仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~ (コッコリリン)
しおりを挟む

第1話 迷い込んだdoctor!

仮面ライダーエグゼイド……あの見た目であのかっこよさは異常。仮面ライダーハマった切っ掛けとなりました。


 運命とは誰が決めるのだろうか?

 

 

 ある人は言う。それは神が決めることだと。

 

 

 ある人は言う。そんな曖昧な物なんて信じないと。

 

 

 ある人は言う。それはその人自身が歩む道筋なのだと。

 

 

 千差万別、多種多様な意味として捉えられる言葉、“運命”。人は自らに待ち受ける運命をその日が来るまで知らず、日々を生きていく。

 

 

 しかしてその運命が、その先の未来に自身に何が起きるか知っているとしたら。

 

 

 自身の運命の行く先が、一冊の本として記されているとしたら。

 

 

 その人たちはどのように生き、何を思うのか。

 

 

 定められた運命を受け入れるのか、絶望するのか、抗うのか。

 

 

 これより語るのは、そんな定められた運命から外れ、定められていない『空白』の運命を持つ者たちの物語。

 

 

 究極の救済の名を冠する仮面の戦士が彼らと邂逅し、運命を変えるために共に戦う物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本某所、聖都。かつてこの街で、壮大な戦いがあった。

 

 人間に感染する未知のコンピュータウィルス、バグスターウィルスによるパンデミック『ゼロデイ』により、大勢の人間が犠牲となった。そこから始まる、バグスターによる侵略。未知なるウィルスによる感染症に抗う術を持たない人々は、恐怖に震えるしかなかった……かに思えた。

 

 聖都大学附属病院に所属しているドクターたち、衛生省管轄組織『電脳救命センター』通称CR。ゲームの力を借り、ゲームの力を駆使して、バグスターウィルスから人々を、患者を救ってきた者たちがいた。

 

 『仮面ライダー』……仮面を被った正義の使者。

 

 人類、もとい仮面ライダーVSバグスターとの戦いは熾烈を極めた。尊い犠牲があった。理不尽な出来事もあった。それでも尚、彼らは人々を救うために戦い続けた。

 

 そして最終的には、一般市民をも巻き込んだ死のサバイバルゲームを止めるため、大手ゲーム会社であると同時に、仮面ライダーを生み出した『幻夢コーポレーション』社長と対峙し、勝利を収めた。

 

 相手は自害し、消滅し、ゲームは終わりを告げ……長きに渡る戦いに、終止符が打たれたのだった。

 

 

 

 

 

 聖都大学附属病院内科病棟。待合室のベンチには多くの人が診察を待ち、病室には患者の人々が医療を受けるために入院している。

 

「んー、脈拍も異常なし、術後の経過も良好……」

 

 そんな内科病棟のとある病室。ベッドが四つある大部屋で、カルテ片手に項目をチェックしていく青年と、そんな彼をベッドの上で寝そべりながら見つめる高校生頃の少年と、彼のベッドの横に立つ女性。やがて青年は、ベッドの横に身を屈めて少年と向き合った。少し派手めのシャツの上に白衣を羽織り、首に変わった形をした聴診器をかけた茶が混じった黒髪の青年は、童顔と言えるような顔に笑みを浮かべた。

 

「うん、異常はなさそうだね。もう少ししたら学校に通えるようになるよ」

 

 人を安心させるような、穏やかな笑顔。その笑顔に安堵すると同時につられたかのように、少年もまた笑顔になった。

 

「先生、ありがとうございます!」

 

「本当に、息子がお世話になりました」

 

 少年の隣に立っていた女性、母親も青年に向けて頭を深く下げた。

 

「いえ、卓也くんも頑張ったからですよ。けど、術後はまだ油断できないから、あまり無茶したらダメだよ?」

 

「はい!」

 

「では、僕はこれで。お大事になさってください」

 

「先生、ありがとうございました」

 

 青年は白衣を翻して病室を後にする。去り際、青年が振り返ると、こちらに向けて少年が頭を下げ、青年もそれに応えて見送った。

 

 病室から出て、一段落ついてため息を一つつく青年。その胸は、少年の病気がほぼ治ったことによる安堵と、彼を笑顔にすることができたことによる充足感に満たされていた。

 

 そんな彼が歩いていく先に、見慣れた人物の姿が目に入った。

 

「回診、お疲れ様! 永夢」

 

「明日那さん! お疲れ様です」

 

 笑顔で永夢に歩み寄って来たナース、仮野明日那に労われた青年、宝生永夢は快く彼女を迎え入れた。

 

「もうすっかりドクターとして板についてきたねー。もうちょっとで研修も終わるし、これからますます忙しくなるね」

 

 カルテを胸に抱えたまま笑顔でそう話す明日那に、永夢も照れて頭を掻く。彼がまだ駆け出しの時に出会ってから今まで、よき同僚兼よき相棒として、これまで色々とサポートをしてきてくれた彼女に、永夢は頭が上がらない思いだった。

 

「いえ、やっぱり僕はまだ未熟です……早く一人前のドクターになって、より多くの患者の笑顔を取り戻したいから」

 

 そうはにかみながらも、その目は決意に溢れていた。

 

 彼の行動理念と、医師を志した信念は、今も変わっていない。一人でも多く、この手の届く限り、永夢は人々を救いたいと思っている。ゆえに、毎日が勉強でもあり、試練でもあると、永夢は日々患者と向き合っている。

 

「……変わらないね、永夢は」

 

 そんな彼をずっと見てきた彼女は、いつまでも変わらない、愚直なまでの彼のひたむきさを好ましく思うと同時、羨ましさにも似た感情を覚える。そんな彼だからこそ、明日那はずっと彼を支えてきた。険しい道のりや、高い壁にぶつかっても、決して投げ出さず、いつも前を向いてきた彼を。

 

 多分、否、きっとこれからも、彼を支えていくのだろう。明日那はそう予感した。

 

「さ、そろそろ次の患者さんの所へ……」

 

 まだまだ患者はいる。小休止を挟んでから、彼は次の病室へ赴こうとした

 

 ――――PiPiPi PiPiPi PiPiPi PiPiPi PiPiPi

 

 瞬間、彼が首にかけている聴診器のような装置『ゲームスコープ』から、断続的に電子音が鳴り響いた。その瞬間、永夢は先ほどまでの穏やかな表情から一変、驚愕し、ゲームスコープを手に取る。

 

「緊急通報……!」

 

 言って、彼は明日那へと目を向けた。

 

 当の明日那は、永夢をしっかり見て頷く。「ここは任せて」という意思を永夢は汲み取り、同じく頷いて返した。長い間、ずっと互いを信じあってきたからこそできるアイコンタクトである。

 

「よし、行ってきます!」

 

 言って、明日那にカルテを預け、緊急通報があった場所まで彼はひた走る。

 

 場所は、病院から走ってすぐ近くの公園だ。病院から飛び出してからしばらく走ると、通報があった場所に辿り着いた。

 

 そこでは、子供たちが和気藹々と遊ぶ、平和な光景が広がっている……はずだった。

 

 シェフのような服装の、しかし奇怪な形をしたオレンジ色の頭部という、およそ人間とは思えない者たちが、鍋やお玉、泡だて器といった調理器具を手に持ち、人々を襲っている。家族連れや散歩に来ていた人たちは皆、悲鳴を上げながら化け物から逃げまどっていた。

 

 永夢は、化け物のことを知っている。それはかつて、幾度となく彼の前に現れた存在。

 

「バグスターウィルス……!」

 

 ゲームから生まれ、人類を恐怖に陥れた、脅威のコンピュータウィルス。それが実体化し、人々に害を為そうと暴れ回っている。

 

 しかし、永夢は慌てない。何せ、彼にとってこれが初めての遭遇ではないのだから。

 

「数はそこまで多くないな……よし」

 

 ましてや、目の前にいる連中は、今の永夢にとって取るに足らない、所謂雑魚敵でしかなかった。

 

「行くよ……“パラド”」

 

 小さく呟き、彼は左手にある物を手に取り、持ち上げた。

 

 蛍光グリーンの本体と、蛍光ピンクの大きなレバーが付けられた、左側には何かを差し込む穴がある装置。永夢にとっては馴染みのある、彼にとって最大の武器。

 

 バグスターに対抗するため、人類が生みだした英知の結晶とも言うべきそれ……『ゲーマドライバー』を、永夢はガシャリと音をたてながら腰に当てる。すると、側面部からベルトが射出、彼の腰にフィットするように自動で巻かれた。

 

 そして、今度は懐から取り出し、右手に持った物。グリップが付けられたピンク色の掌サイズの機械に、カード状の透明な基板が付けられた、見た目はゲームソフトのカセット、名称“ガシャット”と呼ばれる物を顔の横に掲げた。そして、親指でガシャットのスイッチ部分に触れる。

 

 手慣れた仕草で行われた、一連の動作。それもそのはずだった。

 

「さぁ……」

 

 かつて、バグスターによって人々が感染症、『ゲーム病』を発症した際、“手術”のために駆け回った、数人のドクターたち。

 

 死のサバイバルゲームが世間で行われた際、それを止めるために、ボロボロになってでも戦い抜いた彼らのうちの一人。

 

「ゲームスタートだ」

 

 その戦いの立役者である彼は、躊躇いなくガシャットのスイッチを押した。

 

 

 

≪MIGHTY ACTION X!!≫

 

 

 

 彼の名は、宝生永夢。人々の運命を変えるため、そして笑顔にするため、多くの困難を乗り越えてきた若きドクター。またの名を、

 

 

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!」

 

 

 

 ゲームの力で戦う戦士(ヒーロー)、仮面ライダーエグゼイド。

 

 

 

 

~ 第1話 迷い込んだdoctor! ~

 

 

 

 

 聖都大学附属病院の地下にある電脳救命センター、通称CR。仮面ライダーに変身するドクターたちにとって、時にゲーム病で苦しむ患者を搬送して一時的に隔離して治療するためにミーティングを行ったり、時に憩いの場として集まる場所である。限られた人間以外には知られていない、極秘部署となっている。

 

 かつて起きたバグスターのパンデミック『ゼロデイ』を切っ掛けに、政府の衛生省による命で、病院と大手ゲーム会社『幻夢コーポレーション』が協力して立ち上げた部署。最初は驚き戸惑っていた永夢も、仮面ライダーとして活動していくうちに、やがてもう一つの居場所として認識していた。

 

「ただいま戻りましたー……」

 

 そうして、先ほどまでバグスターウィルスと戦い、勝利してきた永夢は、疲労した様子でCRの入り口を潜る。さすがにゲームモチーフとして現れるバグスターと違い、所謂戦闘員のような存在相手に苦戦することはなかったが、やはり戦うことは大変な労力がかかる。それも診察を終えてすぐだったため、休憩もなかった。重い足取りで、永夢はCRのテーブルまで歩き、椅子に座り込んだ。

 

「おっかえりー永夢!」

 

 そんな彼を出迎えたのは、明日那……ではなく、ピンクのボブカットヘアーをした、派手でコミカルな服を纏った女性だった。顔立ちこそ明日那そのものであったが、性格が全く違う。落ち着いた出来るナースという印象が明日那であるならば、目の前の彼女は天真爛漫な少女のような性格をしているように見える。

 

 だが、永夢はそんな彼女を前にしても狼狽えることなく、寧ろ旧知の仲のように軽く笑った。

 

「ただいま、ポッピー。ごめんね、後を任せちゃって」

 

「いいよいいよ! 永夢は永夢にできることをしてくれたらいいんだから! 私は永夢の相棒でもあるんだから! ね?」

 

 ポッピーと呼ばれた女性は、朗らかに笑った。永夢も出会った当初こそ、本来の彼女のキャラには戸惑ったものだが、今はすっかり慣れてこうしてよき友として接している。

 

 ポッピーこと、本名ポッピーピポパポは、仮野明日那と同一人物であり、バグスターでもある。普段勤務している間は基本明日那として過ごし、CRでは本来のポッピーの姿で過ごしている。基本敵として相対しているバグスターではあるが、彼女のように善良で人々のために働くバグスターも存在していた。

 

『おいおい、何言ってんだよポッピー』

 

 そんなポッピーを否定するような声が聞こえ、突如として永夢の体から青と赤が入り混じった粒子が飛び出してきたかと思うと、

 

「永夢の相棒は、この俺だぞ?」

 

 永夢の隣で人の姿を形作り、黒いコートと派手めのズボンを履いた青年が姿を現した。

 

「えー? でも永夢の戦いをサポートしてきたのは私だよ、パラド?」

 

「それを言うなら、俺は永夢が子供の時からずっと一緒だったんだぞ? つまり俺の方が相棒歴は長い。つまり永夢の相棒は俺だ」

 

「何それー!? そんなの横暴だよ、おうぼー!」

 

 ポッピーと言い争う青年ことパラド。目の前で子供のような口喧嘩を繰り広げる二人を、永夢は微笑ましそうに見守る。

 

 パラドの言う、子供の時から一緒というのは、何も二人は幼馴染というような間柄という訳ではない。幼い頃に永夢はバグスターに感染し、ゲーム病を患ってしまった。それも、世界で初めてのバグスターウィルス感染者ということを、最近になって知った。

 

 そのバグスターこそが、パラド。仮面ライダーとして戦い始めた時は、互いに敵同士として死闘を繰り広げ、ある日を境に二人は和解……もとい、これまで遊び感覚で罪なき人々を消滅させてきた贖罪から、パラドは永夢と共に仮面ライダーとして今日まで背中を預け合う戦友となっていた。

 

 あの頃の殺伐とした関係が嘘のようだと、永夢はぼんやりと考える。頬杖を着き、いまだギャーギャー言い合う二人を見ていた。が、ふと思い出したことがあり、永夢は立ち上がった。

 

「そうだ、ポッピー。黎斗さんは?」

 

「え? 黎斗? 黎斗ならいつもの場所に」

 

 ポッピーが永夢にそう答えた時、

 

 

 

『檀! 黎斗! 神だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

 

 そんなエキセントリックな絶叫が、部屋の片隅から轟いた。周囲が医療関係の器具やPCといった作業用の道具が設置されている中、その空間にはぬいぐるみや風船といったファンシーな物の囲まれているゲームの筐体が置かれており、誰の目から見ても場違いにも程があった。筐体の画面上部には『ドレミファビート』の文字が踊っており、ポッピーの本来の居場所でもある。

 

 その画面の向こうのさらに紫に光る檻の向こう、殺風景な部屋にPCのみが置かれているテーブルの前で、不遜な態度を隠そうともしないまま椅子に座っている、黒い服を着た成人男性が一人。

 

『宝生永夢ぅ! 何度も言わせるなぁ! 私のことは、檀! 黎斗! 神と呼べと言っているだろぉ!!』

 

 そう叫ぶ画面の向こう男、檀黎斗が憤慨しているのに対し、永夢は

 

「あ、はい。すみませんでした黎斗神さん」

 

 ものすごい無表情で返した。どことなくうんざりしている感じにも見えなくもない。

 

 永夢としても、彼の才能は認めている。何せ、彼の力である仮面ライダーエグゼイドに変身するためのゲーマドライバーとガシャットは、彼が開発した物なのだから。元は『幻夢コーポレーション』の社長だった彼は、ゲームクリエイターとしての才能がずば抜けており、有名なゲームを数多く世の中に輩出している実績もある。永夢も、彼の作ったゲームのファンでもある。

 

 だが、以前の彼とは敵対関係にあった。それとも言うのも究極のゲームを作るためのデータ収集という名目で、一時期はバグスターと協力関係にあり、幾度となく彼とは敵対してきた。結局、一度彼はその報いを受けるかのように消滅した……したのだが、永夢の窮地を救うためにと、ポッピーの手により元人間のバグスターとして復活。永夢たちも色々思うところもあったにせよ、紆余曲折あって現在は贖罪という名目で協力関係にある。

 

 と言っても、人間だった頃に色々やらかしたせいもあり、衛生省の許可なく動き回ることはできず、CRの監視の下、こうしてバグスターの特性を利用してデータ化させて筐体に閉じ込めているのだが……。

 

『何だその態度はぁぁぁぁ! 神に対する態度じゃないだろぉぉぉぉ!』

 

 とても贖罪をするような人間の態度とは思えず、檻の向こうから画面に歪んだ顔を押し付けて来るかのようにどアップで迫る様は、小さな子供だと一発で泣くことは確定だろう。見ようによっては滑稽にも見えるのだが、すっかり慣れてしまったCRの面々には、面倒くさい以外の何物でもない。たまに筐体から出て何らかの騒ぎを起こすたびに、ポッピーの手によって強制収容、もとい折檻を受けるのだが、毎度反省する気もないらしい。

 

「もう、黎斗うるさいよ!」

 

「相変わらずうるさい奴だな……」

 

 バグスター二名からもうるさい認定される自称神。実際うるさいのだから、誰も否定はしない。

 

「そんなことよりも黎斗さん」

 

『檀! 黎斗! 神だ!!』

 

「ハイパームテキガシャットのことなんですけど」

 

「永夢、強引に進めたね……」

 

 有無を言わせず要件を話す強かな一面を見せる永夢に、ポッピーは少し引きつった笑みを浮かべた。

 

「以前言われていたムテキガシャットの調整、お願いします」

 

 言って、永夢は懐からガシャットを取り出す。それは金色に輝く角ばった見た目をしている上に星の形を象った基板という、見た目からして特殊なガシャット。通常のガシャットと形状の違うそれに書かれているのは、金色に輝くキャラと『HYPER MUTEKI』の文字。永夢にとって、かつての強敵を幾度となく撃ち破ってきた最終兵器でもあるそれは、黎斗が才能の集大成を言わしめる代物だった。それだけに永夢が言わんとしていることを察した黎斗は、一旦怒りを鎮めた。

 

『ああ、そうだったな。ポッピーに渡してくれ。後は私がなんとかする』

 

「調整って……ガシャットの調子が悪いの?」

 

「いや、以前から黎斗さんからガシャットのメンテナンスがしたいから預けるように言われてたんだ。僕としても、ガシャットがいざという時に使えなくなっても困るからね」

 

『私の才能の集大成であるガシャットが壊れるなど、到底認められんからな。私からの恵みに感謝するがいい』

 

「……なぁ、大丈夫なのか永夢? そいつに大事なガシャット預けて」

 

「一応、他のガシャットもメンテナンスしてもらった後だけど、今のところ問題はないから大丈夫だよ……多分」

 

 これまでの彼の悪行から手術(バグスターウィルスと戦うこと)に支障が出るような細工を施される可能性も考えたが、黎斗にメリットがないため、一応永夢は信じていた。飽く迄も一応だが。

 

『特にハイパームテキは時間がかかるからな。私の才能をいかんなく発揮して開発したガシャットだ。高性能な分、他のガシャットよりも後回しにして調整に専念しなければいけない』

 

「そういうことだから、ポッピー」

 

「……まぁ、永夢がそこまで言うなら」

 

 永夢はムテキガシャットをポッピーに手渡す。ポッピーとしても、黎斗に任せるのに不安がある。何か怪しいことをしでかさないように、しっかり見張っておくことを密かに決めた。

 

「なぁそれよりも永夢! バグスターも倒したことだし、次の仕事始まるまでにゲームでもしようぜ!」

 

 椅子の背もたれに顎を乗せる形で座り、無邪気な子供のように永夢を遊びに誘うパラド。この性格は敵対していた時から、というよりも、永夢の子供の時からずっと変わっていない。

 

 しかし、永夢は申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

「あぁ……ごめん、パラド。今日はゲーム機持ってきてないんだ」

 

「えぇぇ!? 何だよそれ~!」

 

 ゲーム好きであるはずの永夢が、ゲームを忘れる。そのことにひどく落胆し、先ほどのハイテンションから一転、ガクリと力なく両腕が垂れる。

 

 普段は患者である子供たちとの交流にも使うゲームを肌身離さず持ってきている永夢だったが、今日は朝から珍しく寝坊しかけ、結果としてゲーム機を家に置いてきてしまっていた。それに気付いた時の落胆は、パラドのようにガクリと項垂れてしまった程だった。

 

「ちぇ、せっかく対戦しようと思ったのに……」

 

「ごめんってパラド」

 

 不貞腐れるパラドに、両手を合わせて謝罪する永夢。それでもパラドの機嫌は治らない。どうするべきかと考えていた時、話を聞いていたポッピーが掌を叩いた。

 

「あ、そうだ永夢! スマートフォンのアプリゲームはどう?」

 

 ポッピーが提案したものは、携帯端末でゲームをダウンロードするという方法。普段は携帯ゲーム機を持ってきている永夢だったが、過去に『ハテサテパズル』というパズルゲームアプリをダウンロードしていた。以来、今でも幾つかアプリゲームをやっている。その話を聞いて落ち込んでいたパラドも顔を上げる。

 

「それ、いいな! 新しいゲームも見つかるかもしれないし!」

 

「アプリゲームかぁ……」

 

 最近は目ぼしいアプリゲームも見つからず、すでにダウンロードしているゲームもほぼ攻略してしまい、マイティアクションXといった幻夢コーポレーション製のゲームを中心にやってきたが、今なら何か最新作のゲームがアプリストアにあるかもしれない。漠然とそう思った永夢は、ポケットからスマートフォンを取り出した。

 

『フン、アプリゲームか……まぁ、どこの誰が作ろうが、私が開発したゲームに比べれば塵にも等しいがな!』

 

「も~! 水差さないでよ黎斗!」

 

「そうだよ、白けること言うなよな!」

 

 アプリゲームは馴染みがないポッピーとパラドが、筐体の中でドヤ顔する黎斗に文句を言う。その間、永夢はスマートフォンのダウンロードストアにアクセスし、ゲームの一覧を開いた。

 

「おぉ、新しいのがいっぱいある」

 

 有料ゲームだけでなく、課金しない限り無料ゲームまで無数に存在しているアプリゲーム。前に見た時よりも数が増えていることに喜色の面を浮かべながら、指で画面をスライドさせていき、幾つかのアプリゲームに目を通していった。

 

「アクション、RPG、パズル、カード、アドベンチャー……やっぱり一口にアプリといっても色々あるなぁ」

 

「どれも面白そうだなぁ! 全部ダウンロードしちゃおうぜ!」

 

「いやいや、それだと容量オーバーになっちゃうよ」

 

 永夢の両肩越しから画面を見るパラドとポッピー。両肩にかかる負担を気にしつつも、永夢はゲームを探し続けた。

 

「……ん?」

 

 ふと、スライドをする指が止まる。幾つもあるうちの一つに、永夢は注目した。

 

 アプリのアイコンは、何の変哲もない、閉じられた一冊の本が描かれているだけ。他のゲームのアイコンのように、主役のキャラクターが描かれている訳でもないそのゲームのダウンロードページを開いてみる。

 

 カテゴリは、RPG。基本無料のゲームだが、詳細までは書かれていない。他のゲームにあるはずの世界観の説明や、どういった内容のゲームなのかがわからない。

 

 しかし、ゲームのタイトルはちゃんと書かれていた。

 

 

 

「……『グリムノーツ』?」

 

 

 

 そう大きく、ゲームタイトルが書かれていた。グリムというと、あの有名なグリム童話のグリムのことなのだろうか? 永夢は首を傾げた。

 

「なんだ? そのゲーム?」

 

「変わったアイコンだねー」

 

 パラドとポッピーも、そのゲームに関心を向けた。ただ、他のゲームと色々違うという点で、何か得体の知れなさを覚える。それは永夢も同様だった。

 

 しかし、彼の中にある好奇心が、それを上回った。

 

「……これ、ダウンロードしてみるか」

 

「ええ!? RPGみたいだけど、よくわかんないゲームだよ!?」

 

「いいじゃないか、たまにはそういうゲームも。心が躍るなぁ!」

 

「パラドまで……」

 

 永夢とパラドは一心同体でもある。その感覚は通じている部分もあり、未知なるゲームに対して興味を覚えたというのも一緒だった。ポッピーは反対したが、二対一ではどうしようもない。黎斗? 筐体の中で意気揚々と、もといハイテンションでPCのキーボードを叩いている自称神のことは当てにはしていない。

 

 そうこうしているうちに、永夢はゲームのダウンロードボタンを押す。しばらく待つと、ゲームがダウンロードされた旨が通知で来た。

 

「よし、ダウンロード成功だ!」

 

「いいねぇ! 早速やってみようぜ!」

 

 スマートフォンのホーム画面に戻ると、今しがたダウンロードしたゲームのアイコンが新たに追加されていた。

 

「よし、それじゃぁ」

 

 永夢は人差し指で、

 

「ゲームスタートだ!」

 

 ゲームのアイコン……グリムノーツを押した。

 

 

 

 その瞬間だった。

 

 

 

「え」

 

 永夢には、何が起こったのかわからなかった。突然、タップした指先が白く発光したかと思うと、永夢の目の前が真っ白に染まっていく。

 

「永夢!?」

 

 すぐ横にいたパラドが、肩を掴んで引っ張る感触があった。しかし、その甲斐もなく、永夢の意識は徐々に薄れていき……。

 

「永夢!? パラド!?」

 

ポッピーも手を伸ばして叫ぶが、時すでに遅し。永夢と、永夢の体を掴んでいたパラドは、一際大きく輝いたかと思うと、次の瞬間には姿を消していた。

 

 カツンと、永夢が持っていたスマートフォンが床に落ち、硬質のある音が虚しい音をたてる。ポッピーはただ、その光景を見ることしかできなかった。

 

「……え、永夢と、パラドが、消えちゃっ……た」

 

 それも目の前で、前触れも何もなく唐突に。誰が見ても異常事態としか思えない現象だった。

 

「……ピ」

 

 そんな大事件を目の前にして、彼女の頭は、

 

「ピピピピピプペポパニックだよぉぉぉぉ!?」

 

 容量をオーバーしたことで、CR中に彼女の叫び声が響き渡ることとなった。

 

 

 

 そして、気付かなかった。

 

 

 

 永夢のスマートフォンの画面に浮かぶ、一冊の本。その本が、パラパラと音をたてて捲れていく様を。

 

 

 

 

―――――――

――――

―――

 

 

 

 

『――――! 早く仕――終わ―――!』

 

 

 

 霧のように朧気な光景。遠くで鳴く小鳥の囀りのような声。聞き取ろうにも声は小さく、途切れに途切れ、全てを聞けず。

 

 

 

『――――! 私――舞――へ―――ら!』

 

 

 

 霞む光景の中、僅かに見えたのは三角頭巾をかぶった青い髪の少女を怒鳴る女性。深い皺を化粧という仮面で誤魔化すも、その醜さは隠しきれず。彼女の後ろで笑う二人の少女も、また同じく。

 

 

 

『何――!? 何で―――――!?』

 

 

 

 広い広間。煌びやかな服を身に纏った人々が集まる中心で、手と手を取って踊る一組の男女。一人は長身の、高貴な雰囲気を纏う男性。もう一人は、見覚えのある青い髪を煌めかせ、美しいドレスによって一輪の花の可憐さを彷彿とさせる少女。そしてそれを人々の中から恨めし気に見ている、少女を怒鳴っていた女性と笑っていた二人の少女。

 

 

 

『お――!? ―――!?』

 

『―――――! 許―――――!! ――――――い!!! こんな――認め―――!!』

 

 

 

 女性が吼える。化粧が剥がれ落ち、醜い素顔が露わになる。壁際に追い詰められ、怯える少女の前に立ち、迫るその姿。

 

 

 

 その手に持っていた冷たく光るナイフが、少女目掛けて振り下ろされ―――――

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 妙な夢を見た気がする。そう思いながら、永夢は目を覚ました。目に飛び込んで来たのは、板張りがされた天井。見慣れない天井に違和感を覚えながら、永夢は上体を起こした。

 

「……あれぇ? 今、何時だろ……」

 

 時計が見つからず、いまだ半分夢の中な永夢は周りを見回す。本棚にテーブル、ペンとインク壺が置かれた机。これらもまた見慣れない物ばかり。しかし、テーブルの上には畳まれた状態の彼の愛用の白衣とゲームスコープ、そして目立つ色のゲーマドライバーと各種ガシャットと、見慣れた物が置かれていた。

 

 そこまで見て回って、はて、どうして自分は寝ていたのだろうかと、永夢は考えた。

 

 先ほどまで、CRにいたはずだった。しかし、スマートフォンでゲームを起動しようとした瞬間、白い光が視界を覆って……。

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 寝ぼけていた頭が一瞬で冴え渡った。

 

 そんな永夢の耳に、ガチャリという音が入った。音がした方へ顔を向けると、僅かに開かれた扉から、こちらを覗き込むように見つめる二人分の視線。

 

 ドアノブよりも下の方で、髪の短い利発そうな少年と、反対に髪の長い大人しそうな印象を受ける少女が、永夢を見つめていた。

 

「……き、君たちは……?」

 

 永夢は思わず声を掛けた。しかし、二人から反応は返ってこず、少年からは警戒のこもった視線を、少女からは怯えを含んだ視線を感じた。

 

 どうしようか途方に暮れる永夢。しかし、そんな彼に救いの手が差し伸べられた。

 

「これこれ、お前たち何をしているんだい?」

 

 しわがれた声が聞こえ、同時に扉が開かれる。中に入って来たのは、長い白髪の老婆だった。

 

「おぉ、これは。目を覚ましたようだねぇ」

 

 永夢の姿を見て、顔を綻ばせる老婆。その老婆の背後に隠れるかのように、少年と少女がじっと永夢を見つめていた。

 

「え、えっと、すいません。僕は、一体……」

 

 お礼を言う以前に、現在の状況がさっぱりわからない。見れば、三人とも身なりが現代日本の物とは違う、どこか中世的な……ゲームで言うところの『タドルクエスト』の登場人物たちのような服装をしていた。そう思いながら永夢は老婆に、動揺しながら聞いた。

 

「アンタはな、家の入り口の前で倒れておったんじゃ。ワシがそれを見つけてな、こうして家の中に運び込んだんだよ」

 

 なるほど、どうしてここで寝ているのかはわかった。ただ肝心の、『どうやってCRからここに来たのか』がさっぱりわからなかった。

 

「変わった格好しているのを見る分、アンタ旅の人のようじゃが……しかしまぁ、随分と間が悪い時に来なさったなぁ」

 

「え?」

 

 旅の人、という言葉を否定しようとしたが、間が悪い時に来た、とはどういう意味か。その言葉の意味を察せず、思わず素っ頓狂な声が出た。

 

「この街は今、誰も彼もが王様の圧政に苦しんでおる。一旅人でしかないアンタにゃ、暮らしにくい場所だよ、ここは」

 

「いや、あの……僕は」

 

 よくわからないワードが幾つも出てきて、混乱する永夢。そんな彼に気付かず、老婆は彼に問うてきた。

 

「ところでアンタ、名は何というんじゃ?」

 

「え? ほ、宝生永夢、です……」

 

「ホージョーエム? 随分変わった名前なんじゃな。そこに置いてあるアンタの私物しかり、他所の国じゃそういうのが主流なのかの?」

 

「……え、えっと、お婆さん、その」

 

「まぁ、アンタ見たところ悪い人間にも見えんし、しばらくここにおればいいじゃろう。なぁに、気にするこたぁない。事情も聞かんよ。世の中助け合いだよ」

 

 ホッホッホと笑いながら出て行った老婆に、永夢はただ茫然と見送るしかできなかった。その後を追いかけるようにして出て行った少年は、去り際にムスっとしながら永夢を睨みつけ、少女もチラリと怯えた目で永夢を見てから扉を閉めて出て行ってしまった。

 

 本人を置いて話がトントン拍子で進んでしまったことで、状況をすぐに理解できずに永夢はしばらくベッドの上から動けなかった。せめてこちらの事情を聞くなり、あの少年のように怪しむべきではないのかと、色々思うところはあった。しかし、それよりも今は……。

 

「……ここは」

 

 ベッドの横から見える窓の外。そこに広がっているのは、本でしか見たことのない、石造りの町並み。

 

「一体……」

 

 これこそ、まさしく前述した『タドルクエスト』の町並みそのもので……。

 

 

 

「一体どこぉぉぉぉぉっっっ!?」

 

 

 

 どう見ても日本とは違う景色と、自らが置かれた訳のわからないこの状況に、両頬に手を当てて絶叫する永夢の声が、異国の街に轟き渡った。

 

 

 




衝動書きがこうなるとは……。

あ、「このキャラこんなんか?」といったコメントもあればお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 空白のtravellers!

 どんな人間にだって、運命がある。

 

 善人も、悪人も。

 

 町で暮らす町人も、城で暮らす貴族も。

 

 世界から英雄と認められた者も、気高きプリンセスも。

 

 その運命は全て、ある存在によって一冊の本によって定められ、その通りに生きていく。

 

 希望も、絶望も、全てがその筋書き通りに書かれている。

 

 そして人は、その書の通りに生き、泣いて、笑って、怒って、死んでいく。

 

 想区を作った運命の管理者『ストーリーテラー』が綴りし『運命の書』

 

 ストーリーテラーが作り出した、物語の世界、想区。

 

 想区に住まう人々は運命の書の、与えられた筋書き通りに生きていく。

 

 それが、当たり前の世界。

 

 されど、筋書きが書かれていない、真っ白なページの運命の書を持つ者たちもいる。

 

 『空白の書』

 

 役割を持たず、運命に縛られず、ただ自らの運命を選択できる書を持つ者たち。

 

 数多ある想区を渡り、彼らは歩き続ける。

 

 自らに降りかかる絶望を、希望へ変えるために。

 

 苦しい思いや、悲しい出来事にぶつかっていきながらも。

 

『再編の魔女』一行は、ただひたすらに、足掻き続ける。

 

 

 

 

 

~ 第2話 空白のTravellers! ~

 

 

 

 

 

『物語とは、作者が描けば完成ではない。それだけではなんの意味もなさない。誰にも読まれない物語など、白紙のページと何も変わらないのだからな』

 

『書き手が紡ぎ、読み手が受け止め、読み終えたその瞬間、初めて完成する』

 

『君は“もみの木”の最後に憤った。“人魚姫”の最後に悲しんだ。“マッチ売りの少女”の境遇を見過ごせなかった……』

 

『その思いだ……その思いを呼び起こすことが、僕が物語を紡ぐ理由だ!』

 

『真の救いなど、人には与えられないのかもしれない。神様くらいしか、人を救えないのかもしれない。だがどんな運命の中でも、人は、輝きを尊いと信じ生き通せる……!』

 

『それを証すことが、僕の、おほしさまなのだ……』

 

『レヴォル……君は僕の、理想の読者だ。憤りのあまり、作者を怒鳴りつけ、殴りかかろうとするなど……ははっ』

 

『作者冥利に尽きる話だ』

 

 

 

『レヴォルー! エレナー! 生きろ! そして――――』

 

 

 

「――ル? レヴォル!」

 

「え……あ」

 

 周囲が白一色の霧に覆われた、視界がゼロという空間の中。ブロンドの髪を逆立てた身なりのいい少年の思考を、声が現実へと引き戻した。

 

 レヴォルと呼ばれた少年に声をかけたのは、革紐で通した大きな本を肩に下げた、通した黒くて長い髪を白いヘアバンドで纏めている少女。まだあどけなさが残る少女は、クリッとした丸い瞳に少年を映し、心配そうに見つめる。

 

「大丈夫? ボーッとしてたけど」

 

「あ、あぁ。すまないエレナ。少し、考え事をしてた」

 

 そう言って、眉間を指で抑えながらレヴォルは何てことのないように言った。しかし、そんな彼をいまだ見つめる少女、エレナは、ぽつりと呟いた。

 

「……ハンスのこと?」

 

「っ……」

 

「やっぱり……」

 

 図星のあまり、一瞬だけ肩がビクリと震えるレヴォルに、自身の考えていたことが当たっていたことを確信するエレナ。答えに詰まったものの、気を取り直し、エレナに向き直った。

 

「彼は……アンデルセンは、僕たちに『生きろ』と言ったんだ。だから、立ち止まっていられないことは、わかっている」

 

 レヴォルは、“彼”がレヴォルに向けて語った己の信念を思い返していた。

 

 幾つもの悲しい物語を生み出し、それに憤っていた己自身。しかし、そんなレヴォルのような人間が、“彼”にとって理想の読者だと言っていた。

 

 レヴォルの生まれ育った想区、『人魚姫の想区』は、まさしく“彼”が紡ぎ出した悲恋の物語。そして、その町で出会い、寒空の中で出会った『マッチ売りの少女』もまた、“彼”の物語。

 

 悲劇を哀しみ、慈しむ心を育む物語を作ることを信条としてきた“彼”……ハンス・クリスチャン・アンデルセン。

 

 アンデルセン童話の作者にして、物語を紡ぎし者、所謂想区の元となる物語を作り上げる『創造主』であった彼は、以前訪れた『アンデルセン童話の想区』にて、忌まわしき敵と相対し、レヴォルたちを逃がし……結果、自身を混沌の源とみなし、想区から消えた。

 

 比喩なしに、文字通り……『再編の魔女』エレナの物語を作り直す力、『再編』によって。

 

 彼には言いたいことが山ほどあった。ひどい言葉を投げかけた。彼の信念に気付かなかった……悔いは、多い。

 

 それでも、彼は決死の覚悟で戦い、レヴォルたちを逃がした。『生きろ』という言葉を遺して。

 

「でも……」

 

「だから大丈夫だ。僕はなんともない」

 

 なおも言い募るエレナに、レヴォルは安心させようと微笑みかける。いつもなら、優しい彼の笑顔に安堵を覚えるのだが、いつもの笑顔よりも力が無いように感じた。

 

「さぁ、もう行こう。早く“沈黙の霧”から出ないと」

 

 エレナに背を向け、歩き出すレヴォル。今いる場所、“沈黙の霧”による視界0の空間は、彼らにとって居心地がいい場所ではない。それはエレナにもわかってはいる。

 

 わかってはいるのだが。

 

「……レヴォル」

 

 それでも、無理をしているようにしか見えないレヴォルに、エレナは居た堪れない気持ちになる。アンデルセンのことを気にしているのは、エレナも同じ。しかし、彼の描いた悲劇に激昂していたレヴォルにとって、彼に対する負い目が心の内にまだ残っているのが、今のレヴォルの枷になっているのは目に見えていた。

 

「やっぱ、前の想区のこと気にしてんのか? 王子サマは」

 

 エレナの背後から声がかけられ、エレナは振り返る。緑の髪と力のない目つきが特徴の青年と、彼の隣に立つ大柄の青髪の、顔立ちの整った男性がそこにいた。

 

「ティム……パーンさん」

 

「無理もないな。彼のような優しい性格の人間にとって、あのような別れ方は悔いが残るだろう」

 

 男性、パーンが穏やかな口調でレヴォルの背中を見る。

 

 フォルテム学院と呼ばれる学術機関に身を置く彼ら、とりわけ教師という若者を見守り、育てる立場であるパーン。故に、その人のことをよく見ている彼にも、レヴォルが抱えている重石がどれほどのものか、想像に難くなかった。

 

「……レヴォル、やっぱりハンスに言ってきたことを後悔してるみたい」

 

 エレナが思い返すのは、彼がアンデルセンに言ってきた言葉。時には彼の人格すらも否定していた。

 

 気付いた時にはもう遅い。謝ることも禄にできないまま、彼は消えた。アンデルセンは彼のことを『理想の読者』と呼び、喜んでいた。アンデルセンにとっては、それで十分なのだろうが……。

 

「ま、こればっかりはな。王子サマもそのうち乗り越えていくだろうよ」

 

 パーンと同じく、レヴォルの背中を見るティムは素っ気なくそう言った。口調からして、どうてもいいと思われても仕方がない。しかし、エレナはティムのその言葉の真意をわかっていた。

 

「……」

 

「……なんだよ、おチビ」

 

「ううん、ティムなりにレヴォルを見守っていくつもりなんだよね?」

 

「んなこと一言も言ってねぇだろうが」

 

「はは」

 

「先生まで笑わないでくれよ……」

 

 半ばキレ気味に返す彼だったが、それが彼の照れ隠しであることは、仲間内の共通認識でもあった。誤解されがちだが、根は面倒見のいい兄貴分でもある。

 

「でも……うん、そうだよね」

 

 エレナたちにできることは少ない。ならば、ティムの言う通り、レヴォルがアンデルセンのことを吹っ切れるのを待つしかない。

 

「なに、彼は決して弱い人間なんかじゃない。大丈夫さ」

 

 エレナを元気づけるため、パーンは彼女の肩に手を置く。そんなパーンの励ましの言葉に、エレナは大きく頷いた。

 

 

 

「アリシア、感知計の様子は?」

 

 エレナたちがそんな会話をしているとは露知らず、レヴォルは前に立つ眼鏡をかけたオレンジの髪の女性に声をかける。

 

「う~ん、この反応だと……うん、もうすぐ霧を抜けられそうね」

 

 女性ことアリシアはそう語る。彼女もまた、フォルテム学院に所属している生徒であり、ティムと同じ学生。そんな彼女が手にしている機械、感知計はある存在を感知し、その方角を指し示す。レヴォルたちが目指すのは、その先だった。

 

「毎度同じことを言いますが、くれぐれも気を付けなさい。次の想区も前と同じく、いきなりとんでもない環境に放り出されることもありえますから」

 

 アリシアの隣、そう注意を促すのは、レヴォルより一回り身長の低い、一見すると15歳程に見える長い黒髪を一本に束ねた、髪同様黒い和装の少女。しかしその見た目とは裏腹に、妙に貫禄があるようにも感じる。

 

「はい……わかっています」

 

「……レヴォルくん」

 

「はい?」

 

 答えるレヴォルに、少女は彼の名を呼んだ。

 

「……あまり、考え込まないことです」

 

「え」

 

 それだけ言って、少女は背を向けた。そしてレヴォルよりも先を歩く。

 

「……シェインさん?」

 

 レヴォルは、シェインと呼ぶ少女の背中を見つめる。一瞬、何を言っているのかわからなかったが、すぐに理解をする。しかし、今の彼には、その一言だけで揺れ動くことはどうしてもできない。

 

「私からも、言っておくわ。みんなも心配してるんだから」

 

「……」

 

 そんなレヴォルに、アリシアも言いにくそうではあるが、言葉をかける。仲間なのだから、頼ってくれてもいい。言外にそう伝えた。

 

「……すまない」

 

 レヴォルはただ、そう一言だけ呟くのだった。

 

 

 

 想区と想区を隔てるように広がる、沈黙の霧。普通の人間ならば歩くどころか、入るだけでも危険地帯でもあるそこを、一行は歩き続ける。

 

「あ、見て! 霧が晴れてく!」

 

 やがてしばらくすると、エレナの言う通り、徐々に霧によって白に染まっていた視界に色が付き始めていく。

 

 やがて、霧を抜けると、彼らは建物に囲まれた、人通りのない路地裏のような場所に出た。彼ら全員がそこへ出ると、幻影のように霧は宙へ霧散していく。

 

「あぁ、やっと抜けれたぁ!」

 

 エレナは体を伸ばし、解放感を噛み締める。いつまでも景色の変わらない霧の中は、やはりいつ歩いても気分のいいものではない。想区を渡り歩くのに通らなければいけないというのは百も承知ではあるが。

 

「ここは……町の中か」

 

「前回みたく、いきなり雪原に放り出される、なんてことにならなくてよかったぜ」

 

 パーンが周りを見回して呟き、ティムは前回の想区での体験を思い出してホッとした。少し肌寒いが、あの時の凍える寒さに比べれば、天地の差である。

 

「とりあえず、ここから抜けましょうか」

 

 シェインに促され、一行は路地裏から出る。そして、改めて町の景色を目の当たりにした。

 

「おぉぉぉぉ! 広いねぇ!」

 

「ああ。それなりに栄えている場所のようだ」

 

 目を輝かせるエレナに、レヴォルも町を見て顔を僅かに綻ばせる。レンガ造りの家々が立ち並び、人々が行き交う光景。前回は異変によって、多くの人々が氷漬けになっているという悲劇の最中だったが、ここは違うようで、内心ホッとしていた。

 

 が、その顔も、すぐに陰る。

 

「しかし……町の人たちの顔が暗いような気がする」

 

 前を横切る人々の顔を見て、レヴォルは一人ごちる。一人どころかほとんどの人間が、顔に影を落とし、俯き加減で歩いている。店らしき建物から呼び込みの声がするものの、どこか覇気が感じられなかった。

 

「……町の状況はあまりよくないようね」

 

 隣でそれを見ていたアリシアも、この町が住みやすいとは到底思えない程、町の人たちから活気という物が失われていることがわかった。

 

ふと、手元にある感知計を見てみる。

 

「反応は……うーん、薄いわね。今は情報を集めるしかないわ」

 

「……毎度思うけど、たまには楽には行かしてくれないもんかね」

 

「ボヤいても仕方ないでしょう、ティム坊や。それに人生なんて、そんな甘いもんじゃありません」

 

「わぁってるよ姐さん……」

 

 面倒臭いという気持ちがありありと出ているティムに、シェインが説教じみた言葉を放つ。そんな小言をティムは僅かに顔を顰めながら聞き入れた。

 

「ふむ……話を聞くなら、やはり店を切り盛りしている人間に聞くのがいいだろうね」

 

 闇雲に町人に話を聞いて回るよりも、買い物客と多くの情報を交換している可能性のある店員から聞いた方が効率がいい。そう考えたパーンはそう口にする。

 

「そうですね。空腹を満たすついでに、話を伺いに行きますか」

 

「キャッホー!」

 

「エレナ、あまりはしゃがないで……」

 

 シェインがパーンの提案に乗った直後、諸手を挙げて喜ぶ歩き続けで空腹のエレナ。そしてそんな彼女を窘めるレヴォル。一行にとっては相変わらずのやり取りだったが、町の人は誰も気に留めない。せいぜい、「なんだこいつら」といった風な視線を向けるだけだった。

 

 さて、ではどこで聞き込みをしようかと、一行は店を探す。いち早く見つけたのはエレナだった。

 

「あ、パン屋さんがあるよ! あそこでいいんじゃない?」

 

 指さした先には、広場の片隅にある、店内に幾つものパンが並んだ小さなパン屋。今は客はいない様子だが、他に目ぼしい店もないし、一行に異議がある者はいなかった。

 

「そうだな、あそこでいいと思う」

 

 レヴォルが同意するやいなや、目を輝かせてタタタと駆け出すエレナ。見た目も相まって、完全に童女のそれだった。

 

「くーださーいなー!」

 

 ドアベルを鳴らしながら店内に入り、無邪気な大声を上げて店員を呼ぶエレナ。その声に、すぐに応答がきた。

 

「あ、いらっしゃいませ!」

 

 店の中で作業をしていたのは、黒い髪をした青年だった。客として訪れたエレナに対し、エプロン姿の彼は笑顔で頭を下げて歓迎した。活気のない町の中にあるパン屋の店員にしては、優しそうな面持ちな上に、威勢がよかった。

 

「うわぁ、おいしそう!」

 

「はい! この店のパンはどれもおいしいですよ!」

 

 棚に陳列されたパンは、確かにどれも温かみを感じられた。小麦の香ばしい香りが、エレナの鼻孔をくすぐる。そんなエレナを、青年は微笑ましそうに見ながら笑顔で言った。

 

「エレナ、あんまり店の中ではしゃがないでくれ……すまない、店の中を騒がしくしてしまって」

 

 遅れてレヴォルが入店し、静かだった店内が騒がしくなったのを察し、その元凶を叱りつつ店員に謝罪した。

 

「いえ、全然気にしていませんよ。妹さんですか?」

 

「あぁ、いや、そういうのじゃなくて……」

 

「これお願いしまーす!」

 

「ちょ、エレナ……」

 

 仲間と返答しようとしたが、並べられた幾つかのパンを見繕ったエレナによって遮られた。この空間は完全にエレナのペースだった。

 

「はい、ちょっと待っててくださいね」

 

 青年はそれに気分を害した様子もなく、笑顔を崩さずに指定されたパンを紙袋に詰めていく。愛想もよく、穏やかな性格の青年に、レヴォルは内心ホッとしていた。

 

「本当にすまない……あぁ、それと、重ねて申し訳ないんだけど、聞きたいことがあって」

 

 ここまで騒がしくしておいてあれだが、ここに来たのは買い物のためだけではないことを忘れていない。レヴォルはエレナが青年に代金を支払っているのを確認してから、声をかけた。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 紙袋をエレナに渡して、青年はレヴォルへ向き直った。

 

「実は僕たちは先ほどこの町に来たばかりで、この町のことをよく知らないんだ。何か知っていることがあれば、教えていただけないだろうか?」

 

 この町の惨状について、何か一つでも情報が手に入ればと考えていたレヴォル。しかし、そんな彼の意に反し、青年は困ったような、申し訳なさそうに頬を掻く。

 

「えぇっと……すみません、僕もよくわからないんです」

 

「え?」

 

「もぐもぐ……あれぇ? でもこのお店の店員さんだよね?」

 

「ちょ、エレナちゃん店の中で食べるのはちょっと……」

 

「そうだね……さすがに行儀悪いな」

 

 アリシアたちも店内に入り、紙袋から柔らかいパンを一つ取り出して頬張るエレナに、レヴォルが窘めるより先にアリシアとパーンが注意した。そんな中、青年は続ける。

 

「実は僕も昨日ここに来たばかりで……途方に暮れてたところをこの店の人に拾っていただいて、恩返しに店の手伝いをしているんです。ですからこの町のことに関しては、ちょっと……」

 

「そうだったのか……」

 

「力になれず、本当にすみません」

 

「あ、いや、いいんだ。昨日来たばかりなんだから、知らなくてもしょうがない。僕こそ唐突に質問してすまなかった」

 

 彼の事情はわからないが、少なくとも力になれないことに対して謝罪する彼を責める気などレヴォルたちには無かった。

 

「……」

 

「ん? どうした、ババァ」

 

 ふと、そんな青年の顔をじっと見つめるシェインにティムが気付く。ただ、その表情はどこか訝しんでいるようで、若干眉間に皺が寄っていた。

 

「……少し、私からもお尋ねしてもいいですか?」

 

「え? あ、はい。いいですよ」

 

 相も変わらず穏やかな笑顔を向ける青年。しかし、シェインの表情は変わらず。

 

「あなたは……」

 

 そして胸に抱いた疑問を問おうと口を開いた時、店の奥にある扉が音をたてて開いた。

 

「アンタ、ちょいといいかい?」

 

 店の奥から、三角頭巾をかぶった老婆が顔を覗かせ、青年を呼ぶ。

 

「はい! どうかしました?」

 

「アンタ、子供たちを見なかったかい? 二人揃って遊びに出て行ったんだけど……」

 

「いえ、見てないですけど……まだ帰ってきていないんですか?」

 

「そうなんだよ、帰ってくるように言っていた時間をとっくに過ぎてるっていうのに。何かあったのかねぇ……今こんな状況だし、心配だよ」

 

 そう言って、物憂げにため息をついた。

 

「……じゃあ、僕が見てきます! きっとそんな遠くには行ってないはずです」

 

 そんな老婆を見ていられなかったのか、青年はエプロンを脱いで笑顔で言った。

 

「ええ? そりゃ、ありがたいけれど……いいのかい?」

 

「大丈夫です、すぐ戻って来るんで!」

 

 エプロンを脱いで畳んでから、ふとシェインの方を向いた。

 

「あ、そうだ。さっき僕に何か……」

 

「……いえ、大した用事ではありません。それより、子供たちを探しに行くんでしょう? 早く行ってあげてください」

 

 そう青年に行って、シェインは一歩下がる。先ほどまで見せていた怪訝な顔は消え、いつもの済ました顔に戻っていた。

 

「すいません、ありがとうございます!」

 

 言って、青年は畳んだエプロンを手に店の奥へ。一分も経たないうちに、白い上着? のような服を羽織って出てきた。

 

「じゃあお婆さん、行ってきます!」

 

「ああ、気を付けて行くんだよ?」

 

「はい!」

 

 一歩、店から出て足を踏み出した。

 

 が、その足が宙に浮く。

 

「って、うわぁ!?」

 

 ドベシャン! そんな音と共に、青年が石畳の地面に顔から突っ込む形で倒れ込んだ。

 

「だ、大丈夫お兄さん!?」

 

「すごい音がしたぞ!?」

 

「うわぁ……今、顔から行ったなぁオイ……」

 

 何もないところで躓いてこけた青年を、店から出たエレナとレヴォルが助け起こした。その横でティムがあまりにも綺麗なフォームでずっこけたのを目の当たりにし、顔をしかめながら呟く。

 

「ら、らいじょうぶれす……ありがとうございまひゅ」

 

「いや声からして大丈夫じゃないでしょ!?」

 

「いえ、割とあるんで、こういうの……慣れました」

 

「慣れるほど!?」

 

 鼻を抑えながら起き上がる青年に、アリシアが思わずツッコんだ。そもそも何もないところで躓くとはどういうことか。ドジのレベルが高すぎる。

 

「ほ、ホント大丈夫なんで。じゃあ、行ってきます!」

 

 今度こそ青年は駆けだす。鼻を抑えながら。

 

「あ……行っちゃった」

 

 町の中へ消えていく青年を、一行は見送る。優しい性根の持ち主のようだが、人が困っていたらすぐに駆け出すという熱い性格の持ち主でもあるようで、それでいてドジな部分もある。何とも不思議ではあるが、好感の持てる青年だった。

 

「……僕たちも手伝った方がよかったか?」

 

 ふと、レヴォルはそう呟く。肝心なところでドジをやらかしたのを見ると、少し不安にもなる。しかし、それはシェインによって否定された。

 

「私たちは私たちのやるべきことがあるんです。迷子探しは、彼に任せておきましょう」

 

「……ところでシェイン。君は彼に何を聞こうとしていたんだ?」

 

 パーンが尋ねると、シェインは腕を組んで考え込む。少し唸ると、青年が去って行った方角を見つめた。

 

「いえ、まぁ、ホントに些細なことかもしれませんが……彼の服装が気になって」

 

「服装、ですか?」

 

 シェインの疑問に、レヴォルが意味を問う。

 

「ええ。この町の人間をざっと見てみましたが、服装はこれまで訪れた想区と大差がありませんでした。しかし、彼の場合は服装が他の人と違います」

 

「……えっと、どゆこと?」

 

 シェインの説明に、エレナが首を傾げ、頭に疑問符を浮かべる。

 

「つまり、この想区の住人にしては彼は浮いた存在であるということです」

 

「それって、別におかしくねぇんじゃねぇの? ここが『挟界(はざかい)の想区』って可能性も否定できねぇだろ」

 

 ティムが連想したのは、過去に何度か訪れた、いくつもの物語が組み合わさったことで生まれた想区。そのために様々な文化や思想が入り混じり、トラブルに発展していったこともしばしばあった……その度に何度も“女神”もといトラブルメーカーから呼び出しを受けて解決してきたが、今回は割愛。

 

 ともあれ、確かに彼の服装は少し派手めのシャツに赤いズボン、そして純白の上着という出で立ちは目立つものの、特に不思議には思わなかった。

 

「まぁ、確かにそうなんですが……長いこと生きてきて、ああいう服を目にしたことはないんですよね……」

 

 特に、あの白い清潔感のある衣のような服。この町に来たばかりだと言っていたが、それでもあの服はどうもこの町に……寧ろ、この想区にそぐわないようにしか見えない。

 

 考えすぎか……訳あって伊達に長い時を生きてきただけではないが、それと共に何事も考えすぎるようになってきているかもしれない。

 

「まぁ、最初あの兄ちゃんに姐さんが声かけた時、もしかしてナンパか? とも思ったけどな」

 

「……それ、本気(マジ)で言ってます?」

 

「さすがにそういう類の冗談はいただけないな、ティム」

 

「わ、わりぃ、冗談だから……」

 

 おどけてからかうティムに、僅かばかりの怒気を込めて半目で睨むシェインと小言を言うパーン。それにあっさりと尻込みするティムに、レヴォルたちは苦笑せざるを得なかった。

 

「もし、お客さん?」

 

「あ、はい?」

 

 と、そんな彼らに声をかける人物が一人。振り返れば、パン屋で青年に子供たちを訪ねた、店の主らしき老婆が立っていた。

 

「アンタらも、この町に、もといこの国に来たばかりなのかい?」

 

「ええ、そうです。それで何か、この町に関することを聞いて回ろうとしていました」

 

 老婆の質問に、レヴォルが応対する。しかし、そんな彼に老婆は気の毒そうな視線を向けた。

 

「そうかい……あの子と同じく、アンタらも間が悪い時に来たねぇ」

 

「え?」

 

「間が悪い……とは、どういう意味でしょう?」

 

 パーンも話に入り、老婆に問う。老婆は、周りを見回して、まるで細心の注意を払うようにしつつ、一行に顔を近づけ小声で話し出した。

 

「最近なんだけどね……この国の王が、どうも様子がおかしくなってしまったんだよ」

 

「王が?」

 

 レヴォルが聞くと、老婆は頷いた。

 

「ああ、以前はとても心の優しい方だったはずなんだけど、急に重い税金や、王の悪口を言うと問答無用で投獄されるようになってしまったんだよ。そのせいで、この町は今やかつての活気は無くなってしまったのさ。私の古い知り合いも、何人か連行されちまった」

 

「そんな……」

 

 この町が暗い原因が国民の上に立つ存在であるということに、同じ王族出身であるレヴォルにとっては許容できない話だった。かつて訪れた想区でも、そういった上の立場の人間によって無辜(むこ)の民が苦しむ光景を目にしてはきた。しかし、だからといって慣れるはずもなく、憤りを覚える。

 

「王がそのような暴挙に出られた原因に、何か心当たりはありますか?」

 

「いんや、それがさっぱりさ。私たちも最初は信じられなかったけど、どう足掻いたって現実であることには変わりゃしなかったよ」

 

 パーンが聞くも、老婆は悲し気に首を振った。王妃が善政を敷いていた時期を覚えている身としては、これほどつらいことはないのだろう。

 

「けど、一番辛いのは……」

 

「え?」

 

「あぁ、いや、何でもないよ」

 

 何かを言いかけた老婆の言葉がレヴォルの耳に入るも、本人は手を振って誤魔化した。あまり深入りされたくない話なのかもしれない。そう思い、それ以上聞くことはしなかった。

 

「……お嬢、もしかすると」

 

「ええ……まだ確証はないけど」

 

 ティムが言わんとしていることがわかり、アリシアは頷く。一行が想区に訪れる切欠でもあり、倒すべき相手。それは、放っておけばこの想区そのものが、比喩表現なしに消滅してしまう可能性を秘めた、危険な存在。

 

「その王が、『カオステラー』である可能性が高いわね」

 

 ストーリーテラーが異常をきたし、自らの運命を否定した者に憑りついた、エレナたち再編の魔女の敵、カオステラー。それは想区を混沌に陥れ、想区に生きる全ての存在を消し去る。

 

 今の段階ではまだ憶測でしかない。しかし、老婆の話す内容からすれば、件の王が最有力候補だ。

 

「けど、やはり情報が足りませんね」

 

「ですね……せめてここがどういった想区なのか知っておきたいな」

 

 顎に手を添えるシェインに、レヴォルも同調する。カオステラーと断定するには、もっと情報を集めなければいけない。カオステラーを探すための感知計が反応していた以上、ここにカオステラーがいるのは確定している。そもそも、ここがどういった想区なのかすらも把握していない。今後この想区を動き回る以上、それらの情報を集めて対策を練る必要があった。

 

「ねぇ、お婆ちゃん。その王様の名前はなんていうの?」

 

 エレナは、この想区の活気がない原因が王ならば、物語の中心も恐らくその王かもしれないと当たりをつけ、老婆に尋ねた。

 

「王の名前かい? 王の名前は……」

 

 質問に答えようと、老婆がその名を口にしようとした。しかし、その言葉は途中で遮られる。

 

「……なんだか騒がしくなってきたわね?」

 

 一行の耳に、悲鳴混じりの声が聞こえてくる。アリシアが口にし、騒動の方へ目を向けた。

 

 アリシアたちだけでなく、広場にいる人たちも騒ぎの原因に訝し気に目を向ける。やがて、一気に視線を集め、注目の的となっている人間が叫ぶ。

 

「大変だー! 化け物が、また化け物が出てきたぞー!」

 

 化け物。そのワードに反応するのは様々だった。驚愕する者、恐怖に怯える者。中には悲鳴を上げ、建物へ逃げ込む人々もいた。

 

 しかし、違う反応をする者たちもいる。再編の魔女一行である彼らは、化け物と聞いてある姿が脳裏に浮かんだ。

 

それは人間ではなく、ましてや動物といった生き物でもない。

 

 黄色く光る妖しい目をした、子供ほどの体格をした五体の黒い化け物。鋭利な爪で獲物を切り裂かんと振りかざすそいつらを、レヴォルたちは知っている。

 

「まさか……『ヴィラン』!?」

 

 カオステラーの下僕にして、想区に混沌を撒き散らす存在。幾度となくレヴォルたちの前に立ち塞がってきた、人々に害なす化け物たち。

 

 早い話が、“敵”だった。

 

 




グリムノーツは世界観が深いゲームです。なので結構長いことプレイしていても、なかなか世界観を把握するのが大変です。

無論、設定を間違えないように書いていますが、何か間違っていたら申し訳ありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 Crossする運命!

変身回、しかし長い!!


「あっれぇ……ここどこだ?」

 

 再編の魔女一行に見送られる形となって走り出した青年は、店から飛び出してしばらく後、いまだ痛む鼻を抑えながら周りを見回していた。元々土地勘のない場所で、幼い子供たちを探すのは無理がある。後先考えずに行動したツケが回ってきたことに、軽く自己嫌悪に陥った。

 

「まいったなぁ、帰り道もわからないぞ」

 

 頭をガシガシと掻き、途方に暮れる青年。子供たちを探すのに夢中になって、元来た道もわからない。迷路のように入り組んだ道を当てもなく歩き回り、やがて立ち止まった。

 

「はぁ……どこ行っちゃったんだろ」

 

 疲労した体を少しでも休めようと、膝に手を着いて項垂れる。少し休憩したらもう一度探しに行こうと思った時、

 

『なぁ』

 

 ふと、彼の脳裏に声が響く。青年の周りには誰もいない。しかし、青年はそれに慌てることもなく、自身の胸に手を置いた。

 

『いつまでこんなことやってるんだ? 俺たちはこんなことしてる場合じゃないだろ?』

 

「それは……そうだけど」

 

『だったら早く帰る方法も見つけないと。お前のことを待ってる人たちが大勢いる。それがわからないお前じゃないだろ? 永夢』

 

 青年……永夢は立ち上がり、近くの壁に背を預けた。そして、彼に語り掛けて来る存在に言葉を返す。

 

「わかっているさ。けど、目の前で助けを求めている人がいる以上、放っておくこともできない。お前だってわかるだろ? パラド」

 

『そりゃ……わかってるけどさぁ』

 

 永夢は自分の中に宿っている存在、パラドにそう話すと、先ほどまで諭していた側が逆転していることに気付き、小さく笑った。

 

 CRから突然この町に迷い込む直前、パラドは永夢の肩に手を触れた。その瞬間、ウィルスである彼は咄嗟に永夢の体に入り込み、文字通り一体化した。そのお陰で、永夢は右も左もわからない土地で、孤独に苛まれることなく、今こうして笑っていられる。それが永夢にとって、何よりもありがたかった。

 

「それに、お婆さんには助けてもらった恩返しもしないとね」

 

 思い返すのは、助けてもらったばかりか、寝床まで用意してくれた老婆。パン屋を営んでいると知った永夢は、助けてもらった恩返しにと、せめて店の手伝いをさせて欲しいと申し出た。最初は気にすることはないと言って断っていた老婆も、永夢の懇願に折れて店番をやらせてもらうまでに至った。

 

 何故助けてくれたのか一度聞いたら、「何事も助け合いじゃ」と言うだけで、具体的な話は聞けずにいる。しかし、永夢が手伝ってくれているおかげで助かっていると、笑顔で礼を言ったのを覚えている。

 

『……けど、問題は子供たちだよな』

 

「うん……」

 

 しかし、まだ一日しか経っていないのもあるが、子供たちからは避けられている。昨日永夢の顔を見ただけで、妹である少女は恐がり、兄の少年は警戒心を剥き出しにして永夢を睨んでいた。研修期間中、小児科も請け負っていた永夢にとって、子供たちと打ち解けられずにいるのはなかなかに辛い。

 

 だが、それ以上に永夢は二人の、とりわけ少年の瞳を見て、あることに気付いていた。

 

「あの子……何て言うか、すごく悲しそうな目をしていたな」

 

 小児科研修の時に、子供たちの診察をしてきた永夢だからこそわかる。あの少年の目からは警戒心だけではない、何か暗くて深い、泣き出しそうな目をしていた。この町の状況が彼をそんな目にさせているのか、それとも別の何かが原因か、今の永夢にはわからない。

 

『……助けたいのか? あの二人』

 

「ああ。あんな目を見た以上、放ってなんておけない」

 

 だからこそ、あの兄妹を笑顔にしてあげたい。二人だけではない、世話になっている老婆含めて、三人の心をどうにかして助けたい。例え拒絶されようとも、永夢はあんな悲しい子供の目を見たくなどなかった。

 

 それが永夢として、ひいてはドクターとしての信念だった。

 

『全く……どこ行っても変わらないな、永夢は』

 

 かつては敵として相対していたパラドも、永夢のそんな気持ちを知って笑う。その笑い声を聞き、永夢もまた笑う。

 

「付き合わせてごめん、パラド」

 

『前も言ったろ? 俺はお前、お前は俺だ。どこへだって付き合うぜ』

 

 頼もしい相棒の言葉に、永夢は心の中で感謝の意を告げる。改めて、二人を探そうと壁から背を浮かした。

 

「……あれ?」

 

 と、視界の端に何か写った気がし、そちらへ振り向く。そこには、一瞬だけだが小さな影が二つ見えた。

 

「あ、待って!!」

 

 永夢が探していた二人かもしれない。すぐさま走り出し、永夢は影の後を追う。道を縫うように走り、しばらく走った後、狭い道から抜け出せた。

 

「はぁ、はぁ……ここは」

 

 出た場所は、4mほどもある高い塀が聳え立っている道。町の人が歩いているのを見るに、ここは表通りのようだった。

 

 永夢は呼吸を落ち着かせつつ、周りを見回す。そして、目当ての存在はすぐに見つかった。

 

「いた!」

 

 塀を見上げ、じっと見ている二人の子供。永夢が探し続けていた兄妹だった。

 

「二人とも、見つけたよ!」

 

 永夢が叫びながら駆け寄ると、二人も永夢の存在に気付いて振り向く。少女は相変わらず怯えて少年の腕にしがみつき、少年もまた永夢を睨みながら見上げてきた。

 

「ふ、二人とも、足早いね……僕もうヘトヘトだよ……」

 

 腕で額の汗を拭いながら、二人と目線を合わせるように屈み込む永夢。疲労を感じながらも、二人の足の速さを笑顔で称賛した。

 

 しかし、二人は表情を変えることなく、相変わらずな様子で永夢を見る。

 

「……何しにきたんだよ」

 

「何しにって……君たちのお婆ちゃんが心配してたんだよ? 言いつけ通りの時間に帰らないから」

 

 敵意を込めて尋ねる少年に、永夢は二人を探しに来た理由を言う。老婆もそうだが、永夢も二人に何かあったのではと思い、必死に探していた。そんな永夢の気持ちを知らずか、フンと鼻を鳴らす少年。

 

「余計なお世話だよ。俺は別に探してくれって言ったわけじゃない」

 

「そんな言い方よくないよ。僕はともかく、お婆ちゃんに心配はかけちゃダメだよ」

 

「……ホントに心配してるかどうかなんて、わかんないじゃんか」

 

「お兄ちゃん……」

 

 けんもほろろな少年を、少女は気遣うように見る。態度を変えない少年だったが、永夢は変わらない様子で話し続けた。

 

「どうして、そんなこと言うの? 君たちのお婆ちゃん、本当に心配していたんだよ?」

 

「……」

 

 諭す永夢に、少年は黙り込む。顔を覗き込めば、唇をかみしめ、力一杯に握りこぶしを作っていた。その様子に並々ならぬ物を、永夢は感じ取る。

 

「……何か、あったの?」

 

「……」

 

 チラと、高い塀を見やる少年。整然と組み合わされた白い石で作られた塀の向こうは、何があるのか覗き見ることができない。少年の視線は、塀というよりも、その塀の向こうにある何かに向けられているような気がした。

 

「……大人なんて、皆助けてくれない」

 

「え?」

 

 ポツリと呟く少年に、永夢は首を傾げる。

 

「僕たちの父さんと母さんを……皆は、町の人たちは誰一人助けようとしなかった」

 

 泣き出しそうな少年の声。隣の少女も泣くのを堪えているが、目に涙を貯めながら少年の袖を力強く握りしめている。二人から感じる悲壮感と、少年が話す内容に、永夢は戸惑う。

 

「父さんと母さんって……一体何が」

 

「僕らの父さんと母さんは! お城の兵隊に連れて行かれたんだ!!」

 

 永夢を遮るように、少年は大声を張り上げる。道行く人がギョッと少年を見て、足早に去っていく。声に驚いたように見えたが、そういった様子ではない。まるで厄介なことから、自分も巻き込まれまいとしているかのような。

 

「何も悪いことなんてしてないのに! ちょっと生活が苦しいから何とかしたいって言っただけなのに! それだけで、二人はお城に……!!」

 

 とうとう堪え切れず、少年は大粒の涙を流し始める。それが引き金になったのか、少女もまた静かに泣き出した。

 

「そんな……」

 

 泣き出す二人の話を聞いて、永夢は愕然とする。この町のことはまだよくわからないが、それでも想像以上にひどい話であることだけははっきりわかる。二人の様子からして、有無を言わせず両親を連れ去ったのだろう。

 

 何の理由があって、両親を連れ去ったのか。どういう事情があって、子供たちを悲しませるのか。永夢にはわからない。

 

 しかし、湧き上がってくる怒りと、理不尽な仕打ちに対する反発心が、永夢の心に火を点けた。

 

『二人がこんな目をしているのは、そういう理由か……』

 

(ああ。まだわからないことが多いけれど、こんなこと許されていいはずがない……!)

 

 心の内でパラドと話し、互いに兄妹をこんな目に合わせた存在に憤りを覚えた。どうすればいいのか、永夢は考える。

 

「こんなこと……こんなこと、僕の運命の書にだって書いてなかったのに……!」

 

 が、少年が発した言葉に、ふと疑問を覚えた。

 

「……運命の、書?」

 

 聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。その運命の書とは何なのか、少年に問い質そうとした。

 

「そこのお前たち」

 

「へ?」

 

 ふと、背後から尊大な声がかけられ、永夢は振り返る。見れば、各々手に槍を携えた、鈍色に光る甲冑に身を纏った男たちが5人、永夢たちを見下ろしている。

 

「お、お城の兵隊……!」

 

「ひっ」

 

 少年は怯える少女を庇うように立つ。しかし、その少年の顔も恐怖に彩られていた。

 

 それを見た永夢は、少なくとも彼らが兄妹たちにとっていい人間であるとは到底思わず、立ち上がって彼らと相対した。

 

「先ほど、こちらから我々に対する反抗の意思があると思わせる発言が聞こえたが?」

 

「……あなたたちは誰ですか」

 

「質問をしているのは私だ、若造。愚民の分際で」

 

 高圧的な態度を隠そうともしない、5人のうちの一人。他の4人も軽蔑の眼差しを向けているのが永夢にはわかる。

 

「僕たちは、ただこの辺りを通っただけです。反抗なんてしてません」

 

 しかし、永夢はそんな彼らに対し、正面から向き合う。その背に兄妹を庇うように立ち、兵士たちが自身に向くように、彼らを真っ直ぐ見つめた。その目には強い意志があり、これまで数多くの修羅場を潜り抜けてきた貫禄を感じさせる。

 

 一瞬、そんな永夢の目を見てたじろいだ兵士たち。が、永夢のその態度が気に食わないのか、半ばニヤけていた顔を苛立ちで歪ませる。

 

「我々に口答えするとは、相当な愚か者と見える。罰としてそこにいるガキ共々、城に連行してやる」

 

「たったそれだけの理由で連れていくなんて、どんな権利があったとしても許されるものじゃない!!」

 

「黙れ、何度も言わせるな! 我々に盾突く者は、反逆の意思ありと見なす!」

 

(む、無茶苦茶だ……)

 

 横暴なんてレベルじゃない理論を振りかざし、兵士たちがにじり寄ってくる。道行く人々は、関わり合いになりたくない、もとい巻き添えを食らって捕まることを恐れているのか、遠巻きに見ているしかできない。永夢は兄妹と共に、一歩ずつ後退っていった。

 

『どうする、永夢!?』

 

(どうするったって……)

 

 何とかここは穏便に済ませたいと思う永夢は、対話を試みようと言葉を探す。

 

 しかし、この試みはすぐさま捨てさることとなる。

 

「我々に盾突く者は、は、はは、反逆者とみなす……!」

 

「……え?」

 

 兵士の様子が、おかしい。一人だけでなく、後ろに控えている4人も同様、体の動きが壊れたブリキ人形のようにガクガクと震え出す。

 

「は、ははは反逆者、反逆者、反ぎゃくしゃ、はんぎゃくぎゃくぎゃくぎゃく……!」

 

目が虚ろになっていき、繰り返され紡がれる言葉を発す口からは唾液が流れ落ちる。その異様な光景に絶句する永夢は、怯える兄妹と共に後ろへ下がる。

 

「な、なんだ……!?」

 

 突如変貌した兵士たち。やがてその姿を、黒い煙が覆っていく。その光景に驚くより前、一瞬で煙は晴れる。

 

 

 

「「クルルルルゥゥゥゥゥ……!」」

 

 

 

 煙の中から現れたのは、兵士ではなかった。

 

 頭頂部に生えるかのように揺らめく青白い炎を放つ大きな頭と、それに反して小さな体。そして酸化した血を彷彿とさせる赤黒い太い手足と、その先端に生える鋭利な赤い爪。永夢の肩ほどある体躯をした“それ”は、黄色く妖しく光る鋭い目を、永夢たちへ向ける。

 

「こ、これは……!?」

 

 人間が、突然化け物となった。その事実に、周りで事の成り行きを見ていた人々は悲鳴を上げ、我先にと逃げ出した。だが、永夢はこの光景に驚きこそすれ、恐怖を感じることはない。彼にとって、人間に感染するバグスターウィルスという存在があった。その度に彼は、患者を救うために命をかけて戦ってきた。

 

 しかし、これは……目の前で対峙する“それら”は、永夢の知るバグスターウィルスとは似ても似つかない。新種のウィルスかとも思ったが、目の前の連中が発する異様な雰囲気は、バグスターとも違うと感じる。

 

 共通している物と言えば、敵意を、そして悪意を感じる“悪性”の存在であるということだ。

 

「ば、化け物……!」

 

「……っ」

 

 永夢の後ろでは、兄妹が抱き合って化け物を恐怖に怯えた目で見ている。無理もない、脅威の対象が突然人間から化け物へ変わったという出来事は、大人である人間ですら理解することを否定するだろう。

 

 あの兵士たちは、永夢たちを城へ連行しようとしていた。しかし、今目の前にいる元兵士の現化け物である知性の感じられないこの存在が、“連行”という生易しい行為をするだろうか?

 

 否、そうは思えない。

 

「……こうなったら」

 

 四の五の言ってはいられない。今二人を守れるのは自分だけ。永夢は決意し、懐に入っている物を取り出そうとした。

 

『クルルゥゥゥ!』

 

「っ、まずい!」

 

 それより前に、化け物が永夢に迫る。咄嗟に背を向け、兄妹に覆いかぶさる。

 

 せめて二人の盾に……迫る脅威に対してそう覚悟し、永夢は目を固く閉じる。

 

 化け物の赤い爪が、無防備な永夢の背中に突き立てられ

 

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 

 ることはなく、化け物は別の誰かの呼気と共に蹴り飛ばされることとなった。横からの衝撃に耐えることはできず、化け物は塀に体をぶつける。

 

「……あれ?」

 

 流血による痛みを覚悟していた永夢は、いつまで経っても衝撃が来ないことに疑問を感じ振り向く。そこに立っていたのは化け物……ではなく、青い服を纏った金髪の少年。どこか見覚えのあるその姿を確認すると共に、サファイアを彷彿とさせる瞳が永夢へ向けられた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「君は、さっきの……」

 

「え? ……あなたは!?」

 

 永夢だけでなく、少年、レヴォルもまた、化け物が出たという場所へ急いで来てみれば、誰かが襲われているのを目撃し、なりふり構わず助けに入った結果、助けた相手が先ほど客と店員として知り合ったばかりの顔だと確認すると驚愕する。

 

「やっぱりヴィランが出やがったか!」

 

「って、あれ? さっきのパン屋さんの店員さん!?」

 

 遅れて、エレナたちも追いつく。そして襲われていたのが永夢だと知って驚くも、化け物ことヴィランが一行の前に立ち塞がり、表情を変える。

 

「これ以上被害が広がる前に、倒すしかない!」

 

 レヴォルたちは永夢たちの前に立ち、ヴィランと対峙する。そして、各々革表紙の本を取り出した。ヴィランたちもまた、敵が増えたと認識したのか、どこからともなく仲間が集まりだし、数を増やして彼らを取り囲んでいく。

 

「ま、待ってください! 危険です!」

 

 敵が何者かはわからないが、自分たちを守るために戦おうとする彼らに、永夢は思わず制止しようとする。そもそも、彼らが手にしている本は一体何なのか、永夢には皆目見当もつかない。

 

 だからこそ、知らない。彼らが、再編の魔女一行の持つ本こそが、彼らの“武器”であることを。

 

「みんな、行くぞ!」

 

 レヴォルが声を張り上げると、懐から何かを取り出した。

 

(なんだ、あれ……?)

 

 それは、まるで弓矢の鏃に似ている形をした、黒くて薄いカードのような物だった。金色の縁取りがされており、上部に開けられた穴に細い紐を通している。全員、持っている物は同じ形をしていたが、真ん中に光る紋章の色と形がそれぞれ違っている。

 

 永夢の疑問を他所に、一斉にカードを各々持っている本に置き、閉じて挟んだ。

 

 次の瞬間、永夢の目の前で変化が起きた。

 

「えぇ……!?」

 

 一瞬、一行が光ったかと思うと、その後には一行の姿は消え、代わりに別の人間が立っていた。否、彼らは一様にして、その姿を“変化”させていた。

 

 レヴォルは、煌めく長い銀髪を後ろで一本に束ねた、細身の長剣を持つ貴公子『ロミオ』に。

 

 エレナは、一冊の本を手にし、黒いシスター服に赤い靴を履いた『赤い靴のカーレン』に。

 

 アリシアは、赤い頭巾を被り、その身丈に見合わない花柄の大筒を抱えた少女『赤ずきん』に。

 

 ティムは、短い金髪と凛々しい顔つきをした、装飾も見事な槍と盾を携えた青年『ヴァルト王子』に。

 

 パーンは、人の外見ではなく、狼のような獣の姿を持ち、水色の斧と丸盾を持つ『野獣ラ・ベット』に。

 

 シェインは、長い白髪と額に生えた二本の角という異様な出で立ちをした、手甲に刃を付けた『酒呑童子』に。

 

 かつての面影を残すことなく姿を変えた彼ら。今の彼らは、かつての英雄や物語の主人公の魂を宿したアイテム『導きの栞』を、自らの運命の書である『空白の書』に挟むことによって一体化する『コネクト』という力を使って変化し、栞に宿った魂の力を引き出すことができる。

 

 つまりは、彼らは戦える。その力を使い、運命を否定しようとする者たちから、己を、人を守るために。

 

 悲恋の主人公、贖罪のシスター……各々の力を手に、彼らはヴィランに立ち向かっていく。

 

「深追いはするな! 今は彼らを逃がすことを考えて戦うんだ!」

 

「はい!」

 

 ラ・ベットに変わったパーンの指示に従い、一行は数を増やしたヴィランへ突撃していく。

 

ロミオことレヴォルは、手にした長剣を振るい手近にいたヴィランを切り裂き、返す刃で二体目を切り飛ばした。

 

「はっ!」

 

 呼気と共に飛び掛かって来たヴィランを蹴り、その先にいたヴィランを巻き添えにして吹き飛ばした。そこに追い打ちをかけるよう、一か所に固まったヴィランの眼前に紫色の魔法陣が浮かび上がる。

 

「えい!」

 

 エレナ扮するカーレンによる魔法が発動、魔法陣から放出された闇色の力がヴィランを消し飛ばした。

 

「行くわよティムくん!」

 

「あいよ、お嬢サマ!」

 

 少し離れた位置で、赤ずきんとなったアリシアとヴァルト王子の力を宿したティムが、それぞれの得物を構える。アリシアの持つ大筒の先端からは膨大な熱量が炎となって蛇の下のように吹き出し、ティムの持つ銀色の槍の先端もまた同様に熱によって赤く染まっていく。

 

「「はぁっ!」」

 

 気合一閃、ヴィランへと照準を定めたアリシアの大筒と、地面に勢いよく突き刺したティムの槍から、得物に充填された熱が爆炎となって放出、炎の波となってヴィランを飲み込んでいった。その後には炭も残さず、ヴィランたちは消滅する。

 

「そっちへ飛ばすよ、シェイン!」

 

「お任せください!」

 

 ラ・ベットとなったパーンが、斧と盾を駆使してヴィランを次々と殴り、切り、吹き飛ばす。そしてその先に立っていた酒呑童子のシェインが、その身を捻り、一回転させて足を振り上げる。豪快な回し蹴りは死神の鎌となり、ヴィランは吹き飛ばされた勢いも合わせてその身を両断、煙となって消えていった。

 

「す、すごい……!」

 

 姿が変わったことも驚きだが、何よりも彼らのその戦いぶりに永夢は驚嘆する。戦術、連携……全てが只者ではない。そして、明らかに戦い慣れた様子から、あの化け物は永夢にとってのバグスターのような物なのかもしれない。仮面ライダーとは似ているようで明らかに違う、しかし次々と敵を消滅させていく彼らの力に、永夢は圧倒された。

 

 が、そんな永夢にシェインから叱責が飛ぶ。

 

「ボーッとしていないで、早く逃げなさい!」

 

「え……あ!」

 

 ヴィランを手甲の刃で切り裂きつつ永夢に促し、それに気付いて永夢は慌てていまだに怯えて固まる兄妹の手を引いた。

 

「ほら、こっちへ!」

 

「う、うん……!」

 

 先ほどまで永夢につっけんどんな態度をとっていた少年も、この異常事態には素直に従わざるをえなかったようで、大人しく永夢に引かれる。道の先へと走って消えていく永夢たちを追おうと、一部のヴィランがレヴォルたちを余所に走り出す……が、それはアリシアの放つ砲弾からの爆炎によって防がれ、挙句煙となって消えていく羽目となった。

 

「おぉっと! 私たちのことを忘れないで欲しいわね!」

 

「彼らには、絶対に手出しをさせない!!」

 

 今レヴォルたちがすることは、一匹でも多く倒し、永夢たちが逃げる時間を稼ぐこと。そのためにも、絶対にヴィランたちを先へ行かせるわけにはいかない。

 

 決死の覚悟で、ヴィランを迎え撃つ。一行たちの戦意は、例え数では圧倒されていたとしても萎えることなく、それぞれの武器を振るい続けた。

 

 

 

 

「ここまで来れば……」

 

 兄妹を連れて戦いの場から離れた永夢は、呼吸を整える。体力の低い子供たちはそれ以上に息が荒く、これ以上走り続けるのは難しそうだった。

 

「あとは……」

 

 永夢は振り返り、いまだ戦っているであろう彼らがいる場所を見る。姿を変えて戦う彼らならば大丈夫だとは思うが、それでも尚不安は募る。

 

 ここでこのまま逃げていいものか……普通の人間ならば、ただ彼らの無事を祈ることしかできない。

 

 そう、普通の人間(・・・・・)ならば。

 

「……二人とも、ここに隠れてて」

 

 言って、永夢は木箱や樽で物陰となっている目立たない場所へ二人を連れ、座らせる。

 

「ま、待ってよ。アンタはどうすんだよ?」

 

 何故このまま逃げないのか。永夢の行動がわからず、少年は永夢の白衣を掴み、引き留める。先ほどまでの恐怖と、大人である永夢が離れるという不安によって瞳が揺れている。妹である少女もまた同様で、永夢を見つめていた。

 

 その姿に、永夢は一瞬判断を迷う。しかし、ここで逃げて再び化け物に出くわすリスクも考えると、ここに隠れさせた方がまだ安全だろうと永夢は考える。

 

 それでも、子供たちにそのことがわかるとも限らない。永夢は、子供たちの前にしゃがみ込み、笑いかける。

 

「僕は、さっきの人たちの所に戻る。だからその間、君たちはここで待っていて欲しいんだ」

 

「な、何言って……アンタ、戦えんのかよ!?」

 

「うん、戦える」

 

 少年の反論に、永夢ははっきりとそう答えた。断言する永夢に、少年は思わず口を閉ざす。

 

「だから……君は、妹のことをしっかり、守ってあげて欲しい」

 

「っ……」

 

 少年の腕にしがみついて震える少女。そんな妹の姿を見つめる少年の頭に、永夢は手を乗せた。

 

 そして、断言する。その場を取り繕うわけでもなく、確かな決意を込めて。

 

「僕が君たちのことを、この町を、絶対に守ってみせるから」

 

「……」

 

 少年の頭を撫でてから、少女の頭も撫でる。その間、永夢はずっと笑顔を浮かべている。

 

 患者の、ひいては守るべき人々の笑顔のために戦う永夢。そんな彼が浮かべる笑みは、恐怖と不安で凝り固まった心を、優しく溶かしていく。少年と少女の心もまた、同じだった。

 

 やがて、永夢は二人の頭から手を離す。そして立ち上がり、視線を戦いの場へと向ける。そこには先ほどの暖かな笑顔はない。

 

 そこにあるのは、悪を許さず、善を助けるドクターの……戦士(ヒーロー)の顔だった。

 

 

 

 

 

「せやぁ!」

 

 ザバシュッ! そう音をたてて切り捨て、煙となって消えていくヴィランを確認することなく、レヴォルは次の相手へと切りかかる。今度のヴィランは、先ほどまで相手にしていた雑魚の中の雑魚、『ブギーヴィラン』ではなく、それよりも一回り大きく、より獣らしい見た目の二足歩行の盾持ちのヴィラン、『ビーストヴィランG』を相手取る。振りかぶった剣は、身の丈ほどある盾によって防がれ、カウンターにと空いた右手の大きな爪がレヴォルに迫る。それを後ろへ跳んで回避したレヴォルは、剣を構え直した。

 

「クッ、敵が多くなってきたな……!」

 

 見回せば、数多くの敵を倒したはずなのに、よりヴィランが増えているような気がしてくる。それも敵が徐々に強力になっていき、こちらの体力が削られる一方だった。

 

「あのお兄さんたち、逃げれたかな……?」

 

「逃げれたのならそれでいいんだけど、今度は俺らが逃げる機会を失くしちまったわけだけど、な!」

 

 永夢たちを案ずるエレナに、皮肉交じりに返すティム。手にしている槍を突き出し、ヴィランのうちの一体を貫く。

 

「とにかく、今は突破口を作りましょう。さすがにこの数は異常です」

 

 ヴィランを蹴りつつ、シェインは逃げ道を探す。確かに倒していっているはずなのに、少しずつ、しかし確実に数が増えていっている。これではいくら倒してもキリがない。

 

 非戦闘員を逃がしたはずなのに、今度はこちらが袋の鼠となる……なんて、冗談ではない。

 

「よし、そうと決まれば……!」

 

 一点に集まっているヴィランを集中攻撃しようと、レヴォルが剣を握り直した。

 

「レヴォル、危ない!」

 

 その時、エレナの叫びがレヴォルに届く。何だ? そう思った瞬間、右に目を向ければ、ヴィランが爪を振り上げ飛び掛かってきていた。

 

「なっ……」

 

 連戦による大量の消耗で油断してしまったのか、レヴォルはその殺気を感じ取ることができなかった。防御しようにも、もはや間に合いそうにない。

 

 やられる……! そうレヴォルは覚悟した。

 

 

 

「はぁ!」

 

 

 

 が、その覚悟は無駄となる。

 

 飛び掛かろうとしたヴィランは、レヴォルに一撃をくらわせることもなく、何かがぶつかってきたことによって無様にも吹き飛ばされた。

 

 何がレヴォルを救ったのか。その正体は、すぐに判明した。

 

「あなたは……」

 

 レヴォルを救ったのは、永夢だった。先ほどはレヴォルが庇ったが、今度は立場が逆転。永夢がレヴォルを救うために体当たりをし、ヴィランからの攻撃を防ぐことに成功した。

 

 しかし、お礼を言うのも忘れ、レヴォルたちは愕然とした。

 

「な、何であなたがここに……危険だから、離れていてくれ!」

 

「そうだよ、危ないよ!」

 

 何故戻って来たのか。言い方は悪くなるが、戦えない人間がここにいてもどうすることもできない。レヴォルたちは、永夢を下がらせようと声を荒げる。

 

 対し、永夢は耳を貸さない。ただ真っ直ぐ、ヴィランたちを前にして、堂々と立つ。

 

 震えもせず、怯えもせず、目に強い意志を宿した永夢は、懐から“それ”を取り出す。それはレヴォルたちには見慣れない物。

 

 一回転させながら取り出した“それ”……永夢にとって、戦うための重要なアイテム。ピンク色にカラーリングされ、キャラクターが描かれたラベルが貼られたカセット状のアイテム……ガシャットのスイッチを親指で押した。

 

 

 

≪MIGHTY ACTION X!!≫

 

 

 

「っ!? な、なんだ!?」

 

「わぁ! なに、なにこれぇ!?」

 

 急に響き渡るハイテンションな声と電子音、その直後に永夢の背後に現れた、巨大なホログラム映像。そこから無数に飛び出す、チョコレートのような板を貼り合わせたかのように作られた大きなブロック。さらに永夢を中心に波のように広がるピンク色の光が通った後、周りの景色が角ばったブロックで構成されたかのように見えたが、それも一瞬で元に戻る。が、明らかに周囲を漂う雰囲気が変わっただけでなく、ホログラムから飛び出したブロックは、地上、空中に幾つも設置されただけに留まらず、飛び出した拍子に数体のヴィランを吹き飛ばした。

 

 何も知らないレヴォルたちにとっては晴天の霹靂。しかし永夢にとっては見慣れた光景。

 

 ガシャットに内蔵されている空間生成装置『エリアスプレッダー』によって発生した『ゲームエリア』の中、永夢は口の端を吊り上げ、獰猛に笑う。

 

「上等だ」

 

「え……」

 

 近くにいたレヴォルは一瞬、我が目と耳を疑った。

 

 目の前に立つ者は、確かに優しい笑顔と穏やかな口調でエレナのためにパンを紙袋に詰め、老婆の願いを聞いて店を飛び出し、そして盛大に躓いた青年だ。背格好からして間違いない。

 

 しかし……明らかに、その身に纏う雰囲気が違う。先ほどまでの青年が、人畜無害の草食動物なのだとしたら、目の前に立って優しさとはかけ離れた獰猛な笑みを浮かべる彼は、さながら肉食獣。それも、狐といった小さい動物ではなく、獅子の如き獣だ。

 

「どんな連中が相手になろうと……」

 

 口調すらも変わった永夢が取り出したるは、派手な色合いの角ばった装置。それを勢いよく腰の前に当てると、装置こと『ゲーマドライバー』の左側から勢いよくベルトが射出、そのまま永夢の腰を一回りし、ゲーマドライバーの右側のバックルへと装着。

 

「この町の人たちの運命は……俺が変える!!」

 

 笑顔を消し、ガシャットを前方へ突き出す。そしてそのまま、白衣を翻しつつ右へ大きく両腕を振るう。

 

 ヴィランたちを見据えつつ、永夢は叫んだ。それは、

 

「変身!!」

 

 戦士へと至るための、トリガーワード。逆さに回したガシャットを左手に持ち替え、そのまま腰のゲーマドライバーのメインスロットへ。

 

≪ガシャット!≫

 

 プログラムやデータが詰め込まれた基板『RGサーキットボード』が音声と同時に挿入され、ドライバーが瞬時に読み込む。

 

 そして、作動。

 

 

 

≪Let’s GAME!≫

 

≪Meccha GAME!≫

 

≪Muccha GAME!≫

 

≪What’s Your NAME!?≫

 

 

 

 ハイテンションな歌と共に永夢の周りを囲むように現れた幾つものパネル。そのうちの正面の一枚を永夢はタッチ、Select! の文字と共にパネルがピンク色の光と共に永夢の体と一つとなる。

 

 やがて、そこに現れたのは、

 

 

 

≪I’m a KamenRider≫

 

 

 

 正義の戦士、仮面ライダーエグゼイド。

 

 

 

~ 第3話 Crossする運命! ~

 

 

 

「姿が、変わった……!?」

 

「おぉぉぉ……!」

 

 驚愕するレヴォルと何故か目を輝かせるエレナ。妙な音楽と光景と共に、その姿を全くの別物へと変えたことに、理解が追い付かない。

 

「……いや、でも……」

 

「あぁ……なんていうか、これは……」

 

 が、別の意味で驚愕している者もいる。アリシアとティムは、口の端を痙攣させ、目の前に立つ存在に奇異の目を向ける。

 

「コネクト……なのか?」

 

「わかりません……ですが」

 

 パーンとシェインもまた、この光景に驚愕している。それはレヴォルたちと同じようでいて、アリシアたちとも同じような感情だった。

 

 だが、6人とも一致している言葉がある。意図せずして、彼らは同時に心の中で叫んだ。

 

((なんだこれ……!?))

 

 マゼンタ色の逆立った髪のような頭部とゴーグルをつけたような鋭く大きな目に、胸に赤と青と黄色と緑の丸いボタンが十字の位置に配置された胸部プロテクターと白い鎧を纏った太い体。そして短い手足。

 

 見た目を言葉で表すならば、『ずんぐりむっくり』という表現がぴったりの、さながら玩具のような外見。音で表すならば、『どーん!』という擬音が出て来る。そんな明らかに鈍重そうにしか見えない、マスコットのような謎の生物が、レヴォルたちの前に立っていた。

 

 そんな彼らを他所に、永夢ことエグゼイド・アクションゲーマーレベル1は、ヴィランたちに右の拳を突き出した。

 

「さぁて! まずはレベル1で小手調べ(チュートリアル)だ!!」

 

 その叫びが、戦いの開始の狼煙となった。そして、

 

「はっ!」

 

 高く跳躍する。

 

「えぇ!? 高っ!?」

 

 見た目に反し、足の中に仕込まれた強化スプリングによって二階建ての家の窓に届く跳躍力を見せたエグゼイドに、アリシアが驚愕する。そのままエグゼイドはヴィランの集団の真ん中へ飛び込んでいった。

 

 傍から見たら自殺行為である。着地と同時に数体のヴィランを踏みつけたが、周りにいたヴィランが彼を袋叩きにしようと動く。が、

 

「おりゃぁ!」

 

 その場で回転、短くも頑強な腕で繰り出すダブルラリアットによって、小さな竜巻が発生。ヴィランは弾き飛ばされるかのように飛んでいく。さらにそのまま大きな拳を繰り出し、ヴィランを殴り飛ばしていく。重く、強い一撃は、それだけでヴィランにとっては致命傷となり、次々と消えていく。

 

 さらに跳躍し、次なるヴィランへ狙いを定める。そして、

 

「だぁ!」

 

 今度はその太い足から繰り出される飛び蹴りが、その衝撃によって蹴られたヴィランだけでなく周囲にいたヴィランをも数体まとめて消し去った。

 

 ヴィランたちも、一方的にやられてたまるかと総攻撃を始める。狙いは当然、突然現れたこの謎の生物エグゼイド。しかし、簡単にやられるはずもなく。

 

「ほら、こっちだこっち!」

 

 縦横無尽に飛び回る、あるいはその図体を丸めて地面を転がる、もしくは体の大きい特異型のヴィランの頭の上に乗って同士討ちを誘い、その隙に飛び上がって逃げる。時々繰り出すパンチやキックを浴びせ、まるで遊んでいるかのようにヴィランたちを翻弄していく。

 

 見た目こそふざけているが、その実、外見に反して身軽、かつ見た目相応の威力の高い肉弾戦を繰り出すエグゼイドに、ヴィランたちは成す術なく次々と屠られていく。

 

 しかし、ただやられてばかりではない。

 

「っと、うおっ!?」

 

 咄嗟に殺気を感じ、その場を飛び退く。エグゼイドがいた場所にいくも飛んでくる、先端が鋭く光る矢。それらが獲物を失い、次々と石畳に当たり、鈍い音をたてていく。

 

 見上げれば、宙を飛ぶ数体のヴィラン。蝶か蛾を彷彿とさせるその容貌を持つ連中の手には、鉄製の弓が握られている。

 

「あいつらか……よし!」

 

 普通の跳躍では届きそうもない。ならばと、エグゼイドは跳躍しつつチョコブロックを高い位置の着地点に召喚、飛び上がってはまた高い場所に召喚……それを繰り返していくことで、宙を舞う。

 

 やがてヴィランたちの眼前まで飛び上がってきたエグゼイドに、当のヴィランたちは言葉はなくとも焦っているのか、矢を番える手がもたついている。圧倒的アドバンテージを得ていたと思っていたら、急に謎の生物が飛び上がってくるものだから、普通の人間でも焦る。

 

「でやぁ!」

 

 そんな彼らの心情などお構いなし。エグゼイドは鈍器の如し重い拳を、手近のヴィランに叩きつけて地上に落とす。そのまま飛び上がってもう一匹を踏んづけて落とし、さらにまた飛んで蹴り飛ばす。その繰り返しで、空中にいたヴィランたちは一掃されていった。

 

「すごい……何なんだ彼は」

 

 地上からその様子を見守っていたレヴォルは、ただただその戦いぶりに圧倒される。距離の離れた相手には、こちらからも遠距離武器で戦うのがセオリーであったが、彼の場合は不思議な力でこちらから強引に近づいて叩き落すという、無謀とも豪快ともつかない戦い方でヴィランを次々と叩きのめしていっている。

 

 一体全体、何者なのか……レヴォルがそう思っていると、彼の背後から打撃音が響いた。

 

「ボサッとしてないで、あなたも戦いなさい。彼一人に任せてはいられません」

 

 振り返れば、酒呑童子のシェインがヴィランを踏みつけ、手甲で切り裂いていた。それを見て、レヴォルも慌てて剣を構え直す。まだヴィランは大勢いる。エグゼイドの戦いぶりに見惚れている場合ではなかった。

 

 が、意識はいまだエグゼイドの方へ向いている。それは恐らく、エレナたちだけではない、注意喚起をしたシェインも同様だろう。過去に類を見ない彼の戦い方に興味を示すのも無理からぬことだ。

 

 華麗に飛び跳ねるかのようにヴィランを蹴散らしていくエグゼイドの戦いも、やがて佳境に入って行く。その場で飛び上がったエグゼイドは、縦に連続回転。そして、

 

「どりゃあああああ!!」

 

 隕石の如く落下。回転エネルギーと落下エネルギーによって発生した衝撃波が、ヴィランを悉く吹き飛ばし、消滅へと追いやった。

 

「へへ、楽勝楽勝っと!」

 

 パンパンと手を叩く。この調子ならレベルアップをしなくとも……そう考えた時だった。

 

「危ない!」

 

「へ?」

 

 エレナの声がエグゼイドに届く。その意味を聞く前に、殺気。転がって回避。

 

「うぉぉっ!?」

 

 エグゼイドがいた地面が砕かれる。土煙を上げて視界が遮られた。

 

「ってぇ……なんだ!?」

 

 立ち上がり、土煙の向こう側へ注意を向ける。すると、土煙の向こう側で赤い光が二つ、ギラリと輝く。土煙が晴れると、その姿が露わになる。

 

「なんだ、あれ……?」

 

 敵ではあるが、明らか他のヴィランとは一線を画す。3m近くある巨大な図体、丸太のような大きな腕、そして全体的に鈍く輝いていることから、鋼鉄で出来ていることが伺える。

 

「あれは、メガ・ヴィラン!?」

 

 その正体を知るレヴォルから驚愕の声が上がる。他のヴィランよりも強力な個体、メガ・ヴィラン。それも目の前に立つのは、防御力がヴィランの中でもとりわけ高いゴーレム型だった。そんな彼に付き従うかのように、さらに雑魚ヴィランも増援に現れる。

 

「メガ……なるほど、要はボスキャラか」

 

 強さで言えば、これまで戦ってきたヴィランと違って圧倒的に上位に位置するヴィラン。しかし、エグゼイドは怯まない。寧ろ、その声色には喜色が浮かんでいる。

 

「ま、待ってくれ! さすがにあれを一人では……!」

 

 レヴォルが援護を買って出る。しかし、エグゼイドは短いその手を振って拒否の意を示した。

 

「大丈夫だ、アンタらは周りの敵を倒してってくれ」

 

「しかし……!」

 

 ヴィランの恐ろしさを知らないエグゼイドに、レヴォルは尚も詰め寄る。が、エグゼイドは軽く振り返り、その大きな顔をレヴォルへ向けた。

 

「なぁに、心配すんな!」

 

 そして、改めてメガ・ヴィランへと体を向ける。

 

小手調べ(チュートリアル)はもう終わりだ……こっから先は」

 

 ずんぐりとした大きな体。見ようによっては滑稽でしかないその姿。

 

 しかし、今のレヴォルにはその姿が、

 

「『天才ゲーマーM』の独壇場(プレイ)だ!!」

 

 異様なまでに、頼もしく見えてしまった。

 

「行くぜ! 大・変身!!」

 

 ビシッと腕を伸ばしてから、エグゼイドはゲーマドライバーのピンク色の『アクチュエーションレバー』に手をかけ、そして、

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

 勢いよく開き、露わになった派手なグラフィティ調で書かれた『GAMER DRIVER』の文字と、ゲーマドライバーの中心にある発光パネル『ハイフラッシュインジケータ』。そこに映るパネルが立体化し、エグゼイドの眼前に飛び出してきた。

 

「はっ!」

 

 そのパネルが、エグゼイドの体を通過する。その瞬間、エグゼイドは飛び上がり、

 

 

 

≪マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクション・X!!≫

 

 

 

 これもまたハイテンションな歌と共に一際大きく輝き、エグゼイドの体が頭部を残し弾け飛ぶ。そして光が消えた時、()が現れる。

 

「これは……!?」

 

「な、なんと……」

 

 あまりに異様な光景に、レヴォルたちは絶句する。

 

 光と共に飛び上がったかと思えば、その姿を大きく変えて着地した彼。その姿は、ずんぐりとした姿から一転、スマートな人間と同じ頭身へ。頭部は先ほどの生物と同じ逆立った髪と鋭い目つきのゴーグルだったが、普通の人間と同じ大きさに。体を覆うマゼンタ色のボディスーツ、手足と肩を覆うプロテクター。背中にはあの生物の顔が外装の一部として貼りついている。先ほどの生物と共通しているのは、顔の形と胸部のプロテクター、そして腰のゲーマドライバー。

 

 膝を着いたままだったエグゼイドは立ち上がる。そして、メガ・ヴィランたちに向けて、掌を向けつつ指を指した。

 

その姿こそ、仮面ライダー。かつて世界を救ったヒーローにして、究極の救済の名を冠する人類の守り手。

 

 

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!」

 

 

 

 仮面ライダーエグゼイド・アクションゲーマーレベル2が、異界の地に降り立った。

 

 

 

≪ガシャコンブレイカー!≫

 

 声と共に現れた、ピンクと緑のボタンが付いた白い片手用ハンマーがエグゼイドの周りを一周する。すかさず手に取り、愛用の武器、ガシャコンブレイカーを構える。

 

「はっ!」

 

 そして、一足飛びでヴィランたちへ飛び掛かる。その跳躍力は、先ほどの姿よりも上がっており、かつ軽やかな物へ。

 

「ふん!」

 

≪HIT!≫

 

 手近なヴィランに一発、ガシャコンブレイカーによる一撃を見舞う。その時、攻撃が当たった時に出るエフェクトが飛び出し、ヴィランは潰れて消える。

 

「でりゃ! はぁ!」

 

 続けざまにハンマーを振るう。全身を硬い鎧で覆っていたナイト・ヴィランでさえ、その見た目から想像できないハンマーの威力に成すすべなく、衝撃で吹き飛ばされる。

 

 一匹、二匹。次々と消えていくヴィラン。負けじと反撃するため、三体のビースト・ヴィランが大きな爪を手にエグゼイドを襲う。

 

「よっと!」

 

 が、その前にエグゼイドが身を低くし、水面蹴りを放つ。風をも切り裂く蹴りはヴィラン三体の足元をまとめて払い、その威力に宙を舞う。

 

 目にも留まらぬ勢いで立ち上がるエグゼイド。そしてハンマーを振りかぶり、

 

「そりゃぁ!」

 

≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫

 

 三体まとめてホームラン。他のヴィランをも巻き添えにぶっ飛ばす。

 

「次は……!」

 

 すかさずガシャコンブレイカーの『アタックラッシュパッド』のピンク色のAボタンを押す。すると、

 

≪ジャ・キーン!≫

 

 ハンマーから収納されていた、ピンク色の波うつような刃が音声と共に飛び出してきた。

 

 ガシャコンブレイカーをハンマーモードからブレードモードに切り替えたエグゼイドは、手の中でくるりと一回転。ヴィランへ飛び掛かる。

 

「はっ!」

 

≪HIT!≫

 

「せい!」

 

≪HIT!≫

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

≪HIT!!≫

 

一撃、二撃、三撃。連続して振るわれる刃は、その刃と同色の軌跡と共に、次々とヴィランを切り裂いていく。反撃しようにも、防がれるか、飛び上がって回避されるかで、ヴィランたちに成す術がない。

 

「そらそらそらそらぁ!!」

 

≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫

 

 次々と飛び出してくるHIT! の文字。その度にヴィランは煙となって消えていき、数は減らしていく。

 

 やがて一体のビースト・ヴィランを唐竹割りの要領でぶった切ると、周りにヴィランはいなくなっていた。残すは、一際異彩を放つ、そして凶悪な外見を持つメガ・ヴィランのみ。

 

「さぁて、ボスの攻略といきますか!」

 

 ジャンプし、ガシャコンブレイカーの刃をメガ・ヴィラン目掛けて重力をも乗せて叩きつける。硬質な感触と共にHIT! の文字が飛び出すも、メガ・ヴィランは怯まず、その大きな腕を振り回す。

 

「ほっ!」

 

 それを前方宙返りジャンプして回避、背面に回る際に縦に回転して切りつけるも、HIT! の文字が出るだけでダメージを受けた様子がない。

 

 それでも反撃の剛腕を物ともせずに何度も切りつける。しかし、それでも同じく有効打にかけているのがはっきりとわかった。

 

「かってぇ……!」

 

 何度も切り続けると、さすがに手が衝撃で痺れてくる。埒があかない。どうすればいいのか……エグゼイドが思考していた時、

 

「そいつに剣はあまり効かない! 打撃武器で倒すんだ!」

 

 少し離れた場所で雑魚ヴィランを丸盾で殴り飛ばすパーンが、エグゼイドにそう声をかけた。

 

 それを聞いてふと、エグゼイドの脳裏によぎったのは、先ほど相手をしていた鎧型のナイト・ヴィラン。奴を倒した時、手にしていたのはブレードモードのガシャコンブレイカーではなく、ハンマーモードだった。

 

 となると、この手の相手には……。

 

「なるほど、サンキュー!」

 

 そこまで考えが及んだ時、エグゼイドはパーンに礼を言ってからガシャコンブレイカーのモードトランサーを押した。

 

≪バ・コーン!≫

 

 すると、刃は再びハンマーの中に収納され、ハンマーモードへ戻る。

 

「そんでもって……!」

 

 エグゼイドは、メガ・ヴィランの真上にあるチョコブロック目掛け跳躍した。その際、メガ・ヴィランの頭部を踏みつけ、二段階ジャンプをし、そして、

 

「はっ!」

 

 ガシャコンブレイカーで、ブロックを破壊。四散するブロックの中から、赤く光るメダルのような物が回転しながら現れる。メダルには力こぶのような絵が描かれており、それはエグゼイドの中へ吸収されるように消えていった。

 

「アイテム、ゲットだぜ!」

 

 仮面ライダーを一時的に強化する『エナジーアイテム』のうちの一つを手に入れ、エグゼイドは着地した。

 

≪マッスル化!≫

 

 すると、音声と共にエグゼイドの体が一瞬、盛り上がる。それはすぐに消え、元の姿に戻った。

 

 頭を踏みつけられた怒りからか、メガ・ヴィランが腕を大きく振るい、拳をエグゼイド目掛けて叩きつけようと迫る。岩をも砕くその拳に当たれば、いかなエグゼイドといえどただではすまない。

 

「はぁぁぁぁ……!」

 

 だがエグゼイドは慌てず、そして避けようとしない。手にしたハンマーを振るい、拳を迎え撃つ。人間の体程の大きさのある拳と、片手用ハンマーでは、勝敗は見えている。にも関わらず、エグゼイドは後少しでぶち当たる拳目掛け、

 

「はぁっ!!」

 

 呼気と共にハンマーを叩きつけた。

 

 結果は一目瞭然、拳を叩きつけられたエグゼイドは吹き飛ばされ

 

「――――――っ!?」

 

 ることなく、『マッスル化』のエナジーアイテムによって強化されたエグゼイドの筋力に押し負け、寧ろメガ・ヴィランの拳が大きくへしゃげて弾き飛ばされる羽目となる。力負けするとは思わず、メガ・ヴィランは声にならないうめき声を上げた。

 

 さらにそこで終わらない。エグゼイドは振りかぶったハンマーのBボタンを二回押し、エネルギーを充填、手の中で回転させ、打撃面をメガ・ヴィランの胴体へ向け、そして、

 

「おぉりゃあああああ!!」

 

≪HIT!≫≪GREAT!≫

 

 気合一閃。力強く、ガシャコンブレイカーを叩きつける。ガシャコンブレイカーの『ハンマーエリミネイター』から発せられる超高圧の衝撃波、Bボタン連打によるエネルギー、さらにはエナジーアイテムによる筋力向上のエグゼイドのパワーが、メガ・ヴィランの硬い金属質の体を、凄まじい音と共に襲う!

 

「―――――――っ!!」

 

 大きく、そして数トンもするであろう巨体を持つメガ・ヴィラン。その体が衝撃を殺せずに浮き上がり、放物線を描いて飛んでいく。やがてその体は地響きと共に、数m先の石畳を砕き、倒れ伏した。

 

「おいおい、マジかよ……フッ飛ばしやがったよ、あのでかい図体を……」

 

 さすもの皮肉の一つでも飛ばそうとしたティムも、あまりの光景に絶句せざるを得ない。その間も槍でヴィランを迎え撃っているのを見るに、正気は失ってはいないのは流石というべきか。

 

 しかし、メガ・ヴィランの体力はまだ残っている。左腕はボロボロで、胸部には大きな凹みと亀裂が走るのを見る限り、もはや満身創痍といったところだが、それでも尚立ち上がろうとするその姿は、メガ・ヴィランの持つ生命力の高さを裏付けている。

 

 だが、もはやそれは最後の足掻きにもならない。何故ならば、

 

「フィニッシュは必殺技で決まりだ!」

 

 エグゼイドは決して油断せず、さりとて確実に仕留めるための前段階を進めていたからだ。

 

≪ガッシューン≫

 

 ゲーマドライバーからガシャットを抜き取る。そして、フッと息を吹きかけると、

 

≪ガシャット!≫

 

 腰の左側に装着された『キメワザホルダー』に装填した。そしてすかさず、スロットルのすぐ横のボタンを押す。

 

≪キメワザ!≫

 

 音声が鳴ると共に、エグゼイドの右足から炎のような、稲妻のようなエネルギーが迸り始める。

 

「はぁぁぁぁ……!」

 

 姿勢を低くし、エネルギーを充填していく。やがて十分エネルギーが溜まった感覚を確認し、再びホルダーのボタンに指を押し込んだ

 

「行くぜ!!」

 

 

 

≪MIGHTY CRITICAL STRIKE!!≫

 

 

 

 必殺技発動プロセスが完了。エグゼイドは飛び上がり、そして右足を突き出して飛び蹴りを起き上がりかけていたメガ・ヴィラン目掛けて放つ。

 

≪HIT!≫

 

 強力なエネルギーを放つ右足は、高速で飛ぶ投げ槍の如くメガ・ヴィランに突き刺さった。

 

≪HIT!≫≪HIT!≫

 

 さらに回し蹴り、縦回転蹴りを繰り出し、

 

≪HIT!≫≪GREAT!≫

 

 直蹴り、後方宙返り回転蹴り上げを放ち、

 

 

「おらぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

≪HIT!≫≪PERFECT!!≫

 

 

 超威力の二段蹴りをお見舞いした。

 

 一発一発が岩をも砕く超強力な連続キック。それら全てを一か所、亀裂目掛けて叩き込まれたメガ・ヴィランは後退る。

 

「―――――っ! ―――――っ!! ――――――!!」

 

 怒涛の蹴りと共に放たれた高エネルギーが亀裂を通し、メガ・ヴィランの全身へ行き渡る。それは炎のように亀裂から、さらには関節部から、そして目から吹き上がり、メガ・ヴィランはもがき苦しみ、腕を振り回して抵抗を試みる。

 

 しかし、やがてそれは、

 

 

 

≪会心の一発!!≫

 

 

 

 音声と共に背を向けて着地、残心を決めるエグゼイドの背後で、エネルギーに耐えきれず内側から暴発、大爆発を起こし、鋼鉄の体を散らしていった。

 

 

 




書き溜めが終わりました。これからはのんびり更新へ移ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 疑惑のlost child

遅くなりました、第4話です。キャラ同士の会話がメインなので、キャラの口調がおかしいと思われるかもしれません。申し訳ありません。


 リーダー格のメガ・ヴィランが爆散した。一番の強敵がこの場から消えた以上、最早周りのヴィランはただの烏合の衆にすぎない。

 

「これでっ!」

 

 一体、また一体と確実に数を減らしていき、そしてレヴォルは目の前にいた一体のブギーヴィランを切り捨ててから、周囲を見やる。

 

 道一杯にまで集まっていたヴィランの姿が消え、先ほどの戦闘とは打って変わって、周りは静寂に包まれていた。

 

「……なんとか……退けたみたいだ」

 

「ふぇぇ……疲れたぁ」

 

 ヴィランが消え、レヴォルたちは一息つき、自らの書を虚空から取り出す。そしてそこから栞を抜き取ると、コネクトする時と同様の光を放ち、全員元の姿へと戻った。

 

≪ガッチョーン≫

 

≪ガッシューン≫

 

 と、気の抜けるような音がし、そちらを見る。エグゼイドがドライバーのレバーを戻し、ガシャットをホルダーから抜き取っていた。すると、その身を纏っていたスーツがピンクの光と共に消失し、白衣を着た青年、永夢がそこに立っていた。同時に周辺に置かれていた、あるいは漂っていたブロックも、空間を覆っていたかのような雰囲気と共に同じピンク色の光を放ちつつ、粒子となって跡かたもなく消失する。

 

「消えた……」

 

 周囲の空気が元通りになったことを感じ、レヴォルは呟く。そして、そんな空間を作り出していたと思われる永夢もまた、今まで戦っていた相手について顎に手を添えて考え、戸惑いを隠せずにいた。

 

「……あの黒い奴らは一体……」

 

 まるで存在していなかったかのように消えうせたヴィランたち。しかし、破壊された建築物の壁や石畳、そこかしこに争いの爪痕が残されている。

 

 エグゼイドの力が通用したのは僥倖だったが、バグスターウィルスとも違う未知の存在。彼らが一体何なのか、考えていても永夢の中では答えが見つからなかった。

 

「あ、あの……」

 

 考え込む永夢に、レヴォルは恐る恐ると声をかける。先ほど姿が変わる前に見た、優しさとはかけ離れた永夢の好戦的な笑み。それを思い出すと、どうも声をかけるのが躊躇われる。

 

「あ……そうだ!」

 

 そんなレヴォルの不安を余所に、永夢はレヴォルたちへ駆け寄ってくる。思わずレヴォルは、無意識に身構えた。

 

「あの、大丈夫ですか!? 誰か怪我とか……痛むところとかある人は!?」

 

 が、レヴォルの両肩に手を置いて、我がことのように心配し、怪我がないかどうかしきりに問うてくる永夢。その姿は初対面の時と同じお人好しを絵に描いたかのような青年で、先ほどまでメガ・ヴィランを一人で相手取って翻弄し、撃破した人間とは思えない程、戦闘には向いていないと誰から見てもわかる人間そのものだった。

 

「え、いや……僕たちは、大丈夫、だが……」

 

 レヴォルはそれに対し、戸惑いながらも体に異常がないことを伝える。レヴォルだけでなく、エレナたちも永夢の変わり様を見ていただけにそのギャップの差についていけていないが、それでもレヴォル同様に怪我がないということを頷いて示した。

 

「そうですか……よかったぁ……」

 

 心底安堵した、と言わんばかりにレヴォルから手を離し、ホッと安堵する永夢。ドクターとして当然の性だが、永夢のことを知らないレヴォルたちからしてみればあの変化は何だったのかという疑問の方が大きい。いや、性格の変化よりも、先ほど見せたあの姿、そしてヴィランを退ける力について等、聞きたいことが山ほどあった。

 

「あなたは、一体……」

 

「ストップです、レヴォル君」

 

 質問しようとした矢先、レヴォルはシェインによって遮られて出鼻を挫かれた。

 

「さすがに気持ちはわかりますが、今ここではまずいです」

 

「確かに……これ以上長居すると、またヴィランが現れるかもしれない。一旦この場から離れよう」

 

 ヴィランは一掃したものの、また増援が現れないとも限らないし、カオステラーにも注目される危険性もある。パーンはそう懸念し、そう提案した。

 

「そ、そうですね……どこか落ち着ける場所を探さないと」

 

 考えてみれば、ここに来てまだ間もない。宿を探そうにもどこにあるのか皆目見当もつかない。しかし、今ここを動かないと危険である以上、移動しなければいけない。誰かに宿がどこにあるか尋ねるかと、レヴォルは考えた。

 

「な、なぁ」

 

「え?」

 

 と、そんな一同に声がかかる。というよりも、永夢の足元から、彼の白衣が引っ張られる感触と共に聞こえてきた。

 

 永夢が振り返り、声の主を見る。

 

「君たちは……」

 

 そこにいたのは、先ほど永夢が連れて逃げ、物陰に隠れさせた少年と少女の兄妹。二人が永夢を見る目は、これまでの警戒心と不安が入り混じった物とうって変わり、どこか熱意を感じる物があった。

 

「あ、あのさ……」

 

「ん?」

 

 言いにくそうにしながらも、何かを伝えようとする少年。そんな彼に、永夢は膝をついて目線を合わせた。

 

「その……そこの人たちが行くところに困ってんだったら、その、一度俺たちの家に来たら、いいと思う」

 

「思う……」

 

兄妹からの提案。それは、宿の当てがない彼らにとっては、願ってもない申し出だった。

 

「え……それは」

 

 魅力的な案だが、レヴォルは渋る。何せ、この大人数。それにヴィランがいつ襲ってきてもおかしくない状況に、無関係な人間を、ましてや子供たちを巻き込むわけにはいかない……そう考えた。

 

「……その申し出、受けましょう」

 

「シェインさん!?」

 

 が、レヴォルより先にシェインが判断してしまい、思わず抗議の声がレヴォルから上がる。対し、シェインはしれっとした態度を崩さない。

 

「考えてもみなさい。この町はカオステラーの息がかかっている可能性が大いにあるのですよ? そんな町をうろつく、おまけにそんな町の宿を、そう簡単に信用できますか?」

 

「そ、それは……」

 

 確かに、カオステラーが王で、先ほどの戦闘で目を付けられたとするならば、宿一つ一つを虱潰しに探す可能性もある。王の命令には、宿の人間は逆らえない。そうなると厄介なことになるのは明白だった。

 

「それならばいっそ、確かに危険に巻き込むかもしれませんが、まだ信頼のおける人間に頼った方が幾分か安全だというものです。町の状況を見てから、情報を集めに町に出ても遅くはないはず」

 

「まぁ……一理あるわな」

 

 シェインの考えに、ティムも同調する。それに、もう宿を探すにも、さすがに疲労が蓄積されているこの状態で町を歩き回るのは少々辛い。

 

「……わかりました」

 

 まだ思うところはあるにせよ、シェインの言っていることは的を得ている。レヴォルは渋々ながら、兄妹の案に乗ることにした。

 

「それに、そこの彼からも色々と聞きたいこともありますし、ね」

 

 シェインはそう言って、ジロリと……傍から見ればジトっとした目で見つめる。

 

「……え?」

 

 見つめられている対象(えむ)は、ただきょとんと呆けた顔をするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 その頃、某所にて。

 

「下僕が退けられた、と?」

 

 壁にいくつもの肖像画がかけられた、豪華絢爛な室内。天井に吊り下げられた煌めくシャンデリアが照明の、一軒家が一つ入る程の広さを持つ部屋。その中央の奥まった部屋、高座に位置するこれもまた豪華な装飾が施された椅子の上に座る、一人の若い男。しかし、その若さに見合わない威圧感と威厳がこの場を支配している。部屋に負けず劣らず立派な服を纏ったその男の前で恭しく膝を着いている一人の兵士。

 

「はっ、どうやら反乱分子にも厄介な者がいるようでして……」

 

 目の前の、高い位置に座る威厳溢れる主に対し、忠誠を誓っている部下が報告をしている図。一見するとそう見える……が、兵士の床を着く手は震え、頭を垂れて床を見つめるその顔は強張り、冷や汗が垂れ落ちる。

 

 そして、報告を受けた当の男は、兵士をじっと見つめる。その目には人としての温かみというものが感じられず、かといって侮蔑といった感情すら感じられない。ただただ無機質に、無感情に、兵士を見る。

 

「おかしいな……」

 

「は……?」

 

 突然の男の発言に、兵士は思わず顔を上げた。相変わらずの男の瞳に、兵士は気圧される。

 

「お前は兵士の身でありながら、王であるこの私の機嫌をそこまでして損ねたいというのか?」

 

「い、いえ、そんなことは……!」

 

 ねっとりとした言葉に、兵士は肩を震わせ、一層頭を垂れる。それこそ床に頭頂部が付くか付かないかという程。

 

 頭上から押し寄せて来る威圧感。兵士は恐怖によって、無意識のうちに体を震わせた。

 

「……まぁ、いい。次はしくじらないようにしたまえ」

 

「は、はっ!」

 

「ただし」

 

 許しを得られたと安堵した瞬間、王から付け足された言葉に恐怖する。

 

「二度目は、ない」

 

 ゆっくりと、兵士の心にしみ込ませるように紡がれた言葉。

 

 兵士は思い出す。かつて自らと同じミスを二度もした同僚の末路を。あれは、処刑だ。いや、死というような生易しいものではない。理性を奪われ、知能すら消し去る。あの光景を思い出し、兵士は震えた。

 

「ひぃぃ……し、しし、失礼しました!」

 

 一刻も早く王から離れたい。その一心で、兵士は謁見の間から飛び出して行った。

 

 それを何の感情もないかのように王は見送る。無機質な程に光のない瞳には、報告をしている最中の兵士の姿すら映ることはなかった。

 

「陛下」

 

 そんな彼に声をかける者が一人。彼の座る玉座の横の深紅のカーテンの影から、一人の女性が姿を現す。純白のドレスを纏い、煌めく水晶のような靴。蒼穹の空のような透き通る髪と大きな瞳。整えられた顔立ちと立ち振る舞いは、気高さと美しさを両立させていた。

 

 兵士が慄き、誰もが畏怖する王は、女性へと振り返った。

 

「おお……我が妃」

 

 その目は、先ほど兵士に向けられていた光無き眼とは打って変わり、慈愛に満ち溢れた優しさを湛えた瞳だった。

 

「陛下……先ほどの報告を聞いてましたが……城下に反乱分子がいると」

 

 言って、女性は王の玉座の横に膝を着き、そっと王の手を握る。その声と瞳は恐怖に揺れ、握る手は小さく震えている。その姿ですら、あらゆる男性を魅了してやまない程の美しさがある。

 

 そんな彼女の手を、王は優しく握り返す。そして微笑みながら言った。

 

「案ずることはない。君を脅かす輩は全て、私がかならず捕えてみせる……だから」

 

 そうして、そっと女性の頬を羽毛のように撫でた。

 

「笑っておくれ。君が笑顔でいることが、私の活力になるのだから」

 

「あぁ……陛下」

 

 撫でられ、女性は王の腕に心の底から信頼する飼い主にすりよる猫の如く摺り寄せる。王もまた、その姿を愛おしげに見つめていた。その瞳には、彼女の美しく煌めく空色の髪が映っていた。

 

 

 

 だからこそ、女性の口の端が、小さく吊り上がったことに気付かない。

 

 

 

 

~ 第4話 疑惑のLost Child ~

 

 

 

 

「本当に、お邪魔してしまってすみません」

 

 城下町の一軒家。パン屋と家が併設されているその家にて、レヴォルたちは家に招き入れてくれた老婆に感謝と謝罪の念を伝えた。

 

「いいんだよ。アンタたちは孫の恩人なんだから。なのに悪いねぇ、なんせお客なんて随分久しぶりだから、空き部屋の掃除が済んでないんだよ。なんせ私の『運命の書』にはそういうの書いてないから」

 

 レヴォルたちがいる部屋は、この家にある客人向けの部屋。多少埃が積もっていた程度以外、居心地は決して悪くはない。パン屋自体がそれなりに儲かっているおかげか、豪勢という程ではないが家は割と大きく、部屋は男女別々という風に分けて貸してくれるという、レヴォルたちにとっては至れり尽くせりな境遇だ。

 

 しかしそれでも、こんな大人数で押しかける形となってしまって申し訳ない気持ちがある。対し、老婆は客人が来てくれて喜んでいた。

 

「しかし、我々もあまり長居することはできませんから……明日中にはお暇しますので」

 

「別に遠慮なんかせんでもいいのに……まぁ、アンタらにも事情があるんじゃ、しょうがないね」

 

 申し訳なさそうに言うパーンに、老婆もそれ以上は言わなかった。

 

「けど、何か必要なことがあれば何でも言っておくれよ? 可能な限り手助けはしていくからね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言って夕食の準備をするために背を向ける老婆に、レヴォルは改めて礼を言った。久方振りに大勢に料理を振る舞うことが楽しみらしく、鼻歌混じりに部屋を出て行った。

 

「さて……これで心置きなく始められますね」

 

 部屋の窓の外の様子を伺っていたシェインが老婆が出て行くのを確認するや否や、窓から視線を外して部屋の中央に立っている人間へ目を向ける。

 

 そこには、どこか肩身が狭そうに立つ永夢の姿。彼の前にはテーブルが置かれており、その上には彼のゲーマドライバーとマイティアクションXのガシャットが鎮座している。

 

「えっと……何だか、すごく責め立てられてるような気が……」

 

 さながら罪人を裁く裁判官とその被告、といったような立ち位置の永夢は、何故ゆえにこんな雰囲気なのかわからず頬を引きつらせる。

 

 裁判官ことシェインは相変わらずジト目で永夢を見、その横に立つパーンは腕を組みつつ目を閉じて傍観する立場を取っている。ティムは同情するような目で永夢を見ているが、それ以上は何も言うつもりはないようだ。エレナはこの部屋の雰囲気に「えっと、えっと」と呟きながら混乱しており、アリシアはと言うとテーブルに置かれたゲーマドライバーとガシャットを興味深そうに膝を着きながらグルグル移動し、時折「へぇ」やら「ほぉ」といった声を上げながら、360°あらゆる角度から観察している。

 

「だ、大丈夫だ……と、思う」

 

 不安気な永夢の後ろで、レヴォルが彼をフォローしようと応える……が、シェインが放つ威圧感によって、どうも自身の言葉も信用できずに、尻すぼみになっていった。

 

「……色々聞きたいところですが、まずあなたは誰ですか?」

 

 鋭さを含んだ口調で、永夢に問う。見た目は幼いのに、どこか貫禄を感じさせるシェインに、若干怖気づきつつも、永夢はしっかりと答えた。

 

「……僕は、宝生永夢。聖都大学附属病院に所属しているドクターです」

 

「ドクター……医者なのか、君は」

 

「へぇ、お兄さんお医者さんなんだ! すごいなぁ」

 

 まだ若い見た目をしている永夢の職業に感心するパーンと、純粋に尊敬の眼差しを向けるエレナ。

 

「いえ、まだ研修医なので、正式なドクターではないんですけど」

 

 それを受けて少々照れる永夢。が、和気藹々とした雰囲気になりかけたところ、シェインが咳払いをして場を元に戻した。

 

「……まぁ、あなたが医者だというのはわかりました。では、次の質問です」

 

 何だか、面接をしているみたいだ、と永夢は場違いに思った。

 

「これは、一体何ですか?」

 

「あぁ……」

 

 テーブルに置かれていたゲーマドライバーを手に取り尋ねる。その際、触れようとしたアリシアがシェインに先を取られて情けない声を上げた。

 

「えっと、それは……」

 

 正直、永夢もどう答えるべきか悩む。別に仮面ライダー自体、すでに衛生省によって公表されているため、隠すことはない。ただ、ゲーマドライバーの仕組みやライダーシステムの構造を説明するのは、開発者である檀黎斗以外では不可能なため、いくら変身者である永夢でも難しかった。

 

「それは、ゲーマドライバー。僕が仮面ライダーに変身するために必要な物です」

 

「……仮面、ライダー。それが先ほどの姿ですか」

 

「は、はい」

 

「ふむ……」

 

 手の上で確かな重みを感じつつ、ゲーマドライバーを軽く振る。

 

 外見からして完全な機械。左側に二つ、何かを差し込む穴があり、一際異彩を放っているのが中央に付いたピンク色の大きなレバー。先ほどの襲撃の際、穴にはゲーマドライバーとセットで置かれている透明の板がついた掌サイズの機械を差し込んでから姿が変わり、その後にあのずんぐりとした体からスマートな八頭身へ至るためにレバーを引いていたように見受けられる。操作自体は簡単なようだ。

 

 シェインはチラとパーンを見る。『仮面ライダー』という存在を知っているのかどうかのアイコンタクトだが、パーンはそっと頭を振る。フォルテム学院の秀才と自称しているアリシアは、ゲーマドライバーに対して激しく興味を抱いているのを見る限り当てにはできそうもない。

 

(長い間生きてはきましたが、仮面ライダーですか……聞いたことがありませんね)

 

 シェインだけでなく、教師として教鞭を振るうパーンですら知り得ない、仮面ライダー。機械一つで人間がヴィランと戦える程の強力な力を手にすることができる存在。空白の書に導きの栞を挟み、英雄の力を借りる『コネクト』にどこか似ている……が、関連性はわからない。

 

 ここで、一つの仮説が生まれる。

 

「まぁ、仮面ライダー云々についてはまた聞くとして、です」

 

「は、はい」

 

 ゲーマドライバーをテーブルに置き、仮面ライダーについて気にはなりつつもシェインは次の話へ進めた。そして仮説が正しいかどうかの質問を投げかける。

 

が、この質問には永夢自身もどう答えればいいのかわからなかった。

 

「……できればあなたの持つ『運命の書』に何と記されているのか確認させて欲しいところなのですが……どうでしょう?」

 

 彼が、永夢が物語上でどういった役割を果たす人間なのか。仮面ライダーの力を目の当たりにした以上、恐らくその物語の主要人物である可能性が高いとシェインは見ている。

 

 故に、それを知ることは、この想区がまだ見ぬ物語を元にして生まれた想区なのであるということに繋がる。

 

 その上で、彼がどういった人間なのか、そしてどのような生き方をするのか。それらが記された運命の書について確認する必要があった。

 

 が……そんな彼女の思惑とは裏腹に、永夢は一瞬呆けた顔をしたかと思うと、頬を掻いて困ったように唸った。

 

「あの……すいません。僕からも聞いていいですか?」

 

「……何でしょう?」

 

 質問を質問で返すのは礼儀違反であるとは永夢もわかっている。シェインの眉間に皺が寄ったのを目にしても、これだけは聞きたかった。

 

「『運命の書』って……何ですか、一体?」

 

 先ほどの少年も言っていた『運命の書』という言葉。永夢は、聞き慣れない言葉について聞いただけにすぎない。しかし、その質問はこの場にいる面子からすれば予想外なものだった。

 

「……え?」

 

「運命の書を知らない……?」

 

 レヴォルとエレナからは呆気に取られたような呟きが、ティムとパーンからは予想外なものを見たと言わんばかりの目を向けられ、シェインもまた驚きで目つきが変わった。アリシアは相変わらずゲーマドライバーの観察に夢中。

 

「……え? あの、僕、何かまずいことを……」

 

 予想外の反応に、永夢は居た堪れない気持ちになり、内心焦る。もしかして、知らなければいけないことだったのだろうかと不安になる。

 

「……運命の書を知らない……ですか」

 

「あ、はい……すいません、なんだか、知ってないといけないのかと思うんですけど……」

 

 わからないが、それでも謝るしかできない。そんな永夢に、シェインは小さくため息をついた。

 

「まぁ……そうですね。運命の書は誰しも生まれた時に与えられる物ですから、持っていないという事例は聞きませんね」

 

「……生まれた、時から?」

 

「ええ。それがこの世界における常識……ですが、あなたは持っていない、それどころか存在すら知らない。あなたの言っていることに嘘偽りがないのなら、あなたの存在は奇妙以外の何物でもないんですよ」

 

 以前、シェインがかつての仲間たちと旅をしていた時期、運命の書が存在しない世界に迷い込み、小さな勇者と魔法使いと出会ったことがある。そういった事例もあるにはあるが、今回の場合は、彼は運命の書を知らない、しかしこの想区の住人は運命の書を持っている。

 

 以前の事例とは逆。想区という概念がない世界から、こちらの世界に迷い込んできた……シェインはそう考えた。

 

「……あなたは、本当に何者なのですか? 一体どこから来たというのです」

 

 ジト目が、鋭い目へと変わる。運命の書を持たず、それでいて得体の知れない力を操る青年。ヴィランを倒したとはいえ、敵か味方か判別がつかない存在。シェインは決して疑り深い性格ではない。しかしそれでも、自身らに害を為す存在であるかどうかわからない以上、警戒をするにこしたことはなかった。

 

「……僕だって、正直なところわからないことだらけなんです。ただ、ゲームアプリをダウンロードして起動させただけなのに、気が付いたらこの町にいて……」

 

 そんなシェインの警戒に気が付きつつも、永夢もどう答えればいいのかわからない。答えられる範囲のことは答えてはきたが、それでも納得がいくような説明ではないということが雰囲気からしてわかる。しかし永夢自身がよくわかっていないのに、それを説明することは難しい。

 

「一体……どうなってるんだ……」

 

 肩を落とし、項垂れる永夢。ここでは彼は、再編の魔女一行以上の異邦人。突然のことで右も左もわからない。幸いとして親切な人間と出会い、衣食住はどうにかなってはいるものの、いつまでもこの家に甘えるわけにはいかない。今後のことを考え、途方に暮れた。

 

「……ねぇ、シェインちゃん」

 

「はい?」

 

 そんな永夢を見ながら、事の成り行きを見守っていたエレナがシェインに声をかけた。

 

「私、この人のこと信じてもいいと思うんだけど……」

 

「エレナ?」

 

 エレナの申し出に、シェインではなく横にいたレヴォルが驚く。シェインも片眉を上げ、突然そんなことを言い出した彼女を訝し気に見つめた。

 

「……理由を尋ねても?」

 

「えっと、そりゃ確かにシェインちゃんが疑うのもわかるよ? 素性もわからないし……って言ったら、今の私たちもこの町の人たちからすればよくわからない人間だとは思うけど」

 

 シェインの厳しい視線を受けて僅かながらにたじろぎつつ、言葉を探しながら話すエレナ。しかし、その目は真っ直ぐシェインへ向いている。

 

「でも、さっきの見たでしょ? 私たちにはよくわからない力を持っていたとしても、私にはこの人が悪いことするような人とはとても思えない」

 

「……そう、だな。僕もエレナの意見に賛成です。悪い人間なら、子供たちを助けたりしない」

 

 力説するエレナに同調し、レヴォルもシェインを見る。先ほどの襲撃で助けてくれたという理由ももちろんある。しかしその前に、ヴィランに襲われていた兄妹を身を呈して庇っていた光景から、永夢の人となりを彼なりに感じ取っていた。

 

 運命の書を持っていないばかりか、仮面ライダーというレヴォルたちからすれば未知の力を持つ彼。だからといってそれがイコール悪人にはならない。

 

「まぁ、俺から見てもこの兄ちゃんを丸っきり信用はしないにしても、悪人にゃなれねぇとは思うな」

 

 レヴォルたちの話を聞いていたティムも、今の永夢からは迷子と似たような雰囲気を感じ取っていた。故に、怪しむよりも哀れみの方が気持ち的に勝っている。

 

 パーンの方も、傍観者としての立ち位置を保っているものの、永夢に疑いの目を向けてはおらず、ティムと同じような視線を向けている。彼の中にある若者を見守る教師という立場からくる物もあるのだろう。

 

 一方のアリシアはというと、

 

「これホントすごいわね……こんな物、フォルテム学院の技術でも作れるかどうか……」

 

 永夢、もといゲーマドライバーの方に強い関心を示しているのを見るに、問題はないと思われる。

 

 一部は言葉にしていないが、永夢に対する印象は悪い物ではない。唯一疑っているのはシェイン一人だけ、という状況だったが。

 

「……やれやれ、これでは私一人だけが悪者ですね」

 

 呆れ半分、しかしもう半分は予想していたと言わんばかりの口ぶり。そしてシェインは再び永夢へと視線をやった。そこには先ほどのような剣呑とした物は感じられない。

 

「まぁ、あなたの出自については色々謎が残りますが、あなた自身のことは信じますよ。私とてそこまで狭量ではありませんから」

 

「皆さん……ありがとうございます!」

 

 見ず知らずの、それでいて彼らにとっては異様な力を持つ永夢を信じてくれたレヴォルたちに、永夢は感極まって彼らに頭を下げた。

 

「名乗るのが遅れた。僕はレヴォルという者だ」

 

「私、エレナっていうの。よろしくね!」

 

 一先ず永夢に対する疑念が晴れたところで、改めてレヴォルとエレナが自らの名を名乗った。

 

「よろしくお願いします。改めて、僕は」

 

「私アリシアっていうんですけど、このゲーマドライバーとガシャットについて色々聞かせて欲しいんですけどいいかしら!?」

 

 改めて永夢も名乗ろうとした時、アリシアがズイっと身を乗り出して両手にゲーマドライバーとガシャットを持って永夢に顔を寄せる。その目は好奇心と探求心でギラついていた。

 

「うわ! ちょ、あの」

 

「アリシア……いくらなんでも唐突すぎやしないか?」

 

「うわぁ、こんな嬉々としたアリシアちゃん見るの久しぶりな気がする……」

 

 思わず仰け反る永夢と、少し引き気味なレヴォルとエレナ。四人、もといアリシアが騒ぐ横で、呆れたティムがため息をついた。

 

「おーい、俺らの自己紹介がまだなんですけどーお嬢サマー?」

 

「やれやれ、彼女らしい……落ち着くまで少し待とうか」

 

 対し、そう言ってパーンは微笑みながらその光景を見つめていた。

 

「まったく、打ち解けるのが早いことで……」

 

 ティム同様、騒ぐ彼らを呆れたように見るシェイン。そんな彼女に、パーンはそっと耳打ちする。

 

「すまないね、シェイン」

 

「ん? 何がです?」

 

「いや、こういう損な役回りをさせてしまったと思ってね。本来なら僕がやるべきなんだが」

 

 パーンとて、性分的に人を無暗に疑いたくはない。しかし、得体の知れない人間が自身だけでなく、レヴォルたちに敵意を向けないとも限らない。だからこそ、永夢のことを疑う人間が一人でもいた方がよかった。その役目は年長者であるパーンかシェインのどちらかが負うべきなのだが、シェインが進んでその役目を負ったことに、パーンは少なからず罪悪感があった。

 

「なに、こういうのはパーンさんよりも私の方が向いてると思ったまでなので。苦手でしょう? こういうの」

 

「ハハ、手厳しいな」

 

 歯に衣着せぬ物言いに、パーンは苦笑する。

 

「……けど、別に私とて彼のことをそこまで疑ってはいませんよ」

 

「そうなのかい?」

 

「ええ」

 

 言って、シェインは未だアリシアに詰め寄られてゲーマドライバーについての説明を求められてしどろもどろしている永夢を見やる。

 

「似てるんですよね……どこかの誰かさんと」

 

 我が身を顧みず、誰かの為に危険に飛び込んでいった永夢の姿。同じような光景を100年前にも見たことがあるシェインは、地味な見た目をしていたその誰かさん(・・・・)の困ったような優しい微笑みを彷彿とさせる永夢を、どこか懐かしそうに見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? ここは……」

 

 どこかの建物の明かりの灯されていない室内にて、暗闇の中をのそりと蠢く影があった。声の高さから少女であることがわかるが、姿は闇の中であるがゆえに全貌までは把握できない。

 

「私は確か……()と霧の中を……」

 

 少女は先ほどまでの行動を思い出す。これといって何か変わったことをした覚えはない。

 

 しかし、ふと以前に()から教わったことを思い出す。あの霧の中では、どんな些細なレベルでも『その想区に僅かな縁があればそこに牽かれる可能性がある』ということを。

 

 そして……それによって、一度その想区に牽かれたことも思い出す。

 

「……まさか、また……?」

 

 一度しでかしたというのに、また同じことをしてしまった……己の迂闊さを呪った少女は、ガクリと闇の中で項垂れた。

 

 落ち込みそうになる少女。しかし自身を奮い立たせ、顔を上げる。

 

「落ち込んでる場合じゃない、か……早く戻らないと」

 

 少女は部屋から出るべく、歩き出す。

 

 

 

「こんなこと何回も続けていたら、クラウスに叱られちゃう……」

 

 

 

 見た目の怪しい、しかし自分にとっては恩人でもある男の下へ戻るため、少女は歩き出した。

 

 

 

 そんな彼女を、暗闇のさらに奥から見つめる存在がいるとは知らず。その存在は、誰にも認識されることなく、ニヤリと笑っていた。

 




グリムノーツキャラの口調がイマイチ定まってない感があります……気を付けます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 動き始めるgear!

ガシャットのサウンドは癖になる物が多くて脳内再生されまくって困ります。


 聖都大学附属病院。その廊下を足早に歩く、水色のシャツの上に白衣を羽織った一人の医師。整えられた茶髪、そして端整な顔立ち。鋭い目つきも相まって、クールな印象を与える。彼の姿を見た看護婦と女性患者の一部は黄色い声を上げるが、彼はそんなこと眼中にないとばかりに相手にもせず、真っ直ぐ目的地へ向けて歩いていく。その彼のいつも以上に発されている近寄り難い雰囲気に押され、誰も彼もが彼に声をかけることができず、ただ歩き去っていく彼の姿を見送っていた。

 

 目的地は、彼が所属しているもう一つの部署、CR。医局へ繋がっている螺旋階段を駆け足で昇ると、まず目に入ったのは派手な服装をした女性が途方に暮れているかのように項垂れて椅子に座っている姿。彼が現れるのを目にするやいなや、女性は立ち上がった。

 

「飛彩!」

 

「研修医が消えたとはどういうことだ!?」

 

 女性ことポッピーピポパポに彼、天才外科医と称される鏡飛彩(かがみひいろ)は詰め寄る。

 

 事の始まりは、飛彩が他の大学の医学部の学生を相手に講演会を開き、それが終わった後にポッピーから連絡を受けたことだった。ただ、『ケータイが永夢のゲームを起動からダウンロードしてパラドも一緒に突然ピプペポパニックでそれからそれから』と、言っていることが支離滅裂で訳がわからず、冷静に諭して落ち着かせる。これがポッピーではなく別の誰かならば有無を言わさずに通話を切るのだが、彼女が何も理由もなしに連絡をしてくるはずがないし、相当な焦り様から異常事態が発生したと見ていた飛彩は、ようやく落ち着かせたポッピーから事情を聞いた。

 

 その内容に、飛彩は驚愕する。そして迷わずタクシーを拾い、白衣もそのままに真っ直ぐCRへ向かい、そして今に至る。

 

「それが、私にもよくわからなくって……私、どうすることもできなくって……」

 

 今にも泣き出しそうな顔をしながらそう言って、差し出したのは永夢の携帯。その液晶画面には、羊皮紙のような紙の本が開かれたままの状態で止まっている。ポッピーがいくら画面をタッチしてもスワイプしても、微動だにしない。画面を変えようにもどのスイッチを押しても全く変化がない。ポッピーにはお手上げ状態だった。

 

「……ゲーム病によって消えた、というわけではないのか」

 

 飛彩は、最悪なパターンを考え、それをポッピーに聞いた。ゲーム病が進行すると、患者はバグスターに体を乗っ取られて消滅する。永夢はそうなってしまったのかと飛彩は考えるも、ポッピーはそれを頭を振って否定した。

 

「そんなんじゃないと思う。ゲーム病が発症する兆候は無かったし、本当にその中に吸い込まれるように消えちゃった」

 

「そうか……」

 

 バグスターであるポッピーから否定され、ひとまずの安堵を覚える飛彩。かつては互いの信念とぶつかり合い、反目しあった永夢と飛彩だったが、今ではCRで共に戦うドクターライダーとして、かつての確執は消えている。そんな自身の心境の変化を改めて自覚したが、今はそれどころではないとすぐに思考を切り替える。

 

 しかし、ゲームに吸い込まれるとは……過去の事件でも、解決するためにゲームの世界に入って戦ったということはあるにはあるが、今回の場合は永夢自身が望んでゲームに入って行ったというわけではなさそうで、本当に事件に巻き込まれたようだった。

 

「他に、何かわかったことはないのか?」

 

「それなんだけど、飛彩に連絡する前に大我と貴利矢にも連絡を取ったの。それで今、二人も色々調べてくれている」

 

「開業医と監察医か……」

 

 彼らもまた、互いの確執から、特に開業医こと花家大我(はなやたいが)には憎悪を抱いていた程に深い溝があったが、今はその確執は取れ、互いに背中を預けて戦えるような間柄となっている。そんな彼らが今回の突然の永夢の行方不明という異変のために動いている中、自身も何もしないわけにはいかない。

 

「……聞いた話では、ゲームを起動した瞬間に二人は消えたと言っていたな。なんというゲームだ」

 

「えっと、『グリムノーツ』……ってタイトルだったと思う」

 

「グリム、ノーツ……」

 

 永夢と違ってゲームに疎い飛彩であったが、幻夢コーポレーションと関わっている今、今では多少なりともゲームに関する知識は持ち合わせているつもりだ。しかしそれでも、そんなゲームタイトルは聞いたことが無かった。

 

「この本のページが開かれたままになっている映像が、そのグリムノーツとかいうゲームなのか」

 

 言って、飛彩は永夢の携帯を手に取り、改めて映像を見る。まるで変化がない、本が開いたままの状態の映像。書かれている文字は薄いが、どうにか読めそうだった。

 

「……これはドイツ語か?」

 

「うん、飛彩ならわかるかと思って……」

 

 かつて飛彩はアメリカの病院へ留学をしていた経験があるが、それより前には医学のためにとドイツへも留学した経験がある。そのため、他のドクターと比べても知識は豊富であり、英語同様に話すことも読むことも可能だ。

 

「なるほど、ここから何かヒントが得られれば……」

 

 ポッピーの意図を察し、本を解読しようとした。と、その時、飛彩が昇って来た螺旋階段から硬質な音を二人分響かせながらCRの医局に入ってくる者がいた。

 

「ブレイブ、戻っていたのか」

 

「よ!」

 

「開業医、女子ゲーマー!」

 

 現れたのは、白いメッシュの入った髪をした男と、片手を上げて軽い挨拶をする黒髪の少女。黒いシャツと迷彩柄のズボンという出で立ちの上に白衣を羽織った、ゲーム病専門の開業医である花家大我。そして赤い服にカラフルなミニスカートを履いている少女は、大我といつも一緒に行動している天才ゲーマー少女の西馬ニコ。かつては衝突し、今では激闘を共に戦い抜いた戦友となっている彼らは、情報収集を終えてCRへ戻って来た。

 

「大我、ニコちゃん! 何かわかった!?」

 

 ポッピーは二人に駆け寄り、どのような情報を手にしたか問う。事情を聞いた二人は、自分たちの伝手を使って永夢が取り込まれたというゲームについての情報を貴利矢とは別方面で集めると言って動いていた。

 

 しかし、そんなポッピーの期待を余所に、大我とニコはというと、あまり明るくない表情を見せる。

 

「……すまねぇ。昔の伝手を頼ったんだが、エグゼイドが起動したっていうゲームについての情報は得られなかった」

 

「私も昔のゲーマー仲間から聞いて回ってたんだけど、そのグリムノーツっていうゲームについて知っているのは誰もいなかった。ゲームについてなんでも知ってるっていう子からも聞いたけど、そんなの見たことも聞いたこともないって……」

 

「そんな!? 永夢が見つけたのは大手のダウンロードサイトからだよ!? 誰の目にも留まらないって、そんなの……!」

 

 広い情報網を持つ大我とニコですら知り得ないゲーム。特にゲーマーであるニコですらわからないと言われ、ポッピーは愕然とした。

 

「それだけじゃないぜ」

 

 と、そこで別の人間からの声が医局に響く。大我たちの後ろの螺旋階段から聞こえてきた声の主は、黒い髪をオールバックにした男。サングラスをかけ、派手なアロハシャツという軽そうな服装の上に袖を通さずに羽織った白衣から、かろうじてドクターであることがわかる彼は、監察医兼CRのメンバーである九条貴利矢(くじょうきりや)

 

「貴利矢!」

 

「ポッピーの言っていたゲームについて、自分なりに色々調べてたんだが……」

 

 サングラスを外し、襟元に引っ掛ける形でぶら下げつつ話す貴利矢。その顔からは、事は深刻であることを物語っているかのようだった。

 

「幻夢コーポレーションを始めとしたゲーム会社でも、そんなゲームを開発してはいないらしい。大手だけでなく、マイナーな会社。あるいは個人で開発したゲーム。全てってわけじゃねえが、各方面について調べてみた……が、結果は白髪先生らと同じだ。情報はゼロ。検索エンジンにすら引っかかりゃしない」

 

「そんな……なんで」

 

「しかも、だ」

 

 貴利矢は自身の携帯を取り出し、絶句するポッピーに画面を見せるように振った。

 

「自分もそのダウンロードサイトにアクセスして、件のゲームを探してみたが、そんなゲームはどこを探しても見つからなかった。知り合いにも頼んで探してもらったけど、引っかからなかった。サイトの会社に問い合わせてもみたが、ご存知ないようだったぜ」

 

「つまり、エグゼイドの携帯にだけそのゲームが表示されたってことか?」

 

「何それ? そんなんあり得んの?」

 

 補足する大我と、胡散臭そうに言うニコ。しかし、それが事実であることはポッピーの証言と、永夢とパラドがいないという現状が証明している。

 

「まだ調べ足りてないかもしれないけど、恐らくこれ以上はどこの会社かどうか調べても無意味だと思うぜ? 個人で作ったゲームならばまだ調べようはあるかもだけど、誰も知らないゲームを作った人間を探すなんざ、どだい無理な話だ」

 

「じゃあどうすればいいの!? 私もうピプペポパニックだよぉ!」

 

 打つ手なし。そう言われて混乱するポッピーを、貴利矢は窘める。

 

「落ち着けって。何も諦めろって言ったわけじゃない」

 

「でも、手がかりは……」

 

「そうだな……自分らにはない」

 

 言って、貴利矢は足をCRの一画へ向ける。そしてその手前で足を止めた。

 

「で? ……何か知ってんのか? 神」

 

 神。そう声をかけた先には、ドレミファビートの筐体。その画面の中の檻にて、悠々自適とPCのキーボードを叩くやせ型の一人の男。

 

『フ、やはり私に聞いてきたか……』

 

 不遜な態度を隠そうともしない男、檀黎斗は、小ばかにしたような笑みのまま立ち上がった。

 

『生憎だが、私とてそんなゲームは知らない。故に今回の騒動については無関係だ』

 

「さすがに自分が疑われんじゃねぇかっていう自覚はあるんだな」

 

『なぁに、私のこれまでの行いを許せないと言っている君たちなら、真っ先に私を疑うというのは自然な話だからな』

 

「あぁそうかい」

 

 これまでの悪行を一切反省しない彼に、貴利矢は半ば諦め、半ば感心の思いで口にする。ここまで堂々としていると、いっそ清々しいものだ。

 

「そんじゃ、その神は今回は関わっていないとして、だ……何か知っていることはないか?」

 

 彼に頼むのも癪ではある。しかし、ゲームに関しての知識は神を自称するだけあって、彼の右に出る者はいない。それをわかっているからこそ、貴利矢は自身の感情に蓋をし、質問をした。

 

『詳しくは知らない……しかし、どうにかすることはできるかもしれないな』

 

「ホント!? 黎斗!」

 

 貴利矢を押しのける勢いでポッピーが筐体に詰め寄る。「あいて!」と貴利矢が呟くも誰も気に留めなかった。

 

『当然だ。私を誰だと思っている……が、こんな状況では手助けしたくてもできないなぁ?』

 

 フフ、と笑いながらCRの面々を見る。それに対して嫌な顔をする飛彩と大我、そして「うぇ」と気味悪そうに呟くニコ。しかし、ポッピーだけは真面目な顔をして、黎斗を見つめた。

 

「……本当に何とかできるんだよね?」

 

『無論だ。私は心を入れ替えたのだからな』

 

 どの口が言うんだ。CRにいる全員がそう思った。

 

「……今回の件を、日向審議官に説明したら、責任は私が取るって言ってくれた」

 

 予め、ポッピーは幼少の頃の永夢を手術し、そして彼をドクターの道へ歩ませる切欠となった、現在は衛星省の審議官である日向恭太郎に連絡をした。彼にとっても永夢は特別な存在であり、彼の一大事と聞いて目の色を変えた。組織に所属する者として賛否は分かれるだろうが、永夢の救助のためならばと、彼は独断ではあるが決意をしてくれた。

 

「だから……お願い、黎斗」

 

 檀黎斗の一時的な釈放。衛星省の許可なく出すことはできない彼の拘束を解放するため、ポッピーは筐体のボタンを押した。

 

 画面に映っていた紫色に光る格子が消え去ると、黎斗は一瞬、画面いっぱいに映る。次の瞬間には、筐体からオレンジ色の粒子が飛び出し、それが筐体の前で人型となって形を成す。

 

 黒のジャケットに黒いズボン、スラリとした体型の長身の男、檀黎斗。元人間であり、今ではバグスターとしての生を謳歌している人物。危険な思想を持った彼が、ゲームの世界から現実の世界へ顕現した。

 

「それで? 何の策があるんだよ、神」

 

「ただ出たかったから、と言うのであれば、問答無用で切除する」

 

 黎斗が釈放されたとしても、彼らは一切油断をしない。対し、そんな視線を意に返さず、黎斗は笑みを絶やさぬまま医局の中を靴音を鳴らしながら歩く。

 

「今回、永夢が消えた原因は間違いなくゲームアプリだ。しかしそのゲームは誰もが知らない、さらには開発者も謎とされている未知のゲーム……ここまではいいかな?」

 

「あぁ、自分らが集めた情報だからな」

 

「しかし、結局はゲームだ。それが意味することはただ一つ」

 

 ピッと右の人差し指を立てる。それが妙に様になっているが、逆にどうにもそれが癪だった。

 

「データの解析さえすれば、どのようなゲームであるかといった情報を知ることは容易だ」

 

「知って、どうすればいいの?」

 

「簡単だ。我々が連れ戻せばいい」

 

 あっさりと、ポッピーの疑問にそう答えた。

 

「……は? 何だって?」

 

「何度も言わせるな。我々もゲームの中に入って連れ戻せばいいだけの話だ。データ解析さえできれば、ゲームの中に潜り込めるかもしれない」

 

「いやいや待て待て。簡単に言うけど、そんなことができんの!? いや自分とアンタならできるかもだけどしれないけどよ!?」

 

 何を隠そう、黎斗に抗議して叫ぶ貴利矢もまた、黎斗同様にかつて消滅し、バグスターとして復活した存在である。そんな彼らならば、バグスターの特性を利用してデータ化し、ゲームの世界に入ることは容易いかもしれないが、問題はそこではない。

 

 要は、今いる場所に、元の世界に戻ることができるのか。そう貴利矢は言いたかった。幻夢コーポレーションが開発したゲームならば問題ないかもしれないが、相手は出処のわからないゲーム。データ解析ができたとしても、中に入れば何が起こるかわからない。最悪、自分たちも閉じ込められるかもしれない。

 

 そんな懸念を抱く彼に、フッフッフと気味悪く笑う黎斗。

 

「私は檀黎斗神だ」

 

 言って、ポケットからある物を取り出す。それを一同に向けて見せびらかすように、掲げた。

 

「神の才能に、不可能はない」

 

 その手に持つのは、茶色と白のカラーリングがされているだけで、ラベルも貼られていないだけでなく、データすら入っていないまっさらなガシャット。それを音をたてながら軽く振り、黎斗は不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 ~ 第5話 動き始めるgear! ~

 

 

 

 

 

(運命の書……その人の運命が、その一冊の本によって定められている世界、か……)

 

 翌朝、まだ日が昇って間もない時間帯。石造りの町の通りを朝日を浴びながら歩く人々を二階の窓から見下ろしながら、永夢は昨日の話を思い返していた。

 

 レヴォルたちから聞いた、この世界のシステム。人は生まれた時から一冊の本が与えられ、その本の筋書き通りの人生を歩む。そこには生まれてから死ぬまでの間、何があるのか、何が起きるのか……所謂、舞台劇の台本のような物。この世界の人々は、その台本に沿って生きていくのが当たり前であると認識している。

 

 永夢は複雑な気持ちになった。人がどのように生き、どのように死ぬか……そんなことが予め知らされている人生。文字通り運命そのものが書かれた本の通りに生きていく人生……永夢からすれば、それは果たして人生と呼べるのだろうか。

 

 何が起こるかわからない。それでも人は悩み、苦しみながらも、明日を思って今日を生きていく。

 

 たった一つしかない自らの命の重さを感じながら。

 

 それが人生というものではないのか。どこの誰かが、ストーリーテラーという聞き慣れない神のような第三者によって決められた筋書きを歩むことを、人生と呼べるのだろうか。永夢にはそう思えてならなかった。

 

「エム? どうかしたのか?」

 

「……え?」

 

 そう思っていると、後ろから部屋に入って来たレヴォルが声をかけた。

 

「エムさん、何か考え事?」

 

 レヴォルと共に入室してきたエレナも、レヴォルと同じような視線を向けられ、永夢は頭を掻いた。

 

「あ、いや……なんていうか、運命が予め決められてるっていうのが、やっぱり信じられなくって」

 

 心配そうな顔を向ける二人に、運命の書について考えていたことを正直に話す。最も、それについて否定的な意見を持っているとはあえて口にしなかった。

 

「あ、そっか。エムさん、運命の書がない世界から来たって言ってたよね?」

 

「うん……やっぱり、それっておかしいのかな?」

 

 この世界の常識に当てはまらない自身の境遇について尋ねる永夢に、エレナはうーんと唸ってから答えた。

 

「おかしいって言うより、あんまり違和感ないかなーって。私たちも空白の書の持ち主だから、書があるかないかだけの違いしか感じないなぁ」

 

 エレナの語る空白の書についても、昨晩のうちに説明を受けていた。

 

 レヴォルたちが持っている、本来なら辿るべき運命が記されているはずなのに、何も書かれていない運命の書、空白の書。そういった人間がごく稀に生まれて来るらしく、レヴォルたち再編の魔女一行は、様々な理由から世界を、細かく言えば『想区』と呼ばれる場所を次から次へと渡って旅をしているという。

 

 再編の魔女、というのはエレナのことを指し、彼女を中心としていることから再編の魔女一行という風に自身たちをそう呼んでいる。再編というのはよくわからなかったが、特別な力があるということだけは把握した。

 

「あ、でも! エムさんの住んでいた世界のみんなが運命の書を持ってないんでしょ? それはちょっと変わってるなーって思う」

 

「うーん、やっぱりそう思われるのかぁ」

 

 子供のように思ったことを口にするエレナ。それに少し微笑ましい物を感じつつ、文字通り住む世界が違うというものを嫌が応にも感じてしまう。この世界では運命の書によって進む人生が当たり前なのであり、自身の世界の価値観はこの世界の人たちにとっては異常なのだ。

 

 否定的な意見は変わらない。しかし、世界が違えば考え方も違って来る。それをわかっているからこそ、彼らに自身の意見を押し付ける気は永夢には無かった。

 

「……運命の書がない世界、か」

 

 と、ふとレヴォルからポツリと言葉が漏れ出る。感慨深げなレヴォルの物言いに、エレナは首を傾げた。

 

「レヴォル?」

 

「……ようは、エムが住んでいる世界の人たちは全員、空白の書の持ち主というようなものなんだろうな」

 

「多分……そんな感じだと思う」

 

 昨晩のうちに、互いの世界等についてある程度を交わした永夢とレヴォルたち。その永夢の話を聞いたレヴォルは、永夢が住まう世界を『住人全てが空白の書の持ち主』という風に解釈していた。あながち間違いではない永夢は、それを否定しなかった。

 

「エムも、自分からドクターになろうと決めて今も働いているんだろう?」

 

「うん……僕は、小さい頃からドクターになろうって決めていたから」

 

 頷き、そう答える。その表情は明るく、心の底から今の仕事に誇りを持っているということが、レヴォルとエレナにも伝わる程。

 

「へぇ……何か切っ掛けとかがあったの?」

 

 エレナに聞かれ、幼少の頃に雨の日に交通事故に遭い、生死を彷徨っていたところを、当時の担当医であった日向恭太郎に救われたことを思い出す永夢。

 

「昔、事故に遭ってね。その時に命を救ってくれた人がいたんだ」

 

「そっか! その人の影響なんだね?」

 

「うん……今はドクターとは違うけど、それでも大勢の人たちのために尽力している人だよ」

 

 ドクターでなくても、衛生省の人間として、人々のために奔走している恩人。入院していたあの時の彼との思い出は、永夢にとってかけがえのない物であり、同時に永夢にとってのドクターとしての信念の礎となっている。

 

「だから僕も、あの人みたいに……患者さんの病気を治すだけじゃなく、笑顔を取り戻すような、そんなドクターになりたいと思ってるんだ」

 

 心の底からそう願っているのがわかる、永夢の笑顔。他人のために精一杯になれる彼の人柄はわかっていたが、ドクターとして立派な志を持っている彼を、エレナとレヴォルは感心の面持ちで見つめた。

 

「……あ、ごめん! なんか自分語りしちゃって……」

 

 少し気恥ずかしくなった永夢は、自分のことばかり話したことを謝罪した。そんな彼に、エレナは頭を振った。

 

「ううん……寧ろすごいなぁって。後かっこいいなぁって思ってた」

 

「ああ、志が高いだけじゃなく、ドクターの仕事を誇りに思っているのが伝わってくるよ」

 

「うんうん! それに、仮面ライダー、えっと、エグゼイド、だったよね? にもなれて戦えるんだから、ホントにすごいよ!」

 

 レヴォルとエレナから称賛を受け、そこまでべた褒めされるようなことではないと思っている永夢は、ただただ頭を掻いて「い、いやぁ……」と必死に照れ隠しをするしかなかった。

 

「でも、君たちだって僕からしてみれば、世界を渡り歩いて旅をしているだなんて、僕よりも若いはずなのに信じられないよ。すごいね」

 

 昨晩聞いた彼らの話は、小さい子供が聞いたら何とも胸躍る冒険譚に聞こえた。幾つもの世界、彼ら曰く想区を渡り、時には過酷な環境を歩き、強敵を相手取って人々を救ってきたという彼らの旅……もっともこれらを語っていたアリシアが、テンションに任せていろいろ脚色しているかもしれないが。

 

 ともあれ、それでもそんな旅をしてきたとは思えないような年代の彼らに、永夢もまた称賛した。

 

「えへへ、そうかなぁ? やっぱりすごいかなぁ?」

 

 永夢に褒められたエレナは、少し赤面してはにかむ。そこには、年相応の少女の可愛らしさがあり、ますます彼女が旅の中心を担っているとは到底思えないと、永夢は感じる。

 

 と、そんなやり取りをしている横で、レヴォルは小さくため息を吐いた。

 

「……でも、少し羨ましいな」

 

「え?」

 

 と、ポツリと零すレヴォルに、永夢は聞き返した。

 

「運命の書で生き方が定められていない世界……僕たち空白の書の持ち主だけじゃない、世界中の誰もが自分の生き方を、エムのように選択できるそんな世界だったら、僕も……」

 

 伏し目がちに語るレヴォル。脳裏に過るのは、海へ向かって飛び込んでいく最愛の人、そして伸ばしても届かない自らの手。運命の書によって定められたことによる悲劇の光景を、ただ見ているしかできなかった自分自身。

 

 もし運命の書が無かったら、彼女はどう生きたのだろうか? もし自分自身の運命の書が空白でなく、周りの人たちと、大切な人たちと同じ運命の書を持っていたら、どう生きていたのだろうか? 

 

 もしそうなったとしたら、悲劇の筋書きを描いたあの人(・・)の信念のように、命の尊さを知ることができたのか? ……ふと、そう考えてしまった。

 

「レヴォル……」

 

「っ、すまない、どうでもいい話をしてしまった」

 

 エレナの声で思考が戻り、場の空気を少し悪くしてしまったことを微笑みながら謝罪する。しかしその笑みは、やや固いものが感じられた。

 

「レヴォル君、君は……」

 

「さ、そろそろ下へ降りよう。シェインさんたちが待っている」

 

 気を取り直し、二人に促しつつ部屋を出るレヴォル。その場に残された永夢とエレナは、彼の背中を見送った。

 

「……定められた運命、か……」

 

 レヴォルが、運命の書にまつわる何かがあったことは想像に容易いが、何があったのかまでは本人の口から語られない限り知り様がない。それでも、運命を自身で決められるはずの彼が、自分以外の運命の書に翻弄されたと永夢は察した。それに、旅立つ切っ掛けとなった理由も詳しくは語られていなかったが、運命の書関連であることは彼の口ぶりからは明らかだった。

 

 この世の理でもある運命の書。しかして、永夢は自分の手でドクターとしての道を歩むことができただけに、そのシステムに複雑な思いを抱く。

 

『永夢……』

 

 永夢の中で、心を共有しているパラドもまた同じ気持ちを抱く。しかし、かける言葉が見つからず、ただその名を呼ぶだけしかできない。

 

 怒りとも寂しさとも捉えられるような表情を浮かべる永夢の横顔を、エレナもまた何とも言えない気持ちで見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「さて、全員集まったところで、本題へ入りましょうか」

 

 一階。大人数が入るにはやや狭いながらも、窮屈さはさほど感じられない広さのダイニングにて、老婆含めた全員が集まり、シェインが口を開く。永夢を含めた再編の魔女一行は、朝食の片づけを終えた老婆が休息に入るのを見計らい、改めて話を聞くことにした。

 

「昨日、この国の王の名前を聞こうとした時、トラブルが発生して聞けず終いでしたね。改めてお聞きしますが、この国の王の名前はなんというのですか?」

 

 トラブルとは、永夢たちがヴィランに襲われた時の話だ。その時にエレナが王の名を聞こうとした矢先、そのトラブルが発生。結局聞けずに終わってしまっていた。あれからも落ち着いてから話をしようということで、この時間に改めて老婆に質問をしようと決めていた。

 

「あぁ、そうだったね」

 

 三角頭巾を取りながら、老婆が答える。

 

「王様の名前は本当は長いんだけど、善政を敷いていた時は皆からフィリップ王って呼んでいたよ。今じゃ誰も気安く呼べないけれどねぇ……」

 

 過去を思い出し、どこか寂し気な顔になる老婆。それをその場にいる全員が気の毒に思うも、その中でシェインが難しい顔をしていた。

 

「フィリップ……何か該当する人物に心当たりある人います?」

 

「いや、心当たりというよりも、よく聞くような名前だな」

 

 シェインの質問にパーンが顎に手を添えながら答える。他の面子もシェインは見てみるも、全員芳しくない表情だ。

 

「うーん、フィリップって名前の人がいるお話って何かあったっけ?」

 

 エレナが腕を組み、首を傾げて考え込む。その横で話を聞いていた永夢は、レヴォルに耳打ちする。

 

「さっきから話を聞いてたんだけど、王様の名前を知ってどうするの?」

 

「ああ、昨晩話していた強敵についての情報を集めているんだ」

 

 永夢の質問に、レヴォルは答えた。

 

「強敵?」

 

「……昨日僕らを襲ったヴィランの親玉で、放っておいたら大変なことになる。僕らはそれを防がなければいけないんだ」

 

 化け物……ヴィランという名を昨日の夜に初めて知った永夢。その化け物を率いている存在。その存在の情報を、今レヴォルたちは集めている最中だという。

 

「大変なことって……?」

 

 あの悪意を具現化したような連中の親玉を放っておくことは悪い予感しかしない。永夢がその大変なことについて具体的に聞くと、レヴォルは一瞬だけ答えあぐねるように口を噤んだ。

 

「それは……」

 

 普通に答えると、不安を煽るかもしれない。そんな心配からレヴォルが迷っているのが、永夢には感じ取れた。

 

 そんなにまずいことなのか……永夢がそう思っている間、シェインは話を進めた。

 

「……他にこの国で有名な人がいればいいんですが」

 

 もしシェインたちの中で該当する名が挙がらなかった場合、それはシェインたちも知り得ない、未知なる想区であるかもしれない。そうなれば、もっと別のアプローチで情報収集をしていく他ない。

 

 と、そのシェインの呟きを聞いた老婆が「ああ」と、何か思い出したかのように声を上げた。

 

「そう言えば、最近王がご結婚されてね。国中で盛大に祝ったんだよ……けど、ねぇ……」

 

「けど?」

 

 言い淀む老婆。先を促すシェインに答えたのは、老婆のすぐ側に座っていた少年だった。

 

「王様が変になったのは、結婚してから少ししてからなんだ。城と町を区切るような高い壁を作ったり、兵士たちが国の人たちに威張り散らすようになったり……」

 

「……お父さんとお母さんも、他の人たちも……みんな連れてっちゃった……」

 

 当時を思い出し、辛そうな面持ちで語る兄妹。それを見るだけで、永夢は居た堪れない気持ちになる。

 

「なるほど、以前は善政を敷いていた王が、急に圧制で国民を苦しめるようになった、と……」

 

「それも結婚してから……ということはつまり」

 

 シェインが話し、アリシアも続ける。アリシアが言うことは、永夢を除いた一行が考えていることど同様だった。

 

「その結婚相手……王妃が怪しいってことだな」

 

「……うん」

 

(ん?)

 

 ティムの言う言葉に、力無く頷いた少年。その顔は、先ほど見た両親が連れて行かれたことを思い出していた表情とは、また違う物を永夢は感じる。

 

「それで、その王妃のお名前は? 国民全員が祝福したくらいなのですから、誰でも知っていますよね?」

 

「あ、ああ……王妃の名前はね……」

 

 シェインに尋ねられ、言い辛そうに口を開く老婆。何故にして言い淀むのか、疑問に思ったシェインは眉を上げた。

 

 そのことについて尋ねようと、シェインが口を開く……その瞬間だった。

 

「た、大変だぁ! また化け物が出たぞぉ!!」

 

「って、またかよ!?」

 

 外から聞こえてきた悲鳴と叫び。またも話を遮られる形となってしまったことに、ティムが苛立たし気に吐き捨てる。

 

 ともあれ、化け物……つまりまたもヴィランが現れたという報せを聞いて、動かない訳にはいかない。そんな中、誰よりも早く部屋から飛び出していく人物がいた。

 

「エム!?」

 

 脇目も振らず飛び出して行った永夢は、白衣を翻して悲鳴の下を目指して走り出す。背後からかかるレヴォルの声にも応えずに。

 

(これ以上、誰も苦しめさせはしない……!)

 

 化け物の元締めがどこの誰だかは知らないが、誰かが傷つけられているのであれば、それがバグスターであろうとなかろうと永夢には関係ない。己の信念に従い、永夢はただただ走って行った。

 

 

 

 

 

 どうしてこうなってしまったんだろう。少女の胸の内は、そんな後悔で一杯だった。

 

 最初は、自分は悪くない、咄嗟の判断だったから仕方ない……そうして自己を肯定し、心を蝕む罪悪感を薄めようとしていた。

 

 が、それと同時にそんなことを思えること自体が醜く、卑しく感じてしまう自分の良心によって、自らがした行動を否定され、熟れすぎて腐った果実のようにジクジクと罪悪感がナイフとなって沈み込むように突き刺さっていく。

 

 肯定、否定、肯定、否定……延々と回り続けるループ。悪循環。二つが繰り返されせめぎ合い、少しずつ少女の精神を削っていく。

 

 そんな少女を責めるかのように、世界は少女に味方しなかった。だからこうして、少女は走り続けている。胸を抑える手は、走り続けたことで悲鳴を上げる肺を落ち着かせるためにあるのか、あるいはいつまでも突き刺さる罪悪感による痛みを抑えるためにあるのか。それすらも少女にはわからなかった。

 

 思えば、あの日にあった出来事からの記憶がない。錯乱していたのか、気付いた時には町のどことも知れない場所に蹲っていた。それ以来、ただただ隠れ続け、そしてツケが回って来たかのようにこうして追われている自分がいる。

 

 本当ならば、良心に従って捕まらなければいけないかもしれない。けれど彼らに捕まってはいけないと、少女の心が叫ぶ。それは罪から逃れたいからといった物ではなく、もっと別の何か。

 

 捕まってしまえば、取り返しのつかないことになる……何故か、そう確信した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

 頭の頭巾を深く被りながら走り続ける。肺が苦しくとも、底の薄い靴のせいで足裏が痛んだとしても、少女はただただ逃げる。後ろから追って来る気配を感じ、路地裏を駆ける。

 

 やがて少女は路地裏から飛び出す。表通りを歩く人々が驚き、少女を見る。

 

「あ、あぁ……!」

 

 それだけで彼女は恐怖する。誰もが自分を責めている。誰もが少女を恐れた目で見ている。

 

 無論、それは緊迫した精神状態が引き起こす被害妄想だ。唐突に現れた少女を見る人々の目には恐れはないが、妙な物を見る目をしていた。

 

 そんなことを知る由もない少女は、より深く頭巾を被り、顔を覆い隠す。そしてその場から逃げ出した。その直後、少女の背後から悲鳴が上がる。

 

 逃げなければ、逃げなければ……連中から、人の目から。

 

 しかし、目深に被りすぎた頭巾のせいで、視界が先ほどよりも狭まってしまっていることに、無我夢中の少女は気付かない。そして、

 

 

 

「あいだぁっ!?」

 

 

 

 正面から、誰かにぶつかってしまった。

 

「ひゃっ」

 

 短い悲鳴が口から洩れる。そのまま前のめりに倒れ込んだ……が、硬い地面の感触がしなかった。

 

 何故なのか、少女が疑問に思って倒れ込んだまま顔を上げた。

 

「ってぇ……」

 

 痛みに呻き、顔をしかめる一人の青年が、少女の目に飛び込んで来た。

 

 これは、本来なら起こりえない出会いであり、そして少女の運命の歯車が動き出す切っ掛けであるということには……誰も気付かない。

 

 

 

 

 

 

「エム!」

 

「エムさん!」

 

 飛び出して行った永夢を追って、レヴォルたちが走る。そしてすぐにその姿を見つけることができた。

 

 家から出てすぐの表通りで、目立つ白衣を着た永夢が仰向けに倒れている。その上には、頭巾を被った少女が抱き着くようにして倒れ込んでいた。

 

 状況だけ見ると、どう言葉にして表せばいいのかわからない。が、痛みに呻く永夢を見ると、レヴォルたちはすぐに何があったのか理解することができた。

 

「おいおい、今度は正面衝突かよ……いや、今回ばかりは役得か? お医者さん」

 

 昨日は躓いて倒れ、今度は人にぶつかって倒れる。何とも不幸というかドジというか、しかしぶつかってきた相手は見た限り女性のようで、そんな永夢にティムは半ば呆れつつ皮肉を言う。

 

「いや、わざとじゃないんだけど……それより、怪我はないですか?」

 

 打った頭を擦りながら、永夢は胸の中で倒れ込んでいる少女を起き上がらせる。咄嗟のことで混乱しているようで返事はできなかったが、少女は首を小さく振って怪我がないことを示した。それを見てホッとする永夢は、少女の手を取り、少女と一緒に立ち上がった。

 

「よかった。僕も慌ててたので……すいません」

 

 ひとまず、少女に謝罪する永夢。少女もまた、永夢に対して小さく頭を下げた。

 

「私こそぶつかってごめんなさい、それじゃ……」

 

 言って、永夢の脇を通り抜けようとする。が、一歩足を踏み出した瞬間、足をもつれさせて永夢の方にまたも倒れ込んでしまう。

 

「わっ!? だ、大丈夫ですか!?」

 

 やはり先ほどぶつかった時に怪我をしたのか。永夢がそう心配していると、か細い声が少女の口から漏れ出て来るように聞こえてきた。

 

「早く、逃げなきゃ……じゃないとあなたたちまで……」

 

「え……?」

 

 その言葉の意味がわからず、永夢が問い返す。何のことかと、永夢が聞こうとした。

 

「エム!」

 

「っ!?」

 

 突如、レヴォルが永夢の名を呼ぶ。同時に、辺りに悲鳴が響き渡った。何事かと振り返ると、その光景に絶句する。

 

 人々が蜘蛛の子のように逃げ回る中、煙のように現れた黒い怪物。子供程の大きさの者から、大きい腕に鋭い爪を持った者。それらがわらわらと永夢たちへ向かって来ている。

 

「ヴィラン……!?」

 

「ひっ……」

 

 昨日襲い掛かって来た化け物と同様の存在。化け物を目の当たりにし、永夢の腕の中で少女が怯え、震え出した。

 

「白昼堂々、また現れましたか……!」

 

「エムくん、彼女を!」

 

 シェインが鋭い目つきでヴィランを睨みつつ、自らの空白の書を取り出す。その横で、パーンが少女の避難を永夢へ促す。

 

「はい! 彼女をお願いします!」

 

「みんな、栞の準備を!」

 

 少女をパーンへ預け、永夢もまたシェイン同様、ヴィランと対峙する。空白の書を取り出すレヴォルたちのように、永夢もまたゲーマドライバーを手に取り、腰に当てる。するとベルトが飛び出し、永夢の腰に巻き付いた。

 

「お前たちの好きにはさせない! 一気に片付ける!」

 

 言って、懐からマイティアクションXガシャットを取り出し、スイッチを押した。

 

≪MIGHTY ACTION X!!≫

 

 音声と電子音と共に、永夢の背後にゲームスタートのホログラム映像が現れ、そしてゲームエリアが展開される。チョコブロックが飛び出し、戦闘の前準備が整った。

 

「……これ、ホントどうなってるのかしら。あんな小さな機械一つで空間を生成できるのも不思議だけど、この空中に浮かぶ動く絵とか。ブロックを実体化して放出できたりするし……仕組みが知りたい……」

 

「今それどころじゃねぇだろお嬢サマ……」

 

 アリシアがマイティアクションXのゲームタイトルの映像に手を振って触れようとするが、案の定ホログラムには触れられず、それがますますアリシアの探求心を刺激させた。その横でティムが彼女を窘める。

 

「大・変身!」

 

 永夢は腕を左へ大きく振るい、叫んだ。そしてガシャットを半回転させてから左手に持ち替え、ゲーマドライバーのスロットへ。

 

≪ガシャット!≫

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

 挿入してからすぐさまレバーを開く。そして、

 

≪マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクション・X!!≫

 

 回転しながら現れたセレクト画面。その正面にエグゼイドの顔が来たところをタッチ。昨日同様、永夢の体とエグゼイドの画面が重なり合うが、セレクト画面と同時に現れたエグゼイドのレベル2の姿が描かれたパネルもまた同様に重なる。

 

 ピンクの光が散ると、そこには等身大の姿である仮面ライダーエグゼイド・アクションゲーマーレベル2が立っていた。

 

「あれ、今回はいきなりおっきくなったね?」

 

 昨日のようなずんぐりむっくりの姿であるレベル1から始まるのではなく、いきなりレベル2になったエグゼイドに、エレナが首を傾げた。

 

「連中はのろまだからな。昨日は様子見も兼ねてだったけど、こっちの方があいつらを翻弄できると思って」

 

≪ガシャコンブレイカー!≫

 

 答えつつ、武器を召喚するエグゼイド。ガシャコンブレイカーを手に取り、レヴォルたちへ振り向いた。

 

「ほら、さっさとお前らも変身しろよ。早くしねぇと、俺一人で片付けちまうぜ?」

 

 言ってから、ハンマー片手に駆け出す。その姿に、レヴォルは引きつった笑みを浮かべた。

 

「なんというか……普段のエムを見てると、やっぱりあの性格は違和感があるな……」

 

 普段はお人好しで穏やかな性格の永夢が、仮面ライダーになると好戦的な上に口調すらも変わるという真逆の変化に、どうも違和感が拭えない。が、戦いながらでも一般人を襲おうとするヴィランを優先的に倒し、「早く逃げろ!」と言って避難を促す辺り、根っこは変わらないようだった。

 

「普段は穏やかな人間が、何らかがスイッチとなって気性の荒い人格へ変わる、という話を聞いたことがある。彼の場合がそうなのかもしれないね」

 

 少女を安全な場所へ避難させたパーンが、そんなレヴォルの疑問に答える。そして自らも空白の書と栞を構えた。

 

「さぁ、私たちもヴィランから町の人たちを守ろう!」

 

「は、はい!」

 

 永夢にだけに戦わせるわけにはいかない。少し慌てつつ、レヴォルたちも書を栞に挟み、コネクトを開始する。

 

 光が散ると、昨日と同じ人物(ヒーロー)へと変化する一行。それぞれ散りつつ、襲い来るヴィランに肉薄する。レヴォルはヴィランの攻撃を避けて切り返しつつ、ナイトヴィランをハンマーで殴り飛ばすエグゼイドへと接近した。

 

「はっ!」

 

 呼気と共に、エグゼイドへ爪を振り下ろそうとしたビーストヴィランを切り飛ばす。それに気付いたエグゼイドが振り返り、ロミオ扮するレヴォルに気付いた。

 

「サンキュー! 助かった!」

 

「油断するな、動きは遅いがヴィランはそこまでバカじゃない!」

 

 忠告するレヴォル。が、そんな彼に飛び掛かるようにエグゼイドが宙高くジャンプする。

 

「え……」

 

 突然何を……そう思ったレヴォルの頭上で打撃音。レヴォルの頭上から奇襲をかけようとしていた羽根つきのウィングヴィランを≪HIT!≫のエフェクトと音と共にエグゼイドがハンマーを薙ぐように殴り飛ばした。

 

「よっと」

 

 スタッと華麗に着地。ハンマーを肩に担ぐようにし、レヴォルへ向き直る。

 

「ヘヘ、油断大敵、だな?」

 

 やり返してやった。そんな意図を込めているのか、仮面の向こうで得意げに笑っている顔が目に浮かぶような物言い。なのにどこか爽やかさをも感じさせるような彼に、レヴォルは憤慨することなく笑みを返した。

 

「ああ……ありがとう」

 

 素直に礼を言うレヴォルに、エグゼイドも仮面の中で軽く笑って返す。そして再び、ヴィランへと向かって行った。レヴォルもそれに続く。

 

 振るわれるハンマーと細剣が、打撃音と斬撃音をBGMに踊る。観客のヴィランはその舞踏にただただ圧倒されるかの如く吹き飛び、または切り裂かれ、次々と消し飛んでいった。

 

「はぁっ!」

 

「せやぁっ!」

 

 振り上げたハンマーでビーストヴィランの盾を弾き飛ばし、その隙をついて剣が薙ぎ払われる。二人の連携の前に、ビーストヴィランは断末魔も上げずに消滅した。

 

「ナイスプレイ!」

 

「そっちこそ!」

 

 互いを称賛するエグゼイドとレヴォル。昨日今日と出会って間もない二人は、息を合わせてヴィランを撃退していく。

 

「おお、二人とも息ぴったりだね!」

 

「波長が合うんでしょう。二人とも、なんとなく性格が似てる気がしますし」

 

「あぁ……納得」

 

 即席のコンビながら、見事な連携を披露するエグゼイドとレヴォルにエレナの目が輝く。それを冷静に分析するシェインに、同意して頷くティム。彼らも彼らで攻撃の手は休めず、ヴィランを倒し続ける。この程度の相手ならば、これまで数多くの戦いをこなしてきた彼らにとっては敵ではなかった。

 

「みんな、下がってくれ! 一気に決める!」

 

≪ガッシューン≫

 

 そうして、エグゼイドはガシャットをゲーマドライバーから抜き取りつつ叫ぶ。それに異議を唱えることなく、全員その場から飛び退いた。

 

 フッとガシャットの端子に息を吹く。そしてそれを、ガシャコンブレイカーの側面にある黒いスロットへと差し込んだ。

 

≪ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 音声と共にガシャットを認識するガシャコンブレイカー。エネルギーがハンマーへと集まり、カラフルな電流のように輝く。

 

「はっ!」

 

 そして高く跳躍し、ハンマーを振り上げる。その際、ガシャコンブレイカーの柄にあるトリガーを引いた。

 

 

 

≪MIGHTY CRITICAL FINISH!!≫

 

 

 

 武器を用いた必殺技が発動。エネルギーを蓄えたハンマーが落下による重力を乗せて振り下ろされる!

 

「おりゃぁぁぁ!!」

 

 地面に叩きつけられたガシャコンブレイカーから波紋状に広がるエネルギーが、爆発のような衝撃に乗ってヴィランの集団へ襲い掛かる。その暴力的な波は取り囲んでいたヴィランたちの悉くを吹き飛ばし、壁や地面へ叩きつけられ、次々と消滅していった。

 

「す、すっご……」

 

 相変わらずの威力の前に、アリシアが半ば呆然と呟いた。昨日の蹴りによる必殺技もさることながら、今回の武器による必殺技もまた凄まじい。

 

「ヘッ、大したことねぇな!」

 

 立ち上がり、ガシャコンブレイカーを軽く宙へ放ってからキャッチ。ガシャットをスロットから抜き取り、レバーを戻して変身を解除しようとした。

 

「っ! まだです! 新手が来ますよ!」

 

 が、それをシェインの叫びが止める。その視線の先をエグゼイドはレバーを戻さずに追った。

 

 先ほどよりは規模こそ大きくないものの、決して少なくはない数のヴィランが現れる。しかし、その姿はこれまでの物とは違っていた。

 

「あれは……」

 

 ヴィランの中でも弱いブギーヴィランも混じっているが、羽根もないのに宙を浮く、まるで布を被ったようなヒラヒラとしたような姿のヴィランを中心に構成された増援部隊。手に剣を持っている者、とんがり帽子を被って杖を持っている者の二種類。しかし、それらよりも目を引く存在がいた。

 

 他のヴィランよりも大きく、細長い腕にボロボロの布、そして宝石のネックレスを首にかけた異様な姿。こちらもまた、フワフワと宙を浮いていた。それがまた外見と相まって得体の知れない不気味さを醸し出している、いわば幽霊を彷彿とさせる姿だった。

 

「なぁ、もしかしてあれも……」

 

「ああ、メガ・ヴィラン……それも、今度はゴースト型だ」

 

 案の定、ヴィランのボス格。さしずめ、昨日がゴーレム型といったところか。

 

 ふと、エグゼイドの脳裏に、過去に共に異変を解決するために奔走した仮面ライダーがよぎったが、彼と目の前にいるゴーストとは全く違う。思い出に浸るよりも、今はあのヴィランを倒すことが先だ。

 

「よし、それなら第二ラウンド開始だ!」

 

 怯むことなく、ガシャットをゲーマドライバーへ戻してから新手のヴィランへ飛び掛かっていく。ハンマーを振るい、手近にいたヴィランへ叩きつけた。

 

「はっ!」

 

≪HIT!≫

 

 エフェクトと共に吹っ飛んでいくヴィラン。これまでのヴィランはこの一撃で倒してきた。が、今回はそうではなく、吹っ飛ぶ最中に宙を回転し、手に持つ杖を振るって光弾を放ってきた。

 

「うわっと!」

 

 まさかの反撃に面食らうも、軽く避ける。疑問を感じつつも、再び近くのヴィランを殴り飛ばす……が、こちらもまた大きなダメージはなく、エグゼイドに剣による反撃をした。それをハンマーの打撃面を盾にするようにして受け流す。

 

「なんだ、こいつら手応えが違う……?」

 

 これまでのヴィランと違い、どこかゴムボールを叩いたような感触に戸惑う。硬いと言う感じでもなく、ノーダメージという訳でもないはずだが、攻撃が効いているとは言い難かった。

 

「だったら!」

 

≪ジャ・キーン!≫

 

 攻撃手段を変更、ガシャコンブレイカーのAボタンを押し、ブレードモードに切り替える。

 

「せやぁっ!」

 

 そして呼気と共に袈裟懸けに振り下ろした。ピンク色の軌跡と共に、斬撃がヴィランを襲う。

 

 が、エグゼイドは手に伝わる感触に内心で舌打ちした。

 

「これも……ダメか!」

 

 吐き捨てるように言って、すぐに飛び退く。直後、光弾がエグゼイドのいた場所を襲った。

 

 打撃もダメ、斬撃もダメ。エグゼイドの攻撃を嘲笑うかのように大小のヴィランは次々と光弾を撃ってくる。それをガシャコンブレイカーで弾きながら、エグゼイドは後退していった。

 

「クッソぉ、どうすりゃいいんだ!?」

 

 闇雲に戦っていてはどうにもならない。しかし手立てが見つからない。エグゼイドは歯噛みしつつ方法を模索する。

 

「はいはーい! 私らのこともお忘れなくっと!!」

 

そんな時に、声と炸裂音が同時に響き渡り、エグゼイドのすぐ横を背後から飛んできた何かが通過していった。

 

 何だ? そう思った瞬間、ヴィランの集団の一部が爆発。爆炎の中から数体が吹っ飛んで消えていく。

 

「連中はゴーストヴィラン! 大砲、または杖といった魔法系の武器が有利よ!」

 

 驚き、振り返るエグゼイドに、赤ずきんとコネクトしているアリシアが、砲口から煙を出している大砲を構えたまま説明する。心なしかドヤ顔だった。

 

「ま、魔法!?」

 

 ここにきて、ファンタジーな用語が出てきたことに驚くエグゼイド。そんな彼に、ブギーヴィランを倒しながらレヴォルが叫んだ。

 

「それか、爆発的な威力を持った攻撃なら通用するはずだ!」

 

 爆発的な威力……ようは一撃の威力が強い攻撃があれば、奴らに通用するということか。

 

「それなら……!」

 

 エグゼイドは、左腰のキメワザホルダーに付けられた、オレンジ色の上下二段に分かれた『サブガシャホルダー』の二段目に差さっている赤いガシャットを手に取った。そして、それを迷うことなく起動させる。

 

 

 

≪GEKITOTSU ROBOTS!!≫

 

 

 

 マイティアクションXガシャットとは違う音声とサウンドが響き、そして赤い光が広がる。そしてエグゼイドの背後には、これまた違うゲーム画面のホログラムが浮かんだ。

 

「さっきの物と違う……?」

 

 これまでとは違う光景に、レヴォルが驚く。が、そこで終わりではなかった。

 

「うわ、何か出てきた!?」

 

 ホログラムから何かが飛び出し、エレナが目で追う。宙を舞うように動き回る、腕を生やした円柱状の形をしたコミカルな見た目の赤い物体。それがエグゼイドに迫ってきていたゴーストヴィランを回転しながら弾き飛ばしていった。

 

 これもまた、レヴォルたちは初めて見る。そんな彼らの驚きをよそに、エグゼイドはゲーマドライバーのレバーを戻した。

 

≪ガッチョーン≫

 

≪ガシャット!≫

 

 そしてすぐさま、赤いガシャットをマイティアクションXガシャットの隣、すなわちもう一つの方のスロットに差し込んだ。

 

 そして、

 

「大・大・大変身!!」

 

 エグゼイドのもう一つの姿へ変わるべく、右腕を風車の如く大きく三回転。そして勢いよくレバーを開いた。

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

 ゲーマドライバーのハイフラッシュインジケータから飛び出す、エグゼイドのパネル……と、もう一枚、何かの模様が描かれた赤いパネル。それら二枚が合わさったまま、エグゼイドと一つとなった。

 

≪マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクション・X!!≫

 

 エグゼイドがレベル2へ至るためのサウンドが鳴る。いつもならそこで終わるが、

 

≪アガッチャ!≫

 

 今回はまだ終わらない。さらなるレベルへ上がる際に鳴るサウンドが続く。

 

 

 

≪ぶっ飛ばせ! 突撃! ゲ・キ・ト・ツ・パンチ!≫

 

 

 

 どこか熱いサウンドと共に、ホログラムから召喚された何か……『ゲーマ』と呼ばれる仮面ライダーの追加装甲となる存在が、空中で逆さまとなり、両腕が外れ、まるでエグゼイドの上から覆うかのように展開する。そして、

 

 

 

≪ゲ・キ・ト・ツ・ロボッツ!!≫

 

 

 

 外れた両腕が合わさって一つの巨大な腕となり、エグゼイドの左腕に装着された。

 

 エグゼイドの上半身を覆う赤と白のカラーリングが施された鎧のようなパーツ、額に付けられた金色のVのマークが光るヘッドギア、そして何より一際目立つ左腕の巨大な黒い三本指のごついアーム。

 

 仮面ライダーエグゼイド・ロボットアクションゲーマーレベル3への変身が完了した。

 

「うわ、すごいすごい! 合体しちゃったよ!? 今度はなんか左腕が強そうなのになった!!」

 

「わ、わかった。わかったからエレナ。興奮しすぎだ……」

 

 レヴォルの肩をバシバシ叩き、鼻息荒くするエレナ。レヴォルはそんな彼女を自身も驚きながらも窘めた。

 

「これは……また何とも奇天烈な光景ですね……」

 

 シェインもまた、ダイナミックな変身シークエンスを見て呆れればいいのか驚愕すればいいのか、反応に困っていた。

 

「っしゃあ! こいつで攻略(クリアー)してやるぜ!!」

 

 左腕の『ゲキトツスマッシャー』を構え、エグゼイドは再びゴーストヴィランへ向けて走る。前衛組であるレヴォルたちもまた、気を取り直してエグゼイドに続いて駆けて行った。

 

 そんな彼らを見守るように、先ほどの少女が物陰からそっと顔を覗かせる。深く被られた頭巾で表情こそ伺えないが、その視線はヴィランへと勇猛果敢に立ち向かっていくエグゼイドへと向けられていた。

 




エレナは特撮とか知らなくても実はそういうの結構好きなんじゃないかなと思う。完全偏見ですが。

次回、判明するstory


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 明らかになるstory!

 ロボットアクションゲーマーへとレベルアップしたエグゼイドは、手近にいたゴーストヴィラン目掛けて左の剛腕を振りかぶった。

 

「はぁ!」

 

 空を裂くスピードで振るわれる左からのストレートパンチをモロに受けたゴーストヴィラン。本来ならば打撃系の武器に対して対抗力を持つゴースト種であるが、左腕のアーム『ゲキトツスマッシャー』は、ただでさえ常人を上回るエグゼイドのパンチ力をその内部で受け止め、10倍にして相手に叩きつける武装。そんな武装を前にして流石に無事で済むことはなく、衝撃を全身に受けてその体をゴム鞠の如く吹き飛ばされ、数体のヴィランを巻き添えにして消滅した。

 

「よし、効いてる!」

 

 レベル3の力が通用したことを確認し、エグゼイドはさらに他のヴィランへと拳を振るう。巨大な槌の如く叩きつけられる剛腕により、次々とゴーストヴィランは成す術なく吹き飛ばされ、消滅していく。

 

「おりゃあ!」

 

 最後の一体を、地面にクレーターを作るほどの豪快な叩きつけで倒し、残すところはリーダー格、メガ・ゴーストヴィランのみとなった。

 

「行くぜ!」

 

 左腕を構え、ヴィランへと走るエグゼイド。ヴィランはその細長い手から、闇のエネルギー弾を連続して射出、エグゼイドを迎え撃つ。それらをエグゼイドは、左腕を盾にするかのように眼前を覆って防いで行った。

 

速度を緩めないエグゼイド。その後ろ、レヴォルは空白の書を手に取り、挟んでいた栞を抜き取った。

 

「よし、援護する!」

 

 栞を裏返し、再び書に挟み、閉じる。すると、栞の裏面に込められたヒーローの魂とコネクトしたレヴォルの体が光に包まれた。

 

 光が消えると、現れたのは一人の少年。身を包む豪勢にして威厳に満ちた白い装束は、さながら王族のよう。

 

 否、ようではなく事実、王族が着る物。そしてその服を身に纏う少年は、かの有名な『千夜一夜物語』で語り継がれる物語の一つ、『アラビアンナイト』の主人公。

 

「はぁぁぁぁ……!」

 

 レヴォル扮する、アラビアンナイトの主人公、アラジンが手に持った金色の杖を掲げる。すると、先端の宝玉から雷が迸り始め、

 

「はぁっ!!」

 

 気合いと共に杖を振り下ろす。すると、ヴィランの頭上を幾つもの雷が降り注ぐ。突然の奇襲に成す術なく、ヴィランは雷をまともに喰らい、全身に電流が走った。痙攣するのを見るに、電流に縛られたかのように動けなくなっているのがわかる。

 

「はっ!」

 

≪HIT!≫

 

 そこをエグゼイドの左アームパンチからなる洗礼を容赦なく受けるヴィラン。

 

「せい! おりゃ! だぁっ!!」」

 

≪HIT!≫≪HIT!≫≪GREAT!≫

 

 さらに連続で振るわれる豪腕は、容赦なくヴィランの体力を奪っていく。いまだ痺れから抜け出せないヴィランは、最後の一発を食らって大きく吹き飛んだ。

 

 メガ・ヴィランは総じて体力が高い。それを知る彼らは、さらに追い打ちをかける。

 

「そぉれもいっちょ!!」

 

 アリシアが大砲の照準をヴィランへ合わせる。大砲内で力をチャージしたことで、最大火力となった砲弾が、炸裂音と共にヴィランへと飛んでいく。

 

 そして、着弾、爆発。爆風によって巻き上がる煙塵が晴れると、元々ボロ布を纏っていたかのようなその外見がより一層みすぼらしくなったような、瀕死に近いヴィランがよろよろと浮いていた。だが、目から光が消えておらず、まだまだ健在だった。

 

「エムさん、今よ!」

 

 そんなヴィランに、アリシアがトドメをエグゼイドにさすよう促した。エグゼイドもまた、確実に仕留めるために、必殺技を発動させる。

 

「こいつでフィニッシュだ!」

 

≪ガッシューン≫

 

 ゲキトツロボッツガシャットをゲーマドライバーから抜くと、左側のキメワザホルダーへ。

 

≪ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 左のアームでスイッチを押し込むと、キメワザホルダーがガシャットを読み込む。すると、キメワザホルダーを伝って左腕のアームへ。カラフルなエネルギーに包まれたゲキトツスマッシャーを引いて、構え、そして、

 

「喰らえ!」

 

 スイッチを押した。

 

 

 

≪GEKITOTSU CRITICAL STRIKE!!≫

 

 

 

 突き出されたアームパンチ。距離が離れているヴィランにはその攻撃が届かない……と思われた瞬間、ゲキトツスマッシャーがエネルギーを炎のように噴射し、エグゼイドの腕から飛び出す。

 

 そして真っ直ぐ、猛スピードでヴィランへ。

 

『――――ッ!!』

 

 腹部にゲキトツスマッシャーが直撃、スピードとエネルギーを乗せた一撃を前に、ヴィランはたまらず悍ましい叫び声を上げる。しかしそれでもまだ倒れず、逆にゲキトツスマッシャーのアームを両手で持ち、押し返そうと抗った。

 

 と、そこへ、

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

 猛烈な勢いで駆けるエグゼイド。目指すは、いまだエネルギーを噴出するアーム。そして、そのアームへと左拳を突き出した。

 

「も一つオマケだ!!」

 

 再びエグゼイドの腕に収まるアーム。そして、

 

≪PERFECT!!≫

 

ゲキトツスマッシャーの威力を10倍にする機能によって倍増されたエグゼイドのパンチが、衝撃となって抑え込んでいたヴィランの体へと伝わった。

 

『―――――――ッ!!』

 

 それが追い打ちとなり、トドメとなる。たまらず吹き飛んだヴィランは、宙で爆散。断末魔の悲鳴を上げながら、跡形もなく消え去った。

 

≪会心の一発!!≫

 

 もうヴィランは見当たらない。強力な攻撃が決まった時に鳴り響くサウンドが、戦闘の終了の合図となったのだった。

 

「退けたか」

 

「ふぃ~、さすがに二日連続で来るときついな」

 

 空白の書から栞を取り、一息つくレヴォルとぼやくティム。

 

≪ガッチョーン≫

 

≪ガッシューン≫

 

「ふぅ……」

 

 永夢もまた、レバーを戻し、ドライバーとホルダーからガシャットを抜いて変身を解く。昨日同様、永夢が変身を解除すると、周囲を覆っていたゲームエリアも消失した。

 

「皆さん、怪我はありませんか?」

 

「ああ、僕たちは大丈夫だ」

 

「ま、今更あんな連中に遅れは取らねえよ」

 

 医者としての性か、ガシャットを懐にしまいながらレヴォルたちに問う永夢。レヴォルは異常がないことを伝え、その横でティムは軽く笑いながら体についた埃を払った。

 

「よかった……被害も最小限に抑えられたみたいです」

 

 周辺の住民は無事に逃げ出せたことで、建物が一部破壊されているに留められているのは、不幸中の幸いだったと言えた。

 

「……しっかしまぁ、仮面ライダーってのは随分」

 

「ねぇねぇエムさんエムさん! 今のすごかったよね! 仮面ライダーって他にもいろいろなれるの!?」

 

「あ、ちょ、おチビテメェ!?」

 

 ティムが何か言いかけると、そこに割り込む形でエレナがエムに詰め寄る。その目は純粋な子供というのを絵に描いたような、憧憬に煌めく瞳をしていた。

 

「あ、あぁ、うん。ガシャットを変えればレベルアップして、状況に応じた姿になれるんだ」

 

「おぉぉぉぉ……他にもあるんだぁ……!」

 

「エレナ……こういうの意外と好きだったんだな……」

 

 それが何とも微笑ましいように映る永夢の返答に、より一層輝きを増すエレナの目。その後ろで、エレナの意外な一面を見たレヴォルが呆れながら呟いた。

 

「……」

 

「アリシア? どうかしたかい?」

 

 と、そんな永夢とエレナのやり取りを見ていたアリシアが、顎に手を添えて考え込んでいるのを、パーンが訝し気に聞く。

 

「いえ、ちょっと……」

 

 気のない返事をしてから、おもむろに足を永夢の方へと進めた。

 

「エムさん、ちょっといいですか?」

 

「え? 何?」

 

 アリシアに呼ばれ、永夢はエレナとはまた何か違った異様な雰囲気を漂わせている彼女へと向く。そして、眼鏡の奥で光る真剣な眼差しを永夢へ向けたまま、ずいっとエレナ以上に詰め寄った。

 

「そのゲーマドライバーとガシャットって分解させてもらえたりしますか!?」

 

「えぇ!?」

 

「落ち着け」

 

「あだっ」

 

 スパーンと、とんでもないことを言い出したアリシアの頭を迷わず叩くティム。割と強めだったのか、思わずつんのめった。

 

「ったぁ! 何すんのよティムくん!」

 

「いや唐突に変なこと言い出すからだろ」

 

「だって気になるじゃない! コネクトとも違う未知の変身技術よ!? それも超強力な! 一研究者として気にならないはずないじゃない!!」

 

「だからって人様のもん『分解してもいいですか』って聞くか普通」

 

 好奇心が暴走したアリシアを窘めるティム。と、興奮冷めやらぬ彼女の肩を、ポンと叩く人物がいた。

 

「ティムの言う通りですよ。落ち着きなさい」

 

「シェインさん……」

 

 ティムと同じく冷静な様子でアリシアを窘めるシェイン。

 

「未知の技術ゆえに、分解して元に戻るという保証はありません。これからの戦い、彼の力は必要なのは皆わかっていることでしょう? 諦めなさい」

 

「……わかりました」

 

年長者としての貫禄を出しつつ、冷静に諭されたアリシアは、さすがに気持ちも落ち着いたらしく、大人しく引き下がる。

 

「……まぁ、気持ちはすごくわかりますがね……すごく」

 

「おいババァ。目がマジじゃねぇか」

 

「シェイン、君も落ち着いた方がいい」

 

 年長者ではあるが、その好奇心は下手すればアリシア以上とされるシェインの永夢、もといゲーマドライバーへ向けられた目は、何だか猛禽類の如く鋭かった。思わずティムとパーンが呆れてツッコんだ。

 

「は、はは……」

 

当の永夢は苦笑するしかなく、気持ち腰のゲーマドライバーを庇うように後退った。

 

「あ、あの……」

 

「え?」

 

 そんな永夢の後ろから声がかかる。振り返ると、頭巾を深く被って顔を隠した少女が、どこか所在なさげに立っていた。よく見れば服も汚れており、所々破れていたりと、痛々しい姿が目に映る。

 

「あ、君は……怪我はない? 大丈夫?」

 

 レヴォルたち同様、先ほどの騒ぎでどこか怪我をしたかどうか問う永夢。対し、少女は一瞬肩を震わせてから、首を横に振る。そして、すぐに頭を下げた。

 

「あの、助けていただいて、ありがとうございました……それじゃ」

 

「え、ちょっと待っ」

 

 礼を言ってから去ろうとする少女に、何故ヴィランに襲われていたのか事情を知りたい永夢は手を伸ばした。

 

瞬間、フッと少女の体から力が抜けるように、永夢に向けて倒れ込んでくる。

 

「っと!?」

 

 咄嗟に伸ばした手で少女の肩を掴む。少女からは反応はなく、ただ永夢に身を任せるような形となって意識を失っていた。

 

「し、しっかりして! 君!」

 

「そんな、どこかやられたのか!?」

 

 のっぴきならない状況に、永夢だけでなくレヴォルも慌てる。少女の顔を覗き込んだ永夢は、容態を確認する。

 

 呼吸は、ある。ただ気を失っているだけのようだった。

 

「気絶しているだけみたいだ。けどどこかで休ませないと」

 

 ただ、衰弱している様子が見られる。やむを得ず、永夢は少女を抱き上げた。身長は低くはないのに対し、驚くほど軽い。

 

「しょうがない、失礼を承知で先ほどの家へ運ぼう。彼女を頼む」

 

「はい!」

 

 パーンが先導し、永夢は少女を抱えたまま歩き出す。その際、結び目が緩んでいたのか彼女が被っていた頭巾がハラリと落ちた。そして露わになった顔が、シェインの視界に入る。

 

「……っ! ちょっと待ってください!」

 

「え?」

 

 突如、シェインが呼び止める。いきなりのことで急停止して疑問符を浮かべる永夢を余所に、シェインは少女の顔を覗き込んだ。

 

 薄汚れてはいるが、それでも尚色褪せない煌めくサファイアのような蒼い髪。幼さを残しつつ、気品すら感じさせる端麗な顔立ち。誰もが見惚れる程の美貌を備えた、美しい少女。

 

「この人は……」

 

 しかし、シェインが注目したのはそこではない。というのも、シェインは彼女をよく知っている。それはシェインだけでなく、レヴォルたちも見知った顔だった。

 

 

 

「シンデレラ、さん?」

 

 

 

 不幸な境遇から、奇跡の魔法で幸せを掴み取る運命にある人物。かの有名な童話の主人公の姿が、そこにあった。

 

 

 

 

~ 第6話 明かになるStory! ~

 

 

 

 

「……アリシア、彼女の容態は?」

 

「エムさん曰く、栄養失調による衰弱と極度の疲労による気絶らしいです。傷も大したものじゃなくて大事には至ってないようで、しばらくすれば目を覚ますみたいです」

 

 再びパン屋へと戻って来た一行は、老婆に事情を話して一室を貸してもらい、少女をベッドへと運び込んだ。それから永夢が診察し、今は付きっ切りで看病している状況だ。

 

「そうか……彼は研修中とは言っていたが、あの迅速な対応。ドクターとしてそれなりの場数は踏んでいるようだね」

 

「ですね。彼女が目覚めるまで、今は彼に任せておいた方が賢明です」

 

 適切な処置を施した永夢に感心するパーンとシェイン。永夢を除いた全員が、神妙な面持ちで朝に集った部屋に集まっている。

 

「……しかし、彼女がここにいるということは……」

 

「ああ、恐らくそういうことだろう」

 

 テーブルに肘を着きながら言うシェインに、パーンが頷く。

 

 今ベッドで眠っている少女は、紛れもなくシンデレラ本人だ。服装こそ彼女が虐げられていた時期に着ている質素な物だったが、これまで何度か見てきた顔立ちから見間違いようがない。あの姿から、彼女は妖精の魔法使い、フェアリー・ゴッドマザーによって美しいドレスとガラスの靴を授かり、城の舞踏会で王子に見初められ、その後ガラスの靴が切っ掛けとなって王子と結ばれる……そういう筋書きの運命を辿る筈だ。

 

「確か、前にシンデレラちゃんに会ったのって、オーロラ姫ちゃんがいた想区以来だったっけ?」

 

「ああ、それと影の塔でも会ったな」

 

 エレナとレヴォルが、以前出会ったシンデレラの姿を思い出す。最初は、二つの物語が一つとなった想区にて。もう一つは、カオステラーによって滅ぼされたことで新生ヒーローとして新たな力を得た時だ。そのどちらも、彼女はたおやかな女性という印象が強く、それでいて芯の強い性格をしていた。

 

「……けど、どうしてあんな状態に……」

 

 が、今回出会ったシンデレラは、どこか弱々しい。傷だらけで衰弱していた姿から、100%何か厄介な問題に巻き込まれたと見て間違いはない。

 

「わかんねぇけどよ、どうもキナ臭くなってきたぜ」

 

「そうね……ここがシンデレラの想区というなら、おかしい点があるわ」

 

 ティムに同調し、アリシアが語る。

 

「私たちが今まで見てきたシンデレラの想区には、城を取り囲むような壁なんて無かったわ。無論、想区によって語られる内容が変わるから一概には言えないけれど」

 

「それと……この国の王、だな」

 

 アリシアに続くように、エヴォルも自身が感じた違和感を話した。

 

「お婆さんから聞いた話では、この国の王子は結婚したらしい。ここがシンデレラの想区というなら、相手はシンデレラさんのはずだ」

 

「けど、ここにそのシンデレラがいる。それも、服装も舞踏会に行く前の服にしか見えねえな」

 

「……もしかして、違う人と結婚した?」

 

 エレナがそう疑問を口にした。その時、

 

「いいや、そりゃないよ」

 

 部屋の扉が開き、老婆が入室する。手には先ほどまでシンデレラが眠る部屋に置かれていた水の入った桶があり、中身の交換してきたものと思われる。

 

「お婆さん?」

 

「私も遠くから見たけど、確かにありゃ現国王とシンデレラちゃ……王妃だったねぇ。彼女の姿はそりゃあもう綺麗なもんだったさ。国中がお祝いしたんだ、見間違いようがないよ」

 

 そう断言する老婆。だが、それが事実ならば、謎が深まるばかりだった。

 

「……じゃあ、今眠ってるシンデレラちゃんは誰なの?」

 

 エレナの問いに、一瞬沈黙が走った。

 

「いや……逆かもしれねぇぞ?」

 

 そこを、ティムが口を開いて静寂を破った。

 

「今この国の王妃として乗っかってる奴……そいつがシンデレラに成り代わってる可能性がある」

 

「それじゃ……偽物が王妃様ってことになるの?」

 

「正直、本来のシンデレラさんが今この国をそんな状況に追い込んでいる、というのが納得できませんからね。私はティムの言う通り、後者だと思います」

 

 シンデレラという人間を知るシェインにとって、まだ断言こそできずとも、彼女がこの国の困窮を放置するとは思えない。

 

「……それじゃ、まさか」

 

 そして、一同はその偽物の正体に気付く。物語の根源を壊し、想区を破壊しうる存在。王が結婚した瞬間に圧制が始まったことといい、ここにいるシンデレラが本物だとするならば、寧ろ王妃として城にいる存在がそうであると、そうとしか考えられなかった。

 

「そいつが、カオステラーか……!」

 

 レヴォルが静かに、その忌まわしき存在の名を言う。物語の運命を歪める、絶対に断たねばならない“敵”だった。

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 微睡から目が覚める。まだ視界がぼやけるが、徐々にそれもはっきりしていく。完全に回復すると、木の天井が視界に飛び込んでくる。最初こそ何も思わず、ただぼんやりと見つめていたが、唐突にここにいることに疑問を感じるようになる。

 

「……あれ……私……」

 

「あ、目が覚めた?」

 

 突然、横から声をかけられて驚き、顔をそちらへ向ける。あまり見慣れない顔立ちをした、首に何か管のような物をかけている白衣を纏った青年が、微笑みながら少女を、シンデレラを椅子に座りながら見下ろしていた。

 

 彼には見覚えがある。確か先ほど、化け物に襲われた時に奇妙な姿へと変わり、連中を瞬く間に退けていた。その後、彼に礼を言って立ち去ろうとした瞬間、ふっと意識が遠のいていき……その時、誰かに抱き留められたのを、かろうじて覚えている。

 

「どうして……」

 

「君は、あの時倒れてここに運ばれたんだ。けど、食事をしっかり摂ればもう大丈夫だよ」

 

 青年、永夢はシンデレラがここに運ばれた理由を説明し、しばらくすれば回復する旨を優しい口調で説明する。しかし、それに対してシンデレラは頭を振った。

 

「違うんです……どうして、私を……」

 

「え?」

 

 腕を支えに、ゆっくりと起き上がるシンデレラ。そして、透き通った水晶のような蒼い瞳を真っ直ぐ、永夢へ向ける。

 

 誰もが見惚れる美しさを秘めた瞳。が、永夢はそこにあるはずの光が弱々しいことに気付いた。

 

「私は……あの化け物に追われて……だから私をここに置いていたら、また化け物があなた方を……」

 

 自分のせいで誰かが傷つけられたくはないと、シンデレラは暗に永夢に訴える。だからこそ、助けてくれた永夢たちに碌な礼を言えないのは心苦しかったが、それでも彼らを遠ざけようとすぐに逃げようとしたのに……。

 

 そんな彼女の心境を感じ取った永夢は、しかし彼女のその考えを否定する。

 

「大丈夫だよ。例えまた君を狙ってきたとしても、僕が追い払うから。ね?」

 

 どんな理由があっても、彼女を見捨てることはしない。ここの住民が襲われる危険性があるが、今の永夢は一人ではない。CRの面々はいなくとも、この世界で出会ったレヴォルたちがヴィランを追い払う手助けをしてくれる。

 

 だから案ずることはない。永夢はシンデレラにそう伝えた。

 

「……私は、守られる程の価値なんてありません」

 

 それでも、彼女の表情は晴れない。暗い影を落とす彼女の顔を、永夢は覗き込む。

 

「それって、どういう……」

 

「……私、は……」

 

 口を開き、何かを言いかける……が、途端に言い淀み、何も言えなくなる。

 

 シンデレラの身の内に宿る闇。それはシンデレラの胸をぐるぐると彷徨い、暴れ、彼女を蝕む。それを口にした瞬間、楽になれるだろう……そう思っても、口に出すのは憚られた。

 

 己の闇を、“罪”を、彼に言ったところでどうにもならない。この闇は、自身がずっと抱えていくべきだ……シンデレラはそう、己を縛る。

 

「……君が、どんな事情を抱えているのかは、話してくれない限り僕にはわからない」

 

 そんな彼女に、永夢は話しかける。いまだ俯く彼女から目を逸らさず、真っ直ぐ見つめながら。

 

「けど、僕はどんな事情があろうと、他人を心配して遠ざけようとする君が、守られる価値がない人間だとは絶対思わない」

 

「……え?」

 

 断言する永夢に、シンデレラは永夢へと目を向ける。優しく、穏やかに笑いかける彼。その笑顔を向けられた瞬間、シンデレラは思い出す。

 

 遠い過去、今は亡き父が幼い頃のシンデレラに向けられた、あの暖かく安堵を覚える笑顔を。

 

「僕はドクターなんだ。だから患者は絶対見捨てないし、君のことも絶対に助けてみせる」

 

 ポンと、シンデレラの肩に手を乗せる。彼からすれば、自身より年下の少女に対して安心させるための、医師としてのコミュニケーションの一つ。そして、未だ深い闇の中にいる彼女のために、宣言した。

 

「そして、君の笑顔を取り戻してみせるから。だから、大丈夫」

 

 絶対に、命を助ける。それが誰であろうと、傷つき、泣いていたら、永夢は迷いなく手を差し伸べる。それが彼のドクターとしての、仮面ライダーとして戦う者の使命なのだと信じているから。

 

 自らが招いたこととはいえ、深い闇の底にいたシンデレラの心。しかし彼のその言葉は、今のシンデレラにとって、暗闇に差し込む光となる。

 

「……ありがとう、ございます……えっと」

 

 心に染み渡る、彼の言葉。今度こそ、真摯に礼を言おうとするシンデレラ。しかし、恩人であり、光を見せてくれた彼の名を、彼女はまだ知らなかった。

 

「あ、ごめん! 僕はドクターの宝生永夢。よろしくね」

 

 そんな彼女の様子に気付き、永夢は慌てて名乗る。先ほどまでどこか凛々しさを感じさせた彼の、少しドジなところを垣間見た彼女は、

 

「……フフ、よろしくお願いします。私は、シンデレラです」

 

 ようやく、小さくだが笑うことができたのであった。

 




少し遅くなりました。6話投稿です。

そして以前、誤字報告をいただきました。よりにもよって神の名前を間違えるとは……指摘してくださったヌマクローこそ至高で最強様、本当にありがとうございました。ちょっとクリティカル・エンドくらってきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 深まるmystery

投稿までだいぶ期間が空いたにも関わらず、今回大きな進展がなくて申し訳ありません。


「皆さん、お騒がせしました。それと、助けていただいてありがとうございます」

 

 場所はパン屋。目の前に集う再編の魔女一行と永夢に対し、深々とシンデレラは頭を下げた。

 

「もう歩き回って平気なのか?」

 

「はい。エムさんのおかげで、大分体が楽になりました」

 

 気遣うレヴォルに、シンデレラは微笑みながら返す。血色もよく、まだどこか弱々しさは感じるものの、目には光が戻ってきているのが見て取れた。それだけ見ただけでも、不安要素はある程度取り除けたと言えるだろう。

 

「けど、病み上がりなんだから無茶だけはしないようにね?」

 

「は、はい」

 

 永夢に注意され、小さく頷くシンデレラ。それが少ししおらしく見えたものの、永夢はそれに気付かずにいつものように笑う。

 

「さて、病み上がりの方に質問をするのもあれですが、そうも言っていられない状況なので色々聞かせていただきますよ」

 

 と、話を切り出したのはシェイン。今回の騒動の渦中にいるのは、間違いなく物語の主人公であるシンデレラ。そんな彼女から話を聞くというのは至極当然であると言えた。

 

「え、えっと……私に答えられることなら……」

 

 有無を言わさぬ、といった風のシェインに、若干怖気づくシンデレラ。それに気付き、怯えさせたことを反省してコホンと小さく咳払いして気を取り直す。

 

「……一先ず、あなたのことはこの家の住民の方々からある程度は伺っております、シンデレラさん」

 

 彼女が目覚めてからしばらくし、見舞いに訪れた一行とは互いに自己紹介を終えており、ある程度の情報は手にしていた。

 

「まぁ、単刀直入にお聞きしますが……一体何があったのですか? あなたは王子と結婚されていて、幸せになっていると思われていましたが」

 

 シンデレラの筋書きを知る者として、目の前にいる彼女は外見、雰囲気共にシンデレラだと断言できるものの、今の状況が筋書きと異なっている。確実に物語とは違う何かが起きたとしか思えない。シェインは、周りくどいことはせずに結論から先に求めた。

 

 しかし、俯き、意気を失った彼女からの返答は芳しくはなかった。

 

「……わかり、ません」

 

「わからない?」

 

 レヴォルが問い返し、それに頷くシンデレラ。

 

「気付けば、私の代わりの人が王子と結婚されていて……その後に、あの怪物に襲われるようになって、私は身を隠しながら逃げ回っていました」

 

 “私の代わりに”……それを聞いて、シンデレラの偽物が王妃となっている説はほぼ確実となったことを、一行は悟った。

 

「怪物に襲われる心当たりとかあるんですか?」

 

 アリシアの質問に、シンデレラは俯きながら首を振った。

 

「……では、フェアリー・ゴッドマザーは? あなたにとって彼女は特別な存在のはず」

 

 シェインの脳裏に過る、シンデレラの童話を語るにおいて重要な人物、妖精の魔法使い。彼女の存在なくてはシンデレラは語ることはできないと言っても過言ではない。

 

 そんな彼女の姿は、いまだ見かけていない。シンデレラならば知っているかもしれないと質問したが……それすらも、彼女は首を振った。

 

「確かに、私は以前フェアリー・ゴッドマザーと出会い、素敵なドレスを纏って、お城の舞踏会へ行きました……けど、舞踏会へ行って以降、姿を現してくれないんです」

 

 シンデレラのことをいつも気にかけているフェアリー・ゴッドマザーが、当のシンデレラが悲惨な状況に陥っているにも関わらずに不在……これだけでも、異様な状況であるとも言えた。

 

「……ごめんなさい……ごめんなさい、本当に何もかもわからないんです……何も……」

 

「……仕方ない、これ以上聞くのは酷だ。質問は一度打ち切ろう」

 

 両手を重ね、堪えるように力強く握る。傍から見て悲痛な思いを抱えていることがわかる彼女に、これ以上の質問は厳しいと考えたパーンは話を切り上げた。情報が大して集まらなかったことに軽い落胆はあるものの、彼女の精神状態で質問を続けることは、彼女を追い詰めることになりかねないということもあり、誰も異議は唱えなかった。

 

「しっかしまぁ、フェアリー・ゴッドマザーはどこ行ったのかね。誰よりもシンデレラの幸せ願ってるはずだろ?」

 

「そのはずなんだけど……何か危険な目に合ってなきゃいいわね」

 

 ティムとアリシアが言う。シンデレラがいる以上、確実にフェアリー・ゴッドマザーは存在している。しかし姿を現さない。もしかすると、危険な状況に陥ってしまっているのではないか……そんな不安が一行をよぎった。

 

 

 

「……私なんて、いいんです。幸せになる資格なんてない……」

 

 

 

と、風に吹かれればすぐに消えるような、シンデレラの小さな呟き。耳をすませなければ聞こえない程の声を拾う人間は、誰もいない。

 

 一人を除いて。

 

(……え?)

 

それを偶然、一番近くにいた永夢の耳が拾った。今の憔悴している彼女に追及こそしなかったものの、その小さな呟きが永夢の耳から離れなかった。

 

「おや、お話はもう終わったかい?」

 

 ふと、扉が開いて老婆が入室してくる。それに気付いたシンデレラが、先ほどの暗い空気を纏っていたのを払うように老婆へ振り返った。

 

「あ……お婆さん。ごめんなさい、お騒がせしました」

 

「いいんだよ、あんたと私の仲じゃないのさ。エ……いや、今はシンデレラ様って呼んだ方がいいかい?」

 

「あ……その、私、は……」

 

 しどろもどろ、言うか言うまいか悩む素振りを見せるシンデレラ。そうしてから、力無い微笑みを老婆へ向けた。

 

「……私は、王妃でも何でもない、ただの“エラ”です。そう呼んでください」

 

 一瞬、老婆が驚きに目を開く。が、それはすぐに我が子を見るかのような穏やかな笑顔へと変わった。

 

「そうかい……そうかい。あのお城にいる人とアンタは、やっぱり別人なんだねぇ」

 

 以前の善王が暴虐無人な政策の限りを尽くす切っ掛けとなったやもしれない王妃の正体がシンデレラ本人ではないと確信した老婆は、笑顔を絶やさぬままシンデレラの背中に手を回し、背中を軽く叩いた。

 

「何があったかは知らないけれど、そんなになって……大変だったねぇ……」

 

「っ……お婆、さん……」

 

 暖かい言葉をかけられ、そして老婆の優しい抱擁に、シンデレラは泣きそうな声を上げる。しかし、寸でのところでぐっとこらえ、僅かに潤んだ瞳を手の甲で拭うにとどめた。

 

「……さ、お腹すいたろ? みんなで食事にしようか」

 

 やがてそっとシンデレラから離れた老婆はそう提案する。そんな老婆の手を、シンデレラは包み込むように掴んだ。

 

「あの、私もお手伝いさせていただけませんか? お部屋を貸していただいたお礼もさせてください」

 

「え? そりゃありがたいけれど……アンタは病み上がりなんだろ? 大丈夫なのかい?」

 

「はい。おかげ様で先ほどよりも元気になりましたから」

 

 シンデレラの申し出に、老婆は少しだけ考え込んだ。

 

「ん~……わかったよ。じゃあ、お願いしようかねぇ」

 

「は、はい!」

 

 そう返答するや否や、シンデレラは足早に部屋を出て行く。その後ろ姿を見て、先ほどよりも覇気を取り戻したことが手に取るようにわかる永夢は安堵の笑みを浮かべた。

 

「彼女とは面識があったんですね」

 

「ああ、あの子が小さい頃からの付き合いさ」

 

 パーンの呟きに、笑いながら返す老婆。シンデレラを見つめている目つきは、まさに我が子に対する物と何ら変わりがない。

 

「母親が死んで、今の継母が来て、そして今度は父親も死んで、さらにはその継母と連れ子があの子をいじめ続けて……そんな境遇の中でも、あの子は私らに笑顔を向けてくれる、優しくていい子なんだよ」

 

 言って、老婆は部屋を後にする。シンデレラと一緒に食事の準備をしに行ったのだろう。

 

「……どうやら、物語の筋書き通りの人のようですね。シンデレラさん」

 

「ええ。不遇な境遇にもめげない、プリンセスに相応しい人のようです」

 

 成り行きを見守っていたシェインに、アリシアがうんうんと頷きながら同調する。先ほどの老婆とシンデレラのやり取りに、どこか感動している節が見えた。

 

「……それだけに、今の彼女の姿はやはり腑に落ちない」

 

 シンデレラの筋書きを知っているレヴォルから見ても、やはりあのシンデレラの状態は大きな疑問が残る。

 

わかっているのは、継母たちからの仕打ちに耐えてきた彼女があそこまで疲弊するような、物語の筋書きにない出来事があった……それは確かだ。

 

「……正直に聞いちまえばいいんじゃねぇの? 何があったのかって」

 

「ちょっとティムくん、それはさすがにデリカシーがないわよ」

 

「今の彼女の精神衛生上、それは悪手としか言いようがないな」

 

「相変わらずそういうところは本当ティムですね」

 

「う……ってババァ! 人の名前をバカみたいな意味合いで言ってんじゃねぇ!!」

 

 何となしに提案したティムに対し、アリシアとパーンが異論を唱える。一名ほど異論とは少々異なる発言ではあるが。

 

「何にせよ、シンデレラさんがああなってしまった“何か”を解決しない限り、エレナさんの再編を使うことはできそうにありませんね」

 

 シンデレラの身に何が起きたのか。カオステラーを倒すことも重要だが、何よりもシンデレラの身に何が起きたかを把握しなければ根本からの解決にはならない。

 

「……再、編?」

 

 と、シェインの発言を聞いていた永夢が首を傾げる。再編という単語は昨晩の話の中では出てきたものの、改めて聞くと何のことだかわからない。ゆえにほぼ蚊帳の外状態だったため、沈黙せざるをえなかった永夢に、エレナが「あ」と思い出したかのように掌を叩いた。

 

「そっか。エムさんに再編の説明とかしてなかったよね」

 

「そうだな。今の彼にも説明しておいた方がよさそうだ」

 

 昨晩のうちに話せていなかったことを、今ここで話すことに賛成するパーン。

 

「でも……」

 

 そんな中、レヴォルは難色を示す。再編を説明すること、即ちこの世界とは無関係であるはずの彼を実質戦いに巻き込むことと同様なのではないかと。

 

 その意図を読んだシェインは、半ば呆れつつレヴォルを諭す。

 

「正直、二度も町の中で騒動を起こしてしまった以上、彼も無関係とは言いにくいでしょう。後のことは、彼自身が決めたらいいのではないですか?」

 

「……」

 

 確かに、彼は子供たちを守るため、シンデレラを救うためとはいえ、エグゼイドのその異質な姿を大勢の人たちの前に晒してしまった。こうなっては、城の人間にも嫌が応にも注目されてしまっているだろう。

 

 結果論で言えば、すでに巻き込まれている……そう言わざるをえない状況だった。

 

「……わかりました」

 

 その事実に、自分たちではどうすることもできないことに歯痒い思いをしつつ、レヴォルは永夢に向き直る。

 

「すまない、エム。ほったらかしにしてしまっていた……今朝のヴィランの親玉についての話は覚えているか?」

 

「あ、うん。放っておいたら大変なことになるって……」

 

 以前は巻き込む以前に、不安を煽るかもしれないというレヴォルの配慮から中断された話。その話を、再びレヴォルは話し始めた。

 

 

 

「……その親玉は、カオステラーと呼ばれている」

 

 

 

 混沌の語り手、カオステラー。その存在の恐ろしさを。

 

 

 

 

 

~ 第7話 深まるmystery ~

 

 

 

 

 

 カオステラー……運命を破壊する存在についての説明から始まる。

 

 自らの運命の書に記された生き方に疑問を覚える者、憤りを感じる者……それらが運命に反抗しようとする者が、カオステラーと成り果て、やがては歪んだ形で想区の運命を変えていき……やがてその想区が辿るべき物語が破綻してしまい、消滅する。

 

 レヴォルたちは今まで訪れた想区で、何度もカオステラーを倒してきた。その後、エレナの持つ『運命を新たに書き換える』という力、“再編”と呼ばれる力を行使し、初めて想区は救われる。

 

「そんな旅を、僕たちは続けてきたんだ」

 

 そう締めくくり、レヴォルは説明を終えた。

 

「……何と言うか、想像以上にすごい旅をしてきたんだね……」

 

話を聞いて想像以上にスケールの大きい内容、そして世界を文字通り変えるという大きな力を、エレナのような幼い子供が使えるという事実に、永夢は絶句せざるをえなかった。

 

「けど、再編の力も想区の物語の流れを見極めなきゃ使えないの」

 

 そう説明に付け足すエレナ。今回の場合、偽物のシンデレラが王妃となっている以上、この想区の主役は確実にシンデレラだ。つまり、シンデレラそのものが物語の要。想区によって物語が変わるため、今回のシンデレラに起こった“何か”を解決しない限り、物語の流れを完全に見極めることはできない。即ち再編の力を行使することができない。

 

「親玉を倒せば全て解決、というわけにもいかない、か」

 

「そういうことね」

 

 得心がいったという永夢に、アリシアが締めくくる。つまるところ、この世界を救うには、まずシンデレラを救うのが先、ということがわかった。

 

「……君がこの話を聞いて、この戦いに参加するか否か、決めるのは自由だ」

 

「正直、カオステラーの力は想像よりも遥かに強大です。事が解決するまで隠れているというのも手ですよ?」

 

 本来ならば、この世界とは無関係の存在である永夢。そんな彼にカオステラーとの戦いを強制させるつもりのないパーンとシェインは、選択を永夢に促した。仮面ライダーの力は彼らにとって大きな戦力になりえるが、今まで彼の力が無くとも脅威を退けてきたのだから、何ら問題はない。

 

 しかし、ここまで話を聞いた以上、永夢が言うべき言葉は決まっている。否、話を聞かずとも大して変わらなかっただろう。

 

「……誰かが苦しんでいるのに、黙って見ているだけなんて僕にはできません」

 

「エム……」

 

 語る永夢の目は、決意に満ち溢れている。仮面ライダーとしてだけではなく、ドクターとしても、苦しむ人々を放っておくことなど到底できない。それならば、苦しみの素を断ち切るために自身も戦いに身を投じる……そう、暗に語っていた。

 

 その眼が眩しく見えると同時に、彼の性格が短い期間で何となくわかっていたレヴォルは予想通りの答えだと思った。無関係であるはずの彼の力を借りることに対する罪悪感を覚えつつも、頼もしい彼の返答に思わず小さく笑みを見せた。

 

「……では、あなたも力を貸してくれる、という方向でよろしいんですね?」

 

「うん。微力ながら、僕も手伝うよ」

 

 再確認するシェインに、永夢は力強く頷いた。

 

 シェインとしても、彼の力を利用するような形となってしまったことに自嘲しつつも、大きな戦力として期待していた。

 

 

 

(まぁ、私としても仮面ライダーの力をもうちょっと見たい気持ちがありますからねぇ……)

 

 

 

 ついでに目が妖しく光ったことにはパーン以外気付かない。

 

「ありがとう、エム。礼を言わせてくれ」

 

「いいんだ。気にしないで」

 

 そんなシェインを余所にして、微笑みながら礼を言うレヴォルに、永夢は手を振った。

 

「やったね! 永夢さんがいればひゃくにんりき? だよ!」

 

「うんうん! 仮面ライダーの力もまだまだ未知数だし、正直楽しみね!」

 

「あのな……」

 

 片や仮面ライダーに魅力を感じているエレナ、片や仮面ライダーの未知なる力に興味津々なアリシア。自然とテンションが上がる二人に、ティムが呆れながら窘める。

 

「あ、あはは……」

 

 そんなやりとりを、永夢は苦笑しながら眺めていた。

 

 

 

『……なぁ、永夢?』

 

 

 

 と、そんな時に永夢の頭に声が響く。それは慣れ親しんだ、現在彼と一つとなっている彼の相棒の声だった。

 

「パラド?」

 

 永夢は声を上げると、思わず口を抑えた。実際、パラドは彼の体の中に入っている状態であり、周りからすれば唐突に誰かの名を永夢が呼んだようにしか見えない。それに気付き、永夢はレヴォルたちを見るも、誰も気付いた様子はなかった。

 

『お前、本当に今回の件に首突っ込むのか?』

 

 そう窘めるように言うパラドの考えを、心が繋がっている永夢は理解した。

 

 要は、帰る方法そっちのけで、彼らと行動を共にするのか……そう暗に言っているのだろう。口調こそ責めているようにも聞こえるが、パラドとしてはそういう意図で発言したわけではない。

 

(……パラド、気付いているだろ?)

 

『……?』

 

(僕たちは、確かにこの世界……携帯のゲームの中に入り込んでしまった)

 

 この世界がゲームの世界であることは間違いない……最初の頃、永夢はそう思っていた。

 

 しかし、だんだんと疑問に思い始めて来る。目の前ではしゃぐエレナと呆れながらも笑うレヴォルを見て、改めてその疑問は深くなっていった。

 

(なのに……僕ら以外の人たちが、NPC(つくりもの)には全く見えないんだ)

 

 このゲームの概要通りなら、この世界はRPGのジャンルに分かれる物のはず。RPGには、予めコンピューター入力された台詞だけしか喋らない、あるいは道案内するために存在するNPCという存在がいるのが通例だ。この町にいる人間が、NPCであると最初は考えていた。

 

 ところが、永夢たちは確かにゲームの世界に迷い込んだにも関わらず、そんなNPCのような人間はどこにもいない。町の中を見て回っていた時も、皆が皆それぞれの生活のために働き、食べ、飲み、そして怒り、笑い、悲しむ。NPCには、そういった生活、喜怒哀楽が存在していないはずなのだ。

 

 故に、この世界にはNPCと呼ぶべき者は存在していない。この世界の人間は、全員生きている人間だ。

 

『……それは俺も思ってた。でも』

 

(ああ……そうなんだよ)

 

 そして同時、永夢がこの世界をゲームだと思っている理由もある。

 

 

 

(気のせいじゃないのならば……この世界は、紛れもなくゲームの世界のはずなんだ)

 

 

 

 それは、何も証拠があってこそ思っているわけではない。ゲームの中の存在、バグスターであるパラドと一心同体となっているからこそ、この世界の空気はゲームの世界特有の物なのだとわかるのである。

 

 が、どうにも違和感は拭えない。ゲームの世界の空気、そして普通の世界の空気……それらがまるで一つとなっているかのような、奇妙な感覚だった。

 

(多分……僕らが脱出するには、この感覚が何なのかを突き止めないといけないかもしれない)

 

 ゲームのはずなのに、ゲームじゃない。この矛盾を解き明かすことが、脱出の糸口になるのではない……永夢はそう考えていた。

 

『なるほどな……それで、連中と一緒に行こうって考えたわけだ』

 

(うん……まぁ、大勢の人たちを苦しめている存在を放っておけないのは事実だからね)

 

 鍵は恐らく、黒幕ことカオステラーがいる城にある。彼らと共に行けば必然的にカオステラーと遭遇するだろうと考え、彼らに同行することを決意した。

 

 打算的な考え。しかし、彼らを手伝いたい、大勢の人たちを助けたいという気持ちは、紛れもなく本物であった。

 

『……ま、永夢らしいな!』

 

 永夢の考えに納得いったのか、パラドは楽し気に言う。いつだって二人は行動を共にしてきた。ならば今回も、二人がいれば何だってできる。そう思っているのは、パラドと永夢も同じだった。

 

『で、さ? ちょっとわかんないことがあるんだけど』

 

(ん、何?)

 

『俺、シンデレラっていうのがよくわかんないんだけど』

 

 パラドの言葉に、永夢は(あー……)と納得する。

 

 この世界は、ゲームタイトルに“グリム”が付くくらいだから、童話がモチーフの世界であることは想像に難くない。事実、シンデレラという名前の少女と邂逅を果たした永夢は、先ほどのレヴォルの説明を聞いたのもあって、シンデレラの物語が今回の戦いの肝になるのは確実だろうと考える。しかし、パラドは生まれてそう年月は経っていない上、ゲーム以外のことには大した興味も示さなかった。それがここにきてネックになっているからこそ、永夢に質問する。

 

 が……永夢自身、情けないと思いつつ、あまりシンデレラの物語を覚えていないのだった。

 

 子供の頃は想像力の高さから、自分でゲームキャラを考えるのが好きだった永夢。その時に童話も多少なりとも齧った記憶はあるにはある……のだが、もはやそれも記憶の彼方。シンデレラは万人が知るとてもメジャーな物語ではあるものの、永夢自身も興味は薄れ、大まかな流れしか把握できていないのである。

 

 今回は、シンデレラの話が中心になるため、細かい点を知らなければ問題になるかもしれない……そう考えた永夢は、仕方ないと恥を忍んでレヴォルたちに声をかけた。

 

「ごめん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 

「ん? どうかしたのか?」

 

 応えてくれたレヴォルに、永夢は少し恥ずかしそうに頬を掻きながら質問を投げつけた。

 

「少し恥ずかしいんだけど、シンデレラのお話って、僕あまり覚えてなくって……よければ教えてくれたらありがたいんだけど」

 

 

 

「ほほぉ……?」

 

 

 

 部屋の空気が、変わった。レヴォルとエレナ、ティムは「あ……」と小さく声を上げ、パーンはこめかみを指で抑え、シェインはやれやれと肩を竦める。

 

 そして空気の主、アリシアの眼鏡がなんか妖しく光った。

 

「……え? 何、この感じ?」

 

 一人置いてけぼりにされた永夢は狼狽える。そんな彼を余所に、アリシアは小さく笑う。

 

「フッフッフ……知りたいならば、教えて差し上げましょう」

 

「お嬢……まさか……」

 

 ティムの言う“まさか”とは何か……永夢が口を挟もうとした瞬間、

 

 

 

「『アリシア先生のメルヘン講座』、はじまりはじまり~!!」

 

「やっぱりかよ……」

 

 

 

 声高らかに何かの開催を告げるアリシア。顔を手で覆って大きなため息をつくティム。

 

 そして何のことやらとポカンと口を開ける永夢。

 

「……エム」

 

 そんな彼の肩にポンと手を置くレヴォル。永夢が振り返ると、そこには半笑いのレヴォルとエレナの姿。

 

「付き合ってあげてくれ」

 

 なんとなく、永夢は思う。

 

 

 

『(もしかして地雷踏んじゃった?)』

 

 

 

 まさしく二人で一人、一字一句全く同じことをパラドも思っていたのだった。

 

 

 




お待たせして申し訳ありませんでした。というのも、書いてみると滅茶苦茶長くなってしまって、さすがにこれは冗長すぎるなぁと考えてもっかい書き直しました。読者の皆さん許して。

尚、永夢とパラドがシンデレラのお話をよく知らないというのは独自設定です。パラドはともかく、永夢は知らないのはおかしいんじゃないか? とも思いましたが、医療の勉強とゲーマーMとしての活動に明け暮れていた永夢なら大筋以外は知らなくても違和感ないんじゃないかなーと思ったんです。ダメ?

後、『アリシア先生のメルヘン講座』は絶対やりたかった。ので、これ入れるとさすがに長いので次回に。次回は進展あります。あります。

ではこれにて失礼、また次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 敵地へintrusionせよ!

第8話です。戦闘は次回ですが、今回もお楽しみいただければ幸いです。

あ、そうだ(唐突)

今回は幾つか注意事項があります。

注意!
・序盤は少しト書きありです。そういうのに拒否反応がある方はご注意ください
・序盤はおふざけあります。どこら辺がおふざけかはお察しください
・あとがきにちょっとオマケもあります。よろしくお願いいたします

以上を踏まえて、どうぞデース。


 むかしむかし、ある王国にエラという少女がおりました。

 

 幼くして母を亡くしたエラは、それはそれはとても美しい娘でしたが、彼女の父親の再婚相手である継母と彼女の連れ子である姉妹から嫌われ、意地悪されておりました。

 

継母(シェイン)

「ほらほら、きちんと掃除なさい。ちゃんと綺麗にしなければ、夕飯は無い物と思いなさい」

 

シンデレラ(エレナ)

「は、はい。申し訳ありません、お母様」

 

 毎日毎日、辛い日々。暖炉の掃除もやらされる彼女の髪は灰で汚れ、いつしか彼女は継母たちから灰かぶりのエラ、『シンデレラ』と呼ばれるようになりました。

 

 そんなある日のことです。お城でとても豪華な舞踏会が開かれることになり、そこでは王子様も参加するとのことで、国の女性たちは王子様に見初められようと躍起になりました。

 

 当然、継母たちも参加します。しかし、シンデレラはお留守番を命じられてしまいました。

 

継母(シェイン)

「シンデレラ。私たちはこれから舞踏会へ行ってまいります」

 

姉1(レヴォル)

「あ、あなたは私たちが楽しんでいる間に掃除をしておきなさい」

 

姉2(???)

「どうせ行ったところで、クズみたいな踊りしか踊れないだろうなぁ!! ブェアーッハッハッハッハッハァァァァァ!!」

 

 意地悪な継母たちは、シンデレラを置いて舞踏会へと赴きました。

 

 掃除を命じられたシンデレラは、悲しみに暮れながら星に願いました。

 

シンデレラ(エレナ)

「くすん……私もお城の舞踏会へ行きたいな」

 

 そんな時です。光とともに妖精の魔法使い、フェアリー・ゴッドマザーが現れました。悲しむシンデレラに、彼女は言います。

 

フェアリー・ゴッドマザー(パーン)

「シンデレラ。私が魔法をかけて差し上げましょう。それで舞踏会へ行きなさい。ただし、この魔法は時計の針が12時をさすと解けてしまいます。12時になる前に、舞踏会から去りなさい。いいですね?」

 

シンデレラ(エレナ)

「あ、ありがとう、フェアリー・ゴッドマザー!」

 

 こうして、フェアリー・ゴッドマザーはシンデレラに魔法をかけて綺麗なドレスと美しいガラスの靴を与え、そして畑にあるカボチャの一つを馬車へと変えました。

 

 こうしてシンデレラは舞踏会へと赴きました。美しく着飾られたシンデレラの姿に誰もが見惚れ、それは王子様も例外ではありませんでした。

 

王子(永夢)

「お、おお、美しき君。どうか私と一曲踊っていただけません、でしょう、か?」

 

シンデレラ(エレナ)

「ええ、喜んで」

 

 王子様にダンスを申し込まれたシンデレラは、それはそれは楽しい一時をすごしました。

 

けれども、その時間はあっという間に過ぎていきます。時計塔の針が、フェアリー・ゴッドマザーに言われた魔法が解ける12時まで迫ってきていたのです。

 

シンデレラ(エレナ)

「大変、もう帰らなくちゃ!」

 

王子(永夢)

「ま、まっておくれー!」

 

 大慌てで城から出て行くシンデレラと、彼女を追いかける王子様。あまりに慌てて走っていたためか、シンデレラは途中の階段でガラスの靴の片方が脱げてしまい、そのままにしてお城を去っていきました。

 

 次の日、王子様は護衛を連れて国の人々にお触れを出します。

 

護衛(ティム)

「このガラスの靴を履けた者を、王子様の結婚相手として城に迎え入れましょう!」

 

 王子様と結婚したい国の女性たちは、我こそがと名乗り出ます。しかし、当然ながら靴のサイズは合いません。

 

 やがて王子様はシンデレラたちが住まう屋敷へやってきます。当然ながら、継母たちはガラスの靴を履こうとしますが、当たり前の如く履けません。

 

シンデレラ(エレナ)

「あの、私が履いてみてもよろしいでしょうか?」

 

 そう言って、シンデレラが現れます。継母たちは彼女には無理と笑いますが、ガラスの靴はぴったり、シンデレラの足に収まりました。

 

王子(永夢)

「おお、あなただったのか。どうか私の結婚相手となっておくれ」

 

シンデレラ(エレナ)

「はい!」

 

 こうして、シンデレラは王子様のお嫁さんとしてお城に迎え入れられ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし……。

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうのがシンデレラのお話よ!」

 

「は、はぁ……」

 

 やり切った、と言わんばかりに輝く笑顔のアリシアに、永夢は若干疲れた顔で頷いた。

 

 アリシア監修の下で始まった説明もとい寸劇。突然彼女から台本を渡された時、正直かなり焦った。何せ、普通に説明してくれるのかと思いきや、自らが寸劇のキャストに選ばれるなどとは思わなかったのだから。

 

「……あの、何で僕が王子役に?」

 

 しかも、永夢が王子役ときた。疑問に思ってアリシアに聞いてみる。

 

「いやぁ、初めてだし、せっかくだからいい役やってもらおうと思いまして。何よりエムさんって顔立ちいいから結構ハマり役じゃないかしらって」

 

 そんな理由か。楽しそうに言うアリシアに、永夢は力なく「はぁ……」と返事するしかなかった。

 

「似合ってたぜ、お医者さん?」

 

「ティム君、ホントにそう思ってる……?」

 

 台詞が一つしかなかったティムのニヤニヤ顔に、永夢はたまらずジト目を送る。

 

「しかし……見事な棒読みでしたねぇ」

 

「まぁ、突然王子役をやらされたんだから無理もないと思います」

 

 お世辞にも上手とは言えなかった永夢の演技に笑いをこらえるシェインに、永夢に同情の眼差しを送りながらレヴォルはフォローした。以前ならば適任として自身が選ばれていたであろう役ではあるが、永夢に役割を譲る形となったせいで少し後ろめたさもあった。

 

「で、でもほら! お話の内容はよくわかったでしょ?」

 

 あまり言い過ぎると永夢が落ち込むかもしれないと思ったエレナが、少し慌てながら話を進めた。

 

「あ、あぁ、うん。形はどうあれ、よくわかったよ」

 

 何はともあれ、シンデレラの物語についておさらいをすることができた。

 

 虐げられ、魔法をかけられ、やがては幸せになる。シンデレラストーリーという言葉の元となった童話は、永夢の世界でも人々に愛される物語。まさに王道というべきストーリーだ。

 

(わかった? パラド?)

 

『ププ……ああ、永夢の演技が下手だってことがよぉくわかった……ウクク』

 

(それじゃないんだけど!?)

 

 シンデレラの話を知りたがっていたパラドから、笑いを堪えながらの返答をもらって思わず心の内で永夢は叫んだ。

 

 気を取り直して、永夢はシンデレラの物語を反芻(はんすう)する。

 

 最初、彼女は己の境遇にもめげずに、継母たちからの虐めに耐え、やがて訪れる舞踏会の日にフェアリー・ゴッドマザーと出会う。そして彼女からドレスとガラスの靴、そしてカボチャの馬車を与えられ、舞踏会へ行って王子と踊り、12時になるとガラスの靴を残して城を去り、そしてシンデレラを見つけた王子に見初められて結婚する。

 

 これがシンデレラが辿るべき運命。不幸な生活から一転し、華やかな人生を送るようになる。

 

 

 

 そうなる()だった。

 

 

 

「……やっぱり、今王妃になっている人に会いに行かないといけない、か」

 

 舞踏会へは行ったものの、それから王子と再会するまでの間に、彼女の運命を狂わせる程の何か(・・)があった。それが原因で、今の彼女は幸せとは縁遠い境遇に陥ってしまっている。

 

 彼女がどうして、こんな目に遭ってしまっているのか……主人公であるはずのシンデレラが辿るべきはずの運命を正さなければ、最悪世界が崩壊しかねない。

 

 だからこそ、現在シンデレラに成り代わってその座に就いている人間と直接対面し、真実を突き止めなければいけない。

 

「しかし、城に行くには問題があるな」

 

 と、パーンが窓の外を見やる。窓の外では、甲冑に身を包んだ兵士が数人一組となって町の中を巡回し、警戒態勢をとっている。見つかれば戦闘になる上、下手をすればまた町人を巻き添えにしてしまいかねない。

 

 それだけでなく、来る者を拒むかのように城を取り囲む高い壁が、永夢たちの行く手を遮っている。侵入するのは困難であるのは明白だった。

 

「兵士に、壁。ヴィランだけでなく、これらも突破しなければいけないのか……」

 

 困ったように言うレヴォル。正直、これらの難関を突破しようと考えることすら諦めてしまいそうになる。

 

「……でも、城の中に入らない限り、捕まっている人たちを助けることもできないし……」

 

 シンデレラの件もあるが、何より城には恩人である兄妹の親が、他にも無実の罪で捕らわれている町人たちがいるのを忘れてはならない。永夢の脳裏に浮かぶ、悲観に暮れる子供たちの顔。あんな顔を見るのは、もうごめんだった。

 

 どうにかして、城へ潜り込めないものか。最悪、正面突破という手もあるにはある。リスキーな選択であるため、最終手段として取っておきたいところではあるが……永夢たちは思考を巡らした。

 

「あ、あの……」

 

「え?」

 

 と、そんな彼らに声がかけられる。永夢たちが振り返ると、部屋の扉を開けた状態でこちらを見つめている少年と少女の兄妹の姿が目に入った。

 

「どうしたの?」

 

「ごめん、食事の支度ができたから呼びに来て……盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」

 

「あぁ、いいんだよ。呼びに来てくれてありがとう」

 

 扉の前で、永夢たちが話し合っていたのを聞いていたらしく、伏し目がちに謝罪する少年。永夢は二人の前に来て膝を着き、笑みを浮かべて気にしなくともいいと伝えた。

 

「そ……それと、さ」

 

「ん? 何?」

 

 言うか、言うまいか。何か悩んでいる様子の少年は、しばらく目を右往左往させていたが、妹と視線が合うと、二人して小さく頷いた。

 

 そして、改めて永夢へと、強い眼を向ける。

 

「お、俺たち、知ってる」

 

「知ってる?」

 

「……お城に入る方法……知ってる」

 

「な」

 

「なんと!?」

 

「あいだぁっ!?」

 

 少年の告白に、永夢は思わず声を上げようとした瞬間に、同じく驚愕したアリシアの勢いに弾き飛ばされて遮られてしまった。

 

「……それは、本当かい?」

 

 そんなアリシアに呆れながらも、パーンも少年に尋ねる。他の面子も、侵入の糸口が掴めたことに興味を示し、注目を集めた少年は一瞬肩を震わせるも、しっかりと頷いた。

 

「こ、こないだ、友達と遊んでたら偶然見つけたんだ。俺達、そこまでの道、知ってる」

 

 少年の目に、嘘はない。パーンはそう確信する。そして同時に、彼が縋るような目で自分たちを見ていることを。

 

 パーンはシェインへと顔を向ける。シェインは、考えることなく頷いた。それだけで、『信じるに値する』という意思が伝わってくる。

 

「その話、詳しく聞きましょう」

 

 彼らの言うルートについての詳細を聞くため、シェインは兄妹を部屋に招き入れる。二人が部屋に入って、パーンが扉を閉めようとドアノブを掴んだ。

 

 

 

「ま、待ってください!!」

 

 

 

 が、それは突然響く声に中断される。同時、部屋に慌てた様子で飛び込んできた人物が、一行の目に留まった。

 

「あれ……シンデレラ、ちゃん?」

 

「エラねえちゃん?」

 

 現れたのは、シンデレラ。突然の事に、少年も驚いて彼女を見る。

 

 当のシンデレラはというと、「えっと……」と言葉を探しているのか、或るいは何か迷っているのか。しばらく言い淀んでいた。

 

 やがて意を決すると、頭を勢いよく下げ、言った。

 

「お……お願いがあります!!」

 

 

 

 

~第8話 敵地へintrusionせよ!~

 

 

 

 

「そう、取り逃がしたの……」

 

 場所は王城。とある一室。豪華なクローゼットやテーブル、ベッドだけでなく、飾られた絵画や調度品も一級品といった、玉座の間に負けず劣らず豪華絢爛を絵に描いたような部屋。そこの主である白いドレスを纏った美しい容貌を持つ女性、外見が完全にシンデレラである王妃が、テーブルの前の椅子に座りながら優雅に紅茶を口に運んでいた。その横、燕尾服を着た初老の執事が、ティーポット片手に直立不動のまま控えている。

 

「ええ、どうやらそのようで。あと少しのところを、といった時に邪魔されたと聞きました」

 

 無言のまま差し出されたティーカップに、執事はすぐさま注ぎ入れる。湯気を上げながらティーカップに満たされた香しい匂いを放つ紅茶に再び口を付けた王妃は、しばし無言となった。

 

「まったく、たかが小娘一人を捕まえるのに、どいつもこいつも……」

 

 荒々しい音をたててティーカップをソーサーに置く。美しい顔を僅かに歪ませ、王妃は歯ぎしりした。

 

「しかしながら、相手も相当のやり手のようです。一筋縄ではいかないかと思われます」

 

「……誰に物申しているのかしら?」

 

 王妃はギロリと、目を鋭くさせて側にいる執事を睨みつける。並の者ならば背筋を凍らせる程の絶対零度の視線を浴びた執事は、硬直しているかのように相も変わらず動かない。

 

「……申し訳、ありません」

 

「フッ、あまり図に乗らないことね。いくらあなたが有能であっても、王妃はこの私。拾ってやったことを感謝されど、生意気な口を利いていいと許した覚えはないわ。立場を考えて発言なさい」

 

 謝罪する執事に、鼻を鳴らして視線を外す王妃。紅茶を飲み干すと、カップとソーサーをテーブルに置いた。

 

「それで? あの小娘一人が逃げおおせるには、それなりの理由があるはずでしょう?」

 

「はっ。どうやら昨日騒ぎを起こした反乱分子の仕業であると報告が挙がっております」

 

「……へぇ? つまりそいつらが匿っていると」

 

 反乱分子。その言葉を聞いて、王妃は形のいい眉を吊り上げる。

 

「十中八九、あの娘はそいつらと一緒にいるでしょうね……とっとと町に捜索隊を出して、反乱分子共々ふん縛るように王に直訴しましょうか」

 

 スッと立ち上がる王妃。しかし、立った瞬間、王妃の頭が僅かに揺れる。

 

「くっ……」

 

「王妃様?」

 

「っ……な、何でもないわ。ずっと座っていたせいよ」

 

 不意の立ち眩みに思わず再び椅子に座ることになった王妃。声をかける執事に向けて手を振り、何事もなかったかのように振る舞う。

 

そんな彼女を見つめつつ、執事が一歩前へ出て、頭を下げた。

 

「王妃様。無礼を承知の上、発言をよろしいでしょうか」

 

「……何かしら」

 

 出鼻を挫くような形で遮られた王妃は、先ほど同様の冷たい眼差しを執事へ向ける。それでも尚、執事は頭を下げたまま微動だにしない。

 

「私の提案ですが、その者たち、泳がせてみてはどうでしょう?」

 

「何ですって?」

 

「その反乱分子の目的が何であれ、娘を匿ったのであれば、娘から事情を聞くでしょう。さすれば王妃様に対する疑いの目を向けるのは必然。そうなれば、真実を明らかにするために彼らが目指すのは王妃様がおわすこの王城であることは想像に難くないかと」

 

「……」

 

 執事が言っていることは、つまるところ連中を探しだすという手間を省き、あえてこちらへ誘き出してやろうということだろう。確かにそれなら理には適っているし、虱潰しに探し回るよりは楽だろう。

 

「……奴らがここへ来るという確証は?」

 

 だが連中の目的がわからない以上、ここへかならず来るとは限らない。それにここは王城。警備がどこよりも厳しい、付け入る隙間がない場所。そこへ好んで足を踏み入れる者はいない。執事の案はある意味賭けではないだろうかと、王妃は疑問を口にした。

 

 対し、執事は変わらず平坦な口調を維持し、その疑問に答える。

 

「ええ、かならずや。運命を変えようなどという無駄な正義感を持ち、その正義感に酔った者たちというのは、真実を明るみにするためならば、どんな愚行をも平然と行う。そういうものなのです」

 

 王妃は考える。過去、今の困窮を打破するため、王家に盾突いた輩たちがいた……が、それらは全てこの城の厳重な警備の前に敗れ去り、或いは化け物どもの餌食となっていった。

 

 そう、どれだけ強がろうと、所詮蟻では象に勝てないのだ。弱い者は強い者に圧し潰され、蹂躙される。それが嫌ならば、大人しく従っていればいい。それが世界のルールであり、真理だ。何も間違っていない。

 

 それに、今の彼女にはあの力(・・・)がある。反乱分子に遅れを取る理由がない。

 

「……フフ、それもそうね」

 

 先ほどまでの不機嫌な様子が一転。王妃は笑う。否、嗤う。弱者を弱者と知らない哀れな者たち。そいつらを悉く蹂躙する。湧き上がる高揚感に、王妃は口の端を吊り上げた。

 

「いいわ。あなたの案に免じて、勝手な発言をした無礼は許してあげる」

 

「有難き幸せにございます」

 

 執事が深々と頭を下げる。そして、王妃は気を取り直してテーブルの真ん中に置かれた銀皿から、お茶請けのクッキーを一枚手に取った。

 

 しばしクッキーを見つめる。混じりっ気のない、シンプルにして最高峰の素材を使われたクッキー。町に住まう民ですら、おいそれとは口にできない代物。

 

「さぁ、来なさい。私があなたを、真っ白で美しいその存在ごと潰してあげるわ」

 

 そのクッキーを握りつぶす。白手袋の隙間から零れ落ちる、元クッキーの残骸である欠片。それらは全て、彼女の足元のカーペットに降り注いでいく。

 

 

 

「シンデレラ……!」

 

 

 

 笑う。笑う。愉悦に嗤う。悪意に満ちたこの部屋に、王妃の笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は進み、日が落ちて代わりに月の光が世界を照らし出す夜。夜道を歩く人はほとんどおらず、皆各々の家の中へと入り、就寝している時刻。王城の裏手にある大きくも小さくもない山の中は、梟の鳴き声のみが、夜の静寂を破る。

 

「みんな、足元に気を付けるんだよ」

 

 しかし、今夜限りは動物たち以外の者たちがいる。永夢含めた再編の魔女一行は、生い茂る木々の葉や草を払いのけながら、慎重に山道を歩いていた。

 

「うーん、さすがに暗いわね」

 

「月が無かったら、こんな山でも遭難してんなこりゃ……」

 

 兄妹を守るようにパーンが先頭を歩き、その後ろをアリシアとティムがぼやきながらも歩く。巡回する兵士に見つからないように、松明などといった明かりの類は厳禁。故に、彼らにとっての光源は月の光のみしかない。しかし、大きな月の光は十分、森の木々の間から差し込む物でも視界を確保できる程の明かりを保っており、光源が手元にない今の状況、それだけでもありがたい物だった。

 

「うへぇ、葉っぱが髪の毛に付いちゃう……」

 

「エレナ、ちゃんと足元を見ないと」

 

 その後ろ、エレナとレヴォル、シェインが続く。

 

「……しかし、なるほど。裏山からの侵入ですか。確かに、警備も手薄ですから、侵入にはもってこいですかね」

 

 シェインは振り返り、木々の隙間から見える王城へと目を向ける。城の中だけいまだ日中かのように、窓からは明かりが漏れ出ており、まるで城が光を放っているかのよう。

 

 兄妹が見つけた侵入口とは、裏手にある山から入れる場所とのことだった。壁は王城の周りをぐるりと取り囲むように聳え立っているが、山の方は警備の人間がおらず、子供たちはここに来てこっそり遊んだりしていたらしい。と言っても、今の国の状況に陥ってからは遊びに行くことも無くなってしまったが、少年曰く、恐らく以前と変わっていないと思うとのことだった。

 

 警備の目を欺くために、夜に家を出て、少年の案内通りに町から山へ。子供だけが知っている秘密のルートを通り、無事に兵士に見つからずに山にまで来ることができた。今のところ順調に進めている。

 

「大人の人たちからはお城の人たちに怒られるから山で遊んではいけないってよく言われてたから、この道を通ってこっそり遊びに行ってたんだ」

 

「なるほど。今回はそのおかげで功を奏した、というわけですか」

 

 前を歩く少年は、少し楽しそうに、そして懐かしそうにそう言う。国が今の状況になる前、友人たちと一緒にここで遊ぶのが楽しみだったのだろう。大人たちにとっては誉められるようなことではないが、子供たちの好奇心、冒険心によって、こうしてレヴォルたちに貢献してくれている。皮肉と言えば皮肉だろうか。

 

 と、そんな会話をしている間、レヴォルたちより後ろから会話が聞こえてくる。

 

「シンデレラちゃん、足元に気を付けて」

 

「は、はい」

 

 レヴォルがチラと振り返れば、足元が不安定なせいで少しフラついているシンデレラの手を持った永夢が先導する形で歩いているのが目に入った。

 

 昼間、兄妹が侵入口の詳細を語る際、同じく話を聞いていたシンデレラもまた、同行を願い出た。しかし、病み上がりの身であるシンデレラが、敵の本拠地、ましてやシンデレラの名を騙る者がいる城へ乗り込むなど危険すぎる。最初、永夢はもちろん、レヴォルたちも反対した。

 

 しかし、それでも彼女は粘った。

 

『お願いです……私は、真実が知りたいのです……いえ、知らないと、いけないんです……連れていってください』

 

 本来の彼女は、芯が強く、何者にも挫けない強く清らかな心の持ち主。これまでレヴォルたちが出会ってきたシンデレラに共通する物を、この想区で出会ったシンデレラの第一印象によってすっかり忘れてしまっていた。例えどれだけ悲惨な目に遭おうとも、やはり彼女はシンデレラなのであると再認識する。

 

 彼女の必死の説得に、レヴォルたちは陥落。ドクターである永夢は彼女の健康状態を鑑みて最後まで反対していたが、シェインから『一人にしておいたら、部屋を抜け出して勝手についてくるかもしれませんよ? その方がより危険なのでは?』と言いくるめられるような形になり、渋々承諾。それに、確かに彼女に危険が及ぶ可能性はあるが、カオステラーから真意を問うのに彼女の力が必要かもしれないと、改めて考えなおした。

 

 そういう経緯から、病み上がりではあるが、出発前に軽い検査のようなものを行い、彼女の健康状態にさほど異常がないことを再確認し、彼女の同行が許された。もしものことを考え、主に永夢が彼女と行動を共にするよう心掛けているが……。

 

「ごめんなさい、エムさん。私、ご迷惑をおかけしないように努力はしているんですけれど……」

 

「そんな、全然迷惑だなんて思ってないよ。でも何か体に不調を感じたら遠慮なく言ってね?」

 

「は、はい……ありがとうございます……」

 

 消極的なシンデレラを元気づけようと、笑顔で語り掛ける永夢。そんな彼に礼を言うシンデレラの頬は、どこか赤く染まっているようにも見える。

 

「……ほほぉ、これはひょっとして……」

 

 と、顎に手を添えながら、永夢とシンデレラの会話を聞いていたアリシアの眼鏡の奥が光った。

 

「うーん……これはひょっとするとひょっとするかもしれませんねぇ」

 

「え? なになに? 何の話?」

 

「あぁ、まぁ、エレナにはちょっと早い話、かもしれないな」

 

 アリシアが考えていることと同じことを思っていたシェインも同意するが、エレナには何のことやらと首を傾げる。純粋なエレナに、レヴォルは知らなくてもいいと苦笑交じりに言った。

 

「いや、けどよぉ? お姫さまにゃこの国の王子がいるだろ? 舞踏会でも踊ったって言うし、それはないんじゃねぇか?」

 

 と、ティムがアリシアの考えに異を唱えた。

 

「んー……まぁ、確かに運命の書の通りならそうだけど。でも、何だかねぇ……」

 

 ティムの言うことも一理あると思いつつ、再び永夢とシンデレラのやり取りに耳を澄ませた。

 

 

 

「……あ、あの、エムさん?」

 

「ん? どうしたのシンデレラちゃん?」

 

「あ、いえ、大したことじゃないんですけど……その、えっと」

 

 指先を弄りつつ、口ごもるシンデレラ。やがて意を決したのか、再び口を開く。

 

「あの、私のこと、“エラ”と呼んでいただけませんか?」

 

「え? それって確か……」

 

「は、はい。私の本来の名前です。あ、その、呼ぶ時にいつもシンデレラだと少し呼びにくいかもと、そう思って……」

 

「うーん、別に呼びにくいなんてことないけれど……」

 

 シンデレラの言い分に首を傾げる永夢。そんな彼を見て、シンデレラは少ししょんぼりと目を伏せた。

 

「あぁ、いや、いいよ! じゃあ、エラちゃんって呼ぶけど、いい?」

 

「あ……は、はいっ」

 

 そんな彼女を見て慌てて彼女の願いを承諾する。シンデレラは、先ほどよりも明るくなった笑顔を永夢に向け、頷いた。

 

 

 

「……マジかよ」

 

「え、うそ、ホントにホントに?」

 

「へぇ……」

 

 間違いようのないシンデレラの表情と本名呼びをお願いする光景に、ティム、アリシアは絶句。シェインはどこか納得がいったとばかりに頷いている。

 

「い、いやいや。マジであれお医者さんにホの字じゃねぇのか!?」

 

「わ、私もそんな予感はしてたけど、まさかホントに当るとは思ってなかったわよ」

 

 どうもそうにしか見えない雰囲気に焦るティムとアリシア。これまで恋愛沙汰の予感はしたことがあっても、大体はこちらの勘違いか、或いは進展しないかの二択しかなかったが、ここまで明確な物を見せられると、二人ともからかうのも忘れてしまう。

 

 そんな中、冷静にシェインは言う。

 

「いえ、案外シンデレラさんって、ああいう真っ直ぐで人のためなら全力で助けようとする人が好きという印象はありますね。100年生きてきた私の経験談から言わせてもらうと」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「ババァが言うと説得力違ぇな……」

 

 脳裏に過るかつての仲間の内の一人が、そんな感じだった。やはり、永夢と彼は姿こそ違えどどこか似ている。シェインは改めてそう思った。

 

「……けど、彼女は……」

 

 そんな中、永夢とシンデレラを見ながら、どこか寂し気なレヴォルが呟いた。

 

 シンデレラは本来の運命通りならば、王子と結婚することとなっている。今彼らがしようとしていることは、狂わされた運命を正しい形にしようとしていること。

 

正しい形、すなわち王子との結婚は避けられない。それは、彼女の中に芽生えたであろう永夢に対する感情は……。

 

「ええ……彼の気持ちがどうかは、わかりませんがね」

 

 見たところ、意識しているのはシンデレラの方で、永夢の方は相変わらず彼女のことを患者として寄り添おうとしているように見える。それはそれで大切に思っているのだろうけれど、シンデレラとは違うベクトルの感情だ。

 

ドクターとしては正しい在りようではあるが……シンデレラにとっては、何とも報われない話でもあるともシェインは感じた。

 

 

 

 

 

「見えた。あそこだよ」

 

 そうこうしているうちに、山から下り、城の裏の壁付近まで来たところで、少年は木々の間を抜けて開けた場所に出て前方を指さす。一行はその指の先へと視線を向けた。そこには、木々の中にひっそりと建つ小屋程の大きさの石造りの建物が見え、ところどころ苔むしている。長年放置されてはいる様子で、周囲には見張りの兵士すら見当たらない。

 

「あれは……?」

 

「あれ、お城の地下に続いてるんだ……冒険した時に見つけた」

 

「なるほど。昔使われていた、王族の脱出用口だったのかもしれないね」

 

「こんな場所にそんなのがあったんですねぇ……」

 

 パーンがそう推理し、アリシアが周りを見回しながら感心する。周囲が木で囲まれていて目立たない上、ここからなら城を抜け出して山の中へ逃げられる。今は使われている様子はないようだが、侵入口としては打ってつけだろう。

 

「……ねぇねぇ、レヴォルの時もあれあった?」

 

「い、いや、どうだったかなぁ……?」

 

 エレナが純粋な疑問をレヴォルに投げかけるが、王族出身であるレヴォル自身、故郷にそんな秘密の脱出口の存在があるなんて知らないため、そう返すしかなかった。

 

「ともかく、ここから侵入すれば城の中に入り込めそうですね」

 

「なら、ちゃっちゃとやることやっちまいますかねっと」

 

 脱出口の扉がちゃんと開くか確認するシェインの後ろ、ティムが拳で掌を叩いて気合を入れ直す。

 

「……二人とも、案内ありがとう。おかげでここまで来れたよ」

 

 永夢が兄妹の目線までしゃがみ、笑顔を見せる。彼らの力が無ければ、この場所を見つけることすらできなかっただろう。永夢たちに大きな貢献を果たしてくれた二人に、永夢は感謝を言葉を送った。

 

「……な、なぁ、にいちゃん」

 

 少年は、今にも泣きそうな顔だったが、しかし真っ直ぐと永夢と目を合わせた。

 

「お、俺……父さんと母さんを連れてかれた時、何にもできなくって。妹と、婆ちゃん守りたいって思ってたけど、そんな力なんて、無くて……」

 

「…………」

 

 永夢は、少年の話を、独白を静かに聞く。一言紡ぐごとに目から雫が垂れてくるのに構わず、少年は続けた。

 

「……にいちゃんは、俺たち守るために、変身して化け物に立ち向かってって……すっげぇ、かっこよくって……でも、俺、かっこ悪く震えてるだけで……」

 

 何もできない自分を恥じることを打ち明ける少年。しかし、拳を握って目を擦り、涙を拭った。

 

「けど俺、にいちゃんみたいになりたい! 今はできなくても、これからは俺、みんなを守れるようになる! だから……!」

 

 そして、

 

「父さんと、母さんを……みんなを、お願いします……!」

 

 自分に力が無いことをわかっている少年は、自分がしたいが不可能であることを、仮面ライダーという人々を助ける力を持つ永夢に託す。

 

 自分のことを、情けないと思いつつ、そんな自分を変えようとしている少年の気持ちを汲み取った永夢は、しばし無言になる。そして、ニッコリと、少年たちをヴィランから逃し、隠した際に見せた笑顔を見せ、そして少年の肩に手を置いた。

 

「うん……絶対に、皆を、そして君たちの笑顔を取り戻すよ」

 

 嘘偽りのない、形だけではない本心の言葉。笑顔を浮かべながらも、確かな強い意志を宿す永夢の眼。少年はそんな永夢を、期待、そして強い憧れに満ちた目で見つめた。

 

 その傍ら、シンデレラは永夢のその姿が眩しく思う。優しく、そして真っ直ぐで、誰かのために尽力する……そんな姿に、たまらなく惹かれていく自身を自覚する。

 

 そして、対する自分の無力さも思い知っていた。

 

「エラおねえちゃん……」

 

 と、シンデレラの足元から声がかかる。見れば、少女がシンデレラを少年と同じ、泣きそうな目で見つめていた。

 

「エラおねえちゃん、ちゃんと戻ってくるよね? ……もう、いなくならないよね?」

 

「ぁ……」

 

 不安に揺れる瞳に、シンデレラは小さな声を上げる。

 

 昔から、あのパン屋には世話になってきたシンデレラ。その際、兄妹とも親睦を深め、今はシンデレラを実の姉のように慕ってくれている。

 

 そんな二人が、シンデレラが圧制を敷いていると知って、どれだけ心を痛めていたのか……シンデレラには計り知れなかった。

 

 だからこそ、またシンデレラが自分の知らない人間になってしまうのではないかという思いが、二人にはあるのだろう。シンデレラを見つめる少女の瞳は、そう語っていた。

 

「……うん、大丈夫」

 

しゃがみ、そしてそっと少女を胸元に抱きしめる。突然の抱擁に少女は驚くことなく受け入れ、彼女の胸に顔を埋めた。

 

「心配かけて、ごめんね? ちゃんと……ちゃんと帰って来るから。ね?」

 

「…………」

 

 シンデレラの存在を身近に感じて少女は安堵したのか、その体勢のまま頷いた。

 

 もう、二人を不安にさせるわけにはいかない。真実を明らかにして、この国の惨状を終わらせる。力の無い自分がどこまでできるかわからないけど、やれるだけやってみよう……シンデレラは、静かにそう決意をした。

 

 それから、兄妹は手を繋ぎ、山の中へと駆けて行く。ここから先は、二人を守りながら戦えるほどの余裕はないかもしれない。少年もそれをわかっているからこそ、永夢たちに託してこの場から去っていく。最後、永夢たちに向けて手を振って、二人は元来た道を戻って行った。ここまで案内してくれたのはあの二人なのだから、帰り道は大丈夫だろう。

 

 永夢たちは、兄妹たちが去ってから、改めて侵入口である建物へと体を向ける。小さな入り口だが、ここに入れば後戻りはできない。そう考えると、この扉の先が全くの別世界の入り口にも見えて、妙な雰囲気を感じ取れた。

 

「さぁ、行こう!」

 

 それでも臆することなく、一行は進む。レヴォルが号令と共に扉を開ける。それが、突入の合図となった。

 

 

 

 目指すは、捕らわれた人々の救出。そして……打倒カオステラー。

 

 

 




~オマケ~

メルヘン劇場後

エレナ
「……ね、ねぇ、アリシアちゃん?」

アリシア
「え? どしたのエレナちゃん」

エレナ
「えっと、さっきの劇でシンデレラちゃん役の私が舞踏会に連れてってもらえないシーンの時なんだけど……なんか、知らない人にクズとか言われて罵倒された気がするの」

アリシア
「え、そうなの? そんな台詞ないはずなんだけど」

エレナ
「え?」

アリシア
「え?」

エレナ
「……」

アリシア
「……」



エレナとアリシアは気のせいだったということにして、考えるのをやめた。そしてそのまま忘れていった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 暴走Girlにご用心!

最近投稿早いと思うでしょ? もう少しで構想段階から書きたい展開に辿り着くとなると、書くテンションも上がります。

気分屋故にどこまで続くかわかりませんがこのテンション。維持したいのーん(´・ω・`)


 

 

 長い階段を下りた一行が辿り着いた場所は、周囲が石造りの通路だった。地上に比べて気温が低く、肌寒い程ひんやりとしている。薄暗いが、壁に掛けられた松明によって視界は確保されてはいるものの、空間は埃や湿気によるカビの臭いが充満しており、衛生環境はあまりよくない。

 

「城の地下へ繋がっていたようだな」

 

「うへぇ、暗いなぁ……」

 

 周囲を警戒するパーンの横で、エレナが暗い通路を見て顔を顰めた。

 

「ここからどう進めばいいんだろう……」

 

 レヴォルが周囲を見回しても、左右に続ている通路と、途中にいくつもある曲がり角があるだけで、その先に何があるのか示す物は何もない。

 

「……ひとまず、先へ進むしかありませんね」

 

「だな。とっととこっから出たいもんだぜ」

 

 シェインに同意するティムは、鼻を腕で抑え、カビによる異臭を防ごうとしていた。不衛生な環境と不気味な雰囲気。それらが相まって一刻も早くここから出たい様子だった。

 

「あ、そういえばシンデレラちゃんって一回お城に来たことあるんだよね? 場所とかわかったりしない?」

 

 ふと思い出したようにエレナがシンデレラに振り返る。突然話を振られて肩を震わせたシンデレラは、申し訳なさそうに頭を振った。

 

「ごめんなさい、確かに舞踏会には行きましたけど、お城の中庭とダンスホールしか入ったことないんです……」

 

「あ、そっか……こっちこそごめんなさい」

 

 今のシンデレラは、運命の書で言うところの王子に落としたガラスの靴を履かせてもらう前の状態。まだ正式に城に迎え入れられたわけではないことをエレナは思い出し、同時に今の彼女には無粋だったかもしれないと思って謝罪した。

 

「……けど、この地下にもしかしたら町で捕えられた人たちがいるかもしれない」

 

「あぁ、地下牢ですね」

 

 捕えた罪人は、牢屋に閉じ込めておくもの。永夢の予想に、アリシアは頷く。場所はわからずとも、シェインの言う通り、進まなければ見つかる物も見つからない。と言っても、ここは敵地。人が長居できる環境とは言えないにしても、警備兵などがうろついている可能性も多いにある。

 

「とにかく、進もう。みんな、周りには十分警戒しておいてくれ」

 

 レヴォルが先頭に立ち、通路を歩き始める。一同、何が飛び出しても平気なように、周りを見回しながら進んでいく。

 

 しばらく石造りの通路が続く。一行の靴の音と、どこからか聞こえてくる水滴の音が響く。湿気が多いのは、地下水脈が近いせいかもしれない。

 

 死角となっている曲がり角では、細心の注意を払ってから進む。今のところ人影もなく、ヴィランすらも見当たらない。どこへ進んでいるかはわからないが、順調であるとも言えた。

 

「うぅ、やっぱり不気味だなぁ……」

 

 歩き続けていると、エレナが怯えながら一人ごちる。年季の入った壁や天井、肌寒さ、そして松明の火が消えたことで明かりの届かなくなった通路の奥まった先。それらが何とも言えない不気味さを醸し出していた。

 

 そんなエレナを見て、ニヤリとティムが笑う。

 

「おチビ、怖いなら帰っていいんだぜ?」

 

「べ、別に怖くないもん!」

 

「こらティム君! エレナちゃん虐めないの!」

 

「ちょっとしたジョークだろうがよ」

 

「三人とも、ふざけてないでもう少し緊張感を持った方が……」

 

 薄暗い通路を歩きながら、和気藹々(?)とする三人に、ここが敵の本拠地であることを意識するようにとレヴォルが口を挟もうとした。

 

「はは、やっぱり皆仲がいいんだね」

 

 場を和ませるためにあえて弄るティムとムキになって反論するエレナのやりとりを見ていると、苦楽を共にしてきた旅の仲間の絆を感じられる。そのことに永夢は笑い、元いた世界にいるであろうCRの仲間たちは、今頃何をしているのだろうかとふと思う。永夢を連れ戻すために尽力してくれているのだろうか、或いはバグスターが現れて戦っているのだろうか等、思いを馳せていた。

 

 そんな日数は経っていないのだが、ここしばらくは色々なことがありすぎて、長いことこの世界にいる気がする永夢。そう思うと、CRが恋しくなってくる。

 

「フフ、そうですね」

 

 隣で永夢と同じく、小さく笑うシンデレラ。彼女にとっても、この閉鎖された空間を黙々と歩き続けるのは正直辛いと感じていたところ、彼らの賑やかさは寧ろありがたかった。

 

「三人とも。あまり騒がしいと敵に見つかるかもしれないから気を付けるように」

 

「あぅ……ごめんなさーい」

 

「ほらティム君のせいで先生に怒られたじゃない」

 

「いや俺だけかよ!?」

 

「元はティム坊やがエレナさんをからかったのが悪いんですから責められてしかるべきですね」

 

「う……ここぞとばかりに、ババァ……!」

 

 恨みがましそうに睨むティムだったが、シェインはどこ吹く風と相手にしなかった。

 

「はぁ、全く……」

 

 場所が場所だけにもう少し緊張感を持って欲しいと思ってため息をつくレヴォルは、次の曲がり角まで差し迫った時、ふと足を止めた。

 

「……え?」

 

「っと、レヴォル君?」

 

 急に止まったレヴォルに、永夢が何事か問う。他の面子も気付いて、同じく足を止めた。

 

「しっ」

 

 レヴォルは人差し指をたて、『静かに』というジェスチャーを送る。そして、耳に手を当て、全身系を耳に集中させる。

 

 少し離れているが、水の水滴以外の音が聞こえてくる。それは徐々に、徐々に近づいてきているのがわかった。

 

「……誰か来る」

 

 それは、靴音。数にして一人だけだが、何者かがレヴォルたちのいる所まで歩み寄ってきているのにレヴォルは気付く。

 

 レヴォルが言った瞬間、全員気を引き締める。各々手に栞を、永夢はガシャットを取り出し、シンデレラを庇うように立った。

 

 すぐに戦闘態勢に入れるように身構えた一行の近くまで、足音が来る。兵士か、はたまた非戦闘員かはわからない。しかし、ここは城の地下。高い確率で敵だろうと全員の意思が一致する。

 

「1、2の3で飛び出そう」

 

 小声でレヴォルが言うと、全員頷く。合図を出すレヴォルが、壁ギリギリの位置で足音の主の位置を探る。音からして、もうすぐそばだ。

 

「1……」

 

 レヴォルの栞を握る手に力が入る。

 

「2の……」

 

 エレナたちも同様に栞を握り、永夢もガシャットのスイッチに親指をかけた。

 

「3!!」

 

 足音が曲がり角すぐそこまで来た瞬間、レヴォルが叫び、全員一斉に飛び出した。

 

 先手必勝、相手が動く前にコネクトをしようと、空白の書を取り出して

 

 

 

「ヒャァァァァァッ!?」

 

 

 

 戦闘体勢に入ろうとした瞬間、全員動きを止めた。

 

 相手が尻もちをついて甲高い声を出したことで驚いたのもある。が、それ以上の衝撃が、一行に走る。

 

「お、お前は……!?」

 

 その中で、一際驚いている者がいた。ティムである。手に持っている栞を、思わず取り落としそうになった程だった。

 

「え……な、何で……!?」

 

 対し、声の主である相手もまた同様に驚愕の表情を見せ、一行を見上げる。羽の髪飾りを付けた濃い緑の髪と、幼さを残した顔立ち。それらはどことなく、面影がティムと似ている。それもそのはず、その相手は、

 

 

 

「ルイーサ!?」

 

「ヘカテーちゃん!?」

 

 

 

 今は別々の道を歩み、敵対しているはずのティムの妹なのだから。

 

 

 

~第9話 暴走Girlにご用心!~

 

 

 

「な、何でアンタたちがここに……!?」

 

「そりゃお前、こっちの台詞だ! 何でこんな場所にお前が……それにその恰好どうしたんだよ」

 

「そんなの、アンタには関係ないでしょ!? それと私はヘカテーよ! ルイーサじゃないって言ってるでしょ!」

 

 立ち上がったヘカテーと名乗る少女は、いまだ驚きから抜けないティムを罵倒する。服のいたるところが汚れ、若干やつれているようにも見えるが、声にはまだ覇気があり、そしてその目には明確なまでの敵意が宿っていた。

 

「……レヴォル君、彼女は?」

 

 彼女が何者かわからない永夢はレヴォルに耳打ちする。驚きから立ち直ったレヴォルは、永夢に答えた。

 

「あ、ああ。彼女はヘカテー。ティムの……妹だ」

 

「妹ぉ!?」

 

 再び少女を見やる。なるほど、髪色、瞳の色だけでなく、雰囲気もティムに似通っている部分はある。兄妹と言われたら納得できた。

 

 が、目の前で繰り広げられているのは、妹であるヘカテーが兄であるティムを一方的に罵倒している光景である。ティムはというと、いつもの皮肉屋な部分は消え、ただ言い返せずにたじろいでいる様子だった。

 

 過去に何かあったのは、間違いない。そうじゃなければ、兄妹喧嘩とも言えないこの光景に説明がつかなかった。

 

「そこまでにしていただけませんか?」

 

 永夢が考えている間、シェインが割って入る。それでも、ヘカテーは不満の顔を隠そうともしなかった。

 

「何よ? ババァは引っ込んでて」

 

「そういうわけにもいきませんからね。お子様の癇癪に付き合ってる状況ではありませんから……まぁ、それはそれとして」

 

 ヘカテーの悪態なんて聞いちゃいないとばかりに、彼女を窘つつ周囲を見回す。あることを確認してからヘカテーを見て、呆れたようなため息をついた。

 

「その様子を見るに、“彼”はここにはいないようですね。十中八九、まぁたはぐれましたか」

 

 自分たちにとっての敵である“彼”がいないことに、ひとまずの安堵を覚える。同時に、 “彼”とはぐれた彼女と遭遇したのは、実はこれが初めてではなかった。

 

 図星をつかれて頬を赤くし、ヘカテーは逆上する。

 

「う、うっさいわねこの……ぅ」

 

 が、途端にふらつき、壁に手を着いた。

 

「お、おいルイーサ!?」

 

 咄嗟に手を伸ばすティム。だが、ヘカテーはそれを払いのけた。

 

「触らないで! アンタに心配される筋合いなんて、ない!」

 

「で、でもヘカテーちゃん……」

 

 叫ぶヘカテーの様子がおかしいことにエレナは気付く。いつもの強気な発言をする彼女だが、今日はその勢いがないように見受けられる。今のようにふらついているだけでなく、気温は低いにも関わらずに汗を流し、少し息も荒いように見えた。

 

「うっさい! 私に構わないで!」

 

 叫び、縦笛を手に持った。

 

「よせ! 今争っている場合じゃ……」

 

 ヘカテーの持つ笛は、ヴィランを呼び寄せ、操る代物。過去に何度もそれで辛酸を舐めさせられてきた。それを知るからこそ、レヴォルは止めようと手を伸ばした。

 

 が、それより前にシェインが叫ぶ。

 

「っ! 危ない!」

 

「え」

 

 瞬間、ヘカテーは背後から敵意を感じ、咄嗟に横へ跳んだ。彼女がいた場所に、槍が突き刺さる。

 

「ルイーサ!」

 

 ティムの叫びを耳にしながら、ヘカテーは顔を上げる。そこには、羽を生やしたヴィラン、ウィング・ヴィランが浮遊しながら、手に持った槍をヘカテーが立っていた場所に突き刺していた。悪意のある黄色い目が、ヘカテーを見据える。

 

「ヴィラン!? いつの間に!?」

 

 レヴォルが叫ぶのを合図にしたかのように、何もない空間からヴィランがわらわらと出て来る。前方だけでなく、背後からもヴィランが現れた。

 

 再び尻もちを着く羽目になったヘカテー。慌てながらも、笛を吹こうとした。

 

「しま……笛が」

 

 しかし、それは叶わず。笛は避けた拍子に彼女の手から離れて転がっており、吹こうにも吹けない状況となった。

 

 まずいと、彼女は背筋が凍る。ヴィランを操れない。即ち、目の前にいるヴィランは彼女を襲う。

 

 再び、槍を持ち上げるヴィラン。今度は逃さないと、真っ直ぐ矛先をヘカテーへ向けた。

 

「くっ……」

 

 どうすることもできず、手で顔を覆う。ヘカテーを刺し貫かんと、ヴィランの敵意の宿った槍が迫る。

 

 

 

「大・変身!」

 

≪マイティマイティアクション・X!!≫

 

 

 

 妙な声がしたかと思うと、ガキィンという硬質な音をたて、ヘカテーの命を奪わんとした槍は防がれる。痛みが来ないことに、ヘカテーは恐る恐る手を下ろした。

 

「な……」

 

 目の前に立つ、マゼンタを基調とした、背中に顔のような物を付けた妙な人間? が立っている。それがヴィランからヘカテーを守っていた。

 

「下がってろ!」

 

 咄嗟に飛び出しながら変身し、槍の矛先を手で掴んで受け止めていた “それ”ことエグゼイドは、ヘカテーに向けて叫んで槍を逸らし、ヴィランを蹴り飛ばした。そしてそのままの勢いで、集団で固まっているヴィランへ向けて拳と蹴りを見舞う。常人を遥かに凌ぐ仮面ライダーのパンチとキックを前に、ヴィランは次々吹き飛ばされていく。

 

「僕たちもやるぞ!」

 

「クソッたれが!」

 

 レヴォルが栞と本を手にエグゼイドに続く。ティムもまた、ヘカテーに手を出そうとしたヴィランを前に怒りを湛えて悪態をつき、栞を使ってヴァルト王子とコネクトし、槍を手にした。

 

「みんな、包囲を詰められないよう立ち回るんだ!」

 

 パーンがラ・ベットとコネクトしつつ、斧で目の前のビースト・ヴィランを両断しながら叫ぶ。前後を挟まれた状態で、中央にヘカテー、そしてシンデレラを守るように位置取りをする一行。これ以上ヴィランを進ませると、戦えない二人に危害が及ぶ。

 

 そうはさせじと、エグゼイドは拳をウィング・ヴィランへ放つ。盾で防御したヴィランだったが、凄まじい威力に耐えきれず、吹き飛んで壁にぶつかり、消滅した。

 

「きゃぁ!」

 

「っ!」

 

 エグゼイドの背後を横切る形で、ブギー・ヴィランが爪を振り上げてシンデレラへ向けて跳びかかろうとする。思わず悲鳴を上げるシンデレラに、エグゼイドは即座に反応。後方宙返りをしつつ飛び上がり、シンデレラの前に着地。飛び掛かってくるヴィランをストレートパンチで迎え撃った。

 

「はぁっ!!」

 

≪HIT!≫

 

 ライフル銃の如く繰り出された拳は、ヴィランを消滅へと追いやる。

 

「大丈夫か!?」

 

「は、はい……」

 

 エグゼイドが振り返り、腰が抜けたように座り込むシンデレラに声をかけた。返事を聞いて無事を確認し、すぐさま前で密集するヴィランを見据える。

 

「くっ、思ったよりも数が多いな」

 

「このままだと押し切られてしまうぞ!」

 

 エグゼイドの呟きに、ロミオとなったレヴォルが剣を振るい、手近のヴィラン一体を倒す。確実に倒し、数を減らしていってはいるものの、相手の物量が多すぎて徐々に詰められる一方だ。このままではシンデレラたちに被害が及んでしまう。

 

「二人とも、離れてなさい!」

 

 突如、エグゼイドとレヴォルの背後からシェインの声が響く。振り返れば、赤ずきんとなって大砲を抱えるアリシアと、毛皮で作られた身軽そうな服を纏った、癖のある髪をした少女が、羽飾りのついた弓を手に矢を番えていた。

 

 彼女の名は『タチアナ』。アンデルセン童話の『雪の女王』の登場人物であり、シェインが栞の裏面を使ってコネクトした姿。山賊の娘である彼女の弓は、猛禽類である鷹の如く鋭く、狙った獲物はかならず射止める。

 

 弓の弦が軋み、力一杯引かれた矢からは、稲妻のようなエネルギーが蓄えられ、鏃から溢れて迸る。暗い通路を明るく照らすその光を放つ矢は、真っ直ぐヴィランが密集する通路の先へと向いていた。

 

「いきますよアリシアさん!」

 

「はい!」

 

 同様に、大砲にパワーをチャージするアリシアも照準をシェインと同じくヴィランたちへ合わせる。やがてシェインの矢のエネルギーが臨界点ギリギリにまで到達すると、

 

「「はぁっ!!」」

 

 弓から矢が放たれ、砲口からは燃え盛るエネルギー弾が飛んでいく。その刹那、エグゼイドとレヴォルはそれぞれ左右へと跳び退る。矢は一筋の光となり、それは傍からみればレーザーのようにも映る。エグゼイドとレヴォルの眼前を通った矢と砲弾は、ヴィランの集団へ到達した。

 

 矢は突き刺さらず、そのままヴィランを次々貫通して飛ぶ。矢が通った後は、溜め込まれたエネルギーが遅れて爆発。矢の軌跡を辿るように爆発は連鎖していき、ヴィランは巻き添えを食らっていく。爆発に巻き込まれなかったヴィランは、アリシアの大砲によって業火に焼かれていった。

 

 後に残ったのは、爆発によって床に焦げ跡のみ。ヴィランは塵一つ残さず消え去った。

 

「すっげ……」

 

 シェインの一撃を間近で見て、エグゼイドは絶句する。今の一撃、エグゼイドの仲間である花家大我こと仮面ライダースナイプの武器である『ガシャコンマグナム』を使った必殺技『バンバンクリティカルフィニッシュ』に勝るとも劣らない威力を持っているのではないだろうか。しかも弓矢を使ってあの威力。恐らく魔法の類なのだろうが、魔法を使うとあそこまで強力なパワーが扱えるのかと思い、戦慄した。

 

 が、驚きも束の間。前方のヴィランが掃討されたや否や、すぐさま行動に移す者がいた。

 

「くっ……!」

 

 ヘカテーは落ちていた笛をすぐさま拾い上げると、通路の先へ向かって走り出した。

 

「ルイーサ、待て!!」

 

 脇目も振らず駆け出したヘカテーを、ティムは迷わず追いかけた。

 

「バカ! 待ちなさいティム!!」

 

 仲間を置いてヘカテーを追いかけるティムを窘めるも、止まる気配がない。やむを得ず、シェインもティムを追って走り出した。

 

「まずい、今分断してしまうのは得策ではないぞ!」

 

「ティム君、シェインさん! 待って!」

 

 パーンとアリシアが叫ぶも、すでに暗闇の向こう側へ二人は駆けて行ってしまった。今追わなければ、敵地の中で二人を見失ってしまう。パーンとアリシアの中に焦燥感が現れる。

 

 しかし、前方のヴィランは倒したものの、まだ通路の後方のヴィランは残っている。数こそ減ったが、このまま追えば連中も引き連れて行くこととなり、さらなる騒ぎとなってしまい、より多くの敵を集めてしまいかねない。

 

「パーン、アリシア! 先に行け!」

 

≪ガシャコンブレイカー!≫

 

 そんな二人に向け、エグゼイドは武器を召喚しながら叫んだ。振り返ると、伏せているシンデレラを守るようにヴィランの攻撃をブレードモードにしたガシャコンブレイカーで受け止めているエグゼイドと、ヴィランへ剣を突き刺しているレヴォル、そしてカーレンとなったエレナが魔法陣でヴィランを吹き飛ばしていた。

 

「こっちは僕たちが食い止めます!」

 

「パーンさんたちはシェインちゃんたちを追って!」

 

 促され、パーンとアリシアは互いの顔を見合わせる。今二人がこの場から離れると、戦えないシンデレラを除いた三人だけがヴィランたちを相手取ることになってしまう。パーンは彼らを残して行くかどうか、一瞬判断に迷う。

 

 しかし、永夢ことエグゼイドの実力は折り紙付きな上、レヴォルとエレナも場数を踏んでいる。そうそうやられはしないはず。悩んだが、やがてパーンは頷いた。

 

「……わかった。君たちもすぐに追いつくんだよ!」

 

「気を付けて! 油断だけはしないようにね!」

 

「ヘッ! 誰に向かって言ってんだよ? こんなんイージーモードだ!」

 

≪HIT!≫

 

 二人にそう軽口を叩きながら、エグゼイドはヴィランを一体切り伏せた。パーンとアリシアは、ティムたちを追って駆け出していく。二人を追おうとした一体のヴィランを、エグゼイドはガシャコンブレイカーで一閃、両断した。

 

「っしゃあ! 気合い入れていくぜ二人とも!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

 シンデレラを守りつつ、三人は群がるヴィランを打ち倒していく。怒涛の勢いで戦う彼らの前では、ヴィランは最早雑魚敵と呼ぶに相応しく、次々と消滅していくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……もう、何だっていうのよ……! クラウスとははぐれるし閉じ込められるしで……もう、ホント最悪!」

 

 いつもより身体が重く感じながらも走り続けていたヘカテーは、肺に十分な酸素が行き渡らなくなったことで走るのをやめ、立ち止まった。膝に手をつき、肩で大きく息を吸う。気分が優れなくとも、悪態をつくのはやめなかった。

 

 そもそも、この想区に迷い込んでから碌な目に合っていない。いつも付き従っている男とはぐれたばかりか、目覚めて歩き出した瞬間に急に体が気怠くなって、気付けば何もないじめじめした牢屋の中。小柄な身体を活かして、牢屋の中で崩れていた壁の一部から外へ這い出る際に服は汚れるし、暗くてジメジメした通路を延々と歩き続けるし、何より身体が怠い上にしばらく何も口にしていないしで、さらには先ほど会いたくない連中と遭遇してしまった。本当に散々な目にしか合っていない。

 

「……というより、あの変な奴は何なの?」

 

 ふと、自分をヴィランの攻撃から庇ったピンク色の妙な恰好をした存在を思い出す。再編の魔女一行に、あんな存在はいなかった。先ほどは気にしていなかったが、一行の中に白衣を身に纏った見慣れない青年もいたが、そいつがコネクト? をしたのかもしれない。あんなヒーローは見たこともないが。

 

 まぁ、もう関係ない。気を取り直し、無我夢中で逃げてきたヘカテーは改めて周りを見る。

 

 明るい。先ほどの暗い地下通路から、いつの間にか地上へ出ていたらしい。煌びやかな調度品や絵画が飾られ、床には赤いカーペットが敷かれた廊下に、彼女は立っていた。窓の外には夜の闇が広がり、景色を見ることはできない。

 

 しばし無言で立ち尽くしていたが、やがてポツリと呟く。

 

「……こ、ここからどうしたらいいのかしら?」

 

 考え無しに走っていたツケが回ってきたことに改めて気付く。どうしようもなく、途方に暮れていた時。

 

「ルイーサ!」

 

「っ!」

 

 背後から聞き慣れた、しかし聞きたくなかった声。コネクトを解除したティムが、ルイーサに追い付いてきていた。彼の姿を視認するや否や、ヘカテーは顔を大きく顰めた。

 

「お前、何考えてんだ!? こんなところ逃げ回ってたら危ねえだろ!?」

 

「うっさい! 追いかけてまで兄貴面してんじゃないわよ!」

 

「っ……!」

 

 ここまで来て兄として振る舞う彼に、堪らなく腹が立つ。憤怒と嫌悪を隠そうともせず、ヘカテーは叫ぶ。ティムとしては心の底からの言葉であったが、それが彼女の苛立ちを助長していることに気付き、言い返すこともできない。

 

「ティム!」

 

 そんな時、背後からまた別の声。着物を揺らしつつ、シェインが駆けてくるのが見えた。

 

「あ、姐さん……」

 

「全く、何を考えているんですか! 一人で勝手に突っ走らないでください!」

 

「で、でも……」

 

 追いつき、ティムに向かって叱りの言葉を投げつける。言い返そうとするティムだったが、シェインはふぅとため息をひとつついた。

 

「……気持ちはわかります。けど場所が場所です。迂闊な行動は慎みなさい」

 

 シェインとしても、かつて(・・・)の彼女がそうであったように、兄が妹を追いかける気持ちも痛い程わかる。しかし、ここは敵地。迂闊な行動で仲間を窮地に立たせてしまいかねない。

 

 そう諭すシェインに、ティムは言い返そうとした口を閉じる。やがて、罰が悪そうに頭を掻いた。

 

「……わりぃ。軽率だった」

 

「わかればいいんです……まぁ、追いかける原因となった相手は反省してる素振りは……」

 

 言って、シェインはジト目でヘカテーを睨もうとした……が、それは怪訝な目つきへと変わる。

 

「ちょっと……?」

 

「な……何よ?」

 

 顔色が悪く、冷や汗を流す彼女の身体は、体調が思わしくないようにしか見えない。放っておいたら、すぐにでも倒れ込んでしまいそうだ。

 

「お、おいルイーサ。お前、本当に大丈夫なのか?」

 

「だ、だから……心配される筋合いなんか無いって言ってるでしょ?」

 

 反論するヘカテーの声に、いつもの覇気がない。走り回って、元々悪かった体調がさらに悪くなってしまったか。シェインはそう憶測する。

 

「風邪、ですかね。エムさんがこの場にいないことが悔やまれますね」

 

 ドクターである彼がいれば何かわかると思ったが、ティムを追って彼らを置いてきてしまった。そう考えると、自分もティムと同じだと、己の迂闊さを呪った。

 

「シェイン! ティム!」

 

「二人とも無事!?」

 

 と、二人の名を呼ぶ声がし、思考を中断して声の方へと顔を向けた。パーンとアリシアが、シェインたちが駆けてきた方向から走り寄ってきていた。

 

「パーンさん、アリシアさん……レヴォル君たちは?」

 

 二人の姿は確認できた。が、レヴォルとエレナ、そして永夢とシンデレラの姿が見えない。

 

 何かあったのだろうか? 不安になったシェインに、パーンが答える。

 

「僕たちに二人を追うようにと、殿を務めてくれた。あのヴィランの数ならば大丈夫だろう」

 

 三人ともそこいらのヴィランに遅れを取るような玉じゃない。パーンからのお墨付きもあり、ひとまず全員無事であることを知って安堵する。

 

「そうですか……しかし、それでも一旦合流した方がよさそうです」

 

「ですね。何が起こるかわかりませんし」

 

 ヴィランが現れたということは、敵に感付かれている可能性がある。合流するため、来た道を戻ろうとシェインたちは踵を返そうとした。

 

 

 

「お待ちください」

 

 

 

 が、唐突に5人以外の声に呼び止められ、すぐさま身構えた。

 

 視線の先、シェインたちと相対する形で立っていたのは、燕尾服を身に纏った男性。背筋を伸ばし、両手を腰の後ろで組むような形で、シェインたちを見据えている。

 

「……誰ですか、あなたは」

 

 シェインは栞を手に問う。その目には油断はない。

 

 何故ならば、先ほどまでそこには誰もいなかったはずだからである。気配もなく唐突に、それこそまさに瞬間移動してきたのではないかと思える程に。パーンたちも同様、目の前の男に警戒し、ヘカテーを後ろに下がらせて栞を構えた。

 

 そんな彼らに対し、男はスッと腰を曲げ、一礼した。

 

「呼び止めてしまい、申し訳ありません。私は王妃様の身の周りのお世話をさせていただいている者です」

 

 見た目通りの役職を持つ人間。そして、まさかの目当ての人物に近い立ち位置にいる者と出会えたことに、シェインたちは軽く驚愕する。

 

「……そんなあなたが、私たちに何の御用でしょうか?」

 

 だからこそ、より一層警戒が強くなる。王妃に仕える人間、すなわち敵。そう考えるのが自然というものだ

 

 顔を上げた男の表情は相変わらず変わらず、シェインたちを見る。感情が読み取れず、何を考えているのかわからない。

 

「あなた様方は、王妃様にお会いになられるためにここに忍び込んだのでしょう?」

 

「……だとしたら、何ですか?」

 

 忍び込んだとわかっているのならば、ただ謁見しに来たわけではないことを、この男は把握しているはず。シェインの目つきがより鋭くなっていく。

 

 が、その目つきはすぐに困惑へと変わった。

 

「……王妃様は現在、玉座の間にて陛下と共におります」

 

「な……」

 

 そんな彼から渡された情報に、シェインは思わず声を上げる。確かに、王妃の居場所を探ろうとも考えていたが、まさか向こうから唐突に教えられるとは思ってもいなかった。

 

「王妃様は歯向かう者全てに対して侮っておいでです。隙をつけば、あなた方少人数でもどうにかできましょう」

 

「……一体、どういうつもりでしょうか?」

 

 男にパーンが問う。何故王妃の付き人でもある彼が、王妃の居場所を喋るのか。何かの罠か、そう疑ったとしてもおかしくはない。

 

「……城の中にいる人間が、全て王妃様に、否、今の王家に忠誠を誓っていると思わないでいただきたい」

 

 パーンの質問に、初めて男は表情を変えた。暗く、悲しげに。

 

「かつての王家の威光は、王妃様の乱暴狼藉によって消え失せました。彼女に逆らった者は、王妃様から陛下に告げ口をされ、国を追放されるか、ひどければ処刑されるか……国の人々を苦しめ、己は権力という甘い蜜を啜り、贅の限りを尽くす。そんな王妃様を見るのは、もうたくさんです」

 

 吐き捨てるように、男は言う。パーンも彼の心の叫びであろう話を、静かに聞いていた。

 

「私は、王妃様の側に仕えながらも、どうにかできないものかと考えておりました……しかし、陛下の後ろ盾がある以上、非力な私では何もできませぬ。だからこそ、あなた様方のような方々が来るのを心待ちにしておりました」

 

「我々が、王妃を止められると思っているのですか?」

 

「化け物すら従える今の王城に忍び込もうと考えるような、大胆不敵な者にお願いするのもおかしくはないでしょう」

 

「……」

 

 侵入者であるパーンたちに全てを託すという、城の人間が聞いたらただではすまないことを、目の前の男は言っている。言葉の真偽がわからず、パーンは考えあぐねていた。

 

「……私を疑るのならば、それで結構。しかし、あなた方に託すしか道はないのです……では」

 

 男は再び一礼し、5人に背を向け、歩き出した。その姿は途中の曲がり角で見えなくなり、廊下には静寂が訪れた。

 

「……どう思います? パーンさん」

 

 シェインはパーンの顔を見る。顎に手を添え考え込むパーンは、やがて頭を振った。

 

「正直、全ての話を鵜呑みにすることはできない。しかし、王妃が玉座の間にいるという情報は信憑性がある」

 

 王の妃である人間が王の傍にいる。何ら不思議ではない。彼が語っていたこと全てが事実とは思わないが、王妃の居場所に関する情報は、今のところ男から語られた話だけ。ならばそれに従ってみるしかなかった。

 

「……まぁ、それしかないですね」

 

 急に現れたことと言い、考えが読めないことと言い、執事を名乗ったあの男の胡散臭さは半端なかった。だが、闇雲に走り回るよりかは、あえて罠かもしれない話に乗ってみるのも一つの手だともシェインは考える。

 

「……ひとまず、君は私たちと行動を共にしなさい」

 

「はぁ? 何でよ」

 

 今後の方針が固まったところで、パーンはティムの後ろにいたヘカテーへ声をかけ、共に行くことを提案する。当然、ヘカテーからは反発の声が上がった。

 

「今の君を連れて町へ戻ることはできそうにない。ならば、危険は伴うがこの想区のカオステラーを倒し、その後で治療するために診療所へ行った方がいいだろう。無論、症状が悪化する可能性もあるが、その時は出来る限り何とかしよう」

 

 パーンは、自身の栞の裏側にある回復役職のヒーローとコネクトできる『ヒーラー』のマークを見せた。

 

「まぁ、単独行動したいのならばそれでいいですけど、あっさり捕まって冷たい牢屋に行くよりかはマシだと思いますがね」

 

 病人は大人しく言うこと聞け。暗にそう言うシェインに、苦虫を噛み潰したような顔になるヘカテー。

 

「ルイーサ……」

 

 懇願するようなティムの目。兄として心配している彼の目を見て、ヘカテーはしばし考える。

 

 やがて観念したのか、甚だ不満だと思っている気持ちを隠そうともせずに鼻を鳴らした。

 

「フン……せいぜい背中に気を付けなさいよ」

 

「ご安心を。あなたのお兄さんの目を信じておりますから」

 

「……チッ」

 

 言い返すシェインは、僅かに笑いながらティムを見る。それを聞いて監視を頼まれたことに気付いたティムは、小さく頷いた。ヘカテーは小さく舌打ちせざるを得ず、そのまま黙り込んだ。

 

「さぁ、一旦レヴォル君たちの下へ戻りましょうか」

 

 アリシアが提案し、歩き出す5人。ここに来るまで、ヴィラン以外の敵とは出会わなかったことに些か不安を覚えつつ、一度元来た道を辿っていった。

 

 




そういやヘカテーってヴィランに襲われないんだったっけ……いや普通に笛吹いてなかったら襲われるんだったっけ……あかん、調べたいけどどこら辺調べたらいいんかわからーん!(錯乱)

……よし、このまま行こう!(ダメ思考)

そんな適当な作者です、ごめんなさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 Princessの懺悔

戦闘は次回に。あと今回、若干のマイティノベルXのネタバレありです。ご注意くだされ。


「はぁ、はぁ……つ、疲れた」

 

「ふぃ~、きゅ、休憩~」

 

 冷たい石の壁にもたれながら、コネクトを解除したレヴォルとエレナはへたり込む。先ほどまで戦っていたヴィランはすでに消え、通路にはレヴォルたち4人しかいないことを把握し、脱力する。

 

≪ガッチョーン≫

 

≪ガッシューン≫

 

「ふぅ……」

 

 永夢もまた、ゲーマドライバーのレバーを戻してガシャットを引き抜き、変身を解除する。レヴォルたち同様、息を荒くして疲労した身体を少しでも休ませようと壁にもたれた。

 

「皆さん、大丈夫ですか?」

 

 疲弊する彼らを見て、守られていたシンデレラは心配そうに声をかける。そんな彼女を安心させるために、永夢は笑顔を作った。

 

「大丈夫。エラちゃんこそ、怪我はない?」

 

「わ、私は平気です。皆さんが守ってくださったおかげです」

 

 言いながら、彼女は持ってきていた手ぬぐいで永夢の汗を拭う。

 

「あ、ありがとう」

 

「いえ、今の私にできることがあるのならと思って……あ、お水もありますよ」

 

「やった! お水ー!」

 

「すまない、助かった」

 

 無理を言って同行を願い出たというのに何もしない訳にはいかないと、予めシンデレラは持ってきていた水の入った皮袋を取り出す。疲弊し、喉の渇きを感じていたレヴォルたちにとって、何よりもありがたかった。

 

 喉の渇きを癒し、一息つく。そうして少し余裕ができたところ、永夢ははぐれてしまったティムたちのことを心配する。

 

「……ティム君たち、無事だといいんだけど……それから、ヘカテーちゃんも」

 

「うん……私も心配だなぁ」

 

ティムたちの安否も気になるが、それ以上に永夢は逃げ出したティムの妹、ヘカテーのことも気になっていた。エレナもそれに同意する。

 

ヴィランに襲われる前、彼女はどうも体調がよくない様子だった。一ドクターとして、病人かもしれない彼女を放っておくわけにはいかない。

 

「一刻も早く、ここから出る道を探らないと」

 

「そうだな。またヴィランに襲われないうちに」

 

 小休止をとった4人は腰を上げる。ティムたちとも合流しなければいけないし、またいつ襲われるかわからない以上、長居することはできなかった。

 

 ひとまず、松明の明かりがある場所を目印にして歩き出す。やはり、行けども行けども、松明があっても薄暗い石造りの通路のみの景色でしかなく、同じところをぐるぐる回っているのではないかと錯覚し始めてきた。

 

「……ん?」

 

「レヴォル?」

 

 と、レヴォルが前方に何かを発見し、通路の先を指さした。

 

「あそこ。何だか壁が違う気がするんだ」

 

指さした先に、松明の明かりでうっすら見える通路の向こう側から、今まで変化の無かった壁に違和感があった。罠の可能性も考慮し、慎重に歩みを進めて行く。

 

 やがて、レヴォルが見つけた物の正体が明らかとなる。

 

「これ……扉?」

 

 鉄枠が付けられた木の扉。扉の両側にある松明で存在を主張しているそれは、この地下通路で見つけた

 

「鍵は……かかっていないようだな」

 

 レヴォルがゆっくりと扉の取っ手を押すと、軋みながら僅かに扉が開く。取っ手を掴んだまま、レヴォルは永夢たちへ振り返る。

 

 中に何があるかわからない。全員戦える準備がいいか、目だけで問うレヴォル。永夢とエレナが頷くと、レヴォルは扉をゆっくりと開いていく。

 

 開いた扉の隙間から僅かに顔を入れ、中を覗き込む。レヴォルの視界に飛び込んできたのは、天上に吊るされたランプの弱々しい明かり。そして古い鉄格子のような物。

 

「ここは……檻?」

 

 ヴィランや兵士の姿を確認することなく、レヴォルは滑り込むように中に入る。永夢、エレナ、シンデレラと続いた。

 

 部屋に入ってすぐ、目の前に立ち塞がる鉄格子が目に入る。ランプの明かりに照らされ、中の様子が確認できた。大勢の人間が入れる程の広さを持つ中には十数人、長い藁のような粗末な寝具で雑魚寝をしており、寝息や時々うめき声が聞こえてくる。

 

「もしかして、これって……」

 

 地下にある檻。そして中で眠る人々。これらから導き出される答えは、レヴォルたちの中では一つだけだった。

 

「町の、人たち……」

 

 永夢たちが答えを導き出す前に、シンデレラが愕然と呟いた。町で捕えられた人々がどのような仕打ちを受けているのか考えなかったわけではないが、ここまで最悪な環境下に置かれていたとは思っていなかった。

 

「う……だ、誰だ……兵士か?」

 

 鉄格子の近くで横になっていた男が、永夢たちの姿に気付いた。永夢が駆け寄り、鉄格子越しに話しかける。

 

「違います。僕たちは、あなたたちを助けに来ました」

 

「た、助け……助けが来たのか……!?」

 

 永夢たちが救助に来たことを知ると、男の弱々しい声に力が宿る。その声は檻の中に響き、横になっていた人々が次々と起き上がる。

 

「や、やっと、やっと助かるのか、俺たち……」

 

「うぅ、早く、ここから出して……」

 

想像以上に悲惨な目に合わされてきたようだった。ほとんどの人が憔悴しており、中にはやつれている者もいる。健康状態は詳しく診なければわからないが、今はともかくこの閉鎖された空間から救い出すのが先決だった。

 

「待っていてください、今開けますから! ……えっと鍵は……」

 

 部屋の周りを見回すも、それらしい物は見当たらない。壁や床を探っても鍵は見当たらない。こういう場所には鍵を持っているはずの見張りの兵士がいるはずなのだが、そういった人物はここに来る途中にいなかった。

 

 となれば、方法は一つだけ。

 

「……仕方ない。皆、下がっていてくれ」

 

 鍵がないと判断したレヴォルが、栞を取り出す。永夢たちは鉄格子から離れ、それを見ていた牢屋の中にいる人たちも部屋の奥へと下がる。

 

 栞を空白の書に挟み、光を放つと共に姿を変える。見上げる程の巨体に、屈強な鎧を身に纏った大男。『サムエル記』と呼ばれる物語の登場人物『ゴリアテ』とコネクトしたレヴォルは、その巨体に見合った大きな手で鉄格子の扉部分を掴む。そして、

 

「ふんっ!!」

 

 バギンッ! という金属が折れるような音と共に、力強く引っ張られた鉄格子の扉が引きちぎられたかのように外れた。

 

「うぉっ!?」

 

 中にいた数名が音と光景に驚く中、レヴォルは鉄格子を壁に立てかけてからコネクトを解除した。

 

「ふぅ」

 

「……便利だね、コネクトって」

 

 力技で開放したレヴォルに、永夢は苦笑しながら呟いた。

 

 あらゆる人物に変身し、力を行使することができる未知の能力、コネクト。もしこれを知り合いの自称神に見せたら、『私の才能を刺激したぁ!!』と叫んで狂喜乱舞していたかもしれない。

 

 閑話休題。

 

 ともあれ、彼らを捕えていた檻は破壊され、檻はその役目を果たすことはできなくなった。町の人々は牢屋の中にいる理由がなくなったことで、牢屋から外へ出ていく。

 

「やった、やった! やっと帰れるわ!」

 

「ああ、こんな理不尽な目に合うのはもうごめんだぜ!」

 

 謂れのない罪を着せられ、無理矢理連れて来られた挙句に、こんな牢屋に放り込まれてはたまったものではない。全員が出られたことによる喜びに包まれている中、レヴォルが声を上げた。

 

「皆さん、これから僕たちが出口まで誘導します!」

 

「みんな、離れずについて来てね!」

 

 牢屋から出られたとしても、今はまだ城の中。いつヴィランか、いまだ遭遇していないが兵士と出くわして襲われないとも限らない。レヴォルとエレナが先導し、町の人々を連れて部屋を出る。暗い中を歩いていくことに対する不安もあるが、牢屋から出られたということによるものか、心なし足取りが軽い。

 

「あれ、エラちゃん?」

 

 ふと、永夢はシンデレラが部屋の隅の方へ移動し、頭巾を深く被って町の人たちから顔を背けるようにして立っているのに気付く。歩み寄り、顔を覗き込んで声をかけた。

 

「どうしたの?」

 

「いえ……その……私……」

 

 シンデレラの不安の入り混じった、絞り出すような声に永夢は思い出す。

 

 ここにいた人たちを閉じ込めていたのは、この国の王妃だ。そしてその王妃は、シンデレラの姿に化けている。すなわち、ここにいるシンデレラが本物だということを知らない町の人たちから怒りを向けられるのを、彼女は恐れていた。

 

 永夢は、今はそっとしておいてあげようと考え、一歩下がろうとした。

 

「あの……」

 

 と、その時、永夢とエラの後ろから声がかけられ、永夢は振り返った。そこにいたのは、20代後半の年齢と思われる一組の男女。他の人たち同様、少しやつれてはいるが、しっかりと立っている。

 

 その二人が、永夢とエラを……正確には、エラをまじまじと見つめている。やがて、女性の方が口を開いた。

 

「……もしかして、シンデレラ様……?」

 

「っ!?」

 

 ビクリと、肩を大きく震わせるシンデレラ。永夢もまた、彼らが王妃だと思って彼女を責め立てるのではないかと緊張する。

 

「あ、あの、わ、私、は……!」

 

 声と、頭巾を握る手が震える。何を言われるのか、どう責められるのか。シンデレラの頭に恐れと焦りが蔓延し始める。

 

「ち、違うんです! 彼女は……!」

 

 パニックに陥りかけている彼女を見て、永夢も仲裁に入る。次に彼らから飛び出してくるのは、糾弾か、罵倒か……そう覚悟していたシンデレラと永夢の耳に飛び込んで来たのは、

 

 

 

「あぁ……やっぱり、今の王妃様はシンデレラ様ではなかったのですね」

 

 

 

 安堵を含んだ、暖かな声だった。

 

「え……」

 

「へ?」

 

 予想外の言葉に、声にならないシンデレラと、間抜けな声が出る永夢。シンデレラは、改めて二人の顔を見るため、伏せていた顔を上げた。

 

「あ……おじさまと、おばさま……?」

 

 意外な人たちを前にして、シンデレラは目を見開く。彼女の反応からして、知り合いの様子だった。

 

「エラちゃん、知り合い?」

 

 永夢の問いに、シンデレラは静かに頷く。

 

「パン屋の……あの子たちの、ご両親です」

 

「え、この人たちが!?」

 

 あの子たち……即ち、永夢がお世話になったパン屋に住まう兄妹の父親と母親。理不尽な理由で連れ去られた、永夢たちが探していた二人だった。

 

「はい。町で小さなパン屋を営んでいる者です……それで、あの、子供たちは……」

 

 軽く自己紹介をしてから、父親が永夢とシンデレラに問う。心配そうな顔つきから、自分たちの子供が無事なのかどうか、ここに幽閉されている間にも気が気でなかったのかもしれない。

 

 気を取り直した永夢は、二人を安心させるように笑顔で答える。

 

「大丈夫です。二人とも、あなたたちご両親が帰って来るのを心待ちにしてますよ」

 

「ほ、本当ですか!? よかった……」

 

 永夢の笑顔とはっきりとした答えから、嘘ではないと確信した二人は、心の底から安堵のため息をついた。

 

 しかし、シンデレラはそれ以上に二人が言っていた言葉が気になっていた。

 

「あ、あの……私のこと、王妃じゃないって、信じてくださるのですか?」

 

 今、偽のシンデレラが王妃として国に圧制を敷いている。そのことで多くの人間から冤罪なのに怨まれることを恐れていたシンデレラは、おずおずと聞いた。

 

 対し、母親が穏やかな笑顔でそんな彼女の手を取った。

 

「ここに連れてきたのが王妃様だと知った時も、私たちは昔から優しくて、思いやりのあるあなたがこんなことをする筈がないって、ずっと信じていましたよ」

 

「先ほどの姿を見て、確信しました。やはり、今この国を苦しめているのは、シンデレラ様の名を騙る人間なのだと」

 

 本当の悪人が、こうして危険を冒してまで町の人たちを解放しに来るわけがない。小さい頃のシンデレラを見てきた彼らだからこそ、本物の彼女なのだと気付いていた。

 

 暖かい彼らの言葉に衝撃を受け、そして目頭が熱くなる。パン屋でも老婆が彼女を信じてくれたように、ここでも自分のことを信じてくれる人たちがいた事実を、彼女は強く噛み締めた。

 

「ありがとう、ございます……」

 

「いえ、礼を言うのはこちらです。おかげで、あの子たちに生きて会えそうです」

 

 冷たい牢屋の前だというのに、目の前に広がる暖かな光景。永夢は、優しい気持ちになりながら眺めていた。

 

 しかし、そんな光景を前にして同時に湧き上がる疑念。以前呟いた、彼女の小さな、しかし悲しみに満ち溢れた一言。

 

 

 

(幸せになる資格なんてないって……どういうことなんだろう……)

 

 

 

 あんなにも優しい人々に囲まれ、そして幸せになる運命を辿る彼女。そんな彼女から出てきたあの言葉が、永夢にはどうしても引っかかる。

 

 故に、今目の前にいるシンデレラの微笑みが、心の底からの物ではないと、永夢には思えてならなかった。

 

 

 

~ 第10話  Princessの懺悔 ~

 

 

 

「ここから先にある階段を昇れば、城の裏山に出ます。そこから町へ」

 

「あ、ありがとうございます! 本当に助かりました!」

 

「兄ちゃんたちは命の恩人だ!」

 

 地下通路の先、レヴォルたちが入って来た侵入口付近まで誘導し、レヴォルが指し示した先へ町人たちは口々に礼を言ってから進んでいく。

 

「じゃあ、また町で会いましょう」

 

「はい。あの子たちに宜しく伝えておいてください」

 

 最後、兄妹の両親が頭を深く下げて一礼してから階段を上っていくのを見届け、全員脱出できたことを確認した。ここに来るまでにヴィランと遭遇することなく、無事に脱出させることができたことに、レヴォルは安堵のため息をつく。

 

「よかった、これで目的の一つは無事に達成することができたな」

 

「みんな無事でよかったねー」

 

 最初に牢屋に囚われているのを見た時はどうしようかと焦ったが、残す問題はカオステラーを倒すだけとなった。今のところ順調に事が進んでいる。

 

 だが、永夢はシンデレラの顔をチラと見る。じっと、町人が脱出した階段の先を見つめて動かない。その瞳は、どこか憂いを帯びているように見えた。

 

「……エラちゃん」

 

 永夢がシンデレラの名を呼ぶ。少し間を置いてから、シンデレラが口を開く。

 

「……少し、あの子たちが羨ましいです」

 

「え?」

 

 脈略のない話。永夢は小さく声を上げた。

 

「親に愛されて、親であるあの人たちも子供たちを愛していて……家族なんだなって、誰から見てもわかるような人たちで……」

 

「……エラちゃんの家は、そうじゃないの?」

 

 永夢の質問に、シンデレラは首を振る。瞳を閉じて、ただ悲し気に。

 

「お母様が死んで、お父様が再婚されて、新しいお義母様とお姉様たちが来て……お父様もいなくなってしまってから、お義母様たちに私は虐められていました」

 

 自身の運命の書にも書かれていた、義理の母と姉たちから受ける理不尽な扱い。彼女たちが家に来る前から覚悟していた、己の境遇。

 

 幸せな家族を見る度に懐かしくなって、羨ましくなって。どうして自分ばかりこんな目に合うのか、運命を呪ったこともあって。

 

 しかし、それでも。

 

「でも、私は……愛することを、諦めたくなかったんです」

 

「愛すること?」

 

 

 

 

「……お義母様たちを……本当の家族として、愛したかった」

 

 

 

 何度酷い仕打ちを受けても、彼女たちを怨むことはなかった。残された家族だからと、シンデレラは何度も向き合おうとしてきた。

 

「あの子たち……あの兄妹のように、ただお義母様たちと、本当の家族のようになりたかったんです」

 

 そんなシンデレラを突き放し、彼女たちはシンデレラをいじめ続けた。何度も、何度も。

 

「けど……運命の書には、お義母様たちを国外へ追放することになっていて、分かり合えないことがわかってて……それでも、私は……」

 

 運命の書の導きは絶対と言ってもいい。それを変えることは許されない……この世界に生きる人々には、それがわかっていた。

 

「私は……お義母様たちと、本当の意味で向き合いたかった」

 

 そうだとしても、運命の書に抗おうとした。分かり合えない者たちと、分かり合おうとした。

 

「けど……もう、それも出来なくなってしまいました」

 

 だからだろうか。運命の書を勝手に変えようとした、シンデレラに対する罰なのか、己は罪を犯してしまった。

 

「元々、私は王子様の結婚相手として、相応しくなかったんです。恋愛なんてしたこともないのに、好きかどうかもわからない方と結婚だなんて……不安でしか、なかった」

 

 所詮、自分は運命を変えるような力なんて持っていなかった。誰かを好きになったこともない小娘が、高貴な相手と結婚する運命にある“シンデレラ”という配役になったということですら、疑問を持っていた。

 

「そんな私が……高望みしてしまった結果が、今なんです」

 

 左手が、右腕を強く掴む。自らを責めるよう、自分にできる罰のようにして。

 

「だから、私は……」

 

 運命を変えるどころか、国を滅茶苦茶にする切っ掛けにすらなった自分自身。何もできない、することすら許されない。

 

 だからこそ、シンデレラは己を戒め、口にする。

 

 

 

「『幸せになる資格なんてない』……かな?」

 

 

 

「……え?」

 

 が、それは叶わず、代わりに永夢が言わんとしていたことを言われ、思わず彼の顔を見た。

 

 永夢はというと、茶化すでもなく、責めるでもなく……真っ直ぐ、彼女の心を透かすように、シンデレラを見つめていた。

 

「ごめん、前に君が目が覚めた後に呟いていたのを聞いてたんだ。どういう意味なのか、ずっと考えてたんだけど、そういうことだったんだね」

 

「……」

 

 シンデレラから、罪の内容までは語られていない。しかし、彼女の重石となっている罪がなんであれ、彼女に伝えなければいけないことが永夢にはあった。

 

「エラちゃん……君は、義理のお母さんと仲良くなろうと、向き合おうとしてたんだよね?」

 

「……」

 

 永夢の問いかけに、シンデレラは小さく頷いた。

 

「僕は……知り合いに、実の親とも分かり合おうともしなかった人がいる。いや、その人は今でも分かり合うつもりが無いんだ」

 

「……」

 

「誰だって、向き合おうとするのは恐いんだよ。それが例え義理だとしても、親が相手なら尚更だ」

 

「で、でも……私は、結局運命の書の通り、お義母様と……」

 

 向き合おうとして、向き合えなかった。だから、シンデレラは自らの力不足を嘆いていた。

 

「それでも、君は運命に立ち向かった。変えるために、頑張ったんだ」

 

 それでも永夢は彼女がしようとしたことを、咎める気にはならない。予め敷かれたレールを歩くことを拒み、拒絶する相手の手を取ろうと必死に手を伸ばしていた彼女を、誰が責められようか。

 

「君が犯した罪は、何なのかわからない。けど僕はそれが何であれ、やるべきことは変わらないよ」

 

「エムさんが……やるべきこと?」

 

 二コリと、シンデレラに笑顔を向ける。彼女が目覚めた時に見せてくれた、あの時と同じ笑顔だった。

 

 

 

「君の本当の笑顔を、取り戻す。例えどれだけ君が幸せになる資格がないって言っても、僕が何度だって、誰かの幸せのために頑張れる君が幸せになれるようにね!」

 

 

 

 深い闇の中にいるシンデレラ。その闇から救い出すため、永夢は彼女に手を伸ばし続けるだろう。

 

(ああ……どうして)

 

 シンデレラは心の中で頭を振る。自分は救われる価値なんてない。守られるような存在でもない。そう口にして、彼の言葉を真っ向から否定したかった。

 

(どうして……あなたはそんなに暖かいの……?)

 

 だが、それはできなかった。例え何度否定し続けても、彼は手を伸ばすことをやめないだろう。救われるべきだと、幸せになるべきだと、何度も彼は言い続ける。

 

 それがシンデレラには眩しくて、悲しくて……どうしようもなく、彼が愛おしい。

 

 遠ざけたくとも遠ざけられない。されど己の運命の中には彼はおらず、手を伸ばしても届かない。そんな彼女の心を知ってか知らずか、近くで寄り添おうとする彼。

 

(あなたが……私の……)

 

だからこそ願いたくなる。しかし、願ったところで叶わない。それがわかっているからこそ、願うと余計に辛くなる。それに、未だ罪で穢れた自分を許すことはできそうにない。

 

 しかし、今だけ。今この時だけは。

 

「……ありがとう、ございます……エムさん」

 

 彼の言葉に、甘えたいと思った。

 

「……?」

 

「エレナ?」

 

 二人を少し離れた位置で見守っていたエレナとレヴォル。塞ぎ込みがちなシンデレラを諭すように励ます永夢は、彼女にとっての光のようで。同時に、彼女を絶対に助けるという彼の気概を改めて感じる光景だった。

 

 そんな二人を……正確には永夢を見つめるエレナ。その目は、どこか困惑に彩られている。

 

「……え? 何、レヴォル」

 

「あ、いや。何か考え込んでるようにも見えたから」

 

「う、ううん! 何でもないよ! 気にしないで!」

 

 取り繕うように返すエレナ。そして再び、永夢を見る。

 

 優しく笑い、シンデレラに語り掛ける永夢。しかし、エレナには一瞬だけ、彼の顔から優しさ以外の物を感じ取った。

 

(エムさん、なんか一瞬だけ恐い顔になってたような……気のせい、かな?)

 

 彼が一瞬、知り合いの下りを語っていた時に表情に変化があった……ような気がした。

 

 

 

 

 

 

 時刻は、深夜23時。後一時間もすれば、日付が変わる頃。

 

「ティム! シェインちゃん! パーンさんにアリシアちゃん!」

 

 城の廊下、地下へと続く扉の近くで、ティムたちを見つけたエレナが大きく手を振って駆け寄る。何とか無事に合流できたことに喜ぶ彼女に、アリシアがしーっ! と人差し指を口の前に当てた。

 

「エレナちゃん、大声上げたらまずいでしょ! ここ一応敵地なんだから!」

 

「あ……ご、ごめんなさい」

 

「いや、別に構わないでしょう。何故だかさっきから敵さんの姿が一向に見当たりませんし」

 

 注意するアリシアにシェインが周辺を警戒しつつ言う。エレナの声が響いていたにも関わらず、人っ子一人出てこない。地下にいたヴィラン以外、奇襲らしい奇襲もない。城の中は不気味な程静かで、ある意味では暗かった地下通路よりも気味が悪い。

 

「パーンさん、捕らわれていた町の人たちはみんな救助しました。今は町へ戻っているはずです」

 

「そうか……みんな無事だったんだな」

 

「やったわね! これで目的の一つは達成ってことよね!」

 

 レヴォルがパーンに町人を救い出したことを話し、アリシアがテンションを上げて喜ぶ。しかし、喜んでもいられない。一行にはまだ、懸念事項が残っていた。

 

「……しかし、ここまで静かだとすると、もしかしたら……」

 

「はい……多分、そうだと思います」

 

 ここまで互いを探すために城の中を歩き回って、兵士が一人もいないのはどう考えてもおかしい。パーンが顎に手を添え、考える。レヴォルも、彼が言わんとしていることがわかっていた。

 

「あ、そういえばヘカテーちゃんもいるんだ!」

 

「っ……」

 

 そんな中、エレナが彼らから遠巻きに見る位置に立っていたヘカテーに気付く。気付かれたことにヘカテーは顔を顰めたが、すぐにそっぽ向いた。

 

「今、彼女を単独行動させたら危険だと判断したからね。渋々ながら、同行してもらったんだよ」

 

「……勘違いしないで欲しいんだけど、別にアンタたちに気を許したわけじゃないから」

 

 パーンが説明し、補足ついでに悪態をつくヘカテー。そんな彼女に、永夢が歩み寄って軽く姿勢を低くした。

 

「よろしく、僕は宝生永夢。君はヘカテーちゃん、だったよね?」

 

「っ!」

 

 笑顔で挨拶する永夢を見て、ヘカテーの脳裏に浮かぶ先ほどの光景。危ないところを救われ、本来なら言うべき言葉があった……のだが、その言葉を言うのに抵抗があり、気持ちと裏腹にヘカテーはキッと彼を睨む。

 

「気安く呼んでんじゃないわよ! あとちょっと屈むな!」

 

「いっ!?」

 

 ゴツンという鈍い音を鳴らしながら思い切り右足を蹴られた永夢は、小さく叫んで蹴られた足を抑えながら片足でぴょんぴょん飛び跳ねた。

 

「お、おいルイーサ!」

 

「るっさいわね、気を許したわけじゃないって言ってるでしょ!?」

 

「エ、エムさん大丈夫ですか?」

 

「あ、あはは、大丈夫大丈夫。これくらい慣れてるから」

 

 悪びれもせずに窘めるティムにそっぽ向くヘカテー。永夢を心配そうに労わるシンデレラに、永夢は引きつった笑みを返した。研修医になりたての頃から、やんちゃな子供には手を焼かされてきたため、慣れているという言葉は嘘ではなかった。

 

「そ、それよりヘカテーちゃんの容態が気になるんだけど……」

 

「そんなの平気よ。さっさとやるべきこと終わらして、この城から出るわよ」

 

 取り付くしまもないとはこのことか。軽く診察したいところだったが、今の彼女は虫の居所が悪いらしく、永夢の診察を拒んだ。永夢としては放っておくわけにもいかないが、確かにここでは落ち着いて診ることはできない。それなら、手っ取り早く事態を収束させてからしかるべき場所で診てあげた方がよさそうだった。

 

「……それで、カオステラーの居所は……」

 

 レヴォルがパーンに問う。パーンは頷き、廊下の先へ目をやった。

 

「ああ。恐らく、玉座の近くにいる。王妃に反抗する意思を持っている人物からの情報だが、今はこれを信じるしかないだろう」

 

「感知計が反応を示しているわ。多分、この先よ」

 

「へぇ、お城の中にも親切な人がいたんだね!」

 

「……そんな呑気に言えるおチビが羨ましいぜ」

 

 呑気な会話をしているが、この想区を混乱に陥れている存在はもうすぐそこ。歩き出した一行の緊張感も、自然と高まっていく。

 

 しばらく廊下を歩き続けていたが、やはり兵士は出てこない。パーンは、己の考えが当たっている可能性がより現実味を帯びてきたことを感じていた。

 

 やがて、アリシアの感知計がある一室を指した。

 

「……ここ、ね」

 

 見上げた先には、立派な扉が聳え立っているように一行の行く手を阻んでいる。様々な装飾が施された、派手ではあるもののいやらしさがない、気品溢れる扉。

 

 しかし、この先から扉に似合わない黒い感情……悪意、殺意、それらが一緒くたになって、扉越しから永夢たちに纏わりつくかのように伝わってくる。

 

「……みんな、覚悟はいいな?」

 

 レヴォルが全員に問う。全員栞を手に持ち、永夢はガシャットをいつでも起動できるようにしておく。戦えないシンデレラとヘカテーは、一行の最後尾で成り行きを見守っている。

 

「……行くぞ!」

 

 叫び、レヴォルが扉の取っ手を掴み、力を入れる。両開きの扉は重々しい音をたて、レヴォルたちを迎え入れた。

 

 

 

 

「お待ちしてましたわ、反逆者の皆さん?」

 

 

 

 

 大勢の武装した兵士と、黒い感情の主の声と共に。

 




ん〜、展開に無理がある気がしますが今回こんな感じで。永夢さんだったらこう言う、レヴォル君だったらこうする……そんなこと考えてたらなかなか進まず。それでも楽しめていただけてら幸いです。

次回は戦闘のオンパレード。さぁどこまでエグゼイドの躍動感溢れる戦闘スタイルを描写できるか。自信ねぇぞ私!!(自虐)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 偽りのMagic!

まずすいません、めっちゃ長いです。戦闘ばっかりです。区切る場所に悩んだんですが、こんな長さになってしまって申し訳ありません。

けど今回で新しいレベル3解禁。皆さんもどうぞ、シャカっとリキっと読んでいただきたいです(ネタバレ)


 

 

 玉座の間は、イメージした通りに豪華絢爛を絵に描いたかのような場所だった。置かれた彫刻や絵画といった、広々とした室内の至るところに配置された調度品はいずれも高級品だと一目でわかる物であり、天上から吊り下げられた二つのシャンデリアもまた、照明以外にも芸術品としての役目も果たしており、見る者は感嘆のため息をつくだろう。

 

 ここは、王が自らの存在を知らしめす部屋。王が許す者以外は入ることすらできない、特別な部屋である。

 

「お待ちしてましたわ、反逆者の皆さん?」

 

 その部屋は現在、数えきれない兵士、ヴィランによってひしめき合っており、部屋の奥まった場所の高座に位置する立派な椅子に座る男と、その横に立つ女性から鋭い視線が侵入者こと永夢たちへと飛んでくる。当然、友好的な視線は一切感じられない。

 

「やはりな。兵士を全員、自分たちの守りのために一か所に集めていたか」

 

 城の中に兵士が一人も見当たらなかった理由が、ここではっきりした。パーンは取り囲む兵士とヴィランを、普段の穏やかな目つきから一変、鋭く冷たい物へと変える。

 

「ええ、確実に仕留めるのでしたら、誘い込んで一網打尽にした方がいいでしょう?」

 

 高座から永夢たちを見下ろす女性。鈴の鳴るような、この広い部屋でもよく響く声。しかしそこには冷たく、暗い感情が渦巻いているようにも感じる。

 

 だが、声そのものには一行には聞き覚えがあった。

 

「あれは……」

 

 声の主を見て、レヴォルが唖然とする。玉座に座る男、位置的に見てもこの国の王である人物に寄り添うような形で立つ女性。流れるような蒼く美しい髪と気品のある顔立ち。白い花を彷彿とさせるドレスを身に纏い、頭には煌びやかなティアラ。足にはシャンデリラの明かりを受けて水晶のように輝くガラスの靴。

 

 完成された芸術品のような美しい女性。しかしてその女性に対し、一行が驚いているのはその美しさにあらず。それを代弁するように、エレナが呟いた。

 

 

 

「シンデレラ、ちゃん……?」

 

 

 

 360°どこから見ても、レヴォルたちが知るシンデレラそのもの。今、すぐ傍にいるシンデレラと服装以外が瓜二つ。

 

「ま、マジかよ……そっくりっていうか、鏡でもあんのかって思ったぞ!?」

 

 驚愕するティムが言うよう、シンデレラの偽物が王妃となっているという事前情報を持っていた一行ではあるが、何かしら違いがあるはずと、少なからず思っていた。

 

 しかし、声や顔立ち、立ち振る舞いは、まさしくシンデレラ。正直なところ、こちらを鋭く見つめていなければ、本物と見間違える程だった。

 

「わ、私が……本当に、もう一人……?」

 

 一番困惑していたのは、当のシンデレラだった。本来ならばあの場所に立っているのは自分のはずだったのが、まるで幽体離脱をして第三者の目で見ているかのよう。

 

「……ほぉ、なるほど」

 

 そんなシンデレラを、玉座の上から観察するように見る王。威厳溢れる佇まいとは裏腹に、彼の瞳はどんよりと濁っている。それが不気味に思え、シンデレラは震える。永夢はそんな彼女を庇うように立ち位置を変えた。

 

 だが、すぐに興味を失ったかのように鼻を鳴らし、玉座にもたれかかった。

 

「君の言う通り、本当にそっくりだ。私以外の者が見たら勘違いしてしまうだろうな」

 

「ええ、陛下。私も最初聞いた時は驚きましたわ。ここまで似ているだなんて」

 

 そう言葉を交わす王と王妃。長年連れ添った夫婦のような、穏やかな声色。

 

 しかし、その会話の内容が聞き捨てならず、永夢が叫ぶ。

 

「それ、どういう意味ですか? ここにいるエラちゃんが、まるで偽物だとでも言うんですか!?」

 

「そのつもりで言ったのだが、わからないか?」

 

 嘲るように、王は一蹴する。何を言っているのかと言わんばかりに。

 

「そんな……何でわからないの? あなたのお嫁さんでしょう!?」

 

「一度彼女を見初めたあなたならば、どちらが本物かわかるはずだ!」

 

 エレナとレヴォルもまた、王のその態度に憤りを覚える。本当の彼女は、人を牢獄に閉じ込めたり、圧制を敷いたりなどするはずがない。それがわからない王ではないはずだと、二人は叫ぶ。

 

 が、そんな彼らに王は表情を変えた。

 

「黙れ無礼者!! 我が妻の姿を騙るばかりか、私の妻に対する信頼すらお前たちは否定するのか!!」

 

 己だけでなく最愛の人を侮辱されたと思った王の声は、威厳に満ちている。彼の眼が正常とは思えない程に淀んでいなければ、それは一国の主たる器の持ち主だと、レヴォルたちも納得していただろう。

 

「……いいえ、姿形(すがたかたち)はシンデレラさんそのものだけど、決定的に違うところがあるわ」

 

 そんな中、一人冷静に高座に立つシンデレラの姿をした王妃を見つめる、もとい睨む者がいた。

 

 アリシアだ。彼女は手に持つ時計のような装置、カオステラーを探すための感知計を王妃へと向けている。感知計の針は真っ直ぐ、力強く一点を指し示していた。

 

 

 

「間違いないわ! あの女がカオステラーよ!」

 

 

 

 確信を持って、アリシアが叫ぶ。カオステラー、すなわち王妃は本物のシンデレラにあらず。混沌の導き手として、この世界を破滅へと導く元凶そのもの。

 

 すなわち、敵。

 

「そういうことか。国王を洗脳して、自分の意のままに国を乗っ取ろうって魂胆か?」

 

「……」

 

 ティムの指摘に、王妃は答えない。ただ、アリシアに言い当てられてから、先ほどまでの余裕の表情が若干揺らいでいる。

 

「……陛下」

 

 そっと、王妃は王の手を取る。王は愛おし気に、王妃の手を握り返した。

 

「あの者たちを……私たちの幸せを消そうとする、あの破壊者たちを……」

 

「ああ……わかっているとも」

 

 瞳を潤ませ、懇願する王妃。王は、柔らかく微笑みながら頷いた。

 

 再び前を、永夢たちを見据える王。その顔から微笑みは消え、冷酷なまでに冷たく、そして殺意を持って、手を掲げた。

 

「我が忠実なる兵士たちよ!」

 

 それを合図に、兵士が、ヴィランが武器を構える。人間と化け物の混合隊が睨む先は、王にとって愛すべき者に害を与えようとする不届き者たち。

 

 永夢たちは押し寄せる殺気に怯まず、身構える。レヴォルたちは空白の書を開き、永夢はゲーマドライバーを腰に当ててベルトを装着。

 

 そして、

 

 

 

「その者たちを……斬れぇ!!」

 

 

 

 王の号令の下、兵士たちが殺到する。

 

「みんな、コネクトだ!!」

 

レヴォルたちは栞を書に挟み、コネクトを完了させて姿を変える。永夢はというと、躊躇なく振り下ろされる剣を避けつつ、ガシャットの起動スイッチを押した。

 

≪MIGHTY ACTION X!!≫

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

「はっ!」

 

 ガシャットを挿入する寸前、兵士が再び剣を振るう。それを永夢はバク宙で回避、距離を取った。前から二人、槍を構えて突撃してくる兵士を目にし、それでも尚焦ることなく叫ぶ。

 

「大・変身!」

 

≪ガシャット!≫

 

 ガシャットをゲーマドライバーに挿入、すかさずレバーを開き、ハイフラッシュインジケータを露わにした。

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!≫

 

≪マイティマイティアクション・X!!≫

 

「ふっ! はぁ!!」

 

 ピンク色の光と共にエグゼイド・アクションゲーマーレベル2へと変身。左右から突き出された鉄槍を両腕を上げて防ぎ、弾き飛ばした。突如姿を変えたエグゼイドと吹き飛んだ仲間を見て、押し寄せようとした兵士たちは驚き、たたらを踏む。

 

「悪ぃけど、お前らじゃ俺らには勝てねぇぜ!!」

 

≪ガシャコンブレイカー!≫

 

 挑発し、ガシャコンブレイカーを召喚、装備。ハンマーモードにして切りかかって来たヴィランを殴り飛ばした。

 

「シンデレラちゃん、ヘカテーちゃんこっち!」

 

「は、はい!」

 

「わ、わかったわ」

 

 敵の対処はエグゼイドたちに任せ、カーレンとなったエレナとラ・ベットとなったパーンは非戦闘員であるシンデレラとヘカテーを連れ、柱の影へ導いて走る。途中で襲ってきた兵士は、魔法陣か丸盾で吹き飛ばして対処。物陰へと二人を隠し、二人を守る位置取りで敵を迎え撃つ。

 

「行くぞ、ティム!」

 

「ヘッ、足引っ張んじゃねぇぞ王子サマ!」

 

 ロミオとなって剣を振るい、迫るヴィランを切り伏せるレヴォルと、槍盾を手にして兵士の剣を防ぐヴァルト王子のティムと背中合わせとなって猛攻を防ぐ。これまで数多の戦いを潜り抜けてきた二人の前に、一介の兵士やヴィランなど相手にならない。

 

「せりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」

 

「どっせい!!」

 

 一方の酒呑童子のシェイン、そして口元を布で隠し、妖艶な肢体を布地の少ない服で覆った、とある青年に対する忠義に生きる女性『モルジアナ』へ姿を変えたアリシアが、兵士とヴィランに鍛え上げられた四肢から繰り出される猛攻を見舞う。ある者は腕が無数に増えたかの如く超高速で繰り出される鬼の拳で殴り飛ばされ、ある者はその細い足から繰り出される鞭の如く鋭い蹴りで吹っ飛ばされ、誰一人として近づく者を許しはしない。

 

 これまでいくつもの想区を救ってきた再編の魔女一行による進撃。それを止められる者は誰もいない。

 

 そして、それは百戦錬磨の仮面ライダーも同じこと。

 

「おりゃぁっ!!」

 

「ぐわっ!?」

 

 ガシャコンブレイカーによる横殴りの攻撃は兵士の剣をへし折り、さらに強烈な回し蹴りは鎧越しでも関係なく、幾人もの兵士を巻き添えにして吹き飛ばす。

 

 これでも、エグゼイドは手加減をしている。彼が戦う相手はバグスターや、この世界のヴィランといった人に害をなす存在。生きている人間を相手取るのは、命を何よりも大切にしてきたエグゼイドの本意ではない。

 

(ごめん……!)

 

 しかし、今回ばかりは不可抗力だ。彼らを相手取らなければ、この世界を混沌に陥れる元凶の下へ辿り着けない。心の内で謝罪しながら、槍を突き出してきた兵士の首元に軽く手刀を叩き込んで昏倒させ、続いてその後ろから剣を振り上げてきたウィング・ヴィランには渾身の拳を叩き込む。

 

「よし、このまま……!」

 

 押し切ってしまおう、そう考えた矢先、エグゼイドの聴覚センサー『センダーイヤー』が、頭上から空を切る音を拾う。同時、その場から横へと転がることで、音の正体である矢、それと光弾を回避することに成功した。

 

「上か!」

 

 見上げると、部屋の高い位置、明かりに群がる虫の如く、二つのうちの一つのシャンデリア周辺を浮くウィング・ヴィラン及びゴースト・ヴィランの混合部隊。手に弓、そして杖を持つヴィランたちは、エグゼイドに狙いをすませて集中攻撃を浴びせようと得物を構える。

 

 遠距離に届く武器はない。しかし、エグゼイドには仮面ライダーの脚力がある。

 

「はっ!」

 

 エグゼイドの『クイックファイトシューズ』を作動させて跳躍、弾丸の如く飛び上がったエグゼイドは、手近にいたウィング・ヴィラン目掛けてガシャコンブレイカーの刃を

 

「そりゃぁ!!」

 

≪HIT!≫

 

 叩きつけ、倒す。そのままシャンデリアの上に乗り、吊り下げられた鎖が揺れてバランスを若干崩しかけつつも持ち直した。

 

「っとと。よし!」

 

 シャンデリアに乗ったエグゼイドを迎え撃つため、ヴィランが一斉に動く。手に剣や槍を持ったヴィランは接近してエグゼイドへ迫り、遠距離武器を持ったヴィランはその場から動かずにエグゼイドへ照準を合わせる。

 

 が、そのうちの一体が爆発。続けざまにもう一体、ウィング・ヴィランの羽に穴が開き、落下していく。

 

「下に私たちがいるのを忘れてもらっちゃ困りますね」

 

「こっちは任せて! 援護するわ!」

 

「わかった! サンキュー!」

 

 タチアナとなったシェインと赤ずきんのアリシアからの援護射撃により、エグゼイドが相手するのは迫り来るヴィランのみとなる。ウィング・ヴィランからの突撃を回避してすれ違い様に切りつけ、ゴースト・ヴィランからの斬撃は受け流して蹴り飛ばす。

 

 ウィング・ヴィランは次々と倒され、消えていく。しかし問題はゴースト・ヴィランにあった。

 

(クッソ、やっぱこいつらは苦手だな!)

 

 以前戦った時同様、ゴースト・ヴィランには斬撃、打撃の類は効きにくい。故に一体二体は倒せても、正直埒が明かない。

 

 ならばロボットアクションゲーマーになるしかない。そう考え、エグゼイドはゲキトツロボッツガシャットを取り出し、起動スイッチを指にかけた。

 

 が、その瞬間、エグゼイドの手に衝撃が走る。

 

「って! あ、やべ!」

 

 それも、よりによってガシャットを持つ手。赤いガシャットはエグゼイドの手から離れ、レヴォルたちが戦う眼下へと落ちていく。顔を上げれば、弓を手にしたウィング・ヴィランがエグゼイドへ向けて「してやったり」と言わんばかりに飛んでいる。ガシャットを叩き落としたのは、あのヴィランだとエグゼイドは気付く。その直後、シェインの矢がそのヴィランを貫いた。

 

 犯人はわかったが、有効打を失くし、エグゼイドはゴースト・ヴィランに対抗する手段を失くす。シェインたちに頼むかとも思ったが、彼女たちは下にもいる敵も同時に相手どっているため、これ以上の援護は難しそうだった。

 

「くそ、どうすりゃ……」

 

 敵の攻撃を防ぎつつ、エグゼイドは思案する。他のガシャットを使うか、それ以外に何かないかと周りを見回して……気付いた。

 

 エグゼイドが動く度に振り子のように揺れるシャンデリア。それを天井に繋げて支える、頑丈な鎖。

 

 少し危険だが、エグゼイドのイメージ通りに動くのならば……。

 

「……よし!」

 

 ガシャコンブレイカーを手放し、エグゼイドはシャンデリアの一番外側の装飾を掴みながら飛び降りる。そして、軽やかに装飾から装飾を伝って、シャンデリアの中央部分へ。

 

「フンッ!」

 

 シャンデリアを掴みながら、身体を前後の大きく揺らす。それに伴い、シャンデリアもエグゼイド同様に揺れる。

 

 何度か繰り返すうち、シャンデリアの揺れが最初は僅かであったものが、やがて大きくなっていく。その間にもエグゼイドを狙おうとヴィランが迫るが、揺れるシャンデリアを前に接近することすらできず、矢や魔法で撃とうにも狙いが定まらない。

 

 やがて揺れは最高潮へ。それによって、シャンデリアはもはやただの照明器具ではなく、

 

「おりゃぁぁぁぁっ!!」

 

 一つの凶器となって、ヴィランを襲う!

 

『――――ッ!?』

 

 揺れを器用にコントロールし、時にチョコブロックを生成してそれを蹴ることで勢いをつけて、円を描くようにシャンデリア操ってヴィランへぶつけていく。凶悪な鈍器となったシャンデリアを前に、ウィング・ヴィランは勿論のこと、さすがのゴースト・ヴィランもただではすまない。成す術なく、ぶつかった衝撃で破損されたシャンデリアの部品と共にヴィランはぶっ飛んでいく。尚、シャンデリアの範囲外にいたヴィランはというと、シェインとアリシアによる射撃で対処されていく。最早ヴィランたちにとっての安全圏は無いに等しい。

 

「ほっ」

 

 ひとしきり倒したと判断したエグゼイドは、シャンデリアから手を離す。一軒家以上の高さもあるにも関わらず、エグゼイドは身体を丸めて回転しつつ落下、そして膝を曲げて華麗に着地。同時、彼の周囲にシャンデリアの壊れた欠片が雨みたく降り注いだ。

 

「む、無茶苦茶しやがる……」

 

「大胆ですねぇ……さすがの私もそのやり方は思いつきませんでした」

 

 ティムが顔を引きつらせ、シェインも呆れ気味に言う。エグゼイドはそんな二人に、立ち上がって手の埃を叩き落としながら返した。

 

「その場にある物をうまく活用してくのも攻略の鍵って奴だ。ゲームの基本だぜ?」

 

「いや、さすがにあれは……まぁ、肝に命じてはおくよ」

 

 確かに、環境を利用した戦い方もあるにはあるが、まさかシャンデリアをあそこまで豪快に使うのはエグゼイドくらいのものだと思いつつも、レヴォルは苦笑交じりに言ってエグゼイドが落としたゲキトツロボッツガシャットを拾い上げ、手渡した。

 

「お、サンキュー……さってと」

 

 受け取り、礼を言ってから見回す。頭上にいたヴィランは殲滅。地上の方も、兵士はほとんどが気絶、無事な兵士は戦意を喪失してすでに逃げ出した後。ヴィランの姿はない。

 

 対し、エグゼイドたちは五体満足。敵は少なくはなかったが、まだまだ余力は十分にある。

 

「これで、後はお前たちだけってことだな」

 

 前座はこれでおしまい。残すは、玉座から見下ろす王と、眉間に皺を寄せて美しい顔を僅かに歪ませる王妃のみ。

 

「お前を守るヴィランと兵士はもういない。観念して正体を現せ!」

 

 レヴォルが王妃に剣を突きつける。対し、王妃は何も言わずに、ただただエグゼイドたちを睨みつけた。

 

 忌々しい……言葉にせずとも、王妃からそんな意思が伝わってくる。が、彼女の横から鋭い声が飛ぶ。

 

「……我が妻よ、下がっていてくれ」

 

 ゆったりと、王が玉座から腰を上げる。豪奢な服に、見た目麗しい顔。まだ若く見えるが、それでも王としての威厳が備わっているのが、離れた位置にいるエグゼイドたちにもわかる。

 

「陛下……私、信じております」

 

「ああ、わかっているとも。かならずや、君の心を乱す狼藉者どもを成敗してみせる」

 

 うっとりと、王を見つめる王妃。微笑み、穏やかな口調で返す王。美男美女、傍から見れば絵画にすらなりえる光景。

 

だが、視線をエグゼイドたちへ戻すと一変。濁った瞳は鋭く、敵意を漲らせてエグゼイドたちを見据える。

 

「我が配下を退けたことは誉めてやる……しかし、私はそうはいかんぞ」

 

「国王が相手ってわけか……こりゃやりにくいな」

 

 倒すべきは、カオステラー。目の前の男は操られているだけで、倒すべき相手ではない。どうにもやりにくいと、エグゼイドが悩んでいる時だった。

 

「王子様! もうやめてください!」

 

「シンデレラちゃん!?」

 

 エグゼイドの横に、シンデレラが立つ。エレナが止めようとしたが、それでも彼女は必死に王へ呼びかけた。

 

「あなたはこんなことをするお人じゃないことを、私はわかってます! お願いですから目を覚まして! あなたの横にいる人は、あなたが愛する人じゃありません!!」

 

 シンデレラとて、彼を愛しているかはいまだわからない。運命の書という筋書き通りに、彼を愛すべきであることはわかっているが、こんな自分に彼を愛する資格などあるかなど疑問にすら思っていた。

 

 しかしそれでも、彼が愛していると思っている人間は、本来彼が愛すべき人間ではない、別の何か(・・)であることは、シンデレラにだってわかる。彼の暴走を止めなければ、また不幸になる人間が出て来る。

 

 だからこそ、彼女は止める。例え愛していなかったとしても、彼の隣に立つべきはずの自分が()を犯したせいでこうなったのならば、これもまた自身の罪なのだと、シンデレラは思いながら。

 

「……フフ」

 

 しかし、そんな彼女の思いからくる説得を、冷たい笑い声が一蹴する。声の主は、王の後ろ。玉座の横で成り行きを見守っていた王妃。口に手を当てて笑う彼女に、エグゼイドが叫ぶ。

 

「何がおかしいんだ!」

 

「……何が? こんなのおかしいに決まっているでしょう?」

 

 言って、王妃は舞台役者のように両手を広げる。

 

「あなたに王の何がわかるの? こんなことをする人じゃない? 私は彼の愛する人じゃない? ……それをあなたが語るの? 彼のことを知ろうともしなかったあなたが?」

 

「っ、そ、それは……」

 

 痛いところを突かれた彼女は、一歩後退る。その姿に、王妃は嘲笑う。

 

「あなたは所詮、我が身可愛さだけの小娘。自分が辿るべき運命すら簡単に奪われるような、そんな人間が王を説得だなんて、ちゃんちゃらおかしいわ!」

 

「黙れ! 他人の運命を玩具にするようなお前が何を言うんだ!」

 

「そうだよ! シンデレラちゃんの運命を取り上げた癖に!」

 

 シンデレラを嘲る彼女を、レヴォルとエレナが憤慨し、責める。それでも尚、王妃は長く煌めく髪をかき上げ、彼らの怒りの声を流す。

 

「取り上げた? 違うわね……彼女は落としたのよ」

 

「……何?」

 

 落とした? 何を? 主語が抜けているその言葉に、レヴォルが疑問符を浮かべた。

 

「彼女は落としたのよ。12時になる前に城から慌てて出て行く際に落としたガラスの靴のように……彼女の運命(・・)をね。それを私は拾っただけ。感謝して欲しいわね? 私が拾わなかったら、この世界は筋書き通りの運命を辿ることができなかったのだからねぇ?」

 

 語る王妃。意味がわからない一行。

 

 しかし、唯一その意味がわかった人物がいた。

 

「……な、何で……そんな、はずが……」

 

「お、おい? 大丈夫か?」

 

 震え出したシンデレラ。顔は青ざめ、言葉を発するのもままならない。今にも倒れそうになるシンデレラを、エグゼイドが支えた。

 

「あら、何となく検討ついたようね? ……けど、あなたはここでおしまい。せっかくだし、余興にでも付き合ってもらおうかしら?」

 

 言って、王妃は掌を一回、軽く叩く。乾いた音が空間に響き、一瞬だけ沈黙が支配した。

 

 突如、沈黙を破るように音がする。キラキラという、鈴を鳴らすような軽やかな音色。

 

 が、その音と共に、エグゼイドとシンデレラが立っている場所を突然暗く、丸い影が覆う。それが何なのかを把握する寸前、エグゼイドの背筋に悪寒が走った。

 

「危ない!」

 

 咄嗟にシンデレラを抱え、飛び退る。直後、二人がいた場所に丸い何かが落下、地面にめり込み、罅が走った。

 

 後少し、エグゼイドの判断が遅れていれば二人を同時に潰していただろう存在を改めて見やる。オレンジ色の光沢を放ち、頂点からは緑の蔓が生えたそれは、エグゼイドの頭一つ分大きい。縦に幾つもの割れ目が入ったそれは、エグゼイドにも、そしてレヴォルたちも見たことがある物体だった。

 

「か、カボチャぁ……?」

 

 それは、カボチャ。しかしこれは、終ぞお目にかかれない程の巨大さを誇っている。

 

 何故こんな巨大なカボチャが? そう疑問に思うエグゼイド。しかし、レヴォルたちは知っている。カボチャとは、シンデレラが馬車として城へ向かうためのキーアイテムの一つであることを。

 

 そして、そのカボチャの馬車を生み出した存在を。

 

「そんな……まさか!?」

 

 レヴォルが見上げる。その先に、この超重量のカボチャを生み出した存在が、宙を浮く形でエグゼイドたちを見下ろしていた。

 

 薄緑の長い髪。花のようなドレス。手にした短杖と、背中から生えた色とりどりの蝶のような羽。一人の少女の幸福を願い、見守り続ける心の優しい女性。

 

 シンデレラも、彼女を知っている。だからこそ、信じられないという気持ちで、彼女を見た。

 

 

 

「フェアリー・ゴッドマザー……!?」

 

 

 

 シンデレラの物語において、彼女の運命を導く最重要人物。妖精の魔法使い『フェアリー・ゴッドマザー』その人が、シンデレラたちに感情のない瞳を向けていた。

 

 

 

~ 第11話 偽りのMagic! ~

 

 

 

「何で!? 何でフェアリー・ゴッドマザーがシンデレラちゃんを!?」

 

 エレナが慌てふためき、疑問を叫ぶ。彼女は、シンデレラを何よりも大事に思っていた筈。そんな彼女が、どうしてシンデレラに殺意を込めて攻撃してきたのか。

 

 そんなエレナの疑問を余所に、王妃がフェアリー・ゴッドマザーに向かって言う。

 

「さぁ、フェアリー・ゴッドマザー。私の幸せを壊そうとする人たちのことをお願いね」

 

 王妃の言葉に、フェアリー・ゴッドマザーは振り返り、二コリと、穏やかに、機械的に笑った。

 

「ええ、シンデレラ。私の幸せは、あなたの幸せ……かならず、守り通します」

 

「……彼女も、洗脳したか」

 

 パーンが王妃のしたことに歯噛みし、そして怒りを込めて言う。王妃はそれすらもしれっとした態度で返した。

 

「ええ。まぁ、さすがに私を一目見てすぐにわかったようだけど。けど、私にかかれば私をシンデレラと認識させるのも簡単だったわ」

 

「なんてことを……最低ね、あなた」

 

「やることなすことえげつねぇな。どのカオステラーにも言えることだがよ」

 

 自分の幸せのためなら、どんな相手だって手駒にする。王妃の卑劣さに、アリシアとティムが悪態をついた。

 

「何とでも言いなさいな……さぁ、陛下」

 

「ああ……任せておきなさい」

 

 王が息を深く吸いこむ。そして、突然その場で蹲った。

 

「うっぐっおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 何をするつもりなのか、成り行きを見守る一行。が、突然王の身体が黒く染まり、やがてその身体は変形していく。身体の骨格が、大きさが、粘土細工のようにグネグネとした動きをして変わっていく。

 

 異様な光景。思わず全員後退する。やがて王の面影が完全に消え、その姿が露わとなった。

 

 

 

『GRAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 

 

 その姿は、まごうことなき竜だった。約3mの高さのある巨体。赤い鱗を鎧のように身に纏った竜。赤く鋭い目。鋭利な牙が生え揃った口を大きく開き、空間を震わせる咆哮を放つ。

 

「メガ・ドラゴン……!」

 

「クソ、すでに彼の運命の書を書き換えられていたか!!」

 

 カオステラーが己の運命を守護するために、想区の住人の運命の書を書き換えることで生まれるヴィラン。彼女を寵愛していた王は、すでに彼女によって自身の運命を狂わされ、メガ・ヴィランの中の一つであるメガ・ドラゴンへと変えられていた。

 

「そんな……王子様……」

 

「エレナ!」

 

「シンデレラちゃん、下がってて!」

 

 王がヴィランに、化け物へと変貌を遂げたことでショックを受けるシンデレラ。そんな彼女を、エグゼイドがエレナに預ける。

 

 そして、エグゼイドはドラゴンへ変わり果てた王を見る。最早人の面影はなく、炎を吹いて威嚇するその姿から、人としての理性をも失ってしまったと見ていいだろう。

 

「……エム?」

 

 黙って見ているエグゼイドに、レヴォルが声をかける。その表情は仮面に隠れて伺えない。しかし、顔は見えずとも彼が何を考えているのか、その身から漂う気迫で理解できた。

 

「レヴォル。あいつはもう元には戻せないのか?」

 

「っ……!」

 

 そう尋ねるエグゼイド。レヴォルはそれに答えるか迷う以前、彼から発する言葉がいつもより低く、感情を抑え込もうとしているのがわかった。

 

 その感情は……“怒り”だった。

 

「……カオステラーに運命を書き換えられてヴィランになった人間は、再編しない限り元に戻らない……」

 

 有無を言わせぬエグゼイドに、レヴォルは本当のことを伝える。それしか救える道はないと、はっきりと。

 

「……そうか」

 

 それだけ言って、エグゼイドは拳を握りしめる。

 

 目の前にいる化け物は、かつて人であった存在。けれど元に戻す術はない。これ以上彼を野放しにしていれば、より大きな被害が出る。

 

 すなわち……倒すしかない。

 

「……ふざけるなよ。人の命を……玩具にしやがって……!」

 

 己のために、人を苦しめ、運命を狂わせ、命を弄ぶ。エグゼイドの爆発寸前の怒りは、真っ直ぐ、ヴィランを突き抜けて、その背後にいる王妃へとぶつける。

 

 嗤う王妃は、下す。最早人ですらなくなった愛すべき人だった者に対し、冷たく、ただ一言。

 

「行きなさい」

 

 それを皮切りに、王であったメガ・ドラゴン。後ろから続くフェアリー・ゴッドマザー。さらには、王妃が呼びだしたのか、あらたなヴィランが数十体、再びエグゼイドたちに牙を剥く。

 

 だがエグゼイドは恐れない。

 

「カオステラー……! お前だけは、絶対許さない!!」

 

 命の大切さを何よりも尊ぶ彼だからこそ、そのやり方を認めるわけにはいかない……故に、退くわけにはいかない!

 

≪ガシャコンブレイカー!≫

 

 愛用の武器を手に、エグゼイドは飛び上がる。そして、

 

「おりゃぁ!」

 

≪HIT!≫

 

メガ・ドラゴンの頭に、ハンマーモードのガシャコンブレイカーによる渾身の一発をお見舞いする。角の生えた頭頂部に一撃を食らったメガ・ドラゴンは痛みに呻く。

 

 が、それだけだった。ギロリとエグゼイドを睨むと、彼に向けて大きく口を開く。

 

「やべっ……!」

 

 口の奥が真っ赤に燃えたのを視認したエグゼイド。空中にいる以上、回避行動に移れない。

 

 容赦なく、メガ・ドラゴンの口から火炎弾が発射、エグゼイドに命中した。

 

「ぐあっ!?」

 

「エム!」

 

 爆発し、煙の中から飛び出すエグゼイド。もんどりうってレヴォルたちの下へ転がっていくが、受け身を取ってすぐに起き上がった。

 

「わりぃ、油断した!」

 

「気を付けろ! 背後にカオステラーがいる以上、今までと同じようにはいかないぞ!」

 

 一体のヴィランを斧で切りつけながらパーンが叫ぶ。その間、またも暗い影が彼らを襲う。

 

「まずい、みんな散れ!」

 

 四方に散った瞬間、先ほど同様にフェアリー・ゴッドマザーが召喚したカボチャが落下、石片が散らばりエグゼイドたちが怯んだところを、ヴィランが襲う。

 

「くそっ!」

 

≪HIT!≫

 

 襲ってきたヴィランをハンマーで殴り飛ばしつつ、体勢を立て直すために距離を取る。レヴォルも同じく、エグゼイドと並んで武器を構えた。

 

「行くぞ、エム!」

 

「ああ!」

 

 ヴィラン目掛け、駆け出す二人。爪や剣で二人を切り裂かんとするヴィランを、逆に切り返して吹き飛ばし、薙ぎ払う。

 

 が、そんな彼らにメガ・ドラゴンによる火炎弾が迫る。左右に回避した二人の間に着弾、爆発する火炎弾。そして回避した彼らに、再び襲い掛かる取り巻きのヴィランたち。

 

「エムさん! レヴォル!」

 

「今援護を……!」

 

 エレナたちがエグゼイトたちに加勢しようとした。が、それをシェインが止めた。

 

「危ない、避けなさい!」

 

 再び爆撃の如く降る巨大カボチャ。慌てて避けるエレナたちだが、フェアリー・ゴッドマザーによる攻撃もまた熾烈を増す。

 

 大火力のメガ・ドラゴン、援護のフェアリー・ゴッドマザー、そして突撃してくる周りのヴィラン。本人たちが意図しているか否かは定かではないが、接近するのを許さない連携を前にして、エグゼイドたちは苦戦する。

 

「このままじゃ埒があかない……!」

 

 レヴォルが悔し気に、エグゼイドと背中合わせに立って剣を構える。ヴィランは倒せても、彼らを総統しているメガ・ヴィランに近づけない以上、このままではジリ貧だ。さらに言えば、その後ろには親玉の王妃がいる。ここで消耗をしていては、相手にすることすらままならない。

 

 どうにかしなければ……そう考えていたレヴォルに、エグゼイドが振り返った。

 

「レヴォル、あのデカブツとヴィランは俺に任せろ!」

 

「な……何を言うんだ!? この数を一人は……!?」

 

 突然の申し出。それはヴィラン全員を自身一人が引き受けるという物。当然、レヴォルは反対し、声を荒げた。

 

「なぁに、心配すんな! こっちには秘策があるからな! お前らは、あの人を相手してくれ!」

 

 エグゼイドは顎を使い、空中で杖を振るうフェアリー・ゴッドマザーを指し示す。彼女によるカボチャ爆撃は確かに強力だが、彼女自身に戦闘能力はそこまで高いわけではなく、こうしてヴィランたちと連携を取られたら厄介なだけで、単体として戦えば苦ではない。それは確かだが……。

 

「しかし……!」

 

 それでも、エグゼイドが相手取ろうとしているのは凶暴なヴィランだ。先ほどもエグゼイドが吹き飛んだ光景を目の当たりにした以上、彼一人を戦わせるのは……そうレヴォルは考える。

 

 

 

「大丈夫だ。俺を信じてくれ」

 

 

 

 ポンと、レヴォルの肩に手を置くエグゼイド。鋭い目付きの仮面越しから、確かな強い意志が伝わる。

 

 思えば、最初に彼が変身した時もそうだった。並み居るヴィランを前に、恐れもなく、前のみを見据える彼の背中には、確かな信頼を感じた。そして、その通りに彼はほぼ一人で完封してみせた。

 

 目の前にいる存在は、より強大だ。しかし、彼は絶対に負けない……彼の仮面を見て、そう信頼をしてしまう。何とも不思議な気分だった。

 

「……わかった。けど、無茶だけはしないでくれ」

 

「ヘッ、誰に言ってんだよ?」

 

 再びヴィランたちへ向き直るエグゼイド。そして、左腰のサブガシャホルダーに手を伸ばす。

 

「俺は誰にも負けるつもりはないぜ? ……なんてったって俺は」

 

 取り出したるは、黄緑色のガシャット。そのガシャットに描かれている絵柄をヴィランたちに見せつけるようにして、スイッチに指をかける。

 

「天才ゲーマーMだからな!」

 

 

 

≪SHAKARIKI SPORTS!!≫

 

 

 

 ガシャットのスイッチを押し、起動。ギターの演奏のような電子音と共に、エグゼイドの背後にカラフルなタイトルロゴ画面が映し出される。そして、そこから一つの物体が飛び出してきた。

 

「な、何あれ……?」

 

 それを見て、エレナが思わずキョトンとする。以前のゲキトツロボッツガシャットのような物体が飛び出してくるのかと思えば、前が緑、後ろがピンクといった派手な色合いの二輪で構成された物が、エグゼイドの周りをぐるぐると走り出す。見た目からして乗り物のように見える。

 

「あれって……確か以前学院の資料室で見たことがあるわ。ジテンシャって乗り物だったかしら?」

 

「ああ。人の足よりも速い乗り物として知られているね」

 

「……何でそんなもんをお医者さんは呼び出したんだよ?」

 

≪ガッチョーン≫

 

 現物を初めて見る一行はそれ、自転車を呼び出したエグゼイドの真意を測りかねる。当のエグゼイドは、アクチュエーションレバーに手をかけて閉じ、そして左手に持ち直したガシャットを左側スロットに挿す。

 

≪ガシャット!≫

 

「大・大・大変身!!」

 

 ゲキトツロボッツの時と同様、腕を大きく三回転。そして勢いよくレバーを開く。

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

 例の如く、パネルが二枚展開される。それがエグゼイドと重なって、彼の変身シークエンスが開始された。

 

≪マイティマイティアクション・X!!≫

 

≪アガッチャ!≫

 

 猛スピードで回っていた自転車『スポーツゲーマ』が意思を持つかのように飛び上がり、エグゼイドの上で展開、そして、

 

 

 

≪シャカリキ! シャカリキ! バッド・バッド! シャカっと・リキっと・シャカリキスポーツ!!≫

 

 

 

 自転車がエグゼイドと合体。右肩をピンクのホイール、左肩を黄緑のホイール、そして胸部と頭部にカラフルな防具が装着される。

 

 変身が完了し、そこにはエグゼイド・スポーツアクションゲーマーレベル3の姿があった。

 

「わぁぁぁ! 新しい恰好だぁ! すごいすごーい!!」

 

「いいわねいいわねぇ! あの色合い! そして追加された装甲! かっこいいじゃない!」

 

「ほほぉ……ジテンシャをああいう風に付けるとは、斬新ですねぇ……」

 

 エグゼイドの新たな姿にテンションが上がる女性陣。その隣、ティムが何とも言えない表情でエグゼイドを見ている。

 

「……なぁ、前はおチビで邪魔されて言えなかったんだけどよ……仮面ライダーのあの音楽? みてぇのって、場違いすぎじゃねぇか?」

 

「えー? あれがかっこいいんだよ? ティムはわかってないなー」

 

「そうよそうよ! それがわからないだなんて、ダメダメね」

 

「全くこれだからティム坊やは……」

 

「……なぁ先生。俺正直な感想言っただけだよな? なんでここまでボロクソ言われなきゃいけねぇんだ? 俺」

 

「まぁ、人の感性は様々だからね。仕方ないと受け止めるしかないな」

 

 感想を呟いた瞬間に女性陣からダメ出し喰らって軽く凹むティムを、パーンは肩を叩いて慰めた。

 

「っ! みんな、危ない!」

 

 と、そんな彼らにまたもや影が覆い、レヴォルが叫ぶ。

 

「へ? うわわ!」

 

「うわっと!?」

 

 慌て、エレナたちは頭上から襲い来るカボチャを避けた。

 

 

 

 

「何やってんだよあいつら……」

 

 そんな彼らを見て、エグゼイドは呆れる。ある程度の緊張感はあってしかるべきかもとも思ったが、あれはあれで心強い。気を取り直し、エグゼイドは自身を取り囲むヴィランを見据えた。

 

「さぁて! じゃあ行くとするか!」

 

 右肩のホイール『トリックフライホイール』の軸部分を持ち、肩から分離する。腕を引き、その車輪を

 

「うりゃ!」

 

 思い切りぶん投げた。ホイールは高速回転し、ピンク色のエネルギーを放ちながらヴィランへ迫る。そして、

 

『――――ッ!?』

 

 一体のブギー・ヴィランを切り裂き、両断。そのままホイールは弧を描き飛んでいき、再びUターン、エグゼイドへ切りかかったナイト・ヴィランが、その鎧の硬度を無視するかのように切断された。

 

 本来ならば自転車のタイヤの役目を果たすホイールだが、スポーツアクションゲーマーとなって使用した場合、ホイールは鋭利な刃物となる。

 

「よっと!」

 

 そのホイールをエグゼイドはブーメランのように受け止め、

 

「はっ!!」

 

 再び投げる。エグゼイドの頭部の『シャカリキメット』に内蔵された装置により、ホイールを手足の如く自在に操るエグゼイド。エグゼイドを中心に円を描きながら飛ぶホイールは、さながら暗殺武器チャクラムのよう。鋭い刃と化したホイールの竜巻を前に、ヴィランは両断されていく。最後の一体が真っ二つにされて消滅し、あれほど数のいたヴィランは残すところ炎を吐くメガ・ドラゴンのみとなる。

 

「おらぁ!」

 

 ホイールを投げ、エグゼイド自身も飛び上がる。メガ・ドラゴンはホイールを受け止めようと手を伸ばすが、直前で不規則な動きをしてうねるように飛び、その腕を回避、逆に腕を切断した。

 

『GAAAAAAAAAAAAAA!?』

 

 予想外の動きに焦り、腕を切られて痛みに叫ぶ。だがエグゼイドは容赦しない。

 

「はっ!」

 

≪HIT!≫

 

『っ!?』

 

 メガ・ドラゴンの後頭部を縦に回転しながら蹴り飛ばし、エグゼイドは勢いをつけてさらにジャンプ。手元に戻って来たホイールをメガ・ドラゴンに叩きつける。

 

「せぇ! はぁっ!!」

 

≪HIT!≫≪HIT!≫

 

 一撃、二撃、確実にダメージを与えてから飛び上がる。直後、エグゼイドがいた場所をメガ・ドラゴンの牙が襲い、空を噛んだ。

 

 ヒット&アウェイ戦法。単純だが、エグゼイド自身とホイールの連携攻撃をもってすれば、有効打となって相手を追い詰めることができる。

 

「おりゃぁ!!」

 

 ホイールを投げ、メガ・ドラゴンの首元を狙う。が、鱗に弾かれてしまう。

 

「まだまだ!」

 

 戻って来たホイールを、今度は蹴り飛ばす。蹴りによる威力によって、弾かれた部分、即ち傷ついた鱗に再び迫るホイール。傷ついた分、ダメージの入った鱗は弾くことなく、ホイールの刃が通った。

 

『GYAAAAAAAAAAAA!!』

 

 雄叫びを上げ、苦しむメガ・ドラゴン。身体中傷だらけとなり、満身創痍といってもいい。苛立ちと怒りが込められた目を、エグゼイドへと向ける。そして火炎弾を放とうと口を開いた。

 

「いいぜ? そんなら勝負と行こうか!」

 

 勝ちを確定しているとはいえ、油断はしていない。確実に仕留めるならば、今この瞬間……一番もろい、口の中を狙うのみ。

 

 故に、エグゼイドは正面から火炎弾を撃ち破るのを試みる。

 

≪ガッシューン≫

 

 ガシャットを抜き、端子部分に息を吹きつける。そして、左腰のキメワザホルダーへ。

 

≪ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 右手に持つホイールに、キメワザ発動時のエネルギーが集まり、高速回転を始める。エグゼイドは腰だめにホイールを構え、エネルギーが集まるのを待った。

 

 

 

 

「さぁ、行くわよ!!」

 

 一方のレヴォルたちも、洗脳されたフェアリー・ゴッドマザーと少数のヴィランを相手取る。アリシアの号令と共に放たれた砲弾を合図に、カボチャによる攻撃に対処するために各々散らばる。

 

「おらぁっ!」

 

 アリシアの砲弾が一体のヴィランに命中、爆風を巻き上げると、それに乗るようにティムが槍を逆手に持って飛び上がる。そして気合一閃、矛先から迸る炎が地面に深く突き刺さり、爆炎となって広がる。大蛇の如くうねる炎はヴィランを飲み込み、灰燼へと変えた。

 

「はぁっ!!」

 

 パーンもまた、ヴィランへと躍りかかる。手にした斧に雷を蓄え、それを回転しながら振るう。さらにコネクトしているラ・ベットにとって重要なアイテム、薔薇を花びらを撒き散らし、それら一枚一枚にも雷のエネルギーが宿り、ヴィランを襲う。雷と薔薇、そして斧による嵐。それらを防ぐ手立てを、ヴィランは持たない。ティム同様、雷のエネルギーをもろに受けた彼らもまた、消滅へと追いやられて行った。

 

「さぁて、私もやってやりましょうか」

 

 酒呑童子のシェインも、手甲を付け直して気合を入れる。ふと、周りが暗くなったのに気付き、見上げる。またもカボチャによる攻撃が、シェインへと迫っていた。

 

「いい加減、その攻撃には慣れました」

 

 頭上へカボチャを落とす攻撃など、もはや見切った。その意味合いで言い放つシェインは、手甲の刃を引き、そして真っ直ぐカボチャへと、

 

「はっ!」

 

 呼気と共に突き出す。鬼の髄力による拳は弾丸となり、カボチャの中心部分を穿つ。蜘蛛の巣状に広がった罅はやがて、カボチャを爆発四散へと追いやった。

 

「くっ……!」

 

 カボチャが破裂したのを見て、状況は芳しくないと思ったフェアリー・ゴッドマザーは、より高い位置へと逃れようと羽を動かす。が、突如として羽が動かなくなる。

 

「な……!?」

 

 羽だけではない。身体そのものが重く、宙へ浮くための力が維持できなくなっていることに気付く。何事なのか、フェアリー・ゴッドマザーが眼下を見下ろして原因を探る。

 

「悪いけど、それ以上好きにはさせないよ!」

 

 原因はすぐに見つかった。エレナだ。カーレンとなった彼女の周りには、幾つもの赤い靴が踊り手がいないにも関わらず、軽快なステップを踏むように、されど絶望に嘆き悲しむかのように踊り狂っている。その赤い靴がもたらすものは、破滅。フェアリー・ゴッドマザーの身体を蝕むような呪いが、彼女の身体から力を奪う。

 

 宙へ舞い上がれないフェアリー・ゴッドマザーは、徐々に高度が下がるのを体感する。それすなわち、安全圏からの攻撃はもはやできない。それ以前に、カボチャによる攻撃も今ではままらない。

 

 そこから導き出される結果は一つ。

 

「レヴォル、今だよ!!」

 

 彼らにとっての、反撃のチャンス。

 

「行け、王子サマ!!」

 

 ティムが身の丈程ある盾を上向きにして構えながら、レヴォルを呼ぶ。レヴォルは、すかさずティム目掛けて跳躍、盾の上に飛び乗った。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ティムの盾を踏み台にしたレヴォルは、手にした剣を頭上に掲げるかのように振り上げたまま飛び上がる。そうすることで、フェアリー・ゴッドマザーとの距離が縮まり、攻撃範囲内へと収まる。

 

(エムのようにはいかないかもしれない……けど!)

 

 確実に、しかし彼女の命を奪わないよう、力を加減しつつ彼女の戦意を削ぐ……その一心で、レヴォルの剣を握る手に力が宿る。

 

(ここで決めなければ……()に顔向けすらできない!!)

 

 剣に、闇の力が宿る。悲恋に嘆き、愛する者との逢瀬を邪魔する存在すべてを断ち切る青年の剣。

 

 彼の心を通し、レヴォルの必殺の一撃となって今、放たれる。

 

 

 

 

≪SHAKARIKI CRITICAL STRIKE!!≫

 

「おりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 キメワザホルダーのスイッチを押し、必殺技を発動させたエグゼイドから放たれたエネルギーの刃は、同時に放たれた火炎弾すらも両断し、勢いを殺さずそのままメガ・ドラゴンの口腔内を貫通し、

 

「はぁっ!!」

 

 レヴォルの放った闇の一撃は、大きな衝撃となってフェアリー・ゴッドマザーの身体に叩きつけられた。

 

 

 

 

『GAAAAAAAAAAAAAAAAA!?』

 

「あぁっ……!?」

 

 天へ向けて断末魔の雄叫びを上げたメガ・ドラゴン。残された左腕をもがくように動かすも、やがて力尽き、黒い煙を吹き出すと共に身体が透けていき、やがては完全に姿が消え、消滅。フェアリー・ゴッドマザーも、地面に叩き落とされ、その衝撃でうめき声を上げつつも気を失った。

 

 

 

 

 

 

 時計の針が12時を指し示すまで、残り30分。




永夢のバク宙、ちょっとでも書けただけでも満足。

もともとシャカリキスポーツは構想段階で書く予定なかったんですが、「あ、このシーンなら出せるんじゃね?」と思ったんでレベルアップさせていただきました。表現できてたら嬉しいですね。

さて、次回からいよいよカオステラーとの決戦。終わりが見えてきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 Chaosの悪意

カオステラー戦。尚、当作品のカオステラーはオリジナルにて、原作には登場しません。ご了承ください。つって、この作品の流れ自体が割とオリジナルなんで今更感ありますけど。

そして個人的には仮面ライダー史上最も異色な主人公ライダーのパワーアップフォーム解禁。どうすればかっこよくなれるか、文字に起こすのは大変でしたゾ(疲労)


「フェアリー・ゴッドマザー!」

 

 決着はついたことで、シンデレラが駆け出す。意識を失っている彼女を、シンデレラがそっと抱き起した。

 

≪ガッチョーン≫

 

≪ガッシューン≫

 

 その横で、エグゼイドが変身を解除する。粒子となってエグゼイドのスーツが消失し、永夢の姿に戻る。レヴォルたちもコネクトを解き、元の姿へと戻った。

 

 戦闘態勢を解いた永夢は、フェアリー・ゴッドマザーの傍に跪く。そして手首を取り、脈拍を取ると、小さく安堵のため息をついた。

 

「大丈夫。気を失っているだけだよ」

 

「……よかった」

 

 思わず涙ぐむシンデレラ。シンデレラにとって、彼女は最初に救いの手を伸ばしてきてくれた大切な恩人。その彼女が敵となって襲ってきたのはショックだったが、それでも失うことは彼女にとって耐えがたいことだった。

 

「けどよ、また目ぇ覚まして襲ってきたらどうするよ?」

 

「わからないが……この戦いのショックで元に戻ることを祈るしかないな」

 

 気絶している以上、確認のしようがない。ティムの疑問にパーンはそう答えざるをえなかった。

 

「……ちょっと待って、カオステラーは!?」

 

 と、ここでエレナが大事なことを思い出す。フェアリー・ゴッドマザーが何故このようなことになったのか。その原因となる存在を探し、玉座を見上げた。

 

「っ! いない!?」

 

 が、先ほどまでそこにいたはずの王妃が、煙のように忽然と姿を消していた。レヴォルが玉座まで駆け寄るも、玉座の裏にも、他の物陰を探ってみても、どこにもいない。

 

「さっきまでここにいたはずなのに……」

 

「戦いに紛れて逃げ出したか……」

 

 迂闊だった、とパーンが悔し気に呟いた。しかし、あの状況では王妃に注目することはできなかった。誰も責めることはできない。

 

「追いかけましょう! まだ遠くには行っていないはず!」

 

 永夢がそう言って立ち上がる。カオステラーを逃がしては、またさらなる犠牲者が出かねない。永夢の意見に異を唱える者は誰もいなかった。

 

「でも……フェアリー・ゴッドマザーが……」

 

 シンデレラとて、カオステラーの真意を知るために探しに行きたいところだが、このままフェアリー・ゴッドマザーをそのままにしていっていいものなのかと迷う。永夢も、気絶した彼女を放置するのは気が引けた。

 

 やがてパーンが、フェアリー・ゴッドマザーの腕を取った。

 

「……私が背負おう。敵と遭遇したら、安全な位置へ下がらせる」

 

 言って、パーンがフェアリー・ゴッドマザーを背中に負う。驚くほど軽いのは、妖精という種族ゆえか。何にせよ、これならば走るのに問題ないと、パーンは思考する。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「さぁ、急ごう!」

 

 シンデレラがパーンに礼を言ってから、一行は走り出す。その後ろ、ヘカテーも彼らについて行く。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「おい、大丈夫かルイーサ?」

 

 が、息を荒くする彼女を、ティムが立ち止まって振り返る。先ほどよりも顔色が悪く見え、慌てて彼女に駆け寄った。

 

「だ、大丈夫よ、これくらい……」

 

 いつもなら、彼の手を払いのけて悪態をつく程の彼女が、その声の刺々しさが鳴りを潜めている。それだけで、彼女の容態が悪いことにティムは気付く。

 

「……すまねぇ、カオステラーをぶっ飛ばしたら、すぐに町に行くからな」

 

 毒なら後でいくらでも聞いてやる。そう心の中で詫びながら、ヘカテーを背負うティム。

 

 抵抗することなく、ティムの背中におぶさるヘカテー。心の内では彼のことを罵倒しつつも、やがて走り出した彼の背中から温もりを感じつつ、今だけは身に甘んじておこうと抵抗する意欲を失っていった。

 

 

 

 

 

 カオステラーを捜索するために走り、一行は中庭に出る。城の正面出入り口から玉座の間へ向かうための中間地点でもあるこの場所は、王城の庭というだけあって、生垣や花壇、中央の噴水と、とても豪華な造りの景観が訪れる者全ての目を、花の色と葉の緑で楽しませてくれる場所。広さも申し分なく、町の一区画ならば入る程はあるのではないかと思われるほど。

 

「くっ、どこに行ったんだ……!?」

 

「城のどこかだとは思うけれど……」

 

 ただし、今の永夢たちにそんな景観を楽しむ余裕はない。月の明かりと窓から漏れ出る明かりが中庭を照らし、視界は良好。しかし目当ての存在の姿が見えない。

 

 既にもう城を出ているのか……そう嫌な予感が一行を襲うも、アリシアが声を上げた。

 

「ちょっと待って!」

 

 言って、アリシアは手元の感知計を見る。針は一点を指し、そこから動かない。その針が指す位置は、アリシアたちが出てきた中庭へ続く扇状に広がる長い階段。それが示す事実は、一つだけ。

 

「感知計の反応……間違いない、カオステラーは近くにいる!」

 

 

 

「当然じゃない。逃げも隠れもするわけないわ」

 

 

 

 アリシアの声に応えるように、中庭に声が響いた。聞き覚えのある、冷たい声。

 

「っ! どこだ!?」

 

「レヴォル君、あそこ!」

 

 永夢が見上げる先、階段の真上を指さす。窓から外へ出るためのバルコニーが設けられており、そこからでも中庭を一望できるようになっている。

 

 そこに、王妃はいた。風で煌めく水色の髪を手で抑えながら、永夢たちを見下ろしている。

 

 その美貌に似合わない、嫌らしい笑顔を浮かべながら。

 

「……お姫様と同じ顔でそれされると、どうも戸惑っちまうな」

 

 普段のシンデレラを知るティムからすれば、彼女があそこまで他人を見下すような笑顔を浮かべるのは想像つかなかった分、王妃のあの顔には嫌な気分が纏わりつく。そう感じつつ、気分が悪いヘカテーを離れた位置で下ろし、安全な場所まで下がらせた。

 

 パーンもまた同様。これより始まるのは、この世界を賭けた戦い。意識のないフェアリー・ゴッドマザーを巻き込むわけにはいかなかった。

 

「カオステラー! お前の悪事もこれまでだ!」

 

「もうあなたを守る人たちはいないよ! これ以上大勢の人たちを苦しめるのはやめて!」

 

 レヴォルとエレナが、王妃に向かって叫ぶ。事実、彼女を守る存在は最早誰もいない。兵士すらも退けられ、ヴィランとなった王も消え、洗脳したフェアリー・ゴッドマザーも永夢たちが救助した。残すは諸悪の根源、カオステラーである彼女のみ。

 

 しかし、それでも彼女は笑みを崩さない。手すりに手をつき、嘲笑い、見下ろしている。

 

 その視線の先にいるのは、ただ一人。

 

「フフフ……あなたの周りの人間は、随分威勢がいいのねぇ?」

 

「っ……!」

 

 王妃に言われ、シンデレラは一瞬たじろぐ。しかし、それでも逃げずにキッと睨み返した。

 

「あ、あなたは……何なんですか……!?」

 

 精一杯の虚勢。小動物のように震える彼女を、王妃は笑う。否、嗤う。

 

「アッハハハハ! 何なんですか? ですって! 今さらそれを聞く?」

 

 しばらくの間笑い続ける王妃。やがて笑いが止まると、表情は一変した。

 

「……あなたなら、もうわかっているでしょう? あなたの運命を拾った人間を……ねぇ?」

 

 その顔は、怒り。表情こそ無に近くとも、冷たく見下ろし、シンデレラを見つめるその目に湛えた物は、憤怒。

 

 肩を大きく震わせるシンデレラ。それでも、彼女は否定の意を込め、頭を振った。

 

「そんなの……ありえない……だって、あなたは……!」

 

「そうよねぇ? ありえないって、あなたならそう思うわよねぇ? ……けど、私は現にこうしてここにいる。ここに立っている。ここであなたと話している……それでも、嘘だと言う?」

 

「っ……」

 

 シンデレラの言わんとしていることを全て否定する王妃。追い詰められるかのように、顔から色を失くしていくシンデレラ。

 

 それが楽しい、まさに愉悦だと、王妃の顔が歪んでいく。歪で、なんとも邪悪な顔。

 

「いいわ。なら、少しだけ教えて差し上げましょう。そこにいる方々も気になっているでしょうから、ねぇ?」

 

 王妃の正体。自らそれに繋がるヒントを与えようと、本人自らが言う。永夢たちも気になってはいたが、シンデレラがここまで恐れる相手とは誰なのか……それを聞いてもいいものか、疑問にすら思えてならない。

 

「そうね……私が持っていた運命の書に書かれていることを一つ、述べてあげます」

 

 物思いに耽るように、王妃はスッと瞳を閉じる。そして、歌うように、ある事実を口に出した。

 

 

 

「……『舞踏会へ向かう前、シンデレラに留守番と屋敷の掃除を命じておく』」

 

 

 

「……どういう、意味だ?」

 

 意図が伝わらなかった永夢は、首を傾げる。シンデレラに掃除をするように……まるで身内に対して言うかのよう。

 

(……え?)

 

 身内……この単語を自ら引き出した永夢は、あることに気付く。それは、アリシアが監修した劇……シンデレラに留守番を命じ、掃除をしておくようにと言い放った人間がいた。

 

 その人物が誰か、永夢は考え……思い出した。

 

「まさか……お前は……!?」

 

「アッハッハッハッハッハッハッハァァ!!」

 

 永夢より先に、該当する人物がいたことに気付いたレヴォルたち。それを見て、王妃は高らかに、悪意を込め、愉悦を込め、笑い声をあげた。

 

 中庭に響く、耳障りな笑い声。一通り笑い終えた王妃は、笑みを隠さずに高らかに告げた。

 

 

 

「そうよ!! 私はシンデレラの義母!! その子を虐め倒し、舞踏会へ行くのを邪魔し、そして最後は国外追放される運命にある“シンデレラの継母”という役割を担っていた女よ!!」

 

 

 

~ 第12話 Chaosの悪意 ~

 

 

 

 継母。シンデレラにおける重要人物に位置する存在であり、シンデレラの父親の再婚相手。二人の姉妹を連れ、三人で主人公であるシンデレラを虐げ、やがてはその報いとして親子共々罰を受ける運命にある人物。この結末には諸説あるものの、大体は『誰かに意地悪をすると報いが来る』という戒めの意を込めて、この結末にする話が多い。

 

 その継母が、カオステラー。その事実を前にして、驚愕に揺れる一同。

 

「まさか彼女の継母がカオステラーでしたか……もしやとは思ってましたが」

 

「え、シェインさん知ってたんですか?」

 

 その中で、あまり驚いていない様子のシェインにアリシアが疑問を投げかけた。

 

「いえ、知ってたわけではありません。しかし、彼女の運命を考えれば、あながち妥当ではないかとも思ったんですよね」

 

「彼女の結末は色々あるが、大体は国外追放、悪い場合は処刑される運命にある。そういった人物がカオステラーとなるのも、不思議ではないな」

 

 パーンも同じことを考えていた。カオステラーとなる存在は、大体の人間は不幸な結末を覆したくて、運命を捻じ曲げようと考える。今回の場合もそうなのだろう。

 

「ええ、その通り。私は近い将来、シンデレラによって報いを下される。その後の一生は悲惨の一言で、私の人生は実質、国外追放で終わったも同然なのよ」

 

 歌うように、王妃、否、継母は語る。その視線の先にいるシンデレラは、継母を見てさらに瞳が大きく揺らいでいる。

 

 それは、恐怖。信じられない物を見たとばかりに、彼女は怯えていた。

 

「お義母、様……」

 

「ホント、忌々しい。こんな小娘一人に、私があんな思いをするなんて、まっぴらごめんだわ……」

 

 憎たらしい存在が怯えている。そのことが継母の加虐心という火に油を注ぐこととなる。

 

「だから……ねぇ? シンデレラ」

 

 そして、新たな事実を彼女に突きつけた。

 

「私、あなたを殺そうとしたわよね?」

 

「あ……」

 

 継母が何を言い出すか、シンデレラにわかってしまった。わかってしまったからこそ、彼女は止めたかった。

 

「や、やめて……ください! それ以上は……!」

 

 ニタリと嗤う。邪悪な笑みは、シンデレラに。それを知らない、無知なる者たち……永夢たちに。それぞれ向けて、継母は語る。

 

「その子を殺してしまえば、私は追放されることはない。そう考えて、私はナイフを、シンデレラに突き立てようとした……けど、ね?」

 

「やめて……お義母様……!」

 

 

 

 

「まさか逆に殺されるなんて、思わないじゃない?」

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

 シンデレラが、殺しかけた。継母が語る言葉が、永夢たちの間で動揺を走らせる。

 

 子供たちに懐かれ、自分よりも他人を心配するような、そんな心の優しいシンデレラが人殺し……その事実を真っ先に、永夢が否定する。

 

「嘘だ!! エラちゃんは、そんなことする子じゃない!!」

 

 が、継母は笑みを崩さず、永夢に返した。

 

「あらあら? その子のことを知らない人間が、何をほざいているの? ……まぁ、その子の今の様子を見たら、一目瞭然でしょ?」

 

「え?」

 

 振り返る。そこにいたのは、激しく動揺し、蹲り、耳を塞ぐシンデレラの姿。

 

「違う……違う……私は、私はそんなつもりじゃ……!」

 

「エラちゃん!?」

 

 永夢が彼女の肩を揺さぶる。それでも、彼女は反応しなかった。

 

(そんな……まさか……)

 

 信じたくない永夢。尚も継母の言葉を心の内で否定しようとした。

 

 が……永夢は思い出す。

 

 この世界へ迷い込む直後、永夢は夢を見た。誰かが虐げられている光景。煌びやかな空間で人々が踊る光景。それを悔し気に見ていた女性たちの光景。

 

 

 

 そして……少女に、シンデレラに、ナイフを突き立てられようとしている光景。

 

 

 

「……何で……」

 

 あの夢が、実際にあったことだとしたら。しかしそれが事実ならば、ナイフを突き立てられたのはシンデレラのはず。

 

 その疑問に答えるように、継母は続けた。

 

「私はねぇ。確かに殺そうとしたのよ……けどね? その子が逃げちゃってね。追いかける私に反撃して、階段から突き落としたのよ」

 

「違う! 違う!! 私は、私はそんなつもりじゃ……!!」

 

 否定、拒絶。シンデレラの叫びが、絶望が、嘆きが木霊する。それを最高の音色と思わんばかりに、恍惚に顔を歪める継母。

 

「最初、私は死にかけたわ……けど、私は生きたかった。そして憎かった。その子が、その子さえいなければ、私は幸せを掴めたんだと……けど、その子には私たちにない美貌や若さがあるのも、また覆しようのない事実だった」

 

 顔を手で覆い、嘆きを表現する継母。まるで三文芝居を見ているかのような、異様な光景だった。

 

「だから私は願った。血に塗れながらも、こんな運命を強いる世界を怨みながら……私は願ったわ」

 

 

 

『シンデレラの美貌を、私の手に』

 

 

 

「……なるほど、それであなたは今その姿になっているというわけですね」

 

「彼女に成りすまして、彼女が辿るべき運命を自分が乗っ取ったってわけね!!」

 

 シェインとアリシアが、彼女の行った所業、この世界の真実を突きつける。そして憤りを覚える。シンデレラのしたことが事実か否か関係なく、自分が幸せになるためにシンデレラの物語全てを奪い取った。そして己の意のままに、国を操っていた。

 

 王と、フェアリー・ゴッドマザーを洗脳して。

 

「何が悪いの? 全てはその子が招いたことじゃない。私を殺そうとした挙句、その場から逃げ出したんだから……その場で、自分の運命を放棄しちゃったってことも含めて、全てシンデレラが原因でしょ? 違う?」

 

 運命を落とし、それを拾い上げた……その言葉の意味を、永夢たちは理解する。確かに、原因はシンデレラにあるように見える。大切な役割を投げ出した挙句、その役割を継母に取られ、そして今の結果を招いた。

 

「それがあなたの罪。私の命を奪いかけたどころか、運命すらも投げ出した、大きな罪……あなたは、世界にとって許されないことをした」

 

 それが、シンデレラの真実にして彼女の罪。

 

「あなたは、世界を敵に回したのよ」

 

 はっきりと、断言する。最早、取り返しのつかないことをしたと言っても過言ではないと。シンデレラが耳を塞いだとて、その事実は覆らない。逃げられない。

 

 シンデレラが歩む道の先にあるのは、深く、暗い絶望のみ。

 

 

 

「……そんなの、関係ない」

 

 

 

 それでも、永夢は言う。

 

 

 

「エラちゃんは……彼女は、誰かの笑顔のために頑張れる女の子なんだ」

 

 

 

 彼女の過去を、永夢は知らなかった

 

 

 

「人を労わる優しさを、知っているんだ」

 

 

 

 彼女が犯した罪を、永夢は詳しく知らなかった

 

 

 

「例えエラちゃんが世界を敵に回したとしても」

 

 

 

 それでも、永夢は彼女の未来のために寄り添うと決めていた。

 

 

 

「何度だって、僕は彼女の手を取ってみせる」

 

 

 

 だからこそ、

 

 

 

「これ以上……彼女に涙を、流させない!!」

 

 

 

 彼女の未来を絶望に染めないために、永夢は戦う!

 

 

 

「……真偽がどうあれ、僕たちのやるべきことは変わらない、か」

 

「だな……ま、誰が悪い、何が悪いなんて、今考えるだけ野暮だ」

 

 レヴォルとティムが栞を手に取る。

 

「あなたの言ってることがホントだとしても、シンデレラちゃんを虐めるなんて、絶対許さない!」

 

「そうよね。大体悪いのは、殺そうとしたあっちだし!」

 

「自業自得って奴です。ま、真実かどうかはまだわかりませんが」

 

 エレナとアリシア、シェインもまた栞を取り出す。

 

「……未来を担うのは、彼女のような若い者だ。どんな理由であれ、そんな彼女の人生を滅茶苦茶にしていい謂れはない」

 

 パーンも静かに栞を握りしめる。

 

「みな、さん……」

 

 全員、シンデレラの前に立つ。

 

彼女を守るために。

 

そしてこれ以上、悪意に晒されないために。

 

 全員、真っ直ぐ睨む。その先にいる諸悪の根源、カオステラー。混沌の導き手。

 

「……忌々しい」

 

 継母は、尚もシンデレラを守ろうと立つ彼らが気に食わない。泣くしか能のない小娘を守ろうと、一人前に騎士気取りの彼らが。

 

「いいわ……それならば……」

 

 ならば、彼女がとるべき手は一つ。

 

「誰がこの世界の指導者たる存在か」

 

 忌々しい連中を虐げ、甚振り、そして永遠の闇へと追放するため、

 

 

 

「その身をもって……味わいなさい!!!」

 

 

 

 自ら、動く。

 

 

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 

 

 バルコニーの上で甲高い絶叫を上げる継母。やがてその身を、暗黒の渦が包み込む。渦は城の屋根を超え、天高くまで伸び、風は吹き荒び空を漂う雲を霧散させていく。

 

 数秒の後、渦は消え去る。そこにいたのは、煌びやかなドレスを纏っていたシンデレラの姿を模した継母の姿は消えていた。

 

 

 

『フッフッフッフッフ……アッハッハッハッハ……!』

 

 

 

 暗い、暗い闇を形にした丈の長いドレス。澄んだ空色の髪は、深い海の底のような暗い青。顔の右半分はシンデレラの面影を、もう左半分は暗い面に大きく白い目と三日月状に吊り上がった口元という歪なピエロの如く。背中に生えた6枚の大きな黒い翼は、さながら堕天使のよう。

 

 何より特徴的なのは、右肩の付け根から生えるもう一本の細い腕。計三本の腕の先には、それぞれ水晶のように輝く大剣、大盾、長杖が握られていた。

 

「あれが、カオステラーの姿……」

 

 初めて見る、常人には理解し難い異様なカオステラーの姿に、永夢は一瞬唖然とする。が、真っ直ぐ向けられる敵意を前に、気を引き締め直した。

 

 ふわり、カオステラーがバルコニーから浮かび上がる。そしてゆっくりと、永夢たちの目の前に降り立った。

 

 カオステラーとなった彼女の身長が、1m程伸びている。さらに宙に浮かんでいるのもあって、より巨大さが増しているようだった。

 

『さぁ……泣き喚きなさい。罪深き子と、罪と知って尚抗う愚かな人たち。そして……』

 

 何人もの声が重なっているかのような不気味な声。暗く、淀んだ黒い瞳が妖しく光り、右半分の顔の口元が歪み笑う。

 

 

 

『ガラスの靴のように、粉々に砕け散るがいい!!』

 

 

 

 カオステラーが、得物と翼を広げる。中庭に舞い散る、黒い羽根。彼女から放たれる圧迫感が、永夢たちを絶望の海へ突き落さんと襲いかかる。

 

「皆さん、行きましょう!!」

 

≪MIGHTY ACTIOM X!!≫

 

≪GEKITOTSU ROBOTS!!≫

 

 永夢は右手にマイティアクションXガシャット、左手にゲキトツロボッツガシャットを持ち、同時にスイッチを押した。そして、

 

「「コネクト!!」」

 

「大・大・大変身!!」

 

≪ガシャット!≫

 

≪ガシャット!≫

 

 レヴォルたちは一斉に栞を書に、永夢はガシャットを交互にゲーマドライバーのそれぞれのスロットに。

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

≪マイティマイティアクション・X!!≫

 

≪アガッチャ!≫

 

≪ゲ・キ・ト・ツ・ロボッツ!!≫

 

 同じタイミングでコネクト、変身が完了。

 

 運命を変えるため。シンデレラのため。

 

 カオステラーとの決戦が、今始まった。

 

 

 

 

「おりゃあああああああああああ!!」

 

 先手を取ったのは、エグゼイド・ロボットアクションゲーマーレベル3。飛び上がり、左腕のゲキトツスマッシャーを真っ直ぐ、カオステラーの顔面目掛けて叩きつけんと振りかぶる。

 

 ゲキトツスマッシャーの強烈なパンチは、寸分違わずカオステラーの顔面へと吸い込まれるように迫る

 

『アハッ!』

 

 直前、掲げられた盾によってその攻撃は遮られた。

 

「なにっ!?」

 

 甲高い音をたて、ゲキトツスマッシャーの超威力の一撃による衝撃が、盾を中心に広がる。空気が振動し、草花が揺れる。

 

 が、それだけ。盾は微動だにせず、カオステラーも動じている様子はない。ゲキトツスマッシャーの直撃を防がれたことで、驚愕するエグゼイド。

 

 一瞬の硬直。しかし、カオステラーにはそれで十分。

 

『ハッ!』

 

「ぐぁぁっ!!」

 

 右手に持つ剣が高速で振られ、エグゼイドを切りつける。切られた胴体から火花が散り、衝撃によってエグゼイドは吹き飛ばされた。

 

「エム!?」

 

「うおおおおおお!!」

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 エグゼイドの攻撃が通じない。その事実を前にレヴォルが僅かながらショックを受けている間、レヴォルの両脇をすり抜ける形でティムとパーンが得物を振りかぶってカオステラーへ駆け出す。

 

『無駄よ』

 

 それを嘲笑いながら、カオステラーはもう一本の腕に握られた杖を振るう。煌めく光がカオステラーの前に集まっていくかと思うと、それが形となり、先端の鋭利な氷柱となる。それも一本二本どころではない。十本もの氷柱が真っ直ぐ、ティムとパーンに狙いを定め、

 

『行け!』

 

 矢の如く風を切って飛んでいく。

 

「うぉぉぉっ!?」

 

「ぐぅっ!」

 

 盾を構え、氷柱を防ぐ二人。そのまま前進しようにも、一本一本の威力が強すぎて前へ進むのを阻まれる。しかも完全に防ぎきれず、身体の至るところに裂傷ができていく。

 

「これならばどうです!!」

 

 だが、これを好機と捉えたシェインが、いまだティムとパーンを攻撃し続けているカオステラーの横から身を低くしたまま迫り、鬼による蹴りを放つ。寸分違わず、蹴りはカオステラーの脇腹へと命中する……

 

 筈だった。

 

『おっと?』

 

「ちぃっ!」

 

 一瞬で後ろへ下がり、シェインの一撃を回避したカオステラー。蹴りは空しく何もない場所を蹴るに留まり、シェインは思わず舌打ちする。

 

『悪い子ね。お仕置きしてあげる!!』

 

 剣を振るい、シェインを狙うカオステラー。疾風の如き一撃がシェインを襲うも、鬼の動体視力を活かして袈裟懸けによる一撃を紙一重で回避。続けざまに振るわれる剣撃をも姿勢を低く保ちながら全て避け、連続バク転で距離を離した。

 

『逃がさないわよ!』

 

 それを逃すまいと、カオステラーは六枚の翼を広げる。無数の羽根が宙を舞う中、大きく羽ばたく。すると、翼から抜けた羽根一枚一枚が弾丸となって、シェインを襲う!

 

「くぅっ!?」

 

 羽根による弾幕。さすがに防ぎようがないと判断したシェインは、それでも尚回避を試みる。身体を左右に動かし、残像を残しながら先端が鋭利な矢となった羽根を回避し続け、どうにか致命傷を受ける箇所の回避は成功した。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 しかし、全ては無理だった。ティムとパーン同様、シェインの身体の至る箇所から血が流れ出て、ジリジリとした痛みがシェインを蝕む。

 

『トドメよ!』

 

「させない!!」

 

 動きを止めたシェインを杖による魔法で狙おうとするカオステラーに、アリシアが大砲の一撃を見舞う。それを盾を持って防いだカオステラーは、ギロリと右半分の顔でアリシアを睨んだ。

 

『小賢しいわね……あなたから死になさい!!』

 

 シェインから変更、杖をアリシアへ向けると、カオステラーの眼前に巨大な魔法陣が展開、中心から極太の青いビームが発射された。

 

「やっばっ!?」

 

 咄嗟に回避。アリシアが横へ転がり、ビームは目標を失いつつも威力を落とさず地面を削りながら通過。中庭の美麗な景観の一部を破壊した。

 

「てぇぇぇい!!」

 

 魔法なら魔法で対抗。そう考えたのか、エレナが魔法陣を展開、そこから闇の力を放ち、カオステラーを狙い撃った。が、黒い翼を大きく振るったことで発生した風により、エレナの攻撃はかき消された。

 

「きゃあっ!?」

 

 それに伴い、突風がエレナを襲う。いきなり強い力で吹き付ける風に抗うこともできず、エレナはもんどりうってフッ飛ばされた。

 

「くっ……負けるものか!」

 

「おおおおおっ!!」

 

 レヴォルも負けじと、剣を振るう。その隣、体勢を立て直したエグゼイドも追随する形で、レヴォルと共に駆ける。

 

 レヴォルの剣がカオステラーの顔を、エグゼイドのゲキトツスマッシャーのパンチが胴体を狙う。が、剣には剣で防がれ、パンチは盾で防がれる。

 

「せぇっ! はぁっ!!」

 

「ふんっ! おりゃあっ!!」

 

それでも諦めず、何度も攻撃を繰り出す。片手剣による素早い連続斬り、パンチと時にキックも交えて複雑さを加えた連撃。並の相手ならば防ぎきれない、二人の連携攻撃。

 

『アハハハハ!! ヒャハハハハハハハ!!』

 

 それすらも、カオステラーは高笑いしながら防いでいく。剣と盾、そして杖をも使い、軽々と剣を、拳を弾く。

 

「「はぁぁぁぁっ!!」」

 

 最後、レヴォルの刺突、エグゼイドのストレートパンチがカオステラーの胴体へ突き出される。が、それすらも盾によって難なく防御されてしまう。

 

『無駄よ無駄ぁぁぁぁっ!!』

 

「うわぁっ!?」

 

「ぐあっ!」

 

 盾で弾き返された二人は、剣による薙ぎを食らう。互いに何とか防ぐも、あまりの強力さに吹き飛ばされてしまう。

 

『大人しく……潰れてしまいなさい!!』

 

 カオステラーが杖を高く掲げる。カオステラーの前に光が凝縮されるように集まっていき、やがてその光はカオステラーの身の丈程の水晶の壁となった。

 

 カオステラーが杖をエグゼイドたちへ向ける。すると壁は滑り出すような滑らかな動きで、エグゼイドたちへ迫る。

 

「クソッ!」

 

 壁を自身たちに叩きつける算段だと判断すると、エグゼイドがゲキトツスマッシャーを目前まで迫る壁目掛けて振りかぶる。

 

「おりゃあああああっ!!」

 

中心部分を思い切り殴りつけると、周囲の大気が大きく震える。壁に大きな罅が入るも、勢いが止まらない。尚もエグゼイドたちを潰さんと、飢えた怪物が大口を開けているかのように突き進もうとする。

 

「ぐうううううううっ!!」

 

 負けじとエグゼイドもゲキトツスマッシャーにさらに力を込める。互いに均衡する拳と壁。やがて勝敗を喫したのは、

 

「だりゃあああああっ!!」

 

 エグゼイドの拳が、ガラス細工を砕くかのように壁をぶち抜いた。破壊された壁は四方八方に飛び散り、四散する。破片が周囲に降り注ぎ、月明かりに照らされてダイヤモンドダストのように煌めき、落ちていく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

 だが、エグゼイドもすでに満身創痍。たまらず膝をつき、ゲキトツスマッシャーで身を支えるのが精一杯。レヴォルたちも同様、立っているのがやっとの状態だった。

 

「クッ……強い……!」

 

「さすがカオステラー……実力は折り紙付きですか……」

 

 剣を杖のようにして立つレヴォル。隣でシェインが頬の血を拭い取りながら、忌々しそうに呟いた。

 

『当然でしょう? 私はこの世界の支配者。何者も私の前に屈し、崇め奉る存在よ』

 

 力の差は歴然。そう確信したカオステラーは、翼を広げながら高らかに語り出す。

 

『それに……あなたたちは一人を相手にしていると思っているかもしれないけれど、実はそうじゃないの』

 

「何……?」

 

 息を整えながら、パーンが言う。カオステラーは尚も愉快そうに続けた。

 

『私の身体は、言うなれば一つの家。家には当然、家族がいる。そして家族は助け合うもの。家族の一人が右を向いていれば、もう一人の家族が左を向いてる。そうして私たちは、家に迫る脅威を排除しているのよ』

 

 カオステラーの語る意味がわからない。最初、エグゼイドたちはそう思っていた。

 

 が、その意味を最初に理解したパーンは、驚愕し、困惑する。

 

「まさか……その身体の中には……!?」

 

 身体が家。家には家族。家族は助け合う……それらが意味するものは一つ。

 

 

 

『そう……私の身体の中には、娘たちの魂が入っているのよ!』

 

 

 

 高らかに告げるカオステラー。シンデレラの継母である彼女自身が生んだ、二人の娘。その娘たちの魂すらも、カオステラーは自身の一部としていた。

 

「なんて、ことを……」

 

「正気の沙汰じゃねぇぜ……血を分けた家族を取り込むたぁ」

 

 信じられないと、エレナが慄く。ティムもまた、槍を握る手に自然と力が入り、軋んだ音をたてた。

 

『そう? 娘たちは今じゃ喜んでいるわよ。私の中で、共に幸せを分かち合うために……そう、シンデレラ。あなたが得る筈だった幸せを、ね?』

 

 フフフと笑いながら、シンデレラへ視線を向けるカオステラー。戦いから離れた場所で、シンデレラは身を震わせ、瞳を揺らす。

 

「お、義母様……お義姉様たちも……そんな……」

 

 家族すらも己の力にしてしまう、自身の義母の恐ろしさを垣間見たシンデレラ。何故、どうして……疑問が浮かぶ。

 

 しかしそれも、すぐに結論が出た。

 

(全部……私の、せい……?)

 

 家族として愛したかった義母を害したから。その恐れから逃げ出したから。役割に相応しくないと決めつけてしまったから。

 

 全ては……己が招いた事なのかと。

 

『シンデレラ。お前は事あるごとに私を嘲笑っていたわね?』

 

 スッと、杖を掲げる。

 

『掃除をしている間も。虐げられている間も。私に笑いかけている間もずっと……運命の書に記された幸福が待っているあなたには、私たちの姿はさぞ滑稽だったでしょう?』

 

 杖の先端に、光が宿っていく。

 

『だからあなたが憎かった。だからあなたが妬ましかった……だから、あなたのことが大っ嫌いだった!!』

 

 光は強く、そして殺意を滾らせる。全ての元凶を滅ぼすために。

 

『けど……安心なさい? これからは私が、いいえ、私たち(・・・)がこの世界の主役として、君臨していくから』

 

 ニタリ、嗤う。愚かな娘を、虫を駆逐する時の気持ちとなって。

 

『あなたの幸せは……私たちがもらうわ』

 

 杖を、向ける。真っ直ぐ、シンデレラに。光を宿しながら。

 

 そして、

 

 

 

『だから……死になさい』

 

 

 

 杖の先から光弾が、射出される。

 

 シンデレラを、消すために。

 

「シンデレラちゃん!!」

 

「避けろおおおおおおお!!」

 

 エレナとレヴォルが叫ぶ。庇おうにも間に合わない。シンデレラは、硬直していて避ける余裕がない。

 

 否、避けようという気すら起きていなかった。

 

(ああ、これが……)

 

 死を前にし、全てがスローモーションに映る。迫る光は、彼女の罪に対する罰なのか。その痛みが、彼女に対する戒めなのか。

 

(私の……傲慢が招いた結果……)

 

 何がいけなかったのだろうか。最初から、継母たちと憎しみ合うことしかできなかったのか。運命の書は、それすら許されないのか。

 

 そう思うシンデレラ自身が、愚かだったからなのだろうか。

 

 尽きぬ疑問。しかし訪れる死を前に、半ばシンデレラは諦めていた。

 

 これが罰ならば、いっそ、もう、

 

 

 

 甘んじて、受け入れるしかない。

 

 

 

 

≪高速化!≫

 

≪鋼鉄化!≫

 

「おおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 

 シンデレラに、痛みが襲う寸前……不思議な声と、聞き慣れた声がし、そして、

 

 

 

 

「うあああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 爆発が轟き、悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

「……え……」

 

 シンデレラに、怪我はない。生きている。現実味がなく、ただ呆然と、立ち込める煙の中から現れた、目の前の光景を見つめる。

 

 彼女に怪我がない原因……彼女の間に割って入った存在が、その身を一瞬だけ鋼の如く輝きを放っていたかと思うと、元の色へと戻っていった。

 

≪ガッシューン≫

 

 気の抜ける声と共に赤とピンクの粒子を散らしながら、ドサリと片膝を着く彼……宝生永夢。

 

「エムゥ!!」

 

「エムさん!!」

 

「お、おい、お医者さん!?」

 

 シンデレラを庇うため、エナジーアイテムを使ってまで仁王立ちとなり、攻撃を受け止めた永夢。度重なるダメージによって変身を強制解除された彼を、レヴォルたちが案じて名を叫ぶ。

 

「エ……エムさん……!」

 

「はぁ……はぁ……グゥッ!」

 

 永夢の純白の白衣は煤で汚れ、裾は所々破れて見る影もない。顔も傷だらけで、頭からは血が滴り落ちていく。

 

 誰が見ても、満身創痍だとわかる永夢の状態。しかし、そんな状態にも関わらず、

 

「大丈夫、だった? エラちゃん?」

 

 フワリと、シンデレラに笑いかける。こんな怪我、どうってことないということを同時に示すように。

 

「エムさん……どうして……!」

 

 何故そこまで庇うのか。何故そこまで助けようとするのか……そんな価値なんて、自分にはないと、シンデレラは言いたかった。

 

 だが……言えなかった。

 

『……まさか庇うなんて思わなかったわ』

 

 いまだ嗤うことをやめないカオステラーへと向けた顔には、先ほどの笑顔はない。戦意を失くしていない、戦士の顔。何が何でも、全てを守らんとするヒーローの顔。

 

 それを見てしまったシンデレラには、何も言えなかった。

 

『愚かね……ホント愚か! そんな子助けたって何にもならないっていうのに! 本当にバカだわぁ!! アッハッハッハッハッハッハッハ!!』

 

 愉快すぎて笑いが止められない。カオステラーは笑い続ける。弱小な存在が立ち向かうのも、憎たらしい小娘が泣いて絶望するのも……尚も抗おうとする人間も。

 

 笑う。嗤う。悪意が空間を支配する。耳障りな笑い声が響き渡る。

 

 

 

「笑うな」

 

 

 

 それを、永夢は一蹴する。

 

『……は?』

 

 一瞬、カオステラーはキョトンとする。尚も、永夢は言う。

 

「笑うな」

 

 着いていた膝に力を入れて、永夢は立つ。倒れてもおかしくない怪我をしてなお、永夢は立ち上がる。

 

「エラちゃんの本当の幸せを知らない癖に……笑うな」

 

 一歩、足を踏み出す。

 

「どれだけ拒絶されても、どれだけ虐げられても……エラちゃんは、諦めなかった」

 

 さらに一歩。

 

「逃げなかった」

 

 もう一歩。

 

「アンタと……家族になるために、必死に向き合おうとしたんだ」

 

 また一歩。

 

「本当なら距離を取ってもおかしくない程の仕打ちを受けたのに……彼女は、それをしなかった」

 

 一歩。

 

「自分の運命を……切り開こうとしたんだ」

 

 一歩……立ち止まる。

 

「決められた運命には無い、親と子を繋ぐ絆を……彼女は、繋ごうとしたんだ」

 

 拳を、爪が食い込むほど握りしめ……そして、

 

 

 

「そんな彼女の思いを……願いを!! 笑うなよ!!」

 

 

 

 シンデレラの幸せを、気持ちを知る永夢にとって、カオステラーの言葉一つ一つが許せない。

 

 ただ本当の家族を得たかっただけで。本当の意味で幸せになりたかっただけで。

 

 何故ここまで彼女が苦しまなければいけない。何故ここまで彼女が追い詰められなければいけない。

 

 誰よりも幸せになるべき心を持っているはずの彼女が、何故ここまで悲しみを背負わなければいけない。

 

 永夢は……心が滾るのを、感じていた。

 

「エムさん……」

 

 シンデレラは、傷つき、倒れそうになりながらも、何度でも寄り添うために立ち上がろうとする永夢の言葉が、一筋の光のように心の内の暗く、淀んだものが浄化されていくかのように胸が熱くなるのを感じる。瞳から零れる熱い雫を、拭う事すら忘れて、口を手で覆った

 

「エム……」

 

 彼の心からの叫びを、レヴォルたちもただただ聞いていた。純粋なまでの、心からの激昂。そして、どこか苦し気にも聞こえる彼の叫び。何も言えず、ただ永夢の名を呟くだけしかできない。

 

『家族? ……ハッ!』

 

 そんな永夢の叫びを、鼻で笑うカオステラー。ただただ鬱陶しいとばかりに。

 

『私と家族になりたいとか、冗談でしょう? 私は御免よ、そんなもの』

 

 憎い相手と家族になる。それのなんと悍ましいことか。カオステラーは、心の底から思っている言葉を投げつけた。

 

『その子の運命は、最早無いも同然!! どんな小さな幸せだって、私が踏みにじってやるわ!!』

 

「……だったら」

 

 カオステラーの邪悪な思惑を、永夢は静かに聞き……そして、告げる。

 

「止めてみせる」

 

 言って、懐からある物を取り出す。それは、一つのガシャットだった。

 

「あれは……ガシャット?」

 

 だが、レヴォルはそのガシャットがいつもの物と全く違う物だと気付く。形状は、いつも永夢が使っているガシャットよりも分厚い、二枚分もある厚さ。さらに左右が薄緑とオレンジというように色が分かれていた。

 

 見ただけでわかる。あれは、

 

 

 

≪MIGHTY BROTHERS XX!!≫

 

 

 

 特別なガシャットなのだと。

 

 

 

「カオステラー……お前の好きにはさせない」

 

 ガシャットを起動させ、派手なサウンドと共に背後に二つの色違いのXXの文字が躍るように回転するタイトルロゴと大量のチョコブロック、そして緑とオレンジのゲームエリアを出現させながら、永夢は真っ直ぐ、カオステラーを見据えた。

 

 

 

「エラの運命は……俺が変える!!」

 

 

 

 ガシャットを突き出し、大きく右腕を振るう。そして、

 

「変身!!」

 

 ガシャットを半回転。左手に持ち替え、ゲーマドライバーへ。

 

≪ダブル・ガシャット!≫

 

 見た目通り、二つ分のスロットに挿入されたガシャット。そしてすぐさま、レバーを開いた。

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!≫

 

 

 

≪マイティブラザーズ! 二人で一人! マイティブラザーズ! 二人でビクトリー! X!!≫

 

 

 

 ハイテンションな歌と共に、回転しながら出現するセレクトパネル。いつもなら正面のエグゼイドを押すところ、今回は右に腕を突き出し、パネルを選択。選ばれたパネルと永夢が一つなり、姿が変わった。

 

「え……?」

 

「あ、あれって……」

 

 何に変身するのか見守っていたレヴォルたち。だが、現れたのは悪い意味で予想外のものだった。

 

 ずんぐりとした三頭身。太い手足。その姿は、最初にエグゼイドを見た時の姿、レベル1の姿と同様だったからだ。

 

 ただ、あの時と違う箇所が幾つもある。まず髪型が違う。次に髪の色、目の色ともに左右が薄緑とオレンジで色分けされている。そして、胸のプロテクターの形状も違う。右胸には色とりどりの四角いボタンが正方形の形で配列され、その周りを円形でオレンジ、黄、青のボタンが囲っている。左胸のゲージも一本から三本に増えている。後はゲーマドライバーがすでに開いている点くらいだろうか。

 

『……何なのそれは? ふざけているのかしら?』

 

 その姿を初めて見たカオステラーは、静かに怒りを込めて言い放つ。何をするかと思えば、ずんぐりむっくりとした姿となったエグゼイドに、期待外れとばかりに苛立ちが募っていく。

 

「ふざけているかどうかは……!」

 

 それでもエグゼイドは意に返さない。レバーに手を掛けながら、挑発する。

 

「こいつを見てから言いやがれ!!」

 

≪ガッチョーン≫

 

 レバーを閉じ、ハイフラッシュインジケータを隠す。すると、ゲーマドライバーから電子音が鳴りだす。

 

「だ~~~~~~~~~~~い……」

 

 短い腕をぐるぐると回し出すエグゼイド。その姿は滑稽で、場違いすぎて……しかしそれは、

 

「変身!!」

 

 エグゼイドが新たな姿となるサインであった

 

≪ガッチャーン! ダブル・アーップ!!≫

 

 アクチュエーションレバーが、開かれる。オレンジと緑で構成されたパネルがゲーマドライバーから飛び出してエグゼイドと重なっていき、変身が開始された。

 

 

 

≪俺がお前で! お前が俺で! WE ARE!≫

 

 

 

 エグゼイドの姿が、オレンジと緑の光の帯に包まれていく。そして、

 

 

 

≪マイティ! MIGHTY! ブラザーズ! HEY! XX(ダブル・エーックス)!!≫

 

 

 

 光が消え、その姿が露わとなった。

 

 

 

「な……なぁっ!?」

 

「こ、これは……どういう……!?」

 

 その場にいる誰もが、目を疑った。

 

 光が消え、そこに立っていたのはエグゼイド。しかし、一人(・・)だけではなかった。

 

 オレンジ色の髪と瞳をしたエグゼイド、そして薄緑の髪と瞳をしたエグゼイド。二人のエグゼイドが、左右それぞれの肩にエグゼイドの顔を模したアーマーを装着し、その顔を組み合わせた状態のまま肩を並べ、立っていた。

 

 その姿は、まるで兄弟。色違い、対照的な瓜二つ。まるで鏡に映したエグゼイドが立っているかのようだった。

 

「こ、こりゃいってぇぇぇっ!?」

 

「えええええええええええええ!? エムさんが二人になっちゃった!! どゆこと!? どゆことぉぉぉぉ!?」

 

「お、おチビぃ!! お前思いっきり突き飛ばしやがったなぁ!?」

 

「いやいやいや……さすがに、これは、言葉が出ませんね……」

 

「なるほど、だからマイティブラザーズ、か。よくできているね」

 

「この状況で冷静に分析できるパーン先生、流石です! 私は只今絶賛頭の中がこんがらがってますよ!!」

 

 あまりにも異様な光景に、味方であるはずの再編の魔女一行も流石に困惑し、戸惑いのあまりその場が混乱の坩堝となる。

 

「え、エム……君は……?」

 

 エグゼイドが二人となったことで、レヴォルも同様に混乱する。どちらが本物なのか、否、どちらも本物なのかと、声をかけるのを躊躇った。

 

 だが、エグゼイドは彼らの様子を余所に変身完了時のポーズを解く。そして、カオステラーを、二人分の鋭い視線で睨みつけた。

 

『な……何なの、あなたたちは……!?』

 

 カオステラーもまた、唐突に二人に分離したエグゼイドを見て、困惑の声を上げる。それに答えたのは、オレンジ色の仮面ライダーエグゼイド・ダブルアクションゲーマーXXR。

 

「へへ、知りたけりゃ教えてやるよ!」

 

(え……?)

 

 オレンジのエグゼイドから聞こえてくる声が、永夢のものと違うことにレヴォルは気付いた。

 

「俺たちは!」

 

「二人で一人の!」

 

「「仮面ライダーだ!!」」

 

 何も言わずとも、互いに合わせる。それこそが、永夢の、そして相棒である彼との絆の強さを表していた。

 

 薄緑のエグゼイド、仮面ライダーエグゼイド・ダブルアクションゲーマーXXLが、隣に立つ相棒に声をかけた。

 

「行くよ、パラド!」

 

「ああ! ここに来て初めてのゲームだ! 心が躍るなぁ!!」

 

 拳を叩いて気合を入れるオレンジのエグゼイド。中身はマイティブラザーズXXガシャットによって永夢から一時的に分離したパラド。パラドが分離したことで、いつもの口調に戻った永夢は、パラドと共にカオステラーに対して決まりのポーズを向けた。

 

「行くぞカオステラー!!」

 

「「超強力プレイで、クリアしてやるぜ!!」」

 

 二人で一人の仮面ライダーが、駆け出す。心が繋がる二人の目的は同じ、一人の少女の笑顔のために。

 

 

 

 

 

 時計の針が12時を指すまで、残り15分。

 




次回、物語の終わりへ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 貫け! 悲しみのDestiny!

第13話。シンデレラの職業は原作のゲームには登場しておりません。完全オリジナルのシンデレラです。ご了承ください。つって、この作品の流れ自体が割と以下略

今回でカオステラーと決着。そんでもって、



物語は終焉を迎える。


「「うおおおおおおお!!」」

 

 全力で走り、カオステラーへ迫る永夢とパラド。舌打ちし、カオステラーは杖を振るう。

 

『フン! おかしな術を使ったとしても、私には勝てない!!』

 

 杖から光が迸り、二人目掛けて水晶の塊が降り注ぐ。それは地面へ落ちると爆散し、破片が飛び散る。が、二人に直撃することなく、勢いも殺さずに走り続ける。

 

「はぁっ!」

 

 始めにXXLの永夢が、高く飛び上がって拳を振るう。それを盾で受け止めるカオステラー。

 

『何度やっても同じことよ!』

 

 先ほどと同じ攻撃を繰り返すかのような永夢に、カオステラーは嘲笑いながら切りつけようと剣を振りかぶった。

 

「そうかな!?」

 

 だが、それはパラドことXXRが飛び上がって剣を持つ手を蹴り飛ばしたことで阻止される。軌道が逸れ、剣は永夢に掠りもせずに空を切った。

 

『ちぃっ!』

 

 目障りだと言わんばかりに、今度はパラドを杖で殴り付けようとする。が、永夢が盾を足場にして飛び上がり、カオステラーの顔面を蹴り飛ばす。

 

『ガァッ!?』

 

 攻撃は中断、痛みに呻くカオステラー。地面に着地した永夢とパラドは、構え、再び突撃する。

 

「はっ!」

 

「せやぁっ!」

 

 永夢によるパンチ、パラドによるキックが、カオステラーの胴体に炸裂。そして、それを皮切りに二人の猛攻が始まる。

 

「「おらおらおらおらぁぁっ!!」」

 

『ウッグゥッ……!!』

 

 怯んだところを、二人による連続パンチがカオステラーを追い詰めていく。一発一発は大した威力でなくとも、それが途切れなく続くことで身体に蓄積されていく。カオステラーは、マシンガンの如く繰り出されるパンチの前に、ただただ呻くことしかできず、反撃ができない。

 

「「はぁっ!!」」

 

≪HIT!≫

 

 最後、フィニッシュとして二人同時のハイキックがカオステラーに叩き込まれた。この時、ダブルアクションゲーマー特有の連携強化装置『スマッシュリンカー』が作動。二人同時攻撃が成功した際、数秒間だけ全能力が2倍に上昇する。

 

『ゲバァッ!?』

 

 つまり、二人のハイキックはキャノン砲並と言っても過言ではない。そんな物をモロに受けてしまったカオステラーは、たまらず吹き飛ばされた。

 

『グ、ハァ……おのれぇ……!』

 

 宙で翼を動かし、体勢を立て直したカオステラー。息のあった連携、そして一撃が強力な攻撃。先ほどとは形勢が逆転しかけていることに、カオステラーは内心焦る。

 

「よっしゃ! いい感じだな!」

 

「油断するなパラド。まだ何をするかわからないぞ」

 

「わかってるって! こういうのは、深追いした方が痛い目を見るんだってな!」

 

 楽しそうにボクシングのステップを踏むように揺れるパラドを窘める永夢。明らかにおちょくっているとしか思えない二人に、カオステラーの苛立ちは増々募っていく。

 

『調子に……乗るなぁぁぁぁっ!!』

 

 杖を掲げ、先端から光弾を連続で撃つ。それら全ては、二人のエグゼイドへ真っ直ぐ飛んでいく。

 

「よっ!」

 

「はっ!」

 

 跳び、側転し、それらを難なく回避していく二人。尚も二人を追い詰めんと、カオステラーは光弾を放ち続ける。

 

 いずれは、二人のうちどちらかに命中する。そう思われていた矢先、

 

「はぁっ!!」

 

『ぐぁぁっ!?』

 

 カオステラーの六枚ある翼のうち一枚に穴が開く。激痛に身悶え、耐えきれずに攻撃を中断、光弾による雨は降りやんだ

 

『な、何が……』

 

 振り向き、翼を傷つけた者を探すために視線を巡らせる。そして、犯人はすぐに見つかった。

 

「ふむ、手応えあり、です」

 

 弓を構えた状態で立つ、タチアナへとコネクトしているシェイン。身体にあった傷は消え、五体満足となってカオステラーに狙いを定めている。

 

「お生憎様! こっちには回復手段があるのよ!」

 

 大砲を持ち上げ、砲口をカオステラーへ向ける。そして彼女の背後には、白いコートを羽織ったうさ耳の少女が、ラッパのような杖を手にしていた。

 

 少女こと、『不思議の国のアリス』の登場人物『時計ウサギ』の身体が光る。そして瞬時に、その姿は獰猛な野獣の姿へと変貌した。

 

「ふぅ、予め回復する力を持つヒーラーを栞に宿しておいて正解だったな」

 

 時計ウサギの正体は、ラ・ベットへと再び戻ったパーン。彼の栞は、盾役のディフェンダー、そして回復役のヒーラーの役職を持つヒーローとのコネクトが可能の物だった。

 

「よし、これでまだ戦える!」

 

「絶対に……諦めない!!」

 

 剣を持ち、エグゼイドたちに加勢するため駆け出すレヴォル。エレナもまた、魔導書を開いて魔法陣を展開した。

 

「もうさっきのようにはいかねぇぞ! 覚悟しやがれ!」

 

 ティムも槍を手に、カオステラーへ飛び掛かる。突き出された槍をカオステラーは盾で防ぎ、忌々し気にレヴォルたちを睨みつけた。

 

『おのれ……この雑魚どもがぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 先ほどまでの余裕は失せた。二人のエグゼイドによって調子を狂わされてカオステラーは、もはや加減すらしない。剣と魔法、そして羽根による猛攻を開始。

 

 怒涛の如く繰り出される、カオステラーの猛威。それを恐れず、彼らは突き進む。

 

 

 

 

 

「エムさん……みんな……」

 

 カオステラーに果敢に挑む彼ら。シンデレラはそんな彼らの雄姿を、座り込んだまま見つめている。

 

 自らが招いた事なのに、それでも尚、彼らは味方であろうとする。今は何故か二人となっているエムは、その筆頭だと言ってもいい。

 

 その事実に、嬉しく思う。しかし、それでも尚シンデレラは思う。

 

(本当に……このままでいいの?)

 

 彼らが戦っているのに、何もせずにこうして見守っているしかできないということ。だが、継母を止めたいという気持ちがありながらも、それをする力がないことを痛い程実感せざるを得ないという事実。

 

 だが、何よりも己の罪の象徴でもあるカオステラーと対峙する恐怖が勝る。

 

(やっぱり、恐い……でも)

 

 それでも……彼らのために、何かしたい。なのに、恐くて手が震えてしまう。

 

 己の無力さが腹立たしく、ただ地に着いた手で握り拳を作るしかできなかった。

 

(どうして……私は……)

 

 

 

「シンデレラ」

 

 

 

 自らを責める彼女に、声がかかる。優しさを含んだその声に思わず振り向き、そして目を見開く。

 

「フェアリー・ゴッドマザー!?」

 

 声の主は、彼女の運命の導き手にして恩人、フェアリー・ゴッドマザーだった。先ほどの戦いによる影響か、立つ足はまだふらついている様子だったが、その瞳には先ほどまでは無かった光が宿っているのがシンデレラにはわかる。

 

「もう、身体は……」

 

「ええ……さっきはごめんなさい。操られていたとはいえ、あなたに杖を向けてしまうなんて……」

 

 フェアリー・ゴッドマザーにとっても、シンデレラは大切な人間。なのに、カオステラーに惑わされ、彼女を殺そうとした事実を前に、フェアリー・ゴッドマザーは己の精神力の弱さを痛感し、歯噛みする。

 

「そんな……あなたが無事で、本当によかった。それで十分です」

 

 そんな彼女に、シンデレラは慌てる。フェアリー・ゴッドマザーが元に戻った。その事実だけが、シンデレラにとって何よりも朗報だった。再会できた喜びに、正直浸りたい気持ちもある。だが、今はそんな状況ではないことは、シンデレラが一番よくわかっている。

 

「ありがとう……けど」

 

 フェアリー・ゴッドマザーは、戦いの場へと目を向ける。今、二人のエグゼイドがカオステラーの周りを舞うように跳び、翻弄する隙にレヴォルが切りかかっている。戦いは佳境へと入ろうとしていた。

 

「……シンデレラ。あなたが何を考えているのか、私にはわかります」

 

 彼女の運命が決まった時から、ずっと見守り続けてきたフェアリー・ゴッドマザーだからこそ手に取るようにわかる。

 

シンデレラは、迷っている。己の罪と向き合うことが恐い。しかし、それでも逃げ出したくないという思いが、彼女の心を揺れ動かしていることに。

 

「……」

 

 対し、無言。シンデレラは口を閉ざし、俯く。それを肯定と受け取ったフェアリー・ゴッドマザーは、彼女を悲し気に、そして悔いるように見つめた。

 

「あなたの恐怖は、わかります。誰だって、罪と向かい合うことは恐いんです……けれど」

 

 穏やかに、慈愛に満ちる母の如く優しくそう言って、フェアリー・ゴッドマザーは杖を振るう。

 

「その罪が、本当の()ではないとしたら?」

 

「え……?」

 

 彼女の言う意味がわからず、顔を上げる。その時、杖から零れ落ちるように現れた光の粒子が、シンデレラの周りを周っていく。

 

 

 

 

(あれ……ここって……?)

 

 シンデレラは、視界がぼやけたかと思うと、次に視界がはっきりした時、今自分がいる場所が中庭ではないことに気付く。戦いの音も、今は聞こえない。

 

「ここは……私の、家?」

 

 今いる場所は、シンデレラの生家。資産家でもあった父は大富豪とはいかずとも、恵まれた環境であることには変わりなく、かつては数人のメイドが雇われていた程の広さを持っていた屋敷。父が事故で亡くなった今は、継母が経費削減のために全員解雇させ、家事を全てシンデレラに命じていた。

 

しかし、シンデレラにはわかる。これは、フェアリー・ゴッドマザーが見せている魔法による幻影。過去の記憶。

 

 この家から、全てが始まった。エラという娘が、シンデレラとして歩む運命が。

 

 そして、世界を混沌に陥れることとなる悲劇が。

 

 そして今、シンデレラが立っている場所。二階へ続く階段の踊り場。こここそが、シンデレラにとって忌むべき場所である。

 

『シンデレラ! シンデレラ! どこにいるの!?』

 

 聞き慣れた声。シンデレラを呼ぶ怒りを孕んだ大声は、屋敷中に響く。その声を聞いて、パタパタと軽い足音を鳴らしながら、呼ばれた本人が階段を駆け上がっていく。

 

『は、はい! お義母様!』

 

 シンデレラは慌てながらも、腰のエプロンで手を拭いながら呼んだ人物の前に立つ。派手なドレスに、厚い化粧。それでも隠し切れない皺を深くしながら、中年に差し掛かろうとしている女性こと継母が、シンデレラを睨みつけた。

 

『全く、呼んだらすぐに来なさい! 本当にあなたは愚図でのろまなんだから!』

 

『も、申し訳ありません……』

 

 しょんぼりと俯くシンデレラ。継母は顎ですぐ隣にある裸婦の彫像を指す。豪華な像ではあるが、屋敷の景観に合わない、逆に嫌らしさを醸し出していた。

 

『この彫像、磨いておいてちょうだい。こんな埃塗れになるまで放っておいて、何を考えているの?』

 

『は、はい! 只今!』

 

 慌てて、手に布を持って彫像を磨き始める。継母の気まぐれか苛立ちから、シンデレラに掃除を命じる。いつもの光景であり、毎日の習慣でもあった。

 

 その時も、シンデレラには継母に対する憎しみは無かった。ただただ、彼女のために働いていれば、いつかは分かってくれる筈だと信じて、毎日をすごしていた。

 

 だが……この日は、いつもと違っていた。

 

 継母へ背を向け、像を必死に磨くシンデレラ。いつもならば、それをしばらく眺めた後、満足気にして背を向ける。

 

 だが継母は、シンデレラの背中をじっと見つめた後、懐に手を入れる。ゆっくりと取り出したのは、鞘に収められた果物ナイフ。それを静かに抜き放つと、鋭利な刃が姿を現した。

 

 シンデレラは気付かない。せっせと像を磨き、埃を落としていく。そんな彼女の背中に狙いをすまし、ゆっくりと、継母は果物ナイフを頭上へ掲げていく。

 

 そして、

 

『ふぅ……終わりました、お義母』

 

 様、と続けようとしたシンデレラが振り返った。

 

『え?』

 

 目の前の光景を、最初は理解できずにきょとんとするしかなかったシンデレラ。継母が力いっぱい、ナイフを振り下ろそうとした瞬間、脳が状況を理解し、無意識に横へ跳ぶように避けた。

 

『キャァ!?』

 

 ナイフは空振りし、継母は舌打ちする。そしてギロリと、シンデレラを睨みつけた。

 

『お義母様!? どうして……!?』

 

 訳がわからず、壁に背を付けるシンデレラ。恐怖に怯え、ただただ継母の突然の奇行に恐れる。

 

 継母の顔が歪む。その際、彼女の顔の表面を覆っていた化粧が剥がれ落ち、年によって変色した肌が露わとなる。その形相は、すでに人間というよりも怪人そのものと言えた。

 

『お前だけは……! 許さない!! 許さない!!! こんなの、認めない!!』

 

 継母は、憎んでいた。前日、舞踏会へ赴いた際、周りの男どもは、王子は、娘たちに目も暮れず、美しいドレスを纏ったシンデレラに夢中になっていた。

 

 何故自分たちではない? 何故シンデレラだけがいい思いをする? そんな憎しみが、嫉妬が、シンデレラに対する殺意となって身を動かす。

 

 怯えるシンデレラの前に立ち、再びナイフを振り上げる。シンデレラの心臓を喰らわんと、ナイフが冷たく光る。

 

『ひっ……!』

 

 恐怖に身体が硬直する。しかし、彼女の生存本能が逃げを選択。咄嗟に横へ転がり、ナイフを避けた。

 

『避けるんじゃないよぉ!!』

 

 唾を撒き散らしながら叫ぶ継母。転がった際、足に力が入らなくなったシンデレラは、這う這うの体で継母から離れようとする。

 

『いや! いや!! 誰か! 誰かぁ!!』

 

 階段の傍で、叫ぶしかできないシンデレラ。屋敷の中には、今は誰もいない。例え今、継母の連れ子である義姉がいたとしても、恐らく怯えて逃げ出すか、或いは笑い飛ばすか。

 

 死。迫る絶望を前に、そんな言葉が過る。

 

『さぁ……死になさい!!』

 

 狂気を孕んだ笑顔で、継母がナイフを大きく振り上げた。このままでは、シンデレラの胸にナイフが突き立てられ、それが墓標となるだろう。

 

 最早、逃げ道はない。襲い来る痛みを前に、防衛本能からシンデレラは手で顔を覆わんとした。

 

 だが。

 

『ぅぁっ……!?』

 

 その声と共に、足首が変な方向へ曲がって継母は体勢を崩す。元に戻ろうと両手を振り回してバランスを取ろうとした。

 

 しかしそれも空しく、継母はバランスを崩し……その際、シンデレラの足に躓くような形となり、驚き見つめるシンデレラの上を飛び越え、そして、

 

 

 

 階段から、転がり落ちていった。

 

 

 

『……え?』

 

 継母が、階段を転がり落ちていくのを、ただ呆然と見つめるしかできなったシンデレラ。やがて転げ落ちていった継母は、鈍い音をたてて階段の踊り場でドレスを広げながらうつ伏せに倒れ込んだ。

 

 先ほどまでの騒ぎが嘘のように、静寂がその場を支配する。おもむろに立ち上がり、シンデレラは階段を一段一段、ゆっくりと降りていく。その間も、継母はピクリとも動かない。

 

『お……お義母様?』

 

 返事はない。継母の傍に座り込み、肩をゆする。

 

『お義母様?』

 

 何度ゆすっても、反応は返ってこない。継母も、ピクリとも動こうとしない。

 

『お義母様? お義母様!?』

 

 強く、より大きな声で呼びかける。返事はなく、そして決定的な物は継母の頭から流れ出る。

 

『ひっ!?』

 

 血。継母の頭部から流れ出た真っ赤な液体が、池のように継母を中心に溜まっていく。

 

思わず尻もちを着くシンデレラ。呼吸が荒くなる。目の焦点も合わない。

 

『あ、あぁ……私、私は……!?』

 

 シンデレラの足に残る感触。最後に継母が体勢を崩した時、シンデレラは思い出す。

 

『私が……お義母様を……!』

 

その時、彼女はあまりの衝撃により、冷静さを欠いていた。足に残った感触から、彼女は継母の足に自らの足を引っかけ、階段から転げ落とすよう仕向けた……当時、そう考えていた。故に、シンデレラの脳を一つの考えが埋め尽くしていく。

 

 

 

 愛していた筈の継母を、殺してしまった

 

 

 

 誰も指摘する人間はこの場にはいない。彼女に助言を与える者はいない。混乱に混乱が重なる彼女が取った行動は……

 

 

 

『い……いやああああああああああ!!』

 

 

 

 叫び、その場から転がるようにして逃げ出すことしかできなかった。

 

 

 

 これが、始まりの罪。彼女にとって、全ての元凶となった出来事である。

 

 

 

 

「…………」

 

 その光景を、シンデレラは黙って見ていた。自分の姿を第三者視点として見るということに戸惑いつつ、全ての成り行きをじっと、最初から最後まで見つめていた。

 

「……私、は……」

 

 あの時、パニックになっていた彼女にはわからないことだった。そしてそれは先ほどまで、ずっとそれが真実だと信じて疑わなかった。

 

 しかし、こうして別の角度から見てみれば、真相が明らかとなった。

 

「あれは……事故、だった……?」

 

 足に引っ掛けた落としたわけではなく、継母が足を挫き、たまたまシンデレラの足に当たり……それが切っ掛けで、継母は階段から落ちて行った。

 

 継母に反撃したわけでもなく。本当に、偶然の産物が生みだした悲劇だった。

 

「いいえ、事故じゃありません」

 

 だが、それを真っ向から否定する者がいる。フェアリー・ゴッドマザーが、悲し気に首を振った。

 

「え……じゃあ」

 

「ましてや、あなたのせいでもありません」

 

 言って、フェアリー・ゴッドマザーは瞳を閉じる。手に持つ杖を強く、強く握りしめて。

 

 

 

「原因は他でもない、私……私なんです」

 

 

 

~ 第12話 貫け! 悲しみのDestiny! ~

 

 

 

 原因は自分だと、フェアリー・ゴッドマザーが自供する。最初、意味がわからずにシンデレラは何も言えず、沈黙するしかなかった。

 

「……そ、それって、どういう意味なんですか?」

 

 ようやく口を開いた出てきた言葉。理由を尋ね、フェアリー・ゴッドマザーは迷うことなく答えていく。

 

「あの時、私は全てを見ていました。あなたを見守るために、王子と結ばれるまで、干渉しないよう、姿を消しながら……けど、あなたの継母がナイフをあなたに突き立てようとした時、私は自らを律することができず、思わず魔法を使いました」

 

「……その魔法って……」

 

 小さく、フェアリー・ゴッドマザーは頷いた。

 

「ええ……あの時、足を挫くように仕向けたのは、私です」

 

「っ……!」

 

 驚き、息を呑むシンデレラ。フェアリー・ゴッドマザーは、続けた。

 

「本当は、あなたが逃げる時間を稼ぐ程度に留めておくつもりでした。大きな干渉をするつもりはなく、他に他意なんて無かったんです……けれど」

 

 不幸にも……継母は、階段から落下した。

 

 覆しようのない結果に後悔し、フェアリー・ゴッドマザーの瞳から雫が流れ落ちていく。

 

「その後、気絶から目覚めた継母は、姿をシンデレラへと変えました……私は、彼女が恐ろしい何かに変わったとわかり、止めようとして……後は、あなたが知っている通りです」

 

 責任を取ろうと、カオステラーとなった継母に立ち向かったフェアリー・ゴッドマザー。その結果が、洗脳という形でシンデレラたちを襲うこととなってしまった。

 

「全ては、私が招いた結果です……あなたのせいじゃありません」

 

 これが真相。シンデレラが罪と思っていたこと全ては、彼女の思い込みでしかなかった……フェアリー・ゴッドマザーは、暗にそう告げた。

 

「そん、な……」

 

 罪を犯したわけではない。シンデレラの中には、喜びの二文字は無く、ただ戸惑いと困惑しかなかった。

 

 責めるべきは、目の前の恩人。結果論的に言えば、そういうこととなる。

 

「責めたければ、責めなさい。あなたには、その権利があります。あなたに重い責を背負わせ、絶望へと陥れた元凶は……私なんですから」

 

 言って、フェアリー・ゴッドマザーは深く、頭を下げる。こんなことをしても償いにもならないとわかっていながらも、悲しみに暮れるシンデレラのために今できることは、謝罪しかなかった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい、シンデレラ……!」

 

 初めて聞いた、フェアリー・ゴッドマザーの震える声。それを聞いて、シンデレラは確信する。

 

 フェアリー・ゴッドマザーもまた同様、ずっと苦しんでいたということに。シンデレラに本当の元凶を教えることもできず、カオステラーの駒となるしかなかった彼女は、シンデレラよりもずっと。

 

 守るための行いが招いた悲劇……それが、この騒動の引き金となったということを、今初めて知った。

 

「フェアリー・ゴッドマザー……」

 

 謝罪するフェアリー・ゴッドマザーを、じっと見つめるシンデレラ。しかし、その胸中にあるものは怒りでも、失望でもない。

 

「……違います。フェアリー・ゴッドマザーのせいなんかじゃありません」

 

 彼女の肩に手を置き、頭を上げさせる。涙で瞳を潤わせるフェアリー・ゴッドマザーは、どういう意味かとシンデレラを見る。

 

「この事態を招いたのは、私です。私が、あの時に逃げ出してしまったから、お義母様がああなってしまった」

 

 あの時、己の所業に恐れ慄き、その場から逃げ出すしかなかったシンデレラ。できることは、たくさんあったはずだった。倒れた継母を手当てするなり、誰かを呼ぶなりできたはずだった。

 

 でもそれすらしなかった。ただ自分が恐かったから、逃げることしか考えていなかった。

 

 その時、彼女は落としてしまった。大切な運命を、その場に。

 

「だから……私は、罪を背負うべきなんです」

 

 元々、シンデレラという役割に疑問を持っていた。運命の書の筋書きに、納得いっていなかった。

 

 だから、こうなってしまったのは全て自分のせいだと、シンデレラは言う。

 

「違います! それは……!」

 

 尚も自分のせいと、シンデレラの言い分を否定するフェアリー・ゴッドマザー。罪を背負う必要はないと、フェアリー・ゴッドマザーは続けようとした。

 

 

 

「だから……私が罪を償っていくのを、手伝っていただけませんか?」

 

 

 

 シンデレラの懇願に、フェアリー・ゴッドマザーはその先を紡ぐことができなかった。

 

「フェアリー・ゴッドマザーが私を守るためにしたことが罪だというのなら、私は私の運命を放棄したことが罪です」

 

 落とした運命(ガラスの靴)を拾い上げたのは王子ではなく、邪悪な意思を持つ継母だった。その結果が、今の状況であるというのならば。

 

「だから私は……罪を償うために、お義母様から運命を取り戻さなくてはいけない」

 

 運命を放棄した罪を、愛すべき家族をあんな風にしてしまった罪を、償わなければいけない。

 

 それが、シンデレラが為すべきことだと、彼女は気付いた。

 

「でも私には、力がない。償うために必要な力が」

 

 今、必死に戦ってくれている人たちのためにも。そして、この世界のためにも。

 

「だから、フェアリー・ゴッドマザー」

 

 そっと、彼女の手を両手で包み込む。暖かく、優しい手。苦しかった時、シンデレラに伸ばしてくれた小さな手。

 

「私に、運命を切り開く力を……勇気を、ください」

 

 その手を、今度はシンデレラが掴んだ。フェアリー・ゴッドマザーと寸分変わらない、小さな手で。

 

「シンデレラ……」

 

「お願いです……エムさんは、私に前を歩く力をくれました」

 

 最初に会った時、ドクターと名乗った彼。それからずっと、シンデレラの暗い心に射す一筋の光となり続けた彼。継母に否定された時、ずっとシンデレラを肯定してくれた彼。

 

「私は……そんな彼の、皆さんの、力になりたい」

 

 強い意志を宿した目。罪から逃れ続けていた彼女には無かった強い光が、彼女に宿る。

 

 そこには、弱々しい灰被りの少女はいない。世界の中心たる主人公(プリンセス)の姿そのものだった。

 

「…………」

 

 フェアリー・ゴッドマザーは思う。ずっと、助けなければいけないと考えていた彼女。放っておいたら壁にぶつかり、迷い続けることになるかもしれないと思い続けていた彼女。

 

 それは、自分の傲慢なのだと、フェアリー・ゴッドマザーは気付いた。

 

(ああ……私は……)

 

 シンデレラは、罪から逃げることをやめた。強い意志で改めて向き合うと決心した。

 

(なら、私ができることは……)

 

 なのに、自分一人がずっと逃げ続けるわけにはいかない。この世界の主役である彼女に、フェアリー・ゴッドマザーができることはただ一つ。

 

「……わかりました」

 

 彼女に力を与えるということが、自分にできる罪滅ぼしなのだとしたら。共に背負っていくと言ってくれた彼女のためになるのだとしたら。

 

「私の魔法で……灰被りの乙女に、祝福を」

 

 杖を振るい、魔法を発動させるフェアリー・ゴッドマザー。シンデレラの身体を覆っていくその魔法の光は、彼女が行使してきた魔法の中でも一番、強い輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

「「おりゃあ!!」」

 

≪HIT!≫

 

『うぐぅっ!!』

 

 永夢とパラドのストレートパンチが同時にカオステラーに命中。倍となったダメージを受け、後退り、よろめく。かろうじて宙に浮いている状態ではあるが、翼を一枚射抜かれた以上、これまでのように自由自在に動き回ることはできない。

 

『この、ガキィ!!』

 

「おいおい、さっきの余裕はどこいったんだよ?」

 

 カオステラーの右半分が、怒りで歪む。それを見て、パラドが笑う。

 

「ゲームはこっからだぜ? ほら、来いよ!」

 

 掌を上に向け、クイクイと指を曲げる。シンプルな挑発だが、頭に血が昇ったカオステラーには十分効果が出ていた。

 

『ああああああああああっ!!』

 

「パラド……挑発しすぎだ」

 

「わりぃ」

 

 凄まじい勢いで突進してくるカオステラー。その迫力に、永夢が原因であるパラドに向けて思わず文句を言った。パラドも自覚があったのか反射的に謝る。

 

「エム!」

 

 剣を振り、永夢とパラドに迫る。レヴォルが剣を手に、カオステラーの間に割って入ろうとした。

 

 

 

「はぁっ!」

 

 

 

 その時、気合の込められた声がした。直後、急接近していたカオステラーの翼を、青く光る一筋の線が貫く。

 

『イ、 ギャアアアアアア!?』

 

 苦痛に喘ぎ、地面に落下してのたうち回るカオステラー。翼に空いた大穴は、穴を中心に凍り付き、まるで結晶のように変化した羽根が一枚一枚翼から抜け落ち、地面に当たって砕け散っていく。

 

 何事かと、攻撃の正体を探るべく永夢たちは振り返った。そして、そこに立っていた者を見て、驚愕する。

 

 百合を模したような真っ白なドレス。首元に光るルビーのネックレス。透き通るような空色の髪には、宝石がふんだんにあしらわれたティアラが乗っている。

 

 そしてその手に握られているのは、身の丈半分の長さを持つ、真っ白な陶磁を思わせる弓。両端に水晶の装飾が施され、月明かりを受けて光を放つそれは、武器というよりも一種の芸術品とも言える。

 

 豪奢にして、嫌らしさを感じさせない、完成された美が、足に履かれた水晶の如く煌めくガラスの靴の涼やかな音をたて、踏みしめる。

 

「エラ、ちゃん……?」

 

 先ほどまでのみすぼらしい服を纏った少女は、もういない。

 

 そこに立っていたのは、この世界の主役にして、誰もが羨むプリンセスその人だった。

 

「……私は、ずっと逃げてきました」

 

 フェアリー・ゴッドマザーの魔法によって姿を変え、カオステラーを射抜いたシンデレラ。左手の弓を持つ手に、力が入る。

 

「自分の罪と向き合うのが恐くて……運命を、投げ捨ててしまった」

 

 懺悔が、この場に響き渡る。誰も彼もが、言葉を発さない。唯一カオステラーが、苦し気に息をする音がする。

 

「そしてお義母様……私は、あなたと家族になりたいと思っていたのに、それすらも私は諦めてしまっていました」

 

 右手に、一本の矢を召喚する。鏃もガラスのような水晶で作られたそれを、弓の弦に番えた。

 

「でも……私は、もう逃げません」

 

 キリリ……そう軋む音をたてながら、シンデレラは矢を引き絞る。

 

「お義母様! 私は、皆さんと共に、あなたを止めます!!」

 

 力強く、シンデレラは思いの丈を叫ぶ。倒すのではない、止めるのだと。

 

 

 

「私は……あなたの家族だから!!」

 

 

 

 矢を、放つ。狙うは、機動力の源であるカオステラーの翼。

 

『ギィィィッ!!』

 

 その矢を、カオステラーは盾を持って防御、弾かれた矢は砕け散り、宙に溶けるように消えていった。

 

『ほざくなぁぁぁっ!! この小娘ぇぇぇぇぇぇっ!!』

 

 起き上がり、杖をシンデレラへ向ける。先端を中心に魔法陣が展開、アリシアを狙った時のような極太の光線が、シンデレラを襲う!

 

「「はぁぁっ!!」」

 

 が、宙高く飛び上がってシンデレラとの間に割って入った永夢とパラドが、肩を寄せて立ち塞がる。肩に付けられたエグゼイドの顔半分のパーツが組み合わさり、エグゼイドの顔そのものとなる。

 

 光線バリア発生装置『R-フェイスアンブレイカー』と『L-フェイスアンブレイカー』に、カオステラーのビームがぶつかる。見えない壁が、永夢とパラドの前に展開。ビームはそれでも突き進もうとするも、突き破れないバリアによって勢いを殺され、そして霧散した。

 

『何ぃっ!?』

 

 攻撃が効かないことにカオステラーは愕然とする。永夢は、防御姿勢を解いてシンデレラに振り向いた。

 

「エラちゃん……」

 

 凛とした佇まい。おどおどしていた彼女はそこにはおらず、強い眼で永夢を見つめた。

 

「エムさん……あなたのおかげで、私は……」

 

 礼を言おうと、言葉を紡ぐ。しかし、永夢は頭を振った。

 

「違うよ、エラちゃん。君は、自分で前に進もうとした。君の力だよ」

 

「……それでも、その力をくれたのは、エムさん……皆さんのおかげです」

 

 運命を切り開く力を得たシンデレラ。これはフェアリー・ゴッドマザーの魔法による力ではあるが、全てを諦めてしまった者には得られない力。

 

 諦めずに、向き合おうとする力を得られたのは、周りの人たちの助けがあってこそ。シンデレラは、そう断言できた。

 

「ですけど……それでも、私一人ではお義母様を止めることはできません」

 

 カオステラーの力は強大だ。力を得たシンデレラだが、一人では到底太刀打ちできない。

 

 だからこそ、願う。運命を切り開くために、自身が信じる人たちに。

 

「だから……もう少しだけ、力を貸してください!」

 

 心からの願い。それを無碍にする者はこの場に一人とて存在していなかった。

 

「もちろん!」

 

「俺たちに任せておけって!」

 

 永夢とパラドが、力強くそう返す。直後、周りに散っていたレヴォルたちも、シンデレラの下へ集っていく。

 

「うわぁ、シンデレラちゃんすごく綺麗!」

 

「やっぱりどこの想区でもシンデレラはプリンセスよねぇ。流石だわ!」

 

「やれやれ、やぁっと主役が本腰上げやがったか」

 

「ティム、そんなこと言うもんじゃありませんよ」

 

「はは。しかし、これで役者は揃ったね」

 

 永夢とパラドの横に、レヴォルが立つ。そして、二人へ視線を向けた。

 

「行こう、エム。この悪夢を、終わらせるために!」

 

「うん……エラちゃんの運命を、取り戻す!」

 

 永夢とパラドが拳を、

 

 レヴォルが剣を、

 

 エレナが魔導書を、

 

 ティムが槍を、

 

 アリシアが大砲を、

 

 パーンが斧を、

 

 シェインが手甲を、

 

 そして、シンデレラが弓を構えた。

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 思いは一つ。目の前で人外の叫びを上げる、悪意の権現カオステラー。悪夢を生み出し続ける輩を止めるために。

 

 一斉に、動き出す。

 

「「うおおおおおっ!!」」

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 飛び掛かる永夢とパラド、そしてレヴォル。拳と剣を、チョコブロックを生成して足場にしつつ、縦横無尽に跳び回り、駆け回りながらカオステラー目掛けて振るう。

 

『小賢しい!!』

 

 剣と盾を使い、それらを巧みに捌いていく。剣を剣で弾き、拳を盾で防御する。三人による猛攻も、カオステラーには通用しない。

 

 そう思われるような光景。しかし、今のカオステラーは三人にしか意識が向いていない。

 

「そこっ!」

 

 つまるところ、ある意味隙だらけだった。

 

『ギャッ!』

 

 背中ががら空きのカオステラーに、アリシアが砲弾を叩き込む。爆炎に包まれるカオステラーを、シェインとパーンが飛び掛かる。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

「せいやあああああ!!」

 

 シェインの手甲が、パーンの斧が、一息に振るわれた刃によって左右三枚の翼を一気に両断。翼の付け根から血が噴き出す。

 

『ギアアアアアアアアアアッ!!』

 

 羽根を撒き散らし、カオステラーが仰け反り吼える。宙を浮く手段を失ったカオステラーは、地面に膝を着いた。

 

『うぅぅぅ、何故、何故なの!? さっきまでは、私が優勢だったはずなのに!?』

 

 剣を杖にし、立ち上がるカオステラー。憤怒と苛立ちで燃える右目が、永夢たちを射抜く。

 

 先ほどまでは、確かにカオステラーが圧倒していた。が、今やその逆。徐々にカオステラーが追い込まれて行っているのは誰の目から見ても明確だった。

 

 喚くカオステラーに、永夢とパラドがこの状況になった原因を突きつける。

 

「当然だ。僕たちが、ただやられていたとでも思っていたのか」

 

「お前の攻撃パターンは、もう攻略済みなんだよ!」

 

 確かに、カオステラーの攻撃は全てが強力だった。しかし、それら全てのパターンを読み解き、回避、防ぐタイミングを探り、攻撃をする時に出て来る癖を把握してしまえば、恐るるに足らず。

 

 天才ゲーマーM(永夢とパラド)にとって、それらを見極め、把握することは容易いことだった。

 

『お、おのれぇ……おのれぇぇぇぇっ!!』

 

 だが、またしてもカオステラーは油断する。意識が真っ直ぐ、正面に立つ永夢とレヴォルへ向いているため、周りを注視していなかった。

 

「隙ありだ!!」

 

 そこをティムの槍が、カオステラーへ突き出される。狙うはカオステラーの急所……ではなく、左手。

 

『なにっ!?』

 

 盾を持つ左手を狙われるとは思わず、防御が間に合わない。腕を切られたカオステラーは、盾を持つ力が一瞬緩む。

 

「おらぁっ!!」

 

 そこをすかさず、突き出した槍を横へ薙ぐ。矛先は盾に当たり、金属質の音をたててカオステラーの手から離れ、飛んでいく。これでカオステラーの防御手段は無くなった。

 

「これで!!」

 

 そこに追い打ちをかけるため、エレナが魔導書を掲げた。エレナを中心に、赤い靴が召喚され、洗脳されたフェアリー・ゴッドマザーにしたように、カオステラーに弱体化の呪いを放つ。

 

『い、ぎ、ぐぅぅぅぅ……!?』

 

 身体が重い。剣を支えに立つことすらままならない。五体満足だった時とは違い、今のカオステラーは度重なるダメージによって、エレナの呪いに対抗する術がない。カオステラーは剣を取り落とし、両手を地面に着く。

 

『ま、まだ……まだぁぁぁぁっ!!』

 

 残された右側に生えたもう一本の腕。そこにある杖を高く掲げ、魔法を行使するために光を集めていく。周りを一掃するだけの力が、杖から放たれようとした。

 

「させない!!」

 

 が、それはカオステラーの上空から降り注ぐ水晶の矢の雨によって防がれる。一本一本に魔力が込められたその矢は、カオステラーの身体に刺さるや否や、その形を変えて水晶となる。カオステラーの背中に無数に刺さった矢によって、背中一面を水晶が覆いつくして行った。

 

杖を持つ手の力が維持できず、力が抜けた手から杖が零れ落ちる。持ち主から離れた杖は、集めた光の行き場を失い、霧散していった。

 

『シ……シンデレラあああああああ!!』

 

 それを成した人物。カオステラーが最も忌み嫌い、憎み、蔑んだ少女。煌びやかなドレスを身に纏い、己の象徴とも言えるガラスの靴でしっかり足を地に着けたシンデレラは、自らの願いが込められた一矢を上空へ放ち、水晶の雨となりてカオステラーを縛り付けた。

 

『何故だぁぁぁぁぁぁっ!? 何故!! 私は、この世界を統べる力を手にしたのに!! 家族三人が揃っているのにぃぃぃぃぃぃっ!!!』

 

 理解できない。理解したくない。カオステラーは己の力が絶対だと信じて疑わない。家族の力が退けられるなど、あってはならない。現実を直視したくない、あり得ないと、怒りの咆哮を上げた。

 

「そんなの、わかりきったことだろ?」

 

 カオステラーの咆哮に、答える者が一人。パラドだ。

 

「お前ら家族三人で一人の力が、俺と永夢、二人で一人の力に遠く及ばなかったってことだ」

 

「それだけじゃない。レヴォル君たちの諦めない強さ、そしてエラちゃんの運命を掴み取ろうとする力が、お前を上回ったんだ!」

 

 永夢が、カオステラーへ向け叫ぶ。全てを支配する力ではなく、誰かの為に戦う力の方が強いということを。

 

 決して挫けない思いの強さを。

 

「パラド!」

 

「ああ! 一気に行くぜ!」

 

≪ガッチョーン≫

 

 永夢とパラドは、二人同時にゲーマドライバーのレバーを戻す。すると、

 

≪キメワザ!!≫

 

 キメワザホルダーと違う行程で、必殺技発動準備が開始される。ゲーマドライバーから伝わるエネルギーが、永夢の右足に、パラドの左足へそれぞれ流れ込んでいく。

 

『うあああああああああああああああ!!』

 

 尚も認められないと叫ぶカオステラーが、永夢とパラドへ向けて、水晶で固まってしまった腕を、無理矢理動かして剣を投げつける。回転しながら飛ぶ剣は、そのまま行けば二人を両断してしまうだろう。

 

 無論、そんなことをさせるつもりは、レヴォルにはない。

 

「はぁっ!」

 

 甲高い音をならし、水晶の剣を弾き飛ばす。明後日の方角へ飛んでいった剣に目も暮れず、レヴォルはカオステラーへ走る。

 

「くらえぇぇぇぇっ!!」

 

 闇の力が、レヴォルの剣に凝縮されていく。そのまま、大きく剣を斜め下から振り上げる!

 

『ギッ!?』

 

 剣がカオステラーを切り裂く直前、闇の力を一気に開放。剣から吹き上がった闇は、カオステラーを上空へと打ち上げた。

 

「今だ! エム!!」

 

「いっけー!!」

 

 レヴォルが叫び、エレナが拳を振り上げる。シェインもティムもアリシアもパーンも、永夢とパラドに向けて頷いた。

 

「エムさん!!」

 

 最後、シンデレラが永夢の名を叫ぶ。それだけで、彼女の願いを永夢は聞き届けた。

 

「カオステラー! お前を……攻略する!!」

 

≪ガッチャーン!!≫

 

 二人同時にアクチュエーションレバーを開く。そして、

 

 

 

≪MIGHTY DOUBLE CRITICAL STRIKE!!≫

 

 

 

 必殺技を解放。それぞれの足にエネルギーを纏った永夢とパラドは共に飛び上がった。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 重力に従い、落下を始めるカオステラーの胴体へ二人の飛び蹴りが同時に命中。そして空中で独楽の如く高速回転蹴り、そして飛び上がっての再びの飛び蹴り、さらには機関銃の如く無数に繰り出される連続蹴り、オマケにもう一つ宙返りと共に蹴り上げるサマーソルトキック。それら全てが挟み込むような形でカオステラーに次々と、怒涛の勢いで炸裂していく。

 

『ギ、ア、ガ、アアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 全てが超ド級の威力のキックの嵐。たまらず悲鳴を上げるカオステラー。だが、まだこれは前座に過ぎない。

 

「「ふっ!」」

 

 地上へ降り立った永夢とパラド、二人が重なりダブルアクションゲーマーの最初の姿であるエグゼイド・ダブルアクションゲーマーレベルXへと戻る。そして、

 

「「おりゃあっ!!」」

 

『グァァッ!?』

 

 飛び上がってジャンピングアッパー。地へ落ちることを許されず、再び天高く舞うカオステラー。

 

「「これでぇぇぇぇっ!!」」

 

 そのカオステラーよりも高くジャンプ、空中で身動きの取れないカオステラーに狙いをすませるエグゼイド。

 

 これより繰り出されるのは、これまで受けてきた攻撃全てを上回る破壊力を持っていると直感で理解するカオステラー。だが逃げられない、動けない、防ぐことすら不可能。

 

 カオステラーが出来ることは、もはや一つのみ。

 

『ひっ……!』

 

 恐怖に慄き、痛みを受け入れることだけだった。

 

 

 

「「フィニッシュだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 

 

 再びXXRとXXLへとなったエグゼイドの、超高圧エネルギーを纏ったダブルキック。流星を思わせるその跳び蹴りは、真っ直ぐ、カオステラーへと突き刺さる!

 

『いやああああああああああああああああああああああっ!!』

 

≪PERFECT!!≫

 

 超威力のキックをまともに喰らったカオステラーは、悲鳴と共に大爆発。爆炎と爆風を巻き上げる。それを背にし、突き抜けた永夢とパラドは地面を滑りながら華麗に着地。膝を着き、勝利のポーズを決めた。

 

 

 

≪会心の一発!!≫

 

 

 

 そして鳴り響く、一撃が見事に決まった際のサウンド。それが、カオステラーとの戦いの決着の合図となった。

 

「よしっ!!」

 

「やった! やったー!!」

 

 レヴォルが拳を握り、エレナが手を叩きながら飛び跳ねて喜びを全身で表す。

 

「やったわ! にしても見事なまでの連続キックね!!」

 

「ありゃあ、逆にカオステラーが可哀想になるな」

 

 アリシアがダブルアクションゲーマーの繰り出す無数のキックを目の当たりにして興奮し、ティムは「敵には絶対回したくねぇな」と付け足しながら苦笑した。

 

「お見事です」

 

「ああ。素晴らしい連携だった」

 

 シェインとパーンも、手放しで永夢とパラドの息の合ったコンビネーションを称える。

 

「エムさん……」

 

 爆発による光を浴びる永夢を見つめ、シンデレラは彼の名を呟く。そこにあるのは、感謝か、それとも別の感情か。シンデレラは、今はこの熱くなる感情を胸に秘めたまま、ただ彼に向けて小さく言葉を紡いだ。

 

「……ありがとう……」

 

 

 

 

『う、あ、あぁぁぁ……』

 

 激闘を終え、中庭には静寂が戻った。カオステラーは、階段の前でうつ伏せに倒れ込み、息も絶え絶えの満身創痍。翼は全て切られ、周りには羽根が散乱し、暗黒のドレスもすでにボロボロとなっている。肌が見える箇所も傷だらけで、髪もところどころが縮れている。

 

 見るも無残なカオステラーの姿。もはや彼女に戦う力は残されていない。ただただ呻き声を上げるしかできなかった。

 

≪ガッシューン≫

 

 栞を書から取り外してコネクトを解除するレヴォルたちと、マイティブラザーズXXガシャットを同時に抜く永夢とパラド。二人の身体がオレンジと緑の粒子となって、一つに集まっていく。それが一瞬光ったかと思うと、煤が付いた白衣を身に纏った永夢がそこに立っていた。

 

「わ、普通のエムさんだ」

 

「え、何その反応?」

 

 変身を解いたら永夢が二人になっているのかと思っていたエレナの驚愕に、思わずツッコむ永夢。そんな二人を見て、レヴォルは苦笑する。

 

「……うーん」

 

「……ちょっと? アリシアちゃん?」

 

 そしてアリシアはというと、永夢の顔を引っ張ったりこねくり回したりして思案顔になる。一通り終えても、納得のいかない顔つきになった。

 

「……さっぱりわからない。どうやって二人に分裂したのかしら……?」

 

「そうですねぇ。原因究明のためにも、やはりゲーマドライバーとガシャットを分解した方が……」

 

「おいお嬢、ババァ」

 

「シェイン、以前と言っていることが逆だよ」

 

 禄でもないことを言い出すシェインを窘めるティムとパーン。永夢はパラドのことを無暗に明かす訳にもいかず、「いやぁ、何ででしょうねぇ?」と曖昧に誤魔化すしかなかった。

 

「まったく……今それどころじゃないっていう時に……」

 

 確かに、永夢のあの姿はレヴォルとて気にはなる。しかし、今はそういう話はするような空気じゃないことを、レヴォルは目の前に広がる光景を見ながら呆れたように呟いた。

 

 

 

「お義母様……」

 

 シンデレラが倒れ伏すカオステラーに歩み寄る。シンデレラの声に反応したカオステラーは、力無く彼女を見上げた。

 

『……何よ。また私を笑うの?』

 

 カオステラーの形相は恐ろしく、ボロボロとなって戦う力を失って尚、その目に宿る憎しみの火は消えていなかった。

 

 以前のシンデレラならば、その目を見ただけで身を硬直させ、恐怖していたであろう。しかし、今の彼女には、そんな憎しみの目などで立ち止まることはない。

 

「お義母様。信じてくれないでしょうけど、私は一度たりともお義母様を、ましてやお義姉様たちを見下したことなどありません」

 

 カオステラーの前に跪き、語り掛ける。

 

「私は、子供の頃に本当のお母様が死んで、その後にお父様が私に寂しい思いをさせないようにと、お義母様たちを連れて来て……その後、お父様も死んでしまって。血の繋がった家族は、皆いなくなってしまいました」

 

『……』

 

 カオステラーは、シンデレラの独白を黙って聞く。いまだその目には憎悪が宿っていながらも、口を挟むような真似はしなかった。

 

「けど、私は寂しくありませんでした。お義母様とお義姉様たちが、私にとって家族だったから。血が繋がっていなくても、大事な家族に違いなかったから」

 

 父が遺してくれた、大切な家族。例え意地悪をされても、ずっと家族として愛していきたかった、シンデレラの思い。

 

「運命の書には、お互いにどんな感情を抱くかなんて、記されていませんから。だから、きっといつか仲良くなれるって、ずっと思い続けていました……けど、私の思いは、お義母様には届かなかったんですね」

 

 寂しそうに、目を伏せる。思いをもっと伝えていれば。他に何かいい方法があれば。こんなことにはならなかったかもしれない。

 

「結局、私は逃げ出してしまいました。それが、こんな事態を招いてしまった」

 

 後悔してもし切れない。結局、我が身かわいさにシンデレラは運命を投げ出し、そして多くの人々が傷ついた。

 

「でも……もう、私は逃げません」

 

 だからこそ、もうこんな思いをするのも、人が傷つくのもたくさんだった。

 

「これからは、お義母様と向き合い続けます。そしていつか、あなたと私は家族なんだと、胸を張って言えるような運命を掴み取ってみせます!」

 

 失った絆は、また紡ぎなおせばいい。たとえ継母が拒絶しようと、シンデレラはもう迷いはしない。

 

「それが私の、私が掴み取りたかった、本当の幸せだから!」

 

 豪華なドレスも、王子様との結婚でもない。血の繋がらなくとも、愛する家族と共にすごすこと。

 

 それを掴み取るまで、シンデレラはこれからも継母に笑いかけていくことを、決心した。

 

『……ハッ』

 

 シンデレラの思いを聞き、カオステラーは鼻で笑う。ふてぶてしく、それでいて忌々しそうに。

 

『あなたは昔からそう……気立てがよくて、美しさを鼻にかけない、王子に見初められるに相応しい子……だからこそ、私はあなたのことが大っ嫌いなのよ。本当の家族なんて、鳥肌立つわ』

 

 心の底からの言葉。シンデレラにも、それが伝わってくる程の悪態。しかし、シンデレラは微笑み、歯牙にもかけなかった。

 

「ごめんなさい。私、実は頑固なんです」

 

『……チッ!』

 

 家族になるまで、何があっても向き合い続ける。シンデレラの硬い決心に、カオステラーは思い通りにいかないことを悟って舌打ちした。

 

 後ろ向きだった少女は、もういない。そこにいるのは、芯の強い、幸せを掴み取るために尽力するプリンセスの姿がそこにあった。

 

 

 

 

「……」

 

 それを、永夢は何とも言えない表情で見つめる。どこまでも向き合うことを拒否する親と、それでも向き合おうと進み続ける子。血が繋がっていなくとも、そこにはまだ一方通行ではあるが、確かに絆が存在していた。

 

(……僕は……)

 

 決められた運命に抗おうとするシンデレラと、無意識に自身を比べる。湧き上がる暗い感情が表に出てこないよう、己の胸を掴んでシャツを皺が出来る程握りしめる。

 

 暗い気持ちを、圧し潰すかのように。

 

「よし、カオステラーも倒したし、これで再編ができるわね!」

 

「うん!」

 

 元凶であるカオステラーを倒した。これでエレナの再編を妨げる者は誰もいない。この想区の運命を作り直すため、エレナは肩に下げていた大きな本を取り出した。永夢も無理矢理思考を切り替え、事の成り行きを見守る。

 

 再編……滅茶苦茶になった想区の運命を紡ぎ直し、新しく書き換える力。世界そのものの運命を書き換えるという、規模も何も想像もできない力。永夢自身も強い関心があった。

 

(これで、ゲームクリアになるのかな?)

 

『多分、な。あのカオステラーってのがラスボスだったとしたら、そういう扱いになる筈だ』

 

 だがそれ以上に気になることがあった。再編をすることで、永夢たちは元の世界に帰れるのか否か、ということだ。

 

 帰る条件として想定していることが、ゲームをクリアすること。しかし、この世界の独特の空気、ゲームと現実が入り混じったような違和感がまだ解明できていない。

 

 ただ、それは気にはなるものの、まずこの世界を元の正常な状態に戻すことが何よりも大事だ。帰れるのならばそれでよし。帰れないのならば、原因を究明するために今後も動き続けるしかない。

 

「あの、エムさん……」

 

 そう思考する永夢に、シンデレラが声をかける。振り向けば、何か言おうか迷っている様子のシンデレラがそこにいた。

 

「エラちゃん?」

 

「……あ、あの……私……」

 

 頬を赤く染めながらもじもじと、指を組み替え、視線を彷徨わせるシンデレラ。

 

「わ、私……あなたが……」

 

 そして、その言葉を口にしようと……したが、すぐに口を噤んだ。

 

「……色々、本当にありがとうございました……私、今度こそ自分で運命を切り開いてみせます」

 

 微笑み、そう永夢に伝えるシンデレラ。その微笑みが、永夢には何故か寂しく見えたが、それも一瞬。永夢もまた微笑み返す。

 

「うん……君が、お義母さんと仲良くなれることを、祈ってるよ」

 

「……はい」

 

 コクリ、頷くシンデレラは、一歩永夢から離れた。

 

 

 

 それ以上近づいたら、決して叶うことのない思いが、また溢れ出してしまいそうになるから。

 

 

 

「さ、皆! 準備はいい?」

 

 エレナが本を広げ、周りに問う。誰も、何も言わない。それすなわち、準備はOKということだ。

 

「ああ、やってくれ」

 

 これで全て解決する。レヴォルはそう確信しつつ、エレナに先を促した。

 

 エレナは、カオステラーの前で本を、『箱庭の王国』を広げる。その状態で、目を閉じ、意識を集中させた。

 

「……『混沌の渦に飲まれし語り部よ』」

 

 詠唱を紡ぐエレナの黒い髪がざわつく。彼女の身体から、淡い光が溢れ出した。

 

「『我の言の葉によりて』」

 

 一つ一つの言葉に、不思議な力が感じられる。その力は、世界に作用する力。運命を紡ぎ直し、新たな希望を作り出す力。

 

 やがて、詠唱を完成させるため、最後の言葉が紡がれようとした。

 

「『汝の運命を』」

 

 

 

 

『うっ……!?』

 

 

 

 

「……え?」

 

 詠唱が、止まった。

 

 その時、エレナに集っていた力が散っていく。髪も元に戻り、光も消失していった。

 

「エレナ?」

 

 突然どうしたのか。レヴォルが疑問に思い、声をかけようとした。

 

 

 

 

『あ、あ、ああ……』

 

 

 

 

「な、なんか……カオステラーが……」

 

 エレナが、前を指さす。力無く横たわっていたカオステラーが、蹲り、震え、そして、

 

 

 

 

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!???』

 

 

 

 

 絶叫が、空間を震わせた。

 

 これまでの比ではない、耳が劈ける程の甲高い叫び。胸を抑えながら仰け反り、喉を曝け出しながら、カオステラーは叫び続ける。

 

「お義母様!?」

 

 突然の継母の様子に、シンデレラが駆け寄ろうとする。が、カオステラーはのたうち回り、周りを寄せ付けない。

 

『あああああああああっ!! あああああああああ!!!』

 

「な、何だ!? 何が起こっているんだ!?」

 

「一体、どうなっているんだ……!?」

 

 カオステラーの様子が、尋常ではない。レヴォルが慌て、いつも冷静なパーンですらも何がなんだかわからない。

 

「エラちゃん、離れて!」

 

「で、でも……!」

 

 継母を案じるシンデレラを、永夢は離す。その間も、カオステラーは苦痛の悲鳴を上げていた。

 

『く、苦しい!! 胸が、胸がぁぁああああ!! ああああああああああああああ!!』

 

 胸を抑え、叫び続けるカオステラー。この場にいる誰もが、ただただ困惑する。

 

 しかしやがて、変化が現れて来る。

 

 

 

 ジ……ジジ……

 

 

 

「え……何、あれ……!?」

 

 カオステラーの身体を、砂嵐のような灰色の光が耳障りな音と共に走る。それが消えたり現れたりと、断続的に。

 

 初めて見る光景に、エレナが慄き、後ろへ下がる。他の皆も、その場から動くことができない。

 

「そんな……まさか!?」

 

 否、一人動く者がいた。

 

「エム!?」

 

 走り出した永夢を、レヴォルが呼び止めようとする。永夢はそれを聞かず、カオステラーの前で首から下げた聴診器状のアイテム『ゲームスコープ』のイヤーケーブルを耳に挿す。

 

 この光景を、永夢は嫌という程知っている。しかし、認めたくはなかった。

 

 そんなはずがない。そんな訳が……心の内で否定しながら、ゲームスコープのスキャニングライトを悶え苦しむカオステラーへ向け、スイッチを押した。

 

 ゲームスコープから空間にスキャニングモニタが投影される。その光景にレヴォルたちから驚きの声が上がるも、永夢はそれどころではなかった。

 

 モニタ内を動き回る、一つのアイコン。頭が三角形の形になっている、醜い化け物の顔。

 

 それが意味することは、一つ……それは永夢が最も認めたくない、それでいて最悪な事実。

 

 

 

「ゲーム病を発症している……しかも、このウィルスは……!」

 

 

 

『ああああああああああああああああああ!!!』

 

 

 

 永夢がその事実を口走ろうとした瞬間、カオステラーが一際大きな絶叫を上げる。身体を走るノイズがより一層激しくなる。そのノイズが泡立つように蠢き、やがて破裂するかのようにカオステラーの身体から塊となって飛び出して行った。

 

 塊は、最初にカオステラーが立っていたバルコニーの上に降り立つ。そして、塊が変化していき、やがてその全貌が明らかとなった。

 

 

 

『GUUUUU……』

 

 

 

 円錐状の頭頂部。リング状の飾りが付いた頭と、赤い目元に鋭い牙。背中から翼のような物が生え、鍛え上げられた肉体はさながら鎧の如し。

 

 ある者は言う。なんと神々しく、美しい姿なのだと。

 

 人々は言う。なんと悍ましく、恐ろしい姿なのだと。

 

 神々しさと悍ましさという二つの相反する姿を併せ持つ、金と黒の色合いを持つ人型の化け物が、バルコニーの上から永夢たちを見下ろし、唸り声を上げた。

 

「何だ、あの化け物は!?」

 

「あれもカオステラー……なのでしょうか……!?」

 

 それが何なのか、レヴォルたちはわからない。ただわかることは、あの怪物ははっきりとした悪意を持って、レヴォルたちを見ているということだった。

 

「で、でも、カオステラーは目の前に……!」

 

 エレナが倒したはずのカオステラーを指さす。が、その言葉は途中で止まった。

 

『な……何? 何なの、これ……!?』

 

 戸惑いの声を上げたのは、カオステラー本人。己の手を、身体を見て、恐れ、困惑している。

 

 無理もない。何故ならば、身体が時折ノイズを走らせながら透けて見えているのだから。

 

 

 

 彼らは知らない。これが、乗っ取られた(・・・・・・)状態なのだということを。

 

 

 

「カオステラーの、身体が……」

 

「一体、何がどうなって……!?」

 

 エレナが驚き、ティムが理解不能とばかりに呟く。これまでにない異常事態。突如苦しみだしたカオステラー。そのカオステラーから飛び出してきた化け物。そして身体が透けだしたカオステラー。

 

「う、ううっ……!?」

 

 さらに、背後から苦しみの声と何かが倒れる音が、一行の耳に入った。

 

「ル……ルイーサ!?」

 

 ずっと物陰に隠れていたヘカテーが、カオステラー同様に胸を抑えて苦しんでいた。そして、身体に走るノイズもまた同様。

 

 先ほどまでとは明らかに苦しみの度合いが違うヘカテーの身体を、一早く気付いたティムが抱き上げる。

 

「おい、おい! しっかりしろ! ルイーサ!!」

 

 ノイズを走らせるヘカテーに必死に呼びかけるティム。返事はなく、ただ呻き声が聞こえるのみだった。

 

「そんな、ヘカテーちゃんまで……!?」

 

「何なんだ……一体、何が起こっているんだ……!?」

 

 さらなる混乱を呼び寄せ、レヴォルたちは狼狽えるしかなく。

 

 しかし、一人だけ……永夢は、バルコニーの上に立つ化け物を、忘れもしない最大級の敵を睨みつけ、その名を呟く。

 

 

 

「ゲム……デウス……!!」

 

 

 

 ゲムデウス。全バグスターウィルスの頂点に立つ、あるゲームのラスボスとして君臨する神。その強大な力は、永夢たちを幾度となく苦しめてきた。

 

 しかし、それは永夢たちがいた世界の話。ここは異世界。何故、ゲムデウスウィルスがここにいるのか。何故、カオステラーに感染していたのか。理由がわからず、永夢は戸惑う。

 

 

 

 カツ……カツ……カツ……

 

 

 

 異様な状況の中、静かに響く硬い音。規則正しく鳴り響くその音は、中庭に敷かれた石畳の上を歩く音だと、誰もが気付く。

 

 靴音を鳴らす者が何者か、全員が振り返る。その者は、スッと永夢たちの間をすり抜けるように歩き去っていく。

 

「あなたは……」

 

 手を腰の後ろで組みながら背筋を伸ばし、燕尾服に身を包んだ初老の男性。誰もが見惚れる程に真っ直ぐ歩くその者を、パーンとシェイン、アリシアとティムは知っている。

 

「執事の、人……?」

 

 シェインたちに王妃が黒幕であると告げ、玉座の間にいると助言した男性。その彼が、何故ここに……? アリシアが彼の背を見つめながら唖然としながら呟いた。

 

 戸惑う彼らを余所に、場違いなまでに落ち着ている様子の執事はカオステラーの前に立つ。そして、静かに跪いた。

 

『あ……あなた……!』

 

 カオステラーが、執事の姿にようやく気付く。縋るように、透けた手を執事へ伸ばし、彼の服を掴んだ。

 

『わ、私を、助けなさい! この苦しみから、は、早く……あ、あぁ……!』

 

 溺れる者は藁をも掴む。その諺を体現するように、カオステラーは苦しみ足掻きながら、執事に助けを求めた。

 

 執事は、そっとカオステラーの手を取り、ニッコリとした笑顔を浮かべた。

 

「ご安心ください、王妃様。私が今、あなた様を楽にして差し上げましょう」

 

 穏やかな口調でそう言って、ゆっくりと立ち上がる。そして、

 

 

 

「私の一部となってね」

 

 

 

 おもむろに懐から取り出したそれ(・・)を、カオステラーへ向けた。

 

『え、い、一体、何を……!?』

 

 カオステラーの身体が、オレンジの粒子となっていく。その粒子は、掃除機のようにして執事の手元へと吸い込まれて行く。

 

『い、いや、いやああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……!』

 

 やがて悲鳴を上げながらカオステラーの身体は全て粒子となり……完全に、その場から消失した。

 

「お義母様ぁっ!!」

 

 継母が消え、シンデレラが叫ぶ。だが、その声に応える者は、もはやいない。

 

「カオステラーが……吸い込まれた!?」

 

「そんな、あり得ないわよ、こんなこと!?」

 

 レヴォルが驚き、アリシアが否定する。これまでに見たことのない事態が、連続して起こっている。誰も彼もが困惑していた。

 

「何で……あなたが、それを……」

 

 ただ一人、永夢は震える指で執事を……正確には、彼が手に持っているそれ(・・)を指さした。

 

 ブルーメタリックで塗装された、モニターが付けられた機械。赤と緑のボタンが両端に付けられたそのデバイスは、永夢の世界にしか存在しえない、因縁深い物。

 

 その名を、永夢は口にした。

 

 

 

「『バグヴァイザー(ツヴァイ)』を、持っているんですか!?」

 

 

 

 ゲームパッド型の可変装備、ガシャコンバグヴァイザーⅡ。バグスターウィルスの散布、吸収、さらには両端の銃口とチェーンソーで武器にもなるアイテム。それを何故、この世界の人間が手にしているのか。

 

「……やはり、人外の力によってウィルスが抑制されていたか……まだまだゲムデウスウィルスの完成、とまではいかないようだ」

 

 永夢の問いかけを無視し、執事はバグヴァイザーⅡを持ち上げ、モニターを見る。やがて、くつくつと笑い声を上げ始めた。

 

「しかしながら、こうも上手く行くとは思わなかったな……全く、大したものだ」

 

 ゆっくりと階段を一段、また一段と上がっていく。靴音を鳴らしながら歩く執事の姿を見て、レヴォルたちは身構える。このような状況になって尚、余裕の態度を崩そうとしないその姿。それを見て、わからないなりに一つだけ、レヴォルたちは理解した。

 

 この男は、単なる執事ではない、と。

 

「やはり、あなた様方……いや……君たちに頼んで正解だった。私の目論見通りに、彼女を弱らせ、こうして私の手中に収めることができたのだからな」

 

一段、 一段上がっていき、その階段の半ばで立ち止まり……振り返った。

 

「礼を言わせてもらうよ。旅の者たち……いや」

 

 笑みを深くし……永夢へと目を向けた。

 

 

 

 

「エグ……ゼイドぉ……」

 

 

 

 

 ゆっくりと、噛み締めるように、永夢の名を……永夢の仮面ライダーの名を口にした。

 

 永夢のことを、仮面ライダーのことを知っている。その口ぶりを聞き、レヴォルたちは永夢へと顔を向けた。

 

「エム、彼を」

 

 知っているのかと、レヴォルが問おうとした。が、当の永夢は顔面蒼白で、執事を見ていることに気が付いた。

 

「あなたは……いや……お前は……」

 

 永夢は、知っている。その名を呼ぶ人間を。人の名を呼ばず、ゲームのタイトルで呼ぶ者を。

 

 人の命を、商品価値でしか判断しない、そして己の利益のためならば他者の命すら顧みない、恐ろしいまでの利益主義の男を。

 

「お前は……まさか……!!」

 

 

 

 

「クックックックック…………ハァァァッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 

 

 

 物静かな雰囲気は消え、執事は高笑う。両手を広げ、天を仰ぎながら、笑う。

 

 それを合図とするように、執事の身体にノイズが走る。顔を、身体を、腕を足を、ノイズが増えて、彼の姿を覆い隠していった。

 

 やがてノイズが消え、初老の執事の姿は消える。そして代わりに現れたのは一人の男。グレーのスーツ、赤いネクタイ、彫りの深い顔立ちに、整えられた茶色の髪。

 

 笑顔で顔を歪めるその男。いまだ笑い続けるその男こそ、永夢たちドクターライダーにとって因縁の相手。人の命を弄び、死のゲームを永遠に続くものにしようと画策した、悪魔のような男。

 

 永夢は、男の名を言う。怒りを、戸惑いを含み、心が熱くなるのを感じながら。

 

 

 

 

「檀……正宗……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針が12時を指すまで、残り5分。

 




次回、GAME START


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 逆襲のChoronicle

第14話。サブタイの別名『正宗無双』

この独自設定の嵐にツッコミ入れたい方は心の中にしまっておいてください。お願いします、何でもしますから(何でもするとは言ってない)

さて、それでは第14話、もとい


GAME START



 かつて、永夢がいた世界でとあるゲームが人々の間で大きな話題を呼んだ。

 

 実際に姿を変え、敵と戦い、強力なボスを打ち倒していき、栄光を手にするために競い合うサバイバルゲーム。スリルと興奮、何より自らが変身してプレイするという今までにないゲームに老若男女が夢中になり、思う存分楽しんでいた。

 

 だが……このゲームは“死”を招くゲームであった。

 

 HPが0になり、ゲームオーバーとなった時点で、プレイヤーは消滅。事実上の“死”を迎える。さらに、ゲームをプレイした時点でプレイヤーはバグスターウィルスに感染、常に死の恐怖に怯えることとなる。

 

 人々を楽しませる筈のゲームは、話題という花が人を虫を集めるかのように呼び、そして何も知らない人々を捕食する食虫植物の如く食い荒らしていく。

 

 それだけではない。消滅した人の命は、ゲームのラスボスをクリアすることで復活を遂げることができるという事実を知った者たちが、消滅した家族を、友人を、恋人を救わんと、己もまた戦いに身を投じ……そして同じ道を辿っていく。

 

 まさに“死”が“死”を呼ぶゲーム。そして、このゲームを世界へ広め、やがては世界の命の支配者となって君臨しようと画策した男がいた。

 

 ゲームの開発元の大手ゲーム会社『幻夢コーポレーション』社長、檀正宗。

 

 彼が全ての命を管理するため、そして己の夢のために永遠に続くものにしようとした究極のゲーム。そのゲームの名は……

 

 

 

 

『仮面ライダークロニクル』

 

 

 

 

~ 第14話 逆襲のChronicle ~

 

 

 

 

「クックックックック…………ハァァァッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 執事の姿が消え、耳障りな音と共に姿を変えた男の高笑いを、レヴォルたちは聞いていた。心底愉快だと言わんばかりの声で笑い続ける男。その笑い声にはある種の狂気が感じられた。

 

 さらに、男が姿を変える際、男の真後ろからノイズと共に巨大な時計が姿を現す。英数字で書かれた時字と、月と、謎のマークが描かれた円系の装飾。二枚の小さな歯車。その時計が何を意味するのか、レヴォルたちにはわからない。だが、男と共に現れた巨大な時計もまた、一際異彩を放っており、そこにあるだけでレヴォルたちを威圧するかの如く存在している。

 

 一体全体、何者なのか。カオステラーを吸収しただけでなく、男の口ぶりからはこの事態を把握しているかのようにも聞こえた。思わず身構え、階段の上に立つ男を油断なく見据える。

 

「檀……正宗……!!」

 

 しかし、彼の名を知る者がいた。彼の名を呟いた永夢が、今まで見たことないような……怒りとも困惑ともつかないような表情で男を見ていた。

 

「エム君。彼のことを知っているのか?」

 

 パーンが永夢に問う。少しの間を空け、永夢は男から視線を外さないまま小さく頷いた。

 

「……檀正宗。かつて僕たちの世界にいた男で……」

 

 一呼吸。目の前にいることが信じられないと、そんな気持ちで続きを話す。

 

「……人の命ですら、商品価値があるかどうかでしか判断しない……僕たちの、敵です」

 

 心優しい永夢の口から語られる、男に対する認識。ここまで共に戦ってきた彼にそこまで言わせるような男、檀正宗。それだけで、レヴォルたちの彼に対する警戒レベルは一気に上昇した。

 

「けど何で……何でお前が、ここに……!?」

 

 説明し、そして正宗に問う永夢。ここにいる筈がない人間が、否、いてはいけない人間が、何故ゆえに姿を現したのか。

 

「お前は……僕たちの目の前で、消滅したはず!!」

 

「え……?」

 

 消滅した……つまり死んだ、ということ。その言葉に耳を疑うレヴォルたち。彼がここにいるということ、即ち一度死んで蘇った人間であるということになる。

 

「……確かに、私は君たちCRのドクターによって敗れ、自らの手で自害した」

 

 それに答えたのは、他ならぬ本人だった。高笑いをやめ、しかしそれでも愉快であることを隠そうともしない口調で、永夢たちに向けて語り出す。

 

「しかし君は、一度も考えることはなかったか? ゲーム会社の社長であるこの私が、いざという時のための手段を持っているのではないか、と」

 

 永夢にそう投げかける正宗。その言葉の意味を少し考え、やがて目を見開いた。

 

「まさか……バックアップ!?」

 

「ばっくあっぷ?」

 

 聞き慣れない言葉に、レヴォルが疑問符を浮かべる。そんな彼に、パーンが説明した。

 

「要は、不測の事態が起こった際のために用意している予備みたいなものだ」

 

「え? 予備? 何の?」

 

 予備という言葉に、エレナが反応する。永夢が話したバックアップは、何に対するバックアップなのか。疑問を呈する彼女に応えるかのように、正宗が説明を続けた。

 

「そう、私は自らの遺伝子データ、及び仮面ライダークロニクルのゲームデータを有事の際に備え、バックアップデータとして取っておいたのだよ。そしてそのデータを、あるゲームを参考にし、私が復活するためのものを準備していたのだ」

 

「ある、ゲームだと……?」

 

「君は知らないかね? 私の息子が、かつて自らが復活するために作り上げたゲームを」

 

 言われ、永夢は思い出す。

 

過去にあった、正宗の息子である黎斗が消滅した後、自らを復活させるために自身のデータをゲームへ遺し、そのゲームを永夢にプレイさせ、一度死んだ仮面ライダーたちから絶望のエネルギーを集めることで復活しようと目論んだ事件。倒せないバグスターに、クリア不可能なゲーム内容。順調に絶望エネルギーを集める黎斗に対し、現実の世界でも大量発生したバグスターにより、世界の終わりが近いと誰もが諦めかけていた事件は、共にゲームに送り込まれた一人の仮面ライダーの特性によって、ゲームそのものが崩壊。永夢たちは見事に黎斗を倒し、世界を救うことに成功した。

 

 何故、その話を正宗は話し出したのか……いや、この会話の流れで、永夢は予想がついた。

 

「私は、会社に残されていたそのゲームデータを元にし、息子同様、私の復活のためのゲームを……それもインターネットを通じ、世界中の人々が私の復活のために働くよう、アプリゲームとして作り上げた……これが、私の言う準備だ」

 

「なん、だって……!?」

 

 あの時のことを思い出す。倒しても倒しても復活するバグスター。世界を埋め尽くす勢いで増殖するバグスターウィルス。それをまた繰り返そうとした正宗に、永夢は怒りの感情がわく。

 

 が、一つ疑問が生じた。彼が言うゲームがあるならば、何故彼が消滅した際、そのゲームは発動しなかったのかと。ネットワークに繋げることができるのならば、すでに誰かがプレイしていてもおかしくない筈だ。

 

「だが……ここで一つ、私ですら予測のつかない大きな問題が起きた」

 

 やれやれとばかりに、正宗は芝居がかった仕草で頭を振った。

 

 

 

 ―――カチリ。時計の針が一分進む。

 

 

 

「私が消滅した時、ゲームが起動する仕組みになっていたのだが……何らかのバグが、突如発生してしまってね。私の人格データ、つまり今ここにいる私が目覚めた時、そこは私が作ったゲームの世界ではなかったのだ」

 

 そして語る。彼が組んだプログラムが、殆ど消去されているということに。

 

「私が復活するためのゲームは、何の因果か、ゲームと全く関係ない世界へと変わってしまった。アプリとして配信するはずのプログラムも機能せず、実質私は別の世界へ放り出されたと判断するしかなかったのだ」

 

 手で顔を覆い、歌劇役者のように芝居がかった大仰しい動きで嘆き悲しむような仕草をする。

 

「何故こうなったのか、幾つか推測を建てた。単なるバグか、或いは私が消滅する瞬間に合わせ、何か大きな力が作用したのか……しかし、考えたところで何も変わらない。私は最初、嘆いたものだ……だが」

 

 顔から手を離す。そして、ニヤリと、口の端を大きく吊り上げて笑った。

 

「この世界を調べるうち、わかったことが幾つもあった。ここは我々が住まう世界で知られる童話をモチーフにした世界。生まれてから死ぬまで、人々の運命がすでに決まった、まるで世界そのものが舞台の筋書き通りに進む束縛された世界なのだと……故に、私は思った」

 

 再び両手を広げる。自らの思惑を、誇示するかのように。

 

「世界を……私が新たな可能性へ導いてやろう、とね」

 

「新たな、可能性……?」

 

 かつて世界を混乱に陥れようとした男の語る可能性。それが禄でもないということが、永夢にはすでにわかりきっていた。

 

「幸いとして、私の手元には予めデータとして保存しておいたバグヴァイザーⅡとガシャット、そしてサンプルとして保管しておいたゲムデウスウィルスがあった。これらを手に、私はこの世界の中心である城へと素性と姿を変え、潜入し、そして王妃へ近づいた……彼女が歯向かう者全てをねじ伏せる力を手に入れるためにね」

 

 その力こそが、カオステラーの力なのだと、レヴォルたちは悟る。

 

「何故、そんなことを! カオステラーの力は、世界を滅ぼす力! そんなものを人間が扱おうとしたら、その身を滅ぼすぞ!?」

 

 レヴォルは知っている。カオステラーによって全てを狂わされ、破滅していった人々を。カオステラー自身もまた、救われたいと願いながらも、決して救われることがなかったことを。

 

 それを、この男は手に入れようと考えている。それは最早、正気の沙汰じゃない。

 

「……実を言うと、私がデータ保存していたゲムデウスウィルスは、この世界の影響か否かは定かでないものの、貧弱な物となってしまっていた。このままでは、せいぜい風邪を引くくらいの力でしか効力がない。つまり、この世界に適用できるように、再び培養する必要があった」

 

「な……」

 

 ゲムデウスウィルスの恐ろしさは、永夢がよく知っている。高い感染力。そして誰もが苦しみ、喋ることすらままならず、呻くことしかできない程の強いウィルスだった。

 

 それを、この男は何と言った? そんな代物を、再び蘇らせようと考えていたというのか。

 

「長かったぞ、ここまで。バグヴァイザーⅡしかない、ほとんど設備が整えられていない世界にて、ゲムデウスをこの世界に馴染むようにするまでは。だが私は、私の理想のためにも、諦めるつもりはなかった……そして、試行錯誤していた時、私はあの力に目を付けた。あの力さえあれば、ゲムデウス本来の力を取り戻せるのではないかと!」

 

 歓喜。拳を握りしめ、希望を見出したとばかりに。

 

「私は隙を見て王妃にウィルスを投与し、彼女に感染させた……ところが、あの力は今のゲムデウスが取り込むのは難しかったらしく、せいぜい彼女の体調を少し悪くする程度でしかなかった。ゲーム病を発生させるには至らなかったのだ……だが、私は諦めなかった。王妃を弱らせてしまえば、恐らくウィルスに抵抗する力が弱まり、やがては発症するのではないかと推測した」

 

 意気揚々と、己の苦労を語る。しかしその苦労は、常人には理解し難いものであった。

 

「ウィルスは本人のストレスによって活性化する。肉体的にダメージを与えるだけでは意味がない。よって、私は王妃周辺の人間関係を洗い出し、一つの事実に気が付いた……この世界は、『シンデレラ』の世界。そして彼女は、主人公であるシンデレラの継母という立場の人間であることに」

 

「……まさか……そんな!?」

 

 そこまで語った正宗の狙いに、永夢が気付く。肉体的、精神的にダメージを与えるための正宗の狙いに。

 

 永夢が言わんとしていることに気付き、笑みを深くする。そしてゆっくりと、一人の人間を指さした。

 

「……彼女のストレスの原因は……君だぁ」

 

「わ……私……?」

 

 突然指され、困惑するシンデレラ。そのまま正宗は続ける。

 

「彼女にとって、シンデレラとは憎しみの対象。そんな人物と相対すれば、彼女のストレスは自ずと上がっていく。故に私は彼女に進言し、シンデレラと対峙するよう仕向けた」

 

「な……!?」

 

 シンデレラを保護したレヴォルたちが、真実を明るみにするために城に乗り込んでくるよう、守りを最小限にして誘い込ませようと仕向けた……つまるところ、この城に潜入させること自体が、正宗による罠だったということになる。

 

「無論、賭けに近かった。君たちが王妃に恐れ、尻込みするという可能性すらあった……しかし、反逆者の情報を耳にした時、私は確信していたよ」

 

 視線を、再び永夢に戻す。笑顔の奥に潜む狂気。そしてその目に宿るのは、

 

 

 

「エグゼイド……悲劇の運命を変えようとする君がいた時点で、ここに来ることがね」

 

 

 

 暗く、深い憎悪だった。

 

 

 

 ―――カチリ。時計の針が、また一分。

 

 

 

「っ……!?」

 

 永夢のことを知るが故に、行動が読まれていた……正宗が語るその事実に、少なからず精神的ショックを永夢は受けた。

 

「最初、君がここにいるというのは正直予想外だった。私の計画もご破算になるのではないかと心配もしていた……だが、君の戦いぶりを見てわかったことが一つある」

 

 フッと鼻で笑う。蔑み、最早敵ではないというように。

 

「今の君は『ハイパームテキ』を持っていない……そうだろう?」

 

「っ……!」

 

 図星。口を閉ざす永夢だったが、それが逆に肯定を受け取られた。

 

「ハイパームテキを持たぬ君など、私の敵ではない。私はそのまま計画を続行し……そして」

 

 音を鳴らし、手に持つバグヴァイザーⅡのモニターを永夢たちに見せつけた。そこには、

 

 

 

『出して! 私をここから出しなさい!! 出せええええええええ!!』

 

 

 

「お義母様……!?」

 

「見事、力を手に入れた」

 

 数字の0と1が無数に蠢く空間の中、カオステラーがモニターを叩きながら喚き、叫んでいる。シンデレラが驚愕し、それを見てから正宗はバグヴァイザーⅡを下ろした。

 

「彼女の身体を、力を乗っ取ったゲムデウスは、見事その身体を完全体とし、こうして世界に具現化した……が、それでも知能レベルはいまだ低く、このままではただの人形でしかない」

 

 上を指さし、バルコニーの上でいまだ永夢たちを唸りながら見つめるゲムデウス。何かアクションを起こすような様子もなく、その場に突っ立っているだけの、まるで遊園地のアトラクションのようだった。

 

「ゲムデウスウィルスの効果も、元いた世界の物とは比べ物にならない程に弱い……しかし、それも時間が解決するだろう。私の理想に一歩、進んだことは疑いようのない事実」

 

 そうして、手を後ろに組んだ。

 

「さて……ここまでが、私がこの世界にいる経緯、そして目的だ。何か質問はあるかね?」

 

 まるで物覚えの悪い生徒に対する教師のような態度。永夢が口を出すよりも、そんな正宗に声を上げる者がいた。

 

「……テメェふざけんな」

 

 俯いていたティムが、低い声で言う。いまだ意識が朦朧としているヘカテーをゆっくり地に寝かせ、ゆっくり立ち上がる。

 

「何が計画だ……何が理想だ……データだウィルスだゲムデウスだ、訳のわかんねぇこと色々くっちゃべりやがって……!」

 

 普段のティムを知るレヴォルたちですら耳にすることが少ない、本気でキレたティムのドスの効いた声。顔を上げ、怒りで顔を歪ませるティムは、真っ直ぐ正宗を睨む。

 

「俺が聞きてぇことは一つだけだ!」

 

 言って、彼は妹を、例えどれだけ憎まれようとも罵られようとも、最愛であることには変わらない妹のヘカテーを指さし、叫んだ。

 

「テメェが!! ルイーサをこんな目に合わせやがったのか!?」

 

 憤怒に塗れ、妹をこんな目に合わせた元凶と思われる男に向け、怒りをぶつけるティム。だが正宗は動じず、何てことの無い態度で返答した。

 

「ああ、そうだ」

 

「っ……テメェ!!」

 

 肯定。当たり前のことを聞くなとばかりの正宗に、ティムが激昂する。

 

「ゲムデウスウィルスは不完全だった……故に、多くの感染データが必要だったのだ」

 

 ああ、と一つ付け足す。

 

「そういう意味では、彼女は私に大きく貢献してくれたな……そうか、君は彼女の身内かぁ」

 

 笑顔をティムへ向けながら、正宗は頭を垂れた。

 

「なら、感謝の言葉を述べないといけないな。君の家族は、私の理想のために大いに役立ってくれた。礼を言わせてもらうよ?」

 

 心からそう思っている。正宗は、自身の計画のためならば人を道具として平気で扱う男だ。それを知るからこそ、永夢は正宗の言葉に嘘がないことを知る。

 

 嘘がない……しかしそれは、最も性質の悪いものでもあった。

 

「…………ふざけるなあああああああああああああああああ!!」

 

「よせ、ティム!」

 

「ティム! 落ち着きなさい!!」

 

「ティム君!」

 

 正宗を掴み上げるため、走り出そうとするティムをパーンが羽交い締めにして抑え、シェインとアリシアも彼を抑えるのに加わる。それでも尚、ティムは正宗目掛けて駆けだそうと暴れた。

 

「離せ! 野郎だけは、野郎だけは許さねえ!!」

 

「よしなさい! 相手がどんな力を持っているか、まだ未知数なのですよ!?」

 

 カオステラーを手玉に取り、己の野望のために人を犠牲にするのを厭わないような男が、何の力を持っていないわけがない。これまでの経験上、シェインは怒れるティムを窘めた。

 

「……ふむ、未知数か」

 

 そんな光景を、高い位置から眺める正宗は、おもむろに口を開いた。

 

 

 

 ―――カチリ。12時になるまで、残り2分。

 

 

 

「ならば、教えて差し上げよう」

 

 今の今まで浮かべていた笑顔を消し、その顔に浮かぶは無表情。

 

「この世界の、真の支配者の力を」

 

 そして、正宗の雰囲気が変わる。

 

「シンデレラの魔法の時間は、12時をもって終わりを告げる」

 

 

 

 ―――カチリ。残り一分

 

 

 

「これより先は、永遠に続くゲームの時間……即ち」

 

 おもむろに、バグヴァイザーⅡを持ち上げ、そして、

 

 

 

「私の時間だ」

 

 

 

 ―――カチリ―――残り……0分。

 

 

 

時計塔の針が、正宗の背後の時計が、12時を指し示した。

 

 

 

 ―――ゴォーン……ゴォーン……ゴォーン

 

 

 

 腹に響くような重い音が、二重に聞こえる。一つは、王城の中でも一際高い塔の上に設けられた時計が12時を報せる鐘の音。もう一つ、それは正宗の背後に置かれた、巨大な時計から鳴る音。

 

 

 

 その鐘の音は、奇跡の魔法の物語の終焉を、そして悪夢(ゲーム)の開始を告げる。

 

 

 

≪ガッチャーン≫

 

 鐘の音が鳴り響く中、正宗はバグヴァイザーⅡを腰のベルトの前に持って行く。すると、ベルトのバックルとバグヴァイザーⅡが、重低音のサウンドボイスと共に合体した。

 

「ベルト……!?」

 

 デバイスがベルトとなったのを見て、レヴォルの顔が凍りつく。形こそ違えど、それはまるで永夢が身に付けるゲーマドライバーのよう。そして、永夢と同じ世界から来たということは……レヴォルは嫌な予感がした。

 

 次に、正宗が右手で懐から取り出したるは黄緑と黒でカラーリングされた、今のレヴォルたちにとって見慣れた物。正宗は右に傾けていたそれを、音を鳴らしながら縦にし、水戸黄門の印籠の如く、そこに描かれたラベルをレヴォルたちに見せつける。

 

「あれって、ガシャット!? じゃああのおじさんも、まさか……!?」

 

 ガシャット。それとベルトが持つ意味を知るエレナが動揺の声を上げる中、

 

 

 

≪KAMEN RIDER CHRONICLE≫

 

 

 

 正宗が起動スイッチを押し、RGサーキットボードが緑に発光すると同時、ラベルに書かれたゲームタイトルが低い声で読み上げられた。

 

「今こそ、審判の時……」

 

 正宗が告げる。これより行うことを、何も知らないレヴォルたちに教えるために。

 

 手から、ガシャットを放す。重力に従い、ガシャットはそのまま地面へと落下……するかと思うと、一人でに浮き上がっていく。その間、正宗は腰のバグヴァイザーⅡ改め『バグルドライバーⅡ』のAボタンを流れるような手つきで押す。すると、バグルドライバーⅡから軽快な電子メロディが流れ始めた。

 

 メロディに乗るかのように、ガシャットが円を描くように宙を舞う。そしてゆっくりと、バグルドライバーⅡの上部に、斜め挿し型のスロットの中へと吸い込まれるように挿入された。

 

≪ガシャット≫

 

「変―――身」

 

 ガシャットが装填され、メロディは途切れる。準備は整い、正宗はゆっくり、重々しくもはっきりとそれを……トリガーワードを口にする。そして、スロット横の赤い突起物『バグルアップトリガー』を左手親指で、

 

≪バグル・アーップ≫

 

 押し込んだ。

 

 

 

≪天を掴めライダー!≫

 

 

 

 ドライバーがガシャットのデータを読み込んだ瞬間、ドライバーから力強いサウンドが鳴り出す。モニターからパネルが回転しながら正宗の頭上へ、そして背後の時計が左右に割れ、中央を緑のエネルギーが稲妻状になって迸る。

 

 

 

≪刻めクロニクル!≫

 

 

 

 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ……分かれた時計の時字が王に忠誠を違う兵士の如く次々と正宗の前へ円を描くように集っていく。

 

 やがてⅫまでの全ての英数字が集まり、そして、

 

 

 

≪今こそ時は、極まれりィィィィィッ!!≫

 

 

 

 時計が閉じ、エネルギーを放出しながらパネルが正宗へ落下し……正宗の姿は、変貌する。

 

 

 

「あ……あれは……」

 

 レヴォルが、その場にいる者全てが、唖然としながらその姿を目に焼き付ける。

 

 緑のラインで縁取りされた黒く鋭い目つきと髪型はエグゼイドとどこか似ている頭部。そこから冠の如く伸びる五本の角。肩にも同様に鋭い角が設けられた屈強なアーマーを備え、黒を基調とし、鈍く輝く緑のラインで彩られたスーツ。風に揺れている腰を覆う布の裏地は、鮮血を思わせる赤。

 

 そこに立っているだけで放たれる、目にする者全てがひれ伏す威圧感。神々しさと禍々しさを兼ね添えた、異様な風貌。

 

 その者は、究極の戦士。全てのバグスターウィルスに対する抗体を持つ者のみが変身する資格を手にすることができる、ゲーム内においての最強のお助けキャラにして、永夢たちドクターライダーたちにとって最強の敵。

 

 

 

「仮面ライダー……クロノス……!!」

 

 

 

 幾度となく辛酸を舐めさせられてきた、永夢にとって忌まわしき存在。世界を超え、異界の地において、今この時に再び相まみえることとなった者の名が、永夢の口から零れ落ちた。

 

 月明かりが照らす中、正宗ことクロノスはくぐもった笑いを上げながら、一段一段、階段を下りていく。

 

「我が名は仮面ライダークロノス」

 

 最後の一段を降り切り、永夢たちを見据え、

 

「この世界のルールにして……」

 

 ゆっくり、言い放つ。

 

 

 

「究極のゲーム、仮面ライダークロニクルの、真の……ラスボス」

 

 

 

 その異様な空気は、カオステラーを凌駕する。そこにいるだけで圧倒される強者としての貫禄。それを前にし、レヴォルたちの脳裏には勝利のビジョンすら過らない。

 

「……関係ねぇよ……」

 

 そんな中、最初に口を開いたのはティム。パーンに羽交い締めにされて尚、自身の空白の書を手に取る。

 

「相手が仮面ライダーだろうがラスボスだろうが……」

 

 キッと、クロノスを真っ直ぐ睨みつけた。

 

「俺がぶっ倒してやる!!」

 

「しまっ!?」

 

 油断したパーンの腕を振りほどき、ティムが書に栞を挟んでヴァルト王子とコネクトする。

 

「やめなさい! ティム!」

 

「ティム君!」

 

「うるせぇっ!!」

 

 仲間たちからの制止を振り切り、最愛の妹を害した仇敵に槍を構えるティム。そんな彼に対し、クロノスはというと、

 

 

 

「Shi―――……」

 

 

 

 人差し指を仮面の口に当たる部分に当て、騒ぎ立てる子供を窘める親のような仕草を取った。

 

 意図がわからず、ティムだけでなくレヴォルたちも戸惑う。そして、クロノスは言う。

 

 

 

「審判の時は厳粛でなくてはならない」

 

 

 

 穏やかに、まるで敵意は無いとばかりに言うクロノス。しかしそれが、ティムの癪に障った。

 

「……ふざけたこと抜かすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

怒りに叫び、クロノス目掛け走り出し、跳躍。宙高く飛び上がって、槍を振り上げる。

 

「……フッ」

 

 落下を伴う刺突が繰り出されようとしている中、クロノスは避けようともしない。ゆっくりとした動作で、ドライバーへと両手を持って行く。

 

「っ!? ダメだ! ティム君!!」

 

 それを目にした永夢が、ティムを止めるために駆け出

 

 

 

≪PAUSE≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪RE:START≫

 

 

 

「ぐあああああああああああああっ!?」

 

 そうとした瞬間、悲鳴を上げながらティムがレヴォルたちの上を通り過ぎ、石畳の上をもんどり打って転がっていく。その瞬間、ティムの身体が光り、ヴァルト王子とのコネクトが強制解除された。

 

「え……な……」

 

 意味がわからず、しばし呆然とするレヴォルたち。だが、仲間のティムが吹き飛んだことを遅れて理解した瞬間、我に返った。

 

「ティム!!」

 

「ティム君!?」

 

 レヴォルとアリシアが、ティムの下へ駆け寄る。永夢たちも、ティムの下へ走った。

 

「ティム! しっかりしろ、ティム!!」

 

「う……ぐぁ……」

 

 レヴォルが倒れ込んだティムを抱き起す。苦し気に呻く彼の腹部は焼け爛れ、見るからに重傷を負っているのがわかった。

 

「何で……今、何が起こったの!?」

 

「わからない……私ですら、何をされたのかすら見えなかった」

 

 エレナが困惑し、パーンがそれに答える。仲間内でも特に実力が高いとされるパーンですらわからなかった。

 

 確かに、ティムの攻撃は真っ直ぐクロノスへ向いていた。激昂していたとはいえ、攻撃のタイミング、速度共に誰もが命中すると確信していた。対し、クロノスは無防備。ただ黙ってティムへと顔を向けていただけの筈だった。

 

 にも関わらず、音声が聞こえたかと思えば、次に吹き飛ばされたのはティムの方であった。まるで見えない力がティムを攻撃したかのような光景。

 

 クロノスは、その場から動いていない。何もせず、ティムを介抱するレヴォルたちを見ているだけだ。

 

「フッ、威勢がいいだけではどうにもならんぞ?」

 

 小さく笑いながら、クロノスが一歩足を踏み出す。瞬間、永夢とシェインが動く。

 

≪MIGHTY ACTION X!!≫

 

「大・変身!」

 

≪マイティマイティアクション・X!!≫

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 永夢はエグゼイドへと変身し、ガシャコンブレイカーをクロノスへ目掛け振り下ろす。その横で、タチアナへコネクトしたシェインもクロノスへ矢を連続で放つ。

 

「フッ!」

 

 甲高い音を鳴らし、クロノスは右腕でガシャコンブレイカーのブレードを、左手を動かして飛んでくる矢を全て弾き、二人の攻撃をガードする。続けざまにエグゼイドが攻撃しようと、ガシャコンブレイカーを横へ振るう。

 

「フンっ!」

 

「ぐぁっ!?」

 

 が、クロノスがそれより先にエグゼイドの腹部に蹴りを叩き込み、エグゼイドを吹き飛ばす。あまりの強烈さに、エグゼイドの身体は中庭の壁を破壊し、瓦礫の中に埋もれていった。

 

「ふっ!!」

 

 エグゼイドを案ずるよりも、クロノスへ攻撃することを選んだシェインは、尚も矢を連続で撃ち続ける。しかし、それも全て苦も無く叩き落とされていった。

 

「ならばっ!」

 

矢は効果がないと悟ると、栞を裏返して表へと戻す。光を放ち、姿を酒呑童子へ変えたシェインは、疾風迅雷を絵にしたような速度でクロノスへ接近、懐に潜り込んで怒涛の連続攻撃を繰り出す。手甲が炎を纏い、一発一発が灼熱にして凶悪な拳と刃による連打の嵐がクロノスを襲う。

 

「ほほぉ?」

 

 並のカオステラーですら、この攻撃を受けてはひとたまりもない……が、クロノスはそれら全てを悉く受け流していく。残像を残す程のスピードで繰り出される拳の炎も何のそのとばかりに、仮面を付けていながら涼しい顔をしているのが目に見える。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 最後、渾身の一発をクロノスの顔目掛けて叩き込もうとする。それすらもクロノスは鋭い音をたてながら掌で受け止め、拳に纏っていた炎も鎮火して消失した。

 

「ふむ……なるほど。人間を遥かに上回る力、頭の角……君の姿は、どうやら人とは違うらしい。生身で仮面ライダーに迫る力を持っているとは、いやはや、見事なものだ」

 

 心から称賛するクロノス。それをシェインは、怒りに瞳を燃やしながら笑う。

 

「お褒めくださりどうも。しかしながら、あなたのような輩に称賛されたとて、私は全く、全然、これっぽっちも嬉しくはありませんがね……!」

 

 大切な弟分を傷つけた目の前の男に対して皮肉を込めて返す。しかし、その内心は焦燥感で満たされていた。

 

(何という、力……鬼の髄力を持ってしても、押し込むどころか逆に抑え込まれていくなんて……!?)

 

 鬼の力は人外の力。普通の人間ですら片手でなぎ倒せる程の腕力を持つ鬼の総大将であるはずの酒呑童子の拳。その掴まれた拳を、万力を込めて押し込もうと、より力を入れていくシェイン。なのに、クロノスの腕はそこから一ミリも下がることはなく、逆にシェインの拳が押し返されていくのを感じる。拳を握る手も徐々に力が強くなっていき、このままでは握りつぶされかねない。

 

 鬼の力を、クロノスの力が上回っている。その事実を前にし、シェインは背筋が寒くなる感覚に襲われた。

 

(これが……仮面ライダーの力、ですか……!!)

 

 シェインは戦慄する。これまで味方である永夢の戦いぶりを間近で見てきたが、仮面ライダーの力は凄まじいの一言だった。これが敵に回ったらと想定したら、太刀打ちできるかどうかわからないとも考えたこともあった。

 

 それがこうして、別の形で現実となるなど、シェインは思いもしなかった。

 

「くっ……!」

 

 正面からではどうにもならない。搦め手を使ってでも、一矢報いてやろうと拳を引こうとした。

 

「甘いっ!」

 

「っ!?」

 

 だが、クロノスはそれを許しはしなかった。左手でシェインの顔面を引っ掴むと、一瞬で持ち上げ、

 

「ぬぅんッ!!」

 

 石畳へ、後頭部から思い切り叩きつけた。

 

「がっ……!?」

 

 砕ける石畳。頭から全身を襲う衝撃。鬼の身体を持ってしても、ダメージを抑えきれない。意識を失いかけ、朦朧とする。

 

「らぁっ!!」

 

 さらにクロノスはシェインを、そのままアンダースローで豪快に投げ飛ばす。中庭に植えられていた木の幹にぶつかり、中ほどで木がへし折れた。

 

「くぁぁっ……!?」

 

 折れた木から転がり落ちるように、地に伏すシェイン。ティム同様、彼女のコネクトも強制解除された。

 

「シェインちゃん!?」

 

 エレナが叫ぶも、返事をする余裕がない。激痛の中、それでも意識を保っていられるのは鬼の耐久力によるものか。しかし、最早戦闘を続行する程の余力は残されていなかった。

 

「そんな……シェインさんまで……」

 

「……よくも!!」

 

 エグゼイドが吹き飛ばされ、シェインも倒されたことに、アリシアが恐怖に慄く。その横で、レヴォルも栞を手に取り、クロノスを睨む。

 

 それを受けたクロノスは、尚も笑う。

 

「クックック……次は君が来るのかな?」

 

 まるで遊んでやっているとでも言わんばかりの口ぶり、態度。歯を食いしばりながら、レヴォルは書を取り出した。

 

「舐めるな!!」

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

 その隣、パーンも栞と書を手に取り、レヴォルと共に駆け出す。その途中、それぞれ栞を挟んでコネクトを完了させ、クロノスへ飛び掛かる頃にはそれぞれロミオとラ・ベットとなっていた。

 

「はぁっ!」

 

「せぇい!」

 

 剣と斧が、クロノスへ迫る。それをクロノスは紙一重で避けていく。

 

「面白い」

 

≪ガッチョーン≫

 

 繰り出される攻撃を避けながら、腰のバグルドライバーⅡをバックルから外す。そしてそれを、右手に持つグリップへ。

 

≪ガッチャーン≫

 

「さぁ、楽しませてもらおうか」

 

 音声と共に右手に装着されたバグルドライバーⅡの『チェーンソーエリミネーターⅡ』の刃をレヴォルたちへ向けて、クロノスは振るう。

 

「くっ……!」

 

 迫る刃を防ぐべく、レヴォルは剣を横に構える。そして刃がぶつかった瞬間、

 

「ぐ、ぁぁぁぁぁ……っ!?」

 

 剣が、剣を持つ手が、けたたましい音を鳴らしながら凄まじい振動で揺れる。チェーンソーの刃による高速回転の振動により、剣から火花が飛び散った。

 

 競り合うのは不利と悟ったレヴォルは、剣を振るって抜け出す。しかし、クロノスは情け容赦なくチェーンソーを振るう。その度に腕に激痛が走り、やがて痺れが強くなる。

 

「くっ、うぉ!?」

 

 それはパーンもまた同じ。左手の丸盾が切りつけられ、火花と共に表面を傷だらけにしていく。武器である斧も同様、取り落とさないようにするだけで精一杯だ。

 

「くそ! 何なんだあの武器は……!?」

 

 チェーンソーなど知る由もないレヴォルが距離を取りながら叫ぶ。それをクロノスは笑って返す。

 

「どうしたぁ? そんな程度で私を倒せると思っていたのか?」

 

 余裕綽々なクロノス。それに対して反撃をしてやりたい気持ちが強くなる……だが、それをするのは、とてつもなく難しかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

「くぅ……近づくことすら、ままならないとは」

 

 レヴォルとパーンの得物はボロボロに等しく、息を荒くする二人の体力も限界が近い。何度打ち合っても、チェーンソーの前では傷一つ付けられない。

 

「どうやらここまでのようだ……まぁ、よくやったと褒めてあげよう」

 

 どこまでも小ばかにしているようなクロノスの口調に、レヴォルが歯噛みする。言い返したいが、それだけ相手との力に差がありすぎた。

 

「では……」

 

 一言、そう呟くと、左足に力を入れ、

 

「フンッ!!」

 

「がッ!?」

 

 地面を踏み砕き、瞬時にパーンへ接近。回し蹴りを横面に叩きつけ、あまりの勢いでパーンの身体が回転しながら浮き上がる。そこを、

 

「せぃっ!!」

 

≪HIT!≫

 

「うわぁっ!?」

 

 腰を深く落とし、気合一閃と共にレヴォルを掌底で殴り飛ばし、パーンへぶつける。二人ともども吹き飛ばされ、ティムとシェイン同様、地面を転がっていく。

 

「ぐ、あ……!」

 

「くぅ……!」

 

 二人同時にコネクトが強制解除され、元の姿へ戻る。たった一撃を食らっただけで身体が痛み、立ち上がることすら許されない。

 

「レヴォル! パーンさん!」

 

「こんの……!」

 

 前線メンバーが倒され、エレナとアリシアもコネクトする。カーレンとなったエレナが魔法陣から闇の力を放ち、赤ずきんとなったアリシアが手にする大砲から強力な砲撃をクロノス目掛けて発射した。

 

 だが、

 

「はっはっはっはっは!」

 

 高笑いをあげるクロノスによって、それら全ては片手で弾かれるか、或いは身体を少し逸らすだけで難なく避けられていった。

 

「う、嘘でしょ!? 砲弾すら効かないなんて!?」

 

 音速の勢いで飛んでいく大砲の弾をも軽く避けてみせるクロノスに愕然とするアリシア。エレナもまた、自身の攻撃が効かないと悟り、狼狽える。

 

「ふむ、君たちにはこれがいいか」

 

≪ガッチョーン≫

 

 グリップからバグルドライバーⅡを取り外し、半時計回しに付け直す。

 

≪ガッチャーン≫

 

 音声と共に装着されたバグルドライバーⅡのチェーンソーの反対側の銃口『ビームガンエリミネーターⅡ』を、アリシアとエレナへ向けるクロノス。

 

「さぁ、踊るがいい!」

 

 言って、ビームガンを連射する。マシンガンの如く繰り出される光線が、エレナとアリシアを襲う!

 

「きゃああああああああ!!」

 

「う、あぁぁぁっ……!?」

 

「エレナ! アリシアぁ!!」

 

 無数に繰り出される光の弾丸の嵐の前に、二人が避け切れることもなく。直撃こそしなかったものの、ビームガンによって地面が爆砕され、その衝撃と飛んでくる石礫(いしつぶて)が二人の身体を吹き飛ばし、レヴォルがたまらず二人の名を叫んだ。

 

 悲鳴を上げながら、エレナとアリシアもまた地面に倒れ込む。その際、コネクトを強制解除された。

 

「うぅ、痛いよぅ……」

 

「なんて、強さ……これが、仮面ライダー……!」

 

 痛みに呻くエレナ。ボロボロになり、横たわるしかできないアリシアは、初めて敵として相手取る仮面ライダーの力に……悠然と立つクロノスの底知れない実力に、戦慄する。

 

「もう終わりか? 呆気ない……もっと私に君たちの価値を示してくれなければ、困るんだがなぁ?」

 

≪ガッチャーン≫

 

「く……まだだ……!」

 

 バグルドライバーⅡをベルトに戻し、倒れ伏す再編の魔女一行へ、一歩一歩、歩み寄るクロノス。いまだ闘志を失っていないレヴォルが、痛みに抗いながら膝を着き、再びコネクトしようと栞を手に取った。

 

 

 

≪マイティ! MIGHTY! ブラザーズ! HEY! XX!!≫

 

 

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」

 

「ムッ!」

 

 その直前、変身音と同時にエグゼイドが埋もれていた瓦礫が飛び散り、二つの影がクロノスへ迫る。咄嗟にクロノスが腕を上げると、二つの影ことマイティブラザーズXXガシャットを用い、ダブルアクションゲーマーとなった永夢とパラドの同時攻撃が腕に命中した。

 

「フン!」

 

 それを振り払い、二人から距離を取るクロノス。永夢とパラドは不意打ちに失敗したことを悟ると、同時に拳を構えた。

 

「クロノス! お前の好きにはさせない!!」

 

「もう一度ゲームオーバーになってもらうぜ!!」

 

 言って、二人同時に再びクロノスへ挑む。拳を繰り出せば受け流され、蹴りを放てば避けられるか、或いはガードされる。拳と蹴りの応酬が続き、互いに一歩も引かない戦いが繰り広げられる。ただ、永夢とパラドが二人で攻めるのに対し、クロノスは二人による猛襲をも苦も無く防いでいく。

 

「フッ!」

 

「ハァッ!」

 

 永夢がストレートパンチ、パラドが左フックで、クロノスを狙う。避けることが困難なはずの同時攻撃を、クロノスは難なく受け止めた。

 

「ほぉ……そう言えば、パーフェクトノックアウト。君にも借りがあったなぁ?」

 

「っ……!」

 

 パラドに睨め付く視線を送るクロノス。かつて、永夢の変身能力を奪うためという理由で、クロノスに幾度も命を狙われたパラド。その時の恐怖を思い出し、パラドはたじろぐ。

 

「くっ……!」

 

 恐怖を振り払うように、クロノスを蹴りつける。それを回避したクロノスは後ろへ下がり、距離を取った。

 

「永夢! 一気に決めよう!」

 

「ああ!」

 

 言って、パラドは武器を召喚する。

 

≪ガシャコンキースラッシャー!≫

 

 現れたるは一つの武器。ダブルアクションゲーマーの右胸と同様のボタン類が付けられた柄から伸びるように、オレンジ色の丸みのある斧状の刃と、青に輝く直剣型に伸びる刃、そしてその切っ先にある黄色の銃身という複合武器。エグゼイドにとっての最強武器である『ガシャコンキースラッシャー』を、パラドは手に取った。

 

≪ガッシューン≫

 

 そして、ゲーマドライバーからガシャットを抜く。そのガシャットを、ガシャコンキースラッシャーの『D-ガシャットスロット』へ。

 

≪ダブル・ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 すると、ガシャコンキースラッシャーが光を放ち、その光が永夢の手元に移る。光が消えると、パラドの持つガシャコンキースラッシャーがもう一本現れ、永夢の手に収まった。

 

「「行くぞ!」」

 

 違いに合図を送ることなく、二人同時にガシャコンキースラッシャーの柄にある『ガシャコントリガー』を引いた。

 

 

 

≪MIGHTY BROTHERS CRITICAL FINISH!!≫

 

 

 

 武器を用いた必殺技の発動準備が整った。二人が持つ剣がエネルギーによって光を放ち始める。

 

「「はぁぁっ!!」」

 

 パラドが左へ、永夢が右へ、それぞれ逆袈裟に切り上げ、巨大なXの文字となった剣閃がクロノス目掛けて飛び出す。全てを切り裂くエネルギーを目の当たりにし、クロノスはため息を一つついた。

 

「……無駄なことを」

 

 呆れたように言って、バグルドライバーⅡのAボタン、Bボタンのそれぞれを、両手で同時に

 

 

 

≪PAUSE≫

 

 

 

 押した。

 

 

 

 時計の重い鐘の音。時を刻む時計の針が動く音が鈍くなっていく音がし、やがて完全に音が止んだ。

 

 そして……全てが、止まる。

 

 剣を振るったまま動かなくなった永夢とパラド。クロノスへ飛んでいく筈だった剣撃も、その場から動かなくなる。それを見守っているレヴォルたちもまた例外ではない。

 

 人の息遣いも、噴水から流れ落ちる水も、草花の揺れも、風も、鳥も、そして音も……生き物、無機物、全て関係なく、テレビの一時停止ボタンを押したように動きを止め、一切の音が消えた無音の空間となった。

 

 静寂と停滞の世界。そこに命の息吹は存在しない。

 

「君たちに、いい知らせを教えてあげよう……私の記憶は、現実世界の私とリンクしていてね。君たちの過去の所業は、私もよぉく知っている」

 

 その中を、唯一動く者がいる。クロノスのみ、この制止した世界の中を、悠々と歩いている。永夢とパラドによるキメワザを、高い柵のように軽々と潜り抜け、足音を響かせながら二人へと歩み寄っていく。

 

「君たちには以前の世界で色々と世話になったが、この世界においての君たちには商品価値がある……よって、今すぐに絶版というようなことは勘弁してあげよう」

 

 返ってくる答えがないことを知りながらも、クロノスは語りかける。そして、パラドの前で立ち止まる。

 

「……だが」

 

 声が一段、低くなった。

 

「フンッ!」

 

≪HIT!≫

 

 裏拳を振るい、パラドを永夢の方へ殴り飛ばす。一瞬だけ制止の世界から抜け出したパラドが永夢へぶつかった状態となり、そして再び制止した。

 

 

 

「君たちに対する恨みを忘れたわけでは、ない」

 

 

 

 僅かな怒気を滲ませ、恨みがましく二人に向けて言うクロノス。そしておもむろに、バグルドライバーⅡのBボタンを二回押した。

 

≪キメワザ≫

 

 重々しいサウンドボイスと共に、モニターがRGサーキットボードに描かれているクロノスの姿を映しながら光り出す。そして、

 

 

 

≪CRITICAL CREWS-AID≫

 

 

 

 クロノスの足元を中心に、時計の幻影が現れる。その幻影の長針が動き出すと同時、その動きに合わせて身を翻すクロノス。時計の針が時字のⅫの位置にいる永夢とパラドを指した瞬間、クロノスの強力な、私怨を交えた回し蹴りが炸裂する!

 

「ぬぅんっ!!」

 

 Ⅻと長針を残し、時計の幻影は消える。永夢とパラドは必殺の回し蹴りが命中した瞬間のまま、動きを止めた。

 

≪終焉の一撃!≫

 

「せいぜい、苦しむといい……」

 

 一撃が決まった音声と共に、一言そう呟く。二人に背を向けたまま、クロノスは再びAボタンとBボタンを押した。

 

 

 

≪RE:START≫

 

 

 

 止まっていた世界が、動き出す。

 

「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」」

 

≪ガッシューン≫

 

 それと同時、永夢とパラドが爆発する。二人が放った必殺技は、クロノスに当たることなく城の壁を破壊した。

 

「エムゥゥゥ!!」

 

レヴォルが叫ぶ中、爆炎を上げて吹き飛ぶ永夢。クロノスの必殺技が決まったと同時、変身が強制解除され、パラドも永夢の中へと戻っていた。

 

「ぐは……っ!」

 

 レヴォルたちの傍で身体を叩きつけられるように落下した永夢は、全身に走る痛みから息も絶え絶えとなり、起き上がる体力を失っていた。

 

「エムさんっ!? しっかりして!!」

 

「まただ……また、何も見えなかった……!?」

 

 エレナがエムの傍に膝を着き、助け起こす。横では、パーンがティムの時と同じ光景を見せつけられたことで、戸惑いの声を上げた。

 

「どうなってるのよ……一体、あいつは何をしたっていうの!?」

 

 正体不明のクロノスの攻撃に、アリシアが混乱して思わず叫ぶように言った。ボロボロになりながら、ティムの傍に膝を着いたシェインが、クロノスを睨みつつ歯ぎしりする。

 

「……奴が先ほどまでいた位置から、大分離れています。まるで瞬時に移動したかのような……」

 

「……ポーズ、だ」

 

 エレナに支えられながら、永夢が何とか口にする。聞き慣れない言葉に、レヴォルが眉を上げた。

 

「ポー、ズ?」

 

「クロノスが持つ、特殊能力……ゲームエリア内の全ての時間を止めて、クロノスのみが自由に動くことができる……最強の、力」

 

「ちょ、ちょっと待って!? それって、時間停止魔法!? それを自在に操るなんて滅茶苦茶じゃない!!」

 

 永夢の説明に、アリシアが狼狽える。時間を止め、その間に攻撃し、誰にも気付かれることなく相手を葬ることができる、まさに反則級の能力。

 

「そんなのって……ないよ……!」

 

 勝ち目がない。実力、そして特殊能力、共に圧倒的なまでの差を見せつけられたエレナから、絶望の声が漏れ出た。

 

「……過去に、そういった力を使う人もいましたが……彼の場合は、それをいつでも使えるということですか……まったく、出鱈目ですねぇ」

 

 過去に戦ったカオステラーに、それと似たような力を使った者がいたことをシェインは思い出す。だが、今回の場合はそれとは格が違う。

 

 時間停止を自由自在に行使する存在……それこそが、仮面ライダークロノスの最強たる所以であった。

 

「……時の神クロノスの名を冠するだけはある、か……これは、さすがにまずいな」

 

 見えない攻撃のカラクリがわかったところで、対処のしようがない。パーンは傷だらけの身体でどうにか立ち上がるも、すでにコネクトする程の力は残されていない。それは永夢たちも同様で、この中で戦える者は誰もいない。

 

「フッフッフ……」

 

 笑いながら、ゆったりとした動作で永夢たちへ歩み寄ろうとするクロノス。と、突然左腕を上げたかと思うと、その手に水晶の矢が握られた。

 

「……ほほぉ?」

 

 自らを射抜かんと飛んできた矢を瞬時に掴み取り、それをへし折る。そして、矢を放った者を見やった。

 

「皆さんから、離れてください!」

 

 矢を撃ったのは、シンデレラだった。弓を手にし、二本目の矢を番えてクロノスに鏃を向ける。弦を引き絞り、いつでも撃てるのだとクロノスを威嚇した。

 

「だ……ダメだ、エラちゃん! 君が敵う相手じゃない!!」

 

 永夢が叫び、相手取ろうとする彼女を止める。それでも、シンデレラは弓を手放すことをしなかった。

 

「……例え敵わくとも、エムさんたちから気を逸らすことさえできれば……!」

 

 永夢たちを逃すため、自身が囮になることを決めたシンデレラ。クロノスの圧倒的な力を目の当たりにし、内心は恐怖で震えている筈だが、継母を奪われた怒り、永夢たちを傷つけられた怒りから、彼女の中で“逃げ”の二文字は存在していなかった。

 

「……ふむ」

 

 シンデレラの威嚇を前にし、クロノスはしばし考え込む。やがて何かを思いつき、顔をシンデレラへと向けた。

 

「ゲームには王道展開が付き物だったな」

 

「……え?」

 

 言っている意味がわからず、思わず声を上げるシンデレラ。そんな彼女に向けて、クロノスは右手を上げた。

 

「……ふん!」

 

 そして、クロノスの前に現れた巨大なホログラム映像。中央に『仮面ライダークロニクル』のタイトルロゴが書かれたそれは、真っ直ぐシンデレラへ飛んでいく。

 

「え……な、何!?」

 

 迫り来るホログラムに狼狽え、逃げることすらできないシンデレラ。左右に逃げようにも、映像そのものが大きくて間に合わない。やがて、ホログラムはシンデレラと接触し、

 

「い、いや……っ!!」

 

 シンデレラが悲鳴を上げる直前……彼女を飲み込み、ホログラムはテレビの電源が落ちるように消失した。

 

「エラちゃん!?」

 

「シンデレラちゃん!!」

 

 消えたシンデレラの名を呼ぶ永夢たち。だが、シンデレラの声は聞こえず、そして永夢たちの声も届かない。

 

「貴様……彼女をどこへ連れ去ったんだ!?」

 

 レヴォルがクロノスへ向けて叫ぶ。対し、クロノスは相も変わらずくぐもった笑い声を上げた。

 

「フフフフ……慌てることはない。彼女はゲストだ」

 

「ゲスト……?」

 

 疑問符を浮かべるレヴォルに、クロノスは続ける。

 

「攫われたプリンセスを助けるために、勇敢な戦士たちが巨悪に挑み、立ち向かう……このような展開は昔から使い古され、今ではチープなものと捉えられがちではある。だが、裏を返せば、それだけ人の印象に残りやすい、所謂王道的展開であるとも言える」

 

「……一体、お前の目的はなんなんだ!?」

 

 ゲムデウスを復活させ、カオステラーを手中に収め、その上シンデレラをも浚った……クロノスの目的がわからないあまり、永夢が傷だらけのまま叫んだ。

 

 クロノスは答える。両手を上げ、さも当然とばかりに。

 

「先ほど言った筈だ。これより先は、永遠に続くゲームの時間だと。この世界の命運をかけて行われる、最強のゲーム……つまり」

 

 言って……真っ直ぐ、永夢を、そしてレヴォルたちを、鋭い仮面の目が射抜いた。

 

 

 

「新たなる仮面ライダークロニクルの、開幕だ」

 

 

 

 悪意を持って、クロノスは語る。かつての死のゲームを、何の関係もないこの世界で執り行おうとしている目の前の男に、永夢は激昂する。

 

「そんなこと……許されるわけがない……!」

 

 仮面ライダークロニクルの悪夢を繰り返すわけにはいかない。永夢の思いを、しかしクロノスは一笑に付す。

 

「許すか、許さないかを決めるのは君ではない……この私だ」

 

「っ……!」

 

「エムさん、無茶しちゃダメだよ!?」

 

 フラつきながらでも立ち、一歩足を進める永夢をエレナが止めようとする。懐に手を入れ、ガシャットを取り出そうとする永夢を、クロノスは「ほぅ……」と感心しながら呟いた。

 

「その体で尚も挑もうとするか……流石、と言ったところか」

 

 かつて互いに熾烈を極めた戦いを繰り広げた敵同士。それゆえにクロノスも、永夢の執念にも似た諦めの悪さをよく知っていた。

 

「ならば、もう少し痛めつけてやるとしよう」

 

 言って、右手の指を動かし、手招くような仕草で挑発する。動けない程度にしてやろうと、クロノスはそう思っていた。

 

 

 

「優しき者たちに、私の魔法を……!」

 

 

 

 が……それは結局、行われることはなかった。

 

「何っ?」

 

 突然、クロノスと永夢たちの間に巨大なカボチャが落下する。思わず後ろへ飛び退いたクロノスの身の丈以上のカボチャは一瞬膨らんだかと思うと、風船のように破裂。虹のような光を放ち、クロノスの視界を遮った。

 

「これは……」

 

 意味がわからず、クロノスはその場から動かない。やがて光が消え、視界が元に戻った。

 

 そして、永夢たちの姿も消えていた。

 

「……逃したか」

 

 あのカボチャを出した者の仕業なのだろうと、クロノスは当たりをつける。しかし、驚くことも、怒り狂うこともなく、ただ少々残念だと言わんばかりにため息を一つついた。

 

「まぁ、いい。あの怪我のまま攻略しようとしても、どうせすぐにゲームオーバーになるだろう。それでは、さすがに面白くない」

 

 そう一人ごち、クロノスは戦いの影響で凄惨な状況となり、かつての壮麗な景観は失われた中庭に背を向ける。そして、月を見上げ、両腕を掲げた。

 

「さぁ……お伽噺の世界よ……この世界に住まう者たちよ」

 

 大仰に、クロノスは語り掛ける。その相手は……この世界そのもの。

 

 

 

「私のゲームを……存分に楽しむがいい! フフフ……ハァッハッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 

 

 世界そのものをゲームの舞台と認識する狂乱のエンターテイナーの笑い声。それは国中に、さらには月にすら届かんばかりに轟き続ける。

 

 

 

 それはまるで、悪夢の始まりを告げる鐘の音のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、某所にて。

 

「……どうしましょう」

 

 聖堂のような厳かな雰囲気漂う室内。中央には大理石で作られた、一輪の満開の花を模した泉。水が噴水のように流れ出ている神秘的な造りの泉の前で、一人の女性が呟く。

 

 花の冠を被った、泉の水のような清らかな長い髪をした少女。純白の白いドレスを着た、白磁のような肌を持つ美しい少女だった。その美しさは神秘を纏い、そして慈愛に満ちた立ち振る舞いは、人々が崇める女神のよう。

 

 否、ようではなく、実質の女神である彼女は、想区の平和を願い、そして見守る役目を負った女神キュベリエその人であった。

 

 彼女が守る聖域“泉の祠”に立つ、神秘的な美しき女神。その彼女が、

 

「どうしましょう……いや、ホント、どうしましょったらどうしましょう……」

 

 頭を抱え、うんうん唸っていた。その姿は神秘の欠片もない、年相応の少女の仕草そのものだった。

 

「うぅ、想区に漂うこの空気……どう考えても何かが起こってるとしか思えないのに……」

 

 想区を見守る者として、はっきりと感じ取れる異様な雰囲気。いつもの想区から感じられる空気と、これまで感じたことのない異様な空気。二つの空気が混じり合い、それは違和感となってキュベリエを襲う。

 

 この状況を調べようと、女神としての力を使って移動しようとした……その矢先、力が発揮できている筈なのに、何故か分厚い壁のようなものがキュベリエを阻害し、泉の祠から外へ出すのを許さない。その際、顔面から見えない壁にぶつかったような衝撃を受けて「きゃん!」という悲鳴が上がった。普通に祠から出ようとしても同様で、何度叩いても壁はビクともせず、キュベリエは祠に閉じ込めれらる形となってしまった。

 

「頼みの綱である筈のエレナさんたちにテレパシーを送ろうにも、何故か届く気配がないし……」

 

 過去に、幾度となくカオステラーの脅威に晒されてきた際、キュベリエは再編の魔女一行に向けて想区の救済(そしてたまに尻拭い)を依頼してきた。今回もまた、彼女たちに託すしかないと思い、女神の力を使ってエレナたちをここへ招こうとした……が、そのテレパシーすらも遮断されてしまい、呼ぶことすらもできない。

 

 つまり、手詰まり状態。出れない、呼べない、どうしようもない。

 

「もう、本当にどうなってるんですかぁ……」

 

 涙声になるキュベリエ。エレナたちから見ても女神としての威厳がなく、ティムから言わせれば『ポンコツ女神』と称されるに相応しい姿。暇つぶしにゴロゴロしたり流した涙で花を描いたり(無駄に上手い)と過ごしてきたが、それももう限界に近い。

 

「うぅぅぅぅ、エレナさ~ん! レヴォルさん、シェインさ~ん! 誰でもいいから助けてくださ~い!!」

 

 届かぬとわかっていても叫んでしまう、救いを求める声が祠の中を反響する。救いの手を差し伸べる筈の女神の嘆きに応える者は、誰もいない。

 

「……あれ?」

 

 と、キュベリエの耳が聞き慣れない音を拾う。ザワザワという、何かが蠢くような音。今の今まで聞こえなかった音に、キュベリエが疑問符を浮かべた時。

 

「きゃあ!?」

 

 彼女の頭上を、何かが通り過ぎて行った。

 

「な、何!? 何なんですか一体!?」

 

 キュベリエの上を通り過ぎて行った何かは、オレンジ色に光る無数の粒子だった。それがキュベリエの前、少し離れた場所に集まっていき、やがてそれは人の形を成していく。

 

 粒子が全て集まると、それは色を付けていく。そこに立っていたのは、黒い髪に黒いジャケットと黒いズボンといった、全身黒の纏ったやせ型の男。キュベリエに背を向けて立つ男は、ゆっくりと祠を見回した。

 

「……ここは……」

 

 しばらく今いる状況を確認するように、男は考え込む。やがて完全に理解したと言わんばかりに、小さな声で笑いだす。

 

「フフフ……やはり、私の考えに間違いはなかったか。私の神の才能をもってすれば、未知なるゲームに潜り込むことすら容易いことだぁ!! ブハハハハハハハッ!!」

 

 バッと両手を広げ、自らの才能を神と称し、妙な声で男は笑いだす。しばらく祠の中に男の声が響く中、キュベリエはおっかなびっくりと言った風に声をかける。

 

「あ……あなたは?」

 

 怯えながらも、キュベリエは男に対して強い警戒心を向ける。今のこの祠は、実質の密室状態だ。中から出ることは叶わず、恐らく外からも入ることはできない状況にある。しかも、この祠にはカオステラーやヴィランは勿論、キュベリエ自身が招いた者しか入ることを許されない聖域なのだ。

 

 にも関わらず、目の前の男は何事もなく侵入し、こうしてキュベリエの前にいる。キュベリエはこの男のことなど知らない。しかし、こうして祠に入ってきたことを思うと、カオステラーやヴィランの類でもないということになる。

 

 何者なのか、キュベリエが見定めようとする。そんな彼女の声に反応し、男は高笑いをやめた。

 

「フッ……私か?」

 

 ゆっくりと、男は振り返る。二枚目な顔立ちの男は、その顔を台無しにするかのようにニタリと歪んだ笑顔をキュベリエに向けた。

 

「私の名は……」

 

 言って、歌舞伎役者のように両手を上げて構え、

 

「檀!」

 

 同じように、歌舞伎役者のように首を回し、

 

「黎斗!」

 

 キッとキュベリエを見据え……この時、彼の頭上にオレンジの粒子が集まり出し、

 

「神!!」

 

 最後、大きな口を開け、

 

 

 

「神だ」

 

「……ぁぁぁぁあああああああああああああああああ!?」

 

「ぶぇぁぁぁ!?」

 

 

 

 途中で彼の頭上からもう一人の男が落下してきた。

 

 

 

「ふぇえええええええええええ!?」

 

 男の妙なテンションに唖然としていたかと思うと、また別の侵入者の登場に驚いて妙な悲鳴がキュベリエの口から飛び出てきた。

 

「いっててててぇ……」

 

 奇声を上げながら潰れた男……黎斗の頭上から同様の現れ方で落ちてきた、アロハシャツの上に白衣を羽織った男は、頭を擦りながら起き上がり、周りを見回した。

 

「……え!? 行けた!? 行けたのこれ!?」

 

 状況を理解できていないためか、慌てている様子の男。いまだ尻もちを着いていた男は、

 

「ぬぁあああああああああああああ!!」

 

「だぁぁぁぁっ!?」

 

 下敷きにしていた黎斗が跳ね起きたせいで、頭から床に落ちた。

 

「ってぇぇぇ!! 何すんだ神ぃ!!」

 

「それはこちらの台詞だ九条貴利矢ぁぁぁぁぁぁっ!! 神の頭を足蹴にするとは何事だぁぁぁぁっ!?」

 

 男こと貴利矢に向けて、凄まじい形相で唾を飛ばす勢いで詰め寄る黎斗。対し、貴利矢も負けじと額を突き合わせて黎斗を睨みながら怒鳴り返す。

 

「うっせぇ!! テメェがんなとこでボーッと突っ立ってるのが悪ぃんだろうが!!」

 

「あ、あの……」

 

「黙れぇぇぇぇ!! 君が落下位置をズラせばこうなることは無かった筈だろう!!」

 

「無茶抜かすんじゃねぇよ!! いきなり身体が浮いたかと思ったら急に落下するような感覚になりゃどうしようもねぇだろうが!!」

 

「ちょっと……」

 

「えぇい、ごちゃごちゃ言うなぁ!! 大体君は神であるこの私に対し反抗しすぎだ!! 身の程を弁えろ、身の程を!!」

 

「誰が弁えるかこのバカ神ぃ!! そもそも自分、テメェのことを敬ったことなんてこれまでの人生で一回たりともねぇからなぁ!!」

 

「あの、話を……」

 

「言うじゃないか……ならば今ここで君を削除してやっても構わんぞ!?」

 

「上等だオラァ! クリスマスのあの日の仕返し、ここでしてやろうか!?」

 

「お願いですから…」

 

「それを言うならゲムデウスウィルスの時に私を何度も苦しめたばかりか、ワクチンを作り上げたこの私をあっさり衛生省に売り渡した罪を償えぇぇぇぇ!!」

 

「元はと言えば全部テメェの身から出た錆だろうが! お前こそ今ここで償わせてやる!!」

 

「ねぇ……」

 

「お前如きがこの私に勝てるわけないだろクズが! このクズ!!」

 

「うるせぇクズ!!」

 

「ブェアアアアアアアアアアア!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!?」

 

「どなたか存じませんけどお願いですから私の話を聞いてくださいよぉぉぉぉぉぉ! うえええええええええん!!」

 

 怒り狂う神の奇声と監察医の雄叫び、そして男たちの罵り合いに怯える女神の慟哭が木霊する。いつもは想区の住民の憩いの場である泉の祠は今、阿鼻叫喚のしっちゃかめっちゃかな空間へ早変わり。外界と遮断された祠からは、罵声と泣き声がいつまでも響き渡っていた。

 

 




祝・神・降・臨☆

なお活躍はまだの模様。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 悪夢のRE:START

第15話です。よくここまで書けたものだなぁと我ながら感心してます。自分で自分をほめて花丸あげちゃう。

でもやっぱり一番大きいのは多くの方々からの感想です。とても励みになります。ありがとうございます。中には誤字報告もしていただき、感謝と申し訳なさでキメワザ食らいたいです。推敲してるんですけど、何でこう細かいミスが後々出て来るんでしょうね。世界の不思議として登録してもいいと思うの(単純に見落としてただけ)。

さてとりあえず15話から始める軽いあらすじをば。

前回、クロノスとの戦いで敗退した永夢たちは、フェアリー・ゴッドマザーの魔法によって町へ戻り、世話になったパン屋に身を寄せる。ゲーム病を患ったヘカテーと重傷を負ったティム、そしてシンデレラが攫われるという最悪な状況の中、檀正宗による魔の手が容赦なく永夢たちへ襲い掛かる。そこで下した永夢の決断とは……。


そんな感じの15話。レッツラ・ゴー。


 辺り一面、真っ暗闇だった。

 

 光すら射さず、誰かがいる気配すらない。歩けども歩けども、何かに当たる感触もない。

 

「……誰か、いないの?」

 

 一人、呟く。小さな声は反響することもなく、暗闇に消えていき、その声を拾う者すら存在しない。

 

 何でここにいるのだろうか。いつからここにいるのだろうか。いくら考えても考えても、答えは見つからない。

 

 じっと暗闇ばかり見ていると、思い出す。繋いでいた手が離れていった時の感触。大好きだった人が遠く離れていく時の感情。

 

 寂しさ、悲しさ、孤独感、絶望……全部がこの闇に凝縮されているような、そんな気がしてならない。

 

「っ……!」

 

 そう考えた瞬間、進める足は自然と早くなる。早く、早くここから抜け出さないと、自分が壊れてしまう……そんな予感がして。

 

 しかし、走り出した足は急に止まる。もとい、止められる。

 

「……?」

 

 肩に、感触がある。誰かに掴まれる感触。踏み出した足も自然に止まった。

 

 誰だろうか? そう思い、その掴んだ手を確認することなく振り返った。辺り一面暗闇にも関わらず、その顔ははっきりと、鮮明に見えた。

 

 そこにいたのは、見知った顔でも……ましてや人ですらない。

 

 

 

『GUUU……』

 

 

 

「ひっ……!?」

 

 醜い、化け物の顔。三角錐状の角を生やした頭部と、赤い目元と牙。鋭い爪の大きな手が、肩を握り潰さんばかりに強く掴み、咄嗟に逃げ出そうとしてもビクともしない。

 

 その間にも、化け物が動く。右手に持った、片刃の大剣。それをゆっくりと持ち上げていく。その刃から放たれる殺意が、身体を縛り、逃げようとする意思すらも奪い取っていく。

 

「た……助けて……」

 

 動くのは、口だけ。震えながら、ただ助けを呼ぶ。

 

 助けを求める声は、暗闇へ消えていく。化け物は嘲笑うかのように剣をこちらに突きつける。

 

 迫る死の恐怖。身体を縛っているのは、まさにそれだった。

 

「助けて……!」

 

 先ほどよりも強く、声を大きくして助けを呼ぶ。それでも声は返ってはこない。

 

 このまま死ぬしかないのか。そう諦めてしまいそうになる。

 

「助けて……!!」

 

 しかし、尚も叫ぶ。脳裏に浮かぶ、一人の人間。朧気ながらも浮かぶその姿は、いつも一緒に行動している男の後ろ姿。

 

 

 

「助けて、―――――!!」

 

 

 

 そのはずなのに……無意識に呼んだ名は、その男の名ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「エム、彼女の様子は……?」

 

 後ろ手で扉を閉めつつリビングに入って来た永夢に、レヴォルが不安そうに問う。それに対し、永夢は首を力無く振った。

 

「……容態はよくない。ずっと魘されているままだ」

 

 己の無力さを嘆くように、永夢は椅子を引いてそこに座り込んだ。

 

 場所は、永夢たちが今まで世話になってきたパン屋。クロノスに敗れ、危機一髪といった時、フェアリー・ゴッドマザーが咄嗟にクロノスの意識を逸らすことで永夢たちを町まで魔法を使って逃すことに成功した。

 

 重傷を負ってからいまだ目覚めないティム、ゲーム病で苦しむヘカテーを連れ、唯一の当てであるパン屋へ再び身を寄せた永夢たちを出迎えてくれたのは、地下牢から無事に逃げ出せた夫婦だった。二人は助けてくれたことに対して感謝の言葉を述べようとしたが、傷だらけの永夢たちを見て尋常ではないと悟り、こうしてまた部屋を借りることができた。

 

「ゲーム病か……長年生きてきた私も聞いたことがないが、相当厄介な病のようだね」

 

「私もです……医療には詳しくはありませんが、100年生きてきた中であのような病に似た症例は見たこともありません」

 

 長い時を生きてきたパーンとシェインが力無く言う。

 

「……このままだと、ヘカテーちゃんどうなっちゃうの?」

 

 エレナが、寝室で隔離する形で一人横たわっているであろうヘカテーを思い、永夢に聞いた。レヴォルもアリシアも、同様に永夢へと視線を向ける。

 

 少し、言いにくそうにする永夢。しかし、ここにいる者たちは事実を知っておくべきだと、永夢は心の内で決めて口を開いた。

 

「……ゲーム病に感染した人たちは、バグスターに少しずつ身体を奪われていって……最終的には、消滅する」

 

「消滅って……それって、死ぬってこと!?」

 

「そんな……」

 

 突きつけられた最悪の事態に、アリシアが驚愕し、レヴォルが呆然とする。

 

 ヘカテーは、レヴォルたちの仲間ではない。しかし、彼女の身の上を知る者として、それに今重傷を負って別室で眠っているティムにとってたった一人の家族である彼女が失われるかもしれないという事に、その場にいる誰もが衝撃を受けた。

 

「そんなの、嫌だよ……あんまりだよぅ……」

 

 ヘカテーと仲良くなりたいと思っていたエレナの目から、雫が流れ落ちる。あまりの理不尽さに、やるせない思いになる一行。暗い空気が、部屋に蔓延し始める。シンデレラを連れ去られたという事実もまた、その空気に拍車をかける。

 

「なんとか……治療法はないのか?」

 

 パーンが永夢に問う。縋るような思いが、レヴォルたちから感じられる。

 

 対し、永夢は

 

「……あります」

 

「あるの!?」

 

 頷き、それに一気に希望を見出したアリシアが座っていた椅子を蹴って立ち上がる。顔を伏せていたエレナも勢いよく顔を上げた。

 

「ど、どうすればいいの!? どうすればヘカテーちゃんを救えるの!?」

 

「それは……」

 

 正直、その治療法には危険が伴う。それを告げるかどうか、永夢は悩んだ。

 

 だが、

 

 

 

「父さん母さん!? どうしたの!?」

 

「しっかりしてよ! ねぇ!!」

 

 

 

 それを言う前に、一行の耳に入って来た悲鳴にも似た子供たちの叫び。それだけで、異常事態が発生したのだと、誰もが理解した。

 

「どうしたの!?」

 

 リビングを飛び出し、永夢が子供たちの悲鳴が聞こえた場所へ急ぐ。そして、その原因をすぐさま理解した。

 

「に、兄ちゃん! 父さんと、母さんが……!」

 

「急に……急に倒れて……!」

 

 廊下で、先ほどまで父親と母親が帰って来たことを喜んでいた兄妹が、泣きながら永夢を見る。二人の前には、彼らの両親が苦しそうな呻き声を上げながら倒れ込んでいた。

 

「う、うぅ……」

 

「く……苦しい……」

 

 それも、身体にノイズを走らせながら。

 

「これって……!?」

 

 この光景にデジャヴュをレヴォルは感じる。永夢は慌てて、ゲームスコープを起動。倒れた二人にスキャニングライトを当て、モニタを映す。

 

「……ゲムデウスウィルス……!」

 

 モニタ内を動き回るゲムデウスのアイコン。それが、二人が感染者であるという何よりの証拠であった。

 

「何で!? 何でヘカテーちゃん以外にも!? それにこの人たちだって、さっきまで元気だったのに!?」

 

 訳もわからず叫ぶエレナ。しかし、永夢はゲームスコープを外しつつ、狼狽えずに冷静に頭を働かせる。

 

「…………感染者の、データ」

 

「え?」

 

 永夢が一人呟き、レヴォルが聞き返した。

 

「檀正宗が言っていた。不完全なゲムデウスを完全なものにするために、多くの感染者のデータが必要だったって」

 

「それは……まさか!?」

 

 多くの感染者……その言葉に察しがついたパーンが、脳裏に浮かんだその可能性に愕然とする。

 

「檀正宗は……捕まえた人たちにも、ウィルスを投与して実験体にしていたんだ。それでゲムデウスがこの世界に顕現したことで、この人たちに潜伏していたウィルスが活性化して……!」

 

 まさに人を人とも思わぬ、悪魔の如き最悪な所業。罪なき人々を苦しめるあの男に、永夢が憤りを覚えながら、事実を口にした。

 

「なんて、ひどいことを……!」

 

「さすがに笑えませんね……そこまでする外道だったとは」

 

 レヴォルたちも正宗に対して怒りが湧く。ここまでのことをして、高笑いをあげられる男の姿が脳裏に浮かぶ。下手なカオステラーよりも、よっぽど悪魔のように思えてならなかった。

 

 そんな中、レヴォルがあることに気付く。

 

「ちょっと待ってくれ……それじゃあ、この人たち以外の捕らわれていた人たちも!?」

 

 牢屋の中にいたのは、彼らだけではなかった。数十人もの人々が牢屋の中で苦し気に呻いていたのを、レヴォルは思い出す。あの時は劣悪な環境によって健康を害していたのだと思っていたが……最悪な事態に、レヴォルは顔を青くした。

 

 さらに、事態は最悪な状況へと進む。窓の外から、甲高い悲鳴が響き渡る。

 

 何事かと、誰かが問う前に、家の戸が大きな音をたてながら開かれた。

 

「みんな! 大変だよ!」

 

「お婆さん!?」

 

 深夜だが、隣の家に傷と病に効く薬をもらえるかどうか頼んでくると言って出て行っていた老婆が慌てて家に駆けこんでくる。荒い息を吐き、肺を落ち着かせてから叫んだ。

 

「町の中で、化け物が暴れてるんだよ! それもこれまでの比じゃない、大量に!」

 

「な……」

 

 ただでさえゲーム病によって最悪な状況だというのに、それに拍車をかけるように現れたという化け物……恐らく、ヴィラン。

 

この事態の中、偶然とは思えない。意図的な何かを感じたが、それを考察している余裕はない。

 

「ど、どうしよう!?」

 

「どうしようも何もない……町の人たちを救わないと!」

 

 狼狽えるエレナを、レヴォルが窘めるように言う。ヴィランを放っておいたら、より多くの犠牲者が出る。それだけは避けなければいけない。

 

「けど、ヘカテーちゃんやティム君、それにこの人たち、その上に助け出した人たちも何とかしないといけない……さらには、逃げ惑う人たちも助けないといけない」

 

 アリシアが、難しい顔をする。ヴィランと戦わなければいけないが、ゲーム病で苦しむ人々、さらには未だ目覚めないティムを放っておけない。さらには逃げ惑う人たちも助けなければいけない。

 

 一度に片付けなければいけない問題が、山積みだった。

 

「一体、どうしたら……」

 

 正直、広い町全てを駆け回るには永夢たちでは限界がある。何かいい策がないかと、全員が頭を悩ませていた。

 

 

 

「私に任せてください」

 

 

 

 その時、この場にいない誰かの声が聞こえた。直後、永夢たちの前が光りだし、光が形となって人の姿となる。

 

「フェアリー・ゴッドマザー!?」

 

 レヴォルが驚き、現れたのは一人の女性の名を言う。シンデレラにおける最重要人物である、フェアリー・ゴッドマザーだった。

 

 永夢たちをこの家まで送り届け、魔法の力で傷を治してくれたフェアリー・ゴッドマザーは、一度一行たちの前から姿を消した。その彼女が、再び戻ってきた。

 

「一体、どこへ……それに、任せてって……?」

 

 エレナがフェアリー・ゴッドマザーに尋ねると、彼女は真剣な表情で、永夢たちを見据える。

 

「本来であれば、このようなことは立場上すべきではないのですが……今、私の願いを聞き届けてくれた兵士の方々が町の人たちを避難させてくれています。大丈夫、王の考えに否定的だった人たちです。信頼できます」

 

 全ての兵士が、今の王に忠誠を誓っていたわけではない。やむを得ずに従うしかなかった兵士たちに、普段は人前にほとんど姿を見せないフェアリー・ゴッドマザーは、今だけはなりふり構っている余裕はないと判断して声をかけ、町の人々を誘導してくれているという。

 

「避難場所って……そんなところあるんですか?」

 

 国で避難できる場所は限られてくる。唯一候補に挙がったのは王城だったが、今あそこは檀正宗が根城にしているだろう。そう考えるアリシアの質問に、フェアリー・ゴッドマザーは頷いた。

 

「あります……かつてシンデレラが住んでいた、町から少し離れた屋敷が」

 

 それを聞き、パーンは得心がいったとばかりに頷いた。

 

「なるほど、屋敷ならば広さも十分あるだろうし、今は誰も住んでいないから問題はないだろう」

 

 継母はカオステラーとなり、その子供である姉妹もカオステラーに取り込まれ、そしてシンデレラは檀正宗の手に落ちた。シンデレラの両親も他界している今、あの屋敷は今は無人。避難場所として活用しない手はない。

 

 避難場所と誘導する者が増えたことは、素直にありがたい話だった……だが、まだ問題がある。

 

「後は……病に苦しむ人々をどうするか、だ」

 

 目の前で苦しみ喘ぐ両親を前にして泣き続ける兄妹、ヘカテー、そして捕らわれていた人たち……専門医療に携わっていない者がいなければ、対処のしようがない。

 

 そして、その専門医療に携わっているのはただ一人。

 

「……彼らを放ってはおけない。けど、町の人たちも助けなければいけない……どうすれば……」

 

 ヴィランたちは、一介の兵士の手に余る。しかしゲーム病で苦しむ人たちを放ってはおけない。永夢はどうすべきか、判断に迷っていた。

 

『永夢』

 

 そんな彼の頭に、声が響く。その声の主を知る永夢は、戸惑うことなく耳を傾けた。

 

「パラド……?」

 

『ヴィランは俺に任せろ。お前はゲーム病患者たちを』

 

「それは……でも、お前一人に任せるわけには……」

 

『何言ってんだよ。こういう時こそ、俺の出番だろ? それに、俺の実力はお前がよく知っているはずだ』

 

 パラドの実力は、永夢が誰よりもわかっている。何せ、天才ゲーマーMの力は、実質彼の力によるもの。その力は折り紙つきだ。

 

 しかし、それでも懸念すべきことがある。彼の正体を、レヴォルたちにどう説明すべきか、ということだった。

 

パラドを悪く言うつもりはない。が、それでも最悪、彼らから疑いの目を向けられかねない。

 

 そう悩む彼の心を知ったパラドは、軽く笑いながら言う。

 

『心配すんな……お前を信じた連中を、お前が信じないでどうすんだよ?』

 

「っ……」

 

 永夢が信じる人たちが、それくらいで糾弾するような者たちではない。暗にそう言うパラドに、永夢は頭を殴られたような錯覚を覚えた。

 

 これまで共に戦ってきた彼らの性格を、永夢はわかっていたつもりだったが……パラドに言われ、彼らを疑う自らを永夢は恥じた。

 

「……わかった。お前に任せる」

 

『へへっ、そうこなくっちゃな!』

 

 パラドを、レヴォルたちを信頼し、永夢は託す。それを楽しそうに笑いながら、パラドが心の内で自らの胸を叩いているのが、永夢には何となくだがわかった。

 

「エ、エム? 一体、どうしたんだ?」

 

 傍から見れば、突然一人で何もない場所に向かって話し始めたようにしか見えない永夢に、レヴォルが恐る恐ると声をかける。エレナたちも同様、永夢の奇行にしか見えない行動に戸惑っていた。

 

「……皆さん、お願いがあります」

 

 改め、レヴォルたちへ向き直った永夢。真剣な目で話す永夢に、レヴォルたちは何か言う前に口を噤んだ。

 

「今から見る光景に、あまり驚かないでください」

 

「へ? それって」

 

 どういう意味、とエレナが口を開く寸前。

 

 見開かれた永夢の目が、赤く光った。

 

「な、なんだ!?」

 

 永夢の全身の血が騒ぐような感覚に襲われると同時、彼の身体から粒子のようなものが吹き上がる。青と赤が入り混じったようなそれは、驚くレヴォルたちの前で人型に形成されていく。

 

「っと」

 

 やがて、その人型は着地するかのように軽く言って、レヴォルたちと永夢の間に立つように現れた。

 

 色とりどりのコードがぶら下がっている黒いコートと、紫のズボン。長身の男性が、唖然とするレヴォルたちへ気軽に右手を挙げた。

 

「よ。この姿では初めましてだな」

 

「な……だ……」

 

 男性ことパラドを前にし、口が開きっぱなしだったアリシアは、何者かを問おうとしたが声にならない言葉しか発せない。黙っているが、シェインとパーンも同じ感じだった。

 

「え……その声は」

 

 唯一、レヴォルとエレナが気付く。レヴォルの脳裏に浮かぶのは、カオステラーと対峙した際に二人に分裂したエグゼイドの片割れ。オレンジ色のエグゼイドが、緑色のエグゼイドと共に勇猛果敢にカオステラーへ向かっていく姿。

 

「もしかして、あの時のオレンジ色のエムさん!?」

 

「ビンゴッ!」

 

 パチンと、言い当てたエレナに向けて指を鳴らすパラド。その顔は無邪気な子供のようだった。

 

「エム君、彼は一体……?」

 

 永夢の身体から突如として現れたパラドを見て、らしくもなく混乱するパーンが永夢を見る。その目を真っ直ぐ返しながら、永夢は言う。

 

「彼は、パラド。僕の相棒です」

 

「そ。永夢の唯一無二の相棒。それが俺だ」

 

 誇らしげに自らを親指で指すパラド。と、その楽し気な表情が一転、真剣なものへと変わる。

 

「事情を説明して欲しいのは、十分わかってる。けど、今はそれよりも大事なことがある筈だ」

 

 大事なこと……町の人たちの救助。確かに、パラドが言うことは最もだが、彼の事が気になることもまた事実。そもそも、いきなり永夢の身体から現れたことについての説明もまだだ。

 

 疑惑の目を、パラドへ向けようとした……が、永夢がレヴォルたちを真っ直ぐ見て、頭を下げる。

 

「説明は、後で絶対にします。けど、今は彼を……パラドを信じて欲しい」

 

「俺からも頼む。永夢の役に立ちたいんだ」

 

 永夢とパラド。二人からの真摯なまでの頼み。それを聞いて、レヴォルは一瞬考える。

 

 確かに、パラドのことは気にはなるし、正直疑わしい。説明をして欲しいという気持ちも大きい……しかし、これまで共に戦ってきた永夢が、何も考えなしにパラドを信じてくれと言う筈もない。

 

 故に、出す答えは一つだった。

 

「……わかった。説明を聞くのは後にしよう」

 

 それならば……今は、レヴォルはパラドを信じる永夢を信じることにした。

 

「皆も、それでいいか?」

 

 無論、レヴォルだけの判断で決めるわけにはいかない。後ろで聞いていた仲間たちに振り返り、聞くレヴォル。

 

「……うん。わかんないことだらけだけど、私はエムさんを信じるよ」

 

「まぁ……うん、確かに説明は欲しいところだけど、それどころじゃないのも事実だしね」

 

「少なくとも、彼からは悪意は感じられない。私も問題ないと思うね」

 

「……はぁ……全く、次から次へと事態が動いていきますね……まぁ、今は状況を好転できれば何にだって縋りますよ」

 

 考え無しに信じるつもりはない。ただ、永夢の役に立ちたいというパラドの言葉から嘘はないと、誰しもが感じられた。

 

 故に、今は信じる。それがレヴォルたちが出した判断だった。

 

「皆さん……ありがとうございます!」

 

「恩に着るぜ!」

 

 信じてくれたレヴォルたちに感謝の意を伝える永夢とパラド。しかし、今は和気藹々としている余裕もない。

 

「よし、僕たちはヴィランを抑える! その間にエムは……」

 

「わかってる。ゲーム病患者やティム君は、僕に任せておいてくれ」

 

 クロノスにやられた傷も、すでにフェアリー・ゴッドマザーが癒してくれている。疲労感までは癒せなかったものの、戦うには申し分ない。

 

「みんな、行こう!」

 

 レヴォルが先頭に立ち、家を出て行く。永夢は、彼らを見送りながら言った。

 

「皆、パラド! 気を付けて!!」

 

 彼らには彼らの、そしてドクターである自分には自分の戦いをするために。レヴォルたちと永夢は、それぞれ動き出した。

 

 悪夢に苦しむ人々を救うために。

 

 

 

~ 第14話 悪夢のRE:START ~

 

 

 

「た、助けてくれ! 助けてくれぇ!!」

 

「お父さーん! お母さーん!」

 

「た、頼む、俺を置いて行ってくれ……こんな身体じゃ、お前まで巻き添えに……」

 

「何言ってるのよ!? せっかく城から帰ってきてくれたのに、また離れ離れなんて嫌よ!!」

 

「だ、ダメです! 数が多すぎてとても全員助けることが……!」

 

「諦めるな! 俺たちが諦めたら町はおしまいだぞ!!」

 

 レヴォルたちが町の中央広場へ向かうと、そこは阿鼻叫喚の大騒ぎとなっていた。助けを求める人々や、家族と離れ離れになった子供の泣き叫ぶ声、城から逃げ帰れた筈なのにゲーム病によって苦しむ人々が、そこかしこから現れて襲い掛かってくる化け物を前に成す術なく逃げ惑う姿。フェアリー・ゴッドマザーの言う通り、町を救うために迎え撃とうとしている城の兵士たちだったが、押し寄せる敵の群れを前にして劣勢に立たされていた。

 

「な……何あれ?」

 

 エレナが、町を襲っている敵の姿を視認する。そこには、これまで幾度となく戦ってきた無数のヴィラン。ゴーレムやゴースト、そしてドラゴン以外にもハーピー型のメガ・ヴィランまで勢ぞろいだった。

 

 だが、エレナが注目しているのは別にある。

 

 

 

『&$%#!&#?』

 

『#%“!$%&!』

 

 

 

 ヴィランに混じって大きな三又の槍を振るう、オレンジ色の奇妙な形をした頭を持つ、黒いタイツのような服を纏った人型の化け物。言葉にならない奇声を発しながら、人々を追いかけまわす。

 

 初めて見る敵を前に、困惑するレヴォルたち。唯一、あの存在を知るパラドが、苦々しい顔を隠そうともせずに口を開く。

 

「バグスターウィルスだ」

 

「バグ、スター……?」

 

「それって……確かエムさんが言ってた、ゲーム病っていうのにかかる奴だよね?」

 

「ああ、連中はその中の雑魚敵。だけど、数が多いのが厄介な存在だ」

 

 ゲーム病患者に感染するバグスターが患者の身体を乗っ取った際、共に現れる敵。云わば戦闘員のような役付けの存在。

 

 それを見て、パラドは確信する。この騒ぎもまた、檀正宗の仕業だということに。

 

 何故バグスターとヴィランが手を組んでいるかのように動いているのか疑問は尽きない。それを考える前に、パラドは手近にいた女性を襲おうとしていたバグスターに駆け寄り、蹴り飛ばす。吹っ飛ぶバグスターを余所に、パラドは襲われていた女性を助け起こした。

 

「早く逃げろ!」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 お礼もそこそこに、女性は逃げ出す。パラドは振り返り、ヴィランとバグスターの混合部隊を睨みつけた。

 

「とにかく、あいつらを追い払うぞ」

 

「……ねぇねぇ、パラドさん……だったよね? もしかして、パラドさんも仮面ライダーになれるの?」

 

 パラドの横に立ったエレナが、期待の眼差しをパラドへ向ける。城でも永夢と一緒に仮面ライダーになっていたが、永夢がいない時でも変身できるかどうか気になっていたエレナ。その眼差しを受けて、パラドは不敵に笑う。

 

「当たり前だろ? おまけに、俺はそんじゃそこらの連中とは格が違うぜ?」

 

 言って、すでにお馴染みとなったゲーマドライバーを取り出し、見せつけるように振った。

 

「おおおお……!」

 

「エレナ、エレナ。状況をよく見て……」

 

 目を輝かせるエレナをレヴォルは窘める。その間にも、パラドはゲーマドライバーを腰に当て、自動でベルトを巻き、装着を完了させた。そして、再びバグスターとヴィランを睨む。

 

力無き人々を追いかけまわし、害を為そうとする彼ら。しかし、かつてのパラドもまた、彼らと同じ立場にいた存在だった。

 

 目を閉じて、パラドは思い出す。命と命のやり取りをゲームと称し、無邪気なまでに人の命を奪ってきたパラド。自分たちは人の命と違い、いつでも復活(コンティニュー)することができるバグスターであるという認識を、クロノスの手で仲間を殺められて覆されて、初めて命を失う恐怖を思い知った時、身体と心の震えが止まらなかった。

 

 そして改めて、命の重さを……永夢の荒療治によって理解し、自らがやってきた罪の重さを思い知った時。永夢自身が、パラドと一心同体であるということを認めて、自分の罪と向き合うと言ってくれたあの時から、パラドは生き方を変えた。

 

 己の罪を償おうと決心し、今のパラドがある。

 

 かつてのパラドならば、この状況を前にして心が躍っていただろう。戦いという名のゲームを、存分に楽しんでいただろうから。

 

 だが……今のパラドは違う。

 

 かつての自分を見ているかのように、罪なき人々の命を奪うヴィランとバグスター。そして世界を超えてまで命を弄ぶ檀正宗に対して抱く感情は、興奮でも、愉悦でもない。

 

 

 

「心が、滾る……!」

 

 

 

 ゲームのためではなく、人々のために。パラドは閉じていた目を開き、心を“怒り”で燃やす。

 

 左手で懐から取り出したるは青く分厚いガシャット。そのガシャットは、大きくて黄色いダイヤルが付けられ、中央には赤と青、それぞれ違うデザインが左右で分かれたラベルが貼られている。

 

≪デュアル・ガシャット!≫

 

 そのガシャットこと『ガシャットギアデュアル』を勢いよく、ゲーマドライバーに挿入した。

 

≪The strongest fist!≫≪What’s the next stage?≫

 

≪The strongest fist!≫≪What’s the next stage?≫

 

 そして繰り返し鳴り出す、待機音声のサウンド。前半は力強い曲調、そして後半はユーモラス溢れる曲調。まるで二つのジャンル違いの物を一つに混ぜたような、奇妙なサウンド。

 

 同時、パラドの背後に二枚のゲームタイトル画面のホログラムが浮かぶ。右側を男性が炎の中で拳を振るうイラストが描かれた赤い画面、左側を青い球体に目と口が付いた妙な生き物とカラフルなパズルが描かれた青い画面。それらから発せられる、赤と青のゲームエリアが町中に展開、散らばるエナジーアイテム。

 

 両手を交差し、パラドは構える。そして、

 

「マックス大変身!」

 

≪ガッチャーン! マザル・アーップ!!≫

 

 円状に大きく腕を振り、ゲーマドライバーのアクチュエーションレバーを勢いよく開いた。

 

 

 

≪赤い拳強さ! 青いパズル連鎖! 赤と青の交差! パーフェクト・ノックアーウト!!≫

 

 

 

 鳴り響くサウンド。背後のホログラムが合体、一つとなった瞬間、ハイフラッシュインジケータから飛び出してきた上下を赤と青で色分けされたパネル。それがレバーを開いた際に右手を挙げたパラドの身体を通過し……パラドの姿を、別物へと変えた。

 

 右目を赤に、左目を青にした鋭い目つき。赤と青の刺々しい頭部。背中に取り付けられたガシャットに付いている物と似たダイヤル。そして赤と青が交差した、まさに混ぜられた(・・・・・)ようなスーツ。

 

 レベル50の格闘ゲーム『ノックアウトファイター』と、同じくレベル50のパズルゲーム『パーフェクトパズル』という、ガシャットギアデュアルに内蔵されたジャンルの違う二つのゲーム。それらのゲームを一つにし、ジャンル違いという矛盾(パラドクス)を超えて力に変え、全く新しいゲームへと昇華した存在。

 

 

 

「仮面ライダーパラドクス……レベル99!」

 

 

 

 仮面ライダーパラドクス・パーフェクトノックアウトゲーマーレベル99が、レヴォルたちの前で力強く名乗りを上げた。

 

「うわぁ、新しい仮面ライダーだぁ! こっちもかっこいいなぁ!」

 

「随分と派手ねぇ。けどこれはこれでかなり強そうに見えるわね!」

 

「赤と青の仮面ライダー、ですか……ふむ、見た目鮮やかでなかなか……」

 

「……異論はないけれど、なんで彼女たちはあそこまでテンションが上がるんだ?」

 

「まぁ、人の好みは様々だからね」

 

 永夢と正宗に続いて実質三人目の仮面ライダーを前にし、ティムが付いていけなかった程にテンションを上げる女性陣を、呆れつつ見るレヴォルと苦笑するパーン。

 

 変身を終えたパラドは拳を鳴らす。そして仮面の赤と青の鋭い目つきを、バグスターとヴィランへ真っ直ぐ向ける。

 

「さぁ……始めようぜ!!」

 

≪ガシャコンパラブレイガン!≫

 

 叫び、武器を召喚する。これもまた左右を赤と青に色が分かれており、さらには片側を銃に、片側を斧の刃に変えることができる、遠近両用に戦える異色の武器『ガシャコンパラブレイガン』を手に取った。

 

「よし、僕たちも!」

 

「へんしーん!」

 

「ちょ、エレナちゃん、感化されちゃってない?」

 

 レヴォルたちも負けじとコネクトし、それぞれのヒーローとなってパラドに続く。

 

≪ズ・ガーン!≫

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 先手を打ったのは、パラド。赤いAボタンを押して青いジグソーパズルの模様が銃身に施された(ガン)モードへチェンジしたガシャコンパラブレイガンをヴィランとバグスターへ向け、トリガーを引く。青い弾丸が連続して射出され、命中した瞬間爆裂して次々と倒していく。屋根の上から弓矢や杖で狙うウィング・ヴィランやゴースト・ヴィランも見逃さず、照準を合わせて狙い撃つ。

 

≪1! 2! 3! 4! 5!≫

 

 粗方撃つと、ガシャコンパラブレイガンの青いBボタンを5回押す。押した回数を告げる音声の後、飛び跳ねる音が遅れて鳴った。

 

 そして駆け出す。目指すは、ハンマーを振り上げているナイト・ヴィラン。

 

「ほっ!」

 

 ジャンプし、ナイト・ヴィランの頭部を足場にしてより高い位置まで跳ぶ。空中で逆さとなったパラドは、眼下に蔓延るヴィランとバグスターの集団へ銃口を向けた。

 

「くらえ!」

 

 容赦なく、トリガーを引く。すると、銃口から弾丸が射出される。それも一つではなく、ボタンを押した回数だけの、即ち5発の弾丸がマシンガンのように連続発射され、ヴィランとバグスターに降り注ぐ!

 

≪HIT!≫

 

≪HIT!≫

 

≪HIT!≫

 

≪HIT!≫

 

≪HIT!≫

 

『―――――ッ!?』

 

『%#$#“&!?』

 

 厚い鎧で身を守っているナイト・ヴィランでも、頭上からの攻撃には成す術がない。弾丸は獲物を狙う狼が如く、容赦なくヴィランとバグスターに次々命中、そして炸裂。これで一つの集団が断末魔を上げながら消滅した。その光景はまるで、

 

≪5・連鎖!!≫

 

 パズルゲームで組み合わさったパズルが連鎖して消えていくかのようだった。

 

「さぁ、まずは一発目!」

 

≪ガッシューン≫

 

 続き、着地したパラドはゲーマドライバーからガシャットを抜く。そしてそれを、ガシャコンパラブレイガンのガシャットスロットへ装填した。

 

≪デュアル・ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 キメワザ発動の待機音が鳴り出す。その電子音を聞きながら、パラドは左手を上げた。

 

「こいつと、こいつで!!」

 

 仮面ライダーパラドクスの特性である複数のエナジーアイテムを手元に引き寄せ、それらを組み合わせて使用する『マテリアコントローラー』が内蔵されている左肩『パズレフトショルダー』が起動。そこかしこに散らばる形で点在しているエナジーアイテムのうち2枚が動き出し、パラドの頭上に集まっていく。

 

 集ったアイテムは『鋼鉄化』『分身』の二種類。『鋼鉄化』はガシャコンパラブレイガンへ、『分身』はパラド自身へ吸い込まれていく。

 

≪鋼鉄化!≫

 

≪分身!≫

 

 青い炎のようなエネルギーを吹き出すガシャコンパラブレイガン。そして銃口を今度はより大物へ、メガ・ヴィランのゴーレム種とゴースト種へ向けた。

 

「行くぜ!」

 

 

 

≪PERFECT CRITICAL FINISH!!≫

 

 

 

 銃モードと連動してパーフェクトパズルの必殺技が発動。同時、パラドの身体が6人に分裂、本人を合わせて計7人が横へと並んだ。

 

「はぁっ!」

 

 躊躇うことなく、分身たちと一緒にトリガーを引く。キメワザによって輝く分身から放たれた6つの弾丸に合わせ、『鋼鉄化』によって鈍色に輝くパラド本人が撃った弾丸が、手から魔法の光弾を撃って対抗しようとするゴースト種と、鋼鉄で構成されているゴーレム種と、へ向けて牙を剥く。

 

 分身による6つの弾丸は全てゴースト種に命中、エネルギーを迸らせながら爆散。『鋼鉄化』によって強化された弾丸は、同じ鋼鉄のはずのゴーレム種の胴体に大きな風穴を開け、唸り声に似た音をたてながら崩れ落ちて行った。

 

≪ALL CLEAR!!≫

 

 見事、キメワザが決まったのを報せるサウンドが鳴る中、パラドは余韻に浸ることなく、ガシャットをゲーマドライバーへ戻して次へ走る。

 

「今度は……!」

 

≪ズ・ゴーン!≫

 

 Aボタンを押し、銃を半回転。刃に描かれた赤い炎の意匠が特徴の(アックス)モードへ切り替え、助走をつけて飛び上がりつつ、一体のバグスター目掛けて斧を振り上げる。赤い軌跡を描きながら、バグスターが持つ槍ごと両断、続けざまに横へ薙ぎ払い、数体のヴィランを消し飛ばす。

 

≪1! 2! 3! 4! 5! 6! 7!≫

 

 再びBボタンを連続で押す。今度は7回押し、そして身体を回転させながら豪快にぶん回す!

 

「っらぁぁぁ!!」

 

 回転の勢いを乗せた斧の一撃が、近くにいたナイト・ヴィランが構える盾に命中、轟音を響かせながら衝撃波が広がった。

 

≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫

 

 扇状に広がった、強烈なエネルギーを乗せた衝撃波がバグスターとヴィランを襲う。盾を構えて防御態勢をとっていたヴィランも、身を伏せていたバグスターも、その防御を物ともせずに紙きれの如く吹き飛ばしていく。強烈な連撃を一瞬で繰り出すかのような一撃。それはさながら、

 

≪7・連打!!≫

 

 格闘ゲームの必殺コンボが決まったかのようだった。

 

「二発目、行くぜ!」

 

≪ガッシューン≫

 

 先ほどと同じようにゲーマドライバーからガシャットを抜き、斧モードとなっているガシャコンパラブレイガンのスロットに装填する。

 

≪デュアル・ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 斧と連動しているノックアウトファイターのキメワザが起動。斧の刃が赤い炎の如く輝き出す。そうはさせじと、空中から大型ヴィランのメガ・ヴィランのうちの一つ、女性の身体に鳥の翼と鉤爪を持つハーピーが急降下を始め、その鋭い足の爪を振り上げてパラドを切り裂かんと迫る。

 

「お前らには、こいつらで決めてやるぜ!!」

 

 左手を振るい、エナジーアイテムを集める。今度のアイテムは、

 

≪マッスル化!≫

 

≪高速化!≫

 

 攻撃力強化の『マッスル化』をガシャコンパラブレイガンに、移動速度強化の『高速化』をパラド自身に使用。ガシャコンパラブレイガンが一瞬肥大化し、パラドが黄色に光り出す。

 

「はぁぁぁ……!」

 

 腰だめに構え、斧を構える。すでにハーピーの爪は目と鼻の先。臆せず、パラドはトリガーを押す。

 

 

 

≪KNOCKOUT CRITICAL FINISH!!≫

 

 

 

 キメワザが発動。真っ赤に燃える斧を、ハーピー目掛けて振るった。

 

「はぁっ!!」

 

『――――ッ!?』

 

 凶悪なまでのエネルギー波が、ハーピーをヴィランとバグスターが密集しているところへ吹き飛ばす。甲高い悲鳴を上げながらも体勢を立て直そうとするハーピーが、翼を羽ばたかせた。

 

 が、すでに『高速化』によって一瞬で接近したパラドが眼前で斧を振りかざしていた。その距離……もはやゼロ。

 

「おりゃああああああああ!!」

 

 呼気と共に、ハーピーと後ろのヴィランとバグスターをも巻き込んで斧を振り抜く。赤い一閃が走り、一瞬遅れて斧の軌跡をなぞるように爆発。敵は跡形もなく消し飛ばされた。

 

≪K.O!!≫

 

 まさに一撃必殺。キメワザが華麗に決まったことを、残心を決めるパラドにサウンドが報せた。

 

「うわぁ……むちゃくちゃ強い」

 

 まさに圧倒的。ほとんど一人で並み居る敵を殲滅してしまったパラドの戦い振りを、自身もヴィランと戦う横目で見ていたエレナが半ば唖然としながら呟いた。

 

「こりゃ、私たちの立つ瀬ないわね……」

 

「しかし、心強いのは事実。このまま押し切っていきましょう」

 

 苦笑するアリシアだったが、これを好機と見たシェインが槍を振り上げてきたバグスターを蹴り飛ばしながら言う。

 

 奇怪な声を上げながら吹っ飛ぶバグスター。だが彼が地面に落ちることも、壁にぶつかることもなかった。

 

『フンッ!』

 

 シェインが蹴り飛ばしたバグスターが、突然両断されて消失した。

 

「なっ……!?」

 

 それに気付いたレヴォルが、バグスターを消した存在を目にして動きを止める。

 

 レヴォルたちが戦う中央広場に足を踏み入れてきたのは、一体の怪物。屈強な体格を包む、血とも炎とも取れるような深紅の甲殻のような甲冑。竜を思わせるような頭部を持つその者は、手に両端が牙のような槍を持ち、振り下ろした体勢を戻してレヴォルたちへと意識を向けた。

 

 彼の背後からまた現れる、ヴィランとバグスターの増援部隊。パラドが殲滅した時と同等の数が控えている。

 

「なんだ、あいつは……!?」

 

 レヴォルが先頭に立つ怪人を警戒し、剣を構える。そこに立っているだけで肌がピリピリする程の威圧感は、クロノスに迫るものがある。

 

 さながら、武人。その立ち振る舞いから、そんなイメージがレヴォルたちに湧く。

 

 だが、怪人の姿を見た時、パラドが激しい動揺を見せるように、仮面を揺らす。

 

「お……お前、は……!?」

 

「パラドさん?」

 

 エレナが声をかけるも、答える余裕はない。

 

 何故ならば、パラドは彼のことをよく知っているからだ。それも、先の戦いで己の信念のために戦い、そして敗れ、それでも己の運命、役割を全うできたことに悔いはなく、寧ろかつてない程に満足したまま逝ったパラドの戦友。

 

 その誇りを持って散って逝った彼……その名を、パラドは震える声で言う。

 

 

 

「グラ、ファイト……!」

 

 

 

 グラファイト。ハンティングゲーム『ドラゴナイトハンターZ』のバグスターウィルスとして、パラドと肩を並べて戦ってきた存在。何故、死んだ筈の彼がここにいるのか……一瞬、パラドは考える。しかし、その謎はすぐに氷解する。

 

「……クロノスの奴、保存しておいた仮面ライダークロニクルのデータからグラファイトを復元したな……!」

 

 死して尚、道具として戦友を利用する檀正宗。改めて奴の所業に怒りを抱く。

 

 それだけではない。グラファイトは己の生き方に後悔なく、戦って死んだ。その彼を、こうして再び無理矢理戦いの場へ立たせる……まさに、戦士の誇りをも汚す行為に他ならない。

 

 心がますます滾っていく。パラドの暴発寸前の怒りが、ガシャコンパラブレイガンの柄を強く握りしめることで表れた。

 

「……皆、あいつは俺に任せてくれ」

 

 レヴォルたちを見ず、パラドは言う。

 

「そんな……一人よりもみんなで戦えば!」

 

 レヴォルでもわかる。あいつはやばい、と。故に、全員で戦った方が確実なのではないかと、レヴォルは進言する。

 

「いや、あいつは……俺にやらせてくれ。皆はバグスターとヴィランを。放っておけないだろ?」

 

 頑として譲らないパラド。しかし、彼の言うことも最もであり、グラファイト一人を相手にしすぎて、他の敵を放置してしまうこととなる。ならば、一人が奴の注意を引き、レヴォルたちが周りの敵を相手にして戦う、という図式が理想と言えば理想であった。

 

 建前こそは、確かに理に適っている。ただ、パラドの本心は、別にある。

 

「グラファイト……」

 

『……』

 

 パラドが、グラファイトと対峙する。彼の名を呼ぶパラドだが、返ってくる答えはない。そこには意思も感じられない。

 

「いや……お前は、グラファイトじゃない」

 

 否定し、頭を振るパラド。見た目、そして雰囲気。共にパラドが知るグラファイトである。

 

 それでも否定する。パラドの直感が、彼は違う存在であると……檀正宗の手で人格データを抹消され、操り人形としてここに立っているのだと、そう叫ぶが故に。

 

「俺の知るグラファイトは、もう死んでいる……だから」

 

≪ズ・ガーン!≫

 

 ガシャコンパラブレイガンを銃モードへ変え、銃口をグラファイトへ向ける。それに呼応するかのように、グラファイトも自身の得物『グレングラファイトファング』を腰だめに構えた。

 

 互いに一色触発。二人の間に吹く風。どちらかが先に動いた瞬間、勝負は始まる。

 

 永遠とも取れる、空白の時間。二人の間のみが、静寂を包む。

 

 やがて、動き出す。ジャリッという、砂利を踏む音を鳴らしたのは、

 

 

 

「俺が止めてみせる!!」

 

 

 

 ガシャコンパラブレイガンのトリガーを引いたパラド。青い銃弾を放ちながら、グラファイトへ向けて疾走する。

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

 連続して射出される銃弾を、槍を回転させて弾いていくグラファイト。グラファイトとの距離が縮まっていき、そして、

 

≪ズ・ゴーン!≫

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 斧へ切り替え、振り下ろす。それをグラファイトが防ぎ、互いの得物から火花が散る。

 

 望まぬ復活を遂げる羽目になったかつての戦友を止められるのは自分だけ……その強い意思を持って、パラドはグラファイトとの死闘に挑んでいった。

 

 

 




仮面ライダーパラドクス、解禁。あの待機音、結構耳に残ってしまうから困ります。

今回のパラドの戦闘で使ったキメワザ、原作において大我と飛彩を相手取った時のと大体同じ感じです。もうちょいオリジナリティー出そうぜ私と反省しつつ、ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 Thank you 友よ!

第16話。なんだかんだでここまで来たんですが、当初の予定ではもっと早くに完結する筈だったんです。グリムノーツのイベントの想区でもここまで長かねぇぞ!

長く書けば書くほど、キャラが崩壊するんじゃないかとか不安になったりします。けど書きます。実際楽しいもの。

さて、とりあえず16話の軽いあらすじ。

檀正宗の手により復活を遂げたグラファイト。そしてさらに押し寄せるヴィランとバグスターの大群を前に、人々の間に絶望が広がる。その絶望を前に、再編の魔女一行、そしてレベル99となった二人の仮面ライダーが立ち上がる。

あらすじだけで何が出て来るかもうわかってしまう16話を、そぉい!!(全力投球)


「うぅ、いてぇ……いてぇよぉ……」

 

「あ、足が……うぅ……」

 

 場所は、かつてシンデレラが住んでいたという屋敷。しばらく手入れのされていない庭と、僅かながら埃が溜まっている室内。それらに目をつぶれば、大勢の人間が敷地内に入れる程の広さがある。

 

 現に今、そこはヴィランとバグスターによる襲撃によって逃れてきた町の人々でごった返し、庭はすし詰め状態だった。

 

町の人の殆どは、無事に避難が完了できた。屋敷の敷地内に入れない人々は、兵士が臨時で建てたテントでどうにか凌いでいる。しかしその多くは、襲われた際に傷を負った人や、逃げる最中に転んだ、或いは何かに引っ掛けた人が、痛みに苦しみ呻いている。そんな人々の間を縫うように駆け回る、町の診療所で働く医者や医療経験のある女性たち。だが、圧倒的に数が足りておらず、それでも少ない人数で何とか対応しているという状況だった。

 

「もう、大丈夫ですよ。安静になさっててください」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 その中には、永夢もいた。頭に傷を負った男性に包帯を巻いて処置を施し、安心させる笑顔を浮かべてから、すぐに別の怪我人の下へ。それをもう何度も繰り返している。唯一幸いなのは、今のところ命に関わる重傷を負った者が出てきていないという点だろう。それはフェアリー・ゴッドマザーが迅速に動き、兵士たちに避難誘導を願い出たという功績によるものが大きい。兵士たちも、時にヴィランをも利用する今の王のやり方に反発していただけに、このような事態を想定していたらしく、彼女の言うことを思いのほかすぐに信じることができたと、永夢と共に町の人を助けていた兵士から聞いた。

 

 全てが悪いことばかりではない……しかしそれ以上に、状況はいまだ好転はしていない。

 

「ふぅ……」

 

 額の汗を拭い、少し一息つく永夢。まだ痛みで苦しむ人々は大勢いる。休んでなどいられない。

 

 だが、同様に放っておけない人々もいるのも事実だった。

 

 怪我人に身体をぶつけないよう、気を付けながら屋敷の入り口へ向かう。少し重い扉を開き、屋敷の中へと入って行く。

 

 比較的に軽い怪我の人は屋敷の外へ、そして動くことすらままならない人は屋敷内へと運び入れ、処置を施していた。

 

 そして永夢が目指すは、屋敷の中で一番広い食堂。今回の事件の一番の重症患者が集められた場所だった。

 

「うぅ……苦しい……」

 

「あぅぅ……」

 

「た、助けて……誰か……!」

 

 食堂に入ってまず目に入るのは、並べるように敷かれた毛布の上に横たわる人々。苦しみに喘ぎ、荒い呼吸を繰り返す彼らの身体にはノイズが走る。

 

 城に捕らわれ、檀正宗によってウィルスを投与された町の人々。ゲーム病に侵された彼らの傍には、彼らの家族が寄り添うように座っていた。

 

(……かつてのゲムデウスウィルスに比べると、症状事態は重くない)

 

 それを見て、永夢はゲーム病の症状について考える。過去にゲムデウスが降臨した際、思考ルーチンを檀正宗に書き換えられたゲムデウスは、自らのウィルスをばら撒いて大勢の人々をゲーム病で苦しめた。その時の感染力は想像を遥かに上回り、そしてその症状が進行していけば口を開くことすらままならなくなる程だった。

 

 その進行速度はこれまでのバグスターウィルスとは比較にならない程の凶悪さを誇っていたゲムデウスウィルス。しかし、今目の前で患者が苦しんではいるが、永夢が知っているゲムデウスウィルスに比べればまだ進行は遅い方だと判断した。恐らく、ゲムデウスがまだ完成形に至っていないのが原因だと思われる。

 

(けど、それも時間の問題だ……!)

 

 檀正宗がゲムデウスの完全復活まで時間の問題だと言っていた……それ即ち、このままではかつてのパンデミックが繰り返されるということになる。

 

「父さん……母さん……!」

 

「ふぇぇぇぇ……!」

 

「大丈夫……大丈夫だからね?」

 

 思考している永夢の視界に、世話になっているパン屋の家族の姿が入る。いまだ苦しむ両親を前に、少年が母親の前に座り込み、少女は老婆に縋りついて泣きじゃくる。その少女を、老婆は優しく背中を撫でて宥めていた。

 

「……このままじゃ、いずれ犠牲者が出る……」

 

 CRでもゲーム病患者を病室に運び入れても、結局は一時しのぎでしかならない。やはり、根本的な解決……即ち、ゲーム病の元となっているバグスターを倒さない限り、彼らの命は助からない。

 

だが、今そのバグスターであるゲムデウスは城の中。すぐに倒しに向かおうにも、レヴォルたちが町に迫る危機を乗り越えるために、必死に戦っている。

 

 ならば、今の永夢にできることは……永夢は、兄妹の下へ歩み寄る。

 

「具合を、診に来ました」

 

「おぉ、アンタ……」

 

 永夢が傍に来たことに気付き、老婆は顔を上げる。その顔はいまだ不安の色が濃く出ており、孫娘である少女の背中をさすりながらも、その手が震えているのがわかる。

 

「……せっかく……」

 

 少年が、重い口を開く。足を手の指が食い込む程強く握り、下唇を噛む。そうすることで、目から出てこようとしている熱いものが流れ落ちないよう堪えていた。

 

「せっかく……兄ちゃんが助けてくれたのに……また家族みんなで暮らせるって、思ってたのに……」

 

 城から帰って来た両親を見て歓喜したのに、その幸福の絶頂から、一気に叩き落とされたような気持ちになった少年の心が、暗闇へ沈んでいく。

 

 一体、自分たちが何をしたというのか。悪いことしていないのに、こんな辛いことがあっていいのか……幼心を容赦なく傷つける現実に、ただただ嘆く。

 

「何で……何でなんだよぅ……!」

 

 瞳のダムが、限界を超える。しゃくり上げ、少年の目から流れ落ちる涙。泣いたとて何も変わらないとわかっていながらも、自らで止めることはできなかった。

 

「あ……あの……」

 

 その時、ずっと苦しんでいた少年の母親が掠れた声を上げる。弱々しく、虚ろな目を少年と永夢へと向けていた。

 

「私は、どうなっても構いません……けど、もしも私たちに何かあった時……子供たちを、どうか……」

 

「か、母さん……!」

 

 その言葉の意味を、少年は悟る。すでに母は、自分の命を半ば諦めている。恐らく、隣でいまだ苦しむ父親も同様だろう。

 

 母の言葉に、少年は絶望する。最愛の両親が、消えていなくなる……そんな最悪な未来を垣間見てしまったから。

 

「大丈夫ですよ」

 

 そんな中でも、永夢は変わらない。二人の傍で膝を着き、絶望する少年に、母親に、患者に向ける時に浮かべる笑顔を……誰もが見て安堵するような、柔らかい笑顔を見せた。

 

「お母さん……あなたとお父さんがいなくなってから、息子さんは娘さんとお婆さんを守るために、あなたたちの代わりに必死になって頑張ってきたんです。どれだけ辛くても、泣きそうになっても、ずっと戦ってきたんですよ?」

 

「っ……」

 

 最初に会った頃に永夢に噛みつくような態度を取っていた少年。それはひとえに、妹と祖母を、両親に代わって必死になって守ろうとしていた、少年なりの戦い方だった。永夢は、それをわかっていた。

 

「あなたたちが諦めてしまったら、彼の頑張りが……心細くってもずっと帰りを待っていた娘さんの頑張りも、全部無かったことになってしまいます」

 

 家族を大切にしてきた彼が、両親を信じていた彼女が、報われないことがどれだけ悲しいことか……それは、想像に余りある。

 

「だから、絶対に諦めないでください。この子たちのためにも、そしてあなたたちのためにも」

 

 故に、永夢は言う。

 

 

 

「あなたたち家族の笑顔を……いや、この町の人たちの笑顔を、きっと取り戻してみせます」

 

 

 

 もう誰も悲しませない。そう力強く告げる永夢の顔を、母親は最初驚き、やがて彼の言葉に一筋の希望を見出したかのように、安堵から来る笑みを向けた。

 

「ごめんなさい……弱気になってしまっていました。この子たちのためにも、頑張ります……」

 

「いえ、病に苦しい時は誰だって弱気になってしまいます。お気になさらないで」

 

 母親のノイズが、少し穏やかになったように見える。バグスターウィルスは、ウィルスという特性上、患者のストレスによって活性化する。永夢に今できることは、可能な限りストレスを和らげることだった。

 

「兄ちゃん……」

 

 横で、尚も不安気な顔を見せる少年。永夢は彼の頭に、そっと手を乗せた。

 

「大丈夫……こんな状況も、今だけだから。だから、もう少しだけ一緒に頑張ろう?」

 

 ずっとこれまで頑張って来た少年の思いを無駄にしないために、永夢もまた少年と共に頑張ることを約束する。ベクトルは違えども、少年は少年の、永夢には永夢の戦いがあるのだと。

 

 穏やかな口調の永夢を、少年は涙を堪えながら見つめる。やがて、腕で目を擦り、もう一度永夢を見る。

 

 その目は泣き腫らして赤くなっていたが、先ほどまでは無かった強い意思が、その目に光を灯していた。

 

「……うん」

 

 小さく、それでいて力強く頷く少年。そして、少年はいまだ老婆に抱かれて泣きじゃくる妹の下へ行き、自分なりの勇気づけとして、その小さな手を握りしめた。それを見つめる老婆にも、少しだけ不安な表情が和らいだように見えた。

 

 それを見て、永夢は立ち上がる。彼らはこれで大丈夫だろうと、次の患者の下へ行こうと踵を返そうとした。

 

「失礼します」

 

 が、唐突に永夢に声がかけられる。穏やかな声のその人へと、永夢は顔を向けた。

 

「あ……あなたは」

 

 声の主は、町のために一番動き回ってくれたフェアリー・ゴッドマザーだった。手に杖を持ち、しっかりとした足取りで永夢へと歩み寄る。

 

「はい、ご挨拶が遅れました。フェアリー・ゴッドマザーと申します。あなたは確か……エムさん、とおっしゃいましたか?」

 

「あ、はい。宝生永夢です。僕こそ挨拶が遅れて申し訳ありません」

 

 言って、頭を下げて謝罪する。そんな永夢に対し、フェアリー・ゴッドマザーは頭を振った。

 

「いえ、いいんです……慌ただしい状況ですから、お互いちゃんとお話もできませんでしたし」

 

 確かに、町人の避難、怪我人の治療、ゲーム病患者のストレス緩和……そして襲撃者との戦い。目まぐるしく動く状況の前に、落ち着いて話すことは難しかった。

 

 しかし、永夢はふと気付いたことがあった。

 

「あれ? そう言えば、僕まだ名乗っていませんでしたよね? どうして……」

 

 レヴォルたちとの会話を聞いていたためだろうかと、永夢が考える。フェアリー・ゴッドマザーは、口に手を添えてクスリと笑った。

 

「あの子、シンデレラから聞きました。あなたのことを、前を歩く力をくれた人だと」

 

 シンデレラが、自身のことをそう評してくれていることを嬉しく思う。しかし、それは違うと永夢は思っている。

 

「いえ……自分の意思で強くなろうとした、エラちゃん自身の力です。僕は何もしていませんよ」

 

 ただ、永夢はシンデレラの笑顔のために頑張ってきただけ……そう謙遜する彼だったが、フェアリー・ゴッドマザーは「いいえ」と彼の言葉を否定した。

 

「罪の意識に怯えて、ずっと闇の中で泣いていたあの子の手を取ったのは、紛れもなくあなた……罪と向き合うことを恐れていた私には、できないことでした」

 

 自らがシンデレラのためと思ってしたことが、彼女を追い詰めた……そんな自分が、彼女に手を伸ばすことなど、できる筈がないと思い込んでいた。

 

「あの子は、私と一緒に罪を償っていくと言ってくれました。これから強くあろうと、あの子は戦っています……だから私も、今できることをするために、運命の書に記されていなくとも、戦おうと思ったんです」

 

 本来であれば、シンデレラに魔法をかけて、そして彼女の人生を見守っていく人生を送る……フェアリー・ゴッドマザーの運命の書には、そう書かれている。そこには、シンデレラ以外の者の前には姿を見せたとは全く書かれていない。

 

 それは裏を返せば、余程の事がない限り姿を晒しても問題はないと、フェアリー・ゴッドマザーは考えた。そして、彼女は実行に移した。

 

「あなたは、あの子に力をくれた。そして、今目の前で苦しむ人々にも分け隔てなく手を差し伸べるような優しい心の持ち主……あなたならば、この世界の運命を変えることができると、私は思っています……だから、お願いがあるんです」

 

「お願い、ですか?」

 

 聞き返す永夢に、フェアリー・ゴッドマザーは頷いた。

 

「この町を……あの子が愛したこの町の人たちのためにも、あなたも戦ってください。町を破壊しようとしている、あの者たちと」

 

「それは……」

 

 フェアリー・ゴッドマザーの言うお願い。それは、レヴォルたちと共に町を襲っているヴィランを追い払ってきて欲しい、というものだった。

 

「けど……まだ怪我人がいます。皆を放っておくわけには」

 

 それを聞くのは、やぶさかではない。寧ろ、永夢とて町を救いたいという気持ちは勿論ある。しかし、今永夢がいる場所には大勢の苦しむ人々がいる。一ドクターとして、彼らを放置しておくことはできない。

 

「それなら、ご安心ください。私の魔法で怪我人の傷を、そしてここにいる方々の負担を和らげることができます」

 

 フェアリー・ゴッドマザーは杖を掲げてみせる。確かに、彼女の魔法の実力は本物だった。ここに怪我人が運び込まれた際、彼女の魔法で多くの人々の傷が癒された。

 

「え、でも……身体は大丈夫なんですか?」

 

 だが、魔法も無制限ではない。あまりに大勢の人々の怪我を治してきた彼女は、体力に限界を感じて倒れそうになっていた。彼女が力を回復させる間、永夢たち医療関係の者たちが走り回って治療を施していた。

 

 こうして立っているのを見るに、体力的には大丈夫なのかもしれない。しかし、まだそう時間は経っていない。それに、フェアリー・ゴッドマザーの顔色もまだよくはない。体調は万全とはとても言い難かった。

 

「ええ。もう十分、魔法を使えるまでに回復しましたよ」

 

 言って、腕を上げて元気さをアピールする。それが空元気なのだと、永夢は気付いていた。

 

 だが、フェアリー・ゴッドマザーは真剣な眼差しで永夢を見つめる。その目を前に、永夢は何も言えなかった。

 

「今、私にできることは、この魔法を使って人々を癒すこと……あなたにある力は、人々のために戦うためのものでしょう?」

 

「……」

 

「だから……私も、共に戦わせてください。場所は違えど、思いは同じの筈だから」

 

 フェアリー・ゴッドマザーの真摯なまでの願い……そこには、この騒動の引き金を引いた己の罪悪感からもあるだろう。

 

 しかし、彼女の中にはそれ以上に、この町を愛したシンデレラの為にも戦いたいという、強い思いがあった。

 

 フェアリー・ゴッドマザーは心の底からシンデレラのことを思っていた……だからこそ、彼女の言葉の中にある思いを、永夢はくみ取ることができた。

 

「……約束します」

 

 ドクターとしての戦場はここであるということに違いはない。だが、同時にここは彼女の戦場でもある。

 

「敵を倒したら、ここに戻ってきます……だから」

 

 だから、今は彼女にここを任せる。そして永夢は、今だけは別の戦場へと赴くことを決意する。

 

「それまで……絶対無茶はしないでください。あなたに何かあったら僕も嫌ですし……誰よりも、エラちゃんが悲しみますから」

 

 かならず帰って来るということを、約束しながら。

 

 一瞬だけ、フェアリー・ゴッドマザーはぽかんとする。やがて、小さく笑った。

 

「フフフ、あの子があなたにエラと呼んでもらうようお願いしたんでしょうけれど……何だか、あの子の気持ちがわかったような気がします」

 

「え?」

 

「いえ、何でもありません……あなたこそ、お気をつけて。あなたにもしものことがあっても、あの子は悲しみます」

 

 彼女の言っていることがよくわからなかった永夢だが、フェアリー・ゴッドマザーに促され、気持ちを切り替える。一つ頷くと、一歩足を踏み出す。

 

 

 

「ま……待ってくれ」

 

 

 

 が、それを呼び止める声。思わず永夢は立ち止まった。

 

「え……ティム君!?」

 

 永夢を呼び止めたのは、ティムだった。上半身の服は脱がされており、クロノスからもらった一撃の痕を包帯で覆っている。

 

 食堂の出口で壁に手をつきながら、ティムは永夢に足をフラつかせながら歩み寄った。

 

「俺も、行くぜ……このまま寝てなんかいられねぇよ」

 

 言い出したのは、自らも同行するという宣言。そんな彼のフラつく身体を見て、さすがに永夢はこれは譲れないと思いながら、ティムの肩に手を置いた。

 

「ダメだよ、君はまだ完全に治っていないんだ!」

 

 フェアリー・ゴッドマザーの魔法によって、一命こそ取り留めた。しかし、クロノスの攻撃を間近で、それもノーガードで食らったせいで思いのほか深い傷による痛みまでは取り除けず、魔法による傷の回復だけでは完全に復帰とまではいかなかった。そのため、安静にするように彼を屋敷の部屋で眠らせていたのだが……。

 

「んなこと言ってられるかよ! あいつには、一発食らわせてやんねぇと気が済まねえ!!」

 

 永夢の手を振り払い、怒気を含めて言い返す。その際、痛みに顔を顰め、(くずお)れそうになったところを、慌てて永夢が彼の身体を支えた。

 

「ティム君……さすがに、今の君じゃ無理だ。しばらく安静にしていないと」

 

「だから……んなこと言ってらんねぇって……!」

 

 ティムの正宗に対する怒りは相当なものだった。人を人と思わない所業もそうだが、何よりヘカテーを実験台にしたのが彼の中では何物よりも許しがたいことで、身体はともかく、その目は怒りで燃えている。激痛に耐えながらでも戦おうとする彼は、普段の斜に構えた性格からは想像もできない姿だった。

 

「ティム君……」

 

 それでも、彼を行かせるわけにはいかない。ここまで無茶をしてまで戦おうとする意気込みは見事なものだと思いはするが、それとこれとは話は別だ。彼の身体は、戦える状態じゃない。それは本人とてわかっている筈だが、怒りで血が昇っている今の彼には、冷静な判断ができないでいるようだった。

 

 永夢は、フェアリー・ゴッドマザーを見る。彼女は申し訳なさそうに目を閉じ、頭を振った。彼女の魔法は素晴らしいものがあるが、決して万能ではない。後の痛みは、自然治癒に任せるしかない。なのに、大人しくしていなければ、治るものも治らない……それを今のティムに説いても、恐らく納得しないだろう。

 

 ふと、永夢は思い出す。ヘカテーがパン屋のベッドで横たわっていた際のことを。

 

「……ティム君。やっぱり君を戦わせるわけにはいかない」

 

「だから……!」

 

 尚も反抗しようとするティム。しかし永夢は、その先を言わせまいと話をやめない。

 

「けど、今の君にしかできないことがある」

 

「……あぁ?」

 

 どういう意味だ、とティムが目で問う。それに答えるように、永夢は後ろを振り返った。

 

 視線の先には、他のゲーム病患者と共に横たわるヘカテーの姿。いまだ苦しみに顔を歪める彼女が視界に入り、ティムもまた辛そうに目を伏せた。

 

 それでも、永夢はティムに言う。

 

「……君は、彼女の傍にいてあげて欲しいんだ」

 

「は?」

 

 何を言い出すんだと、ティムは改めて永夢を見た。永夢は茶化すつもりもなく、ただ真剣に彼の顔を覗き見る。

 

「ゲーム病は患者のストレスの増大で悪化するんだ。だけどその逆、ストレスを緩和できれば、それだけ症状を和らげることができる」

 

 ゲーム医療の基礎知識を、ティムに説明する。何度も繰り返して取り組んできただけに、その言葉には強い説得力がある。

 

 しかし、ティムは罰が悪そうな顔で目を逸らした。

 

「……生憎だがよお医者さん。俺があいつの傍にいたって意味ねぇよ……寧ろ逆だ。あいつにいらねぇ負担をかけさせちまう」

 

 ティムは、ヘカテーに恨まれている。それが痛いほど、辛いほどわかるティムが、彼女にしてやれることなど何一つとしてない。そう思っているからこそ、ティムは傍に行くことを拒否した。

 

 だが、永夢は首を振り、微笑みながらティムのその言葉を否定した。

 

「それは、違うよ。彼女のストレスを和らげることができるのは、君だけだ」

 

「っ……何を根拠に言って……!」

 

 知ったような口を利くなと、ティムは噛みつこうとした。

 

 

 

「本当に嫌いな相手なら、魘されている時に助けを求めるように名前は呼ばない」

 

 

 

「っ……!?」

 

 力強く、永夢は断言する。パン屋で彼女の容態を見ていた彼の耳に入った、ヘカテーの小さな声。それは助けを求める、切実な思いが込められた声だった。

 

 その呼ばれた名前を、永夢は聞き逃さなかった。

 

「『お兄ちゃん』って……確かに、彼女はそう言っていた」

 

「……」

 

 信じられない……永夢を見るティムの顔にはそう書かれているかのようだった。

 

 無理もないと、ティムを知る者たちは言うだろう。彼と彼女の間には、二人にしかわからない大きな確執がある。故に、ヘカテーは彼を憎み、ティムは彼女に負い目を感じている。

 

 だからこそ、ティムは永夢の言葉を心から信じることができない……それでも、永夢はティムに言った。

 

「君たち兄妹が、どういう経緯があって今の関係になってしまったのか、僕は知らない。けど……」

 

 チラと、永夢はゲーム病で苦しむ両親を思いながら、妹の手を握りしめる少年を、そしてその兄の手を握り返す少女の姿を見やった。

 

 互いに思い合っていることが、はっきりわかる光景……そう思いながら、永夢は続けた。

 

「どれだけ憎み合っていても……心の底ではお互いが大切なんだって、わかってるんじゃないかな」

 

「……っ」

 

 アンタに何がわかる……そう言えたら楽なのにと、ティムは思う。だが、永夢の言葉一つ一つが、ティムの心に突き刺さっていくために、何も言葉にすることができなかった。

 

「患者の怪我を治して、笑顔を取り戻すのが、僕たちドクターの仕事なんだ……けれど」

 

 改めて、ティムの肩に手を置いて正面を向かせる。真っ直ぐ、ティムと目を合わせた。

 

「彼女の本当の笑顔を取り戻せるのは、君にしかできないことなんだよ」

 

 はっきりと、永夢は確信をもってティムに伝える。ティムは、言い返すことすらできずに、ただ永夢の言葉を飲み込もうとするのに必死だった。

 

「な……」

 

「フェアリー・ゴッドマザーさん、彼をお願いします」

 

「はい……お気をつけて」

 

 ティムをフェアリー・ゴッドマザーに任せ、永夢は踵を返す。駆け出す寸前、もう一度ティムへ振り返った。

 

「大丈夫。僕を信じて」

 

 笑いながら、永夢は言った。

 

 ヘカテーの事も、町のことも、レヴォルたちのことも……その言葉には、様々な意味合いが込められていた。

 

 そうして、永夢は走り出す。自分が戦う場所へ赴くために、今度こそ振り返ることなく。

 

 ティムは、追うこともせずにただ彼の後ろ姿を見送る。食堂から彼の姿が消えてしばらくしてから、やがて小さく舌打ちをした。

 

「チッ……知ったようなこと言いやがって、気に食わねえ」

 

 どこまでも真っ直ぐで、人のことばかり考えるあまりに、ずかずかと心の中を土足で入って来られたような気分になる。ティムからすれば、まるでレヴォルが二人に増えたかのような感覚だった。

 

 しかし……それでも、不思議と嫌な気分ではないのに、内心戸惑っているのも確かだった。

 

「……なぁ」

 

「はい?」

 

 永夢の言うように、今のこの身体で行ったとしても禄に戦うことはできないだろう。冷静になって改めて自分を省みて、永夢を追うことをやめたティムは、フェアリー・ゴッドマザーに声をかけた。

 

「わりぃんだけどよ……俺を、あいつの傍に連れてってくんねぇか?」

 

 いまだ痛みでふらつく身体で歩けば、転倒して余計な怪我を負いかねない。その上、横たわっているゲーム病患者の上に倒れ込んでしまうかもしれない。そうならないために、ティムはフェアリー・ゴッドマザーに補助を願い出る。

 

「ええ、勿論」

 

 断る理由がないと、フェアリー・ゴッドマザーはティムに肩を貸して支えながら、横たわるヘカテーの下へ。歩くたびにクロノスにやられた箇所が刺すような激痛が走るも、歯を食いしばって耐える。そしてようやく、ヘカテーの下へ辿り着いたティムは、フェアリー・ゴッドマザーから離れて、彼女のすぐ横に座り込んだ。

 

「ルイーサ……」

 

 息も絶え絶えに、汗を流しながら呻くヘカテー。相変わらず身体にはノイズが走り、耳障りな音をたてている。

 

 そんな彼女に、自分ができること……永夢の言葉を真に受けたわけではない。だが、それでも彼の言葉が耳から離れない。

 

(本当に……俺にしかできないことなのか?)

 

 会う度に憎まれ口を叩き、罵り、本名すらも呼ぶこと否定してくる妹。そんな彼女が、苦しむ中で呼んだのが自分であることが、いまだ信じられない。

 

 しかし、それでも……例え信じられなくとも、今目の前で魘されている彼女を、少しでも楽にさせてやれるのならば、どんなことだってやってみせる。

 

 そう決意したティムは、恐る恐る彼女の手へ自らの手を近づける。払いのけられやしないか、或いは症状が悪化しないかといった不安が、彼の動きに制限をかけようとする。

 

 それらを振り払い、意を決してヘカテーの手をそっと掴む。いきなり強く握ることはせず、包み込むように。

 

(……あん時と、変わってねぇなぁ……)

 

 ティムよりも小さな手。幼い頃、悲劇から逃げる際に手を繋いでいた筈の手。この手を離し、そして一人だけ逃げてしまったあの頃の自分自身。その後ろ姿を、彼女はどんな思いで見ていたのだろうか。

 

 後悔してもしきれない。強い自責の念が、ティムの胸の内を黒く染め上げようとする。あの頃よりも成長している筈なのに、変わってないように感じる妹の手を、思わず強めに握りしめてしまう。

 

 そんな彼の手から、弱い圧力を感じ取った。

 

「……あ」

 

 弱々しくも、確かな感触。兄の手を握り返す彼女の顔が、若干和らいだ……かもしれない。

 

気のせいかもしれなくとも、ティムにはそう見えてならなかった。

 

 

 

~ 第16話 Thank you 友よ! ~

 

 

 

「くっ……!」

 

 町の戦場では、パラドとグラファイトが死闘を繰り広げていた。パラドは銃モードにしたガシャコンパラブレイガンのトリガーを引き、弾丸を連続で射出。グラファイトは槍を振るった勢いで高速回転させて盾とし、それら弾丸を全て弾いていく。

 

『フンッ!』

 

 高速で接近、パラド目掛けて槍を振るい、パラドは銃身で槍を受け止めたが、衝撃までは殺せずにたじろいだ。

 

「ぐぁっ!」

 

 呻くパラド。そこを逃すグラファイトではなく、パラドの腹に蹴りを見舞う。仮面ライダーのスーツによってダメージは軽減されているにも関わらず、その威力たるや凄まじく、たまらず後方へ吹き飛ばさされた。

 

「クソ……やっぱり、強いな……!」

 

転倒こそしなかったものの、蹴られた箇所を抑えて息を整えるパラド。グラファイトの実力はわかってはいたが、敵となるとここまでの強さをほこっていたのかと、改めて戦友の強さを再認識する。

 

 しかし、グラファイトは容赦しない。休憩する暇すらも与えんと、槍を地面に叩きつけたかと思うと、大きく振り回し始める。

 

『ドドドドドドドドドドド……!!』

 

「っ!!」

 

 槍が、炎を纏っていく。パラドにはわかる。あれはグラファイトが必殺技を出す予備動作であることを。

 

≪ガッチョーン≫

 

≪ガッチャーン!≫

 

 対抗すべく、ゲーマドライバーに挿入されているダイヤルをノックアウトファイターに合わせると同時にアクチュエーションレバーを戻し、すぐに開く。そうしてキメワザ発動の条件を揃える。

 

≪ウラワザ!≫

 

「はぁぁぁぁぁっ……!」

 

 左手に武器を持ち直し、右肩の『ファイライトショルダー』に内蔵された『マテリアバーナー』が作動したことで赤く燃える右手で力強い拳を作った。

 

「うりゃああああああああああっ!!」

 

 

 

≪KNOCKOUT CRITICAL SMASH!!≫

 

 

 

『紅蓮! 爆竜剣っ!!!』

 

 

 

 互いに駆け、パラドの炎の拳とグラファイトの炎の槍が振るわれる。そして、

 

「うわぁっ!?」

 

「きゃあっ!」

 

 二人の必殺技がぶつかったと同時に発生した爆炎を伴うエネルギーの衝撃波が、戦っていたレヴォルたちをも巻き込んで周囲を吹き飛ばした。

 

「くっ……何という、爆発だ……!」

 

 パーンが盾で顔を覆い、爆風に耐える。周りにいたヴィランとバグスターも例外なく、爆炎に包まれ、或いは壁にぶつかって消滅していった。

 

 広場を滅茶苦茶にした二人のぶつかり合い。それに勝利したのは、

 

「ぐぁぁぁぁっ!!」

 

 槍を振り下ろして残心を決めるグラファイト。対し、力負けしたパラドは吹き飛ばされ、建物の壁を破壊した。

 

「パラドさん!?」

 

「そんな……!?」

 

 先ほどまで無類の強さをほこっていたパラドが押し負けている。その事実を前にし、レヴォルたちが愕然とした。

 

「まずいですね、今援護を……!」

 

 シェインがグラファイトの気を引くため、酒呑童子からタチアナへチェンジしようと栞を手に取ろうとする。が、殺気を感じてすぐさま飛び退く。

 

 シェインが立っていた場所に、火炎弾がぶつかり、地面に焦げ跡を残して四散する。自身を狙った敵が何か、シェインは火炎弾が飛んできた方を見る。

 

「メガ・ヴィラン……!」

 

町の建物を掻き分けるようにして破壊しながら現れたのは、メガ・ヴィランの内の一種、メガ・ドラゴン。全身真っ赤な鱗に覆われたドラゴンは、空気を震わせる咆哮を放つ。

 

 レヴォルたちにとってはすっかり見慣れた筈の敵。だがその異様な風貌に、エレナが唖然としながら言った。

 

「け、けど……なんか、大きくない!?」

 

 城で戦ったメガ・ドラゴンが全長約3mあったとすれば、このヴィランはさらに大きい5m程もあるのではないかと思う程の巨体を誇っている。そんじゃそこらの建物を超える巨体を持つメガ・ドラゴンは、殺意を持ってレヴォルたちを見下ろしている。

 

「どうなっているんだ……こんなメガ・ヴィランは今まで見たこと無いぞ!?」

 

「……まさか」

 

 戸惑うレヴォル。その横で、何かに気付いたパーンが呟く。

 

 そんな二人に向けて、シェインが叫んだ。

 

「危ない!!」

 

 その声に反応し、レヴォルとパーンは左右に避ける。直後、二人が立っていた場所をメガ・ドラゴンがその巨大な足を叩きつけるように踏み下ろしてきた。地面が足の形に砕け、それだけで大きな揺れがその場にいる全員を襲う。

 

「ダメだ! こいつをどうにかしないと、援護に回れない!」

 

 グラファイトに圧倒されるパラドを助けるためには、この巨大なヴィランを倒さなければならない。しかもそれだけでなく、巨大メガ・ドラゴンに追従する形で、さらにヴィランとバグスターが続々と現れた。

 

 すでに、広場にはレヴォルたち以外は誰もいない。全員避難できたということだろうが、ここでレヴォルたちが退くわけにはいかない。そうすれば、このメガ・ドラゴンだけではなく、グラファイトや他の雑魚敵をも引き連れて行くこととなってしまう。その先に待っているものは惨劇しかない。

 

「くぅ……まだ、だ!」

 

 壁を背に座り込んでいたパラドは、膝を着きながら左手を振るう。引き寄せる形で、エナジーアイテムがパラドの下へ、そしてパラドに吸い込まれるように消える。

 

≪回復!≫

 

 パラドの身体が光る。直後、仮面ライダーの命である左胸のゲージ『ライダーゲージ』に残されていた1メモリ分のゲージが点滅し、一気に最大値まで回復した。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 体力こそ戻ったものの、すでにこの場所にあるエナジーアイテムは全て使い切ってしまった。『回復』のエナジーアイテムも、今の物で最後。進退窮まった状態であると言える。

 

「俺は……諦めない」

 

 目の前に落ちていたガシャコンパラブレイガンを拾い、立ち上がる。圧倒的なまでの不利。それでも仮面の中、目の闘志は衰えておらず、まっすぐグラファイトへ向けられる。

 

「永夢も、必死になって戦っているんだ……俺がここで負けたら、あいつに顔向けできない!」

 

≪ズ・ゴーン!≫

 

 斧モードにし、刃を突きつけるように構えた。そして、覚悟を決めた。

 

「俺の命を賭してでも、お前を倒す!!」

 

 今のグラファイトを倒すならば、己の全身全霊をかけてでも立ち向かわなければならない。それほどの相手だと、パラドはよくわかっている。

 

 不屈不撓の覚悟。心を燃やし、パラドはグラファイトへ再び挑むために足に力を入れようとした。

 

 

 

 瞬間、彼の肩に軽い衝撃が走る。

 

 

 

「え……?」

 

 見れば、パラドの左肩に手が置かれている。その手の主を目で追い、パラドは驚愕によって動きが止まった。

 

「前にも言ったろ?」

 

 その者は、パラドに向けて笑いかける。人のいい、しかし気を許した相手にだけ見せる笑顔を。

 

「自分の命も、大事にしないと……って」

 

「永夢!?」

 

 パラドが、突如現れた永夢を見て叫ぶ。その声を聞いたレヴォルたちも、永夢の存在に気が付いた。

 

「エム!? どうしてここに!?」

 

 永夢は町の人たちが避難しているシンデレラの屋敷にいる筈。何故故にここにいるのか疑問を抱く彼らに、永夢は答える。

 

「……フェアリー・ゴッドマザーさんにお願いされたんだ。この町を……エラちゃんが大好きな人たちが住む町を、救って欲しいって」

 

 パラドの横に立つ永夢。視線の先には、槍を持ってこちらの様子を伺うグラファイトと、口から炎を吹いて威嚇するメガ・ヴィラン。そして並み居るヴィランとバグスターの軍団。

 

 状況は、圧倒的に相手の方が量を上回っている。グラファイトやバグスターがここにいる理由は檀正宗の仕業だろうと確信しているため気にはしなかったが、強敵には違いがない。

 

「今、フェアリー・ゴッドマザーさんが、ティム君が、それに大勢の人が、屋敷で苦しむ人たちのために頑張っている……だから」

 

 永夢は、ゲーマドライバーを手に取り、掲げた。

 

「早く終わらして、屋敷へ皆で戻ろう!」

 

 ゲーマドライバーを勢いよく装着。共に戦うつもりの永夢を見たパラドは、小さく笑った。

 

「ヘヘ……やっぱり、こうでないとな」

 

 永夢とパラドは、二人で一人。どちらかが欠けては意味がない。

 

 こうして二人並んで立ち、敵に立ち向かう……それのなんと素晴らしいことか。この胸に湧き上がるかのような高揚感は、パラドにしかわからないだろう。

 

 まさに今、心が躍っている。

 

 パラドの横で、永夢は懐から一つのガシャットを取り出す。そのガシャットは、これまでのガシャットと比べると、特に異彩を放っていた

 

 金の模様が入っている黒い基板と透明の基盤の二枚重ねのガシャット。特に目立っていたのは、銀色に輝く本体の底部から飛び出ているかのような小さなエグゼイドの頭部が見えているところだった。

 

「なんだ、あのガシャット……?」

 

「わぁ、小さなエグゼイドが付いてる! 可愛いなぁ」

 

「え……そう?」

 

 奇妙なガシャットを見て疑問符を浮かべるレヴォル。エレナはガシャットに付いているエグゼイドから愛嬌を感じていた。さすがのアリシアもそれは理解できなかったようだが。

 

 だが彼らは知らない。その奇妙なガシャットは、

 

 

 

≪MAXIMUM MIGHTY X!!≫

 

 

 

 今まで見てきたガシャットの中でも、特に強力な物であるということを。

 

「お前たちは……ここで止める」

 

 サウンドと共に、背後の映し出されるロボットに乗っているかのようなキャラクターとタイトルロゴのホログラム映像からエナジーアイテムを周囲に飛び散らせつつ、ゲーマーMとなった永夢はニヤリと獰猛に笑う。そしてガシャットを左手に持ち、両腕を交差させた。

 

「マックス大変身!」

 

 勢いよく、ガシャットをゲーマドライバーへ。

 

≪マキシマム・ガシャット!!≫

 

≪ガッチャーン! レベル・マーックス!!≫

 

 アクチュエーションレバーを勢いよく開く。すると待機音声が鳴り出す。

 

≪最大級のパワフルボディ! ダリラ・ガーン! ダゴズ・バーン! 最大級のパワフルボディ!≫

 

 力強い待機音声の中で、いつもの如く現れた選択パネル。真正面のエグゼイドのパネルをタッチ。それに連動するかのように、ゲーマドライバーから見慣れないパネルが飛び出し、エグゼイドのパネルと合わさって永夢と一つとなり、その姿をエグゼイド・アクションゲーマーレベル2へと変えた。

 

 いつものガシャットならここで変身は終わるが、この変身にはまだ続きがあった。

 

「な……何あれ」

 

 アリシアが見上げた先。エグゼイドの頭上。そこに、奇天烈な物体が空間に穴を空けるようにして唐突に現れた。

 

「あれって……顔?」

 

 巨大な目が描かれたそれは、まさにエグゼイドの顔そのもの。インパクトの強い光景に、エレナたちが唖然としていると、

 

「うぉぉぉっ!」

 

 エグゼイドはガシャットから飛び出ている、自身を模したスイッチ『アーマライドスイッチ』を拳で叩きつけるように押し込んだ。

 

 それが、変身の最終段階に入る合図。

 

 

 

≪マキシマム・パワー! (エーックス)!!≫

 

 

 

 巨大な顔こと『マキシマムゲーマ』目掛けて高く飛び上がるエグゼイド。その身を丸めると、マキシマムゲーマが口を開くようにして展開、エグゼイドを飲み込む。エグゼイドを収容するやいなや、マキシマムゲーマの両端からピンクの巨大な拳が付いた腕が、そして屈強な下半身が伸び、さらに上部の金色の角のようなパーツが左右に割れ、中央からエグゼイドの頭が飛び出した。

 

 変身シークエンスが全て完了。地上を揺らし、地上へと降り立ったそれを前にし、誰もが抱いたその感想。それは、

 

「「で、でかぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

 その一言に尽きる。

 

「すっごーーーい!!」

 

 驚愕して叫ぶレヴォルとアリシアの横、エレナがこれまで以上に顔を輝かせていた。

 

 全長2mを超える巨体。人の頭以上の拳と広い足、そして太い四肢。胴体に当たる部分はエグゼイドの顔を模しており、その天辺にはいつものエグゼイドの頭部。腰にゲーマドライバーが巻かれていなければ、誰も彼が仮面ライダーだと思わないだろう。

 

 アーマーを“着ている”のではなく、アーマーに“搭乗している”と言った方がしっくりくる程の巨体さを誇るその姿。仮面ライダーエグゼイド・マキシマムゲーマーレベル99が、迫る脅威を前にして大地に立つ!

 

「行くぞパラド!」

 

「ああ! 心が躍るな!!」

 

 永夢と共に戦うことで、パラドの心は弾む。今ならば、誰にも負ける気がしないと、パラドは再びグラファイトへと駆け出した。

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

『っ!!』

 

 ガシャコンパラブレイガンの刃を、グラファイトへ叩きつける。それを防ぐグラファイトは、刃を弾いて切り返す。そこから、斧と槍の火花を伴った応酬が再び始まった。

 

 

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 一方のエグゼイドは、その巨体ゆえに地に足を着けるたびに鈍い音を響かせながら、メガ・ドラゴン率いる集団目がけて走る。そして一定距離まで近づいたかと思うと、

 

「はぁっ!」

 

 その場から飛び上がり、足の裏から火を噴き出す。それがスラスターとなり、エグゼイドの身体は宙へ浮いた。

 

「うっそ、あの図体で空も飛べるの!?」

 

 マキシマムゲーマーの予想外の性能に、アリシアは目玉を飛び出さんばかりに驚愕する。その横、シェインが意外にも冷静な様子で言った。

 

「あなた、今までの戦いで、彼が私たちの知る常識に当て嵌まるような戦い方をしてきましたか?」

 

「う……」

 

 言われてみればと、アリシアは思い出す。最初はどう見ても弱そうにしか見えないエグゼイドレベル1の予想外の身軽さと強さに驚き、レベルアップしてからの細身の身体でゴーレム種のメガ・ヴィランをハンマーで殴り飛ばし、さらにはレベル3になってからの強力かつ想像もつかないような攻撃でヴィランを圧倒し、カオステラーとの戦いではなんと分裂して二人になった。そして今まさに、レベル1より遥かに鈍重そうな見た目をしていながら、目の前で空を飛んで空中を飛ぶヴィランを次々と叩き落としていっているところだった。

 

 仮面ライダーを、自分たちの常識に当て嵌めてはいけない。今更ながら、アリシアは痛感する。

 

 その間、一通り空中のヴィランを掃討すると、エグゼイドはメガ・ドラゴンへ肉薄する。対するメガ・ドラゴンも、空を飛ぶエグゼイドを狙わんと、口を開けて火炎弾を放とうとした。

 

「っと、そうはさせないわよっと!」

 

 いつまでも彼の戦いに見惚れている場合ではない。アリシアは気を取り直し、その大口を開けたメガ・ドラゴン目掛けて大砲の引き金を引いた。炸裂音と共に飛び出す砲弾は、真っ直ぐメガ・ドラゴンの口へ。口腔内で爆発した砲弾により、メガ・ドラゴンは火炎弾を吐き出せずによろめいた。

 

「おりゃあ!」

 

 そこを容赦なくエグゼイドのパンチが迫る。巨大な拳から繰り出される一撃は、メガ・ドラゴンの鼻っ柱に命中。パンチ力99tのその威力は、まさに破城槌を叩きつけられたかのよう。

 

『―――――ッ!!!』

 

 鼻がひしゃげ、痛みに喚くメガ・ドラゴン。足元にバグスターやヴィランがいるにも関わらず、たまらず足踏みをして味方を踏み潰してしまう。

 

「ほっ!」

 

 ヒット&アウェイ。エグゼイドは蛇腹状になっている腕部をゴムのように伸ばし、手近の建物を掴んで引っ張り、建物の上に着地。さらに同様に蛇腹状になっている足も伸ばして高くジャンプ。もう一度足を伸ばし、眼下にいるメガ・ドラゴンの頭を踏みつけるようにして蹴りつけた。

 

『――――ッ!』

 

「っと、当たるかよ!!」

 

 遊ばれるようなエグゼイドに怒りのボルテージが溜まったメガ・ドラゴンは、伸縮する手足を使って跳び回るエグゼイドを掴み取ろうと腕を振り回す。時に炎を吐き出すも、俊敏に、時にトリッキーに動くエグゼイドには掠りもしない。

 

 だが、メガ・ドラゴンは怒りのあまりに忘れている。相手は、エグゼイドだけではないということを。

 

「せぇぇぇぇぇぇい……」

 

 声が聞こえ、メガ・ドラゴンは首を回す。見れば、地面に着いている尾を足場にし、酒呑童子のシェインが俊足を活かして駆け上ってきていた。

 

 やがて背中にまで辿り着くと、そこから飛び上がる。空中で身を捻り、身体を独楽の如く回転させていく。その横で、エグゼイドも同様に大きな足を振るう。

 

「「りゃああああっ!!」」

 

 遠心力を乗せたシェインの鬼の蹴りと、マキシマムゲーマーの脚によるエグゼイドの強力な蹴りが同時に炸裂。メガ・ドラゴンの顔面は面白いようにへしゃげた。

 

「レヴォル!」

 

「ああ!」

 

 翼を広げてバランスを取ろうとするメガ・ドラゴン。その後ろ、ロミオとなっているレヴォル、そしてエレナが栞の裏側、アタッカーの役職の一つである大剣持ちのヒーローで、『鏡の国のアリス』の物語に登場する『赤の女王』となり、身の丈程の剣を持ちあげる。

 

 そして、レヴォルと共に飛び上がる。目指すは、メガ・ドラゴンの巨大な翼!

 

「「やぁぁぁぁっ!!」」

 

 呼気と共に剣を振るい、翼を根元から両断する。崩れたバランスを取り戻そうとしていた翼はメガ・ドラゴンから離れていき、バランスの要を失ったメガ・ドラゴンは成す術なく地面へと倒れ込む。敷き詰められた石畳を砕き、家屋の一部を破壊したメガ・ドラゴンは、痛みに呻きつつ懸命に立ち上がろうとした。

 

「そうはいくかっ!」

 

 だがそれを許さない者によって阻まれる。斧に雷撃を纏ったパーンが、メガ・ドラゴンの鱗目掛けて斧の刃を叩きつける。硬い鱗は刃を通さないが、斧を伝って電流がメガ・ドラゴン全身を走り、筋肉が硬直。意識とは裏腹に、メガ・ドラゴンの身体は自由を失った。

 

 

 

「おりゃあ!」

 

 その頃、パラドは斧を横へ振るい、グラファイトに叩きつける。槍を縦に持ち、それを防ぐグラファイトだったが、パラドが身を翻して今度は逆方向からの薙ぎ払いに対する防御姿勢が間に合わず、僅かに足がよろめいた。すかさずパラドは斧を振り下ろすも、咄嗟に槍を掲げたグラファイトによって、競り合う形へともつれ込んだ。

 

 先ほどまでは、グラファイトが優勢だった……だがどういうわけか、パラドの力が、勢いが増しているように感じられる。現に今、互いに武器を押し込む際、グラファイトが徐々に押し負けていっている。

 

 一体、どういうことか。グラファイトが言葉にせずに困惑する。

 

「グラファイト……昔、俺と一緒に戦っていた時のお前ならともかく、今のお前にはわかるか?」

 

 それを察したのか、パラドが至近距離で問う。同時、グラファイトを押す力がより増していく。

 

「今の俺には、一緒にゲームをする相手が……永夢がいる。それに、この世界で知り合った仲間がいる!」

 

 本当の意味で命を預け合える相棒(えむ)と、素性の知れない自分を信じてくれて共に戦ってくれる仲間(レヴォル)たち。かつてのパラドでは知る由もなかった、今のパラドの力の源。

 

「だから……今の俺には、負ける要素が何一つないんだ!!」

 

 今、改めて実感する。背中を任せられることが、ここまで自分を強くすることを。パラドは永夢とこれまで過ごしてきてわかったつもりでいたが、この戦いはより強く、それを意識する切っ掛けとなった。

 

 だから負けない。例えグラファイトのレベルが自分より高くとも。

 

 負けるビジョンが、今のパラドには見えない。

 

「はっ!」

 

 斧を振り上げ、競り合いから抜け出す。互いに体勢を崩すが、一早く復帰したパラドが左手を掲げた。

 

 永夢がマキシマムマイティXガシャットを起動した際、再び現れたエナジーアイテム。その中の二枚、『マッスル化』と『鋼鉄化』を引き寄せる。

 

≪マッスル化!≫

 

≪鋼鉄化!≫

 

 マッスル化はパラド自身。鋼鉄化はガシャコンパラブレイガンに使用。そしてすかさずBボタンを連続で押した。

 

≪1! 2! 3!≫

 

 三回押すと、エナジーアイテムの効力によってパラドの肩が隆起し、すぐに元に戻る。ガシャコンパラブレイガンも、赤と青の鮮やかな色合いを消し、鈍色に輝いた。

 

「喰らえっ!!」

 

 大上段から振り下ろされる、パラドの一撃。マッスル化による筋力UP、そして鋼鉄化によって増した斧の重量が、グラファイトを襲う!

 

『っ!?』

 

 槍を手に、その一撃を防ぐグラファイト。だが、

 

≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫

 

≪3・連打!≫

 

尋常ではない破壊力、重さ、そして防いだにも関わらず身体に三回連続で伝わる衝撃が、グラファイトを伝って地面を陥没させる。防御すら貫いてくる破砕力を持ったパラドの攻撃によって、グラファイトはたまらず膝を着いた。

 

 エグゼイドたちとパラド、それぞれが相手にしている敵が弱った今、トドメをさすチャンスが到来する。

 

「よし、トドメだ!」

 

 エグゼイドが、ゲーマドライバーのレバーを大きな手で掴み、閉じる。

 

≪ガッチョーン≫

 

≪キメワザ!≫

 

 キメワザ発動の待機音が鳴り出す。パラドもまた、エグゼイドの隣に立ち、ガシャコンパラブレイガンを放り投げる。

 

「行くぞ、グラファイト!」

 

 エグゼイド同様、パラドもレバーを閉じた。

 

≪ガッチョーン≫

 

≪ウラワザ!≫

 

 パーフェクトノックアウト特有のキメワザ発動音声が鳴り、パラドの脚にエネルギーが集い出した。

 

「僕たちも!」

 

「よぉし、いっくよー!」

 

 レヴォル、エレナも互いの剣に力を集めていく。レヴォルが腰だめに構えた剣には闇を、エレナが頭上に掲げた大剣には炎を。

 

「私たちだって!」

 

「仮面ライダーにばかりいいカッコはさせるわけにはいきませんからね」

 

「ああ。これで決めるぞ!」

 

 アリシアの大砲に灼熱のエネルギーが。シェインの両拳からは凄まじい熱量を放つ闘気が。パーンの斧には雷の力が。

 

 狙うは真正面。槍を杖にして立ち上がろうとしているグラファイト、痺れは取れたもののダメージが大きすぎて禄に動けないメガ・ドラゴン。そして右往左往して迫る危機から逃れようとしているヴィラン、バグスター。

 

 もはや彼らを遮るものは何もない。二人の仮面ライダーと、再編の魔女たちによる必殺技。それが今、

 

≪ガッチャーン!≫

 

 放たれる。

 

 

 

≪MAXIMUM CRITICAL BREAK!!≫

 

 

 

≪PERFECTKNOCKOUT CRITICAL BOMBER!!≫

 

 

 

「「おりゃああああああっ!!」」

 

 エグゼイドの莫大なエネルギーが宿った巨大な足から繰り出される飛び蹴りが、パラドの赤と青の混ざったエネルギーを纏った両足を揃えての飛び蹴りが、それぞれの敵へと牙となって襲い掛かる。

 

「くらええええええっ!!」

 

「とりゃあああああ!!」

 

 レヴォルとエレナの闇と炎が混じった剣閃が交差してXの字となり、二人に追従するかのように敵へ放たれる。

 

「はぁっ!!」

 

「喰らいなさい!!」

 

「せぇいやあああああっ!!」

 

 アリシアの大砲から発射された炎の竜巻、シェインの両拳から放たれた拳型のオーラ、パーンの斧から飛び出した雷の衝撃波。

 

 それらもまた、二人の仮面ライダーと共に敵へと寸分違わず、真っ直ぐに迫る!

 

『――――――ッ!!!』

 

 エグゼイドの飛び蹴りが、メガ・ドラゴンの頭部に炸裂。エネルギーがメガ・ヴィランの身体全体に行き渡り、至る箇所から爆発が起き……直後、レヴォルたちの必殺の攻撃もその身体に届く。周囲の敵をも巻き込んだその攻撃に、メガ・ドラゴンは耐えきれる筈もなく、その身は木っ端微塵に砕け散っていった。

 

『グァァァァァァッ!!』

 

 パラドの飛び蹴りもまた、グラファイトへ突き刺さる。最初は槍で防いで堪えていたグラファイトだったが、凄まじいまでのエネルギーを防ぐ程の体力は、最早ない。断末魔の雄叫びを上げ、グラファイトはカラフルな爆発の中へと消えて行った。

 

 

 

「っと」

 

「ほっ!」

 

 エグゼイドとパラドが、地表へ降りる。メガ・ドラゴンで打ち止めらしく、これ以上敵が現れる気配は無くなった。

 

「お……終わった」

 

「ふぃ~……もうヘトヘトだよぅ」

 

 コネクトを解除したレヴォルたちが、疲労の色を滲ませながら一息つく。強力なヴィラン、初めて遭遇したバグスターと、休まる暇さえ与えられなかった連戦が、ようやく終わったことに内心で安堵した。

 

「さすがに、もう限界ね……」

 

「これは帰ったら十分な休息が必要ですね……」

 

「……」

 

 アリシアとシェインがぼやくが、パーンは無言のまま。腕を組み、何か考え込んでいた。

 

 ともあれ、戦いが終わったことによる空気がその場に流れ始めていた。

 

『グ……ウ……』

 

「っ!? うそ、まだ!?」

 

 が、その空気は一行の耳に入った呻き声によって霧散する。見れば、爆発した跡の上で、槍を支えにして立ち上がろうとしているグラファイトの姿があった。

 

「何という体力だ……あの攻撃を受けて尚、まだ立ち上がる気力を失っていないなんて……!」

 

 執念とも呼べる彼の気迫。その姿は、不退転の戦士そのもの。レヴォルは内心で称賛しつつも、かつてない程の敵を前に慄く。

 

「で、でも……」

 

 しかし、エレナから見ても今のグラファイトは戦えるような状態ではなかった。甲冑の至るところは罅割れ、得物の槍も折れかけている。赤い電流が震える身体を走り、その命は風前の灯なのは明白だった。

 

「グラファイト……」

 

 エグゼイドとパラドが、庇うようにレヴォルたちの前に立つ。やがてグラファイトは、槍の支えなしに立ち上がる。

 

『カ……』

 

 パラドの方へ向く。身体の内から暴発しかけているエネルギーも限界の中、

 

 

 

『カンシャ、スル……パラド』

 

「っ―――!」

 

 

 

 はっきりと、そう言って……仁王立ちのまま仰向けに倒れ込んでいき、そして爆発四散した。

 

「まさか……最後、お礼を言うために……」

 

 呆然と、アリシアが呟く。最後の力を振り絞り、パラドに向けて放った言葉。望まぬ生を与えられ、無理矢理戦わされて戦士の誇りに泥を塗られ……最後は、戦友であるパラドによって引導を渡された。

 

 誇りを取り戻し、ようやく眠りにつける……その礼を言うためだけに立ち上がった、人格を奪われて傀儡と化していた筈のグラファイト。

 

「……天晴、です」

 

「見事だ」

 

 シェインとパーンが、言葉少なにグラファイトの生き様を称賛する。彼の事は、詳しくはわからない。永夢とパラドにとって、忘れられない相手だったということだけしかレヴォルたちは知らない。

 

 それでも、この少ない時間だけで、傀儡と化して尚、彼が孤高の戦士であり、己の生き様を貫いて生きた武人であることは、ここにいる全員がはっきりとわかった。

 

「……パラド」

 

 エグゼイドが、パラドを見やる。爆発し、黒煙が夜空へ昇っていくのを見つめるその仮面の奥で、どのような表情をしているのかは、見ている限りではわからない。けれども、エグゼイドにはわかる。

 

「……さよなら。俺の、戦友」

 

 今度こそ逝けた戦友を思って出てきたその言葉は、寂しげで、しかしどこか満ち足りているように聞こえた。

 

 誇りある戦士の魂に、安息の眠りを……この場に立つ者全員が、そう祈っていた。

 

 




マキシマムゲーマーを初めて見た時の私
「え、何これは……」(困惑)

仮面ライダーエグゼイドにどっぷりはまってからの私
「きゃあああああああああああああマキシマムゲーマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうおおおおおおおんあおおおおおおおおおおおんウッ、オボロロロロロロロロロ」(歓喜)

ジオウ最終回でちょっとだけどマキシマムゲーマー出て来て私、ニッコリ。ホント好き、あのフォルム。

次回、17話。最終決戦前。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 最後のtalking

「去年の10月から投稿が遅れた理由を聞こうか……?」

「お、俺が、悪いってのか……? 俺は、俺は悪くねぇ、俺は悪くねぇぞ。そうだ、特撮ファンクラブが過去の仮面ライダーを視聴できるって! 電王、キバ、ディケイド、オーズ、鎧武を観れるからって! こんなに仮面ライダーが観れるなんて知らなかったんだ! 俺は悪くねぇっ! 俺は悪くねぇっ!」

「去年の最新話投稿までのあなたとは別人ですわ……」

「お前らだって仮面ライダー好きだろ!? 俺ばっか責めるな!」

某親善大使と思い込んでいる作者です。正気に戻ります。ひとまず投稿遅れました本気でごめんなさい。理由は上記の通りです。怒らんでくだせぇ(土下座)

今年最初の投稿ですが、まだ戦闘には至ってません。次回です。けど次回は近いうちにあげられる筈です。本気で。

こんな下級戦闘員作者ですが、今後も最終話まで読んでいただければ幸いです。では17話、どうぞです。

あ、それから最後に一つ。

グリムノーツ4周年、おめでっとおおおおおおおおお!!(ライドアリス来るまで課金しまくって泣きを見た人間)


「ふむ……さすがはエグゼイド、といったところか。あの数を物ともしないとはな」

 

 場所は王城。国の中心地でもある玉座にて、足を組んで座る檀正宗。本来であれば王のみが座ることを許される玉座に悠々自適に座るその姿は、悪辣なる侵略者が国を乗っ取った証かのよう。その辺にある座椅子のように腰を落ち着かせている正宗は、鼻を鳴らして笑う。

 

「まぁ、この程度(プロローグ)如きで倒れられては、ゲームは面白くない……そうでなくてはな」

 

 言って、手に持っているバグヴァイザーⅡを持ち上げ、モニターを見る。

 

「あなたもそう思うだろう? 王妃様?」

 

 モニターの向こう側。そこには、ゲムデウスに身体を乗っ取られ、バグヴァイザーⅡに吸収された王妃が、恐怖に顔を凍り付かせていた。

 

『あ……あなた、何をするつもりなの!?』

 

 忠実な僕として傍に置いておいたはずの男が姿を変え、未知なる技術を使って自らを封じたことに対して恐怖を感じているが、それ以上に愉悦で顔に笑顔を浮かべるこの男の底知れない闇を垣間見たことによって、カオステラーの声が震える。

 

 カオステラーの問いに、正宗は笑みを崩さずに答えた。

 

「何をする、と……前に言ったはずだ」

 

 組んだ足を戻し、玉座から立ち上がる。そして、バグヴァイザーⅡをシャンデリラの明かりに翳すように掲げた。

 

「あなたは、私の一部となるのだよ……仮面ライダークロニクルを盛り上げるためのコンテンツとして、ね?」

 

 一部……その言葉を聞き、カオステラーが恐怖に慄き、首を振った。

 

『やめ……やめなさい。い、今なら許してあげるわ』

 

「許す? これは異なことを言う……」

 

 愉悦が浮かんでいた表情が、変わる。

 

「世界のルールたる私こそが、許しを乞われる側であることをあなたは知った方がいい」

 

 哀れみを含んだ目を、カオステラーへと向けた。

 

『いや……いや……!』

 

 拒絶しようとも拒絶する権利はない。逃げようにも逃げ場はない。

 

 救う者も、どこにもいない。

 

≪ガッチャーン≫

 

 カオステラーの声を無視するかのように、正宗はバグヴァイザーⅡをベルトのバックルと合体させ、バグルドライバーⅡへと変えて身に付ける。

 

「さぁ……始めよう」

 

 天を仰ぎ、手を広げ、仁王立ちとなる正宗。

 

 新たなるゲームのために。世界の命を管理するために。

 

 

 

「新たなる仮面ライダークロニクルを……!」

 

 

 

 瞬間、バグルドライバーⅡのモニターが赤く光り、そこから黒い靄が発生する。やがて靄は正宗の身体を覆っていき、見えなくなる。

 

『ア、ガアァァァァァァ……!!』

 

 苦しみ喘ぐカオステラー。苦痛と共に身体の中にある力が抜けていく。その力がバグルドライバーⅡを通し、正宗へと流れ込んでいく。

 

 カオステラーは実感する。力が抜けると共に、様々な物が抜けていくことを。

 

 己の身体が、記憶が、そして運命ですら。カオステラーを構成する全てが、吸収されて消えていく。

 

 手を伸ばせない。伸ばそうという意識すら起こらない。もはやそれすらも消えてなくなろうとしている。

 

『イ、ヤァァァァァ……!』

 

 最後、掠れた断末魔を上げる。それを聞き届ける者は、誰もいない。

 

 物語の主人公に嫉妬し、殺めようとし、挙句その身を混沌に侵され、他者の運命を弄り狂わせ暴虐の限りを繰り返してきたカオステラー。その最期の悲鳴は、最早誰もいない王城の中で木霊し、やがて月明かりの中へと消えて行った。

 

 

 

~ 第17話 最後のtalking ~

 

 

 

「……うん、傷が塞がった分、回復は早くなっているね。ほぼ万全だよ」

 

 バグスターとヴィランの混合群、そしてグラファイトとの死闘を終え、永夢たちはシンデレラの屋敷へ戻って来た。いまだ怪我人は多いが、フェアリー・ゴッドマザーと医療関係の人々の尽力もあり、幾分か怪我で苦しむ人々は落ち着いてきていた。最も、突然の襲撃によって混乱から抜け切れていない人も多く、今は精神的ケアを優先するよう切り替えただけとも言える。

 

 現在、ゲーム病で苦しむ人々は屋敷の中に収容されているため、多くの人間が屋敷の敷地内、或いは敷地に近い場所で兵士が建てたテントにて夜を過ごしている状態だった。永夢たちはそのテントのうちの一つ、屋敷に一番近い大きなテントの中に集まっていた。

 

「本当に大丈夫なのティム君?」

 

「なぁに、痛みはほとんど引いてる。寧ろ動かねえとまた痛みがぶり返しちまいそうだ」

 

 永夢と向かい合う形で座って診察を受けていたティムは、心配するアリシアに向けて軽く笑いながら右腕を回した。フェアリー・ゴッドマザーが疲労を押してくれた上に、ヒーラーのヒーローとコネクトしたエレナという二人分の魔法をかけたことが功を制した。痛みこそ完全に除去することはできずとも、回復力を促進することはどうにかでき、こうして早いうちに復帰することができた。まだ万全とは言い難いが、永夢から見ても動く分には申し分はないように見える。

 

「ドクターとしては止めたいところだけれど……」

 

 永夢は聴診器代わりのゲームスコープのイヤーケーブルを外しながら言う。一ドクターとして彼の身体を気遣い、戦闘に参加するのは止めたいところだが……。

 

「わりぃな、お医者さん。さすがにそればっかりは聞き入れられねえよ」

 

 申し訳なさそうに、しかし確固たる意思を持って永夢へ断言するティム。魔法のおかげで怪我も治り、動ける程になった。ならばじっとしている訳にはいかない。ここまでされて黙っていられる程、ティムはお人好しではない。

 

 クロノスに対する怒り。それだけが、今のティムの原動力だった。普段は暴走する仲間を抑える役割が多いが、今回ばかりはここに置いて行ったら、彼が暴走してしまいかねない。

 

「ご安心を、エムさん。いざという時になったら、私が無理矢理にでも動きを止めますんで」

 

「ババァ、それ遠回しに脅しになってねぇか……?」

 

 彼の気持ちもわかるシェインも、姉貴分として彼の同行を自身が責任を持つという形で永夢に願い出る。もっとも、その動きを止めるという意味をわかっているティムとしては若干顔が強張っているが。

 

「……うん、わかった。けど無茶はしないでね?」

 

「さぁて、それはわかんね……いや、すまん。わかった。出来るだけ無茶はしねぇよ」

 

 背後からの姉貴分の突き刺すような視線に、冗談交じりで返そうとしたティムは咄嗟に訂正した。下手したら痛い目に合うということは経験上わかっていた。

 

「さて……では、色々と話を伺わなければなりませんね」

 

 手近な椅子を引いて、シェインが席に着く。長テーブルには互いが向かい合うような形で他の面々も座る。そして、全員が注目しているのは永夢と、その隣で柱にもたれている形で立っているパラドだった。

 

「事態は急を要しますが、それにしても私たちが知らない情報がたくさんあります。とりあえず、手短に、かつ要領を得るような話でお願いしますね」

 

「シェイン、それは……いや、この状況ではそうしなければいけないか」

 

 今回の事件、発端こそはカオステラーであるが、その裏ではカオステラーと永夢たちを戦わせて、カオステラーを弱らせてその力を手に入れるために糸を引いていた人物、仮面ライダークロノスこと檀正宗。それにより、カオステラーは彼の手に落ち、シンデレラは攫われ、挙句には未知なる病『ゲーム病』を大勢の人たちに感染させた。そして今まさに、ヴィランだけでなくバグスターと呼ばれる生物を使って、国どころか世界を滅ぼしかねない暴挙にまで出ている。

 

 無論、彼を止めなければいけないのは確かだが、その力は強大だった。永夢を含めた全員が、手も足も出ずに叩きのめされたという事実は覆しようがない。対策なしに挑んでは、敗北を繰り返すだけだ。

 

 その対策を建てるためにも、レヴォルたちは永夢から聞かねばならない。檀正宗とは何者なのか、バグスターとは……それに加え、パラドは何者なのかを。

 

「……わかりました」

 

 それをわかっているからこそ、永夢も彼らに打ち明ける決心をする。ここまで永夢たちの世界と関わりのある出来事がたて続けに起きているのだから、もう無関係とも言えない。

 

「檀正宗……クロノスのことや、バグスターウィルスのこと、そしてパラドのことも。今から、僕が知りうることを説明します」

 

 そうして、永夢は説明を始める。

 

 人間に感染する未知なるコンピュータウィルス『バグスターウィルス』と、仮面ライダーとの関連性。そこから起きたCRの仲間たちと共同で行ってきた、当初は敵対していたパラド含めたバグスターウィルスとの死闘という名の手術(オペ)。そして戦いは、一度プレイするとゲーム病を感染し、体力が無くなると死に直結する最悪のサバイバルゲーム『仮面ライダークロニクル』を巡るものへと切り替わる。そこで初めて、檀正宗の名が出てきた。

 

 正宗の狙いはただ一つ。大手ゲーム会社『幻夢コーポレーション』を世界一の大企業にすると共に、己が世界のルールとなり、命を支配すること。そのため、この死のゲームを海外展開へ向けての準備を着々と進めた。

 

 バグスターウィルス根絶を目指すCRのドクターライダーたちにとって、それは許容できない計画だった。故に、永夢たち仮面ライダーは檀正宗と対峙。ゲームのクリアを目指し、人々をゲーム病の脅威から救うために戦う永夢たちに対し、ゲームはプレイヤーのためにあると豪語し、仮面ライダーをゲームのレアキャラと見なして妨害する正宗との戦いが幕を開ける。

 

 謀略、策略、そして己の信念、欲望がぶつかり合う、熾烈な戦いだった。

 

 戦況は最初、圧倒的力を誇る正宗の方に傾いていた。しかし、永夢の周りに集う仲間たちによって戦況は覆されていく。

 

 パワーアップしたエグゼイドに敗北、さらには海外展開が白紙となり、なりふり構わなくなっていった正宗は、ゲームを永遠にクリアさせないために、降臨したゲムデウスの思考ルーチンを書き換えてウィルスを撒き散らした。大勢の人たちに感染させるパンデミックを引き起こした上、己の身とラスボスであるゲムデウスと一つになり、バグスターと化してまで、永夢たちの前に立ち塞がる。

 

 しかし、それすらも正宗の息子、檀黎斗と九条貴利矢によって生み出されたワクチンにより、ゲムデウスウィルスは死滅。最終的にはパラドが己の命を捧げ、永夢たちを勝利へと導き……そして、『仮面ライダークロニクル』は終わりを告げた。

 

「……以上が、僕が、いや、僕たちが経験してきた全てです」

 

 全てを語り終え、永夢は一息つく。手短に、とは言われたが、それを意識したと言えども、あの時の戦いは一言二言で語るのは不可能な程に凄惨を極めていた。

 

 現に、話を聞いていたレヴォルたちも、何とも言葉にするのが難しい程に呆気に取られていた。これまで幾つもの想区を巡って来た彼らですら、永夢がどれだけ過酷な戦いを経験してきたのか想像もつかない。

 

「……何て言うか、医者の仕事って感じじゃねぇよな……」

 

 ティムがイメージする医療とは色々と違っている、永夢たちCRのドクターたちの治療方法。だがそれだけバグスターという存在が特殊なものであるかということを示唆している。

 

「けど、まさかパラドさんがエムさんに感染してたバグスターだったなんて」

 

 パラドを初めて見た時から、彼が普通の人間ではないことはわかりきっていたが、まさか正体が永夢に感染していたバグスターであるということにはアリシアは驚きを隠せない。

 

「全てのバグスターが悪い存在じゃないんです。中にはパラドみたいに人類に味方してくれるバグスターだっているんだ」

 

「って言っても、俺だって元は永夢の敵だったけどな……今は違うけど」

 

 苦笑しながら、かつて永夢と敵対していた時のことを話す。それでも紆余曲折あって今の関係となったのだが、その辺りは省略した。

 

「んじゃ、改めて俺もクロノスを止めるためにお前たちに協力させてもらうぜ。あいつには借りがあるし、これ以上無関係な人間が巻き込まれるのを見たくないからな」

 

 人懐こい笑みのままレヴォルへ手を差し出し、自らも協力していくこと旨を伝えるパラド。その内心は、再び悲劇を引き起こそうとしている上、グラファイトを蘇らせて傀儡にしたクロノスに対する激しい怒りで燃えていた。

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 

 パラドの手を躊躇うことなく握り、硬く握手するレヴォル。先の戦闘で、町の人の為に戦うパラドの姿はレヴォルたちの目に焼き付いている。信頼に値するとレヴォルたちは判断し、彼を快く迎え入れた。無論、ティムにも事情は話してある。最初こそ半信半疑ではあったが、シェインからの説明によって納得はしてくれた。

 

 改めてのパラドの紹介を終え、今後の対策を講じるための話し合いを再開する。

 

「……今の話で、わかったことが一つある」

 

 静かに聞いていたパーンが、永夢の話から最も重要な情報を知ったと口を開く。

 

「バグスターウィルスに感染した人は、ゲーム病を患う。そのゲーム病を治療するためには、そのバグスターウィルスを倒さなければいけない」

 

「あ! ってことは、ヘカテーちゃんたちの病気もそのバグスターを倒せば治るってことだよね?」

 

 いまだゲーム病で苦しむ人々を救う道を見つけ、エレナの表情が明るくなった。だが、その隣のアリシアが顔を曇らせる。

 

「けど、感染しているのって永夢さん曰く最強のバグスターなんでしょ? そんな奴と、どう戦えばいいのかしら……」

 

 仮面ライダークロニクルのラスボスにして、最強のバグスターことゲムデウス。先ほどの戦いでバグスターであるグラファイトの強さを間近で見たが、あれ以上の強さを持っているとなると、クロノス含めてかなり絶望的であると言わざるをえなかった。

 

「いや、そうでもないぜ?」

 

 しかし、そのアリシアの不安を払拭させるために明るくパラドが言う。

 

「クロノスが言ってたろ? 復活したばかりの今のゲムデウスはまだ完全じゃない」

 

「ゲムデウスウィルスは、強い感染力を持っているんです。言い方は不謹慎かもしれませんが、過去と比べてまだ感染の規模が小さい。感染の拡大が見られない以上、時間はあるはずです」

 

「じゃあ、まだ希望はあるということだな」

 

 ゲムデウスの本来の力がどのようなものか、レヴォルたちには想像できないが体験もしたくはない。永夢たちの話が事実ならば、今が渡りに舟。倒すチャンスは、今しかない。

 

「だが……その前に、大きな壁がある」

 

 ゲーム病を治療するためには、ゲムデウスを倒す必要がある。が、ゲムデウスに到達する前に、倒さねばならない敵がいることを、パーンは思い出した。

 

「……クロノスの野郎か」

 

 忌々し気にティムが呟く。その脳裏に、気付かぬうちに攻撃され、手も足も出ずに倒された記憶が蘇る。

 

 何とか一矢報いてやりたい。しかし、あの男の力は途方もなく強い。それはティムだけではない、この場にいる全員が身をもって知った。

 

「あ、そう言えば」

 

 一同が何か手立てはないかと考えていた時、思い出したかのようにエレナが声を上げた。

 

「あの時、おじさんがエムさんに言ってたよね? えっと、ハイパー……モンキー、だっけ?」

 

「いやそれどんな猿だよ」

 

 うろ覚えのエレナのボケに思わずティムがツッコんだ。

 

「確か、『ハイパームテキ』……だったか?」

 

 エレナに代わり、レヴォルが永夢に問う。永夢は頷き、説明する。

 

「主人公最強の無双ゲーム『ハイパームテキ』……幾つかあるエグゼイドのフォームの中で最強のフォームに変身するためのガシャット。クロノスを上回る力はもとより、あらゆる攻撃が一切効かなくなるんだ」

 

「あらゆる攻撃が……?」

 

「うん。それこそ、クロノスのポーズだって無効化できる」

 

「うそ、あの時間停止魔法みたいな力を!?」

 

 ポーズの恐ろしさを知っているアリシアが、そのポーズすらも無効化にできると聞いて思わず腰を浮かせた。

 

「すごい! それさえあれば勝てるね!」

 

 クロノスに対抗できる唯一の手段、ハイパームテキの存在を知ったエレナが、歓喜の声を上げる……が、その隣に座るパーンが、難しい顔をして口を開いた。

 

「……しかし、それはできない。そうだね?」

 

「……はい」

 

「はれぇ?」

 

 対抗手段が見つかったと聞いたのに、それが無理と言われて肩透かしを食らった気分になったエレナが素っ頓狂な声を上げる。そんな彼女に、シェインが呆れながら言った。

 

「あなた、自分から思い出しておいて肝心なことは忘れたんですか? あの男が言っていた言葉を思い返しなさい」

 

「え? えっと……」

 

 言われ、頭を指で抑えながら天井を見上げ、過去を思い返す。数秒後、「あ」と声を上げたかと思えば、ガクリと肩を落とした。

 

「そうか……あの男の言う通り、今エムはハイパームテキを持っていないんだな」

 

 エレナの代弁をするように、レヴォルが落胆を隠せないような顔で言った。永夢は力なく頷く。

 

「ちょうど、この世界に迷い込む直前に開発者にメンテナンスしてもらうために渡したんだ……それがこんなことになるなんて」

 

 まさか、あの時にハイパームテキが必要な場面が訪れるなど、考えもしなかっただろう。過去の己を悔いる永夢だったが、過ぎ去ってしまったことはもうどうしようもない。どう足掻いたところで、ハイパームテキは手元にない事実は覆しようがないのだから。

 

「でも、どうするよ。奴に対抗する手段がない以上、他の手段を考えねえと」

 

 クロノスに対抗する力がない。そうなれば、最早正攻法で戦うことは不可能に近い。ティムの言うように、ハイパームテキに頼る以外の方法を考えなければいけなかった。

 

「エム、何か思いつかないか?」

 

 クロノスとの戦闘経験が豊富なのは、この場には永夢とパラドしかいない。情けないとは思いつつも、レヴォルが永夢に意見を求めた。

 

「……一つだけ、方法があります」

 

 言って、永夢は懐からある物を取り出し、一同に見せた。

 

「それは……さっきのガシャット?」

 

 レヴォルにも見覚えがあるそれは、分厚いガシャットの底部にエグゼイドの頭部を模したスイッチが付けられた『マキシマムマイティX』だった。ホログラム映像にも映し出されていたキャラクターがタイトルロゴと共にラベルにも描かれている。

 

「このガシャットの力があれば、クロノスに対抗できる」

 

「へぇ、そんなに強いの? そのガシャット」

 

 インパクト抜群のあのエグゼイドならばクロノスを倒せると聞いて、少しテンションが上がるエレナ。対し、永夢は苦笑しながら首を振った。

 

「いや、確かにこれも強力なんだけど、性能面ではクロノスの方が上なんだ。それよりも、見るべきところはこのガシャットに備わっているもう一つの機能、『リプログラミング』なんだ」

 

「リプログラミング……?」

 

 聞き慣れない言葉に、レヴォルが疑問符を浮かべる。パラドを除く他のメンバーも同様だった。

 

「このガシャットに搭載されているリプログラミングシステムは、相手の遺伝子を書き換えて初期化させることができるんだ。このガシャットをクロノスに使って、クロノスの抗体をリプログラミングすれば……」

 

「えーっと……どゆこと?」

 

「……つまり、そのガシャットを使えば、クロノスを無力化することが可能、ということか」

 

 専門用語が多くて、エレナがちんぷんかんぷんと言わんばかりに首を傾げた。横でパーンが、彼女に助け船を出すような形で解釈する。

 

「はい、そうなります」

 

 肯定する永夢。しかし、過去に二度クロノス相手にリプログラミングを使おうとしたことがあったのを思い出し、そしてそのいずれも成功には至らなかった。最初は黎斗の協力もあって成功するかと思いきや、クロノスによる策略で仲間の一人である飛彩が永夢たちを裏切ったことで失敗。二回目はゲムデウスを吸収したクロノスに力負けして不発に終わった。

 

 次に使うとすれば、三度目。過去のこともあり、成功するかどうか、正直なところ自信がない。が、三度目の正直、という諺がある。他に手がない以上、これに賭けるしかなかった。

 

 ただ、それでもまだ問題はある。

 

「でも、そのリプログラミングを使うには……」

 

「そうか、あいつの時間停止の力、『ポーズ』を何とかしないとダメなのか」

 

 アリシアがクロノスの能力を思い出し、レヴォルもあの力の厄介さに頭を抱える。

 

 気が付いたら、ティムと永夢が吹き飛ばされていた、という出鱈目な能力。あれをどうにかしなければ、リプログラミングを使おう