偽真・女神転生 (シド・ビシャス)
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起動

こんにちは、初めまして。今回少しずつ書いていた物語りの始りの部分を投稿させて頂きます。


 

 

 

 

 

 パソコンの背面側から伸びるコードと繋がっているヘッドマウントディスプレイを被りながらパソコンのディスプレイを眺めと、凄い速さでインストールされて行くのがゲージとして表示されている。

 

 

 ――ようやく遊べる。そう思いながら考えた。

 

 

 家庭用ゲーム機、そのソフトメーカー。数は沢山あるが、その中でも人気の出たゲームを作っていたメーカーはそう多くは無い。そんな中で王道では無く、コア向け……ニッチなゲームを作り発売していたメーカーがあった、その名をATLAS。

 

 ファミリーコンピュータことファミコンやその後続機であるスーパーファミコン、それらの時代時に発売したゲームソフトの数は少ないがとてもマニアには受けていた。

 

 しかし……いくら受けようとも、コア向け、マニア向けでは売り上げにも限界がある。その後には色々なゲームが発売されたり、ゲームでは無い物も出していた。そして、それが良かったか悪かったのかはわからないが……かのメーカーも他のメーカーと同じ道を辿った――倒産である。

 

 これにより真・女神転生やペルソナなどの全ての女神転生シリーズが終わりを迎え、事実上……最早新作は二度と出無い――筈だった。

 

 しかし人の欲望は尽きぬもの。

 

 出してくれない、新作が無いと言うのなら、作ればいいじゃない。との発想から生まれたソフトでは無くダウンロードによる同人版女神転生。一人でチマチマ作ったのであろう作品なのだが――これが本当に良く出来ていた。女神転生に飢えていたメガテニストたちは速攻でこれに食らいつき、これでもかと味わった。大好評を得たこの作品ではあるが、それでもやり続けられればいつか終わりは来る……マルチエンドでも。

 

 そんな折、このゲームを一人で作った製作者が"新しい女神転生を作りたい"そう自らのホームページに書き込んだのだ。それにメガテニストたちは是非ともやってくれと意見を述べた。しかし……人生そんなに上手く行くことは無い、この作り手が倒れたのだ。当たり前だ、働きながら一人で制作など……無理も良いところだ。製作者からは期待してもらっていたのにすまないとの書き込みがあり、それを見たメガテニストの一人がこう言った。

 

 ファンド作って製作者応援しようぜ、と。

 

 これに、そうだそうだと言う声が爆発的に増えて言った、皆がみんな賛同して行く。そうして応援、制作資金がどんどん溜まっていった。中には、制作作業を手伝うと言う奴らも沢山出て来て……それならばと、製作者は自身の大きな夢とある構想を書き込んだのだ。

 

 それがVR女神転生。

 

 

 正直、この案を見て、震えた。現在のゲームの中でも最新のシステムなのだから……だが、それを見て引くメガテニストな奴らはいなかった。逆に更に加熱し大いに盛り上がって行った――。

 

 応援ファンドに集まった金額は開発期間中で、おかしい程に集まって異様な金額となった。やはりメガテニスト皆が皆思うこと、"悪魔"と実際に会える世界。それの実現がもう目の前と来れば過熱もする。そうして、開発が進むにつれて色々と公開されていった。それはこのゲームのシステムであったり、開発中のゲーム画面だったりと。

 

 そうして長い長い開発期間を掛けて遂についに、配信されたVR女神転生。開発者から一言あり、

 

『大変お待たせしました、長らく開発中でしたVR女神転生がこの程ようやく完成しました。つきましては開発をお手集いしてくださった沢山の協力者の方々にこの場を持ってお礼を伝えたいと思います。本当に本当に制作作業に加わって頂き大変助かりました、制作陣の皆様もどうか楽しんでください。また、ファンドで応援をしようと言ってくださった方、そしてそれに賛同してくださった全ての皆様にお礼を申し上げます』

 

 

 

 

 此処に、新たな女神転生の幕は上がったのだった――。

 

 

 

 

 §§§§§

 

 

 

 

 パソコンのディスプレイに表示されていたインストールのパーセントゲージが100%ととなり、ゲー厶を起動させるべくヘッドマウントディスプレイの位置を確認して寝転び目の前の画面に表示されている音声認識アイコンに向けて呟く。

 

 

 

 

「ゲームスタート」

 

 

 

 

 光の道とかフルダイブ物にあるそんな物はなく、始まったと思ったら全てが真っ暗闇の中に居た。そして「此処からどうなるんだ?」と思っていると点と言えるものが遥か遠くに見え始めたと思ったら、あっと言う間に目の前まで来て止まり此方を凝視しながら話し始めた。知っている場面だ、これは真・女神転生ifの冒頭であったやつだ。

 

『私は電脳占い師ノヴァ、ようこそ私の電脳空間へ。それではアナタを占う為にこの表にある項目をチェックして下さい』

 

 そう目の前の"銀色の顔"が告げて来ると、俺の目の前に新聞二面ほどの大きさのディスプレイが表示される。その中には沢山の項目が有り、それぞれに対して選択することが出来る答えは四つほど。

 

「かなり多いな……ってことは、その分スタート時のタイプ別が多いってことなのか?」

 

 そう口にしながら項目を見て決めて行く。なるほど……この項目欄にゲーム内での性別や職業ことクラス、好みの武器や応用スキルまであるのか……思った以上に幅が広いな。っと、選ぶ際にかつて自身がプレイした真・女神転生ifでの好みのタイプを選んだ時の選択を参照にしながら決めて行く――。

 

 やがてかなりの数の選択全てを選び終え決定を押すと目の前の銀色の顔は目を瞑り暫し考え込む素振りを見せてから目を開き同時に口も開き始めた。

 

『ふむ……アナタはとても強い幸運の持ち主のようだ。しかし今ある幸運の上に胡座をかくこと無く努力をするといいでしょう。人生、運だけでどうにかなるものではないのですから』

 

 そう占いの結果を告げると、始まりの逆の様にどんどん遠退いて行き小さくなって点となると消えて行った。そうして再び真っ暗闇の中でここからどうなるのかと思っていると……"目が覚めた。"覚めて周りを見れば見知らぬ部屋、どうやら此処が俺の拠点らしい。立ち上がり体を動かしてみる、これが作り物の体とは到底思えない程違和感が無い。改めて部屋の中を見るとテレビ、エアコン、ガラステーブル、クローゼット、スタンドミラー、そして俺が眠っていたベッドがある。

 

「凄い技術だよな、フルダイブって」

 

 その辺についてはさっぱりわからないが、この出来ならファンドに寄付したメガテニストから文句なんて出ないだろうと一人納得をして所持品を調べる。

 

「えっと、所持品は……傷薬五つに、通常弾三十発、ニューナンブか。所持金は……二万三千五百七十円、多いのか少ないのかわからないな」

 

 沢山の項目の中の戦闘スタイルで得意な武器に銃を選択した。これには訳もある、銃を撃つことはモデルガンでしたことがあったからだ。勿論、実銃は撃ったことが無いから反動がどれくらいなのかはわからないが。それでも悪魔に近付いて斬り掛かるとか……想像するだに無理な気がしたからだ。まあ、レベルが高くなって防具も良いものを手に入れられればやれないこともない気がするのだが……。始めたばかりの低いステータスで接近戦は心許ない。

 

「革ジャンか……」

 

 上が革ジャンで下が黒ジーパン、防御力は少しはある感じ。もっと防御力がある物に早々に変えたいが……今現在メインウェポンが銃であることから弾切れになると何も出来ないので悩ましいところ。

 

「取り敢えず外を見てみるか……」

 

 扉を開け外に出ると――見慣れた町並みだった。しかし、歩いているとそこかしこで見慣れたアイコンが目に止まる。道具屋に薬屋、防具屋と武器屋……全てが日常とは関係の無い施設。そこを用意るのは俺たちプレイヤーだけだ、そのうちの一軒である花屋に入る。

 

「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」

 

 入店すると、アラサー世代くらいの落ち着いた感じのする男性が話し掛けて来た。さて……どう話せば通じるのだろうか? と思いながら話し掛ける。

 

「"種"が欲しいんだが幾らくらいする?」

 

「……どれくらいお要り様でしょうか?」

 

 通じたのだろうか? それはわからないが、試してみることにする。

 

「十単為だとどれくらいなのか?」

 

「それですと……このくらいになります」

 

 ふむ、買えない金額ではない。買って置いておくとしようか……っと、もう一つの方も確認しておこう。

 

「それならば三十程ください、それと……"花"は何がありますか」

 

「三十ですね毎度有難う御座います。それと"花"ですが今はコチラとコチラになります」

 

 そう言って手渡されカラーのカタログに花の写真がありその下に説明文が書かれている。コルトガバメントとグロックの二丁のようだ、スペックを見て、その下の値段を見る。ぎりぎり買えるけれど、代わりにすかんぴんになる……諦めておくか。

 

「これ以外の"花"も入荷しますか?」

 

「そうですね……期間は掛かりますが入荷します」

 

 なるほど、家庭用機との違いはこうなっているのか。まあ、オープンワールドゲームになったのだから進んだ場所によって強いとか弱いとかあったら可笑しいものな。一定の期間を置いて、入荷ならばお店の利用者も居なくなることも無い。……あ、忘れていた。

 

「わかりました、その時にはまた買いに来ます。それと買い忘れたのですが"種入れ"お願いしてもいいですか、五粒づつのやつを五つ程」 

 

「わかりました……コチラになります価格は――」

 

 

 

 

「毎度有難う御座いました」

 

 危なかった……スピードローダー無しでリボルバーなんて使ってられない。戦闘中に一発一発、弾を詰めていたら襲ってくれと言っているようなものだ。所持金はそれなりに減ったがこれで戦闘準備OKだ、初戦闘……どこがいいだろう。

 

「路地裏……? 死亡フラグが立ちそうなんだが……行けるか?」

 

 建物と建物の間にある薄暗い道。いきなりレベルの高い悪魔が出なければ問題無いが……。緊張しながら進むとその先にあるポリバケツの中に頭を突っ込んで何やら食べている生き物を発見。あまりの怪しさに腰に挿してあるニューナンブを引き抜き両手で握り構えながら照準を合わせる。距離はこのままで、相手の様子を伺っていると食べ終えたのかポリバケツの中に胴体まで入っていたソレが姿を表す。

 

 

 "ソレ"は、何処かで見たような……そんな姿だった。

 

 

『ニンゲン? コンナトコロニマデ、アラワレルトハ……オマエマルカジリ!』

 

 ゆらりゆらりと動きながら少しずつ少しずつ近づいて来たかと思うと、そんな言葉を述べながらこちらに飛び掛かって来た――――ので、

 

 

 ――反射的に引き金を引いた。

 

 

『うひゃあぁああああっ!! 許してください許してください許してください許してください命だけは命だけは命だけは取らんといてください!』

 

 ニューナンブから放たれた通常弾がソレの頬をかすり、傷を負わすと速攻で土下座をして来た……。

 

「……おい、お前」

 

『お、お助けください! お助けください! 命だけは! 命だけは何とぞ〜!』

 

 

 ……なんか無性に、悲しくなって来た。

 

「お前、名前は」

 

『な、名前ですか? 付いておりません』

 

「……固有名称、種族としては何と呼ばれている?」

 

『は、はい! 種族は"キツネノナマモノ"と言います!』

 

 やっぱりか、俺は激しく脱力した。女神転生や真・女神転生の悪魔のデザインから掛け離れた容姿、何処かの漫画家のアバターの如しな姿。ハッキリ言えば、デビルチルドレンと言うシリーズの黒の書と赤の書で出て来た悪魔……ソレの誤名がキツネのナマモノだった筈だ。生みの親である柴田亜美先生がどっきんばぐばぐ、にて自身の姿を度々そう描いた……のだが、口先が長く見えてキツネと誤解された様だ。本来はタヌキであり、正式な悪魔名は【タヌキノナマモノ】だ。他に彼女の担当チップス小沢のアバターである【ネコノナマモノ】も存在する。って、ちょっと待て! まさか……。

 

「おい」

 

『ハ、ハイナンデショウ?』

 

 なんで片言になっているんだよ……。ってそうじゃ無い嫌ではあるし、イヤな予感がするが、聞いて置かないといけないことがある。

 

「お前とよく似た見た目でタヌキノナマモノとネコノナマモノって……知っているか?」

 

『はい、知っています! 同郷の悪魔です!』

 

 

 自分たちについて知っていることが嬉しかったのか若干やる気を上げて答えて来るソレ。俺は悪魔の答えを聞いて思わず天を仰ぎたくなったし頭も痛くなった。あの製作者さん、こんなモノまで実装したのか……サービス良過ぎだろ……。

 

 事実はわかった、分かりたくなかったが。それよりも問題は……コイツをどうするか、だ。銃がメインウェポンである俺だが、職業クラスはサマナーを選んでいる。つまりコイツと契約しようと思えば出来るかもしれないわけだ。

 

「お前、これからどうするんだ? って言うか、なんでゴミなんて漁っていた?」

 

『実は人間界に来たくてきたわけじゃなくてですね……妙な渦に飲まれて気が付いたら人間界に居たんです。でも、アチラと違ってコチラですとマグネタイト無いと弱って行って……消滅してしまうじゃないですか。それで少しでも足しなればと……あと、お腹が空いて』

 

 なんとも、運が無さそうな悪魔だな……。

 

『あ、あの……貴方様はサマナーですか? もしそうなら仲魔にして頂けませんでしょうか? このままですとそう遠くないうちに私は消えてしまいます、それは嫌なので……』

 

「お前、キツネノナマモノは何が出来る?」

 

『はい、力は弱いですが魔法は得意です!』

 

 

 魔法か、確かに良いかもな。

 

 

「で、得意な魔法はなんだ? アギ系か、ザン系か? もしくは他か?」

 

『――で、す』

 

「ん? 聞こえなかったもう一度言ってくれ」

 

 

 

 

 俺のその言葉に頷き、発せられた言葉は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そのうち覚えます!』

 

 

 

 

 

 だった。

 

 

 

 

 

 

 §§§§§

 

 

 

 

 

 

『サマナーさん! サマナーさん! 見捨てないでください! 見捨てないでください! このままだと私本当に消えちゃうんです!』

 

 俺はヤブ睨みでキツネノナマモノを見ながら思った。特技が一つもない悪魔なんて未だかつて見たことも聞いたこともないぞ!?!?

 

「……ちなみに、力はいくつだ?」

 

『1です!』

 

 胸を張りながら堂々と……なんでそんなに自信満々に言うんだよ?

 

 

 そんな力じゃ、NEOGEOのROMもまともに持てないぞ。悪、魔……なんだよな? いや、力1の悪魔って女神転生シリーズに居たっけ? 

 

 ま、まあ……まて、まだ慌てる時じゃない。他に聞いてみれば――

 

「体力は?」

『1です!』

「運は?」

『1です!』

「……レベルは?」

『1です!』

「……」

『1ですっ!!』

「や、再び言わなくても聞こえているから……」

『そうですか!』

 

 まて、ちょっと、本当に待ってくれ。こいつ……キツネノナマモノって、ひょっとして他のレベル1悪魔より弱くないか? パラメータ全部聞いたわけではないが……力と体力と運が1だぞ? 言ってはなんだが……アウトじゃないか?

 

 

『サ、サマナーさん……』

 

 目を潤ませている、キツネノナマモノ。

 

「ハァ……わかった、わかったよ。仲魔にするからそんな目で見てくるなって」

 

『やったー! サマナーさん! ありがとうございますありがとうございます!』

 

 折角の女神転生だもんな……強さだけを求めても勿体無い。自由に遊んで存分に満喫する方がいいに決まっているか――。

 

 

 

 

 続く。

 

 




読んでくださりありがとうございました。

何かあればご意見お願いします。

それでは。



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初戦

こんにちは、お久しぶりです。遅ればせながらですが、第二話を投稿します。


 

 

 

 

 手持のCOMPを操作してキツネノナマモノを一旦COMP内に収容する。

 

 

 

「召喚キツネノナマモノ」《Summoning O.K?》

 

 

 

 

 

 

 

 召喚を選んで決定し、キツネノナマモノを呼び出す。

 

 

 

「凄いです! マグネタイトがあるからHPも減らないし、COMP内に入って居たらHPが回復しました!」

 

 

 

 どうなるかと思ったが、キツネノナマモノの感想から真・女神転生ifの時のような感じらしい。これは有益な情報だ、何しろ実際に仲魔にしなければわからないことだったのだから。

 

 

 

「さて……どうするか」

 

 

 

 COMPの画面から飛び出して来た自身の初仲魔であるキツネノナマモノを見ながら考える。取り敢えず戦闘を経験してみるか(先程とは違うマトモなヤツな)

 

 

 

 

 

 路地裏をそのまま歩き続け、彼方此方を見ながらキツネノナマモノに問い掛ける。

 

 

 

「そう言えばお前以外の種族の悪魔に此処で出会ったか?」

 

 

 

『出会ってませんよ〜、もし私が出会っていたらサマナーさんに会えなかったと思いますし』

 

 

 

「そうか」

 

 

 

 率直に勝てないと言うことか。確かに本人から聞いているステータスでは……低過ぎる、と言うか特技が一つも無しだからなあ。

 

 

 

 と、その時前方にユラユラと動く人影が現れた。よく見なくも病院着(バイオハザード2のミラ・ジョヴォヴィッチが始まりに着させられていたアレ)だけでおまけに裸足、更に言えばその顔は土色であり頭はパッカリと開頭されていた。

 

 

 

「……グロいな」

 

 

 

 そう呟きながらニューナンブを両手で構える。拳銃を撃つ時の基本姿勢を取り――引き金を引く。そうしてニューナンブから放たれた弾丸はゾンビの胸に見事に当たり、風穴をあけた。そうしてゾンビの方は此方をやっと襲う対象と判断したようで自身の両手を俺にに向けて先程より早く進んで来る。

 

「あわわ、サマナーさん! サマナーさん! 早く早く次を撃ってください!」

 

「そう慌てるな、わかっているから」

 

 そうキツネノナマモノに言いながらも構えはそのまま解かずに、此方に近付いて来ているゾンビの頭に狙いを付けて発砲すると先程当った時とは違ったヒット音と効果エフェクトが現れてゾンビはその場に崩れ落ちた。

 

「クリティカルヒットしたのか……?」

 

「やりましたね、サマナーさん!」

 

 撃つ場所でダメージやクリティカルヒットの判定が変わるのか? これも貴重な情報だ。最も、対象によって判定基準も変わるだろうから頭を必ず狙えばいいと言うわけではないのだろう。そう考えながらニューナンブのシリンダーを出して撃った二発の空薬莢を取り出して路地の影に投げ捨てると、スピードローダーが入れてあるポケットとは別のところからバラの弾取り出して詰め直してシリンダーを戻し次に備える。

 

 クリティカルヒット以外だと何発でゾンビは倒せるのか、そしてそれ以外の敵ならば……? 序盤の序盤とは言え、知りたい事は山程ある。

 

「続けて戦闘するから、敵が居たら方向と数を教えてくれ」

 

「はい!」

 

 

 

 

 §§§§§

 

 

 

 

「さ、サマナーさあん! 右の通路から二体! 左の通路から同じく二体来ますっ! あぁああ!! 怖いですサマナーさあん!!」

 

「これだとゲームのジャンルもタイトルも違うッ! キツネノナマモノ、後退するから俺達の後ろの確認を!」

 

「はいっ!」

 

 油断した……暗くなり、夜になればなる程敵の出現率がまさかここまで上がるなんて。一体目を倒した後、再びゾンビを見付けデータ取りの為に先程の二発目のクリティカルヒットした部分を狙って撃ったら再びの大当たり。これはもしかしてと思った、そのままリザルト画面に進むとレベルアップが表示された。幸先の良さに得たポイントを能力値に振り、キツネノナマモノの方を見ると――……コイツもレベルアップしていた。

 

 どう上がったのか聞きながら見てみると……"全能力値が1上がっていた。"

 

 まあ……上がらないよりはいい。

 

「で、スキルは何か覚えた?」

 

「覚えませんでしたっ!」

 

「……そっか」

 

 何か覚えてほしかった……。が、まあ……覚えなかったからとそこは気にはしない。まだまだ序盤であり、これから先に覚えるからいい――――。

 

 

 ――そう本気で思っていた俺なのだが……。

 

 時間による変化をあまり考えず、兎に角ゾンビを倒し続けた。始めは病院服のソレばかりだったのだが……時間の経過とともに服装と言うか種類が代わって行った。それでも何発か撃ち込めば倒せた事からその場で長く戦い続けた、そう……戦い続けてしまった。

 

 

 ――残りの残弾も考えずに。

 

 

 結果、残弾に気付いた頃には裏路地の十字路での戦いが仇となり三方向から結構多目の数のゾンビたちが向かって来ていて急いで撤退を選択した……。幸いな事に、真後ろの通路からのゾンビはそこまで現れなかった事から何とか戦闘不能にならずに済んだ。まあ……弾が切れたので傷薬を使いながら無理やり走り抜けたのだが――。

 

「……死ぬかと思った」

 

「さ、サマナーさあん! 早く、早くコンプ内に入れてください!HPが〜!!」

 

「わ、わかった」

 

 傷薬もとうに無くなり俺のHPの数字の表示は赤、キツネノナマモノも戦えてはいなかったが居るだけでゾンビの攻撃のターゲットがそちらに割り振られて結果的にそれで助かったのだ。戦闘時は逃げる避けるに徹していたキツネノナマモノだったが、それでもゾンビの攻撃が掠ったりでやはりHPの数字は残り僅かであり……故に赤表示。

 

 本当に危ないところで、ぎりぎり乗り切ったのだ。彼処でゲームオーバーになっていたのなら、セーブは初イン時の拠点でしたのみだから――キツネノナマモノを、仲魔にする前からになると……色々と後悔するところだった。

 

「取り敢えず、傷薬を買いながら回復か弾の補給をしないと」

 

 やっぱり弾数制限付の銃はそんなに調子のると危ない。加えて序盤では単発な上に装弾数も少ない、所持金はここ迄の戦闘で結構な額に増えた。某映画の主人公の様に予備は用意して置くべきか。

 

「……あ」

 

 俺の呟きに対してコンプの画面から喋りかけてくるキツネノナマモノ。

 

「どうしたんですかサマナーさん?」

 

「銃がドロップしていた」

 

「それはおめでとうございますサマナーさん!」

 

 戦闘に集中して夢中になり過ぎ――どんどん視野が狭くなって残弾にも気を向けられていなかったけれど、よくよく考えたら……"持っていた弾より明らかに撃っていた数の方が多かった。"つまり、戦闘時中盤以降に出て来たゾンビコップとかからドロップしたのだろう銃弾をそのまま使っていた訳だ。通常弾だったから攻撃時変化が無く気付かなかった……加えてレアドロップの拳銃も手に入っていた。

 

 これで予備にはなるな。腰の後ろに予備として差し込んで置くことにしながら、他のドロップアイテムとかを見ると――。

 

「ファーの尻尾? アクセサリーアイテムなのか?」

 

 見た目用の装飾品なのか取り出してみると矢鱈と立派な尻尾だ、キーケースとかに付けたとしても本物並の大きさで大き過ぎる……これが女のアバターならコスプレにでも使えるのだろうけれど、男アバターが装備するって。それを見ながら考えていると、始めによった花屋に辿り着いた。

 

「いらっしゃいませ、朝うちに寄られたお客様ですね。どうかなさいましたでしょうか?」

 

「種を、種を売ってください――"九十九粒"程」

 

「――銘柄は朝の物と同じでよろしいでしょうか?」

 

「はい同じで」

 

 そう頷きながら答えると、早速奥に行って用意してくれた。しかし装弾数五発はさっきみたいな状況では正直言ってキツイ……アサルトライフル系の装弾数が多い銃が正直言って早く欲しいところだ。

 

「ありがとうございました、他には何かご入用でしょうか?」

 

「いいえ、ありがとうございます。また寄ります」

 

 

 そう言って花屋を出て再び歩き出す。初日からちょっとハード過ぎた……明らかにやっているゲームが死体と喧嘩をメインにしているゲームメーカーのゲーム並だった。あっちでは香草で回復させていたな、いや傷薬もあったっけ? そう思いながら目の前に見えて来たサトミタダシの店内に入る。相変わらずのBGMが流れている……いいのか、これ。

 

「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」

 

「あ、傷薬と――」

 

 先程のことを考えて、倍より多いくらいの数を買った。何と言っても、回復魔法が使えない今の状態ではこれが生命線なのだから。序でに、用心の為にと……毒消しや万能薬も購入。手持ちが増えたり減ったりしているが、若干まだプラスか。

 

「ありがとうございましたー!」

 

 サトミタダシを出て、自身の拠点をめざして歩きながらふと思い出した。そう言えば出会った時にキツネノナマモノはゴミを漁っていたっけ……マグネタイト補給の代わりだとか、だったか? 流石に不憫過ぎた上に、さっきはタゲ取りしてくれたからな……(意図的では無いにしろ、だ)

 

 初めだからな、ご褒美くらい、いいか……? 確かデビルサマナーでは友好度上げる為にお酒とか渡していたし。そう思い、道すがらに有るコンビニエンスストアに入り――多分問題なく食べれるであろう食べ物を複数個買う。その際に、チラリとCONPのディスプレイを見れば……キツネノナマモノはものの見事に丸まって寝ているようだった、鼻ちょうちんすら出している……。そして表示されているヒットポイントは赤から既に回復していて、もう少し収容していれば最大値まで完全に回復するだろう。

 

 そこ迄ヒットポイントの数値が高く無いから、回復も早いな。更に言えば、この【キツネノナマモノ】の抗体ポイントはその強さと同じく最低値だった。それなりに歩いてようやく一減る程度と言う……悪魔好きの悪魔召喚師プレイヤーにはもってこいのタイプだ。まあ……ナマモノシリーズを許せればの話だが――。

 

 そして辿り着いたのは、この世界で自身が目覚めた拠点である建物。何の変哲も無い二階建ての物件。そこの階段を上って二階へ行く、鍵を開けて中に入り施錠を施す。テーブルの上に先程コンビニで買った食べ物を置いてCONPを見てみれば――フル回復していた。

 

 

 それと同時に鼻ちょうちんが割れ、大きく伸びをして起き上がり此方を見て来る。……その動きはトムとジェリーそのもの。いいのか……? と思ったが、同人ゲームだったから構わないか。

 

「回復しました! サマナーさん、サマナーさん、出してください!」

 

 

「召喚キツネノナマモノ」《Summoning O.K?》

 

 

 CONPを操作して再びキツネノナマモノを召喚する。

 

「……此処がサマナーさんの家ですか、安らげそうですね!」

 

 そう言うな否や彼方此方を見て歩くキツネノナマモノ。その行動は猫や犬に近いと思いながらもベッドへ行き、横になってセーブを行う。此れで万が一ゲームオーバーになってもキツネノナマモノは仲魔にしたまま再度遊べる。リアルに戻った俺は軽い食事をして、トイレを済ませ再びゲームへインをすると――。

 

 

ガサゴソガサゴソと、冷蔵庫の扉を開いて中にあった食べ物である魚肉ソーセージ等を出し袋を破いたかと思うと――頬張り始めた、その口元はリスの様である。

 

 若干、驚きと呆れはあるが……腹が空いていたのだと思おうとしていると。咀嚼が進んで喉に詰まらせそうになったのか、牛乳パックを乱暴に取り出して慣れた手付きで口を開き……飲み始めると、腰に手を当てて最後の一滴まで飲み干し切った……。

 

 大きく溜め息をつかずに入られないが、ナマモノシリーズだからなと思っていると――。

 

「フゥ…………ハッ!? ああ! すみませんすみません! サマナーさん、ごめんなさいです! この通りです! どうか許してください! 契約を切ることだけは! お願いですから切らないでくださいませ!!」

 

 腹が膨れて落ち着きを取り戻したのか、そんな風に俺に言って来たキツネノナマモノ。まあ……冷蔵庫の中身はゲームスタート時に用意されていた物だから何とも思わないのだが。

 

「……分かった、許すよ」

 

「ありがとうございますありがとうございます!!」

 

 遜っての土下座である。

 

 此れは、癖でも付いているみたいだな……。若干頭を抑えたい衝動に駆られるが、モデルがあの漫画家……だからなあ。っと、何時までも土下座させていたい訳ではないので……目の前に先程キツネノナマモノ用に買った物を置く。

 

「え、これ、は……?」

 

「お前の分の飯な、今回は頑張ってくれたから……そのご褒美だ」

 

 そう俺が言うと、頭を上げていたキツネノナマモノは目の前に置かれていた物を手に取り此方とソレを何度も見ると言う往復を繰り返した後――。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 半泣きで、ソレ=稲荷寿司を掲げていたのだった。

 

 

 §§§§§

 

 

 その後は半泣きのまま、美味しいです! 美味しいです! と繰り返し、食べ続けたキツネノナマモノ。結局直ぐに食べるのかとも思ったが、突っ込むのは止めておいた。そして……フローリングの床に大きくなった腹で大の字で寝転がっているキツネノナマモノを見ながら俺は思った事を口にする。

 

「キツネノナマモノ」

 

「はい、何でしょうかサマナーさん」

 

「お前に名前を付けようと思うのだが。何時までも何時までも種族の固有名であるキツネノナマモノ、と呼んでいる訳にも行かないしな……」

 

「名前ですか! 嬉しいです! どんな名前ですか!?」

 

 名前と聞いて、興奮気味のキツネノナマモノ。さて……どう言った名前にしようか、うーん……名前名前。あ! 原作者から取ることにしよう、ただ……そのままだと他のプレイヤーにアレだから。

 

 そうだ……性質が真反対になったらまともな悪魔? になるだろうから、その願いを込めて――。

 

「キツネノナマモノ、お前の名前は、"美亜"、ミア、だ」

 

「みあ、それが私の名前……ありがとうございます! これからはみあと名乗りますね!」

 

 どうやら名前に関しては問題無く気に入ったようで良かった。何故美亜? と問われていたら、困っているところだった――。

 

 

 

 

 大の字で寝ている俺の初の仲魔を見ながら思考する。名前を付けた事により、キツネノナマモノこと未亜は"個体としての我"が何れ強くなって行き――何かしらの変化を果たすであろうと考えている。

 

 種族名と言うかそのままではそのままの性質だろう、だが個となれば話は変わる。その辺に関しては女神転生シリーズの色々な作品にて出て来た悪魔からそう考えているわけだが。――まともになってくれれば嬉しい限りなのだが、まともなナマモノシリーズってどうなんだろうな……。

 

 

 

 

 

 続く

 

 




読んで下さりありがとうございました。


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