真・ヒーローアカデミア転生 ヒーローが悪魔を使って平気なの? (もちたあ)
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転生覚醒入学試験

 まさか億番煎じのトラ転を自分でやる羽目になるとは思ってもみなかった。

 

 ただ多少はオリジナリティを出そうとしたらしく、神の代わりにルイ・サイファーなる紳士が出てきた。

 

 ルイ・サイファー。それが俺の想像通りの人物なら、偽名のはずだ。死んだ俺を生き返らそうとしているくらいだから、見た目通りの金髪の白人男性ではない。

 

 ファンからは閣下と呼ばれ、物語の裏表で暗躍する大悪魔・ルシファーの全然隠れていない隠れ蓑である。

 

 そんな彼がわざわざ俺みたいな有象無象を転生させようとしてくれてるのだ。全力でお断りするしかない。

 

「ふむ? 二度目の人生を楽しみたくはないのかな? 今なら君に特別な力を授けようとも思っているのだが」

 

 天国の入口のような雲海に浮かびながら、見た目麗しい男が不思議そうに首を傾げる。それだけで宗教画のようになるんだから、人外の美って奴は凄い。

 

「いえ、その、もう十分人生は堪能しましたのでこのまま成仏させて頂ければ……」

 

 暗に仏教圏の人間だから管轄外だぞと言ってみたのだが、相手は唯一神にすら反逆した悪魔だ。効果は無かろう。それでも縋ってしまうのは人間の弱さって奴か。

 

「そうか。それは残念だ。それでは後は天使どもに任せるしかないな」

 

「……一つ確認したいんですが、天使というと、あの餃子を作るのが大好きなタイプの天使ですかね……?」

 

「餃子? ……ああ、なるほど。フフフ、確かにあの人形達のデザインは餃子だね。その通りだ」

 

「彼らのボスの頭髪はどうなってます?」

 

「未だに主であるかどうかは知らないが、見事な禿頭だったよ」

 

「全力でお話を受けたいと思います何をすればいいでしょうか!?」

 

 餃子になりたくない一心の俺に、ルイ・サイファーは苦笑する。

 

「話が早くて助かるね。何、特別何かをしろとは言わないよ。ただ新しい人生を生きて、出来れば今度は天寿を全うして欲しい。でないと……」

 

「でないと……」

 

「先程も言った通り、今度こそ天使によって、君の魂は神の操り人形に変えられてしまうだろうね」

 

 やっぱり。

 

 どうやら彼の言う天使というのは、ルイ・サイファーと出自が同じようで、現実の聖書に書かれているものではなくて、ゲーム中のぺ天使なんだろう。

 

 女神転生。通称メガテン。彼らの登場するゲームはそう呼ばれている。

 

 転生先としては相当にキツい。かなり長いシリーズだからタイトルによってブレはあるけど、基本的に世界は崩壊するか崩壊寸前で、ただの人間は悪魔と呼ばれる超常の存在の餌になるしかない世界だ。

 

 しかも宗教的な内容だから、死んでも解放されない可能性だってある。魂のような状態で地獄のような場所を永遠にさ迷うとか普通にありえて怖すぎる。

 

 それでなくてもゲームとしての難易度は高めだ。雑魚敵との戦いですら普通に殺される。

 

 歯応えがあって好きだったが、そこに転生したいかと言われれば全力で首を振るしかない。

 

「その問題は心配しなくていい。君が行くのは崩壊後ではあるが、とうに復興しているからね。しばらくは安全に過ごせるだろう」

 

「え、崩壊って大崩壊か神の御業戦争の事っすかね? 2か4の世界?」

 

 恐々聞いてみると、ルイは天使のような微笑みを浮かべた。

 

「それは生まれ変わってからのお楽しみとしたまえ。それでは、良い人生を」

 

「え、ちょっ、待っ!?」

 

 今まで感じなかった重力に引かれ、俺は新しい世界に転生した。

 

 

 

 

 そんな感じの記憶を今更思い出した。

 

 今更過ぎる。どうせなら生まれた時から前世の意識を持たせて欲しい。それかいっそ死ぬまで記憶封印される方が良かった。

 

 なんで雄栄高校受験という大一番で思い出すんだ! てか雄栄高校受験ってなんだ! メガテンじゃなくてヒロアカかよ!?

 

『どうしたのですか? 遅れますよ、羊司(ようじ)

 

「……ぅん、分かってる」

 

 学校前の公園のトイレに篭もり、ようやく手を洗い始めた俺を急かす声がした。無駄に荘厳に響いてとても人間の声に聞こえない。

 

 蛇口を閉める。トイレに他の人がいなくて良かった。もし誰かいたら、鏡相手に百面相をする羊頭の人間、なんて化け物を見られただろうから。

 

 俺が笑うと羊も笑い、俺が怒ると羊も怒る。何度か試したが、やはり鏡の向こうにいる巻き角付きのこの羊はどうやらこうやら俺らしい。

 

 よく言ってサンリオのマスコット……よく言いすぎたな、実際にはメガテンを作った会社の別ゲーム キャサリンに出てくる羊人間みたいになった俺だが、ヒロアカ世界的にはしっかり人間なようだ。今世の俺の名は七目羊司といい、雄栄高校を目指す受験生である。

 

 なんで断言出来かというと、前世の記憶だけでなく、この世界での記憶もしっかりあるからだ。前世と今世で2つの記憶がある訳だが、なんか知らんがスムーズに統合されている。恐らく閣下がなんかしたんだろう。

 

『羊司? 受付開始まで後10分ですよ?』

 

 外にいる連れが促してきた。さすがにもう雄栄に向かわないと。 

 

「分かった分かった。今行くよ」

 

 返事をして外に出た。ちょうど連れがトイレをのぞき込もうとしていたところで、真正面から目があう。

 

 そいつも人間の顔をしていなかった。

 

『全く、だからもう少し早く出ようと言ったのではありませんか』

 

 シュシュシュと音を出すそいつは、俺を丸呑み出来そうな程でかい5つ目の赤いヘビだった。それが俺の前でとぐろを巻きながら浮いている。

 

 そんなのがいれば前世の俺なら一目散に逃げる。もしくは恐怖で固まるか気絶する。そんな反応をしただろう。

 

 でも今世の記憶もある俺は落ち着いたもので、そんな怪物に話しかける度胸を持っていた。

 

「そう言うなよサマエル。十分間に合うんだから」

 

 俺が言うと、蛇の化け物は5つの青い目を全て半眼にしながらも、顔を引いていった。

 

 サマエル。それがこの化け物の名前だ。

 

 神の毒という意味の名を持つ、聖書に記された謎の天使。天使と言っても異形の存在で、翼は生えてるが12枚もあり、姿は人型ではなく見ての通りの赤いヘビ。

 

 そんなのが、俺の個性『悪魔召喚』によって仲魔(仲間の悪魔で仲魔。ちなみにメガテンでは、神も天使もみなひっくるめて、超常的存在は悪魔としている)となっていた。

 

 初めて出会ったのが幼稚園児の頃だから、もう10年近い付き合いになるらしい。

 

『それならいいのですが。あなたはこの高校に入り、学ばなければならないのですからね。ほら、急いで』

 

「お、おう……」

 

 サマエルの尻尾に身体を押され、俺は慌てて校門に向かった。

 

 ちなみにいくら個性社会で異形系がそれなりにいるにしても、サマエルの容姿と大きさは十分異常な範囲だった。そんなのが通学路にいれば、他の受験生が騒ぎそうなもんである。

 

 だが幸いな事に、サマエルは他の人には見えないようになっている。詳しい理由は知らないが、ゲームの設定的に実体化するのに必要なエネルギー・生体マグネタイトが足りないとかそんなんじゃなかろうか。サマエルって高位悪魔だし。

 

 というか俺ってサマエルを使役出来るほどレベル高いんだろうか。別に今世でも世界をかけて戦ったりした記憶はないはずだが……

 

 入試の手続きや、試験内容の説明なんかを受けてる間中、溢れんばかりに疑問に悩まされ続けた。さすがにこれ以上疑問につき合っていられないので、バス移動の最中に現状を整理する事にする。

 

 1,前世を思い出す前の俺は、ヒロアカ世界の標準的なヒーローに憧れる少年だった。

 

 2,個性は『悪魔召喚』、その能力は呼んで字の通り悪魔を召喚する事が出来るってもの。召喚にMAGやマッカはいらないが、召喚出来る悪魔はランダムな上に、本当に召喚するだけで別に契約してる訳ではない。だから召喚した悪魔は普通に襲ってきてもおかしくない感じ。敵出現用ガチャかな? 今までこれ使ってよく死ななかったな俺。

 

 3,サマエルは個性が最初に発動した時に現れた初めての仲魔。

 

 4,メガテンシリーズでのサマエルはラスボス手前の強キャラって扱い。無理矢理ヒーローランクで例えるとエンデヴァー級。間違っても幼稚園児が仲魔に出来るもんじゃない。

 

 5,現実でも聖書の中にも記載されてる程で、アダムに知恵の実を食べさせたヘビがサマエルだという解釈もある。

 

 6,そんな大悪魔が雄英に行くよう過去の俺をそそのかしている。

 

 7,背後にゲームでも原典でも散々黒幕やってる悪魔の親玉ルシファー閣下がちらついてる。

 

 ……これ絶対なんか仕込まれてるよね!?

 

《ハイスタートー!》

 

「おう……おぅっ!?」

 

 考え事しているうちに試験が始まってしまった。まだ動き出していないのは同じ会場になったらしい緑谷くらいで、後は皆街へと駆け出している。

 

『羊司、何をしているのですか。もし試験を放棄するならば、私が手を出しますよ?』

 

「ちょっ、それマズイから! ちゃんとやるから落ち着け!」

 

 俺は慌てて走り出す。サマエルが介入なんてしたら、受験生ごとあの街を吹き飛ばしてもおかしくない。

 

 俺が街に着いた頃には、早い連中はもうロボを壊し始めてた。俺も速攻で混ざらねばならない。

 

 ん、だ、け、ど……

 

 羊人間な俺だけど、別に力が人間離れしてある訳じゃない。つまりロボを壊すには個性を使う必要がある。

 

 問題はこの個性の”制御出来ない悪魔を召喚する”という能力がどれほど危険かというのを理解してしまった事だ。

 

 悪魔にも色々な種類がいるとはいえ、基本的に人間よりも強大な力を持っている。

 

 しかも人間じゃないから倫理観が通用しない。いわば核武装したライオンを野に放つようなもので、数桁単位の殺人だって簡単に行うだろう。 

 

 いくらサマエルが睨む事で無理矢理制御出来るとはいえ、ガチャでそれより強い悪魔が出たりしたら世界終わりかねな、

 

『羊司……ではしょうがないですが、ここは私が……』

 

「いややりますやりますだから動かないで!」

 

 ヘビ睨みしてきたサマエルに押され、俺は考えるのを止めた。もうどうにでもなーれ☆

 

EL ELOHIM ELOHO ELOHIM SEBAOTH(永遠なる主、ツァバトの神)

 

 俺の詠唱と同時に、空気が震える。

 

ELION EIECH ADIER EIECH ADONAI(栄光に満ちたるアドナイの神の名において)

 

 風が巻き起こった。勘の良い奴らが、何事かと振り向く。

 

「|JAH SADAI TETRAGRAMMATON SADAI《さらに口にできぬ名、四文字の神の名において》」

 

 俺の背後の空間に閃光が走る。光は線となり、紋様を描き始める。

 

「|AGIOS O THEOS ISCHIROS ATHANATON《オ・テオス、イクトロス、アタナトスにおいて》」

 

 複雑な象形が組み合わさり、魔法陣となる。空間が湾曲し、圧倒的な死の予感で、周囲が満たされる。

 

AGLA(秘密の名アグラにおいて)

 

 ここまでくると、誰もが手を止めていた。ロボットすらエラーを吐いて止まっている。

 

 観客の多さに目眩がしたが、もうこうなりゃなるようになれだ!

 

「来たれ! 悪魔よ!」

 

『応じよう、子羊よ』

 

 魔法陣から、白い風が飛び出す。それは通りを吹き抜け、行きがけの駄賃とばかりにロボを破壊する。

 

 宙を舞っているのに、蹄の音と嘶きが辺りに響いた。

 

 通り一辺のロボが消えてなくなると、風は来た道を引き返してきた。背筋を凍らせる悪寒を引き連れて、俺の前で静止する。

 

 それは体中に目のある白馬を駆る騎士だった。

 

 勿論人間じゃない。馬に乗るのは王冠を被り、身の丈以上もある大弓を構える骸骨だ。

 

 コイツも悪魔っちゃ悪魔である。だから召喚されたんだろう。でも普通の悪魔とは扱いが違う。

 

 ゲームでは隠しボス扱いされている種族 魔人。その一体であるホワイトライダーだ。

 

『俺を呼んだという事は、遂に始めるのだな』

 

 漆黒の眼窩に睨まれ、完全にビビった俺は敬語になる。

 

「あ、はい……試験で……その、ちょっとお力添えをと……」

 

『よかろう。では子羊には勝利につぐ勝利を捧げようぞ!』

 

 そう言うがいなや、ホワイトライダーは馬を駆り、空高く飛んでいった。しばらくして光の雨みたいなのが降り始め、あちこちで爆発音が鳴り響き始める。

 

 わーアローレインかなあれ。街中のロボ壊してるんかな……? この調子なら試験突破は楽勝だな!

 

 ……現実逃避してた。なんだよあれ。コエーよ。普通に死んだと思ったわ。

 

 てかあれもなんか普通に俺の言う事聞いてる……というか別に俺が命令とかしないうちに勝手に試験こなしてるよね。一体誰に試験内容教えてもらったんですかねぇ……?

 

 確実に関わってるであろう輩を俺が見上げると、サマエルは面白そうに、

 

『ふむ、面白い者を喚びましたね。この宇宙では初めて呼ばれたせいか、随分とはしゃいでいますよ』

 

「はしゃぐっておい……それよりあれ、いつもみたく制御出来る?」

 

『その心配には及びません。見なさい』

 

 サマエルが空を指し示したので見ると、ちょうどホワイトライダーが高らかに勝ち鬨を上げながら消える所だった。

 

『あれだけの高位悪魔ですから、手弁当ではそう長い時間顕現出来ませんよ』

 

「それ、サマエルにも当てはまるんじゃない……?」

 

『私は特別ですから』

 

 いや説明になってないんだが。

 

 まぁともかく、これで俺の試験は終わった。0Pロボとかは余裕で無視したが、試験突破はしてる事だろう。

 

 ホワイトライダーの攻撃で受験生に死者が出てなければの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 




サマエル
「毒ありし光輝の者」という背反の意味の名を持つ、謎多き天使。
その姿は翼ある大蛇で、十二枚の翼を持つレッド・ドラゴンとも形容される。
堕天使とする解釈もあるが、それでは説明のつかない記述が聖書などに多く残る。
「ギリシャ語によるバルク黙示録」によれば、エデンの園にブドウの樹を植えた天使であり、これを神より咎められたためにアダムとエヴァを欺いたとされる。
また一方で「ローマの守護天使」「火星を司る天使」「エデンに棲む蛇」など、その存在には様々な説があり、天使でありながらデーモンの首領ともされる。



ホワイトライダー
「ヨハネの黙示録」第六章・第二節に記される、世界の終末に現れるといわれる四人の騎士の一。
白馬に跨り、手には弓を持つ。
子羊が解放する七つの封印のうち、第一の封が解放された際に地上に現れる。
神の戦いの象徴である彼には冠が与えられ、勝利の上に勝利を得ること―つまりは支配する権利が約束されている。 


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入学準備

 どうやら死者は出なかったらしい。無事雄英に合格出来た。

 

 ちなみに合格通知から出てきたオールマイトには『出力の調整が出来るようになろう!』と寸評された。ごもっとも。

 

 自分の部屋で書類を書き終わる。さて、入学準備も落ち着いたし、ここ数日で集めた情報の整理タイムといこう。

 

 まずはこの世界の情勢に関してだが、

 

 1.ヒロアカ世界なのは確定だがメガテン要素もなくもない。ただ一般人の調査力で確認できたのはメシア教というキリスト教系カルトだけ。ガイアは元々色んな組織の集合だからよく分からん。

 

 ジプスーー気象庁指定地磁気調査部くらいは確認出来るかなと思ったがそれもなし。

 

 ヤタガラスだクズノハだ? 平安の世から霊的防御を担ってる秘密組織とか一般人が突き止めれるわけねーだろ! あ、葛葉探偵事務所もなかった。

 

 2.諸悪の根元たるメシア教の勢いは全くない。現実の新興カルト程度の影響力っぽい? 巧妙に隠されてるだけかもしらんけど。

 

 3.メシア教を調べる上で副次的に分かった事だが、この世界は宗教が無いに等しい。もちろんあるっちゃあるんだが、世界全体が日本的無宗教な感じになってるっぽい。

 

 カトリックだのプロテスタントだのイスラムだの仏教だのにも力がない。バチカンもメッカもイスラエルもないって一体どうなってんだこれ。

 

 3.代わりに収まってるのがヒーロー。困った時のヒーロー頼み。ヒロアカ世界だし、そういうもんなのかも。

 

 4.そして俺の生存率に直接関わってくる悪魔が地上を闊歩しているかどうかという情報だが……ぶっちゃけ何も分からなかった。というかそれっぽい事件はみんなヴィランが起こした事になってて判別する事ができない。

 

 ……ざっとこんな感じだ。

 

 ヴィランの犯罪はそこら中で起きてるが、まぁ直ちに影響はない。

 

 次、この世界を生きるにあたっての俺の方針についてだが……

 

 前提として、俺はヒーローをあんまやる気はない。普通に生きれればそれでいい感じ。何が悲しくて自分から死亡率を上げにいかねばならんのか。奇抜な格好でテレビの前に出るなんてのも正直御免被りたいしな。

 

 ただ雄英ブランドは有用だから、退学なんかはする気はない。サポート課とか経営課とかに移ろうかな?

 

 だがそうすると一つ問題がある。サマエルが、俺がヒーローにならないことを許さないであろう事だ。

 

 雄栄合格の報を親よりも喜び、立派なヒーローになりましょうとか言うサマエルである。その意に逆らえば、俺をプチっと潰しても別におかしくない。簡単に俺を殺せる奴に逆らう事など誰ができようか。

 

 ……悪の道に誘うならまだ分かるけど、ホントなんでヒーローに拘るんだろうねー……?

 

 まぁいいや。ちょっと別の事考えよう。

 

 ともかくヒーローやるには個性を使う必要がある。

 

 ん、だ、が、俺の個性『悪魔召喚』は敵召喚ガチャだ。いざヴィランとの戦いで使ったとして、ちょっと間違えれば俺敵味方一般人関係なく殺すような個性である。

 

 だからいざヴィランと戦うって時に制御出来ないガチャをするのではなく、事前に俺の命令を聞いてくれる仲魔を作らないといけない。それもサマエル以外で。

 

 何故かと言うと、サマエルは厳密には仲魔じゃないからだ。

 

 悪魔はこの世界に出てくる時、人間の感情などが生み出す生体マグネタイトというエネルギーを必要とする。仲魔とは基本的にこのMAGを人間が提供する代わりに、力を貸すという存在なのだが、俺はサマエルにMAGを提供していない。

 

 なんで提供していないかというと、サマエルを維持出来る程のMAGを俺が作れないからだ。もし提供すれば、エネルギーが枯渇して俺は一瞬で死ぬだろう。

 

 だからサマエルは手弁当でこの世界に留まっている事になる。つまり俺の命令を聞く義務はなく、いつでも裏切る事が出来る。そもそもまともな契約をしてないし。

 

 なので俺でも扱えるちゃんとした仲魔を確保するのが死活問題になるのだ。

 

 方法だが、COMP――信者に怒られそうだが分かりやすく言うとメガテン版モンスターボール――も封魔管――こっちはボングリ?――も持たない俺に出来るのは一つだけ。レベルを上げて物理で殴る事だけである。

 

 悪魔はこの世界に存在する間は延々とMAGを消費するが、逆に言えばMAGさえあれば悪魔はいくらでもこの世界に留まっていられる。だから定期的に悪魔召喚で悪魔を呼び出して殺し、そのMAGを奪えばいい。レベルなんかがあるなら上がるだろうし、一石二鳥だ。

 

「後は……ホワイトライダーについてか……」

 

 ホワイトライダー。聖書に記された神の御使。

 

 出てくるのはヨハネの黙示録。最後の審判とかその辺の話。世界が終わる時に現れる存在だ。

 

 ゲーム中でも結構しっかりイベントを組まれる事の多い悪魔だし、あのタイミングで出てきたのにただの偶然、なんて事はないだろう。

 

 それに無茶苦茶思わせぶりな事言ってたし。なによ”遂に始めるのだな”って。あんなべらぼうに強い存在が、入学試験程度で言う台詞じゃないよなよく考えたら。絶対何かの計画の始まりを言っているって。

 

 で、それが何かって話になると、やっぱり世界を崩壊させる方向になるよなーって。メガテンだし。

 

 後は俺の名前だ。ホワイトライダーに子羊子羊呼ばれたから調べてみたんだが、ヨハネの黙示録には7つの目を持つ子羊が出てきて、それがなんか封印を解いて最後の審判が始まるらしい。

 

 名が体を表すヒロアカ世界的に七目羊司とか絶対それ引っ掛けた名前だよね。

 

 つまり俺が崩壊の原因になる可能性も高い。

 

「詰んでね?」

 

『どうしましたか?』

 

 椅子に背を預けながら呟いた言葉に、サマエルが反応した。

 

 ちなみにサマエルは勿論家の中には入れない。いや幽霊みたく壁を通り抜けたり出来るが、基本的に家を締め付けるような感じにとぐろを巻いている。だから今は窓から目だけでこっちを覗いてる。

 

「相変わらずジュラシックパークな感じだよなー……いや、何でもないよ。ちょっと自分がヒーローやってるイメージがなくなっただけ」

 

『それはおかしいですね。前はあれだけどう活躍するかを語ってくれたでしょうに』

 

 藪蛇だったか。サマエルの瞳孔が細くなってる。なんとか誤魔化さないと。

 

「……この前のホワイトライダー出しちゃった事でさ。なんか俺、ヒーローってかヴィランっぽいなーって思っちゃって」

 

『そういう事ですか。懸念は分かりますよ。大いなる力は簡単に災いとなりますからね。だからこそその力の持ち主は規範たらねばならないのです』

 

「まぁ分かる」

 

『ですが人の子は流されやすいもの。何の制約もなければ、易きに流されるでしょう。そして一度堕落したと見なされれば、他者の認識を変える事は難しい。他者にそう思われれば、自然とあなたの振る舞いも堕落するでしょう』

 

「ヴィランっぽい個性持ちや、ヴィランの子供がそのままヴィランになるあれだな」

 

『それを律するのが環境です。具体的にはヒーローという身分からくる責務。これが自己の認識、他者の認識を固定し、あなたを善き者として存在させるのです』

 

 サマエルが部屋の中に顔を突っ込み、俺を正面から見据えた。

 

『羊司、あなたは正しき道を進みなさい。誘惑に流される事ない、強い人間とおなりなさい。人の幸せに種類はあれど、あなたは人の不幸を楽しめるような人間ではないのですから』

 

 それはこの10年で分かりましたからね、とサマエルがシュシュシュと笑う。

 

 ……ま、確かに大いなる力には大いなる責任が伴うって言うしな。二度目の人生やるにあたっての必要経費と割り切るか。

 

「ん、ありがとサマエル。とりあえず当面はこのままいくよ」

 

『正しい選択を祝福しましょう』

 

 言い残して、サマエルが引っ込んだ。

 

 なんかいいように言いくるめられた気がしないでもないが、悪いようにはならんだろう。とりあえずはそう信じて、この先を進もう。

 

 勿論いざという時逃げ出す準備はしとくけど。

 

 という訳でレベル上げの時間だ。

 

 

 

 

 手にはスコップ。体には剣道の防具。後ろには邪神サマエル。

 

 現状揃えられる最高装備でもって、俺は悪魔と対峙する。

 

『オレサマ、オマエマルカジリィィイゴェッ!?』

 

 猿のような悪魔 カクエンの大きく開いた口に、シャベルの切っ先を叩き込む。

 

 第一次世界大戦で大活躍した近接兵器は、悪魔の頭をすっぱり切り落とした。

 

 これで丁度100体目。いい加減悪魔と戦う事にも慣れてきた。まぁゲームなら慣れて舐めて呪殺される頃合いだろうから気は抜けないが。

 

『そろそろ休憩してはどうですか?』 

 

「いや、もうちょいやろう。レベルが上がったのかまだ全然疲れてないし、仲魔もまだ出来てないしな」

 

 シャベルをグルグル回し体の調子を確認しながら、サマエルにそう返す。うん、今まで感じた事が無いほど体が軽い。

 

 方針を決めたあの日から、俺は人の来ない近くの山に篭もり、計画通り悪魔と戦い続けていた。

 

 本来なら異界という悪魔の出現するダンジョンみたいな場所を探さなければいけなかっただろう。だが俺は悪魔召喚が出来るので、好きな場所をそれこそ異界のように悪魔でいっぱいにする事が出来る。

 

 初日こそ初めての殺し合いという事で上も下もビショビショになっていたが、サマエルの助けもあって、いっぱしのデビルバスターと言えるくらいには悪魔を屠る事が出来た。

 

 というかサマエルが強過ぎる。あまりにレギュレーション違反過ぎるので流石に攻撃なんかはさせてないが、彼の持つ『神の悪意』というスキルが凶悪過ぎた。これは相手を眠らせたり麻痺させたりとたくさんの状態異常を付与するもので、使えばもう相手は満足に動けなくなる。勿論耐性を持つ悪魔はそこそこいるが、全てを防げる悪魔はほぼいない。なので召喚後すぐに使えば、後はそこをスコップでたこ殴りするだけというパワーレベリングである。

 

 たまに逆襲されて死にかける事はあったが、サマエルは回復魔法も使えたのですぐ戦線復帰が出来た。おかげでMAG吸収の方も順調である。

 

 MAGは精気や魂のエネルギーという感じのものであり、集めれば集めるだけ霊格が強化され、魂が強くなればそれに合わせて体の方も強くなる。

 

 おかげで俺はレベリング前と比べ物にならない程強くなっていた。作品によって悪魔のレベルとかが違うから何とも言えないが、恐らく10前後のレベルに達してるんじゃなかろうか。ちなみに一般人はレベル0。オリンピック金メダリストとか軍人とか鍛えた人でようやく1。2や3あれば通常人類の限界って感じらしい。

 

 ただここはヒロアカ世界であり、人類の8割が異能者という異常な世界だ。一般人でも5レベくらいはありそう。オールマイトとか何レベなんだろうな一体。

 

 さてと。当初予定していたよりずっとMAGも貯める事が出来た。悪魔達のお金であるマッカも結構貯まってきてるし、後は適当な仲魔が出来ればいいんだが……

 

『ガアァアァアアアペギャッ!?』

 

 現れた幽鬼モウリョウをスコップで弾き飛ばす。なんかさっきから悪霊やら幽鬼やら妖獣やら話が通じない奴しか出てこない気がする。

 

 まさか俺の能力ってダーク系悪魔限定とかないよな? こう、普通にピクシーとか出ていいのよ?

 

『うぉう……現実世界かぁぁぁ! 久々に来たなぁぁうぉうっ!?』

 

 出てきた次の獲物をスコップで殴りつけようとしたところ、向こうの持っていたハンマーで防御された。

 

『いきなり攻撃してくるとかうぉまえくるってるなぁぁぁ! 交渉しようとするのが人間の作法じゃないのかぁぁぁ! というかうぉまえ悪魔だなぁぁぁ? フォーモリアかぁぁぁ?』

 

「……あれ? コイツ話通じる?」

 

 俺が身を引いて、出てきた悪魔を改めて確認する。

 

 そいつは一本足しかない人型の悪魔だった。赤銅のフルフェイスマスクに、黒の作業着を着る鍛冶師然とした邪鬼 イッポンダタラ。

 

『うぉまえ、それ武器のつもりかぁぁぁ!? ボロボロじゃねぇかぁぁぁ! 見せろ! 直してやるぅぅぅ!』

 

「はっ? うおっ!?」

 

 突然イッポンダタラが、ハンマーの他に持っていた火箸で俺のスコップを取り上げた。虚を突かれた上に丸腰なので、普通に攻撃されれば俺は死んでただろう。

 

 だがイッポンダタラは俺に目もくれず、『アギアギアギィィィイッ!!』と火炎魔法でスコップを焼き、赤熱するそれをハンマーでガンガンぶっ叩くだけだった。

 

『直ったぞぉぉぉ! ついでに少し性能を上げたぞぉぉぉ! うぉれさまマッドスミスぅぅぅ!』

 

「お、おう……ありが、と……?」

 

『どぅおういたしましてぇぇぇ!』

 

 イッポンダタラにスコップを返された。何回も悪魔を殴り歪んでた柄がまっすぐになってる。それに心なしか軽くなった気もする。

 

 それにしてもこれがマッド口調って奴か。かなり突拍子のない感じだが、一応話は通じそうだ。

 

 じゃあメガテン恒例、悪魔会話をやってみよう。

 

『説明するぞぉぉぉ! 悪魔会話とは! 悪魔と会話をする事であるぅ! アイテム貰ったり仲魔にしたりするにはまず会話で仲良くなる事だぁぁぁ!』

 

「いきなりどうしたお前」

 

『毒電波を受信したぁぁぁ!』

 

 何やらメタい感じの事言い出したが、俺がやろうとしていたのはイッポンダタラの言う通りのものである。悪魔を使役するなら、まず向こうに認めて貰わないといけない。

 

 ……つってもコイツ相手に一体どう話せばいいのかさっぱり分からんなこれ。ゲームの主人公達はどんな風に話してたんだろ……

 

『なんだあぁぁぁ!? おしゃべりしないのかぁぁぁ!? ならうぉれは行くぞぉぉぉ! まだ見ぬ業物を鍛えにぃぃぃ!』

 

 イッポンダタラがぴょんぴょん片足飛びで去ろうとしたので、慌てて会話を切り出す。

 

「待て待て待て。いきなり呼び出しといてあれだが、お前はこの世界でなんか鍛えたいって感じか?」

 

『うぉれはマッドスミスだぁぁぁ! マッドでスミスは何か鍛えねばスミスでもマッドじゃないぃぃぃ!』

 

「なら俺が武器とか防具とか持ってくるから、それ鍛えてくれない? ここにいるためのMAGと後必要な材料とかあげるからさ」

 

『いいぞぉぉぉ!』

 

「いいのか」

 

 いいのか。ちょろくないか。

 

『うぉれさまチュートリアル悪魔ぁぁぁ!』

 

「……やなピクシー枠だなおい」

 

『知るかぁぁぁ! コンゴトモヨロシクゥゥゥ!』

 

 イッポンダタラがそう叫んだ瞬間、俺の中からゴソッと何かを吸い取られるような感覚がきた。どうやら無事契約出来て、俺のMAGを使うようになったらしい。

 

『ふむ、初めて自力で得る仲魔としては少々特殊ですが、おめでとうございます』

 

 静観していたサマエルがようやく口を開く。動かない時はホント蛇のように動かないから存在忘れちゃうんだよね。

 

「ありがとさん。さー、仲魔養うためにももっと悪魔殺すか!」

 

『悪魔殺して平気なのぉぉぉ? うぉれさま平気ぃぃぃ!』

 

 振るわれたスコップとハンマーが、次に出てきた悪魔の頭蓋骨を砕いた。サマナーの力は数の力!

 

 



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