが私の研究分野とは方向とは違います」

「いや山根博士からあなたが大学在籍時に考えていたプランが完成していたら日本のゴジラ対策も何らかの打開策があるんじゃないかと」

「私にそんな研究もしていません…今やこの研究所も亡くなった父親から委託されて…近々売り払うつもりです」

「そうですか…今、何か研究は?」

「…いや、民間のパシフィック製薬の仕事をしているだけです…研究などする暇もありませんよ」

 その頃、デパートの屋上では…

「お待たせ、ハイッ」

「わ~い!アイスじゃ!」

 エミコは買ってきたソフトクリームをシンキチに手渡した。

「んっ」

 ゴンにも手渡そうとしたが…ヒョイっと上に挙げた。

「お・ね・え・さ・ん」

「いいから寄越せよ」

「ちゃんとお姉さんと呼ばなきゃ上げない」

「島のクソババアよりタチ悪いぞ、このおばさん」

「ムカッ!?もういい!あげな~い!」

 更にエミコの逆鱗に触れてソフトクリームは御預けになった…が、ゴンは背にしている網目のフェンスをバネにエミコに飛びついた。

「ふぎゃぁ!?コッコラ!!何するの!?」

 ゴンはエミコから飛び降りた。

「…っああ!?ソフトクリームが無い!?」

「サクサクサクッゴクッゲフッ…」

 飛びついてちゃっかりソフトクリームを強奪していた。

「ぐぬぬぬぬっ…何て身軽な子なの…」

「ゴンちゃんだから…」

「甘ぇ…んんっ?海だ…」

「デパートの屋上からは海が街の先に合った。

「港街ね…ここは」

「……ずっと海に囲まれてたから初めてここに来たときは…正直よくわかんなかった…ずっと何で自分が今ここに居るんだろうって考えた」

「おらもだ…なんでおらだけ生かされて居るんだろうって考えた…でも答えさ出なかった」

 2人は初めて見る街と海が一緒にある世界を見てそれまで一変した生活に考え込んでいた。

「……あなた達!まだまだ若いんだから、きっとこれからよ!これからいっぱい生きていっぱいいろんなものを見て育っていくの!あなた達はそういう星の下に生まれた…それでいいの」

「おばさんは長くねぇな…」

「だからお・ね・え・さ・ん!!」

 エミコたちは買い物を終えて芹沢宅に戻ると玄関前で芹沢と萩原が話していた。

「じゃぁどうも、お忙しい所を…」

「いや、お役に立てず申し訳ない」

「失礼します…あっエミコさん、御戻りで」

「はいっ、申し訳ないけど萩原は先にシンキチ君を家まで送って行ってください。私はもう少し…」

「そうですかじゃぁお先に…さっ行こうか」

 萩原はシンキチをバイクに乗せて萩原もバイクに跨った。

「んじゃ、元気でなゴンちゃん!」

「んっ、お前もなシンキチ」

 ブゥゥゥン!と音を吹かせながらシンキチを連れた萩原は山根家へと帰った。

「ゴン…少し2人だけにしてくれ…好きなだけ新しい本を読んでなさい」

「んっ」

 ゴンは芹沢の書斎に向って行った。

「あの子は御本が好きなんですか?」

「ああ見えて呑み込みが早い…僕と同じ天才肌なのかも知れない、孤島に留めておくには勿体ないほどの優秀な子だ」

「いつから子供が御好きになられたんですか?」

「今でも嫌いだ…が、それは知性の無い子供だけだ。素質の無い自我意識の無い子供は大人に悪用される…僕はそんな国々を戦時中に幾つも見て来た」

 自室に戻った芹沢はラジオを着けて音楽の流れる部屋で吹き抜けの窓から外を眺めた。

「…やっぱり芹沢さん…何処かおかしいです、突然お子さんを預かられて、ご自宅の鯉を焼き魚にされても顔色変えないで…やっぱりおかしいです」

「……あと鯉は4匹か…10匹は居たが今更僕にはどうでもいいのさ、この家も、僕自身も」

「やっぱり…自暴自棄になられてらしたんですね」

 表情の死んだ芹沢に対してのエミコの予想は正しかった。

 芹沢はラジオを消してエミコの方を振り返った。

「エミコさん…見せてあげようか」

「えっ?…ええっ」

「その代わり絶対に秘密ですよ…僕の命がけの研究なんだ、誰にも言わないと誓ってくれるね」

「ええ…」

「付いて来たまえ」

 そう言うと芹沢は部屋を出て家の奥へと進んでいった。

 通路の左の下り階段に降りてレンガ造りの階段通路を降りて行くと木製の扉の前に立ち芹沢がカギを開け研究室へと入室した。

 電気が付くとそこには様々な機械や機材が実験用の熱帯魚が泳いでいる大きな水槽などが有り並ぶ学者芹沢のプライベートラボだった。

 最奥にある大きな装置はまるで映画の中の科学者が使っているような装置もあった。

「コレが…僕の研究の結晶の『酸素剤』だ」

 芹沢は持ちだしたピンポン玉サイズの『酸素剤』と呼ぶ物を熱帯魚が泳ぐ水槽内に居れて見せた。

 それと同時に芹沢は装置の起動レバーを降ろすとすべての装置や機械と機材が作動して水槽内にある異変が起きた。

「下がって…」

 『酸素剤』の入った水槽の中の熱帯魚たちは続々と皮から身、最後は骨となり水中で分解され魚は見る形も無く骨も残らずに消滅した。

「あああああああああああ!!」

 エミコはその恐ろしい実験の様子を目にして恐怖のあまり悲鳴を上げた。

―あああああああああああ!!

「なんだ?騒がしいな…大人もはしゃぐのかぁ…モグモグ」

 悲鳴は芹沢の書斎で分厚い本を読書しながら羊羹丸々1個を食べるゴンの耳にまで聞こえた。

 恐ろしい実験を目にしてしまったエミコは部屋を飛び出してレンガに手をついた荒げた息を整えていた。

「エミコさん、あなただから見せたんだ…これは神にも悪魔にもなる禁断の研究だ…僕はアレを『酸素破壊剤(オキシジェン・デストロイヤー)』と呼んでいる」

 水中で魚を骨も残さず消滅さえせた芹沢の発明にエミコの手は震えが止まらなかった。

「それと…君にもう一つ見てもらいたいものがある。度々すまないが…君は確か看護師の資格を持っていたね」

「はいっ…そうですが…」

「是非ともゴンを診察してほしい」

 看護師の資格を持つエミコに折り入って頼んだ芹沢はゴンのあるものを診てもらいたいと懇願した。

「僕~ちょっと背中、見せて」

「何だよ急に」

「いいから、お姉さんに診てもらいなさい」

 居間のソファーでゴンの服を捲って診ると…そこには試着の時には気付かなかった魚鱗癬のような形質変化したゴンの黒い背中がビッシリと広がっていた。

「なっ…なんですか…これはまるで…ケロイド状の表皮、しかもかなり硬質…こんな症状見た事ないです」

 あまりにも見たことのないゴンの背中の症状にエミコは驚愕を隠せなかった。

「さっ…触った限りは特に痛み刺激も無く…体調も衰えている感じも無い…健康体と言っていいほどなのにこの背中の仮に『硬質表皮』は遺伝子異常?…申し訳ありません、看護の私にはとても…お医者様では無いので詳しい事は…」

「なにぶん私も人を信じれない性分故に医者に診てもらうにもと思っていたが…エミコさんでもお手上げか…」

「一度大きな病院で見てもらうべきです」

「…しかし…」

「なぁもういいか?別に俺はどこも悪くねぇよ…これは生まれつきのようなものだろう…そういう運命なんだよきっと」

 ゴンは服を着こんで再度読書に専念した。

「随分と肝の据わったお子さんなのね…顔は可愛らしいのに毒舌な性格は芹沢譲りかも」

「止してくれ…彼は元からああいう性格だった」

「ふふっ…本人が特に痛み苦しむ様子が無い以上問題無いかと…何かあったら家に連絡をください」

「ありがとう…じゃぁ気を付けて」

 玄関で見送った芹沢は立ち去るエミコを見てかつての婚約者になぜ自分の悪魔のような研究を見せたのか考え込んだ。

「あれがあんたの言っていた婚約者か?」

「…『元』だ」

「…As long as you love, it means infinity」

「何?」

「意味は『愛してさえいればそれは無限を意味する』だと…この本に書いてあるが俺にはさっぱりわかんないが…あんたの言う『愛』って言う概念に当てはまるんだろう?」

「…待て、君はいつから英語を理解した?」

「アンタが読んでろって言った後にあんたがあのおばさんと話している間にそこの本棚から抜き出して全部読んだ」

 ゴンが指さす本棚は芹沢が英会話本から英字小説やら英字論文、芹沢が集めたイギリス書籍の本をゴンは短時間の間に理解したことに芹沢は驚異的なゴンの知性に驚愕した。

(この子は…天才何て言う領域じゃ無い…測り知れない秘めたる才能を持っている)

「何だよ」

「ああっいや、これから研究資金を引き出しに行くから僕の口座の有る銀行に行こう、帰りに何か外食しようか」

 ゴンは読んでいた本を置いて芹沢に付いて行った。

 山根家の自宅の引き戸を開けて帰って来たエミコだったがその表情は先ほどの芹沢の実験が頭から離れないでいた。

 玄関の電気が付いて尾形とシンキチが出迎えた。

「おかえりなさいエミコさん」

「お邪魔してます」

 2人は出迎えて早々にエミコの異変に気が付いた。

 どよめき落ち込んだ表情のエミコに尾形は声をかけた。

「どうかしたんですか?」

「いいえ、何でも無いです」

 心配させまいとエミコは自分の表情を見せまいと2人から立ち去った。

 その何でも無い様子のエミコを見た尾形は顎に手を当て居間にシンキチと話し合った。

「エミコさん…何かあったのかなぁ」

「ゴンちゃんがエミコさんばおばさん呼びしたからでねぇか?」

「君の友達が?…まぁ確かに女性におばさんと言うのは……ここだけの話、前にエミコさんのことをおばさんっぽいって言った時に大目玉喰らったことがるんだ、結構根に持って気にするタイプだから…」

「ああ~やっぱりだか…おらもエミコさんと買い物さ行ったけど…島のおかあ衆と感性変わらねぇ感じだった」

「そうか…はははっ…はっはっぁあっあっ…」

 尾形の目の前、シンキチの背後に邪悪且つ狂暴なオーラが滲み出るエミコが居た。

―バチーン!バチーン!

 居間に白衣姿で山根博士がやって来た。

「エミコは帰っているのか?」

「はいっただいま戻りました」

「ああっ…どうしたんだね二人共…」

 エミコの後ろで片頬を手の平の形で腫れている尾形とシンキチに山根博士の目が留まった。

「今ビールをお持ちしますね」

「あっああ…」

 エミコが立ち上がろうとした時…

 ウゥ~ウゥ~と町中に警報が鳴り響き始めた。

「ゴジラだ!?ゴジラが来たぞ!」

 山根博士とシンキチは急いで玄関を飛び出した。

 後を追うように尾形も玄関を出たが…

「尾形さん!」

 エミコに引き留められ立ち止った。

「あのこと芹沢さんに言いそびれちゃった」

 エミコは尾形との関係を芹沢に伝えるのを言いそびれたことを尾形に伝えると…

「気にしないで…今は避難が先だよ」

 尾形はエミコを連れて山根博士たちの後を追った。




―作者制作秘話―

青年科学者芹沢とエミコの再会、それが物語るのが何か
物語も中盤に差し掛かりいよいよ様々な登場人物たちが顔合わせます。

―防衛隊編成―

今回新たに『保安隊』から名前が変って『防衛隊』と成り陸空海の精鋭部隊を指揮した展開になりましたが、ここから派生して我々の知る『特撮自衛隊』の誕生の瞬間とも言えます。
ここから後年ゴジラ達怪獣と対峙してきた自衛隊の構想が出来上がるわけです。

―放射能吸収―

作中ゴジラがビキニ環礁を含めた被爆海域の放射能を吸収していることが発覚しましたがコレは人間にとって都合の良い核を食べてくれる生物と言う見方もできますが逆にゴジラは好きでそうしているわけでは無いのにただ生きて居るだけで『核の十字架』を背負わされているとも言えます。
神か悪魔か…はたまた人類救済の救世主か…すべてが謎こそゴジラの本質です。

―エミコおばさん―

本編でも登場する怪獣娘以外の女性キャラには様々な問題点をあえて見せている様に読者にも解り易いキャラクター像にしていますが…エミコの場合、年相応には似つかわしくない行動や言動が『おばん臭い』感じを出しましたがデリカシーの無いゴンはそこをズイズイ突いて来ます。
遺伝レベルでさすがユウゴのおじいちゃんっと言ったところでしょうか?
はたまた怪獣漢の怪獣王の性質なのか…
どちらにしても皆さんは女性に『年寄り』や『おばさん臭い』とは言わない様に!
ぶっちゃけ殺されますよ。

 今回はここまで!
次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。


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出現為

「芹沢ダイスケの口座から引き出しを」

 芹沢は銀行窓口の受け付けに本人証明書と必要事項書類を手渡して口座内の預金の引き出しを要求した。

「お引き出しですね、少々お待ちください」

 受付で待つ芹沢はあたりを見渡すと多くの預金引き出しを要求しに受付一列すべてを覆い尽くして大行の列を作っていた。

「やはり例のゴジラ騒動で皆一同に銀行の預金を卸しに…経済の弱体化で株券のただの紙くず同然となることを恐れて大慌てで来たか」

 銀行の窓口も最奥の全域が大慌ての状況では芹沢の後方は既に数時間待ちの列で芹沢はようやく待って窓口に辿り着けた状況であった。

 戦争や災害など銀行が最優先に重要視する『信用』が国民間で失われ信用不安と成り、銀行自体が消滅すると預金などが下ろせない、或いは預金自体が無くなる。

 実際、日本国内で潰れた銀行の預金が下ろせなかった事例は明治から昭和期には数多く記録され預金を降ろそうとして銀行入り口が人で溢れかえた記録が存在する。

 今回のゴジラによる災害によって物流や株価の暴落による経済不安は銀行にも不安の風に人々が流された結果で大勢の人が銀行を波の如く押し寄せていた。

「あ~あ!?一個目のおじさん!」

 芹沢はこの銀行内で1つ目の人間は自分を指しているという確証と声のする方は明かに自分の背後から自分を指していたため振り返るとそこには小さな少女がいた。

「君は…あの時の?」

 その少女に芹沢は見覚えがあった。

「うわぁ!本当に眼帯を着けてる」

「こら!失礼だろう」

 それは紛れもなく以前大戸島での脱出劇で共に父親と行動した壱賀谷家の御令嬢キヨコとその兄2人と言った構成の兄妹がそこに居た。

「これ、失礼なことを言わないの!申し訳ございません、娘と息子たちが御無礼を」

 慌てて母親らしき人物が駆け寄って謝罪をした。

「いえ、お気になさらないでください…彼女とは以前お父様の壱賀谷トシユキ氏と大戸島でお会いした者です」

「まぁ貴方が芹沢様でいらしたのですね!?大変失礼いたしました、この度は夫と娘を助けていただいて誠にありがとうございます」

「いえ…奥様はどういったご用件でこちらに?」

「ほほほっ、ご用件も何も私はここ『中建銀行』の設立者でございます」

 驚くことにこの銀行は壱賀谷夫人の銀行であった。

「申し遅れました、わたくし先月に中建銀行東京支店を開いたばかりの壱賀谷ノカゼと申します…こっちは息子たちの」

「僕はトシアキです」

「おれ、トシミツって言います!」

 長男として品行方正な一番背の高いトシアキと次男の活発的な性格のトシミツの実によく似な兄弟であった。

 壱賀谷夫人は気品高く、清楚で、見目麗しいほどの若々しい容姿を持つ自称レディを掲げるキヨコとは違い本物のレディであった。

「先月ここの銀行を開いたばかりに早々にこのような事態が起こるとはわたくしも想像しませんでしたわ」

「大変な時期と存じ上げます」

「元々は北京の方で金融学を学んだ折に香港での財源資産運用を目的とした会社を幾つか立案して日本に帰国したと同時期に戦時下の大不況などもあって中々銀行業は大変ですわ」

「そうですか…旦那様とはその時期に?」

「はい、わたくしが日本での金融会社を設立の際に関連企業との会合で顔合わせた夫と互いの交友からの交際で今に至り子供を3人もうけた次第です」

「そうでしたか…」

 そうこう話をしていると芹沢の背広を引っ張るキヨコが自分に問いかけてきた。

「おっおじさん…そっその~…ゴンは?」

「んんっ?ああ…彼ならあそこで本を読んでいるよ」

 芹沢が指さす先には夢中に本を読書するゴンの姿が居た。

 キヨコにとって早々の再会となった。

「お母様、私あの子と話して来るね」

「うふふっ、お行きなさい」

 許しを得たキヨコは足早にゴンの方へ走って行った。

「初々しいですな…ご自分のお子さんのああいうお姿をお目になさると」

「ええ、そちらのお子さんと良いご関係である思うと将来が楽しみですわ。あの子には親の意思での結婚などに縛られない自由な恋愛をしてほしいです」

 金持ちの令嬢は大概親にすべてを決められるものだと思っていたが以外にも本人の自由意思を明確に委ねている壱賀谷夫人の広い心が伺えた。

「お母様、俺たちも言っていい?」

「ええ、ちゃんとご挨拶なさい。将来のあなた達の義弟になる子に」

 さすがに気が早いと少々思った。

「ゴン!」

「んっ…お前は、泣き虫のキヨコ」

「何よその覚え方!?」

 ゴンの印象はあの時の泣きじゃくるキヨコで覚えていた最悪の印象であった。

「何の用だ?」

「久しぶりに会ってその言い草は何よ!?」

「別に久しぶりって程の期間も明いてないだろう」

「私が久しぶりと決めたら久しぶりなの!!」

 そうこう言い合っているとキヨコの兄たちがやって来た。

「お~いキヨコ、そいつが大戸島の原始人か?」

「ブッ!?」

「原始人?」

「バカ!初対面に失礼だろう!!」

「だってキヨコと父さんが大戸島の原住民に襲われたって言ってたじゃん!」

「ちょっと兄様!!」

「うちの兄妹が失礼した…銀行は初めてかい?」

「銀行…預金の受入れと資金の貸出しなどの融資から為替取引などを併せて行う金融機関、「金融仲介」「信用創造」「決済機能」と言った3大機能を元に日本国内では日本銀行を中心に金融経済を動かす様々な銀行が都市銀行から地方銀行まで存在する」

 離島民でこれほどまで博識な少年であることに2人の兄は驚きを隠せなかったが、一番驚いているのはキヨコ自身だった。

 つい先週まで獣のような少年だった彼が知識を得ていることに週明けて驚異的な学習知能に誰よりも驚いていた。

「いっ一体どこで覚えたの?」

「眼帯博士の家に居れば自然とこういった本を見て居れば理解できる」

 ただ本を読んだだけでこれほどまでの知識を記憶し理解するゴンにキヨコは同じ年頃の子供には思えなかった。

「確かに銀行の知識はあるみたいだけど、ここは他の地方や都市銀行とは大きく違うんだ」

「どういうことだ?」

「ここはいわば保険銀行だよ、母さまが運営する金融は言わば災害や事件と言った予測不可能な事態に対して保険と合併して補う銀行なんだ」

 トシアキの言う『保険銀行』とは生命保険企業を始めとした様々な保険会社が一様にこの『中建銀行』に対して多額の保険金を貯蓄できる仕組みが最大の特長であった。

 過去日本国内では『関東大震災』『太平洋戦争』と言った災害時、戦争時と言った従来の金融が回らない不況に備えた仕組みは『日露戦争』時の際にロシア側からの賠償金が取れなかった経験を踏まえて生命保険会社を含めた企業が『中建銀行』に対して保険金を蓄える仕組みになる。

 そうなれば貯めた保険金を災害発生後にある程度運営が出来るだけの金融を引き出せる仕組みになっていた。

 ある種の企業や保険会社の為の保険バンク、『へそくり』の仕組みであった。

「今ああやって引き出しに来ている人たちの殆どは企業人ばかりなんだ」

「銀行が潰れるからじゃないのか?」

「うちの銀行は潰れないよ、商業や都市の銀行は早々に潰れないために幾つもの保険を掛ける必要があるんだ、保険はいざって時に賭けておかないと多額の借金を背負う事に成るからそれが結果的に『潰れる』って人は連想するんだ…実際問題ちゃんと保険を賭けて居れば『潰れる』心配は無いんだ」

「でもゴジラが現れたら人間なんてひとたまりもないよ!」

「うん、だからみんなお金を持って都内から逃げ出そうとしてるんだよ、きっと…」

 子供たちが銀行内で唯一冷静なのに対して大慌てで銀行から引き出しに来た大人は正に大人気無い印象だった。

「みんな何処に疎開するのかなぁ…兄ちゃんは仙台のおじさん家に疎開したんでしょ?」

「4歳の時にな…僕たちみたいにみんなは疎開先があるわけじゃないし…」

 ゴジラが迫りくる恐怖心に壱賀谷家の子供たちは不安の表情を隠しきれない余談も許されない事情があった。

 一方…芹沢と壱賀谷夫人は大戸島での一件を話合っていた。

「それ以降主人は内閣から頻繁に支援のご連絡を無視しているのです」

「やはり内閣も避難所では切迫している状況ですか…」

「『避難』というのはそれだけ国民に今の生活や財産等を根こそぎ捨てさせることですし…夫にも同じ人間として不信に成らず人を救ってほしいですが中々言えないものです」

 あの一件で壱賀谷が人間不信になってしまったことに芹沢の内心はたった1度だけあった知人に対して心配の気持ちが強まった。

「奥様として…御心配でしょう」

「いいえ、これはあの人の問題ですのでわたくしは見守るだけです…あの子たちの父親が心脆い所を見せてはならない…父親とは辛い役職なんです」

 芹沢は夫人の逞しくも夫を支える良き妻の印象が強まった。

 かつて婚約関係だったエミコとこんな結婚後の生活や関係をもしかしたら気付けていたかも知れないのに自分から手を引いて戦火に身も心も焼き尽くした自分では彼女を幸せには出来ないと心のどこかで決めつけて戦争のせいにしていて山根エミコと言う女性から逃げていた。

「あなたのような奥様を持っている壱賀谷氏が羨ましいです…私には彼のような愛する者も…愛する家族も…愛する会社も国も無いので…」

「あら、そんなことは無いのでは?」

「どういう意味ですか?」

「あなたには十分居るじゃないですか…わたしくしには分かります…あなたは十分あの子に愛を施しています」

「私が…ゴンに…」

 芹沢はただ友人から預かって一時共に過ごし、一緒に居るだけのゴンに愛を施している?それは違う。

 愛なのか…自分があの子に何を与えているのか自分でも分からなかった。

 しかし、与えているのか、彼自身が自分から学んでいるようにも思えていた。

 彼の驚異的な学習能力が自分から何かを学んでのは薄々感づいていた。

「お客様本日はどのようなご用件で?」

 窓口の受付で並ぶ男たちに不審な気配を感じていた。

「引き出しに来た」

「お引き出しですね…身分証明をお持ちでしょうか?」

「悪いが金の引き出しじゃ無い…人質の引き出しだ!」

 男たちは一斉に懐から拳銃を抜き出して上に向けてパンパンッ!と発砲した。

―きゃぁああああああああ!!

 更に店外から入り口と窓口オフィスの出入り口からライフル銃を抱えて別動隊の強盗が侵入してきた。

「静かにしろ!!全員大人しく我々に従ってもらう!」

「抵抗して瞬間射殺する!全員一列に並べ!!」

 従業員も来客もまとめてランダムにならびまとめて人質にした。

「お母様…」

「しっ心配しないで…大丈夫よ」

 まとめ上げられ一同中央に座らされ強盗犯がライフルを人質に見えるように構えて見張っていた。

 バンッ!と従業員出入り口から女性と見た事も無い全身黒緑色の装甲服と赤い獣のような目つきの機械仕掛けの鎧兵士が大きな銃を持って現れた。

 女性は鎧兵士と話し合っている様子から一変、振り返ってハイヒールをコツコツとコンクリート製の床に音を鳴らしながら壱賀谷夫人に近付いて来た。

「…壱賀谷ノカゼさんですね…我々はある組織の生き残りとしてこちらの銀行で預かっているある物を引き出しに来ました」

「あっ…あなた達は…一体…」

「…七三一、と言えばご理解出来るのでは?」

「七三一!?…そんなまさか…あなた達は…」

「我々には時間がありません、手荒な真似をされたくなければあなたが知りえる『アレ』を早急に引き出してください」

 壱賀谷夫人は食いしばるも振り返って芹沢に声をかけた。

「芹沢さん、子供たちをお願いします」

「はっはい」

「待って!?お母様!!」

「キヨコ!あなたはとても良い子…わたくしの言うことをよくお聞きなさい!ここで芹沢さんたちと待っていて、大丈夫よ…直ぐに戻るから」

 壱賀谷夫人はキヨコに必ず戻ると言うと言う誓いと安心を促すために涙ぐむキヨコをギュッと抱きしめ…キヨコ身体から触れる手までをゆっくり離して主犯の女に従って彼女が求める『ある物』が保管されている管理金庫室へ向かい案内した。

 『中建銀行』にて強盗事件発生。

 その一方は警視庁に立てこもり事件が通達、先月発備第3号『機動に順応した警察官及び警察組織の導入』先駆けた警視庁仮機動部隊選抜編成隊を早急に編成された。

 警視庁機動隊の誕生はこれより3年後を予定していたが日本国内初のテロ事件として警視庁総監は早急な事件解決の為に訓練期間が間もない中で候補隊員をおよそ130名選出、機動車には東京消防庁から貸し出された『伊須頭ポンプ消防車両』5機、クレーン車2機を導入…しかし、警視庁はここ更にトラック車両とクレーン車両を製造する『伊須頭社』からある物の貸し出しがされた。

 警視庁から総員130名の隊員構成された選ばれし精鋭たちは事件現場に向かっていた。

「これは訓練では無い!我が国で起きた初のテロ事件である!皆一同に不安の気持ちがあるであろう!それは皆同じだ!ここにある物は僅かな武器と盾と己の屈しない心のみ!狙うは犯人確保!!それだけだ!以上!!」

 編成隊の中から即席で選ばれた仮機動隊長は誰よりも不安であった。

 元刑事課所属者より体力、知力、経験共に優れた選抜試験から選ばれ一転、機動隊候補生130名を預かる現場指揮隊長、その装備は…ソルトロック弾が装填された散弾銃、ジュラルミン製のシールド、検討段階の訓練用防弾服、警棒、犯人逮捕後の使用想定された手錠のみだった。

 他130名の隊員も同様、非殺傷実弾使用不可、犯人は確保及び現行犯逮捕の一択、実に不利、不利な状況で経験浅い隊員たちが死地に行けと通達された。

「これだけの装備と経験浅い自分たちでどうしろと…上層部は何を考えている……本当に何を考えている」

 隊長は背後を振り返るとそこには今作戦のリーサルウェポンとも呼ぶべき伊須頭クレーン車…しかし、その先端のクレーンには釣り針型のフック…では無く、特大の『鉄球』が付けられていた。

「これは実戦である!一人も欠けては成らん!各自心してかかれ!!分かれ!!」

―了解!!

 各員が持ち場に分かれて付き始めると、突如町中の放送からサイレンが鳴り始めた。

―ウゥ~ウゥ~ウゥ~ウゥ~ウゥ~ウゥ~!!

「何だ!?何ごとだ!?」

「隊長、失礼します!先ほど防衛庁から入電、品川沖からゴジラが出現、東京都内に避難勧告発令されました!」

「何っ!?こんな時に…」

東京中がサイレン音に鳴り響く中、避難する人たちが押し寄せ作る波に山根博士や尾形たちが巻き込まれるも山根博士は避難する人たちとは逆のゴジラが迫りくる方へ向かっていた。

「博士!山根博士!?どちらへ!?」

「ゴジラに光を当ててはいけない、怒らせるだけだ…それを伝えなければ…伝えなければ更なる被害が起こる!!」

 尾形の呼びかけを無視して山根博士はゴジラに光を与えては為らないことを伝えようと押し寄せる避難民の流れを逆流して迫るゴジラの方面に向かっていた。

「危険です山根博士!!」

「離してくれ!今、私が伝えに行かなければ甚大な被害に為る!!」

 ようやく追いついた尾形の手を振りほどこうとする山根博士の抵抗激しく抑えるのがやっとであった。

 キキ―ッ!!逃げる人の波の端に軍用車が尾形と山根博士たちの前に止まった。

「山根博士がた!乗ってください!!」

 運転手は岩永だった。

「岩永さん!?」

「早く!もうじき埠頭防衛線をゴジラが通過します!」

「わっ分かりました」

 尾形と山根博士、後から追って合流したエミコとシンキチを乗せて品川鉄橋に向かった。

 品川沖に出現したゴジラに対し品川埠頭にて防衛戦線を張る防衛隊の重機関銃による射撃が開始されたがものともしないまま沖を乗り越えて陸地まで重い足を踏みしめ陸地へとじりじり迫っていた。

「撃てぇええ!!」

―ドン!ドン!ドン!ドン!

 先着に品川沖から離れで4隻のフリゲート艦隊が到着した早々に艦砲射撃を開始したが命中は22発が命中するも効果は見られずどんどんと陸地に迫りこれ以上の艦砲射撃は陸地にも被害が及ぶため護衛艦の砲撃は出来なかった。

 銀行内では未だに緊迫が走る状況の中、2人の少年が鎧塀に好奇な目で見つめていた。

「すっげぇ~…ロボットだ、ロボットだよ兄ちゃん!」

「うっうん…カッコいい…」

 そんな好奇な目を向けられているとも知らずに鎧兵士は階段を上って2階から外の警察の様子を伺っていた。

(…普通の警察ではないな…防弾服を装着している…数はざっと10程度に1小隊で分けている…回り込んで突入する作戦か…)

「おいあんた!これからどうすんだ!?」

「とりあえずお前たちはココから…フンッ!!」

 鎧兵士は窓ガラスを蹴り上げてバリ―ン!と割った。

「何してんだアンタ!?」

「威嚇射撃をしろ、生殺与奪好きにしろ…お前は下の連中に裏口をバリケードの強化を優先させろ」

「はっはい!」

 的確な指揮と統制により鎧兵士を中心に陣形を整えていた。

 コッコッコッとハイヒールの踵が床との歩行の際の足音が通路中を響かせて地下金庫へと向かっていた。

「表向きは国家公認の企業向け保険会社を併合した投資銀行、中国での資産運用を学んだおりに財政界に太い人脈のパイプを形成する戦後9年にして日本国内ではトップの巨大企業の独占市場、流石『臆病者の壱賀谷』…戦前の壱賀谷家は貴族院として内閣に深く関わり軍属に成れども軍事とは逸脱した特別扱い…正に政権貴族と言った所かしら?」

 壱賀谷夫人の背後を拳銃で突き付けて逃げられない様に女は裏手に回っていた。

「あっあなたは一体…」

「あら、七三一部隊と聞いて知らないと答えるのかしら?」

「…夫から耳にしていました…満州での非人道的実験…後世に決して伝えられぬ過ちと関わった夫は後悔していました…夫は臆病者なんかではありません、根が優しい…優しすぎるだけ…だから私は彼のそんな弱さを受け入れているのです」

「そんな話は聞きたくない!裏切りはこの国の専売特許、時の総理『大久保利通』も幕末期は維新志士として数多くの隠蔽や抹消で消えた者は数知れず…それは時に同胞も…そしてその結果が紀尾井坂での暗殺、国家に尽力した者は常に殺し合いの連鎖の中に居る」

 大きな開閉式の分厚い金庫の前に到着すると女は回り込んで銃を夫人の頭に向けたまま挨拶を申した。

「申し遅れた…私は『白娘レイナ』、私の父はかつて七三一部隊の研究員でした…壱賀谷大佐に裏切られるまでは」

「夫は無関係です…むしろあの悲惨な惨劇を二度と繰り返さない様に…」

「消した、私達の存在を無かったことに…暴走する軍部の飼いならされた臆病犬のように尻尾を撒いて逃げた哀れな男…男はみんなそう、都合が悪くなれば平気で何でも捨てる…捨てた結果あなた達は我々を見捨てた!!…今、上を占拠している同胞はそう言った裏切られた七三一部隊の子供達、戦後GHQによって私達の財産とも呼べる研究データを献上した愚かなこの国に制裁を与えに私達はこの国に戻った」

「…復讐…ですか?」

「復讐?…そんなつまらない感情で動いていません…夫人、なぜ日本は世界でも飛躍的に医療が進歩しているかお分かりで?」

「…いいえ」

「それでは…なぜ体重50キロの人間から4Lもの血液が無くなれば死に至るか……それは実際に試したから、同じように非人道と呼ばれてもおかしくない実験をこの国は平然として来たある意味ナチスドイツ以上に残虐性をヒタ隠している。犠牲の上に成り立つのに犠牲になった人たちや関わった人間の事など完全に忘れた!後年の父は後者の人だった、捨てられ見捨てられ、毎日を酒浸り、かつての父の面影も無い程にあなた達が変えた!…そんな途方もない矢先だった、父が私に最後の希望を与えてくれた…それが彼だった」

「彼?…あの機械のような大男?」

「細菌学と言うのは御存じで?この地球上で最も極小生物は時に兵器と成り時に人間に褒美のように新たな力を与える…それはワクチンの様に血清の様に知恵とは違う新たな可能性の力、進化の力、彼の体内では筋繊維が絶え間なく増長し血流は高速で動き心肺機能は常人の遥か上を越える能力を私達は彼に注ぎ込んだ…七三一部隊は彼を被験者に選び『ある細菌』を与えて人間を内側から改造し神話の神に近づけた完璧なる存在こそ言うなれば超人…とでも称すべき存在…けれども彼本体と併合して運用するためにあの装甲着ともう一つ…ここに隠された『ある物』を手にして初めて彼は完璧になる…それらすべてが揃えば彼はゴジラと同じ『怪獣』になる…『怪獣』と対を為す言わば『怪人』」

 レイナはすべてを壱賀谷夫人に機械の装甲を身に纏った安久津の正体を打ち明けた。

「なぜ…なぜそれをわたくしに」

「知っておいて損は無いのでは?…自分の夫が関わりながらも目を閉じた事に妻である貴方が知るべきこと…銀行お得意の信用です、同じ女としての誼み…さぁ、この金庫にある物を」

 壱賀谷夫人は口をつぐみながらも金庫の前に立ち解除作業に掛かった。

「この銀行が立つ前は旧日本軍の極秘施設だった。戦後GHQに見つからず隠し続けた物…核兵器の最大の弱点は強大すぎる…でもここにある物は核とは正反対な武器」

 厳重な重い金庫の扉が開かれ暗黒の金庫の口の中に光が差し込み『怪物』が姿を現した。

「悠久の時を超えて今まさに私達の使命が果たされる…ようやく会えたわね『雷鳴』よ」

 金庫内の中央には銃火器の大型ライフルがあった。

「かつて日独伊同盟期に同盟関係にあったドイツの占領統治下にあったロシリカ国の『原子熱線砲』を応用して小銃に組み込み小型に成功して誕生した逸品…『四五式原子熱線銃・雷鳴』」

 銃火器を手に取り触れて『雷鳴』が実物であることを確認した。

―カチャッ…

 しかし、背後を取った壱賀谷夫人はレイナの後頭部に隠していた銃を向けていた。

「それを置いてください」

「…あなたにその引き金が御引きにできると?」

「…できます。子供たちの為、未来あるこの国の為に」

「…そう言って数多くの同胞を先の大戦で捨て駒にしてきた…やはりあなたは古すぎる」

「…!?きゃぁっ!」

 夫人の握る銃は見えない透明な手に憚られ吊り下げられるように突破口を塞がれた。

「…『雷神』は…神は人の目に見えない」

 やがてクッキリと輪郭と色合い、蜂のように鋭い目つきを持つ赤い目が夫人を捉えていた。

「それが俺の武器か」

「ええっ…あなたの為の『神器』、さぁ手に取って…そうすればあなたは神に至る」

「…フンッ」

 鎧を身に纏った安久津は夫人を銃から手を引き離して端の壁に叩きつけた。

「きゃぁっ!」

 安久津は『雷鳴』を手に取り慣れた手つきで銃の様子と具合を確認すると…振り返って夫人を目に捉えた。

「!?」

―カチャン!

 安久津は夫人が手にしていた隠し銃を構えた。

「ひぐっひっく…母様…」

「大丈夫、母さんなら無事だ」

 未だ均衡状態続く銀行内では緊張が走る中…

(…15人…上には同じ人数程…出入り口は窓口の奥と客用の開閉入り口)

 ゴンは強盗犯の人数と銀行の構造を確認するとキョロキョロと周りを大げさに見渡してモジモジと落ち着きのない動きをし始めた。

「おい!そこのガキ、大人しくしろ」

「とっトイレ…」

「なに?」

「トイレ行きたい…」

「トイレだと…」

「行かせてやってくれないか、子供の排泄は仕方ない」

「っち…仕方ねぇ…おいガキ、来い」

 強盗犯は渋々ながらもゴンをトイレまで連れて行かせた。

「直ぐに済ませろよ」

「うっうん…ありが…とうっ!」

 トイレに着くなりゴンは強盗犯の男の股間を蹴り上げた。

「ブッゥ!?」

 そこへすかさず顔面を蹴り上げて男を気絶させた。

「よっこらせ!」

 ゴンは男を個室トイレに隠した。

「よし…せぇの…」

―うぁああああああ!!

 トイレから悲鳴が銀行内に響き、様子見で強盗が一同にトイレの前で身を屈めてトイレを囲み様子を伺いに行った。

 トイレに侵入すると先ほどまで子供と仲間が居たはずのトイレには誰も居なかった。

「………」

 天井の隅に張り付くゴンを覗いては…

 そして誰もトイレから帰ってこなかった。

「トイレで何が起きてるんだ?ブッ!?」

 オフィスで見張りの仲間が次々と床に倒れ始めた。

「おいどうした!?うぶっ!?」

「なっおい!…がっ!?」

 1階の強盗犯は誰も居なくなった。

「おいっ…一体何が起きたんだ!?」

「あいつら急に倒れ始めたぞ」

 人質たちは徐々に今の異変に気付き始めた。

「あっ!」

 しかし、キヨコだけはオフィスの階段を上って行くゴンがキヨコの瞳に飛び込んだ。

 そして次の瞬間、バババババッ!と発砲音が2階から響いた。

「おっおい…一体何が起きてんだ!?」

「…ゴン…」

―バババババッ!バババババッ!

 発砲音は地下金庫室からも聞こえてきた。

「上が騒がしいわ」

「恐らく威嚇射撃だろう…それよりこの女はどうする…始末するなら片付けるなら消す」

 安久津は壱賀谷夫人から奪った小型のリボルバー銃のハンマーを引いて夫人に向けて構えた。

「よしなさい!余計な殺しをしない…そう言った約束よ」

「………」

 バンッ!と命令を無視して発砲した。

「あっああ…」

「空砲だ、元より弾など入っていない…用意は周到なようだ」

「そう…申し訳ありませんでした。あなたにもお子さんにも罪も恨みも無い…ただ今の国に対する恨み言であなた方を巻き込むつもりは私達にはありません」

 レイナは手を取って夫人に深く謝罪するほど礼儀正しく敵意が一切感じない程の人格者であることを連想させるほどの淑女だった。

 バンッ!と入り口の扉が開かれ仲間が立ち尽くしていた。

「どうしたの?上の様子はどうなっているの…」

「うっうあっあっ…」

 気絶した仲間はドサッと階段から転がり落ち始め…その後ろから鬼気迫る闘気を安久津は感じ、レイナを庇う様に腕を盾にした。

「…ショウセイ?」

「下がれ…お前は予定通り行動しろ」

「えっええ…さっしっかり」

 レイナは夫人に自分の肩を貸して少し後ろに下がった。

「…少年…いつぞやにあった気がするが…最初から薄々感づいていた…あの時、銀行を制圧した時に…お前は誰よりも俺に向けて闘気を滲みだしていた…お前は根っからの闘争者だ」

 安久津は『雷鳴』のスライドを引き、銃剣を取りつけ戦闘の準備に入った。

 バッ!とゴンは高低差ある階段から両足跳び蹴りで安久津にぶつけた。

「がぁああああ!!」

「ぐっ!?」

 ゴンと安久津は地下金庫室にて激闘を開始した。

「さぁ今の内に…」

「あっあの子は!?」

「さぁ…でもただの子供じゃ無い事は確かです」

 2人が闘争に暴れ回る中、レイナは夫人を連れて上へと向かった。

「がぁああああ!!」

 安久津が相対するゴンの姿はもはや人では無い、別の生物の皮膚が彼の身体を侵食していた。




―作者制作秘話―

いよいよ安久津とゴンが邂逅し激戦を繰り広げることになりました!
中盤に差し掛かりゴジラが迫りくる中で最大の事件発生です。

―中建銀行―

銀行としての特色はあれど根本は民間企業に対して保険を掛ける『保険会社の特色を持った都市銀行』のような印象ですが民間企業のみならず別の銀行から保険もかける『第二の日本銀行』の立ち位置です。
従来の日本銀行としての機能が失われた場合、『中建銀行』が国からの要請で一時的な日本銀行に成る方針ですがコレは名門・壱賀谷家が培った政府との『信頼』による重要な存在で
災害や戦争による不況対策としての機能があるのです。
実際の民間銀行にはその様な機能は存在しない架空の銀行です。
ちなみにモデルは中国で2番目に大きく1954年設立の『中国建設銀行』です。

ーゴジラに光を当てては為らない!―

言わずもながゴジラに光を与えては為りません。
やべぇー程にブチギレますので…
ウルトラ怪獣にもダメなのかなぁ~とか考えましたけど人間も友達に光を当てられるとムカつきますよね…そういう事です。
怪獣に光、ダメ絶対!

―ゴンと安久津―

2人の関係はただ偶然遭遇して戦う運命みたいにありますが、2人の関係性のモデルは風神と雷神です。
ゴンが風神で安久津が雷神と言った似ているようで根本が異なる関連性にしました。
また大きな違いは年齢差です。
ゴンが8歳の少年なら安久津は20代の青年と言った若手とベテランみたいな差を付けました。ここがこだわりです。

 今回はここまで!
次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。


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上陸為

 鉄橋の上では防衛隊の避難誘導に従って迫るゴジラから避難していた。

 その横を岩永が運転する軍用車が鉄橋を乗り越えて作戦指揮所に到着した。

「お待ちしていました山根博士…既にご存知の通り事態は深刻と言った…」

 指揮所には将校と岩永より上の他幹部が揃っていたが…

「みなさん聞いてください!ゴジラに光を当ててはいけない、ますます怒らせるだけです!」

「山根博士…しかし、町中の街灯を消すことなど物理的に不可能です、避難の完了していない地区も多いので…」

 逼迫した状況の中、更なる追いつめられた報告が入った。

「報告!!ゴジラが品川沖を越え、品川へ上陸!!」

「何ッ!?こっ…このままゴジラが品川を蹂躙してしまえば…」

 指揮所の中央で広げられた品川区内の地図をゴジラが予想される地域を線結び、円を描くと―

「品川は数時間と持たずに蹂躙され…壊滅する」

 山根博士はその予想図を目にした恐るべきゴジラの行動範囲に恐ろしい被害を想像した。

「先生!向こうの高台に行きましょう!」

 尾形はより街の様子とゴジラの行動が見える高台へ山根博士たちと向った。

 品川地区を蹂躙するゴジラの行動が見える高台に尾形たちが登り詰めるとゴジラは既に品川駅構内へ侵入し線路に大きな足が踏み入った。

 ちょうどそこに走行中の国鉄EF58形電気機関車がゴジラの進行方向にブレーキ叶わず衝突した。

「きゃぁああああああああ!!」

 衝突した電気機関車に気付いてゴジラは架線を引きちぎりながら電気機関車に身体を曲げて近づき、客船から逃げ惑う人々が居る中で前列車両を大きな口で銜え持ち上げた。

 動物が物を口で銜え振り回す様に35t以上の重さの車両を持ち上げる凄まじい咬合力で噛みついた車両は決して離さずに振り回し興味が失せたのか車両を口から放り捨て車両は線路上に叩きつけられ散らばる車両を踏み付けて進行を再開した。

 進むにつれ、先ほどまで避難が進められていた鉄橋には避難が完了して防衛隊が撤退した鉄橋にゴジラが近づき鉄橋を蹴り飛ばして鉄橋を破壊し亀のようにひっくり返すと鉄橋の下の川に無残に壊された鉄橋の破片が散らばり、その川に沿ってゴジラの進行は更に蹂躙した。

 その様子を見ておいた山根博士たちは言葉が出なかった。

「先生!?見てください!」

 尾形は突如ゴジラが品川を蹂躙する足を停止ことに気が付いた。

「なぜ止まったのだ!?」

 ゴジラは何かを感じたのか辺りを見渡し始め、進行方向を急に方向転換して右に曲がった。

「どっどこへ行くつもりだ?」

「はいっ…はいっ……山根博士!ゴジラが方向を変え、現在『中建銀行』方面に向かい始めました!」

「中建銀行!?」

「今、中建銀行は立てこもり事件が発生してまだ避難が完了していないそうなので…皆さんは先に避難所に」

 岩永達防衛官が中建銀行へ避難要請に向かい、山根博士たちは防衛官の指示に従い移送者に乗って避難所に向かい始めた。

 避難所に向かう移送車の中で山根博士と尾形の目には蹂躙しながら街に向かうゴジラが映った。

「がぁあああ!!」

「フンッ!!」

 安久津が手に持つ『雷鳴』の銃床でゴンを押さえつけるもゴンが足で安久津の腕を絡め腕固めに入り、安久津は地面に叩きつけられた。

「がっ!ぬぅぁああああ!!」

 しかし、子供の体重では軽すぎる故にロックが甘く解除され形成が逆転しゴンの首を掴み押さえつけた。

「はぁっはぁっ…子供だからと言って甘くは見ない…お前も俺と同じ…人では無い」

「がっあっがあああ!!」

「ぐぶぁ!!」

 安久津は腹部に強い衝撃が走り、右に吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。

「がっはぁっ…きっ貴様…なんだ、その…尻尾は」

 安久津の目には人型骨格には相応しくない臀部から生えた尻尾が目に映った。

「ぬぁああああああ!!」

 しかし、それでも戦いを止めないゴンは安久津に飛びつき首に腕を回してヘッドロックにかけたが振り回され壁と壁に叩きつけられ振りほどこうとする安久津がゴンを振りほどき金庫に投げ込んだ。

「がぁあっ!?」

「フンッ!!」

 安久津は金庫の重たい扉を閉め閉じ込めた。

 中でドンドンドンッ!と叩く音が微かに聞こえるが決して開かず重い扉が蓋となりゴンを封印した。

「はぁっはぁっ……!?」

 ズンッズンッズンッ!!安久津が立つ位置から地面が揺れる程の振動が金庫から響き始めた。

「なっなに…?」

 ズンズンズンズンズン!!どんどん大きくなる振動が激しくなり金庫の壁にヒビが入り始めた。

「まっまさか!?」

 ドオォォオン!!と大きな金庫の扉が吹き飛び安久津を壁と扉に挟まれた。

「がぁっ!?ぐぅぬぅぁああああ!!」

 重い扉を『クラールハイトギア』の力を稼働させ筋力を増強し押し上げ前に倒すと目の前には息を荒げながら金庫から出た来るゴンが硬質な表皮が徐々に広く侵食して既に頬にまで広がって半獣のような姿に成っていた。

「きっ…貴様、なんだ、なんなんだその姿は…」

「はぁっはぁっ…ぁぁぁあああああ!!」

 しかし、闘争に意識も侵食されゴンは安久津に襲い掛かるさまは正に獣そのものであった。

「ぐっこっコイツ…子供ながら何て力だ!」

 ゴンを腕一本で押さえつけるも大人以上の力の強さは熊か虎、ライオンのような肉食獣を連想するほど強い力が安久津に襲い掛かった。

 ゴンとの攻防の中、安久津は『雷鳴』に手を伸ばして…

 ザクッ…ゴンの浸食が進んでいない腹に『雷鳴』の銃口に取り付けられていた銃剣が刺さっていた。

「がぁはっ…がぁあああぐぁああああ!!」

 痛みに悶えているのか、苦しんでいるのか…しかし、それでも闘気は消えず寧ろ増して闘気が熱気のように高まってより強い力も増していた。

「ぐっのぁああああ!!」

 安久津は銃剣を深く突きさして抉り距離を取るとすかさず『雷鳴』を手に取り銃剣に取り付けると『クラールハイトギア』からエネルギーが流れこみ『雷鳴』が稼働し始め、『雷鳴』『クラールハイトギア』共々光り輝き始め…

―ドオオオオオオオン!!

 『雷鳴』が正に雷鳴の如く唸りを上げ銃口から稲妻状に帯びた弾丸が射出してゴンの硬質な表皮に着弾しゴンの軽く小さな身体を吹き飛ばして金庫の中の壁に叩きつけられ銀行内が揺れるほどの大きな衝撃と壁に衝撃跡を残してゴンは金庫内で倒れた。

―ドオオオオオオオン!!

 その衝撃波は外で待機する警察の突入隊にも感じる程であった。

「隊長!?今のは…」

「良し!全体突入!!」

 バンッ!と裏口とバリケードを張られた出入り口から突入隊が銀行内に突入して目にした光景は―

「突入!とつにゅ…えっ!?なっなっ…何が起きたんだコレは…」

 そこには散らばって倒れる強盗犯が倒れていた。

「ご無事ですか、お怪我はございませんか!?」

 隊員が人質を誘導してブランケットなどを被せ不安に震えた体を外まで歩かせて救出に成功した。

「お母様が…お母様が女の人に!!」

「えっ?」

「キヨコ!?」

 声のする金庫室の入り口から壱賀谷夫人が隊員に手を借りながら歩いてキヨコたちの前に戻って来た。

「母様!!」

 泣き崩れてキヨコが夫人に抱き着いて戻って来たことに安堵した。

「おい!ちょっと来てくれ!!」

 それはトイレ内での見た衝撃的光景が隊員たちの目に飛び込んだ。

「どっ…どうしたらこんな…」

 それは個室1つに鮨詰めの状態で押し込まれ気絶させられた強盗犯がいた。

「こっ…これは一体…」

 2階は銃撃の跡が壁、天井、床にくっきりとハチの巣の様に穴が幾つも空いていた。

 そんな激しい銃撃戦であったにもかかわらず、気絶しているだけで誰一人として死人は居なかった。

「これだけの銃撃の中で立てこもり犯を無力化させるなんて…」

「まるで猛獣が暴れたようだ」

「―それで女性の方が私を入り口まで肩をお貸ししてくれましたが…外に繋がる別のルートから逃走してそこからは…」

 外では救出されている人質の中で夫人は事件の一部始終を聴取されている中、岩永達防衛隊の軍用車が中建銀行前で到着して警察官たちに敬礼し顔合わせた。

「あなた達は…」

「防衛隊の岩永一等陸尉です!5km先からここに向けてゴジラが迫ってきています!今すぐ避難を!」

「しっしかし、まだ犯人の収容が完了しておりません!たとえ凶悪犯であろうとも1人の命を無視はできません!先に人質を避難させてください!」

 警察は犯人の収容を完了させることを優先して防衛隊は人質を避難移送車に乗せられる中…

「待ってくれ!知り合いに預かっている子供がまだ…」

 芹沢がまだ中にゴンが居ることを訴えるも…

「いま警察が確認中ですので…あなたも先に避難を!」

「そんな無責任なことで納得いくはずないだろう!」

 芹沢と岩永が揉め合う中、ドオン!ドオン!と大きな巨体の輪郭が銀行より先の方から迫ってきている様子が見えた。

「はぁ…はぁ……驚いた…あの強烈な一撃喰らってなおも息があるとは…」

 地下金庫室では安久津がゴンの生存を確認するとあれだけの強烈な攻撃を受けてもなお息の音があるゴンに安久津は驚きつつゴンの身体を起こし上げると『雷鳴』の弾丸はゴンの硬質な表皮に着弾して止まっていたのが確認できた。

「俺が銃剣で刺した傷が既に塞がっている…なんなんだこの子供の回復力は…」

「おい!そこのお前!何をしている!!」

 振り返るとそこには地下室に入って来た警察が金庫の入り口を囲んでいた。

「…今さら御登場か…この国の警察は随分と悠長になったな」

「その子供を降ろして投降しろ!」

「生憎待ち合わせているのはお前らでは無い」

 安久津はホルスターにしまって有る携帯式擲弾発射器を警察の前に向けると…

「武器を持っているぞ!回避!!」

 トリガーを引くとボシュッ!と発射器から射出した擲弾は突入班を越えて壁に当たり突入班の前に落ちた擲弾が回りながら煙を吹き煙幕を地下室に広げた。

「なっなんだこれは!?」

「煙幕か!?」

「何も見えないぞ!?」

 煙幕で何も見えない空間にドオン!と大きな音が響き金庫の方に煙幕が吸い込まれ視界が切り開き始めた。

「おい!奴が消えたぞ!?」

 金庫内は隣の地下水路と通じる大人1人分の大きさの穴が開いていた。

「野郎、壁をこじ開けて逃げやがったな…」

 入り口からすべての避難が完了した別動隊の隊員が現れた。

「おい!もうすぐここにゴジラが迫ってるらしいぞ!退避だ!退避ぃいい!!」

 突入班は撤退し逃げた安久津を追うのを諦め突入班は撤退に専念した。

 地下水路に逃げ込んだのは安久津だけでは無く、白娘も地下水路に逃げ込んでいた。

「予定と少々ズレたけど…ここから三叉路回り込めば…」

 曲がり角に差し掛かると鉢合わせるように安久津と合流した。

「きゃっ!?…あなたか……んんっ?何を抱えてるの」

 安久津は肩にゴンを抱えていた。

「さっきまで俺と殺し合いしていた不思議な餓鬼だ」

「あっあの子供を連れてきたの!?何を考えてるのよ!」

 安久津は銃剣を取り出してゴンの手を切りつけて見せるとあっという間に傷口が塞がるほどの回復力を持っていることに白娘は驚いた。

「この餓鬼、刺しても撃っても死なないどころか驚異的な生命力があるせいで直ぐ回復する…中々に見どころのある餓鬼だ」

「だからって…」

 ピタッと安久津が立ち止りだした。

「ふぎゃ!?どっ…どうしたの!?」

 安久津が立ち尽くす前には銃を構えてフラッシュライトを光らせて地下水路を照らす黒服で覆い着込んだ欧米人が何人も待ち伏せていた。

「ファイヤァアアアアアア!!」

 背後に生身の白娘が居るにも拘わらず安久津に集中砲火の如く発砲を開始した。

 ダダダダダッ!と地下水路中に銃弾の薬莢の落ちる音がカランカランカランッと鳴り響く米軍側とチュンチュン!と銃弾が弾き合う安久津側は両腕に着いた盾で屈んでガードする安久津を壁に白娘がゴンを抱えて隠れていた。

「何でCIAがここに…」

「……理由は分からんがずっと監視されて居たんだろう」

 銃弾の雨が降りしきる中でCIAが集中砲火により水路は鉛で埋め尽くされた。

「……ストップ!!」

 発砲するCIAのエージェントがピタリと発砲を止めて銃弾の雨が止んだ。

「…クリアマン…白娘レイナ…この水路は既に我々が包囲している。上はゴジラで大騒ぎだが…まさかこの過密の東京の地下で逃亡劇が繰り広げられているとはこの国の誰しもの耳にも入らないだろう」

 陣形の中央でサングラスをかける男が安久津達に語り始めた。

「CIAは以前から君たちの動向を監視していた。その特殊装甲着のことも、君の中身の正体も…その鉄板の下に隠した君の本性も我々は把握している…大人しく投稿しろ!」

 投降を求められるが…安久津の答えは決まっていた。

「まさかCIAが先回りして待ち伏せていたなんて…」

「……奴ら求めるのはこの装甲着とそこから引き出した俺の屍のみだろう…その驚異的な技術力は奴らが喉から手が出てくるほどに欲しがる物…七三一跡地で得られなかった本来の成果をここで手に入れるつもりだ…お前はそこの水路からその餓鬼を連れて逃げろ、俺が時間を稼ぐ」

 安久津の手に持つ『雷鳴』が光り輝きだしていた。

「時間が無い、カウントするぞ…3、2、1行け!」

 白娘がゴンを抱えて女性がようやく屈んで通れる水路に逃げ込むと安久津は『雷鳴』をCIAのエージェントたちが陣取る天井に向って発砲!

 大きな発砲音と共に天井が崩落してCIAのエージェントたちと安久津との間に壁を形成した。

「Shit!!回り込んでヤツを捉えろ!!」

 ピシャピシャとCIAのエージェントたちが水を踏み走る音が聞こえる中、白娘がゴンを背負いながら身を隠し移動していた。

「はぁっ…はぁっ…」

 CIAのエージェントたちが素通りしていく隙に隣へと移り、また更に素通りしていく隙を見計らっては隣へ移り逃げることを繰り返していた。

「どこだ!?何処に行った…」

 陣形を1個小隊に分けて姿を見失ったCIAのエージェントは安久津の捜索に難航していた。

 しかし、安久津は逃げ隠れも無かった…ただ敵には姿が見えないだけ、ましてや薄暗い地下水路では…

―ダダダダダダダダッ!!

「あぁああああああ!!」

「のおおおおおおお!!」

 安久津は『クラールハイトギア』の光学迷彩で周りとのグラデーションに合わせてカメレオンのように同化しCIAのエージェントを次々と1個小隊分を壊滅させていた。

 ある時は見えないところからサブマシンガンで発砲、ある時は曲がり角から赤い鋭い目がCIAのエージェントを捉えハチの巣にする、まさに形勢逆転だった。

 武器はCIAのサブマシンガンを拾い、それを使う調達戦法で無限に殺し合う結果、地下水路は赤く染まった。

「はぁ…はぁ…Oh My God…あああああああああ!」

 一人虚しく最後の抵抗…弾丸は弾かれ装甲を貫けない。

「……………」

 装甲の中から感じる最後の抵抗は安久津に自身の虚無感を強めた。

 固い殻に覆われた自分とは一体何なのか…自分は何なのか…そもそも安久津とは誰なのかと考えながら安久津は米軍から調達したサブマシンガンが抵抗する最後の一人を射殺した。

―ダダダダダダダダッ!!

サングラスの男は水路の開けた光が差し込む道に走って入って行った。

 全滅、想像以上の強さに為す術無かった。

 水路に走り出口に着くとそこは滝の様に流れる中央路だった。

「!?」

 振り返ると目の前には『クラールハイトギア』を着込んだ安久津と真っ正面で向かい合っていた。

「…なぜだ…なぜ…お前は……お前は人なのか!?」

「…違う、俺はモンスターだ」

「モンスター…だと…本当のモンスターはお前でもましてやあのゴジラでもない!真のモンスターはお前たちを作り上げる人間だ!!」

 サングラスの男は懐に隠したハンドガンで安久津に何発も発砲したが弾丸は雨を弾く傘のように装甲に弾けれた。

「…お前には何も無い!空っぽの操り人形だろう!!クリアマン!!」

「…そうだ…が、俺は人(マン)じゃない…ただの虚ろ、『クリア』だ」

 安久津はホルスターからワルサーP38を取り出して発砲、自分とは違い生身の人間はあっという間にハチの巣になる。

 カランカランッピチャンピチャンッ…薬莢が水路に落ちる音が響き、水路には鉛で埋まり赤い血で染まった。

 ドオン!ドオン!ドオン!…上の外でゴジラが迫る足音が響く音が聞こえた。

 そこは微かに天井が欠けて安久津の頭上を月光と外の火災で赤く照らすスポットライトのように安久津一人を照らしていた。

「はぁっはぁっ…」

 銃声が完全に途絶えて沈黙する地下水路にズンッズンッ!と大きな足音が聞こえ始めた。

「上も危険なようね」

「うっううん…」

 白娘の背中で息を吹き返すゴン気付き、ゴンを降ろして意識を確認した。

「ボウヤ、しっかりして」

「うっ…うん……おばさん誰?」

「誰がおばさんよ!女性にはお姉さんと呼びなさい」

「ここ…何処!?」

「あなたさっきまで戦って意識を失っていたのに記憶が無いの?」

「…覚えていない……2階に上がった時に…いっぱい色んな殺気が俺に押し寄せて…自分の中で何かが覆いかぶさるように腹の底から込み上がって……よくはわからないけど…自分の中に閉じ込められ隠された気分だった」

 安久津と先ほどまで死闘を繰り広げていた少年とは思えない程に怯えていた。

「…自分が分からない?そんなもの誰にだってあるものよ…みんな自分が誰なのか分からずに生きているの……生きているってそういう疑問を解消するためにある猶予なのよ」

「猶予?」

「余命とも言うわね…私もね、愛している人と結婚して生活を築いて子供作って暮らしたかったけど……そんな幸せも許されない運命に立たされちゃった」

「……それが幸せ…なの?」

「あなたにもいつか解るわ、好きな人が愛する相手に変ってそこから子供が出来て子供から孫が出来て…家族から家系となるそんな幸せって誰にでも築けるものじゃないの…一握りの幸せって出会いの積み重ね、あなたもいつか色んな人に会いなさい、出会って出会って関係を築いていきなさい」

 白娘はゴンの両頬を両手で挟み押さえ顔を見合わせた。

「その為にもあなたは生きなきゃダメ、生きて生きて長生きしなさい…フフッ」

 モチモチした若々しいゴンの頬を持ち上げるように弄ってみた。

「なにふんだよ…」

「いや~中々可愛らしい顔立ちだからついつい…君~中々モテる方よ、自身持ちなさい」

「??」

 ドオオン!!頭上で今まで以上に大きな音が響き、天井にピシッとヒビ割れが走り…

次の瞬間、ドオオン!!と大きな足音が響いた瞬間に天井が崩落し崩れ出した。

「危ない!!」

 白娘はゴンに覆いかぶさるように庇い2人は生き埋めとなった。

 水路の崩落に気付いた安久津が駆けつけた時には2人は崩落した土砂の中だった。

「白娘!!?白娘!!レイナ!!レイナ!!」

 安久津は『雷鳴』の銃床をスコップの代わりに掘り進めるも土砂が多すぎて一人では無理だった。

「クソッ!」

 安久津は『クラールハイトギア』のヘルメットを脱いで視界を開いて手で掘り出した。

「けほっ…けほっげほっ…」

「ぶっぶがっはっ…ぶっ無事な様ね…がはっ」

 土砂に埋もれた2人はゴンを下に白娘が覆いかぶさるようにゴンを庇っていたが腹部に鉄骨が突き刺さって口から吐血していた。

「おっおば…お姉さん!?」

「いっ…言い間違えかけた…けど…よく言えましたがっ!―言ったでしょ、君は生きなきゃ…ダメ…私みたいなロクでも無い大人になったら…こういう運命がつき回って来るの…いい!ちゃんと生きなさい!!生きて生きて生き続けなさいがっはっ…」

「何言ってんだ!?あんたはどうすんだよ!?」

「いいから…生きな…さ…い…っ………」

 白娘の目に光が消えた。

 ゴンが初めて目にする人の死、それも至近距離で自分を庇って守ってくれた人が目の前で息を引き取ったことに目から初めて流れる液体が何なのかも解らない自分の無知さ無力さがゴンの心情に強くこみ上げる力が吹きあがった。

「ぬぅううううううああああああああああ!!」

 ボコッボコッゴゴゴッ…積み上がった土砂が盛り上がり、先ほどまで背負われていたゴンが逆に白娘を背負って土砂から出てきた。

「レイナ!?…お前…」

「はぁっ…はぁっ…がっ…」

 フラつきながら土砂をゆっくり降りて行くも、足を滑らせ転びそうになったところを安久津に受け止められた。

「レイナ!?レイ……」

 白娘の瞳孔は大きく広がり、息もせず、皮膚は氷のように冷たくなっていた。

「……レイナは…お前はレイナの最後を……見たのか…」

「はぁっはぁっ…その人は…自分が誰よりも脆い生き物だと解っていたのに…俺を…庇ってくれた…」

「……そうか…行け、二度とこの世界に戻って来るな…ここは無限地獄だ…お前のような餓鬼が居て良い場所じゃ無い…少しでも遠くへ行け」

「…でも」

「早く行け」

「…………」

 安久津は横を見るとゴンはもう居なかった。

 安久津は脱いだヘルメットを被り、白娘を両手で抱えて地下水路の崩落していない道を辿って安久津は歩んだ。

 その道中、崩れ漏れた土砂が地下水路を濁らせる中にはCIAのエージェントたちの躯の血だまりと混じり幾人ものCIAのエージェントの亡骸を通って行く…正に黄泉路、地獄路だった。

 そこを通る安久津は正に悪魔、死神、鬼神、そう言った言葉を形容すべき存在になっていたことに自分でも理解していた。

 地下水路の地上出口に辿り着くと水路と地上を繋ぐ階段に白娘を抱えながら登る。

 ゴルゴダの丘と同じくその階段は13段だった。

 外に出るとそこは地下以上に地獄絵図だった。

―ギャオオオオンンン!!

 天高く吠えるゴジラが品川を蹂躙し破壊の限りを尽くして安久津の背後を通り過ぎ去って行った。

 振り返る安久津は一瞬だけゴジラに目が合った気がしたが…50mの巨体の生物が米粒程度の生物を気にすることがあるのか。

 品川を蹂躙したゴジラは東京湾に去って行った。

 その頃、避難所では―

「……………」

「そろそろ、お戻りになられては?」

「いいや、あの子の帽子を預かっている…あの子にとって大切な父親の形見だ」

 品川区内の区立学校の校庭の避難所で一同に避難が集中していた。

 芹沢はそんな避難所の校門前でゴンの帽子を手に持ちながらゴンを待っていた。

「いくらお子さんが御心配と言えど…もう戻ってくるはずが」

「いや、彼なら自力で戻ってきましたよ…ホラ」

「まさかそんな…なっ!?」

 岩永は目を疑った。あの地獄絵図のような中からゴンが自力で避難所にやって来た。

 ゴジラが蹂躙し破壊した被害は…

 品川埠頭から品川鉄橋、品川駅と走行中の電気機関車数台の客室車、品川運転所と京急本線八ツ山橋跨線橋を通り、中建銀行含めた街路を通って東京湾に去って行った結果甚大な被害を出す結果となった。




―作者制作秘話―

ゴジラが品川から現れ品川を蹂躙する最初の被害ですがその下では激しい激闘と陰謀渦巻く火中が広がっていましたが…
上も地獄、下も地獄、この世界の1954年はヤバいです。

―クラールハイトギアと雷鳴―

雷鳴は元々クラールハイトギアの同時運用を想定している逸品でロシリカ国の原子熱線砲を小型化してそこから発生するメーサーエネルギーを弾丸に帯びた状態での回転運動を向上させレールガンのように発射すると大規模火力銃火器と同質量の攻撃が可能な対空、対戦車、対戦艦といったあらゆる対抗馬と想定したオーバーテクノロジーです。
しかし、欠点はクラールハイトギアの電力の10%を使い、更には光学迷彩機能が使用できなくなる問題点がありましたがこれらは2つ揃って初めて機能する設定です。

―地下水路での戦闘シーン―

地下水路は押井守監督作品のケルベロスサーガの内の一つのアニメ映画『人狼』を意識しましたが実際問題、あそこで安久津が人では完全に無くなったシーンです。
安久津と白娘のキャラクター像も『人狼』から意識はしましたが根本は『白夫人の妖恋』に合わせたキャラクター像を作り上げました。
クラールハイトギアもプロテクトギアをモデルにしてますがプロテクトギアと違って姿を消す光学迷彩やレールガンと言ったオーバーテクノロジーを持っている点が大きな設定違いです。

―生きるとは―

最後の最後でゴンを庇った白娘は自分の命を持ってゴンを助けた行為はある種の違った形の『愛情』です。
それまで異性や人からの愛と言った感情を受けてこなかったゴンにとって初めての感情でしたがゴンの目の前で愛を与え命の火が消える間際まで『生きろ』と訴える白娘には自分が抱いていた女性としての幸せや理想を伝え途絶えた一瞬に何を見たか…それはゴン以外は知り得ないことです。

 今日はここまで!!
次回も変わらぬご愛読をよろしくお願いします。


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蹂躙為

 避難所ではゴジラの被害にあった避難民でごった返し、体育館がいっぱいなため校庭も使い避難所を確保していた。

 そんな中、品川の学校避難所に訪れ早々に現場の様子をすべて写真に撮って被写体の中に収めるマーティンが居た。

「…酷い状況だ…皆、家も財産もすべてを捨てざる負えなかったのか…この小さなハイスクール内では3万に規模の住民を収容できる広大な規模は無い…一部はそれぞれ別のハイスクールへと移され、ここは千人規模が避難してきている。戦後9年にして品川は瞬く間に東京の空襲の如き惨劇に見舞われた。恐らく今は品川がゴーストタウンも同然であろう。危機的状況でもあんな惨劇の後に街に戻ろうとは誰一人も思わない…それが人の心理だ、私もここが故郷のヒールスバーグであっても…戻ることは無いだろう。未知の存在は滅びることは無いのか?今後いつ何時何処の国に現れるのか解らない…以上、スティーブン・マーティン」

 マーティンはボイスレコーダーに自身の取材記録を収めて一通りの取材が完了した。

「はぁっ……惨劇の悪夢って形容しとけばよかったかなぁ」

 精神的に参る状況下の中で心拍が強まる気持ちが胸を締め付ける苦しみになってマーティンはフラつきながら校舎横の鉄柵に背を休めた。

「マーティンさん?」

「はいっ?…エミコ…エミコ!?ご無事でしたか!?」

「ええっ…私も父も尾形さんも皆何とか無事に避難所に到着した次第です」

「そっ…それはなによりです…よかった…本当によかった」

「レイモンドさんは?」

「今、本国の会社に安否を連絡しています…国際電話は使えないので国際郵便を使って…こんな時こそアナログは最善の手段です…そうだ!エミコ、ドクター山根にお会いできませんか!?」

「ええっ、もちろん…体育館の中に尾形さんたちといらっしゃいますわ」

「お言葉に甘えて…」

 マーティンは立ち上がり、エミコが言う体育館に居る山根博士の元を向かった。

 体育館内もやはり避難民でいっぱいだった。

 ラジオだけがここ唯一の支えで、そこから流れるニュースと歌、演奏、そのすべてが今の避難民たちの拠り所なのだろう。

 そんな中、マーティンは山根博士を目に捉え見つけ山根博士と尾形、シンキチの3人が固まる場所に訪れた。

「『各国の調査団、続々と到着』『品川ルートを調査する見通し』…はぁ、とうとう訪れたか」

 山根博士は毎日新聞の一面を飾る調査団到着の一報に彼等の理解力で果たして彼の生物『ゴジラ』が理解できるのか疑わしい気分だった。

「ドクター山根、ヒデト、シンキチボーイ」

「マーティン!君も無事だったのか!?」

「YES!皆さんもエミコも無事で何よりです…ドクター山根、早速ですがドクターはゴジラをどう見ての印象はどのようなものでしたか?」

「う~ん…学術的な考察がどうにも難しい議題だが、一目で私達が見た限りでは凄まじいものだよ、ゴジラは……50mの巨体を支えるだけの屈強な足で歩み蹴り踏みしめれば町など壊滅は仕方なかった…更には尻尾も鈍器のように辺りの建築物を破壊の限りを尽くし……学者の私がこの始末だ、言葉が思い当たらない…あの生物をどう解釈しどう説明すればいいのか、クジラとも、ゴリラ、ゾウ、どの生物とも生態系が明らかに違い過ぎる…正に生態系の頂点…あれは『怪獣王』と呼ぶべきか…」

「King of Monster…(怪獣王…)」

 ゴジラが生物学の権威たる山根博士をして生態系の頂点と言わしめるその存在に畏怖の念をマーティンは身肌にすら感じていた。

「山根博士!」

 奥から防衛官が山根博士に声が掛かり山根博士は立ち上がった。

「ちょっと失礼…」

 山根博士は防衛官からあることを伝えられた。

「災害本部から要請があり、是非とも山根博士の御意見のお力沿いをとのことで総理官邸から直々に…」

「そうですか……わかりました」

 山根博士はあの惨劇を二度と繰り返さない様にと承諾し官邸内で開かれる緊急対策会議に出席を表明した。

 その頃、人手不足の看護にエミコが手伝い避難民の看病にあたっていた。

「もう大丈夫です」

「ありがとね~お嬢ちゃん…あんたは御仏様さね…ありがたやありがたや~」

 エミコは老婆に拝まれること少し照れ臭いながらも次の看病に回った。

「失礼しま…芹沢さん!?」

 次に回った場所には芹沢と横に眠って居るゴンと偶然に出会った。

「んっ…エミコ君」

「ご無事でしたか芹沢さん!…ゴン君、血が…」

 ゴンの衣服と表皮にまでの至る所に返り血が付着していた。

「ああ結構だ、彼はどこもケガしていない…私が拭き取っておく…」

「ダメです!感染症予防の為、私が診ますから」

 押しの強いエミコは強引ながらゴンを優しく起こし上げて破けた服を脱がして手拭いで返り血を拭き取った。

「さぞ辛い思いをされたんでしょう…涙跡がこんなにくっきりと…」

 エミコの腕の中でゴンの目尻にかけて涙を流した跡が見受けられた。

「芹沢さん、ちょっと…」

「はい?」

「コレ、あの子の為の服です」

 芹沢はエミコに紙袋に入れられた幾つもの子供用着物を手渡された。

「これは?」

「芹沢さん、あなたがあのままだと衣服の意識すらないと思ってお伺いした日の後に幾つか見繕ったので、ゴン君にちゃんとした衣服を着させてあげてください」

「はぁ…」

 手渡された紙袋の中は仁平など値の張る着物が3着ほどあった。

「ちゃんと服とか用意してあげてください」

「うっ…うむ…」

「山根さん!こっちも!!」

「はい~!それでは失礼します」

 芹沢を後にしたエミコは次の看病人の下に向かった。

 品川の惨劇の後、世界中から続々と調査団が空港から降り立ち総理官邸対策室に到着していた。

 対策室では既にゴジラ対策による会議が開かれていた。

「まず、海岸線一帯に高さ30m、幅50mの有刺鉄条網を張り巡らせて5万ボルトの強力な電流を通じてゴジラの感電死を謀ります」

 防衛庁の見解は東京湾の海岸線一帯に巨大な有刺鉄条網を張り巡らせて5万ボルトの強力な電流を通じ、ゴジラを感電死させる作戦を実施するにあたって湾岸地区と隣接する数キロ圏内の住民をすべて避難させる計画が立案された。

「防衛隊、並びに海上保安隊は警備計画に基づきそれぞれの任務に就いていただく方針であります」

 対ゴジラ作戦の指揮下の元で防衛隊と消防、警察が総力を挙げて東京湾隣接の湾岸地区に住まう住民は速やかな非難が開始された。

 品川にてゴジラ出現の一報を想像した住民は直ちに防衛隊が用意した移送車に子供から最初に続々と避難が開始された。

 皆、我が子を先にと進められ走れる者は歩きで家財道具から何から何までを持ちだして非難を急いでいた。

―避難警報発令、避難警報発令、海中を17マイルで北西に向けて移動中のゴジラを発見!

 アナウンスがゴジラの情報が流れる中で住民の恐怖心はより強まり逃げることに専念させた。

 関東圏内の防衛隊駐屯地から防衛師団が8師団、県外からも数師団の防衛隊を総動員して出撃と派遣があてられ湾岸地区に向けて着々と到着が次第警戒態勢に移った。

 高機動車から戦車に至るすべての持てる限りの武装や火力を総動員し、更には電力会社と協力して送電線の高電圧網も張られ作戦は順調に且つ更に着実に包囲網が完成しつつあった。

 その頃、都内のとある火葬場では…

「…………」

 燃えさかる火の中で白娘の遺体の焼却が行われていた。

 葬式は開かれない、彼女を見送る者は安久津と世話になっていた円谷エイイチが居た。

「……白娘さんは南京での大量虐殺や占領土と化した中国大陸のすべてを見て育った人でした」

 円谷は彼女との身の上話を語った。

「俺はその後に両親と2人の兄弟と満州に移り渡ってその時にあの人と顔を合わせました…けれど廃線によって統治国の返還と共に七三一の研究施設を追われた白娘さんとまるで家族のように過ごしてました」

「…家族か…あいつが度々口にしていた」

「憧れてたんです、両親は親とも呼べない人だったそうですし…あの人自身、若い時に七三一での研究員として参加していたと耳にしています。よっぽどのことがあったのでしょうけど余りそう言ったことを口に出さない様に弟たちに配慮してましたし…でも、俺にだけはあの人が見た事のすべてを聞いています」

「…どんなだ?」

「七三一部隊の非人道的実験の数々は許される罪では無いとあっては連合国側も戦犯として七三一部隊の関係者を片っ端から秘密裏に処刑させ、運良く逃げのびた白娘さんも追われる逃亡犯として苦しむ日々の数々…そんな中で『家族』と言う理想を夢見たって言ってました。逃亡まもなく5年目にあることを悟ったって語ってくれました…生殺与奪、命を生かすも殺すも所詮は人間、どんな形でもこの世界に人殺しが居ない世界など無い…と、ガキだった俺には難し過ぎて頭傾げたけど…今なら分かります」

 そう言うと円谷は懐に安久津宛の白娘の遺書を手渡した。

「あなたに…と、白娘さんが書きの残した物です」

 安久津は受け取り早々に封筒を開けて中を拝見した。

 安久津は車に円谷も乗せて江東区の湾岸地区の住宅に音連れていた。

 避難が既に完了され、一軒家すべてが廃墟と化した住宅街に周辺住宅と差ほどが無い一軒家を訪ねた。

「ここに居ろ」

 安久津はその家の門を開けて中に入ろうとすると玄関は鍵もかけず開いていた。

 中は新居同然にまだ生活感の無い部屋が広がっていたが…安久津は先ほどの白娘の遺書を思い返していた。

 

『これを呼んでいる頃には私は恐らくあなたの横には居ないと思う。たった数日の出会いの中で愛し合う気持ちをあなたがくれた。あなたが私の事をどう思っているか解らないけど…私はあなたと愛し合って、子供を作って、家庭を作って、この家に住まいたかったけどそれも叶わなかったのね。

 子供の頃からずっと憧れていた普通の生活、普通の家族、普通の人生、普通の老いを重ねての老衰を理想に掲げていたけど…それを追い求める者の運命は大概悪い終わり方。

 この家は隠れ蓑としてあなた宛ての武装と物資を用意したわ…有効に使って。

 恐らくあなた一人にさせてしまったでしょうけど…あの同胞は七三一部隊の同胞じゃない即席の寄せ集め、あなたからして見れば使い物に成らなかったでしょうね、所詮は犯罪者くずれに金をチラつかせて集めただけだから

 でもあなたは違う、なんたってあなたは私達七三一部隊の最高傑作、今までどの世界でもフィクションの世界での話と揶揄されてきた人体の改造に世界で初めて成功した例。

 でもあなたにも私が抱いた理想通りの生活をしてほしかった。

 本当のあなたの記憶は私が作り上げた物語、『東北出身』も『雪男』も『雪奈』も私が作り上げた物語を植え付けたに過ぎない…本当のあなたはアジア圏の国籍の無い子供だった…七三一研究施設で唯一生き残った、私と同じ時代に取り残された者……これの物語は復讐でも戦争でも闘争でもない、あなた自身を取り戻すための旅よ。

 自分を手に入れたければ闘いなさい。戦って勝ち取って、手に入れなさい、自分自身を…

 あなたはもう安久津でも小青でも作られた物語の中の人物じゃない…あなたは『透明』、なんにでも姿を変えられるなんにでもなれる。

 私の導きはここまでよ…あとはあなた次第…

 

 愛してるわ、白娘レイナより』

 

 安久津は部屋の床下から銃や弾丸を取り出して必要最大限の物資を持ちだし―

 車に乗せ込み、安久津は自分の最後の戦いとなる場所に向かった。

 その頃、送電線を繋ぐ発電所内では―

 ゴジラの包囲網に使用される電力の稼働を確認していた。

『第一管区よし、第二管区よし、第三管区よし!』

 それぞれの管区の送電を稼働されたブザーが鳴り響く発電所内ではラジオからゴジラ関連の情報が飛び込んできた。

『臨時ニュースを申し上げます、臨時ニュースを申し上げます、只今港区、品川区、大田区、中央区、江東区民に対し完全退避命令が発令されました』

 同じラジオ放送が流れる山根家の自宅には尾形とエミコが外で警戒態勢に動くライトの柱が見えていた。

『なお、ラジオのスイッチを切らずにそのままお待ちください』

 迫るゴジラの予測行動範囲に山根家は遠方にあるため避難要請は出ていないがそれでもこの世紀の大災害が自ら歩いてやって来ることに大勢の被災者を出している中で不謹慎と思う気持ちがあるがそれでも自らの目と感覚でゴジラと言うものがどのような存在なのかを知りたい気持ちと…

 エミコとの関係に対する気持ちが彼を揺るがす心境に合った。

「エミコさん、今日はお義父さんにハッキリ了解してもらおうと思う…こんな時なんだけど、今の内に言う他無いから」

 それは尾形にとってそれは早すぎる決断とも取れる決心だったが彼女の為にも、この先の為にも、自分が出来る範囲の事を行動したい欲求からであった。

「ええっ…あっちょうど、お帰りになられましたわ」

 エミコは玄関から戸を引いて帰って来た山根博士を迎えに行った。

「お帰りなさ…お父様?」

 しかし、山根博士の様子はまるで気の抜けた雰囲気が滲み出ていた。

「どうかなさったの?お父様」

 エミコは山根博士のジャケットを脱がしてジャケットをハンガー掛け、山根博士は茫然尽くす表情で居間のテーブルに両手を置いて座り込んだ。

「……ゴジラを殺すことばかり考えおって、なぜ物理衛生学の立場から研究しようとしないんだ…このまたと無い機会を」

「先生、僕は反対です」

「尾形君、わしは気まぐれに言っているのでは無いよ、あのゴジラは世界中の学者が誰一人として見ていない…日本にだけ現れた貴重な種なのだよ」

「しかしですね先生、だからってあの凶暴な怪獣をあのままほっておくわけにはいきません…ゴジラこそ我々人類に覆いかぶさっている水爆そのものじゃありませんか」

「その水爆の放射能を受けながら尚且つ生きている生命の秘密をなぜ解こうとはしないんだ!」

「しかし…」

「君までもがゴジラを抹殺しようと言うのか……帰りたまえ、帰って呉れたまえ」

 尾形は山根博士の機嫌を損ねた。

 到底、エミコとの関係を受け入れてもらえない状況にしてしまった。

 しかし、尾形は山根博士に自分の本心を信念に向き合ったことに後悔は無かった。

「尾形さん、これ何処に置くだか?」

 丁度白熱した議論に割り込む形でシンキチが山根博士のガイガーカウンターを持って現れた。

「ああっいいわ、私がお父様のお部屋に運ぶから」

 エミコが立ち上がり、シンキチからガイガーカウンターを受け取ろうとした時…エミコは誤ってスイッチを押した。

―ガがガッガがががガガガぁぁアアアがぁがぁ

 突如、放射能とは関係の無い山根家宅の居間の中にガイガーカウンターは放射能があると示した。

「あら?故障かしら…」

「いいや、それはつい最近取り寄せたばかりのはず…ちょっと貸してくれ……こっこの数値と角度…そんなまさか」

 それは何処にどう向けてもエミコの方をガイガーカウンターに放射能がそこに存在すると警告していた。

「えっエミコさん…」

「そっそんな…お前、被爆をしているのか!?何処か具合の悪い所は!?」

「いっ…いえ、特には?」

「そんな馬鹿な…ちょっ…ちょっといいか?」

 山根博士はガイガーカウンターの測定器を近づけ、エミコの身体に近づけ探って見ると…

―ジジジジジィィイイイイ…

 示した場所はエミコの服のスカート部分に付着した血痕だった。

「エミコ!?この血は…」

「ああっ、こんな所に…芹沢さんが預かっているというお子さんが酷く怪我をされていたので、身体に着いた血を起き上がらせて拭き取った時に着いたんですね」

 エミコの口から芹沢と耳にして彼に着きそうその子供の血だとエミコは語ったことに驚きを隠せなかった。

―ピンポ~ンパンポ~ン

『臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。その後、ゴジラは京浜地区に向かって接近しつつあります。上陸地点の鉄条網には電流を通じますから慎重なる注意を要請します―繰り返します』

 縁側に買われていた2匹のセキセイインコ慌てふためくように暴れ出した。

 その頃、とある場所では―

「…はい…いよいよ防衛隊の対ゴジラ作戦が展開されます。ヘクタールギアと安久津ショウセイの回収に向かったCIAは軍が到着した時には既に壊滅していたと報告された通りです…はい、ヘクタールギアの断念は早計な判断です。いくら『クリアマン』とて、ゴジラに太刀打ちできるはずがありません。同士討ちで自滅を待つばかりです…それでは、CIA長官」

 連絡を終えた者はオフィスビルから見える作戦の様子を伺っていた。

「方向!25度より30度!距離850!」

 海からゴジラの背ビレが確認できた防衛隊は鉄条網の背後に榴弾砲や重機関銃、軽戦車を展開してゴジラを待ち受けた。

 そして、ゴジラが芝浦沖に出現し芝浦海岸に上陸後に5万ボルトの電流が流れる鉄条網に接触し機関銃や榴弾砲の大規模火力に追撃を喰らった…が、ビクともせず送電線の送電ワイヤーを引きちぎり送電線をなぎ倒すとゴジラは信じられない行動を起こした。

 ゴジラは背ビレから胸部にかけて発光を始め、次の瞬間にその発光が最高潮に達した段階でゴジラは口から吐く白い煙のような『白熱光』を放射して放射能を帯びた白熱光で送電鉄塔はたちまち赤熱し水飴のように融け落ちた。

「なんなんだ、あの煙は!?想定に無いぞ!!」

 それまで観測されなかったゴジラの常軌を逸した攻撃に防衛隊は榴弾砲や機関銃を離れ、戦車隊に攻撃を切り替えた。

 しかし、防衛隊の防衛線を意にも介さずゴジラは第一京浜国道を北上し街を破壊しながら札の辻で遭遇した第49戦車隊と交戦に入った。

 口から出す白熱光で街を焼き払うゴジラに対して戦車での砲撃は豆鉄砲に等しかった。

 何十発、何百発と持てる限りの弾丸を装填しては砲撃し攻撃を加えるもゴジラに効果は見られなかった。

 そして、ゴジラは数多の戦車を焼き払うかのように白熱光を放射して戦車隊を全滅させた。

 防衛隊の防衛線を悉く壊滅させたゴジラの進行が再開し銀座方面に進行していった。

 防衛線を破られた報告を耳にした対策本部は次なる作戦に追われていた。

「ええ~芝浦地区の火災は猛烈を極め、消火の見込み無し」

 現場の様子が一語一句報告は入る様子が想像される被害は大規模な災害がジリジリと迫っている様相を呈していた。

「山根博士が言っていたことは本当だったか…」

 作戦指揮の中継たる内閣総理並びに閣議の政治家たちが目に通す資料はゴジラが想定されうる形態についてであった。

 その資料には大戸島で確認されたゴジラと品川で確認されたゴジラの容姿が変貌している件について山根博士の仮説的論文にはゴジラがまだ進化途中の怪獣であると資料には記載されていた。

「確かに、写真で見る限り大戸島でのゴジラは両生類のような顔立ちですけど、品川で出現したゴジラは爬虫類のようにスマートな容姿に変っているのが見受けられます」

「まさかこの次があると…」

「山根博士の論文では…大戸島で確認されたゴジラを第2形態、品川で確認されたゴジラを第3形態と仮定されています」

「何で第1が無いんだ?」

「記述には水棲域に居た段階でのゴジラが第1形態と仮定したますが実際の姿を確認できていない憶測ですね」

「つまり、ゴジラはこうしている間も進化を続けて我が国に進行していると…なんてヤツだ」

「さらには酸素さえあれば鼠算式に体内にある熱核炉のような仕組みで変化する…まるで霞を喰う仙人の様です」

「この生物が神だとでも?馬鹿を言え…我が国はヤツが何であろうと国民の平和を脅かす存在なれば、対抗せざる負えない」

 そうこう総理を始め、難航する打開策に気を取られているとゴジラは銀座へ侵入した。

 無線に耳を傾ける警察隊が自分たちの近くで大きな振動が響くことに気付き、上を見上げるとそこにはゴジラがビルから顔を出していた。

「退避ぃいいいい!!」

 警察隊はパトカーから離れた瞬間、ゴジラの白熱光がパトカーに直撃し爆発炎上した。

 人の気配無く、逃げ出し街の明かりだけが灯る銀座ではゴジラが次々と街を破壊していた。

 街に次々と火の手が上がる中、逃げ遅れた親子連れが居た。

「もう…おとうちゃまの所へ行くのよ!もうすぐ!もうすぐ!音うちゃまの所へ行くのよ!」

 母親が死を覚悟して子供たちと共に心中する決意を固めてゴジラからの死を受け入れていたが…

―ブウウウウウウ…キキィイイーーー!!

「母親の身勝手な死に御子さんまで巻き込まないで挙げてください。さぁ!早く乗って!!」

 ジープで駆け付けた岩永が天の助けの如く駆け付け子供たちと母親を乗せてゴジラが進行する街から離れて避難所に急行した。

 ジープで走らせていると和光時計台の鐘が鳴り響き激昂したゴジラが時計台を破壊して時計台の鐘が沈黙した。

「ああー!!ゴジラが時計を壊した!?」

 子供たちにはそのあまりにも恐ろしい破壊を目の当りにしゴジラと壊した時計を指さしていた。

「しっかり捕まっていてください!飛ばします!!」

 岩永はジープのギアを上げて超特急で避難所に向かった。

 ゴジラの進行は更に激しくなるばかり、松坂屋、和光ビル、日本劇場を破壊して東京中を大火災による火の海に変えていた。

「まったく信じられません!しかもその信じられない光景が今、我々の眼前において展開されているのであります!今やゴジラが通過した後は炎の海と化し見渡せば銀座から新橋、芝浦方面は全くの火の海です…ただいまゴジラが移動を開始しいたしました!どうやら数寄屋橋方面に向勝っています!テレビの皆さま、これは劇でも映画でもありません!現実の奇跡、世紀の大事件、我々の世界はかつての恐竜の時代に引き戻されたのでしょうか!?」

 平河町のテレビ塔でゴジラが永田町へ侵入した様子が映り、対策本部の在る国会議事堂へと向かっていた。

―警戒態勢!警戒態勢!地下壕へ避難せよ!

 警報が国会内で流れる中、総理を始めとした内閣閣僚が避難を開始した。

「はぁっはぁっ、総理として国会を捨てるわけには…」

「総理!!今は避難が優先です!!ああっ!?」

 国会の窓からゴジラが迫りくる様子が伺えた。

「あっ…あれがゴジラか…」

 議事堂の中から見えるその姿は総理の目に荒ぶる神の化身が映った。

 そして、総理含めた閣議官僚たちの居る国会議事堂を無慈悲にもゴジラが土足で踏み込み国会議事堂を破壊した。

 その様は中継カメラに映し出されることになった。

「こちらはMNSテレビによる実況放送班であります!現在ゴジラは放送を送っているテレビ塔に向かって進んでおります」

実況放送中の報道陣がいるテレビ塔に目前まで近づいて来た。

「なんという光景でしょう!?今、我々の目の前にゴジラが目前に近づいてまいりました!!」

 ゴジラはテレビ塔に点滅する光に導かれテレビ塔に迫って来た。

「ますます近づいてまいりました!?いよいよ最後です!!…右手を塔にかけました!物凄い力です、それでは皆さんさよなら!!さようなら!!」

 しかし、テレビ塔に手をかけて来たゴジラが突如、静止して何かを感じたのか明後日の方向を向いていた。

「あっ…あれ?」

 ゴジラは突然テレビ塔の破壊を止めて、別の方角へ向かって言った。

「どういう事でしょうか!?ゴジラは突如我々から離れて行きます!?一体どこへ向かっていくのでしょうか!?」

 しかし、テレビ塔はゴジラの振り向く拍子に尻尾で叩きつけテレビ塔が大きく揺れて倒れた。

「あぁぁああああああああああ!!?」

 テレビ塔と報道陣が倒れ落ちて行き、民家や建物に落ちて行った。

 その頃、避難所のテレビでは別の報道陣が映す中継に切り替わり燃えさかる街の様子とゴジラが映し出された。

「ついに大都市の中心部を襲ったゴジラが東京を縦断しつつ更なる蹂躙を繰り返しており―」

 避難所には騒然とする様子の中にゴンと芹沢が自宅を離れて避難所に居た。

「…私の実家はゴジラの進行方向に無いが…ここに居る者達は家を追われた者達ばかりだな」

「でもあのボロ屋よりは騒がしいが…安全なんだろう」

「さぁな…どこへ行っても安全など無いさ…」

「あれ?芹沢さん」

 2人は他の避難者より冷静に状況を飲み込む中、一人の男性が2人基芹沢に声をかけてきた。

「私です、萩原です」

「萩原さん…と、そちらの方は?」

 芹沢さんは顏見知らぬ欧米人が居ることを萩原に訪ねた。

「こちらはアメリカのニューヨークタイマーで記者をしているマーティンさんです」

「ナイストゥーミーチュー、スティーブン・マーティンデス。エミコからあなたのお話はお聞きしてます」

「エミコ君から…」

「お気に障りましたら…申し訳ありません」

「ああっいえ、それよりお二人もこちらに御避難を?」

「はい…と言うより元々こっちに先にマーティンさんの同僚の方が避難していたはずなんですが…」

「さっきから見当たりません…ハギワラさんの会社の方にも姿を見ていないと…私、少しウォーリーデス」

「Since you are alive, your friends are also alive(アンタが生きている以上、アンタの仲間も生きてるよ)」

「ワッツ!?」

「おっお子さんは英語が堪能なんですか?」

「いいや、覚えたてのにわか知識での英語だ。汚い言葉を使っているのなら謝罪しよう」

「ノー!むしろネイティブ過ぎて驚いただけです…これほどまでの私の母国語を完璧に扱う日本人に初めて会いました…彼はそんな完璧な英語で私を励ましてくれました。Thanks boy, I also believe Raymond is alive(ありがとう少年、私もレイモンドは生きていると信じます)」

 そんな中、防衛官に問いかける人だかりに対して防衛官が一人一人に対応をしていた。

「ウチのオカアが急病なんだ!!」

「ここは本当に安全なんか!?」

「東京はどうなるんだ!!」

「落ち着いて下さい!目下対策を講じてますので今しばらくお待ちください!!」

 そんな騒然とする中で岩永がジープで親子連れを避難所にまで運び到着した。

「さぁ、後は防衛官に従ってください」

「はっはい、さぁ降りて」

 母親と駆け付けた防衛官に子供たちが下ろされ、岩永は避難所に向った。

「岩永一尉!状況は?」

「永田町が堕ちた、総理含め官勢の安否が不明だ。おまけにゴジラの進行方向はまっすぐこっちに向っている…総力を挙げて一人でも多く日暮里方面から回って迂回するぞ」

「了解しました!…皆さん、只今より場所を変えて避難を開始します!押さないで一人一人から順番に!」

 次々と車に乗り込む避難者たちに回る事、次に芹沢達に回って来た時だった。

「うっ…――っ…がっ」

 突然、ゴンの頭に押し込んでくるかのような途轍もない情報量が舞い込んできた。

 ゴンの視覚には高い位置から街を見下ろしながらゆっくりと歩行してくる自らの視覚に別の何者かの視覚とシンクロしてゴンの脳にリンクしてきたのであった。

「ゴン!?どうした!?」

「ボウヤ、大丈夫かい!?」

「はぁ…はぁ…奴は…あのゴジラの狙いは…俺だ」

「何?」

「ヤツの狙いは俺だ!俺を探している!!」

 ゴンはゴジラの視覚とリンクしたことによりゴジラの行動パターンと行動動機が同調した。

「何処へ逃げてもヤツが俺を見つけるまで追い続ける…」

 異変に気付いた岩永が駆け寄って来た。

「どうかされましたか!?」

「オーソーリー、トモ!今は取り込み中デース」

 岩永を遮るように大きな体格のマーティンが被さり防いだ。

「萩原さん、あなた確かバイクを持っていましたね…」

「はい…そうですが?」

「ください、小切手で出しますので好きな額を書いて私にください」

「くっくださいって…芹沢さんはどうされるのですか?」

「この子を連れて皆さんから離れます」

「無茶です!!そんな危険な中をあなたたちがバイクで逃げるなんて…」

「時間がない!この子の言う通りならこれ以上の被害を出す前に私達はココを退散させてもらう、さぁキーを」

 萩原はキーを渡すように迫られたが…

「…お金は受け取れません、ですがバイクは御譲り致しますが…絶対に生きて帰ってください!」

 萩原は差し出す芹沢さんの手を強く握りしめた隙にキーを手渡した。

「ありがとう!では…」

 芹沢はゴンと共に萩原のバイクがある駐車場に向って行った。

「まって!!そっちはダメです!!」

 防衛官が停車を訴えるが芹沢とゴンは萩原のゴールデンビームFA型に跨って防衛隊の制止を振り切った。

 萩原のバイクで道路内に無尽蔵に放置された乗用車を避けながら2人は逃げていた。

「これからどこへ向う!?避難所から離れたが奴は!?」

「確実に俺に気付いてこっちに方向を変えた…でも、この先に幾つもの人の意識がある」

「どうなっているんだ、君の頭は!?」

「あの避難所でもいっぱいな人の意識を感じたけど…ダントツでヤツの気配が俺と同調していた」

「まるで双子のテレパシーだな」

 芹沢にはかつて論文で呼んだことのある双子のテレパシーをゴンとゴジラに連想したが…

「次、検問に女の人と子供、男2人、女1人…キヨコだ」

「なに!?」

 ゴンの言う通り芹沢の目の前には防衛隊の検問所が見え始めた。

「ここからはダメです、迂回してください!」

「でも子供たちが居るんです!このままそちらに抜けられないでしょうか?」

「ダメです!すぐそばにゴジラが迫っているんです!」

 壱賀谷夫人と防衛官が揉め合う中、車内では今にもゴジラが迫る恐怖に子供たちが怯えていた。

「おっ俺らどうなるの?」

「知らないよ…父様も先に行け何て…どうして僕たちと何て」

「兄さまたち情けな~い!プププッ…」

「ばっ馬鹿にするな!ぜ~んぜん怖くねぇよ!ごっゴジラなんかぜっんぜん怖く―」

 見栄を張るトシミツは目の前に迫る大きなライトの光が検問所に迫っていた。

「止まれ!!止まれぇえええええ!!のわぁあああ!!」

 検問所を突っ切ったバイクに2人乗りで抜けて行った後部席にゴンが見えたことにキヨコは気が付いた。

「今の…ゴン?」

 しかし、バイクでやって来たのは2人だけでは無かった。

 上半身が見えるほどの位置まで近づいて来たゴジラが向かいのフロントガラスに壱賀谷家の目に映った。

「「「ギャァァアアアアアアアゴジラァアアアアアア!?」」」

 兄妹そろって目の前に現れたゴジラにビックリして大きな声を上げた。




―作者制作秘話―

物語もいよいよ佳境に到達し始めゴジラとゴンの関係に深く関わってきました。
そして、ゴジラが大きく動く中で安久津が水面下で動くことにどのような心境の揺らぎや白娘への想いがあるのか…
人の死は生き残った関わる人を強くする。
僕はそれを良く知って今回の回を書きました。

―怪獣王―

ゴジラには2種類の名前があり、怪獣の王としての『GOJIRA』生命の神としての『GODZILLA』、この2つの名がMONSシリーズの最大の焦点です。
怪獣の王か破壊の神か、はたまた本編を通して昭和期のゴジラの相違ともいえる『ゴジラをヒーローに』をコンセプトにMONSシリーズがあります。
ただ、ゴジラ達すべての怪獣がヒーローに成るつもりはサラサラないでしょうね。
でも彼等の行動が怪獣漢たちの無意識のヒーロー像を形成した居ると言えます。

―普通の人生―

怪獣漢たちが人知れず生活を人間と過ごす理由は姿を隠すと言うだけでなく、人間として人生を謳歌することが彼等には重要なことです。
しかし、それは半世紀以上前から2人の男女が夢見て叶えられなかった想いであり憧れであり夢を彼等が実現させていることが本編とこの物語を繋ぐ因果です。
本人たちにその記憶も意思もありませんが知らぬ間に安久津と白娘の意思の種が芽吹き100年先の更に先へ向かっている大きな木です。

―ゴンとゴジラのシンクロ―

既話をすべて通してあるようにこの物語はユウゴとアキの二人の祖父である『宮下ゴウケン』初代ゴジラにしてすべての始まりの男の最初の物語です。
怪獣の始まりがゴジラなら、怪獣娘・怪獣漢『怪獣人間』の始まりがゴンです。
これは呪いでは無く、『宿命』と言う名の運命の壮絶な因果の長い戦いなんだと二次創作する自分が考えながらも本編も前日譚も書いてます。
この物語も前日譚ではなく…本編ですね。
もう全部が本編であり登場するすべての人物が主人公のつもりで書いてます。

 今回はここまで!!
次回も変わらぬご愛読をお願いします。


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新生誕

 大きな屋敷が見える。

 明りは1つ、そこに標的が居る。

 安久津が覗き込む双眼鏡には見据える獲物のみが映っていた。

「……逃げるつもりは無いと言わんばかりだ」

「……あんた、本当に行くのか?」

「ああっ、それが俺の任務だ」

「…もう任務もクソも無いだろう、安静に暮らす余生を送ろうとは思わないのか…」

 円谷が問い掛ける中で安久津はトランクケースに収納された『クラールハイトギア』を取り出し着々と装着し始めた。

「…無い、そう訓練されてそれ以外に出来ることは無い」

「……俺があんたなら逃げ出すよ」

「周りがすべてお前と同じと思わないことだ…俺はお前を臆病と罵るつもりは無いがお前はお前の人生だ」

「じゃぁそれがあんたの人生だって言うのか?」

 ガシャン!カチカチッチャキン!手際よい整備に武器類はまるで最良の主と死地に赴くかのような雰囲気を感じていた。

 特に『雷鳴』がクラールハイトギアを着込んだ安久津には不思議と似合う気配を円谷は感じた。

「お前、兄弟が居ると言ったな…そいつらに伝えろ、殺し合いの螺旋は一度入ったら抜け出せない、争いごとに首を突っ込むなと…」

「……言われずとも……なぁ、あんたは敵討ちってたまでもないんだろう」

「……何が言いたい」

「白娘さんはあんたのことが好きだったんだろう…あんたはそれに応えるために今もこうして戦っているのか」

「…………」

 安久津は円谷に背を向けて屋敷に向った。

「安久津ショウセイ!!あんたは誰の為に何の為に戦っているんだ!!?」

 怒鳴るように声を荒げて安久津の真意を聞きだそうにも安久津は一切振り返らず闇夜の中へと姿を消した。

 カチャッカチャッ…拳銃の点検を済ませた壱賀谷は息を整えていた。

「…………!」

 キィーッ…背後の扉が開かれる音がした。

 壱賀谷の命を狩りに死神がやって来た。

「安久津…ショウセイだな」

「…ようやくすべてを思いだした…そして久しぶりだな、壱賀谷大佐」

「フッ…大佐か……知って居るか?軍事において階級は都合よく変わる、特に私達のようなスパイは」

 カチャッ!机に置かれた拳銃を安久津に向けて構えた。

「よせ、お前に銃はもはや意味を為さない。お前に自分の命と天秤にかける物が在るのか」

 そう言われると壱賀谷は部屋の辺りを見渡した。

「金持ちらしい部屋…高値の壺…刀…外国産のソファー…このどれもが私の物じゃない、私は壱賀谷などと言う名でもない」

 壱賀谷本人が自分自身が名前を偽っていることを告げた。

「なに…」

「私はねぇ、昭和12年に中野学校で諜報員として作られた…君と同じだよ、安久津ショウセイ…陸軍では『諜報』の重要性は20年も前から訴えたが『卑怯』と言う理由で頑なに正々思想が陸軍には強まっていた…が、戦争形態の加速度的進化で謀略の重要性が増し、日本が世界的な潮流からの停滞を余儀なくされることを怖れた岩畔豪雄中佐が、参謀本部に「諜報謀略の科学化」という意見書を提出したことが発端だ…解るかい安久津くん、所詮人間は上っ面は『正義』だの『真っ当』だのと言う理論を平気で覆すような嘘を重ねる…私も人間と言う嘘の仮面をかぶり壱賀谷家に養子として入り込む財産を根こそぎ奪った『悪党』だ。妻も子も騙しているのだよ…私は」

「……言いたいことはそれだけか?」

「いいや、安久津くん…君には理解できぬ世界があると教えている。この世界は結局誰かの意図で私達は操られている。真の自由など無い。君を作った者も君が操り人形のようにここまで足運ぶことは既に想定済みだ…君は利用されているに過ぎない」

「…何が言いたい」

「私はねぇ…もう失うものは無いんだ…もう沢山利用され尽くした、諜報員としての責務を今ここで晴らす」

 構えた拳銃とは逆の手に煙草のガラス製灰皿を投げつけた。

「!!」

 安久津はすかさず飛んでくる灰皿に発砲して自身との衝突を回避してバリ―ンッ!と銃弾で割った。

 その隙に壱賀谷はデスクの裏手に回り込んで身を隠した。

「悪あがきか…これが諜報員の責務だと」

「死ぬことさえも恐れないスパイと違って中野学校では『生き残る』を諜報の信条にしている!私は戦後に名を得て会社を得て妻と子供たちを得た…諜報員としては引退だ…だからこそ老衰に至るまで残りの人生を全うする、それが諜報員の責務だ!」

「ただの悪あがきでの玉砕覚悟では無いか…」

 安久津のサブマシンガンの銃撃が弾切れた隙を突いて壱賀谷はデスク下に隠していた組み立て式のトミーガンを完成させ身を乗りだして安久津に銃撃した。

 銃撃の雨の中で屋敷内に銃撃音が響く中で外からブゥウウウンンッ―と鳴り響く轟音と共に窓ガラスを突き破って銃撃飛び交う部屋へ屋敷外からオートバイで突っ込み入って来たところへ反動と共にゴンが安久津に両足跳び蹴りを喰らわせた。

「どりゃぁああああ!!」

「がぁあ!?」

 強い衝撃はクラールハイトギアの装甲材を越えて安久津自体を宙に舞うほど吹き飛ばした。

 吹き飛んで行った安久津と蹴り跳んだ反動を受け流すように宙で回転して着地したゴンの姿には頬から全身の皮膚に例の硬質な表皮物質が広範囲に及んでいた。

「なっ何て無茶な行動を…勝手に運転を変わろうとするな!君は子供だろう!」

 横転して倒れたバイクから身を乗りだして起き上がる芹沢を目にした壱賀谷は彼に気付いた。

「きっ君は…芹沢博士!?」

「お久しぶりです…大戸島の件ではどうもと言いたいですが今はここを離れましょう!」

「どうして君が…あの子供は…あの時の彼なのか!?」

「説明は後です!ここにゴジラが迫っているんです!」

 芹沢は壱賀谷に自らの肩を貸し、部屋を抜けようとした。

「そこの本棚…そこに隠し通路への扉がある」

「ゴン!」

 ゴンは壱賀谷の言う通り本棚を横に倒して隠し扉が姿を現した。

 扉を開けて隠し通路を通って抜け道に沿って屋敷を抜けようとしていた。

「ここの名家は元々徳川の時代より政財界に根強く関わっていた為に暗殺の憂き目にあっていた…その為に幾つもの屋敷を構えては移り変わり日本各地に幾つもの拠点を構え世代が変るごとに屋敷を売りさばく不動産業にも力を尽くしていた…暗殺の憂き目に合う中でこう言った隠し通路を建設時に作っていた」

「さっきから聞いて居れば、まるで第3者の意見ですね」

「当然だ…私は壱賀谷トシユキでは無い。本物の壱賀谷トシユキは自殺している」

「自殺!?」

「彼は七三一部隊に転属後に精神朦朧の末に拳銃で…この銃はその時に」

 そう言うと偽の壱賀谷は本物の壱賀谷が命を絶った自動拳銃を見つめた。

「私は当時七三一部隊の状況を探るために諜報員として満州に送られ壱賀谷トシユキはその時の協力者…でも彼は七三一部隊の非人道的惨状を目の当たりにしてやがて精神崩壊に近づきつつある自身の身と区切りをつけるために私にすべてを託すべく…それが、彼が陸軍の特務機関に要請し私に命令が下った…彼に成り代われと…顔も彼そっくりに変えて戸籍もそのままに彼に成り代わった」

「それからあなたは一体…」

「その後、4年の歳月をかけて七三一部隊を壊滅に追い込んだ…七三一部隊の総務と言う肩書きの下に…しかし、研究の統括者であった白娘アザミが44年の暮れに私の正体に気付いて逃亡を図った…当時研究段階だった『生体改造』の実験体を連れてドイツに亡命を図っていた…結局、私達の妨害で実験体のみドイツに流れ渡ったが白娘一家は中国内で隠れ留まった」

「その実験体とは…さっきの…」

「ああ…元々その『生体改造』で肉体を強化された人間に纏う形で2つに1つの強化生命体に慣れ果てた白娘アザミの亡霊だ…これが白娘アザミの残した『強化装甲兵案』の全貌だ…奴はあの男のような兵士を量産して日本にクーデターを起こそうとしていた」

 その手渡された資料には白娘アザミの研究資料のすべてであった。

「何てことだ…私は医者でも無いが…赤血球数も白血球数もアドレナリンにエンドルフィン値も常人の数倍以上!?」

 芹沢は目を疑うほどの常識外れの研究記録に仰天していた。

「白娘アザミは人間の秘めたる力を開放して究極の戦闘マシンを作ろうとしていた…まるで怪物だよ…考えてみたまえ、この地球上でもっとも恐ろしい生き物は何かね?」

「…人間です…か?」

「その人間ですら自らの体の秘密を知り得て居ない…完全なる力を引き出せていないものを呼び起こせば忽ち人はこの地球上を蝕む悪魔に成り代わってしまうんだよ…さっきのような怪物に…もはや誰にもヤツを止めれる者は…」

 芹沢は壱賀谷の目の前に立ち塞がった。

「居ます!…ここに」

 芹沢が指さす先には変貌を遂げたゴンだった。

「彼は…一体…」

「あなたの仰る通りなら『生体改造』された人間を人工的な怪物と捉えれば、この子は超自然的に誕生した新たな人類の可能性です」

「??」

 ゴンは大人の語ることに理解が及ばないせいで首を傾げた。

―ドオオオオンンン!!

 そこへ隠し通路の壁を突き破ってゴンの首根っこを引き抜いて安久津が姿を見せた。

「お前は…なぜお前がここに居る!!」

「放せ!この野郎!!」

「その子から離れろ!!」

 芹沢と壱賀谷は手に持つモーゼルと自動拳銃を突き付けてゴンの解放を求めた。

「貴様は…なぜ子供を巻き込む!!お前たちは子供にまで自分たちの業を背負わせる気か!?」

「君のやっていることは正しくない!こんなことをして何になる!?」

「…俺が求めるのは壱賀谷トシユキが持ち出した七三一部隊の研究資料、俺の存在が残る物のすべての抹消だ」

 安久津の狙いは唯一つ、壱賀谷が持ち出していた安久津もといクラールハイトギアならびに自分に繋がるすべての証拠の抹消だった。

「まっ待て!こっ子供に危害を加えるな!」

「この餓鬼は子供ではもはや無いのだろう…それくらい俺の目でも分かる」「放せ!!」

 安久津は暴れ回るゴンの首根っこを抑えつつも芹沢側と安久津側に間合いに緊張が走った。

「…待ってくれ!その子に罪は無い、離すんだ!資料も何もかもこの屋敷すべてを消したっていい!」

「…取引のつもりか?…愚かな、元より貴様等もこの餓鬼も抹殺対象っうっう…抹殺?…なっなぜ俺は今なぜ抹殺など考えて…」

 安久津の様子が急変した。

 まるで自分の言ったことと考えていたことに対する矛盾に脳内でバグのように発生した考えていなはずのことを考えていた。

 目的はあくまで『自分に繋がる証拠の排除』であったのにまるでそこに割り込む形で鏃が突き刺さるが如く『抹殺』という言葉が安久津の中に過っていた。

「おい、鉄仮面野郎…いつまで首根っこ捕まえてるきだぁああ!!」

 ゴンは苛立ちが頂点に達し上体を起こし上げて安久津の腹部に蹴りを喰らわせた。

「ごぶっつ!?」

 強い衝撃は2度目、最初に銃撃していた部屋から超近距離での両足跳び蹴りによる胸部の衝撃、そして今度は自力で解こうとしたゴンの後ろ両足蹴り、子供にしてこの威力!?

「がはっ…はぁっはぁ…きっ貴様、ごっこがごごっ」

 安久津は目を疑っていた。

 目の前にはゴンを始め、後ろに芹沢と壱賀谷、なのに視界には見た事も無い様な『幻』が映っていた。

『殺せ…殺せ…ヤツラヲ殺せ!!』

(だっ誰だ…お前は!?)

 それはまるで幽霊、亡霊、悪霊と言わんばかりのヴィジョンなのか、とにかく安久津の目の前には禍々しい仙人のようなシルエットが浮かびあがった。

『「グレイヴ」…私の最高傑作…お前は私の希望、私の夢、私達人類の英知の結晶!!それを見いだせずあまつさえ私達を亡き者にした愚かな人間に裁きを与えよ!!!殺せ!!!!殺すんだ!!!!!』

「やめろ!!俺に語り掛けるな!!なんなんだお前は!?」

「はぁ?」

 突然の安久津の豹変に異様な気配を感じていた。

「なっ…何が起きて居るんだ」

「まずい!芹沢君、離れるんだ!」

「えっ!?」

 芹沢を捕まえ後ろに空いた隠し通路の壁に隠れると―

―バババババッ!!

 錯乱するように安久津はサブマシンガンを乱射し始めた。

「のわぁっ!!」

 散弾する弾丸を避けるようにゴンは通路を被弾しない様に全速力で逃げた。

『ぐががぎごがっ…皆殺し…みな殺す…がぁっ』

 歩く様にはもはや意思は感じられない、言うなれば『ゾンビ』のように通路を徘徊していた。

(どうなっている…俺は一体…ここはどこなんだ!?まるで牢屋の用だ…)

 安久津が見開いた場所は虚空の牢獄であった。

『そうだ!ここはお前の人格を閉じ込めるための牢獄、貴様は何の役にも立たない!よってこれからは私が変ってすべてを根絶やしにしてやろう!!』

 牢の鉄格子の前には先程の仙人のような老年の男が居た。

(あんた誰なんだ!?俺の身体を乗っ取って何をするつもりだ!?)

『愚かで間抜けな奴だ!いいや、貴様にハナから人であるとでも?…お前は満州の辺境地で豚の価値にも匹敵しない路上生活者のクズだった!親も兄弟も居ない哀れなお前を拾って不死身の力を与えてやったと言うのに他の試験体のすべてを注ぎ込んだお前は結果を疎かにした…もはや貴様に価値は無い!そこに居るお前の為に犠牲になった奴らと仲良くしているがいい』

 安久津は異様な気配を感じ振り返るとそこには無数の亡者が安久津に迫っていた。

―スレイヴゥゥ…スレイヴゥゥ…

「やっ止めろ!!止めてくれ!!あああああああ!!」

「何なんですかアレは!?」

 芹沢は異様に変貌を遂げた安久津が何者なのか壱賀谷に訊ねた。

「白娘アザミの計画は不死身の兵士を作り上げること…それが目的です」

「不死身の兵士?…一体、白娘アザミとは何者ですか!?」

「白娘アザミ…帝都大学を首席で卒業後に単身ケンブリッジ大学に渡り…以後の経歴の無い謎の人物です。私は以前から白娘アザミを追っていました…その途中で七三一部隊の『壱賀谷トシユキ大佐』と入れ替わる形であの男の本性を知りました」

「白娘アザミの…本性?」

「白娘アザミは人間の体に宿る魂成る概念をコードと見立て大脳や小脳と言った臓器を統括するいわばメモリーのような役割を一つに集約した『スレイヴ基盤』…奴はそれを組み込んだ『クラールハイトギア』の基盤設定を作り上げた怪物…それが『グレイヴ』です」

 『グレイヴ』と言う怪物を生み出した白娘アザミを同じ科学者として芹沢は畏怖と懸念が過った。

 そして、それを作り出した人間たちにも同じ事であった。

「旧陸軍はそんなものを作っていたなんて…」

「いいや…白娘アザミを始めとした研究者が集められた七三一部隊は旧日本軍の傘下に無い…名目上軍傘下であったが、その背後組織は別に居ることを私は突き止めてました」

「何者なんですか?その背後組織とは」

「その組織は世界中に隠れてシンパを持つ正体不明の組織、ナチス、ソビエト、そして旧日本軍部にも深く関わっている…そして、この現代でも奴らは暗躍しています」

「奴らとは…一体!?」

「私達の諜報においてその組織の名は…『ゴラス』と把握しています。遥か太古より人間社会に暗躍する謎の組織です」

「ゴラス…」

「それを気付いた人間は少なからず存在し我々諜報員を『世界人類の平和を確立する』目的で創設した『中野学校』もその内の一つです」

 芹沢は壱賀谷から告げられた真実に驚愕した。

「がぁっ!?」

 ゴンは安久津の身体を乗っ取って打って変わった別の意思の宿ったクラールハイトギアと安久津の肉体を併合して変貌を遂げた『グレイヴ』がゴンに追撃していた。

『人間は…マッサツ…セイブツハ限られた死をもって…ジョウカ…』

「どうしたんだおっさん!?どうして…どうしてこんなことをしなきゃならないんだ!?」

 次々とサブマシンガンの射撃で追撃をしてくるグレイヴは段々とその行動に機敏性が現れだし始めた。

「クソ!!あぁあああ!!らぁっ!がぁあ!!」

 装甲の脆い個所を狙うも何も感じて居ない痛覚無き体には空に等しかった。

 グレイヴはゴンの腕を強い力で掴み吊り下げた。

「放せ!!」

『お前は……娘を踏みにじったあの核の化身と同質か…お前のような者を生かしてはおけない、フンッ!!』

 グレイヴは容赦なくゴンにサブマシンガンを突き付け腹部に多数の銃弾を撃ち込んだ。

「がぁああああっああっぁああああっぁあああがぁあ!!」

『なぜだ…何故、死なない!?…貴様も不死身か!?フンッ!!』

 グレイヴは壁にゴンを叩きつけた。

「がっ!?」

 ずれ落ちるように壁から床に倒れ伏せた所を容赦無く白娘レイナを踏みにじり生き埋めにしたゴジラに八つ当たるかのように頭部を踏み付けた。

『ただでは死なさん!苦しませながら殺してやる!!』

 グレイヴは腰に装着された銃剣に手をかけ引き抜き持ち構えてゴンの頸椎に狙いを定めた。

『終わりだ…呪われし子供よ!!』

 振り被り刀身はゴンの頸椎に迫った―

―ドォオオオン…ドォオオオン…

 強い振動が屋敷全体に響き、振り被った銃剣がピタリと止まった。

『…現れたか…核の化身よ…今こそ貴様の息の根を止めてやる』

 グレイヴはゴンから離れ、『雷鳴』の確認をすると銃剣をしまって持ち直した。

 グレイヴは敵討ちとしてゴジラへ向かった…が

「まっ…まて…」

 足に鉛の重りが繋がったように微動も動けなかった。

『貴様…この餓鬼が!!汚らわしいその手を放せ!!』

 先程まで掴み掴まれ続けたゴンが逆にグレイヴを掴み捕えていた。

「その…体は…お前の物じゃ…無いだろう…」

『私の物じゃ無いだと!?コレは私の武器だ!私の道具だ!!私自らの為の願望器だ!!!貴様のような子供に何が分かる!!』

「分かるんだよ!!その体に今いるヤツは本当の身体の持ち主じゃないことぐらい!!あんたの為の道具じゃないんだよ!!」

『戯言をぉおお!!っ…うっ動けん…何故だ!?』

 グレイヴの身体にはまるで全身に金縛りにあったような感覚が襲い掛かっていた。

【もう止めて…お父さん…】

『そっその声は…』

「白娘アザミは…私の諜報員仲間が確認を取った時には既に死亡していました…機械と同化してのショック死です」

 芹沢は壱賀谷から白娘アザミの死に様を耳にした。

「白娘アザミは魂の圧縮化を研究していました…白娘アザミにとって魂は都合の良いレコーダーのような役割を担っていると…それはまるで地球上のスーパーコンピューターを終結させても足りないくらいの容量を高質化させ自分自身も不老不死になる事…彼の研究は狂っていた理由はそこにあるます…『死』を越える…人類が長年夢見る物に英知で理解しようと再現しようとした結果誕生したのが『スレイヴ基盤』から成る『グレイヴ』です」

「それ即ち魂とは…あればあるほど容量は大きいと?」

「現状のスーパーコンピューターが蓄えられる容量はおよそ僅か…しかし、生命の魂には様々な情報が詰まっている…地球誕生の歴史から未来の可能性、考えてみてください、ライオンの魂を仮に人間に移し替えれば…人の遺伝子コード或いは大きな突然変異と言うべき変貌を遂げる…この資料にはこう書かれていました…『魂の移植(ソウルライド)』と」

 七三一部隊の研究資料には『魂の移植理論』について現代社会に生きる芹沢には到底理解できない非科学とも取れる内容であった。

「…ソウル…ライド……俄かに信じられない、魂と言う不確定要素を白娘アザミはどう見ていたんだ!?」

「その資料通りなら『人類の更なる進化』とでも言うべきことに非人道な禁忌の行為を平気でする人間へと為ってしまったとしか…七三一部隊で収容されていた者は、捕虜から女子供までと…いずれも満州では既に実験で魂の固定化を見つけ出した…あの『グレイヴ』には数百規模の亡霊を背負った悪魔、悪鬼、死神と呼ぶべき存在です、あれにもはや生命は存在しない、まさに生きる屍!」

「屍が生きるはずありません!それをゴンが証明してくれる……もう1つ、あなたに訪ねたいことが私にはあります」

「何ですか?」

「以前、あなたと大戸島でお会いした時も…今、ゴンと戦っているあの怪物も私はどこかで会っている、違いますか?」

「…どこまで知っているのですか」

「正確には何一つも…科学者としてあるまじき憶測の推測による不確かな考えですが、私は…人を信じられなくなっていることに何処か自分で引っ掛かっていました…このモーゼルも…今のこの状況も…まるで誰かの手の内にあるかのように」

 壱賀谷は言葉が出なかった…芹沢自身もまた矛盾と戦っていた。

「だが、今はそれを聞く前にここを抜けましょう!さぁ肩を貸します」

「君の子はどうするつもりだ!?」

「別に私の子ではありません、それにこれは彼らの戦いです」

 芹沢は壱賀谷に自らの肩を貸して腕を回し抱えて屋敷の隠し通路を進んだ。

 突然、静止したグレイヴの中で優しき光り輝く声が浸透していた。

 その声は安久津にも…

『なぜだ!?なぜその男に固執する!!その男一つの身に我々の心血を注いだというのに役にも立たない役立たずだ!』

【違う!…お父さんは報復に駆られただけの穢れた魂…人を人とも思わないお父さんなんかとは違う!…彼は私の…私達の最後の希望よ!!】

『フハハハハハッ!!我が娘にして他愛のない戯言だ!!その男に何が出来る!?その男に何の価値がある!?その牢獄に捉えられた奴隷(スレイヴ)どもに何が出来る!?魂1つに集約してようやく機械として成り立つだけのテツクズの箱に凝り固まった魂だ!!』

【そう、この牢獄の中は七三一の罪そのものが詰まっている…実験とは常に犠牲が付き物、どんなに世界人類の為と謳っても所詮は犠牲を瞑った忌まわしき業…でも、それでも私達は前に進まなければならない!】

 ガシャンと牢獄の鉄格子を手にかけた。

【お願い!安久津ショウセイ…あなたが…あなた自身がグレイヴとなるのよ!!】

 牢の最奥に安久津の霊魂が留まって蹲っていた。

『その男にもはやグレイヴと成りうる素要は無い!無駄な足掻きは止めろ、疎かな娘よ!』

【がぁっ!?】

 悪霊は優しき声の主を絞めた。

 ミシミシと徐々に牢から引き剥がされる中、安久津にはその声が耳に届いていた。

「…れるな…」

『なに!?』

「触れるなと言っているのが聞こえないか耄碌怨霊!!」

 安久津の魂は生きていた。

 それも悍ましいまでの執念が悪霊を退かせた。

「ワシらはもううんざりじゃ…」

「捕虜となって酷い仕打ちはたくさんされながらも」

「さんざん利用され続けた」

「どうか私達の分まで…抗って」

「闘って」

「戦って」

「勝ってもいい負けてもいい、それでも生きてみんなの魂の爪跡を残して来て…」

 牢には1つの道を作るようにすし詰めだった牢の魂たちが安久津へと1つの形に交わらせた。

『なぜだ…なにをしているお前たち!!』

【無駄よ…お父さん、あなたにグレイヴとしての権限は無い】

『なんだと!?おのれ、私はお前たちの創造主だぞ!!貴様の肉体もこの鎧に取り巻く基盤も私が作ったのだぞ!!』

【それは違う、お父さんの【屍鬼兵計画】には未完成の状態で留めている】

『なんだと…』

【『スレイヴ基盤』の本当の完成形は魂の融合態、この数日間に私は彼と接触してお父さんが気付けない程に慎重に完成に近づけていた】

『一体いつ…どうやってどんなことを…』

【それは…『愛』よ】

『愛だと!?…とうとう気でも狂ったか?』

【歪んだお父さんには理解できないでしょうね…己の報復心と自意識の結合体たるお父さんと愛と誇りでより結束したスレイヴの完成形が勝るはずが無い!】

 安久津は…否、真のグレイヴは鉄格子を開き曲げて牢から身を出した。

【これは私達を取り戻す戦い、その戦いの中で乱入者に権限は無いわ…グレイヴは希望の剣、もう彼は生ける屍じゃない】

 グレイヴは自らに憑りつくヘドロのような亡霊を掴みかかった。

『がぁああああっ!?貴様何を!?』

「俺は…俺だ!安久津ショウセイであって、人の結晶、それをあんたに踏みにじる権限は無い!!」

 グレイヴは光り輝き始め亡霊は粒子のように消滅し始めた。

『やめろぉおおお!!私は…わたしは…許せなかったんだ…私を負い遣り、無き者としたこの国に…妻を見殺しにした世界に……何故だ!?…何故…私は何処で間違えたのだ…山根…真船…お前たちと私では…何が違うのだ!?』

 まるで遺恨と後悔と共に浄化され光る粒子となって天に向かって昇天していった。

【…終わったのね…恨みつらみの呪いは…】

「いいや、まだ終わっていない…あの子供もまたお前の父親同様に呪いに苦しんで居る」

【助けたいの?】

『かもしれないな…俺の魂には欠損部分が多い…人の意思が凝り固まってようやくこの世に留まって居るに過ぎない』

―ならもう少し…あなたに付き合うわ―

 完全に静止したグレイヴを微動一つしない様子を見計らってゴンは横に移動しグレイヴと壁の間を抜けた。

「どうして急に止まったんだ?」

 覗き込むように様子を伺っていると…ロボットの如く独特な角張った動きを始めてゴンは少し驚いた。

「少々バグが発生したが…問題ない……小僧、お前とはいつぞやの因縁が俺たちには合ったな」

「知らねぇよ機械野郎…」

「…何故戻って来た…ここはお前のような子供が踏み入れてはならない領域であると…お前自身が見たのに理解できなかったか」

「……知らねぇ…でも、ここに来なきゃいけない気がした…ここに来て自分の為にも、未来の為にも、自分が出来ることをしなきゃいけない…眼帯博士とこの家の家主のおっさんに代わって俺があんたをこの屋敷から追い出してやんよ」

「ふっ…遅かれ早かれ貴様はこうなる運命と言うヤツか…だが俺はもはや今までの俺とは違う…手加減などせんぞ!」

「上等だ…おっさん!」

 2人は身構えて戦う決意を固めていた。

 次の瞬間に動いたのはゴンだった。

 全身に電流が走るような感覚と共に足をサスペンションとして飛び掛かりグレイヴに蹴り上げた。

「!?」

 高出力の飛び蹴りが左腕で防がれ、そのまま右手で足を捕まれ壁に向って叩き投げられた。

「がっ!?」

 壁を破壊、大きな穴を開けてゴンは屋敷のロビーに放り出た。

 グレイヴもロビーに降り立ちゴンへさらに迫った。

「次は右から斜め下…」

 グレイヴがスレイヴ基盤から予測される攻撃パターン通りならゴンが攻撃再会はおよそ2秒後―

「らぁああああ!!」

 予測通りの動きだった。

 単調では無いが予測範囲内での攻撃であってもその一つ一つに重みを感じる程の攻撃だった。

「パワーではこちらに分が悪いか…なら―」

 グレイヴは周囲の色合いと同化して光学迷彩で姿を消した。

「なっ!?消えた…」

 …右!左!上!右!と見えなくなったグレイヴの攻撃はゴンに直撃した。

「がっがっぐっあっ!!」

 見えない敵に対する攻撃はすべてが空回りであった。

 卑怯とも取れるこの光学迷彩でのステルス攻撃は目に見える視覚に頼る生物には効果的であった。

「……っぅ――…」

 しかし、ゴンはあろうことか見えない敵に対して目を瞑り音に集中した。

 僅かに大理石を叩く音が耳小骨を通して耳に振動しグレイヴの位置を決めた。

「そこだ!!」

 叩く位置、叩きこんだ拳はグレイヴの胸部に直撃した。

「ぐっ!?フンッ!!」

 グレイヴはゴンの腕を固め抑え、腹部を蹴り上げてゴンを中央の階段から突き落とした。

「がっあっあっがっぁだっ!?」

 階段の段差にドンドンと叩き落されていくゴンを見下ろすグレイヴの胸部は稲妻を帯びるように放電していた。

『胸部の衝撃により40%損傷、光学迷彩の使用は不可』

 レイナに似た声が損傷状況を安久津に伝えてきた。

「…素敵な声が見守って居るようだ…だが、まだこの因縁に終止符が完全に着いていない…フンッ!」

 グレイヴは10段以上ある階段を飛び降りて着地した。

「はぁっはぁっはぁっ…」

「小僧…まだ息があるか……どうして俺達の世界に戻って来た、二度と戻って来るなと言ったはずだ」

「うるせぇ!!あんたが…あの時、あのお姉さんが死んだことを分かった時に…あんたは自分の居る世界を恨んでるんじゃないのか!?ガッ…!?」

 ゴンは腹部を思いっきり蹴られ殴られ叩きつけられる衝撃に気圧されていた。

「フンッ!!…子供が深入りするなと何度言えばわかる!お前のような子供たちがこれまでどれだけの人間に利用されてきたと思っている!!何も知らない無邪気はこの世界では何の価値も無い!!フンッ!!」

 渾身の一撃に玄関のドアまで吹き飛ばされたゴンはドサッと床に転がった。

「はぁっはぁっ…」

 グレイヴもとい安久津自身も理解していた。

 姿形が異形でも子供は子供であることに変わりない…が、警告の念を込めた拳は諸刃である。

 自分でも子供を痛めつけていることに深く突き刺さっていた。

「これ以上、貴様に何が出来る…何を貴様にそうさせる!」

「……人の…気持ち……こ…ころ…願い……犠牲…辛い苦しみ……目を閉じれば常に俺には入って来る思念が感じる」

「なに?」

「アンタにも感じた…苦しむ人の声の塊が…あんた1人に凝縮している気配を……なのに今は何も感じない…一点の曇りもない真っ新に成っている」

 ゴンの感覚にはそれまでバラバラに細胞の如く分裂している気配を安久津から感じていた…が、グレイヴと成った今はその気配が1つにまとまり固まってグレイヴと言う怪物を形成していた。

「貴様に何が解る!何が貴様に感じる!…この体には人の業で犠牲となった者たちの想いが宿っている!!その思いは貴様の軽率な未熟さとは比較にならないだけの覚悟がこっちにはある!お前に解ったところで…」

 安久津はゴンに銃口を向けている手に震えが発生していた。

「なぜだ…何故焦点が定まらない!…そうまでしてなぜこの子供に肩入れする、レイナ!!」

「はぁっはぁっ…レイナって言うのか…あの人の名前…」

 ゴンは体や頭の至る所から流血する朦朧とした意識の中でずっと知りたかった自分を救ってくれた人の名前を聞いて瞬間、微笑む様に表情が緩んだ。

「…小僧…お前、名は?」

「…ゴン…」

「本名だ」

「…宮下…ゴウケン…長ったらしい名前だから皆『ゴ』と『ン』を取って『ゴン』と呼ぶ」

「そうか…では、なぜお前はそうまでして闘う…貴様に何をそこまでさせる道理がある」

 安久津は銃を構えながらゴンに闘う理由を尋ねた。

「…生きたいからだ…俺が闘わなければ俺の明日が来ないから…闘わなければ大切なものを失うからだ」

「…闘うとはどういうことか解っているのか…終わりの無い闘争の世界に足を踏み込めば…お前は後戻りできないぞ」

「……それでも誰かが闘わなきゃならない…どんなに辛いことでも立ち向かえなければならない!あんたにどれだけの想いが沢山有るなら…俺は未来の為に闘う!」

 ゴンは飛びかかりグレイヴの機体の重要なケーブルなどを引き抜いた。

 グレイヴの駆動系統は徐々に計器と共に狂いが発生し始めた。

「ガッ!?」

 しかし、ゴンは首を捕まれ宙吊りに下げられ身動きが取れない状況に逆戻りした。

「フンッ!軽い…俺と貴様では経験の差が違う、この軽さは未だ芽の出ない貴様の若さが招いた結果だ…若い芽を紡ぐことになるが俺には後悔は無い!!」

 グレイヴの手には『雷鳴』に取り付けられた小型原子熱熱炉が右手に取り付けれていた。

「本来の使い道に外れて武器となる物はいくらでもある…もっともこれで貴様の呪いもろとも叩き砕く!」

 グレイヴは魚の缶詰程度の大きさの小型原子熱核炉を握り圧迫して原子融解を引き起こし熱核炉内で稲妻のような帯電を帯びると右腕部がその帯電するエネルギーを吸収して諸刃の力を与えた。

「貴様には覚悟が無い…が、俺にはある!お前の想いは十分理解した…だが、貴様の想いより俺の覚悟に勝る物は無い!貴様には子供としてではなく、一人の闘う戦士、いや戦獣として敬意を持って葬ってやる!」

 帯電した拳は万ボルト単位の常人では真似できない攻撃をゴンの腹に叩きこんだ。

「がっぁあああああ!!」

「吹き飛べぇえええ!!」

 腕から屋敷のロビー全体に漏電するかのように四方へ稲妻が分散し衝撃波と共にゴンが吹き飛ばされ頭上の天井に激突して天井の崩落と共にゴンは瓦礫の生き埋めとなった。

「ぐっ…うっ腕一本分はくれてやろう…だが、どうやらもうじき俺もお前たちの下に行く……結局解らぬ人生だ。騙し騙され形成された記憶に俺個人の存在は何処にも無かった」

 安久津が漠然とする前方の崩落した天上から覗き込むようにゴジラが唸りながら自分を見つめていた。

「フッフフフ…どの道長くなかった身だ…虫けらに何を思う…怪獣…」

 ゴジラに背ビレが青白い発光を始め胸部に光が到達すると口腔内は放射能の光が停滞してゴジラは屋敷に向けて白熱光を発射した。

「ぐっ…」

 強い放射能度の霧が屋敷の全域に浴びて、徐々に石材や鉄骨がマグマのように溶けだして燃え始め火の海と化した。

「ふっ…地獄を作ったか」

 警報音が鳴り響くヘルメット内で安久津は業火の焦熱地獄に囲まれていた。

 しかし、放射能検知装置の警報がピタリと鳴り止んだ。

 それどころか放射能や火炎、帯電する電気系統のあらゆるエネルギーが瓦礫に埋もれたゴンに集まり始め…そして、瓦礫から光が漏れて爆発的衝撃と共に中から新たな息吹と共に誕生した。

「……殻を破ったか…小僧」

 安久津の目の前にはそれまで半獣の姿形に留まっていたゴンの姿は人間の原型を留めておらず、ゴツゴツの表皮、極太いイモムシのような尻尾、20cm延長した身長と膨れ上がった体格は正に人間サイズのゴジラそのものだった。

 新たな怪獣、新たな王、新たなゴジラが今、ここに誕生した。

「…小僧、いやゴン…お前も人外の領域に立ってしまったか」

 ゴン改め新たなゴジラは超越した跳躍力であっという間にグレイヴの目の前に降り立った。

「…………………」

「…フッ、人ならざる者の末路はたかが知れていると思っていたが…お前には様々なものが感じる…未だ見ぬ無限の可能性がお前にはこの先の未来で待つだろう…お前の勝ちだ、早く行け、お前を待つ闘争の世界は喉から手が出るほどお前を欲している……レイナはそれを知っていてお前を庇ったのだろうな」

 よろめきながら立ち上がろうとするグレイヴだったがバランスを崩して新たなゴジラに向って倒れた。

 しかし、ゴジラと成ったゴンはグレイヴを抱きかかえて抱擁するように捉えた。

「……あなた達から色んな物をもらった、いろんな事を教わった…もう十分だ、安らかに眠れ」

「…フッ…そうはいかない…3分間だ…3分以内にここから離れろ、この装甲着の炉核を誘爆させてこの世に何一つとして無くなるほどの浄化でこの辺一帯を消滅させる…出来る限り遠くへ…逃げろ…お前はもう自由に生きなさい」

 安久津はヘルメットに手をかけて脱ぎ棄てた。

「……さようなら…誇り高き名誉を与えてくれた義親よ」

 新たなゴジラは安久津を横たわらせ、手を取って別れを告げた。

「…レイナ…親とはこういうものなんだな…君が描いた普通とは程遠いが…君は…種を蒔いたんだな」

 ゴンの手から安久津の手が降り落ちて離れて行った。

「………」

―グルルルル…

 怪獣としてのゴジラ、人間としてのゴジラ、体格も感情も異なる2体のゴジラは強い眼光で睨み合った。

 ゴジラは再度、背ビレが青白い発光を始め胸部に光が到達すると口腔内は放射能の光が停滞し白熱光発射の準備段階に入った。

 しかし、新たなるゴジラの背ビレも青白い発光を尻尾から頭部にかけてのすべての背ビレと同時に身体までもが全身を包み込む光となった。

 先手を撃ったのはゴジラの白熱光であった。

 白く強い勢いで迫りくる白熱光に新たなるゴジラも発光が集約して高威力の火炎放射を発射して白熱光を阻止した。

 放射した火炎が徐々に一点集中型になり、一本の紫状のレーザービームのように熱線となってゴジラの頬をかすめた。

―ギャアアアオオオオオンンン!!

 高出力の熱線を目の当りにしたゴジラにそれまで見受けられなかった最高峰のダメージ、ゴジラに対して新たなるゴジラの強力な可能性の光の矢にゴジラはもう一人の自分を眼光に睨むとゴジラは方向を変えて海に向った。

 ズシンズシンっと音を立てながら向かっていくゴジラを見送る新たなゴジラの背後からクラクションが鳴り響いた。

「ゴォォン!!どこだ!?」

 ギィィィと扉が倒れて変貌を遂げていたゴンの姿に芹沢は驚愕した。

「ごっ…ゴン…なのか…」

 車から見えるそこにはゴンとは似通う点あれど目を疑うほどに進化をしたゴンが新たなゴジラへとなっていたことに言葉が無かった。

「…いけ、ここから出来るだけ遠くへ逃げろ…」

「………」

 ゴンは走り出して安久津から去って行った。

 安久津は自分の元を離れたゴンを見送ると自らの装甲着の核を最後の力で砕き融解させ自爆の段階に入った。

「……さぁ、帰ろうか…本来居るべき世界へ」

 安久津の周りを取り囲むようにこれまで自分と言う存在を作り上げるために犠牲となった者たちと自らの膝を枕にして差し出すレイナと共に安久津は光に包まれた。

 屋敷から数km地点から小規模の核爆発のように爆発と爆風が木々や大地を揺らした。

「自爆したか…」

「最後の最後は自分にケジメをつけた…彼なりの誠意なのでしょう」

「あなたにはいろいろと聞きたいことがある」

「私もだ…それに彼は…一体…まるであの姿は…」

 芹沢達が走らせる車の横で萩原のオートバイに跨って乗用する新たなゴジラが並走していた。

 その腕にぶら下げられた鎖に繋がれている懐中時計が光っていた。

 別れ際の手に渡ったのは想いだけでは無く、堅い意志も受け継がれていた。

 東京中を火の海にし、ゴジラは道中の勝鬨橋を横転させ破壊して東京湾に向かって行った。

 そこへ、防衛隊のF-86Fの戦闘機隊編成が追撃を試みるために到着したが最高戦力の最大火力の攻撃虚しくゴジラは振り切って海中へ姿を消した。




―作者制作秘話―

ゴジラが暴れる中で人知れず小さくも大きな戦いが繰り広げられた戦いの中で新たなるゴジラが誕生しました。
ゴジラが新たなゴジラを生み、安久津こと『グレイヴ』から誇りを受け継いだゴンは今後どのような人生を歩んだかは徐々にこの物語内でも本編の方でもチラリと出ます。
隠れミッ●ーみたいな感じでゴンの存在を見つけてください。

―スレイヴ基盤とグレイヴ―

スレイヴとはあまりよろしくない言い回しですが『奴隷』という意味合いもあります。
しかし、複数の同類の機械や部品のうち、従属的なもの、副次的なものというデジタル用語としても用いられる『クラールハイトギア』を開発するにあたって基盤は既に満州で完成形が誕生しているOSは別の製造元とした重要パーツです。ただ中身はヤバい。
もっと詳しく言えば『プロテクトギア』に『レイバーOS【HOS】』を取りつけたような物です。
スレイヴ基盤から連動して稼働する全身制御を目的として運用され安久津のような人間と『クラールハイトギア』同時並行的に運用したのが『グレイヴ』です。
ちなみに『グレイヴ』の名前の由来は中世の欧州で用いられた薙刀の類の呼び名です。
モチーフは『ゾンビ』である意味ゴジラVSゾンビです。

―魂の見解―

生命の魂を私は一種の見えない臓器と仮定して解釈しました。
某漫画の『クローンな武蔵』も身体があってもまんま武蔵は生まれませんでした。
脳波も無い、生気の無い、新生の肉体だけ。
しかし、魂を入れて初めて武蔵が稼働したことにインスパイアされましたね。
あと某カードゲームアニメの映画で社長が『人間はこの世界に生を受けた瞬間、己の肉体という器に魂を宿す!言わば肉体とは魂の牢獄、死ぬまで出る事の許されない牢獄なのだ!(省略)』とか言ってたんで魂って重要なメモリーじゃねぇという考えになり、それが大量にあれば地球上のスパコン凌駕するオバテクになりました~
人間とことんヤバく成ればヤバいです。

―新たな怪獣と受け継がれたもの―

白娘レイナはゴンを庇う形でそれまで受けなかった愛を感じて、安久津ショウセイから闘いの中で誇れる名誉を与えられたと言えます。
そんなゴンは様々なもの、愛情、戦闘、知識、力をすべて吸収して地球史否宇宙誕生以来の新たな形で新たなる怪獣を誕生させたと解釈できます。
ゴンにとって自分に何もかも差し出し教えてくれた者たちは親兄弟同然だと言えるため最後に安久津を義親と捉えたのもそう言う意味があります。
受け継がれたのは『種』です。
それがどう広がったのかは、本編を見て確認してください。

とうとうクライマックスに突入します!
最後までスパートかけて頑張ります!
 今日はここまで!!
次回も変わらぬご愛読をよろしくお願いします。


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生地獄

 東京は一夜にして焦土と化し廃墟が軒並み崩されては破壊され尽くし一帯には基準値を大幅に超える放射能数値が検出される地域が幾つもあった。

 歩く原子炉のようなゴジラは核爆弾に匹敵する高純度の放射能を撒きながら街も人も生命すべてを根絶やしにしたのか…恐ろしいまでに人々に苦痛と恐怖を植え付けて東京湾の海中に姿を消した。

 避難所としてまた臨時救護所として機能していた都内の民間製薬会社の所有する伝染病研究所で防衛隊の医務隊や医者や看護婦らが被災者たちの救護に当たっていた。

 それでも人手の不足に加え手遅れの患者は幾人も居る。

 それ以上に息絶えた人の数が生存者以上に上回っていた。

『なお、ゴジラは一旦海に逃れたと思われ、新たに山根博士を中心とした対策班が設置されました―この時間の主な項目のニュースを終わります』

 ラジオから流れるニュースも拠り所の無い被災者たちに絶望と恐怖心が心身を蝕んでいた。

 その中にはエミコも救護に当たっていたが被災者たちの中にマーティンが居た。

「マーティン…さん……ご無事で」

 無事なはずが無いマーティンの濁った目と脱力した全身からは虚無感を感じる程の生気の無いマーティンが居た。

「…エミコ……私は…友人にウソをつかれました」

 友人からのウソ…エミコにはマーティンが見つめる一人の遺体に自らの口を塞いだ。

 遺体に覆いかぶさる布からはみ出している右手に着いている壊れた腕時計は大戸島に護衛艦で向かっていた調査団の取材陣の一人としてマーティンの同僚として同行していたレイモンド・テリーの着けていた時計であることにこの遺体が誰であるのか理解させられた。

「おかしいと思っていたんです…本国の会社に確認しました…レイモンド・テリーなる人物は居ないと…フッ、私はもう何が何だか」

 マーティンとエミコが茫然尽くす所へ黒い背広姿の男達が2人の前に現れた。

「失礼、もうよろしいかな」

「ええっ…どうぞ」

 黒の背広服たちは横須賀から派遣された米海兵に遺体が担架に乗せられ運ばれた。

「マーティンさん、彼から預かっている物はありませんね」

「何度も言いましたが…何も…」

「……そうですか」

 遺体が運ばれ、背広服の男達もマーティンとエミコの前から去って行った。

「…マーティンさん」

「すべて彼等から真相を知りました……彼はCIAだったんです…おかしいと思ったんです、日本への取材の手筈を組んだのも彼でしたし…ビキニ環礁の情報も彼が用意してくれて……薄々気付いていたのに…わかっていたのに…」

 マーティンは涙が溢れる目元を手で押さえて感情が溢れかえる思いであった。

『南海サルベージの尾形さん―南海サルベージの尾形さん―監視船出港の時間が変更されます。打ち合わせの為、司令室へおいで下さい―』

 アナウンスから尾形の名を聞いたエミコは涙ぐむマーティンの肩に手を置いてソッと手を下げて後にした。

 しかし、振り返ってもそこは正に惨状の地獄絵図、泣き叫ぶ遺族に親を失った子供たちと次々と息絶えた者たちを運び出す…眼前に展開する目を瞑りたくなるようなあまりにも凄惨な光景にエミコは耐え切れなくなった。

 それは尾形も同じ思いであった。階段を埋め尽くす被災者たちの列はこの世の三途川での地獄門の陳列に他ならない生き地獄であった。

 そこへ偶然に涙を耐える感情を押し殺すエミコを通路で見かけた。

「エミコさん…」

「尾形さん……尾形さん!重大なお話があるんです」

 エミコは固く決意して尾形を人気の居ない場所へ案内した。

 そこは誰一人も居ない屋上であった。

 そこから見える焼け野原は東京大空襲、広島原爆、長崎原爆を彷彿させる惨状が広大に広がった更地の東京があった。

「エミコさん…ここは大地獄だ…生きる希望を奪われ、生きる場所を失い、すべてが焦土と化した」

「ええっ…私は…もう耐えられません、わたくしは喜んで裏切り者になります!」

「裏切る?一体何の御話で」

「ええっ…芹沢さんと約束したことがあるんです…あなたにも内緒にしていた秘密です!」

「芹沢さんと?」

 尾形はエミコが自分の知らないところで芹沢と内緒の約束をしていたことに感慨な気持ちであったが一応の話を耳にする。

「だけど…今となってはこの約束を破ります!…あの日の事です…あの日、萩原さんたちとお訪ねした時の事です…」

 エミコはあの日、芹沢に見せられた実験の秘密を尾形に明かした。

 水中の酸素を一瞬のうちに破壊し尽くしあらゆる生物を窒息死させ、さらに魚の肉体を液化させ白骨剥き出しになった骨身諸共すべてを泡に変えた芹沢持ってしても悪魔の兵器と言わしめる水中酸素破壊剤『オキシジェン・デストロイヤー』の実験の一部始終を尾形に伝えた。

 芹沢がエミコに伝えた通りの説明では、芹沢は酸素の研究をしていた際に偶然それを発見し研究を進めて形に留めた結果産み落とした芹沢の心の魔物であるとのことだった。

「芹沢さんは…酷く人間不信に成られて誰にもこのことを伝えなかったんです……とうとう約束を破ってしまいました」

「…そうでしたか…しかしエミコさん、芹沢さんだってこの悲惨な惨状を救うためにきっと許してくれるに違いありませんよ」

「私も同感デス」

 2人の会話を偶然にも聞いていたのはマーティンと岩永だった。

「マーティン、岩永さん」

「申し訳ありません、盗み聞きするつもりはありませんでしたが…」

「エミコ!打ち明けてくれてありがとうございます!…私もレイモンドの復讐は望んでいません、しかし悲劇を二度と繰り返してはならないのも事実です!私もドクター芹沢を説得しましょう!」

「マーティンさん…」

 マーティンはエミコの手を大きなマーティンの両手で強く握りしめ互いに芹沢の説得を決意した。

「それよりも尾形さん、山根博士がお呼びです」

「僕をですか?」

 尾形は自分が山根博士に呼ばれたことに驚いていた。

「分かりました、行きましょう」

 未だ関係がギクシャクする中の突然の呼び出しに尾形は承諾した。

 そこは救護所として設置されている場所の本当の心臓部たる場所『伝染病研究所』の実験室に尾形たちが訪れた。

「山根博士、お連れしました」

「ああっ尾形君!いや、大発見だ!!見てくれ、このエミコの服に付着した血液から採取したものだ」

「お父様、私はそれで大切なお洋服を失いましたわ」

「それは悪かった、洋服などいくらでもたくさんあるだろう!だが、このサンプルはとんでもない代物だよ!」

 山根博士が手に持つ試験管に入った液体にかなりの興奮状態であることが伺えた。

「一体何があったんですか?」

「いいかい、この血液はただの人の血液では無い!!この血液には人間には存在しない塩基が多く含まれている、それも人類の8倍もの遺伝子情報が記されているのだよ!」

「それは…確かに凄いですが…」

「更にだ!この8倍の遺伝子の中には未知の新元素が含まれ、それが現存する核物質を瞬く間に消滅させるバクテリアを生成する正に放射能に対抗できる免疫のような働きを持っている…エミコにガイガーカウンターが反応したのはこの新元素自体もプルトニウムやウランと言った核物質と同じだがこの新元素は核を消滅させる働きを持つ、半減に億年の歳月を費やす放射性物質をこの新元素さえあれば簡単に消滅させることが出来る大発見なのだよ!!」

「お父様、落ち着いて…」

 興奮する山根博士を抑えるようにエミコは山根博士の肩を少し落ち着かせ椅子に座らせた。

「あっああ…すまない、少々慌ただしかったな……だが、私はこの地球上に核汚染を無くしたい、核は人間が編み出したガン細胞そのものだ…私達はそれを平気で使い、地球に蝕んでいる…私は広島、長崎、あの惨劇がゴジラを見て思いだしたんだ…ずっと忘れていた、悪夢を、消えゆく命を…守れなかった友のことも…あれ以来、真船とは疎遠になってしまった、正しいことをしたつもりが私は疎かなことをしてしまったと酷く後悔でどれだけ苦しんだか…」

 山根博士はかつての原爆の地へ向かった日の事を思いだしていた。

 友のことも、仲間のことも、何もかもを失ったことをすべて『核』という存在、概念を強く憎み恨む気持ちが山根博士の心を蝕んでいた。

 そんな時に舞い込んできた神の授かり物たるこの新元素が山根博士の心に光が差し込むようであったのは言うまでも無かった。

「これは救世だ…この元素は私達人類に希望をもたらしてくれる…エミコ!これは、この血液は何処で誰から付着したんだ!?」

 山根博士はエミコに強く迫った。

 車を走らせ、山根博士・尾形・マーティン・岩永が芹沢宅へ向かっていた。

 やがて芹沢宅の門前に迫って行くと既に先着の訪ね人の車があった。

「ではその様にお願いします、壱賀谷さん」

「分かりました、彼等を悪いようにはしません」

 玄関前では芹沢が壱賀谷に封筒らしき物を手渡して芹沢の下を壱賀谷が去って行く様子が伺えた。

 壱賀谷は車に乗り込む、山根博士たちとは反対方向へ車を走らせた。

「……!?…先生」

「ご無沙汰だね、芹沢くん」

 芹沢は山根博士たちが大勢で押し掛けて来たことに目を丸くして驚いた。

 4人を自宅に招いて茶を振る舞った。

「大勢で押しかけて来るなんて…一体どうしたんですか?」

「その前に芹沢君!君の家に子供を預かっているだろう、その子に合わせてくれ!」

「何ですか急に…生憎ですが、あの子は今しがた具合が優れないので自室に休ませています…ゴジラ襲撃のおりに大きな怪我をしていますので医者に安静にしろと…」

「君がお医者を呼ぶような人間かね…」

 山根博士に論破された芹沢は口を噤んだ。

「出来ることならその子を私の知り合いが持つ最先端の医療施設で検査を受けて見ないか?悪いようにはしない!芹沢くん、これは人を救うと思って…」

「子供を動物実験のモルモットにするおつもりですか!?冗談じゃない!…もう、沢山だ」

「…別にそこまで言うつもりは…」

「失礼なことを申しましたが…僕は見てしまったんです…ゴジラとは別の…人間の業を…」

 芹沢の目は以前にもましてかなり壮絶な物を目にした表情だった。

「…わかった、怪我をしているならエミコに少々診てもらってくれ」

「ええっ…エミコさん、お願いします」

「はいっ…」

 エミコは芹沢からの了承を得てゴンの容態を診に席を外れた。

「芹沢さん、話を変えて単刀直入に言います。ゴジラに対して『オキシジェン・デストロイヤー』の使用をお願いしたい」

「オキシジェン…デストロイヤー?…一体何の話を」

 尾形の言葉に芹沢はチラリとゴンの部屋に向ったエミコの方を見た。

「とぼけないでください!エミコさんは…あの見るに堪えない惨状を目にしたんです…ここに居る全員同じです」

「だからと言って…無い物をどうしろと言われても…」

「お願いだ!芹沢君!!私に免じて『オキシジェン・デストロイヤー』を…この通り!」

 山根博士は深く頭を下げた姿を見た芹沢は皆がハッタリで言っているわけでは無い事を理解した。

「お願いです、芹沢さん!」

「尾形!エミコさんから聞いたなら僕がアレを使わない理由が分かるだろう!僕はハッキリ断る!」

「芹沢さん!」

 尾形が懇願するも芹沢はダメの一点張りで仕舞には帰れと言って自らの実験室へ閉じ籠った。

「芹沢さん!開けてください!!」

「ドクター芹沢!!」

「尾形さん!マーティンさん!肩を」

 岩永が尾形とマーティンの肩を借りて2人の支えで扉を両足揃えて蹴破り無理矢理こじ開けた。

「あっ!?芹沢さん、何を!?」

 尾形は研究室で自信の集大となる研究の詰まった箱を捨てようとしていた。

「放せ尾形!放せ!」

「長年の研究の成果を何てことなさるんですか!?」

 取っ組み合う形で互いに研究室内で暴れ回る2人に山根博士たちが止めに入った。

「こら、ちゃんと見せて…」

「別にどこも悪くねぇよ、おばさん」

「コラッ!またおばさん呼びして…」

 エミコはゴンの様子を確認すると特に異常も無く健康的な体付きであることが診察して見て解った。

「うん、確かにどこも悪くないわね」

「だから言っただろう…もういいから寝かせてくれ…いろいろ大変だったんだ」

「…どんなこと?」

 エミコは変えの水を近くにあった水道の蛇口を捻って桶に新しい水を張った。

「色んな大人を見た、俺みたいな子供に人として見てくれた大人、闘いたくないのに闘わざる負えない大人、いろんなものを背負っている大人の数々が結局人間なんだって本土に来て初めて知ったってだけ」

 悲しげな声でエミコに打ち明けるゴンは横たわってエミコと背中合わせにそっぽを向いた。

「…あなたはここへ来て色んな人を見たのね…確かに大人っていろんな思いを背負って居るの…あなたもいずれそう言う大人になるの、背負いたくなくても知らぬ間に背負って行くの……でも、大人も子供も同じ人間何だから1人では何も出来ないから誰かと助け合って生きなきゃあなたはずっと孤独のままよ…はい、服を脱いで」

 水桶をテーブルにおいて濡れたタオルの水を絞りゴンの体に付着した汚れを拭き取っていった。

「あら?ちょっと大きくなった?」

「なにが?」

「ああ、いやなんかボク大人の背中みたいになったかなぁ~って思って」

 つい前日まで小さな背中の筋骨が少し膨れているように肉付いた背中を見たエミコは少々目を丸くしていた。

―ガシャン!ガシャシャン!!

 別室で大きな音がエミコたちの居る部屋から響き、2人は慌てて音のした部屋に向った。

 音のした部屋は以前エミコが芹沢に見せてもらった研究室だった。

 中に入ると尾形が頭から流血し、芹沢は口を切って怪我をしていた。

「尾形さん!?芹沢さん!?」

「えっエミコ君…大丈夫だ…」

 マーティンは近くにあった救急箱から包帯とアルコール消毒を取り出して岩永と共に2人の手当てをした。

「尾形…許してくれ、もしこれが完成して居れば僕が持って出ていた…だが、今のままでは恐るべき破壊兵器に過ぎない…解ってくれ、尾形!」

「よくわかります…だが、今ゴジラを防がなければこの先一体どうなるんでしょう」

「尾形…みんな…もし、このオキシジェン・デストロイヤーを使ったら最後…原水爆に匹敵、或いはそれ以上の力を持つ恐るべき破壊兵器になり得るもの…これを使ったならば世界の為政者たちが見過ごす筈がない。人間は必ず武器として使用するに決まっている!」

「芹沢くん…」

「核に核、兵器に兵器、その上更にこの兵器を使用するとなれば1人の人間としてコレを永久的に表に出さない事…これしか無い」

「……では、今この不幸を拭い去るには…この不幸を打ち消せるのは芹沢さん、あなただけです!今、ゴジラに使用して芹沢さんが公表しなければ破壊兵器になる事も無いじゃないですか!?」

「尾形…人間と言うものは弱い者だ…一切の書類を焼いたとしても俺の頭の中には残っている…俺が死なない限りどんなに使用しないと誰に断言できる…ああ~っ!こんなものを作らなければ…」

 芹沢は俯いて頭を抱え悩み苦しんだ。

「…エミコ…テレビを着けなさい」

「えっ…ええ」

 山根博士に頼まれ研究室のテレビをつけると変わり果てた東京の光景と苦悶する被災者たちの姿が映し出された。

『安らぎよ―光よ―即帰りたり―本日、行われました平和への祈り、これは東京からお送りします。しばらくは命込める乙女たちの祈りの歌声をお聞きください』

 女子学生らによる真摯な「平和への祈り」の斉唱と共に東京の惨状と被災者の溢れかえる避難所、祈るように拝む人々の姿に芹沢は自分の今の気持ちが揺らぐような気分が押し迫っていた。

 芹沢はテレビを消して奥へと進みある物を探っていた。

 そして、巻き包み紙のように束にして持ってきた。

「芹沢さん!」

「尾形…皆さん…あなた方の勝利だ…しかし、僕の手でオキシジェン・デストロイヤーを使用するのは今回1回限りだ!」

 そう言うと芹沢は奥の暖炉にオキシジェン・デストロイヤーに関するすべての資料を焼却した。

 芹沢は心動かされオキシジェン・デストロイヤーの使用を決意した。

 その姿を目にしたエミコの頬には涙が伝っていた。

 翌日、海上保安庁の巡視船『しきね』で東京湾に潜むゴジラの所在をつきとめゴジラが潜伏する場所に向っていた。

 『しきね』には僅かな人数と関係閣僚の代理者と芹沢・尾形両名の関係者たるエミコやシンキチ、山根博士と岩永とマーティン、そしてゴンも加えたゴジラ討伐に乗り込んでいた。

 取材陣で許された萩原ただ一人だけがその記録のテープを回していた。

「…これは歴史を大きく変えるかもしれない……マーティンさん、良いんですか?何も記録しないで」

 萩原の横でレコーダーを回し聞いているマーティンが居た。

「…同僚の最後の言葉を聞いているんです」

『私はスティーブン・マーティン…アメリカの通信員だ。何千人もの人が私の周りで死んだのだ…飛行機で日本に向っていたのは ほんの数日前だ―』

 その声は明かにレイモンド・テリーその人の声であるはずなのになぜかマーティンのフルネームを名乗って取材をしていた。

「彼は…最後まで新聞記者を演じて命を懸けて真っ向から取材をしていました…同じ新聞記者として嫉妬を覚える程完膚無き取材です……私には到底真似できない」

 マーティンはレコーダーを止めて尾形たちの方へ向った。

 ガイガーカウンターは強く反応を示して海底にゴジラが居ますという声を挙げるような音がガイガーカウンターから鳴っていた。

「尾形、俺に潜水服を着せてくれ」

「何を言うんです!素人が潜水服を着て何になるんです!」

「芹沢君、尾形君の言う通りだ。無理しちゃいかん」

「先生!これっきりしかないオキシジェン・デストロイヤーです。完全な状態で作用させるには水中操作以外無いのです…そのためにも僕に行かせてください!」

 芹沢は強く懇願して誰よりもオキシジェン・デストロイヤーをよく知っている開発者あっての事として山根博士は俯いた。

「尾形君…」

「…よし!では一緒に入りましょう!」

「いや、俺一人で沢山だ」

「バカな!?素人のあなた一人を海に放り込めますか!?おーーい!もう一着潜水服の用意を!」

 尾形は2着の潜水服を用意させそれを着込み準備に取り掛かった。

「いいですか!?私のやる通りにやってください!」

 芹沢は頷いて尾形は南海サルベージの仲間と共に準備を進めに行った。

 世界に多々一つしかない砲丸サイズのカプセルに入れられたオキシジェン・デストロイヤーがケースから取り出され山根博士から潜水服を着込んだ芹沢に手渡された。

「ふっ…こんな形で発表することになるとは…思いもよりませんでした」

 エミコと山根博士は2人に近づいて成功を祈ることを誓った。

「ご成功をお祈りします」

「いいか二人共、くれぐれも気を付けてな…頼むよ」

「「はい!!」」

 2人はいよいよ潜水服を完全に着込みオキシジェン・デストロイヤーを持って静かに海中に降りた。

 海の中では芹沢が尾形のサポートを受けて海底にゆっくりと潜って行き身体が沈んで行った。

 潜水服から見える世界は様々な色とりどりの海洋生物が海中を泳ぐ世界が広がっていた。

 こんな海の中にあの悪魔のような怪獣が居ると思うと芹沢はオキシジェン・デストロイヤーを使ってゴジラ諸共海を汚してしまうのではと人類と自然の双方を天秤にかけている自分が居た。

 やがて最長の海底域に到着してゴジラの側まで近づいていった。

 海底を歩くこと数十歩でゴジラの輪郭とサンゴのような白い背ビレが見えた。

 2人はゆっくり近づいて差し迫ろうとした時だった…

 海中内で2人の存在に気付いたのかゴジラが海底を歩み始め近づいて来た。

 芹沢は上に待つ者たちに尾形の空気管を引っ張って引き上げの合図を送った。

「芹沢さーん!!何を!?芹沢さーーーん!!」

 尾形だけを海面へ浮上させ潜水服内で叫ぶ尾形の声は海中では芹沢に届くはずも無かった。

 尾形の潜水服が引っ張られていく中で尾形はその一部始終の全貌を目にした。

 ゴジラが芹沢の側まで到達しゴジラの足元でオキシジェン・デストロイヤーの安全弁を抜き発生装置を一人で起動させオキシジェン・デストロイヤーのカプセルが開かれ水中酸素破壊が一瞬のうちに海水が激しく泡立たせ海中に巻き散らしてゴジラが苦しみ始めた。

 芹沢はゴジラと共に海の中でゴジラを見つめて最後を見守っていた。

 辺りの生命は徐々に死滅していき白骨、最後は骨身も泡となり消滅した。

 芹沢の潜水服の顔ガラスにヒビが入り出し、水が浸水してきた。

 芹沢の潜水服の顔ガラスはパリ―ンと割れて潜水服の空気が海中の外へ泡立って上へと空気泡が向かった。




―作者制作秘話―

残す所もいよいよ僅かと成り完結に近づきました。
本編が進まない中でも読んでくださる方には本当に感謝しています。
しかし、本編も『GOJIRA』も最後までのご愛読をお願いします。

―レイモンドのウソ―

レイモンドの名前はもちろん海外版の『GODZILLA』のスティーブン・マーティン役のレイモンド・バーで追加監督のテリー・モースから2つの名前をチョイスしました。
レイモンドも言うなればもう一人のマーティンであり、最後の最後まで新聞記者として偽って演じて取材をに残している様はこの作品に登場するキャラクターの匿名性の強いキャラクター像を作り上げる重要人物です。
彼もまた、安久津や壱賀谷のように名前を偽って任務を全うする諜報員であり一流のCIAエージェントです。
そんなレイモンドが取った行動はマーティンにとっての取材人としての命を懸けた取材を耳にして感じた勇気ある行動に感じたと思えます。

―8倍の遺伝子情報と新元素―

これは『シンゴジラ』の要素です。
ゴンの身体には人間の8倍もの遺伝子情報を持っており、更には元来の放射性物質を吸収或いは消滅させる極小微生物を生み出す究極の『抗核物質』を持っています。
そうなればユウゴも持っているのか?さらにこれらは遺伝性があるのかは…本編をお楽しみにお待ちください!

―山根と真船の友人関係―

お二人共にゴジラシリーズには欠かせない重要人物ですが、『メカゴジラの逆襲』での真船博士とは違う点もあるので別人のパラドックスです。
山根博士も昔、真船の奥さんと同じ調査団として広島に渡って居たのですが…真船博士は後着で現地に来たので被爆することはありませんでしたが…真船博士の奥さん、更には芹沢の父もこの時に…あれや要素やこれらネタとしてでなく同じ世界線で存在する人物たちがどのように存在するかは本編の三枝や草薙も同様に大体の人物には大幅な改編を行っています。

残す所あと少し!!
 今回はここまで!!
次回も変わらずご愛読をお願いします。


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神降臨

―ザアァァーザアァァー…

 そこは波打つ海岸の道だった。

 燦燦と照りつける日光が見えるのにも関わらず辺りは霧でも掛かっているかのように世界のグラデーションは白みを帯びていた。

 そんな広大な海が見える海岸の黄金の砂を踏みしめて歩いていく。

 世界は霧のように白みがかっても所々に色が少しばかりある。

 海も多少青い、早朝故か朝方の海岸は霧掛かるのも自分なりの勝手な解釈だった。

 思えばこれまでの人生は解釈つづきで生きてきた人生であると考えさせられた。

 今更ながら勝手に自分で自分の人生を振り返っていた。

 それが芹沢ダイスケの歩む浜道での歩みなのだ。

「ここは…海岸、だが…俺はここを覚えているぞ!?」

 芹沢は思いだした。この場所、この海、この自然と隣接した海で隔離された絶海の孤島は…『大戸島』だった。

「…フッ、今思えばここでアイツと出会ったのか……不思議な子供だった、大人たちに忌み嫌われ恐れられているにも拘わらず、子供たちは不思議とあの子に引き寄せられる…いいや、人そのものが彼に近づき彼が引き寄せていたのか…今となってはどちらなのか解らない」

 その海岸を歩み進むにつれて芹沢はゴンとの出会いを思い返し、彼との出会いから非日常、そして壮絶な闘いを彼に課せていた。

 運命とは呪いか、それとも支配か、はたまた未来に通ずる新しき道なのか…それを考えながら芹沢は後者の考えの通りこの先に通じる道を歩んでいた。

 歩を止めることは無い、止められない、彷徨っているわけでは無い、ただひたすらに歩んでいた。

 しかし、道が解らないのも事実であった。

 いつ潜水服から脱ぎ棄てて白衣とシャツ、ズボンに革靴と言った芹沢のいつも通りの私服に着変っていたのか…それを疑問視して考えても仕方なかった。

 不思議な感覚だ。ここは考えても考えが考えられないような感覚があった。

 学者である芹沢自身がこれまで培ってきた学が思い浮かばない、どうやって考えればよいのかも放棄している自分が居ることに気付きつつも考えて居ない訳の分からない状況であった。

 ふと進んで訪れたのは船着き場であった。

 そこに船は一隻のみ、その船の傍らで漁師が漁に出るための作業をしているのか…しかし、歩みを始めてようやく見えた人に無意識に訪ねようと歩がその猟師の方へ向っていた。

「失礼、付かぬことをお伺いしたいのだが……あなたはここをどう捉えている?」

「…―っ…あんた、ここの者じゃなかったな…ついさっきまで」

「…まぁそんなところです」

 自分から誰かへ向って語らいに訪れたのは幾日ほどであろうか…芹沢は人見知りでは無い、ただ会話があまりにも久方であった。

「…漁ですか?…いい獲物は取れますか?」

「…いいや、今日は取れません。海が少々荒れて居るんです」

「漁師はそんなことも分かるのですか…漁業は奥が深海のように深そうだ」

「はははっ…かもしれませんな…それで?あんたが求めているのは…ここの答えだろう?」

「…ええっ…正確にはここの先はどうなっているのか…ですね」

 芹沢が指さす先は海だった。

「…私ら漁師以前に人は海から宿り、生命は地へと帰る、場所によっては始まりも終わりもある世界はここですよ」

 よく見ると漁師は自分と同年代の若い男性であった。

 この若さで漁師として網を結んで作業をしている後ろ姿に芹沢は羨んだ。

「…私はあなたが羨ましいです…私にはあなたのように職を全うして誇り持てる人間ではありません」

「…何故そう言い切れるので?」

「…私は魔物を産み落とした…そして今、その魔が怪を気泡と化している……私のせいです!あなた方、漁師が漁を行えない海にしてしまったのは…すべて私の責任です」

 芹沢は謝罪の念を込めて、漁師に深く頭を下げた。

 しかし、それでも漁師は網の張替え作業を止めなかった。

「…あなたに謝られるほどの事に私は感じて居ませんよ」

「…しかし、私は取り返しのつかないことをして遠回な道を歩いている…私にはこの道が似合いだと神が思召しめしている」

「あなたを思召しめす神が居るとでも?…神など所詮は概念を装った人の偶像ですよ…八百万と揶揄しれども結局は人が神を作った…違いますか?」

 芹沢は科学者が島漁師に完全なまでに論破されたことに言葉が出なかった。

「遠回り?大いに結構、私も結局は流れ着く形でここに留まった…それまで色んな遠回りもしたが結局は手足を動かして明日へ進む道が性に合っていた」

「…ますます、あなたが羨ましく思える」

「私にはこの世の心理の為では無く、たった一人の愛した妻の為に共に歩み夜を明かして過ごすための『普通』に興じる…これは使命であり、憧れであり、願望ですから」

「そうですか…私も愛した人が居ましたが…幸せにする勇気が無くて彼女を悲しませる形で縁を切り離した…自分の中で鎖のように絡まっていたと勘違いしたあまりに…」

 芹沢は俯き加減で再び若い漁師に訪ねた。

「…私はどっちに進むべきだった…いつになったら私は正しい道へ進めたんだ?」

「……道なんて最初からありませんよ…見て御覧」

 若い漁師が指さす海原は広かった。

「この広い海の何処に道があると?…無い物は無いんです…でも確かにそこには道が在る…道があってその道に従って船を進めると行き当たりばったりで思いがけない大物もかかれば小物も大量に現れる。どの場所でどの角度に網を放れば…そういう道の作り方を私は知っているが…あなたは?」

「私は……そうだ!?私は見送らなければ…アイツをアイツの最後を…」

 芹沢は慌てて振り返るように来た道を戻ろうとした」

「何処へ行くおつもりで?」

「決まっている!私は…私の……のっ…」

「ここの定めは変えられない。戻れない。受け入れるしかないんです」

 芹沢はようやく理解した…ここから先は決して引き返せないことを…

「…――っぅ…」

 噛み締める唇は戻れぬことの想いに歯痒さが滲み出ていた。

「…話を変えてしまうが…あなたはどうしてそこまで『普通』にこだわる…『普通』はこの世に有り触れているのに誰もそうであろうとしない…己の個性を押し殺して生活するなんて誰にでも出来ることでは…それなのになぜ…」

 芹沢は自分の領域では理解できぬことには肩入れるだけの良識を得たいと若い漁師に問いただした。

「…『普通に生活する』簡単なようでとても難しい、でもあなたの言うことには第三者的意見が尊重しているように思える…人は他者からの評価で生活が決まるのか?他者からの考えで個性が決まるのか?…これらの問いには結局自分が無い、自分が無い者は自分自身を尊重できず『普通』を達成出来ない、満喫も出来ない、極単調で当たり前の生活は終わりの無い人生かもしれない、けれどもそれを投げ出してまで非日常を味わった人間に待ち受ける運命というのは結局『普通』と言う単調に落ち着く安息の地だったりする…私もその一人だ」

―あなた~!!

 向こうの集落地方面から女性の声が若い漁師を呼んでいた。

 彼の妻なのであろう、芹沢は自分も彼等のような人生を歩めたのだろうと考えた。

「私には…あなた達のようになる資格は無かった…研究に研究を重ねた結果が生み出した魔の心が私に人ならざる領域に立たせ、結局私はすべてを投げ出してしまった」

 若い漁師たちと自分との間の差に見えない壁が会話の領域内に断絶的な思いが芹沢を押しつぶしていた。

 芹沢は諦めて再び砂浜から波打ちを歩み回ろうと進めた。

「そんなことは無いのでは?芹沢ダイスケ…」

「えっ!」

 芹沢は思わず振り返った。

「君は十分に自分を残したじゃないか…私に比べたら贅沢な程に…」

「なっなぜ、私の名を…きっ…君は…私と何処かで!?」

「私はずっと最初から気付いていたよ、あの床屋での再会で」

 芹沢はようやく思いだした。

 その若い漁師の素顔、骨格、そしてその眼差しに芹沢は何もかもを思いだした。

 その若い漁師は紛れもなく安久津本人であった。

「そうだ…君は…君は…」

―ギャアアアオオオオオオンンンンン!!

 それは金切るような鳴き声が波を騒めかせ、砂を巻き上げ、木々の草が激しく揺らめく音が聞こえた。

「芹沢さーん!!芹沢さーーん!!」

 叫ぶも叫び続けるも尾形の声は芹沢には届かなかった。

 皆底の彼方に芹沢が居るのか居ないのか…甲板から皆が息を飲み込んで安否を祈れる状況に無いと理解出来る絶望的な状況であった。

「芹沢さーん!!聞こえたら返事をしてください!!返事が出来なければ戻ってきてください!!どうして…どうしてあなたはそこまでして…芹沢さーーーん!!」

 どれだけ叫んでも芹沢の声は聞こえなかった。

―タッタッタッ、バッ!

 甲板を駆ける足音が鉄柵を乗り越えて海に向って飛び込んだのはゴンだった。

「少年!!?よせ!!何を考えている!!」

「尾形さん!危ないです!!下がってください!!」

「少年!!戻ってこい!!少年!!」

 芹沢に続いてまだあどけない小さな子供がオキシジェン・デストロイヤーの魔の手が渦巻く海の渦中に飛び込んでいった。

(何処だ!?何処にいる!!何処に…何処に!?)

 ゴンは大海原の海中内を自分の持てる力で精一杯芹沢を捜索するも、見えるのは泡のみ、魚はオキシジェン・デストロイヤーによってすべて塵も残さず泡となったのか、そこには何一つも無かった。

 泡は大きな海流と共に海を荒らし狂い始めゴンを海流の中に回し包めた。

「がっ…ブックブクブク…」

 口から空気が抜けて身体の中に海水が侵入して来たのが感じる海の塩味と共に苦みが舌を刺激してきた。

 今度ばかりゴンも自分自身に秘めたる力に頼りたくなった。

 目覚めろ…目覚めろ…あの時のように、あの時のように…あの力で打開できるなら…ゴンは王にでも魔にも怪にも…神にでもなる覚悟を決めた。

「よせ!!君に何が出来る!!止めるんだ!!」

 芹沢は叫んだ、決して見えるわけでは無い、ただそこにゴンが居る気配を感じるから引きさがれと叫び続けた。

 しかし、無力な自分に為す術が無い芹沢も今度ばかりは自分の力に頼れず、漁師の胸倉を掴んで助けを扱いた。

「おい!何とかできなにのか!?このままではあの子が…あの子が……なぁ、助けてやってくれ!!君の力で何とか…あの時のように…君がスターリングラードで僕を助けてくれたように…あの子を…彼を助けてやってくれ!!」

 芹沢はすべてを思いだしていた。

 ずっと心のどこかで忘れ捨てていた記憶…

 戦時中に列強激しいスターリングラードに研究員として送られたあの日、自分を救ってくれた彼の事を…

「あの時…私を助けてくれたのは…君だった…無力な私に武器を持たせて君は…」

「『生き残り長ければ、自分の身を守りながら…闘え』」

「そうだ…そう言って君は私にモーゼルを…」

「芹沢…俺は何もしていない、これまで君は自らの力で時代と闘った…君もまた立派な戦士だったじゃないか」

「私は…戦士なんかじゃない…ただの非力な…無能な科学者なんだ…たった一人の女性も幸せに出来ず、たった一人の友人の気持ちさえも裏切り、たった一人の恩師を見限り、たった一人の子供に何もしてやれなかった哀れな男なんだ!」

「……そんなことは無いんじゃないか?…君の目に着いたその眼帯…見えづらいだろう」

 漁師は芹沢の右目の眼帯が見えづらいと考えていた。

「こっ…これは失明で…」

「見えないから見ようとせず塞いだ…それは君がちゃんと両目で見ようとしていないからじゃないか?…取って見て見ろ…しっかりとその両方を見通す目で」

 何を言っているは…芹沢には大体わかった。

 彼の言う通り改めて眼帯を外して塞いでいた目で海の地平線を見通りした。

「こっ…これは…」

 そこには…ゴンに似ている別の誰かであるがゴンのゴジラに似た姿を大きくしたような存在が、自分より遥かに大きな存在と闘っていた。

 他には硬質な鎧に覆われた、ゴンに似た者と同じ体格の存在と筋肉が膨張した巨漢の存在、他には全身針の存在、火炎を身に纏う翼竜の存在、モグラのような愛嬌に似つかわしくない闘志を纏う存在、他にも皮膜を持つ者、泥のような体を持つ者、蜘蛛や蟷螂のような昆虫の姿を模した者達や様々なゴンのような人の形をした獣たちが居た。

 そして、その後ろには大きなツノを持つ乙女、白銀の塗装を施した機械的な乙女、猪突猛進な四本角を持つ乙女、三日月のツノを持つ乙女、極腕の怪力を誇る乙女、電気を帯びる乙女、他にも分身や機械のような体、一際目立つ強さの存在感が滲み出る乙女と様々な半獣のような乙女たち皆が肩を並べて闘っていた。

「これは……そうか…これは…この目に映るのは…ゴン、君と同じ魂の意思を持つ者たちが未来で闘っているのだな…」

 芹沢は手に持つ眼帯を見つめて海に投げた。

「これは…もう必要ない…私は…私達の意思は彼等が受け継いでくれる」

「そうだ、芹沢…君の意思も、俺達の意思も、未来に生きる者達が強く受け継いで居るであろう」

 引き上げた芹沢ダイスケの命綱は切れていた。

「芹沢さん…どうして…どうして…」

「芹沢…くん…」

「見て、尾形さん!?」

 尾形は俯く顔を上げて見るとそこには芹沢のオキシジェン・デストロイヤーで苦しみ悶えるゴジラが海面に浮上して姿を現し見えた。

―ギャアアアオオオオオオンンンンン!!

 ゴジラも一種の生物としての痛覚に悶え苦しんでいる…

 人間側としてこれが本当に正しいことなのか…本当にこれが正義なのか…この船の甲板で見つめる者たちの誰もがそれを考えさせられ思った。

 やがてゴジラは鳴き声と共に海の底へ沈んでいき…

 海の中で肉体が溶けだし、骨身も何もかもゴジラのすべてが気泡となり残さず消滅していった…が―

 その気泡たちが向かう場所は唯一つ…

「………………」

 その手には紐のような物が引っ掛かった。

 やがて芹沢の目の前の海からゴジラが水面に頭から体を出して芹沢達の居る世界に来た。

―グルルルルッ…

 それはまるで芹沢を見つめて待っているかのようであった。

「…もう、行かなければ…」

「何処へだ?」

「私は君たちと同じ場所へ行けない…まだ未来の見甲斐が在るようだ」

「…そうか、だがそこから先に沈めば…お前は亡霊となるぞ」

「構わない…それでも留まって見守って居たい…」

「…わかった」

 漁師の横に若い彼の妻と思しき人物が寄り添って芹沢を共に海岸から見送った。

「尾形、エミコさん、ゴン…幸福に暮らせよ……君らも向こうで幸せにな…さようなら」

「ああっ…芹沢も向こうで達者でな…」

 芹沢は若い夫婦とやがて集まって来た数多くの海岸側の村民たちに見送られて海に深く沈み行きゴジラと共に海の向こう側へ向った。

 甲板で芹沢とゴジラ…そしてゴンが海の底へ消えたことに涙を流し悲しみにくれた。

「ゴンちゃん…ゴンちゃん…」

 シンキチはゴンが被っていた軍帽子を抱きしめて蹲るように涙を流した。

 エミコは床に落ちていたゴンの懐中時計を拾い、口を押えながら若き小さな子供の命が消えたことに悲しみに崩れた。

「あぁあああぁああああーー!!」

 1頭の怪獣を葬るために一人の青年科学者が犠牲となり、それを助けに行こうと海に飛び込んだ一人の少年…あまりにも大きな犠牲に皆が悲しき結末に黙祷を捧げた。

 しかし、山根博士は更なる見解を考え述べた。

「あのゴジラが…最後の一匹だと思えない……怪獣は…覚醒したばかりなのかもしれない…あのゴジラの同類が…また世界のどこかで現れるかもしれない…私はそう思うよ、尾形くん」

「ええっ…その為にも私達人間が…変わらなければ…ならないのかもしれません」

 2人は穏やかになった海を悲しき目で見つめ続けた。

 甲板に居るすべての者たちが海に向って敬礼や黙祷を捧げる……その時だった!

―トォォン…トォォォン…

「!?…なんの音だ!?」

「えっ!?」

「聞こえる…何か聞こえる…」

 甲板に居る尾形たち数名の耳に何らかの鼓動を耳にした。

―トォオン…ドォオン…ドォオオン!

 その音はやがてドンドン大きな振動音と成り始めた。

「みっみんな見てくれ!!」

 その音は海から来ていることを山根博士は見抜いた。

 ゴジラが没した海の中央から丸く円状の波紋を引き起こして次々と大きな振動音が波を引き起こして巡視船を揺らし始めた。

「皆何かに掴まれ!!」

 それは立っているのもやっとの程に大きな揺れを引き起こしていた。

―ドオオン!!ドオオオン!!ドオオオオン!!

 振動の波は最大点に到達して海に大きな波紋の波で荒れた。

 次の瞬間、ザパァアアアアン!!と海面から何かが飛び出して巡視船のみんなが集まる反対側の甲板にソレは着地した。

「えっえっえええ!?」

「なっなっ…なんだ!?」

 それは決して大きな体長とは言えないが人型で1m以上の大きさに全体の形と黒の色合いゴツゴツのケロイド状の表皮にサンゴのような白い背ビレはそのままゴジラを小さくしたような姿であった。

「………」

 小さなゴジラは振り返るとその鋭い眼光に皆が一同にバランスを崩して膝を付いて居る。

 それはまるで1人の王か或いは神を目の前にしている気分であった。

 その手には芹沢の眼帯と思しき物を持って甲板を大きく飛びあがり海へと跳び込んで潜り消えて行った。

 山根博士は新たなゴジラを目の当りにしたことに更なる見解を述べた。

「あのゴジラのような怪獣は1匹だけとは思えない…が、あの子のように怪獣の特性を持った或いは受け継いだ者たちもいずれ現れるかもしれない…人間と怪獣…新たな生命の可能性を私達は目の当りにしたのかもしれない…」

「ええっ…今後、彼のような者が…世界を変えるのかもしれません」

 尾形たちはあの小さなゴジラが海へと消えた場所を目に焼き付けていた。

 その場に居た者たちが新たな怪獣の誕生を目撃した事となった。

 その場に居る全員が海に向って高々と額に手を翳して敬礼を向けた。




―作者制作秘話―

ゴジラと芹沢が海の中で消え、その因子をゴンが受け継ぎ新たなるゴジラが誕生しました。
ここに地球上初の『怪獣の魂』を受け継いだ者が誕生した最初の怪獣、最初の者、最初にして始まりの怪獣人間、怪獣漢です。
今後、彼がどのような人生を歩むかは…それはまた別と言う御話です。

―芹沢の訪れた場所―

芹沢の死後に訪れた場所は芹沢にとって最も想入れ深い場所『大戸島』が現れたのです。
そこに居たのは若い漁師の姿として彼を待っていた者こそ安久津自身でした。
果たしてそこがあの世なのかも…作者の私には少々難しいですので皆さんのご想像にお任せします。
そしてその島で出会った漁師夫婦は『普通を手にした安久津と白娘』と言う演出です。
そしてその島の島民たちも『スレイヴ基盤』に組み込まれ捕らわれた者達です。
あの世でも末永く幸福に…と願いたいです。

―芹沢と安久津―

2人の関係はドイツの研究施設でクラールハイトギアの間接的な関わりだった間の因果です。
後の安久津が中国からドイツに渡るための直接的なルートにスターリングラードがありそこで安久津ショウセイの実戦投入が為され芹沢も巻き込まれる形でソビエト連邦との攻防に出くわしたと予想されます。
その時に偶然出会えたのが安久津と芹沢の2人です。
運命の悪戯か、はたまた偶然か…
結局、床屋でのシーンでは芹沢は覚えていませんでしたが…死後を迎えてようやく彼との関係を思いだしたのでしょう。
※当時の戦況情勢とドイツルートに若干の違いがあるのでフィクションとしてご了承ください。

―王の復活、神の誕生―

このシーンは『GODZILLA:kingofMonsters』のゴジラ復活をイメージしましたが、形を変えてゴジラが人に憑依してゴンを真のゴジラに進化させた重要な場面です。
『GOJIRA』から『GODZILLA』へ変わったのかもしれませんが…そこの解釈は皆さん次第です。

次回で最終ですが…登場人物たちのその後を描いています。
 今回はここまで!!
最終もご愛読をお願いします。


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新時代

―ピンポーンパンポーン!

『ニューヨーク行きの御搭乗のお客様は7番ゲートまでお越しください』

 空港では尾形が大きなキャリーケースを持ってマーティンと共にニューヨーク行きのゲートに向っていた。

「…本当にいいのかね、尾形君」

「はい、もうお互いに決めた事です…」

 見送りに山根博士とシンキチが2人の新たな旅立ちを心から祝った。

「向こうでもがんばってくれたまえ、尾形君」

「寂しくなんります!尾形さん」

「博士、シンキチ…お達者で…シンキチもちゃんと学校行けよ!」

 尾形はシンキチの坊主頭をワシワシするように撫でて別れを2人に告げた。

「エミコも…最後ぐらい別れを言えば…」

「いいんです…互いに解消した結論ですし…」

 尾形とエミコの婚約は2人の合意の元で『解消』として白紙になった。

 しかし、尾形に後悔は無かった。

 芹沢が命を懸けて救った世界の中で自分が居る以上、エミコには芹沢の存在が強く大きく深くある以上、尾形自身引きさがる結果となった。

「それでは…お元気で」

「サヨウナラ、ドクター山根、シンキチボーイ、エミコによろしく伝えてください」

「さようなら、マーティンさん!」

「マーティンくんもお元気で」

 2人は自分の荷物を持ってニューヨーク行きの7番ゲートに向かった。

 ゲートをくぐり搭乗時間まで時間に余裕のある中で待合に立ち寄った。

「ヒデト、何か飲み物を買ってきます」

「ああ、ありがとう。じゃぁコーヒーを頼むよ」

「OK」

 待合のベンチに尾形が座り、マーティンがコーヒーを買いに行っている間は搭乗の準備中のジェット機を待つばかりであった。

 尾形は滑走路全体が見通せるこの待合のスペースに設けられたベンチに腰掛け、あの悪夢のような惨劇が何一つ無かったかのような気持の良い青空が広がった空を見上げていた。

 尾形が座る隣の席には一人の子供が居た。

芹沢の隣に居たのはゴンと同じ8歳くらいの少年が子供には似つかわしくない分厚く難しい本を読んでいた。

「いい天気だね…こんな気持ちの良い日は子供が野を駆けるのに最適な日だ」

 ふと思い立った気持ちを少年に投げかけるが…

「天気は常に代わり映えしませんよ、時に雨になり、雪にもなるから僕はどうとも思いません…今日が偶然晴れただけです」

 尾形の問いかけに可愛げのない返答を返す少年から感じたのは育ちの良いお坊ちゃんだった。

 よく見れば少年の衣服はきちんと整った服装に整った髪型と存在そのものがお坊ちゃんであった。

「君もニューヨーク行きに乗るのかい?」

「父の仕事関係で…」

「学校や友達は?」

「父の仕事で転々としているので居ません。作るつもりもありません」

 今どきの子供はこうまで冷め切っているのかと思わせる正に現代社会の歪みであった。

「なぁ少年、僕は君と同じくらいの少年を知って居るが…多分君とは正反対の子供かもしれない…でもそう言った自分とは見方も考え方も違う者と関わるのも重要だぞ」

「そんな子供と友達になりたくありません」

「フフッ、子供も大人も大概人間だ。良いも悪いも認めあうことが重要だぞ」

「どうしろと…」

「君もいつか分かるさ…広い世界を見て、ああっ自分はちっぽけな存在だと思わされるさ…そういう時が来る」

 少年は尾形に呆れてとうとう会話を切った。

「じゃぁ話を変えて君はどんな夢を持っている?」

「夢?」

「そう、夢、ドリームだよ」

 尾形は覚えたての英語を堅物な少年に投げかけるも溜息をつかれた。

「それでは睡眠による脳の情報整理の際に起こる現象です…あなたが求めてるのは『Dream(夢)』ではなく『Future(将来)』では?」

「えっ…ああっそうか…」

 大の大人が子供に英語を逆に教わる始末であった。

「そうですね…将来なら『どんな困難にも決して諦めず、不可能を可能にする』そんな存在に成りたいです」

 冷静な感情に似合わず意外な答えが返って来たことに尾形は少し驚いた。

「君~性格に似合わず意外と熱血漢だねぇ」

「単に父がアメリカで買ってきてくれたコミックのセリフを言ってみただけです」

 待合の席から遠くの方で少年の父親と思しき人物が『シン!』と呼んでいる声が聞こえると少年は読んでいた本を閉じて抱えて父親の下へ向おうとした。

「少年、名前は?…僕はおが」

「ハヤタです…おじさんの名前は知るつもりは無いので答えなくていいです…では」

 少年改めハヤタは尾形に軽く会釈して父親の下へ向った。

「おじさんって…最後まで可愛げの無いなぁ~最近の子供は…」

 そう思っているとマーティンが紙コップに注がれたコーヒーを抱えて戻って来た。

「お待たせ…ワッツ?どうしマシタ、ヒデト…」

「いや…時代を感じて居るだけさ…」

 するとアナウンスがニューヨーク行きの搭乗を開始するアナウンスが流れた。

『まもなくニューヨーク行きの便が出向いたします。搭乗のお客様は―』

 ニューヨーク行きのジェット機が空港を飛び立ち、大空へ向かっていく様子を東京の郊外から日傘を指して空を見上げて照りつける日差しに眩い光を遮りながらボソッと呟いた。

「さよなら…尾形さん」

 間接的な別れを告げたエミコは日傘で光を遮って東京の郊外を歩み進めた。

 手提げの紙袋には箱に入った羊羹を持って郵便局に訪ねた。

「すみませーん、これを大戸島に送りたいんですが…」

「はい…お客さまで最後の郵送になりますね…今月を持って大戸島への郵送は完全に無くなるので…」

「では…もう二度と大戸島へは何かを送ることも、行くことも出来ないんですね…」

「ええっ…なんでも例のゴジラ災害ですべての船の行き来が無くなるので…それにあそこはもう住民は殆ど居ませんからね…残った者もただ1人だけですから…」

 それは大戸島が完全なる孤立無援の島となる形であった。

 ゴジラ出現以降、『大戸島』は人々の記憶から消えて行く定めなのかもしれないのであった。

 そうこう考えているとエミコは郵送先の宛名書きにペンを走らせていた。

 東京都内の出版社の窓からは復興に向かう街の中で至る所で工事用の重機が蠢く様子が見える窓に花瓶に入った花を萩原が入れて置いた。

「どうしたんだ?その花…」

「んんっ?これか…これは知り合いの博士親子が今度花屋を営むって言うんで常連第一号として買ったんだ…いいだろう」

「博士が花屋?…変な話だ」

「ゴジラだって変な話だろう…結局アイツは何がしたかったんだか…」

「さぁな…ゴジラもそろそろ風化して忘れ去られるよ…そのゴジラの一件も国が情報操作で揉み消す方針だって噂だ」

「…忘れた方がいいのかなぁ…」

 萩原は同僚と他愛の無い会話をする一方で女性の同僚が萩原を呼んだ。

「萩原さーん!お客さんです」

「俺に?」

 萩原は自分に客人と聞いて珍しく首を傾げたが…駆け足で小さな客人が萩原に抱き着いた。

「萩おじさ~ん!」

「おお~!アキコちゃん~久しぶりだね~元気だった?」

「うん、おじさんも元気~?」

 萩原が抱え上げた女の子は『アキコ』と言う8歳くらいの女の子であった。

「姉さんは元気?」

「今度、弟が生まれるの~サトルって言うのよ~」

「へぇ~じゃぁ立派なお姉ちゃんとして頑張んなきゃ~」

「でも私、宇宙飛行士になるもん!」

「宇宙飛行士!?アキコちゃんが?」

「うん!宇宙飛行士になって悪い宇宙人をやっつけるの!」

「それはそれは…そっか、『宇宙戦争』去年公開したばかりか…」

 萩原は自信の姉の姪っ子が映画の影響で宇宙人は悪者の認識に成ったことに察した。

「いとこのユリちゃんはおじさんの下でカメラマンになりたいんだって~」

「そうか~…将来が有望だな~君らの世代は」

 北海道の山間地域にある山小屋で食事を取る岩永は同僚と軽い話をしていた。

「なぁ聞いたか…防衛隊、また名前を変えるって話…」

「『自衛隊』だろう…話は聞いてるが…今まで通り国土防衛を本意に幾つかの部隊に分けるとか」

「ああ…陸海空の3つに分けて行くらしい」

「俺たちは陸だろうな…歩兵大隊位置づけはみんな陸だと」

「それと米軍のレンジャー教育も取り入れるらしい」

「その内に特殊部隊とかできるかもな」

「まさかぁあ~」

 そう言って何気ない会話を駐屯地近くの訓練所として利用している山の店で談笑する岩永の荷物の中に『特生自衛隊案』の資料に極秘印が押された紙を仲間に見えない様に荷物のチャックを絞めた。

「そういえば旅行客も増えたな…北海道は」

 岩永が北海道に赴任して数日であったが見渡すと登山客で溢れていた…中には8歳くらいの小さな女の子も居た。

「アンヌ~そろそろ行くぞ~」

「は~い」

 女の子は駆け足で親に呼び出され走って行った。

 しかし、道中で男の子とぶつかってた。

「きゃっ!」

「いてっ!」

「ごっごめんなさい!」

「ああ…いいよ別に…炭鉱から帰ったばかりでモグラ目に成ってたばかりに…」

「あなた…炭鉱夫なの?」

「父ちゃんが働いてるから手伝って居るだけ、本当の炭鉱夫じゃない…アンヌ…だっけ?」

「ええ~!?何で名前を?」

「さっき向こうで君の親が呼んでたから…モグラ目でも耳はいいんだ、炭鉱は音を聞く耳が重要だから…僕は薩摩次郎、みんなからは『ダン』って呼ばれてる」

「ちゃんと名前があるのに…『ダン』?」

「次郎っぽくないんだって」

 そんな他愛の無い子供たちの会話すら岩永には新たな時代の息吹を感じていた。

 そして、岩永達の自衛隊にも新たな息吹がやって来た。

「おっ遅くなりました~~!!」

「遅えよキリヤマ!!」

 息を切らして他の先輩隊員に遅いと言われてやって来たのは岩永と同期のキリヤマカオルだった。

「すっすみません!…それより!アサチ炭鉱でガス爆発発生により災害派遣です!!」

「何!?よし、今すぐ出動だ!!本土からゴジラ退治の英雄様の歓迎会は一旦中止だ!」

 突然舞い込んできた災害派遣に歓迎会は中止、岩永達は災害派遣幕を高機動車に張り付け、ヘルメットを着床し現場に急行した。

「おじさん!」

 声を掛けたのは『ダン』こと薩摩次郎が心配そうな顔で岩永を見つめていた。

「どうした?少年」

「僕の父ちゃんが居るかもしれないから…軍人さん!父ちゃんを助けてください!」

 岩永はここ北海道に着任して初めて気付かされた。

 国民の健やかな平和と安全を守るのは保安隊でも防衛隊でもなくこれからは自衛官である自分たちの自衛に掛かっていることを子供に気付かされた。

「…ボウヤ…俺たちは軍人じゃない、国民一人一人の平和と安全を自衛する自衛官だ」

 岩永はダンの頭を撫でて仲間と共に高機動車に乗り込んで災害現場へ急行した。

 永田町の某所料亭では政治家とある男が会合を行っていた。

「あれ以来国会のすべての関係閣僚から大臣職はすべて代理者ばかりだ」

「お話は伺っています…しかし、総殉職として亡くなられた総理含めた大臣方にはお悔やみ申し上げます」

「しかるに…だ、またいつゴジラのような怪獣が現れるやもしれない…『特生自衛隊法案』が可決しても国内での重火器の使用は制限される」

「確かに…そうなれば我が国に持てる抑止力は限りある物で小規模と言えます…到底ゴジラのような50mクラスの生物には太刀打ちが…」

「そこで国連が新たに『防衛軍機関』を目下検討中とのことだ」

「『防衛軍機関』…ですか?」

 向かい合う政治家に男は『TOPSECRET』の赤印が押された『DF FACTORY』と書かれた表紙の資料を手渡された。

「ああっ、しかしこれらの隊員は後々に国連下部組織の様々な機関への配属を視野に入れているらしい…通称『DF』へ君をそこの研修に参加してもらい今後9年から10年以内に日本など加盟数か国に防衛チームを配置することが既に検討されている…候補は君を含めた2名を日本から排出したい、君ともう一人『キリヤマカオル』くん、まだ検討中だが今後も多くの人材を回したいと思っている…長い期間の訓練を有することになるが…やってくれるね、ムラマツ君」

 同じ頃、東都大学では…

「コレが…例の壱賀谷邸で鹵獲された『クラールハイトギア』ですか…」

 それは年齢にして僅か8歳の少年が防衛庁技術官とロシリカ技術士官による観察が行われていた。

「間違いアリマセン、こっちの缶形状の部品は原子熱核炉を小型化した『メーサーリアクター』デス…しかもこのリアクターはナックルによって使用された形跡がアリマス」

 ロシリカ技術士官はロシリカ大使館から派遣され資料上でしか確認できなかった自国の技術が使われていることに困惑していた。

「確かにそちらも重要ですが…この『スレイヴ基盤』、原理は人間の知覚に感じることのできない物質を閉じ込めデータリンクして制御と推進を高める機構がある」

 観察に目を凝らす少年は『クラールハイトギア』を『グレイヴ』として機能させるための重要な内臓器官とも言うべき物に目をつけていた。

「中身そのものには幾つかの問題点はありますが…これなら『人工知能理論』が早い段階で完遂域に到達する…人間が自らの複製を作り出すのも時間の問題でしょう」

 少年は大人に負けず劣らず高い知能でこの高度なオーバーテクノロジーを瞬時に理解した。

 それを誰よりも畏怖する念を抱く者が彼の後ろに居た。

「驚いた…噂程に耳にしていた東都大学の秀才児は想像以上だ『カトウ・ハジメ』くん」

「いえ、あなたほどではありませんよ…岩本博士」

 ロシリカ技術士官は岩本に強く手を取って握手を交わした。

「我が国の技術提供、受け入れマショウ!」

「本当ですか、それは心強い!」

「『カトウ・ハジメ』が発案した『メーサー転用兵器論』であれば数年以内に対怪獣兵器としての実績を重ねられるデショウ」

 大人たちの会話そっちのけで夏休みの自由研究を進めるが如き速さで理解する『カトウ・ハジメ』に少々の懸念が心残りに留まって居た。

 数年後にこう言った子供たちが大人になり、世界に何を齎すのか…科学者として想像もすることさえ恐れがあった。

「こっここを…おらたちが住んでええのか!?」

 大戸島被災者たちは生き場の無い生活から一変して東京都江東区内の都営住宅を無償と言う好条件で一世帯ごとに壱賀谷商事から提供されたことに酷く困惑する思いであった。

「ワシら…あの社長さんにあんなひどいことをしたんのに…恨まれて当然なはずなのになぁ…」

 唐突な壱賀谷からの贈り物には元大戸島村長が皆を一同に集めた。

「皆、良く聞くだ…これはあんの社長さんからのお言葉だに」

 それは村長が壱賀谷の顧問弁護士から預かっていた手紙の内容を村長が読み上げ始めた。

『日々、生き場無き生活を送られている皆様に対し生前の芹沢ダイスケ氏の想いとお言葉を拝借しここに記します。

人は弱い生き物…されどもその恐怖心そのものを拭い猿ことは出来ず、ただひたすらに生きるために島民の皆さんは1人の犠牲で為せた平和もあると存じ上げます。

 しかし、それが結果我々部外者の介入で今回のような事態となったことも又事実であり、互いに非を改め合い、ここにわたくし壱賀谷トシユキは皆さまに対して深く反省と謝罪を申し上げ、当社が運営する都営住宅の無償提供致します。

 ですが、今回の件につきましてはわたくしの恩人にしてかけがえの無い友人としてご提案申し出た者は芹沢ダイスケ氏の遺児『宮下ゴウケン』様のご提案であることをここに記します。

 彼の方は皆さまの御先祖が生涯を賭け培った『大戸島』の復興の為に皆さまが今一度戻って来れるよう刹那に願い、彼と彼の保護者と共に大戸島に残られることを決意し、皆様の健やかなる歩みの為にも我、壱賀谷トシユキは故・芹沢ダイスケ氏とその遺児・宮下ゴウケン氏の代理者としてここに御印致します。』

 その内容はそれまで増悪し、忌み嫌い、蔑み呪い、『呉爾羅の子』と罵って来た意地汚れた自分たちがゴンに救われたことを意味していた。

「聞いた通りだ…わしらはゴンさにこん身を救われた…愚かだったのはわしらの心じゃ…これからはゴンの子孫さの為にもこの住宅からわしらの家周りを豊かにしていく。それがわしらの使命じゃ」

 島民たちはゴンに名誉と天命を守られた恩を返すために自分たちに与えられた身の周りの世界を良くしようと心に固く誓い合った。

 その様子は顧問弁護士から伝わって壱賀谷の耳にも届いていた。

「お父様~何か嬉しいことでもありました?」

「うん?…いいや、家族の事を考えていただけだよ…みんなみんな…普通が一番だと言うことさ」

 壱賀谷はキヨコの髪を優しく撫で下ろすように復興する町並みを新たな会社の窓から眺めていた。

「今日から私達の新たな歩みはここから始まるんだ…子供たちよ…健やかに清く正しく生きなさい」

 新たな会社の会議室には円卓を囲む様に後の世界を担う壱賀谷の長男・トシアキと次男・トシミツの二人が向かい合って座っていた。

「じゃぁ僕が父さんの会社を次いで見せるよ!」

「ああ~!ズルい!!会社は俺が社長になるもん!!」

「兄さまたちじゃ不安です!キヨコも会社を支えます!!」

「はははっ…子供たちの将来が楽しみだ…なぁノカゼ」

「ええっ…この子たちなら我が社を…日本の将来を変えてくれる担い手になってくれるでしょう」

 壱賀谷夫婦は子供たちの明るい未来を見据えて暖かく見守った。

 アメリカ合衆国 国際連合本部

 

 様々な国旗が加盟国であることを表しているニューヨーク国連本部ではある男が国連事務総長直々に呼び出されていた。

 その男を囲むように国連加盟国が聴取と言う名目で参考人として招いていた。

「それでは…『ゴジラ出現記録』に基づいた君の聴取を行います」

 男は加盟国代表者と国連事務総長の前に手を翳した。

「その前に、皆さんに改めてゴジラ出現記録の開示にあたって確認しておきたい事がございます」

「それは…なにかな?」

「…今、世界に初めて怪獣の出現が観測された現状あのゴジラのような怪獣が目覚めつつあることをご報告いたします」

「それは根拠があっての発言ですか?」

「根拠どころか確証です。ゴジラは…始まりに過ぎません。ゴジラが東京湾で消滅したあの日、世界にゴジラの因子が撒かれたのです。その果実を受け取った生命はいずれ世界に牙を向くでしょう」

 ニューヨーク・マンハッタン港

 

―しかし、恐れては成りません。これは未だ人類が到達し入得ない未知の領域に片足を入れたに過ぎません。

 

「おい!?なんだこの船…」

「中に誰かいるぞ!?」

―ムクッ…

【もう着いたのか…へぇ~ここが島の外の世界か…】

「しゃっ喋ったぞ!?」

「なんだコイツ…何を言っているのか解んねぇ上に変な格好してるぞ…原始人みたいだ」

【ふうぅ~ん…外界の言葉が理解できなぁ…まずは情報が必須だ】

 日本 長野県山間部

 

―彼等は地球全土の環境の管理者にして統治者の使命がある。地球環境に重要な存在として―

 

『ゴジラ出現地、東京では植物が出現!東京の街の復興に数年単位で実現可能』

「東京もいよいよ復興だよ、母さん」

「そうだねぇ…あたしはもう永くないから…せめてお前だけでも」

「何言っているんだ!僕が立派な医者になって絶対帰って来るから…ちゃんと治ったら大戸島に帰ろう…ゴウケンに会おうよ」

「そう願いたいものだよ…ゴホッゴホッ」

 福島県 須賀川市

 

―ゴジラの死によって世界に解き放たれた因子はありとあらゆる怪獣を目覚めさせ、その魂は極限られた選ばれし者たちに受け継がれる。

 

「エイジ兄ちゃん、僕ら今日からここに住むの?」

「そうだぞエイザン…ここからがスタートさ…俺はここで映画を撮る!誰も見たことのない夢のような映像を作るんだ」

「じゃぁ僕はお金持ちになる!」

―ザッ…

「よう、お前ら」

「「エイイチ兄ちゃん!!」」

 北海道 アサチ炭鉱

 

―やがて怪獣は使命を終え、新たな魂の拠り所を探るでしょう

 

―ブゥオオオオンンンン!!

「熊だ!!熊が現れたぞ!!」

「軍人さん!何とかしてくんろ!」

「そっそんなことを言っても銃火器の使用は…」

「炭鉱爆発で目を覚ましちまったか…かなり興奮状態だ」

―ブゥオオオオンンンン!!

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「危ない!!」―ダッ

「岩永!!」

―パァアアンアアンンンン!!

「……えっ!?…みっ眉間が貫通している…誰が撃った!?」

「マタギ衆だ…こんな芸当出来るのはマタギ衆のあいつらしかおらんべ」

「マタギ衆?」

「よくやったサモン、眉間に命中しとる…田口サモンに掛かればこんなもん朝飯前か?」

「……いいや、運がよかっただけだ」

 アメリカ国内 某所

 

―その時、我々人類は怪獣によって新たな時代を幕明けることになる。

 

「レイモンド・テリー…仮名…推定20から30代、生前は健康状態の良好であることはCIAに確認済み…『素材』としては『安久津ショウセイ』同様によろしい…」

―ザアァァー…

「ブルーシート捲れば確かに良好なようだ、そこらの女性の遺体より素晴らしく美しいまでに…君はやがて私の作り上げた怪物たちと肩を並べることになるだろう…白娘のように無下にはしないさ…このフランケン・シュタインによって」

「そのためにも我々は怪獣の魂を受け継いだ者たちへの支援組織の開設をご提案いたします」

 男は国連事務総長と加盟国代表者に熱弁を語ったが…

「中々独創的なご意見でしたが…その様なことに国連が…」

「その様な事…その様な不確定な要素しかない組織の開設は許されないと申されるなら…この場に居る『安久津ショウセイ』と『クラールハイトギア』、総じて『グレイヴ』を手引きした者たちで溢れかえった国連国家代表者の皆さんが揃いも揃ってゴジラの出現と言うイレギュラーに対応を追われている者に何の権限が御有りで?」

「貴様、その傲慢な態度は非加盟とて許されんぞ!」

「ことと次第によっては君の祖国が2年後の加盟を破棄せざる負えなくなるのだぞ!」

 あまりにも幼稚な脅しに男は口を押え、笑いを堪えた。

「いやはや、失礼…あまりにも滑稽で……『グレイヴ』を失った余りとうとう気でも狂ったかと思いきや…随分と余裕がありませんね…『ゴラス』の皆さん」

「ゴラス?一体何の…」

「随分と深く根強いておられましたが…国連事務総長!並びに各国加盟国代表者の皆さん、あなた方の名前は今後一切世界の歴史から存在が抹消されるでしょう」

 国連本部の理事会室の扉が開かれ武装した兵士が事務総長並びに加盟国代表者に銃を向けて取り囲んだ。

「何のつもりだ!?コレは…」

「コレは…?…そのお言葉通りならあなた方は戦前から世界中に暗躍する『ゴラス』のメンバーとして随分と捜査して来たらしいですね世界の均衡を保つ国連が聞いて呆れる…あなた方は世界を騙している」

「今、この情況で君が言えた口かね…尾形ヒデト…いや、そもそも貴様は何者だ!?」

「私はただのサルベージャー…海と言う広大な世界で物事を引き上げる役目を持つ者です…さぁ、その玉座から降りろ」

「……これで勝ったと思うなよ…貴様等は修羅の道に迷い込んだに過ぎない…『ゴラス』はやがて人類にも怪獣にもこの星にも喰らいかかるだろう」

「その為に我々が居る」

 尾形は国連に蔓延る『ゴラス』の芽を引き抜き一連のすべてを解決したが…それはやがて修羅の道であることに無い事も確かであった。

 小笠原諸島 大戸島

 

 今日最後の郵便船が到着した。

「あれ以来、これで最後の船渡りになるだ」

「おっさん良い仕事先見つかったな」

 大戸島の港では出港の為の本土との唯一の一本船であった管理人の中年男性が大戸島に残るゴンに最後の別れを告げた。

「本当にええだか?せっかく本土に行けたのに…ここに留まっちまったらもう後は絶海の孤島だべ」

「いいさ…ここが俺たちみたいな逸れ者には相応しいんだ…本土の連中の気が変って帰ってきた時までに今以上に綺麗にしてみせるよ…野を耕して作物育てて、いろいろな」

「…成長しただなボン…あの時よりずっと大人に成っただ」

「達者でな…船のおっさん」

 船は最後の出向に出て大戸島は今日を持って完全なる孤島に成った。

 ゴンは歩き進んで木造家屋などが倒壊した村々を回り家路についた。

「お~い、荷物届いた」

「ああっ…そこにおいておけ!さっさと作業に掛かるぞ!」

「何で急に刀なんか作り出そうとしてんだ?包丁職人が…」

「バーカ、コッチが本職だよ…こりゃ俺の刀剣職人の集大成となる逸品だ…絶対完成させる!」

 トウベエは刀の設計図とも言うべき絵巻を広げた。

「しかし…こいつの名前をどうするかだなぁ…未だ決まらずに仕舞いだ」

「じゃぁ俺が付ける!『小豆丸』!!」

「却下だ」

「『どら焼き正』」

「却下!」

「『庵蜜定』」

「何で悉く甘味なんだ!」

 中々決まらず悩むトウベエはふとゴンを見つめた。

「…よし、決めた!こいつの名は『無限の世界を切り開く太刀』として『無限乃太刀』だ!」

「何で俺を見て決めたんだよ…」

「ガキのお前には分かるまい…その内わかるよ」

 名が決まりトウベエは設計の絵巻に刀剣の名『無限乃太刀』と書き記した。

 玉座の明いた国連理事室の事務総長席並びに世界各国代表席も国連の席は大きく空いていた。

「マーティン…これから忙しくなるぞ…確かに僕たちは修羅の道を通り、茨を踏みしめることになる」

「…それを承知の上で起こしたクーデターなんだ…君も危ない橋を渡るなぁ…下手をすれば世界一の犯罪者だった」

「そんな者になって居たら…エミコさんを悲しませる」

「それを承知でなぜ君は縁を切ったんだ!」

「今になって芹沢さんの気持ちが理解できるよ…これがどれ程辛いのかを…」

「尾形ヒデト…君は一体何者なんだ?」

「それは前の名前だよ、マーティン…しばらくの僕の名前は『醍醐』と名乗る…そして、これからは僕たち『LAND』が世界を変える」

 これは始まりに過ぎない最初の話…

 世界はやがて新時代へと突入することとなる。

「怪獣は人知れず生きている。光の反面に影があるように彼らは影のように生き続ける。だが、名声も権力も安住も求めず日夜戦い続けるだろう。たとえそれが無限の地獄であったとしても、彼らに従い、導き、協力せよ」

 これが怪獣漢ゴジラ誕生の物語にしてすべての始まりであった。




―作者制作秘話―

終わったぁああああ!!ついに完成しました~
『MONS-GOJIRA-』…ここに堂々完結です。
案外短いと思っていたらかなり長くなりました。
それでもユウゴとアキのおじいちゃんの話として個人的に好きな上に愛着も強いです。
映画以上のボリュームで書けました。ありがとうございます。
それでは最後の設定です!

―ゴジラからウルトラへ―

劇中にウルトラシリーズには欠かせない重要人物たちの存在や名前が出てきましたが…彼等も同じ時代に同じ世界観で生きて居ればと言う題で描きました。
ただ本来とはだいぶズレがあるのでそこはご了承ください。

―尾形ヒデト―

作中で最大のキーマンであり原作『ゴジラ』の主人公的存在の尾形も安久津や壱賀谷同様存在名前すら変える男として描きました。
そんな彼のもう一つの名前こそ『サルベージャー(引き上げる者)』は『MONARCH』や『GIRLS』の前進組織を作り上げた『LAND』の創設者です。
今後、彼がゴンのような『怪獣の魂を持つ者』とどう向き合ったか本編でも明かします。

―そして繋がる伏線―

作中に幾つもの伏線を最後の最後に散りばめたので本編を見ながらもしその用語が出てきた時には皆様がああ~っと言うことを期待し書きました。
是非とも隠れ伏線を見つけてください!


最後までご愛読ありがとうございました。

オマケ小説も近々更新します。


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WEB限定特典:見せられないMONS 初代道

 ぼんやりと僅かに輪郭が見える。

「…誰?」

 アキは薄っすらと見えるその子供くらいの人物に言葉では表せない様な深い関係性を感じていた。

 しかし、その人物はやがて奥へと歩み進みアキから離れて行った。

「待って…待ってよ!」

 後を追おうとしても追いつけず歩いて居るだけで走って居るアキと差が開かれ始めた。

「待って…行かないで!待ってよ!!」

「おじいちゃ……あれ?」

 目が覚めるとそこはGIRLS東京支部の講堂で会った。

 アキの手元にはクシャクシャに為った指導課の資料があった。

 どうやら作業中に寝てしまっていたようだ。

「ボク…いつの間に…それにあの人…なんか…」

 アキは先ほどの夢の事を考えた。

「どうしてボク…おじいちゃんって言いかけたんだろう」

 考えれば考える程に作業が捗らないが…結論は意外と早かった。

 GIRLS 休憩室

 

「ええっー!?アギちゃんがおじいちゃんの夢を見たの!?」

 先程居眠りして見た夢の事をミクに伝えたら大げさに驚いたリアクションを見せた。

「ミクさん大袈裟すぎますよ」

「いや大袈裟になるよソレは…だってアギちゃんが執務中に居眠りしていた何て信じられないよ~!講義中のあたしが寝ちゃうならわかるけど」

「驚く所ソコ?…大体何で講義中に居眠りしてることを誇っているの…」

「えへへっ…それほどでも~」

「褒めてない」

 アキはミクの不真面目さには呆れが付いた。

「それにしてもアギさんがおじいさまの夢を見られるなんて…不思議ですね、いつもご在宅なのに」

「いや、ボクの知って居るいつものおじいちゃんじゃなくて…何て言うかこう…多分、父方のおじいちゃんなのかなぁ」

「「父方のおじいちゃん!?」」

 二人してビックリするくらい大きな声でアキに尋ねた。

「へっ!?どっどうしたの…」

「どうしたも何もアギちゃんの父方と言えば行方不明なんでしょ!」

「きっと何かの暗示ですよ!!」

 熱心に語らう二人だが単に興味本位で聞きに来ているだけに過ぎなかった。

「それにアギちゃんのおじいちゃんならユウゴさんのおじいちゃん!どんな人か気になる~!」

「男性の方の遺伝って意外と父方が濃厚であったりする場合もありますから、もしかしたらユウゴさんの『ゴジラ』のカイジューソウルのルーツかもしれませんしアギさんの血族のルーツも紐解ける鍵だったりしますよ」

 そう言わると確かに一理ある。

 そう思ったアキは改めて見た夢の内容を2人に打ち明けた。

「さっ最初は何だかボンヤリだったからよくは見えなかったんだ…ハッキリとは見えなかったけど何故かその時はおじいちゃんだって思ったんだ…」

「「それでそれで」」

「確証が無かったけど…なんかこう…体と心がその人はおじいちゃんだって訴えているような気がしたんだ…」

 アキは心のどこかで無意識に自分自身の細胞が脳へ電気信号のような強い感覚でその人物が自分の祖父であることを告げたあの夢が何だったのかを考えながら二人に打ち明けた。

「それで、おじいさまはどんなお姿でした?どのような服装でどのような印象でした!?」

「うっウインちゃん…?」

 アキは即座にレイカの異変に気付いた。

 なぜか急に追及するかのように刑事ドラマの聴取とばかりにメモを片手にペンを走らせていた。

「おっ…おじいちゃんって言う割には何処か若々しい…多分小学生くらい…老いてもいない若々しい肌っぽかったような、背も僕より小さかったし1mと少しほど…」

 レイカは聴取した内容に涎を垂らしながら黒魔術でも唱えているのかと言わんばかりのカオスな聴取のまとめ方をしていた。

「身長はアギさんより低くブツブツ…見た目より若々しくブツブツ…ショタでお爺ブツブツ…デュフフフ…」

「あっアギちゃん…何だかウインちゃんが怖いよ」

「うっウインちゃん?」

「へっ!?ああっいいえ…まとめはこんな感じでしょうか?」

 レイカがまとめた内容には『見た目は若い』『背が低い』と言った2つの事しか分からなかった。

「断片的だね…何でおじいちゃんなのに若いってなるの?」

「いや、『ショタジジイ』って割と有りな側面ですよ…割とおいしいシチュぇ―じゃ無かった、間違いでは無いかと」

 レイカはメガネを光らせ変な扉の片鱗に触れようとしていた。

「ちょッと!?ボクのおじいちゃんで変な妄想しないで!?」

「ひっ人聞き悪いですよ!そっ…そんなアギさんのおじいさまで変な…事…考えるわけ…」

 そう言いつつ、レイカのペンは何故かメモにアキの祖父ことアギジイのイメージ像を描いていた。

 そして何故か半裸であった。

「まぁこれがアギちゃんのおじいちゃん『アギジイ』と仮定して…情報はこれだけか…」

「勝手に変なあだ名を付けないで…何で2つの情報でボクのおじいちゃんのイメージが完成するの…」

「私的にはもう少々『受け』な表情で…」

「だから変な事考えないで!!」

 レイカが描いたイメージ像は少女漫画チックではあったが中々のスケッチであった。

「それで、アギちゃんはおじいちゃんとどうしたいの?」

「うっ…そっそれは…その~…出来ることなら逢いたいよ…だっだって家族だし、色んな事が聞きたいからボクはその…おじいちゃんに逢って見たい」

―その願い!叶えよう!!

 どこからともなく甲高い声が休憩室に響き3人は当たり絵を見渡した。

「ここよ、ここ」

 その声はアキとレイカの間にヌッとミキが姿を現した。

「乙女の願いを聞いてジャジャジャジャーン!」

「みっミキさん!?」「いつから…」

「ぶっちゃけアギ坊が爺様の話をし始める前から…アギ坊の後ろでスタンバってました…そんなことより、おじいちゃんに会いたいか!?」

 唐突な質問に3人の思考は追いつかないレスポンスが遅かった。

「まぁっまぁ…それなりにです」

「コラコラ~ちゃんと答えないとお爺ちゃんに逢わしてやらんぞ~」

「えっ!?おじいちゃんは生きてるの!?」

「知らない」

 3人は大きくズッコケた。

「そんな爺さんの生存なんか私が知るわけないでしょ!…しかし!EDF脅威の科学技術を持ってすれば為せないことは無い!!そこでこちら―」

 ミキは風呂敷に包まれた大き目の荷物を3人の前に突き出した。

「タリラリラッララ~ン!クロノテレビ~」

 何ともアウトな言い回しで出して来た秘密な道具と言わんばかりの32インチサイズのテレビを出して来た。

「このテレビは何か昔にイデって言う人が時間を操る怪獣のクロノームだかクロムハーツだかよくわかんない時間論を応用して誕生した優れもの~」

「こっこれってあの…未来とか過去が見える…」

「いいんや、こいつは過去限定で見たいものを見せてくれる、未来はさすがに危ないって上層部が決定したから」

 そんなタイムなテレビを使って過去が見れるとあっては正にアキたちが知りたいことが見れると言うものであった。

「こっこれで…おじいちゃんの過去を見れるんですか?」

「…当時の制作時に記された説明書の条件では…特定の人物の過去を見るには血縁関係者から遺伝情報を採取して使用しますって書いてある…さらに言えば血縁の中で最も強い遺伝性のある者から血液サンプルを採取するのが良好とのこと…通りでめんどくさいから倉庫に仕舞われてたわけだ」

 条件は遺伝のサンプルが必要であることの手間の賭け具合にミキは首を傾げた。

「要するにめっちゃその人物の強い遺伝性を持つ人物から取らないとすべて見れません…だって」

 3人は最も心当たる人物を思い浮かべた。

 食堂

 

 いつも通り10皿目のパフェを食べているユウゴが居た。

「いっ居ますね…」「どうする?」

「おっお兄ちゃんから血液なんて取れるの?血も涙も有るのか解らないよ…」

「まぁまぁ乙女たちよ、ここはキャツと私の仲でいっちょ貰って来るから…プランAで行くよ、ダメならプランBで」

 ミキ一人でユウゴから血液サンプルを取りに行った。

 心強いのか単に無謀なのか…お手並み拝見であった。

「ジュ~ニア!」

「んっ?」

 いつにも無くにこやかで近づいてやって来たミキをユウゴは見た。

「えへへっ…ジュニア~…血、寄越せ!」

 にこやかに大胆にド直球な猟奇的な発言をして隠れていた3人はズッコケた。

「嫌です」

 案の定断られ3人は『ですよね』と思った。

 しかし、ミキはプランBに強行した。

 荷物から採血セットを取り出して針をユウゴに向けて刺しに行く強行突破こそがプランBである。

「大人しく血を寄越せ!乙女のお悩み解決の為に生贄となれ!!」

「何であんたは採血セットを常に持ち歩いてるんだ!?そして何の話だ!?」

 GIRLSの食堂で今にも刺しに来るミキと全力で阻止しているユウゴと言うカオスな状況であった。

「ミキさん!!何してるんですか!!」

「おおっ落ち着いてください!!」

「やめて!ボクの為にそこまでしないでください!!やるならGIRLS外でしてください!」

「そういう問題か!?そして何してんだお前ら!!」

 平和なGIRLSに猟奇事件が撒き起ろうとして発端の3人が止めに入った。

~それから~

「つまり俺のじいさんの過去のヴィジョンを見るために俺の血液を採取したいと…どこの強盗犯の新手の脅し文句だ」

 一部始終の事情を聴いたユウゴは改めて呆れ返った。

「だっだって…」

「アギさんがおじいさまの話をされて…」

「何で急にそんなことを気にしだしたんだ、アキ」

「そっそれは…おじいちゃんに合いたいから」

 アキは祖父が夢の中で現れたことを思い…それがいつしか興味と言う形で留まったことをユウゴに伝えた。

「だから宮下家のルーツを知るためにも…お兄ちゃん…血、頂戴」

 煌びやかな目でユウゴに訴えかけるが…

「何でそこで血液採取に踏み切るんだ…文がおかしいぞ」

 ミキはケタケタと笑いながら腹を抱えた。

「あ~あ面白い、いや~いい物見れたけど…ぶっちゃけジュニアに採血は出来ないんだ~これが~」

「「「えっ!?」」」

 ミキは採決針を強く握りしめて思いっきり振り被ってユウゴの頭に針を突き刺したら針がユウゴの頭上で避けるように急カーブしてひん曲がった。

「こやつに刃物や重火器では怪獣粒子で守られてまともに当たらないから採血の必要は無いのら~」

 つまり面白可笑しくしたいがためにミキは分かっていて3人の驚くリアクションを腹の底であざ笑っていた。

「酷いですミキさん!」

「腹黒いです!」

「悪魔め!」

「メンゴメンゴ、お詫びに出血大サービスで~」

~それから~

 場所を移してユウゴの口から採取した唾液を『クロノテレビ』にセットして遺伝子接続をしていた。

「ぶっちゃけ唾液でもいいんだけど…それだとその特定の人物の幼少期程度しか見れないから本当は血液が一番だったわけよ」

「なんで爺さんの映像を見るだけであんな猟奇的な手順が必要なんだ…」

「まぁそこは開発者に言ってほしいな~あたしは単に乙女の希望となり孫の夢として叶えてやろうと言うこの優しさよ~」

 あれやこれやと作業を進めるミキはクロノテレビのスイッチを押していよいよチャンネルを合わせ始めた。

「ええ~っと…ここがこうであれがこうなる計算だから…当時の推定年齢はおおよそ8歳ほどね」

 いよいよ、運命の間接的な再会を目前に控えていた。

「いよいよだね…アギちゃん」

「アギさんのおじい様…どんな方でしょ」

「うっうん…」

 アキは両手を合わせて拝むように迫る再会に祈りを捧げた。

(おじいちゃん…ボクはおじいちゃんに…一目でいいから会いたいんだ…どんな形でもいい、おじいちゃん…おじいちゃん…)

「あっ映った!」

 画面に映るスノーノイズが段々と晴れて行き人物の表情が映った。

 そこに映っているは…ユウゴをかなり若くしたような未だあどけない表情が残る子供だった。

「こっこれが…アギちゃんのおじいちゃん?」

「若いと言うより…子供ですけど…アギさんはどう思います?」

「まっ間違いない!?夢で見た印象や輪郭がまんま同じだ!?これが…ボクのおじいちゃん…」

 アキは改めて父方の祖父を目の前にして感激していた。

「あら、意外とあんたっておじいさん似なのね」

「俺が?」

「…おじいちゃん…おじいちゃ…んんっ!?おじいちゃんなんかケガしてない!?」

 アキが気付いたのは祖父と思しき子供が頭から流血している事に気が付いた。

「ちょっ、一旦ヴィジョンのカメラを引くよ」

 ミキは咄嗟にカメラワークを下げて見ると…

 祖父と思しき人物が変な鉄仮面に銃を向けられて今にも殺されそうな状況が映し出された。

「あっあっ…」「えっえっ…」

 混乱する一同の中でアキの中で何かが起きた。

「なぜお前はそうまでして闘う…貴様に何をそこまでさせる道理がある」

 安久津は銃を構えながらゴンに闘う理由を尋ねた。

―バリンッ!

「ぐぶっ!?」

「!!?」

 突如、空間に空いた穴から大きな手が安久津を殴ってノックアウトさせた。

『ちょ!?アギちゃんなんでソウルライドしてテレビ殴ったの!?』

「放して!!おじいちゃんが!ボクのおじいちゃんが!!」

『どっどうしましょう…思いっきり向こうが見えますよ!?』

『消せぇええ!!電源を消しんしゃい!!』

 様々な声のする空間に空いた穴はフッと消えてゴンはノックアウトされ倒れた安久津と共に取り残されていた。

「えっ…ええ~」

 現代ではソウルライザーで変身してアキはアギラとなって『クロノテレビ』に穴を開けて破壊した後も変身してミクラスとウインダムの二人で抑えつけていた。

「放して!おじいちゃんが、おじいちゃんがロボットみたいなの抹殺される!!」

「落ちついてアギちゃん!」

「そんなわけありませんから!」

「いや、今のはきっと未来からジュニアの祖先を抹殺するために送り込まれた殺人マシーンから逃げているターミなネーターパターンよ!ねぇジュ二…」

「%#$%$‘#&’&%&R‘%&BBB#%%$&’」

 完全にゲームのバグのような状態になったユウゴにミキは…

「アアアアアアアアッ!?」

「「「うわぁあああバグってる!?」」」

「%&‘’$%#’&&#%&$ビブッ―…」

「「「「うわぁあああ消えたあああ!!」」」」

 そして消滅した。

―ギュウウウン…

「何処だ!?ここ…ってか何で俺、変身してんだ!?」

 ユウゴはいつの間にか変身している自分に気付いた。

「獣解!……獣解!獣解!!解けろ!!」

 変身を解こうにも何度試みるも戻れない上に変な場所に飛ばされると言う最悪の状況であった。

「ゴンが居たぞぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!」

 その声に振り向くとゴスッと顔面に石が飛んできて激突した。

「どうしたもこうしたもない!今すぐ舟を出してくれ!!」

「だせったてもう舟は出れんとですよ、波が高すぎます」

「あれを見てもそんな事を言えるのか!?」

 壱賀谷が指さす方から松明の光と共に鬼の形相をした島民が迫っていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

「待ちやがれ!!今、石なげた奴出てこいこの野郎!!」

 島民がゴンたちを追って、島民たちがゴジラに追われるカオスな状況であった。

「とうっ!!」

 ゴジラは高く飛び超えて島民たちの前に立ち塞がった。

―バァアアアン!!

 芹沢がモーゼルでゴジラに向けて発砲した。

「下がれ!!子供達から離れろ!!」

 子供たちの上でゴジラは口で弾丸をキャッチしていた。

「ほひが!?(なにが!?)…#&&‘$&’&(%‘ぶぅ…」

 またしてもゴジラがバグって何処かへと消えて行った。

―ギュウウウウウ…

「今度はどこだ!?」

 そこは陽気な音楽を船乗りが奏でる中で乗客がこの大海原と幻想的な青空を見たくデッキに集まりだした。

 どうやら船の上のようだが…突如にして爆音と共に海がまるで中に太陽が有るかのような光を放った。

「あれはなんだぁあああ!!」「海で何が起きてるんだ!!」

 海底火山でもない、何か途轍もなく悍ましく不気味な青白き光であった。

「おわっととと!!」

 船体は大きく揺れ出してゴジラは甲板デッキによろけて海に落ちて行った。

「おおい!!誰か落ちたぞ!!」

 悍ましく不気味な青白き光が何度も何度も海の中で弾き合い…そして、海面に謎の巨大生物がゴジラにアッパーカットで吹き飛んだ。

「何すんじゃい!この野郎!!」

 ゴジラが巨大生物を殴って吹き飛ばすとどこか転送され消え、巨大生物はグッタリと倒れて海面で気絶した。

「本社の船にSOSが入ったんだ…すぐ海上保安庁に行かなきゃならないんだ」

 それを聞いたエミコは残念そうな顔になった。

―ギュウウウウウウウ…

「今度はどこ…おっおお…気まず…」

「あちょま!ほうきで叩くな!ほうきで叩いたら…のわぁあああああ!!」

 エミコは事務所に突如現れたゴジラをほうきで叩き追い出しバグの転送でゴジラは消えた。

―目撃者は見た!人型ワニと巨大生物の抗争か!

―栄光丸乗組員全員無事

「ワニ人間が巨大生物にアッパーカット?」

―ギュウウウウ…

「ちょっ待て!!着ぐるみじゃ無いから放せクソガキ!」

 壱賀谷邸の外はやけに騒がしかった。

「?…なんだ」

「…あそこ…あの花壇だけ空けてるの…あの花壇は…私の夢」

「夢?」

「うん…いつか実現不可能と言われた『青い薔薇』を一面に咲かせたいのが…私とお父さんの夢…」

 カツラは花壇の前に座り込み花壇を囲むレンガブロックにそっと手を触れた。

―ドオオオオンンン!!

 花壇が突如爆発して中からゴジラが現れた。

「何処だ!?ここ…」

「あああああ!!花壇が!?」

「えっ?&‘&’$%‘&()…」

 ゴジラは花壇に大穴を開けてバグによる転送され消えた。

 別のアパートで監視をしていた白人男性は部下の突入班に合図を送り、安久津の帰ったアパートの扉端によって、『GO!』の耳元の無線の合図で扉を蹴破り、銃を構えて突入した。

「…居ない!窓が開いている…既に逃げられた…」

『違う!奴は逃げて居ない!!そのアパートにまだ居るぞ!!』

 暗黒めく部屋の中から大きなゴツゴツの皮膚が見えた。

「どっどうも…」

「そのまま車を出せ…そろそろだ…」

 透明な何かが社内の窓を覗くと、安久津が先ほどまでいたアパートはドォオオオン!!と爆発炎上した。

「……出すわよ…」

 白娘はエンジンをかけて、駐車場を後にした。

 車が去った後、黒焦げになってCIAのエージェントを抱えて駐車場にやってきた。

「…けほっ…」

「あなたにはそれだけの価値がある…随分と買い物しているようだったから…それにその金自体が元は私たちのお金…ジュエリーを買おうが婦人服を買おうがオムライスを食べようが私の意思よ…」

 白娘は安久津の首元まで腕を回して、鍛え上げられた安久津の胸元と豊満に満ちた白娘の胸が布一枚で触れ合った。

「まだ足りないのなら…今ここで支払うわ…それでも足りないなら…現地調達ね」

―ギュウウウウ…

「今度は……わぁ~気まず」

「あちょま!モップで叩くな!モップで叩くな!!…のうわぁあああ!!」

 白娘は部屋に突如現れたゴジラをモップで叩き追い出しバグの転送でゴジラは消えた。

 男は店主が見ていない隙に待ち相席の椅子に置かれた座布団を取り抱えて箱から弾丸を取り出して弾倉に装填した。

「あったあった、はいここにサインを」

「言っただろう…この店の全部をいただくと―」

 カシャンと装填された散弾銃の銃口を座布団に被せ―

―ギュウウウウ…

―ボンッ…

「!!?」

 ゴジラの腹に直撃したがケロッとしていた。

「何してんだお前…揉め事なら他所でやれい」

「ゴブッ!?」

 ゴジラは安久津を最小限の力で頭に拳骨を入れ気絶させた。

「なんだここ?」

「ごぶっ!?」

 後の長い尻尾が何かとぶつかった感覚があったが―

 振り返ると銃砲店の店主が頭にコブを作るほどの衝撃で殴られていた。

「あっああ~…」

「ムカッ!?もういい!あげな~い!」

 更にエミコの逆鱗に触れてソフトクリームは御預けになった…が―

―ギュウウウウ…

「おっソフトクリームだ!…バクッ!」

 エミコは振り返ると誰も居なかったが何者かにソフトクリームを喰われていた。

「せっ…狭ぇ…」

 ゴジラはすし詰め状態の個室トイレに転送されていた。

 あっち行ったりこっち行ったりと迷宮のような水路をCIAのエージェントたちとすれ違う場所に訪れていた。

「何処だよここ…」

 ゴジラはテレビ塔に点滅する光に導かれテレビ塔に迫って来た。

「ますます近づいてまいりました!?いよいよ最後です!!…右手を塔にかけました!物凄い力です、それでは皆さんさよなら!!さようなら!!」

―ギュウウウウ…

「ここは…って、ぃいい!?」

 目前にゴジラが輸送船で落ちた時に海で激闘を繰り広げアッパーカットで沈めた巨大生物がいた。

―ギャァァアアアオオオオオオンンンンン!!

 巨大生物はゴジラの事を覚えていた。

 完全に怒ってテレビ塔に襲い掛かって行き揺らして薙ぎ倒した。

「信じられません!我々は今、2mを越える巨大な人型ワニに抱えられています!抱えれてテレビ塔の最上に向かって走って居ます!」

「ふるへぇ!らまっへおろなしくしてろ!(うるせぇ!黙って大人しくしてろ!)」

「何を言って居るか解りません!分かりませんが我々はこの生物に何処へ連行されるのでしょうか!?」

 ゴジラは取材陣を抱えて倒れ行くテレビ塔の天辺に走って地上スレスレで皆を木々の方に投げて草木をクッションにして全員を無事に逃がした。

「お~い…生きてるか?」

 ゴンは安久津の頭部を突いて生存を確かめていた。

―ギュウウウウウウウ…

「今度は何処だ…ってここはあの映像にあった場所…」

 ゴジラが次に転送されたのは映像にあった構造の建物が目に映る場所であることはアギラが画面殴って空間に穴を空けた場所であることに気付いた。

―ブニュッ…

 ゴジラは足で何かを踏んだことに気付いた。

「?」

 ゴンは尻尾に重い体重が圧し掛かり臀部から通じて脳に痛み刺激が訪れ…

「――ぁぁああああああああああああ!!」

 ゴンは尻尾を踏まれ絶叫と共に最大火力の放射熱線を吐いて…

―ギャァァアアアアアアアオオオオオオンンンンン!!

 その熱線は迫りくる巨大生物の顎を直撃して大きな地響きと共に転倒した。

―ギュウウウウウウウ…

「今度は…ここは海か?」

 ゴジラが次に訪れたのは巡視船の甲板であった。

 乗組員と乗船者はゴジラとは反対側の海に釘付けであった。

 敬礼を捧げる者や黙祷を捧げるもと様々いる中で…

―トォォン…トォォォン…

「なんだ…この音?」

 その音はやがてドンドン大きな振動音と成り始めた。

―トォオン…ドォオン…ドォオオン!

「みっみんな見てくれ!!」

 その音は海から来ていることを山根博士は見抜いた。

 ゴジラが没した海の中央から丸く円状の波紋を引き起こして次々と大きな振動音が波を引き起こして巡視船を揺らし始めた。

「皆何かに掴まれ!!」

 それは立っているのもやっとの程に大きな揺れを引き起こしていた。

 しかし、ゴジラにはこの強い大きな波動が何か自分に近しい者を感じていた。

―ドオオン!!ドオオオン!!ドオオオオン!!

 振動の波は最大点に到達して海に大きな波紋の波で荒れた。

 次の瞬間、ザパァアアアアン!!と海面から何かが飛び出して巡視船のみんなが集まる反対側の甲板にソレは着地した。

「あっアレは…」

 ゴジラもといユウゴにはその姿には誰よりも見覚えがあった。

決して大きな体長とは言えないが人型で1m以上の大きさに全体の形と黒の色合いゴツゴツのケロイド状の表皮にサンゴのような白い背ビレはそのままゴジラを小さくしたような姿は正に自分と同じであった。

「まんま俺じゃん…あれが俺のじいさん…」

 新たなゴジラはクルッと覗いていた場所を見つめた。

 何かを感じたのか隠れていたゴジラまでドキドキするほど心拍が上がっていた。

(まっマジか…!?)

 しかし、小さなゴジラはその手に芹沢の眼帯と思しき物を持って甲板を大きく飛びあがり海へと跳び込んで潜り消えて行った。

 その場に居た者たちが新たな怪獣の誕生を目撃した事となった。

 それはゴジラことユウゴも自らの祖父が自分と同じゴジラであること知らされた。

「…遺伝か…」

 ゴジラことユウゴは乗船者たちが見えない角度で転送され巡視船から姿を消えた。

 次に転送された場所は周りすべてが海に囲まれた島だった。

「こっ…ここは…」

「おい!お前…」

 その声のする方を振り返るとゴンが居た。

「のわぁああ!?じっ…じいさん!?」

「あん?じいさん?」

「あっいやその…ジィーとしても散々変なトコに飛ばされた!…無理あるか」

「お前、あの船に居た奴だろう…俺と同じ気配を感じた」

 ゴジラはギクッと反応した。

「まぁいいや、積もる話もあるから…ここで羊羹でも食おうぜ」

 その手に持つ箱に入った羊羹を丸々1本手渡した。

「どっどうも…」

「なぁ…あんたはゴジラに成って…どんな感じだ?俺はついこないだ成ったばかりだからよくわからねぇが…心のどこかで悪くないと思ってる」

「…後悔は…無いんっすか?」

「ああっ…いわゆる運命ってやつだと思っている…それを否定したら自分を信じてやれなくなるかな」

 ゴジラはユウゴとしてこうも間近で祖父と話しをすることが初めての感覚だった。

 ただ、彼は本来の祖父では無い。

 後々に自分の祖父になる漢、どんなことを思いどんな人生を送るかはこれからだった。

「俺も…後悔無いけど…失う事の方が大きい…ずっと別れてばかりでしたから…なんか、こういう力って呪いなんだなってずっと思っていました」

「…そうか、じゃぁ失った分だけ得る事得なきゃ人生って損なんだなぁ…俺はあと数年したら島を出て色んな所行って色んな世界を見たい」

「…なれるといいですね…あなたの夢…」

「ああっ…本土での経験は…俺は二度と忘れないよ」

 ゴンが横を振り返るとそこにゴジラはもう居なかった。

「またいつか会えるかな…」

 そう言うとゴンは上の空を見上げた。




―ギュウウウウウウウ…
 次に転送されたのは何処かの撮影所であった。
「何だ…次から次へと、せめて予告位しろ」
 そこは何かの映画撮影所のような現場であった。
 僅かな爆薬の匂いや床が砂交じりで散らばっており中央には何らかのセットがあった。
 町そのものを小さくしたような銀座の町並みのジオラマがあった。
「おう、ハル坊…早速着てるのか?」
 その声の方を見るとそこには防止にメガネ、何処か煙草の匂いがする中肉中背にジャケットを羽織った老監督とも見て取れるほどの貫禄があった。
 ゴジラはここの撮影所の監督だと瞬時に理解させられるほどの存在感がこの男性にあった。
「えっ…えっと…」
「届いたばかりって聞いてたけど…結構デカいなぁ…んじゃ、早速動いてみるか…」
「えっ?うっ動く…こっこうか?」
「う~ん…もっとゆっくり動いて重厚感出して見れるか?」
「じゅっ重厚感?…ゆっくりったって…あんまりやったことないぞ、いつもスピーディーな戦闘スタイルなんだから…」
 その映画監督は鋭い目つきでゴジラの肩をノックするように話しかけた。
「なぁハル坊…このゴジラは人形アニメじゃ七年かかるんだ。でもお前が演じてくれればこの映画は数か月で出来るんだ…でも、お前の動きがゴジラに命を与えるんだぜ」
「…動きで…命を与える…」
 ゴジラは腰を深く下ろして体を丸めたゆっくり動いて見せた。
「おお~やればできるじゃねぇか…じゃぁそろそろ本番入るからよろしく」
「はっ…はい!」
 ゴジラは思わず返事をしてしまうほど、この映画監督が何処か親しみを感じる優しいくも人情味のある人に感じた。
「お待たせしました!親父さん、今しがたゴジラの着ぐるみ届きましたよ!」
「?…あれ、お前今そこに…あれ?…誰も居ないや…」
 老監督が振り返るとそこに先程まで自分と話していたゴジラは居なかった。
「何言ってるんですか?…それより見てください!…どうっすか?」
 着ぐるみのスーツをタオルで髪を覆い隠し暑さを耐えるためのタンクトップ姿の男がゴジラの着ぐるみを着て見せた。
「結構重いですけど…さすが100キロなだけあります。ちょっと動きづらいっすけど…」
 ある程度、動き回って見せたが監督には先ほどのゴジラのイメージが頭の中に付着していた。
「……なんか…小さくないか?」
「何がです?」


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過去道

『ゴジラの逆襲』

 

―ギュウウウウ…

「今度は何処…ってのわぁああ!!」

 次にゴジラが転送されたのは上空からであった。

 急加速で落下していくゴジラだったが…

―ブゥウウウン!ベチャ!

「ムゥウ!」

「わぁあああああ!?」

 偶然通りかかった飛行機の窓にぶつかった。

 しかし、その飛行機は雪山に向かって突っ込もうとしていた。

「何の!!せいやぁあ!!」

 ゴジラは飛行機の腹にしがみついて背びれを光らせて熱線をジェットエンジンのように飛ばし回避した。

『小林!?無事か!?小林!?』

「ちっこいゴジラだ…ちっこいゴジラが機体を持ち直してくれた…」

『どうした!?何が起きている!?』

 パイロットが理解に及ばない中でゴジラの吐いた熱線が雪山を躱したことで雪が溶けだし雪崩を起こして別のゴジラを生き埋めた。

―ギャアアアオオオオオオンンンンン!

「アッ!やっべ…」

『キングコング対ゴジラ』

 

 ファロ島の島民も桜井たちも目を丸くして見ている光景を疑った。

 海から現れた大ダコに島は大混乱陥れられた…が、その大ダコが人型のゴジラに焼かれて足から食べられていた。

「うん…味は悪くねぇ」

 おまけに『巨大なる魔神』もいっしょに食べていた。

「コングお前またデカくなったか?」

『モスラ対ゴジラ』

 

「「お願いです!モスラの卵を帰したください」」

「返します!返しますから許して!!」

 卵の事実上の持ち主たる興行師の虎畑二郎は彼のボディガード全員が天井に突き刺さっている異様な光景の部屋でモスラの卵をインファイト島に変換する書類に半ば強引にサインを書かせれていた。

「「ありがとうございます。異界の怪獣戦士様」」

「まぁ成り行きだ。おら、さっさと次の事業撤退の書類に署名しろ…3秒以内に書け、はい1、2、3!!」

 ゴジラは口早に3数えて虎畑に頭上から当たらない程度の紙一重で踵落してソファーを斬り削った。

「ひぃい!!書きますから許してぇええ!!」

『三大怪獣 地球最大の決戦』

 

「わたくしは金星人です」

「うん、まぁ金星って良いトコだよね…でもせめて追われていない時に言ってくれ!!ぬおおおおおお!!」

 偶然であった自称・金星人の女性を抱えて後ろから銃撃してくる銃弾の雨を避けながら逃げていた。

『怪獣大戦争』

 

 次に来たのは円盤内であった。

「我々は両名を心から歓迎しよう、私はこのX星の統制官だ」

 奇抜な格好で宇宙飛行士2名を迎える宇宙人・X星人が居た。

「シェエエエエ!!」

 ゴジラは腕をS字に形作って足を四の字を作って水平飛びで統制官に蹴りを喰らわせた。

「統制官!?」

「貴様!?何者だ!!」

「なんか遺伝子レベルでムカついた」

 何とも理不尽な理由だが…ゴジラもといユウゴ故にX星人を見て、遺伝子レベルで腹が立つ尾崎(ヤツ)を連想していた。

『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』

 

「くたばれREDBANBOO!!」

 ゴジラは秘密結社『赤イ竹』を単身で襲撃していた。

 鬼神の如き暴れぶりで銃火器、戦車、船舶に至るまでが『赤イ竹』の基地に飛び交っていた隙に誘拐されたインファイト島民を逃がしていた。

「さぁ早く!あの化け物が暴れている隙に!」

 逃げていた者たちの頭上を『赤イ竹』の戦車が宙を舞って飛んで行った。

『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』

 

 ゴジラの目の前にはズングリとした体形のアホ顔の怪獣が居た。

―アアァアーアアア~ァ~

「俺はお前のパパじゃねぇ。どっちかと言うとお前が俺の親父に若干似てる気がする…」

―アア~ァ?

『怪獣総進撃』

 

 国連が総力を挙げて作り上げた月ロケット『ムーンライトSY-3』…の先端にゴジラはしがみ付いていた。

 「ぶぅうわぁぁあああっがっくぁがああぁぁ!!」

『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』

 

 ジャングルの奥地で三木少年とミニラに出会った。

「まぁそっちのガバラは悪ガキかもしれないけど…俺の知ってるガバラは精神科医だぜ」

「「せいしんかい?」」

「心の医者だ。性格に難のあるサディストだけど、医者としては一流だ…妹が世話になってる」

『ゴジラ対ヘドラ』

 

 飛ぶヘドラに熱線で飛ぶゴジラと言う何ともシュールな光景を目の当たりにした。

「ええーーっ…なにあれ…」

『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』

 

「ゴキブリキモい!!」

 ゴジラは正体現される前にM宇宙ハンター星雲人を倒した。

「せめてモザイクかけてから出直して来い」

『ゴジラ対メガロ』

 

 ゴジラが湖に潜って泳いでいる最中に向こう岸で謎のイルカのボートに乗って遊んでいる子供がいた。

「なにアレ…」

 しかし、地響きと共に湖が栓の抜けたように渦を巻いて湖が干上がり始めた。

「兄ちゃ~ん!!兄ちゃ~ん!!助けて!!」

「六郎!!」

 子供は乗っているボートは流されて…行かずに兄たちの方へ一人手にボートが岸に向っていた。

「あれ!?なんで?」

 実際は下からゴジラが大きなイルカのボートを押しているだけである。

『ゴジラ対メカゴジラ』

 

『シ~サァァア~シ~サァァア~…』

 沖縄の海辺で女性が歌っているが…かれこれ1分以上が経過していた。

 そして…

『暗いよるのとばり~』

 2番に入った。

「長ぇよ…」。

『メカゴジラの逆襲』

 

「その時我々は一挙に東京を襲うのだ…メカゴジラの逆襲だ!!」

 メカゴジラを収容した秘密基地ではブラックホール第三惑星人の隊長が勝利を確信していたら…通信端末から連絡が入った。

『ムガール隊長!!きっ基地が襲撃されております!!』

「なに!?どこの誰だ、人間か!?」

『いえ、ちっ小さくなった…ゴジラでぅぎゃぁあああ!』

『テメェが親玉か!出てきやがれ、この野郎!!』

「…もうやだ、地球…」

 ブラックホール第三惑星人の基地は壊滅した。

『ゴジラ』

 

「ゴジラを作り出したのは人間だ。人間の方がよっぽど化け物だよ」

 一人の男がつぶさにぼやいた。

「解る~結局人間だよな~…まぁ俺は人間からゴジラに成っちゃったんだけど」

「……誰?」

『ゴジラVSビオランテ』

 

―ギュウウウウ…

 次にゴジラが飛ばされたのはオフィスビルであった。

「今度は何処だ?」

 オフィスの窓側でバズーカ砲を抱える男が発砲して巨大生物の口に放り込んだ。

「薬は注射より飲むのに限るぜ、ゴジラさん!」

「…何が?」

「はぁ?…えっえっ!?ゴジラが…2頭!?」

―ギャアアアオオオオオオンンンンン!!

「「のわぁああああああああああ!!」」

 ゴジラは咄嗟に迷彩服の男を抱えて窓から飛び出し隣のビルに移ってビルの倒壊から回避した。

『権藤一佐!権藤一佐!無事ですか!?』

「…ゴジラに一泡吹かせたら…ゴジラに助けられましたよ、特佐殿…」

 迷彩服の男は隣のビルから進み行く巨大生物を見つめた。

 そこに自分を救ってくれた者はもう居なかった。

『ゴジラVSキングギドラ』

 

「恐竜に救われ、生き延びた、わしが築いたこの国の繁栄を…同じ恐竜がゴジラになって、壊しに来たかと思うと… 皮肉なものだ…はっはっははは…」

 巨大生物が自ら築いた地位の象徴たるビルのすぐ近くにまで来ていることを悟った社長はビルに留まった。

―ギャアアアオオオオオオンンンンン!!

 お互いを思い出しながらも悲痛や苦悶の表情を浮かべる巨大生物に社長は頷きながら死を受け入れた。

「だったらより更に生き延びる努力をしろ…そんなところで投げ出して何に成る?」

「えっ?」

 社長は抱えられてビルの最上の窓から突き破って隣のビルに移った。

「ったく…これで2度目だぜ、ビルに飛び移るのは…」

 社長をビル内に取り残して彼を救った者はどこかへ去って行った。

『ゴジラVSモスラ』

 

 アユタヤのとある遺跡でトレジャーハンターが今にも崩れ落ちる遺跡から走り抜けていた。

「おりゃぁああああ!!」

 トレジャーハンターは出口に飛んだが…

 出口からヌッと現れたゴツゴツの黒い手に掴まれた。

「おわぁああ!!なんだこれ!?」

「暴れるな!助けてやらんぞ!」

 強い力で遺跡から引き抜かれ出口に出た。

 彼を救った者は居ない…が、代わりに居たのは銃を突き付けてくる地元警察であった。

『ゴジラVSメカゴジラ』

 

―ギュウウウウ…

 次に転送されたのは動物園の一室のようなセットであった。

「なんだ?ここは…」

―キュゥウウウン

 ゴジラの背後からすり寄って来たのは…子供の怪獣だった。

 それも自分にそっくりな怪獣だった。

「なんだお前…」

 そこへプテラノドンを模したホバリング機が落ちてきた。

「わぁあああああ!ベビーにぶつかる!!」

「おおーい!どけぇえええ!」

「えっ?…のわっとおおおお!!」

 ゴジラはプテラノドン型のホバリング機を受け止めた。

「だいじょぶか?」

「えっ!?ベビーが…喋った!?」

―キュゥウウウン?

「べっベビーが…二人!?」

『ゴジラVSスペースゴジラ』

 

―キャウウン!

 ずんぐりとした体格の小さな巨大生物が浜を歩いて足元の催涙地雷を踏んで爆破させていた。

「あの馬鹿タレ……チビゴジだよ」

 仕掛けた軍人が頭を抱えて呆れていた。

「うっそ…あれ俺!?」

 その場にいる全員が振り向いてゴジラに驚いた。

「だっだれだお前!?」

「あっどうも…ってえっ!ミキさん、若ッ!?」

 その場に居た三枝ミキに似通った人物にゴジラは驚いた。

「あっ、でもこっちの方が女性っぽい」

 ゴジラは本来の自分の世界のミキと比べて比較的お淑やかな女性に思えた。

『ゴジラVSデストロイア』

 

「本部!本部!こちら3号車!現在臨海副都心に出現した生物は別の黒い生物と交戦中!!」

 警ら隊の囲む臨海副都心では群れを成す赤い生物とゴジラが混戦していた。

「おんどっらぁあああああ!!ふんぬっ!!」

 たった1体で赤い生物の群れと鬼神の如き戦いぶりで奔走していた。

『ゴジラ2000 ミレニアム』

 

 迫る巨大生物と男が建物の上に至近距離で睨み合って…

「ゴジラァァアアアアア!!」

「はいっ?」

「えっ!?」

 その隣には名を叫んだ存在が自身の目の前にいることに困惑と思考停止していた。

 しかし、目の前の巨大生物に足場を崩された。

「のわぁああ!!」

「おっと!あらよっと!」

 ゴジラは自分の名前を叫んだ男を抱えて地上に降りて行った。

『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』

 

―ブウウウウゥゥゥン!!

 渋谷で羽化したトンボ型生物は渋谷上空を飛び交って辺りを吹き飛ばして109に留まり羽を羽ばたかせ高周波を発した。

「ブンブンブンブンうるせぇ!!」

 そこへゴジラが巨大トンボの顎を蹴って撃沈させた。

『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』

 

「別に俺は動物愛護をするつもりはねぇ…だがなぁ同じ気持ちになって考えて見ろ…ああなりたいか、あん?」

―クウゥゥン

 ゴジラが犬を抱えて指さす方には子犬を殺そうとした若者の数名を頭から地面に突っ込んで埋められていた。

「そういう反社会的行動取ると後のちに自分らに返ってくるわけよ…良識の無い奴の末路なんてたかが知れてりだろう?」

「はっはい!ごもっともです!!」

 残りの若者をその場に正座させ説教していた。

「窃盗も立派な犯罪だってことも理解してるか、てめぇら」

「はいぃ!!おっしゃる通りです!!」

『ゴジラ×メカゴジラ』

 

 少年野球チームの練習場に巨大生物出現のアナウンスが流れた。

「おーい!みんな集合ぉお!」

 指導に当たっていたコーチが招集を呼び掛けたがピッチャーが投球を止められず投げたボールがバッターボックスに迫っているところをゴジラがバットを構えて打ち返した。

「おわぁああ!!すげぇ!!」

 打ち返したボールは天高く上がって戦闘機に繋がった機械の怪獣の頭部に当たった。

「誰だね、君?…」

「おわぁっ!?読売巨人時代の松井秀喜だ、サイン下さい!」

『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』

 

 怪獣同士の戦闘で逃げ遅れた老人と子供が避難していた。

 しかし、飛び交う熱線が東京タワーに激突し、東京タワーが倒れてきた。

「あっああああ!!」

 老人は子供を庇うように守ろうとした。

「あぶねぇえ!!」

 ゴジラは咄嗟に老人と子供を抱え運び倒壊から回避した。

「じっ…おじいちゃん?」

「…えっ?…?…??」

 2人は気付けば倒壊した建物から離れた場所にいた。

『ゴジラ FINAL WARS』

 

 高速道路ではバイクで男2人がチェイスを繰り広げていた。

―ギュウウウウ…

「今度はどごぶっ!」

 突如、道路のド真ん中に転送されたゴジラはバイクに轢かれながら掴まった。

「なんだお前!?」

「えっ!?大佐、若っ!?」

 自分を轢いているバイクの男は尾崎を若くした姿の男であった。

―パンパンパンッ…

 ゴジラを轢くバイクに向かって別のバイクの男が発砲して来た。

「乗れ!!」

「えっ…オウ!」

 バイクは共にトンネルに入り、並走して別のバイクの男が格闘で攻撃して来た。

「はっでや!」

「何すんだ!」

 ゴジラも応戦するも身軽に飛び乗ってゴジラにヘッドロックを固めて来た。

 しかし、ゴジラも男を強引に引き剥がして前方に放った。

 男が今度はゴジラ同様バイクに轢かれながらしがみ掴まった。

 尾崎はバイクに急ブレーキをかけて男をバイクから引き剥がした。

 男は踏ん張り火花散る踵で衝撃を耐え抜き尾崎たちに襲い掛かった。

「いけ!」

「おう!ソイヤッ!!」

 ゴジラは跳んでくる男にラリアットをかましてダウンを取った。

「やるな、お前…あれ?」

 振り返るとゴジラは居なかった。

『GODZILLA』

 

 船内の作戦室ではプロジェクターに映し出された映像を見ながら男に事の説明していた。

「人類誕生の何百万年も前から地球の放射線量が今の10倍だった頃にこの生物は地球の放射線を食べて生きていた…地表の放射線レベルが下がると深海に移動し地球の核からエネルギーを吸収し始めた…それを機に私達の組織『モナーク』が設立された。各国の共同で創られた秘密組織…その生物を発見し研究することが私達の任務」

「我々はこう呼んでいる…『ゴジラ』」

「原始生態系の頂点にして神ね…文字通りの」

「…怪物だ」

「どうでもいいけど…あんまり俺に似てねぇな、少々肥満気味だし」

 その場にパイプ椅子を持ちだして共にプロジェクターの映像を見ていた。

「だれだ!?」

「どうも~」

 そしてどこかへ転送され消えた。

『シン・ゴジラ』

 

「居ない者を充てにするな!!今、残った者でやれることをやるだけだろう!」

 机を叩いて男は立ち上がって怒鳴った。

―ギュウウウウン…

「矢口……まずは君が落ちつ…」

 その場に居た男が水を差し出したが…

「あっどうも…矢口じゃないですけれども…」

 その場に転送されたゴジラに差し出す形になった。

「わぁあああああ!!」

「ゴッゴゴゴジラが…」

「固体分裂による発声器官の発達に人型体系の確立―」

 怯える者から興味深く観察しに近づく者と様々な者達が集まる場所であった。

「面白いトコですね…ここ」

 そしてギュウウウンとまた何処かへ転送された。

『GODZILLA 怪獣惑星』

 

 次にゴジラが転送されたのは森だった。

「どこだここごぶっ!?」

 頭上から何かに喰われ運ばれていった。

「この野郎!!」

 ゴジラは得体の知れない生物を殴って沈黙させると向こうの方でどこかの軍隊がこの生物と同種の襲撃に交戦していた。

―ギャアアアオオオオオオ!!

 あの生物の群れは部隊と交戦して被害を受けていた。

「後退だ!下がれ!!」

 兵士たちの横を突っ切ってゴジラが割り込んで交戦した。

「新たな生物が出現し!正体不明の生物と交戦中!!そっその姿はまるで…ゴジラです!?」

 通信兵が見たものをそのまま伝えると続々と兵が集まりだして、あっという間に群れを撃退した一同はその姿に目を疑った。

「あれが…ゴジラなのか?」

「いや、特徴的な植物形状が見受けられない…どちらかと言えば動物に近い生態構造をしている」

 やたらと目つきの悪い兵士と他兵士が疑心の目で見る中、学者らしい兵士が自分をジロジロと嘗め回すように見回していた。

「あっあの~…何か?」

「こっコイツ喋りましたよ!?」

 突然、ゴジラが発声したことに若い兵士の1人が驚愕した。

「おっおい!?お前は…敵なのか?味方なのか?」

「う~ん…どっちでも無いですね~…成り行きで来たようなものなんで」

 そう言うとまたしてもどこかへ消えて行った。

『GODZILLA 決戦機動増殖都市』

 

「先輩は…私の憧れだったんですよ」

 後輩と思われる女性が先ほどの目つきの悪い兵士に近づき…

―ギュウウウン…

「今度はどこだ?…って、おっおお…気まず~」

「ゴジラだ!!例の小型のゴジラが現れたぞ!」

 洞窟内で兵士がゴジラの出現で騒然とした。

「おっおおまえらマジで逃げろ!!」

 ゴジラのその後ろからライフル構えて告白しようとしていた所をゴジラに妨害され思いを伝えそこねた後輩の女性兵士が鬼の形相で撃って来ていた。

「死ねぇえええええええ!!」

「なんでじゃぁああああ!!」

 ゴジラは都合よく転送され消えた。

『GODZILLA 星を喰う者』

 

「来たれ、ギドラよ!我らに栄えある終焉を!」

「「「来たれ、ギドラよ!我らに栄えある終焉を!」」」

 祭壇を模した呪文を唱えるように宗教の如き儀式を行っていた。

 やがて祭壇が輝きだし、光り輝いて眩い光が兵士たちを包み、一人の若い兵士が目を見開くと黒い輪郭に人型の体系がシルエットとして映った。

「やっほ~」

 その場にいる全員が騒然とした。

「かっ神なのか!?本当に神が…」

「ああ?神?誰が…あっ、バナナだ!」

 ゴジラは祭壇からメキメキと伸びる生き物を引きちぎった。

「おい!メトフィエスが泡を吹いて倒れてるぞ!!」

 司祭のような男が引きちぎった生物をむしゃむしゃと食べるゴジラを見て泡を吹いて倒れた。

「モグモグ…まずっ!」

 そして、吐き出した。

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』

 

 マグマに煮えたぎった遺跡中央には巨大生物が寝床として倒れ伏せていた。

 そこに階段を上って男性がミサイルの弾頭のような物を携えて赴いていた。

 その弾頭の起爆パネルで起爆を操作し終えると男性は巨大生物に近づき、その手で巨大生物に触れた。

「…さらば…友よ」

―ギュウウウウウウウン…

「のわっと!!ふぅうう…またヘンテコなトコに来たなぁ~…ここ何処だ?遺跡か?」

「ごっ…ゴジラ!?」

「んんっ?あれ博士老けた?」

 ゴジラが振り返ると目の前には20~30年くらい年を重ねたような姿の芹沢博士似の人物が居た。

「そんなことよりさっきなんか尻で踏んだような感触あったけど…なんも無いなぁ…」

 ゴジラはそう言うが…芹沢博士似の学者の目にはゴジラの臀部と尻尾の間に起爆式の弾頭が挟まっていた。

 一方その頃…

「わぁあああああ!!お兄ちゃんが消滅したらボクまで消えちゃうよ!!ボクが時間に干渉したばかりにお兄ちゃんとボクわぁあああああ!!」

 かなり取り乱していた。

「先生!何とかしてください!!このままだとアギさんが!!アギさんが!!」

「うるせぇな…今、直してんだから待ってろ」

 壊したアキに代わって機械に強いトオルが『クロノテレビ』の修理に当たっていた。

「おっお落ち着きなさい小娘どもよ!!とにかく私は23世紀のドラゴン型ロボットとタイムマシーンを探すから待ってなさい!」

 そう言いつつミキは自販機の取り出し口に頭を突っ込む程に混乱していた。

「ミキさんが一番落ち着いてください!!」

 トオルが直し終え、スイッチを起動すると…

―ボンッ!!

「ダメだ、完全にイカれてる」

「そんなぁああ!!アギさんが消えちゃいます!!」

「もういいよ、みんな…ボクは受け入れるよ…短い人生だったけど、みんなと居れて楽しかったよ…」

 生気の無い目で死を受け入れたアキはとうとう諦めた。

「アギさん!!」「アギちゃん!!」

「みんな…さよなら…」

 涙ながらに3人で抱き締め合い最後の別れを告げた。

―ギュウウウウウウウン…

―ドシンッ!

「「「ぐえぇ!!」」」

 そこへ転送されて戻って来たゴジラが3人を下敷きにして現代に舞い戻った。

「ジュニア~~!!よかった!!無事だったのね!!」

「何とか…」

「よかった~!これで始末書、書かなくて済む!!」

「気にする所ソコ?」

「ボクたちは」「無事じゃ」「ないです…」

「それで色んな時代に行ったり来たりして戻って来たの!?」

 ユウゴの身に何が起きたのかを一部始終聞いたアキは耳を疑った。

「まぁな…それで俺のじいさんが羊羹くれて、あとは色んな場所に飛ばされ回ったなぁ~モグモグ…」

 その羊羹こそ今、彼等がお茶請けにしている物であった。

「じゃぁ今おじいちゃんは何処にいるの?」

「知らねぇ~…とうに死んでんじゃねぇか?」

「生きてる!絶対にどこかで生きてるよ!!」

「まぁまぁ…その辺に…」

「ねぇねぇ!もっと聞きたいっす!それで他にどんなトコへ行ったんすか?」

「う~ん…この時代と言うより別の世界の時代って感じのトコばかりかなぁ~」

 ワイワイとユウゴが見たものを聞いていると…

「諸君、少しよろしいかな…」

 3人は後ろを振り向くと…

―パァアアンシャン!

 強い光で3人は間の抜けた表情となりユウゴだけがサングラスを着けていた。

「お前たちは寝ていた…ぐっすりと眠っていた」

 強い光で抜けた記憶に擦り込むと3人は目を閉じて眠りについた。

「まったく三枝のヤツめ…」

 尾崎は3人に記憶を消す光で新たに『眠っていた』と言う記憶を植え付け、証拠隠滅をした。

「大佐…あんた外見だけは今も昔も特に変ら無いな…」

「何の話だ…それより、お前の妹の意識がブレ初めて来てるぞ。今回お前の祖父の記憶が触れたのもその影響だろう…」

「わかってる…でもいつしか打ち明けるべき時が来るまでは…こいつはそのままの方がいい…そうしないと今の生活を崩す結果となるかもしれない」

「…好きにしろとは言わんぞ…今回のような事が次に起きても我々もGIRLSも手に負えない事態となる」

「だろうな…」

 ユウゴはアキを抱えて、元居た行動に運んだ。

「うっううん~…あれ?ボク寝ていたのか…なんかよく…覚えていない様な…」

 そこにはアキただ一人だけ講堂に居るのであった。

?? ??

 

 ガコンッと瓦礫から地下に繋がる扉が現れた。

「あったぞ~」

 男はその地下への扉に触れ開け、地下へと通じる階段を降りた。

「コンコッンン!!」

 そこに更に扉が現れ、扉を蹴破って入室した。

「へぇ~…半世紀以上も経っても存在していたとは…さてぇ~」

 男は部屋のすべてを物色してある物を探していた。

「はっはは…あったぜ~っ…1954年、ゴジラの最初の敵『グレイヴ』の戦闘データと闘争データ…さてこれで~いよいよ最高のショーが始まるぜ~ゴジラ…」

 男は部屋を後にして部屋の中にある物を残した。

「ふ~んふんふんぬふふ~ん…あっポチッと!!」

―ドオオオオン!

 男は仕掛けた爆弾で証拠を隠滅し独特の歩き方でその場を後にした。




『御土産』

「いろいろ土産をもらった」
「何を?」
 ユウゴはガサゴソと貰ったものを探ると…
「はい、これが自称金星人の腕輪に何かの島の黄色い汁―」
「何で変な物をもらって来るのさぁ…」
「まぁいろいろと…こっちは抗核何とかの弾、これはトレジャーハンターから貰った仏像、これが巨人軍時代の松井秀喜のサイン入りバット、こっちは『まずは君が落ち着け』と言われて渡された水、こっちは変な生物の鱗に、微粒金属のスライム、変な不味いバナナ」
―キシャァァァ~…
「えええーっ…」
「あとなんか俺の尻に挟まっていた物」
「何それ…」
「怪獣の座薬かなにかだろう」
 しかし次の瞬間、秒針がカチッと音を立て…
「「あっ…」」
 ユウゴとアキは光に包まれた…


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