FGO×ペルソナ (蒼風火影)
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1章:人理継続機関 フィニス・カルデア

 目を開くと自分の部屋の天井でないことに気付く。

 だが、この天井に見覚えがあった。

 ベッドから起き上がるとここが何処か予想通りであることを確認する。

 "ベルベット・ルーム"

 夢と現実の狭間に存在するこの部屋は来る客人によってその姿を変える。自分の場合獄中の囚人、とのことになっている。(理由はあまり説明したくない)

 開かれた扉の先には青の制服に身を包んだ少女が立っていた。彼女の名前はラヴェンツァ。自分の旅を手伝ってくれた愛おしい存在だ。自分が居ることに気付いた彼女は、スカートのすそを掴み一礼して言った。

「ようこそ、ベルベット・ルームへ。お久しぶりです、マイトリックスター。いかがお過ごしでしょうか」

「久しぶり、ラヴェンツァ。俺は元気でやってるよ。竜司達とたまに会ったりしているし、モルガナも家族に気に入られている。心配はしないでくれ」

 自分の言葉にラヴェンツァは嬉しそうに微笑むが、すぐにその表情は暗くなってしまう。

「どうかしたのか?」

「実は……主に習い、貴方の今後を占ってみたのです」

 そう言って彼女は奥の机に目をやる。その上にはタロットカードが置かれており、1枚だけ表になったカードがあった。

 カードに描かれていたのは"塔"正位置の意味は確か……

「"崩壊"の意味を表しています」

「…………」

「貴方方のお陰で、世界は悪神の支配を回避することができました。しかし、今回は更に強力な力が貴方の目の前に立ちはだかるようです。私の手助けも届かないほどに……」

 不安がる彼女の手を取り、俺は言った。

「大丈夫だ、ラヴェンツァ。この先、どんなことが起きようとも、俺は必ず乗り越えて見せる。だから、安心して欲しい」

「……えぇ。信じていますよ、マイトリックスター。貴方の旅のご無事を祈っています」

 そう言ってラヴェンツァは俺の手を放す。それと同時に彼女の姿は無数の蝶となり、飛び出す。

 次に目を開くとそこにはいつもの自分の部屋の天井が見えた。

 

 

  2016年某日某所。1人の青年が商店街を歩いていた。

 彼の名前は天花寺遠矢(テンゲイジトウヤ)

 去年一年色々あって東京の知り合いの所に預けられた。そこで"心の怪盗団"なるものを結成し、多くの汚い大人たちの心を盗み、懐心させていった。

 最後の大仕事を終わらせ、仲間との別れを惜しみつつ、この町に戻ってきたのだ。暫く人の目が気になっていたが、2年前と比べると全然違う。それは自身の成長だけではない。もう一つ理由があった。

『あそこのコロッケは本当に美味いな~トウヤ!ワガハイの好物の中でも上位に入るぞ!!』

 自分のバックから1匹の猫が顔を出していった。

 彼は"心の怪盗団"の一員であるモルガナだ。自分に着いてきて両親に随分と驚かれたが、持ち前の可愛さで二人をオトし、家族の一員となった。今でもバックの中に入って学校等ついてきているが、何故か他の人にバレない。今回もお使いで寄った惣菜屋のカニクリームコロッケをちゃっかりしっけいして(代金はちゃんと置いてきた)ご満悦しているようだ。

「やるなら言ってからにして欲しいな、モルガナ。気付いてなかったら、俺万引き犯になってたぞ」

『お前さんがそんなヘマするような男ではないだろう。それに怪盗を辞めても観察眼はこれからも使えるスキルだ。鍛えておいてもソンはないだろう』

「そうだな。釈放されたとはいえ、まだ公安の眼もあるようだ」

 スマホの内カメラで背後を映す。そこには電柱の陰に隠れている1人の男が見える。彼が公安の者か確信は持てないが、気を付けるに越したことはない。モルガナに目線を送り、足を速める。後ろの気配もついてきているようだ。

「どうだ、モルガナ」

『まだ来てるぜ。このまま家に戻るか?』

「家の手伝いもある。自宅を知られるのは癪だが、行くしかない」

『仕方ねぇな』

 今後の作戦を決め、2人は自宅に急いだ。家に着くと見たことのない靴があることに気付く。

『ハハウエのお客人か?』

「いや。今日は友達も来ないと言ってたはず……」

 よく家に友人を招く母だが、そういう時は必ず連絡を入れるはずだ。連絡のない来客はまずない。いつもと違う家の様子に気を配りながらリビングに向かう1人と1匹。パレスに居る時のように様子を伺うと、そこには一番会いたくなかった人物がソファーに座っていた。

「やぁ!会いたかったぞ、我が弟♡」

「……帰ってたのか、兄さん」

『なぁトウヤ、こいつは「お~、この子が話に聞いていたモルガナか~。うん、可愛い」

 足元から現れたモルガナを兄と呼ばれた男は抱きかかえ、撫でまわす。大の動物好きのこの男にかかればモルガナもすぐにノドを鳴らす。その光景を横目に、遠矢は母に頼まれていた物を渡す。

「あいつが帰って来るから頼んだのか、母さん」

「そうしなきゃ遠矢ちゃん、話きいてくれないもの」

「……ジイちゃんのところ行く」

「おいおい遠矢。せっかく家族全員そろうんだ。一緒に」

 自分の肩に置かれた手を払いのけ、遠矢は兄を睨む。

「何が家族だ!一昨年の事件だって真っ先に疑った癖に今更家族なんで言うな!!」

「それは……」

「……もう、いい。これ以上愚兄と一緒に居たら余計な事言いたくなる」

 置いてあったバックを担ぎ上げ、遠矢はリビングを出て行く。飛び乗ったモルガナは自分の頭を叩きながら言う。

『オイ、トウヤ!ちゃんと説明しろ!アニウエと仲が悪いのか?』

「まぁな。……一番裏切られたくなかった人だったから」

『トウヤ……』

 悲しそうに空を見上げる遠矢にモルガナはかける言葉もなかった。彼の家族の溝は自分が思った以上に深いらしい。

 そう思うモルガナが心配しすぎたせいか、それとも遠矢本人が警戒を怠ったせいか、次の瞬間、何者かに背後を取られてしまう。

「(しまっ!)」

『トウヤをはなフギャっ!』

 後ろの相手に噛み付こうとしたモルガナは無理やりバッグの中に入れられてしまう。公安に捕まっていた時に多少薬に耐性が付いていたが、強力な催眠薬を使われたのか徐々に瞼が落ちていく。

「(俺としたことが……。明日は竜司と遊ぶ約束があるのに)」

 遠のく意識に耐えながら、少しでも自分をこんな目に合わせた相手の情報を得ようとしたが、難しいようだ。

「(こんなことになるのなら、あんな喧嘩なんかしないで、素直に兄さんと話でもすればよかったな)」

 後悔してももう遅い。と思ったのを最後に遠矢は意識を手放した。

 

 

『いつも君には悪い思いをさせてすまない』

 電話の相手である女性は申し訳なさそうな表情をしているだろう。

 毎度のことながら、上に立つ彼女の命令を無視してまで何故自分を利用しようとするのか分からない。

「気にしてないっすよ、美鶴さん。と、言うより俺の方こそこんなにノしちゃって大丈夫なんですか?」

 後ろに転がってる黒服共の山に目を移す。こーいう勝手な奴らが居るから自分は彼女の組織に入りたくないのだ。

『私は君の気持を第一に考えている。それを無視してまで手に入れようとする彼らは処刑されて当然だ』

「そう言ってもらえるなら、俺も楽ですわ。今度こいつらノした詫びに菓子折り持って行きますね」

『むしろこちら側がそうするべきだ。君がそうする理由などないのに』

 困惑するのも仕方ない。相手からすれば自分は迷惑をかけた側の人間だ。被害者の方が謝りに行くのは不思議でならないのだろう。

 俺は少し笑い、電話越しの戦友に言う。

「俺も俺で皆に心配させまくったし、あいつのことも(・・・・・・・)ちゃんと話したいから」

『……』

 彼女は黙ってしまう。やはり話すべきではなかったか?そう思っていたらその後すぐに彼女は言った。

『相変わらず、優しいなリーダー(・・・・)。流石、彼が認めた男だ』

「よしてくださいよ、美鶴さん。俺はアイツの代理なんて到底無理ですよ。そのリーダーって称号はあいつに一番なんですから」

 そう言って空を見上げる。都会のネオンで見えないが、上で輝いている星々に思いをはせる。きっとアイツもこの空を見ていることだろう。

『では後日、他のメンバーも集めて会わないか?私も山岸も今出払っていてね。仕事がひと段落したらになるのだが』

「いいですね、それ!特捜隊の皆には俺からなげときます」

『頼んだ。S.E.E.Sのメンバーには私から伝えておこう。日時は追って連絡する』

 そう言って彼女は電話を切った。通話終了画面を見ながら俺は心躍らせる。S.E.E.SのメンバーとはP-1グランプリ以来の再会だ。あの時空の狭間の迷宮での出来事を思い出し時、メンバーが減って驚いたが、他の人達は元気でやっている。

 彼らにもあの馬鹿の事を知らせなきゃ後々怒られるだろう。

「今から待ち遠しいな」

 暗がりを映す窓に向かって言う。一瞬だが金目の自分がその言葉に返事するように頷いた気がした。

 

 

……—-ゥ

 何か柔らかいものが顔に触れた。

……—-ォウ

 モルガナの猫パンチより優しいその感触に遠矢は癒されていた。

フォウ!

「いたっ!」

 先ほどより強めにやられたため強制的に目覚める。起き上がるとそこはどこかの施設の廊下だった。

「(ここは一体どこなんだ?それに勝手に着替えられてるし……)」

 自分が見慣れない白の制服に変わっているのに表情は出さないが驚く。どうやら自分は何者かによって誘拐されたようだ。

「フォ~ウ」

「?(なんだ?この鳴き声)」

 自分を起こしたであろう声の主を捜す。と同時に後ろに居た別の人物が声を掛けてきた。振り返って見ると眼鏡をかけた少女であった。

「目が覚めましたか?」

「あ、あぁ。君は……」

「名乗るほどの者ではありません」

「え?!」

「いえ、名前はあるのですが、あまり名乗る機会がなかった為にこう、印象的な自己紹介が出来ないというか……」

 そう言って少女は再び首を傾げた。すると自分の頭が重くなるのを感じる。

「そう言えば、この子は?」

 ウサギのような動物だ。鳴き声からして自分を起こしたのはこの子だろう。

「こちらのリスっぽい方はフォウ。カルデアを自由に散歩する特権動物です」

「(リスの仲間なのか。てっきりウサギの仲間かと思った)」

 少女の説明に遠矢は頭に乗ったフォウを放してやる。フォウと鳴き声を上げて彼はそのまま行ってしまった。

「また何処かへ行ってしまいました。あのように特に法則性も無く散歩しています」

「気まぐれなんだな(モルガナと同類だな、あれ)」

「私以外にはあまり近寄らないんですが、貴方は気に入られたようです。おめでとうございます。カルデア二人目のフォウさんお世話係の誕生です」

「あ、ありがとう?」

 話の意図が読み取れず、困惑する遠矢。実に聞きづらいのだが、思い切って聞いてみた。

「所で、ここはどこなんだ?」

「ここは人理継続保障機関『フィニス・カルデア』です」

「カルデア…?日本ではないのか?」

「はい。あの、貴方はマスター候補として呼ばれたのではないのですか?」

 少女の問いかけに遠矢は頷き、今まで自分に起こったことを話す。全てを聞き終わり、彼女は顔を真っ青にして言った。

「そ、そんな……。これじゃぁ我々が訴えられても仕方ありません。先輩、申し訳ございません」

「君が謝ることは無いよ。ちゃんとした大人がきちんとした対応をしてくれればいいんだから」

「先輩は大人ですね……」

「マシュ。ここに居たのか」

 そう言って現れたのは1人の男だ。緑のスーツを着て緑のシルクハットを被った少し怪しい気配を感じる。

「レフ教授!」

「(教授?ここの人間なのか?だがどうしてかこの人からあのペルソナ(・・・・・)の気配を感じる)」

「話は聞いたよ。実にすまない事をした」

 そう言って男は自分の前に手を差し伸べる。握手を求められているようだ。その手を取って遠矢は言った。

「初めまして。天花寺遠矢と言います」

「私はレフ・ライノール。このカルデアの技術者の一員だ。君を連れてきた者は叱るべき処罰をあたえよう。申し訳ないが日本への帰国はもう少し待ってもらってもいいかね?」

「どうしてですか?」

「今から極秘のプロジェクトが開始するのでね。そのごたごたでヘリをすぐに出せないんだ。重ね重ね申し訳ない」

「別に構いませんよ。帰れるのなら俺は大丈夫です」

「ありがとう。マシュ、テンゲイジ君を他の客人の居る部屋へ案内してくれ。彼の荷物や着替えもそこにあるだろう。桐条グループの人間にはもう話は付けている」

「分かりました」

 少女に指示を出してレフは遠矢に一礼すると先程来た道を戻って行った。彼女は自分と向き合い話を進める。

「ではテンゲンジ先輩、部屋へ案内します」

「よろしく。それに名前が呼びづらいなら、下の名前で呼んでいいぞ」

「す、すみません。読み間違えてしまって」

「いいよ、よく間違われるし。君の名前は?」

「マシュ・キリエライトと言います。短い間ですが、よろしくお願いします。遠矢先輩」

 優しく微笑みながら少女―マシュはそう答える。

 部屋までマシュとの話を楽しんだ

 

 

 

「まさか"トリックスター"がここに現れるとは……」

「我々の計画に狂いが生じるだろうか?」

「いや、彼が我らに気付くはずがない」

「心の鎧が魔術の世界で通じるわけがなかろう」

「計画はこのまま進める」

「すべては我が王の為」

 

 

 

「ここがカルデアに協力してくださる方々の居る部屋です」

 案内された大部屋の扉の前。あの時モルガナは自分のカバンの中に押し込められていた。それを考えると彼はここに居るはずだ。

「ありがとう、マシュ。助かった」

「いえ。元々は私たちの不手際が原因。先輩が気になさることはありません」

「それでも感謝している。君に会えてよかった」

 そう言ってマシュの手をとる。彼女は照れながらこう言いだした。

「も、もし、また会えることがありましたら、先輩とお話してもよろしいでしょうか?」

「構わない。正直不安だから、今も一緒にいて欲しいぐらいだ」

「すみません。私はプロジェクトの一員ですので、そろそろ行かないと」

「そうか。それじゃあ仕方ない。また後で会おう」

「はい。また会いましょう、先輩」

 そう言ってマシュは行ってしまった。彼女を見送り、遠矢は覚悟を決めて中に入る。

「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

『ヤメローーーーーーー!ツメが取れるーーーーーーーーーー!』

「サイフォンさん!落ち着いてください!ネコさんが離せません!」

 …………カオス空間が広がっているように感じた。中華服の男が涙目でクリーム色の髪の女性に追いかけられている。モルガナは何故か男の背中に張り付いた状態である。あの叫び声からして服に爪を引っ掻けてしまったのだろう。男の前に立ち動きを止める。

「どけ!童子」

「落ち着いてください。モルガナはむやみに人を襲わない子です」

「お前が飼い主か!何故鞄の中に猫を入れている?!普通入れないだろう!百歩譲って猫が入って来るなら仕方ないが人を襲わないように躾けるだろ!」

 そう言って男は遠矢に掴みかかる。よく見ると所々に引っ搔き傷がある。自分が来るまでに攻防があったのだろう。モルガナを解放した青年が男に向かって言う。

「自分がそないな目におうたのは勝手に寝床のカバン開けたからやろ。この子かて主人がおらん上訳の分からんところに来たんや、パニックになってもおかしゅうないやろ」

「うっ……!」

「ちゃーんとご主人と再会したんや。もう暴れたらあかんよ」

 モルガナの頭を撫で、青年は遠矢に返す。彼に感謝の言葉を伝えるとこう返ってきた。

「えぇよ。こうゆうの自分慣れとるさかい。君が桐条さんが言うとった子やろ?本人居るから、呼んだるわ」

「すみません。色々」

「同じ日本人なんや。手ぇ貸すのは当たり前やろ。オレは勝呂龍二。自分はなんちゅーなん?」

「天花寺遠矢です」

 遠矢の言葉に青年―勝呂は少し驚いた表情をする。

「どうしたんですか」

「あぁ……すまんのん。知り合いに名前が似とったんや。苗字で1人、名前で1人」

「名前はよくありますが、この苗字で似ている人が居るなんて珍しいですね」

「せやな。案外世間は狭いもんかもしれへん。ほな、まっとき。すぐ連れて来るさかい」

 そう言って勝呂は奥で纏まっているグループの中へ行ってしまった。彼を見送り一息入れると今まで黙っていたモルガナが口を開いた。

『今のあいつ、ペルソナに似た気配がしたぞ』

「お前も感じたんだな。ここに来る前にも1人あった」

『あいつだけじゃない。ここに居る奴らの殆どから普通の奴らと違う気配を感じる。厄介な場所に来ちまったぜ、全く』

「でも、悪い人だらけではなさそうだ」

 勝呂もそうだが、先程会ったマシュも見た感じ良い人だった。ここに居る全ての人間が悪人ではないことを信じたいのが本音である。辺りを観察していると勝呂が1人の女性を連れて来る。

「天花寺君、彼女が桐条さんや」

「桐条美鶴だ。今回の件は本当に申し訳ない」

 そう言って頭を下げる美鶴。桐条グループのトップがこんな一般の高校生に頭を下げるなんて、なんだかこちらの方が悪く思ってしまう。

「頭を上げてください。その様子だと貴女が命令して連れて来たというわけではないみたいですし、ちゃんとした謝罪もしてくれたし、家に帰れれば俺は大丈夫ですよ」

「そう言ってもらえるのは助かる。後日、改めて謝罪に行かせてもらうよ」

『お前、お人好しすぎないか?』

 ジト目で言ってきたモルガナに遠矢は2人に聞こえないように耳打ちする。

「ここで話すと色々と厄介だ。それに……桐条グループが着た時の両親の対応が見てみたい」

『トウヤ、今すごい悪い顔してるぞ』

 彼に言われ遠矢は咳払いをする。思わずジョーカーとしての顔をしていたようだ。この顔は一般人に向けるのは忍びない。

「あの、聞いていいんでしたら、ここがどんな事をする施設か教えてもらえませんでしょうか?極秘とかでしたら無理に聞きませんけど」

「そら気になるわなぁ。無理矢理とは言え、マスター候補生として呼ばれたんやし、知る権利はあるやろ」

「レフ教授にも了承は得ている。我々の知る限り君に教えよう」

 そう言いだし、美鶴はこのカルデアについて説明を始める。にわかに信じられない内容であったが、要するにここは世界の平和を守る国連の極秘施設ということだ。

「君がここに連れて来られたのは、ここでの戦う力を持っているという事だ。当初の予定では私の友人がここに来るはずだったのだが、何分彼は大きな組織に入るのを嫌っていてね、見事にフラれてしまったよ」

「そうだったんですか……」

『トウヤと同じ力……。まさか、"トリックスター"の素養のある者なのか?』

「分からない。桐条さんの表情を見る限り話の人物は多くの修羅場を潜っているはずだ」

 モルガナの言葉にそう返す。美鶴が一目置いている人は一体どんな人なのだろう。会ってみたいな。そう思った次の瞬間、部屋の電気が突然落ちる。

「停電?!」

「一体どうし」

 近くにいた男の言葉が言い終わる前に部屋の中が閃光に包まれる。そのすぐあとに大きな爆発音と風が自分達を襲った。

『ふにゃぁぁぁぁぁ!』

「爆発?!(この感じからして、すぐ近くか?)」

 サードアイで周囲を確認すると多くの人たちがあの爆風でひっくり返ったり、大怪我をした者も見える。美鶴と勝呂は無事なのか?心配していると爆風で飛ばされたモルガナの声が聞こえた。

『トウヤ!無事か?!』

「モルガナ!桐条さん達は?!」

『男の方はわからんが、女の方は怪我している!出来るかどうかわからんが、やるしかない。来てくれ……!ゾロっ!』

 モルガナの叫びに答え、青い炎と同時に現れた彼のペルソナが美鶴を回復する。その様子を見ながら遠矢は言った。

「すごいな、モルガナ。現実世界でもペルソナが出せるなんて」

『ラヴェンツァ様と色々特訓したからな!……だが、今のワガハイでは止血するのがやっとだ。すまない、トウヤ』

「いや、十分助かる。勝呂さんは?」

 辺りを再度確認する遠矢。一緒に居たはずの彼が居ないのはおかしい。まさか先程の爆発でもうやられてしまったのだろうか?

「あの坊さんなら、ものすごい剣幕で出て行ったぞ」

「それ、本当ですか?!」

 自分の疑問に答えたのはモルガナとひと悶着あったあの中華服の男だ。彼は美鶴の手当てをしながら言葉を続ける。

「外の爆発であった所に職員として入った友人がいるんだと。魔術協会の女と一緒に出て行った」

「どちらの方に行きましたか?」

「出て右の方だ。プロジェクトに参加する奴は全員そっちに居るはずだ。ミス桐条はこっちにまかせてお前も行け」

「俺なんかが行っていいんですか?」

「お前なら、何とかしてくれる気がする。あの使い魔ととっとと行け!」

「分かりました。桐条さんと他の人をお願いします!」

 彼にここをまかせ、モルガナと共に部屋を出る。外は所々爆発で破壊されていた。

『こいつはひでぇ。よほど多くの爆弾が仕込まれていたんだな』

「マシュは大丈夫なのだろうか?」

『お前が会った職員の女の子か。巻き込まれてなければいいと思うが、これを見る限り無事とは言い切れないな……』

 走っていると目の前に大きな扉が見えてきた。扉が開くとそこはもう火の海になっていた。

『不味いぞ、トウヤ!ここは危険だ!引き返すぞ!』

「待ってくれ!ここに誰かいる!」

 サードアイで見ると、確かに誰かがここに居るように感じた。逃げ遅れた者だと思い、遠矢は危険を省みず奥へ進む。

『待てッ!ったく!本当に無茶ばっかする野郎だぜ!!』

 悪態をつきながらモルガナも後を追う。

 —隔壁閉鎖まで あと 40秒

     中央区画に残っている職員は速やかに—

 緊急時のアナウンスが部屋中に響く。40秒で閉鎖か。少し厳しいな。

 —システム レイシフト 最終段階へ移行します。

  座標 西暦2004年 1月30日 日本 冬木—

『なんだ、このアナウンス』

「様子がおかしい。戻るぞ、モルガ、な」

 アナウンスの様子から戻ろうとする遠矢の目の前に見えたのは傷だらけのマシュだった。どうやら逃げ遅れたのは彼女だったらしい。……だが。

「(この傷じゃ、モルガナが居てももう……)」

「……はい。ご理解がはやくて、たすかります。だから、遠矢さんも、早く」

「いや、もう間に合わない」

 遠矢の言う通り、閉鎖のアナウンスが流れた。もう自分達も出られないようだ。

『トウヤ!あれ!』

「!モニュメントが赤くなっていく……!」

 中央に置いてあったモニュメントが徐々に赤く染まっていく。それはまるで燃え滾るマグマのようだった。

「これは、一体……!」

 —近未来 百年までの地球において

  人類の痕跡は 発見 できません

  人類の生存は 確認 できません

  人類の未来は 保障 できません—

「カルデアスが……真っ赤になっちゃいました……」

「カルデアス?(あのモニュメントのことか?)」

 赤くなったそれを見上げる遠矢。アナウンスはまだも続く。

 —コフィン内のマスターのバイタル基準値に達していません

  レイシフト定員に達していません

  該当マスターを検索中・・・・発見しました

  適応番号48 天花寺遠矢をマスターとして 再設定 します。—

『なにぃ!トウヤをどうする気だ!』

 モルガナの叫びなど無視してアナウンスは自分達を置いてくように設定を進めていく。

「……あの……せん、ぱい」

 周りが光に包まれていく中、意識をなんとかもってマシュは遠矢に願う。

「手を、握ってもらって、いいですか?」

「……あぁ。勿論だ」

 少女の願いを聞き、弱弱しく握られた手を強く握り返す。

 —全行程完了(クリア)

  ファーストオーダー 実証を 開始 します。—

 アナウンス終了と同時にまるでパレスに入った時のような感覚に襲われたのだった。

 

 これが、反逆の怪盗が世界を再度挑む物語の序章。

 彼の運命は動き出したのだ。

                    to be contined



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序章:特異点F
2章:サーヴァント/ペルソナ


早速ですが、2話更新です。


 焦げ臭い臭いで遠矢は目を覚ました。一体どこからこんな臭いが?そう思い、起き上がって辺りを確認して絶句した。

「どう、なっている…?!」

 周りが火の海なのは気を失う前と同じなのだが、場所が違う。確かに自分は施設内に居たはずなのに何故か今は屋外に居る。

 一体何がどうなっているんだ?

「フォウ!」

 その声と同時に肩に重みがでる。その正体は分かっていた。マシュと共に会った白い獣、フォウである。

「何故お前がここに?…まぁいい。それより、マシュとモルガナは?」

 遠矢の言葉に反応するように一鳴きした後、自分の肩から降りたフォウは先へと進んでいく。どうやら案内してくれるようだ。

「(今は情報が少なすぎる。追いかけた方がいいようだ)」

 怪盗の時の勘はこういう状況の時には信用できる。とりあえず追いかけることにした。

 進めば進むほどこの町の現状が分かっていく。町中に至る所火の手が上がり、建物は大きく破損している。何より、ここに来てからというもの、人の気配が全くしないのだ。これは明らかに異常である。

「!!」

 フォウが立ち止まった先に遠矢は驚く。そこには武器を持ったガイコツの群れが会ったのだ。RPGじみた光景に思わず固まる彼にフォウはまた肩に上って頬叩く。

「そうだな。気を付けないといけないのに……。ありがとう」

 礼を兼ねてフォウを撫でで遠矢は改めてガイコツ—ボーン・ソルジャー達を見る。数は5。持っている獲物は剣と槍の近接系。こちらが見付かってすぐに攻撃をされることは無いだろう。対してこちらの武装はカルデアで支給されていたであろう制服のみ。ペルソナはあの最終決戦以降使えないのである。そう考えると、今のままでは確実に負けるのが目に見える

「(下手に戦闘するより、迂回した方がいいだろう)」

 そう思った次の瞬間、背後に殺気を感じる。すぐさま今までいた所から離れると、そこ目掛けて無数の矢が放たれる。

「クッ!」

 放たれた矢の威力が大きいのか、体制を崩される。この矢は普通ではない。パレスの主の攻撃並みにある。

「フォフォーウ!」

「!!」

 フォウの声に後ろを見るとソルジャー達が先ほどの攻撃に気付いたのかこちらへ向かってくるのが分かった。離脱しようにも視界外からの攻撃もまた来ると考えられる。絶体絶命のピンチだ。

「(覚悟を決めるか…!?)」

 一か八かの賭けに出ようとしたその時、自分を守るように立つ、1つの影。

「―――――――――っ!」

 自身に止めを刺すかの如く放たれた無数の矢から、自分とフォウを守る影。矢の嵐を乗り越え、その影の正体が分かった。

「お怪我はありませんか?マスター」

「マシュ、なのか?」

 黒い鎧に身を包み、身長より大きな楯を持った少女。間違いない、あの時出会ったマシュ本人である。余りの変化に開いた口が塞がらない。

「ここは危険です。離脱を試みますので、私のそばから離れないでください!」

「わ、分かった」

「行きます!」

 盾を持ち、ソルジャー達へ立ち向かうマシュ。その後ろを遠矢とフォウが追いかける。迫りくる敵をちぎっては投げるように(それ)を使う彼女を見て少し不安になる。それが分かったのか、マシュは言った。

「大丈夫です。このくらいなら、まだやれます」

「無理だけはしないでくれ。…!またあの雨が来るぞ!」

 遠矢の言葉通り、あの矢の嵐がまた来た。マシュは防御に徹するが、無数に湧いてくるソルジャー達は矢など気にしないようにこちらへ向かってくる。

「(このままでは、マシュの体力が持たない。やはり、賭けにでるしか…!)」

 ペルソナが出せなくても、戦闘に参加はできる。破壊されたソルジャー達から奪った剣ならある程度なら耐えられるはずだ。そう思い、遠矢は行動に出た。

「!マスター!危険です!!」

 マシュの静止を無視し、ソルジャーの残骸の中に入る。矢の雨によって破壊された物も多々あるが、まだ使えそうだ。

「!?」

 手にした剣を持つソルジャーの手が動いた。まだ息(?)がある者だったようだ。剣を奪い、それと対峙する。すると、落ちていた骨が合わさり、今まで戦っていたソルジャー達以上の大きさになる。それはまるでゴーレムのようにも見えた。

「マスター!逃げてください!」

 他のソルジャー達に対応していたマシュが叫ぶ。だが、時はすでに遅し。ゴーレムは遠矢を敵とみなし、襲いかかってきた。

「クッ!」

 初めの一撃は剣で受け流すが、その威力で体は吹っ飛ぶ。強力な攻撃だったのか、それとも元々剣の強度がなかったのか、持って居たそれはポッキリと折れ、使い物にならなくなる。それをチャンスと見たかゴーレムは追撃の為に両手を振り上げた。

「先輩っ!」

 助けに行こうとするがソルジャー達が邪魔して、そばに行けない。マシュは悔しさでいっぱいだった。

「(こんな所で死ぬわけにはいかないんだ!)」

 振り下ろされるゴーレムの腕に遠矢は思う。すると突然、懐かしくも不思議な感覚を彼は感じる。

 

― 大丈夫です。マイトリックスター ―

― 遅くなりましたが、貴方に再び戦う力を ―

― どうかもう一度、世界を救ってください ―

 

「(ラヴェンツァ!)」

 時が止まった世界で見えた青い蝶。それは瞬く間に消え、一枚のカードとなる。

 表には剣を持つ鎧の騎士。裏には見慣れた愚者のアルカナ。

 カードは青い炎に包まれるのと同時に別の形へと変わっていく。

「これは、一体……?」

 目の前の光景にマシュは目を奪われる。炎が消え、カードの代わりに現れたのは学ランのような服に身を包んだ仮面の男だった。持って居た太刀でゴーレムの腕を払いのけ、刹那の剣戟でそれを沈黙させた。困惑する遠矢の姿を見て、男はこういった。

「我は汝、汝は我。我、汝の信念に呼ばれ召喚に応じた者。聞こう。汝が(オレ)(マスター)か?」

 

 

 気が付いたら自分は可笑しな空間に居た。あいつと喧嘩した宇宙空間に似て否なる場所みたいだが、ここは一体どこなんだ?

『ここは主の心の海。我らが居る空間だ』

 聞き覚えのある声に振り返るとそこには自分のペルソナが立っていた。

― なんでお前がここに?てか、俺はどうなった?!ま、まさか、もうあいつのs『落ち着け。今から色々説明する』アッ、ハイ。 ―

 もう1人の自分にそう言われ、冷静さを取り戻す。みんなのリーダー役を引き受けていたが、パ二くることだってある。みんなが居て漸く一人前が俺なんだ。それが分かっているペルソナ(おれ)は一から全部教えてくれた。今世界で起こっている事、自身の身に何が起きたかという事。全部言ってからこう切り出した。

『助かる為にはこれしかない。主には色々と厄介を掛けるが』

― いいぞ ―

『即答?!いくら何でも早すぎないか!?』

― 何驚いてんだ、俺。お前も知ってるだろ?俺はお前で、お前は俺。どっちが表になろうが関係ない。思考も同一化してんだし、それが最善策ってんなら、しゃーないだろ ―

『本当に……いいのか?』

― あぁ。それで、誰かの助けになるんだろ? ―

『……かたじけない。力を取り戻すまで、暫くここに居てくれ』

― ゆっくりでいいぞー。……ま、俺も人のこと言えないけど ―

 俺の言葉を聞いてペルソナ(おれ)は光の方へ向かって行った。今の自分には何もできない。信じて待つしかなかった。

 あとは頼んだ、————――――イザナギ

 

 

 目の前に現れた、意思疎通の出来るペルソナ―イザナギ。彼のお陰であの場をしのぎ、現在はマシュに色々詳しいことを聞くべく、一行はとある家の居間らしき部屋に居た。

「えっと、何処から話しましょうか?」

「出来れば、初心者でもわかりやすく、魔術の事を教えてくれ。俺の知るものとどうやら違うようだから」

「分かりました。では、私の知る一般的な物を説明します」

「お願いします」

 遠矢はそう言って一礼し、マシュは説明を開始する。それを聞く限り、どうやら自分の知るものとはだいぶ違うようだ。まるで小説などに出てくるものに近い。双葉が居れば、間違いなく興奮していただろう。…所で、ペルソナは彼女の知る魔術に入るのだろうか?その質問をぶつけてみると、首を傾げ言った。

「ぺる、そな、ですか?すみません、マスター。私は初めて聞く魔術です」

「そうか。ペルソナっていうのは」

「自身の心を力として使う術だ。己の弱さと向き合って初めて手に入る力。他の方法もあるのだろうが、(オレ)の主や仲間たちはそうであった。」

 自分の説明を遮り、答えたのはなんとイザナギであった。まさか答えるとは思っても居なかっため、固まってしまった。

「すまない。(マスター)が答えずらそうと思い、口を挟んだ」

「気にしてないさ、ありがとう。所で、君はラヴェンツァと」

(オレ)は盗み聞きは好かん。いい加減出てきたらどうだ」

 イザナギの言葉に反応してか、辺りから黒い靄が出て来た。その靄は集まっていき、人型へと変わっていく。

「我らの存在に気付くとは……中々の実力者とお見受けする」

「色々と場数は踏んでいるのでね、少々異様な気配には敏感なんだよ。マシュ殿、(マスター)を頼む」

 黒い太刀を出現させ、彼はマシュにそう言ったが、彼女は一歩前に出て言った。

「いえ、私も一緒に戦います。デミサーヴァントですが、力になれるはずです」

「そうか……。なら、行動は任せる。その代り、(オレ)も好きに動くからな」

「はい!マシュ・キリエライト!行きます!」

 彼女が駆け出すのと同時に靄の陰に隠れていたのか、それともあの靄が呼んだのか、先程のソルジャーが何体か現れる。それらの相手をしながら、一行は室外へ移動していく。

「多勢に無勢の勝利が欲しいのか?お前たちの主は随分と小さい者だな」

 影本体に戦いを挑むイザナギにそれはニタリと笑うように言った。

「我らは主の命令に従うのみ。おぬしらに勝利などない!」

「なに…?!」

「マスター!更にエネミーが!」

 マシュの言葉で前を見てみると、新たな黒い靄とその後ろにはラミアの大群が。このままでは、こちらが不利になる一方だ。どうするか考えている次の瞬間、巨大な竜巻が敵一団に襲い掛かる。

「この風―!モナなのか?!」

「おぅ!その通りだぜ、ジョーカー!」

 遠矢の声に答え、現れたのは1匹の黒い猫―いや、猫と言うのは些かおかしい。何せ2頭身で頭にマスクを被り、2足歩行しているのだ。マシュは驚きを隠せず、イザナギはじっとその猫モドキ―モルガナを見ていた。遠矢のそばに来て、彼はこういった。

「全く!ようやく見付けたぞ!気が付けば、さっきの場所じゃないし、お前は何処にもいない!しかも、ワガハイは何故かこちらの姿になっている!説明して欲しいぐらいだ!」

「まぁまぁ。とにかく、無事でよかった、モナ。再会の所悪いんだが、彼らと協力してここを切り抜けて欲しい」

「分かった。ワガハイも本調子ではないが、力を貸す。2人共、力を貸してくれ」

「は、はい!分かりました!私は、マシュ・キリエライトです!」

(マスター)の知り合いなら、信用は出来る。イザナギだ、猫の御仁」

「ネコじゃねぇよ!…ワガハイはモルガナだ!いくぞ!」

 モルガナの言葉で戦闘は再開される。多くのエネミーがこちらに向かってきたが、彼のペルソナによって出された魔術で吹き飛ばされる。それを見たマシュはこういった。

「先程の風はモルガナさんの物だったのですね!」

「あぁ。マシュ、今のうちに!」

「はい!」

 イザナギとモルガナの開けた空間を利用し、二人は外に出る。それを追う2つの影。その1つと交戦するイザナギに靄は言った。

「貴殿は戦いに慣れているようだが、どうやらサーヴァントとしてはまだその少女と同じ新人のようだな」

「それがどうした」

「宝具も解放できない英霊など、おそるるに足らん!ここで、消えるがいい!」

 勝ちに急いだか靄がナイフをイザナギに向かって投げる。が、全てマシュの盾に防がれる。

「助太刀、感謝する」

「いえっ!行ってください!イザナギさん!」

 盾を足場にイザナギは高く跳ぶ。太刀を構えてから彼は言った。

「少し本気を出そう。マシュ殿、皆を頼む。―———"アグネヤストラ"」

 刀を振ったのと同時に無数の隕石がここ一体に降り注ぐ。敵味方を巻き込んだ大技に遠矢とモルガナは急いでマシュの盾の中に逃げ込んだ。

「あいつ、もしかしてあの靄の言ったことに怒ったのか…?仮面で表情わかんないが、あれぐらいの事気にする奴なんだな」

「プライドが高いのでしょう。私の知る限り、イザナギさん、日本の始祖神ですし……」

「いや、あれはプライドと言うより、八つ当たりに近い気もするが……。とにかく、そっとしておこう」

 遠矢の言葉に2人は了解したというように頷いた。その頃には隕石の雨も止んだ。あの攻撃によって消滅した靄の武器を蹴り飛ばし、イザナギは言った。

「英霊の影如きがいい気になるな。カウンター持ちになって出直してこい」

「戻ってこなくていいって。それにしてもお前、強いな!ジョーカーといい勝負になるぜ!」

 そう言って近づいていくモルガナ。彼に称賛に首を横に振り、イザナギは言葉を続ける。

「いや、(オレ)はまだまだだ。今の現状では(マスター)にも敵わないだろう」

「そんな事はない。俺がペルソナを使えても勝てるかどうか……」

「今は、だろ?悪神を倒したトリックスター殿なら、すぐに追い越せるさ」

「(悪神のことまで知ってるのか。このペルソナ、何処まで知ってるんだ…?)」

 イザナギに対して少し疑問を持ったが、その考えは悲鳴によって吹き飛んでしまう。

「今の悲鳴…!」

「知ってるのか、マシュ」

「はい!カルデアの所長、オルガマリー・アニムスフィア所長がこの近くにいます!」

 

 

― どうして?どうしてどうしてどうして! ―

― ここは一体何処なの?!レフは?カルデアはどうなったの!? ―

 敵から逃げながら少女―オルガマリーはそう思った。先程までカルデアに居たのに、気が付くとそこは火の海。崩壊した街を彷徨っているとサーヴァントらしき者の狩場に入ってしまったらしく、只今絶賛追い駆けっこ中である。

― こんな所で死にたくない! ―

― 助けて!助けて、レフ! ―

 どんなに祈っても殺意はこちらに向かってくる。鎖の音は今なお響く。逃げた先は川。そして、自分を閉じ込めるように鎖は四方八方に広がる。

― もう、ダメなのかしら…… ―

 目の前が真っ暗になる。諦めかけたその時、自分を守るように誰かが前に立った。

「もう、大丈夫だ」

 そう言ったのはくせっ毛の自分より年下に見える少年。その姿が一瞬、何故か黒いコートを着た仮面の男に見えた気がした。

 

「あそこだ!ジョーカー!」

 モルガナが指差したところには白髪の女性が今まさに襲われる瞬間であった。

「モナ!イザナギ!」

「了解した」

「任せろ!」

 モルガナの術を纏ったイザナギの剣撃が襲おうとした英霊に諸に決まった。敵が身動きが取れないうちに女性の方へ遠矢は駆け寄る。

「もう、大丈夫だ」

「あなたは……?」

「所長、お怪我はありませんか?」

「マシュ?!どうしたのよ、その恰好!…って言ってる場合じゃないわ。前見なさい!」

 オルガマリーの言葉に2人は後ろを見るとそこでは激戦が繰り広げられていた。イザナギ達と間合いを開け、槍を構えながら、ローブの女は言った。

「おいしそうな(エサ)だけでなく、上質そうな英霊2体と初々しい子まで……。こんなに多く見つけるなんて、私にしては実に運がいい」

「先ほどの奴らとは全く違う。モナ、下がっていろ」

「1人でやるつもりか?!危険だぞ、イザナギ!」

「あの槍で傷つけられれば、(オレ)もお前もひとたまりもない。魔術での援護を頼む」

「逃がしませんよ!」

 サーヴァントが操る鎖が2人を襲う。蛇のような動きに翻弄され、苦しめられていく。この攻撃によけきれなかったモルガナが遠矢達の所まで吹っ飛ばされる。

「しっかりしろ!モナ!」

「す、すまねぇ……ワガハイ、もう動けそうにねぇ……」

「マスター!伏せてください!」

 マシュに言われた通り伏せると、頭上を鎖が通った感じがした。あのままの体制であったら、あの鎖に首を撥ねられてたと思うと背筋が凍った。自分とオルガマリーを守るマシュにも前でサーヴァントを牽制しているイザナギにも疲れが見え始めて来た。

「そろそろとどめを刺しましょう。優しく、殺してあげましょう」

「まだ…倒れるわけには……」

『いい覚悟だ、嬢ちゃん。英霊としてはまだまだだが、心意気は十分にある』

「この声は……」

 先程の声に警戒を見せるサーヴァント。すると視界外から飛んできた火の玉が彼女を直撃する。

「あ″ぁ″っ!この技…キャスターか!何故、彼らに味方する!?」

「テメェらなんかと共闘するよか10倍もマシと思ったからだよ!」

 そう言って現れたのは水色のローブを身にまとった男。あのサーヴァントがキャスターと呼んでいたのを見ると、彼は魔術師のようだ。すると彼は遠矢の顔を覗き込むように見て、言葉を続ける。

「坊主、あんたがあいつらの……って見知った顔じゃねぇか。久しぶり、だな」

「え……?」

「おい、お前!ジョーカーを知ってるのか?!」

 困惑する遠矢に代わってモルガナが男に聞く。すると彼はローブのフードを外していった。

「そりゃあ、オレもこいつに使われたからな。アルセーヌの次に愛用して、お前さんのライバルも使ってた奴って言えばわかるだろ?」

「もしかして、クー・フーリン、なのか…?」

 自分の答えに頷く男。自分の知るクー・フーリンと顔つきは違うが、共に戦っていたからよくわかる。この人は自分の知るクー・フーリンだと。思わぬ再会に遠矢は驚きを隠せない。

「その姿は、一体」

「詳しい説明は後だ。敵さん足止めしてるイザナギももう限界だろうしな」

 そう言ってクー・フーリンは空中に不思議な文字を描き、そこから出た火の玉をまたサーヴァントに向かってぶつける。イザナギの隣に行くと、彼は自分を睨みつけながら呟く。

「遅い。お前なら、もっと早く来れるだろ」

「何にイラついてるのか知らねぇが、センセイの口調になってるぜ、イザナギ。奴はオレの獲物だ。美味しい所は持ってくぜ」

「好きにしろ」

 バトンタッチしサーヴァントと向き合うクー・フーリン。そんな姿を見て彼女はイラつきながら言った。

「魔術師風情が!詠唱する暇など与えるものか!」

「さっきの見てなかったのかよ!そぉら、喰らいな!!」

 火の玉が雨、霰のようにサーヴァントを襲う。技を喰らい、徐々に後ずさる彼女があるポイントに足を掛けると同時に彼女を巻き込んで火柱が上がる。

「あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″!!」

「今だ、嬢ちゃん!」

「やぁ!」

 いつの間にか敵との間合いを詰めたマシュは大きく跳び、火柱事盾でサーヴァントを切る。その攻撃が止めになったのか、彼女は光となって消えた。

「やるじゃねぇか、嬢ちゃん」

 そう言ってマシュの腰に手を回そうとしたクー・フーリンだが、イザナギがその手をつねり、その行為は未遂に終わった。

「いてぇじゃねぇか!」

「当店でのセクハラ、および逆ナン行為は禁止されております。次やったらメギドラオン(EXアタック)だからな」

「一番聞こえたくない単語が聞こえたんだけど?!お前やっぱりセンセイ入ってるだろ!?」

「色々と話したいが、とにk『ビンゴォー!よぉやっと通った!』」

 遠矢の言葉を遮って腕についていたブレスレットから声と電子画面が現れる。そこに映っていたのはあの時探していた勝呂だった。彼は画面外に居るであろう人物に向かって言った。

『どぉや山野!オレだってこんなメカぐらい動かせる言ったやろ!ドヤァ!』

『ハイハイ、分かったから、さっさとこっちの要件言え。相手固まってるぞ』

「勝呂さん、なのか?」

『せやで、天花寺君。あんさんも無事でよかったわ~。あっ!トーヤ、こっちつなごーたから、ドクターと桐条さん頼むわ』

 画面内で嬉しそうに笑い、他のカルデア職員と話す彼に遠矢は安堵の溜め息を漏らす。本当に無事でよかった。そう思っていると、今まで空気のように忘れられたオルガマリーが声を荒げて言った。

「ちょっと!そこの退魔師(エクソシスト)!どうして貴方が指令室に居るのよ?!」

『うぉっ!所長さん生きとったんかい?!あんだけのこと有ったのに、よぉ無事やったな~お互い、悪運高いんやな』

「いいから答えなさい!」

『代われ勝呂。俺が言う』

 勝呂を画面外へ追いやり、入って来た1人の男。褐色の肌に白髪で真鴨色の瞳の体格のいい青年だ。その近寄りがたい姿に遠矢は少しだけ見入ってしまった。彼の顔を見て顔を歪めたオルガマリーは改めて言った。

「ミスター・ヤマノ、貴方の持ち場は指令室(そこ)ではないわ。すぐにレフと代わりなさい」

『それが出来りゃすぐにやってますよ、クソ所長。―—現状報告。カルデアの機能はほぼ壊滅。現在確認出来る生存者は全体の四割弱。裏切り者のせいでここはもうそっちバリに地獄と化してる』

 彼の報告に一同は驚きを隠せなかった。どこからか悪魔の笑い声が聞こえたような気がした。

 

                  to be contined



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3章:特異点/聖杯戦争

 

 カルデアからのショッキングな報告に一同は驚きを隠せなかったが、モルガナの提案で互いの今までの情報を交換し、整理することとなった。安全が確認できた陸橋の下、クー・フーリンのルーン魔術による結界も張り終わり、きちんと情報の整理が出来る環境が整った。

「じゃぁ、ロマニ。きちんとした報告をお願い」

『分かったよ、オルガ』

 そう言って優しそうな男性職員―ロマニ・アーキマンがカルデアで起こったことをすべて話してくれた。

 実はマシュと一緒に居たあの場所には他のマスター候補達も一緒に居たのだ。コフィン内のマスター候補達はあの爆発によって生死を彷徨っている。美鶴の独断の指示でその人達をコールドスリープの状態にし、何時でも助けられるようにしたそうだ。そのやり方にはオルガマリーも賛同してくれたが、指示したのが魔術師ではなく、民間のオーナーだったことが気に食わなかったようだ。

 そして、このことを外部に報告しようとしたところ、通信が何処にも届かなかったことを遠矢達は知らされる。これも敵の策略のようで、今先程会った山野と呼ばれた技術者と美鶴の部下の山岸が通信系統を治しているそうだ。勝呂もその手伝いをしていたらしく、この通信はその時直ったものだそうだ。

「でも、勝呂さん。それならどうしてこのまま話を聞いているんですか?忙しいはずなのに」

 通信画面内に居る彼に遠矢は質問すると、こう答えが返って来た。

『山野に「代わりに話聞け」って言われたん。あいつもなんやかんやで君らの心配してんねん。絶対顔には出さへんけど』

「信頼してるんですね」

『中坊からの腐れ縁やしのぉ。仕事でもよう相方(バディ)組んどるし、なんやかんや仲えぇんやわ』

 なんだか自分と竜司の関係のようだと遠矢は思った。自分のこの状況も大変だが、彼や他の怪盗団の安否が心配になる。それを感じたのか、クー・フーリンが自分の頭を撫でて言う。

「大丈夫だろうよ。お前の仲間なんだ、そう簡単にくたばらねぇよ」

「クー・フーリン……。ありがとう」

『じゃあ、そろそろ僕らも聞きたい事があるんだけど。いいかな、遠矢君』

 ロマニの言葉に遠矢の目付きが鋭くなる。きっと自分のこれまでの事を聞かれるのは予想できた。覚悟を決めて美鶴の言葉を待つ。

『君は……ペルソナ使いなんだな。そこにいる、モルガナ君と同じ』

「えぇ。そして元"心の怪盗団 ザ・ファントム"のリーダー、コードネーム:ジョーカーは俺の事です」

「心の、怪盗団?」

 驚くオルガマリー達とは違い、首を傾げるマシュにモルガナは胸を張って答えた。

「ワガハイ達は世の中に居る汚い大人を改心させる怪盗団なのだ!前までニュースで話題になったんだが、知らないのか?」

「すみません、あまりそういう話題に興味がなかったので……。でも、すごいです!人々を改心させることが出来るなんて!」

『だがそれは、一歩間違えたら、人を廃人化させることにもなる。資料でしか見ていないが、君達は私が思っていたほど危険な集団ではなさそうだ』

「そう思っていただけるなら、こちらもいい関係が築けそうです」

 そう言って遠矢は美鶴と向き合る。すると突然時が止まるような感覚に襲われる。この感じは見覚えがあった。

 

   【女帝:桐条美鶴とコープを結んだ Lv.1】

   【"女帝"のアルカナを持つサーヴァントと縁が結びやすくなった】

   【『マスターの号令』を覚えた】

 

 どうやら以前と違うコープを手に入れたようだ。今回も多くのコープを結べばこれからの役に立ちそうだ。そう考えていると心配そうな表情でロマニは言う。

『と、遠矢君?どうしたんだい、そんな怖い顔して……』

「すみません、怖かったですか?(また、顔に出てたんだな……)」

『いや、多分それが怪盗としての顔なんだなって。君のことはまた後で詳しく聞かせてもらうとして、次の話題に行ってもいいかい?』

「はい、構いません」

 遠矢の返答を聞いてロマニは話を次にする。自分の話題になると思い、クー・フーリンは口を開いた。

「オレ達の聖杯戦争の事だな、優男」

『や、優男?!そんなに僕、ナヨナヨしてるかな……』

「そういう所よ、ロマニ!貴方がいるとこっちは真剣な話をしてるのに気が抜けるのよ!」

 オルガマリーの言葉にロマニはそんなぁ~。と言って涙目になる。少しの談笑で場の空気が和んだところで本題に移る。

「オレ達の聖杯戦争は狂っちまった。ある日突然街は火の海となり、人々は消えた。オレらの本来のマスター達もな」

「それで人の気配がしなかったのか」

「聖杯戦争を再開したのはセイバーだ。(やっこ)さん、水を得た魚のように暴れ出してね。アーチャー、ライダー、ランサー、アサシン、バーサーカーの順に倒して行った。あいつに倒された奴はさっきみてぇな汚染された状態に何でかなっちまう」

「成程。だからあのような姿だったのか。我々の知る"シャドウ"に近い物か」

「多分それに近い物だろうな。それにそのセイバーって奴、相当の手練れみたいだ」

 イザナギの言葉に共感し、そう言ったモルガナは考え込む。元の時代に戻るには戦いは避けられないようだ。

「ランサーはさっき倒した。イザナギとモナの話を聞く限り、アサシン、ライダーは撃破済み。バーサーカーはこちらが手を出さなければ襲ってくることは無い」

「では、アーチャーとセイバーを倒せば、この聖杯戦争はおわるんですね!」

 マシュの言葉に頷き、クー・フーリンは言葉を続けた。

「セイバーの居場所はもう分かっている。でだ、オレと取引しねぇか?」

「取引ですって?」

「オレはセイバーを倒したい。お前さんらはこの特異点とやらを調査したい。互いに利害は一致している。手を組まねぇか?」

 ニタリと笑う彼にオルガマリーは考えるが、自分の答えはもう決まっている。パレスで敵のペルソナと交渉するように遠矢は言った。

「それだけじゃ、足りない」

「な、なに言ってるのよ?!」

「……ほぅ。ジョーカー、アンタはこれ以上何を求めるつもりか?」

「これ以降も仲間として、力を貸してほしい」

 遠矢の言葉にロマニやオルガマリーは驚く。しかし、口出しできない雰囲気の為、黙るしかなかった。沈黙を破るように言葉を続ける。

「今の自分はアルセーヌすら出せない、ただの高校生だ。イザナギとの契約もある人の手助けによって出来たことだ」

「……………」

 遠矢の言葉にイザナギは何も言わなかった。ラヴェンツァとどんな関係なのかここで聞くつもりも問いただすつもりもない。イザナギを横目に彼は目の前の男に手を差し伸べる。

「また前のように力を貸してほしい、クー・フーリン」

「…プハハッ!オマエにこうも熱烈な告白をされるとは思わなかったぜ、ジョーカー!」

 声を上げて笑うクー・フーリン。その姿に呆気に取られている遠矢とモルガナ、イザナギ以外のメンバー。笑いも収まり、彼は遠矢の方を見て言った。

「良いだろう!我が名はクー・フーリン。共にもう一度世界を盗ろうじゃねぇか!」

 自分の手を強く握るクー・フーリン。それと同時に一枚のカードが目の前に現れた。

 表には杖を持ったいかにも魔術師のような人物が、裏には塔のアルカナが描かれていた。これで契約は完了したのだろうか?不安に思っていると美鶴がこう言った。

『多分、契約はなされたのだろう。私の友人であるペルソナ使いもカードから召喚していた。だから、大丈夫だ』

「ほんと、意味が分からないわ、貴方達」

 皆に聞こえないようにオルガマリーは呟く。魔術の世界では『ペルソナ』は悪魔召喚と同じカテゴリーに入っている。彼女はそういう術式を使う人間は信用ならない人間なのだ。心配そうに声を掛けるロマニに彼女は怒鳴るように言った。

「貴方には関係ないのよ、ロマニ!私達はこのまま作戦を続行するわ!貴方も持ち場に戻りなさい!!」

『待って!オルガ!……怒らせちゃった』

「仕方ないだろ、Dr.ロマニ。大切な人を亡くした後なんだ。そっとした方がいいだろう」

 オルガマリーの背中を見てイザナギは言った。彼の生前なのか、それともペルソナとしての経験なのか今の彼女と同じような思いをしたのだろう。彼の言葉に少し重みを感じた。

『遠矢君』

 オルガマリーを追いかけようと通信を切ろうとした遠矢をロマニは止める。

「なんですか?」

『無事に3人で帰ってきてほしい。オルガとマシュもだけど、僕は君だって失うのは嫌なんだ』

「ロマニさん……。必ず、3人で帰ってきます。だから、サポートの方はお願いします」

 遠矢の言葉に彼は嬉しそうに笑って言った。

『あぁ、勿論だとも!戻ってきたら、是非僕の所においでよ!美味しいお饅頭用意して待ってるから!!』

 

 

   【星:ロマニ・アーキマンとコープを結んだ Lv.1】

   【"星"のアルカナを持つサーヴァントと縁が結びやすくなった】

   【『ロマニ・レーダー』を覚えた】

 

 ロマニとコープを結んだお陰で、エネミーのクラスがより分かりやすくなった。これで少しは戦いやすくなっただろう。

 また後程通信すると言って通信を切り、一行は先行していったオルガマリーを追いかけたのだった。

 

 

「…………」

 勝呂に預けていたボイスレコーダーの内容を聞いた山野は黙り込んでしまった。自分が思っていたよりきな臭くなって来た。裏切り者は美鶴達のような外部から来た見学者という線を考えていたが、どうやら身内の犯行の可能性も強くなってきた。自分の知る限り、そんなことをする奴はいないはず……。

 思考の海にどっぷりとつかっているのを引き戻すように後ろから突然抱きしめられる。こんなことをするのは今彼女しかいない。

「……頼んでいたことは出来たのか?アサシン」

「モチのロンよ、エミャ。思った以上の収穫ですぜ」

 暗がりから現れたのは遠矢と同じ年ごろな少女だ。黒い着物を身に纏い、怪しい雰囲気を醸し出す彼女から慣れたように調べもののメモを奪う。ピエロのようにニタニタと笑う少女に彼は言った。

「お前にしちゃぁ上々だ。あのガキ以外に、桐条の2人もペルソナ使いだったとはな」

「敵が警戒心Maxだったら、あの部屋は確実に木端微塵に爆破されてたよ。だが、それをしなかったってことは」

「相手はペルソナ使いを不安視していない。下手すりゃ甘く見てる」

「That's right.さっすが、エミャ♡」

 パチパチと小ばかにするように拍手する少女。彼女のこの行動はいつものことなので、無視して話を進める。

「お前から見て、ペルソナ使い(あいつら)は強いのか?」

「それは、うち個人?それとも、上含めて(・・・・)?」

「……どちらでも構わない」

 山野の意味ありげな質問に彼女は少し考えてから答えた。

「基本はノータッチ。あーいうのというより"ワイルド"って呼ばれる使い手には上とは違う物に好かれてるから、どちらかと言うと、天敵に近いかな?ま、あくまでうちから見たら、だけど」

「天敵、か……」

 こいつが天敵と表現するとは珍しい。という事は、その"ワイルド"と呼ばれる者は敵に回ると厄介なのだろう

「あのマスター候補が"ワイルド"、なのか?」

 遠矢のプロフィールを見ながら、また考え出す山野。まだまだ情報が足りない。あのマスター候補のことも知る必要があるようだ。

 そう結論付け、彼は元の仕事に戻るのであった。

 

 セイバーが居るであろう大聖杯のある場所へ一行は進んでいく。荒れた道を進む中、遠矢は思い出したように言った。

「聖杯か……。メメントスの中に有ったのとは、別物なのだろうか?」

「多分な。あれは人々の認知によって作られた物だ。この聖杯戦争などで使われる魔術の聖杯とは比べ物にならんだろう。ま、どっちもヤバいもんであることは確かだがな」

「良く知ってるな、キャスター」

「ある程度の知識は聖杯から送られてくる。英霊の特権って奴さね」

 そう言ってクー・フーリンは自身の額を軽く叩く。彼の言う事が正しければ、自分達の知る聖杯と同じように危ない物だという事だ。

「…………」

「どうしたんだ、マシュ殿。顔色が優れないようだが」

 元気のないマシュを見て、思わず声を掛けるイザナギ。顔を上げて彼女は慌てたように言う。

「い、いえ!なんでもありません!」

「何か悩んでいるのか?(オレ)でよければ相談に乗ろう」

「ワガハイもだ!遠慮せずに言ってくれ!」

「フォウ!」

 モルガナもフォウも心配するなと言わんばかりに言った。そんな彼らに安心してか、不安そうにマシュは言った。

「実は……"宝具"が出せないんです」

「なんだ、そんなことか」

「そんなこと、ですって?!貴方、どういうことか分かって言ってるの!?」

 イザナギの発言にイラつきながらオルガマリーは言った。モルガナも宝具と言うものにいまいちピンとこないようだ。そんな彼らや遠矢にクー・フーリンは説明してくれた。

 『宝具』とは英霊1人1人が持つ大技のことらしい。その英霊が生前なしえた物事、更に逸話などが主にその宝具となるそうだ。

「自分達に分かりやすく言うと、アリスの『死んでくれる?』やヨシツネの『八艘跳び』みたいな物か」

「それで分かるのジョーカーだけだと思うぜ」

「成程。理解した」

「分かるのかよ?!」

「お前やっぱセンセイ入ってるだろ?!ってか、センセイそのものだろ!?」

 イザナギの言葉にモルガナとクー・フーリンはツッこむ。すると彼は何食わぬ顔でこう言いだした。

「そういえば、言ってなかったな。(オレ)は主の身体を借りて現界しているんだ。元々思考も同一化しているし、彼の知識も大方把握している。……どうした。みんな黙り込んで」

 爆弾発言とはまさにこのこと。彼の言葉に皆驚き叫ぶ。通信先のロマニは少し声を震わしながら言った。

『っていう事は、君の主はマシュと同じデミ・サーヴァントってことなのかな?でも、マシュとは違って神性も高いし……。君の身体を貸している主って一体何者?!』

「神としての力は転生の繰り返しで失われていたと思ったが……。まぁいい。詳しい説明はまた今度に」

『あまりこのような発言は控えた方がいいんじゃないか、「主の名を言うのは控えてもらおうか、美鶴殿」』

 仮面越しの視線に美鶴は言いかけた言葉を飲み込む。シャドウ本来の殺気なのか。それとも英霊としてのイザナギの殺気なのか分からないが、その場の空気が凍り付くような感じがした。

 フーっと息を吐き、彼は遠矢や皆を見る。その目には先程の殺意はもう消えていた。

「怖がらせてしまって悪かった。主もそうだが(オレ)もこのような大きな組織をすぐに信用できない性分でな。身バレとやらは極力避けたいんだ」

「俺達みたいに目を付けられたくないのか?」

 遠矢の質問に頷き、イザナギは続けた。

「君もそうだと思うが、(オレ)の主は"ワイルド"と呼ばれるペルソナを複数体操れる青年だ。この能力を使える者は少なく、色々な手段を用いられて狙われるこのも多々ある」

『実際、私がストップをかけていても、彼の主―仮に、センセイと呼ばせてもらうが、部下や上層部の人間が能力欲しさに狙っていてね、対応に苦労させられる』

「美鶴さんがあの時言っていたフラれた相手って……」

『天花寺の予想通り、そのセンセイだ』

 美鶴も認める実力者がイザナギの主と思うとあの強さに納得がいった。もっと話を聞きたかったが、彼女はオルガマリーと今後の組織について相談しだしたので、まだしばらくかかるだろうと思い、諦めた。

 そんな彼女らを横目にイザナギはマシュに言った。

(オレ)もペルソナとしては場数は踏んでいても、英霊としてはまだまだ新人だ。正直、宝具と言うものにピンとこない」

「イザナギさんも宝具が出せないのですね」

「そうだ。だが、『出せない』と言うのは違うと思うぞ、マシュ殿。話を聞く限り、宝具と言うものは己の魂を形作る物。形に出来ないのは経験が足りないからではないか?」

「経験、ですか?」

 マシュの問いかけに頷き、イザナギは彼女の盾を触りながら答えた。

「この盾の使い方、戦闘把握、スキルの使い分け。これらの経験が足らないからこそ、宝具が出せないのではないか?もとから英霊であるキャスターはどう思う?」

 話を振られて少し驚いたが、クー・フーリンは少し考えてから答えた。

「確かにイザナギの言う通りだ嬢ちゃん。宝具ってのは英霊誰しも持って居るものだ。そこのネコスケにもな」

「だから、ワガハイは猫じゃねぇ!…ってワガハイにもあるのか?!」

 思わぬ発言にモルガナは驚く。自分がマシュ達と同じよな英霊なんて思う心当たりがない。そう思っているとクー・フーリンは遠矢を指さして言った。

「なんならジョーカーに聞いてみればいい。契約したサーヴァント全員分のカード持ってるはずだからな」

「そうなのか?ジョーカー?」

 モルガナはそう言って遠矢を見あげる。そんな目をされてもこっちはカードの出し方なんて知らない。今までペルソナを出していた仮面も今はないし、どうしようと困っているとイザナギが助け舟を出す。

「カードの出し方は(オレ)が教えよう。手をだせ」

「こう、か?」

 手のひらを上にしてイザナギの目の前に出す。手の甲に触れ、彼は言った。

「集中しろ。己の心を映す鏡を乗せるイメージだ」

眼を閉じ、集中する。そうすると、いつもペルソナを出すあの感覚が甦って来た。

「ペ・ル・ソ・ナ!」

 その掛け声を合図に、自分の足元に魔方陣が展開される。そして、自分達の目の前に何枚かのカードが現れた。

「で、出来た…!」

「これが、先輩の力……」

「数は5、いや、4か。1枚白いのがあるな」

 クー・フーリンの言う通り、1枚裏側が白い愚者のカードがあった。この正体は直感的に分かる。己のペルソナ、アルセーヌだ。カードを見ているモルガナが指をさして聞いてきた。

「この魔術師のアルカナで騎馬に乗ってるカードがワガハイなのか?」

「そうだ。モナのアルカナは魔術師なんだ」

「そんなところまで、一緒なのか」

「?どうした?イザナギ」

「……何でもない」

 モルガナの質問にイザナギはそう答え、そっぽを向いてしまう。どうしたのだろう、と思ったが、そっとしておいてほしいと背中が言っている気がしたので、声を掛けられなかった。空間に浮かぶカードを見てマシュは言った。

「あの、先輩。私のカードはこれですか?」

 彼女が指差した先にあるのは運命のアルカナのカード。その予想通りそれが彼女の物であった。

「"運命"……。私とマスターの出会いはまさにこのカードが示している通りですね」

 そう言ってマシュは微笑んだ。そんな彼女の表情にこちらも思わず照れ笑いをする。

 

   【運命:マシュ・キリエライトとコープを結んだ Lv.1】

   【"運命"のアルカナを持つサーヴァントと縁が結びやすくなった】

   【スキル『誉れ堅き雪花の壁』が使えるようになった】

 

「い、今のは、一体…?」

 今の感覚はマシュにも感じたのだろう。そう思い、遠矢はコープの事を少し話、今のでスキルが使えるようになったのではないかと伝える。すると彼女は嬉しそうに言った。

「これで、もっと先輩のお役に立てますね!私、頑張ります!」

『互いに信頼することによって能力がさらに向上していくのだろう』

「ミス・キリジョウの言う通りよ!2人共、これからもしっかりね!」

 いつの間にか自分達のやり取りを見ていた美鶴とオルガマリーに言われ、マシュは更にやる気を上げる。モルガナの方に目を向けると、彼はクー・フーリンと話しているのが見えた。

「ワガハイにも宝具があるのか……。全く見当がつかないぞ」

「オレは分かるぜ」

「本当か?キャスター!」

「モルガナカー」

 彼の言葉にモルガナはずっこけ、彼らの隣で聞いていたイザナギはほぅ、と呟いた。

「あれが宝具になるのか?!」

空の世界(グラブル)で召喚獣扱いだったんだから、こっちでもそうだろ」

「メタ発言すんじゃねぇ!ってか、団長殿と出会った時、お前まだいなかったはずだろ?!ジョーカーが使いだした感じから見てカネシロパレスの時からのはず!!」

「アルセーヌの奴に聞いたんだよ!ヤメロ!引っ掻くんじゃねぇ!」

 モルガナにポカポカと叩かれるクー・フーリンを見てイザナギの表情が何故か暗くなるように見えた。やはり、聞いた方がいい。そう思い、遠矢は思い切って聞いてみた。

「イザナギ、モナのことが嫌いなのか?」

「そんな事ないぞ、(マスター)。そう見えてしまったのなら、すまない」

「それならいいんだ。ただ、モナの事を見ている時のお前の表情がちょっと気になってな。よければ、話してくれないか?話せば楽になるかもしれないぞ」

「…………」

 しばらく沈黙が続く。はぁーっと溜め息を漏らし、イザナギは自分に飽きられように呟く。

「このような現界のせいか、それとも主の影響を強く受けたのか……」

「イザナギ?」

「独り言だ、聞き流せ。……仲間の事を思い出してな」

「仲間?」

 自分と同じようなペルソナ使いの仲間が居たのか?そう思いながら話の続きを聞く。

「モナと同じ風使いの相棒が居るんだ。アルカナも同じ魔術師で(オレ)の心の支えだったんだ」

「じゃあ、モナと合流した時、驚いた様子だったのは……」

「あいつが、ジライヤが来てくれたのかと思ったからだ」

 何時も何かしら事件があると駆けつけてくれる相棒。心折れそうになった時、彼の言葉があったから立ち上がれた。だが、今は居ない。何時もなら感じられる絆の糸すらも感じられない。それは他の仲間達もだ。

(オレ)は1人では何もできない。今だって不安しかない。ただのちっぽけなペルソナだ」

「そんなことありません!」

 途中から聞いていたマシュが声を上げて言った。驚くイザナギの手を強く握り、彼女は言い続ける。

「イザナギさんはすごい人です。全然ちっぽけではありません!先程の言葉で、私を元気にしてくれたじゃないですか!」

「でも、それは「きっとイザナギさんの仲間の方々も無事ですよ!あなたが信じていればきっと会えます!だから……」

「一緒にがんばろう。進めばきっと手がかりだって見つかるはずだ」

 遠矢の言葉にポカンとした表情をするイザナギ。そして安心したように言った。

「そうだな。(オレ)が信じなければいけなかったな。ありがとう、(マスター)、マシュ殿」

 

   【愚者:ワイルドの使い手とコープを結び、レベルが上がった Lv.2】

   【"愚者"のアルカナを持つサーヴァントと縁が結びやすくなった】

   【イザナギ:スキル『スキル・ワイルド』が使えるようになった】

   【イザナギ:宝具『幾万の真言』が使えるようになった】

 

 いきなりコープのレベルまで上がるとは思わなかった。コープ名にも疑問が残るが、ツッコむときりがないので取り合えず置いておくことにした。オルガマリーに教わった方法で先程のスキルの確認をする。

[スキル・ワイルド:自身に有利クラスの属性を付与する(3ターン)【デメリット】自身HP1000ダウン]

 この説明文に疑問が浮かぶ。何で態々自分の有利クラスの属性を付与するんだろうか?意味が分からんと思っているといつの間にか画面を見ていたオルガマリーがこう言いだした。

「テンゲイジ、分かりやすく教えてあげましょうか?」

「是非お願いします」

「じゃあ、前にサーヴァントには相性があることは覚えてるわよね?」

 彼女の言葉に頷く。ここに来る前に教えてもらったセイバー、ランサー、アーチャーとライダー、キャスター、アサシンの三すくみだ。

「本来であればセイバーはアーチャーに不利なのはわかるわね」

「はい、何度も苦戦しましたから」

 ここに来るまで何度も見て来たことだ。弓兵を相手するイザナギのダメージは大きい。そして、与えるダメージは耐性がある為小さかった。そのことを慣れた手つきでオルガマリーは地面に描いていく。

「イザナギがこのスキルを使うことによって本来あるセイバーの力にランサーの力を一時的に加えるの。アーチャーはランサーに弱い。つまり、セイバーの弱点を補えるってわけ」

「成程……。(ワイルドらしいって言えばらしいな)」

 地面に描かれた説明を見ながら遠矢はそう思った。様々な場面でペルソナを付け替えて戦う"ワイルド"。その力から由来してのこのスキルなのだろう。まだ地面とにらめっこしている自分を見て彼女はこういった。

「ねぇ……どうして貴方は怪盗になったの?」

「どうしてって……」

「ちょっとした疑問よ。答えたくなければいいわ」

 そう言って自分から視線を外すオルガマリー。少し思いつめてから遠矢はこう答えた。

「きっかけは、怒り、でしたね」

 自分を陥れた犯人に対して、自分のことを信じてくれなかった家族に対して、そして何も知らないくせに非難したり、憐れんだりした世間に対して。

 あの時パレスに入ってモルガナと取引し、仲間と共に汚い大人の改心をやれば、この言葉に出来ない感情の塊を忘れることが出来るのではないかと思った。

 初めて改心に成功した時の感覚は今でも忘れられない。自分の中にあったドロドロした感情が消えていく。そんな感じがしたと当時は思っていた。酷く言えば俺なりのストレス解消に人助けをしていた所もあった感じだ。それが何時からか、違う感情になったのは、誰にも言えない。

 でも、これだけは言える。その感情が始める前のドロドロとしたものではないことは確かだ。

「きっかけは何であれ、理不尽な大人の改心なんてすごいじゃない」

「でも、救えなかった人も居た」

 仲間の親友、父親、学校の校長にライバルだった探偵。救える命もあったし、回避できる事件でもある。特に探偵は……

「まだまだ未熟なんですよ、色々と」

 本心を見せないようにオルガマリーに言う。遠矢のそんな態度に彼女の怒りは更に上がる。

「未熟、ですって!?ふざけないで!貴方みたいな人が未熟だったら、私は何なのよ!」

「所長……」

「私は所長なのに、アニムスフィアの家の出なのに、マスターの適正もレイシフトの適正も無い!女だからってバカにされてばっか!!」

 今まで溜まっていた物が一気に出た。と遠矢は思った。自分より少し上、もしくは同じぐらいの歳であのカルデアを任されたんだ。周りの眼は時に言葉の刃より痛く感じるはずだ。なら、自分がすべきことは1つしかない。

「ちょっ?!何、するのよ!?」

「オルガはよく頑張ってるよ。玉には他人に頼ってもいいんだよ。……自分がレフ教授だったらこうします」

 オルガマリーの頭を優しく撫でる。こうすれば少しは楽になるはずだ。だって、自分もこうしてくれた方が嬉しかったから。

「マスター!」

 突然のクー・フーリンの叫びを聞き、遠矢は彼女を抱えて横に飛ぶ。自分達の居た所に矢が刺さる所を見るとあのアーチャーがこちらを狙っているようだ。

「あの信奉者、そろそろイラだって手出してきたな!モナ!」

「おぅ!運転は任せるぞ、ジョーカー!」

 そう言ってモルガナはジャンプすると黒いワンボックスカーへと姿を変える。彼の変身に驚くマシュとオルガマリーの2人を乗せ、モルガナカーは発進した。運転していると心配そうにマシュは言った。

「先輩、車の運転、出来るんですか?!」

「モルガナカーならな。イザナギとクー・フーリンは?」

『屋根の上でアーチャーと戦ってる!指示頼むって!』

 

 

 黒い車を追い続けるアーチャー。あのマスターは色々とマズイ。ふつうの魔術師と違い、『ペルソナ』と呼ばれる使い魔を操る奴だ。自分の本能が叫ぶ。奴を生かしてはならないと。そう思っていると、車の屋根に居るセイバーと目が合った。この距離を狙えるはずはない。買い被るように弓を引くアーチャー。が、矢を放つ前にセイバーの太刀が自分に向かって飛んできた。

 

 イザナギが自分の太刀を蹴ってアーチャーを攻撃した。しかも"スキル・ワイルド"を使って自身にランサー属性付けて。

 ドヤ顔している彼にクー・フーリンは呆れたように言った。

「やっぱお前、センセイそのものだわ。あの刀蹴るのセンセイやってたし」

「褒め言葉として受け取ろう。構えろ、キャスター!まだ奴は倒れていない!」

 砂煙から飛び出した影がこちらに向かってきた。自分の2本の剣を受け止めるイザナギにアーチャーは言った。

「まさか、あのような技で私をおびき出すとは。さすがと言えばいいか」

「あれは仲間との特訓で偶々できた技だがな!」

 彼の剣を弾き飛ばし、懐に入って電撃を喰らわせようとしたが、その剣がブーメランのように自身に向かってきたのを感じ、緊急回避する。剣を手にしながら、アーチャーはイザナギに言った。

「あれを避けるか。やはり、戦い慣れているな」

「あーいうのは一度やられているのでね。(彼女のホーミングの方がよっぽど鬼畜だがな)」

 ナビを担当する後輩のシャドウの方が今よりもっとえげつない攻撃をする。そんなことを思い出したが、クー・フーリンの声ですぐに現実へと引き戻される。

「イザナギ!よけろ!」

 彼の創り出した無数の火球がアーチャーに向かっていくが、全て避けられる。彼が舌打ちをした瞬間、今まで走っていたモルガナカーが突然止まる。

「どうした?!ネコスケ!」

『も、もう、動けねぇ……』

魔力切れ(ガスけつ)か!」

 イザナギの懸念と同時にモルガナカーは元の姿に戻る。その為、上に居た2人は中のマシュ達の上に落ちる形となる。みんなを守ろうと盾を展開するマシュ。そのせいで、2人の腰に盾が勢い良く当たる。痛みに悶えているのをチャンスと見て襲いかかるアーチャー。

「マシュ!スキルを!」

 美鶴とのコープで手に入れた『マスターの号令』によってすぐさまマシュのスキルを発動し、ダメージを軽減する。

「大丈夫か、イザナギ。なんかモロに入ったみたいだが……」

「ぁあ……なんとか、な……」

 太刀を杖にして起き上がるイザナギは少し老人のように見えてしまった。先に復活したクー・フーリンとマシュはアーチャーと互角に戦っていく。

「嬢ちゃん!イザナギ!英霊先輩として、宝具がどういうもんか見せてやる!」

「させるか!」

 宝具発動を阻止しようとアーチャーは動くが、マシュの盾に阻まれた。杖を構え、詠唱を始める。

「我が魔術は炎の檻。茨の如き緑の巨人。因果応報人事の厄を清める社」

「くっ!」

「逃がすかよ!」

 キャスターと距離を取ろうとしたアーチャーに回復したモルガナのスリングショットが決まる。

「倒壊するは ″灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)″ !」

 詠唱を終え、現れたのは巨大な木の人形。炎を纏いながら倒れたアーチャーを捕え、檻となっている自身の身体に入れる。そして大きな音を立て、その人形は倒れた。人形は消え、クレーターを作った地面の下に居たアーチャーはもう戦う気力を失い、消滅しかけていた。そんな姿を見て、クー・フーリンはアーチャーに言う。

「勝負あったな、弓兵」

「キャスタークラスとなった君に負けるとは思わなかったよ。こうも彼らが戦闘慣れしているとは……。どうやら私は相手を見下しすぎていたらしい……」

「今回のケンカ、なかったことにしてやるよ、弓兵。あんたとの決着はやっぱりサシの方がいいだろ」

 成り行きで1対4になってしまったのだ。この弓兵とは1対1(サシ)でケンカしたいのが本音だ。多分そんな事が座に記録されているのだろう。クー・フーリンの言葉に驚くアーチャーだが、フッっと笑い、そして言った。

「そう思われているとは思わなかったよ、光の御子。……セイバーはこの奥だ。どうか、彼女を救ってくれ」

 そう言い残しアーチャーは消滅する。先程まで彼が居た場所には白いカードが残されていた。それを拾い、見るマシュ。

「先輩、これは……」

「ショーカーの持って居る奴と同じだ」

 モルガナの言う通りである。白紙になっているアルセーヌと同じ状態なのだが、今回拾った物は白紙の部分がクラス側ではなく、アルカナ側であった。それを見て、イザナギは言った。

「もし、これが力を取り戻したとしても、先程のアーチャーが現れるとは限らなそうだな」

「何故そう言えるんだ?イザナギ」

「勘だ、としか言えない。ペルソナと英霊の関係はまだ分からないことが多すぎる。素直に正気になったあのアーチャーが召喚されるとは思えなくてな。まぁ、今はそのことを深く考えるより、先を急いだほうがよさそうだ」

 イザナギの視線が寺院の奥に向けられる。魔術師でない自分にもわかるくらい、嫌な気配が奥からする。きっとこの先にセイバーが居るはずだ。

「気を引き締めていきましょう、マシュ、テンゲイジ!」

「はい!マシュ・キリエライト、全力で行きます!」

 オルガマリーの激励にマシュは力強く答える。ここに居る全員が覚悟を決めていた。

「よし!行こう!」

 遠矢の言葉を合図に一行は奥へと進んでいった

                      to be contined



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