TS転生しちゃったけど、俺は絶対にメス堕ちしない。 (棺祀師)
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十香デッドエンド / なんだか嫌な予感がするぞ……
1話 : プロローグ
俺は元々何処にでもいる様な普通の高校生だった。
友達も多い訳ではなく、かといって少ないと言う訳でもない。クラスでは中の下か下の上辺りの立ち位置。当たり障りのない平凡な毎日を過ごしていた。
でもある日、いつもの様に学校から帰っている途中に信号無視をした車に撥ねられてしまった、らしい。
「らしい。」と言うのは、そこら辺の記憶が曖昧だからだ。横断歩道を渡っていたら突然強い衝撃が来て、意識を失ってしまった。何が起きたのかなんて考える暇すらなかった。
そして目が醒めると、真っ白な空間に居た。
暫くそのまま呆けていると、俺は横になっている事に気付いた。身体を起こしてみると目の前には、古代ギリシャの人みたいな格好をしたお爺さんが俺に向かって土下座をして居た。最初は困惑したが、話を聞いてみるとそのお爺さんは、幾つか俺に説明をしてきた。
このお爺さんは神様だという事。
俺は車に撥ねられて死んでしまった事。
本来なら俺は死ぬ運命に無かったが、神様の手違いで俺が死んでしまった事。
そして、その埋め合わせとして別の世界に転生させてくれるという事。
本来なら重く受け止めるべきだったのだろうが、俺は「いかにもなテンプレ状況だな」と呑気に考え苦笑していた。しかし、テンプレと言っても、よくあるように転生する世界を決めれる訳ではないし、所謂”転生特典”と言うヤツも貰えはするが自分で決めれず、両方ランダムだそうだ。
まあ、それでもいいか。また生きられるのだし。
なんて考えながら神様に身を委ね、今度はゆっくりと意識を手放した。
——————————
そうして再び目が覚めたら、今度は俺は半球形の大きなクレーターの中心に寝そべっていた。
自分の身体を見るとへんちくりんな背丈格好、突然頭に入り込んでくる自分の天使という物の存在。
なにより性別も変わっており、有ったモノは無くなり、無かったモノは有り……俺は女の子になってしまったのだ。
年も若返っているようで、体型は……これからに期待って感じ?
天使に関しては感覚的なものでよくわからない。でもとりあえず人間じゃないって事はわかる。
こんな事になって困惑しない訳がなかった。しばらくウンウンとその場で色々と今後の事とか考えていたが、こんな所でグダグダしていてもしょうがないのでとりあえず辺りを歩き回ることにした。
それから1週間くらい経った時だろうか、公園で寝ていたら青髪の少年に話しかけられた。
「どうしてこんなところにねているの?」
と。
その子の身長は俺と同じくらいで、身体だけなら同い年ぐらいかもしれない。まあ俺の場合、身体は同い年でも心はそこそこ。どこの名探偵だ。
とりあえず嘘を言っても仕方ないので
「家が無いからだよ」
と素直に答えた。すると少年は何か考える素ぶりをした後に
「ぼくのおうちにおいでよ!」
と爆弾発言をしてくれた。そのまま手を引いて連れてかれたので、困惑しながらもついて行くことにした。子供の行動力ってすごいなぁと他人事のように思った。
家にまで連れて行かれた俺は、そのまま少年の両親とご対面。
最初は子供が親に無断で拾って来た犬のように「元いた場所に返して来なさい!」と言われて終わりだと思っていた。それに、俺は人間じゃない。万が一家に入れてくれるような事があっても断るつもりでいた。
しかしどうやら少年の両親も相当なお人好しのようで、少年から事情を聞いた両親が「行くアテもないならここに居ても構わない。」と詳しい事情も聞こうとせずにそう言ってくれた。少年の妹も快く俺を迎え入れてくれた。
最初は必死に断ろうとしたが、今の俺の身体は幼い子供。「子供を放っておくなんてとんでもない!」的な事を言われてしまい、本当の事を話す訳にも行かず、そのまま押し切られてしまう形となった。
それから俺は
まあとりあえず、なんだかんだどこの馬の骨とも知らない俺を拾ってくれた五河家には感謝してもし足りない。本当ありがとうございます。
ちなみに名前を聞かれた時に、本名を言う訳にもいかず、咄嗟に前世でやっていたゲームのハンドルネームであった「
両親の方は俺の戸籍やら何やらを作ってくれ、学校も通わせてくれたりで本当に不自由なく暮らせている。
兄妹とは歳を重ねる毎に仲良くなっていき、今では本当の家族のように仲良くなった。
—————————————
と言うわけで月日は流れ、現在俺は士道と同じ来禅高校に通っている。
今日は四月十日、月曜日。昨日で春休みが終わったので、今日から2年生としての学校生活が始まるのだ。
俺は気合を入れるためにちょこっと早起きをし、ジョギングを済ませて今はシャワーを浴びている。
「ふぅ……」
シャワーの水を止めて、自分の身体を見る。
すらりと伸びた腕に、程よい肉付きの太腿、肩幅や腰回りを見れば”華奢”と言う形容詞が付くであろう身体つき。そしてそれを一挙に相殺する程の発育の良さの胸。「せっかく女になったので」という事で毎日欠かさずバストアップ運動やバストアップに良い食べ物、バストアップなど美容に気を使って居たがまさかここまでとは。さすがバストアップ。バストアップ。
高校生でこの発育、我ながら恐ろしい。
自分の肉体の鑑賞をやめ、脱衣所に戻る。身体を拭いて着替えをしようとするが、着る物がない事に気付いた。
おーっと、脱衣所に着替えを置いておくのを忘れてしまった。うーん、裸で出ても大丈夫かな?まあ仕方ないよね。
バスタオルを首にかけて脱衣所を後にする。
リビングに出たところで、ジュージューと何かを焼く音とともにフワリと良い匂いが漂ってきた。不思議に思い顔を覗かせると、キッチンの向こう側に特徴的な青髪が見えた。
「あれ?士道起きてるじゃん。めずらしー。おはよー!」
どうやら士道は朝食を作っているらしかった。いつもは学校の時間ギリギリまで寝ているのにどうして?と思ったがそういえば、ご両親は今日から出張で居なかったんだっけ。
「ああ、おはよう。ってお前なんで服着てないんだよ!」
手元からこちらに視線を移した士道だったが、俺の格好に気付くとパッと顔に手をやりながら視線を逸らした。
「いやぁ、シャワー浴びてたんだけど、着替え出しておくの忘れちゃってさぁ」
テヘッと舌を出してみる。
「琴里でも呼んで、持ってきてもらえば良かっただろ!」
「いや、だって、わざわざ持って来させるのも悪いし?」
「変な所で気を使うな!あと言い方!……はぁ、とりあえず着替えて来いよ。」
「はーい」
「ったく……」
士道がそう言いながら冷蔵庫の方へ向かったので、それと同時に俺も自分の部屋に向かう。思春期の彼にもう少し配慮すべきだったかな。なんて考えながら下着を着けて、制服に着替えて再びリビングに戻る。
『——今日未明、天宮市近郊の——』
リビングに戻った所で、テレビからアナウンサーのそんな言葉が聞こえてきた。
「「ん?」」
俺と士道の声が重なる。どうやら、琴里ちゃんはソファーに座ってニュース番組を観てるらしい。これは珍しい。
「こっから結構近いな。何かあったのか?」
天宮市とは俺たちが住んでいる市で、ニュースで取り上げられてる場所もここからそう遠くない見覚えがあるような場所だった。士道はカウンターから身を乗り出して、目を細めてニュースを見ている。
士道さん、いくら視力が悪いからってそれやっちゃうと感じ悪くなっちゃいますよ。
そんな彼にあきれつつ自分もニュース番組に目を向けると、俺が
「ああ……空間震か」
士道はうんざりとした顔で首を振った。
「なんか、ここら辺一帯って妙に空間震多くないか?去年くらいか、特に」
「確かに。それまで全然起こらなかったのにね……」
「……んー、そーだねー。ちょっと予定より早いかな。」
琴里ちゃんはテレビを観ながらぶっきらぼうにそう言った。
「早い?何がだ?」
「んー、あんでもあーい」
ん?はて?この琴里ちゃんのくぐもった声、さては飴舐めてるな。
「琴里ちゃん、ご飯の前に飴なんて舐めちゃダメでしょ。士道に怒られるよ」
俺はソファーの背もたれに手を掛け、琴里ちゃんの顔を覗き込みながら注意する。そのまま口からチュッパチャプスを引き抜こうとするが、失敗。
「士道!ダメだ!吸い付いて離さない!なんて吸引力!この!」
「んーーっ!」
士道は呆れた顔をし、琴里ちゃんは機嫌悪そうに俺を睨んでくる。
「……ったく仕方ないな。ちゃんと飯も食うんだぞ?」
「おー!愛してるぞ!お兄ちゃん!」
「え!?じゃあお姉ちゃんは?」
「飴取り上げようとしたから愛してないぞ……」
悲しい。士道め、よくも裏切ったな。
「……と、そういえば今日は中学校も始業式だよな?」
「そーだよー」
「じゃあ昼時には帰ってくるのか……」
「あっそれなら!3人でファミレスにでも行こうよ!」
俺はぽんっと手を叩き2人にそう提案した。
「おお!!デラックスキッズプレート!!」
「そうだな、じゃあ今日は外で食べよう。」
それを聞くと琴里ちゃんは「やったー!」と言いながらバンザイポーズで手を振っている。このまま飛んでいきそうな程の勢いで喜んでいて、おもわず頬が緩んでしまう。
「絶対約束だぞ!空間震が起きても!3人でデラックスキッズプレート!」
「いや俺は食えねぇだろ!?」
「俺もそんな年ではないかなーって……」
「むぇー……」
琴里ちゃんの不服そうなむくれっ面がおかしくて、士道と2人で顔を見合わせて笑ってしまう。
「ほら、朝食できたぞ。」
机には、しっかりと3人分の朝食が置いてあった。
ほんとは俺が料理を作るべきなのだろうけど、どうやらこの身体は料理が下手らしい。作ろうとしても完成するのは真っ黒になったナニカ。もはや料理と言うよりダークマーターだろ!と士道にツッコまれたこともある。
「おぉ!美味しそう!」
「さすが私のお兄ちゃんだな!!」
フンス、と何故か得意げな琴里ちゃん。
例え偽りだったとしても、この2人が俺を家族のように扱ってくれるのは本当に嬉しい。こうやって今世でも生活できてるのは間違いなく2人のおかげだろう。
リビングの窓から外を見る。空には雲ひとつないいい天気。今日は悪い事など起こりそうもないなと思った。
廻くんちゃんはなるべく女の子口調のロールプレイしてます。でも彼のプライドで一人称は俺のままです。女の子口調のオレっ娘というちぐはぐTS娘の完成です。
うーん、いざ書いてみるとなると本当に難しいですね。自分で読んでみるとなんだかのっぺりした感じであまり面白く無い気がします。でもこれが今の僕の限界です。この作品を通して腕を磨けたらなと思っているので、あれはダメこれはダメって感想お待ちしてます!あっでもあんまり酷いこと言わないで……。
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2話 : 士道が誤解されちゃったけど、俺は絶対に助けない。
「やべぇ……遅刻するぅー!?」
腕時計が示す今の時間は8時10分。学校の始業時間には、走ればギリギリ間に合うか間に合わないかの瀬戸際くらいの時間だ。
「だって……だってぇーー!!」
そう叫びながら俺は一心不乱に走る。ただ走る。始業早々遅刻したら流石にシャレにならない!!
こうなった理由は単純。猫がいたから。”拾って下さい”と書いてあるダンボールの中で子猫が2匹、ミーミーと鳴いていたら猫好きでなくても誰だって足を止めるだろう。俺もその1人だった。士道より早めに家を出たはずなのに、ダンボールごと子猫たちを五河家に避難させたり、ミルクをあげたりしていて気が付いたらこの時間。
け、決して撫でたり遊んだりしてこんな時間になった訳じゃ無いからな!無いからなー!!!
「ぬああああ!!」
————————
そのまま猛ダッシュする事十数分。思っていたより早めに学校に着く事ができた。壁に手をつきながらヨロヨロと廊下に張り出されたクラス表を確認。
「2年……4組……」
ゼェハァと乱れた息のまま勢いよくクラスの扉を開けて、そのままドテーン!とうつ伏せに倒れこむ。こんな奇行をしてしまえば必然的に注目を集めてしまうが、仕方無し。本当に疲れたの。少し休ませて……。
「なっ、おい!大丈夫か!?」
やはり先に到着していたであろう士道が、教室で大の字に倒れている俺のところに駆け寄ってくる。それにつられて数人野次馬も。
「遅刻……してないよ……!!」
俺を心配そうに見下ろしている士道にサムズアップ。
「…………」
士道は無表情でこちらを見ている。
「同じ……クラス……だったんだねぇ……」
「…………」
士道は無表情でこちらを見ている。
「疲れ「……ちょっとこい」
「ぐぁ!?」
そう言うと士道は俺の足を引っ張って教室の外に引きずって行く。額に青筋を立てて。周りからは「キャッ、大胆。」とか「い、淫獣だ」とか聞こえるけど気にしない。
そのまま士道は俺を廊下に立たせ、頭を引っ叩いてきた。
「いったぁ!?」
「お前……始業早々何やってんだ……」
廊下ということもあり士道が小さめの声でそう言ったが、声色には確かな怒気が含まれている。これは相当怒ってるぞ……。
「い、いやだって遅刻しそうだったから」
「なんで俺より早く出たのに遅刻しそうになってんだよ!!」
「ね、猫を拾ったんだ……、それで危ないから家に避難させたりしたら———「お前!何勝手に!?うちで育てるのか!?」
余程驚いたのだろう、先ほどよりかなり声量が上がっている。
「俺が!俺が責任持って(猫を)育てるから!!(ネコを)認知しなくてもいいから!!だから(にゃんこを)捨てないで!!士道にも迷惑かけない!!お願い……!!」
つられて俺もそう叫び、士道に縋り付く。
「だ、駄目だ駄目だ!どっちにしろ家では無理だ!」
「そ、そんなぁ……」
会話が聞こえていたのだろう。数人の女子が教室から頭をぴょこぴょこと出してきた。少し大声で話しすぎたかもしれない。
「サイッテー。」「まだ学生だよ!?」「廻ちゃんが可哀想……」
あ、あれ?皆なんか勘違いしてない?少し恥ずかしいな……。
「なぁっ!?ちっ、違う!?皆何か勘違いしてるぞ!?廻もなんか言ってやってくれよ!?」
士道は冷や汗をかいていて、かなり焦った様子で俺に弁明を求めてる。そりゃそうだ。始業早々こんな変なイメージを持たれたら学校生活が終わる。それは流石に可哀想だ。
「よよよ……。」
が、俺は仕返しで嘘泣きをしてみせる。残念だったな五河士道!!お前はここで終わりだ!猫ちゃんの恨みを思い知れ!!
「嘘までついてる……」「本当サイッテー。」「この鬼畜淫獣!」
「お前ええええ!!!」
あれ、ちょ、ちょっとやりすぎちゃったかも……?
—————————————
時は過ぎ下校時刻前。といっても昼前なのだが。
あの後流石に士道が可哀想になってきたのでちゃんと経緯を皆に話したんだけど、あまり効果は無さそうだった。というか逆に励まされてしまった。なんで?
「ご、ごめんね士道。ちょっとやりすぎちゃったかも。でも俺は絶対に士道を独りにしないから!」
顔の前で手を合わせ、机に頭をつけてる士道をそう励ます。表情は見えないがかなり疲れた顔をしているであろうことは雰囲気からでも伝わる。いや、ホントごめん……。
「廻……お前なぁ——」
「よっ士道、災難だったな!」
士道の友人である、殿町宏人が士道の背中を叩きながら現れた。
「ゲッ、へんた……殿町……。」
俺は眉をひそめ大げさに引いているポーズを取る。一応俺も彼とはこういう軽口を叩けるくらいの仲だ。
「おい、失礼だろ。」
「いやでも事実……」
「新学期早々酷い言い草だな……、ところで2人とも、この後飯行かね?」
「悪い殿町、今日は琴里と廻の3人で食べる予定なんだ。」
「殿町は来んなよー!琴里ちゃんの身が危ないから!!」
「おぉ、そうだったのか。流石に俺も家族団欒を突っつくほど野暮じゃねぇよ。信用されてないのは遺憾だけどな。」
「だから廻、失礼だろ!」
士道はそう言うと今朝みたいに頭を引っ叩く体制に入った。
「まあまあ待て待て五河、女の子に手を上げるのは良くないぞ五河。こう言う時はもっと精神的な……」
「もっと酷えじゃねぇか!?」
「そんなんだから女子からの評価低いんだぞー。」
何だかんだお互いが本心で言ってないと分かってるからこそ言える軽口。こういう友達が出来たのも士道のおかげだ。こういう日々がずっと続いてくれれば俺は———
ゥゥゥゥゥゥーーー
「ひうっ!?」
突然、けたたましいサイレンの音が鳴り響いて来た。突然の事に俺たちだけじゃなく周りの他の生徒も驚いている様だ。俺はビックリしすぎて跳ねた。声が出た。恥ずかしい。
『これは訓練ではありません。空間震の発生が予想されます———』
「おいおい……マジかよ。」
殿町が額に汗を滲ませながら乾いた声を発する。まあしかし小さい頃から何度も訓練はしていたので、不安は感じても極度に怖がったりはしない。周りにもそういった生徒は見受けられない。
「と、とととりあえず、俺らもシェルター行こっか。」
俺は殿町と士道にそう言い、3人で教室から廊下へ出る。やはりというべきか廊下は生徒で溢れかえっていた。
「『ひうっ』だってよ」
殿町が俺をからかってくるので、「しょうがないだろぁ!」と言いながら頭をひっぱたく。
「鳶一……?」
殿町とそんなやり取りをしていると、士道の怪訝そうな声が聞こえて来たので、咄嗟に士道の顔を見る。どこか別の方を向いていた。彼の視線の先を見てみると、白髪の少女がシェルターと逆側、昇降口に向かっているのが見えた。確か同じクラスだった気がするが、士道と知り合いなのだろうか?
「おい!何してんだ!そっちにはシェルターなんて!」
士道が彼女にそう叫ぶが、彼女は「大丈夫」とだけ告げて去っていった。
「士道、あの子、本当に大丈夫かな?」
「あぁ……忘れ物でもしたんだろ……多分。それに、警報が鳴ってからすぐ空間震が来るわけでも無いし……」
なら大丈夫……なのだろうか。少し心配だが、追いかける訳にもいかないのでそのまま列に沿って歩く。しばらく進むと、俺らのクラスの担任の珠恵先生が生徒を誘導しているのが聞こえて来た。
「お、落ち着いてくださぁーい!!だ、大丈夫ですからー!!おさない・かけない・しゃれこうべー!!」
他の生徒よりも、先生の方が慌てていて見ていられない。
「俺、先生手伝ってくる。」
「あぁ、気をつけろよ。」
「ありがと、士道もね!じゃ、また後で!」
俺はそう言って士道と離れて先生の方に向かって行く。
「先生、ほら落ち着いて。俺も手伝います。」
「あっ、ありがとう廻ちゃん……、。」
「アハハ……ちゃん付けはよしてください。……皆ー!前の人は押さずに!訓練通りに——」
その時、沢山の生徒の人混みの中を士道が逆走していくのが見えた。
「なっ、おい士道!?バカ何やってんだよ!!すいません先生!」
「えっ、えっ!?ちょ、ちょっとぉー!!」
俺も呼びかけを中断し、慌てて士道の後を追う。何度か人とぶつかってしまったがどうでもいい。
「士道!おい待て士道!!!!」
突然どうしたんだ。
俺の前を走る士道の名前を何度も呼ぶが聞こえてないらしく、止まってくれない。どうやら士道も相当焦ってるらしい。そのままあの白髪の少女のように昇降口、学校の外へと飛び出して行く。
空間震は警報からすぐ来ないと言っても、警報からかなり時間が経っている。そろそろ本格的に危険な筈だ。もし、もし万が一の事があったら、そう考えたら背筋に冷たいものが走った。
俺も必死に士道を追いかけるが悲しきかな。俺の方が圧倒的に足が遅く、差はどんどん離れて行くばかりだ。
「おいバカ野郎!士道ぉ!!!!」
「廻!?なんでお前付いてきて……っ!?」
士道が俺に気づいて足を止めてくれたその時、士道の向こう側の街並みが眩ゆい閃光に包まれた。その眩しさに思わず目を閉じてしまう。次いで来るのは爆音と衝撃。目を閉じてしまった俺は何が何だかわからずただ吹き飛ばされてしまった。
「っ゛!?ああ゛っ!!」
壁か何かにぶつかったのだろう。背中や後頭部に強い衝撃を感じ、その突然の激痛に思わず声を上げてしまう。
「うっ……くぅ……」
目を開け士道のいた方を見てみるとそこには、
そこで気付く。
「あ゛っ、はぁ゛……、し……士道。」
彼の姿が無い。俺と同じようにどこかに吹き飛ばされたのか、それとも——
「駄目だ……しどっ……士道ぉ!!」
背中を強く打ってしまったせいで、思うように大声が出ない。でも必死に名前を呼ぶ。
上手く立てない。這って向かう。
上空に明らかにおかしい人影が見える。どうでもいい。
士道が……。
その時また、クレーターの中心から衝撃が。いや、これは斬撃?
斬撃が飛んで行った方向にあった建物達が皆一様に切り揃えられている。何がなんだかわからない。それでも止まるわけにはいかない。
そこでふと、
もし士道が、空間震に飲み込まれていたとしたら……。
もし士道がそこにいて、化け物に襲われたら……。
俺のやるべき事は決まった。士道が助かってくれればそれでいい。意を決してその名を呼んだ。
「はぁ゛っ……、
瞬間、俺の体は真っ黒な霧に包まれた。
———————
「マズイわね……」
フラクシナス艦橋、棒付き飴を咥えた赤髪の少女が口元に手を置いてそう言った。
「司令、これは……」
少女の隣に控えていた男も、非常に困惑している。
「えぇ、分かってるわ。精霊が出現したのに合わせて、もう一人出てくるなんてね。」
「”コープス”。最後に出現したのは2年前。何故このタイミングで……。」
「あんな街中で精霊同士が戦闘を始めたらどうしようもないわ。ASTも文字通り手に負えない。」
「……しかし、我々も何も出来ない。」
「…………」
赤髪の少女は、物憂げに手を頭にやり俯いた。
いかがでしたでしょうか?
起承転結の移行の下手さと「……」の乱用。やっぱり何度も言うように出来は良くないです。でもどうやって良くしてけばいいのか分からなくて。そこを上げれるようになりたいので、是非是非ご感想お待ちしています!
あっ、あと、廻くんちゃんが色々おかしいのは仕様のつもりです!おかしいですけど!!
では!
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3話 : 変身しちゃったけど、俺は絶対に身バレしない。
随分と待たせた割に出来は最低ですが、お手柔らかにお願いします……!
——死が、溢れる。
黒い霧の中から、粘性を持った赤黒い液体が流れ出ている。その不気味な液体は辺り一面にに広がっていく。
突如、悲鳴にも似た、甲高い音と共に霧が中心部に吸い込まれていく。霧の中から現れたのは屍の山。骨や腐った屍肉が乱雑に纏められ山のようになっており、どんな生物の屍なのかは判別がつかない。
——死が、溢れる。
おもむろに、山の中心部が盛り上がる。無数の屍に埋もれていた何かが立ち上がろうとしている。上に重なっていた肉塊達が、ボトボト、ビチャビチャと気味の悪い水音を立てて落ちていく。
何かが、立ち上がった。それは人の形をしている。背中をそらして空を見上げ、両手をだらんと下げている。
屍肉のようなフードから出ている、不気味なほど真っ白な髪。隙間から覗かせる真紅の瞳、その姿はさながら墓から蘇った屍者のようであった。
——死が、溢れる。
両手は、それぞれ棒のようなものを掴んでいる。棒の先には大きく湾曲し、所々錆ついた刃がついている。巨大な鎌だった。右手のそれは体と同じくらいの大きさで、もう片方はそれよりは小さい。だが、農作業で使うような物ではなく、武器として、確実に命を刈り取るであろう形をしている。
何かはその鎌を地面に引きずりながらゆっくりと、精霊達の方へと歩き出した。
死が、溢れる。
——————————————
「士道……。」
俺は士道を探す為にこの気待ちの悪い、肉塊の山から降りる。
そして、先程空間震が起きた場所へ向かう。鎌を担がず引きずって歩いているので、一歩進む度に鎌が地面に擦られてガリガリと大きな音を立てる。決意はしたつもりだったけど、その音が俺の決意を揺るがせる。
本当にいいのか?士道の前で力を使って。一歩進むたびに恐怖が湧いてくる。
でも、それでも、行くしかない。
ガリガリ、ガリガリ。
「何だ?お前は……」
家屋や道路の瓦礫の中、どこかのお姫様のような紫のドレスを纏った女、いや、化け物が、美しく輝く大剣を片手で持ち立っている。
そして、向けられた剣の先には————
「……!!」
「な、何なんだ次から次へと!」
士道がいた。所々制服は汚れてはいるが目立った傷もない。良かった。本当に良かった。ただやはり彼は、恐怖と怯えを孕んだ瞳を、目前の化け物だけでなく俺にも向けて来ている。そんな目で見られたくない。これ以上彼の前に立ちたくない。怖がられるのは辛い。
でも、それよりも、彼が傷つく方がもっと辛い。
「……なんで、彼に剣を向けてる?」
俺は少しでも化け物の注意を逸らす為にそう話しかける。さっきも喋っていたし話は通じるだろう。
「なんで?当然ではないか、こいつも私を殺しに来たんだろう?」
化け物は物憂げな表情を浮かべてそう言った。
は?士道が?何を馬鹿な。
「彼が、そんな事する訳が無いだろ。」
「……っ、何でそんな事……でもそうだ!俺は何もするつもりはない!」
そう言った俺と士道に、化け物は驚いたような目を向けてきた。ただ、まだどこか疑っているようでもあった。
その時、
「……ちっ!」
来る。化け物も気付いた様で、眉をひそめている。
俺らの上空に浮かんだ奴らが大量のミサイルを放ってきたのだ。
俺は即座に鎌を収納。士道の方に飛び彼を押し倒し、覆い被さる様にして守る体制をとる。
「ふん……」
来るはずの衝撃に備え、全身に力を入れ歯をくいしばったが一向に爆発が起こる気配がない。ちらと空見てみる。
ミサイルが上空で、何かに掴まれているかのように静止していた。
あの化け物がやったのか?俺たちを助けた?いや、あいつはだだ自分の身を守り、俺たちは偶々その範囲内に居た。それだけだろう。自分の考えを一蹴する。
化け物が停止させたミサイルは、その場でひしゃげ爆発した。
そして攻撃が効かなかったのを見かねたのか、空を飛んでた奴らの一人が降りて来た。腰部に大きなブースターを付けた、いかにもなSF少女。こいつ、どこかで見たことがある気がする。
「鳶一……折紙……」
腕の中の士道が、そう呟いた。
あぁ、あの時の昇降口に走っていった子か。
「五河士道……!!」
折紙と呼ばれた少女も、士道に気が付いたらしい。という事は当然俺にも目が行く。彼女は俺が彼を襲っているように見えているのだろうか。まるで親の仇を見るような目で俺を睨み付けている。
「ふん、そいつも私を殺しにきたのか……」
カツカツと背後から歩いてくる化け物。
状況は非常に悪い。化け物の注意は折紙に向いているが肝心の折紙は完全に俺をロックオン、一触即発の膠着状態。気を抜こうものなら即爆発する状態だ。身体中から冷や汗が流れ出て来るのを感じる。チラと士道の方に目をやると彼も彼で冷や汗をかいているらしい。
無音の状態が続く。
「♪——————」
その時、俺の腕の中から軽快な音楽が流れ出した。おそらく士道の携帯だろう。その音が合図だった。
その音とほぼ同時に折紙も化け物も剣を構え俺の方に向かってきた。その移動した衝撃だけで地面のアスファルトが砕け剥がれる。
「ケータイはマナーモードにしとけって……!!」
俺は一瞬遅れ士道を抱きかかえ真上に跳ぶ。
「士道っ!逃がさない……!」
折紙が俺を叩き落とそうと、跳躍しようとするが
「どこを見ている?」
「くっ!!」
化け物の標的はやはり俺では無かったようだ。化け物は走ってきた勢いのまま折紙に剣を振るう。しかし、鳶一も体制を崩すこと無く剣で受け止めた。その剣戟は凄まじい衝撃波を生んだ。周りの瓦礫が吹き飛ぶ。勿論空中にいる俺たちも例外ではない。
「う、うわあああ!!」
「大丈夫だから!」
腕の中の士道にそう言いきかせる。そして、その衝撃波を利用して先程の跳躍の勢いと合わせて更に高く跳ぶ。
ここまで来ればこっちの物だ。この体は何故か飛ぶ能力を持っている。その能力で発生する浮力を足元に一点集中。足場のようなものを形成し、空中を蹴るようにして真横に跳んだ。近くのまだ崩れていないビルの屋上へ着地。それからまた跳躍し、建物の屋上を伝ってその場から逃げる。
しばらく飛び続け、周囲の安全を確認してから適当なビルの屋上に着地する。なんとか2人から離れる事ができた。追ってくる気配もない。
そこに士道を下ろすと、彼は腰が抜けてしまったのか、ヘロヘロとその場に座り込んでしまった。
「……大丈夫か?」
俺はそう尋ねながら手を差し出す。
「あ、ありがとう。」
彼は俺の手を掴んでくれた。そのまま彼を引っ張って立たせる。
「それより、何で俺を……?」
知っている?助けた?何と言おうとしたのかはわからない。ただそう短く呟いた士道の瞳は、先程の化け物に剣を向けられていた時と同じように恐怖、猜疑と困惑、さまざまな負の感情に彩られていた。
「っ、それは……。」
思わずたじろいでしまう。
良いのか?ここで正体を明かして。
実は私は、貴方のよく知る王ノ輪 廻なんです。
怯えないでください。私は貴方に危害を加えるつもりはありません。
怖がらせてごめんなさい。ただ、貴方を助けたいだけなんです。
そんなことを言えば彼はいつもみたいな顔を向けてくれるか?今朝のように「何やってんだ」と呆れた表情で俺を叩いてくれるか?
自分の感情に押し流され、たまらずギュッと目を瞑ってしまう。
俺の姿が醜いのは分かってるんです、でも、頼むからそんな目で俺を見ないで——
「なぁ、一つ頼んでいいか?」
再び話しかけられた事に驚きながらも、士道の方を見る。
「あっ、ああ……。」
声が震えるのを必死に抑え返答する。
「あの場にもう1人女の子が居なかったか?居たら、その子も助けてやってほしい。あいつは俺の、大切な家族なんだ。」
閉口。複雑な感情が俺を襲う。俺の事を大切だと思ってくれていた。嬉しい?いや、彼が心配してくれているのは俺ではなく、人間の廻なのだ。
そして彼は、俺の正体が廻だとは気付いていないらしい。このまま隠し通せばまだ彼の言う”大切な家族”で居られる。今までと同じように。
わからない。わからない。
「……そいつなら、もう、大丈夫だ。」
まともに回らない思考で何とか絞り出した返答は、欺瞞に満ちた醜いものだった。
「あぁ、良かった……。ありがとう……!!」
士道は心底安心したような表情で、俺にそう言ってきた。
……もうダメだ。このままではこの感情に押し潰されそうだ。俺はたまらず、別れも告げずにビルから飛び降りる。
「なっ!?おい!!」
飛び降りる直前に引き留めようとする声が聞こえたが、俺は聞こえないフリをして、逃げた。
結局俺は、臆病で、嘘つきな、醜い、意気地なしなのだ。
——————————————
玄関を開けると、今朝拾った猫ちゃん達がミーミーと鳴いているのが聞こえた。玄関には琴里ちゃんの靴が置いてある。どうやら先に帰って来ていたらしい。無事で良かった。
琴里ちゃんの部屋まで行くが、ドアは空いていない。おそらく寝ているのかもしれない。そっとしておく事にした。どうせ、今の俺じゃ会っても上手く話せないだろうし。
俺はそのままの足で猫達を置いてある場所へ行く。猫達の前でしゃがみ込むと、一匹が寄ってきたのでその子を持ち上げる。
「……あれで、良かったのかな。」
「にゃー」
つい、持ち上げた猫に話しかけてしまう。猫は意外と抵抗もせずこちらを見ている。
今までもずっと騙してきたのに、いざあの姿で彼の前に立つと今まで忘れていた罪悪感に押しつぶされそうになってしまった。いや、忘れてなどいない。ずっと忘れたフリをしていただけだ。
そんな自分に自己嫌悪感が湧いてくる。
おかしいな。
「うぅ……」
「廻!」
突然、背後から声がかけられた。声がした方向を見ると、士道が立っていた。気がつかないうちに帰ってきていたらしい。
「あっ、士道!無事だったんだ!良かったぁ。すごい心配したんだぞ!!」
持っていた猫を下ろし、そう言う。
上手く、何時もの自分を演じる事ができているだろうか。
「ごめん!俺のせいで……」
「本当だよ全く。あんな馬鹿な事して!今回は無事だったから良かったけど、今度は絶対しちゃ駄目だからな!!」
うまく、笑えているだろうか。
「俺、
「へ、へー!そりゃすごいね!」
うまく、だませているだろうか。
「廻もその子に助けられたのか?ともかく、無事で良かった——廻?」
「ど、どうしたの?」
「なんで、泣いてるんだよ?」
「えっ?」
咄嗟に自分の目元に手をやる。そこで初めて自分が涙を流していることに気が付いた。
「あっ、えっと、あはは、士道が無事だったから、嬉し涙だよ!いやー!恥ずかしい恥ずかしい!」
やってしまった。必死に取り繕うが、彼の眼差しは変わらない。きっと彼は、心配してくれているだけなのだろうが、その眼差しが俺を追い詰める。
「……ごめん。今日は色々あって疲れたからもう寝るね。」
「お、おい廻!」
結局、先ほどと同じ様に俺を引き留めようとする声を、聞こえないフリをして逃げる。
俺は、最低だ。
思いつくままに書いてたらめんどくさいメンヘラみたいになってしまった廻ちゃんくんちゃん……。でもぼくこう言う娘が好きなの。(性癖)
もっと悩ませたいけど描写力がないから、こんな感じになっちゃいました。
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4話 : 幽霊を見ちゃったけど、俺は絶対に呪われない。
ちなみに焦って書いたんで今回も出来は良くないです!!(前置き)
枕元に置いてある、目覚ましの音で目が覚めた。どうにも昨夜は寝付けなかった。夜ご飯を食べなかったって言うのもあるけど、やっぱり昨日の出来事を引きずってしまっているらしい。
時計が示す時刻は6時。それからたっぷり15分程かけてベッドから這い出、うーうー言いながらなんとか立ち上がり部屋を出る。壁に手を付け、寝ぼけ眼を擦りながらお風呂まで直行。適当に服を脱ぎ捨てシャワーを浴びる。
温かいお湯を浴びるにつれ、だんだんと目が覚めてくる。
冷静になって考えてみると、昨日の俺はあまりにも不自然だったなぁ。
別にあの姿で士道の前に出ただけで、それ以外は特に何かした訳ではないし、そもそも変身中は見た目も変わる。バレる要素なんて殆どない。気にする必要はない!
そう自分に言い聞かせる。
でも……
「……気まずいなぁ。」
俺の呟きは、流れる水の音でかき消された。
———————————
シャワーを浴びた後、リビングでボーッとテレビを眺めていたが、士道と会うのが気まずかった俺は、結局彼とは顔を合わせる事なく一人で家を出てきてしまった。どうせ学校でも会うだろうに、なんとも虚しい抵抗である。
初めてこんな早い時間に登校するなぁ、と考えながら昇降口を通る。ホームルーム開始時間よりそこそこ前の廊下は、教室は、まだあまり人が居らず閑散としていた。
コツリコツリと、俺の上履きが床を叩く音だけが辺りに響く。いつも時間ギリギリに来る俺だが、実はこの雰囲気は好きだったりする。これが夜だったらめちゃくちゃ怖いんだろうけど。幽霊とか出そうなイメージ。例えばこの曲がり角を曲がった先に幽霊が出てきたり。
「ひっ……」
居た。倒れてた。
思わず間抜けな声が出る。白衣を着た女の人が廊下のど真ん中で、うつ伏せに倒れていたのだ。
お、落ち着け。今は朝だし幽霊じゃない……はず。足はあるか?
そそっと回り込み足を確認。良かった、ちゃんとついてた。人間だ。大丈夫。
えーっと、人間なら声をかけるべきだよな……。
「あの、だ、大丈夫ですか?」
恐る恐る俺がそう尋ねると、彼女はおもむろに起き上がった。
「……すまない。少し寝不足でね。」
長い前髪に、その隙間から見える眼鏡、目元の分厚い隈。彼女には失礼だが、さながらホラー映画に出てくる悪霊の類いだ。再び間抜けな声が出そうになるが堪える。しかしキュゥと喉の奥から変な音が出た。
こんな人、うちの学校で見た事がない。教員なら始業式にも居たはずだし、まさか、不審者?
体に怖気が走る。思わず後ずさる。
「驚かせてしまったようだね。私は今日からここで教員として世話になる、村雨令音だ。」
彼女は俺の様子を見てなのか、そう自己紹介を始めた。
「そ、そうなんですね。てっきり不審者かと。」
「まあ、無理もない。これから宜しく頼むよ。」
「こちらこそよろしくお願いします。あっ、王ノ輪廻っていいます。」
「知ってるいるよ。」
もう生徒のことを把握しているのか、見かけによらずとてもいい先生なのかもしれない。
先生は、「それに、」と言葉を続けた。
「君には少しばかり興味があってね。」
「は、い?えっと……」
「君は一体、何者なんだ?」
突然どうしたのだろうか。これは心理テストか何かか?見た目的に保健の先生っぽいし。
「えーっと、ただの居候?」
「ふむ、居候。言い得て妙だね。」
言い得て妙というか、そのままの意味なんですけど。
「そうだね、一つ忠告をしておこうか。君が居候しているその家だが、家主は相当お怒りなようだ。精々気をつけたまえ。……そろそろ職員会議の時間だから、私は行くよ。」
どういうことですか。
聞き返す前に彼女は職員室の方へと向かってしまった。
家主って士道のことだよね。やっぱり怒ってるかぁ。昨日も先に士道を置いて帰っちゃったって思われてるのかな……。
結局その後俺はダラダラと授業を受けた。何度か士道と目が合ったが、気まずくてその度に目を逸らしてしまった。話をした方がいいとは思っているのだがいかんせん足が動かない。放課後になってもそれは相変わらずで、俺は机に突っ伏して悩んでいた。
ちらと士道の様子を見てみるが、彼もどこか上の空と言った感じだった。そんな士道にずかずかと近づいて行く女が一人。もちろん俺などではなくて、昨日あの場所に居た白髪の少女鳶一折紙だ。
「来て。」
彼女はそう言うなり、士道の手を掴み無理矢理教室の外へと連れ出して行く。その光景を目にしていたクラスの女子達はキャーキャーと色めき立ち、「あの2人って付き合ってるの?」なんて会話まで聞こえてくる始末。なるほどなるほど。確かにあの光景はまるでカップルの逢引きの様な……
「なぁっ!?」
驚きのあまり思わず立ち上がってしまい、あの2人に引き続き俺まで注目を集めてしまう。
っていうか、あの2人って"そういう"関係だったの!?昨日シェルターに入らず外に出て行ったのも、先に出て行った折紙を追いかけて!?いやでも今まで士道はそんな素振り見せなかったし……!隠してたって可能性もあるのか?確かに家族にそう言った話をするのは恥ずかしいってのは分かる。分かるけど隠す事はないじゃんか!!それにあの女!よくも士道を誑かしやがったな!!こんな公衆の面前で!!
「おい、そんな怖い顔すんなって。」
俺が思考に耽っていると背後から突然そう言われた。振り返ると、殿町が苦笑しながら俺の方に近づいて来ていた。
「怖い顔……?」
「もしかして自覚なかったのか?相当ヤバい顔してたぞ。」
確かに彼の言うように、少し顔が強張ってしまっていたかも知れない。俺は頬に手を当てながら顔の力を抜いて行く。
「ご、ごめんね。つい。」
「まあ浮気現場を目撃しちまったんだ。そうなるのも仕方ないな。」
「浮気って、別に士道とはそういう関係じゃないから!」
「じゃあこのままあいつらの蛮行を止めずにいるってのか?」
「それは……」
「ったく、ほら、今ならまだ間に合うさ。行った行った。」
「う、うん。」
俺は殿町に背中を押され、おずおずといった感じで2人の後を追い始めた。
2人は相変わらず手を繋いだ(様に見えるだけ)まま、屋上へ繋がる階段を上って行った。屋上は施錠されているが、そのおかげか扉の前の踊り場には人は全く来ない。逢引きにはもってこいの場所だ。
忍び足で、2人の会話が聞けるよう階段を上っていく。
「な、なあ……鳶一。昨日のあの女の子達って……。」
少し上ったところで、士道の声が聞こえてきた。
「あれは、精霊。」
2人の会話の内容は、カップルの話題としては似つかわしくない昨日の出来事に関してだった。浮ついていた気持ちが、一気に落ち着きを取り戻していく。
精霊とはおそらく、俺達のような化け物の事を指すのだろう。
「私が倒さなければならないもの」
「っ、そ、その精霊ってのは、悪い奴なのか……?」
士道は昨日のあの惨状を目の当たりにしてもなお、悪い奴、とは断定していないらしい。一歩間違っていたら自分も死んでいたのかもしれないのに。
もしかしたら彼なら、俺の正体を知っても家族のままでいてくれるのでは。なんて幻想を抱いてしまいそうになる。
「——私の両親は5年前、精霊のせいで死んだ。」
折紙が抑揚のない声で呟いたその言葉で、現実を叩きつけられた。冷たい刃物を突き刺されたかのように、全身からさーっと血の気が引いていく。2人の会話はもう、耳には入ってこなかった。
その出来事に心当たりはない。きっと、昨日の様に別の精霊が起こした事なのだろう。でも、"精霊"がやった事なのだ。
これを聞いた士道はなんと思うだろうか。精霊に対して、まだ手を差し伸べようとしてくれるのか、それとも……。
「王ノ輪 廻。」
いつの間にか話は終わっていたようで、俺の目の前には折紙が立っていた。
「あっ、えっと……」
「今ここで聞いた事は、誰にも口外しないで。」
「ごめんね?盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」
盗み聞きしていたのもバレていたらしい。感情の起伏のない彼女が怒っているか否か分からないが、俺はそう取り繕う。
この感じだと彼女にも俺の正体はバレてないと思っていいだろう。気づいていてもなおという可能性はあるが、ここで泳がせておくメリットもない筈だ。
「口外しないのなら別に構わない。」
「絶っ対誰にも言わないから!ごめんね!」
「あれ?廻、か?なんでここに……。」
俺達の会話を聞いて、士道も階段を下りてきた。彼は俺の顔を見、気まずそうな表情でそう言った。
「士道……。あのね、2人が教室から出ていくのを見ててさ、殿町に『追いかけなくて良いのかー!』って茶化されちゃって。」
「あいつ……。」
「それでね?その、昨日の事なんだけど、本当に、
「な、なんで廻が謝るんだよ。悪いのは俺の方だろ。」
「ううん、実は、俺さ——
「きゃああああああ!!」
廊下の方から突然、甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「……っ!?な、なんだ?」
士道は悲鳴を聞いて慌てた様子で階段を下りていく。俺もその後に続く。
廊下には、数人の人だかりとその中心に倒れる見覚えのある女性。
「ど、どうしたんだこれ」
「し、新人の先生らしいんだけど、急に倒れて……!」
説明をしてくれている女子生徒もたいそう慌てている。まあ目の前で突然人が倒れたのだから無理はない。
というか、この人ってやっぱり……。
「村雨先生?大丈夫ですか……?」
俺がそう話しかけると、倒れていた先生は今朝と同じようにむくりと起き上がった。これを見るのは2度目だが、思わず後退りしてしまう。
やはり、こわい。
「……心配はいらない。ただ転んでしまっただけだ。」
「あ、あんたは……。」
隣の士道が、起き上がった先生の顔を見るなりそう言った。
「な、何してるんですか、こんなところで……。」
「見てわからないかい?教員としてしばらく世話になることにしたんだ。ちなみに教科は物理、二年四組の副担任も兼任する。」
先生は胸につけていた、自身の名前の書かれたネームプレートを指差す。不覚にも、でかい、と思ってしまった。胸のクマさんも居心地が良さそうだ……って、あれ?
「先生と士道って知り合いだったの?」
「え!?あっ、その……。」
「ああ、昨日たまたま知り合ったんだ。」
言い淀む士道をフォローするかのように、先生がそう言った。まるで何か隠しているかのようで、2人のやりとりに引っかかりを覚えてしまう。
「さて、丁度いい。実は彼に用事があってね。少し彼を借りていくよ。」
「は、はい。」
「じゃあ行こうか。ついてきたまえ。」
「わ、悪いな廻、先帰っててくれ。じゃあ、また家で。」
言いながら、彼は先生の後について何処かへと向かっていく。さすがにまたついて行こうとは思わなかった。
というか、俺だけ除け者?
…………猫ちゃんのエサ買って帰ろう。
悩み事とか、自分の中ですらうやむやにして過ごしてしまう事、あると思います。
ちなみに廻ちゃんくんちゃんがうやむやになってるのはただ僕の文章力がないだけです。彼女にはもっと悩んで欲しいんですけどね、やっぱり文字にするのは難しい。でも精一杯がんばります。
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閑話 : 本当にどうでもいい話
ただ、この話が原因で消されるかもしれない。
士道が扉を開けてすぐ、甘ったるい、安手の芳香剤の匂いが鼻をついた。
「うっ……。」
その匂いに思わず唸り声を上げるが、彼は特に気にする様子もなく俺を連れて中へと入っていく。薄暗い通路を抜けた先には、綺麗に整えられた真っ白なダブルベッドと、それを取り囲むように配置された大きな鏡だけが置いてあった。
「あの、ここは。」
「言っただろ、
はて、休憩。困惑している俺をよそに、彼は手持ちの荷物を床に置き服を脱ぎ始める。布が擦れる音と、お互いの息遣いだけが室内に響いている。
「えっと」
「ん?どうした?」
「なんで、服を脱いで……?」
「……は?」
俺がそう尋ねると彼は一転、失望したような、冷たい視線を向けてくる。何か、気に触るようなことを言ってしまっただろうか。
彼ははぁ、と溜息を吐き、いきなり俺を乱暴にベッドに押し倒した。衝撃でベッドが軋むような音がして、幾ばくかの埃が舞い上がる。
「ここまで来て惚けんのは可笑しいだろ」
彼は仰向けに倒れている俺の首を掴み、馬乗りになる。普段とはかけ離れた彼の様子にただならぬ雰囲気を感じた俺は、拘束を解こうと身をよじらせたが首を掴んだ手の力が強まるだけで何の解決にもならなかった。
「ど、どうしたの?ちょっと怖いよ……。」
彼ははぁ、と2度目の溜息。
「だから惚けんなって、本当は廻もわかってんだろ?」
そりゃ、正直に言ってしまうと俺だって今がどんな状況でこれから何が起こるのか想像は付いている。ただなんとかその方向から離れたかっただけだ。
俺が黙っているのを肯定と受け取ったのか、彼は手の力を緩め首筋を優しく撫で始めた。くすぐったい、けれども心地の良い刺激が、首筋から全身を駆け巡る。
「んっ……」
その絶妙な力加減に、不覚にも声を漏らしてしまう。
こんなの、止めなきゃいけない。理性がそう叫ぶが、身体は動かない。
そんな俺に追い討ちをかけるかのように彼は、もう片方の手で首筋と同じように耳を撫で始めた。
「う、っぁ……っ♡」
首筋と耳、両方から来る刺激は、じわじわと俺の理性を侵食する。息が荒くなり、頬も上気し、熱を持ち始める。
「結構敏感なんだな。」
「し、しらないっ……ひぁっ」
「もっと良くしてやるよ。」
「いやぁ……」
今度は耳を撫でていた手を俺のお腹に置き、焦らすようにフェザータッチで下へ下へと降下していった。ゾクゾクとした快感の轍を残しながら、ゆっくりと下へ近づく手は、俺の鼓動をさらに加速させていく。
そして下着に手を掛けた所で彼は、耳元に顔を近づけて言った。
「お前の事が好きだったんだよ!」
———————————
「ファッ!?」
ガバッ、と勢いよくベッドから起きる。慌てて辺りを見渡すが、目に飛び込んできたのはベッドを囲んでいた鏡などでは無く、いつもの見慣れた自室の光景だった。
「……夢?」
自覚した途端、急速に目が覚めていく。そして襲ってくるとてつもない羞恥心。
「う、うわぁぁぁっ」
たまらず枕に顔をうずめる。
嘘だ、嘘だ、なんであんな夢。最近ただでさえ気まずいのがさらに気まずくなる。っていうか後半誰だよ完全にキャラ崩壊してるじゃん気付けよ俺ぇ!!!!
そしてなによりも満更でもなかった自分がいるのが最高に最悪だ!俺は同性愛者じゃない。確かに身体的には異性だけど、心は男、ちゃんと女の子が好きだから!!なのに何であんなドキドキしてしまったんだああああ!!!!
「いやあああああああ!!!!」
ベッドで転がり回って叫び、何とか羞恥心を紛らわそうとする。その動き合わせて、水分を吸った下着がクチ、クチと水音を立てた。この水分の正体は汗なのか、
ギリ1500文字!
どうでしょうか、直接的な部分はそんなに描写してないし触れてないし、一応R-15だから大丈夫だとは思うんですけど……。
まあそこは、運営の味噌汁!
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5話:目の当たりにしちゃったけど、俺は絶対に広めない。
士道が村雨先生に連れて行かれたあの日から、彼は部屋に引きこもりがちになった。いや、前からその気配はあったけど、前にも増してっていうか……。とにかく様子がおかしい。かく言う今も彼は部屋に篭っていて、先生と何かあったのかと心配になる。
「失礼しま〜〜す」
という訳で、彼には悪いが彼の部屋を覗いて様子を見てみようと思う。小声で申し訳程度に断りを入れ、ゆっくりと扉を開けていく。顔を通せるほどの隙間を開け、そこに顔を突っ込んで中の様子を伺う。薄暗い部屋の中で彼は、何やらモニターを見ているようだった。モニターの中央には美少女キャラが映し出され、画面下部4分の1ほどに四角いメッセージウィンドウ。
この特徴的な構図はもしかして、エ、
『お兄ちゃん、私、宇宙に行きたいの。』
画面の中のキャラクターは顔を赤らめつつそう台詞を放った。内容的には、SF妹モノだろうか……って、ずっと部屋にこもってやってた事ってコレだったのか!!
俺はなんとも言えない感情のまま扉を閉める。まあ確かに?士道もお年頃だしそういうことに興味が出るのは当然ですもんね?
「……心配して損したじゃんか!!」
俺が勝手に一人で心配していただけなのだが、やっぱりやっていた事がやっていた事なだけに不服に感じてしまう。うぅ、そんでもって少しショックだ。今なら我が子の性事情を目の当たりにしてしまった親の気持ちがわかる気がする。
俺は頭を抱えながらリビングへと向かう。そうだ、別に何か問題があるわけじゃないんだからそんな気にすることじゃなかったよな! そう自分を納得させつつも、やはりどこかモヤっとしてしまう。
リビングに入ったところで、ソファーの向こう側から白いリボンがピョコリと飛び出ているのが見えた。琴里ちゃんだ。彼女はいつものようにアメを舐めながらテレビを観ていた。
「こ、琴里ちゃん。」
「わっ!なに!?」
突然話しかけたためびっくりさせてしまった。しかし大事な事だから許してほしい。
「しばらくは士道の部屋に入っちゃだめだからね。絶対に。」
「え?わ、わかった。」
もし万が一琴里ちゃんがアレを目撃してしまったら教育上非常によろしくない。五河家の為にもここで釘を刺しておく。彼女も疑問符を浮かべながらだがわかってくれた。この家の風紀は守られたのだ。ふふん。
「あ、そういえばお姉ちゃんさ、」
「んー?」
「この前の空間震の時ってどうやって帰ってきたの?」
「え、」
その質問に、思考が止まる。忘れようと、隠そうとしていたコトに突然触れられ、背中にじんわりと嫌な寒気が広がっていく。
「あ、え、な、なんでそんな事聞くの?」
上手く言葉を紡げずしどろもどろになる。まずい、動揺してはならない。落ち着け、落ち着け。
彼女も俺の変化に気がついているのか少し首を傾けたが、それ以上は特に気にする様子も無く会話を続けた。
「だって心配だったんだもん。お兄ちゃんも、お姉ちゃんも巻き込まれたって言ってたし。」
大丈夫、士道に言った事と同じことを言えば良いだけだ。
「あ、えっと、実は知らない人に助けられたんだよ。あはは、心配かけてごめんね!」
「え〜!そんな人がいたのか!ならちゃんとお礼言わないとね!」
「そ、そうだね、また会ったらちゃんとお礼しないとね!……ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくるね。」
とりあえずここは戦略的撤退を試みる。あまり彼女の前にいてもボロを出すだけだろう。
俺はトイレに入るとすぐ鍵をかけ、便座に座り込み頭を抱える。
ここ数日、悩む機会が一気に増えた気がする。今まで皆を騙してきた分の皺寄せが今になって来てるのだろうか。
「……ごめんなさい」
口をついて出たのは、誰に向けたものかもわからない謝罪だった。
———————————————
「知らない誰かに助けられた、ねぇ……。」
廻が後にしたリビング内で、チュッパチャプスを口の中で転がしながら独り言ちる。
あの日、彼女が士道を追って空間震の現場に向かった所は確認できていた。しかし、そこから先の動向が完全に不明なのだ。
空間震の影響で観測できなくなったうちに消え、そして彼女の代わりと言わんばかりのタイミングであの精霊が現れた。
知らない人に助けられたと彼女は言っていた。士道も同様に、廻は現れた精霊によって救われたと報告していた。
その精霊は数秒で人一人を移動させる能力を有しているのか、それとも……。
彼女に精霊のような霊力反応は無い筈だが、実際にそうと思わせるだけの要素も揃ってしまっている。
先程の不自然な反応といい、何かを隠しているのは間違い無いだろう。
しかし、今問い詰める訳にもいかない。精霊に関する情報は極秘のものだ。仮に私の推測が間違っていた場合、彼女に精霊の情報を与えこの騒動に巻き込むことになる。まだ不確定要素が多い中でそんなリスクは犯せない。
「これはもうちょっと探る必要がありそうね。」
お久しぶりです……(2回目)
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