ギレンは生き残りたい (ならない)
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サイド2にて

U.C0058 コロニーサイド2『ハッテ』6バンチ ホテル『カラブリア』

 

「つまり我々のサイド3への移住を取り止めて欲しいと?」

 

「はい、ビューレン先生の組織にはサイド2での自治独立活動を続けて頂きたいのです」

 

ホテルの一室、茶色のスーツを着た初老の穏和そうな男と紺色のスーツの目付きの鋭い若い男が向き合っている

 

「・・・お話は分かりました、しかし、此処サイド2は知っての通り地球に最も近いコロニー群、連邦の影響力は貴方の思っている以上に強いのです、我々の活動もかなりのリスクがつきまといます」

 

初老の男、ビューレンは一旦言葉を句切りコーヒーに口をつける

 

「ですので同志達を納得させる為にもサイド3の方々にも何等かの志を示して頂きたいのですが」

 

「勿論です、こちらをお納め下さい」

 

若い男は1枚のカードをビューレンに差し出す

 

「失礼」

 

ビューレンはカードを自身のタブレットにかざす

 

「!?、此れはまた大金ですな」

 

「サイド2の皆さんには無理を押してお願いするのです、この程度の支援は当然かと、もし宜しければ人員なども派遣出来ますが?」

 

「いいえ、これ以上ご好意に甘える訳には行けませんな、金額は期待の大きさと捉えましょう、必ずや期待に応えて見せるとダイクン先生にお伝え願いたい」

 

「はい、必ずお伝えします」

 

その後、二人は現状の確認と意見交換を行い会談を終わりにした

 

「それではビューレン先生、私は此れで」

 

若い男が手を差し出す

 

「ええ、有意義な会談と成りました流石はデギン・ザビ先生のご子息だ若いのに大したものだ」

 

互いの手を握り握手を交わす

 

「ありがとうございます、まだまだ未熟者ですがコロニー自治権のため微力を尽くします」

 

 

 

 

サイド2『ハッテ』6バンチ宇宙港行きエレカ

 

ビューレンとの会談を終え若い男、ギレンは宇宙港行きのエレカに乗り込みはネクタイを緩めた

 

(疲れた、まったく19の若造の仕事じゃないだろこんなのこちとら只の元サラリーマンだぞ)

 

この男ギレン・ザビは転生者である、物心ついた時には前世の記憶があった

機動戦士ガンダム、それがこの男が転生した世界である

ギレンは機動戦士ガンダムを知っていた、と言うよりその作品のファンだった、そして絶望した、ギレン・ザビの最後も知っていたために、戦争を起こし多くの人々を死に追いやり最後は権力闘争の果て実の妹に殺される

そんな終わりかた望まない、死にたくない、初めは逃げ出そうとした、ザビ家と縁を切りどこかでひっそり暮らす、だが何処に行くのか此れから起こる戦争は世界全てを巻き込んだ大戦争、ならば戦争を回避する、此れも上手くいかない、既に戦争の原因とも言える地球連邦と宇宙居住者の溝は埋めがたく先送りは出来ても完全に阻止するのはそれこそ奇跡に近い

そこでギレンは開き直った、ならばもう戦争に勝つしかない生き残るために、そこからはあらゆる策を講じた、前世の記憶と現状を擦り合わせ父に意見して後々重要な発明をする個人や企業に投資、連邦軍人のヘッドハンティングにより軍事ノウハウの蓄積、サイド3の孤立を防ぐために今回のような各コロニーや月面都市の独立活動家と接触して積極的に支援し宇宙居住者に自主独立の啓蒙活動、途中まではギレンの思惑通り進んだが此処で予想外の出来事が起きた

 

(まさか、父に「自分の発言の責任を取れ」と言われるとは、出来れば目立たず黒子に徹したかったが)

 

宇宙港から地球行きシャトルに乗り込む

 

(まあ、やれることはやろう)

 

「宇宙世紀を生き抜くために」

 

ギレンは独り言ちる。



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帰還サイド3

感想、誤字修正有り難うございます。


サイド3『ムンゾ』2バンチ『ズム・シティ』宇宙港

 

『連邦宇宙軍の軍事物資横流し等の汚職事件に関わっていた容疑でアレックス・J・マーストン連邦議員が逮捕されました、同氏は宇宙軍軍備増強計画の推進派中心人物と知られ宇宙軍の相次ぐ不祥事と共に増強計画に多大な影響が・・・』

 

宇宙港ロビーではテレビニュースが放映されている

サイド3に帰還したギレンはニュースを横目に見ながらエレカ乗り場に向かっていた

この事件はギレンによる地球での工作によるものだ

とは言え諜報機関が収集した情報を逮捕された議員と反目していた議員に渡しただけで(煽りはしたが)ほぼなにもしていないが

むしろ地球での活動は経営者や技術者、研究者との会合や引抜き工作がメインだった

 

「おい、そこの男止まれ」

 

エレカに乗り込もうとしたとき連邦軍服を着た二人の男がニヤけ顔で近づいてきた

背は低いがガッシリした男とノッポの男

 

「軍人さんがなんのご用ですか?」

 

「目付きの悪い怪しい男だ一緒に来てもらおうか」

 

親指でクイクイと別のエレカを指す

 

「「「・・・・プッハハハ」」」

 

三人は一斉に吹き出してしまった

 

「久しぶりだなギレン」

 

ガッシリした男がそのゴツゴツ手を差し出す

 

「ええ、本当に久しぶりですラルさんゲラートさん」

 

ガッシリした男ランバ・ラルと力強い握手を交わす

 

「二人共積もる話もあるだろうがさっさと乗り込もう」

 

ノッポの男ゲラート・シュマイザーが急かす

三人でエレカに乗り込む

 

「士官学校はどうですか」

 

「まあ、あんな事件の後だ、軍人への風当たりは厳しいさ」

 

ラルは肩をすくめる

 

「まだ候補生だからな矢面に立つことは無いが、教官殿は流石にピリピリしているよ」

 

ゲラートは溜息混じりに話す

 

「あぁ、そのまあ・・・申し訳ないです」

 

「お前の仕業か」

 

「機密事項のためお話し出来ません」

 

「だろうな」

 

現在二人は連邦宇宙軍士官学校に在籍している

軍人としてノウハウを学び義務として定まっている三年間の実務期間を終わらせた後で除隊してサイド3の国防隊に合流することになっている

 

「俺達は士官学校最後の休暇だ、これが明けたらそれぞれ任地に赴くことになるから暫くサイド3には帰ってこれない」

 

「私は此れからは暫くサイド3で仕事が中心になります」

 

「一杯やって行く積もりだがギレンもどうだ」

 

「ラルさん私は未成年ですよ、ゲラートさんこんな不良軍人との付き合いを考え直した方が良いですよ」

 

「え!ギレンて俺より年下なの!?」

 

「「今さら!」」

 

エレカはザビ家の屋敷の前で止まりギレンはそこで降りた

 

「俺達は一週間はサイド3に居る、酒は無理でも飯位は一緒しよう」

 

「はい是非」

 

走り出すエレカを見送りギレンは屋敷に入る

 

「ただ今帰りました」

 

「おかえりなさい、兄上」

 

「おかえり、兄貴」

 

少女と少年が出迎えてくれる

妹のキシリアと弟のドズルである

 

「ギレンお兄ちゃんおかえりなさい!」

 

三歳ほどの男の子が駆け寄って来てギレンの脚にしがみつく

 

「やぁガルマ良い子にしていたかい?」

 

ガルマを抱き上げギレンは微笑む

 

「うん!ボク良い子にしてたよ」

 

ガルマは満面の笑で返してくれる

 

「サスロは?」

 

「まだ学校ですよ兄上でも夕食には帰ってくる筈です」

 

「そうか、久しぶりに皆で夕食がとれるな」

 

原作を反省し人間関係を良くしようとした結果ギレンは家庭や友人に恵まれていた。

 



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モビルスーツ

U.C0064 サイド3『ムンゾ』1バンチ『ズム・シティ』防衛庁舎

 

ギレンは現在、防衛庁長官と面談をしていた

 

「教導機動大隊?」

 

「はい、先年開発終了しました、新兵器モビルスーツMS-05通称ザクの運用や戦術を研究するための部隊の拡張、防衛庁長官にはその後押しをて欲しいのです」

 

原作に比較してモビルスーツの開発は早期に完了して既に量産可能な段階にこぎ着けていた、しかし、あまりにも早く開発が完了してしまったため運用や戦術が未だに未成熟だった

 

「ミノフスキー粒子散布下での機動戦を主眼に置いた兵器だったか?デギン・ザビ防衛大臣のきも煎りだったから戦力化には反対しなかったが、使えるかね?」

 

「勿論です、ミノフスキー粒子散布下では既存のレーダーを使用しての超長距離戦はほぼ無力化出来ます」

 

「しかし、我が方のレーダーも影響を受けるのでは意味が無いのではないかね」

 

「連邦宇宙軍の戦力は未だ強大です、同じ盤面で戦っても我々の勝利は無いでしょう、ならば盤面をひっくり返す他にありません、その為のミノフスキー粒子散布戦術です」

 

モビルスーツの実用性は現在軍内部でも疑問視されている状態だった、原作ではギレンの強権により強引にも主力とできたが、今のサイド3は多少(かなり)いびつだが民主主義国家、国民や彼らが選んだ議員を無視する訳には行かない

 

(何かモビルスーツが活躍出来る事件が有れば)

 

因みにモビルスーツは秘密兵器と言うわけでは無い詳細な性能は流石に秘密(特に動力炉)だし汎用宇宙機器つまり工作機器として開発したが開発完了の時にはプレリリースしたし、割りとハデなデモンストレーションもした

連邦の反応はほとんどの高官や軍人は一笑に付して一部の技術者がロマンを感じただけだった(本当に一部にはカワイイと評判を得た)

 

(しかし本格的な戦闘は連邦の危機感を煽ることになるし・・・参ったな)

 

ギレンが長官の話しを聞きつつも思案していると、長官室の扉が勢いよく開いた

 

「長官!大変です!」

 

「騒々しい!何事だ!」

 

飛び込んできた職員に怒鳴りながらも長官は訳を聞く

 

「ウィルヘルムハーフェンで大規模な爆発が発生しました!外壁に深刻なダメージを負いこのままでは崩壊の可能性が有ると報告が!」

 

 

 

 

サイド3 レジャー用コロニー『ウィルヘルムハーフェン』

 

断続的な震動が人工の大地を揺らす中、一組の兄妹が身を寄せあって震えている

 

「お兄ちゃんこわいよ」

 

「大丈夫だよ、すぐに救助隊がくるから」

 

兄は妹を安心させるため強く妹を抱きしめた

 

「お父さんとお母さんは大丈夫かな?」

 

「別荘にはシェルターも有るし緊急脱出装置も有るから」

 

兄は自分も恐いだろうに両親の心配をする心優しい妹をなんとか助けようと心に決めた、その時

 

「いたぞ、生存者確認」

 

ノーマルスーツ(宇宙服)を着た人物が走って近づいてきた

 

「救助隊です、君たち大丈夫かい」

 

救助隊員と名乗った男は二人の前に屈んで目を合わせて話しかけてくる、助かったそう兄が思ったとき気づいてしまった、隊員の手にはノーマルスーツが一人分しかないことにそして兄は知っていたコロニーの外壁が破損していることそして其は有害な宇宙線がコロニー内に入り込んでくると言うことに

 

「そのノーマルスーツは妹に着せて上げてください」

 

「君!?」

 

「お兄ちゃん!」

 

兄は隊員の目を見つめた、力強い意思を覚悟を決めた眼差しだった

 

「わかった、体を出来るだけ小さくしてくれ」

 

隊員は妹にノーマルスーツを着せて背中に背負うと兄の方を脇に抱えて走り始めようとした

その時巨大な影が三人の目の前に降り立った

 

『そこの三人大丈夫か?』

 

「モビルスーツ!」

 

 

 

教導機動大隊所属 MS-05A 9番機 ブレニフ・オグス機

 

モビルスーツに救助された兄妹はコクピット内にいたが、救助隊員はモビルスーツの手の上に乗っている

 

「ありがとうございます、えっと」

 

「ブレニフ・オグス少尉よろしく」

 

若いパイロットは人懐こい笑を浮かべた

 

「ありがとうございました、オグス少尉」

 

「ありがとう、ブレニフお兄ちゃん」

 

「ははは、どういたしまして、おっと少し揺れるよ」

 

朗らかに笑いながらも操縦捍とペダルを細かく動かしながら機体を的確に操る

 

「凄い、これがモビルスーツ・・・」

 

この時、機械いじりが好きな少年は本格的に技術者の道を目指すことを決めた

 

「そう言えば、君たちの名前は」

 

自分達が名乗らなかったことにも気が付かないほど動揺していたことに恥ずかしながらも名乗った

 

「ギニアス・サハリンです」




ウィルヘルムハーフェンの設定は小説版08小隊からです


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連邦に兵無し

U.C0066 地球 南米大陸 連邦軍本部ジャブロー

 

この巨大地下基地は未だ建設途中ではあったが一部本部機能は既に稼働していた。その中の一つが連邦軍人事局である。地上の茹だるような蒸し暑さとは違って人事局事務室は空調が利き涼しいほどであった。

 

「どうしたものか」

 

その中に有って室内の温度を一、二度上げているのではないか、と思える肥満体の将校が一人、人事局長ゴップ准将である。

 

「兵が足らんとは、連邦軍始まって以来の事ではないかね」

 

ゴップの言葉どおり連邦軍は慢性的な人手不足に陥っていた。と言うのも宇宙居住者スペースノイドの志願者が近年激減したためだ。宇宙世紀が始まって半世紀以上過ぎた現在、コロニーや月面都市更には木星船団等の特殊な環境を含めれば人類全体の約90%が宇宙に住んでいる。必然的に連邦軍人も多くの割合がスペースノイドと言うことになる。

 

「地上軍は比較的ましな様ですが」

 

副官の言葉に気だるげにうなずく

 

「だろうな、ヨーロッパ方面軍のパウルス少将や海軍のバッフェ准将が郷土防衛を主張してアースノイドの志願者が其なりにいるからな、問題は宇宙軍だよ」

 

老朽化した宇宙艦艇や戦闘機を更新するために長年に渡り企てられてきた宇宙軍増強計画、其を僅か数日で台無しにした政治家と軍高官の汚職事件、当然ながら宇宙軍の威信は失墜し、そこに付け入る様に地上軍閥の横槍が入り予算や人員を削られた。其れでも連邦宇宙軍が運営できたのは宇宙に置いて唯一の軍事組織だったため一定の志願者はいたためだが、そこに二年前のサイド3での災害である。素早く対応して被害を最小限に止めたサイド3防衛隊に対し連邦宇宙軍の対応の酷さは部隊指揮に関しては無能を自負するゴップをしても「醜態を曝さないだけ行かないほうがまし」と言わしめる程だった。

 

「議会では徴兵制への移行も視野に入れているようですが」

 

「戦時下でも無いのにか?其に地上軍はともかく宇宙軍ではただの歩兵等は使えんよ、其にしても、サイド3の防衛隊、今はムンゾ共和国建国宣言に伴い国軍に改名したが、有能な人材が奴らに流れるのは痛いな」

 

本来宇宙軍人とは高い技能を要るエリートの筈がアースノイドがスペースノイドを見下す風潮のせいで連邦政府内に置いて何処か外様の用な雰囲気が醸成されていたが近年になって其が一気に表面化、結果連邦軍に見切りを付けた人材が、サイド3防衛隊、改めムンゾ共和国軍に入隊することが多くなっている。

 

「サイド3に対して経済封鎖が決定しましたが・・・」

 

「実行力は無いだろうな」

 

ムンゾ共和国は穴だらけの連邦軍艦隊の警備の目を簡単にすり抜けるだろう。連邦宇宙軍の現状は、信用が無いため志願者が居ない、兵士の補充が居ない、兵士を教育する時間が短い、練度と士気が低い、不祥事を起こして信用を無くす。悪循環に陥っていた。



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番外編 ロートル

誤字報告、感想ありがとうございます。
今回は番外編となります。速い段階でモビルスーツを開発して研究も順調に進めばこう言う事も起こるだろうとふっと思い書きました。
あくまでも番外編、時間が飛びますが本編とは別なのでご注意ください。



U.C0078 L2 宇宙要塞『ア・バオア・クー』モビルスーツ格納庫

 

最新鋭のモビルスーツが並ぶ其の片隅に旧式のMS-05ザクが一機だけ駐機されていた。装甲は傷だらけバーニアの回りは黒く焦げ付いて修繕の痕も目立つ、其の足下で一人の若いパイロットが床磨きをさせられていた。

 

「精が出るな、ニッキ少尉」

 

其処に短髪の壮年の士官が声をかける。

 

「ル・ローア大尉、ご苦労様です」

 

若いパイロット、ニッキ少尉は背すじを正し敬礼する。

 

「マットの奴に随分シゴかれた様だな」

 

「はい、模擬弾をしこたま撃ち込まれましたよ」

 

「其れで床磨きか?」

 

「新型を汚した罰だそうです」

 

ニッキは05の反対側に駐機されている自分の機体を見上げる。出撃前はピカピカだった装甲が今はピンク色の塗料で斑模様になっている。

 

「自分も新型を受領して少し調子に乗っていたかも知れません」

 

「反省もけっこうだが余り気にするな、慣らしもそこそこに行きなり模擬戦では俺でも苦戦する。其に奴の05はかなり手を入れている新型のアドバンテージは思う程では無い」

 

「そうですかね?」

 

「ところでマットの奴が居ない様だが何処に居る?新型との戦闘の手応えを聞いておきたいのだが」

 

「オヤジさんなら一服すると言っていましたから、おそらく喫煙所かと」

 

「わかった、其と模擬戦の報告書、今日中に出しておけよ」

 

ル・ローアの去り際に放った言葉にニッキは深いタメ息を着いた。

 

 

ア・バオア・クー 『一般兵士用喫煙所』

 

ア・バオア・クーの喫煙所は全体の巨大さに比べ少なく高級将校用と一般兵士用の計二ヶ所しか存在し無い、スペースノイドの喫煙者は元々少ないためだ。コロニーと言う密閉空間で空気を汚染する用な行為は御法度だし連邦政府が地球のオーガニック農業保護の名目でコロニーでの煙草や酒等の嗜好品の生産に制限を設け地球からの輸入以外では手に入らないようにしている。その為嗜好品分けても煙草はコロニーでは高級品としてなかなか手に入らない物となっていた、もっともムンゾ共和国ではここ数年の間に嗜好品の生産を推進しているため一般人が手を出せない様な高級品ではなくなった。(5バンチ『ボルドー』の完全コロニー産ワインはけっこうな高級品だが)ともかくもそんな喫煙所で紫煙を燻らすスキンヘッドの男マット・オースティン軍曹は先程の模擬戦の内容を頭で反芻していた。新型を受領して気が大きくなっていたヒヨッコの根性を叩き直すために模擬戦を組んだ訳だが、結果的に勝利は出来た物の内容は新型機への不慣れを突いての薄氷の勝利だった。もし慣熟訓練を充分に積んだ状態で戦っていたら結果は逆になっていただろう。

 

(スッキリせん)

 

マットが唯の歩兵からモビルスーツパイロットに抜擢されたのは既に十数年前のこと、それ以来05に乗り続けた。05の問題点を改良したとされる後継の06が配備されても05に乗り続けていたのは歩兵時代の上官の「装備を体に合わせるじゃ無い、体を装備に合わせろ」と言う教えが染み付いていたためだろう、それ以来06が改良され更に高性能な新型が配備されても05で突っ張り続けた、同僚や上官は機種転換を進めてきたが回りに認めさせる力を示し黙らせてきた。だが今まで後方支援等で使われてきた05も改良型や新型の配備に伴い06置き換わり去年には部品の生産が終了した。其処に最新鋭主力モビルスーツ配備である。

 

「俺も相棒もロートルになっちまった、てことかね」

 

「何を独り言を言っている」

 

「こりゃ大尉殿、大尉殿も一服ですかい?」

 

ル・ローア大尉との付き合いも長くなった。歩兵の頃からだから、既に二十年近い付き合いだ。

 

「俺は吸わん、其よりニッキとの模擬戦はどうだった、かなり苦戦した様だが」

 

「どうも何もアイツはまだまだヒヨッコですよ、せっかくの良い機体が・・・」

 

「ん?どうした?」

 

マットは自分の言葉がモヤモヤした心にスットンとはまる様な感じがした。「良い機体」そう良い機体なのだ、一度其を認めてしまえばスッキリした心持ちに成った。

 

「大尉殿、自分は・・・」

 

「なんだ?」

 

ル・ローアはいぶかし気に聞き返す。

 

「自分は退役します」

 

「はぁ!?貴様何を行きなり!?」

 

「これからは自分の様な頭の硬い老兵では無く新しい物を取り入れられる柔軟な人材が我が国には必要でありますから」

 

「軍を辞めてどうするつもりだ?」

 

「何か堅気の仕事を探すつもりです。それじゃ自分は退役願を出して来ますんで失礼します。」

 

ビシッと敬礼したあと踵を返し喫煙所を後にした。後ろからル・ローアの声がするが振り返らない。

 

(軍を辞めるか、せっかくだ女房の奴と暫くのんびり旅行するのも良いかも知れんな)

 

思い返せば妻と一緒に成ってからそんな時間を過ごしたことはなかった。

 

(こんなロートルに長らく付き合ってくれるとは、女房も物好きなもんだ)

 

マットは何処か晴れやかな気持ちで退役願を書き上げた。

 

 

 

 

 

数ヶ月後

 

「で、女房に説教されて戻ってきたと・・・」

 

新型機への転換訓練を受けるマットと其に呆れるル・ローアの姿があった。

 

「女房の奴に「あんたなんかを雇ってくれるのは軍隊しか有るわけ無い」とケツを蹴り上げられましたぜ」

 

「良い女房じゃないか、あとは退役願を保留してくれていた、シュマイザー大佐にも感謝するんだな」

 

「全く本当に良い女房と上司に恵まれましたよ」

 

マットの戦いは続く




ガンダム世界ではロートルと書いて古強者と読む


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騒乱(1)

誤字が多くてすみません、感想ありがとうございます。


U.C0068 サイド3 『ムンゾ共和国』旧宇宙引越公社倉庫

 

宇宙引越公社は宇宙の人や物資の流れを一括管理して流通を円滑にするため設立された公益法人である。だが内情は連邦政府が宇宙の物流を支配するためにコロニー間を移動する全てを監視して時には制限する組織であった。ムンゾ共和国では既に有名無実化し空の倉庫だけが残った状態だったが、今その倉庫内に三十人程の男達が整列していた。全員が武装していた。

 

「諸君、やっとこの日がきたのだ、辛酸の日々も今日終わる」

 

彼等は兵士でも無論警察官でも無い、各コロニーの連邦派の活動家その中でも尖鋭化したもの達、彼等は信じている連邦こそが地球を守護する最良の組織であると、地球環境の維持その為にはスペースノイドの犠牲等はとるに足らない寧ろ喜んで命を差し出すべきだと、彼等は『地球の息子』を名乗り連邦の敵を排除してきた。

 

「ダイクン派がサイド3を支配してから多くの同胞が逮捕され血を流してきた」

 

『地球の息子』はテロリストとして各サイドで指名手配され壊滅作戦が実行された。何人か潜伏していたが潜伏場所が見つかるのは時間の問題だった。しかし、ある組織が『地球の息子』残党に接触してきた。

 

「犠牲になった同胞と我々の信念に共感して支援してくれた地球の同胞の為にも我々はダイクン派に鉄鎚を下さなければならない」

 

彼は最後に残った『地球の息子』達の顔を眺めながら語る。

 

「我々は今日死ぬだろう・・・・しかし地球の同胞が我々の意思を継いでぐれる。恐れるな!地球の敵を殺すのだ!!!」

 

「「「「「オオー!!!」」」」」

 

「行くぞ!目標はジオン・ズム・ダイクンそしてギレン・ザビだ!!」

 

 

 

 

サイド3 『ウィルヘルムハーフェン』暗礁宙域

 

サイド3端のウィルヘルムハーフェン崩壊で出来た暗礁宙域に潜伏する艦隊があった。連邦艦隊『第59任務艦隊』揚陸艦四隻、フリゲート艦十二隻、航宙機四十機、戦車八両、陸戦兵力二個連隊約六千名、から成る宇宙艦隊この中の一隻揚陸艦『カーター・ホール』ブリーフィングルームにて作戦概要が確認されていた。

 

「今から四時間後、1バンチにて大規模なテロが発生する予定である。我々の任務はテロリストの排除及びテロによって恐慌状態に陥ったサイド3を制圧して治安を回復する事である。何か質問は?」

 

兵士の一人が挙手する。

 

「サイド3側の戦力の対応は?」

 

「政府は連邦軍以外の戦力は認めていない、我々以外の戦力はテロリストである排除せよ」

 

「コロニー付近及び内部での交戦規定は?」

 

「テロリストの排除が優先だが外壁の損傷には留意せよ。他に質問は?・・・・宜しいでは各員しっかり準備し待機、解散」

 

ムンゾ共和国に連邦の陰謀が迫る。



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騒乱(2)

サイド3『ムンゾ共和国』首都『ズム・シティ』周辺宙域 共和国軍宇宙艦隊旗艦『グワジン』

 

象徴としての艦より艦隊旗艦としての能力を重視された暗灰色(朱色だった物を塗り直した)の巨艦の内部は原作の豪華絢爛な宮殿染みた内装と打って変わって薄暗く大量の機材と大人数のオペレーターが働き各所に指示を飛ばしている。そして正面の巨大なメインモニターにはズム・シティ内の首相官邸が写し出されていた。

 

「犯人からの要求は?」

 

モニターを睨み付けるように見ながらギレンは安全保障担当補佐官の将軍に訊ねる。

 

「今のところはありません」

 

補佐官のルーゲンス中将は簡潔に答える。

 

「首相官邸が占拠されるとは、しかし閣僚会議の為に警備は厳重にしていた筈だが?」

 

「警護担当官に由りますと余りに物々しい警備は市民に不安を与えると首相の判断でいつも通りの警備状態だったようです」

 

「其でテロリストに襲撃されたら意味が無かろう!」

 

「申し訳ありません」

 

ルーゲンスが頭を下げる。

 

「あっ、いや貴方のせいではないのだからそうも畏まる必要は無い」

 

「は、しかしギレン軍務大臣がご無事なのが不幸中の幸いでした」

 

「新型戦車の選定会議が白熱してね、気が付いたら閣僚会議の時間を過ぎていた訳だ。変態技術者共め!砲塔は回す物で飛ばす物では無いぞ!」

 

「は?」

 

「何でも無い、其よりテロリストの情報は何か掴めたかね?」

 

「官邸周辺の監視カメラの映像を解析中であります。・・・・・今完了しました」

 

ルーゲンスがオペレーターの一人に合図するとメインモニターにトラックの荷台から出てくる武装集団の映像が写し出された。続いて其の中の一人の顔が拡大される。

 

「この男はレントン・オーニアテ、テログループ地球の息子のリーダーと目される男です」

 

オペレーターから渡された資料を読みながらルーゲンスが説明する。

 

「地球の息子と言えば確かウィルヘルムファーフェンの・・・」

 

「はい爆破実行犯として全てのコロニーで指名手配されているグループです」

 

「そんな連中がどうやったてサイド3しかも首都バンチに入り込める?」

 

「目下調査中ですがウィルヘルムファーフェンの時と言い今回と言い何等かの後ろ楯が有る筈です」

 

ギレンは顎を撫でながら思考する。その時オペレーターが叫ぶ。

 

「ダイクン首相からの連絡です!!」

 

「なに!メインモニターに回せ!」

 

スピーカーからジオン・ズム・ダイクンの声する。

 

『私だダイクンだ』

 

「閣下ご無事ですか?」

 

『ああ今は護衛のジューコフ大尉と一緒に資料室に隠れている』

 

ギレンは資料室の位置とジューコフのデータをモニターに出すようにオペレーターに命じる。

 

(ロイ・ジューコフ大尉・・・・成る程優秀な軍人の様だ)

 

「首相ジューコフ大尉と代わって頂けますか」

 

一拍の間の後でジューコフ大尉が通信に出る。

 

『ロイ・ジューコフ大尉であります』

 

「軍務大臣のギレンだ、早速で悪いが大尉の知る限りの官邸内の情報が欲しい」

 

『はい閣下、敵は約三十名程で自動小銃、短機関銃及び手榴弾を装備しています。デギン・ザビ副首相以下閣僚の皆様は三階会議室に他の人質は一階メインフロアに其々捕らわれています』

 

思った以上の詳細な情報に驚きながらもルーゲンスは各所と情報を擦り合わせ情報の精度を精査し始めた。

 

「解った、今救出プランを練っている。作戦まで首相は任せたぞ大尉」

 

『了解しました。首相に代わります』

 

『ギレン君』

 

「はい首相」

 

『事態が事態だ、首相権限を持って君を首相代理に任命する。全力を尽くし事態の沈静に努めてくれ』

 

其の言葉にギレンは身震いする。原作のギレンは喜んで拝命しただろうが今生のギレンは出来れば裏方に居たい、そもそも軍務大臣等と言う役職も自分には荷が重いとさえ思っている。がしかしそうも言って居られない。

 

「首相代理の任拝命致します」

 

襟を正し真っ直ぐに答える。

 

『うむ、頼んだ』

 

通信が切れる。ギレンはその場にへたりこみそうになるのをこらえたがそんなギレンに追い討ちをかける報告を受ける。

 

「首相代理早速で申し訳ありませんが問題が発生しました。ウィルヘルムファーフェン暗礁宙域で連邦艦隊を発見したと報告が宇宙艦隊司令部から上がって来ました」

 

「成る程、連邦が裏に居た訳か、余程我々と事を構えたいと見える」

 

ギレンは覚悟を決めた。

 

「宜しいでは望み通りにしてやる」



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騒乱(3)

設定が原作と大きくちがいます。ご注意下さい


サイド3『ムンゾ共和国』ウィルヘルムファーフェン暗礁宙域外縁部

 

その部隊が連邦艦隊を発見したのは全くの偶然だった。ティベ級高速巡洋艦『レッドバイカウント』は無人偵察ポット『バロールⅡ』の運用訓練中に連邦艦隊を発見した。発見の情報はすぐさま艦隊司令部に報告された。

 

「司令部からの返答はまだか!」

 

レッドバイカウント艦橋で神経質そうな痩せた男が通信担当オペレーターに叫ぶ。

 

「副長少し落ち着きたまえ、焦ったところで司令部の命令が早く来る訳では無いのだから」

 

「は!申し訳ありません艦長」

 

副長を穏やかな声で嗜めながらもレッドバイカウント艦長の心中は穏やかな物では無かった。首相官邸を占拠され政府が混乱している時に連邦艦隊がしかも強襲上陸を意識した編制の艦隊が首都近くの宙域に潜んでいる。陰謀だの謀略だのに疎い自分でも分かる。偶然と見るには余りにタイミングが良すぎる。艦長は自分の禿げ頭を一撫でして軍帽を深く被り直した。

 

(下手をしたら即連邦との戦争に成るな)

 

近年ムンゾ共和国は人的また物質的資源の余裕からどこか楽観的な雰囲気が国内に流れていた。気の緩み、連邦を甘く見すぎたツケが回ってきた。

 

(いずれにせよ軍部だけではなく政府の判断が必要だ。慎重派のギレン大臣に思い切った決断が出来るか?)

 

艦長が思考を巡らせていたその時、通信担当官が司令部からの命令を受信したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルヘルムファーフェン暗礁宙域 連邦艦隊『第59任務艦隊』レパント級ミサイルフリゲート『エクノモス』

 

エクノモス艦長は時計を確認していた。作戦開始時間まで三十分を切った。

 

「そろそろ時間だ。各部署最終チェックを開始せよ」

 

「大変です艦長!」

 

レーダー員が悲鳴の様な声を上げる。

 

「レーダーダウン!一切の反応が消失しました!」

 

「ECCM作動!監視員は警戒を厳とせよ!手透きの者は全員警戒任務に当たれ!」

 

艦長は素早く命令を飛ばしクルーも指令に素早く対応した。この艦隊に所属する者は正に精鋭揃い、そうでなければ共和国の警戒宙域を抜け危険な暗礁宙域に長期間潜むなど出来る訳が無かった。

 

「各艦との通信は可能か?」

 

「はいノイズが多いですが可能です。しかし月軌道艦隊とのレーザー通信は遮断されました」

 

この艦隊が首都を制圧後は月軌道艦隊本隊が共和国に侵攻し完全に占領下に置く手筈になっていた。任務中断を艦隊司令に具申するべきかと艦長は頭を悩ませた。

 

(直前までこの宙域周辺に敵艦の反応は無かった。潜んでいるとしても多くて三、四隻それだけならば突破できる)

 

艦長は連邦上層部ほど共和国軍を甘く見ていなかった。自軍と同等の戦力を保有すると常々考えていた。が彼は知らなかった。共和国軍が既に熱核反応炉を実用化して軍艦に搭載している事実をそしてその熱核反応炉を利用した熱核ロケット推進の加速力と最高速度を、原作では本来既に連邦も実用化していた筈の技術だが0050年代に地球に残ったミノフスキー粒子の研究資料や関連技術の殆どをギレンが回収していたため未だ試作段階だった。(技術の国外流出は本来で有れば難しいことだがその当時サイド3は連邦の一地方の国内と扱われていた)

 

「人影を見ただと?」

 

まして熱核反応炉を機動兵器にまで搭載するなど想像すらしていなかった。

 

「はい、デブリの間にチラリと」

 

「バカな暗礁宙域で生身の人間が活動できる筈が無い」

 

その時、隣を航行していたフリゲート艦が爆散した。

 

「敵襲!!」

 

「各砲座対空戦と・・・・!」

 

艦長が言い終わる前に艦橋は爆炎に包まれた。艦長が最後に目撃したのは青い鋼の巨人のバズーカが火を吹く瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第1機動戦闘大隊隊長機MS-09R-2『ランバ・ラル専用リックドムⅡ』

 

ジャイアントバズを艦橋に命中させたフリゲートがコントロールを失い別のフリゲートに激突して巻き込みながら爆発した。

 

「各機爆発に注意、巻き込まれるなよ。第2中隊は援護第1中隊は回り込むぞ私に続け!」

 

指示を出しながらフットペダルを踏み込む、バーニアを吹かして獲物を狙う。敵艦の艦尾に回り込みノズル孔に360mm砲弾を撃ち込む。機関部まで到達した砲弾は艦を爆散させる。

 

『ラル中佐、敵機の発艦を確認!』

 

見ると揚陸艦が格納庫のハッチを開きガイドビーコンを展開していた。

 

「暗礁宙域で戦闘機は自殺行為だ」

 

事実戦闘機は発艦した瞬間デブリを回避しきれず激突爆散した。僚機が格納庫にMS用ハンドグレネード『クラッカー』を投げ込む、揚陸艦は内部から火を上げて爆発した。

 

「よし、足の速いフリゲート艦を集中して狙え」

 

のろまな揚陸艦の脅威度は低いと見て、的をフリゲート艦に絞る。連邦艦隊は揚陸艦を中心に密集隊形を取り対空砲の密度を上げて離脱を図る。

 

「ほう、対応が早いな各機踏み込み過ぎるなよ。敵艦隊を追い込むぞ」

 

距離を取りながらも獲物を追う猟犬の様に敵艦隊を追撃する。

 

『中佐そろそろ予定宙域です』

 

「よし、全機停止これ以上前に出るなよ!」

 

連邦艦隊が死地から脱出しようと速度を上げる。その時暗礁宙域の外側連邦艦隊の正面に共和国艦隊が姿を現す。その数二十六隻ムサイ級巡洋艦二十隻ティベ級高速巡洋艦六隻V字いわゆる鶴翼陣形で連邦艦隊を待ち構えていた。百九十六門のメガ粒子砲が一斉に火を吹く十字砲火、光の奔流が艦隊を飲み込む艦隊は一瞬で全て消し飛んだ。

 

「凄まじいな・・・・」

 

正に艦隊が消えたのだ跡形も無く超高熱で蒸発したのだ。ラルは命令を下した友の顔を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国軍宇宙艦隊旗艦『グワジン』

 

時間は連邦艦隊を攻撃する少し前、ルーゲンスはハンカチで汗を拭いながらギレンに問う。

 

「先程の命令、よろしかったので?」

 

ギレンが首相代行として艦隊司令部に下した命令『連邦艦隊を暗礁宙域内で殲滅せよ』それはつまり連邦軍と事を構えると言うことだった。

 

「ヤる時は徹底に殺らなければ、中途半端が一番良くないものだ」

 

ギレンの答えにルーゲンスは胃が痛み出すのを感じていた。

 

「それより官邸突入のプランは纏まったかね?」

 

「いいえ未だ。首相官邸の外壁と窓のシャッターを突破する方法が無く、突破出来れば後は問題無く制圧できるのですが」

 

「頑丈に作り過ぎたか・・・・」

 

共和国の首相官邸は警備の観点から頑丈に作られた。軍艦並みの強度を持った外壁にモビルスーツの装甲にも使われている超硬スチール合金のシャッター最早要塞である。

 

「うむ、良い案が有る」

 

「拝聴しても?」

 

ギレンは自信満々に答える。

 

「手を使う」

 

「シャッターの手動開閉装置は内側にしか有りませんが?」

 

ギレンはニヤリと笑う。ルーゲンスは嫌な予感に更に胃が痛み出すのを感じていた。




艦艇の設定
ティベ級高速巡洋艦
原作ではチベ級ティベ型高速巡洋艦だったが本作では技術の進歩に伴い通常動力艦を熱核反応炉に換装した設定のチベ級は存在しない。武装は主砲三連装メガ粒子砲二基、ミサイル発射菅四門、対空機関砲六門、最大モビルスーツ搭載数十八機
ムサイ級巡洋艦
共和国軍の主力艦で原作での後期生産仕様に近い。初期型と比べて火力の強化とモビルスーツ用カタパルトが増設されている他コムサイ搭載能力はオミットされて代わりにモビルスーツの整備設備が増強されている。武装は連装メガ粒子砲五基(内一基は後部用)、ミサイル発射菅六門、対空機関砲四門、最大モビルスーツ搭載数六機
グワジン級戦艦
原作ではザビ家に縁の有る者やギレンに信頼された者に与えられた戦艦だった為宮殿の様な豪華な広間が有る等ジオン公国の象徴的な艦だったが本作では旗艦能力を重視した為広間はオペリーティングルームや作戦会議室に改装されている。武装は大型連装メガ粒子砲三基、対空メガ粒子砲六門、最大モビルスーツ搭載数二十四機
レパント級ミサイルフリゲート
0040年代から使われている連邦軍の旧型フリゲート艦だが余裕の有る設計のおかげで近代化改修され未だに主力として使われている。原作では熱核反応炉とメガ粒子砲と熱核ロケット推進も搭載していたが本作では搭載されていない。武装はレールガン二基、艦首ミサイル発射菅六門、艦尾ミサイル発射菅四門、垂直ミサイル発射菅十二門、対空機関砲四門、艦載機一機


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騒乱(4)

サイド3 ムンゾ共和国軍総司令部

 

ククルス・ドアンは困惑していた。いきなり総司令部に呼び出されたと思えば通信用大型モニターの前に立たされたのだ。さらにモニターに写し出された人物を見て度肝を抜かれた。

 

『軍務大臣兼首相代行のギレン・ザビだ』

 

「は!小官はククルス・ドアン少尉であります!」

 

軍事教練とは偉大な物で偉いさんの前に立つと自然と敬礼が出来てしまう。

 

『なんとククルス・ドアンか!?』

 

ギレンが何やら興奮している。

 

「自分に何か有りましたか?」

 

『コホン、いや何でも無い。それより貴官はモビルスーツの格闘戦に優れたパイロットと聞いている』

 

確かにドアンは部隊一の格闘能力を持っていると自負している。

 

『それに器用さも随一とも聞く』

 

連邦への偽装工作の一環として流したウソ情報を面白がり部隊間のお遊びで卵を潰さずに割るという事をやり、一番上手くやったと自分でも思っている。

 

『そんな貴官にやって欲しい事が有る』

 

 

 

 

 

 

 

 

首都バンチ『ズム・シティ』首相官邸近くの公園

 

ククルス・ドアンは自分の愛機MS-06FZザクⅡ改のコクピットで待機していた。

 

(こんな作戦思い付くとはギレン大臣は天才か或いは大馬鹿者だな・・・・・・・・たぶん後者だ間違いない)

 

『少尉準備は良いですか?』

 

オペレーターの声で考えるのを止め作戦に集中する。

 

「此方ククルス・ドアンいつでもどうぞ!」

 

『了解、作戦開始まであと二十秒・・・・・・・・・・あと十秒・・・・・五、四、三、二、一作戦開始!!』

 

ドアンはフットペダルを踏む、スラスターが火を吹き出してザクが加速する。勢いのままに首相官邸に突撃する。官邸に激突すると思われた瞬間ザクは地面を踏み込み勢いを関節を通して腕に回す。野球の投球ホームの様に腕を振りかぶり手に持ったヒートホークを官邸の外壁に叩き込む。ヒートホークを抜きその場に捨てると開いた穴に今度は手を突込み穴を広げる。

 

「此方ククルス・ドアン突入口を開いた!」

 

『了解!突入班は突入開始!』

 

待機していた特殊部隊が一斉に開いた穴から内部に進入して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

首相官邸内

 

突入した部隊は素早く各部屋を制圧して行く。ドアを蹴破り閃光手榴弾を投げ込みテロリストは射殺した。

 

「食堂クリア、六名射殺、死傷者無し」

 

「応接室クリア、三名射殺、死傷者無し」

 

「広間八名射殺、死傷者一、人質を確保、クリア」

 

「此方会議室各閣僚を確保、二名射殺、死傷者無し、クリア」

 

「第三通路で敵と交戦中・・・・・排除完了三名射殺、前進する」

 

「此方資料室!首相の身柄を確保!」

 

 

 

 

 

 

 

その日に起こった首相官邸占拠事件は発生から約二時間で幕を閉じた。実行したテロリストは全員死亡、警備員七名と突入部隊の隊員一名が殉職したものの人質には命の別状は無かった。また暗礁宙域で激しい閃光を見たとの目撃情報が有ったが事件には関係の無い事故として処理された。




原作設定モビルスーツからの脱出
ジオンのモビルスーツには脱出装置が装備されていた。友軍機に脱出コールは必ずする。シート中央に有る脱出リングを勢い良く引くと胸部装甲がはね上がりコクピット内は真空に成ると同時にパイロットはシートに固定されシートごと射出される。(脱出装置リングを引いても作動しない場合は胸部装甲強制排除装置を作動してもう一度リングを引くそれでも作動しない場合は自力で脱出)シートの脱出リングが引かれると0.25秒でリニアによりシートごと射出される。射出後ブースターを点火、最大で三十秒ブースターは作動を続ける事が出来る。五秒後には約一キロ離る事が出来る。充分離れたらリバースロケットを点火友軍の作戦宙域から離れ過ぎない様にする。脱出後はシートが太陽に正対するように体勢を変え太陽光発電パネル、脱出ビーコン、通信アンテナを展開して救出を待つ、宇宙空間で最短三日間生命維持(空気は最低五日分)が可能な様に装備が設置されている。脱出者の救助は南極条約で保証されている。脱出者を攻撃したり救助作業を邪魔するのは南極条約で禁止されている。また例え敵兵で有っても救助を求められた場合救助しなければならない。例え上官の命令で有っても南極条約が優先される。


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派閥

誤字が減らず申し訳無い


U.C0070 連邦宇宙軍宇宙要塞『ルナツー』レビル将軍の執務室

 

ヨハン・エイブラヒム・レビル中将は部下の報告を苦々しい顔で聞いていた。

 

「以上の事からモビルスーツ開発計画の中止を決定されました」

 

「報告ご苦労、下がって宜しい」

 

「ハ、失礼します」

 

敬礼をして部下は部屋を出る。

 

「議会には困ったものですな」

 

隣に立ち一緒に報告を聞いていた副官のカニンガン大佐がタメ息混じりに話す。

 

「今に始まった事では無いがね」

 

レビルは葉巻に火をつける。連邦のモビルスーツ開発計画は先の暗礁宙域での戦闘を分析したレビルの発案した計画だった。しかし人型機動兵器等と言う今までに無い規格の兵器開発は難航した。更にレーダーに映り易いその形状(先の戦闘のレーダー及び通信の障害はデブリの影響とされていた)から連邦評議会の内部ではモビルスーツの開発に疑問を持つ者も少なく無かった。

 

「熱核反応炉搭載艦の性能に目を奪われるのも無理は無い、それに新型艦の就役は本来歓迎すべき事なのだがな・・・・・」

 

共和国艦隊のメガ粒子砲は多くの軍関係者を瞠目させた。何しろ十隻程の軍艦が一瞬で文字通り溶けたのだから。連邦艦への熱核反応炉搭載は連邦宇宙軍にとって至急の命題となった。その為ただでさえ少ない予算をモビルスーツなどの開発に割くべきでは無いと言う意見が連邦宇宙軍では支配的だった。

 

「しかしモビルスーツの代わりに武装した作業用ポッドを使うと言うのは些か乱暴です」

 

連邦モビルスーツ開発は先の様に難航していたが驚くべき事に共和国側が月面都市『グラナダ』を通してモビルスーツの輸出を提案してきたのだ。勿論今だ経済封鎖は続いていたし輸出する以上は性能の低い劣化品を掴まされるのは目に見えて居たが何かしら参考に成る技術は無いかと秘密裏に輸入を計画したがそこに連邦政府に強い影響力を持つ軍需企業『ハービック』が横槍を入れた。自らのシェアを奪われまいと自社製品を売り込みをかけてきたのだ。その機体がRB-70『ボール』コロニー開発に使われている作業用ポッドをベースに装甲と武装を搭載した兵器だった。人型のモビルスーツと比べて比較して常識的な見た目と約四分の一と言うコストが決め手と成り次期主力機の座に就いた。

 

「ふむ、ハービック社の提案のタイミング的にモビルスーツ輸入計画を何処から入手していたのだろう」

 

「ギレン・ザビですか」

 

「十中八九そうだろうな、連邦の政治家と起業家は奴の手の平で踊らされている・・・・・いや我々もか」

 

レビルは自嘲気味に笑う。レビルは幼年学校から士官学校に至るまで全て首席で通してきたし任官後も優れた手腕で任務を全て成功させてきた正しくエリートで有った。しかし今回の事はレビルにとって初の敗北と言えた。レビルはあらゆる派閥に属さず旗色を明確にしなかった。軍隊内での派閥争いは有事の際に混乱を招くと理解していたし不毛で有ると思っていた。その為レビルは政治家とは距離を取っていた。それが裏目に出た。今回の敗北は軍事の外まさに政事力での敗北だった。

 

「いずれにしても巨額の資金を投入しての開発計画だ」

 

「閣下それは!」

 

レビルはデスクの引きだしから退役願いを取り出した。

 

「誰かが責任を負わなくてはならん」

 

「それでしたら自分が!」

 

「ならん、貴官はまだ若い、此れからの連邦軍に必要な人材だ。面倒を押し付けてすまんが連邦を頼む」

 

レビルは頭を深々と下げた。

 

「閣下・・・・・」

 

宇宙世紀0070年一人の英雄が歴史の表舞台から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

地球北米大陸ワシントン州ヤキマ演習場

 

一方で我が世の春を謳歌する将校もいた。イーサン・ライアー准将は連邦軍内の派閥争いに置いて上手く立ち回り陸軍省での立場を確立していた。

 

「圧倒的だな我が軍は」

 

そんなライアーは今ヤキマ演習場にて指揮下の部隊の演習を視察中だった。

 

「此れならばムンゾのモビルスーツも恐れるに足らん!」

 

見事に調子に乗っているライアーで有ったが何も根拠も無しに自軍の強さを過信している訳では無かった。新開発の対モビルスーツ兵器それが自信の源だった。

 

『モビルスーツには足が有る。足とは本来大地に立ち歩く為に有る。すなわちムンゾは地上でのモビルスーツ運用を考えている』

 

そう主張したライアーが発案した対モビルスーツ兵器の要求性能は、一つ長距離から一撃でモビルスーツを戦闘不能にする火力、一つモビルスーツが主力火器として運用すると予測される戦車砲クラスの砲弾の直撃に耐えうる装甲、一つ高い走破性を持ち速度は不整地に置いて時速60kmを確保、以上の要求は異常と言って過言では無かった。開発陣は要求性能の引き下げを提案したがライアーは頑に認めず開発は続行した。そして技術者の努力と狂気によって一部能力は要求性能を超えた試作車輌が完成して今日初の実機演習だった。RTX-440陸戦強襲型ガンタンクこの車輌がライアーの否、連邦陸軍の切り札で有った。




連邦軍の兵器
モビルポッドRB-70『ボール』原作では0079年完成の機体で形式番号もRB-79だったが開発が早まって0070に開発された機体となった。作業用ポットを戦闘用に再設計した機体で装甲と武装を搭載した以外にバッテリーを充電式から燃料電池化、アームの大型化などの変更を行っている。武装は180mmキャノン(小説版ではビームライフルとビームサーベルが装備可能本作では不可)
モビルタンクRTX-440『陸戦強襲型ガンタンク』原作より早く完成しているが性能はほぼ同じ但し自爆装置は無い。武装は220ミリ滑腔砲、腕部ボップガン、30ミリ機関砲、56連装ロケットランチャー、車載用大型火炎放射器、MLRS、重地雷


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父親

U.C0071地球 日本 山陰地方の一軒家

 

男は技術者である。少し前まで所属先の企業『アナハイムエレクトロニクス』で大きな兵器開発プロジェクトの一員として仕事をしていた。しかしプロジェクトは中止され関わった人々は各々別の部署に移動した。男の配置先はアナハイムでも零細とされた玩具開発部つまるところ左遷だった。左遷された当初は不満しかなかったが慣れるとここも悪くは無いと思える様になった。

 

「はい、あなたお茶」

 

「ああ、ありがとう」

 

不思議なもので仕事が忙しかった時は余り良くなかった家族の仲も最近は円満になった様に感じた。

 

「なあ次の休みにみんなでキャンプでも行かないか?」

 

「キャンプ!!やったー!」

 

息子は笑顔ではしゃぎ回る。息子のこんな顔を見るのはいつぶりだろうか、妻は驚いた様に夫の顔を見る。

 

「急にどうしたの?あなた」

 

「うん、急に行きたくなったキャンプ・・・」

 

今度は心配そうに顔を覗く様に見た。

 

「あなた疲れてる?」

 

「疲れてたらキャンプ行こうなんて言わないさ」

 

「それもそうね、じゃあさっそく準備しないと」

 

「おいおい気が早すぎじゃないか?」

 

「あら私だってたまには、はしゃぎたくなるわ家族でお出かけなんて久しぶりだもの」

 

「そうだな本当に久しぶりだ」

 

テム・レイは家族と居る幸せを噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ムンゾ共和国 首都バンチ『ズム・シティ』ダイクン邸

 

ジオンは息子のキャスバルの二人で向かい合っていた。

 

「それで、話しとは何だ?キャスバル」

 

「父さんにお願いしたい事があります」

 

キャスバルは青い瞳で真っ直ぐにジオンの顔を見つめた。

 

「僕を地球に行かせて下さい」

 

「なに?地球だと!キャスバル自分が何を言っているか解っているのか!」

 

サイドイズムを提唱しコロニーの連邦からの独立を成そうとするジオン・ズム・ダイクンの息子が連邦のお膝元と言える地球に行けばどうなるか、良くて人質、悪ければ殺される。そんな危険な目に息子を合わせる気などなかった。

 

「命の危険は承知しています」

 

「ならば何故、地球に行こうなどと言う!」

 

ジオンは興奮して息子に詰め寄りながら問う。

 

「僕がジオン・ズム・ダイクンの息子だからです」

 

「なに!?」

 

それに対してキャスバルは落ち着いた声で答える。

 

「僕は今まで一度も地球を見た事がありません、多くの人々があそこまで執着する地球とはどの様な物なのかこの目で確かめたいのです。そうで無ければ父さんのジオン・ズム・ダイクンの思想を本当の意味で理解できないと思うのです」

 

キャスバルの表情は強い意志と決意を感じる。ジオンはそう感じた。

 

「・・・・・お前も男の顔をする様になった」

 

「父さん?」

 

「良いだろう、お前の地球行きを認めよう」

 

「ありがとうございます!父さん!」

 

「だが直ぐと言う訳にはいかん、諸々の準備が整うまで暫く待て」

 

キャスバル・レム・ダイクンのままでは地球には行けない身分の擬装が必要だ。護衛も必要だろう。

 

「少し前まではアルテイシア共々子どもだと思っていたのだがな」

 

ジオンは息子の成長を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、三年間地球で過ごしたキャスバルはムンゾ共和国に戻る時に一人のインド系少女(CV潘 恵子)を伴い帰国してひと悶着有ったがこれは別の話しである。




アムロのキャラがおかしいと思うかも知れませんが七歳ぐらいの男の子なんてこんなものかな?と思う


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兵器

感想ありがとうございます。


U.C0074 ムンゾ共和国 35バンチ『ガーディアン』

 

連邦宇宙軍の駐屯地として建造され現在は共和国軍に接収されたこの密閉型コロニー内は軍事基地を始め士官学校や演習場など様々な軍事施設が存在する。

 

『三号車!味方を轢き殺す気か!ケツの穴に榴弾ぶちこむぞ!!』

 

そんなコロニー内の市街地演習場で戦車教導隊のデメジエール・ソンネン少佐は戦車部隊に拡声器で怒声を浴びせるが隣に女性将校が居ることを思い出して気不味そうに一つ咳ばらいをした。

 

「失礼しました。中佐殿」

 

「私ら海兵隊は荒ぽい野郎ばかりでね。この程度じゃ何とも思わんさ、おっと少佐拡声器を貸しとくれ・・・『おい!リチャードこの早〇野郎!戦車の掩護無しに突っ込んでんじゃないよ!金〇切り落とされたいのかい!!』・・・とっまあ私らはいつもこんな感じなんでね」

 

「なるほど・・・」

 

シーマ・ガラハウ中佐は二十代半で荒くれ者揃いの海兵隊を率いる女傑だ。その統率力は海兵達のシーマに対する態度で容易に想像できた。一見海賊の様な荒くれ者がシーマの前では従順な猟犬の様になる。

 

「海兵と戦車の連携ようやく様になったと思ったらまだまだ訓練の必要が有りそうだね」

 

「ですな、我々も新型車輌を完璧に物にできたと言い難いですし」

 

昨今モビルスーツの高機動化と高火力化が顕著になり幾つかの問題が発生した。特に問題となったのがコロニー内での戦闘による周辺被害であった。コロニー内で全力機動や大口径砲はシャフトや外壁を損傷させる危険が有る。なのでコロニーの制圧等の任務のため歩兵わけても一番最初にコロニーに突入する海兵隊の重要性は増えてそれを支援する戦車等の車輌の重要性も増した。そこで開発されたのがザクマシンガンと共通の120mmを使用しながら単発式にして精度を上げた主砲(ちゃんと旋回する)に小型で小回りきく車体が特長のマゼラタンクだった。

 

「新型戦車に新戦術まったく覚える事が多すぎて休む暇も有りませんな」

 

「その割には嬉しそうじゃないかい少佐」

 

デメジエールは口では愚痴を言いながらも顔は笑っていた。

 

「まあ戦車兵冥利につきますね」

 

シーマは愉快そうに笑った。

 

「そうかい、それじゃ部下を頼んだよ。私はモビルスーツ隊の訓練をしなきゃならないからね」

 

「了解しました。中佐の部下は教導隊がお預かりします」

 

デメジエールは見事な敬礼をして見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ムンゾ共和国軍 演習宙域 実験艦『パドマーヴァティー』艦橋

 

一隻の異様な軍艦が二隻の僚艦を伴い停泊している。ムサイ級を改造した様で艦首から飛び出した巨大な砲身と砲塔部分は撤去して代わりにザクの頭を元に作られたセンサーポットを搭載していた。

 

「センサーが標的を捉えました。数14、距離50000、追尾開始します」

 

「エネルギーチェンバー充填率80%」

 

乗組員が機材を操作したりモニターの数値を確認しながら報告をあげる。

 

「射角調整取舵15、上げ舵10」

 

「取舵15、上げ舵10宜候」

 

艦が細かくスラスターをふかし体勢を変える。

 

「照準よし、発射準備整いました。サハリン技術中佐」

 

ギニアス・サハリンは技術者として大成していた。共和国技術大学に飛び級して入り首席で卒業その後ジオニック社に研究員として入社した。モビルスーツの火器管制システムや携行型ビーム兵器の開発に携わり多大な貢献をした。そのことが評価され軍に中佐待遇で出向しビーム兵器の改良と開発を任された。

 

「了解した。これより拡散ハイメガキャノンの試射を開始する。各員は所定の場所に退避せよ」

 

ギニアスは軍から評価され多くの人々から尊敬の念を集め最新兵器の開発を任されたが自身は不満だった。

 

(拡散ハイメガキャノンはモビルスーツに乗せるには大きすぎる。早くモビルスーツ関連の技術開発に戻りたい)

 

ギニアスはモビルスーツが開発したいから技術者になったと言える。しかし今回開発を任された兵器は大型の艦載兵器だった。せめてもの少しはモビルスーツと関わりたいとわざわざセンサーポットをザク頭にしたりした。とは言え技術者としてのプライドが半端な仕事を許さず拡散ハイメガキャノンの試射は大成功を納めたが結果的にギニアスの願いは遠退いた。

 

「小型化すればモビルスーツに搭載できるかな?頭とか腹部とか」

 

ギニアスは諦めなかった。



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作戦

誤字脱字が多くて申し訳ありません


U.C0075 ムンゾ共和国 首都バンチ『ズム・シティ』軍務省ギレン執務室

 

ギレンは参謀本部から上げられた計画書を読み眉間に皺を寄せていた。

 

「ブリティッシュ作戦?」

 

「はい、参謀本部所属デラーズ大佐発案の作戦です。質量弾を使用しての連邦拠点への攻撃案です」

 

秘書官の補足説明で発した人物名に眉間の皺をより深くした。

 

「デラーズか・・・」

 

「デラーズ大佐が何か?優秀な軍人だと聞き及んでおりますが?」

 

ギレンもエギーユ・デラーズの軍人としての能力面では高く評価している。些かロマンチストな所が有るが作戦実行能力と兵士を纏める統率力は特筆すべき点だろう。ただ自分が正しいと思うと他の意見を認めない所が有る。野戦指揮官向きだが視野が狭く一軍の将としての適性は疑問が残る。

 

「とは言え有効な作戦では有るか」

 

「ではこの作戦案を許可いたしますか?」

 

ギレンは暫く作戦のリスク考え

 

「いやこの様な大作戦、私の一存では決められん首相にもお伺いを立てねばな」

 

丸投げする事とにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国 首相官邸

 

ギレンは早速ジオンとの面会の約束を取り付けた。何故か会議室での面会になったが余り気にせず部屋の前で襟をただして扉をノックした。

 

「ギレンです」

 

「入りたまえ」

 

「失礼します」

 

扉を潜るとそこにはジオンを始め各閣僚達が勢揃いしていた。総務大臣、法務大臣、外務大臣、財務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣、内閣官房長官、国家公安委員会委員長そして軍務大臣ギレン正に勢揃いだった。ギレンが驚いているとジオンがイスを勧めてくる。

 

「きたかギレン君まあ座りたまえ」

 

取り敢えず用意されたイスに腰掛ける。

 

「さて驚かせてすまんなギレン君」

 

ジオンは口ではそう言っていたが顔はイタズラが成功した子供のように笑っていた。ギレンは少し呆れた。

 

(首相も子供ぽい事とをする)

 

ジオンは話しを切出した。

 

「さて皆揃った所で本題に入ろう。次の選挙の事だ」

 

次の首相を決める大事な選挙だがはっきり言ってジオンの再選は決まっている様なものだ。共和国には野党は居るが殆どがジオンの賛同者で国民の殆どもジオンに賛同している。そんな訳でギレンは落着き払って出されたお茶を飲んだ。

 

「私、ジオン・ズム・ダイクンは今期を持って首相職を降りる」

 

「ブフッ!」

 

思わず噴き出してしまった。

 

「大丈夫かね?」

 

「しかしいきなり引退とはいったい?」

 

「言ったままの意味だが?来期から別の首相を立てる」

 

そこでギレンは気が付いた。自分以外に驚いた人物が居ないことに、ギレンは嫌な予感がした。

 

「次期首相にギレン・ザビ君を指名する」

 

「「「「意義無し!!」」」」

 

ギレン以外全員が一斉に賛同の声を上げた。

 

「作戦成功と言った処か」

 

「謀ったな!」

 

ギレンが第二代ムンゾ共和国首相に決定した瞬間だった。



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就任

U.C0076 ムンゾ共和国首都バンチ『ズム・シティ』国会議事堂

 

「ハァー」

 

ギレンは思わず深いため息をついてしまった。今日ギレンは首相就任演説をする事となっている。今は控え室に一人きりだ。出された緑茶を啜りながら考える。

 

(野党ももう少し頑張って欲しいものだ)

 

ムンゾ共和国の国会議員は殆どがジオンに賛同している。やり易いが国として健全とは言い難い。追々対策を考えなければならない。ジオンが引退を決めてから同時に複数の閣僚が引退を決めてしまった。総務大臣デギン・ソド・ザビ、法務大臣ベニーニョ・トト、外務大臣ジンバ・ラル、財務大臣ホト・フィーゼラー、皆ムンゾ共和国建国前からジオンと供に活動を続けてきた古参の政治家だった。ギレンの軍務大臣職を含め空いた穴に誰を置くかでかなり悩んだ。結果、総務大臣にマハラジャ・カーン、法務大臣にダルシア・バハロ、外務大臣にキシリア・ザビ、財務大臣にサスロ・ザビ、軍務大臣にクラウス・ルーゲンスを任命する事となっている。身内を二人も起用する事に反発は有った物のキシリアの

 

『この連邦との戦争を控えた時勢に私以上に上手く外交を纏める事ができると言うならば喜んでお譲りする!』

 

との一喝に押し黙ってしまった。反発もポーズだけ、保身にばかり長けた政治家は誰もこんな時勢に本当は大臣職等やりたく無いのだ。そう言う意味でも野党には頑張ってほしいのだ。

 

「閣下そろそろ時間です」

 

その時部屋の外から秘書官の声がする。

 

「ああ解った」

 

一つ気合を入れる。

 

(さあ煽動者ギレンの本領発揮だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

国会議事堂本会議場

 

五階までの吹き抜けとなっている広大な会議場には議員が自分の席に着き待機していた。傍聴席では多くのマスコミがカメラ等の機材を設置しリポーターがテレビカメラに向いギレンの略歴の解説や此からの政策についての予想等を話している。進行役がギレンの就任演説が始まる事をアナウンスした。ギレンが檀上中央に進み出る。

 

「私がムンゾ共和国第二代首相に就任した。ギレン・ザビです」

 

ギレンは檀上から議員達や傍聴席をゆっくりと見渡す。

 

「宇宙世紀が始り、我々がスペースコロニーを故郷として七十年以上になりました。今や人類の九割が宇宙に住んでいます」

 

足下に手を向ける。

 

「皆さん足下を見てください。人類の作った人工の大地、此処が我々の故郷、我々の父母が築いた歴史です。その上に我々は立って居る。その上に築く新たな歴史とは何が相応しいでしょうか?連邦に支配される奴隷の歴史でしょうか?私は違うと信じる!我々は生きている人間だ!」

 

段々と声と言葉を強くして行く。

 

「自由を求める声がある!もう一度言う我々は人間だ!!搾取されるだけの家畜ではない!幸福を求める権利がある!!・・・・・・そして平和を求める思いがある」

 

拳を胸に当てる。

 

「だがそんな細やかな思いを踏み躙る者達が居る。ならば私は戦う!」

 

拳を振り上げ叫ぶ。

 

「我々の歴史の上に子供達が誇れる歴史を築く事ができるように我々の未来の為戦う!皆さん信仰も思想も違うでしょう。しかし未来をより良くしたいと思う事は一致していると信じます。どうか私に力を貸して頂きたい。我々の未来を掴む為に・・・・・」

 

一拍置いて頭を下げる。拍手が会議場を埋め尽くす。檀上から降りながらギレンはほくそ笑む。

 

(終わった~緊張した~)



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旧友

感想ありがとうございます。





U.C0078 ムンゾ共和国首都バンチ『ズム・シティ』首相官邸会議室

 

各閣僚と軍人や専門家等が集まっていた。

 

「でかいな」

 

ギレンはモニターに映し出された物を見てそう呟く。

 

「はい、直径90km、我国の保有する小惑星の中では最大級の物です」

 

スキンヘッドの将校、エギーユ・デラーズ大佐の説明を聞きながら手元の資料を読む。

 

「大きさの割りには採掘量は少ないのだな」

 

「粗方の資源は採掘し尽くして後は破棄する予定でした」

 

ギレンの疑問に経済産業大臣が答える。

 

「ソロモンやア・バオア・クーの様に要塞化しないのかね?」

 

財務大臣のサスロが小惑星の利用方に関する疑問を投げ掛ける。共和国の経済を指導する立場上無駄を嫌う傾向が強い。

 

「坑道が多く要塞化の為には補強の必要があり、費用対効果が悪く断念しました」

 

「補強が必要な小惑星が質量弾に向いているのかね?」

 

「質量弾に用いるにも補強は必要ですが安全性を考慮しなくて良い分安く成ります。最悪穴を埋めるだけで良いので」

 

「加速は熱核パルスエンジンを使うのかね?」

 

「いえ、表面で核爆発を起こし反動と気化した岩石を推進力とする予定です」

 

各閣僚の一連の疑問に総司令部技術本部長アルベルト・シャハト大将が答える。他に疑問点が無いか確認してからギレンは会議の纏めにかかる。

 

「なるほど、では採決を取る。この小惑星の使用に反対の者は?・・・・・・居ない様だな、では『ブリティッシュ作戦』を許可する。不測の事態に備え訓練等怠らん様に、以上だ」

 

「それでは此にて閣僚会議を閉会します」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ズム・シティ』BAR『ネクタール』

 

ギレンが店内に入るとバーテンダーが声をかけてくる。

 

「ギレン様良く御出下さいました。お連れ様がお待ちです」

 

そう言って個室に通してくれる。そこには二人の男がソファーに座りグラスを傾けながら談笑していた。

 

「おおギレン先に始めていたぞ。そら駆け付け一杯」

 

上機嫌なランバ・ラルが新しいグラスにウイスキーを注ぐ。

 

「ラル居酒屋じゃないんだぞ」

 

ゲラート・シュマイザーがツッコミを入れる。

 

「二人とも久しぶり、遅れてしまったかな?」

 

グラスを受け取りソファーに腰を下ろす。この三人はたまにこうやつて集まり酒を飲んでいたがギレンが首相に就任してからはお互いに忙しく暫くの間その様な席を設けていなかった。

 

「しかしあのギレンが首相閣下とはな」

 

ラルがしみじみと言う。

 

「それを言うならお前だって閣下だろうランバ・ラル准将」

 

ゲラートが嫌みぽく話す。

 

「ゲラートさんは兎も角、ラルさんはもっと上の階級に成れるんじゃ無いですか?」

 

基本的に特殊部隊を率いて秘密作戦に従事するゲラート大佐(開戦後に一気に昇進予定)と違い表の部隊を率いるランバ・ラルが准将止まりなことに疑問を感じた。

 

「前線で戦ってこそのランバ・ラルよ!」

 

胸を張り威張る様に言い放つ

 

「俺はラル夫人に同情するよ」

 

「同感です」

 

「ハモンの事は言うなよ」

 

ギレンは久しぶりに酒を心の底から美味しく楽しく飲んだ。



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開戦

感想ありがとうございます。





U.C0079 一月三日 七時二十分

 

ムンゾ共和国から全世界に向けて放送された一つの宣言が世界を震撼させた。

 

『地球連邦政府並びに地球圏に住む全ての人々に告げます。私はムンゾ共和国首相ギレン・ザビです。地球連邦政府は我々を宇宙へと追いやり地上から宇宙を支配してきました。そして一握りのエリートと呼ばれる人々がその私利私欲を満たすために我々スペースノイドは自由を奪われ続けました。しかしこの屈辱の歴史も今終わります!腐敗した連邦政府を砕きスペースノイドの真の自立を勝ち取る為に我々ムンゾ共和国は地球連邦政府に対し宣戦を布告する!』

 

その宣言と同時に共和国は各サイドと月面都市に侵攻を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

L4 サイド2『ハッテ』8バンチ『アイランド・イフィッシュ』共和国軍揚陸艇

 

海兵隊の兵士達が狭い艇内に押し込まれ今か今かと出撃の時を待っている。

 

『モビルスーツ隊が制宙圏を確保!揚陸艇出撃!』

 

激しい振動が艇内を揺らす。

 

「揚陸地点まで一分!」

 

「野郎ども準備は良いか!!」

 

艇内で最上級の階級の者が兵士達に発破をかけている。

 

「「「サーイエスサー!!」」」

 

「貴様らは何者だ!!」

 

「「「海兵隊!!」」」

 

「共和国で一番勇敢な隊はどこだ!!」

 

「「「海兵隊!!」」」

 

「俺達海兵隊のモットーは!!」

 

「「「最初の一撃海兵隊!!」」」

 

揚陸艇がコロニーの外壁に取り付き外壁を焼き切り穴を開ける。隙間は修復剤ですぐさま埋められる。

 

「野郎ども俺に着いてこい!!続けえぇ!!」

 

「「「ウーラァ!!」」」

 

海兵達がコロニーに雪崩れ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国首都『ズム・シティ』首相官邸

 

会議室に大型モニターが取り付けられ戦況図が映し出されていた。ギレンとルーゲンスがモニターを眺めている。他の閣僚は各省庁にて不測の事態に対応するため待機している。

 

「各サイドおよび月面都市の制圧は順調です」

 

参謀本部から派遣されて来た中佐の言葉にギレンは笑を浮かべる。ギレンは愉悦に浸っていた。この日のためにこれまで何年も掛けて準備して来たのだ。辛い日々だった。各サイドの理解を得るためジオンへの個人崇拝を抑える。お陰で過激派から命を狙われた事も一度や二度では無い。連邦の力を削ぐため連邦議員の対立煽り派閥争いを激化させた。連邦の古狸どもの相手は胃袋に深刻なダメージを与えた。今それらの苦労が結実している。

 

「圧倒的だな我が軍は」

 

調子に乗るのも無理からぬ事だった。

 

「しかし妙ですな・・・」

 

ルーゲンスが顎を撫でながら眉間に皺を寄せる。

 

「何がかね?軍務大臣」

 

「はい、制圧が早すぎる様に思います」

 

「良い事では無いか」

 

「連邦軍の抵抗が弱すぎるのです。なにかしらの意図があるのではと・・・中佐」

 

ルーゲンスは中佐に指示をだす。中佐は情報を司令部に要請した。

 

「分りました。各地の連邦駐留艦隊は反撃をせずに撤退を繰り返しルナツー方面に脱出している様です」

 

「これは厄介ですな」

 

中佐の報告を聞きルーゲンスは苦々しい顔になる。

 

「どういう事かね?」

 

「はい、敵は各個撃破を避けて戦力の温存に注力している訳です。戦力を集中されても我が方が宇宙艦隊戦力では上回っていますが要塞火砲との連係を取られれば我が方の艦隊と言えど生半可な事では勝つのは難しいかと」

 

「・・・・・」

 

戦争は始まったばかりだった。



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反撃

U.C0079 宇宙航路 共和国軍輸送艦隊ムサイ改級旗艦型巡洋艦『ワルキューレ』

 

通常のムサイ級の物より広く多くの機器が取り付けられた艦橋では艦長以下乗組員達が忙しく働いている。

 

「艦長異常は無いか?」

 

その艦橋に巨漢が現れる。

 

「はい、監視班およびレーダーどちらも敵を捉えていませんドズル少将」

 

開戦から三日経った。共和国軍は当初目標の各サイドと月面都市の制圧を完了したが連邦宇宙艦隊の戦力はいまだに健在でルナツーに籠城の構えをとっていた。しかし連邦宇宙軍もただ徒にルナツーに籠っていた訳ではなかった。隠密行動を得意とする艦隊を編制して各航路で輸送船等を問答無用で襲い撃沈する通商破壊を行っていた。そのために共和国軍は各航路や輸送隊の警備に力を入れる必要が出た。

 

「しかし司令部も思い切ったことをしますな、改修型とは言え新型艦を輸送艦隊の護衛に回すとは」

 

ムサイ改級旗艦型巡洋艦はその名の通りムサイをベースに旗艦能力を向上させた艦だ。通常型より三割ほど大型化された船体に強力なセンサーを搭載してそれらを改装され広くなった艦橋でオペレーター達が分析、僚艦に指示をだす。また威力は変わらないが主砲はより対空戦に優れた旋回速度と高い仰角を持つ物を載せていた。

 

「コロニー国家は宇宙の島国の様な物だからな、輸送航路を脅かされる事は死活問題なのだ」

 

「宇宙の島国、成る程言い得て妙ですな」

 

「兄貴の受け売りだからな」

 

ドズルはがははと豪快に笑う。何人かの乗組員も思わず吹き出した。

 

「だが此のままと言う訳ではいかん。戦力を分散させられている訳だからな、ルナツーは叩かなければならん」

 

「はい、しかし主力艦隊も中々苦戦を強いられている様です」

 

ルナツーは全長120kmの小惑星を改修した物で現在地球圏に有る要塞では最大の物だった。広大で分厚い岩盤に覆われた要塞表面では強力な対艦砲や対空砲が並びそれらに守られた宇宙港は数個艦隊を駐留させる事ができる。その内部では豊富な鉱物資源を産出して軍事工廠も併設されている。籠城にこれほど適した拠点もそう無い。

 

「要塞火砲があそこまで強化されているとは、ルナツーの司令官・・・たしかロドニー・カニンガン中将と言ったか」

 

「レビル将軍の秘蔵っ子だった人物です。二年前にルナツー司令に着任しています」

 

「まさかティアンム以外にそんな人材が居るとはな」

 

ドズルと艦長が話して居ると艦橋に警報が鳴り響いた。

 

「どうした!?」

 

「敵艦です!一時の方向、数十・・・同方向から熱源接近!!」

 

「ッ!!かいh」

 

艦橋は激しい光りに包まれた。



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反撃(2)

ムサイ改級旗艦型巡洋艦『ワルキューレ』艦橋

 

ドズルは激しい振動と警報音で目を覚ます。

 

「ッ!」

 

体を起こした瞬間に激痛が走った。見ると身体中に包帯が巻かれそこから血が滲んでいた。それでも気合で体を起こして回りを見渡す。

 

「ドズル司令!動かないでください!」

 

軍医がドズルを抑え込もおとするが押しかえられてしまう。

 

「艦長!!状況報告!!」

 

ドズルの大声が艦橋に響く、その声に頭に包帯を巻きながらも指揮を取っていた艦長がハッとしてドズルの方に振り替える。

 

「ドズル司令!おケガが!」

 

「報告せんか!!!!」

 

今度は怒声が響く

 

「は、はい、敵数10、一時の方向、距離70000、敵速1200で接近、我が方の被害は本艦含め護衛艦二隻が小破一隻が中破、輸送船団は後方に退避しています」

 

ドズルは頭の中で状況を整理する。此方の戦力は六隻、内一隻が中破で戦力外。対する敵の数は此方の倍。撤退は足の遅い輸送船が居るため難しい。

 

(ならば!!)

 

「ミノフスキー粒子最大濃度で散布、中破した艦は輸送船と共に下がらせろ。その他の艦は隊形転換平行隊形、急げ!!」

 

戦闘開始を意味するドズルの命令と同時に動ける乗組員が一斉に動き始めた。

 

「モビルスーツ隊は出撃準備して待機、いつでも出れるようにしておけ!」

 

「直ぐに出撃させないので?」

 

「距離が遠い、いくらミノフスキー粒子散布下と言えど鴨撃ちだ」

 

レーダーを妨害しても敵艦隊との間に身を隠す遮蔽物が無い以上、直接照準でも充分モビルスーツを迎撃可能だ。

 

「俺に良い考えが有る」

 

艦長はドズルの台詞に何故か凄まじい不安を感じた。

 

「ドズル司令、隊形変換完了しました」

 

オペレーターの言葉にドズルは重々しく首肯いた。

 

「全艦舳先揃え!」

 

一端溜めを作る。

 

「・・・・・突撃!!!!!」

 

全艦が最大戦速で一斉に戦場に飛び出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦宇宙軍『特殊攻撃艦隊』旗艦サラミス級巡洋艦『アドミナル・ヒッパー』

 

「敵艦隊加速、我が方に真っ直ぐ突っ込んで来ます!」

 

一見自殺行為の敵部隊の動きに艦隊司令は悩む、本来で有れば火力を集中して撃滅を謀るべきだが、連邦宇宙軍は現在艦隊保全を全艦に徹底していた。全力で突っ込んで来る敵に正面衝突した場合此方の被害も無視できるものでは無い。その事が司令の積極性を失わせた。

 

「各艦は充分間隔を取り回避重視で砲撃を続けろ。モビルスーツの回り込みに注意、ボール隊は艦隊側面を警戒」

 

相手の狂気的な行動は自身の冷静な判断力を鈍らせる。司令はモビルスーツの能力を充分理解していた筈だった。ドズル隊は被害軽微で連邦艦隊と交差する。交差する瞬間アドミナル・ヒッパーとワルキューレの艦体が擦れ激しい振動が艦内を揺らす。

 

「被害報告!」

 

「艦底装甲破損!戦闘に支障無し!」

 

「ムサイ級は前面に火力を集中している。此のまま敵の背後をとる。全艦反転!!」

 

司令が言い終わるか終わらないかの瞬間に僚艦が爆散した。

 

「何があった!?」

 

「巡洋艦アドミナル・ビーティーです!内部から爆発した様に見えました!」

 

「センサーに感!八時の方向!」

 

司令はその時点で敵の狙いに気が付いた。

 

「対空戦闘開始!ボール隊も呼び戻せ!」

 

「し、し司令!」

 

「今度はどうした!?」

 

艦長が指を差す。司令が見た物はモビルスーツが艦橋にビームライフルを向け引金を引く瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

MS-14JG『ゲルググイェーガー』シン・マツナガ機

 

ドズル隊が敵艦隊と交差する瞬間に母艦から飛び出したシンは早速敵艦に照準を合わせ引金を絞る。ゲルググイェーガーに搭載された高性能照準システムは違う事無く敵艦を捉えてビームの光りが敵艦を貫く。

 

「流石はドズル閣下だ!」

 

いとも容易く敵艦を二隻火球に変える。シンを含めてドズル隊のモビルスーツは九機、数は少ないが皆ドズルの将器に引かれた武人達だった。

 

「ぬ、直援機か!」

 

呼び戻されたボール隊が包囲する様に迫る。

 

「モビルスーツモドキ如き、敵では無い!!」

 

ビームマシンガンを連射モードに切り替えて三機一隊で集団行動するボールにビームを連射しながら接近、二機をビームマシンガンで撃墜して残り一機をビームサーベルで引き裂く。仲間達も敵を次々と落としボールは最後の一機になった。

 

「可哀想だがこれも戦だ!」

 

最後のボールを正にサッカーボールの様に蹴っ飛ばし敵艦にぶち当てる。敵艦諸ともボールは爆発した。生き残った敵は居なくなった。

 

「任務完了、帰還する」



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政治家

サイド3『ムンゾ共和国』31バンチ『ブリュタール』ホテル『コノシア』

 

コロニー内人工湖として最大級の面積を誇るコノシア湖と森林公園を持つ観光用コロニーには普段の閑静な雰囲気が嘘の様に多くの兵士が警備していた。そんな厳重な警備を敷かれたホテルの一室で二人の男が話していた。

 

「いやはやムンゾ共和国は良い所ですな」

 

「・・・」

 

「人々は明るく、ワインも旨い」

 

片方の男が一方的に話していた。一方の男の方は顰め面で押し黙っている。話していた男が溜息を着く。

 

「フレミングさんいい加減に切り替えましょう」

 

「・・・しかしねアームストロングさん我がムーアは今までが今までだったのですよ」

 

サイド4『ムーア』首相レイモンド・フレミングは顔を伏せる。サイド4は親連邦的な政策を今まで行ってきた。開戦後サイド4は共和国軍に制圧下に置かれフレミングは生きた心地がしなかった。

 

「まさか連邦軍が戦いもせず撤退するとは!」

 

フレミングは怒りに任せ拳を机に振り下ろす。その様子にやれやれとフォン・ブラウン市長アルフレット・アームストロングは肩を竦める。

 

「しかし過去の事をあれこれ言っても仕方ないでしょう?だいたい共和国がその気だったら我々の命なぞとっくに有りませんよ」

 

アームストロングはワイングラスを傾ける。

 

「今は精々ギレン氏に媚びでも売って戦後の良い席を確保する。その事に注力するべきですよ」

 

事実、今このコロニーには各サイドと月面都市の代表者が集まり共和国側の外交官との会談を行っている。

 

(狸が!何が媚びでも売ってだ!貴様がアナハイムと組んで連邦と共和国双方に物資を流している事はわかっているんだ!!)

 

フレミングは心の中で悪態をつくが表情にはおくびにも出さない。

 

「連邦が敗れると?」

 

「どうですかね?共和国軍は想定以上に精強ですが、連邦軍は今まで戦争で負けた事が無いのです。正に不敗神話です。しかし・・・」

 

言葉を区切り再びワインを口に含む。

 

「ご存知ですか?フレミングさん、連邦軍はそもそも今までまともな戦争をした事が無かったのですよ」

 

アームストロングは愉快そうに嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙要塞ルナツー司令室

 

「第12巡洋艦隊は八番ゲートに誘導」

 

「第三区画の対空砲の整備は終わったか!」

 

オペレーター達が忙しく働く中、司令官のロドニー・カニンガン中将はすっかり薄く成った頭髪を撫でながら密かに溜息をつく。

 

「お疲れ様です。カニンガン中将」

 

整った顔の長身の将校がカニンガンに声をかける。

 

「ワッケイン大佐、いやなに政府からの通信に応対していてね」

 

「それは・・・本当にご苦労様です」

 

ワッケインは顔を顰める。開戦以降、艦隊保全に努めてきたが戦わず撤退を続ける連邦宇宙軍に対して政府からの連日の突き上げに参っていた。

 

「開戦前に充分説明したつもりだったが、戦争を現実的に考えていた者がこんなに居なかったとは」

 

共和国との戦争が始まった現実を目の当たりにして初めて自分の尻に火がついている事に気が付いた政治家達は責任転嫁の相手に宇宙軍を選んだ。カニンガンは再び深い溜息を着く。

 

「共和国との戦争で多くの犠牲者が出ていると言うのに・・・寒い時代ですな」

 

「寒い時代か、随分と詩的じゃないか?」

 

カニンガンは苦笑いを浮かべる。その時、司令室に一人の兵士が駆け込んで来る。

 

「司令!緊急事態です!」

 

「どうした?」

 

「観測班がムンゾ方面で核爆発と思われる閃光を観測その後、小惑星の移動を確認、このままでは地球落下の軌道に乗ります!!」

 

「何!!」

 

司令室は騒然と成った。



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ブリティッシュ作戦(1)

サイド3『ムンゾ共和国』31バンチ『ブリュタール』ホテル『コノシア』

 

若く美しい女性の外交官を一目見てムンゾも案外古い手を使うとアームストロングは心の中でほくそ笑んだ。

 

(そう思った自分を殴りたい)

 

外交官がテーブルに広げた資料を見て背すじが凍りついた。とある商品の商談その内容が事細かに記されている。ただの商取引ならば問題は無い、問題は商品の内容だった。資料に記載された商品は『人間』無論、人材派遣などでは無い。

 

「孤児として集めた子供を商品として売り飛ばす。ハッキリ申し上げて下衆としか言い様が有りませんわ、アームストロング市長」

 

外交官はアームストロングを見つめている。余りにも冷たく凍りつく様な美女の視線にアームストロングは身を震わせた。

 

「な、なぜ」

 

「なぜ我々が知り得たのか?そんな事は今のあなたには関係無い事です。問題は我々があなたをいつでも処理できると言う事実です」

 

「私を脅すつもりか!?」

 

「脅し?いいえ、我々が望むのはあくまで取引です。あなたがこの書類に署名して戴ければ我々はこの事に関わる事は有りません」

 

外交官セシリア・アイリーンは氷の微笑を浮かべた。

 

 

 

 

アームストロングが部屋を出て行った後にセシリアは携帯端末を操作し通信を繋げる。

 

「ギレン閣下、アームストロングが書類に署名しました。これでフォン・ブラウンの物資打ち上げ施設を我々がいつでも使用できます」

 

『ご苦労アイリーン君、流石だなもう少し時間が掛かると思っていたが』

 

「ありがとうございます。しかし閣下あれで良かったのですか?」

 

『構わん、我々はアームストロングの件から手を引く・・・我々はだが』

 

「既に手を打っておられましたか」

 

『フォン・ブラウン市民の知る権利を尊重しただけだ。後は汚職を嫌う真面目な警察官を多少支援したかな』

 

「なるほど・・・それでは閣下、私は次の会談が有りますので」

 

『うむ、よろしく頼む』

 

通信を切る。数日後アームストロング逮捕のニュースが報道されたが戦争に関するニュースに逐われ自治権をもつ月面都市現役市長の逮捕としては非常に小さい扱いをされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国軍第二艦隊旗艦グワジン級戦艦『グワリブ』艦橋

 

第二艦隊司令官キリング・J・ダニカン中将は司令官用の座席に腰かけ軍帽の日差しを深く被り時折秘書官が淹れた紅茶のカップに口をつけていた。そんな落ち着いた様子を見て副官の中佐は不安気に声を上げる。

 

「司令は恐ろしく無いのですか?」

 

「ふむ」

 

ダニカンはメインモニターに写し出された小惑星に目を向ける。核爆発で軌道を変え月の衛星軌道を回りながら重力で加速、少しづつ月から離れている。後八時間程すれば月の重力圏を離脱して地球落下する軌道をとるだろう。

 

「不満かね?」

 

事も無げに言うダニカンに対して副官は肩を震わせて声を荒らげる。

 

「当たり前です!!あんな巨大な物質を地球に落とす等!!地球を滅ぼすおつもりですか!?これでは虐殺です!!正気の沙汰とは思えません!!」

 

なおも非難の声を上げようとする副官の言葉を別の将校が遮る。

 

「中佐殿はお疲れの様だ。部屋にお連れしろウラガン」

 

「マ・クベ大佐!?」

 

マ・クベの副官が中佐の肩を掴む。

 

「触れるな!」

 

中佐はその手を振り解く。本国から派遣されて来たこの諜報部将校と中佐は反りが会わない様で事有る毎に対立していた。艦橋の乗組員達が不安気にこちらを見ている。

 

「中佐下がりたまえ」

 

「しかし司令!」

 

「下がりたまえ」

 

「・・・了解しました」

 

ダニカンの言葉に中佐は渋々艦橋を出て行く。

 

「皆、手が止まっているぞ」

 

乗組員達は慌てて作業に戻る。ダニカンは溜息が出そうになるのをなんとか飲み込んだ。

 

「それでマ・クベ大佐何か新しい情報を掴んだのかね」

 

「連邦の通信を傍受しました。連邦政府からルナツーへの命令です」

 

マ・クベは手に持っていた資料をダニカンに渡す。通信内容を詳細に記された資料を読みダニカンは眉をひそめる。

 

「まさか奴ら平文で通信でもしているのか?」

 

「連邦軍が使用している暗号通信は既に情報部により殆ど解析済みです」

 

「罠の可能性は?」

 

「地球に潜伏中の諜報員の情報もすり合わせた結果です。まず間違い無いと本部からのお墨付きも有ります」

 

資料を読み進めダニカンは今度こそ深い溜息を着く。

 

「指揮だけしていれば良い私は恵まれているのだな・・・」

 

「は?」

 

「連邦議会の決定は現実の可否より優先されるらしいと言う話さ」

 

ダニカンは連邦宇宙軍の司令官に同情した。



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ブリティッシュ作戦(2)

サイド3『ムンゾ共和国』首都バンチ『ズム・シティ』首相官邸

 

「うむ、よろしく頼む」

 

ギレンはセシリア・アイリーンとの通信を切る。アームストロングの悪行を知ったのは全くの偶然だった。共和国ニュータイプ研究所設立案が提出され被験者への説明責任と人道的配慮をしっかりする事を条件に設立を許可した時に、ムラサメ研究所やオーガスタ研究所の事を思い出した。そこで諜報部に調査させたところフォン・ブラウンから定期的に貨物が届けられている事が分かり更に詳しく調べると、人身売買が行われている事が判明した。アームストロング側の隠蔽工作は完璧だったが販売先から調査される事を考えていなかったのだろう。割とあっさりと証拠を集める事ができた。

 

(ムラサメとオーガスタは何れ潰すとして、今はブリティッシュ作戦に集中だ)

 

端末を操作して別の相手に通信を繋げる。

 

『ギレン閣下』

 

画面にスキンヘッドと髭が特徴の軍人が写し出された。

 

「デラーズ大佐、フォン・ブラウンへの根回しは完了した。物資打ち上げ施設を接収可能だ」

 

『では推進用レーザー施設を制圧。ブリティッシュ作戦の第二段階への移行いたします』

 

「ふむ、連邦艦隊の出撃は確認したのかね?」

 

『はい、約二百隻、全戦力です』

 

連邦艦隊の戦力は四艦隊、内一つの月軌道艦隊は開戦当初の奇襲を回避しきれずほぼ壊滅状態にある。残り三つ、地球軌道艦隊、ルナツー駐留艦隊、コロニー駐留艦隊が連邦宇宙軍の現在の主力だった。

 

「上手く釣り出せたか、後はタイミングだけだな、細かなところは君に任せる」

 

『はい、朗報をお待ちください』

 

デラーズの軍の教本に載せたいほど綺麗な敬礼を見て通信を修了した。次に通信を繋げる。

 

『これはギレン閣下お疲れ様です』

 

今度は小太りのちょび髭の軍人が写った。

 

「コンスコン少将、各サイドの反応はどうかね」

 

小惑星が地球降下軌道をとって以来、ムンゾのコロニーではデモやストライキが発生していた。特にエレズム(地球神聖視)の思考の強い35バンチ『キンツェム』では暴動一歩手前と言う状況で現在サスロをはじめ各官僚達が事態の鎮静化に努めている。本拠地でもこの有様なのだから当然各サイドでも反響は大きい。

 

『はい、各サイドではデモ行進が頻発しています。またサイド2のアイランド・イフィッシュでは暴動に発展。行政府より我軍の出動を要請されました』

 

ギレンは顔を顰める。

 

「却下だ。今の状況で軍を派遣したら悪化するだけだ。各サイドの警備隊に任せて軍はそのサポートに努めて表立って活動しないように厳命する」

 

『了解しました。駐留軍は裏方に回ります』

 

「苦労をかけるがよろしく頼む」

 

通信を切って次に繋げる。最近のギレンはそれを繰り返す日々を送っている。



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ブリティッシュ作戦(3)

地球衛星軌道ハワイ上空

 

地球連邦により許可無く近付く事を禁止されている軌道。地球環境保全を名目に掲げた地球連邦にとってエネルギーの確保は最大の問題であった。強制移民により地球上の人口は大きく減ったもののいまだに多くの人々が地上で生活している。しかし、火力発電所や核分裂型原子力発電施設の多くは封鎖されている。となると頼りになるのは水力、風力、太陽光、地熱、などの所謂、再生可能エネルギーと言われる物となる。しかし問題はそれら施設は場所を取るうえ天候などの影響で安定した発電に向かない。そこで考え出されたのが太陽光発電を衛星軌道上で行いそこからマイクロウェーブで地上に送電する発電用人工衛星計画だった。宇宙であれば天候に左右される事も無く発電が可能で有るし場所も取らない。早速計画は実行され、多くの技術的難関を一つ一つ解決して行き。直径200mの発電用ミラーを花弁の様に四つ広げた衛星がようやく完成したのがU.C0024の事。それ以来この軌道に許可無い船舶が近付けば警告のうえで地上からのミサイル攻撃を受ける事となった。

 

『作業開始』

 

そんな軌道に許可無く一隻の輸送艦が進入していた。どころか発電衛星に椄舷までしている。パゾク級輸送艦『コービット』共和国軍所属の軍艦の周りで四機のザクⅡ改が貨物室から分解されてた機械を下ろし組み立て衛星に取り付けている。更にその周りをリックドムⅡ二機ゲルルグJ一機が警戒任務に就いている。取り付けている機械は『ビックガン改2』モビルスーツが装備する高出力ビーム砲のはずだが、その本体はモビルスーツより大きい。その巨大さに違わず他の火器と比べ物に成らない圧倒的射程距離そして高い火力を持つ兵器だった。しかしその高性能を発揮するためには高いエネルギー源を必要とする。

 

「しかし、何でわざわざモビルスーツで操作するんだ?操作室でも設置する方が効率的だろうに」

 

ノーマルスーツを着た作業員が衛星にプラグを差込みながら同じ作業している相棒に何の気なしにたずねる。

 

「ああ、何でも開発者の一人がモビルスーツで操作する事にやたらと拘ったそうだぞ」

 

「そりゃまた何で?」

 

「知らねーよ。本人にでも聞けよ。たしかサハラだがサハリンとか言う名前だった気がするぜ」

 

ギニアス・サハリンは自らの希望(狂気)を少しだけ叶えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

南米連邦軍本部『ジャブロー』

 

ゴップ大将は事務室で大量の書類と闘っていた。宇宙艦隊への増援を送るためにジャブローの工廠は休む間も無く働き、今年中に就航予定だった艦を完成させた。その数三十隻、連邦驚異の生産力が成せる技だった。その乗組員の確保と宇宙への打ち上げをするために必要な書類を処理していたのだが、ただでさえ忙しいのに面倒事は集団でやって来る。多くの連邦の高官達が自分達も一緒に宇宙に上げるように要請してきたのだ。無論戦うためでは無い。小惑星が地球落下の軌道をとって以降、情報統制を敷いた概無く暴徒化した市民が宇宙港を襲撃していた。無事な宇宙港は軍事基地だけだ。詰まる所、安全に宇宙に脱出したいと言う訳だ。ゴップは頭を抱えたが無視する訳にも行かず、高官とその家族、約百人を三十隻の軍艦に分乗する手配までやらねばならなくなった。高官達の気持ちも分からないでも無かった。ゴップは昔コロニーが地球に落ちると言う内容のパニック映画を観た事が有ったが、全長35kmのコロニー(内部はほぼ空洞)と90kmの小惑星(中身が詰まった)その被害の差は押して知るべしと言うものだ。それでもしかし

 

「やれやれ、面倒事ばかり押し付ける」

 

愚痴を言わずに居られない。書類を一通り処理してゴップは目頭を揉む。そこでようやく事務室に珍しい人物が居る事に気がついた。

 

「おや?バッフェ君じゃないか」

 

地球連邦海軍大西洋艦隊司令アドリアン・バッフェ中将官僚的なゴップと違って前線で指揮官としてキャリアを積んだ軍人である。

 

「ゴップ大将は脱出に同行しないのですか?」

 

「まだ処理しなければならない書類が残っていてね」

 

不思議そうにするバッフェを見てゴップは事も無げに言う。バッフェは思わず吹き出してしまう。

 

「お手伝いしましょう」

 

「それは有り難いが、君は良いのかね」

 

艦隊打ち上げまで既に時間が無い。

 

「自分は海しか知らない男なので、宇宙に上がっても役立たずに成るだけです」

 

「そうかね。では手伝って貰おう」

 

二人は書類仕事に没頭した。



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ブリティッシュ作戦(4)

連邦軍本部ジャブロー上空 サラミス級巡洋艦【アイザック・ハル】

 

艦尾に設置された追加ロケットエンジンの轟音を響かせ宇宙に向かって上昇して行く軍艦の群れ。その中の一隻でエルラン中将はこれからの事を考えていた。連邦軍勝利のための思考・・・・では無い。むしろ逆、自分を如何に共和国に高値で売り込むか、そのために頭を使っていた。エルランは今までにも機密性の高い情報を共和国に流し見返りに金を受け取って来た。その資金を元に連邦内で地位をまさに買って今の階級にまで昇って来た。だがそれももう終わりだろう。連邦政府の先が無いように思う。

 

(私の様な者を重用する有様ではな・・・)

 

このエルランと言う男の自己評価は低かった。司令官としても軍官僚としても自分よりも優れた者は連邦軍内に無数に居る事を理解していた。だからこそ、そんな自分を今の時勢に重用する連邦高官達が如何に無能か理解する。経済の疲弊、地球の資源の枯渇、環境汚染、連邦政府の抱える問題は山積している。しかし何の解決策を提示する事無く保身と自己の利益を守る事に時を費やし問題の先送りを続けた高官達、皺寄せをスペースノイドに押し付けた。その結果が今回の戦争とも言えるだろう。そんな高官達をエルランは悪く言うつもりはこれっぽっちも無かった。何故なら自分も同じく保身と利益にしか興味が無いから、だからこそ彼等を共和国に売り渡す事に迷いは無かった。共和国側の工作員から渡されたリストに有る高官を宇宙に脱出させるだけで自分の一生分の稼ぎの三倍の金を手に入れる事が出来る。

 

(しかし、分からんな何故リストの中にこんな男の名前が載っているんだ?)

 

高級官僚や政治家の名前が載っているリストの中でジャミトフ・ハイマンと言う名の将校が載っている。訳が分からない。

 

(まあ、どうでもいい精々高値で売らせて貰おう)

 

エルランは輝かしい将来を想像して笑を浮かべる。一瞬、爆炎が艦内を埋めつくしエルランは何が起こったか理解出来ないまま炎に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

衛星軌道上ムンゾ共和国軍高出力長距離ビーム砲ビックガン改2装備 MS-06E-3【ザクフリッパー】

 

『初弾命中!お見事』

 

ザクフリッパーは本来偵察を主任務とした機体で通常の06系モビルスーツのモノアイ型頭部メインカメラと違い3つ目のゴーグル型の各種センサー複合型頭部メインカメラを搭載している。さらにこの機体は改造されてさらに高性能なセンサーを搭載して大量の情報を処理するため複座式のコクピットを備えている。

 

「少し狙いが逸れました。大尉調整してください」

 

興奮気味のオペレーターとは真逆に抑揚無く前席射撃担当の曹長が不満を述べる。

 

「了解した。磁場の影響だろう」

 

後席レーダー員の大尉がキーボードを操作して調整する。

 

『誤差0.0005許容範囲どころか予測よりも優れた数値ですよ!?人間が認識出来る範疇ではありません!』

 

「落ち着けマイ中尉、曹長は超一流のスナイパーだ。その辺の勘も超一流なのだろう」

 

『そんな非合理的な・・・』

 

「戦場なぞ元々非合理なもんだ。それにそれを感じられる程のセンサーを積んでるとも言えるだろう」

 

「・・・大尉」

 

「おっと、待たせた曹長調整完了だ。いつでも撃っていいぞ」

 

引き金が引かれた。一条の光りがサラミス級の追加ロケットエンジンに吸い込まれる様に当たり爆散する光景が映像がメインモニターに映し出された。距離にして約1000km、レーダー波は勿論のこと光学器機にまで影響を及ぼすミノフスキー粒子散布下において射撃を命中させるのは不可能と言えた。しかし、その不可能を可能としたのが高出力高精度のビックガン改2は勿論のことだったが、最大の要因はリヒャルド・ヴィーゼ教授指揮の元で共和国が誇る光学メーカー、カノム精機とグラモニカ社そしてフェリペ社が開発した新型無人偵察ポッド【バロールⅣ】それが十八機、ザクフリッパーの周囲30kmに展開して多角的に情報を収集、レーザー通信を介してザクフリッパーに集約する事で高い精度を実現したシステムだった。それにしてもこの命中精度は異常だったが。

 

「良し、優先目標を設定した。後は射撃自由だ。曹長任せた」

 

「了解」

 

次ぎに発射されたビームはマゼラン級の船体に命中した。爆発が発生した事でバランスを崩し錐揉み回転をしながら地球に落ちて行く。打ち上げ中のために満足な回避行動も取れない連邦増援艦隊は数分の後に最後の艦が落とされ全滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

月面都市【フォン・ブラウン】推進用レーザー管制室

 

月面都市からの物資の打ち上げはロケットなどでは非効率なため、マスドライバーと推進用レーザーを使用する。マスドライバーは物資を直接的に電磁投射基で発射する。しかし、マスドライバーはその構造上電磁投射基よりも大きなものは投射出来ない。一方で推進用レーザーは一定の波長のレーザーを物質に当てる事で推進力を得る事が出来る。しかし、レーザーは物資を打ち上げるのに手間がかかるため小さな物を打ち上げるのには向かない。

 

「予定の時間まで後、五分を切った。各員所定の位置に着き待機せよ」

 

そんな推進用レーザー施設でエギーユ・デラーズ大佐は時計と小惑星の映し出された画面を睨む様に見ている。

 

(我がブリティッシュ作戦の成就まで後少しか・・・)

 

デラーズがブリティッシュ作戦を提案して数年、初期案ではコロニーを地球に落とすだけの作戦だったがギレンが強硬に反対、現在の形にまで改変するに至った。

 

(まさか地球に落下する小惑星を餌にルナツーの連邦艦隊だけでは無く地球のモグラどもまで釣り出すとは、ギレン・ザビただの優柔不断な男では無かったか・・・)

 

表面に出す事は一切無かったがデラーズの中ではギレンの評価はそれほど高いものでは無かった。自身の考えた作戦を変更された事もそうだったが、穏健派で通ったギレンは強硬派のデラーズの目には軟弱な様に写った。だがそれは今回の事でかなり改善された。

 

(いや、むしろ私の方が大義と言う言葉に目を曇らせていたのだろう)

 

これ以降デラーズは戦略や戦術だけでは無く政事的な事や民衆心理などを勘案した作戦を立案する様になり名将として歴史に名を残す事になる。

 

「デラーズ大佐、そろそろ時間です」

 

思考に没頭していたデラーズは副官の言葉に気を取り直し司令を出す。

 

「各員最終チェックを開始せよ」

 

次々にチェック修了の報告が上がって来る。いよいよ作戦の最終段階、オペレーターが秒読みを開始した。さしものデラーズも緊張した。

 

「二十秒前・・・・・・・・・・十秒、9、8、7、6、5、4、3、2、レーザー照射!!」

 

スイッチが押し込まれ。管制室のメインモニターには天に向かって真っ直ぐに伸びる赤い光りの線が映し出された。赤い光は小惑星の表面に当たる。デラーズはその光景を見ながらほくそ笑んだ。



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ブリティッシュ作戦(5)

U.C0079一月七日サイド5【ルウム】への航路 連邦宇宙軍ルナツー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【アナンケ】

 

ルナツーから出撃して二日、連邦艦隊全戦力は地球に落下する小惑星を迎撃する為、ルウムに針路を取っていた。本来ならば二百を超える艦隊の移動は小部隊に分けて別々の航路を分進する事で、より迅速に移動をする。しかし、艦隊は共和国軍の奇襲を警戒して三つの艦隊を一つに纏め進撃していた。その為に移動出来る航路が制限されルウムへの移動に日数を必要としていた。更に小惑星破壊の為のレーザードリルや工作器機、工兵を載せた工作艦八隻とルナツーに配備されていた核弾頭三十発を載せた輸送艦一隻、鈍足の艦艇を伴っての行軍のため速度が出せないでいた。それでも落下阻止最終ラインには充分間に合う予定だった。

 

「すまない。もう一度言ってくれ」

 

「増援艦隊が打ち上げ中に襲撃され全滅しました」

 

ルナツー駐留艦隊司令カニンガン中将がその報告を聞いたのは各艦隊の司令との作戦会議中の事だった。報告した兵士は沈痛の表情を浮かべ顔を伏せた。カニンガンは頭を抱えたい思いを必死に抑える。

 

「増援艦隊には連邦政府の政治家や官僚達が乗って居た筈だ!」

 

「諸供だろうな・・・」

 

「「・・・・」」

 

沈黙がその場を支配した。沈黙を破ったのは地球軌道艦隊司令のティアンム中将だった。

 

「いずれにせよ今の我々ではどうしようも無い、政事の事は残った政治家達に任せよう。我々は小惑星の迎撃に専念すべきだ」

 

「そうだな、増援艦隊が来ない以上、艦隊の編制も変更しなければ為らん」

 

応えたのはコロニー駐留艦隊司令のワイアット中将だった。カニンガン、ティアンム、ワイアットこれに月軌道艦隊司令のスターン中将を入れた四人が連邦宇宙軍の柱と言えた。もっともスターンは月からの撤退戦で二階級特進してしまったが。

 

「ルウム到着まであと八時間ほどしか無い。急ぐとしよう」

 

「提督!緊急事態です!!」

 

その時、兵士が部屋に飛び込んできた。

 

「何事だ?(面倒事は集団で遣って来る。誰の言葉だったか・・・・)」

 

カニンガンは半ば諦めて兵士に問うた。

 

「小惑星が加速!!迎撃予定の軌道から外れました!!」

 

「バカな!!」

 

ワイアットは思わず叫ぶ。

 

「降下予測地点は、何処だ!」

 

ティアンムの問に兵士が答える。

 

「地球落下軌道からは外れました」

 

その言葉に提督達はホッとした。だが続く言葉に騒然と為った。

 

「しかし、ルナツー直撃の軌道に乗りました!!」



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番外編【タナバタ作戦】






U.C0079七月七日13:00 日本東北地方フクシマ上空

 

一機の大型ヘリコプターが山間を縫う様に飛んでいる。

 

「あれが有名なフジヤマか?」

 

「軍曹殿、ありゃアダタラです」

 

戦闘服を着た屈強な男達が二十人ほど乗り込んでいた。

 

「間もなく降下地点です!!」

 

「総員装備チェック!忘れ物しても取りに戻れないぞ!」

 

隊長の言葉に全員が一斉にお互いの装備のチェックを始める。

 

「作戦の再確認を行う。今回の任務はムラサメ研究所に捕らえられている被験者の救出と研究データの破壊だ!間違っても被験者に危害を加えるなよ!!」

 

「「「サーイエスサー!!!」」」

 

全員が応えた。

 

「隊長殿!質問宜しいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「警備兵はともかく、研究員はどうします?」

 

ここに居る全員が研究所で行われている非道な行為をブリーフィングで知らされている。そこで隊長は重々しく頷いた後に口を開く。

 

「皆殺しだ!」

 

「「おう!」」

 

「やってやろうぜ!」

 

この日、共和国軍陸戦部隊の精鋭が地球各地のニュータイプ研究所に襲撃をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

14:00 フクシマ旧コウリヤマ市

 

西暦の時代にはそれなりの人口が有ったこの街も強制移民の影響だろう、完全なゴーストタウンに成っていた。道路には雑草が生え、ビルやマンション等の建造物には蔦が絡まっている。

 

「これが有名なトーキョージャングルか?」

 

「軍曹殿、そりゃトーキョー砂漠じゃありませんか?あとここはフクシマです」

 

ヘリコプターから降りた兵士達は徒歩で目的地のムラサメ研究所に向かっている。

 

「二人とも私語は慎め。ムラサメ研究所まであと10km、全員警戒しろ」

 

ミノフスキー粒子の散布や偵察衛星の無力化により連邦軍の索敵能力が著しく下がったとは言え、ここは敵地のど真ん中、警戒するのは当たり前と言えた。

 

「・・・・ッ!敵歩兵十一時の方向数三」

 

その時、先行して警戒任務に当たっていた兵士が敵兵を発見した。隊長は隠れてやり過ごすように全員に合図を送る。全員が草薮の中に身を潜ませるとほぼ同時に敵兵の会話が聞こえて来る。

 

「今日は一段と暑いすね」

 

「ああ、日本の夏は特に暑く感じる。なんつーかじめじめしてる」

 

「・・・・」

 

「俺、ヨーロッパ勤務長かったから余計にそう思うす」

 

「・・・・」

 

「どうした?一等兵」

 

「・・・・いえ、いつもと雰囲気が違う気がして」

 

隠れた共和国兵は肝を冷やす。

 

「気のせいじゃ無いすか?いつもと同じすよ」

 

「そうですね。すみません自分の気のせいでした」

 

「暑いし仕方ない。基地に帰ったらビール奢ってやるよ」

 

「やったー!」

 

「自分まだ未成年ですよ」

 

連邦の兵士達はそのまま離れて行く。充分離れたのを確認して共和国兵は移動を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

15:00 ムラサメ研究所付近の丘

 

隊長は副隊長を伴って望遠鏡で研究所の警備態勢を偵察していた。

 

「金網に鉄条網それに監視塔、あれは発電室か?しかし、妙だ」

 

「何がです?」

 

「外を警戒すると言うより、内側から出さない様な配置だ」

 

軍事基地と言うより刑務所や捕虜収容所の様な警備態勢を敷いていた。中心にメインの研究所が有り、その外周に警備兵の詰所や監視塔等が置かれている。

 

「被験者の脱走防止でしょうか?」

 

「だろうな。ふむ、暗くなってから仕掛けるか、潜伏拠点を設営するぞ」

 

「急がなくて宜しいのですか?」

 

副隊長の言葉に隊長は首を横に振る。

 

「思ったより警備の兵士が多い。だが練度と士気は低い様子だ。そんな敵には夜襲が効果的だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

21:50 ムラサメ研究所外周

 

監視塔で夜間警備担当の兵士が欠伸を噛み殺しながら任務に当たっている。

 

「何だ?眠そうだな仮眠しなかったのか?」

 

「一昨日のポーカーの負けを取り戻せそうだったんだ」

 

「負けたくせに、お前は直ぐに熱く成るからギャンブルにゃ向かないよ」

 

相棒に忠告しながら外にライトを当て警備を続ける。背後でドサッと何が倒れる音がした。

 

「寝落ちかよ。危ねぇな」

 

振り返った時に見た物は脳漿を撒き散らして倒れた相棒の姿だった。

 

「何だこムグッ!」

 

何が起こったか理解する間もなく背後から口を押えられた。警備の兵士が最後に見た光景は自分の胸にナイフが沈む瞬間だった。

 

「監視塔クリア、移動する」

 

『了解、此方は一分後に発電室に突入する。総員暗視ゴーグル準備』

 

「了解、よし行くぞ」

 

部下を引き連れて警備兵の詰所の扉前に移動する。きっかり一分で電力が停止、周囲が暗闇に包まれた。

 

「あ、停電か?」

 

「あのポンコツ発電機め!」

 

詰所内から兵士達の声が聞こえて来る。手榴弾のピンを抜き、扉を少し開け投げ込む。

 

「うん、何だ?」

 

爆発、扉が吹き飛んだ。

 

「GO!GO!」

 

直ぐに内部に突入する。連邦の兵士だった物が床や壁に撒き散らされている。かろうじて生きている敵兵も息も絶え絶えと言った様子だった。その敵兵も直ぐに突入して来た兵士達に撃ち抜かれ絶命していく。

 

「報告!」

 

「クリア!」

 

「クリア!」

 

「オールクリア!」

 

基地の他の所々からも発砲音と爆発音が聞こえて来る。詰所の隅には竹が飾られていた。

 

「これが有名なオンミョーのオフダか?」

 

「軍曹殿、そりゃタナバタのタンザクです」

 

 

 

 

 

 

 

 

22:00 ムラサメ研究所内部

 

研究所の内部はまるで普通の病院の様な内装をしていた。もっとも窓には防弾ガラスが嵌められ扉は金属製で内部から開けられ無いようになっている事を除けばだが。

 

「グスッヒグッ」

 

金属製の扉で閉じられた部屋の中で七~八歳ぐらいの少女が膝を抱えて泣いていた。その時、扉が開かれ一人の兵士が部屋に入って来た。少女はビックと体を強張らせて叫ぶ。

 

「いやぁ!やめて!」

 

「もう大丈夫だから、泣かないで」

 

「いやぁ!いやぁ!」

 

兵士が出来るだけ優しい声で宥めようとしても少女は叫び続ける。その様子に兵士は怒りが心の底からこみ上げて来るのを感じた。

 

(こんな子供に何でこんな仕打ちが出来るんだ!!)

 

少女の手首にはNo.4と書かれたタグが付けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

金属製の扉が並ぶ中、奥まった場所に所長室と書かれた高級そうな木製の扉の部屋が有った。

 

「クソ!クソ!クソ!」

 

所長室の室内に悪態を着きながら紙の資料をカバンの中に詰め込んでいる一人の男がいた。ムラサメ所長、ムラサメ研究所の創設者にして主任研究員を勤める男

 

「私はこんな所で死ぬ男じゃない!」

 

だが今はハンターに怯える獲物に過ぎない。

 

「連邦兵士の役立たずめ!」

 

資料をカバンに詰め終わり逃げ出そうと扉に向おうとした時、木製の扉が蹴破られてハンターが室内に入って来る。

 

「ヒィ!」

 

「ムラサメ所長を確認!」

 

ハンターたる共和国兵士が所長に銃口を向ける。

 

「待って!私は!!」

 

言い終わる前に銃口から放たれた弾丸は所長の眉間を正確に撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

22:30 ムラサメ所長外周

 

共和国の兵士達は連邦軍のトラックを数台奪い、被験者の少年少女を乗せていた。多くが酷く怯えて居るか、まるで人形の様に何の反応を示さない。隊長はその様子に憤りを感じずに居られなかったが表情に出さない様に努めていた。

 

「隊長、最後の一人を乗せました。撤収準備完了です」

 

「良し、総員撤収!!」

 

トラックの車列が走り出しムラサメ研究所を後にする。充分離れた所で隊長はスイッチを押し込む、その瞬間ムラサメ研究所は爆炎を上げて地上から消滅した。同日、世界中で非道なニュータイプ研究を行っていた研究所が同じ様に襲撃を受け徹底的に破壊された。生き残った研究者は一人もいなかった。



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ルウム会戦へ

連邦宇宙軍ルナツー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【アナンケ】

 

「小惑星の針路予想は分かっているか?」

 

兵士の報告を聞いて一時的に騒然と為った室内だったがカニンガンは気を取り直し兵士に質問する。

 

「はい、此方になります」

 

兵士は手に持った端末を操作して部屋に据え付けられたモニターに小惑星の針路情報が表示される。

 

「地球を挟んで真逆の針路だな」

 

「我々の艦隊では追い付けんぞ」

 

ティアンムとワイアットの声を聞きながらカニンガンは顎を撫で航路図を眺めて思考を巡らせた。

 

「(確かに全艦では到底間に合わん、だが・・・・)君、至急航海参謀を呼んで来てくれ」

 

「は!」

 

兵士は敬礼もそこそこに駆け出した。

 

「カニンガン提督、何か思い付いたのか」

 

「かなり困難な作戦に成るだろうが」

 

数分後、カニンガンに作戦の概容を聞き航海参謀は苦い顔をした。

 

「確かにカニンガン閣下の言う通り、サラミス級だけの編成艦隊ならばルウム経由の航路を使えば充分間に合いますが・・・・」

 

「だが小惑星を破壊するには火力が足りん」

 

砲術士官としてキャリアを積み、的確な艦隊火力集中で連邦宇宙軍屈指の攻撃力を誇るティアンムの言葉は説得力が有った。

 

「核弾頭をサラミスのミサイルに乗せる」

 

「それでも破壊は無理だ。何のためにわざわざルナツーからレーザードリル等の掘削器機を持って来たのか忘れた訳では無いだろう」

 

当初の作戦では小惑星に穴を掘り内部から核弾頭を爆発させる事で小惑星を破砕する予定だった。表面で核爆発が起きたところで小惑星はびくともしないだろう。

 

「無論だワイアット提督、なので破壊はこの際諦める」

 

「なに?しかし、それでは・・・・」

 

ティアンムは怪訝な表情を浮かべる。

 

「いや、成る程そう言う事か」

 

ワイアットはカニンガンの策を理解した。カニンガンは言葉を続ける。

 

「まあ、共和国軍の真似事だが」

 

その言葉でティアンムも理解した。

 

「小惑星をルナツー衝突針路から反らす」

 

その後は作戦を煮詰め、必要な編成を協議した。必要な戦力として各艦隊から三十隻のサラミス級を抽出する事と成った。

 

「では核弾頭の乗せ変えは直ぐに始めよう」

 

「ふむ、後はルウムに展開している共和国軍の突破か、偵察によると三百隻余り。我が軍の1.5倍か・・・・」

 

「攻撃艦隊が抜ける分、戦力差は更に広がる」

 

「だが、やるしか無い」

 

ルナツーが落ちれば宇宙に置ける連邦軍の拠点を全て失う事となる。宇宙艦隊は補給を切られ、艦の修復も儘ならなくなる。地球からの補給や補充は先の衛星軌道での共和国軍の攻撃を見る限りほぼ不可能だろう。どころか多くの資源を宇宙に頼っている地球を封鎖して兵糧攻めにすると言う悪夢が現実味を帯びて来る。提督達は連邦政府のためでは無く、故郷のため決死の覚悟を決めた。



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ルウム会戦(1)

感想と誤字報告ありがとうございます。






サイド5【ルウム】付近宙域 ムンゾ共和国軍第四艦隊【ドロス艦隊】所属グワジン級戦艦【グワラン】

 

「壮観だな」

 

グワラン艦長、ラコック大佐は感嘆の声を洩らす。今、この宙域には共和国軍の戦力の約七割が集結している。特にグワジン級戦艦は、このグワランを始め、グワジン、グワリブ、グワデン、ガンドワ、ズワメル、グワバン、グワダン、クワザン、グワメル、の十隻が集まり、本土防衛任務に就いているグレートジオン(艦の命名に存命の人名を付けるのは個人崇拝が過ぎると言う非難有り)と移動中の小惑星に帯同して防衛の指揮をとっているギドルを除いたグワジン級が集結していた。

 

「これ程の戦力が一同に会するのだから当たり前だが」

 

ドロス級宇宙空母一隻、グワジン級戦艦十隻、ザンジバル級機動巡洋艦三十四隻、ティベ級高速巡洋艦六十隻、ムサイ級巡洋艦二百二十隻、合わせて三百三十五隻の戦闘艦、作戦参加モビルスーツ二千九百九十機、更に後方には補給艦や病院船と言った補助艦艇が百隻が待機している。

 

「艦長、斥候部隊が敵艦隊を捕捉。予測通りの航路を進撃中。艦隊司令部より命令、作戦計画に従い移動開始せよ」

 

オペレーターの報告を聞きラコックは気を引き締める。

 

「総員、第一種戦闘配置!」

 

「アイ、アイ、サー!第一種戦闘配置!」

 

艦内放送と警報が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦宇宙軍コロニー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【ホレーショ・ネルソン】

 

「提督、敵艦隊を捕捉。数三百隻以上。既に布陣完了している様です」

 

共和国軍は広く両翼を広げる様に布陣している。数で劣る連邦艦隊を包囲する腹づもりだろう。

 

「ふん、大艦隊だな」

 

ワイアットは忌々しげに吐き捨てる。だが直ぐに気を取り直す。

 

(いかんな、紳士たるもの余裕を持たなくては、英国紳士たる者を示して見せよう。・・・・英国の誇る舌先をな!)

 

「全艦に通信を繋げてくれたまえ」

 

「ハ!・・・・どうぞ」

 

副官からマイクを受け取りワイアットは言葉を紡ぐ。

 

「諸君、艦隊司令のグリーン・ワイアットだ。我々地球連邦宇宙軍は現在に至るまで地球圏の秩序を守って来た。我々こそが地球圏の守護者だ。我々は平和を望んでいる。そんな我々にムンゾ共和国は挑んで来る」

 

自分達の正当性を強調する。歴史上多くの指導者が言った言葉【平和を望んでいる】と、この戦いは【攻撃】では無く【報復】で有ると。

 

「彼等は言う地球連邦が彼等の権利を踏み躙っていると、しかし、共和国政府は本当にスペースノイドの権利を守るために今回の戦争を起こしたのだろうか?」

 

兵士達に問い掛け意識を惹く。

 

「否である!」

 

兵士達が考えるより早く強く否定する。

 

「共和国政府は、ギレン・ザビはその様な事を考えて居ない!彼の中に有るのは自己の利益を大きくする事だけだ!故に我々は勝たねば成らない!彼等を独裁者から解放するために!」

 

実の所、ワイアットはギレンに悪い感情を抱いていなかったが、敵の政府や指導者を【悪魔】とする事で倒す相手を明確にする。

 

「敵は我々より多く、よく訓練された精強な軍だ。しかし、敵艦隊は戦争の基本たる戦力集中を疎かにして広く布陣している。つまり敵陣は薄いと言う事、つまり突破は容易だ!」

 

勝ち筋を示す。

 

「正義は我々に有る!ならば勝つのは我々だ!」

 

歓声が至るところで挙がる。ワイアットはマイクのスイッチを切って副官に渡す。

 

「お見事です提督!」

 

副官が興奮気味に賞賛を送って来る。

 

「うむ・・・」

 

ワイアットはその賞賛に軽く応え提督席に腰を下ろし紅茶を一口含む。普段より苦く感じた。



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ルウム会戦(2)

連邦宇宙軍地球軌道艦隊旗艦マゼラン級戦艦【タイタン】

 

全艦隊に向けて発信されたワイアットの演説を聞きティアンムは思わず苦笑してしまった。

 

「ワイアット提督の苦い顔が目に浮かぶな」

 

「は?」

 

艦長が怪訝そうな顔をする。ティアンムの艦隊に所属する者は上司に似て、裏を読むとか高度に政治的な判断だとかに疎い者が多い。

 

「帰還したら上等なウィスキーでも一本、贈らなければ成らないと言う事だ」

 

艦長は首を傾げる。

 

「無事に帰れればな・・・」

 

ティアンムの最後の呟きは誰にも聞かれ無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国軍ドロス級宇宙空母【ドロワ】モビルスーツ第二格納庫

 

ドロワに三つ有るモビルスーツ格納庫の中の一つ六十機のモビルスーツが並んでいる。その中に黒く塗装されたゲルググが三機が駐機され、その前で黒いパイロットスーツを着た三人組が年若いパイロット達に激を飛ばしている。

 

「機体は毎日工場で何十機と作られる!だがパイロットは何年もかけてやっとケツの殼が取れるんだ!」

 

ガイア大尉の言葉をマッシュ中尉が継ぐ様に話す。

 

「良いか!【死んでも任務を遂行する】とか考えているヤツはパイロットとして二流三流だ!」

 

オルテガ中尉が更に継ぐ。

 

「生きて任務を果たすのが本物のモビルスーツパイロットだ!」

 

最後にガイアが拳を振り上げ叫ぶ。

 

「お前ら連邦軍ごときに殺られんなよ!!」

 

「「「おう!!」」」

 

それに若いパイロット達が応える様に拳を振り上げ叫ぶ。

 

「解散!」

 

其々の機体に散って行く。

 

「さて、何人生き残れるか・・・・」

 

ガイアは先程の力強い声とはうってかわって苦し気な声を出す。モビルスーツが戦力化して十五年、その間、モビルスーツの真の価値を連邦軍上層部が理解する事は無かったが、それでも連邦宇宙軍の現場指揮官達が工夫して生み出した対モビルスーツ戦術は無視する事が出来ない程には仕上っている。そんな強敵と自分達が鍛えた若者達が戦うのだから心中穏やかでは無かった。

 

「生き残す、だろ?」

 

マッシュが不敵に笑う。

 

「そうだ、その為に派手に塗ったんだからよ」

 

オルテガは自分達の機体を顎でしゃくる。艶やかに光る黒と紫に塗装され、そして肩に鮮やかな黄色い三本のラインが走っている。戦場で目立つこと請合いの塗装であった。視覚による情報がより重要度が増したミノフスキー粒子散布下に置いて、エースパイロットや隊長達への角飾りやパーソナルカラーとエンブレム等の施工は、味方へは憧れと勇気を敵へは心理的圧迫と恐怖を与える事となった。しかし、同時に敵兵の敵愾心を煽る事も確かで有り、敵の攻撃がエース機や隊長機に集中する事が有った。この三人組【黒い三連星】はその事を逆手にとって自身達に敵の注意を集中させる事で味方への攻撃を減らすと言う。良く言えば豪胆な悪く言えば無茶な戦い方をしてきた。そして確かに彼等の居る部隊の損耗率は他の部隊と比べ低く抑えられていた。

 

「そうだな・・・・よし!俺達も行くか!」

 

「おう!」

 

「連邦の野郎を宇宙から蹴り出してやるぜ!」

 

三人は特注品のヘルメットを被りコクピットに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国軍第一艦隊旗艦グワジン級戦艦【グワジン】艦橋

 

「閣下、モビルスーツ隊の配置完了しました」

 

共和国軍総司令ランドルフ・ワイゲルマン大将は参謀長の報告に首肯く。

 

「敵情は?」

 

「我が艦隊の正面、やや左翼方面に展開中です。一部が分離、三十隻がルウム宙域から離脱しました」

 

メインモニターに分離した艦隊の情報が映し出される。

 

「小惑星に向かう航路か、追撃は・・・・無理だな」

 

「はい、敵艦隊本隊が殿軍を務めている様です」

 

分離した艦隊の後背を守る様に密集して陣を敷いている。モビルスーツを警戒しての事か対空に強い陣型だった。

 

「まるで古代のファランクスだな。ふむ、小惑星防衛隊に通達は?」

 

「既に敵艦隊追撃の情報を通達しました」

 

「宜しい、では此方も始めようか、全軍戦闘体制に移項せよ」

 

「ハッ!全軍戦闘体制に移項!」

 

命令一下、オペレーター達が各隊に通達して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦宇宙軍コロニー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【ホレイショ・ネルソン】

 

「共和国艦隊動き始めました!」

 

「来たか」

 

興奮気味のオペレーターの声を聞きながらワイアットは冷静にメインモニターを眺める。共和国艦隊から見て左翼側に纏まっている連邦艦隊に対して共和国艦隊は右翼側の艦隊を連邦艦隊の側面に移動させ始めた。このまま移動を続ければ逆L字の様な形になる。連邦艦隊に対して十字砲火を浴びせる気だろう。

 

「艦砲射撃で此方の陣型を散らしてからモビルスーツで止めを刺すつもりだろうな」

 

「しかし、敵は最初から随分と大胆に動きますな」

 

「此方の陣型を見ての事だろうが・・・・」

 

連邦艦隊が密集している為に機動が制限されていると判断したのだろう。だが

 

「勝負を焦ったな。敵艦隊の連接点を衝く!全艦最大船速!」

 

あろうことか、連邦艦隊は密集したまま加速を始めた。共和国軍は知らない事だったがコロニー駐留艦隊司令グリーン・ワイアット提督は連邦宇宙軍で最も艦隊統制能力に優れた指揮官だった。ワイアット提督指揮の元、連邦艦隊は一糸乱れぬ艦隊機動を取っていた。

 

「突撃!!」

 

連邦艦隊は一個の塊と成って共和国艦隊の一点に襲い掛かろうとしていた。



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ルウム会戦(3)

共和国軍第三艦隊旗艦グワジン級戦艦【グワデン】

 

「敵艦隊加速!我が艦隊に急速接近!」

 

レーダー担当のオペレーターの悲鳴の様な報告が艦橋に響く。その声に乗組員達が騒然となる。

 

「落ち着け!!戦場で敵が来るのは当たり前だ!」

 

艦隊司令ダグラス・ローデン中将は連邦艦隊の予想外の行動に混乱した艦橋の乗組員達を一喝した。不安そうな顔をした乗組員達を見渡す。そして浮き足立った乗組員に渇を入れる為に強い口調で言い放った。

 

「敵は我が艦隊に突っ込んで来たのでは無い、虎口に飛び込んで来たのだ!!」

 

ローデンの言葉に乗組員は落着きを取り戻し始めた。

 

「全艦に通達、砲撃戦の準備をさせよ!ビーダーシュタット中佐の直援モビルスーツ隊にも伝えろ。乱戦になる可能性が有るぞ!」

 

ローデンの命令を聞きオペレーター達は指揮下の部隊に命令を伝達して行く。

 

「全艦に通達、砲撃戦用意」

 

「モビルスーツ隊は近接戦に備えよ」

 

味方の部隊の動きがメインモニターに映し出される。両翼の艦隊が敵艦隊の側面に回り込むために機動している。

 

「よしよし、他の味方艦隊も敵を包囲する動きをしているな」

 

通信も無しに艦隊が同じ目的のために行動する。このまま推移したならば連邦艦隊を射程に収めるのにそう時間も掛からないだろう。

 

「敵艦隊よりミサイル多数!数五百以上!」

 

連邦艦隊よりミサイルが全方位にばら蒔かれた。ミノフスキー粒子散布下に置いて長距離からのミサイル誘導はほぼ無力化されて久しい。しかし数が数のために艦隊には多少の脅威にはなるだろう。

 

「迎撃開始。全て落とす必要は無い、当たりそうな物だけ落とせば良い」

 

各艦のメガ粒子砲が火を吹く、ミサイルに光の矢が降り注ぐ、ミサイルは次々と落とされて行く。だがその時、妙な事が起こった。ミサイル群が艦隊に到達する前に全弾自爆したのだ。

 

「何が起こった!?」

 

オペレーターが機材を操作して状況の確認を急ぐ。

 

「・・・・ッ!メガ粒子ビームの拡散無力化を確認!対ビーム粒子です!」

 

対ビーム粒子は共和国軍でも制式化された技術だったが生産性に難が有り個艦防御を意識した装備としている。ここまでの集中運用は見越していなかった。

 

「何!?・・・・しまった!」

 

報告を聞きローデンはほぞを噛む。共和国軍の艦艇はミノフスキー粒子散布下の戦闘を意識してミサイル等の誘導兵器は重視せず、殆どの艦がメガ粒子砲を主武装としている。ドロス級とグワジン級は対空砲に至るまでメガ粒子砲のみを装備しており、ザンジバル級等は大型ミサイルの発射管を費用対効果に難が有るとしてメガ粒子砲に換装してしまっている。現在共和国軍でミサイルを装備している戦闘艦はムサイ級とティベ級のみになっている。それに比べ連邦宇宙軍の戦闘艦はレバント級を始めとしてサラミス級もマゼラン級もミサイルを装備している。

 

「ムサイ級とティベ級を前に出せミサイル攻撃を開始せよ!確実に乱戦になるぞ!各艦は近接戦闘用意!」

 

(ビーダーシュタット中佐、頼んだぞ)

 

ローデンは優秀な指揮官で有りエースパイロットでもある、歳の離れた友人の顔を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦宇宙軍地球軌道艦隊旗艦マゼラン級戦艦【タイタン】

 

「敵艦隊よりミサイル攻撃」

 

「迎撃!」

 

「対応が早いな」

 

先程から共和国艦隊の素早い行動にティアンムも思わず唸ってしまう。

 

「厄介ですな、此方の被害が増えてしまいます」

 

参謀の言葉に首肯く。

 

「うむ、しかし、我々も始めから無傷で勝とう等思って居ない。全艦に下令【肉を切らせて首を獲れ!!】」



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ルウム会戦(4)

連邦宇宙軍ルナツー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【アナンケ】

 

ミサイルが艦橋のすぐ横も掠める様に通りすぎていった。艦橋の乗組員達が悲鳴を上げる。

 

「危っ!対空砲弾幕薄いぞ!ボール隊は迎撃どうした!」

 

艦長の怒号が飛ぶ中、カニンガンは押し黙ったまま思考を巡らせていた。今回の作戦の目的、ルナツーを守り、艦隊も守る。敵艦隊の足止めを行い小惑星攻撃艦隊の後背を守り、かつ主力艦隊の被害を抑えてルナツーまで撤退しなければならない。艦隊が有っても補給や整備のための拠点が無ければ艦隊を維持が出来ない。ルナツーを防衛出来たところで連邦宇宙艦隊が全滅しては意味がない。何とも困難な作戦だった。

 

(それでもやるしか無いか・・・・)

 

「ビーム攪乱幕の減衰率はどうか?」

 

「ハッ!現在減衰率55パーセントです」

 

カニンガンは顎を一撫でして指示を出す。

 

「宜しい、20パーセントを切ったら報せろ」

 

「了解!」

 

『艦橋へ、此方は砲術科!砲撃準備良し!何時でも撃てます!と言うより早く撃たせろ!』

 

「貴様!なにをッッ!」

 

いきなり通信に割り込んで来た砲術長に怒鳴ろうとした艦長をカニンガンは手で制す。

 

「砲術長、司令のカニンガンだ」

 

『ッ!!ハッ!閣下』

 

通信越しにも緊張が伝わって来る。

 

「君らの仕事はまだ先だ。なに焦る事は無い」

 

『しかし!』

 

「決定打を君らが撃つのだ!」

 

息を呑むのが分かる。実際ミサイル攻撃は共和国艦隊に被害を余り与えていない、ミノフスキー粒子のせいでミサイル自体の誘導性能が低下しているのも有るが、敵艦隊の直援モビルスーツ隊が効果的にミサイルを迎撃しており敵艦への直撃を防いでいるためだ。やはり決定的なダメージを与えるにはメガ粒子砲による攻撃が必須だった。

 

「だからもう少し辛抱してくれ」

 

『ハッ!!了解であります!!』

 

砲術長は興奮気味の声を上げ通信を切る。

 

「提督!宜しいのですか!?」

 

艦長が不満を溢す。

 

「すまん、艦長の職責を奪った形になってしまった。しかし、劣勢の時はあのぐらい跳ねっ返りの方が頼りに成るものさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦宇宙軍コロニー駐留艦隊所属マゼラン級戦艦【ジョージ・デューイ】

 

ミサイルが左舷に直撃して艦が激しく振動する。通路で火の手が上がる。

 

「うわ!もうダメだ!」

 

メガネをかけた若い乗組員が悲鳴の様な声を上げ、頭を抱えてうずくまる。

 

「戦艦が簡単に沈むか!!」

 

ベテランらしい角刈の乗組員が叫ぶと同時に若者の胸ぐらを掴み乱暴に立たせた。今だに体を震わせているのを見て、顔に平手打ちをかます。

 

「おい!確りしろ!死にたくなければ手を動かせ!」

 

「は、はい!」

 

若い乗組員オスカ・ダブリンは何とか気を取り直し消火作業を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦宇宙軍地球軌道艦隊所属第九機動戦隊ボール十六番機

 

砲から撃ち出された対空散弾で迫り来るミサイルを撃ち落とす。爆発と共に撒き散らされた破片が機体の装甲に当たり、コクピット内にガンガンと音が響く。

 

「ヤバい!ヤバい!」

 

コクピットに収まった恰幅の良いパイロットは冷汗を流しながらボールの貧弱な装甲が破片を弾いてくれる事を祈った。瞬間、警報が鳴る。

 

「のわ!!なんだ!?」

 

機体に異常かと肝を冷やした。モニターには砲弾の残りが後わずかと警告表示されていた。

 

「クソ!脅かしやがって!!」

 

モニターをぶん殴る。

 

『リュウ、リュウ・ホセイ軍曹、応答しろ』

 

隊長機からの通信に慌てて応答する。

 

「此方、リュウ、隊長殿、何でありますか?」

 

『お前の機体、残弾が少なくなっているはずだ。今のうちに補給に戻れ』

 

「了解であります」

 

これで一息着けるとホッとする。

 

『それから搭載機器は丁寧に扱え、機着長にドヤされるぞ』

 

「ハッ、申し訳ありません!」

 

返事をしながら乱暴にフットペダルを踏み込みスラスターを噴かし母艦に帰艦する。

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦宇宙軍ルナツー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【アナンケ】

 

「提督、ビーム攪乱幕の減衰率20パーセントを切りました」

 

「良し!主砲発射用意!ミサイル発射管は対ビーム粒子弾装填、メガ粒子砲の一斉射と同時にビーム攪乱幕の第二弾発射だ!」

 

命令を各艦に通達して行く。

 

「砲術長、待たせたな。準備は万端かね?」

 

『ハッ!何時でもどうぞ』

 

敵味方の艦隊同士の距離が縮んで行く。カニンガンはタイミングを計って命令を下す。

 

「撃て!」

 

『待ってました!!』

 

光の矢が一斉に共和国艦隊に降り注ぐ。




熱中症に気を着けましょう。室内だからと気を抜いたらダメ本当に・・・・


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攻撃

地球連邦宇宙軍小惑星特別攻撃艦隊サラミス級巡洋艦【カンバーランド】

 

地球連邦宇宙艦隊本隊から分離してルナツーへ衝突する進路をとる小惑星追撃の任務に就いたサラミス級の一隻、その艦橋で双眼鏡を覗いていた筋肉質で大柄の士官が声を上げる。

 

「艦長、目標目視で確認できました」

 

副長の言葉に艦長のエイパー・シナプス中佐は双眼鏡を覗き前方を確認する。今まで艦隊から見て地球の影に隠れていた小惑星の全貌を確認した。レーダーの索敵能力が低下している現在、巨大な小惑星はレーダーより先に目視で確認出来た。

 

「やはり大きいな、攻撃地点までどれ程か?」

 

「後、二十分程で到達します」

 

シナプスは航海長の報告を聞き顔を顰める。

 

「妙だな・・・・」

 

「何の事でしょう?」

 

怪訝な顔の副長に答える。

 

「敵の防衛部隊と遭遇が無いのが気になる」

 

「小惑星に張り付いて居るのではないでしょうか?」

 

「それにしても前哨も確認出来ないのはおかしい」

 

シナプスは顎に手を当て考える。艦隊本隊からこの攻撃艦隊が分かれ小惑星に向かったのは敵も把握しているはずだ。何の対策も取っていないとは考えられない。

 

「旗艦に通信、敵襲に対する警戒体制を要請する。とな」

 

 

 

 

 

 

 

 

地球連邦宇宙軍小惑星特別攻撃艦隊旗艦サラミス級巡洋艦【エムデン】

 

「核攻撃は小惑星右側に集中する。このポイントだな」

 

モニターに写し出された小惑星の映像の一部をポインターでしめす。

 

「敵防衛部隊の推定戦力は一個艦隊、第二艦隊と推測されます」

 

臨時的に攻撃艦隊の旗艦の任務に就いているエムデンの艦橋には臨時で艦隊司令官に任命されたゴドウィン・ダレル准将と参謀のジョン・コーウェン大佐が此からの戦闘についての最終確認を行っていた。その時、エムデン艦長が報告を上げる。

 

「カンバーランドより通信が有りました。【敵襲に対する警戒体制を要請する】との事です」

 

「ふむ、哨戒機は飛ばしているが、どう考えるかね?コーウェン大佐」

 

「ハッ、・・・・言われて見れば確かに今まで敵影を見なかったのは不自然です。採用の価値有りと愚考致します」

 

「では哨戒機の数を倍にッ!!」

 

ダレルが命令を下す直前で激しい振動と共に艦内に警報が鳴り響く。

 

「何事だ!!」

 

艦長の問に副長が焦った様子で報告する。

 

「攻撃です!僚艦ラ・グロワールが轟沈!!」

 

「敵の位置と数は!?」

 

「真後ろ!六時の方向!」

 

コーウェンの声に反応して機材を操作していたレーダー担当のオペレーターが更なる報告を上げる。

 

「モビルスーツ十二機!不明三機!不明の三機は大型の機動兵器と思われます!」

 

「何だと!いったい何処から現れた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国第二艦隊所属第302哨戒中隊隊長機MS-14JG【ゲルググイェーガー】

 

緑の胴体と青い四肢を持つゲルググイェーガーがモビルスーツ隊の先頭を行く。その直ぐ横に赤色の矢じりを思わせる形状の大型機動兵器モビルアーマーMA-06FMM【ヴァル・ヴァロ・フルミッションモード】が並んで飛んでいる。ヴァルヴァロはその巨体に見合った大型メガ粒子砲を撃ち放った。メガ粒子ビームは連邦艦隊最後尾を航行していたサラミス級に吸い込まれる様に当たる。

 

「初弾で命中か、流石だなケリィ」

 

第302哨戒中隊隊長アナベル・ガトー大尉はヴァル・ヴァロに搭乗する戦友のケリィ・レズナー大尉を誉め称える。

 

『機体の性能だ。俺の腕じゃ無い』

 

ケリィの駆るモビルアーマー、ヴァル・ヴァロフルミッションモードは高速モビルアーマー、ヴァル・ヴァロを改造して高出力メガ粒子砲を八基搭載して火力を高め、高出力ブースターを増設して速度も上げた高性能モビルアーマーだった。更にこの機体はブースターに取手が取り付けられておりモビルスーツ四機を高速で運搬できる。ただ高性能な分、生産コストも高くなり第二艦隊には三機しか配備されていなかった。ともかくその高速性能を利用して地球軌道を低空で飛行、小惑星の反対側、連邦艦隊の背後に回り込む事を可能にしたのだ。

 

「良し、連邦艦隊は動揺している。ヴァル・ヴァロ隊の一斉射の後、モビルスーツ隊は全機突入!我に続け!!」

 

ガトーは連邦艦隊に突貫した。



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ルウム会戦(5)

共和国軍第三艦隊第25攻撃機動中隊一番機【ビーダーシュタット専用ゲルググイェーガー】

 

ベージュ四肢と茶色の胴体を持つゲルググイェーガーは90mmマシンガンでミサイルを迎撃していた。

 

『十番艦【アマツォーネ】ミサイル直撃!被害甚大!』

 

「ちっ!全機迎撃のペースを上げろ!艦隊を守れ!」

 

配下の部隊に激を飛ばし、自身もミサイルを迎撃するために90mmマシンガンの空になったマガジンを棄て次のマシンガンを挿入して対空散弾を装填した。その時、コクピット内に警報が鳴る。

 

「何だ!?ッ!!全機回避しろ!!!」

 

言うが早いかシールドを掲げ回避機動をとる。

 

『隊長?何が』ガッジジ・・・

 

反応の遅れた僚機の一機がピンク色のビームに貫かれ爆散する。回避行動をとった部下の中にも直撃は避けることは出来た物の被弾する機体が出てくる。

 

「くっ!」

 

自機も掲げたシールドに直撃をうけ左手首ごと破壊される。時間にして二十秒ほど、連邦艦隊のメガ粒子砲一斉射をうけた共和国第三艦隊は旗艦【グワデン】を含む13隻が大破、撃沈が8隻、他の全ての艦も小破ないし中破という甚大な被害を被った。

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド3【ムンゾ共和国】首都バンチ【ズム・シティ】首相官邸

 

会議室にムンゾ共和国の何人かの大臣が集まりモニターに望遠で写し出されたルウムでの戦闘映像を見守っていた。現在、共和国艦隊は連邦艦隊の攻撃により甚大な被害を出している。何人かは不安気な表情をしている中、ギレンは落ち着いた声で参謀本部から派遣されて来たラルフ・オルバイ大佐に疑問を投げ掛けた。

 

「この状況で連邦軍の狙いは何だ?」

 

「ギレン閣下!何を落ち着いているのです!?我が軍が劣勢なのですよ!!」

 

集まった大臣の一人ダルシア・バハロが凄まじい剣幕で怒鳴る。

 

「我々が焦ってどうする?・・・・賽は投げられたのだ。後は軍を信じて待つ他に有るまい」

 

怒鳴った訳でも無いギレンの言葉の妙な圧力にバハロは押し黙ってしまう。

 

「オルバイ大佐、君の分析を聞かせてくれ」

 

「ハッ、連邦艦隊の狙いは中央突破による戦域離脱だと思われます」

 

オルバイの返答に同席していたサスロが疑問を挟む。

 

「中央突破と戦域離脱、全く逆の事に思えるが?戦域を離脱したければ我が軍と会敵時に反転すればよかったのではないかね?」

 

「突破離脱を行った例は歴史上にも類が有ります。有名所では関ヶ原の合戦での島津の退き口などです」

 

うんうんと頷いているギレン以外、大臣達は関ヶ原や島津と言う聞き馴れない単語に疑問符を上げている。咳払いを一つ入れオルバイは説明を続ける。

 

「それはともかく、我が軍との会敵時、あの時点で反転撤退すれば我が軍が追撃を行い連邦艦隊に大損害を与えていたでしょう。小惑星攻撃艦隊にも分艦隊を派遣出来ました。しかし、突破を謀る事で連邦艦隊はそれを防ぎました。そして軍隊は多勢で有れば有るほど機動力は低くなります。背面に回り込まれた場合にも回頭するだけでも時間が掛かります。まして敵の攻撃で中央から分断された状況なら尚更」

 

「つまりその時間を利用して戦域から離脱する、と」

 

ギレンの言葉をオルバイは肯定する。

 

「しかし、離脱してどうする?」

 

「考えられるのは、二つです。可能性として高いのは月を利用してのスイングバイでルナツーに逃げ込む事。もう一つは可能性は低いですが、本国つまりサイド3を強襲する事です」

 

「サイド3に敵が攻めて来るだと!」

 

「大丈夫なのかね!?」

 

二つ目の可能性を聞いた大臣達が色めき立つ。

 

「可能性は低いと言う言葉が聞こえなかったのかね?オルバイ大佐続きを」

 

それをギレンが一睨みして大臣達を黙らせ、オルバイの話を続けさせる。

 

「ハッ、続けさせて頂きます。本国強襲の可能性が低い理由ですが本土防衛部隊の存在が大きいのです」

 

「しかし、本土防衛部隊の戦力はさほど多くは無いはずだが?主力艦隊を抜いたほどの敵を撃破出来るとは思えないのだが?」

 

「撃破する必要は有りません、主力艦隊の追撃がやって来るまで時間を稼げれば良いのです。数で優勢を確保出来、挟撃にもなりますので態勢的にも有利に立つ事が出来ます。しかし、それを敵将が理解していないとは思えません」

 

そこまで言ってから言葉を句切り回りの大臣達の顔を眺め此所まで疑問が無いか確認した。

 

「ですので敵艦隊の狙いは突破後のルナツーへの撤退だと考えます」

 

「では、本土防衛部隊をその様に移動させた方がよいか?」

 

「いいえ、その必要は無い様です」

 

オルバイはモニターを指差しながら

 

「これで王手です」

 

オルバイは胸を張って言い放った。



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ルウム会戦(6)

地球連邦宇宙軍ルナツー駐留艦隊所属マゼラン級戦艦【コレスタル】

 

「どうした?」

 

「一瞬だけ何かが光った様でして・・・・」

 

艦橋後部に位置する見張り台、そこには多くの観測員が詰めている。ミノフスキー粒子が実用化されて以降、目視での索敵の重要性は否応なしに上がっていた。そのため見張り台には五機の固定式双眼鏡の他に手持ちの双眼鏡を装備した観測員が任務に当たっていた。

 

「どれ、見せてみろ」

 

ベテランの観測員は部下の固定式双眼鏡を覗きこんだ。確かに僅かな光りが点滅を繰り返している。

 

「これは・・・・発光信号!?ブリッジこちら右ウィング六時の方向に信号らしき光りを確認した!!」

 

「更に発光を確認!!」

 

艦橋の指揮所からの返答が帰ってくる前に部下の叫び声が聞こえて来る。急いで双眼鏡を覗きこむ、今度は先程の様な弱々しい光りでは無く強い光り、それも一つの光りからそこから花火の様に広がり何百もの光りが宇宙の暗闇に輝いた。

 

「発砲炎だ!!攻撃を確認!!」

 

瞬間、爆炎が艦全体を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国軍第一機動軍団団長機MS-14JGS【ランバ・ラル専用ゲルググイェーガー指揮官仕様】

 

青いゲルググイェーガーは手に持った弾切れの220mm対艦ライフルを投げ棄て腰にマウントしたビームライフルと90mmマシンガンを其々手に持った。

 

「敵艦隊が混乱している間に一気に突入、乱戦に持ち込む。全機続け」

 

『『『『『了解』』』』』

 

ラルの機体は一気に加速する。それに続いて三百機以上のモビルスーツが一斉にブースターを吹かし連邦艦隊に突撃して行く。その中には通常の塗装の機体の他、パーソナルカラーに塗装された専用機も混じっていた。開戦以降多大な功績上げて来たエースパイロット達だ。ブレニフ・オグス、ノルディット・バウアー、ジョニー・ライデン、エリック・マンスフィールド、シン・マツナガ、ギャビー・ハザード、グレニス・エスコット、共和国のトップエース八人、その八人に及ばなくともエースと呼ばれる多くのパイロット達がこの戦いに参加している。青が赤が黒が白が迅雷が疾風が騎士が死神が現在そう呼ばれる者、後に呼ばれる者が参加している。

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦宇宙軍ルナツー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【アナンケ】

 

「対空弾幕!敵を近付けるな!」

 

「二番艦モスクワ大破!七番艦ダルラン轟沈!」

 

「右舷に被弾、ダメコン急げ!」

 

艦橋内はオペレーター達の悲鳴や怒鳴り声で埋め尽くされていた。

 

「ボール隊は密集、艦を盾にして対空戦をさせろ」

 

カニンガンの命令に参謀がギョッとする。

 

「艦を盾にでありますか!?」

 

「このまま各個撃破されるよりましだ。急げよ」

 

命令はボール隊に伝達された。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国軍第一機動軍団所属MS-14JG【黒い三連星ガイア用ゲルググイェーガー】

 

連邦艦隊全体が混乱する中で未だ統制を失わず頑強に抵抗する艦を見つける。その艦を中心に艦隊が統制を取り戻しつつある。

 

「アナンケか」

 

『カニンガンの艦だぜ』

 

『殺っちまうか?』

 

艦自体の対空砲、ボール隊の射撃で近付く事も危険だが、ここで統制を取り戻されては味方が危険だ。経験の薄いルーキーは特に、三連星のリーダーとしてガイアは決断する。

 

「オルテガ、マッシュ、アナンケにジェットストリームアタックを掛けるぞ!!」

 

『オッシャ!!』

 

『応!!』

 

黒い三連星は何の躊躇も無く濃密な弾幕の中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦宇宙軍コロニー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【ホレイショ・ネルソン】

 

背後から敵モビルスーツ部隊に襲撃されて三十分ほどが経とうとしていた。連邦艦の多くが沈んだ。このホレイショ・ネルソンも被弾して多くの死傷者を出していた。ワイアット自身も頭を負傷して包帯を巻いている。

 

「カニンガン提督の安否は確認できたか?」

 

「未だに不明です」

 

先程アナンケが沈んだと言う情報が上がって来て混乱が起きたが戦場全体が混乱しているため不確定だと断じた。が、ワイアットはカニンガンの生存は絶望的と理解していた。そこに最悪の一報が入る。

 

「軌道艦隊旗艦タイタン撃沈!!」

 

艦橋に衝撃が走る。

 

「ティアンム提督は!?脱出したのか!?」

 

報告を上げたオペレーターは首を横に振り

 

「艦橋に直撃を受け・・・・」

 

ワイアットは力無くシートに座り込んだ。

 

「提督このままでは・・・・」

 

参謀の声に項垂れたままに答える。

 

「全滅か・・・・」

 

事ここに至っては選択肢は二つしかない、徹底抗戦か降伏か、だが

 

「イギリス紳士として不名誉な選択は取れんな」

 

結果はどうあれ戦える戦力を持ちながら敵に降る事の何と不名誉な事か

 

「全艦に通達せよ!!」

 

故にワイアットは命令を下す。

 

「全艦」

 

自らが信じる名誉有る選択をする。

 

「戦闘行動を停止、共和国軍に降伏を申し入れる」

 

この場で最も不名誉な事とは自身の名誉のために兵士達を無駄死にさせる事だ。

 

「やれやれ、二人共面倒事を押し付けて先に逝きおって・・・・」

 

後は生き残った兵士達を故郷に帰すため、敗軍の将の仕事を全うするだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに史上最大にして唯一の宇宙会戦が終わった。



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敗北の空

サイド3【ムンゾ共和国】首都バンチ【ズム・シティ】首相官邸

 

会戦勝利の報を受け、会議室の大臣達は歓喜で沸き上がっていた。ギレンはそんな大臣達を落ち着かせるため声をあげるが、顔には安堵の色が浮かんでいる。

 

「さて諸君、盛り上がっている所で悪いが、未だ作戦が終わった訳では無い。今回の戦いでの被害を把握する必要が有るし、それに捕虜の扱いには十分な配慮が必要だ。オルバイ大佐」

 

「はい、被害は報告を待つ他にありませんが、捕虜の扱いに関しては既にマニュアルを作成、憲兵や警備兵を中心に教育を施しました。更に一般の兵士には捕虜への私刑は厳罰に処すると全軍に伝達済みです」

 

「宜しい、では小惑星のルナツーへの到達時間まで後どれくらいかね」

 

「十五分ほどです。ルナツーへの退避勧告は通達済み、後は衝突を待つだけです」

 

連邦宇宙軍最大の軍事基地ルナツーの破壊、それが今作戦のもう一つの胆である。

 

「それに付いてなのですが、ギレン閣下は本当にルナツーを破壊するおつもりですか?」

 

マハラジャ・カーンがおずおずと発言する。

 

「何か不都合な事でも有るのかね?」

 

「敵艦隊主力が壊滅した以上、通常戦力だけでルナツーの制圧も可能なのではないでしょうか。あの工廠や宇宙港はただ破壊するのは勿体無い様に思うのです」

 

「ふむ、君の言う事も分かるがね……ところでカーン大臣、ルナツーが地球上から見えるのは知っているかね?」

 

カーンは突然の話題の変化に疑問を感じたが、質問に答える。

 

「はい、軌道のタイミングと天気さえ良ければ、ハッキリと目視で見えると聞いた事が有ります」

 

ギレンは首肯くと話を続ける。

 

「そう、ルナツーが現在の位置に曳航されて約二十年間、あれが連邦宇宙軍の象徴となって久しい。そして地球市民はそんなルナツーを見上げて来た訳だ。では、その象徴が砕ける現実を目の当たりにして、地球市民は何を思うのか……彼等は敗北感を味わう事になる」

 

「敗北感ですか?」

 

「そう、敗北感だ。決定的な敗北感を彼等は実感する事になるだろう。連邦政府のプロパカンダなぞ意味を成さ無い。なんせ空を見上げれば、決定的な敗北の証拠が現実として存在するのだからな」

 

「ギレン閣下は地球市民に心理戦を仕掛けると言う訳ですか」

 

大臣達は息を呑む。ギレンはその様子に、今度は満足げに首肯く。

 

「そうだ。地球市民は宇宙で起こった事をどこか他人事の様に思っている節が有るが、彼等自身の目に見える形にする事で現実として印象付けられる。そして過度に敵愾心を煽らない分、直接地球を攻撃するよりも有る意味効果的だ」

 

大臣達は固唾を飲んでギレンの話に聞き入っている。

 

「戦争を有利に終わらせる為にはな、敵国民衆に厭戦気分を与える事だよ」

 

現代の戦争は民衆の支持無しでは継続出来ない。軍を動かすための資金も人員も民衆から得ているのだから、それを無視出来るのはそれこそ超大な権力を持った独裁者だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国軍第二艦隊旗艦グワジン級戦艦【グワリブ】

 

「退避勧告に対するルナツーからの返答は?」

 

キリング・J・ダニカンは副官に確認をとる。

 

「ルナツーからの返答はありません。が、多数の脱出用舟艇の発進を確認しています」

 

「そうか……返答ははじめから期待はしていなかったが、あれだけの規模の基地だ。民間人も多かろう。全軍に通達せよ、脱出を妨害する様な行動は此を堅く禁じるとな」

 

「ハッ、了解であります。……ところで閣下」

 

副官は気不味そうに声をあげる。

 

「先日は申し訳ありませんでした」

 

副官は深々と頭を下げる。

 

「構わない、当然の反応だ。私も君の立場なら君と同じ事を言うと思うしな」

 

「閣下……ありがとうございます」

 

「さて、今は任務に集中するぞ」

 

副官は最敬礼で答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

地球オーストラリア大陸メルボルン郊外住宅地

 

高層ビルが建ち並ぶメルボルンの中心部から離れた、郊外の住宅地。オーストラリア第三の都市の近くに有りながら、ここは古くから人口密度が低く、広い敷地と大きな庭つきの家が建ち、比較的裕福な人々の住む宅地として有名だった。その中の一つの家では、リビングでテレビのニュースを囓り付く様に見ている男の姿があった。

 

『連邦政府は各地で発生している暴動に対して、鎮圧のため地上軍の治安出動を命じたと発表しました』

 

男は深いタメ息をついた。

 

「新年早々物騒なニュースばかりだな」

 

「あなた、テレビばかり見てないで少しは手伝って下さいな」

 

男の妻は洗濯物の入ったカゴを持ち、不平を漏らす。

 

「ああ、すまない」

 

男はソファから立ち上りカゴを受け取る。

 

「ヨナは?」

 

そこで息子の姿が見えない事に気付く。

 

「庭でミシェルちゃんとリタちゃんと遊んでるわ」

 

「またか、ヨナは女の子とばかり遊んでるな、男の子の友達はいないのか?」

 

夫の言に妻は不満そうな顔をする。

 

「あら、あのくらいの子供なら性別何て関係無いわよ」

 

「だが、ヨナももう八歳だ。そろそろ「パパ!!ママ!!」ッ!」

 

その時、息子の悲鳴の様な声が響く。尋常では無い声に男は庭に急いで走る。

 

「ヨナ!!ミシェル!!リタ!!無事か!?」

 

三人の子供達は呆然と立ち尽くしている。ひとまず無事を確認して安堵のタメ息を漏らす。膝を付き息子と目線を合わせる。

 

「ヨナ、あんな声を出して何が有ったんだ?」

 

「パパ、空が……」

 

息子は震える声で答える。

 

「空がどうし……ッ!!!」

 

子供達の見上げる方向に目を向けた男は、驚愕の光景を目の当たりにする。

 

「る、ルナツーが!!」

 

その日、多くの地球に住む人々は目撃した。地球連邦宇宙軍が誇る、最大の宇宙要塞が砕け散る様子を。それは、目を焼く閃光も耳を裂く轟音も体を震わす振動も無かったが、

地球市民の心に大きな衝撃を与えた。



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終戦に向けて



感想、誤字修正ありがとうございます。




地球 南米大陸 連邦軍本部【ジャブロー】

 

自身の執務室でゴップ大将は葉巻の紫煙を燻らせている。

開戦以降、統合参謀本部長として休む暇も無く書類の山と闘っていたゴップは久しぶりの余暇を味わっていた。

 

「閣下、ご休憩のところ失礼します」

 

入室してきたブレン大佐が敬礼する。

 

「構わんよ、それで政府側の代表は決まったのかね?」

 

「ハッ、未だに決定しておりません。現在、緊急で議会が開催されておりますが…」

 

陰鬱な表情のブレンにゴップは肩を竦める。

 

「喧々囂々、纏まらずか?まあ誰も敗戦の責任なぞ取りたくは無いだろうからな」

 

こんな時に責任を取るべき高官達は宇宙に脱出しようとして皆死んでしまった。

もっとも生きていたとしても素直に責任を取っていたとも思えなかったが。

 

「しかし、大将閣下は軍の代表として自ら志願したと聞き及んでおりますが」

 

「上位の者が責任を取るのはあたりまえだ。それに面倒事は早めに片付けておくにかぎるからな」

 

終戦交渉が終了し次第、ゴップは責任を問われ軍の職務を追われる事となるだろう。

 

「政治屋達にも見習って欲しいものです」

 

大佐は不満気に鼻を鳴らす。

 

「そう言うな大佐、政治家は軍隊ほど分かりやすい上下関係は無いからな」

 

とは言え、こうして居る間にも共和国側は終戦を有利に進めるための工作を行っている。

時間を掛ければ掛けるほど交渉が不利になると思うとタメ息を付きたくなる。

口から出かかったタメ息を呑み込み、気を持ち直しゴップは手に持った葉巻を灰皿に置き口を開く。

 

「それで、終戦交渉の代表の事では無いなら何の用かね?」

 

「ハッ、ヨーロッパ方面軍とアジア方面軍から意見具申が有りました」

 

「パウルス大将とライアー中将か…」

 

地上軍の二大派閥を形成する二人の将軍の顔を思い浮かべゴップは眉間に皺を寄せる。

強硬派と知られる二人の意見、内容が容易に想像できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド6 コロニー【リボー】ホテル【カミーチ&マルチェシ】

 

「皆さま、集まった様なので始めさせていただきます。議長は本件の発案を行ったサイド3ムンゾ共和国のコウサク・クロダ氏に勤めていただきます」

 

ホテルに設営された会議室で各サイドの外交官が集まった。

簡素な椅子に座っている外交官の中から一人の男が立ち上り口を開く。

 

「議長を勤めさせていただきます。クロダです。本日はお忙しい中、お集まり頂きありがとうございます」

 

宇宙世紀には珍しい純血の日本人らしい黒髪黒目の男が恭しく頭を下げる。

 

「本日、集まって頂きましたのは、開戦前より我がムンゾ共和国が各サイドの代表者の方々に提案して参りました……宇宙市民連合成立に関する事前協議と言う訳有ります。各サイドにとって有意義な協議と成るよう議長として努めさせていただきます」

 

外交官達は拍手を贈る。

数年前からギレンが提唱し始めた【宇宙市民連合】その名が示す通りスペースノイドのみで形成する政治経済の連合体である。

今は未だ各サイドのコロニー市民にしか参加を呼び掛けていないが、何れは月面都市及び木星船団等の全宇宙生活者に参加を呼び掛けて行く予定である。

 

「なお、宇宙市民連合と言う名称に関しましては仮名でありますので、ネーミングセンスに自信の有る方はぜひともご提案下さい」

 

会議室に笑いが起きる。

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド3【ムンゾ共和国】首都バンチ【ズム・シティ】首相官邸

 

執務室でギレンは秘書が淹れてくれたほうじ茶を啜っていた。

芳ばしいく爽やか香り僅な苦味とほんのりと甘い味をを楽しんでいた。

 

「ほうじ茶ラテは邪道だと思う」

 

「閣下、行けません!その手の話は泥沼化します!」

 

「そうだな…言い直そう。私はラテにするよりも普通のほうじ茶が好みだ」

 

秘書は安堵の息を付く。

その時、執務室の扉がノックされる。

 

「兄上、私です」

 

「キシリアか入れ」

 

失礼しますとキシリアは入室する。

入ってすぐ執務室に立ち込める香りに気づく。

 

「良い香りですね」

 

「ほうじ茶だ。キシリアも飲むかね」

 

「いただきます」

 

秘書に茶を持って来るよう指示すると秘書は頷き退室した。

 

「それで、キシリアが私のところに来ると言う事は」

 

「はい、宇宙市民連合の大枠が決まりました。大体が兄上…失礼、ギレン閣下の思惑通りに進んだ様です」

 

キシリアの言に苦笑いを浮かべる。

 

「思惑通りとは人聞きが悪いな」

 

それに対してキシリアは人の悪い笑みを返す。

 

「兄上は昔から腹黒いところが有りましたからね。今更、言葉を飾っても仕方がないでしょう?」

 

「ひどいな妹よ」

 

二人で声を挙げ笑いあう。

一頻り笑った後、キシリアが切り出す。

 

「しかし、良かったのですか? 宇宙市民連合発足後に共和国軍の指揮権を宇宙市民連合議会に譲渡する等と」

 

「仕方あるまい、我が国が武力を持って他のサイドを圧していると市民に印象を与えては、後々の禍根となるだろう」

 

不公平感を軽視してはいけない、何故なら共和国の独立運動も結局のところ地球市民との不公平感が根っこにあるのだから。

そう不公平【感】、必ずしも実際に公平である必要は無い、公平で有ると感じさせる事が出来れば良いのだ。

 

宇宙市民連合はU.C0085に制式に発足される事に成った。



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番外編【底無しの沼】

U.C0077 サイド3【ムンゾ共和国】首都バンチ【ズム・シティ】ザビ家私邸

 

「…完成だ」

 

ギレンは机の上に置いて有る物を眺める。

これを完成させるために費やした時間を思い出しタメ息を着く。

首相として忙しく働く合間に少しずつ作り上げた。

軽く伸びをして固く成った体を解す。

 

「長かった…」

 

机の上には深緑色のプラモデル1/100、MS-06FZ【ザク改】が立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

【ズム・シティ】首相官邸

 

事の起りは一年前の執務室、休憩中に何の気無しにクラウス・ルーゲンス軍務大臣と雑談をしていた時、たまたま話題に上がった話しだった。

 

「モビルスーツのプラモデル?」

 

「はい、国内の玩具メーカーが制作販売の許可を求めて来ました。軍の広報の一環に成りますし許可しようかと」

 

宇宙世紀に成ってもプラモデルは趣味として一定の需要が有る。

勿論、宇宙ではプラスチックの原料である石油は採れるわけが無いので、トウモロコシ等の植物由来の合成樹脂が使われている。

 

「それは面白そうだな、販売したら私も買おう」

 

ギレンの前世はガンダムオタクで有った。(今世でも立場を利用して自宅に訓練用モビルスーツシミュレーション筐体を私用に置くほどにはオタクだった)

ガンプラも何体か作った事も有る、とは言えそんな凝った物を作る訳では無く、いわゆる素組と呼ばれるただ組み立ただけの物だった。

久し振りにガンプラを作ってみようと軽い気持ちで有った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約半年、モビルスーツのプラモデルが販売された事を知ったギレンは通販で買い求めた。

配達された商品を見てギレンは違和感を覚える。

 

「何だ…これは…」

 

まずパッケージとは違う、そこに写っているのはスタイリッシュにポージングを決めるモビルスーツでは無く、やたらと渋い絵柄で、これまた渋い顔のパイロットがコクピットから身を乗り出し整備員に指示を出している。

そして何より中身が違う、単色で色を塗る事を前提としており、何よりパーツが細かい、その数千以上、まず素手で組み立るのはまず不可能、ピンセットとルーペが必要だろう。

バンダイのガンプラを買ったつもりが、間違って海外メーカーのミリタリー物プラモを買ってしまった様な心持ちだった。

とは言え買った物をそのまま詰むのはもったいない。

その日から仕事の合間を縫って少しずつ組み上げていった。

 

「こんな愛想の無い説明書始めてだ…」

 

大量のパーツのわりに説明書は四つ折りの紙が一枚、字が小さい上に分かりずらい。

 

「あれ?パーツが無い」

 

細かいパーツは直ぐに見失う。

 

「あぁ、パーツが余った、こっちは足らない」

 

同じ様な形のパーツは一度混ざると見分けられ無い。

 

 

 

そして今日、数ヵ月の苦労の末にプラモデルが完成した。

完成したザク改を眺めて満足気に笑う。

 

「ふふ、我ながら綺麗に出来ているではないか」

 

一頻り眺めた後でうめく様に呟く。

 

「だが、プラモデルはもう十分だな…」

 

一つ作るのに酷く疲れた。

完成品を飾り棚に置き部屋を出る。

 

 

数日後、ネットでニュースを見ていたギレンの目に一つの記事が止まる。

 

「MS-05QザクⅠQ型のキット化だと!?何とマニアックな…」

 

数分後、ネットショッピングで注文していた。

ギレンは一度嵌まると抜け出せない沼に嵌まってしまっていた。



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紫煙

二月五日 地球 中央ヨーロッパ 旧スイス連邦 ジュネーブ

 

かつて多くの国際機関の本部が有ったこの都市は、地球統一政体が設立された現在でも要地としてあり続けている。

そんな都市に地球連邦軍のヨーロッパ方面軍本部が置かれている。その本部施設内部の会議室は紫煙に包まれていた。十人の高級将校達が葉巻や煙草などを燻らせながらテレビを眺めている。

画面では北極基地にて行われている平和協定の調印式が生中継され、連邦の議員が笑顔で共和国首相ギレン・ザビと握手を交わしている。

 

「不快だな……」

 

連邦地上軍ヨーロッパ方面軍司令長官パウルス大将は忌々し気に呟くと葉巻の頭を乱暴に噛み千切り火を着けた。

 

「パウルス、カッターを使え。折角のパルタガスが勿体ないぞ」

 

シガーカッターで葉巻の頭を切りながら方面軍参謀長ドルトン中将が軽口を叩く。上官に向かっての言葉使いではなかった。

 

「ふん、お上品なことだな気取り屋め」

 

が、パウルスは気にした様子も無く軽口を返し肩を竦める。二人はただの上官と部下の関係では無く士官学校の同期で長年の友人でも有った。情熱的で人情家で兵士達の信望も厚いパウルスと冷静で時として冷徹な判断で兵士達から恐れられるドルトン、真逆な二人は不思議と気が合った。

 

「しかし、協定内容が内容です。不快と思うのも分かります」

 

幕僚の一人ボダン准将が苦々し気に顔を歪ませ吸っていた煙草を灰皿に押し付ける。

サイド3を始め各サイドを独立国家と認める事、連邦宇宙軍の規模縮小と規制、月面都市及び木星船団の中立化、核、化学、生物兵器の使用の禁止(核は動力源としては可)、今回の戦争終結までに発生した互いの被害に対する請求権の破棄、その他諸々、共和国側の要求を連邦政府は全面的に飲む形に成った。代わりに地球に対する質量兵器使用を全面的に禁止という連邦政府の主張を認めさせる事は出来たもののやはり連邦に不利な協定であった。

パイプを咥えた老提督、大西洋第二艦隊司令フォード中将が口を開く。

 

「だが当初の想定通りに事は進んでおる……遺憾な事じゃがな」

 

その時、ノックと共に秘書官が入ってくる。

 

「閣下、準備が整いました……」

 

秘書官は立ち込める煙りに無言で換気扇のパワーを最大にする。

 

「うむ、では我々も当初の予定通り行動を開始する」

 

パウルスは立ち上がる。

 

 

 

パウルスは壇上に上がり回りを見渡す。連邦の兵士達が緊張した面持ちでパウルスに注目している。

この様子複数のカメラが設置され全世界に放映される。

パウルスは軽く息を吐き、マイクに向かって口を開く。

 

「この戦いは一部の人間の私利私欲から始まった。それは共和国のザビ家────では無い!!自らの利権のみを守ろうとする連邦政府高官達こそこの戦争の真の原因なのだ!!先程、地球連邦政府とムンゾ共和国の間で平和協定が結ばれた。これにより戦争が終結した。この協定締結で平和が訪れるのだろうか?──否!否である!!…U.C0022年、政府は紛争の消滅を宣言した。だが、紛争の火種が完全に消滅した訳では無い。連邦の弱体化は各地の民族主義を活発化させるだろう。私の父は連邦政府初代首相リカルド・マーセナス氏と共に地球連邦立ち上げのために戦い、マーセナス首相亡き連邦成立後は体制の維持のため分離主義者達と戦い、その戦いで戦死した。連邦のため戦い死んで行ったのは私の父だけでは無いだろう。連邦維持のため多くの人々が犠牲になった。だが、今の連邦政府高官はその犠牲に唾を吐きつけ、保身を謀ろうとしている。この暴挙に我々は立ち上がる!!我々の父祖の犠牲を無駄にしないため、宇宙で散った仲間達の思いを受け継ぐため、我々の未来、子供達に平和な世界を遺すために───」

 

「我々は地球連邦政府に対して宣戦を布告する!!!」



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ギレンの帰還

地球 南極基地

 

平和協定が結ばれたこの場所では締結を記念して晩餐会が開かれていた。

コロニーでは滅多に手に入らない地球産の天然の食材や有機農法で作られた食材を利用した高級コース料理が次々と出されている。ギレンはメインの魚料理を楽しんで───いなかった。

対面の席には昨日まで不倶戴天の敵だった連邦の高級官僚達、此方側の席にはキシリアを始め外交戦のプロ達が並んでいる。食事の最中に交わされる会話の端々に何らかの思惑が有るようで正直料理を楽しんでいられなかった。

 

(これなら道端のスタンドのホットドッグの方がマシだな、まあ二人に叱られるからやらないけども……)

 

ズム・シティでその様に食事を済ませてたら、メディアに取り上げられサスロとキシリアに叱られた事を思い出した。

その時、対面の連邦議員に秘書らしき人物が耳打ちすると議員の顔色が青く変わる。

 

(浮気でもばれたのかな?)

 

「ギレン閣下、問題が発生しました」

 

ギレンの秘書官が耳打ちしてくる。

 

「私は浮気どころかまだ独身だぞ?」

 

「は?」

 

秘書官は困惑する。

 

「なんでもない、それでどうした?」

 

「は、はい、連邦内部でクーデターが発生しました」

 

今度はギレンが困惑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

地球 南極上空

 

クーデター発生の報告を受けて晩餐会を早々に切り上げられ、ギレンは軌道往還シャトルの準備を指示、軍には足の早い船と護衛の派遣を要求した。そして二十分後にはシャトルで地球軌道に上がっていた。

 

「迎えの船は?」

 

「軍から輸送艦が派遣されました。LPAガランシェールです」

 

秘書官が指差す方向に三角錐状の独特な形の船舶が待機して、二機のゲルググが周辺を警戒している。

 

後部のハッチからシャトルを受入れ固定、乗り込んでいたギレンとキシリア、外交官達がガランシェールに乗り移る。

 

「ガランシェール船長、スベロア・ジンネマン大尉であります」

 

ガタイの良さと髭は変わらないが原作よりも若々しいジンネマンが敬礼と共に待ち受けていた。

 

「ギレン・ザビだ。宜しく頼むキャプテン」

 

「ハッ、皆さん無事にサイド3まで送り届けます」

 

「早速で悪いが本国と通信したいのだが」

 

「通信室へ、自分は指揮が有りますので乗組員に案内させます。何か有りましたら彼にお伝え下さい」

 

「解った。ありがとう」

 

ギレン達を見送たジンネマンは顎をなでる。

 

「キャプテンか……」

 

響きを気に入ったジンネマンは以後、昇進して船長の任を解かれた後も部下にキャプテンと呼ぶ様に命令では無く個人的な願い事として言ったそうである。

 

 

 

ガランシェール通信室でギレンが本国に残った官僚達と現状の確認を行っていた。ルーゲンス大臣が情報部から上がって来た報告書を読み、ギレンに伝える。

 

『クーデター派は地球統一軍を名乗っています。名前通り強い連邦による地球圏の再統一を掲げています。指導者はビルヘルム・パウルス大将、ヨーロッパ方面軍司令長官です。現在、ヨーロッパ方面全軍、大西洋艦隊第二艦隊第三艦隊が参加を表明しています』

 

「地球連邦軍全体が参加している訳では無いのだな?」

 

『現状では北アメリカ方面軍、南アメリカ方面軍、大西洋第一艦隊が反クーデターを明確に表明しています。しかし、各地では混乱が発生しており正確に敵味方を区別出来ていない様です。特にアジア方面軍は各軍で戦闘も発生している様です』

 

「なるほど、国内の反応はどうだ」

 

今度はハーン大臣が報告を上げる。

 

『国民の大部分はまだ状況を認識仕切れていない様ですが、一部ではこれを期に地球に侵攻すべしと言う声も上がっています』

 

ギレンは思わず額に手を当てる。

 

「何としても好戦論を抑えろ」

 

現状ムンゾ共和国軍は宇宙での空間戦闘に特化している。陸戦機や水陸両用機などの局地戦機や各種航空機、各種研究など地上戦に掛かるリソースを宇宙兵器開発や研究に振り分けた結果として、連邦宇宙軍より技術的戦術的優位を保つ事が出来ていた。戦車などの車両は持っているがコロニー内部や月面での戦闘を想定した物で有り地球の多様な地形に対応出来る物ではなかった。

そんな状況で地球侵攻など行っては苦戦どころか返り討ちになる危険がある。

 

「それに、混乱の渦中に自ら飛び込む必要は無いだろう」

 

『では今回のクーデターには不干渉を貫くと?』

 

「状況次第だな、クーデター派が地球圏統一を掲げている以上、彼等に連邦の中核になられたら困るしな……ルーゲンス大臣、地上戦の準備にはどれ程の期間がいるかね?」

 

『そうですな………数ヵ月ではとても…編制、練兵、補給、必要兵器の開発など考えれば二年以上掛ります』

 

「ふむ……もし、もしも連邦軍の協力を得られたらどうかね?」

 

ルーゲンスは驚きながらも考える。

 

『それならば、協力の内容によりますが、全面的な物で有れば今年中にも可能かも知れません……しかし…先日まで戦争をしていた相手に協力などするでしょうか?』

 

「それこそ状況次第と言ったところか、地球統一軍に追い込まれれば我々を頼ざる得ないだろう。精々、足下を見てやるさ。それまで連邦が大敗けしないように特殊部隊によるハラスメント(嫌がらせ)攻撃に徹するとしよう」

 

ギレンは底意地悪い笑みを浮かべた。



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番外編【設計はギニアスが一晩でやってくれました】

 

サイド3 【ムンゾ共和国】26バンチ【アキレス】国防技術開発本部

 

国防技術開発本部モビルスーツ開発部門、その名が示す通り共和国軍のモビルスーツ関連技術の開発や改良を行う軍務省傘下の組織である。だが、この組織は一部の人々から変態技術者の巣窟と認識されていた。

 

「はい、と言う訳で地上用モビルスーツの開発が発令されました。皆さん何か案はありますか?」

 

「やっぱり連邦からかっぱいできた技術は使いたいですよね」

 

先のブリティッシュ作戦の結果、破砕されたルナツーの破片をサイド3まで曳航、破壊された施設からリバースエンジニアリングを行い、脱出した技術者を囲い込み軍事技術の取得を行った。

 

「モビルスーツの装甲にルナチタニュウム合金を使いましょう。理論上、耐弾性は二倍、重量約30パーセントの軽量化でアジリティの向上も見込まれます」

 

ルナチタニュウム合金、ルナツーでのみ精練されていたこの合金は連邦が戦略物資に指定しており共和国は手に入れる事が出来なかったが、先の事情の通り共和国でも精練が可能となっていた。

 

「この、空冷式の反応炉は地上では有用じゃないか?宇宙じゃ廃熱の問題で出力を抑えなきゃ行けなかったが、これなら出力の向上は勿論、作戦行動時間の延長も可能だ」

 

真空の宇宙でのモビルスーツの熱核反応炉の廃熱は冷却装置の小型化が難航、より正確に言えば小型化自体は成功したが戦闘に耐えうる物ではなかった為に断念した。なのでモビルスーツの廃熱は発生した熱を流体パルスを通して各部装甲に分配して一部は姿勢制御バーニアの噴出剤ごと廃出、残った熱を基地や母艦の設備で冷却を行う物になっている。その都合上、反応炉出力や作戦行動時間にどうしても制限が掛かってしまう。

 

「モノコック(外骨格)はもう限界だろう。我々の技術と連邦の素材が有ればかねてより研究されていたムーバブルフレーム(内骨格)の実用化も可能だ!」

 

「ムーバブルフレームは不確実な新技術、実績の有るモノコックの改良に留めるべきだ!」

 

「このミノフスキークラフト、モビルスーツに積めませんかね?展開能力の強化に繋がります」

 

「モビルスーツに積むには大きすぎるだろ。展開能力強化ならむしろ小型化して輸送機やサブフライトシステムに乗せる方が実用的だろう」

 

「水陸両用、水陸両用だ!!地球の表面の七割は海だ。制海権の確保と海からの揚陸の為に水陸両用モビルスーツが必要だ!!」

 

「いや、半端な水陸両用より完全な水中用モビルスーツと陸戦モビルスーツの揚陸用装備の開発して分業すべきだ」

 

喧々囂々

 

 

 

 

「と言う訳で昨日のモビルスーツ開発部の会議の結果、提案仕様と其を踏まえた新型モビルスーツの設計図となります」

 

「昨日の今日だぞ!?随分と早いな!!」

 

国防技術開発本部長執務室、アルベルト・シャハト技術中将の元にギニアス・サハリン技術少将が訪ねて来たと思ったら辞書程も厚みのある仕様書と設計図を渡された。

 

「死ぬ気で仕上げました。本当に好きな事なら余裕です」

 

徹夜明けの血走った目を爛々と輝かせギニアスは言い切る。

 

「お、おう」

 

正直ドン引きである。



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北米進攻

 

地球 ニューヤーク 飲食店【ボウデンズ・ダイナー】

 

早朝、西暦の頃から経営され地域住民から愛され続けた古き良きダイナー、昔ながらのステンレス製の細長い形状の店、古くさい曲がこれまた古くさいジュークボックスから流れている。使い古された鐘の音と共にドアが開き馴染みの客が入店する。

 

「いらっしゃい警部」

 

「おはよう、リジー」

 

ニューヤーク市警の初老の刑事ゴードン警部は馴染みの店員のリジーと挨拶を交わす。

 

「いつもの?」

 

「ああ、頼む」

 

「レタスとトマトのサンドイッチ、チーズ抜きとコーヒーは砂糖抜きミルク少なめね」

 

注文を書き込み、引っ込もうとした店員を呼び止める。

 

「やっぱり、チーズも入れてくれ」

 

「良いの?」

 

「女房には内緒にしてくれ」

 

リジーは笑いながら厨房に注文を通すとコーヒーの淹れ始める。

 

「疲れてるみたいだなゴードン」

 

「あんな宣言が有った後だからな署長も市長も皆ピリピリしてる。それに昨日の夜にバカなガキが触発されて立て籠り事件を起こしたりするもんだからあまり寝て無い」

 

顔馴染みの客と最近の情勢などを話している。その時、ガタガタと店内の調味料やインテリアが震え出す。

 

「地震か?」

 

揺れはしだいに大きくなり、外から大きな音が近づいてくる。

 

「様子を見てくる。皆、外に出るなよ」

 

ゴードンは脇のホルスターから愛用のリボルバーを抜き外に出る。

 

「…どうなってるんだ!?」

 

ニューヤークの市街地を轟音を響かせながら走っている物を目撃する。

暫し茫然としていたが急いで無線で本部に呼び掛ける。

 

「本部!!こちらゴードン警部!!市街地で戦車が走ってる!!どうなってるんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ニューヤーク市警本部

 

『こちらパトロール116、セントラルパークを装甲車が走り回ってる!!』

 

『パトロール088、タイムズスクエアを戦車が走って!?あぁ俺のパトカー踏み潰しやがった!!』

 

『アッパー・ニューヤーク湾に戦艦が浮いてるぞ!!』

 

各地の警官達からの悲鳴の様な通信に市警本部は始まって以来の混乱に陥っていた。その様子に署長は努めていつも通りの落ち着いた声で命令する。

 

「各員は現地の最上位の者が指揮を取り市民を最寄りの避難所に誘導を開始、市民の安全を最優先にしつつ情報を収拾、現状を把握する」

 

その声に多少の冷静さを取り戻したオペレーター達は各所に指示を飛ばして行く。

 

「エッシェンバッハ市長と連絡は取れたか?」

 

「市議会に出席中だった様ですが、議会場と連絡が取れません」

 

「仕方ない、今は出来る事をやるだけだ」

 

ニューヤーク市警の長い一日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

ニューヤーク市 マンハッタン ブロードウェイ

 

地球統一軍第301戦車中隊第1小隊の小隊長ハーマン・ヤンデル中尉は61式戦車のキューポラから身をのりだし周囲に目を配りながら四両の戦車で市庁舎に向かっていた。

 

『市民の皆さんは建物から出ないで窓からは離れてください。我々地球統一軍は皆さんの敵ではありません』

 

戦車に据え付けられたスピーカーから録音された音声がリピート再生されている。民間人の多く居る市街地を進撃しながらも間違っても民間人を戦車で引き殺す様な事が有っては為らない。『地球統一軍の目的は連邦政府高官の粛清と新しい強い指導者の下で地球圏の再統一で有り侵略では無い』と言う建前上、当然の配慮である。

 

「隊長、前方に防御陣地」

 

前方に双眼鏡を向ける。

確かに警官隊がバリケードを張っているが、とてもお粗末な物で防御陣地などと言える代物では無かった。一部の警官はポリカーボネート製のシールドを構えている。

 

「先ずは警告、その後解散しなければ威嚇射撃を行う」

 

スピーカーのマイクを取り警官隊に警告を発したが警官達は動こうとしなかった。

 

「職務熱心な事に感心するべきか、融通の利かない事に呆れるべきか」

 

タメ息を付く

 

「同軸機銃で威嚇射撃を行う。当てるなよ───撃ェ!!」

 

搭載された機銃が火を吹く、警官隊の頭上や直ぐ前の地面に着弾する。警官隊は雲を散らす様に逃げ出す。

 

「良し、全車前進」

 

そのまま進撃を再開した小隊は別途進出していた歩兵部隊と合流、市庁舎を制圧した。

 

 

その日の内にニューヤークは完全に統一軍の占領下に置かれた。同日、北米の東海岸に同時に上陸した統一軍に未だ防衛体制を整えていなかった連邦軍は次々に撃破され、数日後には東海岸側は西はアパラチア山脈まで南はジョージア州まで占領された。



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状況

八月、統一軍の宣戦布告から六ヶ月が経とうとしていた。

 

北米東海岸に上陸した統一軍北米方面軍総勢三十五万人は勢いそのままに北米大陸全土を制圧するかに思われた。しかし、アパラチア山脈に展開した連邦山岳師団に阻まれ機甲戦力を中核とした統一軍北米方面軍の進軍は停止した。海岸沿いに南下した統一軍北米方面軍第二軍団は、キャリフォルニアベースより出撃した連邦機械化歩兵師団と海兵師団がメキシコ湾の連邦海軍大西洋第一艦隊による支援を受けながらアラバマとミシシッピで必死の防衛戦を展開、膠着状態に陥っていた。

 

一方で連邦派と統一軍派の派閥争いで混乱の続いていたアジア方面では方面軍連邦派が窮地に追い込まれていた。今まで状勢を静観していた極東アジア軍団長ライアー中将が統一軍に協力を正式に表明した事により状勢は一気に統一軍派に傾いた。連邦派の将兵は多くが拘束され残った連邦派は中央アジア旧アフガニスタンの山岳でゲリラ戦を展開していた。

 

アフリカ大陸では連邦の劣勢は明らかであり統一軍アフリカ方面軍の浸透戦術によりゆっくりとしかし確実に戦線は後退、自身の劣勢を鑑みた連邦アフリカ方面軍は残る戦力をキリマンジャロ基地に集結、籠城の構えを取り徹底抗戦を唱えた。

 

南米大陸では連邦軍本部ジャブローに逃げ込んだ政府高官達により連邦政府臨時国会を設置、連邦における軍事だけで無く政治の中心と成った。連邦軍は本拠地南米を防衛するべくジャブローの工廠をフル稼働し南米沿岸部の防衛部隊を増強、同時に北米方面への増援を編制、急激な増強により急増した兵站への負担は退陣を免れたゴップ大将の手腕により滞りなく進められその速度は統一軍の予測より遥に早く戦況硬直の一因となった。

 

統一軍側は大西洋の第二、第三、インド洋の各艦隊を味方に付けるも、バッフェ提督率いる大西洋第一艦隊が連邦側に付き、状況が不利と見るやメキシコ湾とカリブ海に引きこもり、要塞化したアンティル諸島の連邦陸軍と連携して攻め来る統一軍艦隊を退け続けている。太平洋では海軍艦隊総司令部のあるハワイ諸島を連邦側が掌握、さらにオーストラリアをも手中に納め太平洋での制海権を奪取、アジア方面とインド洋に睨みを利かせていた。

 

統一軍占領下の地域では正体不明の部隊による研究施設への破壊工作が起こったりはしたが戦況に変化を及ぼすほどの事では無く、各地で戦線は膠着、泥沼化の様相を見せ始めている。両軍共に状況打開の一手を模索していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド3【ムンゾ共和国】9バンチ【海】

 

ギレンは海辺を歩く、強い陽光が照りつける。ビジネススーツのジャケットを脱ぎネクタイを緩め衿のボタンも外す。少し歩くと大きなテントが張られていて其方に歩いて近付いて行くと警備の兵士が制止しに来る

 

「ここは現在、立ち入り禁止です。直ちに立ち去って下さ…ッ!ギレン閣下!失礼しました!!」

 

ギレンに気付いた警備の兵士が慌てて敬礼をとるのを手で制しテントに入る。テントの内部では機材が並べられモニターには次々と数値とグラフが変化して行くのを白衣や作業着を着た技術者達が観察しては手もとの端末に何やらを打ち込んでいる。

 

「皆、ご苦労様」

 

「ギレン閣下!?お出ででしたか、連絡を頂ければお迎えに上がりましたのに」

 

一番年配の技術者が驚いてイスから立ち上がる。

 

「君達は忙しいだろうからね。それに最近は執務室で缶詰めでね久しぶりに海辺でも歩きたかったんだよ」

 

ギレンは悪戯ぽく笑う。

 

「それで状況はどうだね」

 

「概ね順調です。ただ─」

 

海洋を再現し観光と魚介類の養殖を目的としたこのコロニーでは現在、水中専用モビルスーツのテストが行われていた。

 

「─やはりコロニー内の海では限界が有ります。陸戦型の揚陸用装備は問題無いのですが…」

 

現在、共和国軍の水中モビルスーツは二つに分けられる。一つは陸戦型ゲルググ用装備で各部をシーリングして防水、水中推進用のバックパックを装備する陸に近い浅瀬を行く揚陸装備で此方は殆ど完成している。

今、このコロニー内でテスト中なのは、もう1つは完全水中専用のモビルスーツで水中戦に不必要な物を省く事で原作の水陸両用機と比べて高い完成度を誇っていた。

 

「やはり本物の海での実地テストは必要か、ふむ……」

 

ギレンは顎を撫でながら少し考えると手をポンと叩いて口を開く。

 

「なら、行くかね海」

 

「は?」

 

こうして水中専用モビルスーツ開発チームは地球に降りる事が決定した。



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海底から

地球 太平洋 南米~オーストラリア間航路

 

光りの届かない水深四百メートルの海中にロックウッド級潜水艦【シーホース】がその二百メートルを超える巨体を沈めて耳を澄ませていた。

統一軍大西洋艦隊所属のこの新型潜水艦は南太平洋にて通商破壊任務に就いていた。

そのユーロ機関室では新型核融合炉が微かな非常に微かな音を立てている。

 

「ご苦労」

 

機関室に白の混じった黒髪と髭を蓄えた初老の男性、艦長ロバート・ケンハント中佐が入って来た。

 

「艦長殿」

 

機関長は脇を締めた海軍式の敬礼を更に小さくした様な潜水艦乗り独特の敬礼をする。回りの機関員達も機関長に倣おうと作業の手を止めようとした。

 

「皆、そのまま作業を続けてくれ」

 

機関員達が作業を再開したのを確認してケンハントは機関長に向き直る。

 

「機関部員に変りはあるかね?」

 

「ハッ、新型に触れられて機関部員総員士気高々であります」

 

ケンハントは新型反応炉の外装を一撫でする。こうして直接触れなければ動いているのを感じられないほど静かな機関だった。

 

「この新型融合炉はやはり静かだな、整備は面倒だと聞いたが」

 

「まぁ、そうですな中々のじゃじゃ馬ですが─」

 

機関長はニヤリと笑う。

 

「─その方がやり甲斐が有ります」

 

「フフ、そうか頼りにさせて貰おう」

 

機関長の自信に満ちた言葉と表情にケンハントは満足気に首肯く。グレートブリテン島デヴォンポート海軍基地を出港して三ヶ月、地中海からスエズ運河を抜けインド洋を通り太平洋にたどり着いてから二ヶ月半、そろそろ乗組員の気が緩み始める時期だった。ケンハントは各部署を巡回して乗組員の気を引き締めていたがこの様子ならば機関部員は問題無いだろう。

 

『艦長、至急指令室にお越しください』

 

「呼び出しか、では行くとする。後は宜しく頼む」

 

「ハッ」

 

呼び出しのアナウンスを聞きケンハントは機関室を後にする。

 

シーホース指令室はその巨大な船体に似合わず狭く薄暗い、その中に人員と様々な機材が詰め込まれている。

 

「副長、何が有った?」

 

「ハッ、航行中の大型艦とその護衛らしき艦を捕捉しました」

 

「方位は?」

 

「方位一一〇、距離一五〇、速力八ノットで北東に移動中」

 

副長はケンハントの質問に簡潔に答え補足も入れる。

 

「ソナー、艦種特定は可能か?」

 

今度はソナー員に訪ねた。

 

「遠すぎて正確には、ただ二軸で十万トンほどのかなりでかいヤツです。護衛の方は一軸で約九千トン」

 

十万トンクラスの艦種はけっこう居るが二軸となると艦種は絞られる。宇宙世紀の現在、使われている空母や強襲揚陸艦ならば全て四軸や六軸だ。二軸でこれ程の大型艦となると輸送艦、それも排水量十万トン以上の物は絞られる。

 

「マッターホルン級かアンナプルナ級、或は旧式のフガク級か…」

 

タンカーなどの民間船の可能性も考えたが護衛艦の存在があるため、その可能性は低いと判断する。

 

「航路からも外れているし定期便では無いな…」

 

ジャブローからオーストラリアの部隊への補給のため、或はオーストラリアの鉱物物資をジャブローに送るため、南米~オーストラリア間の航行は定期的に行われているがその航路からも外れている。一体何を運んでいてどこに向かっているのか。疑問が絶えない、情報が少ない。数瞬の沈黙の後ケンハントは口を開く。

 

「移動予測地点で待ち伏せを行う。加速二十ノット、方位〇九〇、深度百五十」

 

いずれにしてもこれ以上の情報を得るにはもっと近付く必要がある。または攻撃してみるのも一種の情報収集の手段である。

 

「アイサー、速力二十ノット、方位〇九〇、アップトリム深度百五十」

 

副長が復唱し乗組員達が素早く命令を遂行し始め後方に引っ張られる様な感覚が乗組員に掛かる。シーホースは静かに加速して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

南太平洋洋上 フガク級改造型輸送艦【カイセイ】

 

「フンフン~♪今日は朝から箱のなか~♪きっと明日も箱のなか~♪」

 

パイロットスーツの前を大きく開けた男が甲板で歌を口ずさみながら釣糸を垂らしている。

 

「曹長、そろそろテスト開始しますよ」

 

灰色のつなぎを着た若い整備士が呼びに来た。

 

「おう、もうそんな時間か」

 

呼ばれたパイロットスーツの男、コーカ・ラサ曹長は釣り竿をしまいスーツの前を締めてヘルメットを被り格納庫に向かう。

 

「しかっし、デカイ船だよな、移動も一苦労だ」

 

後ろを歩く技術者に声をかける。

 

「そうですね。なんでも連邦海軍最大級の輸送艦らしいですよ」

 

U.C0028に進水したこの旧式艦は一隻で主力級の艦隊を満腹にする物資を積めると言う触れ込みで配備されたが大き過ぎて使いづらく海軍ではもて余していた。そもそも統一軍の進撃で地球上の資源地帯の多くを奪われた連邦では資源不足に悩まされ大型補給艦を満杯にする様な物資が無かった。そこに共和国から資源を割安で譲る替わりに連邦の一部兵器の買取りやライセンス生産が提案されて来た。まさに渡りに船、軍部の一部の反対は有った物の共和国側の提案は受け入れられた。結果としてフガク級を始めミデア輸送機などの地球上での輸送とフライアロー戦闘機などの旧式とは言え航空兵器開発のノウハウを共和国は労する事無く手に入れる事となった。

 

そして現在このフガク級輸送艦カイセイは共和国軍により改装され試作モビルスーツの運用艦として用いられている。内部は格納庫にモビルスーツの整備を行う設備が設けられ、さらには簡単な装備を作れる工廠までも持っていた。外装にはモビルスーツを持ち上げる大型クレーン、観測用各種センサーが据え付けられている。共和国は大型輸送艦を安く買い叩いたがその十倍の資金を注ぎ込み改装されていた。

 

「ヨイショと」

 

ラサは格納庫に固定されたモビルスーツのコクピットシートに収まり、スイッチを押して反応炉を立ち上げる。独特の起動音が格納庫内に響き細かな震動をシート越しに感じる。クレーンに機体が固定される。

 

『ラサ曹長、聞こえているか』

 

サブモニターが壮年の男が映し出した。

 

「ハッ、技師長、何のご用ですか?」

 

『ふむ、連邦が派遣して来た護衛艦の事なんだが』

 

「護衛?監視の間違えじゃありませんかね」

 

連邦海軍モンブラン級ミサイル駆逐艦【モンブラン】護衛として派遣されたこの艦がその実、地球上で行動する共和国軍を監視する事を意図しているのはカイセイ乗組員ならば全員理解していた。

 

『…兎も角、お客さんの目があるからな、予定を変更して機動テストのみにして武装テストは中止する』

 

ラサは少し残念に思ったが肩を竦め笑いながら答える。

 

「了解しました。お楽しみは後に取って置きましょう」

 

『すまんな……ではテストを開始する。格納庫オープン!クレーン上げろ!』

 

けたたましいブザー音とオレンジ色のランプそして震動と共に機体が持ち上げられメインモニターに青い空と海、白い大雲が映し出される。クレーンが横にスライドして機体が海上に吊り下げられる。

 

『発艦準備良し、クレーンのロック解除をパイロットに移譲』

 

「コーカ・ラサ、ゴッグ出るぞ!!」

 

ロック解除をしようとした時、駆逐艦モンブランの横で水柱が三本上がり次の瞬間には激しい爆炎と轟音を上げながら真っ二つに割けモンブランは轟沈した。





遅くなって申し訳ありません。
特に忙しかったり体調を崩したりした訳では無いんですが、途中まで書いて急に筆が進まなくなってしまっいました。
次は出来る限り早めに更新したいなと思います。


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潜水艦シーホース

南太平洋 水深二百メートルの深海 ロックウッド級潜水艦【シーホース】

 

「魚雷三本がモンブラン級に直撃!モンブラン級撃沈!」

 

ソナー員は振り向き興奮気味に報告を上げる。

 

「センサーから目を離すな、攻撃を続ける。魚雷発射管四、五番、有線誘導モード、方位〇九〇、目標フガク級輸送艦─」

 

ケンハントは静かな声でソナー員を注意して、冷徹に次の命令を号令した。

 

「─魚雷発射」

 

アンコウにも似た様な特異な形状のロックウッド級潜水艦は魚雷発射管八門と垂直ミサイル発射管十門という重武装を誇っていた。そしてその巨体に似合わず高い速力と静粛性をも兼ね備えた現行最強の潜水艦だった。

更にその七番艦にあたるシーホースには高出力と静粛性を兼ね備えた新開発の常温核融合炉を搭載、高い発電量を十全に生かした高性能センサー類をも搭載している。そしてその艦長を勤めるロバート・ケンハント中佐も若い頃から海に潜り続けた練達の潜水艦乗りであり、その誇りに賭けて一度仕留めると決めた獲物は逃がす気は更々無かった。

発射された魚雷はシーホースと繋がった光ファイバー製のケーブルで操作され真っ直ぐにフガク級に向かう。

 

「動き有り、フガク級の左舷で着水音何かを投下した様です」

 

その報告に司令塔内に緊張が走る。

 

「対潜兵器の類いか?」

 

「かなり大きいく重い代物の様です。既存の対潜兵器には該当しませ…?…ッ!!推進音!!投下された不明物が移動を開始!!本艦に向けて直進して来ます!!」

 

「魚雷ケーブル切り離しアクティブ誘導に切り換え!方位二〇〇デコイ射出!急速潜航!深度五百!急げ!!」

 

シーホース乗組員達は命令一下素早く行動を開始、デコイを射出して海底に息を潜める。

 

「魚雷、不明と交差します…!?爆発音を二発確認、魚雷が爆発したものと思われます」

 

「なに?対抗魚雷だったのか?」

 

ケンハントの記憶では対抗魚雷、つまり魚雷を迎撃するための魚雷は旧世紀の頃から研究されていたが目立った成果は上げられていない。

あのフガク級の目的は完成した対抗魚雷の輸送だったのか?ケンハントの思考はソナー員の悲鳴の様な報告に中断される。

 

「推進音確認!!不明はまだ生きてます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

南太平洋 同海域 フガク級改造型輸送艦【カイセイ】水中用試作モビルスーツMSM-3-1【プロトタイプ・ゴッグ】

 

モンブラン級が吹き飛び、カイセイの艦内は騒然となった。まさか連邦の勢力下の海域で攻撃を受けるとは思っていなかった。甘いと言えばそれまでだがカイセイ乗組員の殆どは企業や研究所から出向してきた技術者ばかり、軍人は艦長以下数人の航海員とテストパイロットのコーカ・ラサ曹長とマーシー・ブライ軍曹だけだった。

 

「こちらラサ曹長!!出撃する!!」

 

『待て曹長!!非武装のゴッグで何が出切る!!一旦格納庫に戻って武器を装備しろ!!』

 

技師長の焦った声が聞こえて来る。

 

「時間がありません!!それに格闘用のアイアン・ネールが有ります!!」

 

『曹長やれるかね?』

 

技師長との通信に艦長が割り込んで来る。

 

『艦長何を!?』

 

「やれます!!技師長、ゴッグを、技師長の作ったゴッグを信じてください!!」

 

『!!!…クソ…殺文句だな……ラサ曹長頼む、ゴッグ出すぞ!!』

 

通信越しに技師長が技術者達に指示を飛ばすのが聞こえる。

 

「ゴッグ行きます!」

 

少しの衝撃の後、気泡で覆われていたメインモニターに水中の映像が映し出され暗く底の見えない海底にまるで呑み込まれる様な感覚に襲われる。

素早くスイッチを入れて音響、磁気、熱など各種センサーを起動させメインモニターにそれらセンサーが収拾した情報を複合しデジタル処理された映像が映し出される。

 

「見つけた!」

 

水中に巨大な艦影を確認する。と同時にカイセイに向かって来る二本の魚雷も捉える。

 

「やらせるか!!」

 

フットペダルを踏み込む、ゴッグの背中に搭載されたハイドロジェットが吹き出し凄まじい加速を生み出す。パイロットシートに押し付けられ視界が狭まる。あっという間に魚雷が目の前に迫る。蛇腹の様なフレキシブルアームを左右に大きく広げゴッグを回転させる。

 

「ッ!!」

 

加速した時などはるかに超えるGがラサを襲う。意識を持って行かれそうになるのを必死の堪える。

長いアームと大きな手により掻き回された海水が激流となって魚雷を巻き込むと次の瞬間、魚雷が爆発ゴッグを爆発により生じた水圧が叩く。軍艦の船底を引き裂くほどの水圧を受けてコックピット内は警告が鳴り響く。ラサは警告音を止め機体の自己診断プログラムを走らせる。

 

「さすがゴッグだ。何とも無いぜ」

 

実際、右のアイアン・ネールが二本が剥ぎ取られた。両足にも少なく無いダメージを受けたが、水中用モビルスーツにとってあんなのは飾りです。事実、完全水中用に開発されたゴッグの足は歩けはする物の(開発者曰くヨチヨチ歩き)簡略化が施され駐機用のランディックギア程度の扱いだった。

兎も角、深刻なダメージを機体が受けなかった事を確認して、ラサはゴッグを再び加速させる。敵潜水艦はもう目の前、モニターにはロックウッド級の独特なフォルムがハッキリと映し出される。

 

「このアンコウ野郎!!さばいて鍋にしてやる!!」

 

ロックウッド級に突進、勢いそのままに船体に爪を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロックウッド級潜水艦【シーホース】

 

金属を引き裂く音と凄まじい衝撃が艦内を襲う。

 

「被害報告!!」

 

『左舷ミサイル発射管に浸水!!』

 

『居住区に亀裂!!浸水発生!!』

 

『左推進機大破!!』

 

次々上がってくる被害報告にケンハントは自身の敗北を悟った。

 

「艦長、被害が大き過ぎます!!このままでは浮上出来なくなる恐れが!!」

 

副長は焦った様子で捲し立てる。

 

「敵前での浮上は我々サブマリナーにとって最大の屈辱だな……」

 

乗組員達の視線がケンハントに集まる。今にも泣きそうな者、不安そうな者、強い意志で真っ直ぐ見つめる者、さまざまな視線がケンハントを見ている。

ケンハントは一つ深呼吸を行った。

 

「緊急浮上!!」

 

「艦長……無念であります」

 

副長は肩を落とす。ケンハントはその肩をポンと叩くと乗組員達に向かって口を開く。

 

「諸君らの勇戦に感謝する。諸君と共に戦えた事は私にとって名誉だ!!」

 

その言葉に乗組員達は敬礼を持って答える。ケンハントも敬礼を返した。

 

「さて諸君、時間が無いぞ。機密書類の破棄忘れるなよ」

 

こうしてロックウッド級潜水艦シーホースは拿捕され共和国軍は新型潜水艦の実物と稼動データを入手する事に成功した。





今年最後の投稿です。
皆さん良いお年を


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新兵の悲喜交交

サイド3【ムンゾ共和国】37バンチ【サガルマータ】基礎訓練場【ブートキャンプ】食堂

 

昼飯時、訓練兵達が騒がしく昼食をとっている。娯楽の少ない訓練期間中の若者達にとって食事は数少ない楽しみの一つだった。

 

「は~」

 

その中に有って陰鬱なため息をこぼす者が一人。

ハイスクールを卒業と同時に徴兵されて三ヶ月が経ち基礎訓練を終了した彼は制式な兵士と成った。そして今日、配属される部隊が通達されたのだが…

通達された命令書に目を落し何度目かのため息をこぼす。

 

「おいおい、どうしたシケた面して」

 

同郷の仲間で同じ時期に徴兵されて三ヶ月の間共に訓練に明け暮れた友人がコーヒー片手に肩を叩いてくる。

そんな彼に無言で命令書を渡す。

 

「え~何々モビルスーツパイロットとしての適性を認め航空学校でのパイロット訓練を命ず。すげえじゃないか!モビルスーツパイロットなんて!!」

 

今やモビルスーツは戦場の花形、エースは勿論の事パイロットというだけで一目おかれる存在だ。無邪気に喜ぶ友人に彼は再びため息をつく。

 

「冗談じゃないよ。パイロットなんかになって、地球送りにでもされちゃたまんない」

 

戦場の花形と言うだけ有ってモビルスーツは前線に優先的に配備される。そして今の最前線は地上、民間人の支援を名目にオーストラリアのグレートサンディ砂漠に設置した宇宙港基地を基点に各地に展開し始めている。

一月に行われたブリティッシュ作戦の後、状況は落ち着き自分が徴兵されるころには戦闘など起こり得ないと高を括っていたが、今や雲行きは怪しくなり、いつ統一軍と戦端が開かれてもおかしく無い状況だ。

彼にもムンゾ共和国に対する愛国心は有るし、困っている苦しんでいる人々を助けたいと言う心情、やや大仰に言えば義侠心も持ち合わせている。だが命を賭けてまでか?と言われれば首を傾げてしまう。

 

「親父やお袋もせめて一年遅く俺を産んでくれてればな……」

 

憂鬱になる原因がもう一つ、先ごろ共和国議会で軍の徴兵制に関しての法案が可決された。他サイドから志願者増大と将来的にコロニー連合軍化を鑑み来年度より徴兵制を廃止し志願兵のみの募兵制に移行する。

自分が徴兵される最後の世代だと知り気分が沈んでいたところにこの命令書、ため息の一つもつきたくなると言う物だ。

 

「そこまで言うなら徴兵拒否すれば良かったんじゃないか?」

 

共和国では代わりに国家や地域に対する奉仕活動が義務付けられているが良心的徴兵拒否権が認められている。

 

「あの時は戦争が終わったと思ってたんだよ!……兵役終わりゃ就職も有利になるって言うし……」

 

「(後ろが本音だな)資格も取れるしな」

 

友人は呆れ混じりに呟く。

兵役終了者には政府が就職の斡旋してくれる上に兵役中には各種資格取得に補助金が出るのだ。(大学進学を望めば受験のための講義も受けられる)

 

「仕方ない、せめてパイロットになったら本国勤務を希望しよう」

 

「よし、そのいきだ。でも本土防空隊なんてエリート部隊、お前には無理だろうけどな!」

 

「この野郎!」

 

軽口を叩き合いながら別れを惜しみ互いの無事を願った。

 

「バーニィお互い生き残ろうぜ」

 

「ああ、また会う時は酒でも飲もう」

 

「再会の酒か…良いな!」

 

堅く握手を交わした。

 

 

ちなみに彼──バーナード・ワイズマンはパイロットに成った後、伍長に昇進してサイド6勤務になり、友人は同じ基地で警備任務に就いた。更にちなむと互いにギリギリ十九歳だったため酒は飲めなかった。

 

後にバーナードは現地でとある女性と知り合い紆余曲折の末、結婚するのだがそれはまた別の話だった。




年下の親友とも出会います。


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オペレーション・アイリーン

今回も遅くなってすいません。
感想、誤字報告ありがとうございます。


地球軌道上 共和国軍第三艦隊 旗艦クワジン改級戦艦【グワデンⅡ】作戦会議室

 

第三艦隊の旗艦のグワデンはルウム戦役で大破してしまったが回収され後のグワダン級に繋る改修が施されていた。

作戦会議室正面の大型モニターに壮年の男、ダグラス・ローデン大将が立つ、その顔には先のルウム戦役で負傷して右目を黒い眼帯で隠していた。

 

「これより【オペレーション・アイリーン】の概要を説明する」

 

作戦に参加する将官達がモニターに注目する。それを確認してローデンは口を開く。

 

「作戦地域は北米大陸東海岸部、目的は統一軍北米方面軍の戦闘能力を奪い各都市を開放する事である」

 

モニターに北米大陸東海岸の3D地図連邦支配下の地域は緑に統一軍支配下の地域は赤く表示されて写し出される。

 

「本作戦は三段階に分けられる。先ず作戦の第一段階として機甲師団を中核とした連邦軍十個師団がアラバマよりジョージアに進撃を開始メキシコ湾に立て籠もっている連邦海軍大西洋第一艦隊及びキースラー、グッドフェロー両空軍基地より出撃した航空機がこれを支援するこれにより敵軍の主力部隊を南部に引き付ける」

 

モニターの地図にアラバマから緑色の矢印がジョージアに伸びる。

 

「第二段階、敵主力が南部に引き付けられている間に先行して北米に展開中の我が軍のモビルスーツ部隊二個大隊がアパラチア山脈を越え敵軍を南北に分断すると同時に潜入した特殊部隊コードネーム【サイクロプス】及び【アカハナ】がレーダー施設と対空兵器を破壊する」

 

今度は地図上に青い矢印がテネシーからアパラチア山脈を越えサウスカロライナに伸び、ノースカロライナに青い点が二つ発光する。

 

「第三段階、海兵隊二個師団が強襲降下し後から降下する主力部隊の降下地点を確保する。主力たる地上方面軍ニ十四個師団は降下地点ノースカロライナより十二個師団づつ戦力を二分し一方は北進、東海岸の主な都市を開放する。もう一方は南進、北米統一軍主力を連邦軍と挟撃撃滅する」

 

ノースカロライナの光点が大きくなりそこから矢印が南北に分かれ進んで行く。

 

「以上がオペレーション・アイリーンの概要である。各部隊の詳細な作戦行動は事前に配布した資料を確認する様に以上だ。何か質問は?」

 

ローデンは将官達を見渡す。

 

「無い様だな、では作戦開始まで待機。解散!」

 

良く通る声で宣言して会議室より退出する。

 

 

 

 

 

 

 

 

地球軌道上 共和国軍第三艦隊 地球降下艇HLV【088】

 

第三艦隊及び海兵隊所属の軍艦群百隻余が衛星軌道上に集結している。

その中の一隻のムサイ級巡洋艦【ジョン・グレン】その艦橋部分の下、二つのエンジンブロックの間に懸架されたHLVでは乗組員が地球降下のための最終チェック行っていた。

 

「機体の最終チェック……完了、艇長」

 

HLVオペレーターは降下の準備が完了したことを艇長のドレン中尉に報告した。

ドレンは一つ首肯くとジョン・グレンに通信を繋ぐ。

 

「HLV088よりジョン・グレン」

 

『こちらジョン・グレン』

 

「088発艦準備完了」

 

『了解、こちらでも確認した。作戦開始まで待機せよ』

 

「了解した。さてと…」

 

ドレンは続いてHLVの格納庫内に駐機されたモビルスーツに乗り込んでいる上官に通信を繋ぐ。階級は自分の一つ上の大尉だが有る意味下手な佐官より気を使う人物だった。

 

「大尉殿、発進準備完了しました。そちらはどうですか?」

 

『ドレンか?こちらも完了している。何時でも良いぞ』

 

やたら良い声が無線越しに返答してくる。

この上官は両親の反対を押切り大学を中退、軍人を志し士官学校に入校、主席で卒業後は提示された安全で出世コースの本国勤務を蹴り危険な前線勤務を希望した。それだけなら(優秀なのを除けば)よく居る愛国青年だが問題は彼の立場、彼はムンゾ共和国の創始者ジオン・ズム・ダイクンの御曹司キャスバル・レム・ダイクンだった。

内心ため息をつきながら部下達に次の指示を出す。

国の有力者の息子が立場に甘えず国のため険しい道を自ら選ぶ、なんと素晴らしい愛国者だろうか──これが自分の上官で無ければ更に素晴らしいのだが……しかもこれから地球上で長期の任務が待っている。

 

(勘弁してくれ…)

 

ドレンは不満な内心を押し込み黙々と仕事を続けた。

 



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アジアの動向

東南アジア ベトナム ホーチミン市ドンコイ通り 某高級ホテル

 

旧世紀、フランス植民地の時代から有る高級ホテル、その中に有るレストランでは二人の男が同じテーブルを囲んでいる。

一人は伝統的なベトナム料理に舌鼓を打っているがもう一人は料理は一口も口にせず苦虫を噛み潰した様な顔でコーヒーを啜りながら対面の男を睨み続けている。

その視線に気付き生春巻きを食べる手を止め口をナプキン拭ってから開く。

 

「ここの料理は絶品ですな、ライアー閣下」

 

「私は貴方と食事に来た訳では無い!!」

 

イーサン・ライアーはテーブルを叩き立ち上がり、余りに勢いよく立ち上がったためにイスがひっくり返る。

その様子に他の客は驚く事は無かった。レストラン内に居る客の全てはライアーと対面の開襟シャツ姿の五十代ほどの痩せた男、ルオ・ウーミンが手配した護衛達だった。

ルオ・ウーミンは商業特区ニューホンコンに本拠を構え地球上の海運の大半を支配するルオ商会の会長にして華僑の顔役、一方でマフィアや麻薬カルテルなど裏社会との繋がりが有り、表と裏の両方の社会に大きな影響力を持ち、アジア方面を支配するのに決して無視する事の出来無い者それがルオ・ウーミンと言う男だった。

ウェイターがイスを素早く元に戻す、ライアーは息を吐き座り直す。

 

「声を荒げ申し訳無い、しかし、貴方と接触している事が統一軍のタカ派などにバレたら私とて無事では居られないのも理解して頂きたい」

 

ライアーのその言葉を聞き流しルオはグラスの水を呷る。

呑気なその様子にライアーの心拍数が再び上がり始める。そも今回の会合を持ち掛けて来たのはルオの方なのだ。連邦の旧態を一掃し再建を掲げる統一軍その中でも急進的な一派に連邦政財界の重要人物、まして急進派の言う所の連邦の腐敗を招いたとされるルオと接触している事がバレたならばライアーでさえ命の危険が有るのだから、さっさと本題に入ってもらいたいと言うのが本音だった。

そんなライアーの気持ちを知ってか知らずかようやくルオは本題を口にし始めた。

 

「閣下は今回の戦争、統一軍の勝利条件は何と考えておいでかな?」

 

「それは勿論、地球圏の再統合でしょう」

 

その答えにルオは不満気に鼻を鳴らす。

 

「現状で実現は不可能ですよ。その目標は」

 

歯に衣着せぬその物言いに眉を顰める。

 

「これ以上の戦闘は不経済、私としてはさっさと和平なり休戦なりすべきだと思います。或いは統一軍とは手を切るのも有りですな」

 

ライアーはまたも激高し立ち上がった。

 

「戦争は金勘定でする物では無い!!」

 

そのまま踵を返し立ち去ろうとしたライアーの背にルオの大声が突き刺さる。

 

「否!!軍事とは財政を無視して語れる物では無い!!!!」

 

声の鋭さに思わず立ち止まってしまう。

ルオは一気にたたみかける。

 

「人類の九割は宇宙に住み、生産力は地球を上回り久しく今や地球の経済はコロニーに依存している。最早地球の経済は否地球上の社会はコロニー無しでは回らなくなってしまった。そのコロニーが独立したのにも関わらず連邦も統一軍も戦略も編成も改める事無く今まで通りの態勢を通している」

 

ライアーは息を呑む。それほどまでにルオは変った。先ほどまで頼りなさ気な痩せた小男は世界に名だたる大商会の会長に相応しい覇気を纏っていた。

その姿に魅せられたライアーはルオの話を聞く事とした。

 

 

 

車に乗り込み去っていくライアーを見送ったルオは通信端末を取り出し何処かへと連絡を取り始めた。

 

「イーサン・ライアーはこちらの話に乗りました。…はい……はい、有難うございます。後はあちらの出方次第ですが………なるほど既に手を打っておいででしたか……分かりました。次の段階に移ります。……ではルオ会長」

 

通信を切りルオの影武者は次の会合に向けて準備を始めた。



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中尉の独白

誤字報告有難うございます。



U.C0079十一月二十七日06時00分 北米大陸 ジョージア 統一軍第44機械化混成連隊対戦車特技兵小隊長ベン・バーバリー中尉

 

俺達の連隊が北米に上陸して九ヶ月が経った。お偉方は今の戦況を停滞と言っているらしいが俺達にとっては悪化だ。

 

忌々しいミノフスキー粒子のせいで誘導兵器による長距離からの精密打撃も衛星通信や部隊間ネットワークによる高度な連携も二十世紀末から今に至るまで積み重ねられた軍事技術は一年も経たぬ内に崩壊した。

 

戦争は変わった。

 

防御のために塹壕を掘り、敵の顔を拝めるほどの距離での撃ち合い、短距離無線と有線通信そして伝令兵を使った部隊間や後方司令部との連絡、戦場は旧世紀の二度の世界大戦のころの水準まで先祖返りしている。

 

統一軍占領下の工場地帯では軍事物資の生産が優先されている。聞く所によると都市部の民間人はそのせいで物資不足に陥り、配給制が施行されたらしい、その割りには俺達に届くはずの物資はいつまでも届かない。

 

食料や医薬品、武器弾薬に至るまでだ。既に四基有った対戦車誘導弾発射機M-101A2【リジーナ】は二つが故障して残りの二つの内一つは不具合を故障した発射機の部品を使いながら騙し騙し使っている。ミサイル本体も残り三発しか無い。代わりの発射機も弾薬の補充も幾ら要請しても届く気配も無い。

 

人員不足も深刻だ。

 

栄養不足と不衛生な環境とで病気になりバタバタと倒れて行く部下達、後送された彼らの代わりの補充員は基礎訓練が終わったばかりの新兵………であればまだマシだった。

 

あろう事か送られて来たのは十五、六歳の少年兵、聞けば入隊すれば家族の配給を優遇してくれると言う口車に載せられて連れて来られたのだと言う。

 

気が付けば俺の部隊の三分のニは少年兵だ。

 

少ない食料と酷い環境は若い彼らを腐らせるのに時間は掛らなかった。

 

少し前に他の部隊の兵士達が民家を襲い略奪を働こうとした。兵士達はその日の内に銃殺刑にされたが、その兵士達は金品には目もくれず奪おうとしたのは食料だったらしい。

 

そしてその兵士達は二ヶ月前に送られて来た少年兵だった。

 

現状を良く思わない奴もいた。大隊長、嫌味野郎のコレマッタは皮肉混じりに上層部を批判したが返ってきた答えは佐官位の剥奪と懲罰部隊への編入だった。

 

これを、統一軍総司令官の信奉者は「大義を見失い自己保身に奔った裏切り」などと宣った。

 

代わりに大隊長になったのは上に媚を売るぐらいしか能の無い低脳で「進め」か「攻撃」ぐらいしか命令しない……まさかあの嫌味野郎を恋しく思う日が来るとは思いもしなかった。

 

今日もクソ垂れな一日が始まる。

 




「隊長、混線して無線に妙な通信が」

「なに?貸してみろ」

『…リーン…繰…す…アイリーン』

「……何処かのアホが恋人の名前でも叫んでるんだろ」

「司令部に報告しますか」

「ほっとけ」


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