けものフレンズR Record (新人描画師)
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おはなばたけ

草花が茂る平原を一台のサイドカー付バイクがのんびりと走っている。

 

「見て見てイエイヌちゃん。花々があんなにいっぱい‼」

「わぁ~‼とっても綺麗ですね‼」

 

運転手と同乗者は周囲の平原の景色に笑顔を浮かべながら会話をしている。

 

バイクに跨っている運転手は幼げな顔立ちを持つ少女。水色で羽根飾りの付いた帽子を飛ばされないよう深く被り、ゴーグルをしっかりと装着してハンドルを握っている。

 

イエイヌと呼ばれたサイドカーに座っている同乗者も少女。こちらは特に何も被っておらず、頭から生える犬耳が風に靡いてピコピコと小刻みに揺れ動いている。

 

「ねえイエイヌちゃん?折角だからこの辺りで少し休憩していかない?」

「いいですね‼是非そうしましょう!ともえさん‼」

「よし!そうと決まったら…」

 

ともえと呼ばれた運転手はイエイヌの言葉を聞くと、周囲を見渡して丁度よさそうな場所を探し始める。イエイヌもともえと同じように周囲を見渡して、何処か良さそうな場所を探す。

 

そうしていると、ちょっと地形が盛り上がって丘のようになっている場所をイエイヌが見つけ、声を掛けながらともえに分かるように指を差した。

 

「あそこはどうでしょうか?見晴らしも良さそうですよ!」

「あっ!本当だ!じゃあ早速!」

 

ともえはイエイヌが指差した場所に向かってハンドルを切り、バイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

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バイクを麓に止めてから2人は丘を登り、その頂上で腰を下ろして眼下の景色を一望した。

 

そこから見えたのは見渡す限り一面の花畑の風景。赤色やピンクで花弁を染めた小さな花が視界いっぱいに広がる景に、ともえとイエイヌは目を輝かせた。

 

「見てくださいともえさん‼ずっとずーっと向こうまでお花畑ですよ‼」

「本当ホント‼凄い‼めっちゃ絵になるー‼」

 

目の前の景色に2人は感嘆の言葉を零す。イエイヌは風に乗って漂う花の香りに笑みを浮かべ、ともえは鞄の中からスケッチブックを取り出すと同時に凄まじい勢いで風景を描いていく。

 

「良い香りがしますね~……このお花、何と言う名前なのでしょうかね?」

「え?ちょっと待ってね」

 

イエイヌの言葉にともえは手を一旦止めると、再び鞄に手を入れてガサゴソと何かを探し始めた。

 

「確か……博士ちゃんから貰った中に……あった‼」

 

取り出したのは小さな1冊の本。本の表紙には『小さな図鑑・草花編』と少々掠れた文字が書かれており、取り出したともえはすぐさまページを捲っていく。

 

「う~ん……どれだろう?」

「これ……いや、ちょっと違いますね」

 

本のページをイエイヌと一緒に見ながら、描かれている写真()を1つひとつ2人で確認して花の名前を探す。そうして暫くの間ページを捲っていくと、漸く周囲に咲く花と同じものを見つけた。

 

「あったこれだ!この花の名前は……『スイートピー』だって!」

「すいーとぴー……ですか?」

「うん!あたし達の目の前にあるのは赤色とピンク色のお花だけど、他にも青色と白色の花もあるんだって」

「へぇ~!」

 

ともえの話を聞いたイエイヌは近くのスイートピーを1輪だけ手に取ると、その花弁をじっと見つめる。

 

「……見て見たいですね。青色のこのお花も」

「大丈夫。きっと見られるよ」

 

少し憧れるように呟いたイエイヌにともえちゃんが声をかける。

 

「こうしてイエイヌちゃんと旅を続けていれば、絶対見つかるって!」

「あ…!」

「だからそんな顔しない!スケッチブックに曇り顔を描くのはあたしヤダよ?」

 

再びスケッチブックを開き、ともえは灰色のクレヨンの握った状態でイエイヌのことを笑顔で見つめる。

 

「ほらほら!もっとニッコリ笑ってイエイヌちゃん‼︎折角のめっちゃ絵になる構図なんだから‼︎」

「……ハイ‼︎」

 

そんなともえにイエイヌは顔の横にピンク色のスイートピーを構えると、満面の笑顔を浮かべて元気良く応えた。

 

 

 

 

 

 

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ともえのスケッチブックに、新しい絵が加わった。

 

見渡す限り一面のスイートピーの花畑。

 

その中心にはスイートピーを携え、満面の笑みを向けているイエイヌの姿。

 

ページの端には、押し花となった一輪のスイートピーが絵を更に彩るように添えられている。

 




スイートピーの花言葉

小さな喜び
やさしい思い出
私を忘れないで


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もりのなかで

生い茂る葉の隙間から光が差し込む森林の道脇に、サイドカー付バイクが停まっている。

 

『……コノ程度ノ故障ナラ1時間モアリャア直セルダロウ』

「本当ですかラモリさん⁉︎良かった~…!」

 

バイクの前にはともえ、そしてその足元にはサングラスを掛けた赤色のぬいぐるみ?がバイクをじっと観察している。

 

『シカシ運ガ良カッタナ。走ッテイル最中ニ『エンスト』ヲ起コシタッテノニ、全員無事ナンダカラナ』

 

ラモリと呼ばれたぬいぐるみは更にバイクに近づき、バッテリーとエンジンに自身の作業用アームを伸ばしてより詳細な状態をチェックし始める。

 

「ほんっとに焦りましたよ‼‼いきなりガガガッ‼っておっきな音がしたかと思ったら、バイクが言うことを聞かなくなったですから‼」

 

冷汗を浮かべながら、ともえはバイク近くの樹木に背を預けて腰掛ける。

 

「あと少しブレーキが遅かったら……あわわわ」

『危ウク俺モスッ飛ンデクトコロダッタゾ。万が一ノ時ノ対処法ヲともえニ教エテオイテ正解ダッタ』

 

青ざめるともえを横に、ラモリは軽口を呟きながらバイクの修理を始めた。

 

『ソウイヤ、イエイヌハドウシタ?』

「あ、えっと、イエイヌちゃんは「折角ですからこの辺りで水を探してきます‼」って言って、水筒を持って行っちゃいました」

 

そういってともえは木々の間に指を差す。その方向の地面にはイエイヌの足跡があり、持ち前の嗅覚を頼りに水を探しに行ったようだ。

 

『ソウカ……フム、コノ辺リハサンドスターノ濃度モ低イカラ、セルリアンモ心配イラナイダロウ』

「そうですか……!」

 

ラモリは淡々と告げると、無言になってバイクの修理を続ける。一方でともえはラモリの言葉に答えると、鞄の中からスケッチブックとクレヨンを取り出してページを開いた。

 

 

 

 

 

 

 

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『……ナンダ?』

「いえ、お気になさらず。そのまま続けて、どうぞ」

 

ともえの行動にラモリは思わず作業を止めて訊ねるが、そんなのお構いなしと言わんばかりにともえはクレヨンを走らせる。

 

『アノヨ?俺ナンカ描イテ楽シイノカ?』

「何言ってるんですか‼楽しいですよ‼めっちゃ絵になりますよ‼」

 

カッ‼と擬音がしそうなほど目を見開いてともえは言い放つ。因みにクレヨンを走らせたままだ。

 

『……分カラン』

 

ラモリは呆れたように身体を傾げ、それから再び作業に戻る。

 

「……そういえばラモリさんって、少し前までは私としかお話しませんよね?」

 

色の違うクレヨンに持ち替えながら、今度はともえからラモリへ訊ねる。

 

『ン?アア。俺達ラッキービーストハ元々、コノジャパリパークノ管理維持ヲ行ウコトガ任務ダカラナ。フレンズトノ過度ナ接触ヲシナイヨウニッテコトデ、フレンズト話ガ出来ナカッタンダヨ』

 

淡々と作業を続けながらラモリはややぶっきらぼうに話す。

 

「けど、今は普通にイエイヌちゃんともお話してますよね!」

『今ハ………マア、状況ガ昔トハ色々ト違ウカラナ』

「昔ですか……?」

 

ラモリから出た『昔』という単語にともえは首を傾げる。

 

「その昔。アタシ達と会う前って、ラモリさんは何処に居たんですか?」

『…………』

 

ふと、ラモリの動きが止まる。

 

「……ラモリさん?」

 

その様子をともえが声を掛けると、程なくしてラモリは作業を再開した。だが、ラモリは完全に黙り込んでしまい、作業音だけが2人の間に響く。

 

「あ…えっと、その……ごめんなさい」

『イヤ、謝ルコトハ無イゾ?』

 

自分の言葉が原因だと感じたともえは思わず頭を下げて謝ったが、それにすぐさまラモリが言葉を返した。

 

「いや、だって……」

『少シ『昔』ノコトヲ思イ出シテイタダケダ。怒ッタ訳デハ無イカラ安心シロ』

 

そう言うとラモリはピョンと飛び跳ねると、器用にバイクのサドルに着地し、アームを使ってエンジンキーを回す。するとエンジンが掛かる音が響くと同時にエンジンから比較的静かな駆動音が聞こえ始めた。

 

『ヨシ、修理完了。後ハイエイヌガ戻ッテ来ルノヲ待ツダケダナ』

「そ、そうですね……」

 

何だか有耶無耶にされたような感じとなってしまい、ともえは複雑そうな顔を浮かべてしまう。

 

『イツカハ話ス』

「……え?」

 

そんなともえを見かねてか、サドルに佇むラモリは身体の向きをともえに向け直してそう言った。

 

『今ハ言エネエガ、イツカ必ズ話ス……ソノ時ガ来タラナ』

「………」

 

サングラスを掛けている所為でラモリの目を見ることは出来ない。けれど、何故だかラモリが自分に向けている目が見えたような気がした。

 

『………』

「………」

 

それも、嘘偽りの無い真摯な目がサングラスの向こうに見えた気がした。

 

「……分かりました。その時になったら、私だけじゃなくてイエイヌちゃんにも話してもらいますからね?」

『アア、分カッテイルヨ』

「約束ですからね!」

 

その言葉を聞いてともえの顔に笑みが戻る。ラモリも肩を竦めるような動きをしてから、サドルから降りようとする。

 

「あぁ⁉︎折角なのでそのまま‼ラモリさんそのままで‼めっちゃ絵になるじゃないですか~‼」

『……エ?』

 

ともえは思い出したかのようにスケッチブックを開き直し、その勢いのままにクレヨンをこれまた一気に走らせる。

 

『……マジカイナ』

 

ラモリはその光景に唖然となって意図せずその場で固まってしまった。もっとも、それはともえにとって大変都合の良い事であるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ともえさ~ん!ボス~!お水汲んできまし……⁉︎」

「そう‼そのまま‼そのアームの角度を維持して‼‼」

『ア、アガガガガガガ………』

 

 

 

 

 

 

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ともえのスケッチブックに、新しい絵が加わった。

 

木々が生い茂る森の中に停まる一台のバイク。

 

そのサドルで毅然とした様子で堂々と佇む、ラモリの姿。

 

とても頼もしそうな、それでいて何処か寂しげな、そんな不思議な雰囲気が絵に描かれていた。

 




機械人形(ラッキービースト)は『フレンズと話したい』という本能(願い)を持つか?


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とうぼうせん

月すらも雲に覆われ、完全なる暗闇となった道を1台のサイドカー付バイクと1台の大型クルーザーが並走している。

 

が、2台の走りはどうも穏やかなものでは無いようだ。

 

「はああっ‼」

 

バイクとクルーザーの後方。水色だけを瞳を輝かせた(野生開放した)イエイヌは光の結晶が迸る右手を振り下ろす。放たれたそれは薄緑色の(へし)を砕きながら抉り取った。

 

《―――――!》

 

直後、へしを砕かれた『回転する円盤(しゃりん)』を付けたセルリアンはその身体をパッカーン‼させてサンドスターに還元される。が、その後すぐに後続の同型セルリアンが迫り、イエイヌは顔を顰める。

 

「うぅ~‼しつこいですね‼」

『イエイヌちゃん‼一旦戻って‼』

 

イエイヌの左耳に装着されたインカムからともえの声が聞こえる。その声を聴いてイエイヌがバイクの方へ顔を向けると、バイクを運転しつつも自分の方へ顔を向けているともえの姿があった。

 

『サイドカーに戻って足を休めて‼』

「は、はい‼」

 

イエイヌがバイクに戻ろうとしたその時、ともえの右方向、クルーザーの影から1匹のセルリアンが飛び掛かり、ともえを急襲しようとする。

 

「ともえさんっ⁉︎」

「きゃああっ⁉︎⁉︎」

 

慌てて跳躍するイエイヌ、ハンドルを握っているが故に何もできないともえ。

 

「てぇいっ‼」

《―――――!》

 

その時、突如としてともえに襲い掛かったセルリアンが勢いよく吹き飛ばされ、そのままパッカーン‼となった。

 

「おい‼余所見するな‼危ないぞ‼」

「ゴマちゃん‼(ゴマさん‼)」

「だから『ゴマ』って呼ぶなって言ってるだろう⁉︎」

 

ともえを守ったのは『ゴマ』と呼ばれたフレンズ。斑模様の羽根を頭に持ち、水色の生地に『Beep!』を印されたシャツを着ており、頭の羽根を羽ばたかせて浮遊している。

 

「私の名前はロードランナーだって昨日から」

「ゴマちゃん後ろ‼」

「っ‼」

 

ともえが叫ぶとほぼ同時にG・ロードランナー―――愛称ゴマの背後にセルリアンが飛び掛かってくる。

 

「しゃらくさいっ‼」

 

ゴマはそう叫びながら両の瞳を輝かせ(野生開放をし)、同時に両足に光の結晶を迸らせて回し蹴りを振り放つ。

 

《⁉︎》

「おりゃあっ‼」

 

振り抜かれた蹴りはセルリアンに深くめり込み、へしに関係なくそのままパッカーン‼とさせた。

 

「へんっ‼どうだ?ビビッたか?」

 

尚もクルーザーを追ってくるセルリアンの群れにゴマがそう言うと、心なしかセルリアンは怖気づいたかのように動きを鈍らせた。

 

「ならこっちから行くぜ‼うおおおおっ‼‼」

 

ゴマは一度クルーザーの屋根に着地すると、今度はそこから跳躍をしてセルリアンの群れに突っ込んでいった。

 

「ご、ゴマさーん⁉︎」

 

突撃していったゴマにともえは声を上げるが、ゴマの様子から届いていないか聞こえていないようだ。そんなともえの横に鈍い音と共にイエイヌがサイドカーに戻ってきた。

 

「イエイヌちゃんっ⁉︎」

「はぁ…はぁ……だ、大丈夫です…まだ……」

 

肩で息をするほどに疲弊したイエイヌが枯れた声で呟く。イエイヌが飛んできた方には依然として複数のセルリアンがバイクとクルーザーを追ってきている。

 

「けど、このセルリアン達の狙いは」

「……うん」

 

ともえとイエイヌがクルーザーの車内に目を向ける。そこには、助手席に座っている1人のフレンズの姿があった。

 

虎模様のロングヘア―をリボンで纏め、黒のベストと緩めた黄色のネクタイが特徴の外見のフレンズが、グッタリとした様子で席にもたれかかるように寝込んでいる。

 

『ともえ、イエイヌ、目的地ガ近クナッテキタ。コレ以上ノ戦闘ハ厳シイゾ』

「「‼」」

 

そんな時、2人のインカムにラモリの声が聞こえてくる。クルーザーを運転しながら2人に声を掛けているようだ。

 

『ソレ二イエイヌ、オ前サンノ『野生開放』ハ未熟ナモノダ。コレ以上ハ身体ニ負荷ヲカケル』

「け、けどボス⁉︎」

 

ラモリの言葉に反論しようとするイエイヌだが、それをともえが抑える。

 

「……どうすれば良い?ラモリさん?」

『アノ鳥ノフレンズヲクルーザーニ呼ビ戻セ。一カ八カニナルガ、セルリアンヲ一気ニ振リ切ル』

 

その言葉を聞いたともえはコクリと頷くと、イエイヌにアイコンタクトを送る。それを察したイエイヌは呼吸を整えると、再びサイドーカーを飛び出してセルリアンの群れに向かった。

 

『ともえ、危ナクナルガ光ヲ消セ。ジャナイトセルリアンヲ撒ケナイ』

「は、はい‼」

 

ともえはすぐさまバイクのヘッドライトを消灯し、同時にクルーザーのライトもラモリによって消灯する。そうして、灯り一つ無い完全なる暗闇となった。

 

 

 

 

 

 

 

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「ゴマさん‼」

「だ、か、ら‼ゴマじゃなくてロードランナーだっ‼」

 

イエイヌの声にセルリアンを回し蹴りで弾き飛ばしながらゴマは声を上げる。

 

「そんなことより‼」

「そんなことよりだと⁉︎」

「セルリアンから逃げます‼戻って来てください‼」

 

そう言ってイエイヌはすぐにともえのバイクに戻ろうとする。が、

 

「っ⁉︎」

「っておい⁉︎」

 

踵を返した瞬間にイエイヌの体勢がガクリッと大きく崩れ、慌ててゴマがそれを抱きかかえる。

 

「どうしたっ⁉︎」

「ぁ……が……‼」

 

イエイヌは何かを発しようとしているが声が出ていない。おまけに両目が野生開放のように光っては消え、光っては消えと不規則に点滅しており、それを見たゴマは即座にイエイヌの異常を察した。

 

「くそっ‼一体何なんだよ‼」

 

ゴマはイエイヌを抱えたまま浮遊し、少々無理矢理だが一気に加速してクルーザの屋根にイエイヌごと身体を着地させた。

 

「イエイヌちゃんっ⁉︎」

「それどころじゃないだろ‼逃げるんだろ‼」

 

イエイヌの状態を見てともえが叫ぶが、それをゴマが制する。

 

「オイ‼変なボス‼」

『任セロ‼ともえ‼今ハトニカク逃ゲルゾ‼ツイテコイ‼』

 

ゴマの言葉を受けたラモリはクルーザーを一気に加速させる。急加速で飛ばされそうになるのをゴマはイエイヌを片手で抱えたまま、もう片方の手でハッチの取っ手を掴んで踏ん張りを入れる。

 

「……っ‼」

 

イエイヌが心配なともえだが、今はとにかく逃げることが先決だと自分に言い聞かせ、バイクのスロットルを全開にする。暗い中の全力疾走で不安になるが、今はとにかくクルーザーを見失わないように目を凝らすことに集中した。

 

バイクとクルーザーが一気に加速したこと、2台とも光を消した為に見えにくくなってしまったこと、月明かりも無い闇夜で更に視界が悪くなったこともあり、追いかけていたセルリアン達はものの数秒でともえ達を完全に見失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

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セルリアンを完全に撒いたことで、危機を脱したともえ達は一先ずは胸を撫で下ろした。

 

「はぁ……はぁ……っ‼イエイヌちゃんは⁉︎」

「心配ねえよ。寝ちまってるだけだ」

 

ハッとなって声を上げたともえにゴマが答える。ゴマの腕の中にはグッタリとしつつも、規則正しい呼吸を繰り返して眠るイエイヌの姿があった。

 

「よ、良かった……ありがとうゴマちゃん‼」

「だからゴマじゃねえって言ってんだろうが⁉︎」

 

ともえの感謝にゴマが何度目かの声を上げる。

 

「…?おい、何だあれ?」

『ともえ、見エタゾ』

「‼」

 

ゴマが何かを見つけ、同時にインカムからラモリの言葉が聞こえ、ともえは正面を向き直す。

 

『機材ガ無事ダト良インダガナ……』

 

バイクとクルーザーの進行方向には、外壁がボロボロになった1棟の建造物が待ち構えるように存在していた。




【セルリ案紹介】

『しゃりんセルリアン』
・球体状の体の両サイドに『回転する円盤(しゃりん)』を備えた高速移動型セルリアン
・体色は深緑色、(へし)は薄緑色
・1体1体は小型なのだが、最高速は『のりもの』を追いかけられるほどに素早い
・加速能力も高く、動物が走り出してからトップスピードになるまでの時間で最高速になれる
(へし)は体の頂点にある。


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