トリプルP!~Produce"Poppin'Party"~ (Lycka)
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Poppin'Party結成編
Produce 1#出会い



初めましての方は初めまして。
Lyckaという名前で出させて貰ってます。
これは2作品目になりますので、誤字脱字等あるかもしれませんが温かい目で見てやって下さい…
更新は出来るだけ早めにします。


 

 

 

 

 

「ねぇ、星の鼓動って聞いたことある?」

 

俺、斎藤宗輝はこの夢を何度も見る。今日とて同じ夢を同じ場所で同じように見ていた。そして、いつもの様に…

 

 

「むーくん!おーはよ!」

 

「ぐへぇ!」

 

 

 

同じ人物に起こされるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「あの起こし方はやめてくれ香澄。」

 

 

朝っぱらからベッドで寝ている俺にダイビングしてきたのは、幼馴染の戸山香澄。小さい頃からずっと一緒だった、キラキラドキドキが大好きな女の子。見ていた夢に出てきたのもこの少女だった。

 

 

「えーなんで?むーくんこうでもしないと起きないでしょ?」

 

「そのむーくんっていうのもやめてくれないか?今日からもう高校生だぞ俺も。流石に恥ずかしい。」

 

確かに俺は寝相が悪く、朝も弱い。だからって、朝からダイビングは無いだろ。

 

 

「むーくんはむーくんだよ。今も昔も変わらずむーくんだよ。」

 

「はぁ…、もういいや。取り敢えず今何時?」

 

「7時30分過ぎてるよ?」

 

 

7時30分過ぎ?今日は高校の入学式だ。

入学式が始まるの自体は遅いが、学校には早めに着いておかないといけないはずだった。俺は急いで入学式の案内が書いてある紙を見る。

 

 

「8時までに登校って……。」

 

「むーくん、早くしないと間に合わなくなっちゃうよ?」

 

「なんでもっと早く起こしてくれなかったんだよぉぉぉ⁉︎」

 

 

この後、必死に準備してダッシュで登校したらギリギリ間に合いました。朝の起こし方といい起こす時間といい……許すまじ、戸山香澄。

 

 

 

 

***

 

ようやく俺たちの通う学校に到着した。花咲川学園。少し前までは女子校だったらしい。その名残で女子生徒の方がわりかし多いのが特徴的だ。それにしても女の子の制服可愛いなぁ。男の方の制服は…察してくれ。

 

 

「また同じクラスになれるといいね、むーくん!」

 

「今回は初めて違うクラスになるかもな。」

 

 

そう。俺と香澄は小学校から一度もクラスが別々になった事が無かった。

最初は驚いていたが、中学生くらいから慣れもあってかそこまで驚かなくなってきたな。そんなことを思いつつもクラスが発表されているボードを見ていると、香澄が夢中になり過ぎて1人の女生徒にぶつかった。

 

 

「あっ、すみません!」

 

「こちらこそ。」

 

「良い匂い…」グゥ〜

 

 

朝急いでたから俺も香澄も何も食べてないからなぁ。同時に、香澄に隠れて俺のお腹も鳴っていたことは秘密にしておこう。にしても本当に良い匂いがする子だな。匂いから察するにパンか?

 

 

「家パン屋なんだ。これぐらいしか無いけど要る?」

 

「良いの⁉︎私、戸山香澄!」

 

「私は山吹沙綾。沙綾で良いよ。」

 

「じゃあ、私は香澄!」

 

 

俺を放って、どんどん会話が進んでいく。沙綾もチラチラとこちらを見ているのが分かる。しかし、会話は香澄のペースで進んでいく。こうなると止められないからなぁ。

 

 

「それで、私の隣にいるのがむーくん!」

 

「いきなりだな。むーくんじゃなくて斎藤宗輝ね。」

 

「じゃあ、私は宗くんって呼ぶね。」

 

 

沙綾は少しイタズラっぽく微笑んでそう言った。その笑顔に少しキュンときたのはここだけの話。あんまり可愛い子耐性ついてないからやめて頂きたい。やべ、顔に出てないか不安になってきた…

 

 

「さーやは何組⁉︎」

 

「A組だよ。」

 

「どこどこ⁉︎」

 

 

沙綾はA組か。言われるがままにA組の書かれているところに目を移す。確かに沙綾の名前がある。同時に戸山香澄と斎藤宗輝の名前も…。

 

 

 

 

これから先も振り回されそうです。

 

 

 

 

 





今回は少なめかもしれません。
主にアニメ版を参考にしております!

感想等どしどしお待ちしております。


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Produce 2#始動開始


色々キングクリムゾンしてます、すみません。
最近、他の方のものを読んで勉強しております。
自分のものが圧倒的に短いことを確信しました。
今回のものでも、他の方々のもので少なめくらいだと思っております…



 

 

 

時は過ぎ、花咲川学園の入学式から1週間が経とうとしていた。そんな中、香澄が突然言い放つ。

 

 

 

「私達、バンド組むんだけどむーくんもやる?」

 

 

「ほえぇ?」

 

 

我ながら意味の分からない声が出たと思う。それくらい意味が分からなかったんだから仕方ない。バンド?どうして?何故?誰と?そんな疑問ばかり浮かんできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

場所は花咲川学園1–A。もう既に授業は終わり、各々帰る準備やら部活の準備やらで忙しなくしている。そんな中香澄が放った先程の言葉。

 

 

「香澄さん?何故バンド?」

 

「キラキラドキドキしたいから!」

 

「あ、さいですか。」

 

 

 

相変わらず香澄が香澄でホッとした。というわけではなく。

 

 

「いやいやいや。そもそもメンバー居んのか⁉︎」

 

「ちゃんと集めたもん!有咲でしょ〜、りみりんでしょ〜、あとはおたえかな!」

 

「あと1人足りない件について話してもらおうか。」

 

「沙綾誘ったんだけどなんかバイトあるから無理みたい!」

 

 

なんか、そんなような事言ってたな。あ、因みにこの私斎藤宗輝。現在アルバイトをしております。なんでかって?そりゃもちろんお金よ!無い!遊ぶお金が圧倒的に!だから、やまぶきベーカリーにお勤めしている次第でございます。

 

 

 

そして、香澄の会話に出てきた女の子達。市ヶ谷有咲、牛込りみ、花園たえの三人。この一週間で香澄が集めたバンドメンバーらしい。そのせいで最近放課後は用があるとかで一緒に帰らなかったのか。お陰で約一週間、一人で下校する羽目になったぜ。……別に、寂しかったとかじゃないんだからね!

 

 

自分でやってて恥ずかしくなるな、これ。

兎にも角にもバンドやるにはメンバーが集まらない事には始まらんだろう。

 

 

「それで香澄。練習とかは何処でやるんだ?」

 

「有咲ん家!蔵!」

 

「そんな片言で話されてもな。説明してくれ。」

 

「了解しました!」

 

 

そうやって、ピシッと敬礼のポーズをする香澄。そんな香澄を見て久しぶりに心から笑えた気がした。

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

 

 

香澄からある程度の説明を受けた俺は練習場所である市ヶ谷有咲宅へ向かっていた。もちろん、香澄も一緒に。メンバー紹介も兼ねて練習をするんだとか。まだバンドするって言ってないんだけどなぁ。しかしそこは香澄、そんなこと関係なく話が進んでいきます。

 

 

「ここが有咲ん家ね!覚えたむーくん⁉︎」

 

「覚えた覚えた。んで、さっき言ってた蔵ってどこだ?」

 

「驚かないでよ〜!びっくりするよ〜⁉︎」

 

それどっちだよ⁉︎驚いて欲しくないのかビックリしてほしいのか分からん。そして何故に香澄が自慢げなんだ…。まぁ行ってみりゃわかるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

と思っていた時期が私にもありました。

蔵に着いた途端、開口一番俺はこう言った。

 

 

 

「なんで地下あんの?というより広くねこの家?お金持ちかな?」

 

 

 

だってしょうがないじゃん!家入るところ門あるし、庭はクッソ広いし、おまけに地下まであるし。本当に何でもござれである。

ここまでになると、メンバーである市ヶ谷有咲という女の子にも興味が湧いてくる。どんな子だろうと期待を膨らませ妄想していると、香澄に呼ばれハッと我にかえる。

 

 

「むーくん!みんな待ってるから行くよ!」

 

「お、おう。すまんすまん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

「じゃあ紹介するね!右からおたえとりみりんと有咲!」

 

 

おいおい、誰かこの子に紹介の意味教えてやってくれ。名前だけなら学校で聞いたしなんならそれ以外のことも聞いたよ!

 

 

「これじゃあ紹介になってないよ、香澄ちゃん…。」

 

「ったく、しょうがねぇなぁ。まずは私から。市ヶ谷有咲、よろしく。」

 

「牛込りみです。よ、よろしくお願いします。」

 

「花園たえです。というより、同じクラスだよね。なんで、香澄から名前聞いてわかんなかったの?」

 

 

「んん?同じクラス?そだっけ?」

 

「むーくんはね!あんまり人と関わろうとしないから友達居ないの!だから、仲良くしてあげてね!」

 

 

やめて!そんなに笑顔でこの人友達いないです宣言しないで!まぁ確かにあまり人とは積極的に関わることはしないな。あと、、、、単純に人の名前を覚えるの苦手なんだよ。おっと、俺の紹介がまだだったな。失敬失敬。

 

 

「俺は斎藤宗輝。香澄とは小さい頃から一緒に居る。まぁ幼馴染ってことだな。あんまり苗字で呼ばれたくないから名前で呼んでくれると助かる。」

 

「よろしくね宗輝君。」

「よろしく宗輝。」

「よろしくむっくん。」

 

 

皆一様に挨拶をしてくる。呼び方は一緒じゃないんだけどな。というよりむっくんて…。一瞬、赤い毛皮の何かが頭をよぎったぞ、マジで。

 

 

「よろしくな、有咲、りみりん、おたえ。」

 

 

 

「ちょ、おまっ、いきなり名前呼びかよ…」

「宗輝君、りみりんはちょっと…」

「むっくんとは気が合いそうな予感がするよ。」

 

 

「んん?ダメだったか?有咲?りみ?」

 

ダメって訳じゃ、ない、けど…///」

はぅぅ…///」

 

 

ナニコレ?少女が悶えてるんですけど…。可愛くないですか?いや、可愛いに決まってますよ。

 

「可愛いな有咲とりみりんは。」

 

『…‼︎///』

 

 

 

あれ?俺なに言っちゃってんの⁉︎バカなの!死ぬの⁉︎気付いたら口に出してたとか何処のラノベ主人公だよ、、、爆ぜろ。なんて、自分自身でツッコミをかましていると茹でダコの様に赤くなった二人が逃げていった。俺悪くないよね?

 

 

「むーくん、私は私は⁉︎」

 

「はいはい、世界一可愛いよ。」ボウヨミ

 

「むっくん私は〜?」

 

「おたえは可愛いというより美人さんだな!」

 

「ッ!あ、ありがと//」

 

 

あるうぇ?おっかしいな〜?おたえも顔赤くして俯いてるぞ〜?おたえがそんな反応するとは思ってなかったな〜?ていうより、有咲とりみりん居ないしおたえもさっきからだんまりだし、これ練習どーなんの?

 

 

「むーくん。女の子にあんまりそーゆーこと言っちゃダメだよ?」

 

「お前さっき聞いてきてただろ。多分、学校にあんまり男子居ないから慣れてないだけだろ。」

 

「むーくんの場合、容姿も理由に入るんじゃない?」

 

「そーか?確かに俺はカッコいいけどな!」

 

「自分で言ってると気持ち悪いよむーくん。」

 

 

 

とうとう香澄にまで気持ち悪いと言われました。むーくん絶賛ヘコんでます…。自分でむーくんって言ってるの超気持ち悪いな、やめよう。なんやかんやあって、本日の蔵での練習、略して蔵練は中止となりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

蔵練(仮)の次の日。曜日は土曜。そう、休日である。世間一般的に言えばお休みの日。しかし、そうも言ってられないのが現実である。

 

 

「いらっしゃいませ〜。ただいまメロンパン焼き立てで〜す!」

 

 

元気にやまぶきベーカリーのバイトやってます。あらやだ土曜出勤なんて社畜じゃない。いや、マジで笑えない。でもやまぶきベーカリーに来る理由ならある。

 

「いらっしゃいませ。メロンパンと一緒にチョココロネもいかがですか〜?」

 

 

そう、俺の隣で可愛いエプロン姿をしてる沙綾をバンドに誘う為だ。

香澄が前誘った時はバイトあるから無理って言ってたみたいだけど…。一緒に仕事してて理由がそれだけでない事ははっきり分かった。

 

 

まず、沙綾のお母さんの千紘さんの身体が弱い事。前にもバンドは組んでいたみたいだが、ライブ前に千紘さんが倒れた事があるらしい。それから沙綾がお店の手伝いをするようになったとかなんとか。沙綾のお父さんの亘史さんもお店の手伝いをするけれど、圧倒的に手が足りないせいで沙綾が居ないとお店が回らない状況である。

 

 

そして二つ目は純と紗南である。

純と紗南は沙綾の弟と妹で俺もここに通うようになってから相手してやる事が多い。しかし千紘さんがあの状態の為、純や紗南の世話も沙綾が担当している。

まぁこんな状況では流石にバンドは出来んわな。それで俺がやまぶきベーカリーのバイトとして手伝ってる訳だ。ん?お金?そんなの表向きの理由だ。

…ちょっとだけ本音だけどね。

 

 

「なぁ沙綾。香澄達とバンド組んでやってくれないか?香澄達も沙綾に入って欲しいみたいだし…。」

 

「またそれ?言ったでしょ。お店がこんな状況の中バンドなんてできないよ。」

 

「それは俺が手伝うからいいだろ?なんなら毎日来てもいいまであるぞ。」

 

「それは流石に宗君に迷惑でしょ。ほら、今はお仕事お仕事。」

 

「お、おう。いらっしゃいませ〜。」

 

 

 

このままではダメだ。

沙綾は確実にバンドに入りたいと思ってる。けど、周りがそれを許してくれないんだ。そんなことはあってはいけない。周りのせいでそいつが悩んでるなら、俺は助けてやりたい。どうにかしてやりたい。

俺が昔、香澄に助けてもらったみたいに。

 

 

 

 

今度は、俺が助ける番だ。

 

 

 





平均どのくらいの文字数なんですかね?

次回も出来れば早めに更新致します。


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Produce 3#過去と向き合う


早めに出したかったのですが、土日ゴロゴロしすぎて…w
ちょくちょくは進めてたのですが、いかんせん眠くて。

睡魔には勝てませんな


 

 

 

俺はまだ小さかった頃、周りからイジメられていたことがあった。理由は様々だった。母が茶道と華道をしていて、それに小さい頃から付き合わされていた。それを理由にイジメられていたこともある。小さい子供がイジメを始める理由なんてものは単純かつ明確なものだった。

"周りとは違う" "あいつだけ違う"

そんな子供だからこその純粋な悪意が向けられていた。そんな時、香澄が、香澄だけが手を差し伸べてくれた。

 

 

「なんでそんなに悲しい顔してるの?」

 

 

「見りゃ分かるだろ。イジメられてるんだよ…。俺と話してたらお前までイジメられちまう。早くどっかいけ」

 

 

「そんな悲しい顔してるのにほっとけないよ」

 

 

「私は戸山香澄。君は?」

 

「……。斎藤宗輝」

 

 

「じゃあむーくんだ!よろしくね、むーくん!」

 

 

 

 

 

それから香澄と一緒に居ることが多くなった。正直、最初はただただ付きまとってくるウザい奴としか思わなかったが、段々と香澄と居る時間が楽しくなってきていた。そして、香澄と居る時間だけ周りのやつにイジメられることは無かった。

 

 

 

 

香澄が俺の居場所を作ってくれた。香澄のお陰だ。

だから、昔香澄が俺を救ってくれた様に、今度は俺が沙綾を救いたい。それは、香澄も同じことを思っていると思うから。同時に香澄も助けてやれる。香澄は昔の事はなんとも思ってないかもしれない。けど、俺は香澄に恩返しがしたい。

 

 

 

 

だから、沙綾を救う。

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

今日は日曜日。

香澄達が有咲の家の蔵で練習をするというので付き添いで見学に行く。実は、今日初めて演奏を聴く。果たして、香澄に音楽が出来るのか不安半分期待半分の気持ちで香澄の家へ向かっていた。そして、香澄の家の前。

 

 

 

「おーい、むーくん!おっはよ〜!」

 

 

 

 

 

 

二階にある香澄の部屋の窓から俺の姿が見えたのか大きな声で挨拶してくる。昔っからこういうところも変わってねぇなぁ…。

 

 

 

「いいから早く準備して降りてこ〜い」

 

 

 

「もうちょっとかかるから家入ってて〜!」

 

 

 

 

もう約束の時間5分前だぞ。蔵に着く時間考慮してこの時間にしたんだがもう少し早める必要があるな。香澄に言われた通り、家に入ろうとした寸前で家のドアが勝手に開きだした。

 

 

ガチャ、ドンッ!

 

 

 

「いってぇ!」

 

 

 

 

 

「あっ、ごめん!大丈夫宗輝⁉︎」

 

 

 

 

この子は香澄の妹の戸山明日香。今は花咲川学園の中等部にいる。明日香とも小さい頃から一緒に居るので、俺も妹同然の感じだ。そしてなにより、可愛い。ここ、重要だぞ。テストにも出すからな。

 

 

 

 

「ああ、大丈夫だよ明日香」

 

 

 

「ごめん、外から声が聞こえたから…」

 

 

 

 

 

申し訳なさそうな顔をして少し俯く明日香。

こいつは昔から自分はなんにも悪くないのに自分のせいだと思うところがあるからなぁ。まぁ、香澄とは正反対の性格だな。こういう時にどうすればいいかを俺は知っている。

 

 

 

 

 

 

「明日香は悪くないだろ?俺は大丈夫だから。気にすんなって」ナデナデ

 

 

 

 

「んっ…。あ、ありがと///

 

 

 

「ん?なんて言ったんだ明日香?」

 

 

 

「な、なんでもないっ!」ガタッ

 

 

 

 

ありゃ?怒らせちゃったかな?戻って行っちゃったよ。

まぁ明日香が元気になったならokだな。とりあえず、中に入っておくか。

そう思った矢先、またドアがひとりでに開いた。

 

ガタッ、ドンッ!

 

 

「むーくん!お待たせ!……あれ?むーくんどこ?」

 

 

「お前もかよぉ…。いってぇ」

 

 

 

「おお!むーくんごめん!ほら、遅れるから早く行くよ!」

 

 

 

 

姉妹揃って仲のよろしいこって。

お陰でこっちはたんこぶできちまったぜ。しかも、明日香と香澄にぶつけられたところ一緒だしな。俺はなんとか起き上がり、既に道路に出ていた香澄に付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

時間は約束の10時を少し過ぎた頃。

俺も香澄も途中から遅れる気配がしたのでダッシュ。その甲斐あって、なんとか集合時間には間に合った。有咲が気を利かせて飲み物を出してくれたのでありがたく頂く。

 

 

 

「今日は練習するんだろ?なんの練習するんだ?」

 

 

 

「そーいえば言ってなかったな。私ら近頃ライブ予定だから」

 

 

 

 

 

 

「あー、はいはい。ライブねライブ。……はぁ?」

 

 

「有咲ちゃん、それじゃ説明不足だよ…」

 

 

「どういうことなんだ、りみりん」

 

「あのね、私達はまだまだ下手だから有咲ちゃんのお婆ちゃんに練習の成果を見てもらおうってことになったんだ。」

 

 

「そう。蔵でライブするの。名付けてクライブ!」

 

 

 

蔵とライブをかけてクライブか。おたえ、自慢げにしてるけど全然上手くないぞ。

 

 

「そのクライブはいつ予定なんだ?」

 

「一週間後だよむーくん!」

 

「全然時間足りないんじゃないかそれ」

 

 

「だから、むーくんに指導してもらおうと思ったの!むーくん昔音楽やってたでしょ」

 

「音楽っていっても、ピアノやらギターやらを触ってた程度だぞ」

 

 

 

確かに前まではピアノ習ってたし、ギターも弾く練習はしてた。最近はあまりやってないからできるかどうかわからんが。まぁ、実際に俺がやるわけじゃ無いんだし教えるくらいならやってやるか。

 

 

 

 

「練習みてアドバイスするくらいならいいぞ」

 

 

 

「やったぁ!じゃあ、みんな準備しよ!」

 

 

 

 

それから香澄達は手っ取り早く準備を済ませた。

見たところ有咲がキーボードで、りみりんがベース、おたえと香澄のダブルギターってとこか。…なら沙綾はドラムか。

 

 

「準備できたか?」

 

 

「うん!ばっちし!」

 

 

「なら、頼むわ」

 

 

 

そして、香澄達がクライブで披露するのを予定していた曲を聴いた。自分でもびっくりだが、あっという間に演奏が終わっていた。どうやら香澄達の演奏を聴き入ってしまっていたらしい。そのくらい上手だったと思う。しかし、問題点が無いわけでは無かった。

 

 

「どう?何か感想は?」

 

 

 

 

 

「すごかったよみんな。香澄はしっかり歌えてるしおたえはギターで香澄のフォローしつつ自分のところも弾けてる。りみりんもベースの役割果たせてるし有咲がみんなを引っ張っていってる感じだな」

 

 

『やったぁ!(よっしゃ!)』

 

 

「でも…」

 

 

 

 

「香澄は歌えてはいるがギターが厳かになり過ぎ。ボーカルとギターの両立はすごく難しいことだ。香澄の場合歌は文句ないからギターの方を重点的に練習だな」

 

 

「了解であります!」

 

 

 

「そんでおたえ。おたえは基本的に技術は申し分ないな。香澄の分のフォローも的確にできてる。でもその分自分のソロパートが単純になってる気がするぞ。もっとおたえなりのギターを聞かせてくれ」

 

 

「うん、わかった。ちょっとだけアレンジしてみる」

 

 

 

「りみりんもベースとしての基礎的なことはできてるな。ベースはあんまり他の音に埋もれて聞こえにくいかもしんないけど一番重要といっても良いレベルのものだ。途中ちょっとだけ音ズレたろ?何ヶ所かあったから、通しで何回も練習だな」

 

 

「宗輝君すごいね!ありがとう!」

 

 

 

「最後に有咲。良い意味で言えば満遍なくこなせてる。でも、それも言い換えれば器用貧乏だ。それに、ギターとぶつかったりしてる部分もあれば、それを心配してスカスカになってるところもあった。もうちょいギターと相談していこうな」

 

 

 

「なんで一回聴いただけでわかんだよ…」

 

「キーボードについてはピアノ習ってたからそれなりに分かるんだよ」

 

 

 

 

こうして、みんなの問題点を出し合いながら練習を積み重ねていった。練習にちょくちょく沙綾も顔出してたけど、やっぱりあの感じは…。

でも今はクライブに集中だ。有咲のお婆ちゃんや明日香達にカッコ悪いところみせらんないもんな。

それに、今回のクライブで少しでも沙綾の気が引ければ儲けもんだ。頼むぜ沙綾、お前がいなきゃこいつらはこれからどうすればいいんだよ…。

 

 

 

 

 

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~クライブ前日~

 

俺は今やまぶきベーカリーに居る。もちろん沙綾も一緒だ。明日はクライブがあるからな。一応、沙綾も来てくれるらしいからあいつらも気合が入ってる。

俺は、あいつらのサポートに徹するだけだ。頼むぜみんな。

 

 

「なぁ沙綾。明日のクライブ一緒に行かね?」

 

「私はそれで良いけど宗君は大丈夫?みんなの手伝いとか…」

 

「それなら大丈夫。俺の手伝いはクライブまで。明日はお客として行くことになってるから。」

 

 

「うん、分かった。ならどーする?」

 

 

「俺が沙綾迎えに行くよ。時間は少し早めでいいか?」

 

「問題ないよ」

 

 

 

 

これでとりあえず沙綾をクライブに連れてくるミッションは成功だ。だが、まだ本命が残ってる…。それは香澄達にかかっていると言っても過言ではないだろう。俺に出来ることは、香澄達を信じることだけだ。この一週間、香澄達にアドバイスをしながら練習に付き添っていたが、香澄達が本気だということは見ていれば分かった。

 

 

 

 

だから、俺は信じてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

~クライブ当日~

 

 

ピリリリリリ、ピリリリリリ。

 

 

 

 

目覚まし時計の音が鳴り響く。

今日はクライブの日だから寝てて遅刻なんてしてたら有咲になんて言われるか…。だが、身体の方は正直で思考回路とは違った動きをしてしまう。

目覚まし時計のアラームを止め、再度襲いくる睡魔に身を任せようとしていた。

 

しかし、俺には違った悪魔が迫ってきていた。

 

 

 

「むーくん!おっはよ〜!今日のクライブ楽しみだね!」

 

 

 

そう言いながら香澄がドアを開けダイビングするポーズをとるのが横目に見えた。

次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

「まだ眠いからもう少し…」

 

 

 

「むーくん、おっきろ〜!」ドンッ

 

 

 

 

「ごふっ…。み、みぞおちはいったぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

香澄の華麗なダイビングが俺のみぞおちを直撃した。

見事一発K.O。数分は枕に顔をうずめ悶えていた。しかしながら、時計を見てみると沙綾との約束の時間が迫っていることに気付く。今日が香澄達にとっても、俺にとっても、沙綾にとっても大切な日だ。寝過ごす訳にもいかず、身体を起こし準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~やまぶきベーカリー~

 

 

 

あの後、香澄はクライブの準備があるので先に有咲の家に向かった。そして俺は沙綾を迎えに行くためやまぶきベーカリーへ。ドアを開け周りに迷惑をかけない程度の声で沙綾を呼ぶ。

 

 

 

「沙綾〜、来たぞ〜…。って、純と紗南じゃないか。沙綾お姉ちゃんはどこだ?」

 

 

 

「奥で準備してるよ〜!」 「どっかいくの〜?」

 

 

「おうよ。今日は香澄達のライブ観に行くんだ」

 

 

「らいぶ〜?」

 

 

 

「そうだぞ〜。お姉ちゃん昔バンドやってたろ?」

 

 

 

「ごめんおまたせ〜。遅くなってごめんね宗君!」

 

 

「おう、おはよう沙綾。準備出来たし行くか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~有咲宅蔵~

 

 

「失礼しま〜すっと」

 

 

「あ、むーくん!遅かったね!」

 

 

「すまんすまん。純と紗南相手してた」

 

 

「香澄、揃ったし準備終わらせるぞ」

 

「うん、みんな頑張ろう!」

「クライブ成功させようね」

「オッちゃんも呼べばよかったな」

 

 

 

 

みんな気合入ってんなぁ。一人だけ違う方向に向いてる気がするが…

まぁ、香澄達ならやってくれるだろう。練習には俺も付き添ってきたし、やれることは全部やったはずだ。

人事尽くしてなんとやらとも言うし。運命なんてのは信じない派なんだけどな。

でも、こいつらの事は信じてる。音楽で人を変えられる。そのことを証明してくれ。

 

 

 

「よし!準備ok!」

 

 

準備が終わったみたいだ。このクライブに足を運んでいるのは、俺、沙綾、有咲のお婆ちゃん、りみりんのお姉さんであるゆりさん、明日香の5人だ。有咲のお婆ちゃんは光る棒を手に持ってる。

こっちも気合入ってるな。そんなお婆ちゃんを見て有咲が顔赤くしてるのはなんでだ?照れてるんだったら……めちゃ可愛いな。

りみりんはゆりさんが居るから緊張してるんだろうけど真剣な眼差しだ。おたえはさっきまでオッちゃんとか言ってたが、今は雰囲気が違う。香澄はいつにもなく少し緊張しているらしく耳の部分がぴくぴく動いている。香澄の癖である。あ、もちろん髪の耳の部分な。

 

 

 

 

「今日は集まってくれてありがとうございます!私たち一生懸命練習しました。頑張って演奏するので聞いてください!」

 

 

 

 

香澄がそう言ってメンバーと一通り顔を合わせた。

そして、香澄達の演奏が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

驚いた。

練習には付き合っていたが、今までで一番の出来だったと思う。香澄はしっかりと歌いながらもギターを弾けてるし、おたえはソロパートの部分難しめだがこなせていた。りみりんのベースもミスなくできていて、有咲のキーボードもおたえや香澄と相談して決めた要領で弾けてた。演奏に聞き入っていて終わるのがあっという間だったように思える。有咲のお婆ちゃんは満足げにしているし、明日香や沙綾も楽しそうに笑っている。クライブはどうやら成功したようだ。俺も頑張った甲斐がある。

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!……」

 

「え⁉︎」

 

「……」

 

「なんで…⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでむーくん泣いてるの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう

 

 

 

俺は泣いていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





多分、次の投稿も遅れるかと思われます…


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Produce 4#パン屋の娘は可愛らしい!


皆さんお久しぶりです。
この作品の投稿は実に1ヶ月振りくらいです。

久しぶり過ぎて、書く前に3話分読み返しました...w

タイトル見て頂ければ分かりますが、我らがパン屋の娘、沙綾回となっております。

兎にも角にも第4話、ご覧下さい。
(少しキンクリしてますごめんなさい)


 

 

 

 

 

「もうすぐ、文化祭だねむーくん!!」

 

「おう、そうだな」

 

 

元気よく俺に話しかけてくる香澄を適当にあしらう。

 

あのクライブの時の涙の理由は分からずじまいで時は過ぎていった。香澄の言う通り、ここ花咲川学園ではもうじき文化祭が開催される。各クラスで様々な催しがされる中、香澄達はクラスとは別でバンドをする予定なのだ。当然、それに付き合わされる形で俺も参加している。

 

 

「すっごいドキドキする!」

 

「今からそんなんで大丈夫かよ」

 

「んー、大丈夫だよ!きっと!」

 

 

香澄も相変わらずこの調子である。まぁ、最近は練習も頑張ってるしな。しかし、バンドをする上で必要不可欠な要素が一つ。それは、ドラムがいない事である。

やまぶきベーカリーでのバイト中に俺からもプッシュしているが、沙綾は首を縦に振ろうとせず誤魔化すように話をすり替える。沙綾が昔バンドをやってたのを知ってるのは俺だけだ。そのことが関係しているのかバンドの話になると顔が暗くなる時がある。

 

 

「どーしたのむーくん?さっきから難しい顔してるよ?」

 

 

考え込んでいたのが顔に出ていたらしく香澄が覗き込むようにして聞いてくる。昔からの付き合いのせいか、香澄にはすぐ分かってしまうらしい。どうやら、俺は顔に出やすいタイプらしい。

 

 

「ん、ちょっと考え事。俺やまぶきベーカリーの手伝いあるから。じゃあな」

 

 

「わかった!ばいばーい!」

 

 

香澄と別れの挨拶を済ませて、目的地のやまぶきベーカリーへと足を進める。

 

 

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

カランカラン♪

 

 

「いらっしゃいませ〜!......って、宗君か。今日はちょっと遅かったね」

 

 

やまぶきベーカリーへ着き、開けると鈴の音が鳴るドアを開けると既に沙綾が作業を開始していた。

 

 

「ごめんごめん。香澄と話しながら歩いてたら遅くなった」

 

 

「全然気にしてないよ。ほら、奥に行って着替えてきて」

 

 

「りょーかい」

 

 

 

 

沙綾に言われた通り奥へ向かい服を着替える。って言っても、学生服の上にエプロン着るだけなんだけどな。すぐに着替え終わり手伝いに戻ろうとした時に、不意に両手を掴まれる。

 

 

 

 

「お兄ちゃんみーっけ!」 「あそぼうぜ〜」

 

 

 

 

両手を掴んだ正体は純と紗南だった。手伝いに来る度に遊んでやってたら凄い懐かれました。子どもには好かれるらしい。純と紗南に手伝いがあるからと言って手を離そうとするが、当の本人達には離す意思がないらしくがっちり掴まれていた。

 

 

 

 

「まいったな、どうするべきか.....」

 

 

 

そうして俺が悩んでいると千紘さんがやってきた。

 

 

 

 

 

「純、紗南、宗輝君はお店のお手伝いしなきゃいけないから離しなさい」

 

 

「お兄ちゃん頑張ってね!」 「ちぇ、つまんないの〜」

 

「ありがと紗南。純はそんなこと言ってると遊んでやらないぞ」

 

 

 

千紘さんが注意するとすぐに手を離してくれた。流石はお母さんといったところか。慌ててお礼を言う。

 

 

 

 

「千紘さん、ありがとうございます」

 

「これくらいどうってことないわよ。それより、早く沙綾のところにいってあげて」

 

 

俺は再度千紘さんにお礼を言って沙綾の手伝いに向かう。

 

 

 

 

「沙綾、お待たせ。ちょっと純達に捕まってた」

 

「知ってる、聞こえてたよ」

 

 

そんな会話をしつつ沙綾は手を動かしている。その様子を見て急いで手伝いに入る。

 

 

「沙綾、もうちょっとでメロンパン焼けるってさ」

 

「うん、ならいってくるね。その間、お客さんの対応よろしく」

 

「おう、任された」

 

 

 

こんな感じで今日もやまぶきベーカリーはお客さんに沢山来てもらって大繁盛でございました。

 

 

 

 

 

 

 

そして、お店も閉店した後。

 

 

「沙綾、お疲れさん。今日も大変だったなぁ」

 

「うん、お疲れ様。お客さんも満足してて良かったよ」

 

 

沙綾と他愛の無い話をしていたら千紘さんがやってきた。両手に純と紗南を抱えて。

 

 

 

「宗輝君、良かったらご飯食べてかない?」

 

「でも、お邪魔じゃないですか?」

 

「そんなことないわよ。ねぇ、純、紗南、それに沙綾」

 

「お兄ちゃんも一緒〜!」 「一緒に食べてやるよ〜!」

 

「別にいいんじゃない?」

 

 

凄く魅力的な提案である。俺自身、大勢で食卓を囲むのは好きだ。しかし、千紘さんの負担を増やすわけにはいかない。

 

 

「実はまだ作れてないの。だから、手伝ってくれたら嬉しいな」

 

 

ともなれば即決である。

 

 

「ならokです。千紘さんは休んでいて下さいね」

 

 

 

食材は事前に用意していたようで沙綾が冷蔵庫から取り出してくれていた。どうやら、今日はハンバーグらしい。子供は好きだから純と紗南ははしゃいでいる。

 

 

「沙綾、そこの塩コショウ取ってくれ」

 

「はい、それと卵とパン粉も忘れずにね」

 

「ん、ありがと」

 

 

 

 

「こうして見てると夫婦みたいね」

 

 

『ブッ!!!』

 

 

 

沙綾とハンバーグを作っているところを千紘さんが見ていたようで、いきなりそんなことを口にする。側から見ればそんな風に見えるのか?確かに、家に上がり込んで一緒にご飯作って食べて......あれ?そんな風に見えなくもねぇな。

 

 

「何言ってるんですか千紘さん」

 

「そ、そーよお母さん!夫婦だなんて.....///」

 

 

おやおや?沙綾さんや、顔を赤くして俯いてどうしたんですかい?

ハッ!!もしかして、そんなに嫌だったのか⁉︎

 

 

「す、すまん沙綾。嫌だったら嫌って言ってくれても良いんだぞ」

 

 

「別に嫌って訳じゃ.....むしろ...///」

 

 

 

良かった、それほど嫌われているわけでは無さそうだ。最後の方は声が小さくて聞こえなかったけどな。

すると、突然千紘さんが忍び足で近付いてくる。そして、俺にしか聞こえないような声で話しかけてくる。

 

 

 

「宗輝君、沙綾可愛いでしょ」コソコソ

 

 

確かに今の沙綾は、顔を赤らめながら俯いてモジモジしている。その姿は可愛いと言えるだろう。俺は少しニヤッとしながら千紘さんに倣い小さな声で答える。

 

 

「ええ、この上なく」ヒソヒソ

 

 

 

「もー!何話してるの⁉︎」

 

 

『それは内緒だ(よ)♪』

 

見事に千紘さんと同じタイミングで同じような台詞を言う。

 

 

「宗君!母さんも!もう知らない!」

 

 

ぷんすか怒り気味の沙綾も可愛らしい。しかし、いじりすぎてしまい沙綾は自分の部屋に篭ってしまった。まぁ、ほとんどできてるし後は一人でやるか。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

千紘さん、亘史さん、沙綾、紗南、純、俺の総勢6人で食卓を囲んだ。あの後、少し工夫を凝らしてチーズを入れてみたりしたのが好評だった。夕飯を食べ終わるや否や紗南と沙綾はお風呂、純は既に入っていたようで亘史さんと一緒に宿題をしている。

 

そして、俺はと言うと......

 

 

「別にお皿洗いくらい一人で出来るのに」

 

「いえいえ、最後まで手伝わせて下さい」

 

 

千紘さんと一緒にお皿洗いをしていた。千紘さんは一人で出来ると言うが、万が一のことを考えて手伝う。沙綾との約束でもあるからな。

 

 

「何から何までありがとね、宗輝君」

 

 

千紘さんからそんな言葉が発せられる。

 

 

「俺がしたくてやってることですからね」

 

「それに、沙綾は自分より他人を優先してしまう癖がありますからね。せめて俺と居るときくらいは楽させてあげたいんですよ」

 

「外でもあの子、いつもあんな感じなの?」

 

千紘さんが少し心配そうに尋ねてくる。

 

「ええ、なんか無理してるっていうか。だから、支えてあげたくなるのかもしれませんね」

 

俺の言葉を聞いて、千紘さんがうーんうーんと悩んでいるフリをしている。

 

「本当に宗輝君は良い子ね。いっそのこと沙綾を貰ってくれないかしら」

 

 

悩んだ結果出てきた言葉がそれですか千紘さん。

 

 

「俺なんかよりも、沙綾にはもっと良いやつが居ますよ」

 

「あら、お店の手伝いから夕飯の支度、片付け、それにお風呂まで。こんなことする人宗輝君しか居ないわよ」

 

 

確かに痛いところを突かれる。

自分でも、最近は沙綾ん家に入り浸っているのは分かっていたが......。俺はお皿を洗う手を止めて少し考えていた。もし、沙綾と結婚したらどうなるだろう。楽しい生活が送れることは間違いないだろう。面倒見も良いし家事もこなせるし可愛いし。少し妄想気味に考えているところを、千紘さんの言葉によって現実へと帰還する。

 

 

 

「なら、もし他に良い人が現れなかったら沙綾を貰ってくれる?」

 

 

ほほう、千紘さんグイグイ押してきましたね。しかし、これに対しての答えはすんなり出てきた。

 

 

「その時は、こちらから土下座でお願いしますよ」

 

 

「ッ‼︎.....///」ガタッ

 

 

 

「これからも沙綾と仲良くしてやってね」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 

千紘さんとそんな会話をしていたのを沙綾が聞いていたことを、俺はその時はまだ知らなかった。

 

 

 

 

~side change~

 

 

私は夕飯を食べ終わった後、紗南と一緒にお風呂に入っていた。純はもう済ませていたみたいで母さんは後から入るとのことだったので先に頂いた。

 

「紗南〜、どこか痒いところはない?」

 

「だいじょうぶだよ〜」

 

実は、こうして紗南と二人でお風呂に入るのは久しぶりだったりする。最近は宗君がお店の手伝いをしてくれてるから少し楽になったけど、前までは紗南達がお風呂はいってる時に夕飯を食べてたりしていたからだ。

 

 

「お姉ちゃんはお兄ちゃんの事好き?」

 

「へ!何言ってんの紗南!」

 

いきなり紗南がそんな質問をぶつけてくる。

 

「じゃあ嫌いなの〜?」

 

「そんなことはないけど.....」

 

 

 

さっきだって母さんに夫婦みたいって言われた時は嬉しかった。これが好きって気持ちなのかな?私は今までそういう経験がないから分からない。逆に宗君はどう思ってるんだろう......。

そこで私は考える事を止め、浴槽から立ち上がる。

 

 

「紗南、そろそろ出ようか」

 

 

 

 

***

 

 

 

場所は変わってリビングの前。お風呂から出た後は紗南を部屋へ連れて行き寝るように伝えた。そして、私は今リビングの扉の前に立っている。それは何故か。

 

 

「何から何までありがとね、宗輝君」

 

「俺がしたくてやってることですから」

 

 

そう、二人の会話が聞こえてくるのだ。別にこのまま入っても良いんだけど、会話の邪魔になってしまいそうで気が引ける。なので、少し待ってみることにした。

 

 

「それに沙綾は自分より他人を優先してしまう癖がありますからね。せめて俺と居るときくらいは楽させてあげたいんですよ」

 

宗君が母さんに向かってそんなことを言う。自分ではあまり意識してないんだけどなぁ。

 

「外でもあの子、いつもあんな感じなの?」

 

次は母さんが宗君に問いかける。心配かけてないつもりだったのに、いつのまにか心配かけちゃってたのかな。少し複雑な気持ちになる。

 

 

「ええ、なんか無理してるっていうか。だから、支えてあげたくなるのかもしれませんね」

 

 

そんなこと言われたのは初めてだった。今までは、私が家族を支えていかないといけないとばかり思ってた。それは今も変わらず私の行動の核となっている。でも"支えてあげたい"なんて母さんにも父さんにも言われてない。宗君の言葉を聞いて少し胸の中が温かくなるのが分かる。

 

そして、少し時間が空き母さんが口を開く。

 

 

「なら、もし他に良い人が現れなかったら沙綾を貰ってくれる?」

 

 

少し耳を疑う。自分の母さんながら何を言っているんだろうと呆れていた。

 

 

確かに宗君と結婚できたら、幸せな生活が送れるのは間違いないんだと思う。純や沙南の面倒見も良いし、料理だって出来る。それとカッコいいし。

でも、そんな問いかけに宗君が真面目に答えるわけ.....

 

 

「その時は、こちらから土下座でお願いしますよ」

 

 

「ッ!!......///」ガタッ

 

 

驚きの返事が宗君から返ってきた。途端に身体中が熱くなってきて、少し離れようとして近くの壁に足をぶつけてしまう。

 

 

 

今のこの気持ちは何なのか。思い返せば、入学式の時の出会いからどんどん惹かれていっていたのかもしれない。そう思い始めるともう止まらなくなっていた。

 

 

「......責任、とってよね///」ボソッ

 

 

 

私は一人、その場で呟いた。

 





沙綾可愛いですよね。

主は、ポヒパだと沙綾と有咲推しです。まぁ他三人も好きなんですけどね。
それが作品に影響されてます.....すみません。

次回からすぐ出せるようにしますので。


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Produce 5#文化祭準備


皆さんどうも。
投稿に少し時間がかかってしまい申し訳無い。
実は、バンドリに少し影響されてギターを始めてみようかと密かに考えてる主であります。

そんなことは置いといて、5話ご覧下さい。


 

 

 

~翌日~

 

「むーくん、おっはよ〜!」

 

「おはよーさん」

 

昨日は、夕飯の片付けを終えた後少しゆっくりさせてもらってから帰宅。久し振りに楽しく食事が出来た気がする。千紘さん達にもう一度お礼言っとかなきゃな。

今は香澄と登校中。

 

「昨日は練習見てやれなかったけど、どうだったんだ?」

 

「うん!良い感じ〜」グッ

 

香澄が親指を立てて言う。良かったには違いないのだろうが、俺は詳細が聞きたかったのだ。

 

 

後で有咲に聞こう......。

 

 

 

***

 

 

 

授業を難なく終え、現在お昼の12時。いつものメンバーで集まって昼ご飯を食べている。

 

 

「有咲、昨日の練習どうだった?」

 

 

朝聞きたかったが、香澄の良い感じの一言で終わっていたので改めて有咲に聞いておく。俺がいる時もそうだが、大体は有咲がまとめている感じである。逆に有咲がいないとまとまらない。

つまり、有咲は重要人物なのだ。今度好きなもの一つ買ってあげよう。

 

 

「ん〜、いつもみたいに香澄とおたえが意味不明なこと言って終わったぞ〜」

 

 

「前に言ってた新曲の件は?」

 

 

「香澄全然書けてないってさ」

 

 

文化祭でバンドをやるにあたって、香澄が新曲を披露したいとのことをいいだしたのだ。なので、作詞作曲は香澄にみんな一任している。しかし、あまり考えつかないらしい。まぁ、初めての作曲だから難しいわな。

 

 

「んで、今日はどうすんの?」

 

 

「今日は蔵でポスター作りと練習、それと、香澄が大変そうだから作曲の手伝い....かな」

 

 

はい、有咲がちょっとデレました。なんだかんだ言って有咲も香澄には甘いのだ。俺もちょっと付き合ってやるか。

 

 

「有咲、付き合ってやるよ」

 

「は、はぁ!!おま、何言ってんだよ!!」///

 

「だから、ポスター作りとか手伝ってやるって言ったんだよ」

 

「〜〜ッ!!」

 

怒ってポコポコ殴りかかってくる有咲。可愛い。

 

 

『有咲(ちゃん)可愛いな(ね)』

 

みんなが揃って口にする。

 

 

「おまえらぁ〜!!」///

 

 

今日も有咲は絶好調であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~蔵~

 

午後の授業を終え、俺は有咲ん家の蔵へ来ていた。

 

 

「これどう〜?」

 

「ん?却下」

 

「えぇぇ!!有咲なんで〜」

 

「意味がわかんねぇ」

 

 

今はみんなで文化祭ライブのポスターを作っている。ベースはりみりんと有咲が考えたが、そこに香澄とおたえが足りないとか言って描き足している。

香澄は色んな形の星を足してみたり自分達の似顔絵を足しては有咲からNGをもらっている。おたえはおたえでウサギばっかり。

おたえちゃん、ウサギ描くのは良いんだけどオッちゃんとか名前入れないでね。それ内輪ネタだから。ここのみんな以外知らないからね。

そんなこんなでポスターは完成。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、そろそろ練習するか」

 

「よーし、みんな練習頑張るぞー!」

 

「香澄は新曲の作曲な」

 

 

そう言って立ち上がったばかりの香澄を有咲が再度座らせる。

 

 

「俺も手伝ってやるから。あ、沙綾も手伝ってくれよ」

 

「え、私⁉︎何にも出来ないと思うけどなぁ」

 

「そんなことないって。な、香澄?」

 

「そーだよ沙綾!一緒に考えようよ〜」

 

 

香澄に抱きつかれ頼まれたのが効いたのか渋々了解してくれた。他三人も練習を始めたようで音が聞こえてくる。おたえは相変わらずギター上手いしりみりんも徐々に上手くなってきてる。有咲も引っ張っていってくれてるし順調みたいだな。

俺も、もっと頑張らないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、疲れたぁ」

 

「有咲ちゃん頑張ってたもんね」

 

「有咲、えらいえらい〜」

 

「子供みたいな扱いすんなーっ!」

 

結局、作曲の方はあまり進まずじまいだった。有咲達も練習を終えたようで各々片付けを始めている。俺も帰る準備するかな。

 

 

「香澄は沙綾んとこで作曲の続きだろ?」

 

「そーだよ!むーくんもくる?」

 

「いや、流石に悪いしやめとくよ」

 

香澄だけで大変だろうに。ここは沙綾に気を遣いやめておこう。そう思い、バッグを肩にかけ帰ろうとしたところを沙綾に止められる。

 

 

 

 

 

 

「別に迷惑じゃ、ないよ?」///

 

 

 

 

学生服の袖をちょこんと掴んで上目遣い。正直、かなりくるものがある。落ち着け俺、クールに決めよう。

 

 

 

 

 

 

「なら、お邪魔するわ」

 

 

俺は二つ返事で了解した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

場所は変わって沙綾の家。もう、この家の住人レベルで来てるな。帰ってからは千紘さんが既に夕飯を作り終えていたみたいでみんなで食事。

今日はオムライスみたいで純と紗南も大はしゃぎ。途中で紗南が食べ終わったのか俺の膝の上に乗ってきて少し食べづらかった。しかし、ここは山吹家。すぐさま千紘さんと亘史さんが注意して降りてくれた。やはり、しっかりと躾は行なっている。だから沙綾もこんなに良い子に育ったのだろう。千紘さん、亘史さんありがとうごさいます。(謎謝罪)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、私達お風呂入ってくるから」

 

「むーくん、覗いちゃダメだぞ〜」

 

「覗かねぇよ。ほら、早く入ってこい」

 

「は〜い♪」

 

このやりとりも慣れたものである。幼馴染故に香澄の家に泊まることも少なくなかった。もちろんお風呂も入るので、その時にいつもこのやりとりをしている。

沙綾たちがお風呂に入っている間、俺はやることが無い。夕飯の片付けは千紘さんと沙綾がやってしまっている。手持ち無沙汰になり周りをキョロキョロとしていたところを千紘さんに見つかってしまった。

 

 

「何してるの宗輝君」

 

「やることが無くて困ってます.....」

 

「偶然、ここに沙綾の小さい頃のアルバムがあるけど見てみる?」

 

「勝手に見てもいいんですか?」

 

「大丈夫よ、宗輝君にならね」

 

 

何故俺なら大丈夫なのかは聞かないでおこう。

 

千紘さんがアルバムをめくっていく。そこには小さい頃の沙綾の写真が沢山あった。どんどんページをめくっていくにつれて、沙綾の成長していく姿が分かる。

 

 

「見て宗輝君。この沙綾可愛いでしょう〜」

 

 

そう言う千紘さんの顔は、すごく穏やかで優しい笑顔だった。

 

 

「沙綾の事、大好きなんですね」

 

「当たり前でしょ。私の、私達の大切な愛娘だもの。純や紗南だってそうよ」

 

 

母親は偉大だと改めて実感する。沙綾も幸せ者だなぁ。

 

 

「アルバムありがとうございました。また見せてください」

 

「ええ、いつでも言ってくれたら見せるわよ」

 

 

俺と千紘さんの話が終わったタイミングでリビングの扉が開く。

 

 

「むーくん、ドライヤーして〜」

 

「はぁ、またか......」

 

小さい頃から香澄の風呂上がりのドライヤーは俺が担当していた。ずっとやっている内に習慣付いてしまったのだ。因みに、明日香も俺担当だ。

 

 

「母さん、何してたの?」

 

 

「沙綾のアルバムを宗輝君と見てたのよ」

 

 

「ちょ!なんで見せたの!」///

 

「ええ〜、別にいいでしょう?」

 

「先に許可とってからにしてよ!」

 

 

許可とってからなら良いんですね沙綾さん。今度は純と紗南の分も見せてもらおう。

 

 

「ほら、香澄行くぞ」

 

「は〜い」

 

 

沙綾は千紘さんと色々と話し始めたので、俺たちは洗面所へ行きドライヤーをする事にした。

 

 

 

 

 

 

ブロォォォォォ

 

 

 

「ねぇねぇむーくん」

 

「ん、なんだよ」

 

 

今はドライヤーしてるから頭は動かして欲しく無いんだが。

 

 

「文化祭ライブ上手くいくかな?」

 

「お?珍しく弱気な発言」

 

「だってさ.....」

 

 

久し振りな香澄の弱気な発言に少し驚いたが、俯いてドライヤーどころでは無くなってしまった。凹んだら上手く立ち直れないところも昔のまんまだな。

 

 

「あのさ香澄」

 

「......」

 

こいつがしょんぼりしてたら調子狂うんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は前だけを向いて走り進んでたら良いんじゃねぇか?」ナデナデ

 

 

まだ半乾きな香澄の頭を優しく撫でてやる。香澄や明日香が泣き出した時は、いつも俺がこうしてなだめてたっけな。

 

 

 

「んっ....えへへ、そうかな?」///

 

 

そう言って、香澄が顔を上に向けて微笑みかけてくる。風呂上がりなせいか少し顔が赤らめている。こういう事気にせずしてくるのも変わってないのな。

そんな香澄に少しドキッとしたのを誤魔化すように言葉を紡ぐ。

 

 

「その為には、まずは新曲の作曲な?」

 

 

「うっ....忘れかけてた」

 

 

「俺の方が心配になってきたぞ.....」

 

 

 

 

 

その会話を皮切りに両者黙り込んでしまった。しかし、実はこの沈黙は嫌いではない。香澄が笑って、その隣に俺がいる。そんな日常が堪らなく愛おしい。

そんなことを考えながらも、ドライヤーを持っている手は休むことなく動かしていた。

 

 

 

「はい、終わり。どっか気になるとこないか?」

 

 

「ないよ!むーくん、いつもありがとね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、現実はそう上手くいかず、その日の作曲はあまり進まなかった。





今回は特筆すべきことはないですね。

ん?

おたえとりみりんの出番が少ないって?



それは、主の趣向の偏りです。


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Produce 6#理由


皆さん如何お過ごしでしょうか。
最近暑くなってきましたね。ここで皆さんに一つ謝罪を。

沙綾の父親の名前をずっと勘違いしておりました.....。本当すみません。以後、気をつけるようにします。


それでは、第6話ご覧下さい。


 

 

 

 

~数日後~

 

 

「むーくんも手伝ってぇ〜」

 

「はぁ。半分ぐらい貸してくれ」

 

「やったー、ありがと!むーくん、大好き!」

 

「はいはい、オレモダイスキダゾー」ボウヨミ

 

 

何をしているかと言うと、香澄達の文化祭ポスターが完成したので校内に貼り付けているところである。因みに、新曲も何とか無事に完成した。今は俺と香澄と沙綾の三人で貼り付けている最中。

 

 

「にしても、間に合って良かったね香澄」

 

「沙綾が手伝ってくれたからだよ!だから、沙綾もありがと」

 

「ん、どういたしまして」

 

 

その後、世間話を挟みつつ三人でポスターを貼る為に校内を回っていた。そして、最後の一枚。

 

 

「やっと終わったー!」

 

「お疲れ様〜」

 

 

なんとかポスターを貼り終えることができた。ふと最後に貼ったポスターを見てみる。

 

 

「それにしても、ポスターに明るい色使い過ぎて見てると目がチカチカしてくるな」

 

「私最後まで見きれてなかったから完成品は今日みたんだよね」

 

「えぇ〜、みんなで作った感じが出てて良いじゃんか!」

 

 

そうは言っても、ベースから考えればかなりの変更点がある。その変更点のほとんどが香澄とおたえなのは言うまでもない。

 

 

「それに、沙綾の名前もあるんだよ!」

 

「......」

 

 

 

それについては薄々俺も沙綾も感づいていた。しかし、沙綾は敢えて言わなかったのだろう。また、()()()()()()()に成りかねないのを危惧しながらも言えなかったのだろう。

 

 

 

「香澄、この後はクラスの手伝いじゃなかったか?」

 

「あ、そーだった!むーくん、先行ってるね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがと、宗君」

 

「なんで香澄達に()()()を言わないんだ?」

 

「......ごめん、私も先行ってるね」バタッ 

 

 

 

 

優しい沙綾にとってこれは苦しい決断なのだろう。俺だって、逆の立場だったら凄く言いづらいと思うし、こっちから積極的には言えない。そのせいで、仲違いしてしまう可能性だってあるわけだ。

 

 

 

「沙綾走っていったけど、何かあったの?」

 

 

そう俺に話しかけてきたのは、()()()を良く知る人物であり、俺に教えてくれた人でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ポスター見てまたバンド始めるのかと思ってたよ」

 

 

彼女の名前は海野夏希。CHiSPAというガールズバンドのギター&ボーカルをしている。そして、中学から沙綾を知る人物でもある。

 

 

「おお、夏希か。なんか久し振り」

 

「時々、廊下ですれ違ったりするからそうでもないでしょ」

 

「あ、確かに」

 

 

夏希と廊下でたまにすれ違う時は手を振ってるんだけど振り返してくれねぇんだよな。なんでだろう?もしかして、無視して軽くいじめられてる?

 

 

「なんで分かってんのに手振ってくれないの?」

 

「は、恥ずかしいからに決まってんじゃん!!」///

 

「てっきり無視されてるのかと思ってたぞ」

 

 

取り敢えず無視されてなくて良かった。無視されてたら死んでたぞ、精神的に。それにしても、恥ずかしいからって振り返してくれてなかったのか。夏希可愛い、口には出さんが。

 

 

「それより、沙綾のことなんだけど.....」

 

「ああ、もう文化祭まで時間がない。香澄達にも話してくれるか?」

 

「分かった。じゃあ、また放課後ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~蔵~

 

 

「お、お邪魔しま〜す」

 

「そんなに緊張しなくても良いぞ」

 

 

そして、放課後になり香澄達が先に集まっている蔵に夏希を連れてきた。夏希は初めて有咲ん家に来るので緊張してるみたいだ。香澄達には、夏希についてあまり詳しくは伝えていない。

 

 

「えーと、初めまして。海野夏希と言います。中学で沙綾とバンド組んでました」

 

 

そして、夏希が()()()について話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———————————————ということなの」

 

 

夏希が話し終えると、その場が少しの間静まる。真っ先に口を開いたのは香澄であった。

 

 

 

「沙綾、そんなことがあったんだ......」

 

「私達、それを知らずにバンド一緒にやろうなんて言ってたんだな」

 

 

各々思った事を口に出している。でも、沙綾だってバンドはやりたいはず。

 

 

「それでも、俺は沙綾に入って欲しいな」

 

 

俺がそう言うと、全員がこちらを向く。

 

 

「沙綾のことだって考えてあげないといけないけど、まずは香澄達の思いをぶつけてみようぜ」

 

 

 

「そう、だね。ありがとむーくん」

 

「沙綾と5人で新曲もポスターも作ったもんね」

 

「うん、頑張って私達の思い全部伝えようよ」

 

「まぁ、今から他のやつ探すのもな.....」

 

 

決まったみたいだな。きっと、沙綾が入れば最高のバンドになるはず。そう信じている。

 

 

 

「じゃあ、私いまから沙綾ん家行ってくる!」

 

「香澄頼んだ」

 

「他人事でいいのかよ有咲」

 

「私達の想いは一つだろ。だから、香澄に後は任せる」

 

「なら俺もついていくかな」

 

 

流石にいきなりは迷惑なので、俺はスマホで沙綾に"今から行ってもいいか"とメールを送る。数分後にはokの返事が来たので、そこから香澄と一緒に沙綾宅へ向かった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

『お邪魔しま〜す』

 

俺も香澄も、ドアを開けると同時に迷惑にならない程度の声で挨拶を済ます。最初に出てきたのは純と紗南であった。

 

 

「お兄ちゃん、今日は何する〜?」

 

「悪いな紗南。今日はお姉ちゃんに用事があるんだ。だから、また今度な」

 

「ちぇ、つまんないの」

 

「そんなこと言ってると千紘さんにチクっちまうぞ純」

 

 

そう言って、何とか子供二人を部屋に返した。俺たちがリビングのトビラを開けると沙綾と千紘さんが洗濯物をたたんでいるようだったので、俺も手伝う事にした。

 

「沙綾、俺も手伝うよ」

 

「良いよ、先に部屋上がってて」

 

 

なんか沙綾、少し怒ってる....?

 

 

バサッ

 

「こら、沙綾。悪い癖出てる。なんでも一人で抱え込まないの」

 

「......」

 

千紘さんが沙綾にタオルを被せる。多分、こういうこと多いんだろうな。俺でも少し気付いたぞ。

 

「洗濯物は良いから、お話があるんでしょ?」

 

「すみません千紘さん。少し沙綾借りますね」

 

「貰ってくれても良いのよ?」

 

「あ、あはははは.....」

 

こんな時にも冗談入れてくる千紘さん。空気を読んで言ってくれたのか?そうだとしたらこの人には敵わないな。

そして、俺たち三人は沙綾の部屋は移動した。

 

 

 

 

「さっきはごめんね、ちょっと考え事してて」

 

「全然気にしてないよ」

 

部屋に行くと、いつもの沙綾に戻っていた。否、いつもの沙綾のように振舞っていたというべきか。

 

「それで、話って何?」

 

「あのね沙綾。昔のバンドの事、夏希ちゃんに聞いたんだ」

 

「そっか、ナツに聞いたんだね」

 

「だって、沙綾何も言ってくれないし.....」

 

ここで少しの間、静寂が部屋を支配する。俺も話に加わろうと思ったが、今は香澄に任せようと思い静かに話を聞いていた。

先に口を開いたのは香澄だった。

 

 

「このままじゃ嫌だなって。沙綾がドラム叩いてるとこ見てみたい!」

 

「他の人探してよ」

 

「沙綾がいい!新しい曲だって沙綾と一緒に作ったもん!」」

 

香澄が強めに言い返す。

 

「無理だよ。練習してないし、迷惑かけるよ。それに、家の手伝いだって」

 

「一緒にやろうよ!」

 

沙綾が渋っている中、香澄は変わらず誘い続けている。

 

「もう、バンドやる気はないから」

 

「なんで?」

 

 

「......帰るの遅くなりたくないんだ。純や紗南達寂しがっちゃうし。それに、お母さんも無理しようとするし」

 

 

千紘さんの件については同意できる。身体が弱いにも関わらずあの人無理するからな。純や紗南だってそうだ。まだ小学生で小さい。今が遊び時なのに、家に帰っても二人しかいないのはつまらないだろう。

 

 

「私、あの時まで知らなかったんだ。純達凄い泣いてたし。ナツ達には迷惑かけたけど.....。だから、もう迷惑かけたくないんだ」

 

「私も迷惑かけた!沙綾にいっぱい!」

 

「迷惑だなんて、そんな......」

 

「私も迷惑だなんて思わない!だから、一緒にやろう?」

 

「......」

 

 

沙綾は黙ったまま俯いてしまっている。

 

「家が大変なら手伝うし、純君や紗南ちゃんとも遊ぶ。放課後ダメなら昼休み!」

 

「ダメだよ....」

 

「ダメじゃない!」スッ

 

香澄が沙綾の手を取って顔を伺う。しかし、沙綾の答えは変わらなかった。

 

スッ

 

「....ッ!なんでダメなの?あんなに楽しそうだったのに....。バンド、嫌いになっちゃった..,.?」

 

その香澄の言葉を聞いて、沙綾が声を荒げて立ち上がった。

 

「そんなわけないじゃん!香澄には分かんないよ!ライブ失敗して、みんなに迷惑かけて。自分より私のこと優先して....。そんなので楽しいわけないじゃんか!」

 

「みんな私のこと気遣って大丈夫だよって.....。大丈夫なわけないじゃん!!それでみんなは楽しいの⁉︎楽しいわけないじゃん!.....みんなに迷惑かけるからバンド辞めたのに。今更、出来ないよ.....」グスッ

 

 

俺は、初めて沙綾の心の内を聞くことができて内心嬉しかった。それを聞いてもなお香澄は.....

 

 

「出来るよ....」

 

「無理だよ!!」

 

「出来るよッ!!」ポロポロ

 

そう言い返す香澄の頬に一筋の涙が流れる。

 

「何でも一人で考えちゃうのずるい!!ずるいずるい!!.....一緒に考えさせてよ」

 

『.......』ポロポロ

 

それから、両者押し黙ってしまった。沙綾は、今まで思っていたことを曝け出した。そして香澄は、それでも尚一緒にバンドをしてほしいと伝えた。

 

 

 

「うぇーん!喧嘩しちゃ嫌だよ!!」

 

 

いつから聞いていたのかは定かではないが、このやり取りを紗南も聞いていたらしく、それを喧嘩と思ったのだろうか泣いている。俺は紗南に近寄りそっと頭を撫でてやる。

 

「紗南、喧嘩なんてしてないぞ〜。泣いたフリだ」ナデナデ 

 

 

紗南が泣き止んだのを見計らって下へ降りる。

 

 

 

「あれ、なんで有咲達いんの?」

 

「やっぱり香澄一人には任せられないだろ。それに、下まで声聞こえてたぞ」

 

「純君ビックリしてお店の方に行っちゃった」

 

 

なんだかんだ言って、この三人もやはり気になっていたのだろう。

 

 

「さ〜て、帰るか」ガタッ

 

「え?有咲ちゃん?」

 

「どっちみち、こんな状態じゃ話なんて出来ないだろ」

 

確かに有咲の言うことにも一理ある。一度、お互いに考える時間が欲しいところだ。

 

「私はライブなんてどーでもいいけど。.....知らない人よりは良いかな」

 

「私も沙綾ちゃんと一緒に出来たら嬉しいな!」

 

「新曲のデータ、送った」ポチッ

 

 

「無理だってば....」

 

「待ってる、待ってるから!!」

 

香澄達は帰ってしまった。今は俺と沙綾と紗南の三人である。ようやく出番かな....

 

 

「沙綾、俺も香澄達と同じだ。沙綾にバンドに入ってほしい。もうライブまでに時間が無い.....。アイツらも一生懸命練習してる。それは、沙綾も近くで見て感じてるはずだ」

 

「そんなこと言われたって.....」

 

 

 

「.....待ってる」

 

そう言い残し、俺も帰路へと着いた。

 

 

 

 

 

 





キリ良く終わらせようと思って長くなりました。

最近、お気に入りが少しずつですが増えてきてめちゃ×2嬉しいです。
モチベもぶち上がります。(但し投稿は早くなりません)
アニメに寄せてますが、ここはこれでいかせてくだせぇ。

あと、誤字とかあったらすみません。


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Produce 7#Poppin'Party


お久しぶりです。
本当に亀更新ですんません.....。
ちょくちょく書いてはいるんですけどね、いかんせん忙しくて。

今回、長くなりました。

7話、ご覧下さい。


 

 

 

チリリリリリ!!チリリリリリ!

 

目覚まし時計の音で今まで眠っていた意識が覚醒する。あの日から3日、今日は文化祭当日である。朝、沙綾の家に寄って一緒に行く約束をしている。香澄はクラスの手伝いで先に行くらしい。

 

 

「そろそろ準備始めるか.....」

 

 

自分に言い聞かせるように小さく呟きベッドから起き上がった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「おはようございま〜す」

 

 

沙綾の家に着いてドアを開け、少しだらしなく挨拶を済ませる。そのまま玄関で待ってようと思い腰をかけようとしていたところを千紘さんに見つかる。

 

「沙綾がご飯まだなの。少し上がっていって」

 

「了解しました。お邪魔しますね」

 

 

靴を脱ぎカバンを玄関に置いてリビングに向かう。そこには純と紗南、沙綾が朝御飯を食べていた。

 

「ごめん宗君。すぐ終わらせるから」

 

「いや、急がなくても良いよ」

 

とは言ったものの、沙綾の朝御飯終了までやる事がない。仕方ないので、大人しくソファに座っておくことにした。まぁ、たった5.6分なんだけどな。

 

 

「お待たせ。じゃあ、行こっか」

 

「おう、忘れもんないか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「後で純達と遊びに行くからね〜」

 

リビングから千紘さんの声が聞こえる。純達くるんなら、先に売店の券買っとかなきゃな。

 

ガタッ

 

 

 

「ん、何これ。宗君知ってる?」

 

「いんや、全くわからん」

 

玄関のドアを開けた時に、隙間から手紙が落ちてきたのだ。いつの間にこんなもん挟まれてたんだ?沙綾も不審に思ったのか千紘さんに聞きに行く。

 

「母さん、これ.....ッ!!」

 

「.......」

 

「どうした沙綾....大丈夫ですか千紘さん!!」

 

 

さっきまで皿洗いをしていた千紘さんが、片手をつきながら頭を抑えてうなだれていたのである。朝から少し働き過ぎていたのか体調が悪くなったのであろう。

 

 

「沙綾、近くの病院に千紘さん連れてくぞ!」

 

「でも、宗君文化祭は....?」

 

「そんなこと言ってる場合か!俺も手伝うから早く!」

 

「う、うん!分かった!」

 

 

こうして、俺と沙綾と純達で千紘さんを病院へ連れて行った。

 

 

 

 

 

~花咲川学園~

 

 

「沙綾ちゃん来ないね....」

 

「香澄、家行ったんだよね?」

 

「うん、ちょっとだけ」

 

確かに私は沙綾の家に行った。しかし、やったことと言えば手紙をドアに挟んだ程度。結局、沙綾に会えずじまいだった。

 

「パン届いたよ〜。香澄、来て」

 

「うん、わかった」

 

 

 

バタバタバタ

 

 

「助っ人来たよ〜」

 

『おはようございます!』

 

沙綾のお父さんがやまぶきベーカリーのパンを持ってきてくれていた。私も手伝おうとしたが、既に運び終わったらしく車の荷物置きには何もない。

 

「サイン、貰えるかな?」

 

「あ、はい!」

 

私は、何故沙綾が学校へ来てないのか気になってしょうがなかったので、沙綾のお父さんに聞いてみることにした。

 

「あの、沙綾は?」

 

「今朝、妻がね....」

 

「ッ!!」

 

もしかして、沙綾のお母さんに何かあったのだろうか。そんな私の気持ちが顔に出ていたらしく、沙綾のお父さんが続けて話し出す。

 

「いや、大したことはないんだ。昔から貧血気味でね。それで、娘が病院に連れて行ってるんだ。宗輝君も一緒だよ」

 

「むーくんも一緒なんですね」

 

「迷惑かけてすまないね」

 

「そんな、迷惑だなんて思ってません!」

 

こんなとき、どうすればいいのかわからない。沙綾とむーくん無しで文化祭するのかと思うと、寂しい気持ちになってしまう。けれど、二人の分も頑張らなくちゃ。

 

 

「あの、こっちは大丈夫だって伝えてくれませんか?」

 

「分かったよ。それと、沙綾と宗輝君からも伝言。文化祭、絶対に成功させるように言ってたよ」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

まずは、クラスの出し物だ。まだまだやるべきことは沢山残ってる。二人の分も私が頑張るんだ。そう決心して、私は自分のクラスへ戻った。

 

 

「みんな!最高の文化祭にしよ!!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「念の為に精密検査もしますが、特に問題はありませんよ」

 

「はい、分かりました。ありがとうございます」

 

 

今、俺と沙綾は医師の人に千紘さんの様子について話を聞いていた。とにかく問題無くて良かった。先生の言葉を聞いて少し安心した様子の沙綾。

 

 

「とりあえずは安心ってところだな」

 

「うん、そうだね.....」

 

 

しかし、何かつっかかる部分があるらしく俯いたまま黙ってしまった。

 

 

「どうしたんだ沙綾。何か他に気になることでもあるのか?」

 

「私、また宗君やみんなに迷惑かけちゃってるね....」

 

 

幸い、ここには純と紗南は居ない。こんな沙綾、純達には見せられないな。病室を出てすぐの椅子に二人とも腰掛けていて、周りに患者さんも大勢いる。ちょっと場所変えるか....。

 

 

「沙綾、ちょっと着いてきて」

 

「え、ちょっと、宗君!!」

 

 

 

俺は沙綾の手を取り、病院の外へ出た。外はテラスの様になっており、綺麗な花が所狭しと咲いていた。そこにある椅子に二人揃って腰掛ける。

 

 

「沙綾、あのな....」

 

プルルルルルル.プルルルルルル

 

 

俺が話し出そうとした時、計ったかの様なタイミングで沙綾の携帯電話の着信音が鳴り響く。しかし、沙綾は自分の携帯が鳴っていることに気付いていない様子だった。

 

「沙綾、携帯鳴ってる」

 

「あ、ごめん。ちょっと出るね」

 

 

そう言って、沙綾は椅子から立ち上がり少し離れたところで話し始めた。

 

 

「もしもし....、か、香澄⁉︎文化祭はどうしたの?」

 

どうやら、電話相手はウチの幼馴染だったようで。なんでこんな時間に電話かけてきたんだよアイツ。理由は何となく察せるけどな。

 

「え、おたえ⁉︎りみも!みんなまでどうしたの!」

 

「沙綾、大丈夫か?」

 

「う、うん。なんかクラス全員いるらしくて....」

 

どうせ香澄の案だろう。沙綾を少しでも心配させまいと思ったみんなの行動に感謝しないとな。

 

「うん、こっちは大丈夫。あははは、なにそれ。え、分かった」

 

そろそろ終わるか?そう思って、俺は椅子に座って待とうと思っていたが、沙綾が俺に携帯を渡してきた。

 

「香澄が変わってほしいだってさ」

 

「ん、ありがと」

 

俺は沙綾から携帯を渡してもらい、少し離れた場所で話し始める。

 

「どうしたんだよ急に。何かあったのか」

 

「ううん、こっちは絶好調。ただ.....」

 

直接話したのにまだ心配なのか。まぁ、沙綾も沙綾で隠しきれてないところあるからな。

 

「沙綾のこと、まだ心配か?」

 

「なんでわかったの⁉︎むーくんエスパー?」

 

バカ、何年幼馴染やってきたと思ってんだよ。

 

「こっちは俺がついてる。だから、お前らは文化祭を成功させることに全力を尽くせ。それに、沙綾のことも俺がなんとかする」

 

「.....本当に大丈夫?」

 

こうなってきたら無限ループだからなコイツ。

 

 

 

「香澄、昔よく明日香と三人で山とかで遊んでたの覚えてるか?」

 

「それは覚えてるけど、急にどうしたのむーくん?」

 

「遊んでた時に、木の上に明日香の帽子が引っかかって取れなくなったの覚えてるか?」

 

「覚えてるよ!むーくんが登って取ってくれたんだよね!」

 

あの時マジで怖かったのを俺自身覚えてる.....。まだ小学生だったのに2.3mある木の上に登ったからな。お陰様で、帽子とって明日香に渡して降りるときに怪我したんだよな。

 

「おう、そのときに怪我しちゃってお前が絆創膏貼ってくれたんだよ」

 

「そーだっけ?それは覚えてないや」

 

「その時俺が言ったこと覚えて....ないよな、その様子だと」

 

「うん!なんて言ったのむーくん?」

 

そこは覚えておいて欲しかったんだけどな。記憶力悪い方だったかお前。

 

『俺はお前らの為なら頑張れる。でも、俺にだってできない事があって、お前らにしかできない事がある』

 

「的な感じの事言ったんだよ」

 

「あ、思い出したよむーくん。そのあと、怪我の治療は任せた戸山隊員って言ってた」

 

 

なにそれ、チョー恥ずかしいんですけど。なんでそこ思い出すんだよ。俺忘れてた部分じゃねーか。

 

「ま、とにかく俺にしかできないことがあって、お前にしかできないことがあるって話だ」

 

「あんまり分かんないけど分かった!むーくん、沙綾の事よろしくね!」

 

 

そう言って、早々と電話を切ってしまった香澄。自己完結して勝手に終わってもらっても困るんだが。椅子に座って待ってくれていた沙綾の元へ向かう。

 

「ごめん沙綾。香澄が電話切っちまった」

 

「ううん、話できたから大丈夫」

 

果たしてそうだろうか。本当の意味で、香澄達と話すことができていただろうか。その証拠に、まだ沙綾の顔は元気とは言えなかった。そんな沙綾を見ていると、こっちまで辛くなってくる。

 

 

「沙綾、やっぱり文化祭ライブ出たいんだろ?」

 

「ッ!!なんで、そう思うの?」

 

「さっきみんなと電話してるとき、いつもの沙綾みたいに笑顔だったからだ」

 

沙綾は自分でも気づいていない様子だった。

 

「でも、やっぱり無理だよ。こうやって、また迷惑かけて無理させちゃって。私、なにも変わってないね」

 

「だったら、今変わればいいじゃんか」

 

「今、変わる?」

 

沙綾は分からない、という風な顔だった。

 

「そーだよ。今この瞬間から変わればいい。ていうより、俺からしたらもう沙綾は変わってきてる」

 

「変わってないよ。今こうして、宗君に迷惑かけてる」

 

「俺は迷惑だなんて思ってない。香澄達もそんなこと思ってない」

 

「バンドなんかしてたら、家の手伝いできなくなる」

 

「俺が今より頑張れば大丈夫だ」

 

「......」

 

沙綾が黙って俯いてしまった。そして、沙綾の頰には一筋の涙。訴えかけるような声で話し出す。

 

「宗君は、それで楽しいの?自分が、損してる、だけじゃないの?」ポロポロ

 

「俺は楽しいさ。現に今まで手伝いして、バンド練習に付き合って楽しくなかったことなんて一度も無いさ。口には出さねーけどな」

 

「なんで、そう思えるの?私には、もう無理だよ....」ポロポロ

 

「なんでって言われてもな。みんなの幸せが、俺の幸せなのかもな。大袈裟だけど、そう思ってる。沙綾の笑顔みてたら、こっちまで笑顔になってくるんだよ。沙綾は、香澄達と一緒にいて楽しいだろ?」

 

「それはそうだけど....」

 

 

どうしても踏ん切りがつかない様子の沙綾。今の沙綾が、どことなく落ち込んでる香澄と重なって見えてしまう。少し触れれば簡単に崩れそうで、風が吹けば簡単に飛んで行ってしまいそうな。

 

 

そんな沙綾に近付いて、抱きしめる。

 

「え、宗君。どうしたの?」

 

「俺みんなが笑って過ごしてるところ側で見てるのが、最近の一番幸せな事だったんだよ。香澄とおたえが変なこと言って、有咲がそれにツッコミいれて、りみりんと沙綾がそれみて笑って。そんな何ともない日常が俺にとって大切だったんだよ」

 

「......」

 

沙綾は黙って話を聞いてくれている。

 

「沙綾の分、俺が頑張るからさ。家の手伝いとか純達の面倒とかちゃんと見るし。千紘さんにも無理させない。俺にできることは全部やる。困ったら俺を頼ってくれ。そのかわり、俺が困ったら沙綾に頼るからその時はよろしくな」

 

「....うん」ポロポロ

 

沙綾につられて俺も泣きそうになってしまう。そんなところは何としてでも見せないようにしないと。

 

「だから、沙綾のしたいことしてくれ。もっと甘えていいんだ、もっと我儘になってもいいんだよ。迷惑かけたくないんなら、俺を頼ってくれ。俺がずっと側で支えるから」

 

「本当に...いいのかな?」ポロポロ

 

「そんなに俺が頼りないか?」ナデナデ  

 

その言葉を皮切りに、沙綾は俺に抱きついてきて周りを気にせず泣き出してしまった。幸い、周りには人が居なかった。そんな沙綾の頭を撫でながら、抱きしめていた。朝からパンの支度をしていたからか、抱きしめた時に、甘く鼻腔をくすぐるような匂いがしてくる。

 

 

「大丈夫か、沙綾」ナデナデ

 

「うん、大丈夫。それに、もういいよ」///

 

「よし、なら早く準備して行かなきゃ間に合わないな」

 

「うん、ありがとね宗君」

 

そう言う沙綾の顔は、今日の天気と同じような晴れやかな顔だった。

 

「俺は、千紘さんの様子見てから行くから。先に行っててくれ」

 

「.....宗輝。こっち向いて」

 

俺は病院に帰ろうと思い歩いていたが、沙綾に突然名前で呼ばれ反射的に振り向く。

 

その瞬間、俺と沙綾の距離が零になる。

 

 

「さ、沙綾!」///

 

「これは、私を救ってくれたお礼。ちょっと少なかったかな?」ニヤッ

 

先程まで、自分の腕の中で泣きじゃくっていた女の子とは思えない、悪戯が好きな女の子の顔をしている沙綾。普段とのギャップにやられて俺の顔は真っ赤だ。控えめに言って、超可愛い。

 

「んな!馬鹿言ってないで、早く行ってこい!」///

 

「はーい、行ってきます!」

 

そう言って、準備をする為に沙綾は行ってしまった。最後の最後でやられちまったな。まぁ、あの様子なら大丈夫そうだな。

 

安心しきっているところに、後ろから声をかけられる。

 

「あの子も宗輝君には、あんな顔するのね」ウフフ

 

「千紘さん⁉︎見てたんですか....。それより、お体の方は?」

 

「もう大丈夫。とりあえず、今日は安静にしておくわ」

 

本人の口から大丈夫宣言がでたので一安心。病院にいるなら無理もしないだろう。純や紗南達もいるしな。

 

「早く行かないと間に合わないわよ?」

 

「ありがとうございます。あと、お願いを一つ聞いてもらってもいいですか?」

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

 

 

結果、文化祭は大成功。クラスの出し物は繁盛、香澄達の文化祭ライブも沙綾を加えた5人で無事終えることができた。俺はギリギリ間に合ったので、体育館の後ろの方で眺めていた。5人ともが楽しそうにライブしているのを見て、少し涙が出てしまったのは内緒の話。

そして、今は有咲の家の蔵でみんな集まっている。

 

「みんなお疲れ様〜!」

 

「本当に、あの時はどうなることかと思ったぞ」

 

「そんなこと言って、有咲あんまり心配してなかったでしょ」

 

「んな!そんなわけあるか!」

 

テーブルにお菓子とジュースを各々広げ、文化祭成功のお祝いをしていた。しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎ去るもので、時計の針は既に21時を指していた。あまり遅くなるといけないので俺が立ち上がり手を叩いて注目を集める。

 

「よし、じゃあこの辺にして今日は解散な」パチパチ  

 

「帰りが遅くなるといけないもんね」

 

流石りみりん、そこんとこわかってくれて助かる。それぞれが帰る支度をして、蔵の出口に集合する。

 

「本当に今日はお疲れ様。みんなゆっくり休んでな」

 

『おつかれさま〜』

 

「.......写真撮りたいな

 

みんなの声にかき消されてよく聞こえなかったが、有咲が何か言った気がする。

 

「有咲、何か言ったか?」

 

「記念に、みんなで写真とか.....撮りたいなって思ったり」///

 

「よし、撮ろう。今すぐ撮ろう」ガシッ

 

「ふえっ!いきなり肩掴むなぁ!」///

 

ただでさえ美少女の有咲に、顔を赤くしながら服の袖を引っ張られながら頼まれて断る男子がいるだろうか。いや、居ない。そんなことは断じて許さん。

 

 

「じゃあ取るよ〜。はい、チーズ!」パシャ

 

撮影は、慣れている沙綾に任せることにした。もちろん、内カメラで自撮りだ。少し窮屈な態勢にならないと全員映らない為、みんなが体を寄せ合っている。必然的に、密着するので女の子特有の柔らかい感触や甘い香りが俺を誘惑してくる。そんな状態でいつまでも俺が理性を保つことは難しい為、2.3枚撮って終わりにした。なんで、女の子ってあんなにいい匂いすんの?

 

「よし、じゃあ今度こそお疲れ様だ」

 

『じゃあね〜』

 

 

 

 

そして、その帰り道。

 

 

「今日の文化祭楽しかったな〜」

 

「それはようごさんした」

 

俺は香澄と一緒に帰っている。今日はコイツの家に泊まるからだ。別に泊まるからと言って変な事は一切起きない。今まで起きたこともないからな。

 

「ありがとね、むーくん。お陰で助かったよ」

 

「俺はなんもしてねーよ。文化祭が成功したのはお前ら自身の力だ」

 

「ふふっ、むーくんは昔と変わらないね」

 

お前もな、と心の中でツッコミを入れる。諸行無常、常に変化していく中で変わらず有り続けるものもあると俺は思ってる。それは人それぞれで、人となりであったり友情だったり、はたまた愛だったりもするかもしれない。

そんな中、俺は変わらず有り続けようと思う。コイツらを支える存在として。

 

 

「香澄、これからもよろしくな」

 

「うん!こちらこそよろしく、むーくん!」

 

 

 

 

 

しかし、この時俺はまだ知らない。

 

 

これから始まる、ガールズバンド時代へ自分も巻き込まれていってしまうことを。

 

 

 

 

 





これでやっと他のバンドの子達を出すことができます。
また亀更新になるかもしれませんが、それでも良ければ読んでやってください。
誤字脱字もあるかもしれません.....。


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Produce 8#新しい日々


亀更新かと思いきや連日投稿。

どんどんお気に入りが増えてきて嬉しみの極みです。
昨日は、お気に入り登録者の皆さんのページに飛んで、お気に入り小説一覧に自分のものがあるのをみてニヤニヤしてました。
お気に入り登録どんどんお待ちしております。感想もね。
今回から他のバンドメンバー出していきます。

それでは、8話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

「むーくん、おっはよ〜!」

 

「ん、おはよ。朝っぱらから元気だな」

 

 

 

いつもと相変わらず、俺の朝はコイツから始まる。一緒に学校に行くために迎えに来たのである。ほとんど一緒に登校している為、周りからは付き合ってるとか噂されているらしい。まぁ、俺も香澄もあんまり気にせず生活してる。

 

 

 

「あれ、明日香は?」

 

「一年生は遅めなんだって」

 

「そっか、ならしゃーない」

 

 

 

文化祭から時は過ぎて、今は4月。その間色々あったが、俺たちも2年生になり今日から先輩だ。花咲川の近くにある羽丘も今日入学式である。その為、羽丘に入学する明日香の制服姿を見ようと思ったのだが、どうやら一年生は登校時間が遅いらしい。入学式までNG食らってて我慢してたのにな。

 

 

 

 

 

 

そうこう言ってても仕方ない為、いつものように香澄と一緒に登校した。

 

 

 

 

 

 

 

~花咲川学園~

 

 

 

「入学おめでとう!」

「入学おめでとう」

 

 

 

俺と香澄は、入学式に来た一年生に胸につける花を渡している。何故こんなめんどくさい役をしているのかって?香澄が最初に手を上げて立候補したまではいい。そこからトントン拍子で相方が俺に決まった。なんでなのん?

 

 

「二人共、お疲れ様」

 

「おお、美咲と....花音先輩。どうかしました?」

 

 

 

そこへ現れたのは、ハロー、ハッピーワールド!というガールズバンドで活躍している俺たちより一つ年上のドラム担当の松原花音先輩と、DJミッシェルの中の人である同い年の奥沢美咲。他にもいるが、後は問題児だらけなので後々紹介するとしよう。

 

「えっとね、遠くから見えたから様子を見に来たんだ」

 

「そーだったんですね。わざわざ来てくれてありがとうございます」ペコリ

 

「明らかに私の時と反応が違うんですけど」

 

「なんだよ、妬いてんのか美咲」

 

「はぁ、相変わらずそこらへんは鈍いんだね.....」

 

 

 

俺にはどこらへんが鈍いのか分からないが、苦労人の美咲がそう言うのだからそうなのだろう。ちょっと自分を見つめ直してみるかな。

 

 

そんなこんなで、途中から美咲や花音先輩も手伝ってくれたおかげで効率は上がり楽に終わった。その場で花音先輩とはお別れして、美咲とは同じクラスなので三人で教室へ戻った。

 

 

 

「あれ、意外と早かったじゃん。って、奥沢さんがなんで?」

 

「手伝ってくれたんだよ、有咲!」

 

「まぁ、気まぐれってやつですよ」

 

 

 

教室に入って、いの一番に話しかけてきたのは有咲だった。残念ながら、他のポピパメンバーとは違うクラスになってしまった。

 

 

 

「もうすぐ入学式始まるから体育館行こうぜ。みんな先に行ってるからな」

 

「有咲待っててくれたのか?」

 

「べ、別にウチのクラスがどこら辺並ぶか分からなかったらいけないとか、時間に間に合いそうになかったら私も手伝おうかなとか全然思ってないからな!」///

 

 

 

いつにも増して早口で本音の部分を曝け出す有咲。二年生になってもツンデレ有咲は健在である。もう国の宝ってことでよくね?

 

「はいはい、デレてる有咲は可愛いがそれは後にしてくれ。とりあえず体育館行って入学式だな」

 

「デレてねー!ちっともデレてねーかんな!」///

 

 

 

顔を真っ赤にしてポカポカと叩いてくる有咲。もはや狙っているとしか思えないこの行為も有咲ぐらいの美少女なら許せる。むしろやってほしいくらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———————良い、高校生活に、なりますように」

 

 

体育館のステージの上に立ち在校生代表の挨拶をしているのは、美咲達と同じくガールズバンドの一つ"Roselia"でキーボードを担当している白金燐子先輩である。

人とコミュニケーションを取るのが苦手だが、そんな自分を変えようと生徒会長になったらしい。新入生は燐子先輩の代表挨拶に耳を傾けている。決して燐子先輩のスタイルのいい身体目的で見ているのではない。仮にそうだとしたら、そんな奴は俺が制裁を与えてやる。

 

 

 

 

「とうとう始まるね、むーくん」

 

「ああ、今年も同じクラスで変わらないけどよろしくな」

 

「うん、よろしくね!」

 

 

 

 

 

こうして、新学期が幕を開けたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

入学式の日は早く終わるもので、お昼から帰れることになっている。一年生は期待に胸を膨らませ、二、三年生は今までと変わらない日々を送る。当然、俺の生活も変わらない。

 

 

「むーくん、今日は予定ないの?」

 

「いや、まりなさんから救援要請が入った」

 

「きゅーえんようせい?」

 

 

 

なんだよ、意味わかんないのか。香澄の頭の中も相変わらずである。

 

 

 

「つまり、今日もCiRCLEでバイトだ」

 

「私達、今日練習するつもりだったから会えるね!」

 

 

 

いや、お前らは練習かもしれんが俺はバイトだからな。

 

 

 

 

俺がCiRCLEというライブハウスでバイトを始めたのは今年に入ってからだ。千紘さんの体調も回復してきて、今は二人に少し任せている。もちろん、俺が手伝いに行くこともあるけどな。あまり行き過ぎると逆に沙綾に怒られるんだよなぁ。

主に千紘さんが沙綾をいじり過ぎてだけどな。

 

 

 

「終わったらすぐきてって言われてるから、もう行くぞ」

 

「じゃあまた後でね〜」

 

 

そうして俺は、重い足取りでCiRCLEへと向かった。

 

 

 

 

~CiRCLE ~

 

 

歩いて数十分、やっとCiRCLEへ到着した。気温はそこまで高くないお陰で汗はかかなかったが、日差しが強いので結局は暑いのだ。まりなさんを待たせるわけにも行かないので中に入る。

 

 

「まりなさん、急にシフト入れるのは勘弁.....」

 

 

しかし、ドアを開けて最初に出会った人物は俺の想像とは違ったものだった。

 

 

「あれ、宗輝じゃん!今日もバイト?」

 

「なんでリサがいるんだよ....」

 

「それは、練習に来たからに決まってるでしょう」

 

「紗夜さん、風紀委員の仕事無かったんですか?」

 

「既に終わらせてますから、何も問題ありません」

 

「さいですか....」

 

 

この二人は、燐子先輩と同じくRoseliaのギター担当である氷川紗夜さんと、ベース担当の今井リサ。紗夜さんは花咲川の風紀委員長、リサは羽丘の三年生。

 

 

 

「ばばーん!我は大魔神あこ.....って、宗輝じゃん、どーしたの?」

 

「あこちゃん、待ってよ....」ハァハァ

 

 

 

俺の後ろから入ってきたのは、ドラム担当の宇田川あこ。今年羽丘に入学した一つ年下の女の子だ。所謂中二病患者だな。そして、あこを追ってきたのであろう燐子先輩。

 

 

 

「おお、あこの制服姿初めて見たぞ。似合ってて可愛いな」ナデナデ 

 

「んふふ〜、そうかな?」///

 

『......』ジ-ッ 

 

 

い、いかん。つい癖で頭を撫でてしまった。お陰で周りから凄い見られてる。主に先輩三人だが。

 

 

 

「あこ、燐子遅いわよ。全員揃ったなら始めるわ」

 

 

 

そんな雰囲気をもろともせず、奥から出てきたのは"孤高の歌姫"で一時期有名になり、今はRoseliaのボーカルである湊友希那。コイツの歌声に関してはマジでプロレベルだと俺は思う。そうして、全員揃った所で中に入っていった。

 

 

「あの〜、いきなりごめんね宗輝君」

 

「まぁ、まりなさん一人じゃ厳しそうですからね」

 

「本当に助かるよ。今日はRoseliaの他にハロパピとパスパレもくるから」

 

 

 

確かにこの量はまりなさんだけじゃ無理だな。香澄達も来るって言ってた気がするぞ。しかも、パスパレってことは....嫌な予感するな。

 

 

「ポピパも来るって言ってましたよ」

 

「嘘⁉︎私何も聞いてないよ!」

 

 

 

俺が香澄に確認したら"うん、何も言ってないよ!"との返事が返ってきた。まりなさん、マジですんません。今日はまりなさんに極力負担かけない様にしよう。

 

 

 

~一時間後~

 

 

「じゃあまたね、宗輝!」フリフリ

 

「おう、またこいよ」フリフリ 

 

 

Roseliaの練習が終わり、みんなが帰っていくのを手を振りながら見送る。さて、次はどこが来るんだ?

 

 

 

「おじゃましま〜す」

 

「お、美咲じゃん。ていうことは....」

 

「あら、宗輝じゃない。どうしてここにいるの?」

 

「あ、本当だ。むーくんだ!」

 

「あぁ、儚い.....」

 

 

 

とうとう来ちまったか、ハロハピの三馬鹿。金髪のロングヘアーの女の子がボーカルの弦巻こころ。天真爛漫な彼女であるが、花咲川では"花咲川の異空間"と呼ばれている。

その隣の橙色のショートヘアの子がベース担当の北沢はぐみ。こころと同じくよく分からん子だ。そして、隣で儚い....とか言ってる人がギター担当の瀬田薫先輩。この三人が三馬鹿とか言われてる人達ね。

 

 

 

「あれ、花音先輩は?」

 

「それがですね、道に迷ったみたいで....」

 

方向音痴なの知ってるんだから、一緒に来いよお前ら。

 

「でも大丈夫だと思うよ。ほら、これ見て」

 

美咲が携帯をこちらに向けてきた。その画面には花音先輩とポピパメンバーが映っている。下の方に"花音先輩を拾ったので連れて行きます"とのこと。多分有咲だろうな。

 

「花音先輩来るまでそこに座って待っててくれ」

 

 

花音先輩が来たのは、それから十数分経った頃であった。

 

 

 

 

~さらにニ時間~

 

 

花音先輩と合流して、ハロハピとポピパにはスタジオ入りしてもらった。あまり場所も広くないので合同練習ということで一緒に入ってもらった。それから、まりなさんと俺で他のやるべき事を済ましているうちに練習が終わったみたいだ。

 

 

 

「この後、みんなでどっか行かない⁉︎」

 

「かーくん、それいいね!」

 

「なら、みんなで遊びに行きましょう!」

 

 

 

という風な流れで、みんなでこの後遊ぶらしいです。バイト無かったら俺も行きたいんだけど。バイトさえ入ってなければ。

 

 

「大丈夫宗輝?しんどくない?」

 

「ありがと沙綾。ほら、みんなと遊びに行くんだろ」

 

「うん、無理はしないでね」

 

 

そんなこと言ってくれるのは沙綾ぐらいである。本当に良い子だ。お嫁さんに貰いたいくらい。そんな趣旨の事を千紘さんの前で言ったら本気にしてしまうので絶対言えないけどね。

 

 

ハロハピとポピパが帰ってから数分。

 

 

「こんにちわ〜!」

 

「あら、麻弥ちゃんじゃない」

 

「先に入って機材チェックしても良いですか?」

 

「おう、大丈夫だ」

 

 

そう言って、スタジオの中にそそくさと入っていったのはPastel*Palettesことパスパレのドラム担当大和麻弥。普段は眼鏡を掛けているが、ライブの時は外して演奏するので違った雰囲気が出る。因みに、フヘッと笑うところがチャームポイント。

 

 

「むーねーきー!!」バタバタ

 

「んな!ひ、日菜⁉︎」ドスッ

 

 

突然、飛びついてきた彼女に耐えきれず俺は床に倒れこんでしまう。

 

 

「へへ〜、宗輝だ〜」スリスリ

 

「日菜、毎回抱きついてくるのやめてくれって何度も言ってるだろ....」

 

「えー、このほうがるんっ!とくるじゃんか」

 

 

俺の嫌な予感は見事的中、毎回会う度にこうなっているのである。彼女はパスパレのギター担当氷川日菜。紗夜さんの妹だが、性格は真反対である。るんっとくることが大好きである。日菜曰く、俺はるんっ!の塊だそうだ。

 

 

「日菜ちゃん、そろそろやめてあげて」

 

「ちぇ、もうちょっとしたかったな」

 

 

文句を垂れながらも離れてくれる日菜。新たにドアから入ってくる人影が三つ。

 

 

「ムネキさん、大丈夫ですか?」

 

 

若干片言が混じって話している子の名前は若宮イヴ。パスパレのキーボード担当だ。フィンランドと日本のハーフで綺麗な銀髪を肩辺りで三つ編みにしている。どういう影響か武士道(ブシドー)を極めようとしているらしい。

 

 

 

「日菜ちゃんの仕業だね....」

 

 

 

続けて入ってきたピンク色の髪をセミロングくらいの長さまで伸ばしている女の子。パスパレのボーカル担当の丸山彩と言ったら有名だ。良くライブやテレビ番組で噛んでるけどな。けど、そこが可愛らしいポイントでもある。

 

 

「宗輝君、大丈夫だった?怪我はない?」ナデナデ

 

「千聖さん、大丈夫ですから....」

 

 

 

そして、最後に入ってきて俺の頭を撫でながら無事を確認してきたのは、天才子役として名を馳せ現在では女優として活躍もしている白鷺千聖。パスパレではベースを担当している。千聖さんは何かと俺を甘やかしてくる節がある。燐子先輩や紗夜さん辺りは敬語で話しているが、他の先輩方は大体タメ語で話している。そうしてくれと頼まれることが多いのだ。しかし、千聖さんは何故かお姉ちゃん呼びを強要してくる。この歳になって、一つ上の先輩をお姉ちゃん呼びはかなり辛い。

 

 

 

「麻弥が先に入ってますんで、みなさんもどうぞ」

 

 

そうやって、スタジオへパスパレメンバー四人を案内する。これで、今日の大体の仕事は終わりだ。後は、終わるの待つだけ。そう思い、椅子に座ったのが運の尽き。俺は、5分と経たない内に眠ってしまったのである。

 

 

 

 

~一時間後~

 

 

 

 

「.....ん、あれ?」

 

 

椅子に座ってからの記憶がねぇな。疲れて眠ってしまったのだろう。しかし、なんだか自分の態勢がおかしい。椅子に座って寝てたはずなのに、今は横になっている。

 

 

「あれ、宗輝起きた?」

 

「なんで日菜がいるんだ?」

 

「そりゃ、私が膝枕してるからだよ〜」

 

 

どうやら、俺は日菜に膝枕されて寝てたらしい。やだ、恥ずかしい。

 

 

「どのくらい寝てた?」

 

「私達もさっき終わったところだから小一時間ってとこかな」

 

「なんかごめんな日菜」

 

「良いよ、私も満足したし。まりなさんが今日はもう帰って良いって」

 

 

 

俺が態勢を起こそうとするが、それを日菜に妨げられる。

 

 

「日菜、なんで邪魔するんだよ」

 

「もうちょっとこのままでいようよ。学校も違うからそんなに会えないし」

 

「それはそうだけどな。まぁ、日菜と一緒に学校通えたら楽しいだろうな」

 

「ふっふーん、良いこと思いついたよ宗輝♪」

 

あ、これはやっちまったな。絶対めんどくさくなるやつだわ。もう、知らない。

 

「とりあえず、今日は解散な」

 

 

 

俺は若干強めに日菜を振り払い帰る支度を始める。日菜は鼻歌を歌いながら出て行ってしまった。明日からめんどくさいことに巻き込まれそうな予感がプンプンしてくるなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝のその予感も、見事に的中してしまうのであった。





モチベーション上がったら連日投稿できるかも

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羽丘学園編
Produce 9#いざ、羽丘へ



またしても連日投稿。
他のバンドの子を混ぜ始めると、それだけでモチベーション上がりますな。
あ、アンケートの投票お願いします。

それでは、9話ご覧下さい。


 

 

 

「斎藤宗輝君、君には明日から羽丘学園へ生徒として通ってもらいます」

 

突然、ウチの校長先生に呼び出されたと思ったらそんなことを言われてしまった。

 

当然、俺の反応は決まっている。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

こんなことになったのは、ちゃんとした理由がある.....と思いたい。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

しかし、理由なんてものは簡単すぎるほどだった。

 

 

「えー、絶対楽しいよ。るんっとこない?」

 

案の定、日菜の仕業でした。そんなに生徒会長って権限あんの?というより、羽丘の校長も校長だ。日菜の説得に応じてしまうのだから。もう、日菜が学校の権力握ってんじゃん。

 

 

そんなこんなで、俺は明日から羽丘の生徒になるのだった。

 

 

 

 

 

 

~戸山宅~

 

 

翌日、俺はいつも通り香澄の家に学校へ行く為に来ていた。しかし、いつもとは異なる点が一つ。俺は、花咲川の制服ではなく羽丘の制服に身を包んでいるということ。

 

「むーくん、そっちの制服も似合うね」

 

「別に嬉しくないんだけどな」

 

とは言ったものの、途中までは香澄と一緒に登校する。そして、そこに新たに一人。

 

「待ってお姉ちゃん、ボタンズレてる」

 

「ありがと、あっちゃん大好き〜」ギュッ

 

「暑苦しいから離してよ〜」

 

そう、香澄の妹である明日香も一緒に登校するのだ。羽丘の一年生だからな。というよりは、これから毎日同じだ。

 

「そんなこと言ってる明日香も、シャツの襟立ってるぞ」

 

そっと近づき襟を直してやる。明日香も明日香でどこか抜けているところが時々あるので、そこは香澄に似たのだと思う。

 

「明日香もその制服、似合ってるな」

 

「ありがと宗輝。それじゃ行こっか」

 

 

 

 

 

~羽丘学園~

 

 

途中で香澄と別れて、明日香と二人で登校してきた。周りの生徒からは奇異の目で見られていたけどな。そりゃあ、羽丘学園っていっても今年から共学になったばかり。男なんてほとんどいない。そんなわけで、唯一の男子生徒である俺と登校していた明日香にもみんなの注目が集まっていた。

 

「宗輝、本当にこっち来たんだ」

 

そう言って校門で出くわしたのは、奇跡的にも明日香と同じクラスであるあこだった。

 

「どっかの生徒会長のせいでな。本人は何とも思ってないところも度し難い」

 

「まぁ、日菜先輩も悪気があるわけじゃないと思うけどね」

 

 

少しの間、三人で話してからあこと明日香は教室へ。俺は校長室へ向かった。今日は、校長先生に話を聞いてから教室へ向かえとのこと。

 

ガラララララ

 

「失礼します」

 

どんな人なのだろうと、若干の想像をしながら校長室へ入っていく。しかし、中にいたのは校長先生ではなかった。

 

「お、きたきた。宗輝おはよー」

 

羽丘の現生徒会長である日菜がそこには座っていた。てか、それ校長先生の椅子だよね。勝手に座っちゃっていいの?

 

「校長先生と話するって聞いてたんだけどな。なんで日菜がいるんだ?」

 

「校長先生には私から既に話は通してあるから平気だよ」

 

どこらへんが平気なのか是非とも教えてもらいたいもんだ。

 

「んで、何の用なんだ?」

 

「んー、宗輝に会えたから用事済んじゃった」エヘヘ

 

 

おいおい、ウチの生徒会長も美人さんだが、羽丘の生徒会長もかなり可愛いじゃねぇか。妹に欲しいくらいだ、紗夜さんが羨ましいぜ。

 

 

「俺も朝から日菜に会えて嬉しいよ。で、俺のクラスはどこなんだ?」

 

「えーっとね、2年A組にしよっかなー」

 

あれ、決めてなかったのね日菜さん。ていうか、今決めていくスタイルね。それでいいのか羽丘学園。

 

「じゃあ、案内してくれるか?」

 

「もっちろーん!ほら、宗輝行こ!」ギュッ

 

俺は日菜に連れられて2年A組を目指すのであった。

 

 

 

~2年A組~

 

 

俺は、2年A組のドアの前に立っている。今は日菜がみんなに説明している最中だ。中からは多数の女の子の声が聞こえる。やっべぇ、緊張してきたぜ。

 

「入ってきていいよー!」

 

日菜の合図が聞こえたので、ドアを開けて中に入る。俺は、中に入った瞬間に見知った顔がいくつかあるのを見逃さなかった。しかし、ここは敢えて触れないで進めよう。

 

「花咲川からきました斎藤宗輝です。いつまでかは分かりませんがよろしく」

 

そんなありきたりな挨拶を済ませる。その後、日菜に目配せして終了の合図を送る。

 

「じゃあ、一番後ろの席ね。では、みんな仲良くしてあげてねー!」

 

そして、嵐のように去っていった生徒会長。その後に担任らしき先生が入ってきて授業が始まった。

 

 

 

一時間目が終わり、今は休み時間。案の定、周りからヒソヒソと話し声がちらほら聞こえる。そんな中、堂々と俺に話しかけてくる奴らがいた。いや、そんな気はしてたんだけどね。

 

「宗輝、ちょっときて」ガシッ

 

「強制連行しま〜す」ガシッ

 

「はぁ、ドナドナを歌いたい気分だ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~廊下~

 

「わざわざ廊下にまで出る必要あるか?」

 

「そんなことより、なんでこっちに来てんの?」

 

「それは俺が一番知りたい。日菜に聞いてくれ」

 

どうせ、楽しいとかるんっときたとか言いそうだけどな。

 

俺を廊下まで引き連れてきたコイツらは、Afterglowというガールズバンドのボーカルの美竹蘭とギターの青葉モカ。どちらもショートヘアーだが蘭は赤メッシュを入れている。モカは銀髪でゆるい感じで話すのが特徴。

 

「あー!こんなところにいたー!」パタパタ

 

「探したぞお前らー」

 

「みんな探してたよ〜」

 

 

そこへ新たにやってきたのが、残りのメンバー。走りながらやってきたのがベースの上原ひまり。彩と同じピンク色の髪で、とにかくデカイ。何がとは言わないがな。ひまりの後をついてきたのが、ドラム担当の宇田川巴。あこのお姉ちゃんである。赤髪を胸あたりまで伸ばしているスレンダー美女だ。そして、最後の一人がキーボード担当の羽沢つぐみ。茶髪のショートヘアで頑張り屋さんな女の子。ちょっと空回りすることもあるけど。

 

コイツらは全員が幼馴染でバンドを組んでいる。みんな小さい時から同じ時間を過ごしてきた仲間。俺も香澄以外に幼馴染がいたらバンドとか組んでたのかなぁ。

 

「ひまり、廊下走ってると怪我するぞ」

 

「じゃあ、怪我しないように捕まえてて」ギュッ

 

「それだと、俺が捕まえられてるんですけど」

 

ひまりは、千聖さんと真逆で俺といるときには甘えん坊になる。しかし、ひまりの場合は抱きついてくると二つの大きなお山が当たるのだ。あぁ、悲しきかな男の性よ、これには逆らえん。

 

「そーやって甘えてくるから、蘭の方がリーダーっぽく見えるんだぞ」ナデナデ

 

「んふふ〜、宗輝だぁ」スリスリ

 

こいつ話聞いてねぇな。突き放すのも気が引けるので、このまま話すとしよう。

 

「まぁ、これから同じクラスだからよろしくな」ナデナデ

 

「なんか上手くまとめられたな」

 

「モカちゃんは〜、大歓迎だよ〜」

 

「とりあえず、教室戻ろうよ。授業に間に合わなくなっちゃう」

 

つぐみの言う通り、あと数分で休み時間が終わるところだった。俺は、今なお頬ずりをやめないひまりを少し強引に離して教室へと足を運ぶ。

 

「.....ちょっとぐらい話してくれてもいいじゃん

 

 

そんな蘭の声は、宗輝には届いていなかった。

 

 

 

 

 

~放課後~

 

 

授業を難なく終え、昼休みはアフグロメンバーと一緒に弁当を食べた。今日はお昼までだそうで、そこからは自由な時間ができてしまった。いざ自由時間となっても、俺にはすることがない。

 

「とりあえず、明日香でも迎えに行くか....」

 

そんな独り言を言いながら一年生の校舎へ移動する。

 

 

 

「ごめん、戸山明日香さんいる?」

 

俺は、やっとの思いで明日香のいる1年A組へ辿り着いた。あこと同じクラスとは聞いていたが、何組かを聞いてなかったので、何人かに聞いて回った。

 

「は、はい!少々お待ちを!」

 

緊張してるのが見て取れる。俺、そんなに怖いか?そんなつもりは無かったんだけどな。

 

「どうしたの六花?あれ、宗輝じゃん」

 

「あれ、君明日香の友達だったのか?」

 

そう聞くと、無言で首を縦に振る。なんだよ、先に言ってくれたら良かったのに。

 

「朝日六花と言います!」

 

「俺は斎藤宗輝。まぁ、これからも明日香と仲良くしてやってくれ」

 

「はい!任せてください!」

 

おお、さっきまでオドオドしてたのに急に元気になったな。ちょっと分からん子だ。

 

そんなこんなで、俺は明日香と一緒に下校した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

場所は変わって、今は有咲の家の蔵。恒例の蔵練である。しかし、恒例といっても最近は俺が参加できていない。実は久し振りだったりする。

 

「むーくん、ライブしたい〜」

 

「ライブしたいって言われてもな」

 

「いっそのことCiRCLEでやる?」

 

「やめてくれおたえ、ただでさえ最近予約多いのに....」

 

テレビでは、大ガールズバンド時代とか言われている。ライブしたい気持ちも無くはないが計画性がなさ過ぎる。一から考えてやるか。俺は持っていたメモを開く。

 

「じゃあ、とりあえずみんなの予定聞かせてくれ。俺が調整してスケジュール組んどくから」パラパラ

 

「やったー!むーくんありがと!」ダキッ

 

「はい、これ私の予定表」

 

「流石有咲、細かくメモしてるんだな。ありがと、助かるよ」

 

「そんなの普通だしなー」エッヘン

 

その後、おたえや沙綾、りみりんにも予定を聞いておいた。これから、みんなの予定に合わせてスケジュール作りだ。

 

「よーし、じゃあみんな円陣しよー!」

 

「いまからやんのか?ちょっと早すぎるだろ」

 

「いいじゃん、有咲やろうよ」ガシッ

 

「ちょ、おたえやめろー!」

 

コイツらもコイツらで頑張ってんだから、俺も頑張りますかね。

 

「ほら、むーくんも一緒に」

 

香澄が俺の手を取り円陣に混ざる。

 

「せーの」

 

『ポピパ、ピポパ、ポピパパピポパー!!』

 

 

いつもと変わらない日常。コイツらがいて、俺がいる。それだけで幸せなんだと気付かされた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

~その夜~

 

 

「この日はー、ちょっと遅めにしとくかな」

 

俺は、その日の夜にみんなの予定を照らし合わせてスケジュールを作っていた。

 

プルルルル♪プルルルル♪

 

そんな中、俺の携帯に着信が入った。こんな時間に電話がかかってくること自体あまり無かった為、少し不思議に思いながら携帯を開く。そこには、湊友希那の文字があった。

 

 

「もしもし、こんな時間にどうしたんだ」

 

「貴方達、Roseliaの主催ライブに出てみる気は無いかしら」

 

 

 





モチベーションがあるうちに描いておかねば....!!(使命感)

誤字脱字は気付いたら直します。


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Produce 10#青薔薇に惹かれて

み、右手が止まらないぜ.....。
どんどんお気に入り増えてきて更にモチベup中です。
一つ謝罪を。
麻弥の漢字ミスってました、すんません。
昨日バンドリやってて気付きました。


10話、ご覧下さい。



『貴方達、Roseliaの主催ライブに出てみる気はないかしら』

 

 

友希那からその言葉を聞いて、まず最初に思ったことが一つ。

 

「なぁ、それってもしかしなくともCiRCLEでやんの?」

 

「もちろんよ。それ以外どうするのかしら」

 

「いや、聞いてないんですけど」

 

「だって、今言ったもの。まりなさんにもこれは言ってないわ」フフン

 

そこは自慢するところじゃないぞ友希那、と心の中でツッコミを入れる。口に出しても意味無いからな。後でリサに詳しく聞いとこう。

 

「とりあえず、明日会って話そうぜ」

 

「わかったわ。なら、放課後迎えに行くから」

 

「おう、じゃあおやすみ」

 

 

明日から、また忙しくなりそうだ....。

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

俺はいつもと同じく、香澄と明日香と登校してきた。昨日も思ったが、羽丘は進学校なので授業が早く始まって早く学校が終わる。明日香達はまだ授業始まってないみたいだけどな。

 

「さっきから何考えてんの?」

 

「ああ、蘭か。ちょっとな」

 

「なんか授業でわかんないところあった?」

 

別に俺は頭が悪いわけではない。こっちにきてからついていけなかったらどうしようかと思ったが、そんなことはなかった。

 

キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン

 

ここで予鈴のチャイムが鳴る。

 

「次は移動教室だっけ。蘭、一緒に行こうぜ」

 

「わかった、みんな呼んでくる」

 

主催ライブ云々の事はとりあえず置いといて、今は授業を真面目に受けるか。

 

 

 

 

 

「えー、そしてここがこうなります」

 

とは言ったものの、やはり主催ライブの事が頭から離れてくれない。忘れようとするほど考えてしまう。

 

「うーん、どうするべきか....」

 

ツンツン

 

一人悩んでいると、いきなり隣からシャーペンで頰を突かれた。

 

「何悩んでるの〜?」

 

そう言えば、この授業の隣モカだったな。すっかり忘れてたわ。

 

「蘭や香澄達にはまだ言ってないけど、Roseliaの主催ライブに誘われてるんだ」

 

「え〜、出てみなよ〜」

 

「そうは言うけどな、ポピパの方でもライブ考えてたんだよ」

 

まさかのタイミングでのお誘いに戸惑いを隠せないのだ。Roseliaの主催ライブも魅力的ではある。香澄に言えばok貰えるんだろうけどな。

 

「挑戦しないことには何も始まんないよ〜?」

 

「.....まぁ、その通りか」

 

とりあえず、放課後友希那達と話してから決めるか。

 

「ありがとな、モカ」ポンッ

 

「モカちゃんにお任せあれ〜」

 

 

「こら、そこさっきからうるさいぞ」

 

そこで、授業の担任の先生から指摘が入る。俺はモカに合わせて少し気怠く返事をする。

 

 

『は〜い』

 

 

「むーくん真似したな〜?」

 

「おう。モカのそれ、可愛いからな」ニコッ

 

「モカちゃんは〜、そういうのに騙されませんから〜」///

 

そう言って、プイッとそっぽを向いてしまったモカ。まぁ、相談に乗ってくれただけありがたい。その後は、あまり話すことなく授業を終えた。

 

 

 

 

 

 

~放課後~

 

 

「はぁ〜、やっと終わったな〜」

 

「巴、今日はなんか疲れてたね」

 

「頭使うのは苦手でさー」エヘヘ

 

アフグロのメンバーを中心に放課後何するかを話し始めた。さてと、確か友希那が迎えに来てくれるって言ってたな。

 

 

ガラガラガラガラ

 

お、早速お出ましか。

しかし、真っ先に友希那に話しかけたのは蘭であった。

 

「湊さん、ウチのクラスに何しに来たんですか?」

 

「あら、本人から聞いてないのね。宗輝を迎えに来たのよ」

 

ああ、そういえばコイツら最高にライバルしてるんだった。仲は悪くないんだけど、歌とかライブの事になるとバチバチ火花散ってるのが目に見えるからなぁ。

 

「何で湊さんが迎えに来るんですか?」

 

「それは、一緒に帰るからに決まってるじゃない」

 

友希那さんや、一緒にの部分はあってるが帰りはしませんよ。CiRCLEに行くんでしょうが。何故そこで見栄を張る。

 

「宗輝、湊さんの言ってる事は本当?」

 

「迎えに来てもらう約束はしてたよ。でも、一緒には帰らん。CiRCLEに行くだけだ」

 

「CiRCLEに行って何するの?」

 

「えーっと、主催ライブの打ち合わせ?」

 

蘭は意味がわからない、という顔をしていた。そこへ、救世主登場。

 

「友希那〜、あこ連れてきたよ。って、何してんのみんな」

 

「リサ、良いところに来た。これどうにかしてくれ」ガシッ

 

「え〜、何がどうなってんの....」アハハ 

 

その場は、無事リサによって鎮められた。しかし、蘭達もこの後CiRCLEに来るらしい。嫌な予感しかしない。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「こんにちわ〜」

 

「あら、みんないらっしゃい」

 

CiRCLEに入ると、まりなさんがせっせこ仕事をこなしていた。俺は今日シフト入ってないけど、何か申し訳ないことをしてしまっている気がする。

 

「まりなさん、お客を連れてきましたよ」

 

「出来れば連絡欲しかったかな」ニコッ

 

まりなさんのその笑顔は、どことなく恐怖を感じる。そこへ、友希那が追い打ちをかける。

 

「2週間後に、ここで主催ライブをやるわ」

 

それを聞いて、まりなさんは固まってしまった。当然の反応だろう。俺だって信じられん。

 

「とりあえず、奥に入って打ち合わせするか.....」

 

みんなを奥の控え室の方へ案内してから、俺はみんなの飲み物を取ってくる。

 

 

 

「あこはオレンジジュースで良かったか?」

 

「うん、ありがと宗輝!」

 

「リサ、クッキーは?」

 

「それは準備オッケー。というより、もう友希那は食べ始めてるけどね」

 

まぁ、リサのクッキー美味いからな。マジでお店に出して金取れるレベル。

 

「湊さん、話してもらいますよ」

 

「ええ、そのつもりよ」モグモグ

 

「友希那、飲み込んでから話そうな....」

 

それから、主催ライブについての話し合いが始まった。日程は、もう2週間後の土曜で決まりらしい。あと2週間しかないのに随分と余裕の表情をしている友希那。

 

「そして、宗輝には個人的に頼みがあるわ」

 

「ん、なんだよ」

 

「主催ライブまで、Roseliaに技術指導してもらいたいの」

 

今更、Roseliaに技術指導できるのはプロぐらいじゃないのか?なんで、そこで俺に焦点が当てられたんだよ。しかも、CiRCLEでやるんならそれまで忙しいんだけどな。

 

「CiRCLEの方はまりなさんに許可を貰ってるわ」

 

まりなさん曰く、当日の準備にさえ出てくれれば問題無いとのこと。いや、あんた当日休みでしょうが。バイトのみんなめっちゃ愚痴ってましたよ。

 

「はぁ、店の手伝いとかもあるからそんなには見てやれないぞ」

 

「それで構わないわ」

 

結局、Roseliaの練習にも付き合う事になってしまった。そして、当然あの子も。

 

「なら、Afterglowの練習にも付き合ってもらうよ」

 

 

もうどうにでもなれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~蔵~

 

「————————ってことで、ポピパもRoseliaの主催ライブ出てみるか?」

 

打ち合わせが終わり、俺は主催ライブの事を伝える為に蔵へ来ていた。もちろん、みんなはライブに向けて練習していので全員揃っている。

 

「やりたい!ね、やろうよみんな!」

「うん、せっかくのチャンスだよね!」

「りみの言う通り、頑張ってみますか」

「やるからには絶対に成功させる必要があるな」

「有咲、前みたいに緊張しすぎちゃダメだよ?」

 

 

まぁ、伝える前から答えは分かってたけどな。RoseliaやAfterglowの練習も見ないといけないから、あまりポピパに割いてやれる時間は無いが。

 

「よし、じゃあ今から練習だ!」

 

「お、むーくん気合い入ってるね〜」

 

「当たり前だろ。ポピパの力見せてやろうぜ」

 

「6人揃ってポピパだもんね」

 

 

6人揃ってポピパ、そんなこと言われたの初めてだな。りみりんは相変わらず良い子だ。

 

「ありがとな、りみりん」ナデナデ

 

「うぅ、くすぐったいよ〜」///

 

「あぁ!りみりんずるい!私もやって〜!」グイグイ

 

「楽しそうだから私も混ぜて〜」

 

次から次へとみんなが集まってくる。終いには沙綾まで。みんなの重みに耐えきれずソファに腰掛けてしまう。残る砦は有咲のみとなってしまった。

 

「有咲もおいでよ〜。むーくんに頭撫でてもらうの気持ちいいよ〜」

 

「あー!もうこうなったらヤケクソだぁー!」ポンッ

 

 

有咲は、俺の足の間に座ってきた。まぁ、右と左には他の4人がいて座れないんだけどな。

 

「.....私もたまには素直になってみるかな

 

「え、有咲なんて?」

 

有咲がボサッと何を呟いたのは分かったが、はっきり聞き取ることが出来なかったので聞き直す。

 

「うるせー!良いから頭撫でてろ!」///

 

「分かったから、あんまり動かないでくれ」ナデナデ

 

最近、女の子の頭を撫でることが多いから分かったことがある。一つ目は、女の子の髪がサラサラだということ。さっき香澄も言ってたが、撫でられる方も気持ちいいかもしらんが撫でるこっちも手の感触が気持ち良かったりする。

二つ目が、撫でる時は必然的に密着するわけであって、すごい良い匂いがする。女の子特有の匂いだ。

そして三つ目。これは個人差があるが、いかんせん引っ付き過ぎてボディラインが分かってしまう。ひまりなんか特にヤバイ。

 

そんなことを思いながら有咲の頭を撫でていると、ふと背中に意識が飛ぶ。小さくてか弱いその背中に、色んなものを背負っていると思うとなんだか愛おしく感じてしまう。俺は、頭を撫でるのを辞めて不意に有咲に抱きついてしまった。

 

 

「ちょ!なんで抱きついてくんの⁉︎」///

 

「なんか、こうしてやりたくなったんだよ。有咲だけじゃない。みんなも、困ったりしんどくなったら俺を頼ってくれ。何も出来ないかもしれないけど、一番に俺が助けてやりたいから」

 

「い、いきなりそんなこと言うなよ!反則だぞ....」///

 

今にも頭から湯気が出そうな感じの有咲。全く、反則なのは有咲のツンデレの可愛いさだけにしてもらいたい。

 

「もう遅くなっちまったな。今日は帰るか」サッ

 

「あっ.....」

 

みんなと戯れていたらとっくに夜8時を回ってしまっていた。帰る支度をしようと思い、有咲から離れた。

 

「また明日から頑張ろうぜ」

 

そして、いつもの円陣をみんなでやってから俺たちは帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

翌日の放課後、今度は蘭達に連れられて俺は再びCiRCLEへ足を運んでいた。今日はAfterglowの練習に付き合う日なのである。毎日これだと身体が持たないんですけど。

 

 

「じゃあ、取り敢えずライブでやる曲を通してみるから」

 

「むーくんは〜、そこで見ててね〜」

 

「上手く出来てたら頭撫でてね!」

 

 

どうやら、第三者目線からどう感じたかをアドバイスしたら良いらしい。それだったら、俺じゃなくても良くね?ということを蘭に言ったら、「アンタじゃないと、ダメなんだよ....」///って顔真っ赤にしてモジモジしながら言われた。蘭も有咲と同じくツンデレだからな。つまり、可愛い。可愛いは正義である。

 

それから程なくして、ライブでやる曲を一通り聴き終わった俺は、セトリを見ながら考えていた。

 

 

「よし、じゃあ俺なりのアドバイスいくぞ」

 

みんなが待ってましたと言わんばかりの表情で俺を見てくる。そこまで期待されても困るんだけどな....。

 

「大まかに言っちまえば"いつも通り"って感じだ。でも、今回はそんな回答求めてないのは分かってるからちょっと厳しめな。今回は巴がちょっと走り過ぎてた感あるな。リズム隊が崩れると総崩れするから注意な」

 

「宗輝に聞いてもらえるとなるとなんだか嬉しくってさ!」

 

だったら、本番は俺いない方がいいのか?準備とかあるからそれは無理なんだけどな。

 

「次につぐみとひまり、目立ったミスは無かったな。そのまま、練習に励んでくれ」

 

「うん、もっと頑張るよ!」

「じゃあ後で頭撫で撫でタイムだね♪」

 

ツグってるな〜。その調子でいけば大丈夫だろうけど空回りだけが心配だな。ひまりはそれしか頭にないのか....。

 

「モカ、ピック見せてみ」

 

「はい、ど〜ぞ〜」

 

「やっぱり、三つの角の内二つも欠けてんじゃねぇか。良くこんなのでギター弾けるな。ある意味すげぇよ」

 

俺なんか一つ目の角が欠けてきたらもう交換するぞ。.....おい、そこ勿体無いとか言うな。どうせなら、完全な状態でやりたいだろ。

 

「モカちゃんは〜、天才ですからね〜」

 

そんなモカはさておき、最後の一人。

 

「蘭、お前に限っては.....」

 

「.....」グッ

 

 

 

「言うことなしだ!」

 

 

 

 

ポカーンとした顔をしている蘭。

 

 

「正直、ボーカルの良し悪しなんてのは俺にはサッパリ分からん。でも、今の蘭の歌声は友希那にも届きうるかもしれないな」

 

「ほ、本当に⁉︎やったぁ!.....って、みんなこっち見ないで」///

 

普段はクールな蘭の貴重なシーンが見られて、俺たちは大変満足である。

 

「この後みんなで飯でも行くか!」

 

「じゃあ〜、つぐんちいこうよ〜」

 

「お、いいなそれ。一回行ってみたかったんだよな」

 

行きたいとは思いつつも、まだ行けてなかった羽沢珈琲店。この機会に行っておかなければ。何気にコイツらと外食なんて初めてだしな。

 

「よーし!出発進行ー!」エイエイオ-

 

 

 

 

「宗輝珈琲飲めるの?」

 

「舐めるなよ蘭。ブラックもいけるんだぜ」キリッ

 

「それ自慢してんの?」フッ

 

 

「もー!みんな置いていかないでよー!」バタバタ

 

 

 

 

今日のAfterglowもいつも通りである。

 

 

 

 




もう一度言おう。

可愛いは正義である。

見た方はお気に入り登録是非お願いします。
主のモチベupに繋がりますゆえ。


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Produce 11#Get Ready


最近、香澄(ポピパ)が歌うチェリボムにハマってる主です。
中毒性ありますよね、あいみんだからこそのチェリボムです。


11話、ご覧下さい。


 

 

 

「宗輝はそこで聞いておいて、みんな準備はいい?」

 

Afterglowの練習に付き合った翌日、俺はまたCiRCLEに来ていた。もう分かると思うが、今日はRoseliaの練習に付き合う日だ。しかも、今日は土曜日なのでたんまりと練習時間がある。

 

 

「私はいつでも大丈夫です」

「私も....いけます....!!」

「最高の旋律を奏でようぞ!」

「友希那、準備万端だよー」

 

 

「じゃあ、行くわよ。—————————LOUDER」

 

 

現在、朝の9時でございます。俺の身体持つかな.....。

 

 

 

 

 

 

 

 

~3時間後~

 

 

あれからぶっ続けで3時間練習していた。途中で休みを入れながらではあるが、聞いているこっちも疲れてくる。なのに、コイツらビクともしてねぇな。演奏して、俺がアドバイスをしての繰り返し。徐々に良くなってきてはいるが.....。

 

「とりあえずお昼にしよっか」

 

「今井さんの言う通りね」

 

「リサ、クッキーは持ってきてるのかしら」

 

「もちろん、今日は甘めにしてきたよー」

 

切り替えもお早いことで。俺は自分で弁当を作ってきていたので机に取り出して食べ始める。言ってなかったが、一人暮らしだから家事全般得意だぞ。

 

「宗輝ー、それ自分で作ってきたの?」ヒョイ

 

「うおっ、ビックリさせるなよあこ」

 

弁当を食べていると横からあこがヒョイッと顔を出してきた。

 

「まぁ料理は出来るからな。というより家事全般得意だ」

 

「一口頂戴」パクッ

 

「おい、勝手にとんなよ....」

 

あこと話している逆側から友希那に俺の自慢の出し巻き卵を盗まれた。朝飯でも食ってきたから量少ないのにやめてくれよ。

 

「この出し巻き卵、甘めなのね。私の好きな味付けだわ」

 

「母さん直伝の味付けだ」

 

「そーいえばさ、宗輝家族のこと全然話さないよね」

 

「まぁ聞かれなかったからな。なんだよリサ、聞きたいのか?」

 

「まぁ、なんとなく?(情報ゲットのチャンス!!)」

 

 

ポピパのみんなにさえ話してないからなぁ。別に減るもんじゃないしいいか。

 

「普通の4人家族だよ。父さんと母さんと一人妹がいる」

 

「でも、貴方一人暮らしじゃなかったかしら?」

 

流石紗夜さん、鋭い。リサといい紗夜さんといい勘の鋭い人がいると話しづらいな。

 

「花咲川に入学する前に、父さんが海外出張に行きました。父さんの勤めてる会社じゃ出世コースらしいです。それに二人共ついていった感じです」

 

「つまりは、置いていかれたということね」キリッ

 

「こっちに残ったのは俺の意思だよ」パチン

 

ドヤ顔でそう言う友希那にデコピンを食らわせる。香澄にこのこと伝えたら泣きながら行かないでって言われたけどな。どうやら俺は女の子の涙に弱いらしい。

 

「じゃあこの話は終わり。ご飯も食べたし練習始めるか」

 

「今度は1曲ずつ行くわ。それで細かくアドバイスを頂戴」

 

「ん、分かった」

 

 

その後、主催ライブで披露する曲を1曲ずつ演奏してもらいアドバイスした。

 

 

 

「紗夜さん、ちょっといいですか?」

 

「何か気になる点でも?」

 

ある時は二人で話し合い

 

 

 

「あこ、もう一回サビの前弾いてくれ」

 

「了解しました!」

 

ある時はみんなで合わせて

 

 

 

「リサ、ベースの弦痛んできてるな」

 

「あちゃー、新しいの買っとかないとな」

 

「俺持ってきてるから、今から張り直そうぜ」

 

ある時は俺も手伝いながら、練習は滞りなく進んでいった。

 

 

 

 

 

そして、時刻は午後6時。

 

 

「今日のところは終わりにしましょうか」

 

「そうね、やり過ぎるのも良くないわ」

 

他から見たら、明らかにあなた達はやり過ぎですけどね。

 

ツンツン

 

「ん、どうかしましたか燐子先輩?」

 

ふと燐子先輩に服の袖を掴まれる。

 

「私....上手くできてましたか....?」

 

 

有咲や蘭達とは違った方面で攻めてくる燐子先輩。普通の男子ならイチコロだろう。燐子先輩ですから。(謎理論)

 

「ミス無く演奏出来てましたしバッチリでしたよ」ニコッ

 

「あ、ありがとう....」///

 

「....燐子先輩、可愛い」ボソッ

 

「え!....そんなこと....ないよ...」///

 

やっべ、本音の部分が漏れちまった。まぁ仕方ないよね、燐子先輩だもん。

 

 

「イチャイチャするのはやめてくれませんか....?」

「あははは....、まぁちょっとくらいいいんじゃない?(私可愛いって言われたこと無いな...)」

「.........」ジ-ッ

 

 

明らかに紗夜さんが怒ってらっしゃる⁉︎友希那に関しては無言のまま。あ、圧を感じるぜ....。俺は一目散にあこのところへ駆け寄る。

 

「あこ、助けてくれ〜」

 

「えー、頭撫でてくれたらいいよー」

 

「あこは可愛いから幾らでもしてやるぞ」ナデナデ

 

「えへへ〜、気持ちいいなぁ」///

 

 

 

『だからそれをやめなさいって言ってるの(よ)!!』ガタッ

 

 

 

 

 

 

 

この後、めちゃくちゃ怒られました。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「ふわぁ、ねみぃ....」

 

 

Roseliaのお姉様方を怒らせると怖いことが分かった次の日。俺は、日曜日にも関わらず早起きしていた。時計の長針は8時を少し過ぎたところ。

 

「遅れるわけにもいかんし、着替えるか」ゴソゴソ 

 

 

着替えるためにタンスの中を漁る。5月に入り、少し暑くなってきた頃。そろそろ衣替えの季節であるが、このタンスにはまだ冬服がぎっしり詰まっている。最近、忙しいから手をつけられずこの有様である。

 

「今日帰ったら整頓するかな....」

 

パッパッと身支度を整えて自分の家を出て、目的地へ歩を進める。

 

 

 

 

 

 

~白金宅~

 

 

ピンポ-ン♪

 

「は...はい、宗輝君...?」

 

「はい、遅くなってすみません」

 

「今開けるから....待っててね....」

 

 

そう、目的地とは燐子先輩の家であった。何故燐子先輩の家に?その理由は、昨日の帰り道にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー昨日ー

 

 

「正座で30分とかやば過ぎるでしょう...」イテテ

 

「あれは貴方が悪いんですよ」

 

それにしてもやり過ぎでしょうよ。30分正座して説教ですよ。今どき、学校の先生でもそんなことしません。

 

「あの....大丈夫ですか?」

 

「燐子先輩....、今、元気になりました」

 

「宗輝って、りんりんのことなんだと思ってんの?」

 

そりゃあ、もう、あれよ。女神様よ。いや待てよ....。燐子先輩の小悪魔っぽい感じとか良いな。うん、妄想しだしたら止まらん。

 

「じゃあ、私達はこの辺で」

 

「またよろしくお願いするわ」

 

そう言って、友希那とリサ、紗夜さんが帰っていった。残るは燐子先輩とあこと俺の三人。

 

「りんりん、主催ライブは新しい衣装なんだよね⁉︎」

 

「お、初耳だな。そうなんですか?」

 

「うん....、明日作ろっかなって....」

 

そう言えば、Roseliaの衣装は燐子先輩が作ってるらしいな。ライブ衣装作れるって、中々の才能ですな。

 

「でも、一人じゃ大変じゃない?」

 

「それはそうだけど....」

 

「なら、俺も手伝いますよ。裁縫とかも出来ますし」

 

「あー!ならあこもりんりんの家行く!」

 

「なら....お願いしようかな.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~再び白金家~

 

 

そんなこんなで再び燐子先輩の家である。チケット関係は紗夜さんやリサが受け取ってくれている。後で取り置き頼んどかないとな。

 

ピンポ-ン♪

 

「お、多分あこが来たんじゃないですか?」

 

「そうだと思う....」

 

「俺が行ってきますよ」バタッ

 

俺は素早く立ち上がり玄関へ向かい、勢いよくドアを開ける。しかし、そこにいたのはあこではなかった。

 

「あら、貴方誰なの?」

 

「へ?」

 

まさかのおばちゃん来訪である。こんな朝早くに何しに来たんだよ。

 

「回覧板を渡しにに来たから、受け取ってもらえる?」

 

「あ、はい。燐子先輩には伝えときますね」

 

回覧板渡しにに来たのか。一々、朝早くに来なくてもいいだろうに。燐子先輩に迷惑だろ!

 

「あ!分かったわ。貴方燐子ちゃんの彼氏さんね?」

 

「え、えと.....」

 

「燐子ちゃんたら、知らぬ間に彼氏なんか作って!今日はお赤飯をお裾分けね!」

 

勝手に話が進んでいってる....。というより、お赤飯のお裾分けとか聞かねぇよ。どんだけお節介なんだよこのおばさん。

 

その後、一方的に話が続き満足げな顔をして帰っていったおばさん。徐々にテンション上がって声高くなってきてたし。

 

「はぁ....、早くあこ来ねぇかな」

 

「我を呼ぶ声あるところに、我は召喚される....。おはよ、宗輝」ヒョイ

 

「うわっ、いつからいたんだよ」

 

玄関から少し歩いたところにある扉の向こうからあこがやってくる。

 

「宗輝が知らないおばさんと話してた頃からかな」

 

「つまり、最初からいたんだな。なら止めてくれよあのおばさん....」

 

「残念ながら、我にそんな力は....」

 

「とりあえず上がるぞ。燐子先輩待ってる」パシッ

 

「あうっ!痛いよ宗輝〜」トコトコ

 

 

 

階段を上がり、燐子先輩の部屋のドアを開ける。

 

 

「......」プルプル

 

「ねぇ宗輝、あれなに?」

 

「いや、俺にもわからん」

 

燐子先輩のベットの布団が膨れ上がっているのであった。まぁ大体予想つくけどね。

 

「あこ、頼んだ」

 

「任せて。りんりんー!おっきろー!」バサッ

 

「ひっ.....あこちゃん....」

 

案の定燐子先輩が布団にくるまっていた。それにしても顔が赤いな。もしかして熱でもあんのか?

 

「燐子先輩、顔赤いですよ。熱でもあるんですか?」ピトッ 

 

「.....ッ!」///

 

俺は近づいて燐子先輩の前髪を持ち上げて額に手を当てる。うん、熱はなさそうだな。じゃあ、なんで顔赤いんだ?だんだん赤くなってきてるし。

 

「あの.....玄関の会話...聞こえちゃった...」///

 

 

 

「ほんっとにすみませんッ!!」

 

 

あのおばさんやりやがったな。声デカすぎて燐子先輩に聞こえてたじゃねぇか。俺は誠心誠意頭を下げて謝った。俺と恋人だなんて嫌だったのだろう。それで怒って顔が赤かったのか。

 

「俺と恋人とか嫌ですよね。今からあのおばさんに正直に話してきますね」

 

俺は居たたまれなくなりその場から立ち上がって部屋を出て行こうとする。しかし、それを燐子先輩に止められる。

 

「待って!....別に....嫌じゃないよ?」///

 

「本当ですか?」

 

「他の男の人とかは無理だけど...宗輝君なら大丈夫...かな」///

 

燐子先輩に嫌われたらどうしようとか本気で考えてしまった自分を殴りたい。やはり、燐子先輩は女神である。

 

「ねー、衣装作りしないの?」

 

「お、おう。じゃあ始めるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

「完成ー!」ドドン

 

「まぁまぁ時間かかっちまったな」

 

「あこちゃん...宗輝君もありがとう....」

 

作業を始めてから3時間、時間がかかったとは言え三人で役割を手分けしたお陰でかなりスムーズに完成した。Roseliaのいつもの黒を基調としたものに、青や緑の花飾りを添えていった。他にも燐子先輩の案を取り入れて完成。これで主催ライブの衣装はokだ。

 

「よし、なら俺は帰りますね」

 

「あこはまだりんりんの家にいるよ〜」

 

「宗輝君....ありがとね....」

 

 

あこと燐子先輩に別れの挨拶をして、俺は燐子先輩の家を後にした。時刻は丁度12時。作業に夢中で気付かなかったが、かなりお腹が減っている。帰りに何処かで食べようか迷っているところに、携帯に着信が入った。着信表示には今井リサの文字が。

 

 

 

「もしもし、どうしたんだリサ」

 

 

 

 

 

「友希那と紗夜が、喧嘩しちゃった.....」グスッ

 

 

 

 

 

 

 






後付けで増えていく設定.....
段々とキャラ崩壊していく.....


これからも、暖かい目で見てやってください。
(誤字脱字注意!)


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Produce 12#Roselia's Diva

リサ姉推しの皆さん、これが私の限界です.....


Roselia回が続きます(あと2話程)


それでは、12話ご覧下さい


 

 

 

『友希那と紗夜が、喧嘩しちゃった....』グスッ

 

 

 

リサが泣きながら掠れた声で話しかけてきた電話を聞いて、俺は一目散にリサの家へ走った。

 

 

ガチャ!!

 

リサの家のインターホンを押す余裕も無く、不用心ではあるが鍵が開いていたのでそのまま中に入る。リビングを覗いたが、リサの姿が見当たらなかったので階段を登り上へ向かう。

 

 

「リサ、入るぞ!」

 

「グスンッ.....むねきぃ....」ダキッ

 

「ゆっくりでいいから話してくれるか?」ナデナデ

 

部屋に入るなりリサが泣きながら抱きついてきたので、慰める意味も込めて頭を撫でてやる。少しの間、その状態が続いた。

 

 

「もう大丈夫そうか?」ナデナデ

 

「うん、大丈夫」グスッ

 

長時間涙を流していたせいか目が赤くなってしまっていた。俺は持ってきていたハンカチをリサへ渡して涙を拭かせる。

 

「なんで友希那と紗夜さんが喧嘩なんかしたんだ?」

 

「今日は練習無しって言ったのに、いきなり友希那が練習するって言い出したんだよ」

 

 

友希那も友希那で焦ってたのか?それが前に出過ぎて紗夜さんと喧嘩か?

 

「でも、今日は燐子とあこと宗輝で衣装作りするって聞いてたからやめよって言ったの。でも友希那聞かなくて、紗夜と私と三人だけでもやるって言い出して紗夜を誘ったの」

 

「場所はどこでやったんだ?」

 

「もちろんCiRCLEだよ。まりなさんいきなりで困ってたけど1.2時間だけならってことで特別に貸してくれて」

 

俺が前にちょっとギター弾こうと思って貸してくださいって言っても貸さなかったくせに.....。まぁ、そんなことは今はどうでもいいか。

 

「初めは良かったんだけど、どんどんお互い言い合いみたいになっていって。私が止めようとしたんだけど二人ともムキになっちゃって....」ポロポロ

 

またしても、リサの頰に涙が伝う。普段のリサからは考えられないほど弱々しく見えた俺は、リサに抱きついてしまった。否、抱きつくというよりは包み込むという表現の方がしっくりくる。リサの弱々しく震える身体を温めて安心させてあげるような感じで両手をリサの背中と頭に回す。

 

「そっか、辛かったなリサ.....」ナデナデ

 

「うん、づらがったよぉ....」ポロポロ

 

 

 

 

 

 

そのまま、数分が経った頃。俺の腕の中からは規則正しい寝息が聞こえ始めた。精神的にも身体的にも疲れ果てて眠ったしまったのだろう。そんなリサを起こさないように注意しながら、リサのベッドへ寝かせて布団を被せる。

 

「さて、とりあえずリサはこれで.....」ギュルルルル

 

ここで、俺の腹の虫が悲鳴をあげる。部屋の時計を見てみると、既に1時を回っていた。リサには悪いと思いながらもリビングに降りて冷蔵庫の中身を見る。案外、中身が充実していたのでキッチンを使って簡単な料理を作った。

 

「リサは....まだ寝てるな」

 

リサの分も作っておいたのだが、まだ寝ているみたいなのでラップで包んで置いておく。

 

「それにしても、綺麗な寝顔だなぁ.....」

 

リサが寝ているところなど今まで見た事がなく、少し調子に乗ってほっぺをつついてみる。

 

「んにゃ.....」ムニャムニャ 

 

 

ほっぺをつつくと少し笑顔になり、その後すぐに寝返りを打ってしまった。流石に悪いと思い、リビングで時間を潰そうと立ち上がろうとした。

 

 

ガタッ!

 

 

「いってぇ!小指ぶつけたぁ....」

 

机の足に小指をぶつけてしまい声を上げてしまう。幸い、リサは起きてなさそうだったので良かった。足の小指の痛みが治まるまで待機しておこうと思い、ベッドに寄りかかってしまう。

 

 

「リサ可愛いからモテそうだな。さっきの寝顔も可愛かったし。思わず写メ撮っちゃったぜ。......そういえば、俺昨日そんなに寝てないなぁ」

 

 

そんなことを思い出し、ウトウトしてしまう。そうなってしまえば早いもので、急な睡魔に耐え切れず俺は眠ってしまった。

 

 

 

 

 

~side change ~

 

 

ガタッ!

 

 

 

いきなり大きな音がしたのでビックリして起きてしまった。ん?起きてしまった?確か、私は宗輝と一緒に居たはず.....。

 

「...てぇ!小指ぶつけたぁ....」

 

そんな声が聞こえる。声の主が誰かなんてものは瞬間的に理解した。私が泣き疲れて眠ってしまい、宗輝がベッドに入れてくれたのだろうと予想できる。それにしても、小指ぶつけるなんて馬鹿だなぁ。宗輝ってしっかり者に見えるけどちょっと抜けてるところがあるのも良いんだよね。

 

 

「リサ可愛いからモテそうだな。さっきの寝顔も可愛かったし」

 

「ッ!!」ビクッ

 

宗輝の声で、確かにそう聞こえた。ビックリして少し身体が動いてしまったが、宗輝には気付かれていない様子。か、可愛いって初めて言われたぁ///

 

「思わず写メ撮っちゃったぜ」

 

写メ?もしかして寝顔写メ撮られたの⁉︎いくら宗輝でも、それをされると恥ずかしい....。その言葉を最後に、宗輝の声は聞こえなくなってしまった。不安に思い、寝返りのつもりで振り返ってみると、丁度寝返りを打ったすぐ側に宗輝の顔があった。

 

 

「......zzz」  

 

宗輝も疲れていたのか眠ってしまったらしい。私は、起こさないようにほっぺをつついてみる。

 

「....んにゃ」ムニャムニャ

 

赤ちゃんのような反応をする宗輝。少し母性をくすぐられてしまう。そのまま、数回起こさないようにほっぺで遊んでしまった。

 

「リ....サ....」

 

触り過ぎてしまい、流石に起こしてしまったと思った。が、すぅすぅと寝息が聞こえたので安心する。もう起こしてしまわないようにと慎重にベッドから起き上がる。机を見ると、書き置きがあった。

 

"リサの分も作ったから食べてくれ"

 

その書き置きの上には、簡単ではあるが炒飯が置かれていた。私は、リビングに降りてレンジで温めてから食べた。その後、もう一度部屋に戻り宗輝の側に座る。

 

「もう、こんなに可愛い寝顔しちゃって。そういえば、宗輝一歳年下なんだね....。あんまりそう感じないのは、宗輝が大人っぽいからかな?」ツンツン

 

またしても宗輝のほっぺをつついてしまう。癖になってしまったのだろうか?

 

「リ...サ...。んにゃ.....可愛い....」

 

可愛い、の一言で顔が熱くなってしまう。今まで、他の男子から何回も可愛いとか綺麗とか言われたけど、宗輝に言ってもらえるのとは全然違う。やっぱり、これは宗輝に恋してるから?

 

「私、宗輝のこと好きなのかな.....?」

 

自分への問いかけなのか、はたまた宗輝への質問なのか分からない。宗輝からしたら俺に聞くなよって感じだよね。でも、自分でも分かることがいくつかあるよ。

 

「絶対、他のみんなに負けないから。他のみんなより頑張るから、練習するから。だから、この想いが宗輝に届いた時は....」

 

 

 

 

 

自らの願いを、曝け出す。

 

 

 

 

 

 

 

「私の事、選んでね....」チュ

 

 

 

自分でも恥ずかしいが、最後にほっぺにキスをしてしまった。しかし、このくらいしておかないと他のみんなには勝てない。日菜とかひまりとかに負けてなるもんか。

 

そして、宗輝が目を覚ますまで私は隣で静かに携帯を見ていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ふと目が醒める。しかし、意識は未だ覚醒せず、と言ったところである。朧げに時計に目を向けると4時を過ぎてしまっていた。確か、俺が飯食べたのが1時過ぎだから.....3時間くらい寝てたのか⁉︎そんな事実に気付いてしまい飛び起きる。

 

「お、宗輝起きた?」

 

「ごめんリサ。寝過ぎたみたいだ」

 

「良いよ全然。それより、これからどうするの?」

 

リサのこの問いかけは、聞き返すまでもなく二人のことだろう。とりあえず、俺に策があったのでそれをリサに伝える。

 

「じゃあそうしよっか。なら、友希那の家だね」

 

「ああ、その前に....」

 

「もしもし、.....か?悪いが頼みがあるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

~友希那宅~

 

 

ピンポ-ン♪

 

 

事前にリサが携帯で連絡してはいるが、一応インターホンを鳴らす。数秒後に、インターホンではなくリビングの扉が開いて友希那が出てくる。

 

「リサ、それに宗輝。急にどうしたのよ」

 

「どうしたもこうしたもねぇよ。とりあえず友希那の部屋まで上がるぞ」

 

俺は、友希那に有無を言わさず部屋へ向かった。リサは友希那に会ってから少し顔が暗くなっている。まだ怖いのだろう。

 

「よし、何があったか聞かせてもらうぞ」

 

「リサから聞いているんじゃないの?」

 

「それはそれ、これはこれだ」

 

友希那からリサの時と同じような事を聞く。しかし、俺が聞いたのはあくまでリサ目線での話。今聞きたいのはそちらではない。

 

「友希那、なんで紗夜さんに突っかかったんだ?」

 

「.....突っかかってきたのは紗夜からよ。いきなり音を合わせて下さいなんて言われて、私は音なんて外していないのにも関わらずよ」

 

「それで、逆に紗夜さんに合わせろって言ったのか?」

 

「そうよ、私が外していないのなら外しているのは紗夜の方よ。それから、お互い言い合いになってCiRCLEを出てしまったわ」

 

なんでコイツはこんなに頑固なんだ....。紗夜さんも紗夜さんだが、今はコイツの対処が先だ。

 

「友希那、多分ボーカルのお前よりギターの紗夜さんの方がどちらかと言うと音は良く聞こえるはずだ。その紗夜さんが言い出したのに、少しは自分の事を疑わなかったのか?」

 

「それなら、私だってギターの音は良く聞こえるわ」

 

「はぁ、やっぱりか....」

 

「....宗輝、やっぱりそうなの?」

 

「ああ、そうとしか考えられん」

 

「さっきから二人で何を話してるの」

 

友希那の家に来る前に、リサには原因らしきものは既に話していた。それが、物の見事に当たってしまっていたのである。俺、占い師とかしたら稼げるんじゃね?

 

「個人的な意見だけどな、多分それは"個"がぶつかり合ってるんだよ。友希那には友希那の良いところがあって、紗夜さんには紗夜さんの良いところがある。それが、重なり合って悪い方向へ行ってしまったんだよ」

 

「個のぶつかり合い?」

 

「友希那は前まで孤高の歌姫なんて言われてたろ。それは、友希那のポテンシャルの高さ故の二つ名みたいなもんだ。そして、それは紗夜さんにも同じ事が言える」

 

「言われてみればそうね(確かに、紗夜は他の人と比べて群を抜いて上手だったわね)」

 

友希那は顎に手を置き頷きながら相槌を打っている。最初は友希那と紗夜さんからRoseliaは始まったからな。

 

「俺から言えることは一つだけだ」ピシッ

 

「それは何かしら」

 

人差し指を立てて若干キメ顔で言ったのだが華麗にスルーされた。それはそれで中々ダメージくるな。

 

 

 

()()()()()()をもっと聞いてやってくれ。そして、()()()()()()()を聞かせてやれ」

 

 

「それならもうやってるじゃない....」

 

「それはどうかな。というより、自分でも分かってるんじゃないか?」

 

「え、どういう事?」

 

「.......」

 

困惑気味なリサには悪いが、このまま話を続けさせてもらう。

 

 

 

 

 

「今回の主催ライブの手伝いでRoseliaの練習に付き合ってきたけど、その練習の中で俺は"湊友希那の歌"を一回も聞いてないぜ」

 

 

 

「....なたに、......貴方に何が分かるのよ!」ポロポロ

 

 

涙を浮かべながらも言い返してくる友希那。そんな友希那を心配そうに見つめるリサ。しかし、俺は続ける。

 

 

「確かに、俺は友希那程の歌の才能も、Roseliaの音楽に口を出すような知識も無い。だけどな、今の独り善がりな友希那の歌声じゃ来てくれた人に失礼だと思うな」

 

「一体何処がいけないのよッ⁉︎」

 

「それはさっき言っただろ。今の友希那は"孤高の歌姫"だったころと同じように見える。それじゃ、主催ライブを最高のライブには出来ない.....」

 

 

友希那には悪いが、こうするしかなかった。当然、友希那を悪く言っているのでは無い。今も昔も友希那の魅力は変わってない。けれど、今のRoseliaに必要なのは.....

 

 

 

 

 

 

「だから、みんなの音を聞いて、それに友希那の声を合わせるんだ。それぞれが重なり合って、初めてRoseliaの音になる。そんな気がするんだよ」

 

「.....私の声?」

 

「おう、友希那の歌声をみんなの音に重ねるんだ。そうすれば、きっと最高の音楽が完成する」

 

「本当に、それでいいのね?」

 

 

ああ、もう焦れったい。

 

 

 

 

 

「これからは、R()o()s()e()l()i()a()()()()として歌ってくれ。友希那は独りなんかじゃない。あこがいて燐子先輩がいて、紗夜さんもいてリサもいる。みんなが一緒についてるじゃないか。それに、俺だって.....。リーダーだからって背負い込み過ぎるなよ。困ったら俺を、俺たちを頼ってくれ」 

 

 

友希那の手を取って、語りかけるように話す。その間、友希那は俺から目を離すまいとジッと見つめていた。そこから、少しの間静粛が訪れたが、それは友希那によって破られる。

 

 

 

 

 

 

「....分かったわ、もう私は迷わない。Roseliaとして恥じないように歌うわ。リサ、貴女にも迷惑をかけてしまったわね。これからも、私についてきてくれるかしら?」

 

 

「もちろんだよ。友希那はそうでないとね。私も今よりずっと上手くなるから!だから、一緒に頑張ろ!」ギュッ

 

「リ、リサ、いきなり抱きつくのはやめて頂戴....」///

 

「あ、友希那顔赤くなってるー!可愛いなぁ、このこの〜」ツンツン

 

「宗輝、助けて.....」ダキッ

 

 

 

 

リサから逃げるようにして俺に抱きついてくる友希那。慎ましやかではあるが、やはり女の子の身体である。柔らかいお山が二つ.....。いかん、最近こういうのが多くて困るな。

 

「リサもそのへんにしといてやってくれ。これで、友希那は大丈夫だな。あとは、紗夜さんか」

 

「本当に一人で大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。リサは友希那についてやっててくれ」

 

 

 

後は紗夜さん一人だけだ。ある意味友希那より強敵かもしれんな.....。しかし、策は練ってある。

 

「じゃあ、ちょっくら行ってくるわ」

 

「待って、宗輝」ガシッ

 

友希那の部屋を出ようとした瞬間に、友希那によって止められる。腕を掴まれて、体重が後ろ向きになってしまい反射的に振り返ってしまう。

 

 

 

チュ

 

 

 

「んな!ゆ、ゆ、友希那⁉︎」///

 

友希那にいきなりほっぺにキスをされる。

 

 

 

「頑張りなさい。....私だって、恥ずかしいのよ」///

 

 

「もう、俺行くからな!」///

 

 

 

 

 

リサといい友希那といい、最近の女の子のスキンシップは激し過ぎる。恥ずかしいので、すぐに階段を降りて友希那の家を出る。

 

「紗夜さんはこうならないと良いなぁ.....」

 

 

そんなことを呟きながら、氷川宅へ向かう俺であった。

 

 

 

 

~その後~

 

 

「友希那、キスは初めて?」

 

「ええ、勿論よ。リサは何回かあるの?」

 

「いや、今日初めて宗輝にしたよ」

 

「そうだったのね。.....ねぇ、リサ」

 

「どうしたの友希那?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、リサには負けないわよ」

 

「私だって、友希那にもみんなにも負けないよ!」

 

 

だって、宗輝は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私の初恋の人だから.....』

 

 

 

 

 

 

宗輝の知り得ないところで、少女達の闘いは幕を開ける。

 

 





見て頂いた方は是非お気に入り登録の方をよろしくお願いします。
感想とか頂けたらテンション爆上がります。
(初めての感想を頂いてテンション爆上がりました)


このまま、連日投稿目指します.....


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Produce 13#重なり合う音、想い


個人的に紗夜日菜コンビはまぁまぁ好きです
蘭モカも好きです
もちろん友希那リサも好きです


つまり、全員好きってことです。

13話、ご覧下さい


 

 

 

 

「紗夜さんの家は.....ここだな」ハァハァ

 

 

友希那とリサと別れてから、俺は紗夜さんの家に向かっていた。途中から走ってきたので少し汗をかいてしまった。玄関前で汗が引いて乾くのを少し待つ。

 

 

「よし、行くか」ポチッ

 

ピンポ-ン

 

 

本日3回目の女の子の家の訪問。聞こえはいいが、全て面倒ごとである。まぁ、友希那にもあんなこと言っちゃったからな。もう後には引けねぇな。

 

 

バタバタバタ 

 

 

インターホンに気付いたのか階段を勢いよく降りてくる音がする。ん、勢いよく?なーんか嫌な予感が.....

 

 

 

「むーねーきー!」ダキッ

 

「ひ、日菜⁉︎いきなり抱きついてくるなよ!俺じゃなかったらどうするんだ」

 

「え?上から見えてたから大丈夫だよ?」

 

なら汗の臭いとか気にして嗅いでたのバレてるじゃん。恥ずかし過ぎるんですけど。

 

「走ってきて汗かいたからやめてくれ」

 

「えー、私はこの匂い好きだけどなぁ」クンクン

 

「お、おい!匂い嗅ぐな!それより、紗夜さんはどうした」

 

「おねーちゃんは部屋にこもりっぱなしだよ」パッ

 

 

やっと離してくれた日菜。だが、日菜の顔をよく見てみると目が赤くなっているのがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

「日菜、紗夜さんは俺に任せてくれ」ポンッ

 

「うん、お姉ちゃんを、助けてあげて」ポロポロ

 

日菜を部屋へ戻し、俺一人で紗夜さんの部屋へ向かう。

 

 

 

 

コンコン

 

「紗夜さん、入りますよ」

 

「......」

 

返事が無いが、今は構ってられないのでドアを開ける。そこには、ベッドに座ってこちらを見つめる紗夜さんの姿があった。

 

「何か、用ですか?」

 

紗夜さんも、日菜と同様に目が赤くなってしまっていた。やっぱ姉妹なんだなと実感する。

 

「日菜とも喧嘩したんですか?」

 

「貴方には関係のないことです」

 

「関係ありますよ。日菜、泣いてましたから」

 

「....ッ!、何であの子の事をそんなに気に留めてくれるの?」

 

紗夜さんから意外な質問が飛んできた。何故、俺が日菜の事を気にかけてくれるのか。そんなもの、決まっている。

 

 

 

「きっと、()()だからでしょうね」

 

「それじゃあ答えになってないわ」

 

「だったら、もっと簡単に言いますね。日菜が俺のことを気にかけてくれるから、俺も日菜のことを気にかけてるんですよ」

 

「日菜が、貴方のことを?」

 

紗夜さんは、未だ分からないといった様な顔をしている。こんなに状況把握下手な人だったか?

 

「紗夜さんだって、友希那が話しかけてくれなかったら一緒にバンド組んでなかったでしょう?それと同じで、日菜からきてくれなければ俺は今も日菜とははなせてませんでした」

 

「貴方は、日菜のことが好きなの?」

 

ここにきてダイレクトなやつきたか。これに関しても答えは決まってる。

 

「恋人とかどうとかは置いといて、日菜のことは好きですよ。いつも天真爛漫でムードメーカー的存在な日菜ですけど、俺に会ったらすぐ抱きついてくるとことか可愛らしいですし。さっきだって年頃の女の子の様なしおらしい態度でしたから」

 

「.....やっぱり、みんな日菜なのね」

 

「......」

 

俺は黙って、紗夜さんから続いて言葉が出てくるのを待つ。

 

 

 

 

 

「小さい頃から、私と日菜とでいつも比べられてきた。そして、何をしてもあの子は出来てしまう。.....天才なのよ、日菜は。それに比べて私は凡人。何をしてもあの子に追いつくことさえできない。今回だってそうよ。湊さんはきっと私なんかより日菜の方が良いに決まってる.....」

 

 

 

その言葉を聞いて、少し同情できるところもあれば怒りが込み上げてくるところもある。

 

 

「紗夜さん、前に俺にも妹がいるって話しましたよね?」

 

「ええ、それがどうしたの?」

 

 

「俺の父親は、小さい頃すっごく厳しかったんですよ。習い事をいくつもさせられて、遊ぶ暇なんてありませんでした。.....俺も妹と比べられてたので気持ちは分かります。妹はギターだろうがピアノだろうがドラムだろうがこなしてました。コンクールに出て優勝してしまうくらいです。その妹に比べられるのが嫌で、途中で全部投げ出してしまったんです」

 

 

俺の中の、少し嫌な思い出。今でこそ一人暮らしで楽しているが、小さい頃は自由なんてなかった。そんな中、香澄達と出会って変わった。俺を変えてくれた。

 

 

 

「でも、実は後悔もしてるんです。あの時、辞めてなければって時々思うんですよ。だから、紗夜さんにはこんな思いしてほしくないです」

 

「貴方も同じだったのね.....」

 

「そして、そう思っているのは俺だけじゃないです。日菜、ドアの前にいるんだろ?出てきてくれ」

 

敢えて振り返らずに伝える。日菜がこの話を聞きにくるのは予想できていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぇ、バレてたのか〜。それにしても、よくわかったね宗輝」

 

「いや、俺が日菜のこと好きって言った時にドアの向こうから音がしたからな」

 

「それも気付いてたんだ....」///

 

日菜は顔を赤くして俯いてしまう。普段は元気で明るいのに、こんな風なリアクションを偶に取るので可愛らしいのだ。いわゆるギャップというやつだろうか。

 

「日菜、お前の思いも伝えてやれ」

 

「うん、分かった」

 

日菜は紗夜さんと向かい合って立つ。

 

 

「お姉ちゃん、私もお姉ちゃんに後悔なんてしてほしくない。ギターも続けて欲しい。お姉ちゃんのギターの音、私好きだもん。周りの人からどう言われようと関係ない。私のお姉ちゃんは、Roseliaのギター担当のお姉ちゃんは、すっごいんだから!」ポロポロ

 

 

「日菜.....」ポロポロ 

 

 

紗夜さんも日菜も泣いてしまった。今日だけで何回女の子の涙を見れば良いんだろうか。そして、気付いた事が一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、二人には笑顔でいてほしいな」ナデナデ

 

「宗輝....」ポロポロ

「.......」ポロポロ

 

 

「日菜には日菜の良さがあって、紗夜さんには無いものを持ってる。それは、紗夜さんも同じです。紗夜さんにしか出せない音があって、紗夜さんにしか出来ない事がある。今は、それでいいんじゃないですか?」

 

「私の....音?」

 

「はい、紗夜さんの音です。さっき友希那にも言いました。紗夜さんも友希那の声を聞いてあげてください。そして、友希那に紗夜さんの音を聞かせてやりましょう」

 

 

「.....なんだか、貴方に言われると納得できる気がするわね」フッ  

 

 

そう言って笑う紗夜さんの顔は、凄く素敵だった。思わず見惚れてしまいそうになる程に。

 

 

 

「明日、CiRCLEで予約を取ってます。もう主催ライブまで時間も無いのでラストスパートかけますよ。紗夜さん、勿論いけますよね?」

 

「私を誰だと思っているのかしら。Roseliaのギター担当、氷川紗夜よ」

 

この調子なら大丈夫そうだな。これで、とりあえずは問題解決ってことでいいよな?今日は一日疲れた.....

 

 

ギュルルルルル

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は俺では無い。日菜の方を見てみても首を横に振っていた。

 

「......」///

 

紗夜さんが顔を赤くして俯いてしまっていた。時計を見てみると7時を回っていた。そりゃお腹も空きますよ。

 

「紗夜さん、俺お腹空いてきたので一緒に晩御飯食べに行きません?」

 

「あー、なら私も行く!」

 

「.....そういうことでしたら」///

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「いらっしゃいませ〜」

 

 

氷川宅を後にして、俺たち三人は近くのファストフード店へ足を運んでいた。そこまで混んでいなかったので助かる。

 

 

「あれ、彩ちゃんじゃん!」フリフリ

 

「本当だ、こんな時間までご苦労なことで」

 

「え⁉︎日菜ちゃんに宗輝君⁉︎」

 

「私も居ますよ」

 

「それに紗夜さんまで⁉︎あわわわわ、どうしてここに?」

 

見るからにテンパってしまっている彩。これはこれでいつも通りなので安心する。

 

「みんなで晩御飯食べにきたんだよ。それより注文いいか?」

 

「う、うん!大丈夫だよ!」

 

 

 

 

俺たち三人は注文を済ませて受け取り、近くの席に向かった。席は所々埋まっているという感じ。子連れの家族や友達同士で来ているのか学生もチラホラ伺える。

 

「私は端っこ〜!宗輝は隣ね!」

 

「分かったから、腕引っ張らないでくれ」

 

「........」

 

紗夜さんが一向に席につこうとせずジッと見つめている。

 

 

 

 

「どうかしましたか紗夜さん?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

そう言って、俺の隣に腰掛ける紗夜さん。一つのテーブルに二つの長椅子があるのだが、三人揃って同じ椅子に座っている。明らかにおかしいだろう.....

 

「あの、あっちが空いてるんですけど.....」

 

「何か問題でも?」

 

「いえ、とんでもございません」

 

紗夜さんが怒ってらっしゃる⁉︎俺何かしたかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、やっぱり美味しいね!」モグモグ

 

「久し振りに来たけど、たまにはいいもんだな」モグモグ

 

俺のオススメはポテトである。この安っぽさがたまらない。家でも時々フライドポテト作るくらいには好きだ。今日も大盛りポテトを頼んでしまった。

 

「......」ジ-ッ

 

「紗夜さん?ポテト欲しいんですか?」

 

「い、いえ。私はそんなものは.....」

 

「......」ニヤリ

 

 

ん?日菜が悪い顔をしたような?まるで、悪戯を企む子供のような.....

 

 

 

 

「なら私にちょーだい!」

 

「おう、ほらよ」

 

「あーんしてよ!はい、あーん」

 

「はぁ.....。やるしかないか。」ア-ン

 

「んー!宗輝に食べさせてもらうと一味違うね!」モグモグ 

 

なにそれ、俺はスパイスか何かか。しかも、一本で飽き足らず何回もおねだりされる始末。あの、もう半分近く無いんですけど。足りなかったらもう一回頼めばいいか。

 

「.....私にも下さい

 

「ん、紗夜さん何か言いましたか?」

 

 

 

「私にも、ポテト下さい」///

 

 

 

 

こう、紗夜さんみたいな普段クールな感じの人が赤面して恥ずかしがってるところを見るとこっちまで恥ずかしい気持ちになる。こういうところもっと出せばいいと思うのにな。こんなギャップを見せられればイチコロだろう。

 

「良いですよ、はい」ア-ン

 

「.....ッ!!」///

 

「あ、すみません。つい日菜にやってたので....」

 

 

 

やってしまった。さっきまで日菜にこれであげてたから無意識にしてしまった。

 

「紗夜さんはこんなの嫌ですよね....」

 

俺は紗夜さんの口の前まで持っていっていた手を引こうとする。あまり量も無いので、お皿毎紗夜さんに渡そう。そう思っていたのだが....

 

パクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私にも....日菜のように食べさせて」///

 

「.....わ、分かりました」///

 

「あー!お姉ちゃんばっかりズルイよ!」

 

 

やはり、紗夜さんは可愛い。その事実が確認できた日であった。

 

 

 

 

 

その後は、日菜と紗夜さんに交互にポテトを食べさせていた。勿論、追加で大盛りポテトを注文して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 

「まりなさん、お邪魔します」

 

「宗輝君、今日もRoseliaの練習ね」

 

「ええ、もう時間が無いので早速入らせてもらいますね」

 

 

翌日、俺からまりなさんへお願いして予約をしていた。正直、RoseliaだけじゃなくAfterglowやポピパの練習にも付き合ってやらないといけないのだが。今日だけはコイツらについてやりたかった。

 

 

「皆さん...どうでしょうか....?」

 

「うん、完璧だね。流石燐子!」

「白金さん、ありがとうございます」

「燐子、よくやってくれたわ」

「あこも手伝ったんですからね!」

 

 

 

燐子先輩とあこと俺で作った衣装を試しに着てみていた。どうやら、仕上がりは思った以上に上出来だったようで良かった。

 

 

 

 

「(全員所々違う部分があるが、同じものが一つある。それは、髪飾りの青い薔薇。これは、俺の案でつけてもらった。青い薔薇の花言葉は"夢叶う"や"奇跡"。友希那達の夢、FWFへの出場。今はまだ遠いかもしれないが、絶対に叶えられる。俺がそれまで支えてやる。お前らが揃えば、奇跡だって起こせるはずだぜ)」

 

 

 

 

 

「よし、なら最後の追い込みいくぜ」

 

「紗夜、貴女の音を私に聴かせて頂戴」

「湊さんも、私に貴女の声を聴かせてください」

 

 

紗夜さんと友希那も無事和解したことだし、これからRoseliaはまた始まる。ここからRoseliaが始まる。

 

「リサ、あこ、燐子先輩も準備はいいですか?」

 

「私はいつでもokだよ」

「んー!早くやりたいよー!」

「私も....いけます....!」

 

 

 

この5人なら、いずれきっと......

 

 

 

 

 

 

「—————————-それじゃあ、始めるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、俺は初めて完璧なRoseliaの音を聴いた。

 





どんどんお気に入り増えてきて嬉しい限りでございます。
しかし、アクセス数とまだまだ差がある......


沢山の人に見てもらえるように、これからも尽力致します。

誤字脱字注意d( ̄  ̄)


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Produce 14#目醒める蒼き獣達


長くなってしまったのを先に謝罪しておきます主です。
Roselia回は今回で一区切りつきますので。

では、14話ご覧下さい


 

 

 

 

 

~主催ライブ前日~

 

 

「紗夜さん、チケットは大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫よ。それと、これは取り置き分ね」

 

「ありがとうございます」

 

 

新たなRoseliaが動き出してから数日、主催ライブは既に明日に迫っていた。今日は泊まり込みで準備をしなくちゃいけない。あれから、シフト入ってないにも関わらず毎日CiRCLEに足を運んでいた。Afterglowやポピパの練習に付き合っていたからである。

 

 

「燐子先輩、衣装も準備出来てます?」

 

「うん....綺麗にして持ってきたよ....!」

 

新衣装もバッチリである。みんなが手伝ってくれたのもあり、準備は着々と進んでいった。

 

 

「.....明日が待ちきれないな」

 

「んー?何が待ちきれないのかなぁ?」ツンツン

 

「うおっ、なんだリサか。いや、明日のライブが楽しみでな。俺が演奏するわけでもないのに何言ってるんだって話だけど」

 

やはり、こいつらが努力してきたのを間近で見てきた俺からすれば成功してほしいと思うのは当然である。

 

 

「何とぼけた言ってるの宗輝!」

 

「貴方も既にRoseliaのメンバーの一員よ。演奏するしないの問題では無いわ」

 

「.....そうだな。ありがとな、あこ、友希那」

 

 

「ねーねー、もう一回みんなで合わせとかない?」

 

「私も....そう思ってました..,.」

 

「でも、準備で疲れてるのに大丈夫なのか?」

 

 

今日学校が終わって、すぐにCiRCLEに集まってから食事の時間を除きぶっ通しで準備してきた。男手が俺しかいないので機材や楽器を運んだのは主に俺だが、他のみんなも別にサボっていたわけではない。

 

「そうね、最後に一回通してみましょうか」

 

「そうと決まれば、早く終わらせてしまいましょう」

 

 

本当に、音楽に対して本気だということがひしひしと伝わってくる。何も楽しみなのは俺だけでは無い。見に来てくれるお客さんもそうだが、何より演奏するこいつらが一番楽しみなのかもしれないな。

 

 

「しゃーない、俺も見ててやるから」

 

「真夜中に奏でる不死なるメロディー.....さぁ!今目醒めの..,.」

 

 

「あこ、早く準備しなさい」

 

「はーい、分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その日は一回通して練習をしてから眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 

 

「....きろ!....宗輝起きろ!」ユサユサ

 

「ん、なんだよ.....」

 

「これは、どういうことか教えてくれる?」 

 

「何怒ってるんだよ.....って、えぇぇぇぇ!!」

 

 

昨日、練習が終わり準備もあって疲れていたみんなはすぐに眠ってしまった。俺は近くのソファに腰掛けて一番に寝てしまったのだが......

 

「ん....どうしたのよ宗輝」

「もうちょっと寝させて.....」

 

俺の膝に頭を置いて寝ている友希那とリサ。

 

「......zzz」

「.....夢の世界へ....汝を誘おうぞ...,」

 

そして、俺の足にもたれかかって寝ている燐子先輩とあこ。あこに関しては寝言を言っている。夢の世界に誘われてるのはお前だよ。

 

 

「いやー、これは俺にもちょっと....」

 

『あぁん⁉︎』

 

「すみません許してください。あ、蘭さん目のハイライト消すのやめてください。ひまりも何でマイクスタンド持ってるんだよ。有咲、どこに電話かけてるの?」

 

 

この後、主に蘭とひまりと有咲にめちゃくちゃ怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「酷い目にあったぞ....」

 

「あはははは、大丈夫?」

 

「もう大丈夫。それより、ポピパの方も大丈夫か?」

 

「何とか練習して間に合ったかな」

 

「沙綾〜、ちょっとこっちきて〜」

 

「はーい、じゃあまた後でね」フリフリ

 

 

主催ライブは後数時間で始まる。Afterglowとポピパも演奏の前準備を始め、Roseliaはトリなので未だにライブ会場の準備を行なっている。かくいう自分も、ライトの明暗や楽器の位置などの微調整を手伝っていた。

 

 

「モカ〜、手元ちゃんと見えてるか〜?」

 

「ばっちぐ〜だよ〜」

 

「蘭、こんな感じで大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

あまりライブの手伝いは経験したことが無いので少し緊張してしまう。幸い、ライブ中は他のバイト連中に任せられるので安心だ。というより、ライブ当日にまりなさんいないってどういうことだよ。明日からの予約全部あの人に担当させよう。

 

 

 

「あんまり練習見てやれなくて悪かったな」

 

「....湊さん達ばっかりズルイよ」

 

「だから、悪かったって....」

 

「じゃあ、一つお願い聞いてくれる?」

 

まぁ、一つくらいなら聞いてやってもいいだろう。実際、このライブまでの間練習に付き合えたのなんて2日間くらいだからな。

 

 

「おう、俺に出来ることなら良いぞ」

 

蘭のことだから、そんなに変なお願いはしてこないだろう。これが、ひまりとかだったら話は別だけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ステージから見える位置で、私の事見ててほしい」

 

蘭にしては、意外なお願いだと思った。

 

 

「何でステージから見える位置なんだ?」

 

「だって.....宗輝の事見ながら歌いたいから」///

 

 

顔を赤くしてモジモジしながらそんな事を言われると嫌でも意識してしまう。本当に、蘭には自分が美少女だという事を理解して頂きたい。危うく告白しちまうところだったぜ。

 

 

「準備とかあるからフルは無理だけど、分かったよ」

 

「ッ!!ありがと宗輝!」パァ

 

俺は、そうやって笑う蘭が見られて嬉しいよ。こっちが元気もらっちゃったみたいだな。

 

 

「おう、そろそろみんな待ってるぞ」

 

「うん、行ってくるね!」

 

 

これでAfterglowはオッケーっと。あいつらなら最初でもミスなくやれるだろう。そこそこ数はこなしてきてるからな。後は.....

 

 

 

 

「むーくん、みっーけ!」

 

「今度はお前か香澄。準備出来てるのか?」

 

「みんなで慌てて準備中だよ....」ハァ

 

 

香澄の後から有咲が続いてやってくる。その表情は、どこか疲れている様子。まだライブ始まってないんだけどな。

 

 

「なら準備してこいよ、ここにいちゃマズいだろ」

 

「むーくんにも手伝ってもらおうと思って!」

 

「いや、俺にも会場準備あるんだけど」

 

まだまだ俺にはやることが残ってる。機材の最終チェックやらチケットの販売やら売店のレジやらなんやら。高校生なのに社畜三昧である。

 

 

「悪いけど、ポピパの準備には付き合ってやれない。けど、ちゃんとライブも見ててやるから。練習で聴けなかった分、俺に聴かせてくれ」ナデナデ

 

「ん〜、久し振りのむーくんの撫で撫でだぁ」スリスリ 

 

「おい、抱きついてくるなよ.....。他の人に見られたらどーするんだ」

 

「現在進行形で見てるんですけど何か?」

 

有咲が若干怒り気味。さっきの事をまだ根に持っているのだろうか。取り敢えず、機嫌とっとかないと後々何言われるか分からんな。

 

 

「有咲にもやってやろうか?」ニヤッ 

 

「そ、そんなの別にいらねぇし..,」

 

「なら、香澄にもっとしてあげるとするか〜」ギュッ

 

「ふわぁ、しあわしぇ〜」///

 

既に衣装を着ているのであまり強くならないように抱きしめる。何だか蕩けきった顔の香澄。こいつこんな顔もするんだな....。い、いかん、スイッチが入りそうで怖い。

 

「あ〜、そろそろ時間だなぁ。でも、もうちょっとくらいなら出来るかな〜」チラ

 

「.....ッッッ!!!」///

 

さぁ、どう出る有咲!

 

 

 

 

 

 

 

 

「香澄ばっかズルイ!私にもやれ!」///

 

 

 

見事に乗ってくれた有咲。やはり、ツンデレは健在である。普通の人がツンデレだと少々痛いところあるけど、有咲がやると可愛くて敵わん。

 

 

「ほら、有咲おいで」

 

 

 

 

 

「.....うん」ギュッ

 

 

 

 

 

 

 

あれれ〜、おっかしいぞぉ〜。なんてふざけている場合では無い。俺が手を広げて待っていたら有咲が素直に抱きついてきた。いや、調子乗った俺が悪いんだけどね。まさか本当に抱きついてくるとは思わなかったので一瞬戸惑った。

 

 

「有咲達なら大丈夫だ。練習通り演奏してればきっと上手くいく。何より、みんながついてるし、俺もいる」ナデナデ

 

「.....ありがと」///

 

下手ではあるが、俺なりの励ましの言葉をかけてやる。まぁ、こんなことしか俺には出来ないからな。やれるだけのことはやってやりたい。

 

 

「もう大丈夫そうか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「よし、なら行ってこい!」

 

「ちゃんと見てろよな!」

 

 

有咲、何してたの?」「いいから準備するぞー

 

 

これでポピパも大丈夫だろう。俺も仕事に戻るか。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「オレンジジュース2個お願いしまーす」

 

「了解しましたー」

 

「合計で200円になります」

 

 

現在、最後の仕事であるレジと接客をしている。お客さんもほぼ会場入りして待っている状態。

 

「あら、宗輝君じゃない」

 

「ほんとだー」「お兄ちゃんだー」

 

「千紘さん、こんにちわ」

 

そこへ現れたのは純と紗南を連れた千紘さんだった。それもそのはず、三人の為にチケットを取り置きしておいたのだ。流石俺、やれば出来る子。

 

「これ取り置きのチケットです。今日は楽しんでいってください」

 

「ありがとう、そうさせてもらうわね」

 

 

そうして、三人分の飲み物を渡して会場へ入って行った。このことは沙綾には内緒である。どんな反応をするか楽しみだな。

 

 

「もうお客さんもいないから、宗輝君あがっていいよ」

 

「ありがとうございます。それじゃあ、頑張ってください」

 

 

俺もこれにて仕事から解放された。まぁ、この後も手伝いはするんだけどな。取り敢えず自分の飲み物持って会場行くか。

 

 

 

 

 

 

~ライブ会場~

 

 

『ワーワー!!』

 

どうやら会場のボルテージは最初からお高いらしい。今日は三組しか出ないのでそこまで長くはならない予定だが、この様子だと何発かアンコール食らいそうだな....。そんなこと言ってても仕方ないので、ステージからはっきり見える位置に陣取って待っていた。

 

 

 

そして、ライブは幕を開ける。

 

 

 

パチッ 

 

 

 

 

「久し振りのCiRCLEでのライブ!みんな、楽しんでいこう!」

 

『おおぉぉぉぉ!!』

 

 

蘭達の登場をきっかけに更に盛り上がる会場。正直、うるさく感じるレベルだが俺はこの雰囲気が好きだ。

 

 

「最初から飛ばしてくよ!」

 

 

 

蘭がこちらに気付いたようで目が合った。その瞬間、こちらを見つめて笑顔になる。それは、俺だけに向けて微笑んでくれているように感じて、何だか胸が熱くなる。

 

 

 

 

「————————Scarlet Sky」

 

 

 

 

 

蘭達の()()()()()の音楽が、胸に刻まれた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなかいいねCiRCLE!次はPoppin'Partyの番だよ!」

 

 

一向に下がらない会場の熱気を後に、演奏が終わったAfterglowは舞台裏へ帰っていく。ちらほらアンコールの声が聞こえるが時既に遅しである。蘭達が舞台裏へ戻ってすぐに、照明が暗転する。そして、明転してそこにいたのは.....

 

 

『私達、Poppin'Partyです!』ジャン

 

香澄達は軽く自己紹介を済ませる。香澄が少々とぼけたことを言って笑いが取れていたのもポピパらしい。

 

 

「CiRCLEでライブするのは初めてで、緊張するけど頑張ります!」

 

そして、全員に確認するかのように顔を向けて合図する。

 

 

 

 

「————————-STAR BEAT!~ホシノコドウ~」

 

 

 

 

改めてこの曲を聴いて、香澄達らしいと思えた瞬間だった。心が少しキラキラドキドキしてしまったのは内緒の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、ありがとうございました!次はRoseliaです!」

 

演奏が終わって緊張が解けたのか、みんなで笑い合いながら舞台裏へと帰っていく香澄達。そして、香澄達の姿が見えなくなって間も無くして暗転。

 

 

 

パチッ

 

 

 

 

 

 

 

『キャー!!』

 

 

Roseliaの登場と共に会場のボルテージは最高潮に達した。周りからは黄色い声援が沢山聞こえる。そういえば、Roseliaって女性人気も高いんだっけか。

 

 

「今日は集まってくれてありがとう」

 

友希那の挨拶が始まった。

 

 

「もう一つ、みんなに伝えることがあるわ」

 

 

 

友希那が突然みんなに伝えることがあるとか言い出した。次のライブの告知か?そんなこと聞いてないんだけどな。

 

 

 

 

 

「今回のライブの為に、尽力してくれた人がいるわ。そして、その人はRoseliaの6人目のメンバーと言っても良いくらい。練習から準備まで手伝ってくれて。だから、今日を最高のライブに仕上げる。それが、()に出来る最高の恩返しよ!」

 

 

 

 

 

友希那が言い終わってから、三度暗転。数秒後に、少し明るくなったステージ。

 

 

 

 

 

 

「これが、私達の想いよ.....」

 

 

友希那がそっと呟いた言葉を俺は聞き逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

「—————————————ONENESS」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~side changeー

 

 

 

 

 

 

______________________________________________

 

 

「宗輝寝ちゃったねー」ツンツン

 

「まぁ、彼も働き詰めでしたし疲れていたのでしょう」

 

「あこも眠くなってきました....」ウトウト  

 

「........」ウトウト  

 

「燐子も既に眠そうね」

 

私達は一通りの練習を終えて片付けをしていた。しかし、宗輝は練習がおわった途端に眠りについてしまった。彼には力仕事のみならず、色々と手伝って貰った。

 

 

「宗輝には、色々と迷惑をかけてしまったわね」

 

「何か、彼に恩返しは出来ないでしょうか?」

 

恩返し、なんて言うと宗輝は遠慮するでしょうね。そういうのを素直に受け取らない性格なのは知っているもの。

 

「でも、私達は何もしてあげられないわ....」

 

「何か....ないでしょうか....」

 

 

 

「友希那!歌があるじゃんか!」

 

「.....そうね、私達にはそれくらいしか無いわね」

 

「あこも、精一杯頑張りますよ!」

 

 

リサの言う通り、私達が彼にしてあげられるのは何物でもない歌である。その真実は曲げられない。ならば、最高のライブに仕上げることこそ最高の恩返しになる。

 

 

「湊さん、サプライズ演出なんてどうでしょうか」

 

「サプライズ演出?」

 

紗夜が珍しいことを言い出す。普段、サプライズなど紗夜の口からは滅多に出てこない単語。

 

 

「ええ、ライブの挨拶の後に()()()()()を伝えるのです」

 

「それ.....良いと思います....!」

 

「あこも賛成ですよ!」

 

「燐子....あこ.....」

 

「友希那、やろうよ!」

 

 

 

 

 

 

_________________________________________________

 

 

 

 

 

『これが、私達の想いよ.....』

 

 

 

 

 

宇田川あこの想い、それは.....

 

「(あこは、友希那さんと出会ってRoseliaに入ることが出来た。りんりんも入ってくれて今のRoseliaがある。そして、宗輝があこを、私達を導いてくれた。宗輝はそんなことないって言うかもしれないけど、あこやみんなはそう思ってるよ!だから、そんな宗輝に少しでも恩返しできるよう、あこ頑張るから!)」

 

 

 

白金燐子の想い、それは.....

 

「(私は引っ込み思案で、あこちゃんがいなければRoseliaにも入れてなかった。あこちゃんに出会えて、世界が変わった。あこちゃんが私の世界を変えてくれた。そして、宗輝君が私に勇気をくれた。だから、私は頑張れる。今は恥ずかしくて伝えられないこの想いも、音色に乗せて届けます!)」

 

 

氷川紗夜の想い、それは.....

 

「(正直、最初は貴方の事なんとも思ってなかった。だけど、段々と触れ合っていくうちに私の中で変わっていった。いや、貴方が私を変えてくれた。同じ悩みを持っていた貴方だからこそ、私を理解してくれた。私は、どんどん貴方に惹かれていく一方。日菜になんて絶対負けません。こうなってしまった責任は、取って頂きますからね)」

 

 

今井リサの想い、それは.....

 

「(自分より大人っぽくて、少し意地悪好きな一つ年下の男の子。どこか抜けているようなところも可愛くて、他の男の子とは違う宗輝だけに抱いてるこの感情。これだけは誰にも、友希那にだって負けられない。まだ言えないこの気持ちも、いつかきっと、君に伝えるから!)」

 

 

湊友希那の想い、それは.....

 

「(貴方には、色んな事を教えてもらった。歌や演奏については勿論、演奏の時の個々の癖とかもしっかりと教えてくれたわね。今、貴方には私達がどう見える?私は、Roseliaの歌姫としてしっかり歌えている?他のバンドになんか負けないわ。勿論、貴方の事についてもリサにだって負けないわよ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、想いは重なり

 

 

 

蒼き獣達が今、目醒める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





とりあえずRoselia回は終了です

しかし、このままいけば大ハーレムの予感.....

だが、それでいいッ!!


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Produce 15#羽丘学園プチ体育祭"前半戦"


更新が遅れてしまい申し訳無い。
本当は一話完結で出す日常回だったのですが、気がつくと9000字超え.....
前半後半に分けさせて下さい。


それでは、15話ご覧下さい。


 

 

 

 

『乾杯〜!!』

 

グラスとグラスがぶつかる音と共に、乾杯の声が響き渡る。しかし、俺たちはまだ学生なのでグラスに注がれているのはジュース。今は、ライブ成功の打ち上げを控え室で行なっている。

 

 

 

「いやー、それにしてもRoselia凄かったな!」

 

「あこも頑張ったよお姉ちゃん!」

 

「なかなかやりますね、湊さん」

 

「当然の結果よ」

 

 

あっちではあこや巴が仲睦まじく話し合っていて、こっちでは蘭と友希那がお互いについて話し合っている。アフグロやポピパのメンバーも勿論参加している。みんなで成功させたライブだからな。

 

「しかし、あそこまでアンコールを頂いたのは初めてでしたね」

 

「本当に、最後の方はマジでやばかったね〜」

 

「私....ちゃんと出来てましたか....?」

 

「りんりんは完璧だったよ!」

 

紗夜さんの言う通り、というか俺の予想通りRoseliaが一通り演奏しきった直後に、まるで打ち合わせでもしてた様な感じでアンコールが飛んできた。それに答えないわけにもいかず、結局遅くなってしまったのである。

 

 

 

 

 

「取り敢えずみんなお疲れ様。やまぶきベーカリーのパンの差し入れ貰ったから食べてくれ」

 

 

『いただきま〜す!』

 

 

 

千紘さんが帰り際に差し入れがあるからといって沢山パンを貰った。どうやら、最初から渡すつもりだったらしい。あ、因みに千紘さんが会場に居たのに気付いた沙綾は顔真っ赤にしてました。終わってから純や紗南達にも会えたみたいで良かった。

 

 

 

 

「はぁ、これで一休みできる。ここ最近休めてなかったから帰って寝るか.....」

 

 

「何を言ってるの宗輝。明日は羽丘だけ登校よ」

 

突然こんなことを言い出す友希那。しかし、明日は日曜日。普通は学校なんてお休みなのだから登校するのはおかしいのである。

 

「何で俺たちだけ登校しなきゃいけないんだ?」

 

「聞いてないんだね....」

 

 

 

 

 

 

「明日は、羽丘学園プチ体育祭!で有名なリレーカーニバルがあるんだよ!」

 

いつになくはしゃいでいる巴。あ、こいつ体動かすの得意だっけ?でも、そんな話聞いてない。それに羽丘学園プチ体育祭って何だよ。まだ5月なんですけど?

 

「何で俺だけ知らないんだよ....」

 

「ごめんね、日菜ちゃんが明日にしようって....」

 

「あいつの仕業か....ていうか、あいつの権限で変えられんのかよ」

 

「むーくん、私達応援しに行くね!」

 

「他の学校の生徒は来てもいいのかつぐみ?」

 

せっかくの日曜日なんだから、花咲川組は休めば良いのに。いや、元は俺も花咲川組なんだけどね。あれもこれも全部日菜じゃねぇか。

 

 

「ウチの宣伝にもなるからオッケーだって」ハイ

 

「本当適当だな.....」

 

つぐみが見せてくれた携帯の画面には、日菜とのメールが映し出されていた。つぐみが言ってくれた文まるまま書かれていた。宣伝って何宣伝する気だよ。

 

 

 

 

「はぁ、もうヤダ、帰って寝る」

 

 

 

その日、家に帰って眠りについたのは24時過ぎ。翌朝、香澄に起こされたのは朝7時。睡眠時間だけ見れば7時間くらいあるのだが、そこまで働き詰めだった事を考慮して後半日程は寝ておきたかった俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「むーくんおっきろー!でないと遅刻するぞー!」ドゴォ

 

「うぐっ、だからダイブで起こすのやめろって.....」

 

 

香澄にみぞおちダイブを決められて起きたライブ翌日の日曜日。いつも通り8時登校である。不幸中の幸いなのか、お昼で終わるとのこと。出る種目すら分かってないのにな。

 

 

「お前はライブ出てたのに元気なのな」

 

「確かに疲れたけど、むーくんの応援だから頑張る!」

 

「因みに、他のみんなは....」

 

 

ピンポ-ン

 

 

タイミングが良いのか悪いのか、俺が話している時にインターホンが鳴る。俺の家知ってる人少ないはずなんだけどな。

 

 

「はいはい、どちら様ですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.....来ちゃった♪』テヘペロ

 

 

 

そこには、ポピパやハロパピ、パスパレにロゼリアといった4バンドの花咲川組が全員集合していた。

 

 

「すみません、人違いです」バタッ  

 

「あー!みんなつかまえろー!」

 

『おーっ!!』

 

 

女の子とはいえ、これは数の暴力といえる。流石に勝てるわけがなく、全員家の中にあがらせてしまった。幸い、元々4人家族で暮らしていた家なのでギリギリ入れた。

 

 

 

「いや、何で来たんだよ....」

 

 

「宗輝君のこと応援しに来たよ!」

「ブシとは、時に裏方にも徹するものです!」

「怪我しないか心配だから見守ってるわ」

 

 

他の奴らは最悪構わないがパスパレに限ってはヤバイだろ。なんつっても芸能人だからな。

 

「んで、何で美咲はミッシェルのハチマキなんかしてるんだよ」

 

 

「今日はミッシェルが来れないらしいから美咲が代理で来てるのよ!」

「という設定です.....」

「美咲ちゃん、応援頑張ろうね!」

「かーくんに呼ばれて来たよ!」

 

それして応援されたら俺じゃなくて美咲の方が目立ちそうだな。それはそれで面白そうではあるが。

 

 

「紗夜さんと燐子先輩は疲れてないんですか?」

 

 

「日菜が迷惑をかけているのだから、私が尻拭いするしか無いですから」

「私も.....応援したかったので....」

 

紗夜さんそれなら直接日菜に言ってやってください。それでも聞きそうにはないですけどね。そして、相変わらず燐子先輩は女神である。

 

「ポピパはもういいや」

 

 

 

「何だよそれー!どうでもいいってことか!」

「有咲ちゃん落ち着いて....」

「このパン食べてもいい?」

「おたえさっき朝ご飯食べてたじゃん」

 

 

予想通りの反応ありがとう有咲。それをなだめるりみりんまで想定済みである。おたえ、お前はマジで何やってんだよ。

 

 

 

「もうどうにでもなれ.....」

 

 

 

この後、大所帯で登校して朝から注目を浴びたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~羽丘学園運動場~

 

 

 

「それではー、羽丘学園プチ体育祭こと"リレーカーニバル"を開催します!」

 

 

生徒会長である日菜のコールと共に、忌まわしきリレーカーニバルとやらが幕を開ける。明らかに生徒数より多い観客。理由は大体察しがつくけどな。

 

「え⁉︎あれ彩ちゃんじゃない⁉︎」

「じゃあ、隣にいるのは白鷺千聖⁉︎」

「イヴたんかわゆす、流石僕の嫁」ハスハス

 

ワイワイガヤガヤ

 

一人オタッキーなセリフが聞こえたがほっといておこう。くれぐれも本人達に気付かれないようにな。

 

 

「蘭、俺何の競技に出んの?」

 

「宗輝には2種目出てもらう予定だよ」

 

「モカちゃんは〜、応援係で〜す」

 

俺も応援係が良かったわ。蘭達の応援なら死ぬ気で頑張れるぞ。なんなら応援団長でもやってやる。

 

「ひまり達は?」

 

「私は一番しんどくない50m走だよ!」

「私は生徒会の手伝いあるから何も出ないかな」

「私はスウェーデンリレーの400mに出るぞ!」

 

みんな1種目とかなのに何で俺だけ2種目もでなきゃいけないわけ?まぁ運動は得意だけど。

 

「あれ、そう言えば蘭は何に出るんだ?」

 

「べ、別にそれはいいでしょ」

 

「何だよ、みんなの応援もしたいから言ってくれよ」

 

 

 

「.....二人三脚リレー」

 

 

 

二人三脚リレーか。俺あんまりあれは得意じゃないんだよなぁ。運動神経悪い奴とペアになったりしたら最悪だぞ。

 

 

「ペアは誰なんだ?」

 

 

「......宗輝だよ」///

 

「え、俺なのか。まぁ、蘭とだったら良いや」

 

蘭は運動神経良さそうだしな。他の知らない女子と組まされるよりマシだ。

 

 

「因みに〜、クラス対抗リレーにも出てもらいま〜す」

 

「怪我しないようにだけ注意しとこ....」

 

 

今日は昼から帰って爆睡してやることを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-第一種目-

 

 

『第一種目 50m走に出場する人は.....』

 

 

開会式と準備体操が終わり、自分たちのクラスの待機場所に着き数分。50m走のアナウンスが聞こえてきた。50m走にはひまりが出るんだったっけ。

 

「私の出番だね!優勝できるように頑張るぞー!」エイエイオ-

 

 

 

 

「ひ〜ちゃん頑張ってね〜」

「ひまりガンバ!」

「怪我しないように気を付けてね」

 

「何でそこ合わせてくれないの!」

 

「いつも通りだろ。俺も応援してるから頑張れ」ナデナデ 

 

「頑張る!1位になったら膝枕してよ!」

 

 

 

ひまりもいつも通りの反応。あんまり足も早くなさそうだし1位はキツそうだけどな。

 

 

「おーい、宗輝いる?」

 

「リサ先輩?宗輝ならここにいますけど」

 

「ん、何で3年のリサがここにいるんだよ」

 

「50m走、友希那も出るんだよ。応援してあげてね〜」

 

友希那も50m走なのか。あいつも運動苦手そうだな〜。友希那が走るところなんて滅多に見られないし。

 

「リサは何に出るんだ?」

 

「私は障害物競争かな。日菜も出るらしいよ」

 

「お、なら勝負じゃん。どっちも応援してるから頑張れよ」

 

 

そんな話をしていると行進曲が流れ始めて入場が始まった。1学年5組程度走るっぽい。

 

 

 

 

 

『よーい、ドン!』

 

まずは一年生から始まった。時々、足の速い子がいたりして見るのも案外楽しいな。そして、一年生最後の組。そこには、見知った顔が混じっていた。

 

 

「あれ、明日香いるじゃん。50m走だったんだな」

 

「あっちゃん一番楽だから選んだらしいよー」

 

何というか明日香らしいというか。あいつ運動は得意なんだから違うのいけば良かったのに。よし、ちょっと意地悪してやろう。

 

「香澄、始まったら声出して明日香応援するぞ」

 

「勿論だよ!あっちゃんの為に頑張る!」

 

 

 

 

『よーい、ドン!』

 

 

「明日香ー、頑張れー!」

「あっちゃんー!1位になったらむーくんが膝枕してくれるよー!」

 

おい、いつ決まったよそれ。さっきのひまりのやつだろ。明日香運動神経良いんだから1位なんて余裕で.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あっちゃんこけちゃった」

 

「多分お前のせいだな....」

 

 

明日香は見事に周りに置いていかれ、4位でゴールした。

 

 

 

 

 

 

『次は、2年生です』

 

 

1年最後の組が走り終わってすぐに2年の走者が準備を行っていた。ひまりの番は3番目。

 

 

「次、ひまりだよ」

「ひ〜ちゃん頑張れ〜」

「モカ、声届いてないと思うぞ」

 

1.2番目が滞りなく走り終わり、遂にひまりの番。遠目から見ても少し緊張気味なのが分かる。

 

 

 

 

 

『よーい、ドン!』

 

開始の合図と共に全員が一気に走り出す。ひまりは少し遅れてしまい3位でスタート。

 

 

「ひまりー!頑張れー!」

『膝枕の為にー!』

 

だから何でそれ言うんだよ。さっきの明日香みたいに気が散ってこけたりしたらどーするんだよ.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ひまり1位じゃん」

 

「どんだけ膝枕して欲しかったんだよ.....」

 

 

 

この後、帰ってきたひまりに膝枕して周りの人に見られてかなり恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

 

『最後は、3年生です』

 

 

1.2年が終わり、最後に残った3年生。見た感じ友希那しか知ってる奴がいないのでそこまでパス。

 

 

「次は湊さんの番ですね」

「頑張って...ほしいです....!」

 

ロゼリアの二人も友希那の事を応援している。当然、メンバーには勝ってほしいだろう。だがしかし、友希那の運動の実力は未知の世界。どんどん友希那の番が近づいてきて、ラスト1組。友希那の出番。

 

 

 

 

『よーい、ドン!』

 

 

しかし、こちらの予想とは裏腹に好スタートの友希那。1位と僅差で走り始めた。

 

 

「あの調子ならいけそうですね」

「頑張って...ください....!」

 

「友希那ー!その調子で頑張れー!」

 

 

「......」ピクッ

 

 

「湊さん、ペースが上がりましたね」

「流石です....!」

 

「最後まで頑張れ!」

 

 

「......」ピクピクッ

 

 

「1位でゴールしましたね」

「やりました.....!」

 

 

 

「流石は友希那だな。グングンペース上がってったじゃん。機嫌も良さそうだったし何か良いことでもあったんだな」

 

 

『(それは多分誰かさんのお陰だと思うよ)』

 

 

無事、50m走は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

-第二種目-

 

 

『第二種目 二人三脚リレーに出場する.....』

 

続いて第二種目である二人三脚リレーのアナウンスが聞こえてくる。これには蘭とペアで出る予定だからさっさと入場門まで移動するか。

 

 

「よし、じゃあ行くか」

 

「うん、よろしくね宗輝」

 

 

蘭と共に入場門へ集まった頃には出場する生徒が沢山並んでいた。その中から自分のクラスの位置を見つけ待機する。そして、全員が揃ったのを確認でき次第行進が開始される。

 

 

「というより、俺らがアンカーなんだな」

 

「多分宗輝いるからでしょ」

 

スタート位置についてからみんなが準備を始める。俺たちはアンカーなのでまだ準備しなくても大丈夫だ。

 

 

 

 

『位置について、よーいドン!』

 

ピストルの音が鳴り響き競技が開始される。自分のクラスの色のカラーコーンを回って帰ってきてタスキを渡すという感じのコース。滑り出しは順調で現在2位。

 

「A組頑張れー!」

「B組負けんな!」

「C組ファイトー!」

 

それぞれが仲間を鼓舞しようと一生懸命に応援をする。

 

「むーくん!頑張れー!」

「蘭〜、コケたりしないでね〜」

 

 

 

「まだ走ってねぇっつの」ハァ 

「モカ、そんな心配いらないから」ハァ 

 

お互いにため息をつく。しかし、その言葉を聞いて少し緊張がほぐれた気がする。やはり、応援の力は偉大だ。

 

 

「あと一組で俺らの番だ。そろそろ準備するか」

 

「じゃあ.....よろしく」

 

 

2位をキープしたまま、アンカーである俺たちにタスキが回ろうとしている。少し急ぎながらも解けないようにしっかりと足と足を固定して、蘭の腰に手を回し位置につく。

 

 

「練習なんかしてなくてぶっつけ本番だけど、蘭とならいけそうな気がするよ」

 

「私も宗輝となら優勝できる気がする」

 

 

そして、タスキを受け取って走り出す。

 

 

 

「1・2、1・2、1・2!」

 

 

 

自分でも驚く程、息がぴったりあった走りが出来ていた。しかし、驚いている暇など無い。1位と僅差で折り返し地点に到達した。

 

 

『宗輝君頑張れー!』

『行けるぞ蘭ー!』

 

 

俺たちを応援してくれる声が聞こえる。応援してくれる奴らいる。そいつらの期待を裏切らないように精一杯走り抜く。

 

 

「蘭!一気にペース上げるぞ!」ハァハァ

「了解!」ハァハァ

 

 

二人共既に体力を消耗してしまい掛け声をかける余裕も無い。しかし、既に掛け声など必要ない程に俺と蘭は走ることが出来ていた。

 

 

「いっけぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最後に追い上げを見せたA組が1位でゴールッ!!』

 

 

見事、A組は1位でゴールすることが出来た。

 

 

「やったな蘭!1位だぞ!」ギュッ

 

「ちょ、近い....汗かいてるからやめてよ」///

 

俺は嬉しさのあまり蘭に抱きついてしまった。汗など今更気にしている場合ではない。

 

 

「最後、俺が自分勝手にペース上げちゃったけどついてきてくれてありがとな」ナデナデ

 

「まぁ、私も1位取りたかったしね.....」///

 

 

蘭と応援してくれたみんなのおかげで1位を取ることが出来た二人三脚リレーであった。

 

 

 

 

 

 

~後半戦へ続く~

 

 

 





既に後半戦はストック済ですのでご安心を
ほのぼのした日常回が続くかと思われます



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Produce 16#羽丘学園プチ体育祭"後半戦"

㊗️お気に入り100突破㊗️
本当にありがとうございます!
何度も見返してニヤニヤしてました。

これからも投稿続けていくのでよろしくお願いします。
(お気に入り登録まだの方是非お願いします)

では、体育祭の続きをご覧下さい。


-第三種目-

 

 

 

 

『第三種目 スウェーデンリレーに出場する.....』

 

 

走り終わった俺と蘭が待機場所へ戻り、汗の処理や水分補給を終えるとアナウンスが聞こえてくる。スウェーデンリレーには巴が出るんだっけか。

 

 

 

 

「やっと私の出番か!」

 

「巴頑張ってね!」

「怪我しないよ〜にね〜」

 

 

これまで通り行進を行いスタート位置に待機する。

 

 

 

「あれ、麻弥ちゃんじゃない?」

「本当です!マヤさんも出るんですね!」

「それなら、みんなで応援しないといけないわね」

 

 

「薫さんもいるじゃん」

「あら、なら応援しましょう!」

「はぐみは立って応援するよ!」

「はぐみちゃん、後ろの人が見えなくなるよ.....」

 

 

どうやら巴だけじゃなく麻弥と薫先輩も出てるらしい。ならその二人も応援してやらないとな。

 

 

 

 

 

 

『よーい、ドン!』

 

 

まずは100mからスタート。100mには麻弥が出場している。このスウェーデンリレーは1.2.3年合同でチームを編成している。普段フヘッている麻弥はあまり運動が得意では無さそうだな。

 

 

 

「麻弥ちゃん頑張れー!」

「マヤさん、疾風の如く走り抜けるのです!」

「麻弥ちゃん!頑張ってね!」

 

 

 

ブヒッ、走ってる麻弥ちゃんも天使だお

流石我が嫁、応援しているイヴたん尊い....

 

 

 

オタッキーが増えてんじゃん。まぁオタッキーはオタッキー同士でよろしくやっててくれ。あまり触れないでやるから。

 

 

 

 

 

 

予想は的中、麻弥は4位で次の走者にバトンを渡した。走り終えた麻弥は待機場所へ行くと少しグッタリしていた。普段からの運動不足だなありゃ。

 

 

 

 

「お姉ちゃん頑張ってー!」

 

「あこ、いつの間にこっち来てたんだよ」

 

「みんなと一緒に応援したかったから来ちゃった」

 

 

 

そのまま順位は変わらず最後の400m走者へバトンが渡った。400m走者には巴と薫先輩。三馬鹿の一人である薫先輩の実力やいかに。

 

 

 

『巴頑張れー!』

『キャー!薫先輩頑張ってくださいー!』

 

 

 

相変わらず薫先輩は人気だなぁ。保護者の人も目を輝かせて応援してるしな。

 

 

 

「お、巴と薫先輩で1位争いか」

 

「ハロパピには負けないよ!」

 

「勝負ってことかしら?それなら望むところよ!」

 

こっちの応援席でもハロパピvsアフグロ対決が始まってしまった。両方とも応援するっていう考えにはならなかったのかよ。

 

 

「巴も薫先輩も頑張れー!」

 

その後も両者一歩も引かず競技は進んでいった。そして、結果は.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんと、両者同時にゴール!同率1位となりましたー!』

 

 

これは誰も予想がつかなかったであろう結果に大盛り上がりだった。

 

 

「先輩なかなかやりますね」ハァハァ 

「君こそ凄いじゃないか」ハァハァ 

 

 

 

まさかの同率1位になったスウェーデンリレーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-第四種目-

 

 

 

『第四種目 障害物競走に出場する.....』

 

 

先程の盛り上がりは冷めぬまま次の競技が始まる。障害物競走はリサと日菜が出る予定。

 

 

 

「今度は今井さんね」

「応援....頑張りましょう....!」

 

「日菜ちゃんなら大丈夫だよね」

「どんな障害物があるのでしょうか?」

「あの子なら難なくいけそうな予感はするわね」

 

 

千聖さんの意見には賛成できる。障害物競走の障害なんて日菜にとってはなんてことないだろう。まぁリサも上手いことやっていけると思うけどな。

 

 

そんなこんなで3年生の出番。リサと日菜は同じ順番だったので先程と同様に1位争いが起こる予感。

 

 

『よーい、ドン!』

 

 

 

 

 

 

 

走り始めた走者を始めに阻んだのは跳び箱。そこまで高くは無いのでジャンプで難なくクリアできる。

 

「これなら楽勝だねー」

「(日菜に離されちゃダメだ!)」

 

勿論、日菜とリサも難なくクリア。遅れることなく次の障害物へ。

 

 

「今度は網のトンネルかー」

「日菜には負けないよ!」

 

網のトンネルもクリアし、その後の障害物もベースを落とすことなくクリアしていく二人。遂に、最後の障害物へ差し掛かる。

 

 

 

「ん、何この箱?」

「わかんないね」

 

 

 

『最後の障害物は、箱の中から一枚紙を引いてそのお題を持ってゴール地点へ向かう"借り物競争"です!』

 

 

 

最後の最後で借り物ときたか。ていうより競技混ざってんじゃん。借り物競争は借り物競争で一つの競技だろ。

 

 

 

「じゃあ私先に引くねー」

「あ!じゃあ私も引く!」

 

 

リサと日菜は同時に箱の中は手を伸ばし一枚の紙を取り出す。そして、書いてあるお題を持ってゴールへ......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、なんか二人共こっち来てないか?」

 

「今井さんの借り物は何なのでしょうか」

 

「日菜ちゃん何でこっち来てるの⁉︎」

 

 

どんどん近づいてくるリサと日菜。借り物は場外にでもあるのだろうか?お姉ちゃんとかバンドメンバーとかなら納得だな。いや、そんなお題無いか。それにしても、どんどんこっちに近づいてくるな。しかもこれ、俺のとこに来て......

 

 

 

 

 

 

 

 

『宗輝、こっち来て!!』ガシッ

 

「うおっ、何で俺なんだよ!」

 

 

リサと日菜に両腕を引っ張られ運動場へ連行されていく俺。もしかして俺がお題なのか?そんなお題あってたまるか。状況がイマイチ掴めていない俺の腕を引っ張りながらも、リサと日菜は一目散にゴールへ向かっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

『おーっと!これまた二人同時にゴールだ!!』

 

 

 

結局、リサと日菜は俺を連れて二人でゴール。また1位が二人生まれてしまった。次は俺クラス対抗リレーなのに無駄に走っちまったよ。

 

 

「お題は何だったんだよ.....」ハァハァ

 

「それは秘密だよ!ね、リサちー?」

 

「う、うん。宗輝は知らなくても良いよ!」

 

 

 

お題は神のみぞ.....日菜とリサのみぞ知る。こうして、二人の少女の闘いは引き分けに終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

-最終種目-

 

 

 

『最後種目 クラス対抗リレーに出場する.....』

 

 

最後の競技であるクラス対抗リレーのアナウンスが聞こえる。色々あったが今になって思えば時間の経過は早かったように感じる。現在、点差はあまり開いておらずリレーで1位を取れば優勝といったところ。

 

 

 

 

 

「よし、なら行ってくるとしますかね」

 

「むーくん、ファイト!」グッ

「むっくん頑張ってね〜」モグモグ

「宗輝君応援してるね!」

「宗輝にかかってるんだからね!」

 

 

ポピパのみんなから応援の言葉を貰う。香澄は何かポーズとってるしおたえは昼飯食べてるしで訳分からん事になってる。

 

 

 

 

「あれ、有咲どこいったんだ?」

 

「有咲は良く見えるところでビデオ撮ってもらってるよ」

 

 

あまり顔見ないと思ったらビデオなんか撮ってたのか。でもなんか、有咲に似合ってるな。

 

 

 

 

「私達も応援してるわ」

 

「何で友希那ここに来てるんだよ。てかチーム違うだろ、自分のチーム応援してやれよ.....」

 

「湊さんのチームには負けませんよ」

 

「今回ばかりは宗輝を応援するわ」

 

 

嬉しいのか嬉しくないのか微妙なところである。せめて形だけでも自分のチーム応援すれば良いのにな。

 

 

 

 

「走る前にエネルギー補給しとかないとね!」ガバッ 

 

「お、おいひまり、抱きついてくるなよ。エネルギー補給してんのはお前の方だろそれ」

 

「あー!なら私も補給する!」ダキッ

 

「日菜まで⁉︎もう行かないといけないから離してくれ〜」

 

 

割とマジで入場門に行かなきゃヤバい時間だった。そこで、助け舟が入る。

 

 

 

 

「ひまり、そこまでにしときなって」

「日菜、いつまで迷惑かけるつもり?」

 

 

巴と紗夜さんが二人を離してくれた。この二人はやはり周りがよく見えてるっていうかそういうのに長けてるところあるな。まぁ、紗夜さんに関しては半ギレですけどね。

 

 

「紗夜さんも巴もありがと。じゃあ行ってくるわ」

 

 

その後、ささっと入場門まで移動して行進が始まった。このリレーでも俺はアンカーらしい。一番目とかが良かったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よーい、ドン!』

 

 

競技が始まって一番目の走者が走り出す。しかし、クラス対抗だけあって足の速い子が各チーム選ばれている。ウチのクラスは2.3位付近。そのままの調子で3番目の走者へ。しかし、ここで問題が起こる。

 

 

「わっ!」バタッ

 

「あっ!バトン落としちゃった!」

 

 

リレーではありがちのバトンパスの失敗。観客やメンバーはめげずに頑張れだのまだ大丈夫だの応援してくれるが、当人の失敗したという事実は消えてくれない。それが足枷となり2番目の走者の子は泣き出してしまった。3、4番目の走者が何とか頑張ってくれて3位で俺にバトンが渡ってきそうな状況。

 

 

「おーい、宗輝ー」フリフリ 

 

 

 

俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。ふとその方向を向くと、カメラを構えてこちらに手を振る有咲が見えた。場所は丁度ゴールライン。

 

「そんなとこでビデオ撮ってるんだな」

 

「ここが一番撮りやすいからな。.....1位で帰ってくるのをカメラに収めてぇし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、有咲姫の要望通りに1位で帰ってくるとしますか」

 

「なっ!き、聞こえてたのか今の!」///

 

「もうすぐ来るから行ってくる」

 

「もー!1位で帰って来なきゃ許さないかんなー!」///

 

 

スタート位置....もといゴールラインへ戻りバトンを待つ。有咲と話したお陰で少し緊張がほぐれた。待っている間、ふと目を閉じてみる。明日香やひまり、友希那が走った50m走、蘭と一緒に走った二人三脚リレー、巴と薫先輩の激しい1位争いがあったスウェーデンリレー。そしてリサと日菜に連れられてゴールした障害物競走.....。その全てが脳裏に色濃く焼き付いて離れない。締めくくりの為にもこのリレー、絶対に負けられないな。

 

 

 

 

 

「むーくん!みんな応援してるから、絶対に1位で帰ってきて!」

 

 

 

任せとけ、と心の中で呟く。前まではこんなキャラじゃなかったんだけどなぁ。香澄達と触れ合っていく中で変わっていったのかもな。そんなあいつらに少しでも恩返しする為にも1位で帰ってきますかね。

 

 

「ごめん、後はよろしく」ハァハァ

 

「ありがとな!後は任せとけ!」ダッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『2年A組まさかの大逆転勝利ー!!』

 

 

無我夢中で走り続けた結果、見事1位を取ることができた。ゴールラインを通過して安心したのか座り込んでしまった。

 

 

 

 

 

「......1位おめでとさん」

 

「その声は有咲か」ハァハァ

 

観客席の一番前でビデオを撮っていた有咲に声を掛けられる。俺は座り込んでいたので顔だけを動かし有咲の方は向く。

 

 

 

「ちゃんとビデオに撮れてるか?」

 

「勿論、私を舐めんなよ」フフン

 

 

有咲はそう言って胸を張って自慢げに答える。ただでさえスタイルの良い有咲にそんなポーズを取られると目のやり場に困る。少し目線を有咲から外して話を続ける。

 

 

「有咲、応援ありがとな」

 

「何言ってんだよ。応援なら他のやつもしてただろ」

 

「それに加えて有咲はビデオも撮ってるだろ。めんどくさいのにわざわざありがとな」

 

 

「.....ま、まぁな!ほら、みんな待ってるぞ!」///

 

 

 

 

有咲の言う通り、他の面子は皆待機場所に居て俺だけが座り込んでいた。それに気付き少し恥ずかしく思いながらも早足でその場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

『閉会式を行いますので、生徒は.....』

 

 

最終競技のクラス対抗リレーが終わり待機場所に戻ってすぐのアナウンス。時刻は12時を回ったところ。あまりプログラムにズレが起きなくて助かった。

 

 

 

「じゃあ閉会式行こっか!」

 

「ひーちゃん元気だね〜」

 

「うるさいくらいだね」

 

「むー!うるさくないもん!」

 

 

そんな他愛ない話をしながら閉会式へ向かう。閉会式と言っても順位発表くらいしかやらないけどな。

 

 

 

 

『お疲れ様ー。お待ちかねの優勝クラスを発表しまーす!』

 

 

発表者は言わずもがな生徒会長の日菜。その近くでサポートしているつぐみ。日菜のサポートなんて大変だろうに。一年生から三年生の順番で優勝クラスと準優勝クラスが発表されていく。

 

 

 

 

 

 

『次は二年生だね!えーと、優勝クラスは2年A組でーす!』

 

 

 

何とも締まりのない優勝発表。しかし、日菜らしくもあり俺は好きだった。発表と同時にクラスで歓喜の声が上がる。

 

『良かったねー!』

『初優勝だよ!』

 

ワイワイガヤガヤ 

 

 

 

 

『はーいみんな静かにねー。次は三年生....』

 

 

 

こんな調子で続いていき、閉会式が終わり羽丘学園プチ体育祭ことリレーカーニバルは幕を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、疲れたぁ〜!」

 

「おつかれむーくん」

 

リレーカーニバルも終わり、俺は帰路についていた。しかし、ここでも問題が発生している。

 

 

 

「むっくんちどこ?」

「おたえ朝も行っただろ⁉︎」

「お姉ちゃんカッコよかったよ!」

「ありがとなあこ!」ナデナデ

「紗夜も燐子も応援ありがとね」

「彩ちゃんいっぱい人だかりできてたねー」

 

 

 

ワイワイガヤガヤ

 

 

 

 

そう、5バンド全員が俺についてきているのである。朝でも窮屈だったのにこれでは休むにも休めん。

 

 

 

「なぁ、流石に人数多いからじゃんけんでもして減らしてくれ」

 

『......!!」バチバチ

 

 

 

おお、目に見えるぐらいに火花が散っているのが分かる。そんなに俺の家来たいんだったら暇な時来ればいいのに。まぁみんな忙しいんだろうけどな。

 

 

 

『最初はグー!じゃんけん.....』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

「誰もいないのにそれやってんのか?」

 

「もう習慣付いてるんだよ」

 

「変な奴」フッ

 

 

 

帰ったらいつも行うマイルーティーンが有咲に変と言われた。そんなことないと思うんだけどな。

 

 

「私はそれ良いと思うな」

 

「流石リサ、良くわかってるな」ナデナデ

 

「んっ、ありがと」///

 

「あー!リサちーだけズルい!」

「日菜先輩落ち着いて下さいー」

「羽沢さんも大変だね....」

 

 

 

 

じゃんけんの結果、有咲、リサ、日菜、つぐみ、美咲の5人が今日は俺の家に来ることになった。来ても何もないんだけどなぁ。

 

 

「ねーねー、宗輝の部屋行ってみたいなー!」

 

「やめてくれ、マジで片付け出来てないから」

 

「なら私が片付け手伝ってあげるよー」ツンツン

 

「頼むから今回はリビングで我慢してくれ....」

 

 

 

残念そうな顔をする5人。今部屋に入られると非常に困る。何が困るかは内緒ですけどね。

 

 

「飲み物何が良い?つってもお茶かオレンジジュースくらいしかないからな」

 

 

 

「私は緑茶で」

「なら私は麦茶ね」

「ほうじ茶ちょーだい!」

「私抹茶が好きかな」

「統一性無さすぎでしょ.....」

 

 

 

「全員麦茶決定な」

 

 

 

 

その後、今日のリレーカーニバルの映像を5人で見た。時々、俺が映る時だけ有咲のカメラワークが少しブレていたのを聞くと、顔を真っ赤にして俺には教えないと言われた。他の4人にもそれは自分で考えなとか言われる始末。女の子は分からん。

そして、数時間が経過した。

 

 

 

 

「.......zzz」

 

「とうとう宗輝寝ちゃったね」

 

「もっと遊びたかったのになー」

 

「疲れてたので仕方ないですよ」

 

「私達どうしましょうか?」

 

「このまま帰るのも気が引けるし.....」

 

 

 

『(これはチャンスかも⁉︎)』

 

 

 

 

 

 

「またじゃんけんして一人だけ宗輝と一緒に居るっていうのはどう?」

 

 

 

「リサちー良いこと言うねー!」

「べ、別に一緒に居たいとかじゃないからな!」///

「市ヶ谷さん誰に言ってるの.....」

「(うぅ〜、恥ずかしいよ)」///

 

 

 

 

 

『最初はグー!じゃんけん....ポンッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

-数時間後-

 

 

 

 

 

 

「ん....あれ、俺寝てたのか?」

 

「....zzz」スヤスヤ

 

「.......」

 

 

 

 

 

ま、待てよ、一度状況を整理しようか。まず、俺はリビングのソファで寝落ちしてしまった。そして、それを知った5人は気を遣って帰ってくれた。しかし、鍵もかけずに俺一人を寝させるわけにはいかないので一人だけ残ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「その結果、つぐみが俺に寄りかかって寝てんのか.....」

 

「.....ん、宗輝....君?」

 

「ごめんつぐみ、起こしちゃったか?」

 

「ご、ごめん!私も寝ちゃってた....」

 

 

 

この状況に気付いたつぐみは慌てて姿勢を正して謝る。相変わらずつぐってんな。

 

 

「いや、つぐみだって日菜の手伝いで疲れたろ。もう少し休んで帰っても良いんだぞ?」

 

「でも、もう時間も遅いし....」

 

「遠慮すんなよつぐみ。なんならさっきみたいに寄りかかってきても良いんだぜ?」ニヤッ

 

「も、もう!意地悪しないでよ宗輝君!」///

 

 

 

 

アフグロの中でも苦労人のつぐみ。実際、今日はつぐみの尽力があったおかげでスムーズに進行出来ていたと思う。そんなつぐみにはご褒美の一つや二つあってもバチは当たらないと思う。

 

 

 

「俺は頑張ったら頑張った分ご褒美があっても良いと思うけどな」

 

 

 

 

 

「......なら、一つだけお願い聞いてくれる?」

 

 

「俺に出来ることなら良いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「......みんなみたいに頭撫でて欲しいな」///

 

 

「.....いつだってやってやるから遠慮すんなよ」ナデナデ

 

 

「んっ、分かった」///

 

 

 

 

 

 

 

この後、めちゃくちゃ頭撫でた。満足げな顔をしてつぐみは帰っていった。

今日は特別疲れたなぁ。しかも明日学校じゃん。

 

 

 

 

「......飯食って風呂入って寝よ」

 

 

 

 

 




じゃんけんのシーン、ちゃんとルーレットで決めました。
バンドリなのに推しメン出てねぇじゃん〜って方すみません。
偏りすぎてくると無理やり変えていくのでお気になさらず。
(感想とかでもっとこのキャラ出してとか言って頂けると幸いです)


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Produce 17#お嫁さん選手権

今回もルーレット方式を採用しております、主です。
意外とルーレットが偏ったりしたのでちょいと変更加えてます。
(4回連続で同じキャラが出た時は焦りました)

それでは、17話ご覧下さい。


"ジューンブライド"

この言葉の示す意味は、端的に言えば幸せとなるだろう。世間一般的に6月に挙式や籍を入れるとジューンブライドと言われている。女の子の夢と言っても過言では無いが、男からしたら割と気にしないかもしれない。因みに、俺は相手に合わせるタイプ。

 

今回は、そんな"ジューンブライド"に因んだお話。

 

 

 

 

***

 

 

Roseliaの主催ライブやらリレーカーニバルやらで疲れた日から数日、今日は金曜日。今の女子高生風に言うと華の金曜日とかって言うのか?授業も難無く終えて帰宅しようと準備していた。

 

 

「宗輝、一緒に帰る?」

 

「今なら特別に〜、モカちゃんも付いてきま〜す」

 

 

今しかお前はついてこねぇのかよ。テレビ通販の真似事か。

 

 

「ならみんなで帰るとするか」

 

「みんな帰るよ〜」

 

「ごめん、用事あるから先に行っててくれる?」

 

「つぐ、なんかの頼まれごと?」

 

「うん、日菜先輩に呼ばれてて」

 

 

何故だろう、すっごい嫌な予感がする、ていうかそれしかしない。刻一刻とそれは近づいてきていた。

 

 

バタバタバタ

 

 

「お、つぐみちゃんみっけ!丁度宗輝もいるし良かった!」

 

「日菜先輩⁉︎」

 

「言わんこっちゃない.....」

 

 

 

日菜が顔を輝かせてこちらへ走ってくる。まためんどくさいことに巻き込まれると感じながらも少し楽しんでいる俺がいる。これは日菜のせいだな、そうに違いない。

 

 

 

「明日、CiRCLEで面白いことするから来てね!」

 

「面白いことって何ですか⁉︎」

 

「んー、それはまだ秘密だよ!」

 

「とにかく明日CiRCLEに行けばいいだろ」

 

「そゆこと!このこと伝えたかっただけだからつぐみちゃんももう帰っていいよー」

 

 

 

そう言い残して日菜は颯爽とその場を去っていった。CiRCLEで何するつもりかは知らんが兎にも角にも明日行ってみるしかないな。

 

 

「とりあえず帰るか」

 

「そうだね」

 

 

この時はまだ、あんなことになるとは思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の日。俺は日菜からメールで"宗輝は10時着!時間厳守!"と送られてきていたのでそれに従って10時ピッタリにCiRCLEへ到着。扉の前まで歩き自動ドアが開く。

 

 

「あ、宗輝君じゃない。みんなもう来てるよ」

 

「まりなさん、お久しぶりです」

 

「お久しぶりなのは誰のせいなのかな?」

 

 

いや、あんたが主催ライブで休みとるからこの一週間一人でやらないといけなくなってるんでしょうが。しかし、そんなことは面と向かっては言えないので作り笑いでその場は誤魔化す。

 

 

 

「みんなが待ってるので行ってきます」バッ

 

「もう!後で覚えておいてよー!」

 

 

 

そんなまりなさんを置いて、俺は奥へと進んでいく。みんなが待っているとは言っていたが誰がいるんだ?来るメンバーなんて聞かされてないしな。まぁ、行ってみりゃ分かるか。

 

どんどん奥へと進み、ライブステージへと繋がるドアを開ける。

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『第一回!誰が一番お嫁さんに近いか⁉︎お嫁さん選手権〜!』

 

 

パチパチパチ 

 

 

「はぁ?」

 

 

俺がライブステージがある部屋へ入るや否やそんな声が聞こえてくる。声の主は暗くてよく見えないので確証が持てない。暗くて周りが見えないので辺りを確かめつつ声のする方へ向かう。そこで、照明が一気に点灯する。

 

 

『まずは回答者の紹介からいきましょう!』

 

 

 

 

先程の声の主は、まさかの麻弥。あれは機械をいじったり隙間に入ったりしているときのテンションだな。あのフヘッている時の麻弥もなかなか.....というより先にこの状況を説明してくれ。

 

 

 

 

『まずはこの人!Poppin'Partyの天然担当!今まで見てきたウサギの数は数知れず。ウサギと天然において右に出るものは無し!花園たえ!』

 

「ポピパの為に頑張るよー」

 

 

 

麻弥の紹介でスポットライトが当たった場所にいたのはおたえ。というより、そこステージだよな?何勝手に改造してくれちゃってんの。後で直しとけよ、主にまりなさんがしんどくなるだけだから。

 

 

 

 

『次にこの人!After glowの赤メッシュ、幼馴染バンドのギターボーカル!見た目はパンクなこの少女、実は華道も出来るんです!美竹蘭ー!』

 

「(さっさと終わらせてバンド練習しよう)」

 

 

 

次に現れたのは蘭。おたえとは違い無言のままだったが早く終わらせてバンドの練習でもしようとか考えてるんだろう。何で分かるのか?それは俺と蘭の仲だからな。伊達に羽丘通ってねーよ。

 

 

 

 

『三人目は、我らがPastel Palettesのリーダー!噛んじゃうところも可愛らしい!エゴサーチの鬼こと丸山彩ー!』

 

「麻弥ちゃん!その紹介やめてよー!」

 

 

 

三人目は彩。紹介の通りエゴサーチしては傷付いたりへこんだりする癖がある。その度に俺に泣きついてくるのをそろそろやめてほしいんだけどな。

 

 

 

 

『四人目はこの人!超本格派バンドRoseliaからの参戦!観客を虜にする美声を持つ"歌姫"湊友希那!』

 

「この闘い、負けられないわね」

 

 

 

四人目は意外や意外、まさかの友希那が参戦。バンドのことに関してはプロ並みの意識の高さだが、最近、少し天然というかボケている点が否めない。

 

 

 

 

『そして最後の五人目!世界を笑顔にするハロー、ハッピーワールドのベース!コロッケ大好き北沢はぐみ!』

 

「むーくんの為に、はぐみ頑張る!」

 

 

 

最後の五人目ははぐみ。ここで満を持してハロパピ三馬鹿の内の一人が登場。破茶滅茶な展開になること間違い無しだな。

 

 

『紹介が遅れました、解説は大和麻弥でお送りします』

 

 

 

ここで麻弥が遅ればせながら自己紹介。

いや、何このカオスな空間。まずお嫁さん選手権って何よ。全く状況が掴めてこないんですけど。

 

 

「なぁ、俺って何の為に呼ばれたんだ」

 

『宗輝君には審査員をしてもらいます』

 

冷静な顔をした麻弥にそう告げられる。さっきまでDJみたいなノリでいってたのはどこにいったんだよ。

 

 

「何の審査員するんだよ.....」

 

「異論反論は一切認めませーん!」

 

「日菜、どこから出てきたんだよ」

 

「それはー、ほれ!」

 

パチッ

 

 

 

今までステージしか照らしていなかった照明が一気に点灯する。そして、観客席にいたのは顔見知りばかりだった。

 

 

 

「おたえー、頑張れー!」

「蘭〜、ふぁいと〜」

「アヤさん!ご武運を!」

「あぁ.......儚い」

 

 

 

勿論、5バンド全員集合。こんなことやってる暇あるんだったら練習しろよ、と心の中でツッコんでおく。どうせ実際に言ってももう遅いからな。

 

 

 

『今から出題する問題に5人の方に答えて頂きます。その回答を見た宗輝君にポイントをつけてもらい、最終的にポイントが一番高い人が優勝です!』

 

 

そこらへんのルールはよくあるクイズ番組形式なのな。一応安心したわ。

 

 

「優勝者には何があるのかしら」

 

『見事優勝した方には、一回だけ宗輝君に言うことを聞かせられる券が与えられます!』

 

「おいまて、そんなこと聞いてないぞ」

 

『すみません、今考えました』テヘペロッ

 

 

 

くそ、非常に残念だが可愛いので許してやろう。そう、可愛いは正義だ。いいか覚えとけ、可愛いは(以下略

 

 

 

「一日中むっくんとギター引こう」

「それは良い案だが、絶対にやめとこうな」

 

「別に私はそんなもの要らないけどね!」///

「言ってる割に顔赤いぞー蘭」

 

「もし優勝したら、お忍びデートして、晩御飯は高級ディナー、そして最後は.....は、恥ずかしくて言えない!」///

「先生、一人妄想の世界に入ってまーす」

 

「そうね、私が勝ったら一先ず結婚してもらおうかしら」

「結婚は言い過ぎな。というより一先ずってその後何させるつもりだよ」

 

「むーくんにコロッケ屋さん手伝ってもらおうかなー?」

「はぐみ、お前がこの中で一番まともだなんてな.....」

 

 

始まる前から既に訳分からん事になってるがもう知らん、なるようになれ。

 

 

 

 

 

 

『それでは、第1問!』

 

 

 

 

 

 

『旦那さんがまさかの体調不良でダウン!そんな時、あなたならどうしますか⁉︎』

 

 

ふむふむ、これは臨機応変な対応が求められるな。まさに主婦力やら嫁度やらが試される問題だ。

 

 

 

 

 

 

『さぁ、時間となりましたので回答を一斉にオープンしてください!』

 

 

ババン

 

 

 

 

 

 

 

おたえ「オッちゃんと一緒に添い寝する」

蘭「家事を先にこなして看病する」

彩「治るまでずっと側にいてあげる」

友希那「私達の音楽を聴かせる」

はぐみ「コロッケ食べさせる」

 

 

 

まぁ、おかしいところがあるが今は司会の麻弥に任せてみよう。

 

 

『回答が出揃ったところで採点に移ります!どうですか宗輝君⁉︎』

 

 

「まずおたえ、ウサギと添い寝は勘弁な、それに移るわ」0ポイント

「モフモフで気持ちいいのに」

 

 

「次に蘭、代わりに家事をこなしてくれるのはグッドだ。看病してくれる点も流石蘭、分かってるな」2ポイント

「こんなの普通だしね」///

 

 

「彩も俺的にはポイント高いんだけどなぁ。これじゃあ一日潰れちまうぞ」0.5ポイント

「でもその方が安心するじゃん!」

 

 

「友希那、お前は何考えてるか分からん」0ポイント

「音楽で体調を良くするのよ」

 

 

「はぐみ、体調悪いのに油物はNGだ」0ポイント

「サクサクで美味しいよ!」←意味が分かってない

 

 

 

 

『ポイントを獲得したのは美竹さんと彩さんだぁー!!』

 

「何で麻弥はこんなにテンション高いんだよ」

 

「この後、貸切でライブステージの隙間という隙間に入るらしいよー」

 

 

何でライブステージ貸切してまで隙間なんだよ。麻弥っぽいって言えば麻弥っぽいけどな。それであんなにテンション上がってんのか、聞かなきゃ良かったわ。

 

 

 

 

 

 

 

『続いて第2問ー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『旦那さんがいきなりの残業!しかし、もう晩御飯は作り終えて子供も待機中。あなたならどうしますか⁉︎』

 

 

これは良くある事だな。まぁまだ高校生の俺が言える台詞じゃないけど。でも、これは回答が大体同じになるんじゃないか?

 

 

 

『それでは時間になりましたので回答をオープンしてください!』

 

 

デデン

 

 

 

 

 

おたえ「子供に先に食べさせて、オッちゃんにもご飯あげてから待つ」

蘭「子供と一緒に軽く済ませてから、帰ってきたタイミングで一緒に食べる」

彩「子供に食べてもらってから、作り直す」

友希那「子供と一緒に食べて、外食かコンビニで済ませてもらう」

はぐみ「コロッケを食べてもらう!」

 

 

まぁ今回はまともだな、最後の一人を除けば。

 

 

『さぁ宗輝君!採点をお願いします!』

 

 

 

「まずは回答が似てるおたえと蘭。おたえに関してはオッちゃんにも忘れずにご飯あげてて偉いな。蘭もその時に軽く済ませるのもコツだな」1ポイント

「毎日忘れずにご飯はあげてるよ?」

「流石に何も食べずには待てないからね」

 

 

 

「次に彩、作り直すってことはその時作ったのはどうするんだ?」

「ラップとかで包んで冷蔵庫に入れとけば翌日にでも食べられるよ!」

 

「なるほど、そして温かいご飯を作り直してくれるのか。彩の愛情のこもったご飯が食べられる奴が羨ましいな」2ポイント

「な、なら今度作ってあげよっかなーなんて....」///

 

 

「次に友希那だな。この回答は俺的には全然アリだ。無理して待つ必要も無いからな」1ポイント

「でしょう?宗輝の考えてることは分かるわ」

 

 

「最後にはぐみ。この回答だとコロッケしか食べられないのか?」0ポイント

「コロッケ食べれば元気でるよ!」

「そういうことじゃないんだよなぁ.....」

 

 

こうしてみるとやっぱりはぐみだけちょっとズレてるんだよなぁ。はぐみんちのコロッケはマジで美味しいから。でもこの問題の趣旨とはズレてるから点あげられないわ。

 

 

 

 

『二問目が経った時点での1位は美竹さん!続いて2位は彩さんだ!』

 

 

 

「流石は蘭!応援してるぞー!」

「頑張れ蘭ー!」

「このままの調子だよー!」

「っしゃーす」

 

 

 

現在トップの蘭を励ますべくアフグロメンバーが声を掛けて応援する。巴とひまりとつぐみは良いがモカ、それは応援なのか分からんぞ。

 

 

「彩ちゃん頑張れー」

「アヤさん!ここからは背水の陣です!」

「緊張せずに頑張るのよー」

 

 

僅差で2位についている彩にもパスパレメンバーから応援の声が掛かる。まだ二問しか問題が出てないが彩は良いお嫁さんになりそうだよなぁ。好きな人とかいんのかな?応援してやりたいし今度聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

『さぁ次がラストの問題です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたが相手に求めるものは何⁉︎』

 

 

 

これ関係なくね?良いお嫁さん以前の問題じゃんか。まぁ聞いて損は無いから聞いとこう。

 

 

 

 

『それではラスト問題の回答をどうぞ!』

 

 

ババン

 

 

 

 

 

おたえ「動物好き、ギターを弾ける」

蘭「一緒にいて落ち着く、自分のことをわかってくれる」

彩「優しさと愛情!」

友希那「経済力、音楽」

はぐみ「むーくんみたいな人!」

 

 

これまたバラバラだな。そしてはぐみ、回答が俺みたいな人ってなんだよ。可愛いなチクショウ。

 

 

『ラスト問題なので一人一人に焦点を当てていきましょう!まずは花園さんからどうぞ!』

 

 

 

「動物好きだったら一緒にウサギ飼えるしギターとかも一緒に弾きたい」

 

「一緒に動物とか飼って世話出来たら楽しいもんな。ギターだってそれと同じだな」3ポイント

 

 

 

『おーっと!ここでいきなりの3ポイント!次に美竹さんどうぞ!』

 

「一緒にいて安心出来たり落ち着く人が好きなので....後、自分のこと分かってくれるのは少し我儘かもしれないですけど」

 

「蘭の言う通り、俺も落ち着く人好きだしな。自分のことを分かってくれることについては全然我儘じゃ無いと思うぞ。それも大事な要素の一つだ」3ポイント

 

 

 

「続いて美竹さんにも3ポイント!ここで追い抜けるか彩さん!』

 

「そんなに深い理由は無いけど.....優しくて愛情たっぷりの人の方が私は好きだから」

 

「彩なら好いてくれる人沢山見つかるだろ。結婚した後もラブラブで続きそうだもんな」4ポイント

 

 

 

『これは過去最高の4ポイント!大差だが巻き返せるチャンスです湊さん!』

 

 

 

「経済力は何をするにしても必要だわ。私の場合、あとは音楽が出来ると良いわね」

 

「確かに経済力は必須だな。求めるものが音楽ってのも友希那らしいな」3ポイント

 

 

 

『これまた3ポイントが入りました!最後に北沢さんどうぞ!』

 

 

 

「はぐみはむーくんが好きだから!」

 

「ここでストレートなの来たか。うん、素直に嬉しいから5ポイントあげちゃう!」5ポイント

 

 

 

『最後に最高得点5ポイントキターッ!!ここで終了となります!』

 

 

ワイワイガヤガヤ 

 

 

合計三問とあまり多くはなかったがここで終了。後は結果を待つのみとなった。

 

 

 

 

 

 

『えー、それでは結果を発表します!結果はこちら!』

 

おたえ:4

蘭:6

彩:6.5

友希那:4

はぐみ:5

 

 

 

『という結果になりましたので、優勝は彩さんです!』

 

 

 

 

 

 

 

「やったぁ!これで宗輝君とデート.....じゃなかった。一つだけ言うこと聞いてもらえるね!」

 

 

 

彩、もうお願いされることが分かったぞ。最初からデートやらなんやら言ってたもんな。まぁ俺としても彩とデート出来るんだったら願ったり叶ったりだよ。ファンの人には申し訳ないけどな。

 

 

 

『これにて第一回お嫁さん選手権終了となります!』

 

 

 

「彩ちゃんやったねー!」

「流石はアヤさん!あっぱれです!」

「彩ちゃんならやれると思ってたわよ」

 

「ありがとうみんな!」

 

 

より一層メンバー同士の絆が深まった瞬間を垣間見た気がする。やっぱりみんな仲良くが一番だな。しかし、俺から言わせてみればみんな良いお嫁さんになると思うけどな。それに加えてみんな可愛いし。いつか理想の相手と結婚できると良いな。

 

 

 

「なぁ、これってもしかして第二回とか.....」

 

 

『あるに決まってるじゃん!!』

 

 

 

 

俺は日菜に聞いたつもりだったんだが、まさかの観客席のみんなからの返答。そんなにやりたいなら別に付き合ってやるけど。男は俺一人しかいないしな。それに、こんな風にみんなとワイワイしてる時間が俺にとっては幸せな時間だからな。

 

 

 

「仕方ねぇか.....」

 

 

 

誰にも聞こえない声で独り言の様に放った言葉は、みんなの声に掻き消されてしまった。

 

 

 

 

 





需要あれば第二回も開催しようと思ってますので。
次回はエゴサとデート回の予定です。
妄想フルMAXで頑張ります。
その為にも、お気に入り、感想等お待ちしております。


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Produce 18#君の彩りの為に

今回今までで一番長いです、主です。
思いつくまま書いてたら止まりませんでした、すみません。
長いの嫌な方居ましたら言ってください。
(今回のアンケートによろしくです)


それでは、18話ご覧下さい。


 

 

 

拝啓、父さん母さん、俺は今日初めて女の子とデートをします。

 

デートと言えばおおよその男の子や女の子からしたら普通に経験するもの。しかし、俺は今まで経験したことがない。デートどころか告白の一回もしたこともされたこともない。噂によると、鈍感残念系イケメンとか言われているらしい。なんだよそれ、ちょっとカッコいいじゃねぇか。

 

 

そんなこんなで、俺はバッチリキメて集合場所へ向かっていた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

俺の手にある携帯に映し出されている時間は9時手前。俺が朝弱いことを考慮してこの時間にしてくれた。やはり彩は優しい。俺も流石にデートには遅れないけどな。ちゃんと目覚ましかけて起きるし。ほ、本当に起きれるからな。

 

 

「集合時間は9時だったな」

 

 

少し急ぎ足で集合場所である近くの駅に向かう。前日にどんな服装で行けば良いか有咲や沙綾にアドバイスを貰い最終的に俺がチョイスした。髪型も珍しくセットしている。この姿をさっきメールで有咲に送ったら"そこらへんのやつよりかはカッコいいかもな!"と返ってきた。有咲に褒めてもらえて嬉しかったのか自然と笑みがこぼれてしまった。

 

 

「彩は.....いた、あそこだ」

 

 

駅に着いて彩を探していたが、すぐに見つかった。理由は簡単だ。芸能人で有名な彩、変装とまではいかなくとも少しは隠す努力をしてきてくれとお願いしていた。しかし、サングラスをかけているくらい。正直誰が見てもバレバレだろう。今日のデート大丈夫かな?

 

 

「彩、おはようさん」

 

「宗輝君!おはよう!」

 

「じゃあ行くか」

 

「うん、楽しみ!」

 

 

それから、二人で電車に乗り目的地へ向かっていた。電車は休日なのである程度空席ができていた。彩と二人で並んで座っていると今日の予定について彩が一人で何か喋っているのに気付く。

 

 

「遊園地に着いて遊んでから、お昼ご飯食べて.....」

 

「さっきから何独り言言ってんだよ」

 

「今日の予定の復習!楽しみ過ぎてあまり眠れなかったんだよ!」

 

 

そう言って楽しそうにはしゃいでいる彩を見ているとこっちまで楽しい気分になってくるな。かく言う俺も楽しみで仕方が無いんだが。この後の遊園地は主に絶叫系が人気らしい。お昼ご飯は彩が作ってきてくれているので何処かで一緒に食べることになる。

 

 

 

「お昼ご飯楽しみだから朝飯ちょっと抜いてきたわ」

 

「ほんと⁉︎なら、お昼はちょっと早めにしようか」

 

そんな話をしていると、目的地である遊園地の最寄駅に到着。改札を抜け駅前の広場へ出る。

 

 

 

「よし、こっちだ彩」

 

「えぇ⁉︎宗輝君場所分かってるの?」

 

「昨日の内に調べといたんだよ」

 

「もしかして私より楽しみだったり....?」

 

 

馬鹿野郎、女の子とのデートなのに下準備しない男子はいないぞ。中のアトラクションまで調べ尽くしてきている。お化け屋敷とか連れて行ったら面白そうだな。

 

 

 

 

それから歩くこと数分。流石最寄駅だけあってすぐに到着。

 

 

 

 

「じゃあチケット買ってから中に入るか!」

 

「待って宗輝君、写真撮ろうよ」

 

「おお忘れてた。ならあの看板のところで撮るか」

 

 

彩は自撮りが超上手い。スタイルと顔の良さも相まって一つの絵の様な出来上がり。俺が自撮りしたら只の証明写真にしかならねぇわ。最近のJKは凄い(語彙力)

 

 

 

「じゃあ撮るね!はい、チーズ!」パシャ

 

 

 

 

「どれどれ、見せてみ」

 

 

彩の携帯の画面には超絶美少女と超絶イケメンが映っていた。なんか耳とかヒゲも生えてるし。いつのまに俺は犬になったのん?

 

 

「なぁ、これ俺か?」

 

「そうだよ!すっごい盛れてるでしょ⁉︎」

 

「これを盛れてるって言うのか」

 

 

ガールズバンドのみんながちょくちょく声にしていたのは分かっていたが、実際の意味までは知らなかった。みんな可愛いからこんなことしなくても良いと思うんだけどな。

 

 

「よし、今度こそ行くか!」

 

「うん!遊びまくろう!」

 

 

入口の係員の指示に従いチケットを購入。今日は大目に財布に入れてきたのでここは俺が支払った。彩は自分の分だけでも払うと言ってくれたがここは譲れない。男にはそういうプライドがあるのだよ。小さくてどうでも良いんだけどね。

 

 

 

「最初はやっぱり....」

 

 

 

 

 

 

 

『ジェットコースターだろ(でしょ)!!』

 

 

ここで二人の声が重なる。

 

 

「お、流石彩、分かってんな」

 

「勿論、まずは絶叫系制覇だね!」

 

「では、ここで今日の意気込みを丸山さんお願いします」

 

「えっと.....怪我しないように頑張りましゅ!」

 

俺がおちょくる様にエアマイクを彩の口元へ差し出してリポーター風に話しかける。そして、いつもの如く彩が噛み噛みで答える。というより、さっきのは噛むところ無いだろ。しゅってなんだよ、狙ってやってんなら小悪魔過ぎるぞ。

 

 

 

 

「頑張りましゅ!...だそうです....」プッ

 

「もうー、笑わないでよ!」///

 

 

それから、一つ目のジェットコースターを乗り終えるまでそのネタでいじりまくった。

 

 

 

 

 

 

「今度は水の上のジェットコースター行こうぜ!」

 

「お、良いね!」

 

 

二つ目は水上を走るジェットコースター。

 

 

「これコース自体は短いけど高低差がめっちゃあるやつじゃん!」

 

「ちょっと怖い....で、でも、頑張る!」

 

 

三つ目は急上昇急降下するジェットコースター。

 

 

「これなんかグルグル回るんだってさ!」

 

「どっちが降りた時目が回ってないか勝負だね!」

 

 

四つ目はグルグル回るジェットコースター。

 

 

 

 

 

 

 

俺たちはありとあらゆる絶叫系マシンを次々に体験していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、ちょっと休憩するか〜」

 

「流石に疲れたね」

 

 

怒涛の絶叫系ラッシュで開始早々テンションマックスで乗っていった結果、園内の半分程度の絶叫系は制覇してしまっていた。恐るべし遊園地、今度あいつも連れて来よう。

 

 

 

「ちょっと早いけど、お昼にする?」

 

「そうだな、まだまだ時間はあるし」

 

 

 

ふと園内に設置されている時計を見ると11時を回っていた。到着したのが9時30分頃。大体1時間ちょっとは動きっぱなしだったということになる。そりゃ疲れるわな。

 

 

 

「じゃあどこか座れるところ行こうか」

 

「そうだな、あそこなんてどうだ?」

 

「うん、あっちで食べよっか」

 

 

 

あまり動きたくなかった俺は、すぐそこにある休憩出来るベンチで食べるように提案した。まぁ二人だけだから大丈夫だろう。

 

 

 

「じゃーん!二段弁当にしてきたよ!」

 

「おおー、すげー」

 

「なんか反応薄くない?」

 

 

感動しすぎて少し雑なリアクションになってしまった。普段は少しポンコツな彩だが、こういった面ではしっかり者。ぱっと見だが、ちゃんと栄養バランスが取れているし、色とりどりの野菜がいっぱい。しかも、俺の大好物の出し巻き玉子が沢山入っているところもポイント高い。

 

 

 

「もう食べても良いか?見てたらお腹空いてきたぞ」

 

「どうぞ召し上がれ!」

 

「ありがと。んじゃあ、頂きます!」

 

 

やはり、一番先に食べるのは大好物の出し巻き玉子。これが無いと始まらないんだよなぁ。

 

 

 

「んっ.....う、うめぇ!」パクパク

 

「ほんと⁉︎良かったぁ....」

 

「しかも俺の好きな味付けじゃん!」パクパク 

 

 

俺は甘い味付けが一番好きなのだが、それが忠実に再現されている。お陰で箸が止まらない。一気に食べてしまうと勿体無いので少し残しておく。玉子を置いておいて他の物も口に運んでいく。

 

 

「彩はいっつもこの味付けなのか?」 

 

「えーとね、今日のは香澄ちゃんに聞いたよ」

 

「ああ、そういうこと」

 

 

小さい頃からあいつと一緒に居るから知ってるのか。香澄の母さんの作る出し巻き玉子も絶品なんだよ。是非、あの味を香澄と明日香に作れるようになってほしいね。

 

 

 

「玉子だけじゃなくて他もめちゃくちゃ美味しいぞ」パクパク

 

「ありがとう宗輝君、じゃあ私も食べよっかな」

 

 

そう言って自分の分の弁当箱を取り出して食べ始めた彩。内容的には同じ様な物が入っていたが、ところどころ野菜が違っていたりと工夫されている。これ作るの大変だったろうな。もしかして朝早くから作ってたりする?

 

 

「これってもしかしなくとも、朝早くから作った?」

 

「うーん、まぁ7時くらいから作り始めたね」

 

「マジか、その時間まだ寝てるわ」

 

 

その話を聞いて少し申し訳ない気持ちが出てくる。お昼ご飯は彩に任せっきりになってしまっていた。

 

 

「なんかごめんな」

 

「謝らなくても良いよ!私が作りたくて作ってきたんだから!」

 

「いや、俺自身が許せない。なんか埋め合わせさせてくれ」

 

 

こんなことでしか埋め合わせができない自分が情けなくなる。もっと他の事でできたらいいんだけどな。

 

 

「じゃあさ......食べさせてほしいな」

 

 

モジモジしながら彩がそう言う。正直少し恥ずかしいがそんなことを言える立場では無い。別に嫌って訳じゃないしな。

 

 

 

 

 

「よし、任せとけ」

 

「えぇ!即答⁉︎」

 

「なんだよ、断られると思ってたのか?」

 

 

自分で言っちゃなんだが、俺は頼まれると断らないタイプだぞ。それが彩とかなら尚更だ。出来る限りのことはしてやりたい。

 

 

「いや、でも.....」

 

「彩.....口開けろ」

 

「えっ......」パクッ

 

 

彩が口を開けた少しの隙を逃すことなく、俺の弁当に入っていた出し巻き玉子を食べさせる。

 

 

 

 

「どうだ、美味しいか?」

 

 

「.....うん、すっごく美味しいよ!」

 

「なら良かった。ほれ、あーん」

 

 

俺は再び出し巻き玉子を取り、彩の口の前に持っていく。すると、彩が口を閉じてしまう。

 

 

 

「あれ、食べないのか?」

 

「だって、出し巻き玉子は宗輝君の好きなものでしょ?それは貰えないよ」

 

貰うも何も彩が作ったものなんだけどな。俺が玉子好きだから遠慮してんのか。

 

 

 

 

 

「あのな彩、俺は自分の好きなものは他の人にも好きになって欲しいんだよ。そうすりゃ好きが2倍3倍と増えてくだろ」

 

「私元々玉子焼き好きだよ?」

 

「なら他の人にも彩の作った玉子焼き好きになって貰うわ」

 

「なんでそーなるの⁉︎」

 

 

 

当たり前だろ。彩の作った玉子焼きってだけで一部の人間からしたらどれだけの付加価値がつくと思ってんだよ。俺はそんなの関係なく好きだけどな。

 

 

 

「ついでに彩の魅力についても全世界の人に知ってもらおうぜ」

 

「ついでとかのレベルじゃないよ!」

 

「だってさ、彩の魅力を知らないなんて人生半分くらい損してると思うぞ、割とマジで」

 

「そ、それは言い過ぎだって!」

 

 

 

いかん、彩の反応が一々新鮮なものなので少しばかり調子に乗ってしまった。単純にツッコミを入れてくれる奴らなんて限られてるからな。ガールズバンドの奴らで言うと有咲とか美咲とかそこらへんだな。ボケるのも偶には面白いかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彩は今好きな人とかいるのか?」

 

「どんどん話が逸れてってる.....うん、いるにはいるけど」

 

「マジかーいるのかー。彩はそいつにご飯とか作って食べさせたりしたいんだろ?」

 

「ま、まぁそうだね(現在進行形で実行中だよ〜!!)」

 

「そいつ超幸せもんだよなぁ。俺応援してるから頑張れよ!」

 

 

 

そうだろうとは思っていたが、やはり好きな人はいるのか。彩の手料理食べられるとかそいつ幸せ過ぎんだろ。場所変われよ。

 

 

 

「うん、頑張ってみるね!(何か複雑な状況....)」

 

 

その後も学校のことからバンドのことまで他愛ない話も織り交ぜながら楽しいお昼ご飯を終えた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「よし、今度はお化け屋敷行ってみるか!」

 

「ねぇ、お化け屋敷はやめとかない?」

 

 

俺たちはお昼を回っても絶叫系アトラクションに挑み続けていた。既に時刻は午後3時。あまり遅い時間まではいられないので後一つか二つといったところ。そこで、俺的には本日のメインイベントであるお化け屋敷に行こうと提案した次第である。

 

 

 

「なんだよ、怖いのか?」

 

「べ、別に怖くなんか無いもん!」

 

「ならいけるよな?」ニヤッ

 

「むぅ〜、宗輝君の意地悪.....」

 

 

彩の反応を見ていると少しいじりたくなってくるのは認めよう。それが意地悪かどうかは置いといてな。

 

 

 

「お、ここだな。"恐怖の屋敷"だってさ」

 

「見て見て宗輝君!カップルで一緒に入ると中学生以下入場チケットが一枚無料だって!」

 

「なら尚更行かないとな」

 

「分かってるよ!カップルのフリだよね⁉︎」

 

 

 

なんでこいつはこんなにはしゃいでるんだよ。さっきまで怖がってたじゃんか。そんなにチケット欲しいなら買ってやるんだけどな。

 

 

 

「そんなにチケット欲しいのか?」

 

「いや、身内に中学生なんていないよ?」

 

「じゃあ何でそんなにはしゃいでるんだよ」

 

「んー、それは別にいいでしょ!」

 

 

プンプン、とかいう効果音が聞こえてきそうな感じで顔をぷくぷく膨らませている彩。なんだかハムスターみたいで可愛い。でもチケット貰ってどうするつもりだ?俺も別に中学生以下なんて......いたわ。すっかり忘れてた。

 

 

 

 

「なぁ、チケット要らないなら俺にくれないか?」

 

「ん?最初からそのつもりだったよ?」

 

「あ、そうなのね」

 

 

 

どこまでいってもお人好しの彩である。でもこいつは知らないはずなんだけどなぁ。もしかして香澄の仕業か?まぁ考え過ぎかも知れんが。

 

 

 

「なら、早速入ってみるか」

 

「うん!......恋人っぽくしなくちゃ

 

 

そんなことより取り敢えず、今はお化け屋敷を楽しむか。

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

随分と古臭い扉を開けて中に入る。これも仕様なのかは微妙だが、蜘蛛の巣が所々に張り巡らせてある。"屋敷"というだけあって、床を歩くとキシキシ音がしたりするし、窓のカーテンは勝手にゆらゆら揺れてるし。中々拘っていることが見て取れる。

 

 

ガタン!

 

 

進んでいると、いきなり物音がして薄暗かった照明すら消えてしまった。辺りは真っ暗で何も見えない。手探りで壁を見つけて歩いていこうと思った矢先、彩が腕に飛びついてきた。

 

 

 

 

「ひっ!.....む、宗輝君、いる?」

 

「.......」

 

「ちょっと、宗輝君?え、本当に居ないの?」

 

「.......」

 

「うぅ.....むねきくぅん、怖いよぉ」グス

 

 

 

彩が恐怖のあまり泣き出しそうになってきたのでここでネタバラシ、というほどでも無いが無事を伝える。しかし、冷静に考えれば腕につかまっている時点で俺なの確定なんだけどな。俺じゃ無いとしたらそれこそ笑えない。

 

 

 

「大丈夫、いるよ。このくらいで泣くなよ」ナデナデ

 

「だってぇ.....怖かったもん」

 

 

 

落ち着かせる意味合いも込めて頭を撫でてやる。しかし、何でこいつらはこんなに頭撫でやすいんだ?頭撫でやすいっていうのもなんかおかしいけど。お陰で俺が頭撫でるのデフォみたいになってんだけど。まぁ役得だから良いんですけどね。

 

 

 

そのまま、彩が腕に張り付いた状態で奥へと進んでいく。少し歩きにくいのだが、女の子特有の柔らかい感触と甘い香りがするので良しとしよう。決してその為に離さないのでは断じて無い。ホントダヨ、ムネキウソツカナイモン。

 

 

 

 

「お、そろそろ出口じゃないか?」

 

「ほ、本当に?」

 

「ほら、明かりが見えてきた」

 

「......ひゃ!!」

 

 

いきなり彩が声を荒げて抱きしめていた力を強める。そして、俺の腕を強引に引っ張りながら出口へと向かっていった。

 

 

 

「いきなりどうしたんだよ」

 

「一番最後の奴怖かったんだよ!」

 

「最後の奴?なんのことだ」

 

「足掴まれたじゃん!」

 

「.......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待てよ、俺は掴まれてないぞ。タイミングからして最後の一本道。俺が左側で彩が俺の右腕にしがみついていた時。右側の人にだけか?いや、()()()()と言っている時点でおかしい。普通は冷たい空気とか触られた感触がするだけ。

 

 

 

 

「マジで言ってんの?」

 

「.......」コクリ

 

 

 

 

 

今まで生きてきた中で、一番ゾッとした瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、なんかどっと疲れが出てきたな」

 

「叫び過ぎて喉がカラカラだよ〜」

 

 

お化け屋敷を出てから、少し離れた場所のベンチで休憩中。時計を見ると、もうすぐここを出ないといけない時間になっていた。

 

 

「ちょっと休憩してから帰るか」

 

「そうだね」

 

「俺飲み物買ってくるよ。彩は何が良い?」

 

「私はお茶が良いかな」

 

「りょーかい。そこで座って待っててくれ」

 

 

 

彩一人をベンチに座らせて自販機へ向かう。彩の分はお茶で良いとして、自分は何を飲もうか考えながら少し早足気味で到着。

 

 

「まぁ一緒でいいか」

 

 

 

小銭を入れてお茶のボタンを2回押す。取り出さずにボタンを押してしまったのが原因で、下に詰まってしまった。詰まっているのを取り出すのに少し時間が掛かってしまったが無事救出完了。1本ラベルが剥がれてしまったが、それは俺が貰うとしよう。味には影響ないんだけどね。

 

 

両手に花、というわけではなく両手にお茶を持って彩が待っている場所へ急ぐ。遠くから彩の姿が見える。しかし、そこにいたのは彩だけでは無かった。微かに聞こえる話し声に耳を傾けてみる。

 

 

 

 

「君.....?なら......」

 

「いや.....」

 

「.....いいじゃんか」

 

 

 

 

 

やはりあまり聞こえにくい。彩も困っている顔をしていたので名前を呼びながら自然な感じで近づいてみる。

 

 

 

「彩、待たせたな」

 

「あ、宗輝君.....」

 

「あ?お前誰だよ」

 

 

三人組のいかにもチャラそうな奴ら。その中でも一際目立ったリーダー的存在の奴が早速突っかかってくる。俺からしたらお前が誰なんだよ状態なんですけど。

 

 

 

「これ、彩の分のお茶な」

 

「......ありがと」

 

「おい!無視かよ!」

 

「何か用か?無いなら帰るけど」

 

 

出来るだけ関わりたく無かったんだけどなぁ。こういうタイプの奴嫌いだから。

 

 

 

「今、俺らがその子と遊んでたの。邪魔すんなよ」

「こんな奴より俺らと遊んだ方が楽しいぜ」

「そうだよ、こんな気取った奴よりは俺らの方がマシだと思うぜ」

 

 

 

「用は無さそうだし帰るぞ、彩」ガシッ

 

「えっ、う、うん」

 

 

 

少し強引に腕を引っ張り出口の方面へ向かう。しかし、それは叶わなかった。お茶を持っていたもう片方の手を一人の男に掴まれて動けなかったからだ。その反動でお茶を落としてしまう。

 

 

 

「何逃げようとしてんだよ、臆病者が」

 

「あーあ、お茶落としちゃったよ」

 

「話聞けよ!舐めてんのかお前」

 

「.....いや、帰ろうとしてたんだよ」

 

 

 

腕を掴んできた男とは違う奴が、俺が落としたお茶を遠くへ蹴飛ばしてしまった。少しイラッときてしまったが、ここでキレてしまってはこいつらと同レベル。落ち着け宗輝、平和に解決するんだ。

 

 

 

 

「大体、遊んでたじゃなくてナンパしてたの勘違いだろ」

 

「はぁ?偉そうな口聞きやがって」

 

「お前何様のつもり?その女のなんなの?」

 

 

 

彩にとっての俺。それはなんなのだろう。一瞬、それについて考えてしまう。しかし、試行錯誤するのは後回しだ。というより、こいつら彩のこと知らないのか?まぁ、興味がありそうな雰囲気では無いが。

 

 

 

「離してくれ、時間も無いし帰りたいんだよ」

 

「調子に乗りやがって!」ドコォ 

 

「宗輝君!!」

 

 

 

腕を振り払って帰ろうと思ったが、振り払った男に一発殴られてしまう。それを見て彩が近づいて来る。

 

 

 

「大丈夫、なんとも無いから」

 

「でも、血が......」

 

 

彩に言われて気付いたが、既に唇から血が出てきていた。そこまでの量では無かったが、やはりチクッとして痛い。

 

 

「お前みたいな臆病者が調子にのるなよ!」ガシッ

 

「ぐっ.....」

 

「ちょっと!やめてよ!」

 

 

今度は違う奴に蹴りを入れられる。幸い、みぞおちには入らなかったがやはり痛い。そんな俺を見て、彩は男達に詰め寄っていた。

 

 

 

「大丈夫だから.....彩は離れてろ」

 

「でも許せないよ!なんでこんな事するの⁉︎」

 

「お前も黙ってろよ!」

 

 

 

リーダーの男が詰め寄った彩の腕を掴み右手を振り上げる。

 

 

 

それを見た瞬間、俺の中にあった()()()()が爆発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......お前、今何やろうとしてたんだ」ガシ

 

「っ!こいついつのまに⁉︎」

 

「む、宗輝君?」

 

 

 

自分でも驚く程、低い声が出ていた。男の腕を掴み、力の限り握り締める。

 

 

 

「言ってみろよ......何やろうとしてたんだ」

 

「いってぇ!お、おい!お前らなんとかしろ!」

 

「離しやがれぇ!」

「おらぁ!」

 

 

 

二人同時に向かってくるが、一人はリーダー毎投げ飛ばし、もう一人は身を引いて躱す。

 

 

そして、内に秘めた想いを曝け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「別に俺がいくら罵られようが殴られ蹴られようが関係ねぇ。俺はお前らみたいに喧嘩に自信があるわけでも無いし、臆病者かも知れねぇ。けどな......好きな女に手を出されて黙ってられる様な奴でもねぇんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-side change-

 

 

 

 

「宗輝君早く帰ってこないかなぁ......」

 

 

独り言でそんなことを言ってみる。実際は、心で思っていたことが勝手に口から出てきただけかもしれない。けれど、それは私の切実な願い。早く会いたい、早く会って話したい。今日は、一日中一緒にいたはずなのにそんな気持ちが溢れて出てくる。しかし、そんな風に想いを巡らせている最中に声を掛けられる。

 

 

「君一人?なら俺たちと遊ぼうよ」

 

 

三人組の男の人達だった。正直に言って、私はこういうタイプの男性は苦手だ。

 

 

「いや、二人で来てるので」

 

「嘘なんてつかなくてもいいじゃんか」

 

 

これはナンパというやつだろうか。自慢じゃ無いけど、私は一応芸能人な訳であって顔を知っている人は多い。でも、この人達は私の事を知っていない様に見える。

 

 

「ほらほら、行こうよ」

 

「(宗輝君、助けて〜)」

 

 

そんな私の思いが通じたのか、宗輝君がお茶を二本持って帰ってきた。

 

 

 

「彩、待たせたな」

 

「あ、宗輝君......」

 

「あ?お前誰だよ」

 

 

早速宗輝君に突っかかっていく。どうせさっき話した人って言っても聞いてはくれないだろう。

 

 

 

そこからは、宗輝君が適当に話を流して対応してくれていた。しかし、男達のボルテージは上がっていく一方。このままだと何かいけない事が起こりそうな気がしていたが、私にはどうすることもできなかった。

 

 

 

「用も無さそうだし、帰るぞ彩」

 

「え、う、うん」

 

 

 

そう言って、少し強引に私の腕を引っ張り出口の方は進もうとする宗輝君。しかし、それをリーダー格の男に止められる。一度止められはしたが、宗輝君はその男の腕を振り払って進もうとしていた。

 

 

そんな宗輝君へ、男の容赦の無い一撃。

 

 

 

「宗輝君!!」

 

「大丈夫、なんとも無いから」

 

 

宗輝君はそう言っているが、殴られた箇所から血が出てきている。私は鞄に入っていたハンカチを取り出そうと思い、急いで中を探す。しかし、間髪入れずにもう一人からお腹を蹴られてしまう。

 

 

「お前みたいな臆病者が調子にのるなよ!」

 

「ぐっ......」

 

 

宗輝君が辛そうな顔をしてその場にしゃがみ込む。流石に女の子の私でも、そこまでされると怒りで我を忘れてしまいそうだった。我慢できなかった私は、リーダーの男に詰め寄る。

 

 

「ちょっと!やめてよ!」

 

「お前は黙ってろよ!」

 

 

詰め寄ったのはいいものの、すぐに腕を掴まれてしまった。男はそのままもう片方の腕を振り上げる。これ以上宗輝君を傷付けさせたくなかった。宗輝君の苦しそうな顔を見たくなかった。

 

そして、私は覚悟を決めた。

 

 

 

しかし、男の振り上げた手は振り下ろされることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「......お前、今何やろうとしてたんだ」ガシッ

 

「っ!こいついつのまに⁉︎」

 

 

宗輝君が私とリーダーの男との間に入ってきていた。いつもの宗輝君とは全然違った雰囲気を感じる。声色も明るいいつもの宗輝君とは違い、何か闇を感じさせる様な低い声。

 

 

 

「言ってみろよ......何やろうとしてたんだ」

 

「いってぇ!お、おい!お前らなんとかしろ!」

 

 

リーダーの指示で残り二人が一気に宗輝君に向かっていくが、一人はリーダーごと投げ飛ばされ、もう一人はヒラリと躱されてしまう。

 

 

 

「別に俺がいくら罵られようが殴られ蹴られようが関係ねぇ。俺はお前らみたいに喧嘩に自信があるわけでも無いし、臆病者かも知れねぇ......」

 

 

続けて、宗輝君がリーダーの男の胸ぐら掴んでこう叫ぶ。

 

 

「けどな......好きな女に手を出されて黙ってられる様な奴でもねぇんだよ!!」

 

 

 

私は、その言葉を聞いて自分の耳を疑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「怖い思いさせちゃったな......ごめん、彩」

 

「そんな......私のせいだよ」

 

 

あの後、宗輝君に気圧されて三人はすぐに何処かへ去っていった。真っ先に宗輝君の怪我の手当てをして、今は二人ベンチに座っている。

 

 

 

「何言ってるんだよ、彩のせいなんかじゃない」

 

「でも、宗輝君怪我しちゃった......」

 

「このくらい平気だよ、なんなら1日あったら治るさ」

 

 

そうは言うものの、やはり罪悪感は消えてくれない。あの時ああしていれば、こうしていれば、そんなたられば話を自分の中で駆け巡らせる。もっと良い方法があったはずなのに、私は何も出来なかった。

 

 

 

「ごめん......ごめんね宗輝君」

 

 

唐突に涙が溢れでてくる。泣きたいのは宗輝君のはずなのに。何もしていない私は、泣いて良いはずが無いのに。止め処なく涙が出てくる。

 

 

 

そんな私を、宗輝君はそっと抱きしめてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彩......俺はな、正直言ってあの時怖かったんだ。やっぱ殴られると痛いし蹴られると辛いし。でもな、それ以上に嫌だったんだよ」

 

「......何が嫌だったの?」

 

 

私は、宗輝君から続いて言葉が出てくるのを待つ。

 

 

 

 

 

「彩にアイツが手を出そうとした時、自分が自分じゃない様に感じた。それほどまでに、彩が傷付けられるのが耐えられなかったんだ、怖かったんだ」

 

「何でそう思ったの?」

 

「さぁ、何でだろうな。彩は俺にとって大切な人だからかもな」

 

 

 

 

大切な人、そう聞いて胸が熱くなるのを感じる。

 

 

自分の好きな人、大好きな人からそう言われて嬉しくない女の子なんていないだろう。先程までの涙は何処へやら、少し浮かれつつある気持ちを抑えて宗輝君へ私の想いも伝える。

 

 

 

 

「私にとっても、宗輝君は大切な人だよ!」

 

「なんだよいきなり、告白か?」

 

「ち、違うよ!またそーやってからかってくるじゃん!」

 

「まぁ彩には好きな人がいるんだもんな。いつか、そいつと結ばれると良いな」ナデナデ

 

 

 

 

 

 

やはり、こういったところだけは鈍感な宗輝君。でも、今はこの関係で充分かもしれない。パスパレのみんなも宗輝君のこと好きっぽいし、他のバンドの子もそうだよね。ライバルが多過ぎるけど、これだけは負けないようにしなきゃ!

 

 

 

「宗輝君、ありがとね」チュ

 

 

 

アピールも兼ねて、宗輝君のほっぺにキスをする。それに気付いた宗輝君の慌てふためいた顔がなんとも可愛らしい。時々見せる子供っぽいところも大好きだよ。

 

 

 

 

「何してるんだよ⁉︎そーゆうことは好きな奴とだな.....」

 

「これは助けてもらったお礼だからいーの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私に彩りをくれた君。

 

 

そんな君が、大好きです。

 

 

 





こんな風になるんだろうなぁ、とか思いながら書いてました、はい。
宗輝君は、普段優しいけど怒らせると恐いタイプです。
Sっ気も相まって、通称黒宗輝がこれからちょくちょく出てくると思われます。


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Produce 19#襲来の妹

久し振りの連日投稿。
タイトルでネタバレしてますね。
最初は初期から出そうと思っていたのですが、中々タイミングが無く遅くなりました。

それでは、19話ご覧下さい。


 

プルルルル.プルルルル

 

「なんだよ、こんな時間に......」

 

 

 

彩とのデートが終わり、家に帰ったのは日が沈んでいた頃。それから晩御飯を食べてお風呂に入る。もう寝る準備万端でベッドに潜り込んだタイミングで携帯に着信アリ。気付いてしまったものは仕方ないので誰からの着信なのかを確認する。

 

 

 

そこには、"斎藤令香"の文字が。

 

 

 

 

 

 

「もしもし、こんな時間に......」

 

『もしもし!お兄ちゃん⁉︎もうすぐ帰るから!』

 

「はぁ?今何時だと思ってるんだよ。というより、父さんの海外出張はどうした」

 

『んー、難しいことは分かんない!もうすぐ着くから待っててね!』

 

 

 

その会話を最後に、通話が終了した。勿論、俺が切ったのでは無い。

 

 

「はぁ、まためんどくさくなりそう......」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

「たっだいまー!」

 

「......」

 

「あれ?お兄ちゃんー、おかえりが聞こえないよー⁉︎」

 

 

 

「こら令香、近所迷惑だろ」

「まぁ、久し振りに宗輝に会えるんだから仕方ないわよ」

 

 

「それにしても声がでけぇよ」

 

 

 

三人が帰ってきたのに気付いた俺は、リビングから顔だけを出していた。そんな俺を見つけるや否や、令香が靴を履いたまま飛び付いてくる。

 

 

「お兄ちゃーん!ずっと会いたかったよー!」ダキッ

 

「それは分かったから靴を脱げ、靴を」

 

「宗輝、今日はもう疲れたから父さん達は寝るぞ」

 

「ん、分かった」

 

 

 

まぁまぁな量の荷物をそのまま玄関に置いて、両親共に寝室に入っていった。顔を見て分かったがお疲れの様子。それなのに、この妹ときたらさっきから顔を擦り付けたり匂いを嗅いだりしている始末。

 

 

 

 

 

 

 

 

もう分かると思うが、この妹、極度のブラコンである。今は中学三年生で明日香やあこの一つ年下。良くも悪くも俺とは全く似ておらず容姿端麗、成績優秀と同年代の中ではかなりずば抜けている。しかし、このブラコンがたまにキズなのである。まだ身内の中だけならいいものの、これが常時発動している。

 

 

 

「むむ?お兄ちゃんから女の匂いがするよ......」

 

「さっきお風呂入ったばっかだぞ」

 

「お風呂如きで匂いが取れると思ったら大間違いだよ!」

 

 

 

 

別に匂いを取ろうと思ってお風呂入った訳では無いんだけどな。......まぁ実際のところ、デートに着ていった服にはめちゃくちゃ良い匂いが付いてた。最後らへんはずっとくっついてたからな。

 

 

「お兄ちゃんも今日は疲れたから寝るぞ」

 

「なら、れーかを抱き枕にして寝ると良いよ!今なら子守唄付き!」

 

「そんな抱き枕は要らん。即刻クーリングオフを申し出る」ペチ

 

「あうっ!」

 

 

軽くチョップをかましてやる。その後も、あーだこーだ言って一緒に寝るハメになってしまった。昔から一緒に寝ることは少なくなかったから全然良いんだけどさ。約一年間見ない間に出るとこ出てんのよ、意外と。あまり、深く考えないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、俺が抱き枕にされてその日は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

-翌朝-

 

 

 

 

チリリリリ!チリリリリ!

 

 

「......ん、うるせぇ」

 

 

 

目覚まし時計の音で目が醒める。今日は普通の登校日なので起きなければならないが、少しくらいならと思い二度寝をしようと再び意識を奥底へと沈める。

 

 

「んっ......あんっ......」

 

 

寝返りを打とうと思い手を動かしたが、何が柔らかいものに当たってしまった。それにしても、何か声が聞こえたような気がせんでもない。

 

 

「あっ......くすぐったいよぉ」

 

 

またしても声が聞こえる。不思議に思い目を開けてみる。

 

 

「もう......お兄ちゃんのえっち♪」

 

「もしかして俺寝ぼけて何かしてた?」

 

「そりゃもう......れーかの身体をねっとりじっくり」

 

「鼻動いてんぞ......まだその癖治んないのか」

 

 

 

こいつが嘘をついている時は、決まって鼻がピクピク動くのである。ちゃんと見てないと分からないくらいだが、逆に言えばそれだけを見てればすぐに分かる。

 

 

「ちぇ、つまんないのー。今日学校でしょ?」

 

「おう、先に言っとくが絶対に来るなよ」

 

「今日は行かないよーん」

 

「今日は、って明日からもダメだからな」

 

 

 

こいつの場合、それがありえてしまうのが怖いところ。学校に来られたら本当にたまったもんじゃない。それ以前に、こいつが帰ってきていることが香澄にでも知れ渡っているならもう遅い。香澄も香澄で令香のことを溺愛しているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、一年ぶりに家族全員で食卓を囲んだ。話を聞くところによると、どうやら早めの夏期休暇を貰ったらしい。向こうでの仕事は順調に進んでいて、このままいくと今年の末頃には帰ってこれるみたいだ。つまり、俺の一人暮らしはあと半年程になる。

 

 

 

「あ、言い忘れてたけど令香は置いていくぞ」

 

「え、何でだよ。学校とかどうするんだ?」

 

「編入させて貰うのよ。勿論、花咲川の中等部だから」

 

「何が勿論なんだよ......」

 

 

 

これで、アイツらにバレるのは確定してしまった。一人暮らしも今日を持って終了となる。

 

 

「......飯食って学校行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、家を出て学校へ向かう途中に蘭達と偶然出くわしたので一緒に登校した。いつも通りに授業を受けて、お昼休み。昼ご飯もいつも通りのメンバー。

 

 

 

「ねぇ宗輝君、一つ聞いてもいい?」

 

「なんだよつぐみ、今更遠慮すんなよ」

 

「さっき日菜先輩が探してたけど何かあったの?」

 

 

なんだよそれ、そんなこと全然知らんし思い当たる節が無い。しかし、日菜が関わっているとなると、めんどくさいこと間違いない。

 

 

「そう言えばむっくんてさ〜、彩先輩とデートしたんだよね〜?」

 

「まぁ、前の何とか選手権の時の約束だからな」

 

「どんな感じだったの⁉︎」

 

「うおっ、ひまり近い近い」

 

 

 

これは別に言っても大丈夫だよな?いや、一応彩に確認しといたほうがいいか?

 

 

 

「そのことで日菜先輩探してたんじゃないか?」

 

「それは無いだろ」

 

「日菜先輩、時々何考えてるか分からないからありえるかもよ」

 

 

 

蘭、それは痛いほど分かるが言ってやるな。それが日菜の良いところでもあるんだから。るんっ!ときちゃうんだよ。

 

 

 

「まぁ、放課後会って話せば良いだろ。取り敢えずご飯食べようぜ」

 

 

 

 

 

それからというもの、結局俺と彩のデートの話になってしまったので少し誤魔化しながら話した。流石にあの事については話さなかったけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。俺は日菜のいるクラスに直行した。

 

 

 

「すみません、日菜......先輩はいますか?」

 

いつも名前で呼んでいる為、つい名前で呼びそうになる。声を掛けた先輩方二人が狼狽えながらも答えてくれる。

 

 

 

「日菜ちゃんはもう帰ったと思うよ」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 

なんか俺が日菜に用があったみたいに思われて少し恥ずかしい。もう帰ったんなら俺も帰っても良いよな?今日は久し振りにCiRCLEでシフト入ってるし。俺は、踵を返し荷物が残っている自分の教室へと向かう。

 

 

あれ二年の斎藤君でしょ⁉︎

うん、間近で見たの初めてだけどカッコよかったね!

 

 

 

 

 

 

何やら先程の先輩方が話しているようだがハッキリとは聞こえない。まぁ、どうせ日菜の事話しているんだろうと思いつつ、少し歩くスピードを速めた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「っしゃーす」

 

「あ、宗輝君。今日は宜しくね」

 

 

CiRCLEへ着き扉を開けると既にまりなさんがいた。モカの真似をしてみるが見事にスルー。

 

 

 

「今日まりなさんだけでしたっけ?」

 

「うん、みんな忙しいみたい」

 

「予約入ってます?」

 

「パスパレとポピパが入ってるよ」

 

 

お、ちょうど良いし来た時にでも日菜に聞いてみるか。

 

 

ロッカールームへ入り、着替えを済まして受付へ戻る。すると、そのタイミングでポピパがやってきた。

 

 

 

「こんにちわ〜」

「あれ、宗輝君だ」

「本当だ、宗輝今日入ってたんだね」

 

 

皆一様に挨拶を済ませる。でも、何でいちいちCiRCLEで練習するんだ?別に蔵で練習すりゃあ良いのに。

 

 

 

「まぁな。今日は蔵で練習しないのか?」

 

「ばあちゃんが今日は使っちゃダメってさ」

 

「ふーん、珍しいな。あれ、香澄は?」

 

「途中で知り合いと会ったみたいだから先に来た」

 

 

香澄の知り合い?ということは、自ずと有咲達は知らなくて香澄は知っている人物に限られてくる。

 

 

 

「あ、来たみたい」

 

「おせぇぞ香澄、予約の時間ギリギリ」

 

「うぅ、有咲怒んないでよぉ〜」

 

「で、その子は誰?」

 

 

香澄の知り合い、俺はそいつを知っている。それは何故か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!お兄ちゃんみーっけ!」

 

「......何でお前がここにいるんだよ」

 

 

 

 

 

 

『ん?お兄ちゃん?』

 

 

 

香澄以外の四人が状況を掴めずにいた。それもそのはず、香澄が連れて来た子が俺のことをお兄ちゃんと呼んでいる。香澄は香澄でニコニコ笑ってるだけだしな。

 

 

 

「宗輝......もしかしてその子、妹さん?」

 

「もしかしなくても妹だぞ。ほれ、挨拶」

 

「斎藤令香です!」

 

 

少しうるさいくらいの声で自己紹介を始める我が妹。こういうところは素直に凄いと思うけどな。初対面の人でもすぐ仲良くなれるし。全く、ウチの妹はどうなってるんだよ。

 

 

「取り敢えず2時間な。早く入らないと勿体無いぞ」

 

「また後でね〜」

 

「お兄ちゃん、ここ何処?」

 

「それを知らずに来てたのかお前は」

 

 

マジで知らない人について行きそうで怖くなる。教育も兼ねて俺からバンドのことについては軽く話しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間後。

 

 

 

「こんにちわ〜。あれ、宗輝君だ」

 

「おう、昨日ぶりだな彩」

 

 

パスパレメンバーのご到着。早速部屋に案内しようと思った矢先、令香が彩に近付いて行く。

 

 

 

「くんくん......昨日お兄ちゃんからした匂いはこれだ!」

 

「えぇ⁉︎匂い⁉︎」

 

「お前の鼻はそこらへんの犬より凄いと思うわ」

 

 

 

余裕でバレてしまった。令香には彩について何も話してないんだけどな。本当にこの妹ハイスペックすぎない?俺の事好きすぎない?

 

 

「宗輝君、この子は?」

 

「俺の妹です」

 

「妹の令香です!」

 

 

 

先程と同じ様に元気一杯自己紹介を始める令香。既にイヴや日菜達と仲良くなっていた。

 

 

「あ、そう言えば日菜さんや、俺に何か用があったのかい?」

 

「あ、そーだった。まぁまた後で話すね」

 

「ん、りょーかい。じゃあ取り敢えず練習だな」

 

 

 

そして、パスパレも無事部屋へと送り届けることができた。いつもならこれから待ち時間になるので暇なのだが、いかんせん今日は令香という爆弾が存在する。まぁ、話し相手がいるだけマシだと思うか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-練習終了後-

 

 

 

 

 

「別にお前らまで待つ必要無かったのに」

 

「むーくんとれーかちゃんと帰りたかったから良いの」

 

「まぁ、私は香澄が一緒に待とうって言ったから待ってただけだけどな!」

 

 

 

先にポピパが終わったのだが、結局パスパレが終わる前まで練習していた。もうすぐパスパレも終わる時間。今日はあまり退屈せずに済んだ。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、あれがいわゆるツンデレってやつ?」

 

「そうだな、有咲は生粋のツンデレさんだからな」

 

「ツンデレって言うなーっ!とゆーか照れてねーし!」

 

 

"あぁ有咲"

"なんて有咲は"

"可愛いの"

 

 

 

有咲が可愛くてつい五七五の俳句を詠んでしまった。小学生以下の出来栄えだが。そんなくだらない事を考えていると、ようやくパスパレメンバーが部屋か出てきた。

 

 

 

「ふぅ、お待たせ〜」

 

「みんなお疲れさん。それで、話って何だ?」

 

「ワタシも気になってました!」

 

 

 

どうやらパスパレメンバーも日菜の話の内容が気になっていたみたい。イヴなんか分かりやすくソワソワしている。

 

 

 

 

 

「そんな大したことじゃ無いよ。宗輝は明日から花咲川に戻ってねって伝えたかっただけ」

 

 

「ん?明日から?」

 

「そう、明日から」

 

 

いきなりの帰還命令に少し戸惑ってしまう。何でいきなりそんな事になってるんだ?

 

 

 

「そんないきなりで大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だよ、向こうにも伝えてあるから」

 

 

 

 

 

って事は紗夜先輩か燐子先輩のどちらかは知っていたかもしれんな。紗夜先輩は知ってても言ってくれ無さそうではあるが。

 

 

 

「というわけだからよろしくね。ふわぁ......もう眠いから私帰るねー」

 

「おい、待てよ日菜!」

 

「日菜さん、帰っちゃいましたね」

 

「なら、また明日からむーくんと一緒だ!」

 

 

 

本当に明日から花咲川に行って大丈夫なのだろうか。蘭達にも伝わって無いだろうし、いきなり俺が来なくなったら怒るだろうなぁ。ひまりとか蘭に怒られそうだ。

 

 

 

「ちなみに、れーかも明日から中等部だからね」

 

「なら、みんなで一緒に登校しよう!」

 

 

 

 

さようなら羽丘、久し振り花咲川。まぁそんな長い間羽丘にいた訳じゃ無いけど、それなりに楽しかったからな。また機会があれば是非通いたいな。

 

 

 

 

「今日はもう帰って寝るか」

 

「今日も一緒に寝ていい?」

 

 

 

 

 

 

『一緒に......寝る?』

 

 

 

 

ここで令香が爆弾を投入。捉え方によっちゃさっきの発言は完全にアウトだぞ。千聖さんなんか目のハイライト消えてるし。

 

 

 

「宗輝君、どういうこと?」

 

「いや、令香が勝手に布団に入ってくるだけで......」

 

「嘘ね、鼻が動いてるわよ」

 

 

 

な、なん、だと?鼻が動いている?それは令香が嘘をつくときの癖であって俺はそうなっていないと思っていた。

 

 

 

 

「う、嘘なんてついて無......」

 

「......宗輝君?」

 

「はい、すいません嘘ですごめんなさい」

 

 

 

 

どうやら、令香の鼻の癖は俺譲りのものだったらしい。千聖さんの圧を感じ即座に頭を下げる。こうなった千聖さんへの対処法はこれしか無い。

 

 

 

「れーかちゃんだけずるい!私もむーくんと一緒に寝る!」

 

「おい、お前何言ってんだよ」

 

「ダメだよ!お兄ちゃんはれーかのものだから!」

 

「令香ちゃん、私のことはお姉ちゃんって呼んでもいいのよ」

 

 

 

やばい、千聖さんが令香から落としにかかった。千聖さんのあの美しさで言い寄られてしまっては、流石の令香も落とされる⁉︎

 

 

 

 

「れーかのお姉ちゃんは二人だけだもん!」

 

「そ、その二人って誰なのかしら」

 

「教えないもん!」

 

 

 

 

そう言って香澄に抱きついていく令香。何だかんだ言ってコイツも香澄のこと好きなんだよな。小さい頃から遊んでもらってたし。

 

 

 

「多分、香澄と明日香のことだと思いますよ」

 

「......良いわ、絶対に振り向かせてあげるからね」

 

 

 

千聖さんが燃えている。令香は好き嫌いが激しいから嫌いな人はとことん嫌う性格なのである。頑張ってください千聖さん、応援してますから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから程なくしてその場で解散となった。途中まではみんなと一緒に、最後は俺と令香と香澄の三人。

 

 

「三人で歩いてると昔を思い出すねー」

 

「そうだな、なんか懐かしいな」

 

 

 

確かに、昔は良く遊んでいた。明日香を加えて四人で遊ぶことも少なくはなかった。

 

 

 

「れーか今日お姉ちゃん家泊まりたい!」

 

「だってさ香澄、大丈夫そうか?」

 

「うん、あっちゃんも喜ぶと思うし」

 

 

 

その返事を聞いて飛び跳ねるようにして喜ぶ令香。やはりこういう年相応なところを見ているとほっこりする。

 

 

「明日からが楽しみだなー」

 

「羽丘も花咲川も変わったもんじゃ無いけどな」

 

「それでも、私はむーくんとまた一緒に登校したり出来るから嬉しいよ!」

 

 

 

こちらを見て満面の笑みでニコッと微笑む香澄。それを見て少し笑みが溢れてしまう。やはり、コイツといると笑いが絶えないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

明日からの新たなスタートに少し心を躍らせつつ、俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

 





今のところ、お姉ちゃんくらいしか香澄の良い呼び方が見つからんのです。
何か良い案無いでしょうか。
少し急ぎ足で完成させたので誤字脱字あるかもしれませぬ。


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再来の花咲川編
Produce 20#専属マネージャー(仮)



気合いと根性で書き上げました主です。
連日投稿を容易く考えているそこの貴方(いなかったらごめんなさい)
意外とこれが難しいんですよ。
本当に毎日更新されてる方尊敬します。
(自分は3.4日が限界です)


では、20話ご覧下さい。


 

 

 

-翌朝-

 

 

「.....ちゃん!.....ちゃん起きて!」

 

「ん、後五時間......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『せーの......、おっきろー!!』バサッ

 

「ぐへぇ!」

 

 

 

今日は香澄だけで無く、令香もプラスしての起床ダイブをモロにくらう。しかし、起こしに来たのかと思いきや、そのまま二人共布団をかけ直して中に入ってくる。

 

 

「何してんだよ」

 

「まだ6時30分だよ?」

「まだ時間あるからイチャイチャできるね!」

 

「なら何で起こしたんだよマジで......」

 

 

 

 

少し損をした気分になってしまった。起きてしまったものは仕方がないので、リビングに降りてコーヒーを淹れる。朝ゆっくりコーヒー飲みながらニュース見るのって案外楽しいよな。俺は朝弱いからあんまやったことないけど。

 

 

「まず何で香澄がいるんだよ」

 

「へ?いつものことじゃん」

 

 

 

もはや感覚が麻痺しているのである。コイツと距離を置いた方が良いのではないかと考えてみるが、結局離れられないという結論に至る。海外出張の時もそうだったが、コイツは俺と長期間離れることを嫌っている節がある。俺の方から距離を取ってしまっては尚の事どうなるかわからん。

 

 

 

「別に毎朝起こしに来なくても良いんだぞ」

 

「後五時間とか言ってたお兄ちゃんが何言ってるの」

 

「そーだぞ!今まで通り毎朝起こされててよ!」

 

 

少し日本語に無理があったがそこはスルーしておく。有咲なんか香澄語とか言ってるからな。俺も香澄語なら負けない自信がある。今度有咲と勝負してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

それから、小一時間ゆっくりしていた。起こしてもらって遅刻するわけにもいかない為、少し早めに準備。三人共準備が整ったので家を出る。

 

 

「忘れもんないな、じゃあ行ってきます」

 

 

「令香、車には気をつけるのよ」

「令香、何かあったらすぐに連絡してくるんだぞ」

 

「俺の心配は無いのかよ」

 

「うん、じゃあ行ってきます!」

 

 

ウチの親も相当な親馬鹿なのである。家内カーストで言うと令香が頂点に君臨している模様です。因みに俺は一番下。

 

 

 

「お、明日香おはよう」

 

「宗輝、おはよう。令香ちゃんもおはよう」

 

 

 

途中まで明日香も一緒に行くとのことだったので迎えに行った。俺と香澄の家はそこまで離れていないので助かる。

 

 

 

「あーちゃんおはよー!」

 

「あっちゃん私は〜⁉︎」

 

「はいはい、おはよう」

 

「あっちゃんおはよう〜」ギュ

 

 

 

姉妹のくせに百合の花を咲かせている。香澄の一方的な愛にしか見えないけどな。まぁ明日香も明日香で面倒くさがりながらも拒絶していない時点でお察しである。

 

 

 

「俺も抱きついといた方が良いのか?」

 

「それはやめて」

 

 

 

「......地味に傷付いたぞ」

 

「そんな傷付いたお兄ちゃんはれーかが癒してあげる!」

 

 

 

そう言って背伸びしながら俺の頭を撫でてくる令香。こちらは戸山家と違い逆らしい。中学三年生に慰められる高校二年生ってなんだよ。

 

 

 

「そこまでにしてくれ、周りの目が痛い」

 

「私は気にしないもん!」

 

 

 

 

だから俺が気にするんだって。何で賢いのにそこらへんルーズなわけ?もうちっと考えようぜ令香さん。

 

 

「もう行くぞ」

 

『は〜い』

 

 

 

 

 

 

 

モタモタしたせいで、遅刻ギリギリの時間になってしまい担任の先生に怒られてしまった、主に俺が。何で香澄は怒られないんだよ。理不尽な世の中である。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン

 

 

 

「腹減った〜、有咲ご飯〜」

 

「何で私に言うんだよ!」

 

 

学校に着いてからは羽丘と変わらず時間が過ぎていった。驚くことに、授業の進行具合がほとんど同じであった。何事も無くお昼休みの時間になり、有咲にご飯のおねだりをしてみたが相変わらずのツッコミを入れられる。

 

 

「まさかいきなり帰ってくるとは思わなかったよ」

 

「美咲か、俺も昨日知ったくらいだからな」

 

「こころが知ればすぐやってくると思うけどね」

 

 

花咲川の異空間と呼ばれるこころだったらありえる。何なら授業放り出してでも来そう。それか、黒服の人達による暗躍。常にガードマンとしてこころの周りをウロチョロしているのは気付いているが、こころの親父さんも中々の心配性である。

 

 

 

「流石にまだ広まってないだろ」

 

「さっき私が伝えといたよ」

 

「え、何してくれてんだよ」

 

「いつものお返し。もうすぐくると思うから頑張ってね」

 

 

 

美咲はそう言って弁当箱を持って去っていった。やばい、時間がない。即座に俺も自分の弁当を持って教室のドアを開ける。しかし、時すでに遅し、ドアの前に異空間は存在した。

 

 

「宗輝じゃない!美咲から聞いて飛んで来たわよ!」

 

「おう、今急いでるから」

 

「羽丘のこととか沢山聞きたいわ!さぁ、一緒にご飯食べましょう!」

 

「あれ、こころさん話聞いてる?」

 

 

 

 

 

 

こころは鼻歌を歌いながら俺の手を引いて中庭へと向かっていく。まぁ、どのみち香澄達と食べるにしても中庭に行かないといけなかったので良しとしよう。

 

 

 

途中で、必殺"ふえぇぇ"を繰り出していた花音先輩を拾った。出会ったのでは無く拾ったのだ。花音先輩曰く、自販機を探していたら迷ってしまったとのこと。いや、三年目なんですからせめて校内で迷うのは無しにしましょうよ。

 

 

 

 

 

そして、ポピパの5人とこころと花音先輩の計7人と俺でお昼ご飯。

 

 

「有咲の玉子焼きもーらい!」パクッ

 

「あっ!何してんだよ宗輝ー!」

 

「なら私も貰うね」パクッ

 

「おたえまで!もーっ!」

 

 

いつものように弁当の中身の取り合いという幼稚な遊びが始まっていた。基本的に有咲ばかりが狙われるのだが。

 

 

「そう言えば、彩ちゃんが宗輝君に話すことがあるって言ってたような気がするよ」

 

「本当ですか?なんか昨日に引き続き嫌な予感するな」

 

 

 

「こころーん!これみてみてー!」

 

「なになに⁉︎わぁ、今日の香澄のお弁当はキャラ弁なのね!」

 

 

相変わらず声のボリュームが大きい二人。似た者同士なので惹かれあっているのだろうか、とてつもなくうるさい。まぁ、これが二人共デフォルトなので仕方がないと言えば仕方がない。

 

 

 

「ねぇむーくん、これ見て」

 

「ん?何だよこれ」

 

「これむーくんだよ?」

 

 

「どこに俺の要素が入ってるか教えてくれ」

 

 

 

どうやら、俺のキャラ弁らしい。ていうか、キャラ弁って言われなきゃ分かんないレベルだぞこれ。良くこころは分かったな。

 

 

 

「よし、弁当も食い終わったし教室戻るか。花音先輩、一応聞きますけどここから教室帰れますよね?」

 

「流石に帰れるよ!......ちょっと時間かかりそうだけど」

 

 

 

最後の方の言葉は聞かなかったことにしよう。中庭で花音先輩とは別れ、他のみんなで2年生の校舎へ戻った。教室について残りの少ない時間を少しでも休憩に充てようと思い、自分の机に突っ伏していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-放課後-

 

 

 

 

 

「失礼しまーすっと、彩〜迎えに来たぞ〜」

 

「な、何で宗輝君が来てるの?」

 

「昼に花音先輩から彩がなんか話すことあるって聞いたから」

 

 

 

授業も終わり、放課後すぐに彩のいる教室へと向かった。まだ数人教室に残っていた為、俺が入るや否やヒソヒソ話が聞こえてくる。こういう時って、悪口されてると思いがちだよな。実際、俺はその経験しかないけど。

 

 

彩ちゃん、彼氏来てるよ

お熱いねぇ

 

「もう、そんなんじゃないってば」///

 

 

数人が彩に近づいて何かを言っているようだが、俺には関係ない事なので放っておこう。世の中には知らない方がいい事だってあるんだぜ。

 

 

「取り敢えず、みんなも集めてから行くからついてきてね」

 

「ん、りーかい」

 

 

 

 

 

その後、校門にて待ち合わせしていた千聖さんとイヴと合流してある場所へ向かっていた。

 

 

 

 

「なぁ、今ってどこに行ってるんだ」

 

「あら、宗輝君は知らされてないのね」

「アヤさんから聞いてなかったんですか?」

 

 

「だって聞かれなかったんだもん」

 

 

「なら今聞くから教えてくれ」

 

 

 

確かに教えてとは言ってなかったが教えてくれてもいいじゃないですか。

 

 

 

 

「って言ってる間に到着したよ」

 

「......ここどこなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは私達の事務所があるところよ」

「いわゆる味方本陣ってやつです!」

 

 

 

 

なんで俺芸能事務所なんかに連れてこられてるんだよ。話があるんじゃ無かったのか?

 

 

 

「日菜ちゃんと麻弥ちゃんはもう来てるらしいよ」

 

「なら早く行きましょうか」

 

「いざ、出陣です!」

 

 

 

イヴ、さっきの味方本陣はどうした。本陣に突っ込んじゃ元も子もないだろ。そう心の中でツッコミを入れると同時に、自分の巻き込まれ体質を痛感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちわ〜」

 

「彩さん、皆さんもお疲れ様です」

 

「麻弥ちゃん達はいつ頃着いたの?」

 

「んー、10分くらい前かな!」

 

 

 

最初は渋っていた俺だが、千聖さんと彩とイヴに引っ張られる形で入場してしまった。中には社員の方達が沢山働いている。悪い印象を持たれるわけにはいかなかった為、早々に抵抗するのを諦めた。

 

 

「んで、話ってなんだよ」

 

「それは私から説明しようか」

 

 

 

その声は奥の方から聞こえた。明らかに5人の声では無かったので俺は声のする方を向く。

 

 

 

「初めまして、私はプロデューサーをやっている者です」

 

「初めまして、何でプロデューサーの方が?」

 

「それほど重要な案件だという事です」

 

 

 

なら俺みたいな一般人に頼るなよ、と言いたいところだが5人の目を見てそんな場合では無いことを察する。おそらく何かあったのだろうと思い、プロデューサーの人の話に耳を傾ける。

 

 

 

 

「話というのは他でもありません。実は、今朝パスパレの専属マネージャーから連絡が入りまして急用で少しの間仕事に来れないそうなのです」

 

 

 

「それで、僕にマネージャーの依頼ですか」

 

 

「話が早くて助かります。勿論、対価は支払います。パスパレは約1ヶ月後にライブを控えているのですが、マネージャー無しでは少々厳しいのです」

 

 

 

 

 

確かに厳しいところがあるだろう。前にRoseliaの主催ライブを手伝った時にそれは痛いほど経験している。パスパレのライブとなるとそれよりも規模がデカくなるだろう。

 

 

 

「ひとつだけ聞いていいですか?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

 

「何で僕なんですか?最悪、他のマネージャーさんを借りてくれば解決する問題だと思うんですけど」

 

 

 

俺の言葉を聞いたプロデューサーは、少し考える様な顔をして5人を見ていた。それから数秒後。

 

 

 

 

「実のところ、それも考えていたのですが5人に提案したところ却下されまして......。それで、私から別の案を提案をしたのです」

 

「その案が一般人から募るって事ですか」

 

 

 

「......いいえ、それは少し違います」

 

 

プロデューサーが少し大きめに息を吸ってそう答える。じゃあ、尚更俺が連れてこられた理由が分からん。5人は黙ったままだし何がしたいのかさっぱりである。

 

 

「私の提案、それは......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"5人全員が信用できる人を連れて来なさい"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はそう提案したのです」

 

 

「......そうですか」

 

 

 

 

 

全員が信用出来る人。それは、即ち5人から信頼も信用もされているということ。それで俺が選ばれたのか。やっと理由が分かって少し気が晴れた。

 

 

 

 

「勿論、強制などではありません。最終的には私でも5人でもない、貴方が判断して下さい。日にちを改めても......」

 

プロデューサーが話しているのだが、俺は強引にその流れを切る様にして話し出す。

 

 

 

 

 

「いや、その必要は無いですよ。その依頼、受けさせてもらいます」

 

「......本当ですか?少し脅す様にはなりますが、パスパレの今後がかかっています。下手な失敗は出来ませんよ」

 

 

「そんなこと知ってます。最初は流石に断ろうと思ってました。......けど、気が変わりました。僕にやらせて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

そして、プロデューサーへ頭を下げてお願いする。その姿を見て5人も同じ様にしてお願いする。

 

 

「分かりました。私から上の方には伝えておきますので」

 

 

 

 

 

 

 

その後、プロデューサーから詳細を聞いて事務所を後にした。なんでも数多くのアイドル達が集結して行うライブらしい。それもかなりの大舞台。

 

 

 

「宗輝君、黙っててごめんね」

 

「いんや、今回の事に関しては彩達は悪く無いだろ」

 

「でも、本当に良かったの?」

 

「これ言っちゃあなんだけど、結構忙しいよ?」

 

 

そんなこと分かってる。マネージャーの仕事が大変じゃないと思ったら大間違いである。

 

 

 

 

しかし、本当に大変なのは彩達の方だ。そんな彩達を一番身近で支えたいと思ったから今回の依頼を受けたのだ。いつも助けてもらってる恩返し、とまではいかなくとも何かしてやりたかった。

 

 

 

 

 

「日菜、るんっとこねぇか?俺とお前達でライブするんだぜ?」

 

「......確かにるんっときた!」

 

 

「麻弥、最新鋭の機械もあるかもしれないぞ」

 

「......フヘ、フへへへへ」

 

 

「イヴ、今こそジャパニーズソウルを燃やそうぜ」

 

「いざ、ブシドーッ!!」

 

 

「千聖さん、女優業との両立難しいですよ?ついてこれますか?」

 

「私を誰だと思ってるのよ、白鷺千聖よ?」

 

 

 

 

 

「彩、会場をお前達の色で染め上げようぜ。俺も頑張ってみるからさ」

 

「......うん、みんな頑張ろう!!」

 

 

『おーっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして俺は、今日からPastel Palettesの専属マネージャー(仮)となった。

 

 

 

 






どんどん暑くなってきてますね。
最近は、部屋でクーラーガンガンにかけながら寝そべって考えてます。


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Produce 21#努力開始!

新たに☆9評価頂きました
竹田 いのりさん有難う御座います!
そして、今までに☆9評価頂けている
プロスペシャルさん、ティアナ000782さん、よろうあさん有難う御座います!

気付かぬうちに評価頂けててびっくりしました。
自分の次の目標は、評価バーに色をつけることなのでドシドシ評価お待ちしております。

それでは、21話ご覧下さい。


 

「斎藤君、こっちお願い」

 

「あ、はい!」

 

 

「この資料どうなってるの?」

 

「これはですね......」

 

 

「宗輝〜、かまって〜」

 

「おう......ってそんなこと出来るかーっ!!」

 

 

 

 

 

 

ただ今、絶賛こき使われております。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パスパレの専属マネージャーの依頼を受けて数日。今日は学校が終わってから事務所へ来ていた。今日も、と言った方が正しいか。実のところ、ほぼ毎日のように事務所へ通っている。理由は簡単、流石に俺に任せっきりという訳では無いらしく一応教育という名目で事務仕事もやらされている。他にもライブの調整とか。

 

 

 

 

「随分と忙しそうね」

 

「そう思うんなら手伝ってくださいよ」

 

「無理よ、私にもプロデューサーの仕事があるの」

 

 

この人も俺が来始めてからというもの、無駄に話しかけてくることが多い。気軽に接してくれるのは嬉しいんだけど、せめてこのクソ忙しい時はやめてほしい。

 

 

 

 

「ねぇ宗輝〜」

 

「だから無理だって」

 

「日菜ちゃん、今はやめとこうよ」

 

 

 

 

日菜は日菜で構ってほしいらしい。お前らはCiRCLEにでも行って練習しろよ。ライブも近いんだから。

 

 

 

 

「宗輝君、私に手伝えることないかしら」

 

「千聖さん、すみませんがもう終わります」

 

 

 

 

頼まれていた資料は完成、ライブまでの大体のスケジュール表もできた。取り敢えずノルマは達成。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......彩ちゃん、一体彼は何者なのよ。明らかに高校生の範疇を超えてるわよ、あれ」

 

「何でも出来ちゃう人なんですよ......」

 

「流石ですムネキさん!」

 

「何でもは出来ねぇよ。それより、麻弥はどこいった?」

 

 

 

先程から麻弥の姿が見えなかったのは気付いていた。麻弥だけ来ていない、ということも無いだろう。

 

 

 

 

「麻弥ちゃんならそこにいるよー」

 

「え?どこにいるんだよ」

 

 

 

日菜の指差す方向、それは俺のデスクの下を指し示していた。俺は恐る恐るデスクの下を覗き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フヘ、フへへへへ......。この丁度いい暗さといい狭さといい、ここは最高ですね!」

 

 

 

「出てこんかこの変態」

 

 

 

 

 

その後、麻弥を引っ張り出して少しお灸を据えておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ファミレス-

 

 

 

 

「......ねぇ、あれ丸山彩ちゃんじゃない?

というよりパスパレっしょ

 

 

 

 

事務所での仕事が終わり、俺たち6人は晩御飯を食べにファミレスへと来ていた。当然、席に座って早々にバレてしまった。しかし、話してはいるもののこちらに話しかけてこないので良しとしよう。

 

 

 

「さっさと決めて食べるぞ」

 

「んー、私は宗輝と一緒でいいやー」

 

「他の人は?」

 

 

 

「私はこれにしようかしら」

「あ、私もそれにしようと思ってた!」

「ジブンはいつものやつにします」

「私もマヤさんのと同じものをお願いします!」

 

 

 

皆一様にメニューを見て自分の選ぶものを指差している。仲が良いのか適当なのか同じものを頼む奴らが3人。幸い、俺と千聖さんと麻弥のメニューは被ってなかった。

 

それから店員さんを呼んでメニューを頼み、数分後には全員の分が届いていた。

 

 

 

 

「んじゃ、頂きます」

 

 

『頂きま〜す』

 

 

 

 

俺自身、そこまでファミレスに行ったことが無かった為少し新鮮な気がした。どうやら俺は庶民派らしく、美味い美味いと気付かぬうちに頼んだWハンバーグのセットをペロリと平らげてしまった。

 

 

 

 

 

「最近頑張ってるね宗輝君」

 

「ん、そりゃあパスパレのライブだからな」

 

「"中々の人材ね。今の内に唾つけとこうかしら"ってプロデューサーさんが言ってたよー」

 

 

 

 

 

マジで何考えてるんだよあの人。俺捕まっちゃうの?どうせこき使われるだけだから勘弁してほしい。あの人見てくれは完璧なんだけどなぁ。いかんせん性格悪そうなんだよ。

 

 

 

 

「あ、今の内にスケジュール伝えとくぞ」

 

「どんと来い、です!」

 

 

 

 

 

みんなワイワイしているように見えるだろうが、やはり仕事の話となると目つきが変わる。しっかりとオンオフが出来るところはやはりプロと言わざるを得ないだろう。

 

 

 

 

 

「もうライブまでの時間は少ない。プロデューサーさんと一緒に練ったんだけどあまり良い案が思いつかなくてな。取り敢えず来週一杯迄は練習詰めだ」

 

 

「......中々ハードなスケジュール表ね」

 

 

「千聖さんやイヴ達は、他の仕事のスケジュールもあるだろうからこのままの流れではいけないと思うけどな」

 

「そこは気合いと根性です!」

 

 

 

 

 

 

実際、既にプロデューサーさんにみんなの仕事のスケジュールも見せてもらっていた。それを考慮してなるべく全員で合わせる時間が出来るように調整したつもりだ。俺は俺で他の仕事もしなきゃなんねぇし練習にはあまり付き合ってやれないかもしれない。

 

 

 

 

「取り敢えずはこのまま走るしかないから。問題があったら連絡してくれ。都度調整はしていくから」

 

「了解しました。機材のチェックはジブンに任せてください!」

 

「おう、頼りにしてるぞみんな」

 

 

 

一通りのスケジュール説明を終えて、その日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン

 

 

 

 

 

「むーくんお昼で帰るの?」

 

 

 

 

 

 

翌日、いつもの様に中庭でお昼ご飯を食べていた時。香澄からそんなことを聞かれる。

 

 

 

 

 

「何でそれ知ってるんだよ」

 

「有咲が言ってたよ」

 

 

何で有咲がそのこと知ってるんだ?俺は弁当箱を置いて有咲に迫ってみる。

 

 

「あ〜り〜さ〜?」

 

「紗夜先輩が言ってたのを聞いただけだよ!」

 

 

 

 

 

紗夜先輩ということは、情報源は日菜だな。仕事の事をホイホイ言いふらすなよ。まぁいいけどさ。

 

 

 

「まぁそういう訳だから」

 

 

 

「なら私も帰る!」

 

「香澄ちゃんはダメだよ」

 

「むっくんだけズルいよね?」

 

「おたえも香澄も帰れねぇって」

 

 

 

こんな事を言い出したのは有咲、君にも原因があるんだぞ。ここはひとつお返しをしてやろう。

 

 

 

 

 

 

「有咲、こっち向いて」

 

「ん、何だよいきなり......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ......」ペロッ

 

 

「んなっ!お、お前はぁ!!」///

 

 

 

 

有咲のほっぺについていたご飯粒を舐めとる。普通に手でとっても良かったのだが、それでは面白みがない。何より、俺の気がすまん。

 

 

 

 

「有咲の味がして美味しいぞ」ニヤッ 

 

「私の味ってなんだよっ⁉︎」///

 

 

 

 

 

 

 

「......」ツンツン

 

 

有咲をいじっていると、すぐ隣にいた沙綾に袖を掴まれる。

 

 

「どうしたんだ沙綾」

 

 

「......そういうの有咲ばっかりズルい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらず甘え下手な沙綾である。しかし、流石の俺もこれにはノックダウン。あの、可愛すぎやしませんか?俺は沙綾をこちらへそっと抱き寄せる。

 

 

 

 

「確かに、最近はライブの手伝いとかマネージャーの仕事もあって中々お店には顔出せてないな。そのせいで沙綾にも負担かけちまってる訳だし」

 

 

「それは大丈夫だけど......」

 

 

 

「大丈夫なわけあるか。俺が手伝うって約束で始めた事だ。それなのに顔出すことすら出来ないから」

 

 

 

 

 

沙綾はそれでも自分がいるから大丈夫だと言う。しかし、その顔には元気が無い。だんだんと言い合いっこの様な展開になっていってしまった。

 

 

 

 

「だから、それは俺が悪いんだって」

 

「宗輝は何も悪く無いよ」

 

 

「沙綾ちゃんも宗輝君も一回落ち着こうよ」

 

「取り敢えず有咲の玉子焼き食べる?」

 

 

そう言っておたえが天然なのかわざとなのか場を和ませてくれる。それでも沙綾は引き下がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ......うるさい口はこうしてやる」チュ

 

「......んっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、沙綾のほっぺ、でなはく今度は唇へとキスをする。いわゆるマウス・トゥ・マウスってやつか。それを見た有咲が顔を赤らめ、りみりんも同じ様な反応をしている。おたえは何が起こったかわからないと言った感じ。唯一、香澄だけが平然としていた。

 

 

 

 

 

「......これでいいか?」

 

 

「う、うん」///

 

 

 

どうやら俺の答えは正解だった様で、沙綾は満足気な顔をしている。しかし、有咲はプンプン怒りながら迫ってくる。

 

 

 

 

「何やってるんだよお前!キスだぞ⁉︎チューだぞ⁉︎」

 

 

 

 

「その言い方可愛いな」

 

「そんなこと言ってる場合か!」

 

「有咲、そんなに凄いことなの?」

 

 

迫り来る有咲を抑えていると、香澄が純粋に有咲に問いかけていた。こいつ意味分かってないのか?香澄なら有りえるが流石に分かるだろ。

 

 

 

 

「あのな香澄、キスっていうのはな......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私いつもむーくんとしてるよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、初耳だぞ。......違うんだ有咲、沙綾。誤解だから許してくれ!!」

 

 

 

その後、お昼休みの時間ギリギリまで有咲と沙綾に正座させられました。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちわ〜」

 

「あら、宗輝君。今日はお昼から早退なんかさせちゃってごめんね」

 

「その顔は全然謝ってない顔ですよプロデューサーさん」

 

 

 

 

 

 

 

結局、有咲&沙綾にこってり絞られてギリギリの時間になってしまった。香澄に説明を求めたところ、"朝起こす前にちゅーしてるよ"とのこと。そりゃあ平然としてられるわな。俺の方は気が気じゃなかったけど。許してもらうのに有咲と沙綾に1回づつキスしたんだぞ。......あれ、これ役得じゃね?

 

 

 

 

 

「顔が緩んでるわよ、何かあったのね」

 

「プロデューサーさんは占い師にでもなった方がいいと思いますよ」

 

「お生憎様、こちとら命張ってやってんのよ」

 

 

 

そう言いながら誇らし気にしているアラサーのプロデューサー。見た目的には全然アラサーには見えないけどな、スタイルだって良い方だし。因みに歳は日菜に教えてもらった。

 

 

 

「ほら、今日も頑張っといで」

 

「今日はプロデューサーにお仕事教えてもらう番ですよ」

 

「......あれ、そうだっけ?」

 

 

 

 

褒めたら伸びるタイプでは無いらしい。この時々出るポンコツさが無ければ完璧なんだけどなぁ。あと、性格も直して欲しいところである。

 

 

 

 

「私、性格は悪い方よ?」

 

「ナチュラルに人の心読まないで下さい」

 

 

 

 

 

この人には敵わないと改めて思った瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

-5時間後-

 

 

 

 

 

「はぁ〜、やっと終わった!!」

 

「お疲れ様。時間あるけどどうするの?」

 

 

お昼過ぎからぶっ通しでこの時間までやりきった。本当にこの人スパルタが過ぎる。俺まだ高校二年生だよ?そこらへん分かってらっしゃる?

 

 

「もうすぐわかりますよ」

 

「何が分かるのよ」

 

「ほら、来ました」

 

 

丁度良いタイミングで事務所の扉が開く。そこには、パスパレの5人がいた。

 

 

「あ、宗輝みっけ!」

 

「宗輝君、お疲れ様」

 

 

俺の姿を見つけると、一目散に日菜が駆けつけてきた。その後を4人も付いてきて、千聖さんに労いの言葉を貰う。

 

 

「......そういうことね。ノルマもクリアしてるから今日は上がって良いわよ」

 

「でもまだ作成途中の資料有りますよね?」

 

「後は私がやっとくから、早く行っといで」

 

 

前言撤回、本当に食えない人だ。ここまでくると好意すら抱いてしまうほどである。

 

 

「ならお言葉に甘えさせて貰います」

 

「もう大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だよイヴ。じゃあ行くか」

 

 

俺は既に片付けを済ませていたので、荷物を持てばすぐに出られる様にしていた。だが、そこで麻弥に止められる。

 

 

 

「すみません、少し持っていきたい機材があるんですけど」

 

「良いわよ、倉庫はあっちだから」ホイ

 

「うおっと、いきなり鍵投げないで下さいよ」

 

 

 

プロデューサーさんも時間はあまりないらしく、その後すぐに仕事に戻ってしまった。どうやら試したい機材があるとのことなので、先程鍵をもらった倉庫へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

倉庫へ着き、鍵を開けて中へ入る。

 

 

 

「うへぇ、ここ汚いねー」

 

「文句言うならプロデューサーさんに言ってくれ」

 

 

しかし、日菜の言う通り中はとてもじゃないが綺麗と言える状態では無かった。これを知っててあの人は行かせたのか?まぁ今は関係ないか。

 

 

「取り敢えず片付けから始めるか」

 

「整理整頓もブシの基本です!」

 

「イヴちゃん、今それ必要?」

 

 

彩、そのツッコミではダメだ。ツッコミを入れるなら素早く、的確に、斜め上へが基本だ。違うか、違うな。

 

 

 

それから、なんやかんやあって何とか片付け完了。麻弥の探し物も見つかり、事務所を後にした。

 

 

 

 

 

「麻弥、それなんなんだ?」

 

「これはですね、言うなればアンプとエフェクターの一種です」

 

「今あるやつじゃダメなの?」

 

「ダメという訳では有りませんが......」

 

 

 

 

 

 

 

そして、CiRCLEに着くまで麻弥の機械オタクとしての知恵が披露された。まぁ、新しいものを取り入れてみたかったそうだ。話している麻弥の顔は、終始笑顔であった。こういう素を出せる仲間って必要だよな。

 

 

 

 

「まりなさん、こんにちわ」

 

「宗輝君に彩ちゃん達も、こんにちわ」

 

『今日もよろしくお願いします!』

 

 

彩達を見送ってから、俺は少し用があったので受付へ戻った。

 

 

「まりなさん、ちょっと良いですか?」

 

「ん、どうしたの宗輝君」

 

「少しお願いが......」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、今日はこれくらいにしとくか」

 

「ふぅ〜、宗輝飲み物ちょーだい!」

 

「今取ってくるから待ってろ」

 

 

CiRCLEでの練習時間は今日は2時間。未だセトリは完成していないが、大体ライブで演奏する曲は決めてある。それらの合わせを行った。

 

 

 

「ほれ、日菜はこれな。後は選んでくれ」

 

「ありがと宗輝君」

「ありがとね」

「頂きます!」

「宗輝君もお疲れです」

 

 

後は片付けをして帰るだけ。練習中は休憩らしい休憩をできなかったので、取り敢えず今はみんなに休憩を取ってもらってる。身体壊しちゃ元も子もないからな。

 

 

「彩ちゃんはMC考えとかないとねー」

 

「うぅ、それが一番大変かも......」

 

「デビューライブみたいな事にはしたくないわね」

 

 

『デビューライブ......』

 

 

 

千聖さんの口から出てきたデビューライブの言葉に、みんなが暗い顔をしている。まぁ、()()()()()があればトラウマにもなるだろう。

 

 

 

 

 

「あの頃より上手になれてるかな?」

 

 

 

その問いは、果たして自らに問いかけているのか。はたまた他のみんなに問いかけているのか。どちらにせよ、その言葉に対する回答は一つ。

 

 

 

 

「上手くなってるよ、確実にな」

 

「宗輝君......」

 

 

みんながこちらを向いて静かに次の言葉を待っている。

 

 

 

「最初からできるやつなんてそうそういない。日菜みたいにすぐ真似できても中身は全然違う、そうだろ?」

 

「うーん、そんな感じはするね!」

 

「え、えと、どういう意味?」

 

 

 

今のところ、彩とイヴが言葉の意味を理解できていないようだ。千聖さんと麻弥は流石というべきか。

 

 

「見様見真似でやるのと、練習を積み重ねたものとは全然違うって意味だよ」

 

「あー、なるほどね」

 

「洗練された刃は......」

 

 

またイヴのブシドー論が始まったが大体みんなスルー。この感じももう慣れてきたものである。

 

 

 

「"99%の努力と1%の才能"って言葉があるだろ」

 

「有名な名言ね」

 

「なんだか彩ちゃんに似てるねー」

 

「それどういう意味日菜ちゃん!」

 

 

 

恐るべき日菜、俺が言おうと思っていた事を先に言われてしまう。これだから氷川姉妹は侮れない。紗夜さんも同じような事言いそうだもんなー。

 

 

 

「努力は必ずしも報われるとは限らない。けど、俺はその努力する過程に意味があると思ってる」

 

「つまり、どういうことでしょうか?」

 

 

「つまり、今は頑張って努力するしかねぇってことだ」

 

「回りくどい言い方だったけど、結局はそこに行き着くのね」

 

 

 

少し千聖さんが呆れたように頭を抱える。しかし、流石は女優。その姿さえ様になっている。数秒程見惚れていたが意識を自分の中へと戻す。

 

 

 

「ライブまで後残り少ない時間だけど、練習積み重ねていったら大丈夫だ。俺も手伝ってやるから全力で頑張れ」

 

 

「ジブンももっと頑張ります!」

「元よりそのつもりよ」

「ブシドー!!」

「おー!!」

「.....うん、私頑張るよ!」

 

 

 

 

 

 

皆一様に返答する。誰が何をいっているかははっきりとは分からなかったが、決意や想いは充分過ぎるほど伝わってきた。ドンドン突き進んでいくお前らを、俺は側で支えてやるからな。

 

 

ちょっとカッコつけてしまったが、実は全然貰っている仕事は終わっていない。半分くらいはプロデューサーに手伝ってもらってやり切れるレベル。

 

 

 

 

 

 

「......今日は徹夜か」

 

「宗輝なんか言った?」

 

「何もないよ。よし、じゃあ帰るか!」

 

 

 

 

 

 

 

しかし、帰る途中で事務所に貸して貰っているUSBを忘れてしまった事に気付き、一人寂しく帰ることになった。

 

 

 

 

 

 

 




みんな可愛すぎて困ってます。
推しは誰かと聞かれると、推しはバンドリですと答える派です。


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Produce 22#心の拠り所


やる気がある時って1日に2話ぐらい書けちゃうんです、主です。
書ける書ける!読める読めるぞぉ!って感じになります。
パスパレ回、というかパスパレ編このあとも続きます。


では22話、ご覧下さい。


 

 

 

 

 

ライブで演奏する曲の練習や合わせを始めて一週間が経過していた。仕事の都合もあり、全員で合わせられたのは半分程度。しかし、段々と上達してきているのは火を見るよりも明らかだった。そして、今日も今日とてCiRCLEにて練習を積んでいた。

 

 

 

「ムネキさん、ちょっといいですか?」

 

 

練習も終わりを迎え、片付けを始めようと思っていたところでイヴが不安そうな顔をしている。

 

 

 

「イヴ、なんだよ急に」

 

「お話したいことがあってですね......」

 

「麻弥まで、ライブの事か?」

 

 

 

イヴに加えて麻弥までもが話したいことがあるといってきた。最近は調子良くいってると思ってたんだが何か心配事でもあんのか?

 

 

 

 

 

「ライブのことでは無いんですけど......」

 

「最近、電車の中でチカン?されることがあって......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今痴漢って言ったのか?そうだとしたら冗談で済まされるレベルを超えてる。話を聞いて憤りを感じながらも今は抑えようと必死に対抗していた。

 

 

 

「もしかして麻弥もか?」

 

「いえ、ジブンは最近帰る時に人の気配を感じることが多々あって......」

 

 

 

 

おいおい、マジで言ってんのか。それが本当だとしたら立派なストーカーだぞ。イヴに続いて麻弥までもが酷い目に遭っているのを知り、他の三人にも一応聞いてみる。

 

 

 

 

「彩達は大丈夫か?何かおかしなことはなかったか?」

 

 

 

「ううん、私は大丈夫だよ」

「私も大丈夫よ」

「私は大体宗輝と帰ってるから大丈夫ー」

 

 

 

 

取り敢えず三人は大丈夫そうで良かった。しかし、大丈夫だからと言って現状は何も変わらない。この三人にもその可能性は充分ありえる。これはプロデューサーにも報告して早急に対応しなければ。

 

 

 

 

「取り敢えずこの件は一旦プロデューサーに報告しておくから」

 

「でも、それだけじゃ解決しないでしょう?」

 

「うぅ、こんな時どうしたらいいの?」

 

 

 

 

まずは、イヴと麻弥の気持ちを落ち着かせることが最優先だ。このままだとライブ云々の話である。無事に帰れて作戦も練れる方法......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日、全員俺の家に泊まるか?」

 

 

 

『えぇぇ⁉︎』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

「お兄ちゃんお帰り!」

 

 

 

一番安全で確実な方法、それがこの手段だった。みんな何故か顔を赤らめながらOKしてくれた。なに、そんなに嫌だったの?俺泣いちゃうよ?

 

 

 

 

「今日はお客さんいっぱいいるぞ」

 

「れーかちゃん!」

 

「日菜さん!」

 

『お邪魔します』

 

 

 

みんな律儀に挨拶をしてから玄関から入ってくる。何名か緊張している様子だが。

 

 

 

「あら、みんなべっぴんさんばかりね」

 

「狭いけど今日は家でゆっくりしていくといい」

 

『ありがとうございます!』

 

 

 

いや、べっぴんさんて今日日聞かねぇな。そんなに古臭い言葉使う方だったかあんたら。

 

 

 

 

 

普通、いきなり女の子5人を家に連れ込んできたら親なんて発狂してもおかしくはない。しかし、何故こんなにウチの親が物分かりがいいのか。それは、俺が事前に連絡しておいたからだ。事情を話すと二つ返事で了承してくれた。やはり親には頭が上がらないな。

 

 

 

 

 

「荷物は取り敢えずリビングな」

 

「はーい」

 

「日菜ちゃん、もうちょっとちゃんとしようよ」

 

「え、何で?」

 

 

 

 

日菜、お前はその平常運転のままでいてくれよ。只でさえイヴと麻弥が参ってるんだ。何処かに心の支えが無いとすぐ折れてしまうかもしれないからな。その支えに少しでもなれたらいいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなが持ってきた荷物をリビングに置き、晩御飯が出来るまで俺の部屋で作戦会議をすることになった。令香も入りたいと言って聞かなかったが、俺が一言断りを入れるとすんなり受け入れてくれた。令香には話してないのだがやはり雰囲気で分かるのだろうか?

 

 

 

「今日はこれで大丈夫だけど、問題なのは明日からの登下校だな」

 

「ずっと宗輝と一緒に居ればいいじゃん!」

 

「流石に宗輝君にもやることがあるわよ」

 

 

確かに俺がずっとついてやれれば良いんだけどなぁ。そろそろ忙しくなってくるし、犯人を突き止めなきゃ終わらないしな。しかし、ライブも控えている身で警察沙汰は勘弁してもらいたいところである。もう直接会って話すしか無いのか。

 

 

 

 

「取り敢えず日菜と彩、それに千聖さんは三人で出来るだけ行動するようにして下さい。まとめ役は千聖さんにおねがいします」

 

「任されたわ」

 

「彩ちゃんはいざという時になったらテンパりそうだもんねー」

「想像できるから言い返せない......」

 

 

 

千聖さんに任せておいたら一先ず安心だろう。一つしか歳は変わらないはずなんだが、時々大人と接しているように感じる時がある。しっかり者のお姉さん、って感じだな。まぁ本当にお姉さんになりたがってるところを見てるからかもしれんが。

 

 

 

「イヴと麻弥には俺がついていく。それで大丈夫か?」

 

 

「宗輝君がいれば頼もしいですね」

「百人力です!」

 

 

 

 

 

 

こうして明日からの作戦が決まった。それから程なくして、晩御飯が出来たみたいなのでリビングへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうお母さん達済ませてるから、みんなで仲良く食べてね」

 

『ありがとうございます!』

 

「お、今日は珍しく力入ってるじゃん」

 

 

 

 

俺がそう口にしたのには理由がちゃんとある。母さんは料理上手だが、手を抜くときは半端なく手を抜くタイプの人である。そういう訳で、時には卵かけご飯だけで済まされる時もあった。まぁ大体そんな時は機嫌悪い時だけどな。

 

 

「凄く豪華で美味しそう」

 

「あら、ありがとう」

 

 

「後で作り方を教えて頂いても良いですか?」

 

「勿論よ、将来のお嫁さん候補が増えるのは良いことだからね」

 

「おいそこ、勝手に増やすな」

 

 

 

 

流石千聖さん、抜け目が無い。こんな状況でさえ有効活用しようとしてくる。恐ろしい子、早く何とかしないと。

 

 

 

 

『頂きます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、やっぱうめぇな」

 

 

 

「ん〜、この味付け最高!」

「ジブンもこれ好きです!」

 

 

「このツケモノ、味に深みを感じます!」

「......私もお義母さんに教えてもらおう!」

「それが良いわね」

 

 

ちょっと、イントネーションおかしくなかった?彩の()()()()だよな?俺の母さんじゃないよな?千聖さんも何が良いんですか。仲間増やそうとしないでください。

 

 

 

 

ピコッ

 

 

 

「ん、この時間に誰からだ?」

 

 

晩御飯最中だというのに俺の携帯に何やら動きがあったらしい。音から察するにメールか何かだろう。不思議に思い、ふと画面を操作してメールを開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

From:母さん

To:宗輝

[本文]

 

どの子が本命?

千聖ちゃん?それとも彩ちゃん?

あ、分かったわ。5人全員とかでしょう?

今時ハーレムなんてやるじゃない♪

明日は赤飯用意しとくね❤︎

 

p.s

あまり羽目を外しすぎないようにね〜

 

-End-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、優しくそっと携帯をソファへ投げつけた。

 

 

 

___________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ご馳走様でした!』

 

「お粗末さん。片付けは俺がやるから風呂にでも入っててくれ」

 

 

晩御飯も無事終わり、後は寝るのみとなった。令香がお風呂を沸かしてくれていたらしく、先に入ってくれとのこと。流石俺の妹、そういうところはマジポイント高い。最後に"お兄ちゃん一緒に入ろう!"とか言わなかったらもっと良かったけど。千聖さんのハイライトの消えた目はもう見たくない......。

 

 

 

 

「私も手伝うわよ、流石にお世話になりっぱなしは良くないわ」

 

「な、なら!私も手伝う!」

 

 

 

そこからは御察しの通り、結局全員で片付けをすることになってしまった。勿論、ウチのキッチンはそこまで広くない。ギュウギュウ詰めでの作業を強いられる。

 

 

 

「ごめん、腕当たった」

 

「だ、大丈夫ですよ」///

 

 

「イヴ、もうちょっと寄れるか?」

 

「これ以上はムリです〜」///

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......だぁ〜!!俺一人で大丈夫だから早く風呂に入ってこい!」

 

 

 

もう流石に持たん、主に俺の理性が。だって、凄く柔らかくて良い匂いがするんだもん。それに反応がすげぇ可愛いから控えめに言ってヤヴァイ。

 

 

「......ふふふ、宗輝もまだまだ子供ね

「......お兄ちゃんはれーかのだもん!

 

 

 

 

今ドア越しにいる奴、マジで覚えとけよ。今度俺が飯作るとき母さんだけ卵かけご飯にしてやる。令香は罰として一日中無視とかで良いか。いや、ダメだな、そんなことしたら俺が父さんに潰される。

 

 

 

 

 

そんなこんなで片付けも終わり、俺が最後に風呂に入って寝る準備にかかる。何故か押し入れに来客用の布団が5つピッタリ入っていた。そこについてはもう言及しないことにしておく。

 

 

 

「明日も学校だから早めに寝るか」

 

「えー、折角だから何かしようよー」

 

「出来るもんっつってもトランプとかしかないぞ」

 

 

我が家にはあまりみんなでやれるゲームの類が無い。元々親がしていなかったのも大きいのだろうが、何せ幼い頃からアウトドア派だった為買う機会が無かった。買おうとは何度か思ったのだが、結局香澄に連れ回されると思い断念。それの繰り返しだった。

 

 

 

「普通にやっても面白く無いから勝負しようぜ」

 

「何で勝負するの?」

 

「トランプで勝負ならポーカーだろ」

 

「ポーカー?」

 

 

 

彩は頭の上にハテナを浮かべている様子。ポーカー知らないのか。案外ポピュラーな気がせんでもないけどな。一通りルールを説明して、全員にカードを配り始めた。俺がディーラーで俺vsパスパレみたいな感じで勝負。その時、深夜テンションだった為負けた方は勝った方の言う事を一つ聞くということになった。なんか既視感すげぇわ。

 

 

 

 

「ほれ、交換するやついるか?」

 

 

「ジブンは2枚欲しいです!」

「私は3枚いきます!」

 

 

麻弥とイヴが交換を申し出る。他3名はステイの方向らしい。俺の手札は2ペアと初手にしては中々のもの。3回勝負だから今回は俺もステイで良いか。

 

 

 

「よし、じゃあオープンしてくれ」

 

 

「ジブン1ペアです!」

「私も1ペアよ」

「一つも揃いませんでした......」

「あれ、私も揃ってない?」

「私は宗輝と一緒で2ペアだー」

 

 

 

麻弥と千聖さんが1ペア、イヴと彩がブタ、日菜が俺と同じ2ペアという結果となった。イヴの手札はまだ分かるが、彩は何でブタなのに交換しなかったんだよ。流石にポンコツ過ぎるぞまんまるお山さん。可愛いから良いけどさ。

 

 

 

「俺の方がランクが高いから俺の勝ちな」

 

「これでもう負けられなくなったわね」

 

「ち、千聖ちゃん?」

 

 

 

千聖さんの目が燃えている。こういった勝負事が好きなのだろうか?今まであまり触れてこなかった部類だったからか、一番ポーカーを楽しんでいるのは千聖さんの様に思える。自分より歳上の女の子が無邪気にはしゃいでる姿ってなんか良いよな。

 

 

 

「よし、配るぞ」

 

「人事を尽くして天命を待つ、です!」

 

「たかがポーカーで大袈裟だろ」

 

 

カードを配り終えて、自分の手札を見てみる。今回はダイヤとクローバーのAの1ペアのみ。流石にこれでは弱過ぎる為、一か八かでスリーカードを狙いに3枚交換。今回はイヴと彩がそれぞれ2枚ずつ交換。

 

 

 

 

「よし、オープンしてくれ」

 

 

「ジブン今回は無理でした」

「もうちょっとだったのに......」

「やりました!1ペアです!」

「イヴちゃん!私も1ペアだよ!」

 

 

麻弥と千聖さんがブタ、イヴと彩が1ペア。

 

 

「あれ、日菜の手札は?」

 

「ふふん、先に宗輝オープンしてよ」

 

「スリーカードだ、しかもAのな」

 

 

少しドヤ顔で手札をオープンする。3枚交換でまさか狙ったカードが来てくれるとは思わなかった。日菜、この手札に勝てるかな?

 

 

 

「じゃじゃーん!私はKのフォーカードだよ!」

 

「なん、だと⁉︎」

 

「日菜ちゃん凄い!」

 

 

 

 

惜しくも負けてしまった。日菜交換してなかったから初手でフォーカードだったのかよ。それはやばすぎだろ。ちょっとイカサマを疑うレベルだよ?まぁ俺がディーラーだから関係ないんだけどな。

 

 

 

「これで1勝1敗、次で決まるわね」

 

「やる気は凄いですけど、千聖さんさっきから手札弱い......」

 

「何か言ったかしら?」

 

「いえ、なんでもございません」

 

 

シャッフルを入念に行い、カードを配り始める。この時点で、彩とイヴの顔を見て取り敢えず安心した。この二人は顔に出やすいからなぁ。初手が悪い手札なのは見て取れる。配り終えて自分の手札を見てみると、まさかまさかのストレートフラッシュリーチ。一枚交換で上か下の同じダイヤの数字が出てくればストレートフラッシュ完成だ。ここでバレるわけにはいかない。ポーカーフェイスでカードの交換の流れへ持っていく。落ち着け、クールに決めるんだ俺。

 

 

 

「交換するやついるか?」

 

 

「私は3枚交換よ」

「ジブンは1枚で」

「私は全部交換します!」

「じゃあ私も!」

 

 

 

全部交換をノリでするんじゃありません。千聖さんも麻弥もあまり手札がよろしくないようですね。

 

 

「日菜はどうする?」

 

「......私このままでいいよ」

 

 

 

 

おっと、これは勝ったか?いやいや、油断するな。交換で引き当てられたらひとたまりもないぞ。.......いや待てよ、俺はブタorストレートフラッシュ。一か八かの大勝負。引き当てられたって俺の勝ちは揺るがないはず!

 

 

「......よし、オープン!」

 

 

「ブタね」

「ブタですね」

「ブタ!」

「ブタだぁ〜」

 

 

 

4人がブタ宣言。日菜も手札が良さそうではなかった。俺は食い気味に自分の手札をオープンする。

 

 

「俺は、ストレートフラッ......」

 

「......引っかかったな宗輝!私ロイヤルストレートフラッシュだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

やはり、凡人の俺は天才には勝てないのであった。いや、初手ロイヤルストレートフラッシュて何よ。流石に鬼畜過ぎるだろ。無理ゲー過ぎて泣けてくるわ。

 

 

「流石日菜ちゃん!」

 

「さぁ、言う事を一つ聞いてもらうわよ宗輝君!」

 

「千聖さん今回何もしてないですけどね」

 

「これはパスパレの勝利よ」

 

 

 

 

これで2勝1敗でパスパレの勝利となった。約束である"言う事を一つ聞く"の権利がパスパレ側へいってしまった。俺勝ちを確信してたから言う事決めてたんだけど。やっぱり油断大敵って事だな。今回のは完全に不可抗力だけど。

 

 

 

「んで、何お願いすんの?」

 

 

「んー、私達と一緒に寝てもらおうかな!!」

 

「うん、却下」

 

 

 

 

いや、一つ屋根の下5人の女の子と一緒に居るってだけでヤバいのに、一緒に寝るとか俺の心の臓が持たん。しかし、抵抗虚しく俺が真ん中で日菜と彩が隣、その横に千聖さんとイヴと麻弥という配置で布団にイン。俺にしかわからないだろうが、布団の中がめちゃんこ良い匂いすんのよ。日菜なんか俺に引っ付いてきてるし俺の匂い嗅いでるし。彩も彩で密着してきてさっきから顔真っ赤にしてるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......明日絶対寝不足だわ

 

「今夜は寝かせないわよ」

 

「千聖さん、マジで勘弁してください」

 

 

 

 

この後、めちゃくちゃ弄ばれた。





パスパレの中での推しはポンコツ彩太郎と日菜です。


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Produce 23#一緒なら怖くない

新たに☆10評価頂きました roxzさん有難うございます!
まさかこんなにも早く評価バーに色が付くとは思いもしませんでした。
例の如く、評価バーの赤色を見て数分ニヤニヤしてました。

今回長くなってしまいましたが、前回のアンケートを元に一括で投稿することにしました。


では、23話ご覧下さい。


 

 

「......ん、朝か」

 

 

 

俺にしては珍しく目覚ましが鳴る前に起きることができた。自分の携帯のタイマーをリセットしておこうと思い、枕の横に腕を伸ばそうとしたが何故か動かなかった。もう片方の腕も同じく動かなかった為どうする事も出来ずに数分が経過していた。

 

 

ゴソゴソ 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......令香?」

 

 

 

 

俺の足元の布団が膨れ上がってドンドン上へ迫ってきていた。こうやって令香に起こされた経験があったが故に、咄嗟に令香の名前が出てしまった。そういう面を客観的に見てみると、あまり動じていない事自体に疑問を浮かべるのだろうか。それに慣れてしまっている俺が異常なのか。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、布団から顔を出したのは残念ながら令香では無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、起きてたのね」

 

 

 

 

 

 

「千聖さんが何で布団から出てくるんですか」

 

「こういうの憧れてたのよ」

 

 

 

令香かと思ったのだが、中身は千聖さんだった。確かに映画やドラマでは良くあるシーンかもしれないが、実際に行動に移すこと無いでしょうよ。せめて憧れるだけで済ませといて下さい。

 

 

 

 

「令香かと思っておもわず抱き締めそうでしたよ」

 

 

「今からでも遅くないのよ?」

 

「腕動かないので遠慮しときます」

 

「将来の為に取っておくということね」

 

 

 

意味不明な事を千聖さんは言っているが無視。この人の感性どうなってんだよ。一つ歳下の後輩にモーニングコールで布団から出てくるとか......。千聖さん、口には出しませんけどめっちゃ可愛いです惚れそうです。

 

 

 

「......こういうことだったのか」

 

 

 

 

 

千聖さんが布団を少しめくってくれたお陰で腕の部分が露わになった。そこには、俺の腕にしがみついて未だ寝息を立てている彩と日菜がいた。なんだか甘えられているようで非常にキュンとくる。追加で腕に柔らかい二つのお山の感触も伝わってきて正直たまらん。意識すればするほど感覚が研ぎ澄まされていくような気がした。

 

 

 

 

「この子達も表立っては平然を装ってたけど、実はかなり怖がってたのよ」

 

「やっぱそうですよね」

 

 

 

 

 

やはり自分ももしかして、と思うのは当然だろう。俺はまだ犯人の姿を見てはいないが、実際麻弥とイヴがその危険に晒されているわけだからな。昨日の夜のトランプで少しは気が紛れたかと思ったがそう簡単にはいかないらしい。

 

 

 

 

 

「......千聖さんも無理しなくていいんですよ」

 

 

 

「やっぱり分かるのね」

 

「はい、何しろ専属マネージャーですから」

 

「なら、私も少しだけ甘えさせて貰うわね」

 

 

 

 

 

そう言って、千聖さんが俺の胸の辺りに顔を乗せ目を閉じた。ダイレクトに千聖さんの心音が伝わってくる。千聖さんだって一人の女の子だ。どれだけ"白鷺千聖"が女優としての演技が上手かろうとライブでの演奏が上手かろうとその事実だけは揺るがない。それは他のみんなにも言えることだ。

 

 

 

 

 

「......もう少しだけ寝るか

 

 

 

 

 

千聖さんからもすぐに寝息が聞こえてきたので、周りのみんなも起こさないような小さな声で一人呟きながら再度眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、日菜と麻弥は二人固まって登校してくれ」

 

「私と彩ちゃんとイヴちゃんと宗輝君で登校ね」

 

 

 

二度寝をしたのは良いものの、結局令香にすぐ起こされてしまった。なんでも"令香のお兄ちゃんレーダーに反応があったんだよ!"と言って急いできたらしい。そのレーダーの探知方法は些か謎だが、あながち間違いでは無いので困る。

 

 

 

 

そして兄限定で働くという点については、もはやヤンデレの域にまで達していると俺は思うんですけど?俺将来後ろから刺されたりしないよね?因みに、レーダーのアンテナは令香のアホ毛。

 

 

 

 

 

「何かあったらすぐ連絡くれ」

 

「了解しました」

「無くても連絡するねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ私達も行こっか!」

 

「なんか新鮮な気分ね」

 

「俺もそう思いますよ」

 

 

 

朝から5人と一緒にご飯を食べて、支度してから一緒に登校する。今までは香澄や明日香だったポジションに、今日はパスパレのみんながいる。理由はどうあれこうしてみんなと登校できることに嬉しさを感じている俺がいる。やはり、俺はみんなのことが好きなんだと改めて実感する。

 

 

 

「何か考え事ですか?」

 

 

 

 

そう言ってイヴが横から顔を覗かせる。フィンランド人とのハーフな彼女、顔立ちは美しく華奢な身体ではあるが心の何処かに確固たる信念を持っている。そんな素敵な彼女が困っているのなら、俺は何を放り出してでも助けてやりたい。単純にそう思った。

 

 

 

 

「いんや、ただ幸せだなーって思っただけ」

 

「なるほど、それなら私も幸せですよ!」

 

「イヴが幸せなら俺は満足だよ」ナデナデ

 

 

 

 

秘技・無意識撫で撫でを使ってしまった。イヴやひまりみたいな無邪気な笑顔を向けられると、どうにも令香と同じ様な反応をしてしまう。しかも気持ちいいと高評価を受けている。これが世に聞くお兄ちゃん補正というやつだろうか。

 

 

 

「あら、見せつけてくれるわね」

 

「宗輝君、私は?」

 

「......はぁ、やりゃあ良いんだろ」ナデナデ

 

 

 

 

 

 

やはり俺は頼まれると断れない性格らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~花咲川~

 

 

 

 

 

学校に着き、彩と千聖さんとは一旦お別れ。各自自分のクラスへと向かっていく。イヴとは教室が近いので一緒に向かっていたが、その途中でおたえと出会ったのでそこでお別れした。かく言う俺は......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宗輝、おはよう!」

 

 

「こころか、おはようさん」

 

 

 

 

 

現在、異空間に捕まっております。まぁクラスが近いから大体は朝出会うんだけどな。しかし、今は俺一人な訳で。つまり、助けてくれる人がいないってこと、わかる?

 

 

 

「今日の放課後は空いてるかしら?」

 

「いや、今日はちょっと厳しいかな」

 

「なら明日はどう⁉︎」

 

「明日もー、ちょっと無理っぽいかな」

 

 

 

 

誰か!俺に救いの手を差し伸べてくれ!悪気は全く無いのだが、マネージャーの仕事とかパスパレの件があって今はどうしても手が離せない。しかし、このまま断り続けるのも俺の心が痛む。

 

 

 

 

 

「なんで無理なの?」

 

「まぁ、あれだ。そのー、なんていうか」

 

 

 

そんな可愛く上目遣いで見つめないでくれ!後からならいっぱい遊んでやるから。

 

 

 

 

 

 

「宗輝にも予定があるでしょ?」

 

 

 

そんな時、女神が降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら美咲、おはよう」

 

 

「おはようこころ。宗輝、そうなんでしょ?」

 

「おう、ちょっとやることあってな」

 

「なら仕方ないわね。美咲、今日はウチに集合だからミッシェルに伝えといてね!」

 

「分かったよ、伝えとく」

 

 

 

その返事を聞いて満足したのか、こころは自分のクラスへと戻っていってしまった。やはり、こころの扱いでは美咲に遠く及ばないな。

 

 

 

 

「ありがとう美咲、お前は女神の生まれ変わりだな」

 

「褒めても何も出ないよ。相変わらず断るの下手だね」

 

「あんなに可愛らしくお願いされるとどうにもな」

 

 

 

 

 

その流れで美咲と話しながら自分のクラスへと向かう。しかし、また厄介な奴に捕まってしまう。いや、同じクラスだから仕方ないんだけどね。

 

 

 

「むーくん!おはよー!」

 

「うおっ!ビックリしたー。何でそんなにテンション高いんだよ」

 

「むーくん遅い!」

 

「こいつ今日めっちゃ朝早かったんだからな」

 

 

 

 

香澄の後ろから有咲が疲れた顔をしてやってくる。その感じだと有咲の家に行って一緒にきたんだな、ご苦労さん。今日は念の為事前に朝起こしに来るなと連絡しておいて正解だった。あの状況にこいつを加えると何が起こるかわからん。まさにまぜるな危険状態である。

 

 

 

 

「すまんがあと数日香澄の相手を頼む」

 

「はぁ⁉︎今日だけでも疲れてんのに無理だーっ!!」

 

「そんなこと言わずにさ、頼むよ有咲」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~有咲フィルターON ~

 

 

「そんなこと言わずにさ」

 

 

「頼むよ、あ・り・さ❤︎」キリッ

 

 

~有咲フィルターOFF ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで言うならやってやらなくもねーけどな!!」///

 

 

 

 

 

流石は有咲、チョロインの名は伊達ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴ〜、帰るぞ〜」

 

「少々お待ちを!」

 

 

 

 

いつもと変わらず授業を終え、件の問題を解決させる為イヴを迎えに来ていた。少し様子を見ようと思ってはみたものの、やはりこのままイヴや麻弥に嫌な思いをさせる訳にはいかない。解決できるのなら今すぐにでも、という結論に至った。

 

 

 

 

 

 

「あれ、むーくんだ。イヴちゃん迎えに来たの?」

 

「すまんなはぐみ、今日は相手してやれん」

 

 

 

「むっくん何処か行くの?」

 

「何処にもいかねぇよ。ポピパは今日は蔵練だろ、早く行ってこい」

 

「はーい」

 

 

 

 

はぐみとおたえに見つかり話しかけてくるが、適当に流しておく。そうこうしている間にイヴの帰宅準備も済んだようで、クラスメイトにお別れの挨拶を交わしながらこちらへ近づいてくる。

 

 

 

 

 

「忘れもんないか?」

 

「筆箱ヨシ、教科書ヨシ......大丈夫です!」

 

「よっしゃ、じゃあ帰るとするか」

 

 

 

彩と千聖さんには二人で帰ってくれと連絡しておいた。一応日菜と麻弥にも気をつけるように連絡だけ入れておいた。

 

 

 

 

「イヴ、本当に大丈夫か?」

 

「......大丈夫、だと思います」

 

 

 

俺のこの問い、それは今日犯人を捕まえるためのある()()に起因している。作戦というのも、ただ最近痴漢されたという電車に二人で乗り込むだけなのだが、俺としてはもうイヴにそんな目にあってほしくない。でもこれくらいしないと犯人は辞めないし他の人がターゲットになる可能性だってある。苦渋の決断をし、この作戦をイヴに伝えたところ了承を得た。

 

 

 

 

「嫌だったら辞めてもいいんだぞ?イヴが囮みたいなことする必要は無い。考えればもっと良い案があるかもしれない」

 

「......本当は怖いです。痴漢されて何もする事が出来なくて凄く怖かったです」

 

 

 

 

やはりそうだろう、イヴがこんな役を望んでやる訳が無い。警察に言えば良いだけの話。しかし、そうすればライブが無くなってしまう事態にもなりかねない。パスパレの今後がかかっている大切なライブ。それを痴漢魔などに邪魔されたく無い。犯人を早く捕まえたい想いと、イヴを危険に晒したく無い想いで未だに俺は葛藤していた。

 

 

 

 

 

 

 

「でも......、ムネキさんが一緒なら怖くないです!」

 

 

 

 

 

 

心の何処かでイヴも闘っている。そんな中この提案に乗ってくれた。俺と一緒なら大丈夫だと言ってくれた。そんな彼女を、俺は何があっても守り抜こうと決意した。

 

 

 

 

「......イヴ、絶対に俺が守ってやるからな」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

そして、俺たちは駅へと向かった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここって......俺も時々乗ってるところじゃねぇか」

 

「......この駅にはあの日からは乗ってないです」

 

 

 

 

 

学校を後にして、俺とイヴと二人で例の駅に到着。イヴの口から出たあの日とは、当然の事ながら痴漢された日であろうことが簡単に読み取れる。そりゃ痴漢されて乗り続けるのは流石にキツイわ。俺が女の子でも無理、ていうか俺が女の子だったらその場で撃退してそう。

 

 

 

痴漢なんてどんな状況であっても必要の無い行為だからな。万が一人を殺さなくちゃいけない状況があったとしても、痴漢しなきゃいけない状況なんてあるわけないだろ。人間には立派な理性っていうもんがあるんだからそれを正常に働かせれば何も問題ないはず。それが出来ない奴らが残念ながらこの世には沢山いる。だからイヴみたいな被害者が後を絶たないんだろう。こうやって真面目に一生懸命にやってる奴らがバカみたいな思いをするのが一番許せない。

 

 

 

 

 

「イヴ、最終確認だ。今から乗るけど大丈夫か?」

 

「......」

 

 

 

そう聞いてもイヴからは返事が返ってこなかった。実際、この状況を目の当たりにするとフラッシュバックしてくるのだろう。もしかしたら今日も、なんてもしもの話を考え出すと止まらなくなるのは良くあることだ。

 

 

 

 

 

 

もう一度確認しようと思ったところで、突然イヴからの熱い抱擁を食らう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しだけ、このままでいいですか?」

 

 

「......電車に乗ったら他人のフリだからな」ナデナデ

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後に、電車が到着して二人で乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

~一駅通過~

 

 

 

 

 

 

 

電車に乗り一駅を通過したが、今のところ問題は無さそう。現在、俺たちはなるべく扉の近くに陣取っている。イヴは扉から外を眺めていて、俺はイヴが見える位置であくまで他人のフリをしていた。犯人の特徴が一切分からないこの状況下で常に警戒しておかないといけない為、既に疲れ始めていた俺とイヴ。まだ何駅かあるので犯人が現れるのをジッと待つ。

 

 

 

 

 

 

~3駅通過~

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから2駅が過ぎ、合計で3駅通過していた。未だ犯人が現れる気配が無い。俺は出て行く人と入ってくる人を大体見張っていたのだが、あまり不審に思う人は見かけない。時間も時間な為、仕事帰りのサラリーマンが多い印象を受ける。年齢幅も中々のもので、中年太りのおっさんがいれば新入社員っぽい若手の人もいる。見ていると、やはりどの人も疲れ切った顔をしている。

 

かくいう俺も、気を配り監視していたので少し目がシバシバしてきた。これを知っているのは香澄か明日香、それと令香くらいだろうが、一応俺はコンタクトレンズを使用している。その為、乾燥には弱いのだ。

 

 

 

 

「イヴ、もう少しだけどいけそうか?」

 

 

 

そんな乾燥には負けていられず、少し移動して小さな声でイヴに確認を取ってみる。すると、イヴが首を縦に振ってくれた。それを確認して俺は元いた場所へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~目的地前~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、何も起こらないまま目的地へ到着しようとしている。何も起こらないのが一番良いのだが、今回の目的を果たすことなく神経だけを削ってしまった。イヴを見てみると心なしか安心した顔をしている。こうやって俺が毎日一緒に付いて帰る事が出来れば良いが、残念ながらそれは叶わない。バイトもあるし今はマネージャーとしての仕事もある。事情を話せばokを貰えんこともないと思うが問題を先送りにするだけだ。解決にはならない。

 

 

 

 

今日はもう大丈夫だろうと少し気を抜いてしまったが、イヴの身体が不自然に動いたのを俺は見逃さなかった。

 

 

 

「......ッ!!」

 

 

 

 

 

先程までは確実にいなかったであろう人物を見つける。その人物の手が、イヴの下半身の方へ伸びているのが見えた。俺はコイツが犯人だろうと確信を持ったが、すぐに行動を取らず自分の携帯の録画機能をONにした。

 

 

 

 

「......」グスッ

 

「(すまん、イヴ。到着まで我慢してくれ......)」

 

 

 

 

 

イヴが今にも泣き出しそうな顔をしているのが見える。しかしこの犯人、巧みに全員の視線を受けずに痴漢をしている。恐らく常習犯で手慣れしているのだろう。唯一、俺の角度からしか触っているところが見えなかった。俺は今すぐにでも殴りかかりたい気持ちを抑えて、電車の到着を待った。

 

 

 

 

 

 

 

~目的地~

 

 

 

 

 

 

 

俺とイヴが降りる駅まで電車が到着。アナウンスが聞こえて、扉が開く。そのタイミングで俺は犯人の腕を掴んだ。

 

 

 

「......イヴ、先に降りててくれ

 

「.......」ダッ

 

 

 

俺が小声でそう伝えると、イヴは先程までの恐怖から逃げるようにして走っていった。

 

 

 

「ちょっと付いて来い」

 

「......」

 

 

 

 

意外にも犯人が抵抗する様子は無く、電車を降りて少し人目のつかない場所へと移動した。

 

 

 

 

 

「お前、何で痴漢なんかしたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「......イヴたんは僕の嫁だ」

 

「は?んなわけ無いだろ。もしかしてそれが理由か?」

 

 

 

 

いきなり訳の分からないことを言い出す犯人。というか、この発言前にも何処かで聞いたことあるような気がする。......分かったわ、羽丘にいた時のリレーカーニバルで見に来てた奴だ。

 

 

 

 

 

「もしかしなくともリレーカーニバル来てたよな?」

 

「イヴたんの応援に行くのは当たり前だ」

 

「なぁ、そのイヴたんって呼ぶのやめてくれ。普通に腹立ってるから癪に触る」

 

 

 

 

 

あまり反省をしていない様子の犯人を目にして、段々とイライラゲージが上がっていくのが自分でも分かる。こういう奴がいるから今の時代オタクが生きにくくなってるんだと思う。

 

みんなにはバレていないが俺も実はアニメや漫画をよく見る。全く見ない人からすればオタクと言われてもおかしくないレベルにまで最近は成長している。なるべくリアルタイムで視聴を心掛け、出来なければ録画。最悪レンタルして土日家に篭って鑑賞会、なんてこともザラだった。ここ一年間でアニメや漫画などの創作物の素晴らしさは理解したつもりだ。それ故に、コイツの行動が一段と許せないのかもしれない。種類は違えどアイドルオタクもオタクな訳で、好きだからといって何でも許されるわけではない。頭の中で色々な妄想を働かせるのは良いが、それが度を越してしまうと今回みたいな事になりかねない。

 

 

 

 

 

 

「いつからやってたんだ」

 

「......始めたのは最近」

 

「何で痴漢なんかするんだよ」

 

「それはイヴたんが僕の......」

 

「だからイヴは嫁じゃねぇっつの」

 

 

 

 

さっきからコイツ同じことしか言えないのか。ここまでくると重症だぞ。それに周りチラチラ見てるし逃げようとでも思ってんのか?

 

 

 

 

「言っとくけど、携帯で一部始終撮ってるから」ハイ

 

「け、消せ!今すぐ消せよ!」

 

「ダメだ、消すわけないだろ」

 

「許してくれ、お願いだ!」

 

「......今回は俺も大事にはしたくないが、かと言って痴漢を見逃すわけにもいかねぇ。俺と一緒に近くの交番まで来てもらうぞ」

 

 

 

 

交番、という言葉が出た瞬間犯人の顔が徐々に青ざめていくのが分かる。やっと罪の意識が出てきたらしい。今や痴漢なんて殺人と並ぶ程の重罪だぞ。それを分かってやる奴もいるがコイツは好きという感情が行き過ぎたが故の行動。まだ更生できるチャンスはある。

 

 

 

 

「......一つだけ聞いてもいいか?」

 

「急になんだよ」

 

 

「お前はイヴたんの何なんだ」

 

 

 

 

 

頭の中をその言葉が巡る。前にもこんなことあったなぁ。"お前はその女にとって何だよ"だっけか?詳しくは覚えてないけど、そんなの決まってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴにとっての俺は分からんが、俺にとってイヴは大切な人で大好きな奴だ。イヴが困ってんなら助けてやるし、イヴに危険が及びそうなら守ってやりたい。アイツと一緒にいるといつも笑顔になれるんだ。だから、今まで笑顔にしてくれた分お返ししないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~side change ~

 

 

 

 

 

 

 

 

「......はぁはぁ、ムネキさんは無事でしょうか」

 

 

 

私は電車の扉が開くと同時に一目散に走って駅の外まで出てしまった。まさか本当に来るとは思ってなかった。触れられた瞬間、気が動転しそうになった。最後の駅に着くまでずっと我慢していた。どうやらムネキさんが犯人を捕まえてくれたみたいで少し安心した。

 

 

 

 

「どこにいるのでしょうか」

 

 

 

そんな独り言を言いつつも周りを見渡している。近くを通りかかった子供に少し変な目で見られてしまったが、今はそれどころではなかった。

 

 

 

「あ、ムネキさん見つけま......」

 

 

 

 

そう声を掛けて近寄ろうと思いましたが、そんな雰囲気ではありませんでした。犯人と思しき人物とムネキさんが何やら話しているみたいで、遠くて内容はハッキリとは聞こえません。危険を承知の上でもう少し近づいていこうと思ったその時、犯人の口から思いがけない言葉が出てきました。

 

 

 

 

 

「お前はイヴたんの何なんだ」

 

 

 

 

 

ムネキさんが私にとって何なのか......。そんな言葉を聞いたのは初めてでした。それを聞いてムネキさんは黙って考えている様子。私も頭の中で答えを出そうと必死に考えていた。"私にとってのムネキさん"とは。いつも明るく接してくれる隣のクラスの男の子。今や私達の専属マネージャーまでやってくれていて、面倒くさいと言いつつも結局誰よりも面倒見の良いムネキさん。彼の良いところばかりが浮かんできて考えるのを邪魔してくる。そんな想いと闘っていると、ふとムネキさんが言葉を発する。

 

 

 

 

「イヴにとっての俺は分からんが、俺にとってイヴは大切な人で大好きな奴だ」

 

 

 

 

 

ムネキさんにとって、私が大切な人で大好きな人?少し理解するのに時間がかかってしまう。今まで同じクラスの子に可愛いとかキレイとかは何度も言われた。花咲川は男子生徒がほぼいないから告白なんてイベントもない。だけど、大好きなんて初めて言われた。胸が熱くなるのを感じる。しかし、その言葉には続きがあった。

 

 

 

 

 

「イヴが困ってんなら助けてやるし、イヴに危険が及びそうなら守ってやりたい。アイツと一緒にいるといつも笑顔になれるんだ。だから、今まで笑顔にしてくれた分お返ししないとな」

 

 

 

 

 

なんだか最後の方はムネキさん自身に言い聞かせている様にも感じられた。私がムネキさんを笑顔に?ただ私はみんなが楽しく出来たら良いなと思っていつも生活している。アヤさんは私から見ても少し抜けていて、チサトさんは女優との両立も出来ているしっかり者で、ヒナさんは天才で、マヤさんは機械に詳しい頼れる先輩で。そんなパスパレにムネキさんも加わって新たなスタートを迎えようとしている。そんな中私は何か役に立てているのかな......。

 

 

 

 

 

「うおっ、イヴそこに居たのか」

 

「......イヴたん」

 

 

 

考えることに夢中で周りが見えてなかった私を先に見つけてくれたのはムネキさんだった。その隣には犯人を連れている。もう話し合いが終わったのでしょうか何処かへ向かっているようにも思えた。

 

 

 

 

「あの、ムネキさん......」

 

「後で話は聞くから、取り敢えず交番に行こう」

 

 

 

それから程なくして、交番に着き事情を説明して犯人の身柄が警察へと引き渡された。その説明の中で、ムネキさんは今回の件は出来るだけ伏せておいて下さいとお願いしていた。その理由は何となく察することが出来た。

 

 

 

 

 

「結局は警察頼りになっちゃったな」

 

「......はい」

 

「ごめんなイヴ、怖かっただろ。最初から警察に頼れば良かったな」

 

「いえ、ムネキさんは悪くないです!悪いのは私で......」

 

 

 

言いかけたところをムネキさんからデコピン?をされて思わず声を上げてしまう。

 

 

 

 

 

 

「イヴは何も悪くないだろ。彩といいイヴといい何でそんな考え方なんだよ」

 

「でもムネキさんは守ってくれるって言ってくれました。だけど、私は何も出来てません!」

 

「聞かれてたのかよあれ、普通に恥ずかしいんだけど」

 

 

 

少し恥ずかしそうに頭をかいているムネキさん。その姿を見て何だか可愛らしいと思ってしまった。

 

 

 

 

「聞いてたのなら話が早い。イヴ、困ってんなら頼ってくれ。怖いのなら助けを求めてくれ。俺が出来る限り守ってやるし助けてやる」

 

 

「......はい」

 

 

私はただ黙って聞くことしかできなかった。そうすることが今やるべき事だと思ったから。

 

 

 

 

「だからな、泣かないでくれ」ギュ

 

「へ?」ポロポロ

 

 

 

突然ムネキさんに抱き寄せられる。どうやら、私はいつのまにか泣いていたらしい。ムネキさんの暖かい声、暖かい想いが全て伝わってきて私の感情は爆発してしまった。

 

 

 

 

 

「......怖かったです!何度も何度も泣きながら耐えました!それでも怖くて怖くて逃げ出したくて投げ出したくて嫌になって!」

 

 

「そうだな、イヴは頑張ったよ」ナデナデ

 

 

 

「でも、ムネキさんと一緒なら大丈夫でした。ムネキさんがいれば必ず守ってくれる気がして、隣を歩いてても歩幅を合わしてくれたりして」

 

 

 

「これからもずっと守ってやるから」

 

 

「私は、私は......」

 

 

 

「......おやすみ、イヴ」

 

 

 

私の意識はそこで途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ん、あれ、ここは?」

 

 

 

 

次に私が目を覚まして最初に見たのは見知らぬ天井。確か交番近くの公園にいたような気がする。

 

 

 

 

「お、起きたかイヴ」

 

「ムネキさん?何でムネキさんがいるんですか?」

 

「何でって、ここ俺の家」

 

「何で私はムネキさんの家に?」

 

「泣き疲れて寝てたんだよ。イヴの家知らなかったから俺の家に連れてきたんだ。令香にちょっと誤解されたけどな」

 

 

 

 

レイカさんとはムネキさんの妹さんのことだ。それにしても誤解ってなんだろう。少し気になったので恐る恐る聞いてみることにした。

 

 

 

 

「誤解ってどんな?」

 

「"お兄ちゃんが遂に女の人攫ってきた!"って言われた。イヴの顔見てるはずなんだけどな。まぁあの時は寝てたし顔も見えなかったから仕方ないけど」

 

「それは誠にすみませんでした!」

 

 

 

 

私はすぐにベッドから起き上がり頭を下げる。しかし、聞こえてきたのはムネキさんの笑い声だった。

 

 

 

 

「あはははは!イヴはやっぱりそうこなくちゃな」

 

「あれ、私何か変なことしましたか?」

 

「いんや、ありがとなイヴ。いつも俺たちを笑顔にしてくれて」

 

「そ、そんなことないですよ!」

 

「何言ってんだよ、聞いてなかったのか?」

 

 

 

 

勿論聞いてなかったわけじゃない。でも、未だに信じられない。私がみんなのことを笑顔にしているなんてことはないはず、そう自分で決めつけかけていた。

 

 

 

 

「俺だけじゃないんだよ、イヴに救われてんのは」

 

「え?」

 

「彩だって千聖さんだって、麻弥や日菜もそうだ。他のバンドの奴らもそうだぞ」

 

「私はそんなつもりは......」

 

「あーややこしい!要はこういうことだ!」ダキッ

 

 

 

 

またしてもムネキさんにいきなり抱き寄せられる。今度はさっきより少し強めだったが気にならなかった。それよりも、またムネキさんに抱きしめられた事を嬉しく思っている自分がいることに少し驚いた。

 

 

 

 

「どういうことなんでしょう?」

 

「みんな、イヴの事が大好きだって事だ。勿論、俺もだぞ」

 

 

 

瞬間、身体中が熱くなっていくのを感じる。他の誰でもない、ムネキさんだからこその感情が芽生えてくる。

 

 

 

 

 

ムネキさんにとって私は大切な人で大好きな人。

 

 

なら、私にとってのムネキさん。

 

 

 

それは—————————-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムネキさんは、私にとっての白馬の王子様です!」

 

 

 

 

 

 

「イヴさん、そこはアメリカ風なんですね」

 

 

「はい!誰がなんと言おうと白馬の王子様です!」チュ

 

 

「お、おい!いきなりほっぺにキスは卑怯だぞ!」

 

 

「スキあり、です!」ニコッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言って顔を赤くして照れているムネキさん。カッコいいところもあり可愛らしいところもある。まだまだ私が見つけられていない魅力も沢山ある。それは、これから見つけていけばいい。

 

 

 

 

 

だってこの人は、私にとっての白馬の王子様だから!

 

 

 

 

 

 

 

 






アニメのイヴの忍々!ってところキュンときません?
少なくとも私はきましたよ、はい。


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Produce 24#ジブンノヒーロー

更新が一週間以上遅れてしまい申し訳無い。


今日からRoselia単独ライブですな(^^)
くれぐれも熱中症等にはお気を付けて下さいな。
主は忙しくて行けませぬ。Roseliaファンとして影ながら応援しております。

今回(も)長くなってしまいました。
先に謝罪をば。多分過去最高レベルだと思われます。


それでは、24話ご覧下さい。


 

 

『昨日、○○駅の○○行き電車で痴漢が......』

 

 

 

「あら、これ案外近いじゃない」

 

「令香、電車に乗るときは気をつけるんだぞ」

 

「はーい」

 

 

 

 

痴漢魔を捕まえてから1日が経った。昨日はイヴを送っていって晩飯を食べ風呂に入ってすぐに寝てしまった。自分自身でも気付かないくらい相当疲れていたんだろう。朝から大々的に報道されているが、誰が捕まえたとかは一切公表されていない。警察が捕まえたことになっていた。まぁ俺が警察に詳細な内容は伏せておいてくれとお願いしたからなんだけどな。

 

 

 

「今日はパスパレの人いないの?」

 

「毎日来られたらこっちが迷惑だ」

 

「なら、今日はれーかがお兄ちゃん独り占めできるね!」

 

「はいはい、登校するだけな」

 

 

 

朝ご飯を食べているのにこの妹ときたらずっと俺の横にいるのである。妹は朝ご飯を済ませているのにも関わらずだ。正直食べ辛くはあるのだがそこは我慢。ここで無闇に拒否してしまうと令香が傷付いてしまう可能性がある。何より父さんが何しでかすか分からん。まぁ大体は母さんが止めてくれるけどな。

 

 

 

家内カーストは俺>父さん>母さん>令香の順である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

あれから朝ご飯を終え、家を出ないといけない時間になった為二人で準備して家を出た。未だ夏期休暇中の両親はのんびりコーヒーを飲みながら見送ってくれた。父さんのザマァみろって顔は忘れない。帰ったら令香に父さんのこと無視するように言ってみよう。

 

 

 

「あ、あーちゃんとお姉ちゃんだ!」

 

「あ、本当だ」

 

 

 

二人でいつもの道を歩いていると香澄と明日香に出会った。令香が一目散に飛びついていった後を俺が付いて行く。

 

 

「令香ちゃんおはよう」

 

「れーかちゃんもむーくんもおはよ!」

 

「おう、おはよう」

 

「おはようであります!」

 

 

 

二人に抱きつきながらも敬礼のポーズを取る令香。こうして四人で登校するのは久し振りな気がする。少し声が大きかったのか周りの生徒に見られてしまうが当人達は知らぬ存ぜぬで話を進めている。かと思いきや明日香がこちらへやってきた。

 

 

 

「朝のニュース見た?」

 

「ん、痴漢のやつか?」

 

「そうそう、私昨日あの電車乗ってたんだよ」

 

「......マジで言ってんのか」

 

 

 

見つからなくて良かった......。どうやら友達と遊ぶのに電車を利用していたらしい。あのまま放置しておいたら明日香までもがターゲットにされるところだった。少し冷や汗をかいてしまう。

 

 

 

「明日香も何かあったら言えよ。お兄ちゃんが守ってやるからな!」ナデナデ

 

「宗輝はお兄ちゃんじゃないでしょ!」///

 

「何言ってんだよ、小さい頃はお兄ちゃんって言ってたぞ」

 

「えぇ⁉︎ほ、本当に?」

 

 

 

多分明日香は覚えていないだろうが、小さい頃は良くお兄ちゃんお兄ちゃんと言われたものだ。それこそ今の令香くらいにはベッタリだった気がする。それなのに段々とお兄ちゃん離れが始まって......。お兄ちゃん悲しいです。

 

 

「ま、それは置いといてだな。最近怪しい奴も出るって聞いてるから明日香も香澄も気を付けろよ」

 

『はーい』

 

 

香澄と令香が同時に抜けた声で返事をする。それを聞いて俺と明日香が同時にため息をついてしまう。あっちはあっちで、こっちはこっちでシンクロしてて何が何だか分からん。

 

 

 

「あれ絶対聞いてないね」

 

「明日香、お前が一番頼りだ」

 

「まぁそこは上手くやっとくよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

~花咲川~

 

 

 

 

 

 

あれから明日香とは途中で別れ、俺と香澄と令香の三人で花咲川へ到着。中等部に行く令香を二人で見送ってから自分たちのクラスへと向かった。そして、やはり今日も出会う訳で。

 

 

 

 

「あら!香澄に宗輝じゃない、おはよう!」

 

「こころ〜ん、おはよ!」

 

「美咲〜、今日も助けてくれ〜」

 

 

俺はその場には居ない美咲の名前を呼んでみる。花咲川の異空間と戸山家の問題児を一緒にするなと何度言ったらわかるんだ。こうなればもう俺の手には負えんのだよ。

 

 

 

「宗輝は今日も予定があるって言ってたわね」

 

「あれ、むーくんそうなの?」

 

「おう、ポピパは今日も蔵練だろ」

 

「あ、むーくん聞いて聞いて!昨日有咲がね〜」

 

 

 

それからは、昨日の蔵練で有咲がお菓子一杯食べてたやらおたえが摩訶不思議な事を言いだしたりと、割とポピパあるあるな事を香澄が自慢げに話し続けていた。勿論、沙綾が差し入れでパン持ってきてくれたことやりみりんが相変わらずチョココロネ大好きなことも聞いた。香澄さん、言われなくても何度も目にしてるんですよ、有咲のお菓子以外はな!!

 

そう思っていたところで、丁度有咲がクラスへやってくる。

 

 

 

「おはよ〜」

 

「有咲おはよ!」

 

「......」

 

 

 

有咲はそのまま通り過ぎようとしていたので、俺は確かめるべく有咲のお腹を少しつまんでみた。

 

 

 

「えいっ」プニッ

 

 

 

 

「ひぇ!!お、お前ぇ!いきなり何してるんだよッ!」///

 

「有咲、お菓子の食べ過ぎは良くないぞ」プニプニ

 

「そうやって言いながら触るなぁー!!」///

 

 

存外、感触が良かったのでつい追加でぷにぷにしてしまった。何でこんなに女の子って柔らかいんだろうな。こればかりは生涯解き明かせない謎である。

 

 

 

「むーくん私もやりたい!」

 

「お、やってみるか」

 

「やらせるかバカぁ!!」

 

 

 

触って分かったのだが、まだ有咲は太り始めてはいないようだ。元々がスタイルいいから少しお菓子を食べてもそこまで影響がないんだろうか。かくいう俺も昔から食べても食べても太らない体質なのだ。積極的には運動なんてしてないのにな。女の子に非常に忌み嫌われる体質である。

 

 

 

 

「っていう茶番は置いといて」

 

「誰が茶番で女子のお腹触るんだよッ!!」

 

『はい、ナイスツッコミ!』

 

 

 

「あなたたち相変わらず仲が良いのね!」

 

「これは仲が良いとは言わねー!!」

 

 

 

 

朝から有咲の強烈なツッコミが聞けて満足である。結局朝のHRが始まる寸前まで有咲をいじってはツッコミを食らうという流れが数回続いた。前半は空気だったこころも後半戦からはドンドン割って入ってきた。流石は異空間と言ったところか。

 

 

 

 

 

そして、つつがなく授業も進みお昼休憩の時間となった。

 

 

 

 

「香澄〜有咲〜、中庭行くぞ〜」

 

「むーくん待って〜」

 

「香澄置いてくぞー」

 

 

 

香澄が一生懸命カバンの中のお弁当を探しているのに気付いていながらも、教室から出る俺と有咲。そしてその後を追ってくる香澄。三人でいつもの中庭へ向かっていたが、途中で人にぶつかられた、のではなく腕に抱きつかれてしまった。

 

 

その人物とは、意外にも教室から飛び出てきたイヴだった。

 

 

 

「イヴ、いきなり抱きついてきてどうしたんだ?」

 

「ムネキさん!一緒にご飯を食べましょう!」ダキッ

 

 

 

お熱いねぇ

でも、市ヶ谷さんと付き合ってるんじゃなかったっけ?

私は3年の丸山先輩って聞いたわよ

 

 

 

イヴのクラスから色んな憶測の混じった声が聞こえてくる。俺は有咲と付き合ってねぇし彩とも付き合ってねぇよ。お熱いねぇとかヒューヒュー言ってるやつやめろ。迷惑だろうが、主にイヴに対してな。俺は別に言われて嬉しいけどな。

 

 

 

 

「よし、じゃあ一緒に食べるか!」

 

「はい!好きな人だったら一緒に食べるのがキホンです!」

 

「おーっと、イヴさん何でこんなに近いのん?」

 

「これが愛情の印です!」チュ

 

 

 

 

若宮さん大胆ね!

あれが修羅場ってやつね

私も行ってこようかしら

 

 

 

 

前からこんなに距離近かったっけな。いや、今はそれどころではない。何なんだよさっきからこっちに聞こえるか聞こえんか分からんくらいの声で言ってるの。野次馬根性備わり過ぎだろ。お前らは2年E組の野次馬三人娘で決定な。

 

 

 

 

「分かった、分かったから一旦離れてくれイヴ」

 

「いえ、このまま中庭まで行きましょう!」

 

「なら私は左腕!」ダキッ

 

 

 

イヴが右手、香澄が左手にしがみ付いて離れなくなってしまった。客観的に見れば両手に花なんだろうけどな。実際、この状況になると自分が昆虫の止まり木になった気分だ。何だろう、そんなに悪くない。むしろ柔らかい感触と甘い香りが体験できてラッキーなのでは......

 

 

 

 

「何考えてるんだよお前は!」

 

「いってぇ!!何するんだよ有咲!」

 

「顔がニヤニヤしてたから良くないこと考えてただろ!」

 

 

 

 

有咲から愛のあるチョップを頂戴する。有咲には何でもお見通しみたいです。何故だろう、何処かの敏腕アラサープロデューサーが頭をよぎる。"私はその子よりは甘くないわよ?"なんて言うツッコミまで聞こえてきそうで怖い。これ以上は考えるのをやめておこう。

 

 

そうして、ポピパの5人と俺とイヴで楽しく騒がしくお昼ご飯を食べた。

 

 

 

 

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『気を付け、礼』

 

『ありがとうございました〜』

 

 

 

 

 

俺の苦手な数学の授業が終え放課後となった。数学が嫌いと言ってもそこまで酷い点を取るわけではない。テストでは今まで上位をキープし続けてきているし、何ならトップ争いに一時期乱入したこともある。それには勿論負けたわけですよ。だってね、有咲に勉強で勝てるわけないじゃんか。まぁ勉強以外でもほとんど負けてるんだけどな。

 

 

 

 

「......行くか」

 

 

 

 

今まで考えていた事を全て払拭するかのように、自分に言い聞かせるように、気合いを入れるようにして席を立つ。ここからはそんな甘い世界ではないことを今一度自覚する。昨日は何とかしてイヴの件を解決した。しかし、まだ問題は残っているのだ。麻弥がストーカーされてる疑惑である。

 

 

 

「今日も何処か行くの?」

 

「沙綾か、まぁちょっとした用事だ」

 

 

教室を出てすぐのところで沙綾に見つかってしまった。何も悪い事はしていないのだが何だかそういう気分になってしまう。

 

 

「あんまり無理しないでね」ギュ

 

 

 

言い方は悪くなってしまうが、適当に流して早いところ麻弥を迎えに行こうと思っていた矢先、沙綾に袖を掴まれてしまった。こういうところは鋭い沙綾。実際、前回のRoseliaのライブの手伝いの時や今回の専属マネージャーとしての手伝いをし始めてからというものやまぶきベーカリーへ足を運ぶことが出来ていない。予め沙綾や千紘さんには伝えているのだがやはり不安に思うところがあるのだろう。

 

 

 

「分かってる、約束だからな」

 

「うん、約束だよ」

 

 

 

沙綾と交わした()()。それは簡単に言えば困ったら頼る、助けて欲しいなら助けを求める。そして、それはお互い様。沙綾が困っていれば俺が助けるし、俺が困ってたら沙綾に頼る。ちっぽけだけど大切な約束。

 

 

 

その後も少しだけ沙綾と他愛ない話をしてから、俺は花咲川を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

~羽丘学園~

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!宗輝みっーけ!」

 

「げっ、めんどくさい奴に見つかった」

 

 

 

 

羽丘に着いて早々に日菜に見つかってしまった。いや、おかしいでしょう。俺まだ校門過ぎて校舎に向かってたところだよ?何で2階の窓から見つけられなきゃいけないのん?

 

 

「おーい、何で来たの?」

 

「今日は麻弥に用事があるんだよ」

 

 

当然の如く俺の方へやってくる日菜。とてもさっきまで2階にいたとは思えないスピード。しかし、今日は麻弥に用があるのだ。日菜には悪いが早いところケリをつけないといけないな。

 

 

 

「そういうことだから、今日は遊んでやれん」

 

「分かった!麻弥ちゃんが前に言ってたストー.......んぐっ⁉︎」

 

「日菜ちゃんちょーっとこっち来ようか?」

 

 

 

日菜の天才っぷりはどうやらこういうところまで発揮されるらしい。まだ周りに部活や居残りの生徒が沢山居る中でそれはNGだろ。危うくSNSなんかで拡散されるところだったぞ。最近のJKの拡散力を舐めてはいけない。噂好きの主婦並みには早い、若しくはそれ以上か。俺は日菜の口を押さえたまま校舎の裏へと向かった。途中で何人かに不審な目で見られてしまったが今は気にしないでおこう。決して如何わしい事をしているのでは断じて無い。

 

 

 

「日菜、何言おうとしてんだよお前は」

 

「ごめんごめん、つい口が滑っちゃった」

 

「ついで済む問題じゃねぇだろあれは」

 

 

 

つい、でこのストーカー紛いの事件が済むなら日本に警察なんて要らないだろう。

 

 

 

「でも当たってるんだよね?」

 

「まぁな、このまま麻弥に嫌な思いさせ続ける訳にもいかないしな」

 

「やっぱり宗輝は優しいねー」

 

「馬鹿か、こんなの当たり前だろ」

 

 

 

皆さんは知り合いの女の子がストーカー紛いの行為をされているとしたら手を差し伸べるだろうか。答えは勿論YESだと思う。流石に赤の他人からいきなり"ストーカーされてるの!助けてください!"と言われたら少し悩む。まず本当かどうか怪しいしな。しかし、今回は当の本人である麻弥からの情報。これに手を差し伸べないほうがおかしいと俺は思う。

 

 

 

「私がストーカーされてても助けてくれる?」

 

「助けるに決まってるだろ。日菜でも彩でも千聖さんでも、他のみんなだとしても俺は助けるよ」

 

「ふぅん、つまり宗輝はみんな大好きってことだね!!」

 

「そうだな、俺はみんなが.......って話の論点ズレてるぞ」

 

 

 

それに関しては否定出来ない。俺自身みんなのことが大好きなのは自覚している。しかし、それはあくまで"LIKE"であって"LOVE"では無いのだと思う。何故こんなに中途半端なのか。それは一重にこれまで俺がそういうのを避けてきたからだろう。多分好きと愛してるは違うよな?これ俺が間違ってんの?

 

 

 

「おーい、宗輝大丈夫〜?」

 

「ああ、大丈夫。日菜も一人で帰ると危ないから友達と帰るんだぞ」

 

「はーい」

 

 

少し考え過ぎて日菜がいることを忘れてしまっていた。一応日菜にも注意喚起を怠らなかったがあの返事だと少し不安になってしまう。まぁそこは日菜に任せといて大丈夫だろう。

 

 

 

それから日菜と別れて麻弥が待っている教室へと向かった。それまでの道でもひまりや友希那に出会ってしまったのだがそれは話すと長くなってしまうので省略しておこう。まぁ簡単に言うとすっごい抱きつかれた。それを止めに入ると思われたつぐみやリサまで参戦する始末。それを振り払う俺の気持ちも察してほしいものである。

 

 

 

 

 

「麻弥〜、迎えに来たぞ〜」

 

「スミマセン、少しだけ待ってください!」

 

「外で待ってるからな〜」

 

 

いかん、さっきモカに会ったせいか口調がモカっぽくなってる。これが俗に言う"モカってる"ってやつ?多分、いや絶対違うな。

 

 

 

「お待たせしました!」

 

「おう、そんなに待ってないけどな」

 

 

 

 

時間にして数分、ドアの横で壁にもたれかかる様にして待っていた。麻弥が鞄を抱えてヒョコッと顔を出してきたので俺も態勢を整える。

 

 

 

「あれ、さっき眼鏡してたよな?」

 

「今日は裸眼の気分なんですよ!」

 

「あー、それある」

 

 

 

これは眼鏡かコンタクトレンズを使っている人にしか分からないかもしれないが、目の疲れからくるのか時々裸眼にしたい気分になる。元々は裸眼だから裸眼にするっていう表現は間違ってるかもしれないけどな。少なくとも俺は同意できる内容だ。俺の場合はそこまで視力も悪くないから影響は無いけど。

 

 

 

 

「なら麻弥の眼鏡貸してくれ」

 

「へ?なんでですか?」

 

「そういう気分なんだよ」

 

 

 

そう言って俺は麻弥が普段身に付けている赤縁眼鏡を借りた。麻弥には気分だと嘘をついてしまったがバレてなさそうだし良いだろう。もしかすると犯人に俺の姿がバレてしまっている可能性も踏まえて変装がてら眼鏡を付けておこうとの判断だった。こんな彩みたいな変装方法じゃバレバレだけどな。

 

 

 

「宗輝君は眼鏡似合いますね」

 

「そうか?今までつけてなかったから分からんな」

 

「私が保証しますよ!」

 

「なら安心だ」

 

 

 

こうやって麻弥と笑い合いながら暮らせる日々に感謝だな。そんな麻弥の笑顔の為なら何だって出来る気がする。まぁ気がするだけかもしれんが。

 

 

それから、俺たち二人は羽丘を後にして麻弥の家へ向かっていた。イヴの時と同じように、近くを歩いてはいるがあくまでも他人のフリをしながら。ストーカーの犯人が釣れるのをじっと待っていた。

 

 

 

 

 

~数分後~

 

 

 

 

「(めちゃくちゃ暑いな今日......)」

 

 

 

羽丘を出て数分が経過した頃。季節は夏直前の7月。夕方になり少しは収まったと思われた暑さも不安と緊張のせいで余計に暑く感じてしまう。額からは少し汗も吹き出していて気持ちが悪い。鞄に入れていたハンカチで拭きながら歩を進めていた。

 

 

 

途中で自動販売機を見つけたので麻弥の携帯に連絡してから飲み物を買った。麻弥も同じく飲み物を買って歩きながらも器用に水分補給をしている。そんな中、麻弥から一通のメールが届いた。

 

 

 

 

 

 

 

From:麻弥

To:宗輝君

[本文]

 

この通りで以前は気配を感じました

 

 

–End–

 

 

 

 

 

 

 

 

本文がほんの少し書かれただけのこのメール。今の麻弥の心情を理解するのはこれだけで充分過ぎる程だった。前を歩いている麻弥を見てみると小刻みに手が震えているのが確認できる。これまたイヴの時と同じように今は我慢してもらうしかないと思い、俺は再度周りを警戒していく。

 

 

 

「(この辺りは道をグルグル回れるようになってんのか)」

 

 

 

少し歩いて分かったが、この辺りは道をグルグル回れる仕組みになっていた。それに気付き俺は慌てて麻弥についてくるようにメールを送る。これでもしかしたら罠にかかってくれるかもしれん。

 

 

 

それから同じ道を2.3周グルグルと回った。そして、不審に思った麻弥が近づいてくる。

 

 

 

 

「宗輝君、これは何を?」

 

「もうすぐすれば分かるさ。......ほら」

 

 

 

俺が指差したのは、今までグルグルと歩き回っていた道路。

 

 

 

「あれ、ここさっきまでは濡れてなかったですよね?」

 

「ああ、俺がさっき買った水を撒いておいたからな」

 

「あれ、でも足跡が.......」

 

 

 

そこまで口にした麻弥は何かに気付いた様子でハッとしている。俺たちは一度も後ろを振り返ってはいない。同じ道をグルグルと歩き回っているので少し不審にも思われるが、これは俺なりの立派なトラップであった。俺が水を撒いてから俺と麻弥はそこを通っていない。なら何故足跡があるのか。その答えに行き着くのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

「麻弥、あと一回だけ一人で回ってきてくれ」

 

「はい、分かりました」

 

 

 

そう言って麻弥は一人でもう一度同じ道を歩いていく。かくいう俺は少し道を外れて様子を伺っていた。そして、麻弥が再度見えて通り過ぎると同時にそれは現れた。

 

 

 

「......」コソコソ

 

「......もうバレてるから出てこいよ」

 

「......ッ!!」

 

 

 

今までは壁に隠れていたのだが、観念して素直に出てきてくれたので助かる。しかし、ここで意外な真実を目にする。

 

 

 

「お前、リレーカーニバルに来てたよな?」

 

「何でそれをお前は知ってるんだよ⁉︎」

 

「いや、最近お前の友達見たから」

 

 

 

なんだよ、こいつら二人揃って犯罪予備軍だったのか。今にして思えばあの時もまぁまぁ危ない発言してたな、嫁だとか何だとか。

 

 

 

 

「んで、何で麻弥のストーカーなんでしてるんだ?」

 

「ス、ストーカーじゃない!ただ一緒に帰ってただけだ!」

 

「後ろからコソコソ覗きながらついていくのが最近では流行ってんのか」

 

「クソッ!!大体お前誰なんだよ⁉︎」

 

「只の麻弥の友達だよ」

 

 

 

見たところコイツは20代後半ってとこか。前のやつと同じぐらいの背丈で体格も同じ様なもんだな。言っちゃ悪いが少し太り過ぎだよ痩せろ。あとこのクソ暑い中長袖長ズボンはやり過ぎな。見てるこっちまで暑苦しい。

 

 

 

「麻弥ちゃんは僕の物だ!お前なんかに渡してたまるか!」

 

「麻弥は誰のものでもねぇよ」

 

「しかも、お前その眼鏡麻弥ちゃんのだろ⁉︎」

 

「いや今はそこ問題じゃないだろ」

 

「お前なんかが付けていい物じゃないぞ!」

 

 

 

それはそうかもしれんがお前も同じだってことに気付け。ていうか俺は麻弥に許可もらってんだから良いんだよ。流石に無断で使ったりするか。親しき仲にも礼儀ありって有名な言葉知らないのか。

 

 

 

「麻弥困ってるから付いて回るの辞めてくれ」

 

「だから付いて回ってなんか無い!お前に麻弥ちゃんの何が分かるんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッチーン、流石にそれは頭にきたわ。俺が麻弥の何が分かるか?ならお前にも同じこと言い返してやるよ。俺はやられたらやり返す主義なんでな。

 

 

 

 

「なら、お前は麻弥の何を知ってるんだよ」

 

「麻弥ちゃんは僕の好きな人で、麻弥ちゃんの好きな人は僕だ!」

 

「んなわけないだろ、いつお前のことを麻弥が好きって言ったよ」

 

「そ、それは、決まってることなんだよ!」

 

 

なーんかコイツの言い方イライラするんだよなぁ。前のやつのイヴたん呼びも中々だったが。コイツの場合言い回しとかそこらへんが癪に触る。妄想も大概にしとかないとこうなるぞ。画面の前のみんなはちゃんと分かってると思うけどな。

 

 

 

「それ以上言ってみろよ、警察に突き出してやるからな」

 

「......それだけはやめてくれ」

 

 

 

前のヤツほどじゃなくて助かる。もう警察沙汰なんて勘弁だからな。今回は証拠も何も無いが脅しだけで済んで良かった。

 

 

 

「じゃあ一つ良いこと教えといてやろう」

 

「な、何だよ」

 

 

一度深呼吸をして心を整える。

 

 

 

「俺も麻弥の事好きだから俺とお前はライバルだ。だから、セコいことなんかしてないで正々堂々麻弥にアタックしてみろ。その方が麻弥だって嬉しいはずだからな」

 

「お前なんかに負けないからな!」

 

「精々頑張ってくれ」

 

 

 

そうして、ストーカー紛いの事をしていた男は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~大和宅~

 

 

 

「よし、着いた」

 

「......」

 

 

麻弥の家はそこまで遠くなかったのであれから数分で到着。家に着いたのは良いのだが、玄関の前で麻弥が固まってしまった。

 

 

 

「おーい、麻弥さーん。お家に着きましたよ〜」

 

「......やです」

 

「ん、何か言ったか麻弥」

 

「帰るの嫌です......」

 

「何で帰るの嫌なんだ?」

 

 

 

体調でも悪いのだろうか?あまり周りを気にしていなかったのだが、あの会話を麻弥が聞いていたとしたら気分を害していたとしてもおかしくはない。男の俺からしても腹が立っていたのだ。本人である麻弥が気分が悪くなるのはむしろ当然と言える。

 

 

 

「......怖いんです」ギュッ

 

「やっぱりまだ整理出来ないか」

 

「一人になると、怖いんです。また別の人がって考えだすと止まらなくなってしまって」

 

 

 

抱きついてきた麻弥は震えていた。もう日もほぼほぼ落ちていたので周りは薄暗い。そのせいであまりハッキリとは見えなかったのだが目の辺りが少し腫れているようにも見えた。やはり女の子では耐えられないところもあるだろう。しかし、こう泣きつかれてしまうと俺も弱る。

 

 

 

「大丈夫だ、俺が何度だって助けてやる。みんな麻弥が可愛いから寄ってくるんだよ」

 

「......私が可愛いからですか?」

 

 

 

「おう、俺は眼鏡掛けてフヘッてる麻弥が好きだ。真剣な表情でドラムを叩いてる時の麻弥も好きだ。眼鏡外してモデルの写真撮ってる麻弥も大好きだ」

 

 

「ちょっと、宗輝君やめてください恥ずかしい」///

 

 

 

麻弥は恥ずかしくなったのか俺の胸に顔を埋めていく。正直、それ物凄くキュンとくるのでやめて頂きたい。顔赤くしてモジモジしてる美少女が自分の胸に顔埋めてくるってどういうシチュエーションだよ。軽く気絶しそうだわ。

 

 

 

「つまりだな、怖くなったりしたら俺に言ってくれ。いつでも駆け付けてやる。麻弥は俺の大切な人だからな」

 

 

「......はい、分かりました!」

 

「いつもの麻弥に戻ってくれて助かる」ナデナデ

 

「ジブン一つ歳上のはずなんですけど......」///

 

「彩とか日菜とかに普段やってるからあまり気にはならないな」ナデナデ

 

 

 

そう言われてみればそうだな。今まで彩や日菜とかには頭撫でたことあったが麻弥にはなかったかも。まぁアイツらは歳上って感じしないし。今のところ千聖さんとか紗夜さんとかとかしか歳上オーラ感じないな。友希那はちょっとポンコツだし花音先輩はドジっ娘だし。まぁそういうところ全部含めて好きなんだけどな。

 

 

 

「よし、なら俺も帰るから」

 

「待ってください宗輝君!」

 

 

 

突然、麻弥が近づいてきてほっぺにキスをされる。

 

 

 

「これはお礼です!ちょっと少ないかも知れませんが」

 

「......ありがと、麻弥」

 

 

 

 

麻弥の意外な一面に驚きながらも、俺は麻弥に見送られながら家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~side change ~

 

 

 

 

 

「よし、着いた」

 

 

あれから数分、ジブンの家に着いた。でも、家に帰るのが嫌だった。それは先程の件も関係している。今回は宗輝君が追い払ってくれたが、また一人になった時に別の人が、と考えてしまうと止まらない。これは人間の悪い癖でありジブンの悪い癖でもある。悪い方悪い方へと考えてしまうのは小さい頃からの悪い癖。

 

 

 

「おーい、麻弥さーん。お家に着きましたよ〜」

 

 

 

宗輝君が目の前で手を振っている。さっきから微動だにしないジブンに気付いてもらおうとしているのか少し顔も覗かせている。

 

 

「.......やです」

 

「ん、何か言ったか麻弥」

 

 

 

ジブンでも驚いてしまった。これが思ったことが口に出てしまったということだろうか。しかし、一度出てしまったものは仕方がない。心の奥底にしまっていたジブンの想いを吐き出す。

 

 

「......怖いんです。一人になると、怖いんです。また別の人がって考えだすと止まらなくなってしまって」

 

 

ジブンでも制御が効かなくなってしまったその想いは止まらない。挙げ句の果てに宗輝君に抱きついてしまった。恥ずかしい気持ちもあったが今はそれどころではなかった。

 

 

 

「大丈夫だ、俺が何度だって助けてやる。みんな麻弥が可愛いから寄ってくるんだよ」

 

 

 

宗輝君にそう言われて一気に体温が上がるのを感じる。今までジブンは"美"という観点に対してあまり興味を示さなかったし気にすることもなかった。パスパレに入ってモデルのお仕事も少しづつ貰えるようになってからは意識していた。それでも、やはりジブンの悪い癖で謙遜してしまう部分が大きかった。なのに、宗輝君はこんなにもストレートに言ってくれる。それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

 

 

 

「俺は眼鏡掛けてフヘッてる麻弥が好きだ。真剣な表情でドラムを叩いてる時の麻弥も好きだ。眼鏡外してモデルの写真撮ってる麻弥も大好きだ」

 

 

「ちょっと、宗輝君やめてください恥ずかしい」///

 

 

 

それでも追加攻撃を仕掛けてくる宗輝君。流石に恥ずかしすぎたので咄嗟に宗輝君の方へ身体を預けるような形で顔を埋めてしまう。恥ずかしい、恥ずかしいのにこんなにも嬉しくて嬉しくて。

 

 

 

「つまりだな、怖くなったりしたら俺に言ってくれ。いつでも駆け付けてやる。麻弥は俺の大切な人だからな」

 

「はい、分かりました!」

 

 

 

そうすると宗輝君が頭を撫でてくれた。彩さんや日菜さんにしているところは今まで何度も目にしてきたが、実際ジブンがされる側になると分かる。一つはとても気持ちいい事。そして、何故か分からないけど凄く安心感が得られるという事。でも、今はそれ以上に恥ずかしさが上回ってしまっていた。

 

 

 

「ジブン一つ歳上のはずなんですけど......」///

 

「彩とか日菜とかに普段やってるからあまり気にはならないな」ナデナデ

 

 

 

 

やはりこの人は卑怯だ。あんなにも嫌なことがあって、こんなにも恥ずかしいのに、どうしてこれほどまでに幸せなんだろう。抱きしめられて頭を撫でてもらって。今までに抱いてきたことのない感情が溢れてくる。それから数分はずっとそのままの状態で頭を撫で続けてくれた宗輝君。

 

 

「よし、なら俺も帰るから」

 

 

 

そう言って離れていったときの何とも言えない喪失感は消えてくれなかった。ここで終わらせてしまっては何も変わらない。今までと何も変えられない。勇気を振り絞って、ジブンから宗輝君にキスをする。突然の出来事に宗輝君は驚いた表情を見せてくれた。その後少し顔を赤くしながらも照れている様子を見て嬉しくなっているジブンがいる。やっぱり、宗輝君の事が好きなんだと嫌でも自覚してしまった瞬間だった。

 

 

「これはお礼です!ちょっと少ないかも知れませんが」

 

「......ありがと、麻弥」

 

 

 

今できるとびっきりの笑顔で宗輝君に微笑みかける。宗輝君もそっと微笑みながら応えてくれた。その一つ一つの仕草が今は堪らなく愛おしい。

 

 

 

その後、帰路に着く宗輝君を見えなくなるまで見送って家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、先程までのジブンの行動を冷静になって思い返してみてベッドへダイブする。

 

 

 

「何であんな事言ってしまったんでしょうか......」///

 

 

 

こうして、部屋着である体操服に着替えてふと我に返って考えてみると恥ずかし過ぎて耐えられなくなる。枕に顔を埋めながらあの楽しかった時間を思い馳せる。

 

 

 

 

「やっぱり、宗輝君の事が......」

 

 

 

一つ歳下の彼、頼りになってカッコよくて。今まで男の人にそんな感情を抱いた事が無かったのに、急に意識してしまう。宗輝君のことを考えると楽しくて嬉しくて胸がキュンとなる。これが恋ということなのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

分からない、ジブンにはまだ分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど、それでもわかっている事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝君、君はジブンの——————-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宗輝君はジブンの永遠のヒーローです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





みなさん、ドリフェス不安よな。

主、引きます。
(ネタも引くタイミングも遅いですが、無事水着千聖さんを迎えられたので満足してますごめんなさい)


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Produce 25#束の間の休息


最近お盆休みのことしか考えてない主です。

シリアスに疲れて今回は日常回となっております。
そして、また長くなりそうだったので2話に分けてお送りします。


それでは、25話ご覧下さい


 

 

「明日一日お休みあげるからリフレッシュしてきなさい」

 

 

事の発端はこの敏腕アラサープロデューサーの一言から始まる。

 

 

 

 

「でもライブも近いしそんなこと......」

 

「ダメよ、貴方働き過ぎなのよ。知ってる?貴方社内では結構有名なのよ」

 

「何で俺有名なんですか」

 

「爽やかイケメンの有能高校生で仕事も難なくこなすから女性社員から狙われてるわよ。まぁ男性社員も違う意味では狙ってるわね」

 

 

 

それは多分嫉妬とか殺意の方だな。俺が仕事し過ぎてるのはアンタのせいでもあるんですよ。これやっといてと言われたと思ったら前のやつ出来たのか確認してくる始末。そのくせ自分は完璧に仕事こなしてるから何も言い返せない。本当に良い性格してる良くできた人である。

 

 

 

「私に勝とうなんて百年早いわよ」

 

「読心術でも身につけてるんですか貴女は」

 

 

もうメンタリストとかになった方が良いんじゃないですねマジで。ルックスも中々だし謎多き美女って感じでいけると思いますよ。

 

 

「兎にも角にも、明日はお休みよ」

 

「分かりましたよ、休めば良いんでしょう」

 

「よし、素直な子はお姉さん好きだぞ」

 

「もうお姉さんって歳じゃ......」

 

「ん?何か言った?」

 

「ごめんなさい休みます休ませて下さい」

 

 

 

友希那より格上の圧を感じるぜ......。これが歳上の風格というやつだろうか。俺将来お嫁さんの尻に敷かれそうだなぁ。

 

 

 

 

そんなこんなでライブも近いのだが休暇を頂いたまでは良い。問題はその休暇にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

ガタッ

 

 

「ん、もう朝か......」

 

 

 

本日は土曜日。昨日プロデューサーから強制的にお休み宣言されたので今日は丸一日予定が無い。昨日は家に帰ってちょっとだけパソコンを開いてスケジュール調整をしてから眠りについた。今日が休みなのを令香に伝えるとどこかへ行きたいと言っていたのでその話を寝るまではずっと続けていた。

 

 

 

 

「ん、どこだよここ」

 

 

 

寝起きで視界がぼんやりしていた為起きてすぐには気付くことが出来なかったが、どうやらここは俺の部屋では無いらしい。

 

 

 

「斎藤様、お早う御座います」

 

「何で黒服の人達がいるんだ」

 

「ここがリムジンの中だからです」

 

「一応聞きますけど、こころんちの黒服さんですよね」

 

「自己紹介が遅れました、私はお嬢様の身辺警護を担当する者でその中でもリーダーをやらせて頂いております黒井と申します」

 

 

 

ご丁寧にお辞儀までしてもらった。どうやら俺は現在リムジンで何処かへ移送されているらしい。

 

 

「これって何処に向かってるんですか?」

 

「目的地は弦巻家が所有するプライベートビーチとなっております」

 

「何でいきなり海なんです?」

 

「それはお嬢様の命令ですので私達は詳しい内容までは把握しきれておりません」

 

 

こころの命令?はて、何故こころはいきなり......

 

 

 

「あ、思い出したわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

~昨日夜~

 

 

 

プルルルルル.プルルルルル

 

 

 

「ん、誰だこんな時間に」

 

 

 

 

風呂上がりで髪を乾かそうと思っていたところで携帯に着信。こんな夜遅くに電話をかかってくるのは少し珍しいので髪を乾かすよりも先に携帯を確認する。

 

 

「誰かわかんねぇなこれじゃあ」

 

 

携帯に映し出されていたのは誰かのものであろう番号。つまりは、俺の知らない人からかかっているかもしれないということ。香澄や明日香くらいだと思っていたのだが全く違っていたので少しがっかりする。何か用があるのだろうと思い恐る恐る電話に出てみる。

 

 

 

「もしもし......」

 

 

 

しかし、携帯電話から聞こえてきたのは俺の知っている声だった。

 

 

「もしもし、宗輝かしら⁉︎」

 

「あれ、この声はこころか?」

 

「そうよ!大正解ね!」

 

 

一先ず安心する。マジで勧誘とかの電話だったら即切ってやろうかと思っていた。俺のこういうところは母さんの血が濃く受け継がれているのであろう。母さんなんて電話番号で判断するからな。こと勧誘の電話の対応に関してはプロレベルなのである。そこは尊敬するよ母さん。その割に時々素で家族からの電話を取らなかったりするところは直して欲しいものである。

 

 

 

「んで、教えてないのに何で俺の番号知ってるんだ?」

 

「美咲に教えてもらったのよ!」

 

「なるほど、それでこんな時間に何か用か?」

 

「用は無いわ、ただあなたとお話がしたかったのよ!」

 

 

 

こうストレートに言われると少し気恥ずかしい。こころはそんなのお構い無しでこちら側に踏み込んでくる為ガードする時間が無いのだ。まぁこころの場合は攻撃ではなく安らぎや安心感があるので良いんだけど。それから、こころの要望通り少し学校の話や世間話をしていた。

 

 

 

「そういや最近暑すぎるな、こころは体調大丈夫か?」

 

「暑さなんて笑顔になれば大丈夫よ!」

 

「頼むから無理だけはしないでくれよ」

 

 

 

ここで出ましたこころの究極スマイル理論。かの有名な松○修○もビックリのこの理論、なんと笑顔なら何でも乗り越えられるという結論であります。しかし、悲しいかなこれを実現できているのはこころただ一人である。ぬいぐるみの中の人によると"本当にウチの馬鹿がすみません"とのこと。いや、気持ちは分かるぞ美咲。

 

 

 

「暑い日にはやっぱ海行きたいな。長いこと行ってないから今度みんな誘ってみるか。いや、でもみんな有名だからダメなんだよなぁ」

 

「......分かったわ宗輝!!」

 

「お、おいこころ、何が分かっ......」ツ-ツ-

 

 

 

何が分かったのかは俺は分からないがいきなり電話を切ってしまったこころ。俺は何故か大変なことをしでかしてしまった気がする。考えても仕方ないので濡れたままになっていた髪を乾かしに洗面所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~プライベートビーチ~

 

 

 

 

「斎藤様、到着しました」

 

「マジでプライベートビーチじゃんか......」

 

 

俺が昨日の記憶を思い返しているうちに到着。窓からしかまだ見ていないが白い砂浜にどこまでも広がる透明な海。

 

 

「というか、どうやって俺をリムジンへ?」

 

「それは裏話ですので内緒です」

 

「俺も怖いのでこれ以上聞きません」

 

 

危うく何処かへ人身売買されるのかと思ったぜ。リムジンから降りて辺りを見渡す。すると何やらこちらへ向かってくる車両が。

 

 

 

「おーい、宗輝ー!!」

「わぁ、すっごい綺麗!」

「何だか外国にいるキブンです!」

「ジブン海なんて久しぶりです!」

「みんなはしゃぎ過ぎよ」

 

 

「はぁ、だと思ったよ」

 

 

 

黒塗りのリムジンから降りてきたのはパスパレの5人。

 

 

 

「あ、むーくんだ」

「何で湊さんもいるんですか」

「誘われたからに決まってるでしょう」

 

 

 

あれよあれよと家が一軒建てられる程の高級車が3台。ポピパやアフグロ、ロゼリアの面子まで揃ってしまった。そして、最後に明らかに今までのリムジンとは違う風格を放つものが1台。駐車が終わり先に黒服の人達が降りてくる。

 

 

 

「みんな揃ってるわねー!」

 

『はーい!!』

 

 

「何で揃ってるんだよ......」

 

 

 

 

忙しく騒がしい休暇になりそう。

 

 

 

 

 

___________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「あちぃ〜、焼ける〜、焦げる〜」

 

 

俺は現在みんなの分のテントを張っている。いやおかしいでしょ、何で俺だけがやってるんだよ。せめて黒服の人達くらい手伝ってくれてもいいでしょうに。みんなは着替えるといってリムジンに戻ってしまった。俺は着替えずに作業している為直射日光に当てられてクソ暑かった。

 

 

 

 

「手伝ってやろうか?」ニヤッ

 

 

 

ふと後ろから声を掛けられたので反射的に振り返る。

 

 

「何だ有咲か、手伝ってくれんのか?」

 

「やーだよ、私は見ててあげるから」

 

「なら俺も有咲見とくわ」

 

 

 

そう言って屈んでいる有咲と同じポーズを取って正面から向き合う。勿論有咲は水着な訳で、破壊力バツグンな訳で。それでも負けじと有咲とにらめっこをしていた。

 

 

「何してんの有咲、宗輝」

 

「有咲が俺に見惚れてたから見つめてる」

 

「んなっ!そんな訳ねーだろ!!」///

 

「だって有咲さっきから顔赤いじゃん」

 

「うるせー、それは暑いからだよ!」

 

 

 

見るからに顔を赤くした有咲はそのまま海へと向かっていった。それにしても有咲の水着姿可愛すぎる。後でちゃんと言っとこう。多分さっきよりもっと真っ赤になるに違いない。

 

 

 

「沙綾も行かないのか?」

 

「何か言うことはない?」

 

「超似合ってるよお嫁さんに貰いたいくらいだ」

 

「何か軽いからもう一回」

 

 

なんでだよ、本音言っただけじゃんか。正直みんなそれぞれ違ってみんなすげぇ似合ってるのには間違い無いんだけどなぁ。女心は難しいものである。誰か教えてくれませんかね。

 

 

 

 

「好きだよ」

 

「何でそういう事平気で言っちゃうかな〜」///

 

「さっきのもこれも本音だからな」

 

「女の子を誑かして回ってるって言われるのも納得だね」

 

「おたえ、聞き捨てならないなそれは」

 

 

おたえの後をりみりんが付いてきていた。りみりんは恥ずかしいのだろうか既に顔を赤くしておたえにしがみ付いている。そんなりみりんも可愛いので良しとしよう。

 

 

「おたえはやっぱりスレンダーで綺麗な身体してるな」

 

「貰ってくれても良いよ?」

 

「残念ながらまだ俺の隣は空いてないぞ」

 

「ちぇ、りみ有咲のとこ行こ〜」

 

「う、うん、じゃあね宗輝君」フリフリ

 

 

 

有咲のところへ沙綾とおたえとりみりんも加わり仲良く遊んでいるのが見える。ああいうほのぼのしてるのを遠くから見てるのすげぇホッとするわ。しかし、ここでポピパ一の問題児が登場。

 

 

 

「とりゃぁ〜!!」

 

「うわっ!!」

 

 

 

香澄のダイブを食らい香澄もろとも倒れてしまう。幸い、既にテントを立ててシートを敷いている上だったのでセーフ。言っとくけど砂浜馬鹿みたいに熱いからな。

 

 

 

「ダイブなら海に向かってやれよ」

 

「ん〜、なんか我慢出来なくって!!」

 

「俺はサンドバッグじゃないんだぞ」

 

「むーくんはむーくんだもんね〜」スリスリ

 

 

 

うむ、正直言ってヤヴァイ。コイツは頬ずりする時に全身を使ってくる。今は水着を着ている訳でモロに色んなところが当たる。持ってくれ俺の理性、香澄は幼馴染香澄は幼馴染香澄は幼馴染......、幼馴染なら良くね?

 

 

 

「そろそろ離れてくれ、暑い」

 

「じゃあ私も行ってくる!」

 

「おう、いってら」

 

 

 

こちらを向いて手を振りながらも有咲達がいる方へ走り去っていってしまった。今回は素直に離れてくれて助かった。本当香澄のくっつき癖はどうにかならんのか。

 

 

 

「斎藤様、後は私達に任せてお着替えを」

 

「ほぼ終わってるんですけど」

 

「お着替えを」

 

「分かりました」

 

 

歯向かうと何されるか分からんから大人しく従っとこう。歳上の言うことは素直に聞く方が良いって母ちゃん言ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「燐子先輩は海入らないんですか?」

 

「えっと、その......」

 

 

 

着替えてからテントに戻ると燐子先輩とリサ、それに友希那が揃って座っていたので声を掛ける。せっかく海に来たんだから入ってくれば良いのにという率直な感想が漏れてしまった。燐子先輩は恥ずかしさからなのか少し顔が赤い。燐子先輩、俺は先輩の水着姿が見られただけでここに来た甲斐があります。

 

 

 

 

「宗輝君に、日焼け止め......塗って欲しいな」

 

「俺でいいんですか?」

 

「下心丸見えだなぁ宗輝」

 

「心外だなリサ、燐子先輩の頼みを断れるかよ。てかさっきの言葉の何処に下心丸見えな部分があったんだよ」

 

「なら私達もお願いするわ」

 

 

 

流れに乗せられて三人共に日焼け止めクリームを塗る羽目になってしまった。でも役得だから良しとしよう。

 

 

 

「何かあったら言ってくださいね」

 

「うん、よろしく」

 

 

日焼け止めクリームを手のひらに出して満遍なく馴染ませる。冷たくならないように気をつけて少し手のひらで温めてから塗り始める。

 

 

「......えい」ピトッ

 

「ひゃん!!」///

 

「どうかしましたか燐子先輩」

 

「む、宗輝君......何で背中からじゃないの?」///

 

 

あれ、普通日焼け止めクリームって太腿からじゃないのか?俺はてっきり太腿から徐々に足の先まで行ってそこから背中だと思ったんだが。

 

 

「普通太腿からじゃないんですか?」

 

「宗輝はそこら辺抜けてるよね」アハハ 

 

「じゃあ背中からやればいいんだろ」ピトッ

 

「はうぅ!!......いきなりするのも卑怯だよ」///

 

 

何故だろう、燐子先輩やリサの反応を見ているとイケナイ事をしている気分になる。決してR-18な事をしているのではない。ただ日焼け止めクリームを塗っているだけなんだ。

 

 

「早く私にも塗ってくれないかしら」

 

「おう、すまんな友希那」ピトッ

 

「......」///

 

 

 

それから、燐子先輩とリサは塗るたびに変な声をあげていたが友希那は微動だにせずただ顔を赤くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これでokですね」

 

「あ、ありがとう宗輝」///

「ありがとう、ございました」///

「またお願いするわ」///

 

 

 

そう言って三人は海の方向とは真逆に走り去っていった。トイレにでも行ったのか?そこまで長い時間塗っては無いはずなんだけどな。

 

 

 

「あれ、むーくん何してるの?」

 

「はぐみか、さっきまで......って花音先輩、それなんですか?」

 

「ふえぇ?これはクラゲの浮き輪だよ?」

 

 

クラゲの浮き輪なんて初めて見ましたよ。花音先輩のクラゲ好きはどうやらここまで達していたらしい。ずっと見てると可愛く思えてくるから不思議。今度何処で買ったのか詳しく聞いてみよう。

 

 

「ほら、薫さん行きますよ」

 

「やめてくれ美咲、こんな姿宗輝には......」

 

「宗輝ー!この水着どうかしら⁉︎」

 

「おう、こころらしくて可愛らしいな!」

 

 

 

天真爛漫な彼女にピッタリな常夏の太陽を彷彿とさせる黄色をベースにした水着。こうして見てみるとやはりこころは中々発育がよろしいようで。いや、変な目で見てるとかじゃないからな。オブラートに包んで言えば"超絶スタイルが良い"と言える。まぁそれはほぼみんなに当てはまるんだけど。

 

 

 

「薫先輩も似合ってて綺麗ですよ」

 

「そ、そうかい?......それは良かった」///

 

「ねぇ私は?」

 

「ん、美咲は......うん、いつも通り可愛いぞ」

 

「何さっきの間は、まぁいいんですけどね」

 

 

 

薫先輩の水着姿なんて滅多に見れない代物を見させてもらった。普段は学校で女子生徒から絶大な人気を誇る薫先輩だが、こうして見ると綺麗すぎて次元が違う。すらっと伸びた綺麗な脚に純白の肌、紫色のサラッとした髪の毛が何とも美しく映える。写真に収めたいくらいに綺麗な薫先輩に少し見惚れてしまう。美咲については言う事なく可愛い。

 

 

 

「よし、みんなで海に入るわよ!」

 

「怪我しないように気を付けてなー」

 

 

 

 

ハロパピの五人が海に入っていくのを見届けた後、テントに置いてあるクーラーボックスの中のジュースを取って水分補給を行う。海に行くときはこまめに水分補給を行わないと熱中症になるからな。

 

 

 

 

「......今何時だっけ」

 

 

 

 

ふと思い出し近くにあったカバンから携帯を取り出す。電源ボタンを押して時計を確認すると未だ昼前といったところ。既に色んなことがあって疲れているのだが......

 

 

 

 

「偶にはこういうのもアリかな」

 

 

 

 

 

みんなが笑顔で居られるのならそれで充分幸せだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

–To Be Continue –

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「はい、まさかまさかの今回から主の気分でおまけを追加していくことになったぞ!」

 

 

香澄「むーくん、おまけって何するの?」

 

 

宗輝「そりゃあ、お前......何すれば良いんだろうな」

 

 

有咲「はぁ、本当に計画性ねぇな」

 

 

香澄「なら有咲が考えてよ!」

 

 

有咲「はぁ?めんどくせーからやんねーし」

 

 

宗輝「なら今回は有咲のスリーサイズを発表したいと思います」

 

 

有咲「はぁ⁉︎お前何言ってるんだよ!!」

 

 

香澄「私も知ってるよ!えとね、上から......」

 

 

有咲「香澄ぃ!!やめろって言ってんだろー!!」

 

 

宗輝「こんな感じでゆる〜くやっていくんで流し程度で観といてくれたら嬉しいです」

 

 

香澄「むーくん誰に喋ってるの?」

 

 

宗輝「それは気にするな。ほれ、海行くぞ」

 

 

香澄「は〜い、有咲も行くよ〜」

 

 

有咲「何でお前らが知ってんのか教えろー!!」

 

 

 

−End –

 

 

 





随分と遅くなってしまいましたが、アンケートにもあったおまけを今回から追加していこうと思います。
流石にガチガチのシリアス回とかには追加しませんけど。

要望等あれば是非感想にて。
┗お気に入り、評価、感想お待ちしております(定期)


p.s
こころんお誕生日おめでとう


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Produce 26#Summer beach

お盆休みを満喫して今日からまた社畜の主です。


更新遅れて申し訳ない。
今回は前回の続きですのでゆる〜く観といてくれたら嬉しいです。

では、26話ご覧下さい。
(長いですとか言おうと思いましたが、もう既にこれがスタンダードになってきてるのでもういいですよね?)


 

 

 

激しく照りつける太陽、その太陽の光を浴びて一層輝きを増す美しく透明な海。白い砂浜で遊ぶ少女もいれば、海を泳ぐお姉様だっている。

 

 

そして、俺は美少女達から一斉攻撃を浴びている。

 

 

なんで一斉攻撃浴びてんのかって?それは可愛い顔して容赦なく攻撃してくる美少女達に聞いてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え〜い」パシャ

 

「うわっ!!くそ冷てぇ!」

 

「いつものお返しだよ!」パシャ

 

「つぐみにいつも何かしてんのか俺⁉︎」

 

 

先程までテントで涼んでいたのだがアフグロ+あこの面子に海に引っ張り込まれてしまった。俺にもお休みの時間が欲しいものである。しかし、持ち前の癖で断れず泣く泣く入水。テントの下とはいえ暑い中日焼け止めを塗ったりしていたので海の水が冷たく気持ち良い。連れてきてくれたこころに感謝しないとな。あとで黒井さんにもお礼言っとこう。多分こころの近くで呼んだら出てきてくれるだろう。何てったって身辺警護班のリーダーだからな。

 

 

 

「あこ、同時にいくぞ!」

「うんお姉ちゃん!」

 

「何でさっきから俺だけ狙われてるんだ......」

 

「それは自分で考えなよ」パシャ

 

「おっ、蘭まで参戦すんの珍しいな」

 

 

 

普段、蘭はこういったことに積極的には参加してこない傾向にある。モカ達に乗せられて、とかなら納得がいくが今回は自らの意思のように感じる。しかし、こういった触れ合いを通じて何か良い方向へ変わっていければ良いと思う。

 

 

 

「......蘭、楽しいか?」

 

「うん、今すっごく楽しいよ」ニコッ

 

 

 

太陽なんかよりも眩しく光り輝く海よりも美しい笑顔を見た。そんな感動的な場面にも関わらずヌシは着々と近づいてきていた。

 

 

 

「......捕まえたぞーっ!!」ガバッ

 

「お、おいひまり!!」

 

 

 

完全に背後を取ったひまりに飛びつかれ香澄の時と同じようにひまり諸共海の中へ。ひまりの暴力的とも言える二つのまんまるお山の感触が背中に。水着なのでいつもよりもより近くに感じる。流石にやばいと思いすぐに振り払って息をするために海の中から上半身を勢いよく出す。

 

 

 

「ぷはぁ!!」

 

「ひ〜ちゃんは最後の切り札なので〜す」

 

「いえ〜い♪」グッ

 

 

「危うく殺されかけたぞ」

 

 

 

二つの意味でな。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、疲れた疲れた」

 

 

 

アフグロとあこを加えた面子に数十分間オモチャにされてテントへ帰ってきた。泳ぐのって体力使うからなぁ。有酸素運動としてもダイエットなんかで取り上げられるレベル。俺は基本やらなくて良いことはやらないしやりたくない派だ。

 

 

 

「取り敢えず水分取りながら休憩〜っと」

 

「宗輝〜、私のも取って〜」

「ついでに私のもお願いします」

 

 

「はいよ、日菜がこれで紗夜さんは......って何シンプルにパシってるんですか姉妹揃って。いや、反応できる俺も俺でどうなのって話ですけど」

 

 

 

俺の気付かぬうちに日菜と紗夜さんがテントの下のシートに座っていた。二人はお揃いの水色の水着を着ている。水着は同じだがやはり二人ともそれぞれ違って似合っている。

 

 

「宗輝、疲れたから膝枕〜」

 

「はいはい、どうぞこちらへ」ポンポン

 

「ん〜、そのまま頭撫でて〜」

 

「何か子供を寝かしつけてるみたいだ」ナデナデ

 

 

何故か急に幼児退行じみた事をやりだした日菜。膝枕に始まり撫で撫で、終いには耳かきまで。何で耳かきがビーチのあるのかって?弦巻家舐めんじゃねぇよ。

 

 

「本当に寝ちゃいましたね」

 

「......すぅ」zzz

 

「恐るべし膝枕効果ね」

 

「信憑性は無いですけどね」

 

 

俺の膝枕&頭撫で撫ではそこまで気持ち良いのだろうか。それこそ眠りを誘発できるほどに。もしそうだとしたら全国、いや世界中のママさんからレスキュー信号が上がるかも知れん。もしかしたらバンドメンバー限定で働く効果なのかも知れない。個人的にはそうであって欲しいな。

 

 

「取り敢えず日菜を移動させてっと」

 

「貴方ここに来て休んでないんじゃない?」

 

「そうですね、でも楽しいんで大丈夫です」

 

「無理はいけません、ほら」ポンポン

 

 

 

紗夜さんが見覚えのある行動をする。それはつい先程俺が日菜にしていたもの。つまりは紗夜さんが膝枕をしてくれると?

 

 

「それじゃあお邪魔しますね」

 

「はい、一応目を瞑っておいて下さい」

 

「何でですか?」

 

「......は、恥ずかしいからに決まってるでしょう」///

 

「......紗夜さん可愛い

 

「な、何言ってるんですか貴方は!!」///

 

 

どうやら俺の口は最近言う事を聞いてくれないらしい。本音がボロボロと出てくる。こういうの治してくれる業者さんっていないんですかね。

 

 

「スミマセン目を瞑って横向いとくので許して下さい」

 

「最初から素直にそうしておいて下さい」///

 

 

 

紗夜さんの膝枕&頭撫で撫でタイムが始まった。幼い頃に母さんにやって貰った記憶はあるのだがそれも数回。小学生に上がってからは一切して貰っていない。というよりされる側よりする側に回った感じだったな。香澄と明日香に出会ってからは毎日のようにやってたっけ。こうしてされる側に回ってみると気持ち良いもんだなぁ。

 

 

 

「......ねむい

 

「......おやすみなさい」ナデナデ

 

「......zzz」

 

「ふふふ、寝顔も案外可愛らしいのね」

 

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......きなさい!」

 

「......もうちょっとだけ」

 

「起きなさい宗輝君!!」

 

 

 

この声を皮切りに俺の眠っていた意識は覚醒する。パッと目が覚めてぼんやりとした視界に捕らえられたのは千聖さんだった。確か紗夜さんに膝枕して貰ってた気がするんだが。周りを見る限り千聖さんしか見当たらない。

 

 

 

 

「ふえぇぇ......ち、千聖さん?」

 

「何花音みたいな声出してるのよ......」

 

 

おっと、俺としたことが寝起きで反応できず花音先輩の真似をしてしまったようだ。これ男がやるとマジで気持ち悪いな。自分でやってて嫌になるレベルだわ。やはり花音先輩のふえぇぇは神だな。まぁそれは言い過ぎだけど。思い出したかのように俺は携帯の画面を見て時間を確認する。

 

 

 

「そこまで寝てた訳では無さそうですね」

 

「とは言ってもお昼はとっくに過ぎてるのよ」

 

「千聖さん達はお昼食べたんですか?」

 

「これから食べるから起こしにきたのよ」

 

 

 

よく見てみると日除けのパラソルが来た時よりも並んでいる場所を発見。その下でバーベキューか何かの準備をみんなでしているのが見て取れる。なるほどお昼はバーベキューなのか。流石は弦巻家、海と言ったらバーベキューだろう。

 

 

「なら早く行きましょう、見てるとお腹空いてきました」

 

「宗輝君にはとことん働いてもらうわよ」

 

「一応既に働いてはいるんですけど」

 

「何言ってるのよ、男手は宗輝君一人なのよ」

 

 

確かに男は俺一人だろう。でも今日は黒服さん達いるじゃん。いるならいるで頼ろうよ、ね?

 

 

「因みに黒服さん達は一度リムジンで帰ったわよ」

 

「はぁ、何でこうも上手くいかないんだ」

 

「私も出来る限り手伝うから行くわよ」

 

「死なない程度にして下さいね」

 

 

 

結局、汗だくになりながらも準備を行いそのままバーベキューへと移行した。

 

 

 

 

 

 

その後も俺はお肉を焼く係となってしまっていた。総勢25名の女の子達が今この場に居るのだが、みんな食べるばかり。みんな俺のこと忘れてない?流石にこの状況続いちゃうと宗輝泣いちゃうよ。

 

 

 

「宗輝君代わりましょうか?」

 

 

しかし、ここで救世主が登場する。

 

 

 

「麻弥か、別にまだ大丈夫だよ」

 

「無理しちゃいけませんよ、ジブンがお肉焼きますので宗輝君は食べてて下さい」

 

 

麻弥のこういうところはみんなに見習ってほしいものである。麻弥は周りがよく見えてるからどうすればいいか、何をすれば役に立てるかが良く分かってる。そして、それを行動に移せるところが最大のポイントだな。くそう、麻弥の優しさに触れて遂に目から汗が出てきそうだぜ。

 

 

 

「ならお言葉に甘えとこうかな、ありがとな麻弥」

 

「いえいえ、今までずっと宗輝君には助けて貰ってますからね!」

 

「いや、俺の方こそ麻弥達には助けて貰ってばっかりだよ」

 

「何言ってるんスか、この前だってカッコよく助けてくれたじゃないですか!」

 

「やめてくれ恥ずかしい......」

 

 

俺の中じゃ黒歴史確定なんだよあれは。あの日も結局帰ってから枕に顔埋めてたからな。しかも小一時間、令香に見つかるまでずっと。あの時の令香の目も忘れられない。俺が異常性癖持ちでは無いことを納得させるのに時間かかったんだからな。

 

 

「宗輝君は永遠のジブンのヒーローっスからね!!」

 

「じゃあ麻弥は俺の......あれ、良い言葉が浮かんでこねぇな」

 

「そこはスッと好きな人とでも言っといてくれたら嬉しいです」

 

「そんなもん当たり前だろ」

 

「......当たり前なんスね」///

 

 

 

麻弥は顔が赤くなった!!

 

 

 

いや別に某超人気RPGゲームでレベルが上がったとかとかの真似じゃ無いからな。こうやって恥ずかしがる麻弥はレアだからな。この機会に堪能......って麻弥さん?お箸からお肉落ちてますけど?火に当たってない部分に落ちちゃってますけどそれはいいんスか⁉︎

 

 

 

「麻弥、お肉落ちかけてるぞ」

 

「あ、すいませんちょっとボーッとしてました」

 

「ならちょっとの間お肉頼むな」

 

「はい、任せといて下さい!!」ビシッ

 

「だからお肉落ちてるってば」

 

 

お箸持ってる手で敬礼のポーズなんてしたらそりゃ落ちるだろうよ。麻弥は実はポンコツの仲間なんじゃ無いかと思い始めた今日この頃であった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、お肉美味いなぁ」

 

 

 

みんながいる場所からは離れた位置で一人お肉タイムを満喫している。別に一人が良かったわけじゃないのだが、今から輪の中に入るのも癪だったのだ。みんなが楽しければそれで十分だからな。

 

 

 

「ムネキさんお肉どうですか?」

 

 

しかし、そうこうしているうちにイヴに見つかってしまった。岩の隣から顔を覗かせているイヴはなんとも可愛らしくてつい微笑んでしまう。

 

 

 

「まぁ美味しいな、んでイヴはどうしてここに?」

 

「ムネキさんがこちらへ来るのが見えたので!」

 

「別にみんなのところに居ても良かったのに」

 

 

少し言い方が冷たくなってしまったのだが本音だから仕方ない。俺のこういうところはちょっと癖みたいになってきてるから早めに直しとかないとな。その内誰かに勘違いされそうだ。

 

 

 

「私は邪魔者なんですか?」ウルウル

 

「ばっかお前、必要不可欠過ぎて一家に一人は必要だぞ、割と真面目に」

 

「なら良かったです!」

 

 

表情の変化が目まぐるしいイヴちゃん。上目遣いで訴えかけてきた時もパッと明るく笑顔になった時もだが、イヴは男を堕とす方法を熟知しておられるようで。外見パーフェクトな彼女がそんな手段を得てしまったらもう鬼に金棒状態である。小悪魔的な感じのイヴも案外想像できるな。

 

 

「私もお肉食べたいです!」

 

「ん、なら取ってこいよ。待っててやるからさ」

 

「いや、そこのお肉を下さい!」

 

「いや、これ俺のなんだけど」

 

 

そう言うとイヴは"駄目なんですかぁ?"と目をキラキラさせながら俺に近づいてくる。チッキショー!!か、可愛すぎて直視できん。ここは俺が折れるしか無いか。()()()るだってさ。クソしょうもないギャグをありがとう自分。しかし可愛いからよし。この世の森羅万象は可愛いの三文字で万事解決するのである。これは決定事項だ、異論は認めん。とか少し厨二っぽく言ってみる。なんかあこが好きそうな台詞だな、今度教えてやろう。

 

 

 

「ほら、あーん」

 

「では、頂きます!」パクッ

 

「どうだ、美味しいだろ?」

 

「はひ、おいひいでふ!」

 

「飲み込んでから喋ろうなイヴ」

 

 

 

無意識にあーんしちゃう辺り、こいつらに影響されてんなぁと思う。それでも乗ってきてくれるからありがたい。多分、普通の人にやったら"え、何やってんのこいつ"となりお先真っ暗だろう。おいそこ、狙ってんだろとか言わない。さっきのはマジで無意識だったからな。

 

 

 

「じゃあ俺は戻るから」

 

「ムネキさん!」

 

「ん、何だイヴ」

 

 

 

 

「ご馳走様でした!」ニコッ

 

 

 

やはり彼女の笑顔は眩しい。その笑顔を守ることが出来て俺は少し誇りに思う。そして、これからも守り続けていこうと心の中で一人静かに誓ったのだった。

 

 

 

「それ言う相手間違ってるだろ、後でこころにでも言っといてな」

 

「はい、了解しました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~テント~

 

 

 

 

俺はイヴと別れ任せっきりだった麻弥の元へ向かい役目を代わってもらった。と言いたいところなのだが、少し行きたいところがあったので麻弥にもう少しと頼み込んできたのだ。何食わぬ顔で了承してくれた麻弥。今度少しお高い楽器屋さんにでも連れてってあげよう。

 

 

 

「な〜に一人で遊んでんだよ」

 

 

 

俺の行きたかった場所。場所というよりは、話しておきたかった人物だな。麻弥の元へ向かうときにチラッと見えたので気になってしまったのだ。

 

 

 

「む、宗輝君⁉︎」

 

「何をそんなに驚いてんだよ彩、俺の顔になんかついてるか?」

 

「いや、そんなことは無いんだけどね......」

 

 

 

最初にRoseliaの三人に日焼け止めクリームを塗ったテントに彩が一人で座り込んでいたのである。理由は正直なんとなく察することが出来た。彩の方から言ってくれるのを待とうとも思ったのだが出てくる気配がなかったのでこちらから話を振ってみる。

 

 

 

「......ライブが心配なんだろ」

 

「......やっぱり分かっちゃうんだね」

 

「当たり前だろ、仮とはいえ専属マネージャーだぞ」

 

 

 

やはり図星だった。ここへきた時から少し暗かったのだが無理して楽しんでいたのは雰囲気で分かった。けどライブの話になるともっと顔が暗くなっていく。リーダーとしての責任なのか、はたまた丸山彩としての焦りなのか。どちらにせよ解決しないことにはライブに影響が出てしまう。ここは一肌脱ぎますかね。脱ぐって言っても水着じゃないぞ。それやったら黒服さん達に容赦なく連行されるからね。

 

 

 

「ほら、頼れるマネージャーに相談してみそ」

 

 

 

「......もうあんまり時間ないから気持ち焦っちゃってどうしようって考えてる。そう思うと止まらなくなってどんどん暗い気持ちになっちゃうんだよ」

 

 

 

今にも消え入りそうなか細い声で俯きながら話す彩。そんな彩を見ているとなんだかこっちまで気が滅入ってしまいそうになる。普段の彩らしくないなと思いつつもこれが彩の良いところなんだとも思う。

 

 

 

「それで、彩はどうしたいんだ?」

 

 

 

「私は......私はみんなと一緒に成功させたい。みんなと笑って楽しくライブしたい!!」

 

 

 

なんだよ、ちゃんと言えるじゃんか。

 

 

 

「だってさ、みんなはどう思う?」

 

 

俺の合図と共にパスパレの4人が姿を現わす。事前に準備しといてもらって助かったぜ。こういう場合は俺じゃなくてみんなが頼りだからな。

 

 

 

「えぇ⁉︎な、なんでみんないるの?」

 

 

「彩ちゃん......私ももっと頑張るから一緒に最高のライブにしましょうね」

「千聖ちゃん、ありがと!!」

 

 

「ジブンももっと練習して迷惑かけないように頑張りますよ!」

「麻弥ちゃ〜ん!!」ウルウル

 

 

「アヤさんも一緒にブシドーです!!」

「......こんなときまでイヴちゃんは変わらないね」

 

 

「まぁぶっちゃけ私達ならなんとかなるでしょ!!」

「それは日菜ちゃんだけだよ〜!」

 

 

 

既に皆一様にして互いを認め励まし合いライブ成功へと踏み出している。彩につられて俺まで泣いてしまいそうだったが流石に恥ずかしいので我慢。意外と俺って涙脆かったりする?でもこんな場面見せられてウルッとこないほうがおかしいわ。よって俺は通常だ、良かったな俺。

 

 

 

「勿論他のみんなだって応援してくれてる。香澄なんて毎日頑張ってって伝えてくれって言われたしな」

 

「うぅ、ありがとみんなぁ〜」

 

 

「もう、みっともないから泣かないのよ彩ちゃん」

 

 

 

千聖さんに介護されるかのように立ち上がる彩。千聖さんの面倒見の良さはやはり変わらない。麻弥のお馴染みのフヘヘも変わらないしイヴのブシドーも変わらない。日菜の天才っぷりだって健在だしな。勿論彩だってポンコツまん丸お山なのは変わらない。

 

 

 

「変わらずに変わっていけば良いさ。パスパレらしさ全開で思いっきり楽しんでライブすりゃ良いんじゃないか」

 

「何言ってんの宗輝、最初矛盾してるじゃん」

 

「うっせ、日菜にはわからないかもな〜」

 

「なーっ!!教えろ宗輝〜」グイッ

 

「わっ、バカそんなに近づくとヤバイって!」

 

 

 

何がやばいって?ナニがやばいんだよ!!ってかこんなダジャレかましてる場合じゃねぇよ!!日菜は分かっててやってる可能性アリだがさっきからなんとも柔らかい二つのナニが押し当てられてんのよ。もうマジで最k......じゃない早く何とかして離れないと持たん。

 

 

 

「今から最後に海にダイブしたやつ罰ゲームな」ダッ

 

 

「あー!ズルイよ宗輝!」

「はぁ、子供みたいね」

「まぁ子供ですからね」

「ムネキさん待ってくださ〜い!」

「あれ、私置いてかれてる⁉︎」

 

 

 

 

 

結果、ドンケツは彩となりみんなの前で研修生時代に考えたポーズをみんなの前で披露した。ほとんどの人が笑ってたが可愛く見えたのは俺だけだろうか。後でもう一回してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「あ〜あ、もう時間きちゃったね〜」

 

「日菜は遊び過ぎよ、よく体力持つわね」

 

「お姉ちゃんが体力なさ過ぎるんだよー」

 

 

 

 

 

時刻は5時を過ぎ、夕日が出始めて海が真っ赤に染まっていた。絶景とまではいかないにしてもそんな光景を見て少しボーッとしてしまう。

 

 

「これ見てるとあの夕焼けを思い出しますな〜」

 

「あの夕焼けってことはバンド結成の時のか?」

 

「あの時の蘭も可愛かったよ〜」

 

「モカやめて、恥ずかしいから」///

 

 

 

頰を赤く染めた蘭は、今の海に映えて俺は美しいとさえ感じてしまった。赤メッシュがまたピンポイントで俺の胸キュンポイントにぶっ刺さる。蘭ってマジで可愛いよな。

 

 

 

「こころ、今日はありがとな」

 

「みんなが笑顔になれたのなら良かったわ!」

 

「みんなこころのお陰でハッピーラッキースマイルだよ」

 

「あぁ何という友情......儚い」

 

 

 

儚い人は少し放っておくとして、こころには感謝してもしきれないな。弦巻家の黒服さん達もお疲れ様です。後は帰り道よろしくお願いします。

 

 

 

「今日は楽しかったわね」

 

「まぁ友希那一回しか海入ってないけどね......」

 

「なんであれだけ時間あったのに一回だけなんだよ」

 

 

 

 

「あこは沢山入りましたよー!!」

 

「あこちゃん、良かったね」

 

「あこにはめちゃくそ水かけられたわ。燐子先輩も楽しめましたか?」

 

「うん、凄い楽しかったよ」ニコッ

 

 

 

燐子先輩の笑顔があればなんでも出来そうな気がしてきた。この笑顔みて出来んことなんかある?あったら是非教えて欲しいくらいだわ。

 

 

 

 

 

「お前は何黄昏てんだよ」

 

「おお、有咲か。そういや言ってなかったな、有咲水着似合っててすっげぇ可愛いぞ」

 

「え〜、むっくん私は?」

 

「いやおたえには最初に言っただろ......」

 

 

記憶力ないの、ねぇ無いのおたえさん?天然なとこが売りなんでしょうけど流石にそれはお兄さん心配ですよ?なんて思ってたら問題児の香澄を連れて沙綾とりみりんがこっちへやってくる。

 

 

「むーくん帰ろー!!」

 

「香澄ちゃん着替えてからだよ」

 

「そういうことだから、またね宗輝」

 

 

そう言って駐車場へ停めてあるリムジンへ向かう三人。確かりみりんには感想言ってなかったっけな。

 

 

 

「おう、沙綾もりみりんも水着似合ってんぞ」

 

「言うのが遅いし私も最初に言われてるよ」

 

「ありがとね宗輝君」

 

 

 

今更なのは百も承知である。沙綾は言わずもがな似合ってるのだが、意外なのはりみりん。少しピンクっぽい色を基調にした水着なのだが......可愛い。語彙力足りてないのは自覚してるからな。りみりんらしくフリルがついてるのが宗輝お兄さん的にはグッドポイント。

 

 

 

「水着の感想なんて私言われてないんだけど?」

 

「千聖さんは言うまでもないでしょうに」

 

「言葉にしないと分からないこともあるのよ」

 

「逆に言っても分からないことだらけですよ」

 

 

 

千聖さんの言うことにも一理ある。誰がどう思ってるかなんて誰一人分かりはしない。分かったりしたらたまったもんじゃない。けれど、言葉にして伝わるかと言ったらそうでもないから困る。以心伝心、なんて言葉があるがあれは偶々思ってたことが同じで偶々それを行動に移して"同じじゃん!やっぱウチら以心伝心だね!"と勘違いしているのだろう。本当に分かり合うにはどうしたらいいかなんてまだ人間には分からないのかもしれないな。

 

 

 

でも、そんな分からない中でも必死に分かろうと思ってる。相手の事や気持ちなんか分かるわけもないけど、それでも俺は頑張りたい。それは、分かり合いたいという気持ちが大切だと思うから。結果的に分からないという結論に至ったとしてもそれはそれで儲けもんくらいに思っとけば良い。

 

 

 

「宗輝君?」

 

「ああ、ごめん彩、ちょっと考え事」

 

「......ごめんね、嫌な役押し付けちゃって」

 

「嫌なわけないだろ。最初に言ったが、俺はお前らの一番近くで支えてやりたいと思ったからやってるんだ。別に嫌々マネージャーなんてしてないぞ」

 

「そうですよ彩さん!みんなで頑張ってライブ成功させましょう!」

 

 

 

珍しく麻弥が彩を励ましている。麻弥だって不安に思っているだろうに。やはり、俺が思っていた以上にみんな強い女の子なのだろう。だから、俺はコイツらがもし挫けそうになったら一番早く一番近くで支えてやりたい。

 

 

「また明日から練習です!レッツ、ブシドーッ!!」

 

「ライブのこと考えるとなんだかるんっ♪とくるね!」

 

「よっしゃ、また明日からみんなで頑張るぞー!!」

 

 

 

 

『えいえいおーっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでひまりまでいんの?」

 

「なんでよ!ちょっとくらいいいじゃんか!!」///

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に楽しい1日だった。

 

 

 

 

 

 

-To Be Continue-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「さぁ待ちに待ったおまけのコーナー!!」

 

 

宗輝「本日のゲストはRoseliaからリサと友希那だ!」

 

 

リサ「ヨロシクね〜」

 

 

友希那「宗輝、これはなんなのよ」

 

 

宗輝「まぁ簡単に言っちゃえば尺稼......みんなでわいわい話そうってことだ」

 

 

リサ「でも何話せばいいか分かんないね」

 

 

宗輝「二人の小さい頃の話とかは?」

 

 

リサ「それなら友希那の小さい頃の話しよっか〜?」ニヤニヤ

 

 

友希那「やめてリサ、あの話だけは絶対宗輝にはやめて」

 

 

宗輝「なんだよ友希那、そんなにやばいのか?」ニヤニヤ

 

 

リサ「あれはね〜、確か小学生の......」

 

 

友希那「リサ、やめてお願い。何でもするから」

 

 

宗輝「お、何でもだな?じゃあこれ付けて猫の真似してほしいな」

 

 

リサ「何で速攻で猫耳出せるの宗輝......」

 

 

友希那「一回しかやらないわよ......」

 

 

宗輝「おう、早く早く」ウキウキ

 

 

友希那「......にゃ、にゃお〜ん」///

 

 

リサ「......友希那可愛い

 

 

友希那「も、もう絶対やらないわ」///

 

 

リサ「あれ、宗輝は?」

 

 

友希那「宗輝なら鼻血出して倒れてるわよ」

 

 

リサ「(友希那に夢中で気付かなかった......)」

 

 

友希那「リサ、これ宗輝抜きでどうやって終わらせるのよ」

 

 

リサ「あ、本当だ......」

 

 

 

 

宗輝は、猫耳を取り忘れていた友希那に再びノックダウンさせられるのであった。

 

 

 

 

 

-End-

 





ふぅ.......取り敢えずみんな可愛すぎますね。

今年は海に行ってないので水着なんて見てないですね。

結論、バンドリ最高。


※誤字脱字注意報発令中(´・ω・`)


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Produce 27#捧げる想い、繋がる気持ち



タイトル名の方が考えるの難しかったりしますよね?
まぁ大体がパッと思いついたものをタイトルにしてるのでおかしいのもあるかもしれませんが気にしないで下だせぇ。

今回で取り敢えずパスパレ編~完~となります。
あと一話後日談として出そうと思いますので。

それでは、27話ご覧下さい。
(アンケートの方もよろしくお願いします)
└今後に関わりますのでw


 

 

騒がしくも楽しかった休暇から2週間。あの日からは休む事なく働いている。まぁ働いてると一口に言っても練習に付き合ってたりちょこっと事務仕事してたりでそこまで辛くはなかったけど。

 

 

今日はライブ前日。例の如く前入りしてせっせと準備の最中である。流石にライブ前日ともなると今まで通りにはいかず不備も目立つ。幸いプロデューサーさんにも手伝ってもらっていたのもあって俺の担当ではミスなく進んでいた。......今年の新入社員さんがミスってプロデューサーさんが鬼と化していたのを目撃した時は絶対に怒らせないと誓ったね。

 

 

 

 

「ほら宗輝君、これとあっちのも運んどいてね」

 

「了解しました、他には無いですかね」

 

 

 

今もなおプロデューサーさんと協力してライブに使用する機材諸々を運んでいるところである。どれも重たいのでどうしても力仕事になり頼られる場面が多いのだが、そこは現役高校生の腕の見せ所。普段はここら辺の筋肉なんて使ってないから明日あたりに筋肉痛が襲ってくることは間違いないがそんなことは言ってられない。ここでへばったりなんかしたらプロデューサーから愛のある鉄拳制裁を食らうに違いない。

 

 

「まだいくつかこっちへ運んでるから後で連絡するわ」

 

「取り敢えず運んできますね」

 

「ええ、お願いね」

 

 

 

アイツらも今尚頑張ってる。俺がここで下手する訳にもいかないからな。粉骨砕身、俺に出来る限りのことはやってやるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

~CiRCLE~

 

 

 

 

 

『......〜♪』

 

 

 

 

 

「ふぅ、もう時間も遅いし次でラストにしよっか!」

 

「そうね、あくまで明日が本番ね」

 

「ジブンも気になるところが一つだけあるのでそれだけやらせてもらえれば大丈夫です!」

 

 

 

時刻は既に午後9時を回っている。私達は今までずっと練習を重ねてきた。時には意見が食い違ったり上手くいかず下を向いてしまった時もある。そんな時、いつも側に居てくれて助けてくれた人。今もなおライブの準備で大忙しである彼。私にとって、私達にとって大切な人。そんな彼に一つでも恩返ししたくて、救ってもらったお礼がしたくて一生懸命みんなで考えたりもした。その話が盛り上がってしまいつい何時間も話し込んでしまったのは良い思い出。

 

 

 

「彩ちゃん本番テンパったりしないでよー」

 

「そこは何とか頑張ります......」

 

「今のアヤさんならいけますよ!」

 

 

 

私にはMCという重大な任務が任されている。くれぐれもデビューライブのようにはならないように練習してきたつもり。だけど、やっぱりあのトラウマは消えてくれなくて、心の中でずっと足枷になってる。私なんか、って言ったら前に宗輝君に怒られてしまった。評価してくれるのは良いんだけどプレッシャーになるから控えて欲しいんだけどなぁ。褒めてくれるのは嬉しいからちょっと複雑な気持ちになる。

 

 

 

「今彩ちゃんが何考えてるか当ててあげようかしら」

 

「え、急に何千聖ちゃん......?」

 

「ズバリ、宗輝君のことでしょう?」

 

 

 

今千聖ちゃんが練習をしている探偵物の舞台のキャラの真似をしてしれっと当ててくる。私は少し動揺してしまったけど何とか隠そうとして分かりやすい嘘をついてしまう。みんなにそれが通じないことはわかりきっているのにも関わらず。

 

 

「彩ちゃん、顔に書いてるからバレバレだよ〜?」ニヤニヤ

 

「彩さんは分かりやすいですからね」ハハハ

 

「そ、そうかな?」

 

 

やっぱりバレてた。それなりに付き合いが長いから癖とか大体把握されてる......。

 

 

 

「ムネキさんに喜んでもらえるように明日は頑張りましょう!」

 

「じゃあ円陣でもしとこっか!」

 

「よし、じゃあみんな明日も精一杯......」

 

 

 

「パスパレーッ!!ファイッ!!」

 

 

『オーッ!!!』

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポ-ン

 

 

 

「......んあ?誰だよこんな朝早くから」

 

 

 

 

結局昨日家に帰ってこれたのは日が回ってから。それから風呂に入りベッドにダイブしてそのまま横になってライブのことを少し考えていた。と思ったら既に眠りについていたらしく今に至る。しかし、玄関のチャイムの音で目覚めるという中々にレアな体験が出来ただけ良しとしておこう。何でこんなのがレアな体験なのか?それはそもそも家に来る人が少ないからだよ。大体香澄や明日香か新聞配達のおじさん、それと変な宗教の勧誘なんかも来たりする。まぁ大体は母さんが追い払ってくれるから助かってるけど。いや、それよりもまず確認しないといけないな。こんな日に限って両親が親元に帰るっつって家を開けるし。それに令香も付いてってるからひとりぼっちだし。

 

 

 

「はいはい、新聞なら置いといてくださいね〜」

 

 

 

 

 

 

 

「何言ってるのむーくん、早く準備しないとライブ間に合わなくなっちゃうよ!」

 

「何で香澄がいるんだよ」

 

「私もいるんだけど」

 

 

 

何故か戸山姉妹がまるでピクニックにでも行くかのように背中にリュックを背負っている。明日香に関しては俺が気付かなかったのに腹が立っているのか少しほっぺを膨らませている。今日も明日香は変わらず可愛らしいなぁと思いつつ玄関から少し入ったところに置いてある星型の時計を眺める。

 

 

 

「......ナイス香澄、危うく寝坊するとこだったわ」

 

「むーくんママから起こしてやってって言われたから!」

 

「まぁお姉ちゃん起こしたの私だけどね」

 

「明日香、今度何か欲しいもん一つ奢ってやる」

 

 

 

そう言うと明日香は嬉しかったのか少しガッツポーズをしながら何買ってもらおうかなーとかボソッと呟いてた。あの〜、明日香さん流石に万単位はやめてね?今回のお手伝いでそこそこお金貰えるらしいけど常識の範囲内でよろしくお願いします。

 

 

「ささっと準備するから入って待っててくれ」

 

『は〜い』

 

 

 

 

 

 

 

 

~ライブ会場~

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ〜、むーくん人いっぱいいるね!」

 

「そりゃあこのライブイベントは簡単に言えばアイドルのフェスみたいなもんだからな」

 

「お姉ちゃん、六花達と合流するよ」

 

「分かった!じゃあ頑張ってねむーくん!」

 

「おう、迷子になんなよ」

 

 

 

香澄と明日香はいつぞやのお友達である六花?ちゃん達と合流するべく広場へと向かっていった。情報によるとあこ達Roseliaやポピパ等みんな応援に駆けつけてくれているらしい。まだ会場準備の段階だからみんなは来てないだろうけど。

 

 

 

「宗輝君おはよう、ちゃんと間に合ったらしいね」

 

「どこかの世話焼きに起こされたんで大丈夫でしたよ」

 

「君にベタベタのあの子のことかい?ああいう子が好みだったりする?」

 

 

 

プロデューサーさんのイジりがまた始まってしまった。こうなると止まらなくなる。ソースは俺。この人俺をイジる時めっちゃ笑顔になるからな。それで何回も時間取られては他のプロデューサーに怒られる。怒られる方の身にもなって欲しいものである。

 

 

「......アイツは只の幼馴染ですよ」

 

「さっきの間が怪しいけど今日はこのへんにして、取り敢えず最終チェックにかかろうか」

 

「確かパスパレのブースはあっちでしたね」

 

 

 

 

 

今日はライブだけをしに来たのでない。先程も言ったようにアイドル達のフェスである本日のイベント。勿論、物品販売やらなんやらも予定として組み込まれている。基本スケジュールはライブの時間までに物品の販売とファン達との軽いイベントを開くようになっている。何しろ出演するグループが多いのでパスパレも埋もれがちだが確かな人気はある。まぁあんな熱狂的なファンもいるくらいだからな。

 

 

 

「今日もしこたま働いてもらうからね」

 

「今日生きて帰れんのか俺......」

 

「それはお天道様にでも祈っときな」

 

 

 

お生憎様、俺はお天道様よろしく神様とやらは信じない主義なので。そのくせ心霊系は大好きなのでお前どっちなんだよとはよく言われる。いや神様とお化けって全く別物じゃんか。それに見てたりして楽しかったりするのは絶対後者だろうし。まぁ生きて帰れるかは別として今は、今日はアイツらが表舞台(ステージ)で輝けるように下っ端として尽力しますかね。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「オリジナルTシャツ2枚で3000円になります」

 

「3000円丁度頂きます、ありがとうございました〜!」

 

 

 

少し時は経ち現在物品販売の真っ只中。正直に言おう、人が多過ぎる。もしかしたらとかいう俺のちっぽけな希望が砕け散るかのように去っていった。しかもまだ開始5分。既に長蛇の列が出来上がっていた。まぁそれにも理由がある。

 

 

『麻弥ちゃーん!!もっと笑ってくれーっ!!』

 

 

「フヘヘッ、なんだか照れますね」フヘヘ

 

 

 

『千聖ちゃんサインお願いします!!』

 

 

「焦らずにゆっくりお願いしますね」カキカキ

 

 

 

そう、何故かパスパレの5人も物品販売のコーナーにいるからだ。いや理由はプロデューサーさんから聞いたから分かってるけどね。何でも"他のグループがやってない事をやるんだ!!"とか言ってこの5人を投入。そしたらあら不思議、周りのブースでもアイドル達を待つ列が発生。正直アイドルを出してないブースの方が少ないくらいだ。元々、ファンの人達との交流会的な催しを設定していたのだがそれが早まってしまった形になる。

 

 

「お待ちの方お次どうぞ〜!」

 

 

俺は俺で販売の方で手が回らないし。

 

 

 

『彩ちゃんあのポーズやってよ!』

 

 

「ま、まん丸お山に彩を♪」ピシッ

 

オオオ-ッ!!カワイイヨアヤチャン!!

 

 

『イヴちゃん今日の衣装可愛いよー!!』

 

 

 

「皆さんありがとうございます!」

 

 

 

『日菜ちゃん!!日菜ちゃん!!』

 

 

 

「あちゃ〜、私はこれどうなっても知ーらないっと」

 

 

 

彩達もファンの対応で一杯一杯である。日菜に関しては何故か謎の日菜コールが始まっていた。他の人達もやれ商品を運ぶのやら列の整理やらで手どころか頭までも回らない状況。

 

 

 

 

 

それなのに、そんな状況なのに......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、やっぱり私の選択は間違えてなかったね!!」

 

 

 

 

 

 

『アンタが一番間違えてるよ!!』

 

 

 

 

 

 

原因であるプロデューサーは我が物顔で椅子に座って寛いでいた。勿論、この後ほぼ全ての従業員から怒られて正座させられていたのは言うまでもなかろう。因みに無礼講ということで俺もプロデューサーに軽くデコピンさせてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう許して下さいお願いします」

 

 

 

『あと10分』

 

 

 

 

 

プロデューサーさん、あなたが思っている以上にみんな怒ってますよ......

 

 

 

 

 

 

 

~お昼休憩~

 

 

 

 

「はぁ〜、お昼なのにもうクタクタだぞ俺」

 

「宗輝もお疲れ様〜」

 

「そう言う日菜はなんだか元気だな」

 

 

 

なんとかあの魔の時間帯を乗り越えた俺達は1時間ばかしお昼休憩を取らせてもらえるようになった。しかし、お昼休憩と言っても外には出られない。関係者専用の控え室を使わせてもらっている。俺は別に知名度とか0だからいいんだけどこの5人が外に出たらまた騒ぎになるに違いない。テレビの取材も来てるって話だからなぁ。あ、プロデューサーさんは罰としてこのクソ暑い中ビラ配りを任されてます。

 

 

 

「みんなはお弁当か何かあるのか?」

 

 

「作ってきたよ」

「作ってきたわ」

「作ってきました!」

「作りましたよ!」

「お姉ちゃんと一緒に作ったよ!」

 

 

 

ほほう、最近のJKは自分でお弁当作れるんだな。いや、まぁ彩については作れること知ってたけど。イヴとか意外だな。千聖さんと麻弥はなんかエプロン着て鼻歌歌いながら作ってそう(妄想)

 

 

 

「じゃあ俺外で買ってくるから......」

 

 

 

『何言ってるのかな?』

 

 

「えぇ?」

 

 

財布を持って外の売店で適当に食べれるもん買ってこようと思ったのだが5人に引き止められてしまった。振り返ってみるとみんな獲物を狙っている獣の様な目をしている。ねぇ、俺は今から狩られてしまうのん?5対1とか流石に卑怯じゃない?

 

 

 

「お昼ご飯ならここに一杯あるじゃない」

 

「いやでもそれ千聖さん達の......」

 

「あら、聞こえなかったのかしら」

 

「とんでもございません、喜んで食べさせて頂きたく御座候」ペコリ

 

「宗輝君、語尾おかしくなってるよ......」

 

 

馬鹿野郎、これは今俺の中でのブームなんだよ。先人の知恵に学ぶっていうかなんというか。うん、ちょっとおかしい子っていうのは最早デフォルトだからな。そこんとこ気にせずいこうぜ。

 

 

 

 

『頂きま〜す』

 

 

 

気を取り直し俺含め6人で控え室にある机を囲む。5人それぞれのお弁当箱がオープンされて色とりどりで美味しそうな中身を見て少しお腹の虫が鳴ってしまう。

 

 

「まずは〜これだ!」

 

「それはジブンのやつですね」

 

 

さてさて、麻弥の料理の腕はいかに。麻弥ってなんか良い奥さんになりそうだよな。保育園の先生っぽいし。眼鏡かけてる女の子って個人的に好き。っといかんいかん、話が逸れてしまったな。まずは定番の玉子焼きから頂くとするか。

 

 

 

「......この口の中に広がる甘み。流石麻弥、分かってるな!」

 

「フヘヘッ、気に入ってもらえて嬉しいっス」///

 

 

 

「ムネキさん!次はこれをどうぞ!」

 

「お、おう......っ!!こ、これは⁉︎」

 

 

 

なんだ、なんなんだこれは。そうだな、これを言葉で表現するには......

 

 

 

 

 

 

 

 

「......"和"を感じるぜ。大和魂が篭ってる」

 

「それほどでもないですよ!」

 

 

いや、最初にイヴがお弁当作るの意外って言ってたな。前言撤回、めちゃくそウメェんだわこれ。何が美味しいのかって?それは食べてみてからのお楽しみってやつさ。

 

 

 

「じゃあ次は私のやつ!」

 

「日菜か、どれどれ〜」パクッ

 

 

「ど、どう?」

 

 

 

 

「うん、美味いに決まってるだろ」

 

 

 

何故だろう、この玉子焼きに愛を感じる。日菜風に言うならば......るんっ♪と来たぜ!!

 

 

「じゃあ今度は私の番ね」

 

「それでは、手前勝手ながら胃袋へ運ばせて頂こうと思っております故お許し下さい」

 

「もう許してるからその語尾やめてくれる?というより語尾云々の話なんだけど」

 

 

 

千聖さんを怒らせてはいけない。俺の本能がそう言ってる。ま、本気で怒ったところ見たことないんで分からんけど。さぁ、見たところ他のみんなと変わらないが味見といきますかね。

 

 

 

「.......千聖さん」

 

「な、何かしら急に」

 

 

 

 

 

「甘みは勿論のこと、この味の奥にある旨みっていうんですかね。それがピンポイントに俺の味覚に直撃してきていい具合に混ざり合ってなんとも言えない味を引き出してますね。それと、中身も凝ってますよね?食べてみてわかりましたが中に海藻類が入ってて良いアクセントになってます。やっぱりダシとして使うのも良いですけどこうやって直に入れるのって相当手間かかりますよね。その分確実に美味しくなるんで現在宗輝ポイントグングン上昇中ですよ。ああ、それとですね......」

 

 

「ちょっと、何言ってるか分からないわ。つまりは何が言いたいの?」

 

 

 

「ハッキリ言って、大好きです」

 

 

 

千聖さんの玉子焼き。マジで毎日作って欲しいレベル。千聖さんと結婚したらこんなお昼ご飯毎日食べれんのか。羨ましすぎて嫉妬しちゃうから妄想だけに留めとこう。

 

 

「ちょっと何言ってるの宗輝君、恥ずかしいわよ」///

 

「あれ、また口に出てましたかね俺」

 

 

 

 

「むぅ〜......最後は私のだね!」

 

「うむ、美味い」パクッ

 

 

「えぇ!感想それだけ⁉︎」

 

 

 

仕方ないだろ、美味いもんは美味いんだよ。しかも彩が作ってきた分に関しては一回食べてるからなぁ。いや決して彩のお弁当が他のみんなのものより劣ってるってことじゃないんだよ?安心しろ、みんなレベル高すぎるから。

 

 

 

「というか俺さっきから玉子焼きしか食べてないよな?」

 

「知らないわよ、宗輝君が勝手にそうしてるんじゃない」

 

「恐るべし玉子焼き」

 

 

 

 

この後めちゃくちゃ飯食わされた。

 

 

 

 

 

 

_________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ、これで終わりだな」

 

 

 

昼休憩が終わり物品販売やイベントを終え片付けも同時に行なっていた。残るはライブのみ。パスパレの5人は既に会場入りしている。物品販売の時にまさか香澄達(他バンドメンバー)がくるとは思わなかった。まだ普通に客としてくるのなら分かる。香澄なんてただ普通に話しにきただけだからな。因みに友希那とこころとひまりも同じ。

 

 

 

「お疲れ様、じゃあ最後の仕事に行ってくれるかい」

 

「本当に俺なんかが入って良いんですか?」

 

「何言ってるのよ、君はもう私達の一員よ。その首にかけているのは飾りかしらね」

 

 

 

客と関係者の区別がつくように一応社員証的なものを紐にくくりつけて首にぶら下げている。会場へ入るにはこれを警備員に見せないと関係者専用のブースには入れないようになっていた。

 

 

 

「......ありがとうございますプロデューサーさん」

 

「そんなのは全部が終わってからにしなさいな」

 

 

 

そう言いながら煙草を吸っているプロデューサー。男の俺からしてもカッコいいとさえ思ってしまった。

 

 

 

 

「そうですね、じゃあ行ってきます!」フリフリ

 

「まぁ頑張りなさい」

 

 

 

今まで手伝ってくれたプロデューサーさん、その他社員さん。みんなの力添えがあって今日この場に俺は立つことが出来ている。俺の最後の仕事、ちゃっちゃと終わらせてきますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......私も後十年くらい早く産まれてたらなぁ」ハァ

 

 

 

 

 

 

 

 

~ライブ会場舞台裏~

 

 

 

 

 

「うぅ〜、緊張してきたよぉ」

 

「もう、彩ちゃん落ち着きなさい」

 

「皆さん緊張した時はどうやってます?」

 

 

 

「んー、私はお姉ちゃんの事考えるかなー?」

 

 

 

 

(それで直るのは日菜ちゃん(さん)だけよ(です)

 

 

 

「お、意外と良い線いってると思うぞ日菜」

 

「おぉ〜、宗輝間に合ったんだね」

 

「すまん、ちょっと迷ってた」

 

 

 

だって会場裏からここに来るまでまさか5分もかかると思わなかった。5分って短くね?って思った奴、言っとくけど入口からここまで目と鼻の先くらいの距離だからな。案内図が無いんだもん、仕方ないよね。行くところ着くところ行き止まり。花音先輩かよって心の中で自分にツッコミ入れたくなるくらいには迷った。

 

 

 

「今何番目が歌ってる?」

 

「まだ始まったばかりなので時間はありますよ!」

 

「聞くところによると開始時間はちょっと遅れてるっぽいッスね」

 

 

 

よし、それならそれでこちらとしては好都合だ。まぁイベント開催者側としてはあまりよろしく無いんだろうけどな。正直言って俺は開催者側じゃないからどうでもいいけど。

 

 

 

「じゃあ最終チェックいくか」

 

「最終チェック?それは何をするのかしら」

 

「まぁ俺なりのチェックですよ」

 

 

 

ふぅ、と一息ついてみんなの顔を見渡す。俺が専属マネージャーを受けて色々とやり始めてそこそこ時間は経った。その時のコイツらの顔と今を比べれば一目瞭然。練習を重ねて自信がついたのかはたまた違う理由があるのか。

 

 

 

「イヴ、今日もブシドーしてるか⁉︎」

 

「はい!今日もブシドー全開ですよ!」

 

 

よし、イヴのブシドーエナジーは満タンっと。ブシドーエナジーって何だよ。命名者俺だけど意味不明すぎるな。

 

 

「麻弥、今日もいっぱいフヘッていこうぜ!」

 

「はい!精一杯頑張りますよ!」フヘヘ

 

 

 

麻弥のフヘッと笑顔も健在っと。いやぁ、やっぱり麻弥のフヘヘには治癒効果ありますな。今はライブ衣装を着て眼鏡を外しているので普段とはまた違った印象を受ける。

 

 

「日菜、今日もるんっ♪ときてるか⁉︎」

 

「うん!今最ッ高にるんっ♪ってきてるよ!」ニコッ

 

 

 

ああ、何と眩しきかな。天真爛漫な笑顔とはまさにこのことを言うのだろう。日菜がるんっ♪ときてる時は大抵どうにかなる時である(暴論)

 

 

 

「千聖さん、パスパレのまとめ役お願いしますね」

 

「任せておいて、必ずこのライブ成功させるわ」

 

 

 

やはり千聖さんは頼もしい。千聖さんとは出会ってからすぐにお姉さんとしてマウントを取ってきていたが、今なら素直にお姉さんと呼べるだろう。ブロンドヘアーの美人お姉さんとか羨まし過ぎか。

 

 

「最後に彩」

 

「うん」

 

 

 

 

今の彩に、彩達に俺から最後に言えることは一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライブ全力で楽しんでこい!!」

 

 

 

「......うん、頑張ってきます!」ピシッ

 

 

 

『Pastel*Palettesの皆さん準備お願いしま〜す』

 

 

 

 

声がかかり5人は準備に取り掛かる為裏へと移動を開始する。そんな5人の背中は頼もしく、また誇らしく思えた。

 

 

 

じゃあ、俺も最後の仕事やりに行きますかね。

 

 

 

 

 

___________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まん丸お山に彩を♪Pastel*Palettesボーカル担当の丸山彩です!」

 

 

キャ-!!アヤチャンカワイイヨ-!!    

 

 

 

 

私達は今、これまでのライブの中で一番重要と思われるステージに立っている。アイドルバンドとしてテレビ番組やラジオとかいっぱいやってきたけど、やっぱりライブでも凄く緊張する。だけど、今はそこまでかもしれない。理由は簡単、これまで沢山練習してきたから。この5人ならやれると思ったから。そして、宗輝君が助けてくれたから。

 

 

 

 

「このライブに関して私達からお伝えしたいことが一つあります」

 

 

 

千聖ちゃんが話し出して先程までボルテージMAXだった会場が静粛に包まれる。事前にこの時間を取り付けてくれた事務所の人には感謝しなくちゃ。

 

 

 

 

「と言ってもお伝えしたいことは一つッス!」

 

「私達を応援してくれているファンの皆さん、そして支えてくれている方々!」

 

「そんなみーんなに感謝の気持ちを込めて今日はライブするよー!」

 

 

 

千聖ちゃんに続き麻弥ちゃんやイヴちゃん、日菜ちゃんが一言ずつ発する。そして、私からみんなにライブスタートの合図で目配せをする。

 

 

 

 

 

 

『今までも、そしてこれからも私達Pastel*Palettesをよろしくお願いします!!』

 

 

 

「よし、千聖ちゃんいくよ!!」

 

「ええ、いつでも良いわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「———————ゆら・ゆらRing-Dong-Dance」

 

 

 

 

 

 

曲のスタートで前奏が始まる。それと同時にもう一度みんなの顔を見渡す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ジブンは最初アイドルとしてやっていけるか不安でした。なんの取り柄もないジブンがアイドルなんて出来るわけないとも思ってました。でも、彩さんや千聖さん、日菜さんとイヴさんに勇気を貰いました。この5人でなら出来ると思いました。それに、下手っぴな私の練習に付き合ってくれた宗輝君。ドラムなんて分からないなんて言いながらも丁寧に教えてくれて嬉しかったっスよ。今日は間違えずに完璧に演奏するんで見てて下さいね!)」

 

 

 

 

 

 

麻弥ちゃんの真剣な眼差しを見て私も頑張ろうと思えたよ。

 

 

 

 

 

 

「(パスパレにはアヤさんがいて、チサトさんやヒナさんやマヤさんがいる。皆さん一つ歳上で、でもそんな事感じさせないくらい仲良しになれて。練習の時はメリハリがちゃんもあって優しく、時には厳しく教えてもらいました。みなさんのお陰で今私はここにいます。そしてマネージャーとして、一人の女の子として助けてくれたムネキさん。私はパスパレの皆さんと同じくらいムネキさんの事大好きですよ!!)」

 

 

 

 

 

 

イヴちゃんが居てくれたからいつも笑顔でいられたよ。

 

 

 

 

 

 

 

「(最初は何となくオーディションを受けて何となく演奏してた。私の全てはお姉ちゃんだったから。でも、彩ちゃん達と出会って変わった。それに宗輝まで加わって。事あるごとに彩ちゃんはポンコツっぷりを披露するしその度に宗輝に泣きつくしで。パスパレに入ってからはるんっとすることが沢山あって飽きないね!絶対にお姉ちゃん達には負けられない!勿論、それは恋愛に関しても負けるつもり無いからね!覚悟しといてよ宗輝!)」

 

 

 

 

 

 

 

日菜ちゃんがいたから人一倍練習しようって思えたよ。

 

 

 

 

 

 

 

「(私今凄く楽しいわ。これまでのライブも勿論楽しかったけれど、今日はそれよりもっと。お客さんだって凄いノリノリだしパスパレのみんなも楽しそうにしてる。理由はもっと色々あるんでしょうけど、やっぱり私の中では貴方の影響が大きいかもしれないわね。今まで男の人となんて役者さん以外あまり関わりが無かったのに。宗輝君に抱いているこの感情は恋かしら?だとしたら、もう止められないわよ?)」

 

 

 

 

 

 

 

千聖ちゃんのお陰で、私はアイドルを続けられるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(研修生時代からの夢、いつか大っきいライブイベントに出たいってずっと思ってた。今じゃ大ガールズバンド時代なんて言われてる中、私達は異色のアイドルバンドグループとして活動してる。しっかりまとめ役の千聖ちゃんがいて、何でもこなせちゃう日菜ちゃんもいて、機械に詳しく頼れる麻弥ちゃんがいて、天真爛漫でムードメーカーなイヴちゃんがいる。みんなに支えられて私は歌える。そして、今は宗輝君がいる。今までずっと助けられっぱなしだった君に、私達の想いを込めて今日は歌うよ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝君(キミ)が居たから、私達は今日ここにいるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、最後にもう1曲だけ!!」

 

 

 

 

みんなと息を合わせ、最後の曲を歌い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———————もういちどルミナス」

 

 

 

 

 

 





少しRoseliaと同じようになってしまったのは反省してます。
最近、バンドリ二次創作で評価の高い方のものをみて勉強しております。

そのせいで少し投稿遅れるかも......というのは冗談で頑張りますよ。

モチベ維持の為にも評価、感想等お待ちしております(定期)


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平平凡凡な日常編
Produce #28遊園地再び



新たに☆10評価下さった 天魔刀さん ありがとうございます!!
評価して下さっているのに気付いた時は声が出ましたね、はい。
評価が増えたおかげか最近UAの数も増えてきておりますので感謝感激雨あられでごさいます。

評価して下さったのも影響してモチベup→よし書くぞ!となり早めに出来上がりました。

しかし、このまま行くとまた1万字超えそうだったので2つに分けさせて下さい......。

それでは、28話ご覧下さい。
(前書き長くて申し訳ない)


 

 

アイドルフェスの翌日、俺は事務所へ呼び出されていた。しかも朝早くに。何故こうもあの人は人使いが荒いのだろうか。皆さんは経験したことがあるだろうか。帰り際に肩を叩かれ"明日、9時集合ね♪"と言われた絶望感を。

 

 

 

「おはようございま〜す」

 

 

少し間の伸びた挨拶をしながら事務所へと入る。髪も寝癖がついており服装もジャージという完全に気を抜いていたのが唯一の失敗。

 

 

 

「あら、宗輝君おはよう」

 

「プロデューサーさんもおはようございます」

 

「何そのズボラな格好」

 

 

出会って早々プロデューサーさんに指摘を食らう。まぁくることは薄々分かってたけど。でもこれだけは言わせてください。

 

 

 

「プロデューサーさんには言われたくないです」

 

「何よ、私がズボラだって言いたいの?」

 

 

 

いやだって、あなたズボラも何もないでしょうよ。大体毎日同じような服着てるし髪だってプロデューサーさんもボサボサだし。それに酒にタバコにギャンブルに。きっとプロデューサーさんは駄目男製造機なんですね、分かります。

 

 

「今の宗輝君の格好中々好みよ」

 

 

 

「すみません僕は今のプロデューサーさんの格好好きじゃないですし性格もちょっと難アリですしというより少し年齢的にもアウトなのでごめ......ちょ、待ってくださいプロデューサーさん。いくらなんでもグーパンは勘弁ですよ!!」

 

 

 

この後、初めてプロデューサーさんの愛のある鉄拳をモロに食らった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「......痛い」

 

 

 

場所は変わって作業ブース。かと言って今から作業する訳ではない。パスパレの5人にも招集をかけているとのことだったので集合場所として作業ブースを選んだらしい。

 

 

 

「おはようございま〜す」

 

「ようやく来たわね」

 

 

そこまで待つことなくみんなが到着。麻弥辺りは眠そうにしてる。でも最低限身だしなみ整えてるところを見るとやっぱり女の子してんなぁと思う。だって、めんどくさいじゃん。

 

 

 

「早速話を始めましょうか」

 

「話というのは何なのですか?」

 

 

 

やはり、最初に言葉を発したのはパスパレのお姉さん担当でもある千聖さん。今日はポニーテールにして白いフリフリのシャツに短パンという何とも夏を感じさせるスタイル。プロデューサーさん、俺の好みの服装はこんな感じですよ。

 

 

 

「話というのは他でもない、宗輝君の事についてよ」

 

「え、俺の事ですか」

 

「なに?もしかして気付いてなかったの?」

 

 

 

まぁライブも終わったしもうマネージャーしなくてもいいとは思ってたけどね。一通りの経験を通してこのまま続けても良いと思っている俺がいる。事務所側から辞めろと言われればそれでお終いなのだが。

 

 

 

「まず私から伝える前に貴女達の意見を聞いておくわ」

 

「......それならもう決まってます」

 

「あら、なら聞かせてもらおうかしら」

 

 

 

5人で顔を合わせながら、今にもせーのという掛け声が聞こえんばかりの勢いで一斉に声をあげる。

 

 

 

『このまま続けさせて下さい!!』

 

 

 

その回答に少し耳を疑ってしまうがここは我慢。

 

 

 

「やはりそうきたわね。さて、その理由は?」

 

 

「ジブンは宗輝君に恩返しがしたいです」

 

「私もムネキさんにお礼がしたいです」

 

「私はるんっ♪とくるから宗輝と一緒にやりたい!」

 

「今まで通りとはいかなくとも構いませんので」

 

 

 

皆それぞれの想いを伝える。麻弥とイヴは恩返しとお礼、日菜は相変わらずるんっ♪ときてる。千聖さんは大人な対応。

 

 

 

「彩ちゃんはどうなのかしら」

 

 

「私も......宗輝君とならこれからも上手くやっていけそうな気がします。別にマネージャーじゃなくてもいい、ただ私達の側にいて手伝ってくれるだけでも私達の力になります。お願いしますプロデューサーさん」

 

 

『お願いします!』

 

 

 

俺は黙って見てることしか出来なかったが、みんながプロデューサーさんに頭を下げてお願いしている。

 

 

「まぁ貴女達がそう言ってくることは分かってたからね。でも、結果的に彼に重荷を背負わせてしまうことにもなり兼ねないのよ?」

 

 

「いや、出来るなら是非やらせて下さい」

 

「あら、随分乗り気ね」

 

「伊達に1ヶ月マネージャーやってないですからね」

 

 

 

俺は俺なりに今まで頑張ってきた。そして、これからも出来ればコイツらの近くで支えてやりたい。その気持ちだけはずっと変えられないし変わらない。確かに今まで通りとはいかないかもしれない。高校生の俺が考えるような甘い世界でもないのかもしれない。だとしても、これからも一緒にやっていけたら良いと思った。

 

 

 

「実はもう事務所の決定でマネージャーとまではいかないけどお手伝いさんとして雇うことが決まってるわ」

 

「まぁやっぱり駄目ですよね分かりま......え、なんて?」

 

「だから、このまま続けて頼むって言ってんの」

 

「あ、はい」

 

 

 

なんともあっさり俺達の願いは叶えられた。

 

 

 

 

 

 

 

~事務所内休憩所~

 

 

 

 

「なんか呆気なかったな」

 

「まぁ私は知ってたけれど」

 

「千聖ちゃん知ってたの⁉︎」

 

 

 

これまた千聖さんのSっぽいところが露呈してしまった。驚いた彩の顔を見てなんとも楽しそうに笑う千聖さん。そんな千聖さんにポカポカ殴りかかっている彩。そして、周りでブシドーッ!!とか言ってるイヴにるんっ♪ときたといつも通りの日菜。それと隙間に挟まってる麻弥。

 

 

 

「未だかつてこんなカオスな状況があっただろうか」

 

「これからはもっとカオスになるわよ」パッ

 

「うおっ、何ですかこれ」

 

 

 

プロデューサー が あらわれた!

 

こちらが みがまえるまえに こうげき!

 

 

何て冗談はさておき、急に6枚の紙切れを渡されてしまった。凄く嫌な予感、毎回当たってしまうからもう抵抗しません。

 

 

 

「偶然私のデスクの上にそれがあったのよねぇ。でも、私若手で忙しいから!!だから、あなた達にあげるから行ってらっしゃいな」

 

「あ、はい、まぁ若手ですから仕方ないですね」

 

「これって、前に宗輝君と一緒に行った遊園地のじゃん!」

 

 

 

手元にある紙切れをよく見てみると、確かに以前彩と行った遊園地のチケットだった。何でこんなに数もピッタリであんたのデスクにあるんだよ。どう考えても偶然じゃないでしょう。

 

 

 

「これ貰っても良いんですか?」

 

「いいのいいの、私まだ何枚か持ってるから」

 

「まだあるんすね......」

 

「宗輝!早く行こうよ!」

 

 

 

流石にこの格好では外に出られないので一旦みんな帰宅して再集合する形となった。もう外に出てるって?んなこと分かってんのよ、女の子と遊園地行くんだぜ?しっかり決めていかないと駄目でしょうが。

 

 

 

 

 

 

~自宅~

 

 

 

 

 

「たでーまー」

 

「あれ、お兄ちゃん早かったね」

 

「おう、まぁ準備したら出るけどな」

 

 

 

取り敢えずみんなとは別れて帰宅。そんなに時間もない為、速攻でシャワーを浴びて着替えて出発しないと千聖さんに何言われるか分からん。何気に一番楽しみにしてたの千聖さんだからな。

 

 

 

「ん〜、どれ着ていくかな〜」

 

「お兄ちゃ〜ん、どこ行くの〜?」

 

 

 

タンスの中を見て着ていく服を物色していると後ろから令香に声をかけられる。まぁ別に言っても構わないだろう。今回は6人分しかチケット貰ってないし。

 

 

 

「パスパレの5人と遊園地行くんだよ」

 

「え、令香も行きたい!」

 

「駄目、チケット無いし」

 

 

 

適当に令香の相手をしつつコーディネートしていく。一回行ったことがあるから分かるが、あそこは絶叫系メインなので汗かくし動きやすい服装の方がGOOD。だからといって半袖短パンは流石に無いのでストレッチ素材のパンツに七部丈のシャツに決定かな。

 

 

 

 

「お、これ前に着てったやつじゃん」

 

 

 

決めて取り出したシャツの下に前に着て行った服を発見。そんなに前じゃ無いのに何故か懐かしく感じてしまう。最近忙しくて1日が長く感じていたからだろうか?少し気になったのでこれも取り出してみる。

 

 

ポロッ

 

 

「およ、お兄ちゃん何か落ちたよ」

 

「お、どれどれ」

 

 

 

見覚えのある形、サイズ。シャツのポケットから落ちてきたのは、あの日彩とカップルのフリをして忍び込んだお化け屋敷の景品だった。これって確か中学生以下無料とかじゃなかったっけ?

 

 

急いで拾いつつ書いてある内容を確認する。

 

 

 

「......令香、早く着替えてこい。お前の準備次第で連れてってやらんこともない」

 

「本当に⁉︎じゃあ5秒で支度するね!!」ピュン

 

 

 

 

それから、俺が準備するのに10分。令香が準備するのに5分。何でこうも差がつくんだろうな。本当に妹には勝てん。でもそんなところも可愛い。紗夜さん、そこだけは共感出来ますよ。

 

 

 

 

 

 

___________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

「んな訳で」

 

「兄共々よろしくお願いします!」

 

「前に貰った無料券のお陰だね!」

 

 

 

場所は既に遊園地。一応混雑を予想して現場集合にしておいたが杞憂に終わった。まぁ休日だからあまり乗客は居なかったけど。

 

 

 

「よし、じゃあどれから行くか」

 

 

 

「ジブンあれ乗りたいです!」

「私はあの和を感じさせる乗り物が!」

「宗輝〜、喉乾いたよ〜」

「令香ちゃん、私の事はお姉ちゃんって呼んでね」

「やっぱり絶叫系じゃないかな!」

 

 

 

おいお〜い、とても昨日息のあった素晴らしいライブを見せてくれたバンドとは思えませんけど〜。というより若干名おかしいぞ。一人喉乾いて助け求めてるしもう一人は俺の妹を誑かしにかかってる。千聖さん、俺より先に令香落としにかかるのやめません?

 

 

 

「熱中症になったらまずいし水分補給するか」

 

「ならジブン買ってきますよ」

 

「俺も行くよ、みんな何が欲しいんだ」

 

 

 

『何でも良い』

 

 

 

 

 

「......そこは息ピッタリなのな」

 

 

 

プロデューサーさんの言う通り、もしかしたらこの先カオスな状況になるかもしれません。

 

 

 

 

それから、園内のベンチに4人を座らせて俺と麻弥で飲み物が買える店へと向かった。中に自動販売機やらなんやらはあるのだが、せっかくなのでお店で買おうと提案。金額は変わったもんじゃないが店限定のやつもあるのでそれ狙いで。勿論、金額は全負担俺。まぁ母さんからお小遣い貰ったからこのくらいは平気だけどね。

 

 

 

「いらっしゃいませ〜」

 

 

「取り敢えず俺と麻弥の決めようか」

 

「じゃあジブンお茶で」

 

 

 

他のみんなは結局適当な物で構わないと言う事なので、炭酸と普通の果実ジュースみたいなものを半々で購入する予定。

 

 

 

「今限定でカップル様のみご購入可能な商品もございますがどう致しましょう?」

 

 

 

「いえ、ジブン達はそんな関係じゃ」

 

「じゃあその特うま野菜ミックスっていうやつ下さい」

 

 

「かしこまりました!」

 

 

 

そのまま後は適当な物を買って店を出る。注文してから受け取るまでずっと麻弥の顔が赤かったのが気になる。

 

 

 

「はい、麻弥確か野菜好きだったよな?」

 

「......そ、そんなこと知ってたんスね」///

 

「当たり前だろ、誰だと思ってんだよ」フフン

 

 

 

大体5人の好きな物とかはプロデューサーさんからリサーチ済みだ。イヴはジンジャークッキーだろ、日菜はジャンクフードに千聖さんは紅茶。彩はオムライスとかの洋食で麻弥が野菜スティック。まぁ野菜スティックだから安直に野菜ミックス選んじまったけど大丈夫だったかな?

 

 

 

 

「......やっぱカッコいいっスね

 

 

「ん、もしかしてもう一つの激ウマしゅわしゅわソーダの方が良かったか?」

 

「い、いえいえ!わざわざありがとうございます!」

 

「どういたしまして、じゃあアイツらのとこ帰るか」

 

 

 

それにしても、流石に二人で六人分の飲み物持つのってキツイ。まぁ俺が5人分お盆に持って麻弥はさっき買ったやつチビチビ飲んでるから実質俺一人で持ってる。隣でハムスターみたいにチビチビ飲んでる麻弥、可愛い。これが見れただけで報われた気分だ。

 

 

 

「買ってきたぞ〜」

 

「お兄ちゃんおかえり〜」

 

 

「本当に適当に買ってきたからな」

 

「じゃあ私は紅茶をもらうわね」

 

 

 

皆それぞれ適当に買ってきたものの中から選んでいく。因みに令香の好きな飲み物はいちごみるくやら抹茶ラテ。甘いものから渋いものまでどんと来い状態である。まぁ我が家全員お茶が好きなのは茶道とかやってた影響も少なからずあると思うが。

 

 

 

「麻弥、それ一口貰ってもいい?」

 

「はい、どうぞどうぞ」

 

「ありがと......んっ、これ美味いな」

 

 

 

俺自身野菜は好きなので中々に好みな味だ。次から次へと飲んでしまいそうになるので一口で止めておく。俺も普通のお茶じゃなくてこっちにすりゃ良かったわ。

 

 

「じゃあ私にもちょーだい!」

 

「私も一口貰おうかしらね」

 

「じゃ、じゃあ私も!」

 

「皆さんどうぞ!」

 

「いや、そこは拒否ろうぜ麻弥」

 

 

 

あっという間に空になってしまった。てかみんな一口とか言ってまぁまぁな量飲んでなかった?あれか、みんな野菜好きなのか。だとしたらok、野菜好きな奴は良い奴だから。これ、持論だけど。

 

 

「また買いに行くか、麻弥」

 

「はい、じゃあ行ってきます!」

 

「何で二人で行くのかしら?」

 

「本当だ、お兄ちゃん行かなくてもいいじゃん」

 

 

確かに、流石は千聖さん。勘のいい美少女は皆さんお好きですか?因みに俺はあまり好きではない。理由は簡単、これめんどくさい状況になるやつだから。

 

 

 

「これカップル限定の商品なんですよ!!」フフン

 

「麻弥......何でそれ言っちゃうかな」

 

 

やはりやってしまった。しかし、何で麻弥はこうも嬉しそうにネタバラシするのん?何でさっきから顔赤いのん?さっきまでのちっこくて可愛らしい麻弥に戻ってくれ。

 

 

 

「宗輝、ちょっと話聞かせてもらうよ」ガシッ

「宗輝君、逃げたら駄目よ?」ガシッ

「ムネキさん、お時間少々」ガシッ

「......」ガシッ

 

「れーか知らないよ〜」

 

 

「......フヘ、フヘヘヘヘ///

 

 

 

 

宗輝は 美少女4人に 拘束された!

 

 

 

 

 

いや、本当に何なのこのカオスな状況。

 

 

 

 

 

~To Be Continue ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「さぁお待たせしましたおまけのコーナー」

 

 

宗輝「今回のゲストは、紗夜さんと日菜だ!」

 

 

紗夜「これは何なのかしら」

 

 

日菜「何かおまけらしいよー」

 

 

宗輝「いきなりですけど紗夜さんって人参嫌いでしたっけ?」

 

 

紗夜「ええ、それがどうかしたかしら」

 

 

宗輝「これなら飲めるかなって持ってきました!」

 

 

日菜「あ!これ本編に出てたやつじゃん!」

 

 

宗輝「日菜、そういう事言わないの」

 

 

紗夜「これは何なの?」

 

 

宗輝「所謂野菜ジュースです、勿論人参入りで」

 

 

紗夜「無理です」

 

 

日菜「え〜、美味しかったからお姉ちゃんも飲もうよ〜」

 

 

紗夜「ちょ、抱きつかないで日菜、分かったから」

 

 

宗輝「さ、一口グビッといって下さいな!」

 

 

紗夜「んっ......あれ、これ美味しいわね」

 

 

日菜「でしょでしょ!」

 

 

宗輝「そうでしょう、何てったって特うまですからね!」

 

 

紗夜「何故貴方が自慢げに話してるのかしら」

 

 

日菜「それとポテトもちょー合うと思うよ!」

 

 

紗夜「......ポ、ポテト」///

 

 

宗輝「紗夜さん、顔緩みまくってますよ」

 

 

日菜「これから彩ちゃんのとこ行こうよ!」

 

 

紗夜「仕方ないわね、この飲み物買い足してから行くわよ」

 

 

日菜「じゃあレッツゴー!」

 

 

宗輝「そんな訳で特うま野菜ミックスをよろしくな!」

 

 

 

 

 

-End-






これから数話程日常回を出そうと思います。
少し進みが遅くなるかも知れませんがご了承下さい。
この作品につきましては末永く続けていこうと思っておりますので、見て頂けた方お気に入り、評価、感想等頂けたら光栄でございます!


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Produce 29#続・遊園地再び



新たに☆9評価頂きました シロカナタさんありがとうございます!テンション上がって書き始めて完成したので早めにあげときます。
お気に入り、評価、感想等は主のモチベにダイレクトに影響しております故ドシドシ下さい。お待ちしております。


それでは、29話ご覧下さい。


 

 

「いや本当に誤解だってば」

 

「......フヘヘヘヘ

 

 

 

4人に拘束されてから実に数十分といったところ。カップル限定のやつがあってそれが麻弥の好きそうな物だったので迷わず購入したという事実を伝えたのだが、みんなは納得してくれない様子。それに麻弥はずっとフヘッてて使いもんにならないし。これなんてカオス?

 

 

 

「一応それに関しては許してあげるわ」

 

「あざっす、じゃあ俺追加で飲み物買ってくるんで」

 

「待ちなさい、それとこれとは別よ」ガシッ

 

「デスヨネー」

 

 

 

この数十分に渡る闘い、実に7割近くは千聖さんによる質問攻め。やれいつからだのどうしてだの意味不明な事をいっぱい聞かれたが全てスルーしておいた。最初から違うって言ってるでしょうが。

 

 

 

「違うのなら私と一緒に行っても問題無いわよね?」

 

「あ、千聖ちゃんズルいよ!」

 

「正々堂々勝負です!」

 

「なら公平にじゃんけんにしよ!」

 

 

 

勝手に話は進みじゃんけんの勝者一人が俺と一緒に飲み物を買いに行くという結論に至った。それから千聖さんが心理戦を持ち込んだり、イヴは精神統一とか言って忍者のポーズしてるし、彩は彩で何出すかでテンパってるし。日菜だけはケロッとしてて流石だと思った。

 

 

 

「ねぇ、お兄ちゃんこれどういう状況?」

 

「知らん、俺に聞くな」

 

「れーか早く乗り物乗りたい〜」

 

「ここで俺が逃げたら千聖さんに何されるか分からんからな、逃げちゃダメなんだよ......」

 

「お兄ちゃんご愁傷様」

 

「本当にそれな」

 

 

 

目の前で手を合わせて目を瞑り祈るかのようなポーズをとる令香。こいつも大人の対応が出来るんだなぁと感心して頭を少し乱雑に撫でてやる。今は令香よりみんなの方が子供っぽく見えても疑わないだろう。実際、精神年齢低そうだしな。

 

 

 

 

『せーの、じゃんけんぽんっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ〜」

 

「お、店員さん変わってんじゃん」

 

「なら大丈夫そうだねー」

 

 

 

4人の凄まじい闘い(じゃんけん)の末、勝利をその手に掴んだのは案の定日菜だった。何で案の定日菜なのか?だってこういう時千聖さん絶対勝てないし彩はポンコツだしイヴはイヴで何やってんのか分からんし。それに日菜にはパッシブスキルで"天才"が付与されてる。内容は簡単、全ての事象において有利になる。何だよそれ、チーター過ぎて笑えてくるな。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ!今ならカップル限定商品がございますがいかがでしょうか〜?」

 

 

「すみませ〜ん、その限定の激ウマしゅわしゅわソーダ下さ〜い」

 

「じゃあ私はさっきのやつ!」

 

「それと特うま野菜ミックスもお願いします」

 

 

「かしこまりました、少々お待ち下さい!」

 

 

 

お店も繁盛していて混んでいたので近くのベンチに二人で腰掛ける。受付もまぁまぁ並んでたし出来上がるまで少し時間もかかるだろう。その間立って待つのも癪だしな。

 

 

「はぁ、まだ乗り物乗ってないのに疲れた」

 

「何言ってんの宗輝、これからだよ!」

 

 

「すみません、お待たせしました〜」

 

 

 

思いの外早く出来上がったようで店員さんが気を利かせてこちらまで運んでくれた。最後にカップル水入らずでごゆっくりとか言わなかったらポイント高かったけどな。

 

 

「じゃあアイツらのとこ帰るか」

 

「ちょっと宗輝こっち」ガシッ

 

「うえっ!!」

 

 

立ち上がって5人が待っている場所は帰ろうと思ったところを日菜に肩を掴まれて阻止される。そしてそのままの勢いでベンチに座っていた日菜の横に強制的にイン。勿論、ゼロ距離。

 

 

「日菜近いってば」

 

「このまま写真撮るから、はいチーズ!!」パシャ

 

 

急な展開についていけず咄嗟に日菜と同じく手に持っていた飲み物を顔に近づけて冷たいポーズを取る。

 

 

「おお〜、中々綺麗に撮れましたな〜」

 

「後で俺にも送っといてな」

 

「はいは〜い、今からお姉ちゃんに送ろっと♪」

 

「おい、馬鹿やめろ日菜、殺される。主に俺が」

 

 

 

しかし、時すでに遅し。日菜はその写真を送信済みでしかも紗夜さんも既読済みであった。紗夜さん既読つけるの早過ぎ、流石はシスコン。まぁ紗夜さんと日菜の場合相思相愛って感じだけど。家内では令香を父さんが追いかけてる模様。前に一回令香がチビ反抗期で言う事聞かなかった時は父さんクソ焦ってて笑ったわ。

 

 

 

「お姉ちゃんが今度話があるだってさー」

 

「......マジかよ」

 

 

 

隣でるんっ♪とくる味だねーとか言ってる日菜さん、これあなたのせいなんですわよ?紗夜さんとのお話にはコイツも連れていこう。何かと役に立ってくれるかもしれん。兎にも角にも、今は楽しむか。

 

 

 

 

それからみんなと合流して本日最初の乗り物へと向かった。

 

 

 

 

「まず何から乗ろっか」

 

「やはり絶叫系かしらね」

 

「まぁコイツいるんで限られてはきますけど」

 

 

 

と言いつつ令香の頭にポンっと手を置く。絶叫マシンの身長制限には引っかかっていないものの、やはり心配なのである。たかが絶叫マシン如きで?と思う人も少なくは無いだろう。しかし、ここに重きを置いて考えて欲しい。あのブラコンでお兄ちゃん好き好きっ子の令香に万が一怪我でもさせてみろ。ワンチャン勘当食らうレベルだぞ。

 

 

 

「それは心配し過ぎじゃないっスか?」

 

「そういうところ変に真面目だよねー」

 

「おい、俺は普段から真面目だ」

 

「大体二度寝してギリギリの人が何言ってんのさ」

 

 

 

麻弥からは心配し過ぎと言われ、日菜からは変なところ真面目と言われ、最後には妹である令香に事実を突き付けられる。俺が朝に弱いのは今に始まった事ではないのでそこまでダメージはデカくないのだが、いかんせん令香に言われたことが心に突き刺さってしまったらしい。

 

 

 

「辛い、妹が辛辣過ぎる助けて彩」

 

「えぇ、ここで私に来るかぁ」

 

「流石はアヤさん!頼りにされてますね!」

 

「これは多分違うよイヴちゃん......」

 

 

 

やはり、この5人の中で甘えるなら彩か麻弥だと思うの、個人的にはね。千聖さんは甘えたりなんかしたら即刻堕とされそうだし。日菜とイヴ完全に甘える側だろうし。彩は甘え甘えられの関係が出来そう。麻弥に限って言えば"仕方ないっスね"とか言いながら頭撫でてくれそう。なんだこの妄想、誰得だよ。

 

 

 

「やっぱり宗輝君もシスコンなのね」

 

「違いますよ千聖さん、俺は令香が好きなだけです」

 

「だからそれをシスコンと......はぁ、もういいわ」

 

「れーかもお兄ちゃん好きだよ〜」スリスリ

 

 

頭を胸の辺りに擦り付けてくる令香は少し置いておいて、千聖さんがまたも考える人のようにこめかみに手を当てやれやれと言った表情を見せる。

 

 

 

「そろそろ乗り物乗りましょうか」

 

 

 

それからはみんなが乗りたいものを一つずつ決めて、それら全部を順番に回っていくという運びとなった。

 

 

 

「これ楽しいねー!」

 

「出来れば日菜も回してくれるとありがたい」

 

「ん?回せばいいんだね」

 

「そうそう回せば......ってちょ待てよ、日菜加減ってもんがぁぁぁ!!!」

 

 

 

回るコーヒーカップで日菜に気分が悪くなるまでブンブン回されたり。

 

 

 

「ワクワクしますねムネキさん!」

 

「おう、フリーフォールは前乗ってなかったからなぁ」

 

「これぞまさにブシドーです!」

 

「ねぇイヴさんやどこにブシドーを感じた?」

 

 

 

相変わらずイヴちゃんはブシドー精神満開であったり。

 

 

 

 

「フヘヘ、やっぱり"太鼓の鉄人"は楽しいですね!」ドンドン

 

「お、おう(やっべ周りに人集まってきた)」

 

......フヘヘへへへへ

 

「こりゃダメなパターンだ」

 

 

 

麻弥が今流行りの太鼓の鉄人に夢中になってしまったり。

 

 

 

 

「宗輝君、あ〜ん」

 

「千聖さんそれは何ですか」

 

「あら、あなたが欲しいって言ったのよ?」

 

「確かに欲しいとは言いましたが何も千聖さんの分までは要らないですよ」

 

 

 

 

千聖さんが無理やり自分のソフトクリームをあ〜んして食べさせてきたり。

 

 

 

 

 

「宗輝君いる?」

 

「......」

 

「ちょっとやめてよ宗輝君!」

 

「......」

 

「え、本当にいないの?」

 

 

 

 

彩が同じトラップに引っかかったり。

 

 

 

 

 

久し振りに何も考えずに楽しい時間を過ごせた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、もう疲れて動けん!」

 

「れーかももう無理〜」

 

「兄妹揃ってだらしないわよ」

 

 

 

あれからお昼は適当にお店で手早く済ませて、前回行けてなかった乗り物を中心に回りまくっていた。時にはメリーゴーランドでゆるーく遊んでみたり、ゴーカートで麻弥と日菜と俺で一位争いしたり、水上を走るジェットコースターで全員びしょ濡れになったり。そんなこんなで疲労困憊なのである。

 

 

 

「あまり時間ないしこの後どうしよっか?」

 

「他に行きたいところ無かったらもう帰るか」

 

「ジブンも疲れたので賛成です〜」

 

 

 

俺と令香は分かりやすく椅子にうな垂れるように座っているので見ての通りだが、他の5人も結局は遊び疲れているのだと思う。千聖さん辺りはそこら辺隠すのは得意そうだけど。

 

 

 

「私最後に寄ってみたいところある、かな?」

 

「彩ちゃん、そんなに歯切れ悪いと気になるわよ」

 

「ああ、別にそこまで行きたいって訳じゃ......」

 

「アヤさん!物は試し、ですよ!」

 

 

 

戸惑う彩に千聖さんとイヴが急かすようにする。こういう時のイヴはちょっと尊敬するな。言いたいことズバッと言ってくれるのは正直ありがたい。だからね、さっきから飲んでるそのヨツボシとかいうメーカーの"ジャパニーズサイダー"を一口下さいなイヴさん、喉乾いて死にそうなの。

 

 

 

「プリクラ、とか?」

 

「よし行こう、すぐ行こう」ガシッ

 

「えぇ⁉︎」

 

「すみません彩さん、お兄ちゃんスイッチ入ったみたい」

 

 

 

バカ言え令香、これは彩が行きたいから行くんだよ。決して今まで一回も撮ったこと無かったから撮ってみたかったとかじゃないからな。LINEのプロフィール画像に設定する為とかじゃないからな!

 

 

 

 

 

 

 

~ゲームセンター内~

 

 

 

 

 

 

「これが噂のプリクラ機だな」

 

「そっちはあんまりデコレーションの種類多くないからこっちにするね」

 

「お、おう。機種選びは任せた彩隊員」

 

「了解しました宗輝隊長!」ピシッ

 

 

 

 

ちょっと照れながら敬礼のポーズ取ってる彩。なんだこの可愛い生き物。こうやってバカやってるのについてきてくれるの彩ぐらいじゃないだろうか。

 

 

 

「千聖さんも撮ったことないんでしたっけ?」

 

「ええ、撮ったことはないわね」

 

「因みにジブンもです」

 

「私もありません!」

 

「お姉ちゃん撮ってくれないからなぁ〜」

 

 

 

 

どうやら彩以外はプリクラ初体験らしい。令香もプリクラは撮ったことがないらしい。いかんせん令香の場合、同学年の奴らと遊ぶより俺たち歳上と遊ぶ頻度が多い為、プリクラという選択肢が予め無くなっていくのだ。基本俺はインドア派だしなんなら香澄はそういうのに疎いし。唯一明日香がそこらへんは分かってそうだけど。

 

 

 

「さぁ、みんな入って入って!」

 

「おお、こんな狭いのか」

 

「これ7人入りますかね?」

 

「どう考えてもギュウギュウ詰めでしょう......」

 

 

 

ここで驚きの新事実発見、なんとプリクラ機の中は案外狭かった。いや、これ7人とか無理でしょ。基本的に2人とかで撮るもんじゃないの?良くカップルが2人で撮ってハートマークとか付け足してんの見るぞ。それ見る度に心が荒んでいく俺は負け組なのだろうか。別に知ってる奴らじゃないからそこまで気にはしてないけどな。

 

 

 

「詰めたらいけるよ!ほら、宗輝君は真ん中ね!」

 

「おわっと!これみんな近すぎない?」

 

「でも画面内にギリギリ入ってるよ」

 

「あんまり持ちそうにないから始めましょう」

 

 

 

その後はプリクラ機から聞こえる案内に合わせて進めていく。最初はどこ見て撮るやらポーズやらなんやらの説明をされてたが、俺はそれどころでは無かった。もう一度深く考えてみよう、プリクラ機の中に1人の男子と6人の女子。これだけで何か犯罪臭が漂っているのだが、極め付けはその殆どがアイドルだと言うこと。まぁ一人妹混じってるけどこれはセーフ、妹だからな。

 

 

 

「早くしてくれ、俺が一番持ちそうにない」

 

「よし、じゃあ撮るよ〜」

 

「これどんなポーズしたらいいんスか彩さん!」

 

「適当にしてれば大丈夫だよ!」

 

「彩ちゃん楽しそうだねー」

 

 

 

確かに、日菜の言う通り彩が今まで以上に生き生きしている。自撮りとかやってるからこういうの好きなんだろうな。

 

 

 

それからはプリクラ機の案内音声に従って写真を撮っていく。

 

 

 

『まず初めはピース!』

 

 

「いえ〜い、ピース!」カシャ

 

 

 

『今度は小顔効果のVサイン!』

 

 

「こ、こんな感じっスか⁉︎」カシャ

 

 

 

『次は変顔!』

 

 

「何だよ変顔って!」カシャ

 

 

 

『最後は自由にポーズ!』

 

 

「みんな集まって!」カシャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~遊園地外~

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったねー!」

 

「皆さんのお陰です!」

 

「ジブンも久し振りに遊び疲れましたよ!」

 

 

 

プリクラを撮り終えて、今は既に園内から出て帰路に着いている。最近のプリクラ機は便利なもので、その場で携帯に取り入れることが出来るらしい。みんな彩に頼んで今日撮った写真は全て取り込んで貰った。その後千聖さんからの命令で速攻でLINEのプロフィール画像にさせられた。元よりそのつもりだったので良かったんだけど、千聖さんからの"次撮るまではそのままね♪"という言葉の裏には何か違う意味を孕んでいそうで怖い。暫くはこのままにしておくのが身の為だろう。

 

 

 

 

「今日はありがとな、朝からこんな夕方まで」

 

「元はと言えば今まで休みが無かった分なんだから遠慮しなくても良いのよ」

 

「そうそう、私達も楽しかったしね!」

 

「そう言って貰えると嬉しいよ」

 

 

 

実際のところ、俺より彩達の方が何十倍もしんどかっただろうに。ほんの少しでも彩達が楽しめたのなら俺としては嬉しいんだけどな。まぁ途中からそんなこと考えずに夢中になって遊んでたけど。

 

 

 

「お兄ちゃん、夕飯の買い物して帰ろうよ」

 

「お、そうだな」

 

「じゃあ此処で解散しましょうか」

 

 

 

令香の言う通り、確か朝冷蔵庫を見たときは中の食材が心許なかったから丁度いい。幸いここからの帰り道にいつも寄ってるスーパーあるしな。

 

 

 

「宗輝君、ちょっといいかしら」

 

「ん、何ですか」

 

 

 

夕日に照らされるパスパレメンバー5人は、凄く綺麗に映えて俺の目に映る。まるで、映画のワンシーンの様に鮮明に脳裏に焼き付いて離れない。

 

 

 

「前回のライブではお世話になりました!」

 

「良いってことよ、イヴもお疲れさん」

 

 

「宗輝君のお陰でジブン達は頑張る事が出来ました!」

 

「大袈裟だな麻弥、皆の力があってこそだよ」

 

 

「まぁこれからも一緒にやれるから大丈夫だよ」

 

「専属マネージャーではないけどな」

 

 

「個人の仕事も手伝わないといけないのよ?」

 

「どんと来い、ですよ千聖さん」

 

 

「だからね、宗輝君」

 

「おう、何だよ」

 

 

 

 

 

 

 

『これからも、私達Pastell*Palettesをよろしく!』

 

 

 

 

 

 

そんなの決まってんじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらこそ、これからも一緒に頑張ろうぜ!」

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「さぁやって参りましたおまけのコーナー」

 

 

宗輝「今日のゲストは、我が斎藤家より令香だ!」

 

 

令香「何やってんのお兄ちゃん」

 

 

宗輝「いや、適当にやってくれれば良いよ」

 

 

令香「そういやお兄ちゃんがお風呂入ってる間に物凄い携帯鳴ってたよ」

 

 

宗輝「セールスの電話か?」

 

 

令香「知らなーい、それより今日撮った写真見ようよ!」

 

 

宗輝「お、良いなそれ」

 

 

令香「ここの彩さん面白いよね〜」

 

 

宗輝「テンパってんの丸分かりだもんな」

 

 

令香「これも流石は日菜さんって感じだね」

 

 

宗輝「仕方ない、あの子は天才なのよ......」

 

 

令香「これも......って、また携帯鳴ってるよ」

 

 

宗輝「まだ確認してなかったな、どれどれ」

 

 

令香「誰から?」

 

 

宗輝「......有咲から3件、沙綾から2件、蘭から1件、ひまりから5件」

 

 

令香「え、何それ電話⁉︎」

 

 

宗輝「続けて友希那とリサから1件ずつ、紗夜さんから2件の留守番電話だ」

 

 

令香「どうなってんのお兄ちゃんの交友関係」

 

 

宗輝「俺が知りたいくらいだよ」

 

 

令香「そんな事言ってる間にまた着信来てるじゃん」

 

 

宗輝「今度はモカからだ」

 

 

令香「その人達にはまだ言ってないんでしょ?」

 

 

宗輝「当たり前だろ、分かるとしたらLINEか......」

 

 

令香「......プロフィール画像じゃない?」

 

 

宗輝「......それしかねぇな」

 

 

令香「まぁ頑張って誤解解きなよ、れーかはお風呂入ってくるから」

 

 

宗輝「よりにもよってこの写真かよ」

 

 

 

 

この後めちゃくちゃ電話掛けまくった。

 

 

 

 

 

-End-






日常回とは言いつつもパスパレ回。
長くやる予定なんでネタが持つかどうか......
取り敢えずは日常回で誤魔化しときます。


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Produce 30#Afterglow緊急会議


新たに☆10評価頂きました 川崎ノラネコさんありがとうございます!
最近評価と感想頂けること多くてマジで嬉しいです。
昨日、ほんの少しだけですが日間ランキングに載ることが出来たのでモチベぶち上がりました。
結果、連日投稿になったまでです。

あまり長くなるといけないので、30話ご覧下さい。


 

 

いきなりで申し訳ないが、今俺は羽沢珈琲店に来ている。

 

 

 

「説明してもらうよ」

 

「モカちゃんちょっと怒ってるかも〜」

 

 

 

時刻はただ今9時。夜の9時とかじゃないからな。それはちゃんと21時って言うタイプ。こういうのだと余計に紛らわしいしな。最悪朝か夜かは前もって伝える派。

 

 

 

「何この写真⁉︎」

 

「宗輝君説明して」

 

 

 

現在美少女達に詰め寄られて尋問されております。まぁ内容はお察しの通りこの前パスパレメンバー&斎藤家2人で行った遊園地について。あの後結局追加でつぐと美咲から連絡がきた。一応連絡きた奴らには説明したんだけどな。アフグロメンバーなんて巴を除く4人には既に2.3回説明してるんですけど。

 

 

 

「巴、プリーズヘルプミー」

 

「これはお前が悪い」

 

「ぐはっ......容赦無いカウンター」

 

「元から宗輝の味方じゃ無いからな」

 

 

 

味方かと思いきや全員敵だった。これ四面楚歌って言うんだっけ?なんでも良いや、誰か助けてくれ。今だけは彩のポンコツや麻弥のフヘッと笑顔が恋しいぞ。

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

「だから普通に遊園地行っただけだって」

 

「ふ・つ・う・なら!!こんなことしないでしょ!!」バシッ

 

「それは不可抗力だ」

 

 

 

未だに少女達の尋問は続く。大体の説明は終わったのだが、みんなプリクラを撮ったことが気に食わないのかそこだけは頑なに説明しても了承はしてくれない。巴はコーヒー啜ってるだけだし。良いよなここのコーヒー、マジで美味いから。すまし顔でこのコーヒー出してくれたつぐみパパには感謝だ。お陰様でこちとら修羅場ですよ。

 

 

 

「何でこんなに近いの?」

 

「なんでもなにも狭いから仕方なかったんだよ」

 

「それは理由になりませんな〜」

 

「もう何でもするから許してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

この発言の真意を理解するのに5秒、俺はやってしまったと思った。

 

 

 

 

「何でも⁉︎今何でもって言ったね⁉︎」

 

「......あぁ、やっちまった」

 

「ドンマイ宗輝」ポン

 

 

 

机をドンと叩きながら俺に迫ってくるひまりをスルーしながらも頭を抱える。巴が肩に手を置き声を掛けてくれたが、今はそれすら億劫だった。鼻歌を歌いながら何してもらおうか一人で悩んでいるひまり。"蘭は何がい〜い?"とか言ってるモカに対して顔を赤くする蘭。その隣で一人"まだ早いよ宗輝君......"とか言って自爆してるつぐ。

 

 

 

 

「よし、Afterglow緊急会議だよ!!」

 

 

 

その後、俺はみんなに引っ張られ連れ去られてしまった。

 

 

 

 

 

 

~CiRCLE~

 

 

 

パチッ

 

 

 

「さぁ、会議開始だよ!」

 

「ちょ、ひまりうるさい」

 

「あの〜」

 

 

 

「まずは意見出しあう〜?」

 

「はいはい!私良いかな⁉︎」

 

「もしもーし」

 

 

 

「はい、ひーちゃんどうぞ〜」

 

「一緒にショッピングモール行くのはどう⁉︎」

 

「これ俺いる意味あんの?」

 

 

 

『あるに決まってんじゃん』

 

 

 

「わお、流石は幼馴染、息ピッタリ」

 

 

 

 

CiRCLE内の練習室を一つ借り、部屋の電気を真っ暗にして真ん中にロウソク、を持った俺を設置してその周りをみんなで囲んでいる。何だろう、既視感凄い。前にRoseliaがこんな感じの会議やってた気がするんだよなぁ。

 

 

 

「ひまりのその案はアリだな」

 

「私気になるマグカップあるんだ!」

 

「蘭は何かな〜い?」

 

「私は......」

 

 

 

パチッ

 

 

 

 

 

「あ、ごめんなさい電気消えてたから」

 

 

 

 

 

パチッ

 

 

 

 

 

「さぁ続きをしようか」

 

 

 

友希那出来れば声かけて欲しかったな。あとリサ、去り際にごゆっくり〜とか言うな。とてもじゃないがゆっくりしてられるとは思えん。

 

 

 

「私は宗輝が一緒なら、どこでもいいかな......」

 

「本音が漏れてる!蘭がデレたよ!」

 

「うるさいひまり!」///

 

「蘭は照れ屋さんだな〜」

 

 

 

「宗輝、このデレは何ポイントだ?」

 

「ん、素晴らしいデレにその後の対応も申し分ない。ハッキリ言ってお手本のようなデレだ、100ポインツ」グッ

 

「あんたもうっさい!!」///

 

 

 

ふむふむ、最近デレ要素が足りてないとは思っていたがこれで充填完了。デレるのは大概有咲か蘭の二択だからな。ここテストに出るから覚えとけ。

 

 

 

「じゃあ他に案は......」

 

 

 

 

パチッ

 

 

 

 

 

 

「あ、なんかすんません」

 

 

 

 

 

 

パチッ

 

 

 

 

「もうショッピングモールで決定ね!!」

 

 

 

美咲、そんな覇気の無い声で謝られてもな。こっちも"あ、はい"としか言い返せん。こころ、はぐみ、薫先輩、そろそろ美咲がミッシェルってことに気付きましょうよ。花音先輩、ファイトです。

 

 

 

「なら今すぐ行こう!」

 

「私ちょっと準備してくるね」

 

「モカちゃんは腹ごしらえ〜」モグモグ

 

「モカ、食べ過ぎは良くないぞ」

 

「その前にお片付けしようよ君達」

 

 

 

ひまりとつぐは準備しに一時帰宅。モカは事前に買っていたやまぶきベーカリーのパンにパクついている。巴は変わらずコーヒー啜ってるし蘭は何か呟きながらジッとしてる。この状況......どこぞのニャルラトホテプよろしく混沌(カオス)を極めておる。

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなこんなでショッピングモール到着ー!!」

 

「わ〜い」

 

 

 

ちゃんとCiRCLEの方のお片付けを終わらせ、みんな準備の為一時帰宅してからの羽沢珈琲店へ再集合、からのショッピングモールという運びとなった。朝早かったこともありまだ時計の針は10時を回ったところ。

 

 

 

「取り敢えず何見よっか?」

 

「つぐのマグカップから見ようよ!」

 

「じゃあこっち行こうか」

 

「あのつぐみさん、何故手を繋いでおられるのですか?」

 

 

 

ショッピングモールに着いてからというもの、左手につぐみ、右手には顔真っ赤の蘭というポジションで手を繋いで歩いている。

 

 

「逃げないようにする為だよ!」

 

「ひまりには聞いてない」

 

「そんなことより早く行こうぜ」

 

「巴もひどい〜」

 

 

 

世間話も交え駄弁りながらも目的のお店へ到着。そこからは流石に手を離し各自見たいものを見ていた。

 

 

 

「俺もそろそろ買い替えるかなぁ」

 

 

 

マグカップなんて中学生の時以来だな。確かあの時は俺と令香と香澄と明日香の4人で同じのを買ったような気がする。一番最初に香澄がどこやったか分からなくなって香澄が泣きながら4人で探したのは良い思い出。結局見つかって今もずっと使い続けてるけどな。案外使い勝手良くて助かる。

 

 

 

 

「宗輝君もマグカップ買うの?」

 

「昔買ったやつしかないから迷ってる最中だ」

 

 

 

 

一人悩んでると横からつぐみがヒョコッと顔を出してきた。蘭とモカは相変わらず二人でイチャついてるし、ひまりと巴は小煩くはしゃいでるし。そういった点を加味すると、皆つぐみのことを普通呼ばわりするがそれがつぐみの良いところだったりするのだろうか。少なくとも変なやつとか言われるよかマシだと思うけど。

 

 

 

 

「つぐみはそれ買うのか?」

 

「うん、前から気になってて」

 

「ほーん、どんな感じの?」

 

 

 

 

つぐみが手に持っていた一つのマグカップを渡してもらう。基本的に白を基調としたデザインで、薄っすらと描かれた夕焼けの景色が特徴的だった。一言で言うなら正にアフグロをモチーフにしたマグカップと言ったところだろうか。

 

 

 

「んで、これ何個買う予定?」

 

「え?一個だけ......」

 

「本当か〜?」ニヤニヤ

 

 

 

少しからかうように肘でつぐみを突っついてやる。そうすると少し下を向きながら聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声が聞こえた。

 

 

 

「......本当は5つ

 

「ん〜、聞こえませんな〜?」

 

「本当はみんなの分も買う予定、だよ......」///

 

 

 

モジモジしながらも何だか優しい笑顔を浮かべながらつぐみがそう答える。モカ流に言うとつぐってる。これが本当の優しさでありつぐみがつぐみたる所以。これにアイツら4人だけじゃなくて俺さえも助けられる。

 

 

 

「なら一個追加な」

 

「へ?な、何でなの?」

 

「そりゃあ、俺もそれ買うからに決まってんだろ」

 

 

 

そう言いながらつぐみの頭を少し乱雑に撫でてやる。丁度俺も買う物決まってなかったし。やっぱりお揃いって憧れるし。別に一人だけ違うのが嫌だったとかじゃないから。

 

 

 

「ほら、会計行くぞ」ギュッ

 

「う、うん!」

 

 

 

令香や香澄と買い物する時の癖で、いつもはぐれないように会計に行く際は手を繋いだりしてるのが素で出てしまった。拒否られたら一週間程家に引き籠ろうと思ったがそれは杞憂に終わり、つぐみも笑顔で握り返してくれたのでホッとする。

 

 

 

 

その会計でどちらがお金を払うかで一悶着あったのは置いておこう。

 

 

 

 

 

 

 

~服屋~

 

 

 

 

 

「んで、次は巴と」

 

「最近寄ってなかったからな」

 

 

 

マグカップを買い終わり、今度は巴が服を見たいと言うのでショッピングモールの中にある服屋さんへ。しかし、ここで問題が生じる。

 

 

 

 

「ここ女性服専門店じゃねぇか」

 

「当たり前だろ、私の服見るんだから」

 

「いや、俺入れないじゃん」

 

「え、何で?」

 

「え......いや、え?」

 

 

 

如何にも自分には意味がわからないという風に巴が返答してきたので思わず聞き返してしまった。普通女性服専門店に男は入らないよな?これ俺が間違ってんの?

 

 

 

「蘭〜、あっち見てみようよ〜」

 

「ちょっとモカ引っ張らないで」

 

「私達はあっち行こうよつぐ!」

 

「でも......」

 

 

 

俺の事は知らんぷりのモカは蘭を引っ張って既に入店。ひまりもつぐみを誘って中に入ろうとするが、何やらつぐみが先程からチラチラとこちらを見ている。

 

 

 

「ああ、そのマグカップ持っといてやるから行ってこいよ」

 

「い、良いの?」

 

「つぐみも見たいんだろ?ほら、ひまりもう行ってるぞ」

 

「ありがと宗輝君」

 

 

 

つぐみからマグカップの入った袋を受け取り、それを確認したつぐみはひまりを追って店内へと足を運んでいった。そうなると、必然的に二人しか残らない訳である。

 

 

 

「宗輝は私と一緒に回るんだぞ」

 

「マジで俺入んなきゃいけない?」

 

「入らなかったら後でひまりに有る事無い事言うから」

 

「おい、無い事は無いって言えよ」

 

 

 

こうして半強制的に人生初の女性服専門店に入場。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ〜、お客様お手持ちの荷物はここへ置いても構いませんよ」

 

「あ、はい」

 

 

 

入店後、すぐに女性店員に声をかけられてマグカップ入りの袋を荷物置きと書かれたスペースへ置く。

 

 

 

「それではごゆっくりどうぞ〜♪」

 

 

 

 

「なぁ巴、何でさっきの店員さんちょっと笑顔だったんだ」

 

「知らん、それより早く回ろうぜ」ウキウキ

 

 

 

俺の質問を即座に切り捨てる巴。そういや巴ってファッション好きだったな。尚更俺ついていく意味ないと思うんだけど。

 

 

 

「ふーむ、これは......」

 

「......」

 

 

「こっちも中々......」

 

「......」

 

 

「でもこれも捨て難い......」

 

「ねぇ巴さん私要ります?」

 

 

 

 

巴が服を物色し一人悩んでる隣で静かにキョロキョロする俺。完全に側から見たら不審者確定なんですけど良いんですか、良いんですね。

 

 

 

「実は宗輝にも選んで欲しくてな」

 

「最初からそれ言おうよ......てか俺ファッションなんか知らんぞ」

 

 

 

聞かれてないから言ってないけどファッションには疎い俺、最近は有咲や沙綾、それに彩だったり千聖さんだったりと何かとファッションについてはみんなにアドバイスを貰うことが多い。リサとかに限って言えば聞いてなくても向こうから"これ宗輝に似合いそうだねー"ってLINE送ってくる始末。

 

 

 

 

「まぁ俺の足りない頭で考えたので良ければ」

 

「それで頼むよ宗輝」

 

 

 

それからは主に俺の主観に頼って選んだ。勿論、服だけでなく全身コーディネート。最近の服屋は何でもあるんだな。今度は香澄達連れて行こう、普通の服屋に。

 

 

 

 

「よし、これ試着してみてくれ」

 

「......本当に着なきゃダメか?」

 

「元はと言えば巴からだろ」

 

 

 

いざ試着してくれと言ったら渋る巴。少し恥ずかしがっているようにも思えるがスルー。そんなこと気にしちゃダメ。

 

 

 

 

それから数分後。

 

 

 

 

カシャ

 

 

 

「......ど、どうかな?」

 

 

 

 

試着室からモジモジしながら出てくる巴。パンツはシンプルにデニム、上は赤のニット素材で出来た物を合わせてみた。靴もシンプルにスニーカー。最近流行りのタックインというやつも採用。

 

 

 

「うむ、やっぱり似合うじゃん」

 

「こんなの着たことないからちょっと恥ずかしい」///

 

「自信持てよ巴、めちゃくちゃ可愛いぞ」

 

「〜ッ!!」///

 

 

 

今にも沸騰しそうにしている巴、可愛い。前々から巴にはこういうシンプルなファッションも似合うとは思ってたけど、巴自身なんというかバンドマンっぽい服しか着てなかったからな。これを機に違うジャンルにも手を出して欲しいものである。

 

 

 

「あ!巴それ可愛い!」

 

「本当だ、ともちん変身してる〜」

 

「やめろ、見ないでくれ......」///

 

 

 

それから終始顔を赤くしていた巴だが、無事俺のコーディネートした服を購入。店員にそのまま着ていくか聞かれたので俺が代わりに答えておいた。せっかく買ったんだし勿体無いよな。巴には一発キツイの入れられたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

~スイーツ店~

 

 

 

 

 

「私どれにしよっかな〜?」

 

「モカちゃんこれ二つ〜」

 

「食べ過ぎんなよお前ら」

 

 

 

一向に店から出ようとしない巴の手を引き、今度はひまりとモカが行きたがっていたスイーツ店に来た。途中周りの人から巴と俺を見る目が凄かったが、俺のお得意技のスルー技術で難なくクリア。

 

 

 

「蘭は何にするんだ?」

 

「モカからちょっと貰うだけで良い」

 

「ならもう一つ追加で〜」

 

「私これに決めた!」

 

 

 

女の子は甘いもの好きって言うけどやっぱりそうなんだな。店入ってからひまりの目のキラキラが止まらん。

 

 

 

「巴は何にする?」

 

「もう何でも良いから手を離してくれ宗輝」

 

「すまん忘れてた」

 

 

 

手繋いだままだと食べれるもんも食べれないもんな。巴は好き嫌いないって言ってたし大丈夫だろう。あこはピーマン嫌いで全く口にしないらしいけど。

 

 

 

「宗輝はここ座る!」

 

「次はお前かよひまり」

 

「モカちゃん隣失礼しま〜す」

 

「狭いんだけど」

 

「我慢してくれ蘭」

 

 

 

またもやテーブル席で4人と2人とか言う意味わからん感じで着席してしまった。なに、こういう座り方が流行ってんの?最近のJKは全く分からん。

 

 

 

「ご注文の品は以上でしょうか?」

 

「はい!」

 

 

 

数分後に到着した品物に目を輝かせているひまり。しかしながら、流石今を生きる現役女子高生、"先にブツ撮りだね!"とか言って何枚か写真を撮った。それからみんなで頂きますして食べ始める。

 

 

 

「エモい味ですな〜」

 

「ん〜、これ甘くて美味しい!」

 

 

 

どんどん食べ進めていく5人。俺自身スイーツなんかそんなに食べる機会なかったからゆっくり楽しみたいんですけど。

 

 

 

「もう一個食い終わったのか」

 

「このスイーツがエモいからね〜」

 

「マジで何でそれで太らないんだよ」

 

「全部ひーちゃんに送ってるから〜♪」

 

「やめてモカ!それ以上食べないでー!!」

 

 

 

そうやって二人で遊ぶ分には良いんですけど俺を挟んでることお忘れなきよう。さっきからひまりの2つのたわわとモカの適度に育ったナイスバディが。ここから先は言わなくても察しろ。

 

 

 

「ん、どうした蘭」

 

「いや、別に何でもない」

 

「なんだよ、これ欲しいのか?」

 

 

 

俺が頼んでいた苺のショートケーキを見つめていたような気がする。そういやモカに貰うって言ってたけど、もうモカ2つ食べちゃってるし。俺もそんなに要らないからちょっとあげてもいいかな。

 

 

 

「欲しいならあげるよ」

 

「......本当に?」

 

 

 

おうふ、珍しく蘭が素直になってる。本来であれば"そんなの要らないもん!"とか言うはずなんだけどな。俺の脳内妄想の中ではちょっとお子ちゃまの蘭もGOOD。

 

 

 

「ありがと宗輝」

 

「どういたしまして」

 

「あ〜蘭ズルイな〜」

 

「これは私が貰ったから」

 

 

 

俺があげた苺のショートケーキを大事そうにしてパクパク食べ始める蘭。ほっぺに生クリームがついてるのに気付かず食べ進める蘭。今日はつぐみといい巴といい蘭といい可愛い路線なのか?

 

 

 

「蘭、ほっぺについてる」ペロッ

 

「あ、ありがと」///

 

「美味しいか?」

 

「うん、すっごく美味しい」

 

「そりゃ良かった」

 

 

 

ほっぺについてるクリームを人差し指でとり口の中へ運ぶ。少ない量だったがそれでも口いっぱいに広がる甘み。甘いもの自体そこまで好きではない為蘭にあげて正解だった。

 

 

 

「ねぇねぇ宗輝見て!」

 

「なんだよ......お前それワザとだろ」

 

「とってよ!」

 

「やだよ、自分でとれ」

 

 

 

ひまりが真似をしてクリームをほっぺにベタ塗りして店員さんに注意されたのは笑えた。

 

 

 

 

 

 

 

~羽沢珈琲店~

 

 

 

 

 

 

「マジで疲れた〜」

 

「楽しかったよね!」

 

「まぁ楽しかったけど」

 

「また行こうよ!」

 

「良きに計らえ〜」

 

「それは違うと思うぞモカ」

 

 

 

スイーツを堪能してからフラフラ回っていたが、もうやることも無くなった為つぐみの家へ帰宅。少しの間外で待たされたけどみんなしてどこ行ってたんだ?お花摘みにとかだったら良いけど。一人だけ仲間外れとか嫌だからね?帰ってからは早速買ったマグカップを使うことに。

 

 

 

「これでみんなお揃いだな」

 

「買って良かったね宗輝君!」

 

「おう、感謝しろよお前ら」

 

 

なんてったって、つぐみ以外の分俺の財布から出てるからな。パスパレのマネージャー料金でお金入ったしそこまで痛手では無いけど。

 

 

 

「じゃあ俺はこの後CiRCLEでバイトだから」

 

「待った宗輝」

 

「ん、何だよ」

 

「これ、私達から」

 

 

 

そう言って蘭から渡されたのは小さな箱。

 

 

 

「開けてみても良いか?」

 

「勿論!」

 

 

 

小さな箱を開けてみると、中には綺麗なネックレスが入っていた。見た感じシルバーだしヘッドの部分も凝って作られてるから高いはずなんだけどな。

 

 

「これ貰って良いのか?」

 

「むしろ貰って欲しいね〜」

 

「私達全員からのプレゼントだ」

 

 

少し泣きそうになってしまうが我慢、流石に恥ずかしすぎる。ひまりが早く着けてみてと言わんばかりの表情をしている。まぁ実際着けないと実感湧かないしな。

 

 

「どう、似合う?」

 

「まぁカッコいいんじゃない」

 

「良かったね蘭〜」

 

「蘭が選んでくれたのか?」

 

「......まぁ」

 

 

だからヘッドの真ん中に埋め込まれてる石みたいなのが赤色してんのか。それにしてもマジで綺麗だなこれ。今まで安物しか付けてなかったから素直に嬉しい。

 

 

 

「ありがとな、蘭。これ大切にするよ」

 

「どういたしまして」///

 

「蘭照れてるね〜」

 

「マグカップもありがとね宗輝君」

 

「おう、じゃあ俺行ってくるな」

 

 

 

 

折角だしこれ付けたまま行くか。まりなさん辺りに気付かれて質問攻めに合いそうだけど。

 

 

 

 

『行ってらっしゃい!』

 

 

 

 

 

今日はなんかいつもより頑張れる気がする。

 

 

 

 

 

~To Be Continued〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「さぁ今回のおまけのコーナー!」

 

 

宗輝「今回のゲストは、蘭とモカだ!」

 

 

モカ「っしゃーす」

 

 

蘭「何これ」

 

 

宗輝「まぁ適当に話するだけだ」

 

 

モカ「それならモカちゃん得意だよ〜」

 

 

宗輝「モカ、あのネックレス高かっただろ?」

 

 

モカ「ん〜、みんなで3.4千円は出したね〜」

 

 

宗輝「そんなにすんのかあれ」

 

 

モカ「まぁ蘭たってのお願いですからね〜♪」

 

 

蘭「モカ!それは言っちゃダメ!」///

 

 

宗輝「何でいきなりプレゼントなんだ?」

 

 

モカ「それはね〜」

 

 

蘭「ダメだってばモカ〜!!」

 

 

宗輝「モカ、今度やまぶきベーカリーの人気パン取り置きしといてやる」

 

 

モカ「後でメールしとくね〜♪」

 

 

蘭「もう〜、二人とも〜!!」///

 

 

宗輝「蘭可愛いな」

 

 

モカ「蘭可愛いね〜」

 

 

蘭「もうヤダ......」

 

 

 

 

-End-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Happy Birthday to モカ ♪

 

 

 

 




今日はモカのお誕生日ということでアフグロ回にしてみました!
前回ネタ不足を呟きましたが、おまけコーナーのネタ何やって欲しいか具体的なものあれば活動報告までよろしくお願い致します。どのキャラでやって欲しいとか何でも構いませんので。

もうちょっとでお気に入り200突破できる......!!


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Produce 31#破茶滅茶ミッシェルランド


お気に入りが先日200を突破した主です。
ここ一週間ほど200行くか行かないかの間を彷徨ってました。
お気に入りして頂いている方、この拙い作品を見て頂いている方全員に感謝致します。

お気に入りまだの方、是非。

それでは、31話ご覧下さい。



 

 

 

「なぁ美咲」

 

「なに宗輝」

 

 

「これは流石にヤバいだろ」

 

「これは流石にヤバいね」

 

 

 

 

 

 

『恐ろしや弦巻家......』

 

 

 

 

「さぁみんな、行くわよー!!」

 

 

 

 

 

 

 

~遡ること数日前~

 

 

 

 

 

ピンポ-ン

 

 

 

「ん、この真昼間に誰だ?」

 

「お兄ちゃん出といて〜」

 

「りーかい」

 

 

 

今日は土曜日、久し振りにバイトも無いし予定も入ってないからゴロゴロできる日。先週はショッピングモールにその前は遊園地。お陰で次の日の学校の授業ほとんど寝てた。

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

「斎藤様、ご無沙汰しております」

 

「帰って下さい」

 

「それは無理な相談でございます」

 

 

 

来訪者はまさかの黒服さん。なんでこころの身辺警護班リーダーの黒井さんがここにいるんですかね。身辺警護班なら身辺警護班らしくこころの近くにいるべきじゃないですか?

 

 

 

「今日はお嬢様の命で参りました」

 

「一応聞きますけど」

 

「斎藤様を連れてきて欲しいと」

 

「はぁ......ちょっとだけ待ってもらっていいですか」

 

「勿論でございます」

 

 

 

 

そう言って一度ドアを閉めて準備するために自分の部屋へ向かう。

 

 

 

 

「およ、どっか行くのお兄ちゃん?」

 

「すまんが遅くなるかもしれん、夕飯は一人で食べててくれ」

 

「令香もついて行こうか?」

 

「ダメ、お前を連れては行けん」

 

 

 

 

何故だろう、こころと令香を合わせてはならないと俺の本能が言っている気がする。

 

 

 

「んじゃ行ってくる」

 

「ちゃんと帰ってきてね〜」

 

「それはこころ次第だろうなぁ......」

 

 

 

少し億劫な気持ちになりながらも、外に停めてあった車へ乗り込み弦巻家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

~弦巻家~

 

 

 

 

 

「私達は仕事に戻りますので」

 

「毎度ご苦労様です」

 

 

 

数分で弦巻家に到着。そこまで近くはないはずなのだが、普通に車で走ってて周りの車が道を譲るってどゆこと?快適すぎて逆に気持ち悪かった。

 

 

 

 

「お邪魔しま〜す」

 

「斎藤様、いらっしゃいませ」

 

「こころってどこにいます?」

 

 

 

玄関のドアを開けるや否やメイドさんが現れた。しかもかなりの美人。年はそんなに離れていないように見えるが、今は急いでおこう。遅れると何されるか分からん。

 

 

 

 

「よし、ここだな」

 

 

 

メイドさん曰く、こころは現在ティータイムなるものをしているとのこと。ティータイムってあれだろ、高級なお菓子を美味しい紅茶の香りを楽しみながら食べるやつ。いきなり入って驚かせたりしないように少し息を整える。

 

 

 

 

「俺なら大丈夫だ、問題ない」

 

「何が問題ないのさ」

 

「何って......え?」

 

「何驚いた顔してるの」

 

 

 

独り言のつもりだったのだが、俺の後ろには美咲がいた。いかにもそこにいるのが普通であるかのように。驚かさないようにとか思ってたが、逆に驚かされてしまった。情けない。

 

 

 

「何でいんの?」

 

「多分宗輝と同じ理由」

 

「いきなり呼ばれたとか?」

 

「正解」

 

「......お前も苦労してんな」

 

 

 

個人的な判断でいくと、多分美咲は5バンド中一番の苦労人ではなかろうか。ハロパピ3馬鹿をまとめあげ、且つ自分のやるべきことをしっかりとやっている美咲には頭が上がらない。まぁ美咲も美咲でそれに慣れてしまっている部分が多少見られるので、もはや美咲もヤバいと俺は思ってる。

 

 

 

「取り敢えず中に入ろうよ」

 

「そうだな」

 

 

 

再度息を整えドアを開ける。

 

 

 

 

「あら、宗輝も来てたのね!」

 

「むーくん久しぶり!」

 

「おうよ」

 

 

 

ドアを開けてこちらに気付いたこころとはぐみが元気良く声をかけてくる。こころは目をキラキラさせて今にも尻尾振ってそうな子犬に見えたり、はぐみはどこか香澄と似ているので案外合わせやすかったりする。

 

 

 

「御機嫌よう宗輝」

 

「宗輝君もこころちゃんに?」

 

「まぁそんな感じですね」

 

 

 

"あぁ、儚い......"とか言ってる薫先輩はいつもの如くスルー。花音先輩が頭の上にクエスチョンマークを出していたので曖昧に答えておく。

 

 

 

「今日はこの6人でいーっぱいお話しましょう!」

 

「聞いてよこころん!はぐみ前ね!」

 

 

 

ティータイムとやらはいきなり始まる。はぐみが元気良く最近あった出来事やら学校であった事やらを話しているのを横目に空いている席に座る。

 

 

 

「はい、これ」

 

「ん、あんがと」

 

「今日はどんな手口だったの?」

 

「普通にピンポンされて連れてきてもらった」

 

「案外まともだったね」

 

 

 

美咲の言う通り、今回のように強制的ではない手段を取ることはあまり無かった。まぁ半強制的なとこあるけどな。逃げたら逃げたで何されるか分からん。それに行きたくないって訳でも無いし。

 

 

 

「相変わらずこの紅茶美味いな」コトッ

 

「ありがとうございます」スッ

 

「うおっ!何ださっきのメイドさんか......」

 

「私の事はメイドちゃんとお呼び下さい。あ、メイド様でも可ですよ」

 

「やけに親しくないですかそれ。様は流石に呼びませんし」

 

 

 

いきなり出てきたと思ったら意味不明な呼び方を強要してくるメイドさん。いや、メイドちゃん。それにしてもマジで美人さんだなぁ。黒井さんといいメイドちゃんといい目の保養ができるから助かる。あ、言ってなかったっけ、黒井さん女性だかんね。

 

 

 

「因みにおいくつで?」

 

「女性に歳の話は禁物ですよ」ゲジッ

 

「いってぇ!!ちょ、足!足踏まないで!!」

 

「因みに今年で20歳です」

 

「結局教えてくれるんだったら踏まないで頂きたい」

 

「なんかムシャクシャしたのでつい」

 

 

 

あくまでもこころん家のメイドなのにこんなことあってもいいのん?いや、美人なメイドさんに踏まれるとか......変な事考えてんな俺。煩悩退散、108もあったら時間かかるからやっぱやめとこう。もう一度話しかけようと思ったら、既にメイドちゃんは居なくなっていた。

 

 

 

 

「ねぇねぇむーくん!」

 

「何だはぐみ、コロッケならもう食べれないぞ」

 

「コロッケならまだいっぱいあるよ!」

 

「うん、会話になってないな」

 

「でね、この前のソフトボールの試合でね!」

 

 

 

見事にスルー、流石の宗輝君もこれにはノックアウト。久し振りに会ったので少し頭の中を整理し直そう。こころ、はぐみ、薫先輩は三馬鹿。ここ重要。

 

 

 

無性に誰かに慰めてもらいたくなったので美咲の方へ頭を傾ける。すると、美咲は察してくれたようで頭を撫でてくれた。顔を赤く染めながらではあるが。

 

 

 

 

「最後はホームランで......って、むーくん聞いてる⁉︎」

 

「聞いてるぞーちゃんと聞いてる、美咲もっと撫でて」

 

「急な幼児退行やめなよ......」ナデナデ

 

 

 

そう言いつつも撫でてくれる美咲はとてもプリティである。一家に一人は欲しいものだ。美咲と令香が妹とか最高かよ、ダブルエンジェルの誕生だな。大天使ツグミエルと合わせて天使3姉妹。

 

 

 

「こころちゃん、何か聞きたいことがあるんじゃなかった?」

 

「そうよ、花音思い出させてくれてありがと!」

 

「あ、うん」

 

「何だか嫌な予感する」

 

「同感だよ」

 

 

 

こういう時って大体当たるよね。美咲の撫で撫でタイムを惜しくも中断し臨戦態勢をとる。

 

 

 

「美咲、ミッシェルは来ないのかしら⁉︎」

 

「え、ミッシェル?」

 

「そうよ、誘っても一度も来てくれないじゃない」

 

「そんなこと言われてもなぁ」

 

「きっと恥ずかしがり屋さんなんだね......」

 

 

 

まだこの人達にバレてないのか。というより流石に気付こうよ。花音先輩はふえぇぇとか言ってるし、美咲は頭抱えてるし。これじゃあ美咲の負担が増える一方だ。何とか解決策を見つけなければ!

 

 

 

「まずミッシェルのお家は何処かしら?」

 

「さ、さぁ......」

 

「むーくん知らない?」

 

 

 

ミッシェルのお家だろ?そんなもん美咲ん家に決まっ......てないな、うん。危ねぇ、危うくネタバレするとこだったぜ。いや、してもいいんだけどね。

 

 

 

だがしかし、ここで重大なミスをやらかす俺。

 

 

 

 

 

 

 

「あれだ、ミッシェルランドとかじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

自分でも何言ってるか分からなかったよ。

 

 

 

「まぁそれは流石に......」

 

 

「わぁ!ミッシェルランドなんて素敵ね!」

 

「はぐみそんなとこ知らないよ!」

 

「つまり......そういうことさ」

 

 

 

こういうことはこころの前では禁句。弦巻家の力を舐めてはいけない。それを身に染みて分かってるはずなのにここ一番でやらかす。

 

 

 

「きっと遊園地みたいなところで、ミッシェルが沢山いるのね!私そこに行ってみたいわ!」

 

「はぐみも行きたいよ!」

 

 

 

「宗輝」

 

「はい、何でしょう」

 

「それ一番やっちゃいけないやつ」

 

「反省はしてます、後悔もしてます」

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻り現在ミッシェルランドなる場所へ来ている。ん、回想が長い?仕方ねぇだろ、こころ可愛いから許してやれ。

 

 

 

あれからはトントン拍子で話が進んだらしい。情報はメイドちゃんがリークしてくれた。まぁ発信元もメイドちゃんなんだけどな。理由:面白そうだったのでクロちゃんに報告しときました、だってさ。あ、クロちゃんって言ってもしんしん煩い方じゃないから。黒井さんの方だからな。あの二人実は仲良しらしい。

 

 

 

 

 

「これは俺悪くないよな、美咲」

 

「それ私じゃない」

 

「あれ、こっちか」

 

「それも偽物」

 

「モノホン何処にいんだよ」

 

 

 

 

見渡す限りミッシェル。まぁ面白いことに他の人なんて居やしない。それもそのはず、メイドイン弦巻家なんだもの。完全にプライベート遊園地である。

 

 

 

 

「むーくんあれ乗ろ!」

 

「......ミッシェルコースター~心臓を捧げよ~」

 

「何だか面白そうね!」

 

「わ、私は遠慮しておこう......」

 

「ふえぇぇ......」

 

 

 

 

なんでジェットコースター一つで心臓捧げなきゃいけないんだよ。ここ遊園地であってる?何処ぞの漫画の世界じゃないよな?

 

 

 

それから誘導員の黒服さんに案内されてジェットコースターへ。見事にミッシェルを再現したコースターに俺、こころ、はぐみ、花音先輩、薫先輩の5人で搭乗。薫先輩は無理やり引っ張って連れてきた。なんか怖がる薫先輩可愛いやん?(ドS)

 

 

 

 

「ワクワクするねこころん!」

 

「そうね!今から楽しみだわ!」

 

「そんなに高くないよね?」

 

「......」プルプル

 

 

 

はぐみやこころはいつも通りはしゃぎながら、花音先輩は高さの心配、薫先輩は先程から無言でプルプル震えてる。

 

 

 

「いや、花音先輩これ高いですよ」

 

 

 

俺がそう伝えたのは、ミッシェルコースターが頂点へと達した瞬間。

 

 

『Let's go ミッシェル♪』

 

 

 

そんな掛け声と共に急降下を始めるミッシェルコースター。

 

 

 

 

 

 

「わぁぁぁぁぁい!!」

 

「楽しいねむーくん!」

 

「約一名死にかけだぞ」

 

「ふえぇぇぇぇ!!!」

 

「......」プルプル

 

 

 

 

結局、終始震えてしかいなかった薫先輩であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「宗輝ー!今度はあれにしましょう!」

 

「......ミッシェルの館~恐怖体験ハピネスマジカル~」

 

 

 

ハピネスでマジカルな恐怖体験なんてしたくない。これ作った人ネーミングセンス疑うよ?軽くサイコパス拗らせてんじゃないのよ。

 

 

 

「でもはぐみ達は違うの行ったぞ」

 

「二人で行けばいいじゃない!」

 

「まぁそうなんだけど」

 

 

 

 

てなわけで、こころと二人きりでミッシェルの館へと侵入。どうせ中は黒服さんだらけなんだろうけど。

 

 

ミシミシ

 

 

「何だか凄いリアルね!」

 

「本当にこれ数週間で作ったクオリティか?」

 

 

 

何だかデジャヴ。彩といったお化け屋敷もこんな感じで古臭かった。妙にリアリティ追求しすぎな。空気もひんやり冷たいし。

 

 

ピチャ

 

 

「ひゃ!!」

 

「大丈夫かこころ」

 

「ええ、大丈夫よ」ムギュ

 

 

 

どうやら上から水滴が落ちてきたみたいだ。流石のこころもビックリしてる。問題はその後だ。左腕に抱きついて離れないこころ。2つの魅力的な果実の感触がモロに伝わって変に意識してしまう。こころってスタイル良いし出るとこ出てるからマジで勘弁してほしい。

 

 

 

「こころ、出来ればもう少し離れて欲しい」

 

「こうすればはぐれることもないでしょう?」ギュッ

 

「おぉう、ここにきてド正論きた」

 

 

 

更に腕を組む力を強めるこころ。あのー、実はこころさん怖かったり?腕に当たる柔らかい物が気持ちよく......ケフン、気になって仕方ないんですよね。少し怯えながら進んでいくこころは可愛い。意外な一面を見られて役得である、二重の意味でな。

 

 

 

それからはお約束のミッシェル達が次々に出てきて正にミッシェルの館と言うべきだろう。誰か驚かせに来た時"お嬢様ー!!"とか言ってたの聞こえたけどな。俺の予想、多分黒井さん。きっと園内にはメイドちゃんもいるだろう。

 

 

 

 

「ふぅ、やっと出口だな」

 

「そんなに怖くはなかったわね!!」

 

「おもいくそ怖がってたろ」

 

「あ、あれは演技よ!」

 

「はいはい、可愛い可愛い」ナデナデ

 

「むぅ......」///

 

 

 

娘が産まれたらこんな感じなんだろうなぁと思った。リスのようにほっぺを膨らませてあからさまに機嫌を悪くしているこころ。ぷくーっとしているが無駄だ、こころは可愛いから何しても可愛い。さっきから可愛いしか言ってねぇな。

 

 

 

「じゃあみんなと合流するか」

 

「そうしましょう!」

 

 

 

花音先輩が迷子になったので一度園内のお店に集合。こころと手を繋いで帰ったので美咲に少し問い詰められたけど何とか言い訳しといた。最初は普通に繋いでたのに途中から恋人繋ぎになってたのは俺が一番驚いた。

 

 

 

 

「んで、最後にこれと」

 

「うん、ちょっと行ってみたいなぁって思って」

 

「完全に花音先輩の為に作られてますよね」

 

「絶対そうでしょ」

 

 

 

それは何故か。そんなもん簡単だ、遊園地に普通水族館なんて無いだろ。そもそも遊園地は遊園地で楽しみたいし水族館は水族館で楽しみたいんだよ。"スマイル水族館~あなたの人生にクラゲの癒しを~"って完全に花音先輩狙ってるだろ。

 

 

 

 

「一つ聞くけど、何で美咲いんの?」

 

「もうミッシェルは疲れた」

 

「キャラ、キャラがブレてんぞ美咲」

 

「これだけいるんだから良いでしょ」

 

「さぁ、美咲も一緒に行くわよ!」

 

 

 

 

何故気付かないこころ、朝来た時は美咲居なかったんだよ。

 

 

 

「じゃあ、私達も行こっか」

 

「はい、花音先輩迷子だけはやめて下さいよ?」

 

「大丈夫だもん!......多分」

 

「最後の多分が怪し過ぎますよ」

 

 

 

この人、放っておいたら絶対迷子になるに違いない。今までも数え切れない程に迷子の場面に遭遇している。やれコンビニに行くのに迷ったやら、郵便局どっちだっけとか、宗輝君の家どことかな。ちょっと最後のは聞き捨てならない気もするが置いておこう。

 

 

 

「ほら、行きますよ」ギュッ

 

「ふえぇぇ......何で手なんか繋いでるの?」

 

「迷わないようにするにはこれが一番ですからね、もしかして嫌でした?」

 

「ううん、嫌なんかじゃないよ!」

 

 

 

癒しの権化である花音先輩に拒否られた日には一日中家に篭って枕を濡らす自信があるぞ。にこっと笑って握り返してくれる花音先輩はやはり可愛らしい。一つ年上のはずなんだが妹のように見えてしまう。これは俺特有の病気なのだろうか?

 

 

 

 

それからと言うもの、見事にクラゲだらけの水族館の中を花音先輩と二人で歩きながら見て回った。こうしてじっくりと見るのは初めてだけど、案外クラゲも可愛いもんだな。言っちゃ悪いが中には少し気持ちの悪いやつもいたけど。クラゲを見て"えへへ、やっぱり可愛いなぁ"とか呟いてる花音先輩。俺から言わせてみればあなたの方がよっぽど可愛いですよ、とは言えず心の中にしまっておく。

 

 

 

 

「こんなクラゲ初めて見たよ宗輝君!!」

 

「何ですか......"ミッシェルクラゲ"クラゲ科ミッシェル目のクラゲで、とあるバンドのDJに似ている点が特徴。時々やさぐれた様な表情をする」

 

 

 

ミッシェルクラゲって大体何だよ。とあるバンドはハロパピで確定でいいとして、時々やさぐれた様な表情ってこれ完全に美咲じゃんか。よく見てみると確かに美咲に似てる様な似てない様な......ダメだ、これ以上は考えない様にしよう。

 

 

 

「花音先輩、前に進みましょう」

 

「うん、分かった!」

 

 

 

終始テンションが高かった花音先輩。後に、ミッシェルクラゲは新しい品種として登録される事となった。

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったわね!」

 

「はぐみ何だか疲れちゃったよ!」

 

「流石に私も疲れてしまったよ」

 

 

 

 

スマイル水族館を回り終え、時間も時間なので帰ることにした。まぁお迎えが来たからって言うのが本当の理由。何故かメイドちゃんが俺の携帯番号知ってて電話かけてきたからな。もう宗輝君驚かないよ。

 

 

 

「お疲れ様美咲ちゃん」

 

「花音先輩、ありがとうございます」

 

「ここ数ヶ月後にはグランドオープンするらしいぞ」

 

「これ需要あるの?」

 

「少なくともハロパピファンにはあるだろ」

 

 

 

こころの"世界中を笑顔に"というモットーがある限り、弦巻家は止まらないだろうな。物理的にも精神的にも。

 

 

 

 

「じゃあここでお別れね!」

 

「また明日ねみんな!」

 

 

 

あれだけ遊んだというのに元気な二人。薫先輩は一人で物思いにふけっているので放っておいてあげる。黒服さん達の車がやっとこさ到着し次々と乗り込んでいく。どうやら俺の帰りの運転手は黒井さんらしい。

 

 

 

「家までお願いしますね」

 

「命に代えましても」

 

「命までは張らなくて良いです、というかミッシェルコースターの心臓を捧げよってもしかして......」

 

「私は勘の良い宗輝君、案外好きですよ」

 

 

 

こんな感じでどうでも良いことを話しながら我が家へ到着。出てきた母さんと父さんが目を丸くして驚いていたが気にしない。黒井さんに挨拶をしてささっと帰宅。

 

 

 

「たでーま」

 

「案外早かったねお兄ちゃん」

 

 

帰って早々リビングへと通じる扉から令香が出てきた。ぶかぶかのTシャツにショートパンツとラフな格好をしているので何処かへ出掛けていたのだろう。普段はパジャマorジャージ。勿論、どれを着せても可愛いのが自慢。

 

 

 

「その分凝縮してたよ、何とは言わないけど」

 

「じゃあ一緒にご飯でも食べよっか」

 

「そうだな、疲れたから後で耳かきよろしく」

 

「お兄ちゃんもよろしくね♪」

 

「おう、任せとけ」

 

 

 

 

家族全員で食卓を囲み楽しんだ後、風呂へ入り予定通り令香に耳かきをしてもらい俺もしてやった。今日は何があったやらどうしたのやら根掘り葉掘り聞いてきたので適当に話してやってたけど途中から適当過ぎて話逸れてたな。

 

 

 

 

余程疲れていたのか、その日はいつもより早めに就寝した。

 

 

 

次の日の朝一番に久し振りの香澄得意技"寝起きダイブ"をかまされて寝起き状態であった俺には効果バツグンであった。

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「さぁおまけのコーナー!」

 

 

宗輝「今回は、ポピパから沙綾&おたえだ!」

 

 

沙綾「そのテンションで毎回やってるの?」

 

 

宗輝「まぁな」

 

 

おたえ「むっくん、あれ食べて良い?」

 

 

宗輝「おたえ、あれは食品サンプルだ」

 

 

おたえ「ならあれは?」

 

 

宗輝「あれはおもちゃだ」

 

 

おたえ「むぅ、お腹すいた」

 

 

宗輝「なら待ってろ、俺が作ってやるから」

 

 

沙綾「私も手伝うよ」

 

 

宗輝「おお、ならまた写真を......っと危ねぇ」

 

 

沙綾「写真?どうゆうこと宗輝」

 

 

おたえ「むっくん隠れて沙綾の写真撮ってるらしいよ」

 

 

宗輝「ちょ、おたえさん密告しないで」

 

 

沙綾「誰に見せてるの?」

 

 

宗輝「ち、千紘さん......」

 

 

沙綾「今すぐ消して」

 

 

宗輝「はい(残念ながらPCにバックアップが)」

 

 

沙綾「おたえ、PCの電源も付けといて」

 

 

おたえ「パスワードは?」

 

 

沙綾「香澄の誕生日」

 

 

宗輝「ねぇ何で知ってるの?やめて、見ないで沙綾のエッチーッ!!」

 

 

 

 

 

-End-





最近、ガルパラジオwith Afterglowを聞きながら寝るのにハマってます。
三澤さん、可愛い。ゲストの皆さんも毎回面白くて飽きないですね。ウチの作品にもラジオ取り入れてもいいすかね?
見た感じ他の方の作品にもあるようなので先に言っときます。
パクリやら真似やら気になる方いましたらやめときます。


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Produce 32#ちょまかわ裁判


少し勤務形態が変わった主です。
前述の通り、勤務形態が変わったので更新時間が変わってくると思いますが、基本的な部分は変えませんのでご安心を。
アンケートの結果に倣って頑張って週2は目指そうと思いますので。

それでは、32話ご覧下さい。


 

 

 

波乱万丈なミッシェルランドを堪能した次の日、香澄に起こされて連れてこられたのは有咲の家の蔵。既に7月に入っており日差しが煩く照りつけている。セミは忙しなく鳴いており、まさに夏を感じさせる天候だった。

 

 

 

「有咲〜」

 

「来たよ〜」

 

 

 

失礼ながら俺も香澄も間の伸びたゆる〜い挨拶をしながら門をくぐる。庭には有咲と有咲のお婆ちゃんが丹精込めて育てた盆栽が所狭しと並んでいる。残念ながら俺には盆栽の才能が無いらしく、前は有咲に"もうちょっと勉強してからこい!"と言われてしまった。

 

 

 

「あら、いらっしゃいお二人さん」

 

「ご無沙汰してます」

 

「有咲なら蔵にいるよ」

 

「ありがとうお婆ちゃん!」

 

 

 

優しく微笑んで送ってくれる有咲のお婆ちゃん。手にはほうきを持っていたので、おそらく庭の手入れだろう。いつもお世話になっているので手伝って行こうとも思ったが我らが姫を怒らせるわけにはいかないので帰りにでも手伝おう。

 

 

 

「有咲来たぞ〜」

 

「適当に座っててくれ」

 

「何で今日は私達呼んだの有咲?」

 

 

 

実のところ、香澄にすら今日は蔵に来てくれとしか伝えてなかった有咲。ポピパの事で何か相談事か、或いは演奏自体に気になる点があるのか。

 

 

 

「宗輝......最近の出来事言ってみ」

 

「ん、まずパスパレのマネージャーだろ。あん時はマジで大変だったな。学校早退させられるわ休日に出てきて事務仕事やらされるわで疲れた。そんで遊園地行ってショッピングモール行ってミッシェルランド行ってきたぞ」

 

「むーくん居なくて寂しかったよ!」

 

「すまんすまん、今日は一日相手してやるから」

 

 

 

この前はパスパレ、その後アフグロにハロパピ。途中学校があったが学校でもベタベタな訳ではないので香澄達といる時間は割と少なかったように感じる。

 

 

 

「それがどうかしたのか?」

 

「むーくん撫でて〜」

 

「あいよ」ナデナデ

 

「学校帰りに羽沢珈琲店に寄ってイチャコラしてたり、北沢精肉店に寄ってコロッケ食べさせあいっこしてたの忘れてるぞ」

 

「お、そうだったわ確かに......ん、何で有咲知ってんの?」

 

 

 

 

おかしい、何でそのこと有咲が知ってんだよ。香澄達と別れた後つぐんちに行ってこっそりコーヒー楽しみながらつぐとお話したのダメだった?はぐみんとこにも寄ったらハロパピ勢揃いしてたからみんなでコロッケ食べたのもダメ?もしかして、情報源美咲だったり?

 

 

 

 

「逆に何でバレないと思った」

 

「いや、だってさ」

 

「ん、これ見てみ」

 

 

 

そう言って有咲が差し出した携帯の画面に映っているのは流行りのSNS。"バカップル爆誕w"とか"リア充爆発しろ"だとか"今なら羽沢珈琲店のブラック一気飲み出来る自信あるわ"とか書かれてた。みんなと食べさせあいっこしてる写真を添付されて。

 

 

 

「ごめん、急用思い出したわ」

 

「むーくん帰る?」

 

「おう、今すぐにな」ダッ

 

 

 

悪い予感がプンプンするので早めに撤退しよう。これは逃げでは無く戦略的撤退というものだ。つまり、俺は負けてない。何と戦ってるんだって話だけど。

 

 

 

そそくさと蔵から出ようと思いドアに手を掛けた瞬間、逆方向からドアが開かれた。

 

 

 

「むっくんダメだよ逃げちゃ」

 

「ちょっとお話しよっか」

 

「おたえ、沙綾もこんな朝早くにどうしたんだ?」

 

「それはね、宗輝君を逃さない為だよ?」

 

「りみりんの口からは聞きたくなかったよ」

 

 

 

見事にポピパ全員集合である。沙綾は若干怒ってるし、おたえはおたえで逃さないとか言いつつこっちに抱きついてきてるし。りみりんは相変わらずやまぶきベーカリーの袋を嬉しそうに片手に持ちつつも俺の服のちょこっと掴んできてる。

 

 

 

「だから香澄に何も伝えてなかったのか、やるな有咲」

 

「こいつに伝えるとバレる可能性があったからな」

 

「取り敢えず始めよっか」

 

「因みに何を始めようとしてます皆さん?」

 

「それは勿論......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『裁判だよ!』

 

 

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

「え〜、ではむーくん容疑者!」

 

「有咲変われよ、これじゃ全く雰囲気出ないぞ」

 

「香澄、お座り」

 

「はい!」

 

 

 

 

俺が床に正座。その前に机を置きソファに5人が座っている。裁判官を香澄にやらせていたが雰囲気もクソも無いので交代。それにしても、段々と香澄の扱いが上手くなってきてる有咲。今度香澄検定で勝負してみよう。

 

 

 

「じゃあ内容を整理しよっか」

 

「自分で吐きな」

 

「さっき言った通りだってばよ」

 

「余罪の確認しないとだね」

 

 

 

おたえ、余罪なんて言葉知ってたんだな。みんな普通に俺がボケたのスルーしたし。有咲はガチだし沙綾もどっちかっていうとガチ。りみりんは何かチョココロネ食べながらこっち見てるし。もう正直に吐いたほうが良さそうやんな。

 

 

 

「他には?」

 

「......火曜日にこころん家行って夜まで一緒に居た」

 

 

「後は?」

 

「......木曜日は蘭とモカと一緒にラーメン」

 

 

「最後に?」

 

「......一昨日は彩と千聖さんとデート」

 

 

 

「はい、アウト」

 

 

 

 

待って、俺にも言い訳させて。こころん家行ったのはメイドちゃんからいきなり電話が来てお嬢様が大変なのです!とか言われたから激チャで向かったら普通にしてた。ラーメンはこの前のネックレスのお礼でその日は蘭とモカしか行けなかったけど。一昨日のは完全にプロデューサーさんのせい。そういうところも仕事の一つよ、とか言って強制的にデート。

 

 

 

「どう思いますかみなさーん」

 

「これはアウトだね」

 

「むっくんアウト〜」

 

 

 

なんか適当になってきてない皆さん?香澄を見習え、もうウトウトし始めたぞコイツ。

 

 

「りみりんは?」

 

「まぁ......アウトかな?」

 

「最後の希望がたった今絶たれた」

 

「はい、判決。極刑な」

 

「んなアホな」

 

 

 

市ヶ谷裁判官からの判決は無慈悲にも極刑。おう、なら俺も対抗してやるよ。拳じゃなくて頭でな。人間考える為に脳みそあるってこと見せてやんよ。

 

 

 

「よーし、じゃあ今度は有咲が容疑者役な」

 

「......はぁ?」

 

「香澄起きろ、有咲が大好きだってさ」

 

「え、本当に⁉︎私も有咲大好き!!」ギュッ

 

「やめろ、離せ!!ちょ、おまえぇ!!」

 

 

 

悪いが香澄に時間稼ぎをして貰おう。そのうちに俺たちは準備に取り掛かる。

 

 

 

「沙綾、おたえ、りみりん」

 

「相変わらず好きだねこういうの」

 

「いえっさー」

 

「何するの?」

 

 

りみりん、この流れでいったら一つしかないだろう!!

 

 

 

「有咲好きによる、有咲の為の裁判」

 

 

 

「略して......"ちょまかわ裁判"だ!!」

 

 

「どこも訳せてないよそれ......」

 

 

 

 

 

俺と有咲の立ち位置を逆転させて裁判リスタート。

 

 

 

「さて、それでは被告人、前へ」

 

「はい!」

 

「お名前をどうぞ」

 

「戸山香澄です!」

 

 

俺は裁判長で、被告人が香澄。その他諸々で沙綾、おたえ、りみりん。大体俺と香澄のツートップで有咲の罪を暴こうではないか」

 

 

 

「有咲は可愛すぎるのがいけないと思います!」

 

「......ッ!!何言ってんだよお前ら!!」///

 

「お静かに、今度うるさくすれば俺の携帯に入っている秘蔵の有咲コレクションVol.1を拡散しますよ」

 

「知らない間に何やってくれてんのお前!」

 

「おたえ、沙綾、レッツゴー」

 

 

 

正座を解きこちらへ来ようとしていた有咲を二人に抑えてもらう。これくらいではまだまだ気が済まない。有咲の可愛いところドンドン出しちゃおうぜ。

 

 

 

「具体的にお願いします」

 

「えーっと、全部!!」

 

「香澄それじゃ説明になってないよ」

 

「有咲はツンデレさんだー」

 

「そう!!そこが一番重要なんだよおたえ!」

 

 

 

有咲を語る上で一番重要と言っても過言ではないぞ。たかがツンデレと侮ることなかれ。一撃必殺の有咲のツンデレ、事と場合によっては即死効果をもたらすレベル。

 

 

 

「有咲は顔が可愛い、スタイルが良い、人一倍仲間想いだし意外と世話焼きだったりもする。香澄なんかの場合モロそんな感じだけど、押しに弱いところもグッドポイント。和風が好きなのも個人的にはキュンとくる。前に見たけど盆栽に優しく微笑みながら話しかける有咲は控えめに言って尊かったな」

 

 

「ちょ、お前何言ってんの⁉︎」///

 

「はいはい出ました、ちょまかわちょまかわ」ナデナデ

 

「ふざけんなーっ!!」///

 

「ありしゃ〜!!」

 

 

 

香澄が耐えきれず有咲の元へダイブ。有咲諸共押し倒してしまった。こんな百合展開は日常茶飯事なので初見さんは驚かないようにして頂きたい。これが本当の"かすあり"である。

 

 

 

「有咲大丈夫か〜?」

 

「そう思うんなら助けろよ!!」

 

「仕方ないなぁ。香澄、こっち」クイクイ

 

「むーくん!!」ダキッ

 

 

 

招き猫のように香澄を誘導して我が腕の中へと誘う。この最後らへんの言い方、あこに言ったらめちゃくちゃ喜びそう。今度自慢げに披露しよう。燐子先輩も呼んで三人で厨二病ごっこでもするか。

 

 

 

「何でそんな片言で制御できんだよ......」

 

「何年幼馴染やってると思ってんだよ」

 

「ん〜、10年くらいかな⁉︎」

 

「惜しいな〜、香澄覚えとけよ。正確には11年と5.5ヶ月と12日だ」ナデナデ

 

「むっくん変態だ〜」

 

 

 

変態とは心外だなおたえ。俺は記憶力は良い方なんでな、昔から真剣衰弱とかババ抜きは負けた事ないぞ。香澄の相手限定ならな。コイツ馬鹿正直に目の前でカード移動させるから目で追えば楽勝なわけよ。

 

 

 

「結局何が言いたかったの?」

 

「よくぞ聞いてくれた沙綾。つまるところ、有咲は自分の事をもっと知っといた方が良いってことよ」

 

「具体的にはどんな感じなの?」

 

「流石りみりん、良い質問だ」

 

「んふふ〜、むーくんだいしゅき〜」

 

 

 

乱れつつあった場の雰囲気を一言で戻す辺り沙綾らしい。そんでりみりんもナイスチョイス。俺の胸に顔擦りつけながら告白紛いの事をしている子の事は今は放っておこう。

 

 

 

「具体的に言うとだな、今から有咲プロデュース大作戦を決行しようと思う!!」

 

「はぁ⁉︎何言ってんのお前⁉︎」

 

「市ヶ谷容疑者はお静かに、では皆さんの意見をお聞かせ下さい」

 

 

『意義無し』

 

 

有咲以外のメンバーが声を揃えて意義無しという結論に至りましたとさ。

 

 

 

 

「それでは早速行動に移るか、みんな有咲をよろしく」

 

「は、ちょお前ら待てよ!腕引っ張んなぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「てことでやって来ました」

 

「ここ前来たことあるお店だね」

 

「おたえとりみりんと三人で来たよね」

 

 

 

沙綾、おたえ、りみりんは既に来店済みだそうなお店へ到着。俺は最近の女の子のファッションの流行りとか全然知らないからその道のプロに聞いておいたぞ。リサ曰く、"あのお店なら何とかなるんじゃない?"とのこと。リサ、お前の案を信じるぞ。

 

 

 

「じゃあさっきも言った通り、誰が一番有咲に似合うコーディネートを出来るか対決な」

 

『はーい』

 

「有咲はモデルだからそこらへんで座っててな」

 

「分かったよ」

 

 

有咲も諦めてくれたみたいで大人しくしている。連れてくる途中有咲が動いて胸に手が当たってしまった時はマジで殺されるかと思ったけどな。案外有咲の反応が薄かったので助かった。

 

 

 

「それじゃ〜、よーいドン!!」

 

 

 

それからは有咲が着たらその辺の男はイチコロであろうコーディネートを探して店を回った。有咲の事を変な目でみる輩は俺が取り敢えずぶっ飛ばしといてやるから安心しろ。こう見えても柔道やら空手の類も一通り経験済みだから。

 

 

 

「んで、何でお前は俺と一緒にいるわけ?」

 

「だってむーくん今日は一日相手してくれるって言ったもん!」

 

「言ったもんってなぁ......まぁ俺とお前二人で1組でいいか」

 

「やったぁ!!じゃあ早く探そむーくん!」

 

 

 

俺としては一人でじっくりゆっくり悩みながら決めたかったんですけどね。香澄に手を引かれ取り敢えず店内を一周。それから有咲に似合う服やら何やらを決めていくことになった。

 

 

 

「これとかどうかな?」

 

「んー、俺的には......」

 

 

 

 

 

 

~試着室~

 

 

 

 

 

「本当にこれ全部着るのか?」

 

「当たり前だろ、早くしてくれ有咲」

 

「さっきから何ウズウズしてるの宗輝」

 

「待ち遠しくて仕方ないんだよ、そう言う沙綾はどうなんだよ」

 

 

 

数十分程時間をかけてみんなのコーディネートが決まったので試着室にて結果発表。勿論、全て有咲に着てもらい最終的に有咲の独断と偏見で審査する。

 

 

 

「じゃあ一個目いくぞ」

 

「どうぞ〜」

 

 

 

恐る恐る試着室のカーテンが開けられる。

 

 

 

「あれ、これ私のやつじゃん」

 

「沙綾のコーディネートか」

 

「うむ、有咲可愛いぞ」

 

「お、おう」///

 

 

 

沙綾'sコーディネートは至ってシンプル、ミニスカートに少し大きめなシャツを合わせて小物にチョーカーを付けている。靴もサンダルと全体的に軽装で今の時期にピッタリの服装で涼しそうだ。

 

 

「なんかいつも通りの感じだね」

 

「確かに有咲そんな感じだもんね」

 

「つまり有咲はいつも可愛いってことだね」

 

「おたえぇ!!」///

 

「あんま時間ないから次行ってみようか!」

 

 

 

 

あれよあれよと再びカーテンがオープン。

 

 

 

「あ、これ私の選んだやつ」

 

「おぉ、次はりみりんだね!」

 

「ふむ、有咲はやはり可愛いな」

 

「恥ずかしい......」///

 

 

 

りみりん'sコーディネートは案外予想を外し、俺の発想には無かったストレッチ素材のスキニーにニット素材の服を合わせている。今まで見たことのない雰囲気なので新鮮味を感じる。

 

 

 

「お姉ちゃんが良くこんな感じの服装してたから」

 

「言われてみれば確かにゆりさんっぽいな」

 

「じゃあ次は私の着てみてよ」

 

「おたえから指名入ったから次な」

 

 

 

最早着替えに慣れてきたのか、ものの2.3分で三度カーテンがオープン。

 

 

 

「流石おたえ、奇抜なチョイスだ」

 

「後で覚えてろよおたえぇ!!」

 

 

 

見事におへそを丸ごと見せ散らかしたファッション。下は勿論ショートパンツでスラッとした有咲の綺麗な足を拝見できる。そして何より注目すべき点は有咲の超絶可愛いおへそである。おへそが可愛いって今日日聞かねぇけど見てみりゃ分かるさ。

 

 

 

「あらお腹に小さい有咲ちゃんがいまちゅね〜♪」

 

「おま、馬鹿にすんなぁ!!」///

 

「こちょこちょこちょ〜!!」

 

「ひっ、ちょっと、宗輝やめっ......はぅ!!」///

 

 

 

おへそを見ていると何だか意地悪したくなってきたので適当にこちょこちょやってみる。するとあら不思議、みるみるうちに有咲の顔が茹で蛸のように赤く沸騰しているではないか。まぁ俺が10割原因なんだけどな。心なしか蕩けているように見える。今の有咲、正直言ってかなりえっちぃぜ。

 

 

 

「ほれほれ〜、抵抗してこんかい〜」

 

「お客様」

 

「すみません今いいとこなので」

 

「店内ではお静かに」

 

「あ、はい」

 

 

 

店員さんによって俺の極上の有咲タイムが幕を閉じた。有咲も息が上がってるようだしここら辺で我慢しとくか。また今度やらせてもらおう。

 

 

 

「最後はむーくんと私のだね!」

 

「さぁ皆の者刮目して見よ」

 

 

 

有咲もくたびれた様に室内へ戻り数分で着替え終わって出てくる。

 

 

 

「おー、何だかシンプルで良いね」

 

「有咲ちゃん似合ってるよ」

 

「もっと派手なの選ぶと思ってたけどね」

 

「残念だったな沙綾、その路線は今回に限り無しだ」

 

 

 

結局俺も香澄も選ぶことができなかったので、一度頭を真っ白にして考えてみた結果がこれだ。

 

 

内容はとてつもなくシンプル。純白のワンピースに麦わら帽、素足にサンダルと言った夏要素しかないコーディネート。しかし、このシンプルなコーディネートを着こなせることが出来るのはごく僅かな数しかいないと俺は思ってる。有咲に関しては問答無用で似合ってる、可愛い。

 

 

 

「こんなの着た事無いし恥ずかしい」///

 

「安心しろ有咲、約1名可愛すぎて自我を保ってない」

 

「ありしゃ可愛い〜!!」ダキッ

 

「かすみぃ!!」

 

 

 

またもやかすあり展開。誰得なのか分からないが目の保養にはなるので良しとしよう。決して俺が欲しているとかそんな事は無い。断じて無い。

 

 

 

「じゃあ全員分出揃った事だし1位決めようぜ」

 

「有咲どれが一番良かった?」

 

 

 

 

沙綾の質問に少し考えるようにしている有咲だが、そこまで時間を待つ事なく答えに至った。

 

 

 

 

「......これがいい

 

 

「ん?聞こえなかったからもいっかい頼む」

 

「これが一番だっつってんの!!」///

 

 

 

トマトのように顔を赤くしてプンスカ迫ってくる有咲。どうやらまた勝ってしまったらしい。いや俺大体負けてるんだけどね。小学校の給食当番のジャンケン大体負けてたし。何なら令香との勝負に限って言えば全部負けてる。

 

 

 

「じゃあ一緒に会計行くか」

 

「へ?これ買うのか?」

 

「当たり前だろ、有咲気に入ってくれてんなら尚更だよ」

 

「いや、悪いってそんなの」

 

 

 

先程までツンデレを最大発揮していたとは思えない対応ありがとう。しかしここは俺も譲れない。

 

 

 

「いつも頑張ってる有咲にプレゼントだって」

 

「でも......」

 

「貰ってくれないのか?」

 

「......分かったよ」

 

 

 

渋々了解してくれた有咲。最初から一番は買うってみんなと約束してたからな。

 

 

 

「その代わり一つだけ約束だ」

 

「約束って何だよ」

 

「絶対に無理しない事、分かった?」

 

「お、おう」

 

 

 

無理して体壊すのが一番ダメだからな。沙綾然りつぐみ然り何故かガールズバンドメンバーは無理したがる奴が多いからな。こうやって釘打っとか無いと碌な事にならない。信用してないんじゃ無い、心配してるからこそこうやって約束してる。

 

 

 

「よし、じゃあ帰りますかね」

 

「夜ご飯の材料買って帰ろうよむーくん!」

 

「お、そういや今日はお前と明日香はウチだったな」

 

 

 

その後は仲良く今晩の材料を適当に買って各自解散となった。

 

 

 

 

 

 

~斎藤宅~

 

 

 

 

「たでーまー」

 

「お邪魔します!」

 

 

買い物袋を右手に、左手は香澄と繋いで我が家へ帰宅。俺が二つ袋を持とうとしたら香澄に"むーくんも無理しちゃダメ!"と言われて現在の状況に至る。実は俺も無理したがる奴らの仲間かもしれんな。

 

 

 

「あら香澄ちゃんいらっしゃい」

 

「もうあーちゃん来てるよ!」

 

「なんだよ、もう明日香来てんのか。後で呼びに行こうと思ってたのに」

 

「取り敢えず夕飯の支度しましょうか」

 

 

 

買ってきた食材を一度整頓し使わないものは冷蔵庫へ並べて入れておく。俺と母さんと二人で最初は調理していたのだが、途中から明日香と香澄もやりたいと言い出したので三人。最終的に令香も参戦して母さん除き四人で料理。

 

 

香澄に関しては触れないでおくが、令香は人並みに料理はこなせる。兄への愛が120%込められているので俺限定でそこら辺のプロよか美味い。ウチの教訓その1、"料理は愛"が忠実に再現されている。

 

 

 

『頂きます!』

 

「ん〜、やっぱりいつも美味しいね!」

 

「まぁいつも通り作ったからな」

 

 

全員で食卓を囲み頂きますして食べ始める。香澄と令香の声で俺と母さんと明日香の頂きますはかき消されてしまったがそれはどうでもいいだろう。

 

 

 

「聞いてよあっちゃん!今日はみんなでね......」

 

「はいはい、それで......」

 

「お兄ちゃんおかわり!」

 

「はーいよ、香澄は?」

 

「私もおかわり!」

 

 

 

 

こうして今までもこれからもずっと楽しくやっていければ良いなと思いつつ、俺は一生懸命台所を走り回った。

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「やってきました、おまけのコーナー」

 

 

宗輝「今回のゲストは香澄と明日香だ!」

 

 

香澄「私2回目だけど良いの?」

 

 

宗輝「メタ発言はヤメテネ」

 

 

明日香「私が初めてだから大丈夫でしょ」

 

 

宗輝「というか明日香最近肉付いてきてる?」

 

 

香澄「あー、確かにあっちゃん太った?」

 

 

明日香「やめてよ二人共!そ、そんなわけ無いじゃん!」

 

 

宗輝「でも、前寝言で"もう食べらんないよぉ"とか言ってたぞ」

 

 

香澄「お風呂で"どうしたら痩せて宗輝に......"とか聞こえたよ?」

 

 

明日香「わ〜!!やめてお姉ちゃん!」

 

 

宗輝「ほほう、何やら俺に知られたくない秘密があるようだな」

 

 

明日香「そんなのないから!だから近付かないで!」

 

 

宗輝「香澄、ゴー」

 

 

香澄「らじゃー!」

 

 

明日香「ちょ、お姉ちゃん何言いなりになってんの⁉︎」

 

 

宗輝「香澄検定1級の俺にかかれば容易いことよ」

 

 

明日香「何それ聞いたことないよ!」

 

 

宗輝「さぁ観念するんだな明日香ァ!!」

 

 

 

 

この後めちゃくちゃコチョコチョした。

 

 

 

 

 

-End-





タイトルでネタバレしてましたが有咲回となりました。
本来であればポピパ回にしようと思っていたのですが気付けば有咲回に......
全ては可愛すぎる有咲がいけないんです許してください。
文句は有咲までお願いします。
きっとツンツンしてデレてくれますよ。


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Produce 33#選り取りみどりなナースさん


甘いものがちょっぴり好きな主です。
なんと今回は初リクエスト回となります。
リクエスト頂いてモチベ上がって速攻書きあげましたよ。

こんな感じでリクエスト頂いたら出来る限り迅速にかつ正確に書き上げて投稿していこうと思ってるのでドシドシリクエスト下さい。
おまけの方のリクエストも活動報告で待ってます。


それでは、33話ご覧下さい。


 

 

 

 

「ゲホッ.......」

 

 

 

 

 

 

 

今の状況を分かりやすく簡潔に答えるならこの一言に限る。

 

 

 

 

 

 

 

 

風邪引いた。

 

 

 

 

 

 

「むーくん大丈夫?」

 

「おう、大丈夫だからあんま近寄んなよ」

 

 

 

 

ここ数週間のお出かけの疲れを取ることが出来ないまま学校へ行き、見事に39度超えの高熱を叩き出してしまった。自慢じゃないが今の今までここまでの高熱を出したことが無い。故に、めちゃくちゃしんどい。

 

 

 

 

「てか学校は?」

 

「勿論休んだよ?」

 

「休むなよ、あと何故疑問形」

 

 

 

 

やはり香澄は頭のネジがどこか外れているのだろう。幼馴染が風邪引いて休んだらついでに休むとか......いや、俺も香澄と立場逆だったらやりそうだからやめとこう。

 

 

 

 

「休むのは分かったからリビングにでも居てくれ」

 

「むーくんの看病するもん!」

 

「ダメだ、移ったらどうするんだよ」

 

「それはそれでオッケーだよ!」

 

「んなワケあるかバカ......ゲホッ」

 

 

 

いかんな、ますます体調悪くなってきてる。最近かなりハードスケジュールだったからなぁ。今にして思えば良くやったと思うよ自分でも。

 

 

 

「むーくんは寝てなきゃダメ!」

 

「寝てるから下に居てくれ」

 

 

 

 

そこから数分間香澄と同じようなやり取りを続けていた。

 

 

 

 

「二人とも何やってんの」

 

「じゃじゃーん!あっちゃんも連れてきたよお兄ちゃん!!」

 

 

 

しかし、ここでまさかの明日香登場。令香がいらん気を回してくれたらしい。あのね、お兄ちゃんは静かに眠りにつきたいの。その邪魔をしてること分かってらっしゃる皆さん?

 

 

 

「もしかして明日香も学校休んだのか?」

 

「当たり前じゃん、今何時だと思ってんの?」

 

「いや問題そこかよ」

 

 

 

改めて時計を見ると既に10時を回っており学校は始まっていた。確か今日は体育が2時間あったっけ。今日の体育バレーボールだったから楽しみだったんだけどなぁ。

 

 

 

「あ、因みにみんなにも連絡しといたよ」

 

「......一応聞くが誰に?」

 

「蘭ちゃんに友希那先輩、彩先輩とこころん!」

 

「見事に各バンドのボーカル揃えてきやがった」

 

 

 

拝啓、父さん母さん。

39度超えの高熱を出したにも関わらず、今日は休めそうにありません。なので、早く帰ってこんかい貴様らァ!!

 

 

 

 

___________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎ11時を回ったところ。何だかんだあって今は部屋に一人。3人には一階のリビングに居てもらっているが、中々寝付けなくて困った。しかし、ここで一人目の刺客が登場。

 

 

 

 

「むーねきー!来たわよー!」バタッ

 

「やっぱりこころが一番最初だったか」

 

「風邪を引いてるそうじゃない!」

 

「だからそっとしといてもらえると助かる」

 

 

 

なるべく布団から出ないようにうずくまって応対する。こころが絡むと毎回碌なことになってないからな。今回もそんな気がする。もう手遅れかも知れんが。

 

 

 

「そんなにうずくまるほど体調が悪いのね!」

 

「アー、シンドイナー」

 

「なら私が見てあげるわ!」

 

「あれ、人の話聞いてた?」

 

 

 

相変わらず人の話を聞かん子である。いいか、まずは人の話をよく聞いてから判断しような。

 

 

 

「早速見てあげるわね!」バサッ

 

「うおっ!」

 

 

そう言ってこころが勢いよく被っていた布団をめくる。当然、うずくまる行為が無駄になるわけである。そして、俺の目に映ったのはまさかまさかの()()()さんだった。

 

 

何を言っているか分からないだろうが俺も一瞬理解できなかったぜ。このクソ平日に風邪引いて高熱出して家で寝てたら、知り合いの女の子がナース服を着て看病しに来てくれた。これなんてエ○ゲ?

 

 

 

「何でナース服着てるんだよ」

 

「これを着ていけば喜ぶって言ってたわ!」

 

「因みにそれどこ情報?」

 

「ウチのメイドよ!」

 

 

 

おのれメイドちゃん、許すまじ。確かにこころのナース服とか超超激レアなSSRを通り越してULRレベル。こころのナース服姿とか想像してみ?ほら、気付いたら鼻から血が出てるだろ?あ、ULRはウルトラレジェンドレアな。なんかURLみたいだな。

 

 

 

「何かして欲しいことはあるかしら⁉︎」

 

「んー、タオル変えて欲しいかな」

 

「任せてちょうだい!」

 

 

 

それからは、せっせこ働くこころを横目にふと一人考え耽る。もしこころと結婚でもしたらこうやってお世話してくれたりするんだろうなぁ。でもこころは好きな人とかいるんだろうか?

 

 

 

「なぁ、こころってさ」

 

「ん、何かしら」

 

「好きな人とかっていんの?」

 

「好きな人なら勿論いるわよ!」

 

 

 

やっぱり今の時代好きな子の一人や二人いるもんだよな。

 

 

 

「そいつってどんな奴?」

 

「優しくてカッコよくて音楽も出来て料理も出来る完璧な人よ!」

 

「誰だよその完璧超人、一回見てみたいわマジで」

 

「後、にぶちんって言うらしいわ!」

 

 

 

何だよにぶちんって。運動出来ないとか?ふっ、残念ながら俺はオールマイティに運動出来ちまう逸材だからな。オールマイティ=特化した部分が無いとも言える。だから部活とか入ってないんだけどな。

 

 

 

「早くそいつと付き合えると良いな」ナデナデ

 

「ふふふ、そうね」///

 

 

 

またもや癖で頭を撫でてしまった。最早これは病気の類であろう。嬉しそうに微笑むこころ、少し頰が赤く染まっていたのは何故だろう。もしかして移したとか?そんなんシャレにならんな。

 

 

 

「顔赤いけど大丈夫か?移したら悪いからもう帰るか?」

 

「ええ、そうさせて貰うわね」

 

「まぁ今日はありがとな」

 

 

 

こうして一人目の刺客は斎藤宅を後にした。

 

 

 

 

 

~お昼~

 

 

 

 

チ-ン

 

 

 

 

「もうお昼か......」

 

 

 

こころが去り、少しの間睡眠が取れたがまたすぐに起きてしまった。時計の長針と短針が丁度12の部分で重なった時間。寝てたお陰で少しは楽になったがやはりまだ身体が重たい。咳も出てるし今日は一日寝とくしかなさそうだな。

 

 

 

「失礼するわね」

 

「湊さん、先に入らないでくださいよ」

 

「あら、貴女の方こそ何故ここにいるのかしら」

 

 

 

今日の刺客その2。今度は二人組での登場だ。友希那と蘭が何やら話しながら部屋に入ってきた。こいつらやっぱ仲良いんじゃね?

 

 

 

「何しに来たんだよ、いやもう分かってるけど」

 

「貴方風邪を引いたらしいわね」

 

「仕方ないから看病しに来てあげたよ」

 

「美竹さん、無理しなくて良いのよ?」

 

「湊さんこそもう帰っていいですよ」

 

 

 

こらこら、病人のいる部屋で喧嘩しなさんな。俺の体調が喧嘩のヒートアップにつれて悪くなってくるから。

 

 

 

「私達の前に弦巻さんが来ていたらしいじゃない」

 

「ああ、確かにこころ来てたな」

 

「何されたの?」

 

「何かされた前提で話すのやめようね蘭ちゃん」

 

 

 

ここでやらかす斎藤宗輝。どうやら今日は体調が悪く口も滑りやすいらしい。

 

 

 

「こころのナース服姿は眼福だったぞ」

 

「......美竹さん、ここは争っている場合ではなさそうね」

 

「......これは仕方ないですね」

 

 

友希那と蘭が踵を返し部屋から出て行く。もう帰るのか?何だかんだ言って寂しいとか思ってる俺がいる。

 

 

 

「あれ、二人共帰るのか、って聞いてないし」

 

 

 

まぁ取り敢えず寝とくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ!!

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ看病されなさい」

 

「仕方なくだからね!」///

 

 

 

再度二人一緒に部屋へ入室。帰ったんじゃなかったの?ちょっと嬉しいじゃねぇかこの野郎。

 

 

 

「んで、二人共何でナース服?」

 

「そこに偶々置いてあったのよ、ええ、偶々ね」

 

「だから仕方なく着てあげてるんだからね」///

 

 

 

蘭ちゃんのツンデレが止まらない。有咲、ツンデレ勝負で負けんじゃねぇぞ。それにしても、友希那も蘭もナース服滅茶苦茶似合ってるじゃんか。友希那はロングだからお姉さん風ナース。蘭はショートでツンデレナース。何だよツンデレナースって、新しいジャンル?

 

 

 

「二人のナース服姿が可愛いのは分かったから」

 

「そう、して欲しいことはないかしら」

 

「んー、お腹減った」

 

「それなら令香ちゃんが作ったお粥があるよ」

 

 

 

おお、久し振りに令香のお粥食えんのか。昔は父さん母さんも体調悪い時食べさせて貰ってたっけ。父さんは案の定食べた瞬間から元気120%だったけどな。そこは今も相変わらずなんですけどね。

 

 

 

「フー、フー、はい」

 

「なに、食べさせてくれんの?」

 

「当たり前じゃん、病人に無理はさせられないよ」

 

「別に食べるくらい一人で......」

 

「いいから食べて」

 

 

 

蘭さん、圧が強い......。そんな部分まで友希那に影響されちゃった?友希那は友希那で見えそうにないところで一口だけ食べてんのバレてるからな。美味しいだろ?美味しいって言え!

 

 

 

「あーん」パクッ

 

「ど、どう?」

 

「最高に美味いな、流石は俺の妹」

 

 

これに点数をつけるとしたら100満点だとしたら120点だ。120%ってなんか限界突破してるみたいでカッコよくね?

 

 

「相変わらずシスコン」

 

「熱出したって風邪引いたって俺が令香の事大切に思ってんのは変わらんよ」

 

「じゃあ、私も?」

 

 

上目遣いでこちらを見つめる蘭。普段の蘭でも破壊力バツグンなのに、今回はナース服着用ときてる。バフ200%くらいかかってるんじゃね?ちょっと可愛すぎて直視ができん。

 

 

 

「蘭だって俺にとって大切な人だ」

 

「......あ、ありがと」///

 

「照れちゃって可愛いな」

 

「う、うっさい!」///

 

 

 

ポコポコ殴りかかる蘭。この光景前も何処かで見た気がするな。多分同じ属性の有咲だろう。属性は同じと言っても二人共違うしそれぞれ良いところがある。まぁ共通点と言えば美少女という点だろうな。

 

 

 

「さっきから私ずっと無視されてないかしら」

 

「大丈夫だぞ、友希那もちゃんと可愛いし大切だ」ヨシヨシ

 

「ん、分かってれば良いのよ」///

 

 

今日の友希那は何だか上機嫌だな。途中に猫でも居たのだろうか?はたまた香澄を猫と勘違いしたのだろうか?前にリサが言ってたけど、道端で香澄を拾ってCiRCLEにまで連れて行ったことがあるらしいな。友希那、香澄は猫じゃないんだぞ。あと特殊な髪型、あれ一応星型だからな。

 

 

 

「ふぁ、眠いし寝る」

 

「なら私達は帰るわね」

 

「ちゃんと静かにしてるんだよ」

 

「わーってるよ」

 

 

 

そして、入室と同じく二人仲良くナース服で退室。ドアを閉めて出て行った瞬間走って一階に降りてったっぽいけど。そんなに嫌ならナース服なんか着なきゃ良いのにな。

 

 

 

「もう一眠りしとくか」

 

 

 

 

襲いくる睡魔に今は身を任せておこう。

 

 

 

 

 

~夕方~

 

 

 

 

ピンポ-ン

 

 

 

玄関のチャイムの音で目が覚めてしまう。実は何度か起きているのだが、布団から身を乗り出す気にはなれずそのまま時間が過ぎてしまっていた。途中令香達は買い物に行くと行ってそれから帰ってきていない。つまり、今は家に俺一人。

 

 

「俺が出なきゃいけないのか」

 

 

重い身体を何とか起き上がらせて玄関へ向かう。階段で少し転びそうになったが何とか持ちこたえる。一人で階段降りてて怪我なんかしたら何言われるか。

 

 

「どちら様ですか〜」

 

 

 

玄関の扉を開けて目に入った人物は、俺のよく知る人物であった。

 

 

 

「宗輝君!お見舞いに来たよ!」

 

「何だ彩か、わざわざ来なくても良かったのに」

 

「心配だったんだよ!お陰で授業まともに受けられなかったし」

 

「それ俺のせい?」

 

 

 

取り敢えずあがってもらおうと思い身体を反転させた瞬間、思うように動かずに前へ倒れこみそうになってしまった。

 

 

「あれ」

 

「ちょっと、宗輝君大丈夫⁉︎」ガバッ

 

 

しかし、間一髪のところで彩が助けてくれた。俺が思った以上に身体は言う事を聞いてくれないらしい。本当にここまで俺がダウンしたの始めてだな。

 

 

「ご、ごめん彩」

 

「ううん、怪我は無い?」

 

 

心配そうに俺の身体を見渡す彩。おおよそ怪我の確認の為に隅から隅まで調べているのだろう。今は完全にオフでジャージ姿だからあんまり見て欲しくは無いんだけど。でも、今気にするべきポイントはそこじゃない。必然的に倒れこみそうになった俺を彩が助けたということは、彩と半ば抱きついているということになる。

 

 

「おう、だから、あのー」

 

「ん、なに?」

 

「ちょっと離れません?」

 

「わわ!ご、ごめん宗輝君!」

 

 

慌てて身体を離す彩。その反動でまたよろけてしまうが今度は一人で持ち直す。甘い香りをしたメロンがこう、むにゅっとな。程良い柔らかさと大きさで誘惑されて.......コホン、移すといけないからな!!そう、移すといけないからまずは離れようか。大事な事だから二回言ったぞ。

 

 

 

 

「んで、何持ってきてくれたんだ?」

 

「あ、これね!駅前で買った人気のスイーツ!」

 

「ひまりが聞いたら飛びついてきそうだな」

 

「いつも頑張ってる宗輝君にみんなからのお礼」

 

 

 

みんなからってことはパスパレメンツ全員か。てかみんな一応知ってたのな。てっきり日菜辺りは迷わず突撃してきそうな感じだけど。

 

 

 

「日菜ちゃんは今日は紗夜ちゃんとお出かけらしいよ」

 

「それでこっちには来てないのか」

 

「もしかしたら来るかもよ?」

 

「もう勘弁してくれ」

 

 

 

待てよ、日菜が知ってるっつーことは、紗夜さんにも伝わるって事だろ。友希那は絶対言いそうにないからなぁ。これ後から紗夜さんに叱られるパターンじゃん。

 

 

 

「じゃあ食べよっか」

 

 

駅前のスイーツ店とやらで買ってきたのはどうやらモンブランらしい。みんなに俺がモンブラン好きなの言ってないはずなんだけどな。日菜の直感かそれとも千聖さんの考察か、はたまたイヴのブシドーか。案外麻弥が適当に言ってたりしてな。彩?彩は流石に無いだろ。

 

 

 

「今失礼な事考えてなかった?」

 

「いいえ、とんでもございません」

 

「なら良いけど、はい、あーん」

 

「またそれやんのか」

 

 

 

もう散々で懲りたので一回で諦めることにしよう。それにしてもこのモンブラン美味いな。砂糖の甘さだけに頼らず栗本体の良さを存分に引き出してる。後でお店教えてもらおう。なんならつぐみとかリサに作り方覚えてもらおう。

 

 

 

「どう?美味しいかな?」

 

「ん、めちゃくちゃ美味いぞ」

 

「良かったぁ!」

 

 

美味いの一言を聞いて安堵の表情を浮かべる彩。なに、そんなに俺が辛口に見える?自分で言うのも何だけど結構バカ舌よ?

 

 

「そんな安心すること無いだろ」

 

「だってこれ私が選んだんだもん」

 

「......すまん彩、それだけは無いと思ってた」

 

「やっぱりそうだった⁉︎」

 

 

 

今度は驚きの表情と、変化が激しいやつめ。しかし、彩も案外センスあるんだな。こういうスイーツ店に行ったら普通は王道のショートケーキとか選ばん?俺は怖くてショートケーキかチョコケーキくらいしか頼まんけどな。

 

 

「もしかして彩食べてないのか?」

 

「へ?勿論食べてはないけど」

 

「勿体無いから食べろよ」

 

「えぇ⁉︎良いよ別に〜」

 

「良いからそれ寄越せ」

 

 

彩が持っていたモンブランを乗せたお皿を少々強引に取り上げる。彩にあげる前にもう一口だけ食べておく。やっぱりこれ美味いなぁ。今度令香達連れて行こう。

 

 

 

「ほら、あーん」

 

恥ずかしいなぁもう.......あ、あーん」///

 

「あ、これ間接キスじゃん」

 

「んー!!」モグモグ

 

 

口の中に入ったモンブランをもぐもぐさせながらも頑張ってる彩。言うのが遅れたことは謝ろう。だが、その後の反応は可愛いから良し。なんか小動物みたいでまた撫で撫でしたくなってきた。

 

 

 

「はいはい、ごめんな彩」ナデナデ

 

「言うのが遅いよぉ」///

 

「先に言ったら食べてくれなかっただろ」

 

「もういいよ.......あと一つお願いがあるんだけど」

 

「お、申してみよ」

 

 

 

この際だ、お願いの一つや二つ叶えてやってもバチは当たらんだろう。まともなお願いだったらの話だが。

 

 

 

「プロデューサーがまた新案持ってきてね、その名も"アイドルナース大作戦!"って言うんだけど」

 

「却下だ、さぁ帰った帰った」

 

「なんでさぁ!!」

 

「こんな甘いもん食べて彩のナース姿なんて見たら持ち堪えられる自信が無い」

 

 

 

その後、数分間押し問答が続き結局ナース姿の感想だけを言うことになってしまった。まぁめちゃくちゃ可愛かったんですけどね。絶対にその格好でライブはさせませんからねプロデューサー。

 

 

 

 

 

その日の夜

 

 

 

 

 

「むーくんただいま!!」

 

「あれ、お兄ちゃん寝てる?」

 

「これは完全に疲れて寝てるね」

 

 

 

 

俺は彩が帰った後疲れ切って眠ってしまい

 

 

 

 

「あれ、これ何?」

 

「ナース服でしょ、見たら分かるじゃん」

 

 

 

 

次の日の朝起きたら

 

 

 

 

「お姉ちゃん何してるの?」

 

「んふふ〜、ナース服に着替えてるの!」

 

「じゃあ令香も着替える!」

 

 

 

 

 

ナース服を少しはだけさせた香澄と令香と一緒に寝ていた。

 

 

 

 

その写真を明日香に撮られてあこ→Roseliaメンツ→日菜という感じで広まってしまいこってりと絞られたのは良い思い出です。

 

 

 

 

拝啓、父さん母さん。

俺遂にナースさん(妹と幼馴染)と添い寝したよ。

だから父さん、帰ってきても俺の事殴らないでくれ。

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「さぁ今回のおまけのコーナー!」

 

 

宗輝「ゲストはパスパレから彩と千聖さんだ!」

 

 

彩「初めまして!まん丸お山に彩を♪丸山彩でーっす!」

 

 

千聖「彩ちゃん、その挨拶必要なのかしら?」

 

 

宗輝「それ毎回言うのめんどくさくない?」

 

 

彩「もしかしたら初めましての人も居るかもじゃん!」

 

 

千聖「これ見てくれてる時点でそれは無いと思うけど」

 

 

宗輝「千聖さんそれ以上はダメですよ」

 

 

彩「千聖ちゃんも挨拶作ろうよ!」

 

 

宗輝「お、良いね良いね」

 

 

千聖「嫌よ、あんなの柄じゃないわ」

 

 

彩「え〜、作って一緒にやろうよ〜」

 

 

千聖「彩ちゃん子供っぽいからやめなさい」

 

 

宗輝「彩は元々子供っぽいから良いんですよ」

 

 

彩「んーとね、"白鳥の様に美しく、鷺の様に美しく、千の聖なる風となれ"とかどう?」

 

 

宗輝「ん、美しくが被ってる」

 

 

千聖「まず文章自体意味不明ね」

 

 

彩「なら宗輝君考えてよ!」

 

 

宗輝「シンプルに"みんなのアイドル白鷺千聖ちゃんでーっす!"とかじゃダメ?」

 

 

千聖「宗輝君も案外ポンコツだったのね......」

 

 

彩「これはみんなで考える必要がありそうだね!」

 

 

千聖「また彩ちゃんの変なスイッチが入っちゃったわ」

 

 

宗輝「まぁ面白そうなんで良いでしょ」

 

 

千聖「貴方他人事みたいに」

 

 

宗輝「他人事ですからね"みんなのアイドル白鷺千聖ちゃん♪"」

 

 

千聖「弦巻さんに連絡ね、取り敢えず黒服さんを呼ぼうかしら」

 

 

宗輝「嘘ですすいません、だからこころを呼ぶのだけは勘弁してぇ!!」

 

 

 

 

 

 

-End-

 





実は宗輝の設定には主に通じるものがあります故これからもどんどん増えていく予定です。
主はナース服じゃないと興奮しない異常性癖持ちでは無いのでご安心を。

モンブランは超大好きですけど。


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Produce 34#憧れの先輩達と


まず、新たに☆4評価頂きました FeIishiaさんありがとうございます!!
初めての☆4評価でまだまだ自分が力不足だということを再認識しました。
他の方の作品を見つつ、良い部分は吸収していき文章力ももっと磨いていこうと思っておりますので今後ともご贔屓にしてくださると嬉しいです。

今回も前回に引き続きリクエスト回となっております。

それでは、34話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

俺史上最強の風邪を引いた日の翌日。何故か香澄と令香がナース服を着て添い寝していたのに気付きそっと抜け出そう、としたところまでは良い。

 

 

 

「抜け出せん」

 

「んっ......むーくんぅ」zzz

 

「おにぃちゃんのえっちぃ......」zzz

 

 

 

どうにかして抜け出そうとする程二人とより複雑に絡み合ってしまう。二人の今の装備はナース服(ショートVer)であり、簡単にパンツやら何やらが見えてしまう。

 

 

 

「頼むから起きないでくれよ〜」

 

「起きなかったらどうするつもり?」

 

「そりゃ勿論事故を装ってだな......って明日香⁉︎」

 

「取り敢えず撮っとくね」カシャ

 

 

 

幼馴染の妹に弱みを握られました。

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「許して下さいお願いします」

 

「むーくんおはよぉ〜」

 

 

 

場所は変わって一階リビング。寝起きの香澄と令香は置いといて、現在俺は正座、明日香がソファに座っての裁きの時間(おしおきタイム)

 

 

 

「罰として一つだけ言う事を聞いてもらうから」

 

「出来る限りの命令でお願いする」

 

「今日一日私に付き合ってもらうから」

 

「それくらいならいつでも大丈夫だからな」

 

 

 

てっきり小悪魔明日香ちゃんの無慈悲な命令が下されると思っていたんだが。案外今日の明日香は天使だったりする?いや、明日香はいつでも天使だな。三大天使に加えて明日香も入れて四大天使の誕生である。

 

 

 

「あっちゃん私は?」

 

「お姉ちゃんは留守番だよ」

 

「そんなぁ」

 

「じゃあ令香は⁉︎」

 

「お前も留守番な......って事で良いんだろ?」

 

 

 

そう言うと明日香は首を縦に振ってくれた。無事明日香の意向を汲むことが出来て満足である。

 

 

 

それから一旦お互いの家で準備ということで香澄と明日香は帰宅。ぶーぶー文句を言っている令香を何とか宥めて俺も準備に取り掛かる。まぁ準備と言っても着替えるだけなんだけどな。基本、香澄とか明日香達身内で出掛けるときは半端なく気を抜いた格好になるから気を付けろと言われた。最近ではかなり気を配る方にはなってきたが、やはり今の今までファッションというものに興味が無かったのが一番の理由だろう。一回寝ぼけてパジャマで学校行こうとしてたらしいけどな。

 

 

 

「準備出来た?」

 

「おう、バッチリよ」

 

「じゃあ行こっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~駅前デパート~

 

 

 

 

 

 

 

「そういや今日は何処に行くんだ?」

 

「もう着いてるよ」

 

「こんな近場で良いのか?てっきり俺は電車でも使って遠出するのかと思ったぞ」

 

 

 

 

歩くこと数十分。俺は駅まで歩いてそこから電車に乗ると思ってたけど違ったらしい。ここは駅前のデパート。最近改装オープンしたらしく真新しい店がズラリと並んでいる。昨日彩が買ってきてくれたのはここの中の店だったのか。見つけられたら帰りに買っていこう。

 

 

 

「取り敢えず適当に歩こっか」

 

「明日香ちゃん行くとこ決めてから歩かない?」

 

「ヤダ」

 

「嫌って言われてもなぁ」

 

 

 

 

「あれ、明日香ちゃん?」

 

 

 

 

行くところを決めずに適当に歩く案について話し合っていると誰かに話しかけられてしまった。俺じゃなく明日香が。まぁ俺の知り合いなんて数十人くらいしか居ないからまず会わないだろう。というよりどっかで聞いたことある声な気がする。

 

 

「やっぱり明日香ちゃんだ」

 

「明日香、呼ばれてるぞ」

 

「ん、こんな日の朝早くから呼ばれるわけ無いじゃん」

 

「いや、ほら後ろ」

 

 

明日香が後ろを振り返ると若干涙目になっている何時ぞやの明日香の友達がいた。

 

 

「何で六花がいるの?」

 

「バイトの買い出しを頼まれて......」

 

「土曜日の朝早くから大変だな」

 

「お、おはようございます!」

 

 

ちょっと、いきなり挨拶はやめてほしい。声大きいから周りの人も若干引いてるよ。俺もちょっとビックリしちゃったじゃん。

 

 

 

「良かったら朝日さん?も一緒にどう?」

 

「え!い、良いんですか?」

 

「別に良いよ。な?明日香も良いだろ?」

 

「はぁ......せっかく二人きりになれたと思ったのに

 

 

 

結局、明日香も渋々了承してくれた。何だかんだ姉や友達には甘い明日香である。その甘さを俺にもちょっと向けてくれるとありがたいです、はい。

 

 

 

「なら早速行くか」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「......六花のおたんちん」

 

「えぇ!!明日香ちゃん私何かした⁉︎」

 

 

 

見るからに明日香の機嫌が悪くなっているので取り敢えず頭を撫でておこう。小さい時からこれをすれば万事解決してきた実績があるからな。香澄と令香にもこの戦法は有効。但し蘭とか有咲にいきなりやると高確率でプレゼントとして拳が返ってくるから注意。しかも、普通に顔面狙ってるからあの子達。

 

 

 

「あのー、明日香ちゃんと先輩は付き合ってるんですか?」

 

「んー、やっぱこうしてるとそう見える?」

 

「そろそろやめてよ宗輝、恥ずかしい」

 

「嫌だ、俺が拒否する」

 

 

 

しばらく俺と明日香の攻防が続いたが進まないので一旦休戦。

 

 

 

「ていうか先輩呼びなんて初めてされたわ」

 

「まぁ私もあこも宗輝呼びだからね」

 

「宗輝先輩でも良いぞ」

 

「じゃあそう呼びますね!」

 

 

 

その後元気よく"私のことは六花で良いですよ!"と言ってくれた。なんて良い子なんだろう。聞くところによるとギターとか引けるらしいし、なんならバンドメンバー募集してるらしいし。俺の方で情報だけでも集めといてあげるか。

 

 

 

「じゃあ六花の買い出しの方から始めるか」

 

「良いんですか?」

 

「やる事決めてなかったし良いよ」

 

「流石明日香、臨機応変な対応力は俺に似たのか?」

 

「宗輝に似るのだけは嫌だ」

 

 

 

明日香に嫌と言われてしまった。意外と心に響くんだなこれ。令香とかに言われたら死ねるレベルだなこりゃ。絶対嫌われないようにしよう。

 

 

 

「取り敢えずタオルと洗剤、あとシャンプーとか買います」

 

「なら、あそこにしよっか」

 

「明日香お店知ってんの?」

 

「初めて行くところに誘うわけ無いじゃん」

 

 

 

それからは明日香の案内で次々に買い出しの物を購入。

 

 

 

「見ろ明日香!これ炭の石鹸だってさ!」

 

「はいはい、最近出たやつね」

 

 

 

「見て明日香ちゃん!こんなところにポピパさんの名前が!」

 

「誰か試し書きで書いたんだろうね」

 

 

 

 

今日は主に明日香がツッコミ役らしい。

 

 

 

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと休憩しない?」

 

「ん、時間も時間だし飯でも食うか」

 

 

 

六花の買い出しはタオルや洗剤に留まらず、筆記用具や衣類など数えるだけでも数十種類の物を次々に購入。途中、ペンの試し書きでポピパの名前があったのにはビックリしたけど。今やそれ程までに成長したのかと思い嬉しくなってくる。俺がどうこうした訳では無いのだが。

 

 

 

「六花は何食べたい?」

 

「今日は俺の奢りだから遠慮すんなよ」

 

「えぇ⁉︎そ、そんな悪いですよ!」

 

「こんな時くらい我儘言っても良いんだぞ?」

 

 

 

気を遣ってくれるのはありがたい。明日香もこういうところは見習ってほしいもんだ。最早家を出る前からお昼は俺の奢りだって決まってたからな。個人的な意見だけど、男が奢るの当たり前だと思ってる女の人嫌いなんだよなぁ。別に明日香とか令香とかなら良いんだけど。なんなら俺からお願いするレベル。

 

 

 

「じ、じゃあお寿司とかどうですか?」

 

「お、良いねお寿司」

 

「でも近くにお寿司屋さんってあった?」

 

「まだまだリサーチ力が足りないな明日香は」

 

 

 

実は俺はもう見つけてある。ほら、日本人だからさ?嫌でも目に入ってくるわけよ。別に俺がお寿司大好きだからお昼行こうと思ってたとかじゃないからね!!

 

 

 

「宗輝、気持ち悪い顔してる」

 

「明日香が辛辣、六花助けて」

 

「え、えぇ⁉︎」

 

 

 

そんなこんなで無事近くの回転寿司屋さんに到着。流石に回らないお寿司屋さんに連れて行く程の経済力と甲斐性は今のところ無いからな。

 

 

 

 

「腹一杯食べてくれよ」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 

一々頭を下げてまでお礼言わなくても良いのにな。こっちまで返しそうになるから。

 

 

「宗輝、そこの醤油とって」

 

「ん、ほい」

 

「ありがと」

 

「明日香」

 

「はいはい、わさびね」

 

 

 

明日香達とお寿司屋さんに行くと必ず目にする光景である。俺が醤油を取って渡し、明日香にわさびを取ってもらう。香澄はお茶係。

 

 

 

「六花は熱いお茶大丈夫か?」

 

「あ、大丈夫です」

 

「なら熱いの三つな」コトッ

 

 

 

食べる準備が整い、それぞれ注文したり回ってきたものを食べ進めていく。

 

 

 

「そういや六花ってどこら辺に住んでるんだ?」

 

「今は親戚がやってる銭湯に住み込みで......」

 

「私も前に行ったことあるよ」

 

「銭湯かぁ......」

 

 

 

銭湯には良い思い出と悪い思い出があるから何とも言えない感じ。

 

 

良い思い出は確か丁度1年前くらい。香澄と明日香と俺の三人で銭湯に行って、当然男湯と女湯で別れる。しかしながら、そこの銭湯ボロい事で有名な場所で男湯から女湯を覗くことが出来る小さな穴が存在する。常連さん達の間では結構通な情報だった為あまり使われていなかったのだが、まさかその日に偶然俺が見つけるとは。興味本位で覗いてみるとあら不思議。三人が産まれたままの姿でお風呂に入っているではありませんか。まぁいわゆるラッキースケベってやつだな。ん、悪い思い出?そりゃ勿論後でバレて明日香にこってり叱られたことだ。

 

 

 

 

「バイトも掛け持ちしてるそうだし大変だな」

 

「リニューアルオープンしたばかりなので」

 

「Galaxyだっけ?」

 

「ああ、最近リニューアルオープン記念でライブしたらしいじゃん」

 

 

 

 

残念ながら俺の知ってるバンドは出てなかったけど。ポピパはあの時忙しかったからなぁ。アフグロも出てなかったしハロハピもパスパレも。友希那達も練習でCiRCLEに籠ってた時期だな。

 

 

 

「いつかそこでライブしたいな」

 

「は、はい!是非ウチで!」

 

「おう、考えとくよ」

 

「お姉ちゃんならすぐやりたいとか言いそうだけど」

 

 

分かる、分かるぞ明日香。でも今はダメなんだよ。今はあいつ新曲作ろうとか言って悩んでる最中だから。

 

 

 

「まぁなんとかなるだろ......明日香サーモン取って」

 

「はい、それにしてもサーモンばっかだね」

 

「好きなんだから仕方ないだろ」

 

「サーモンだけで何皿食べてるんですか?」

 

「んー、軽く10皿くらいか?」

 

 

 

 

いや、でもサーモンと一口に言っても炙りサーモンやらとろサーモンやらで色々あるからな。そこ間違えちゃダメ、ゼッタイ。

 

 

 

「これが普通なの?」

 

「宗輝がおかしいだけだから安心して」

 

 

 

結局お会計で調べてみたところ、サーモン系だけで15皿食べてた。

 

 

 

 

 

 

 

~Galaxy~

 

 

 

 

 

お寿司を食べ終わり、一度買い出しの物を置きにGalaxyへと足を運んだ。

 

 

 

 

「重い、しんどい、疲れた」

 

「はいはいお疲れ様」

 

「宗輝先輩ありがとうございました!」

 

「どういたしまして」

 

 

後半はほぼ荷物持ちと化していた俺。六花はまだ持ちますよ?とか言ってくれたから良いけど、明日香もちょっとは気にして欲しかった。お陰で明日は筋肉痛だ。

 

 

 

プルルルル.プルルルル

 

 

 

「着信だ......もしもし」

 

 

1日に一度聞くか聞かないかの着信音が聞こえた為応答ボタンを押して携帯を耳に押し当てる。すると、そこから聞こえたきたのは元気な声。まぁ名前見たから誰からかかってきたかは分かってたけども。

 

 

 

「もしもしむーくん?今何処にいるの?」

 

「Galaxyってライブハウス」

 

「じゃあみんなで行くね!」

 

「は?ちょ、おい待てよ」

 

 

 

しかし有無を言わせず電話を切る香澄。

 

 

 

「誰からだったの?」

 

「明日香の大好きなお姉ちゃんからだ」

 

「大好きは余計、それで何て?」

 

 

 

今からこちらに向かってくる事を明日香と六花に聞こえるように伝える。

 

 

 

「えぇ⁉︎ポピパさんが今から来るんですか⁉︎」

 

「おう、多分だけど5人揃ってるぞ」

 

 

だって電話越しにみんなの声聞こえたし。りみりんが"迷惑じゃないかな?"とか言ってたり、おたえが"Galaxyなら知ってるよ"とか言ってたり。更には有咲が"今からは流石にマズイんじゃね?"と諭す様子が伺えたり。結局沙綾が"でも有咲は宗輝に会いたくないの?とか聞いて有咲がツンデレ発揮してたり。

 

 

 

「あわわわわ!!早く綺麗にして片付けなきゃ!」

 

「別に練習しに来るだけだろうから大丈夫だろ」

 

「練習しに来るって言ってたの?」

 

「いんや、これは俺の勘だ」

 

 

 

香澄関連の事と、悪い方面に関しては俺の勘は怖いほど的中する。悪い方面とか主にこころとかメイドちゃんとか何処かの事務所の敏腕プロデューサーとか。俺が振り回される体質なのは今も昔も変わってないらしい。父さんも昔は母さんに良く振り回されてたって言ってたっけな。今度父さんの肩でも叩いてやるか。

 

 

 

「むーくん来たよー!!」

 

「ほら、噂をすればお出ましだ」

 

 

 

姿は確認できるがまだ遠い。だがそんな事はあいつにとっては関係ないらしい。周りに人がいるいないも関係なしに大声で名前を呼ぶのはやめて頂きたい。

 

 

 

「香澄早えぇ......」ゼェゼェ

 

「有咲走ってきたのか?」

 

「何だかんだ言って有咲も走ってたじゃん」

 

「沙綾うるせーっ!!」

 

 

 

香澄が一番乗り、その後をみんながぞろぞろとついてきていた。やはり運動となると香澄に分配があるのだろう。有咲何て一年程前までは引き篭もりよろしくニートな生活を送ってたからな。まぁ頭が良い故の行動だからあまり咎められはしなかったけど。

 

 

 

「ポピパ唯一の良心であるりみりんにも今回は止められなかったか」

 

「ご、ごめんね宗輝君」

 

「全然大丈夫だぞ、りみりんこそ走ってきて怪我なかったか?」

 

「うん、大丈夫だよ。ありがとね」

 

 

 

りみりんは正義、りみりんは可愛い。普段はチョココロネ教のりみりんだが、そこを除けば可愛らしい女子高生なのだ。ゆりさんは大人っぽい美人さんだったけど、りみりんはその逆を行く正統派の妹系美少女だろう。りみりん妹とか最高かよ。おっと、また得意の妄想癖が出てしまっていたようだな。最近こういうの考えてるけど中々気持ち悪いよな。

 

 

 

「むっくん私は?」

 

「おたえはおたえのままで良いんだぞ」

 

「やったー」

 

「それ褒めてるの?」

 

 

 

褒めてる、十分褒めてるぞ沙綾。不思議ちゃんのおたえがいるからこそのポピパだろう。逆におたえのいないポピパ何て考えられん。俺が許さん。

 

 

 

「宗輝」

 

「ん、何だ今良いとこなんだよ」

 

「さっきから六花がボーっとしてる」

 

「ポピパさん......何て幸せなんだろう」

 

「そういや六花は熱烈なポピパファンだったな」

 

 

 

そこから更に香澄が六花に抱きついて六花がオーバーヒートするまでがテンプレ。その後無事にGalaxyにて合わせの練習を2時間程度して帰宅。明日香も六花も初めてポピパの練習風景を見たらしく、明日香は優しい目で見守ってたし六花は終始ボーっと見つめてた。

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

「おー、お帰りお兄ちゃん」

 

 

もう定着しつつあるが、家に帰ると令香が出迎えてくれた。やっぱ家で待っててくれてお帰りを言ってくれる人がいるなって良いよな。1年の時は一人暮らしみたいなもんだったからこんな気持ち考えたことも無かったけど。香澄が居たからそこまで思わなかったのかも知れんな。

 

 

 

「お兄ちゃん今日は疲れたからもう寝る」

 

「じゃあ私も一緒に寝る〜♪」

 

「バカ言え、疲れてる元凶はお前と香澄のせいだからな」

 

「何のことかな〜」

 

 

 

明後日の方向を向きながら口笛を吹き誤魔化す令香。まるで漫画の様な対応。

 

 

 

「これやるから我慢しろ」

 

「ほぇ?これなに?」

 

「駅前で買ってきたスイーツ。俺の分と香澄の分も入ってるから残りは冷蔵庫な」

 

「おぉ、お兄ちゃんありがと!」

 

 

 

令香が元気良くリビングへ行ったのを確認して自分の部屋へあがる。電気は付けずそのままベッドへダイブ。少し汗もかいていたが今は睡眠欲が勝っているので身を任せようと思う。

 

 

 

「偶にはこんな休日もありかな」

 

 

 

そんな独り言を呟きながら、あこ風に言うと自らの内に広がる深遠なる世界へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「はい、来ましたおまけのコーナー」

 

 

宗輝「今回はみんな大好き花音先輩だ!」

 

 

花音「ふえぇぇ......だ、大好きってどういう事?」

 

 

宗輝「それですよ、その反応」

 

 

花音「反応?どういう意味なの?」

 

 

宗輝「花音先輩は自分の事どう思ってます?」

 

 

花音「え、えーと、方向音痴?」

 

 

宗輝「惜しいですね。因みに俺は方向音痴でポンコツな先輩だと思ってます」

 

 

花音「ひ、酷いよ宗輝君!」

 

 

宗輝「でも方向音痴で迷ってても大体俺が見つけたり、ポンコツでもやる時はやるところとか俺は好きですよ」

 

 

花音「す、好き⁉︎」///

 

 

宗輝「はい、でも流石に方向音痴は治す努力しましょうね」

 

 

花音「それはいつも頑張ってるんだけど......」

 

 

宗輝「花音先輩に治してもらわないと俺も困ります」

 

 

花音「出来るだけ頑張る......ちょっぴりわざとだけど

 

 

宗輝「時々わざと迷ってるフリしてるんじゃないかって思うんですよね」

 

 

花音「ふえぇ⁉︎そ、そんなこと無いよ?」

 

 

宗輝「本当ですか?千聖さんに誓って言えます?」

 

 

花音「何で千聖ちゃんが出てくるの?」

 

 

宗輝「その方が花音先輩嘘つかないんで」

 

 

花音「(滅茶苦茶バレてる⁉︎)」

 

 

宗輝「後で千聖さんに聞いときますね」

 

 

花音「ふえぇ!!それだけはやめてー!!」

 

 

 

 

 

 

-End-

 

 

 

 






最初の方でアンケートでCHiSPAやRASも出すとか言ってましたが、やっと六花が登場。
六花推しのみなさん、お待たせしてすみませんでした。
実はチョコっとだけ出てたには出てたんですけどね。
これからは本格参戦していきますので。


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Produce 35#紗夜日菜サンドイッチ


新たに☆9評価頂いた ムーンフォースさんありがとうございます!!
感想、評価は主のモチベにダイレクトに影響しますので滅茶苦茶嬉しいです!

今回は紗夜日菜回となります。
気付けば合計1万近い......すみません。
紗夜日菜推しの方々、思う存分召し上がれ。

それでは、35話ご覧下さい。


 

 

 

 

"七夕"

 

 

 

皆さんはこの言葉を聞いて何を思い浮かべるだろうか。人によってはそれぞれで、例えば織姫と彦星の物語であったり短冊にお願い事をすることであったり。はたまた七夕祭りなんかもあるだろう。恋人同士でお祭りに浴衣着て行ったりなんかした日には幸せメーターが振り切れることであろう。

 

 

 

「しかし、何故こうなった」

 

 

 

 

今俺の目の前には美少女姉妹が無防備にパジャマ一つで眠っている。姉妹同じベッドで寝るんだなとか全然思ってない。朝早くに日菜から連絡が来て今すぐ家に来いとのことだったので、若干急いで来たのに肝心な二人が寝ててちょっとキレてるとか全然違うから。

 

 

 

「同じ色の同じパジャマ着て同じ布団で寝てるとか聞いてねぇよ」

 

「......んにゃ」zzz

 

「......すぅ」zzz

 

 

 

起こすのも憚られたので二人とも起きるまで待つか。流石にお昼頃まで寝てるとかは無いだろう。寝てたら最早それは紗夜さんでは無い。あの鬼の風紀委員である紗夜さんがお昼過ぎまで寝てるとか有り得ないはず。

 

 

 

「......俺も眠いし寝させてもらうか」

 

 

 

座布団の上に座りベッドに寄りかかる。俺とて寝ていたところを起こされているのでまだ睡魔は奥底に存在している。正直めちゃくちゃ眠たいので目を閉じればすぐにでも寝られる状況。別に二人とも寝てるから大丈夫だよな?

 

 

 

 

「おやすみ日菜、紗夜さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

~2時間後~

 

 

 

 

 

 

 

「......んぁ、やべ寝過ぎたか」

 

 

 

 

ふと目が覚める。確か机の上に携帯を置いていたので時間を確認する為に手を伸ばしたがそれらしき感触は見当たらない。下の方まで範囲を拡大して探してみると、どうやら充電されているらしくコンセントの近くまで移動していた。これは多分紗夜さんだろうな。

 

 

 

「やっと起きましたか」

 

「おはようございます紗夜さん」

 

「おはようございます」

 

 

 

俺の声が聞こえたのかドアを開けて中に入ってくる紗夜さん。既にパジャマからは着替えており部屋着なのか普段着なのかは分からないが可愛らしい服を着ていた。

 

 

 

「紗夜さんも最初寝てましたけどね」

 

「昨日は少し夜更かし......いえ、ギターのフレーズを考えていたので」

 

「まぁ俺としちゃ紗夜さんの寝顔が見られたので良しとしましょう」

 

「なっ⁉︎わ、忘れなさい!!」

 

 

 

分かりやすく顔を朱色に染め上げ照れる紗夜さん。美人って寝顔まで様になるって聞いてたけど予想以上だった。日菜の方が若干幼げな顔をしているが、紗夜さんの寝顔もあどけなさが見て取れて可愛らしい。唯一の心残りは我が携帯の"可愛いフォルダ"に保存できなかったことだ。有咲や沙綾、勿論香澄達の写真がいっぱいある。というより俺の写真はそのくらいしか無い。現実は悲しきかな、もっといっぱい写真撮ろう。

 

 

 

 

「今日は何の用ですか?」

 

「それは私から説明しよー!」

 

「日菜、どこ行ってたのよ」

 

 

 

部屋のドアを勢い良く開けて入ってくる日菜。紗夜さん同様に着替えを済ませているようで手にはコンビニのレジ袋っぽいのを持っている。俺はベッドに座り紗夜さんは机の前の座布団、そして日菜はてくてく歩いて俺の隣へ。

 

 

 

「まずは買ってきたプリン食べようよ!」

 

「お、良いな」

 

「はい、これお姉ちゃんの分!」

 

「ありがとう。でも、二人分しかないみたいだけれど」

 

 

 

ちょっと日菜さん、まさかまさかの公開イジメですか?僕流石にそれは泣きますよ。安易に"お前の分ねぇから!!"って言われてるみたいで悲しい。やっべ目から汗出てきそうちょっとトイレ。

 

 

 

「ふふーん、これを二人で食べれば良いんだよ!」

 

「それだと少なくなるけど良いのか?」

 

「ん?ちゃんと半分こするよ?」

 

「いやそういう問題じゃなくて......まぁ日菜が良いんなら俺も別に良いや」

 

 

 

 

結論、3個買ってきたら良くね?なんてことは言わない。日菜の事だ、紗夜さんを焚きつけるために違いない。今も悪戯好きな子供の様な笑顔で紗夜さんを見ている。一方、紗夜さんは紗夜さんで頰を膨らませて俺の方を睨んでいる。紗夜さんここは睨む相手俺じゃ無いでしょうよ。別に美人に蔑まれて喜ぶ様な変態じゃ無いですよ?一部の人にとっては紗夜さんの蔑みはご褒美かもしれませんが。紗夜さん女子にも人気ありますし。

 

 

 

「何か言いたげな顔ですね」

 

「リスみたいな紗夜さん可愛い」

 

「今のお姉ちゃん最高にるんっ♪としてるよ!!」

 

「ッ!!......からかうのもいい加減になさい!!」///

 

 

 

『はーい』

 

 

 

俺と日菜は顔を合わせてニヒヒと笑い合いながら同じく返事をする。結局、日菜→俺→紗夜さんで食べさせ合いっこした。途中誰が食べて誰が食べてないか分からなくなって、日菜と紗夜さんの両方からスプーンで突っ込まれた時は死ぬかと思った。死因がプリンって逆に天才かよ。天才を体現してる日菜でも無理だな。つまり俺は日菜より天才って事?いや、まだ死んでないから大丈夫だな。

 

 

 

 

 

「そろそろ今日の用事話してくれ」

 

「あ、忘れてた」

 

「日菜貴女ね......」

 

 

 

時々極度のポンコツっぷりを披露するので、最近は完璧超人では無いことが発覚した日菜である。

 

 

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

気を取り直して氷川家リビング。今はダイニングテーブルに三人で座っている。紗夜さんがコーヒーを淹れてくれるとのことだったのでお言葉に甘えて頂いておく。つぐんところのコーヒーも美味しいが紗夜さんが淹れてくれたのも中々。コーヒーなんてすぐ飲み干すもんでも無いが、気付けば中は空っぽに。それに気付いた紗夜さんが"今淹れ直すわね"と優しく微笑みながら言ってくれた。

 

 

 

「それで、七夕祭りがどうしたって?」

 

「この三人で一緒に回ろうよ!」

 

「言っときますけど、私は仕方なくですからね」

 

 

 

そう、本日7月7日の七夕。近くの商店街で七夕祭りなるものが催される予定となっていた。天気は日頃の行いのお陰か現在雲一つない空。祭りの開催時間も問題ない予報ときてる。

 

 

 

「俺はそれで良いけど香澄達が何て言うか」

 

「何故そこで戸山さんの名前が出てくるのかしら」

 

「まぁ幼馴染なんで毎年あいつらと行ってるんですよね」

 

 

 

七夕祭りを香澄達と一緒に行くのは最早毎年恒例行事となりつつある。いつも香澄と令香が色んな屋台の物をねだってくるのでこの日にお財布の中身が少なくなるのも毎年恒例。それを心配して明日香がこっそり自分のお金で買ってるのも知ってる。ちっとは明日香を見習って欲しいもんだ。まぁ俺もそこまで嫌って訳じゃないから良いけど。

 

 

 

 

「ダメだよ!今年は私達と一緒に行こうよ!」

 

「んなこと言ってもなぁ」

 

「私達とでは、駄目なんですか?」

 

「ぐっ......ここで涙目上目遣いは卑怯ですよ」

 

 

 

秘技・童貞殺しの紗夜さんアタックを喰らいノックダウンしてしまう。着々と男を堕とす手段を身に付けている紗夜さん。このままでは俺の身が持たないだろう。そろそろ俺も男友達とか作った方が良さそうだな。てかマジで何で周りにいないわけ?

 

 

 

 

「じゃあ香澄達に聞いてみて下さい」

 

「まぁ許可はもう貰ってるんだけどね」

 

「嘘つけ」

 

 

 

とは言ったものの、日菜が差し出した携帯の画面に映っていたのは香澄とのメールのやり取り。

 

 

 

 

 

[From:香澄ちゃん]

(本文)

 

七夕祭りはポピパのみんなで行くので大丈夫です!

日菜先輩も紗夜先輩とむーくんと一緒に楽しんできて下さい!

 

 

 

 

 

 

 

「か、香澄に捨てられた」ガクッ

 

「そんな訳無いでしょう......」

 

「てことで今日は三人でお祭り回るよ!」

 

 

 

 

あの香澄が、毎年俺と一緒じゃないと行かないと断言していた香澄がだぞ。何故だかポピパのみんなに負けた気がしてならない。もういいもんね、それならこっちはこっちで楽しむから。

 

 

 

「でも祭りまでまだ時間あるぞ」

 

「そうですね、何かやる事があれば良いのですが」

 

「やる事ならあるじゃん!」

 

 

 

生き生きとした顔をしている日菜。こういう時は碌なことにならないのがテンプレだがもう気にしないことにする。若干紗夜さんも諦めムードだしな。

 

 

 

 

「今の内に浴衣の着付けしとこうよ!」

 

「確かに時間かかりそうだしな」

 

「なら早めに準備しときましょうか」

 

「一旦家に帰っても良い?」

 

「ダメ、宗輝も浴衣着るの」

 

 

 

浴衣着用を強要されてしまった。でも今まで香澄達と行く時も浴衣なんて着たことないからなぁ。勿論家にも浴衣なんてないし。まず父さんのやつなんて着たくもないし。かと言ってここで拒否するのも何か気が引ける。

 

 

 

 

「でも俺浴衣なんて持ってないぞ」

 

「それなら商店街のお店で一日貸し出ししてくれるところがあるらしいわよ」

 

「なら早く着替えてそのお店から直接お祭りに行こ!」

 

 

 

確かに何か見覚えあるな。商店街の老舗の古着屋か何かでそんなことやってた気がする。1日だけだったら買う必要も無いしお金も安いだろうし良いか。

 

 

 

「じゃあ俺はリビングで時間潰しとくから着替えてこいよ」

 

「覗いたらポテトで殴りますからね」

 

「え、紗夜さん今何て?」

 

「覗いたらポテトで......」

 

「お姉ちゃん早く着替えようよ!」

 

 

 

日菜が何か言いたげだった紗夜さんを連れて二階へ上がる。さっきのは幻聴だ、忘れろ斎藤宗輝。世の中には知らなくて良いことも沢山あるんだから。紗夜さんが無類のポテト好きなのは前々から気になってはいたが、まさかそこまでいっているとは。今の内に冷凍庫にあるポテトを移動させとこう。これは万が一の為だ、決して覗いたりする訳では無いからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

~商店街ー

 

 

 

 

 

 

「まだ早いけど結構人居るのな」

 

 

 

日菜と紗夜さんの着付けが終わり、次は俺の着替えの為商店街へと足を運んでいた。流石は姉妹、浴衣までお揃いとは。正確にいうと所々細かいところで差別化はされているものの、ほとんど同じものと言っても遜色無かった。二人共素材が良いので浴衣姿が凄く似合っていて可愛い。という事をストレートに伝えてみたところ日菜は相変わらずの反応。紗夜さんは物足りない顔をしていた。

 

 

 

 

「紗夜さんヘアアレンジしてから印象変わりましたね」

 

「......具体的にはどのあたりが変わりましたか?」

 

「んー、うなじのあたりが実に......」

 

「へ、変態ッ!!」///

 

「ぶべらっ!!」

 

 

 

何処からともなく取り出された冷凍ポテトにより殴打されてしまう。紗夜さん、それは一体何処に隠し持ってたんですか。ポテト持ち歩いてる紗夜さんの方がよっぽど変態に見えますけどね。

 

 

 

「ねーねー、私は?」

 

「日菜は逆に大人っぽくなった感じがする」

 

「やったぁ!!お姉ちゃん私大人っぽい⁉︎」

 

「そういう事聞く辺りまだまだ子供っぽいわよ」

 

 

 

紗夜さんの反応にぶーぶー言いながらも嬉しそうな日菜。こうしてみると二人共色んなところが違うがやはり姉妹なんだと改めて実感する。ウチに似てるところもあるしな。

 

 

 

「着いたな......"彗星堂"って何か有咲ん家のパクリか?」

 

「老舗な訳だし多分違うでしょう」

 

「まぁどっちでもいいじゃん、とにかく入ろうよ!」

 

 

 

日菜に連れられて入店。物凄く腰が低いが優しい笑顔を向けていらっしゃいと迎えてくれるお婆ちゃんが一人。もしかして一人でここやってんのか?見たところ数も多そうだし無理じゃね?

 

 

 

「祭り用の浴衣貸し出しかい?」

 

「あ、はい」

 

「あんた男前だから何でも似合いそうさね」

 

「......やっぱそうっすかね?」

 

「貴方は少し謙虚という言葉を知った方が良いですね」

 

 

 

紗夜さんに頰をつねられて赤く染まってしまう。日菜は一人で中を見て回って"これ可愛いね!"とか"これお姉ちゃんに似合いそう!"とか独り言言ってる。何か子供っぽいな。んー、日菜が子供だとすると俺と紗夜さんが夫婦と......。うん、中々悪くない。

 

 

 

「また変な事考えてますね」

 

「痛い痛い、紗夜さん離してお願いします」

 

「あんたら恋人かい?そっちの子もべっぴんさんでお似合いさね」

 

「やっぱそう思います?」

 

「だからそれを辞めなさいと言ってるんです!」

 

 

今度は両手で右左両方の頰をつねられた。流石は紗夜さん、全然加減してくれない。そろそろ俺の頰が赤く染まりすぎてお肌に良くないので紗夜さんの腕を持って少し離す。すると紗夜さんはキョトンとした顔をする。そんな表情しても無駄ですよ、ぜんっぜん可愛さは隠れてませんから。

 

 

 

「さっきのは紗夜さんの事ですからね?」

 

「というと、どういう事ですか?」

 

「紗夜さんが超絶美人だってことです」

 

「......貴方はいつもズルイです///

 

 

 

 

紗夜さんが何か呟いた気もするが気にせずいこう。お婆ちゃんが何やらさっきから俺の浴衣を見繕ってくれてるっぽいのでそちらへ向かう。丁度日菜が紗夜さんを引き連れて女性用の浴衣コーナーに行ってくれたし。

 

 

 

 

「ほら、こっち来なさい」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

~祭り会場~

 

 

 

 

 

 

『へいらっしゃい!!』

 

『安いよ美味いよ!!』

 

 

 

 

「あちぃ......」

 

「余計に熱くなるからやめなさい」

 

「そうだよ!今最高にるんっ♪っとしてるよ!」

 

 

 

 

着替えも終わり祭り会場。屋台が立ち並び、人の熱気と物の熱気をダブルで感じ既に汗をかき始めていた。そんな俺に畳み掛けるようにして熱さが襲いかかってくる。それは何故かって?

 

 

 

「何で二人共そんなにくっついてんの?」

 

「一緒に回るって言ったじゃん!」

 

「離しておくと逃げかねませんからね」

 

「さいですか......」

 

 

 

右にはりんご飴を片手に俺と手を繋いでいる紗夜さん。対して左にはわたあめをパクパクと食べながら俺と腕を組んでいる日菜。二人共総じて距離が近すぎる為人肌の温もりなんて言えるレベルじゃない。それに加えて浴衣なんていうのを着ているせいで感触がいつもよりダイレクト。紗夜さんは手を繋いでいるだけなのでまだいいが、日菜は何せ腕を組んでいる為ふにっとした柔らかさが上腕二頭筋と三頭筋の辺りに。

 

 

 

 

「花火は確か19時から開始か」

 

「あんまり時間もありませんし回りましょうか」

 

「あれ、むーくんだ!!」

 

「香澄ちゃん走ったら危ないよ......」

 

 

 

 

遠くから俺を見つけたのか走ってくる香澄。それに連れられてポピパメンバーもこちらへやってくる。勿論みんな浴衣を着ているので走りづらいだろうが、香澄にそんなことは関係ない。

 

 

 

「むーくんこれどう⁉︎」

 

「んー、毎年見てるから新鮮味が無い」

 

「そんな⁉︎じゃあ今から着替えてくるね!!」

 

「そんなこと出来るわけねぇだろ!」

 

 

 

相変わらずナイスツッコミだ有咲。香澄の浴衣姿なんて毎年恒例なのであまり新鮮味を感じなかったが他の4人は違う。りみりんはピンクっぽい浴衣に花柄、おたえは青を基調とした浴衣に白を所々取り入れたデザイン。沙綾は橙色に茶色のアクセントが効いてて綺麗だ。有咲は浴衣云々の前に大きい、何がとは言わない。浴衣はお胸が小さい方が似合うとか誰か言ってた気がするがそんなことない。有咲めっちゃ可愛い惚れそう。

 

 

 

 

「さっき向こうで蘭ちゃん達に会ったよ!」

 

「蘭達も来てんのか」

 

「いつも通りの面子だったよ」

 

「アイツらも相変わらず仲良しなこって」

 

 

 

蘭には言ってないから先に見つけたら避けよう。ひまりとかに見つかるとめんどくさそうだ。意外とつぐみもめんどくさそう。

 

 

 

 

「ん、どうした有咲?」

 

「いや、お前も浴衣着るんだなって思って」

 

「おい、それは俺に喧嘩売ってんのか?」

 

「有咲はむっくんの浴衣似合ってるって言いたいんだよ」

 

「お、おたえお前なぁ!!」

 

 

 

 

アフグロと変わらずポピパもいつも通りで安心した。取り敢えずコイツらと別れてさっさと回ろう。さっきから隣で紗夜さんがずっと睨んでくるから。心なしか日菜の抱きつく力も強くなってきてるし。ちょ、紗夜さん手を握る力強くなってきてません?

 

 

 

「じゃあ俺達も回ってくるから」

 

「むーくんまたね!」

 

「......私達の事忘れてませんでしたか?」

 

「忘れてたら手なんて握って無いですよ、ささっと回りましょうか」

 

「今度はあっち行ってみようー!!」

 

 

 

それからは知り合いに出会う事もなく、ただひたすらに日菜に連れ回された。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、もうお腹いっぱい!」

 

「食い過ぎな」

 

「貴方も結局は食べてたじゃない」

 

「男の子舐めてもらっちゃ困りますよ」

 

 

 

 

祭りの屋台巡りでお財布の中が半分になるとは思ってなかった。使わないだろうと思ってそこまで入れてきてなかったから危なかったな。来年からはちょっと余裕を持たせてくるとしよう。来年はまた違う奴らと行きそうな予感。ひまりとかと行ったらマジで空っぽになるかもしれん。

 

 

 

「今はどこに向かっているのですか?」

 

「まぁ着いてからのお楽しみってことで」

 

 

 

 

これ以上日菜に主導権を握らせておくと危険だと思った為、行きたいところがあると言って現在祭りをしている近くの山に来ている。ここは小さい頃俺や香澄達が良く遊んだところ。今にして思えば、俺がこういう場所に連れ回したお陰で香澄は運動神経とか良いのかもな。明日香も悪い方じゃないし令香なんて毎年リレーでアンカーだし。

 

 

 

 

「よし、着いた」

 

「んー、ここあんまりるんっとしないね」

 

「良く見えないけど下は崖になってるから気を付けてな」

 

 

 

夜で周りが薄暗く見えづらいが、下の方は崖になっていて大変危険だ。日菜や紗夜さんが年上だとしても、こんなところで女の子に怪我させる訳にはいかない。注意の意味も込めて日菜と紗夜さんの手を握り少し力を入れる。

 

 

 

「......そろそろ始まるな」

 

 

 

 

時刻は19時、祭り会場を見下ろしてみると屋台に立ち並びながらも上を見上げる人が沢山居る。ベンチに座っているひとも居れば、シートを敷いてその上に座って見ている人も居る。

 

 

 

 

そして、今日の目玉イベントである花火が一斉に打ち上げられる。

 

 

 

 

ヒュー、バンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ香澄と偶然見つけた場所なんですよ、何にも邪魔されずに花火が見えるんでより綺麗に見えますよ」

 

「ええ、とても綺麗ね」

 

「やっぱりここるんっ♪とするね!!」

 

 

 

 

一つ、また一つと花火が打ち上げられる。打ち上げられた花火に照らされて日菜と紗夜さんの顔が見える。狐のお面を付けている日菜だが、無邪気な笑顔でこちらを向いて微笑んでくれている。

 

 

 

「今日はありがと宗輝!!」

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

一方で、紗夜さんは途中の屋台で俺が買った髪飾りを触りながらも日菜同様にこちらに微笑みながら俺を見つめる。花火の色のせいなのか若干頰が赤く見えた。

 

 

 

「これ大事にしますね」

 

「気に入って貰えて嬉しいです」

 

 

 

 

毎年香澄やら令香やらがはしゃいでうるさいながらも花火を楽しんでいたが、今回のような楽しみ方も悪くないと思った。それは紗夜さんも日菜も同じようなら嬉しいけどな。

 

 

 

 

「お姉ちゃん、星も綺麗だよ!」

 

「花火のお陰かより美しく見えるわね」

 

「また来年も三人で来られたら良いね!」

 

「予定が合えば俺は大丈夫だと思うぞ」

 

 

 

 

実際今日だって行けたしな。日菜がいつ香澄に許可とってたかは知らんが大丈夫だろう。最悪じゃんけんでも何でもして決めてくれりゃ良いし。

 

 

 

「じゃあそろそろ短冊でも書きに行くか」

 

「そうですね、時間も遅いし行きましょうか」

 

 

 

 

山を下り再びお祭り会場へ。中央広場に笹が置いてあり近くに短冊とペンと机が併設されている。それぞれ短冊を取りお願い事を書いていく。

 

 

 

「んー、適当に恋愛成就とかでも書いとくか」

 

「れ、恋愛成就⁉︎」

 

「宗輝好きな人でもいるの?」

 

「失礼な、俺も立派な男の子だぞ」

 

 

 

 

つっても俺の好きなんて"LIKE"だからな。昔のトラウマ働いてどうにも"LOVE"まで進まないんだよなぁ。だからそういう意味での好きな人ってこと。せっかくの七夕なんだから少し分不相応なお願い事しても大丈夫だろう。

 

 

 

「よし、書けた」

 

「私も書けました」

 

「じゃあ飾りにいこ!」

 

 

 

 

既にみんなが短冊を書き終えていた為か飾るスペースがあまり見当たらなく端の方になってしまった。途中、"もっとパンが食べたーい"とか"スイーツ食べてダイエット成功!"とか見えたけど書いたの誰か分かる気がする。中には"いつも通りの日々を"とかいうエモいのもあったけど。

 

 

 

「高いところに付けた方がお願い事が叶えられやすいらしいぞ」

 

「私もう付けちゃった」

 

「なら私は......痛っ!」

 

「紗夜さん大丈夫ですか?」

 

 

 

紗夜さんも高いところに付けようとしたのか、爪先立ちで短冊を付けていたら足をくじいてしまったらしい。少し赤くなっているのでこれはキツイだろう。

 

 

 

「仕方ないですね」

 

「な、何ですか?」

 

「おんぶですよ、流石に歩かせられません」

 

「じゃあ私が代わりに付けとくね!」

 

 

 

俺がおんぶしている間に紗夜さんの分の短冊を日菜が付け終えてくれた。それにしても紗夜さんめっちゃ軽い。今でも時々令香をおんぶすることはあるけど女の子ってどうしてこんなに軽いんだ?ちゃんとご飯食べてる?ほら、何か歌の歌詞でもあったじゃん。沢山食べる君が好きとかって。要するに今の時代大食い女子がモテるんだな。前にテレビでも大食い特集やってたし。

 

 

 

「重かったら下ろして頂いても......」

 

「全然重くなんか無いです、むしろ軽いくらいですから」

 

「お姉ちゃんだけズルイなー」

 

「紗夜さんも怪我してるし帰るか」

 

 

 

 

花火もちょうど良いタイミングで終了して七夕祭りも終わりが近づいていた為、混雑しないように少し早めに帰るとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

~氷川宅~

 

 

 

 

「やっと着いたな」

 

「降ろしてもらって結構ですよ」

 

「ここまで来たんですから中まで行きますよ」

 

 

 

無事日菜と紗夜さんの家に到着。少し早めに帰り始めたお陰であまり混雑に巻き込まれずに済んだ。行きと帰りが混雑するのも毎年恒例なので困る。日菜に玄関を開けてもらい紗夜さんを部屋へと送り届ける。

 

 

 

 

「じゃあ後は頼んだぞ日菜」

 

「うん、任せて!」

 

「本当にありがとうございました」

 

「いえいえ、大した怪我じゃなくて良かったです」

 

 

 

 

そうして俺は帰ろうと思ったが、日菜が送ると言って聞かなかったので玄関まで送ってもらうことに。

 

 

 

 

「今日は誘ってくれてありがとな」

 

「こっちこそ凄い楽しかったよ」

 

「じゃあ俺も帰るから」

 

 

 

そう言って振り返り玄関を出ようとしたところを日菜に止められる。まだ何かあるのかと不安に思い再度振り返ってみると、俺と日菜の距離は零になっていた。

 

 

 

 

「こ、これは今日のお礼!」///

 

「お、おう」

 

「じゃあまたね!」///

 

 

 

日菜は猛スピードで階段を駆け上がっていってしまった。まさか日菜に不意打ちでキスされるとは思ってなかった。想定外の出来事に脳がついていけないが取り敢えず帰ろう。

 

 

 

 

「やっぱ最初のお願いにしときゃ良かったかな」

 

 

 

 

 

 

少し短冊に書いた内容を変更したくなった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「おまけのコーナーで御座います」

 

 

宗輝「今回のゲストは巴&あこの宇田川姉妹だ!」

 

 

巴「これって何すりゃ良いんだ?」

 

 

あこ「あこ知ってるよ!夢幻の常闇に潜む......えーっと、適当にお話するやつ!」

 

 

宗輝「おう、大体合ってる」

 

 

巴「もうグダグタだと思うけどな」

 

 

あこ「お姉ちゃんは七夕祭りで太鼓叩いてるんだよね?」

 

 

巴「そうだなー、あれ着替えがめんどくさいんだよ」

 

 

宗輝「と言うと、浴衣からわざわざ着替えんのか」

 

 

巴「まぁ楽しいから良いんだけどな」

 

 

宗輝「ソイヤって言いながら叩くのか」

 

 

巴「何だかそれネタ扱いされてないか?」

 

 

あこ「私はカッコいいと思うよ!」

 

 

巴「ああ、あこありがとう」

 

 

宗輝「というかあこは七夕祭り行かないのか?」

 

 

あこ「その日はNFOで特殊イベントがあるから!」

 

 

宗輝「じゃあ燐子先輩も当然一緒だな」

 

 

巴「私としては一緒に行きたいんだけどな」

 

 

あこ「じゃあ来年はお姉ちゃんと一緒に行く!」

 

 

宗輝「だってさ巴、感想は?」

 

 

巴「私の知らない間にこんなにも立派になって......」グス

 

 

宗輝「何で泣いてんだよ」

 

 

あこ「そのかわり七夕祭り前夜祭イベント頑張る!」

 

 

宗輝「それは巴の前では言わないようにしような」

 

 

 

 

 

 

-End-





やはり七夕と言えば紗夜日菜、紗夜日菜と言えば七夕な気がしました。
いつも場面場面を出来る限り想像して書いていますが、今回は中々やり易くて楽しかったです。

他の方の作品を見る機会がありますが、挿絵が最近気になってます。
誰か宗輝君描いてくださる方居ないですかね?


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Produce 36#漆黒の狂宴


更新大幅に遅れてしまい申し訳無い。
遅れた理由は多々ありますがご容赦願います。

今回過去一の文字数.......
厨二展開多数......

これからも暖かく見てやって下さい。

それでは、36話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

本日は快晴、空を見上げると雲一つない青空。どこまでも澄み渡り青一色に染め上げられたそれは、何処か天然バンドメンバーの愛用ギターを彷彿とさせる。半袖を着ていても少し汗ばんでしまう様な外気温にうんざりしながらも、今日も今日とて日は回る。

 

 

 

色々あった七夕祭りから数日、特に何の変哲も無い日々を過ごしている。朝香澄と令香にダイブで起こされるところから始まり、学校ではポピパメンツ、こころやはぐみと言った問題児や花音先輩や燐子先輩達癒し系キャラの人達とも話したりして、学校生活もとい青春を謳歌しているように感じる。

 

 

 

 

「むーくん聞いてる?」

 

「すまん、ちょっと考え事してた」

 

「また風邪引かれたら困るしちゃんと休みなよ」

 

「沙綾こそ最近は頑張ってるって聞いてるぞ」

 

 

 

 

沙綾の情報はやまぶきベーカリーに行く度に千紘さんから共有してもらってる。勿論、純や紗南達も貴重な情報源だ。やれ朝早く起きてパンの仕込みやってるとか練習無い日は大体店の手伝いしてる事だったりだとか。まだライブの予定とかは無いから基本的に練習は出来る時に出来るだけやるスタイル。

 

 

 

「まーたお母さんでしょ」

 

「仕方ねぇだろ、千紘さんの方から教えてくれるんだよ」

 

「でも前はむっくんから......」

 

「おたえ、うさぎのしっぽパン2つで手を打とう」

 

「やっぱり何でもないや」

 

「おたえお前上手いこと飼い慣らされてんぞ」

 

 

 

おたえは扱い易くて助かる。やまぶきベーカリー人気パンの一つであるうさぎのしっぽパン。案外早く売り切れる為朝早くに行くか取り置きでもしないと中々食べられない代物だったりする。いつもって訳じゃないけどな。

 

 

 

「午後の授業体育2時間だっけ?」

 

「バレーボールとかめんどくせぇ〜」

 

「有咲ちゃんとやらなきゃダメだよ!」

 

「私達は2時間共移動教室だから早めに戻ろっか」

 

「うん、じゃあまた放課後だね」

 

 

 

どうやら沙綾とりみりんは移動教室らしい。あれもあれでめんどくさいからなぁ。1つ目の授業と2つ目の授業の教室が真反対とか時々あるからな。あーだこーだ駄弁りながら歩いてると着いたらすぐ授業開始のチャイムが鳴ったりしてやる気無くす。しかも時間割とか決まってるから週1でやってくるんだよなぁ。

 

 

 

「なら俺らも着替えあるし戻るか」

 

「じゃあねおたえ!」

 

「また放課後〜」

 

「有咲姫、教室までご案内致します」

 

「はいはい、良きに計らえよ〜」

 

 

 

このやり取りも何十回とやってきただろう。最初は周りの生徒に変な目で見られてたけど最近は何故か暖かい目線を感じる。別に俺と有咲はそういう関係じゃないからね?

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「お帰りお兄ちゃん」

 

「ただいま我が愛しの妹よ」

 

「また有咲さんとお姫様ごっこしてたでしょ」

 

 

 

 

令香にはバレバレらしい。結局体育の時間ずっと有咲とお姫様ごっこしてたからな。水と言われれば水分補給の手伝いをして、熱いと言われたら仰いで風を送る。どうやら俺は意外と尽くすタイプの人間らしい。

 

 

 

「母さん達は?」

 

「お父さんと一緒に買い物に出かけたよ」

 

「なら夕飯はもうちょっと後になりそうだな」

 

「お腹空いたなら令香作ろうか?」

 

 

 

何て良くできた妹なのだろうか。兄がお腹を空かせているのを見計らって自ら晩御飯を作るという殊勝な考え。俺はお前が妹で本当に良かったよ。

 

 

 

「いや、夕飯まで部屋で時間潰すわ」

 

「夕飯出来たら呼びに行くね」

 

「いつもさんきゅーな」

 

「それは言わないお約束でしょ」

 

 

 

 

何か熟年夫婦みたいで憧れるシチュエーション。だかしかし相手は妹、愛が芽生えているとは言うものの家族愛というものである。いくら好きだと言っても超えてはいけない一線は存在する。

 

 

 

 

宣言通り自分の部屋で時間を潰すと言ったものの、時間を潰せるような物がなくて困っている。ゲームはリビングに置いてあるし漫画でも読み直すか?既に数十回は読み漁ったであろうラブコメや学園モノ、最近では異世界転生モノも多いと聞く。

 

 

 

「流行りのアニメでもあこに聞いてみるか」

 

 

 

自分の携帯の連絡先を開き目的の人物の電話番号を調べる。確か前に巴と一緒に登録しておいたはず。ところが、神がかったタイミングで電話しようとしていたあこから着信アリ。これって運命ってやつ?

 

 

 

「もしもし、どうしたんだあこ?」

 

『宗輝ってNFOやってたっけ?』

 

「んー、最近忙しくてやれてないけどな」

 

 

 

 

 

あこの言うNFOという言葉。"Neo Fantasy Online"というこれまた流行りのMMORPGゲームである。内容はファンタジー寄りでギルドやら何やらも盛り沢山のPCゲー。あこに伝えた通り、最近は忙し過ぎてあまりIN出来ていないのだ。偶に気が向けばログインボーナスだけでも取ってる感じ。あと定期的にアプデが入る為INしておかないと後々面倒な事になる。

 

 

 

 

『今から入れたりする?』

 

「入れるっちゃ入れるが、何かあるのか?」

 

『今三人限定の特殊なイベントやってて人数が足りないの』

 

「それで俺に白羽の矢が立ったと」

 

 

 

 

どうやら数集めで俺に声が掛かったらしい。三人パーティー限定となると自ずと難易度は上がってくる。戦闘向けなタンクやウィザード、補助的な役割を担うヒーラー等役職が限られてくる為、簡単にクリアさせてはくれないだろう。多分もう一人は燐子先輩で決定だろう。

 

 

 

「分かった、今からINするから待っててな」

 

『ありがと!確認出来たら通話かけるね!』

 

「まぁ今も通話してるけど......って切りやがったな」

 

 

 

俺のつまらんネタは別に聞かなくても良いけどさ。とにかくINしてみるか。この間はいつやったっけな?正直、装備とか一世代ぐらい前だろうから役に立つか分からんな。

 

 

 

「ヘッドホンどこやったっけな」

 

 

 

 

PCを起動させている間にヘッドホンを探す。前に置いたところを覚えていなかった為、手当たり次第に探していくと案外簡単に見つかった。タイミング良くPCも起動出来た様なのでNFOのアイコンをクリックしログインする。自分のプレイヤーネームである"(かがやき)"。そしてキャラクターが映し出されゲームが始まる。ついでにあこと燐子先輩との通話も開始。

 

 

 

「もしもし、宗輝入れた?」

 

「おう、前にINした時からアプデ入ってなくて助かった」

 

「宗輝君、こんにちわ」

 

「燐子先輩もやってたんですね」

 

 

 

 

通話も無事繋がったところで、集合場所である旅立ちの村に向かう。何やらチャットが凄い速度で流れているが何かあったのだろうか?多分何処ぞのパーティーがチャット機能を全体にしているのを忘れて会話でもしているのだろう。俺もその経験あるから分かるが意外と気付かないものである。やれ夕飯何食べただの今日の学校しんどかっただの聞きたくもない事を聞かされる側になると気にならないけど。

 

 

 

 

「到着、二人は何処にいるんだ?」

 

「あこはりんりんと一緒にいるよー」

 

「あこちゃんは"聖堕天使あこ姫"、私は"RinRin"です」

 

「聖なる天使か堕ちた天使かハッキリしろよ」

 

「こっちの方がなんかカッコいいじゃん!」

 

 

 

俺からすれば多分あこは聖なる天使側だと思うけどな。聖堕天使とかごちゃ混ぜな設定に加えて姫も付いてきてる。まぁ厨二病な点を堕天使の部分とすると全て合点がいくってもんだ。あこは天使で堕天使で姫だからな。因みに燐子先輩は女神。

 

 

 

「見つけた、ちょっと遠いな」

 

「ゆっくりで大丈夫ですよ(*´꒳`*)」

 

「あこ達もまだ準備出来てないから」

 

 

 

旅立ちの村にいるプレイヤー一覧を開き、先程燐子先輩から伝え聞いたプレイヤーネームを検索する。確かに"聖堕天使あこ姫"の近くに"RinRin"というプレイヤーがいる。この二人で間違い無いだろう。俺は村の入り口、二人は村の奥の方で準備しているとの事なのでダッシュで向かう。

 

 

 

 

「それよかさっきからチャットがうるさいけど、特殊イベントか何かの話で盛り上がってんのか?」

 

「あこ達もチャット見てないから分かんない」

 

「ちょっと確認してみるね」

 

 

 

 

流石は燐子先輩、こういう時にすぐ行動に移せるのは良いことだ。まぁ現実(リアル)では少し難しいだろうけど。燐子先輩もそういう自分を変えたくて生徒会長になったらしいし、俺も生徒会に入っては無いけど出来る限りサポートしていこう。

 

 

 

 

「あ、あこちゃん大変だよΣ(゚д゚lll)」

 

「どうしたのりんりん、珍しく声が大きいよ?」

 

「何かあったんですか?」

 

 

 

あこの言う通り、珍しく燐子先輩が声を荒げて驚いた様な反応をしている。どうやらチャットで何かあったっぽいな。さっきから凄い速度でチャットが流れていたのでそれが原因だろう。

 

 

 

 

 

 

「......伝説(レジェンド)が旅立ちの村にいるらしいです」

 

「えぇ⁉︎う、嘘でしょりんりん⁉︎」

 

「なぁ、そのレジェンド?って誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『......え?』

 

 

 

 

 

 

二人共まるで知っているのがさも当たり前の様な反応。もしかして俺が居ない間に伝説(レジェンド)が誕生してる感じですか?数ヶ月離れていたとはいえ早すぎる気もする。イキリプレイヤー曰く、何よりも重要なのは"情報"らしい。その点において言えば俺はまだまだということなのだろう。

 

 

 

 

「宗輝は伝説(レジェンド)の事知らないの?」

 

「知ってたら俺も驚いてるだろ」

 

「あの有名な伝説(レジェンド)をですよ(・・?)」

 

「そんなに有名なんですか?」

 

 

 

「当たり前ですよ!そもそも、その伝説(レジェンド)という名前の由来はそのプレイヤーの功績を称えてのギルドからの公式命名なんです!例えば、超高難易度クエストをソロでクリアしたり、激レアアイテムや装備を沢山所持していたり、伝説級のモンスターを討伐したりと様々な場面で活躍されてます!私もファンの一人として是非お会いしてみたい方なんですよ!あ、でももう一人......」

 

 

 

 

燐子先輩が興奮気味に饒舌に話し始めた。面と向かって話す時は、目を合わす事すら躊躇っていたあの燐子先輩が。普段静かな人がこうやって話してくれると、何だか気を許してくれているみたいで嬉しくなってくる。自分でも嫌われてはいないとは思っている。もし燐子先輩に嫌われているのだとしたらどうしよう。取り敢えず三日間程は枕を濡らして引き篭もるのは確定だろうな。

 

 

 

 

 

「あれ、ちょっと待ってください。ソロクリアとか伝説級とかってまさか☆9クエストとか黒龍(ブラック・ドラゴン)の事だったりしませんか?」

 

「やっぱり宗輝知ってるじゃん」

 

「......先の展開が読めたぞ」

 

 

 

近未来のAIもビックリの先読み速度。燐子先輩の口から出てきた"ソロクリア"や"伝説級"とかのワードが出てきたから怪しいとは思ってたけど。せめて間違いであって欲しいけど、最終確認は行っておこう。

 

 

 

「宗輝君、どうしたの?」

 

「あのー、もしかしてそのプレイヤーの名前は"輝"だったりします?」

 

『そうだけど、それがどうしたの?』

 

 

 

 

見事にシンクロする二人に真実を告げよう。

 

 

 

 

「それ、俺」

 

「何言ってんの宗輝」

 

「いやだから、その伝説(レジェンド)プレイヤーは俺なのよ」

 

「そういう嘘はいけないよ宗輝君」

 

 

 

まぁこうなるわな。最初から信じてもらえるとは思ってなかったけど。これどうすりゃ証明出来るんだ?

 

 

 

「じゃあメニュー開いて"称号"の欄見てよ」

 

「ほい、開いたぞ」

 

「その称号欄の中に"伝説(レジェンド)"だったり"黒龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)"の称号はありますか?」

 

 

 

 

燐子先輩の言う"伝説"や"黒龍殺し"の称号だけでは飽き足らず"暗殺者(アサシン)"や"剣王(ブレード・マスター)"、"魔法皇(オーバー・ウィッチ)"や"無頼騎士(グロリアス・ナイト)"とか言う厨二病地味た称号までバッチリ手にしている。

 

 

 

 

「物的証拠として写メ撮って送りますね」

 

「え、本当にあるじゃん」

 

「......む、む、宗輝君が、あの伝説(レジェンド)?」

 

 

 

 

この後滅茶苦茶質問攻めされた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

伝説(レジェンド)が俺であるという事実が判明し、ようやく二人と合流。周りに数多くのプレイヤーが居るが気にしないでおく。まさか俺がそんな風に呼ばれていたとは全く知らなかった。道理で伝説なんて言われてもピンとこない筈だ。

 

 

 

「因みに今の装備は何?」

 

「ん、これは黒狼(ブラック・ウルフ)の素材で作った防具(コート)

 

「モンスターの中でも黒種は強敵揃いなの知ってる?」

 

「中級冒険者じゃ歯が立たないとも言われてるよ」

 

 

 

こうやって話を聞いてると自分が如何に異質なものなのか漸く自覚する事が出来る。だとしても燐子先輩はウィザードで装備も充実しているし、あこもネクロマンサーで武器も中々良いものを装備している。二人共上級と言っても差し支えない実力だろう。このクエスト俺じゃなくても良くね?

 

 

 

 

「取り敢えず特殊イベントやらを進めるか」

 

「今回の特殊イベントの名前は"漆黒の狂宴"」

 

「討伐のターゲットは"狂人(バーサーカー)"らしいです」

 

「如何にもって感じのターゲットですね」

 

 

 

 

どうやら今回の"漆黒の狂宴"という特殊イベントは三人限定パーティーでしか受注できないらしく、難易度も☆7と超高難易度に届きはしないが間違いなく苦戦を強いられるだろう。

 

 

 

「パーティーバランスを考えると俺は補助役に回った方が良いのか?」

 

「あことりんりんで攻撃するから宗輝は補助お願い!」

 

「一応、私も補助系魔法は使えるので他の職業でも構いませんよ」

 

「んー、こう職業があり過ぎるのも困る」

 

 

 

職業選択欄がびっしり埋め尽くされている。最初は初級クラスの剣士だったり武闘家だったりしか選べないが、ほとんどの上級職を解放しているのでこういう時に困る。燐子先輩がウィザードで補助も出来るらしいから俺はタンク役にでも回るか。

 

 

 

「これ選んどきゃ大丈夫だろ」

 

「"守護聖騎士"って何?」

 

「"守護聖騎士"はクルセイダーって言ってタンク役の上級職だよあこちゃん」

 

「装備も適正装備に変更しとくか」

 

 

 

現在装備しているものは"守護聖騎士(クルセイダー)"の適正装備ではない為変更が必要となる。特殊な加工が施されたレアメタルをふんだんに使った白銀の鎧。単に防御力が高いだけでは無く、アンデット系の耐性も高い為今回のクエストに持ってこいだ。それに、魔の力を封じ込めた緋色の盾。相手の魔力を吸って自分の物へと変換することのできる優れもの。自分の魔力を他人へと譲渡する特技も持ち合わせている為、これで燐子先輩の魔力切れも心配ないだろう。

 

 

 

 

「じゃあ準備出来たし行くか」

 

「あこちゃん、宗輝君、頑張ろうねo(≧▽≦)o」

 

 

 

 

旅立ちの村からワープポイントを通り目的地へと向かう。本来であれば歩きや馬車等で向かうのだが、今回の特殊イベントの仕様でワープポイントでしか向かえない様になっているらしい。目的地には沢山のパーティーがクリアの為に集結していた。

 

 

 

「やっぱ多いなぁ」

 

「みんなクリア報酬狙いでしょ」

 

「今回は特殊イベントなだけあって報酬が豪華なんですよ」

 

「それって何が貰えるんですか?」

 

「職業毎に報酬が変わる特殊報酬型で、例に出して言えば"ネクロマンサー"であれば"狂刃(リッパー・ナイフ)"という攻撃した相手に一定確率で麻痺や毒の状態異常を付与することの出来る短剣が貰えますね」

 

 

 

 

なるほど、その職業毎に適した報酬が貰えるって訳だな。まぁそれくらいの報酬が無いとクリアする意味も無いもんな。

 

 

 

「因みに私の"ウィザード"の場合"狂宴の衣"という装備しているだけで状態異常になりにくくなり、且つ各属性耐性もアップする防具が手に入りますよ」

 

「じゃあ俺の職業は何が貰えるんだろうな」

 

「上級職の報酬は運営からも知らされて無いよ」

 

 

 

 

クリアしてからのお楽しみってことにしとこう。話を聞く限りでは結構レアな装備が手に入りそうだからクリアするに越した事は無いだろう。まだどういう敵なのかハッキリと分からない為、最大限の注意は必要だろう。HP回復ポットも一人3つずつでも持っておいて損は無さそうだな。一応、俺もヒーラーのスキルで回復魔法は使えるがそこまで効果は期待できそうに無いし。

 

 

 

 

「そろそろ始まりますね」

 

「クエスト開始と同時にまたワープか」

 

 

『クエスト開始まで残り1分です』

 

 

 

 

女性の声でアナウンスが聞こえてくる。時間になるとワープで一斉にスタートする仕組みらしい。かと言って全員同じ場所にワープはせず、各パーティー別々にワープしてそれぞれクエスト開始。見た感じ周りのパーティーもそこそこだったのでみんなクリア出来るだろう。

 

 

 

 

『それでは、クエストを開始します』

 

 

 

 

 

 

アナウンスと共に全てのパーティーが光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

~狂宴の館~

 

 

 

 

 

 

「如何にもなステージだな」

 

「狂宴の館だってさ」

 

「取り敢えず補助魔法かけとくね」

 

 

 

今回の特殊イベントステージである狂宴の館に到着。いつ戦闘が始まってもおかしくない為、燐子先輩が基礎能力を底上げする補助魔法をいくつかかけてくれる。この効果は永続的な効力を持たない為、効果が切れる度に掛け直す必要があるのが注意点。

 

 

 

 

「早速お出ましか」

 

「ザコ敵だけど平均的にレベルが高いよ!」

 

 

 

 

先程、周りの草むらから飛び出してきたのは狼族(ワーウルフ)。基本的にはザコ敵なのだが、今回のイベントで敵にブーストがかけられておりレベルが総じて高く設定されていた。狼族(ワーウルフ)は攻撃力が高いモンスターなので被弾するとボス戦に影響が出てしまう可能性もある。

 

 

 

「守りは俺に任せて二人は隙を突いて攻撃な」

 

「我が力、存分に楽しむが良い!」

 

「分かりました!」

 

 

 

 

俺とあこが前線、燐子先輩が一つ引いた位置で魔法で援護という布陣を取る。ヒットアンドアウェイで少しずつ数を減らしていく作戦だ。幸い3匹と多くはない。敵は様子を伺う事無く一直線にこちらへ向かってくる。あこの前に立ちはだかり盾で攻撃を凌ぎ、僅かに生まれた隙にあこが攻撃を叩き込む。

 

 

 

「とりゃあ!!」

 

「あこちゃん援護するよ!」

 

 

 

 

あこが大鎌(サイス)を振りかざし敵を切りつけた後に、燐子先輩が唱えた炎熱魔法が降り注ぐ。見事に全弾命中し一匹目を仕留める事が出来た。それを見かねた二匹が同時に襲いかかってくるが同じ様にして二匹を仕留める。

 

 

 

 

「燐子先輩ナイス援護、あこも切り込み役ご苦労さん」

 

「宗輝君が引き付けてくれてたからだよ」

 

「我が力思い知ったか......ねぇりんりん、さっきのあこのばーんってやつカッコよかった⁉︎」

 

「凄くカッコ良かったよあこちゃん」

 

 

 

 

戦闘が終わり一息つく二人。どうやらこのイベントでは敵にも基礎能力向上の魔法がかけられているらしく、何から何まで至れり尽くせりのクエストである。その分経験値や報酬が豪華だから良しとしよう。

 

 

 

 

「確かにこれは中級者じゃキツそうだな」

 

「取り敢えずもう一回補助魔法かけとくね」

 

「ありがとりんりん!」

 

 

 

ボス戦の最中に効力が切れてしまってはいけないので燐子先輩が補助魔法を重ね掛けする。先程の炎熱魔法に加えて2度の詠唱で魔力も少し減ってきたところと見た。

 

 

 

 

「燐子先輩、魔力切れを起こすといけないので俺の魔力分けときますね」

 

「そんなスキルあるんですか?」

 

「すみません、先に謝っときますね」

 

「へ?......ッ!!」

 

 

 

 

本当にこの仕様には疑問しか浮かばない。この俺の魔力を分けるスキル、無条件で分けられれば良いものの対象者に触れなければならないという意味不明な条件付き。たかがネットのPCゲーで何言ってるんだって話だが相手が如何せん燐子先輩。俺も今の今までソロでやってきた為このスキルは初めて使う。ただでさえ現実(リアル)では余り人と接する事を得意としない燐子先輩だからこそ先に謝っておこうと思った。

 

 

 

 

「よし、このくらいでどうですか?」

 

「......」

 

「あれ、りんりんどーしたの?」

 

 

 

 

急に燐子先輩が喋らなくなってしまった。やはりいきなり身体に触れるのはよろしくなかったのだろう。雰囲気を悪くしないよう個人チャットで謝っておこうと思った矢先、燐子先輩からのチャットがくる。

 

 

 

 

『......宗輝君、ありがとうね(〃ω〃)』

 

 

 

 

 

少し恥ずかしかったのだろうかチャットでお礼される。俺も次からはちゃんと断りを入れてからやろう。

 

 

 

「じゃあ中に入りますかね」

 

「深淵なる館、我ら三人で見事攻略して見せようぞ!!」

 

『頑張ろうね(`・ω・´)』

 

 

 

流石にボス戦では話してくださいよ燐子先輩。チャット打つのがどれだけ早くてもボス戦でチャット対応はNGです。ソースは俺。偶々居合わせたパーティーと協力して高難易度クエストに挑んだが、意思の疎通がままならないのでアッサリと俺以外全滅。それ以来完全にソロプレイヤーとして動いているのは内緒の話。

 

 

 

 

 

 

~狂宴の館・室内~

 

 

 

 

 

 

「中は少し暗いな」

 

「りんりんお願い!」

 

 

 

物凄く古い扉を開けて狂宴の館とやらの中へと歩を進める。見た限り初っ端から戦闘開始という雰囲気では無かったので一安心だ。燐子先輩が辺りを明るくする魔法をかけてようやく周りがしっかりと見えてきた。そして、奥の方から歩いてくる人影が一つ。

 

 

 

 

『ようこそ我が館へ』

 

「......あこ、燐子先輩」

 

「アイツ滅茶苦茶強いよ」

 

「レベル表示が???ですね」

 

 

 

基本的に未だ出会ったことのない強敵や、自分より遥かにレベルが上回る敵は今回のように???で表示される。俺はほぼレベルはカンストしている為、今回は前者なのだろうと予測できる。万が一に備えてあこと燐子先輩には臨戦態勢を取ってもらった。

 

 

 

『まずは自己紹介を、我が名は狂人(バーサーカー)。分かりやすく説明するなら"切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)"とでも名乗っておこうか」

 

 

 

切り裂きジャック。またはジャック・ザ・リッパーなんて呼ばれている。それは実際に起きた連続殺人魔の異名。その悪魔のような所業は一時期世間を、世界を震撼させた。そんな奴をモチーフにした作品は数多く存在する。コイツもその一人って訳だ。人型のクエストボスで人語も話せるとかもう完全に人間じゃん。

 

 

 

「あの短刀(ナイフ)には気をつけた方が良いな。さっきみたいに俺とあこで前線を、燐子先輩は補助魔法中心に隙があれば攻撃魔法を!」

 

「分かった!」

 

「後ろからは任せて!」

 

 

 

『では早速』

 

 

 

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)短刀(ナイフ)を両手に構えた刹那、姿が消える。俺たちが陣形を整えるのを待っていた風にも見えたのだがその理由にも納得できる。これでは中級どころか上級者でも一歩間違えば即全滅すらありえるだろう。

 

 

 

「あこ!左から来るぞ!」

 

「了解!......ッ!!」

 

 

 

鉄と鉄がぶつかり合うような鈍い音が館に鳴り響く。俺の予想通り左から距離を詰めてきたのに対し、あこは何とか大鎌(サイス)で攻撃を受け止め鍔迫り合う形を取る。

 

 

 

「燐子先輩、今です!」

 

「うん、分かった!」

 

 

 

あこが動きを封じているのを見計らい、燐子先輩へ魔法攻撃を仕掛けるよう伝える。燐子先輩が放ったのは先程の炎熱魔法の上位。魔力のブーストもかかっており威力は充分。だがしかし、ヤツの頰をかすめて背後の壁に激突し霧散する。

 

 

 

『成る程、貴方達はお強いようだ』

 

「☆7の高難易度クエストボスがそれ言うか」

 

『ええ、なので確実に仕留めます』

 

 

 

先程とは明らかに違う殺気を放ちだす切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)。その動きは洗練されており、とてもじゃないがあこや燐子先輩には対応する事は難しいとさえ思えた。

 

 

 

「ッ!!あこ後ろだッ!!」

 

「え?」

 

『......遅い』

 

 

 

俺の索敵スキルに反応したコンマ数秒後、ヤツはあこの背中へと短刀を突き刺し素早く退いた。攻撃をまともに食らったあこは、その場に膝をつき動かなくなってしまう。

 

 

 

「あこちゃん大丈夫⁉︎」

 

「HPはまだ大丈夫そうだが、見事に麻痺毒を仕込まれたな」

 

「......ごめんね宗輝」

 

「何言ってんだ、お礼なら咄嗟に防御魔法かけてくれた燐子先輩にしろよ」

 

 

 

完全詠唱では無かったものの、燐子先輩は俺の声と同時に防御魔法をあこに重ね掛けしていた。そのお陰であこは大事に至らなかったと言える。

 

 

 

「しっかし、攻撃されると確定で状態異常付与とかキツイな」

 

「何か策は無いでしょうか......」

 

『そろそろ宜しいですか』

 

「......燐子先輩、あこ、俺に策がある。今から内容を送るんで確認して下さい。その間、俺が時間稼ぎしとく」

 

 

 

 

実はこのクエストを受注する前からいくつか策を練っておいた。相手の詳細までは分からなかった為、適切と言えるかは微妙なところだ。内容をオープンチャットからパーティーチャットへと切り替えて二人へ送信する。その間に俺はアイツの相手だな。

 

 

 

「待たせたな、今度は俺が相手だ」

 

『あの伝説(レジェンド)が相手とは光栄ですね』

 

「その台詞をモンスターに言われるとは思わなかったぞ」

 

 

 

それ以降、言葉を交わす事無くぶつかり合う。俺の手には緋色の盾、相手は状態異常を確定で付与してくる二本の短刀。毎度ギリギリのラインで受け止めたり受け流したりの攻防が約5分。

 

 

 

『流石は守護聖騎士(クルセイダー)と言ったところです』

 

「一応、剣も使えるんだが今は防御で手一杯なんでな」

 

『......他の二人が見当たりませんね』

 

 

 

周りを見渡すと、確かにあこと燐子先輩が姿を消している。しかし、これは俺立案の立派な作戦。ここで気付かれて邪魔されては困るのだ。

 

 

 

「周りを気にしてる暇は無いぞ!」

 

『そのようですね』

 

 

 

俺は緋色の盾から青色の宝玉が埋め込まれている剣へと装備を変更し攻撃へシフトチェンジする。流石の反応速度で余裕で対応してくる辺り、☆7クエストという事を嫌でも実感させられる。因みに☆9の超高難易度は制限付きだったり、敵にバフ掛かってたりと明らかに不利な状況の物も存在する。それに比べりゃまだ簡単な部類だと思っておこう。

 

 

 

「知ってるか?実はこれ聖剣だったりするんだぜ」

 

『それは興味深いですね』

 

「バルムンク......つっても知るわけないか」

 

 

 

 

この手にしている"バルムンク"という聖剣。俺がNFOガチ勢の頃にドイツ神話系イベントで手に入れた物。聖剣というだけあって魔を滅する力は桁違いだ。先程から鍔迫り合いの連続だが、その都度ダメージを確実に与えている。

 

 

 

『宗輝君準備出来ました(`・ω・´)』

 

 

 

燐子先輩からチャットが飛んでくる。どうやら二人共準備万端らしいな。

 

 

 

 

「隙あり!食らえ全拘束(フルバインド)ッ!!」

 

『なっ!!』

 

 

 

鍔迫り合いで相手の短刀を吹き飛ばし両腕を抑えて拘束魔法で捉える。この全拘束(フルバインド)は拘束魔法の上位で、相手に直接触れないと唱えられないが効果は絶大。イエスキリストよろしく磔の刑に処されている切り裂きジャック。その様子を見て俺の背後からあこと燐子先輩が姿を現わす。

 

 

 

『一体何処へ隠れていたのだ』

 

「手品のタネは簡単さ、要はアンデットプレイと魔法とのコラボってところだ」

 

「我は大魔姫あこなるぞ!!」

 

 

 

 

そこまで複雑な事は戦いの最中には出来ない。あこのネクロマンサー故の利点と燐子先輩のウィザードの利点を組み合わせただけのこと。アンデットプレイで攻撃を受けたあこの気配を消し、燐子先輩の隠密魔法(ブラインドカーテン)という姿を短時間消す魔法を使用して二人共が隠れる。その間気付かれないように俺が戦闘、二人は回復と攻撃の準備。そして準備が整ったので相手を拘束。三人で一斉攻撃で終わりだ。

 

 

 

「今から俺があいつから奪った魔力全部燐子先輩に譲渡します」

 

「えぇ?だ、大丈夫なの?」

 

「りんりんならやれるよ!!」

 

 

 

俺が最初から攻撃しなかったのもその為だ。わざと防御に専念することで魔力を吸収する盾で少しずつ相手の魔力を吸収し自分の物へと変換する。それを最後に燐子先輩に譲渡することで威力アップを計った。我ながら完璧な作戦だと思うよ。もっと褒めてくれても良いんだよ?

 

 

 

「燐子先輩!炎熱魔法の最上位魔法を唱えて下さい!」

 

「は、はい!」

 

「我ら三人の結束の力、とくと味わえ愚か者!!」

 

 

 

 

 

 

 

極大灼熱魔法(インフェルノ)!!』

 

 

 

 

 

 

 

『......見事だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

後に語られる事になる三人パーティー。狂宴の館を敵丸ごと吹き飛ばしてしまう大惨事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-数日後-

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

「令香、部屋に入る時はノックをだな」

 

「パソコン貸してよ!」

 

 

 

 

いきなり部屋に入ってきてパソコンを貸せと強請るか小娘。可愛いから全部許してやろう。これが父さんとかだったらちょっとキレそう。

 

 

 

 

結局、あの日は無事クエストをクリアして報酬もゲット。流石に最後はやり過ぎた感あったけど。あこは念願の狂刃(リッパー・ナイフ)、燐子先輩は狂宴の衣を手に入れて満足そうにしていたので良しとしよう。かくいう自分はまさかまさかの称号のみ。端的に言えば報酬は無かった。何で俺だけ報酬ないのん?運営さんこれは何かのバグですか?

 

 

 

 

「あれ、お前NFOやってたの?」

 

「お兄ちゃんが居ない間やってたよ」

 

「へぇ、データ見せてくれよ」

 

 

 

令香がログインし自分のキャラの画面へと移行する。そこにあったのはやはりお馴染みの展開。

 

 

 

 

NFOには伝説(レジェンド)に勝るとも劣らないプレイヤーがもう一人存在する。

 

 

 

そのプレイヤーの名は......

 

 

 

 

「......この"零"はお前だよな?」

 

「何言ってんの、当たり前じゃん」

 

 

 

 

プレイヤーネーム"零"

 

 

 

ギルドから命名される二つ名は"戦女神(ヴァルキュリア)"

 

 

「キラぽんのしっぽが100......少なくなってきたなぁ」

 

「......流石俺の妹だな」

 

 

 

 

 

俺の妹が完璧すぎて困ってます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「毎度お馴染みのおまけコーナー」

 

 

宗輝「今回のゲストは沙綾とツンデレ有咲姫だ」

 

 

有咲「ツンデレなんかじゃねーし!!」

 

 

沙綾「姫の部分は否定しないんだね」

 

 

宗輝「二人共、今月ハロウィンだけど何かやるのか?」

 

 

沙綾「蔵でポピパーティーするよ」

 

 

宗輝「何それ聞いてない」

 

 

有咲「香澄が言い忘れてるだけだろ」

 

 

沙綾「有咲が一番楽しみにしてるもんね」

 

 

有咲「んなっ!!そういう沙綾だってこの前のコスプレ衣装楽しそうに選んでただろ!」

 

 

宗輝「コスプレ衣装?」

 

 

沙綾「その日はみんなでコスプレしようって決めてるの」

 

 

宗輝「待てよ、誰が何のコスプレするか当てるから」

 

 

有咲「はっ、当てられるもんなら当ててみな」

 

 

宗輝「有咲は意表を突いて赤ずきん」

 

 

有咲「何で当てられるんだよ!!」

 

 

宗輝「んー、愛故に?」

 

 

沙綾「じゃあ私は?」

 

 

宗輝「沙綾は何か魔女っぽいよな」

 

 

沙綾「因みに純と紗南にも当てられたよ」

 

 

宗輝「当てたご褒美とか無いのかな〜」

 

 

有咲「ご褒美つってもな〜」

 

 

宗輝「じゃあその日みんなで写真撮ろうぜ」

 

 

有咲「そのくらいなら、まぁ良いかな」

 

 

沙綾「香澄は何着ると......」

 

 

宗輝「キョンシー」

 

 

有咲「スゲェ食い気味に答えたな」

 

 

宗輝「いや、普通に考えてキョンシーだろ」

 

 

沙綾「普通なんだね......」

 

 

宗輝「あー!!ハロウィンが楽しみ過ぎる!!」

 

 

 

 

 

 

宗輝の香澄への愛は案外重い?

 

 

 

 

 

 

 

-End-





今回はNFO特別編として見て頂けると幸いでございます。
尚、NFO関連について"そんな設定ない"や"勝手に魔法作るな"等のマジレスはご遠慮願います。

マジで考えるの一苦労しましたからねw
今までで一番時間かかりましたね。


ps
今から主は、滅茶苦茶な可愛さを振りまく赤ずきん有咲を追って30連します。探さないで下さい。


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Produce 37#猫好き少女と世話焼きギャル


台風に少し怯えつつある主です。

今回の台風は最大規模らしいですな。
皆さんも十分に対策して下さい!!
更新遅れ気味で申し訳ないです。

それでは、37話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

いきなりだが皆さんにとって"猫"とは一体どのような存在だろうか。

 

 

 

 

人によってはそれぞれ違った印象を持つだろう。"可愛い"だったり"癒し"だったり場合によっちゃ"家族"であったり。某エジプト神話の神様に猫っぽいやつがいた気もする。

 

 

 

 

Roseliaがボーカルの湊友希那にとって猫とは"可愛さ"の頂点に君臨し尚且つ"至高"の存在であると言えよう。学校の帰り道に遭遇してしまえば時間を忘れて触れ合ってしまうし、バンド練習に向かう最中にエンカウントすれば連れてきてしまう。いつからかは不明だが確実にあの友希那姫は猫を猫可愛がりするようになってしまった。しかも、本人はそれがバレてないと思っている節がある為面白い。

 

 

 

 

 

「......にゃーんちゃん

 

「んんっ、そろそろ良いか友希那?」

 

「ええ、大丈夫よ続けて(キリッ)」

 

 

 

このように若干のキャラ崩壊は水に流すとしよう。一々気にしてたらキリが無いからな。最近は更に猫大好きフリスキー感が増してきた。友希那の場合は"猫可愛いって言ってる私可愛い"系のあざとい女子では無く、"にゃーんちゃん可愛い最高至高尊い"であるから許容範囲内である。あざとい系女子、ダメゼッタイ。罰ゲーム告白とかしちゃダメ。勘違いして告白して振られるまでがテンプレ。振られちゃうのかよ。

 

 

 

 

「それで、何でこのクソ休日に俺は散歩に付き合わされてるんだ」

 

「何度も説明したはずよ、体力作りの一環だと」

 

「ならリサ辺り誘ったら良いだろ」

 

「あら、その考えは思いつかなかったわ」

 

 

 

ダメだこの子、早く何とかしないと。あの音楽では徹底的に手を抜かない厳格な友希那がこうもポンコツ化してしまうとは。恐ろしやにゃーんちゃん。いや、音楽に関しては今も昔も変わらない筈だけどな。

 

 

 

俺は自分の携帯を取り出し電話を掛ける。その相手は勿論リサ。何かと世話焼きなリサの事だ、友希那が呼んでるとなれば一目散に駆け込んでくるだろう。

 

 

 

 

「もしもしリサ?友希那がちょっと......」

 

『今すぐ行くね☆』

 

 

 

案の定即答、流石ガチ姉の異名は伊達じゃない。最早、世話焼きを通り越して好きなんじゃないかと勘違いしてしまう。LIKEではなくLOVEの方に行くと色々と百合展開待った無しなので辞めて頂きたい。

 

 

 

「何をしているのかしら」

 

「リサを呼んだんだよ、このままじゃ一日潰れる」

 

「私は元よりそのつもりよ」

 

「俺はそんなつもりは無い」

 

 

 

 

コイツは俺の事を何だと思ってるんだ。今週土日は家に引きこもって漫画やらアニメやらを見るって決めてたのに。最近買った新しい異世界モノの漫画読めねぇだろうが。この間のNFOで再熱してまたやり始めちゃったし、その影響もあってか漫画とアニメを前以上に見るようになったし。そんな時に限って呼び出されちゃこの有様だ。私は貴女の玩具では無いのですよん?

 

 

 

「というか場所一切伝えてないけどリサは大丈夫なのか?」

 

「リサなら問題ないでしょう」

 

「その自信がどこから湧いてくるのか教えてくれ」

 

「貴方は戸山さんが今から来ると言って大丈夫だと思わないの?」

 

 

 

すまん友希那、俺は心配でしか無いぞ。もし仮に今から香澄がここへ来ると言って場所を伝えてなかったとしよう。そうすればどうなるか。うん、絶対一人じゃ辿り着けないだろうね。むしろこっちから迎えに行くスタイル。俺も香澄に関しては少々過保護気味なところあるから直していかないとヤバイな。そのうち逆に俺が香澄無しじゃ生きていけなくなりそうで怖い。

 

 

 

 

「おっまたせ〜☆」

 

「遅いわよリサ」

 

「んじゃ俺はここら辺でお暇......」

 

 

 

ガシッ

 

 

 

そんな音が聞こえてきそうなレベルで二人に腕を掴まれた。俺が色々と頭の中で考えているうちにリサが到着したようなので後は任せるつもりだったのに。女の子とは言えこうも二人に腕を掴まれてしまっては動けない。ここで振りほどくほどの理由もない為諦めることにする。むしろ美少女二人に構ってちゃんされてると思えば役得。猫好き少女らしく猫だけを愛でてたり、世話焼きギャルなら世話だけ焼いてりゃいいってもんじゃないらしい。

 

 

 

「貴方も来るのよ」

 

「いや、俺は良いって」

 

「何言ってんの、どうせ予定無いんでしょ」

 

 

 

最初から予定無しを押し付けるのは辞めてもらって良いですか?確かに家でゴロゴロするだけなら予定無いとは言えるけども!え、偶には外に出て遊んでこいって?嫌だよめんどくさいし。俺は元からインドア派だし何なら用が無いなら一日中寝て過ごしたいくらいだ。コイツらと関わり出してから明らかに外出の機会が増えた気がする。もう気にしないことにしよう、そうしよう。

 

 

 

 

「......不幸だぁ」

 

 

 

 

二人に聞こえない声で最近見たアニメの主人公の台詞を一人呟いてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

~羽沢珈琲店~

 

 

 

 

 

「何でつぐんち来てんの?」

 

「もうお昼でしょう?」

 

「答えになってないからなそれ」

 

 

 

あれよあれよと歩を進め、気付けば羽沢珈琲店へ到着。時計の針が丁度11時30分を指し示している。確かにお昼時でお腹も減ってきたところではあった。"珈琲店"とは言ったものの、軽くお腹を満たせる物であれば存在する。正直言えばつぐみに何か作ってくれとお願いすれば大丈夫だと思うけど。それはあくまで最終手段。今はただのお客として来ているのでそこまでは頼めない。

 

 

 

「注文は何にする?」

 

「俺はいつもので」

 

「私も宗輝と一緒で良いわ」

 

「なら私もそれにするね」

 

 

 

 

一度は言ってみたかった台詞第3位がやっとこさ言えた。これが夜のバーとかでマスターに何気なく"いつもの"とか言えたら最高だろうな。そんなところ一人で行く勇気無いから無理だけど。因みに2位が"俺の事は放って先に行け!"で1位が"この戦いが終わったらアイツにプロポーズするんだ......"という台詞。完璧に映画やアニメに影響されてるとか言うな。両方とも死亡フラグとか辞めてね。俺まだピチピチの高校2年生だから。

 

 

 

 

それからは珈琲を飲んで軽く食事しながら三人で他愛無い話をしたりバンドの話をしたり。話を聞くとこの前RoseliaメンバーでもNFOをやったらしい。紗夜さんがタンクで友希那が吟遊詩人、リサがヒーラーと見事に的中させた俺。紗夜さんのタンクは正直当たると思わなかったけどな。友希那がポンコツっぷりを披露して役に立たなかったらしい。リサはリサでHP満タンなのにヒールしてたらしいし、紗夜さんはNPCに"酷いわね"とか言ってたらしいし。話の途中からつぐみも入って来たので、そこからは真面目にバンドの話や学校の話で盛り上がった。

 

 

 

 

「そういえばこれ、この前商店街の福引きで当たったんだけどいる?」

 

「チケット?割引券?」

 

「あ、これ知ってるよ。最近駅前に出来た新しい"猫カフェ"じゃん」

 

「......猫カフェ」

 

 

 

友希那の猫スイッチが入ったみたい。あまり他人には見せられない顔をしているから気を付けような。物凄く表情筋緩みきってるからな。

 

 

 

「丁度3枚あるから三人で行って来たらどうですか?」

 

「本当に良いの?」

 

「期限ももうすぐ切れますし私は手伝いで行けないので」

 

「ああ!つぐみ、お前は何て良い子なんだ!!」

 

 

 

正直2枚で良かったがこの際気にしない。ご都合主義はそんなこと許してくれないのだ。感謝の意味も込めて少し乱雑につぐみの頭を撫でてやる。くすぐったいと言いながらも抵抗しないので少し続けて辞めておく。隣にいるお姉さん方二人の目線が痛いから。

 

 

 

 

「そうと決まれば早速行くわよ」ソワソワ

 

「友希那が我慢出来なさそうだね」

 

「てことで、ご馳走様つぐみ」

 

「楽しんできてね!」

 

 

 

猫カフェに我慢出来ない友希那を先頭に目的地へと向かった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

『いらっしゃいませだにゃん!!』

 

 

 

 

今語尾に"にゃん"とか聞こえたが多分聞き間違いだろう。きっとそうに違いないね。最近やけに耳が良く聞こえると思ったら幻聴まで聞こえるようになっていたとは思わなんだ。近々良いとこの耳鼻科でも行ってみるかな。

 

 

 

 

『3名様ご来店にゃ!!』

 

「俺ちょっと病院行ってくる」

 

「何言ってんの宗輝、あんな状態の友希那ほっとけないでしょ」

 

 

 

だって仕方ないだろ!最近新しく出来て流行りの猫カフェとは言ったものの、何で()()まで猫耳つけてメイド服着てるんだよ⁉︎しかも語尾に"にゃん"とかいうおまけ付きでな。そういうのはアキバのメイド喫茶とかだけにしてくれ。

 

 

 

 

「でも猫カフェというだけあって猫すげぇな」

 

「ぱっと見スコティッシュホールドやマンチカン、アメショーとか人気種だけじゃないね」

 

「てか猫に詳しいのな」

 

「当たり前じゃん、友希那の数少ない好きなものだよ?」

 

 

 

当たり前なんすね。確かに友希那の数少ない趣味というか好きなものというか何というか。肝心の友希那は俺たちの事はフル無視で猫に囲まれて大層幸せな顔をしている。それをバレないようにコソコソと写メってるガチ姉さん。おい、その写真後で送れよ絶対だからな。

 

 

 

 

『ご注文は何になさいますか』

 

 

 

来店時に対応してくれた店員さんとは違った人が注文を取りに来る。さっきの人と違って如何にも清楚系って感じ。黒髪ロングで猫耳つけてメイド服。おまけにニーソ着用で完璧な美人さんってところだな。ウチの銀髪ロングの猫大好き歌姫も負けてないぞ。茶髪ロングの世話焼きガチ姉も負けてない。だから俺も負けてられない。何の勝負してんだよこれ。

 

 

 

 

「子猫をお願いするわ」

 

『先にお飲み物をお願いします』

 

「子猫を」

 

「三人共珈琲でお願いします」

 

 

 

頑なに子猫を強請る友希那の代わりに注文する。どうやら友希那は子猫ちゃん希望らしい。それを知ったリサが先程から周りをキョロキョロして血眼になって子猫を探している。俺の愛読している週刊青年ジャンピングのように熱い友情を感じずにはいられない。因みにその中でもすだちボックスと家庭教師バッドマンボリーヌは5本の指に入る傑作だ。インフレが過ぎる敵とか滅茶苦茶カッコいい負け組とか。家庭教師バッドマンボリーヌに関して言えば、昔悪かったボリーヌを教訓に強く逞しく成長していく前代未聞の反骨教師漫画だ。当時の俺もボリーヌみたいにはならないと心から誓ったね。

 

 

 

 

『お待たせしました』

 

「早く子猫を出して頂戴」

 

「これって自由に触れ合って大丈夫ですか?」

 

『乱雑に扱わなければ大丈夫だにゃ!』

 

 

 

ヒョコっと顔を出してきたのは来店時のメイド。清楚系と比べると如何にもお調子者って感じ。ポジティブシンキングするなら"人懐っこい猫"というのだろうか。猫じゃらしでも振ればこのメイドも一緒に遊びそうだけど。

 

 

 

「だってさ友希那」

 

「......にゃーん

 

 

 

これが俗に言うデジャヴというやつか。日本語で説明するなら既視感とも言う。あれって似通った体験をすると過去にも似たような体験があればそれと脳が勘違いするのだとか何とか。詳しくはGoogre(グーグレ)先生で読んで字の如しググってくれ。

 

 

 

 

「もう自分の世界に入ってるな」

 

「そんな友希那も可愛いんだけどね☆」

 

にゃん、にゃーん。こっちおいで

 

 

 

言わずもがなこの状態の友希那は可愛い。だがしかし、一度箍が外れてしまうといくところまでいってしまうのが悪い癖だ。例に挙げて言えば、猫が友希那の視界にいる限り第一に考えるのは猫の事。他の事は二の次三の次である。但し友希那がポンコツだということを忘れることなかれ。香澄の猫耳(星型)を見て猫を連想するくらいだ。確かに最初は勘違いする人多いけども。

 

 

 

 

「宗輝はさー、猫好きなの?」

 

「じゃなきゃ猫カフェなんて来てないな」

 

「ふーん、じゃあ私が猫になれば好きになってくれる?」

 

 

 

リサが変な事を言い出す時は決まってからかいにきてる時である。確かに俺は犬より猫派ではある。リサが猫になるというイメージがつかないが、多分きっと凄い人懐っこい猫になるだろう。俺がおいでと言えばすぐに来て癒してくれたり、時には添い寝してくれたり。うーむ、中々悪くない。

 

 

 

 

「ふん、ロップイヤーでも付けて出直してくるんだな」

 

「それどっちかと言えばウサギだよね......」

 

「貴方達、猫を放っておくとは良い度胸ね」

 

「ごめんね友希那。宗輝と猫の話で盛り上がっちゃって」

 

「あら、猫の話なら私も混ぜなさい」

 

 

 

 

友希那は相変わらずである。既に四方八方猫に囲まれて膝の上にもライドオン状態。先に珈琲飲めよ、もう冷めてるだろうけど。

 

 

 

 

それからというもの、友希那は猫の相手をしてこれでもかという程幸せそうな表情をしている。その友希那を眺めながら時折写真を撮って満足気にしているリサ。そんな幸せそうな二人を見て目の保養をする俺。こんな感じでwin-win-winの関係が見事出来上がっていた。ふと気が付き時計を見てみると既に夕方16時を回っていた。来店時から1時間ばかし経っていることに驚きを隠せない。俺とリサは学校の話やバンド関係の相談をしながら猫の相手をしていた為、そこまで時間を気にしていなかった。というより気にならなかったの方が適切だな。一方で友希那はずっと猫の相手。よくもまぁ小一時間も猫の相手だけで時間が潰せるもんだ。

 

 

 

 

「友希那、そろそろ帰るぞ」

 

「......にゃーんちゃん

 

「あははは、友希那そろそろ帰ろっか」

 

「......にゃーん

 

 

 

 

このままではいつまで経っても出られない為、お会計を先に済ませる。リサも付いてきて払うと言ってくれたがここは任せてもらおう。つぐみのお陰で割引き効いてるしお財布事情もまだ安心だ。お店の方も閉店準備を始めていたので邪魔にならないよう友希那を少し強引にでも連れ出さないとな。

 

 

 

 

「友希那、また今度一緒に来てやるから」

 

「言ったわね、言質は取ったわよ」

 

「切り替えが早いこと」

 

 

 

 

そんなこんなで店が見えなくなるまで猫に手を振り続けていた友希那。普段は極力隠す努力をしているのだろうが今回は我慢できなかったのだろう。まぁ俺とリサだからっていうのもあるかもな。決して紗夜さんとかあこ、燐子先輩と仲が悪い訳では無いけれど、そういうのって打ち明けるのすら恥ずかしいし難しいからな。ソースは俺。小さい頃同じクラスの佐藤君に好きなもの聞かれて"俺抹茶が好きなんだけど"って答えたら若干引かれた。それ以来佐藤君とはまともに会話してない。佐藤君、あの時はごめんね。

 

 

 

 

「友希那はどんな猫が好きなの?」

 

 

「そうね、一概には言えないけれどスコティッシュホールドの丸い目且つ折れた耳には唆られるものがあるわね。マンチカンの様に短足タイプと長足タイプに分かれててどっちも魅力的で愛らしいわ。そうそう、アメショーの様にシュッとした顔立ちの子も好きよ。個人的にはブリティッシュショートヘアーの方に分配は上がるけれどそれぞれ違って可愛いのよ。スコティッシュホールドと違い長く尖った耳を持つメインクーンという種類の猫もいるのだけれど......」

 

 

「止まんねぇなこれ」

 

 

 

 

 

友希那の家に帰るまで会話が途切れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

~友希那宅~

 

 

 

 

 

「じゃあ俺は帰るから」

 

「今日はありがとね〜」

 

「約束忘れないで頂戴」

 

 

 

 

結局一日潰れてしまった。早速帰って撮り溜めしているアニメを見なければ。本来であれば漫画も読む時間があったのに。全く友希那の猫好きには困ったもんだ。

 

 

 

「まぁ明日もあるし大丈夫か」

 

 

 

幸い今日は土曜日。明日こそ丸一日家でゴロゴロ過ごすんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たでーまー」

 

「お帰り、ってお兄ちゃん何か動物臭い」

 

「猫カフェ行ってきたからかな」

 

「夕飯もうすぐ出来るから先にお風呂入って」

 

 

 

 

令香の言う通り服にも匂いが染み付いてしまっている。というか臭くはないだろ。臭くないよね?自分の匂いは自分じゃわからないとかって言うじゃない?今日は念入りに身体洗っとこう。

 

 

バサッ

 

 

「ん?」

 

 

 

脱衣所で服を脱いでいると何やら紙切れが三枚落ちる。それを拾ってみると今日行った猫カフェの割引チケットだった。友希那と俺とリサで会員カードも作ったしいよいよ常連さんの仲間入りか。

 

 

 

 

「まぁ友希那が言い出したら付き合ってやるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、リサと友希那がロップイヤーとメイド服着用で迫ってきたのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「おまけのコーナー」

 

 

宗輝「今回は初登場のまりなさんだ!」

 

 

まりな「初登場のまりなさんだよ!」

 

 

宗輝「まりなさん最近出番無いですよね」

 

 

まりな「みんながCiRCLEに来てくれないからね!」

 

 

宗輝「実際問題CiRCLE行ってないですからね」

 

 

まりな「そろそろ日常パート......もとい学校生活じゃなくて本格的にバンド練習した方が良いと思うの!」

 

 

宗輝「メタ発言してる間は出番無いって言ってましたよ」

 

 

まりな「誰が言ってたのよ⁉︎」

 

 

宗輝「さぁ?その内ひょっこり出てくるでしょう」

 

 

まりな「その内じゃ駄目!早く私の出番増やしてよ〜」

 

 

宗輝「だからそれが駄目なんですってば」

 

 

まりな「みんな来てくれたら割引しとくから!何なら一時間貸出無料とかするからさぁ!」

 

 

宗輝「はぁ......俺も最近バイト入れてなかったですし」

 

 

まりな「そうだよそうだよ!」

 

 

宗輝「じゃあ来週行くんでシフト入れといて下さい」

 

 

まりな「本当⁉︎じゃあこの日入れとくね!ふふ〜ん、楽しみだなぁ」

 

 

宗輝「よろしくです(チョロい)」

 

 

 

 

 

 

 

-End-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






主は犬派です。


ps
無事赤ずきん有咲だけを射抜きました。
速攻でレベマ&キャラストーリー解放しました。
時間かけてスキルマにします。


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過去編
Produce 38#傷と痛み



寒暖差にやられている主です。

宗輝「最近寒い」

香澄「カイロ持ってきたよ!」

宗輝「まだカイロは早ぇよ!」


それでは、38話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

「おはよー」

 

「おお、明日香おはよーさん」

 

「お姉ちゃんもうすぐ来ると思う」

 

「あいよ」

 

 

 

朝早くからダイブかましてくると思ったらこの有様だ。時々こういう事があるから正直俺としては助かる。毎朝ダイブで起こされるとか俺の寿命が縮むからやめて欲しいところである。臓器とか既に何個か潰れてるんじゃない?そのくらいの頻度と強さのダイブだからな。一回体験してみると良いさ。案外洒落にならんから。

 

 

 

 

「ごめーん、むーくんおはよ!」

 

「近頃毎朝の様に起こしに来てたのに珍しいもんだな」

 

「えへへ、今日は寝過ごしちゃってて」

 

「時間間に合わなくなるよ」

 

 

 

香澄が寝過ごす=それ相応の時間な訳だ。確かにここでゆっくりしてる暇はなさそうだな。ダイブで起こされた時が早すぎるからゆっくりしがちだけど。もうこれからはこの時間で良いよ香澄さんや。

 

 

 

 

「じゃあ行こっか!」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

~花咲川~

 

 

 

 

 

 

「お、有咲みっけ」

 

「げっ」

 

「おい、その反応はおかしいだろ」

 

「有咲おはよー!」

 

 

 

 

香澄と有咲の百合百合な展開も相変わらずである。抱きつく香澄に抵抗する有咲。それを眺める俺。ふぅ、いつも通りで安心だな。しかし有咲の反応は解せん。何その"めんどくさいのに見つかった"みたいな反応。香澄はそうかもしれんが俺は違うだろ。有咲にとって俺はめんどくさい奴だったの?

 

 

 

 

「本当良くもまぁ毎日コイツと登校できるよな」

 

「まぁ幼馴染だからな」

 

「えっへん!」

 

「香澄が威張るところじゃねーだろ」

 

 

 

 

二年生になる前は彼氏彼女だとかそんな噂が流れていたが、ここ最近では幼馴染という関係や家同士仲が良い事など何故かバレて(主に香澄が言いふらしたらしい)いた為、夫婦だとか婚約者とかにランクアップしてた。女三人寄れば姦しいとは良く言ったものだ。ここ花咲川学園は元女子校だったから女三人とかいうレベルでは無い。よって噂が亜音速を超えて広まるのも無理無いだろう。

 

 

 

 

「あれ?今日は朝から生徒会の仕事って言ってなかった?」

 

「あぁ!!やべぇ忘れちまってた!」

 

「荷物教室に置いといてやるからダッシュ」

 

「悪りぃ頼む!」

 

 

 

 

パッと持っていた鞄を投げ渡し急いで生徒会室へ向かう有咲。通路の角を曲がる頃には息が上がっているのが何とも有咲らしい。それにしても本人すら忘れてたのに良く覚えてたな香澄の奴。ひょっとしてあれか、貴女の事なら何でも知ってるよタイプか。俺のパソコンの中とか知られてたらヤバイよヤバイよ。今度パソコンのパスワード変えとこう。何故かリサには香澄の誕生日だってことバレてたし。てか何故バレたし。

 

 

 

 

「さっき物凄い勢いで市ヶ谷さん走ってったけど何か大変な事あったの?」

 

「美咲か、まぁいつものことだ」

 

「有咲意外と忘れん坊さんだからね!」

 

 

 

 

有咲が走っていった方からトコトコ歩いてきたのは美咲。朝っぱらから無気力そうな顔してると幸せ逃げちゃうぞ。

 

 

 

「あら、みんなしてどうしたの?」

 

「こころーん!」

 

「美咲、今日は私の家でミーティングよ!ミッシェルに伝えておいて!」

 

「はいはい、分かったから自分の教室行きなよ」

 

 

 

残念、美咲の元へやってきたのは笑顔の権化こと弦巻こころちゃんでした!まぁ俺から言わせて貰うと、"こころ居るなら美咲いるでしょ?"と"美咲いるならこころ居るでしょ?"の理論が立証されて嬉しい。AならばB、BならばAってやつか。でも流石は美咲、こころの扱いが最早プロ級。いつもならここで時間ギリギリまでおしゃべりタイムなのにな。やっぱり美咲はすげぇや。

 

 

 

 

「俺らも教室入るか」

 

「そうだね」

 

「むーくんむーくん、あれ花音先輩じゃない?」

 

 

 

香澄が指差す方向に確かに花音先輩発見。あんまり人に向かって指差すの良くないからやめような。てかマジであの人何してんだよ。ここ二年生の校舎なんですけど。見つけてしまったものは仕方ないので取り敢えず確保しとこう。

 

 

 

 

「花音先輩、何で二年の校舎にいるんですか」

 

「ふえぇぇ......こころちゃんに呼び出されたから来てみたら迷っちゃったの」

 

「犯人はこころか。というより本格的に校内は一人で歩けるように特訓した方が良さそうですね」

 

「......特訓?」

 

 

 

コテッと首を傾げる花音先輩。可愛いからやめてほしい。この前もそうだけどこの人の方向音痴どうにかならんのか。一度花音先輩のお母様お父様とご相談せざるを得ない状況だと思いますよ担任の先生。下手すりゃ授業出られ無くなりますよその内ね。

 

 

 

「今日こころんちでミーティングらしいですよ。多分それを伝えたかったんだと思います」

 

「あ、ありがと宗輝君」

 

「どういたしまして......ってどうしたんですか花音先輩?」

 

「えーと、あの。う、後ろ......」

 

 

 

振り返るとそこにはウチの担任が居た。何せこの担任、花咲川ではトップ3に入る程の熱血生徒指導で有名だ。故にあだ名は"花咲川の修◯"。北京やら何やらが会話のそこかしこに散りばめられて最終的に何言ってるか分からなくなることがほとんど。それと単純に滑舌悪い。

 

 

 

 

「ほほう、朝のSHR放ったらかしで女の子と密会とは良い度胸だな」

 

「待って、一つだけ言い訳させてぇ!!」

 

「死人に口なし」

 

「ぐへぇ」

 

 

 

我が花咲川の制服の襟を掴んで何をしようと言うのかね。いや、マジで俺のせいかこれ。花音先輩も何か言ってやって下さいよ。ふえぇだけじゃ駄目なんですよ!あと俺は死人じゃない。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

『頂きます!』

 

 

「それにしても大変だったね宗輝」

 

「喧嘩両成敗ってやつだ」

 

「誰も喧嘩してねぇし何なら両成敗もしてない」

 

 

 

 

午前中の授業を終え、いつも通り中庭でお昼ご飯。あの後職員室まで連行されて今日1日は先生の雑用係に任命されてしまった。何故あの場面で花音先輩は怒られないんだ。おたえじゃないが両成敗されても良いと思うの。......いや待てよ、花音先輩に先生の雑用係なんてやらせるわけにはいかないだろ。よって俺が一人でこなす。なんだ結果オーライじゃん。

 

 

 

 

「あれって私の所為なんだろ。ごめん宗輝」

 

「何で有咲が謝るんだよ」

 

「だって......」

 

「だっても何もねぇよ。あれはどう考えたって担任が悪いだろ」

 

 

 

男女差別は良くないと思いますよ先生。花音先輩を教室に送ったら花音先輩の担任の先生は心配してくれた。やれ怪我は無いのかだの迷子になって無かっただの。迷子の部分は分かってて言ってますよね?その時ちょっと馬鹿にしたみたいに笑ってましたし。もしかしてグルか?ウチの担任とグルなのか?

 

 

 

「有咲の方こそ生徒会大丈夫だったか?」

 

「そっちは何とか間に合った」

 

「近いうちに何かあるの有咲ちゃん?」

 

「いんや、詳しくはまだハッキリしてないけど。紗夜先輩が言うには、まーた日菜先輩が合同で何かやりたいとか言ってるらしい」

 

「また日菜の仕業か」

 

 

 

燐子先輩の苦労が増える。つぐみも大変そうだな。紗夜さんも紗夜さんで頭抱えてそう。何か手伝える事あったら積極的に手伝っておくか。

 

 

 

キ-ンコ-ン

 

 

 

 

「さ、午後の授業も頑張りますかね」

 

「むーくんジュース買って行こ!」

 

「ジャン負けで奢りな」

 

「なら有咲と2対1ね!」

 

 

 

 

2対1でジャンケンとか不利にも程がある。香澄さん確率論とかって知ってます?俺ジャンケンの必勝法とか全然知らないし、駆け引きとかも上手じゃないから単に2人に勝てば俺の勝ちってことだろ?ジャンケンで勝つ確率ってどのくらい?人数増えても確率一緒なら変わらないのか?

 

 

 

 

 

「いくよー!ジャンケン、ポンッ!!」

 

 

 

 

 

結局三人分の飲み物代は俺の財布から出ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

~斎藤宅~

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

「つかれた〜」

 

「あら、お帰り」

 

「ただいま。というより母さん達いつ戻るんだよ」

 

「ん〜、あともう少しかしら」

 

 

 

そんな曖昧な感じでいいのか斎藤家。父さんに聞いてもはぐらかされるばっかだし。令香はこっちに残るみたいだから良いんだけどさ。

 

 

 

「お邪魔します!」

 

「今日は香澄も一緒に飯食うってさ」

 

「香澄ちゃんならいつでも歓迎よ〜♪」

 

「もうすぐご飯出来るからお兄ちゃん達はリビング行ってて」

 

 

 

最近では令香と母さんがご飯担当らしい。前までは父さんも夕飯とかは作ってくれてたんだけどな。聞くところによると海外(向こう)で外食が多かったからめんどくさくなったらしい。確かに外国ってファストフードが盛んだったりするよな。俺もいつか本場のファストフードを食べてみたいぜ。お土産とかに出来ないのが難点。

 

 

 

「むーくんは最近ご飯作らないよね」

 

「何でそれ知ってんだよ」

 

「お兄ちゃんが毎日の様に連れてきてるからでしょ」

 

「お義母さんって呼んでいいのよ?」

 

 

 

イントネーションというかニュアンスというか、色々と違って聞こえたのは気のせいか。母さんは外堀から埋めていくのが好きらしい。こっちに帰ってきてからというもの、戸山家との親交然り親同士のお食事会然り。その場その場で何言ってるか分からないが香澄の母さんからも"そろそろお義母さんって呼んで?"と言われた。二人揃って似通ったタイプだからよりタチが悪い。

 

 

 

「じゃあお義母さんと——」

 

「バカかお前は」コツン

 

「あうっ!」

 

 

 

軽く香澄を小突いてから手を洗いに洗面台へ向かう。俺の後ろをトテトテと香澄も付いてきて狭いのだが二人で手を洗う。小さい頃は逆に広すぎるほどだったのになぁ。

 

 

 

「やっぱりむーくんちに来ると面白いね!」

 

「そーか?」

 

「うん!」

 

 

 

俺もコイツも昔から何も変わらない気がしてならない。一緒に居ることが当たり前になっているから小さい変化に気付かないだけかもしれないけど。ほら良くあるじゃん?"小学校の時と全然違うじゃん!"ってやつ。あれ意外とずっと一緒に居ると変化に気付かなかったりするんだよな。幼馴染だと尚更だろ。

 

 

 

 

『頂きまーす!』

 

 

「お兄ちゃん、学校はどう?」

 

「どうって言われてもな」

 

「香澄ちゃんは楽しい?」

 

「はい!むーくんがいて、みんなもいて、すっごく楽しいです!」

 

 

 

食事中に立ち上がらないで頂きたい。楽しいのは見てて分かるから。それからは香澄がポピパメンツの事を楽しそうに、時折自慢げに話して夕飯は終わった。おたえは言わずもがな天然不思議ちゃんとして、有咲はツンデレで沙綾がパン屋の娘。りみりんがゆるふわ可愛いキャラとして数々のエピソードが語られた。有咲、お前は俺の母さんに目をつけられたみたいだぞ。ご愁傷様、骨は拾ってやる。

 

 

 

 

「じゃあ帰るね!」

 

「気を付けろよ、ってそんなに離れてないけど」

 

「お兄ちゃん、送っていくのが当たり前だよ!」

 

「そうよ、早くなさい」

 

 

 

この前は送って行かなくてもそんなこと言わなかったくせに。しかし、こうなってしまうと断るに断れないので仕方なくサンダルを履いて外へ出る。

 

 

 

「ありがとむーくん」

 

「こんなのいつものことだろ」

 

「......ううん、当たり前だからこそだよ」

 

 

 

香澄が香澄らしくない。もしやお前香澄の偽物だな⁉︎ははん、幼馴染をずっとやってきた俺にはそんなもの通用しない!さぁ、正体を現せ偽物め!

 

 

 

「だから、いつもありがと!」

 

「お、おう」

 

「ここまでで大丈夫だから!」

 

 

 

そう言って家へ入っていく香澄。昔からストレートな言葉には耐性が無かったがそこも変わってないらしい。良くも悪くも俺も香澄も変わってないんだな。

 

 

 

 

「帰って寝るか」

 

 

 

満月と言うには少し早い、丸みを帯びた月を見上げながら帰宅する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この後みんなであそぼうぜ!』

 

『じゃあいつもの公園いこうよ!』

 

 

 

羨ましかった

 

 

 

『あ、あの』

 

『何だよお前』

 

 

 

俺には昔友達と呼べる人が居なかった

 

 

 

 

『僕も入れてくれないかな?』

 

 

 

 

勇気を出して伝えてみても

 

 

 

『お前なんかいらねーよ』

 

『お前居ても邪魔だからな!』

 

 

 

返ってきたのは心無い言葉だけだった

 

 

 

『帰ってお前の好きなお茶でも飲んでろよ!』

 

『遊んで欲しいなら妹でも連れて来いよ!』

 

 

 

 

俺はただ、純粋に友達が欲しかっただけなのに

 

 

 

『お前がそんなだから戸山だって———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!......クソ、久し振りにこんな夢見ちまった」

 

 

 

 

 

俺の朝の目覚めは最悪だった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「おはよ」

 

「......おう」

 

「ん?お兄ちゃん具合でも悪い?」

 

「そんなことないぞ、お兄ちゃんは令香が居れば百人力だ」

 

 

 

 

重い体を何とか動かし洗面台で顔を洗う。鏡を見てみるとやつれた顔が一つ。いつもならこれでシャキッと目が覚めるのに。今日は気分も優れないみたいだ。

 

 

 

「あんな夢まで見て今更。とっくの昔に終わった事なのに」

 

 

今日も朝から香澄を迎えに行く予定だったのでモタモタしていられない。令香には少し勘付かれそうだったけど多分バレてないだろう。ささっと準備を済ませてパンをくわえて我が家を後にする。

 

 

 

ピンポ-ン

 

 

 

「はいはーい、宗輝おはよ.......ってどうしたの」

 

「香澄迎えに来たんだよ」

 

「いやそうじゃなくてさ、朝何かあった?」

 

「......何にもねぇよ」

 

 

 

何故か明日香にも勘繰られている。俺ってそんなに顔に出やすいタイプだったっけ?それとも癖で鼻動いてる?まだ明日香にはバレてないと思ってたのに。

 

 

 

「むーくんおはよ!」

 

「おう、準備出来てるか?」

 

「ばっちりだよ!」グッ

 

「んなら行くか」

 

 

 

 

良かった、香澄にはバレてないらしい。まぁ令香や明日香が変に敏感なだけだろう。普段お馬鹿さんの香澄には大丈夫。()()は俺にとってもコイツにとっても思い出したくない過去だからな。そりゃこんくらいナイーブになるわ。

 

 

 

「あっちゃん行ってくるね!」

 

「明日香も遅れずにな」

 

「うん、分かってるよ」

 

 

 

取り敢えずこれからの事は学校終わってから考えるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

「......やっぱ何かあったんじゃん」

 

 

 

 

そんな明日香の声は宗輝には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~花咲川~

 

 

 

 

「有咲おはよー!」

 

「げっ」

 

「昨日と全く同じ反応だな」

 

 

 

運悪く有咲とエンカウントしてしまった。今は正直誰とも会いたくないのだが。まぁクラスも同じだし仕方ない。適当にあしらって早いとこ教室入らないと。

 

 

 

「今日も生徒会でしょ?」

 

「今日から忙しくなるんだよ」

 

「俺も何か手伝おうか?」

 

「いや、宗輝いると逆に邪魔だからいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前が居ても邪魔だからな!』

 

 

 

夢の中の言葉が俺の中でこだまする。

 

 

 

(何でこんなになってんだよ俺)

 

 

 

普段なら何も気にすること無かったのに。あんな夢一つ見たくらいで馬鹿馬鹿しい。有咲もそんなつもりで言ったわけじゃないだろうに。

 

 

 

「......あんまり無理はすんなよ。ほら、行くぞ香澄」

 

「あ、待ってよむーくん!」

 

「ちょ、生徒会は放課後だって!」

 

 

 

これ以上は危ない、一度戦線離脱だ。正直自分でも現状がハッキリと把握出来ていない。このままじゃ誰かを傷付ける可能性がある。そんなのはもうゴメンだ。

 

 

 

「あら、偶然ねあなたたち!」

 

「こころ、今ちょっと取り込み中だから」

 

「何かやらないといけないことでもあるの?」

 

 

 

めんどくさいことに美咲とこころにまで出会うとは。これじゃまるきり昨日と同じメンツだろ。今は知り合いに会うのですら億劫なんだ。出来れば早めに帰ってもらいたい。今思えば美咲が居るから大丈夫だろうと踏んだ俺が馬鹿だった。

 

 

 

「今日もウチでミーティングするの!宗輝も来てアイディアを出して頂戴!」

 

「なら私も行くよこころん!」

 

「あのー、宗輝は別に要らなくない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前なんかいらねーよ』

 

 

 

クソ、まただ。アイツらと美咲達は違うのに。頭から言葉が離れてくれない。そんなんじゃないのは俺が一番分かってるはずなのに。

 

 

 

 

「ハロパピのミーティングでしょ?」

 

「香澄と一緒にウチに———」

 

 

バシンッ!

 

 

 

「......ごめん」

 

 

 

こころから差し伸べられた手を振り払ってしまった。こころだって、美咲だってそんなつもりは一切無いのだろう。さっきの有咲だってそうだ。今更そんなこと言われたってどうこうするようなものでも無い。でも、それでも、今の荒んだ俺の心を()()のには充分過ぎる程だった。

 

 

 

「むーくん!」

 

 

 

 

俺はどうしていいか分からずそこから去ってしまった。

 

 

 

「こころん大丈夫⁉︎」

 

「こ、こころ......」

 

 

 

その日初めて、こころから笑顔が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回から宗輝の"過去編"スタートです。
あまりシリアス展開多過ぎると主が参ってしまいそうなのですか......
おまけコーナーは一旦ストップで良いですかね?
好評なら真面目な話でもやろうと思います。


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Produce 39#傷の行方


シ、シリアスが目に染みるぅ〜!!
久し振りに書きましたが難しすぎてハゲました。
こういう展開だと前書きも書きづらい......

ということで、39話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

何処から間違えてしまったのだろうか。いつから間違えた答えを出してしまったのか。それは考えても考えても分からなくて、頭の中がグシャグシャに掻き混ぜられたみたいに。もう何もかもが分からなくなってきていた。みんながそんなつもりが無いのも分かっていた。

 

 

 

否、本当に分かっていたのか?もし、みんなが本当に()()思っていたら?結局のところ信じ切れていなかったのだ。昔のようになる事が怖くて。だから、あれからは極力仲良くなることを避けてきた。俺には香澄一人居れば充分だったから。でも高校に入って、ポピパのみんなと出会いアフグロやパスパレ。Roseliaやハロパピのみんなも優しくしてくれて。多分、だからこそ今回のような事態に陥ってしまったのだと思う。我ながら情けない。

 

 

 

「......やっぱ何も変わって無いな」

 

 

 

そうやって一人呟いても今は誰も返してくれない。今までは香澄が居て明日香が居て令香も居て。学校へ行けばこころや美咲達とワイワイ楽しくやって。あの時間は本当に楽しかった。それだけに、俺に深く刻まれた傷は簡単には癒えてくれなかった。

 

 

 

「ただいま」

 

「アンタ学校はどうしたのよ」

 

「体調悪かったから早退」

 

 

 

自分でも苦し紛れの嘘だと思う。昔っから母さんに嘘は通用しないことも分かっているのに。そうでもしなければ、こうやって嘘をついて自分を守らなければきっと昔のように()()()しまっていたと思うから。......今にして思えば、こころの手を振り払ってしまった時から壊れ始めていたのかもしれないな。

 

 

 

「部屋で寝てる」

 

「......」

 

「......ごめん母さん」

 

 

 

今日何度目かの謝罪をして靴を脱ぎ自分の部屋へ向かう。母さんは何も言わなかった。それは多分()()()()()()なのだろう。母さんも昔から変わっていないとすれば、母さんの意図する事が何となく分かる気がしてくる。何も令香にだけ特別甘いだけで、実は母さんは俺にも甘かったりする。父さんはそんな事ないけど。

 

 

 

(美咲とか怒ってそうだなぁ)

 

 

 

ふとあの瞬間がフラッシュバックする。あそこで俺がいつも通りの返しが出来ていれば何の問題も無かったはず。有咲の時だって今までなら少し強引にでも手伝っていた。それが出来なかったのは言わずもがな昨日の夢の所為だろうな。

 

 

 

何て事ない夢。小学生の頃の思い出。思い出と言うには少し辛くて苦い経験。その頃には既に香澄と出会っていた。出会う前よりはイジメ、というよりは純粋な子供のイタズラの方が多かった気がするが香澄のお陰で回数は減ってきていた。それでもまだ幼かった俺に傷を残すには事足りる。その頃に俺特有の()もついたのだろう。

 

 

 

「......克服したと思ってたのに」

 

 

 

考えれば考える程ドツボにハマっていく感覚。一度こうなってしまえば抜け出せない。嫌な事ばかりが頭に浮かんでは消えていく。全て克服したなんて自分に嘘をついてまで普段から普通っぽい高校生らしく振舞っていた。みんなの事は本当に好きだった。それからが踏み込めなくて。結局のところ俺は"人との繋がり"がドンドン深くなるに連れて、また"傷付いてしまう"と思い自己防衛本能として人と距離を取ってしまうのだ。それが今回のようになるか昔のようになるかはその時次第。

 

 

 

「寝るか」

 

 

 

考え過ぎなのか本当に頭も痛くなってきた為、一度ベッドへダイブして考えることを放棄して自らの睡眠欲に身を委ねることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-side change-

 

 

 

 

「......ごめん」

 

「こころん大丈夫⁉︎」

 

「こ、こころ」

 

 

 

 

ああ、まただ。また私は()()()()()()()。本当は今朝会った時から気付いていたのに。むーくんなら大丈夫だと思っていたけど、今回に限っては無理だったらしい。耐えられなくなってむーくんは荷物を持って何処かへ行ってしまった。今すぐにでも追いかけたい気持ちで一杯だけど、今はこころんと美咲ちゃんのケアをしないと。

 

 

 

「こころ大丈夫?」

 

「ええ、私は大丈夫よ何ともないわ」

 

「こころん......」

 

 

 

そう言うこころんは笑っていなかった。私は初めてこころんから笑顔が無くなる瞬間を見た。多分こころんにとってむーくんの存在は大きかったのだろう。私だっていつもベタベタだけど拒否されればヘコむ。今までずっと一緒だったからむーくんの考えてる事少しは分かるよ。

 

 

 

「お前達早く教室に入れ、チャイム鳴ってるぞ」

 

 

 

チャイムの音すら聞こえず、その日の朝から私の時間は止まったままだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

『むーくんあそぼ!』

 

『やだよ、おまえとあそぶのたのしくないもん』

 

『そんなこといってもむだだよー!』

 

 

 

今にして思えばむーくんの考えていた事が分かる。小さいなりに私のことを思って一定の距離を置いてくれていたのかもしれない。それでも私はむーくんと仲良くなりたくて。ずっと一緒に行動した。

 

 

 

『むーくんおえかきしよ!』

 

『なんでいきなりおえかき?』

 

『んー、なんとなくかな!』

 

『......しょうがねぇな』

 

 

 

その頃から、私はきっとむーくんが大好きだったのだろう。何をするにしてもむーくんと一緒が良かった。むーくんが居ない日は楽しくなかった。その分次に会えたらもっとベタベタしてた。そんなある日、私をむーくんは拒絶したことがある。

 

 

 

『もうかかわらなくていいから』

 

『なんでそんなこというの?』

 

『おまえがいるとめんどうなんだよ!』

 

 

 

私の勝手な想像だけど、今朝の事件も多分昔と同じなんだと思う。それを未然に防げなかったのは私のせい。有咲や美咲ちゃん、こころんに嫌な思いをさせちゃった。

 

 

 

『いやだ!むーくんと一緒にいるもん!』

 

 

あの時はまだ小さかったからそれで解決したけど。今回はそんなに上手くはいかないと思う。ちゃんと考えて考えて、私一人じゃない。今度はみんなと一緒にむーくんと向き合えば大丈夫。

 

 

 

『わたしはむーくんのこと———』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「香澄!」

 

「へ、どうしたの有咲」

 

「どうしたもこうしたもねぇよ」

 

 

 

昔を思い出している間に授業が終わってたみたい。自分の携帯を見てみると時間は16時40分。そして新着メールが1件。

 

 


 

From:むーくん

To:香澄

[本文]

 

ごめんな

 


 

 

 

その一言だけが添えられた文章を見て少し笑ってしまった。こんな時に笑ったらむーくんに怒られるかな?

 

 

 

「それ、宗輝からか?」

 

「あ、うん。むーくんは大丈夫だと思う」

 

「......どう考えても大丈夫じゃねぇだろ

 

 

 

有咲がそう思うのも無理ないと思う。だって朝から早退してるから。今までそんなこと一度も無かったしね。有咲達にとって初めての経験だから余計に心配なのかも。ここは私が何とかしないとね!

 

 

 

「有咲!今日は蔵行けそう⁉︎」

 

「大丈夫だと思う」

 

「ならみんなで話し合おうよ!」

 

 

 

多分きっと、昔のように話し合えば分かり合えると思うから。

 

 

 

 

 

 

~蔵~

 

 

 

 

 

「お待たせ〜」

 

「遅くなってごめんね」

 

 

 

さーやとりみりんが来たからこれで全員集合したね。おたえとさーやとりみりんにはお昼休みに中庭で少しだけ伝えておいた。有咲は朝からあんなことがあって私よりも授業に集中出来ていなかったみたい。でも、そんな有咲よりも深刻な状況な人が一人いた。

 

 

 

「詳しい話を聞かせて香澄」

 

「うん、まずは———」

 

 

 

さーやはお昼休みに伝えた時ですら少し涙を流していた。それもそのはず、さーやの過去は既にみんなも知っているから。その経験からくるものもあるかもしれない。だからこそ、私は今朝の事。むーくんの昔の事をみんなに伝えた。

 

 

 

「そんなことがあったのかアイツ」

 

「凄く悲しいね......」

 

「今まで黙っててごめんね」

 

「香澄は悪くないよ」

 

 

 

ううん、私も悪いんだよさーや。だって未然に防ぐことも出来たかも知れないのに。私は知らないふりをしていつも通りむーくんと居たから。むーくんだって辛かったのに分かってあげられなかった。だから私も悪いんだよ。

 

 

 

「......許せない」

 

「おたえちゃん?」

 

「むっくんは何も悪くない。なのに、むっくんだけが辛い思いしてる」

 

「そうだね、確かに宗輝は何も悪くないね」

 

「ああ、アイツはアイツなりに頑張ろうとしてたのに」

 

 

 

久し振りにおたえの本気の顔を見た。さーやも有咲もりみりんも。みんながそれぞれむーくんの事を本気で考えてくれて嬉しかった。今にも泣きそうになるのを何とか抑える。ここで私が泣くわけにはいかないからだ。私が泣くことは許されない。泣いていいのは全てが終わった後だと思う。

 

 

 

「だから、みんなにも手伝って欲しい!」

 

「どーせ香澄の事だからまた変な事考えてるんだろ」

 

「有咲ひどいよ〜」

 

 

 

みんなもギリギリのところで踏ん張ってると思う。私だって一人だったらもうダメだった。でも今はみんながいる。仲間もいる。決して独りなんかじゃなくて、信頼できるパートナーがいる。だから私はみんなを信じて進むだけ。

 

 

 

「どうすればいいの?」

 

「私に考えがあるの!」

 

 

 

 

 

 

-side change-

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、お疲れみんな!」

 

「蘭〜、今のどうだった〜?」

 

「いつも通りだったよ」

 

 

 

いつも通りCiRCLEでバンド練習。今日は確か宗輝がシフトに入っているはずだった。前にまりなさんに聞いたから間違いない。なのに、一向に姿が見当たらなくて疑問に思っていた。練習が終わり次の予約を取る為にカウンターへ向かう。

 

 

 

「次の予約いいですか?」

 

「勿論!いつにする予定かな?」

 

「その前に聞いていいですか」

 

 

 

まりなさんはキョトンとした顔をする。

 

 

 

「今日は宗輝居ないんですか?」

 

「ああ、宗輝君ならお休みだって」

 

「何かあったとか」

 

「ただの体調不良だってさ」

 

 

 

この前も高熱を出していたから心配だ。アイツは無理するところもあるから誰かが側にいないといけないと思う。私達は通う学校も違えば住むところも違う。いつだって会いに行ける訳じゃない。それでも、そんな事を言われれば心配にもなる。

 

 

 

「蘭予約とれた?」

 

「うん、大丈夫」

 

「あれ、それにしても宗輝見当たらないね」

 

「ひまりに見つかるのが嫌で隠れてるんじゃない?」

 

「何おう⁉︎絶対に見つけるからね!」

 

 

 

その後側にいたまりなさんから事情を説明されて、自分が看病に行くと言って聞かないひまりをどうにか抑える。それがみんなにも伝わって、ひまりの次はつぐ、その次はモカとドンドン増えていく。唯一巴だけが味方だ。......かく言う自分も心配で様子を見に行きたいけど本音は隠しておく。

 

 

 

「やっぱここに居た」ハァハァ

 

「あれ、沙綾じゃん!」

 

「ごめん時間無いからささっと済ませるね」

 

 

 

走ってきたであろう沙綾から聞かされた話に驚かない人は居なかった。

 

 

 

 

 

 

「何でそうなる前に助けなかったの⁉︎」

 

「蘭、一回落ち着けよ」

 

「......ごめん。それについては言い訳のしようも無いよ」

 

「別に沙綾が悪い訳じゃないよ!」

 

「モカちゃんもそう思う〜」

 

 

 

私は話を聞いて無性に腹が立ってしまった。助けてあげられなかったみんなに、酷い事をした昔の人に。そして何より何も出来なかった自分に。沙綾は"宗輝が自分達から距離を取るのは昔の事があったから"と言った。つまり私達の事を信じ切れていなかったということになる。そんな風に思わせてしまった私達にも落ち度はある。決して関係の無い話では無いと思った。

 

 

 

「ちょっと宗輝の家に行ってくる」

 

「蘭ちゃん!」

 

「多分ダメだと思うよ」

 

「何でダメだって分かるの」

 

「さっき香澄が行ったけど断られたから」

 

 

 

幼馴染でずっと一緒に過ごしてきた香澄が?あんなにいつもベタベタで宗輝に軽く依存してたあの子が。てっきり私は香澄の方がダウンしていると思っていた。私が思っていたより強い女の子なのかもしれない。でも、そんな香澄ですら拒絶してしまっている中、私が行っても嫌がるのは想像に難くない。

 

 

 

「それで、みんなにお願いがあるんだ」

 

「言ってみて」

 

「これは香澄の想いで私達全員からのお願い」

 

 

 

"絶対に宗輝から離れてあげないで欲しい"

 

 

 

沙綾が目尻に涙を浮かべながら、縋るような気持ちで吐き出したその言葉。

 

 

 

「そんなの決まってるじゃん!」

 

「そうだね!」

 

「モカちゃんが離しませ〜ん」

 

「あんな良い奴から離れないよ」

 

 

 

私の気持ちもみんなと同じ。

 

 

 

 

「私も同じ。今度は私達が助ける番だね」

 

 

「ありがとう、みんな」

 

「あーあー、沙綾泣かせるなんて罪な奴だな」

 

 

 

アンタが今何を思ってるかは分からない。だけど、私達はいつも通り。アンタの知ってる私達は絶対にアンタを離さないから。

 

 

 

 

......まだ私の気持ちも伝えてないし

 

「蘭何か言った〜?」

 

「何でもない、 早くしないとほってくよ」

 

「およよ、蘭がいつにも増して冷たいですな〜」

 

「私はいつも通りだよ」

 

 

 

 

アンタも私達の()()()()()なんだから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「お帰り令香」

 

「あれ、お兄ちゃん先に帰ってるの?」

 

「今日は早かったみたいよ」

 

 

 

怪しい。このところお兄ちゃんがれーかより早く帰ってきた事なんて一度も無かった。学校が終わる時間は中等部だけあって少し早い。たとえ授業が終わってすぐ帰ってきたとしてもれーかの方が早いはず。

 

 

 

「お兄ちゃんは?」

 

「上で寝てるんじゃない?」

 

 

 

朝もおかしかったし何かあったのは確実。みんなの目は誤魔化せてもれーかは誤魔化せないんだからね!多分あーちゃんとお姉ちゃんにはバレてると思うけど。朝はあんな感じで何ともなかったけど。

 

 

「ちょっと様子見てくるね」

 

「......あの子をお願い」

 

「大丈夫だと思うよお母さん」

 

 

きっとお母さんも不安なんだろう。お兄ちゃんは余程のことが無い限り誰かに頼ろうとしない節がある。そのくせ他人には自分を頼れとか言ってるし。そんなことしてるからこの前は珍しく風邪引いたんだよ。

 

 

 

コンコン

 

「お兄ちゃん起きてる?」

 

 

一応マナーとしてノックはしてみる。時々忘れることもあるけどね。笑ってれば大体許してくれるから大丈夫。いい加減お兄ちゃんもれーかには甘いからね。それは逆もありえるけど。

 

 

 

「んー、帰ってきたのか」

 

「入るよ」

 

「何か用か」

 

 

 

正直驚いた。れーかじゃなくても分かるほどやつれている。推測の域を出ないけど多分人間関係、それもお姉ちゃんレベルで親しい人と何かあったと思う。こうやって顔見ただけで分かるれーかもいい加減ブラコンだ。どっちもどっちで今の今までやってきたからお互い様。なら今度はれーかが助ける番だね。

 

 

「......何かあった?」

 

「いや、昔をちょっと思い出しただけ」

 

 

辛い思い、苦い記憶。お兄ちゃんやお姉ちゃんと同じように、それはれーかにとっても一緒。小さい頃だから朧げにしか覚えてないけれど。あの頃はお兄ちゃんが身を呈してれーかを守ってくれていた事さえ知らなかった。それを知らずにただ甘えていた。普段なら"昔の事を"何て口が裂けても言わないのにね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんが言いたくなかったらこれ以上は聞かない。けどね、もう少しれーかを頼って欲しいな。それはお姉ちゃんでもあーちゃんでも良い。だからね、もう一人だけで背負いこむのは止めて欲しいな」

 

 

「......」バサッ

 

 

 

 

 

 

俯いていて顔はよく見られないけど、啜り泣く様に抱きついてくる。これはきっとお兄ちゃんが今出来る最大限の行動。誰にも泣いているところを見せられなくて、弱い部分を見せられなくて。それでも一人で頑張って強くあろうとした。

 

 

「......痛みには慣れてると思ったのに、やっぱお兄ちゃんダメみたいだ」

 

「ダメなんかじゃないよ。誰にも頼れなかった、誰も信じられなくなった。だからこうして自分一人で背負いこんでる」

 

 

 

 

 

お兄ちゃんが珍しく頼ってくれてる。

 

 

 

 

だから、れーかは精一杯それに応えるよ。

 

 

 

 

 

 

「でもね、れーかにだけはお兄ちゃんの弱い部分も頼れないところも見せて欲しいな」

 

「......うう、ああぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

それからは泣きじゃくる子供の様にれーかの腕の中で想いを曝け出した。今まであったこと。信じきれなかったこと。嫌な事沢山あって、自分すら信じられない現状。また違った意味で、お兄ちゃんと仲良くなれた気がする。

 

 

 

「......すぅ」

 

「令香、ご飯よ」

 

「しー」

 

「あらあら」

 

 

 

可愛らしい子供の様な寝顔をしているお兄ちゃん。きっとお兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなかったら女の子として心底惚れていたと思う。でもね、多分もう一度生まれ変われたとしてもお兄ちゃんの妹をれーかは選ぶよ。

 

 

 

 

 

 

「だって、れーかはお兄ちゃんの事大好きだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





恐らく過去編は視点移動が多いと思われますがご了承下さい。
そうじゃないと書けなかったんですぅ!


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Produce 40#それぞれの想い


新たに☆10評価頂きました カイ・シルフィルさん、☆6評価頂きました ぼるてるさん ありがとうございます!

久し振りの評価に胸を躍らせておりました。驚く事に2度目の日間ランキング入りを果たしました。内心、クソ嬉しかったです笑

それでは、40話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

 

-翌日-

 

 

 

 

「おはよーお姉ちゃん」

 

「おはようあっちゃん」

 

 

 

結局、昨日はむーくんに会えずじまいだった。さーやは何とか蘭ちゃん達と会えて伝えることが出来たみたい。今日は他のみんなが頑張る番。

 

 

 

「むーくんち寄ってから行くね」

 

「お姉ちゃんも無理しないでよ」

 

「うん、ありがと」

 

 

 

やっぱりあっちゃんにはバレてるね。伊達に今まで私の妹をやっていない。多分むーくんの事についてもバレてると思う。でもあっちゃんが妹で良かった。これで何かあったらあっちゃんを頼ることが出来るね。

 

 

 

ピンポ-ン

 

 

 

「あ、お姉ちゃんおはよ!」

 

「れーかちゃんもおはよう!」

 

 

 

いつも通り挨拶を済ませ会話を交わす。何だかれーかちゃんの顔はスッキリしたようにも見える。多分だけど、今むーくんが頼れるのは私でもあっちゃんでも無い。れーかちゃんただ一人なんだと思う。それに関してはれーかちゃんに感謝しても仕切れない。でも、いつか絶対むーくんの辛い時は私じゃ無いとダメって言ってもらうもん!

 

 

 

「むーくん大丈夫そう?」

 

「今日は一日学校休むみたい」

 

「そっか」

 

 

 

昨日の今日で立ち直るのは流石のむーくんでも無理かな。むーくんのお母さんもいることだし、今日は取り敢えず他のみんなと一緒にやるべき事をやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

~花咲川~

 

 

 

 

「有咲おはよー!」

 

「お前は朝っぱらから元気だな」

 

「私はいっつも元気だよ!」

 

「(また見栄張りやがって)」

 

 

 

有咲はやっぱり元気があんまり無いみたい。こういう時こそ笑顔だよ有咲!

 

 

 

「今日は何やれば良いんだっけ」

 

「えっとねー、今日は———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-side change-

 

 

 

 

 

 

「随分良くなってきてるね」

 

『ありがとうございます!』

 

 

「でも彩ちゃん途中で噛まなかった〜?」

 

「確かに、本番でやらないようにね?」

 

「もう〜!日菜ちゃんも千聖ちゃんも意地悪だよ〜」

 

 

 

 

私達パスパレは数日後に迫ったMVの撮影の練習で事務所に来ている。今日は何とかみんなのスケジュールが合ったから気の済むまで練習出来るね!日菜ちゃんや千聖ちゃんの言う通り、私が一番出来てないかもしれないけど。そこは努力で何とか出来る......はず?

 

 

 

「あとちょっとなので頑張りましょう彩さん!」

 

「ブシドーで乗り切りましょう!」

 

「麻弥ちゃんイヴちゃんありがとう!」

 

 

 

そうだよ、私は一人なんかじゃない。頼れる日菜ちゃんがいてしっかり者の千聖ちゃんもいて。機械関係に強い麻弥ちゃんがいる。ムードメーカーのイヴちゃんがいる。そして、私もその一人。この5人なら、パスパレならきっと大丈夫!

 

 

 

「ん、何だ。.......フムフム」

 

「プロデューサーどしたの?」

 

「君達に会いたい人がいるんだとさ」

 

『会いたい人?』

 

 

 

 

 

 

 

~控え室~

 

 

 

 

「ごめんなさい、貴重な時間潰しちゃって」

 

「会いたい人ってアリサさんだったんですね!」

 

「でも何故市ヶ谷さんが此処に?」

 

 

 

千聖ちゃんの言う通り、何で有咲ちゃんが私達に会いにきたのかが不思議だよね。私はてっきり宗輝君が来てくれたのかと思っちゃった。ここ最近会えてないからかなぁ。

 

 

 

「皆さんに伝えたいことがあって来ました」

 

「改まってどうしたんスか?」

 

「落ち着いて聞いて下さい」

 

 

 

 

 

 

有咲ちゃんが教えてくれた内容をすぐに理解することは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「え、え?どういうこと?」

 

「宗輝は......アイツは昔の()のせいで今も苦しんでるんです」

 

「そう、そういうことなのね」

 

 

 

 

何だか千聖ちゃんは分かったみたい。麻弥ちゃんや日菜ちゃんもさっきから一言も喋ってないけど、頷きながら話を聞いてるところを見ると分かっているらしい。私とイヴちゃんが未だ理解しきれていない状態で軽くパニックに陥ってしまっていた。

 

 

 

「つまりはジブン達が心の底でどう思っているかを恐れて距離を取ったという事ッスかね?」

 

「簡単に言えばそうなるんじゃない?」

 

「けど疑問な点はいくつか残るわね」

 

「疑問な点って?」

 

 

 

私達二人を置いてドンドン話が進んでいる。麻弥ちゃんの言葉通りの意味なら宗輝君が私達と距離を置いたってこと?でも何で?私嫌われるような事したかな?

 

 

 

「何故いきなりそんな態度をとったのかしら」

 

「それは、その......」

 

「有咲ちゃん、ちゃんと教えて」

 

「......香澄から聞いた話にはなるんですけど」

 

 

 

 

 

それからは宗輝君の所謂昔の話、それも小学生の頃の話を有咲ちゃんから聞いた。宗輝君は小さい頃周りからいじめられていて、そこから香澄ちゃんが救ってくれたという事。でも、いじめられた時に深く傷ついてしまいその傷が今もなお宗輝君の中に残っている事。それが何らかの形でもう一度宗輝君に影響を与えてこの事態に発展したという事。

 

 

 

バッ

 

 

 

「日菜ちゃんどこに行くのかしら」

 

「決まってるじゃん、宗輝の家だよ」

 

「家に行ってどうするんスか」

 

「助けに行くんだよ」

 

 

 

 

この前のアイドルライブの時も、それ以前に色々と宗輝君には助けて貰っている。それこそ感謝してもしきれない程に。私達も最初はバラバラに集められた5人だった。それから少しずつ少しずつお互いに切磋琢磨して成長して、時にはぶつかり合いながらも不器用なりに頑張って来た。そしてやっとここまで辿り着くことが出来た。それは紛れもなく私達5人の頑張りのお陰だし、支えてくれたスタッフやプロデューサーのお陰。そして、たった一人の男の子のお陰だと思う。

 

 

 

 

 

「でも香澄ですら拒否されたんですよ」

 

「有咲ちゃん達はそんなことで宗輝を諦められるの?」

 

「いや、そんな事は思ってないんですけど......」

 

 

「前に宗輝が言ってくれたもん。困ったりした時は頼ってくれって。多分それって宗輝にも言えることだと思う。それに、私は宗輝からのSOSとも取れると思うな」

 

 

 

 

それは私にも言ってくれた言葉。困ったり助けて欲しかったら遠慮なく頼ってくれていい。でもそれは宗輝君にも言える事と日菜ちゃんは言った。つまり、宗輝君も困ったりした時は頼るからっていう遠回しな表現?でも実際こういう状況になってしまっている以上、私達にはどうすることも出来ないよ。特に私なんか特別凄いわけでも何でもない。確かに研修生時代は頑張って努力を積み重ねてやっと今の地位まで上り詰めてきた。ここまで有名になったのはみんなのお陰だけどね。

 

 

 

 

「でも今は私達を信じる事が出来ないから一人で抱え込んで壊れてしまったわけね」

 

「けどチサトさんの言う通り、何故ムネキさんはいきなり?」

 

「えーと、多分それは私と奥沢さんの所為かもしれないです......」

 

「どういうこと?」

 

 

 

日菜ちゃんが有咲ちゃんの話に食いついた。私でも今まで日菜ちゃんと付き合ってきて見たことのない顔をしている。まるで有咲ちゃんに怒っているみたいにも思えるその表情。でも、ちょっとだけ日菜ちゃんの気持ちも分かる気がするよ。

 

 

 

「もし有咲ちゃんが普段から宗輝に心無い言葉をぶつけたりしてるのなら、私は絶対に許さないから」

 

「落ち着きなさい日菜ちゃん」

 

「だってそれが原因の一つかもしれないじゃん」

 

 

 

抑えきれないといった状態の日菜ちゃんを千聖ちゃんが宥める。麻弥ちゃんもイヴちゃんもさっきから険しい表情を続けてる。かく言う私も今はMVの撮影練習なんて気分じゃ無かった。

 

 

 

 

 

「......あの日の朝、私は生徒会の仕事がありました。その事を伝えると手伝おうかと言ってくれたんですけど......宗輝がいると色々と問題があるので断ったんです。言い方に棘があった事は認めます」

 

「問題って何?」

 

「その、言いづらいんですけど......」

 

「貴女も宗輝君の事好きなんでしょう?」

 

 

 

千聖ちゃんからとんでもない言葉が飛び出してきた。あ、有咲ちゃんが宗輝君の事を好き⁉︎今確認できてるだけでもパスパレメンバーは少なくとも全員好印象。それに加えてポッピンパーティーのみんなも加わるとなると数が多過ぎるよ!そうなると他の子達の可能性も出てくる......。前々から勘付いてはいたけど、もしかして私の好きな人ってモテモテ?

 

 

 

「そ、そんな訳⁉︎私はただアイツの事が好......ッ!!」

 

「す?やっぱり好きなんでしょう?」

 

「アリサさんも私と同じですね!」

 

「あーもう!それで良いですよ!」///

 

 

 

分かりやすく顔を真っ赤に染め上げる有咲ちゃん。まさか本当に好きなんて全然気付かなかった。千聖ちゃんの観察眼も中々のものだと思うよ。でもなぁ、ただでさえガードが堅い宗輝君。これは攻略するのに時間かかりそうかな。あ、でも他のみんなもいるから時間はあんまりかけてられないのか!

 

 

 

 

「私達は共に闘う仲間であり恋敵(ライバル)って事だね」

 

「え、えぇ⁉︎先輩方もアイツの事?」

 

「恥ずかしながらジブンは前からッスね」

 

 

 

 

日菜ちゃんは最初っから好感度振り切ってたし千聖ちゃんは恋人、というよりはお姉ちゃん願望もあるらしいし。麻弥ちゃんとイヴちゃんは前に一度女の子として助けてもらってる。私も何だかんだで色々と助けてもらってデートも一緒に行ってるし。こうしてみると、側から見れば宗輝君って......女たらしに見える?

 

 

 

「なら今やるべき事は一つね」

 

「うん、早く宗輝を立ち直らせないと恋敵(ライバル)としてみんなと闘う事も出来ないしね!」

 

「今度は私達みんなでムネキさんに助太刀しましょう!」

 

「......そうだね、こんな時こそ力を合わせないとね!」

 

「すみません、ありがとうございます!」

 

 

 

そんな、お礼なんてしなくても良いんだよ有咲ちゃん。さっき日菜ちゃんも言った通り、今は私達が宗輝君を助ける番なんだから。少しでも恩返しがしたいと思ってるのは何も私一人だけじゃなさそうだし。一人一人が頑張って、全員で宗輝君を助けてあげないと!

 

 

 

「あら、彩ちゃん案外余裕そうね」

 

「これが終わったらまた敵同士なんだからね!」

 

「これについてはジブン譲れないッスから」

 

「ブシドーで勝ち取ります!」

 

 

 

「私だって......絶対みんなには負けないよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-side change-

 

 

 

 

 

 

 

「......」

 

「燐子ー?さっきからボーっとしてるよ?」

 

「あっ、すみません今井さん」

 

「何か心配事でもありますか?」

 

「りんりん一人で悩まなくても良いんだよ!」

 

 

 

今私達は練習終わりで近くのファミレスに来ている。最近はみんなの練習の質も上がり気味で波に乗ってきている。この調子なら近頃ライブをしても良さようね。

 

 

 

「燐子、何かあるのなら私達に相談して頂戴」

 

「バンドとは、関係無いんですけど......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宗輝が学校休んでる?」

 

「そのくらい普通じゃない?」

 

「私の気にし過ぎ、かもしれません」

 

 

「そこからは私が説明します」ハァハァ

 

 

 

 

突然声を掛けられたと思ったらそこには花園さんがいた。走ってきたみたいで息が上がっているようだけれど何か急用?にしてもここがよく分かったわね。最初こそリサの勧めで嫌々来ていたけれど、最近ではこれが当たり前になってしまった。......まぁこの近くに猫が住み着いているのは確認済み。決して会いたいからというわけではないわ。

 

 

 

 

「ちょっと、友希那聞いてるー?」

 

「ちゃんと聞いてるわよ」

 

「それで花園さんが何故?」

 

「......さっき燐子先輩が言ってた宗輝の件。あれ、ちゃんとした理由があるんです」

 

 

 

 

それから、その日あった事を花園さんに詳しく教えてもらった。今思えば宗輝の昔の事について聞いたのは初めてだった。前に家族構成云々やらは本人から聞いたものの、ここまで詳しい話を聞くのは初めてだったので少し驚いた。

 

 

 

「ふーん、そんな事があったんだね」

 

「今井さん、流石に反応が軽過ぎますよ」

 

「紗夜だってそんなに取り乱して無いじゃんか」

 

 

 

 

宗輝が昔よくいじめられていた事。戸山さんに出会って変わった事。けれど、昔のようになる事を恐れて人との距離を一定以上取ろうとしない事。今まで知らなかった事を沢山教えてもらった。そんな宗輝に私達がしてあげられる事。

 

 

 

「すみません、私達の所為で......」

 

「花園さんは、悪く無いですよ」

 

「そーだよ!ポピパは何も悪く無いじゃん!」

 

「でも......」

 

 

 

 

 

確かに、彼女達が宗輝の状況にいち早く気付き対応出来ていれば今回のようにはならなかったかもしれない。でも、そんなこと出来るわけがないのよ。人はみんなそれぞれ違って、相手の考えていることなんてわかりはしないから。私だって未だにリサが時々何を考えているのか何て分からない。でもそれで良いんだとも思ってる。

 

 

 

「さっき貴女は私達の所為で、と言ったわね」

 

「......はい」

 

 

「それは全くの間違いだわ。話を聞く限り悪いのは貴女達でも私達でも無い。ましてや宗輝でも無い。完全に昔の人達じゃない」

 

「湊さんの言う通り、貴女達は悪くないのよ。子供の頃は善悪の判断なんてつけようがないから咎められはしないけれど、立派にあの子の心に傷を負わせてしまった。なら私達が今あの子に出来ることは何?」

 

 

 

私の後に紗夜が続く。私も紗夜の言う通りだと思っている。私が"孤高の歌姫"だった頃にも少なからずイジメみたいなものはあった。陰湿で浅はかなものばかりだったから気にするまでも無かった。けれど、私の場合は原因が私にもある。それを見つけ正してくれたのは宗輝。そんな自分を殺してまで他人を優先してしまう様な生き方をしていた彼の一体何処に非があるというのか。敢えて言わせて貰うとするならば、もっと自分を大切にしなさいという事かしら。

 

 

 

 

「私は宗輝を信じて待ってるかな☆」

 

「私も、立ち直れると信じてます!」

 

「あこは精一杯励ましてあげる!」

 

 

 

ただ信じて待つ者も居れば必死に応援する者も居る。側にいて支えてあげる人も必要だろう。各々出来る事をやれば良い。そこで無理をしてしまったらまた宗輝に怒られてしまいそうね。私が無理をすれば貴方は心配して駆けつけてくれる?

 

 

 

 

 

「さて、貴女はどうするのかしら」

 

「......私は———」

 

 

 

 

 

 

 

 

-side change-

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

「お帰りお姉ちゃん」

 

 

 

結局、今日もむーくんには会えずじまい。有咲とおたえがパスパレのみんなとRoseliaのみんなに話が出来たのが今日の収穫。二人共上手くいって良かった。それなのに、私は二日連続でダメ。正直むーくんエネルギーが不足し過ぎててあまり元気も出ない。みんなの前では元気に振舞ってたけど有咲とかにバレてないかなぁ?

 

 

 

「夕飯出来てるからリビングね」

 

「うん、分かった」

 

 

 

 

 

 

夕飯の時もお風呂の時もずーっとむーくんの事ばかり考えていた。むーくんは私の太陽。カッコよくて時々可愛くて。それでいてすっごく頼りになる存在。同い年の筈なのにお兄ちゃんっぽくて偶に子供らしくて。最近はふざけてる事が多かったけど、昔は決してそんな性格じゃなかった。

 

 

 

 

最初に会った時、何かに怯えた様な目をしていたのを薄っすら覚えてる。話しかけるとビクッとした様子で、近づかせない様に自ら遠ざかっていく様に。昔の私もバカだったからそれでも話しかけ続けて今がある。そう思うと昔の自分は良くやった。

 

 

 

 

コンコン

 

 

「お姉ちゃん起きてる?」

 

「あっちゃん?こんな時間にどうしたの?」

 

「ちょっと話があるの」

 

 

 

 

ドアを開けてあっちゃんを中へ招き入れる。十中八九むーくんの事だろうと思うけど。あっちゃんにとってもむーくんは大切な人だと思うから。こういう時のあっちゃんの行動力は小さい頃から変わってないね。

 

 

 

「単刀直入に言うよ、宗輝と何かあった?」

 

「......あっちゃんも昔の事は覚えてるよね」

 

「忘れられるわけないじゃん」

 

「むーくんがまた昔みたいになったらあっちゃんはどうする?」

 

 

 

ここ二日間、自分なりにどうすれば良いかを考えていた。でも答えは出ないまま。こういう時に助けてくれたのは、いつもむーくんだったね。私に足りないところを補ってくれた。私がミスをすれば助けてくれた。あっちゃんだって同じだ。むーくんは私達姉妹と兄の様に接してくれた。昔の事を考えれば、ここまでの関係を築けたのは正直不思議だと思う。

 

 

 

 

「んー、私は私に出来る事を精一杯やるって感じかな」

 

「......ならさ、私はどうしたら良いと思う?」

 

「それ本当に言ってんの?」

 

 

 

 

あっちゃんは少し怒り気味に返事をする。私何かおかしいこと言ったかなぁ?

 

 

 

 

「お姉ちゃんにしか出来ない事あるじゃん」

 

「......私にしか出来ない事?」

 

「私でも駄目。多分れーかちゃんでも駄目。他のみんなでも無い、お姉ちゃんにしか出来ない事」

 

 

 

あっちゃんやれーかちゃんに出来ない事が私に出来るの?他のみんなの方がきっと上手くやれると思う。それでも、あっちゃんは私にしか出来ない事があるって言ってる。なら、それは何?

 

 

 

 

「私にしか出来ない事って何?」

 

 

「そんなの決まってるじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昔の様に、ずっと宗輝の側に居てあげたら良いんだよ」

 

 

 

 

「むーくんの、側に?」

 

「そう、昔立ち直れたのはお姉ちゃんのお陰だと私は思ってる」

 

「でも、むーくん学校休んでるし......」

 

「何言ってんのお姉ちゃん。昔はそんな事で諦めたりしなかったのに、そんな簡単に諦めても良いの?」

 

 

 

 

 

そうだ。昔はむーくんに何度拒絶されようと何度も何度もしつこ過ぎる程にむーくんと会っていた。そうしていると、いつからかむーくんの方から会いに来てくれる様になって。それが嬉しくて堪らなくてお母さんに一日中むーくんの話をしたのを今でも覚えてる。

 

 

 

「......ごめんあっちゃん、ちょっと弱気になってたみたい」

 

「そうだよ、お姉ちゃんらしくも無い」

 

「えへへ、ありがとねあっちゃん!」

 

 

 

 

待っててねむーくん。今度は私が助ける番だよ。

 

 

 

 

「でもねお姉ちゃん」

 

「ん、なーにあっちゃん?」

 

 

「お姉ちゃんも無理しちゃ駄目。しんどくなったり辛くなったら、いつでも私を頼って良いからね」

 

 

 

 

あっちゃんがいる。れーかちゃんがいる。そして私がいてむーくんがいる。あの楽しかった日常を絶対に取り戻すんだ。

 

 

 

「うぅ、あっぢゃん〜」ダキッ

 

「ちょ、お姉ちゃん辞めてよ!」

 

「あっぢゃん〜!!」

 

「......もう、仕方ないなぁ」

 

 

 

 

 

 

その前に、今はあっちゃんに甘えとこうかな。

 

 





40話ということで、ここまで読んで頂けたみなさんに感謝を。
正直ここまで続くとは自分でも思ってませんでした笑
皆様のお陰だと思っております!
お気に入り、評価、感想等頂けると主は大喜びしてリビングを走り回ります。



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Produce 41#ココロ


新しく☆9評価下さった 蒼眼のテトさんありがとうございます!

最近更新が遅れ気味で申し訳ない。リアルに忙しく時間が取れない&シリアス展開書き辛いのダブルパンチで遅れました。

それでは、41話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

「さーやおはよう!」

 

「おはよう香澄」

 

「沙綾ちゃん、香澄ちゃんおはよう」

 

「りみりんー!」

 

 

 

今朝は少し早く学校に来る必要があったからむーくんちには寄ってない。あっちゃんの言う通り、私は私にしか出来ない事をやってみようと思う。でもその前にあと一人だけ、こころんだけが気掛かり。あの日から一番心配だったのは実はこころん。むーくんに直接的に拒絶されたのはこころんたった一人だったから。

 

 

 

「今日もこころん来てなさそう?」

 

「あー、うん。あの日から欠席続きだね」

 

「こころちゃん大丈夫かな?」

 

 

 

欠席続きだと言うこころん。今日はその為にりみりんと一緒にお家にお邪魔してみようと思ってた。勿論、私達二人だけじゃ不安だから他のメンバーも誘って。生憎、有咲は生徒会でおたえはバイト、沙綾もやまぶきベーカリーの手伝いで来られない。だから誘うのはハロハピメンバーの残り4人。既に薫先輩には千聖先輩から伝えてもらっている。あとは美咲ちゃんと花音先輩とはぐの三人だ。

 

 

 

「お昼休みに伝えに行くんでしょ?」

 

「うん、だから今日は早めにご飯食べるね」

 

「ごめんね沙綾ちゃん」

 

「こっちこそ、手伝えなくてごめん」

 

 

 

やっぱり沙綾はどこまでいっても沙綾だ。有咲だっておたえだってそう。今度こそ私が頑張る。私一人じゃ無い、みんなで頑張るんだ。

 

 

 

 

「取り敢えず教室戻ろっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

~お昼休み~

 

 

 

 

 

お昼休み、みんなといつも通りご飯を一緒に食べて少し早めにその場を後にする。こころんの為にはみんなの協力が必要不可欠だ。

 

 

 

「かーくんどーしたの?」

 

「はぐー、ちょっとお話いい?」

 

「こころちゃんの事なんだけどね、今日一緒にこころちゃんのお家に来て欲しいの」

 

「勿論大丈夫!最近こころん元気無さそうだしね!」

 

 

 

これではぐはok。あとは美咲ちゃんと花音先輩だ。

 

 

 

 

 

「えーっと、花音先輩どこかな?」

 

「ウチのクラスに何か用があるの?」

 

「千聖先輩!」

 

「あの、花音先輩どこに居るか分かりませんか?」

 

 

 

見た感じ教室の中には居ないみたい。お昼休みだから何処かに行ってるのかも。だとしたら先に美咲ちゃんに話に行った方が良いかもしれないね。

 

 

 

「ちょっと待ってて......もしもし花音?貴女一体何処に居るのよ」

 

『ふえぇ、千聖ちゃん......ここ何処〜?』

 

「貴女また迷ったの⁉︎はぁ、まぁいいわ。こういう時は宗輝君に......ってダメよ。こうやってあの子に頼りすぎてたからいけないの。自分一人で戻って来なさい」

 

『千聖ちゃ〜ん、助けてよぉ!』

 

 

 

 

どうやら電話が終わったみたい。花音先輩も相変わらずの方向音痴。こんな時にむーくんが居てくれたら、何て思ってしまうのも無理ない。だっていつもならむーくんが花音先輩を見つけて連れて来てくれるから。

 

 

 

「ごめんなさい、伝える事があるなら私が代わりに伝えとくわよ」

 

「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」

 

 

 

これで花音先輩も大丈夫......だよね?まさかまだ花音先輩が迷子になってるなんて思ってもみなかった。早くしないとその内むーくんに怒られちゃいますよ先輩。

 

 

 

「よし、最後に美咲ちゃんだね」

 

「大丈夫かな?」

 

「だいじょーぶ!ほら、教室戻ろ!」

 

「香澄ちゃん待ってよ〜」

 

 

 

 

 

教室へ戻り美咲ちゃんを探す。えーっと、美咲ちゃん美咲ちゃんっと。お、美咲ちゃんみっけ!なんだか元気が無さそう。やっぱりあの日のことでまだ悩んでるかも。

 

 

 

「美咲ちゃんちょっといい?」

 

「どーしたの戸山さん、牛込さん」

 

「こころちゃんの事なんだけどね」

 

 

 

りみりんの口からこころんの名前が出てから美咲ちゃんの表情が一層暗くなる。それもそのはず。こころんにあの日から会えてないから。いつも二人一緒のイメージが強かったこころんと美咲ちゃん。他のハロハピメンバーに聞く限りこの二日間でこころんと話した人は居ないらしい。

 

 

 

 

「放課後一緒にこころんのお家に来て欲しいの!」

 

「......理由を聞いても良い?」

 

「こころんを助ける為に美咲ちゃんが必要!」

 

「私がいたって何も変わらないと思うよ」

 

 

 

 

そう言って笑う美咲ちゃんの顔を見ているとこっちまで辛くなってくるように思えた。まるで昔のむーくんを見ているようだった。

 

 

 

「そんな事ないと思うよ」

 

「そうだよ!美咲ちゃんがいないとダメなんだよ!」

 

「......ハロハピにいたときからそうだった」

 

「え?」

 

 

 

俯いて表情までは見えなかったけど、確かに美咲ちゃんが涙を流している事だけは分かった。

 

 

 

 

「私はミッシェルとしてハロハピにいる。でもこころや他のみんなは私を巻き込む。ハロハピに必要なのはミッシェルであって私じゃない。なら、私がこころ達と一緒にいる意味なんてないじゃん!」

 

「......美咲ちゃん」

 

 

 

 

りみりんまでつられて泣いてしまった。美咲ちゃんの言う通り、確かにミッシェルは美咲ちゃん。こころんやはぐ、薫先輩はまだ気づいて無さそうだけどね。それなのに、美咲ちゃんがハロハピにいる理由。そんなの簡単だよ美咲ちゃん。

 

 

 

「それはこころんに美咲ちゃんが必要だから」

 

「そんな事有り得ないよ。事実こころ達は私が居なくても楽しくやっていけると思うし」

 

「......違うよ

 

「だから、私なんて必要ないでしょ」

 

「全然分かってないよ美咲ちゃん!」

 

 

 

 

 

「何が分かってないの」

 

 

「こころん前にも言ってた!これまで、私は美咲が居るからずっと笑顔でいられたって!美咲ちゃんのお陰で今まで頑張ってこられたって言ってたもん!こころんにはハロハピ関係無く美咲ちゃんが必要なんだよ!美咲ちゃんはこころんの事好きじゃないの⁉︎」

 

 

 

柄にも無く、なんてことは無いけど号泣しちゃった。こういう癖はむーくんに直せって言われてたんだけどなぁ。昔っからこの手の話になると泣いてしまう癖は戸山家直伝かな?前にもあっちゃんとちょっと喧嘩した時泣いちゃったし。むーくんとはほとんど喧嘩することないけど。

 

 

 

 

「私だって......私だってハロハピに居たいよ!こころの側で支えてあげたい!でも、今更どんな顔して会えばいいのか分からない。どうしていいのか全然分からないんだよ!」

 

 

 

一応場所を移動しておいて正解だったかな。美咲ちゃんだってこころんの側に居たいよね。今までずっと見てきてわかってたことではあるけどね。だって美咲ちゃん、美咲ちゃんはこころんの側にいる時が一番楽しそうだったから。

 

 

 

 

「だったらそれを伝えれば良いんじゃないのかな?」

 

「......私の気持ちを?」

 

「花音先輩や薫先輩、はぐたちだって居るし私達もいる!美咲ちゃんは一人じゃ無いんだよ!」

 

 

 

 

美咲ちゃんは涙を拭いて一度自分のほっぺを両手で叩く。なんだかむーくんを見てるみたいでホッとしてくる。むーくんも自分のほっぺをああやって叩いてたっけな。ギターで悩んでた時も私のほっぺをつねってきたりしてたし、むーくんってもしかしてほっぺ触るの好き?

 

 

 

「ごめん戸山さん、牛込さん。私も放課後こころの家に行くよ」

 

「ありがと美咲ちゃん!」

 

「みんなで頑張ろうね」

 

 

 

こころん待っててね。今までこころんに笑顔をしてもらった分、今度は私達が助ける番だよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~弦巻邸~

 

 

 

 

 

 

「あぁ......儚い」

 

「〜ッ!!」

 

 

 

放課後になり予定通り私とりみりん、こころんを除くハロハピメンバーでこころんの家に到着。薫先輩はいつも通りでりみりんもいつもと同じ反応。そういえばりみりんは薫先輩のファンだったね。

 

 

 

「着いたは良いけど具体的にはどうするの?」

 

「んー、まだ考え中かな」エヘヘ

 

「かーくんはかーくんのままで良いと思うよ!」

 

「私達も力になるから一緒に頑張ろうね!」

 

 

 

はぐと花音先輩も協力してくれる。勿論薫先輩だって美咲ちゃんだって同じ。まだやるべき事、どうすれば良いのかなんて分からないけどむーくんならきっとこうするはず。思い出せ戸山香澄、こんな時むーくんならどうやって解決してたかを。

 

 

 

「皆様お待ちしておりました。お話は聞いておりますので、どうかお嬢様をお救いください」

 

「はい、任せて下さい!」

 

 

 

 

黒服の人が中に案内してくれて、少し歩いてこころんの部屋に到着。

 

 

 

 

「こころん、入っても大丈夫?」

 

「......」

 

「悪いけど入らせて貰うよ」

 

 

 

返事は無かったけど美咲ちゃんがそのままドアを開ける。きっと美咲ちゃんも腹を括った?のだろう。前にむーくんがそんな感じの事を言ってた気がする。後で有咲に腹を括るの意味を教えてもらっとこう。

 

 

 

「お邪魔します」

 

「......こころ」

 

「どうしたのかしら」

 

 

 

そう言うこころんに笑顔は無かった。いつもなら元気いっぱいに迎え入れてくれたのに。多分、それほどまでにこころんにとってむーくんの存在は大きかったんだよね。何もむーくんが大切なのは私だけじゃない。私だってむーくんにあんな反応されればヘコむ。今回はそれがこころんだっただけの話。むーくんだって悪気は無かったと思うし。

 

 

 

「こころん、あの日の事についてなんだけどね」

 

「......怖いの

 

「え?」

 

「あの日、宗輝のあの反応を見て初めて思った。笑顔になれないの。こんなにも笑顔になれない事が怖いなんて知らなかったわ」

 

 

 

美咲ちゃん曰く、こころんはずっとみんなを笑顔にしてきた。ハロハピは元々世界中に笑顔を届けるために活動してるみたいだし。笑顔じゃ無い人がいればこころんが笑顔にする。勿論、そのこころんも笑顔。今までこころんから笑顔が絶えた事は無かったみたい。

 

 

 

 

「こころちゃんにとって笑顔って何?」

 

「......私にとって笑顔は全てだったわ」

 

 

 

 

嬉しかったり楽しかったり。そう言う時に笑顔になると私は思う。こころんは自分にとって笑顔は全てと言った。だったらその全てを今は失ってしまっているということになってしまう。それがどれだけ辛い事なのか、私は一度だけ過去に経験している。

 

 

 

「......こころん」

 

「何、香澄?」

 

「こころんにとって笑顔は全て。私にとって同じようにむーくんは全てだった。むーくんが嬉しかったら私も嬉しいし、むーくんが楽しければ私も楽しかった。でも、一度むーくんを失いかけた事があった」

 

 

 

 

みんなにも話したむーくんとのお話。さっきも言った通りこころんにとって笑顔が全てなら、私にとってむーくんは全てだった。勿論、嬉しかったり楽しかったりだけじゃなくて悲しい時は一緒に泣いた。辛い時はいつも二人でいた。そうしたら少しでもむーくんの気持ちを理解できると思った。実際にそうする事でむーくんと分かり合えたから。

 

 

 

 

「香澄はその時どうしたの?」

 

「一生懸命悩んだよ、お母さんやあっちゃんにも相談して。でも結局どうすれば良いかなんて分かんなかった」

 

「じゃあどうして?」

 

「......私なりの答えだけど、きっと正解なんて何処にも無いんだと思う」

 

 

 

 

分かり合えた何て思ってた。でも今回みたいな事になっちゃったし、やっぱり私はむーくんが居ないと半人前みたい。

 

 

 

「でもねこころん、私の想いはあの頃からずっと変わってないよ」

 

「......香澄の想い?」

 

 

 

想いなんて言ってしまったけど、そんなに大きい事じゃなくて。ただ私がやりたい事、してあげたい事だと思う。それがむーくんにとって良いか悪いかなんて関係無かったしね。

 

 

 

 

 

 

——どんな事があっても、むーくんの側に居たい——

 

 

 

 

 

 

 

「それが香澄の想い?」

 

「そう、これがあの頃からの私の想い」

 

 

 

むーくんにはひっつき過ぎだとかもうちょっと離れろとか言われ続けたけど、本気で嫌がってたことなんてなかったと思うし大丈夫。私は馬鹿だったからそういう方法でしかむーくんを守れなかったから。

 

 

 

「じゃあこころんにとってむーくんって何?」

 

「私にとっての、宗輝?」

 

 

 

ナイスはぐ、良い質問だと思う!

 

 

 

「こころちゃん、私にとっての宗輝君は弟みたいで、でも時々大人っぽくて頼れる存在。私が迷ってたら道を示してくれる。間違ってたらちゃんと間違ってるって言ってくれる、そんな存在だよ」

 

 

 

花音先輩がはぐに続く。確かにむーくんは時々無邪気に笑ったりするところが弟っぽいなぁ。花音先輩は早く方向音痴直さないと駄目だと思います。

 

 

 

「私にとっての、宗輝。......そうね、私にとって宗輝は()()だと思うわ」

 

「それはどうして?」

 

「宗輝はいつも私を笑顔で迎えてくれた。宗輝といると笑顔になれるの。楽しかったり嬉しかったり。宗輝は私にとって欠かせない存在、だから太陽」

 

 

 

私と同じだ。私達にとってのこころんのように、こころんにとってのむーくんはそうなのだろうと思う。

 

 

 

「ではこころ、君はどうしたいんだい?」

 

「分からない、というよりは怖くて出来ないだけなのかもしれないわ。もう私は笑顔になれない。だから宗輝の側にいることは出来ないわ」

 

「本当にそう思ってる?」

 

「......美咲?」

 

 

 

 

 

「こころはいつも私を巻き込んで。そして全員を今まで笑顔にしてきた。私は私なりに凄く楽しかった。ハロハピのモットーは"世界中を笑顔に"でしょ?こころがその調子でどうするの」

 

 

 

 

立ち直った美咲ちゃんは強い。やっぱりこころんには美咲ちゃんが一番似合ってると思う。それは今までずっと側で見てきてみんなが思ってることだと思うけど。

 

 

 

「......でも、私はもう駄目」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、今度は俺がこころを笑顔にする番だ」

 

 

 

 

 

 

 

-side change-

 

 

 

 

 

 

 

「なら、今度は俺がこころを笑顔にする番だ」

 

 

「むーくん⁉︎」

 

「なんで宗輝がここに?」

 

「メイドちゃんに言われて激チャで来た」

 

 

 

本当あの人には敵わん。いきなり電話かけてきたと思ったら泣きながら"お嬢様を助けて下さい"なんて言ってくるし。滅茶苦茶急いで来たら"どうぞ中へお入り下さい"の一言。なんだよその塩対応。今度頭から粗塩10kgぶっかけてやるからな。二度と塩対応なんて出来ないように。

 

 

 

 

「こころ、あの日はごめん」

 

「私が悪かったわ、だから宗輝は謝らなくても」

 

「いいや違う。もう話は聞いてるかもしれないがもう一度だけ聞いてくれ」

 

 

 

 

もう昔の俺とは違う。今度はもう間違えない。俺を信頼してくれる人がいる。俺を頼ってくれる人がいる。令香に理由をもらった。香澄が側に居てくれる。そして、みんながいる。もう何も気にする必要なんてない。

 

 

 

 

「俺は一度、こころやみんなを拒絶してしまった。昔の事があって、それが積もり積もって限界がきたらしい。我ながら情けない話だ。それでも俺は、前へ進もうと決めた」

 

「......むーくん」

 

 

 

 

ごめんな香澄、この数日間お前と会えなくてクソ寂しかったなんて面と向かって言えるわけないけど。それ言ったら雰囲気ぶち壊しでお前抱きついてくるだろうから。

 

 

 

「こころ、俺と初めて会った時のこと覚えてるか?」

 

「ええ、勿論よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それは俺がCiRCLEでバイトをしていた日のこと。

 

 

 

 

「はぁ、やっと終わったぁ〜」

 

「ごめんね宗輝君一人にやらせちゃって」

 

「本当ですよ、明日は休みますからね」

 

 

 

CiRCLEに入り立ての頃からまりなさんにコキ使われてたのは良い思い出。

 

 

 

「香澄が言うからここに決めたのに。適当なところで切り上げるか?」

 

 

 

俺とこころの出会いはあまりにも唐突だった。

 

 

 

「あら、貴方酷い顔をしてるわよ?もっと笑顔を見せて頂戴!」

 

「俺は元々こんな顔だ」

 

 

 

初対面なのにグイグイ来たのを今でも鮮明に覚えてる。

 

 

 

「確かハロー!ハッピーワールド!のボーカルだっけ?」

 

「弦巻こころ、覚えておいて!」

 

「わーったから、もう店閉めるから帰った帰った」

 

 

 

今にして思えば、俺とこころが出会ったのは運命的だったのかもしれない。俺は運命論者じゃ無いけど、皮肉にもそう思えてしまう。数々の偶然と奇跡が重なり、必然的に俺とこころを引き合わせた。そんな気がする。

 

 

 

「また明日も来るわね!」

 

「俺明日休みなんだけどな」

 

「大丈夫、きっとまた会えるわ!」

 

 

 

それからは御察しの通り。いつも通りのこころの巻き込みにより俺はドンドン沼にハマった。それが当たり前になった頃にはこころがいるのが当たり前になっていたと思う。ちょっと日本語おかしいな。

 

 

 

「今日も来たわよ!」

 

「はいはい、2時間練習な」

 

 

 

ある日は練習に。

 

 

 

「お話しましょう!」

 

「今はバイト中だっつーの」

 

 

またある日はお話をしに。

 

 

 

「一緒に帰るわよ!」

 

「だからまだバイト中だっつの」

 

 

 

こころと触れ合っていく中で自分が変わっていくのを感じた。

 

 

最終的にハロハピが入ってる日をまりなさんに聞いてシフト入れてたのは内緒。

 

 

 

 

「はぁ、こう連日でシフト入れると流石に疲れた」

 

「むーねきー!」

 

「はいはい、今日はどんな要件だ」

 

「あら、また笑顔じゃないわね」

 

 

 

 

その中で一つ、俺とこころが交わした約束。

 

 

 

 

「疲れてるんだ、仕方ないだろ」

 

「......じゃあ私が笑顔にしてあげる!宗輝が笑ってくれれば私も嬉しいわ!」

 

 

 

その時は何となく、多分その場の流れで言ったんだと思う。けれど、確かに交わしたちっぽけで大切な約束だった。

 

 

 

「なら、こころから笑顔が無くなった時は俺がこころを笑顔にしてやるよ」

 

「私から笑顔が無くなることなんて無いわよ?」

 

「そう信じてるよ」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——こころから笑顔が無くなった時は——

 

 

 

 

——俺がこころを笑顔にしてやるよ——

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時の約束、果たしに来たぞ」

 

 

 

 

 

我ながら良くこんな臭い台詞を思いついたな。今更ながら滅茶苦茶恥ずかしい。でも、今はあれで良かったんだと心底思う。こうしてこころを助ける事が出来るから。

 

 

 

「......宗輝」

 

「なんだ?」

 

「私は、宗輝の側に居て良いの?」

 

「当たり前だろ、むしろ居てくれないと困る」

 

 

 

みんなこんな状態のこころを見るのは初めてだろうけど、誰一人として笑ったりしない。真剣な眼差しでこころを見る。こんなにも大切な仲間に巡り会えたのもこころのお陰だろうな。

 

 

 

「みんなもそう思ってる」

 

「本当に?」

 

「はぐみ、薫先輩、花音先輩、そして美咲。ここにいる連中みんなこころのことが大好きなんだ。だから、こころには笑顔でいて欲しい」

 

 

 

 

 

うーん、中々難しい。思うように上手く言葉が出てこない。カウンセリングの本でもこの後書店で買おうかしら。ってそんなふざけてる場合じゃないな。

 

 

こういう時どう言えば良いんだろうな。笑ってくれ?側に居てくれ?......いや違うな。多分きっと、この言葉で良いんだろう。

 

 

 

「......どうしたの宗輝?」

 

 

 

震えるこころをギュッと優しく抱きしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こころ、お帰り」

 

 

 

 

「......うん、うん。ただいま、宗輝!」ニコッ

 

「やっと笑ってくれたな」

 

 

 

 

 

ハロハピはこころが笑顔になれる居場所。大切な仲間達と一緒に世界中を笑顔に。その為にはまず自分たちから笑顔にならなくちゃな。

 

 

 

 

「宗輝、私貴方が居ないとダメみたい」

 

「俺もみんなが居ないとダメダメだ。だから、これからはずっと一緒だ!」

 

「うん!大好きよ宗輝!」チュッ

 

 

 

 

こころがほっぺにキスをする。相変わらず愛情表現豊かで良いことだ。しかし、ここでの判断は違う、そうじゃない。なんてったって周りの目線が痛いもの。さっきまで暖かく見守ってくれてたのは気のせいか?

 

 

 

「こ、こころさん?あの、一回離れません?俺から抱きついといてなんだけど......」

 

「ダメよ!今日は気が済むまでこのままでいさせて!」

 

 

 

 

薫先輩はいつも通り儚いとか言ってる......と思った?残念!さっきからこの人"私のジュリエット......"とか言ってるよ。いや、俺が女なのね。

 

 

 

「......宗輝君?」

 

「な、何でしょうか花音先輩」

 

「ちょっとこの後お話しようね」

 

 

 

ふえぇ、花音先輩目のハイライト消えてるよぉ。心なしかりみもヤンデレチックな表情してるし。美咲はやれやれと言った顔をしている。はぐみ、お前だけが今は癒しだ。さっきからコロッケ食べに行こうとか意味わからん事言ってるが、早く助けてくれ。

 

 

 

「むーくん」

 

「香澄、これは違うんだ。アレがコレでこうなってだな......」

 

「......」ギュッ

 

「香澄?」

 

「もうちょっと、このまま」

 

 

 

 

一番心配かけたのはコイツなのかもしれないな。

 

 

 

 

「心配かけてごめんな」

 

「うん」

 

 

 

 

それから香澄が俺から離れたのは数分後だった。その間ずっとみんなに見られてたけど何故かこころの時のような反応じゃなかった。こころはダメで香澄はよろしいのですか?

 

 

 

 

「よし、じゃあ明日から謝りに回るか」

 

「私も一緒に行く!」

 

「いや、別に俺の問題だから」

 

「またそーやって一人でやろうとする!」

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 

 

 

ぷんすか怒る香澄。お前の言う通り、もう俺は一人じゃない。信頼できる、頼れる仲間達がいる。もう決して間違えたりしない。疑ったりしない。俺の求めていたものはすぐそこにあるから。それに向かって精一杯手を伸ばすだけだ。

 

 

 

「なら手伝ってくれるか?」

 

「うん、勿論だよ!!」

 

 

 

 

 

 

香澄、俺にとってお前は......

 

 

 

 

 

昔っから変わんねぇな

 

「ん、何むーくん?」

 

「いんや何でもない」

 

 

 

 

 

 

 

俺にとってお前は、俺を救ってくれた光だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「ということで俺復活」

 

 

宗輝「今回からおまけコーナー再開」

 

 

香澄「むーくんむーくん」

 

 

宗輝「何だよ」

 

 

香澄「この3日間何してたの?」

 

 

宗輝「んー、食っちゃ寝」

 

 

香澄「学校サボってそれ?」

 

 

宗輝「色々と事情があったんだよ」

 

 

香澄「何で家に入れてくれなかったの?」

 

 

宗輝「それも色々あんのよ」

 

 

香澄「えー、教えてよー!」

 

 

宗輝「お前にだけは教えられん」

 

 

香澄「後でれーかちゃんに聞こうかなー」

 

 

宗輝「待て、ウェイウェイ香澄サン」

 

 

香澄「ん、何で?」

 

 

宗輝「何でって、アイツは理由知ってるからな」

 

 

香澄「もしもしれーかちゃん?」

 

 

宗輝「行動力パナいなお前⁉︎」

 

 

 

 

 

 

-End-

 

 

 





今回でやっと宗輝復活。
香澄視点意外とやりづらかった......
おまけコーナーも今回から再開になります。

次回からは早めに投稿出来るよう頑張ります。
お気に入り、感想評価等お待ちしております(定期)


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Produce 42#ツミとバツ


寒がりには厳しい季節になりましたな。
因みに主は暑がり兼寒がりです。

更新遅れて申し訳ない。
せめて週一で勘弁してくだせぇ。

42話、ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

 

弦巻邸での出来事から1日。

 

 

 

「何でこんなことになってんの?」

 

「むっくんお帰り」ギュッ

 

 

 

香澄と一緒に登校したところまでは良い。下駄箱に靴を置き教室へと向かう道中でおたえに出会い流れるように熱い抱擁を食らう。

 

 

 

さて、ここでもう一度言っておこう。

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

「なんか落ち着く」クンクン

 

「お前は早く離れんか」

 

 

 

香澄は香澄で隣で"おたえ良かったね!"なんて笑顔で言ってるけど。そう思うのなら助けてくれません?困ったら頼ってくれって昨日言ったよね?身動き取れなくて絶賛困ってるんですけど。

 

 

 

「......何やってんだお前ら」

 

「あ!有咲おはよ!」

 

 

 

登校してきたであろう市ヶ谷嬢と鉢合わせる。こんな時どうなっていたか思い出せ斎藤宗輝。

 

 

「え、えと、久しぶり?」

 

「たったの3日間だろ」

 

「でも有咲寂しいって言ってなかった〜?」

 

「ちょ、お前それ言うなー!!」

 

 

 

有咲さん、否定はしないんですね。そこは普通"そ、そんなこといってねーし!!"じゃないのか?俺がいない間に変わった?有咲からツンデレが無くなったらそれは最早有咲では無いのでは?

 

 

 

「有咲」

 

「......な、何だよ」

 

「ただいま」

 

「......ったく、心配したんだからな

 

 

 

どうやらツンデレは健在らしい。詳しくは聞き取れなかったが何か言ったのは間違いないだろう。俺は決して難聴系主人公を気取っているわけではないからな。"え、何て言ったの?"なんて藪からスティックな事は言わない。

 

 

 

「取り敢えず教室行っても良いか?」

 

「んー、仕方ない」

 

 

 

何が仕方ないのかは聞かないでおく。やっとおたえに離れてもらったので香澄と有咲と共に我が2年A組へ向かう。

 

 

 

ガラガラ

 

 

「あ、斎藤君やっと来た!」

 

「3日間も休んで大丈夫だったの?」

 

「あ、うん。もう体調もバッチリ」

 

 

 

クラスのモブ子ちゃん二人が教室に入るや否や声を掛けてきたので少しビックリした。今まで特に話した事なかったのに。俺って基本人見知りなところあるからやめて頂きたい。

 

 

 

「ふーん、体調もバッチリなんだね」

 

「美咲か、何だよその意味ありげな感じ」

 

「いーや何も。今日からまた大変だと思うからね」

 

「それは俺も分かってるつもりなんだけどな」

 

 

 

美咲の意図することは何となく分かる。みんなに心配かけたのは確かだからな。償いって訳じゃないけど、やっぱりそこらへんはちゃんとしときたい訳よ。千聖さんとか怒ってそうで怖い。あと蘭。紗夜さんとかもこえーな。やべぇ、今更になってちょっと怖気付いたわ。

 

 

 

「大丈夫だよむーくん!私もついてるからね!」

 

「なんなら私も付いて行こうか?」

 

「余計めんどくさくなりそうだから香澄一人で充分」

 

 

 

取り敢えずはお昼休みだな。まず最初にやっときたいのはポピパのみんなだ。りみりんとおたえと有咲までは終わってる。残るは沙綾のみ。特に沙綾は過去の一件もあるからな。

 

 

 

「よーし、お前ら教室入れよー」

 

 

 

担任が入ってきてSHRが始まる。確か一時間目は移動教室だっけか。移動最中で出会いたくないけどそんなこといってられんか。

 

 

 

「無事1日が終わりますように」

 

 

 

先に無事を祈っておこう。

 

 

 

 

 

 

~お昼休み~

 

 

 

 

 

問題のお昼休み。いつも通り中庭で昼食をとる為に香澄と有咲と共に令香特製お弁当を持っていざ出陣。既におたえとりみりん、沙綾がシートを敷いてその上に座っていた。

 

 

 

「みんなお待たせー!」

 

「香澄の所為でちょっと遅れちまった」

 

「それに付き合う有咲も有咲だけどな」

 

「私は香澄が言うから仕方なく付き合ってやっただけだ!」

 

 

 

前と変わらない、そんな日常を過ごす。少なくとも今朝から今までは変わりなく過ごせてた。でも、今までと同じじゃダメなんだ。未だに怖い。だけど、俺の気持ちも伝えていかなきゃまたすれ違ってしまいそうな気がしてならない。もう間違えてはいけない。

 

 

 

 

「......もう大丈夫なんだね」

 

「大丈夫、とはハッキリ言えない。あの時だって大丈夫だと思ってたから。沙綾、約束破ってごめんな」

 

「本当だよ、凄い心配したんだからね」

 

 

 

約束。一年前、文化祭ライブ前に沙綾と二人で交わした約束。互いに困ったりしたら助け合うというものだった。それを一方的なものにしてしまったのは紛れもなく俺自身だ。

 

 

 

「せめてもの償いとして何かやらせてくれ」

 

「いや、別にそんなことしなくても」

 

「ダメだ、俺の気が済まない」

 

 

 

ここは意地でも退いてやらんぞ。流石の沙綾もダメだと悟った様子。

 

 

 

「じゃあさ、一週間だけ私にお弁当作ってきてくれない?」

 

「それだけか?てっきりもっとハードなの想像してたわ」

 

「じゃあもっとハードなのにしようか?」

 

「遠慮しとくよ」

 

 

 

沙綾の笑顔が見られたからなんかもう吹っ切れた。こころじゃないけど、やっぱりみんなには笑顔でいてほしいと切に思います。

 

 

 

ツンツン

 

 

「何だ有咲、脇腹は弱いからやめてほしいんだけど」

 

「そ、そういう意味で突いた訳じゃないし」

 

「じゃあどういう意味なんだ?」

 

「その、弁当?私も欲しいなーなんて思ってみたり」

 

 

 

 

うん、可愛い。前まではこんなに素直じゃなかった気がするがこれはこれで俺得なので良し。むしろこの有咲を俺は推奨する。

 

 

 

「弁当なんて一人分も二人分も変わらんから良いぞ」

 

「本当か⁉︎」

 

「あー、二人だけズルい」

 

 

 

こうなってしまえば芋づる式だ。おたえが欲しがりその次はりみりん。香澄は何故か何も言ってこないが今は放っておこう。その内勝手に話すと思うし。

 

 

 

「じゃあおたえとりみりんにも作ってくるから」

 

「出来るだけお肉いっぱいでよろしく」

 

「へいへい」

 

「香澄ちゃんは良いの?」

 

「え、むーくん作ってきてくれないの?」

 

 

 

あ、この流れで作ってきてくれると思ってたのねあなた。言わないと伝わらないこともあるんですよ。というかお前は時々作ってやってるだろ。これじゃあ五人分作らなきゃならんな。これからは早起き確定か。ま、弁当作ってる時間も嫌いじゃないから良いけど。

 

 

 

「でも五人分なんて大丈夫?」

 

「安心しろ沙綾、中身は一つ一つ変えるから」グッ

 

「そういうことじゃないんだけどなぁ......」

 

 

 

こうして俺はポピパの弁当担当へと早変わりしたのでした。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そんなこんなで放課後。余談だが5.6時間目の体育で少し怪我した香澄を保健室へ運び看病。その様子を見て保護者扱いされたのは心外だが何とも無くて安心した。挙げ句の果てには保健室の先生に恋人扱いされる始末。普段からお馬鹿発言ばっかの香澄、ランダムスターのお陰で変態扱いされることが偶にあるらしいがあれでも立派なJKなのだ。お肌に痕が残ったりしたら大変。

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

少し話が逸れてしまったが今の状況はあまり芳しくない。理由は簡単。俺の目の前に千聖さんと日菜がいるからだ。あまり会いたくなかった2強に出会ってしまった。

 

 

 

「お久し振りです、諸先輩方」

 

「言葉遣いが変よ宗輝君」

 

「学校来てるんなら教えてくれたら良かったのに」

 

 

 

もう一度考えてみて欲しい。まだ千聖さんが校門で待ち構えているのなら理解できる。しかし日菜の通う学校は羽丘のはず。何で授業終わって速攻で帰る支度した俺と同レベルなんだよ。

 

 

 

「さぁ行くわよ」

 

「何処に行くかだけ聞いても?」

 

「勿論事務所だよ!」

 

「何故に?」

 

「行ってみれば分かるわ」

 

 

 

行ってみれば分かるとのこと。まぁなんとなく察しはつくけど。今日はポピパメンツだけでもやっとなのにパスパレメンツまでもが相手とは少々骨が折れそうだ。千聖さん辺りなら一人で肋骨何本かいかれそう。

 

 

 

「変な事考えて無かった?」

 

「滅相も御座いません」

 

「なーんかこの感じ久しぶりだなー」

 

 

 

 

最終的に彩とイヴも加えて5人で事務所へ向かった。拝啓、市ヶ谷有咲殿。私は今から連れ去られます。ごめんなさい、探さないで下さい。いや、マジですまん有咲。一緒に帰る約束してたけど果たせそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

場所は変わってパスパレ事務所内。事務所にて麻弥とも合流し無事パスパレ全員集合である。いらんことにアラサー敏腕プロデューサーも加えた7人で現在練習用の個室。

 

 

 

「ふぅ」

 

「何でプロデューサー居るんですか」

 

「ウチの専属マネージャー(仮)の様子見だよ」

 

 

 

なら最初に会った時の"調子はどうだい?"で済むだろ。貴女がいると話が変な方向に進むんで居ない方が正直ありがたい。しかし大人なだけあって話のまとめ方は上手いので無碍には出来ないところもあるのが難点。

 

 

 

「取り敢えずお話を聞きましょうか」

 

「何から話せば?」

 

「正直なところ、宗輝君の気持ちを聞ければそれで良いわ」

 

「了解です」

 

 

 

 

それからはお昼休みに沙綾に話したような内容を少しだけパスパレ用に変えて伝えた。これまでパスパレのみんなと過ごした時間は紛れもなく俺の中で宝物だ。一緒にライブを作り上げたのも良い経験だった。今も尚、仮ではあるがマネージャーとして役に立てて俺は嬉しい。

 

 

 

 

「私はムネキさんを信じてました!」

 

 

イヴは俺を信じてくれた。

 

 

 

「ジブン達が居ます」

 

 

麻弥は側に居てくれると言った。

 

 

 

「もう少しは私達を信じなさい」

 

 

千聖さんは自分達を信じろと言った。

 

 

 

「もう絶対に離さないからね!」

 

 

日菜は絶対に離さないと言ってくれた。

 

 

 

「私達に何が出来るのかなんて分からない。だけど、私達は宗輝君の役に立ちたい。困ってるのなら助けてあげたい。これが私達5人の想いだよ」

 

 

 

彩は俺に想いを伝えてくれた。

 

 

 

 

 

この一言一言が嬉しくて嬉しくてたまらなかった。同時に少し前までの自分を省みる。こんなにも大切な人達を信じられなかったということを情けなく思う。もう間違えないと誓う、想いを伝えてくれたみんなに。何より自分自身の心に。

 

 

 

「......ありがとうみんな」

 

「はいはい、湿っぽいのはここまで!」

 

「プロデューサー居たんですね」

 

「君私に喧嘩売ってるのかい?」

 

 

 

ごめんなさい、途中から空気だったので少しからかおうと思ってました。何故かこの人は他の大人と比べて格段に接しやすいので不思議。そうしてくれているのは分かるがそれだけでは説明が難しいな。お姉ちゃん?いや、それだけはない。だってそんなに歳近くも無いし。

 

 

 

 

「気が変わったわ、アンタ表出なさいな」

 

「宗輝君、最後の方口に出てたわよ」

 

「やっべマジか」

 

「ムネキさん、口は災いの元ですよ!」

 

 

 

仕方ないじゃん、俺の言う事聞いてくれないんだもん。最近は思ってる事が口に出てしまっている事が多い(らしい)。こうやって物事をめんどくさい方向に進めるのには滅茶苦茶貢献してるけど。そろそろ本気で病院探そうかしら。あらやだ奥さん、治療費はしっかりと事務所に請求しておいて頂戴!

 

 

 

「まぁ問題も解決したことだし、始めるわよ」

 

「えー、千聖ちゃんあれやるの?」

 

「なになに、なんか始まるの?」

 

「確かに私達にも原因はあった。でも、もう少しは私達の事信用してくれても良かったんじゃないかしら?」

 

 

 

それを言われると弱る。今までも決して本心から俺の事を馬鹿にしたりイジメと取られるような言動は一切無かった。それなのに俺は疑心暗鬼になって。昔がそうだったからといって判断してしまった。

 

 

 

「なので、ムネキさんには私達を信じられなかったツミがあります!」

 

「その罰として何かしてもらおうというか訳ッスね」

 

「あのー、出来れば優しいお願いで」

 

「るんっ♪とする事してもらおーっと!」

 

 

 

 

怖い。何が怖いって、まだ麻弥とイヴのお願い事ならハードなものはこないだろう。彩もそこら辺は大丈夫なはず。問題なのは千聖さんと日菜の2強だ。いや、まだ日菜は良いとしよう。マジで千聖さんだけはヤバい。これを機に尻に敷かれそう。あ、もうすでに半分くらいは敷かれてましたね。

 

 

 

 

「まずは私からです!」

 

「おう、イヴのお願い事ならどんとこい」

 

「ムネキさん、ハグしましょう!」

 

 

 

 

色即是空、空即是色。阿弥陀如来。南無三。......っといかんいかん、ちょっとイヴが可愛すぎて頭飛んでたわ。手を広げて微笑むイヴ。女神、俺にはイヴがそう見えたね。

 

 

 

「じゃあハグするか......ってイヴさん!!」バタッ

 

「ムネキさん〜」

 

 

 

あのー、これはハグではなく押し倒されただけでは?熱烈なハグとして認識してもよろしいのですが。さっきから如何せん胸のあたりがドキがムネムネしておりましてですね。言語能力まで失ってきたな。頭痛が痛いみたいな。

 

 

 

「......イヴ?」

 

「もう何処にも行かないで下さい」

 

 

 

顔は見えないが多分泣いているのだろう。イヴの事を二度と泣かせたくなかったのに。これじゃあマネージャー失格かもな。それでも、今はイヴに俺の胸を貸してあげよう。肩を震わせて泣くイヴをそっと抱きしめて心に誓う。

 

 

 

「大丈夫、もう何処にも行かないぞ」

 

「本当ですか?」

 

「勿論、約束な」

 

「......ハイ!約束ですよムネキさん!」

 

 

 

また一つ約束が増えてしまった。イヴの小指を取り俺の小指と向かい合わせてさながらキスをする様にくっつける。普通ここは指切りとかするんだろうが、俺とイヴだけの特別な約束だ。他とは違う形で残したかった。

 

 

 

「んんっ!!そろそろ良いかしら」

 

「お、次は誰だ」

 

「次はジブンです」

 

 

 

子供っぽく手をあげる麻弥。麻弥は一つ歳上だが、何かと子供っぽくはしゃぐ時があるのでそのギャップにやられることが多い。メガネを付けてるオタクモードの麻弥も、メガネ外してライブモードの麻弥のどちらもそれぞれ魅力が合って好きだ。

 

 

 

「願いを申してみよ」

 

「フヘヘ、何か恥ずかしくなってきました」

 

「そんなに恥ずかしい罰なのか?」

 

 

 

裸になって逆立ちして踊れとか言われたらどうしよう。ちょっとSっぽい麻弥を想像してみたが、案外イケそうで怖い。麻弥特有の早口で罵られるとか一部の人には御褒美にもなるな。俺は断じてそういうタイプの人間ではない。ごく普通のノーマルだ。

 

 

 

「......膝枕をですね」

 

「何だ膝枕程度なら」

 

「宗輝君にしてあげたいんッスよね」///

 

 

 

してあげたいということは、俺が麻弥に膝枕してもらうってことか?てっきり俺が麻弥にしてあげるのかと思った。麻弥も案外甘えさせたがりなのか?その役は千聖さんで充分間に合ってるんですけどね。いや、あの人に甘えたら何かが終わりそうな気がするからやめとくけど。

 

 

 

「じ、じゃあ失礼します」

 

「何で敬語なんスか、どうぞ」

 

「......」

 

「ど、どうッスかね?」

 

 

 

このなんとも言えない安心感。こう、何かふわふわしたものに包まれる様な感覚。うーむ、これを世の中ではバブみと言うのだろうか。ハッキリ言って、最高の居心地だ。是非とも毎日してもらいたいね。

 

 

 

「このまま眠れそうなくらい気持ちいいよ」

 

「それは良かったッス」ナデナデ

 

「はぁ〜、日頃の疲れが癒されていく〜」

 

 

 

今回で気付いたことが一つ増えた。案外麻弥は甘えさせるのが上手らしい。包容力もあって良いお嫁さんになりそうだ。家庭的だし尽くしてくれそうだし。麻弥の彼氏になるなら俺が一度面接する必要があるな。ズボラな男だったら即刻追い出してやる。まず俺が何様なんだって話ね。

 

 

 

「このまま寝ても良いんスよ?」

 

「なら寝ちゃおうかな〜」

 

「ダメに決まってるでしょう」

 

「いてっ」

 

 

千聖チョップにて麻弥の膝枕タイムは終了。良いもんね、また今度こっそりしてもらうもんね。

 

 

 

「次は私だよ!」

 

「日菜、限度ってもんがあるからな?」

 

「大丈夫!今度お姉ちゃんと三人でデートしてもらうだけだから!」

 

「まぁそれくらいなら大丈夫だな」

 

 

 

いつぞやの七夕祭りみたいにすれば良いんだろ?あ、でもプランとか全部俺が考えないとダメっぽいね。前も紗夜さんに"こういう時は男性がリードするものですよ"って言われたし。

 

 

 

「でも三人で良いのか?」

 

「うん!本当は二人っきりが良かったけど、もうお姉ちゃんと決めたから!」

 

「まだ俺紗夜さんに謝って無いんだけどなぁ」

 

「その時は一緒に行ってあげるよ」

 

 

 

頼もしい、紗夜さんも俺と同じシスコンのはず。ならば日菜のお願いに応えない訳にはいかないだろう。きっと大丈夫、シスコンは皆同じだ。

 

 

 

「なら次は私ね」

 

「煮るなり焼くなり好きにして下さい」

 

「貴方ね......そんなに酷いことしないわよ」

 

 

 

千聖さんには前科と容疑がありますからね。まず前科として令香をエサにして俺を釣ろうとしたこと。容疑として外堀から埋める為に俺の母さんと連絡を取っているという噂。極め付けは令香を餌付けしているとのこと。最近令香が新しいもの買ってきた時には大体"千聖さんが買ってくれた!"だからな。あんまり俺の妹甘やかさないで下さい。甘やかす役は俺一人で充分なんで。

 

 

 

「そうね、宗輝君私達がローカル番組持ってるの知ってる?」

 

「そりゃ勿論知ってますとも。有名な"ぱすぱれさんぽ"でしょ?」

 

「それにゲスト出演してもらうから」

 

 

 

はて、一体この人は何を言っているのだろうか。ローカル番組?ゲスト出演?一応俺も事務所というかそっち側の人間なんですけど。何も知らされて無いんですけど。もしかしてアラサープロデューサーがまた一枚噛んでるのか。

 

 

「いや、俺一般人。貴女達有名人、OK?」

 

「既に決定してる事よ、諦めなさい」

 

「ねぇ、それ俺に拒否権最初から無かったよね」

 

 

 

マジで今度会った時覚えといて下さいよ。羽沢珈琲店でクソ苦いスペシャルブラックコーヒー作って持っていきますから。プロデューサーコーヒー飲めないって言ってましたもんね。大丈夫です、俺が飲めるように美味しいコーヒー淹れてあげますから。

 

 

 

 

「はぁ、もういいや。んで、最後に彩か」

 

「えっと、どうしよっか?」

 

「俺に聞かれても分からん」

 

「んー、どうしたらいいかなー」

 

 

 

彩が頭を悩ませ続けて早5分。既に日菜は飽きてきたのか携帯弄ってる。麻弥はさっきからドラムの調整やら何やらしてるし。イヴだけが真面目に話聞いてるし。千聖さんは事務所の人と何やら真剣に話してる。いつのまにかプロデューサーは居ないし。何なのこの状況。

 

 

 

「じゃあ前みたいに一回だけ何でも言う事聞いてやるよ」

 

「まぁ今は思いつかないしそれで良いかな」

 

「じゃあこれで決まりですね!」

 

「なら俺はもう帰るぞ、令香が待ってる」

 

 

 

きっと首を長くして待っているに違いない。泣いてたらどうしよう。取り敢えず父さんに罪をなすりつけよう。そこから令香と協力してお小遣いゲットだ。俺はマネージャーやらCiRCLEでのバイトあるから困ってないけど。令香もあと一年もないうちに高校生だ。華のJKともなればお金を使う場面も多くなってくる。父さんの少ないへそくりから貰うのは少し気が引けるが仕方ない。これも令香の為だ、我慢してくれ父さん。

 

 

 

「私達はこれから練習あるからまたね!」

 

「近いうちに打ち合わせあるから忘れないように」

 

「へいへい、分かりました」

 

「それじゃあね!」

 

 

 

まぁ今回に関して言えば俺が悪かったし仕方ないか。はぁ、これでパスパレは終わった。ポピパとハロパピのみんなは大丈夫だがら、あとRoseliaとアフグロの二つが残ってる。

 

 

 

「明日からも大変になりそうだなぁ」

 

 

 

そう言いつつもみんなに早く会いたい気持ちを抑え、愛しの妹がいる我が家へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「おまけのコーナー」

 

 

宗輝「今回は初ゲスト、我が事務所が誇る敏腕プロデューサーです」

 

 

P「何よこれ」

 

 

宗輝「プロデューサーの数少ない出番ですよ、張り切って下さい」

 

 

P「アンタやっぱり私の事バカにしてるでしょう」

 

 

宗輝「いえいえとんでもない」

 

 

P「一応これでも彼氏はいた事あるんだからね」

 

 

宗輝「......なん、だとっ⁉︎」

 

 

P「本気で締めるよアンタ」

 

 

宗輝「因みにおいくつで?」

 

 

P「ここ二、三年は居ないわね」

 

 

宗輝「くっ!!早く誰か貰ってやれよ!」

 

 

P「ワザと?それワザとやってる?」

 

 

宗輝「ぶっちゃけ彼氏欲しいですか?」

 

 

P「今は仕事が一番よ」

 

 

宗輝「とか言いつつ?」

 

 

P「近くに少しイベントもあるから」

 

 

宗輝「本音は?」

 

 

P「......アンタ達がちょっと羨ましいよ」

 

 

宗輝「大丈夫です、プロデューサー」

 

 

P「何が大丈夫なのよ」

 

 

宗輝「まだアラサーなら間に合.....」

 

 

P「ふんっ!!」ドゴォ

 

 

宗輝「ぐはっ!」

 

 

P「......アンタみたいなのがタイプなんて言ったらどんな反応するのかしらね

 

 

 

 

 

 

 

-End-

 

 





"ぱすぱれさんぽ"は別に間違えてませんからね?

宗輝は別にマゾヒストじゃないですからね?

あと

プロデューサーエンドは書かないですからね?

これフリじゃねぇから!!笑


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Produce 43#私達とこれからも


宗輝「本格的に寒くなってきたなぁ」

香澄「むーくんカイロ持って来たよ!」

宗輝「お、俺にも一つくれ」

香澄「はい、どうぞ!」

宗輝「さんきゅー、ってこれ冷た過ぎない?」


香澄さん、そのカイロは前のやつです。
(茶番すみません)


43話、ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

 

「起きろーむーくん!」

 

「おっはよーお兄ちゃん!」

 

「起きてる、起きてるから静かにしてくれ」

 

 

 

 

昨日は結局あのまま帰宅。少し時間も遅かった為俺抜きで夕飯の支度してたな。令香がサボりだの何だの言ってたけど可愛かった(シスコン)。その分夕飯終わった後に一緒にコンビニ行ってアイス買ってやったけど。アイス一つであの幸せそうな顔を拝めるならこれから毎日買ってあげよう。

 

 

 

「今日は早く終わるんだっけ?」

 

「特別授業で昼までだな」

 

「いーなー」

 

 

 

今日は花咲川の高等部は特別授業とやらで昼までらしい。去年は無かったはずなんだが何故だろう。内容は全く知らされてないし大丈夫?昨日の帰り際に担任から"あ、明日特別授業だから"と言われただけだし嘘とかないよね?馬鹿真面目に信じて"ちょ、何本気にしてんのw"とか言われたら泣く自信あるぞ。朝のみんなの様子を見てから判断しよう。

 

 

 

「お昼から何しよっかむーくん?」

 

「あ、調味料切れてるから買ってきてよ」

 

 

 

ここに馬鹿真面目に信じてる奴が約1名居ましたね。それと令香、さりげなく俺をパシリに使うな。まぁ行くんだけどね。断ったら何されるか分からんし父さんも何言ってくるか分からん。

 

 

「お昼で終わるなら丁度いいし、羽丘にでも行くか」

 

「でも大丈夫?羽丘は普通に授業中じゃない?」

 

「行きはするが用事を済ませるのは放課後だ」

 

 

 

こういう時こそ生徒会長を頼るべきだと俺は主張する。毎回毎回振り回されるだけではダメだ。日菜に言っときゃ大丈夫だろう。なんで一個人の力で学校を動かす事が出来るのかは未だに謎だけど。いやマジで氷川パイセンぱねぇ。羽丘に通う全生徒は日菜だけは敵に回したらいけません。

 

 

 

「調味料ついでに野菜切らしてるから」

 

「あいよ」

 

 

 

 

ホントこの妹は兄使いが荒いもんで。まぁ行くんだけどね!令香のお願いとあっちゃ行かない理由が見当たらない。唯一理由があるとすれば令香と少しの間離れ離れになることだ、と前に伝えたら無言で追い払われた。悲しきかな、あの時はプチ反抗期だったに違いない。

 

 

 

「むーくん時間は?」

 

「んぁ?時計見りゃ分かんだろ......ってんなアホな」

 

「ち・こ・く?」ニヤッ

 

「そんなこと言ってるけどお前もだからな」

 

 

 

 

この後、三人仲良く走って登校しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

~花咲川~

 

 

 

 

 

 

「今日の特別授業の内容を伝えるぞー」

 

 

 

少し時は経ち現在SHRの真っ最中。どうにかして今朝は間に合ったのだが、やはり俺だけは担任に叱られる始末。ねぇなんで?俺と同じ時間に来た香澄はどうして怒られないわけ?そりゃ遅刻ギリギリの時間でしたとも。それなのに何故香澄はスルーで俺は怒られなきゃならんのだ。理不尽極まりない。

 

 

 

「なんでお前朝から怒られてたんだ?」

 

「俺が知りたいくらいだよ」

 

 

 

昨日の席替えで見事隣の席を引き当てた有咲がヒソヒソと話しかけてくる。有咲、俺は見ていたぞ。俺が怒られている時に机に突っ伏しているようで笑いを堪え切れてなかったキミの事を!

 

そんな事してると昨日席替えで俺の席の隣引き当てた時の有咲を全世界へ共有しても良いんだぞ?小さくガッツポーズしてたよな?大丈夫、写メ撮ってるから後でみんなで見ような(黒宗輝)。

 

 

 

「それより今日は一緒に帰れるんだろーな」

 

「残念ながら今日も無理みたいだな」

 

「なっ!一緒に帰ってくれるって言ったよな⁉︎」

 

 

 

確かに約束したっちゃしたけど今日は無理。だって日菜にもう連絡したもん。これですっぽかしたら何されるか。最悪の場合紗夜さんも出てくるぞ。

 

 

 

「どうどう、落ち着け有咲」

 

「私は牛じゃねー!!」

 

 

残念だ有咲、そこは馬と言って欲しかった。まぁ何処とは言わないが牛に似てる?ところもあるしな。今有咲の牛コスプレ想像した奴正直に手をあげな。ちょっとそこの交番まで一緒に行こうな。

 

 

 

「そこさっきからうるさいぞ」

 

「だってさ有咲」

 

「お前のせいだかんな」

 

 

 

プイッと顔を逸らしてしまった有咲。その後"朝から元気だねぇ"と気怠く話しかけてきた美咲。そう言えば美咲も何気に俺の隣だっけか。香澄だけ席が若干遠いんだな。それで昨日一回担任に抗議してたな。あの時の担任の態度ときたら......もしかしてウチの担任はJKが好みか?だとしたら即刻担任交代を申し出る。有咲や香澄には手を出させんからな!

 

 

 

「今日の特別授業のコンセプトは'より仲良く'だ」

 

「具体的には何するんですかー?」

 

「お前達には姉妹校である羽丘へ行ってもらう」

 

 

 

ふむふむ姉妹校とな。姉妹校なんて初めて聞いたけど今は置いておこう。羽丘とな?羽丘に行って何の授業する気なんだよ。羽丘も羽丘だけどウチも大概だな。

 

 

 

「早く準備しろよー」

 

『はーい』

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで羽丘とうちゃーく!!」

 

「香澄うるせーぞ」

 

 

 

あっという間に羽丘へ到着。何故だか知らんがここまでの移動は花咲川所有のバスだった。バスがあるのも僕初めて知ったよ。バスの移動中に今回の特別授業の内容を教えてもらったけど楽すぎない?

 

 

 

今回のこの特別授業というのも簡単に言ってしまえば授業参観みたいなものらしく、花咲川の生徒が羽丘の生徒の授業を見学し良い部分は取り入れよう的な考えらしい。明らかに授業とは程遠い様に感じるが花咲川の生徒は楽なので俺的には納得出来た。別にサボって屋上で寝てようとか思ってない。

 

 

 

「原則1班3人で良くこのメンバー集まったな」

 

「香澄が私達を引き当てたらしいけど」

 

「ねぇねぇ!蘭ちゃん達の授業見に行こ!!」

 

 

 

香澄は見ての通り羽丘に来てからずっとあのテンション。しかし香澄が俺と有咲を引き当てた時はビビった。美咲は残念ながらモブ子ちゃん二人とペアだった。頑張れ美咲、きっと道中でこころに出会えるだろう。そこからはこころと一緒に行動してるビジョンが俺には見えてるから。

 

 

 

 

 

 

-2年A組-

 

 

 

 

 

『お願いします』

 

 

 

香澄の熱い要望により俺たち三人は蘭達のいる2年A組へと足を運んでいた。香澄に任せると花音先輩並に迷子になりそうだったので俺が誘導。まぁ俺はここに通ってた時期もあったしな。そう言えば花音先輩は大丈夫だろうか。ただでさえ花咲川でも迷子になるのに羽丘になんて来てしまったらもう見つけ出せないかもしれない。

 

 

 

「今日は花咲川の生徒も居ますが、いつも通りの授業をしますわよ」オホホ

 

「ねぇむーくん、あの先生なんか変」

 

「それは思っても言うな」

 

 

 

如何にもマダム感満載な先生。そりゃ変態扱いされてる香澄にも変って言われますよ。てか羽丘の先生も個性的なのいるんだな。俺が通ってた時はこの先生いなかったはずだけど。

 

 

 

「それでは教科書の———」

 

「へっ、この内容なら私楽勝だぞ」

 

「まぁ進学校とは言ってもまだ2年生だからな」

 

 

 

そこからは教科書を読み問題を解く、といったごく平凡な授業展開だった。取り入れるといってもこれじゃ花咲川と同じなんですけど大丈夫?

 

 

「ここの問題を美竹さんお願いしますわ」

 

「おっ、蘭当てられたな」

 

「頑張れ蘭ちゃん!」

 

「......」チラッ

 

 

 

しかし、当の本人である蘭はチラチラとこちらを見ているばかり。というより蘭は授業始まってからでも都度こちらを見ていた気がする。流石のマダム先生も痺れを切らして蘭の後ろの生徒へ回答権を移す。

 

 

「では、次にこの斎藤道三の生涯について......」

 

「......」チラッ

 

 

「ここでの斎藤道三の考えは......」

 

「......」ジ-ッ

 

 

 

なんだろう、何故か凄い視線を感じる。いや原因は分かってるけど。ひまり、お前は授業で斎藤の名前が出る度にウインクしてくるな。可愛いのは知ってる、でも今じゃない。つぐみは真面目に授業受けてて偉いな。巴、お前は我関せずみたいに一切こっちに興味持ってないな。そしてモカ、さっきからこっち見過ぎ。1分くらい目合ってただろうが。蘭よりモカを注意するべきでしょうマダム先生。

 

お前らは英語の授業で6に過剰反応してチラチラこっち振り返ってくるしょうもない奴らの真似でもしてんのか。

 

 

 

キ-ンコ-ン

 

 

 

「今日はここまでとしますわ」

 

 

 

ものすごく遠い親戚かもしれない斎藤道三の話の途中で無念にも授業終了のチャイムが鳴る。俺詳しくないから全く授業内容というよりは斎藤云々分かんなかった。授業から察するに戦国武将的な?

 

 

 

「次はどのクラスにしよっか?」

 

「1年A組にしよう」

 

「なんでだよ」

 

「決まってんだろ、明日香達がいるからな」

 

 

 

明日香以外にもあこや六花もいるし。明日香の授業見るのなんていつぶりだろうか。記憶が確かなら小学校以来かもしれん。やばい、ちょっとオラワクワクしてきたぞ。

 

 

 

 

 

 

-1年A組-

 

 

 

「よーし!今日はドッジボールをしてもらうぞ!」

 

 

 

最初に担任から渡された特別授業のパンフを見てみたらこの時間は1年A組は体育になっていた。三人で運動場へ向かうと体操服に着替えて既に授業が始まっていた。どうやらドッジボールをするらしい。

 

 

「あ、宗輝いるじゃん!」

 

「お姉ちゃんもいるし」

 

「えぇ!!ということはポピパさん全員集合⁉︎」

 

 

運動場へ着いて早々に明日香達に見つかってしまった。ポピパファンである六花は香澄と有咲を見て幸せそうにしている。気を付けないとボール飛んでくるぞー。俺は一回ドッジボールの最中にボーッとしてて顔面にモロ食らった思い出がある。ルールに則って言えばアウトではないが俺的にはアウト。

 

 

 

「それじゃあ始めろー」

 

 

 

体育教師の合図で2コートで一斉に試合が始まる。どうやら4チームに分かれてのトーナメント形式らしい。負けたチームはグラウンド整備だとさ。圧倒的に男子成分少ないけど大丈夫か?羽丘も共学になったばっかだからな。

 

 

「あっちゃん頑張れー!!」

 

「これじゃあ見学じゃなくて応援だよな」

 

「まぁここが香澄の良いところだからな」

 

 

いざ身内の為ともなると周りを気にせず行動に移せるところは素直に尊敬してやろう。その行動内容についてはあまり許容出来るものが少ない気がせんこともない。

 

 

「ほらほら、あっちゃん頑張らないとね〜」

 

「やめてよ、お姉ちゃん恥ずかしいなぁ」

 

「でも内心嬉しかったりして」

 

 

 

初戦は見事あこと明日香、六花チームの勝ち。三人一緒のチームなのはご都合主義なのでカット。

 

 

 

「むーくん決勝戦だね!」

 

「まぁ一回勝てば決勝戦だけどな」

 

「これトーナメントなのか?」

 

 

 

有咲の言いたい事は分かる、分かるぞ。だかしかし、大体学校の体育なんてそんなもんだ。こういう時しか男子は頑張れないから男子諸君には是非良いところを見せて欲しいね。俺の目に留まれば明日香の身辺警護を任せようと思う。明日香に変な奴が寄り付かないように見張っておいてもらわねば。

 

 

 

「始めろー」

 

 

 

いい加減適当になってきた体育教師の合図で決勝戦が始まった。

 

 

 

「ふふふ、まずは我々から先手を打たせてもらおう!」

 

「あこちゃん頑張れ!」

 

 

 

あこがいつもの聖堕天使あこ姫ばりに呪文を唱え始め、周りはその詠唱が長引くにつれてあこの側からそっと距離をとる。いや大丈夫だから、前のNFOみたいに館ごと吹っ飛ぶとか無いから。

 

 

「くらえ!漆黒の......」

 

鎮魂歌(レクイエム)

 

「そう!我が必殺の魔法、漆黒の鎮魂歌!!」

 

 

追記:あこの必殺ネームは大概俺か燐子先輩の案

 

 

 

「うわっ!」

 

「っ!」

 

 

あこの漆黒の鎮魂歌(へなちょこボール)は見事に一人に命中し、それが弾かれた先にいた如何にも大人しそうな眼鏡っ子にも当たりダブルキル。これにはあこもビックリでちょっと驚いた表情を浮かべていた。大丈夫、あこだけじゃなくてあこのチームみんなビックリしてる。

 

 

 

「ふ、ふははは!!見たか我が魔力!!」シュバッ

 

「.......流石は聖堕天使あこ姫である

 

 

 

しかし、ここからがこのドッジボールの面白いところだったりする。

 

 

 

基本的にあこの様な厨二病タイプは演技型と呼ばれる(大嘘)。読んで字の如く自ら演技する事で世界観なり能力なりを自在に操る事が出来るので、厨二病のピラミッドがあれば多分頂点に君臨するであろうタイプ。しかし、この手のタイプは一人でやるとまぁ悲しい事寂しい事。それならば二人以上でやれば良いじゃない。

 

 

 

「むむ、貴様何者だ⁉︎」

 

「この姿で会うのは初めてでございますね」

 

「正体を現せ!」

 

「僕の名前はイーストキングⅢ世」

 

 

 

 

 

そう、彼の名はイーストキングⅢ世。決して自分の名前が"東 皇三"だからといってイーストキングⅢ世というわけではない。彼は東の地を統べる王なのだ。故に

東の皇様(イーストキング)

 

何で俺があの子の名前知ってるのかって?だってさっきから同じチームの子が"東君何言ってるの?"とか"皇三やめとけって"とか連呼してるから。うん、物凄く安直だよね。

 

 

 

「ここで貴様を倒さないと前へは進めないということか」

 

「貴女に僕が倒せるかな」

 

「そういうの良いから早く終わらせてよ」

 

 

 

明日香良く言った偉いぞ。でもな、今は厨二ワールド全開だから多分言っても二重の意味で聞かないぞ。聞かないと効かないな。これマメだから覚えとけ。

 

 

 

「次は僕達の攻撃ですね」

 

「みんな構えて!」

 

「必殺、東君の全力(イーストキング・フルパワー)!!」

 

 

 

ルビはイーストキング、読み方俺のコンビネーション。多分そう言ってる気がした。

 

 

「わぁ!」

 

「六花!」

 

 

東君が投げたボールは相変わらずボーッとしていた六花へ直撃。

 

 

 

「ちょっと六花大丈夫⁉︎」

 

「わたしもがんばらんとぉ......」

 

「香澄、レスキュー」

 

「了解であります!六花ちゃーん!」パタパタ

 

 

 

ダウンした六花は香澄に任せておこう。俺は早くこの試合の続きが見たいのだ。決して東君のキャラが濃すぎてちょっと気になってるとかじゃない。

 

 

 

「くっ、六花の仇は我が討ち取る!」

 

「さぁ、かかってくるがよい!」

 

「もう時間ないから次当てられた方の負けなー」

 

「ほほう、これでクライマックスという事か!」

 

 

 

厨二病はどんな事でも厨二っぽく捻じ曲げて解釈してしまう癖があります。だからみんなそんな目で東君を見ないであげて欲しいの。そういう時期は誰にでも訪れるから。俺はもう卒業したけどな。

 

 

「我の究極魔法にてこの決戦に終止符を打とうぞ!」

 

「跳ね返してくれる!」

 

 

 

 

厨二病両者のボルテージも最高潮。体育教師の言う通り既に授業終了間際。ボールはあこの手にある。さぁ舞台は整った!

 

 

 

 

「我が深淵なる奥義、漆黒の......あたっ!!」

 

『......え?』

 

 

 

 

あこの奥義が発動する直前、なんとあこがその辺に転がっていた石ころにつまづいて転んでしまうというアクシデント発生。しかし、前述の通り現在厨二ワールド真っ只中。このアクシデントさえも劇的な場面へ早変わりするのである。

 

 

パスッ

 

 

「な、なん、だとっ⁉︎」

 

「はい、東に当たったからお前らのチーム負けな」

 

 

 

 

いや、流石に避けろよイーストキングⅢ世。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「むーくんお昼食べよ!」

 

「蘭達も誘って良いか?」

 

「もちろんだよ!」

 

 

 

そんなこんなでお昼休み。あの熱い闘いも終わってみれば何の事ないドッジボールの試合だった。六花は途中から棄権してしまい残念だったのだが、保健室で香澄に看病してもらったところを見るとボールに当たって正解だったのかもしれない。

 

 

「なら屋上行くぞー」

 

「連絡してんのか?」

 

「心配すんな有咲、絶対屋上にいるから」

 

 

これでいなかったら俺泣くよ。その時は有咲に抱きついて慰めてもらおう。ついでに有咲のお胸の感触を.......ぐへへへへ。という風に俺の中で悪魔が囁いているが何とか天使が勝った模様。東君を見て厨二心が少しくすぐられたのは内緒。

 

 

 

 

 

 

~屋上~

 

 

 

ガシャン

 

「たのもー」

 

「たーのもー!」

 

 

俺の後に香澄が真似をして屋上の扉をくぐる。香澄の後をやれやれといった感じで有咲が続く。

 

 

 

「おぉ!宗輝やっぱりここに来たか!」

 

「蘭〜、この賭けはモカちゃんの勝ちだね〜」

 

「賭け?何の話だ?」

 

「蘭とモカが宗輝が来るかどうかで勝負してたの!」

 

 

 

ほほう、それで俺が来たからモカの勝ちと。ということは蘭は俺が来ないことに賭けてたのか。なんか遠回しに来んなって言われたみたいでグサッとくる。

 

 

 

「昼飯食べる前にちょっと良いか?」

 

「そんなに改まってどうしたの宗輝君?」

 

 

 

今日の本題はここからだ。蘭達の授業参観も明日香達の熱いドッジボールも今回の来校とはそこまで関係はない。特別授業とか無しで本来は来る予定だったし。取り敢えずは誠心誠意俺の気持ちを伝えますかね。

 

 

 

「前はごめん。多分沙綾から聞いたと思うけど俺は.....」

 

「宗輝はさ」

 

 

 

話の途中で蘭に遮られてしまう。蘭達の顔を見ても分かるが真剣な表情。しかし一人一人が優しく見守ってくれているような気がした。こんなこと、多分前までは気付きもしなかった。俺を見るコイツらの目や表情。もう間違えないように、絶対に崩れないようにするんだ。

 

 

 

「私達の事、そんなに信用出来ない?」

 

「そんな事ない!」

 

 

少し強めに否定してしまい有咲がビクッとしてしまう。すぐ感情的になるところは早く治した方が良さそうかな。昔っから母さんにもそれだけは早く治した方が良いとも言われてたし。やっぱ両親には敵わないな。

 

 

 

「俺にとって蘭達は大切だ、それに嘘偽りは無い。でも実際俺は蘭達を傷付けてしまった。俺が勝手に決めつけて遠ざけてしまった。だから、今回は俺が悪いんだ」

 

「ほら、またそうやって決めつけてるでしょ?」

 

「だってな......」

 

 

「だっても何も無いでしょ。確かに宗輝がそう感じた様に私達は傷付いたのかもしれない。だけどね、傷付けた傷付いたなんてのはお互いがお互いを、それこそ大切に想ってないと分からないんだよ」

 

 

 

お互いに大切に想い合う。

 

残念ながら俺の涙腺はここで崩壊してしまった。昔の事があったからといって人間関係については常に心の中で一歩退いていた。時には気丈に振る舞い、場合によっちゃ逃げに徹する事だってあった。でも、これからは自分の気持ちともしっかり向き合うんだ。

 

 

 

「私達5人でも仲違いすることはあるし喧嘩することもある。でもそれを乗り越えた先に私達のいつも通りがあると信じてる。もうアンタは私達の()()()()()。これからまた私達のいつも通りを始めよう」

 

 

 

 

 

——アンタは私達のいつも通り——

 

 

 

 

そう言って蘭は手を差し伸べてくれた。

 

 

 

だから、もう絶対に離さない。

 

 

 

 

 

「巴、これからもあこ共々よろしくな!」

 

「何かあったら私達を頼れよ!」

 

 

巴はなんか頼りになるお姉ちゃんって感じするよ。

 

 

 

「つぐみ、お互いツグらないように頑張ろうな」

 

「あはは、これからもよろしくね!」

 

 

 

俺もつぐみもツグってしまうタイプだから注意だな。

 

 

 

「ひまり、お前はダイエットしろよ」

 

「なっ!!ここは感動の場面じゃないの⁉︎」プンスカ

 

 

 

俺の中でひまりはそういうキャラだからな。

 

 

 

「モカ、パンは程々にしとけよ」

 

「やまぶきベーカリーばんざ〜い」

 

 

 

モカはいつでもモカってるな。

 

 

 

「蘭」

 

「な、なによ」

 

 

 

少し見ない間にみんな成長しやがって。

 

 

 

 

「これからも()()()()()よろしく!」

 

「なにそれ」フッ

 

 

 

 

 

Afterglow(コイツら)は俺のいつも通りだ。

 

 

 

 

 

 

「む"〜ぐん!!良がっだね〜!!」バサッ

 

「そういえばお前も居たな」ヨシヨシ

 

 

 

 

途中から香澄と有咲空気だったな。

 

 

 

 

 

そんなこんなでアフグロメンツとも件の問題については解決。その後はみんなで楽しくいつも通りお昼ご飯を食べた。モカがやまぶきベーカリーのエモいパンを幸せな顔で頬張ったり。ひまりが俺の弁当からオカズ盗んで食ったり。

 

 

 

 

「あれ、むーくんそういえばあこちゃんから何か言われてなかった?」

 

「あ、確かにあこから......」

 

 

 

 

 

 

〜昼休みにリサ姉と紗夜さんが呼んでたよ!!〜

 

 

 

 

 

「行かなくて大丈夫?」

 

「やっべ、これ○されるやつだわ」

 

 

 

 

もう既にお昼休みは終了間際。仕方ないので放課後に謝りに行こう。

 

 

 

今日生きて帰れるかは紗夜さん次第だな。

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「やって参りましたおまけのコーナー」

 

 

宗輝「今回はモカとつぐみだ」

 

 

モカ「しゃーす」

 

 

つぐみ「モカちゃん適当過ぎるよ......」

 

 

宗輝「なぁ、モカに聞きたいことあるんだけど」

 

 

モカ「ふむふむ、申してみよ〜」

 

 

宗輝「りみりんばりにやまぶきベーカリーのパン食べてるけど飽きないのか?」

 

 

モカ「それは愚問だよ〜」

 

 

つぐみ「モカちゃんパン大好きだもんね」

 

 

モカ「何度食べてもあのエモさには敵いませんな〜」

 

 

宗輝「モカにとってパン=エモいなのか」

 

 

モカ「全てはパンの神様のみぞ知るのだよ〜」

 

 

宗輝「つぐみも大変だな」

 

 

つぐみ「まぁいつもこんな感じだからね......」

 

 

モカ「因みにラーメンもエモさの塊だったり〜?」

 

 

宗輝「そこ、なんで疑問形なんだよ」

 

 

モカ「今度美味しいお店教えてしんぜよ〜」

 

 

宗輝「コイツ止まんねぇな」

 

 

 

 

 

-End-

 





東君は完全に単発ネタですごめんなさい。
いやぁ、頭にパッと浮かんだものでつい。
後悔はしてません、反省はしてます。




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Produce 44#過去を超えた先へ


まず、☆9評価頂きました Junroadさんありがとうございます!!
お気に入りもちょくちょく頂けてるので、この場をお借りしてお礼致しますぞ。

しかし、更新遅れて申し訳ない......。
季節の変わり目ですので、みなさん体調崩さず生活なさって下さい。
主は少し風邪気味で御座います。

44話、ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言い訳はありませんか?」

 

「はい、本当に申し訳ありません」

 

「あこはちゃんと伝えたよー」

 

 

 

 

開幕早々正座で説教くらってるのは察してくれ。

 

 

 

 

「まぁまぁ、紗夜もそのくらいにしときなって」

 

「私は、全然大丈夫ですよ」

 

 

 

流石は燐子先輩。俺も燐子先輩の様な広く大きな心を持った人を目指そう。そんでもってリサ、お前は正座して紗夜さんに謝り倒してる俺を携帯で写真撮るのやめなさい。後でそれを武器に脅してくるのは見えてるから。ま、リサがそれでくるなら俺は俺で秘蔵のリサコレクションで対抗するまでだ。

 

 

 

「湊さんはよろしいのですか?」

 

「......にゃーんちゃん

 

 

 

にゃーんちゃん?今は羽丘の校門前の広場だ。猫は居てもおかしくはないが周りを見渡す限り確認できない。まさか猫が好き過ぎて遂に幻覚を見てしまっているとでも言うのだろうか。

 

 

 

「って俺の携帯!勝手に見んなし!」

 

「あら、今良いところだったのに残念ね」

 

「なーにが残念だ、携帯勝手に取っといて良く言うわ」

 

 

 

友希那が俺の携帯の写真フォルダの中の"激選!!可愛いネコちゃん達!!"を閲覧しておりました。いやマジで、俺の携帯ポケットに入ってたはずなんだけどなんで?あ、因みに友希那が見てたのはVol.1.5だったりする。1.0から0.1刻みで保存中。

 

 

 

「とにかく貴方は反省して下さい」

 

「紗夜さんそんなに怒ってると可愛い顔が台無しですよ」

 

「もうその手には乗りません」

 

「ちっ!!」

 

「今舌打ちしましたか?」

 

「イイエ、トンデモゴザイマセン」

 

 

 

羽丘にいるんだから風紀云々は今はそっとしておいて欲しいんだけどな。確かにあこから伝えられた昼休みには会えなかったけど、こうして今謝ってるじゃない?これで万事解決じゃないのん?

 

 

 

「まぁ紗夜の言う通り反省はしなくちゃね☆」

 

「可愛い顔してえげつないことするなガチ姉」

 

「んー、これ拡散しちゃっても良いのかな〜?」

 

 

 

ほれ見たことか、やっぱあの写真で脅しにきやがったぞ。俺はそんなものに屈したりはしない。否、断じて否である。

 

 

「この前の寝顔も添付して拡散っと」

 

「何でもするので許して下さい」

 

「ん、よろしい」

 

 

これ程までに素早く鮮やかな手のひら返しがあっても良いのだろうか。まだ紗夜さんに説教されてる写真だけなら良い。だがいつ撮ったのか知らん俺の寝顔まで拡散されてしまった時には一人で校内出歩けなくなっちゃう。てかプライバシーどこいったよ。友希那といいリサといい勝手にやり過ぎなんだよなぁ。

 

 

 

「あの、話を戻しませんか?」

 

「そうだそうだ、話を戻せー」

 

「はぁ......まぁ良いでしょう」

 

 

 

紗夜さんがやっと風紀委員長モードからシスコン紗夜さんモードになった。簡単に言えば厳しい紗夜さんと甘い紗夜さんだな。なんだよ甘い紗夜さんって。ちょっと食べてみたいなとか思ってないからな。

 

 

 

「単刀直入に言うわ。宗輝、()()()()は私達をどう想ってる?」

 

 

 

これは言わずもがな件の問題の事だろう。まぁRoseliaで最後だししっかりと想いを伝えとくかね。蘭にも言われた通り、みんなを傷付けてしまった事実は変わらない。しかし、それは大切に想っている証拠。ならばその想いを伝えるだけだ。

 

 

 

「あこは相変わらず厨二病全開で滅茶苦茶カッコいいし、燐子先輩は陰ながらRoseliaを支えてくれてる女神だ」

 

 

あこの厨二病には何度も勇気を貰った。周りなんて気にせず自分を貫き通すその意思は凄いと思う。燐子先輩には時々相談なんかも乗ってもらった。何より目の保養、って言うのは半分冗談だけど本当に色々と助けてもらった。

 

 

 

「リサはバンドも友希那もガチで世話焼きなギャル姉。紗夜さんは厳しいながらも心根は凄く優しくて頼れる人」

 

 

 

リサは最初っから俺と分け隔てなく接してくれた。多分Roseliaの中で一番気軽に話せるのはリサだと思う。それくらいリサを信用してるし信頼してる。紗夜さんは言った通り仲が良い悪い関係なく厳しく接してくれる。人に嫌われるかも知れないという恐怖を物ともせず、ただその人の為を思って接してくれる紗夜さんに密かに憧れてました。

 

 

 

 

「そして友希那、Roseliaの歌姫なんて前は言ってたけど、実は単純で猫と歌がが大好きな天然お馬鹿」

 

 

 

最初こそ友希那が一番取っ付きにくかった覚えがある。だが今となっては猫大好きな歌うま少女。友希那だって1人の女の子なんだ。偶にマジで天然お馬鹿やらかすけどそれもまた可愛いから良し。しかし、そろそろ本格的にキャラ崩壊しないか心配だ。

 

 

 

 

「俺にとって、みんなは大切で大事な存在だ」

 

 

 

 

誰一人欠けてはならないと思う。多分きっと、それは俺にも言えることだと思うから。

 

 

 

 

"自分を大切にしない奴に他人は大切にできない"

 

 

 

今回の件でこれが身にしみて分かった気がする。

 

 

 

 

「それが聞けたら満足よ」

 

「そりゃあよーござんした」

 

 

 

 

みんなも満足気な顔をしてるし結果オーライって事で。そろそろこの正座状態解除しても良いですかね紗夜さん。既に感覚無くなってきてるんですけど。

 

 

 

「それにしても、今回はまた日菜が迷惑かけてすみません白金さん」

 

「い、いえ!花咲川の方でも評判良かったので、大丈夫ですよ」

 

「まぁ日菜だし仕方ないよねー」

 

「今井さん、仕方ないで済む問題では......」

 

 

 

 

俺が正座なのは仕方ないで済むんですかねこれ。みんな俺がいないかのように話を進める。しくしく、悲しきかなこれがぼっちの宿命なのか。

 

 

 

 

「ねぇ宗輝、こころんとキスしてたって本当?」

 

 

 

『.......は?』

 

 

 

やりやがったなあこの奴。てかお前それどこで仕入れてきたんだよ。周りのお姉様方4人が凄いことになってるから。俺はこれから全力で逃げる。あ、足痺れてるから動けないや、テヘッ!!

 

 

 

 

「いや、それには深いワケがあってだな」

 

「私達の納得できるワケを教えなさい」

 

「まぁその、何と言いますか、こころの方からほっぺに」

 

「避ける事は出来ませんでしたか?」

 

「出来ることには出来たんですけどね......」

 

 

 

 

いかん、この状態前にも覚えがある。お姉様方、目がマジだ。このままでは危ないルートへ突入してしまいかねん。

 

 

 

 

「あ、お姉ちゃんだ!」

 

「おお!日菜、お前は俺の救世主だ!!」

 

 

 

ここぞとばかりに全力を尽くし日菜の方は向かう、はずだったが服を掴まれて儚くも俺の願いは阻止されてしまう。友希那かリサの仕業だろう。流石に二人がかりとなると足も痺れてるし女の子相手でもキツイか。

 

 

 

「宗輝君、逃げちゃダメ」ガシッ

 

「り、燐子先輩?」

 

「さっすがりんりんだね!」

 

 

 

俺の予想を遥かに上回り、なんと燐子先輩に引き止められていた。それにしても燐子先輩力強くない?

 

 

 

「キスは、宗輝君の方からじゃないんだよね?」

 

「勿論ですよ」

 

「......なら、大丈夫」パッ

 

 

 

あれ?案外素直に離してくれたぞ。燐子先輩は俺からしたのかが気になってたのか。大丈夫です燐子先輩、あんな状況では流石に出来ません。

 

 

 

「あー、むーくんやっと見つけた!!」

 

「早く蔵行って練習するぞ香澄ー」

 

「そう言えば今日は蔵練の日だったな」

 

 

「宗輝、明日同じ時間にCiRCLEへ来なさい」

 

「逃げたらあの写真がどーなっても知らないよ?」

 

「その脅し方じゃ犯罪者っぽいぞリサ」

 

 

 

何とか今日は難を逃れられたらしく、羽丘からポピパメンツと一緒に蔵へ移動。

 

 

 

 

「......」

 

「白金さん?私達も練習に行きますよ?」

 

「あ、はい、分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

~蔵~

 

 

 

 

 

「ねぇねぇむーくん」

 

「何だ......っと有咲お菓子取って」

 

「あの写真ってなーに?」

 

「お前は、知らなくてもいいんだよ」モグモグ

 

 

 

羽丘から無事蔵へ帰還。今日の特別授業でかなりエネルギーを消費した為お菓子タイム。沙綾が差し入れでパン持ってきてくれてたからりみりんはチョココロネタイム。今度新作パンを作りたいらしいので、バイトの身分である俺が身体を張って試食しておこう。一番先に食べてみたいとかないから。

 

 

 

「おたえとか沙綾の方は特別授業どうだったんだ?」

 

「んー、はぐみとイヴと一緒に回ってた」

 

「私はりみりんと一緒に3年C組行ってたよ」

 

 

 

 

おたえのグループははぐみとイヴか。なんかもうカオスなのが想像に難く無い。沙綾達は3年C組、ってことは薫先輩のいるクラスか。流石りみりん、特別授業を利用して会いに行くとは抜け目ない。

 

 

 

「宗輝君はなんでRoseliaの人達と話してたの?」

 

「それはねりみりん!むーくんは.......ンムッ!!」

 

「お前はいらんことを言うなバカ」

 

 

 

香澄があることないこと全部話しそうだったのでお口チャック。咄嗟の判断だったので少し抱きつく形になってしまったのは申し訳ない。

 

 

「それより早く練習」

 

「お、有咲珍しくやる気あるな」

 

「馬鹿言え、私はいつでもやる気あるからな」

 

「そんなこと言って、有咲は宗輝が居ない間に下手になるのが嫌で一番練習量多かったクセに〜」

 

「そ、そんなことないからなぁ!!」

 

 

沙綾が肘で有咲をツンツン、そして有咲がツンツンデレデレ。誰が上手い事言えって言ったよ。いやまぁそこまで上手くは無いんだけど。

 

 

「なら練習の成果見せてもらうとするか」

 

「じゃあアレやろうよ!」

 

「私の心は〜」

 

『チョココロネ〜』

 

 

 

おたえと香澄が変なポーズ、多分チョココロネポーズだと思われるものを披露。

 

 

 

 

そして次々に演奏が始まる。

ここ数日聴いていなかっただけでこんなにも上達するとは思ってもみなかった。沙綾はリズム隊としてしっかりみんなを引っ張っていけてる。香澄やりみりんも前ほど細かなミスをする事なくほぼ完璧と言っていい状態。おたえはいつもの調子でギターソロの部分も難なくクリア。有咲も色々な音を使いこなせる様になっている。俺が少し止まってた間に、コイツらはどんどん進んでたんだな。

 

 

 

 

「むーくんどんな感じ⁉︎」

 

「前の時より俄然上手くなってる」

 

「良かったね有咲」

 

「うん、本当に頑張った甲斐が......って何で私だけなんだよ!」

 

 

 

その日はもう一度演奏を聴いて蔵練終了。元々始めた時間も遅かったからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「たでーま令香ー。おけーり自分ー」

 

「何一人で言ってんのお兄ちゃん」

 

「知らないのか、これ最近流行ってんだぞ」

 

「え、そうなの?」

 

 

 

主に俺の中だけなんだけどね。

 

 

 

「あり?お姉ちゃんは?」

 

「いや、いつもいるみたいな扱いしないで。まぁいつもいるけど」

 

「お姉ちゃん来ないの?」

 

「来て欲しいのか?」

 

 

 

首を縦に振り頷く令香。うーむ、何だか妹を香澄に取られたような気持ちに駆られる。実際そんなこと無いけど。

 

 

 

「令香が電話.....」

 

「もしもしお姉ちゃん?」

 

「ねぇ人の話は最後まで聞こうねって習わなかった?」

 

「お姉ちゃん来るって!」

 

「さいですか......」

 

 

 

香澄も令香も何でこうも人の話を聞かないのか。まぁお兄ちゃんの考えてることが以心伝心で伝わって何よりだ。なにせ兄妹だからな。

 

 

「母さん、今日も香澄来るって」

 

「あら、明日香ちゃんも来るから久し振りに6人ね」ウフフ

 

 

何それ聞いてない。本当にウチの人間は何故こうなんだ。この親あっての令香だな。確実に令香は母さんの血を濃く受け継いでいると思う。

 

 

 

 

それから間もなくして戸山姉妹到着。明日香は最近会えてなかったからなのか、玄関に入ってくるや否や明日香パンチを食らってしまった。明日香にも心配をかけてしまったのだろう。素直に謝って明日香の大好きな頭撫で撫でをしてあげた。案の定それを見ていた母さんが横槍を入れてきたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

「おいひい!!」バタバタ

 

「分かったから、頼むから足をバタバタさせんな」

 

「ん〜!!」バタバタ

 

「足の方をやめろって言ったんだよ.....,」

 

 

 

香澄のいつも通りの反応。だがしかし、母さんの料理は確かに美味い。それこそ香澄がしているように足をバタバタさせる程に。よって、母さんから料理を学んだ令香は最強。ついでに父さんからは知識を、俺からは......あれ、俺からは何も教えてないな。強いて言えば兄妹愛だろうか。

 

 

「あっちゃん、ドッジボールおめでと!」

 

「まぁほとんどあこのお陰だけどね」

 

「あれだ、山田君のお陰もあって盛り上がったな」

 

「宗輝、それ多分東君」

 

 

おっといけない、危うく鈴木君の名前を間違えるところだった。

 

 

 

「なになに、明日香ちゃん気になる子でもいるの?」

 

「あーちゃん本当に⁉︎」

 

 

この親子、どうやって処理してくれようか。今の話からどうしてその話題にシフトチェンジ出来るんだよ。

 

 

「残念ながら居ませんよ」

 

「あらあら、明日香ちゃん昔は宗輝のお嫁さんになるって聞かなかった時期があってね......」

 

「それマジ?」

 

「信じないで宗輝!!」ガタッ

 

 

夕食の肉じゃがの熱さのせいなのか、顔を若干赤くした明日香は強めに否定。それを見た令香は"青春だねぇ"と黄昏気味に呟く。お前はまだ経験してないだろ。え、経験してないよね?お兄ちゃんは許しません!不純異性交遊反対!

 

 

 

「最近バンドの方はどうなの香澄ちゃん」

 

「随分話ぶった切ったな」

 

「勿論楽しいですよ!」

 

「お母さん、れーかもバンドやりた〜い」

 

「お前は一人で全部出来るからダメ」

 

 

 

一人5役とか前代未聞すぎる。ギター&ボーカル兼ベース、合間にドラム、時々キーボードみたいな。でもお兄ちゃん、令香が本気でバンドやり出したら応援しちゃう!なんならファン1号の名前を頂こう。

 

 

 

「ぶーぶー、折角お兄ちゃんと組んであげようと思ったのに」

 

「母さん、令香に楽器を買い与えるんだ」

 

「んー、お父さんに相談ね」

 

 

勝った。母さんを落としてしまえば後はこっちのもんだ。父さん?そんなの令香の上目遣い&甘い声で"お願いお父さん......"って言わせときゃ何とかなる。最近では令香もそれを自覚して使っている節がある。我が妹ながら良くここまで育ったものだ。それがあざとく見えないのも俺的にポイント高いからな。

 

 

 

「じゃあ令香ちゃんがバンド始めたらポピパのライブに出てもらうね!」

 

「それいいねお姉ちゃん!」

 

「ライブより先にお前は新曲だろうが」

 

「新曲なんか作ってるのお姉ちゃん?」

 

「えへへ、まだ全然だけどね」

 

 

 

新曲と言っても、先程の蔵練で決まった話である。香澄曰く"みんなでもっとキラキラドキドキしたい!"とのこと。それをみんなでまとめた結果、新曲を作ろうという運びとなった。なんか去年の文化祭ライブを思い出す。今年の文化祭はどうなるんだろ。

 

 

 

「おかわりいる人〜?」

 

『は〜い』

 

「母さん、俺がみんなの分やるよ」

 

「あらあら、今日は優しいのね宗輝」

 

「コイツらじゃなかったらやってないけどな、ほら令香」

 

 

 

ありがとおにーちゃん!って言ってくれると思ってたけど無言で受け取られる。というよりはジャガイモを丸々一つ頬張ってて声が出ないだけらしい。そんなところも可愛いな、マイスイートエンジェル令香。心の中だけだけど、今日はシスコン全開で気持ち悪いな、俺。

 

 

 

 

それからは毎回恒例のお風呂タイム。ここで混浴する事を想像したやつ、流石にこの歳で一緒には入らんから。正直に言うと中学1年まで入ってたけど。なんかごめんな。

 

 

「あっちゃんやっぱりちょっと太った?」

「ちょっと!何してんのお姉ちゃん!!」

「れーかも参戦だー!」

 

 

 

いいぞ香澄、令香、もっとやれ。

 

 

 

 

 

「ったく毎度うるせぇなアイツら」ブロロロロ

 

 

 

浴槽ではしゃぐアイツらの声を背中にドライヤーで髪を乾かす。そろそろ髪も長くなってきたし切ってもらうか?実は俺の母さん、理容師の免許持ってたりする。昔何となくで取ってみたらしい。相変わらず意味わからん人だ。令香や明日香も母さんがカットしてる。そういうわけで、香澄の猫耳(星型)は母さんによって生み出されたものだったりもする。

 

 

 

「むーくん!」

 

「うおっ!」

 

 

 

油断、してたわけじゃないが後ろから香澄が抱きついてくる。ていうかいつのまに出てきたんだよ。タオル一枚だからやめてね。主に俺の精神的に問題がある。

 

 

 

「ドライヤーしてー」

 

「あいよ、そこ座れ」

 

「お兄ちゃんれーかも後で〜」

 

 

 

今日もサロン・ド・ムネキはご盛況の様です。まぁ俺がいる時は俺がやってやるか。流石に家まで呼ばれて髪乾かしてとかはNG。香澄もそんなことはしないと思うけど。

 

 

 

「さっき風呂の中で歌ってたろ、あれ新曲か?」

 

「聞こえてたの?」

 

「鼻歌だけど明日香も令香も喋ってなかったし」

 

「んー、メロディはあんな感じかなー?」

 

「俺に聞くな」ブロロロロ

 

 

 

それからはドライヤーの音でよく聞こえなかったが、身体を揺らしながら鼻歌を歌っていることは鏡越しではあるが見えていた。目を閉じて楽しそうに歌っている香澄を見ているとなんだかホッとする。

 

 

「よし、じゃあ次は令香だな」

 

「むーくんありがと!」

 

「よろしくね〜」

 

 

香澄同様に椅子に座らせてドライヤーで乾かしてやる。まだ若干濡れている髪を手櫛で整えながら満遍なく熱風を送る。我ながら慣れた手つきでこなせていると思う。その証拠として、さっきから令香がウネウネしてるし。頼むから動かんでくれ、やりにくい。

 

 

「お前も髪長くなってきたな」

 

「お兄ちゃんとお揃いだね〜」

 

「その理論だと髪長い奴全員お揃いになるぞ」

 

「え〜、それはれーか嫌だよ」

 

 

俺もそれは嫌だよ。時々いるじゃん、男なのに超ロングヘアーの人。ちょっと個人的には受け付けないというかなんというか。うん、一緒にして欲しくはないかな。

 

 

「お揃いなのはこのアホ毛だけだな」

 

「アホ毛じゃないもん」

 

「母さんも父さんも無いし、隔世遺伝だったりしてな」

 

「もしかしたら私達から始まったのかもね」

 

 

 

なにそれ、俺らが伝説みたいな?ちょっと興奮してきたからNFOログインしちゃおうかしら。あ、そう言えば俺って伝説なんだっけか。ヤバイよヤバイよ。

 

 

 

「ほれ、終わりだ」

 

「ん、あんがとね」

 

「あっちゃんもやってもらえば?」

 

「私はもう乾いてるからいいよ」

 

 

水泳部で慣れてるからなのか、明日香はタオルドライで簡単に済ませることが多い。女の子なんだからそこらへんはちゃんとして欲しいと思います。

 

 

「じゃあ着替えてコンビニでアイスでも買うか」

 

「じゃあれーかはお兄ちゃんとポピコ半分こする!」

 

「じゃあ私も半分こするねむーくん!」

 

「いやいや、それだと俺が一つ分多いんだけど」

 

 

分けて貰う俺の方が多いとかどういうことなの。前は普通にバーゲンダッツ2個買ってたのにな。バーゲンダッツを侮るなかれ、あれ単体で普通に良い値段するから。なんならポピコ何個も買えちゃうから。

 

 

 

「俺は抹茶アイス買うから欲しいの選べよ」

 

「抹茶アイス飽きないの?」

 

「抹茶の良さが分からんのか。やはり明日香もまだまだ子供よのぉ」シミジミ

 

「宗輝がおかしいだけでしょ」

 

「れーかも抹茶好きだよ!」

 

 

 

というか斎藤一家は一人も抹茶が嫌いな人は居ません。むしろ家族全員抹茶派閥。争いが起きることはない。抹茶についてなら小一時間議論を交わせる程だ。

 

 

 

「ほら、着替えて準備してこい」

 

「は〜い」

 

「むーくん」

 

「ん、お前も早く準備してこいよ」

 

 

 

明日香はとっくの昔に準備し終えてリビング。令香は間延びした返事をしながらも自室へ行き、香澄と俺だけが残った。まだタオル一枚だからあまり見たくないんだが。

 

 

 

「みんなと仲直り出来て良かったね!」

 

「まぁ喧嘩してた訳じゃないんだけどな」

 

「また明日から楽しみだな〜」

 

「いいから着替えてこい」

 

 

 

一つくしゃみをして香澄も着替えにリビングへ向かう。長い間タオル一枚でいたんだから、くしゃみの一つや二つでるわな。風邪でも引いたらどうするんだよ全く。

 

 

 

「俺もいい加減世話焼きだな」

 

 

 

 

 

アイツが風邪引いたらどうしようとか考えつつも、明日からの生活に期待している俺がいる。

 

 

一度失ってから気付いた大切な俺の居場所。勿論、こころ達のハロハピや蘭達のアフグロ。彩率いるパスパレに友希那のRoselia。それに香澄達ポピパ。みんな大切で大事な存在だ。今までみたいに強がらなくてもいい、一人で背負いこもうとしなくてもいい。互いに助け合いながらも一歩ずつ進んでいくんだ。

 

 

 

 

「お兄ちゃん!」

「宗輝行くよー」

「むーくん早く!」

 

 

 

「......おう、ちょっと待ってろー」

 

 

 

 

 

こんなにも幸せだと思える時間を二度と失わないように。

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「おまけのコーナーでござんす」

 

 

宗輝「今回のゲストは薫先輩とはぐみだ!」

 

 

薫「宗輝、これはどういったコーナーなのかな?」

 

 

はぐみ「はぐみ知ってるよ!」

 

 

宗輝「はい、じゃあはぐみ当ててみ」

 

 

はぐみ「んーとね、むーくんとお話しするコーナー!」

 

 

宗輝「んー、ざっくりし過ぎなので50点」

 

 

はぐみ「かーくんに聞いたのに50点?」

 

 

宗輝「アイツに聞くこと自体間違えてるぞはぐみ」

 

 

薫「あぁ、私は分かってしまったよ」

 

 

宗輝「お、じゃあ薫先輩行きましょうか」

 

 

薫「.......つまり、そういうことさ」

 

 

はぐみ「そういうことなんだね!」

 

 

宗輝「マジでハロパピ勢はどうなってんだよ」

 

 

薫「ゲーテ曰く、"真の知識は、経験あるのみ"。......私は今まさにそれを経験している!」

 

 

はぐみ「薫君!はぐみも今経験してるかな⁉︎」

 

 

薫「ああ、勿論だとも」

 

 

宗輝「最早何の話してるのか分からんな」

 

 

 

 

 

-End-

 

 

 

 

 

 

 





北海道とかはもう初雪らしいですな。
最後のおまけのコーナー、俺の推しが出てねぇじゃねぇか!!って方、一言頂けると嬉しいです。


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RASボス参上!編
Produce 45#アイドル/アイドル



まず、☆9評価頂きました みゃーねこさんありがとうございます!

遂にリゼロコラボ始まりましたな。
主は取り敢えず10連回しましたが案の定の結果でした故、友希那と燐子を追い求めていくつもりでございます。
皆さんの健闘もお祈りしております。

それでは、45話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 

「......ちゃん!」

 

「ん、もうちょい......」

 

「お兄ちゃん起きて!」バサッ

 

 

 

 

若干覚めつつあった意識が令香のお布団攻撃によって完全に覚醒する。昨日は結局コンビニでアイス買って食って帰って寝た。アイスの三段活用だ覚えとくと良い。買う、食う、帰る。食うと帰るが逆になるパターンもあるから注意。お会計がちょっぴり高かったのだがそこはもう気にしないでおこう。令香のやつやっぱりバーゲンダッツ買いやがって。アイス2個買ってたのお前だけだからな。

 

 

 

「今日は休みなのになんで起こしに来たんだよ」

 

「何言ってんの、今日は彩さん達のMV撮影の日じゃんか」

 

「やべ、完全に忘れてた」

 

「さっき千聖さんからメール届いてたよ」

 

 

 

充電器を抜き俺の携帯を手元に持ってくる。確かにメールが1件、それも令香の言う通り千聖さんから送られてきている。

 

 

 

To:宗輝君

From:お義姉ちゃん

[本文]

今日はパスパレのMV撮影の日です。

事務所へ朝10時集合。

時間厳守でお願いするわね。

 

 

 

 

千聖さんっぽい事務的なメールだな。ただ一つ気になる点があるとするならば、確実に名前だろう。何でお義姉ちゃんで登録してるんだあの人。いや、めんどくさいから携帯ごと渡したのが原因だと思うけど。前に連絡帳見たときにおかしいとは思ったけどな!!

 

 

 

「今何時だっけ?」

 

「大丈夫、まだ9時過ぎだよ」

 

「準備してれば良い時間にはなるか」

 

「令香は友達と遊びに行くから」

 

 

 

 

未だに重い腰を上げて準備に取り掛かる。かの有名なゲーテ曰く、"やる気になっただけでは、道半ば"だと言う。俺は現在やる気もそこまで無い為、まだ道が出来たばかりなのかもしれない。というより、薫先輩の影響かスッとゲーテが出てきてしまった。やはりハロパピ勢は侮れない。

 

 

 

「よし、こんなもんかな」

 

「お兄ちゃんこれ忘れてるよ」ヒョイ

 

「ん?ああ、さんきゅーな」

 

 

 

いつのまにか机の上に置いているのを忘れていたが、事務所へ入る時に必要なICカードを令香に渡される。まぁ忘れたとしても事務員さんに言えば何とかなるんだけど。こうしてるとなんか新婚の夫婦みたいなやり取りっぽいよな。

 

 

「んじゃ行ってくるな」

 

「いってらっさいな〜」

 

 

リビングに降りると母さんも起きていた。あまり時間も無いため、母さんが焼いてくれたパンをかじりながら我が家を出発する。そのパンを食べ終えた丁度良いタイミングで電話が掛かってくる。相手は言わずもがな千聖さん。

 

 

 

「もしもし千聖さん?」

 

『あら、珍しく寝坊しなかったのね』

 

「何でいつも寝坊してるみたいな言い方なんですか」

 

『違うの?』

 

「朝弱いのは認めますけど、寝坊はそんなにしません」

 

 

 

そんな会話をしながらも目的地である事務所へと歩を進めていく。案外時間には余裕がありそうだったので、途中コンビニに寄りお昼ご飯を購入。今日は残念ながら令香特製弁当では無い。宗輝的にはかなりショックだ。

 

 

 

「もうすぐ着くんで切っても良いですか?」

 

『ダメよ、このまま事務所まで来なさい』

 

「コンビニの時と言い頑なに切ろうとしませんね」

 

『当たり前じゃない、貴方と電話する機会なんてそうそう無いのよ?」

 

 

 

気付けば千聖さんとの電話も30分を超え長電話となっていた。そもそも俺は電話をするタイプじゃないので久し振りにこんなに電話で話した。というか別に会って話すれば良いでしょうに。なんかレアキャラみたいな扱い受けてて困る。

 

 

 

「ほら、話してる間に着きましたよ」

 

『早く控え室まで来なさい』

 

「どこの控え室でしたっけ?」

 

 

 

事務所の控え室と一口に言ってもいくつか存在する為、分かりやすく部屋番でも言ってくれなきゃ分からんのです。というか別に集合だけならロビーで良くない?MVはスタジオに行って撮るんだから事務所の中まで入る事はないと思うんですけどね。

 

 

『突き当たりを右に曲がってすぐの201号室よ』

 

「どこの突き当たりですか?」

 

『貴方ね......そろそろ事務所内の仕組みは......』

 

「千聖さんみっけ」ピトッ

 

「ひっ!!む、宗輝君⁉︎」

 

 

さっき人数分買ってきた飲み物を一つ取り出して千聖さんの柔肌へと密着させる。ウロウロしてたら千聖さんの方を先に見つけたのでサプライズ。ぷんすか怒ったようににらめつけてくる千聖さん。というか反応可愛いな。

 

 

「お待たせしました、これどうぞ」

 

「ありがとう......ってなんで控え室に行かないのよ」

 

「先に千聖さん見つけたので少し驚かそうと思って」

 

「はぁ、そういう子供っぽいことはやめなさい」

 

 

千聖さん、男の子はいつまでたっても少年の心を持ち続けることが必要不可欠なんですよ。社畜精神満載な大人にだけはなりたくないものだ。

 

 

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「おはようみんな」

 

『おはようございます!』

 

「今日は大事なMV撮影だから気合い入れていくよ!」

 

 

 

場所は変わって現在MVを撮影する為に貸切にしているスタジオ。あの後、他のメンバーとも合流して車一台で移動。何故か突然ジャンケンが始まったのを見てプロデューサーが助手席に座れと言い出したけどなんで?あれか、誰が助手席座るかジャンケンか。すまんな、俺がマネージャー特権で頂きました。

 

 

 

「Pastel*Palettesの皆さん入ります!」

 

「お、やっぱり新衣装可愛いな」

 

「君は見るの初めてだったね」

 

「貴女に言われてお預け食らってましたからね」

 

 

 

今回は"もういちどルミナス"のMV撮影。お披露目は前回のアイドルフェスでのライブだったのだが、発売を予定しているとのことでMV撮影となったらしい。それ故に衣装も一新してパスパレらしさ全開だ。

 

 

 

「ギターどこ置いたっけ?」

 

「ドラム以外は外に一式置いてるから持ってくる」

 

「じゃあ私達は最終チェックしようか」

 

 

 

日菜のギター、千聖さんのベースにイヴのキーボード。MV撮影の方に人手を駆り出している為、この楽器出しの作業は俺の担当だ。流石に一人となると重労働過ぎて疲れる。

 

 

「これで、最後っと」

 

「斎藤君ー!ちょっといいかなー⁉︎」

 

「はーい、今行きます!」

 

 

 

「宗輝忙しそうだね」

 

「アンタ達はMVに集中しなさいな」

 

「そうよ、彩ちゃんも大丈夫?」

 

「うん!精一杯頑張るね!」

 

 

 

楽器出しを終えたところをスタッフさんにお呼ばれしてしまう。これから彩達は最終リハをやるので、少しでも良いから見学したかったのが本音。だが今はパスパレのファンより専属マネージャーとしての役割を果たすべきだろう。

 

 

「ごめんね斎藤君、リハ見たかったんじゃない?」

 

「いえいえ。......アイツらの事信じてますから」

 

「なら尚更リハは見学してもらわないとね」

 

「でも、まだ作業は終わってないんじゃ......」

 

 

 

撮影機材の搬入と設置。音響やらの確認と照明器具の設置。数え出したら止まらない程には作業は山積みだ。俺一人の力で何とかなるとは思ってないけど、実際一人抜けられるとキツイ状況なのは肌で感じてる。

 

 

 

「宗輝君、ちょっと良いかしら」

 

 

 

スタッフさんとリハに行くか行かないかで少し話していたところをプロデューサーに見つかってしまった。

 

 

 

「何かありましたか?」

 

「ええ、貴方にしかこなせない仕事をあげる」

 

 

さぁ働け俺の詮索スキルよ!!推測するに、こういう時は大概力仕事を任されてきたケースが多い。機材の搬入もまだ途中ということもあってそれ関係だろう。まぁそれは俺にしかこなせないって訳じゃないけどな。この人は何かと理由を付けて俺に擦り付けてくる癖があるから油断出来ん。

 

 

 

「向こうへ行きなさい」

 

「あっちに荷物があるんですか?」

 

「荷物なんてある訳ないでしょうが」

 

「じゃあ何故?」

 

「それは行けば分かるから」

 

 

 

そう言って背中を押されて強制的に連行されてしまう。スタッフさん達は笑顔で手を振ってくれてるしどゆこと?

 

 

 

「というかこっちは撮影スタジオ......」

 

「これはあの子達の総意よ、素直に受け取りなさい」バタン

 

「ちょ、プロデューサー!!」

 

 

 

挙げ句の果てには扉を閉められてしまった。確かここは撮影するスタジオで彩達がリハをやってるはずなんだけど......

 

 

 

「宗輝君!」

 

「うわっ!ビックリさせんなよ彩......」

 

「えへへ、ごめんね?」

 

「マイクの音量大きかったッスか?」

 

 

 

麻弥が彩の持つマイクを取り音量を調整していく。さっきのは完全に彩の声がデカかっただけだと思うけど。スタジオに入るや否や大声で名前呼ばれたらビックリもするわな。今後気を付けて頂きたい。

 

 

「あー、宗輝君音量どう?」

 

「丁度良い感じだ」

 

「じゃあ今度はステージの調整しよ!」

 

 

 

それからは彩達と俺が主となって色々と調整していった。ライブの時と同じ要領でステージを調整、他にもCG等の使用も加味していき出来るだけ最高の仕上がりになるように細かいところまで気を回した。

 

 

「今更だけど、なんで俺が調整してんだ?」

 

「ムネキさんに任せておけば大丈夫です!」

 

「あくまで個人的な意見言ってるだけなんだけど」

 

「勿論プロの方にも調整はしてもらうわ。でもね、私達が大切にしたいのはファンの方々にどう魅せるかなのよ」

 

 

ファンにどう()()()()ね。俺だって今となっちゃ専属マネージャーとかいうのを任されてはいる。でもその前に一人のパスパレファンだ。プロの方に調整してもらえば間違いは無いんだろうけど、やはり大切なのは応援し支えてくれるファンのみんな。かと言って俺の意見を鵜呑みにはして欲しくないが、これも最高の仕上げの為だと思って頑張りますかね。

 

 

 

「よーし、じゃあ最終調整......ん?」

 

「どうかしたんスか宗輝君?」

 

「ああ、なんでもないッスよ」

 

「真似するのは良くないッスよ!」

 

 

 

これややこしくなるだけだな。それにしても、さっきそこに居た子は一体誰なんだ?スタッフさんの中にはあんな子いなかったし、まず歳が俺達とそんなに離れてなさそうだったしな。なんか気になる......。

 

 

 

「そろそろ時間だけど、もう大丈夫かい?」

 

「プロデューサー居たんですね」

 

「さっき言ったように、最後にプロの方に見てもらって少し修正はさせてもらうよ」

 

「それは全然構いませんよ」

 

「みんなは一度休憩しておいで」

 

 

 

これからプロの方の本当に最終調整が入る。その間パスパレメンバーは控え室で休憩を取ることとなった。俺も見ておこうと思ったのだがプロデューサーにまたしても背中を押され彩達諸共控え室送り。

 

 

 

「はぁ〜、緊張してきたね!」

 

「"練習は本番のように、本番は練習のように"ってお姉ちゃん言ってたよ」

 

「それ紗夜さんらしいな」

 

「彩ちゃんは練習でも十分とちってるから駄目ね」

 

「相変わらずチサトさんは容赦無いですね!」

 

 

 

部屋は入ると早速だが彩が集中攻撃を食らっていた。千聖さんの彩に対する辛辣な言葉遣いは気を許しているからこそなのだと思いたい。俺だって決して本心から彩の事をバカにしているわけでは無いのだ。本当だもん、宗輝嘘つかないから。

 

 

 

「MV撮影前で悪いんだけど一つ聞いてもいいか?」

 

「改まってどうしたんスか?」

 

「さっき明らかにスタッフじゃない女の子が居たんだけど知ってる?」

 

 

 

というのも、先程の最終調整中に気になった子が一人居た。明らかにスタッフではなく、俺達と同い年くらいで明るい髪色をしていた。ロングヘアーでスラッと伸びた脚に華奢な身体付きを見るに女の子だろう。あれで男だったら俺は自分の目を疑うけどな。

 

 

 

「もしかしてファンの方じゃないですか?」

 

「でもここ関係者以外は入れないだろ」

 

「そこはブシドーで何とか」

 

「出来ねぇよ、そこまでブシドーは万能じゃないからな?」

 

 

 

不可視化のブシドーとかやめてね。RPGもビックリの超能力だから。とは言いつつもやはり気になる。

 

 

 

「多分いつもライブに来てくれてるあの子じゃないかしら」

 

「あの子?千聖さんは知ってるんですか?」

 

「みんな知ってるわよ」

 

「ライブによって髪色を変えてきてくれるんですよ!」

 

 

 

 

え、なにそれ、最近のファンはそこまでしてんのか。しかも明るい髪色にするんだったら髪へのダメージ半端ないぞ。それをライブ毎に変えてくるって凄いな。今日は水色とピンクの明るい髪色だったけど、もういちどルミナスに合わせてきてるのか?

 

 

「そのファンの子だとしても、何でスタジオに入れてるんだ?」

 

「実は今日のMV撮影は抽選で当たった人にのみ限定で公開してるのよ」

 

「ジブン達も今朝知らされた事なんスけどね」

 

 

おいおい、なんなら俺は今初めて知ったぞ。一応専属マネージャーではあるんですけど、そこらへんの情報がイマイチ入ってこないのは気のせいか?大体、あのプロデューサーが胡散臭いんだよなぁ。

 

 

「勿論、撮影とか写真の類は一切禁止よ」

 

「でしょうね」

 

「千聖ちゃん!」

 

 

彩が話を遮る形で千聖さんへ呼びかける。

 

 

 

「急に何かしら彩ちゃん」

 

「私さっき自撮りしてSNSにアップしちゃったよ!どうしたら良いかな⁉︎」ソワソワ

 

「はぁ......彩ちゃんや私達は良いに決まってるでしょう」

 

「やはり彩はポンコツの子だったか」

 

 

どうやら勘違いでSNSに写真をアップするのも禁止だと思ったらしい。気になったので一応確認しておこう。携帯を開きほとんど使っていないSNSをタップして最新の情報に切り替える。すると、一番上にやはり彩の写真付きでアップされていた。既にファンのみんなから反応を貰えているみたいだ。

 

 

 

「もう応援メッセージきてるじゃん」

 

「どれどれ見せて!」

 

「ちょ、衣装着てんだからあんまり近づくな日菜」

 

「"もういちどルミナス絶対買います!"だってさー」

 

 

 

他にも撮影頑張って下さいとか抽選当たらなかったとか。ありきたりな応援メッセージだが、やはりその一つ一つに力を貰えるのは応援の凄いところだと思う。というか抽選の話はマジだったんだな。

 

 

「なんだかジブンやる気が出てきました!」

 

「うん、まだ緊張はするけどみんなで頑張ろうね!」

 

「ブシドー!!」

 

「イヴ、それ言いたいだけだろ」

 

 

 

こうしてファンから力を貰いやる気に満ち溢れた彩達。その後スタッフに呼び出されいよいよ本番。俺もスタジオへ向かい精一杯俺の出来る事をやる。プロデューサーが言うにMV撮影本番は俺達はあんまりやる事ないらしいけどな。

 

 

 

「本番いきまーす!3.2.1......」

 

「いよいよ始まりましたね」

 

「ここからは見守ってやる事しか出来ないけどね」

 

「ファンの子が来てるって聞きましたけど本当ですか?」

 

「抽選で選ばれた少数精鋭だけどね」

 

 

 

プロデューサーが言うのだからやはり本当なのだろう。周りを見渡してみると、隅の方で目をキラキラさせて撮影を見ている子がいた。彩達が撮影しているのを横目にファンの子へ近づき、それとなく会話を始める。

 

 

「君って抽選で選ばれたファンの子?」

 

「......はぁ」キラキラ

 

「おーい、話聞いてる?」

 

 

どうやらパスパレの撮影に夢中で俺に気付いてないっぽいな。ここまでフル無視されると流石に自信無くすんだけど。俺ってもしかして影薄かったりする?

 

 

「ん?どうかしましたか?」

 

「いや、さっきからずっと話しかけてたけど」

 

「あぁ!それはすみませんでした!」

 

 

ぺこりと頭を下げ謝る。別にそこまでしなくても良いけど。というか、どっちかと言うとあんまり大きい声は出して欲しくないな。撮影中に話しかけてる俺が言うのもなんだけど。

 

 

「さっき彩達に聞いたけど、パスパレのファンなんだよな?」

 

「はい!今日は運良く抽選に選ばれて良かったです!」

 

「俺は仮だけどパスパレの専属マネージャーしてるんだ」

 

「えぇ⁉︎マ、マネージャーさんでしたか⁉︎」

 

「だからさっきから声が大きいって」

 

 

すみません、と再び頭を下げ謝る。さっきから女の子に頭を下げさせてる外道にしか見えないからやめてくれ。声のボリューム下げてくれたら良いから。これ以上俺の評価下げないでくれたまえ。

 

 

「紹介が遅れました!私はパレオと言います!」

 

「パレオ?変わった名前してんな」

 

「はい.......私の大切な名前です」

 

「そっか。まぁ今日は楽しんでくれ」

 

 

 

 

 

そしてパレオの元を離れプロデューサーがいる場所へ帰還。どうやら少し機材トラブルがあったらしく、せっせこスタッフさん達が働いているのが見て取れる。こういう時には無力だから少し歯痒い思いが募る。ちょっと専門的な機械知識も勉強してみるか。

 

 

 

「こういう時に無力だって思ったかい?」

 

「......はい。いざという時に力になれなくて情けないです」

 

「私にもそういう時期はあったよ」

 

「今は思ってないんですか?」

 

 

 

仮で専属マネージャーなんてのを任されている俺と違い、プロデューサーは本当にプロの世界で活躍している人だ。実際、俺がしているのなんてちょっとしたスケジュール調整や力仕事ばっかり。そんなちょっとした仕事ですら迷惑をかけてばかりで、改めて一人では何も出来ない事に気付かされる。

 

 

 

「何とも思ってない訳では無いよ。考え方を変えた、と言った方が良いかな」

 

「考え方ですか?」

 

「勿論、私や君の思った通りに無力だと感じる事はある。そして、そう思う事も悪い事じゃ無いよ。でもね宗輝君、適材適所という言葉があるように、人にはそれぞれの得意分野があってこの世界ではそれを生かして立ち回るのが基本なのさ」

 

 

 

プロデューサーの言葉通り、適材適所で得意分野の人がそれぞれの場で活躍すれば良い。そういう考えが基本なのは薄々気が付いてはいた。だったら、俺にとっての活躍の場って何なんだ。機械関係にも疎く細かい作業でも迷惑をかける。そんな俺が活躍できる場なんてあるのだろうか。

 

 

 

「でも、それはあくまで基本であって全てじゃない」

 

「......」

 

「それでも君があの子達の役に立ちたいと思ったのなら、それはきっと君の本物の想いだよ」

 

「本物の想い、ですか」

 

「君が望むなら、こちらとしても少しだけど援助はしてあげられるよ」

 

 

 

機械関係の知識や技術についてやその他諸々の必要なスキルに関して、俺の希望が通れば事務所から少しばかりではあるが援助があるらしい。正直前々から迷っていたところでこの話だ。受けない手は無いだろう。

 

 

「少しでも彩達の力になれれば良いので是非やらせて下さい」

 

「オッケー、実はもう私から話は通してあるよ」

 

「今回もプロデューサーにまんまと乗せられた訳ですね」

 

「君も案外乗り気で助かったよ」

 

 

 

この人にはいつになっても敵う気がしてこないのは何故だろうな。でも、やはりこの人は頼りになる。いつも俺を弄ってくるし、かと思いきやプロの中でも一つ頭抜けた仕事するし。いまいちよく分からない人だがこれだけはハッキリ言える。

 

 

「......何でこんなに良い人なのに結婚出来てねぇんだよ

 

「何か言ったかい?」

 

「プロデューサーに良い出会いがありますようにってお願いしときました」

 

「さっきの話は無しで」

 

「わー!!ちょ、マジで勘弁して下さい!」

 

 

 

 

そうこうしているうちにトラブルも解決した様子。少し機材の調子が悪かったみたいだな。にしても、やっぱりパスパレは機材トラブル多いな。デビューライブの時もやらかしたって聞いたし。プロデューサーの負の念が形になって現れてたりして。

 

 

 

「よし、じゃあラスト撮ろうか!」

 

「むーねきー!」フリフリ

 

「日菜さん本番始まりますよ!」

 

「最後までちゃんと見ててよー!」

 

 

 

その後麻弥が日菜を宥める形でラストスパートの撮影が始まる。少し撮り直す場面もあったが、基本的にはスムーズに撮影が進められていた。俺も流石に立ちっぱなしという訳にはいかず、時々ある休憩の時間にスタッフさんに飲み物を持って行ったりと働きはしていた。

 

 

 

そして......

 

 

 

 

 

 

 

 

「......どうですか?」

 

「うん、完璧だね。取り敢えずこれで撮影は終了だよ」

 

 

 

 

長かったMV撮影も幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「おつかれさん」

 

「宗輝君、ありがとね」

 

 

 

場所は変わり事務所。撮影も無事終わり機材の片付けやら何やらはスタッフさんに一任し、俺とパスパレ5人は先に事務所へ戻ってきていた。近くの自販機で買ったお茶を彩へ渡しそのまま横へ座る。

 

 

「MV撮影どうだった」

 

「緊張したけど楽しかったよ」

 

「何回か噛んでたもんな」

 

「そ、それはもう良いでしょ!」

 

 

MV撮影だろうとライブだろうと関係なくトチるのは流石丸山彩だとしか言いようがない。初っ端の入りで肝心のマイクがOFFになってるし、極め付けは素直に歌詞を噛むという何とも彩らしいトチりかただった。それで全体の雰囲気が和んでスムーズに進んだのかもしれんな。

 

 

「あー、彩ちゃんと宗輝みっけ!」

 

「みんなで今まで探してたのよ」

 

「アヤさんとムネキさんは隠れ身の術がお上手です!」

 

「残念ながら俺達は忍びじゃないからな」

 

 

控え室から出てきたであろう4人がこちらへ近づき椅子へ座る。今の席順はこうだ。麻弥→イヴ→俺の膝の上に日菜→彩→千聖さんの順番。一人おかしいポジションに座っているのにお気づきだろうか。

 

 

 

「何でお前は俺の上に座ってんだよ......」

 

「んー、まぁ良いじゃん」

 

「宗輝君から見て、今日のジブン達は何点ッスか?」

 

「彩のトチりが無かったら100点だったなぁ」

 

「むー、まだそれ言うのー?」

 

 

 

それからは、先程のMV撮影の話が案外盛り上がってしまい軽く数十分は話し込んでしまった。そして、それは日菜の一言によって終わりを告げる。

 

 

 

「あれー?そう言えば宗輝今日もお姉ちゃん達に呼ばれてなかったっけ?」

 

 

 

自分の記憶の倉庫の鍵を開け思い当たるものが無いか探していく。昨日の記憶ファイルを開き紗夜さん、というよりRoselia関係について絞っていく。するとやはり見つかる訳で。

 

 

「ここからCiRCLEまで何分かかる?」

 

「詳しくは分からないけど、今すぐ向かった方が良いのは確かね」

 

「ジブンは幸運を祈ってます」

 

「ファイトですムネキさん!」

 

 

昨日お説教食らったばかりなのに、このままいけば今日もお説教タイムになってしまいかねん。それだけは何がなんでも阻止しなければならない。その為に俺に出来ることは一つ。

 

 

 

「悪い、事務所の自転車借りるってプロデューサーに言っといてくれ」

 

「あ、お姉ちゃんから連絡きた」

 

「因みになんて?」

 

「よく分かんないけどポテトって書いてあるよ」

 

 

 

やっべぇ、これは紗夜さんの冷凍ポテト連続殴打の刑だ。

 

 

 

「3分で行きますって言っといてくれー!!」バタバタ

 

 

 

「宗輝君行っちゃったね......」

 

「まぁお姉ちゃんのポテトは嘘なんだけどね〜」

 

「日菜ちゃん......貴女性格悪いわよ」

 

 

 

 

 

後ろの方で5人が話しているのを背に、一人寂しくCiRCLEへ激チャで向かう斎藤宗輝であった。

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「さぁおまけのコーナーでござんす」

 

 

宗輝「今回はモカとひまりだ」

 

 

モカ「しゃーす」

 

 

ひまり「モカ適当過ぎだよー」

 

 

宗輝「まぁそれくらいが丁度良いだろ」

 

 

モカ「むーくん聞いてよ〜」

 

 

宗輝「なんだよ、またひまりが太ったとか?」

 

 

モカ「なんと、流石むーくんだねぇ〜」

 

 

ひまり「太ってないもん!しかもまたってなによ!」

 

 

モカ「およよ?じゃあこのお腹はどういう事なのかな〜」

 

 

ひまり「ちょ、モカやめて!」

 

 

モカ「フムフム、この程よいぷにぷに感が堪りませんな〜」

 

 

宗輝「モカ、俺にもやらせてくれ」

 

 

モカ「ん〜、ひーちゃんはモカちんのものだからね〜」

 

 

宗輝「くっ!ならやまぶき色の褒美を今度奢ってやろう!」

 

 

モカ「さぁ存分に楽しむが良い〜」

 

 

ひまり「だからぁ!私は太ってないしモカのものでも無いし!」

 

 

宗輝「ぷにぷになのは否定しないのな、あ、ホントだぷにぷに

 

 

ひまり「宗輝は何触ってんのさ!」

 

 

宗輝「あべしっ!」

 

 

モカ「むーくんはまだまだ修行が足りないね〜」

 

 

宗輝「む、無念」

 

 

 

 

 

-End-

 





今回から新編スタートとなります。
RAS好きの皆様、長らくお待たせしました。


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Produce 46#愛と誇り


燐子「あ、愛はRose!」
あこ「誇りはCameIia!」
紗夜「二つが合わさりRoseliaとなる」
リサ「私達は5人で1つ☆」
友希那「......頂点へ狂い咲け」


巴「これなにやってんの?」
宗輝「MCの練習だとよ」
日菜「お姉ちゃんカッコいい!」




すみません茶番です。

46話、ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

いきなりで悪いが俺は意外と自転車に乗っている時間が好きかもしれない。颯爽と走り抜ける感覚は何故か心地良いものを感じるし、普段とは違った空気を吸い込みながら一人考えに耽る事も出来る。しかし、今はそんなことも言ってられない。まるで火の上を素足でペダルを漕ぎながら移動しているみたいにも思えた。少し意味の分からない例えかもしれないが、多分滅茶苦茶焦っているのが原因かもしれない。

 

 

 

「よし!着いた!」

 

 

 

こんな時でも安心してほしい。ウチのCiRCLEには駐輪場も完備してある。しっかりと防犯対策でロックも掛けられるようになっており超安心。今頼れるのはコイツしかいないだろう。仮にも事務所に借りてる自転車だ。盗まれたりしたらプロデューサーから怒号が飛んでくるに違いない。

 

 

 

「紗夜さん間に合いまし......たよ」

 

 

急かすように自動ドアに先に足を近づけ中へ入る。しかし、ロビーにいたのは我がCiRCLEのお勤め仲間であるまりなさんだけだった。相変わらず忙しそうにしてなくてホッとする。なんというか、ご苦労様です。うん、今はそんな事言ってる場合じゃないな。

 

 

 

「まりなさんこんにちわ」

 

「あれ宗輝君だ。今日はシフト入ってないはずだよね?」

 

「それより友希那達来てませんか?」

 

「ああ、Roseliaなら少し前に来て練習してるよ」

 

 

 

昨日は同じ時間にCiRCLEに来いとの命令だった。時計を見れば大体昨日と同じ時間なのでセーフ。30分違いなんて大体同じようなもんだろ。

 

 

 

「呼ばれてるので行ってきます」

 

「ついでに延長するかだけ聞いといてくれると助かるな」

 

「了解です」

 

 

 

短く返事をして友希那達が入っている部屋へ向かう。話が長くなるといけないので飲み物も準備。勿論、俺一人の分だけでは無くメンバーの分も用意してある。ここらへんは流石に出来る子宗輝君。もっと褒めてくれても良いんだよ?個人的には燐子先輩の膝枕希望。

 

 

コンコン

 

 

「はい、なんでしょうか」

 

 

この声は紗夜さんだな。今演奏の練習してなくて助かった。

 

 

「飲み物をお届けに来ました〜」

 

「私達は飲み物なんて頼んだ覚えが無いのですが......」

 

 

そりゃ勿論俺が一人で勝手に持ってきてますからね。しかし、流石紗夜さん大人の対応が出来て素晴らしい。多分ひまりとかハロパピの三馬鹿とかなら無理なんだろうな。あと香澄とかもキツそう。奇想天外な答えが返ってくる予想しか出来ない。それはそれで見てみたい気もするけど。

 

 

「嘘ですよ紗夜さん。すみませんお待たせしました」

 

「貴方また遅れたわね?」パクッ

 

「それに関しては寛大な処置を頂けると嬉しいです」

 

「取り敢えずは中に入りなさい」モグモグ

 

 

出会って早々トレイの上にあるポテトに手を伸ばし美味しそうに頬張る紗夜さん。ポテト関係となると少し、いやかなりポンコツ化してしまう紗夜さんはちょっぴり、いやかなりキュートだ。リスみたいにチマチマ食べてるのも可愛い。あ、口元にケチャップついてる。

 

 

 

「紗夜さんついてますよ」

 

「ん?何かついてますか?」

 

「可愛いお口がついてます」

 

 

そう言って何枚か持ってきていた油を拭き取る紙でケチャップを取り除く。偶に見せるこういうところが所謂ギャップ萌えなんだろう。

 

 

「あら、遅かったわね」

 

「仕方ないだろ。パスパレの撮影してたからな」

 

「みゅーじっくびでお?の撮影だったんでしょ!」

 

「おお、正解だ。あこえらいぞ〜」

 

 

こっちに気付いたあこがパタパタと足音を鳴らしながら自慢気に答える。今時ミュージックビデオの事を知らない子の方が少なそうだが、小動物みたいに可愛いあこを反射的に撫でてしまった。このせいで何度かお説教食らったのに懲りない自分がいる。

 

 

「飲み物......持ちましょうか?」

 

「大丈夫ですよ燐子先輩。取り敢えず座りましょうか」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

練習スタジオの中で机と椅子があるちょっとした休憩スペース。そこに飲み物やらポテトやらを並べて6人で座っている。隣に座っている燐子先輩との距離が若干近すぎる気もするが良しとしよう。決して俺から距離を詰めた訳では無いからな。対面に座ってポテトもぐもぐしてる紗夜さんに誓って宣言しよう。

 

 

 

「それで話って何?」

 

「実は私達も聞かされてないんだよねー」

 

「何でリサ達が知らないんだよ」

 

「それは私がまだ伝えてないからよ」

 

 

果たして鬼が出るか蛇が出るか。俺の予想だが、多分ライブの演奏どうこうの話ではない気がする。それならば俺ではなくいち早くバンドメンバーに相談するに越したことはないからな。まぁ友希那の場合は最近キャラ崩れてきてるからワンチャンあり得る。

 

 

「もっと早く伝えるべきだとは思ったけれど......」

 

「何か心配事でもありますか?」

 

「最近声の調子が悪いとか?」

 

「それはむしろ絶好調ね」

 

「バンド関係じゃ.......ないんですか?」

 

 

燐子先輩の言葉を皮切りにスタジオ内が静粛に包まれる。あこは少しワクワクしたような様子。紗夜さんは流石にポテトを食べるのを中止して友希那が言葉を発するのを待っている。リサと燐子先輩も同様に、しかし紗夜さんと違い少し不安な表情をしている。そして、次に友希那から出てきた言葉はにわかには信じ難いものだった。

 

 

 

 

 

 

「———先日、個人的にスカウトをされたの」

 

 

 

個人的にということはRoselia自体をスカウトしてきた訳ではないんだな。俺も心のどこかではこうなることを予期していたのかもしれない。今だって俺自身そんなに驚いてないし。友希那の実力ならスカウトされてもおかしくはなかったからな。

 

 

 

 

「スカウトっていうとあれか、引き抜きみたいなもんか」

 

「ええ、多分そういう解釈で間違い無いわね」

 

「それってすごいことじゃないですか友希那さん!」

 

「宇田川さん、湊さんがスカウトされたという事はRoseliaを抜ける可能性があるという事ですよ?」

 

 

 

紗夜さんの口からでた"Roseliaを抜ける"という事を理解して漸くあこの表情が一変する。それもそのはず、元々Roseliaは友希那が集めたメンバーで結成されている。俺はあまり詳しくは聞いてないからハッキリとした事は分からない。けれど友希那のいないRoseliaはRoseliaでない気がする。それは他のメンバーに置き換えても言える事だと思う。つまり、友希那の返答次第では今後の活動自体をよく考えなければならなくなる。

 

 

 

「......それで友希那はどうすんの?」

 

「もう返事はしたんですか?」

 

「ええ、勿論その場で断っておいたわ」

 

「なら返事を.......え?もう断ったの?」

 

 

 

まさかの即答拒否。清々しいまでの友希那の様子に少し緊張がほぐれる。胸を張って答えるのは良いが理由を聞きたい。

 

 

 

「あんまり言うのも良くないけど、もしかして相手がそこまでだったり?」

 

「その場で返事したから分からなかったわ。USBを貰ったから一応聴けるけど」

 

......はぁ、良かったぁ

 

 

 

友希那の返事に安心してしまったのかリサが机に突っ伏して安堵の声を漏らす。安心しろリサ、お前らのバンドのボーカル兼リーダーは心配せずともお前らのこと大好きだと思うぞ。かと言って百合百合すんのはやめてくれ。

 

 

「友希那さん!あこ聞いてみたいです!」

 

「丁度持ってきてるからみんなで聴きましょうか」

 

「ごめん、ちょっくらトイレ行ってくる」

 

「3秒で帰ってくるのよ」

 

「紗夜さんそれは無理ゲーです」

 

 

 

ささっと部屋を出て何度も清掃させられた因縁深いトイレへと向かう。まりなさんは時々女子トイレも掃除してくれとか言ってくるから。もし鉢合わせでもしたらどうするんだよマジで。即お縄なんですけど。

 

 

「にしても友希那をスカウトかぁ」

 

 

相手のことなど全くもって何も知らないが少なくともセンスはある。今の友希那ならどこに出しても恥ずかしくない実力を持ってるからな。上から目線で失礼。

 

 

 

「......紗夜さんに献上品(ポテト)でも持っていくか」

 

 

 

見たところ紗夜さん一人でほぼポテトを食べ尽くしていたのでおかわりポテトを用意していこう。因みにこのポテト、実は俺持参の物だったりもする。元々CiRCLEにはポテトなんて存在しない。まりなさんが何処からともなくフライヤーをゲットしてきたので流れでポテトをメニューに追加。するとあら不思議、紗夜さんに大人気の当店No.1になりましたとさ。

 

 

 

「味付けはシンプルに塩で......って、まりなさん厄介な客に捕まってんなぁ」

 

 

 

Why⁉︎どうして⁉︎

 

今は練習中だからまたの機会にね

 

 

 

ここは見つからないように颯爽と去ろう。ああいうのを押し付けてくるのもまりなさんの常套手段。基本働き者ではあるんだけど俺がいると真っ先に押し付けてくるからな。何処ぞのプロデューサーを思い出すよ。

 

 

 

それから一応飲み物も入れ直し練習スタジオへ戻る。俺が居ない間に既に手渡された謎のUSBを差し込み音楽を聴いていた。一曲だけしか入っていなかったのだが、内容が恐るべきものだった。まさかこんなにも全員が聴き入ってしまうとは思いもしなかったからだ。荒削りの中でもしっかりとした技術があり尚且つ音楽に対しての熱意も感じ取れた。確実に今の5バンドとは違った形のものだった。

 

 

 

「......すげぇなこれ」

 

「ええ、まさかここまでとは思わなかったわ」

 

 

 

俺個人的に言えば、このバンドは一人一人が既にほぼ完成されていると言ってもいい。一口に完成と言っても完璧ではないし、プロから見たらまだまだなのかもしれない。俺は特にボーカルに魅力を感じた。力強く歌い人を惹きつけるような歌声。ある種友希那と同じと言えるのだと思う。

 

 

 

「まさかこんなバンドがあったなんてねー」

 

「私達もまだまだということよ」

 

「ならいーっぱい練習しましょう!」

 

 

 

一つの謎のUSBはRoseliaに火をつけてしまったのかもしれない。思い立ったが吉日、5人はささっと楽器の前に立ちそれぞれが準備を始める。全員でアイコンタクトをし準備が整ったことを伝える。ここら辺はなんかポピパでも見たような感じだな。

 

 

 

「貴方にはとことん練習に付き合って貰うわよ」

 

「おう、どんと来い」

 

 

 

前奏が始まりその後に友希那が歌い始める。何度も聞かされたLOUDER。しかし、確実に今までとは何かが違うものを感じる。それは果たして先程の影響なのかどうか。いずれにせよ良い方へ変わっていくのは良いことだ。出来るだけ俺もコイツらを手伝ってあげるか。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「あ、お兄ちゃんお帰り」

 

「誰か来てんのか?」

 

 

 

時は過ぎ暖かい我が家へ帰宅。結局あの後はみっちり予約した時間まで練習に付き合わされてしまった。俺自身Roseliaの音楽を聴くのが久し振りだった気がする。少し時間が伸びてしまってまりなさんに叱られたのは内緒。

 

 

「それは見てのお楽しみ♪」

 

「見たことあるような靴ばっかだけどな」

 

「勘のいいお兄ちゃんは嫌いだよ?」

 

「わーい、お客さんいっぱいだなぁ」

 

 

 

令香に嫌われるとか世界が反転しても無いから。そんなのお兄ちゃん許しません。でも見たことあるしなんなら予想つくんだよなぁ。

 

 

バタバタ

 

 

「むーくんおかえり!」

 

「最早ここの住人レベルだよなお前」

 

「ん?ここはむーくんちだよ?」

 

「そういう意味で言ったんじゃない」

 

 

 

言葉のキャッチボールが一投目にして終了。グローブ買ったげるから練習してくれ。はぐみとか練習相手に連れてくるから。はぐみもはぐみでキャッチボール出来ないけど。ソフトボールは上手なのにな。

 

 

「みんな待ってるよ!」

 

「服伸びるからあんまり引っ張るなよ」

 

「はーい」

 

 

服を掴みリビングへ連れて行かれる。注意してからはちゃんと手を握って連れて行ってくれる。最初からそうしてほしいものだ。

 

 

「みんなむーくん帰ってきたよ!」

 

「むっくんお帰り〜」

 

「予想通りの面子で何よりだよ」

 

 

 

予想通りの面子で何よりだ。重要なことだから二回言います。おたえとりみりんはソファーに座ってテレビをまじまじ見つめている。今は特集でウサギについてやってるらしい。おたえが食いつくのも無理ないか。

 

 

「こんな時間まで何やってたんだよ」

 

「お姉様方に捕まってた、俺は悪くない」

 

「もっと早く帰ってこい」

 

「有咲はそんなに俺に早く会いたかったのか?」

 

「......んなわけないだろバカ」

 

 

と言いつつもほんのり頰を赤らめる有咲。最近はツンデレ成分足りなかったからなんか新鮮。そういうのもっと頂戴。

 

 

「というよりなんで俺ん家いるの?」

 

「香澄がみんなでご飯食べようって誘ってくれたの」

 

「なんかみんなで楽しく食べたくって」エヘヘ

 

「ならお前ん家でいいだろ」

 

 

 

香澄が言うに明日香の友達が泊まりにきてるからダメらしいです。今日は丁度両親が外食に行ってるんだよなぁ。それも香澄んとこの親と。相変わらず仲がよろしいことで。お陰様で俺は現在進行形で肩身が狭いよ。今なら父さんの気持ちがちょっとだけ分かる。

 

 

「それで沙綾が晩飯作ったのか?」

 

「おたえちゃんのリクエストでハンバーグだよ」

 

「流石おたえ、無類の肉好きは伊達じゃないな」

 

「みんなが手伝ってくれたからもうすぐ出来るよ」

 

 

 

香澄や令香を筆頭にお皿やお箸、コップを机に並べていく。既に置き場所を把握されているのも驚いた。もしかして俺より詳しいんじゃない?

 

 

「むーくんご飯大盛りね!」

 

「昔からお前はあれだけ食べてよく太らないよな」

 

「ギター弾いてるからかな?」

 

「いや、ギターは関係ないだろ」

 

「んー、じゃあどうしてかな?」

 

 

俺に聞くなよ。お前が食べた分が有咲に送られてるんじゃない?何処に送られてるかは言わん。本当かどうかも知らんし。

 

 

 

ご飯を俺がみんなの分をよそう。その間にお茶を入れてお箸をセット。沙綾と有咲がハンバーグの盛り付け。片手間に沙綾がサラダも作ってくれていた為、7人分を小皿に盛り付ける。俺自身ハンバーグを食べるのも久しぶりな気がする。

 

 

「んじゃ頂きます」

 

「ん〜!!美味しい!」モグモグ

 

「このハンバーグ......できるっ⁉︎」モグモグ

 

「有咲の愛情がたっぷり入ってるからね」

 

「そ、そんなもんいれてねーよ!!」

 

 

俺のハンバーグだけ大きかったりするのは気のせいか。あとソースの形がハート。こういうところでポイント稼ぎしてくるのは卑怯というものだ。ちょっと惚れちゃいそう。自分が単純過ぎて困ってます。

 

 

「むっくんむっくん」

 

「おたえおたえ」

 

「久し振りに幼馴染に会えたの」

 

「それは良かったな」

 

 

最初のやり取りなんなの。バカップルみたいで楽しい。多分おたえとかじゃないと出来ないな。紗夜さんとか半殺し案件だな。

 

 

「写真見てよ」

 

「どれどれ......ほーん、綺麗な人だな」

 

「名前はなんて言うの?」

 

「和奏レイって言うの。私はレイって呼んでる」

 

 

『......あー!!』

 

 

 

おたえの幼馴染の名前を聞いて有咲と令香が声を合わせて写真を指差す。ちょっとビックリしちゃったじゃねぇか。なに、因縁のライバルとかそんな感じ?

 

 

「コイツは同じミュージックスクールに通ってた奴だ!」

 

「れーかも見たことある!」

 

 

『......え?有咲さん(令香ちゃん)も?」

 

 

 

今はもう卒業しているが、令香は昔ミュージックスクールに通っていた。いや、通わされていたというのが正しいかもしれない。今でこそ落ち着いた父さんだが昔は厳しかったからな。最近では親バカの分が前に出過ぎているかもしれない。俺は残念ながら1年と続かずリタイア。その代わり令香の送迎が俺の仕事となった。

 

 

「そう言えば2つ下にとんでもない女の子がいるって聞いたことあるけど......」

 

「それ多分令香の事だな」

 

「そんな風に言われてたの知らなかったよ」

 

「奇遇だな、お兄ちゃんも初めて知ったよ」

 

 

 

ていうか有咲もミュージックスクール通ってたのな。もしかするとそのタイミングで有咲には出会ってた可能性もあるな。ちっこい有咲とか想像するだけで可愛いな。いや、決して俺はロリコンとかじゃないからな。幼児体型でしか興奮しないとかないから。

 

 

「なら明日レイに会いに行こうよ」

 

「まぁ明日は予定ないし大丈夫だけど」

 

「なられーかもついていこーっと」

 

「うぅ、こういう時に限って予定が......」

 

「お前にしては珍しいな」

 

 

 

明日は沙綾の手伝いでやまぶきベーカリーで一日働くらしい。それも有咲とりみりんも一緒で。いつもならついて来ると言って聞かないのだが今回はそうでもなかったな。それはそれで少しこそばゆい感じがするけど。

 

 

「ただいま〜」

 

「あ、お母さん達帰ってきた」

 

「あらあら〜、お嫁さん候補がこんなにも沢山」

 

「お義母さんお帰り〜」

 

「ねぇおたえさんなんでそんなにフランクなの?あともしかして漢字間違えてない?」

 

 

面倒くさいタイミングで母さん達が帰ってきやがった。父さんは巻き込まれないようにこそっと寝室行ってるのバレバレだからな。というかいつのまにおたえ達と話せるようになったの?もしかして令香の謎のコミュニケーション能力は母親譲りだったりするのか。

 

 

「お義母さんだなんて、ちょっと早いわよおたえちゃん♪」

 

「なら......奥さんだ」

 

「馬鹿、それもこれも全部ちげーよ」

 

「お母さん案外早かったねー」

 

「お父さん達が早く令香と明日香に会いたいって」

 

 

 

そう言えば香澄の父さんも親バカだったっけ。どっちの両親も変わったもんじゃねぇな。というか母さん達はちょっかいかけてくるし父さん達は娘溺愛してるしでなんか似てる。確実に一番苦労してるのは明日香だろうな。

 

 

「このハンバーグ誰が作ったの?すごく美味しいわね」

 

「母さん話ぶった切るの得意だよな」

 

「あはは、それは私達が作りました」

 

 

沙綾が答えながらも有咲の手を取り挙手するような形で上へ持ち上げる。先程から一言も話していない有咲だが、今は真っ赤に茹で上がったタコの様になってしまっている。そういや有咲は初めて会うのか。すまんなこんな母親で。

 

 

「貴女が有咲ちゃんね。宗輝に聞いた通り可愛いのね」

 

「なっ!!お、お前そんなこと言ってんのか!!」

 

「仕方ないだろ、令香使って脅されたら俺も対抗出来ん」

 

「ねぇねぇむーくんママ!」

 

「どうしたの香澄ちゃん」

 

 

 

何故か自然な形で食卓に混ざり始めた母さん。結局そこからは母さん含め8人でワイワイしながら過ごした。因みにこの一連の流れの中、ずっとりみりんは母さんに捕まって撫で撫でされてました。理由は"なんかもふもふしてて撫でたくなったから"だそうです。満更でもないりみりんの顔を見てると意外と居心地は良かったのかもしれない。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、生き返る〜」

 

 

時刻は夜の10時過ぎ。沙綾と有咲の愛情がたっぷりのハンバーグをたらふく食べて至福のお風呂タイム。みんなは後片付けやらなんやらでせっせこ働いている。相変わらずおたえはテレビのウサギ特集に夢中だったけど。俺は邪魔という事で一足先にお風呂に入っている次第でございまする。

 

 

「残りのハンバーグは明日にでも食べるかな......」

 

 

意外と俺は独り言が多かったりする。一人っきりの時限定だけど。

 

 

「......はぁ〜」

 

「なーにおじさんっぽい声出してるのお兄ちゃん」

 

「令香か、もう片付け終わったのか?」

 

「うん、みんなも帰ったよ」

 

 

流石にこのまま全員と混浴する流れでは無かったらしい。だとしても俺の身が持たんからやめてほしい。

 

 

「むーくんまだ出ないの?」

 

「おい、帰ったんじゃなかったのか」

 

「お姉ちゃんは今日お泊まりだよ」

 

「安心してむーくん!ちゃんとむーくんと同じ部屋で寝るから!」

 

「それの何処が安心出来るんだよ」

 

 

コイツはマジで俺に対して警戒心というものがないのだろうか。仮にも高校2年生の男女が一つ屋根の下に一緒にいるのだ。普通は間違いがあったとしてもおかしくない場面だろうに。しかし、俺も俺でもうそれが普通みたいになってきてるところあるからなぁ。いや、流石に一緒のベッドとかで寝たりしてないからな。あったとしてもそれは香澄が勝手に忍び込んできた時だけだ。

 

 

 

「次お前ら入るんだろ、そのままにしとくから出来るだけ早めに入れよ」

 

『はーい』

 

 

 

浴槽から出てもう一度頭からお湯をかけてから出る。途中からめんどくさくなったので軽くタオルで拭いてからリビングへ向かう。少し髪濡れてるけど時間経てば乾くだろ。

 

 

 

「冷凍庫にアイスあるわよ」

 

「ん、あんがと」

 

 

母さんの言った通り冷凍庫の2段目にお目当てのアイスを発見。香澄と令香が出てくるまでテレビでも見ますかね。丁度ウサギ特集も終わって映画始まるみたいだしな。

 

 

 

 

 

~10分後~

 

 

 

 

「むーくんきてー!」

 

「おにいちゃーん!」

 

 

 

「呼ばれてるわよ宗輝」

 

「どうせドライヤーだろ。そろそろ自分でやってほしいんだけどな」

 

「とか言ってやってあげてるんでしょ」

 

「仕方なくだよ」

 

 

少し良い展開になってきたところで呼ばれる。SFで世界観がしっかりとしている映画の2作目で正直何もわからんから良いんだけどな。こういうのって初代が一番面白かったりするよな。

 

 

「さぁ今日はどっちからだ」

 

「れーかからだよ」

 

「さっきジャンケンで負けちゃった」

 

 

 

ドライヤーをセットして熱風を送り髪を乾かしていく。時々ピョンと跳ねるアホ毛を邪魔臭く思いながらも黙々と進める。5分程でほとんど乾いたので香澄と交代。香澄と令香曰く、人にやってもらった方が早く終わるとのこと。

 

 

「明日はやまぶきベーカリー頑張れよ」

 

「うん、むーくんも頑張ってね」

 

「別に頑張る要素ないけどな」

 

 

令香と同様にして乾かしていく。もう慣れてしまったのか分からないが、ドライヤーをしてても普通に会話出来てしまっている。変な特技を覚えてしまった。

 

 

 

「はい、どっか気になるとこあるか?」

 

「ううん!むーくんありがとね!」

 

「アイスあるらしいからリビングな」

 

「はーい」

 

 

 

香澄と令香がアイスをかじりながら母さんと色んな話をしている。それを横でなんとなく眺める。もう見慣れてしまった光景。だけど、俺にとってかけがえのない大切な時間。......いかんいかん、なんかシリアスムードが出てしまった。こんな時はさっさと寝るに限る。

 

 

 

「んじゃ寝るわ」

 

「おやすみお兄ちゃん」

 

「風邪ひかないようにね〜」

 

 

全員分のアイスのゴミをゴミ箱に捨ててリビングを出る。2階にある自室へ行きベッドへ横たわり部屋の電気を消して目を閉じる。そして、そこまでしてやっと気付いたことが一つ。

 

 

「なんでお前がいるんだよ」

 

「え?だって一緒に寝るんじゃないの?」

 

「さも当たり前みたいに言うなよ」

 

「だって......」

 

「......ああもう!分かった、ただし絶対にくっついてくんなよ⁉︎」

 

 

 

どうやら香澄の涙に弱いのはまだ治ってないらしく渋々了承してしまった。許してもらえて嬉しかったのか笑顔を見せる香澄。こういうところがあるのが少し卑怯だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その日の夜は寝ぼけた香澄がくっつき過ぎてほぼ眠れなかったのであった。

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「おまけのコーナー」

 

 

宗輝「今回のゲストは紗夜さんと日菜だ」

 

 

日菜「お姉ちゃんお姉ちゃん!」

 

 

紗夜「日菜、もうちょっと静かにできないの?」

 

 

日菜「だってお姉ちゃんと一緒だもん」

 

 

宗輝「あらやだ可愛い、流石紗夜さんの妹ですね」

 

 

紗夜「そんなの当た......ポテトで殴りますよ」

 

 

宗輝「ちょ、ちょまま。何処に隠し持ってたんですか⁉︎」

 

 

日菜「お姉ちゃん今度一緒に彩ちゃんのところいこーよ!」

 

 

宗輝「ほらほら紗夜さん、このポテト全サイズ100円チケットあげますから」

 

 

紗夜「仕方なく受け取っておくわ」

 

 

宗輝「やっぱりポテトの事になると紗夜さん優しくなりますね」

 

 

紗夜「......貴方カラッと揚げますよ?」

 

 

宗輝「ここにきて新ジャンルですか?」

 

 

紗夜「焼き加減はレア?それともミディアム?」

 

 

宗輝「両方却下で」

 

 

紗夜「ウェルダンね分かったわ」

 

 

宗輝「いや嘘ですよね?」

 

 

日菜「もーっ!!二人ばっか話してて暇だよ!」

 

 

紗夜「もう少し待ちなさい、すぐに揚げるから」

 

 

宗輝「待つのは紗夜さんの方......って、日菜助けてー!!」

 

 

 

 

 

 

-End-

 

 

 

 





なんか後半はポピパの日常回っぽくなったけど良いや。
こういうの好きな方居ません?
自分はまったりな感じ案外好きですよ。


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Produce 47#幼馴染とロックな彼女


この時期のおでんって最高ですよね、どうも主です。
もうすっかり寒くなってウチでも鍋物が多くなってきました。
コタツに入ってミカン食べながらゆっくりと読める、そんな作品にしていきたいですな。

それでは、47話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

~翌朝~

 

 

 

 

 

「んぅ......むーくんぅ」

 

「......これじゃあ生き地獄だな」

 

 

 

はい、見事なまでの香澄の寝ぼけにより睡眠時間8割カット。残りの2割もほぼ寝ていないようなもんだ。寝る前にあれだけ引っ付いてくんなって言ったのに。眠気覚ましで顔でも洗ってくるか。

 

 

「よいしょっと、まだ朝早いし起こさなくてもいいか」

 

......ぽぴぱ〜

 

「なんだその寝言」

 

 

確かやまぶきベーカリーは開店してちょっと経ってからって言ってたっけ。まぁ何だかんだコイツは朝強いから大丈夫だろ。一応有咲とりみりんと沙綾には連絡しとくかな。今日も一日コイツの相手を頼む。

 

 

「おはよう。今日は朝早いのね」

 

「おはよう母さん。ちょっと用事あるからな」

 

「おにいちゃんおはよ〜」

 

「おう、お前も随分眠たそうだな」

 

 

パジャマ姿でぬいぐるみを抱えながら目を擦りつつ降りてくる令香。おかしい、ウチの妹は寝起きですら絵になっている。香澄見てるとだらしないとしか思えないのに。これは斎藤家の七不思議の一つかもしれない。

 

 

 

そんな絵になる妹と一緒に洗面所へ行きお湯で顔を洗う。寝癖も酷かったのでついでに頭も濡らしておく。寝癖は付くけどすぐに直るタイプで良かった。香澄は元々癖っ毛っぽいところあるからあんまり気にしてないらしい。

 

 

「ほまえもはやくじゅんびしろほ」シャカシャカ

 

「わかっは」シャカシャカ

 

 

お行儀が悪いのを承知で歯磨きしながら会話する。今日は令香も付いて来るらしくお兄ちゃんとして振舞わなければならない。おたえの幼馴染にカッコ悪いところは見せられんな。確か和奏レイって言ってたっけな。俺もなんか昔に聞いたことあるような名前なんだよなぁ。

 

 

「んじゃ準備してくるわ」

 

「いっつもお兄ちゃんの方が遅いんだからね」

 

「断じて違う、お前が早すぎるだけだ」

 

 

そんないつも通りの会話をしながら自室へ戻り準備を始める。いつも通りと言えば最近蘭達に会えてないな。でもなんやかんやで楽しくやってそうなのが想像できる。逆に俺が寂しくなっちゃうかも。

 

 

「ってかまだ寝てんのか」

 

「......すぅ」

 

「警戒してないのかマイペースなのか分からんな」

 

 

どちらにせよ今の体制がちと俺には厳しいので布団をかけ直す。べ、別に幼馴染がパジャマはだけさせてたからとかじゃないんだからね!!

 

 

 

 

という冗談は置いておき準備を進める。9月に入り暑さも和らいできたので少し暑苦しいがパーカーでいいだろう。おいそこ、楽するなとか言うな。実際パーカーって超楽だけど。最強なのはジャージ。正直俺はオシャレには疎いからすぐにジャージ着たがる癖がある。あと大体服とか黒色が多い。前に全身真っ黒コーデであこに会ったら褒められた。"闇の眷属みたいでカッコいい!"だってさ。

 

 

 

「あと財布と携帯っと」

 

「お兄ちゃん終わった?」

 

「今終わった、なら行くか」

 

 

 

父さんと母さんは今日一日ゆっくり過ごすらしく、少し悪いとも思ったが香澄の事をお願いしておいた。そろそろ海外に戻らなきゃいけないから最近では準備し始めたらしい。今度こっちに帰って来られるのはいつになるか分からないとのこと。俺としちゃ向こうに行って何日で父さんの令香成分が切れるか楽しみだ。因みに俺は2日が限界。まぁそれは嘘で本音は3日。あんま変わってないなこれ。

 

 

 

「おたえに電話するかな」

 

「れーか飲み物買ってくるね」

 

「おう......もしもしおたえか?」

 

『......ん、むっくんどしたの〜?』

 

 

 

令香が自販機に行き小銭を入れ何を買うか迷っているのを一人眺めながら電話を待っていると、しばらくしてから超眠たそうな声をしておたえが出る。眠たいのは分かったからオッちゃんと会話しないでくれ。頼むから電話中は相手と会話してくれ。

 

 

「もう家出たからもーすぐ着くぞ」

 

『なんで私の家来るの?』

 

「昨日お前から幼馴染に会ってって言ってきたんだろ」

 

『んー、そうだった気もするね』

 

「心配すんな。気のせいじゃない」

 

 

 

おたえも何かしら準備があるらしくもう少しまってほしいとのこと。それならもっと早く起きろよという意見はごもっともである。しかし今一度考えてみて欲しい。相手はおたえ、天然キャラを地で行く愛されるべき女の子だ。そんな子にド正論かましても意味ないんだよ。ここは素直に可愛いと思っときゃ良い。

 

 

 

「んじゃ近くの公園で時間潰すから」

 

『むっくんありがと。ぽっぴんぱ〜』

 

「じゃ切るぞ。ぽっぴんぱー」

 

 

最後のぽっぴんぱーは俺とおたえなりの特殊な挨拶だから気にすんな。

 

 

 

「令香〜、取り敢えずそこの公園で......って何してんの?」

 

「あ、お兄ちゃん」

 

 

 

 

少し目を離した隙に人数が増えてる。隣にいる人は一体誰なんだよ。ていうか綺麗な人だな。

 

 

 

「ありがとお姉さん!」

 

「良いの良いの、ここの自販機昔から詰まりやすいから」

 

「妹が迷惑かけませんでしたか?」

 

「自販機が詰まってたみたいだから助けただけだよ」

 

「むぅ、お兄ちゃんれーかの事疑い過ぎ」

 

 

 

リスのように頰を膨らませて睨めつけてくる令香。正直そんな事をしても可愛いとしか思わん。残念ながらウチの妹はあざとさなんてものは皆無だからな。狙ってやってんなら小悪魔通り越して閻魔大王様だ。

 

 

「昔からってことは小さい頃からここに?」

 

「まぁ帰ってきたのはついこの間なんだけどね」

 

「はい!これお姉さんの分!」

 

 

少し困惑した表情でこちらを見てくるお姉さん。何故そんなに俺を見てくるのか分からない。さっき会ったばかりの赤の他人に助けを求める程の事では無いと思うんだよね。

 

 

「コイツなりのお返しって事で」

 

「じゃあ貰おうかな」

 

「でも令香も飲み物欲しいんじゃなかったのか?」

 

「違うの買うから大丈夫」

 

「そのお金俺の財布から出てるの忘れないでね?」

 

 

躊躇なく俺の財布から小銭を取り出している妹。俺達のやり取りと令香の傍若無人な振る舞いにお姉さんは少しふふっと笑みをこぼす。その姿が何処と無く悲しげにも思えたのは気のせいだろう。

 

 

「貴方もここの近くに?」

 

「まぁめんどくさい幼馴染も居ますけどね」

 

「お兄ちゃんツンデレ?」

 

「違う、残念ながらこれは本音だ」

 

 

有咲みたいに俺はツンツンしてないしデレデレもしてない。そりゃこのくらい長い間一緒にいればめんどくさいとも思うだろうに。めんどくさいと思っても嫌とは一度も思ってないことが不思議。俺も俺で香澄には甘いからな。

 

 

「というよりお兄ちゃん大丈夫なの?」

 

「おたえがもう少し待てってさ」

 

「......ちょっと待って、今何て言ったの?」

 

「ああ、今日はちょっと友達と会う約束してて」

 

 

 

おたえのやつもう4.5分くらいは経ってるのに連絡も来ないな。俺の裁量で判断しても良いならもう家に行きたいんだけどな。本音を言うとオッちゃんを愛でたい。おたえほどでは無いがウサギは好きだ。あのもふもふした手触りとピョンピョン跳ねる姿が堪らん。

 

 

「ちょっと電話してみるわ......もしもしおたえ?」

 

『どしたのむっくん?』

 

「どうしたもこうしたもマクノシタもねぇよ」

 

『私はコラッタ派だよ?』

 

「ポケモン談義してる場合じゃないだろ、もう準備とやらは出来たのか?」

 

 

案外おたえにもネタが通じて助かる。俺も小さい頃に一度だけ、しかし滅茶苦茶ハマったことがあるのだ。その頃は必死になって個体値やらなんやら追い求めてたなぁ。そのくせ令香は数回でほぼMAXの個体値叩き出すからな。

 

 

 

『今はレイを迎えに行ってるところ』

 

「はぁ......場所言ってくれ、俺達もそこ行くから」

 

『むっくん見っけ』

 

「あん?それ多分似てるだけだろ」

 

 

 

この世にはドッペルゲンガーという存在があってだな。説明すると長くなるがそいつらに会うとどうやらお亡くなりになるらしい。だから俺は絶対にあってはならないわけだ。

 

 

 

『嘘じゃないもん、むっくん後ろ向いてみて』

 

「んなバカなことあるか」

 

 

いつものおたえの天然だろうと思い振り返るといつもの天然おたえが居ました。なんで?幼馴染の子迎えに行ってたんじゃないのかしらこの子。もしかしておたえのドッペルゲンガー説ある?

 

 

『ほら、やっぱりむっくんだ』

 

「この至近距離なのに電話してるとこ見るとおたえで間違いなさそうだな」

 

「そろそろ茶番終わった?」

 

「やめろ令香、茶番とか言うな」

 

 

流石に目の前の手の届く距離まできて電話は無いので通話を切る。

 

 

「あれ?なんでレイと一緒にいるの?」

 

「......はい?」

 

「はぁ......やっぱお兄ちゃん気付いてなかったんだ」

 

 

あからさまにため息をつく令香。レイ?おたえさんの幼馴染の和奏レイさんでいらっしゃいますか?いや、見せてもらった写真と違うから分からんだろ。顔で判断しろ?それが出来たら人間苦労しねぇよ。というより俺は案外人の顔覚えるの下手なの忘れてんのか令香のやつ。

 

 

「はなちゃんごめんね迎えに来てもらって」

 

「ううん、まさかレイがむっくんと先に会ってるとは思わなかったよ」

 

「まぁ偶々出会ったというか」

 

「れーかが困ってるとこ助けてもらったの!」

 

 

さぁ始まりました第一回斎藤宗輝ハブり選手権。これはどれだけシンプル且つ自然に俺の事を話からハブることが出来るのかを競うものだ。現在1位は我が妹斎藤令香。俺が話そうとするタイミングで話を持ち出し俺の前へとポジションを取る。更に小声でおたえの分の飲み物を買ってこいという指示まで頂いた。残念だ令香、最後に"お願いお兄ちゃん(はーと)"があればぶっちぎりの1位だったな。

 

 

 

「はなちゃんが前に言ってたのはあの人のこと?」

 

「そうだよ」

 

「へぇ〜」

 

「おたえさんはお兄ちゃんの事なんて言ったんですか?」

 

 

 

後ろの方で話し声が聞こえるのをBGM代わりにして自販機へ向かう。おたえなら別になんでもいい気がしてきた。まぁ無難にお茶で良いだろう。小銭......が無かったので仕方なく札を入れてお茶を購入。今回は詰まらなくて助かった。

 

 

 

「ほい、お茶で良かったか?」

 

「ありがとむっくん」

 

「はなちゃんこれからどうするの?」

 

「んー、取り敢えず家に戻ろうかな」

 

 

 

おたえ判断で一先ず花園家へお邪魔する事になった。おたえの家なんて久し振りだからちょっと緊張する。おたえの母さんもちょっとばかし俺の母さんと似たところあるからなぁ。

 

 

 

 

 

~花園宅~

 

 

 

「ただいまー」

 

『お邪魔します』

 

「たえちゃんのお母さんで〜す」ヒョイ

 

 

 

玄関のドアを開けるや否やリビングからおたえのママンが顔をヒョイっと出してくる。俺の母さんと違いゆるふわ系なのが原因なのかあまり痛くないのが逆に辛い。やっぱこの親あってこの子ありだな。

 

 

「お久し振りです」

 

「あらあら宗輝君とレイちゃんもいるじゃない」

 

「は、初めまして!」

 

「この子は......ハッ!!もしかしてたえちゃんとの隠し子⁉︎」

 

「うん、そうだよー」

 

「おいバカやめろ、この人なら信じちゃうから」

 

 

その後俺の妹だという事を10分ばかし時間をかけて説得した。というより絶対分かって遊んでただろこの人。おたえは完全に天然だがおたえママはちょっと人工の可能性アリだな。

 

 

 

「まぁ冗談は置いておいて上がって頂戴」

 

「私ちょっと部屋に行ってくるね」

 

 

 

そう言って何食わぬ顔で一人自室へ向かうおたえ。マジでマイペースだなコイツ。まぁそこがおたえの良いところだったりもするし今更でも無いけど。

 

 

「レイちゃんは今何してるの?」

 

「バンドでベースとボーカルやってます」

 

「へぇ、ベース&ボーカルって珍しいですね」

 

 

俺の身近にあるバンドでベース&ボーカルやってるのは見たことがない。ミュージックスクールに通ってたのなら上手なのだろう。それはおたえや有咲を見ていれば分かる。令香はちょっと例外な。この子完全に日菜とかと同じタイプだから。かと言って努力してない訳では無いんだけど。

 

 

「おまたせ〜」

 

「何持ってきたんだ?」

 

「私とレイの昔の写真だよ」

 

 

おたえがアルバムの様なものを机一杯に広げる。そこには小さい頃のおたえ達が写っていた。アルバムにあるほとんどの写真が笑顔で撮られている。先程見た笑顔とは違い、なんだか心の底から笑えている様にも見える。

 

 

「そう言えばはなちゃん」

 

「んー?」

 

「前に言ったの覚えてる?」

 

「......うん」

 

 

急におたえの表情が暗くなり和奏......上かもしれないから和奏さんでいいや、和奏さんも真剣な表情になる。それを感じ取ったのかおたえママはすーっとその場から姿を消す。ついでに令香も連れていかれた。え、これ俺どうすればいいわけ?

 

 

 

「私達とバンド組むって話、答えを聞かせて」

 

「.......ちょっと待ってくれ。バンド?おたえポピパの事は言ってないのか?」

 

「言った、それでもレイはバンドやりたいらしいの」

 

「でもバンドメンバーは足りてるんじゃないのか?」

 

「サポートギターがこの前のライブで終わっちゃったの」

 

 

 

正直話が急展開過ぎて頭が追いついてない。おたえはポピパ、和奏さんは別のバンド。そしてサポートギターが契約切れしたからおたえを誘ったと。でもおたえはポピパがあるから無理だ。他の人じゃダメなのか?

 

 

 

「......分かった。一度私達の音を聴いて、それから判断して欲しい」

 

「聴くって言ってもどうするんだ?」

 

「友達のお父さんがオーナーやってるライブハウスがあるからそこで」

 

「だってさ、おたえどうする?」

 

「取り敢えず聴く」

 

 

 

そして、俺達は演奏を聴く為にライブハウスへと移動した。

 

 

 

 

 

 

~Galaxy~

 

 

 

 

「ライブハウスってGalaxyの事だったのか」

 

「お兄ちゃん来たことあるの?」

 

「そりゃあ六花もいるしな」

 

 

おたえと和奏さんと俺と令香の四人でGalaxyへやってきた。まさかGalaxyのオーナーさんが友達の幼馴染の友達のお父さんだとは思わなんだ。なんか複雑だなこれ。

 

 

「......いきなり電話してきてどうしたんだよ」

 

「ごめんますき、ちょっとライブハウス借りても良い?」

 

「別に良いけど何するんだよ」

 

「実はますきにも手伝ってもらいたいの」

 

 

Galaxyの横にある八百屋から出てきた"ますき"という女性。髪は金髪で物凄い目つきをしているが、何故かうざきの革ジャンを着ている。見たところバンド仲間なのだろうか。

 

 

「演奏するにしても二人じゃ無理だろ」

 

「ちゃんと残りのメンバーも呼んでるよ」

 

「ますきさんにレイヤさんを見つけましたよチュチュ様!」

 

「why?いきなり呼び出しなんて何用?」

 

 

すると何処からともなく現れた二人組。......待てよ、俺片方の子見たことあるな。確か、えっーと、あれだ。この前のパスパレのMV撮影の時にいた子だな。名前は多分パレオって言ってたっけ。

 

 

「レイ、この人達は?」

 

「今の私のバンドメンバーだよ」

 

「あ!貴方はパステルパレットのマネージャーさん!」

 

「しーっ!!あくまでも仮だからお静かに!」

 

 

こんなところで騒ぎを起こしてしまってはプロデューサーの鉄拳制裁を食らってしまうやもしれん。というか、今からライブハウスで演奏するのか。でもギター足りなくね?

 

 

 

「チュチュ、ギターの音は流せる?」

 

「No problemよレイヤ。但し演奏の質は落ちるけど」

 

「今はそれで充分」

 

 

 

ライブハウスへ入りスタジオへ向かう。早くも準備が始められ個人個人で細かな調整を行なっていた。演奏を聴く側の俺達三人は少し手持ち無沙汰になっていたのだが、ここには従業員もいることを忘れてはならない。

 

 

「あのー、もしかして宗輝先輩ですか?」

 

「ん?あれ、六花じゃん。入る時に居なかったからシフト入ってないんだとばかり思ってたわ」

 

「さっきまで休憩だったので......というより、今から何が始まるんですか?」

 

「まぁ六花も聴けば分かると思うぞ」

 

 

六花は首を傾げながらも椅子へ腰掛ける。そのタイミングで丁度準備も終わった様子。

 

 

「はなちゃん、これが今の私の......私達の音楽よ」

 

「......」

 

 

 

『R・I・O・T』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

驚いた。まさかこの前友希那が渡されたUSBに入っていた曲。それをここでもう一度聴くことになるなんて思いもしなかった。という事は友希那をスカウトしたのもこのバンドってことか。

 

 

 

「......どう?」

 

「......痺れた。こんなの初めて聴いた」

 

「当然よ、私達の音楽は常にperfectなのだから!」

 

「流石チュチュ様!」

 

 

 

今回はギター不足で完全では無かったとはいえ、前にUSBで聞いた時と遜色無いレベルだった。友希那をスカウトし、これだけのメンバーを集め、更にはおたえをスカウトする。一体コイツらは何者なのか。

 

 

「私達は"RAISE A SUILEN"、略してRASよ!」

 

「はなちゃん、待ってるから」

 

 

 

そして、演奏が終わったと思えばささっと帰ってしまった。残されたのは俺と令香とおたえ、そして従業員で絶賛バイト中の六花の4人。

 

 

 

「令香はどう思った?」

 

「どうもこうも無いじゃん、聴いたまんまだよ」

 

「六花は?」

 

「えぇ!わ、私は何というか......凄いなぁって思いました」

 

 

 

まぁ普通はそうなんだよな。しかしおたえからしてみれば凄いなぁ、で終わるような問題では無い。確かに技術的にはポピパより遥かに格上だろう。もしかするとRoseliaよりも上かもしれない。けれどポピパがおたえにはある。

 

 

「こればっかりは真剣に考えた方が良いかもな」

 

「どういう事お兄ちゃん?」

 

「ポピパに残るか、それともポピパを抜けてRASに入るか」

 

「......ごめん、今日は帰るね」

 

 

RASのメンバーに続きおたえまでもが帰ってしまった。今は俺達が余計な事を言うよりは一人で考える時間が必要だろう。後々の事を考えるとポピパで話し合う必要もある。

 

 

「......んー、由々しき事態だ」

 

「お兄ちゃんどうするの?」

 

「おたえのことに関してはおたえに任せる」

 

 

この前約束したばっかりだしな。俺の助けが必要ならおたえの方から言ってくるだろ。今は待つしかなさそうだし。それよりは別の案を俺の方で考えるかね。

 

 

「六花、ちょっとギター弾いてみてくれ」

 

「えぇ!!いきなりですか⁉︎」

 

「すまんすまん、ふと思い返したら六花の音聴いたこと無かったなと思って」

 

 

無茶振りして驚いていた六花だが、渋々了承といった顔で準備を始める。奥の方から持ち出してきた六花のギター。確かストランドバーグだっけか。チューニングを終え、眼鏡を外しいつも一つにまとめている髪を解く。

 

 

「それじゃあいきます!」

 

 

 

曲の指定を忘れていたのだが、ここは流石六花と言うべきか。ポピパの曲である"キラキラだとか夢だとか〜Sing Girls〜"を弾いてくれる。一つのミスなく完全に再現されたギター。最後の方に六花自らがアレンジしたものを弾いて終わる。

 

 

 

「ど、どうでしょうか?」

 

 

「やっぱり六花はロックだな」

 

「お兄ちゃん意味分かんないよ」

 

「意味は六花に聞いてくれ」

 

「えぇ⁉︎また無茶振りですか⁉︎」

 

 

 

やっぱりそうだ。六花の音を聞いて確信する。というか六花マジで上手いな。中学時代からバンド組んでただけはあるな。

 

 

「そんでもって一つだけ頼みがある」

 

「私にですか?」

 

「おう、ちょっと負担かけるかもしれんが頼む」

 

「い、いえ!先輩の頼みなら断れませんから!」

 

「六花さん、お兄ちゃんに変な事されたら言って下さいね」

 

 

ちょっと令香ちゃん?実の兄を疑うのやめて?そこは良い後輩を持ったねとかあるじゃないの。何で真っ先に俺を疑うんだ。違う、決して俺は後輩を脅したりなんかしてないから。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「あら、案外早かったのね」

 

「お母さんお腹減った〜」

 

 

 

六花への頼みごとも伝え、今日のところは解散となった為帰宅。玄関に飾ってある星型の時計を見ると現在13時を過ぎた頃。一日潰れると思っていたが早く終わってしまった。香澄も帰ってないところを見るとまだやまぶきベーカリーで勤務中っぽいな。

 

 

「まだお母さん達もお昼食べてないのよ」

 

「じゃあお昼どーすんの?」

 

「久し振りにやまぶきベーカリーのパン食べたい!」

 

「だったらお金渡すからみんなの分買ってきてくれる?」

 

 

 

そんなこんなで今日のお昼ご飯はやまぶきベーカリー。丁度香澄や有咲達もいるしな。様子見がてらお邪魔してくるかね。

 

 

 

その後は父さんと母さんに欲しいパンを聞きお金を貰う。そしてお着替えして我が家を後にする。だって上はパーカーだけど下がスキニーで堅苦しいんだもん。動きやすいし上下ジャージで充分だ。やまぶきベーカリーだし特に気にする必要ないだろ。沙綾とかには注意されそうだけど。

 

 

 

「ねぇお兄ちゃん」

 

「なんだ我が妹よ」

 

「おたえさん大丈夫だよね?れーかはポピパ抜けて欲しくないな......」

 

「大丈夫だ、ポピパのリーダー誰か忘れたのか?」

 

 

 

こんな風にはぐらかしても不安の色は令香の顔からは消えてはくれなかった。優しいコイツの事だから自分なりにポピパの事を考えているのだろう。香澄が知ったらどうなることやら。

 

 

「それに腹が減っては戦はできぬって言うだろ?」

 

「別にお兄ちゃん戦いに行くわけじゃ無いじゃん」

 

「真面目な返しをありがとう......でもな令香、こればっかりは俺達がどうこうできるもんでも無いんだよ」

 

「じゃあおたえさんがポピパ抜けるって言ったらどうするの?」

 

「そん時はそん時考えれば良い」

 

 

 

先程のおたえの件について話しているとやまぶきベーカリーへ到着。どうやら道中ずっとこの話をしていたらしい。俺も令香もやはり気になるのだろう。また明日からは学校がある。ポピパのみんなとも話すだろう。だけど、今はおたえを待つ。それが俺に出来る事だと思うから。

 

 

「ほら、やまぶきベーカリー着いたぞ」

 

「れーかチョココロネとメロンパンとうさぎのしっぽパンね」

 

「へいへい、何なりと召し上がれ」

 

 

 

『いらっしゃいませ〜!』

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「お・ま・けのコーナーだよー」

 

 

宗輝「今回のゲストはこころと美咲だ!」

 

 

こころ「ねぇねぇ宗輝!」

 

 

宗輝「なんだ?」

 

 

こころ「何か楽しいことないかしら⁉︎」

 

 

宗輝「だとよ美咲」

 

 

美咲「いや、こころはアンタに聞いたんだよ」

 

 

宗輝「こころ、美咲が良い案があるって」

 

 

こころ「あら、じゃあ美咲教えて頂戴!」

 

 

美咲「へ?ま、まぁ最近寒くなってきたし雪山でも登ったら楽しいんじゃない?」

 

 

宗輝「ばっかお前、これ絶対......」

 

 

こころ「雪山登山ね!確かに楽しそうね!」

 

 

宗輝「俺は知らんぞ美咲」

 

 

美咲「元はと言えば宗輝のせいでしょ」

 

 

こころ「ハロパピのメンバーみんなで行ったらもっと楽しそう!」

 

 

宗輝「ほら言わんこっちゃない」

 

 

美咲「宗輝も行きたいってさ」

 

 

宗輝「なっ⁉︎」

 

 

こころ「大丈夫よ宗輝、一人増えたところで変わりはないわ!」

 

 

宗輝「覚えてろよ美咲......」

 

 

美咲「アンタも道連れだよ......」

 

 

こころ「どんどん楽しくなってきたわ!」

 

 

 

ガルパ☆ピコ Pico14へ続く......?

 

 

 

 

 

-End-

 




最近知ったのですが、チュチュとパレオって同級生なんですね。パレオが大人びて見えるのかチュチュが子供っぽくみえるのか。
どちらにせよ両方可愛いのでokです。

p.s
最近主はポピラジ聴きながら寝るのににハマってます。
ぽっぴんぱ〜♪


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Produce 48#RASとテスト


いきなりですが感想、誤字報告等ありがとうございます。
感想につきましてはいつでもお待ちしております。
自分で見返す事も多いのですがそれでも誤字に気付かない場合もございますので何卒ご了承下さい。

それでは、48話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

"RAISE A SUILEN"

 

 

 

俺達の前に突如現れたこのバンド。友希那とおたえをスカウトし、各々が圧倒的なまでのスキルを持つ。話によると自らDJとプロデューサーを兼務しているチュチュという英語交じりで話すあの少女。インターナショナル・スクールに通う帰国子女らしく、14歳でありながら成績優秀で飛び級しているとのこと。その他のメンバーもチュチュに引けを取らない大物だったりする。

 

 

「むーくんおはよ!」

 

 

例えばあの金髪のますきとかいうドラマー。ドラムの実力としては音楽業界で有名らしく、麻弥と同じくスタジオミュージシャンだったらしい。何でも演奏に夢中になると即興で音を入れることから"狂犬"と呼ばれている。まぁこれは麻弥に教えてもらったんだけどな。

 

 

「ねぇむーくん聞いてる?」

 

 

そして、おたえの幼馴染である和奏レイ。彼女もベースとボーカルの実力について言えば音楽業界で有名だったらしい。チュチュにスカウトされるまではどのバンドにも属さずあくまでサポートという形に徹していたという。

 

 

「大変だよあっちゃん!むーくんが動かなくなっちゃった!」

 

「宗輝、お姉ちゃんもうるさいしそろそろ反応してあげて」

 

「ああ、すまんちょっと考え事してた」

 

 

これが昨日半日で俺が集めた情報。勿論、詳しくは触れなかったがパレオについても紛れもなく実力者だ。実際演奏しているところを見てそれは肌で実感している。

 

 

「んじゃ行きますかね」

 

「むーくん朝有咲ん家寄って行こ!」

 

「へいへい」

 

 

 

兎にも角にも、まずはおたえの一件についてどうするかを考えるべきかもな。

 

 

 

 

 

 

 

~花咲川~

 

 

 

「さーやおはよ!」

 

「おはよう香澄。それと有咲と宗輝も」

 

「おはよう沙綾。昨日はありがとな」

 

「ううん、こっちも助かったし楽しかったよ」

 

「私はもうやんねーからな」

 

 

 

俺と香澄と合流した有咲の三人で登校。教室へ入る前に沙綾とエンカウントしたので昨日のお礼を言っておく。昨日はお昼に行った時にやれ香澄がパン焼きたいだの有咲も便乗してやってみたいだの言ったので手伝いそっちのけでパン作り。お陰で俺が代わりに働かされた。お昼でパン買いに来たのに何で働かされてんだ俺。千紘さん達も居なかったし仕方なく了解したけど。

 

 

 

「有咲パン作り楽しくなかった?」

 

「そんなことはねーけど」

 

「じゃあまた今度一緒に作ろうね!」

 

「ちょ、いちいち抱きついてくんな!」

 

 

 

令香は父さんと母さんのパンを持ち先に帰ってしまう始末。俺は俺で香澄達の作ったパン食べたから大丈夫だったけど。案外美味しかったのでまた作って欲しいところである。香澄はモチモチのお米を使ったパン。有咲は具材にたまごを使っていた気がする。沙綾が作ったのは言うまでもなく美味かった。

 

 

「有咲今日はお昼休み生徒会とかあるのか?」

 

「いや、今日は予定入ってないはずだ」

 

「なら良かった」

 

「宗輝何かあるの?」

 

「いんやこっちの話。ほら、もうSHR始まるぞ」

 

 

 

そこそこな時間だった為、SHRを理由に教室へ戻るよう促す。とは言え俺と香澄と有咲は同じクラスだから結局一緒なんだけどな。沙綾とは一度別れ教室へ向かう。正直俺の場合時間ギリギリでも担任に叱られかねないから注意が必要。

 

 

 

「じゃあSHR始めるぞー」

 

 

 

今日は特別連絡事項は無く、二枚程度プリントが配られて時間より早く終わった。プリントというのも勉強には直接関係ないものばかりだった。農業体験してみませんかという文字がデカデカと書いてあるチラシ。さらにはボランティアの協力を求めるポスター。それを見ていちいち誰かに話しかけているのはウチの幼馴染くらいだ。毎度それをうんざりした顔で受け流している有咲に労いの言葉を送ってやらねばなるまい。

 

「有咲これやってみない?」

「めんどくせーからパス」

「なら今度私に盆栽教えて!」

「は?それもめんどくせーからパス」

「えー!有咲教えてよー!」

 

 

この様な会話を普通に周りにも聞こえる音量で毎度毎度行なっている。最初は有咲も猫被ってたけど香澄のお陰で素のままでいられるようになった。前より有咲の周りで関わっている人も増えたし俺は嬉しいぞ。なんか父親にでもなった気分だ。

 

 

「それじゃあ一時間目遅れない様に」

 

『はーい』

 

 

SHRは滞りなく終了し担任が踵を返し職員室へ。ドアが閉まると同時に周りからチラホラと会話が始まる。かくいう自分は一時間目が移動教室なのを考慮して教科書類を用意して一足先に授業がある教室へと向かう。因みに一時間目は物理。担当教師がちょっと癖があって学校では人気者。

 

 

「むーくん一緒に行こ!」

 

「一緒に行くんなら早く準備してこい」

 

「らじゃー!!」ビシッ

 

 

 

敬礼し準備の為教室へと駆け足で戻る香澄。それと入れ替わる様にして有咲がやってくる。

 

 

「......ほんと朝からうるせぇ」

 

「それに付き合ってる有咲も周りからそう思われてるかもな」

 

「私は別にうるさくないだろ」

 

「ツッコミ入れてる時は中々声デカイぞ?」

 

 

"じゃあ全部香澄の所為だな"と言ってフッと笑う有咲。みなさん、これが有咲の隠しデレの部分です。なんだかんだ言って有咲も香澄といる時間が楽しいんだな。いつもちょままだけ言ってる様に見えるが内心ではどう思っているのやら。

 

 

「ごめんお待たせ!」

 

「んじゃ行くか」

 

「そう言えば今日は問題誰が当てられてたっけ」

 

 

物理の授業では終了間際に問題が出される事が時々ある。思い返せば前回の授業で確かに問題が出されていた気がする。確かあの日の日直は.......俺と香澄?

 

 

 

「......香澄、有咲、全速力ダッシュ」

 

「誰が一番早いか競争だー!」

 

「はぁ⁉︎ちょっと待てよお前らぁ!!」

 

 

 

その後、無事に間に合い問題を解こうとしたところでチャイム。案の定物理の先生に怒られました。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

一時間目の物理、二、三時間目の歴史、四時間目の数学を終えお昼休み。今日は令香と母さんの共同作業で作り上げたお弁当だ。鞄の中から取り出し机に置いておく。いつも通り中庭で食べる、前に一度お花を摘みに行こう。正直四時間目の数学始まってから我慢してました。

 

 

「おトイレおトイレ〜っと」

 

「あら?誰かと思ったら宗輝じゃない」

 

 

トイレへたどり着く前にこころに出会ってしまった。別に嫌でも何でも無いけど今はトイレ優先。もう私の膀胱のライフはゼロよ!!というかゼロだったら漏れてるからダメだな。

 

 

「こころもお花摘みにきたのか?」

 

「美咲と一緒にご飯を食べたかったから誘おうと思って!」

 

「おう、頑張れよ応援してるから」

 

「宗輝も頑張ってお花摘みに行くのよ!」

 

 

 

あらこの子なんて純粋なのかしら。本当に俺がお花を摘みに行くと思ってらっしゃる。誰だよこころに異空間とか言ったやつ。あと俺のこと異空間リモコンとか言うのやめてね。別に俺はこころを自在に操れる訳じゃないからな。どっちかと言うと操られてる方だから。具体的に言うと弦巻家のメイドちゃんとか何処ぞのフランクなメイドちゃんとか美人メイドちゃんとか。

 

 

 

 

閑話休題(弦巻家怖い)

 

 

 

 

こころとはお別れし男子トイレに群がる男子生徒数名の中をかいくぐり用を済ませる。みんな良く連れション?するよね。残念ながら俺自身連れション経験が無いのでいまいち分からん。時々香澄に一緒にトイレに行ことか誘われるけど。勿論丁重にお断りさせてもらってます。

 

 

 

 

「ふぅ......」

 

「あら」

 

「お、千聖さんみっけ」

 

 

 

手を洗いハンカチで拭き拭きしながら教室へ戻っていると今度は千聖さんにエンカウント。手には何やら資料の様なものを沢山抱えている。この先を真っ直ぐ行くと職員室。この様子だと職員室へ向かっているのだろう。千聖さん学校ではまぁまぁ猫被ってるからなぁ。プライベートになると容赦無くなるのに。

 

 

 

「良かったらそれ持ちま......」

 

「丁度良かったわ宗輝君、職員室まで一緒によろしく」

 

「あ、はい」

 

 

 

前言撤回、俺に対しては学校でもプライベートでも関係無いみたいです。というかこの資料重いんですけど。それにこういう時は半分くらい渡すのでは?この人全部俺に渡しちゃったよ。まぁ断れないし持っていくんですけどね!

 

 

 

「これは千聖さんが自主的に?」

 

「違うわよ、今日は偶々日直だったのよ」

 

「デスヨネー」

 

 

『失礼します』

 

 

 

資料で手一杯なのにも関わらず職員室のドアを俺が開ける。千聖さんの指示に従い先生の机に置いて職員室を出る。やっぱり千聖さんパワーなのか職員室に入った途端にザワつき始めた。もう三年生だし慣れて欲しいものである。

 

 

「ご苦労様」

 

「まぁこれもマネージャーの仕事と思えば楽勝ですよ」

 

「そうそう、マネージャーで思い出したわ。近々打ち合わせあるから予定空けとくように」

 

「へ?」

 

「へ?じゃないわよ。前に言ったぱすぱれさんぽのゲスト出演の件よ」

 

 

半信半疑で今まで何ともないように過ごしてきたけどこの人ガチだったのね。前にも言ったように私は単なる一般市民なのです。そんな何処の馬の骨とも知らん奴がいきなりゲスト出演して大丈夫なんですかね。ウチのプロデューサーなら楽しければオッケー出しそうだけど。

 

 

プロデューサーねぇ......

 

「ん?何か言ったかしら」

 

「いや何も。また日程決まったら教えて下さい」

 

 

 

プロデューサーって何なんだろうな。昨日去り際にRASのプロデューサーであるチュチュには一応名刺だけ貰ったけど。あれだけのメンバーを集められる程の実力を持っている事は確かだと思う。ますきさんの事教えてもらった時に麻弥なんて興奮し過ぎて最後の方は何言ってるか分かんなかったし。

 

 

 

「これからどうなるんだろうな」

 

 

 

 

 

 

~中庭~

 

 

 

 

「お、揃ってるな」

 

「あ!やっとむーくん来た!」

 

「すまんすまん、案外トイレが混んでた」

 

 

教室に戻ったら弁当と水筒が机の上から消えてた。正直その瞬間は滅茶苦茶焦ったけど香澄が中庭まで持ってきてくれてたらしい。それならそれで一言欲しいもんだ。思いつくところを大体探しまくって恥ずかしかった。クラスのモブ子ちゃん二人、あれは笑うところじゃねぇ。知ってたなら最初から言ってくれ。

 

 

「はいよ」

 

「ん、あんがと有咲」

 

「じゃあ食べよっか」

 

 

有咲から弁当を貰い隣へ座り、各々いただきますして弁当を食べ始める。今日の俺のお弁当の中身を教えてしんぜよう。やはり鉄板のだし巻き玉子とタコさんウインナーは欠かせない。それと昨日の晩飯の残りである唐揚げとサラダを上手に盛り付けされておりセンスを感じざるを得ないといったところ。ご飯の上に子持ち昆布が乗ってるのもポイント高い。

 

 

「玉子焼きもーらい」パクッ

 

「宗輝のも寄越せ」

 

「はいよ。やっぱ有咲んちの玉子焼きも美味い」

 

「なら私ももらおっかなー?」

 

「何かと交換なら良いぞ」

 

 

 

こうして毎度の事ではあるがお弁当の中身を交換しながら食べすすめている。中でも有咲の玉子焼きは好評でリピーターも多い。有咲のお婆ちゃんが有咲のお婆ちゃんのお婆ちゃんに教えてもらったらしく、前にイヴが食べた時には"伝統を感じる"とまで言わせたレベル。俺も将来は玉子焼きと味噌汁が美味しく作れる奥さんが欲しいもんだ。

 

 

「そんでりみりんは相変わらずチョココロネなのな」

 

「沙綾ちゃん家のチョココロネ美味しいから」モグモグ

 

「毎日食べてて飽きないの?」

 

「沙綾ちゃん家のチョココロネだから」モグモグ

 

 

あまり回答にはなっていない気がするが良しとしよう。チョココロネをリスの様に食べているりみりん。これはこれでキュンとくるものがある。俺だけかも知れないが、りみりんには時々庇護欲を掻き立てられる事があるのだ。決して誤解しないで頂きたいのだが俺はそういうタイプの変態では無い。俺は悪くない、可愛いりみりんが悪い。

 

 

 

「おたえはお弁当食べないの?」

 

「......うん、あんまり食欲無くて」

 

「大丈夫?」

 

「なら私ギター弾こっか?」

 

「なんでそうなるんだよ」ペシッ

 

 

 

まぁあんなことがあればそうなるかもな。実際俺だって授業に集中出来なかったし。当の本人であるおたえなら尚更気になって仕方ないだろう。

 

 

「何か気になることでもあんのか?」

 

「......みんなは自分に足りないものってある?」

 

 

有咲の質問に質問で返すおたえ。"足りないもの"ねぇ。正直ポピパはまだ結成してから1年ばかし。幼馴染で組んだアフグロやズバ抜けた技術のRoseliaとは確かに差はある。それは技術であり経験であり、或いは感覚的なところもあるかもしれない。

 

 

「んー、私はもっと歌もギターも上手くなりたい!」

 

「それを言ったら私もリズムキープを確実に......とかかな」

 

「私は細かなミスが多いから......」

 

 

 

香澄は歌とギターを、沙綾はリズムキープ。りみりんは細かなミスを減らす。ここ最近ではあまり練習に付き合えてないから分からんがそういうところを個人的には気にしてるんだな。俺自身そういうのは聞いたことなかったからこの機会にしっかりと聞いとくのもアリかな。

 

 

「有咲は?」

 

「......私はただお前らに迷惑かけないように

 

「すまん、最後の方が聞こえなかった」

 

「別になんでもねーよ!迷惑かけないようにしたいだけだ!」

 

 

こんな時でもツンデレ有咲は健在。聞くところによると有咲が一番練習頑張ってるらしい。有咲のお婆ちゃんからのリーク情報だから信頼性は高い。

 

 

「......私は技術、それと経験」

 

「おたえ、そろそろ話しても良いんじゃないのか」

 

『......?』

 

 

「実は———」

 

 

 

 

それから俺とおたえで昨日あったことをみんなに話した。RASの事、おたえがスカウトされてること。話していくにつれて沙綾の表情は陰っていくばかり。香澄やりみりん、有咲もまた同様に不安の色がうかがえる。

 

 

 

「私、もっと上手くなりたい」

 

「......じゃあおたえはポピパ辞めちゃうの?」

 

「それは......」

 

「コホン、それについては俺に考えがある」

 

 

 

一つ咳払いし一歩前へ進む。何故か演技じみたことをしてしまった。考えといっても一から俺が考えた訳でもないのに。

 

 

 

「考えって何だよ」

 

「おたえの事についてはさっき話した通りだ。スカウトに関してだけ言えば、今はプロデューサーのチュチュからの誘いでは無くあくまで幼馴染の和奏レイからの頼みって事だ」

 

「それがどうしたの?」

 

 

 

実は昨日もう一つ演奏の練習用でデータを貰っていた。ていうか何処行くにもデータ持ち歩いてるとかガチのプロデューサー?名刺もちゃんとしたもん作ってたし、俺もポピパのプロデューサーとして名刺作っといた方が良いかもな。まぁ非公式なんだけど。

 

 

「近々RASもライブをするらしくてな。それでサポートギターって形でまずはやってみないか?」

 

「サポートギター?」

 

「りみりん説明してやってくれ」

 

「う、うん。あのね香澄ちゃん......」

 

 

話によると、RASもライブを予定しているらしくギターが足りないとのこと。まぁ前回のライブで前まで契約してたサポートギターの人が辞めちゃったらしいからな。まずはサポートギターとして様子見をしようって訳だ。

 

 

「おたえはどう思う?」

 

「......私はもっと上手くなりたい。RASの音を聞いた時は痺れた。どうしたらこんなに上手くなれるのかなって思った。あの人達と、レイと一緒にやれば何か分かる気がする」

 

 

あの時に見た笑顔。笑っているのにも関わらず寂しそうにも見えた。あの人に会うのは初めてだったはずなのに、俺はそれを既に見ている気がするのだ。そして、何故かは分からないが助けてやりたいとも思った。本当におたえとバンドやりたくて、それでもおたえの事を考えて身を引こうとしていたのなら......何処か昔の俺と重なって見える部分があるのかもしれないな。

 

 

 

「みんなはどう思う?」

 

 

「私は大丈夫だよ!」

「おたえちゃん応援してるね」

「ライブ見に行くからね」

「まぁコイツは変なところで頑固だからな」

 

 

「......みんなありがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

時は過ぎ、今日は日曜日。おたえの件で話がまとまってほぼ一週間。こちらの意思としてプロデューサーであるチュチュに連絡を取ったところ、簡易的ではあるが実力を見させてほしいとのことでお呼ばれしてしまった。という理由もあり、この一週間は課題曲である"R・I・O・T"の練習に明け暮れた。ポピパらしい曲とは真反対の様にも感じるが、俺が二日前におたえの様子を見にいった時には既に弾ける様になっていた。その時に俺はおたえの実力を改めて実感した。

 

 

 

「むっくんおはよ」

 

「おう、おはよっつっても時間的には昼だぞ」

 

 

 

おたえと俺の二人だけで来るようにチュチュには伝えられた。どういう訳かは分からないが、チュチュは俺の事を正式なポピパのプロデューサーだと思っているらしい。RASは既に音楽業界でも有名であり、"大ガールズバンド時代を終わらせる"とまで言われている。そんな大物バンドのプロデューサーとは違い、俺はただスケジュール管理やライブ先で代わりに対応しているだけに過ぎない。なんならパスパレの専属マネージャーの真似事してる様なもんだな。

 

 

「緊張してるのか?」

 

「うん、こんなに緊張してるのはいつ以来だろう」

 

「まぁ緊張もおたえの味方だ」

 

「むっくんは味方じゃないの?」

 

「味方じゃなかったらこんなに世話焼いてねぇよ」

 

 

こんな会話を素の状態で何も考えずに出来るのはおたえだからなのだろう。俺なら世話好きなのもあるが、やはりポピパのみんなには幸せでいて欲しいのだ。それは何もポピパに限って言えた話ではないけど。

 

 

「取り敢えず行くか」

 

「場所は?」

 

「ははん、斎藤様を舐めてくれるなよ」

 

 

と言ってもチュチュと連絡を取る中で教えてもらっただけだ。いかんせんあの子何故か上から目線でくるのよね。聞けば高校1年生だと言うが年齢的には14歳。まさか令香と同い年だとは思わなかった。まぁ令香もチュチュもまだまだ子供であることには変わりないか。これ言ったら両名からお叱りを受けそうだな。

 

 

 

「むっくんむっくん」

 

「何かしらおたえさん」

 

「本当にここであってるの?」

 

「実は俺もそう思ってたところだ」

 

 

 

ナニコレ、超高層ビルみたいなところなんですけど。本当にここであってんのか?俺の携帯壊れてない?使い所なさ過ぎて携帯としての機能が失われつつあるのかもしれない。

 

 

「なんか俺まで緊張してきた」

 

「......」

 

 

 

エレベーターに乗り、チュチュ達がいるであろう場所へ向かう。

 

 

 

ガチャ

 

 

『失礼しまーす』

 

 

 

玄関?のドアを開けるや否や耳に入ってくるのはドラムの音。何かの曲の練習なのか、はたまたドラムソロでやりたいように練習してたのか。いずれにしても物凄く激しい音だったのには変わりない。俺達に気付いたのか叩くのをやめてこちらへやってくる。

 

 

「お前は前にいた奴だよな?」

 

「は、はい」

 

「それでお前は......」

 

「俺は付き添いで来たんだ」

 

「ふーん......」

 

 

品定めするようにおたえと俺を見てくるますきさん。ちょっと距離感近すぎません?相変わらず柄はうさぎだし。というか高校2年生でタメなんだから敬語はやめたいんだけど、ますきさん怖くて無意識にさん付けしてしまいますぅ!

 

 

「ハナゾノさんいらっしゃいませ〜♪」

 

「貴女がタエ・ハナゾノね?」

 

「はい」

 

「そして貴方がPoppin'Partyのプロデューサーね」

 

「そういうことにしといてくれ」

 

 

ますき......さんに続いてパレオとチュチュがやってくる。パレオはいつもチュチュの側にいるって感じだな。前もご主人様って言ってたし。まぁ詮索は無しにしとこう。触れられたくないことだってあるだろうし。

 

 

「レイは?」

 

「レイヤは仕事よ。前の契約がまだ残ってるみたい。でも、それも今日で終わりよ」

 

「それで、おたえのテストはどうするんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれたわね。パレオ」

 

「任せてくださいチュチュ様♪」

 

 

 

RAISE A SUILENと書いてある垂れ幕、というよりはスクリーンに映し出されているだけだと思うが、それをパレオがリモコンで操作する。

 

 

「知っての通り、私の最強のバンドであるRAISE A SUILENに半端な音は要らないの。私だって誰でも良いって訳じゃないわ」

 

「お眼鏡に叶わなかった場合どうなるんだ?」

 

「その時は申し訳ないけどレイヤには諦めてもらうだけよ」

 

「......レイ」

 

「大丈夫だおたえ、今日まで頑張ってきたんだろ」

 

「うん......いってくるね」

 

 

ギターを持ち先程までますきさんがドラムを叩いていたブースへ入る。ギターにシールドを繋ぎアンプと接続しチューニングを行なっていく。まだおたえの表情から不安の色は伺えるのだがここは信じよう。

 

 

 

「じゃあ、よろしく頼む」

 

「ええ、それじゃあRASのテストをはじめるわよ!」

 

 

 

『.......』

 

 

 

 

「パレオ!これじゃ中の様子が見えないじゃないの!」

 

「申し訳ありませんチュチュ様〜!」

 

「.......なんか調子狂うなぁ」

 

 

 

 

そして、おたえのテストは始まった。

 

 

 

 

 

 

~1時間後~

 

 

 

 

「......なるほどね」

 

「チュチュ様?」

 

「大体分かったわ、取り敢えずテストは終了よ」

 

 

 

テスト開始からほぼ1時間。基本的な技術はすっ飛ばしていきなり応用が出来るかどうかのテストから入った。それからますきさんやパレオが入って合わせのテスト。それから最後に課題曲として出されていたR・I・O・Tの演奏。これで約1時間。おたえに関して言えば弾きっぱなしで大分疲れているはずだ。

 

 

「お疲れさん」

 

「むっくんありがと」

 

「中々上手く弾けてたぞ」

 

 

勿論、贔屓目無しの単純な第三者的感想だ。チュチュ達にそういうのが通じないのは理解してきたからな。音楽に対する熱意や想いは人一倍強いのは話してみて、演奏を聴いて分かった。だからこそ、そんな中でも引けを取らないおたえを誇りに思ったのかもしれない。それを踏まえて考えると贔屓目なんてレベルじゃないかもしれないな。

 

 

「お前、中々上手いな」

 

「ありがとうございます」

 

「結果は追って伝えるわ」

 

「今教えてくれないのか?」

 

「please wait 。ちょっと考える時間を頂戴」

 

 

その回答から考えるに一発アウトとかいう最悪の展開は免れたとみて良さそうだな。まぁこれでアウトなら誰が合格出来るんだって話だけど。

 

 

「なら俺達はこれで」

 

 

 

 

 

 

 

「......どうするんだアイツ」

 

「チュチュ様どうされます?」

 

「タエ・ハナゾノ、彼女はもしかすると......」

 

 

 

 

 

 

 

チュチュから合格の回答を貰ったのは、それから更に一週間が経過した日のことだった。

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「やってきましたおまけのコーナー」

 

 

宗輝「今回のゲストは麻弥とイヴだな」

 

 

イヴ「最近寒いですねムネキさん!」

 

 

宗輝「俺は寒がりだから余計にな」

 

 

イヴ「マヤさんは何か対策とかありますか?」

 

 

麻弥「寒い時は狭い隙間に入ると良いッスよ!」

 

 

宗輝「麻弥は関係無く入ってるだろ」

 

 

麻弥「寒い時は特に入りたくなりますね!」

 

 

イヴ「それがマヤさんの強さの秘訣ですね!」

 

 

宗輝「勘違いするなよイヴ、ただの変態だからな」

 

 

麻弥「あぁ、隠れスポットではあるのですがウチの事務所の椅子の下も中々良い隙間なんスよねぇ......」

 

 

イヴ「ふむふむ、勉強になります!」

 

 

麻弥「いまから行きます?私のIDカードで鍵は大丈夫ッスよ」

 

 

宗輝「専属マネージャーとして全力で阻止させてもらうッスよ!!」

 

 

 

 

 

-End-

 

 

 





やっぱり新しくキャラを追加すると幅が広がりますなぁ。
とは言ったもののいまいちRASのキャラが掴みきれてませんが......


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Produce 49#新人プロデューサー宗輝君


宗輝「ポピパのポ!」
香澄「ポテト!」
宗輝「それお前の好きな物だろ」
香澄「じゃあポテトフライ?」
宗輝「言い方変わっただけじゃねぇか」
香澄「それならポピパ!」
宗輝「結局そのまんまが一番ってことだな」


49話ご覧下さい。



 

 

 

 

 

 

Nice(その調子よ)ハナゾノ、せいぜい頑張りなさい」

 

「ありがとチュチュ」

 

「はなちゃんお水」

 

「レイもありがと」

 

 

 

どうも皆さん、ポピパの非公式プロデューサー改めプロデューサー見習いの斎藤宗輝です。チュチュから合格をもらった日から既に3日。このように練習をしている最中でございます。そして、おたえの付き添いだけで来たつもりの俺だったが......

 

 

 

「じゃあ私は一度抜けるわ」

 

「何処かお出かけですかチュチュ様?」

 

That's right(その通りよ).ほら、貴方も行くわよ」

 

「へいへい、んじゃおたえをよろしくな」

 

「了解しました!」

 

 

 

 

何故か事あるごとにチュチュと一緒にお出かけをするようになっていた。お出かけと言ってもちゃんとしたお仕事だ。昨日はライブを予定しているライブハウスへ赴き色々と打ち合わせを行った。およそ14歳とは思えない仕事量を一人でこなしているのを間近で見て驚きを隠せないといったところ。この子もしかして令香と同じタイプなのん?

 

 

 

「何ボーッとしてるのよ」

 

「ああ、すまん」

 

 

 

 

 

~羽沢珈琲店~

 

 

 

『いらっしゃいませ!』

 

 

「先客がいると思うんだけど」

 

「待ち合わせの方ですね!コチラへどうぞ!」

 

 

 

今日はライブの際に来てもらうつもりの海外の記者とお話しするって聞いてたのに気付けば羽沢珈琲店。まさかここで待ち合わせしてるとは思わなかった。タイミングが悪くイヴが接客で対応してきて咄嗟にフードで顔を隠してしまった。つぐみが見当たらないが多分厨房の方にでも居るんだろう。

 

 

「......貴方何してるの?」

 

「ここ知り合いの店なんだよ」

 

「あらそう、取り敢えずフードを取りなさい」

 

「あんまりバレると良くないんだけど」

 

「相手に失礼極まりないからやめて頂戴」

 

 

 

確かに、今日の相手はなんてったって海外の記者だ。くれぐれも粗相の無いようにと外出前も散々注意させられたがこの始末。いやね、仕方ないじゃん?例の如く俺はポピバ以外のメンツにこの事伝えてないし。

 

 

Nice to meet you(初めまして).My name is Chu²(私の名前はチュチュ)

 

My name is Jack(私の名前はジャックです).Nice to meet you too(お会いできて嬉しいです)

 

「......ほら早くアンタも挨拶しなさい」

 

「ああ、了解。えーと、My name is Muneki Saito(私の名前は斎藤宗輝です)

 

 

 

俺はあんまり英語とか得意じゃないからちゃんと話せてるか不安だ。チュチュみたいにバイリンガルでは無いのだ。基礎中の基礎しか知らん。よって、この先は全て聞くことしかできない。まぁ聞いても分からないんですけどね。

 

 

 

Why did he wear hoody?(何故彼はフードを被っていたのですか?)

 

I'm sorry, he's shy.(すみません、彼は恥ずかしがり屋なので)

 

Is he your boyfriend?(彼は貴女の恋人ですか?)

 

That's not the case.(そうではないですよ)

 

 

 

 

 

......な、何言ってるかサッパリ分かんねぇ。確実に聴き取れたのはボーイフレンドって単語だけだ。ってことはチュチュに恋人がいるか聞いてんの?オッサン流石にその歳はアウトだと思うよ。ちっとは年齢差ってのを考えような。

 

 

 

Shall we begin?(始めても?)

 

OK, let's get started.(オッケー、始めようか)

 

「よ、よろしくお願いします......?」

 

 

 

First, let's talk about the content of the live show.(まずはライブの内容について話しましょうか)

 

 

 

 

 

-1時間後-

 

 

 

 

 

「ふぅ、取り敢えずはこんなところかしら」

 

「終わったのか?」

 

「ええ、しっかりメモは取った?」

 

「それはバッチリだ」

 

 

 

時間にして約1時間。俺はチュチュと記者のジャックさんの英語のやり取りを横で聴きながらチュチュに言われた内容をメモしていた。というか最早これがスタンダードというかルーティーンというか。どうやらチュチュは俺をプロデューサーとして鍛えてくれるらしい。

 

 

 

Thank you today.(今日はありがとう)

 

I had a good time.(こちらも良い時間が過ごせたわ)

 

You are small and cute, but you are amazing.(貴女は小さくて可愛いのに凄いね)

 

 

「なっ!!」

 

「ん?何て言ったんだ?」

 

「う、うるさいわね!アンタは黙って帰る準備!」

 

 

 

何故かは知らんがいきなり怒り出したチュチュ。どうせジャックさんが外国の人特有の面白いジョークでも言ったのだろう。チュチュはまだ14歳で通じる冗談も通じないというのに程々にしてほしいものだ。

 

 

 

I'll pay you.(私が払いますよ)

 

You can leave it to him.(彼に任せておいて大丈夫よ)

 

 

 

「あの......お会計良いですか?」

 

「......」

 

 

 

ふえぇぇ、つぐみさん怒ってらっしゃる......。そりゃ何も知らないのに友達が外国人とお話ししてたら気になりますよね。しかも明らかに年下の女の子連れて。それに加えて役立たずときてる。今の俺は控えめに言ってでくの坊かもしれない。あれ?というかこれ全部俺持ち?畜生計りやがったなあの小娘。

 

 

 

「合計で23.800円になります」

 

「......一桁多くないですか?」

 

「23.800円になります」

 

「すみません許して下さいつぐみさん」ペコリ

 

 

 

頭を深く下げて誠心誠意謝るしかないだろう。こうしても許してもらえるとは限らんがそれは仕方ない。おたえ云々はポピパの事だから良いとしてもプロデューサー修行紛いの事に関してはおたえ以外ポピパですら知らない事だからな。

 

 

 

「......また一人で抱え込もうとしてない?」

 

「それは大丈夫、時間が取れれば蘭達も入れて話すから」

 

「約束だよ」

 

「ならゆびきりな」

 

 

 

他にお客さんもいないみたいだしちょっとくらい良いだろう。つぐみも少し周りを見渡して右手を出して小指を立てる。それでもやはりお店の手伝い中だからなのか少し顔が赤い。隠れていけないことをしてる子供みたいでなんとも可愛らしい。

 

 

 

「んじゃ俺行くわ」

 

「......待って宗輝君、お会計まだ済ませてないよ」

 

「でもお会計終わったはずじゃ......」

 

「んっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着け斎藤宗輝、取り敢えず状況を整理するんだ。お会計とゆびきりも終え、踵を返しチュチュの元へ戻ろうとしたらつぐみにお会計がまだだと言われ引き留められる。しかしお会計はお支払い済。万が一手違いがあるといけないことも考慮して再度確認の為にレジの方を振り返る。そしたら俺のほっぺにつぐみがキッス。

 

 

 

 

「つ、つぐみさん?」

 

「......ゆびきりじゃ足りないと思ったから」

 

 

 

 

そんなに顔真っ赤にして言われてもキュンとくるだけだからやめてほしい。多分今は俺もつぐみと同じくらい顔真っ赤にしてるだろう。日菜とかもそうだけど不意を突くのはやめて頂きたいの。反応できなくて困るから。まぁ先に言われても反応できないんだけどね。こちとら伊達に年齢=恋人いない歴の部類の人間やってない。

 

 

 

 

「もうちょっとだけ待っててくれ」

 

「うん、分かった」

 

 

 

そう言ってつぐみの頭を少し乱雑に撫でてやる。なんか頭撫でるの久し振りな気がする。緊張がほぐれてきたのか表情も柔らかくなってくるつぐみ。やっぱつぐみはその方が似合うな。

 

 

 

 

「貴方何してるの?お会計が済んだのなら帰るわよ」

 

「チュチュ!?ジャックさんはどうしたんだ?」

 

「彼なら既に帰ったわよ」

 

「そ、そうなのね」

 

 

 

どうやら俺がつぐみと色々してるうちにジャックさんは帰ったらしい。チュチュとジャックさんにさっきのやり取り見られてたらどうしよう。お嫁にいけない。

 

 

 

「じゃあ帰るわよ。ショートケーキ美味しかったわ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「じゃあなつぐみ」

 

 

 

そして、その日はそのままチュチュのマンションへ一度帰りおたえと共に帰宅した。

 

 

 

......これはチサトさんに報告です!

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「......ちゃん!」

 

「......ふへへ」

 

「お兄ちゃん起きて!」ユサユサ

 

「んぁ?......なんだ令香か」

 

 

 

人が気持ち良く夢を見ながら惰眠を謳歌しているというのにこの妹はジャストタイミングで邪魔してきやがる。まだ香澄のおはようダイブじゃないだけマシと思うか。あ、因みに本日の夢は麻弥に色々してもらうという内容だった。色々の部分は皆さんの想像にお任せしておこう。というか俺誰と話してんだよ。

 

 

 

「お兄ちゃんお出かけしよ!」

 

「やだよ、今日は土曜日。よって俺はお家から出ません」

 

「それなら仕方ないね」

 

 

 

珍しく素直に引き下がる令香。俺のベッドに入り揺さぶってまで起こしてきたのに何故だ。考えろ斎藤宗輝、こういう時は一度として良い結果に傾いた事が無い。という事は何かが起こる予兆。なんだか危ない気がしてきたぞ。

 

 

ガチャ

 

 

「むーねーきー!」

 

「ちょ!ひ、日菜!?」

 

「私もいますよ」

 

「紗夜さんまで、ぐへぇ!!」

 

 

 

今日は香澄のおはようダイブでは無く日菜のおはようダイブの日だったらしい。その前になんでこんな休日の朝っぱらからウチにいるのか教えてほしい。確かに昨日の夜にはいなかったはずだからな。令香の仕業だなこんにゃろう。

 

 

 

「宗輝おはよ!」

 

「分かった!分かったからどいてくれ!」

 

「ん?何で?」

 

「何でって言われても......」

 

 

 

そりゃ日菜さんのアレやコレがなんやかんやであんなことになってるからだよ。

 

 

 

「日菜、朝から近所迷惑になるからやめなさい」

 

「分かった!」

 

「紗夜さんの言う事は聞くのね」

 

「だってお姉ちゃんだもん!」

 

「それもやめなさい......恥ずかしい」

 

 

 

おうふ、こんな休日の朝っぱらからこんな尊いものが見られるなんて感無量だぜ。やっぱさよひなさいこ......コホン、いかんいかんつい本音が。俺をおいてさよひなしてるのを見るのも良いが今はやめて頂こう。

 

 

 

 

「それで何でこんな朝早くに?」

 

「んー?何だっけお姉ちゃん」

 

「はぁ......私達に隠し事をしてませんか?」

 

「か、隠し事?」ピクッ

 

 

 

 

途端に目付きが鋭くなる紗夜さん。それに合わせて日菜も思い出したかのように迫ってくる。賢い+頭の回る紗夜さんの事だ、多分何処からか情報を手に入れていたのだろう。しかし知っているのは極少数のはず。ポピパと昨日のつぐみとイヴ......そういえば最初の時以外イヴの姿を見てないな。

 

 

「俺が紗夜さんに隠し事なんて」

 

「イヴちゃんから昨日聞いたのは?」

 

「早く白状した方が良いですよ?」

 

「ホントすみません許して下さい」

 

 

即堕ち2コマレベルだなこれ。昨日のつぐみの件に引き続き連日頭を下げる事になるとは思わなんだ。情報源はまさかのイヴだったか。まぁつぐみが誰彼構わず言いふらす様には見えないしな。かと言ってイヴもそういう性格では無いと思うけど。

 

 

 

「日菜はイヴになんて聞いたんだ?」

 

「宗輝が小さい女の子とデートしてたって聞いたよ!」

 

「ぶっ!!」

 

 

 

イヴさん他にも言い方あったでしょうよ。これは俺的にもアウトだけどチュチュ的にもアウトだな。アイツ小さいとか言うとすぐ怒るから。ソースは俺。

 

 

「本当なんですか?」

 

「女の子と居たのは本当ですけどデートじゃ無い!」

 

「じゃあ何してたの?」

 

「それはカクカクシカジカで」

 

 

 

という訳で日菜と紗夜さんにもRASの事を話すことになった。まぁここまできて隠す必要もないし。

 

 

 

 

「つまり、以前湊さんをスカウトしてきたバンドが今度は花園さんをスカウトしているということですね」

 

「概ねその通りです」

 

「じゃあ私がポピパ行こっか?」

 

「そういう問題じゃ無いんだよ日菜。それにおたえはあくまでもサポートギターって形だ」

 

 

 

やはり紗夜さんは話しやすくて助かる。日菜もうんうん頷きながら聞いてはいたがあんまり理解してなさそう。紗夜さんは頭抱えながら"貴方はまた厄介事に......"とか何とか言ってた。違うんです紗夜さん、厄介事の方から俺に近付いてくるんです。頼みますからトラブルメーカーとか言わないで下さい。

 

 

 

「日菜、そろそろ帰るわよ」

 

「えー、お姉ちゃんもう良いの?」

 

「今日のところは話を聞けただけでも良いわ」

 

「また何かあったら連絡します」

 

「当然よ。困ったら私でも日菜でも良いから相談しなさい」

 

 

 

改めて釘を刺されてしまった。まぁ最初から無茶するつもりは毛頭無かったけど。これで大体みんなには知られている事になる。つぐみからアフグロには伝わるだろうしRoseliaは紗夜さん、パスパレは既に知られてるし......ハロハピは言わなくてもどうせ黒服さん達が勝手に情報仕入れてくれるだろう。

 

 

 

「じゃあまた今度」

 

「じゃあね宗輝!」

 

「おう、帰り道気を付けてな」

 

 

「お姉ちゃん帰りにアイス買って帰ろうよ!」

 

「仕方ないわね、ついでにポテトも買って帰るわよ」

 

 

 

本当に仲の良い姉妹だこと。勿論俺と令香も負けてない。だって俺の方が令香にいっぱい買ってあげてるもんね!!べ、別にこれはお兄ちゃんとして当然の事なんだからね!勘違いしないでよね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題(気持ち悪いからやめよう)

 

 

 

 

さてさて、紗夜さんと日菜が帰って俺の部屋に平穏が戻ってきた訳だが何かを忘れている気がするのだ。そう、滅茶苦茶大切かと言われるとそうでは無いがある程度大切だった気がする何か。まぁ休日だし何とかなるだろ。

 

 

プルルルル

 

 

「あん?」

 

 

 

しかし、残念なタイミングで携帯に着信。最早嫌な気配しかしないが一応相手を確認するべきだろう。そっと手に取り画面を見てみる。

 

 

 

着信: Chu²

 

 

 

まさかまさかのチュチュからの着信。

 

 

 

「もしもし?」

 

『もしもし?じゃ無いわよ。貴方何してるの?』

 

「何って......家でゴロゴロ?」

 

 

 

何かチュチュさん怒ってらっしゃる?俺何か悪いことでもしたのかしら。昨日はメモもちゃんと取ったしやることやったと思うんだけどな。昨日帰ってからメモ見直して抜けも無かったの確認してるし......

 

 

 

『今日も打ち合わせあるって言ってなかった?』

 

「あ......」

 

 

 

あっれれー、おっかしいぞー?もう一度メモを見てみよう。......うんうん、ちゃんと書いてあるね。明日も近くのバーガーショップで打ち合わせって。しっかりと忘れないように赤いペンで大きめの字で。

 

 

 

『遅れたらどうなるか分かってるでしょうね』

 

「今すぐ行きます少々お待ちを!!」

 

Hurry up(急ぎなさい)

 

 

 

 

 

こんな感じで新人プロデューサーの斎藤宗輝の教育はまだまだ続きそうです。

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「今回のおまけのコーナーは燐子先輩とあこだ」

 

 

あこ「じゃじゃーん!我は大魔姫あこなるぞ!」

 

 

燐子「宗輝君、これは......?」

 

 

宗輝「適当にお話ししとけばokらしいですよ」

 

 

あこ「リラックスだよりんりん!」

 

 

燐子「そんな事言われても......」

 

 

宗輝「それじゃあNFOについてでも話しますか」

 

 

あこ「あぁ!そういえばあこレベルアップして新しいジョブになれるようになったよ!」

 

 

宗輝「ほーん、因みにどれ?」

 

 

あこ「D・ネクロマンサーって書いてた気がする!」

 

 

燐子「それはネクロマンサーの上級職だよあこちゃん」

 

 

宗輝「最近追加されたやつじゃないか?俺そんなの知らないし」

 

 

あこ「りんりん、前についてるDってなんなの?」

 

 

燐子「正式にはDisastar(ディザスター)って言って災悪って意味だよ」

 

 

あこ「D・ネクロマンサー(災悪なる死霊)......なんかカッコいい!!」

 

 

宗輝「良かったなあこ」

 

 

あこ「うん!りんりんのレベル上げも手伝ってあげる!」

 

 

燐子「あこちゃんありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

-End-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





・さよひなは国宝級だと思うの
・ついでにりんあこも国宝級
・みんなもどんどんつぐっていこうぜ

豪華三本立てでお送りしました


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Produce 50#ポピパな1日


祝50話という事でのんびりポピパ回。
改めて御愛読して頂いている方々に感謝を。

それでは、50話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

「沙綾疲れたー」

 

「子供っぽく言っても無駄だよ」

 

「高校生はまだ子供ですー」

 

「兄ちゃん遊ぼうぜ!」 「お兄ちゃん遊ぼ!」

 

「お?お兄ちゃん遊びなら容赦しないぞー」

 

 

 

この通り、連日のチュチュによるプロデューサー仮修行に疲れた俺は癒しを求めてやまぶきベーカリーへと足を運んでいた。最初はここでもバイトとして働いていたものの、最近では他があまりにも忙しいので休ませてもらっていたのだ。純や紗南とも会うのは久し振りな気がする。

 

 

 

「何やってんだよアイツ」

 

「宗輝君最近頑張ってたみたいだし......」

 

「それにしても子供過ぎんだろ」

 

「子供で悪かったな。なら子供な俺は有咲お姉ちゃんとも遊んでもらうとするか」

 

「ちょ、おま!沙綾助けてくれ!」

 

「いってらっしゃ〜い」

 

 

 

こうして何も考えずに自由に遊ぶのも久し振りだ。純や紗南ともご無沙汰だったし千紘さん達にも挨拶できたし大満足だ。

 

 

 

「香澄は何してるの?」

 

「パンで一曲作ろうと思って」スッ

 

「なら私も手伝う」スッ

 

『私の心はチョココロネ〜』

 

 

 

いや、それ君達が既に作った曲だからね。沙綾の隣でりみりんの顔がほんのり赤くなってるのを確認。相変わらずりみりん可愛い。ゆりさんが海外の大学に留学し始めた頃はどうなるかと思ったけど。まぁ俺としてもゆりさんにりみりんの事頼まれてたから何となく気にかけてはいたが杞憂に終わったな。

 

 

 

「今日はお兄ちゃんずっといるの?」

 

「今日は一日休みだからずっと遊べるな」

 

「やったー!」

 

 

 

紗南のこの純粋無垢な喜び様ときたら可愛らしい事この上ない。ああ......守りたい、この笑顔。純は少し恥ずかしいのか紗南の様にあからさまには喜ばない。しかし、男の子というのはそういう生き物だ。純よ、嬉しいのであればこの俺と遊び尽くしてもらおう。

 

 

「お姉ちゃんも一緒に遊ぼ!」

 

「せっかく会えたんだしお兄ちゃんと遊びなよ」

 

「お姉ちゃんも一緒が良い!」

 

「沙綾も遊ぼうぜ。こうやって遊ぶのも案外楽しいぞ」

 

「まぁ、ちょっとだけなら良いかな」

 

 

 

純と紗南に加えて俺と沙綾。一年前くらいまではこの四人で良く遊んだものだ。2年に進級してからは何かと忙しかったからなぁ。やれ友希那に色々付き合わされるわ日菜やひまり達に振り回されるわで改めて俺って凄いなって思う。別に変な意味じゃ無くて。極め付けは弦巻家のお嬢様の権力行使でプライベートビーチに行ったりミッシェルランドなる遊園地にご招待されたり。

 

 

 

あのなぁ......

 

「ん?」

 

「私の事忘れんなー!!」

 

 

 

やっべ、完全に有咲の事忘れてた。忘れられてご立腹な様子の有咲。なんだよ、そんなに俺と手を繋いでおままごとするのが楽しみだったのか。それならそうとはっきり言ってくれれば良かったのに。有咲も意外と子供らしいところあるんだな。一部は凶暴的なまでに男の子キラーなのに。

 

 

 

「はいはい、じゃあおままごとでもするか」

 

「じゃあさなはお兄ちゃんのおよめさん!」

 

「あー残念だ紗南、俺には有咲というお嫁さんが.....」

 

「ば、ばか!おま、何言ってんだよ!」ドゴォ

 

ちょ、有咲さん?そこ鳩尾......」バタッ

 

 

 

 

 

 

ここで俺の記憶は途切れていた。残念なのは俺のほうだったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「むーくん大丈夫かな?」

 

「有咲の力加減にもよるね」

 

 

 

 

夢とはなんだろう。世間一般的に言う夢とは何か深く考えた事はあるだろうか。古代から夢というのは神のお告げなのだという考え方が広く知られていたらしい。しかし、一方心理学的分野で考えてみると夢というものは無意識的にみる自身の願望だという説もある。

 

 

 

「別に私は悪くないだろ」

 

「でも有咲ちゃんが鳩尾を......」

 

「多分有咲はむっくんにお嫁さんって言われて恥ずかしかったんだね」

 

 

 

前に気になってWekipedia(通称:ウェキペディア)で調べたところ夢とははかないこと、と出てきて咄嗟に薫先輩の顔が出てきたときには焦った。どんどん俺の脳内をハロパピ勢が占拠していくのが分かる。その内脳内真っ黒になりそうで怖い。

 

 

 

「じゃあ有咲が起こしてあげないと!」

 

「起こすっつってもどうやれば良いんだよ」

 

「キスでもしてみる?」

 

 

 

先程からうっすらと聞こえているこの会話。果たして俺はこの状況で"ごめん、実は俺起きてたんだわ"と言うべきなのだろうか。キスとかいう単語が聞こえてきたのは間違いだろうか。昔からお姫様を眠りから覚ますのは王子様の口づけと相場は決まっているが、これは逆の立場になっても言えるのだろうか。もしそうだとしたら俺は頑固寝たふりを続けるぞ。

 

 

 

「キ、キス!?」

 

「じゃあ私がしよっか?むーくんには最近してないし!」

 

()()()してないんだね香澄ちゃん......」

 

 

 

このままでは香澄にキスされかねん。前にも聞いたがコイツ俺を起こす前にちょこっとキスすることがあったらしいからな。前科持ちのコイツにこの場は任せられん。

 

 

 

「じゃ、じゃあ......」

 

 

「......んぁ、イテテ、まだ痛むなこれ」

 

「ばっかおま......ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ほっぺたに何やら柔らかい感触アリ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有咲大胆だね」

 

「あはは、まさか本当にするとは思ってなかったよ」

 

 

 

 

 

Q.童貞の王子様がナイスバディの超絶可愛いお姫様にほっぺにキスされたら一体どうなるでしょうか?

 

 

 

 

 

「ぶはぁ!!」ブシュ-

 

「むーくん大丈夫?」

 

「大丈夫だ、問題ない......」

 

「むっくん鼻血出てるよ」

 

 

 

 

 

A.残りHPが1まで削られて鼻血が止まらなくなる

 

 

 

 

 

 

攻めには弱い宗輝であった。

 

 

 

 

 

 

~5分後~

 

 

 

 

 

「やっと止まったか」

 

「いきなり鼻血出して倒れるから驚いたよ」

 

「あれは有咲が悪い」

 

「何でまた私なんだよ!」

 

 

 

沙綾の手伝いもありなんとか治ってきた。丁度純や紗南がいない時で助かる。あんなのまだ刺激が強過ぎるからな。紗南が真似でもしたら大変な事になる。千紘さんからお叱りを受けるのは待った無しだろう。なんなら亘史さんにオーバーキルをくらう可能性もアリだ。

 

 

「香澄とおたえは?」

 

「あっちで純君と紗南ちゃんと遊んでるよ」

 

「りみりーん!有咲ー!一緒に遊ぼー!」

 

「ほら、お呼びだぞ有咲姫」

 

 

 

その後、少し強引にだが香澄とおたえに連れられてりみりんと有咲は渋々といった表情のまま二階へ。残ったのは俺と沙綾のみ。

 

 

 

「......夢を見てたんだ」

 

「どんな夢だったの?」

 

「俺がステージで歌ってたよ。朧げだけど覚えてる」

 

「宗輝が?なんか意外だね」

 

 

 

そう言ってふふっと笑う沙綾は夢で見た沙綾と同じだった。確かに意外かもしれない。だって俺なんて歌は人並みレベルだしギターだってベースだって俺より上手い奴なんてそこら辺にいる。それなのに俺がステージで歌ってるんだ。そりゃ誰だって意外だと思うだろう。

 

 

 

「それにりみりんがベース弾いてて有咲がキーボード弾いてた」

 

「え?」

 

「勿論沙綾もドラム叩いてたぞ」

 

 

 

俺はまだ一度もライブステージに立って演奏したことがない。でも、さっき見た夢では確かに立って歌ってた。今までは観客席やステージ横からしか見えなかったのに、さっきの夢はまた違った景色に見えた。楽しそうに演奏するりみりんや沙綾に案外ノリノリな有咲。

 

 

 

「そんでおたえと香澄のツインギター」

 

「まぁいつものことだね」

 

「......そして俺と香澄のツインボーカル」

 

 

 

楽しそうに笑顔で笑い合って演奏してる香澄とおたえを横目に俺が歌ってた。いつも側に居て時々うるさく感じながらも、既に俺の生活の一部となりつつある幼馴染の香澄と一緒に歌ってたんだ。

 

 

「夢みたいだなって思ったんだ」

 

「その夢見たんでしょ?」

 

「いや、そういう夢っていうかさ、そうなれたら良いなって事かな」

 

「なるほどね」

 

 

 

本当に夢が自分の無意識下での願望を具現化した物なのであれば。もしそうだったのなら、俺は......

 

 

 

「宗輝はどうしたいの?」

 

「......今は分からないな」

 

 

 

 

沙綾のこの質問にどう答えれば正解だったのだろうか。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜食った食った〜」

 

「お粗末様でした」

 

「美味しかったね」

 

 

 

店番を代わる代わる行ったり純や紗南の相手をしたりと、なんやかんやしてたら閉店時間。店の片付けを手伝ってたら夕飯のお誘いもあり全員で食卓を囲んだ。こんなに大人数での夕飯も久し振りだった。

 

 

「手伝うよ沙綾」

 

「うん、お願いね」

 

「香澄はお皿、おたえはコップとお箸」

 

『らじゃー!』

 

「有咲とりみりんは洗い物頼めるか?」

 

『分かった(うん)』

 

 

 

仮ではあるがマネージャー業やポピパのスケジュール管理、そして今日までのチュチュのプロデューサー修行のお陰かこういう事だけは上手になった気がする。俺の指示に従いせっせこ働くみんな。でもこれって俺がやる事なくね?

 

 

「手が余ってる宗輝にはお風呂掃除頼もうかな」

 

「了解、終わったらお湯も張っとくわ」

 

「ありがとね」

 

「さなも手伝う!」

 

「じゃあ紗南にもお願いするね」

 

 

 

俺はどうにも紗南に気に入られているらしい。まぁあれだけ遊べばこの歳の子だったらそうなる事もあるか。因みに純は食事中に香澄やおたえにちょっかい出されて部屋に篭ってしまった。思春期というやつだろうか、中々どうして可愛らしい悩みではないか。

 

 

 

兎にも角にも風呂場へ移動。頼まれたからにはしっかりと仕事をこなすのが斎藤流。"やるべき事は徹底的に"がウチのモットーだ。というかこの風呂場を毎日沙綾が使ってるんだな。......いかんいかん、紗南がいる前でなんて想像してるんだ俺は。

 

 

「んじゃ掃除するか」

 

「どうやってするの?」

 

「ん?それはだな......」  

 

 

 

プルルルルル

 

 

「お兄ちゃんでんわ!」

 

「こんな時間に誰からだ?」

 

 

 

まだ手が濡れてなくて助かった。ポケットに入れていた携帯を取り出して相手を確認する。明日香の名前が見えたので咄嗟に通話ボタンを押す。

 

 

「もしもし明日香?こんな時間にどうしたんだ」

 

『宗輝?今何処にいるの?』

 

「沙綾んちだけど」

 

『家に居ないと思ったらそんなところに......』

 

 

 

あ、既に俺が家に居ないことは確認済みだったのね。てっきり香澄あたりがそこら辺は伝えてると思ったんだけどな。

 

 

「そういう明日香は家なのか?」

 

『は?そんなわけないでしょ』

 

「あのー、明日香さん?もしかして怒ってらっしゃる?」

 

『違うよ......ちょっとお願いがあるんだけど』

 

 

違うとは言うが明らかにお怒りな明日香さん。明日香が怒ってるのも久し振り......ではないか。ちょくちょく香澄に対して毒吐いてるところ見るし。まぁそれは照れ隠しみたいな部分もあると思うけどな。これ明日香に言ったら多分俺に対して毒が回ってくるから注意。

 

 

「何だよ改まって」

 

『旭湯に来て欲しいの』

 

「旭湯って六花んちの?」

 

『そう、六花のおたんちんがバカだから番台立つの忘れてて』

 

「それで白羽の矢が明日香に立った訳だな」

 

 

 

でも何故に明日香?他に頼む人いるでしょうに。六花は明日香ちゃん大好きっ子だから仕方ないのか。またもや百合コンビが誕生してしまった。名前は......明日ロック?六花が特殊な名前だから中々良いのが思いつかん。名前もじって明日花とか?

 

 

「今から行くから待ってろ」

 

『お願い』

 

 

また面倒ごとから飛び込んできたな。やっぱ俺って巻き込まれ体質なのな。これで改めて実感したぞ。

 

 

「お兄ちゃんどこかいくの?」

 

「ごめんな紗南、ちょっとお仕事してくるな」

 

「おしごとがんばって!」

 

 

 

紗南のこの一言で俺は頑張れる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~旭湯ー

 

 

 

 

 

 

「よし、無事旭湯到着」

 

 

 

そう、無事旭湯に到着したまでは良い。

 

 

 

「銭湯なんか久し振り」

 

「有咲早く入ろうよー!」

 

「香澄引っ張んなー!」

 

 

 

何故コイツらまで来たんだ。別に俺が呼ばれただけなのに。純と紗南にはお留守番とか言ってたのに沙綾も何気に楽しそうな感じだし。

 

 

 

「取り敢えず用を済ませるか」

 

「宗輝君番台頑張ってね」

 

「おお、りみりんだけだ俺の味方は」

 

「むっくん頑張れ〜」

 

 

 

おたえは気持ちがこもってないからやり直しな。第一に何で俺が頑張って番台してるのにコイツらだけ銭湯入れるんだよ。おかしい、男女平等を俺は宣言する。元を辿れば六花が悪いらしいがそれはそれで別問題。明日香ちゃんが番台してくれたって良いのよ?

 

 

「嫌だよ、私もお風呂入りたいし」

 

「さいですか......」

 

 

という返しを頂きました。俺ばっかこんな目に合うのはおかしい!しかし、人生は何処かで釣り合いが取れるとも聞く。今はこの状況を甘んじて受け入れるとしよう。

 

 

 

「六花がもうすぐ来るからよろしくね」

 

「ほいほい」

 

「じゃあお風呂行ってくるむーくん!」

 

 

 

無邪気に手を振る香澄達を若干引きつった笑顔で送り出す。こんな時どう笑えば良いのかしら。......まぁ別に良いんだけどね!アイツらがこれで楽しければ俺は俺でグッジョブ!これ側から見ればとことん損する性格してるな俺。

 

 

 

「お待たせしました!」

 

「六花のおたんちん」

 

「えぇ!いきなり!?」

 

「嘘だよ、お疲れさん」

 

 

そうこうしてる内に六花が到着。六花の真似する明日香の真似をしてみる。案外六花は反応が良いのでイジリがいがあるな。......って別に変な意味じゃないからな。

 

 

 

「何すれば良いんだ?」

 

「番台と言っても立ってるだけで大丈夫です!」

 

「なら俺じゃなくても良くない?」

 

「すみません、他に頼める人が居なくて......」

 

 

 

どうやら六花は他にやらないといけない事があるらしく、丁度親戚の人も外に出払っていて頼める人が居なかったらしい。そこで明日香に頼んだわけだな。それが巡り巡って俺にきたと。なにこの運命的な感じ。

 

 

 

「一人お客さん来るまで一応見てますね」

 

「練習ってことか」

 

 

 

ここで俺の真の力が発揮される。やまぶきベーカリーを始め色々なところでこの1.2年は接してきたつもりだ。その中で様々なスキルも獲得している。NFOみたいにチート気味では無いが充分通用するレベルには到達してるはず。頑張れ宗輝、ここが正念場だ。

 

 

 

とか脳内で考えてる間にお客さんが来てしまった。とは言ったものの常連客のおじさんらしく、六花と少しお話しして足早に中に入ってしまった。

 

 

 

「名前書いとくか」

 

「はい、お願いします」

 

「ってあれ?丁度インク切れたか?」

 

「それなら裏の部屋にペンが......」

 

「俺が行くから良いよ、六花はやる事あるんだろ?」

 

 

 

この際だ、ペンの補充くらい任せてもらおう。その旨を伝えると六花は律儀にお辞儀を済ませて自分の部屋へと向かう。

 

 

 

「......何処にあるか聞き忘れたな」

 

 

 

裏の部屋って言ってたし......そう言えば裏の方にシャッターか何かあった気がするな。そこいけばあるかもしれん。そうと決まれば即行動だ。番台には少し札を立てておいて一旦外へ出る。横の道を通りシャッターがある場所へ到着。確認の為シャッターを開けてみたが鍵は掛かってなさそう。

 

 

 

「よいしょっと......裏の部屋だからこっちか?」

 

 

 

ドアが二つ。六花の言う裏の部屋というのが正しければ場所的にこっちのドアだろう。あまり番台に立ってないのも状況的にまずいのでささっと済ませよう。

 

 

ガチャ

 

 

「ペンは何処に......ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むーくん?」

 

「は?アイツがここにいる訳ないだろ」

 

「香澄ちゃん大丈夫?」

 

 

 

 

ペンを探しにきたら幼馴染を発見しました。それもバスタオルを一枚だけ羽織った姿の。しかも、奥の方から聞こえるのはもしかすると有咲やりみりんの声だったりするのだろうか。だとすれば相当ヤバイ状況かもしれん。

 

 

「本当だ、むっくんがいる」

 

「おたえまで何言ってんだよ」

 

 

香澄に引き続きおたえも発見。香澄と同じくバスタオル一枚だけ装備中。というかこの二人は何故恥ずかしがらないのか。もっとこう、テンプレ的な反応をするんじゃないの?俺は俺でこうやって冷静に考えてる暇は無いと思うけど。

 

 

「......宗輝何やってんの?」

 

「む、宗輝君?」

 

「もう疲れたから早く風呂入って......」

 

 

沙綾、りみりんと来て最後に有咲。もう有咲レベルになると逆にバスタオル一枚装備がえちえちな事になってるから。普段はツインテールの有咲も結んでる髪を下ろせば雰囲気が変わるってもんだ。

 

 

 

「ほら、むーくんいるでしょ?」

 

「......ッ!!」///

 

 

 

 

この状況下で俺が出来る事はただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

「何見てんだよ変態ッ!!」

 

「あべしっ!」

 

 

 

みなさん知っていますか?シャンプーの容器の角、あれって案外痛いんですよ。有咲が投げたシャンプーの容器が高校球児並みの豪速球で俺の頭にクリーンヒット。意識を手放すのはこれで本日二度目。勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

~旭湯広間~

 

 

 

 

 

「んぁ......痛ってぇ」

 

「......大丈夫か?」

 

 

 

今度は目を覚ますと有咲に膝枕されてました。ちょっとお山が大きくて有咲の可愛らしいお顔が見えてない。というか膝枕なんてご褒美貰っちゃっても良いの?

 

 

 

「何で膝枕してるんだ?」

 

「まぁ理由はどうあれ流石にやり過ぎたからな」

 

「いや、あれは確認しなかった俺にも非はある」

 

 

 

大体俺が確認せずにドアを開けたのが原因だ。香澄やおたえと違って有咲の反応が当たり前なのだ。ちょっと頭にたんこぶ出来てるけど仕方ないだろう。

 

 

 

「気を失ってる時に夢を見てたんだ」

 

「夢?」

 

「俺がステージで歌ってる夢だ」

 

 

 

心配すんな、俺は80歳も過ぎてアルツハイマー発症させてるお爺さんみたいな事はしない。人は違えど同じ内容を話すわけが無かろう。実際1回目の夢とは内容も違うし。

 

 

「お前が?想像できねーな」

 

「ギターは擬人化したオッちゃんが弾いてた」

 

「......は?擬人化?オッちゃん?」

 

「ベースは擬人化したチョココロネでキーボードは擬人化した利根川」

 

「利根川!?」

 

 

 

そう、有咲が丹精込めて育ててる盆栽の一つである利根川である。案外クール系なキャラで爽やかにキーボード弾いてたぞ。チョココロネはなんかねっとりと弾いてた。

 

 

「じゃ、じゃあドラムは?」

 

「ん?ドラムは擬人化したヘアアクセ達かな」

 

「ヘアアクセ!?しかも達って事は複数人!?」

 

 

 

一人一人がスティックを持って叩いてた。あれの方が難しいと思うんだけど。というか今の有咲はツッコミのキレが半端ないな。

 

 

「そんで最後に擬人化した星とツインボーカル」

 

「擬人化した星?......いや待てよ、それって正直香澄とそこまで変わらない気が......」

 

 

擬人化した星が香澄なのか、擬人化した香澄が星なのか。俺と有咲は少しの間香澄ゲシュタルト崩壊を引き起こしていた。

 

 

 

「今度のライブでやってみるか」

 

「絶対やんねーかんな!」

 

 

「あれ?もう元気になったんだ宗輝」

 

「むーくん大丈夫だった?」

 

 

 

沙綾や香澄達の帰還により何とかゲシュタルト崩壊から抜け出した俺と有咲。しばらく星の事については考えたくない。有咲も同じような顔してる。

 

 

「有咲に膝枕してもらったから元気100倍だ」

 

「なら私もしてもらう〜!」

 

「あー!暑苦しいから離れろ香澄ぃ!」

 

「はいはい、みんな帰るよ」

 

 

 

その後、コーヒー牛乳と共にチョココロネを食べてるりみりんやおたえと合流して帰宅。りみりんが何処からチョココロネを持ってきたのかは不思議だがもう触れないでおこう。

 

 

 

 

「今日も楽しかったね!」

 

「まぁ偶には良いかもな」

 

 

 

 

 

こうして俺とポピパの一日は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「今回のおまけのコーナー」

 

 

宗輝「ゲストはりみりん&沙綾だ」

 

 

りみりん「これってどうすればいいの?」

 

 

沙綾「んー、私も分かんないかな」

 

 

宗輝「まぁ適当に寛いでくれ」

 

 

沙綾「はい、チョココロネだよりみりん」

 

 

りみりん「わぁ!ありがとう沙綾ちゃん!」ハムハム

 

 

宗輝「何処に隠し持ってたんだよ」

 

 

沙綾「パン屋の娘だからね〜」

 

 

宗輝「若干、というか答えになってないけどな」

 

 

りみりん「沙綾ちゃんちのチョココロネおいひい」

 

 

沙綾「今度チョココロネで新作作る予定なんだよね」

 

 

宗輝「ほーん、因みにどんなの?」

 

 

沙綾「それはお楽しみって事で」

 

 

りみりん「楽しみに待ってるね!」モグモグ

 

 

宗輝「どうあってもチョココロネは食べ続けるんだな」

 

 

 

 

 

 

-End-

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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Produce 51#動き始める刻


新年明けましておめでとうございます。
年末年始バタバタしてて更新遅れてしまい申し訳ない。
これからは平常運転で行くので宜しくです。


それでは、51話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

「むーくん起きろー!」

 

「あと5分......」

 

「寝たら死ぬぞー!」

 

「物騒だなそれは......」

 

 

 

かれこれこんな感じのやり取りを体感5分程度。俺のおはようからおやすみまでは香澄が管理しているらしい。某メーカーでもこんなに密着してくれないのに困ったものだ。

 

 

 

「むーくんむーくん」

 

「今度は何だよ......ふわぁ、くそねみぃ」

 

「学校どうするの?」

 

「行くに決まってるだろ」

 

「はい!携帯!」

 

 

 

布団を勢い良く剥がして充電器に接続したままの携帯を渡される。ここまで持ってきたら充電器の届く範囲ギリギリだからやめろって前にも言ったのに。俺この充電器しか持ってないからね?

 

 

 

「というか今何時?」

 

「んー、7時30分?」

 

「何で疑問形なんだよ」

 

 

 

パッと見てみると大体合ってた。入学した当初なら焦っていた時間だろう。しかし、既に登校にかかるおおよその時間は把握済み。

 

 

 

「これギリギリだな」

 

「むーくん早く準備!」

 

 

 

 

 

登校時間ギリギリ過ぎて紗夜さんに叱られました。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

朝は紗夜さんにこってり叱られた後、全校集会があるとか何とかで体育館に集合。ウチの担任また連絡するの忘れてやがったな。これで何度目か分からないのだから厄介。

 

 

 

「おはよ」

 

「ん、美咲おはよ」

 

 

 

俺と同じ様に眠そうな顔をした美咲。俺の中で美咲はダウナー系美少女に分類されている。なんか美咲ってジャージが似合うと思いません?

 

 

 

「ちゃんと寝てんのか?」

 

「私はいつもこんな感じでしょ?」

 

「確かに......じゃあいつも通りだ」

 

「それはそれでどうなのって感じだけどね」

 

 

 

ふむふむ、やはり美咲と話してると落ち着く。まぁ香澄達もそうなんだけど変な気を使わなくて済むから楽なんだよな。俺基本的にあんまり人と接するの自体好きじゃないから、クラスのモブ子ちゃん達と話す時ちょっと気を使わないといけないから面倒なのよね。そういった点では美咲最強説出てるぞ。

 

 

 

「そういえばこころがまた宗輝と一緒にお茶会したいって言ってた」

 

「んー、ちょっと今は厳しいな」

 

「だろうね」

 

「美咲知ってんのか?」

 

「いや、最近見てたら忙しそうだなって思っただけ」

 

 

 

こういう人間観察というか何というか、そういう点に関しても美咲は鋭い。頭も回るしミッシェルだし可愛いし。なに、美咲ちゃんもしかして主人公説?

 

 

「失礼な事考えてない?」

 

「とんでもございません」

 

「でも出来るだけこころとは会ってあげなよ」

 

「そのつもりなんだけどな」

 

 

 

なんていったって最近は忙し過ぎる!!ポピパの練習にRASの練習。チュチュに連れられてのライブ関連のお仕事にプロデューサーについての勉強。やっとこさ休みかと思いきや香澄達と一日遊んで潰れるしで時間が取れない!楽しくないって訳では無い。今なら神様にお願い事をするなら時間を下さいってお願いするかも。いや待てよ、その判断は早計ではないか斎藤宗輝よ。他にももっと有咲や燐子先輩、更にはひまりに......ぐへへへ。

 

 

 

「宗輝気持ち悪い顔してるよ」

 

「すまんちょっと悪魔と戦ってた」

 

「まぁ頑張んなよ」

 

 

 

 

驚くことなかれ、ここまでが全校集会始まるまでの流れだ。校長先生の話が始まるまでが長過ぎる。これで校長先生の話まで長かったら倒れるぞ。俺じゃなくて美咲が。

 

 

 

『おはようございます』

 

 

 

やっとこさ校長先生が登壇して話を進める。しかし、案外話は早く終わってしまい、今度は生徒会長からのお話となった。勿論、ここ花咲川の生徒会長は燐子先輩。

 

 

 

「お、おはようございます」

 

 

(女神さまぁ〜)

 

 

 

そんな声が聞こえてくる様な気がする。主に数少ない男子共から。燐子先輩は内気で人前に出るのが恥ずかしい性格を何とかしようと生徒会長になったらしい。前生徒会長に押し付けられたとの話もあるが今は置いておこう。そんな燐子先輩が頑張って登壇して話してるんだ。真剣に話を聞くのが筋ってもんだ。

 

 

 

「今日は皆さんに、一つお知らせがあります......」

 

 

 

燐子先輩頑張れ。俺は心の中で思いっきり叫びながら応援してますよ。

 

 

 

「異例ではありますが、今年の体育祭と文化祭は......」

 

 

 

体育祭と文化祭は?

 

 

 

 

「羽丘学園と......合同で行います」

 

 

 

 

体育館のステージ横で頭を抱えている紗夜さんを発見。そこから紐解かれる答え。真実はいつも一つ。俺は死神なんかじゃないから安心してね。

 

 

 

「日菜の奴やりやがったな......」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「羽丘と合同で体育祭と文化祭かぁ」

 

「誰の仕業か予想つくけどな」

 

「これであっちゃんと一緒だね!」

 

 

 

若干話が噛み合ってない奴が一名いるが無視。時計の針は12を過ぎた頃。中庭でいつも通り昼食をとっている。前々から日菜が何かしてるのは聞いてたけど、まさか体育祭と文化祭を合同でやるとはな。というか体育祭を合同でってどういうことよ。文化祭とかならまだ理解できるけども。

 

 

 

「時期的にライブと重ならなくて良かったね」

 

「とは言ってもギリギリだからな」

 

 

 

おたえがサポートギターとして出演するRASのライブが数週間後。燐子先輩から聞いた体育祭と文化祭の合同イベントが約1ヶ月半後。日程的にはギリギリでダブルブッキングにならなくて助かった。

 

 

 

「おたえ練習の方はどう?」

 

「良い感じだよ」

 

「俺も見てるけどあのレベルについていけるのは凄いな」

 

 

 

兎にも角にも目先の目標はRASのライブを成功させることだ。今回のライブはいつもより多くの注目が集まるらしい。というのもチュチュが色んなところへ声がけしてるっていうのが理由だけどな。

 

 

 

「でも......まだまだ足りない」

 

「なら練習あるのみだな」

 

「その為にも有咲のお弁当の玉子は貰う」

 

「はぁ!?意味わかんねーよ!」

 

 

 

ここからは例の如くお弁当の取り合い。我先にと言わんばかりに有咲のお弁当へ手を伸ばすおたえ、と俺と香澄。それに隠れて沙綾も狙っているのを俺は知っている。だからここは裏をかいて沙綾のお弁当から頂くとするか。

 

 

「有咲の玉子もーらい」

 

「あぁ!香澄は2倍返しで寄越せ!」

 

「しょうがないなぁ、じゃあ私の好きな白ご飯を2倍返しであげる!」

 

「いらねぇ!」

 

 

こっそり、こっそりと近付いて沙綾のお弁当の中にある唐揚げを狙う。獅子はウサギを一匹狩るのでも全力を尽くすと言われている。俺は獅子だ、そのイメージを強く持て斎藤。沙綾のお弁当をウサギに見立てて......そこだぁぁ!!

 

 

 

「はい、バレバレ」

 

「あれ?」スカッ

 

 

俺の繰り出した箸技が虚しく空を切る。箸技って何だよ。自分で言っててわけわからんわ。

 

 

「宗輝は罰として玉子を渡すこと」

 

「くっ!!これが世に聞く絶対山吹王政だと言うのか!?」

 

「そんなものはありませーん」パクッ

 

 

令香特製の愛情たっぷり玉子が食べられてしまった。前に俺が弁当作ってきた時も俺の作った玉子よりも令香の方が美味しいと言われてしまった。

 

 

 

「やっぱり美味しいねこれ、りみりんも貰ったら?」

 

「私はこれあるから良いよ」

 

「んー、ならチョココロネと交換は?」

 

「......一口だけなら」

 

 

 

どんどん弁当箱の中から玉子のみが蹂躙されていく。取り残された可哀想なご飯と他のおかず達。俺にはコイツらが訴えかけてきている様にも見える。任せておけ、お前達は俺が責任を持って食してやる。安心していけ。

 

 

 

「ならサービスだ。はい、あーん」

 

「あ、あーん」パクッ

 

「どうだ?」

 

「すっごく美味しいよ」

 

 

 

良かったな玉子、お前はこのりみりんの笑顔の糧となれたのだ。間接的に令香のお陰とも言える。やはり俺の可愛い妹が最強だということが判明。勝てる奴ウェルカムカモーン!

 

 

 

「じゃあ......あーん」

 

「あーん」

 

「どう?」

 

「美味しいに決まってるだろ、ありがとなりみりん」

 

 

 

何だこの甘い空間。食べさせ合いっことかリア充かよ。こんなことリア充はしょっちゅうしてるんだろ?リア充のパイセン達マジパネェっすわ。

 

 

 

 

「あ......か、間接キス」///

 

「ぶはぁ!」ブシュ-

 

「むーくん大丈夫?」

 

 

 

 

りみりん の ひっさつわざ!

 

 

これで いちコロネ!

 

 

むねき には こうかばつぐんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~放課後~

 

 

 

 

 

 

キ-ンコ-ン

 

 

 

 

様々なバトルが繰り広げられたお昼休みを潜り抜け、なんとか5.6時間目の午後の授業を終えた。マジで移動教室だけは許さん。5時間目の物理の授業と6時間目の音楽の授業の教室が真反対とか悪意しかねぇだろ。おまけに物理の先生はクセが強いときてる。移動中もずっと香澄に話しかけられてるし休む暇は勿論無い。こういうところも流石は花咲川といったところなのだろうか。

 

 

 

 

「むーくん帰ろ!」

 

「ん、取り敢えず有咲とか呼んでこいよ」

 

「らじゃー!」

 

 

 

 

 

周りを見てみると既に帰る準備をしている子がいたり部活の準備をしている子もいたりして少し騒がしい。部活の準備は部室に行ってしてほしいものだ。時々女の子達が教室で着替えることがあるらしいので俺はさっさと出てしまおう。冤罪かけられたくないしな。

 

 

 

 

ラ-ラ-ラ-ラ-♪

 

 

 

「ん、この時間に誰だ」

 

 

 

最近変えた着信音が鳴り響く。この時間って言ってもまだ放課後になったばかりだからな。もう少し聞いていたかったが留守電になるのも嫌なので着信相手を見て通話ボタンを押す。

 

 

 

 

「さんしゃいーん」

 

『牛乳は温めますか〜?』

 

「常温でお願いします」

 

『かしこ〜』

 

 

 

いきなり何が始まったのか分からないだろうが俺もいまいち良く分からない。通話相手は言わずもがな青葉モカちゃんである。まさか俺のフリを返してくるとは思わなかった。というか電話の一言目さんしゃいんで返しが牛乳温めますかってカオス過ぎるだろ。

 

 

 

 

「今日は何の用事だ」

 

『つぐったつぐからつぐりましたぞ〜』

 

「何言ってるか分からんから代われ」

 

『らじゃ〜』

 

 

 

会話進まんからモカちゃんは退場頂こう。

 

 

 

 

『......もしもし宗輝?』

 

「その声は蘭?珍しいなお前が出るなんて」

 

『それはほっといてよ』

 

 

 

 

てっきり俺はひまりが出るとばかり思ってたぞ。それか状況判断できる巴とか。電話の奥の方で声は小さいけどつぐみとモカが話してるから三人に予想は絞れたんだけど外れたな。

 

 

 

 

「それで何の用事だ?」

 

『隠れて何やってんの?』

 

「別に隠れてるつもりは無かったんだけどな」

 

『小さい子と遊んでたってつぐみから聞いたよ』

 

 

 

つぐみさん誤解を生むような伝え方わざとしてません?

 

 

 

 

「遊んでた訳でも無いぞ」

 

『小さい子の部分は否定しないんだね』

 

「まぁな」

 

『今から羽丘に来て』

 

「え、今から?」

 

『来て』

 

「はい」

 

 

 

 

蘭もちょっと怒り気味だったな。巴とひまりは話してないから分からんが大丈夫だろ。モカは案の定いつも通りだったし。心配してくれてるのはありがたいんだけどな。

 

 

 

「むーくん呼んできたよ!」

 

「悪い今日は先に帰っててくれ」

 

「何かあるの?」

 

「羽丘に用事、気を付けてな」

 

 

 

そのまま香澄達の返事を待つこと無く鞄を持って羽丘へと向かった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「案外近くはないんだよなぁ」

 

 

 

のろのろと歩いて向かう訳にもいかず、駅からも少し急いで羽丘へ。校門が見えた時には既に息が少し上がっていた。俺ジムとか通って体力つけた方が良いかも。最近食事の量も増えてきたし色々と動いてるとはいえ基本家ではゴロゴロしてるし。

 

 

 

 

「太りたくねぇなぁ......」

 

「誰が太ったって?」

 

「うおっ!!......ってリサかよ」ハァ

 

「ごめんごめん、驚いた?」

 

 

 

 

時折リサはこうやって俺に悪戯してくるのだ。その時のリサがこれまた可愛らしいので俺としちゃ全然気にしてない。むしろそんなリサを見たいが為にわざと悪戯に引っかかった事もあるくらいだ。今回のはマジでビックリしたけど。

 

 

 

「そりゃ後ろからいきなりはな」

 

「宗輝が見えたからつい声かけちゃった」

 

「ちょっと用事があって羽丘までな」

 

「ひょっとして友希那?」

 

「残念、今日は蘭達に呼ばれてるんだよ」

 

 

 

こうやって何気なく話しながら羽丘の中へと進んでいく。世間話やらRoseliaの話やらをしながらも目的地へ。どうやらRoseliaも最近頑張っているらしい。

 

 

 

「コーヒー飲めるよな?」

 

「うん。でもどうして?」

 

「ちょっとした差し入れ、ほれ」

 

 

 

校内に設置されてある自販機でブラックコーヒーとデタラメに甘いコーヒーを1本ずつ購入。最近自販機で飲み物買う事多くない?その全てのお金が俺の財布から出てるのも驚くべき点である。

 

 

 

「ありがと......これもしかして友希那の?」

 

「俺からってのは秘密な」

 

「ん、分かった」

 

「なら俺は蘭達のところ行ってくるな」

 

 

 

 

 

そのまま自販機でリサとはお別れ。短い時間だったがリサと話せて凄く気が楽になった。何かと俺も俺の気がつかないところで疲れてたのかもしれない。聞けばリサはNFOではヒーラーをやったとかなんとか。リアルでもその役割を果たすとは流石はリサだな。

 

 

 

「......お詫びで蘭達にも買ったら良かったかもなぁ」

 

 

 

 

今更ながら場所を聞いてない事を思い出したわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~屋上~

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「スゴイ!蘭の予想が当たった!!」

 

「蘭に賭けたモカちゃんの勝ちですな〜」

 

 

 

 

正直に言うと俺は屋上に辿り着くまでまぁまぁ外した。俺の方が予想する力は低かったらしい。普通教室とかじゃない君達?

 

 

 

「今度から場所くらい言ってくれ」

 

「それは悪かったよ」

 

「蘭も電話切ってから気付いたみたいでさ」

 

 

 

なんだそれ、可愛いから許す。

 

 

 

 

「詳しく聞かせて」

 

「つぐみはどこまで話したんだ?」

 

「どこまでって......あの時の事しか話してないよ」

 

「りょーかい」

 

 

 

 

取り敢えず誤解を解くことから始めましょうか。小さい子と遊んでたとか高校生でもちょっとアブないからな。まだ親戚の子とかなら分かるけど。というか小さい小さい言ってたらアイツ怒るからやめとこう。

 

 

 

それからはRASの事、ポピパの事、おたえの事を全て包み隠さず蘭達5人には話した。別に隠す理由も無いし、何よりあの時にもう間違えないって誓ったからな。

 

 

 

 

「まぁこんな状況だ」

 

「アンタはどう思ってんの?」

 

「んー、今は出来る事をやるって感じ」

 

「......」モグモグ

 

 

 

俺がここで焦って何かやろうとしても失敗するだけだと思うしな。それにまだ誰にも言ってないが策は考えてある。それでもおたえが自分自身の意思でRASにいきたいと思ったのなら、それはそれで受け入れるべき答えなのだと思う。

 

 

 

「......でも本気で抜けたいって思ったらどうするの?」

 

「ちょ!!蘭何言ってるの!?」

 

「いや、良いんだよひまり。蘭の言ってる事だって可能性としてはまだ充分過ぎるほどありえる話だからな」

 

 

 

ひまりの様子を見るに俺に遠慮していたのだろうか、それとも現実から目を背けたかったのか。どっちにせよ気にかけてくれていることだけは分かった。それでも蘭は話を切り出してくれた。多分前みたいにならないように蘭なりに考えたんだろう。

 

 

 

「正直、俺はおたえがそう言ったのなら受け入れるべきだと思ってる」

 

「本気なのか?」

 

「俺らがそこで駄々こねてどうするんだよ。最悪雰囲気悪くなってポピパ自体無くなるぞ」

 

「それはそうだけど......」

 

「......」モグモグ

 

 

 

最悪の場合、なんて言ってしまったがそんなことにさせる気は毛頭ない。さっき言ったように作戦は練ってある。しかし、俺の作戦の一番の肝はおたえなんだ。おたえ次第でどうにでも転がるんだからな。

 

 

 

「でもな、これだけはハッキリ言える」

 

「......」モグモグ

 

「ポピパはあの5人じゃないとダメだってことだ」

 

 

 

 

アフグロが蘭達5人じゃないといつも通りじゃない様に、ポピパだってあの5人じゃないとダメなんだと思う。香澄の言葉を借りるとすればキラキラドキドキ出来ないって感じかね。勿論、それはパスパレやハロパピ、Roseliaなんかにも当てはまる。

 

 

 

「それ聞いてちょっと安心したよ」

 

「だな」

 

「うん」

 

「エモ〜い」

 

「えぇ!?私だけ分かってない感じ!?」

 

 

 

こういうのもこの5人じゃないと多分無理。だからこそ、俺は安心して自分の事をやってられる。

 

 

 

「モカは分かったの!?」

 

「ばっちぐ〜」グッ

 

「そんなぁ!!」

 

「ひーちゃんひまってるね〜」

 

「モカぁ!」

 

 

 

ということで一件落着。

 

 

 

 

「じゃあこの話は終わり。次にキスの話だけど」

 

「.......キス?魚の方?」

 

「つぐとキスしてたのもバレてるから」

 

 

 

全然一件落着してなかった。むしろ炎上気味だよねコレ。しかもまた曲解して伝わってるし。

 

 

 

「待てい、それはどこ情報だ」

 

「彩先輩だよ」

「リサ先輩〜」

「あこ」

 

 

「もう勘弁しなよ」

 

 

 

おかしい、完全に俺の情報が何処からか漏れてやがる。プライバシーどこいったよ。ひまりは彩って事はバイト先、つまりはパスパレにバレてる。モカがリサって事は同じくバイト先でRoseliaにもバレてる。ついでに巴があこときてるし。

 

 

 

 

......待てよ、あの日あそこに居たのは何もつぐみだけじゃ無かったはず。最初の接客から姿が見えなかったイヴ。イヴ→パスパレ→日菜から紗夜さん→Roseliaへ。完全にこのルートだな。というか前にイヴから聞いたって日菜も言ってたっけ。おのれ、許すまじブシドー。

 

 

 

 

「正座」

 

「はい」

 

「つぐも正座だよ」

 

 

 

蘭に言われて俺とつぐみは屋上で二人正座。その前に蘭達4人。これから俺とつぐみは裁かれるのだろうか。俺悪くないと思うんだけど。

 

 

 

「まず事実確認。本当にしたの?」

 

「......ほっぺにしました」

 

 

 

つぐみが何故に敬語なのかは分からないが、きっと反省の意味も込めてだろう。というか蘭が怒ると幼馴染のコイツらでも怖いからな。俺なんか特に怖い。

 

 

 

「ほっぺって事はつぐから?」

 

「......はい」

 

「待て、つぐみは悪くない。あれは俺が転んだから」

 

『アンタ(宗輝)は黙ってて』

 

「あ、はい、すんません」

 

 

 

ふえぇ......女の子怖いよぉ。

 

 

 

「そもそもの話何でやったんだ?」

 

「それは......その......」

 

「つぐ」

 

「......私がしたかったから?」

 

 

 

ふえぇ......つぐみが可愛いよぉ。

 

 

 

「そんなの理由になってない」

 

「そーだよつぐ!」

 

「そんなこと言われたって......」

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでよ!」バン!

 

 

 

 

 

 

 

 

「湊さん?何でこんな時間に屋上に来たんですか」

 

 

 

 

 

 

ふえぇ......友希那が来てくれたよぉ。.......って友希那!?確かアイツら今日も練習ってさっきリサから聞いたはずなんだけど?しかしナイスタイミングな事に間違いはない。

 

 

 

「事情は把握してるわ。勘違いをしてるのよ美竹さん」

 

「そんなことないです。というかこれは私達の話なので湊さんは入ってこないでください」

 

「却下するわ。それに、これは貴女達だけの話ではないもの」

 

「......どういう意味ですか?」

 

 

 

俺やその他4人を置いて二人だけで話を進める蘭と友希那。相変わらずモカは俺の方見て笑ってるし。さっきからつぐやひまりもソワソワしてるし。巴だけ何食わぬ顔で見てる。かくいう俺はそろそろ足が痺れてきました。そろそろ正座やめても良いかしら。

 

 

 

「これは私達全員の闘いということよ」

 

「意味が分かりませんね」

 

「あら、じゃあ別に美竹さんは闘わなくても良いわ」

 

「んなっ!!」

 

 

「なんかヒートアップしてきたね」

 

「止めなくて良いのか?」

 

「これもいつも通りだよねぇ〜」

 

 

 

蘭と友希那がヒートアップしていくに連れて、周りの俺たちは逆に冷静になっていくという不思議な現象。確かにモカの言う通りいつものことだとは思うけど。けど俺も友希那の言ってる事はさっぱり分からん。

 

 

 

 

「......文化祭

 

「何かしら」

 

「だったら合同文化祭で対決してもらいます」

 

「ら、蘭本気なの!?」

 

「私は本気だよ」

 

 

 

とうとう引き戻すことが出来なくなってしまいました。蘭とか友希那は熱くなり過ぎるとこうなるからなぁ。こういうのってポイント・オブ・ノーリターンって言うらしいよ。何かカッコいいよね。

 

 

 

「対バンライブということなら乗るわ」

 

「採点はどれだけ盛り上がったかで1点」

 

「各バンドで1点ずつ」

 

「そして最後に......」

 

『宗輝の1点』

 

「......俺?」

 

 

 

 

まためんどくさい事から転がり込んできた。紗夜さん、貴女のバンドのリーダーが無茶言ってますよ。今回は俺悪くないですからね。

 

 

 

「これで対決ね」

 

「後から後悔しないで下さいよ」

 

「俺の独断と偏見になるけど良いのか?」

 

『むしろ望むところ(よ)』

 

 

 

本当にこういうところだけは息ピッタリ。なんだかんだ言ってこの二人は仲良い説が出てたくらいだからな。

 

 

 

「じゃあ私達は練習するので」

 

「ちょ、蘭待ってよ!」

 

「むっくんまたね〜」

 

 

 

話が終わり次第蘭達は練習をすると言って帰ってしまった。ほんのり夕焼けが出始めた羽丘の屋上に俺と友希那が二人。

 

 

 

 

「......何であんなに挑発する様な言い方したんだよ」

 

「何のことかしら」

 

「というか練習はどうしたんだ」

 

「コーヒーありがとう、美味しかったわ」

 

「何のことか分からんな」

 

「いつも買ってるやつと少し違うしリサの反応見てすぐ分かったわよ」

 

 

 

思い出したぞ、リサは友希那の前では少しポンコツになる時があるんだった。これだからガチ姉とか言われるんだよ。少しはそういうところも鍛えないと友希那にその内バレると思うぞ。

 

 

 

「でも紗夜さんとか大丈夫なのか?」

 

「既に許可は貰ってるわ」

 

「準備がよろしいことで」

 

「貴方こそ大丈夫なの?」

 

 

 

別に俺がする事と言ったらライブの採点くらいだから大丈夫じゃないの?その他にやる事ある?

 

 

 

「採点だけだよな?」

 

「対バンライブの話ではないわ。RASの話よ」

 

「俺友希那に話したっけ?」

 

「さっき聞いたわ」

 

 

 

てことは最初から居たのね。

 

 

 

「聞いてたんなら分かるだろ」

 

「貴方の事だから何か考えがあるのでしょうけど......」

 

「心配してくれてんのか?」

 

「......少し」

 

 

 

友希那辞典で検索。この時の友希那の場合の少しは凄い心配してくれてるって書いてる。著.今井リサのこの辞典のことだ、絶対に間違いないだろう。まぁ普通に考えても友希那が心配してるなんて面と向かって言ってくれることないもんな。

 

 

 

「ありがとな。でもこっちは何とか出来そうだから友希那は対バンライブ頑張れ」

 

「分かったわ、絶対に美竹さんには勝ってみせる」

 

「おう、応援してるからな」

 

 

 

 

それから友希那も練習と言ってCiRCLEに向かい、俺は俺で今日はポピパの練習に付き合う事になっていたので有咲んちの蔵へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~蔵~

 

 

 

 

 

 

「すまん遅くなった」

 

 

 

有咲の家に着き有咲のお婆ちゃんと少しお話ししてから蔵へ。もう既に周りは暗くなっており照明がつき始めた時間だった。

 

 

 

「しーっ」

 

「ん......あぁ、そういうことね」

 

 

 

香澄が慌てて人差し指を立てて"静かに"の合図を送る。何事かと思い部屋の中を見渡すと、沙綾に膝枕をしてもらいながら気持ちよさそうに眠るおたえを発見。おたえって良く蔵で寝てるイメージあるわ。

 

 

 

「宗輝君お疲れ様」

 

「ありがとりみりん」

 

「こんな遅くまで何やってたんだよ」

 

「気になる?」

 

「別に」

 

 

 

有咲から聞いてきたのに酷い仕打ちだ。友希那辞典同様、今度は有咲辞典でも香澄に作ってもらうとするか。

 

 

 

「対バンライブするんだとよ」

 

「RASが?」

 

「いんや、蘭達と友希那達が今度の合同文化祭使ってな」

 

「まーた宗輝がいらないことしてるんじゃないの?」

 

「失礼な、今回に限っては何もしてないぞ」

 

 

 

そう、今回に限って言えば俺は何も悪くないからな。

 

 

 

「私達もライブやりたい!」

 

「バカ、おたえが起きちまうだろ」

 

「ごめんごめん」エヘヘ

 

「......ぽぴぱぁ

 

 

 

 

俺としてもそろそろライブしたいとは思ってたところだ。しかしだな、ただでさえRASのライブがあって更には対バンライブだ。そこでポピパもするとなると負担がデカ過ぎる。未だ顔を出してきてないこころ達や彩達も気になるしな。日菜のお陰で退屈しそうにない体育祭と文化祭になりそうな予感だ。

 

 

 

「......ライブしてみるか?」

 

「本当に良いのむーくん!?」

 

「まぁ今年は例年と違って開催時期も内容も全然違うからな」

 

「でも宗輝の負担大きすぎない?」

 

「RASに対バン、それに私達となったらキツイぞ」

 

 

 

沙綾や有咲の言う通り、対バンライブ関係でもやる事あるんなら身体一つじゃ持たない可能性アリだ。

 

 

 

「俺はどうせならそこにハロパピとパスパレも入れてみたいけどな」

 

「正気かお前?」

 

「考えてもみろ有咲」

 

「何をだよ」

 

「俺らはまだ二年生で来年もチャンスはある。だけど彩や花音先輩達は高校最後の文化祭なんだぞ?」

 

 

 

もし俺が三年生で仲の良い奴らとか幼馴染とかでバンド組んでたとしたら是が非でも出ると思うし。小、中学校とそんな楽しい思い出を作ることが出来なかった俺の分まで楽しんでほしいというのが心の底での想いだったりもする。

 

 

 

「それなら私達は見るだけでも良いんじゃない?」

 

「それはダメだ」

 

「何で?」

 

「みんなで思い出を作りたいんだ。ポピパ......というか俺は一人でも抜けて欲しくはない」

 

「むーくん......」

 

 

 

この際だ、もう思いっきり派手な事したり楽しい事をやり尽くしたい。もしかしたらそういう意味で日菜は合同にしたのかもしれない。だとしたら日菜には感謝だな。

 

 

 

「何か辛気臭い話になっちゃったな」

 

「いや、宗輝の想いはちゃんと伝わったよ」

 

「うん、私も出来るだけお手伝いするよ」

 

「まぁ......そういう事なら」

 

 

 

 

これで万事解決だな。というかここにきてから滅茶苦茶眠い。おたえを見ているからなのだろうか。未だ気持ちよさそうに眠っている。

 

 

 

「香澄、ちょっとここ座れ」

 

「どしたの?」ヒョイ

 

「そのまま動くなよ」

 

 

 

おたえが沙綾の膝枕なら俺は香澄で我慢してやろう。小さい時は......というか今でも普通に俺が膝枕してやってるし。こんな時くらい俺がしてもらう側になっても良いだろう。

 

 

 

「......何やってんのお前」

 

「見ての通り膝枕」

 

「いやそういう意味で言ってねぇ」

 

「有咲もやったげようか?」

 

「そういう意味でもねぇよ!」

 

 

 

有咲と香澄のやり取りを微笑ましく見ている沙綾とりみりん。そしてぐっすり眠るおたえ。あぁ......俺もそろそろお迎えが来たみたいだ。......有咲が一人、有咲が二人。

 

 

 

 

「......」zzz

 

「おい、聞いてんのかー?」

 

「宗輝君もう寝てる?」

 

「有咲起こしちゃダメだよ」

 

「寝るの早くね?」

 

「多分疲れてたんだよ」

 

 

 

 

 

 

「おやすみ、むーくん」

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continuedー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「新年一発目のおまけコーナー」

 

 

宗輝「ゲストは友希那&リサだ」

 

 

友希那「明けましておめでとう」

 

 

リサ「みんな今年もヨロシクねー☆」

 

 

宗輝「友希那っていつもあのコーヒーじゃないのか?」

 

 

友希那「良く似ているけど違うわ」

 

 

リサ「バレちった☆」テヘペロ

 

 

宗輝「大体リサもリサで下手なんだよ」

 

 

リサ「流石に違うの買ってきたらバレると思うけど」

 

 

宗輝「気付いてたんなら教えてくれよ」

 

 

友希那「宗輝もまだまだということね」フフン

 

 

宗輝「じゃあもう買ってやらん」

 

 

友希那「リサがいるから良いわ」

 

 

リサ「友希那ぁ......」

 

 

宗輝「リサがガチ姉化するからここではやめてくれ」

 

 

友希那「ガチ?何のこと?」

 

 

宗輝「いやなんでもない」

 

 

リサ「リサが良いって......ふふふ」

 

 

宗輝「おーい、途中"いるから"の部分抜けてるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

-End-

 

 

 

 

 

 

 

 





新年一発目のドリフェスは取り敢えずピックアップ全員当てときました。課金額は想像にお任せします。

p.s
よろしければアンケートにご協力下さい。
今後に役立てたいので( ̄^ ̄)ゞ


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Produce 52#For you


最近タイトルが適当になりつつある主です。
何とか捻り出してはいるのですが......やはり難しいものですね。
何処かにタイトル職人とかいないですかね(・ω・)

それでは、52話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

-翌日-

 

 

 

 

「おっきろー!」

 

「起きてるから静かにしろ」

 

「わかった!」

 

 

 

今日も今日とて幼馴染のコイツから俺の1日は始まる。去年なんか何回おはようダイブ食らったか分からん。それがないだけまだマシなのかもしれない。

 

 

 

「朝飯は?」

 

「トースターと玉子焼き、それとコーヒーもあるよ!」

 

「着替えるから先に食べてても良いぞ」

 

「むーくん二度寝したらダメだよ?」

 

「......ちっ、バレてやがった

 

「あー!やっぱり着替えるまで待つ!」

 

 

 

これも去年までは通用してたのに。着替えを見られて恥ずかしいとかはこれっぽっちも思わないけどな。まぁ全裸になるわけでも無いし。そこらへんの感覚はずっと一緒にいるからルーズになってるかもしれない。

 

 

 

「おにいちゃーん!

 

「むーくんれーかちゃんが呼んでるよ」

 

「どうせすぐ上がってくるだろ」

 

 

 

香澄との会話をBGMにパジャマを脱ぎ花咲川の制服に着替える。あと数ヶ月で今年も終わるというところ。2年生にもなり学校にも慣れて制服にも着られる事なく着こなせてきた感じ。俺的には羽丘のブレザーっぽいのも好きだったりする。勿論我が校の制服も好きである。

 

 

 

ガチャ

 

 

「もう!さっきから呼んでるのに!」

 

「さっき起きたばっかなんだよ」

 

「むーくんに用事?」

 

 

 

丁度着替えが終わったタイミングで令香がドアを開けエプロン姿で入室。制服の上にエプロンという何ともグッとくる着こなしである。流石は我が妹、男心を的確に突いてくる着こなしを知っている。

 

 

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃん両方だよ」

 

「香澄も?」

 

「私何かしたっけ?」

 

「はぁ......窓から外見てみなよ」

 

 

 

 

何故か呆れた様な表情を浮かべる令香。言われた通り、俺と香澄で部屋にある窓から外を見てみる。部屋には窓が二つほどあるのだが、一つは玄関が丸見えなので多分そっちの窓だろう。

 

 

 

 

 

「どれどれ......」

 

「あれ、むーくん下にいるの有咲じゃない?」

 

 

 

 

最初は玄関を見なかったが香澄のその一言で急いで玄関を見る。すると、そこには香澄の言う通り有咲がいた。令香は有咲が来ていることを伝えたかったのだろう。でも今日は一緒に行こうなんて誘ってないのに何故?

 

 

 

「何で有咲がいるんだよ」

 

「れーかに聞かれても知らないよ」

 

「俺も別に呼んでないし」

 

 

 

となると犯人は一人しかいないわけである。

 

 

 

「私が一緒に行こって誘っといたよ!」

 

「それを早く言わんか馬鹿者」

 

「えへへ、忘れてた」

 

 

 

舌をペロッと出してウインクする香澄。これで許して欲しいとでも言うのだろうか。宗輝的に可愛いので許してあげたいがそうはいかないらしい。

 

 

 

「有咲さん怒ってたよ?」

 

「だってさ香澄」

 

「私のせい?」

 

『勿論』

 

 

 

 

その後有咲にしっかりと叱られた香澄。何故か俺にも飛び火してきたので途中から合流した沙綾に守ってもらいました。流石山吹家長女、あんなお姉ちゃんがいる純と紗南が羨ましい限りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~花咲川~

 

 

 

 

 

 

 

「ここのxの値を......」

 

 

 

 

 

問.何故こんなにも数学の授業は眠たくなるのでしょうか

 

 

 

 

 

「このyの値をこちらに代入して......」

 

「有咲が一人......ひまりが二人......燐子先輩が三人......」

 

「むーくん起きてる?」

 

 

 

A.本日最後の授業&ただ単にやる気が無い

 

 

 

「起きてるぞ、目の前には楽園が広がってるからな」

 

「楽園?」

 

 

 

 

目を閉じればそこには楽園が。巨峰を実らせた三人組が俺を待っている。数学の授業なんて放っておいて今すぐそんな世界へダイブしてみたい。

 

 

 

「むーくん」

 

「何だよ今良いところ......」

 

「先生に当てられてるよ?」

 

「......はい?」

 

 

 

 

あと一歩で夢叶わず現実世界へ引き戻されてしまった。

 

 

 

「斎藤、この問題を解いてみろ」

 

「......えーと」

 

「3、2、1」

 

「聞いてませんでしたスミマセン!」

 

 

 

カウントダウンが0になる前に頭を机につけて謝罪する。これがフィギュアスケートの大会ならば技術点が10点付いていただろう。潔くなるというのも、また真の男なのである。経験値0の俺が言っても浅すぎる言葉だなこれ。

 

 

 

「授業終わりに集合な」

 

「了解です」

 

「じゃあこの問題を奥沢に......」

 

 

 

 

その後はスムーズに授業が進められた。俺のかわりに美咲が問題解いたり香澄に当たって意味不明な答え言ったり。あからさまに寝てるのに気付かれない奴がいたり。そんなこんなで数学の授業は終了。

 

 

 

 

「何やってんのアンタ」

 

「すまんな美咲、俺のかわりで当てられただろ」

 

「別にいいけどさ」

 

「呼ばれてるから行ってくるな」

 

「まぁ頑張んなよ」

 

 

 

 

 

約束通り数学の担任教師のところへ向かうとするか。あんまり遅くなるとまた叱られるかもしれないし。

 

 

 

 

「来たか斎藤」

 

「お待たせしました」

 

「お前には届け物をしてもらおうと思ってる」

 

「届け物?」

 

 

 

その先生曰く、俺たちのクラスとはまた別に担当しているクラスでノートを返すのを忘れてしまったのだという。そのノートを持ち主に届けて欲しいというのが今回のミッション。......ミッシェルじゃないぞ、ミッションだからな。

 

 

 

 

「それで、そのノートは誰に渡せば良いんですか?」

 

「3年A組の白鷺千聖、お前も知ってるだろ?」

 

 

 

 

まさかまさかの届け物の主は千聖さん。確かにこの先生一年生から三年生まで授業見てるもんな。しっかし、3年A組って千聖さん以外にも知り合いがいるからなぁ。

 

 

 

「それ俺じゃないとダメですか?」

 

「ん?授業態度でC付けられたいのか?」

 

「やりますやらせて下さいお願いします」

 

「よろしい」

 

 

 

今回悪いのは俺だから我慢しよう。授業態度でCなんか付けられたら父さんに何言われるか。父さんじゃなくても令香に小言を言われるのは確実だ。大体Cって一番下の評価だから。まず普通にやってればつかないからね。

 

 

 

「帰られると困るし行くか」

 

「ちょい待ち」ガシッ

 

「ん?......なんだ有咲か」

 

「私で悪かったな」

 

 

 

千聖さんのところへ行こうと思った矢先、クラス随一の優等生っぷりを誇る有咲に捕まってしまった。別にそんなに強めに制服掴まなくても逃げないから。俺が有咲から逃げるとかないから。今朝は沙綾に助けを求めただけで別に逃げたとかじゃないから。

 

 

 

「急にどした」

 

「その、なんていうか......」

 

「ん?」

 

 

 

珍しく......は無いのだが、有咲が歯切れの悪い感じでボソボソと何かを言っている様に見える。基本的には有咲は仲の良い奴ら以外とはあまり話さないタイプだと思う。何か言いづらい事でもあったのだろうか。

 

 

 

「お前さっきの数学の時間寝てただろ?」

 

「まぁ寝てたな」

 

「ノートも書いてなかっただろ?」

 

「......何で知ってんの?」

 

 

 

確かに先生に叱られた後でもちょくちょく寝てはいた。だって仕方ないじゃん、眠たかったんだもん。それに今日の授業は復習問題を解くだけだったからノートも要らないと思って書いてないし。というか気付いたらノートが机から無かったんだけどな。しかし、何故このことを席が斜め前付近の有咲が知っているのだろうか。また香澄が内容を変に捻じ曲げて伝えてなかったら良いけど。

 

 

 

「そ、それは別にどうでも良いだろ!」

 

「お、おう」

 

「......ノート」

 

「ん、ノート?」

 

「だ・か・ら!ノート代わりに書いといてやったぞ!」

 

 

 

何故有咲が俺のノートを持っていたのかは謎だが、正直助かるから追求はしないでおいてやろう。有咲から渡されたノートを見てみると5色程で綺麗にまとめられており、事細かく先生の解説と自分なりの解き方を記してあったので滅茶苦茶分かりやすかった。

 

 

 

「これ全部有咲が書いてくれたのか?」

 

「そう言ってるだろ」

 

「なんで書いてくれたんだ?」

 

「......お前最近頑張ってるし。それで疲れて寝てんのかなって思って、出来る限りの事は手伝おうと思っただけだ」

 

 

 

 

有咲さん、勘違いしそうになるからやめて頂きたい。健気な有咲とか宗輝的に100点満点中200点だから。でも心配させるようじゃまだまだ俺もダメだな。まぁさっきはマジで眠かっただけなんだけどな。

 

 

 

「そういう有咲も最近練習気合入ってるって聞くぞ」

 

「まぁ久し振りのライブだからな」

 

「俺がいない時は香澄の制御任せたぞ」

 

「ったく、しょうがないけどやるしかないか」

 

 

 

 

なんやかんやで有咲も香澄の事が好きなのだ。でなきゃあんなに世話を焼く事はない気がするし。というかポピパは全員が全員の事好きだからこそのポピパだ。今更そこは揺るがないし揺るぎようがない。俺って案外蚊帳の外に置かれてたりする?

 

 

 

「んじゃ俺行ってくるわ」

 

「まぁ頑張れよ」

 

「ありがとな有咲」

 

 

 

 

少し話過ぎたかもな。千聖さんにノート渡す前に俺が有咲からノート渡されたから仕方ない。これで千聖さんいなくてノート渡せなかったら先生に怒られる。多分俺がノート持ってる事知ったら千聖さんにも怒られそうだから走っていくか。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

ガラガラガラ

 

 

 

「失礼しまーす」

 

 

 

 

時刻は17時過ぎ。放課後になって10分程度経ったといったところ。一応走っては来たのだがまだ帰ってないと良いけど。

 

 

 

「......宗輝君?」

 

「燐子先輩まだいたんですね」

 

「何か用事?」

 

「はい、千聖さんっています?」

 

「さっき教室を出て行ったと思うよ」

 

 

 

やはり有咲と話してる間に帰ってしまったか。めんどくさいけどノートを届ける様に言われたからにはやり切らないといけないな。

 

 

 

「家に帰ったんですかね?」

 

「ごめんね、そこまではちょっと......」

 

 

 

燐子先輩を困らせてしまったらしく、少しタジタジしている様子。周りを見渡せば他のクラスメイトがこちらを見ている。もしかして見られているのが恥ずかしいのだろうか?だとすればこれは俺のせいってことになる。燐子先輩の性格を考えて場所を移して話せば良かったか。

 

 

 

「あら?何故貴方がいるのですか?」

 

「氷川さん、おかえりなさい」

 

「紗夜さん?風紀委員か何かで仕事ですか?」

 

「今度の合同文化祭の事で少しね」

 

 

 

やはり生徒会や風紀委員はそろそろ忙しくなってくるし、今では文化祭実行委員なんかも立ち上げられるっていう話が出てる。俺自身はライブ関係でやらなきゃいけない事が山積みだけど、出来る限りは燐子先輩や紗夜さんのお手伝いもやらなきゃいけないな。二人には色々とお世話になってるし。取り敢えず日菜にいつも振り回されてる紗夜さんには労いの言葉を送ろう。

 

 

 

「氷川さん、わざわざありがとうございます」

 

「いえ、白金さんも忙しいでしょうから」

 

「何かあれば俺も手伝いますよ」

 

「それは嬉しいけれど、何か用事があって来てたんじゃないの?」

 

 

 

紗夜さんが自然に会話に入ってきたせいか少しの間完全に忘れてた。合同文化祭も大事なイベントだが、今は千聖さんにノートを届けるのが最優先な気がする。

 

 

 

「千聖さんどこに行ったか知りませんか?」

 

「私は知りませんね」

 

「即答ですか」

 

「知ってる人に聞けば良いでしょう」

 

 

 

とは言っても千聖さんがどこに行ったかなんて知ってる人がいるのだろうか。ただでさえ女優とパスパレの掛け持ちで忙しい千聖さんだ。悪気云々は全く無いと思うが、行き先を伝える程のクラスメイトが何人もいるとは思えない。

 

 

 

「知ってる人と言われましても」

 

「松原さん......とか?」

 

「......燐子先輩ナイスです」

 

「はぁ......貴方気付いてなかったのね」

 

 

 

 

確かに花音先輩なら千聖さんの情報を知ってるかもしれない。所々花音先輩には甘々な千聖さんの事だ。仕事の話からプライベートの話まで花音先輩になら気兼ねなく話す事が出来るだろう。

 

 

 

「すみません、ちょっと電話しますね......もしもし」

 

『宗輝君?急にどうしたの?』

 

「少し聞きたいことがあったので」

 

『聞きたいこと?』

 

 

 

花音先輩のパッシブスキルである迷子が発動した時の為の連絡手段として携帯番号を教えられてからというもの、何故か回収担当が俺固定になってしまった。最近では勘でどこに行ったのか当てられる様にもなってきたし。そろそろプロを名乗っても良いかもしれない。というかその前に花音先輩の迷子癖を治さないといけない気がする。

 

 

 

「千聖さんって今日何か言ってました?」

 

『えーっと、これは内緒だよ?』

 

「分かりました」

 

『......じ、事務所』

 

 

 

事務所?今日は確か千聖さんはオフだったはず。事務所に何か用事があるのだろうか?

 

 

 

 

『とある事務所のプロデューサーがこの前失敗して、次の仕事ではもう......』

 

「カット!カットです花音先輩。それ以上はダメです」

 

 

 

千聖さんそんなことまで花音先輩に言ってるんですか......。花音先輩ピュアなんだからそこら辺のブラックな部分は極力避けましょうよ。本当にあったのかも知れないですけど。似た様な話前にも聞きましたけどね。......そんなことにならない様に俺も頑張ろう。

 

 

 

「今日どこか行くって言ってませんでした?」

 

『そう言えば事務所に寄って帰るって言ってたよ』

 

「やっぱり事務所ですか」

 

『それがどうしたの?』

 

「ありがとうございます花音先輩、今度何か奢りますね」

 

『う、うん』

 

 

 

無事千聖さんの情報を得たところで通話は終了。相変わらず花音先輩のゆるふわ感は気持ちを和ませてくれる効果がある。よく迷子になるのがマジでたまにキズというかなんというか。そこが花音先輩の魅力だと薄々感じてきている自分がいる。

 

 

 

「それで分かったの?」

 

「もうバッチリです」

 

「そう、なら良かったわ」

 

「紗夜さん、燐子先輩もありがとうございました」

 

「うん、力になれて良かった」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子先輩と紗夜さんと別れてからも少し急ぎ気味で事務所へ向かった。今日はポピパの蔵練に付き合う予定だっだがまたしてもドタキャンしてしまった。そのせいか香澄が来て欲しいと駄々をこねはじめているらしい。RASの方もチュチュに無理を言ってここ最近は見にいけていないのが現状。もう少しでライブなのに情けない。

 

 

 

 

事務所に着き鞄の中に常に入れているIDカードをスキャナーにかざす。基本的にうちの事務所はこれで勤怠記録を取っているとのこと。俺は何かと特別な立場だから来る時と出る時にかざすだけで良いらしい。その分、本当に仕事がない限りはお給料は発生しないけど。別にお金稼ぎでマネージャーなんてやってないから良いんだけどな。

 

 

 

 

「ちょっと仕事を抜けてみれば懐かしい顔だね」

 

「別にそこまで懐かしくはないと思いますけどね」

 

 

 

というかこの人さっき仕事抜けてきたって言わなかった?なんかいつものことみたいに流しちゃったけど大丈夫?まぁ多分後から皆に叱られるんだろうけど。これはプロデューサーあるあるだから覚えておく様に。

 

 

 

「今日はどうしたんだい」

 

「千聖さん来てませんか?」

 

「ああ、ついさっき来て中に入って行ったよ」

 

「何か言ってましたか?」

 

「私には何も」

 

 

 

てっきりプロデューサー辺りに用があるんだと踏んでたんだけど。そうじゃないとなると何故千聖さんがわざわざ事務所に寄ったのか分からない。まぁ本人に直接聞けば良いか。

 

 

 

「後でプロデューサーにもお話があるんで」

 

「なら時間を開けておくよ」

 

「助かります」

 

 

 

 

プロデューサーとは一旦別れ、千聖さんが向かったと思われる事務所内にある部屋へと歩を進める。千聖さんのスケジュール管理の一部を任されている身分としては少し疑問符を浮かばざるを得ないといったところ。今日はオフなので家に帰りゆっくりするのかと思ったのだが違ったらしい。

 

 

 

コンコン

 

「どうぞ」

 

 

 

どうやらこの部屋で当たりらしい。千聖さんは俺が来ることなど微塵も考えてはないはず。落ち着いた声色であくまでも女優白鷺千聖として対応していることが伺える。これを幼い頃からずっと通してきたのだとしたら中々のものである。もっと千聖さんに楽させてあげよう。

 

 

 

「失礼しまーす」

 

「なんで宗輝君がここにいるのよ」

 

「千聖さんに用事です」

 

「私に?」

 

「はい、取り敢えずこれを」

 

 

 

鞄を開けて一番安全な場所に置いておいた千聖さんの数学のノートを取り出して渡す。勿論千聖さんは不思議な顔をしている。それもそのはず、何故か自分のノートを知人が事務所にまで持ってきているのだ。俺が逆の立場だったら......駄目だ、個性的な奴が多過ぎて考えられん。香澄とかなら普通に家まで来そうだし日菜とかは場所時間関係なくやってきそうで怖い。

 

 

 

「これ私が提出してたノートじゃない。何で宗輝君が待ってたのよ」

 

「色々と理由はあるんですけどね」

 

「まぁ理由は聞かないでおいてあげるわ」

 

「そうしてくれると助かります」

 

 

 

数学の授業中に寝て先生に怒られました、なんて言ったら千聖さん怒りそうだし。千聖さんが本気で怒ってるところを未だに見たことがないから何とも言えないけど。多分千聖さんのタイプは怒らせてはいけないタイプだと思うし。

 

 

 

「それで、用事はこれだけ?」

 

「......実はですね」

 

 

「あー!千聖ちゃんと宗輝みっけ!!」

 

「日菜さん、走ると危ないですよ」

 

「日菜!?というか全員集合!?」

 

 

 

偶然なのか分からないが、もう一つの用事を済まそうとしたらまさかの全員集合。バタバタと足音を立てて日菜がこちらへやってくる。その日菜を宥める様に麻弥や彩、イヴが次々に入室。終いには先程まで話していたプロデューサーまでもが来てしまった。

 

 

 

「やっと来たわね」

 

「え?もしかして千聖さんが呼んだんですか?」

 

「いいえ、残念ながら私ではないわね」

 

「今回は私が呼んでおいたよ」

 

「ならさっき言っといて下さいよ......」

 

 

 

マジでこのプロデューサーだけは......。まぁ全員集まったのならそれはそれでラッキーだ。結局はみんなに話そうとは思ってたからな。

 

 

 

「なんで集められたのかな?」

 

「彩達も聞いてないのか?」

 

「うん」

 

「私から皆に話があってね、すぐに終わらせるから」

 

 

 

専属のマネージャーなんか任されてはいるが、実質パスパレ関連の事に関してはプロデューサーの方が権力があるといっても良い。言わばこの人は俺の直属の上司みたいなものなのだ。最近良く聞く報連相は何処へやら。要らないことばっかり話すからもうわけが分からなくなってきてるし。

 

 

 

「簡単に説明するよ。まだ決まった事ではないけど近いうちにライブを計画してるんだ。そこで君達の意見を聞きたいと思ってね」

 

「ライブ?もしかして主催ですか?」

 

「パスパレが、とはいかないまでもウチの事務所主体で動く予定にはなっているけどね」

 

 

 

これまた大きな話を軽く話すのかこの人。というかもう少しで花咲川と羽丘を合同イベントがあるのに主催ライブなんて厳しすぎるにも程がある。最悪の場合彩達が文化祭に出られなくなる可能性だって出てくる。そんなのは彩達も嫌だろうし、勿論俺の思うところでもない。

 

 

 

「みなさんどうしますか?」

 

「ジブンは今のところなんとも......」

 

「私はどっちでも良いかなー」

 

「日菜ちゃん適当に決めるのは良くないわよ」

 

「......その件で一つ提案しても良いですか?」

 

 

 

一か八か、事務所でそんな話が出ているのならそれに俺の計画をぶつけるまでだ。正直ダメ元だけど当たって砕けろ精神も時には必要だって田舎のじっちゃん言ってた。

 

 

「何か案があるのかい?」

 

「実は花咲川と羽丘で合同イベントがもう少しであるんです。そこで文化祭ライブをやろうと思ってて、パスパレもそれに出演して欲しい......っていうのが俺の案なんですけど」

 

「......宗輝君?それ私達初耳なんだけど?」

 

「まぁ今初めて言いましたからね」

 

「プロデューサー大丈夫なの?」

 

「正直に言うとちょっとキツイかな」

 

 

 

千聖さんにほっぺたをつねられながらも話はしっかり聞いておく。だって仕方ないじゃないですか!こうやってめんどくさくなりそうだからって一番先に千聖さんに伝えようとしたのに皆来たんですから!というかそろそろほっぺを弄るのやめて欲しい。

 

 

 

「......宗輝君に聞いても良いかい」

 

「はい」

 

「じゃあ君の本当の想いを聞かせてもらおうかな」

 

「宗輝の本当の想い?」

 

 

 

やはりこの人は人の気持ちとかマジで読めるんじゃないのか不安になってきた。その内人心掌握の達人とかになりそうで怖い。どうやら俺がただ文化祭ライブを計画してるだけではないと気付いていたらしい。

 

 

 

「......最初は別に特別な意味なんてありませんでした。」

 

「じゃあ何故?」

 

「でもやっぱり思ったんです。彩達には随分と助けてもらってて、その分俺がしてあげられる事はあるのか。そこでこの文化祭ライブの案を思いつきました」

 

 

 

過去はもう変えられない。でも、この先の未来なら変えることが出来る。みたいな事を何処かの誰かが言ってた気がする。今を生きる自分達がこの先の未来を良いものに変えていくには何をすれば良いのか。その中の一つに、きっと大切で忘れられない思い出を作ることがあると思ったから。

 

 

 

「彩達にとって最後の文化祭であり、俺にとっても最後の文化祭なんです」

 

「宗輝君には来年もあるんじゃないのかい?」

 

「確かに来年も文化祭ならあるかもしれません。それでも彩や日菜、千聖さんや麻弥やイヴ達みんなと過ごす文化祭はこれで最後なんです」

 

「......宗輝君」

 

「......分かった、この件は私からお願いしてみるよ」

 

「自分が言っといてなんですけど、良いんですか?」

 

 

 

さっきも言った通りダメ元の玉砕覚悟で言ったつもりなのにあっさりokをもらってしまった。てっきりダメなものはダメみたいな感じで拒否られると思ったのに。案外ウチのプロデューサーはそういうところが弱点なのかもしれない。

 

 

 

「宗輝君に質問、ここで私が取るべき行動はなんだと思う?」

 

「はぁ......分からないですけど、主催ライブの案を進める事ですかね」

 

「まぁほぼ当たりと言えるね。だけどそれは"プロデューサー"としての私が取るべき行動であって"一人の大人"としての私が取るべき行動は他にある」

 

 

 

プロデューサーとして取るべき行動と一人の大人として取るべき行動。その二つに違いがあるとしたら何なのだろうか。それは俺達より何倍もの経験をしてきたプロデューサーだからこそ分かる答えなのかもしれない。

 

 

 

「......正解は"子供達の意思(君達の意思)"を汲んであげる事だ」

 

「どういう意味なんですか?」

 

「私は常に社会人でありプロデューサーであり一個人としてこの世界にいる。そして子供達の指標になるべきはそんな大人達であり私達だ」

 

「......」

 

「生きていく中で君達子供は壁にぶつかる事が必ずあるだろう。そこでどう乗り越えるかや誰と乗り越えるかは君達の問題だ。そこで大人のすべき事は素直に手を差し伸べる事でもなく傍観する事でもない」

 

 

 

俺を含めみんなが真剣に話を聞く。先程まで俺のほっぺで遊んでた千聖さんも今では真面目に話を聞いている。それもそのはず、この話は俺だけでなくパスパレメンバーに向けても話しているのだから。

 

 

 

「私のするべき事は一つ。君達が壁を乗り越えられるように出来る限りの支援をする事だ。だから、私は今回のライブに関しては君の案を勧めるよ」

 

「でもスケジュール調整とかどうするんです?」

 

「それは俺が何とか調整する!」

 

「それと宗輝君には企画書を提出してもらうことになると思うけど良いかな?」

 

「勿論です!」

 

 

 

そうと決まれば時間が惜しい。今すぐ企画書を書いて提出すべきだ。どうせ俺が一人で考えた企画書なんて一回で通るわけない。こうなればプロデューサーに納得のいくまでチェックしてもらうしかない。その後はスケジュール調整に練習、セトリの曲を考えなきゃいけないし.......あれもこれもプロデューサーと彩達に感謝だな。

 

 

 

「それじゃあ企画書書いてきます!」

 

「あ、ちょっと宗輝君!」

 

「あちゃー、行っちゃったね」

 

「ムネキさんやる気満々でしたね!」

 

 

 

 

 

 

「君達も随分と彼に好かれているんだね」

 

「私達がですか?」

 

「聞けば過去に辛い経験をしたのだとか何とか」

 

「.......」

 

「それでも彼が君達に尽くす理由は何だろうね」

 

「んー、彩ちゃん分かる?」

 

「えー!わ、私?」

 

 

 

 

(夢に向かって一生懸命な君達だからこそ彼は......)

 

 

 

 

 

「さぁ私達も出来る事からやっていこうか」

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「おまけのコーナーでございます」

 

 

宗輝「今回のゲストは蘭とモカだ」

 

 

モカ「モカちゃん参上〜」

 

 

蘭「モカ前のお店で借りてたお金返す」

 

 

モカ「およ?そう言えばそんな事もありましたな〜」

 

 

宗輝「何処か行ったのか?」

 

 

モカ「この前蘭とラーメン三郎に行ってきたよ〜」

 

 

蘭「私は巴の代わりだったけど」

 

 

宗輝「何だよ、ラーメンなら俺も行きたいぞ」

 

 

モカ「むーくんもラーメン好きなの〜?」

 

 

宗輝「最近行けてないけど一人暮らししてた時は良く食べてたな」

 

 

蘭「なら私の代わりにモカに付き合って」

 

 

宗輝「何言ってるんだ?蘭も一緒に行くんだよ」

 

 

蘭「でも......」

 

 

モカ「蘭〜、むーくんに天地返し教えてあげないとダメでしょ〜?」

 

 

宗輝「天地返し?ラーメンは好きだけど詳しいわけじゃないからなぁ」

 

 

モカ「ほら見たことか〜」

 

 

蘭「そういうことなら、まぁ行っても良いよ」

 

 

モカ「蘭がいつも通りで安心したよ〜」

 

 

蘭「モカ、それどういう意味」

 

 

宗輝「確かにモカの言うようにいつも通りだな」

 

 

モカ「エモいですなぁ〜」

 

 

 

 

 

-End-





ポピパのオリコン1位はTwitterで最初に見た時は滅茶苦茶ビックリしました笑
未だ購入してないので近いうちに買いに行きたいと思います......笑


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Produce 53#ジェリーフィッシュアンサンブル


まず新たに☆10評価頂きました ユッケ氏 さんありがとうございます!

久し振りの評価に嬉しみの舞を踊っております。
しかし、欲深いのが良くも悪くも人間の性というもの......。(訳:感想評価待ってます)

それでは、53話ご覧下さい。
(今回長くなっております)


 

 

 

 

 

 

「......どうしてこうなった」

 

「ふ、ふえぇぇ......」

 

 

 

これはある日の出来事。

 

 

 

 

「なんでまた巻き込まれてるんだ」

 

「ちょっと宗輝君聞いてる?ここの電車って......」

 

 

 

 

常識人では恐らく経験することのないメルヘンチックな1日。

 

 

 

 

「もう一度......何度でも言おう」

 

『宗輝君......ここどこ?』

 

 

 

 

不思議な世界へ迷い込んでしまったかの様な錯覚にまで陥ってしまった愉快なお話。

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

「ちょ......もしかしてこの電車の方向逆なのかしら」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

~前日~

 

 

 

 

「斎藤君ここの資料なんだけど......」

 

「えーっと、ここですね」

 

 

 

「斎藤くーんちょっと良いかなー?」

 

「はーい今行きまーす!」

 

 

 

「宗輝君アイス買ってきて♪」

 

「了解......って素直にパシりに使おうとしないで下さい」

 

 

 

 

ここ数日はずっとこの様な感じで事務処理とライブに関する資料作り、その他諸々をこなす為事務所の一室にこもりっぱなしなのである。RASのライブまで残り一週間。チュチュに事情を説明したら普通に怒られてしまった。まぁ流石に顔出してなさすぎるから帰り際に寄って帰るか。

 

 

 

 

「頑張ってるみたいだね」

 

「まぁ自分でやるって決めた事ですから」

 

「手伝ってあげても良いけど?」

 

「俺がやりたいので別に良いです。というかプロデューサーは他にやる事あるでしょ」

 

 

 

 

俺が自分で持ち込んだ仕事だ。俺がやらなきゃ誰がやるんだ。某人気キャラのセリフみたいになってしまったが、今はその気持ちが痛い程分かる気がする......だけだと思う。

 

 

 

「あー!プロデューサーやっと見つけましたよ!」

 

「ほら、言わんこっちゃない」

 

「何を言っているんだい、私は今休憩中だよ」

 

「冗談はいいからさっさといきますよ!」

 

「あっ......ちょ.......宗輝君頑張ってね〜

 

 

 

毎度毎度プロデューサーの担当の方には頭が上がらない。俺がプロデューサーの担当だったら速攻で異動をお願いしてるな。仕事に関して言えば文句無いし容姿も綺麗で黙ってりゃ男の一人や二人居てもおかしくないのに。

 

 

 

「ごめんね斎藤君、ウチのプロデューサーが迷惑かけて」

 

「もう慣れてきたんで大丈夫ですよ」

 

「一回ガツンと言ってあげれば?」

 

「まぁあの人仕事は出来ますし綺麗な方なので逆に欠点が無い方が怖いくらいですよ」

 

 

 

人間何処か抜けてた方が好きって言う人も多いくらいだしな。完璧超人なんてこの世の何処探してもいないと思う。あの天才っ子の日菜ですら時々やらかすからな。

 

 

 

「あら......斎藤君もしかしてプロデューサー狙い?」

 

「あと10年早く産まれてればあり得た話かもです」

 

「でも意外な事にあんなプロデューサーでも社内では人気なのよ?」

 

「......マジっすか?」

 

「しかも驚く事に女性票の方が多いの」

 

 

 

あれだな、カッコいい女性は同性からも好かれるってやつだな。女性票の方が、って事は男性票もあるらしいし良かった。何故か子を見守る親の気持ちになった気分だ。

 

 

ガチャ

 

 

「お疲れ様です」

 

『お疲れ様でーす』

 

 

「あれ?千聖さん?」

 

「もしかして今休憩中だった?」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 

 

千聖さんがやってきて手に持っていた飲み物を机に並べる。ここ数日千聖さんは気を利かせてくれているのかこうやって差し入れをしてくれるのだ。こうやって気が利く女性はモテるんですよプロデューサー。

 

 

 

「また今日も残業かしら」

 

「まぁ学校終わってからなんで残業と言えるかどうか分かりませんけど」

 

「なに言ってるのよ、立派な残業じゃない」

 

 

 

そうは言うが、俺以外のちゃんとした社員の方が残っている方が立派な残業だと思う。プロデューサーの手伝いを一人前に断っておいてなんだが他の人達には頼りっぱなしだからな。毎日残らせてしまって本当に申し訳ない。

 

 

「これ飲みながらちょっと休憩しましょう」

 

「でもまだ作業が......」

 

「なら私も手伝うわ」

 

「い、良いんですか?」

 

 

千聖さん達パスパレもライブの為に練習して疲れているだろうに。こんなところで無理をさせて身体を壊してしまっては元も子もない。実は他にも彩やイヴが時々様子を見て手伝うと言ってくることもあった。しかし、そういった点を考慮して今までは全部追い払っておいたのだ。

 

 

「良いもなにも私達のライブの為の作業でしょう?」

 

「まぁそうですけど」

 

「なら私達にもやる権利はあるはずよ」

 

「......じゃあそこの資料がさっき完成したんでプロデューサーに持っていってくれませんか?」

 

「分かったわ」

 

 

少し散乱していた資料の山を整理しつつ、プロデューサーへチェックしてもらう予定だった資料を持って部屋を出て行く。そして千聖さんが出て行ったのを確認して、事務所から少し隔離されたこの部屋の内側から鍵をかける。

 

 

「そんなことしてまた怒られるよ?」

 

「みんなに無理はさせたくないので」

 

「斎藤君ってちょっと不器用よね」

 

「そうかもしれませんね」

 

 

 

それからは黙々と作業を続け、ふと時計を見ると既に20時を過ぎており外は街頭の灯りがほんのりと夜道を照らす時間帯。不思議なことに鍵をかけたにも関わらず誰一人ドアを開けてこなかった。千聖さんもしかしてプロデューサーと話長引いてる感じ?

 

 

 

「もう遅いから今日は終わりにしようか」

 

「じゃあプロデューサーに伝えてきます」

 

「悪いけどよろしくね」

 

 

流石に連日こうしていると嫌でも疲れが溜まるというものだ。手伝ってもらっている社員の人も表情から疲れているのが見て取れる。

 

 

「ふぅ......明日は休日だしまとめて片付けるか」

 

「......宗輝君?」

 

「千聖さん!?こ、こんなところで会うなんて奇遇デスネ」

 

「ちょっと良いかしら」

 

 

鍵開けてプロデューサーのところ行こうとしたら千聖さんがガン待ちしてました。だから誰もドア開けようとしなかったのか。そりゃドアの前で千聖さんいたら入りにくいわな......。

 

 

「いたたっ、千聖さん耳!耳が取れる!!」

 

「聞こえないわ」

 

「ちょ、マジで耳がのっびのびトレジャーだって!」

 

 

ちょっと自分でも何言ってるか分かんない。けどそのくらい痛かったから仕方のないことだ。千聖さんを久し振りに怒らせてしまった気がする。まぁ本気ではないんだろうけど。

 

 

「おやおや、やはり捕まっていたか」

 

「言われた通り連れてきましたよ」

 

「......プロデューサーも共犯ですか?」イタタ

 

「手段については彼女に一任していたからね」

 

 

あくまで自分は関係ないと言っているようなものだ。言われた通り、と千聖さんが言っている時点で何か企んでるのは丸わかりですからね。

 

 

「宗輝君今何時だい?」

 

「20時過ぎだと思います」

 

「ウチの定時は?」

 

「確か17時だった気が」

 

「残念、正解は16時50分だ」

 

 

 

この人マジで一回懲らしめてやろうか。

 

 

 

「明日の予定は?」

 

「まだ完成出来てない資料があるので......あっ」

 

「晴れて明日は休日。しかし、このところ残業続きの君を休日を使ってまで働かせようなんて思っていないよ」

 

「いやでも間に合いませんし」

 

「それでもやり過ぎよ宗輝君」

 

 

 

千聖さんに諭されてここ数日を振り返ってみる。学校が終わり、香澄達と別れ一人事務所へ。パスパレのみんなと時々会うにしても少し話すくらい。基本的にはあの部屋でずっと作業だ。帰ったらだいたい21時手前の真っ暗な時間。その繰り返しのお陰か令香の機嫌がすこぶる悪いのがお兄ちゃん的に良くない。

 

 

 

「だから明日からの土日は完全にオフとする!」

 

「じゃあ代わりに誰かやってくれるんですか?」

 

「勿論、私を含め宗輝君の案に乗ってくれた社員で進めておくよ」

 

 

 

"休日出勤でお金も手に入るしね♪"と付け加えるこの上司は果たしてどこまでが本心なのか。別にお金に困ってる風には見えないけどな。

 

 

「そしてさっきの罰として明日は私に付き合ってもらうわよ」

 

「......まぁオフですしとことん付き合いますよ」

 

「じゃあ今日はもう解散ってことで」

 

 

そそくさとその場を去って行ったプロデューサー。多分あれは帰ってからお酒でも飲むんだろう。社員の人が言ってたけどプロデューサーは大のお酒好きらしい。毎週末自宅で飲んでる写真を担当の人に送りつけてくると言っていたから確かなのだろう。

 

 

 

「それで、明日は何するんですか?」

 

「買い物に付き合ってもらおうと思って」

 

「買い物ですか?」

 

「ええ、花音もいるけど大丈夫よね?」

 

「......大丈夫だと思いますよ(圧が強い)」

 

 

 

 

 

さぁここで今一度おさらいしておこう。知っての通り、花音先輩は百戦錬磨の迷子マスターである事実は既にお披露目済。どこかへお出かけへ行こうものなら必ずと言っていい程迷子になる。それは勿論学校生活の中でも効果を発揮する。やれ購買の人波にもまれて辿り着いた先で迷子になったり、職員室や移動教室を渡り歩いている内に迷子になったり。

 

 

 

しかし、ここで忘れてはならないのが花音先輩の迷子ではなく千聖さんの意外な弱点である"電車"である。詳しくは電車の"乗り換え"が苦手であるという事だ。お買い物というのなら電車を使う必要が出てくる。そうすると乗り換えももしかするとしなければならない可能性がある。

 

 

 

 

 

果たして俺は花音先輩の迷子と千聖さんの苦手な乗り換えを抱えたまま無事にお買い物を終えることが出来るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

という長い長い回想を経て現在()に至るわけである。今朝は少しでも面倒な事態を回避する為に花音先輩の家へ集合。千聖さんと花音先輩と俺の三人が揃ったのでお買い物へと出発。どうやら今日はお買い物ついでに少し遊んで帰るらしく、都内ではあるが大型のショッピングモールに向かう為に駅へと到着した。

 

 

 

『ふえぇ......宗輝君助けて〜』

 

「花音先輩周りに何が見えますか?」

 

『周り?えーっと......クラゲ?』

 

「それ本気で言ってます?」

 

『ちゃんとクラゲさん見えるもん!』

 

 

 

少し幼児退行じみた言葉遣いをする花音先輩にちょっぴりきゅんとする。クラゲにさん付けする人を初めて見た気がする。可愛いからもっと言って欲しい。

 

 

「花音先輩はそこで待ってて下さい」

 

『わ、分かった!』

 

「はぁ......千聖さん取り敢えず花音先輩のところに」

 

 

と話しかけたは良いものの独り言言ってる変態みたいになってしまった。というか千聖さんどこ行ったんだよマジで。さっきまで俺の横でブツブツ言ってた気がするんだけど?なに、もしかしてあの人瞬間移動まで使える超人なの?

 

 

「......もしもし、千聖さん今どこにいます?」

 

『ようやく繋がったわね、誰と話してたのよ』

 

「花音先輩の現在地を確認してました」

 

『それより乗り口はこっちじゃないの?』

 

「そこ次の乗り換えの時の乗り口です......」

 

 

ホントこの人なんで乗り換え苦手なんだよ......。花音先輩はクラゲが見える位置にいて千聖さんは次の乗り換えの乗り口。ただ一人、俺だけが乗る予定の電車の正しい位置にいるこの悲惨な状況。もう勘弁してくれモカ神様。

 

 

 

「───って書いてるところに来てて下さい」

 

『宗輝君はどうするのよ』

 

「迷子を迎えに行きます」

 

 

 

千聖さんにこの位置を伝えたところで電話を切りポケットへ落ちないようにしまいこむ。ここからはクラゲと俺の一騎打ちといったところだろうか。まだ到着まで少し時間はある。それまでにクラゲを見つけられるかが勝負の分かれ目だ。

 

 

「取り敢えず来た道戻るか」

 

 

 

ここに来るまでに通ってきた道を取り敢えず戻りながらクラゲを探す。階段を登ったり降りたりして細かく周りを見渡すが一向にクラゲは見つからない。多分花音先輩は本物のクラゲではなくポスターか何かでクラゲを見たのだろう。

 

 

 

このままでは埒があかないと思ったので駅員さんに話を聞いてみることにする。花音先輩の容姿を含めこれが最適解だと思うし。

 

 

 

「すみません、水色の髪の女の子見ませんでしたか?」

 

「水色?そう言えばクラゲっぽい缶バッチをつけたリュックを背負った子がそんな髪をしてたような......」

 

「どっちに行ったか分かりますか?」

 

「その子なら多分そっちだよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

そういえば今朝はそんなに反応しなかったけど、確かに花音先輩リュックサックにクラゲの缶バッチつけてた気もするな。水族館か何かの来場記念で貰ったとか何とか。家に違う種類の缶バッチいっぱいあるって言ってた気もするし。

 

 

 

「クラゲクラゲっと......あれか?」

 

 

 

駅員さんに教えてもらった方向へ走ること数十秒。少し周りの人に見られてしまったが今は気にしている場合では無い。走りながらも周りを見ていると"ジェリーフィッシュ祭り開催!"とデカデカと書いているポスターを発見。そこにはクラゲも沢山描かれており、多分花音先輩が言っていたのはこの事だろう。

 

 

 

「水色......可愛い......ふえぇ......」

 

 

最早気持ちの悪いただの独り言だなこれ。花音先輩と結びつく重要な情報が勝手に口から漏れてしまっている。これはあくまで自分の意思ではなく勝手に漏れているのでセーフ。別に執拗なストーカーとかじゃないから。

 

 

 

「......花音先輩見つけましたよ」

 

「ふえぇ?む、宗輝君!?良かったぁ......」

 

「まだ目的地にも着いてないのに心配させないで下さい」

 

「ご、ごめんね?」

 

「ほら、千聖さんも待ってるので行きましょう」ギュッ

 

 

 

二度とはぐれないようにしっかりと花音先輩の手を握って歩き出す。まだまだ人が多いので時折ちゃんと着いてきているか後方を確認。なんだか安心したような表情の花音先輩と目が合ってしまい反射的にお互い目をそらしてしまった。......うん、悪くないぞこれ。

 

 

 

またもや周りの人に見られつつも千聖さんがいるであろう場所へ向かう。花音先輩は照れているのか、それとも見られているので恥ずかしいのかほんのり頬を紅く染めながら手を引かれてついて来てくれる。

 

 

 

「えーっと、千聖さんは......」

 

「宗輝君、あそこにいるんじゃない?」

 

 

 

花音先輩が示した場所には何故か人だかりが出来ていた。何故か、というよりは既に理由はハッキリしている気もする。今やパスパレのベースとして、また一人の女優として人気を博している千聖さんだ。白昼堂々というわけではないものの、駅という人が多数いる中で見つからないということはないだろう。

 

 

 

「ちょっと行ってきます」

 

「う、うん」

 

 

一か八か、野次馬が次々に集ってくる前にここを切り抜けないと買い物云々の話だ。

 

 

 

「すみませーん、通してくださーい」

 

「む、宗輝君?」

 

「流石は千聖さんって言った方が良いですか?」

 

「この状況どうするつもりなの?」

 

「良い案があるので合わせて下さい」

 

 

 

ここは千聖さんの女優力を頼りにしよう。密かに千聖さんが主演のドラマや出演している番組はほぼ全て録画をして暇な時間に見ている事はまだ内緒。言うとなんだかんだ言ってきそうだからな。

 

 

 

「すみません!実は現在ドラマの撮影でこの駅にお邪魔させてもらっています!」

 

「撮影?」「だから白鷺千聖がいたんだな」「てことはあのドラマ!?」

 

「スムーズに撮影する為に通行人の役を皆さんにはお願いしたいです!」

 

「皆さん、よろしくお願いします!」

 

 

若干ザワついているものの、何とか誤魔化す事が出来た様子。それからは先程まで出来ていた人だかりも無くなり、まるで千聖さんに誰も気付いていないかのようにも思えた。というか団結力すげぇな。

 

 

「今の内に電車に乗りますよ」

 

「花音はどうしたのよ」

 

「ち、千聖ちゃ〜ん」

 

「花音!貴女一体何処に行ってたのよ......」

 

 

無事三人が合流出来たグッドタイミングで電車が到着。もうはぐれるのも面倒なので右手に千聖さん、左手に花音先輩という何とも豪華な両手に花状態で乗車する。休日の朝ということもありそこまで混み合っていないのが唯一の救いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

~大型ショッピングモール~

 

 

 

 

 

 

「やっと着いた......」

 

 

 

電車に乗り、一本乗り換えて数十分。目的地であるショッピングモールの最寄駅へ到着。教訓を生かしあれからはずっと手を繋いで歩いていた。そのせいで周りから嫉妬とも取れる目線を感じたり、かと思えば暖かく見守ってくれる様な視線を送られてしまった。

 

 

「ここが千聖ちゃんが行ってみたかったところ?」

 

「ええ、最近新しく出来たカフェがあるらしいわよ」

 

「ならまずそこいきません?流石にこのままお買い物に付き合わされるとキツいです」

 

「まぁ時間もお昼前だし仕方ないわね」

 

 

 

仕方ないわねって千聖さんが一番言っちゃいけないでしょうに。誰のせいで走らされたと思ってるんだこの人は。ホント俺にだけは容赦のない人で困る。こんな時は花音先輩に癒してもらうに限る。この人身体からマイナスイオン出てんのかってくらい癒してくれるからな。

 

 

 

「花音先輩は疲れてませんか?」

 

「私は大丈夫だよ。宗輝君こそ大丈夫?」

 

 

この気遣い、そして不安げな表情。これだけで健気さが十分すぎるほど伝わってくるというものだ。

 

 

 

「お腹も空きましたしカフェ行きましょうか」

 

「うん!千聖ちゃん、カフェはどっちにあるの?」

 

「確か2Fの中央あたりに......」テクテク

 

「ちょっと待てーい」ガシッ

 

「あうっ」

 

 

 

危うく千聖さんをこの人混みの中に一人解き放ってしまうところだった。正直千聖さんに限って言えば見失ってもすぐ見つかるけど。だからこそ見失うと面倒なことになりかねないので単独行動NGなのだ。宗輝は"私に任せて"から"良いから大人しく"に作戦を変更。千聖さんには悪いがエスコートは俺に任せてもらおう。

 

 

 

「闇雲に歩いてどうするつもりなんですか」

 

「だから2Fの中央あたりに行こうと」

 

「残念ながらそっち映画館しかないですよ」

 

「......ワザとに決まってるじゃない」

 

「ち、千聖ちゃん?取り敢えず宗輝君に任せてみない?」

 

 

 

この人見知らぬ地だからなのか花音先輩の迷子癖が乗り移っているのかもしれない。これじゃ休日に子供のお守りしてるみたいだな。

 

 

 

「取り敢えずインフォメーション行きますよ」

 

 

 

 

このショッピングモールの全体図を把握しておきたいので先にインフォメーションへ向かう。どうせこの後も買い物するんだったらルートを決めておきたいのが本音。別に効率を重視するわけではないが如何せんこの二人がいるので念には念を作戦だ。

 

 

 

「えーっと、2Fのカフェ......この"cafe de star"ってところですか?」

 

「そこで間違いなさそうね」

 

「......」ツンツン

 

「ん?花音先輩どうかしましたか?」

 

「ここ......」

 

 

 

花音先輩が指差した場所にはペットショップ?的なお店が書かれていた。何でもここのペットショップは最近リニューアルオープンしたらしく、内装や種類云々を一新したのでセールをしているとデカデカと書き出されている。

 

 

 

「丁度カフェから近いですし寄って行きましょうか。千聖さんも良いですよね?」

 

「ならここのアクセサリーショップにも寄りましょう」

 

「決まりですね」

 

 

 

 

 

 

-cafe de star-

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、三名様で宜しいですか?」

 

「はい」

 

 

 

まずは千聖さんの行ってみたかったカフェへ到着。そう言えば千聖さんと花音先輩はカフェめぐりが趣味みたいで、二人だけでも予定が合えば色々なカフェをめぐっているらしい。

 

 

「ふぅ......やっと一息つける」

 

「千聖ちゃんこれ美味しそうだよ」

 

「これもそれも美味しそう......どれを食べるか迷ってしまうわね」

 

 

こうやってメニューに載っているデザートを見て無邪気にはしゃぐ姿を見ていると、やはり年相応の女の子なんだと感じる。千聖さんも花音先輩もとてもじゃないが自分の一つ年上のお姉さんには見えない。勿論良い意味で。

 

 

 

「宗輝君は何にする?」

 

「コーヒーとショートケーキにします」

 

「なら私はコーヒーとモンブランにしようかしら」

 

「私もコーヒーと......ガトーショコラにしようかな」

 

 

嘘だろモンブラン何処にあったんだよ。モンブランあるの知ってたらショートケーキなんて頼まなかったのに!!

 

 

「ご注文は以上ですか?」

 

「それでお願いします」

 

「かしこまりました」

 

 

しかし、時既に遅く千聖さんが丁寧に俺の分まで注文してくれていた。千聖さんにモンブランを一口貰うか否か迷っている間に注文したものがきてしまう。

 

 

「宗輝君食べないの?」

 

「食べないなら私が食べるわよ」

 

「......千聖さん、モンブラン一口貰えませんか?」

 

「だったらそっちのショートケーキも一口貰うわよ」

 

 

物々交換成功。別にショートケーキが嫌いとかじゃない。ただモンブランの方が魅力的だっただけだ。

 

 

「はい、あーん」

 

「んっ......もう一口下さい」

 

「はぁ......さっきの一口は嘘だったのかしら」

 

 

とか言いつつも一口くれる千聖さんは宗輝ポイント高い。前に彩にもらったモンブランも美味しかったがここのモンブランも負けてないな。今度令香とか連れてこよう。

 

 

「今度はショートケーキですね、あーん」

 

「んっ、クリーミーで美味しいわよ」

 

「ち、千聖ちゃんだけズルいよ!」

 

「もしかして花音も欲しいの?」

 

 

 

もしかして花音先輩もモンブランが好きなのだろうか。だとしたら数少ない同志ということになる。花音先輩と一緒に甘味処をめぐるのも悪くない。

 

 

「千聖ちゃんのは要らない」

 

「ちょ......か、花音?」

 

「宗輝君のが欲しいな」

 

「か、花音......反抗期なの?」

 

 

残念ながらモンブランよりショートケーキ派だったらしい。というか千聖さんがモロダメージ食らって崩れ落ちてるんだけど大丈夫?流石に花音先輩の右ストレート(精神的ダメージ)はキツかったのだろうか。

 

 

「どうぞ」ア-ン

 

「......凄い甘くて美味しいね」ニコッ

 

「......はっ!!」

 

 

 

どうやら花音先輩の満面の笑みを拝んでから数秒間気を失っていた様だ。俺の脳内の女神フォルダに先程の笑顔を保存。因みに今現在このフォルダには燐子先輩とウチの妹が保存されている。

 

 

 

 

 

 

-ペットショップ-

 

 

 

 

「えへへ......可愛いなぁ」

 

「千聖さんも落ち着きましたか?」

 

「取り敢えず大丈夫よ」

 

 

あの後は特に何事もなく食べ終わりペットショップへ。本当に何もなかったのだが、強いて言うならずっと千聖さんが放心状態だったことくらい。その千聖さんも犬や猫を見て何とか正気に戻ったらしい。

 

 

「まさかリニューアルオープンでクラゲも見られるとは」

 

「そのお陰で花音は凄く幸せそうな顔してるわね」

 

「俺達はその花音先輩を見て癒されときましょう」

 

「それが妥当ね」

 

 

それからは犬→花音先輩→猫→花音先輩→魚→花音先輩→花音先輩→花音先輩......と後半は花音先輩しか見てなかったが特に怪しい動きはしてないのでセーフ。あれだ、子を見守る親の気持ちだ。これは千聖さん公認なので間違いない。

 

 

「私アクセサリーショップに行ってきても良いかしら?」

 

「迷子にならないのであれば」

 

「それはもう大丈夫よ」

 

 

という訳で千聖さんだけアクセサリーショップへ向かった。ここで花音先輩と離れるわけにもいかないので俺は引き続きペットショップにて動物達を見て癒されるとしますかね。

 

 

「あれ、千聖ちゃんは?」

 

「アクセサリーショップに行きましたよ」

 

「行かなくて大丈夫なの?」

 

「花音先輩こそクラゲはもう良いんですか?」

 

「もう十分見たから大丈夫だよ」

 

 

そうは言いつつも目はチラチラとまだ水槽の方へ。花音先輩がどれだけクラゲが好きなのかがこれだけで判断できるというものだ。

 

 

「なら追いかけましょうか」

 

「うん!」

 

 

今日の流れでデフォルトになりつつあるが手を繋いでアクセサリーショップへ二人で向かう。アクセサリーショップへ着き千聖さんを見つけるがなんだか考えている様子。

 

 

「千聖ちゃんどうしたの?」

 

「花音、もうクラゲは良いの?」

 

「うん」

 

「千聖さんはどうしたんですか」

 

「......何でもないわ」

 

 

 

......嘘だな。こちとら専属マネージャーでドラマも細かくチェックしてる所謂ファンなんだ。最近では千聖さんの嘘でも見抜けるようになってきたのだ。俺の方の嘘もみんなから見抜かれるから成長してるのかどうか分からないけど。

 

 

「ちょっとトイレ行きたいのでさっきのカフェの前で待っててくれませんか?」

 

「分かったわ、花音行きましょう」

 

「宗輝君迷わないでね」

 

 

 

その台詞を花音先輩から言われるとは思わなかったぞ。

 

 

 

 

「すみません、このネックレスって......」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「......すぅ」zzz

 

「......ん」zzz

 

「二人ともこんな無防備に寝顔晒して......」

 

 

 

時は過ぎ今は帰りの電車内。女の子特有の"買わないお買い物"に付き合わされショッピングモールを右往左往すること数時間。俺の両隣で可愛らしい寝顔で気にすることなく眠っている二人。俺が一番寝たいくらいなのだが三人共寝てしまうといけないので我慢。

 

 

「ほっぺた柔らかいな......」ツンツン

 

んにゃ......

 

 

 

俺が千聖さんと花音先輩のほっぺたの感触を楽しんでいるところで我がスマホが震えだす。別に誰かに会いたくて震えだしたわけでは無く着信だ。しかし、相手は意外にも彩であった。

 

 

『もしもし宗輝君?』

 

「この電話は現在使われておりません」

 

『......あれ?日菜ちゃん、これ宗輝君の携帯番号で合ってるよね?

 

「番号をお確かめの上、再度お掛け直し下さい」

 

『もしもし宗輝?お姉ちゃんと代わろうか?』

 

「どうしたんだ何の用だ何が欲しいんだ言ってみろ」

 

 

 

なにそれ、紗夜さんと一緒にいるとか聞いてない。案外彩と紗夜さんって話するらしいから怒られるに決まってる。それこそ必要以上に彩をおちょくったとなれば鉄拳制裁では済まない。

 

 

『今何処にいるの?』

 

「電車の中だ」

 

『それなら帰りにCiRCLE寄ってね』

 

「何故に」

 

『それは来てから彩ちゃんが説明してくれるよー』

 

 

 

ばいばーい、と言って彩に代わること無く通話が終了。元来た駅へはあと一駅といったところ。偶然か奇跡か俺達以外の人がこの車両にいないのが救い。じゃないと寝てる二人に悪戯出来ないし。

 

 

「どうせまりなさん辺りがやらかしたんだろうな」ナデナデ

 

「......むぅ」zzz

 

「あーいやだなー」プニプニ

 

「......むにゃ」zzz

 

 

 

そうやって悪戯してる間に駅に到着。何もなかったかのように二人を起こして三人帰路に着く。まぁ俺は送ったあとCiRCLEなんだけどな。

 

 

 

「宗輝君は寝なかったの?」

 

「眠くなかったので」

 

「さっき欠伸してたくせに良く言うわね」

 

「お陰で可愛い寝顔を拝めたので」

 

 

顔を赤くする花音先輩はやはり可愛らしい。多分こういうタイトルで売り出したら人気出ると思うよ。うん、切実に売れることを願う。

 

 

 

「なら私はここで失礼するわ」

 

「私もこっちだから」

 

「花音先輩大丈夫ですか?」

 

「うん、流石に家までは悪いよ」

 

「私の心配は?」

 

「千聖さんは大丈夫でしょ?」

 

 

 

 

結局そこで数分程話が弾み、千聖さんの一言で取り敢えず解散。終始千聖さんと花音先輩に振り回された日だったけどまぁ楽しかったし良しとしよう。美味しいカフェも見つかったし俺の方も満足だ。

 

 

 

「でもこれからCiRCLEかぁ」

 

 

 

間違いなく何かが起こりそうな予感。まぁ明日もオフだし明後日まで長引くような事にならなければ問題ないか。

 

 

 

「何もありませんように......」

 

 

 

気休めついでにモカ神様にでも祈っとくかな。

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「おまけのコーナー」

 

 

宗輝「今回は香澄とおたえだ〜」

 

 

香澄「おたえ!」

 

 

おたえ「どうしたの香澄?」

 

 

香澄「ピック飛ばし上手くなったの!見て見て!」ピュ-ン

 

 

おたえ「それなら私も練習してるよ」ピュ-ン

 

 

香澄「私両手で投げられるよ!」ピュ-ン

 

 

おたえ「私はカーブ」ピュ-ン

 

 

香澄「口に咥えて三刀流だよ!」

 

 

おたえ「なら鼻と唇の間に挟んで四刀流!」

 

 

香澄「流石はおたえだね!」

 

 

おたえ「香澄も中々やるね」

 

 

宗輝「ここまでカオスなのは初めてだな」

 

 

 

 

 

 

-End-

 

 

 

 

 

 

 





最近花音先輩が可愛すぎて困ってます。


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Produce 54#CiRCLEぱにっく!?


新たに☆9評価頂きました ELZさん Oriensさん ありがとうございます!少しずつですが評価頂けて嬉しいです!......でももっと欲しい!(欲望まみれ)

バンドリ3期も始まった事ですしドンドン界隈も盛り上がっていきそうで楽しみでございますな。

それでは、54話ご覧下さい。




 

 

 

 

 

 

 

 

~CiRCLE~

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 

 

今日は千聖さんと花音先輩に振り回されて心身共に疲れているのだが仕方ない。彩や日菜からの招集となるとパスパレ関連かもしれないしな。こんな時こそガッツよ宗輝!

 

 

 

「宗輝みーっけ!」

 

「日菜みーっけ」

 

「電車なんか乗ってどこ行ってたの?」

 

「千聖さんと花音先輩とデート」

 

「ん?ごめん聞こえなかった!」ゴキッ

 

 

 

思いクソ日菜に関節技極められてるんだけど......。ちょ、どんどん力強くなってるって!!このままだと関節外れるし激痛で昇天しちゃうよぉ!

 

 

 

「ちょ、ギブギブ!!デートは嘘!普通に買い物に付き合わされただけだよ!」

 

「なーんだ、それなら良かった!」

 

「二人の相手で疲れてるんだから勘弁してくれ......」

 

 

 

安心しきった表情で近くのソファへ腰掛ける日菜。こちとら今日はずっと安心出来ない状況だったんだけどな。迷子の達人の花音先輩に乗り換え苦手な千聖さん。しかも、千聖さんに限って言えば何故か花音先輩の迷子能力までコピーしてるし。

 

 

 

「まず日菜達が何でここにいるんだよ」

 

「今度の文化祭ライブのポスターを渡しに来たんだよ」

 

「あぁ、確かにそんなの作ってたな」

 

 

 

俺の記憶が正しければ告知的な感じでポスターを作った気がする。他の資料とかデータ作成に頭回しててほぼ忘れてたわ。

 

 

 

「んで、肝心の彩はどうした」

 

「まりなさんとお話し中だと思うよ」

 

「やっぱ今回の呼び出しはまりなさんが原因か」

 

「残念ながら外れだよ〜」

 

「外れ?それなら何でこの時間にどういう理由で呼び出ししたんだよ」

 

 

 

帰ったらこっそり持ち帰ってる資料を仕上げようと思ったのに。別に絶対に必要な書類では無いから良いけど。ただ俺が勝手にまとめてるってだけの簡易的な資料、というかメモというかやらないといけない事リストみたいな。こうでもしないと何か忘れそうで怖いのです。

 

 

 

「それをこれからお話ししよう!」

 

「......まりなさん何でそんなに元気なんですか」

 

「んー?それは久し振りに出番が......ン-ッ!!」

 

「日菜ちゃんちょっとお口チャックしようか」ガバッ

 

 

 

要するに久し振りの出番だから張り切ってんのか。まりなさんも案外子供っぽいところあるんだな。社会や働く事の裏側について網羅してる何処ぞのプロデューサーとは大違いだ。

 

 

 

「あと何で彩はそんなにやつれてるんだよ」

 

「だってぇ〜......」チラッ

 

「あー、分かった。何も言うな」ナデナデ

 

 

 

俺の想像通りならまりなさんに何か押し付けられたのだろう。優しい彩の事だ、頼まれると断れないから仕方なく了承した感じか。パスパレも文化祭ライブ出ること決まったしその後は主催ライブもある。こんな忙しい時にやめてほしいのだが......。

 

 

 

「それじゃあ本題に移ろうか!」

 

 

 

 

こんなに元気なまりなさんを見るのも久し振りだし許してあげるとするか。

 

 

 

 

「それで、今回は何やらかしたんですか?」

 

「実は明日CiRCLEでライブを開く事になっててね!」

 

「すみません聞こえなかったのでもう一回お願いします」

 

「明日ここでライブをするんだよ!」

 

「......俺初耳なんですけど」

 

 

 

一応俺もCiRCLEにバイトとして働かせてもらってるはずなんだけどな。最近ずっとシフト入って無いから除名されてる感じ?しかし、それなら今日俺を呼び出すのはおかしいというものだ。この人無賃労働させる気なのだろうか。

 

 

 

「宗輝君、他にバイトの子が何人居たか覚えてる?」

 

「確か2人居たような気がしますね」

 

「正解、でもその二人が体調崩しちゃって明日来れなくなったの」

 

「なら明日のライブは中止?」

 

「そういうわけにはいかないわ!だって久しぶりのCiRCLEでのライブなのよ!?これを逃す手は無いわ!」

 

 

 

この流れは完全に手伝わされるな。オフだって言われたのにちっともオフらしい事出来てない。この繁忙期ともいえる直近一ヶ月を乗り越えたらまとめて休みを貰うしかないな。

 

 

「だから宗輝君には手伝ってもらおうと思って」

 

「この際良いですよ。というか俺もバイトですし」

 

「良かった!友達とか連れて来ても良いからね!」

 

 

 

残念、俺には友達と呼べる男性が居ないのです。それ故に呼ぶなら香澄とかそこら辺になる。

 

 

 

「彩は明日何か予定あんの?」

 

「明日は別に何も無いよ」

 

「なら決定、後は適当に香澄でも誘うか......」

 

「何が決定したの?」

 

「ん?彩にも手伝ってもらおうと思って」

 

「私は明日お姉ちゃんと遊ぶから無理だよー」

 

 

日菜は紗夜さんと遊ぶらしいからNGと。まぁ紗夜さんと遊ぶ約束を蹴ってまで手伝ってもらう訳にもいかないしな。その調子でどんどん紗夜日菜していって欲しいものである。

 

 

 

 

「じゃあ明日はよろしくね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

昨日は話がまとまってからは少し世間話をして帰宅。帰ると当たり前の様に香澄が居たので頼んだら二つ返事でok頂きました。令香は駄々こねてたけどお兄ちゃん的にNG出しといた。別に一緒に手伝ってもらっても良いんだけど悪い虫が付くかもしれないからな。

 

 

 

「むーくん起きろー!」

 

「んぁ......」

 

「お手伝いに行くぞー!」

 

 

 

一度目に身体を揺さぶられ、二度目に布団の追い剥ぎを喰らい起きざるを得なくなってしまった。まるで気絶している人を起こすかのように肩に手を置きブンブン揺さぶられると流石に目が覚めるというものだ。

 

 

10月に入っており既に気温も下がってきている。そんな中で俺の友と言える布団と離れ離れになるとかマジやばたん。香澄さん最近卍力アップしてきてね?......昨日テレビでこんな感じの言い回ししてたから試してみたけど頭悪過ぎるからやめよう。

 

 

 

「そろそろ起きなよお兄ちゃん」

 

「起きてるけど香澄がやめないんだよ」

 

「朝ご飯出来てるよ!」

 

「分かったから手を離してくれ」

 

 

 

ふと思い出したように肩から手を離す香澄。大体身体起こしてんのに未だに揺さぶり続けるとかどういう事だよ。軽くなんかのアトラクションに乗ってんのかと錯覚するレベルだったぞ。

 

 

 

「お兄ちゃん寝癖凄いよ」

 

「むーくん髪の毛お星様みたいになってるよ?」

 

「......うわ、マジでお星様じゃん」

 

 

 

前から寝癖は悪かったのだが今日は格別に凄いことになってる気がする。部屋に置いてある鏡で確認すると寝起きの俺でも分かるほどお星様になってるし。というかこれどうなってんだよ......。

 

 

「洗面所行って顔でも洗ってきたら?」

 

「軽く髪も濡らしてくる」

 

「先に食べてても良い?」

 

「俺の分は残しとけよ」

 

「はーい」

 

 

令香と香澄には前科があるので予め釘を刺しておく。アイツら母さんの作った玉子焼きが美味しいからって俺の分まで食べた事があるのだ。しかも口一杯に頬張ったところを目撃したにも関わらず"食べてません"アピールをするから油断も隙も無い。

 

 

 

 

 

 

 

~CiRCLE~

 

 

 

 

 

一通り身支度を済ませて母さんの作った朝食を三人で食べて俺と香澄はCiRCLEへ。今日のライブは一週間程前に急にまりなさんが決めたらしく、出演バンドの欄を見る限り俺の知ってるバンドは出てなかった。まぁそれはそれで手伝いがやり易いから良いんだけどな。

 

 

 

「おはようございまーす」

 

「おはよーございます!」

 

「宗輝君に香澄ちゃん、今日はよろしくね」

 

 

 

CiRCLEに入ると普通のテンションのまりなさんが迎えてくれる。昨日のままだったらめんどくさいと思ったけどそんな事なかったな。大体まりなさんがテンション高い時ってCiRCLEが繁盛してる時くらいだったからなぁ。お金が入ってくるからなのか、それとも普通に繁盛することが嬉しいのかイマイチ分からん。どっちにせよ自分の気持ちに素直なのは良いところだとは思うけど。かと言って昨日みたいな事にはならないで欲しいものである。

 

 

 

「彩はまだ来てないんですか?」

 

「彩ちゃんならもう準備に掛かってるよ」

 

「なら俺達も着替えて準備するか」

 

「うん!」

 

 

 

流石に私服でCiRCLEのお手伝いをする訳にはいかないので一応制服に着替えておく。制服といってもみんなで統一されたTシャツを着るだけなんだけどな。シンプルに"CiRCLE"と描かれた白色の長袖に黒のスキニーを履いて服装は準備完了。

 

 

 

「宗輝君、香澄ちゃんもおはよう」

 

「彩先輩!おはようございます!」

 

「ふむふむ、彩も制服中々似合ってるな」

 

「えへへ、そーかな?」

 

 

 

令香直伝の"これで女の子を一網打尽!"によると、まずは女の子の服装を褒めるべし!だそうです。というか彩とかアイドルしてるんだから似合うに決まってるんだよなぁ。なんなら今すぐ嫁に貰っても文句無いくらいだ。でもこれを口に出すと確実に俺の身に危険が及ぶので心の中だけに留めておく。昨日の日菜の関節技だけでも滅茶苦茶痛かったのにそれ以上なんてまっぴら御免だからな。

 

 

 

「むーくんむーくん!」

 

「はいはいお前も似合ってるよ。これぐらい言わなくても分かるだろ」

 

「ありがとむーくん!」ギュッ

 

「あ、暑苦しいぃ......」

 

「あはは......」

 

 

 

CiRCLE内はエアコンにより快適な温度に保たれているはずなのだが、香澄が引っ付いてくるせいで暑い。さっそく長袖から半袖に変えたくなったぞ。ライブの手伝いしてると自然と汗かくこと多いから一応持ってきているが、こんなにも早く着たくなるとは思わなんだ。

 

 

 

「それじゃあ掃除からお願いしようかな」

 

「ステージの方ですか?」

 

「ステージは昨日しておいたから他をよろしくね」

 

「了解です」

 

 

 

 

ステージをやってくれるのなら他もやっておいて欲しかったのが本音だがこれも留めておこう。なんと言っても酷い時は全部当日だったからな。それに比べればまだマシな方だし香澄や彩もいる事だしそんなに時間はかからないだろう。

 

 

 

「じゃあ香澄は受付周辺の掃除、彩は俺とカフェの方を掃除だな」

 

「らじゃ!」

 

「掃除道具は何処にあるの?」

 

「もうまりなさんが準備してくれてるらしいぞ」

 

 

 

我がCiRCLEにはカフェが併設されており、案外これが人気だったりした時期もあったのだ。俺がバイトとして入った時に丁度カフェが設置、他のバイトの子含めまりなさんに教育受けたのは懐かしい思い出だったりする。それからはメニューにポテトが追加されたり俺の自作であるオリジナルコーヒーが追加されたりと色々とあった思い出深い場所でもある。

 

 

 

「彩はホウキで掃き掃除頼むな」

 

「うん、分かった!」

 

「その後を俺がモップがけしていくから」

 

 

 

掃除と言っても普段から気にかけているせいかそこまで汚れていない様にも見える。掃除にあまり時間をかけるわけにもいかないので早さ重視でちょちょいと掃き掃除を済ませてモップがけをしていく。

 

 

「後は机とか椅子を綺麗にしていってくれ」

 

「これで拭いても良い?」

 

「それで頼む」

 

 

そう言って彩が机や椅子の汚れを拭き取る作業へと移る。手に持っているのは弦巻家作成のミッシェル布巾である。裏表にデカデカとミッシェルが描かれており、性能としても優れている一級品。巷ではこれを求めてミッシェルファンによる争奪戦が行われたとかなんとか。カフェに常備してるんだけど、このまま置いておいても大丈夫なのかしら。

 

 

 

「むーくん終わった!」

 

「俺達もそろそろ終わるからまりなさん呼んできてくれ」

 

「分かった!」

 

「香澄ちゃん早いね」

 

「アイツ片付けとかああ見えて得意なんだよ」

 

 

 

明日香がしっかりしてるからそれに隠れがちだけど香澄も案外出来る子なのだ。本人曰く俺の部屋を勝手に片付けてる間に身に付いたらしい。よって俺があまり掃除が好きじゃないのも香澄に原因があると言える。

 

 

 

その後も彩と話しながらではあるが掃除を進めているうちにまりなさんが到着。これで受付とカフェ共に綺麗に出来た。ぼちぼち出演バンドの人達が最終リハの為に控え室入りしているのが見て取れる。この後最終リハして終わったら開店してライブの流れだな。

 

 

 

「みんなには最終リハも手伝ってもらうね」

 

「本番はどうするんですか?」

 

「本番は私一人でやるから三人は受付とカフェお願いね」

 

「なら早速最終リハやりましょうか」

 

 

 

今回のCiRCLEでのライブに出演するのは4バンド。今や大ガールズバンド時代なんて言われてる中で力強くライブ続けてるみんなには素直に尊敬しかしない。俺だったら一番先に波に飲まれてる自信がある。決して量産型にはならず、しかし基本に忠実にいかに自分たちの味を上手く出せるかが大事になってくる。そういう風に考えるとハロパピとか最強格なんだけどな。

 

 

 

「それじゃあ順番にお願いしまーす!」

 

「彩先輩これどうするんですか?」「えーっと......どうするんだろう?」

 

「もう少し照明暗く出来ますか?」

 

「はーい、香澄照明暗くしてくれ」

 

「照明?えーっと、これかな?」ポチッ

 

 

 

香澄が少し不安げな事を口走りながらもボタンをポチッと押す。するとステージの照明が一気に暗くなり何も見えなくなってしまった。バンドメンバーも少し驚いてしまった様子。

 

 

 

「バカ、それは暗転のボタンだ」

 

「なら......こっち?」ポチッ

 

 

 

暗転のボタンの横にあるボタンを押して今度は明転。普通暗転の横にあるんだから明転って思いませんかね。俺の幼馴染は変なところでポンコツかますから扱いづらいことこの上ないな。

 

 

「その下に調節できるつまみがあるだろ」

 

「おぉ〜、本当だ」

 

 

やっと照明の明暗を調節できるようになったところでバンドメンバーと相談しつつ仕上げにかかる。その後は香澄には待機命令を出して彩と交代。彩も少し機械音痴なところがあったが何とかスムーズに最終リハは終了。

 

 

 

「今日はよろしくお願いしまーす!」

 

『よろしくお願いします!』

 

 

 

 

 

一度メンバーは控え室に戻りライブまで待機。そして俺達はCiRCLEを開店してお客さんに応対していく。まりなさん一人にライブの対応を任せるのは少し不安が残るが今は頼るしかないだろう。こっちも手が足りてる訳ではないからな。唯一の救いは彩のバーガーショップでの経験が最大限に生かされているという事だろうか。

 

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

「オリジナルコーヒーを二つお願いします」

 

「本日のライブのチケットはお持ちですか?」

 

 

「えーっと、取り置き取り置き......」

 

 

 

今は香澄に受付を任せて俺と彩の二人でカフェを回している状況。香澄一人にずっと任せる訳にもいかないので俺は両方を行き来するといった形になる。因みに今日のライブのチケットがある人は30%OFFと超お得なのだ。まぁ大体はライブ見に来てる人しかカフェ来ないんだけどな。

 

 

「オリジナルコーヒー二つお持ちしました!」

 

「宗輝君!お会計お願い出来る!?」

 

「了解!彩はドリンク頼む!」

 

 

「取り置きあった!高校生二人ですね!」

 

 

 

注文を受けドリンクを注いで持ってくる。その後に会計をしてやっと一息、と思いきや次の注文を取る。そんな流れでかれこれ数分は動きっぱなしで少し汗をかいてきたところ。やっぱ半袖にしときゃ良かったかも。

 

 

 

「......ちょっとの間だけ頼めるか?」

 

「え?う、うん!」

 

 

注文の波が少し収まってきたところを見計らって香澄の様子を見に受付へと向かう。カフェよりは簡単だから問題起こしてないと良いんだけど。

 

 

「ちゃんと受付出来てるか?」

 

「うん!バッチリだよむーくん!」グッ

 

「そんなポーズ取ってる暇無いだろ」

 

「わぁ!いらっしゃいませ......って日菜先輩に紗夜先輩!?」

 

 

 

俺に向けてグッジョブポーズを取る香澄を宥めて受付に集中させようとしたら、何やら知ってる名前が聞こえたので表へ出て確認する。

 

 

「やっほー!」

 

「何故貴方が居るんですか?」

 

「まぁ色々と......というか紗夜さんこそ何で?」

 

「少し前からここでライブがあることは知っていたので」

 

「お姉ちゃん誘って一緒に来ちゃった!」

 

 

「日菜少し離れなさい」「えー、別にこのくらい良いじゃん!」

 

 

 

昨日日菜が紗夜さんと遊ぶって言ってたのはこの事だったって訳か。紗夜さんと一緒に来れて嬉しいのは日菜の様子を見ればハッキリと分かる。余程紗夜さんの事が好きなのだろう。一線だけは超えないように注意して頂きたい。

 

 

「なら高校生二人で、今日は俺が奢りますよ」

 

「ホント?やったー!」

 

「ならポテ......コホン、コーヒーをお願いするわ」

 

「じゃあ私もお姉ちゃんと一緒の頂戴!」

 

「へいへい、紗夜さんのと一緒に持ってくるから待っててな」

 

 

いい加減紗夜さんもポテト好きなのオープンにすれば良いのに。隠し切れていないのが自分では分かってないのだろうか?それはそれでなんか可愛いから良いんだけどな。

 

 

「すまん彩、もうちょっとだけ頼む」

 

「わ、分かった!」

 

「私も手伝います!」

 

 

 

どうやら受付の方は既に終わったみたいで香澄もカフェの方へ参戦。一人増えるだけで凄く効率上がるから正直滅茶苦茶助かる。二人にカフェは任せて俺は紗夜さんと日菜のコーヒーとポテトを準備する。

 

 

「お待たせっと」

 

「ありがと宗輝!」

 

「......頼んでもいないものを持ってきてもらっても困るわね」パクッ

 

 

 

とか言いつつも既にポテトに手をつける紗夜さん。控えめに言ってぐう可愛い。ぐうの音も出ない程可愛いのでぐう可愛い。ケチャップをほっぺにつけてるところとか狙ってるとしか思えない。しかし、それを取るのは俺の仕事ではなく日菜の仕事だ。きょ、今日のところは譲ってあげるんだからね!?

 

 

 

「それではごゆっくり〜」

 

 

 

俺がカフェへ戻るとカフェの方も一段落着いた様子で彩が疲れた表情でうなだれている。俺や香澄がいたとは言えほとんど彩が対応していたようなものだ。頑張ったご褒美として今度何か欲しいものを一つ奢ってあげるとしよう。

 

 

 

「ライブ始まるみたいだよ!」

 

「俺がカフェ見とくから香澄と彩はライブ見てこいよ」

 

「い、良いの?」

 

「元はと言えば俺が強引に誘ってるからな。ライブ見たいだろうし気にせず行ってこい」

 

 

 

彩と香澄も先程までの応対で少し汗をかいたらしく、着替えてくると言ってバイトのみんなが使用してるロッカーへ向かう。彩に伝えた通り今日は半ば強引に彩を誘ったこともあり最後まで手伝ってもらう訳にもいかないだろう。後は俺一人でも何とかなりそうだし頑張りますかね。

 

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「ん〜!お姉ちゃん楽しかったね!」

 

「まぁ勉強にはなったわね」

 

「......それは良かったです」

 

 

 

結論から言おう。一人じゃありゃ無理だ。何故か俺一人になってからも注文が止まる事はなく、結局ライブが終わるまでずっと働き詰めだったのだ。最近は事務所に座って頭動かしてる事が多かったから体力が落ちてきているのかもしれない。

 

 

「やっぱ私もいれば良かったかな?」

 

「いや、彩は良くやってくれたよ......問題はコイツだ」ポン

 

「.......んにゃ」zzz

 

 

カフェの仕事が終わり着替えようと思ってロッカーに来たら香澄が寝ていたのだ。彩も先に行っててくれと言われて気にしていなかったらしい。まぁロッカーで寝てるなんて普通は想像しないわな。

 

 

「今日はありがとね」

 

「まりなさんこそ良く一人でやり切りましたね」

 

「そこは根性と意地で何とかしたよ......」

 

「お互い満身創痍って感じですね......」

 

 

 

まりなさんも疲れているのは一目見て分かる。経験したことあるから分かるけど一人でやり切ったのはマジで凄いと思う。そういう点に関しては尊敬するレベルだな。

 

 

「なら私達は帰るね〜」

 

「明日からの学校に遅刻しないように」

 

「極力頑張ってみます......っしょっと」

 

「香澄ちゃんおんぶしたまま帰るの?」

 

「まぁ寝てるし起こす訳にもいかないからな」

 

「......ぽぴぱぁ」zzz

 

 

 

香澄の母さんや父さんに連絡して迎えに来てもらう訳にもいかないし。香澄の父さんに言えば何を置いても迎えに来ると思うけどな。ウチと変わらず娘大好きな親バカなのは近所の人も公認しつつあるから。

 

 

「じゃあ気を付けて帰ってね」

 

「こっちこそ送れなくてすまんな」

 

「ううん!私は大丈夫だよ!」

 

「......むーくんすきぃ」zzz

 

 

 

 

CiRCLEで紗夜さんと日菜と彩とは別れて戸山家へ向かい香澄を背負ったまま歩き始める。一人夕日が沈みつつある夕焼け空を見上げながらふと頭によぎる幼い頃の思い出。そう言えば小さい頃にも香澄が怪我すると俺がおぶって家まで送ったっけな。

 

 

 

「お前はあの頃と何も変わんないのな......」

 

 

 

いつかは終わるものだとしても、今はこの関係が俺にとって大切な事には変わりない。だからこそ、この一分一秒をいつまでも忘れないように脳裏に焼き付けておこう。それが俺にとって唯一無二の財産になるように。

 

 

 

「......」zzz

 

「気持ちよさそうに寝やがって......」

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 





生きること、それはホシノコドウと見つけたり。


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それぞれの答え編
Produce 55#チョイス



毎週木曜日が楽しみな主です。
案外アニメの放送を待つ一週間は嫌いじゃない派です。
3rd seasonがどうなるのか楽しみですな。

それでは、55話ご覧下さい。
└一応最終章スタートです( ̄∀ ̄)


 

 

 

 

 

 

 

 

「宗輝ー、そろそろ起きなさーい」

 

「......分かったー」

 

 

 

 

この土日の疲れが残ったまま月曜日を迎えてしまった。然程日常生活には支障をきたさないレベルではあるものの、今週末にはRASのライブが開催される予定だ。勿論文化祭ライブやらの準備も並行して行わないといけない為休む訳にはいかない。

 

 

 

「......おはよ」

 

「おはよーお兄ちゃん」

 

「珍しく香澄は来てないんだな」

 

「香澄ちゃんは有咲ちゃんと一緒に登校するらしいわよ」

 

「ふーん、母さんご飯」

 

 

 

朝起こしに来ないと思ったらそういう事だったのか。今までだったら三人で登校してたのに今日だけ仲間外れを喰らってしまった。有咲はもしかしてあんまり俺とは登校したくないのだろうか。今度遠回しに聞いてみよう。

 

 

 

「父さんと母さんは今週末には向こうに行くからな」

 

「えらく急に決まったな」

 

「元々は夏季休暇の予定だったけどその後もまとめて休み取ってたからね」

 

「父さんも母さんもこんなに休んで大丈夫なのか?」

 

「あっちではこれが普通なのよ」

 

 

 

これも日本と外国の常識の違いというものなのだろう。日本人は働き過ぎなのだという事が他の国々と対比しても一目瞭然らしい。プロデューサー曰く、やれ有給が全く取れないだの残業手当が付かないだの所謂ブラックな企業があちこちにあるみたいだし。将来そういう会社には絶対に就職したくないものだ。

 

 

 

「そこで提案がある」

 

「何だよ、また令香だけ連れてくのか?」

 

「今度またいつ帰ってくるか分からん以上、この際お前達も一緒に来ないか?」

 

「......それマジで言ってんの?」

 

「令香もさっき聞いたからホントっぽいよ」

 

 

 

確かにいつ帰ってくるか分からない以上、俺と令香の二人で暮らしていくのには不安も残るだろう。俺に子供が出来たなら絶対に連れていくと思うし。でもそうやって強引に連れて行こうとしないのには理由があるのだと思う。

 

 

 

「でも、こっちに帰ってきた時の話じゃ年末には帰れるって言ってた気がするんだけど」

 

「最初はそうだったが、来年の1月から新プロジェクトが立ち上がる関係で残らないといけなくなったんだ」

 

「それで今回のお休みを長くしたのよ」

 

 

 

父さんが会社にとって有益な人材であり、新プロジェクトを立ち上げるにあたっての必要なファクターである事は理解できる。昔からこの人は仕事が出来るみたいだし、母さんもそんな父さんだからこそ好きになったのだろう。だがしかし、いきなり海外へ行こうなんて言われて冷静さを保てる子供が果たしているのだろうか。

 

 

 

「学校とかどーするんだよ」

 

「向こうに行くのなら編入という形になる」

 

「そんなこと急に言われても判断出来るわけないだろ」

 

「私達も宗輝や令香なら難なく過ごせるのは分かってるわ。でもね、やっぱり二人だけっていうのはどうしても不安が残るのよ......」

 

 

 

元々は俺一人だけで過ごしていたのにはちゃんとした理由がある。一つは、まだ令香が幼かったから。今なら俺も家事全般出来るし令香にもこなせるだろう。しかし、父さんと母さんの滞在期間中にも事件やら問題やらは沢山あった。そういう不安要素を母さん達は懸念しているのだと推測できる。

 

 

 

「出来れば今日明日中で考えてくれない?」

 

「......分かった」

 

 

 

俺と令香に突き付けられた二択。父さんと母さんについて行き、家族全員海外で生活を共にするのか。それとも俺と令香の二人だけでもここに残り、花咲川に通いながら二人暮らししていくのか。

 

 

 

 

「......所謂究極の二択って訳かよ」

 

 

 

 

考えがまとまる様子は一切無く、朝ご飯を終え遅刻しないように少し早めに家を出た。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「......ます!......聞いてるの!?」

 

 

 

 

家を出てからもずっと歩きながらこれからの事を考えていた。シミュレーションゲームさながら、もし俺と令香も海外へ行き家族全員で暮らすことになれば......。確かに今までとは違った環境にはなるかもしれないが、それはそれで楽しかったりするのかもしれない。向こうで新たな人間関係を築き上げたり、はたまたバンドを組むのも面白そうだ。

 

 

 

「......したんですか?」

 

 

 

しかし、そうなった場合こちらでの今までの生活はどうなるのだろうか。香澄や明日香は勿論の事、直近ではRASの主催ライブもあるし文化祭ライブだって色々やり始めたばかりだ。友希那と蘭のRoseliaとアフグロの対バンライブだって見たい。こころ達ハロパピも文化祭ライブに誘おうと思ってたし。こうやって考えてみるとまだまだやりたい事、やり残した事が沢山ある事に気が付いた。

 

 

 

「ちょっと貴方!?さっきからちゃんと聞いてるの!?」

 

「さ、紗夜さん?すみません、ボーッとしてました」

 

「宗輝君体調悪いの?」

 

 

 

紗夜さんの声で意識は現実世界へと連れ戻される。紗夜さんの隣には生徒会長である燐子先輩や他の生徒会メンバーが並んで挨拶をしている。というよりは、考えに耽っている間に花咲川へ到着していたみたいで少しビックリだ。

 

 

 

「大丈夫ですよ燐子先輩。それより委員会が生徒会の挨拶運動ですか?」

 

「どうしても生徒会だけでは足りないので......」

 

「週毎でそれぞれの委員会が一緒にやる事が決まったのよ」

 

「それで今週は風紀委員の番ってわけですね」

 

 

 

だから昨日は遅刻するなって予め釘を刺されたのか。紗夜さんは俺の事を遅刻常習犯みたいに考えているかもしれないが、俺が遅刻だとみなされているのには原因がある。その大まかな原因となっているのがウチの担任教師だ。運の悪い事にウチの担任は風紀委員の担当の先生でもあるのだ。本当に全く持って運が悪い。

 

 

 

「じゃあ少し質問いいですか?」

 

「あまり時間も無いから手短にお願い」

 

「紗夜さんや燐子先輩にとって俺ってどんな存在ですか?」

 

 

 

自分にとって他人がどんな存在なのかを深く考える事はあまりないだろう。例えば、俺にとって令香は可愛い妹であり家族であり大切な存在だ。絶対に離れ離れになる事は無いし、令香を傷付ける物は何であっても許しはしない。こういう風に他人について深く掘り下げて考えた答えを聞きたかったからこの質問をした。

 

 

 

「......少し場所を変えましょうか」

 

「......?」

 

 

 

 

その場では何か問題があるのか、紗夜さんは場所を変えると言って俺達三人は校舎裏の気づかれにくい場所へと移動。

 

 

 

 

「では答える前に逆に貴方に質問しましょう。貴方にとって私や白金さんとはどんな存在なのでしょうか」

 

「先に答えろって事ですか」

 

「そう受け取ってもらっても構いません」

 

 

 

 

確かに紗夜さんや燐子先輩だけに答えてもらってはフェアでは無い。紗夜さんや燐子先輩の心の内を聞いているのだから、俺の心の内を紗夜さん達が聞くのはごく普通の事で筋が通っていると言える。

 

 

 

「......実は未だにハッキリとはしてません。でも、自分でもこれだけは分かってます」

 

「どういう......ことなの?」

 

 

 

 

 

「冷静沈着で臨機応変に対応出来て頼りがある風紀委員長の紗夜さんですけど、実は大のポテト好きで臨機応変に、とは言いましたが時々想定外の事が起きるとあたふたするところとか惚れそうになるくらい可愛いです」

 

 

 

 

普段は氷川家長女として、また日菜の姉としてや風紀委員長として模範となる様な行動に重きを置く紗夜さん。それでも、ポテトを目にすると欲が抑えきれなかったり我慢出来なかったりして、それをわざとらしく隠してツンツンするところも実に可愛らしい。

 

 

 

 

 

「誰よりも優しい燐子先輩は一見大人しそうに見えますが、その心の底には確かな音楽へのこだわりと情熱がある事は見ていて分かりました。ゲームをしている時の燐子先輩も普段のおっとりした燐子先輩も可愛らしいですが、時々大胆になる燐子先輩には少し驚かされます」

 

 

 

 

自分を変えたいという志を持って生徒会長として行動している燐子先輩。個人的にはRoseliaの中でも1.2位を争うレベルで音楽に関心と情熱を持っていると言える。そんな燐子先輩が居たからこそ、友希那達も支えられながらRoseliaとして日々成長出来たのだろう。俺だって燐子先輩に救われた事は幾度となくある。

 

 

 

 

「......これはもう隠しきれませんね」

 

「......氷川さん?」

 

 

「私は貴方の事が好き......なんでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜さんの口から出た言葉をすぐには理解する事は出来なかった。それもそのはず、あの紗夜さんから好きという単語が出る事さえ珍しいのだ。それを俺に向けてくれているという事実と向き合うのはさぞ難しい事だろう。また勘違いしていないだろうか、また間違えたりしないだろうか.......そんな俺の心の中の疑心暗鬼な部分がどんどん膨れ上がっていくのが直感的に分かる気がする。

 

 

 

 

 

「未だに自分の心の中でこの気持ちが決定付けられないの。今まで異性に対して恋愛感情なんて物は欠片も無かった。......いや、多分あってはいけなかったのよ。ギターを弾く上で必要の無い物だったから。だけれど、貴方が日菜に対するコンプレックスに悩む私を......私達姉妹を救ってくれたあの日から変わった」

 

 

 

 

俺が紗夜さんと日菜を救った。その言葉を聞いて久しく思い出す事が出来る。日菜に対するコンプレックスに悩み、一時期はギターすら辞めてしまおうと考えていた紗夜さん。俺と同じ悩みを抱えつつも、それまではずっとギターを弾き続けていた紗夜さん。そんな紗夜さんだからこそあの時に折れて欲しくなかった。だから、助けになるかは分からなかったが俺の出来る精一杯をした。

 

 

 

 

「貴方が私に微笑んでくれるだけで嬉しくて、貴方とギターを弾いていると心が落ち着くのが分かる。逆に今井さんや湊さん......それに白金さんに対して親しくしているのを見ると時々胸が締め付けられる様な感覚に陥ってしまう。......教えて宗輝君、これが"好き"っていう事なのかしら」

 

 

 

「......俺には」

 

 

 

 

 

分かっている。分かっているにも関わらず、紗夜さんの気持ちから目を背けてしまいそうになる。多分、きっと......そうやってその気持ち自体間違いなのだと押し付けてしまいそうになる。だけど、もう自分自身を騙すのは辞めた。

 

 

「......俺は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ごめん.....なさい......ッ!!」

 

「ちょ、燐子先輩!?」

 

 

 

しかし、いきなり燐子先輩がその場から走り去ってしまったのだ。その理由についても何となく察しは付く。

 

 

 

 

「......白金さんには悪い事をしたわね」

 

「自覚はあるんですね」

 

「さっきの話、まだ答えは聞かないわ。その代わりに、これから私以外にもこういう話をされる時が来るかもしれません。その時は真摯に向き合って考えてあげて下さい」

 

 

 

 

紗夜さんは敢えて俺の答えを聞かないのだろう。それはきっと俺の答えが分かっているから。分かっていたとしても聞きたく無いから。そこまで分かっている俺も俺で変なのかもしれない。

 

 

 

 

「白金さんを追って下さい」

 

「でもSHRもうすぐ始まりますよ?」

 

「私の方から宗輝君と白金さんの事は伝えておきます」

 

 

 

 

風紀委員長である紗夜さんがサボりを勧めて良いのだろうか。しかしながら、燐子先輩を放っておくのも気が引ける。ここは紗夜さんに頼るしかなさそうだな。

 

 

 

 

「......紗夜さんのそういうところは好きですよ」

 

「馬鹿な事言ってないで早く行ってあげなさい」

 

「ありがとうございます紗夜さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「......そういうところは直して欲しいわ

 

 

 

 

 

 

 

(私の想いは伝えた。そして、きっとあの子も......)

 

 

 

 

 

 

 

~生徒会室~

 

 

 

 

ガラガラガラ

 

 

 

「......はぁはぁ」

 

 

 

 

校舎周りを一度探してみたが燐子先輩の姿は見当たらなかった。もしかしたら教室に戻っているのかと思ったが、既にSHRの開始時間を過ぎている為確認出来ない。かと言ってふらふら探していても先生に見つかってお説教をされるだけだ。一か八か生徒会室にいることに賭けてドアを開ける。

 

 

 

「......やっぱりここに居たんですね」

 

「......む、宗輝君」

 

「燐子先輩って隠れんぼ得意だったりしませんかね......」

 

 

 

校舎全体を使っての一対一の隠れんぼとか無理ゲー過ぎる気もする。だが今回に限って言えば場所も限定されていた為なんとか見つけ出せた訳だ。あまり時間も無い為単刀直入に聞こう。

 

 

 

 

「私に......何か用?」

 

「さっきの質問の答え、まだ聞いてなかったので」

 

「......」

 

 

 

先程の紗夜さんの言葉を思い出せ。燐子先輩の話を真摯に受け止めて、正々堂々と向き合うことが今やるべき事だ。もう決して逃げたりなんかしない。それは、自分から目を背けると同時に燐子先輩を侮辱する事にも繋がるから。

 

 

 

 

「......多分、私も宗輝君の事が好き......なんだと思う」

 

「......はい」

 

 

 

「でも......この気持ちは伝えちゃダメなんだとも思った。友希那さんや今井さん、氷川さんや他の人達を見ていれば何となく分かった」

 

「......はい」

 

「それでも......やっぱり宗輝君の事が好き」

 

 

 

 

 

燐子先輩の口から"好き"が出る度に身体が熱くなっていくのが分かる。俺だって今までずっと自分の勘違いだと思って騙し続けていた。それは燐子先輩だけでなく友希那やリサや他の面子にだって言える事だ。

 

 

 

「......男の人と話すなんて無理だと思ってた。それでも......宗輝君は私を拒絶することなく......一人の女の子として接してくれた。困った時は何も言わず助けてくれたり......何気ない事で笑い合ったりしてる君を見てると......なんだか幸せな気持ちになれたの」

 

 

「俺はただ燐子先輩の為を思って手を差し伸べただけに過ぎません。それに、その気持ちはもしかすると勘違いなのかもしれません......」

 

 

「そんな事ないよ!......この気持ちに、自分のこの想いに嘘なんてない。最初の方は......宗輝君時々怯えた様な顔してるときがあったの。その時に......私と同じなんだって思った」

 

 

 

 

燐子先輩の言う通り、俺は最初過去のトラウマでどうしても一歩踏み出せなかった時期があった。今はみんなのお陰で克服することが出来てる。燐子先輩の事を何かと気にかけていたのは俺と同じだったからなのかも知れない。

 

 

 

 

「......私は、貴方の事が好き......です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......すみません、今はそれに答える事は出来ません」

 

「......ッ!!」

 

 

 

今はどうしても駄目なんだ。RASのライブに文化祭での合同ライブや対バンライブ。その後の合同体育祭とイベントが溜まりにたまってる。

 

 

 

「だけど、全部終わったら必ず答えを出します。だから......それまで待っていてもらえませんか?」

 

「......分かった」

 

 

「......ありがとうございます」

 

 

 

だから、全部まとめて片付けた後で答えを出そう。それまでは燐子先輩や紗夜さんには悪いが待ってもらう。それが俺の今出せる最大限の返事だ。

 

 

 

「......じゃあこれは......答えが出るまでの約束」

 

 

「えっ、ちょ......」

 

 

 

 

 

そう言って頬へ優しくキスをする燐子先輩。

 

 

 

「......じ、じゃあ私戻るから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......不意打ちは卑怯ですよ燐子先輩」

 

 

 

 

いざという時の行動力は人一倍の燐子先輩。こういうところに友希那達や俺も助けられてばかりだという事を再認識する。そして、その燐子先輩に恥じない様にこれからも頑張ろうと決意した。

 

 

 

 

 

 

 

~放課後~

 

 

 

 

 

 

 

 

「むーくん帰ろ!」

 

「すまん、先に行っててくれ」

 

 

 

 

朝の件は教室に戻ると担任からやけに心配された。何故なのかと理由を聞くに紗夜さんが体調不良だと伝えていたらしく有咲や美咲や香澄、果てには違うクラスのこころ達までもが教室へ安否の確認に来たのだという。

 

 

 

 

「だってさ有咲!みんなのところ寄って行こ!」

 

「......」

 

「有咲?」

 

「あ、あぁ、分かってる」

 

 

 

 

結局、お昼休みギリギリまで一度頭の中を整理する為に生徒会室に篭ってしまった。途中で先生が入ってきて気付かれそうになったがギリギリセーフ。まぁ途中で寝てしまっていたのは内緒。燐子先輩お得意の隠れ場所のお陰でお説教を回避出来た。早速燐子先輩に助けられた気分だ。

 

 

 

 

「むーねきー!」ガラガラ

 

「お、どうしたんだこころ?」

 

「体調は大丈夫なの?良かったらウチの病院で」

 

「待て待て、この通り体調はバッチリだから電話をしまえ」

 

 

 

流石は弦巻家のお嬢様。思い立ったら即行動の理念に基づいて早速問題を起こすところだった。こころんちの病院って言ったら国の最先端技術的なところに連れて行かれるに違いない。黒服の人に上手く説明出来れば仮病が通るがその可能性は薄い。出来るだけリスクを負わないのが斎藤流。

 

 

 

 

「なら良かったわ!」

 

「......もしかしてそれだけ?」

 

「宗輝の無事が確認出来れば良かったのよ!」

 

「この通り元気だから大丈夫だぞ」

 

「じゃあ私は練習に行ってくるわね!」

 

 

 

 

嵐の様にやってきて嵐の様に過ぎ去っていくこころ。わざわざ授業が終わって放課後のすぐにやってこなくても良いのに。まぁそれだけ心配してくれてたって思えば嬉しい限りだ。

 

 

 

 

「......あれでも宗輝が居ない間は静かだったんだよ」

 

「美咲か、さっきあんなに元気だったのに?」

 

「こころも内心凄く心配だったって事じゃないの」

 

「そういう美咲も心配してくれてたって聞いたぞ」

 

「......私は一応確認しに行っただけだよ」

 

 

 

 

むず痒い様子で頭をわしゃわしゃとする美咲。美咲のこういう隠しデレの部分を見ると可愛くて仕方が無くなるからやめて欲しい。

 

 

 

 

「本当は体調不良じゃないんでしょ?」

 

「......何でそう思うんだ?」

 

「んー、何となく?」

 

「なんだそれ」フッ

 

 

 

 

朝の件といい少し緊張感というか切羽詰まったというか、そういう雰囲気が一切無い美咲と話すのはやはり落ち着く。もしかして美咲は一種の精神安定剤か何かなのかも知れない。

 

 

 

 

「美咲」

 

「面倒ごとなら聞かないよ」

 

「ちょっと相談したいんだけど」

 

「.......はぁ、場所だけ変えようか」

 

 

 

 

そうやって渋々付き合ってくれる美咲はやはり面倒見が良いと見て取れる。だからこそ、こころの滅茶苦茶にも付き合えるのだろう。

 

 

 

 

それからは一度身支度を整えて美咲と共に屋上へと上がった。何故美咲がこのルートを知っているのかは聞かないでおこう。俺も時々屋上上がってたのに会わなかったのは不思議だけど。

 

 

 

「それで、相談って何?」

 

「......俺今週末に海外に行くかも知れない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......やっぱり体調不良なんじゃない?」

 

「別に頭おかしくなったとかそういうんじゃないからな」

 

 

 

 

人が真剣に相談してるのにこの切り返し。何とも美咲らしいと言えるが今はそういうのは求めてないので却下。

 

 

 

「じゃあどういう意味なの」

 

「両親が仕事の都合で海外に戻るから一緒に来ないかって」

 

「それでこっちに残るか向こうに行くかで迷ってる訳か」

 

「正解、話が早くて助かる」

 

 

 

正直美咲に話す様な内容でも無いことは自覚してる。というか最初は誰にも相談するつもり無かったのにな。美咲に相談するとヒントくれそうな気がしたのか、誰でもいいから打ち明けたかったのか。それともそのどちらでも無いのか。今もまだ答えが出せていない現状を察するに両方とも正解な気がするけど。

 

 

 

 

「......ふーん」

 

「......え?もしかして感想それだけ!?」

 

「なに、私が行くなって言ったら行かないの?」

 

「そういう訳じゃ無いけどさ......」

 

 

 

もっとこう、テンプレ的な会話するんじゃないの?例えば......あれ、こういう時のテンプレとかそういえば俺全く知らないな。というか逆の立場になって考えりゃ反応する事すら難しい話題だし。他人の家の事情だし。なにこれ、もしかして俺超重い話してる?

 

 

 

 

「......でもさ宗輝」

 

「ん?」

 

「それ、もう答え出てるんじゃない?」

 

「どういうこと?」

 

「そこは自分で考えなよ」

 

 

 

美咲は随分とスパルタな性格してる事が分かった。でも美咲がこう言ってるんだから多分合ってるんだろう。自分じゃなくて美咲を信じるのはおかしいのかも知れない。でも、そうする事で一つ理由を作ろうとしている自分がいることに気付く。俺は結局選べない理由を探してるんだと思う。ここでやるべきは他にあるのにも関わらずに。

 

 

 

 

「まぁ話聞いてくれただけで少し気が晴れた」

 

「答えは出たの?」

 

「いんや、まだまだ全然」

 

「他の人はなんて言ってたの?」

 

「ん?これ美咲以外には話してないぞ?」

 

 

 

 

思い返してみればこんなに重い話軽々と人にするべきじゃ無かったな。最初に話したのが美咲で良かったのかも知れない。というか無意識下で美咲になら話しても良いんだと思っていたのかも。だとしたら俺の無意識さんマジグッジョブ!

 

 

 

 

「な、なんで他の人には話してないのさ」

 

「本当何でだろうな。でも、美咲になら気兼ねなく話せると思ったから一番に相談したのかもな」

 

「......意味わかんないよ」

 

 

 

大丈夫、俺自身もイマイチ意味分かってないから。それでも混乱してないのは美咲だからこそだろう。

 

 

「まぁ一人で考えてみるわ」

 

「......私は

 

「ん?」

 

「......私個人としてはこっちに残って欲しいかな」

 

 

 

 

美咲の急なシフトチェンジで少し頭が追いつかない。普段あまり自分の意見を表に出さない美咲。その美咲が自ら自分の意見を口に出したのだ。珍しいにも程がある。

 

 

 

「それはどうしてなんだ?」

 

「まぁ......宗輝が居ないとこころが寂しがるだろうし」

 

「ということは美咲は寂しがってくれないのか」トホホ

 

 

 

こころの事を想っての発言だった事に少し残念な気持ちがしない事も無い。だがしかし、的を射る発言であった事は確かだろう。こころに知らせずに海外になんて行ったら黒服さん達総出で探し出されそうだし。それはそれで世界を股にかけた鬼ごっこみたいで楽しそうではあるが。

 

 

 

 

「ま、まぁそういう事だから」

 

「......ありがとな美咲」

 

「別にお礼言われる様な事してないけどね」

 

「そうか?俺は美咲のそういうところは好きだぞ?」

 

「......はいはい、戸山さん達待たせてるんじゃないの」

 

 

 

そう言えば香澄達に先に帰れって言ってたの忘れてたな。もうほとんど帰ってると思うけど遅くなるといけないから帰りますか。

 

 

「また明日なー」

 

「また明日ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......はぁ、ホント勘違い製造機だねアイツ」

 

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 





マスキングがお嬢様学校に通っていた事実を知って驚いてます。


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Produce 56#寤寐思服


一応この類のアンケートはラストになるのでご協力お願いします。
読んでくれてる人の推しとか分かってちょっと嬉しい......とかじゃなくてちゃんと結果の方は使いますので!笑

それでは、56話ご覧下さい。
(誤字報告ありがとうございます)


 

 

 

 

「やっぱ蔵には着いてるわな」

 

 

 

美咲と学校で別れてからは少しばかり早足で蔵へ向かった。美咲は答えが出てるとか何とか言ってたけど、俺自身はまだ答えには辿り着けていない様にも思える。美咲に見えて俺には見えていないものでもあるのだろう。期限付きというのも少々問題なのだが、そこは持ち前の臨機応変な対応力で何とかするしかなさそうだ。

 

 

 

「あら、宗輝君いらっしゃい」

 

「いつもお世話になってます」ペコリ

 

「みんなもう蔵に入ってるからね」

 

 

 

 

相変わらず優しい笑顔で迎えてくれる有咲お婆ちゃん。この人には俺のみならず、香澄達みんな助けられてきたのだ。最早、みんなのお婆ちゃん的存在とも言える。

 

 

 

有咲お婆ちゃんに背中を押される様ににして蔵へと向かい、少しの間入り口から中の様子を伺う。あまり良く見えないのだが、香澄がいつもの如く楽しそうにギターを弾いていたり、おたえとりみりんが二人で合わせの練習をしていたりと、よく見るポピパの練習風景で少しホッとした気分になる。

 

 

 

 

「何で宗輝入らないの?」

 

「うおっ!?」

 

「あはは、ごめん驚かせちゃった?」

 

 

 

完全に背後を取られてしまい武士として失格である。というイヴが好きそうな設定は無しにして、何故か後ろから声を掛けられたので振り向く。そこにはやまぶきベーカリーの袋を持った沙綾が。この鼻腔をくすぐるような甘いパンの匂い......と女の子特有の良い香りが合わさって幸せな気分になってしまう。

 

 

 

「そりゃいきなり後ろから声掛けられたら驚くだろ.......。沙綾こそなんで蔵に入ってなかったんだよ」

 

「見れば分かるでしょ?一旦家に帰ってたの」

 

「じゃあそれは差し入れってところか」

 

「ん、母さんに持っていけって言われたの」

 

 

 

千紘さんも相変わらず優しい。有咲お婆ちゃんに夜食を時々作ってもらう機会もあったが、基本的にはポピパメンツ全員やまぶきベーカリーの常連客なのだ。それを差し入れに貰うだけで練習にも精が出るというものである。かく言う俺もやまぶきベーカリーのパンは大好物なので、さっきから腹の虫が鳴りそうで我慢し続けている。

 

 

 

「取り敢えず入ろっか」

 

「おう」

 

 

 

やまぶきベーカリーの人気パンの一つである"うさぎのしっぽパン"にかじりつきながらドアを開けて中へ。俺と沙綾に一早く気付いた香澄は、まるで尻尾を振って"おかえり!"と言わんばかりの子犬の様に近付いてくる。

 

 

 

「むーくん何食べてるの?」

 

「うさぎのしっぽパンだよ、お前も食うか?」

 

「うん!」

 

 

 

いつもの如くと言っても良いのか不明だが、口を開けて待っていたのでパンを少しちぎって食べさせる。毎度毎度コイツは自分で食べるという選択肢が欠陥しているらしい。その様子を見たおたえも真似をして食べさせてくれと言い出す始末。なんだか鯉に食パンを餌付けしてる気分だ。

 

 

 

「流石はうさぎのしっぽパンだね」

 

「むーくんもう一口!」

 

「へいへい」

 

 

「りみりんはチョココロネね」

「ありがと沙綾ちゃん」

 

 

 

 

さっきまでは練習してたのに、今じゃただ飯食ってるだけの時間になってしまった。それよりさっきから有咲の姿が見当たらないのだがトイレにでも行っているのだろうか?

 

 

 

「有咲は何処にいるんだ」

 

「用があるとか言ってたよ!」

 

「多分家の方じゃないかな?」

 

「俺ちょっと探してくるわ」

 

 

 

有咲だけやまぶきベーカリーのパンが食べられないのは不公平だろう。有咲のお婆ちゃんにも家に入る許可は貰ってるし大丈夫。有咲には悪いが勝手に探させてもらおう。

 

 

 

 

「有咲〜、何処にいるんだ〜?」

 

 

 

取り敢えず玄関のドアを開けて呼びかけてみる。しかし、一向に返事を貰える様子も無さそう。

 

 

 

「確か有咲の部屋は......」

 

 

 

こっそりと教えてもらっていた有咲の部屋へ向かう。というより、有咲のお婆ちゃんの方から有咲の部屋の場所を教えてくれたのが本当だったりする。何故か有咲のお婆ちゃんは俺に好意的に接してくれるのだ。基本的にはポピパメンツにも好意的なのだが、俺の場合は過保護とも言えるレベルだから少し気にかかる。

 

 

コンコン

 

 

「有咲いるのか?」

 

 

 

一応常識としてノックはしてみるが返事は無し。少しドアノブを回すと鍵は掛かって無いようなので、悪いとは思いつつもドアを開ける。

 

 

 

「......なんだよ」

 

「いるんなら返事くらいしてくれ」

 

 

 

勉強机に向かって突っ伏している様子の有咲。見た感じ体調が悪い様にも思えなかったので何か他の理由だろう。この感じだと香澄達にも話してないと思うし。ここは仕方なく俺が相談には乗ってあげますか。

 

 

 

「......何か悩み事でもあんのか?」

 

「別に何にも」

 

「......嘘だな」

 

「何で宗輝にそれが分かるんだよ」

 

 

 

顔を見ると少し元気が無い様にも見える。そんな有咲が何も無いと言っても信憑性は薄い。俺レベルになると何かあったとしか聞こえないから。悩んでいるのなら助けてやりたいのが俺の想いだ。

 

 

 

「俺と有咲の仲だからかな?」

 

......またお前はそうやって

 

「ん?」

 

 

 

有咲が何か呟いた気がするのだが良く聞こえなかった。ここで聞き返すのもあまりよろしくないだろう。そこら辺は雰囲気で察するのがベストアンサーだったりする。

 

 

 

「......なら聞いても良いか?」

 

「おう、どんと来い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の授業休んでたの、体調不良じゃ無いだろ」

 

 

 

 

 

 

まさか有咲が美咲と同じ事を言い出すとは思わなかった。有咲の一言から数秒間、部屋の中と頭の中が空白で埋め尽くされてしまう。その事実に少し動揺してしまうが、何とか取り繕う為に言葉を絞り出す。

 

 

 

「な、何言うてますのん有咲はん?」

 

「動揺してんのバレバレだぞ」

 

 

 

どうやら俺は動揺すると言葉遣いがおかしくなるタイプの人間だったらしい。彩にさんざん言ってきたが、まさか自分も似たようなタイプだとは思わなんだ。

 

 

 

「理由教えろ」

 

「......生徒会室で寝てました」

 

「それは知ってる」

 

「なら別に......知ってる!?何で有咲が知ってるんだ!?」

 

 

 

 

おかしい、生徒会室に来たのを確認してるのは先生くらいだ。俺が寝てる間に見つかってたら説教されてるはずだ。まさか有咲の奴鎌かけてきやがったな?

 

 

 

「あ、そういえば保健室だったような気も......」

 

「毛布なんて最初無かっただろーが」

 

「毛布?」

 

 

 

思い返してみると確かに。俺が眠りについた時には何も無かった気がする。起きたら毛布かかってたから無意識に自分で自分に掛けたと思ってたけど......。よくよく考えてみたらそんな事ありえんな。

 

 

 

「有咲が持ってきてくれたのか?」

 

「起こしはしなかったけどな」

 

「なんで?」

 

「......笑わないか?」

 

「おう」

 

 

 

何か理由でもあるのだろうか。それとも寝ている俺の顔が面白かったから毛布で隠したとか?だったら俺的には普通に笑えない。だって寝てる時の顔が面白いとか自分じゃどうしようも無いし。今度令香に聞いてみよう。

 

 

 

 

「......お前泣いてたんだよ」

 

「......え?泣いてた?俺が?」

 

「最初はどうしてだろうって考えたんだ。でも、考えてる間に全部繋がった」

 

「繋がった?」

 

 

 

話している有咲の顔が段々暗くなっていくのが見て取れる。俺の涙の理由が有咲には分かっているのだろうか。昨日から俺が知らない事を周りのみんなが知ってる事が多い気がする。

 

 

 

「......実は生徒会室で燐子先輩と話してるの見てたんだ」

 

「はぁ......何処まで聞いてた」

 

「全部」

 

「それじゃあ隠す意味も無いな」

 

 

 

まさかあの会話を見られていたとは思わなかった。あの場面で警戒して鍵を閉める程俺の頭は回ってくれなかったし。それと燐子先輩に勘違いされても困るしな。

 

 

 

「だから、それが理由かなって思って」

 

「どういう事だ?」

 

「お前の事だからまた責任感じてるだろ?それで寝てる間の無意識の内に泣いてたのかなって」

 

 

 

 

少し勘繰り過ぎな気もしないこともないが、概ねその通りだと思う。紗夜さんと燐子先輩から気持ちを伝えられ、それにYesともNoとも答えられない自分が少し許せなかったのかも。あそこで雰囲気に流されて答えるのは一番の愚策であり侮辱だ。それを選択しなかっただけ自分を褒めても良いのかもしれない。

 

 

 

 

「それか他に悩み事がある......とか」

 

「悩み事ねぇ......」

 

「あるのか?」

 

 

 

既に美咲に相談したので今更感が凄いが良いのだろうか。果たして有咲やポピパメンツにあの事を相談すべきか。RASのライブや文化祭ライブに支障が出る可能性だって十分ある。俺の一番の心配の種は幼馴染のアイツなんだけどな。

 

 

 

「有咲、実は俺......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!有咲とむーくんみーっけ!」

 

 

 

 

しかしながらタイミング悪く、心配の種である香澄がここぞとばかりに登場。想像出来なかった不測の事態だった為、俺と有咲はなんとも言えない表情のまま数秒が経過する。

 

 

 

「香澄ぃ!お前なー!」

 

「わー!むーくん助けて〜!」

 

「どうしてここが分かったんだ?」

 

「お婆ちゃんが教えてくれた!」

 

 

 

成る程、それなら納得出来る理由だ。香澄が俺と有咲が居ないことに気付き、自分一人でこの場所を探し出せたのなら一等賞あげたのに。

 

 

 

「二人で何してたの?」

 

「んー、文化祭ライブの打ち合わせ」

 

「ちょ、おま......」

 

「だったらみんなで話そうよ!」

 

 

 

ここで"実は俺今週末に海外行くんだ"とか言ったらコイツ何しでかすか分からん。適当に誤魔化しておくのが一番無難だろう。有咲には悪いが今はそうさせてもらう。

 

 

 

「ほら、有咲もむーくんも行くよ!」グイッ

 

「はいはい」

 

「......」

 

 

 

 

 

香澄に強引に連れられて、俺と有咲は蔵へと戻り練習を続けた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「たでーま」

 

「おかえりお兄ちゃん」

 

「おかえり宗輝」

 

 

 

玄関に入りパッと時計を見ると既に20時。あまり遅くなって迷惑をかけてもいけないので解散。終始有咲の顔が晴れない様子だったが大丈夫だろうか。大方俺の話が聞けなかったからだろう。またタイミング見計らって話しといた方が良さそうだな。

 

 

 

「ご飯出来てるから手洗って来なさい」

 

「ん、分かった」

 

「れーかも洗う!」

 

 

 

少し窮屈だが二人で一緒に洗面台で手を洗う。今日の晩ご飯はハンバーグ。おたえが聞けば即座にやって来そうなメニューだ。香澄は今日は自分の家で過ごす予定らしく途中で別れた。令香は相変わらず来て欲しいみたいだけど。

 

 

 

『頂きます』

 

 

「朝の件、決まったのか?」

 

「.....明日まで待ってくれ」

 

 

 

 

聞かれるだろうとは察していたが、ご飯に手をつける前とは思わなかった。しかし、父さんも母さんもそれからは何も聞くことは無く、いつもの夕飯の様にワイワイと食卓を囲んだ。そこら辺は流石両親と言ったところだろうか。俺がまだ迷っているのは既に伝わったらしい。

 

 

 

「あ、そう言えば忘れてたわね」

 

「何を忘れたんだよ」

 

「ついさっき宗輝を訪ねて来た子がいたわよ」

 

「多分日菜さんだと思うよー」

 

 

 

日菜が俺を?何か急ぎの用事でもあったのだろうか。いや、それだったら携帯に電話かけてくれば済む話だ。それなのにわざわざ家まで来て話す様な事。今朝の紗夜さん辺りが怪しいが今日はもう遅い。また明日にでも日菜の方から動きがあるだろうから待つしかないか。

 

 

 

「明日にでも聞いとく」

 

「パスパレ関係じゃない?」

 

「そうだと良いんだけどな......御馳走さん」

 

「もうすぐお風呂も入るから」

 

 

 

それまで部屋で時間でも潰すか。今日は色々ありすぎて頭がパンクしそうだからな。ちょっと頭の中でも整理する時間も必要だろう。

 

 

 

 

 

「紗夜さんと燐子先輩か......」

 

 

 

 

その二人が自分にとってどんな存在なのか今一度考えてみる。

 

 

 

紗夜さんは最初こそ厳格でしっかりとした人のイメージがあった。しかし、それも触れ合っていく中で良い意味で段々壊れていった。かつての俺と同じ悩みを持ち、一度はギターすら辞めてしまおうと打ち明けた紗夜さん。そんな紗夜さんが変わる事が出来たキッカケが俺だと言った。勿論日菜の存在も大きいのだろうが、俺はその事実を聞いて素直に嬉しいと思ったし誇らしいとも思えた。

 

 

 

 

燐子先輩に限って言えば、最初は避けられてるんじゃないかって思う程だったと思う。だがそれも束の間、Roseliaとしてや一人の女の子として接していく内にお互いを知っていったのだろう。正直俺の方が燐子先輩には助けてもらってばかりな気がする。ライブの時だって一番気にかけてくれてたのは燐子先輩だ。学校生活の中でも何かと心配してくれる事が多かったのも事実。そんな小さな事かも知れないが、それが燐子先輩を変えていったのだと教えてくれた。

 

 

 

 

「......どうすりゃ良いんだろうな」

 

 

 

 

結局、最後の答えのところでどうしてもつまづいてしまう。それでも、ただ一つこの二人に共通して言える事があるのだ。それは"二人の変化"に必ず俺という因子が存在しているという事。正直自覚はあまり無いのだが二人が言うのだから本当なのだろう。それと同時に、やはり二人は俺にとって大切で大事でかけがえのない存在だという事を再認識する。だからこそ答えを出せずにいるのかもしれないな。

 

 

 

コンコン

 

「お兄ちゃん起きてる?」

 

 

 

と言いつつ部屋のドアを開けて中を確認する令香。ドアをノックして入ってくる辺りは流石だが、こっちが返事する前に入ってくるのはどうなんだろうな。

 

 

 

「起きてるぞ、なんか用か?」

 

「お兄ちゃんの考え聞きたくて来ちゃった」

 

「考え?父さん達について行くかって話か?」

 

 

 

令香が首を2.3回コクリと縦に振ったので正解なのだろう。コイツもコイツで考える必要がある事だからな。俺とコイツが別々の選択をする事だって可能性としては大いに残ってるわけだ。

 

 

 

「まだ考えてる最中なんだけどな」

 

「因みに令香はもう決まってるよ」

 

「お?どうするつもりなんだ?」

 

「それは教えなーい」

 

 

 

この妹は煽り能力もこっちにいる間に上がってるらしい。もう決まってるんなら教えてくれても良いと思うよ。特に絶賛頭の中パニックのお兄ちゃんには重要な判断要素だったりするからね。

 

 

 

「んー、じゃあ一つだけヒント!」

 

「ヒントじゃなくて教えて欲しいんだけどな」

 

「それだと面白くないじゃん」

 

 

 

俺にとっては面白いか面白くないかで考えられる様な内容じゃ無いんだけどな。まぁヒントくれるって言ってるから許してあげるしかない。てっきり俺は"お兄ちゃんについて行く!"とか言うと思ってたんだけど内緒にしておこう。

 

 

 

「"どうするか"じゃなくて"どうしたいか"で考えると良いかもね」

 

「それが難しいんだよなぁ」

 

「うん、難しいに決まってるじゃんか。だからこそ考える意味があるんだと思うよ」

 

「......まぁ確かにな」

 

 

 

俺の知らない間にこんなにも成長していたのかと思うとグッとくる。妹に泣かされそうになるのなんていつぶりだろうか。出産の時とか初めて喋った時とか七五三の時とか......考えれば数え切れないくらいありそうだからやめとこう。

 

 

 

「誰かに相談したのか?」

 

「まぁ数人にはね」

 

「参考になったか?」

 

「勿論、相談しなかったらまだ悩んでたと思うし」

 

 

 

 

相談したにも関わらず悩んでる人が現在進行形で居るのでスルーしておく。こういう点においても差がつくのは何故なのだろうか。少しは何かしらお兄ちゃんの方に分があっても良いと思うの。

 

 

 

「はぁ......まぁ明日中くらいには決めとく」

 

「最後に一つ」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「令香はいつだってどこにいたって、お兄ちゃんの妹だからね!」

 

 

 

 

 

ならば、俺が返すべき言葉はこれしか無い。

 

 

 

 

「俺は何があってもお前のお兄ちゃんだからな」

 

 

「うん!」

 

 

 

本当にコイツが妹で良かったと心の底から思う。こういう風に支え支えられての関係が成り立っているのもきっと令香だからこそだろう。今でも充分コイツには甘いのだがもっと甘くなりそうな気がしてきた。

 

 

 

「二人ともお風呂沸いたから入りなさーい」

 

 

『はーい』

 

 

 

 

頭を使い過ぎて疲れてしまった。そんな時は熱々の湯船に使って疲れを取るのが一番だ。俺と令香はお風呂が好きでついつい長風呂してしまう癖がある。今日はなんだか長風呂しそうな予感がするから先に令香に入ってもらうか。

 

 

 

「お前先入っても良いぞ」

 

「じゃあお先に頂きまーす」

 

「おうよ」

 

「お兄ちゃん覗いちゃダメだよ?」

 

「覗かねーよ」

 

 

 

 

 

このやり取りが出来る兄妹は、果たして地球上に何人いるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 





今のところ3rd seasonと自分の考えてたのが被ってなくて安心してます。


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Produce 57#信頼と親愛


主体調不良により前書き省略。


57話、ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 

 

 

「......んぁ」

 

 

 

珍しく目覚ましの音より早く目覚めてしまう。昨晩も頭を悩ませてしまった。そのせいで夢にも出てくるかと思ったが、流石にそこまで精神的に参ってはいないらしい。かと言ってこの早起きの原因に関わっていないことはないだろう。

 

 

 

 

「お兄ちゃん時間......あり?何で起きてるの?」

 

「俺はゾンビか何かかよ。いや、確かにこの時間は寝てるけどさ」

 

 

 

 

可愛い顔して"何で起きてるの?"とか言ってるけど、別に俺ウイルスに感染してるゾンビじゃないからな。大事なことだから二回言いました。俺は至ってごく普通の高校生だから。......俺の周りの交友関係を除けば。

 

 

 

 

「朝ご飯出来てるから降りてきてねー」

 

「はいよ」

 

 

 

携帯から充電器を抜いてそのままパジャマのポケットへ入れる。しかし、ここでパジャマにはポケットが無いことに気付き仕方なく手で持っていくことに。いい加減覚えようぜ俺。前にも入れようとして携帯を床に落としたの忘れてたわ。

 

 

 

 

「おはよ」

 

「おはよう。アンタ寝癖付いてるわよ」

 

「......本当だ」ピョン

 

 

 

 

リビングに置いてある鏡で確認。俺と令香特有のアホ毛では無いところに寝癖を発見。一応手で押さえて直そうと試みるが寝癖の反発精神に負けてしまう。なんかもう一本アホ毛が生えてきた気分だ。

 

 

 

それから洗面台に行って寝癖を直し、そのついでに顔をパッと洗い歯磨きを終えてしまう。朝ご飯の後でも良かったのだが、二度手間になってしまうので済ませておいて損は無いだろう。でも物事や人間関係を損得で考え過ぎると駄目って何かの本で読んだ気がする。まぁ俺は損得とかで付き合ってる友達いないし大丈夫。それ以前に同性の友達がいない方が問題だと思うけど。

 

 

 

 

「今日は令香特製お弁当だからね!」

 

 

 

そう言ってくれるのはありがたいのだが、いかんせん弁当の中身がいつも通りなのは何故だろう。基本母さんが作る弁当とそっくりそのままなのだが、果たしてこの妹の言う事を信じても良いのだろうか。

 

 

ピンポ-ン

 

「ん?」

 

「令香出てくる!」

 

「宗教のお誘いは断るのよ〜」

 

 

 

宗教のお誘いとかこの早い時間に来られると流石にイラッとするからやめてほしい限りだ。普段は色々と誤魔化しつつ帰ってもらうのが俺流のやり方なのだが、今なら何も言わせず一蹴出来そうな気がする。

 

 

 

 

「むーくんおはよ!」

 

「おねーちゃんでした!」

 

「薄々みんな気付いてたよ」

 

「みんなって誰?」「誰の事だろうな」

 

 

 

最早デフォルトのように家にやって来た香澄。"明日一緒に行こうよ!"とか"だったら行く前に連絡するね!"なんて言うやり取り一切無し。まぁ断る理由も行かない理由も無いから良いけど。

 

 

 

「んじゃ行って来まーす」

 

「行って来ます!」

 

 

 

 

その後、香澄も朝ご飯が食べたいとの事だったので少し分けてやった。お陰で俺の分が少なくなってしまった。令香は令香で自分の分はきっちり食べるし、母さんは既に食べ終わってるしで所謂詰みの状況。仕方ないから喉飴でも食べながら行きますかね。

 

 

 

 

「むーくん今日は何するの?」

 

「放課後はおたえと一緒にRASで調整だな」

 

「もうライブ近いもんね」

 

「だから今日はおたえと俺抜きで蔵練頼むな」

 

 

 

 

首を縦に振り"むーくんも頑張って!"と親指を立て少し大袈裟に応援じみた事をする香澄。コイツに練習を任せるのは少々不安が残る。後で沙綾辺りにでも真面目にやるように伝えておこう。別に信用してないとか無いから。これは念の為なんだからね。

 

 

 

「あー!かーくんとむーくんみっけ!」

 

「はぐー!」

 

「ん、おはようさん」

 

 

 

北沢印は元気印。これは今も昔も変わっていません。昔なんか全然知らないけどな。まぁはぐみがいつも元気なのは当たり前っちゃ当たり前の事だな。アフグロ流に言うといつも通りってやつだ。

 

 

 

「二人で登校?」

 

「うん!はぐも一緒に行こ!」

 

「じゃあお話しながら行こっか!」

 

 

 

案外、というか普通に香澄とはぐみって似た者同士だから惹かれ合うものでもあるのだろうか。別に混ぜるな危険って感じはしないから良いんだけど。俺の中で一番混ぜちゃいけないのがハロパピ三馬鹿だったりする。混ぜちゃいけないのに同じバンドって収拾つかなくなってるからな。

 

 

 

 

いつもの様に香澄と二人で登校していた道を、今日ははぐみを混ぜて三人でワイワイと話しながら歩いていく。香澄とはぐみが話している一歩後ろを離れない様についていくのが俺流。今は二人で話してるから良いものの、三人で話すとなると何故か俺が真ん中で二人に挟まれながら話すという若干窮屈な状況に。香澄は普段から距離が近いのは知っているのだが、いかんせんはぐみも距離感バグってるから近いのなんの。

 

 

 

 

「あ、そういえばむーくん」

 

「どした」

 

「こころんが言ってたけど、今度文化祭でライブするんだよね?」

 

「俺こころに言ってなかったはずなんだけどなぁ」

 

 

 

推測するに、多分黒服さん達からのリーク情報だろう。大方、身辺警護班の黒井さん辺りが俺の周りをうろついて情報集めしてるといったところか。最近黒服さんを見ないと思ったらしっかりと裏で働いてて感心。忠誠心というか何というか、仕事に対する熱意だけは尊敬します。何処ぞのプロデューサーにも言える事ですけどね。

 

 

 

 

「ハロハピにも出てもらうつもりだからな」

 

「え!はぐみ達も出ても良いの!?」

 

「当たり前だろ、なぁ香澄」

 

「うん!みんなで一緒にライブしよ!」

 

 

 

 

嬉しさのあまり俺に突撃して(抱きついて)くるはぐみ。あのですね、貴女良く猪突猛進とかって言われません?これ香澄とかで慣れてなかったら倒れてたぞ。まぁコイツの場合は冗談抜きで突撃だからな。

 

 

 

 

「むーくん大好き!」

 

「待て待てはぐみさん、誤解されるから取り敢えず離れてくれると助かる」

 

「分かった!」

 

「ヨシヨシ、聞き分けの良い子はお兄さん好きだぞ」

 

 

 

代わりに少し頭を撫でておいてやろう。流石にこんな登校中の歩道で抱きつかれるのは勘弁願いたい。それに告白とも取れる言動も謹んで頂きたいものだ。ただでさえそれが原因で絶賛お悩み中だというのに。そんなの関係なく人を笑顔に出来るのは、やはりはぐみだからこそだろうか。

 

 

 

 

結局それからも俺を間に挟んで三人であーだこーだ言って花咲川へ到着。その間ずっと距離がほとんどゼロだったのは気のせいだろう。制服にまで匂いが付いてるのもきっと気のせい。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

キ-ンコ-ン

 

 

 

さてここで問題。このチャイムは一体いつの時間を指し示すチャイムでしょうか。学校には様々なタイミングでチャイムが鳴らされる。それは大体どこの学校に行っても大して変わることのない出来事だろう。

 

 

 

例えば朝の登校時間5分前のチャイム。俺にとってこのチャイムは親友みたいなものだ。花咲川へ入学してから1年半と言ったところ。これまでの長い月日を共に過ごしてきたチャイムを親友と呼ばずして何と呼ぼうか。きっとチャイムの方も俺の事を親友と思ってくれている事だろう。うん、きっとそうに違いない。しかし、実際このチャイムが鳴って尚校舎内に入れていないという事は、即ち風紀委員の紗夜さんからお叱りを受けるという事の裏返しである。

 

 

 

 

「おーい宗輝君」

 

 

 

 

次にお昼休みを知らせるチャイム。このチャイムは、苦手な数学やめんどくさい物理の授業で疲れ切った俺の心を癒してくれる時間の始まりだったりする。最初はポピパメンツと俺の六人で中庭でお弁当タイムだったのだが、いつの間にかこころや美咲達ハロパピ勢や彩や千聖さんのパスパレ勢も一緒に食べることも多くなってきている。毎日みんなとお弁当の中身を交換しつつ楽しむお昼休みは、最高のひと時と言って差し支えないだろう。

 

 

 

 

「気付いてないのかな?」

 

 

 

 

最後に放課後のチャイム。正直に言おう、俺はこのチャイムが数ある内で一番好きなのだ。理由は至って簡単、学校が終わるという事はその先は楽しい事ばかり。ポピパの蔵練しかりRASの練習しかり。勿論、羽丘に行くも良し家に帰ってゴロゴロするも良し。"学生の本分は勉強"とは言うものの、勉強だけでは得られないものはこの世には沢山存在する。そんな"勉強だけでは得られないもの"を探すのが放課後の一つの形だと思うけどな。

 

 

 

 

「だったら気付かせれば良いのよ」ペチッ

 

「あうっ」

 

 

 

問題の正解は放課後のチャイム。香澄は有咲を連れて既に蔵へ向かった。俺はと言うとただボーッとしていただけなのだ。というか、千聖さんのデコピン案外痛くてビックリ。千聖さんのSっぽい部分がまた露呈してしまった。

 

 

 

 

「彩に花音先輩に千聖さんまで、どうかしたんですか?」

 

「どうもこうもないわよ。貴方に用があって来てみればずっとボーッとしてるだけだし」

 

「そういうお年頃なんですよ」

 

「ならあと一回くらいデコピンしとこうかしら」

 

「右手をお納め下さい」

 

 

 

デコピンのポーズを取る千聖さんを何とか鎮めることに成功。"なら代わりに彩ちゃんが"とか言う千聖さんの言葉を真に受けた彩が"上手く出来るかなぁ"と練習を始める始末。俺がデコピンされるのは確定で話を進めないで頂きたい。さっきから隣でずっと困った顔をしてる花音先輩がかわいそうだ。

 

 

 

 

「どういったご用件でしょうかね」

 

「此処では何でしょうから場所を変えましょう」

 

 

 

そう言って、千聖さんはささっと俺の手を掴み教室を後にする。彩や花音先輩も同様に後をついてくるばかりで何も答えてはくれない。俺が知らない間に後輩を拉致する遊びでも流行っているのだろうか。

 

 

 

「......ここなら良さそうね」

 

「なんだか既視感凄いなぁ」

 

 

 

何時ぞやの校舎裏へ到着。やはりこの間三人共何も言ってくれない。そろそろ俺の心がゆら・ゆらRing-Dong-Danceを踊りそうな勢いなのだ。千聖さん達の用件を俺が言い当てたらはなまる◎アンダンテでも歌ってくれるだろうか。

 

 

 

うん、このパスパレ曲ボケは全然ウケてなさそうだからこれまでにしとこう。じゃないとプロデューサーから愛の鉄拳制裁(ロケットパンチ100連発)が飛んできそうで怖い。

 

 

 

 

「宗輝君」

 

「はい」

 

「最近悩んでいる事はないかしら」

 

 

 

 

千聖さんのこの問い、一見ただの悩み相談にしか聞こえないが本質は違うところにあると思う。下手には答えられなくなってしまったか。

 

 

 

「最近じゃ夜にあんまり寝付けない事ですかね」

 

「だ、大丈夫?私が一緒に寝てあげようか?」

 

「いやいや、多分花音先輩いた方が眠れなくなるので」

 

「そ、そうかな?」

 

 

 

花音先輩と一緒に寝るとか最高か......コホンコホン、勘違いして欲しくないのだが決してR-18的意味で想像してた訳じゃないからな。俺はただ花音先輩に頭を撫でられながらゆっくりと眠りにつくのを想像してたんだ。.......まぁこれも充分やべぇか。

 

 

 

「じゃあ腰が痛いとかかなー」

 

「私がマッサージしてあげようか?」

 

「彩が?マッサージなんて出来るのか?」

 

「小さい頃はお母さんの肩叩き手伝ってたもん!」

 

 

 

それがマッサージの自信に繋がっているのだとしたら、彩はとんでもなくポジティブ思考だという事が分かる。それだったら今も尚母さんと令香の指先としてマッサージや肩叩きを任せられている俺はプロにでもなれるだろうか。まぁ彩にマッサージして貰えるのは役得だから是非お願いしたいところではある。

 

 

 

 

「じゃあ......寝癖?」

 

「ここにきてそれ?私達じゃ直しようがないじゃない」

 

「だって実際直すのめんどくさいですし悩みの種ではありますからね」

 

 

 

 

女の子から見たらどうでも良く見えるかもしれないが、案外男の子からしたら寝癖ってめんどくさい部類ではあるよね。特に寝相が悪かったりしたら爆発した髪型になってる事も少なくないし。今朝のはまだマシだった方だ。

 

 

 

 

「もっと真剣な悩みはないの?」

 

「まるで寝癖が真剣な悩みじゃないみたいな言い方しますね」

 

「寝癖よりも頭を悩ませる事なんて沢山あるでしょう」

 

「それもそうですけどね」

 

「本当にないの宗輝君?」

 

 

 

可愛く首を傾げて問いかけてくる花音先輩。大抵の悩み事なんて花音先輩見てたら吹っ飛びますよ、って言ったらどんな反応するだろう。試したいのは山々だが千聖さんが怒りそうなので自重しておく。怒らせるのダメ、ゼッタイ。

 

 

 

 

「はぁ......オフレコで頼みます」

 

「やっと話す気になったわね」

 

「え、やっぱり何か悩み事でもあるの?」

 

 

 

よくよく考えてみれば千聖さんが口外する様な人にも思えない。花音先輩も同様に信頼できるだろう。彩はなんか大丈夫そうだから良いだろ。

 

 

 

 

「家に父さんと母さんがいるのは知ってますよね?」

 

「お世話になったんだし当然でしょう」

 

「親御さんがどうかしたの?」

 

 

 

 

確かに父さんや母さんの都合で今こうして悩んでる最中なのは合ってる。でも正確には俺自身の問題なんじゃないかって思いつつもある。父さんや母さんが、なんてのは問題の大元なだけであって悩むべきポイントでは無い。"どうするか"じゃなくて"どうしたいか"だって令香も言ってたし。

 

 

 

「今週末に海外に仕事の為に戻るんだ。それに付いて来るかって話が出て令香と二人で考えてる最中なんです」

 

「なら簡単に言えば二択なのね」

 

「二択って事は......宗輝君が向こうに付いて行くかこっちに残るかって事?」

 

「まぁそんなところだな」

 

「令香ちゃんの答えを加味すると4通りにはなるけれど」

 

 

 

千聖さんの言う通り、俺と令香が必ずしも同じ答えを出すとは限らない。千聖さんの4通りと言うのは、俺と令香が二人揃って向こうに行くか残るかの二択と先程の二択の4つだ。選択肢としてはこの4つで間違い無いだろう。

 

 

 

「宗輝君はどっちか決めたの?」

 

「まだそれに時間がかかってますね」

 

「他には相談したの?」

 

「一応令香と美咲にだけは」

 

「......そういうことなのね」

 

 

 

 

令香には相談したのに答えは結局教えてくれなかったし。美咲だって同じく答えは教えてくれず自分で考えろって言われただけだったし。これってやっぱり人を頼らず自分で解決しろって事なのか。

 

 

 

 

「宗輝君」

 

「なんですか?」

 

「貴方がどう考えているかは聞かないわ」

 

「千聖ちゃん?」

 

「だけど、私達がどう思うかだけは聞いて頂戴」

 

 

 

 

そう言う千聖さんの目は真剣そのもの。かつてのアイドルライブや女優の白鷺千聖として活躍している時と同じ様な目をしているのを見て、本気なのだと俺なりに察する事が出来る。

 

 

 

 

「私に答えを強制する事は出来ない。かと言って変な事を言って深く悩ませてしまうのも駄目。だから私から言える事はただ一つよ」

 

「......はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分自身が幸せになれると思う方を選びなさい」

 

 

 

 

 

 

 

眩しいくらいの、それでいて包み込む様な優しさも持ち合わせた千聖さんの笑顔。これが白鷺千聖の素顔なのだと、そしてそれを自分だけ知っているという事への優越感に浸ってしまいそうになる。

 

 

 

「私は今でも迷子の癖が治らなくて、その度に宗輝君に迷惑かけてばっかり。本当は行かないでって手を引っ張って引き留めたい。だけど、私も千聖ちゃんと同じで決めたよ」

 

「花音先輩......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は宗輝君を信じて待ってるよ」

 

 

 

 

普段の花音先輩からはあまり想像が出来ない程の意志の強さを感じ取れる。自分を信じて待っていてくれる。そんな人がいるだけでこんなにも心が暖かくなれるのだ。

 

 

 

 

「......

 

「彩?......うおっ!?」バタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む"ね"きくん!行かないでぇ!!」

 

 

 

 

泣きじゃくる子供の様に俺の胸へ飛び込んで来た彩。せっかく千聖さんと花音先輩が良い感じに言ってくれたのに。まぁこれはこれで何とも彩らしいと言うか。千聖さんも花音先輩も仕方ないみたいな感じ出してるし。

 

 

 

「はいはい、取り敢えず泣き止もうな」ナデナデ

 

「うっ......行っちゃやだよ......」

 

 

 

自前のハンカチを彩に渡して零れ落ちた涙を拭き取る。泣き過ぎるとメイク落ちちゃうからやめといた方が良いと思うんだけどな。彩とかは薄化粧だからあんまり目立たない部類ではあるけど。それとそろそろ離れて欲しい。泣きながら抱きしめる力徐々に強くなってきてるから。軽くダウン取られて10カウント数えられそうだからな。

 

 

 

 

 

 

 

~5分後~

 

 

 

 

 

 

「そろそろ大丈夫か?」

 

「う、うん。ごめんね宗輝君?」

 

「いんや、お陰でちょっとは進んだ」

 

 

 

未だ目が少し赤くなっている彩。あれだけ泣けばそうなるのも当然と言えるだろう。千聖さんも彩だからなのか流石に怒る事なく泣き止むまで待ってくれてたし。花音先輩もちょこっと泣きそうだったの知ってる。俺自身も涙脆いんだからやめて欲しい限りだ。もう少しでもらい泣きしてしまうところだった。

 

 

 

「それじゃあ私達は練習に行くわね」

 

「ありがとうございました」

 

「良いのよ、ほら彩ちゃん行くわよ」

 

「うん!じゃあ宗輝君また明日!」

 

 

 

 

確かに今日はパスパレは全員揃っての練習の予定だったからな。遅くなり過ぎて迷惑かけるのもマズイだろう。日菜辺りなら何かとブーブー言ってきそうだし。想像に難く無いのが日菜らしいと言えるというか。

 

 

 

「花音先輩はこの後どうします?」

 

「今日はこころちゃんちに行く予定だよ」

 

「何かの打ち合わせですか?」

 

「文化祭ライブをするって言ってたかな」

 

 

 

 

あ、それ多分俺が提案したやつだ。朝のはぐみからこころに伝わって早速打ち合わせときたか。まぁこの後すぐ打ち合わせだったらわざわざ俺から教える事もないか。花音先輩には三馬鹿のまとめ役である美咲のお手伝いを頑張って貰わないといけないからな。

 

 

 

 

「だったらここでお別れですね」

 

「宗輝君は?」

 

「ちょっと用事があるので」

 

「......また無理してない?」

 

 

 

 

念のため確認、といった様子の花音先輩。忙しさや体調面はあまり表には出ないように気を付けていたのだがやはり分かりやすいのだろうか。最早俺の方が分かりやすい性格をしているだけなんじゃないかと思い始めた今日この頃。

 

 

 

「無理しない程度に頑張ってるつもりです」

 

「辛くなったらいつでも言ってね」

 

「はい、ありがとうございます花音先輩」

 

 

 

 

そして、花咲川の校門で花音先輩とは別れを告げる。おたえには携帯で先に行くように伝えてあるし、チュチュには昨日の時点で少し遅れるとは伝えてある。元々今日の放課後は誰かに相談しようと思っていたのだ。そこで運良く千聖さん達の方から話を持ってきてくれたのでありがたく便乗させてもらったに過ぎない。

 

 

 

 

「......こっからが頑張りどころだな」

 

 

 

 

 

今一度気合を入れてRASの練習場所であるビルへ向かう。

 

 

 

 

 

花音先輩が信じて待ってくれる。

 

 

 

 

 

千聖さんだって俺の背中を押してくれた。

 

 

 

 

 

彩なんて何言ってるか分からないレベルで泣いてたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな大切な人達を悲しませる事の無いように、俺はこれからも精一杯頑張っていこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 





感想、評価頂ければ幸いです。

p.s
誤字脱字報告ありがとうございます。
出来るだけ見直しておりますが見落とす事もありますのでご容赦下さい。


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Produce 58#想いの先にある答え


新たに☆9評価下さった 喰鮫さん ありがとうございます!

評価......嬉しいデスね!!
今一度評価下さっている勤勉な皆様に謝辞を......謝謝。

という茶番は此処まで。
58話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

 

「何回見てもすげぇビルなんだよなぁ」

 

 

 

 

花咲川で花音先輩や彩達と別れてからは、少々早足でRASが練習するチュチュ宅へ向かった。口にも出してしまったが、おおよそチュチュの様なまだ幼い子が所有しているとは思えないレベルなんだ。そりゃあ見る度に口に出したくもなる。今じゃその仲間入りしてるとなるとおかしな話だ。どこから俺の人生は捻じ曲がってしまったのだろうか。でも楽しいのなら自分的には結果オーライ。

 

 

 

ビルの自動ドアから中へ入り、チュチュの部屋の番号を入力してインターホンを鳴らす。すると出てきてくれたのはパレオ。パレオも相変わらず元気な様子で"お待ちしておりました!"と言い入り口の鍵を解錠。解錠、とは言ったものの顔認証である。この辺りは流石高級の最上層セキュリティ。普通の家庭の様な鍵穴の一つや二つでは満足しないらしい。俺の家の付近はそこまで治安悪く無いから大丈夫だと思うけど。

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」

 

「宗輝さん!お疲れ様です!」

 

「おう、パレオもお疲れさん」

 

 

 

 

エレベーターでチュチュの部屋の階層まで昇り入室。やはりそこでも一番に声を掛けてくれるのはパレオだった。何故かは分からないが俺は案外パレオには好かれているらしい。パスパレのマネージャー(仮)をしているからなのか、はたまた別の理由があるのかは定かではないのだが。まぁ嫌われるよか何倍かマシだから良いんだけどな。

 

 

 

 

「むっくんおかえり」

 

「ただいま......ってここは俺の家じゃないけどな」

 

「お疲れ様宗輝」

 

「ん、なんか久し振りだな」

 

「そう?私はそんなには思わないけど」

 

 

 

 

パレオに続いておたえとレイに労いの言葉をもらう。レイ曰く、時々おたえはここに来る時"ただいま"と言ってしまうらしい。勿論本人はあまり何とも思ってない様子。レイが来た時にはおかえりも言うみたい。最早、ここを第二の自分の家だと思っているのかもしれない。

 

 

 

レイとは最初に会った時こそよそよそしかったものの、会って話してみれば意気投合しいつの間にかお互い名前呼びに。マスキングことますきとは若干距離が縮まったかな?くらいの感覚。"敬語とかめんどくさい"とのことで普通に話しているのだが、いかんせん目つきやら何やらが怖い。チュチュにはプロデューサー修行という名目でビシバシ教育されたし。

 

 

 

 

「ますきは?」

 

「さっきまで中で叩いてたよ」

 

「相変わらず熱心なことで」

 

 

 

 

個人的な見解をすると、ますきはああ見えて人一倍音楽への情熱があるように思える。Galaxyでも数時間ドラムを叩きっぱなしというのも珍しくないらしいし。何よりドラム叩いてる時の表情を見れば分かるというものだ。いっつもドラム叩いてる時に笑ってるあこに近しいものを感じる。もしかして、ますきのあの風貌は厨二病故のものだったりするのだろうか。田舎のヤンキーよろしく殴り合いの喧嘩とかしてたらどうしよう。

 

 

 

ガチャ!

 

 

「あべしっ!!」ドンッ

 

「Sorry.こんなところにいるとは思わなかったの」

 

「かと言って全力でドア開ける奴がいるか普通......」イテテ

 

「チュチュ様、おかえりなさいませ!」

 

 

「むっくん大丈夫?」「おたえが撫で撫でしてくれたら治るかもな」

 

「痛いのとんでけー」「はなちゃんそれ古いよ」

 

「なら......ヨシヨシ」「これが俗に言うバブみってやつか」

 

 

 

 

ドアの前で考え事をしていると後頭部を強打するからみんなは気をつけてな。背後から近づく何かを察知できる様な能力が欲しいものだ。厨二病患者のあるある第32位の"ハッ!誰か居るのか!?"ということをしなくても済む。......べ、別にやったことあるとかじゃ無いからね!?

 

 

 

 

まぁそんなスピリチュアルな話は置いておこう。

 

 

 

 

「どこ行ってたんだ?」

 

「ライブの最終打ち合わせよ」

 

「なるほどね」

 

「練習はどうしたのよ」

 

「俺もさっき来たところだから分からん」

 

 

 

 

見たところパレオやレイが中ではなく外にいることから休憩中なのだろう。その中でも熱心に練習してたますきはポイント高い。休む時には休んだ方が良いのだろうが、本人が叩きたいのならそうさせてあげるのが一番だろう。まぁ俺はRASのプロデューサーじゃないし育成方針というか何というか、そういうのに関してはチュチュにまだ習ってない部分だからな。

 

 

 

 

「なら丁度良いわ、少し私達でも打ち合わせしておきましょうか」

 

「打ち合わせ?」

 

「チュチュ、今頃打ち合わせなんて要らないんじゃないの?」

 

「まだまだねレイヤ、私達のライブを最高のものにする為には必要不可欠なのよ」

 

「でも何か話す事なんてあるのか?」

 

 

 

 

チュチュの打ち合わせ云々を聞いていたのか、中からますきがスティックを持って出てくる。ドラムを叩いていると熱くなって汗をかくのか知らないが、今のますきの服装は少し肌色成分が多い様にも見える。というか普通に多いわ。個人的にヘソ出しってスタイルに自信無いと出来ないと思うのよね。ますきは客観的に見てもスタイル良いから絵になるというか目の保養になるというか。うん、ご馳走様です。

 

 

 

 

「セトリの確認とかか?」

 

「そうね、まずはその辺りから詰めていきましょうか」

 

「なら飲み物をお入れしますね!」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、パレオの入れてくれた珈琲は美味しいな」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

珈琲に関しては詳しいということは無いのだが良く飲むので少し自信がある。つぐみんとこの珈琲も美味しいがこれも中々の物だ。俺はブラックでも微糖でもいける派なのだが、この珈琲は苦過ぎず甘過ぎずで飲みやすい感じに仕上がっている。ちょこっと出してくれたお菓子にも良くマッチングしててついつい食べ過ぎてしまったではないか。

 

 

 

 

「まぁ大体はこんなところかしら」

 

「決まった事を確認してただけな気がするんだけどね」

 

「それもライブ成功への大事なプロセスなのよ」

 

「なぁ、そろそろドラム叩いても良いか」

 

「ええ構わないわ、そろそろ練習に移りましょう」

 

 

 

 

聞いていて分かるように打ち合わせとやらは終了。セトリの確認やら当日のスケジュール等を全員で再度共有する。同時に俺とチュチュはプロデューサーとしての仕事もある為そちらも確認しておく。とは言っても俺はチュチュのお付きで見学という形になっている。

 

 

 

 

「ほら、おたえ起きろよ〜」

 

「ん......むっくんどしたの?」

 

「どしたのってお前な......みんなで合わせるらしいぞ」

 

「はなちゃん大丈夫?」

 

 

 

 

打ち合わせが始まってからというもの、すぐにウトウトしだしたおたえちゃん。数分後には見事に夢の世界へと旅立ってしまった。チュチュが気付いて起こそうとしたのを俺とレイで宥めて止めたのだ。今はポピパとRASの二つを掛け持ちしてるんだ、それ相応の疲れは出てくるだろう。わざわざ寝ているところを起こすほど焦っても仕方ないからな。

 

 

 

 

それからはレイとおたえとますきとパレオの四人が中へ入り合わせを始める。最早RASの代表曲とも言える"R・I・O・T"を筆頭に3曲程連続で演奏。その様子を俺とチュチュが外から聞き気になったところを都度伝えて調整していく。俺の意見はフル無視な事が多かったりもする。かと思いきや独り言の様に呟いたのをチュチュが拾い上げたりもするし。こういうのはとやかく考えるよりフィーリングらしい。

 

 

 

 

 

「Stop.取り敢えず今日はこの辺りで終わりましょう」

 

「チュチュ様、少し早いですが良いのですか?」

 

「無理が一番の敵よパレオ」

 

 

 

 

 

一通り満足がいく演奏が確認出来たのかチュチュから終わりの合図が出る。練習時間はパッと考えて1時間半といったところ。パレオの言う通りいつもよりは少し早い切り上げにも思える。確かにチュチュの言うように無理は禁物だ。そう思っていたのなら俺にもちょっとは気を使って欲しいんだけどな。

 

 

 

 

「はなちゃん一緒に帰ろう」

 

「うん、むっくんも一緒に帰ろ」

 

「りょーかい。ますきはどうするんだ?」

 

「もうちょっとだけやって帰る」

 

「チュチュも言ってたが無理だけはしないでくれ」

 

 

 

 

 

水を一口含み再びドラムを叩く為に中へ入るますき。ますきがやるのならとチュチュが見てくれるらしい。それに付き添う形でパレオも少し残っていく様子。既にレイとおたえは帰る準備を始めているので俺もここら辺でお暇させてもらおう。

 

 

 

 

「なら先帰るな」

 

「ええ」

 

「皆さんお疲れ様でした!」

 

 

 

 

 

 

 

~帰り道~

 

 

 

 

 

 

 

秋と言うには少し肌寒い10月。時間も遅く時計の短針は8時を指し示している。制服の冬服の上に防寒対策としてコートを羽織っているので、体感的にはそこまで寒くはない。登下校であればあまりよろしくないのだが、この時間なら先生に見つかることもないだろう。おたえも寒そうにしてたからもう1着持ってきてたコートを貸してやってるし。

 

 

 

 

「ライブもう少しだね」

 

「はなちゃんとライブ出来るなんて夢みたい」

 

「私もレイとライブ出るの楽しみ」

 

 

 

 

こういう風に二人話しているのを見ていると、やはり仲が良いのを実感させられるのだ。幼い頃に出会い、そして二人一緒に音楽を通して色々と経験してきただろう。レイの両親の都合で急遽引っ越しをしないといけなくなり、その時におたえとはお別れしてしまった。それが今はこうして一緒にライブに出ると言った形で再会してるわけだ。より強固な絆で結ばれるのにも納得がいくというものだ。

 

 

 

「でもポッピンパーティーの方は良いの?」

 

「うん、ライブの時期がズレてて良かった」

 

「あまり無理はしないでね」

 

「レイもね」

 

 

 

 

例えば俺が海外に行ってしまったとして、おたえとレイの様な関係性でいられるだろうか。それは香澄しかり明日香しかり、他のみんなとでも当てはまる事だ。

 

 

 

ガールズバンドのみんなとは、俺の両手では抱え切れないほどの思い出を作ってもらった。勿論楽しいことばかりでは無かった。辛い事、悲しい事、苦しい思いだってしてきた。それをみんなで乗り越えたからこその思い出なのだろう。それなのに、そんなにも大切な人達に、果たして俺は笑顔で"行ってきます"が言えるのだろうか。

 

 

 

 

「宗輝も無理しないでよ」

 

「......ん?あぁ、無理ね。無理したら今度はみんなから怒られそうだからやめとく」

 

「むっくんは尻に敷かれてるんだよね」

 

「おたえさん?それはちょっと言い方違くない?」

 

「確かに」フッ

 

 

 

 

尻に敷かれてるのは俺の父さんだけで十分だ。決して俺は尻になんて敷かれてない。でも将来はお嫁さんに尻に敷かれそうで怖い。ほら、俺って尽くすタイプだし?相手も相手ならそういう風な関係になりそうじゃない?

 

 

 

「っと、そんな事言ってる間に到着だな」

 

「はなちゃんお疲れ様」

 

「うん、むっくんもレイもおつかれ」

 

 

 

 

無事花園家へ到着。おたえ→レイ→俺の順で帰ろうと最初から決めていたのだ。でも俺はレイの家知らないし大丈夫?送るっつっても帰るのに付いて行くだけだし大丈夫か。

 

 

 

 

「ちゃんと夜更かしせず寝るんだぞー」

 

「オッちゃんただいま〜」

 

「......未だにマイペースなのか天然なのか素で分からん子だな」

 

「それがはなちゃんの良いところでもあるでしょ」

 

「まぁおたえらしいと言えば聞こえは良いけどな」

 

 

 

俺をフル無視でオッちゃんにただいまの挨拶をする辺り、やはりこの子はおたえなんだと思います。不思議ちゃんで天然で時々意味わからない事言うけど可愛いから許せちゃう。こういう人はこれから"おたえ"と総称することにしよう。命名俺、広まれこの想い。

 

 

 

 

「なら俺らも帰るか」

 

「寄りたいところあるんだけど付き合ってくれる?」

 

「俺いなきゃ駄目?」

 

「駄目」

 

 

 

 

この時間に寄りたいところってあんの?まさかコンビニとか?俺はまた荷物持ちとして活躍しなければいけないのだろうか。ここ最近荷物持ちとというか力仕事というか何というか。ジム行かなくても良くね?ってレベルには筋力アップしてる気がするんだけど。

 

 

 

 

しかしながら、レイについて行き辿り着いたのは公園。この夜遅い時間に俺と公園で遊ぼうとでも言うのだろうか。お兄さん流石に疲れたから家でゴロゴロして休みたいのが本音なんだが。

 

 

 

 

「ちょっとお話しよっか」ポンポン

 

「お話?」

 

「ここに座って」

 

「あ、はい」

 

 

 

 

レイってお姉さんっぽいからなんか威圧感あるのよね。如何にも歳上のお姉さんって感じ。実際には同い年なんだけどな。

 

 

 

 

「......何か悩み事でもあるの?」

 

「......ふえぇ?」

 

「何その声、ちょっと気持ち悪い」

 

「す、すまん」

 

 

 

ついつい花音先輩の真似をしてしまう癖がついてしまったみたいだ。あれは花音先輩がやるから可愛いのであって、男の俺がやるとただただ気持ち悪い人になってしまうので注意。面と向かってレイに言われてしまいちょっと心が痛む。いや、確かに気持ち悪いけどさ。どストレートなのよね貴女。

 

 

 

 

「何で悩み事あるって思うんだ」

 

「さっきそういう顔してた」

 

「やっぱ分かりやすい?」

 

「意外とね」

 

 

 

会ってそんなに時間が経ってないレイですら分かりやすいと言っているのだ。もしかすると香澄や明日香、令香には全てお見通しレベルなのかもしれない。ちょっと帰ったらパソコンと携帯のパスワード変えとこう。

 

 

 

 

「それで何悩んでるの」

 

「......まぁ簡単に言えば"どっちを取るか"で悩んでる」

 

「どっちを取るか?」

 

「そうだな、レイに分かりやすく説明するなら"おたえかそれ以外か"ってところだな」

 

「余計分からなくなったよ」

 

 

 

おたえかそれ以外かって何言ってんだよ俺。それだと究極的過ぎて分からなくなるのも無理ない。

 

 

 

 

「まぁ色々と理由はあるんだよ」

 

「他の人には相談したの?」

 

「全員って訳じゃないけどな」

 

 

 

 

それこそ全員に相談なんてしてたら時間が足りない。今週末には飛行機で海外に行くんだ。父さんから答えは今日までには決めて欲しいって期限付きで言われてるし。出来るだけ相談してはいるんだけどな。

 

 

 

 

「内容は知らないしどんな風に悩んでるのかも知らない。けど、昔私も良く悩んでたから一つだけアドバイス」

 

「アドバイス?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっと周りの人の事を考えてあげると良いかもね」

 

 

「.......周りの人ね」

 

 

 

 

レイの言う"周りの人"というのは十中八九ポピパや他のバンドメンバーの事だろう。確かに今までは自分がどうしたいかとかしか考えてこなかった。まずはそこから決めないといけない気がしてたから。でもレイは周りの人の事を考えてあげてと言った。これはレイなりの経験則なのかもしれない。

 

 

 

「ありがと、参考になったよ」

 

「だったら良かった」

 

「もう遅いし帰るぞ」

 

「私は他に寄るところあるから先に帰って」

 

 

 

ここの他にも寄るところがあると言うレイ。それならついて行くと言ったのだが断固拒否されたので仕方なく俺一人で帰宅。何故あんなにも頑なに断ってきたのかは未だに謎だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

「......私らしくなかったかな」

 

 

 

宗輝と別れた後に訪れたのは思い出の場所。小さい時にミュージックスクールに通っていた頃によく来ていた場所。

 

 

はなちゃんと初めて出会った場所。

 

 

 

そして、宗輝(あの人)と初めて出会った場所でもある。

 

 

 

 

『君ミュージックスクールの子?』

 

『......うん』

 

『やっぱり、何か見た事あると思ったんだよな』

 

 

 

 

いきなり話しかけてきたから最初はビックリしたなぁ。あの頃から音楽が大好きで音楽ばっかりだったからあんまり友達も居なかったし。

 

 

 

 

『君は?』

 

『ああごめん、俺は斎藤宗輝。妹のお迎えに来てて暇だったから歩いてたんだ』

 

 

 

 

今思えば私だけ名前言ってなかったっけ。だからあの時にも宗輝は私の事知らなかったんだね。

 

 

 

『というか何で泣いてたんだ?』

 

『......歌い方が子供っぽくないって』

 

『なんだそれ......俺が知ってるミュージシャンで歌い方が子供っぽい人なんていないから安心しろ』

 

 

 

 

そう言われるだけで救われた気がした。幼いながらもその言葉で救われた気がした。悩んでいたのが一気にバカらしく思えてきたのはその時からだった。

 

 

 

『だからもっと上手くなって、そう言ってくる奴ら全員見返してやろうぜ』

 

『私に出来る?』

 

『出来るさ、歌い続けてたらいつかは絶対な』

 

 

 

 

そしてはなちゃんと出会い、自分の求める音楽へどんどんのめり込んでいった。宗輝に理由を貰い、はなちゃんと一緒だったから頑張れた。

 

 

 

「......ライブ楽しみだなぁ」

 

 

 

 

 

宗輝とはなちゃん。

 

 

 

 

この二人が私の原点(オリジン)

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただま〜」

 

「お兄ちゃんお帰り」

 

「遅かったわね」

 

「練習が長引いた。というか腹減った、飯」

 

「まずは手を洗って来なさい」

 

 

 

 

レイと別れ、特に何事も無く暖かい我が家へ帰宅。帰るなり令香と母さんが玄関までお出迎えしてくれる。よく"家でお帰りを言ってくれる人がいるだけで......"とかいうのを聞くが、改めて激しく同意したいと思う。さっきまで疲れてたけど令香のお帰りで半分くらい回復した。俺はマザコンじゃないから母さんでは回復しない。ここ重要。

 

 

 

 

「頂きまーす」

 

「ねぇねぇお兄ちゃん」

 

「ん、今食べてるから後でな」

 

 

 

 

食べてる時に話すと下品に思われるからやめなさいと母親。しかしながら、普通に食事中にテレビ見ながら話してる両親。これは両親を真似した方が良いのかどうか分からない案件である。教えて令香ちゃん!

 

 

 

 

「中等部も文化祭一緒に出来ないの?」

 

「それを俺に言うな」

 

「なら日菜さんに言ってみよっかなー」

 

「それはもっと駄目」

 

 

 

日菜に言えば何とかなるみたいな風潮も本来であればNGである。日菜は生徒会長なだけであって、別に学校のことなら何でもお任せ!的な役割じゃないからね?みんな忘れかけてるけどあの子も人間なのよ?基本何でもこなせちゃう公式命名"隣の天才ちゃん"だけどな。

 

 

 

 

「隣の天才は?」

 

「よく奇想天外な発想をしたり、演奏技術がハンパない姉がいたりする子だ......って何言わせてんだよ」

 

「お兄ちゃんが勝手に言ったんでしょ」

 

 

 

口が勝手に言い出しただけだもん。別に日菜の事言ってるつもりじゃないんだからね。本当なんだからね。

 

 

 

 

「ふぅ、ご馳走様」

 

「お粗末様でした」

 

「......入るぞ」ガチャ

 

 

 

 

俺が晩飯を食べ終わったタイミングで丁度父さんがリビングへ。洗濯しに行ってた母さんもいつの間にかリビングに来てるし。取り敢えずリビングへ家族全員集合。

 

 

 

 

「宗輝、答えを聞かせてもらうぞ」

 

「令香は?」

 

「さっき言ったよ」

 

 

 

俺が居ない間に令香についてはもう終わってる感じですか。いかんせん兄としてはちょっとだけ、本当にちょーっとだけ令香の答えが気になるが仕方ない。この状況で教えてくれるとも思わないし。

 

 

 

 

 

『......私個人としてはこっちに残って欲しいかな』

 

 

 

 

美咲のツンデレが垣間見えた珍しい瞬間。

 

 

 

 

『令香はいつだってどこにいたって、お兄ちゃんの妹だからね!』

 

 

 

 

流石俺の妹、何やらせても可愛いことこの上ない。

 

 

 

 

『自分自身が幸せになれると思う方を選びなさい』

 

 

 

 

千聖さんの言う事には重みを感じますね。

 

 

 

 

 

『私は宗輝君を信じて待ってるよ』

 

 

 

 

花音先輩はそろそろ迷子癖治しましょう。

 

 

 

 

 

『む"ね"きくん!行かないでぇ!!』

 

 

 

 

 

やっぱ彩のこの一言が一番心にきたかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued〜

 

 

 





4話のエクスポのMV見て鳥肌立った同志居ます?
因みに自分は見終わった後速攻で5.6回見直しました。


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Produce 59#宗輝より愛を込めて


先日初めて読み上げ機能を使った主です。

宗輝の名前が出てくる度に変な言い方するので面白かったです。
皆さんも是非機会があればお試し下さいな。
└固有名詞とかは上手くいかない仕様みたいです

それでは、59話ご覧下さい


 

 

 

 

~ライブ前日~

 

 

 

 

 

 

「クソねみぃ......」

 

「お兄ちゃんおはよー」

 

「おはよーさん」

 

 

 

 

本日は土曜日。眠たいながらも身体を起こし、部屋のカーテンを開けて朝の太陽の光を浴びる。こうやって光を浴びると身体が自然と起きるって何かで聞いたことある。実際目も覚めるし一日始まったなって感じするし。

 

 

 

 

「今日は一日中ライブの準備だっけ?」

 

「まぁな」

 

「頑張ってね〜」

 

「棒読み頑張れ頂きました」

 

 

 

 

そこはもっと気持ちを込めて"頑張ってね!令香の愛しのお兄ちゃん!"って感じで言って欲しかった。シスコン気持ち悪いだって?今更だから気にしても仕方ないからな。

 

 

 

 

「今日は香澄来てないんだな」

 

「有咲さんの家で練習するって言ってたよ」

 

「ほーん、というより何でお前が知ってんの?」

 

「あーちゃんに教えてもらった」

 

「何故そこで明日香」

 

 

 

 

香澄の情報を明日香から聞き出した令香に教えてもらった俺。この情報のバトンリレーのアンカーが俺なのは納得出来る。しかしながら、それまでの過程で二人挟んでいるのは何故だろう。純粋に香澄に何するか聞いとけば良かったな。

 

 

 

「まぁ良いや。夜はアレするから早めに帰るな」

 

「了解であります!」ビシッ

 

「んじゃ行ってくる」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

最早今週何度目になるか分からないチュチュ宅。取り敢えず朝はライブハウスではなくチュチュ宅集合だったので、遅れないように集合時間5分前に到着。いつもの如くセキュリティを突破して中へ。セキュリティを突破と言っても強盗とか不法侵入じゃないから。

 

 

 

中へ入ると珍しくますきが一番に声をかけてくれた。一番近くに居たというのも理由に入るのかもしれないが珍しい事に変わりはない。一回演奏終わってから"あれ、お前来てたんだな"って言われた事あるくらいだからな。別に俺って存在感薄いとかないよね?

 

 

 

 

「何ボーッとしてんだ」

 

「あぁ、すまんすまん」

 

「貴方遅いわよ」

 

「遅いって言われてもな......まだ5分前だぞ」

 

「貴方以外は15分前には集まってたのよ」

 

 

 

小学校の時に5分前行動って習ったけど正確には20分前行動だったのかしら。そりゃみんなに比べたら遅いけどさ。みんなが早過ぎるから比較的俺が遅く感じるだけなんじゃないのかという正論は言わない。言ってもどうせチュチュに捻じ伏せられるだけだし。14歳に言葉で捻じ伏せられる17歳ってどういう事だろうな。

 

 

 

 

「因みにパレオはお泊まりです♪」

 

「え、なにそれ最強じゃん」

 

「眠たそうなチュチュ様は可愛かったです!」

 

「Shut up パレオ!そんな事より今はライブの準備に取り掛かるわよ」

 

「はいご主人様〜!」

 

 

 

 

というより確かに昨日パレオに誘われた気がする。その場でパッと断ったから忘れかけてたわ。流石に14歳二人と同じ所に泊まるのはやばい。間違いを起こす気はサラサラ無いのだが倫理的、道徳的にアウトだろう。というか一部のファンの人達に消されかねないぞ。

 

 

 

 

「私ははなちゃんの家に泊まったよ」

 

「楽しかったね」

 

「これは俺だけ仲間外れにされてるのか?」

 

「むっくんも今度泊まる?」

 

「機会があれば是非お願いするよ」

 

 

 

おたえママはおたえ以上に何考えてるか分からない人だが仕方ない。あの親あってのこの子というものだろう。おたえパパの心中お察しします。言わばおたえが二人いるようなもんだ。俺にはとてもじゃないが制御出来る自信がない。

 

 

 

 

「じゃあますきも誰かの家に泊まってたりする?」

 

「いや、帰ってからもGalaxyで練習してたぞ」

 

「デスヨネー」

 

 

 

 

いや、マジですんません。少しでも友人宅で宿泊して楽しんでたと思い込んでいた自分をお許し下さい。そうでないにしても俺と同じだと思ってたし。まさか帰ってからも熱心に練習してたとは想像もしてなかった。俺なんか1.2時間電話してただけだからな。

 

 

 

電話の内容も至ってシンプル。電話相手の一人目がこころ。やれ最近の出来事だの文化祭のライブの演出についてだの色々と駄弁っていたら数十分が経過していた。時間も遅かった為俺の方から切ろうとしたのだが、頑なに嫌がるので今日も電話をする約束を取り付けてやっと通話終了。かと思いきやつぐみから電話かかってきて文化祭の準備の進行具合とかの確認してくるし。終いにはモカと蘭の交互でどうでもいい内容で電話かかってくるし。お陰で少し寝不足だ。

 

 

 

 

「むっくんは何してたの?」

 

「へ?ま、まぁ?俺レベルになると夢の中でライブについて色々考えてたり?」

 

Doudt(ダウト).貴方嘘をつくのがよっぽど下手なのね」

 

「宗輝さんの嘘を見抜くとは......流石チュチュ様です!」

 

「パレオ、近いわよ」

 

 

 

 

夢の中でライブ云々についてはあながち間違いでもないのだ。実際、昨日の夢はポピパのライブを客席から見ている夢だったからだ。香澄が空飛んでたりおたえが変な弾き方してたり。客席には空からチョココロネとかうさぎのしっぽパンが降り注いだりもした。沙綾の口から炎が出ていたのは流石に幻か何かだろう。

 

 

 

 

「というかライブの準備するんじゃないのか?」

 

「ほら!ますきもこう言ってる事だし準備始めようぜ!」

 

「......まぁ良いわ」

 

「取り敢えずどうするのチュチュ?」

 

「機材の搬入は業者に頼んでいるわ。私達もライブ会場へ行きましょう」

 

 

 

 

 

 

~ライブ会場~

 

 

 

 

 

チュチュの指示通り、都内某所にあるライブ会場へ足を運んだ俺達。なんでもここのライブハウスは有名になる為の登竜門的存在らしく、設備も中々に大きくここでライブする事が目標になることだってあるくらいだ(麻弥情報)

 

 

 

「結構広いんだな」

 

「初めて来たの?」

 

「名前くらいは打ち合わせ段階で聞いてたけど、実際来たのは初めてだったりするな」

 

「私とますきは何回か来たことあるよね」

 

「まぁな」

 

 

 

 

RASに来る前はサポートとして仕事に徹していたレイと、狂犬と呼ばれつつもその実力から様々なバンドのサポートをしてきたますき。二人の実力ならばこういう風なライブ会場でライブをした事もあるのだろう。ポピパのライブでもここ使えないか考えておくのが良さそうだな。

 

 

 

「ほら、さっさと準備始めるわよ」

 

「準備って何するのむっくん」

 

「お前らはライブステージの調整とかからだな」

 

「では皆さん行きましょう!」

 

 

 

 

それから間も無くして機材の搬入も終わり、本格的に明日のライブへ向けての準備が開始された。チュチュ以外の4人でライブステージへ立ち、それぞれの配置や照明の明暗、音の響きなど細かいところまでチュチュ指導で調整が進められる。

 

 

 

その間、俺はライブチケットの確認や会場へ入っているライブ関係者への挨拶回り、さらにはライブ会場の責任者とお手伝いさんとの当日スケジュールについての軽い打ち合わせを行う。チュチュやみんながRASのライブを最高で最強に盛り上げる為に頑張っている中、俺だけが椅子に座って休憩などありえないだろう。俺は自分に出来ることを精一杯やり切るだけだ。

 

 

 

 

「Oh!サイトウサン!」

 

「えーっと......誰だっけこの人

 

「My name is Jack!」

 

「あぁ!何時ぞやのジャックさん!」

 

 

 

 

プロデューサー修行も兼ねての付き添いで出会ったジャックさん。ちょっと思い出すのに時間がかかってしまった。あれから色々な事があり過ぎて頭の片隅にでも追いやられていたのだろう。確かジャックさんは海外でも少し有名な人だったりした気がする。なんでも音楽評論家的な事をしてるらしい。そんな人との人脈を持つチュチュに今更ながら驚異的な何かを感じざるを得ない。

 

 

 

 

「タノシミニ、シテマスヨ!」

 

「是非楽しんでいって下さい」

 

 

 

というよりあの人日本語喋れたのな。まだちょっと片言っぽいのは置いておくにしても。前に会った時は完全にチュチュとの二人だけの会話みたいになってたから仲間外れ食らった気分だった。日本語の勉強でもしているのだろうか。そこら辺聞いとけば良かったかも。

 

 

 

 

「あれ?宗輝君?」

 

「......この状況で俺の事を君付けで呼ぶ。そして何より聞き覚えのある声......さてはまりなさん!?」

 

「正解、普通に振り返れば良いのに......」

 

 

 

 

せっせこライブに必要な小道具を運んでいる最中に振り返ればまりなさん発見。何故CiRCLEオーナーであるまりなさんがここにいるのだろうか。もしかしてCiRCLEの運営が厳しくなってこのライブハウスに勤めることになったのだろうか。そうすれば自ずと俺や他のバイトの子達もここで働く事になるよな。

 

 

 

 

「なんでまりなさんがここに?」

 

「なんていうか......招待されたから?」

 

「招待?」

 

 

 

 

チュチュの奴もしかしてライブハウスのオーナー達にまで招待状とか送りつけたのか。今回のライブでRASの力を見せつけると言ってたがここまでとは。熱心に海外メディアから付近のライブハウスオーナーまで至れり尽くせり状態だな。まぁそれくらい自信があるってことの裏返しなのだろう。それと同時におたえの事も認めてくれてるみたいに思えてなんか嬉しい。

 

 

 

 

「そうなの、RASのプロデューサーのチュチュって子から招待状が届いたの」

 

「俺はてっきりまりなさんが買収されたのかと」

 

「何でそーなるの!?」

 

「冗談ですよ」

 

「いつも冗談が重いよ!」

 

 

 

 

これくらいの軽口を言い合えるのはまりなさんくらいだろう。不思議とまりなさんとは歳の差を感じないのだ。しかし、絶対にまりなさんや何処ぞのプロデューサーの前で歳の話をしてはいけない。前者はキッツイ労働で後者は鉄拳制裁の罰が下る可能性大。女性に歳を聞くのはNGというのが一般常識らしいが、これは守っておいた方が身の為だと思う。俺の周囲の人が敏感でおかしいだけかも知れんけど。

 

 

 

 

「じゃあ俺は準備があるんで」

 

「頑張ってね宗輝君」

 

「ふぅ......これ運んで様子でも見に行くか」

 

 

 

 

 

一通り指示された物を運び終え次の指示を待機する様な形となった為、チュチュ達が未だ調整をしているので休憩がてら様子を見に行くことに。

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」ガチャ

 

「そっちは終わった?」

 

「一通りな。だから休憩がてら見に来た」

 

「そう、まぁこっちももうすぐ終わるわ」

 

「どんな感じなんだ」

 

「私自ら調整してるのよ、完璧に決まってるじゃない」

 

 

 

 

チュチュの悪いところは歳上でも躊躇なくタメ語で話すところや自信過剰なところだと俺は思う。かと言っても取引先や打ち合わせではしっかりとした受け答えをしてるところを見ると、やはり何かを基準にして対応を変えているのだろう。まぁ当たり前っちゃ当たり前なんだけどな。この歳で大人とまともに話せる子なんてそうそう居ないと思うし。

 

 

 

 

「おたえ大丈夫かー?」

 

「うん、大丈夫」

 

「照明暗くないか?配線が足に引っかかりそうとかないか?」

 

「貴方ね......そこら辺はもう終わってるわよ」

 

「まぁ俺なりの最終確認ってやつだよ」

 

 

 

 

俺としてもチュチュの実力を疑っている訳ではないのだ。だがやはりウチのポピパメンツなだけあって心配な面が目立つ。こんなところで怪我でもされたら大変だ。おたえママに傷物にされたって伝われば責任取れとか言ってきそうで怖い。ああいう人が怒った時が一番怖いってそれ言われてるから。

 

 

 

 

それからもチュチュとなんやかんや話しながら調整をしていく。途中から暇だったのかますきがドラムを叩き始め、それにつられておたえやレイ、更にはパレオまでが演奏を始めてしまい既にステージどうこうの話ではなくなってしまった。こういう自由奔放なところもRASらしいと言えるのだろう。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

『お疲れ様でした!』

 

 

 

 

窓から外を眺めると、既に街灯に灯りが点き様々な街路樹を暖かい光で照らしていた。ライブハウスにある時計は午後7時過ぎを指し示している。昼休憩、そして4時頃にも一度休憩を挟んだものの作業しっぱなしだった気もする。最後の2時間くらいは合わせの時間だったしそんなに疲れてはないんだけどな。

 

 

 

「それじゃあ明日は最高のライブにしましょう」

 

「はい!」

 

「楽しみだねはなちゃん」

 

「痺れさせてみせるよ」

 

 

 

明日の事も考慮して今日は早めに解散。丁度俺もやる事あったしありがたい。遅くなり過ぎたら令香の機嫌も比例して悪くなるから勘弁願いたい。お兄ちゃん気持ちはいつでもお家に置いてるんだけど。気持ちだけに気持ち悪いな。前言撤回、こんな面白くもない事考えてる時点で少し疲れてるのかもしれない。

 

 

 

「ますき、明日のライブ成功させような」

 

「お前は別にやる事ないだろ」

 

「ますきさん辛辣ぅ......」

 

「......まぁ準備とか手伝ってくれてありがとな」

 

 

 

 

お礼を言うますきの表情は少し照れているようにも見えた。まぁ誰だって素直にお礼を言うのは恥ずかしいだろう。俺だって恥ずかしい。

 

 

 

「俺もRASのファンとしてライブ楽しみにしてるよ」

 

「それじゃ私は帰るわ」

 

「ん、気を付けてな」ポンポン

 

「こ、子供扱いはやめて頂戴!」

 

「あいよ」

 

 

 

俺の手を振り払ってライブハウスを出て行くチュチュ。ライブの調整の時もそうだったのだが、時折チュチュが見せる不安げな表情。口ではああ言っててもやはり心配な面もあるのだろう。頼れる人生の先輩としての威厳を見せたかったのだが逆効果だったらしい。確かに中学生に頭ポンポンは無いわな。令香には未だせがまれる時があるけど。

 

 

 

「なら私達も帰ろっか」

 

「そうだな」

 

 

 

 

明日のライブに向けての意気込みや思いをそれぞれ想い描きながら、チュチュはいなかったのだが最後に円陣を組んでそこで解散となった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「たっだいまー」

 

「お帰りお兄ちゃん」

 

「ご飯は?」

 

「温め直すから手洗いしてきて」

 

 

 

 

今日はエプロン姿の令香がお出迎え。ジャージという軽い服装にピンクの子供っぽいエプロン。それでいて違和感を感じさせない我が妹。控えめに言って可愛い、似合ってる。まぁこれ俺が中学生の時に裁縫の授業で作ったやつなんだけどな。古くなってきたから捨てろって言ったのに、頑なに捨てようとしないところを見ると大切にしてくれててありがたい。

 

 

 

楽器やその他機材、色々と今日は物を運んだりした為いつもより入念に手を洗っておく。風邪でもひいたら大変だからな。主に俺の体調云々ではなく周りの人の対応がだ。弦巻家の裏の力が働きそうになったりナース服で看病されかねない。俺の実体験からくる予想みたいなものだ。

 

 

 

 

「ご飯食べたら始めよっか」

 

「そだな」

 

「別にお兄ちゃんは休んでても良いんだよ?」

 

「バカ言え、あんな大荷物お前に任せられるか。それに俺だって関係無い訳じゃないしな」

 

 

 

 

そんな話をしつつもご飯を食べる手は止めない。明日のライブの為にも早く寝たい。でもやらなければならない事がある為早くご飯を食べたいのだ。俺は猫舌じゃないからスープは熱いままで飲めるし、ご飯だって食べるのは早い方だ。因みに令香は猫舌。スープを飲む時に熱い熱いと言いながらチビチビ飲む令香はなんだか小動物みたいで可愛らしい。

 

 

 

 

「ご馳走さん」

 

「お粗末様でした」

 

「片付けは後で俺がしとくから先に始めるか」

 

「うん」

 

 

 

 

俺達がやらなければならない事。それは海外へ行く為の荷造りである。面倒くさい事に父さん母さんは最後に日本を満喫すると言って二人でドライブに行ってしまった。荷造りを子供に任せる親というのもどうなのだろうか。

 

 

 

 

「お母さんからリストみたいなの貰ったよ」

 

「ならそれ見ながらやるか」

 

 

 

幸い、母さんが持っていくものをリストアップしてくれていたお陰でスムーズに作業が出来そうで安心する。

 

 

 

「んー、歯ブラシにドライヤーに化粧品。令香ー、化粧品って何処にあるか分かるか?」

 

「お母さんのは洗面台の中だと思うよ」

 

「それは母さんに任せるか」

 

 

 

男の俺はどの化粧品が母さんのでどれを持っていけば良いのかサッパリ分からん。帰ってきたら自分で入れるように言っておこう。変に触って怒られるのも癪だしな。

 

 

 

「......三脚にカメラって何撮ってくるつもりなんだよ」

 

「しばらく帰れないから持っていくらしいよ」

 

「そう言えば父さんがまた新しいカメラ買ったってはしゃいでたっけ」

 

 

 

父さんの意外な趣味の一つに写真撮影というものがある。そのオマケでドライブ好きというのもあるのだ。昔は母さんと二人で良くドライブして写真を撮ってたらしい。

 

 

 

しかし、やはり会えなくなると思うと寂しくなる。今までずっと一緒だったという事ではないのだが、物理的に気軽に会える距離では無くなる。電話くらいなら出来るのだろうが俺は直接会って話したいタイプだ。放っておいてもあっちから電話してきそうだけどな。

 

 

 

 

「......お兄ちゃんこれ」

 

「ん、何それ」

 

 

 

 

リストには無かったものの、既に荷物の中に入っていた物。それは俺や令香、そして香澄と明日香が写った一枚の写真立て。小さい頃は俺が写真を嫌っていた為、多分だけどみんなと俺が写ってる写真はこれだけなのだろう。それを大切に持っててくれた事に気付きウルっときてしまう。これが親心というものなのだろうか。

 

 

 

「......今からでも変えられるよ?」

 

「別に後悔とかは無いんだ。ちょっと寂しくはなるけどな」

 

「お兄ちゃん特有の強がりだね」

 

「お兄ちゃんだからな」

 

「何それ」フッ

 

 

ピンポ-ン

 

 

 

 

良い雰囲気のところでインターホンが鳴る。この事から両親が帰ってきたのでは無いのだろう。悪戯でわざわざインターホンを鳴らすようにも思えないし。しかしこの遅い時間に誰なのだろう。宗教のお誘いなら今すぐムーンウォークしてお帰り頂きたい。

 

 

 

「令香出てくるね」

 

「頼むわ」

 

 

 

令香が対応している間にも荷造りを少しでも進めておく。とは言ってもほぼ完成していると言っても良いくらいには仕上がっている。

 

 

 

「このバックも懐かしいなぁ。小学校の頃に俺が買ってもらったやつだし」

 

 

バタバタバタ

 

 

 

昔の思い出に浸っていると、なんだか玄関が騒がしい事に気付く。先程のインターホンの相手だろうか。もしかすると強引に家まで上がられたのだろうか。強盗?それとも壺の押し売り?いずれにしても令香が心配だ。

 

 

 

「令香?お客さんには丁重にお断りして帰って......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む"ーく"ん"!!」ギュッ

 

「ちょ!か、香澄!?」バタッ

 

 

 

インターホンの正体は強盗でも押し売りのセールスマンでもなく幼馴染。しかし号泣ダイブ付きの幼馴染ときてる。取り敢えず近所迷惑にもなりかねないから中に入れて話聞くか。

 

 

 

「香澄?何でそんなに泣いてるんだ?」

 

「む"ーく"ん"!!む"ーく"ん"!!」ギュッ

 

「香澄さん?どんどん力が強くなってきてません?......ちょ、待ってマジでキツイ」

 

 

 

今までの経験の中で一二を争うレベルで力が強い。肋骨の一本は軽く折れてしまいそうな勢い。流石にこのままだと俺が昇天しかねないので令香と二人がかりで力を緩める事に成功。

 

 

 

「香澄、泣いてる理由を教えてくれないか」

 

「置いて行っちゃやだよ!!」

 

「置いて行く?何の話だそれ」

 

「......もしかしてお兄ちゃん、お姉ちゃんには海外云々の話してないの?」

 

「おう」

 

「それが原因でしょ絶対」

 

 

 

 

え、どういうこと?香澄は俺が父さんと母さんと一緒に海外に行くと思ってるのか?残念ながら海外へ行くのは父さんと母さんの二人だけだ。確かに伝えなかった俺も悪いがそんなに号泣することなのか。

 

 

 

 

「待て、別に俺はついて行かないからな?」

 

「......でも今日の夜準備するって聞いたよ!」

 

「確かに準備はしてるけど父さんと母さんの分だ」

 

 

 

まだ二人分だから一日前でもギリギリ間に合ってるんだ。これが俺の分があったり令香の分があったりしたら絶対間に合ってないからな。それも見越してのドライブデートなのだろう。父さんや母さんはそこら辺頭を上手く回して俺達に厄介なもん押し付けてくるから解せない。

 

 

 

 

「本当?」

 

「本当だ、というより誰情報だよそれ」

 

「私だよ」ハァハァ

 

 

 

香澄に続き明日香まで登場。どうやら香澄を追って走ってきた様子。息が上がっていたり少し汗をかいているところを見るに間違い無いだろう。俺明日香には言ってなかったはずなんだけどな。

 

 

 

「何で明日香が知ってたんだ?」

 

「あーちゃんには令香が教えといたよ!」

 

「あ、そういうことね」

 

「宗輝教えてくれそうになかったし」

 

「まぁ聞かれなかったからな」

 

 

 

明日香ちゃん令香から教えてもらったのならちゃんと伝えてくれないと困ります。こうやって貴女の姉が現在進行形で俺に縋り付くように抱きついてきてるのが見えません?かれこれ5分くらいこの体勢だぞ。

 

 

 

「むーくん何処にも行かない?」

 

「おう、お前に何も言わずに行くわけ無いだろ」

 

「本当の本当?」

 

「本当の本当だ」

 

 

 

 

それから香澄を落ち着かせる為に頭を撫でてやったり膝枕してやったりと、至れり尽くせりで漸く解放される。そのタイミングで父さんと母さんが帰宅。香澄や明日香を見て大体の状況は察した様子。

 

 

 

「みんな集まってる事だし写真撮りましょう」

 

「えー、俺もう寝たいんだけど」

 

『ダメ!』

 

「あ、はい」

 

 

 

令香、香澄、明日香の三人から強制参加を命ぜられる。元はと言えばこの両親のせいで荷造りなんていう面倒くさい事をしなくてはならなくなったのだ。お小遣いをアップしてもらうのは必須事項としよう。

 

 

 

「は〜い、みんな近寄って〜」

 

「はいお兄ちゃん寄って!」

 

「寄っても何も俺が真ん中なんだけど......」

 

「宗輝文句言わない」

 

「むーくん前向いて!」

 

 

 

こうして母さんの指示通りにしていき、俺が真ん中であり得ないほどの密度でシャッターを切る。因みに撮影者は父さん。撮影なら任せろと意気揚々なのは良いがこの程度なら別に技術も何も要らないだろ。

 

 

 

荷造りの際に見つけた一枚の写真。まだ幼かった頃の四人が集まってみんなで笑っている写真。そして今さっき四人で新たに撮った写真。姿形は変われどあの頃のまま、四人の関係性は変わらずより仲良くなった。香澄は泣きすぎて目が赤くなっているがそれも良い味が出ていると父さんは言った。

 

 

 

まぁこれで良かったかな

 

「むーくん何か言った?」

 

「いんや何も、そういう事だからこれからもよろしくな」

 

「うん!むーくん大好き!」ダキッ

 

 

「だから何度も抱きついてくるなって!」

 

「えへへ〜」

 

「お姉ちゃん帰るよー」

 

「あっちゃんもおいでよ!」 「嫌だよ恥ずかしい」

 

 

 

 

 

 

香澄がいて明日香がいて令香がいて俺がいる。この何とも無い日常の為に、俺はいくらでも頑張れる気がする。そして、この日常を守りたいからこっちに残ったのだろう。他のみんなにもお礼言っとかないといけないな。

 

 

 

 

 

特に香澄。俺に理由をくれたお前には感謝してもしきれないほどだ。恥ずかしくて絶対に口には出せないけどな。だから、心の中だけでもお礼言っとくよ。ありがとな、香澄。

 

 

 

 

 

 

"宗輝より愛を込めて"

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued〜





感想、評価よろしくお願い致します( ´∀`)


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Produce 60#蓮の華


もうすぐガルパ3周年でございますな。
新バンドのMorfonicaは賛否両論ありますが主は大歓迎でございます。この作品は末永く続けていく予定ですのでネタとして非常に助かります笑

それはさておき60話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 

 

チュンチュン

 

 

 

「んぁ......眠い」

 

 

 

 

なんやかんやあった昨日の夜。睡眠時間は無事削られる事が無かったので良しとしよう。まぁ睡眠時間どうこうよりは疲れが取れなかったのが唯一の心残りだ。

 

 

 

むーくんぅ」zzz

 

「そういやコイツも居たんだっけ」

 

 

 

結局、昨日はあの後斎藤家&香澄と明日香で昔のアルバム漁りをしたのだった。俺的には令香の小さい頃の可愛らしい写真を拝めて満足。俺の写真が少なかったのは俺の写真嫌いが役に立ってくれたのだろう。マジで小さい頃の生意気だった俺グッジョブ!

 

 

 

「香澄そろそろ起きろよ〜」

 

「おはよーお兄ちゃん」

 

「おはよ。俺準備しなきゃいけないから香澄起こしといてくれ」

 

「分かった〜」

 

 

 

 

香澄は俺の部屋、明日香は令香の部屋で寝る事が早々に決まってしまい、仕方なく俺は床に布団を敷いて寝る事となった。令香の方は明日香と二人でも大丈夫だったらしい。俺の方はもう高校生にもなるし、それ以前に同じベッドで寝るのはちょっと気が引ける。今までのは香澄が勝手に入って寝てたからノーカンだ。

 

 

 

 

ともあれ香澄を起こすのは令香に一任し、俺は準備の為リビングに降りて朝食を食べる。その前にちゃんと顔を洗い手洗いうがいも済ませておいた。案外こういうのを怠ると母さん、ではなく令香がうるさいのだ。母さん曰く"アンタの為だと思うけどね"らしい。それはお兄ちゃん的にも嬉しいのだが、流石に罰ゲーム有りなのは勘弁して欲しい。それも中々にコアな罰ゲームばかり。一度冗談でキスしてって言われた時は本気で拒否した。俺と令香ほどの仲の兄妹でも超えてはならない一線は存在するのだ。

 

 

 

 

 

「今日はライブでしょ?」

 

「ん、まぁ俺はお手伝いさんだけどな」

 

「母さんとお父さんも令香と一緒に見に行くからね」

 

「それは良いけど飛行機の時間大丈夫なのか?」

 

「なんとか間に合うんじゃない?」

 

 

 

 

この母親質問を質問で返してきやがったな。この様子ではあっちに行ってからもちょっと心配になりそうだ。御利益のある神社でお守り買って母さんと父さんに一つずつ持たせとこう。これは子供なりの思いやりなのだ。父さん母さんのお守りついでに令香に厄除けとか安全祈願とかのお守りも買っておこう。

 

 

 

 

「時間は大丈夫だ」

 

「あら、貴方もう起きてたのね」

 

「当然だ......今日は令香と出掛けることの出来る数少ない日なのだ。そんな日に寝坊するなど断じて許さん。何より令香を待たせる訳にはいかないからな」

 

「本当にこの親バカが仕事では使える優秀な人材なのだろうか......」

 

 

 

 

度を超えた親バカは子供をも呆れさせるという事実を知った。流石にここまでいくと犯罪臭がするので自粛して頂きたい。令香も令香で父さんの事何とも思ってなさそうだし、何なら良い子出来る子頑張る子のフリをしとけばお小遣いアップしてくれるチョロい人としか思ってないのかもしれない。

 

 

 

 

「丁度良かったわ、可燃ゴミとプラゴミを捨ててきてくれない?」

 

「......宗輝、行ってこい」

 

「へいへい」

 

 

 

 

まだ時間はありそうだから別に良いけどな。元々は一人で暮らしてた時も自分で行ってたし。これからも令香と二人で暮らすとなると、必然的に俺が行く回数も増えるだろうしな。

 

 

 

 

「この前令香が"ゴミ出ししてるお父さんカッコいいな!"って言ってた気がするわよ」

 

「宗輝、お前はライブの準備があるだろう。万が一怪我でもしたら大変だ。その為にも父さんがゴミ出しはやっておく。特に他意は無い、父さんに任せておけ」

 

「うわぁ......この人チョロい、チョロ過ぎて逆に心配になるレベルまできてますわ」

 

 

 

 

 

父親がチョロ過ぎて困ってます。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「おはよーむっくん」

 

「おう、おはよーさん」

 

 

 

 

 

場所は変わってライブ会場。既に俺が来た時には全員集合。そのせいでまたもやチュチュからお叱りを受けてしまう羽目になってしまった。なんでRASの面子ってこんなにも集合早いのかしら。

 

 

 

 

「今日も怒られてたね」

 

「俺は悪くない、俺に優しくないチュチュが悪い」

 

「宗輝もそろそろ勉強しなよ」

 

「だったらレイが何とかしてくれ」

 

「いや、なんかめんどくさそうだし」

 

 

 

 

一応めんどくさいとは思ってるのね君達も。というか別に今日はあんまり朝からやる事ないんだから良いだろ。5人に関してはライブ頑張るだけだし、俺とかマジやる事無くて困ってる。準備云々は昨日までで完璧に終わってるしなぁ。

 

 

 

 

軽く挨拶を済ませて会場入りする俺とRAS。まぁやる事無いって言っても最後の確認とかは流石に行うらしく、照明やセトリを今一度スタッフの人とも確認して間違いのないようにしておく。俺のやるべきことは、この一連の流れを良く見て覚えておく事だったりする。出来るだけチュチュの技術や知識を目で見て耳で聞いて心で感じる。要領良くやる方法とかもチラホラ教えてくれたりしたし。なにしろ結果的にはチュチュに教えてもらった事全てが俺の力になることは間違い無いからな。

 

 

 

 

 

「それじゃあ本番も宜しくお願いします」

 

『よろしくお願いします!』

 

 

 

 

 

最終調整も滞りなく終わり、一旦RASのメンバー諸共控え室へ向かう。これから会場を開放するのでお客さんがやって来る。その対応はここのスタッフがやってくれるので、実際ここから先は手持ち無沙汰になってしまうのだ。かと言ってその対応は正直めんどくさくてやってられないので内心嬉しくもあるのだが。

 

 

 

 

「はなちゃん」

 

「どしたの?」

 

「やっとはなちゃんとライブ出来るね」

 

「うん、凄く楽しみ」

 

 

 

 

レイがここまで言うのも事情を知っている俺達からすると当然のようにも思えた。やっと再会出来てライブまで一緒に出来るというのだ。俺がその立場だとすれば感極まってもおかしくはない。そこら辺に関しては二人にしか分からないものもあるだろう。だから、俺はこの二人の為にも今まで頑張ってきたし、これからもこの二人の為に頑張ろうと思える。

 

 

 

 

「タエ・ハナゾノ。貴女は今は私の、RASのギタリストよ。手を抜く事は勿論許さないし許されないわ。RASの一員として相応しい演奏を期待しているわよ」

 

「......痺れさせてみせる」

 

「まぁあんまり気負わずライブ楽しめよ」

 

 

 

 

こういうところでも気を抜かずしっかりと芯を持って行動出来るのは、チュチュの良いところだと個人的には尊敬してる。敢えて少し強めに接する事で気持ちやコンディションを最後まで保つように仕向けているのだろう。一つ間違えれば他人から嫌われる可能性だってあるのだ。そういう点を鑑みて、やはりチュチュはプロなのだという事を改めて実感させられる。

 

 

 

 

「レイ、お母さん達来てるから行こ」

 

「分かった」

 

「遅くならない様にな」

 

 

 

 

おたえがレイの手を引きおたえママのところへ一緒に向かう。というかあの人来てるのか。個人的にはその事実に少しビックリだ。おたえのお母さんってそういうの来ないと思ってたからな。

 

 

 

 

「なぁ」

 

「......」

 

「お前に言ってるんだよ」

 

「......あ?まさか俺?」

 

「他に誰がいるんだよ」

 

 

 

 

いや、ここは別にますきと二人きりって訳じゃないからな?チュチュだっているしパレオもいるから。そうじゃないとしても言葉足らず過ぎません?熟年夫婦じゃないんだからしっかりと主語を入れて話して欲しいものだ。

 

 

 

 

「前から思ってたんだけど、お前って何者なんだ」

 

「何者ってどういう事なんだ?」

 

「パレオも実は疑問に思ってました!」

 

「パレオまで?イマイチ理解出来んぞ......」

 

 

 

 

自己紹介なら前に会った時に一通り済ませてるはずなんだけどな。というか何者とか初めて人から言われた気がする。客観的に見たらそう思えるのか?

 

 

 

 

「Pastel*Palettesには有能なマネージャーが存在する......」

 

「え?」

 

「他にもRoseliaに音楽指導しているプロのミュージシャンがいる、Poppin'Partyにもプロデューサーが存在している等々噂が絶えないわ」

 

「待ってくれ、俺は別にRoseliaに音楽指導なんてしてないし、ポピパに関しては非公式だから公言した覚えは無いぞ」

 

 

 

 

パスパレのマネージャーの事だって個人名を出している訳でも無ければ宣伝している訳でも無い。ましてや俺のやってた事なんて仕事のちょっとした手伝いばかりだ。それがライブ云々やみんなの人気に関わっているなんて自分でも思った事はない。そんなのは虫の良すぎる話だからな。

 

 

 

 

だからといって全てを否定するのも少し違う気がするのだ。いや、違う気がするなんて回りくどい事言ってるだけだな。自分のやってきた事が間違いでは無いと思いたいのだと思う。あの時こうしていれば、そんなたられば話なんていつまで経っても終わりやしない。それでも、あの時の俺の行動で少しでもみんなの役に立っていたのなら......。

 

 

 

 

 

「......まぁ強いて言えばみんなの味方ってところだな」

 

「なんだそれ」

 

「言った俺もよく分からん」

 

「宗輝さんは不思議な人です!」

 

 

 

パレオに不思議な人扱いをされてしまった。それを言うならば俺の周りに居る奴らの方がよっぽどだと思うんだけどな。というかパレオも十分不思議ちゃんだと思う。音楽やパスパレに関してはガチ勢だしチュチュガチ勢だし。

 

 

 

コンコン

 

 

 

「ん?」

 

「私が出るわ」

 

 

 

 

不意に控え室のドアが2回ノックされる。これがこころや日菜、香澄であれば容赦無くドアを開けて飛び込んでくるのは間違いない。

 

 

 

「すみません、斎藤君居ます?」

 

「はい、どうかしましたか?」

 

「少し受付に来て頂きたいのですが......」

 

 

 

 

 

 

 

~受付~

 

 

 

 

 

このライブハウスのスタッフの人から呼び出された俺は受付へと足を運んでいた。何かトラブルでもあったのかもしれない。それで比較的暇でやることの無かった俺に白羽の矢がたったのだろう。

 

 

 

 

「むーくん!」

 

「湊さん練習は良いんですか?」

 

「今日は偵察に来ているから大丈夫よ」

 

「あら、宗輝じゃない!」

 

「あはは、大丈夫かなぁ......」

 

 

 

 

 

前言撤回、トラブルどころの騒ぎではありませんでした。受付に着いた途端に見知った顔を大勢発見。というか先に向こうに見つかってしまった。パッと見る限り香澄達ポピパやアフグロは全員集合。他は友希那とリサとこころと美咲と花音先輩。そして、彩とイヴと麻弥というパスパレ組。

 

 

 

 

 

流石にこの人数を相手にして受付を厳かにする訳にもいかず、特別対応としてもう一つの控え室を貸してもらえる運びとなった。聞くところによると千聖さんは仕事の都合、紗夜さんと日菜はお出掛け。あこと燐子先輩は家でNFOでもしているだろうとのこと。はぐみと薫先輩?あの二人は三馬鹿で普段から何してるか分からんから今も何してるか分からない、と美咲が頭を悩ませて伝えてくれた。友希那と蘭とか絶賛対バンライブの練習中でバチバチなんだから混ぜるな危険状態である。

 

 

 

 

 

「取り敢えず始まるまでここで待っててくれ」

 

「分かった!」

 

「本当に分かってんのか香澄?」「なら有咲捕まえててよ!」ダキッ

「ちょ、香澄やめろぉ!」「有咲柔らか〜い!」

 

 

 

ポピパはポピパでいつもの感じである。良い意味でおたえが居なくても通常営業で回るのがポピパの良いところ。おたえが加わると更にわちゃめちゃになるから収集つかなくなるのが基本。

 

 

 

 

「はぁ......んで、蘭達はなんで来たんだ?」

 

「まぁ......みんな時間合ったから何となく」

 

「蘭〜?そんな事言ってさっきはむーくんが....ムグッ」

 

「ちょ、何言ってんのモカ!?」

 

 

 

 

どうやら蘭は理由を知られたくないらしい。必死になってモカの口を押さえているところを見るに相当嫌なのだろう。俺は自分がされて嫌な事は人にはしない主義なのだ。まぁ無理に聞き出す意味も特に無いしな。

 

 

 

 

「つぐみは家の手伝いは良かったのか?」

 

「うん、お父さんが行ってきなさいって」

 

「そっか、まぁつぐみは普段頑張り屋さんだから今くらいは手伝いお休みしても誰も文句は言わんだろ」ナデナデ

 

 

 

 

いかん、ついつい頭を撫でてしまった。これも久し振りな気がするが周りの面子が面子。自分でもどうしてか分からないが、つぐみに対してはどこか激甘なところがあるのだ。さっきも言った様に、やはり普段から頑張っているつぐみを見ているせいで感情移入というか何というか、どうしても甘くなってしまうのだろう。

 

 

 

「む、宗輝君?ここではちょっと......」

 

「ん?ああ、すまんすまんつい癖で」

 

「あー!つぐだけズルい!私にもやってよ宗輝!」

 

「巴ー、ひまりをどうにかしてくれー」

 

「どうにかって言われてもなぁ......」

 

 

 

 

そう、完全にひまりの存在を忘れていた。ひまりは事あるごとに頭を撫でて欲しいやら膝枕して欲しいだの甘えてくるのだ。こんなに甘えてくるようになったのがいつからだったのかすら今では思い出せないでいる。大方俺の適当な行動がそうさせてしまったのだろう。ひまりはつぐみに比べて甘え上手なのは良いのだが、いかんせん引っ付き過ぎるとあまり良くない。何処がとはハッキリ言いません。ヒント、二つの神がかっている豊満なまでの美しい果実が原因。

 

 

 

 

つぐみから手を引き、ひまりのしつこいまでの追撃を何とか回避して一難を逃れる。それからアフグロは飲み物を買ってくるとのことで一旦ロビーへ。モカのやつちゃっかり俺からお金せびろうとしてたし。ま、まぁ?俺レベルになるとそれを見越してお金を先にあげるんだけどね!......別にカモにされてるとかじゃないから。あれだから、これはお祝い的なやつだから。何お祝いするんだよ俺。

 

 

 

 

「ライブ前にそんな状態で大丈夫なの?」

 

「美咲か、まぁ後はする事あんまり無いから大丈夫だと思いたい」

 

「無理だけはしないでよ」

 

「そう思うんならさっきの止めてくれ」

 

「無理」

 

 

 

そこまでキッパリ言われるのも少し心にくるというものだ。基本美咲はめんどくさくても"仕方ない"って言ってやってくれる人だと思ったのに。あれはこころ限定だったのだろうか。

 

 

 

「というかこころは?」

 

「さっき美竹さん達と一緒に飲み物買いに行ったよ」

 

「美咲は行かなくても良かったのか?」

 

「私のはこころに任せてるから」

 

 

 

 

相変わらず美咲は美咲だった。こころだったら何買ってくるか想像も出来ないな。一種のギャンブルのようなものかもしれない。案外こころが美咲の良く飲む物を知っているのかも。そうだとすれば納得がいくというものだ。

 

 

 

 

「宗輝、ちょっといいかしら」

 

「ん?どうした友希那」

 

 

 

 

ここで友希那に話しかけられて美咲とは一旦お別れ。というか雰囲気を察した美咲が徐々にフェードアウトしていった。本当にそういうところだけは上手ですねアナタ。

 

 

 

 

「友希那がちょっと聞きたい事があるんだって」

 

「俺に話せる事だったら良いけど」

 

「正直に言って、ここ最近RASを見ててどう?」

 

 

 

 

友希那はハッキリとは言わなかったが、察するにRASとRoseliaを比べてという事だろう。それもそのはず、友希那に関して言えば一度引き抜きまがいの事をされているのだ。気になってしまうのも無理ないと言える。

 

 

 

「......贔屓目無しで判断するぞ」

 

「ええ、構わないわ」

 

「演奏技術だけで言えば既にプロの域に達していると個人的に思う。ベースボーカルのレイしかりドラムのますきしかり、今まで色んなところで演奏してきたのがしっかりと自分の力になってる」

 

「......」

 

 

 

俺が話を続けていく内にリサの表情がどんどん暗くなって沈んでいくのが見て取れる。そんなリサに対して友希那はしっかりと話を受け止めている様子にも見える。やはり友希那は最初から答えが分かっていたのだろう。自分の耳や心は騙せないからな。

 

 

 

「......それでもなリサ、俺はRoseliaがRASに負けてるなんてこれっぽっちも思ってないんだ」

 

「......本当?」

 

「あぁ、今までRoseliaが積み上げてきた努力と結果。それに何と言っても"個"の力じゃ全然負けてない。問題はこれからだと思うぞ」

 

「それはどういうことかしら」

 

 

 

イマイチ理解出来ていないであろう二人に説明してしんぜよう。

 

 

 

 

「多分だがRASは近いうちにスゲー人気が出る。普通のバンドならそこで気を抜く奴らだっていると思うがRASは違う。アイツらは異常なまでにストイックなんだ」

 

「えっと、結局どういう意味?」

 

「結局は人気が出てからの勝負ってことだな」

 

「......なら私達は負けないわ」

 

 

 

友希那の確かな意志のこもった真っ直ぐな目を見て少し安心する。RASの話を聞いて友希那の中の何かが動いたのだろう。逆に火の鳥を焚きつけてしまった感が否めない。チュチュすまん、多分お前らの一番のライバルという(Roselia)に油を注いでしまったらしい。

 

 

 

「おっと......すまんもう時間だから行くわ」

 

「ええ、頑張りなさい」

 

「頑張ってね宗輝!」

 

 

 

みんなと話している間に時間が来てしまったらしく、ポケットに入れていた携帯のアラームが鳴る。予めライブ時間近くなるとアラーム鳴るように設定しておいて正解だった。遅れてまたチュチュに色々言われるのは勘弁だからな。

 

 

 

 

 

 

~ライブステージ横~

 

 

 

 

 

「全員揃ったわね」

 

 

 

 

あれから一度RASの控え室へ戻ってチュチュの有り難い言葉を聞いてからステージ横へ移動。おたえママに会いに行っていたおたえも蘭達とバッタリ会ったらしく話し込んでいたみたい。かく言う俺もチュチュに何してたのか根掘り葉掘り聞かれてみんなが来ている事を知られてしまった。何か悪巧みを考えているような表情をしていたチュチュ。めんどくさいことにならなければ良いのだが。

 

 

 

ワ-ワ-

 

 

「チュチュ様!お客様があんなにも居ますよ!」

 

「パレオ落ち着きなさい」

 

「でもいつもより多くないか?」

 

「海外メディアの人達もいるらしいし」

 

「勿論よ、これが私達がRASとして表舞台へ立つ始まりなんだから」

 

 

 

 

チュチュさん忘れてもらっては困るのですが、一応おたえはサポートギターだからね?ポピパのギターであるおたえは渡せません。というより香澄達がそんな事は許しません。

 

 

 

「マスキング、アナタはアナタのやりたいようにやりなさい。でも、みんなと合わせる事も忘れないで。ここにいるメンバーはアナタに合わせることの出来る唯一のメンバーよ」

 

「おう、思いっきりやらせてもらうからな」

 

 

 

かつては"狂犬"と呼ばれますきの実力についていけないバンドばかりだった。その中でチュチュに拾われて今に至るますき。レイもパレオもおたえもチュチュもますきについていき、尚も自分を表現できる技術の持ち主達だ。ますきにとっては居心地が良いだろう。そんな状態のますきの全力を俺は案外楽しみにしてる。

 

 

 

「パレオ」

 

「はいご主人様!」

 

「頼んだわよ」

 

「ッ!!任せて下さいチュチュ様♪」

 

 

 

 

未だに自分の事についてはあまり話してくれないパレオ。きっとパレオにも何か事情があったのだろう。そこをチュチュに助けてもらって今の様な関係性へと変化した。俺は楽しそうに演奏してるパレオを見ると自分も楽しくなってくるのが不思議に思ってた。だけど何となく分かった気がする。

 

 

 

「レイヤ、ある意味バンドの顔であるボーカルのアナタ次第でもあるわ。自分の判断が間違いではなかった事、証明して見せなさい」

 

「はなちゃんの為にも頑張る」

 

 

 

最初はレイの考えで始まったおたえのサポートギター。初めは環境の違いかあまり自分の色を出さずにいたおたえ。それを変えてくれたのが誰でもないレイだった。徐々に馴染んできたおたえにみんなも応えてくれた。チュチュも今では実力を認めていてくれている。これも全てレイのお陰なのだろう。

 

 

 

「最後にハナゾノ。今アナタはRASのギタリスト。その事を強く胸に刻んで演奏しなさい。アナタを信じた私を裏切らないで頂戴」

 

「分かってる」

 

 

 

 

今となってはおたえをサポートギターにして正解だったと自分でも思う。色々あったが全ておたえの経験となり力となってきたからだ。そんなおたえだからこそ、今は笑ってライブへ送り出してやる事が出来るだろう。

 

 

 

「むっくん行ってくるね」

 

「おう、おたえのギターをみんなに魅せてやれ!」

 

 

「それじゃあ行くわよ!」

 

 

 

キャ-キャ-

 

 

 

後ろから見るおたえの背中は、いつになく大きく見えた。それをおたえの成長と捉えるか俺の成長と捉えるか。若しくはその両方なのか。どちらにせよ俺にとっちゃ幸せな事だろう。

 

 

 

 

 

「さっそく飛ばしていくよ......"R・I・O・T"」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

アンコ-ル!

 

アンコ-ル!

 

 

 

「はぁはぁ......まだ求められてますよチュチュ様!」ハァハァ

 

「ちょっとは休憩した方が良いんじゃないのか?」

 

 

 

当初の予定通り、セトリにある曲は全て演奏して控え室へ戻ってきたRAS。ライブとしては大成功。観客のボルテージは最初から何一つ落ちる事なく常に最高潮をキープしていた。それもチュチュ達RASだからこそ出来た事だろう。

 

 

 

しかし、パレオも言った通り観客からまさかのアンコール。いや、俺も心の中では少しアンコールされる事を期待していた。それが形になっただけの事。それだけRASが求められているということ。それは嬉しい事なのだが俺的にはみんなの体力に不安が残る。少しでも休んでいくのがベストだろう。

 

 

 

「......さぁ行くわよ」

 

「チュチュ休まないのか?」

 

「アナタはあの声が聞こえないのかしら」

 

「いやアンコールなら聞こえてるが大丈夫なのか?」

 

 

 

 

見たところ全員汗をかいて辛うじて肩で息をしている様子。さっきから俺が水だけでもと思い常温の水を配ってはいるが、水を飲んだからといってすぐに治るという訳でもないだろう。

 

 

 

「それにまだやるべき事も残っているわ」

 

「やるべき事?」

 

「丁度良いわ、アナタも関係者なのだから良く聞いてなさい」

 

 

 

そう言って立ち上がるチュチュ。そして、チュチュに倣って他のメンバーもやる気になった様子。こうなったらもう俺には止められないし止める資格もないだろう。

 

 

 

「行くわよみんな」

 

「しゃあねぇな」

 

「はなちゃん行こ!」

 

「うん!」

 

「チュチュ様お待ち下さい〜♪」

 

 

 

チュチュの言っていたやるべき事って何だろう。というか俺も関係者ってところも疑問点だ。確かに色々と関係してるのは間違い無いがイマイチどれなのかハッキリしない。ポピパ?アフグロ?ハロパピは無いにしてもパスパレ?Roseliaは一度友希那の件で失敗してるしなぁ。

 

 

ワ-!

 

ワ-!

 

 

観客の声からRASの面子がステージに立ったと分かる。俺も急いでステージが見える位置まで急ごう。

 

 

 

「演奏を始める前に一つ言っておく事があるわ」

 

 

 

 

そして、チュチュの口から出たのは予想外の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達RAISE A SUILENはRoseliaに宣戦布告するわ!」

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

 

「湊友希那!ガールズバンドの頂点を賭けて勝負よ!」

 

 

 

 

 

えぇぇぇぇぇぇ!!??

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued〜





主的にはMorfonicaも後々追加予定ですが皆さんとしてはどんな感じですかね?
宜しければ感想等でご意見お聞かせ下さい( ^ω^ )


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Produce 61#わちゃもちゃスポーツ日和


新たに☆8評価頂きました ヴァンヴァさんありがとうございます!

皆さん約1ヶ月お待たせしました。
更新に時間が掛かったのにはいくつか理由がありますが、言い訳はしませんすみません。

そんなこんなで今回は自分にとってもリハビリ回的な感じなのでご容赦を。

それでは、61話ご覧下さい。
(後書きもご覧下さると幸いです)


 

 

 

 

 

~ライブ翌日~

 

 

 

 

 

 

「......」ポチポチ

 

「お兄ちゃん起きてるー?」ガチャ

 

 

 

 

現在時刻は7時前。本日は月曜日で勿論学校がある日。だがいつもと違う事が一つある。それは俺がこの時間に珍しく携帯をイジっているという事である。しっかりとベッドと布団に挟まれて二度寝の準備は万端だ。

 

 

 

 

「あり?お兄ちゃん珍しく起きてるじゃん」

 

「令香、入る時はノック」

 

「ごめんごめん、いつも寝てるからさ」

 

「仕方ない許してやろう」

 

 

 

 

初めから許すつもりなので良いのだが、いかんせん令香もそんな感じでくるので時々怒った風を装う。でも通じないので結局許すという変なループに入っているのが最近の斎藤家。

 

 

 

 

珍しく朝早くから俺が起きて携帯を弄っていたのにはちゃんと理由がある。理由というのも簡単、昨日のRASのライブについてSNSで早くも話題になっているのだ。やれ"Roseliaのライバル"だの"ラスボスキタコレ"だの"Chu²ちっこくて可愛いの草"だの色々と言われている。おい、最後のやつ後で消しとけよチュチュに怒られるぞマジで。

 

 

 

 

 

「昨日のライブ凄かったね」

 

「色々とな」

 

「ライブは終わったけどおたえさんはどーするの?」

 

「それは今日蔵で俺から話すよ」

 

「令香も行って良い?」

 

「許す」

 

 

 

 

俺はベッドで布団に包まれながら流れるように令香と会話する。そうこうしてる内に眠気がやっと襲ってきたので身を任せてみようと思う。さよなら世界。

 

 

 

「なんで二度寝しようとしてんのお兄ちゃん」バサッ

 

「う〜、目がぁ〜」

 

「別に目に光は当たってないでしょ。ほら、朝ご飯出来てるから顔洗ってきて」

 

 

 

 

 

某有名人の台詞を言ってみたが令香には軽くあしらわれてしまった。携帯を見てみると案外時間が過ぎていたので仕方なくベッドから出て洗面所へ。顔を洗って歯を磨くのも、これまた毎朝のルーティーンである。サボると令香がうるさいからな。

 

 

 

 

洗面所でお湯が出るまで歯磨きをして、それからお湯が出るようになったら顔を洗うのが基本。そんなこんなで歯磨きをしている時にふと考え耽る。勿論、それは昨日のRASのライブについてだ。最後のチュチュのいきなりの宣戦布告にはビックリしたものの、友希那は友希那でそれを受けるつもりらしいし。蘭達アフグロとの対バンライブもあるのに大丈夫かしらあの子達。

 

 

 

 

「......」シャカシャカ

 

 

 

 

兎にも角にも、RASのライブが終わったとてまだまだやるべき事は沢山残っている。約一ヶ月後に迫った文化祭。その文化祭では友希那達vs蘭達の対バンライブ。その他にもポピパやパスパレ、ハロパピ等を交えた合同ライブも予定中だ。ポピパの練習にも付き合わなければならないが、忘れてはいけないのはパスパレの事務所関係の仕事もこなさなければならない。そういう事なので、残念ながら今年もクラスの出し物はパスだな。

 

 

 

 

「......ふぅ、良し!気合入れ直して頑張るか」

 

お兄ちゃんご飯冷めるよー!

 

 

 

 

 

父さんと母さんも居なくなって令香の面倒も見てやらないといけない。これからは今まで以上にハードなスケジュールになること間違いなしだがやるしかない。元はと言えば俺が一人で啖呵切って始めた事だしな。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー有咲!」

 

「お邪魔しまーす」

 

「いらっしゃい二人共」

 

 

 

 

朝ご飯を終えて、香澄の家へ迎えに行き有咲の家に到着したところまではスキップだ。ここに着くまで香澄はマシンガントークで昨日のRASのライブについて話していたので軽く相槌を打って流しておいた。だってこの子"凄かったね!"とか"キラキラドキドキした!"とかしか言わないんだもん。

 

 

 

「香澄は朝からうるせーぞ」

 

「おはよー有咲!」

 

「それさっきも聞いたから」

 

「......ん?有咲、ちょっとこっち来てみ」

 

 

 

 

見慣れているが、やはり何度見ても可愛らしい有咲の制服姿。しかし、俺は少しの違和感を感じて良く見える様に有咲に近くまで来てもらった。

 

 

 

 

「何だよ急に」

 

「服装チェック。ほら、ここ見てみそ」

 

「ん......げっ、スカートの端っこほつれてるじゃん!」

 

「安心して有咲!むーくん裁縫も得意だから!」

 

 

 

そうだ安心してくれ有咲。俺はこう見えて裁縫も得意なやれば出来る子なのだ。何故香澄が得意げに言っているのかは不明だがいつもの事だろう。

 

 

 

「こんくらい自分でやるって」

 

「怪我でもしたら大変だろ。良いから裁縫道具持って座る」

 

「はぁ......分かったよ」

 

 

「むーくん私の制服にお星様付けて!」

「却下だ」

「えー!何でー?」

「紗夜さんにバレたら俺が叱られる」

 

 

 

「何やってんだよアイツら......」ハァ

 

 

 

学校まで時間もあまり無かった為、急ピッチで制服のほつれを直し始める。俺の数ある内の裁縫関連のエピソードを一つ紹介しよう。まだ令香が小学生だった頃、俺がクリスマスプレゼントで手編みのマフラーを作ってプレゼントしたら泣いて喜んでくれたのだ。あの時は手が傷だらけになるくらい練習してたけど、令香の嬉しそうな表情を見たら何か報われた気分になったな。そんなこんなで培われた技術が今も役に立ってるって訳だな。

 

 

 

 

「よし、我ながら完璧だな。他に気になる所とかないか?」

 

「いーや大丈夫、直してくれてありがとな」

 

「有咲の為ならお安い御用だ」

 

「ぶーぶー、有咲だけ良いなぁ」

 

 

 

 

無事有咲の制服のほつれを直し終えたところで香澄が文句を言い始めてしまった。有咲だけ良いなぁと言われてもほつれを直しただけなんだけどな。どうもその事が香澄には突っ掛かっているらしい。

 

 

 

「別に香澄は直す所もねーだろ」

 

「そういう意味で言ったんじゃないもん」

 

「じゃあ前みたいにポーチか何か作ってやろうか?」

 

「良いの?やったー!」

 

「まだ聞いただけなんだけどな」

 

 

 

 

香澄お得意の自己完結癖がここにきて出てしまった。まぁ今に始まった事じゃないから良いんだけどな。嬉しそうに何作ってもらうか考えてるので、近々裁縫道具を見て足りない物は補充しておこう。

 

 

 

「有咲ー?早くしないと学校遅れるわよ?」

 

「分かった婆ちゃん!ほら、香澄も宗輝も先に鞄持って門出といてくれ」

 

「私片付けるの手伝うよ有咲」

 

「なら俺は先に外出とくからな〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~花咲川~

 

 

 

 

 

 

有咲と香澄がお片付けをしている間、俺は門の外へ出て携帯をイジリながら待っていたのだが、そのタイミングで沙綾とりみりんとおたえに遭遇。というか何故ポピパが全員集合したのだろうか。約束してるなら教えてくれても良いのにな。

 

 

 

 

お片付け終了後、俺含め6人という中々の大所帯で花咲川へ登校。おたえが沙綾に朝ご飯と言ってやまぶきベーカリーのパンを強請っていたので俺もついでに乗っかっておいた。その結果としてチョココロネをおたえと半分こするということになったのだが、いきなりおたえが"ポッキーゲームしよ"と言いチョココロネの端っこを咥え待機。流れでその逆から俺が食べ進めようと思ったが、いかんせん大きくて半分まで一口では食べきれませんでした。まぁ半分までいけばおたえとマウストゥマウスするからヤバイんだけどな。

 

 

 

 

 

閑話休題(おたえが残念がっていたのは置いておこう)

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、おはようございます」

 

「おはようございます紗夜さん、燐子先輩。今日も風紀委員の番なんですね」

 

「ローテーション的には違うんですけど、今日担当の人が体調を崩してしまったので氷川さんにお願いしたんです」

 

「あれ?でも有咲も生徒会でしょ?出なくて大丈夫なの?」

 

 

 

 

意外な所で鋭い香澄。確かに有咲も生徒会書記なので、生徒会が主となって行なっている挨拶運動には基本的に参加しなくてはならないはず、という考えに至ってもおかしくはない。だがしかし、この挨拶運動は曜日によって予め担当が決まっているのだ。有咲の担当は木曜日。まぁこれも燐子先輩や紗夜さんに聞いただけなんだけどな。生徒会長の燐子先輩は基本的に挨拶運動には全て参加しているらしい。朝に登校してきて燐子先輩に会えるのなら、その日の学校が2割増しで楽しくなる事間違い無しだ。

 

 

 

 

「市ヶ谷さんは木曜日の担当のはずよ」

 

「そっか!ならその日は私も一緒に挨拶運動するね有咲!」

 

「別にいらねー」

 

「そんな!?酷いよ有咲〜」

 

「香澄がダメなら私が」

 

「おたえも香澄と同じよーなもんだ」

 

 

 

 

こんな感じで校門前で話してると紗夜さんに早く入る様に言われたので大人しく従っておく。香澄とかおたえが挨拶運動してる所は若干見てみたい気もする。今度燐子先輩に頼んで俺も参加させてもらおう。勿論、香澄とおたえのお供を添えて。

 

 

 

 

「んじゃまたお昼休みにな」

 

 

「むっくんまたね」

「宗輝君またね」

「授業サボったらダメだよ〜」

 

 

 

「私達も教室入るか」

 

「うん!」

 

 

 

 

沙綾にだけ授業の心配をされてしまった。しかし、心配されるほど俺は不真面目ではない。それを言うなら香澄に言ってやった方が良いと思うの。だってあの子授業中も事あるごとに俺や有咲に話しかけてくるし。今は席替えしてまた近くになったっていうのも理由の一つなんだろうけどな。

 

 

 

 

「香澄おはよー」

「みんなおはよ!」

「宿題はちゃんとやってきた?」

「勿論だよ!」

 

 

 

「朝から元気だね」

 

「おはよ、そういう美咲はいつも通りだな」

 

「まぁね」

 

 

 

 

一通り挨拶も終わったところで担任が教室へ入ってきて朝のSHRが始まる。

 

 

 

 

「えー、今日はみんなに連絡がある」

 

 

 

 

出席を取って謎のプリントを渡された後、担任から連絡があると言うのでクラスは少しザワつき始める。どうせ前みたいにボランティアの募集やら何やらだろう。残念ながらそれに時間を費やせるほど今は暇ではないのだ。

 

 

 

 

「今日の授業は他クラスと合同で行うことが決まった」

 

 

 

 

 

何故だろう

 

嫌な予感が

 

してきたよ

 

 

 

斎藤宗輝、心の一句。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで現在体育館。何故この時期に?このタイミングで?という疑問はありつつもサボることは出来ない。朝に沙綾にサボるなって言われたばかりだしな。

 

 

 

 

「案外早い再会だったね」

 

「うむ、予期せぬ事態だ」

 

「むーねきー!」ギュッ

 

「お、こころおはよ」

 

「相変わらず今日も良い天気ね!」

 

 

 

 

こころの周りはいつも良い天気だと思うぞ。だって雨の日でもこころの周りだけは光り輝いて見えるからな。その内弦巻家が天候とか支配しそうで怖い。

 

 

 

 

「ムネキさん!おはようございます!」

 

「むーくんおはよ!」

 

「イヴにはぐみか。朝から二人共元気だな」

 

「武士の朝は早いのです!」

 

 

 

 

これでバンドメンバーは勢揃いしたな。まだ先生達から何も伝えられてないから何するか分からないんだよなぁ。体操服に着替えて体育館に集合とだけ担任から伝えられたし。

 

 

 

というか花咲川の冬の体操服可愛すぎか。意図せず萌え袖になっているりみりんやイヴ達を見ていると目の保養になるというものだ。個人的に長袖長ズボンのおたえも良いのだが、長袖半ズボンの健康的な感じのはぐみや香澄もナイスだと思う。この時期に半袖半ズボンなのは体育会系の男子だけだ。因みに俺は寒いの嫌だから長袖長ズボン。

 

 

 

 

「皆さんおはようございます」

 

『おはようございます』

 

「今から特別授業の説明をするので良く聞いておくように」

 

 

 

 

 

という風に、いきなり学年主任の先生から説明が始まる。

 

 

 

 

 

「いきなりだが、今日は2年生合同でスポーツ大会を行う」

 

 

 

 

 

ここからは長くなるので俺から省いた説明をしよう。何故いきなりスポーツ大会が開かれるのかは定かでは無いが、一説には先生達にも休憩が必要ということで実質生徒に丸投げの今回の様なスポーツ大会が開かれるとかなんとか。ただサボりたいだけじゃん、という正論は最もだ。だが俺達生徒としても真面目に勉強するよりはマシなので良いだろう。種目はバトミントン、バレー、バスケの3種類。

 

 

 

 

「それで......なんでこんなチーム編成になってんのか教えてくれ」

 

「むーくん一緒だね!」

 

 

 

 

 

"チームバンドリ"

 

《メンバー》

宗輝、香澄、有咲、沙綾、りみりん

おたえ、こころ、はぐみ、イヴ、美咲

 

 

 

「ねぇねぇむーくん、バンドリってなーに?」

「夢を打ち抜けみたいな意味だ」

「中々良い名前ね!」

 

 

 

 

 

今回はクラス対抗ではなく、クラス毎の親睦も深めようという体で混合チームで対戦するという流れになったまでは良い。だがしかし、何故こうまでしてバンドメンバーばかりが集まるのだろうか。いや理由は簡単で明確だ。香澄とこころを筆頭に、どんどんバンドメンバーを連れてきてものの2.3分でチーム編成終了。周りからは"あそこには勝てないね"とか"どうする?不戦敗にする?"などとチラホラ聞こえる。確かに俺が対戦相手だったら最初から勝てる気しないもん。

 

 

 

 

 

「じゃあみんないくよー!?」

 

 

 

 

 

『ポピパ!ピポパ!ポピパパピポパー!!』

『ハッピー!ラッキー!スマイル!イェーイ!!』

『ブシドーッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

「......今日身体持つかな」

 

 

 

 

 

奇遇だな美咲、今俺も同じ事考えてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「久し振りにおまけコーナーやるぞー」

 

 

宗輝「今回のゲストは彩と千聖さんだ」

 

 

千聖「貴方だんだん適当になってきてるわよ」

 

 

彩「ゲストとして頑張らなきゃ!」

 

 

千聖「彩ちゃんも彩ちゃんで張り切り過ぎよ」

 

 

宗輝「千聖さんって普段から体調管理とかで気にしてるところとかあるんですか?」

 

 

千聖「手洗いうがいは基本的にしてるし、撮影に行く時や人混みの中へ行く時はマスクを着用するようにはしてるわ」

 

 

宗輝「バレない様にですか?」

 

 

千聖「まぁそういう理由もあるわね」

 

 

宗輝「女優もパスパレも大変ですもんね」

 

 

千聖「他人事みたいに言ってるけど、一応貴方も関係者なのよ」

 

 

宗輝「まぁ迷惑かけてばっかりですけど」

 

 

彩「ねぇねぇ私には質問とか無いの?」

 

 

宗輝&千聖「彩(ちゃん)に聞くとめんどくさくなる(でしょう)」

 

 

彩「宗輝君も千聖もひどいよぉ!」

 

 

 

 

 

 

-End-

 

 






この度、数回に渡って行ったアンケート結果を元に本作品のIFルートとしてもう一つ投稿しております。まだこちらも完結してはいませんが、両立して更新していこうと思いますので。もし宜しければ本編とIFルート共々お気に入り、評価感想等下さると幸いでございます。


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Produce 62#わちゃもちゃスポーツ日和2


新たに評価頂きました
☆6 タイヨーさん ☆5 MinorNoviceさん ありがとうございます!

再度更新遅れて申し訳ないです。
とうとうアニメ3期も終了してしまいましたな。
3期は個人的にはエモエモのエモで最高でした。

では、62話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

 

いきなりで悪いがスポーツが得意な女の子は好みだろうか。

 

 

 

 

 

 

例えば走るのが速かったり持久力がある子だったり。ウチのチーム内で言えばおたえがこれに当てはまるだろう。前にポピパ面子+俺で早朝ランニングをした時は、おたえだけが遅れずについて来れていたからだ。何でもあの時は早朝ランニングを習慣付けていたらしい。そりゃ運動してない男の俺について来るぐらいは簡単かもしれないな。

 

 

 

 

「おたえ!こっちこっち!」フリフリ

 

「香澄!」パスッ

 

 

 

次に球技が得意な女の子。チーム内で言うならば、はぐみや香澄なんかが当てはまるのだろう。香澄は俺と小さい頃からボール使って遊んでたりする内に何となく出来る様になってたり、はぐみに関して言えば今も尚ソフトボールのチームでキャプテンを務めている程の実力者だ。

 

 

 

「イヴちゃん!」

 

「カスミさん、こちらにボールを!」

 

 

 

 

イヴの様に剣道や武道を得意とする女の子も中には沢山いるだろう。その中でも取り分け剣道を部活動として行うイヴにとって、彼女を構成する大切なピースになっている事は間違いない。まぁイヴに関しては大前提としてブシドー云々があるんだろうけどな。

 

 

 

「こころ狙えるよー」

 

「任せておいて美咲!」

 

 

 

 

 

そして、その誰よりも頂点に限りなく近いのが紛れもなくこころただ一人だろう。運動から勉強何でもござれの無双状態を常に発揮しているこころ。正直俺はこころがこれからどの様に成長していくのかに興味がある。しかしながら、弦巻家の事情にのめり込むのも禁物だ。最悪の場合......なんて事も考えられる訳だからな。

 

 

 

 

「そう!そうして導き出される答えは一つ!」

 

「むーくん見て見て!勝ったよ!」

「んーっ!やっぱり身体を動かすと楽しいわね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、別に俺要らなくね?」

 

 

 

 

 

一連の流れは急遽決まったスポーツ大会の第一項目であるバスケットボールの試合の様子。お察しの通り、俺はベンチで応援隊をしていた。参加メンバーは香澄、おたえ、こころ、はぐみ、イヴの5人。先程香澄の言った通り無事勝利を収める事が出来た。約5分間の試合にも関わらず、30-0という驚異的なスコアを叩き出しているのには目を瞑ってもらいたい。そして、その30点の全てがこころの3Pシュートだという事実にもね。

 

 

 

 

「流石はこころちゃんだね」

 

「この調子ならバレーボールも大丈夫そうだね」

 

「美咲、この試合を見た感想を聞かせてくれ」

 

「ウチのこころがすみません」

 

 

 

 

続けて行われるバレーボールの試合もバスケットボールに出場したメンバーとほぼ変わらず構成されている点から、次も同じ様な展開になる事は容易に想像できる。他のチームには申し訳ないが負けてもらうしかないだろう。別にこころとて悪気がある訳ではないのだ。ただ純粋に楽しんだ結果、1点も失わずに終わっただけの事。

 

 

 

 

「ねぇむーくん勝ったよ!」

 

「見りゃ分かる」

 

「褒めて!」

 

「別にお前だけが頑張ってた訳じゃないだろうに」ナデナデ

 

 

「むっくん私も」「はいはい」

「むーくんはぐみもお願い!」「へいよ」

「ムネキさん!」「分かった分かった」

「有咲もほめて!」「だぁー!いちいち引っ付いてくんなー!」

 

 

 

何故か俺に褒められる為に列が出来るという意味不明な事態に陥ってしまった。やめて!みんな優しい目で俺を見つめないで!これは不可抗力、俺がしたくてやってる訳じゃないことを分かって欲しい。

 

 

 

 

「何やってんのアンタ」

 

「俺もイマイチ何してんのか分からん」

 

「美咲!バスケットボールはこんなにも楽しいものなのね!」

 

「相手チームはそうでもなさそうだったけどね」

 

 

 

 

そう、例えるなら黒帯の人に手足縛られて戦えって言われてるようなもんだ。......ん?例えが微妙に分かりづらい?俺だってどう例えたら良いか分からないんだよ。

 

 

 

 

そうしている内に休憩の時間は終わり、俺達チームバンドリvs仲良し8人組のバレーボールの試合が始まる。メンバーはさっきの5人+有咲を加えた計6人での試合。心なしか相手も最初から諦め半分で試合に臨んでいる様にも見える。

 

 

 

 

「むーくん応援よろしくねー!」

 

「りょーかい......って、香澄前!サーブくるぞ!」

 

 

 

 

最初の相手サーブ直前によそ見をかます香澄。相手チームのサーブ担当はどうやら経験者らしく、ボールを正確な位置に飛ばしてきた。俺の一言で辛うじて間に合った香澄はサーブを落とさずにレシーブする事に成功。これ経験者いるんだったらワンチャン負けるんじゃね?

 

 

 

「かーくんナイス!こころんいくよ!」

 

「ええ!任せて頂戴!」

 

 

 

香澄のレシーブを無駄にしないようにはぐみが落下地点へ移動してこころへトス。準備万端のこころへはぐみの正確なトスが上がり、ここぞとばかりにジャンプして相手の居ないスペースへこころの無慈悲なアタックが叩きつけられる。あ、当然コートを仕切るネットは低く設置してあるので、女の子でもジャンプすればアタックは出来る様になっている。

 

 

 

「はぐ、さっきはごめんね」

 

「ううん!ナイスレシーブだったよかーくん!」

 

「香澄もはぐみも凄く上手だったわよ!」

 

「流れるような連携......これぞまさにブシドーです!」

 

 

 

 

先程の一連の流れの何処にブシドーを感じたのかは不明だが、確かに綺麗に点を取ることに成功したのには間違いない。はぐみのトスのコントロールしかり、こころの正確なアタックしかり、何故ハロパピ勢は運動神経がここまでカンストしているのだろうか。いや、こころに限って言えばまだまだ成長の余地があるとみて取れる為、カンストなどという表現では足りない可能性がある。恐ろしや弦巻家のお嬢様。

 

 

 

 

「サーブいくよー」

 

「おたえちゃん頑張ってー!」

 

「おたえ怪我だけはしないようにねー」

 

 

 

 

コートの外からりみりんと沙綾が応援の言葉を投げかける。それが届いて力になったのか、おたえのサーブは綺麗な弧を描き取りづらい微妙な位置へと吸い込まれていく。勿論後の展開はお察しの通り、全員がお見合いして結果誰も取りにいかず続けて2点目を先取。サーブが決まって嬉しかったのだろうか、こっち向いてピースしてるおたえ。可愛い。

 

 

 

 

「宗輝くーん!」フリフリ

 

「彩ちゃん、試合の邪魔しちゃ駄目よ」

 

「あっ、ごめんね千聖ちゃん」

 

「宗輝君は試合出てないの?」

 

 

 

 

バレーボールの試合観戦途中、俺達と同じくスポーツ大会を行なっていた彩達が様子を見に来てくれたらしく、ちょっと一息といった感じで俺の周りへ座っていく。三年生は運動場でサッカーとドッジボールをしている筈なのだが、ここに居ても大丈夫なのだろうか。

 

 

 

「俺はこの後のバドミントンに出る予定ですよ」

 

「頑張ってね宗輝君」

 

「花音先輩はもう終わったんですか?」

 

「初戦だったんだけど、彩ちゃんのお陰で勝てたよ」

 

「えへへ、そうかな〜?」

「彩ちゃんはトチってただけでしょう」

「そんなぁ!?千聖ちゃん酷いよ〜」

 

 

 

 

花音先輩に話を聞いてみたところ、彩が蹴り損ねたボールが相手ゴールキーパーの両足の間抜けてゴールイン。その場にいた全員が、そのゴールが原因で勝ち負けが決まるとは思ってもいなかっただろう。

 

 

 

 

因みに、彩が蹴り損ねたボールと言っても殆ど彩は触っていないらしく、同じチームの紗夜さんが彩にパスをした流れでゴールしたっぽい。何とも彩らしいというか。

 

 

 

 

「そんな事より宗輝君達はどうなのよ」

 

「試合見てれば聞くまでも無いと思いますよ」

 

「あら、じゃあ宗輝君は差し詰めベンチ温め隊といったところかしらね」

 

「おいこら誰がベンチ温め隊じゃ。というか女優兼アイドルがそんな毒吐いたら駄目でしょ」

 

「事実を言ったまでよ」

 

「だったら尚更質が悪いですよ」

 

 

 

 

そこは"冗談よ"とか"嘘よ"って言うところだと思います千聖さん。この人俺を弄ってくる時滅茶苦茶良い笑顔するからなぁ。Sっぽい千聖さんを発揮するのは彩に対してだけにしてもらいたいもんだ。

 

 

 

 

そうこう話し込んでいる間にも香澄達のバレーボールの試合は難なく進んでいき、あれよこれよと既にマッチポイントとなっていた。途中、有咲が狙われて1点を取られた以外こっちのペースで試合が進み、イヴが手刀みたいな感じでアタックしていたようにも見えたがおそらく幻覚だろう。アタックの瞬間の掛け声が"ブシドーッ!!"だったのでイヴで確定だとは思うけどな。

 

 

 

 

 

「ムネキさん!私の忍法・爆速手刀の術(アタック)見ててくれましたか!?」

 

「勿論見てたぞ。あんなに素早い手刀......俺でなきゃ見逃しちゃうね!」

 

「いや普通アタックの時は手刀じゃないでしょ......」

 

 

 

 

俺の名付けた素晴らしい忍法をただの手刀呼ばわりしてもらっては困るぞ美咲。あれは若宮家に代々伝わる暗殺忍法で、某流派の様に才が途絶えた時は消えゆくのもまた仕方無しとした忍法なのだ......という設定。あこに言ったら滅茶苦茶喜びそうだから次に会った時に言ってみよう。

 

 

 

 

 

「次のサーブはこころが打つみたいだね」

 

「こころちゃん頑張れー!」

 

「ありがとうみんな!私に任せて頂戴!」

 

 

 

 

 

 

 

言うまでもなくそのままサーブが決まり、バレーの試合はバスケット同様相手チームと大きく点差を開けての快勝となった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「こころちゃん、はぐみちゃん、みんなもお疲れ様」

 

「ありがとう花音!」

 

「千聖先輩達も応援してくれてたんですか?」

 

「勿論よ。彩ちゃんがトチッた結果早く試合が終わったから来てみたの」

 

「そのイジリ好きですね千聖さん」

 

 

 

 

 

バレーボールの試合が一通り終わり、今は休憩の時間となっている。体育館の一角を占拠している状態の俺達だが、いかんせん彩や千聖さんが来たのが原因か周りにも他の生徒が徐々に集まってきていた。確かに、ただの同じ学校の先輩という立場ではなく飽くまで彩はアイドル、千聖さんは女優として現在活躍しているのだ。間違いなくファンや応援してる生徒だっているだろう。

 

 

 

 

「有咲もお疲れさん」

 

「ぜってー明日は筋肉痛だ......」

 

「マッサージでもしてやろうか?」

 

「却下」

 

「即答かよ」

 

 

 

 

肩で息をしながら帰って来た有咲にお水を手渡しすると、一気に半分程飲み干して床へ座り込んでしまった。前におたえも言っていた様な気がするが、バンドをやるのにも体力は必要不可欠。香澄やおたえ、沙綾辺りは何とかなりそうだが有咲とりみりんは比較的体力があまり無いので特訓が必要かもしれない。

 

 

 

「これで二連勝だ」ブイ

 

「イェーイ!」ブイ

 

「今度はむーくん達の番だよ!」

 

「出来るだけ頑張るけど期待すんなよ」

 

 

 

 

未だ床で休憩してる有咲と違って、おたえと香澄は元気にVサインして喜んでるし。ここまで快勝してこられたのは、間違いなくこころやはぐみ達のポテンシャルあってこその結果だ。その流れで俺に期待されても少し困る。ほら、美咲だってこころに応援されてるけど微妙な顔してるし。

 

 

 

その後もワイワイ雑談も交えながら休憩時間を過ごし、様子を見に来ていた彩達はサッカーの決勝があるため運動場へ移動。体育館では最後の種目であるバドミントンの用意が着々と進んでいき、対戦相手もくじで決まり俺達の試合となった。

 

 

 

 

 

「最初は沙綾&りみりんペアでいくか」

 

「沙綾ちゃん頑張ろうね」

 

「私達で勝って宗輝達に繋げようね」

 

「俺達も応援してるからな」

 

 

「さーや頑張れー!」

「りみりんファイトー」

「美咲の番はいつかしら?」

「私はもうちょっと後だから、座って応援しなよこころ」

 

 

 

 

そして一回戦が始まり、沙綾&りみりんペアが先発として出場。バドミントンは2回に分けて試合が行われる仕組みになっており、後発隊として俺と美咲ペアが出場する予定になっていた。

 

 

 

「沙綾ちゃん!」

 

「任せてりみりん!」

 

 

 

相手のアタックをりみりんが受け止め、相手のミスボールを沙綾が落下地点へ向かいアタックする。

 

 

 

「美咲頼んだ!」

 

「ちょ!それキツイかも!」

 

 

 

俺の場合は現役テニス部である美咲に頼りっぱなしな点もあったが、その利点を生かしてこちらが有利に立ち回る事が出来たのが良かった。

 

 

 

 

初戦の相手は運良く二人共初心者だった為、前半後半共に何とか勝ちを得る事が出来た。そして、人数や参加チームも少ない為初戦突破しただけでAブロックの決勝となってしまう。なんで人数少ないのにAとBブロック作ったのか?んなもん運営してる生徒会に聞いてくれ。因みに有咲に聞いても教えてくれませんでした。

 

 

 

 

「一回勝っただけで決勝に進んでも良いのこれ」

 

「美咲、ここは素直に喜んでおく場面だぞ」

 

 

 

 

とは言っても決勝は決勝。体育館で試合が行われるのは2コートという理由もあってか他の生徒全員が注目している。みんなライブで慣れているとはいえ緊張しない理由にはならないだろう。現にりみりんが緊張している様子だったので、香澄やこころ達全員で手のひらに"人"という文字を書いて緊張をほぐしている。

 

 

俺も小さい頃に香澄や明日香からしてもらってたなぁ。逆に俺が二人にする時はふざけて"入"って書いてた時もあったし。そして何故か香澄にはバレなかった。何故明日香にはバレバレなのに香澄にはバレないのだろうか。小さかったから?それとも緊張してたから?もしかすると単純に分からなかっただけなのかもしれない。あの頃は漢字なんて習い始めたばかりだったからな。

 

 

 

 

「沙綾、りみりんファイト!」

 

「どれどれ、今回の相手は──」

 

 

 

 

沙綾とりみりんがコートへ向かう最中に俺は相手チームのメンバーを観察しておく。それで何かが変わるわけでは無いのだが、チュチュのプロデューサー修行やパスパレマネージャー(仮)をしていく中で癖付いてしまったので仕方ない。

 

 

 

 

すると、相手チームには意外な人物を発見する。

 

 

 

 

「まさか沙綾達と決勝で当たるとはね」

 

「私もナツ達が相手だとは思わなかったよ」

 

 

 

 

相手チームには沙綾が中学時代にバンドを組んでいたメンバーである夏希が出場していたのである。学校ではちょくちょく会うし、なんならその度に手を振ったりしてるのだが夏希はイマイチ反応してくれない。もしかして遠回りな友達じゃ無いよアピールなのだろうか。だとすれば俺は今日の夜一人で寂しく枕を濡らす自信がある。

 

 

 

 

「手加減しないよ」

 

「こっちこそ」

 

 

 

『それでは試合を開始しまーす』

 

 

 

 

バドミントン部の部員が審判となり、ホイッスルと同時にAブロックの決勝戦が幕を開ける。

 

 

 

今回も先程と同様にお互い点の取り合いをする展開となり、こちらの得点かと思いきやラインギリギリアウトの時もあれば、相手のネットタッチでこちらに点が入るという事もしばしば。Bブロックは既に後半戦に入っているにも関わらず、こちらはまだ前半戦という中々に白熱した試合運びとなっていた。

 

 

 

ピ-ッ!

 

 

 

「ん?何か反則でもあった?」

 

「いや、特に何も無かったと思うぞ」

 

「じゃあ何で審判はホイッスル鳴らしたの」

 

 

 

突然審判がホイッスルを鳴らしたので疑問に思った美咲が俺に問いかけてくる。でも俺に聞かれたって分からん。だってバドミントンの詳しいルールなんて正直一つも知らないしな。しかし、確かに何故ホイッスルを鳴らしたのかは疑問だ。

 

 

 

『えーっと、時間無いのでメンバーチェンジとのことでーす』

 

 

「そんな〜。これじゃあ沙綾との決着がつかないじゃんか」

 

「まぁまぁ、後は宗輝達に任せるよ」

 

 

「有咲これってどういうこと?」

「私が知るわけねーだろ」

 

 

 

 

適当に審判がメンバーチェンジを宣言したのには理由があるらしく、なんでもこのままじゃ終わりそうにないと判断した運営(生徒会)が決定したことらしい。有咲は生徒会だがスポーツ大会の運営には一切関わってないから知らなくて当然だな。

 

 

 

「いきなり俺達の出番らしいぞ美咲」

 

「でもこれってどうやって勝負終わらせるの」

 

 

『ここからは一点先取したチームの勝ちでーす』

 

 

「んなアホな」

 

「まぁ早く終わるし個人的には問題ないけどね」

 

 

 

 

それで良いのか生徒会。まぁ実質先生達は関わってないから生徒会の独断と偏見で判断したのだろう。そうこうしている間にもBブロックは既に後半戦も終盤になってるし。

 

 

 

「サーブどうする?」

 

「アンタ打ちなよ」

 

「ミスっても知らないからな」

 

「そんなに運動神経悪くないでしょ」

 

 

 

運動神経は悪くないが別にバドミントンは上手くないからな?それに今まではずっと美咲がサーブしてただろう?良いの?フラグ回収しちゃって良いの?

 

 

 

「むーくん頑張れー!」

 

「美咲も応援してるわよー!」

 

 

 

 

まぁここまで応援してもらって俺のミスであっけなく終わらせるのも味気ないし頑張りますかね。

 

 

 

 

『それでは開始してくださーい』

 

 

「美咲いくぞー」

 

「はーい」

 

 

 

 

出来るだけミスの無いように下からサーブを打ち始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に美咲は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ逆にバドミントンの才能あるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の放ったサーブは綺麗な弧を描き、落下地点のネットに当たり自陣に呆気なく落ちていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「さぁおまけのコーナーだ」

 

 

宗輝「今回のゲストは紗夜さんと日菜だ」

 

 

日菜「ねぇねぇお姉ちゃん!」

 

 

紗夜「日菜、もう少し声のボリュームを下げなさい」

 

 

日菜「膝って10回言ってみてよ!」

 

 

紗夜「嫌よ」

 

 

日菜「えーなんでー?」

 

 

紗夜「どうせ膝と膝を間違える様に仕向けてるだけでしょう」

 

 

日菜「じゃあフォークって10回言って!」

 

 

紗夜「それも知ってるから嫌よ」

 

 

日菜「えー!じゃあ暇って10回言って!」

 

 

紗夜「暇暇暇......で、これでどうすれば良いの?」

 

 

日菜「私の名前は!?」

 

 

紗夜「日菜でしょう」

 

 

日菜「おー!お姉ちゃんは間違えないんだね!」

 

 

紗夜「間違えるわけないでしょう」

 

 

日菜「でも彩ちゃんは間違えたよ?」

 

 

宗輝「恐るべし丸山彩」

 

 

 

 

 

 

-End-

 





紗夜日菜はこういう日常会話が最高にエモいんじゃあ〜


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Produce 63#おかえりポピパ


まず新たに評価頂きました ☆5お祈りメール様 ☆9たく丸様ありがとうございます!

皆さんお久しぶりでございます。
大幅に更新遅れてしまい申し訳ありませぬ。というか更新してない間にこの作品を投稿してから1年が経過しておりました。投稿し始めた頃はこんなにも続くとは思ってもみませんでした笑
これからも不定期更新かもしれませんが続けていくので温かい目で見てやって下さい。

では、63話ご覧下さい。



 

 

 

 

~市ヶ谷家 蔵~

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ有咲」

 

「なんだよ」

 

「むーくんまだなの?」

 

「私に聞くなよ」

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

「すまん遅く──」

 

「むーくん!」ダキッ

 

 

 

 

 

開幕早々香澄の突撃を喰らいラブがハートになりそう。意味が分からない人はググりましょう。分かった人はロボット好きかアニメ好きくらいだろうからな。

 

 

 

「香澄離れろ、ソーシャルディスタンスを確保しろ」

 

「そーしゃるでぃすたんす?」

 

「社会的距離って意味だけど、この場合人と人との距離って意味だよ」

 

「んー、どういう事?」

 

「だから離れろって分かりやすく最初に言ったろ」

 

 

 

 

ちょっと用事で蔵に行くのが遅れたのは謝る。だが蔵に入って早々香澄お得意のダイブを喰らっては話そうにも話せん。というか反応早過ぎない?蔵入るのに階段降りなきゃ行けないのにその前にダイブしてくるって控えめに言ってヤバい。結論、香澄はポピパのヤベェ奴。

 

 

 

 

「お兄ちゃんお疲れ様」

 

「そういやお前もいるんだっけか」

 

「令香ちゃんは私達が連れてきたよ」

 

「サンキュー沙綾」

 

 

 

「むーくんがダメなら有咲に!」

「暑苦しいから引っ付くなーっ!!」

 

 

 

 

香澄と有咲が百合百合してるのは一旦頭の隅っこに置いとくとして、今日はただ蔵へ来た訳では無いのだ。その為に令香も今日は同伴させてある。本来であればポピパの問題だから令香は居なくても良いが、いかんせん令香自身が来たいと言うのでお兄ちゃん的には拒否出来ない。まぁ令香なりに多少心配する点もあるのだろう。

 

 

 

 

「それで、今日は何するの宗輝君」

 

「よくぞ聞いてくれたりみりん」

 

「蔵練?」

 

「間違ってはないが正解でも無いぞおたえ」

 

「なら......パーティー?」

 

 

 

 

残念ながらそれはもっと違うぞおたえさんや。だがしかし、これを地でやっているおたえはやはり可愛らしい。おたえだからこそまかり通る天然っぷりだろう。多分これをそこら辺の女の子がやると"え?なに、ぶりっ子?全然面白く無いよそれ"とか言われることだろう。あー、怖いわー。女の子同士のドロっとした関係怖いわー。

 

 

 

 

とまぁ冗談にならない冗談はさておき、まだこの場に必要な人物が一人居るので呼ぶことにしよう。本日のメインであり超重要人物たる女の子。実は結構待たせてるから早く呼ばないと可哀想だ。

 

 

 

 

「入ってきていいぞー」

 

「ん?むーくん他に誰か呼んでるの?」

 

「まぁ見てろって」

 

 

 

 

俺の合図と共に蔵の入り口がゆっくり開き、メインの人物が恐る恐る入室。

 

 

 

 

 

 

「お、お邪魔します!」

 

「あれ、ロックだ」

 

「ホントだ!ロックいらっしゃい!」

 

「私の家なのに何で香澄が得意げにもてなしてるんだよ」

 

「ポピパさんが全員集合しとる......」アタフタ

 

 

 

 

 

そう、見ての通り本日のメインであり重要人物というのは六花である。既にポピパ面子からの歓迎を受け見るからに緊張している六花。知っての通り六花はポピパの大ファンの為、こうなってしまうことも想定済み。しかし、それではいつまで経っても話にならないので再度香澄に大人しくするように伝えておく。

 

 

 

 

「香澄はそこのソファにお座りな、有咲なんか飲み物あるか?」

 

「はいよ、ちょっと待ってろ」

 

「あ、有咲私も手伝うよ」

 

「んじゃ沙綾も頼む」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「お待ちどーさん」コトッ

 

「ありがと有咲!」

 

「沙綾ちゃんもありがとう」

 

「すみません、頂きます」

 

 

 

 

有咲と沙綾が飲み物やお菓子なんかを持ってきてくれたので有り難く頂く。その間に六花とそれとなく世間話を交えながら話していたので、六花も段々緊張はほぐれている様子。入ってきた時はガチガチだったのにな。

 

 

 

 

「よし、全員揃ったし本題に移るか」

 

「むーくん何するの?」

 

「今日六花やみんなを呼んだのは他でもない。まずは先日のRASのライブについて聞いとこうかな」

 

 

 

 

既にRASの主催ライブの影響は出始めていると言っても過言ではないだろう。チュチュの戦略かRASの実力か......多分その両者だとは思うが、ネットでは話題沸騰中といったところだ。

 

 

 

前々からサポートで入っていたレイやますきに関しては言わずもがなファンはいるだろう。だがしかし、今回の主催ライブで一気に人気を博したのは言うまでもない。俺調べによると、既にRASのグッズや次のライブも考えられているらしい。まぁ全部チュチュが言ってたんだけどな。

 

 

 

 

「凄かったよね有咲ちゃん」

 

「おたえが別人に見えるぐらいにはな」

 

「私は私だよ有咲」

 

「だから別人に見えるくらいすげぇって思ったってことだよ!」

 

「なるほど」

 

 

 

 

確かに有咲の意見には共感できる。RASとポピパじゃ音楽の方向性が根本から違う気がするから仕方ないっちゃ仕方ないとは思う。簡単に言えばRASはカッコよくてポピパは可愛いって感じか。でもポピパでもカッコいいと感じる曲はあるけどな。一番ポピパを近くで見てきた俺が言うんだから間違い無いだろう。

 

 

 

 

「六花はどう思ったんだ?」

 

「わ、私ですか?えーっと、上手く言えないんですけど......身体の芯から熱くなれる様な感じがしました」

 

「身体の芯から熱くなれるか......うん、やっぱ決めた」

 

「何を決めたの宗輝」

 

 

 

 

俺もこの答えを聞くまでは一抹の不安があった。でも六花の答えを聞いて不安から確信に変わった。それでも六花やおたえ次第であることに変わりはないんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「六花にはRASのギターとして入ってもらう」

 

 

「......えぇ!?宗輝先輩何言うとるんですか!?」

 

 

 

 

方言女子って良いよね。六花から偶に出てくる方言モードの素の状態は可愛い。

 

 

 

 

まぁ今はそれは置いておくとして。

 

 

 

 

「話が見えないから順に説明してくれる?」

 

「任せろ沙綾。んー、まずはおたえの方から済ませとくか」

 

「私?」

 

「おたえ、少しの間だけどRASでギター弾いてみて思ったことないか?」

 

 

 

 

そこからはおたえがRASでギターを弾いていて感じた事や思った事を話してくれた。始まりは幼馴染のレイとの再会。そこでお互いバンドをやっている事が分かり、それでも尚レイはおたえと共にライブがしたいと。その結果チュチュの厳正なテストを無事乗り越えてRASのサポートギターとして主催ライブに出ることが出来たおたえ。

 

 

 

 

ライブ会場で見ていた俺達ですら言葉を無くす程魅了されたのだ。実際にRASの中で何度も練習を行い、RASの演奏を聞き続けたおたえは間違いなく成長しているだろう。それは誰でもないおたえ自身が感じていると思うし、近くでサポートしてた俺もひしひしと感じる。

 

 

 

 

「RASでの経験は、確実に私を成長させてくれた。主催ライブの時は終わってからもずっと痺れてた。でもまだまだだと思う。私はまだまだ成長できると思う。それをレイやRASのみんなは気付かせてくれた」

 

 

 

 

そんな成長したおたえを見て、俺は凄く誇りに思う。今のおたえなら何処に出しても恥ずかしくない演奏が出来るだろう。何様なんだって話だけど、そう確信してる。

 

 

 

 

 

でも、だからこそ。そんなおたえだからこそ、ポピパには必要不可欠な一人なんだ。香澄からポピパは始まり、有咲やりみりん、沙綾におたえと今ではこの5人は5人で一つなのだと思う。一人欠ければそれはポピパでは無くなってしまう。まぁ他のバンドにも言える事ではあるが。

 

 

 

 

 

「おたえ、率直に聞く」

 

「うん」

 

「おたえはどうしたい?」

 

 

 

 

みんな固唾を飲んで見守っている。他のみんなも薄々は感じているのだろう。RASのサポートギターが決まった時にも軽く話はしてたからな。結局は全ておたえに次第になってしまったが心配無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって、おたえは五つ星の一つ(ポピパ)なんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はやっぱりポピパしたい!」

 

 

 

 

 

 

 

おたえの気持ちを聞いて既に泣き崩れそうな香澄。なんか泣いてる顔がギャグ漫画のキャラみたいになってるから気を付けろよ。とは言ってもポピパ面子の涙腺を破壊するには充分なのだろう。俺だってちょっとウルッときてるし六花なんて"これでこそポピパさんや!"とか言いながら泣いてるし。

 

 

 

 

 

そこからみんなが今までどう思ってたのか、どうして欲しかったのかをちゃんと言葉にして伝え合った。いかんせんこういう涙腺崩壊イベントは男の俺にとっちゃ少々キツイ。なんでかって、俺って案外涙腺緩かったりするから。すぐもらい泣きとかしちゃうタイプだから。

 

 

 

 

「それで、おたえさんの事は分かったけど六花さんは?」

 

「状況整理ありがとう令香。俺はお前みたいな優秀な妹を持てて幸せだと改めて実感してるぞ」

 

「それはもう分かったから」

 

 

 

やっとここで六花の話に入れるってわけだ。待たせてすまんな六花。ポピパ面子や令香には最初から説明しなきゃいけないな。

 

 

 

 

「香澄とおたえ、最初にレイに聴いてって言われてR・I・O・T聴いたのは覚えてるか?」

 

「うん」

 

「それがどうしたの?」

 

「あの日の最後に六花にもギター弾いてもらったろ?それを聴いて俺は六花をRASに入れようと思ったんだ」

 

 

 

 

あの日、勿論レイ達RASの音楽を聴いておたえ風に言うと震えた。友希那が貰ってたUSBメモリに入ってた録音した物ではなく生の音楽を聴いたから尚更だ。

 

 

 

 

「それで......これが何だか分かるか?」

 

 

 

 

ここぞとばかりにポケットに忍ばせておいた物を取り出してみんなに見えるように机に置く。

 

 

 

 

「USBか?」

 

「正解だ有咲。なら何が入ってると思う」

 

「むっくんのパソコンにあった有咲と沙綾の」ムグッ

 

「さぁやまぶきベーカリーの人気パンチョココロネだぞおたえよく噛んで食べような〜」

 

 

 

 

だから何でそのことをおたえが知ってるんだよマジで。密かに有咲と沙綾の可愛い写真を撮ってはパソコンに保存してアルバムの様に仕上げているのがバレバレだ。今では既に2冊ほど完成してもう少しで3冊目に突入しようとしている大切な時期にネタバレは勘弁願いたい。あ、勿論りみりんやおたえの写真も沢山あるから心配するなよ。

 

 

 

 

「んんっ、正解は"六花のギターソロ"でした!」

 

「ロックのギターソロ?」

 

「その通り、昨日俺が六花にカッコいい感じのギターソロみたいな音源とっといてくれって頼んだんだよ」

 

「確かに言われてとりましたけど、それをどうするんですか?」

 

 

 

 

分からないかね諸君。六花をRASへ加入させる為には?という問題について気になる点はいくつか存在するが、俺個人的に重要だと思うのは一つだけ。

 

 

 

それはチュチュにどの様にして認めさせるか、或いは合格点をどうやって貰うかが鍵になってくると予想出来る。おたえのサポートギター試験の時でさえ物凄い量の練習を繰り返してやっと及第点といったところだったからな。

 

 

 

 

「実はこの音源の入ったUSB、今朝チュチュに送っといたんだ」

 

「私の音源を?」

 

「そんでもって、これを聴いたチュチュはどうすると思う?」

 

「んー、ロックちゃんをギターにスカウトする?」

 

 

 

 

正解だりみりん、ご褒美に偉い偉いしてあげるとしよう。俺も昨日この音源は聴いたけど中々インパクトのある内容だ。普段の六花からは考えられない様な痺れされるギターフレーズ。贔屓目無しで見ても素晴らしいと思えるものだった。

 

 

 

「そろそろチュチュのところに届く頃合いだしな」

 

「それがどうしたの?」

 

「まぁまぁ、取り敢えず聴いてみてからのお楽しみだ」

 

 

 

パスパレ事務所から借りている事務仕事用のノートパソコンにUSBを差し込んで音源を再生する。何度も聴いている俺はまだしも演奏者である六花は少し緊張の色が出てしまっているが心配ないだろう。

 

 

 

 

そして、1分程度の短い時間だったがみんなが音源を聴いて言葉を無くすくらいには充分過ぎる内容だということは理解してもらったらしい。

 

 

 

 

「......凄い、凄いよロック!」

 

「これは確かに凄いね」

 

「案外スゲー奴だったんだなロックは」

 

「そ、そんなことないですよ!!ただ夢中で弾いてただけで......」

 

 

 

プルルルルル

 

 

 

 

ジャストタイミングで俺の携帯に着信アリ。電話かけてきた相手は何となく想像つくんだけどな。

 

 

 

「もしもし」

 

『Unstoppable!!アナタこの音源何処で手に入れたのよ!?』

 

「それは残念ながら教えられないなぁ」

 

『ちょ、何でよ!良いから情報提供しなさいよ!』

 

「どうしよっかな〜?」

 

 

 

 

相手は言わずもがなRASのプロデューサーであるチュチュ。早速俺の送った六花のギター音源を聴いてくれたみたいで何よりだ。こういう仕事が早いところは素直に尊敬するよ。

 

 

 

 

「交換条件をのんでくれるなら教えても良いぞ」

 

『......交換条件って何よ』

 

「おたえのサポートギターは今日をもって終了。その代わりにRASに加入してくれる最強のギタリストを紹介してやる。これでどうだ?」

 

『最強のギタリスト?どうせアナタが見つけてきたんだからあのランダムスター弾いてる子みたいな変な子だったりするんじゃないの?』

 

 

 

チュチュからしても香澄って変な子扱い受けてるんだな。まぁ確かに変な子は変な子で合ってるんだけどさ。一概に香澄を"変な子"だけで片付けて欲しくはないな。今じゃギターボーカルも板についてきた我らがポピパのリーダーだからな。

 

 

 

「あら?そんな事言うのかしら?だったら最強でマジ卍なギタリストだから他のバンドにでも紹介しよっかな〜」

 

『Please wait!!分かったわ、ハナゾノのサポートギターは今日で終わり。その代わり絶対にそのギタリストは紹介して貰うわよ』

 

「なら取引成立だな」

 

『因みに聞くけど音源の子だったりするのかしら』

 

「それはまだ言えない秘密だな〜」

 

『チッ......まぁ良いわ』

 

 

 

 

この子今舌打ちしませんでした?

 

 

 

 

 

 

『約束、覚えておいて頂戴』

 

「おう」

 

 

 

 

こうしてチュチュとの取引は無事成立。おたえはRASでのサポートギターの役目を終えてポピパへと帰還。代わりに六花をRASのギタリストへ推薦するって流れだな。自分でも上手くいって一安心してる。

 

 

 

 

「電話の相手はチュチュ?」

 

「勿論、おたえのサポートギターは今日で終わり。これで晴れてポピパに戻ってこれた訳だ」

 

「おたえおかえり!」

 

「ただいまみんな」

 

「はぁ......一時期はどうなるかと思ったよ」

 

「沙綾ちゃん大丈夫?」

 

 

 

 

やはり一番心配してた沙綾も、返事を聞いて安心したのか崩れる様にしてソファへ座り込む。そんな沙綾を見て"チョココロネ食べる?"と若干過保護になるりみりんにおたえに抱きつく香澄。そして何やら安堵の表情を浮かべている有咲。

 

 

 

 

やっぱりポピパはこの5人じゃなきゃな。

 

 

 

 

「やっぱりポピパは─」

 

 

「やっぱりポピパさんはこの5人でこそポピパさんや!!」

 

 

「急にどうしたのロック?」

「い、いえ!やっぱりポピパさんはポピパさんだなぁって思って......」

「ロックもポピパ入る?」

「そんな!?魅力的な提案ですけどやっぱりポピパさんはポピパさんで5人でこそポピパさんなので私なんかが入るとそれはもうポピパさんでは無くなってしまいます!あ、でも一緒に演奏とか出来たら凄い楽し─」

 

 

 

 

 

言いたかった事を六花に先に言われたし、その六花は六花でショートしつつあるし。

 

 

 

 

 

 

「まぁ一件落着ってところかな」

 

 

 

 

 

 

またこれから忙しくなりそうな予感。

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「おまけのコーナーでげす」

 

 

宗輝「今回のゲストは初登場のチュチュ&パレオだ」

 

 

Chu²「......何これ?」

 

 

パレオ「おまけのコーナーですよチュチュ様!」

 

 

Chu²「だから何すれば良いのよ」

 

 

パレオ「何すれば良いんですか?」

 

 

宗輝「何すれば良いんだろうな」

 

 

Chu²「貴方ね......もう良いわ、帰るわよパレオ」

 

 

パレオ「待って下さいよチュチュ様〜!」

 

 

宗輝「あ〜、ここにパスパレのイベントチケットが〜」

 

 

パレオ「ッ!!」ガタッ

 

 

宗輝「しかも日菜のサイン付き限定パーカーも」

 

 

Chu²「パ、パレオ?流石に私を選んでくれるわよね?」

 

 

パレオ「宗輝さん何すれば宜しいでしょうか?」

 

 

宗輝「チュチュ連れてきてくれたらパレオにあげよう」

 

 

パレオ「お任せを!」

 

 

Chu²「ちょ、パレオ!?貴女何やって......こら私を担ぐんじゃないわよ!!」

 

 

パレオ「チュチュ様すみません!日菜ちゃん限定パーカーには勝てませんでした〜!」

 

 

 

 

 

 

-End-





1周年記念で何か特別編でも作れたら良いですな( ^ω^ )


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1周年記念特別編
Special Produce 1#異世界への迷い人



1周年記念(もう3ヶ月程前ですが)として何か出来ないか考えた結果、エイプリルフールネタとして投稿するつもりだったものを投下致します。
ですのでこれから数話程続くと思われますのでご了承下さい。

では、1周年記念特別編第一話ご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュン

 

 

 

 

「んぁ......」

 

 

 

 

 

微かに耳に聞こえる鳥の囀り、春の様な暖かい陽気に当てられて意識は覚醒し始める。ここ最近は特に香澄のおはようダイブが続いていたので、ここまで安心安全に起きられたのはラッキーだろう。

 

 

 

 

「それにしても風が強い気が......」

 

 

 

 

心なしかベッドがいつもより固めに感じる。父さんが腰痛を訴えてきた時に家族全員分を一新して買った"今日から寝心地ワンランクアップ!"が謳い文句の最新式ベッド。流石に違和感を感じてゆっくりと目を開ける。

 

 

 

 

「......外?というかここどこなんだよ」

 

 

 

 

 

 

見渡す限りの草原が広がっている。そこまで気温は高くないものの、やはり太陽の光が照りつけているので少し眩しい。近くの大きな木が風に揺られて、なんとも言い難い自然な匂いが鼻の奥をくすぐってくる。

 

 

 

 

ここで俺はふと考える。何故起きたらこんなにも意味が分からない現象が起きているのだろうか。そして、その答えには容易に辿り着くことが出来る。

 

 

 

 

「まぁこんなの夢以外有り得ないか」

 

 

 

 

妙にリアルに感じられたが流石に夢だろう。偶にはこうやって外で自然を感じながら寝るのも悪くないと思いつつ、再び草原のベッドに横たわり静かに睡魔に身を任せる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「.....きて!......きてよ!」

 

「......あと10分

 

 

 

 

いきなり身体を揺さぶられて、起きてるか起きてないか分からない中途半端な状態へと連れ戻される。取り敢えずまだ学校へ行くには早い時間だろうと勝手に決め付けて、2度寝する準備に取り掛かる。

 

 

 

「この人どうしよっか?」

 

「......燃やしてしまいましょうか」

 

「それは駄目だよお姉ちゃん!」

 

 

「なら水でもかけて起こしましょう」

「おぉ!ナイスアイディアお姉ちゃん!」

「それではいきますよ」

 

 

 

 

しかし、一向に寝かせてくれる雰囲気では無かったので泣く泣く起きることにする。

 

 

 

「ふわぁ......香澄今何─」

 

 

『ウォーターボール』

 

「あべしっ!」

 

 

 

起きようと身体を起こした途端、俺の顔面目掛けて水の球みたいなものが豪速球でぶつかってきた。お陰様で顔も服もビショ濡れだし反動でちょっと頭打ったしで最悪の寝起きだ。何も起きてこないからって水かける事もないだろうに。

 

 

 

 

「いきなり何すんだよ香澄......って紗夜さん!?」

 

「何故貴方が私の名前を知っているのかしら」

 

「いやいやいや、紗夜さん悪い冗談は無しですよ。日菜も何か言ってやってくれ」

 

「私の名前も知ってるんだ!何で私達の名前知ってるの?」

 

 

 

 

何故か紗夜さんと日菜が居た。というか夢から醒めたはずなのに何でまだ草原にいるんだよ。さっきから紗夜さんも日菜も変な事言ってるし。

 

 

 

「あのー、もしかしてですけど......俺達初対面だったりします?」

 

「もしかしても何も無いわよ」

 

「偶然通りかかったらこんなところで寝てるからビックリしたよ!」

 

 

 

 

偶然だな、俺も起きたらこんなところで寝ててビックリしたからな。というかマジでどうなってるんだこの状況。悪い悪戯って線は流石に無さそうだしな。取り敢えず情報集めが先決だ。ここで役立て俺のNFOの知識よ!

 

 

 

 

「天気が良かったから一眠りしようと思ってな」

 

「能天気な人ですね」

 

「私達が通らなかったら危なかったよ!」

 

「何で?」

 

「だってここら辺普通にモンスターでるし」

 

 

 

 

危うくモンスターに狩られるところだったぜ。俺が1回目に起きた時は見渡す限り草原が続いてたし、モンスターの一匹も居なかったから完全に油断してたな。

 

 

 

 

「す、すまん今度から気を付ける」

 

「では私達はこれで」

 

「ちょ、ちょっと待って!」ガシッ

 

「何ですか?」

 

「もし良かったら街とかまで一緒に行きません?」

 

 

 

このままのRPGゲーム初期装備すらない状態で放っておかれたら即モンスターにやられかねない。今のこの状況がよく分からないままで一人になるのは危険だと判断する。ここは紗夜さんと日菜に安全なところまで連れて行ってもらうのが吉と見た。

 

 

 

「却下です」

 

「そんな無慈悲な!?」

 

「貴方の素性も知らないのに街まで警護しろという事でしょう?勿論そんな事却下しますよ」

 

「お姉ちゃん、やっぱりこの人連れて行こうよ」

 

「ほら!日菜もこう言ってる事だしさ!」

 

 

 

 

日菜の言葉を聞いて頭を悩ませる紗夜さん。まぁ俺が逆の立場だとしても、確かに連れて行く義理は無い。知ってる顔だったりすれば話は別なんだけどな。いや、一方的ではあるけど知ってる顔だし何なら色々とお世話になったりお世話したりしてた間柄のはずなんだけど。

 

 

 

 

「......まぁ日菜がそう言うのであれば」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

「でもいきなり何故?」

 

「ん?それは勿論るんっ♪ときたからだよ!」

 

「はぁ......貴女も昔から変わらないわね」

 

 

 

 

 

 

 

どうやらこの世界、俺の知ってる世界では無いが決して関わりの無い世界って訳でも無いらしいな。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

"城砦都市サークル"

 

 

 

 

 

俺が紗夜さんと日菜に連れられて来たのは、この世界でいう中心都市として古来から繁栄と発展を遂げて来た城砦都市。これまた名前に覚えがあるがそこはもうスルーでいこう。

 

 

 

しかしながら、都市へ入る前に城門の入門証の確認やボディチェック。都市へ入ってからの中の様子などを見てきて、やはりRPGゲームさながらの雰囲気を感じる。俺は入門証なんて持ってないから他の場所から来た旅人って紗夜さんが説明してくれた。

 

 

 

 

「どうかしたんですか?」

 

「初めて来たので少しビックリしてます」

 

「そういえば服装もあんまり見た事ないよねー」

 

 

 

紗夜さんはRPGゲーでいうところの戦士っぽい感じの鎧を装着。日菜は見たところ魔法使いっぽい感じのローブを着ている。それに対して俺はというと何故か制服。しかも花咲川ではなく羽丘のブレザー。こういうところが微妙にズレてるのも気になるんだけどなぁ。

 

 

 

「あれ、というか紗夜さん戦士なのに魔法使えるんですね」

 

「魔法に適性が無いのには間違いありませんが、人を起こすだけの水魔法なら使えます。それと私の職業はタンクです」

 

「因みに私は魔法使いだよー」

 

「それは見た感じで分かる」

 

 

 

NFOと変わらずタンクなんですね、と言いそうになったのをどうにかして抑える。あまり怪しい言動をすると紗夜さんに真っ二つにされそうで怖い。

 

 

 

 

「取り敢えずギルドに行きましょうか」

 

「ギルド?」

 

「この街で一番人が集まるところだよー。それに冒険者登録とか身分証発行するにはギルドが一番手っ取り早いからね」

 

 

 

ギルド、と聞いて少しテンションが上がるのは俺だけだろうか。皮肉にも現実世界では一時期とはいえ寝る時間も惜しんでNFOやってたからな。そういうファンタジーな世界に行ってみたいと一度や二度は願ったものだ。

 

 

 

「それと貴方お金は持ってるの?」

 

「......一文無しですスミマセン」

 

「んー、どうしよっかお姉ちゃん」

 

「仕方ないですね」

 

 

 

モゾモゾと懐から何から金属音がする小袋を取り出す紗夜さん。渡されて中を確認してみるとこの世界のお金であろうものが少量ではあるが詰め込まれていた。

 

 

 

「貰っても良いんですか?」

 

「色々と登録するのにもお金が掛かりますから」

 

「遠慮せず貰って!なんか君にはるんっ♪とするし!」

 

 

 

 

最初に出会ったのがこの二人で良かった。紗夜さんも日菜も服装やら俺を知らない事を除けば普通にあの二人だし。これが香澄とかおたえとかはぐみとかだったらどうなっていたことやら。

 

 

 

それからは紗夜さんと日菜は宿屋に帰るといってギルド前でお別れとなった。正直まだ不安が残るのでもう少し一緒に行動したかった感は否めないが、そこまでお世話になることもないだろう。最後に日菜が何かあったらまた言ってねって言ってたし。それに、紗夜さんや日菜がいるってことは他の奴らも多分いるだろうし。

 

 

 

 

「当面は人探しって方向で行くか」ギュルルルル

 

 

 

 

漫画やアニメだとこれからって重要なシーン。なのに俺の腹の虫には関係の無いことらしく、図々しく食べ物を寄越せと言わんばかりに音を鳴らす。まぁ確かに何も食べてないけど。

 

 

 

 

 

「あの二人に何処かオススメ聞いとけば良かったな」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

この城砦都市サークルを食べ物屋探しと称して軽く散策し始めてから数十分。食べ物屋はあるにはあるのだが、中々食べたいものが見当たらず難儀していたところに街のマップの様なものを発見。

 

 

 

「どれどれ......獣人専門店に魚人専門店っと、この近くロクな店がねぇな」

 

 

 

マップに記してある通り、どうやらこの世界には異種族というものが存在するらしい。それは獣人しかり魚人しかり、果てにはケンタウロスやら鳥人なんていうのもいるらしいし。つまり、ケモ耳っ子が拝めるチャンスって事だ。

 

 

 

 

閑話休題(まぁそんな冗談は置いといて)

 

 

 

 

 

マジでこの近辺に人間が食事出来る店はないのか。いっそのこと専門店にちょっと顔だけでも出してみようか迷ってたところに小さい文字で記してあるのを偶然見つける。

 

 

 

 

「秘密のパン工房......るんっと来たぜッ!!」

 

 

 

 

 

一人寂しく独り言を呟く。周りに人が居なくてよかった。危うくこっちでも黒歴史を作ってしまいかねないからな。慎重に行動するに越したことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

~秘密のパン工房~

 

 

 

 

 

カランコロン

 

 

 

 

「いらっしゃーい!」

 

「お邪魔しまーす」

 

 

 

マップに書いてある通りに道を進んでいくと、小さくて見え辛いが看板があり"秘密のパン工房"と記されていた。ドアを開けて恐る恐る中へと入っていくと、やはりというべきか聞き覚えのある声で迎えられる。

 

 

 

「秘密のパン工房へようこそ!」

 

「やっぱり沙綾か......」

 

「ん?お客さん何で私の名前知ってるの?」

 

「ちょっと噂でここのパンが美味しいって聞いて来てみたんだ」

 

「へぇー、そんな噂が流れてるんだね」

 

 

 

 

ごめんなさい嘘です。現実世界に戻ったら沙綾に嘘ついてごめんってちゃんと謝っとこう。じゃないと俺が俺自身を許せない気がする。何言ってんだ俺。

 

 

 

「オススメとかある?」

 

「ウチのオススメはやっぱりチョココロネとメロンパンかなー」

 

「ならその二つを」

 

「毎度あり!持ってくるからそこの椅子に座ってて」

 

 

 

暖簾を潜り、店の奥にパンを取りに行く沙綾。どうやら焼き立てを持ってきてくれるらしく、ちょうど先程出来上がった様子なので遠慮なく頂く。なんせこっちきてから何も食べてないからな。

 

 

 

「はい、チョココロネとメロンパンね」

 

「いただきまーす」

 

 

 

目の前の机に置かれたチョココロネとメロンパン。その瞬間からほのかに香るパン特有の焼き立てで香ばしい匂い。すぐに耐えきれなくなりチョココロネから一気にかじりつく。

 

 

 

「ん〜!!やっぱ何回食べても美味い!」モグモグ

 

「お客さん初めてじゃなかったっけ?」

 

「あぁ、チョココロネ大好きなんだよ。でも今まで他の店で食べたものより格別に美味しいぞ」

 

 

 

 

思った通りというか何というか、忠実にやまぶきベーカリーの味が再現されている。これだけ味の再現がされてるならモカとかりみりんがこの店贔屓にしててもおかしくないけどなぁ。

 

 

 

「ふふっ、そんなこと言われたの初めてだよ」

 

「いやマジで美味しいから。10個くらいはぺろっといけちゃうから」

 

「はいはいありがとね。そんなことより君ここの出身じゃなさそうだけど、どこから来たの?」

 

「......やっぱ分かりますかね?」

 

「まぁあんまり見ない服装だしね」

 

 

 

これは早いところ羽丘のブレザーからお着替えする必要がありそうな予感がする。このままじゃ街を歩いてるだけで怪しまれかねない。実際紗夜さんと日菜にも怪しまれたし。

 

 

 

「もしかして魔法皇国出身?」

 

「魔法皇国?残念ながらそんなところじゃないな」

 

「服装見た感じだとあそこら辺かなって思ったんだけどな」

 

「そんなに似てるのか?」

 

「私も見たのは一度きりだから良く覚えてないんだけどね」

 

 

 

 

 

それからはお客さんも来ることが無く、沙綾と世間話を交えながらこの世界の情報を聞き出していた。先程出てきた魔法皇国という言葉。話を聞いていくとこの城砦都市サークルと古くから領土争いを繰り広げてきた魔法大国らしく、正式な名前が"魔法皇国ギャラクシー"というこれまた聞き覚えのある名前だ。

 

 

 

 

しかし、沙綾からこれ以上の有力な情報は聞くことが出来ずに店じまいとなってしまった。まだ夕方の時間帯なのに早く閉めるんだなとか思ったが、現実の世界での常識はこちらでは通用しない。あまり変につっかかるのも危険だろう。

 

 

 

「あ、最後に良い事教えてあげるよ」

 

「ん?」

 

「ここから東に向かって行くと大衆酒場があるんだけど、そこに色んな情報を集めて売り捌いてる情報屋さんがいるらしいから行ってみると良いかもね」

 

 

 

 

どこまでいっても沙綾は沙綾で優しいままらしい。

 

 

 

 

「ありがとな沙綾!また今度パン買いに来るよ!」

 

「気を付けてねー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てな感じで酒場にやって来たわけだが.....」

 

 

 

ワイワイ

 

 

 

 

ちっとばかしうるさすぎやしませんかねこれ。いや大人だし酒飲んでワイワイしたいっていうのは分かるけどさ。実際ウチの親父も仕事で嫌な事あった時は酒飲んで気を紛らわせてるって母さん言ってたし。

 

 

 

「その前に未成年の俺が入っても良いのか?」

 

 

 

あっちじゃお酒とタバコは20歳からっていうのが基本だしな。俺はまだ高校を卒業すらしてないお子ちゃまだから入ったところで何も出来ない可能性もあるわけだし。まぁ取り敢えず入ってみるとしますか。

 

 

 

カランコロン

 

 

 

「いらっしゃーい!空いてるところに適当にお願いねー!」

 

「はーい......店員さんは普通の人だな」

 

 

 

見る限りじゃ店員さんは普通の人だが、集まってワイワイやってるお客の中には獣人族や魚人族、中には上位種族らしい龍人族もチラホラ見かける。まぁみんな入ってきた俺には目もくれずに楽しくやってて何よりだ。

 

 

 

「ご注文は?」

 

「まずはお冷を貰おうかな」

 

「はいはーい」

 

 

 

他の人の注文も受けつつ俺のお冷を持ってきて颯爽と次の注文に向かう店員さん。中々頑張り屋さんだなぁ。なんかつぐみを思い出してきた。つぐみも一人で羽沢珈琲店を切り盛りしてる時はあんな感じだしな。

 

 

 

「......お兄さんあんまり見ない顔だね」

 

「はぇ?ま、まぁここに来るのは初めてっすね」

 

 

 

 

周りを観察がてら見回していると、どうやら知らぬ間に俺の隣に新しいお客さんが来ていたらしく話しかけられる。残念ながらローブを深く被っており顔は良く見えない状態だ。

 

 

 

「もしかして......魔法皇国側のスパイとか?」

 

「ぶっ!!」

 

「ちょっとやめてよ汚いなぁ」

 

「いや急に変なこと言うからでしょ......」

 

 

 

 

流石に変化球過ぎてお冷を吐き出してしまった。店員さんに気付かれまいと急いで近くにあった布巾で拭いておく。というかこの人会っていきなりなんて事言い出すんだよ全く。まだブレザーのままだからそう思われても仕方ないけどさ。

 

 

 

「というか誰なんですか」

 

「ん〜、秘密の情報屋とでも言っておこうかな〜?」

 

 

 

ん?秘密の情報屋さん?なーんか沙綾がそれっぽい事言ってた気がする。もしかしてこの人がビンゴなのか?てっきりもっと時間が掛かるかと思ったが案外ご都合主義で助かる。

 

 

 

「丁度良かった、教えて欲しい事が沢山あるんですよね俺」

 

「知ってる事なら教えてあげても良いよ☆」

 

 

 

"お金を払ってくれればね♪"と続ける秘密の情報屋さん。紗夜さんと日菜からもらったお金ほとんど登録料とかで使ったんだけど大丈夫かな?

 

 

 

「ここじゃやり辛いから移動しよっか」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

~Rose castle~

 

 

 

 

 

 

「かんぱ〜い!」

 

「待てぃ、何故にこんな裏路地のちっさいバーに連れて来られたんだ」

 

「あそこじゃ他の人に聞かれるかもだからさ」

 

 

 

 

 

大衆酒場から移動すること数分の裏路地にある小さなバーに入った俺達。情報屋さんが言うには息のかかったお店らしく、常連客しか立ち入る事がないそうな。確かにそれなら安心だろうけどな。

 

 

 

「顔も名前も知らないのにお金の取引なんか出来ないぞ?」

 

「はい、じゃあまずは自己紹介から始めよっか」ヒラ

 

 

 

 

秘密の情報屋さんは被っていたローブをひらりと取り払い、やっと素顔が見られる状態になった。

 

 

 

 

まぁしかし、ここでも俺の知り合いに会うわけで。ずっと人間かと思ってたがどうやら違ったらしく、ローブで隠れていたが猫耳が付いている。この世界で言う"猫耳族"だろうと推測できる。やっとケモ耳っ子に出会えたかと思えば顔見知りのコスプレだ。少し残念な気持ちがなくはないな。

 

 

 

 

 

「私の名前は─」

 

「今度はお前の番かリサ......」ハァ

 

「ちょっと何で私の名前知ってるの!?」バタッ

 

 

 

何でも何も向こうじゃ顔見知りですしおすし。というか姉さん近い近い可愛い良い匂いがするぅ......じゃなくてマジで近いから一旦離れて欲しい。近付かれて初めて分かるが、猫耳だからといって獣臭がするわけではなくお風呂に入れてあげた直後の石鹸の香りが何とも.......。

 

 

 

「ちょ、近い近い離れろリサ」

 

「あーっとごめんごめん、でも何で私の名前を?」

 

「まぁそれは秘密だな」

 

「秘密の情報屋としては身バレは勘弁なんだけどなぁ」

 

 

 

 

待てよ?こっちの世界では秘密の情報屋として活躍中のリサ。そのリサの情報を握っている俺はリサに対して大幅に有利に動けるのでは?やだ、あたしって天才?

 

 

 

「じゃあ取引といこうか♪」

 

「な、何の情報が知りたいのさ」

 

「取り敢えず世界情勢を詳しく。それと周辺国家についても教えてもらおうか」

 

「あれ?そんなことでいいの?」

 

「まだまだ教えてもらうつもりだから覚悟しておくように」

 

 

 

 

そして、バーテンダーさんに適当に渡された飲み物を都度はさみながらも猫耳リサの話を聞いていく。何故か話が盛り上がるのを感じるが如く猫耳がピクピク動くのは疑問だ。途中で触ってもいいか聞いたら"猫耳族にとって猫耳を触るのを許すって事は......け、結婚と一緒の事だからね!"って凄い照れながら拒否られた。まぁ流石にそれは俺も気軽には出来ないな。

 

 

 

 

リサから話を聞く限り、重要な点がいくつか見つかったのでリサがお花を摘みに行っている間に整理しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

まず一つ目に気になったのは、やはりこの城塞都市サークルと魔法皇国ギャラクシーとの関係だろう。関係、とはいったものの簡潔に言えば領土争いによる小競り合いが長年続いているらしく、近頃大きな戦いが始まるとか街では噂にもなっているという情報もあるみたいだ。

 

 

 

「ごめんお待たせ〜」

 

「ん?随分とお花摘むのが早かったんだな」

 

「お花?何の事?」

 

 

 

 

そして二つ目に、最近"ダブ"という西の都で何やら人攫いが多発しているらしいとの事だ。その人攫いに関係しているかは不明だが、魔法皇国ギャラクシーで不審な人身売買が行われているとの噂も。やっぱファンタジー世界なだけあってこういうのも多いんだろうか。その他にも沢山の有益な情報を聞き出せたので満足だ。

 

 

 

 

「いんや何でもない。それじゃあ俺はそろそろ帰るわ」

 

「約束、忘れないでよ?」

 

「大丈夫だよ。お洒落好きでお菓子作りも好きで世話焼きなリサの事なんか誰にも言わねーよ」

 

「ちょ!?だから何でそんな事まで知ってるの!」

 

 

 

 

ぷんすか怒るリサだが、またしても猫耳がピクピク動いていて逆に可愛らしい。やはり猫という観点から見れば友希那の影響なのだろうか。だとすればこの世界線の友希那は一体どんな存在なのだろうか。

 

 

 

「まぁ落ち着けよリサ。また会いたくなったらここに来るから」ナデナデ

 

「んにゃぁ!?」///

 

 

 

宥める意味も込めて頭を撫でてやろう。猫耳触っちゃったけどノーカンって事で勘弁な。

 

 

 

 

 

「......最後に一つ良い事教えてあげる」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"この世界に災悪起こる時、迷い人と星の巫女来たれり"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界に古くから伝わる昔話みたいなものだよ」

 

「.......また変なのに巻き込まれるのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな状況だとまだまだこの世界から帰れそうにないか。

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 





気軽にバンドリの異世界編くらいに考えて頂ければ笑

一応RAS&モニカ以外全員出ますのでご安心を。
どのキャラがどんな設定で出てくるのかは主次第です。

評価、感想等頂ければ幸いでございます(๑˃̵ᴗ˂̵)テヘペロゴッツンコ


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Special Produce 2#変わらぬ想いを胸に抱いて


香澄「むーくんむーくん!」
宗輝「何だよいきなり」
香澄「ベッドの上のプレゼントありがと!」
宗輝「へ?......な、何の事だか」
香澄「ケーキも美味しかったよ!」
宗輝「そ、そんなの僕は知らないよ」
香澄「あとお家にくす玉が」
宗輝「あー!もう恥ずかしいからやめれー!」

一番の推しとも言える香澄の誕生日なので茶番がてら。

1周年記念特別編第2話、ご覧下さい。




 

 

 

 

 

 

チュンチュン

 

 

 

 

 

「んぁ......もう朝か」

 

 

 

 

 

今日も昨日と同じく鳥の囀りで目が覚める。この意味不明な異世界に来てから1日が経った。昨日はリサと別れてからは宿屋を探して、取り敢えず寝泊まり出来る場所を確保することに成功。

 

 

 

 

「朝飯でも食べるか......」

 

 

 

 

俺が余程信用出来なかったのかは不明だが、リサから別れ際に口止め料として少々お金を貰ったので今のところお財布事情は心配無い。別に言いふらすつもりは無かったんだけどな。その辺りの警戒力は流石秘密の情報屋といったところだろうか。

 

 

 

「にしてもあちぃな」

 

 

 

この世界に四季があるのかどうか分からないが、とにかく朝日がガンガン照り付けてきて暑い。この辺の気候云々なんて沙綾からもリサからも聞かなかったからな。

 

 

 

 

兎にも角にも、俺は朝ご飯を食べないと生きていけないタイプの人間なので適当に食べられるところを探していく。というかウチの家族は全員三食きっちりとるタイプだ。令香なんて機嫌悪くなる時もあるから要注意。

 

 

 

 

「まぁ結局はここだよな」

 

 

 

 

フラフラと歩いている内に秘密のパン工房へと到着。やはり俺の身体と心が沙綾の作るパンを求めているのだろう。りみりん程ではないが、俺もやまぶきベーカリーヘビーユーザーだったからな。

 

 

カランコロン

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 

 

 

.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"返事がない ただのしかばねのようだ"

 

 

 

 

 

 

 

なんていうテロップが流れるかと思うほど静まりかえっている店内。場所は間違えようが無いし看板だってちゃんと立ってたし。沙綾まだ起きてないとか?

 

 

 

「......あれ?君は昨日のお客さん」

 

「お、沙綾出てこないからてっきり寝てるのかと思ったぞ」

 

「ウチまだ開店してないはずなんだけどなぁ」

 

「......え?」

 

 

 

俺は不法侵入の罪で捕まってしまうのだろうか。いやだって普通に鍵空いてたし看板も"OPEN"の文字になってたからね?ちゃんと確認して入ったからセーフだよね?

 

 

 

「でも看板も立ってたし鍵も空いてたぞ?」

 

「本当に?ごめん、だったら私のミスだ」

 

「いやいや、俺も気にせず入ってきたから」

 

 

 

なんだか沙綾を責めるような言い方になってしまった。そのお陰で沙綾も少し責任を感じてしまったのか、先程からあたふたしてごめんねと謝罪を繰り返す始末。俺だって家出る時に鍵忘れる事沢山あったし、人間誰しも間違いやミスはあるもんだ。

 

 

 

「じゃあ今回はお互い様って事で。また出直してくるよ」

 

「ちょっと待って!」

 

「ん?」

 

 

 

ガシッと腕を掴まれて強引に引き留められてしまった。それを知らず知らずのうちにやってしまった事に気付いたのか、沙綾はまたもや謝罪しながら頭を下げる。

 

 

 

「その様子だと朝ご飯食べに来たんじゃない?」

 

「いや、まぁそうなんだけど」

 

「さっき焼き上がったばかりなんだ。良かったら食べる?」

 

「良いのか?まだお店も開けてないんだろ?」

 

 

 

沙綾には見抜かれていたらしく、せっかくなので頂くことにする。まぁお店に入ってきてからというもの、お腹空いてたし焼きたての良い匂いがして腹の虫が煩かったので丁度いい。

 

 

 

「はい、これしかないけど」

 

「サンドウィッチ?」

 

「そうそう、サンドウィッチは苦手だった?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 

 

若干ドヤ顔だったんだけどスルーされてる。まぁネタが通じなくて動じる宗輝君じゃありません。取り敢えずサンドウィッチを食べるとしますかね。

 

 

 

「ん?」モグモグ

 

「美味しい?」

 

「すげぇ美味しい。けどあんまり食べた事無い感じだったから」

 

「あー、確かに君は食べた事無いかもね」

 

「何か特別な食材でも使ってんのか?」

 

「そうでもないよ、だって()()()()()の卵だし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着け宗輝、この程度で動じる宗輝君じゃありませ......いやいや、さっき沙綾なんて言った?俺の耳が正常に働いているとするならば、モンスターの卵を使ってるって言ったよな?だとすれば、何のモンスターなのかが一番重要なところだ。一応聞いておこう。

 

 

 

 

「......あのー、因みにどんなモンスターでございますか?」

 

「モンスターって言っても凶暴なやつじゃなくて、ちょっと取るのが難しいでっかい鳥の卵だよ」

 

「それ沙綾が取ってきて調理してるのか?」

 

「それが出来たら良かったんだけどね」

 

 

 

 

沙綾の説明によると、その鳥の卵とやらは沙綾自身が調達しているのではなく、街の冒険者に依頼を出して取りに行ってもらっているとのこと。まぁパン屋の娘である沙綾が怪我しちゃ元も子もないからな。

 

 

 

 

しかしながらこのサンドウィッチ、中々に美味なものである。やはり使っている鳥の卵が良いのだろうか。ベーコンらしき物にサラダっぽいもの、そして鳥の卵が見事にマッチしていて食べ進める程に食欲を刺激される。もしかするとベーコンやサラダも何か特別な食材を使っているのだろうか。

 

 

 

 

 

「そういえば今日納品だったはずだよ」

 

「って事は冒険者が鳥の卵持ってくる日か」

 

「いつも時間バラバラだから......って言ってる間に来たみたいだよ」

 

「マジか」

 

 

 

 

ガチャっとドアを開ける音がしたので、迎える為に暖簾を潜りお店の方へ向かう。

 

 

 

 

 

「おじゃましま〜す」

 

「いらっしゃい、いつもありがとね」

 

「いえいえ〜」

 

 

 

 

モカだ。ありゃ青葉モカに違いない。絶対にりみりんかモカは絡んでくると思ったが、案の定パン大好きモカちゃんだった。という事は冒険者であるモカに鳥の卵を取ってきてもらうように依頼してたってことか。

 

 

 

 

 

いや待てよ?モカがいるってことはアイツらも当然いるってことだ。幸か不幸か、悉く知り合いに出会うのは気のせいだろうか。きっとこの世界での俺の運命なのだろう。運命論者じゃないのに運命なんて言いたくないよ。

 

 

 

 

「あり?もしかしてお客さん?」

 

「残念、常連さんだ」

 

「昨日初めて来たばっかでしょ」

 

「......むむ」

 

 

 

 

無言で近付いてくるモカ。まさか俺と同じで記憶があるのだろうか。でもその可能性があれば顔を見れば分かるはず。もしかしてさっきのサンドウィッチに入ってたソースがついてるとか?

 

 

 

 

「むむむっ」ズイッ

 

「ちょまま、ちょままま」

 

「何処かで会ったことあります〜?」

 

「いや、今日が初めてだと思うぞ」

 

 

 

 

俺は違うけどな。

 

 

 

 

 

「モカちゃん待ってよ......はぁはぁ」

 

「つぐも来たんだね」

 

「つぐが遅いのだよ〜」

 

「モカちゃんがさっさと置いていくからでしょ!」

 

 

 

 

 

つぐみも来た。いや分かってたことだけどさ。というかさっきまで走ってたからなのか、それとも冒険者なりの服装のお陰か今のつぐみは中々眼福ものである。現実ではあまり見たことのない露出多めの服装。心の中でお礼を言っておかねばなるまい。

 

 

 

 

「その人は沙綾ちゃんの知り合い?」

 

「ううん、お客さんだよ」

 

「今日は早めに開店するんだね」

 

「俺が勘違いして早めに来たから気を利かせてくれただけだ」

 

「このモカちゃんを差し置いて抜け駆けは良くないですぞ?」

 

「悪かったって」

 

 

 

 

なんだかこうしてると現実に戻った気分だ。やまぶきベーカリーで働いてる俺と沙綾、そしてパンを買いに来たモカとついでに連れてこられたつぐみ、という風に捉えられる。やはり何かあると見て考えるべきか。

 

 

 

 

「あ、そういえばさっきギルドに行くって話してなかった?」

 

「ん?確かに今日はギルドで色々とやる事あるけど」

 

「だったらモカ達に聞けば良いと思うよ」

 

「もしかして冒険者志望の方ですか?」

 

「志望というか昨日冒険者登録済ませたばっかだぞ。それと敬語は無しでフレンドリーにいこうぜ」

 

 

 

 

それから沙綾が事情を伝えてくれてスムーズに案内をお願いしてくれた。それをモカやつぐみが断るはずもなくあっさり承諾。俺の話す間もなく一連の流れで決定した。俺の事なのに俺の予定とか聞かずに進む辺り流石だと思うよ君達。

 

 

 

 

「もうギルド空いてる時間でしょ?早く行ってきなよ」

 

「そうだね、みんなも待たせてるし」

 

「むっくん行くよ〜」

 

「むっくんて俺の事?」

 

 

 

俺まだモカ達に名前教えてないはずなんだけど。

 

 

 

 

「むむっ、ときたからむっくんだよ〜」

 

「なんだそれ......俺の名前は宗輝だよ」

 

「ごめんね宗輝君」

 

「つぐが謝るところじゃないだろ......まぁむっくんで間違ってないんだけどな」

 

 

 

 

そして、沙綾と別れて俺達三人はギルドへと向かった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

ガチャリ

 

 

 

 

「たのも〜」

 

「もー!モカちゃん待ってよ〜」

 

「まだ昼にもなってないのに人多いなぁ」

 

 

 

 

モカの後に俺とつぐみが続いてギルドへ入っていく。結局沙綾のパン屋でいくつかパンを購入したモカ。途中で一つつまみ食いしてたのをつぐに怒られてからはやめてたけどな。

 

 

 

 

「えーっと、巴ちゃん達はあそこにいるね」

 

「巴?」

 

「あとひーちゃんと蘭もね〜」

 

 

 

 

やはり5人一緒だったのか。当然と言えば当然だしいつも通りだからもう驚かないけどさ。果たして残りの三人はどうなっているのやら。

 

 

 

「帰ったよ〜」

 

「おかえりモカ、それにつぐみも」

 

「ただいまみんな」

 

 

 

これ俺が入っても良いんだろうか。急に入れば"え、誰?"とか言われそうで怖い。ソースは俺。小学生の時にクラスメイトに話しかけたらその反応されました。同じクラスだったのにな。少し落ち込んでたのを思い出す。

 

 

 

「あと新メンバーも連れてきたよ〜」

 

「モカちゃん違うでしょ。この人ギルドに用事があるみたいだから一緒に来たんだよ」

 

「見た感じ歳も近いから敬語は無しで。名前は宗輝、よろしくな」

 

「......誰?」

 

 

 

 

ほれ見たことか。やっぱりこういう反応されたじゃんか。しかも蘭は知らないかもしれないが、俺にとっちゃ蘭に言われたという事実は変わらない訳である。よって俺のメンタルはブレイク寸前だ。誰か俺に回復魔法使ってくれ。

 

 

 

「蘭!?今さっき自己紹介してくれたばっかじゃんか!」

 

「いやそうじゃなくてさ、何者なのって聞いたの」

 

「沙綾んとこ......って言って伝わるか分からんが、そこでばったり出会ってから紆余曲折あって今に至るって感じだ」

 

「だからモカ達帰るの遅かったんだな」

 

 

 

それからは主につぐみがつぐって説明してくれたお陰で蘭の俺に対する疑問や不安は晴れた様子。用心深いのは結構な事なんだが、いかんせんああいった冷たい態度を取られると中々にやられるものだ。蘭にも悪気はないのは重々承知しているんだけどな。

 

 

 

「まぁ用事って言っても俺みたいな初心者でもこなせる依頼があるか探しにきただけだ」

 

「そういえば宗輝君は昨日冒険者登録したばかりだっけ」

 

「お金稼がないと最悪ホームレスになっちゃうからな」

 

 

 

今のところは紗夜さんやらリサから貰ったお金で何とかなってはいるものの、やはり稼ぎがないとこれから先やっていくのは難しいだろう。いつまでこの状況が続くのか分からない今、最優先事項にすべきは生き抜く事だ。

 

 

 

 

「......ホームレス?なにそれ?」

 

「ひまりの足りない頭じゃ理解出来なかったか」

 

「むぅ!?初めて聞いた言葉だから分かんなくて当然だもん!」

 

「だから依頼探すの手伝ってもらおうと思ってな」

 

「もー!無視しないでよー!」

 

 

 

 

グイグイきてるひまりはさておき、俺みたいな初心者でもこなせる様な依頼が果たして存在するのだろうか。兎にも角にも、ギルドの人やら蘭達に聞くのが先決だろう。

 

 

 

 

「すみませーん」

 

「はいはーい」

 

「初心者でもこなせる依頼があったら教えて欲しいんですけどってまりなさん!?」

 

「ん?私はこのギルドの受付嬢のマリーナだよ?」

 

 

 

まさかバンドメンバーだけでなくまりなさんにまで出会すとは思わなんだ。まりなさんだけマリーナとかいう珍妙な名前に変わってるし。そもそも受付嬢なんていう歳じゃ......ちょ、何でいきなり目つき鋭くなってんすか!?

 

 

 

「初心者用の依頼ありますか?」

 

「んー......残念だけど今はなさそうだね」

 

「だったらどうやってお金を稼ぐか......」

 

 

 

色々とマリーナさんことまりなさんが書類に手当たり次第目を通していく。多分だが依頼の紙をくまなく探しているのだろう。というか最初から山積みで置いてあったその紙の山が依頼だったのか。

 

 

 

 

「あっ!!」

 

「お?もしかして依頼があったんですか?」

 

「いや、初心者用じゃないやつだけど?」

 

「さっきの反応紛らわしいんだよマジで......」

 

 

 

この人はこっちでもこういう性格なのな。

 

 

 

 

「残念ながら初心者一人じゃ無理だけど、パーティー組めば大丈夫だよ」

 

「パーティー?」

 

「依頼書には予めランクが設定されててね。初心者は普通Dランクの依頼書だけしか受けられないんだけど、パーティーを組めば一つ上のCランクまで受注が可能になるの」

 

 

 

 

なにそれ全然聞いてない。そういう事は最初に全部説明して欲しかったんだけどな。まぁ昨日は時間も無かったし宿屋探しで急いでたから仕方ないっちゃ仕方ないけどさ。

 

 

 

「どうかしたの?」

 

「あぁ、つぐみか。やっぱ初心者用の依頼ないってさ」

 

「パーティー組めばCランクの依頼受けられるんだけどね」

 

「残念ながら俺にはそんな人脈無いしな」

 

 

 

紗夜さんとか日菜がいたらパーティー組んでくれてただろうか。明らかに足手まといな俺をわざわざパーティーに入れるかと言われると微妙なところだ。見た感じあの二人はDランクでは無さそうだったしな。

 

 

 

 

「......うん、ちょっと待ってて宗輝君!」

 

「お、おいつぐみ何処行くんだよ!」

 

「行っちゃったね」

 

「本当に無いんですか?ちゃんと探しましたかマリーナさん?」

 

「ちゃんと探したよ!」

 

「チッ!」

 

「あー!何で今舌打ちしたのよ!?」

 

 

 

 

ともなればどうするべきか......。このままではお金の面に苦労する羽目になってしまう。もう紗夜さん達は頼れないしリサからも警戒されてるしで八方塞がりだ。ここでゲームオーバーなのだろうか。もう少しファンタジーな世界を味わいたかった気分だ。

 

 

 

「マリーナさん、この依頼お願いします」

 

「はいはーい、人数はいつも通り5人で大丈夫かな?」

 

「6人でお願いします」

 

「ん?パーティーメンバー増えたの?」

 

「はい」

 

 

 

淡々と依頼をお願いする蘭を見て邪魔になるといけないと思い、そそくさと帰る準備を整える。盗み聞きしてた訳じゃないが蘭達のパーティーに一人新入りが来るらしい。俺は宿屋に戻ってもう一眠りするか。急いで考えても良い案が思いつきそうにないし。

 

 

 

「じゃあ依頼頑張れよー」

 

「何処行くんだよ宗輝」ガシッ

 

「離してくれ巴、俺は今から宿屋で爆睡する予定なんだ」

 

「何言ってるのむっくん」

 

 

 

巴に掴まれた腕を張り解こうと思ったがびくともしない。巴さん力強すぎません?

 

 

 

 

「巴に捕まえられたら逃げられないからね!」

 

「笑顔で怖い事言うなよひまり」

 

「ほら、さっさと行くよ」

 

「ちょ!何処に連れて行こうとしてるんだよ!」

 

「アンタ丸腰じゃ戦えないじゃん。だから最低限の装備買いに行くよ」

 

 

 

戦う?最低限の装備?はて、蘭は何を言っているのか。せめてもの別れに装備だけでも買ってくれるとでも言うのだろうか。流石に惨めすぎるからやめて頂きたい。

 

 

 

「あのー、蘭さん?話の全容が見えないんですけども」

 

「だからアンタが私達の6人目のパーティーメンバー」

 

「ほぇ?」

 

「馬鹿みたいな顔してないで行くよ」

 

「ちょっと待てって蘭!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「宗輝そっち行ったよ!」

 

「お、おう!」

 

 

 

 

現在俺と蘭達5人は場所は変わってとある平原にいる。

 

 

 

 

「おりゃぁ!巴頼んだ!」ガキィン

 

「任せとけ!ソイヤァ!」バキィ

 

 

 

 

何故巴がソイヤソイヤしているのか。

 

 

 

 

「ら〜ん〜。そっちは終わった〜?」

 

「問題無いよ」

 

「私の出番無かったね」アハハ

 

 

 

 

 

理由は簡単だ。

 

 

 

 

 

「やっと宗輝も戦える様になってきたね」

 

「盾で守ってるだけなんだけどな」

 

 

 

 

 

街の装備品を取り扱う店で一通り装備を揃えてからというもの、蘭達のパーティーに混ざって戦闘の指南を受けていたからである。如何にも冒険者っぽい服装に攻撃を防ぐ盾。そして気持ち程度の攻撃手段である刃渡り数十cmの小型ナイフ。これが俺の今の装備である。NFOと比べるつもりはないが少し貧相だ。

 

 

 

 

「それにしても巴マジで強いな」

 

「そ、そうか?照れるからやめろよな!」

 

「ちょ!背中叩くな痛いから!」

 

 

 

 

巴はガチガチの武闘家でソイヤソイヤ係。モカが盗賊で素早い動きで相手を撹乱する係で、ひまりは剣士らしくアーマープレートを身につけて剣を振り回す前衛。蘭は魔法使いで後衛からの援護。そして、我らが大天使ツグミエルは勿論僧侶で回復役だ。

 

 

 

 

これが蘭達のパーティー構成である。俺はというと、盾で敵の注目を集めて攻撃を防ぐ所謂タンク役らしい。最初は鉄の塊の様な剣や盾を扱えるか不安だったのだが、これも異世界補正なのか難なく取り扱えるので戸惑いを隠せない。

 

 

 

 

閑話休題(因みにひまりの攻撃は一切当たらない)

 

 

 

 

 

 

「この前よりモンスターも増えてるね」

 

「まぁ確かに」

 

「前はこんなに多くなかったのか?」

 

「道中でこんなにも出会すのは滅多にないね」

 

 

 

 

リサから聞いた話と何か関係があるのだろうか。気になるのは西の都のダブ、そして魔法皇国ギャラクシーの二つ。人身売買やら何やら怪しいワードがゴロゴロと出てきたしな。

 

 

 

「というか依頼って何するの?」

 

「......アンタ置いてくよ?」

 

「それだけは勘弁して下さい」

 

「蘭ちゃん!?宗輝君は装備品買うので忙しかったみたいだしね?」

 

 

 

 

沙綾と同じくつぐみも相変わらず優しい。やはりこの優しさこそ大天使たる所以でありつぐみの良いところだろう。怪我したら思いっきりつぐみに甘えよう。

 

 

 

 

「今回の依頼は遺跡調査だよ」

 

「遺跡調査?」

 

「アタシ達も何回かやったことあるし大丈夫だよ」

 

「ともちん余裕だね〜?」

 

「まぁな」

 

 

 

 

今はこの5人が凄く頼もしく見える。戦闘での活躍っぷりで言えば巴に軍配が上がるだろう。それもモカや蘭の支援無くして有り得ない話ではあるが。そして何よりつぐみの補助があってこそのものでもある。

 

 

 

 

あれ?これひまりいらなくね?ついでに俺もいらないまであるけど。

 

 

 

 

 

「ひまりは攻撃当てる練習でもしないとな」

 

「なっ!?宗輝に言われたくはないもん!」ズイッ

 

「お、おぉ......」ゴクリ

 

 

 

 

ぷんすか怒って可愛く迫ってくるひまりだが、二つの凶暴な武器がたゆんたゆん揺れて俺を攻撃してくる。流石にこれは盾でも防ぎようがない。よってこの攻撃にやられるのは当然の事であり必然なのだ。

 

 

 

 

それでは、大きな巨峰を頂くとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ!!」

 

「んがぁ!いってぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

"さいとうむねき に 999のダメージ"

 

 

 

 

 

とかふざけてる場合じゃねぇ。思いクソ後ろから殴られたかと思って振り返れば犯人はつぐみ。マジで頭割れるかと思ったぜ。

 

 

 

 

「ちょ、つぐみさん?何故にいきなり?」イテテ

 

「不浄な気配を感じたので」ムス

 

「それにしても思い切りが良いんですね......」

 

 

 

 

つぐみはどうやら僧侶としての回復や補助呪文が使えるだけでなく、魔法(物理)も得意としているらしい。差し詰めつぐみの持っている独特な形の杖は、魔法(物理)を放つ鈍器といったところだろうか。

 

 

 

 

「つぐを怒らせるとはやりますな〜」

 

「つぐみには何もしてないはずなんだけどな」

 

「あはは!やっぱ冒険は面白いな!」

 

「巴も笑ってないで助けてくれよ」

 

 

 

 

 

先程と変わらず機嫌が悪そうなつぐみ。俺がひまりの大きな巨峰を狙っていたのがバレたのだろうか。あれはひまりが悪い。あんなものを目の前にして狙うなという方が無理な話だ。そう、それが絶対に避けられぬ男の性なのだから。

 

 

 

 

「つぐみに変な事したら許さないからね!」

 

「分かったから!お前はさっきから距離感バグってんだよ!」

 

「ひーちゃんは世話焼きですからな〜」

 

「大体空回りしてるけどね」

 

「ちょっと蘭!?蘭にはそう見えてるの!?」グイッ

 

 

 

俺からやっと離れたと思えば次のターゲットは蘭。めんどくさそうに対応する蘭だが、やはり何処か楽しげな雰囲気もある。コイツらはコイツらでこの世界でも5人いつも一緒にいつも通りを過ごしてきたのだろう。

 

 

 

「心配しなくともみんなそう思ってるぞ」

 

「なっ!?宗輝がどうして分かるのよ!」

 

「ふっ......さぁ遺跡へ向かおうか!」

 

「ちょ、ここにきて無視!?」

 

 

「なんでアンタが先頭立って歩いてんの」

「モンスターが突然襲ってきた時に蘭を守るんだよ」

「昨日冒険者になったばかりなのに調子乗らないで」フッ

 

 

 

 

「もー!みんな待ってよ〜!」

 

 

 

 

 

 

 

取り敢えず、この遺跡調査での目標は無事に街まで帰ることだな。俺の事知らなくても、やっぱ傷付くところとか見たくないしな。俺のレベルじゃ守れるか分からんが、やってみるだけやってみるとしますかね。

 

 

 

 

 

「よーし!みんなで力合わせて頑張ろうね!えいえいおー!」

 

 

 

「巴ちゃん怪我とか無い?」

「大丈夫大丈夫、つぐは心配性だな」

「モカちゃんのお陰でパパッと終わったからね〜」

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 





Happy Birthday 香澄♪

⚠️当小説主は香澄推しです。前書きの茶番は愛故のものです。お許し下さい。(同志の方が居てくれたら嬉しいデス)


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Special Produce 3#異世界って基本何でもアリだよね


更新遅れて申し訳ない。
少しスランプ気味で距離置いてました。
これからちょっとずつ更新頻度戻すつもりなので許してやって下さい。


1周年記念特別編3話ご覧下さい。



 

 

 

 

 

 

 

~遺跡内部~

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ」

 

「なによ」

 

「一つ聞いてもいいか?」

 

「何か気になる事でもあるの?」

 

「いやだってさ.......遺跡入ってから一匹たりともモンスターに会ってないんだけど」

 

 

 

 

 

気になるもクソもない程率直な感想である。遺跡までの道のりは蘭達の言う通りならば、今までよりもモンスターの数が多かったくらいだ。なのに何故いきなり遺跡に入ってから一匹もモンスターと遭遇しないのだろうか。逆に不気味なんだけど。

 

 

 

 

 

「そもそも遺跡調査って何すんの?」

 

「だからアンタは......はぁ」

 

「依頼によって少し違いはあるんだけど、基本的には内部構造の調査とモンスター討伐になるよ」

 

「丁寧な説明ありがとさん」

 

 

 

 

流石はつぐみだ。蘭には呆れたのかため息をつかれてしまったが仕方ない。だって初めてなんだもん。もう少し初心者に優しい世界であって欲しかったと思います。

 

 

 

 

「でも本当に一匹もいないなー」

 

「ともちん残念〜?」

 

「モカ、戦闘狂じゃないんだぞ私は」

 

「そうだよ!モンスターなんかいない方がマシでしょ?」

 

「まぁひまりの攻撃は一切当たんないからな」

 

 

 

「だからそれは偶々だってば!」

「どうかな?さっきだって空振りしてたよな?」

「もー!!」

 

 

 

「二人共静かにして」

 

 

 

『はい、ごめんなさい』

 

 

 

 

 

蘭に怒られてしまったので素直に謝っておこう。今は魔法使いの蘭。本気で怒らせてしまっては何をされるか分からん。さっきのはひまりが悪いんだけどな。別に俺嘘言ってるわけじゃないからな。本当にコイツの攻撃当たんないし。盾構えて防御ばっかしてる俺が言えたもんじゃないけど。

 

 

 

 

それからは盗賊であるモカを先頭に、遺跡内部をくまなく散策して調査を行なっていった。その間やはりモンスターに出会す事は無く、安全なのは良い事だが何か違和感を感じる。ここがRPGゲームの世界であるのなら絶対に何かイベントが起こるはず。

 

 

 

 

 

「みんな止まって〜」

 

「モカどしたの?」

 

「これはちょっとヤバいかもな」

 

「巴ちゃん?」

 

「宗輝は下がってて」

 

「お、おう」

 

 

 

 

どちらかと言うと戦闘向きの役職であるモカと巴が何かに気付いたのか、一度止まるように指示する。今までのピクニックにでも来たような雰囲気とはガラッと変わり、みんな警戒態勢を敷き咄嗟の事態でも対応出来るように準備する。そして俺はと言うと、そんなみんなの後ろで盾を構えているだけ。何とも情けないのだが仕方ないだろう。前に出ても邪魔になるだけだしな。

 

 

 

 

 

「どうやらここが最後の部屋みたいだね」

 

「どうする?一旦戻るか?」

 

「でもそれじゃ依頼が......」

 

「ひまりの言う通り、私達が受けた依頼は遺跡の調査。最深部を調査しないと依頼は完了出来ないよ」

 

「モカちゃんもそう思う〜」

 

 

 

 

どうやら話し合いの結果、このまま目の前の大扉の部屋を調べる事になったらしい。念の為ということで傷を治す薬を2つ程渡されて調査へと向かう。5人だけで行った方がよろしいのでは?と一応進言してみたものの、蘭に"外に1人でいて襲われても知らないよ"と言われたので大人しくついて行くことを決心。

 

 

 

 

 

ガガガガガ

 

 

 

 

「モカお願い」

 

「任されました〜」

 

 

 

 

地響きかと思うレベルの音を立てながら大扉が開かれる。盗賊で索敵スキル持ちのモカが先頭でじわじわと進んでいく。

 

 

 

 

「何も無さそうだよ〜」

 

「はぁ......モカと巴が大袈裟に言うから緊張しちゃったじゃん!」

 

 

 

 

モカの索敵スキルには反応が無いらしく、5人共少し緊張していたのか肩の力が抜けていくのが分かる。

 

 

 

 

しかし、何故かは分からないが俺には見えてしまったのだ。

 

 

 

 

 

「ちょっと待て、奥の方に誰か居ないか?」

 

「宗輝君?」

 

「モカの索敵に引っかからないモンスターなんていないって」

 

 

 

 

 

確かにここまでの道のりでそれは理解してたつもりだ。だけどそれは()()()()()に絞って索敵を行なっていた前提の話だ。

 

 

 

 

「......ダメ

 

「声?」

 

「やっぱり誰かいるのか?」

 

「早く助けないと!」

 

 

 

 

聞こえるか聞こえないかレベルの本当にか細い声。しかし、その声は俺達に助けを求めるではなく、危険を知らせる為の精一杯だったのだろう。

 

 

 

 

「ここに来ちゃダメッ!!」

 

「ッ!?ひまり危ねぇ!!」バッ

 

 

 

ドゴゴゴゴゴ

 

 

 

 

 

間一髪のところで声の聞こえる先に向かっていたひまりを()()()から守る事が出来た。

 

 

 

 

 

「痛ってぇ......大丈夫か?」

 

「宗輝のお陰で何とかね」イテテ

 

「なら早いとこ態勢を」ムニュ

 

「......」

 

 

 

 

態勢を整える為に立ち上がろうとしたら何やら柔らかいものを感じる。

 

 

 

 

 

「ちょ......ひまりさん?これは所謂あれだからな?」ムニュ

 

「宗輝の......」

 

 

 

 

 

おかしい、ここはシリアスな場面のはずなのに。命懸けで俺がひまりを守って良い感じの雰囲気になるはずなのに。ちょっと俺に厳し過ぎる世界なのでは?

 

 

 

 

「宗輝の変態ッ!!」ペシ

 

「かぷこん!?」

 

 

 

 

 

前言撤回しよう。ひまりのフルスイングの平手打ちが俺の頬にクリティカルヒット。ひまりは素手なら攻撃が当たるとかそういうタイプなのかもしれない。

 

 

 

 

「って、そんな事してる場合じゃ無いよ!」

 

 

 

 

 

蘭の一声で一気に場に緊張感が戻る。俺達がさっきまで居た場所には、俺の身体の何倍もサイズが大きい岩石があった。そして、その奥の暗闇からこちらへ向かってくる影が一つ。

 

 

 

 

ドスン ドスン

 

 

 

 

「ガァァァァァ!!」

 

 

 

 

「なんだあの規格外のデカさのモンスター!」

 

「オーク......いや、あの大きさならオークロードかも」

 

「オークロード?もしかしなくとも強いのか?」

 

「何とか倒せない事もないけど、あの子も居るし遺跡内は少し狭いから分かんない」

 

 

 

 

蘭が目線を向ける先には、先程の声の主であろう女の子が鎖に繋がれていた。それはまたしても俺の顔見知りなわけで。

 

 

 

 

今度はお前かよはぐみ......

 

「蘭!私達はどうすれば良い!?」

 

「取り敢えずモカと巴で注意を引いて。その隙にひまりと私であの子を助けるから」

 

「つぐはむーくんを守ってあげてね〜」

 

「わ、分かった!」

 

 

 

 

 

蘭がそれぞれに指示を出して早速行動を開始する。遺跡までの道のりと同じく、モカと巴で前線を維持しつつオークロードの注意を二人へ集中させる。その間に捕まえられているはぐみの救出を蘭とひまりで担当。俺はというと、またしてもお荷物らしくつぐみと一緒に入り口付近で待機。

 

 

 

 

 

「オォォォォ!!」

 

「モカ!来るぞ!」

 

「はいは〜い」

 

 

 

 

オークロードは手に持つ棍棒の様な武器を力の限りに振り回して二人を攻撃してくるが、モカは持ち前の身軽な動きでヒラリと攻撃を次々に躱していく。巴も同じ様にして躱していき、二人へ完全に意識が向いている間にはぐみの救出に成功する。

 

 

 

 

「つぐみ、傷を治してあげて」

 

「分かった!ヒール!」

 

「モカ!巴!何とか助け出せたよ!」

 

 

 

 

所々に傷を負っていた様子のはぐみ。つぐみの回復魔法でみるみるうちに傷は塞がっていき、あっという間に完治してしまった。遺跡までの道のりでは擦り傷程度しか負わなかったから分からなかったが、回復魔法って案外凄いのな。

 

 

 

「つってもこれからどうするんだ!」

 

「何とかアイツを倒せる手立てがあれば......」

 

 

 

 

手詰まりの状況の中、未だにモカと巴の二人はオークロードの相手をしてくれているのだが、やはり少し疲れてきたのか動きが鈍くなってきている様にも見える。蘭も先程から頭を悩ませている。

 

 

 

 

「蘭、俺に考えがあるんだけどいいか?」

 

「......聞くだけ聞いてあげる」

 

「もうちょっと素直に......まぁいいや。時間も無いから手短に説明するぞ」

 

 

 

 

 

説明を蘭に行っている間も、二人には申し訳ないがオークロードの相手をしてもらう。これで上手くいかなかったら正直本当に手詰まりなのだが、ここまでくれば一か八かだ。俺だっていつまでも後ろで大人しく待ってるだけは嫌なんでな。

 

 

 

 

「本当に大丈夫?」

 

「理論上は可能......なはず」

 

「はぁ......でもまぁアンタを信じてみるよ」

 

 

 

 

 

どうにか俺の作戦を認めてくれたらしく、モカと巴にも声をかけて一度みんな集合させる。

 

 

 

 

「さっき話した通りでいくよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

モカと巴に変わり俺とつぐみがオークロードの前へと躍り出る。後ろからは蘭が援護射撃と状況を見て声かけをしてもらえる体制を敷く。モカと巴とひまりには、入り口付近ではぐみを守ってもらう役目があり、先程とは真逆の配置となる。

 

 

 

 

 

「サンダーボルト!」

 

「ガァッ!?」

 

「ナイスだ蘭!」

 

 

 

 

蘭の放った雷属性魔法のサンダーボルト。低位魔法ではあるものの、オークロードには効力があるらしく少し嫌がっている様子。その隙に俺とつぐみがもう少し前へ出る。

 

 

 

「よし、ここまで来れば大丈夫だ。つぐみやってくれ!」

 

「う、うん!いくよ!」

 

 

 

 

つぐみの足元に魔法陣が描かれてから数秒後、つぐみの"えいっ!"という可愛らしい掛け声と共に魔法が発動し辺りに白い煙の様なものが散布される。

 

 

 

 

「オォォッ!!」ブンブン

 

「クソ!」

 

 

 

 

周りが見えづらくなったせいなのか、またしても棍棒を力の限りに振り回して攻撃してくるオークロード。少し錯乱状態なのか時々に地面に当たっていたりと先程より危険度は少なかったのだが、最前線にいるつぐみもオークロードと同じく視界が悪く距離も近いので適当に振り回しても当たってしまう。

 

 

 

 

ある程度把握していた場所と音を頼りにつぐみとオークロードの間に立ち塞がって盾を構える。棍棒が思いっきり地面に叩きつけられ、岩を穿つ音が段々と近くなってくるのを感じるが、ここで退いてしまってはつぐみに当たってしまう可能性がある。何より今までずっと役立たずで何もしていないのは俺的にもポイントが低いのだ。

 

 

 

 

「宗輝君!?」

 

「つぐみ下がってろ!」

 

「グオォォ!」

 

 

 

 

オークロードもタダの馬鹿ではないらしく、つぐみと俺の声を聞きその方向へ棍棒を一振りする。それを両手で構えた盾で身を退いて受け身を取りながら、つぐみ諸共後方へ吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

「いってぇ......つぐみ大丈夫か?」

 

「宗輝君のお陰で何とか」イテテ

 

「二人共大丈夫〜?」

 

「その声はモカか。こっちは何とか無事だ、他のみんなは?」

 

「こっちは準備完了してるよ〜」

 

 

 

 

運良く入り口付近へ飛ばされたらしく、待機していたモカが様子見で来てくれたらしい。こんな状況なのに相変わらずコイツは気の抜ける返事をするもんだ。

 

 

 

 

だがしかし、これで全て準備は整った。部屋に漂う白の煙に未だに暴れているオークロード。俺達は入り口付近まで無事に到着。あとは仕上げにかかるだけだな。

 

 

 

 

「全員部屋の外まで出るんだ!」

 

「宗輝!私はどうしたら良い!?」

 

「蘭は俺とつぐみと一緒に扉の前だ!」

 

 

 

 

 

皆さんは"粉塵爆発"という現象をご存知だろうか。

 

 

 

 

粉塵爆発とは、ある一定の濃度の可燃性の粉塵が大気中に浮遊した状態で火花等により引火して爆発が起こる現象らしい。というのも、この作戦を考えた俺自身でも見た事も無く、この前偶々科学の授業で勉強した内容だから覚えていたに過ぎず、正直ダメ元なのだが大丈夫だと信じてる。

 

 

 

 

「蘭が魔法を放ったらすぐに防御魔法を最大で展開するんだ」

 

「分かった!」

 

「じゃあいくよ!」

 

 

 

 

 

白い煙で何も見えない部屋の中へ、蘭の容赦ない一撃が叩き込まれる。

 

 

 

 

「ファイヤーボールッ!!」

 

「つぐみ!」

 

「う、うん!」

 

 

 

 

立て続けにつぐみの展開した防御魔法で入り口を塞ぎ、部屋に閉じ込めて密閉する。その瞬間に、雷にも似た轟音と共に凄まじい爆発が引き起こされる。

 

 

 

ドゴォォォォォンンン!!!

 

 

 

 

「くっ!」

 

「耐えてくれ二人共!」

 

 

 

 

内部からの衝撃が防御魔法を伝って俺達三人へ襲いかかる。それでも何とか抑え込む事に成功し、無事作戦も成功。何とか役立たずの汚名も返上する事が出来ただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー!一時はどうなるかと思ったな!」

 

「あんなの初めてだったよ本当に!」

 

「モカちゃんのお陰かもよ〜?」

 

 

 

 

あの後、部屋を確認するとオークロードは存在しておらず、黒い消し炭の様なものしか残っていなかった。今は遺跡を出て街へと帰る途中。少々やり過ぎてしまったとも思ったが致し方あるまい。やらなければこっちがやられていたかもしれないのだ。弱肉強食にも似た何かを感じずにはいられない。大体このおかしな世界で死ぬわけにもいかないしな。

 

 

 

 

「それで、はぐ......コホン、何であんなところに?」

 

「はぐみにも分からないよ。拐われて気が付いたらあの遺跡にいたの」

 

「大変だったね」

 

「もう大丈夫だから。取り敢えず街へ帰って考えよう」

 

 

 

 

やっぱりはぐみなのね、というツッコミは最早不要。一々蘭達に変な目で見られるのも辛いのでな。

 

 

 

「というか獣人族?」

 

「獣人族、というか狐人族だよ」

 

「狐人族?」

 

「宗輝知らないの?」ニマ

 

「おい、今笑っただろひまり表へ出やがれちょいと宗輝君の実力を見せてやるけぇのぉ!!」

 

 

 

 

何かと俺の事をイジってくるひまりは一旦置いておこう。俺は心が広く優しいで有名だからな。決してひまりの挑発じみたイジリに反応したわけではない。本当だよ、嘘なんてつかないもん。僕悪いスライムじゃないよ。

 

 

 

 

「狐人族は不思議な力が扱える。だから、その力欲しさに拐われて人身売買......なんてのは良くある話だよ」

 

「不思議な力?」

 

「妖力っていうんだよ」

 

 

 

その妖力欲しさに誘拐されて人身売買されてしまったと。胸糞悪い話だが実際に目の当たりにすると少し怖さが勝ってしまう。あの時蘭達が居なければ助けられなかっただろうし、助ける事もしなかったかもしれないな。

 

 

 

「へぇ、どんな力なんだ?」

 

「ズバババーンって敵をなぎ倒していくって聞いたぞ!」

 

「巴は黙っててくれ......」

 

「ほわわわ〜んと変身するとも聞いたよ〜」

 

「お前もだモカ......」

 

 

 

 

こういった話は、やはり蘭やつぐみに聞く方が適切なのだろう。擬音の多い巴やふざけてしまうモカに、アホの子予備軍であるひまり。はぐみに聞いても"よく分かんない!"と元気いっぱいの返事を貰ってしまった。街に帰ってリサにでも聞いてみるかな。

 

 

 

 

「はぁ......やっと街が見えて来た」

 

「宗輝君もお疲れ様」

 

「やっぱつぐみが一番だな」

 

「ど、どういう事?」

 

「いんや何でもない」

 

 

 

 

疲れてる時はつぐみ成分を摂取するのが良いってそれ一番言われてるから。なんなら常識まであるから。しかし過剰摂取すると昇天してしまうので注意。大天使つぐみの前では皆兄弟なのである。さっきから何言ってんだ俺。

 

 

 

 

 

 

 

~城砦都市サークル~

 

 

 

 

 

 

 

「オークロードを倒した!?」

 

 

 

『はぁ!?』『はぁぁ!?』『あぁぁん!?』

 

 

 

 

某三兄弟っぽい反応をありがとう。俺達は街へ帰って早々ギルドへ向かい、受付嬢マリーナさんことまりなさんにオークロードを討伐した事を伝えた後の反応がこれだ。モブが良い味出してるアニメって個人的に好きなのよね。いやあの兄弟はモブではないんだけども。

 

 

 

 

「オ、オ、オークロードってあのオークロード!?」

 

「どのオークロードのこと言ってるか分かんないですけど」

 

「それよりマリーナさん、あんなの出るって聞いてないですよ」

 

 

 

俺の横で冷静に話を進めようとしている蘭を若干無視しているマリーナさん。蘭達が何とか倒せるって言ってたから、俺はてっきりそこまで強くないんだと思ってたわ。案外蘭達のパーティーって強いのか。

 

 

 

 

「報酬は上乗せしてお願いします」

 

「う、うん!それは勿論!無事に帰って来てくれて良かったよ!」

 

「それとこの子なんですけど......」

 

「まだ何かあるのって狐人族ぅ!?」

 

 

 

『はぁ!?』『はぁぁ!?』『あぁぁん!?』

 

 

 

 

はぐみがビクッとして怖がってるだろやめろよな。狐人族はやはり貴重な存在なのだろうか。実はギルドに入ってからというもの、周りがザワザワとしていたのは知ってたけどこれほどとは。

 

 

 

「そ、その子は何処で?」

 

「遺跡の奥で拾った」

 

「拾った!?遺跡の奥で!?」

 

 

『はぁ!?』『はぁぁ!?』「あぁぁん!?』

 

 

 

「いい加減くどい」

 

 

 

『あ、すみません』

 

 

 

 

 

蘭の一言で静まり返った三人組。何か大きなミスでもしてしまったのだろうか。狐人族とは不干渉だとかそういうのだったらやばい。でもそれだと蘭達が知らないのもおかしいしな。マリーナさんが過剰に反応してるだけだと思いたい。

 

 

 

 

「あー!!」

 

「いきなりどうしたんですか」

 

「そう言えば狐人族捜索の依頼が一件あったのよ!」

 

「それを先に言わんかい」

 

「えーっと......これこれ!」

 

 

 

 

 

マリーナさんが慌てて依頼書の中から一枚抜き出して机へ持ち出す。

 

 

 

"狐人族の少女の捜索依頼"と女の子っぽい丸文字で記されており、内容が狐人族の捜索で少女の特徴が限りなくはぐみに一致するのは気のせいだろうか。しかも依頼書のランクはAとかなり上位のものだ。

 

 

 

 

「ん?ちょっとマリーナさんその依頼書良く見せて下さい」

 

「はい、どうぞ」

 

「んんん?」

 

「何かあるの?」

 

 

 

 

依頼者の欄に"弦巻財閥"という名前があるのは気のせいですね。やっぱりこっちでも弦巻の名は伊達ではないということか。嫌な予感はするが行くしかないか。

 

 

 

 

「じゃあ蘭達とはここで一旦お別れだな」

 

「アンタはどうするの」

 

「はぐみを依頼者の所まで連れて行くよ」

 

「だったら私達も」

 

「今日は世話になりっぱなしだろ。これくらいやらせてくれ」

 

 

 

 

 

立て続けの戦闘でみんな疲れているだろう。モカなんてひまりの膝の上で既にスリープモードだ。それに、俺一人の方がここからは動きやすいだろうしな。

 

 

 

 

「また何かあったら教えてよ」

 

「了解」

 

 

 

 

蘭達は宿屋に戻ると言ってギルドを後にする。残ったのは俺とはぐみとマリーナさん。早いところ連れて行かないと夜遅くなりそうだ。

 

 

 

 

マリーナさんに弦巻財閥の別荘の場所を説明してもらい、蘭達と一緒に行った依頼の報酬金を受け取りギルドを出る。この依頼に関しては全額蘭達に渡る様にマリーナさんと手続きを済ませている。流石に何もしていない俺が報酬金を貰うのは違うだろう。

 

 

 

 

「むーくんむーくん」

 

「おぉ、いきなりなんだはぐみ」

 

「むーくんはどうして冒険者になったの?」

 

「まぁなし崩し的にな」

 

 

 

ここで"実はこの世界の人じゃなくて違う世界から来ました"なんて言えばどんな反応をするのだろう。正直はぐみになら別に言っても構わん気もするが。

 

 

 

「でも今日は助けてくれてありがと!」

 

「どういたしまして。蘭達が居なきゃヤバかったけどな」

 

「でもむーくんも凄かったよ!」

 

「上手くいくかは賭けだったけどな」

 

 

 

上手くいったとしても倒し切れるかとか色々と問題はあったが、まぁ結果オーライということにしておこう。

 

 

 

「それで、はぐみは弦巻財閥とはどういう関係なんだ?」

 

「こころんとは友達なの!」

 

「知ってるぞ」

 

「えー!何でむーくんこころんの事知ってるの!?」

 

「ごめん嘘」

 

 

 

少し頬を膨らませてぷくーっと怒るはぐみ。浴衣や着物っぽい和のテイストを取り入れて尚且つ狐の耳や尻尾が付いているせいなのか、今のはぐみはどちゃくそ可愛いのだ。これだけでご飯三杯はいけるね。

 

 

 

「他にも財閥の中で友達はいるのか?」

 

「うん!使用人だけど仲良くしてくれるみーくんでしょ?カッコいい薫くんにミッシェルに─」

 

「もういいぞ何となく分かったから」

 

 

 

 

こちらの世界のミッシェルはどんな姿なのか少し、ほんの少しだけ気になるが会ってからのお楽しみにしておこう。もしかしなくともハロハピメンツ大集合だろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

~弦巻家屋敷~

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

「......」

 

 

 

 

弦巻財閥の別荘と思われる豪邸に着き、早速ノックしてみたが返ってくる様子も無くどうしようか悩んでる最中。

 

 

 

「誰も居ないのか?」

 

「そんな事無いと思うよ!取り敢えず中に入ってみようよ!」

 

「いや、その為にノックしてるんだが......」

 

「大丈夫!こころんだったら許してくれるよ!」

 

「許すも何もどーやって中に入るんだ?」

 

 

 

 

周りは高い壁に囲まれており、有刺鉄線や赤外線センサー等防犯対策はバッチリの様子。見たところこの扉ぐらいしか出入りする場所は無さそう。

 

 

 

「むーくん目瞑ってて!」

 

「お、おう」

 

 

 

 

はぐみに言われた通りに目を瞑り、はぐみに委ねる。すると手をギュッと握るはぐみ。その瞬間に少し変な違和感を感じたのだがすぐに元通りになった。

 

 

 

「はい!もう大丈夫だよ!」

 

「......これがお得意の妖力ってやつか」

 

「んー、はぐみにもよく分かんない!」

 

「まぁ詳しい事は追々調べるさ」

 

 

 

正直魔法とかよりも凄い何かに遭遇した気がする。瞬間移動とかワープとか、そういった高次元な何かだろう。きっと神様の力だ。それ故の狐人族なのだろう。確かに人身売買という話も頷ける。かと言って肯定する訳ではないが。

 

 

 

それから某ドームが一つ建設出来るほどの敷地を歩き、はぐみもよく分からないというこころの部屋へと向かう。しかしながら、中々見つからずに時は経ち外は暗くなり始めていた。

 

 

 

 

「所々にミッシェル像はあるんだが......というかどんだけ広いんだよこの別荘」

 

「みんな本当に居ないのかな?」

 

「......ぇ......ぇぇぇ」

 

「ん?」

 

 

 

 

何体目か分からないミッシェル像を通り過ぎて少し歩いた十字路。聞こえづらいが声の様なものが聞こえてくるのを感じる。はぐみは未だにキョロキョロ周りを見渡していて気付いてない様子。

 

 

 

「......ふ......ぇぇぇ.....」

 

「声?」

 

「むーくん?」

 

 

 

 

その声は段々と、尚且つ確実にこちらに向かって近づいて来ていた。

 

 

 

 

 

そして、その正体と相見えるのにそう時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

「......ふぇ......ふぇぇぇぇ!!」

 

「ぎょえぇぇぇ!?」

 

 

 

 

 

ぼんやりと浮かぶ半透明な浮遊体。白い綺麗な着物に身を包み、泣きながらこちらへ向かってきたのはハロハピのドラム担当松原花音先輩であった。

 

 

 

 

「あー!かのちゃん先輩みっーけ!」

 

「はぐみちゃーん!」

 

「はぁ......驚かせないで下さいよ全く」

 

「ご、ごめんね?そんなつもりは無かったんだけど......」

 

 

 

分かりやすく落ち込む花音先輩。俺の方も少しキツイ言い方をしてしまった。驚いたからと言って言い過ぎだろう。

 

 

 

「というか......幽霊?」

 

「それだと半分正解かな」

 

「半分?」

 

「かのちゃん先輩は凄いんだよ!」

 

 

 

 

はぐみの抽象的な説明を花音先輩が分かりやすく丁寧に解説してくれる。

 

 

 

 

簡単に言ってしまえば、この世界の花音先輩は特異体質を生まれながらに持っているらしく、普段は俺や蘭達と何も変わらない人間らしい。しかし、こうして夜になると半実体化の様な状態になってしまい、所謂幽霊的な存在へと変化するのだそう。それで屋敷の中を彷徨っていたところに俺達が居たので助けを求めて来たらしい。

 

 

 

「何か面倒くさいですねそれ」

 

「もう慣れたから大丈夫だよ」

 

「今の状態だと触れられないんですか?」

 

「自分からも相手からも干渉は出来ないっぽいね」

 

「どれどれ」ナデナデ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......」ナデナデナデ

 

「.......」///

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んんん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......」ナデナデナデナデナデ

 

「......」///

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれれ〜、おっかしいぞぉ〜?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「花音先輩嘘つきました?」

 

「嘘ついてないもん!」///

 

「むーくんはかのちゃん先輩ナデナデ出来るんだね!」

 

 

 

 

 

やはりこれは俺の方に問題があるのだろう。今の半実体化している花音先輩は、この世界から少し逸脱した存在とも言える。俺も俺でこの世界の人間では無い。そう言った点から鑑みて、今の花音先輩と俺は案外近しい存在なのかもしれない。だから触れたり出来るのだろうという推測を立ててみるが......やっぱりよく分からん。

 

 

 

 

「花音先輩は決して一人じゃないですから」ナデナデ

 

「......うん」

 

「むーくん先に進もうよ」

 

「悪い悪い、花音先輩こころの部屋が何処か......って分かるわけないか」

 

「ッ!!」ポコポコ

 

 

 

冗談交じりの会話がゆっくり出来るのは、やはり楽しいものだ。恥ずかしいのか花音先輩が両手でポカポカ殴りかかってくるが、威力に関しては雀の涙程度で可愛らしい。半実体化のせいか少し白みがかっているので、余計に顔が赤くなっているのが分かる。花音先輩可愛い。

 

 

 

 

 

それから三人で試行錯誤しながらこころの部屋を探して行った。主に俺一人が考えてた気もするが。はぐみの直感を信じるわけにもいかず、かと言って花音先輩の迷子癖はこちらでも健在。今度は俺が引っ張っていかないとダメなパターンだな。

 

 

 

 

「むーくんあの奥の部屋が怪しいと思う!」

 

「それもう5回目なんだけど」

 

「でも、ちょっと見覚えあるよ」

 

「花音先輩のそれも5回目です」

 

 

 

 

しかしながら、今回は二人が正解っぽくミッシェル像が端に二つ建てられており、他の部屋とは違う雰囲気を感じる。

 

 

 

 

「開けるぞ」

 

『うん』

 

 

 

 

 

古めかしく音を立てながら少しずつ扉を開いていく。部屋の中は真っ暗で灯りの一つも無く、少しの間手探りで進んでいくしかない。光とかの魔法があれば良かったんだけどな。

 

 

 

 

「えーっと......二人共大丈夫か?」

 

『......』

 

「ん?はぐみ?花音先輩?」

 

 

 

 

さっきまで居たはずの二人が居なくなっている。いや、正確には周りの状況が把握出来ていないので居ないのかどうかすら分からない。だがしかし、緊急事態なのに間違いはないだろう。

 

 

 

 

「またお決まりの展開か......とにかく周りの状況確認するのにも灯りが必要、なん、だけど......」ムニュ

 

 

 

 

部屋の電気のスイッチとは思えないほど柔らかく、それでいてとても心地の良い感触アリ。お金持ちの屋敷というのは、事細かな部分まで拘るのが常識というものなのか。

 

 

 

「あれ?......俺どっちから来たっけ......」バタ

 

いきなりだなんて......おませさんね

 

「ここ......ろ......?」

 

おやすみなさい

 

 

 

 

 

 

訳も分からないまま、俺の意識はここで途絶えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

『......宗輝』

 

『......あれ、俺確かこころんちに居たはずじゃ』

 

 

 

 

 

誰かの声に呼ばれて眠っていた意識は覚醒する。どれほどの時間眠っていたのだろうか。その前にこれは何なのだろうか。俺を呼ぶ声は一体誰なのだろうか。そんな疑問ばかり浮かぶ俺を他所に事態は進行していく。

 

 

 

『ほら、宗輝こっち』

 

『うおっ......ちょ、待てって』

 

『もう待ち切れないんだよ』ムニュ

 

『って有咲!?お前なんちゅー格好してんだよ!というかやわらけぇ!』

 

 

 

 

いきなり胸に手を押し付けられて、半ば強制的に豊満なまでの果実に触れる事に。今の有咲の格好はとてもじゃないが直視出来ない状態だ。所謂下着姿というもので、何故いきなりこんな状況に陥ってしまっているのかパニックだ。

 

 

 

『待て有咲!いきなりどうしたんだよ!?』

 

『お前が欲しくなったんだ』

 

『はぁ!?』

 

 

 

 

先程からの有咲の様子といい、俺の感じている違和感は何なのだろうか。というか何故こっちの有咲が俺の事を知ってるんだ。そもそもの話それ自体がおかしい。そうじゃなくとも有咲は決してそんな事は言わない。

 

 

 

『もしかして......試してみるしかないか』

 

『ちょ、何するつもりなんだお前』

 

『すまんな有咲』

 

 

 

 

少し覚悟を決めて、有咲の手を振り解き右手を大きく振りかぶる。

 

 

 

 

 

『俺の知ってる有咲は、絶対にこんな事しないんだよ!』

 

 

 

 

 

右手で自分の頬を思いっきり叩いて目を覚ます。刹那の出来事だったが、周りを見渡してみると宿屋の中だということが把握出来る。やはり夢のようなものの中に強制的に連れていかれたのだろうか。

 

 

 

「それにしてもいってぇな......」スリスリ

 

「......なんで

 

「ん?」

 

 

 

 

自分の足元付近の掛け布団が妙に膨らんでいる。何となく正体は察しているが念の為確認だ。もしかすると誰かさんが俺にプレゼントでお菓子なんてものをくれたりしてるかもしれない。この世界にきてからそんな仲の良い人が出来た覚えがないが。

 

 

 

 

「あの〜......有咲さん?」

 

「自力で抜け出せるとか聞いてない!」

 

「うおっ!?」

 

 

 

案の定有咲だったのだが、何故か先程の夢の中での格好より酷くなっている気がする。下着っぽいのは変わらないのだが、何というか妙に大人っぽいというか。それに翼とか尻尾も生えてるし確実に人間じゃないよね?

 

 

 

「その前に質問いいか?」

 

「なんだよ」

 

「その格好は何?」

 

「サキュバス」

 

「ほぇ?サ、サキュバスとな?」

 

 

 

 

サキュバスとは。アニメや漫画で良く見る非現実的な存在だと思っていたが、まさか自分の知り合いがサキュバスだったとは。というかサキュバスってあれだよね。夢の中に出てきてえっちぃことするやつだよね。それが今の有咲?大変けしからんでござる。

 

 

 

 

「何で俺の夢の中に?」

 

「命令だからな」

 

「因みにどんな?」

 

 

 

 

まぁサキュバスがやる事なんて一つしかないんだけどね。

 

 

 

 

 

「お前の力を奪いにきたんだよ!」

 

「はぁ......また面倒くさい事になりそうな予感がする」

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 





まだ特別編が続きそうです......。

本編の続き開始出来る様に頑張ります^ ^
└感想評価頂けるとモチベupしますので是非m(__)m


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